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勝利条件『紫水晶の野望を打ち砕け』

#スペースシップワールド #猟書家の侵攻 #猟書家 #ドクトル・アメジスト #電脳魔術士

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●脆弱性が認められました
『……全く。こういうのは「ドクトル」の仕事じゃない筈なのだがね?』
 不敵な語気を孕んだ声は、その『世界』に遍く響く。
 仮想空間、仮初の命、一時の娯楽、その全てを一瞬にして覆してしまいながら。

 ――スペースシップワールド、宇宙船『サクラ・アリュール』。
 十分な居住空間が確保されているとはいえ、人々には娯楽が必要だった。
 高度に発達した技術と、それを駆使する電脳魔術士の技量で、供されたのは『オンラインゲーム』の極致――バーチャル・リアリティによるゲーム世界への没入だった。
 ここにはない大地、海、空……宇宙に生きる人々の、夢見た全てがそこにはあり。
 御伽話でしか見聞きしたことのないような世界は、剣と魔法と怪物とで出来ていた。
 ログインしている間は、自分で好きにメイキングしたアバターと呼ばれる仮初の姿で自由に世界を巡ることができるし、他のプレイヤーと交流しながら協力してクエストを達成したり、ただのんびりと歓談をするだけでも構わない。
 そんな、割と自由なMMORPG『フェアリー・ロンド』。
 その管理者にして電脳魔術士『ミレイユ』が――いや、ゲームにログインしている全てのプレイヤーに、割とマジで笑えない危機が迫っていた。

「じゃあ、そろそろ落ち……あれ!?」
「ろ、ログアウトできない! どういうこと!?」

 宇宙船に居る生身の身体へ、現実世界へ帰還しようと試みたものが、異変に気付く。
 どうしたことか、この仮想空間から『出られない』のだ。

「ぐあ……っ!?」
「傷が、ふさがらない!? どうしてだ! このままじゃあ……」

 怪物の致命的な一撃を受けてしまった仲間を癒そうとするヒーラーの声が震える。
 予感がしたのだ。このままでは『現実にまで影響が及んでしまう』と!

 ――GM、どうなってる!?
 ――おかしいの、まるで……!

「分かってます、ファッキンですが……私としたことが、ハメられましたか」
 ギリ、と親指を噛む仕草をするミレイユ。ああ、『指を噛む』という感覚がある。
 恐ろしいことだが、これは。悪質なハッキングを受けたとしか考えられない。
 ミレイユはゲームマスターとして、プレイヤーを守る務めがある。パンク寸前のコールに、一斉に答えた。
「手近な堅牢な建物に避難するか、座標F:5の拠点に集合して下さい。そっから私が何とかします、早く!」

(「うーん、自分で管理してるゲームでチートぶっぱするのも躊躇われるんですが」)
 ぶん、ぶぶん。ホログラムのインターフェースが瞬時に展開する。
(「『魂を引きずり込んで帰還を不可能にする』とか、そんなクソチート! チートでしか対抗できねーに決まってますでしょー!」)

 静寂に包まれた宇宙船の内部で、人々が昏倒している。
 ミレイユの肉体もまた、同じようにコンソールの傍で椅子から転げ落ちるように横たわっていた。

●黙ってやられて終わってたまるか
「チートとかねえ、即BANされればいいのよ!」
 グリモアベースの一角で、集まってくれた猟兵たちを相手に突然憤るミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)。大概失礼な開幕で、まっこと申し訳なく思っております。
「……ごめんなさい、つい。わたしもかつては、ネットゲームのアバターだったから。ええと、今いちばんの騒ぎになってる猟書家についてはもう説明不要よね?」
 ツインテールを揺らして猟兵たちを見回せば、その様子から大体大丈夫そうだという手応えを得るミネルバ。

 ならば、と雪の結晶の形をしたグリモアをふわりと浮かせて、はらはらと雪を舞わす。
 キラキラ光る雪が、如何なる仕組みか数枚のビジョンを作り上げた。
「みんなには、スペースシップワールドの宇宙船に行ってもらいたいの。正確には、その中で稼働してるネットゲームにログインして事件を解決して欲しいんだけど……」
 ミネルバの顔が少しだけ曇る。やや言いづらそうに、しかし言葉を紡ぐ。
「ネトゲって、基本的に死んでもノーダメージじゃない? 少なくとも『中の人』には。ゲームの中のアバターはいくらでも生き返る」
 死んで、生き返り。殺して、殺されて。その繰り返しを知るものも、居るだろう。
「けれど、ハッキングを喰らったゲームはすごく危険な状態にあるの。プレイヤーの魂をゲーム内に奪い去って帰れなくする『呪いのオンラインゲーム』、端的に言えば『ゲーム内の負傷や死亡は全部現実世界に反映される』のよ」
 死ねば、終わり。
 なあんだ、現実と変わらないじゃないか。
 そう思ったものも、居ただろう。

「……ゲームの中に入ると、みんなは『ユーベルコードが使えない』」

 詰んでない???
 ふざけんなこんな依頼受けられるか俺は帰るぞ、という顔になったものも居るだろう。
 まあまあもう少しだけ、とミネルバはもう一枚ビジョンを展開した。
 長い金髪の、エルフらしき外見の青年の姿がそこにはあった。
「ゲームの中にはみんなの『協力者』になってくれる電脳魔術士がいるわ、名前を『ミレイユ』。目には目を、じゃないけど、内部から必死に反撃のチートコードを打ち込んでくれてるから、彼女がいる拠点を何としても守り抜いて欲しいの」
 ミレイユ、というのはどう聞いても女性名だがという気がしなくもないが、そこはそこ。ネトゲ界で名前と外見と性別とが完全一致する例なんてむしろ珍しいと思うの。
 ともあれ、猟兵たちが稼いだ時間が多ければ多いほど、回数制限こそあるもののユーベルコードが使えるようにもなるという。

「まとめるわ! このオンゲの中ではめちゃくちゃ危険なモンスターがプレイヤーを襲ってて普通に大変。特に人が多く集まってる『拠点』ってところを目指して押し寄せてきてるの」
 石造りの砦のような外見をした『拠点』は、しっかり守ってさえいれば容易く破壊されることはなさそうだ。
「鍵はミレイユよ、彼女のチートコード抜きじゃ絶対に勝てない。だから守って」
 要は迎撃戦だ。拠点に迫るモンスターの群れを無s……じゃなかった、ユーベルコード抜きで何とか凌ぎきることをまずは考えて欲しい。
「モンスターは無限湧きなんだけど、ある程度蹴散らしてくれれば黒幕自ら登場ってね。きっとそうなるわ、その時にこそユーベルコードを使ってやって頂戴」
 恐ろしいチート能力を発揮する黒幕だが、自らも同じ条件――『ゲームの世界に魂をインストールする』ことが必要だった。
 ――なればこそ、この世界で決着をつければ『殺せる』!

「すごく、すごく大変なことをお願いしてる自覚はあるわ。それでも、受けてくれるなら……わたしの分まで、お願い。こんなクソゲー、ぶっ飛ばしてきて!」

 きらきらと降る雪の中、ぺこりと頭を下げるミネルバ。
 ゲームは楽しくなければならないと、そう願うものは多かろう。


かやぬま
●ご挨拶
 出遅れましたが猟書家戦、お邪魔致します!
 少しでも力になれれば幸いです、そしてそれ以上に皆様にお楽しみ頂ければ幸いです。

●プレイングボーナス
 全章共通『チートコードを打ち込み続ける電脳魔術士を守る』。
 第1章は拠点を守っていればそれでオッケーですが、第2章のボス戦ではミレイユの支援を受けながらユーベルコードを使わないといけないので、立ち回りに工夫をしてみて下さい。

●オンラインゲームの世界観と状況
 一応『フェアリー・ロンド』という名前がついていますが、端的に言えば良くある剣と魔法のファンタジー世界です。フワッとしてます。
 A&W世界のモンスターのようなものが『拠点』を目指して押し掛けてきている状況です。
 一般人の救助や保護にプレイングを裂かなくても大丈夫です、こいつらを押し返すことに専念して下さいませ。
 第1章ではユーベルコードの使用が『一律不可』となりますので、技能やアイテムを駆使して奮戦して頂ければと思います。
 第2章ではユーベルコード解禁です、ただしそのためには引き続きミレイユの支援が必要なので、守りながら戦う必要はあります。

●プレイング受付期間
 今回は特に設けず、送信できる間は承る形で(ただし執筆も可能な限り早めにします)やってみようと思います。
 第1章も、断章なしの予定です。公開され次第プレイングを送って頂いて大丈夫です。

 プレイング作成の前に、MSページにも一度お目通し下さいますと幸いです。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します!
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第1章 冒険 『呪いのオンラインゲームをクリアせよ』

POW   :    困難な状況に対して正面から挑戦し、その困難を打ち砕きゲームをクリアに導く

SPD   :    裏技や抜け道を駆使する事で、ゲームの最速クリアを目指す

WIZ   :    多くのデータを検証して、ゲーム攻略の必勝法を編み出す

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

セツ・イサリビ
※最近の愛読書はUDCアースの異世界転生ものです
賢者のローブっぽい衣装で杖でも持ってみよう
空気は読み、郷に入ったなら鄕に従うものだ

チートとは『ずる』という意味と聞いた
狡いのはよろしくない
しかし相手が狡く仕掛けてくるならば
こちらもそれで返すまで

人の姿(+猫)をとっていても
俺はかつて異界を創世せし神の一柱そのものだ
人間界の環境に配慮する必要がないのであれば、
存分にこの力、奮ってやろう

※【目立たない】眼鏡を懐に【リミッター解除】、【存在感】爆上げ演出

「この砦は創世神の加護を得た。敵対する者には【神罰】が下るだろう」
※一度言ってみたかったので満足

……なぜ溜息をつく。ポウ?
仕事はきちんとするよ、ポウ?



●神様が戯れに異世界転生したらどうなるか
 本来ならばプログラムによってその行動パターンを制御されているはずのモンスターたちが、この世界でいまや仮初ではなく本当の命を持ってしまった人々に牙を剥く。
 文字通り最後の砦となった『拠点』目掛けて、異形の怪物どもが猛然と突き進む。

 誰か。
 誰か、一瞬でもいい。これらを押しとどめられるものはいないか。

 中で息を潜めて祈る人々と、チートコードで必死に進行を留めようとする電脳魔術士。
 しかし、迫り来る地響きのような足音は止まらない。
 ゴブリン、ハーピー、スケルトン、ヘルハウンド、オーク……元はデータ上だけの産物であったはずの怪物どもが、まるで『何かの意思を持ったかのように』やって来る。

 ――コロス。

 一方的に狩られる側であった者どもの反旗か、今はそれを問うても仕方がない。
 蹂躙される側であった者どもが、今や蹂躙する者どもとして襲いかかってくる。
 為す術はないのか、この世界で己らは、身勝手なまでに自由自在ではなかったか!?

 ――こつん。

 草揺れる地に、杖のようなものを軽くついて舞い降りる人影があった。
 セツ・イサリビ(Chat noir・f16632)の姿は、常の三つ揃いではなく、まるで賢者を思わせる白いローブに包まれていた。
「空気は読み、郷に入ったなら郷に従うものだ」
 なあ、と語り掛けた先には、愛する黒猫の『ポウ』がお行儀良く付き従う。
 なお、ポウさんは最近ふゆのよそおいを仕立ててもらった模様。カワイイ!
 この世界がファンタジーと呼ばれるジャンルに属するというのならば、それはちょうどセツが今愛読しているUDCアース産の『異世界転生モノ』を彷彿とさせる。
 セツは――そう、創世の神の一柱たるセツだって、好きな作品と同じような設定に身を置かれれば多少なりともテンションは上がるだろうし、ノリだって良くなるというもの。
 という訳で、変幻自在な神の衣をそれっぽい衣装に替えて、普段は指輪にして身につけている、もしかしたら創世の時以来かも知れないくらい久し振りに、本来の杖の形にしてみせたのだ。

『『『グオオォォォォォン!!!』』』

 砦とモンスターの群れとの間に割って入る形となったセツは、しかしどのような咆哮にも怯むことなく涼しい顔でそこに立つ。
(「人の姿(+猫)をとっていても、俺はかつて異界を創世せし神の一柱そのものだ」)
 薄紫の髪だけがなびき乱れて視界を遮るも、それは文字通りの些事。
(「人間界の環境に配慮する必要がないのであれば、存分にこの力――」)
 震ってやろう、見せてやろう、思い知らせてやろう。
 神をも畏れぬ、罰当たりどもに!

「チートとは『ずる』という意味と聞いた、狡いのはよろしくない」
 セツが眼鏡のフレームに手指を掛けながら、良く通る声で告げた。
 それは眼前の怪物どもへか、それともその向こうにいる超弩級のチーターへか。
「しかし、相手が狡く仕掛けてくるならば――こちらもそれで返すまで」
 もう、遠慮はすまい。セツが眼鏡を外すというのは、そういう意味であった。

『『『……!?』』』

 突如現れたちっぽけな人影が、何かの仕草をした。
 それだけだったというのに、怪物どもは皆一様に戦慄を覚えた。
 セツは外した眼鏡を懐に仕舞うと、視線を怪物どもの群れへと向ける。
 紫眼は怜悧に敵対者を見据え、視線に射抜かれた側はようやく気付く。
 何たる、何たる『存在感』なのだと!
 ただそこに居る、それだけで距離の概念さえ超越した『圧』を放つとは。
 だが、セツはそれだけで済ませるつもりはなかったのだから恐ろしい。
 杖をすいと怪物どもの群れへと向ければ、突撃の勢いが足並みの乱れから遅れる。

「この砦は創世神の加護を得た。敵対する者には必ずや『神罰』が下るだろう」
 『『『……ッ!!!(訳:ヤダーーーーーーーー!!!)』』』

 一応念のために申し上げておきますと、セツさんは特に砦に何らかの儀式とか術式を施した訳ではございませんで、本当に言ってみたかった台詞を言い放っただけです。
 けれどどうだろう、全てを呑み込まんという勢いで迫ってきていたモンスターが、まるでその場にひれ伏すかつんのめるかのようにその動きを止めたではないか。
 これこそが神の力、戯れひとつで奇跡を起こす――これもまたチートのような。

「……にゃあ」
 それはもう満足げに笑みながらその様子を見遣るセツの肩で、ポウがため息をつくようにひと声鳴いた。
「……なぜ溜息をつく。ポウ?」
 ほらこの通り、仕事はきちんとしただろう。なあ、ポウ?
 手を伸ばして愛しの黒猫をそっと撫ぜるセツに、ポウはくはぁと欠伸ひとつで返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘスティア・イクテュス
フェアリーロンド…妖精の輪舞曲
なかなか面白そうなタイトルね

それじゃあフェアリー(無線誘導兵器)使いとしてその世界を舞わせていただこうかしら!


ティターニアで『空中戦』、他猟兵の手が足りてないところをブースト【ダッシュ】で移動し空から敵を狙う『遊撃』的な感じで
貴方がミレイユね、此方ヘスティアこれより救援に入らせて頂くわ

フェアリーと自身のミスティルテインによる『弾幕』
そしてグレムリンのチャクラム【誘導弾】でモンスターに対処
アベルは操作中、視界外の敵位置情報をお願いね【情報収集+索敵】

これで手が足りなければマイクロミサイルも使っての『一斉発射』で『範囲攻撃』!


シキ・ジルモント
◆POW
宇宙バイクに乗って行動する
剣と魔法の世界にハンドガンや宇宙バイクは場違いだろうが、敵もチートを使っているのだからこのくらいは構わないだろう

拠点に向かって来るモンスターの群れに接近、射程に入り次第片っ端から射撃で撃破・牽制していく
拠点への接近を防ぐ為、特に空を飛ぶものや足の速いものを優先する
目的は拠点への被害を防ぐ事、そして時間稼ぎだ
あえて目立つように正面から突っ込み、モンスターの注意を引きたい

魔法での遠距離攻撃も警戒
被弾前に射撃で相殺(『スナイパー』)、もしくは『運転』技術で回避し被弾を防ぎたい
見境なく広範囲魔法を使うなら、いっそ敵の群れに突っ込んでしまえば敵を盾に使えるかもしれないな



●元の世界の技術を持ち込んでみました
 ハッタリか、本物か。真偽はともかく、神のご加護によってひとまずは窮地を逃れた形となった『拠点』とその中にいるミレイユをはじめとした人々。
 だが、当然これで終わりではない。今は、足止めをしているだけに過ぎない。
 いずれは怪物どもも再び動き出し、その邪悪な行軍を再開するのだろう――ほら、現に数体、徐々に我に返ったものどもが、のそりのそりと蠢きだしたのだから。

「フェアリー・ロンド……『妖精の輪舞曲』、なかなか面白そうなタイトルね」
 ふわり、透き通るような水色の髪をなびかせて、機械の翼持つ乙女が舞い降りる。
 その名をヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長・f04572)、宙翔る海賊『SkyFish団』の船長を名乗るもの。
「な……援軍!? マ!? しかも猟兵じゃないのアレ!?」
 砦の方から聞こえる声は、事態の急変に気付きモニタ越しではなく敢えて自ら確認に姿を現したミレイユのものだった。
 なるほど確かに外見――アバター自体はイケメンエルフそのものではあるが、声音は明らかに女性のものであるし、口調も、何かこう……もうちょっとロールプレイしてもいいんじゃないかという気がしないでもないが、まあそれは置いておいて。
 白いジェットパックの推進器で宙を舞うと、ヘスティアは悠々とミレイユの前に立つ。
「貴方がミレイユね、此方ヘスティア――これより救援に入らせて頂くわ」
「た……助かるぅ……!」
 ミレイユとしても、耐え凌いだ甲斐があったというもの。本音も出よう。
 同時に、砦の手前で足止めを受けたモンスターの数を眼前にして、改めて息を呑む。

 ――この数を、いかな猟兵と言えど、押し返せるのか?

