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あの思い出の墓地の、その影で

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #影朧甲冑 #桜シリーズ

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 ――とある墓地。
 その一角にある『風峰・紫苑』と刻まれた墓前に、青年と中年の男が立っている。
 青年が静かにその手に抱えていた白百合の花を墓場に手向ける様子を悲しみと感謝の光を宿しながら見つめる男が、静かに息を漏らした。
「もうあの子が亡くなってから、一年以上の時が流れたんだね」
 何かを懐かしむような悼みを籠めた男の紡ぎに青年は静かに頷き、そっと胸元に指した自らの羽根に触れた。
「ええ……そうですね、柊さん……」
 それきり静かに黙りこむ青年を労る様に、柊と呼ばれた男が優しく見つめていた。
 ――そよそよそよ。
 冷たい秋風が、2人の頬をそっと撫でていく。
 軽く身震いした男が、寒さを気にも止めずに静かに祈りを捧げる青年に雅人君、と呼び掛けた。
「何か暖かい飲み物を買ってこようか?」
 その、柊の問いかけに。
「はい。宜しくお願い致します」
 そう雅人と呼ばれた青年が答えた、その刹那。
 無数の人々の足音が、辺り一帯に響き渡った。
「え……っ?!」
 雅人達以外に墓参りに訪れていた人々が、唐突にこの墓地一帯を包囲する様に現れたその人々が構えられたグラッジ弾に目に見えて恐怖を露わにする。
 気がついた雅人が戦闘態勢を取り、人々への避難を行なおうとしたところで、柊が、その輪の中心にいた兵器を見て思わず息を呑んだ。
「あの影朧甲冑は……!? 何故それを……!」
 その柊の声を、遮る様に。
 パイロットが雅人達を足止めする様に姿を現し、そのコクピットから顔を覗かせる。
 その男を見た雅人は、思わず息を呑んでいた。
「あなたは……」
「久しいな、雅人に……柊もか。あの時以来か?」
 墓地を取り囲む様に現れた戦士達を率いるその男の表情には、様々な感情が綯い交ぜになっていた。
「何故、あなたがそれに……!」
 憤りと共に叫ぶ柊に、私は、と影朧甲冑に乗る男が小さく息を吐く。
「私は、影朧戦線の敵であり……近い将来、私達の障害となるであろうお前達の存在を殺さねばならない。……全てが歪んでしまった、この世界のために」
 悟った様に男の口から淡々と紡がれたそれに合わせる様に。
 墓地を囲んだ幻朧戦線の戦士達が、一般人に向けてグラッジ弾を撃ち、或いは雅人達に襲いかかった。


「……幻朧戦線、か」
 グリモアベースの片隅で。
 独りごちる北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)の呟きを耳にしたのか、何時の間にか集まった猟兵達に向けて、皆、と優希斗が呼びかけた。
「サクラミラージュの世界に帝都桜學府と繋がりのある共同墓地がある。その墓地を訪れている人々と帝都負う楽譜の関係者を幻朧戦線が襲う事件が予知出来たよ」
 その墓地は、影朧達との戦いの中で消えた戦士達を弔う、共同墓地でもある。
「表向きは巨大な庭園墓地だ。故に、多くの人々が訪れる場所でもある。そこで数十人程の一般人と、2名の帝都桜學府関係者が巻き込まれる」
 帝都桜學府の関係者の名は、雅人と、柊と言う。
「雅人も柊も人々を避難させたいが、幻朧戦線の者達に邪魔されている状況だ。いや……下手をすれば、雅人達も幻朧戦線の者達に殺されるだろう。出来れば、其れも止めて欲しい」
 尚、介入できるタイミングは、爆発が起きる直前。
 幻朧戦線の者達が墓地を包囲し、雅人と柊の前に現れた直後だ。
「要するに放っておけば一般人がそれに巻き込まれ、影朧化するんだ。彼等の保護は最優先となるだろう」
 尚、今回の幻朧戦線の関係者の動機は不明。
 その辺りを掴むことが出来れば、何か話は出来るかも知れない。
「まあそいつが影朧甲冑からもう下りることは出来ないけれど。でも……その乗り手にとって、この戦いは恐らく……」
 ――弔い。
「詳しくは直接本人に聞くしか無いだろうが、それは出来ればの話だ。いずれにせよ、人々への被害を見逃すわけには行かないから……どうか皆、宜しく頼む」
 優希斗の、その言葉と共に。
 蒼穹の光が猟兵達を包み、気がつけば、猟兵達はグリモアベースから姿を消していた。


長野聖夜
 ――その意志は絶望か、それともその他の何かか。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 サクラミラージュのシナリオをお送り致します。
 このシナリオは、下記5シナリオと設定を若干共有していますが、新規の方もご参加頂いて全く問題ございません。歓迎致します。
 1.あの桜の木の下で誓約を
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=14914
 2.この、幻朧桜咲く『都忘れ』のその場所で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=15730
 3.その、桜の闇の中で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=17026
 4.情と知の、桜の木の下で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=17027
 5.愛と死の、桜の木の下で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=24934
 尚、第1章段階での登場人物は、下記です。
 1.雅人。
 帝都桜學府の諜報員。ユーベルコヲド使いであり、幻朧戦線の一般兵を相手取ることは出来るが、それ故か幻朧戦線の一般兵に足止めを食らっている。
 彼の救出に成功し、助力を得ると一般人の救出・護衛が楽になります。
 2.柊。
 帝都桜學府の研究員。戦闘力は皆無ですが、彼を生存の可否は第3章に影響します。
 3.数十人程の一般人。
 グラッジ弾を今、正に撃たれようとしている人々です。撃たれれば影朧化してしまいますので守りましょう。
 尚、幻朧戦線の一般兵達の生死は問いません。
 プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記となります。
 変更がありましたら、マスターページにてお知らせ致します。
 プレイング受付期間:11月12日(木)8時31分以降~11月14日(土)18時頃迄。
 リプレイ執筆期間:11月14日(土)19時以降~11月16日(月)一杯迄。

 ――それでは、良き結末を。
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第1章 冒険 『幻朧戦線の襲撃』

POW   :    襲い来る幻朧戦線の一般兵を肉壁となって阻止し、重要施設や一般人の安全を守ります

SPD   :    混乱する戦場を駆けまわり、幻朧戦線の一般兵を各個撃破して無力化していきます

WIZ   :    敵の襲撃計画を看破し、適切な避難計画をたてて一般人を誘導し安全を確保します

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ネリッサ・ハーディ
【SIRD】の面々と共に行動

白昼堂々、テロじみた手管で殺害しようとはいただけませんね。
兎にも角にも、桜學府関係者と一般人の安全確保が最優先です。
それに、同じ諜報機関の出身としては見過ごす訳にはいきませんからね。

到着と同時に【クイックドロウ】でG19を2連射し、グラッジ弾の発射される銃身もしくは弾自体に当てて射線を上に逸す。
その後、味方の援護を受けつつ雅人さんらを安全圏に出るまで護衛。その間に敵と遭遇した場合、G19の射撃とUCを駆使しての強行突破を試みます。

幻朧戦線とやらが、あなた方2人を一般人を巻き込む事を厭わず殺害を試みるという事は…何か、心当たりがあるのではないのでしょうか?

アドリブ歓迎


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

やれやれ、衆人環視の中、大手を振って襲いに来るとは幻朧戦線とかいう連中もいい度胸してるじゃねぇか。その度胸に免じて、全員ブチ殺してやるから、覚悟しろよ。幸い、ここは墓地だそうだからな。手前らを纏めて運んで来る手間が省けるってモンだ。
影朧甲冑?ふん、なかなか壊し甲斐のありそうな玩具じゃねぇか。とはいえ、今は一般人の避難が最優先だ。次に会った時はスクラップにしてやる。それまでお預けだ。

UCを使用して、幻朧戦線の連中に対し機銃掃射して出鼻を挫く。そのまま援護射撃を展開して連中を釘付けにし、一般人が避難する為の時間を稼ぐ。ウチの局長も援護しねぇとな。

アドリブ及び他者との絡み歓迎


灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員として連携

話し合う気は無さそうですし、
こちらも主張を聞く必要は無さそうですね

局長の牽制に合わせて(先制攻撃・スナイパー)で
グラッジ弾射手の頭部を狙撃し確実に処理を図りつつ
指定UCで狼達と黒霧を、局長やミハイルさん達が
避難誘導する経路以外に対して全周展開。
濃霧煙幕で視界を塞ぎつつ、狼と味方の機銃掃射で
圧力を掛け突撃を牽制して避難を支援

更にUC:ナハトニブル+サーマル暗視装置を利用し
霧に紛れて姿を隠しつつ、追撃に進んでくる敵兵を強襲
グラッジ弾射手を優先して精密射撃し一人ずつ確実に制圧するよう
戦います(スナイパー・暗視・だまし討ち・忍び足・2回攻撃・鎧無視攻撃・戦闘知識)

アドリブ歓迎


天星・暁音
俺は全体のフォローに回る
手伝いが必要なら言って適時開いている結界を回すから、足場にするのでも邪魔な横槍を防ぐのでもいいから
どういう想いがあるのだとしても、無辜の人々への危害を認める訳にはいかない
勿論雅人さんも柊さんもね

到着して直ぐに結界を展開して自身はそれに乗り戦場を見渡せる空へと陣取り上空から結界を最適な位置、サイズに調整して回す事で護衛役、攻撃役含めて全員のフォローに回ります
護衛が多くなるなら攻撃側を優先し逆ならば護衛側を優先します自身へ向けての攻撃も結界移動で回避したり防ぎます
相手の体内にも幾つかの結界を仕込んでおき頃合いを見て体内から裂かせます

共闘アドリブ歓迎
スキルUCアイテムご自由に


真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

雅人の繋がりはトラブルだらけだねえ。関わった身だ。何とかなるまで付き合うさ。紫蘭を悲しませたくないからねえ。

まず【ダッシュ】で柊の所に駆けつけ、柊に迫る攻撃を炎の戦乙女とともに【衝撃波】で弾き飛ばしながら柊のカバーに専念。柊、身内を想う気持ちはアタシにも分かる。どうやら今回もソイツつながりらしいが・・・まずは身の安全を確保しようか。いざとなれば【オーラ防御】でアタシと柊を防御し、いよいよ柊の身が危なくなれば【怪力】で柊を背負う事も考える。


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

また雅人さんと柊さんの周りで騒ぎですか。それ程まで紫蘭さんの存在は重要だった事になりますね。まあ、考察は後です。まずはやるべき事を。

すぐ雅人さんの元へ駆けつけ、「お久しぶりです。まずはこの事態を切り抜けましょう」トリニティエンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で防御を固め、雅人さんを【かばう】で護ります。もし危険が迫ってきたら【衝撃波】【シールドバッシュ】で迎撃しますね。


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可

前にも紫蘭さんの知り合いの方が居ましたね。今回もそれ絡み?考えるのは後です。まずはこの場を切り抜けましょう。

まずは一般人の方に【オーラ防御】を併せた【結界術】を展開、防御壁とします。一杯兵に関しては矢車菊の癒しを【範囲攻撃】化し、一気に無力化。敵に色々言いたい事があります。弔いの場に乱入するまで、雅人さんと柊さんに何の用ですか、と。もし傷つけるなら、容赦はしません!


藤崎・美雪
【一応WIZ】
アドリブ連携大歓迎

死者を悼み弔う場を踏み荒らそうとするとは
幻朧戦線は余程柊さんと雅人さんを重要視しているようだな?

あらかじめ墓地の構造と出入り口を地図で把握
可能なら前回接触した竜胆さんに避難誘導の協力を仰ぎたいところ

状況確認したら「歌唱、優しさ、慰め」+【スリーピング・シープ】を歌うぞ
もふもふ羊を一般兵に殺到させ、眠らせるか視界を遮ることで行動阻止を図る
一般兵は出来るだけ生かして捕えたい

ある程度一般兵を無力化したら、グリモア・ムジカに演奏を肩代わりさせ
私は墓地の出入り口に急行、以後は避難誘導に専念
サウンドウェポン片手に一般人に対して呼びかけ
皆は急いでこちらから避難してくれ!!


森宮・陽太
アドリブ連携大歓迎

雅人と柊、ふたりにとって大事な場を邪魔しやがって!
弔いか何だか知らねえが、てめえら無粋すぎんだよ!!

到着後すぐ「高速詠唱」から【悪魔召喚「サブナック」】
サブナックは柊の護衛とし、他の猟兵と協力して柊を常に「かばう」
ただし攻撃は吸収のみ、反射するなと厳命
誰も死なせねえし、影朧化もさせねえ

俺はその間に雅人を助ける
「忍び足、闇に紛れる」で極力姿を隠しつつ雅人に接近
フォルカロルの暴風を封じたデビルカードを一般兵に「投擲、制圧射撃」、暴風で一気に吹き飛ばす
合流後は雅人を「かばう」ことに専念するぜ

しかし白昼堂々と狙ってきやがったのはなぜだ?
甲冑に乗っている奴の素性を調べてえが…いけるか?


彩瑠・姫桜
あお(f06218)と

あおに一般人護衛を任せて
私は幻朧戦線の一般兵妨害に専念

UC使用して[範囲攻撃]し
一般兵の動きを止めるわ
命は奪わないよう最小の威力での無力化を目指すわね

攻撃受けたら必要に応じて[武器受け]で対応するわ

雅人さんに柊さん、そして一般人の方々は
仲間が護衛してると思うけど
流れ弾の攻撃が行かないように私も意識しておくわね

幻朧戦線にグラッジ弾ね
一般人まで巻き込んでやろうとする弔いって何なのよ
話が聞けるなら聞きたいとこだけど
教えてくれるかは怪しいわよね

でもどんな覚悟があろうとも
自分の命を投げ出して他人の命を踏みにじることが
いいわけなんてないじゃない
目的が何であれ
この戦い、止めてみせるわよ


榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)と

ふむ、あっちの男の人たち(雅人さん、柊さん)は
姫ちゃん知り合いさんなんだね?
で、好みはどっち?
え、そーゆーのじゃない?
あはは、もちろんわかってる、言ってみただけだしねっ!

まぁでも私にお願いした理由はよーくわかったよ
姫ちゃんには色々借りあるし
何よりこの事件、陰謀渦巻く感じで私としても気になるし
頑張らせてもらうね

私は一般人の護衛を中心に
同じく対応してくれる仲間と連携しながら
ここはしっかり守ってみせるよ!

UCで田中さん(霊)召喚
一緒にできる限り前に出て、壁として攻撃を受け止める
敵の攻撃は[見切り]、[衝撃波、なぎ払い]で
相殺を試みたり[武器受け、かばう]で受け止めたりするよ


馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第二『静かなる者』霊力使いの武士
一人称:私/我ら 冷静沈着
対応武器:白雪林

幻朧戦線の思惑は理解しがたいですね、本当に。
墓地というのは、亡き人を悼み偲ぶ場所ですよ。

一般人を守るためにも、構成員に向けて早業で【四天境地・『雪』】を使用。
時間凍結が終わった後も氷雪属性で凍りますから、動きづらいでしょう?
命には関わらないでしょうが、今の時期、とても寒いでしょうね。
…我らは、守れるものを守るために存在する悪霊なり。

※なお、この四悪霊や故郷の人々に墓はありません。オブリビオン居すぎて弔い不可能。
骨は未だ、荒れ地の上に。


朱雀門・瑠香
幻朧戦線・・・・やらせるわけには!
一般人を守るには手っ取り早く兵と市民の間に割って入りましょう。戦車で!
クラッジ弾も実体弾、戦車の装甲を抜くのは容易ではないはず。
市民を戦車の陰に隠して敵が動き出す前にこちらから前に出て相手になりましょう。
弾丸の軌道は見切りやすいですからダッシュで接近しながら躱し、当たりそうなのは武器受けでいなして間合いに入ったら纏めて切り払いましょう・・・・戦場に身を置いた以上覚悟はできていますよね?
私の使命は帝都と市民を守ることです、貴方達のような存在から。


白夜・紅閻
カミサマ(f17147


雅人の奴、厄介ごとに巻き込まれたようだな…
それも、彼女の―…


暴れる方が得意なんだが、うちのカミサマは守るの苦手だから
カミサマが敵をかき回している間、俺は…そうだな
雅人や柊?を優先に救出行動し、守る、ことにしよう

「…雅人。また、厄介ごとに巻き込まれているな。手伝う」
「カミサマは奴らを、頼む」

戦闘
篁臥と白梟の封印を解いて
援護射撃や一斉射撃、ブレス攻撃などで俺たちの援護をさせる

俺は、拠点防御や結界術などで守りを固め
イザークとレーヴァテインでの攻撃にあたる

その間に、動物たちに影朧甲冑に乗る男?の情報を集めさせてみる


※アドリブ連携などはお任せ
ハデにカッコよくお願いします(…)


文月・統哉
既に一刻を争う状況か
オーラ防御展開
仲間と連携し
一般人や柊、雅人達を庇う形で即介入
無事確認しつつ
土地勘ある雅人に声掛けし
一般人の救出護衛を頼む

護衛側に問題無ければ
俺は敵兵の抑えに回ろう
彼らも殺さずに無力化、捕縛したい
弔い合戦だとすれば尚の事
誰の血も流させたくないから

ガジェットショータイムで投網銃召喚
範囲攻撃で文字通り一網打尽に
付加した麻酔の属性攻撃で無力化しつつ
早業で連射、次々捕縛していく

墓地での襲撃、偶然ではないのだろうな
柊さんも雅人も知っている人物
恐らくは紫苑とも

影朧甲冑の彼は何者か
あの時とは何か
何故影朧戦線として戦うのか
戦況見つつ柊さんと雅人に心当たりを聞き
可能な限り状況を確認しておきたい


吉柳・祥華
白夜(f18216

◆心情
ふむ、白夜に呼ばれたのじゃが
――嗚呼、雅人か。
とにかく好きに動いてくれ、と言われなんした

◆戦闘
「では、神巫女の舞い見せてあげなんしょ!」
UCを発動させ、右手には霊木剣、左手には簪形状の魔法の短杖を
妾の守りには倶利伽羅と霊符を使って結界術でも使うとしよう

このUCは妾に敵対する彼奴等の攻撃を当てさせないためものじゃが
使い用によっては、敵の懐に潜り込むことも可能じゃな

読心術で敵の動きを読み一時的にリミッターを解除し
高速詠唱・多重詠唱で神罰や爆撃・焼却等

斬撃の際には二回攻撃・暗殺を使い
部位破壊・切断・串刺し・マヒ・貫通攻撃、衝撃波で吹き飛ばしたりするのじゃ


アドリブ連携はお任せ


ウィリアム・バークリー
テロ集団幻朧戦線、まだこれだけの事件を起こす力を残していましたか!
その暴挙を防がないと!

