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ねこと雨とスープ日和

#UDCアース

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#UDCアース


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●あめあめふれふれ

――ざぁざぁと、雨が降る。
晴れ間を見た日は、もう覚えていない。

いつもは山奥の廃村で、寄り集まった邪神たちに囲まれて教団だの“アメフラシさま”だのと言われているけれど、正直そんなものに興味はない。
私はもう、ただ雨にまつわる噂や現象に過ぎないんだから。

だって、自分が死ぬと知った日から、世界はずっと歪んだままだ。
どうして、とか。なんで、とか。
そんな想いも、どこか遠くに行ってしまった――そう、思っていたけど。
ふと気紛れに懐いた子を連れ立ってふもとへ降りた時、目の前を通り過ぎて行った楽し気な学生服の少女たち。

――ねぇ、もうすぐスープマルシェだね。何時に行く?
――うーん、せっかくだから朝ごはん抜いて、お昼にいっぱいたべようか!

そんな、他愛無い待ち合わせの会話が、どうしてか酷く脳裏をひっかいた。

「ねぇ、もし私が傘を手にしなければ、どんな日々が待ってたのかな」

元から歯車は狂っていた。
だから手にしなかったとしても、すぐに死んでいたかもしれない。
でも、もしかしたら――私にも、あんないつかの約束が、あったの?
答えも意味もない問いかけに、返ってくるのはにゃあん、という甘える猫の声だけ。

――ざぁざぁと、雨が降る。
其処に在るのは、白い傘だけ。


●あたたかな日を、あなたに
「《雨は、お好きですか?》」
 無機質な機械の音声で、セラフィム・ヴェリヨン(Trisagion・f12222)が何気なく問う。私は好きですけれど、と続くのは水を用いて奏でられる楽器を元にしているせいか。ただ、語尾に付く“けれど”が、次の話に繋がっているようだ。
「《雨に纏わる力を持ったオブリビオンが現れました。今回の依頼は、こちらの対象の撃破になります。》」
 場所はUDCアース。対象の名は“十里雨”――不運にも死と怪奇を同時に目の当たりにし、運命を歪められた憐れな少女。普段は山奥で多くの邪神が寄り集まって教団を成し、その中心に据えられ“アメフラシさま”とあだ名されているが、今回の予知ではどういうわけか比較的無害なオブリビオンを1匹だけ連れ立って、ひとり繁華街の傍まで下りてきているようなのだ。
「《常の様に拠点に引きこもられていれば、彼女を囲う数多のオブリビオンとの消耗戦は必須だったでしょう。ですが今ならば、無害なオブリビオンの対処と“十里雨”の撃破だけで事は済みます。》」
 連れるものは灰色の猫の姿をしており、その生態もほぼイエネコと同じもの。しいて言えば放っておくとユーベルコードを使いどんどんと数だけは増えてしまう。特に今は近くでやる催物の準備をしている会場に放たれているので、その邪魔にならないよう排除はせねばならない。が、先の通り非常に無害且つ大人しいので、多少もふもふなでなでにゃーんしてからさようなら、でも問題はないはずにゃん。
「《そして“十里雨”の対処ですが、こちらは少々意図が読みづらく。ただ、降りしきる雨の中に閉じ込められて、誰からも見えなくなる――そういう状況なのは、見えました。》」
 十里雨の持つ傘の影響なのか、気が付けばその傘を手にしてけぶる様な雨の中に立ちすくんでいる姿がみえたという。そしてその歪んだ景色の中に、どこか懐かしい場所と人を見て――その何にも顧みられることなく、全てが通り過ぎていく。雨の中の透明人間、それでも狂おしいほどの郷愁が胸を焼いて、傘を手放すに難しい。彼女が何を思ってこんな光景を見せるのかは分からないが、人によってそれは酷く胸を抉る出来事になるだろう。恋慕か、悲哀か、嫉妬か、その形はわからないまでも。
「《そのまま傘を持ち続けていれば、いずれ彼女と同じ怪異と化してしまうでしょう。ですからどれ程焦がれた景色だろうと、どうか傘を壊して現実へとお戻りください。》」
 傘を壊すこと自体、状況の打破と十里雨の撃破にもつながるのは予知ができた。一定数の人が幻を打ち破って傘を破壊すれば、恐らく十里雨も消えることだろう。――もし夢うつつに惑い戻らなかったものが居ても、持ち主が消えたならやがて晴れ間に引き戻されるはずだ。望むと望まざるとにかかわらず、ではあるが。

「《そして雨が晴れたなら、どうぞ皆様には骨休めとしてスープマルシェに赴いて頂きたく。先日までは激しい戦争の最中でしたでしょう。未だ彼の地は肌寒い頃と聞きますから、暖かなスープで体と心をゆっくり休めてくださいませ。》」
 開催されるのは、ひとつの大きな公園を貸し切ったスープメインのフードイベントだ。入場時にマスコットキャラのとろクマ(とろんと脱力した白クマ、結構可愛い)が書かれた保温タンブラーを渡されるので、所狭しと並ぶブースから好きなスープをついでもらう方式だ。コーンやじゃがいものポタージュと言った定番は勿論、かぶやごぼうに具だくさんのミネストローネ。汁気が多ければok!というおおざっぱさなので、中には水餃子やスープカレー、ロールキャベツなどのしっかり目のメニューもある。そして色んなフルーツたっぷりのとろける甘さのフルーツスープに、各種お好きなアイスの上からたっぷりの珈琲・紅茶を掛けたアイススープ、と甘いもばっちりそろっている。トッピング屋、というブースにはつけて食べるのにぴったりなバケットを筆頭に各種パンにクルトン、ちょい足しによさそうな各種チーズに肉そぼろ、ドライフルーツなんかも置いてある。4種のチーズスープにたっぷりバターのしみ込んだラスクを添えたり、かぼちゃとサツマイモの甘ーいスープにレーズンを散らす、なんてアレンジは無限大。大人向けにリキュールやホットワインを使った逸品もあるので、適齢の方はそちらも楽しめるはず。
「《一仕事御座いますが、そのあとはどうぞごゆっくりくつろいでくださいませ。》」
 それでは、と付け足してカーテシーをしたセラフィムが、いつものようにグリモアである白い貝を集まった猟兵に向ける。するとすぐに――とぷん、と海に落ちるような感覚と共に、転送が開始された。


吾妻くるる
こんにちは、吾妻くるるです。
何かと出歩きにくい昨今、せめてシナリオでは楽しくイベントしましょ。
というわけで今回はUDCアースでスープマルシェのご案内です。

●基本説明
構成:猫の回収と対処+雨に想う+スープマルシェ(イベシナ)
戦闘:判定【普通+α 特殊判定】

今回は3章依頼、というより1章ごとに雰囲気の違うイベシナ3本立て、のつもりです。
ご参加は通しは勿論、1章と3章に、2章のみ、など変則的でも大歓迎です。
どうぞ好みに合う章を選んで、お好きに参加頂けると幸いです。

●第1章は「マルシェの準備を邪魔をするUDC猫への対処」
 対処という名のねこねこフィーバータイム。UDC“増える灰色の猫”がスープマルシェ準備中の会場で悪戯をしていますので、各自回収をお願いします。手段はお任せですが、会場の著しい破壊や一般人への被害が出ると失敗です。なお猫は増えはしますが戦闘力はほぼないので、戦闘は「ぽかっと」ぐらいでふもふお楽しみタイム大丈夫です。会場から消えればOKなので、仲良くなったり連れて行ったりはご自由に。傘持つ子と親しかったためか、何処となく雨の匂いがした子が多いです。灰色ピンク目がデフォですが、時折違う子もいます。

●第2章は「降りしきる雨の中で」
 雨が降り始めました。貴方はいつの間にかまっしろな傘を差しています。歪む現実とのはざま、けぶるほどの雨の中に見えるのは、懐かしい“いつか”の景色。傘を手にする限り、自らの姿はだれにも見えません。今を行く人にも、過去の誰かにも、気づかれることはなくただ眺めるだけのひと時。傘を手放すかこわせば、現に戻り雨はやむでしょう。そのまま持ち続ければ――夢の中へと溺れ続けられるでしょう。すくなくとも、傘の本当の持ち主が消えるまでは。

●第3章は「スープ・ド・マルシェで温かい一日を」
 無事開催されましたら、スープマルシェをお楽しみください。定番のものから変わり種、水餃子の様な汁気の多いフード、甘い果物のスープなど幅広く扱っています。イベント記念のタンブラーを入場券代わりに、冬の暖かな日をゆっくりお過ごしください。こちらの章のみお呼び頂ければセラフィムがご一緒します。

それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『増える灰色の猫』

POW   :    ふえる
自身が【好奇心】を感じると、レベル×1体の【戦闘力のない灰色の猫】が召喚される。戦闘力のない灰色の猫は好奇心を与えた対象を追跡し、攻撃する。
SPD   :    ふえる
戦闘力のない、レベル×1体の【灰色の猫】を召喚する。応援や助言、技能「【ジャンプ】や【クライミング】」を使った支援をしてくれる。
WIZ   :    あたり
【時々出現する毛色の違う猫】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


――にゃあん、と猫が鳴く。
 つややかな灰色の毛並みに、珍しいピンク色の瞳。懐っこそうに目を細めて、ごろごろと喉を鳴らし、組み立てたとあるテントの下にちょこんと座っている。その愛らしい様子に、ブース担当の店員たちがきゃあ!と黄色い声を上げた。
「かわいいー!え、いつのまにいたの?気づかなかったぁ」
「ねーめっちゃ毛艶いいけど首輪してないね。野良ちゃん?」
 かわいい、かわいい、と誉めそやして是非ともなでもふしたい…ところではあるが、残念ながら今はスープマルシェの準備中。現に二人も鍋や仕込んだ食材を手にしているところだったりする。食品を取り扱うイベントである以上、いかに野外とはいえ、いや寧ろだからこそ衛生には一層の注意が必要だ。商品に猫の毛が入ってました!だなんてことは許されない。だからなでもふや抱きかかえる等もってのほか。そう、例えどれ程にゃーんと鳴く声が、のびぃっと体を伸ばす様子が、てちてち顔を洗う仕草が可愛くても、だ。
「う、でもどうしよう。居座られると準備が進まないね…なでもふしたすぎて」
「什器とか電源コードもあるから、うっかり悪戯したら猫ちゃん怪我しちゃう…!」
「ねぇちょっとやる気とか気づかいの方向をさ、もうちょっとお店側にベクトル向けてくれない?店長泣いちゃうよ?」
 と、あくまで猫主体に悩む気楽な店員二人をとほほ、といった風情で店長がやんわりとがめる。冗談ですって!と笑って躱す様子には溜息をついて、然し確かにこれではおちおち準備もしてられない。
「しかたない、僕がちょっと離れた場所に連れて行くから、そっちは準備お願いね。」
「あ、ずっるーい!なら私がやりますっ!」
「あー私もやりたい!猫ちゃんだっこ!」
「だーめ、君たちに任せたらいつ帰ってくるか分からないでしょ」
「うっ」
「ぐっ」
「ちょっとそんな図星の顔しないで…。はい、じゃあ失礼しますよっと」
 問答の末、軍手をはめた店長が猫の両脇に手を入れにょーんと伸ばす様に持ちあげると、また黄色い声が飛んできた。が、構うことなく移動する。そしてある程度会場から離れた、道路からも距離のある木陰に猫を置くと、じゃあね、と手を振って踵を返す。その瞬間、

――にゃあん、と猫が鳴く。
 つややかな灰色の毛並みに、珍しいピンク色の瞳。懐っこそうに目を細めて、ごろごろと喉を鳴らし、猫が目の前にいる。
「ん?」
 思わず振り返ると、そこにも猫はいた。同じ灰色の毛並みに、ピンク色の瞳の、今しがた連れてきた猫。全く同じ猫が前後にいる――だまし絵のような光景に一瞬戸惑ったが、よく考えたら兄弟か、と合点がいってブースへ戻ることにした。けれど、その道すがらのレンガの塀の上にも、ブースの影にも、花壇にも、後ろにも。
ねこ、猫猫猫ねこ猫ネコ、ねこ――――。

「なんだか、今日はやけに猫が多いなぁ。」

――トラブルがないといいけど、という呟きは、にゃあんという声に掻き消された。
花菱・真紀
こう害の無さそうなUDCだとちょっと気が抜けちゃうよね…本当は油断とか良くないんだけど。
猫だからなぁ…猫は可愛い…。
ピンクの目ってのは現実にはない色だからその辺が違うなぁってだけで。
(もふもふしつつ)
可愛い…。
本当に害がないなら飼いたいくらいだ。
UDCを見張るとか言い訳できるしなんて。
UDC-Pとかにも何度か接したけど。
前ほどUDC憎し!って感じでもなくなったし。
少し心に余裕できてきたのかも知れないな。



あっちの木陰でにゃあん、こっちの花壇の傍でにゃあん。
数が多いとはいえ、壁と見るや体や頭をこすりつけたり、手を舐めてはてちてち顔を洗う仕草。そのどれをとっても普通の猫にしか見えない。現に今も手を差し伸べればごろごろと喉を鳴らすし、歩いているだけでも足元に擦り寄ってくる。こうも害の無さそうな様子を見せられると、例えUDCだと分かっていても。
「ちょっと気が抜けちゃうよね…本当は油断とか良くないんだけど。」
 うう、と詰まったような呻き声をあげて、花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)が苦笑を浮かべる。UDCや邪神と言えばもっとこう、触手がうねうねとしていたり、闇がうぞうぞ集まったような見た目だったり、背筋も凍りそうな声を上げたりしそうなものなのに。
「猫だからなぁ…猫は可愛い…。」
 ベンチに腰掛ければ待ってました!と言わんばかりに膝へ乗ってきてモミモミする様はもう、可愛いイエネコにしか見えない。しいて言えば、なあん?と見上げる目がピンク色なのは奇妙に映る。けれどそれも“普通とは少し違うな”という感慨で治まると言えば全然治まる。寧ろちょっと希少な感じもあるし、つやっつやの毛並みは本当に気持ちよさそうだし…と、思わず気が付けば手が伸びていて。

もふ、もふもふ。
もふもふもふもふもふ。

「可愛い…。」
 予想通りに柔らかくぽかぽかした手触りに、気持ちよさそうにへそ天で撫でられるがままの姿に、ただただ素直な感想が零れた。もういっそ本当に、害がないなら飼いたいくらいの気持ちだ。いや、いっそ本当にありなのでは。猟兵としてUDCを見張るとか言い訳できるし!なんて思い余りはするけれど、それ以上に気になったのは自分の心のことだ。以前はUDCと聞けば感じるのは――憎悪だった。騙されていた愚かな過去の自分、その末に最愛の姉を失ったこと。それを思えば今でも少し胸が痛い。けれど友好的なUDC…UDC-Pとの接触や、依頼を重ねたことで、以前ほどUDC憎し!という感じでもなくなっていて。
「少し心に余裕できてきたのかも知れないな。」
 それは良いことなのかもしれない、と自らの内に芽生える新たな気持ちを確かめながら――今はひとまず、膝の上でスピスピと寝だした可愛いUDCをどうするべきか、それを決めるのが先だった。
「…やっぱホントに飼おうかな。」

大成功 🔵​🔵​🔵​

三上・桧
素敵ですね、増える猫
火車さんは今後、増える予定などありませんか?
『何じゃ増える予定って……そんな予定なんぞ無い』
そうですか、それは残念

さて、とりあえず持参した猫じゃらしで、灰色の猫を集めましょうか

人懐っこくて可愛い子たちですね
火車さんの豪華なモフモフダブルコートも素晴らしいですが、この子たちのツヤツヤスベスベな毛並みも違った良さがあります(なでなで)
おや1匹、長毛の子が……お子さんですか?
『違う』
冗談ですよ

ある程度集まったら、会場の外に移動しましょう
猫さんたち、この大きいお姉さんが遊んでくれるそうなので、向こうに行きましょうか
『遊んだ後はおやつもあるぞ』



「素敵ですね、増える猫」
 あっちでごろごろ、こっちでにゃーん。周り中が人懐っこい猫だらけ、という猫好きにはたまらない空間で、三上・桧(虫捕り王子・f19736)が常の眠そうな瞳にほんのり嬉しそうな色を乗せる。何処となく縁のようなものも感じつつ、気が付けば瞬く間にもふり、と同じ姿の猫が増える様子を目の当たりにして、桧が相棒の猫又――火車にふと尋ねる。
「火車さんは今後、増える予定などありませんか?」
『何じゃ増える予定って……そんな予定なんぞ無い』
 突飛な質問に思わず顔を顰めて答えると、「そうですか、それは残念」と本当に残念そうに俯く。いや表面的には無表情のままだが、火車にはわかる。こいつ結構本気で“増えたらよかったのに”って思ってたな、と。がしかし、敢えて突っ込みはしなかった。
「さて、とりあえず持参した猫じゃらしで、灰色の猫を集めましょうか」
 気を取り直して、桧が懐から取り出すのは猫と遊ぶ常套アイテム、猫じゃらし。どこでみつけたものなのか、じゃらす部分が布製のクワガタになっている逸品だ。これならたっぷり釣れるだろうと、まずはざっくりと会場を見回して歩きだす。道すがら、テントに爪を立てる子がいればその前でフリフリと揺らし、ガスボンベに今にも飛び掛かろうとする子がいれば、目の前を横切って後ろ手に猫じゃらしを見せる。そうして誘っていけばあれよあれよと数が増えていき、気づけばハーメルンの笛吹きよろしく桧の後ろには猫の行列ができていた。ひとまず目についた子は回収できたところで会場の隅っこまで連れて行くと、撫でてー撫でてーと言わんばかりに足元にすりすり擦り寄ってくる。
「人懐っこくて可愛い子たちですね」
 周囲を見ても邪魔にはならなそうな位置なので、では遠慮なく、と開始する至福のもふなでタイム。
「火車さんの豪華なモフモフダブルコートも素晴らしいですが」
もふもふもふもふもなでなでなで…。
「この子たちのツヤツヤスベスベな毛並みも違った良さがあります」
 短毛のベルベットのように滑らかでつややかなとろける手触り。そして長毛の豪奢さと指先が埋まるほどのもふっ…と沈み込む贅沢な手触り。それぞれに良さがあり、優劣で語るのではなくどちらも存分に堪能したい所。と、数匹をかわるがわるなでもふしていたら、よく似た短毛灰色の子が多い中で1匹、白地に黒ぶちの長毛な子が混ざっているのに気が付いた。あの毛の多さ、紫にも見えるぶち黒の色合い、そして何よりピンク色の瞳。――これはもしや。
「おや1匹、長毛の子が……お子さんですか?」
『違う』
「冗談ですよ」
 似ている気がしてつい口が滑ったが、じと、と火車に半目で睨まれたのでそっと視線を逸らしつつ、さて、と誤魔化す様になでなでタイムを切り上げた。まだここでは会場は近い。もう少し離れた所に誘導するために、桧が猫にも通じる言葉で話しかける。
「猫さんたち、この大きいお姉さんが遊んでくれるそうなので、向こうに行きましょうか」
『遊んだ後はおやつもあるぞ』
 引率の先生よろしくそう声をかけてやると、ご褒美付きの遠足に喜んだ猫たちから、にゃんにゃん大合唱が響き渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
やっぱり猫さんには親近感が湧きますね

例えUDCさんでも
人に害をなさないのならば
追い払うだけに留めたいです
…甘いのかも知れませんけれども

増えるということはきっと
共にいてくれる存在を求めている
寂しがり屋さんなのでしょう

思い切り遊んであげると
満足してくださいそうです

もふもふしたり
じゃれあったり
一緒に木や塀の上に登ったりして
沢山沢山遊びましょう
お話するのも楽しそうですね
文字通り毛づくろいをしてあげたり
(摩擦抵抗は奪わないようにします

お互いに遊び疲れたら
山奥へ戻るように促します

人を傷つけなかったら
きっとまた沢山遊んでもらえますからね~



  あっちで長い尻尾がゆらゆらり。こっちでしなやかな体がのーびのび。主に灰色の猫が思い思いにくつろぐ中、ぴここっと揺れた黒い耳は、猫で在ってただの猫ではなく、ケットシーである箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)のもの。
「やっぱり猫さんには親近感が湧きますね」
 二足歩行の猫妖精、と呼ばれるだけあって、やはり猫にはどこか近しいものを感じる。切れ長の瞳孔を宿した大きな瞳、つややかな毛並み、ピンとたったひげ。特に此処に居るのは短毛の子が多いので、同じく短めの毛並みをした仄々にはより身近に感じられた。けれど残念な点はひとつ――此処に居る彼らは皆、UDCだ。愛らしいイエネコにしか見えずとも、よく見れば瞬きの間にぽこん、と一匹、また一匹と増えているのはユーベルコードのなせる業。だが彼らが持つ力はそれだけで、戦闘に向く能力はないと聞く。なら例えUDCであっても、人に害をなさないのならば手を下さずに居たい。
「出来れば追い払うだけに留めたいです…甘いのかも知れませんけれども」
 猟兵の身としてそれは、確かに甘い考えかもしれない。その代わり倒さないという選択肢を取る以上、それ以外で自分にできることを精一杯尽くす覚悟はある。ふん、と息を吐いて気合十分、まずは彼らが増えることを止めるにはどうすれば、と考える。
「増えるということはきっと、共にいてくれる存在を求めている…寂しがり屋さんなのでしょう」
 それなら、答えは簡単だ。彼らが寂しいと感じる暇もないくらい、思いっきり、めいっぱい、たっくさん遊んでやればいい。それで満足してくれたなら、増えるのも止まるはず。そう思い立ったら、早速猫たちが集まってる一角へ赴いて、驚かさないようにそろり手を伸ばす。猫としても仄々には近しいものを感じるのか、あっさり差し出された手にすりよって、心地よさげに撫でられる。ごろごろ喉を鳴らす音を聞きつけて、ぼくも!私も!というように仄々の周りにはあっという間に猫だまりができた。
「よーし皆さん、沢山沢山遊びましょう。」
 まずはたっぷりもふもふなでなで、その次は尻尾を使ってじゃれ合い追いかけ合い。広場を端から端までうんと走って息が切れた所で、木の上に登ってにゃんにゃんにゃん、と追いかけっこの感想会。僕が一番早かった!いーやおれがいちばんだった!そんな言い合いに耳を傾けて笑いながら、乱れた毛並みをペロペロと毛づくろいしてやる。勿論、摩擦抵抗までは奪わないよう注意して、丁寧にゆっくりと。粗方グルーミングが終わったところで彼らを見渡すと、誰もが満足したようなにこにこ顔。これならきっと、もう大丈夫。でもこのまま会場にいては、また彼らが悪戯をして叱られてしまうだろうから、と少し離れた山里へ移動するように促す。ありがとー!たのしかったー!とにゃんにゃん返す彼らに、仄々が手を振りながら声をかける。
「人を傷つけなかったら、きっとまた沢山遊んでもらえますからね~」
 最後に掛けたその言葉が、彼らに通じたかは分からない。けれどくるりと振り向いて、にゃあん、と鳴いた姿は、どこかしあわせそうに見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
【暁星】

猫が…増える…
いや、確り仕事はするけれど
ちょっとだけ撫でて遊んでも良いよな?

灰色猫の桃色と視線が合えば
愛くるしさに屈んでそうっと撫で
夜空色にゃんこをもふるヴォルフに
俺もーってぐりぐり
なんて戯れつつも悪戯猫達を回収してこう

あ、ヴォルフ、こっち。ちょっと寄ってくれる?
抱えきれない猫は、よいしょ、
彼の頭の上や肩に乗せて
ふふ、積みネコだ。
ヴォルフと猫でダブルでもふもふ
かわいいなあってほわり癒される
わぷ、ちょ、尻尾が…!ふは、擽ったい…!

張り合う猫と狼さんに声出し笑い
勝負は猫パンチが華麗に決まるまで

腕の中のぬくもりへ目配せ
さあ、会場の外へ行こう
きみたちのおやつを持ってきたから
向こうで食べような


ヴォルフガング・ディーツェ
【暁星】
増えてるね、お猫
細胞分裂か、はたまた…と、益体もない推論はどうでもいいな
もふって良いんじゃないかな、我慢は体に毒だし(からりと笑って)

目があったのは夜空みたいな毛並みのこ
え、ちょー可愛いしなつっこい!うりうり、お腹もふっちゃお!(もふもふ)

うん?どうかしたかいちづ…(乗せられた温もりに目をぱちくり)
だぶるもふもふ…それなら期待に応えないとね!(自慢の狼尻尾で千鶴をぐるぐる巻き)

ふふん、毛並みなら負けてないだろ?と大人気なくねこにどや顔
千鶴の一等もふもふは俺なんですぅー!あ、いった!?パンチは反則じゃない!?

はー、はー…(逃げたこやその他を腕に抱え込み)…疲れた!そうだね、ご飯にしようよ



 頬を撫でる風はまだひんやりと冬の名残を残しながら、差す日差しが僅かに暖かさを増してきた今日このごろ。木陰やベンチに居座る猫たちも、春の訪れを感じているのかどこかのんびりとして見えた。それだけなら微笑ましいだけの光景だが、よく見ると自分の尻尾を追いかけまわしてる猫がぽこん、と一匹増える。二匹でじゃれ合ってたはずの猫が、いつの間にか三匹、四匹になっている。あっちでもこっちでも、気が付けばポコポコとねこ、ネコ、猫が。
「猫が…増える…」
「増えてるね、お猫」
 思わず零れた宵鍔・千鶴(nyx・f00683)の呟きを、ヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)が真顔でこくりと頷いて肯定する。どうにも目の錯覚の様に見えるけれど、猫たちはこんな調子で確実にぽこぽこ増えて、いまや公園は猫まみれである。
「細胞分裂か、はたまた…と、それはどうでもいいな」
 あまりの不思議さにヴォルフガングが考察しようとして、ふいにやめた。なにせただの猫に見えて、一応はUDCだ。謎多きユーベルコードを扱うとあれば、益体もない推論を重ねてるときりがない。さてじゃあ仕事を、と口にしたところでふと千鶴を見ると、どこかそわそわとした落ち着かない様子でいる。目が合うと勿論、と言いつつ付け足す様にぽそりと尋ねた。
「いや、確り仕事はするけれど、その…ちょっとだけ撫でて遊んでも良いよな?」
「もふって良いんじゃないかな、我慢は体に毒だし」
 あっけらかんと勧めると、分かり易く顔をパッと明るくするものだから、ヴォルフガングがからりと笑って見せた。
 まずは触れ合い、ならぬ悪戯猫の回収のためと公園内を歩き出すふたり。が、すぐに千鶴の足元に甘えてくる猫が桃色の瞳で見上げてくるので、その愛らしさをスルー出来ずに屈んで撫でて歩みが止まる。ヴォルフガングはといえば、こっちは変種なのか他の灰色とは違う深い夜の毛並みをした猫と目が合って、ととっ、と歩み寄り抱き上げる。おそよ開始1分にしてどちらも足が止まった。
「え、ちょー可愛いしなつっこい!うりうり!」
 いきなりの抱っこにも逃げず、撫でればすぐにごろごろと喉を鳴らすので、お腹もふっちゃお!と顔を埋めると、もふもふぬくぬくな天国の柔らかさ。千鶴もすぐに俺もー、と真似て抱き上げた猫に顔をもふっとすると、仄かな雨の匂いに混ざってぽかふわむにっと肉球の感触までついてきた。こんな仕事ならいつでも歓迎だな、とほんわり楽しくなりながら、寄ってくる端からきちんと猫は回収していく。然し数が数だけに、肩に乗せ脇に抱えとしているうちに千鶴の手では足りなくなってきて。
「あ、ヴォルフ、こっち。ちょっと寄ってくれる?」
「うん?どうかしたかいちづ…」
 る、と言い終わるより前に、頭にもふっと猫を乗せられる。わぁ、と驚く間にも次は肩に、腕にと空いてるところにどんどん積まれて、まるで猫のハンガーラック状態だ。
「ふふ、積みネコだ。ダブルでもふもふしてかわいいなあ」
「だぶる…もふもふ…それなら期待に応えないとね!」
 その言葉にふふんと悪戯っぽく笑ったかと思えば、突然迫り来るのは真っ黒な塊。構える間もなく猫を抱いたまま千鶴がその塊にぶつかると――もっふん、と柔らかな感覚。ヴォルフガングご自慢のボリューミーでふさふさな狼尻尾が、ぐるりと巻き付いて容赦なく襲い掛る!
「わぷ、ちょ、尻尾が…!ふは、擽ったい…!」
「ふふん、毛並みなら負けてないだろ?」
 自身は勿論、抱っこした猫たちにも手加減なくもっふもっふと尻尾ワイパーをお見舞いし、千鶴の一等もふもふは俺なんですぅー!と大人げないどや顔まで披露するものだから、思わず声を出して笑ってしまう。
「うみゃんっ!」
「あ、いった!?パンチは反則じゃない!?」
 けれど勝負の行方は、尻尾の動きに思わず繰り出された猫パンチ!で決まった。これは猫の勝ちだね、と千鶴がジャッジを入れれば、不満げな顔でちぇっと舌打ちをして。
「こうなったら全員と勝負してやる!」
 そういって走り出し、暫し逃げ回る猫たちとヴォルフガングの辻もふもふ対決が続き、千鶴が公平な審判の為…と言いつつ一匹ずつもふもふすりすりしていった。

「はー、はー……疲れた!」
 その後二桁を超える対戦を終えて、疲労困憊で戻ってひと言呟き、ようやくぱたりと足を止めた。
「ご苦労様。さあ、会場の外へ行こう。きみたちのおやつを持ってきたから、向こうで食べような」
 とはいえ逃げた猫たちはきっちり全員回収してるのを見て、千鶴が労いの言葉を掛けた。然しおやつに関しては腕の中の猫へと話しかけた筈なのに、大の字になってたはずのヴォルフガングががばりと起き上がって笑みを浮かべる。
「そうだね、ご飯にしようよ!」
 俺の分もあるでしょ?と視線で尋ねる様子には、良い子でついてきたらな、なんて悪戯っぽく返して。互いに笑い合いながら、会場の外まで暫しのねこねこ大行進を楽しんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

狹山・由岐
見渡せば右も左も猫だらけ
警戒心もなく脚元へ擦り寄る一匹へ
伸びる手に触れた柔こい毛

悪戯して遊んで、疲れたら寝て
随分と気楽なもんですね
人様の都合なんてお構いなし
それが君達の好かれる部分でもあるのかな

動物とは縁のない暮しなもので
戯らし方のレパートリーは少ないけれど
ふと思い付きで取り出したのは商売道具
肌触りの良いリス毛を用いたフェイスブラシ
おでこの当たりを撫でるようになぞれば
…気持ち良さそうな顔しちゃって、まぁ。

――なに、君もやってほしいの?
いつの間にやら撫でられ待ちの猫渋滞
参ったと溢す口許には満更でもない笑み
それじゃあ場所を変えて遊ぼうか
此処では邪魔になるだろうから

…嗚呼、後でブラシ新調しに行こう



――にゃあん、と猫が鳴く。
 右を見れば、花壇の根元を掘り返す猫。左を見れば、くわりとあくび一つで伸びる猫。木の上からはぷらんと尻尾が垂れさがり、塀の上にもぴここっ、と動く猫耳が生えている。右も左も猫だらけだ――と、狹山・由岐(嘘吐き・f31880)が辺りを見渡して小さく呟く。言った先から一歩踏み出す足にも、ごろりと喉を鳴らして擦り寄る猫の姿。本当に沢山いるなと、伸ばした指先でちょいちょいと擽ってやると、触れる柔い毛が心地よい。そうこうしてる内に先ほど花壇を掘っていた猫はいつの間にか他のねことじゃれ合っているし、欠伸をしていた猫は日当たりのいい場所に移動してくるりと丸まり眠っている――悪戯して遊んで、疲れたら寝て。
「随分と気楽なもんですね」
 イベント準備にあくせく働く人様を尻目に、都合なんてお構いなしの気ままな姿。最も――
「それが君達の好かれる部分でもあるのかな」
 問いかけにも似た言葉に、返ってくるのはにゃあん、と間延びした声だけだった。

 ひとしきり撫でてから手近なベンチに腰掛けると、そのまま足元にいた猫が隣に腰掛ける。どうにも構って欲しそうな瞳をしているのはわかるが、普段は動物とは縁のない暮しぶり。戯らし方のレパートリーは少なくて、撫でる以外に思いつくのは猫じゃらしや猫用のフードくらいのもの。だが、あいにくそれらも今は手持ちにない。さてどうするか、と悩みかけた所ではたと思い付き、懐から取り出すのは商売道具のひとつ。黒く滑らかな持ち手に、肌触りの良いリス毛を用いたフェイスブラシ。フェイスパウダーにアイシャドウを塗るのによく使われる、粉のまとまりがよく、傷つきやすい肌を撫でるに最適な筆。普段こそ人の顔を這うばかりだが、この柔らかさなら猫も気に入るかと、おでこの当たりを撫でるようになぞれば。
「…気持ち良さそうな顔しちゃって、まぁ。」
 案の定、ひと撫ででごろごろ音が大きくなり、ふた撫ですればもっともっと、とねだる様に膝上に上がり、みたび撫でればもう降参とばかりにごろり、とへそを空に向けて寝転んでしまった。期待通りの結果に満足していると、ふと腕を軽く叩かれるような感触がする。振り向けばそこにも似た様相をした猫が1匹、前足で軽くひっかいてくる。
「――なに、君もやってほしいの?」
 尋ねた言葉が通じたわけでもないだろうに、にゃあんと合わせて鳴くものだから、なんだかおかしくて。しかもよくよく見れば居るのはその1匹だけではなく、後ろにはお行儀よく次を待つ猫、ねこ、ネコ。いつの間にやら出来上がった撫でられ待ちの猫渋滞。その様子に思わず参った、と軽く両手を上げて溢す。けれど口許には、満更でもなさそうな笑みが浮かぶ。
「それじゃあ場所を変えて遊ぼうか、此処では邪魔になるだろうから」
 未だ居座る場所は、スープマルシェの会場からほど近い。順番待ちに退屈した子がそちらへ流れないよう、ブラシで気を引きながら猫たちを連れて移動する。結局程よく離れたころにはじゃれたり擦り寄られたりで、ブラシはすっかりくたびれた様子だった。もうメイクアップには到底使えないだろう。
「…嗚呼、後でブラシ新調しに行こう」
 けれどそう呟く声は、諦めだけを詰めたにしてはほんの少し――楽しげに響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
うひゃあ、可愛いねぇ
無類の猫好きというわけじゃない俺もこれには頬が緩む

ほらほら、おいで~
猫撫で声で呼んでみるもプイッとされる
しかもあろうことか梓の足にすりすりと…悔しい
でも俺には秘策があるもんね
じゃんっと、取り出すのはスティックタイプの猫用おやつ
猫たちがすごい勢いでこれに食いついているのをCMで見たんだよね

おやつをチラつかせれば…おっ、来た来た
なんだかモテモテになった気分
一心不乱におやつをペロペロしている隙に
頭や背中を撫でて毛並みを堪能

可愛いなぁ~一匹連れて帰りたいなぁ~
ねぇ梓、俺たちも猫飼おうよ
ちゃんと面倒見るからさーいいでしょー?

名残惜しいけど、最後はUCで優しく


乱獅子・梓
【不死蝶】
うわぁ、なんという猫、猫、猫
ここは猫カフェか…?

しゃがみこんで静かに猫たちを見守る
擦り寄ってきた猫の顎の下を撫で撫で
猫は気まぐれだからな
構ってオーラ全開で近付くよりも
向こうから来てくれるのを待った方がいいこともある
悔しそうな綾にドヤ顔向けつつ

お前たちも遊ぶか?
仔竜の焔と零を地面に降ろしてやる
すぐに猫とじゃれ始める焔
ちょっと警戒して恐る恐る近付く零
…可愛いと可愛いが一緒になれば
もはやスーパー可愛いな(語彙が雑になるレベル

ダーメーだ、自分の面倒すらろくに見れないお前が
猫の面倒見きれるわけないだろう
可愛いだけじゃ動物は飼えないんだぞ
母が子に言い聞かせるように

最後はUCで眠らせるように



 右を見ればぐるにゃぁん、とあくびをしながら伸びる猫。左を向けば舐めた手でてちてちと顔を洗う猫。あっちをみてもこっちを見ても、ねこ、ネコ、猫。猫が好きならたまらず飛び込みたくなるような、ふわふわもふもふのにゃんこ天国。
「うひゃあ、可愛いねぇ」
「うわぁ、なんという猫、猫、猫…ここは猫カフェか…?」
 あちこちでごろごろとくつろぐ猫を間近にして、思わず零れた灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の歓声に、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)もうんうん、と頷いて同意を返す。無類の猫好き、というわけではないが、こうも惜しげなく可愛い様子を見せつけられてると、めろっと来るものがある。気づけば頬がふにゃりと緩んでいるのも、仕方ないだろう。
「ほらほら、おいで~」
 さっそくなでもふを堪能しようと綾が猫なで声で呼んでみるものの、伸ばした手を嗅ぎもしないでプイ、とそっぽを向いてしまう猫たち。にじにじ近づいても同じだけ遠ざかっていくし、怖くないよ~とアピールしても一向に距離が縮まらない。しかもあろうことかしゃがみこんだ梓の足には、猫が自らすりすりと擦り寄っていっている。加えてごろごろ音のする喉を優しく撫でて、へそ天までされてる懐かれように、思わず綾が頬を膨らます。
「…悔しい」
「猫は気まぐれだからな。構ってオーラ全開で近付くよりも、向こうから来てくれるのを待った方がいいこともある」
 と、待ち姿勢のコツを伝授しながらもドヤ顔で猫を撫で続け、これでもかと見せつける梓。これでますます綾がむくれるかと思いきや、其処に在ったのはにんまりとした悪戯顔。
「でも俺には秘策があるもんね」
 ごそごそとポケットを弄り、じゃん!と効果音付きで取り出すのはスティックタイプの猫用おやつ。

“にゃんにゃんにゃ~ん にゃんチュッチュ♪開けたら 猫ちゃん まっしぐら♪”

 という特徴的なCMソングで、一部界隈ではおなじみの猫おやつ。映像でもちょっとチラつかせただけで猫たちがすごい勢いで集まり、我先に食いついているのが流れていたのでその集猫力に疑う余地はない。
「こうやっておやつをチラつかせれば…おっ、来た来た」
 袋の先端を開けて匂いをふりまけば、先ほどまでは見向きもしなかった猫たちが、目をらんらんと輝かせて綾の元に集まってくる。差し出す手に半ば登る様にちょうだい!ちょうだい!と迫ってこられると、おやつのお陰とはいえモテモテになった気分で中々悪くない。そして一心不乱にペロペロ舐めてる隙に、こちらはこちらで艶やかな毛並みをなでもふさせてもらう。するすると滑る様な毛並みに、やわらかくてぽかぬくの体。耳周りや顎したなんかのちょっとした毛の違いも指先に心地よく、手持ちのおやつがなくなるまで暫し綾のねこねこフィーバータイムが続いた。
 そんな相方の猫の堪能ぶりに微笑みつつ、気が付けば肩口でそわそわした様子の仔竜たち。
「お前たちも遊ぶか?」
 そういって焔と零をそっと地面に降ろしてやると、待ってましたと先に駆け出すのは焔。体当たりする勢いで猫たちに迫り、その懐っこさであっという間に数匹と仲良くなり、あれよあれよとじゃれ合い遊びを始めた。一方零は初めての場所にちょっと警戒しているらしく、どうにも足が進まないようだ。が、楽しそうな焔の様子に、恐る恐るといった風で徐々に近付いていく。その個性が出る2匹の違いは味わい深くて、何よりもう全力で可愛い。可愛いが可愛いと遊んでいてさらに可愛いが近寄っていこうとするこの目の前の風景。
「…可愛いと可愛いが一緒になれば、もはやスーパー可愛いな」
 思わず語彙を失うほどの可愛さ炸裂な光景に、梓も顔が緩みっぱなしだ。その様子に重ねて、同じく笑みの止まらない綾がねぇねぇ、とねだる様に声をかけた。
「ほんと可愛いよなぁ~一匹連れて帰りたいなぁ~。ねぇ梓、俺たちも猫飼おうよ」
「可愛いだけじゃ動物は飼えないんだぞ」
「ちゃんと面倒見るからさーいいでしょー?」
「ダーメーだ、自分の面倒すらろくに見れないお前が猫の面倒見きれるわけないだろう」
 図星を突かれて綾がウッ、と声を上げて項垂れる。そう、命に寄り添うには責任が伴う。飼うとなれば餌やトイレの世話は勿論、病気になったら病院に駆け込み、その寿命が来たら看取らねばならない。忘れたり怠ったりが許されることではないのだ。指摘は鋭いが梓が言うことは正しく、また本質的に猫と綾、どちらに対しても優しい言葉だ。まるで、子に言い聞かせる母の様に。その気持ちが分かるからこそ、綾もそれ以上は駄々をこねずにわかったよ、と素直に言うことを聞いた。それに何より、どれ程可愛く無害で普通の猫に見えて、この子たちはUDCだ。例え飼わないとなっても、自制なく無制限に増え続けるのを放っておくわけにはいかない。
「名残惜しいけど…こればっかりは、な」
「ああ、せめて苦しみはなく、眠らせてやろう」
 そう告げて、互いに呼び合うのは花纏う竜の咆哮。たっぷりとおやつをもらい、いっぱい撫でられて夢見心地の猫たちは――そのまま醒めることなく、楽しい夢路へと旅立っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
メリルさん(f14836)

ねこですね!
猫がいっぱいですね!
頭に乗せられたらポーズをとり
ハレルヤと猫、可愛いでしょう
お、これは実にいい写真
ああ、それは爪を立てて食い込ませている顔ですよ
流石のハレルヤでも泣くところでした

ええ、準備はばっちりです
すっと取り出すは猫用おもちゃ
ちゅーるとおもちゃに抗える猫は存在しません
存分に埋もれましょう!