 決してヘスティアを侮る訳ではない、常識の範囲で考えて、多勢に無勢が過ぎるのだ。
 だが、猟兵がいかなる存在かを知れば、その懸念も吹き飛ぶであろう。

『ギャウゥッ!!』
 モンスターの中でもとりわけ俊敏な動きでプレイヤーを苦しめる、ように設定されている、ヘルハウンド。
 我先にと砦目掛けて突き進もうとしたソレを、何者かの的確な狙撃が撃ち抜いた。
 射手は後から現れる。ギャギャギャギャッと質実剛健なデザインの宇宙バイク「レラ」を駆り、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が敵陣の前に立ちふさがる。
「剣と魔法の世界にハンドガンや宇宙バイクは場違いだろうが――」
 ほわあと口元に手を当てて感心した仕草を見せるヘスティアのすぐそばで、ミレイユが両手を口に当てていた。まるで、何かを堪えるかのように。
 そんな二人に一瞬だけ視線を向けたシキは、すぐ油断なく愛用のハンドガン「シロガネ」をいつでも撃てるようにしながら告げた。
「敵もチートを使っているのだから、このくらいは構わないだろう」
 BLAM! BLAMBLAM!!
 三連、シロガネが火を噴き。三体、怪物が屠られる。
 ヘルハウンドが二体、フェアリーが一体。素早かったり、狙いが定めづらいものだったり、どれも本来ならば一撃必殺とは行かぬはずの相手だが、そこはシキ自身の卓越した技量に加えて――。
「ギャアアアアアアア!!!!! イケメン!!!!! イケメン来た!!!!! スクショ、スクショ撮るからちょっとそこ動かないで!!!!!」
「申し訳ないが、今それどころじゃない!!!」
 この、救いようがないほと中の人の反応をダダ漏れにする電脳魔術士が叩き込み続けたチートコードも合わさり、銃撃一発さえ当てれば倒せるまでに弱体化していたのだ。
 だが、何しろ敵は物量で攻めて来る。特に空を飛ぶハーピーや動きの速いヘルハウンドを優先して攻撃しようと決めていたシキに、流石にサービスの余裕はなかった。

 銀髪に狼の耳と尻尾だなんてそんな、と顔を覆うミレイユ。だが、覆った手指の合間から戦況を見据えて新たなチートコードを脳内で組み上げるのも忘れない。
 それを見てひと安心したヘスティアも、いよいよ戦線に合流する時が来た。
「それじゃあ、この無線誘導端末兵器「フェアリー」使いとして」
 たっ、と靴音ひとつ。砦の端を蹴って身を躍らせるヘスティア。
「その世界を、舞わせていただこうかしら!!」
 その声を合図に唸るジェットパック。猛然としかし優雅に、ヘスティアはティターニアの導きで異世界の空を翔ける。
 既に交戦中のシキの頭上を、小賢しいハーピーどもがすり抜けて行こうとする。
「行かせるか……!」
 視線を送らず、気配だけを頼りに、銃口を向けて撃つ。
 耳障りな断末魔と共に一体のハーピーが落下するも、数体が抜けていく。
「任せて!」
『キョエッ……!?』
 突如、ハーピーの進路を完膚なきまでに阻む弾幕が展開された。安地などないし、すり抜ける隙間さえない。勢いで激突した個体が、次々と爆破に巻き込まれて墜落していく。
 ヘスティアだ。自身が背負ったミスティルティンと、そばに浮かせた球体状ドローン「フェアリー」から、一斉にビームとミサイルを発射したのだ。
 空中戦に持ち込めば、むしろヘスティアの方が元からチートなまでに有利だ。
 地上はシキが、空中はヘスティアが完全に抑えるかたちに持ち込むことが出来た。

(「……これなら」)
 空の遊撃手を頼もしく思いつつ、シキは宇宙バイクのハンドルを握り直す。
 そうしてシキはおもむろに、敵の群れ目掛けて自ら突っ込んでいく。
(「目的は『拠点』への被害を防ぐ事、そして時間稼ぎだ」)
『グルッ……!!』
 初心者では太刀打ち出来ないとされるオークどもは、なるほど確かに屈強だ。
 それが分かるまでの距離に肉薄しながら、一撃離脱を繰り返す。
 ミレイユのチートコードが追加されたか、オークさえも一撃で脳天を吹き飛ばせる。
 だが、慢心はすまい。それが、シキの『仕事』に臨む時の姿勢だから。

(「いずれ、来るだろう」)
 己が『ソレ』を駆使するように、敵も同じことをしてくる時が。
「――アベル!」
 執事型AI端末の名を呼べば、索敵に従事していたアベルからの返答。
『敵陣中程から熱源反応です、お嬢様』
 ゴブリンどもは、一見皆が皆同じ個体に見えて、その種類は豊富だ。
 短剣を使うもの、弓を使うもの、そして――。
「シキ、二時の方向! 魔法が来る!」
「……やはり、な」
 あらかじめ警戒しておいた分、行動も早かった。杖を振りかざして炎の玉を撃ち放ってきたゴブリンの動きははっきり言って単調で――悠々とバイクの操縦ひとつで躱せた。
 きいきいと、耳障りな声が聞こえる。怒っているのか、振りかざされる杖の数が増えた。
 ヘスティアの駆る「グレムリン」から放たれたビームチャクラムがホーミングの性能を伴って杖の個体を数体切り裂くも、アベルから伝達される魔法の反応は止まらない。
「マズいわね、範囲魔法ぶっぱのつもりかも……!」
 敵からすれば、ちょこまかと動き回って一方的に攻撃を当て続けるシキの方が余程チートに見えたか。業を煮やして、範囲魔法で見境なく吹き飛ばしてしまおうというのか。

「そちらがそう来るなら、これならどうだ」

 だが、シキは怯まない。まるで、それさえ織り込み済みだったかのように。
 切れ長の青い瞳で敵陣を見据え、敵の群れのひときわ厚いところ目掛けて宇宙バイクを突撃させたではないか。
 待て、魔法を撃つな。いや、もう間に合わない。
 意思の疎通で言えば、そんなやり取りがあったろうか。
 あくまでもシキを狙ったはずの魔法は、ことごとく敵陣の一部を吹き飛ばしてみせた。

「退路を作るわ、帰ってくるまでが冒険よ!」

 叫ぶヘスティアもまた、マイクロミサイルをもう一度ぶっ放し敵の前衛を吹き飛ばす。
 追いすがる怪物どもを振り払い、シキが砦の方へ帰還するのを手伝ったのだった。

「ふっふっふー、本来なら『味方の攻撃は味方には当たらない』ようにしてあるけど。ちょちょっと弄ったればこんなもんよ、サンキュー猟兵フォーエバー猟兵!」
 敵側にだけ、フレンドリーファイアの機能を付与することに成功したミレイユが得意げに言ってみせた。
 ゲームマスターの座を奪われてなお、その実力は健在ということである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

木常野・都月
ゲームは知ってる。
この間ハロウィンで、先輩達とゲーム機持ち込んで遊んだから。

で。

ゲームの中に俺が入れるって事?

…最高じゃないか?
凄く楽しそうだ!
いや、仕事!仕事で入れるやったー!

俺、ミレイユさん守るぞ!
ミレイユさんに[オーラ防御]を!

敵が来てもいいように土壁を…
土…あれ?電気の精霊様の様な…まぁいいか。
土壁を作って貰って、敵が来ても進みにくくしたい。

空も守らなきゃだな!
風?の精霊様にミレイユさんの上空で待機して貰い、敵が来たら[カウンター]をお願いしたい。

俺は土壁の上から雷の[属性攻撃、範囲攻撃]で攻撃したい。
風の精霊様に頼んで敵にマーキングし、それを元に雷を落としていきたい。
痺れてしまえ〜!


ジャック・スペード
仮想現実、か
成りたい自分に成れる点は興味深いな
一度ヒトのアバターを作って遊んでみたいものだ

それはさておき
制約が有るのは厄介だが――
全力で護ってみせよう

ミレイユの盾になる
片腕をRosaspinaに付け替え
もう片腕で銃を取って応戦を

一斉に来られては分が悪いな
襲い来るモンスターには
炎を纏う弾丸を乱れ打ちして牽制
接近して来た敵はRosaspinaで切り裂こう

ミレイユに攻撃が飛んで来たら
シールドを展開して防ぎ
隙を見て敵を怪力で引っ捕まえ
零距離射撃で仕留めてみせよう

シールド展開が間に合わない際は
身を呈してミレイユを庇う
多少の損傷は堪えられる
アンタは何も心配せずに
ただ自分の仕事に集中してくれ
頼りに、している



●生身を晒しちゃったミレイユを守れ
 たった二人。ただそれだけの増援で、しかし大量のモンスターどもが蹴散らされた。
 元々猟兵が埒外の存在であることに加えて、ミレイユが隙あらば叩き込むチートコードの数々が、確実に効果を発揮していることの証左でもあった。
「勝てる、勝てるんだ……! ってね、この調子なら、イケる!」
 当のミレイユは砦の最上階から身を乗り出さん勢いで眼下の怪物どもを見下ろし、よりにもよって中指を立ててみせるというお行儀の悪いモーションを繰り出す。
「ファッキンチーターどもめ、ざまーみろですぅー! あっははははは、残りの連中も猟兵が来れば……」
(「思ったより……大丈夫そうだな」)
 そんなミレイユの背後にそっと転移を受けたジャック・スペード(J♠️・f16475)は、生身と同じ鋼鉄の身体で肩を軽くすくめて、そっと安堵の意思表示をしてみせた。
(「仮想現実、か――成りたい自分に成れる点は興味深いな」)
 聞けば、後続の猟兵には一部ではあるがせっかくだからとアバターを作ってログインする者もいるという。
 実際のところは、ジャックをはじめ大半の猟兵たちが、元々己が保持する道具や技量を十全に発揮すべく現実世界と同じ身体を選んでやって来ていたのだが。
(「一度、ヒトのアバターを作って遊んでみたいものだ」)
 ここならば『なんにでもなれる』のだから、落ち着いたらそんな『もしも』に興じてみてもいいかも知れない。
 果たして、くろがねのダークヒーローはどんな姿形を選ぶのか。
 それは、気配に振り返ったミレイユもまた興味を示すところであった。

「イケメン……イケメンウォーマシン……!!!」
「……っ」

 否、興味を示すなんて生温いレベルではなかった。常にスタイリッシュな装いを身に纏い、たとえ機械の身体でも様々な晴れ姿を我々に提供して下さるジャックさんに、イケメン大好きミレイユさんが食いつかない訳がなかったのだ。
「ハーーー来てくれてありがとう、猟兵ってよりどりみどりつかみ取り状態でたまらんわー! アッ、おかげさまでチートコードはたんまりぶち込めたからごあんしんです」
 そして、まだまだやってやるぜという顔でぶぶんとインターフェースを展開させる。
「そ、そうか……それなら」
 ジャックの方は一瞬拍子抜けしそうになるも、それでも油断はすまいと眼下の怪物どもを見た。
(「……?」)
 おかしい。砦を狙っていたのではなかったのか? 群れは一度行軍を止めて、何やら怪しげな動きを見せていた。
 翼持つモノ、ハーピーが中心となり、次々と宙に舞い上がるのが見えた。
 ――飛んで来る。こちらへ。間違いなく、ミレイユを狙って。
「やはり、か」
「ひゃあ!? 私もしかしてアレか、ヘイトもらっちゃったかあ!」
 高い所からお行儀の悪いジェスチャーをキメれば、そりゃあ。
 さすがにそこまでは言わなかったけれど、ジャックは想定内の事態に即応する。
「制約が有るのは厄介だが――」
 ユーベルコードさえ使えれば、ともどかしく思わなくもないが。
「全力で、護ってみせよう」
 ――がしゃん。
 左の腕をおもむろに外し、換装したのは銀の鈎「J-arm-Rosaspina」。蔦薔薇の意匠と剣の紋章が美しい、まるで儀礼用と言っても通じるような武器であった。

『キョエエェッ!!』

 禍々しい鳴き声と共に、多数のハーピーが群れをなして一気に飛びかかって来た。
 ジャックが右手で構えたリボルバー「Deus ex Makina」の銃口を向けるも、引鉄を引くその時間が僅かだが足りぬことを悟ってしまう。
(「一斉に来られては、分が悪い――!」)
 せめて、一度。一度だけこの場を凌げさえすれば、策はある。
 だが、その一度が許されなければ、ミレイユが。

「俺、ミレイユさんを守るぞ!!」

 無邪気で力強い、やる気に満ちた声が響いた。
 同時に、ミレイユに向けられたハーピーの槍のことごとくが、間一髪のところで展開された防御障壁によって防がれる。
 立派な黒い狐耳と尻尾をぴこぴこさせて、ドヤ顔で新たに舞い降りたのは木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)!
「わお、アイテムで狐の耳と尻尾は確かに実装したけど……めちゃくちゃ似合ってる! 猟兵がこんなイイ感じのコーディネートしてくれっと嬉しいわぁ……」
 危機一髪のミレイユは、呑気なのかそれとも肝を冷やしたことを隠すのか、都月の耳と尻尾を天然モノだと気付かずにそう口にする。
 ハー、余裕あったらめっちゃスクショ撮ったのに。そう言いながらも、コードを打つ手は止まらない。一応凄腕の電脳魔術士だからね!
(「ゲームは知ってる。この間ハロウィンで、先輩達とゲーム機持ち込んで遊んだから」)
 都月もまた、着実に人間が生み出した技術と知識を吸収していた。そう、本来ゲームは楽しいコミュニケーションツールであり、このような修羅場ではないはずなのだ。
(「で。ゲームの中に俺が入れるってこと?」)
 ……あ、あれ? 都月くんが割とノリノリな気がするのは気のせいかな?
(「……最高じゃないか? 凄く楽しそうだ! いや、仕事! 仕事で入れるヤッター!」)
 ノリノリだったー! 今このゲームの世界めっちゃ修羅場なんですけど大丈夫!?
 いや、現にしっかりとミレイユを守ってみせたのだから大丈夫と信じよう。
 先に到着していたジャックの元に駆け寄ると、都月はその巨躯を見上げて言った。
「俺、下の敵が攻めてきてもいいように土壁作っておきます」
「……ああ、よろしく頼む」
 ジャックが欲した『一度』を、与えてくれた狐の青年は驚くほどに楽しそうで。
 ミレイユといい、ともすれば調子を狂わされてしまいそうだけれど。
 きっと、上手く行く。そんな不思議な心地にさせてくれるから、構うまい。
 機械仕掛けの神の銘持つリボルバーを改めて握りしめ、ジャックは怪鳥を見据えた。

「土の……あれ? ゲームの世界だから電気の精霊様の様な……? まぁいいか」
 得意の精霊術を行使するにあたって、果たしてどの精霊様の助力を得れば良いのかでふと迷う都月。
 そこへ、ミレイユから声が掛けられた。
「おーい、狐っ子! 念じれば何でもアリにしといたから、深く考えなくていいぞぉ!」
 チートコードは無限の可能性を切り拓いてくれる。本来は使用禁止だが、今は非常事態にしてそもそもチートを喰らった側。反撃したっていいじゃないの精神だ。
「ありがとう! よし、精霊様……土壁を作って、敵が来ても進みにくいようにっ!」
 普段よりもふんわりと都月が請い願えば、あっという間に城壁のような土壁が地面から生えてきて、地上に残った敵の不意討ちを防ぐ。
(「ジャックさんもいるけど、念のため」)
 上空への守りも同時進行で進める都月は、仲の良い風の精霊様にお願いしてミレイユの上空で待機してもらうことにした。
(「敵が来たら、カウンターで遠慮なく攻撃しちゃって下さい」)
(『まっかせて、しっかり守ってみせるわぁ』)
 一通りの準備を終えた都月の耳に、激しい銃声が飛び込んできたのはその時だった。