「高速詠唱」「範囲攻撃」で霊園全域にActive Ice Wall展開。グラッジ弾の弾頭を氷塊の「盾受け」で物理的に防ぎます。
雅人さんや柊さんと話している余裕は無さそうですね。それは他の方に任せましょう。
避難誘導の先頭に立ち、氷塊が上手い位置取りになっているかを確認しながら進みます。
幻朧戦線構成員が避難の邪魔なら、ルーンスラッシュで斬り捨てて血路を開きましょう。
「礼儀作法」で民間人の皆さんに安心感を与えつつ、これから戦場となる霊園から人々を遠ざけていきます。
安全圏まで送ったら、元来た道を辿って戦線復帰です。




 ――ガシャリ、ガシャリ、ガシャリ。
 共同墓地を包囲した兵士達が、一斉に銃剣を構える音が辺り一帯に響き渡る。
 キラリ、と輝く刃と銃口を殺意と共に向けられた人々の悲鳴が山彦の様に轟いた。 人々の悲鳴に焦慮を覚え、咄嗟に柊を背に庇う様にした雅人の学徒服から音無く何かが擦り抜け足下を駆けて去って行く。
 けれども其れには気がつかず、影朧甲冑に搭乗した男を囲む様に守りを固めていた幻朧戦線の兵士達が、一斉に銃剣を腰の退魔刀に手を置いた雅人に向けて突きつけた。
『撃て』
 彼の命令に、一斉に兵士達がその引金を引いた、その刹那。
 ――フワリ。
 不意に、雅人の上空で淡い虹彩を纏った羽衣が舞った。
「……上? これは……」
 雅人の背に守られる様に立っていた柊が、思わず其れに魅入られた、その時だ。
 ざわり、と白銀の風と共に。
「……雅人。また、厄介事に巻き込まれている様だな」
 漆黒と白銀の髪を風に靡かせた、白夜・紅閻が姿を現したのは。
 そのまま鈍い輝きを示す色褪せた指輪を嵌めた手をしなやかに翻すと同時に、その肩に留まっていた小型のインコが肩から飛び立ち、巨大な怪鳥と化して姿を現し。
 ついで自らの漆黒の外套を脱ぎ捨てる様にするや否や、現れた巨大な黒き獣、篁臥の姿を認めた雅人が思わず息を呑んだ。
「あなた達は……!」
「ふむ、白夜に呼ばれたのじゃが」
 カラコロ、と鈴の鳴る様な笑い声を上げながら。
「――嗚呼、雅人か」
 虹光と共に空を舞う吉柳・祥華が下を見てからかう様な問いを欲するのに、紅閻がああ、と静かに頷く。
 ――ダダダダダダダダッ!
 銃声が、戦場一帯に響き渡る。
 その凶弾に対応するため、きらり、と指輪を光らせると同時に周囲に白と黒の結界を張り巡らせる紅閻。
 波の様に脈打つそれらが銃弾の幾何かを絡め取るが、それだけでは足りぬ。
 そう紅閻が判断し更に展開した結界術の強化を施そうとした、正にその時。
「雅人、無事か!?」
 何処か焦った声音と共に、クロネコ刺繍入りの緋色の結界が、紅閻の結界術と重なり合い、生き物の様に滑らかに動く様にして、それらの銃弾を受け流し。
 更に……。
「雅人の繋がりは、本当にトラブルだらけだねぇ。そう思わないか、柊?」
 赤熱した太陽を思わせる炎の輝きを纏った熱風が柊の目前へと迫り、その手の赤熱の槍をその場で旋回。次々にそれらの弾丸を叩き落としていく。
 弾丸を叩き落とした戦乙女を召喚した主……真宮・響の姿を認めた柊が、思わずあっ、と声を上げそうになるが、その時には、彼の側面を翡翠色の光を纏った風の妖精の様な響の娘……真宮・奏が通り過ぎて雅人の側面を守る様に姿を現し、兵士達に放たれた銃弾を風の精霊達の力を纏ったエレメンタル・シールドで受け止めていた。
「ですが母さん、それだけ紫蘭さんの存在は重要だったと言う事になりませんか?」
 奏が響にそう問いかけるその間にも、響のガードがギリギリ間に合わない、柊への左側面からの弾幕の嵐が飛んでいる。
 けれども、それは……。
「雅人と柊、二人にとって大事な場を邪魔しやがって! 弔いか何だか知らねぇが、てめぇら無粋過ぎんだよ!」
 怒号の如き叫びと共に金髪の青年……森宮・陽太が姿を現し、右手に持っていた淡紅のアリスグレイヴを咄嗟に伸長させて、左側面からの弾幕を次々に叩き落としながら、幻朧戦線の兵士達に向けて、左手のダイモンデバイスを突きつけていた。
「お前達は如何して、このタイミングで雅人と柊を狙ったんだ?」
 雅人達の安否をちらりと目の端で捕らえて確認しそう問いかけたのは、紅閻の結界術に重ね合わせたクロネコ刺繍入り緋色のオーラの主、文月・統哉。
 周囲を見回せば、何時の間にか、影朧甲冑はその姿を消していた。
 そこに統哉の脳裏を一瞬疑問が過ぎるが、その間にも空中で白梟がばさりと翼を羽ばたかせて暴風を起こして兵士達を一歩引かせ、篁臥がグルグルグル……とその瞳を肉食獣の様に怪しく輝かせ低く唸っている。
 怪鳥の其れに吹き飛ばされそうになりつつ、且つ篁臥の唸り声に一瞬怯む様な表情を一部の兵士達は見せるが、直ぐに隊列を入れ替え第二射へと移行しようと……。
「カミサマ。好きにやってくれ」
 その瞬間を、双眸を鋭く細めて捕らえた紅閻の呼びかけに、ほう、と口元に綻ばせた愉快そうな笑みをそっと衣の裾で優雅に覆う祥華。
「分かりなんした」
 そう呟くと、共に。
 空中でフワリ、フワリと衣の風を靡かせながら、優美な足取りで兵士達へと接近する祥華。
 まるで、其れに合わせる様に。
 漆黒の森の様な霧が、戦場を覆った。
「霧……か」
 その霧に合わせる様に。
 何時の間にか周囲に溶け込む様に姿を消した『彼』が、小さくそう呟いていた。


 ――守られるべき帝都臣民達。
 けれども突きつけられた銃の前に彼等はパニックに陥っており、避難などとてもではないが出来る状況では無い。
 その市民達の外縁を囲い込む様にしていた兵士達が、肩に担ぎ上げたグラッジ弾の装填された大筒に火を入れようとした、正にその瞬間だった。
「……白昼堂々、テロじみた手管で桜學府関係者及び、一般市民を殺害、あまつさえ影朧化しようとは……頂けませんね。SIRD――Specialservice Information Research Department、これよりミッションを開始します」
 落ち着いた声音の女性の静かな呼び掛け。
 そして、それに合わせる様に。
「イエス、マム。――Sammeln! Praesentiert das Gewehr!」
 鋭い声が雷光の様に戦場に走り、それと同時に、戦場全体を全ての光を飲み込む漆黒の森を思わせる、黒い濃霧が包み込んでいく。
 陽光さえも遮るその濃霧に大筒を抱えていた男がこれは……と低く呻いた。
「この霧は……!?」
 動揺しながらも尚、大筒からのグラッジ弾発射を止めるつもりのないその男の頭を、音もなく一発の銃弾が撃ち抜いた。
 撃ち抜かれ、頭部から血と脳漿を飛び散らせながらその場に頽れる兵士の姿に、別の兵士が咄嗟に指示を出す。
「陣形を整えなおせ! この霧……恐らく奴等だ! 超弩級戦力だ! グラッジ弾隊を守り、戦力を……!」
 ――バラバラバラバラバラバラ!
 その男の声を、遮る様に。
 無数の銃弾の嵐が指示を出していた男の周囲で轟き、グラッジ弾隊を守る様に肉壁と化していた兵士たち数人の命を瞬く間に奪い去っていく。
 全身を穴だらけにして崩れ落ちる仲間達と、目前で起きた暴力に尚、混乱している人々の間に、機関銃……UKM-2000Pの銃口から白煙を空へと揺蕩わせる一人の男……ミハイル・グレヴィッチが姿を現していた。
「やれやれ、衆人環境の中、大手を振るって襲いに来るとは、幻朧戦線とか言う連中も、良い度胸しているじゃねぇか。……そう思わねぇか? ウィリアム」
「ええ……そうですね。正直、かなりの数を叩き潰されてきた筈の幻朧戦線がこれ程の戦力を未だに所持しているとは、思いもよりませんでした」
 ミハイルの呟きに。
 静かに頷きながら、濃霧の中でも鮮烈な淡き青と紅葉色の輝きを発する魔法陣を描き出しながら、そう答えたのはウィリアム・バークリー。
 両手を空中に走らせて巨大なそれを描き出し、その魔法陣の中央に幾重にも亘る氷礫の様に小さな魔法陣が瞬いている。
 その凍てつく氷の気配に気が付いたか、隊長各であろう男がちっ、と軽く舌打ちをしつつ、ばっ、と号令の様に手を振りかざした。
 肉壁となった兵士達の向こうから現れた大筒隊が、統率された軍隊の様に大筒に着火し、弾丸を発射。
 放たれた漆黒の凶弾であったが……まるで、その箇所が分かっていたかの様に側面から飛来した二発の銃弾がそれらにぶつかり、その軌道を誰もいないほうへと弾き飛ばす。
 ともあれ、その場への着弾は免れ得ぬそれを、何時の間に姿を現していたのであろうか。
「田中さん、田中さん! 焼き尽くしちゃって!」
 明るくあどけない少女の声と共に、漆黒の甲冑を纏った鎧武者が姿を現し、その槍の先端から飛ばした炎で軌道を逸らされたグラッジ弾を跡形もなく焼き尽くす。
「ありがとう、田中さん♪」
 にっぱりと笑顔を浮かべて、すたり、と田中さんの後ろに立つ榎木・葵桜の隣に立った彩瑠・姫桜だったが、ふと、既に死した兵士達の姿を見て、その眉を悲しそうに顰め、喉の奥から込み上げてくる様なそれを感じて、咄嗟にその口を覆う。
 その腕の玻璃色の鏡の鏡面が、姫桜の彼女の内面を表すかの様に、漣と共に波立っていた。
「出来る事なら、命を奪わずにすめばよかったのに……」
 姫桜の、その呟きに。
「こういう任務です。その様な思いを抱く猟兵がいるのも確かでしょう」
 G19C Gen.4……あの凶弾の軌道を逸らした銃弾を撃ち出した主であり、SIRDのリーダーでもあるネリッサ・ハーディが淡々と姫桜に語り掛けた。
「ですが、この様なタイミングで帝都桜學府の諜報員及び、研究者を狙う様な者達がそれで完全に制圧できるとも思いません。無力化で済むのでしたら、それに越したことはないのかも知れませんが」
「……そうだな。姫桜さんの言うそれが仮に出来るとしても、それは、私達に出来る限りは、と言う事になるのだろうな」
 その呟きと共に。
 ふっ、と影の様に姿を現した藤崎・美雪の気配を感じ、姫桜が反射的に其方を振り返る。
 紫の瞳に、姫桜への同情と共感が綯い交ぜになった光を称えた美雪がポン、と軽く姫桜の肩を叩いて前に歩み出し、それから改めて鋭い視線を、グラッジ弾を再装填した男達に向ける。
 けれども、大筒にグラッジ弾を再装填した兵士達の頭部は、瞬く間に撃ち抜かれた。
 目にも留まらぬ早業で繰り出された一撃に、痛みすら感じる暇も無かったのだろう。
 大筒を抱えた兵士達が、驚愕に目を見開いたままその場に崩れ落ちている。
 漆黒の濃霧に紛れて放たれる正確な射撃による鎮圧に、胸の中に湧き上がってくる何かを押し殺す様に、軽く頭を振った美雪があなた達はと彼等に呼び掛けた。
「死者を痛み、弔う場を踏み荒らそうとは……どういう了見だ?」
「……お前達に、それを言う権利があるのか? 『救済』と言う名目で、多くの影朧……彷徨える死者の魂達を冒涜してきた帝都桜學府と超弩級戦力共が……放てっ!」
 美雪を一瞥しながら下された号令に、銃剣を構えた肉壁となっていた男達が、一般市民に向けて一斉射撃。
 ミハイルが機関銃の引金を引き、轟く銃声と共にそれらの弾丸を叩き落す一方で、ネリッサもまた、混乱する臣民達の方へと横っ飛びで向かいながら、その手に構えたG19C Gen.4を2連射し、それらの弾丸を叩き落としている。
 漆黒の濃霧と無数の弾幕。
 そんな、圧倒的に不利な状況にも関わらず、撃ち返す兵士達の不退転の決意が実を結んだのであろうか。
 複数の銃弾が、一般人達を撃ち抜こうとしたが……。
「……この世界の理、常識とも言うべき、転生及び救済そのものを否定する一派、ですか。幻朧戦線にも色々な思想がある様ですが……となると今回の件も、紫蘭さん絡み、と言う事になるのでしょうかね?」
 誰にともなくそう紡がれた言の葉と共に発動したのは、月光色の円形の結界。
「……どうだろうね。でも、例えそこにどんな想いがあったのだとしても、無辜の人々への気概を認めるわけには行かないよね」
 その月光の結界の主……神代・瞬の呟きに。
 しゃん、とその手の杖形態の星具シュテルシアに取り付けられた神楽鈴を鳴らして星型の結界を重ね合わせた天星・暁音が、その年に似合わぬ落ち着いた口調でそう答え、その体に刻まれた共苦の痛みのある部分へとそっと手を触れる。
 まるで溶岩の中にその身を突っ込んだかの様な、淀んだ灼熱感を思わせる痛みに、その身を苛まれながら。
「ええ、そうですね。幻朧戦線の思惑は理解しがたいものですね、本当に」
 銃撃の応酬では分が悪いと判断したか、突撃銃を構えて突貫してくる兵士たちに向けて、静かで、穏やかな呟きと共に真白き弓が微かに青白く光り輝き、それと同時に、氷の様に冷たく研ぎ澄まされた矢が解き放たれた。
 それらの矢が突撃してきた兵士達を射抜き、ピタリ、とその動きを止めるのを、まるで陽炎の様にゆらゆらと暁音達の後ろに姿を現した翁……馬県・義透は見つめている。
 揺らぐ様に現れた義透の姿に、周囲の樹木と自らの発した黒霧に身を潜め、息を殺してMK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"を構えていた、灯璃・シュピーゲルが微かに驚きの表情を浮かべていた。
「義透さん……あなたも来ていたのですか?」
 灯璃の呟きは、誰の耳にも届かなかった筈だが。
「……死者の眠りを妨げ、故人を悼み偲ぶこの場所を、蹂躙する者の手より守る事は、我等の使命」
 ぽつり、と複合音声の様な反響と共に発された義透の呟きを、灯璃のJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioは捉えていた。
「Active Ice Wall!」
 その僅かに生み出された余裕を見逃さず。
 術式を完成させたウィリアムの叫びと共に、戦場である庭園全体を覆いつくす様に無数の氷塊が展開される。
 盾にも足場にも、時には武器にもなるそれらの無数の氷塊を見つめながら、葵桜がそー言えば、と、何処かからかう様な、和ませる様な声で姫桜に聞く。
「此処に来ている帝都桜學府の男の人達って、姫ちゃん知り合いさんなんだよね?」
「えっ?! えっ、ええっ……」
 葵桜の不意打ち気味の質問に。
 聊か毒気を抜かれた表情になった姫桜が、やや曖昧に相槌を打つ。
 そんな姫桜に、葵桜が目を輝かせた。
「じゃあさ、じゃあさ、姫ちゃんの好みって、どっち?」
「えっ……ええっ!? そ……そんなんじゃ、そんなんじゃないわよぉっ!」
 目をキラキラと輝かせての、葵桜のその問いかけに。
 顔を真っ赤にした姫桜が必死で反駁するその姿にくすり、と美雪が微苦笑を浮かべ、ふ~ん、と言う様に口元に人差し指を立てて、首を傾げる葵桜。
「え、そーゆーのじゃないんだ? ほんとーに?」
「当たり前じゃない!」
 絶叫を迸らせる姫桜に、あはは、とニッコリ笑顔を浮かべる葵桜。
「もちろん、分かってる、分かってる! 言ってみただけだしね!」
「葵桜さん、姫桜さん……今はそういう状況、なのか……?」
 背筋から冷汗を垂らしている美雪の呼び掛けに、葵桜がだってぇ~と、口元に指を当てて、ある方向を指さしていた。
 葵桜の指先の、その先に立つ田中さんと……。
 ――キュラキュラキュラキュラキュラ……。
 大地を踏み拉く様な、キャタピラの音。
 その先にいるのは、一般人と兵士達。
「せ……戦車だとっ!? まっ、まさか幻朧戦線があんなものまで持ち出してきているのか……!?」
 心無し、困惑している様にも見える田中さんのその後ろで驚愕の声を上げる美雪に、葵桜がことりと軽く首を横に傾げていた。
「あっちはまだ手薄みたいだし……あっちの人達も守らないといけないよね?」
 葵桜の、その言の葉に。
 ちらりと横目で葵桜が指さした方を見やったネリッサが、静かにそうですね、と頷いている。
「姫桜さん、葵桜さん、美雪さん。私達はこちらの人々を保護した後、柊さん達の元へと合流します。あなた達にはあの戦車への対応と、一般人の保護、及び幻朧戦線の無力化をお願い出来ますか?」
「ネリッサさん……」
 ネリッサのその言葉の裏にある意図を汲み取り、姫桜が僅かに目を見開く。
 その間にもUKM-2000Pを乱射しつつ。
「おい、義透!」
 瞬達の結界による防衛網に後背の一般人達を任せ、『白雪林』で兵士達を射抜き、時間を凍結させられて身動きが取れなくなっていた兵士達を次々に撃ち抜いていたミハイルが叫んだ。
「どうしましたか、ミハイル殿」
 問い返す義透のそれに、ミハイルがアンタも、と機関銃の音に負けぬ程の大声で叫び続けた。
「あっちについていってやれ。こっちは俺達だけで十分だ!」
「……そうですね。いいでしょう」
 ミハイルのそれに、小さく頷き。
 そのままふわり、と霊の様に姿を掻き消す義透に弾かれる様に姫桜と葵桜と田中さん、そして美雪が迫りくる戦車の方へと駆け出していく。
 その姿を横目に認めた暁音が、市民達を守っていた星型の結界を解きながら、俺は、と隣の瞬と後方で氷塊の群れを操るウィリアムへと呼び掛けた。
「俺も、美雪さん達と一緒に行くよ。瞬さんと、ウィリアムさんは……」
「ええ、分かっています。僕は、ウィリアムさんと一緒に彼等を守り続けますよ。……母さんも、奏も後ろにいますしね」
 瞬のその言葉に答える様に。
 後方で、上空の巨大な怪鳥がその翼を打ち振るわせて大地を走る兵士達に向けて白炎のブレスを吐き出して、兵士たちを焼き尽くす音が響いてくる。
 更に漆黒の獣が疾風の風と化して、兵士たちを纏めて吹き飛ばしているその音も。
「姫桜さん達の事は、暁音さんにお任せします。この氷塊達の位置もきちんと定めて、逃走経路を確立しておかないといけませんしね」
 そう告げるウィリアムの右手は、既にその腰にさしてあるルーンソード『スプラッシュ』へと置かれている。
 いざとなれば、兵士達を斬り捨てて血路を切り開く覚悟をウィリアムの姿から見て取った暁音は、静かに分かったと頷き、同時にトン、と大地を星具シュテルシアで突き、それを勢いとして空中へと跳ね、そのままウィリアムの呼び出した氷塊を足場にして渡りながら、義透達を追っていく。
 その様子をチラリと一瞥したミハイルが口元に肉食獣の如き獰猛な笑みを浮かべて、その瞳に爛々とした光を称えて灯璃の濃霧に包まれた兵士達を睥睨する。
「これで、甘ちゃん達はいなくなったぜ。覚悟しておけよ、テメェラ全員、此処でブチ殺してやるからな」
 ミハイルの切った啖呵に、瞬が思わずその整った眉をひくつかせて、六花の杖に魔力を籠めながら、確認する様に呟いている。
「……無力化した相手まで、殺す必要はありませんからね?」
「へっ……仕方ねぇなぁ。まあ、良いぜ。俺はそいつらをブチ殺す。瞬、テメェは自分に出来る限り、こいつらを無力化する。シンプルで、結構なことだ」
 好戦的なミハイルのその言葉に、瞬が軽く頭を横に振るが、それでも覚悟を決めたか六花の杖を強く握りしめ、その先端に強力な魔力を籠め始めた。
 瞬とミハイルのやり取りのその間に、何時の間にか上空に現れた氷塊と、それを渡り歩く暁音を反射的に見上げた姫桜だったが、直ぐに気を取り直して前を向き、それから両隣を走る、葵桜と美雪を交互に見やる。
「あおに美雪さん……ありがとう」
「気にしない、気にしない♪」
 姫桜の小さなその感謝に。
 向日葵の様に明るい笑みを浮かべた葵桜がフルフルと首を横に振っている。
「姫ちゃんには色々借りあるし。何よりこの事件、陰謀渦巻く感じで、私としても気になるしね!」
「……そうだな。陰謀については、同感だ」
 ウィリアムの呼び出した、氷塊の群れに紛れる様に背を向けて。
 戦車の方へと駆け出しながら、葵桜の言葉に美雪が同意する様に頷いた。
(「流石に竜胆さんに面会する暇はなかったか。一報は、入れておいたが……」)
 それでも戦車が飛び込んできたそこが、出入り口の一つである南口であることは分かっている。
 だからこそ現状では、あの戦車が敵か味方か分からない、とも言えるのだ。
(「……まあ、なる様にしか、ならないか」)
 そう小さく、諦め様に美雪が溜息を吐くのとほぼ同時に。
 そうはさせじとばかりに、氷塊の向こうの美雪達に向けて銃口を構えた兵士の一人に、灯璃の呼び出した無数の漆黒の狼の一頭が喰らい付き……その肉を、一片の欠片もなく噛み砕いた。