おやつで釣れた猫は彼女の周りにぎゅうぎゅうに集めて
素敵な光景はスマホで撮って、猫じゃらしで沢山遊んで
猫も可愛くて癒されますねえ
メリルさんも私も日々頑張っていますから
自分たちへのご褒美に、もっとこうしていましょう

あと誘惑に抗える猫もいるんですね
(密かに足を噛まれながら)


メリル・チェコット
晴夜くん(f00145)

ねこだ!
猫がいっぱい!
一匹抱き上げそっと彼の頭に乗せて
うんうん、かわいい!
満足げにぱしゃり
これはいいの撮れたんじゃないかな?
心做しか猫がすごい顔してる気がする……!

さ、アレの準備はばっちりですか?
さっと取り出すのは液状おやつ
いざ、ちゅーるとおもちゃを武器に!
猫に埋もれにいこう!

猫に囲まれきゃっきゃとはしゃぐ
遊びたそうな子は彼の方へと誘導して
犬派羊派といえど
こうしてると猫もかわいいねぇ
シャッターチャンスは逃さず抑えて
開催時間までまだあるし、もうちょっとこうしててもいいよね

でも彼の足に猫が齧りついてるように見えるのは気のせいかな
ほ、本人は涼しい顔してるし大丈夫なのかな……?



 がささっ、と植木が揺れると飛び出してくる長い尻尾。ベンチの下から覗く桜色をしたまぁるい瞳。そして塀の上にニョキッと生えた三角の耳。
――あれは犬か、鳥か、うさぎか。いいや違う!
「ねこだ!猫がいっぱい!」
「ねこですね!猫がいっぱいですね!」
 そう、猫である。あっちもこっちも猫だらけな公園に、メリル・チェコット(ひだまりメリー・f14836)が嬉しそうにわぁ!と歓声を上げ、連れ立つ夏目・晴夜(不夜狼・f00145)も負けじと声を大きくした。早速猫の方も声につられてなになに?遊んでくれるの?とばかりによって来るので、一番近い子をメリルがひょいと抱っこする。とくに抵抗する様子はなく、寧ろ撫でればすぐにごろごろと懐いた様子を見せるので、そのまま次は晴夜の頭の上へ。猫独特の柔らかい体で、ぺたりと脱力して頭に乗る姿はなんとも可愛くて。
「ハレルヤと猫、可愛いでしょう」
「うんうん、かわいい!」
 自信たっぷりにポースをとりながらのドヤ顔にも、素直にかわいいと返しながらメリルがぱしゃり、とスマホのカメラを向ける。
「これはいいの撮れたんじゃないかな?」
 と、いそいそ映りを確認していると、晴夜もひょいと覗き込んできて出来に頷く。
「お、これは実にいい写真」
「うんうんとっても良い…あ、あれ…?心做しか猫がすごい顔してる気がする……!」
「ああ、それは爪を立てて食い込ませている顔ですよ。」
 つい晴夜の笑顔に目が行って誤魔化されそうになったが、よくみれば猫の方は般若の如き形相だ。しかも親の仇の如く爪を食い込ませて、晴夜の顔にがっちりしがみついている。なぜこうなったのか。ただ当人が、流石のハレルヤでも泣くところでした、と爪痕も鮮やかに笑うので、尋ね処を失くしたメリルがそ、そっか、とこっそり流した。
 その後も暫しぱしゃぱしゃと何枚か撮ったあと、気紛れに離れていく猫の後ろ姿を見て、メリルと晴夜が怪しげに視線を交わす。
「晴夜くん、やっぱり気紛れな猫の気を引くには…」
「そう、必要なものがありますね」
「さ、アレの準備はばっちりですか?」
「ええ、準備はばっちりです」
 ふふふ、と笑いあってふたりが懐から取り出すのは対猫用最終兵器――にゃんちゅーる!チューブの中に液体おやつがたっぷりと入っていて、一度その味を知れば袋をチラつかせるだけで猫がまっしぐらするという、猫好きにはおなじみの逸品だ。そしてもう一つは、やはりこちらも猫好きには御用達の各種おもちゃだ。時折跳ねるねずみのミニぬいぐるみに、しゃらしゃらと鈴のなるボールに、鳥の羽が揺れる猫じゃらし。オーソドックスながら猫の求心力高いそれらを手に、さぁ。
「いざ、ちゅーるとおもちゃを武器に!猫に埋もれにいこう!」
「ちゅーるとおもちゃに抗える猫は存在しません。存分に埋もれましょう!」
 装備は万端に、意気揚々と猫の多い一角へと歩み寄っていく二人。おもちゃに興味津々な元気な子は晴夜側に、おやつを食べてのんびり大人しめな子はメリル側に、と寄り分けてせっせせっせとリアル猫あつめをしていく。やがて立派な猫団子になったところで、いま再びの撮影タイム。
「犬派羊派といえど、こうしてると猫もかわいいねぇ」
「ええ、猫も可愛くて癒されますねえ」
 見事な大ジャンプで猫じゃらしに噛み付く瞬間や、チュールの付いた口をペロペロ舐めてお掃除するシャッターチャンスは逃さず撮りつつ、メリルと晴夜がその可愛さにうんうんと頷く。そうしてる間にもふと見ればお互いにてちてち毛づくろいし合ってる子や、鈴ボールを追いかけてるつもりがいつの間にか自分の尻尾をぐるぐる追いかけまわしてる子など、まだまだシャッターチャンスは溢れている。それにまだもふもふなでなで抱っこのふれあいも存分に楽しみたい。と、なると残り時間が気になるところではあるが。
「開催時間までまだあるし、もうちょっとこうしててもいいよね」
「メリルさんも私も日々頑張っていますから。自分たちへのご褒美に、もっとこうしていましょう。それにもしちょっとくらい過ぎたって、怒られたりしませんよ」
「え?なんで?」
「だって私、ハレルヤですから」
 何の根拠もなく、けれどこれ以上ないくらい痛快に迷いなく言い切る晴夜の笑顔に、メリルが思わず吹き出しながら「それは心強いね!」と言い足した。

「ところで晴夜くん」
「なんでしょうメリルさん」
「その、足に猫が齧りついてるように見えるのは気のせいかな…」
「いやぁ、ちゅーるの誘惑に抗える猫もいるんですね。」
「本当に…い、いやそれより痛くないの…?」
「痛いですよ。けどそれだけ猫にとってのハレルヤが魅力的ということなんでしょう。仕方ありませんね」
 はっはっは、と涼しい顔で噛まれ続けているので、大丈夫かな?と心配はしつつ、またも追求しそびれたメリルがそっか、とスッ…と目をそらした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

垂没童子・此白
猫さんは、キラキラ光るものがお好きなんですよね、サトーさん

童歌を口ずさみ、銀柄杓から星の光を産み出しましょう
設営の邪魔にならないよう気をつけて…大道芸っぽく、輝く星粒を散らしながら舞い、猫さんの注意を引きます
水に濡れるのはお嫌いでしょうから…遠巻きにでも、楽しんでくれるといいなぁ

その後は地面に星の道を描き、なるべく多くの猫さんを誘導して会場の外へ向かいます

甘える猫さんはだっこしちゃいましょう
わぁっ…もふもふ!あったかくて気持ち良い…
……あっ。ふふっ、ごめんなさい。サトーさんも、負けないくらいふわふわですよ?

猫さんから香る、澄んだ雨の匂いも心地好いです
……だけど、なんだか…哀しい薫りもしますね…



 木陰から尻尾を垂らし、ご機嫌に眠る猫が一匹。草陰に小石を見つけて、毬の様に転がし遊ぶ猫が二匹。そこかしこで遊ぶ猫を見て、垂没童子・此白(サヒモチワラシ・f09860)がふふ、と柔らかくその目を細める。
「猫さんは、キラキラ光るものがお好きなんですよね、サトーさん」
 ね?と愛おし気に語り掛けるのは、手にした小さな桐箱に納められた、柔らかな白い毛玉。どのような返事があったのか、暫しにこやかに眺めた後、此白が心得た顔で頷いて、と、と、と、と足取り軽くスープマルシェの会場を横切っていく。
設営している人たちの、邪魔にはならないように少し距離を取って。
大道芸を装えるように、向けられる視線にはそろりと笑って応えて。
そしてなにより、猫さんたちにいっぱい集まってもらえるように。
 そんなことを考えながら歩いて、選んだのは公園の一角に設けられた円形ステージ。今回スープマルシェでは出番がないのか、多少段ボールの荷物が積んであるくらいで人気は少ない。だが、客席には我がものでのんびりくつろぐ猫たちの姿がちらほら見える。きっとここなら、と決めてステージの真ん中に上がると、此白が童歌を口ずさみだす。乗せるのは、千斗の星を巡り駆ける、あたたかな星の物語。天から降るようなやさしい歌声に、合わせて舞うのは銀の柄杓。汲み上げる桶もないのに、合の中からちゃぷり、ちゃぷり、と水が沸き上がっては星粒の煌きを零していく。そして地面に水が吸い込まれる度、周囲がどんどんと輝きで満たされていく。きらきら、きらきら、星のひかりを束ねて、まるで天の川の中に立つかの如く。そうして溢れゆれる光の粒に、くつろぐばかりだった猫たちも目を輝かせて集まりだし、歌い終えた暁には拍手に代わってにゃんにゃんにゃん、の大合唱。どうやら楽しんでくれた様子にホッと胸をなでおろし、此白が微笑んで猫の観客たちに会釈する。さぁ、演奏会が終わったのなら、今度はちょっとした遠足に。星の導を振りまいて、こっちですよと手招くと、こぞって皆がついて来る。中でもいっとうお歌が気に入ったのか、1匹の猫が甘えたように足元に擦り寄ってくるので、仕方ないですね、と言い訳してひょいと抱き上げる。
「わぁっ…もふもふ、あったかくて…気持ち良い…」
 ぐるぐる鳴らす喉の音はかわいらしいし、ゆるっと力の抜けた体はもちもちしているし、つややかな毛はぽかぬくで、なんとも心地よい抱き具合。思わず顔がほころんだところで、ふと抱えなおした箱に話しかける。
「……あっ。ふふっ、ごめんなさい。サトーさんも、負けないくらいふわふわですよ?」
 もちろん、と付け足して笑うと、桐箱の毛玉がふわり風に撫でられたように見えた。そして抱えた猫が身動ぎした瞬間、鼻腔を擽ったのはどこか澄んだ雨の匂い。母なる海とはまた異なる、さまざまなものを内包した水の香り。その心地よさにまどろみながらも、奥深くには何故か、心臓を裏撫でるような、冷たい感覚もあって。
「……だけど、なんだか…哀しい薫りもしますね…」
 それが果たして誰の想いを汲んだものなのかとは、此白にはわからない。けれどどうか、その哀しさが僅かでも薄れる様に――ぎゅう、といっそう猫を抱きしめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
ねこさんっ
しゃがんで待って
寄ってきた子をなでなで

わあ、いっぱいあつまってきたっ
ふふ
目の色、シュネーとおそろいだ
ねっ!?
声が上擦ったのは肩の上にズンと重みがきたから

わ、わ、どこからとんできたの?
塀や木を探して視線をぐるり
あんなところから?
すごいねえ
顎下をなでると肩から膝へ
せまくない?

――あ。
雨のにおい
きみたちも、雨がすきなの?
わたしも、わたしもね
雨は、すき
まだ聞こえない雨音に耳を澄ますように目を閉じれば
にゃあと声

よーし、それじゃあそろそろ移動しようかっ
ね。と膝上の子を撫でてから
ガジェットショータイム
ねこじゃらしを二刀流
ほら、おいでおいでっ

歌うようにくるくるり
ねこさんの行進だっ
しゅっぱつしんこーっ



 木の上のおやすみから目覚めて、たしんと着地した猫が欠伸を一つ。じゃれあって遊んでいた猫たちが、今度はお互いを毛づくろい。他にも尻尾を揺らして歩いたり、テントにちょっかいを掛けたり、あちこちでごろごろふわふわにゃーんにゃーん。
「ねこがいっぱいっ」 
 そんな猫が好きならたまらない光景を前に、瞳をいっぱいきらきらさせて、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)が感嘆の声を上げる。すとん、としゃがみこんで視線を下げるだけで、さっそく好奇心旺盛な一匹が近寄ってくる。手を差し伸べると、暫し嗅いだあとにすりすりするので、顎下に耳の裏にと撫でてやれば、ごろりと寝っ転がってごろごろモード。そのあまりの気持ちよさげな様子に、周囲の猫も気になったのか、気が付いたら1匹、2匹、とどんどん寄ってきて。
「わあ、いっぱいあつまってきたっ」
 あっという間にオズを中心に、猫だまりの出来上がり。こっちも撫でて、ぼくもみてみて、と語る様に見上げてくる瞳はどれもオズに負けないくらいきらきらしている。その淡い桜を滲ませたピンク色は、肩口に座る愛らしい人形――姉の瞳にそっくりで。
「目の色、シュネーとおそろいだ…ねっ!?」
 笑って話しかけた筈が、唐突に最後の音がピッ!と上擦った。それもそのはず、突然シュネーが乗るのとは逆の肩の上に、ズンと重みがきたからだ。何事かとそろり目を向けると、そこにいるのはスンスン鼻を鳴らす猫の姿。
「わ、わ、どこからとんできたの?」
 はてなを浮かべて訪ねると、まるで通じたように肩上の猫が顔を上げる。その視線の先を追いかけると、オズがジャンプしても届かないような高い高い樹の枝が映る。
「あんなところから?すごいねえ」
 ふにゃりと笑って褒めてやると、心なしかドヤァ!とした顔で猫が頭を擦り付ける。それに応じるまま、顎下を撫でてやると気を良くしたのか、トン、と居場所を肩から膝に変える。せまくない?なんて問いかけは、心地よさげなごろごろ音にかき消されてしまう。そして機嫌よさげにゆらりと揺れた尻尾がオズの顔の前を掠めた瞬間、

――あ。
雨の、におい。

 草木の纏うものでは無く、ただの水とも違う。何に例えるのも難しく、だけど確かにそれだとわかる、仄かなにおい。
「きみたちも、雨がすきなの?わたしも、わたしもね」

――雨は、すき。
 花ほころばす柔らかな雨も、窓をコツコツ叩くにぎやかな雨も、そしていつか連れてくる虹色の空も、ぜんぶすき。

 空にも似た色の瞳に今までの雨の情景を思い起こしながら、まだ聞こえない雨音に耳を澄ますように、目を閉じる。そこにだれが、なにを見たのかは、まだ分からないけれど。まなうらに描いた雨のカーテンに、指がふれかけた所で――にゃあ、と声が届いた。
「ふふっ、そうだね。まずはねこさんたちだ。よーし、それじゃあそろそろ移動しようかっ」
 ぎゅっと一度目を閉じて、今はまだ雨にさよならを。そして期待に満ちた猫たちに、とっておきを披露しようと、オズが指を振るう。――ガジェットショータイム。今回呼び出されたのは、おあつらえむきの猫じゃらし。緑色の柄に黄色いふんわりポンポンがまるでタンポポみたいな1本と、帽子の羽飾りに似た真っ白な羽根つきのもう1本。
「ほら、おいでおいでっ」
 誘うようにふりふり振って、歌うようにくるくると。足取り軽く前へ進めば、にゃんにゃん鳴いて猫たちが楽し気について来る。
「ねこさんの行進だっ、しゅっぱつしんこーっ」
 それでは、暫しの遠足を楽しみましょう。続くステップと鳴き声の行進曲が、暫しにぎやかに響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
メイ(f00192)と

害はなさそうだね
戦闘の必要もなさそうかな
メイは嬉しそうだね
本当だ、メイと同じ

猫じゃらしや猫の玩具を持って
驚かさないようそっと声をかけ、玩具を使いつつ気を引いてみようか
寄って来たらそっと抱き上げて

抱き方かい?
両手を猫の両脇の下に入れてゆっくり持ち上げて
すぐに片方の手で腰を支えてあげるといいよ
やってごらん
よくできました
オレが先生?
…不思議な気分、くすぐったいような
でも、オレの知識でよければいくらでも教えるよ

抱いたままそっと撫で
思ったよりも懐く様子に少々驚きつつ
困ったね、メイ
ぽかんとやるには忍びないよ
苦笑して
さて、どうしたものかな
一先ず会場の外へと連れて行こうか、メイ
おいで


辰神・明
ディフおにいちゃん(f05200)と
妹人格:メイで参加

ディフおにいちゃん、ふーちゃん
メイとおんなじ目の色の、にゃんこさん、なのです……!
はじめて、見ました……!
ディフおにいちゃんのおかげで
にゃんこさんが、きてくれました、ね

(ふーちゃんがねこさんと遊ぶのを見つつ)
ディフおにいちゃんその……
どうやって、だっこしたらいいの、かな
両手でゆっくり持ち上げて、すぐに……わわっ、できたー!
ディフおにいちゃんは、せんせー!なのです!

ふふっ……かわいいさん、ですね
なでたり、大丈夫そうなら、肉球さんを触ったり
でも、ここじゃなくて……少しはなれて、遊ぶですよ?

はーい!
みんな、ディフおにいちゃんとれっつごー!です!



「ディフおにいちゃん、ふーちゃん」
 たたた、とぬいぐるみの友を連れ立って、足取りは軽やかに。まだ少し風の冷たい公園を通りながら、辰神・明(双星・f00192)――その身内に宿る人格の一つ・妹のメイが、嬉しそうに振り返って手を振る。こけないようにね、と声を掛けながらディフ・クライン(灰色の雪・f05200)も、楽しげな様子につられるように笑みを浮かべて追いかける。その道すがらにも、塀の上では欠伸をし、木陰ではごろりとくつろぎ、花壇では宝探しをする、猫、ねこ、ネコの姿ばかり。だが彼らがやっていることと言えば普通の猫と変わらない様子なので、一先ずは大丈夫そうかとほっと胸をなでおろす。
「害はなさそうだね。戦闘の必要もなさそうかな。」
 ぽつりと確認するように呟くと、それに重ねる様にメイがディフおにいちゃん、と再び名を呼ぶ。
「メイは嬉しそうだね」
「だって、メイとおんなじ目の色の、にゃんこさん、なのです……!」
 ほら、とベンチに座る子の傍に駆け寄って顔を並べると、まるで一足先に春が来たような桜色の瞳が並び咲く。
「本当だ、メイと同じ」
「はじめて、見ました……!にゃんこさんには、めずらしい、なのです?」
「確かに珍しいね。じゃあ、せっかくだからもっとたくさん見てみよう」
 そう言ってディフが懐から取り出すのは、今日のために用意してきた猫グッズだ。ふわふわと鳥の羽がゆれる猫じゃらしに、押せばぴょんと跳ねるネズミ型の玩具に、しゃらしゃらと鈴のなる小さなボール。どれもカラフルで可愛らしいつくりで、ひとつ披露する度メイが興味津々に目を輝かせる。――先にメイが釣れたね、なんて言葉は柔らかな笑みにそっと隠して、まずは猫に接近を試みる。数匹が集まった花壇の端に驚かせないよう静かに歩み寄って、こんにちはと声を掛けながら猫じゃらしを振る。ふりふり、ふりふり、揺れるたびに視線を向ける猫たちの目が爛々と輝いて、最後にツイッ、と素早く振ればそれからはもう入れ食い状態。右へ左へ大ジャンプを見せながら、他の猫たちも遊んでくれるの?とばかりにわらわらと集まってくる。
「ディフおにいちゃんのおかげで、にゃんこさんが、きてくれました、ね」
「おもちゃを熱心に見てるし、みんな遊びたいみたいだね。よっ…と。」
 ちょうど今にも足を駆け上げってこようとした猫をひょいと抱き上げて、ディフが丁寧に撫でてやる。するとすぐに目を細めてゴロゴロ言い出すので、やはり本当に害意は薄いようだ。そしていとも簡単に抱き上げる様子を見たメイが、すごい!と歓声を上げた後、自分でもやってみようと手を伸ばしかけたところで、おろおろとディフに向き直る。
「ディフおにいちゃんその……どうやって、だっこしたらいいの、かな」
 普段から抱きしめてるふーちゃんと、しなやかな猫とではどうにも勝手が違って映る。だから怖がらせないように、落っことしたりしないように抱っこするには、どうすればいいのかよくわからない。
「抱き方かい?まずはこう、両手を猫の両脇の下に入れてゆっくり持ち上げて…」
 と、ディフが抱いていた猫を一度降ろし、説明と一緒に実演してみせる。持ち上げた猫の胴がにょー…ん、と伸びて後ろ足が地面から離れた所で。
「ここまできたら、すぐに片方の手で腰を支えてあげるといいよ」
 サッ、とすくう様に片手を猫の腰に当て、胸元に引き入れる様に抱き上げる。目指す動きも見れたところで、やってごらん?と促されれば、今度はメイの抱っこチャレンジ。
「両手でゆっくり持ち上げて、すぐに……わわっ、できたー!」
 ちょっぴりおっかなびっくりな所は見えたが、しっかりと腰を支えて抱き上げ、腕の中で居心地よさそうに収まる猫の姿に、パッとメイの顔が明るくなった。
「よくできました」
「えへへ、ありがとう、なのです。ディフおにいちゃんは、せんせー!なのです!」
「オレが、先生?」
 思わぬ言葉に、ディフがぱちりと瞬く。確かにコツを教えはしたけれど、そんな風に呼ばれるとは思ってなくて。なんだかくすぐったいような、ふわふわした不思議な気分が胸を満たす。でも、それは決して不快なんかじゃなくて、やさしくて、あたたかな心地。
「オレの知識でよければ、いくらでも教えるよ」
 そう告げてやれば、青空教室の唯一の生徒が、嬉しそうにはいっ、と手を挙げた。

 抱っこをマスターしたなら、あとは至福のなでなでもふもふ堪能タイム。滑らかな毛を撫でればにゃあんと鳴き、喉を撫でればぐるぐる音が響き渡り、抱っこすればぽかぽかぬくぬくの柔らかい体が何とも心地いい。
「ふふっ……かわいいさん、ですね」
「本当に。困ったね、メイ。ぽかんとやるには忍びないよ」 
 警戒心も薄く、思ったよりもうんと慣れてくれるものだから、いざ“ぽかん”の時を思うとなんとも心苦しい。さて、どうしたものかなと苦笑を浮かべてディフが困っていると、メイが服の裾を引いておずおずと提案を述べる。
「なら、たくさん遊んであげれば、にゃんこさんたちさみしくない、です?あっ、でも、ここじゃなくて……少しはなれて、遊ぶですよ?」
 どうするか、を考えるとまだ決めかねてしまう。でもまだ少し時間はあるはずだ。その間にせめて、たくさん遊んでやりたい。けれどここはまだ会場から近いから、うっかり増えた猫がそちらに流れて邪魔になりかねない。
「うん、そうしてやろう。じゃあ一先ず会場の外へと連れて行こうか、メイ」
「はーい!みんな、ディフおにいちゃんとれっつごー!です!」
 おもちゃを抱えて、猫を連れて、今は暫しの遠足気分。今日はいっぱいねこたちと遊んでやろう、メイとディフが微笑んで指切りを交わした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨野・雲珠
ロキさんと/f25190

なんということでしょう。ここが天国でしょうか…
手が足りないとばかりに
すりすりしてくれる子たちを片っ端から撫でます。
好きです!濡れるのも、傘や屋根の下で雨音を聞くのも。

自分だけのお猫さんがいてくれたらなあって思いません?
あ、でも、そうしたらその子だけ贔屓してしまうかも
むむ、悩ましいです。

【花吹雪】で気持ちよく眠っていただきましょう。
そっと抱っこしては脇へ寄せてを繰り返し、猫団子を形成…
…ロキさんも猫っぽいですよね。
気まぐれなようでよく見ていて、思いのほか情の深そうなところとか。

最初遠慮がちに撫でてみて、両手でわしゃわしゃーっとします。
あなたはまた、容易くそんなことを仰る!


ロキ・バロックヒート
うずくん(f22865)と

わぁ猫がいっぱいだ
ほんとに天国かもねぇ

寄ってくれる子抱き上げたり撫でたり
ほんとに雨の匂いする
うずくんは雨好き?
俺様は濡れるのはちょっと好き
うんうんって色々に頷いて
猫も自分だけのひとを選ぶこともあるんだよ
相思相愛なら贔屓も良いんじゃないかなぁなんて

うずくんが眠らせてくれるなら
影の獣たちで首根っこ噛んだりして会場の外連れてって
猫団子をつくるお手伝い
自分は猫団子に埋もれてみたり
わ~あったかぬくい
うずくんもおいでよって手招き

猫っぽい?じゃあ撫でてくれる?
ほらほらって君に擦り寄って甘える
撫でてくれたら嬉しそうに喜んで
思いのほか?情はいっぱい注いであげるよ
ふふ、うずくんだーいすき



――にゃあん、と猫が鳴く。
右を見れば、舐めた前足でてちてちと顔を洗う子がいて。左を見れば、自分の尻尾と気づかずにぐーるぐーると追いかけ回り続ける子がいて。他にも木陰を、テントの影を、ベンチの上を、我が物顔で歩く猫たちがたっくさん。
「わぁ猫がいっぱいだ」
「なんということでしょう。ここが天国でしょうか…」
 感動に震える、と言った様子で目をきらきらさせる雨野・雲珠(慚愧・f22865)に、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)がほんとに天国かもねぇ、とけらり笑う。人の姿を見つけて早速と足元に擦り寄ってくる子たちを、手が足りない!とばかりに息巻いて雲珠が撫でていくと、すぐにごろごろにゃーんの大合唱。そしてころんと転がりへそ天してもっと!とねだる姿は、もう腕がむっきむきになるまで撫でたいほどだ。ロキもじゃれつく子を1匹2匹と撫でたり手遊びしたり、特に今にも登ってきそうな子はひょいと抱き上げて顔をうずめると、鼻腔をほのかな香りが擽っていく。
「ほんとに雨の匂いする。うずくんは雨好き?」
 俺様は濡れるのはちょっと好き、と言えば、好きです!と猫に向けるのと同じくらいのきらきらした瞳で応えられた。
例えば、霧雨の中をくぐり抜けて、髪や角がふんわり濡れるのも。
したた、ぴっちょん、ぽこぽこ、と傘や屋根の下で色んな雨音を聞くのも。
そして出来れば、軒下で静かに雨音を聞くときには、お膝の上でご機嫌なお猫さんがいてくれたら――とまで想像して、ふとよぎった願いを問うてみる。
「自分だけのお猫さんがいてくれたらなあって思いません?あ、でも、そうしたらその子だけ贔屓してしまうかも」
 時折こっそり匿う猫もいるのだから贔屓はよくないのでは、と真面目に悩む雲珠に、愛でる様な視線を向けながらうんうん、と色々に頷いてロキが笑う。
「猫も自分だけのひとを選ぶこともあるんだよ。相思相愛なら贔屓も良いんじゃないかなぁ」
 なんて、と付け足されはしたものの、その言葉には確かに納得できるものがあった。もし自分を選んでくれる子がいたなら、いやしかし、でもそれなら…と、ぐるぐる表情を変えながら。
「むむ、悩ましいです。」
 雲珠が出せない結論に頭を悩ませつつ、撫でる手はひと時も休んではいなかった。

 悩み、撫でつつ、話しながらたっぷり猫とのふれあいタイムを満喫したあとは、一仕事。ひとまず依頼の指示にあったように、猫たちと会場の距離を取るべく次の行動へと移る。まずは雲珠が気持ちよく眠って頂きましょう、と招き寄せるのは花吹雪。雪を思わす真白の花びらが舞い散り、ふわりと猫たちに降り注ぐとたちまちに皆がぐぅぐぅ眠りだす。その隙にロキが招いた影の獣たちが、背に乗せたり首根っこを噛んだりして、徐々にスープマルシェの会場の外へと連れだしていく。そして程よく離れていて、なおかつ道路などからも距離を取った安全な広場に付くと、ふたりが示し合わせたように猫たちを一か所へ集めていく。連れる時はそうっと優しく抱きしめて、密着させたり脇へ寄せたり…を何度も繰り返す。やがて完成したのは、それはもうスマホがあれば連射もの、猫好きなら飛び込む誘惑にそわそわしてしまう魅惑のふわもこ猫団子。現にロキもわぁいと楽し気に、そして器用に見つけた隙間へ早速もふっと潜り込んでいく。
「わ~あったかぬくい。うずくんもおいでよっ」
 すぴすぴ寝息を立てた猫たちにうずもれる誘惑を前に、断るすべなどなく。雲珠もちょっぴり遠慮がちに、でも隠し切れない嬉しさを前面に押し出しながら猫団子にお邪魔する。潰さないように気を使いつつもちょこんと三角座りをする雲珠とは対照的に、まるで元から一緒に転がっていたのようにごろりと馴染むロキ。気ままに戯れているようで、ちゃんと猫のツボを心得たような撫で方。自由に振る舞ってるようで、猫たちが落ちたりしないようこっそり伸ばされる手。そしてしがみつく子にはいっとう甘えさせるように目を細めるその姿を見て、ふと思ったことが口からこぼれる。
「…ロキさんも猫っぽいですよね。」
「猫っぽい?じゃあ撫でてくれる?」
 真似る様ににゃんと鳴いて、ロキがほらほら、と雲珠に擦り寄って甘えてみせる。唐突なふりに暫し戸惑いながらも、差し出される夜色の髪の柔らかさや気ままなところは、やっぱり猫にも通づるものがある気がして。最初は遠慮立ちに撫でていた手も、最後にはわしゃわしゃと大きくなっていた。
「やっぱり似てる気がします。気まぐれなようでよく見ていて、思いのほか情の深そうなところとか。」
「思いのほか?情はいっぱい注いであげるよ。ふふ、うずくんだーいすき」
「あなたはまた、容易くそんなことを仰る!」
 軽薄な言葉に、それでも確かに情が乗っているから無碍には出来ず。それでも、そういうのはもっと場面とひとを選んでですね…と、真面目にお説教を始めそうな雲珠に、くすくすと猫を構いながらロキが暫し付き合って耳を傾けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジノーヴィー・マルス
アイシャ(f19187)と。

右を見ても猫左を見ても猫。猫だらけじゃねえか。
あー、いいなぁこういうの。そばに猫がいるだけで、何にも考えなくて良くなる感じ。
日向でぽけーっとしながら猫と戯れてなぁ。…そういやあの時アイシャもいたなぁ。
おぉ、あの日向に連れてくんだな、いい提案だ。
そら…持ち上げますからねー。いい子にしてるんですよー。
…しかしこの、両脇に手を入れて持ち上げると、胴体が伸びる感じ好きだわー。

アイシャは大きくなって運んでやってるんだな。確かに、いつもの姿じゃちと大変だ。


アイシャ・ラブラドライト
f17484ジノと
口調→華やぐ風
ジノ以外には通常口調

ジノ、猫さん可愛いね
ジノのことを好きだって自覚し始めた頃に
猫と日向ぼっこしてるジノを見て
ジノと一緒に寛いでる猫のことをすごく羨ましく思ったのを覚えてる
なんだか懐かしいな…
あのときは、猫にまで嫉妬してる自分にびっくりした
ねぇ、会場の外の、お日様のあたるぽかぽかした場所までみんなを連れて行って
一緒に日向ぼっこしない?
あの時のことを思い出しての提案ということは、恥ずかしいから内緒

UCで6倍の姿に変身して
猫をそっと抱き上げて、撫でてみる
この姿で動物と触れ合うのは初めて
ずっとやってみたかったんだよね…
sakurairoがあればお話しもできるかな…?



 がさりと揺れた花壇の影からは、じゃれあう猫がまろびでて。木陰を見上げれば、くわりとあくびをする猫がいて。テントの縁に、ベンチの下に、あっちにもこっちにもねこ、猫、ネコの姿。
「右を見ても左を見ても猫だらけじゃねえか。」
 ほんの少し感心を混ぜたような声で、ジノーヴィー・マルス(ポケットの中は空虚と紙切れ・f17484)が当たりの猫を数えようとして、すぐにやめた。なにせ指を折る端から、瞬き一つでぽこん、と増えるのだからきりがない。
「ジノ、猫さん可愛いね」
 そんな様子に微笑みながら、アイシャ・ラブラドライト(煌めく風・f19187)がふわり宙を舞う。小さな妖精の姿が珍しいのか、アイシャが動くたびに猫たちが桜色の瞳をキラキラさせて見つめてくる。そしてちょうど猫だまりができている一角にジノが歩み寄ると、お互いにグルーミングをしあったり寝転がったりと、ほのぼのした姿にどうにも脳がつられるようで。
「あー、いいなぁこういうの」
 そばに猫がいるだけで、何にも考えなくて良くなる感じ。ただこうして寛いでていいんだよって言われてるような、安堵感や程よい脱力感。それに暫し浸る様にジノが目を閉じると、肩口から見ていたアイシャがふと思い起こすのは、似た光景の過去のある日。――猫と日向ぼっこしてるジノを見て、一緒に寛いでる猫のことをすごく羨ましく思ったのを覚えてる。撫でる指が、近い距離が、自分だったならいいのにって思えて、胸がちりりと焼けたような、あの感情。
「なんだか懐かしいな…」
 あのときは、猫にまで嫉妬してる自分にびっくりした。ジノのことを好きだって自覚し始めてはいたけれど、その気持ちがもうこんなにも、大きく育っていたなんてちっとも知らなかった。今こうして隣にいられるのも、あの時を経たおかげなのかと思うと、ぼんやり猫を眺めてるジノの姿を見て思わずアイシャの顔に微笑みが浮かぶ。
「あーこのまま日向でぽけーっとしながら猫と戯れてなぁ。」
 やがてジノからぽろっと零される要望に思わず吹き出して、アイシャがならこんなのは?と提案を述べる。
「ねぇ、それなら会場の外の、お日様のあたるぽかぽかした場所までみんなを連れて行って一緒に日向ぼっこしない?」
「おぉ、あの日向に連れてくんだな、いい提案だ。」
 勿論そう、と言いたいところだが、思い出しての提案ということはなんだかちょっと照れくさくて。できれば内緒にしたいので、あの、と言われたところは何のことかしら、と知らんぷり。そして誤魔化す様に、くるりと一度高く飛ぶと――ぽんっ、とアイシャが変身した。手のひらサイズからおよそ6倍、ちょうど人間の少女くらいの大きさだ。
「アイシャは大きくなって運んでやってるんだな。確かに、いつもの姿じゃちと大変だ。」
「うん、それにずっとやってみたかったんだよね…」
 普段はどちらかと言えば乗るほうだけど、『今日だけは特別』に。ちょうど足元に来た子をそうっと抱っこしてみると、上手に納まってくれた。この姿で動物と触れ合うのは初めてだけど、腕の中がぽかぽかあたたかくてやわらかくて、撫でるとすべすべの毛が指に心地いい。ごろごろ、ぬくぬく、と猫も気持ちよさそうで、sakurairoでお話しもできたら、一体どんな言葉が返ってくるのかとなんだかわくわくしてしまう。
「それじゃ俺も…そら…持ち上げますからねー。いい子にしてるんですよー。」
 そう声掛けをしながらジノも足元の一匹を両手で持ち上げると、にょ――…んとまるで蛇腹で折りたたまれていたかの如く胴が伸びるが、とうの猫は意に介さず大人しくされるがまま。
「…しかしこの、両脇に手を入れて持ち上げると、胴体が伸びる感じ好きだわー。」
「ふふっ、本当面白いし、可愛いよね」
 若干スンッ、とした真顔の猫に笑いかけつつ、ジノとアイシャによる楽しいねこねこ運搬の時間が暫し続いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
【桜舞】

あらまあ…
清史郎さん、大変
会場が猫だらけです
そこかしこにいる猫に驚き
清史郎さんのキリッとした表情にくすりと笑んで

ふふ、では猫さんの行進といきましょうか
玩具やおやつ、またたびで誘惑してみましょう
…清史郎さんは猫たらし、私覚えました
骨抜きになる猫達を見てぽつり

みなさん、ふわふわですねぇ
毛並みも瞳もとても綺麗
ほんと、桜と縁がありますねぇ
撫でてもふもふして持ち上げたらみょーん、と伸びる猫にくすくす笑って

ふふふ、清史郎さんとっても幸せそう
視線を感じて耳ぴこ尻尾をゆらり
ふと清史郎さんを見てまたふわほわ笑む

遊びの時間はおしまい
そろそろゆっくり寝てくださいな
そっと子守唄を歌ってお別れしましょう


筧・清史郎
【桜舞】

おお…猫さんが沢山だ(瞳きらきら
ああ、これは何とかしなければだな
心して全力で取り組もう、千織(きり

猫さんの心をより掴むべくUCで強化後
ねこじゃらしぴこぴこ、まずは猫さん達の気を引こう
さぁ、皆おいで(雅スマイル
巧みに撫で撫で骨抜きにしつつ、おやつやまたたびも駆使
千織と協力し、猫さん大行進を

ふふ、とても良いもふもふだ(もふもふ
それに俺達に縁深い、桜のいろをした瞳だな
…本当に猫さんは愛らしい(みょーんな姿をガン見

何故箱には、もふもふな尻尾や耳がないのだろうか…(真剣に
千織や猫さん達を羨ましく思うも
もふもふさせて貰っている今が幸せだ(にこにこ

もふもふ後は
桜吹雪舞わせた衝撃波でそっと送ってやろう



「あらまあ…清史郎さん、大変」
 大変というからには、すわ事件か何事か――と問うにはどこかおっとりとした声で、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)が連れの名を口にする。その目に映るのは、てちてちと器用に前足で顔を洗う猫の姿。
「ああ、千織…これは大変だ」
 名を呼ばれた筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)も、トーンこそ真剣ながら剣呑さはまるでない口調で同意する。そう、これは大変なことなのだ。因みに同じく瞳に写すのは、くわりと大きな欠伸をするのんびりした猫の姿。
「会場が猫だらけです」
「おお…猫さんが沢山だ」
 そしてほぼ同時に、大変さの内容を告げた。そう、猫さんがいっぱいたくさん増しましにゃんで、スープマルシェの会場は大変なのです。こうしてる今も足元をするりとすり抜けたり、尻尾を追いかけたりと、ひとときも見逃せない愛らしい姿があちこちにある大事件っぷり。
「ああ、これは何とかしなければだな。心して全力で取り組もう、千織」
 顔はキリッとさせながらも、隠しようがないくらいに清史郎の目がキラキラ輝いてるものだから、思わず千織がくすりと笑いながら、勿論です、と言い添えた。
「ふふ、では猫さんの行進と行きましょうか」
 今回の依頼は猫たちが会場準備の邪魔をしないように、というのが趣旨だ。ならばまずは猫を手近に集めてから移動しようと、ふたりが取り出すのは各種猫グッズ。カリカリとチューブタイプのおやつにまたたび、じゃれやすそうな小さな鈴つきボール、そして定番にして王道の猫じゃらし。
「そうだな、まずは猫さん達の気を引こう。さぁ、皆おいで」
 そういって清史郎が雅やかな微笑みを浮かべ、まずは猫じゃらしをふりふりと振る。猫の姿がみえるところをゆるりと練り歩きながら振るってやれば、あっという間に後ろには猫の行列ができる。そしてどんどん増えるねこねこ大行進を引き連れて暫し、終点に待ち構えるのは両手を広げた優し気な千織の笑みと、またたび付きのボールとおやつ。待ってました!とばかりに次々飛び込んでくる猫たちで、ふたりの周りはあっという間に猫だまり状態になる。時折ぴゅっ、と逃げそうになる子は清史郎が慣れた手つきで抱き上げて、耳裏から始まり喉元、背中、首回りと巧みな撫で撫で技を披露していく。するとさっきの元気もどこへやら、ふにゃふにゃごろごろごの骨抜き状態になり、猫だまりの一員へと戻っていく。
「…清史郎さんは猫たらし、私覚えました」
 徐々に増えていく骨抜きにゃんこたちを見ながら千織がぽつりとつぶやくと、はっはっは、と雅な笑い声が返される。
「それにしてもみなさん、ふわふわですねぇ」
「ふふ、とても良いもふもふだ」
 丹念にブラッシングされたようなつやつや加減。まだ冬毛仕様なのか、短毛種ながらも僅かに指が埋まるふわふわもふもふ気味の毛並み。もはや何匹目かもわからない骨抜きにゃんこを膝に乗せ、清史郎がその手触りを存分に堪能する。眺める千織の膝にも好奇心旺盛な猫が乗ってきて、撫でてやればにゃあん?と見上げてくる瞳。その普通の猫には稀な目は、どこかふたりともに馴染みある色をしていた。
「俺達に縁深い、桜のいろをした瞳だな」
「ほんと、桜と縁がありますねぇ」
 桜の硯箱のヤドリガミに、八重櫻の巫女。どちらも桜に縁ある身としては、この桜の瞳の猫にも親近感を感じずにはいられない。いっそう愛らしく思えた所で、ふと清史郎が何かに気が付いたように顔を曇らせる。
「何故箱には、もふもふな尻尾や耳がないのだろうか…」
 しなやかな尻尾に、ぴんとたった三角の耳。その愛らしさを見つめながら、自身の器物を思い起こす。それは“もふ”や“ふわ”とは縁遠い、硬質なつるぴかボディ。見れば誰もが美しいと誉めそやすであろう硯箱を思い浮かべながら、清史郎自身は割と本気で耳がない…尻尾もない…と悔やむ顔をした。その視線に千織がちょっぴり悪戯心で自らの山猫耳をぴここっ、尻尾をゆらりと揺らして見せれば、いっとう羨まし気な顔になるので、思わずふふ、と声が零れてしまって。
「ふふふ、でも清史郎さん、今とっても幸せそう」
「そうだな、千織や猫さん達を羨ましく思う気持ちはあるが、もふもふさせて貰っている今が幸せだ」
 そう思い直してぱっと表情明るく笑う清史郎に、千織もまた笑みを重ねて尻尾を揺らした。

――そうしてゆっくりたっぷり遊んで、撫でて、抱っこして。共に過ごした後に訪れるのは、さよならの時間。仲良くなれたぶん少し寂しいけれど、このまま彼らを放っておくわけにはいかない。逸れないように、その時まではあたたかくあるように、そっと彼らをひとところに集めて、ふたりが最後の言葉を口にする。
「そろそろゆっくり寝てくださいな」
「ああ、縁ある桜の花びらで送ってやろう」
 せめて、と見送りに添えられるのは、やさしい花吹雪と子守唄。うとうとと細められた瞳が閉じる頃に――猫たちが見るのはきっと、桜舞う幸せな夢。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アパラ・ルッサタイン
彼方をむいても猫
其方をむいても猫
いやあ、天国のようだね!