「これで、存分に戦えるというもの――感謝する」

 六発撃ってもなお尽きぬリボルバーは、やはりチートコードの恩恵を受けていた。
 弾数無限のチートは割とやり過ぎな気もしたが、今は有難く使わせてもらおうと、ジャックは炎を纏う弾丸を文字通り乱れ撃ちしてハーピーの群れを牽制する。
『キェーーーッ!!』
 それでも蛮勇に任せ突っ込んで来る個体があれば、優雅なまでに身を翻して反対側の腕に装着した鈎フックがお飾りではないことを証明する。
 放たれた鈎に引き裂かれた怪鳥が斃れ伏すのを見届ける暇はない。都月の精霊様と共に、執拗にミレイユを狙い続ける敵を蹴散らさねばならないのだから。
「……チッ」
 ミレイユが、己に向けられたひときわ大きい殺意に思わず舌打ちをする。
 させじと、ジャックがリボルバーを握る手をひねる。「Benedicite」なる黒革の手袋に包まれた手の甲が一度輝き、次の瞬間には夜色の盾を大きく展開させた。
 突き出された槍を弾けば、たまらず仰け反る怪鳥ども。
 リボルバーを一旦収めて手近な一体を恐るべき怪力でむんずと掴む。
『ギャ……』
「悪戯が過ぎたな」
 喰らわせたのは、至近距離からの鈎フックの無慈悲なる一撃。
 肉片と化していく存在のリアルさが、この世界の有様を伝えてくるような気がした。
「……あ」
 ありがとう、そう言おうとしたのに、言葉が続かない。
 そんなミレイユに、ジャックはゆるりと首を振って告げた。
「アンタは何も心配せずに、ただ自分の仕事に集中してくれ」
「……」
 こくり、と一度頷いて、ミレイユは驚くほど真剣な顔で猛然とタイピングを再開する。
 その様子を見て、ジャックは心からの言葉を続けた。
「頼りに、している」

「おりゃ~! 痺れてしまえ~!」
『キョエエエエ!!!』
 一方の都月は、風の精霊様が施してくれたマーキングを頼りに着実な索敵をして、増援に投入されるハーピーを片っ端から落雷で打ち落としていた。
 狙いさえ定まっていれば、あとは範囲攻撃の効果を付与した大規模な落雷が小賢しい怪鳥どもを一網打尽にしてくれるのだから、テンションが上がるのも無理はない。
 戦力の逐次投入は悪手だと、チートを施されても気付かないのは所詮雑魚モンスターだからか。
 何かの思惑があったとしても、今の都月にはきっと通用すまい。
 だって、こんなにも一方的に――たまに座り込んで魔力の回復を早める余裕さえもって戦えるのだから!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ
【POW】ちーと……ばん?
用語があまり分からなくてすみません
とにかく助けがくるまで皆さんを守ればいいんですね、いつもと同じです、守ります!
たとえUCが使えなくても闘う術(人形)はここに在りますからね

しかし数が多いですね…それなら
ゲーム内の柵や木々(【地形の利用】)で攻撃をかわしつつ
【2回攻撃】や【早業】で手数を増やして
敵を蹴散らしていきます。

皆さんへの強力な攻撃が来たときは【糸編符】やで相殺(【かばう】)したり、聖痕でわずかですが傷も癒やせます。
助けがくるまで時間がどのくらいかかるか分かりません
それまで全員生き残らせないと。


宮前・紅
【SPD】
ふ〜ん、じゃあ俺は遊撃隊みたいな役割をした方が良さそうかな?
電脳魔術士さんには死なれちゃ困る───まだ生きてもらわないとね

ゲームの世界だとユーベルコードが使えないのが厄介だよね
殲滅したら良いってだけなんだけど……

相手の隙を見極めつつコンツェシュと人形を駆使して、各個撃破を狙うよ(フェイント+貫通攻撃+暗殺)
俺は銃火器の類なんてモノはもってない
肉弾戦になりそうだから成る可く、素早く近付いて攻撃したいけど怪我は避けられなさそうだね(激痛耐性)

こういうゲームって初めてだからわかんないけど結構楽しいね
肉が裂けて潰れて──うん♪︎
これこそが『戦場』って感じ、最高だね!

※アドリブ·連携大歓迎


戎崎・蒼
【POW】
電脳空間かつユーベルコードも使えないとなると、本来の力が…つまりは自身の真価が試されるという訳か
そのチート自体も厄介この上ないし、鍵となるミレイユを守備しながら先ずは拠点を守り抜かないとね

有象無象に来る敵との迎撃戦
僕は前線には出ずにサポート役として銃で確実に仕留めていきたい(スナイパー)
何だったらSyan-bulletの液状火薬を、硝子製の薬莢から出させる形で、敵の足元に投げてみてもいいかもしれない
マスケット銃の燧石が打ち金にぶつかった時の火花で、テルミット反応的爆発を誘発できる筈だ

真っ向勝負で挑む事になる
けれど後衛として…出来るだけ足を引っ張らないようにするよ

※アドリブ連携大歓迎



●紅と蒼と、桜の舞い
 そもそも、この『拠点』の中に引きこもっていてくれた方が圧倒的にミレイユを守りやすいという結論に至った猟兵たち。
 どうか砦の中から支援をしてはくれまいかと頼み込んだのは、宮前・紅(三姉妹の人形と罪人・f04970)と戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)、そして桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)の三名。
 ――そう、またしてもよりどりみどりのイケメンが集ってしまったのだ。
「ええええええ! いいけどさあ!? つか、その方が安全なのは頭では分かってるんだけどさあ!! イケメンを見たらスクショ撮るのがマナーだから!! これは命よりも大切な」
 この一大事に、なおも己の欲望に忠実であろうとする根性は大したものだが。
「あの、お願いします……ミレイユさんに万が一のことがあったら、困るんです」
 自分たちが何を成すべくここへ来たかを考えると、何としても説き伏せねばならない。カイが心からの言葉を口にすれば、紅と蒼もそれに続く。
「そうそう、電脳魔術士さんには死なれちゃ困る――まだ生きてもらわないとね」
「君の言っていることは今ひとつ理解できないけれど……協力できることなら、この場を乗り切ったらいくらでも」
 ふたりでひとりのカイ、何もかもが対照的に見える紅と蒼。
 ビジュアルからして既に完璧な三人から口々に説得を受けて、悪い気がする訳がなく。
「……言ったなぁ? じゃあ、全部片付いたらめっちゃ協力してもらうかんね~」
 ミレイユは名残惜しそうに何度も振り返りながら、堅牢な砦の中へとその身を隠した。
 そして、それを確りと見届けた三人はいよいよだと砦の上から身を躍らせて、地上で足止めを受けているモンスターどもの前へと舞い降りたのだった。

「ええと、ちーと……ばん? 用語があまり分からなくてすみません」
 何が起きているかの概要こそ理解出来ているが、グリモアベースで受けた説明には若干専門用語も多く、そちらの方面にやや疎いカイはやや申し訳なさげに詫びてしまう。
「大丈夫、大丈夫。ここがゲームの世界で、ユーベルコードが使えない厄介な状況ってことだけ分かってれば平気だから」
 灰の瞳に灰の髪、全体的に色素が薄い身体を彩る、名を示すかのような赤が映える。
 紅は屈託のない笑顔でカイの懸念を解すように言葉を紡ぎながら、胸元のブローチにそっと指を添えた。
「電脳空間、かつユーベルコードも使えないとなると」
 青瞳に黒髪、こちらは全体的に黒を基調とした装いに差し色の青が美しい。
 そんな蒼もまた、愛銃「Sigmarion-M01」の最終調整をしながら事もなげに告げるが、実はこの改造によってマスケット銃へと変異した元蒸気ガトリングガン、総重量が8kgもある。地味にヤバい。
「本来の力が……つまりは自身の真価が試されるという訳か」
 そんなヤバい武装を淡々と扱いながら、蒼は一度背後の『拠点』を振り仰いだ。
(「そのチート自体も厄介この上ないし、鍵となるミレイユを守備しながら先ずは『拠点』を守り抜かないとね」)
 二人の言葉に、気を持ち直したカイが今度こそ力強く頷いてみせる。
「とにかく、助けがくるまで皆さんを守ればいいんですね」
 同時に頷き返す紅と蒼。やはり、見れば見るほど見事な対極の存在に思える。
「……いつもと同じです、守ります!」
 キュイッ、と小気味良い音を立てて繰り糸が引かれ、カイと共に『カイ』が立つ。
(「たとえユーベルコードが使えなくても、闘う術はここに『在ります』からね」)

『『『グオオオオオォォォォン!!!』』』

 モンスターどもの咆哮が響く。突撃してくるつもりか、いっちょ前に隊列を組んでいるのが見て取れた。
「しかし、数が多いですね……」
 カイが偽らざる感想を口にした時のことだった。
 突如、出鼻を挫くように柵やら木やらが障害物さながらに『生えてきた』のだ。
「ごっめーん、すっかり忘れてた! こういうのあった方がやりやすいっしょ?」
 ミレイユの声がどこからともなく響き、チートコードの効果であることを示す。
「チートって、本当に何でもアリなんだね」
 クスクスと笑いながら、障害物に引っ掛かって思うように動けない怪物どもを見る紅。
「……じゃあ、俺は遊撃隊みたいな役割をした方が良さそうかな?」
「そうだね、僕は前線に出るというよりは、サポート役で」
 マスケット銃(8kg)をひょいと掲げて返事の代わりにしつつ、蒼が後衛を引き受ける旨を宣言する。
 そこで、紅が手を当てていたブローチが一度大きく輝いた。
 光が収束する頃には――一振りのレイピアが紅の手に握られていた。
 その名を「コンツェシュ」、レイピアでありながら、その切れ味は並のレイピアを上回る逸品だ。
 紅の得物は、この「コンツェシュ」と、姉妹を名乗る三体の人形たち。
 自然と肉弾戦になるが、過度な消耗は避けたい。故の遊撃という選択。
 ならばとカイが人形にして己が本体たるものと共に、ザッと一歩前に踏み出す。
「私が、引き受けます」
 正面切って敵を蹴散らせと言うのならば――やってみせようではないか。

『ガアアアアッ!!!』
 禍々しい咆哮が耳元で響く。
 これを、決して人々の元に通してはならない。
 守れ。守り抜け。そのために、この身はあると知れ。
 カイの念を乗せた糸が走るたび、『カイ』が舞うようにおよそ人の手では為し得ない早業を繰り出して怪物どもを屠っていく。
 位置取りも非常に安定しており、不意討ちを受けぬよう意識して障害物を活かした立ち回りを心掛けているものだから、ほとんど傷を負わずに戦える。
 しかしそれでも、一度に相手取れる数には限りがある。
 物量で圧し潰してこようとする輩を鋭く見抜いて、どんなに距離が離れていようとお構いなしに蒼の狙撃が的確に貫き屠る。
 射程無限のチートコード? いいや、それは『まだ』打ち込んでいない。
 これは、純粋に磨き上げられた蒼のスナイパーとしての技量によるもの。
 しかも、撃った先から場所を気取られるような下手は打たないため、これまた一方的な『狩り』が出来るというから恐ろしい。
 次第に怪物どもの間に明らかな動揺が走り、その足並みも乱れていく。
 そこへ、致命的な一撃とも言える奇襲が怪物どもに迫った――紅だ。
『……ッ』
 人の言葉が喋れたならば、何故やらどこからやらと言いたかっただろう。
 本当に、全く、どこから襲われたか、誰にも分からない凄絶な一撃だった。
 ずるり、とレイピアを引き抜いた紅は口の端を上げて、ただ笑んでみせた。
(「俺は銃火器の類なんてモノはもってない、だから」)
 もうひとつの得物――三姉妹の人形が、それぞれやはり虚を突いて仇なすものに奇襲を掛ける。
(「成る可く、素早く近付いて攻撃したいけど」)
 奇襲というものは基本的に一度きり、あとは普通の戦闘になってしまう。
 仕切り直すには、一度離脱をしなければならないものだけれど。
『ギャウッ!!』
「……っ、怪我は避けられなさそうだね」
 浴びた返り血に比べれば微々たる量とはいえ、肩口に反撃を喰らってしまい白い服が赤く染まる。
 幸いだったのは、紅が痛みには慣れっこで、行動を阻害されなかったことだろう。
「一旦引いて、一撃入れるよ」
 蒼は表情一つ変えずに、冷静に硝子で出来た弾丸をマスケット銃に込める。
(「この「Syan bullet」の液状火薬を、敵の足元に投げてみる時だろうか」)
 ――燧石(ひうちいし)が打ち金にぶつかった時の火花で、テルミット反応的爆発を誘発できる筈だ。
 それを狙っての、硝子の薬莢に封じ込めた液状火薬。
 ただ見た目が綺麗なだけではない、理にかなった兵器。
(「後衛として……出来るだけ足を引っ張らないようにするよ」)
 紅が驚異的な跳躍力で敵陣から離脱したのを確認するのとほぼ同時に、蒼は引鉄を引いた。シアンブルーの弾丸は白い光を曳いて放たれ、ジャスト、敵陣で炸裂する!
 足を引っ張るどころか、これぶっちゃけ無双状態だから全然大丈夫ですという感じで、怪物どもに色々と『わからせた』形となり、その動きがひととき停止する。
 だが、なおも執拗に紅に追いすがろうとする個体がいたのをカイは見逃さなかった。
「こちらへ――!」
 叫びながら、紅を迎え入れるのと入れ替わりに「糸編符」を投げて攻撃を相殺する。

「一撃だけで済んで何よりでしたが……痛くはありませんか?」
 カイが自らの聖痕の力で、応急処置ではあるが紅の肩口の傷を癒しながら問えば、紅はあくまでも笑顔で平気だと言ってのける。
「こういうゲームって初めてだからわかんないけど、結構楽しいね」
「……」
 再びの動きに注意を払うべく敵に視線を向けている蒼は、言葉こそ返さなかったものの、きっと『紅らしい』と思っていたことだろう。
「肉が裂けて潰れて――うん♪」
 にぱっ、と心底楽しげに告げる紅。修羅場と化したこの『ゲーム』こそ、恐らく。
「これこそが『戦場』って感じ、最高だね!」
 戦場傭兵と呼ばれる彼らが舞い踊るに相応しい、最高の舞台なのかも知れなかった。
 カイはただ、肩をすくめるばかり。
 否定はしないが、死なれては困る。
(「助けがくるまで時間がどれくらいかかるか分かりません」)
 だから、守り手たる己もまた倒されず戦い抜かねば。

(「それまで、全員生き残らせないと」)

 誰一人、欠けることなく生還する。いや――させてみせると誓って。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

荒谷・つかさ
ユーベルコードが使えない、ね……
ゲーム内での傷が現実に反映されるということは、それだけ現実の肉体とアバターのリンクが強いとも言えるはず。
逆に言えば鍛えに鍛えたこの筋肉……もとい、身体能力もゲーム内へと反映されているはずね。
であれば何も恐れる事はないわ。
たかだかユーベルコードを封印した程度で、猟兵を無力化したと思ったら大間違いだという事、教えてあげようじゃない。

折角なので着の身着のまま、武器は無しの身体一つで乗り込む
そのまま真っ向からモンスターの群れへ突撃、持ち前の「怪力」を活かした格闘戦を挑む
フォーミュラ級のオブリビオンともコード無しで渡り合ったことがあるこの私を、なめて貰っちゃ困るのよ!


御桜・八重
宇宙船なのにA&Wみたいな世界があるの…?
よくわかんないけど、任せといて!

この世界では好きな姿になれると聞いて。
じゃーん、バインバインの女戦士ー!
…おお、胸が重くてバランスが…っとぉ!
ネリーちゃん、まな板組には厳しかったよ…

気を取り直して双剣使いの軽戦士に変身!
『華疾風の襷』でSPDを底上げして、
モンスターを翻弄するよ♪

高速ダッシュで敵の中を駆け抜け、
攻撃を見切っては弱点に一撃を叩き込む。
「てーりゃーあーっー…わわっ?」
気が付けば、わたしの後を敵が列車みたいについてくる!?

「それなら!」
急速反転、全力ダッシュ!
敵の列を駆け抜けて、気合いで纏めて一刀両断!

ミレイユさんも皆も、誰一人やらせないよ!