「撃て! 撃て撃て撃て! 在るべき姿に無いこの世界を、偽りの安寧と怠惰に身を委ね続ける者達の血を、今は亡き同胞達に捧げるために!」
 南口を封鎖していた部隊の隊長の、その怒号。
 その銃口は、恐れ怯え戸惑い逃げ回る市民達へと確かに向けられていた。
 ――キュラキュラキュラキュラキュラ……!
 不意に、隊長の背後で鳴る不協和音。
 庭園と呼ばれるその場所には、あまりにも相応しくないその轟音に、兵士の何人かが思わず其方を仰ぎ見る。
 そこにあったのは、一台の戦車。
 帝都にて正式採用されている、武骨で戦うためだけに作り出された機能性に優れた20式戦車の豪快なキャタピラ音に、圧し潰されるという本能的な恐怖を覚えたか、兵士達が蜘蛛の子を散らす様に散開し、その戦車が南口を守るバリケードを破壊して、白昼堂々、巨大庭園に侵入する。
 その戦車の、コクピットの中で。
「幻朧戦線……やらせるわけには!」
 きつく唇を嚙み締める様にして、呪詛の様な呻きを朱雀門・瑠香が上げていた。
(「帝都と臣民を守る事……それこそが私達帝都桜學府の役目……!」)
 そのまま、一旦散開した兵士達と臣民たる人々の間に割り込む様に20式戦車を滑り込ませ、その砲塔を兵士達へと向ける瑠香。
「うっ……撃て、撃て、撃てぇ~っ!」
 その威光に、本能的な恐怖を感じたのであろうか。
 腰を抜かしやや震えた声で命令を下す隊長の指示に、辛うじて士気と動揺を鎮静化させた兵士達が、グラッジ弾を装填した大筒及び、無数の銃剣の引金を引く。
「幾ら、グラッジ弾や実体弾と言えど、そう簡単にこの20式戦車の装甲を抜くのは容易ではない筈……!」
 そう小さく呟きながら瑠香がコクピットから飛び出した、その刹那。
「やむをえん……対戦車ライフル、用意!」
 兵士の一人の怒号が耳に入り、瑠香は思わずゴクリと唾を飲み込む。
 対戦車ライフルの一撃を受ければ、流石にこの戦車も無事では済まない。
(「そして、それで守ることの出来る臣民達も……!」)
 どうする、と内心で瑠香が呟いていた、正にその時。
「一般人迄巻き込んでやろうとする弔いなんて……何の意味があるって言うのよ!」
 ――バリ、バリリ。
 その両掌に高圧電流を蓄えた姫桜が叫びと共に、両掌を思いっきり振るう。
 その両掌から放たれた高圧電流が、戦場全体に展開された氷塊を伝って戦場を轟く様に走り、対戦車ライフルを構えることを想定していた兵士達の間を竜の如く蠢き、対戦車ライフル伝いに電流を這い回らせ、その全身を大きく痺れさせ。
 更に……。
(「取り敢えず戦車が、彼等が持ち込んだ物で無かったのは不幸中の幸いだが……これは、竜胆さん達に頼んでも揉み消すのは大変そうだな……」)
 と、内心で帝都桜學府諜報部に同情を寄せながら、美雪が歌を歌い始めた。
『羊さん、羊さん、皆の心も体も、そのもふもふで癒してやってくれ』
 それは、美雪の子守歌。
 その美雪の歌に引き寄せられる様に姿を現したのは……。
「わ~、羊さんだ~♪」
 めぇ、めぇ、と愛らしい鳴き声を上げながら兵士達に殺到していくもふもふな羊さん達に、葵桜が目を輝かせている。
 ――モフ。モフモフ。モフモフモフモフモフ。
 現れたモフモフ羊さん達に襲われて、姫桜の高圧電流で麻痺し躱す事も出来ぬままにされるが儘になる兵士達の何人かが次々にその場に膝をつき、深い、深い眠りに落ちていった。
「くっ……何と面妖な!? 恐るべし、超弩級戦力……! やはりこの様な者達に自由な権利を与え、其れを謳歌させる帝都桜學府に等従えぬ! 我等は革命を起こす! 堕落した民達を再起させるその為に……!」
 肉壁と化した兵士達によって辛うじてモフモフ羊達の猛攻(?)を凌いだ、兵士達が銃剣を突き出し美雪に迫るが、その時には葵桜と田中さんが割って入る様にその場に立ち塞がっていた。
「ここはしっかり守ってみせるよ、田中さん!」
 告げながら、ひらり陽向桜の袴を風に靡かせ翻し、ばさり、と桜舞花を風にはためかせる葵桜。
 白地にあしらわれた桜の花弁が風に靡いて吹雪と化し、暴風による衝撃と化して兵士達を襲う。
「くっ、この! この!」
 兵士達が躍起になって銃剣で葵桜を貫かんとするが、その度にふわり、ふわりと袴を風にはためかせ、紙一重で躱し、或いは時にその刃を田中さんの槍に絡め取らせる葵桜。
 甲冑武者である彼は、その手の槍で絡め取った刃をへし折り、或いはその顔面に炎を吹き付けていた。
 顔面を焼かれ、皮膚が爛れて悲鳴を上げて後退する兵士達の群れへと、戦車から飛び降りた瑠香が、物干竿・村正を抜刀、音も無く接近。
 キラリ、と太陽の輝きを受けた銀刃が怪しく光り輝いていた。
「……戦場に身を置いたのです。無論、覚悟は出来ていますよね?」
 ただ短く、そう告げて。
 瑠香がウィリアムの呼び出した戦場全体を覆っていた氷塊達を渡り歩く様にして、戦場を疾駆すると共に刃を一閃。
 銀閃と共に放たれた衝撃波が真空の刃と化して、兵士達を纏めて薙ぎ払う。
 腕を、足を、胸を切り捨てられ、血飛沫と悲鳴と怒号が飛び交うその中でも、尚、下級指揮官の怒号は続いた。
「この程度の数に押し負けるな、進め、進め! 撃て、撃てー! 必要であれば味方の巻き添えも構わん!」
 決死の覚悟を抱いた隊長の号令に、兵士達が一斉におお、と唸り、先程戦車に抱いた根源的な恐怖さえ、同胞達を殺された無念と怒りに変えて、何処か熱に浮かされた表情と共に、一斉突撃。
 空中からその様子を見下ろしていた暁音が静かに息を漏らし、ヒュルヒュルヒュル……と星具シュテルシアを回転させて、祈りと共に結界を展開する。
『全てを切り裂く星光の盾、我等を守護せよ!』
 祈りと共に解き放たれた全部で420本の縦長の結界が、市民と兵士を遮る杭の様に大地に突き刺さり、瑠香や葵桜、田中さんをも力任せに乗り越えようとした突進の行く手を阻み。
「この季節柄です。命には関わらないでしょうが、これはとても寒いでしょうね」
 冷たく突き放す様な、静かな声音で。
 影の様に姫桜達に付き従う様に姿を現した義透が、仄青い燐光を放つ白弓に番えた、氷の様に澄み切った矢をひょう、と射る。
 解き放たれた矢が、ウィリアムの氷塊に籠められた魔力をも吸い取り、無数の薄青色の矢と化して銃剣とグラッジ弾の籠められた大筒を持つ後衛の兵士達の『時間』を氷の彫像の様に凍てつかせ、戦場全体を吹雪かせている。
「い、一体何が……」
 突然降って湧いた自分達を守る様に現れたユーベルコヲドの使い手達の声に驚きと戸惑いを隠せぬ、瑠香の戦車の影に咄嗟に身を隠しつつ、僅かに顔を覗かせる帝都の罪なき臣民達。
 けれどもそんな彼等に向けて、兵士達は無慈悲にも残されたグラッジ弾を叩き付けるべく大筒を構えるのを見て、姫桜が怒号と共に、大地に両掌を叩き付けた。
「例え、どんな覚悟があろうとも……自分の命を投げ出して、他人の命を踏み躙るなんて……良い訳無いじゃ無い!」
 悲痛なる叫びと共に解き放たれた再びの高圧電流が、戦場全体を覆う氷塊と、義透の放った氷雪属性の矢を走って雷鳴を轟かせながら残された、まだ戦闘能力のある南口の兵士達を纏めて感電させる。
 そのあまりの衝撃に白目を剥いてバタバタと倒れていく兵士達を、肩を怒らせ、拳をギュッ、と強く握りしめながら、姫桜はじっと見つめていた。
「どうして……どうしてなのよ……!」
「姫ちゃん……」
 呻く様な、姫桜の其れに。
 葵桜が気遣う様にそっと姫桜の肩に手を置こうとした、その時だ。
「あっ……あの……」
 瑠香の戦車の影に隠れていた十人程の人々が、その姿を現したのは。
「ああ、皆様。お怪我はありませんか?」
 穏やかな、老翁の様に。
 柔和な笑みを浮かべ、穏やかな口調でそう尋ねる義透に、混乱していた人々が、小さく頷いている。
「私達は、帝都桜學府の者です。皆様がご無事で何よりでした」
 周囲に動いている兵士達がいないのを一通り見回して確認し、そう話しかける瑠香の様子に、人々は微かに肩の荷が下りた様な安堵の表情を一瞬浮かべる。
 その間美雪は上空の暁音と共に、顎に手を置きながら注意深く周囲を探っていた。
 暁音もまた、『星の船』の目と自らの……双方の『目』で空から地上を見下ろして、南口周囲で動く敵影がいないのを確認していた。
 その体に刻み込まれた共苦の痛みから流れ込んでくる、マグマの海の中に落とされた様な灼熱感は、絶えず暁音に痛みを与え続けていたけれども。
「大丈夫だよ、美雪さん。此処には俺達と、その人達しかいない」
「ああ、分かった」
 暁音の呼びかけに子守歌を歌うのを中断し、グリモア・ムジカに其れを奏でさせ続け、未だ昏睡から目覚めぬ兵士達を埋め尽くす程のモフモフ羊さん達を召喚し続けながら、美雪が瑠香と義透の言葉に耳を傾けていた一般人達に皆さん、と呼びかけた。
「此処からなら安全に脱出できる。今すぐにこの場から離れて、暫くこの墓地には近付かない様にして欲しい」
「だ、だけど、またアイツらが目を覚ましたら……」
 美雪のその呼びかけに、不安からか顔を青ざめさせる一般人の、自分と同い年くらいの娘に、大丈夫、と美雪が小さく頷いた。
「彼等は、私が此処に残ってモフモフさん達と一緒に見張っている。私達には他にも仲間がいるのだ。彼等ならば、あなた達が避難する時間を稼ぐなど造作も無い」
 美雪の言葉を聞いても尚、不安からか、ぼそぼそと周囲の者達と囁き合う娘達。
(「まあ……無理も無いよね」)
 700年以上続いていると言われる、『戦争の無い』世界。
 その静かで優しい平穏に浸りきっている彼女達が、突如として理不尽な暴力に見舞われた。
 しかも其れを救ったのは、自分達と同い年か、年下、そして翁と言われても差し支えない年齢の、超弩級戦力と呼ばれる戦士達。
 彼女達からしてみれば、そう簡単に安心できる筈が無いだろうな、と胸中で呟きつつも、一度地上に降り立った暁音が不安に心を鷲掴みにされて、動けないでいる人々に、杭の様に突き刺さっている細長い結界を指差した。
「心配なら、俺が100本位あれをここに残していくよ。あれは、全てを切り裂く星光の力を持った結界だ。周囲に浮遊している氷塊と一緒なら、彼等にこの場所を再び襲わせる事を出来なくする位なら、問題ない」
 暁音の、その言葉に応じる様に。
 大地に突き立った星光の結界が、夜空に咲き乱れる綺羅星の如き輝きを発した。
「それに、俺には空からの『目』もある」
 そう告げて。
 続けざまに暁音が指差したのは、空中に浮かぶ宇宙船。
『星の船』と呼ばれる帆船型のその船が浮遊しているという事実に、一般人達が、唖然と口を開けていた。
「あれが、俺の『目』。あなた達にとっての飛行船の様なもの。何があっても、あれがあなた達の事も守るよ」
 暁音の、その言の葉に。
 美雪がそう言うことだな、と静かに頷き、懐から拡声器型のサウンドウェポンを取り出しながら、話続ける。
「とにかく、あなた達だけでも先に逃げて貰えれば、私達はあなた達の安全を保証できるし、他の人々を救いやすくもなる。どうか、私達の言う事を聞いて貰えないだろうか?」
 と、美雪が問いかけたところで。
 不意にモフモフ羊の群れから一匹の小動物が姿を現した。
 首に一枚の紙面を巻いているその小動物に、葵桜がわぁ~っ! と歓声を上げる。
「あ~っ、あの子、可愛いよ、姫ちゃん! おっきな紙を首に巻いて、一所懸命こっちに近付いてきている!」
「……えっ、ええ、そうね。か、可愛いわね……」
 チョロチョロと動いて近付いてくるその小動物……オコジョの姿に、思わずプルプルと震えて葵桜に頷く姫桜。
 その間にも軽く鼻をひくつかせていたそのオコジョが美雪に近付き、何かを伝えようとするかの様に、首元に巻いた一枚の紙面を突きつけた。
「……私に?」
 呆気にとられる人々の前で、思わず美雪が間の抜けた声を上げると、オコジョが早くしろ、と言わんばかりに美雪に接近、その紙面の存在を激しく主張させている。
 仕方ない、と美雪がオコジョの首に巻かれた紙を手に取り広げてみると……納得した様に頷いた。
「……流石は竜胆さんだ。仕事が早い」
「竜胆さん? 竜胆さんが、どうかしたの?」
 美雪の口から漏れた竜胆の名に驚いた様に姫桜が問いかけると、美雪は其れには直接答えず、相変わらず戸惑いの表情を隠せぬままの市民達にその紙を突きつけた。
「帝都桜學府の方で、既にこの庭園から避難したあなた達を保護する準備が出来ている、との連絡が入った。此処までの安全なルートも既に確保済み、との事だ。直ぐにこの紙に書かれた所への避難を」
 そう告げてその紙を娘に手渡す美雪。
 流麗な字と詳細な地図の描かれたその紙面を見て漸く落ち着いたか、彼女は他の人々と共に、美雪達の作った脱出口である南口から避難していく。
「……わっ、わあ~っ! 美雪さん、凄いね~♪」
 あっぱれ、と言う様にニコニコしながら、桜舞花を開く葵桜と、むう……と軽く口を尖らせる瑠香。
「こう言う事も出来るのでしたら、私も朱雀門を名乗れば良かったのでしょうか。その方が彼女達もより安心して避難を……」
「いずれにせよ、この場所の人々の避難と安全は確保できたのです」
 ブツブツ呟いている瑠香をチラリと一瞥し、静かな表情で義透が告げる。
 その義透の言の葉に、そうだね、と暁音が同意する様に頷く間にも、義透が美雪殿、と小さく呟いた。
「まだ、全員が救助できたわけではありません。私達はネリッサ殿達と再合流し、避難の完了していない人々の避難を補助します。ここは美雪殿と瑠香殿のお2人に任せて宜しいですか?」
 義透のその呟きに。
 自分の世界に埋没しつつあった瑠香が気がつき、大丈夫です、と静かに頷くのに、美雪もまた、同様に首肯した。
「それじゃあ私は、これを使って此処から皆に呼び込みを続けよう」
 そう告げて。
 拡声器型サウンドウエポンを構える美雪に暁音が思わず微笑を浮かべ、それからじゃあ、と姫桜に葵桜、そして田中さんを促す様に声を掛ける。
 頷く姫桜達と共に空中を駆ける様にする暁音に続いて、滑る様に歩き始めながら、義透は静まり返った戦場を見渡した。
 花々が手折られ、墓石にも傷痕がつき、そして瑠香が生み出した死体と、昏々と眠り続ける兵士達を。
 眠り続ける者達はこの後正式に逮捕され、尋問の未来が待っているのだろう。
 ではこの戦いで死した幻朧戦線の兵士達は、この墓地へと埋葬されるのだろうか。
 それとも……。
「私……我等が骨は、未だ、荒れ地のその上に」
 一抹の寂寥と、郷愁を感じさせる呟きをポツリ、と誰にも聞こえぬ声音で呟きながら、義透は、南口を後にした。