狭い所が好きだと聞く
藁で編んだ籠などを幾つか設置してみよう
中にはふかふかクッションや湯たんぽなど置いてみたりしてね

撫でても大丈夫かな?
喉の下をなでたりして楽しもう
ゴロゴロとか聞こえたらもう、
顔が緩みっぱなしになってしまうよ
やわくて温いものってどうしてこう癒されるんだろうねえ

ある程度集まったら猫じゃらしを持って
会場の外へ誘導しようね
ほーらほら、こっちへおいでよ~~

いやあ、たのしいなあ!



 スープマルシェの会場となっている公園に足を踏み入れると、早速目に入るのは猫の姿。灰色の短毛の猫ともあれば、影に紛れてしまえば見つけにくそうなものなのに、それでもちょっと見まわすだけでいるのが分かるのだから、全部搔き集めたら相当な数になるのだろう。
彼方をむいても猫、其方をむいても猫。
「いやあ、天国のようだね!」
 そんな猫だらけの空間に、アパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)が目をキラキラさせて言い切った。そう、猫好きからしたらここは今最高の場所だ。UDCとはいえ能力自体は無害そのものとの事前説明もあるので、ぜひなでなでもふもふ戯れたいところ。そのために必要な第一歩は――まず、捕獲にある。
「猫は狭い所が好きだと聞くからね」
 そういってアパラが用意するのは、藁で編んだ籠だ。程よく狭く囲われた空間に、
更には中にふかふかクッションや湯たんぽなどを仕込めば、それはもう猫まっしぐらな仕掛け罠の完成だ。ベンチの下や木陰などに数個設置して、あとは掛かるのを暫し待つ。するとあっという間に素敵空間に気づいた猫たちが、我先にと吸い込まれるように藁籠に収まっていく。中には数匹でぎゅうぎゅうに詰まった籠もあったりで、罠としてはもう100点満点の大・成・功!と言えた。その様子にうきうきとしながら、まずは一番近い籠に歩み寄り中を確認すると、そこにも心地よさそうに収まる猫が一匹。
「撫でても大丈夫かな?」
 誰ともなく尋ねてから、そろっと手を伸ばして喉元を撫でると、既に籠のぬっくぬく具合にほぐれていたおかげか、すぐに喉を鳴らして懐いてくれる。ぽかぬくした柔らかな毛並み、大きくて愛らしい瞳、にゃーんゴロゴロと響く音を聞けば、もう顔は緩みっぱなしで。
「やわくて温いものって、どうしてこう癒されるんだろうねえ」
 ふにゃりと相好を崩したまま、暫し猫とのふれあいタイムを楽しんだ。

 各籠を確認して猫たちを回収していくと、最終的には結構な匹数になった。確かにこれだけの子が会場にいたとあっては、イベント準備の邪魔になることもあるだろう。それなら距離を取るのがお互いの為だ。
「ほーらほら、こっちへおいでよ~~」
 移動のために取り出すのは、定番ともいえるおもちゃの猫じゃらし。ふりふり揺らせば集まった猫たちの目が輝いて、呼ばれるままにアパラの後をついていく。にゃんにゃん鳴く声をマーチソングに、始まるのは猫たちによる愉快な大行進。
「いやあ、たのしいなあ!」
 その先頭に立って会場を去るアパラの顔は、ずっと眩しいくらいの笑顔だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
ティル(f07995)

悪戯な猫が沢山いるようだね。
さて、ナツ。一緒に遊んで来るかい?

駆けたナツを追いかけながら私達も行こうか。
嗚呼。とても元気が良いね。
猫を連れてきてくれたようだよ。
これだけ集まれば、余す事なくもふもふと出来るだろう。

灰色の猫たちに塗れて、もふもふを堪能しようではないか。
ナツはティルとも遊んでほしいらしい。
二人で猫まみれだよ。
嗚呼。これだけいると、とてもあたたかいね。

嗚呼。私の懐はナツ専用だから、怒られてしまうよ。

猫の腹は、とても良い香りがすると、聞いたことがあるのだよ。
どれ、失礼。……太陽のような香りがするね。

ティルもやってみて呉れ。
とても、癒やされるよ。


ティル・レーヴェ
英殿(f22898)と

英殿、英殿!
猫殿がこんなに!

あのね
妾は憧れが在るのよぅ
沢山の猫殿達に囲まれて
もふもふ夢心地に浸りたいの!

愛らしい姿に眸きらきら輝かせ
抱く夢を語ったなら
猫の群れへ向かうナツ殿も愛らしくて
頬も緩むばかり

駆け行く白き背見守って
友の声が届いたなら笑顔で頷き後を追う

ナツ殿凄い!
こんなに沢山お友達になられたの?
ね、もふもふさせて頂いて構わない?

へへ、勿論!
ナツ殿も一緒に遊ぼう!
皆と戯れ目許もうっとり
英殿も堪能されている?

なんと!
猫殿のお腹そうであられるの?
そう聞けば気になって仕方なく

……妾も、いい?
近くのお子に伺いたてて
すぅ、と吸ったら香りも心も
お日様に包まれるよう

――へへ、しあわせ



 まだ少し冷たい風の吹く公園の一角。先にある雨の啓示も今はまだ見る影もなく、柔らかな日差しが降り注いでいた。あと少しで桜の綻びそうな樹に、先んじて花壇を染めるチューリップ。確実な春の訪れを忍ばせた最中を、花纏う天使が横切っていく。
「英殿、英殿!猫殿がこんなに!」
 あちこちに見える猫の姿に、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)が嬉しげな歓声を上げる。
「嗚呼、本当だ。悪戯な猫が沢山いるようだね。」
 ちょうどテントの端をちょいちょい弄っている猫を見つけるも、呼ばれた榎本・英(人である・f22898)が咎めるよりは愛でるに近い視線を送る。勿論大事に至らぬように、と一応気を付けて見てはいるけれど、悪戯をする猫の姿も愛らしいから仕方がない。
「あのね、妾は憧れが在るのよぅ」
 くるりと英に向き直り、ティルがにんまりと語り始める。これだけたくさんの猫がいるならきっと叶うはず、と期待も気合も十分に。ぐっと拳を握って語るのは――もふもふなゆめ。
「沢山の猫殿達に囲まれて、もふもふ夢心地に浸りたいの!」
 これくらい!と小さな体をめいっぱいに大きくまるを描き、その中に埋もれる自分を想像すると、もうそれだけで幸せな心地がする。今日というまたとないチャンスは逃したくないが、さてどうやって気紛れな猫をひとところに集めるか、と悩みかけた所で。
「…だそうだよ。さて、ナツ。集めがてら一緒に遊んで来るかい?」
 そう英が腕の中にいる白い子仔猫――ナツに話しかけると、まるで心得た!というようにタタッと駆け出していく。
「嗚呼。とても元気が良いね。」
 風の速さで奔るのを見失わないよう、私達も行こうか、と英に声かけられればティルが笑って頷いて、仔猫を追いかけ歩き出す。その間にもナツは好奇心旺盛に、猫の集まるところへ飛び込んではにゃんにゃんと声をかけ、ぽつぽつと離れた猫たちにはちょいちょいとちょっかいをかけ、やがて好奇心に釣られた猫たちがどんどんと集まっていき――
「猫を連れてきてくれたようだよ。これだけ集まれば、余す事なくもふもふと出来るだろう。」
 ふたりが追いつくころには、まるで一面に敷き詰めたのように猫たちが集まっていた。
「ナツ殿凄い!こんなに沢山お友達になられたの?」
 気が付けば匹数を数えるのも難しいくらいの猫、ねこ、ネコたち。想像してたよりもずっとたくさんの猫だまりに、ティルの頬が期待でふわりと薄桃に染まる。
「ね、もふもふさせて頂いて構わない?」
 驚かさないようにそっとしゃがんで話しかければ、思いのほか懐っこい猫たちがいいよ~、とばかりににゃあにゃあと返す。伸ばす腕にもひるまずに、触れればその毛並みの温かくてやわらかいこと。頭を撫でてやればあっというまにごろごろと喉を鳴らし、ころんと転がってしまうからもう堪らない。わぁ…!と思わず零して目を輝かせていると、ふいにトントン、と肩を叩かれる感覚がして。振り向くとそこには英に抱かれて、ティルと同じくらいに目をキラキラさせたナツの姿。
「ナツはティルとも遊んでほしいらしい。」
「へへ、勿論!ナツ殿も一緒に遊ぼう!」
 そういって灰色猫たちに真っ白なナツを加えて、なでなでもふも触れ合ったり、拾った落葉をひらひら舞わせて遊んだり。最後に潰さぬよう気を付けつつもふわりと猫だまりに身を委ねれば――ぬくぽかふわっ、の夢見心地。
「英殿も堪能されている?」
「嗚呼。それにこれだけいると、とてもあたたかいね。」
 夢をかなえて猫たちと存分に楽しむ傍ら、ふと気になってティルが訊ねてみれば、心配はいらないように猫に囲まれくつろぐ英の姿。するとその膝にトンッ、と1匹の灰色猫が乗っかって、ごろごろとくつろぎ始めてしまう。
「嗚呼。私の懐はナツ専用だから、怒られてしまうよ。」
 そう警告するも、当の猫には意図が伝わるわけもなく、遂にはくるんと丸まって寝ようとしだす。退かすに心苦しい光景は、けれど意外とすぐに終わりを迎えた。――ここはだめ!というように、ナツが居場所を取り返したからである。そんな一連の遣り取りを見つめていたところで、ふと英が何かを思い出して語り掛ける。
「猫の腹は、とても良い香りがすると、聞いたことがあるのだよ。」
「なんと!猫殿のお腹そうであられるの?」
 ティルが膝上の猫に尋ねてみるも、返ってくるのはなぁん?という返事だけ。ならばこれはもう、実践あるのみ。
「どれ、失礼。」
 英がさっそく横でへそ天で寝転がっていた一匹に断りを入れつつ、にょー…んと伸ばしてそのお腹に顔をうずめた。スー…ハー…と深呼吸の如く匂いを確かめてから、視線を合わせる頃に浮かべるのはなんともほっこりとした笑顔。
「……太陽のような香りがするね。ティルもやってみて呉れ。とても、癒やされるよ。」
 説得力十分の英の様子に、こくりと頷いてティルも腹の伸ばされた猫に尋ねる。
「……妾も、いい?」
 するとスンッとした表情浮かべる猫が、いいぜ…!というようにひと鳴きするので、ありがとう!とお礼を忘れず、いざもふっ…と埋もれてみると。香ばしい焼き立てパン、ポンッとはじけるポップコーン、干したてのいっとうお気に入りの毛布。そのどれもに似ていて、どれとも少しずつ違うような不思議な香り。でも、感じる心地は間違いなく。

――へへ、しあわせ。

 ティルがそういってふにゃりと笑うのを、英とナツがそろって優しく見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】
鼠色だけに、鼠算式みたいな?
ホントに無害なコなら大歓迎だったんだケドな――此処は腹を括ってやるしかないか

(しっかし此方まで猫々しい光景になったモンだとちょこぷりん眺め――もふにゃん極まりない様相につられ、微妙に締まりきらないふにゃっと緩んだ表情浮かべ)
だ、大丈夫だし~!

(此方もUC駆使しじゃらしでほいほいと回収して回り――つつ、もふもふ大行進にやっぱりにゃごむ)
嗚呼…なんつー一もふ打尽…!
ちょっとちょこニャン、ソレ戦ってるのか遊んでるのかドッチ!?
(どう見ても戯れ合ってる風にしか見えぬけだま達を二度見しつつ、あまりの可愛さにうっかりぷりんを撫でかけ)
っああもう~!
早く良いコに寝なさい!


鈴丸・ちょこ
【花守】
猫が鼠算式に増えるとは滑稽なこったな
如何にも悪戯したい年頃って感じの様子だが、おいたが過ぎちゃ敵わねぇからな
行くぞ、ぷりん(UCの獅子を呼んで)――一もふ打尽にしてくれよう
序でに伊織、お前骨抜きにされるなよ

(ぷりんと一緒に玩具咥え、猫達の好奇心を刺激する様にしゅたたっと駆け回り――ぞろぞろ引き連れ大行進状態で広い所まで誘導回収し)
ふ、かかったな
後は纏めて可愛がってやろう
(ぷりんともふもふふるもっふ――とっくみあいもといじゃれあう様な形でねこぱんち見舞いお片付けたいむ)
おい伊織、手が止まってんぞ
違う、ぷりんに手を出すんじゃねぇ(伊織もぺしっとして)

ったく
遊び疲れて眠るまで、相手してやろう



 まだどこか吹く風はひんやりと冷たいながら、降り注ぐ日差しに春の匂いを感じる気候。花々が芽吹きの準備を始めているのに合わせたかの如く、あちこちからぽこぽこ現れるのは灰色の猫。右を見てはくわりとあくびするのんきそうな一匹、左を見れば尻尾の追いかけっこに忙しい一匹――を見ていたはずが、気が付けばぽこんと増えて二匹になる。その不思議な様子をじぃ、と見つめるのは黒い毛並みの猫。まぁるい金の瞳につやつやの毛並み。さぞ可愛らしい声でにゃあん、と鳴くのだろう――と、思いきや。
「猫が鼠算式に増えるとは、滑稽なこったな」
 鳴き声どころか想像の5倍くらい渋い声で人語を解し、鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)がハンッ、と鼻を鳴らした。事情を知らない人が見たら顎を落としそうな光景だ。
「鼠色だけに、鼠算式みたいな?」
 聞き慣れている呉羽・伊織(翳・f03578)は、あっけらかんとして冗句じみた答えを返す。猫好きとしては天国のような状態で、実際見つめている伊織もにこにこ顔だ。しかしその間にも猫たちはぽこぽこ増えているし、生まれた端から会場の方へ流れてテントやイベントに使う道具にちょっかいを掛けようとしてるので、あまり悠長に放っておくわけにもいかない。
「如何にも悪戯したい年頃って感じの様子だが、おいたが過ぎちゃ敵わねぇからな」
「そうだねぇ、ホントに無害なコなら大歓迎だったんだケドな――此処は腹を括ってやるしかないか」
「ああ、では――」
 ごほん、と咳払い一つで虚空より召喚するのは、同じ猫科は猫科でも百獣の頂点に立つもの――ライオンだ。睨み据える鋭い目に、立派な鬣。確りとした体躯の雄々しい獅子が呼びかけに応じて降り立つと同時に、ひらりとその上に跨ったちょこが厳かに告げる。
「行くぞ、ぷりん。――一もふ打尽にしてくれよう」
 あっ意外と名前かわいい。一連の流れを見つめていた伊織も、単にねこねこフィーバーに更に黒いもふと黄色くておっきいもふもふが加わった!といった感じで目を輝かせ、ふにゃりと緩み切った笑顔を浮かべている。
「序でに伊織、お前骨抜きにされるなよ」
「だ、大丈夫だし~!」
 思いっきり図星を差されてギクッ、としたのはそっぽを向いてやり過ごした。

 まずは猫たちを一か所に集めるところから、と先に動き出すのはちょこ&ぷりん。ちょこは猫じゃらしを、ぷりんは鈴つきボールを咥えていざ構えてから、縦横無尽に走り回る!テントを引っかけそうな子の前ではチリリンとボールを放って見せて、調理道具に紛れ込もうとする子には猫じゃらしで鼻先を掠め、というようにしゅたたっとあちこちを素早く駆け回る。それを見た伊織も負けじとユーベルコードまで駆使した必殺の猫じゃらし捌きを披露し、ちょこ&ぷりんが取りこぼした猫を丁寧に誘っていく。そうやって集めてきた猫はもはや行列、いや大行進といった風情で。
「嗚呼…なんつー一もふ打尽…!」
 じゃれあい、飛び跳ね、ごろごろにゃーん。可愛い毛玉が列をなす様子に溜まらず伊織がふるふると声を漏らす。叶うならこの毛並の海に飛び込んで猫布団でぽかぽか日向ぼっこをしたい――と想像したところで、耳に届くのは宣戦布告の如き不穏な声。
「ふ、かかったな。後は纏めて可愛がってやろう」
 ニヒルにわらうちょこに、グルル、と低く唸るぷりん。すわ粛清でも行われるのか…!? と思いきや、繰り出されるのはやんわりねこパンチにじゃれあいキック。にゃんにゃん襲い来る灰色猫たちも、ぷりんの体格とちょこの身のこなしには敵ではなく、ただただ平和なもふもふによるふるもっふタイムが続く。
「ちょっとちょこニャン、ソレ戦ってるのか遊んでるのかドッチ!?」
 どう見ても戯れ合ってる風にしか見えないけだま達を伊織が二度見しつつ、その可愛さの前には思わず猫回収の手も止まってしまう。が、ちょこがそれを目ざとく注意する。
「おい伊織、手が止まってんぞ」
「はいはーい…こうかな?」
「違う、ぷりんに手を出すんじゃねぇ」
「ちぇっ」
 どさくさに紛れて鬣にそっと伸ばした手は、ちょこにぺしっと弾かれた。しかしちょこ&ぷりんが全力でもふじゃれあい、伊織も猫じゃらしで応戦するものの、数も体力も上回る猫たちは中々疲れる様子がない。むしろ全力で構うぶん全力で応えてくるものだから、その動きたるや猟兵でなければ捌ききれないのでは、というほどだ。流石無害とはいえUDCと言ったところか。
「っああもう~!早く良いコに寝なさい!」
「ったく。遊び疲れて眠るまで、相手してやろう」
 ちょっぴり悲鳴と諦めを混ぜながら、それでももふもふを前にすれば喜びが上回って――宣言通り、集めた猫たちがすっぐりスヤァと疲れ果てるまできちんと付き合った。あと報酬として最後に猫たちを一か所に団子にして、ちょっと一緒に寝たりもした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸神櫻

言われてみればそうかもしれないわ
優しく猫を慈しむカムイを見守る
無邪気に戯れてかぁいいわ
撫でるのも上手なのね
…猫も懐いて
私ではなく猫ばかり構う神に頬を膨らませる
気まぐれなんて、そんなこと
拗ねた振りも気を引きたいから

私もと近くの猫を抱き抱え顎の下を撫でる
カムイったら猫と会話ができるの?
何が好きかも聞いてみて頂戴よ
猫じゃらし持ってきたの!
遊びましょ
うふふ
かぁいらしいわ!
え、私の翼を?
登ってる子がいたらとって頂戴
猫じゃらし
あなたもどうぞ

おやつも食べてくれるかしら
頂戴いいのがあるわ!
柔らかな毛並みを撫でて穏やかな時を過ごす
いつの間にか猫まみれ


……!
そんなこと言って
猫のように甘えてもいいのかしら


朱赫七・カムイ
⛩神櫻

灰色の毛並みに桜の瞳……噫、きみのような猫だね、サヨ
遥かな記憶に掠める、小さなきみは
猫のように懐こく柔く
そうして気まぐれで
噫、それは今と変わらないかもしれない

ほら、ね?
拗ねたサヨの膨らんだ頬をつつく

足元に擦り寄る猫を抱えて
にゃあと鳴く猫にそなたはどこから来たの?なんて話しかける
そうだよ、少しだけだけど動物と話せるんだ
サヨ、桜の翼を狙われているようだ
美しい枝垂桜を傷つけていけないよ

きみからかりた猫じゃらしを私も真似てふってみる
之は可愛いね
食事を与えるのはどうだろう
ふふ、サヨ
随分懐かれている
きみの膝の上で眠る猫を撫で
頭に登る猫を撫で、きみを撫でる

大きな猫のよう
いっとう、可愛らしい
甘えておいで



 まだ吹く風は冷たいながらも、日差しは徐々に暖かさを帯びてきた早い春の日。公園の中を歩けば木陰からは長い尻尾がゆらゆらと垂れ、花壇の花からはぴょこんと三角の耳が生えて、ベンチの下にはきらりと光る瞳がみえる。そんな風にあちこちに潜む猫たちに、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)が愛らしいね、と笑みを浮かべる。やがて足元まで近寄ってきた懐っこそうな一匹へ、慈しむように撫で戯れれば、優しく見守る誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の顔にも柔らかな笑みが咲く。
「無邪気に戯れてかぁいいわ」
 撫でるのが上手いのね、と感心するように告げると、ふとカムイが櫻宵と猫を見比べて微笑みを深くする。
「灰色の毛並みに桜の瞳……噫、きみのような猫だね、サヨ」
「言われてみれば…そうかもしれないわ」
 はたと彩りが似ていることに気づかされ、その桜の瞳をぱちりと瞬く。同じ色を見つけてそんな笑みを浮かべたのだとしたら、と僅かに染まる頬はそっと隠しながら。
「小さなきみは、猫のように懐こく柔くて、それに気まぐれで」
 触れるやわさにかつてを思い出したのか、滔々と過去を語るカムイの言葉に、こみあげるのは遠い日々への懐かしさ。だけど何故だろう、胸を占める想いはそれだけじゃない。ごろり喉を鳴らしてカムイにじゃれつく猫は愛らしいけれど、僅かに燻りが首を擡げて、チリチリと焼ける心地がする。

――ねぇ、その猫を見て愛しげに瞳を細めるのは、私を重ねて見てるから?
それなら、どうせ構うのならホンモノに。
私に、手を伸ばしてほしい。

「気まぐれなんて、そんなこと」
 ない、とは言い切れないけれど。ぷくりと不服気に頬を膨らませて、櫻宵がぷいとそっぽをむく。嫉妬もある、拗ねた気持ちもある。だけど何より、こうした態度に出るのは。
「ほら、ね?」
――やっぱり似ているよ。そういって、カムイが伸ばした指でふくれた頬をつつく。その感触に振り向むけば、猫からこちらへと移った朱桜の瞳が嬉しくて。
――だって、こうすればこっちを向いてくれるって、知ってるんだもの。
甘い狡さは吐く息に隠して、櫻宵がカムイの指先に猫を真似て擦り寄った。

 ゆるり会話を重ねたあとは、お互いに足元の猫たちを抱き上げて、撫でたりくすぐったりと楽し気に構い始める。その内カムイが「そなたはどこから来たの?」なんて真面目な顔で尋ねるから、櫻宵がきょとんと首をかしげる。
「カムイったら猫と会話ができるの?」
「そうだよ、少しだけだけど動物と話せるんだ」
「素敵!じゃあ何が好きかも聞いてみて頂戴よ。いろいろ持ってきたの!」
 一緒に遊びたいわ、と笑う巫女に頷いて、そうっと耳をすませば返ってくる言葉は。
「“せなかのヒラヒラが、気になる”?…サヨ、桜の翼を狙われているようだ。美しい枝垂桜を傷つけていけないよ」
「え、私の翼を?登ってる子がいたらとって頂戴!」
 驚いて櫻宵がひらりと背を向けると、まるで一足早く春が訪れたような桜咲く翼が広がる。それきれい!欲しい!と言わんばかりに揺れる枝櫻に猫の目が輝くのを、カムイが撫でながら諫めて、まだ誰も登ってはいないよと教えてやる。ひとまず胸をなでおろし、遊ぶならこっちね、と櫻宵が淡いピンクのもふもふ猫じゃらしを手にしてフリフリ揺らす。すると興味が移ったらしく、揺れに合わせてカムイの腕から大ジャンプを披露する。余りの食いつきように、思わずふたりが顔を見合わせて笑うも、当の猫は意に介さず猫じゃらしの揺れるままに右へ左へと大はしゃぎ。途中カムイも借りて振ってみると、同じように大興奮で齧りついたものの、暫くすると遊び疲れてたのか、我が物顔で櫻宵の膝へと移動してしまう。くわりとあくびを浮かべる喉元を撫でると、柔らかな感触が心地よく、猫の方も居心地よさげに喉を鳴らして丸まってしまった。
「ふふ、サヨ。随分懐かれている」
「本当?なら、おやつも食べてくれるかしら。頂戴いいのがあるの!」
 ぱっと顔を明るくして、懐から取り出すのは猫用のミルク味ビスケット。食べやすいようにと小さく砕いて、手に乗せて差し出してやる。すると初めはふすふす匂いを嗅ぐばかりだった猫たちも一口ですぐに虜になり、ぺろりと完食してもっとほしい!とおねだりのにゃんにゃん大合唱。そして次を用意する間にも待ちきれなさそうによじ登って、あっというまに猫まみれになってしまう。その姿をカムイが微笑まし気に見つめながら膝の一匹を、次は頭の一匹をと撫でてやり、その手が最後に触れるのは、櫻宵の頭。さらりと指をすり抜ける柔らかな灰桜の髪を掬って、そっと耳にかけてやりながらいとおしげに零す。
「噫、矢張りサヨがいっとう可愛らしいね」
「……!そんなこと、言って。猫のように甘えてもいいのかしら」
「勿論。」
 ――甘えておいで、と神が囁き手招いて、あんまりにも幸せそうな顔をするものだから。じゃれる猫を真似て引き寄せて――だいすきよ、と巫女が言祝ぎを贈った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御剣・誉
楽しいイベントを邪魔するのはもふもふでも許されないなー
しかし、ふつーの猫にしか見えないぜ
こっちおいでーって呼んだら…
お、きたきた
全然警戒心ないな、オマエ
うーん、ますますふつーの猫にしか見えない
おっと、エリンギ(仔竜)も遊ぶか?
え?怖い?
そうかー?ふつーの猫だぞ
ほら、優しく撫でてやってみたら
うーん、エリンギが遊ばれてる感もあるが…ま、いっか

ん?猫たちがオマエの玩具で遊びたがってる?
まぁ、確かにカルビjrもタピオカも猫たちが遊ぶのにちょうどいいけどな…
ちょっと貸してやれば?ダメ?あ、そう…
仲良く遊べよー
喧嘩するなって

オレとも遊ぶか?
じゃぁテキトーにもふっとくか
やっぱりオマエふつーの猫じゃね?違う?



 吹く風はまだ冷たいながら、暖かな日差しや花のつぼみに春を感じる公園。スープマルシェの準備が進む会場では、そこかしこで人々が忙しなく動いている。そしてそれに倣うようにエプロンの裾にじゃれついたり、張られたテントに登ろうと爪を立てたり、悪戯に精を出す猫たちの姿も見て取れた。
「楽しいイベントを邪魔するのはもふもふでも許されないなー」
 どれ程もふっとふわっと愛らしくても、お邪魔虫はお邪魔虫。そう断じて御剣・誉(焼肉王子・f11407)がうん、と頷いた。
「しかし、ふつーの猫にしか見えないぜ」
 あちこちから姿は見えるものの、やってることと言えば普通の猫と変わらない他愛無い悪戯ばかり。なんなら木陰やベンチの上の居心地よさげな場所ではすやぴよ寝てる子もいるくらいで、本当にUDCかと拍子抜けするほどだ。試しに近くを通りかかる一匹にこっちおいでー、と呼び掛けて見たらすんなりと足元まで来る始末。
「お、きたきた。全然警戒心ないな、オマエ」
 うりうりと頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めるしごろごろと喉も鳴らす。ピンク色の瞳が若干珍しいと言えばそうだが、それ以外になんの特異性も感じられない猫っぷり。  
「うーん、ますますふつーの猫にしか見えない」
 実はほんとにただの猫なんじゃ…と撫でながらぶつぶつ呟いてると、ふいに肩口をぐい、と引っ張られる感覚がした。
「おっと、エリンギも遊ぶか?」
 そこにいたのは連れてきた仔竜のエリンギだ。猫ばかりずるい、という主張だったのかは分からないが、どうにも手持無沙汰なようには見えるので、せっかくだから猫と遊ぶか?と嗾けると、意外にもそれは嫌なのかぶんぶんと首を振って後退る。
「え?怖い?そうかー?ふつーの猫だぞ」
 ほら、と見せるとそこには警戒心なくへそ天しだした猫の姿。その様子にちょっと警戒心を解いたのか、おずおずと誉から降りて猫にちょっかいを出し始めた。すると猫側もあそぶの?いいよ!とばかりにがばっと飛び掛かり、ちっちゃい同士のころころじゃれ合いが始まった。
「うーん、エリンギが遊ばれてる感もあるが…ま、いっか」
 可愛いし、と取り合えずのんびりしていると、ふとエリンギが猫のホールドから逃れて誉のもとに戻ってくる。ギブアップか?と思ったけれどちょっと違うようで。
「ん?“猫たちがオマエの玩具で遊びたがってる?”まぁ、確かにカルビjrもタピオカも猫たちが遊ぶのにちょうどいいけどな…」
 と、懐から取り出すのは豚型の貯金箱に、絡繰り仕掛けのウサギ。どちらもピコピコ動くので、確かに猫からすれば丁度いいおもちゃになるだろう。
「“ちょっと貸してやれば?ダメ?”あ、そう…」
 ねだられれば弱いもので、まぁちょっとならいいか、とそっと差し出してやると猫もエリンギも大喜びで追いかけ始める。ちょっぴり取り合いになりそうな雰囲気には、仲良く遊べよー喧嘩するなってー、と声かけしながら見守っていると、隣からにゃん!と別の猫に呼ばれた。
「お、オレとも遊ぶか?」
 いいぞー、と片手でつついたり振ったり構ってやると、嬉しそうにくるくる回りながらじゃれついて来る。ふりふり揺れる尻尾、軽い指の動きで簡単に翻弄される単純さ、時折見えるピンクの肉球――どこをとってもやっぱりUDCぽさは皆無で。
「やっぱりオマエふつーの猫じゃね?違う?」
 半ば本気でそう訊ねても、返ってくるのはにゃあん?というとぼけた鳴き声だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
ねこ!いっぱい!もふもふ!

うふふ、もふもふですねぇ。うりうり。という感じで撫でくりまわしています。
可愛くてもふもふなんて、なんて罪な生き物なのでしょうあなた達は。でも、イタズラはいけませんねぇ。好奇心いっぱいで気になるのは良いですが、あまり迷惑をかけるものではありませんよ。という訳で、お仕置きをします。と言いつつ複数にねこを捕まえてもふもふなでなで。とどめにギュッと抱き締めてねこ吸いを実行。堪能しました。名残惜しいですがこれもお仕事なんです。
アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。



「ねこ!いっぱい!もふもふ!」
 あっちを見れば木陰の猫が尻尾をふりふり。こっちを見れば猫がくわりとおおあくび。どこもかしこも猫だらけの講演で、豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)が嬉しそうに声を上げた。早速触れ合おうと近くのテントに潜り込もうとしてた猫に歩み寄り、こっちへおいでと指を伸ばす。その動きに興味が移ったようで、猫の方からスンスンと匂いを嗅ぎながら近寄ってくる。そしてすりっと擦り寄ってきたところで、逃げないようにひょいと抱き上げた。
「うふふ、もふもふですねぇ。」
 うりうり、という仕草で撫でくりまわすと満更でもないようで、あっという間に目を細めて喉からはグルグル音が鳴る。
「可愛くてもふもふなんて、なんて罪な生き物なのでしょうあなた達は。」
 頭から尻尾の先まで、あったかくてやわらかくてもっふもふで。抱きしめた時の心地よさと言ったら、堕ちるという表現がぴったりくるほどだ。そしてグルグル音を聞きつけたのか、気づけば晶の足元には数匹の猫が集まって抱っこ待ちの列になっている。
「でも、イタズラはいけませんねぇ。好奇心いっぱいで気になるのは良いですが、あまり迷惑をかけるものではありませんよ。という訳で、」
――お仕置きをします、と言い放つ声は先よりワントーン低く、果たしてどんな仕打ちを…!と思いきや、執行されるのは実に平和なもふもふなでなでの刑。顎下に始まり耳の付け根にひげの生え際、背中にお腹と隅々までもふもふなでなでを繰り返した後、とどめにギュッ!と抱き締めて、これぞ猫堪能の肝ともいえる“ねこ吸い”を実行。スー…ハー…と存分に深呼吸してから上げた晶の顔は、実に満足げだった。
「ふぅ、堪能しました。あとは…名残惜しいですが、これもお仕事なんです。」
 そして最後はひとところに集めた猫たちに、送るのはさよならの言葉。今度は普通の猫になれるといいわね、と祈りを込めて――そっと、骸の海へと見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
猫と熱の因果は良く分からんが…
お前も温かい物が欲しかろう?
ならば少々師に付き合え

存分に我が杖を振おうと意気込むも加わる布の重み
弟子の態度に不服に思いつつ手持無沙汰に髪を弄っていると
思いの外、大勢で寄ってくる毛玉に驚きを隠せず
おい、こら待て――おぁ、
気付けばこの身は大群に沈む

温い、温いが髪を引っ張るでない!
漸く弟子の手で救出されれば吐息を一つ
やれ、大変な目に遭うたわ…って、更に押し付ける気か
近くに居る一匹を撫でる
ふむ…これは中々
此方の猫も良い毛並みをしておる
雨の匂いを一杯に感じつつ
…何だ、ジジも撫でてもらいたくなったか?
ぽんと撫でると、込み上げる安心感
やはりジジには敵わんな


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と共に

すーぷ、まるしえ…
慣れぬ綴りの看板読み上げ
うむ、まだ温かいものの恋しい頃ゆえな
毛玉が集うも必然

御身を煩わせるまでもなかろう
着ていた防寒具を師へと掛け会場内へ

毛艶、柔さが特に秀でた猫を師の元へと連れ参ろう
此奴と此奴と、此奴も見事
尾羽根につられた群れまでも
振り切れぬまま急ぎ師の元へ――うむ?

無事か、師父
尻尾に埋もれた師を救出すれば
貴石の手へとすっかり移った
雨の匂いと毛玉たちの熱

温かく柔いものには兎角弱い師へ
師父、この二匹は特別だぞ
特上猫たちをそっと乗せ
どうだ、雲もかくやの手触りであろう
否、俺ではなく毛玉を

猫たちの仕置きは後回し
眠たげな桜眼が閉じるまで
観念するしかあるまいか



 吹き抜ける風にはまだ冬の名残があるものの、ふとした日差しの暖かさには春の訪れを感じさせる今日この頃。長く外を出歩くにはまだ少し億劫な気候も、温かいものを食べるとあればちょっとは足取りも軽くなるだろう、というのが開催時期の趣旨なのかもしれない。
「すーぷ、まるしえ…」
 そんなイベントの為に公園に設けられた、バルーンを積み上げて作られた入口用のアーチ。そこに刻まれた文字を、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)がゆるりと読み上げる。慣れない綴りに思わず拙い発音になるも、趣旨は把握できたと気にせず鷹揚にうなずいてみせる。
「うむ、まだ温かいものの恋しい頃ゆえな。毛玉が集うも必然」
「猫と熱の因果は良く分からんが…」
 得意げな弟子の様子に、猫がスープを啜るわけでもあるまいに、とアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)が声に僅かにあきれを混ぜるものの、すぐに笑みへと切り替える。
「お前も温かい物が欲しかろう?ならば少々師に付き合え」
 そう胸を張って――さぁとくとご覧あれ、神秘の真髄、賢者の叡智、存分に我が杖を振おう!と意気込みかけた所で、ストップをかける様にふわりと双肩に重みが加わる。
「御身を煩わせるまでもなかろう」
 あっさりとそう言い切られ、重みと温もりの正体が弟子の防寒着と気づくころには、その背は最早会場の中程に消えていた。せっかくの見せ場をふいにするわ、師の気遣いを横取りするわ、これは小言のひとつも言いたいところではある。が、追いかけてうっかり逸れても何だと、一先ずは近くのベンチに腰掛け待つことに。
 一方そんな師の不服など露知らず、輝くような毛艶、とろけるような柔さが特に秀でた猫を師の元へ連れようとジャハルがあちこちに目を凝らし歩く。右に日の光をきらきら返す毛艶のを見つければ脇に抱え、左にふさりと見事な尻尾のを見つければ肩に乗せ――此奴と此奴と、此奴も見事、と絞り切れない候補をどんどんと抱え込んでいく。さらには選定の最中に知らずゆらりと揺れる尾羽根は、選んだ以外の猫たちも誘い集めて、最早後ろはねこの大名行列状態になっていた。気が付いたときには余りの数にぎょっとして、振り切ろうと幾度か踵を返したが、その度に尾も羽根もまた揺れるので余計にからまれてしまった。ならばいっそそのまま、と急ぎ師の元へと向かうと、先ほど分かれた個所にほど近いベンチに揺れる青が見えた。手持無沙汰だったのだろう、うつくしく煌めく髪を弄っているアルバの姿はまるで――猫からすればそう、キラキラの猫じゃらしをゆらりゆらりと揺らしているような求心力を持っていて。
「師父、只今戻り――」
「おい、こら待て――おぁ、」
 思っていたものの10倍くらいの猫に埋もれた弟子を諫める間もなく、なだれ込んできた大量の猫たちにもっふもふにされる。それはもうふるもっふにもっふもふだ。
「温い、温いが髪を引っ張るでない!」
 静止なんてお構いなしにじゃれつく猫たちに、思わずアルバから悲鳴が上がる。確かに柔いし温くはあるが、こうも髪やら何やらを引っ張られてはたまらない。
「無事か、師父」
 僅かに慌てた無骨な腕に引っ張られ、漸く尻尾の海から抜け出すと、口から洩れるのは安堵の息。
「やれ、大変な目に遭うたわ…」
 埋もれたのは僅かの時間のはずが、掴んだ貴石の手へはすっかりと雨の匂いが、埋もれた毛玉たちの熱が移っていた。その心地は悪くないが、何にせよ適切な匹数や接し方というものはある。もうちょっと穏やかに出来んのか、と言いつけかけて。
「師父、この二匹は特別だぞ」
「って、更に押し付ける気か…」
 温かく柔いものには兎角弱い師へ、と弟子が贈るのは小脇に抱えていたいっとう柔らかな猫二匹。時折混ざるという変異の子か、短毛が主流たる他よりも毛がふわりと長い。ぐいぐいと押しつけられるままに、近い方の一匹を撫でれば確かに先の猫たちよりも手触りがいい。
「ふむ…これは中々」
 指が埋まりそうなほどのもふもふさ、かといって絡まることなくふわふわとした様子はまるで綿菓子を思わせるほど。いや、合間に仄かに香る雨の匂いからすれば、これは――
「どうだ、雲もかくやの手触りであろう」
 そういって、弟子が薄い表情の瞳にきらきらと色を乗せるものだから、思わず少しからかってやりたくなって。
「…何だ、ジジも撫でてもらいたくなったか?」
「否、俺ではなく毛玉を」
 首をかしげた否定の言葉などは聞こえないふりをして、伸ばした手でポン、と頭を撫でてやる。否と言いつつも、伸ばせば届くよう僅かに屈める腰が何とも弟子らしい。いつかの戴冠にも似た在り様に、込み上げる安心感は温かく胸を満たしていって。
「やはりジジには敵わんな」
 選んだ猫の毛並みがどれほど柔かろうと、この黒曜の輝きがいちばん。他でもないアルバにそう示されては、最早ジャハルに抗う術などない。猫たちへの仕置きはひとまず後回しにして。眠たげな桜色の眼が閉じるまで――観念するしかあるまいか、と心の内で独り言ちる。撫で続ける師の手に頭を委ねた様は、あきらめただけ、というにはどこか心地よさげに見えたのはきっと、猫たちだけが知っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】
……俺この光景
すげー知ってる気がすンだけど。
何かの依頼であったよなぁ?

と話していれば
がぷり。
猫が尻尾に噛み付いた

い"ッてェ!!!?
くっそ
猫ってェのはいっつもそうだ!
ちょっとは分かりやすく
近付いてこいってーの!!
離せ!!!

(もふもふ尾毛の付いた尻尾をブンブン振って猫を払いのけようとすればするほど集まる猫)

だー!もうこのまま会場から
引き離す!ついてきなァ!
ときじも手伝え!

…ぜェ、ぜェ。
や、やっと落ち着いた…
ったく、いっぱい
遊んでやったんだから
ちったァ触らせろよな…。

もふ。もふ、もふもふもふもふ。
えっ、猫ってこんなに
気持ちよかったか?