●ユーベルコードがなくたって
 今、このゲームにかけられた最大のハッキングにして呪いは『仮想空間の負傷や生死が、そのまま現実世界に反映されてしまう』ということにある。
 それは本来『ゲームだから死んでも大丈夫』という危険な冒険や戦闘に臨むにあたっての大前提を覆し、娯楽の世界から一転、地獄絵図と塗り替えてしまったのだ。
 しかし、どうだろう。ドクトル・アメジストは、この事態を想定していただろうか。
 ひとつ、電脳魔術士が屈せずにチートコードを打ち込み続けるなど。
 ひとつ、元より埒外の存在たる猟兵たちが介入してくるなど。
 ――そう、彼らは『存在が埒外』。経緯は様々あれど、故に世界からそう見なされた。
 たとえ、その証の最たるもの『ユーベルコード』を封印されたとしても、逆を言えば『その程度』。磨き上げた技能と愛用の道具を駆使して、なおも戦うことが出来るのだ。

「ユーベルコードが使えない、ね……」
 倒せども倒せども湧いてくるモンスターどもの前に、荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)が『拠点』を背にして立ちはだかった。
「ゲーム内での傷が現実に反映されるということは、それだけ現実の肉体とアバターのリンクが強いとも言えるはず」
「さっすが猟兵、飲み込みが早いねぇ! 今んとこ本気出させてあげらんないのは悪いけど、もうちょっと時間稼いでくれればイケると思うわー」
 堅牢な砦の奥から発せられるミレイユの声は、不思議とつかさの耳にしっかり届く。
 今回スクショがどうのと飛び出してこないのは、ひとえにミレイユさんがイケメン専だからという話に尽きます。つかささんがおっかないとかそういうのではないです!
「みんな普段の調子で戦いたいからかねぇ、リアルと同じ格好で来てくれちゃって。アバター使っても別にいいよって言えば良かった?」
「いえ、構わないわ」
 そう言いながらつかさが指を鳴らす――ただその挙動ひとつで、凄絶な音が鳴り響き、怪物どもが思わず後ずさった。
「逆に言えば、鍛えに鍛えたこの筋肉……もとい、身体能力もゲーム内へと反映されているはずね」
「……へぇ」
 ミレイユが、作業の合間に湧いた興味からつかさのステータスを表示させて、叫んだ。

「は!!!!!???? なにこれチートじゃん!!!!!」
「失礼ね、ドーピングなんて一切なし。天然モノの筋肉よ?」

 何故そんなやり取りをしたのかは、程なく実戦にて明らかとなる――!

「宇宙船なのに、アックス&ウィザーズみたいな世界があるの……?」
 砦からやや離れたところに、今まさにログインしようとするもう一人の少女の姿。
 誰あろう、御桜・八重(桜巫女・f23090)その人だ。
「よくわかんないけど、任せといて!」
 YOUのその自信はどこから……? とツッコんでしまいそうな台詞ではあるけれど、猟兵が一人参戦してくれるだけでも状況は一気に好転する。よし、任せました!
 だが、何やら八重の様子がおかしい。具体的に言うと、アバターを使おうとしている。
「この世界では好きな姿になれると聞いて」
 ウッキウキでキャラクターメイクの画面でパーツのサイズ調整をする八重。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでー、この時間がまた大変だけど楽しいのだ。
「じゃーん、バインバインの女戦士ー!」
 ビキニアーマーがめっちゃ似合う、ナイスバディのおねーさまの完成ね!!
 ……と思いきや、何だかしっくり来ないのは何故だろう。
 ハッ、胸か!? 胸のせいか!? どうですか八重さん!!
「……おお、胸が重くてバランスが……っとぉ!」
 やっぱりおっぱいがでっかすぎたかー!! 何たる無情!!
 だがある程度想定内だったと言わんばかりに、即座に八重のアバターは双剣を逆手に握った軽戦士へとその姿を変える。
「ネリーちゃん、まな板組には厳しかったよ……」
 この悲しみ、かのグリモア猟兵の娘ならばきっと理解ってくれるに違いないと信じて、八重はジャキッと双剣を構えいよいよ『フェアリー・ロンド』の世界へとダイブした。

「おおっ、アバター使ってくれる子もいるとは嬉しいねぇ!」
 さらなる増援が来た上に、自慢のゲームシステムを駆使してくれたことに喜びを隠さず声をかけるミレイユ。
「あはは、今度は無事にゲームが動いてる時に来ますねー……」
 平時であれば、バインバインでもきっと許されるはず。八重は苦笑いで返しつつ、持ち込んだ愛用の「花疾風の襷」をギュッと結ぶ。
「準備万端っ、いつでも行けるよ!」
 腕をぐるんと回して気合いを見せて、八重がチラとつかさの方を見れば。
「ええ、であれば何も恐れる事はないわ」
 軽く力を込めただけで、縄のような筋肉が浮き上がるのを見せつけて。
「たかだかユーベルコードを封印した程度で、猟兵を無力化したと思ったら大間違いだという事、教えてあげようじゃない」
 爽やかな風が吹き、直後、地を割らんばかりの闘気がみなぎる。
 八重が目にも留まらぬ速さで駆け出して、つかさがゆっくりと踏み出し始めた。

 つかさの格好は普段と変わらず、着の身着のまま、徒手空拳で敵陣へと乗り込む。
『ギョエッ……!?』
 その圧――そう、圧がすさまじい。例えば怪物どもはある程度ダメージを受けると逃げ回るAIを持つ種族も存在するが、そういうのを超越して、こう、本能レベルで『逃げ出したくなる』状況に陥れるのだから恐ろしい。
 分かりやすく言えば、明らかに己よりも格上も格上の相手が、ゆっくりと、しかし明確な殺意をもってじわじわと近付いてくるとあっては、どうだろう。

 ――コワイ!!!

 だが、つかさの天元突破した怪力は、文字通り何者をも一度掴めば離さない。
 むんずと手近なゴブリンの頭部を鷲掴みにすると、一度高々と持ち上げてから思い切り地面へと叩きつけたのだ。
『『『ギャアーーーーーーーーー!!!??』』』
 一撃だった。地面には叩きつけられたゴブリンを中心に蜘蛛の巣状のヒビが入り、ただ無造作に叩きつけるという動作にこれほどまでの威力が乗るのかと見せつけて、周囲の怪物どもの悲鳴を誘った。
「……次」
『『『イヤアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』』』
 阿鼻叫喚の地獄絵図を、造り出すはずだった側の者どもが、泣き叫ぶ。
 しかし、つかささんがそれを聞いて手心を加えるはずがなく。かといって嗜虐心をそそられて過度に残虐になるということもなく。
 淡々と、確実に、その鍛え上げられた筋肉を駆使して敵を屠り屍の山を築いていった。

(「よし、速度は十分。これでモンスターを翻弄するよ♪」)
 襷紐の加護を得た姿は、まるで故郷の桜が力を貸してくれているかのよう。
 この世界にも、桜は咲くのだろうか。ふと、そんなことを思ってみたりしつつ、八重は一気に敵陣目掛けて猛スピードで突っ込んでいく!
「そこっ!!」
 つかさという脅威に、ほとんど恐慌状態だった怪物ども。そこへさらに八重が奇襲をかけるような形で突撃してきたものだから、敵陣はいよいよもって大混乱だ。
 あわあわと振るわれた攻撃など見切るのも容易い、八重は突進を止めぬまま最低限の身の動きで躱し、がら空きの脇腹を逆手に持った剣で思い切り薙いだ。
『ギィ……ッ!!』
「よし、この調子! てーりゃーあーっ!」
 鈍い手応えと同時に、噴き出す血飛沫がリアルを思わせる。
 油断はすまいと一度離脱を図った八重が『ソレ』に気付いて声を上げた。

「わわっ、敵が列車みたいについてくる!?」

 ああ、いわゆる『タゲを貰った』とか『ヘイトを稼いだ』状態となってしまった。
 つかさから逃れようとする意図もあったろう、そして奇襲での一方的な攻撃を仕掛けてくる八重に、怪物どもが『てめえこのやろう』とばかりに追いすがってきたのだ。
 だが、それで動じたりするような桜の巫女ではない。
「それなら!」
 ズザザッと土埃を上げて、八重がおもむろに急速反転する。そして、再びの疾走。
 敵が一列になっているなら、かえって都合がいい。
 裂帛の気合いを込めて――全員まとめて一刀両断!
「やああああああああああああっ!!!」
『『『ギャーーーーーーーーーッ!!!』』』
 陽刀と闇刀とはまた違った切れ味を双剣越しに感じながら、八重は力強く告げた。
「ミレイユさんも皆も、誰一人やらせないよ!」

『ア……アア……』
 逃げても斬られる、逃げなければ潰される。
 怪物どもは、もはや情けない声を上げるより他になく。
「フォーミュラ級のオブリビオンとも『コード無し』で渡り合ったことがあるこの私を」
 なまじ人間の肉体と構造が近いため、オークには関節技がキマってしまう。
 ギリギリと容赦なく締め上げながら、つかさはまた一体血祭りに上げる。
「――なめて貰っちゃ困るのよ!!」

(「猟兵ヤベーわ……味方で良かったわ……」)
 モニタ越しに二人の奮戦を見守りながら、ミレイユはそう思っていたとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雷陣・通
POW判定

おーしユーベルコード無しか、ならやることは変わらねえ

こういうのは、やることが決まっているんだ
まず、走る
技術は要らねえ【戦闘知識】の一つだ
そうすると、速度差や飛行する敵が出てくる
その中の足が速い奴を【先制攻撃】で【カウンター】の一発
そこから【二回攻撃】で電撃の【属性攻撃を乗せたマヒ攻撃】で動きを止めるぞ
とにかく、相手がマヒすれば止めは後で刺せる
相手の攻撃は徹底的に【見切り】だ
これがゲームだっていうなら、お前達の動きは直線的だ
必ず、固まるか、前に出る
AIのレベルが高くても速度差は無視できない
そして――【グラップル】で転ばせば、お前らはみんな巻き込まれる

そう、これがライトニング――†ハメ†


スリジエ・シエルリュンヌ
猟書家もいろいろと考えますね。
なるほど、ユーベルコード不可。直接攻撃で対応、と。
…………あれ、私、わりといつものことでは?(片寄ってるUC。バリツ系純前衛探偵)
それでも、ミレイユさんのためにも全力をつくさないと、ですね!

主に使うのはキセルパイプ。
遠めの場合は投擲し、近めの場合は殴りに使いますね。
どちらにしても、範囲攻撃+マヒ攻撃+衝撃波をつけましょう。

相手からの攻撃は、主に第六感使用による回避を。
間に合わない場合はオーラ防御を活用しましょう。



●厨二病と文豪探偵の組み合わせってもしかしてヤバない?
 もしかしなくても、この調子で行けばヨユーで何とかなっちゃったりするんじゃない?
 そんな慢心めいた感情が、ミレイユの思考を覆い尽くそうとしていた。
 一時は死をも覚悟したところに、あまりにも強すぎる――それこそ、チート級の援軍が次から次へとやってくるのだから、そんな気の緩みが起こるのも無理からぬことだろう。
 だが、手を止めてはならないとすぐに理解する。ミレイユは、聡い女だ。
 今まさに猟兵たちが行っているのは、所詮は時間稼ぎ。
 何のために? 己がチートコードを徹底的に打ち込んで、猟兵たちが本来の力を発揮できるようにするため――そして、諸悪の根源を倒すためだ。

 忘れるな。戦え。戦っているのは、彼らだけではない。自分もだ!

「ハァイ、ニューチャレンジャー! 状況は分かるねぇ!? 頼んだよ!!」
 新たに転移――ログインをしてきた猟兵たちの気配に、ミレイユは叫んだ。

 ふわりひらひら、桜舞う。薄紅色の髪を飾るように揺れる桜の枝は天然モノ。
 スリジエ・シエルリュンヌ(桜色の文豪探偵・f27365)は微かな音を立てて『フェアリー・ロンド』の世界に降り立った。
「猟書家も、いろいろと考えますね」
 文豪探偵を名乗るだけはあり、今まさに複数世界を騒がせている『猟書家』の案件もおおよそ把握しているスリジエ。
 こうして事件を目の当たりにしてみると、それらが引き起こす事件のバリエーションがあまりにも豊かであるということを痛感するようで、思わず嘆息してしまう。
 ふと試しに、己が持つ超常のひとつでも発動させてみようかと軽く念じるも、まるで手応えがないことに程なくして気付く。
「なるほど、ユーベルコード不可。直接攻撃で対応、と」
 そもそもスリジエが猟兵になった切欠はとても不可思議で、しかし面白い。
 桜舞う街で見た『超弩級戦力』たちにほんのりと憧れて、あわよくば自分もなれたらなぁ――なんて、思って修練を重ねていたらなれちゃったというのだから面白い。
 逆を言えば、重ねた鍛練は今もスリジエのベースとなって支えてくれているのだろう。
「……あれ、私、わりといつものことでは?」
 そもそもユーベルコードが使えたとしても、戦い方は別段変わらないのではという顔でモンスターの群れを見る。
 ――バリツ系純前衛探偵、それがスリジエのバトルスタイル!
 いやあ探偵といえばバリツですよね、基礎にして必修科目ですよ。さすがです!
 いつの間にか取り出したキセルパイプを手に、スリジエは力強く宣言した。
「それでも、ミレイユさんのためにも全力を尽くさないと――ですね!」
 あの、そのキセルパイプ……どのようにお使いになるおつもりで……?

 ミレイユが例のスクショ蒐集の対象に入れるか入れまいかアホほど迷った案件である雷陣・通(ライトニングボーイ・f03680)もまた、すっかりログインを終えて戦闘準備を完了させていた。
 なお、最終的に『ショタはまあいいか、今忙しいし』で後回しにされてしまったそう。
「おーしユーベルコード無しか、ならやることは変わらねえ」
 割と失礼な扱いを受けていたことも露知らず……いやこれは知らない方がいいなあ。通は両脚を一度伸ばしてから、いよいよ怪物どもを見据えて姿勢を低くする。
「こういうのは、やることが決まっているんだ」
 履きつぶしたキャンバス地のスニーカーで、思い切り地を蹴り駆ける。そろそろ買い替え時かも知れない靴は、しかし使い込んだ分だけ足によく馴染む。
(「まず、走る」)
 この行為自体には何ら特殊な技術は要らない。
 ただ、そうすべきであるという戦闘知識を伴ってこそ『活きる』。
『ギャウウゥゥッ!!』
 群れに向かって猛然と駆けてくるモノに反応して動き出す怪物どもが、もしも一糸乱れぬ統率が取れた存在であったならば、通の目論見もあるいは通用しなかったやも知れぬ。
 けれど、群れから足の速いヘルハウンドやら飛行能力で自軍の上を進めるハーピーやらが先んじて通へと接敵しようとしていた。
 知れず笑みが漏れたことに、通は気付いただろうか。あまりにも、読み通りだったから。
(「その中の、足が速い奴を――こう!」)
『ギャンッ……!!』
 勇んで飛び掛かって来た獰猛な四つ脚の獣に、カウンターの右ストレート!
 モンスターにも情はあるのか、それともただのプログラムか。同族を殴り倒されたのを見て、次々に飛び掛かってくるヘルハウンド。
 だが、通が動じることはない。翠玉の瞳に映るのは、己が拳に纏わせた雷の爆ぜる光。
「りゃあっ!!」
『グガッ!!』
 突き出した拳をそのまま裏拳をかます要領で振り抜いて、電撃で麻痺させる――これの連撃を力の限り繰り返す。
(「とにかく、相手がマヒすれば止めは後で刺せる」)
 喉笛を食いちぎろうとする牙や、上空から突き出される槍は、隠しきれぬ殺気を頼りにとにかく避けて、避けて、避けまくる。
 読めるのだ。攻撃パターンが、通には大体見通せてしまうから。

(「これがゲームだっていうなら、お前達の動きは直線的だ」)
 ――必ず、固まるか、前に出る。そして、実際その通りになった。AIのレベルがどんなに高くても、その速度差は無視できないというもの。

 ビリビリ痺れて身動きが取れず、その場で打ち震えるばかりのモンスターどもを見遣って、通は頃合いだと適当に手近な個体を引っ掴んだ。
「お前ら全員――†一網打尽†だ」
 ぶぉんっ!! すごい勢いで掴んだ怪物を痺れさせた群れの一角へとぶん投げると、ことごとくが巻き込まれて将棋倒しのように倒れ伏していく。

「そう、これがライトニング――†ハメ†」
「ハメ技は、まあ……立派なテクニックですからね」
 ドヤ顔で妙なアクセントをつけながら決め台詞を告げる通に、そっとスリジエが呟く。
 さあ、次は文豪探偵の腕の見せ所だ!