 ――一方、その頃。
「篁臥、白梟」
 静かに、奇妙に戦場に響き渡る声で朗々と紅閻が告げつつ、ヒュルヒュルヒュル……と回転させながら、白銀の横笛を取り出している。
 紅閻の呼びかけに応じた怪鳥、白梟がキシャァァァァ! と高らかに声を上げて、上空から白炎のブレスを吹き付け、更に篁臥が低い唸り声と共に、隣で肩を並べて戦う統哉の死角を狙った兵士の喉笛に喰らいついた。
「ガァッ……?!」
 喉から血飛沫を上げて倒れる兵士の姿に、統哉が思わず、と言った様に目を見開き、自らと共に前面の兵士に向けて、ハロウィンに出てくるカボチャのお化けの様な、2体の獣……イザークとレーヴァテインを無意識に振るい、兵士達を指一本雅人に近づけさせない覚悟を示した紅閻へと咎めと感謝の綯い交ぜになった複雑な目配せを送っている。
「紅閻……お前……」
「……統哉。俺達が此処でやらねば、誰も守れない。雅人も……後ろの柊? と言う男も……そして今、まだ命の危機に晒されている一般人も」
 ――それは、決して届かない、何か。
 幾ら手を伸ばしても、伸ばしても届かぬ『あの』、思い出。
 霞の向こうにいるであろう『あの』人に、この手は決して届かない。
 あの時は届いた、と思っていた。
 そう思わされ……堕ちていった。
 けれども、今の自分の指にある色褪せた指輪に嵌め込まれるは、月ノ欠片。
 銀ノ双翼を喪っている、もう、決して取り戻せぬ……そう思わせるに足る、霞の向こうにあるその記憶。
 ――それは……決して変えることの出来ない現在(イマ)
『其』れを思いながら、静かに銀笛に口吻、静かに歌を奏で始める紅閻に、統哉がキツく唇を噛み締めつつ、自らの手元に手品の様に召喚した投網銃の銃口を天に向け、その銃の引金を引く。
 ――1発、2発、3発と。
 空中に撃ち出された弾がバサリ、と拡散して巨大な網と化して兵士達に覆い被さり、そこに染み込んだ麻酔が突き刺さり、次々に兵士達を深い眠りへと落としていくが、それが数発重なったところで、兵士達の動きが大きく変わった。
 包囲陣形を崩さぬ儘に、縦横の布陣をU字型へと変えて、被害を最小限に留め始めたのだ。
 自らが不利な状況に置かれつつある事を理解しつつも、それでも、と統哉が呻く。
「俺は……君達を殺したくないんだ!」
「ああ、そうだ!」
 ――カッ!
 閃光と共に陽太の左手に収まっていた銃型のサモンデバイスの銃口に魔法陣が描き出される。
 空中に書かれた方円の、その中央に描き出されていたのは、獅子頭の戦士。
 ――其は、盾であり、鉾でもある悪魔。
「サブナック! コイツらの攻撃を全て受け止めろ! 但し、絶対に跳ね返すんじゃねぇぞ!」
 陽太のその叫びに応じる様に。
 正しく獅子の如き咆哮を上げたサブナックがその鉾を旋回させて、兵士達の攻撃を余さず吸収し、陽太への攻撃を遮断するその間に、陽太もまた、淡紅のアリスグレイヴをプロペラの様に回転させながら、柊への攻撃を次々に叩き落としている。
「誰も死なせねぇ……影朧化なんかもさせねぇ……!」
「その心意気は、立派なものじゃ」
 陽太の意気軒昂とした雄叫びに。
 ふわり、ふわりと空から天女の様に舞い降りた『神』たる祥華が、その右手の、刀身が白く輝く木刀白刃刀を、陽太には殺されない、と判断したか、銃剣で陽太の死角からその喉を貫こうとした兵士の首筋に突き立て、更に左手の銀杓の簪……それは、森羅万象を形作る数多の属性を孕むアーティファクト……の先端より氷結の泡を生み出して、自らの背後に迫っていた兵士を凍てつかせ、そのままハラリ、ハラリ、と踊る様な足捌きで残影を残して次の兵士の喉元に突きつけた白刃刀から雷を呼び出し、そのまま感電死させながら、言の葉を紡ぐ。
 その瞳に、まるで全てを見透かしたかの様な光を宿しながら。
「じゃが……このまま誰も死なせぬ、と言う覚悟だけで戦えば、それだけ勢いで負けるのでありんすよ? 其れが分からぬおぬしでもありますまい」
「――っ!」
 祥華の、その一言に。
 思わず軽く身を震わせ、ぐっ、とキツくダイモンデバイスを握りしめ、素早く懐のデビルカードへと持ち替える陽太。
「……理屈はそうだが……でも、それでも俺は……誰も死なせたくねぇんだよ!」
 咆哮と共に、風と海の支配者たる悪魔、フォルカロルの魔力を籠めたデビルカードを祥華の背後に回り込もうとしていた集団へと叩き付ける様に投擲する陽太。
 荒れ狂う竜巻が衝撃波と化して兵士達を吹き飛ばすと、兵士達は近くに浮遊していたウィリアムの氷塊に叩き付けられ、喀血しながら意識を失っていた。
「……柊。身内を想う気持ちはアタシにも分かるが……今回の事件も、ソイツ繋がり、かい?」
 血が滲む程にきつく唇を噛み締め、兵士達の無力化に務める陽太と、統哉。
 そして、確実に兵士達を屠ることでその数を減らしている祥華と、何かを調査する様に、動物達に向けた音色を奏でる紅閻の様子をチラリと横目で見やりながら。
 響が自らの呼び出した戦乙女が持つ赤熱した槍と同じ様に赤熱するブレイズランスを振り下ろし、柊に近付き彼の命を奪おうとする兵士を熱波の衝撃で吹き飛ばしながら問いかけると、柊がペロリと乾いた唇を舐めた。
「……ああ、そうだ。これだけの数を動員できるカリスマ性。訓練された部隊を統率出来る人物を、私達は……」
「その話は、後でもう少し詳しく聞かせて貰いますが、今は……!」
 それ以上は言わなくて良いと言う様に軽く止め、風の精霊の結界に覆われた奏が蝶の様に舞いながら、シルフィード・セイバーを大地に擦過させる。
 大地を擦過したシルフィード・セイバーに抉られた大地が大量の石礫と化して、兵士達の目に叩き付けられ、兵士達が瞳から涙を流して塵を洗い始めた。
 だが……それでも、彼等の狂信的とも言える訓練された猛攻は止まらない。
 素早く隊を入れ替え、もう何波目になるか分からない銃弾の嵐と共に、銃剣で統哉達を突き殺さんと怒濤の如き勢いで襲いかかってくる。
「……雅人はやらせない」
 突進してくる兵士に低くそう返した紅閻が、ふっ、と銀影と共に肉薄し、その体にレーヴァテインを食らわせた。
 大きく口を開き、まるで奇怪な生き物の如き笑い声を上げたレーヴァテインが突撃してきた兵士に喰らいつき、その内側から、その名の如き終焉の炎を齎して、たっぷりと兵士のサイキックエナジー……存在するための力とも言うべき核を喰らい焼き尽くすが、統率された兵士達は、その種の『死』を決して怖れない。
(「これは……危険だな」)
 兵士達の群れの向こうから現れた漆黒の霧の向こうでは、絶えず銃声が鳴り響いている。
 恐らくその闇の向こうに一般人がいるのであろうが、そこに向かう、その為には。
「まあ、正面の一角を切り崩すしか無いでありんすのう」
 そんな、紅閻の焦慮を読み取ったかの様に。
 祥華が鈴の鳴る様な声で呟き、空中からふわり、ふわりと舞う様に紅閻の前に降り立ち、兵士に鋭い鉤爪を突き立て、その肉を引き裂く篁臥に合わせる様に、左手のアーティファクトを天に掲げた。
 ――其れと同時に、天空から降り注ぐは神の雷。
 神罰とも言うべき雷が、兵士達に降り注いで纏めて彼等を焼き払い、そのまま摺足気味に祥華が懐に飛び込み、白刃刀を一閃。
 かっ、と稲光を思わせる光を放った白刃刀がローテーションで後退しようとしていた兵士達の一角にいる者達を、纏めて薙ぎ払っている。
「祥華!」
「此奴等の心は、自らの『死』を受け入れているでありんすよ、統哉」
 咄嗟に静止の声を上げる統哉を諭す様に、水の様に静かに語る祥華。
 雅人もまた、そんな祥華の呟きに静かに耳を傾けながら、自らの退魔刀を一閃し、迫り来る兵士達の『邪心』を切り裂き、戦闘不能へと陥らせている。
「……」
「どうやら雅人は分かっているのでありんすな? 此奴等の心を覆う其れの理由を」
 祥華の呼びかけに、雅人は何も答えない。
 ただ、キュッ、ときつく唇を噛み締めているだけだ。
「……話には聞いているんだ。これは、弔い合戦だって事は」
 雅人の瞳に、荒れ狂う竜巻の様な輝きを見て取りながら。
 祥華の其れに答えぬ雅人の心中を。
 今、目前で自分達と戦っている兵士達の胸中を。
 探る様に、慮る様に呟きながら、統哉が投網銃の引金を続けざまに引く。
 既に何発目になるか分からない麻酔入り捕獲網に何人かが纏めて捕らえられ、そのまま眠りに落ちていくが、それでも彼等の進軍は留まらず、銃撃戦に切り替える様に後退しながら、銃剣の引金を引いて反撃してくる。
 幻朧戦線隊の勇敢なる兵士達の、幾度目になるか分からない無数の弾丸に、紅閻がギラリ、とその紅の瞳を怒らせる様に輝かせるや否や、白銀の双翼の中央に、金剛石の月華の紋章が刻まれた白と、黒と、紅の混ざり合った結界が形成され、無数の銃撃から雅人を守り、更に奏がその結界にエレメンタル・シールドを翳し、紅閻の結界を攻勢防壁へと変化させて、目前の兵士達を吹き飛ばす風を生み出した。
 同時に周囲のウィリアムの氷塊が風に流され速度を上げて礫と化して、兵士達を次々に打ち据えていく。
 岩石に殴打されたかの如き青痣を作りながら仰け反る彼等をギュッ、と強く左目を瞑って睨み付けながら、統哉がだから、と呻く様に呟いた。
「俺は、出来ることなら誰の血も流させたくない。雅人も本当は、そうなんじゃ無いのか?」
 統哉の、その問いかけに。
 静かに雅人が頷くその向こうでは、神に捧げる舞踊を舞い、黒き獣と、白き怪鳥の力も借りて、まだ滾る戦意のある者達の命を刈り取る祥華の姿。
「確かにそうでありんすな。少なくとも雅人、おぬしは統哉に似た思考であろう」
 自らに迫る凶刃を、複数の炎で練り上げられた倶利伽羅に宿る焔で焼き尽くし、逆にその焔を這わせて、目前の敵を焼き払いながら。
 腰を深く落とすように身をたわめ、そのまま優美な足取りで篁臥と共に大地を蹴り、目前の兵隊を、雷光を纏った白刃刀で串刺しにした祥華が告げる。
「じゃが、おぬしはこの世界を護る守護者……ユーベルコヲド使いでもあるのじゃろうて。そして、その力はより多くの罪なき者達を守る為に振るうべき……そう、信じておるのではないのかえ?」
 その、祥華の呼びかけに。
 たん、と雅人が大地を蹴って退魔刀を一閃し、銀風と共に纏めて数人の兵士達を薙ぎ払う。
 纏めて邪心を刈り取られ、その場に崩れ落ちた兵士達を足蹴にして、他の兵士達が上空に飛んで、上空から雅人に向けて凶弾を撃ち出そうとした、正にその時。
「イザーク、喰らえ」
 紅閻の呟きと共に、くくり抜かれたカボチャの顔の様な姿をし、魔法使いが被るとんがり帽子を被った様な姿のイザークがパックリと口を開いてその内の1人を、その身に宿すサイキックエナジー事喰らい尽くし。
「白梟」
 続けられた紅閻のそれに羽ばたきながら、滑空する様に宙に飛んだ兵隊達に肉薄した白梟が、その羽と口から吐き出すブレスと鉤爪で纏めて兵士達を穿ち、焼き尽くし、切り裂いている。
 そのまま血の雨と化して地面へと落ちてくる兵隊達を見て、陽太がくそっ、と振り切る様に唇が切れるほど強く、強く噛み締めて、デビルカードに封じたフォルカロルの力を発動させた。
「なんで、そんなに簡単に死ぬ覚悟なんて出来やがるんだよ、テメェラは……!」
 陽太の叫びに応じる様に。
 周囲に浮遊する氷塊をも呑み込む竜巻が巻き起こされ、雹の嵐が吹き荒れ、祥華が切り開いた一角の兵士達を纏めて吹き飛ばす。
 ――その向こう側に、恐怖に怯えてその場で伏せていることしか出来なかった数十人の市民達がいた。
 その市民達を、守る様に。
「オラオラオラオラオラ! テメェラの覚悟はその程度のものなのかよぉ!?」
 叫びながら、UKM-2000Pの引金を引き続けるミハイルと。
「ウィリアムさん、瞬さん、其方の状況は? 灯璃さんは引き続き援護をお願いします。……どうやら雅人さん達も、今の所無事なようですしね」
 指示を出しながら、G19C Gen.4の弾倉を素早く入れ替え、容赦の無い連射を叩き込み、ピン、と自らの左手に収まっていた小さな結界石を弾き、そこから生まれ落ちた不気味な猟犬に、市民達を殺さんと機関銃を向ける兵隊達を食い散らかさせるのを眉一つ動かさず見つめるネリッサと。
「Active Ice Wall 座標固定、オールグリーン。後は、確実に脱出できる場所さえ確保できれば……!」
 左指先で、魔法陣に新たなルーン文字を刻みつけ、氷塊達の動きを固定、最も安全なルートへの道筋を切り開くウィリアムと。
「この様な弔いの場所に迄戦いを持ち込むなんて……! 如何してそれ程までに、雅人さんと柊さんに固執するのですか!? 何のために、2人と、市民達を傷つけるのですか!? こんな事をして、何の意味があるというのですか!?」
 糾弾の如き怒号と共に、その手に持つ氷の結晶の様に透き通った六花の杖の先端から繊細にして、優美なる矢車菊の花吹雪でネリッサ達が撃ち漏らした兵士達を深い眠りへとつかせる瞬と。
「……濃霧煙幕展開。……仕事の時間だ、狼達≪Kamerad≫!」
 そして、最初に感じ取った漆黒の濃霧を展開したままに狼の群れ達を、兵隊達に喰らいつかさせ、蹲る人々を勇気づける様に守り抜く灯璃の姿が目に入った。
 同時に上空から数百本の星光の力を帯びた縦長の結界が地面に突き刺さり、一筋の光明と思しき道を作り上げる。
 其れを作り上げた暁音の呼びかけが、辺り一帯に響き渡った。
「そこを潜り抜けていけば、瞬さん達と合流し、あの人達を救うことが出来る。急いだ方が良い」
「……瞬は、ちゃんと頑張ってくれていたんだね。分かったよ、暁音。柊はアタシの背に掴まれ! 早くしな!」
 暁音の呼びかけに頷いた響が目前に迫っていた兵隊に向けて掌底を繰り出して昏倒させ、呼び出した炎の戦乙女に背負った柊と自らの背を守らせる様に指示を出す。
「陽太! アンタもしっかりアタシ達を守ってくれるね!?」
「……ああ、分かっているぜ」
 柊を背負いながら続けざまに叫ぶ響に、陽太が自分の髪をくしゃくしゃと掻き乱しながら頷き、響と柊を守る様に深紅のアリスグレイブを回転させつつ、更に左手のデビルカードを濃紺のアリスランスへと持ち替えてプロペラの様に回転させ、響や柊への攻撃を捌き、自身への火力の集中はサブナックに吸収させて自身が切り開いた道を駆けていく。
(「……くそっ!」)
 兵士達は、あの影朧甲冑を纏った儘に消えた男にとっては駒なのか。
 それとも、別の何かなのか。
 はっきり分かっているのは、ただ、闇雲に血を流さない戦いは、今の自分達には出来ないと言うその事実だけ。
 だから、駆ける。
 生きている『市民』と、幻朧戦線が狙ってきた雅人と柊を守る為に、陽太はその道を駆け抜ける。
(「あいつらだって、生きている……! 生きている奴等だってのに……!」
 何処かやりきれない悔しさの様な何かを、その胸の内に抱えながら。