あーー、ちょっと休憩
猫枕で猫たちとひと眠りしよーぜ。


宵雛花・十雉
【蛇十雉】

偶然だね
オレも覚えがあるなって思ってたとこ
猫に縁があるのかな、オレたち

こらこら、それは猫じゃらしじゃないよ
飛びつきたくなる気持ちは分かるけどね
これ見よがしにゆらゆら揺れてるし

振り払うなんて可哀想だよ
せっかく寄ってきてくれてるんだから
このまま安全な場所まで誘導しよう
その方がオレも目の保養になるし
ああ、猫ってどうしてこんなに可愛いんだろう

可愛さに夢中になりながらも
なつめを手伝って会場の外へ

ふぅ、なんとかなったね
オレたちでよければ遊び相手になるよ
一緒に遊ぼう

へへ、猫がたくさんであったかいね
毛並みも綺麗だし、目も宝石みたい
うん、皆でお昼寝しようか
オレまで猫になった気分



 右を見れば茂みをかき分けて、じゃれ合う猫がまろび出て。左を見れば、丁寧にグルーミング真っ最中の猫がいて。木陰にも、ベンチの下にも、テントの裾にも、猫、ネコ、ねこの姿が垣間見える。あちこち猫だらけの公園に立つ2人が、この様子にまず思うのは――意外にも“懐かしさ”だった。
「……俺この光景、すげー知ってる気がすンだけど。」
 何かの依頼であったよなぁ?と唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)が首をかしげながら連れに尋ねる。
「偶然だね、オレも覚えがあるなって思ってたとこ。猫に縁があるのかな、オレたち」
 同意を返しながら宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)も、不思議な縁の巡り合わせを感じていた。互いに脳裏に思い起こすのは、果たして迷宮の演奏会か不思議の国の猫真似か。
「まぁでも、猫ならいいか。かわいいし」
「アー…いやでもこいつら油断してっ…とぉッ!??」

がぷり。

「~~~い゛ッてェ!!!?」
 和やかだったはずの会話の中、唐突になつめの語尾が跳ねて叫びに代わる。驚いた十雉が何事かと尋ねる前に、ぶんっと振るわれた尻尾には、なんと猫ががっちり齧りついていた。
「くっそ猫ってェのはいっつもそうだ!ちょっとは分かりやすく近付いてこいってーの!!」
 ぷにぷにの肉球のなせる業か。足音もなく背後から歩み寄って齧りついた猫は、一向に離れる様子がない。なんていうかもう、一本釣り!という雰囲気である。
「こらこら、それは猫じゃらしじゃないよ。飛びつきたくなる気持ちは分かるけどね」 
 これ見よがしにゆらゆら揺れてるしねぇ、と若干猫寄りの気持ちを零しながら、十雉が一応の助け舟を出す。噛み付いた猫の体を掴んで、気を逸らさせようとなでなでもちもち構ってやり、気持ちよさでそろっと口を開けたところで引きはがす。が、離れてほっとしたなつめが、また癖の様に尻尾をゆらっとするので、結局噛み付いた猫は離れたものの、他の子たちまで徐々に集まってきてしまう。追い払うつもりでブンブン勢いをつけても、ふさふさ尾毛のついた揺れる尻尾なんて、猫たちには特大の猫じゃらしにしか映らないのだろう。多少ぺしぺしぶつかっても何のその、ますます数を増やしてじゃれつかれるばかり。
「いい加減離れろって!!!」
「振り払うなんて可哀想だよ。せっかく寄ってきてくれてるんだから、このまま安全な場所まで誘導しよう」
 もはや引き離すには骨の折れる数になったこともあり、十雉がそんな提案を述べる。一瞬反射で嫌だ、と答えそうになったが、振り向きざまに見えた猫たちの目はきらきらと楽しそうに輝いていているものだから。
「だー!わぁった、もうこのまま会場から引き離す!ついてきなァ!ときじも手伝え!」
 やけっぱちに叫ぶなつめに、はぁいと返事をしながら十雉が苦笑した。

 それから数十分後、なつめを筆頭にしたねこねこ大行進を誘導しながら、会場から十分距離を取った芝生に移動した。
「…ぜェ、ぜェ。や、やっと落ち着いた…」
「ふぅ、なんとかなったね」
 道中に一頻りじゃれついて満足したのか、さっきよりは猫たちによる尻尾への集中攻撃も和らいで、各々にくつろぎだしていた。が、中にはまだまだ遊び足りない子もいるようで、芝生にしゃがみこむ十雉にちょいちょいと前足のお誘いがかかる。
「いいよ、オレたちでよければ遊び相手になるから、一緒に遊ぼう」
 まだまだ元気いっぱいな子は十雉が手遊びに誘い、丁度道すがらに拾った枯れ葉付きの枝をふりふりとしてやれば、猫たちはピンクの瞳をぴかぴかに輝かせて飛び掛かるものだから、思わず顔が緩んでしまう。揺れる尻尾、にんまりωした口、ぴここっと動く耳。毛並みもうんと綺麗だし、目もまるで宝石みたい――ああ、猫ってどうしてこんなに可愛いんだろう、と細める瞳は幸せそうだ。
「ったく、いっぱい遊んでやったんだから、ちったァ触らせろよな…。」
 一方、絶え絶えだった息がようやく落ち着いたなつめは、とろりと眠たげな子を手元に引き寄せる。にゃあん?と鳴くものの抵抗はなく腕に収まり、ちょいちょい撫でるだけですぐにへそ天する懐きよう。そのさらふわな毛並みに仄かな雨の匂い、そしてつるもちのにくきうが目の前に惜しげもなく差し出されて――

もふ。もふ、もふもふもふもふ。
ぷに。ぷに、ぷにぷにぷにぷに。

「えっ、猫ってこんなに気持ちよかったか?」
 改めて感じる猫の感触に、なつめがぱちりと瞬いて驚く。つい噛まれた痛みで躍起にもなったが、これだけ触れて気持ちいい生き物なら皆が夢中になるのも仕方ないと納得できる。いや実際今も手が止まらない。もふぷにもふぷに。
「あーー、ちょっと休憩。猫枕で猫たちとひと眠りしよーぜ。」
「へへ、猫がたくさんであったかいしね。皆でお昼寝しようか」
 そしてお互いに十分に構い尽し、もふぷに倒したところで、提案されるのは微睡みへの誘い。差し込む日差しに春は感じても、いまだ吹く風のどこか冷たい季節。離れず暖を取り合う猫たちへ混ざる様に身を委ね、なつめと十雉が暫し目を閉じる。ぽかぽかあったかな猫団子の中で見る夢は――きっと、同じ様にぬくいのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『十里雨』

POW   :    大雨洪水土砂注意報
自身からレベルm半径内の無機物を【土石流 】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD   :    世界の隙間
自身と自身の装備、【自身を所持している 】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
WIZ   :    局所的集中災害
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はノエル・クリスタリアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猫を連れ出してからしばらくは、順調に準備が進んでいった。暫し店員二人からの視線が厳しかった気もするが、仕事はきちんとこなしてくれたので深くは追及しなかった。ゴミ出しに出てくる、とブースを後にして指定のごみ置き場まで足を運んだ時、ふと鼻先をぴちょん、と水が跳ねた。
「…うわ、雨か。」
 空を見れば先ほどまで快晴だったはずの空が、唐突に分厚い雲に覆われていた。野外イベントに雨は天敵、時間的にこのまま開催はされるだろうが、降れば客足も期待できないし、あまりにもひどければ中止もありえる。ああ、せっかく用意したのに――と弱りながらブースへと戻る道に足を向けると、そこには白い傘が落ちていた。広げたままゴトリと置かれたそれは、まるで今しがた差していた人物が溶け消えたかのような奇妙さがあった。――飛ばされたのか?何にせよこのままじゃあ邪魔だな、と運営本部に忘れ物として届ける算段をつけながら傘に触れると。

――ざぁざぁと、雨が降る。

 唐突に、土砂降りの雨に襲われた。周囲が歪むほどにけぶる雨。降りそうな気配はあったとはいえこんな突然に、と変化の急激さに戸惑いながら仕方なく手にした傘をそのまま差す。そしてこんな雨ならブースの方が困っているだろう、と足早にそちらへ向かおうとした瞬間、見覚えのある親子連れの姿から、耳に懐かしい声が届いた。

“ねぇはやく!お父さんお仕事終わっちゃうよ!”
“わかったわかった、こっそり待ってて驚かせたいのよねぇ拓哉は”
“そーだよ!こないだは失敗しちゃったから、今日こそあっと言わせるの!”
“まぁほどほどにしたげなさいね?腰ぬかしちゃったら可哀想でしょ”
“んーどうしよっかな~”

「――鞠子?…拓哉!?」

 それは、ありえない光景だった。いや、正確には過去の何時かにはあっても、今は絶対に見ることができない姿。なぜなら拓哉は父を――私を迎えに来る途中の道で交通事故にあい、今も昏睡状態のまま2年間も眠り続けているのだから。妻の鞠子は軽傷で済んだが心を病み、やはり同じように床に臥せっている。もうあんな元気な声は、ずっと聴いていない。

――これは、幻か?それとも過去に飛ばされでもしたのか。
――まさか、そんなはずあるもんか。いやでも、あの服装は、事故の日の。
――ならやっぱり、ここは、過去なのか?
――だとしたらこの先に待っているのは。

「待って、行かないで、いか――行くな!鞠子、拓哉、たくやああぁぁぁ!!」

ありえないと否定した困惑のままに、それでも脳裏に浮かんだ可能性に、勝手に喉が叫び出していた。傘を握りしめたまま、雨に閉ざされ歪んだいつかの妻と子の背中を追う。交差点はもうすぐそこ。何とか追いつかないと、と駆け出す形相は、希望と絶望が綯い交ぜになって。

――ざぁざぁと、雨が降る。
まぼろしを追う男の姿は、吸い込まれるように消えて行った。
箒星・仄々
傘を肩にかけ
竪琴を爪弾き魔力を練り上げ
過去の景色へ干渉します

見えるのは私ではなく
傘の本当の持ち主
十里雨さんの過去です

運命を歪められ怪異と化してしまわれるとは
お可哀そうに
元に戻して差し上げられませんが
せめて倒すことで救いとしましょう

貴女が望んでいた何気ない暖かい日常である
このマルシェには
きっと沢山の笑顔と喜びが
楽しい喧噪が満ちます
それはきっと貴女にも届きます
どうかそれを楽しみにしていて下さいね

空へ跳ね上げた傘を剣で一閃
切り裂きながら水の魔力へ変換し
空へ還し
降りしきる雨と混じらせます

雨が上がれば何処かで壊れた傘が落ちているでしょうか
いえそのまま海へ還るのかもしれませんね
どうか静かな眠りを



――ざぁざぁと、雨が降る。

いつの間にか手にした白い傘を肩に、箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)が静かに雨音へと耳を澄ます。――ぴちょん、ぱたぱた、したたん。降りしきる雨を弾いて奏でられるのは、まるで音楽会の様に賑やかな音。その旋律に彩りを苦合えるかのように、仄々が構えるのは一抱えの竪琴。爪弾く滑らかな音色は軽快に柔らかに響きながら、その内に魔力を練り上げ放たれていく。過去のまぼろしを見せる雨のカーテン、そこへ干渉するために。

――見せるのなら己の過去ではなく、傘の持ち主のものを。
アメフラシさまでも、雨にまつわる唯の現象でもなく、“十里雨”としての過去を。

そう願って織り上げられた曲は雨と交じり合い、やがて仄々の知らない光景を映し出す。
学生服に身を包んだ、三人の少女。仄々には目もくれず、互いに顔を合わせながら話し合う、仲睦まじい友達の風景。

――ねぇ、もうすぐスープマルシェだね。何時に行く?
――うーん、せっかくだから朝ごはん抜いて、お昼にいっぱいたべようか!
――いいねぇ、そうしよ!雨ちゃんもそれでいい?
――そうだね、私も一緒に楽しみたいから、そうしようかな。
――おっけー!じゃあ、

“……――やくそくだよ!”

 雨音に交じって響く、楽し気な会話の声。きっとこれは、本当にあった過去ではないのだろう。仄々が、そしてもしかしたら十里雨がほんの少し期待した、“あったかもしれない過去”のまぼろし。内容は、形は違ったとしても、どこかにはあったはずの、ちいさなちいさな、他愛無い約束。守られることはなかった、それでも確かに結んだ筈の、日常の面影。

歪められた運命の歯車は、もう既に走り出してしまった。
怪異と化した悲劇の幕は、もう元に戻すことはできない。
ならば、せめて――倒すことで、贐としたい。

「このマルシェにはきっと、沢山の笑顔と喜びが、楽しい喧噪が満ちます。」

肩口に差していた傘を、空へと放り投げる。雨を切り開いて、ゆらりと白が舞う。

「それはきっと、貴女にも届きます」

構えた剣で、落ち来る傘を一閃する。ぱっくりと切り裂かれ、そこから空が見えた。

「どうかそれを、楽しみにしていて下さいね」

降りしきる雨に、水の魔力を織り込んでいく。
どうかこの驟雨が、花草ほころばす慈雨となるように、願いを込めて。

そうして降り続いた雨はやがて、傘が地へ落ちる瞬間に――共に、消え去っていた。
きっと彼女が海へと還った証なんだろうと信じ、仄々が瞳を細める。

「どうか静かな眠りを」

脱いだ帽子を胸に宛てて一礼し、優しい祈りを現れた虹へと紡いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
嗚呼。ナツ、雨だよ。
ナツを懐に収めよう。

急に降り始めたね。少し雨宿りをして行こうか。
しかし、私はいつからこの傘を?

眼の前に広がる光景は、嗚呼。懐かしい。
あれは嘗ての私だね。隣の少年は、覚えているとも。

彼は捨てられてしまったのだ。
桜の世界では珍しくもない事だが、あの子は衰弱しきっていた。
ドロップを渡そうが、空腹を満たす事は出来ない。

あの子はもう、救えない。

どうする事も出来なかった。
だからあの日の私は、あの場で少年に寄り添っていたのだ。
一人は寂しいだろう。

嗚呼。ナツ。
あの日は確か、快晴だった。

この傘はいらないね。



――ざぁざぁと、雨が降る

「嗚呼。ナツ、雨だよ。」
先ほどまでの晴れ間が嘘のように、厚い雲が空を覆い隠していく。ぴちょん、と鼻の上を跳ねた雫はあっという間に驟雨になり始めたので、濡れないようにと懐へ連れの猫をしまう。雨のせいで少し気温も下がったのか、抱えられたナツはそのぬくさにごろりと喉を鳴らして、心地よさげに収まった。
「急に降り始めたね。少し雨宿りをして行こうか。」
 幸い、白い傘を差しているお陰でずぶぬれになるのは避けられそうだ。然しこのままでは足元が濡れてしまう。もう少し凌ぎやすい軒先にでも行こうか、と思ったところで、ふと視界を掠める白に疑問が浮かぶ。

――しかし、私はいったい何時からこの傘を?

 私物ではない、特に買い求めた記憶も、誰かに借りた憶えもない。ならどこで、とその傘への問いを掘り下げるより先に、けぶる雨のカーテンが揺れて、どこか見覚えのある景色を映し出す。

――石畳のレトロな街並みに、ふわり、ゆらりと桜が舞う。
万年枯れることも散り去ることもない朧の桜雨の中で、佇むひとがふたり。
その眼の前に広がる光景は。

「嗚呼。懐かしい。」

ぽつりと零れる言葉は、今みえるまぼろしが確かに自らの内にある故だろう。
あれは嘗ての私で、隣の少年は――覚えているとも。

彼は、捨てられてしまったのだ。
輪廻転生がただの概念ではなく、実際の在り様として存在する桜舞う世界。
その中では珍しくもない事だが、あの子は最早衰弱しきっていた。
立つこともままならず、ただ蹲ることしかできないほどに。
傷んだ髪が顔を覆い、痩せ細った脛を見れば居たたまれず、何か手渡そうと手元を探る。
――帰り道に忍び食べる、揚げたての肉屋のコロッケ。タレの絡んだ焼き鳥の串。
かつて祖父や友とそうしたように、温かなそれらを分け合って食べられたのならよかったのに。
ようやく探り当てたドロップを差し出そうとも、彼の空腹を癒すことはできない。

――あの子はもう、救えない。
どうする事も出来なかった。
だからあの日の私は、あの場で少年に寄り添っていたのだ。
せめて、ひとりきりにならないように。

 降りしきる雨の中、傘越しに見る少年は頬だけを僅かに濡らしている。髪も、服も、濡れそぼった様子はない。――どうしてだろう。まぼろしだからか?勿論それもあるけれど、あれは。

「嗚呼。ナツ。あの日は確か、快晴だった。」

 思い返す――まるで還り逝く魂を迎え入れる様に、全ての憂いを昇華させるように。あの日の空は、どこまでも見通せそうなほどに青く澄んでいた。こんなけぶるような雨の中に、彼は閉じ込められてなどいない。ならば。

「この傘はいらないね。」

――ぱちん、と音を立てて傘を閉じる。ナツが濡れてしまわないだろうか、との心配はほんの一瞬で溶け消える。白く覆われていた視界を取り払い、その先に広がっていたのは。

あの日にも似た、何処までも続く蒼天だったのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
メリルさん(f14836)

うわ、雨が…メリルさん?
迷子になるとはドジっ子な

そして見えるは雪と白百合に覆われた街
露骨に此方を見ない、飢えた領民

ああ、これは夢ですね
この故郷は既に死に絶えましたから
私と違って領主様に尽くし続けた皆の末路も悲惨でしたねえ

じきに奴等はきっと悪意の目を向けてくる
その前に畳んだ傘を地へ叩きつけて圧し折って
――ざまぁみろ!

おっと
見つけましたよ、メリルさん
大丈夫ですか?怖い夢でも見ましたか?
あ、私が褒めて元気付けてあげましょうか!

傘、まあ、差しましたが大した事は…
…そうですね、もう大丈夫ですよね
メリルさんも大丈夫ですよ、ハレルヤがいますから
ええ、一緒に暖かいものを楽しみましょう


メリル・チェコット
晴夜くん(f00145)

手癖で傘を回して初めて気がつく
傘なんて差してたっけ

晴夜くん、どこ?
けぶる視界に目を凝らす
誰かいる
晴、――違う

お母さんだ
夕飯の支度してる
シチュー?
懐かしいな、わたしの大好物
それにケーキまで
そうだ、これ、わたしの六歳の誕生日
この夜、あなたは狼に食べられて――

やだ、やだ
こんなの見てられない
おもわず傘を手放してへたり込む

……晴夜くん
大丈夫、何でもないの
ふふ、もう
いつも通りの調子に安心してしまう
狼が皆、この人みたいだったらよかったのに

晴夜くんも傘、差したよね
どんな景色を見たのかは聞けないけれど
戻ってきてくれてよかった
晴夜くんはもう、大丈夫だからね
……ふふ
スープでも飲みに行こっか?



――ざぁざぁと、雨が降る。

ふわふわとした猫だまりの温かさをぬぐうように、冬の冷たさを残した空気が背を這う。見えていた晴れ間もあっという間に厚い雲が覆い、雨のカーテンが引かれていく。

何もかもを、閉じ込めてしまうように。


/side 夏目・晴夜(不夜狼・f00145)

「うわ、雨が…メリルさん?」

 瞼の上を跳ねた雫に、思わず声を上げる。それも気配を感じるや否や、あっという間に土砂降りと化す変貌ぶり。傘は差していてもこのままでは冷えそうだ、と連れの名を呼んだところで、その姿がみえないことに気づく。迷子になるとはドジっ子な、とあくまで自分が迷った可能性は棚上げして周囲を見渡すも、けぶる様な雨の中では探すのも難しい。そして重ねて気付くのは、いつの間にか手にしていた白い傘。

空を覆う白い雲。白く霧をまき上げる雨。白い傘。
白、しろ、シロ。
周囲を埋め尽くすような白には、憶えがある。
そしてゆぅらりと雨煙が揺れた先に見えるのは、真白の景色。
降り積む雪と、白百合に覆われた街。

内を這いまわるのは、脛も細るほどに飢えた領民。
その視線はもし傘を持たなくとも、此方と露骨に合わないのだろう。

「ああ、これは夢ですね」

何処か乾いた、ただ確認するだけの言葉。
この故郷は既に死に絶えたもの。
過去のまぼろし以外の何物でもない。

「私と違って領主様に尽くし続けた皆の末路も悲惨でしたねえ」

これも単に、起こった出来事を同定しただけ。
搾取されるだけと知っていて、何故ああも尽くすことができるのか。
理解しがたいし、したいとも思わないが。

そしてじきに奴等はきっと、悪意の目を向けてくる。
過ぎ去った事象とはいえ、そんなものなど見たくもない。
だから、その前に。
適当に畳んだ傘を地へ叩きつけて、踏みつけて、圧し折って。

――ざまぁみろ!

ざぁざぁと降る雨の音に、叫び声がひとつ、溶け消えた。



/side メリル・チェコット(ひだまりメリー・f14836)

くるり、ふわり。雨の中を歩いてく。たたん、ととん、と音が変わるのが好きで。ぱっと跳ねる雨粒が綺麗で。雨の日はつい何時も、傘を回して歩いてしまう。その手癖を何度か繰り返してから、突然はた、と気がつく。

――わたし、傘なんて差してたっけ?

今日は確か猫と戯れに来てて、あの時はとってもいいお天気で。
それにわたしは一人じゃなくて、だれかと一緒に来ていた。
そう、――彼と一緒に。

「晴夜くん、どこ?」

なんで、どうして。
ついさっきまでちっとも浮かばなかったことにぞっとしながら、思い当たった姿を探す。雨にけぶる視界に、必死で目を凝らす。するとふらりと影が横切った。誰かいる。きっとその人だと思わず駆け出して、名前を呼ぼうとして。

「晴、」

――違う。
呼びかけた名前を、驚く息と共にひっこめる。
だって、そこにいたのは、彼では無くて。
いるはずのない人。
もう、逢えない筈の。

――お母さんだ。
台所に立って、夕飯の支度してる。
あの湯気が浮かんでいるのは、シチュー?
懐かしいな、わたしの大好物。
それに、テーブルの真ん中にふわふわのケーキまで。

――そうだ、これ、わたしの六歳の誕生日。
ご馳走を並べてくれて、お祝いだって喜んで。
それなのに。
しあわせはすぐに、ぱちんとはじけて消えてしまう。
鋭い爪、ゆれる尻尾、そしてずらりと並ぶ獰猛な、牙。
この夜、あなたは狼に食べられて――

…やだ、やだ、こんなの。

「見てられないっ、」

迫り来る“あの時”に怯えて、ゆっくりと後退る。
なにもみたくない、これ以上――向き合いたく、ない。
ただその一心で濡れるのも構わず、引きはがす様に傘を手から離した。


//


傘を折る。
傘を手放す。
瞬間、目隠しを剥がしたように周囲の視界が開けた。
そしてお互いに探していた姿が、思いのほか近くにあったことに気づく。そしてメリルの足が、力なくかくりと折れそうなことにも。
「おっと、見つけましたよメリルさん。」
「……晴夜くん」
 濡れた地面にへたり込みかけたメリルの腕を、見つけると同時につかんで晴夜が咄嗟に支える。危なかったですね、とゆっくり立たせながら話しかけてみても、うん、と返ってくる返事はどこか消沈したように細い。
「大丈夫ですか?怖い夢でも見ましたか?」
「…大丈夫、何でもないの」
 尋ねる声に頷こうか迷って、結局首を横に振った。心配を掛けたくない、という思いからの言葉だったけれど、力なく告げる声には説得力が足りなかった。
「そのようには…あ、では私が褒めて元気付けてあげましょうか!」
 そういって真面目そうな顔で指折り、頑張り屋!ふわふわ好き!甘いもの好き!あ、写真を撮るのも上手かったですね、と少しズレた誉め言葉を本当に並べだすものだから、沈んだ気持ちにふふ、と笑い声が戻ってきて。

――狼が皆、この人みたいだったらよかったのに。
そしたらきっと、扉を開けて招き入れたって怖くない。
並んだご馳走を見たら、奇遇ですね、ハレルヤの大好物です!なんて。
ちゃっかり一緒にテーブルを囲んだりして。
そんな夜だったら、家族と――今でもずっと、一緒に過ごせていたのかな。

そんな日は、決して訪れない。それでも、もしかしたら、の楽しい団欒を想像すると、また少し心が温かくなった。そしてすっと目を閉じて問う。
「晴夜くんも傘、差したよね」
「傘、まあ、差しましたが大した事は…」
 いつも何にでも痛快に答える晴夜の、ない、と言い切る声はほんの少しだけ歯切れが悪かった。恐怖や後悔とは違っても、知らず彼の内にも澱のようなものがくすぶっていたのかもしれない。だから、それを少しでも晴らす様に、とメリルが微笑んで返す。先の勇気付けの、ありがとうに変えて。
「戻ってきてくれてよかった。晴夜くんはもう、大丈夫だからね」
「…そうですね、もう大丈夫ですよね」
 確かめる様に頷いた後の晴夜の笑顔は、いつものようにたっぷりと自信に満ちていた。
「メリルさんも大丈夫ですよ、ハレルヤがいますから」
「……ふふ、そうだね」
 返す言葉も、いつものように。眩しさを感じて目を擦れば、ようやく空が真っ青に晴れ渡っていたことに気が付いた。
「雨も上がったみたいだし、スープでも飲みに行こっか?」
「ええ、一緒に暖かいものを楽しみましょう」
そうして、ふたり並んでスープマルシェの会場へと向かっていく。

今日という日を、過去を垣間見て塞いだ日ではなく。
――友達と飲んだ温かいスープが、美味しかった日にするために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
あめだっ
傘を手にスキップ

雨の音がすき
物音がしない静かな部屋にそれだけが響く
寝返りも打たないおとうさん
疑問に思うことなく
はやくおきないかなあって見つめるわたし

あのながくてとってもみじかかった日々の景色

呼吸の音もしないなんてほんとうはおかしかったんだ
でもはじめて自分の足でおとうさんのところに行けたから
うれしくて
気づかなかった
毎日、まいにち
床でねむるおとうさんのとなりに座って
いつおきるのかなってシュネーに話しかけてみたり

何も音のしない部屋
だから雨の音は好き
ちゃんと時間がすすんでいるのがわかるもの

――とってもしあわせな時間だった

わたしはもう、どうしてを知ってしまっているけれど
だいじな思い出だよ

傘を離す



――ざぁざぁと、雨が降る。

けぶるような雨を前に、いつの間にか手にした白い傘を差してオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)が足音軽くスキップをする。

「あめだっ」

 楽し気に声を弾ませて、傘に跳ねてタタン、トトン、と雨だれが歌うのを聞けば、慈雨に打たれた草花のように微笑みを浮かべる。耳を澄まそうとそろり目を細めかけて、ふと気が付いたのは――いつかの部屋の光景。雨のカーテン越しに見えるあの、ながくてとってもみじかかった日々の景色。

――雨の音がすき。
ぽつぽつ、ざぁざぁ、しとしと、ぴっちょん。
物音がしない静かな部屋に、それだけが響く。

寝息もさせないで、静かに眠るおとうさん。
それをはやくおきないかなあって、見つめるわたし。

はじめて自分の足でおとうさんのところに行けた日は、うれしくて。
ねむっている横顔をみたときも、はじめてがふえたって微笑んだのを憶えてる。
起きたのなら、どんな顔をするのかな。
動けたことに、笑ってよろんでくれる?
びっくりして、わっ!て叫んじゃう?
でもきっとどれだって、しあわせな気持ちになるね。

なかなか起きない、床でねむるおとうさん。
となりに座って、おねぼうさんだね、いつおきるのかなって。
姉のシュネーに話しかけながら、今日も気が付いたら日が暮れて。

目がさめたらのなら、聞きたいことがたくさんあるよ。
おとうさんは、どんなお天気の日がすき?
あの日かざしてくれた花の名前は、なんていうの?
困ってるなら、今のわたしはたすけてあげられる?
どんなおはなしを読んでるのか、おしえてくれる?

――でもほんとうは、ずっとおかしかったんだ。
呼吸の音一つしないなんて。
寝返り一つ打たないなんて。
だけど気づけなかった。
うごけたことも、まっている時間も、わたしにはうれしいばかりで。

ちっとも起きやしない、冷たくねむるおとうさん。
それなら、目覚めるまで待つよ。
いちばんにおはようを伝えたいんだ。
だからまいにち、毎日、ずっとずーっと、待っていて。

――ざぁざぁと、雨が降る。
草木濡らすまぼろしの中でも、やがて薔薇の帳は枯れてしまうけれど。
もしかしたら、だれかの瞳には違う色にみえる物語かもしれないけど。
わたしにとっては。

「とっても、しあわせな時間だった。」

雨の歌の中でもとけることなく、その言葉だけが静かに響く。

――わたしはもう、“どうして”を知ってしまっている。
それでもあの時の想いが、変わることはなくて。
それまでの待ってた時が、褪せることはなくて。

「だいじな思い出だよ」

 胸を満たす想いをそっと仕舞い込む様に、ふわりと傘を手放す。
ずぶ濡れになるかな、と思ったのに、地面にふれる直前に傘が消えて。
――虹の橋が架かる、真っ青な空が広がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花菱・真紀
(傘を手にすると見えたのは今は亡き姉の姿)
帰りが遅い俺を心配して姉ちゃんが何度もスマホで電話をかけている。
俺が実際に見たわけではないけれど全てが終わってしまった後の俺のスマホには何十件もの履歴が残っていた。
姉ちゃんは確信したように頷くと俺が行くと告げた場所へ向かう。

夜の廃病院。あいつとちょっとした肝試し。
新しい都市伝説の話に浮かれてた俺。

…いつかあった光景。
姉ちゃん、また会ったね。姉ちゃんに会えるのはこんな幻や記録の中だけなのは痛いほど分かったから…それじゃあ、バイバイ

(傘を手放して)



――ざぁざぁと、雨が降る。

“トゥルルル…トゥルルル…”

 降りしきる雨の中、何度もスマホを耳に宛てながら、つながらないコールに俯く女が立っている。雨のカーテンでゆがめられていたとしても、見間違うはずがない。それは花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)の、姉の姿。幾度となく切っては折り返しの着信を僅かに待ち、来ないと見ればすぐ掛けなおし、を繰り返している。その不安に満ちた顔は、帰りの遅い弟を心配する姉、そのものだった。懐かしさと切なさに痛む胸を抑えて目の前に歩み寄るも、姉はスマホを握るばかりでこちらには目もくれない。当たり前だ、彼女はもう――。

捜した人が目の前にいるのに、姉は何度も何度もリダイヤルを押す。
自分に掛けているはずなのに、手にしたスマホのコールはならない。

過去と現在がすれ違い交わらず、不在着信だけが降り積もっていく。

夜の廃病院。そんなお誂え向きの舞台で。
“あいつ”との、ちょっとした肝試しのつもりだった。
新しい都市伝説の話に浮かれてて、危ないかもなんて気づけなかった。
その末に、悲劇は起こった。

――俺を庇って死んだ姉ちゃん。
そのことが辛くて、かつては生きていると信じ込んで記憶を封じたこともあった。
でももう、何もかも思い出した今では、こうして虚ろな幻としてしか会えない人。

これはきっと、永遠に会えなくなったあの日の、裏側だ。
実際に目にした過去ではないけれど、スマホには何十件もの履歴が残っていた。
その数だけ、その時間だけ、こうして呼び続けてくれた姿は幻ではなくて。
いつかには確かにあったものなんだと、改めて想う。

「姉ちゃん、また会ったね。」

伝わらないと分かっていても、思わず声をかける。
姉ちゃんの視線は、こちらを捉えない。
ただ、またつながらない、と不安げだった顔が、ふと何かを確信したように変わって頷く。

「姉ちゃんに会えるのは、いつだってこんな幻や記録の中だけなんだよな」

スマホに指を滑らせる。けど今度のそれはリダイヤルじゃなくて、地図の確認。

「それはもう、痛いほど分かったから」

事前に聞いた廃病院の場所を調べて、方向を確かめる様に周囲を見回す。

「…それじゃあ、バイバイ」

そして決意した表情を浮かべ、傘を差す自分をすり抜けて、駆け出していく姉ちゃん。その背中を見送ることはせず、手にした傘をそっと手放す。

 其処に在ったのは、さっきまでの土砂降りが嘘のように晴れ渡った空。その皮肉なまでに青い色の下、真紀の頬にはまだ――雨粒が、僅かに伝っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
雨の音に混じって聴こえてくるのは、歌う声と笑い声?懐かしい。
これは、そう。水の恵みに感謝して、みんなびしょ濡れになりながら私の社まで歩くお祭り。私は村人が楽しそうに歩いてくる姿を見るのが好きだった。このまま来ると私の前で立ち止まるはず。そして、ありがとうといってくれるのだ。
ただ、集団は立ち止まらない。なぜ?私はここにいるのに。
ああ、そうでした。彼らの中には、もう私などいないのでしたね。
とても、とても悲しいです。でも、それが信仰を守れなかった私の罪。猟兵になりもう一度機会を得られたのなら、もう二度と同じ過ちを繰り返さない。
アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。



――ざぁざぁと、雨が降る。

拾い上げた白い傘を差して、けぶる雨の中をゆっくりと歩いていく。
瞳を閉じて雨の音に耳をすませば、混じって聴こえてくるのは朗々と響く人の声。

これは恵みに感謝を告げる唄に、楽し気な――笑い声?
ああ、なんて懐かしい。

瞼を押し上げて、雨のカーテン越しに見るのは。
かつての、社持つ竜神であった頃の風景。

――これは、そう。
水の恵みに感謝して、みんながびしょ濡れになりながら私の社まで歩くお祭り。
小さい子も、若い夫婦も、年を取った者たちも、こぞって道を練り歩く。
その誰もが笑い合い、肩を寄せ合い、今までに感謝し、これからの幸いを希う。
先行きへの希望に満ちた、輝かしくいとおしい姿。

私は、それを見るのが好きだった。
村人が楽しそうに歩いてくる姿を見るのが、大好きだった。

ああ、もうすぐ私の社につく。
そうすればみんなが私の前で立ち止まるはず。
そして、とびきりの笑顔でありがとうといってくれるのだ。
去年はそうだった。だから今年も、その先も――

そのはずなのに。
集団は立ち止まらない。誰一人、足を止めない。
するりとすり抜けて、笑い声が、寿ぎの歌が、遠のいていく。
なぜ?どうして?
私はいま、ここにいるのに。

「ああ、そうでした。」

したた、と傘に雨のしずくが跳ねる。
彼らは誰もが髪も服も濡れそぼっているのに、私は乾いたまま。

「彼らの中には、もう私などいないのでしたね。」

幸せそうに笑う村人たちは、過去の記憶にしかいない。
村を守ることは出来ず、今はもう荒れ果てて見る影もない。

――それはとても、悲しいことだ。
でも、それが信仰を守れなかった私の罪。
あれだけの想いを捧げられたのに、報いれなかった私の罰。

だけど、それもきっと一度きりだ。
今やこの身は猟兵となった。
信仰は薄れても、私自身の想いは失っていない。
神力は薄れても、成し遂げる覚悟を持っている。
だから、もしもう一度、守れる機会を得られたのなら。
二度と同じ過ちは繰り返さない。

「私は今度こそ、守り抜きます。」

 懐かしい過去に、これからへの決意を研いで、傘を手放す。地面へ触れる前に霞と消える姿は、まるで白い花が散るようで。その一瞬に、僅かに微笑みを浮かべる。

――かつての賑わいを目に出来た、感謝を込めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨野・雲珠
ロキさんと/f25190

覚悟しておきます
何を見るかは予想がついているものの、
わかってたって絶対情緒めちゃくちゃになるので…



白く煙る視界に故郷の雪里が重なって、
ふと目を落とせば雪積もる地面に蹄の跡。
辿って顔をあげた先には、角に桃の花咲く神鹿の姿。
俺がお仕えする神様。
ここまで予想通り──嬉しそうに飛びつく、小さい俺までいたのは予想外。
あの頃、世界と自分はひとつで。
怖いものなんて何もなくて…

あんまり幸せそうで、羨ましくて羨ましくて、
見ていられないのに見ていたい。
…ああしていられた未来も、あったでしょうか。

一蹴してあっさり傘を閉じます

すこし微笑んで手を引きます
ひんやりした手
お可哀そうにって思いながら


ロキ・バロックヒート
雲珠くん(f22865)と

気付けばひとり雨の中

遊ぶこどもがふたり
白い背高と黒いちび
ちびが転んでわあわあ泣いて
白が助け起こして無言で慰めていた

あんまり見たくなかったかもしれない
だって白は見たことのない顔をしていて
仕方がなさ、面倒さ、いろいろ
ああ、きっとあのちびの世話は大変だったに違いない
その時は見えなかったから解らなかった
それでもあとで優しく微笑んで
手を掴んで引いて行くのを見て少し安堵する

ありがと、と
泣き止んだちびの声だけ明るく響いて
へたくそなうたをうたう

幾年経とうと
ひとだった頃のことが忘れられないけど

傘をぽいと手放せば君の姿がある
顔を見て撫でよう…としてやめて手を出す
…ね、引いていってくれる?