 先を逸った種族を打ち倒しても、鈍足の部隊が残っている。
 オークが棍棒を振りかざして容赦なく迫れば、スリジエが手にしたキセルパイプを――事もあろうに手にしたまま負けじと殴りかかった!
「マヒ攻撃なら、私も負けません!」
『アバババババーーーッ!?』
 愚鈍な動きで振り下ろされた棍棒をひらりと躱し、がら空きのボディにキセルパイプの一撃を喰らわせれば、激しい衝撃波でオークの巨体が吹っ飛ばされる。
 そのまま、後ろにいた他のオークたちを数名巻き込んでいく様子はまるでボウリング。
 だが、これだけでは終わらない。反対側からの気配にスリジエが振り向けば、杖持ちのオークが魔法の光球を撃ち出そうとしていた。
(「避けてもいいですが、ここはひとつ――私も『わからせて』やりますか」)
 キセルパイプを杖持ちのオーク目掛けて、魔法が発動するよりも早くぶん投げる!
『アガッ!?』
 見事、顎の辺りにぶち当たったキセルパイプは、いかなる仕組みか自然とスリジエの手元に戻ってくる。よく出来てる。
 ふと見れば、通ともどもじわりと包囲をされているけれども、もはや所詮は残党。

「行けるか?」
「当然です!」

 この後、包囲したつもりがことごとく返り討ちにされるモンスターどもの悲鳴が思いっきり響き渡ったのは、言うまでもなく。
 一時は絶望的かと思われた戦況を覆すまでに、あと一歩のところまで迫っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

玉ノ井・狐狛
(一般プレイヤーに)
くだんのモンスターとやら、元から存在したヤツか?
だったら既知のデータを。じゃなくても、今まででわかったことをひととおり
対処はこっちでやるから、代わりに攻略法を共有してくれや
▻取引▻言いくるめ

実戦のお時間だ
気負うこたァない
もし完全に好き勝手チートできるなら、とっくに即死(ゲームオーバー)だろうさ
裏返せば、システム上で戦闘できる限り、ただのゲームと大差ない

そして、勝利条件は「時間稼ぎ」
ふつうMMOの敵は「倒すために」つくられる
けど、今回は守ってれば――つまり攻撃をサボってもイイ
イージーとまでは言わないが、ま、ノーマルくらいだろ
(ゲーム内の足止めやデバフ系のスキルを中心に使用)


神樹・鐵火
ねっとげえむ...
弟子からは「魂を堕落させ人生を棒に振らせ、定期的に金をカツアゲされる恐ろしい電脳世界」
って聞いたが、それがこれか?
思ったよりも牧歌的じゃないか

げえむの世界の化物は微妙に角ばっている
紙工作めいた造詣なのだな
これが「ぽりごん」か
なら見た目がどうであれ脆いな!

近い敵は霊拳による打撃、遠い敵には霊拳の衝撃波を叩き付ける
大型の敵は轟拳の魔力溜めによる大打撃で対処
よう、電脳魔術師よ
貴公のちいとこおどで「でばっぐもーど」というのを出せ
管理者権限でげぇむを弄れるものだと聞いたぞ
それでこのげえむ内で大型で重量のある武器を出してくれ
大型武器に聖拳を纏わせ、手数を増やして大暴れだ(怪力・重量攻撃)



●現地の人たちにお願いしてみよう!
 ミレイユだけではなく、残された一般のプレイヤーたちもまた『拠点』に身を潜めてことの成り行きを見守っていた。
 傷を負ったものもいたが、応急措置や回復魔法が功を奏して持ち直し、幸いにして誰一人としてその命を落とすことなくここまで来られた――今のところは。
 だが、今はまだ猟兵たちが来たる決戦で本気を出せるようにミレイユが下準備をしている最中に過ぎない。まだ、油断は出来ないのだ。
「くだんのモンスターとやら、元から存在したヤツか?」
 玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)はモンスターどもとの交戦の前にやっておきたいことがあると、ポップ地点を敢えて砦の中の人々の前にして欲しいと頼んでいた。
「あ、ああ……あいつらみんな、元々この世界にいた連中だ」
「だったら既知のデータを。じゃなくても、今まででわかったことをひととおり」
 身を寄せ合ってひとかたまりに集まっている人々に琥珀がそう問えば、周りの顔色をうかがうように誰もが目線を走らせ――やがて、ぽつりぽつりと返事が返ってきた。
「既知って……wikiにある範囲の話程度になりますけど、いいんですか?」
「えっと……モブ狩りならある程度慣れてる、それを元にした話で良ければ」
 その反応に、琥珀は狐耳をひとつぴこりとさせて返事とした。
「グッド。対処はこっちでやるから、代わりに攻略法を共有してくれや」

(「まずは先輩プレイヤーから攻略法を聞き出すとはねぇ、やるじゃん」)
 琥珀と一般プレイヤーとのやり取りを視界の端に収めながら、ミレイユはチートコードを打ち込む手を止めることなくそう思った。
(「堅実に攻めるタイプもいるとは、ますます頼もしいじゃん……!」)
 今度こそ、本当に。勝てるという思いを抱いても許されよう。
 話を聞き終えた琥珀が、砦の外に出て行く背中が、あまりにも頼もしかったから。

「ねっとげえむ……」
 一方、先んじてモンスターどもの群れの前に立ちはだかった神樹・鐵火(脳筋駄女神・f29049)は、眼前の光景にぽそりと呟いた。
「弟子からは『魂を堕落させ人生を棒に振らせ、定期的に金をカツアゲされる恐ろしい電脳世界』って聞いたが、それがこれか?」
「待って」
 鐵火さん、お弟子さんから割と間違ってないけど結構ひどい説明を受けましたね!?
 これにはさすがのミレイユも割って入って訂正をしようとする。
「そりゃあ確かにガチャで金溶かす人もいるけどさぁ! 宇宙船の中でもある程度経済回さないとアカンわけよ!? それにまあ、のめり込み過ぎる人も……まあ」
「まあ?」
 課金コンテンツについては弁明できても、ネトゲ廃人についてはさすがに個人の問題なのであんまり口が出せないと思ったのか、口ごもってしまうミレイユ。
「まあいい、思ったよりも牧歌的じゃないか」
 幸いなのは、鐵火が興味を逸らしてくれたことだろうか。興味深げに周囲を見渡す鐵火に、ミレイユはひとまずこれ以上の追求は免れたと安堵の息を吐く。
「げえむの世界の化物は微妙に角ばっている、紙工作めいた造詣なのだな」
「クッソ、ローポリなのはそっちの方が味があるからですぅー!!」
 そうなのだ。今更ながらの説明となるが、この『フェアリー・ロンド』は最新の技術で作られた超美麗グラフィックというデザインとは少し異なっている。
 ローポリゴン、つまり敢えていかにもな作りを残すことで、どこか懐かしい雰囲気の生成とハードウェアにかかる負担の軽減とに成功したのだ。
「ほう、これが『ぽりごん』か。なら――」
 鐵火が、不敵に笑んだ。伊達に神様やってない、というものだ。
「見た目がどうであれ、脆いな!」
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ! まあモブ相手だから悔しくなんかねーけど!!」
 何かどう聞いても悔しがっていそうな声を上げるミレイユにはお構いなしで、鐵火がその拳を振るう時が来た。

「さあ、実戦のお時間だ」
 一方の狐狛も、一通りの情報を集めてその姿を現した。
 だが、地上に降りる気配はない。
(「気負うこたァない、もし完全に好き勝手チートできるなら」)
 ――何故、誰一人として致命傷を負わずに済んでいる?
(「そう、とっくに即死。『ゲームオーバー』だろうさ」)
 裏返せば、システム上で戦闘できる限り、ただのゲームと大差ない!

 狐狛が聞き出した情報をまとめれば、こうだ。
 敵の強さはゴブリンがもっとも弱く、オークがもっとも手強いとされる。
 例外として、俊敏な動作のヘルハウンドと飛行種のハーピーは、初心者が手こずる。
 フェアリーは的が小さく動きも不規則だが、ノンアクティブ――こちらから仕掛けない限り反応しないので、無闇に狙いに行かなければ無害だろう、など。
 そして、話を聞いた限り、それらの大前提は極端には覆されていない。
「勝利条件は『時間稼ぎ』、と来た」
 不敵に笑むのは、砦の上の狐狛も同じ。
「ふつうMMOの敵は『倒すために』つくられる。けど、今回は守ってれば――つまり」
 地上で殺る気まんまんの鐵火は鐵火で思惑があるだろう、ならば狐狛は狐狛なりに。
「攻撃を、サボってもイイ」
 パチン、と小気味良い音を立てて狐狛が指を鳴らせば、動き出したモンスターどもの行く手に半円状の暗い重力の力場が発生して、うっかり中に入ってしまったものどもの足を鈍くさせる。
「イージーとまでは言わないが、ま、ノーマルくらいだろ」
 そう、難しく考える必要も悲観する必要もないのだ。
 落ち着いて考えれば、難易度『普通』クラスで凌ぎきれる。
 狐狛の援護を得て、鈍足状態となった怪物に肉薄すると、鐵火は「霊拳」のエンチャントを付与された握り拳で思い切りぶん殴り、次々と蹴散らしていく。
 その先に見えた遠距離攻撃を得意とする種には、猛然と放った正拳突きで生じた衝撃波をぶつけて即座に対応する。何たる戦上手だろうか、さながら女神の如し――あれ!? ガチの神様だ! あがめよ!!
『グウゥゥゥ……ッ!』
 ひときわ大きな個体は、オークの中でも初心者では一撃で倒されてしまうほどの存在。
 ならばと鐵火は拳に纏わせるエンチャントを「轟拳」に変えて、荒れ狂う魔力を何とか溜めに溜めて、振り下ろされる棍棒を紙一重で躱しながらカウンターで一気にぶち込む!
『ガッ……』
 オークの巨体を一撃でぶっ倒すほどの威力だが、鐵火はあとひと押しが欲しいと思い、おもむろに声を上げた――ミレイユに向かって。
「よう、電脳魔術士よ」
「ふぁ!? な、何すか!?」
 割と真面目にコードを打ち込み続けていたので、突然声を掛けられて変な声を上げてしまうミレイユ。何度でも言いますが見た目がイケメンエルフなので本当に残念です。
「貴公のちいとこおどで『でばっぐもーど』というのを出せ」
「待って!? 何でその話知ってんの!!」
「管理者権限でげぇむを弄れるものだと聞いたぞ」
「ぐああ、あんたアレでしょ! 身内にそっち系に詳しいのがいるでしょ!!」
 鐵火自身には知識がなくとも、入れ知恵と言っては悪いが、事前に対処法としてそういった知識を伝授したものがいてもおかしくはない。
 いいんです、いいんです。使えるものはどんどん使っていきましょう!
「それで、このげえむ内で『大型で重量のある武器』を出してくれ」
「ほう……? なら大剣か、いや……コッチの方が似合うねぇ、ほれ!」
 ミレイユの声と共に鐵火の前に現れたのは、両腕に嵌めて振るう巨大な『手甲』。
 拳を武器とする鐵火にはうってつけの武器だろうと、とびきりゴツい見た目のものを用意したのだ。
「――良いぞ!」
 ガシャン! と気持ちいい音を立てて手甲を打ち合わせる。
 そうして纏わせるエンチャントは「聖拳」!
 手甲が青白いオーラに包まれ、その重量感からは想像も出来ないほどの速さで拳が繰り出される。それはつまり、手数が増えるということ。
「ははははは、やはりな――脆いっ!!」
「いや、アンタが強すぎるんでしょ……」
「まあまあ、もう少しでカタが付きそうだから。それよりチートコードの進捗は?」
 大暴れする鐵火にミレイユが複雑な顔をして、そこへ狐狛が核心に迫る問いを放つ。

「――サンキュー猟兵、マジで。もうすぐモブの無限湧きは止められる!」
 ミレイユが最後のエンターキーをタッチすると同時に、鐵火の前からモンスターどもの群れが掃討されたきり、辺りがしぃんと静寂に包まれたのだ。
 それはつまり、猟兵たち全員での『時間稼ぎ』に成功した証でもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ドクトル・アメジスト』

POW   :    アメジストバインド
【アメジストの結晶】から【電脳魔術】を放ち、【精神干渉】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    サイキックアームズ
召喚したレベル×1体の【機械兵器】に【サイキックエナジーを籠めたアメジスト結晶】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
WIZ   :    ラボラトリービルダー
【電脳魔術】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を自身の「工房」と定義し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。

イラスト:片吟ペン太

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠メイスン・ドットハックです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●決戦、ドクトル・アメジスト
「しのい、だ……」
 何やかやでものすごく集中して作業をしていたミレイユが、ぽつりと呟く。
 この『拠点』を襲うモンスターの群れは一掃することが出来た。ならばあとは事件の黒幕を打倒して、この『フェアリー・ロンド』の世界を元に戻さなくては。
 しかし、肝心の黒幕はどこにいるのか? 一向に姿を現す気配がない、誰もがそう思った時だった。

『チートにはチートって所かい? あたしのハッキングにここまで反撃するとは、大したもんだ』

 本来ミレイユの管轄下にあるはずの『拠点』内に、無断で一枚のビジョンが浮かび上がると同時に、紫色の人影のようなものが映し出された。
「アンタが、このファッキンチートを……!」
『あっはっは、でも悪くなかったろ? 猟兵たちとスリリングな防衛戦さ、楽しんでもらえたと思うんだけ――』
 今度はミレイユがコードを打ち込んで、無粋なビジョンをかき消す番だった。
 怒りに震える手で、ホロキーボードを叩きながら電脳魔術士は猟兵たちに告げる。
「……今のがボスだねぇ。クッソ気に食わないけど、ここに引きこもってても埒が明かないってヤツみたいだわ」
 なら、どうすれば? と問われる前にミレイユは自ら答えを述べる。
「こっから反対側、まっすぐ行ったところにもうひとつ『拠点』がある。今のヤツはそこに陣取ってるから、私たちが乗り込むしかないんだわ」

 ――そして、ぶっちめる。

 砦の中での戦闘になるのか、という問いには首を横に振る電脳魔術士。
「室内戦にはならない、っていうか『させない』。これは私の意地に賭けて、何としてもヤツを外に引きずり出してみせる」
 砦の外での戦闘であれば、使えるユーベルコードの制約も考えなくて済むだろう。
 ただし、使用制限があるという話はどうなったのか?
「アンタたちが稼いでくれた時間は十分、回数とか気にせずぶっぱしていいわ。持ち込めるのは一つだけだけどねぇ」
 そう言って、ミレイユは全てのインターフェースを閉じると猟兵たちに向き直る。

「私も同行する。足手まといになるかもしんないけど、援護は続行しないといけないから」

 紫水晶――『ドクトル・アメジスト』を倒すべく。
 猟兵たちは電脳魔術士と共に、敵の本拠地へと突き進む――!
スリジエ・シエルリュンヌ
(真の姿アバターに)
わかりました。お願いします、ミレイユさん!
文豪探偵、推して参ります!
と、そのまえに。ミレイユさん、この『桜祈光』をスカーフのようにでも良いので、つけてくださいな。オーラ防御での守りになります。

選んだUCは【桜火乱舞】。敵はドクトル・アメジストだけですから、これで彼女が動ける範囲を制限します。
ふふ、備えているとはいえ、ミレイユさんに攻撃を届かせはしませんから。
キセルパイプでのマヒ&精神攻撃つき殴打or投擲に…近づきますから、殴打が主ですね!
電脳魔術は見えませんが…甘んじて受けましょう。真の姿だと炎の翼がありますから、それを使用してのオーラ防御です!
工房にはさせませんよ。



●炎揺らぎ、桜舞い、キセルパイプが唸りを上げる
 ミレイユたちが籠城していた砦の真っ反対に位置する、もうひとつの砦。
 ドクトル・アメジストはそこを己の『工房』として、持てる力を存分に振るっていた。
 だが――。
『本来なら進入不可の領域だっていう『設定』を取り戻したね?』
 ドクトルは紫水晶でできた腕を組んで、不敵に笑う。
「そう、うちの砦も使えなくなったけど問題ないさぁ――もうすぐ決着がつくからね」
 立てこもっていた人々も同時に外に出される形となったけれど、ミレイユはそれを何ら不安に思うことなく言い放つ。
『やれやれ、工房から一歩も出ないで出来る簡単なお仕事って聞いてたのに。こいつは労災申請しても許される案件だとは思わないかい?』
 サイバーゴーグル越しに居並ぶ猟兵たちを品定めするかのように眺めて、ドクトル・アメジストはそれでも軽口を止める気配がない。
『……なんてね。あたしに指一本でも触れられるものなら、やってみせてご覧よ』
 浮遊台座から下りることなく、わざとらしく脚を組み直し、そう言い放つ。
 感じられる気配はあまりにも強く――決して油断ならぬ相手だと教えてくれた。