「雅人さん、ご無事ですか?」
 暁音が守り、陽太達が切り開いた道を、雅人が統哉と紅閻、そして風の精霊の結界を張り続けている奏と共に姿を現したのを見て。
「ええ、僕は大丈夫です」
 確認する様に問いかけるネリッサから漏れた呼びかけに、雅人が静かに頷き返すと、ネリッサは、そうですか、と小さく確認する様に頷き返した。
 その口調に何処か安堵の様なものが微かに混ざり合っている様に統合戦術無線機を通じて灯璃が感じたのは、恐らく気のせいでは無かっただろう。
「皆、こっちよ、急いで!」
「こっち、こっち~♪ 田中さん! 私達は足止めを続けるよ!」
 そのまま幾度目かの高圧電流を大地に叩き込み、まだ僅かに残っている生き残りの兵士達を痺れさせる姫桜と、その姫桜を守る様に周囲で舞踊のステップを刻みながら、桜舞花で兵士達を幻惑する様に優雅にはためかせる葵桜、そしてその傍で槍を振るい、炎を解き放つ田中さんの背後から、氷雪属性の魔法の矢を射て兵士達の時を止める義透の身振り手振りによる合図に気がつき、ウィリアムがこっちです! と未だ蹲ったままの人々に対して手を差し伸べる。
「ぼく達が皆さんを先導します! 皆さんは必ず助かりますから、どうかぼく達と一緒に来て下さい!」
 氷塊の塊で姫桜と葵桜に田中さんが兵隊達の足止めをしているその道を指し示す様子に作り上げたウィリアムの呼びかけに、灯璃もまた、大丈夫です、と励ます様に蹲る人々に労りの声を掛け、それから、パチン、と自らの指を鳴らす。
 その瞬間、灯璃の姿が幻の様に掻き消える一方、ウィリアムの氷塊が作り上げた道標を覆っていた漆黒の濃霧が晴れ、弾丸の一撃も通らない様に創意工夫の凝らされた道が浮かび上がってきた。
 ――だが、人々はまだ動かない。
 動けないのだ。
 これだけの数の兵士達と寡兵で戦い、そして自分達を救うと言う、彼等を信じて良いのかどうか……その疑問を、胸に孕んでいるから。
「殿は俺が引き受けるぜ! あんたらは、一般人と雅人って奴と柊を頼む!」
 柊を抱えた響と、其れを守る様に濃紺のアリスランスと淡紅のアリスグレイヴを振るっていたサブナックを呼び出していた陽太に呼びかけ、陽太と入れ替わる様にミハイルが殿に立ち、牽制とばかりに機関銃を乱射する。
 雅人と柊を殺さんと、彼等を狙って走り出そうとしていた兵士達の立つ大地が穿たれ、僅かな足止めの時間を作り上げているその間にネリッサが素早く、ミハイルの後ろから、小さな結界石を再び投擲。
 投擲された其れは、ミハイルに牽制されていた兵士の一人に辺り、其れと同時に巨大な猟犬が咆哮を上げ、目前の兵士を喰らい尽くした。
「……っ」
 兵士の絶叫を聞かぬ様に、陽太がギリリと唇を噛み締めて、響と柊を守る様にしながら、美雪の待つ脱出ポイントへと逃げていくのに残された僅かな兵士達が追いすがろうとするが、暁音の星光の結界によって満たされていた筈のその道が、ミハイルとネリッサが後退する度に、漆黒の濃霧煙幕によって塞がれていく。
「がっ、ガァァァァァ!」
「な、なんだ……っ?! 強襲!?」
 そしてその灯璃の濃霧に巻き込まれた兵士達は、そこから不意を打つ様に現れた狼達に次々に食い散らかされ、狼達の攻撃を運良く躱すことが出来た者達も、ミハイルの機関銃掃射と透明化した灯璃の狙撃によって、次々に撃ち抜かれていった。
「おいおいおい、影朧甲冑は如何した!? あの壊し甲斐のありそうな玩具が、まさかこの攻撃でスクラップになったりしてねぇだろうなぁ!?」
 哄笑とも、挑発とも取れるミハイルの言葉を聞き取りきることも出来ずに灯璃の呼び出した濃霧の中で、次々にその命を散らしていく幻朧戦線の兵士達。
 後方からの攻撃を受けることが無くなったことに気がついたのか、雅人がなんとも言えない複雑な表情を浮かべながら、何故、とネリッサに問いかけていた。
「どうしてここまでして、僕達を助けてくれるんですか?」
 その雅人の問いかけに。
 ネリッサが微かに笑みを口元に浮かべ無機質な中に柔らかいものを混ぜて答える。
「私は、此処ではありませんが、他の世界に存在する雅人さん、あなたが属しているのと同じ様な諜報機関の出身です。世界こそ違えど、同志とも言えるあなた達の事を、見過ごすことは私達には出来ませんから」
 その、ネリッサの呟きに。
 ああ、そうか、と何処か納得した様に雅人が頷き、続けて隣に立つ統哉と紅閻を見つめている。
「統哉さんも、紅閻さんもありがとうございます。僕達のことを、助けに来てくれて」
「……気にするな。俺は、俺の好きでしたことだ」
 小さく礼を述べる雅人のその呟きに。
 紅閻が此処では無い何処かを見ている様な……まるで雅人を誰か……何か……?  と重ね合わせているかの様なそんな表情を浮かべて見つめていた。
(「……彼は、一度喪った」)
 けれども、形こそ違えど、其れをまた手に入れた。
 そう……自分の霞がかった記憶の向こうにいるであろう、既に喪われて久しい『誰か』を雅人にとっては思わせる、紫蘭と言う桜の精を。
 と、丁度その時。
 紅閻の周りにチロチロチロ……と複数匹の動物達が集まってきた。
 それは先程の紅閻の演奏による願いを聞き入れ、あの影朧甲冑に乗る男達についての情報を収集しようとしてきた動物達だ。
 その動物達の話を、餌をやりながら紅閻が耳を傾けているその間に。
 掃討戦に移行しているミハイルとネリッサ、そして透明化を解除した、目の下に微かなクマを作った灯璃の姿を複雑な表情で見つめていた統哉が、ウィリアムに差し出された手を取れず、未だに地面に蹲っている人々の姿を目の端に捕らえ、雅人、と静かに呼びかけた。
「彼等は多分、君の……土地勘があり、帝都桜學府の人間でもある君の助けを必要としている。だから……」
「ああ、分かっているよ、統哉さん」
 みなまで言うな、と言わんばかりに頷く雅人に微苦笑を零し、軽く鼻を擦りながら、市民達の方へと雅人を送り出す統哉。
 そのままウィリアムの隣に移動した雅人が皆さん、と蹲る市民達に対して、静かに優しく呼びかけた。
「彼等は、皆さんの危機を知って、皆さんを助けに来てくれた僕の恩人であり、隣人でもある超弩級戦力の者達です。また、帝都桜學府にも既に今回の件は情報が共有されており、超弩級戦力の皆さんの指示に従ってこの場から脱出できれば、皆さんを保護する盤石な態勢を既に整えております。どうか安心して、彼等の……僕の恩人である皆さんの手を取って下さい。どうか、宜しくお願い致します」
 そんな、雅人の呼びかけに。
 彼の身に付けている学徒服とその胸に付けられた羽根と徽章が目に入ったのか、臣民達が何処か安堵の表情を浮かべて雅人の手を取り、そしてそのままウィリアムの先導と共にこの場を後にする。
 暁音とウィリアムの合作である星光の結界と氷塊で形作られたその道の左右から、最後の抵抗、とばかりに僅かばかりの兵士達が市民達に向けてグラッジ弾を、或いはその銃剣を叩き込もうとするが。
「おっと、あなた達の好きにはさせないんだよ~っ!」
 葵桜がその間に割って入る様に姿を現し桜舞花の舞踊で兵士達を叩きのめし。
「あなた達が、如何してそこまで雅人さん達やこの墓地にいた人々に固執しているのかは分からないけれども……もうこれ以上戦うのは止めなさい!」
 姫桜が叫びと共に幾度目かの高圧電流を叩き込み、兵士達を一人残らず地に伏せさせる。
 そうしている、その間にも。
「え~っ、臣民の皆さん、避難先は此方です!」
 南口の出入り口に向かうその道に誘導する様に瑠香が叫び。
「私達の指示に従い、落ち着いた行動を!」
 拡声器型サウンドウエポンを持った美雪が、そう叫んで人々を南口の方へと導いていた。
 こうして美雪達は、市民の中に死傷者を誰一人出すことも無く、無事に外に逃がすことに成功したのだった。


「何とか、幻朧戦線の兵士達は振り切れたか……」
 何処か沈痛さを感じさせる口調で。
 統哉が漏らすその言葉に、同じく顔に苦渋の表情を浮かべた陽太が、ああ、そうだな、と静かに頷く。
 何か苦いものを飲み込む様なその様子に美雪と姫桜が共感の光を携えた瞳で、陽太を見つめ、静かに溜息を一つ漏らした。
 そんな美雪達の様子を、祥華は悟った様な、落ち着いた光を称えた眼差しで見つめている。
 何処か重苦しい空気が漂う中で、義透が皆さん、と静かに統哉達へと呼びかけた。
「私達は、其々に彼等を救うために『最善』を尽くしたのです。その結果として、人々の死を悼むこの場所を乱す彼等の暴挙を一先ず止めることが出来た。先ずは、その事に想いを致すべきでしょう」
 その、義透の呼びかけに。
 そうだね、と響が静かに頷き、それからネリッサ、とSIRDの代表者である彼女へと問いかけた。
「アタシ達が無力化した相手まで、アンタ達は殺したわけじゃ無いんだろう?」
「はい、そうですね」
 響の呼びかけに小さく首肯するネリッサがちらりとミハイルと灯璃を見つめると、ミハイルは軽く肩を竦め、灯璃はただ、静かに同意する様に頷きを返していた。
「話し合う気は向こうには無さそうでしたし、私達としても主張を聞く必要は無いと判断したが故の措置です。私達の目的……この墓地を訪れていた人々及び、雅人さん、柊さんの安全が確保できるのであれば、私達としては無力化されている相手にまで手を掛ける必要は無い、と判断しておりました」
「そこの瞬って奴との約束もあるしな。まあ、これで終わりじゃねぇってのも分かっている話だしよぉ」
 そのまま愛銃、UKM-2000Pの弾倉を取り替え、周囲を覆う気配に対する油断を微塵も見せぬミハイルのその姿に、陽太が仕方ない、とばかりに頭を振った。
「それよりも皆さん、今はもっと重要な事があるのではないですか?」
 両腕を組み、静かに佇む様に人々の背を見送った瑠香が不意にそう呼びかける。
 其れまで移動しながら動物達の話に耳を傾けていた紅閻が、篁臥と白梟を一度外套とインコに戻しつつ、そうだな、と静かに頷き返した。
「影朧甲冑、か」
「ああ……そうだったな」
 紅閻の其れに、反射的に溜息を一つ漏らしながら。
 殆ど姿を見て取ることが出来なかった影朧甲冑と其れに乗るパイロットの話を思い出した陽太が腕を組み、じっと考え込む様にしている。
 それから程なくして、そう言えば、と陽太が小さく息を吐いた。
「あの幻朧戦線の兵士達……狂信的と言うか、随分と組織だった動きをしていたな。しかも、部隊長クラスの奴が何人かいて、状況判断能力も的確だった」
「確かにそうですね」
 陽太の、その呟きに。
 沈痛な表情を押し隠せぬままに瞬が呟くと、奏も確かにそうですね、と頷き返している。
 一方、空中を浮遊しながら、周囲を警戒し続けていた暁音は、灯璃の濃霧が晴れた在る一箇所を見つめていた。
 あのマグマの中に放り込まれた様な灼熱感は、未だ全く止まっていない。
(「これは……」)
 ――悪意ある者達が集まったが故に起きた、世界の痛み。
 そうだろう、と暁音は解釈していた。
 けれども……違う。
 そこに流れる何かが、まるで……。
「似た様な匂いがする、か。ありがとう。お前達は、直ぐに此処から離れろ」
 と、不意に。
 暁音の痛みの様子に気がついたか、動物達に向けてそう優しく告げて解散させた紅閻が、雅人、と雅人に呼びかけている。
「この事件を起こした首謀者の乗る影朧甲冑から放たれる匂いについて情報が入った。その人物からは何処かお前から少し似た匂いがしているそうだ。やはり……あれは――」
「……柊さんも、雅人も知っている人物……そして、恐らくは、紫苑も」
 紅閻の、その呟きに。
 統哉がさりげなく補足する様に告げると、雅人と柊が互いに顔を見合わせて小さく息を漏らした。
「……ええ、その通りです。あの影朧甲冑に乗る人物。彼の名は――」
 雅人がそこまで告げたところで。
 ――カツン、カツン、カツン。
 軍靴の音が、鳴り響いた。
『やはり人間では、お前達超弩級戦力を御することは出来ないか。ならば私が、直々に手を下すしか在るまい。この風峰・紫陽花が……な』
 軍服に身を包んだそれから告げられた、その言葉に。
「へへっ……漸く現れやがったな、影朧甲冑。今すぐスクラップにしてやっから覚悟しな」
 ミハイルが口元に鮫の様な笑みを浮かべ。
「……やっぱり何かあるみたいだね~。何だか、とっても嫌な予感がするよ」
 葵桜が桜舞花を翻し。
「……ここからが本番なんですね。行きましょう、皆さん」
 ウィリアムが『スプラッシュ』を抜剣し、青眼の構えを取った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『幻朧将校』