――ざぁざぁと、雨が降る。

連れ立ってきた筈が、けぶる様な雨の中に捉えられて、いつのまにか分かたれて。
ひとりとひとり。
かみさまと、かみさまに仕えるもの。
そのどちらもがまほろの内に――過去を、視ていた。



/side ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)

――ざぁざぁと、雨が降る。

気付けばひとり、雨の中。
いつの間にか手にした白い傘をくるりと肩にかけ、靴先が濡れるのも構わずぴちゃりと歩く。当てはなく、ただ雨のカーテンが見せるいつかの景色に行き合えば、

遊ぶこどもが、ふたり。
白い色をした背高のっぽと、黒い色を纏ったちびっこ。
何を見つけたのか、唐突に駆け出した黒いちびが転んで、わあわあ泣きだす。
駆け寄る白が黒を助け起こして、涙をぬぐいながら無言で慰める。
傍からみれば、幼いこども同士の微笑ましい光景にうつったかもしれない。
けれど傘越しにその様子を見つめるロキの顔は、雨空と同じように曇っていた。

――あんまり、見たくなかったかもしれない。
だって白は、見たことのない顔をしていて。
世話をするしかない仕方がなさ、一々手がかかることへの面倒さ。
そんないろいろを煮詰めたような、顔。
ああ、きっとあのちびの世話は大変だったに違いない。
泣くし、喚くし、勝手をするし。ほとほと手を焼いたことだろう。
その時は小さくて、いろんなものが見えなかったから解らなかった。
それでも、あとになれば優しい微笑みをその顔に浮かべて。
黒いちびの手を掴んで引いて行くのが見えて、少し安堵した。

――ありがと、と。
泣き止んだちびの声だけが、雨音に負けず明るく響く。
そしてお礼のつもりなのか、へたくそなうたを楽し気にうたい始める。

なつかしくて、もどかしい。
とどかなくて、いとおしい。
かつてのおはなし。

例え幾年経とうと、ひとだった頃のことが忘れられない。
いまはもう、違うものになってしまったとしても。
あの日々は、確かに――そこに、あったのだから。



/side 雨野・雲珠(慚愧・f22865)

――ざぁざぁと、雨が降る。

白い傘を差す手を、ぎゅう、と固く握りしめる。
まるで、何かを覚悟するかのように。
過去を見せるという雨の中。その話を聞いたときから、ここで何を見るかは大体予想がついていた。だけど分かっていたからと言って、必ずしも、心が追いつくかは別の話だ。だからせめて、


――あ、

白く煙る視界に、はらり、ちらり、と雪が混ざり始める。
ぴちゃりと水音を響かせたはずの足音が、さくり、ふわりと感触を変える。
見通せないほどの驟雨に、故郷の雪里が重なって浮かび上がる。
ふと目を落とせば、雪の積もる地面に刻まれたのは蹄の跡。
追うように辿って顔をあげた先には、角に桃の花が咲く神鹿のかんばせ。

俺がお仕えする神様。
今は失われた権能を携えたままの、雪の野を渡るかつての姿。

ここまでは予想通り。
だけど、それを裏切る様に目に写ったのは、小さな子供の影。

──神様に嬉しそうに飛びつく、小さい俺の姿。

あの頃、世界と自分はひとつで。
怖いものなんて何もなくて。
ぽとりと果実を手渡されれば、ただ喜んで頬張るだけの童だった。
今の俺は、それが甘かったことしか覚えていないのに。

その姿があんまりにも幸せそうで、羨ましくて羨ましくて。
見ていられないのに、見ていたい。
焦れた思いが捻じれて、拗れて、ふと思ってしまった。

――…ああしていられた未来も、あったでしょうか。

そんな拙い、願いともいえない小さなかけらが、胸に浮かび上がる。
だけど、そう思う自分を許せなくて、ふるりと首を振って一蹴する。

過去をやり直すことは、出来ない。
だから今の俺は、ひとを助け、ひとを癒す。
それこそが、何時か――贖いになると、信じているから。


//



傘を放る。
傘を手折る。
それだけで、まるで目に当てていた白布を剥いだように、間近でぱちりとふたりの視線が合う。
蒼天に舞う桜の色と、とろり溶ける蜂蜜の色。
こんなに傍にいたのかと笑おうとして、お互い少し顔が強ばっているのに気が付く。雲珠がむにむにと自分の頬を揉んで崩そうとするのがおかしくて、思わず撫でようとロキが手を伸ばしかけて――触れる前にぴたりと止める。代わりに、差し出す様に掌をくるりと返して、静かに問う。
「…ね、引いていってくれる?」
いつもの余裕めいた色を無くした、どこか幼さの滲む声。
――嗚呼、お可哀そうに。
 出会って間もないころに共にした、祭りの時の寂寥を想う。何を見たのか、何と別れたのか。分からないし、探りもしないけれど。今はただ、ひんやりとひえた手に少しでも熱の伝わる様にと、差し出された手をやわく握る。かみさまの傍にいることには、慣れている。いつもは教わることが多い身でも、今ばかりは導ける自分で在ろうと微笑んで。雲珠がゆっくりと手を引けば、ロキの顔に僅かにいつもの笑みが差した。

雨は上がって、突き抜ける様に青く晴れた空。
手つなぎ歩く道行きは、雨雫が零れてきらきらと光った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

垂没童子・此白
呪に鎖された奥座敷、オブリビオンに囚われた童
心を満たすのは、水底に置き去られたような孤独―頬を伝うは、雨か涙か
サトーさん。アメフラシさまに祀り上げられた彼女と、ワラシ様だった私…彼岸と此岸、そこにどれだけの違いがあるのでしょう

柄杓を左手に握り、雨の中を駆けます。此の胸の痛みはきっと、私だけのものじゃ無い
雨煙に目を凝らし、哀しい香りを嗅ぎ分けて―貴女は透明人間なんかじゃない。今、確かに此処に居る。世界に見放されてなんかいません

もう、傘は要りませんよ

雨はやがて海に―すべてを温かく迎える海へと至り
巡り廻っていつの日か、また此の地に還ってきます
人としての幸せを、紡ぐために……だからどうか、哀しまないで



――ざぁざぁと、雨が降る。

猫と遊んだ晴れ間は、いつの間にか分厚い雲に覆われていた。
目隠しされたかのようにけぶる雨のもと、気づけば垂没童子・此白(サヒモチワラシ・f09860)の手には白い傘が握られていて。どうして、とか、どうしたら、とか、疑問は泡の様にぷかぷか浮かんできたけれど、それを掘り下げるより早く――見覚えのある情景が、瞳に届く。
それは、過去の景色。
懐かしいというには、余りに痛い――囚われた日々の、記憶。
 
異類異形数多に犇く見世物屋敷。其の奥の奥の奥。
誰も踏み入れぬよう、何も逃さぬよう、呪で鎖された奥座敷。
その内に籠めたるは、ひとりの童。
神力を秘めていたが故に、オブリビオンに囚われた鮫の子。

ただただ珍しい虫をカゴに籠めるが如くの一間。
その内で鮫の子の心を埋め尽くすのは、水底に置き去られたような冷たい孤独。
――過去を垣間見て頬を伝う雫は、はたして雨なのか、涙なのか。

「サトーさん。」

濡れないようにと懐に抱えた桐箱に、そっと話しかける。

「アメフラシさまに祀り上げられた彼女と、ワラシ様だった私…彼岸と此岸、そこにどれだけの違いがあるのでしょう」

ほんの少し、立つ場所が違うだけで。
何かが少し、嚙み違っていただけで。
彼女と私は、ただ其処に命ひとつをもつ、それだけのもの。
――ならば。

傘を窄めて、降りしきる雨の中を駆ける。

此の胸の痛みはきっと、私だけのものじゃ無い。
雨煙に目を凝らし、哀しい香りを嗅ぎ分けて。
自身の過去をかき分けて、少女の姿を探す。

――貴女は、透明人間なんかじゃない。
今、確かに此処に居る。
世界に見放されてなんかいません。

走って、奔って、駆け抜けて。
やがて視界の端に、佇むような影を見つけた。
姿は朧気で、目を凝らしても顔は見えなくて。
でも、なんとなく――ふわりと哀しい香りが、して。

「もう、傘は要りませんよ」

そう言って、そっと手にしていた傘を足元に置いた。

雨は花草をほころばせ、大地を潤し、命を満たすもの。
そしてやがて海へ――すべてを温かく迎える海へと至る。
不思議と、過去の化身たる彼女らが還りつく先もまた、海と呼ばれる場所だという。
命の螺旋を巡り廻って、いつの日かまた、此の地に還ってゆく。
それはきっと、再び人としての幸せを紡ぐために。

「……だからどうか、哀しまないで」

囁くような願いが、彼女に届いたかどうかは分からない。
けれど手放した傘が溶けるように消えた先は――眩しいほどの、青空だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
ざぁざぁ
ざぁざぁ
雨が唄う

空暗く
しとどと濡れる身
髪も翼も重くなり
まるで先にゆくなと言われるよで
留まるよにと促されるよで
雨はあまり好ましくはなかった

あの日までは

偶々雨に降られて
偶々備えていた傘があって
偶々地に降り差した傘に
白と赤の
沈丁花のよな
“彼女”が雨宿りにと訪れた

あの日が
あの瞬間が
縁の始まり

白き淑女に誘われ
辿り着いた図書館が
今はこんなに大切な場で

開かれた扉の先
驚くよに見開かれた
円な硝子の向こうに宿る
優しい花色の眸が
今はこんなに愛おしくて

始まりの雨が
書と花に満つ温かなひと時が
その先に待つ虹の景が約束が
記憶より尚鮮明に
目の前で流れゆく

静かに白を閉じれば
あの日と同じく掛かるかしら
麓に宝宿す七色の橋が



――ざぁざぁと、雨が唄う。

空を見上げるティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)が、雨雫を掬うように手を伸ばす。
猫と戯れた青空は遠く、いまはただ暗く雲が多い尽す。
目の前に落ちた白い傘を手にすれば、それを待っていたかのように雨脚はますます強くなっていった。
けぶるほどの驟雨は、傘越しにも跳ねる露を含んで、服や靴も濡らしていく。

――雨は、あまり好ましくはなかった。
しとどと濡れる身。
長い髪も柔い翼も、降れば降るほど水を含んで重くなっていく。
それはまるで、枷のよう。
先へはゆくなと言われるようで。
ここへずっと留まるようにと促されるよで。
鳥かごの中に籠められたような心地になったから。
だから、雨の匂いがすると、どこか憂鬱な気分になった。

“あの日”までは。

それは、いつもと変わらない筈の日だった。
ただ、偶々雨に降られて。
偶々、備えていた傘が手元にあって。
偶々、思い立って地に降りて差した傘に。
白と赤の沈丁花のよな“彼女”が
――雨宿りに、と訪れた。

あの日が、あの瞬間が、縁の始まり。
世界を変える魔法にかかった、最初の出会い。

白き淑女の招く指に誘われて、細い路地裏を歩いていく。
その先に辿り着いたのは、まるで通り道のような図書館。

開かれた扉の先で、驚くように見開かれた瞳。
円な硝子の向こう側に宿る、優しい花色の眸。

書を捲る場所が、今はこんなに大切で。
甘やかに咲くその色が、今はこんなに愛おしくて。

――ざぁざぁと、雨が唄う。

始まりの雨が降る。
あなたが本を手に取って、きみのすきをおしえてと希う。
花の咲く茶を注ぎ足して、あなたのすきと交換ねと笑う。
書と花に満つ温かなひと時が。

過ごす日々に、共に歩く道に、手渡される灯りに。
そして何よりもあなたに、すきを重ねていく。
その先に待つ虹の景の約束が。
記憶より尚鮮明に、雨のカーテンに揺れては流れゆく。

だからもう、雨がふっても心は曇らない。
それはあたたかな思い出を綴る、やわく透明な洋墨となったから。

過ぎ行く過去をまなうらに縫い留めて、静かに白を閉じる。
なつかしい世界に、今は暫しのお別れを。
新しい楽しみを抱えて、またあなたに語り掛けにいくために。
上がりゆく雨の世界へ手渡すのは、借りた傘と感謝を込めた微笑みひとつ。

――雲が、晴れていく。
垣間見える青に、あの日と同じく掛かるかしら、と期待を込めて空を見る。
麓に宝宿す七色の橋。
見上げる花紫の瞳に七彩が写し取られるのは――あとほんの、数秒後のこと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】
(欠伸し一息ついた瞬間
景色が様変わりして

雨霧に烟る視界に
いつかの記憶が滲む

朽ちた社の影
はらはらと泣く様に散る桜と雫の下

行く宛なく震え縮こまる昔の俺と
――温かく傘と手を差し伸べる恩師の姿が)

(暗く曇る空を晴らし
虹の橋を掛ける陽の様に

重く翳る己の奥底を照らし
明るく道を示してくれた人だった

――だけど俺があの時、その手を取ったばかりに、あの人は)

(…悔やんでもあの時には帰れない
此処にいても、何も変わらない

でも貴方のお陰で
今は帰る場所を
行くべき道を見つけられたから

もう立ち竦まずに――ちゃんとこの足で進んでみせる
せめて、未来は晴らしてみせる

傘壊して
踏み出して)

ああ――彼女にも、願わくは光差さん事を


鈴丸・ちょこ
【花守】
(灰猫は治まるも
再び仔猫の声が弱く響き

――ああ
怪異の仕業か

気付けば傘下にいた己と逆に
襤褸屋の下
ずぶ濡れで打ち震える黒い塊が
泣いている

アレはいつかの俺だ
となりゃ――来やがった

懐かしい顔が瓦礫を掻き分け
今にもくたばりそうな俺に
傘を傾け拾い上げる

それから貴重な筈の食料を
猫でも食える温かな粥にして恵んで

自分だって体冷やして弱ってやがったのに

……見ろ
お前が手を尽くし
命までも賭した結果が
此処に在る

その見窄らしい仔猫は
此程にふてぶてしく立派に育ったぞ

――なんて
言葉の代わりに傘を壊し)

ふん
お陰で今はお前の手を煩わせる迄もない
この手で打破して、晴らしに行くさ

この雨も、雨に曇る怪異の娘の道行も
なぁ、伊織よ



――ざぁざぁと、雨が降る。

猫に塗れた空間はどこへやら。気づけば晴れ間は厚い雲に掻き消えて、耳朶に雨の音ばかりが響く。何時の間にか白い傘の下で雨を凌いでいることを不思議に思えば。

けぶる様な雨に、懐かしい過去を見る。


/side 呉羽・伊織(翳・f03578)

猫のぬくさにあてられたか、くわりと欠伸を零して一息ついた、その瞬間。
差した傘越しに見える景色が、ぐにゃりと様変わりしていく。

雨霧に烟る視界に、いつかの記憶が滲むように映し出される。

柱に蔦が這い、石畳は割れ、参拝客の足もとうに退いた、朽ちた社の影。
はらはらと泣く様に散る桜の花びらと、雨雫の下。

行く宛なく、不安と寒さに震える小さな童。
ぎゅう、と身を寄せて縮こまる、昔の俺。
じわりじわりと染みこむ冷たさに、吐く息も細くなりかけたころ。
ふと身を叩く雨が遠のいた気がして、顔を上げるとそこには。
――温かく傘と手を差し伸べる、恩師の姿があった。

暗く曇る雲を晴らし、果てなく広がる青空に昇る様な。
降り続く雨の後に、虹の橋掛けるあたたかな陽の様に。

重く翳る己の奥底を、導く様に照らしてくれる。
明るく道を示してくれた人だった。
――だけど。

ぎり、と傘を掴む手に力がこもる。

――俺があの時、その手を取ったばかりに、あの人は。
もし、差し伸べられた手を振り払っていたなら。
もし、出会うことなくひとり震えていたならば。
もしかしたら。

幾度となく繰り返す、ありえなかった過去の分岐の模索。
けどそれを悔やんでも、あの時には帰れない
此処にいても、何も変わらない。
だから、幻とはいえ恩師を目に出来た今。
そこに重ねるのは後悔ではなく、先行きの言葉にしたい。

「貴方のお陰で、今は帰る場所を――行くべき道を、見つけられたから」

ざぁざぁと落ちる雨音に、凛と言い放つ声が混ざる。

「もう立ち竦まずに――ちゃんとこの足で進んでみせる。」

振り返るたび、過去の憂いは未だ晴れないけれど。

「せめて、未来は晴らしてみせる」

誓うように告げて、未だ優しく微笑む恩師の姿をまなうらに刻む。
そして未練を断つように、手にした傘をばきりと壊して放った。
振り返らずに、迷わずに。
過去を背に、今へと踏み出して。



/side 鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)

にゃあにゃあと纏わりつく猫たちは、たっぷりと遊んだ後にしゅるりと消えた。あれだけ戯れれば満足だろうよ、とちょこが独り言ちてかかっ、と耳を掻けば、そこに再び――にゃあ、と声が届く。まだ残りが居たかと思うも、その鳴き声は弱弱しく細く、先の猫たちには似ていない。それに何より、聞き覚えがあった。一体誰の、と記憶を巡らせて、思い至るのは他でもない。かつての、自分の声だった。

――ああ、怪異の仕業か。
過去を見せるという、雨のカーテン。
気づけばけぶるような雨の中に、ぼんやりとうつる光景が見えた。

いつの間にか白い傘の下に収まっていた己とは逆に。
ろくに雨もしのげない襤褸屋の下、ずぶ濡れで打ち震える黒い塊。
濡れた寒さにひもじさも相まって、みぃ、にゃあ、と泣く声は小さかった。

――アレは、いつかの俺だ。
貧相で、吹けば飛びそうな弱っちい、過去の己。
そしてこの時を見るとなりゃ――ほら、来やがった

懐かしい顔が瓦礫を掻き分けて、此方へと近寄ってくる。
今にもくたばりそうな俺に、自らが濡れるも構わず傘を傾けて拾い上げる。

それから貴重な筈の僅かな食料をすらも。
猫でも食える温かな粥にして恵んでやって。

自分だって体冷やして、弱ってやがったのに。
お人よしにも程度があるだろう。

――……見ろ。
お前が手を尽くし、命までも賭した結果が此処に在る。

その見窄らしい、今にも死にそうだった仔猫は。
此程にふてぶてしく、立派に育ったぞ。

――なんて、なぁ。
届かない言葉を、胸の内に反芻する。
施してくれたやさしさの結実だと、その身を、胸を張る様に堂々を立ちながら。

あの時伸ばしてくれた手に、後悔やもしもは似つかわしくない。
ただ、あの時言えなかった感謝を込めて、瞳を閉じて傘を踏み壊す。

その一瞬に、もう会えない過去を見送る様に。

//

傘を壊す。
傘を壊す。
それだけで、目に張り付いた薄布を剥いだ様に、視界がすっと開けた。

そして、思うより近くに連れの姿があったことに驚く。
元よりあまり心配はしていなかったが、改めて無事な姿にはこそりと胸をなでおろす。迷子の仔猫ちゃんに迎えは要らなかった?と伊織が戯れを零せば、別の迎えをよこそうか、とちょこがぎらり爪を光らせる。交わすのはそんな、いつも通りの軽口だけ。この雨に何を見て、何を思ったか――そんなことは、何一つ零さず。ただ互いに戻ってこれた、それだけでいいのだと言うように。
ただ、ひとつだけ願わくば。

「この雨も、雨に曇る怪異の娘の道行も、いずれ晴れるといい。なぁ、伊織よ」
「ああ――彼女にも、願わくは光差さん事を」

その祈りが届いたかは、だれにも分からない。
ただ、やがて薄れていく雲の合間にふたりが見たのは――目映いほどの、虹だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

烟る雨の向こう側
見えたのは
噫──嘗ての厄災であった私と、桜竜神であった、君──嘗てのサヨ

二人ひとつの傘をさして雨の中をただ歩む
これはそうだ
二人で雨上がりの虹を探しに行った時だったか
きみの顔色は良くなくて、いのちは今にも散ってしまいそうで
『私』は休んでいて欲しくて説得したけど駄目だったんだ
よろけた君を抱きとめる
折れそうに細い身体が切なくて
もどかしくて雨に冷えた体温が痛ましくて
あたためたくて抱きしめた
厄災の愛など、君には毒だとわかっているのに

雨になどに散らされたくなくて

ひとつ瞬いて過去を送る
約されていないと振り切るように

ひとつ同じ傘の下
サヨ……寒くはない?
隣合うきみの指を握る
あたためてあげる


誘名・櫻宵
🌸神櫻

雨の日が嫌いだった
しんしんと降りしきる冷たい雨の雫に
一人打たれる小さな私
過去の私
今日もまた家から追い出されて、逃げ出して
山の麓で震えていた
ひとりぼっちの心に冷たい雨が侵食して、桜を散らしていくの
桜なんてちいとも咲かない龍

ふと、雨が防がれる
見上げた先には私の大好きな神様
私の師匠
ボロボロの傘を掲げて私を守ってくれた
それだけで、嬉しかったのよ

冷えた心にともる優しさに綻ぶ小さな私

でもそれは過去のこと
今はこんなにも咲いたのよと桜を咲かせ巡らせましょう

真新しいひとつ、同じ傘の下
ええ、カムイ
繋ぐ今の温度に安堵するの
ちいとも、寒くないわ
あなたが隣にいて、あたためてくれるから

冷たい雨はもう、怖くないのよ



――ざぁざぁと、雨が降る。

落ちていた白い傘を拾い上げ、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)が天へと差す。そしてぽつりぽつりと零れる雨雫から、己が巫女を守る様に。誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の手をそっと引いて、傘の内へと引き入れる。庇う余りに半身を濡らすカムイを見て、もっとこちらにと櫻宵が傘を引くけれど、首を振って返される。
「それではサヨが濡れてしまうよ。」
「なら、こうすればいいでしょう?」
 そう言って、傘持つとは逆の腕に潜り込んで身を寄せる。鼓動も聞こえそうな近くに寄って微笑む様が、いとしくて愛らしくて。これなら雨も悪くないねと告げられれば、櫻宵が頷きつつ、ほんの少し顔を曇らせる。

でもね、本当は、昔はね。
――雨の日が、嫌いだった。

ほら、と白指の差す先に、ゆぅらりと影が揺れる。
雨のカーテン越しに映るのは、小さな過去の自分。

しとしとと降りしきる、冷たい雨の雫。
その一粒一粒が髪を濡らし、頬を伝い、体の熱を奪っていく。
それでも遮るすべもなくて、ただ成すがままに打たれている。
ひとりきりの幼い私。昔のままの稚い姿。
きっと今日もまた家から追い出されて、逃げ出してきたところなのだろう。
山の麓で、何もできずに震えていた。

――ひとりぼっちの心には、冷たい雨がことさら堪えて。
肌からじわり、じわりと侵食して、桜を散らしていくの。
桜なんてちいとも咲かない龍。
唯の枝にいくら雨が降ろうとも、濡れるばかりで綻びもしないのに。

俯く顔に、涙か雨か分からない雫が滑り落ちた時。
ふと、雨が防がれた。
雨雲はまだ厚く、雨の音も耳朶に届いているのに。

どうして、と見上げた先にいたのは、見知った姿。
――私の大好きな、神様。私の師匠。
ボロボロの傘を掲げて、雨から私を守ってくれた。
冷えた心にともる慈しむような優しさに、笑み綻ぶ小さな私。

「それだけで、嬉しかったのよ」

そういって、今の櫻宵の顔にも咲みが灯る。それにほら、とくるり回れば、そこには笑みに沿うて咲く桜枝角に、背を彩る美しい枝垂れ桜の翼。
「今はこんなにも咲いたのよ。」
 愛を知り、心を宿し、今を生きる。桜を咲かせ巡らせて、微笑う護龍の何と美しいことか。その姿にただ見惚れるだけで、こんなにもあまく苦しく胸が早打つ。

それなのに、ほんの少し苦い憂いが残るのは、きっと。
過去を見せる傘の下に、未だ身を寄せているせいか。

噫、烟る雨の向こう側。映し出される脳裏の愛惜。
カムイの瞳が雨に見たのは、同じように遠く近い、過去。

――懐かしい。
ふたり並ぶ、昔の姿。
嘗ての厄災であった、私。
桜竜神であった、嘗てのサヨ。

今と同じように、ふたりでひとつの傘をさして雨の中をただ歩む。
これはそうだ、二人で雨上がりの虹を探しに行った時だったか。

降りしきる雨の中、進んでいくきみの顔色は青ざめていて。
儚い面差しに宿るいのちは、今にも散ってしまいそうで。
『私』は休んでいて欲しくて必死に説得したけれど。
大丈夫だと言い張って、駄目だったんだ。

矢先に、石もなく躓きよろけた君を抱きとめる。
ほんの少し力をこめただけでも、折れてしまいそうに細い身体が切なくて。
雨に冷えた体温が痛ましくて、もどかしくて。
出来ることを探して、求めて――そっと君を、抱きしめた。
ただあたためたくて、その身を蝕む何もかもから守りたくて。
厄災の愛こそが、君には何よりの毒だとわかっているのに。
どうしても、手放したくなかった。

花びらのひとつも、雨になど散らされたくなくて――、

――、…。

ふるりと首を振り、ひとつ瞬いて過去を見送る。
なにもまだ約されていないと、振り切るように。

今もなお、ひとつ同じ傘の下。
ふたりきりで、寄り添い立つ。

「サヨ……寒くはない?」
 もう、あの時の君とは違う。そうわかってはいても、今降る雨と同じように心配はとめどない。あたためてあげる、と伸ばすカムイの手が、包み込む様に櫻宵の手を取る。
「ええ、カムイ」
 こうして触れれば、繋ぐ今の温度に、甘えるように安堵する。
「ちいとも、寒くないわ。それにね」
 離れても、またこうして戻ってきてくれたあなたが隣にいて、あたためてくれるから。
「冷たい雨はもう、怖くないのよ」

共に傍にいれば、花散らす驟雨も、花草の芽吹きを言祝ぐ慈雨となる。
白々冷えた指先も、重ねた手の温もりで桜色へと染まりゆく。

あなたがいれば。
きみがあれば。
いつでも春の如く、ぬくいのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
いつの間にか、手には己の物ではない傘
…ジジ?
弟子の名を呼ぶが、応えはない
やれ、私も彼奴も取り込まれたか
溜息一つ吐いた刹那
霧雨の先に見えた、懐かしい面影
頼もしかった父に優しかった母
そして――そそっかしくて、でも勇敢だった片割れ
羊を放牧する父と、それに倣う弟
その様を、母が微笑まし気に見つめている
温かな親子の団欒の中に、私は居ない
ぬくもりは疾うの昔に消え失せた
今の私は悪鬼であり――
少々抜けているが、愛い弟子の師である
召喚するは【愚者の灯火】
傘すら、この雨すら全て消し去ってくれよう
破壊者は斯くあらねば

…さて、ジジは何処だ?
私が居らぬからと泣いておらねば良いが
等と、戯れの言葉を零すくらい許されるだろう?



――ざぁざぁと、雨が降る。

先までの猫たちはどこへやら。気づけばけぶる様な雨のもとにひとり、ぽつりと立っていた。そしていつの間にか、手には己の物ではない白い傘が握られている。

「…ジジ?」

ともに来たはずの弟子の名を呼ぶものの、応える声は聞こえない。
ただ、雨の音だけがざぁざぁと耳朶をうつ。

「やれ、私も彼奴も取り込まれたか」

過去のまほろを見せるという、雨のカーテン。依頼のあらましを思い出して事態を察し、溜息一つ吐き出した――その刹那。
ゆぅらりと、景色が揺れる。先も見通せないほどの驟雨のはずが、確かに見覚えのある“いつか”が並ぶ。
雨がまき上げる霧の先に見えたのは、懐かしい面影たちだった。

学ぶことも多く、頼もしかった父。
いつも皆を気遣い、優しかった母。
そして――そそっかしくて、でも勇敢だった片割れ。
かつてそうであった、家族のカタチ。

ただ自由に遊ばせているように見えて、危険を遠ざけ逸れぬように目を光らせる。
そうして財産たる羊たちを大事に、見守りながら放牧する父。
それに倣うように、見よう見まねで背を追いかける弟。
そのふたりの様子を、目を細めて微笑まし気に見つめている母。
温かな親子の団欒の姿。幸せを絵にしたような情景。
だけどその中に、私は居ない。
たとえどれだけ目を凝らしても、罅割れた青はそこに見えはしない。

ぬくもりは疾うの昔に消え失せた。
今の私は、もはや悪鬼。
力と研鑽を是とし、たとえこの身が崩れようと歩みは止めぬ。
ああ、でも、それよりなにより――今は。
少々抜けているが、愛い弟子の師である。

白い雨ばかり目にしていたら、柔く揺れる黒が恋しい。
先程撫でてやった感触が、まだ指に残っている。
無粋に冷たいこんな傘を差しているより、否と言いながら屈む腰を笑ってまた撫でてやらねば。

傘を放る。
濡れるのも構わないというように。過去より別れ疾く今へ還ろうというように。
薔薇色の輝石が揺れて、招き寄せられるのは炎――【愚者の灯火】。
惑わすまほろも、白い傘も、否――この雨すら、全て消し去ってくれようと。

「破壊者は斯くあらねば」

そう告げる言葉を別れの台詞に変えて。
星宿す瞳が焼け落ちる過去を、静かに見届ける。

――溶ける様に傘が消えた後には、真っ青に晴れ渡った空が広がっていた。

「…さて、ジジは何処だ?」

ぽたりと肩に零れた雨雫を、過去の残滓ごと振り切る様に払う。

「私が居らぬからと泣いておらねば良いが」

そう呟いて、自らの言葉にくすりと笑いを零す。
ほんの少しとはいえ、感傷に触れた後なのだから。
――戯れの言葉を零すくらい、許されるだろう?

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
――傘?

師父?…師父は、何処に
濡れていなければ良いが

その姿探して見回せば
過ぎてゆく影に呼吸が止まる

淡く、朧で、時折ぶれる
不確かな蜃気楼めいているのは
…そうだ、俺が、おぼえていないせいだ
己とよく似た褐色の肌と竜の尾
十にも満たぬだろう子供の背

先には大人たちの背
だれひとりとして、雨に煙り顔は見えず
思い出せぬ声も、ついぞ聞こえず
近付けば見えるだろうか、聞こえるだろうか

――…
傘を下げて雨を浴びる
感覚などないはずの右角から
頬まで濡らす雫で熱を冷ますように

…いまは、追えぬ
俺が追うべき背は、追うべきひとは
眼に焼き付けた影たちへ背を向け
拳のなか傘をへし折る

いつか必ず詫びに往く
…それまで、どうか待っていてほしい



――ざぁざぁと、雨が降る。

猫と戯れた時の晴れ間が嘘のように、一歩先が見通せないほどの雨が降る。幸い白い傘を差していたから、ずぶぬれにはならずに済んだけれど。

――…、傘?

ふと、疑問が過ぎる。一体いつの間にこんなものを手にしていたのか。自らのものでは無い。ましてや師父のものでも。嗚呼、そうだ、それよりも。

――師父?…師父は、何処に。

 共に連れ立ってきた筈が、今は影すら見えない。濡れていなければ良いが、という心配もこんな雨の中からでは届きそうにない。煌めくあの色に水が伝うは美しかろうが、身が凍えることを思えばそれは望ましくない。どうか軒先で凌いでくれれば、とその姿を探して見回せば、ゆぅらりと何かが過ぎていく。師父かと疾く目で追えば――その様に、思わず呼吸が止まる。

それは、かつての影。
記憶の底を這いずる、人々の姿。

淡く、朧で、時折ぶれる。
“何であるか”はわかるのに、“何であったか”はわからない。
雨に映るせいだけではない、その不確かに蜃気楼めいて見えるのは。

――…そうだ、俺が、おぼえていないせいだ。

煙るような雨は、脳裏に掛かる霧によく似ている。
目に耳に肌に刻まれた筈なのに、掴もうとすると何時もぼやけて消える。

次に浮かぶのは、僅かに鮮明に映る黒い影。
己とよく似た褐色の肌と、羽纏う竜の尾。
十にも満たぬだろう、幼い子供の背。

その先をゆくように揺れるのは、大人たちの背。
だれひとりとして、顔は見えず。

“――…、――…―……。”

みえぬ顔に、それでも口の動くのは分かる。
けれど思い出せぬ声では、ついぞ耳には届かない。

もっと近くなら、見えるだろうか
耳を欹てれば、聞こえるだろうか。
もっと、もっと、触れるくらいに――

――…、

伸ばしかけた手を、降ろす。
感覚などないはずの右角が、ずくりと痛んだ気がした。
浮かんだ思いを洗い流す様に傘を下げ、雨に打たれるがままに。
青く光る角先から零れ、頬まで濡らす雫で、昇った熱を冷ますように。

「…いまは、追えぬ。」

冷めた唇が、別れの言葉を告げる。
今の俺が追うべき背は、追うべきひとは、ひとり。
いと高き空に輝く、星の瞬きだけ。
それでも、かつてを忘れぬように眼に焼き付けてから、影たちへ背を向ける。
ぎり、と音がするほどに握りしめていた傘は、そのまま力を込めてへし折った。
もう一度、差してしまわぬように。

「いつか必ず詫びに往く。…それまで、どうか」

――待っていてほしい。

すれ違い交わらない、今から過去へと告げる願い。
それは放った傘と共に溶け消えて――星を宿す色に似た、青空へと変わっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
【桜舞】

雨?いつの間に…
…あら?清史郎さん?

辺りを見回し
目に止まるのは
夜の糸桜の森

これは…
何かを思い出せというような頭痛に眉を顰める

夜の森で迷子になった幼子の自分と
その手を引く女性

あの人は
あの時の…
引き摺る程の銀髪
髪と同色の狼の耳と尻尾
月の金を抱く藍瞳
絵巻物にあるような神の和装束
カクリヨのくらやみで出会った女性

二人を眺めていれば
森の社の傍に辿り着いたところで
そっと幼子の私を撫でた瞬間
吹いた強風に目を閉じる

ぁ、消えてしまった…
私はあの人と会ったことが?
何事も無かったかのように
振り返りもせず家へと駆けてゆく自分

貴女が記憶を封じたの?
でも、何のために…

またひとつ
封を解かれた記憶
花弁と共に傘が散る



――ざぁざぁと、雨が降る。

降り始めの一粒が、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)の耳先に落ちて跳ねる。その感触に、手を伸ばせばぱたぱたと指先が濡れて。

「雨?いつの間に…」

 ふと仰げば気持ちよい晴天だったはずの空は、すっかり厚い雲に覆われている。幸い白い傘を差してはいるけれど、このまま本降りになるならどこか雨宿りに、と声をかけようとして、気づく。

「…あら?清史郎さん?」

 連れの姿がみえない。いつの間に、と思考巡らせれば――はた、と傘に目が行く。そう言えば、どうしてこんなものを差しているのか。自らのものでなはく、借りた憶えもない。なんだか化かされているような気分で辺りを見回せば、目に止まるのは。

雨のカーテンにゆぅらりと映し出される、ここではないどこかの景色。
――夜の帳が曳かれた、糸桜の咲き染む森の中。

「これは…」

 見える光景に見覚えは、ない。ないはずなのに、見つめているとつきん、と頭の奥が痛む。まるで何かを思い出せ、と急かされているかのように。止まない頭痛に思わず眉を顰めながらも、進んでいく情景を追いかける。

――夜の森、闇に惑って迷子になった幼い子供。
面差しは僅かに違えど、宿す獣の特徴も重なる、過去の自分。
その手を引くのは、物静かで温かな空気を宿す女のひと。

「あの人は、あの時の…」

脳裏に思い出すのは、幽世でのひととき。
蝶々に導かれた闇夜の中で出会った、うつくしい女性。
引き摺る程に長い銀の絹髪。
髪と同じ色をした、狼の耳と尻尾。
空掲げる月の金を抱いた、藍色の瞳。
まるで絵巻物から抜け出たような、神の纏うが如き和装束。

連れ立つ二人を追いかけ、眺めていれば。
森の奥ふかく、社と思しき建物の傍に辿り着く。
そして白指がそっと伸びて、幼子の私をいとしげに撫でた瞬間。

ひゅう、と風が吹く。その強さに思わず目を閉じて、開ける頃には。

「――ぁ、」

消えて、しまった。
葉に乗る露のように、春のうたた寝に見るまほろのように。
元からいなかったかのように、風に紛れてその姿は掻き消えていた。

そして幼い自らも、まるで何事も無かったかのように。
社を振り返りもせず、銀色の人影を探すこともなく。
ただ、家へと駆けてだしていく。

――私は、あの人と会ったことが?
そんな記憶はどこにもないはずなのに。
つきん、つきん、と痛み続ける頭だけが何かを訴える。
まるで思い出したい自分と、封じたい何かが、争うよう。

「貴女が、記憶を封じたの?」

問いかけても、もはや過去の情景にすらその姿はない。

――でもそれは、何のために?
わからない、まだ何かが、足りない。

けれどまたひとつ、記憶の封はここに解かれた。
なら、今得た光景は――もうこの手から二度と、取りこぼさぬように。
まなうらに縫い留める様にして、瞳を閉じる。

刹那に舞うは、八重の桜と山吹の花。
雨と共に花弁が狂えば――白々と咲く傘を散らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

筧・清史郎
【桜舞】

気付けば傘に落ちる雨の音
千織…?
共に在った彼女の姿も見えないが
これが話に聞いた怪異だろう
慌てる事無く見回せば

ひらり雨に散る桜の中
番傘さして歩く、今の俺の姿に似た男
大事に抱えるのは桜の硯箱…嘗ての俺だ

きっと女の元へゆくのだろう
上客しか取らぬ花魁か
国民的スタアの女優か
華族の令嬢か
それとも…
相変わらず仕方のない人だとそう思っていたら

今日は二人で飲もっか、と
俺を連れ、一等特別な日にしか訪れぬ店へ
雨の中うきうき向かう主

主は俺を絶世の別嬪と思っていたからな
ふふ、自分そっくりの男とも知らずに
…この様に一度、主と酒を酌交わしたかったかもな

だが、いつか来たるだろう時と同じ様に
桜嵐で傘ごと、主とさよならを



――ざぁざぁと、雨が降る。

白い傘を叩く雨の音に、ふと我に返る。ついさっきまで、晴れ間の下で猫を愛でていたはずなのに。この驟雨は、自分のものでは無い傘は、いったいどうしたことか。そしてなにより。

「千織…?」

周囲を軽く見渡しても、共に在ったはずの連れの姿が見えない。探そうか、と思いかけた所で、そのけぶる様な雨を前に足を止める。――きっと、これが話に聞いた怪異なのだろう。既に傘を手にして雨の中に閉ざされたのなら、今は闇雲に動くのは得策ではない。そう静かに算段し、慌てることなく見回せば。懐かしさのこみ上げる情景が、ゆぅらりと浮かび上がった。

雨の帳に、ひらり、はらり。
共に舞い散るのは、薄紅色の桜の花びら。
番傘をさして歩くのは、今の己とよく似た姿をした男。
その懐に大事そうに抱えるのは、絹布に包まれた桜の硯箱…嘗ての、俺だ。

――ああ、どうにも見慣れた光景だ。
きっとこの日もまた、女の元へゆくところのだろう。
上客しか取らぬと名高い、匂い立つように艶やかな花魁か。
涙顔をさせたら右に出るものなしの、可憐な国民的スタアの女優か。
奥ゆかしくも、未だ恋に恋する年頃の華族の令嬢か。
それとも、他の…まだまだ候補はいくらでも。

過去を視るという稀な機会にあっても、行き当たるのがこんな場面だとは。
相変わらず仕方のない人だと、肩をすくめてそう思っていたら。

――今日は二人で飲もっか。
予想に反した言葉を告げて、なんとも嬉しそうな笑みを浮かべた。
硯の俺を濡れぬよう、傷つかぬよう、エスコートでもする様に連れて。
向かうのは一等特別な日にしか訪れない、とびきり気に入りの店へ。
雨の中をうきうきと弾むような足取りの、主の姿。

「――ふふ、」

思わず、笑う声が零れた。もし他の人が見たのなら、その笑みは先の主と瓜二つだと思ったことだろう。

――そう、主は俺を絶世の別嬪と思っていたからな。
繊細優美な硯姿からは、一体どんな美女を思い描いていたのやら。
その実、自分そっくりの男であるとも知らずに。
そんな少々間の抜けた所もあったが。
それでも主なりに、大事にしてくれていたことは確かで。

「…この様に一度、主と酒を酌交わしたかったかもな。」

一方的に傾けられるのではなく。話を聞くだけではなく。
肩を並べて杯を寄せ、くだらない話を語り合って。
男だったなんて、と一度はがっかりしても、酒が進めばそれも笑い話になって。
それはきっと、楽しいひと時になったはずだ。

――だが、それは最早叶わぬこと。
思い描いた“もしも”を閉ざす様に。
目の当たりにした“いつか”を縫い留める様に。
桜と夜の色混じる瞳を、手にした傘と共にそっと閉じる。

まるで持ち主に返すかのように、綴じた傘を宙へと放る。
そして真の決別の時を想像して招くのは、桜吹雪。
葬る嵐を解き放ち、断ち切る様に傘を折る。

――それはいつか訪れる、さよならへのそなえ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】

…雨だ
突然の土砂降り
けれどそれが身体を濡らすことはない
こんな傘、持っていたっけ

雨の中、小さな男の子が見えた
オレと同じ白い傘をさして、きっと家に帰る途中なんだろう
大切な人を亡くして毎日泣いてばかり
雨の音に紛れて気付かれないだろうと
こんな雨の日には思い切り泣いたっけ

馬鹿だなぁ
泣いたってどうにもならないのに
お父さんは帰ってこないし
欲しいものは何も手に入らないのに

こんなオレでも、あの頃よりは強くなれたかな
相変わらず涙の雨は降るけれど
今は雨空の中にも光を見つけたから

独りぼっちの過去に別れを告げるように
そっと傘を手放した

なつめを迎えに行かないと
きっとなつめも雨の中にいるだろうから



――ざぁざぁと、雨が降る。

「…雨だ」
 猫と戯れていた時は、快晴と言えるくらいの天気だった。けれど気づけば空は厚い雲に覆われ、突然の土砂降り模様。幸い白い傘を差していたおかげで、それが身体を濡らすことはなかった――けれど。ざぁざぁと傘を叩く雨音に、ふと疑問を憶える。

――こんな傘、持っていたっけ。

いつの間にか手にしていた傘。自分のものでは無い、借りた憶えもないそれを不思議に思っていると、けぶる様な雨にゆぅらりと影が映る。そう言えば、一緒に来ていたなつめも居ない。その揺れる影に連れかと歩み寄れば、違った。それはずっと小さくて――懐かしい、姿をしていた。

――雨のカーテンに、小さな男の子が見える。
オレと同じ白い傘をさして、とぼとぼと歩いている。
きっと、家に帰る途中なんだろう。
その頬は、傘の下だというのにぽたぽたと流れる雫にぬれていて。
そうだ、このころは大切な人を亡くして毎日泣いてばかりいた。
声は雨音に紛れさせて、濡れても雨の所為にすれば気付かれないだろうと。
こんな風に降りしきる雨の日には、思い切り泣いたっけ。

「…馬鹿だなぁ。」

思わずぽつり、と声が零れる。

――あの時の気持ちはよく覚えている。
寂しくて、辛くて、悲しくて、苦しくて。
それを何かにどうにかしてほしくて、でもその“何か”なんてわからなくて。
ただ、胸を締め付ける思いのままに泣くばかり。

そんなに泣いたって、どうにもならないのに。
もうお父さんは二度と帰ってこないし。
欲しいものは何ひとつ手に入らないのに。
幼さ故の無力さを、弱さを、過去に見て想うのは。
変わっていく、今の自分。

「こんなオレでも、あの頃よりは強くなれたかな」

未だ心の内に、過去と同じに気弱く幼い自分は居座っているけれど。
相変わらず、かつてを思い返す時には涙の雨が降るけれど。
今は雨空の中にも、決して見失わない光を見つけたから。

「大丈夫だよ、いつかアンタも出会えるから」

そう言って、独りぼっちの過去に別れを告げるように。
手にした白い傘をそっと手放した。
未だ傘をさしたままの小さな自分が、遠くに掻き消えるのを見つめながら。
ずぶ濡れるつもりで構えていたら、いつまでたってもその身が重くなることはなく。
空は、晴れ間を取り戻していた。

「…なつめを迎えに行かないと」

きっとなつめも、雨の中にいるだろう。
何を見たのかなんて言わなくていい。
戻って来て、また逢えたのならそれだけでいい。
今はただ晴れ渡る空の下――何よりも目映い、ひかりに会いたいから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】

……雨、降ってきたな。
ときじ。と振り返ればそこに
俺のひかりは居なくて
代わりに見えたのは
あの日の出来事で

ーー優しい両親だった
いつも俺たちのことを
一番に考えてくれて
愛してくれて
こんな大人になりてぇなって
実はこっそり思ってて

そんなある日
何日も家を開け
帰ってきた2人は
突然襲いかかってきた
操られてるようだった
両親から発せられた言葉は

イヤダ、コロシテ。

このまま両親も、
愛する人がいる弟も
人殺しにしたくなかった
だからーー殺した
俺が、2人を

なら……俺は…人殺し…?

弟はそんな事ないと言ってくれた

でも、他の人がそれを知ったら?
……置いていかれる?ひとり?

ーーーときじが知ったら?

ぽた。と恐怖で雫が落ちた



――ざぁざぁと、雨が降る。

「……雨、降ってきたな。」

 尻尾にはねた雫を感じて、手にした白い傘を差す。途端、それを待っていたかのように雨がしとどと降り始めた。猫と遊んだ晴れ間はもう、見る影もないほど厚い雲に覆われている。いくら傘があるとはいえこのまま本降りが続くなら、どこかで雨宿りでもしようかと。

「ときじ、」

連れ立ってきた筈の名を呼んで振り返ったのに。
そこに、ひかりは居ない。
厚い雲の向こうに追いやられた月のように、隠れてしまった。
代わりにゆぅらりと揺れる雨のカーテンが見せるのは。
あの日の、出来事。

――優しい、両親だった。
褒める時に掻き混ぜる様に撫でてくれた、大きくて温かな手。
何をするにも、いつもそっと見守ってくれる柔らかな眼差し。
いつも俺と弟、ふたりのことを一番に考えてくれて。
何よりも慈しんで、愛してくれて。
嗚呼、なれるならいつかこんな大人になりてぇな、って。
口にすることはなかったけど、実はこっそり思ってて。
当たり前のように思ってた、幸せな日々。

だけどそんなある日。
唐突に両親が何日も家を空けた。
理由はわからない、ただ弟と不安ながらも日々を凌いでいたら。
空けたのと同じ唐突さで帰ってきた。
そしてふたりは。
――突然、俺たちに襲いかかってきた。
掴みかかる荒々しい手、虚ろに合わない焦点でこちらを見る瞳。
凡そ正気を保っている様子ではなく、まるで何かに操られてるようだった。
訳も分からず弟を庇う姿に、ほんの一瞬襲う手が止まる。
苦し気な呼吸の合間、両親から発せられた言葉は。

――“イヤダ、コロシテ。”

それだけで、もうどうにもならないことだけはわかった。
あとはもう、必要なのは“選ぶこと”だった。
このまま両親が意に染まぬ選択をするのも。
愛する人がいる弟が、人殺しになることも。
どちらも選びたくはなかった。
だから――殺した。
俺が、ふたりを。
手に、かけて――。

「――、…っ!」

思わず、雨から、過去から目を背ける。
その瞬間を、もう一度見る気にはなれなくて。
けれど真実は変わらない。過去は変えられない。
なら、俺は。

「人殺し…?」

知らずぽつりと零れる声。音にすると改めて、そのどろりとした重さを孕んだ言葉に慄きを憶える。

違う。
弟はそんな事はないと言ってくれた。
望んだことではない、苦渋の選択の末の結末だった。

――でも、もし。
他の人がそれを知ったら?
どんな事情があったにせよ、この手を血に染めた事実は横たわる。
それを知って、誰もがまた変わらず接してくれるだろうか。

……置いていかれる?ひとりぼっちに、される?
それだけでも、十分に胸が締め付けられるのに。
それがもし、彼ならば?
俺のひかりが。
――ときじが、知ったら?