「――わかりました」
 さくり、さくりと大地を踏みしめて進み出るスリジエ・シエルリュンヌの姿は、雑魚を蹴散らしている時とは打って変わって――まるで、そう。
「お願いします、ミレイユさん!」
「わお、レアドロップの装備か何か!? めっちゃ強そうじゃん!!」
「はい――文豪探偵、推して参ります!」
 猟兵たちの間では『真の姿』と呼ばれる、埒外の存在たる本性を露わにした姿。
 スリジエはそれをアバターとして今こそ身に纏い、決戦に臨むのだ。
 ミレイユの心からの賛辞に柔らかい笑みで返すと、スリジエはそっと電脳魔術士に近付いて何かを手渡した。
「と、そのまえに」
「……?」
 ふわり、とミレイユの手の上で優しい桜色をした光のヴェールが広がる。
「この『桜祈光』を、スカーフのようにでも良いので、つけてくださいな」
 それは、文字通りの『お守り』。
 離れていても、所持者をオーラの障壁で守ってくれるから。
(「流れ弾でも当たっては一大事ですから、ね」)
 そうしてミレイユの襟首に巻かれたスリジエの細やかな心配りは、間違いなく大きな一手となった。

『泣かせるねえ、パッと解析した感じ大した効果はないだろうに』
 ドクトルはあくまでも理知的であるがゆえに、アイテムをデータでしか見ない。
「そう、気休めかも知れません。けれど――」
 スリジエの瞳に、鋭さが宿る。
 同時に、バッと振り抜いた腕に呼応するように、無数の桜の花弁を模した炎の剣が無数に生み出される。
「ここに、私の力を! 【桜火乱舞(オウカランブ)】!!」
 剣が舞う。ドクトルを包囲するように、万華鏡を思わせる幾何学模様を描いて剣が飛び交い、その行動を阻害する。
『……やるねえ、相手があたし一人と踏んでの策かい』
「ふふ、備えているとはいえ、ミレイユさんに攻撃を届かせはしませんから」
 紫水晶と天の月が言葉を交わしたのは刹那、すぐに桜纏う文豪探偵は愛用のキセルパイプを握りしめ、ドクトル目掛けて駆け出した。
 交錯する炎の剣が、一瞬だけ主のために道を開ける。それを掻い潜り、着物姿とはとても思えぬ俊敏さで一気に悪しき天才電脳魔術士へと肉薄する!
「肉弾戦はお好きですか? 私は――」
『あたしは御免だね、お帰り願おうか』
 ドクトルが視認できぬほどの速さで何かのコードを打ち込むと同時、0と1の奔流が精神に直接作用する恐るべき力を帯びてスリジエに襲いかかった。
「いいえ、お付き合い願います!!」
 攻撃を、避けることもできたろう。けれど、スリジエは敢えて炎の翼を一度広げてすぐ己を包むように防御の障壁と成して電脳魔術を『甘んじて受け止めた』。
 躱すのは容易いが、流れ弾はミレイユを狙うだろうし、そうでなくともドクトルの工房を広げて有利にさせてしまう。故に、受けた。
 一瞬だけ顔をしかめながら、スリジエは力任せにキセルパイプを振り抜いた。
『がっ……!?』
 不断の意志を貫いたスリジエの勝ちだった。バリツ系文豪探偵の名に恥じぬ一撃は、咄嗟に腕で致命を防がれたものの、その生命線とも呼べる片腕を痺れさせたのだから。

「――あなたの思い通りにはさせません、ドクトル・アメジスト!」

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャック・スペード
お疲れサマ、と言いたい所だが
もう少しだけ頼むぞ、ミレイユ

ドクトル、お前の悪事も此処までだ
ゲームの中からも、現世からも
ログアウトさせてやろう

屑鉄の王と融合しよう
蒼い稲妻纏ったモノアイの異形と化せば
ミレイユの傍らに陣取り彼女の盾と成る
――見た目が怖くなったが、少し我慢してくれ

リボルバーから雷纏う弾丸を乱れ撃ち
襲い来る機械兵器を撃ち落とす
可能ならそれらが纏うアメジスト結晶も撃ち抜こう
ミレイユに肉薄してくる敵は、Rosaspinaで切り裂こう

勿論、ドクトルを見逃しはしない
呪殺の弾を込めた誘導弾を
彼女の許に撃ち込んでやる

この身に流れる電流が尽きる迄は
ミレイユを守ってみせる
力尽きた後は頼れる同朋に託そう


木常野・都月
ボスの猟書家を倒せば、ゲームクリア!だな!

ミレイユさんが、猟書家を拠点?砦?から出してくれたんだ。
それに応えられる妖狐でありたい。
チートとか、難しい事はわからないけど、要はズルだろ?
ズルしないと勝てない奴に負ける訳にはいかない。
俺、頑張るぞー!

UC【精霊疾走】で炎と風の精霊様を纏って猟書家に体当たりしたい。

敵の精神干渉はチィの[カウンター、属性攻撃]で対抗したい。
精神の狂気や浄化を司る、月の精霊様なら相殺出来たりするかもしれない。

そして、体当たりした瞬間に魔力を高めて「ちゅどーん!」って大爆発させたい。

硬い宝石の人でも、大爆発なら、効くかもしれない。

このゲーム、ズルがなくなったら遊びたいなぁ。



●機巧と精霊の協奏曲
 砦の前での決戦は、まだ始まったばかり。
 初手猟兵有利で進められたものの、敵にもまだ余裕は残されている。
 ドクトル・アメジストが受けたマヒを永続的なものに出来れば理想的だったが、今のミレイユはこれまで仕込んできたチートコードを維持して、猟兵たちがユーベルコードを駆使して戦えるようにするのが精一杯。
 悔しいが、これが圧倒的天才とそこそこ優れた者とのどうしようもない差なのか。
 ギリ、と歯がみするミレイユの傍に、そっと立つ巨躯があった。
「お疲れサマ、と言いたい所だが」
 ジャック・スペード、くろがねのダークヒーローの声音は心地良く響き。

「もう少しだけ頼むぞ、ミレイユ」
「……! オッケー。任せといて」

 己が頼られている、という事実が、弱気になりかけた電脳魔術士の心を再び奮い立たせる。再び猟兵たちの支援を続行するミレイユを背にするように、ジャックが立った。
「ドクトル、お前の悪事も此処までだ」
『ハ、あたしもだいぶ嫌われたもんだねぇ? まるで悪役みたいな扱いじゃないか』
 己の立場を理解した上での軽口もまた、余裕の表れなのだろう。
 ならば――。
「ゲームの中からも、現世からも、ログアウトさせてやろう」
 その鼻っ柱、徹底的にへし折ってくれる!

「ボスの猟書家を倒せば、ゲームクリア! だな!」
 そういうことなら、と木常野・都月も『勝利条件』を目の前にして俄然張り切る。
『言うだけなら簡単、だけどそれが本当に出来るかどうかはまた別さね』
 軍帽をくるくると指先で回しながら、ドクトルが挑発的に笑う。
 だが、都月も負けじとそんな紫水晶を睨み返す。
(「ミレイユさんが、猟書家を拠点? 砦? から出してくれたんだ」)
 それは、言ってのけるだけならば容易いことでありながら、実現させるには非常な困難を伴ったに違いない。
(「――それに応えられる妖狐でありたい」)
 ならば、都月も相応に――いや、それ以上に多くを報いなければならないと強く誓う。
 ミレイユはやってくれた、次は自分の番だ。
 都月もまたドクトルの前に進み出て、胸元で拳を握り叫んだ。
「チートとか、難しい事はわからないけど、要は『ズル』だろ?」
『まあ、間違ってはないねぇ?』
「ズルしないと勝てない奴に負ける訳には行かない!」
『待ちな、ズルしなくてもあたしは勝てるっての! 今回は――』
 まあ聞けと言わんばかりにドクトルが都月の煽り混じりの台詞に反応するも、こうなるとこの妖狐の青年はもう止まらない。やる気がみなぎっている。
「俺、頑張るぞー!!」
『だーかーらー、聞けっての! あーもうこれだから勢いで生きてるヤツは!』
 ドクトル・アメジストが、軍帽を握り潰さんばかりの勢いでぐぬぬとなる。
 その隙を、ジャックは見逃さなかった。

(「俺の姿を、彼女は恐れるだろうか」)

 これよりジャックが変貌するのは、単眼の異形。
 廃獄より蘇りし、蒼き稲妻を纏った――その超常の名こそ、【君臨せしは屑鉄の王(レイ・デ・チャターラ)】!
 その威光を、世界にしかと焼きつけんと降臨した、紛れもない――。
「オブリビオン……!?」
 ドクトルはもちろん、都月も尋常ならざる気配に振り返る。
 ジャックは骸魂『屑鉄の王』と融合し、一時的にその身をオブリビオンと成したのだ。
「――見た目が怖くなったが、少し、我慢してくれ」
 ミレイユを守るように陣取りその身を盾と成すモノアイの異形の言葉に、しかしミレイユはニィと笑って返す。
「ううん、最高――そっちの格好もイケてるよぉ」
 割と守備範囲が広いお嬢さんなようで何よりです。額にうっすら汗を浮かべながらも、電脳魔術士は支援の手を緩めない。
 ならばとジャックもリボルバーに手を掛ける、何しろ『あまり時間がない』のだから。
『やっぱりユーベルコードってのは厄介だねえ、でもこれならどうだい?』
 ドクトルが放つ機械兵器は、ひとつひとつは小さくとも、サイキックエナジーが込められたアメジスト結晶を生やされている。
 掠るだけでもただでは済むまい、一目でそう見て取れた。
 だから、ジャックはそれが到達するよりも速く討って出た。
 リボルバーの弾数を完全に無視した――ミレイユのチートコードを得ての、乱れ撃ち!
 次から次へと紫の結晶ごと砕け散る機械が、鉄屑となって地面へと落ちる、落ちる。
「……っ」
 ミレイユを狙う個体が出るのも想定の範囲内、リボルバーを握る手とは反対側に装着した銀の鉤を射出して容赦なく切り裂き屠る。
『やるねえ、だけど……ソレ、そう長くは保たないんだろ?』
「……」
 稲妻がパリリと爆ぜて、モノアイの異形が沈黙する。
 ドクトルがニィと笑んで、攻撃の第二波を浴びせかけようとした、その時だった。

「精霊様、俺と一緒に駆けて下さいっ!!」

 風に乗るように、炎が揺らめくように、都月が叫ぶと同時に精霊の加護を得た。
 ひとの姿は巨大な黒い狐の姿と化して、四つ脚で地を蹴り駆ける、駆ける――!
 擬似的なものとはいえ、ファンタジーの世界ならではの空気がある。
 そこには確かに精霊たちの存在があり、都月の呼び声に応えたのだ。
 故に【精霊疾走(トモニカケルモノ)】はここに成り、あらゆる障害をものともせずに悪しき猟書家へと駆け抜けた。
『チッ……!』
 忌々しげに舌打ちをしたドクトルが迫る都月を一瞥すると、0と1の電脳魔術が直接都月の精神に干渉して強引にその突進を止めようとする。
(「チィ!」)
 共に駆けるものは、精霊だけではなかった。
 黒狐の都月のモフモフからニュッと顔を出した月の精霊の子『チィ』が、その特性――精神の狂気と浄化を司る力で、干渉を相殺したのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
 負けられない。負けたくない――こんな奴に!
 その一念は見事果たされ、ドクトルの身体に思い切り体当たりをぶつけ。
 それだけには留まらず、魔力を最大限まで高めての――大爆発!!
『が……はっ……』
 硬い宝石で出来たモノであっても、これだけの衝撃を直にぶつけられてはたまらない。
 台座に腰掛けていたため、その身を仰け反らせるに留まったドクトルの胸元を、体内の電力が尽きかけていたジャックが最後の力で狙い澄ます。

「終わったと思ったか?」
『な……ッ』

 がきん!! 呪殺の弾がでたらめな軌道を描いて、狙い違わずドクトルの胸元に着弾した。アメジストのボディに、確実なダメージが積み重ねられていく。
 たまらず胸元を押さえてギリと歯を食いしばる猟書家、だがジャックもまたその力の代償としてその活動の限界を迎えようとしていた。
「ミレイユ、後は、皆が」
「分かってる……!」
 電脳魔術士は、機械仕掛けのヒーローの献身を決して忘れない。
 だから、同胞である猟兵たちが戦い続ける限り、己もその手を止めぬと誓う。
 ザザ、ザ――。視界をノイズが埋めていく中で、ジャックは何とか膝を付いて倒れ伏すのを堪える。
(「託したぞ」)
 爆発の余波で、高々と吹き飛ばされた都月もまた、確かな手応えを感じながら思う。
(「このゲーム、ズルがなくなったら遊びたいなぁ」)
 この事件が解決して、本来の仕様でゲームが遊べるようになったら、ミレイユにそうお願いしてみようと思う都月。
 ああ、それはきっと、大歓迎されるに違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
なるほど、さっきのがドクトル・アメジスト。
コード封印程度でどうにかなると舐めプしてくれるなんて、如何にもな頭でっかちみたいじゃない。
それじゃあ、味わわせてあげましょうか……私達猟兵の恐ろしさってヤツをね。

【超★筋肉黙示録】発動させつつ正面から接近
邪魔なものは全て「怪力」込みの鉄拳で殴り壊し、アメジストを殴りに行く
精神干渉攻撃をかけてくるみたいだけれど、気にしない
何故ならば
私の筋肉を信じる心は金剛石並に硬いからよ!
(結晶を握力だけで破砕しながら)
紫水晶如きでこの鋼の筋肉と金剛石の信仰心をどうにかできるなんて思わない事ね!
(※正確にはコードによる脳筋自己暗示で精神干渉を弾いているイメージです)


神樹・鐵火
ほう、電脳空間に入り浸った輩
これが「ねとげはいじん」というものか?
貴公の公主とやらは人事の才能が無い様だ
参謀がこの体たらくでは女帝は務まらんな

結晶を掴み、精神攻撃は羅気で跳ね返す
結晶にあえて魔力溜めし、成長させる
...但し、溜める魔力は聖拳と魔拳の混合だ
相反する属性だからな、轟拳以上に不安定になる
ある程度成長した所で怪力任せに投擲
直撃した瞬間大爆発だ、飛び散る破片は龍拳をエネルギー化したオーラで防ぐ

怯んだらダッシュで急接近し、
無防備な懐に闘心破拳を打ち込む
この手の輩は接近すると唯の雑魚だからな
外に出て鍛え直してこい!



●頭脳派は脳筋と相性が悪い
 悪寒がした。
 こう、理知的なドクトルとしては認めたくないが、本能レベルで怖気がしたのだ。
 自分とは致命的に食い合わせが悪い、出来れば相手にしたくない手合いが、よりにもよって複数こちらに向かってくるのを捕捉してしまったから。

「なるほど、さっきのがドクトル・アメジスト」
 戦巫女の姿で、淡々と確認するのは荒谷・つかさ。
「ほう、電脳空間に入り浸った輩。これが『ねとげはいじん』というものか?」
 戦神にして脳筋、神樹・鐵火もまた、品定めをするかの如く紫水晶を見遣る。
 対するドクトルはといえば、完全に及び腰――おっと失礼、慎重な構えであった。
(『こういう手合いは、まともに相手したら負けってね』)
 相手を見下げた不敵な発言を引っ込めて、ただ先手必勝を狙ってアメジストの結晶から0と1の電脳魔術を放ち――そう、手を出される前に倒してしまえばいいのだと!

「コード封印程度でどうにかなると舐めプしてくれるなんて、如何にもな頭でっかちみたいじゃない」
 だが、つかさは一切動じることなくその場を微動だにせず。
「貴公の公主とやらは人事の才能が無い様だ、参謀がこの体たらくでは女帝は務まらんな」
 鐵火もまた、ドクトル・アメジストの主たるプリンセス・エメラルドに言及して大胆不敵な挑発をする。
『プリンセスのことはさておき、だ――あたしへの侮辱は聞き逃せないねえ?』
 大口叩いておきながら、二人揃って精神干渉に屈したらそれこそいい笑い種だ。
 どう出る、猟兵? せいぜい足掻いて、あたしを楽しませてご覧よ!