POW   :    影朧兵器『グラッジ弾』
【任意の対象へグラッジ弾を撃ち影朧】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    影朧兵器『ラプラスの悪魔』
自身に【影朧の入った薬物を射ち、瘴気】をまとい、高速移動と【未来余地によって放つ衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    影朧兵器『黙示録の軍団』
自身が【怒りや恐怖心】を感じると、レベル×1体の【名も無き影朧】が召喚される。名も無き影朧は怒りや恐怖心を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠氏家・禄郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記の予定です。
プレイング受付期間:11月20日(金)8時31分以降~11月21日(土)一杯迄。
リプレイ執筆期間:11月22日(日)~11月23日(月)一杯迄。
何卒、宜しくお願い申し上げます*
●断章
「雅人に柊。そして、超弩級戦力達よ。如何しても、私の話を聞いて貰えないか?」
 何処か、悲痛な痛みを籠めた声音で。
 哀しげに呟く紫陽花と名乗った男に、雅人がええ、と小さく頷く。
「1年前……あの時、僕は紫苑との永遠の別れを経験し、それから漸くあなたが行なった葬儀に参加させて頂きました」
 何処か、物悲しげに呟く雅人の其れに。
 そうだな、と紫陽花と名乗った男……軍人将校の姿を形取った影朧甲冑に搭乗した彼は、小さく頷く。
「それまでは、あの子はMIAだったのだ。まだ生きているかも知れぬあの子の為に、葬儀は開けなかった。だが、お前の所で影朧と化して死した『あの子』の死が確定されたが故に、私はあの子の死を悼み、葬儀を執り行う事が出来た」
 訥々と語られる紫陽花の、その言葉に。
「それで、あなたは自分の気持ちに一区切りを付けた……その筈です、兄上」
 軽く頭を横に振りながらそう言い募る柊に、『紫陽花』は寂寞と微かな嘲笑を交えた微笑みを浮かべた。
「お前がそれを言うか、柊。鈴蘭の死に取り乱し、影朧と手を取り、鈴蘭を蘇らせようとした、お前が」
 その、紫陽花の呼びかけに。
「……それは……」
 柊が微かに俯き加減になり、ギュッ、と拳を握りしめた。
「確かにあの時、私は取り乱し、取り返しのつかない罪を犯しました。その罪への償いは……これから生きて償い続けるそう決めたから、今日この墓地を訪れたのです」
 ――紫苑と鈴蘭……姪と娘という、大切な子供達が弔われた、この場所に。
「それが、問題なのだ」
 小さく呟く紫陽花の声には、憐れみが籠められている。
「今の世界の在り方に囚われ、その価値観の中だけで、お前達は『転生』と言うあのシステムを受け入れ、そしてそれ以上前に進めなくなってしまっている。……あの研究を続ければ、あの子達を黄泉がえらせる事が、出来たのかも知れないのに」
「僕には、『転生』の価値観を否定する事は出来ません」
 何処か、達観した様に。
 小さく息を吐きながらその言の葉を紡ぐ雅人の左手は、無意識にその胸に飾られている羽根へと触れられていた。
「兄上。私には、如何しても分かりません。あなたは元々、その様な方では無かった筈だ。あの子が……紫苑ちゃんが亡くなってからも、あなたは前を向き、帝都桜學府の将校の1人として、影朧の『救済』の為に世界と向き合い続けていた筈だ。その様なあなたが、何故、死者と生者を影朧に作り替えてしまう力を持つそれに乗ったのですか!?」
 絶叫する柊の其れに、『紫陽花』は答えなかった。
「其れを知りたければ、私と戦え。今の私と、超弩級戦力と共に、お前達が向き合うのだ。さあ……行くぞ!」
 その、紫陽花の言葉と共に。
 ジャラリ、とその首に嵌め込まれた黒鉄の首輪が、嫌な音を立てた。

*この章のルールは下記となります。
1.前章の判定の結果、『一般人』への被害は0に抑えることが出来ました。しかし、昏倒、及び死者と化した幻朧戦線の兵士達は、依然、この場所に存在しています。
その為、POWの能力による影朧化は、通常通り効果を発揮します。
2.このシナリオにおきましては、雅人及び柊が戦場に存在します。彼等については下記ルールで運用致します。
a.どちらも猟兵達の指示には従います。但し、撤退はしてくれません。
b.雅人は、ユーベルコヲド『剣刃一閃』を活性化しております。それ以外に所持しているユーベルコヲドは、『強制改心刀』となります。もし、猟兵達から指示があれば、『強制改心刀』を使用することも可能です。
c.柊は戦闘能力の無い、影朧兵器の研究者です。何もしなければ彼は戦いに巻き込まれて死亡するか、影朧化します。
 しかし、影朧兵器の研究者であり、及び目前の『紫陽花』に関する情報をプレイングで聞かれればある程度情報を開示してくれます(良い質問であり、この戦いに効果的であると判断された場合、それはプレイングボーナスとして扱われます)
d.紫陽花に何かを聞く事は可能ですが、全ての質問に答える訳ではありません。

 ――それでは、最善の戦いを。
ウィリアム・バークリー
影朧甲冑と相対するのは初めてですね。もっと情報を掴んでおくべきだった……。
柊さん、あの影朧甲冑は一般的なものですか?

ぼくは、戦闘が始まったら桜學府のお二人から離れたところで術式の準備をしましょう。
――Spell Boost。トリニティ・エンハンス。スチームエンジンと影朧エンジンを暖機運転から通常モードへ。魔導原理砲『イデア・キャノン』顕現、並びに魔力収束式仮想砲塔構築。
これだけやれば、紫陽花さんの注意を惹けますよね。柊さん達から注意をそらせれば。

Active Ice Wallは墓参の方たちの避難誘導に使って、ほとんど残ってない。
皆さん、援護お願いします。

機を見計らって放ちましょう。Slipを!


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

やれやれ、要は死んだヤツを生き返らせるか否か、ってのが今回の騒動の原因らしいな。まったく死んだヤツのコトなんざ、適度に忘れねぇと健康に悪いぜ?
ま、御託はその辺にしといてくれ。今度は武器を未所持な一般人もいねぇ、お互い玄人同士、恨みっこなしの納得ずくだ。じっくり楽しもうぜ。

UCを使って弾幕を張り味方を援護すると同時にヤツに牽制をかける。
機関銃ってのはな、要は相手の行動阻害出来れば十分なんだ。直接ダメージを与えるのは、他の連中に任せるぜ。
しっかし、影朧兵器とやらもしぶといな。柊、アイツに何かしら弱点とか欠陥とか、倒す糸口になるようなモンはないのか?

アドリブ・他者との絡み歓迎


ネリッサ・ハーディ
SIRDのメンバーと共に行動

成程、状況は把握しました。柊さん達と彼には、何かしらの確執がある様に見受けられますね。私はまだ先日の柊さんが絡んだ一件しか知りませんから、その辺りも含めて色々聞いてみたい事がありますが・・・まずはこの状況を片付けるのが先決ですね。

G19で牽制射を加えながら、柊さんの護衛に就きます。それと同時に、対象の影朧甲冑の長所について柊さんに尋ねます。長所が分かれば、それと正反対の行動・攻撃を行えば効果がある筈です。相手の長所を避けて戦うのは、戦術の基本ですしね。
あとは好機を見てUCの黄衣の王を召喚して攻撃、最低でも触手で相手の動きを封じる効果は見込める筈です。

※アドリブ歓迎


真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

親子で同じ軍人としての道に入り、戦いの中で娘が死んだ。アタシ達家族も戦いの道を歩んでるから、娘が失われた悲しみは理解出来る。

でも、違うんだ。娘は・・偉大な将校である父が歪んだ道に踏み込んだらさぞや悲しむだろうね?

引き続き柊の護衛をするか。悪いが柊には物騒なものは一切近寄らせるつもりはない。柊は【拠点防御】でいつでも【かばう】出来るように備え。向かってくる影朧は赫灼の闘気でふっ飛ばす。アタシ自身への攻撃は【オーラ防御】【残像】【見切り】で凌ぐ。周りに影朧が群がってきたら【衝撃波】を使う。影朧も犠牲者だが今は生きているもの優先。悪く思わないでくれ。


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

紫苑さん・・・紫蘭さんのお父様ですか。お気持ちは良く分るんですが・・

雅人さん、気持ちをしっかり持ってください。紫苑さんは転生して確かな道のりでしっかりと歩んでいます。転生は、間違った事ではないんですよ。

ただでさえ雅人さんの心が揺れています。隙を突かれないよう、しっかりと護ります。白銀の騎士を発動し、雅人さんの傍を離れない決心で移動距離を犠牲にして装甲値を増強。更に【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で雅人さんを【かばう】。影朧にされた方は気の毒ですが、雅人さんをここで死なせる訳にはいかないので、近づくなら容赦無く【衝撃波】で薙ぎ払わせて頂きます。


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

確かに、転生は元の記憶が無くなりますので、受け入れられない人もいるんでしょうね。・・・ただ、偉大な軍人であるお父様が間違った道に踏み込んで娘さんを蘇らせても、堕ちてしまったお父様を見て娘さんはどう思うでしょう?

敵の動きがとにかく早いですね・・・【結界術】は上手く展開出来るか分からないので、【誘導弾】に【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】を乗せて【式神使い】で鴉の朔を突撃させながら当てましょう。そして月光の狩人を発動。敵の身体中を啄ませて徹底的に敵の動きを邪魔。敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぎます。


馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。
引き続き『静かなる者』

幻朧戦線は嫌いですが。
私は転生も黄泉返りも否定する気はありませんよ。とくに黄泉返りは。
我らの存在こそが、黄泉返りの歪さの証左なれば。
…オブリビオンへの恨みや執念の末ですよ、我ら。
しかし、どのような理由があろうとも、この墓場という場所を荒らす者は許しません。
ああ、柊殿、一つ聞きたいことが。…紫陽花殿は、自らの命かけてまでそのような(墓場を荒らす)ことをするお方か?

基本は白雪林による氷雪属性矢での援護射撃と、二人への警護ですね。
とくに柊殿は戦闘能力がないようなので、攻撃がいくようならばかばいます。
指定UCは、相手のUC打ち消し狙いです。


文月・統哉
届かない事と諦める事は同義じゃない
救いたいと願ったのは俺自身
この胸に思いある限り道を貫く
それが俺の存在意義
俺が俺であるという事だから

UC発動
【生者も死者もその魂を救いたい】
強い意志の力で戦闘力強化
攻撃見切り先読みし
オーラ防御と衝撃波で
グラッジ弾は全て叩き落とす構え

柊庇いつつ確認
彼が紫苑の父で上官なら
娘を死地へ送った自分を責めていたのでは?

桜學府の将校だ
革命だけならスパイ甲冑という手もあった筈
だが選んだのは影朧甲冑

紫陽花
お前が求めているのは死に場所か?
自ら影朧となって世界、いや自分自身を呪う為
生きる価値も無いと
転生など無意味だと

それでも俺は信じるよ
転生は希望の光
雅人も思い同じなら
強制改心刀を頼む


天星・暁音
転生って概念は別にこの世界だけにある訳ではないのだけど、実際のとこ本当にそれがあるかってのは普通は分からないことだ
それが確実にあるというのを誰もが知っているということには個人的には違和感を感じるとこだけど…
あると知っているからこそ何もかも忘れてしまう事に憤りを感じるのだろうし、転生した人を目にすれば複雑な感情も浮かぶだろうね
でも黄泉がえりとは亡くした者への執着、停滞、或いは後戻りしているだけで決して前に進んではいないよ


回復支援重視で出来るだけ有利な位置取りを心掛けつつ全員を護れずとも傍に倒れている人たちくらいはオーラ防御等で庇い自分で受け回復を自分にも

アイテムUCスキルご自由に
アドリブ共闘歓迎


亞東・霧亥
SIRDと共闘

【UC】
決して割り切れない、終わり無きπの詠唱。
次々と紡がれる数字は螺旋を描き、我等と彼等の間に立ち塞がり、比類無き矛となり盾となる。

紫陽花に問いたいが詠唱しているため、柊にメモを託し読み上げてもらう。
生命を冒涜する輩に対する怒りを込めて。
「生命とは終わりがあるから尊い。輪廻を紡ぐ『転生』と終わり無き『黄泉返り』。終わりが無くなれば、生命を軽んじる輩も増えよう。その様な世界に貴様は『展望がある』等と本気で言っているのか?」


白夜・紅閻
カミサマ(f17147

俺とカミサマは柊の事件の資料を見ただけだ
だが、きっとこれでよかったんだと思う

黄泉ががえって生き永らえるのと
転生して新たな生を生きるのとでは
どっちが辛いと、思う?

俺はヤドリガミ…だ
主亡き後、主の姿を以て此処に居る、が
残念ながら、大切な記憶(想いで)は消えた(無い)…ぞ

でも、痛みは…ある

雅人も柊も
守る、さ

それが最善…だ


やることは先程と同じ
篁臥と白梟の封印を解き
援護射撃や一斉射撃
ブレス攻撃などで俺たちの援護をさせる

俺は、拠点防御や結界術などで守りを固め
イザークとレーヴァテインでの攻撃にあたる

今後の為にも?
影朧兵器コレが効くか試してみる…

えっと紫陽花?の動きを弱らせて…みる、よ


吉柳・祥華
白夜(f18216


黄泉がえりじゃと?
そんなことをすれば
その者の魂魄は二度と再生出来なくなり転生すら出来まい…

『魂』とは常に成長と再生を繰り返し
より強い魂へと育まれる

転生とはそういうものじゃ

むしろ
それ以上前に進めなくなってしまっているのは貴様のほうじゃな

それに転生とは
何もこの世界だけの話しではないぞ?

妾とて可能じゃ
ただし、妾の創造物に限るがのお?

おいで白楼
コレは元は枝じゃぞ

追跡するのであれば
足止めをするのも手段じゃな?

UCを蜘蛛の巣のように張り巡らせ
絡まった奴を祈りで浄化したり
範囲攻撃で焼却したり
接近してきたら衝撃波や神罰、爆撃等で

妾の守りはオーラ防御の他
倶利伽羅や霊符による結界術になるかのう


朱雀門・瑠香
一応お聞きしますけど貴方、雅人と柊さんの為に死ぬつもりとかじゃないですよね?自分はもう後戻りできないから、彼らに道を踏み外してほしくないから、ここで死ぬつもりですか?
どちらにしても彼らを死なせませんけど。
周囲の死体に弾を撃ち込まれないように警戒しながらダッシュで接近
相手の銃口から弾道を見切ってその進路上に割り込んで武器受けで弾き飛ばします!(柊さんが狙われないように警戒、雅人は頑張って避けて💛)それと並行しながら間合いを詰めていき間合いに入ったら破魔の力を込めて一気に切り伏せる!


森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

確かに、転生のシステムはこの世界に根付いている
時に優しすぎると思うこともあるさ
だがな、その優しさがあるから、この世界の人々は前に進めるんじゃねーか?

「高速詠唱」+指定UCでスパーダ召喚
スパーダの短剣全てに「破魔、浄化」の光を纏わせる
名もなき影朧が現れたりグラッジ弾が撃ち出されたりしたら
「投擲、制圧射撃」で短剣を投げつけて叩き落とす
特に一般兵(生死問わず)は絶対影朧にはさせねえ
これ以上影朧は増やさせねえよ

俺自身は柊の護衛
できるだけ俺や他猟兵の背中に隠れてもらう
もし柊が攻撃されたらデビルカード(アスモデウス)と二槍で防御
念のため、柊に一般兵の顔に見覚えないか聞きたい


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

柊さんと雅人さん、どちらにも駆けつけられる位置取りを維持し
「歌唱、優しさ、鼓舞」+【もふもふさん達の励まし】で全体の回復と戦線維持に専念
可能ならもふもふさんを1体、竜胆さんの所に向かわせる
帝都桜學府の将校だった頃の紫陽花さんの人となりを、柊さんや雅人さんとは別視点から知りたいのだ
…大切な人を失った悲しみは、早々癒えるものでもあるまい
MIA認定で生への望みを繋いでいたなら、尚更な

紫陽花さんにも聞きたい
何、先ほどの一般兵たちが妙に統率が取れていたのが気になってな
紫陽花さんはいつから幻朧戦線と関係を持った?
まさか、紫陽花さんの元部下もこの場に何人かいるんじゃないだろうな?


彩瑠・姫桜
UC発動

柊さんを
かばい守りながら話をするわ

柊さん、
紫陽花さんは
紫苑さんのお父さんなのよね?

紫陽花さんは、紫蘭さん…転生した紫苑さんを知ってるのかしら
知ったり会ってたりしたら話は別なのかもだけど

私には、紫陽花さんが
紫苑さんを想うあまりに
影朧側に変な肩入れしてるように思えたのよ

生死不明はどこかで生きている望みを抱くことができるけれど
死が確定されれば、生きていて欲しいと願った想いは行き場を無くしてしまう

場合によっては
「紫苑さん」と同じようにすべてを影朧にしてしまいたくもなるのかもって

…でも
もし今の状況の理由に
娘の話が絡んでくるのなら

父親ってほんと馬鹿だと思うわ
だって娘はそんなの、一つも望んでないもの


榎木・葵桜
紫陽花さんの妨害するね

UC使用
[範囲攻撃]に[衝撃波、なぎ払い]を組み合わせながら
できる限り紫陽花さんと、名も無き影朧の動きを止めるね

幻朧戦線の兵士達の影朧化は止められないかもしれないけれど
できる限り被害が最小になるように立ち回れたらいいかな

紫陽花さんと柊さんの話は、私にはよくわからない

二人が兄弟同士で、それぞれに娘さんがいて亡くなってるってこと…?
あと、お二人は娘さんのことすごい大事に思ってたってことだよね

姫ちゃんが柊さんに話してる内容は全くの的外れかもしれないけど
でも、ちょっとだけ紫陽花さんにも聞いてみたい

紫陽花さんが今こうして戦ってるのは娘さんが絡んでるの?
それとも他の事情があるの?


灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員として連携

何を言おうと、人の命を軽んじている時点で
ただのテロリスト…貴方の言葉に価値はありません

まずは敵部下の影朧化及び敵の召喚影朧への対抗措置に
(先制攻撃)でUC:Wild Jagdを発動。一人でも多く狼兵化させ、
グラッジ弾に対し回避専念させつつ、敵影朧増援に
(制圧射撃・戦闘知識)を掛けさせ敵が戦力集中し数で押して来れない様、狙いの分散させ味方を支援する。

同時に指定UCを発動し敵・味方の動きを
(情報収集)しつつ動き回りながら仲間を支援
(見切り・スナイパー・戦闘知識)で
選抜射手の経験と収集した敵の動きから得意な戦闘の癖を
割り出し、脚狙いで狙撃し機動力を削ぐよう狙う

※アドリブ歓迎




 ――ハラハラ。ハラハラ……。
 季節外れの桜吹雪が、風に吹かれて宙を舞う。
 ヒラヒラと舞い落ちる、その桜花の美しさを断ち切る様に。
 ――ジャラリ。
 と言う嫌な黒鉄の首輪の音が辺り一帯に響き渡るのを耳にしたネリッサ・ハーディが素早くG19C Gen.4の弾倉を取り替え、柊の左隣に移動しながら成程、と低い声で呟いている。
「柊さんと雅人さん、それに彼……紫陽花さん、でしたか。どうやらあなた方には、何かしらの確執がある様ですね」
 そのネリッサの問いかけに。
 ええ、と柊が生唾をゴクリと飲み込みながら頷きかけた。
「……あの頃のあの人は、この様な方では無かった。けれども、如何して……!」
 呻く様に低く呟く柊に向けて憂いげな表情を浮かべて軽く自らの長髪を掻きながら正面に立つ様に二槍を構えたのは、彩瑠・姫桜。
 その腕に嵌め込まれた玻璃鏡の鏡面が、淡く波打つ様な輝きを放くのを鎮める様にそっと撫でてやりながら、柊さん、と小さく問いかける。
「紫陽花さんは、『紫苑』さんの、お父さんなのよね?」
「ああ、そうだ。あの人は……兄上はその通りなんだ」
 その、柊の頷きに。
 短く首肯した姫桜がそれじゃあ、と小さく囁きかける様に問いかけた。
「紫陽花さんは、紫蘭さん……転生した紫苑さんを知っているのかしら」
「それは……」
 その姫桜の問いかけに、柊が微かに口ごもると。
『ああ……紫蘭か。無論、彼女の事も『知って』いるよ。だが……お前達は知らないのか。あの子が『紫蘭』として転生され、この地に生まれ落ちた時に起きかけた、その悲劇を。そして……人命救助の為に、転生してくる予定の桜の精たる『紫蘭』に、帝都桜學府が下したその決断を』
 その、紫陽花の問いかけに。
「……っ!」
 その時の記憶を反芻し、白夜・紅閻が思わず、と言った様子でその紅の瞳を見開いている。
 そしてそれは、何も紅閻だけのことでは無い。
「……確かにあの時、私達は……帝都桜學府は紫蘭さんのことを見捨てようとしましたね……」
 帝都桜學府の者として、その事件に携わった朱雀門・瑠香が小さく息を漏らした。
「そんな事件があったのですか……」
 瑠香の溜息に軽く頭を振りながら、灯璃・シュピーゲルが静かにそう軽く答えを返しつつ、自らの背の裏で素早く手信号を送っていた。
 その手信号を手早く解読しながら、自らのサングラスをクイッ、と引き上げ、UKM-2000Pを構えて前方に出たミハイル・グレヴィッチが軽く肩を竦めていた。
「ヤレヤレ、まさかそんな事まで起きているとはねぇ。……随分ときな臭ぇ話じゃねぇの」
「ああ……全くだな」
 ミハイルの、その呟きに。
 自らの両拳に紫電を蓄積させながら、その懐にひっそりと収めていたメモを柊に手渡しつつ、ミハイルと肩を並べて立ったのは、亞東・霧亥。
 それ以上を口では語らず、代わりに『3.14……』とπを、歌う様に詠唱を始める。
 其れと同時に霧亥達と、紫陽花の間を隔てる様に積み上げられたのは、巨大な円錐形の結界。
 πによって徐々に、徐々に形を成し始めるその結界の向こうで、紫陽花が、かっ、と軍帽の唾に隠されて見えぬ黒曜石の瞳を怒りに煌めかせると同時に、その周囲を取り巻き始めるのは、名も無き影朧達。
 其は、まるで幻影の様に。
 その周囲に浮き彫りになっていく紫陽花の周囲の名も無き影朧達の姿を見つつ、神気を纏い、ふわり、と再度空に浮かび、空中で星具シュテルシアを構え直しながら、全身に、煮えたぎるマグマで焼き尽くされる様な灼熱感を共苦の痛みを通じて感じつつ、天星・暁音が静かに頭を横に振った。
(「憎悪……いや、違う。これは恐らく、彼の痛みか」)
 ――その決断が決して間違いでは無かったことを理解は出来ていたとしても。
 ――感情的に納得できぬ可能性は、決して低くは無い。
 最も其れは、猜疑を抱くにしても本来であれば極僅かのものであったのだろう。
 けれども小さな棘に常にその身を苛まれ続け、其れによって心身の消耗が著しくなっていけば。
(「そもそも、如何してそうなったのか」)
 そこに思いを至らせた時。
「成程。まあ、正直に言ってしまえば転生って概念自体は、別にこの世界だけにある訳ではないのだけれども、でも、実際に其れがあると全ての人々が理解っているこの世界の在り方は、確かに俺個人としては、違和感を感じるところではある。そして、其れを誰もが知っているが故に、何もかも忘れてしまう事に憤りを感じる人もいるだろうし、転生した人を目にすれば複雑な感情が浮かぶと言うのも、一理あるのだろうね。紫陽花、君が抱いているのは、これに対する怒りか」
「さあ……どうであろうな」
 暁音のその呼びかけに、軽く頭を横に振る紫陽花。
 それを落ち着いた金の瞳で見つめ続ける暁音と、冷たく研ぎ澄まされた刃の様に静かな殺気を放ち続ける紫陽花の様子を振り切るかの様に、荒々しく首を横に振り、柊を守る様にその背後に立ち、その肩の向こうから左手に構えた銃型のダイモン・デバイスを構え、翡翠色の瞳を鋭く細めて射貫く様に見つめる森宮・陽太が声を荒げた。
「確かに、転生のシステムはこの世界の根幹に根付いている……! それこそ、時に優しすぎると思う位にな……! だがよぉ、その優しさがあるからこそ、アンタ達……この世界の住人である俺も、アンタ達も、前に進めるんじゃねーのかよ!?」
 ダイモン・デバイスの銃口に描き出された五芒星の中央に、捻れた双角を持ち、その手に紅の短剣を持つ黒き悪魔の絵が描き出されていくのを見つめながらの陽太の問いかけに、何処か無慈悲に突き放す口調でだが、と紫陽花が答えた。
『その優しさは、全ての人々に本当に分け隔て無く与えられるものだとお前は思うか? 今、お前達と共にいる雅人もまた、嘗てとある罪を犯したユーベルコヲド使いであり、また、その転生を受け入れられなかった者の一人だぞ?』
「……っ、それは……!」
 紫陽花の、その糾弾に。
 その頬についた切り傷の痕をそっと撫でながら、びくり、と思わずその身を震わせる雅人。
 そんな雅人を支える様に。
「雅人さん、気持ちをしっかり持って下さい」
 そっと雅人の傍に立ち、シルフィード・セイバーを青眼に構え、エレメンタル・シールドをゆっくりと持ち上げた真宮・奏が大丈夫、と言う様に柔和な笑みを浮かべていた。
「雅人さんも、もうよく分かっている筈です。紫苑さんは紫蘭さんに転生して、確かな道のりでしっかりと歩んでいると言う事を。私達は柊さんと共に、悩みながらも尚、自分自身のことを受け入れ、前に進むことを決めた彼女を……紫蘭さんを、きちんと見てきています、信じて下さい!」
 そう、奏が雅人を励ますその間に。
「……確かに、転生は元の記憶が無くなります。だから……今のあなたの様に、受け入れられない人もいるのでしょうね」
 神城・瞬もまた、その赤と金のヘテロクロミアに沈痛な光を称えつつも、紫陽花へと訥々と語りかけていた。
「ですが、そうでなくきちんと其れを受け止める事の出来る人もいます。先程、『転生の価値観を否定できない』と告げた雅人さんの様に。そして……もし、あなたが……偉大な軍人であるお父様であるあなたが娘さんを蘇らせても、堕ちてしまったお父様であるあなたを見たら、彼女は、どう思うのでしょうか?」
「親子で同じ軍人としての道に入り、戦いの中で娘が先に死んだ」
 そう、密やかに囁きかける様に。
 何処か虚空を見つめる様な紫の瞳に、瞬が『堕ちた』と称した、帝都桜學府の有能な将兵でもあった筈の紫陽花を映し出しながら、真宮・響が柊と紫陽花の周囲に漂い、集結しつつある名も無き影朧達の間に割って入る様にブレイズブルーを下段に構えた。
 青白い炎を現す其れが響の魂の如く赤熱を思わせる緋色へと変貌していく。
「アタシ達家族も戦いの道を歩んでいる。だから、自分よりも先に、家族に先立たれた……アンタの場合、娘が喪われたわけだが……その悲しみは、全てとは言えないけれど、理解は出来る」
 その戦いの中で、夫を、律を亡くしているのだから。
 既にその仇討ちはすませたが、その時の心の痛痒は、今でも尚、鮮明に記憶に残っていて。
 ――けれども。
「……違うんだよ。娘は……自分が原因で偉大な将校である父が歪んだ道に踏み込んだと知ったら、さぞや悲しむ……そうなんじゃないのかい?」
『死者の声を聞く事が出来るのであれば、或いはその通りと言うかも知れないだろう』
 その、響の問いかけに。
 特に動揺した素振りも見せず、将校の口から淡々と紫陽花の音声が紡がれ続ける。
『だが、死者は何も語らない。いや……語れないのだ。嘗ての記憶の痛みを癒し、忘れていくために我々が幻朧桜によって転生させられるのであれば……如何して人は、命は生まれ落ちる必要がある? 記憶や知識、痛みの継続が途切れれば、人は成長し、新たなる文化を育み、新たな生を営むことも出来ず……そこに疑義を挟んだ魂は、影朧としてユーベルコヲド使い達によって『救済』と言う大義名分の元に行なわれる虐殺を経験する。でも、その罪も、痛みも、時が費やされるにつれて癒されてしまう。……それでは、誰も、何も、変わることが出来ないでは無いか』
「じゃから、おぬしは黄泉がえりを肯定し、転生を否定する、そういうのか?」
 嘆ずる様に、自問する様に。
 そう呻く紫陽花に、そう問いかけたのは、吉柳・祥華。
 祥華のその問いかけに紫陽花がそう言うことになるな、と静かに首肯するや否や、祥華はその整った柳眉を思わず釣り上げていた。
「じゃが、そんな事をすればその者の魂魄は、二度と再生できなくなり、転生すら出来なくなる……そうなれば、おぬしの言う『成長』を、その者の『魂』が出来なくなるのじゃぞ? 『魂』とは、常に成長と再生を繰り返し、より強い『魂』へと育まれる……その為の、転生であると言うのに……」
 祥華の慨嘆に、紅閻が俺は、と小さく囁きかける様に呟きながら、その手に嵌まった欠けた血に塗れ、色褪せたカケラたる銀の指輪をそっと撫でた。
「……俺とカミサマは、柊の事件については、資料を見ただけだ。だが、柊の娘……鈴蘭は、黄泉がえって、生き永らえなくて良かったのだ、と思う」
(「確かに、痛みを継続させ続ける事は、或いは、ヒトという種を成長させる糧となるのかも知れない」)
 でも……。
「決して癒える事が無く、その傷を背負い続ける事……それは酷く残酷で、辛く、苦く、苦しいものだ」
 ――キラリ。
 色褪せた銀の指輪が光る。
 その光を見る度に思い出されるのは、霧の向こうに覆われて、見る事の出来ないあの記憶。
 ――決して消えることの……癒えることの無い、忘れられない、大切なモノ。
 その紅閻の言の葉は、桜風に乗る様にして消えて行ってしまったけれども。
「……幻朧戦線は、嫌いですが」
 そんな、微かな沈黙を打ち破るかの様に。
 静かに、そして淡々と。
 落ち着いた老翁の声が、奇妙に辺り一帯に響き渡った。
 それは、馬県・義透の声。
 ――死天山彷徨う四悪霊……即ち……。
「私は、転生も、黄泉返りも、否定する気はありませんよ。私……我等の存在こそ、正しく黄泉がえりの歪さの証左故に」
 そう……オブリビオンへの恨みや執念の末、猟兵として生まれ落ちた自分自身。
 辿る道が異なれば、或いはかの影朧達と同じ存在になっていたかも知れぬ、と心の何処かで思いながらの義透の呼びかけに、紫陽花がほう、と興味深げな眼差しを向け、そして義透を真っ直ぐに見つめ返した。
『超弩級戦力の中でも尚、黄泉返りを肯定し、正に黄泉返りし者がいたか。それでは、貴殿は何故に、私と相見える道を選んだ?』
「まあ、少なくとも紫陽花殿の思想を否定する為、ではありませんね。ただ……どの様な理由があろうとも、死者達が安らかな眠りにつくことが出来る場所……この墓場というその場所を、荒らすあなたを許せないだけの事です」
『許せない、か……』
 義透の、その呟きに。
 静かにそう言葉を返しながらも、紫陽花が歩みを止めることは無い。
(「そうであろうな。私のしていることは、許せぬ事であるのは、間違いない」)
 その呟きは、誰の耳にも聞こえなかったけれども。
 ――と。
(「何だ……あの表情は?」)
 一瞬、軍人将校の姿をした紫陽花の影が不思議な揺らぎをした様に、藤崎・美雪には感じられたが、しかし、其れが何であるのかを掴み取ることも出来ず、風に浚われる様に消えていく。
 因みに先程召喚したもふもふさん達の内の一体を、竜胆の所へ向かわせたが……戻ってくる気配は無い。
(「出来ることならば、帝都桜學府の将校だった頃の紫陽花さんの人となりを、柊さんや雅人さんとは別視点から知りたいものだが……」)
 このタイミングでは、どうにも間に合いそうに無い。
 何となくそんな事を思っていた美雪の想いに気がついたか、それとも……話は此処まで、と割り切ったか。
 先程の兵士達が使っていたグラッジ弾を撃ち出す大筒が、その肩に競り上がってくる様子を見て、思わず目を見開く美雪。
 その時、だった。
「SIRD――Specialservice Information Research Department……これよりミッションを開始します……!」
 まるで図ったかの様なタイミングでネリッサがそう叫び。
「イェス、マム! ――Achtung!《傾注!》」
 灯璃が、その瞳に決意の光を宿したままにそう叫ぶと同時に、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"を天へと掲げ、その引金を素早く引く。
 灯璃によって引かれた"Schutzhund"の銃口から撃ち出されたのは、一発の真銀の銃弾。
 天空に向かって打ち上げられた其れが、上昇気流に乗って瞬く間に空へと駆け上がり、そのまま熱を帯びて焼けて弾けた時に何が起きるのかに気がついたか、紫陽花が其れを追わせる様に、その指先をマシンガンに変えてその銃弾を吹き飛ばそうとするが……。
「おいおい、足下がお留守だぜ!」
 その時にはミハイルがUKM-2000Pの引金を引き、その足下に向けて無数の銃弾を吐き出させて、紫陽花の動きを一瞬牽制していた。
 その間に大気との摩擦熱に耐えきれなくなった灯璃の銀の銃弾が燃え尽きて弾け、銀色の弾痕の雨が、戦場全体へと桜吹雪に乗って駆けていく。
 それが周囲に倒れている兵士達の遺体及び、気絶した体に触れる刹那に、パチン、と灯璃は鋭く指を鳴らした。
「……Widme ein Gebrüll!《咆哮を捧げ!》』
 灯璃の、その鋭い命令と共に。
 倒れていた遺体や気絶した者達の一部が見る見るうちにその姿を、現用歩兵装備の完全武装人狼兵へと姿を変え、ゆっくりと起き上がってくる様子を見て、文月・統哉があっ、と思わず声を上げた。
「灯璃……これって……!」
「彼等に彼のグラッジ弾を受けさせて、影朧化させるわけには行かないでしょう。そもそもあなた達は、彼等を『殺さない』事を望んでいた。でしたら、死なれるよりも先に、操ってでも此処から避難する様に命じる事は、統哉さん、あなた達と利害が一致すると思いますが」
 一息にそう説明したところで。
 灯璃が小さく息を吐き、あなた達は、と小さく問いかけた。
「まだ、生きている者達の『生』を諦めたくないのではありませんか?」
 その、灯璃の呼びかけに。
「……ああ、そうだな」
 統哉が、苦渋の表情を浮かべながら静かに頷く。
(「届かないことと、諦めること……それは、同義じゃ無いんだ。何よりも……」)
「救いたい、と願ったのは俺達自身だ……。そしてその思いは、今でも尚、この胸の中に在り続けている。その救う対象には……紫陽花の心も、入っている」
 それが自分の存在意義。
 統哉が、統哉である証なのだから。
「……分かりました。其れでしたら統哉さん。雅人さんと柊さんへの紫陽花の注意は、ぼくの方へと引き付けて見せましょう」
 その、統哉の誓いを受けて。
 青眼に構えていたルーンソード『スプラッシュ』を天空に突き出す様に差し出したウィリアム・バークリーがそう返した。
 同時に彼の全身を風の精霊達が覆い尽くし、『スプラッシュ』の鍔に搭載された、『スチームエンジン』が唸りを上げ、更に影朧エンジンが『スプラッシュ』の中で大きく唸りを上げ始める。
 そこから詠唱に入るウィリアムと、柊を庇う様に扇をバサリ、と広げながら、私はさ、と榎木・葵桜が小さく呟き、舞う様な足取りで、その身に影朧を打ち込もうとする紫陽花へと近付いていく。
「姫ちゃんや統哉くん達と違ってさ、紫陽花さんと柊さんの話は、よく分からないんだ。でも……お二人が、娘さんのこと、凄い大事に思ってたって事、それだけは分かっている」
 ――だから。
(「姫ちゃんがこれから言う事、言いたいこと……」)
 或いは、陽太や、統哉や、美雪達が……紫陽花に向けて言いたいこと。
 その全てが間違っているかも知れない、的外れかも知れないと思わないでも無いけれど。
 ――それでも。
「紫陽花さんの動きを止めるお手伝いはするよ。だって私は、姫ちゃんの……」