ぽたり、と頬を雫が伝う。
思い至った可能性が、心臓を裏撫でていく。
恐怖に歪んだ表情に這うそれは、妙に生暖かい。
怯えた心でたったひとりのひかりを想い描き、伸ばしかけた手は。

――ただ、冷たい雨ばかりを掴んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
明(f00192)と

白い傘二つ
一つを拾い上げると景色が変わっていた

これは、ラボだ
壊される前のまだ綺麗なオレの鳥籠だ
あの人の背が見える
小さな背で一生懸命研究していた
時折オレに話しかけ、笑い、落胆し、泣いて、また笑い、また必死に研究し
このままで良かったと、オレは本心で思っていた
あの人の理想になれないオレだけど
あの人がオレを見てくれる日々は幸福だと思った
――親不孝ってこういうことを言うのかな
なんて、今なら思う

これは、過去だ
もう戻らないものだ、ちゃんとわかっている
ディフ、と呼ぶ声も
オレに触れる老いた手の感触も
何一つ忘れないから

そっと傘を閉じて
……メイ
その小さな背に手を置いて
彼女の気が済む迄抱き締めよう


辰神・明
ディフおにいちゃん(f05200)と
妹人格:メイで参加

まっしろな傘
ざあざあと、雨がふっていて
ディフおにいちゃんが、いなくなって、でも
かわりに、見えたのは……だれ?

赤ちゃんを抱きかかえて微笑んでいる
メイと同じ、髪の色の、女の人
幸せそうに見つめる、男の人
もしかして……メイのおかあさんと、おとうさん?
名前を呼ぶ声は、雨にまぎれて……聞こえない

おかあさん、おとうさん
聞こえないのはわかってます、けれど
あのね、メイは……しあわせ、だから
メイをうんでくれて、ありがとう……もう、わすれないよ
震える手で、傘を手放します、です

ディフ、おにいちゃん……うぇ、うわぁん……!
大好きな友達に抱きついて、えんえんと泣くの



――ざぁざぁと、雨が降る。

地面に咲くは、二輪の白い傘。
濡れるまいと、それぞれに手を伸ばして天へと差せば。

けぶるような雨の中。
そこにいるのは、ひとりぼっちが、ふたり。


/side ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)

「――メイ?」
目の前の傘をひとつを拾い上げると、連れ立つ少女の姿が忽然と掻き消えた。
思わず呼ぶ声も、雨の音にかき消されて届きそうにない。
捜さないと、と足を向けかけたところで気づけば――周りの景色が変わっていた。

視界を塗り替える程に降る、雨のカーテン。
その中に映し出されるのは、憶えの有る情景。
ひとりと一体だけで鎖された、小さな箱庭の景色。

――ああこれは、ラボだ。
壊される前のまだ綺麗な、オレの鳥籠だ。

きっと、この傘の下で見るまぼろしだと分かっていても。
久方ぶりに目にした光景に、苦みを含んだ懐かしさがこみ上げる。

――あの人の背が見える。
小さな背でくるくると歩き回り、一生懸命に研究を重ねていたあの姿。
時折オレに話しかけては笑い、落胆し、泣いて、また笑って。
望む結果が得られなくてひどく落ち込んでも、立ち止まることだけはせずに。
次こそは、今度こそは、とまた必死に研究へ戻っていった。

でも本当は――このままで良かったと、ずっと本心では思っていた。
あの人の理想通りにはなれないオレだけど。
あの人がオレを見てくれる日々を、ただただ幸福だと思っていたから。

――親不孝ってこういうことを言うのかな。
なんて、今なら思う。

でもこれは、過去だ。もう戻らないものだ。
それはちゃんとわかっている。
後悔は澱のように残るとしても、手を伸ばす先はかつてではなく、今であるべきだと。

それでも。
ディフ、と幾度も名を呼んでくれた声も。
子を撫でる様に優しく、オレに触れる老いた手の感触も。
何一つ、忘れないから。

ぬくもりを持たない体でも、未だ知らない感情は多くても。
あなたを想うことは、出来るから。

瞳を伏せるに合わせて、そっと傘を閉じる。
それは――さようならの代りの、合図。



/side 辰神・明(双星・f00192)

拾い上げたまっしろな傘を肩越しに差せば、振りだした雨脚が強くなる。
まるで自分以外の何もかもが溶けて消えてしまったかのような、雨のカーテンの中。

「ディフおにいちゃん…?」

こみ上げる不安に名前を口にしても、返ってくる声は聞こえ無い。
きょろきょろとあたりを見回しても、あの優しい夜の色は見つからない。
進むべきか、まっているべきか。
悩んで立ちすくんでいると――かわりに見えたのは、見知らぬ人の影だった。

けぶる雨の中に映し出されるのは、ふたり――いや、さんにん。
赤ちゃんを抱きかかえて微笑んでいる、夫婦の姿。
ゆらゆらと揺れながら、腕の中の子をあやす女の人。
そのふたりを幸せそうに見つめる、男の人。

女の人の耳から滑り落ちる髪は、メイと同じ淡い紫色をしていて。
見守る男の人は、いとおしげに目を細めていて。

――もしかして。
……メイのおかあさんと、おとうさん?

名前を呼ぶ声は、雨にまぎれて聞こえない。
朧げな記憶では、ぼんやりとした面影が浮かぶだけ。
だけど並ぶ姿をみると、胸がじわりとあたたかい。
その懐かしさを伴う熱が、きっとそうだと確信を告げて。

「おかあさん、おとうさん」

ざぁざぁと耳朶をうつ雨に、少女の声が混ざっていく。

「聞こえないのはわかってます、けれど」

届かない過去に、交わらないかつてに、それでも――せいいっぱいの、想いを込めて。

「あのね、メイは……しあわせ、だから」

ともだちがいて、きょうだいがいて、いっしょにあそんで、せかいをみてまわって。
そんな日々を送っていると、伝えたくて。

「メイをうんでくれて、ありがとう……もう、わすれないよ」

かすかな記憶の欠片を、いつかにあった幸せの瞬間を、まなうらに縫い留めて。
出会えた喜びと、いま一度別れる寂しさを共に感じながら。

震える手で、そっと傘を手放した。


//

傘を閉じる。
傘を手放す。
それだけで、瞳に宛てられていた白布を剥いだ様に、視界が開けた。
雨の中に探していた姿は、気づけば触れられそうなほど近くにあって。
見つけられた安堵の中に、振り切れない哀惜を混ぜながら。
互いが互いの名前を呼ぶ。

「……メイ」
「ディフ、おにいちゃん…」
 震える声で名前を呼ぶ彼女を見れば、どういった類のものを見たかは、何となくの察しがついた。そして今にも泣きだしそうな顔をしながら、必死にこらえてる姿があまりにもせつなくて。小さな背に、そっと手を置いて撫でてやる。
「ディフ、おにい、ちゃ……うぇ、うわぁん……!」
 その優しさに、かろうじで張っていたメイの気がぷつりと切れた。堰き止めていた涙がほろほろと頬を伝い、抱き締めるディフの肩を濡らす。

ひとりとひとりが寄り添って、ふたり。
声を上げて泣き続ける少女を、友がただ静かに見守り続ける。
泣き終えた後には――雨上がりの空に掛かる虹が、彼女をまた微笑ませると信じて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御剣・誉
何でこんなところに白い傘があるんだ?
忘れ物にしちゃ堂々と置いてあるな

躊躇うことなく傘を手にとりくるくる回し
視えた景色は今思い出せる中では一番古い記憶
――から帰ってきた日
喜び戸惑う周囲の声はうっすら覚えているような…
正直に言おう
これを視るまですっかり忘れてたな!

あれ?
あんなところに扉なんてあったっけ?
忘れてただけか?
あの扉の向こうを確かめたくて無意識のうちに手を伸ばすけど
イヤ、今はいいや
オレにはやることがあるんだった
スープマルシェを楽しむという重大な任務がな!

白い傘をポイっと放り投げて
剣の切先を迷うことなく怪異に突き付け
この雨は止んでもらわないと困るんだ
イベントが中止になったら困るからな(キリッ



――ざぁざぁと、雨が降る。

「何でこんなところに白い傘があるんだ?」

道の真ん中にぽん、と広げて置かれた白い傘。その唐突な現れ方に御剣・誉(焼肉王子・f11407)が首をかしげる。どこかから転がってきたには汚れもなく綺麗で、まるで今しがたまで差していた人が溶け消えたかのような不自然さを醸している。 

「忘れ物にしちゃ堂々と置いてあるな。」

が、それに一切躊躇をすることなくひょいと拾い上げて手にとり、くるくると遊ぶように回す。その瞬間、待ちかねていたように空からざぁざぁと雨が降り出した。丁度よかったとそのまま天に差し、雫を弾く様にくるくる、くるくる回し続けていたら。ふいにゆぅらりと目の前の雨越しの景色が揺れて、見覚えのある風景が浮かび上がる。

視えたのは、今思い出せる中では一番古い記憶。
――から、帰ってきた日。
普段あんまり掘り下げないけど、実は記憶にないことがいろいろあったりして。
でも俺の帰還に喜びと戸惑いが混じった周囲の声はうっすら覚えている、ような…?

「いや、正直に言おう」

思い出す様に顰めていた眉をふるりと首を振ってリセットし、真面目な顔で口を開く。

「これを視るまですっかり忘れてたな!」

キリッ。
そう、キリッとしておけば大抵のことは解決できる。多分これで忘れてたのもノーカンになった。すっごい便利。けど、次の瞬間視界の端を掠めたものに、キリッははてな顔に代わる。

「あれ?あんなところに扉なんてあったっけ?」

その記憶の端に、覚えのない扉が見えてはた、と首をかしげる。
忘れてただけか?と思いながらも、なんだか妙に引っかかる。
一体どこにつながってるのか。
なんでこんなにも気にかかるのか。
もしかしたら、――――――に行けるのか?
言葉を結ばない無意識が、扉の向こうを確かめようと、知らぬ間に手を伸ばさせるけれど。

「イヤ、今はいいや」

ノブに手がふれる前に、きゅっと拳を握ってひっこめた。
まだそこに触れるのは何となく憚れて――ということすら、本人には意識のないことかもしれない。なにせ、今は明確で重要な目的が別のところにあるのだから。

「オレにはやることがあるんだった。――スープマルシェを楽しむという重大な任務がな!」

きっぱりとそう言い切って、未練や後悔など微塵もない様子で白い傘をポイっと宙に放り投げる。
ゆらゆらと落ちてくる傘に構えた剣の切先を迷うことなく突き付け。

「この雨は止んでもらわないと困るんだ。イベントが中止になったら大変だからな!」

そしてそのまま傘を、それが纏う怪異ごと真っ二つに切って見せる。
その苦も無く折れ、切り裂かれた傘越しには――虹のかかる青空が広がっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『たまには寄り道を』

POW   :    体力が続く限り目いっぱい楽しむ

SPD   :    とにかく沢山の観光名所を訪れる

WIZ   :    あらかじめ計画立ててから観光を楽しむ

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


――いつのまにか、雨はやんでいた。

手にしたはずの白い傘も、土砂降りの雨も、ふたりを追いかけて走ったのも。何もかもが初めからなかったかのように、真っ青に晴れ渡った空。唐突な変化にあっけにとられていると、いつの間に戻っていたのか担当のブースが目の前にあった。

「あ、店長おっそいですよ!もう開幕のアナウンス始まっちゃいますよ~」
「ゴミ捨て場所分かりにくかったです?…ていうか店長顔色わるっ!」
「ちょ、どうしたんですか!うわわ、貧血かなぁ?とりあえずこっち座って!味見がてらあったかいスープ飲んで座っててください、ほらほら~」
「あ、ああ…」
「暫くは私たちで回しますから、無理しないで休んでてくださいね。」
「ありがとう、すぐ戻るよ。」

と、ふたりの店員にぐいぐいと押されて、ブースのテント裏にジャンパーと椅子とスープカップごとぽぽぽいっと放られた。ちょっぴり賑やかでおしゃべりが過ぎるところはあるが、こういうときの気遣いと手際は有難い。情けなさは感じつつも、暫し甘えることにして、タンブラーのふたを開けると、ふわんと登る湯気が鼻を擽った。

 今日のメニューはベーコンと菜の花のミルクスープに、貝柱と溶き卵の中華風とろみスープ。素材から選んでじっくり仕込みをした、自慢の二品だ。手渡された方のミルクスープをゆっくり飲み込むと、まろやかな味と程よい温さが喉を通り抜けて、胃の底からあったまっていく感覚が心地よい。

――一体あれは何だったのか。会場に雨の降った様子はなく、結局あのあと彼らに追いつくこともなかった、もどかしいばかりの時間。

疑問は尽きないけれど、もはや確認する術も証明する手立てもない。気にはなるけどそれよりも今は、店を回さなくては。そう思って最後のひと口を飲み切ると蓋をするように気持ちを切り替えて、ブースへと戻っていった。

***

『…それではこれより、スープ・ド・マルシェを開幕いたします。皆さま、どうぞごゆっくりとお楽しみくださいませ!』

 アナウンスが流れるのと同時に、入口を塞いでいたロープが退かされていく。わぁ、と喜ぶ客の声と、ポンポンと軽く上がる花火の音。賑やかな始まりと共に各所ブースも待ってましたとスープ鍋のふたを開ける。一歩歩けばスパイシーな香りが、二歩歩けば食欲そそる香ばしい匂いが広がって、渡された入場特典のタンブラーに注ぎたい最初の一杯に皆悩まし気だ。

あっちのテントは自家製のハーブソーセージを使ったポトフが売りで、レモングラスの香りと野菜のうまみが溶け込んだスープはあっさりしてるのに滋味深くで、いくらでも食べれそう!だとか。

こっちのオニオングラタンスープは、しゃきしゃきとトロトロ2種類の玉ねぎが入ってて食感の差も楽しめるし、上に置かれたチーズたっぷりのバケットもそのままでよし、浸してぷわぷわになったところを掬うもよし、の逸品だとか。

少し奥手には、かぶのすりながしが目玉の店がある。丁寧にとった琥珀色の澄んだ出汁で、じっくりコトコト煮込んですりおろしたかぶの甘味は絶品で。トッピングのかに身と三つ葉と柚子は香りに味と彩りも良しで、まるで料亭気分を味わえる、だとか。

とかく店も種類も多いので、お腹をすかせて片っ端から攻略するのもいいだろう。もし食べる量に自信がない人は、ミニセットを頼めば小さなカップに入れて好きな数を注文できるので、数を楽しむにはもってこいだ。テーブルだけを置いた気軽な外立ち飲みスタイルの場所もあれば、風を凌げる大きめのビニールハウスにはゆったり座って話せるテーブルと椅子も用意されている。

しょっぱい甘い、お気に召すまま。
チーズにパンに、乗せるも楽しく。

――晴れ渡った空の下、温かなスープをどうぞ召し上がれ。
花菱・真紀
スープマルシェ。無事開催できてよかった…。
せっかくだからしっかり楽しんで帰ろう。

うわーどのスープも美味しそうで迷っちゃうなぁ。とりあえずオニオングラタンスープを食べてみよう。チーズを乗せたバケットは浸してと…。
うまー!!すごく美味しい!それに…雨で冷えた体が暖まる。

あの人も誘えたらよかったかなぁなんて思いつつ…俺の年上の友人。マブダチだって言ってくれた人。
けれど今日は少し泣いてしまったから。
そんなところを見せてしまったら心配させてしまったかも。でも…今度また何処かに誘おう。
姉ちゃんの代わりにしてしまっていないかとか思ってしまうけど。たぶん、違う。
姉ちゃんとは違う大事な人。



 まるで雨なんてなかったかのように晴れ渡った空。差す日差しは暖かくて、吹く風は程よくひんやりとした、練り歩くには丁度良い気候。行き交う人もみな楽し気で、花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)がほっと胸をなでおろした。
「スープマルシェ。無事開催できてよかった…。」
 軽くくるっと会場を見て回ったが、特に設備に被害があった様子も無く、何処の店も滞りなく客の呼び込みに熱心だった。これならきっと大丈夫――なら、頑張ったご褒美を自分に。せっかくだからしっかり楽しんで帰ろう、と今度はメニュー選びに会場へと繰り出した。

「うわーどのスープも美味しそうで迷っちゃうなぁ。」
 ハーブのいい匂いがする方を見たら、ぷりっぷりのソーセージがどん!と乗ったポトフの店に行列ができているし。オリジナルのトッピングなのか、たっぷりのフライドガーリックを乗せた味噌クリームスープを頬張る少女たちは、今日はデートとかぜったい無理だね!と言いつつ幸せそうに顔をほころばせていた。正直どれも気になるけれど、まずはさっき回ったときにこっそり心に決めた店へと歩いていく。辿り着いたのは、オニオングラタンスープを売りにしたブース。列はそれなりに出来ていたけど、捌きが早いお陰でさほど並ばずにタンブラーにはほかほかのスープが注がれた。とろっとろになるまで煮込まれた玉ねぎとコンソメに、シャキシャキの歯触りを残した玉ねぎを潜ませて。上にどーん!と置かれた香ばしい香りのとろーりチーズ乗せバケットはそのまま齧っても十分美味しそうだが、ここはやっぱりスープに浸してから、と一口…。
「うまー!!すごく美味しい!それに…雨で冷えた体が暖まるな。」
 玉ねぎの甘味と煮込まれたスープの程よいしょっぱさ、それをたっぷりと吸い上げたバケットのぷわもち感にまろやかなチーズが加わればもう、無敵のおいしさの出来上がり。保温タンブラーのお陰で少なくなってもスープは温かいままで、底に溜まったシャキシャキ玉ねぎも綺麗にバケットですくって食べれば、胃の底から体中がぽかぽかと温まったいた。ほっこり落ち着いたところで、次はどれにしようか、と考えながら周りを見てると、あちこちに友達や家族と連れ合って楽しむ姿が目に留まって。

――あの人も誘えたらよかったかなぁ、なんて。

 思い描くのは、年上の友人の姿。自らをマブダチだって言ってくれた人。“姉ちゃん”の代わりにしてしまっていないか、と思ってしまうこともあったけれど、たぶん、違う。“姉ちゃん”とは違うカタチで、でもとても大事な人。本当は呼ぼうかと何度か迷って手が伸びかけたけど、まだ少し目が赤いかも、と思うと憚られて、やめた。泣いた痕を見せてしまったら、きっと心配させてしまうかもしれないから。でも。
「今度また何処かに誘おう。」
 これから季節は春、きっとまたこんなイベントが何処かであるはずだ。その時は楽しく笑顔で行こう、と言えるように。
「今日はしっかり充電しないとな!」
 そういって、空になったタンブラーを握りしめて、次の店探しに会場へと戻っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
メリルさん(f14836)

見て下さい、凄い種類です!
色んなスープをフルコースで楽しみますか
まずは前菜の肉で乾杯ですね

暖かいのって疲れが取れますねえ
いえいえ、お礼なんて…
あ、怖い夢は人に話すと良いらしいですよ
思い切って私に話して、それから盛大に感謝して下さい

ああ、それは…辛いですね
大好きな存在との別れは何より苦しいですから
私は故郷で生きていた頃の夢でした
死んでいった皆へ言い損ねていた言葉を言えたので悪くはなかったですが
でも少しだけ疲れました
ええ、我々はもう大丈夫です。独りじゃないですから

よし、後は徹底的にぬくぬくして癒されましょう
白柴人形を彼女へ押し付け
膝の羊はもこもこ撫でて
良い日ですね、本当に


メリル・チェコット
晴夜くん(f00145)

わあっ
ここにあるの全部スープ!?
そうだね、スペシャルフルコースでいこう!
最初はお野菜からだよ、晴夜くん!

あったかいスープ、安心するー…
今日は大変だったもんね
さっきはありがとう
ふふ、聞いてくれる?

あのね、昔の夢だったの
大好きだったお母さんが天国にいった日の光景
うん、ちょっと…苦しかったなぁ
晴夜くんの夢も聞いてもいい?
…そっか、故郷の
疲れちゃうよね、過去の傷を見つめるの
晴夜くんもつらい想いしてきたんだもんね
でももうわたしたち、「大丈夫」だよね!

わ、やった、えだまめちゃんだ!
晴夜くんにもお返し!
家族のひつじを一匹喚んで、彼の膝に乗せ
二人してほっこりぬくぬく
えへへ、良い日だねぇ



  雨の匂いは遠く、空は澄み渡り真っ青に晴れ渡っている。雲もなく降り注ぐ日差しは春を感じさせ、吹く風が頬を撫でるほんのりとした冷たさが、温かいスープを楽しむのに絶好の日和を告げていた。そんな中開催されたスープマルシェは盛況なようで、あっちにもこっちにも楽し気な人が溢れている。そして何よりその人々の目を引くのは。
「見て下さい、凄い種類です!」
「わあっ、ここにあるの全部スープ!?」
 そう、並ぶも選ぶも迷うの必須な店舗の数だ。ポタージュにお味噌汁、ブイヤベース、春雨スープ、はては水餃子にフルーツスープまで。あまりの多種多様さに夏目・晴夜(不夜狼・f00145)が指を差して感心していると、メリル・チェコット(ひだまりメリー・f14836)も驚いた声を上げた。
「すごいっ、お出汁以外にもあまい香りまでする…これは選びきれないよ…!」
「となれば、色んなスープをフルコースで楽しみますかメリルさん」
「そうだね、スペシャルフルコースでいこう!」
 迷ったのもつかの間、選びきれないなら全部食べるまで!の精神でふたりが同意した。そして大事な大事な最初にどのスープを持ってくるか、というところで。
「ではまずは前菜の肉で乾杯ですね」
「最初はお野菜からだよ、晴夜くん!」
 空きっ腹を抱えて“メガ盛り☆焼肉スープ”のブースへ行こうとするツワモノの晴夜を、メリルが慌てて引き留めた。

~しばらくおまちください~

「あったかいスープ、安心するー…」
「暖かいのって疲れが取れますねえ」
 結局折衷案、ということで1杯目はお野菜も肉も楽しめるポトフに落ち着き、タンブラーにたっぷりと注いでもらった。とろけるまで煮込まれた玉ねぎやキャベツなどの野菜の甘さと、具材として混ざるごろっとしたじゃがいもや人参、そして上にどーん!と乗ったハーブ入りのソーセージがインパクトもあり、結果的に優しい味わいと程よくお腹に溜まる絶妙なチョイスになった。
「今日は大変だったもんね…さっきはありがとう」
 ふぅ、とスープの湯気に息を吐きながらメリルが微笑んで、雨の中で支えてくれたことへの礼を述べる。
「いえいえ、お礼なんて…あ、でも怖い夢は人に話すと良いらしいですよ」
 ソーセージをパリッと噛んで味わいながら、思いついたように指を立てて晴夜がそう切り出した。
「思い切って私に話して、それから盛大に感謝して下さい」
 優しいのに、どこまでも彼らしい文句にふふっと笑い声を零しながら、小さく頷いて目を閉じた。
「じゃあ、聞いてくれる?あのね、昔の夢だったの――大好きだったお母さんが、天国にいった日の光景」
 ゆっくりと言葉にしながら、くるり、とタンブラーを揺らす。中身は買い求めたポトフで、あの日の温かなシチューはもう、二度と味わえない。じわりと胸に広がる想いの形をメリルが口にする前に、晴夜がすくい上げるように言葉をつなげた。
「ああ、それは…辛いですね。大好きな存在との別れは何より苦しいですから」
 つらい、くるしい。普段はついきゅっと隠して、押し込めてしまいがちな気持ち。
「うん、ちょっと…苦しかったなぁ」
 それを、今だけは素直に零してみる。すると、口から苦みが逃げていくように、少し体が軽くなるような心地がした。
「晴夜くんの夢も聞いてもいい?」
「私は、故郷で生きていた頃の夢でした」
「…そっか、故郷の」
「死んでいった皆へ言い損ねていた言葉を言えたので悪くはなかったですが。でもまぁ、少しだけ」
 ――疲れましたね、という声は溜息と共に零されて、いつもの自信に溢れた晴夜の様子とはほんのすこし、違って映った。
「…疲れちゃうよね、過去の傷を見つめるの。晴夜くんもつらい想いしてきたんだもんね」
 お互いに、過去のすべてが分かるわけじゃない。しらないこと、わからないことは、山のようにある。けれど、同じ様に見つめて苛む過去があるからこそ、きっと分かち合えるものもあるはず。そして過去を経て出会った“今”を、“これから”を、分かち合っていけるはず。
「でももうわたしたち、「大丈夫」だよね!」
「ええ、我々はもう大丈夫です。独りじゃないですから」
 こうして抱えていたかつてを話し合えるひとが、楽しみを共有できる友がいるから、“だいじょうぶ”。それは強がりでも何でもない、晴れた空の下で得たこころからの想い。
「――よし、後は徹底的にぬくぬくして癒されましょう」
 切り替えるように晴夜がすっくと立って宣言し、唐突にメリルへ白い塊をもっふりと押し付けた。このふわふわでもふもふでぽやんとした顔が可愛くて尻尾をブンブンふってる塊は。
「わ、やった、えだまめちゃんだ!」
 傍目には本物の柴犬にしか見えないからくり愛玩人形、通称えだまめだった。その愛らしさに猫も顔負けとめろめろなメリルが、お返し!と呼び出すのは家族の一匹であるひつじ。えだまめにも負けないもっふんもっふんのウール100%が、メェェ~と鳴きながら晴夜の膝に甘えるように乗っかっていく。えだまめをぎゅっぎゅ、ひつじはなでなで、二人と2匹がそろってほっこりぬくぬく。おいしいスープも、話して軽くなった心も、何もかもがあたたかくてしあわせで。
「えへへ、良い日だねぇ」
「良い日ですね、本当に」
――今日は笑顔が咲き染む、春のたのしい一日と憶えて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
アドリブ、絡み◎
猫に癒されたり懐かしい夢を見て少し揺さぶられたりしましたが、無事開催できてほっとしました。
雨で少し冷えた体に温かいスープを。
全国津々浦々のお味噌の違いが味わえるお味噌汁とか気になりますね。全国制覇目指してみましょうか。
すみませ~ん、全種類ください!(邪気のない純粋な笑顔)

さて、落ち着いたところでゆっくり味わいたいところなのですが、何やら向こうが騒がしいですね。
なになに、うちの芋煮が日本一?
あっ、芋煮戦争やってますね。平和そうですしここで観戦しながらお味噌汁飲みましょうか。
下らないことで争えるのも平和の証ですよね。ちなみに芋煮は牛肉醤油派です。あと余談ですが茸筍なら茸派です。



 雨は遠くに去り、空は麗らかな晴模様。陽射しは温く、吹く風だけが少し冷たい春の始まりの様な日。
「猫に癒されたり、懐かしい夢を見て少し揺さぶられたりしましたが、無事開催できたようでほっとしました。」
 そんな日和のもと、賑やかに開催されたスープマルシェを見て、豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)がほっとしたように呟いた。ここまでこればもう楽しむ人々に心配はいらないだろう。なら、雨で少し冷えた体には温かいスープのご褒美を。どれがいいかとあとこち冷やかしていたら、ひときわ大きなブースに“全国お味噌汁巡り”と書かれたのぼりが目に入った。全国津々浦々のお味噌の違いが堪能できる、という売り文句で、白味噌赤味噌合わせみそは勿論、信州、仙台、八丁その他いろいろと種類豊富に取り揃えていた。
「成程、これは気になりますね。せっかくですから全国制覇目指してみましょうか…すみませ~ん、お味噌汁全種類ください!」
「はいよ、お嬢さん全種類ね……、全種類!?」
 驚きの注文に思わず聞き返した店主の瞳に、晶の邪気など全くない純粋な笑顔が眩しく光った。

 結局店の人は度肝を抜かれながらも、わざわざ蓋つきの使い棄てスープカップを幾つも用意し、本当にありったけ全種類の味噌汁を用意してくれた。そして丁寧に袋詰めされたそれをひょいと持ち上げたあたりでも驚かれた気がするが、晶は意に介さず鼻歌交じりに移動していく。さて、せっかくの美味しいものは落ち着いたところでゆっくり味わいたいところ。なのに、如何にも先程からにぎやかな声が耳に届く。
「何やら向こうが騒がしいですね。なになに…“うちの芋煮が日本一!地域別芋煮味比べ”?」
 ひらりと飛んできたチラシを見れば、どうやら全国津々浦々味噌汁と似たようなことをやってるらしく、地域ごとに味の違う芋煮を振る舞っているようだった。が、しかしそこは血で血を洗うという芋煮の味派閥。各味ごとに違う作り手がうっかり雑談から脱線し、うちが一番、いーやうちだ!の言い争いに発展し、お互いに自慢の逸品を振る舞いながらのディベート状態に突入していた。
「あっ、芋煮戦争やってるんですね。平和そうですし、ここで観戦しながらお味噌汁飲みましょうか。」
 豪胆な台詞ひとつでウキウキと近くのベンチに座り、あっという間に観戦モードを決め込んだ。

「こうやって下らないことで争えるのも平和の証ですよね。ちなみに私、芋煮は牛肉醤油派です。」
あっ、今戦争中の人の一部かこっち向いた。めっちゃ怖い。
「あと全く関係ない余談ですが、茸と筍なら茸h」
おっと、それ以上はいけない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
無事開催されて良かったねぇ
さぁ、俺もいっぱい食べるぞー
のんびりしてたら人気メニューは
品切れになっちゃうかもしれないからね
これは楽しいお祭りでもあり、熱い戦いでもある…
グッとタンブラー握りしめ

梓はすっかり料理人目線で
難しい顔してスープを飲んではメモしてる
梓に合わせていると沢山食べられなさそうだから
俺は一人で次々に食べ歩いていく
デザートスープなんてのもあるんだなぁ
(※スープいろいろおまかせ)
あっ、あの赤いスープは……

梓、梓、このスープめちゃくちゃ美味しいよ
野菜たっぷりで春雨も入った激辛キムチスープ
辛さ調整も出来るから最高にしてもらっちゃった
個人的に一番のお気に入り
いい笑顔ではいあーん


乱獅子・梓
【不死蝶】
やたら気合入ってるな、綾…?
これだけいい匂いに出迎えられればそうなるか

たかがスープ、されどスープ
ここまで種類豊富とは驚いた
夕食の参考になりそうだなと
手帳とペンを取り出しメモメモ
へぇ、このミネストローネにはごぼうが入っているのか
よく知っているスープでも新しい発見があるな

……えーと、真っ赤が過ぎないかそのスープ?
綾が一番お気に入りと言うくらいだから
想像を絶する辛さになっているのだろう
俺は丁重にあーんをお断りしたわけだが…
ん?食べてみたいのか、焔?
チャレンジャーだなお前…
スプーンで一口食わせてやれば
案の定、あまりの辛さにジタバタする焔
その可愛い姿見たさに敢えて止めなかったわけだが(悪い大人



 雨の匂いは遠く、空は麗らかに晴れ渡った青。雲一つなく差す太陽の光に手を翳しながら、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が嬉しそうに笑う。
「無事開催されて良かったねぇ」
 入場特典のタンブラーを渡され会場へと入ったら、マルシェを楽しむ人であふれていた。猫に荒らされた機材やテントは見当たらず、雨に降られた様子も無い。トラブルなんて露も知らずに恙なく運営されていくイベントの様子に、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)もそうだな、と頷いで見せた。
「さぁ、俺もいっぱい食べるぞー。のんびりしてたら人気メニューは品切れになっちゃうかもしれないからね」
 と、言いながらくるっと周囲を見回すだけでも、確かに一部の店には既に行列も見える。
「やたら気合入ってるな、綾…?」
「勿論、これは楽しいお祭りでもあり、熱い戦いでもあるからね…」
 負けじと獲物を狙う狩人の如き瞳は、カラーグラスの奥でも分かるほど。タンブラーをがっちりと握りしめて早速と目星い所へ歩いていく綾の背中を見つめながら。
「ま、これだけいい匂いに出迎えられればそうなるか」
 漂ってくる様々なスープの香りにスン、と鼻を鳴らして、梓が見失わないよう追いかけ始めた。

 まず1つ目、と立ち寄ったのはブイヤベースがメインの店。普段は海鮮料理が得意というだけあって、煮込まれたスープはまろやかながら魚介のうまみが濃厚で、具もエビ、あさり、鯛と溢れんばかりに詰まっていた。それでいてぺろりと食べきれるのは、すっきりとした酸味が成せる業だろう。

そして2つ目は自家製野菜をふんだんに使ったスープが売りの店。コーンスープや枝豆のポタージュなど、シンプルだからこそ野菜の味が活きるスープが多いラインナップ。綾は自分のペースであれもこれもと片っ端から飲んでいったが、梓はここでようやく1杯目のミネストローネを注文した。ベースのトマトの他に、セロリ茄子ジャガイモキャベツ…と、全てを特定するのは難しいほど具材がたくさん入れられており、それが見事な調和を保ってほっとする優しい味に仕上がっていた。特にごぼうが入っているのが珍しく、しゃきしゃきとした歯触りに驚いた梓が、「よく知っているスープでも新しい発見があるな」とメモを走らせていた。

3つ目は漂ってきた甘い匂いに誘われて、珍しいデザートスープの専門店に。バニラアイスの上からあったかい抹茶をたっぷり掛けて、溶けたところで白玉と小豆とドライ杏のトッピングと一緒に楽しむ甘いスープは新境地のおいしさだった。

「デザートスープなんてのもあるんだなぁ、けどどれも美味しかったね」
「たかがスープ、されどスープ。ここまで種類豊富とは驚いた」
 一通り回って飲んで小休止していると、梓が今までの食べながら書いていたメモを見ながら真面目な顔で頷く。容赦なく食べる綾に合わせていては持たないとセーブしていたつもりが、ついつい気になって結構な量を飲んでいたらしく、暫くの夕食の参考に困らなさそうなデータの蓄積具合だった。然しさすがにあと飲めても1品か2品か、と思っていたら綾が突然、あっ!と声を上げてふらふらと近くのブースに吸い込まれていく。そして戻ってきたかと思えば、今日一番の笑顔でタンブラーの中身を見せてきた。
「梓、梓、このスープめちゃくちゃ美味しいよ」
 既に1杯は飲んできた後なのか、味の感想を述べながら見せるスープは――めちゃくちゃ赤かった。それはもう煮え滾るマグマの如く赤いし何なら見せられる前の匂いからして辛い。タンブラーに描かれたゆるキャラの“とろクマ”も目をかっぴらいて逃げ出しそうな灼熱地獄ぶりだ。メニュー的には“野菜たっぷりの春雨入り激辛キムチスープ”で、煮込まれた野菜とじっくり漬け込んだ自家製キムチの奥深い味わいと、つるりとした春雨の食感が美味しい…はずだが如何せん辛い。もう断然辛い。空気からして辛い。
「……えーと、真っ赤が過ぎないかそのスープ?」
「辛さ調整も出来たから最高にしてもらっちゃった。個人的に今日一番のお気に入り」
 にこにこと告げる綾の言葉に、梓が察したようにすっと目を閉じる。――綾が一番お気に入りと言うくらいだから、想像を絶する辛さになっているのだろう。凡そ他人に気軽に勧めていい仕上がりではないだろうそれを、綾は意に介さずいい笑顔で、こともあろうにはい、あーん♪と差し出してくるのだ。だが、梓はNoが言える男だった。丁重にお断りを入れて視線を逸らすと、肩口から覗き込んでいたドラゴンの焔がフンフン、と鼻を鳴らしながらスープを見つめていた。
「ん?食べてみたいのか、焔?チャレンジャーだなお前…」
 同じ色なのが気になるのか、今にもタンブラーに口をつけそうだったので店で貰ったスプーンですくって、そっと口元へ運んでやる。すると勢いよくパクっと頬張った後、直ぐにキュッ!??と叫び声をあげてジタバタと悶絶し始めた。南無三、とはいえ予想通りの悲劇に、その可愛い姿見たさに敢えて止めなかった悪ぅい大人が、にやっと笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
ふぅむ…そうさな
斯様に種類があるならば口にした事のない未知の味を堪能したくもあるが、さて…む?
あれを見よ、ジジ
ふぉー――初めて見る白い何かに興味がそそられる
白湯スープとたっぷりの香草、鶏肉で彩られたそれ
さっぱりとしていながら淡白ではないスープに一度目の衝撃
鶏肉は柔らかく、香草と良く合っていて二度目の衝撃
何よりこのフォーなる麺だ
斯様な麵、私は一度も味わった事がない
成程…小麦ではなく米を…考え付いた者は天才か何かか?

…おいジジ、何を考えている?
ええいジジ落ち着けジジ
良いから今は、四の五の言わずにただ楽しめ
師の胃は決して大きくはないが
お前とこのひと時を楽しむだけのゆとりはある故


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

すごいな、品が沢山だ
最初はどれにする、師父

師の示す先には
ふかしぎな白い麺
ふぉーというのか
透明、胡椒…選ぶのは辛味のある赤いスープ
ならば肉そぼろと茹で海老を載せて貰おう

一口啜れば
雨に奪われた熱も瞬きの間に戻る
心地好い弾力と風味豊かなスープ
つるりと幾らでも入りそうな

世界に斯様な料理があったとは
今まで師父に作ってやれなんだとは
なんたる不覚

眉間に寄る皺も悲壮な声も隠せぬまま
…師父よ、俺は暫し
「ふぉー」習得の修行に出ようかと思う
止めるな師父よ、これは我が使命だ
いや、しかし御身の傍を離れるわけにも参らぬし

深呼吸一つ
…なれば、共に食べ歩き学んで帰ろう

最後の一滴まで干したら
再び空の下へ



 春の日差しは柔らかく、透き通る様に晴れ渡った空。かすかに煌めく七色のプリズムは、まほろの雨の名残を残して遠く。待ちかねたように開催されたスープマルシェは楽し気な人々であふれ、店側もあっちこっちと客引きに忙しない。定番のポタージュを扱うものから味噌汁やブイヤベース、はてはスープカレーに水餃子。カラフルなのぼりと豊かな香りが教えてくれるバラエティに富んだラインナップに、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)がほぅ、と感心したように息を吐いた。
「すごいな、品が沢山だ。最初はどれにする、師父」
「ふぅむ…そうさな。斯様に種類があるならば、口にした事のない未知の味を堪能したくもあるが」
 と、悩む様に連れ立つアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)が目を伏せる。馴染みのある味も専門店の手に掛かればまた違った楽しみがあるだろう。けれど全く知らないものに出会う喜びと天秤にかけると、後者の方が好奇をそそられる。
「さて、どうするか…む?あれを見よ、ジジ」
 よせていた眉根がぱっと開いてアルバが指さす先には、「フォー」とだけ書かれたシンプルなのぼりの店。そこから流れてくる客が手にするスープには白い麺のようなものが入っており、香りも他とは違うハーブでも使っているのか、何とも不可思議でそそられるものがある。
「これは…ふぉーというのか」
「ふぉー…?初めて見るな。よしジジ、これを食そう。何やら具材の種類も多くて選び甲斐がありそうだ」
 湧いた興味の赴くまま店へ向かう師を追いかけ、店先で二人分のフォーを注文する。本場から来たという店主のフォーはトッピングが多く、茹でた牛肉や鶏肉、ネギ、パクチーなど以外にも、えび・かに・空心菜と目にも鮮やかに並んでおり、客が楽し気にあれもこれもと選んでいる。その中からアルバが選んだのはシンプルかつ王道の透明なスープに鶏肉とたっぷりの香草を盛り付けたフォー。そしてジャハルは辛味のある赤いスープに胡椒をきかせ、肉そぼろと茹でえびをトッピングしたものをチョイスした。熱々のそれが冷めないうちに、手近なスタンドに身を寄せて同時に啜れば、ふたりの顔に衝撃が走った。

――まずは一口目に感じる静かな衝撃。透明な見た目に淡白な味わいを想像したが、それを裏切るあっさりとした中に潜む滋味深さ。ついで鶏肉はホロホロと柔らかく仕上がり、たっぷりと乗せられた生の香草も香り高く、それでいてスープと喧嘩せず見事な調和をなす二度目の衝撃…!