 二人の猟兵が、同時に拳を固めた。
「それじゃあ、味わわせてあげましょうか……」
 つかさが凄絶な声音で告げて、鐵火が大仰にひとつ頷く。
「私達猟兵の恐ろしさってヤツをね」

 ――がきぃん!!
 飛来する紫の結晶を、視線を向けることもなく無造作に、しかしがっしりと片手で掴んだのは鐵火だった。
 水晶が共鳴を起こすように不可視の波動を送り込み、精神への攻撃を仕掛けようとするのを、何と言うことか『気』ひとつで全て防ぎ、跳ね返す!
『は……!?』
 遠目に様子を伺っていたドクトルも、この強引さには目を剥いてしまう。
 鐵火は握りしめた結晶を、その気になれば砕くことも容易く出来ただろう。けれど、そうしなかったのは何故か?
(「私の魔力をくれてやろう――何、遠慮は要らぬ。たんと蓄えよ」)
 掴んだ拳に「聖拳」を、もう片方の拳に「魔拳」をそれぞれ纏わせ、両手を添えることで相反する青白い力と赤黒い力とが一気に結晶へと注がれる。
(「相反する属性だからな、轟拳以上に不安定になろう」)
 紫の結晶は、めまぐるしくその色を変える。まるで、己が何色であるべきかに迷うかの如く。
 そうして、十分に力を蓄えたという手応えを感じた鐵火は、今にもはちきれそうな水晶を恐るべき怪力任せにドクトル目掛けてぶん投げた。
『な、ちょっとちょっと待ちなって、ソレはそういう使い方するんじゃあ――』
 どうしてそういう乱暴なことするんですかという顔でドクトルが言いかけて、しかしその言葉は咄嗟に己をかばうように前面に展開したアームデバイスに直撃した水晶の大爆発によってかき消されてしまった。
(『また爆発か――!!』)
 人が鉱石で出来ているからって好き勝手しやがってという心境のドクトルだったが、多分相手が誰であれ何であれ、猟兵たちは手段を選ばなかったに違いない。
 一方の鐵火は、飛び散る破片を「龍拳」をエネルギー化したオーラで完全に防ぐ。
 めっちゃ涼しい顔をしているのだから恐ろしい、これだから戦女神はおっかない!

 つかさの元にも、恐るべき結晶が迫りその精神を砕こうと忌まわしい波動を放つ。
 だが、それがいけなかった。
 精神力の勝負でこの脳筋羅刹をねじ伏せようというのが、そもそもの戦略ミスだった。
 おもむろに腕を引き、そして突き出した拳が水晶を粉微塵に砕く。
『は!? 一撃……!?』
 爆発の衝撃から姿勢を元に戻そうとしていたドクトルが、信じられないという声を上げた。無理もない、つかさは謎のオーラを全身に纏ってこちらへと真っ直ぐに突き進んでくるのだから――けしかける結晶をすべて、ことごとく『殴り壊して』!
(「この私を、ましてや【超★筋肉黙示録(ハイパー・マッスル・アポカリプス)】を発動させた私を」)
 がん! がしゃん、ぱりぃん……!!
 まるで羽虫を振り払うかの如き仕草めいて、つかさが鉄拳を振るえば結晶はことごとく砕け散る。にわかには信じがたい光景だった。
 隙を突いて精神攻撃の波動を浴びせかけることに成功したものも居るには居たのだが、何と言うことか、つかさは一切それを意に介さないのだ。
『大したもんだね……これもそっちのチートコードかい?』
 次の手を打たねばとコンソールに指を走らせるドクトルの問いかけに、ミレイユは意外な答えを返したのだった。
「違う、私なんもしてない! マジで! 二人とも『自力で戦ってる』!!」
『はぁ!!!!??? チートじゃんそれ!!!!!』
 遂に、天才電脳魔術士たるドクトル・アメジストにまで存在自体がチート扱いされてしまうつかさと鐵火。うーん、残念でもなければ当然の反応ですね!
(「精神攻撃をかけてくるみたいだけれど『気にしない』、何故ならば」)
 ぶぉん!! と唸りを上げて振るわれた拳が、またひとつ結晶を砕く。
「私の筋肉を信じる心は、金剛石並に硬いからよ!!」
 ばきぃ!! 飛来した結晶を掌で受け止め、握力ひとつで破砕する。
 そうして――遂に、ドクトルの眼前まで到達するつかさ。
『何で、どうして揺るがない……!?』
「紫水晶如きで、この鋼の筋肉と金剛石の信仰心をどうにかできるなんて」
 おもむろにドクトルの胸ぐらをむんずと掴み、つかさは赤茶色の瞳で射抜く。
 この脳筋自己暗示こそが、一切の精神干渉を弾き、信念を貫き通させたのだ。
「どうにかできるなんて、思わない事ね!!」

 ――ドクトルの身体が、宙を舞った。

『無茶苦茶な……ッ!?』
「案の定だ、懐が無防備だぞ」
 放り投げられ、姿勢を制御できないドクトルに、地を蹴って一気に迫った鐵火が囁く。
 そう、囁きでさえ届く距離にまで肉薄したのだ。
 ズドン、という音がしたような気がした。実際、響いたかも知れない。
 ドクトルの鳩尾に、強烈極まりない掌打がぶちかまされたのだから。
 その名を【闘心破拳(トウシンハケン)】、今のドクトルのように姿勢を崩している相手に対しては、特に致命的な一撃となる恐るべき超常。
(「この手の輩は、接近すると唯の雑魚だからな」)
 かくして鐵火の読み通り、近付いてさえしまえばこちらのもので。
『か、は……』
 吹き飛ばされ、後方の砦に思い切りその身を打ち据えられたドクトルに向けて、鐵火は戦女神の威厳溢れる立ちポーズで言い放つ。
「外に出て、鍛え直してこい!!」
『あたし、もう帰っていいかい!?』
 それでもしぶとく身を起こしながら、ドクトルは涙目で叫び返したとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御桜・八重
【SPD】

初戦に続き桜色の軽戦士の姿で前線へ。
この格好、結構気に入ってるんだけど似合うかな?
後でネリーちゃんに聞いてみよっと♪

「こういう手合いは、鼻っ柱をへし折るのが一番効くんだよね♪」
いや、単純に力業と言うわけではナイデスヨ。
お友達のお姉さんに影響されたわけではナイデスヨ。
相手の得意技を潰すのが効果的ってこと。
聞いてる?ミレイユさん。

「護りの花よ、咲きほこれ!」
桜の髪飾りが分裂して宙に舞い上がり、
オーラの盾を広げて防御の壁を作り出す。
けど、それだけじゃないよ♪

「そこっ!」
高速回転してオーラを薄く伸ばした髪飾りは、
次々と機械兵器に生えたアメジスト結晶を打ち砕き無力化する!

ズルする人はお仕置き!


玉ノ井・狐狛
今度はきっちり“倒さなきゃいけない”ワケだが
なァ、アンタ(紫水晶)――ドロップは美味しいヤツかい?

向こうが電脳魔術を使うんなら、こっちも専門家に頼ろう
とはいえミレイユの嬢ちゃんも忙しいだろうから、手をかけさせないやり方でな
►冊で嬢ちゃんの視界を覗かせてもらって、ボス敵の攻撃範囲等を可能な限り正確に察知
▻索敵▻偵察

当面は回避に専念して、その間にUCの詠唱時間を稼ぐ
▻時間稼ぎ▻高速詠唱▻多重詠唱

このボスにゃ、さっきのモンスターどもと違って“攻略情報”がない
それをぶっつけ本番で倒すってんなら、畢竟
(UC×可能なら援護を受けて連射
火力でゴリ押すのがベストってモンだぜ

アタシはレベルが上がった、なぁんてな



●共に戦え、力の限り
(「この格好、結構気に入ってるんだけど似合うかな?」)
 先の『拠点』防衛戦で身に纏った、桜色の軽戦士のアバター。
 それをそのまま引き継いで、御桜・八重は心弾ませながら決戦へと赴く。
(「後で、ネリーちゃんにも聞いてみよっと♪」)
 かのグリモア猟兵ならば、後方での転移と同時に状況のモニタリングも行っているに違いない。どんな感想を述べるかを楽しみに、八重は双剣を構え直した。

 直前の、ある意味凄絶な戦いを目の当たりにして、ミレイユはほんのりと思っていた。
(「これ、私もう特に援護しなくてもダイジョブなんじゃないかな……?」)
 けれどそうはいかじと、その肩にポンと手を置くのは玉ノ井・狐狛だ。
「ヒッ」
「何だい、味方相手に怯えるこたァないだろ。ん?」
 もちろん狐狛は事情を把握しているが故に、わざと意地悪く電脳魔術士を弄る。
 そして、少なからずダメージを受けているのが見て取れるドクトル・アメジストへと。
「今度はきっちり『倒さなきゃいけない』ワケだが」
『……そうさね、殺るか殺られるかなのは確かな訳だ』
 だが、勝負はまだ終わっていない。ドクトルは天才たる己の誇りにかけて、なおも戦場に立ち続けるのだ――たとえそれが、本来の戦い方ではないとしても。
 ゲームだって、リアルだって、引けない戦いは起こりうる。
 それがまさに、互いにとって『今』だとするならば。
「なァ、『アンタ(紫水晶)』――ドロップは美味しいヤツかい?」
『ハ――当然! レアもレアよ、今そう設定してやったさ』
 ドクトルは笑う、己の勝利をなおも疑わずに。
『あたしを狩れるモンなら、やってご覧よ――猟兵ッ!!』
 高速でプログラムが組み直されて、再度苛烈な攻撃が始まった。

 八重の教育によろしくない戦闘が直前に繰り広げられたこともあって、めっちゃ影響を受けた発言が飛び出してしまう。
「こういう手合いは、鼻っ柱をへし折るのが一番効くんだよね♪」
「うん、まあ、ハイ、ソウデスネ……」
 それを聞いて色々と察したミレイユが、コードを打つ手こそ止めないものの、遠い目になって返事も胡乱になる。
「いや、単純に力業と言うわけではナイデスヨ」
「ええ~~~? ホントにござるかぁ~~~?」
「お友達のお姉さんに影響されたわけではナイデスヨ」
「うっそだぁ~~~~~絶対アレ見て影響受けたでしょ~~~~~」
 八重の語尾のイントネーションがちょっと怪しいのが気になるのか、ミレイユは中々信じようとしてくれない。ああっ、目の焦点さえ定まらなくなってきてる!
 一転真顔になって、八重がドクトルの方を見据えながら桜の髪飾りに手を添えた。
「相手の得意技を潰すのが効果的、ってこと……聞いてる? ミレイユさん」
「アッハイ、わかりました」
 大丈夫かなあ!? 話半分かも知れないから油断せずに行って下さいね!

(「向こうが電脳魔術を使うんなら、こっちも専門家に頼ろう」)
 狐狛はいつも通り策を練り上げつつ、横目でミレイユの方を見る。
(「とはいえミレイユの嬢ちゃんも忙しいだろうから――」)
 はい、忙しいといえば忙しそうですね! ちょっと正気を失いかけてる感じです!
「……手をかけさせないやり方でな」
 苦笑いひとつ、瞼を閉じた狐狛が次に目を開けると、瞳の色が緑鉛に変じていた。
 ――瞳術がひとつ「獏瞳“冊”」の発動を示すそれは、何とか踏みとどまってコードの維持に集中を再開したミレイユの視界をちょっくら覗かせてくれる。
(「何だかんだで、しっかり見てるじゃないか」)
 範囲無限、を狙ったのだろうが、チート対チートのぶつかり合いの結果ある程度攻撃範囲は限られているようだった。
 安全地帯――安地もあるといえば、ある。これは大きな収穫だった。
 これを口頭で伝達していたら相手にも気取られて優位を潰されかねなかったと思えば、ミレイユの視界をこっそりと覗き見するという策は非常に有効だった。
 さて、あとは攻め手が自分だけではないという点も活用させてもらおうではないか。

 その超常の名は【花筏(ハナイカダ)】。水面に浮かぶ桜の花弁を思わせる形と化した桜の髪飾りは、ひとつひとつが護りのオーラを展開する。
 そして、高速回転させれば薄く伸ばされたオーラが触れたものを鋭く切り裂くという、攻防一体のユーベルコードでもある。
「護りの花よ、咲きほこれ!!」
 八重の力強い声に合わせて、桜の髪飾りは無数に分裂して宙に舞い上がる。
 そうしてオーラの盾を広げ、飛来するアメジストを生やした機械兵器から自らと仲間たちを徹底的に守り抜く。まさに、鉄壁の防御と呼ぶに相応しい。
「でも、それだけじゃないよ♪」
 一度距離を取ろうと下がっていく機械兵器たちを、桜色の軽戦士は鋭く指さす。
「そこっ!!」
 護りの盾は、一転してそれぞれが高速回転を始め、機械兵器を――いや、生え出たアメジスト結晶を的確に打ち砕いて、次々と無力化していく!
『勝った気になられちゃ困るねえ、まだ攻撃を相殺しただけじゃないか』
 ドクトルは嫌味な笑いで八重を挑発するが、負けじと八重は言い返す。
「ううん、まだ終わりじゃない――ズルする人は、お仕置き!」

 ――ズゴゴゴゴ、ゴゴゴゴ……!

 地響きが起きて、八重は一気に後方へと飛び退る。
『何をした!?』
「これからするんだよ――わたしじゃないけどね!」
 八重の役目は『時間稼ぎ』、狐狛がユーベルコードを十全に行使できるようにと。
 攻撃をさせて、それを全て防ぎ、そして反撃する。
 これだけの時間があれば、狐狛の高速多重詠唱による強化は万全なものとなる。
(「このボスにゃ、さっきのモンスターどもと違って『攻略情報』がない」)
 ドクトルは言うなれば、wikiにも載っていない未知のレイドボス。
(「それをぶっつけ本番で倒すってんなら、畢竟――」)
 ミレイユのコードがまたひとつ打ち込まれ、力があふれ出てくるのを感じる狐狛。
「支援、ヨシ! ユーベルコード、ヨシ! 火力でゴリ押すのがベストってモンだぜ!」
 何の攻撃が有効なのかが分からないならば、何でも呑み込む勢いこそが最強なのだ。

 ――【出遅れがちの大喰らい(グリーディ・ダストシュート)】。

 指数関数的に跳ね上がった威力をもった念力波が疾走し、バガンと大きく地を割った。
『クッ……! これじゃあ、地形を『工房』に出来ない……!』
 浮遊する台座に腰掛けているとはいえ、繰り返し放たれる念力波が鋭い衝撃となってドクトルを襲う。避ければ避けた場所へと、無限に狐狛の超常が一直線に放たれる。
「アタシはレベルが上がった、なぁんてな」
 ドクトルさえも翻弄しながら不敵に笑んで狐狛が漏らせば、ミレイユが返す。
「いやー、レベルアップもゲームの醍醐味なんだけどぉ」
「ん?」
「さっき、二人ともカンストまで引き上げちった☆」
 てへぺろするミレイユを見て、八重と狐狛が一度顔を見合わせ、口々に言った。
「……それさあ」
「真っ先にぶちかますべきだったんじゃないのかィ???」

 電脳魔術士、ひたすら笑って誤魔化すの巻でございました。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雷陣・通
戦闘時間は十分
となるとここでカードを切るのは流れを変える方法だ

ミレイユがどこまでやってくれるか分からないけれど、ここは敢えていこう

†前羽の構え†

ドクトル・アメジスト
俺の出番はお前のカードを潰すこと
この技なら、お前の電脳魔術や精神干渉すら撃ち落とせる
まあ、動けないけどな
チート?
バグ?
何言っているんだ、仕様だぜ
分からないのか?
「ゲームの世界なら、攻撃は視覚化されてナンボだろ?」

そうお前の攻撃は既に【見切り】が終わっているんだ

邪悪なる鬼の眼すらいらない、永遠なる吹雪の力もいらない
人はゲームに立ち向かい、そして仕様の隙を見つける
これが……それだ!!

【電気属性】を込めた正拳突き【マヒ攻撃】で機を作るぜ!


セツ・イサリビ
さて、言いたいことはだいたい言った
ポウのおやつの時間が近いので、早く帰りたいのだよ
ああ、ミレイユとやら
俺はここから声を届けて貰えればいい
この世界隅々に届くほどにな

「さて――ここに一冊の本がある」
タイトルは『ドクトル・アメジスト その栄光と凋落』
気にするな、たかだか俺の権能から召喚した本だ
気になるだろうが気にするな

※ピンポイントに黒歴史を朗読します
「どこが聞きたい?」
※ピンポイントにダークマター歴史を朗読します
若い頃の過ちというものは、生ある者なら誰にでもあるものだ

「まだ頁は多くある。さあ、どこが聞きたい?」
なにも外側からの攻撃だけが芸ではない
内側からも崩すのは妙案だろう?