――一口啜れば、雨に奪われた熱も瞬きの間に戻る辛味の効いたスープ。然しその辛味にスープに溶け込むうま味がかすむことはなく、風味の豊かさを存分に伝えてくる。肉そぼろの甘辛な味に、塩茹でされたえびのしょっぱさもスープに絡めば飽きが来ず、食感の差も楽しめる。そして何より。

「ジジ…これは素晴らしいな…!スープも具も良いが、何よりこのフォーなる麺だ。斯様な麵、私は一度も味わった事がない」
「確かに、つるりと幾らでも入りそうな…師父よ、これによればこの麵は米粉から出来ているそうだ」
 と、ジャハルが見せるのは店で貰ってきた1枚のチラシ。そこには店のメニューの他に、ざっくりとしたフォーの説明が添えられていた。

“フォー。
ベトナムを起源とする麺料理。牛や鶏をベースにしたあっさりとしたスープに米粉の麺を入れて、薄切りにした肉や野菜、香草などを好みで盛り付けて食べる料理。屋台も多く手軽に食べられる、ベトナムのファーストフード的存在”

「成程…小麦ではなく米を…考え付いた者は天才か何かか?」
 小麦の麺が持つもちもちとした食感とは異なる、歯切れと喉越しの良い麺。その食べ心地が相当気に入ったのか、アルバが真面目な顔で開発者を褒め称えつつ、冷めぬうちにとフォーを啜っていく。が、ジャハルの方はチラシを読んだ後から何故か固まったように動かない。
「ん?ジジ、どうかしたか?」

――世界に斯様な料理があったとは。見よ、あの師父の顔を。ふくふくと嬉しそうに麺を口に運ぶ姿を。至宝の御身に幸福な様の兎角似合うこと。今までそれを師父が知らず、作ってもやれなんだとは。

「これは…なんたる不覚…」
「…おいジジ、何を考えている?」
 眉間に寄る皺も悲壮な声も隠さないまま、ぶつぶつと何事かを呟いてる弟子に不穏さを感じて思わずアルバが尋ねると、途端決意でもしたようにキリッとした表情になり、遥か彼方を見遣る。
「…師父よ、俺は暫し「ふぉー」習得の修行に出ようかと思う」
「はっ…!?」
「止めるな師父よ、これは我が使命だ……御身に至上のふぉーを献上せねば…」
「いきなり何を言い出すかと思えば、この弟子は…」
「いや、しかし御身の傍を離れるわけにも参らぬし」
「ええいジジ落ち着けジジ…ジジ!」
 視線の合わない弟子の頬をぺちん!と挟んで無理やり向かせ、言い聞かせるようにじっと見つめる。
「良いから今は、四の五の言わずにただ楽しめ。師の胃は決して大きくはないが、お前とこのひと時を楽しむだけのゆとりはある故」
 ――な?と最後に笑顔を添えて言われれば、今にも飛び出そうとしていた弟子がしおしおと羽尻尾を下げて、苦渋の後に頷いて足を止めた。そして手にしたフォーの一滴までも残さず飲み干して。
「…なればせめて、共に食べ歩き学んで帰ろう」
「それは良い、後日の楽しみが増える」
 せいぜい確り学ぶと良い、と師らしい言葉を口にして、とりあえず飛び出すのをやめたジャハルの様子にアルバがこっそり胸をなでおろす。そして目に飛び込んできたフルーツスープの店の看板に、連れ立って軽快な足取りで向かった。

――離れ難いからとは口にせず、今はただスープの温かさを分け合って。
また来るいつかには隣で、今日の話を笑い合おう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アパラ・ルッサタイン
どこを見ても歩いても、食欲を刺激される香りばかり!

だが最初の一杯は、もう決まっている
そう、ポトフください!

ううむ、どの具材もゴロゴロ大きくていいなあ
だが確り熱が通っていて、味も染みている…
ソーセージも美味しいな……ハーブの香りもいい
全ての旨味が溶けだしているスープの豊かな事……
ううむご主人、大変いいお味だよ!

ご主人、いいかい?
ちょいと折り入ってご相談があるんだ
家庭でも出来る、美味しくできるコツ……なんての、あるかな?
ちと美味しいポトフを作ってやりたい人がいてさ
だ、誰だかはまあ、いいじゃないの

もし教えて頂けたなら大真面目にメモをとって
早速帰ったら振る舞うとしよう

さて、次はシチューだ!
食べるぞう!



 雨の気配は消え去って、空は麗らかな晴れ模様。遠くにきらきらと虹が見え、日差しは温くて程よい気候。賑わいを見せる会場の中を、風が運んでくる香りに鼻をクンクンとさせながら、アパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)が顔を輝かせる。
「どこを見ても歩いても、食欲を刺激される香りばかりね!」
煮込まれた野菜の甘さ、秘伝の配合スパイス、香ばしく焼けたトッピングなど、あちこちから美味しそうな匂いが漂ってきて、普通ならどれから食べようかと迷いそうなところ――だが。
「最初の一杯は、もう決まっている…そう、ポトフください!」
 アパラは既に心を決めていたようで、ポトフを売りにしている店へと軽快に声をかけた。はいよ!と景気のいい返事と共にタンブラーに注がれるのは、あつあつの具沢山ポトフ。スープの中にごろっと大きめの野菜がたっぷり入っていて、更に一番上にはハーブ入りソーセージがどーん!と添えられいて見た目のインパクトもばっちりだ。湯気をふうふうと吹きつつ、零さないようにそっと一口飲み込めば、滋味深い味わいが舌に広がっていく。
「美味しい…!ううむ、どの具材もゴロゴロ大きくていいなあ。だが確り熱が通っていて、味も染みている…」
 具材がごろっとしてるのは魅力的だが、とかく大きく切ると中身が生煮えだったり味の染みこみが悪かったりしがちなのに、ここの野菜は煮崩れず柔らかい絶妙なラインになっている。
「ソーセージも美味しいな……ハーブの香りもいい。全ての旨味が溶けだしているスープの豊かな事……」
 ぷりっぷりの自家製ソーセージは噛むとパリッ!と音がするほどで、その瞬間に広がるハーブの香りがまたスープに新しい奥深さを加えていく。
「ううむご主人、大変いいお味だよ!」
「お、そりゃ嬉しいねぇ。ありがとよ姉ちゃん。」
 実はアパラの合間の感想もちらちら聞いていた気のよさそうな店主が、鼻を擦りつつへへっと笑って返した。ちょっぴりガタイのいい強面系ではあるが、笑った感じはどうにも人の良さが溢れ出ている。これならたぶん大丈夫だろう、とアパラが咳払い一つで店主の方にソソソ、と歩み寄って話を切り出す。
「ご主人、いいかい?ちょいと折り入ってご相談があるんだ」
「お、なんだい?値引き以外なら聞いてやるぜ」
「お代はそりゃもう倍出してもいいくらいさ!そうじゃなくて、あの、家庭でも出来る、美味しくできるコツ……なんての、あるかな?ちと美味しいポトフを作ってやりたい人がいてさ」
「! …ははーん、姉ちゃんさてはあれだな…?」
「だ、誰だかはまあ、いいじゃないの」
 ピンと来た様子で店主がにやにや笑うのを慌ててスルーしつつ、どうかな?と改めて聞けばそうあっちゃあな!と気前よく教えてくれた。
「まずはベーコンをしっかり炒めることだな。コイツが脂と野菜の味つけ役をこなしてくれる。んで次に野菜を入れたら水を入れずにちょっと蒸すんだ。ここで焦げないように様子を見つつだな…」
「うんうん、勉強になるな…!」

…、…――。 

「…よし、これでばっちりだ。早速帰ったら振る舞うとしよう。ご主人ありがとう!」
「なぁに、良いってことよ。うまいの作れよ!」
 惜しげもなく披露されるコツを1つも漏らすまい、とアパラが書き止めていると、最終的に講義は20分以上に渡って続き、メモも数頁に及んだ。これならいいものができるだろう、と懐に大事にしまいつつ、今はとりあえず。
「さて、次はシチューだ!食べるぞう!」
――次なるおいしいスープを目指して、笑顔全開で向かっていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジノーヴィー・マルス
アイシャ(f19187)と。

ん、大きくなったままでいるのか。
何か、こうやって並んで歩くのも良いな。…口には出せねえけど。

手を引かれて店に行くけど、今日のアイシャは何か積極的だな。
俺としちゃ、そういう風にしてくれる方が良いな。
今日は楽しくなりそうだわ。

何か、腹の減る良い匂いがするよなぁ。こういう時って意外と結構な量食えたりするんだよ、何故か。
俺も正直、一つだけ選べって言われたら選べねえし色々飲んでみようかね。どれもうまそうだしよ。
ミニセットならいい感じに色々楽しめそうだし、俺もそれにしようかね。


アイシャ・ラブラドライト
f17484ジノと
口調→華やぐ風
ジノ以外には通常口調

6倍の姿のままで行動
想いが通じたら、普通の恋人同士みたいにデートしてみたいって思ってた…
って伝えるのは気恥ずかしいから、しれっとそのままの姿で過ごす

ジノ、あっちのお店見てみよう
さりげなく手を引いてみる
手を繋ぐの、憧れてたから…
スープを入れてもらう前がチャンスだから
えいっと思い切って実行してみる
なるべく自然に振る舞うけど
内心ドキドキしてる…

美味しそうな匂いがいっぱいだね…
ジノはどんなスープが飲みたい?
私はせっかくだから、色んなの飲んでみたいな
ミニセットにしようかなぁ
いつもの姿だったら、この小さいカップでお腹いっぱいなんだろうな…



 雨などなかったように晴れ渡った青い空。無事に開催されたスープマルシェは晴天も相まって盛況を呼び、あちこちに賑やかな声が溢れていた。その楽しげな様子に、アイシャ・ラブラドライト(煌めく風・f19187)もパッと顔を明るくして、並び立つジノーヴィー・マルス(ポケットの中は空虚と紙切れ・f17484)をちらりと見る。けだるげな雰囲気を纏いつつも、いつもより柔らかに見える表情が嬉しくて、知らず頬を桜色に染める。猫と戯れた時間に引き続いていつもよりも大きな、丁度人間の少女くらいの背丈でいるからか、近い視線にどきどきと胸が高鳴って。

――想いが通じたら、普通の恋人同士みたいにデートしたいってずっと思ってた。
なら、叶えてもいいよね?

だから、今日はこのままで。気恥ずかしくて想いを口には出来ないけれど、しれっと並ぶ隣が居心地いい。
「ん、アイシャ大きくなったままでいるのか。何か、…」
「? どうしたの?」
「いや、なんでもない。」
 かく言うジノーヴィーも――こうやって並んで歩くのも良いな。なんて、思ってはいも言い出せなくて。胸に抱く想いは同じくしながら秘めたままに、ふたりが暫し照れくさそうに眼をそらしていた。

「ジノ、あっちのお店見てみよう」
 アイシャが誘う言葉と同時にジノーヴィーの手をきゅっと握って、店へと引いていく。何気ないように見えて、精一杯の勇気を詰め込んでの行動。小さいままでは叶わなかった、手をつないで歩くデート。スープを買ったら塞がってしまうから、今ばかりがチャンス、と思ってえいっと踏み切ったけれど、繋ぐ手に伝わる温度にはやっぱりドキドキしてしまう。振り向けないままに引っ張れば、ジノーヴィーもまたいつもとは違う積極的なアイシャに――俺としちゃ、そういう風にしてくれる方が良いな、と優し気に目を細めて。
「…今日は楽しくなりそうだわ。」
 ぽつり、そんなことをつぶやいた。

「美味しそうな匂いがいっぱいだね…」
「ああ、何か腹の減る良い匂いがするよなぁ。こういう時って意外と結構な量食えたりするんだよ、何故か。」
 くんくん、と鼻を鳴らせばあちこちから上品なお出汁や、煮込まれた野菜の甘さ、ジューと焼かれた肉の香ばしさ…等々色んな香りが漂ってきて、いまにもクゥ、とお腹が鳴りそうになる。
「ジノはどんなスープが飲みたい?私はせっかくだから、色んなの飲んでみたいな」
「俺も正直、一つだけ選べって言われたら選べねえし色々飲んでみようかね。どれもうまそうだしよ。」
「あ、ならミニセットっていうのがあるみたい。それにしようかなぁ」
「へぇ、ミニセットならいい感じに色々楽しめそうだし、俺もそれにしようかね。」
 お店全部のスープは無理でも、ちょっとずつなら数も楽しめそうだとミニセットの提案に乗り、気になるスープをお揃いで少しずつ注いでもらうことにした。ブースを流し見て、まずは3つ、とそろえたのは定番のコーンポタージュに、変化をつけて和のかぶのすり流し、そしてデザート代りの旬のいちごを使った4種のベリーフルーツスープ。
「いつもの姿だったら、この小さいカップでお腹いっぱいなんだろうな…」
 透明なカップに注がれたキラキラのフルーツスープを持ち上げて眺めながら、アイシャがそんなことを零す。フェアリーならば十分1食分になるサイズも、今なら掌に包める位の小ささになってしまう。大きさの不思議にまじまじと見つめていると。
「なら今日は、とことんまで楽しめそうだな……、一緒に」
「…うん!そうだね、一緒に」
 ほんの少し照れたように言い足された言葉に、アイシャが顔をほころばせる。いつもの姿もいいけれど、たまにはこんな風に並んで、近い距離で話せるのも嬉しいから。

――普段と違う楽しみも、いつだって傍にいて欲しいあなたと、わけあうの。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
英殿(f22898)と

わ、英殿!
あちこちからいい香り
どれにするか迷うてしまう……!

決めかね、むむむと悩む折
彼の言葉に目を輝かせ

なんと!ミニセット?
妾も!妾もそれにする!

ポトフから香る
レモングラスに目を細め
あゝ良き香り
英殿はポトフは初めて?
へへ、美味しかろう?
雨に冷えた体が温まるよう

グラタンスープのバゲットは
ひとつは軽く浸してさくりと齧り
もひとつはスープ飲む間にひたひたに
ね、何方も美味しかろ?

おお!これが、かぶのすりながし!
此方は其方の馴染みの味ね?
妾は初めてじゃよぅ
ふわり香る柚子が上品で
優しい風味がじんわり染みるよう
うん!とうても、美味しい!

マルシェのお勧めも聞きながら
あふるる美味に身を浸そう


榎本・英
ティル(f07995)

どうやらミニセットと云う物もあるようだよ。
私はミニセットにしよう。

これがポトフ。
話には聞くものの、食べる機会は無くてね。
ハーブの香りが強く、食欲を唆るよ。
嗚呼。少々辛いが、とても美味しい。
新鮮な味だ。

オニオングラタンスープにはパンが付いているのだね。
このパンをスープに浸すのかな。
君の手本を眺めていよう。
成程、これはとても魅力的なスープだ。

お待ちかねのかぶのすりながしは
安心感のある味だね。懐かしい。
君は初めてだったかな?

先の2つも良いが、上品な味だろうとも。
私はこの柚子の香りが好きなのだよ。
さて、君の口に合うかな?

雨上がりのスープは落ち着くね。
身も心もあたたまるようだ。



 雨の匂いは風にまかれ、虹を讃えた透き通るような青空が広がっている。過去をみせるまほろは最早遠く、今はただ祭りにも似た楽し気な喧騒だけが響き渡っていた。
「わ、英殿!あちこちからいい香り」
 無事に開催されたスープマルシェのゲートをくぐり、くんくんと鼻を鳴らしながらティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)が顔をパッと明るくする。
「確かにいい香りだ。お腹がなってしまいそうだね」
 うんうんと頷きながら、榎本・英(優誉・f22898)も目移りするようにあちこちの店を眺める。どこも活気があって、のぼりやチラシでの宣伝も数が多く、見ているだけでも腹の虫が騒ぎだすよう。
「本当に…それに、どれにするか迷うてしまう……!」
 叶うなら、余すことなく全部食べたい!と言いたいところだが、残念ながら胃袋には限界がある。いくらスープとはいえ、食べれる量に限りがあるなら数ある中から選ばなければいけないわけで。どうするか決めかねて、むむむと悩む折に、ふと英から天啓の如き言葉が下りてきた。
「どうやらミニセットと云う物もあるようだよ。私はミニセットにしよう。」
「なんと!ミニセット?妾も!妾もそれにする!」
 それなら数も楽しめる、と改めて感じるわくわくを胸に、ブースの並ぶ一角へとふたりで足を向けた。
 
「これが、ポトフ。」
――結局余りにたくさんある店の前であれもこれもと悩んだ末に、選んだスープは3つ。その最初の一つは、ポトフだった。小さめのカップになみなみと注がれたそれを興味深そうに眺める英に、ティルが首をかしげながら訊ねる。
「英殿はポトフは初めて?」
「話には聞くものの、食べる機会は無くてね。ああでも、ハーブの香りが強くて食欲を唆るよ。」
 すぅっと湯気を吸えば、あたたかな中に混ざるハーブの爽やかな香りが心地よい。火傷をしないようふぅふぅ吹いて、はじめての一口を運べば、その鮮烈さに英の目が僅かに見開かれる。しっかりと煮込まれた野菜の甘さに、具材としてゴロゴロと入ったじゃがいもは味も染みてホクホク柔らかい。そして何より上にどーん!と乗ったハーブ入りソーセージはパリッとした歯触りも良く、肉汁と共に口いっぱいに広がるレモングラスの香りに、ティルがふわりと顔をほころばせる。
「あゝ良き香り…へへ、英殿、美味しかろう?」
「嗚呼。少々辛いが、とても美味しい。新鮮な味だ。」
 新しい味に出会うのも、こうしたお祭りの醍醐味。はじめましてのおいしさは、最後の一滴まで楽しみながら飲み干して。続く2つ目のスープはオニオングラタンスープ。たっぷりの玉ねぎを煮込んだスープに、此方のトッピングはとろりとしたチーズのかかったサクサクのバケットだ。
「これにはパンが付いているのだね。このパンをスープに浸すのかな。」
「そうじゃよぅ、でも妾は欲張りに…こうして食べようかと」
 尋ねる英にティルがちょっぴり悪戯っぽく笑ってから、バケットをパキリと二つに折る。そして一つはそのまま口に。ザクザクとした歯触りに、香ばしくもミルクの味が濃厚なチーズは相性ばっちりで、半分にしたとはいえ大き目だったバケットがあっという間に消えてしまう。そして残る半分は、ぷわぷわになるまで浸してからスープと一緒にぱくり。そうやってティルが美味しそうに食べるのをお手本に、英も口にすればスープだけ、バケットだけ、スープをつけたバケット…と幾通りにも変わる味わいにふぅ、と感嘆の溜息を吐いた。
「成程、これはとても魅力的なスープだ。」
「ね、何方も美味しかろ?」
 今ばかりは小さめなカップが惜しいほどに、あっという間に食べ終わってから、美味しいの言葉に深く同意の頷きを返した。
 
「おお!これが、かぶのすりながし!此方は其方の馴染みの味ね?」
「安心感があるね、懐かしい。君は初めてだったかな?」
 最後の一つは、かぶのすりながし。ふわりと上品に出汁が香るスープは、今までのふたつとは逆に、英に憶えがあってティルに初めての味。口にする前に抱いたちょっぴりの不安は、ふわりと柚子の香りが溶かしてしまい、期待だけを胸にスッ、と静かにスープを啜る。かぶ本来の甘味に、丁寧にひかれた出汁の馥郁たる味わい、そして飲み干すときの柚子を伴った爽やかでするりとした喉越し。そのどれもが滋味深く、はじめまして、にも優しい出会いを齎してくれた。
「先の2つも良かったが、これも上品な味だろうとも。私はこの柚子の香りが好きなのだよ。…さて、君の口に合うかな?」
「うん!とうても、美味しい!」
 今日口にしたどれもがとっておきだと花咲くように笑うティルに、私もそう思うよ、と英も目を伏せながら微笑んだ。

「雨上がりのスープは落ち着くね。身も心もあたたまるようだ。」
「本当に…!また一つ、雨の好きなところが増えたのう」
 煌めく虹を共に眺め、あたたかなスープにおなかの底からぬくぬくと。ねこに始まった癒しの時間は、青空のもとに――ぽかぽかと幸せに締め括られた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】

スープはお任せ
辛いものや苦いものが苦手なお子さま舌
セロリも苦手

へたり込む相棒の姿を見つけたら
そっと手を差し伸べて名前を呼ぶ
待たせてごめんね
ほら、行こう

雨の中で何があったのかは聞かない
ただいつも通り一緒に歩いて
たくさん並んだブースに思わず目移り
気になるのあった?
あ、あそこなんてどうかな
スープを注いで貰えばそのままトッピング屋さんにも足を運ぶよ

あったかいね
雨で冷えた身体に沁み渡るみたいだ
なつめのスープも美味しい?
オレにもひとくちだけ頂戴

呼ばれれば、どうかした?と首を傾げて見て
続く言葉を静かに聞く

どんななつめだって、オレにとっては大事な相棒だよ
それじゃあ駄目かな?


唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】
すっかり
へたり込んでも尚
冷たい雨を掴んで、
離して、繰り返して
もう何度目だろう
それでも『ひかり』を求めていて
泣いて、喚いて、疲れて
死んでしまいたいと思った

そんな時、
ひかりが俺の手を掴んでくれて
傘を振り払ってくれて
わらって、迎えてくれた

明けた世界からは
数多のスープの
いい香りが広がっていた
ひかりに連れられて適当に選んだ
スープをすすれば懐かしい味に
目尻が熱くなる
けれど、
なんだか勇気を貰えた気がして
コイツになら、
話しても大丈夫な気がして

ーーーなぁ、ときじ

スープの温もりと
優しい香りに
背を押されるようだった

ーー俺、実は

本当の俺を受け止めてくれるかな

…あぁ、やっぱりお前は

ーーーありがとう。



――ざぁざぁと、雨が降る。

濡れた地面にへたり込んで、冷たい雨を掴んでは、離して、また掴んで。
もう何度繰り返しただろうか。
届かない手を、見つけられない瞳を、歩き出せない足を嘆いて。
それでもこころは、たったひとつの『ひかり』を求めていて。
泣いて、喚いて、疲れて。
いっそもう――死んでしまいたいと、思った。

このまましろい景色に飲まれて、もう全部失くしてしまえば。
諦めて、投げ出して、捨ててしまえば。
そう思いかけた時に。

強張っていた手から、傘が払い落とされた。

「――やっと、みつけた」

そう言って、眩しいくらいの微笑みを浮かべて、ひかりが手を伸ばす。
柄を握ったままで固まった手を、優しく包んでくれる。

「なつめ」

――ああ、この声だ。聞きたかったのは。呼んでほしかったのは。

「待たせてごめんね」

――待ってた、ずっと。来てくれるのを。
でも違うんだ。謝るのはときじじゃなくて。

「ほら、行こう」

――なにもいえない、俺なのに。

胸の内で想うばかりで、泣いて灼けた喉からはなんの言葉も出てこない。それでも、ふれる手のあたたかさだけは、手放せなくて。

――晴れ渡った青空に、遠く光る虹を見て、ゆっくりと立ち上がった。



 雨の世界を抜け出れば、そこは祭りにも似た喧騒の中だった。ねこのことも、雨のことも知らないように、ただ人々が和やかにスープマルシェを楽しんでいる。漂ってくる香りも、聞える笑い声も、春めいた日和に楽し気な彩りを添えている。けれどその中でも未だ前を見ないなつめが気になって、十雉が歩をゆるめる。――雨の中で何があったか、なんてことは聞かない。ただ並んで歩いて、話し合って、変わらないいつも通りをあげようと、足元に気を付けつつ手を引いて進んでいく。あたたかくなってきたね、あそこはなんだか楽しそうだ、と語り掛ける声には漫ろながらも、ああ、うん、と返ってくる返事を頼りに、店をあちこち冷やかしていく。
「気になるのあった?」
「…いや、」
「そう?あ、あそこなんてどうかな」
 そういって選んだのは、ふわりと優しい香りに惹かれたクリームシチューを扱うお店。十雉が選んだのはオーソドックスな鶏肉と根菜をクリームシチュー。そして店の勧めを受けながら、なつめは牡蛎とほうれん草を使ったクリームシチューを選んだ。はい、とタンブラーにたっぷりと注がれたスープを手渡されると、けぶる雨とは違うあたたかな白い湯気に、狭まっていた視界が少し開くような心地がした。そしてそのまま食べに行くのかと思えば、こっち、と手を引く十雉に連れられて、次に辿り着くのはずらりとトッピングの並ぶお店。せっかくだからアレンジしようよ、と悪戯っぽく笑うので、なつめが思わず苦笑を浮かべた。――ああ、笑えた。/笑ってくれた、といにその変化を喜びながら、スープに浮かべるものを共に指折り迷う。クリームに合わせるのなら、と店のアドバイスも参考に。最終的に添えたのは、猫のカタチにカットされたチーズバケット。十雉のものは4種のチーズを合わせたもの、なつめのものは隠し味に味噌を混ぜたものを添えて。近くのスタンドで乾杯の素振りを交わして、ようやくとスープを口に運ぶ。

――ふわりと抜ける、ミルクの優しい香り。とろけるまで煮込まれた具材は、口の中でホロホロと崩れて旨味だけを残していく。鶏肉と根菜はその親しみ深くも手間暇の透ける味わいが滋味深く、牡蛎とほうれん草は味噌を塗ったバケットの手助けもあって、和の香りも感じさせる奥深い仕上がりになっていた。

「あったかいね」
「…ああ、なんかホッとするっていうか」
「雨で冷えた身体に沁み渡るみたいだ」
「そうだな」
 ふぅ、と湯気を吹いて口にするたび、胃の底からぽかぽかと温まっていく。初めて口にするはずなのに、どこか懐かしい気がする味に、目尻が熱くなる。雨は晴れて、隣にはひかりが居てくれて、あんなに冷たかった手が今はもう、あたたかくて。そんな過去とは違う“今”にふと、なんだか勇気を貰えた気がして。

――コイツにならきっと、話しても大丈夫。

そう思えて、気が付けば名前を呼んでいた。
「なぁ、ときじ」
「…どうかした?」
 スープの温かさに押された背のままに、飲み込みかけた言葉を、口にする。
「俺、実は――」
恐る恐るなつめが語るのは、雨の下で見たかつての話。
まほろに見ても、決して嘘でもまぼろしでもない、過去のこと。
自らが犯した、逃れられない罪の証左。
スープで潤したはずの喉が、何度もかすれてひゅう、と音を立てながら。
それでも、隠さず、余さず、全てをはなした。
――受け入れてほしい、とひそかに願いながら。

十雉はただ静かに、けれど視線を逸ららずにじっと聞き入って、離し終えると暫し目を閉じてから、名を呼んだ。
「――なつめ」
 びくり、と肩が震える。さっき名を呼ばれたときの安心感とは、まるで逆の気持ち。こわい、にげたい、だってもし拒まれたら――どうすれば、いい?
「どんななつめだって、オレにとっては大事な相棒だよ」
 でも、続く言葉がそんな不安を何もかも、拭い去っていってくれた。知らず下がっていた視線を跳ね上げひかりを見つめれば、其処に在るのは、真っ直ぐと見つめる瞳と、微笑み。
「一緒に居たいと思うし、いてくれたらと、思ってる。それじゃあ駄目かな?」
 なつめがひかりと呼ぶのなら、それは十雉にとっても“そう”なのだから。あの雨の日に泣いていた子供が、必死にくらやみを歩いて辿り着いた先のひかり。それがいま目の前に居るのなら、どうして手放すことなんかできるだろう。そうやって、何もかを受け入れてもう片方の手すら伸ばす十雉に、ただただ眩しく目を細めて。

――ありがとう。

その一言だけを、絞り出すように言葉にして。頬を伝う雨のまま、差し出された手をつよく握った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

サヨ、雨がやんだよ
きみを濡らす、冷たい雨はもうない

握り繋いだ暖かなぬくもりに笑みを重ねる
鼻腔を擽るのは美味しそうな香り
お腹が空いたね、サヨ
先ずはどのスープを飲もうか
私が親しみ知っているものは味噌汁だ
他のスープをしれるのが嬉しいな
甘いものも、塩っぱいものもあるようだよ

それはいい
全てのお店のスープを頂こうか
先ずはオニオングラタンスープ
サヨを倣ってチーズを添えて
……噫、暖かくて美味しい
心にも染みて行くようだね

次はどれにしようか
かぶのスープも美味しそうだよ

サヨ
噫、何度でもきみを呼ぶ
何処へでもきみを迎えに行くよ
こうしてまた、手を繋ぐために
心を結ぶために

やっと取り戻せたきみを、もう離す気もないけれど


誘名・櫻宵
🌸神櫻

雨が、やんだ
見上げた穹は清々しい位澄んでいて眩しいわ
つないだ手は暖かくて、寄り添う愛の温度にこころが解ける

うふふ
本当ね
いい香りがする
くぅと鳴ったお腹の音がカムイに聞こえていなければいい
全てのスープを味わいたいわ!

カムイは初めてのものも多いでしょ
…あなたの迎える初めてを、全部共有したいから
独占欲をスープに溶かして
とろとろのオニオングラタンスープを飲む
チーズをのせると尚、美味しいの

次のはカムイが選んで頂戴
カブもミルクスープも美味しそうだわ

泣きたくなるくらい暖かくて幸せで
そんな気持ちが伝わってしまった?

ずっと、そばに居てくれた私の神様
そういつだって
彼だけはずっとずっと

ええ
離さないでいて
約束よ



「――サヨ、雨がやんだよ」
 朱色咲かす神様が、遠くを指さして告げる。つられるように見上げた桜の瞳が写すのは、厚く空を覆う灰色でも、けぶるように辺りを埋める白でもなく、清々しいほどに澄みわたった蒼穹の青。
「…雨が、やんだ」
「そう…きみを濡らす、冷たい雨はもうない」
 手を伸ばしても雫が伝うことはなく、指先は絡めるように結ばれる。その繋ぐ手から伝わる温度はあたたかく、握り繋いだぬくもりに笑みを重ねれば、寄り添う熱が愛を伝えて――雨に凝っていたこころが、緩やかに解けていく。もう寂しくはない、凍えることはないのだと分かれば、不安なんてあっという間に消えてしまう。さぁ、雲間を抜けたのなら、今は互いの時間を楽しみましょう、と並んでスープマルシェへと歩き出す。

――にぎやかな人々の笑い声、祭りにも似た喧騒。
店の者も楽し気に呼び込み誘い、鍋を開けるたびふわりとのぼる湯気。
それになにより、鼻腔を擽るのは。

「美味しそうな香り…そういえばお腹が空いたね、サヨ」
「うふふ、本当ね。いい香りがする」
 ことこと煮込まれた野菜、丁寧にひかれた出汁、じゅわっと焼いた香ばしい肉。手間暇かけて作られたスープが、こっちはいかが?あっちへどうぞ、と誘うように香ってくる。あんまりおいしそうなものだから、ついくぅ…とお腹の音が鳴ってしまうけれど、聞えたかしらと櫻宵がおずおず見遣ると、カムイはとんと知らぬように微笑んだ。
「私が親しみ知っているものは味噌汁くらいだから、他のスープをしれるのが嬉しいな」
「なら、全てのスープを味わいたいわ!カムイの知らないスープ、全部よ」
「それはいい、全てのお店のスープを頂こうか」
 巫女のおねだりは可愛いばかりで、一も二もなく頷いて承諾する。先ずはどのスープを飲もうか、と尋ねたら、あれはどう?とオニオングラタンスープの店を指さすので、共に一杯ずつ注いでもらう。タンブラーにたっぷりと溢れるスープを見つめて、にこにこと笑う櫻宵をみて、カムイも嬉しそうに尋ねる。
「サヨ、嬉しそうだね。これが気に入った?」
「それもあるけど、カムイは初めてのものも多いでしょ。カムイが沢山はじめてに触れるのを見れるかと思うとね」
 それがとっても嬉しいの、としあわせそうに微笑む。ああ、でも本当は――あなたの迎える初めてを、全部ぜんぶ共有したいから。くるり、くるくる。冷ます振りで混ぜるスープに、そんな独占欲をそっととかして、ひそませて。とろとろになるまで蕩けたオニオングラタンスープを飲めば、胃の底から温まる心地がする。続けてカムイもスープを口にして、その甘さに驚き目を見開く。形のなくなるまで煮込まれた玉ねぎは、旨味と甘さだけを舌に残してほろほろと。食感を楽しむために刻んで後入れされた玉ねぎは、ザクザクとした食感と爽やかさを醸し出して。一口、二口と飲み干せばほう、とぬくい息を吐いて。
「……噫、暖かくて美味しい。」
「チーズをのせると尚美味しいのよ。ほら、」
 トッピングされたチーズをとろかして、櫻宵があーん、とスプーンでひとくちを差し出す。嬉しい申し出に、つい頬を染めながらも顔を寄せて応えれば。
「これは…心にも染みて行くようだね」
――先程までとまるで違う、いっとう甘美な味がカムイを満たした。

「さて、次はどれにしようか」
「次のはカムイが選んで頂戴。あなたのお勧めが食べたいの」
「それは、悩んでしまうね。そうだな…あそこのかぶのスープは美味しそうだよ」
「素敵!じゃあそこにしましょう」
 そう言って笑い合い、つないだ手を引いて次の店へと向かう。――手をむすび、他愛無い会話を交わして、柔らかな日差しのもとを一緒に歩く。きっと他から見たらなんてことはない、ありふれて見えるこの今が、いとおしくてたまらない。言葉をひとつひとつ重ねていくごとに、見つめる眼差しの熱が降り積もっていくごとに、泣きたいほどしあわせな気持ちで胸が満ちていく。軌跡の先にある“いま”を噛み締めるように瞳を潤ませていると、その溢れそうな想いが伝わったのか、
「――サヨ」
 とびきり優しく、慈しむ様にカムイが名前を呼んで手を引いた。腕の内に招かれるまま、そっと肩口に頭を寄せて目を細める。

――噫、何度でもきみを呼ぼう。
何処へでもきみを迎えに行こう。
こうしてまた、手を繋ぐために。
いとしいきみへ心を結ぶために。

――ずっと、そばに居てくれた私の神様。
そう、いつだって彼だけは。
哀しい時も、嬉しい時も、ずっとずっと、近くに。

「此処に居るよ、サヨ。」
「ええ、カムイ。あなたを感じるわ」
「やっと取り戻せたきみを、もう離す気はない」
「ええ、離さないでいて、ずっと。約束よ」
 引き寄せる手を、繋ぐぬくもりを、誓うように重ねて、倣らえて。

――病める時も、健やかなるときも、永久に。咲き染む桜の下にて、春を結わう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】
よし、と――無事にお待ちかねの時間だな!
どこもかしこも良い香りや笑顔で満ちてて何よりだ
(ほっと、辺りを見渡して)

んじゃどーしよっかな、どれも魅力的だよな~
此処は折角だしミニセットで色々行くかな!
いやまってちょこニャン、オレより圧倒的にちっさいのにどこにそんなに入れる気!?
あと猫舌大丈夫?(熱さに思わずミ゛ッ…てなるのもカワイイかもしんないケド、)ちゃんと気をつけて食べるんだぞ
いや気のせい気のせい!

(一通り舌鼓打ち)
や~、しょっぱいのから甘いまで絶品の力作揃いだな!
心身に沁み入るよーな優しい味わいだ
(心までほっこりと和むような雰囲気やスープ達につられ、表情もすっかり晴れ晴れと笑顔浮かべ)


鈴丸・ちょこ
【花守】
ん、一仕事終えた後の一杯(?)程、美味いもんはねぇからな
憂いも晴れたとなりゃ、文句無しに最高だ(辺りの様子と、良く利く鼻を誘惑する香に目を細め)

ああ――今一杯といったが、訂正だ
俺は一杯と言わず何杯でも、食べ尽くす勢いで行くとしよう(突然変異の影響か、何でも問題なく目一杯腹一杯楽しめるクチ)
ふん、何も心配なんざ要らねぇよ
俺を何だと思ってやがる
そこまでがっつきゃしねぇよ、ちゃんとふーふーして食べるに決まってんだろ――おい今心の声が表情にだだ漏れだったぞ

(本当にがっつりと食べ歩き)
――何処と無く懐かしい味わいから、初めてみる新鮮なもんまで、粒揃いだな
(右に同じ面持ちで、空を、遠くを仰ぎ見て)



 雨は立ち消えたように遠く、今は唯どこまでも澄み渡った青空が広がっている。陽射しも暖かく春の訪れを告げ、吹く風だけはほんの少し冷たい、まさに外を歩き回るには最適の気候。
「よし、と――無事にお待ちかねの時間だな!」
 そんな心地よい空気を感じながら、呉羽・伊織(翳・f03578)がぐいっと背を伸ばしつつ嬉しそうな声を上げる。
「ん、一仕事終えた後の一杯程、美味いもんはねぇからな」
 何となく一献の方を連想させる物言いながら、鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)もカカッと耳を掻いて同意を返す。
「ほんと、どこもかしこも良い香りや笑顔で満ちてて何よりだ」
 そう言って伊織が眺める先にあるのは、スープマルシェを楽しむ人たちの流れ。先に走って親を手招く子の笑顔、美味しそうにスープを頬張りながら話に花を咲かせる友人グループ、たくさんの客を相手にしながら充実した様子を見せる店員たち。店側に猫の被害もなく、会場に雨の降った様子も無く、わいわいと祭りの喧騒を湛える様子には、ほっとひそかに胸をなでおろす。
「ああ、憂いも晴れたとなりゃ、文句無しに最高だ」
 同じ様に辺りの様子をみてその華やぎににやりと口角を上げつつ、思わずスン――と良く利く鼻をきかせれば、まるでこっちへおいで、と誘惑するような美味しい香にに目を細めた。
「然しすごい店の数だな。それにまた香りがどれも良い」
「だよね~!どーしよっかな、どれも魅力的だよな~此処は折角だしミニセットで色々行くかな!」
「ああ――先程一杯といったが、訂正だ。俺は一杯と言わず何杯でも、食べ尽くす勢いで行くとしよう。ミニセットなら尚のこと、全店を二巡りでもいいぞ」
「いやまってちょこニャン、オレより圧倒的にちっさいのにどこにそんなに入れる気!?」
 凡そ成人男性体格の伊織に対し、ちょこの全寸はほぼイエネコのそれ。ミニセットでも並び立つ全店分のスープを食べきる自信はないというのに、このサイズ差でそれを二巡り…だと…!?と戦慄するのを、ふん、と鼻で笑って見せる。
「何も心配なんざ要らねぇよ。俺を何だと思ってやがる」
「いやいやいや…あと猫舌も大丈夫?ちゃんと気をつけて食べるんだぞ」
 ドヤ顔のちょこに信じられないと視線を送りつつ、猫舌の心配をするとふと脳裏にあちあちのスープを口にして思わずミ゛ッ…!となるちょこの姿を浮かべ――それはカワイイかもしんない!と思ったところ、全部顔に出てしまっていたらしく。
「そこまでがっつきゃしねぇよ、ちゃんとふーふーして食べるに決まってんだろ――ておい伊織、今心の声が表情にだだ漏れだったぞ」
「い、いやいやいや気のせい気のせい!」
 指摘された伊織が慌てて顔を背けて誤魔化したが、最終的にツッコミ代わりのちょこパンチ(弱)を1発貰った。

――そして、店巡りをすること暫く。
「や~、しょっぱいのから甘いまで絶品の力作揃いだな!」
 たっぷりとミニセットをゲットした二人が、のんびりとベンチでくつろいでいた。どちらも相当数あったが、特に伊織が気に入ったのは日本酒と塩だけで味付けされたホタテのスープに、旬のいちごを使ったベリーのフルーツスープ。ホタテのスープは煮込まれて酒気は飛ばしつつも、その芳醇な香りとうまみは確りと閉じ込めたしょっぱさはごくごくと飲み干せるほど。フルーツスープも酸味と甘みのバランスが丁度良く、付属の生クリームを足して食べればまた違った味わいが楽しめる逸品だった。
「――何処と無く懐かしい味わいから、初めてみる新鮮なもんまで、粒揃いだな」
 ちょこも既にたっぷり食べた中で、ミルクをたっぷり使ったリゾット風のスープと、ちょっぴり変わり種の素揚げ野菜と鶏肉のトマトスープ辺りが印象に残った様子。ミルクリゾットは、玉ねぎとベーコンを具材に優しくまろやかな味付けで、ほんの少しあの雨の日の粥を想わせて胃が温まる心地がしたし、トマトスープは目の前で選んだ野菜を揚げてくれたので熱々サクサクの歯触りが良く、カリッと皮目を香ばしく焼いた鶏肉と酸味のあるトマトの相性もばっちりだった。
「どれも心身に沁み入るよーな優しい味わいだねぇ」
「おかげで冷えてた体もすっかり温もった。偶にはこういうのも良い」
「おっ、じゃあまたなんかいいの見つけたらちょこニャン誘っちゃおうかな~」
「俺の眼鏡に叶うものなら、まぁ付き合ってやってもいい。あとぷりんは貸さねぇからな」
「ちぇっー」
 スープ片手にそんな他愛無い会話を重ねながら、ふと二人が空を仰ぐ。遠くとおく、彼方を見るようなその表情は――蒼穹に重なったように、晴れやかな笑顔だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
【暁星】

無事にマルシェが開催されて良かったね
あ、とろクマ可愛いってタンブラー片手にいざ!

色々あって悩んじゃうけど
俺は…カボチャのポタージュと…
…む。なんか甘い匂いもするね
フルーツスープだって!ヴォルフ、俺、これ。これ。
瞳は爛々と一目散にブースへと

種類があるからヴォルフが好きなのと合わせて
良かったらシェアしようよ。
ごろっとフルーツをスプーンに乗せて
食べる?って首傾げ
あーんには素直にぱくりと緩む顔

トッピング屋さんでねことわんこの形のバケット見つけて
思わずヴォルフのスープの中へ
さっき猫とのにゃーにゃーがるがるぷち喧嘩が
あんまり可愛かったから
仲良くスープに溶かして

美味しいね、って咲うんだ


ヴォルフガング・ディーツェ
【暁星】
本当にね、楽しい催しは無事に開かれてこそだ

よっし、千鶴に続けとちょうかわなタンブラー片手にいざ進撃っ
あー、まじお腹空く匂いだね…!
うーん、俺はサツマイモを…って千鶴!?早っ!
あ、そして美味しそう(慌てて後追いしつつちゃっかりスイーツスープを確保)

フレーバーは悩ましいけど、王道のリンゴと桃にしよっかな
シェアも是非とも!差し出されたスプーンににこにこかじりつき
俺からもお裾分け、はい、あーんして?(にんまり笑顔で果物を差し出し)

あ、コレさっきの再現?
思い出を美味しく食べるのかい、なら俺は猫さん三頭をえいやっと千鶴のタンブラーへ

うん…とっても美味しくて、そして何より幸せだ
そう、君と笑うんだ



 雨の匂いは遠くに去って、今はただ晴れ渡る空の青が眩しく広がる。春を匂わせる陽射しは暖かく、吹き抜ける風だけがほんのりと冷たい、外歩きにはもってこいの気候。その中で開催されたスープマルシェは盛況を呼んで、あちこちで楽し気な笑い声が響いていた。
「無事にマルシェが開催されて良かったね」
 そんな人々の和やかな喧騒を聞いて、ほっとしたように宵鍔・千鶴(nyx・f00683)が笑みを浮かべる。
「本当にね、楽しい催しは無事に開かれてこそだ」
 くるりと周囲を見回したヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)も、猫に悪戯された様子も無く、大雨に降られた気配もない会場に、良かったと素直に感想を零した。さて、危機を乗り越えたのならあとは猟兵としてではなく、客としてマルシェを楽しみたいところ。入り口ゲートをくぐれば受付係から手渡される入場券代りのタンブラーに、どんなスープを注ごうかとウキウキ持ち上げれば。
「あ、これマスコットキャラ?とろクマっていうんだ。可愛いっ」
「ほんと、ちょうかわだね!」
 そこにはホカホカと湯気の出たマグカップに、とろーんとした顔でもたれかかった白クマのイラストが描かれていた。スープマルシェ公式イメージキャラクター、通称“とろクマ”である。その緩さにほっこりしながら店の立ち並ぶメインブースへ辿り着くと、右からはスパイシーなハーブが、左からは丁寧にひかれた上品な出汁が、とあちこちから魅惑の香りが誘うように舞いこんでくる。
「あー、まじお腹空く匂いだね…!どれからいこっか」
「色々あって悩んじゃうけど、俺は…カボチャのポタージュと…」
「うーん、じゃあ俺はサツマイモにしようかな…」
「他には…む。なんか甘い匂いもするね」
 むむむ、とスープ選びに悩んで眉根を寄せていた千鶴の鼻に、ふわりと風が運んでくるのは甘くて爽やかな果物の香り。興味を引かれるその香りを追いかけてキョロキョロ見回すと、見つけたのは“フルーツスープ”と書かれた愛らしい装飾の看板。
「フルーツスープだって!ヴォルフ、俺、これ。これ。」
「…って千鶴!?早っ!あ、でもそれすごい美味しそうっ」
 見つけるや否や一言だけ告げて、瞳を爛々と輝かせて走る千鶴に、負けじと追いかけるヴォルフガング。辿り着いたのは爽やかな香り漂う、フルーツスープの専門店。レモン蜂蜜かミルクのどちらかベーススープを選んでから、新鮮なフルーツを好きにトッピングできるスタイルで、そのキラキラした仕上がりに手渡される度お客の方からきゃあ!と黄色い声が上がっていた。列はそれなりに並んでいたけれど、余りのトッピングの多さに悩んでいるとあっという間に順番が来てしまいそうで。
「種類があるから、好きなのを合わせて良かったらシェアしようよ。」
「それいいね!じゃあ俺は…悩ましいけど、王道のリンゴと桃にしよっかな」
「間違いないね。じゃあ俺はこれとこれ…かな」
 直前まで選んで決めたのは、千鶴はミルクをベースに旬の苺と変わり種のマンゴスチン。ヴォルフガングはレモン蜂蜜をベースに、リンゴと桃のトッピング。こちらは見た目の綺麗さも売りなので、お店側オススメの透明カップに注いでもらうことにした。ちょうど近くに立ち食い用スタンドもあったので、待ちきれないとばかりにそこで早速スープを頂くことに。お互いせーの、で一口すすれば――千鶴が選んだミルクベースはほんのりリンデンの香りづけがされていて、甘やかながらも具材を引き立てる素朴な口当たり。そして苺は流石旬の果物、ぎゅっと詰まった春らしい香りがたまらない。マンゴスチンは果物の女王と異名をとるだけあって、濃厚な甘さと南国を思わせる豊かな風味が新鮮な驚きに満ちていた。一方ヴォルフガングのレモン蜂蜜は言わずもがなの好相性。そのままドリンクとしてもゴクゴク飲めそうな爽やかで程よい甘酸っぱさが喉に優しい。そしてサクッと歯触りのいい林檎とも、たっぷりと果汁を含んで若すぎず熟れ過ぎずのバランスが取れた桃とも、合わせて飲めばまた違ったおいしさが楽しめた。
「ヴォルフもこっち食べる?はい」
「んっ…お、まったりとして美味しい!じゃあ俺からもお裾分け、はい、あーんして?」
「…うん、そっちも甘酸っぱくって爽やかでいいね。」
 ぱくり、とシェアすれば味も楽しみも、美味しい顔も、ひとつがふたつに増えていく。そして嬉しいかな哀しいかな、おいしいものは消えるのも早くて、あっというまにカップは空に。ひんやりと甘やかなスープを飲み干したなら、今度は温かなものが恋しくなって、最初に名を上げていたポタージュを求めて店を跨ぐ。今度はとろクマタンブラーに並々と注いで貰い、また同じスタンドに戻ろうとしたところでふと千鶴がその足を別の方へと向ける。どうしたの、とヴォルフガングが尋ねたら、指さす先にあったのは沢山のトッピングが並ぶ店――の、わんことにゃんこの小さなバケット。悪戯っぽい笑みと共に、これを下さいと買い求めたら、そのままヴォルフガングのさつまいものポタージュへぽとり。柔らかな黄色の渦の中、追いかけっこのようにくるくる回る姿は、まるで。
「あ、コレさっきの再現?」
「にゃーにゃーがるがるの喧嘩が可愛かったからね、つい」
「思い出を美味しく食べるのかい、なら俺からは…こうだ!」
 と、負けじと返すヴォルフガングが選ぶのは猫三匹分のバケット。それを千鶴のかぼちゃのポタージュへ落とせば、もふもふ猫だまりまで再現されて。かわいいね、の笑い声をひとつあげて、くるくる仲良く蕩けたところを口にすれば、温かで滑らかで、やさしい味がぽかぽかとお腹の底から温めてくれて。
「美味しいね」
「うん…とっても美味しくて、それに」
口に運ぶおいしいも、共に並んで歩く今も、あたたかな春の陽に照らされて、綻んで。
――何よりも幸せだと、花染む季節に咲い合おう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨野・雲珠
ロキさんと/f25190

落ち着いたら急にしおしおに
ふと言葉が切れると、先ほどの光景を思い出してしまう…
──よい匂いがします!(復活)
なんと…この立派な容器を無料で?
ロキさんロキさん、最初は何にしましょう!

すりながしが素晴らしい…お出汁は偉大ですね
おいくつですかと言いつつお望みのままに。
最近ロキさんといると父性(母性?)の芽生えを感じる…

スープは養生にもよいのです!
帰ってから試せるよう、
あれこれ頂いてはわかる限りで覚書していきましょう

ロキさん、俺ね、さっきすごくよいものを見ました
愛なんて言葉も知らずに済むくらい、大事に育てて頂いた自分の姿
それでね、なんていうか…
惜しみなく与える桜になりたいなって


ロキ・バロックヒート
雲珠くん(f22865)と

しおしおなってる傍らの子をぎゅーっとしたいんだけど
これは甘やかしちゃう?ダメかなぁ
悩んでたら復活してた
ほんとだ良い匂いするね

普段食べないもの食べてみたいかも
スープをあーんって食べさせてなんて
ふふふ幾つだと思う?
ほんとだほっこりしておいしいねぇ
これオフクロの味とかいうのだったりする?

スープを楽しみつつ研究に余念がない姿は
見てるだけで楽しいし可愛らしい
俺様はこの変わり種っぽいポトフかな
なんかエビとか魚も入ってるし触感が面白いの

ダシ語りも生き生きしてて
雨の上がった空のよう
良いもの?
なんだか可愛いこと言ってるから
つい撫でちゃうけど…
十分与えているよというのは
言わないでおこうか



 雨の匂いは遠くへと去り、空はただ澄み切った青い色を湛えている。春の芽吹きを促すあたたかな陽射しに、吹く風はほんのりと冷たいという、外歩きにはもってこいの気持ちよい気候の中――しおしおと枝垂れる桜がひとり。ぽつりぽつりと言葉を零しては、止まるたびに俯き、雨野・雲珠(慚愧・f22865)が見るからに消沈した様子を見せていた。とりあえずその様子に笑って付き合うロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)も、しおしおなってる傍らの子は何ならぎゅーっとしてあげたい心持ではあったが――これは甘やかしちゃう?ダメかなぁ?とふんわり迷っていて。悩めるふたりが一先ず目的地に足を向け、スープマルシェのゲートが迫ってきたその時、一陣の風が二人を撫でる。

…くんくん。

「──よい匂いがします!」
(――あ、復活した。)

一瞬で雲珠の顔に生気が戻った。おいしいものは偉大です。
 
「ほんとだ良い匂いするね」
 ロキも真似てスン、と鼻を鳴らすと、馥郁たる出汁、ようく煮込まれた野菜、香ばしく焼かれた肉など色んな香りが漂ってきて、お腹の虫がくぅ、となきそうになる。入り口をくぐったところで手渡されるタンブラーには、その確りとした造りに雲珠がふわぁ…!と目を輝かせながらくるくると回し眺めていた。
「なんと…この立派な容器を無料で?」
 蓋つきで保温はばっちり、ステンレス製で軽すぎず重すぎず、更には公式キャラクターの“とろクマ”イラスト入り!というスープマルシェの売りのひとつなので、恐らく喜ぶ雲珠の姿には運営委員たちも本望だろう。
「ふふ、うずくん嬉しそう」
「それはもう…!ロキさんロキさん、最初は何にしましょう!」
「んー…じゃあ普段食べないもの食べてみたいかも」
 パッと見る限りでも、店の数は数えるのに苦労するほど並んでいる。それならせっかくなので、未知の味に出会ってみたいというのもわかる話だ。
「ロキさんに馴染みがなさそうな…ではあちらなんてどうでしょう?」
 と、雲珠が指さすのは和風の看板を掲げる、かぶのすりながしをメインにしたお店。面白そうだとロキが頷くので、そのまま近寄ってタンブラーにたっぷりと注いでもらう。あしらいの柚子と三つ葉にかに身も忘れず、せっかくなので温かいうちに戴こうと近くのベンチに腰掛けて、一口。――まずはその口当たりの滑らかさ。するりと舌を撫ぜて喉を通り、お腹からぽかぽかと温まる心地が、雨に冷えた体に優しくて。丁寧にひかれたことがわかる昆布とかつおの出汁は、スープが通り過ぎたあとも鼻にふわりと抜けて上品な香りを醸す。柚子の爽やかさ、三つ葉の豊かな香り、かに身のしょっぱいアクセントもまた口にするたび味に彩りを添えて、いくらでも入りそうな気がしてしまう。
「すりながしが素晴らしい…お出汁は偉大ですね」
「そうなの?じゃあ食べさせてくれる?」
 と、美味しそうに啜る雲珠に向かって、ロキが屈託なく笑ってあーん、と口をあける。
「ロキさんおいくつですか…」
「ふふふ幾つだと思う?」
 はぐらかすような悪戯っぽ問い返しに、重ねるのをやめて望むままにスプーンを差し出す。最近一緒に居ると父性…いや母性?を感じ始めた雲珠の心中を知ってか知らずか、目論見通りに行ったロキの方は笑みを深めて一口、そのまま喉を落ちるスープの喉越しに、金色を溶かした瞳をぱちりと瞬かせた。
「ほんとだ、ほっこりしておいしいねぇ。これオフクロの味とかいうのだったりする?」
「そういう方は多いかもしれませんね。スープは養生にもよいものですし!」
 そもそも出汁とは…と尋ねるついでに始まった講釈にはうんうん頷きつつ、ひたすら可愛いなぁ、とにこにこ眺めるロキの構図は、傍から見ても微笑ましい光景だった。

 すりながしから始まったスープ巡りは、ミニセットの選択肢も手助けして多岐にわたり、オーソドックスなポタージュやお味噌汁に加え、フォーや水餃子、さらにフルーツスープや桜餡と白玉の抹茶掛け、なんてデザート系も押さえたりした。
「ロキさんはどれが気に入りましたか?」
「俺様はこの変わり種っぽいポトフかな。なんかエビとか魚も入ってるし触感が面白いの」
 と、ロキが手にしたスープは魚介の香りが芳醇で、はんぺんを使ったエビつみれがもちもちつるっとした食感で、スープながら食べ応えもある逸品になっていた。それを聞いて帰ってからも試すのだと、真面目な顔で具やスープのわかる限りを覚書している姿はとても生き生きとしていて、まるで雨の上がった空のようにロキには映った。
「うずくん元気そうでよかった。」
「…ロキさん、俺ね、さっきすごくよいものを見たんです」
「良いもの?」
「はい…愛なんて言葉も知らずに済むくらい、大事に育てて頂いた自分の姿」
 雨の中でみたかつての姿。雪野に在って、それを寒いと思わないくらいに。いつかなんて思いつかないくらいに、満たされて慈しまれていた、あのころ。届かなくて焦がれる気持ちもあるけれど、降り積もるように貰った慈愛は、今もきっと胸の内にあるはずだから。
「それでね、なんていうか…いつか俺も、惜しみなく与える桜になりたいなって」
 それは、童のように幼くて、それ故に純粋な願い。風に舞う花びらのように、降り注ぐように想いを与えたいと願うその姿が、眩しくて愛らしくて。たまらずロキが手を伸ばして、その短い黒髪をわしゃわしゃと撫でる。

――もう十分与えているよ、というのはまだ言わないでおこうかな。

 ロキの顔に浮かぶ微笑みこそ、与えたものの一端とは、まだ知らないまま。撫でられて照れながら、やわく笑って見せるその顔こそきっと――慈しみの花と咲うのだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
正にマルシェ日和ですね
思い切り楽しみましょう

セラフィムさんもご一緒に~
迷いますが
虹を仰げ見ながらまず向かうのはオニオンスープ
スープをごくん
パンをもぐもぐ
スープに浸したパンももぐ

本当に逸品ですね!

ご馳走様をしたら次はかぶのすりながし
出汁が最高です
和のスープもいいですね

そして今度はフルーツスープ
苺に甘夏、マンゴー
今の季節にぴったりです

よりどりのスープを楽しんで人心地ついたら
会場の片隅で竪琴を奏でます
アルモニカとの協奏もぜひ

マルシェに音楽はつきもの
スープを楽しむBGMとして
リクエストにもお応えしますよ♪

マルシェのさざめきに沿えるように
沢山の笑顔を祝すように旋律を奏でます
十里雨さんに届くことを願って



 虹の橋が渡した、真っ青に澄み渡った空の下。ポンポンと軽快な花火の音で開幕したスープマルシェは盛況で、あちこちで笑い声とすれ違う人々の笑顔が見て取れた。
「正にマルシェ日和ですね。せっかくです、私も思い切り楽しみましょう」
 箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)もその楽しそうな空気に乗る様に、にこにこと会場内を散策する。右手のクルトンたっぷりコーンスープはクリームイエローが美しいし、春雨と肉団子入りの中華スープはご飯になりそうなくらいボリューミーだし、普段はフルコースの一品としてのみ提供されるビスクスープは限定品の魅惑に溢れているし。
「どれもこれも美味しそうで、食べ過ぎてお腹を壊しちゃいそうです」
 温かいスープとはいえ、食べ過ぎは厳禁。全店制覇は無理でも、ここぞというところは出来る限り押さえたい。うんうん悩んでまず初めに選んだのは、玉ねぎたっぷりのオニオングラタンスープ。タンブラーにたっぷりと注がれたスープに、カリッと焼かれたバケットの上をとろーり流れるチーズ。目から既に美味しいところを、まずは猫舌ならずとも火傷に注意しながらスープだけを。次にパンだけを、そして最後にスープに浸したパンをと食べ進めれば…。
「本当に逸品ですね!」
 と、思わず感想が零れた。甘くなるまで煮込まれた玉ねぎたっぷりのスープは一口目に優しく、続くバケットはサックサクの歯触りとチーズのミルク感濃厚な風味がたまらず、ぷわっぷわになるまでスープを吸わせたバケットが口の中でふわりと溶けていく頃には、仄々の顔にも満面の笑みが浮かんでいた。底の一滴までパンですくって綺麗に平らげたら、にこにこのご馳走様を添えて次のお店へ。和風ののぼりに惹かれてよれば、ここはかぶのすり流しが目玉とのこと。早速1杯ついでもらい、ゆっくり啜ると優しい出汁の風味が鼻に広がり、次にかぶのとろりとした柔らかなのど越しが通り抜けていく。添えられたかに身の塩っけも、ゆずと三つ葉の香りで飽きずに食べられるところも気に入って、「和のスープもいいですね」とほっこり感想を零せば、店の主人からも嬉しそうな笑顔が返された。3つ目は趣向を変えて、春の訪れを感じさせる甘いスープをチョイス。ミルクソースに鮮やかな果物をふんだんに乗せたフルーツスープは爽やかなくちどけで、いちごに甘夏とマンゴー、それぞれを食べたり一緒に頬張ったりと味わいを変えているうちにあっという間に完食してしまった。

 そうしてたっぷりスープを味わって、ひとまず休憩をと会場の片隅に腰掛けていると、ふと裾をくいっと引かれたような気がした。振り向くとそこにいたのは、両親に連れられた5歳ほどの小さな少女。
「ねぇおにいちゃん、それなぁに?線がいっぱいついてるの、楽器?」
「ええ、これは竪琴と言うんですよ。そうだ、良かったら演奏しましょうか。マルシェに音楽はつきものですしね」
「ほんと!?やったぁ!ききたいききたいっ」
「ふふっ、リクエストはありますか?」
「んっとね、じゃあ“きらきら星”がいいな!」
「了解です、ではどうぞ――ごゆっくり♪」
 そうして急遽始まった音楽は、軽やかな竪琴から奏でられる聞き馴染みのある音色に釣られて、あれよあれよとひとが集まり、あっという間に演奏会のようになっていった。虹のふもとに集い、楽しむ人々の声、共に歌う人の笑顔。その全てを祝し、きらきらと輝く星に準え乗せて――空の果てまで届く様にと、優しく爪弾いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御剣・誉
おー、スープのいい匂いじゃん!
腹減ったなー
エリンギ、何食おうか?

匂いに惹かれるままに目につく店を覗きながら
ふらふらとマルシェを楽しんで
うーん、肉系はないかな…
腹にたまるものがいいけど、あんまりないか?
あつっ! はー、美味っ
スープっていくらでも食べれそうだよな
つーか、一仕事したし
好きなだけ食ってもいいんじゃね!?

和洋中を問わず、店員に勧められるままにスープを食べて楽しんで
エリンギにもオレのを分けてやるよ
どうだ?美味いよなー
でも刺激の強いのはやめとけば?
あー言ったのに(呆れ)

さっきの雨は何だったんだろうな…
うーん、まぁ考える程じゃないか
目の前のスープの方が大事だし(キリッ

アドリブ歓迎
スープお任せ



 雨はいつの間にか止んで、見上げる空は高く蒼く澄み渡っている。降り注ぐ陽の光は春めいて暖かく、吹く風にはまだほんの少し冬の名残を残して冷たい、そんな外歩きには絶好の日和。
「おー、スープのいい匂いじゃん!腹減ったなー」
 そんな中開催されるスープマルシェへ踏み入りながら、御剣・誉(焼肉王子・f11407)がきょろきょろとあたりを見回す。店数は多く、見渡す限りでも数限りない――けれど。
「うーん、肉系はないかな…腹にたまるものがいいけど」
 よく見れば多いのは野菜を中心としたポタージュや、これまた野菜がおおいポトフに味噌汁。水餃子の店なども見かけたが、もう一声肉肉しさがが欲しい…!の欲望を満たすものが中々見当たらない。やはりスープとなればあっさり系か、とあきらめかけた所で誉の鼻にふわっと届いたのは、がっつりとした肉の匂い。これは当たりだと匂いを頼りにたどり着いたのは。
「なにこれ、えーっと…しーずー?獅子頭?犬なんだかライオンなんだかわかんないけど、とりあえずすっごいおっきい肉団子のスープ、ってことか。よーしこれにしよう!」
 と、決めたのは獅子頭(シーズートゥ)と書かれたスープのお店。名の通り獅子の頭ほどもある、と例えられるかなり大きめの肉団子を中心に、白菜と春雨を一緒に煮込んだ中華スープが売られていた。ウキウキとタンブラーに注いでもらうと、それこそ溢れそうなぐらいの肉団子の大迫力。使い棄てスプーンで掬うのも一苦労な大きさのそれに、熱々のうちにがぶっ、とかぶりつく!
「あつっ!はー、でもこれめっちゃ美味っ。なんだろ、歯ごたえがサクッとしてて面白いなぁ」
 豚ひき肉を中心に、ざく切りのれんこんを練り込まれた肉団子はジューシーで肉感たっぷり。スープにも溶けだした肉汁は春雨がスープごと旨味を吸い上げているし、とろっとなるまで煮込まれた白菜も甘味があって箸休めにもってこいで、良いバランスに仕上がっていた。
「いやーこれはボリュームあるけど、スープっていくらでも食べれそうだよな。つーかオレ一仕事したし…ここは好きなだけ食ってもいいんじゃね!?」
 そんな天啓を得た誉が、顔をキリッとさせながら手にしたスープを一滴残らず飲み干し、また新たなスープを求めて店の並ぶブースへと駆け出して行った。

 右に東西比べ味噌汁とあればミニセットで全種制覇し、左にクリームシチュー専門店があれば具を変えトッピングを変え味わって、和洋中問わずにあれこれ楽しんで食していく。その傍らには、良い匂いに思わず気になって出てきた相棒のエリンギも居て。
「エリンギどうだ?美味いよなー」
 一口おすそ分けを貰えばキュウ~!と嬉しそうに鳴いて喜び、誉の食べるどれもに頂戴!とおねだりするけれど。
「あ、でもその刺激の強そうなのはやめとけば?…って、あー言ったのに」
 注意する声もむなしく、“ピリ辛キムチチゲスープ”を啜ったあとには驚きと共に、暫し火吹きドラゴン状態になっていた。ひりひり口が痛んだ様子のエリンギを撫でていると、ふと一陣の風が二人を撫でていく。そこに仄かに感じたのは、今にも消えそうな雨の匂い。
「そういえば、さっきの雨は何だったんだろうな…」
 ふと過ぎるのは、雨の中で見た光景。記憶の底をひっかくような、探してた何かを見つけたような心地は、まだ胸に残っている。けれどそれ以上に思い当たるものはなく、考えても頭が痛くなるばっかりなので。
「うーん、まぁ考える程じゃないか。目の前のスープの方が大事だし」
 と、キリッとした顔であっさり追及をやめて、手にしたスープを飲み干して空にする。
「よーし、ご馳走様!でもまだまだいくぞー!」
 そう言ってエリンギを伴いながら、いざ三度目のスープ巡りへと出撃していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
明(f00192)と

どれも美味しそうだしミニセットで楽しもうかな
色んな味を覚えたいんだ
まずはポトフと野菜のポタージュを
菜の花とベーコンのミルクスープとオニオングラタンスープも美味しそうだ
メイはなにを……メイ?
スープを持ってしょんぼりする姿に首を傾げ
どうしたの? スープが熱かった?
 
ああ、苦手な野菜があるのか
じゃあそのスープはオレのと交換しよう
メイはポトフ好き?

苦手なものを無理に食べる必要はないよ
他のもので補えばいいんだから
けれどもし味は然程苦手でないのなら、このポタージュを一口飲んでみるかい?
これ、ブロッコリーなんだって
食感はないからメイも少し食べられるかもしれないよ
貰う一口に、お返しに笑みを


辰神・明
ディフおにいちゃん(f05200)と
妹人格:メイで参加

メイも、ミニセットにするの、です!
いろんなスープ、楽しみさん……だったけれど

メイには、どうしても
どーーーしても
立派なレディをあきらめそうになるくらい
苦手な野菜さんがいるの、です……

おいしそうな匂いがするのに
スープの中に、ブロッコリーさん……
ディフおにいちゃんの前だから、しっかりしなきゃ
でも、でも……(涙目になりつつ

ディフおにいちゃん、えっとね
あつくなくて、でも……こうかん、いいの?
ポトフは、すきなのです、よ

味は、大丈夫です
ぽたーじゅ?食感が、無いならと一口
わあっ……!ディフおにいちゃん、おいしいね
お礼にポトフ、はい……です!(あーん



 涙の痕もそっと乾かすように、ふわりと吹くのは春の風。まだほんのりと冷たくて、でも暖かな陽ざしの元ではそれが心地よくて。そんな日和には皆も浮足立つのか、会場内は楽し気な人々でにぎわっていた。逸れないように、と並び歩いているとあちこちからお腹のすくような香りがしてきて、辰神・明(双星・f00192)がぱぁっと顔を明るくする。
「どれもとっても、おいしそうな匂い、なのです…!あ、でもこんなに沢山だと、えらびきれない、かも…?」
 先ほどの雨の淵からは立ち直ってくれたようで、スープに興味津々な様子にそっと胸をなでおろしながら、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)がそうだね、と同意する。せっかくだから数を楽しみたいけれど、スープとはいえおなかに入れるには限度がある。さてどうしたものか、と思ったときにふと目に留まったのは店先のお知らせチラシ。
「メイ、ミニセットというのもあるみたいだよ。どれも美味しそうだし、オレはミニセットで楽しもうかな」
 色んな味を覚えたいんだ、と微笑むディフに、素敵です!と返しながら。
「ならメイも、ミニセットにするの、です!いろんなスープ、楽しみさん……」
 そんなわけで迷いも無事解決し、いざはじめの1杯をと、うきうきブースへ向かった――はずだった。

 いくつかお店を見並べて、ディフが選んだのはハーブ入りのソーセージが乗った野菜たっぷりポトフと、緑色をした野菜のポタージュ。菜の花とベーコンのミルクスープに、オニオングラタンスープも美味しそうだったので、余裕があれば次はそれに、と思いながら隣を見ると。
「メイはなにを選んで、……メイ?」
 訊ねた先のメイが、何故かひどく沈んだ空気を纏っていた。手には温かなスープが注がれた小さなカップを持っているし、選んだ時にはあんなにうれしそうにしていたはずなのに。
「どうしたの?スープが熱かった?」
 やけどをしていたら大変だと、首をかしげて尋ねたら、メイが目を潤ませながら口を開いた。
「ディフ、おにいちゃん…メイには、どうしても、どーーーしても、立派なレディをあきらめそうになるくらい苦手な野菜さんがいるの、です……」
 メイが持っているのは鶏肉と春キャベツのクリームスープ。名前に含まれるからその2つは恐らく大丈夫なのだろう。なら一体何が駄目なのか…とよく見ると、それ以外に具材として浮かんでいたのは、ふさふさと深い緑色を讃えた、小さな森を思わせる野菜。
「ああ、ブロッコリーが苦手なのか」
「おいしそうな匂いがするのに、スープの中に、ブロッコリーさん……」
 しおしおと項垂れながらも、せっかく一緒に来ているのだから、ディフの前ではもう泣かずに居たい。だいじょうぶ、しっかりしなきゃ、と必死で自分を鼓舞する。けど我慢していても、せっかくのスープがたべられない、と思ってしまうとみるみる瞳に涙がたまっていく。
「じゃあそのスープはオレのと交換しよう。メイはポトフ好き?」
 すると、ディフがあっさりとそう申し出た。差し出されたポトフにはブロッコリーの姿はなく、ほかほかと湯気が立っておいしそうだ。
「えと、ポトフは、すきなのです、よ。でもディフおにいちゃん、えっとね、あつくなくて、でも……こうかん、いいの?」
「苦手なものを無理に食べる必要はないよ。他のもので補えばいいんだから」
 その言葉のおかげで、“にがてをあきらめた”という罪悪感も消えて、交換したスープを手にした時はほっとした気分になった。
「メイはブロッコリーの何が苦手?」
「あ、の…食感、なの、です。口に入れた時のつぶつぶのところとか、茎のびみょうな歯ざわり、とかが…うう。」
「味のほうどう?」
「味?味は、大丈夫…です」
「そうか。味が然程苦手でないのなら、このポタージュを一口飲んでみるかい?」
「ぽたーじゅ?」
 きょとんと首をかしげるメイに、ディフが手に持っているスープのカップを傾けて見せる。選んだふたつのスープの内のひとつ、緑の野菜のポタージュ。そこに使われているメインの野菜はというと。
「これ、ブロッコリーなんだって。食感はないから、メイも少し食べられるかもしれないよ」
「食感が、無いなら…!」
 これも立派なレディになる修行…!との意気込みで、決意を固めたように顔をキリッとさせるメイの口へ、ディフがそっと一口運んでやる。ギュッっと目を閉じてあーん、と飲み込むと、暫く確かめるように緊張してた顔がみるみると綻んでいって。
「わあっ……!ディフおにいちゃん、これ、おいしいね」
 カタチも食感もなくなって、とろけるまで煮込まれたポタージュは舌触りも滑らかで、ブロッコリーの甘みや爽やかさだけをまろやかに溶かし込んだ、優しくてほっとする味わいに仕上がっていた。
「よかった。メイの口にあって。」
「はい!じゃあ、メイからお礼にポトフ、はい……です!」
 いっぱいの笑みと共に差し出されるひと匙には、返すように微笑みかけて。口に運ぶその味がとてもおいしかったのは、きっとスープ以上に素敵な、笑顔のスパイスのお陰。

何時かの時に思い出す今日は、遠い過去に涙した日じゃなくて。
――大好きな友達と、あたらしい“おいしい”に出会えた日。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
【桜舞】

花と散った雨と傘
澄んだ青空を見上げても
心はどこか曇り気味

あらあら、清史郎さん!
合流できて良かったです
向ける笑みはいつものようにふわほわ柔く

せっかくですし
色んなスープを飲みたいですねぇ
あちこちから良い匂いがしてきてそわり
あら、トマト苦手なのですか?

春らしい菜の花のスープに
ハーブソーセージのもの
野菜のうまみたっぷりのスープをミニセットで
零さないよう気をつけながらどこかの席へと向かいましょう

清史郎さんはどんなスープを?
オニオンスープも美味しそう
果物のスープ?それは少し気になりますねぇ
感想を教えてくださいね?

ふふふ、あったかくてほんわかしますねぇ
バケットも美味しい
ゆるゆら尻尾をゆらして微笑んで


筧・清史郎
【桜舞】

空も怪異も晴れた様だな
ふと晴空から視線戻し、共に赴いた彼女の姿見つければ
千織、と軽く手を上げ名を呼んで
いつもの笑み向ける彼女と、再び共に
その笑みの前に垣間見た表情の理由は聞かずに

様々な味や具材のものがあって悩むな(わくそわ)
俺は定番のものと少々変わったものを選んでみようか
加熱されていれば問題はないのだが…トマトのものはそっと見るだけに

俺は、チーズのバケット浮かべたオニオングラタンスープと
興味そそられた甘い果物のスープを
席に着き、にこにこ手を合わせ
ふふ、では早速いただこうか

菜の花か、千織のスープも春めいていて良いな
果実のスープも甘酸っぱくて美味だ

揺れる尻尾を見つめながら、ほんわか笑みを



――雨が、過ぎ去っていく。

 花と散らした傘と共に、遠くとおく。まるで降っていたことこそがまぼろしのように、あっという間に雲が消えて晴れ間がのぞく。その日差しは暖かく、春の芽吹きを誘うように柔らかなもの。そのはずなのに。ふぅ――と息を吐く、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)の顔は、どこか浮かない色を浮かべていた。

――あれは、一体何だったの?

 過去とおぼしき光景を目の当たりにして、それでも未だ頭には霞がかかる。もっと、と思うとツキリと頭が痛んで、それ以上には踏み込めない。どうしようもなくて、物憂げに顔を伏せた所で――筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)が軽く手を上げて彼女の名を呼ぶ。
「――千織」
「…あらあら、清史郎さん!合流できて良かったです」
 憂鬱を驚きにこそりとすり替えて、直ぐに浮かべる微笑みはいつものようにふわりとやわい。その在り様に、僅かに垣間見えた燻る表情は何も問わず、清史郎もああ、とだけ笑み重ねて、空を仰ぎ見る。
「随分と綺麗に晴れたな。これならきっと、すーぷまるしぇも無事に開かれるだろう」
「ええ、ええ。そうとあっては、駆けつけないといけませんねぇ」
 ねこも雨も退けて、最早妨げるものは何もない。なら、あとはひと心地ついて楽しみましょう、と。二人が並んで会場へと歩を進めた。

「それにしても、これはまた」
「壮観、ですねぇ」
 辿り着いたスープマルシェのゲートをくぐれば、そこはまさにスープの祭典に相応しい店の数々が並んでいた。漂ってくる香りに千織がそわりと耳を揺らしつつ、目移りしながら手に顔を添えた。
「せっかくですし、色んなスープを飲みたいですねぇ」
「様々な味や具材のものがあって悩むな」
 和洋中に始まり、フォーやスープカレーなど国籍は問わない自由っぷり。それに各店舗でのオリジナル具材は勿論、トッピング屋にも様々な食材が並んでいるので、組み合わせを考えたらそれこそ幾通りになるやら。それだけあれば悩むのも必須というもの。一先ずあちこちの店を冷かし歩き、あれはどうか、これも美味しそう、などと散歩を楽しむことにした。途中千織がある店で美味しそうですね、と指さした生トマトを飾ったバジルスープを、清史郎がそっと見ないふりをしたところ。
「あら、トマト苦手なのですか?」
 とツッコミが入ったが、焼いたら平気だとするぅり受け流した。そう、清史郎は生のトマトが立ちはだかれば切り刻むくらい嫌いなのは、公然の秘密だったりする。

 結局あれこれと見て回って、千織が選んだのは春らしい菜の花のスープに、ハーブソーセージを乗せた野菜のうまみたっぷりのスープをミニセットで注文。清史郎の方は定番のものと少々変わったもの、をコンセプトにチーズのバケット浮かべたオニオングラタンスープと、興味をそそられたごろっと果物を浮かべたフルーツスープを選んでいた。スープとあっては零さないように、冷めないうちに。近くにあったテント式の飲食ブースへと入っていって、空いた席に向かい合う。スプーンもナプキンもばっちり準備は済んで、視線が合えば微笑みとともに――いただきます、と手を合わせ、ひとくち。

――まず、千織が選んだのは菜の花のスープ。ミルクの優しい風味にベーコンのうまみが加わった味わいが、啜ればホッと心を落ち着けてくれる。そしてほろりと苦い菜の花が正に春を告げるように、爽やかな後味を生んでいた。次に野菜とソーセージのポトフはとろとろになるまで煮込まれた野菜の甘さが滋味深く、ソーセージは噛めばパリッと音が立つほどに肉厚ながらハーブの香りのお陰でしつこさはまるでない。またその香りがスープに広がっていくことで、先ほどの野菜だけとは違った味わいを添えてくれる。

――続く清史郎が口にするのは、オニオングラタンスープ。形がなくなるまでとろっとろに煮込まれた玉ねぎはスープに甘味とコクを与えて、胃に落ちるたびぽかぽかと体を温めてくれるよう。少し食べ進めたところで今度は添えられたチーズバケットだけを齧ると、さくりとした歯ごたえに香ばしいチーズの味わいが楽しい。そしてぷわっぷわになるまでスープを吸わせたバケットを食べれば、最後まで飽きずに変化を楽しめた。次に甘党としては逃せなかったフルーツスープは、ごろっと乗せられたイチゴは旬ならではの素晴らしい風味と程よい酸味が口当たりをさっぱりとさせ、もひとつごろりと加わった桃も熟れ過ぎず固すぎずの絶妙な塩梅で、ベースになったリンデンの香りをつけたミルクスープと見事な調和を見せていた。

「はぁ、温まりますねぇ…そういえば清史郎さんはどんなスープを?」
「ああ、俺はオニオングラタンスープと果物のスープを選んだ。千織は?」
「私は菜の花のスープと、野菜とハーブソーセージのポトフを。それにしても、果物のスープ?それは少し気になりますねぇ」
「果実のスープは甘酸っぱくて美味だ。然しそちらは菜の花か、千織のスープも春めいていて良いな」
「ええ、ほろ苦さが後を引いてとても美味しいです。どちらも当たりなようで何よりですねぇ」
 感想を交換しあえば、なんだか美味しい気持ちもひとつ、ふたつと増えていくよう。そしてあたたかなスープにいつの間にか掬っていた燻った気持ちも、とろりとけて消えて行ってしまったようで。
「ふふふ、あったかくてほんわかしますねぇ」
「ああ、良い日だな、今日は」
 ふわり、ゆらり。楽し気に揺れる尻尾と、それを見つめる優しい視線。春の日和のあたたかな一日を、今はただゆっくりと楽しんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

垂没童子・此白
――ごちそうさまでした
流石はサトーさんが選んでくれたスープですね
美味しいスープは、冷えきった体と心を芯からあたためてくれて。囚われた過去の記憶や、消えた彼女の行く末…胸の中で冷たく渦巻いていた不安や哀しみが、少しずつ解けていきました
青く澄み切った空に向けて、今一たびの祈りを

御手透きの頃合いを見計らって、お店の方にお礼を言いに行きましょう
とっても美味しくて、すっかりぽかぽかになりました。ありがとうございますっ

外に出たがっていたサトーさんは、私の周りをふわふわと。目にされたお店の方にもきっと幸せが訪れる筈です
ワラシからも、ささやかながら恩返し。懐中でこっそり刀の鞘を払い、あたたかな光を燈しましょう



「――ごちそうさまでした。」
 雨の匂うはもう遠く、空は美しいまでの青色を讃えて。降り注ぐ陽に春の息吹を感じながら、垂没童子・此白(サヒモチワラシ・f09860)が空のタンブラーを前に、ぱちんと手を合わせてお辞儀する。
「流石はサトーさんが選んでくれたスープですね」
 そういって桐箱の内に微笑みかけながら、口にしたスープを思い起こす。――ベーコンと菜の花のミルクスープ。まるでサトーさんみたいに綺麗な白色だといったら、よろこんで箱の内をふわふわしていたのが微笑ましくて。口当たりはミルクのまろやかさに、ベーコンの塩っけと菜の花のほろ苦さがそれをくどく感じさせず、染みこむように滋味深い味わいだった。美味しいスープは、冷えきった体と心を芯からあたためてくれる。囚われた過去の記憶や、とけるように消えた“彼女”の行く末。冷たい雨の中で降り積もり、胸の中で渦巻いていた不安や哀しみが、まるで少しずつほどけていくような――そんなやさしい心地がした。そのことが嬉しくて、買い求めた店が手隙になるのを影で待ちながら、ちょうど客足が切れたタイミングで駆け出して、今日一番の笑顔でお礼を告げる。
「とっても美味しくて、すっかりぽかぽかになりました。ありがとうございますっ」
「ああ、ご丁寧にありがとう。こちらこそ、選んでもらって嬉しいよ」
「あ、さっきの!お礼なんて嬉しいなぁ~。良かったらホントのお店にも来てねっ」
「ここのすぐ近くにあるのよ。いい子にはサービスしちゃいますしっ!」
「こーら!まったくもう…すいません騒がしくて」
「いいえ、とっても賑やかで、こっちも元気をもらえました」
「そう言って貰えると助かるよ。じゃあ、この後もマルシェを楽しんでね」
「はいっ」

 楽し気なお店に手を振った別れ際、ふとカタカタと桐箱が揺れた。蓋を外すとぽんっとサトーさんが飛び出して、此白の周りをふわふわと舞い始める。“え、何あのふわふわ!綿毛…にしてはおっきい?”“えっ、ケセランパサラン?”なんてきゃあきゃあ笑う声を後ろに聞きながら、此白がふふ、と優しく微笑む。見ることが出来たあの店の人たちにはきっと、近く幸せが訪れる筈。そしてワラシからもささやかながら恩返しを贈りましょう、と懐中でこっそり刀の鞘を払う。すると空からふわり、ひらり、雪のような、蛍のような、あたたかな光が燈される。それは雨のまほろと同じく、儚く消えてしまうものだけど。

――今ひとたび籠める祈りに、幸せを願って。


============================


――あたたかな春の日和に、たくさんのおいしいを送り届けて。

 日が傾くころには、スープマルシェは大盛況のうちに閉幕の時間を迎えていた。どこもかしこも売り切れが続出して、隣同士今日はよく売れたね、と互いの労をねぎらい合っていた。そして集計や片付けの申しつけの為に、各ブースの責任者がメインテントに呼ばれている、その時間に。

トゥルルルルル…トゥルルルルル…と、ひとつのスマホが、鳴った。

「あっれ、店長スマホおいていってるじゃん。」
「ホントだぁ、今メインテント行っちゃってるのに…まだしばらくかかるよ?あれ。主催ちょー話ながいし」
「んーちょっと失礼してお相手だけでも確認を…あれ、この“〇〇病院”って、たっくんの入院してるところじゃない?」
「え、うそ、どうしよ。緊急の要件かな」
「うう~…えーいごめんなさい店長!後で叱られます!『もしもし、すいません店長いまスマホ置いて離れてまして。あの、緊急の要件なら伝言か、なんならスマホこのまま持っていきますが…はい、はい、………え、え!?う、うそホントに…?』」
「ちょ、美咲ちゃんなんで泣いて…まさか、え、もしかして、そんな…?」
「違う逆だよ逆!たっくん今…起きたって!目ぇ覚ましたって!奇跡だよ!奇跡おきたよ!!」
「えっ、えーーー!?ほん、ほんとに!?うそやだっ、まってちょ、店長!店長!!」
「『今すぐ変わります!ちょっとだけこのまま待っててください!』…由紀ちゃん走るよ!!」
「もちろん!店長、店長ーーー!!!」

――暫し閉幕後のスープマルシェは、泣きながら叫び走る少女たちの姿に騒然となった。けれど事情を知った人々が驚き、よろこび、次々に連携し合ってひとりの男をワゴンで担ぎ出す。荷台にはたっぷりと積んだ各店からのスープの土産付き。向かう先はほど近い総合病院。店長の、同乗した店員二人の、そしてマルシェから一行を送り出した皆の頬を、雨のように止めどなく雫が零れていく。


それはありふれた春の日に――何よりのしあわせを願う、あたたかな涙だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月12日


挿絵イラスト