●黒歴史は誰にだって存在しますよ! ねえ!!
 ミレイユのチートコードの数々あっての優勢は間違いないのだが、どうにもそもそも本領を発揮した猟兵たちの存在そのものがチートのように思えてならないのは何故だろう。
 ドクトル・アメジストはもはやぐぬぬ顔で苛立ちを隠そうともせず、しかし対するミレイユはそれに油断することなく次なる猟兵たちへと支援のコードを送り続ける。
(「戦闘時間は十分、となるとここでカードを切るのは」)
 雷陣・通が、次は己だと言わんばかりに前に出る。学ランをマントのように首元に巻くというおよそ常人のセンスでは思いもよらない格好で、堂々と立ちはだかった。
(「――流れを変える方法、だ」)
 ミレイユがどこまでやってくれるかは、分からない。
 確認すれば良かったのだろうけれど、ちょっと話し掛けづらかったのはここだけの話。
 けれど、横を通った時にチラと見た電脳魔術士の真剣な表情は、信じるに値する。
 対するドクトルも進み出てきた通の姿を認め、戦闘態勢へと移行した。

「さて、言いたいことはだいたい言った」
 一方のセツ・イサリビは通とは逆に後方に陣取ったまま、悠々とそう告げる。
「ポウのおやつの時間が近いので、早く帰りたいのだよ」
 その言葉に呼応して、肩に乗せた黒い仔猫がすり、とセツの頬に頭を寄せた。
「何かねえ、確信はないんだけど……あとひと押しで勝てそうな気がするんだぁ」
 コードの打ち込みを続けたまま、ミレイユは呟く。
 対するセツはと言えば、ある簡単なひとつの頼みだけを告げた。
「ああ、ミレイユとやら。俺はここから声を届けて貰えればいい」
「声を? いいけど、何する――」
「この世界、隅々に届くほどにな」
 チャットチャンネルの全解放、何なら強制的に聞かせるまでの範囲拡大。
 それならお安いご用だと、ミレイユは片手間にセツへとコードを入力してみせた。

 感覚で『そうなった』ことを感じたセツは、仰々しく口を開いて声を発した。
「さて――ここに一冊の本がある」
 朗々と響くセツの声は、文字通り遍く世界に響き渡り、ドクトルのみならずまさに構えを取ろうとしていた通にも届く。
(「何だ? 様子を見た方がいいのか?」)
 慎重に間合いを取りながら、通がドクトルとセツとを交互に見て、一旦拳を下げた。
 それを見たセツは、どこからともなく本当に一冊の本を取りだして見せた。
「タイトルは『ドクトル・アメジスト~その栄光と凋落』」
『おぉい!? 栄光はともかく凋落って何さね!! 名誉毀損案件だよソレ!!』
 本の表題を聞いたドクトルが、すかさずツッコミを入れてくる。
 ここまでの流れを振り返れば、リアルタイムで凋落しているようなものなのに。
『だいたいそんな本、存在しちゃいかんでしょ! チートで出したのかい!?』
「気にするな、たかだか俺の権能から召喚した本だ。気になるだろうが気にするな」
 うーんこの、神様というのは本当にやりたい放題し放題だからもう!
 大事なことなので気にするなを二回繰り返せば、敵も思わずぐぬっとなってしまう。
 よろしい、とひとつ頷き、セツは適当なページを開いて――おもむろに朗読を始めた。

「ドクトル・アメジスト。元々ネットゲームが好きで――いや、好きなどというレベルではなく文字通りのネトゲ廃人だった過去を持ち、当時のプレイヤーネームは『癒しの聖天s』」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!! ピンポイントにあたしの黒歴史を暴露していくスタイルはやめるんだああああああああああああ!!!!!!!』

 自分から認めなければ正式な黒歴史だと知られずに済んだろうに、ひょっとしてこのドクトルはポンコツなのではという疑惑さえ生じてくるから恐ろしい。
「そうか、ならばどこが聞きたい?」
『どこも聞きたくないわ!! 今すぐその本を焼いてこの世から消し去ってやる!!』
 データの完全抹消じゃなくて焚書なんだ、という顔になった通は、これもまたひとつの超常による立派な攻撃なのだと気付く。

 ――【何処へ征き何を問うか、其れ全て我が意のまま(コバムコトハユルサレヌ)】。
 人、ひと、ヒト。今はそうでなくても、かつてそうであったもの。
 それは無垢なる善の魂で出来ていた。その事実から逃れることは出来ない。

「焼くといえば、このページか……爆炎の魔術に†エクスプr」
『短剣符を使ったことは心から後悔してるからマジでやめてえええええええ!!!!!』
「なっ……!? 短剣符は……ドクトル・アメジストにここまでの精神的ダメージを与えるほどの黒歴史になる、っていうのか……!?」
 そうだよ通くん、周りの諸先輩方から散々言われて来なかったかい?
 セツは神様の余裕で通の様子を敢えて見なかったことにして、さらにページを繰りながら捉えどころのない笑みを浮かべる。
「若い頃の過ちというものは、生ある者なら誰にでもあるものだ」
『何が神様だい、とんだ鬼畜生じゃないか……ッ!』
 己の所業を棚に上げて罵倒を繰り出すドクトルにも、セツは一切動じない。
「まだ頁は多くある――さあ、どこが聞きたい?」
 なにも外側からの攻撃だけが芸ではない、こうして内側からも崩すのは妙案だろう?
 チラと味方の方を見て悪びれのない笑みを浮かべるセツに、通は息を呑み、ミレイユは目を見張る。
 一人の人間の真実がまるっと記された書物を容易く取り出してしまうほどの、神の権能。これはもうどう考えても、セツが味方で良かったと言うより他にはなかった。

『ああああああキレそう、ていうかキレた!!! 聞かれたからには生かしちゃおけないねぇ!!?』
 本来、戦って死ぬことを誉れとする武人のような人柄ではなく、むしろ劣勢とあらば隙を見て逃走することも厭わないような博士たるドクトルが、完全に逆上していた。
 それは足止めとしては大成功で、ここから先は絶賛黒歴史量産中の通の仕事だった。
「ドクトル・アメジスト――見せてやるぜ、俺の、渾身の!!」
 両手を前に突き出し、構える。ただそれだけのことなのに、何たる威圧感か!
 そう、これが――これこそが!

 †前羽の構え†

『短剣符をつけた技名を可視化すんなや!!!!! わざとか!!!!!』
「それは今度こそ私でぇす☆」
 テレビのテロップよろしく、技名をきちんと通の意図通りに浮かび上がらせたのはミレイユだった。
(「決まったな……」)
 そんなミレイユの粋な計らいにニヤリと笑んで感謝しつつ、通は仕向けられたアメジストの結晶から放たれる精神干渉の波動を正面から受ける――そう、平気な顔で受けた。
『な、何だって……!?』
「俺の出番はお前のカードを潰すこと。この技なら、お前の電脳魔術すら撃ち落とせる」
 前羽の構えは、絶対防御状態を生み出す。
 あらゆる攻撃に対してほぼ無敵になる代わりに、自身は動けなくなってしまうが。
『畜生、さっきからどいつもこいつも……! チート通り越してもうバグじゃないかい!』
「チート? バグ?」
 0と1の奔流も、怪しい紫色の精神干渉の波動も何のその。通は自分でも驚くほどの冷静さで言い返す。
「何言っているんだ、仕様だぜ――分からないのか?」
 根比べに負けて、ドクトルが攻撃の手を緩めた瞬間を狙って、雷神の子は構えを解いて動き出す。
「ゲームの世界なら、攻撃は視覚化されてナンボだろ?」

 見えるモノなら、見切れぬ道理はない。
 通は十分に見た、そして――見切った!

「邪悪なる鬼の眼すらいらない、永遠なる吹雪の力もいらない」
『やめろその言い回しは何か古傷を抉られる心地がする!!!』
 人はゲームに立ち向かい、そして仕様の隙を見つける。
 その行為は立派な『攻略』であり、その道は確かに示された。
「これが……それだっ!!」
 人の心を抉るのもひとつの策なれば、ゲーム内で正しく攻略法を見出すのもまた策。
 雷撃纏う右の拳を正拳突きとしてぶちかませば、ドクトルの身体に遂にヒビが入る。
『が……ッ』

 ――全力は尽くした、後は最後の猟兵たちに託そう。
 ネコチャンのおやつの時間も近い、決着の時である。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シキ・ジルモント
バイクから降り、遮蔽物として使うようミレイユに伝えて側で行動
彼女の守りを最優先に、確実に守る為にユーベルコードを発動して反応速度を上げておく
危険が迫れば庇い、支援続行を頼む
あれを倒したらスクリーンショットでも何でも付き合ってやる

機械兵士の動力や結晶を射撃で破壊し弱体・機能停止させたい
包囲や上空からの奇襲も警戒
宇宙バイクに装着したバイクブラスターの射線上はあえて攻撃の手を緩め、そこから攻めてくるように仕向ける
機械兵器が射線上に集まったら遠隔操作でブラスター発射、纏めて撃破

敵を減らして目標を狙う
再び機械兵士を差し向けられる前に、ミレイユの支援を受けてドクトル・アメジストを狙撃する(『スナイパー』)


桜雨・カイ
ミレイユさん、ムリはしないで下さいね。
できるだけ敵から距離をとってもらいますが、それでも頭上からの攻撃は危ないですね。

そうだ、あばたーで好きな姿になれるんでんですよね…
ミレイユさん、こういう感じで翼つけてもらえますか?
※【払暁】で翼を描いてアバター化(【焔翼】を背に【空中戦】)する
飛べるようになれば闘いやすいです。

【アルカナ・グロウ】発動。
スピードを上げながら【なぎなた】で機械兵器を片付けていきます。ミレイユさんには手出しさせませんよ!

……ところで『全部片付いたらめっちゃ協力して』ほしいと言われてましたが、何か事後処理があるんですか?
手伝えることがあったら言ってくださいね(にこにこ)



●寿命は大事になさって下さいねと結構真剣に思っちゃいます
 本来精神攻撃をする側のドクトルが、よりにもよって黒歴史を抉られるという醜態を晒し、さらに蓄積したダメージも重なって遂にその紫水晶の身体にも損傷が走る。
『あたしとしたことが……だけどねえ、タダじゃ終わらないよ!』
 ドクトルが、残された力を振り絞るかのように眼光鋭く機械兵器を大量に放つ。
 アメジスト結晶が生えた兵器が狙うのは――ミレイユだ!
「……っ、うそ」
 猟書家と猟兵との戦いにすっかり気を取られて、己に攻撃が飛んで来るという可能性を失念していたミレイユが微かな声を発する。
 最後の最後に、勝利の鍵を失ってしまうのかと思われた、その時だった。

「ミレイユさん、ムリはしないで下さいね――少し、前に出すぎです」
 言葉と共になぎなたを振るい、迫る機械兵器を両断せしめたのは桜雨・カイだ。
 知らず知らずのうちに、テンションの上昇か何かの理由で前のめりになってしまっていたのか。ミレイユは気恥ずかしげにこくりと頷き、カイの言う通りに距離を取る。
 そこへ、バイクで乗りつけてきたシキ・ジルモントが絶妙な位置で停止させ、その車体をひとつ叩くとミレイユに委ねたのだ。
「こいつは、遮蔽物として使ってくれ」
 身を隠せ、ということは。バイクが損傷してしまうということだ。

「ええ!? で、でも……」
「モノは直せるが、命は取り戻せない――心配するな、安いものだ」

 気を遣うミレイユに、その必要はないと言ってのけるシキ。
 その言葉に同意するように、カイも守る者として微笑んだ。
(「それでも、頭上からの攻撃は危ないですね……」)
 シキのバイクでも、上空から狙われるとカバーしきれない。そこでカイはミレイユにひとつ頼みごとをすることにした。
「そうだ、『あばたー』で好きな姿になれるんですよね……」
「え、あ、もちろん……! 今ならどんな改変でもできる気がするから任せといて!」
 ミレイユのテンションがダダ上がりしている理由はどう考えても『イケメンに守られているから』ということの他にあり得ない。ブレない人である。
 カイは玻璃の筆「払暁」を手に取ると、巧みな筆さばきで宙空に翼の絵を描いてみせた。
「ミレイユさん、こういう感じで翼つけてもらえますか?」
「オッケーオッケー! はい!!」
 あまりにも速い仕事にカイが思わず目をぱちくりさせる。筆で描いた翼は炎を纏い具現化し、カイの背中から生じているかのように移動すると、その身をふわりと浮かせた。
「ありがとうございます、飛べるようになれば闘いやすいです」
「……そうか、では上空は任せよう」
 包囲や上空からの奇襲を警戒していたのはシキもまた同じくして、その懸念をカイが自ら払ってくれたのは僥倖だった。

 ならばとシキが蒼眼を鋭く光らせ、獲物を探す。
 それは、常ならば抑えている人狼の獣性を解放する合図でもあった。
 上空を舞うカイもまた、懐からカードのようなものを取り出して、その天地をひっくり返す。
 大アルカナ、20番目『審判』の逆位置を、強い意志で正位置に戻すのがカイの合図。
 二人が行使するユーベルコードは、全く異なるものに見えて起源を同じくしていた。

 ひとつは――【イクシードリミット】。
 ひとつは――【アルカナ・グロウ】。
 肉体のリミッターを外し、運命を切り開く力を得て、爆発的なスピードと反応速度をその身に宿すのだ。

(「危険があれば庇い、支援続行を頼む」)
 シキはそう誓い、振り返りミレイユを一瞥しながら告げた。
「あれを倒したら、スクリーンショットでも何でも付き合ってやる」
 人狼のォ! イケメンがァ! 振り向きざまにィ!! スクショの許可をッ!!!
「絶っっっっっ対勝って!!! マジで!!! 私も頑張って生き延びるから!!!」
 人の欲とは恐ろしい馬力を出させるものであることよ――!

 上空はカイがなぎなたで、地上はシキがハンドガンで次々と機械兵器を破壊していく。
 猛スピードを得た状態のカイが炎の翼で宙を舞う空中戦で、そこいらの機械兵器ごときが敵う道理などないのだ。
「ミレイユさんには手出しさせませんよ!」
 誓いの言葉と共に、カイが一薙ぎで三体の機械兵器をまとめて斬り捨てる。
 ならばと地上から正面突破を試みる機械兵器どもは、シキのハンドガンで的確に動力部やアメジスト結晶を破壊されて無力化させられていく。
(「全てを完璧に破壊しなくてもいい――弱体化、機能停止、そこまで持って行ければ」)
 ことごとくにトドメを刺していては、手数が間に合わないというもの。
 合わせてミレイユを守っている宇宙バイクに装着したバイクブラスターでも攻撃はするのだが、こちらはあえてその手を緩めるタイミングを作る。
『……ハ、そういうことかい』
 機械兵器を放ち続けるドクトルには、その意図が即座に理解できた。
 けれども――それを回避して状況を打破するだけの余力が、どうしても出せない。
『乗ってやるよ、猟兵!!』
 ヒビが入った身体をムリに動かして、機械兵器に守りが薄い箇所を集中して攻めるように指示を出すドクトル。
 シキは言葉を返すことなく、攻撃の手を緩めずにブラスターの射線上に敵が集まるタイミングを見計らった。
 そして、非の打ち所がないタイミングでの遠隔操作。
 ブラスターから放たれた一撃で、一気に機械兵器の数が減らされる。

『はあーぁ、つまんないねえ……あたしが勝てないゲームなんて、クソゲーってね』
 ドクトルが肩を竦めて両手を軽く上げてみせた。
 ひび割れた胸元が露わになって、今こそ好機だと告げていた。
「――ミレイユ!」
「ああ――お願い」
 貫通力を極限まで高めたチートコードを打ち込んだミレイユの支援は、シキの狙撃を文字通りの『一撃必殺』へと昇華させる。
 皮肉たっぷりに笑うドクトル・アメジストの胸元に狙い違わず撃ち込まれた弾丸は、紫水晶の身体を、その裡に宿した野望ごと見事粉砕してみせたのだった。

「……ところで『全部片付いたらめっちゃ協力して』ほしいと言われてましたが」
 華麗なる空中戦で迫る機械兵器を斬って払っての大活躍を見せたカイが、砦の防衛戦の際に聞いた言葉を持ち出した。
「何か、事後処理があるんですか?」
 そうか、そうか。知らないのか、そうか……。
 既に覚悟を決めていたシキは、カイの様子をただ平静を装って見守るばかり。
 うっすら笑いを堪えていただなんてそんなことはありませんよ?
「手伝えることがあったら、言ってくださいね!」
 ニッコニコだあー! 何という純真無垢な笑顔!
 シキさんもそういえば「何でも付き合ってやる」って言いましたね?
 いけませんよ、これはいけません。決着がついて死のゲームから解放された喜びもあって、ミレイユさんは完全にテンションが最高潮です。

「さっき、何でもするって言ったね」
 よこしまなオーラを発しながら、電脳魔術士はニヤリ笑う。
「とりあえず――ミッションクリアの記念に! 集合写真撮るわよ!!」
 合法的に美男美女勢揃いの猟兵たち全員をはべらかせるとは、恐ろしい子……!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月18日
宿敵 『ドクトル・アメジスト』 を撃破!


挿絵イラスト