 ――親友、だから。


「やれやれ、柊の事件には一応、関わったが詳しいことは正直分からねぇし、興味もねぇが」
 銃口から、UKM-2000Pが白煙を立ち上らせる、その向こう側で。
 ミハイルが軽く頭を振りつつ、灯璃の生み出した完全武装の人狼兵達がジリジリと紫陽花から離れる様に後退する姿を認めながら、溜息を一つついた。
「要は死んだヤツを生き返らせるか否か、ってのが今回の騒動の原因って事の様だねぇ、軍人さんよ。テメェも玄人の軍人だってんなら、死んだヤツのコトなんざ、適度に忘れねぇと健康に悪いってもんだぜ?」
 戦場とは、『殺し合う』場所。
 そこには崇高な正義も、理想も、悪も無い。
 それらが『戦争』を起こして士気を奮い立たせ、より凄絶で残酷な戦場を作り出すことがあっても、そこにいる者達の心にあるのは、ただ、生きたい、その為に人を殺すという現実のみ。
 そんな中で、築き上げられてきた無数の屍の一つに情を覚え続ける等、愚の骨頂であろう。
『……そうかも知れぬな。だが、私達の命令で、私達より年若き者達の命が無惨に散らされていくのを、そうして『命』を掛け、実際に落としていっている者達がいる事を人々は知らぬ。忘れてはならぬもの、と言うのは確かにあるのだ』
 告げながら、今度は左肩に競り上がってきた大筒からグラッジ弾を灯璃の銀の雨の影響を逃れた兵士達の亡骸の中核に向けて紫陽花が発射しながら、目にも留まらぬ速さでミハイルの弾幕を掻い潜る様に残像を曳いて走りつつ柊達へと肉薄してくる。
 その首の黒鉄の首輪に繋がる鎖が、紫陽花の圧倒的な速度で暴風の如き勢いで周囲を薙ぎ払う様にしている様をみながら、ネリッサが愛銃『G19C Gen.4』を構えて、その引金を引いて鎖を牽制するのに続く様に、霧亥が詠唱し続ける中で生み出された無数の数式の羅列による円錐型の結界を潜り抜けた紅閻がその背から、まるでハロウィンで使われるカボチャ型の仮面の様な表情をした、2体のフォースイーターを解き放ちつつ、その場で漆黒の外套をバサリとはだけさせ、同時にその肩に止まっていた大型インコにピュイッ、と口笛で合図をする。
 ケタケタと奇怪な笑い声を上げた、フォースイーター……魔女の様なとんがり帽子を被ったイザークがその大きな口を開け、更にシルクハットを被ったレーヴァテインが、その名に纏わる終焉の炎をその口から吐き出した。
 吐き出されたレーヴァテインの炎を、紫陽花はターンして躱しつつイザークを手から解き放った衝撃波で打ちのめしたところで、死角から漆黒の獣、篁臥が、空中から白梟がその鉤爪で紫陽花を引き裂かんと襲撃を開始。
 其れに合わせる様に、葵桜がヒラリ、ヒラリと陽向桜の袴や白装束の裾を風に靡かせつつ、桜舞花を振るう様にその場で舞いながら肉薄した。
 すると舞に合わせる様に葵桜の前方に最初から舞い続けていた桜吹雪に合わさる様に無数の桜の花弁が天空を泳ぎ吹雪と化して紫陽花に向けて矢の様に解き放たれた。
 解き放たれた桜吹雪が、紫陽花の死角から迫り掛かった篁臥をねじ伏せんと迫り掛かっていた名も無き影朧を拘束し、更に白梟のブレスから逃れるために横っ飛びに面移動しようとした紫陽花の足下を容赦なく掬う。
 篁臥がその隙を逃さず漆黒のオーラを纏った体当たりを紫陽花の腹部に叩き付け、続けざまに白梟のブレスが空から紫陽花を燻り、微かにチリチリと軍服を模した装甲の表面を焼く様な音が辺り一帯に響き、微かに将校の姿が剥ぎ取られ、金属質なそれが見えそうになったが、瞬く間にその傷は塞がれ癒えていった。
 紫陽花はその様な傷等一切合切気にも留めずに、肩からグラッジ弾の第2射を射出し、灯璃の銀の雨に撃たれて立ち上がった人狼兵達の群れを影朧化させようと試みた所で……灯璃が、JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioを利用して低周波音波で人狼兵士達に命令を下す。
「あなた達は、グラッジ弾の回避に専念して下さい!」
 その指示に従う様にグラッジ弾の直撃を避ける様に動いた人狼兵達の合間を縫う様に、陽太が銃型のダイモン・デバイスの引金をすかさず引いた。
「もうこれ以上の犠牲は出させねぇ……! スパーダ! グラッジ弾を叩き落しやがれ!」
 陽太の叫びに呼応して、エンジンの中央に描かれたかの悪魔が顕現し、大地を震撼させる咆哮を上げた。
 その瞬間スパーダの周囲に現れたのは、790本の紅蓮の炎を纏い、複雑な幾何学文様が刀身に描き出された、赤熱している短剣の群れ。
 その緋炎を纏った短剣の群れが躍る様に四方八方を飛び回り、グラッジ弾の全方位を取り囲み、極光の光と共にグラッジ弾に突き刺さって爆散、グラッジ弾を跡形もなく消失させた。
「これ以上、影朧は増やさせねぇ、誰も犠牲になんてさせねぇ……!」
 その、陽太の様子を認めながら。
 ふむ、と何やら納得したかの様に祥華が一つ頷き、そのまま天女の如く空へと舞い上がり、おいで、と自らの周囲に浮かんでいる木彫りの妖精を傍へと招き寄せる。
 招き寄せられた木彫りの妖精……白桜は、言われた通りにちょこん、と祥華の肩に乗り、そっとその小さな体を、祥華の頬へと摺り寄せていた。
 頬擦りによってその両掌に握りしめていた手作りの鳥黐に、幻朧桜の中に眠る神秘的な何かを取り込ませ、白い粘液を固めたそれを桜色へと変えながら、これはのう、と宥める様に祥華が囁く。
「この世界に咲く、幻朧桜……折れてしまっていたその枝を、妾の手で加工し創造して……『転生』をさせたものじゃ。嘗ては意志持たぬものであったそれを、今は意思持つそれへと変化させ、より強い魂を育んでいく……それこそが、前に進むと言う事でもあるのじゃよ。今の貴様は、魂が前に進むことの意味、それを忘れて停滞させ、前に進めなくなっておる」
 告げながら、その桜色の鳥黐を放る祥華。
 それは上空へと舞い上がり、戦場の状況を見定める様にしていた暁音と、ブレスを吐き続ける白梟を攻撃せんと群がる様に迫ってきていた名も無き影朧達を、蜘蛛の糸の様に絡め捕り、その動きを阻害していた。
 そこに白梟のブレスが吹きつけられて、糸に絡め捕られた影朧達を焼き払い、更に暁音が星具シュテルシアを握りしめて詠唱しながら、更なる空……超高度とも呼ぶべきその場所のある一点を左人差し指で指さしている。
 そこには、先程、一般人達を『見守る』と約束する時に指した帆船……『星の船』が在った。
 その星の船がそれらの影朧の群れに向けて、星屑の如き輝きをその内側に内包した星の弾丸を吐き出している。
 吐き出されたそれらの弾丸が、祥華達を狙ってくる影朧達を撃ち抜き星の光で焼き尽くす様子を眉一つ動かさず見つめる暁音。
 だが、暁音が名も無き影朧を撃ち落とす度に、マグマの様に燃え滾る痛みに加えて、針の筵に串刺しにされたかの様な鋭い痛みが絶えず彼を襲っていた。
(「……本来、この幻朧将校と呼ばれる影朧が使うユーベルコヲドは、自身……つまり紫陽花さんが俺達に怒りや恐怖心を感じる度に、名も無き影朧達を召喚するものだ。けれども、この刺し貫く様な痛みは、まるで……」)
 ――呼び出された筈の影朧達が、『殺される』事に、恐怖と怒り……そして絶望を感じているかの様。
『お前達は、こう考えたことはないのか? 紫苑だけではない。死んでいった数多の帝都桜學府所属のユーベルコヲド使い達が……どれ程の無念と、痛みを抱えて絶望し、そして死んでいったのだと……持ちたくもない力を持たされ、戦いへと駆り出されてしまったのではないか? と……』
 その紫陽花の、問いかけに。
「……っ!」
 柊が思わず、と言った様子で目を見開き、統哉もまた、その言葉に一瞬、びくり、と身を震わせた。
 ――本当は、生きたかった。
 ――けれども影朧達との戦いの為だけに無理矢理生み出され……そして『処分』された少女達。
 そんな『彼女』達の存在を……統哉達は嘗て、確かに一度『転生』させている。
「あの時……紫蘭さんに頼んで転生させた『少女』達……彼女達の事を言っているのか、あなたは……?!」
 もふもふさん達を呼び出し姫桜達にじゃれつかせその力を蓄える様にさせながら。
 茫然とした表情になって呟く美雪には答えず、高速で無数の残像を生み出しながら、その右手に握りしめた拳銃の引金を引く紫陽花。
 優雅な動作と共に撃ち出された弾丸は、霧亥の螺旋の様に描き出された数式による円錐型の結界の隙間を縫う様に、異様な方向に折れ曲がると同時に爆ぜ、無数の鋭刃の如き衝撃波となって柊を襲う。
 まるで、霧亥の結界がそこに生み出されることを『予知』していたかの様に。
「くっ……させないわよっ!」
 真紅の瞳から血を流しながら、二槍……schwarzとWeißを十字型に構えてその無数の銃弾の様な衝撃波を受け止める姫桜。
 その腕に身に着けている想鏡……そこに嵌め込まれた玻璃色の鏡の鏡面が、激しく波打っている。
「姫桜殿、落ち着いてください。動揺を露わにすれば、それこそ紫陽花殿の思う壺、ですよ」
 そう、宥める様に告げながら。
 姫桜と柊の中間に位置する様な場所に正しく『幽霊』の様に姿を現した義透がその手にある新雪を思わせる真っ白い長弓……ほの青白い輝きを纏った白雪林に、青と白の入り混じった矢を番えてひょう、と放ち、柊と雅人に向けて迫り来ていた名も無き影朧達を射抜き、紫陽花の内側に繋がっているのであろう怒りを打ち消して、影朧達が安らかに眠れる様心の裡で祈りを手向けながら、柊殿、と問いかけていた。
「……何でしょうか?」
 義透の、その呼び掛けに。
 紫陽花の問いかけに茫然自失していた柊が微かに気を取り直し、やや心、此処に非ず、と言う声音でそう返した。
 その心中を図る様に、老翁の様に柔和な声で、義透はこう尋ねている。
「一つ、聞きたい事が。……紫陽花殿は自らの命を掛けてまで、墓荒らし等と言う愚行を犯す方ですか?」
「いや……私の知る兄上は、その様な方ではありません。ですが、兄上がもし、今までに多くの無念を抱いて死んでいった者達への『弔い』の意味を込めて、私達への襲撃を掛けたのだとしたら……」
「ですが……矛盾していますね」
『スプラッシュ』の先端に描き出された黒色の魔法陣に『スプラッシュ』を突き立てて。
 そこから引きずり出す様に、巨大な魔導原理砲『イデア・キャノン』を顕現させ『スプラッシュ』を接続、現れたトリガーに両手を掛けて、そのコンソールに素早くSpellを猛然と叩きこみながら、ウィリアムがポツリと呟いている。
「幻朧戦線はこの700年以上続いていると言われている『平和』を破壊して『戦争』を引き起こし、人々の更なる進化や、この世界への革命を起こす事を信念としたテロリスト組織だと聞いたことがあります。そんな世界を渇望するあなた達『幻朧戦線』に、何故、紫陽花さんは協力しているのでしょうか?」
 何気ないウィリアムの呟きだったが、紫陽花はそれには答えない。
 再び両肩の大筒からグラッジ弾を撃ち出し、続けざまにその手の拳銃の引金を引いている。
 今度はまるでマシンガンの様に無限にも等しい圧縮された空気砲の様な弾丸が飛び交い、それは永劫に続くπの詠唱によって紡がれる数字の螺旋の渦さえも貫通する凶弾と化していた。
(「979323846264533832……まだ足りぬか……!」)
 まるで、此方の数字の螺旋の軌道がどの様に描かれるのか、それを予知しているかの様に。
 撃ち出された縦横陣を敷いた弾丸に自らの作り出した結界が貫通されていく事に、霧亥が思わず、と言った様子で眉を顰めるが……。
「雅人さんは絶対にやらせません! この奥の手のその前では!」
 霧亥によって勢いを削がれたそれらの無数の弾丸と雅人の間に立ちはだかる様に奏が叫びと共に飛び出し、シルフィード・セイバーに白銀の輝きを纏わせた。
 風の精霊シルフィードの様にしなやかなその長剣が白銀の輝きと共に巨大化し、その刃に纏った銀光と共に、奏が一閃。
 その一閃と共に放たれた銀と緑の光の線が閃光となって霧亥の螺旋の円錐形のバリアによって大きくその勢いを削がれていた無数の銃弾を纏めて薙ぎ払い、自らの頭痛を抑え込む様に軽く額に手を当て大きく息をついていた雅人の身を守りぬいていたが、代わりにその衝撃からか、奏の体の皮膚が、焼け爛れて落ちていた。
『祈りを此処に、妙なる光よ。命の新星を持ちて、立ち向かう者達に闇祓う祝福の抱擁を……傷ついた翼に再び力を!』
 一瞬膝をつきそうになる奏を支える様に、上空から戦場を見渡していた暁音が歌う様に呪を紡ぎながら、シャン、シャン、とその先端についた神楽鈴を鳴らしつつ、杖形態の星具シュテルシアの先端を、奏に突きつけた。
 その先端から撃ち出されたのは、流星の如き美しさと、星空の無限の可能性を思わせる光を纏った、神聖なる癒しの星光。
 星光に爛れた皮膚を再生され、再び立ち上がった奏の様子に、内心でそっと安堵の息をつきつつ瞬が、紫陽花の動きを見据える様に鋭く赤と金のヘテロクロミアを細めている。
「此方の動きを予知する様に撃ち出される銃弾の嵐、そして絶えず続けられる高速での面移動……これを結界術で捌き切るのは困難でしょうね。……ならば!」
 そう叫ぶと同時に、トン、と月虹の杖の柄を地面に叩きつけ、更に、自らの肩に止まっている朔にすかさず命じた。
「彼等と共に、突撃を!」
 その言葉と、共に。
 月虹の杖の柄が叩かれたその一点を中心点に地面に描き出され始める方円。
 方円の中心点からは、まるで大地に根を張り巡らしていくかの様に、里に伝わる秘伝の紋章……月読の紋章が描き出され、そこから光と共に、その胸に『1』と刻み込まれた94体のその背に月読の紋章の描かれた狩猟鷹が姿を現し、朔に付き従う様に群れを成して陣形を組み、一斉に紫陽花に向かって突撃、包囲する様に迫る。
 高速で円を描く様にして走りながら、銃弾を置き逃げする様に撃ち出しつつ、自らの裡に潜む『怒り』を叩きつける様にして、再び影朧達を呼び寄せ突撃させるその間にも自らを啄もうとする瞬の鴉、朔の体当たりをその身に受け、立て続けに94体の鷹達に啄まれ、僅かにその動きを鈍らせる紫陽花。
 けれどもその両肩の大筒からは、当然の様にグラッジ弾の2射、3射が撃ち出され、それを守る様に呼び出された影朧達が壁を作り、新たな仲間を増殖させようとしていた。
「母さん。お願いします!」
「ああ、分かっているよ! ……アンタ達も犠牲者なんだろうけれど、アタシ達は生者を優先させて貰う!」
 瞬の呼びかけに応じる様に。
 響が自らの周囲に顕現させた、蒼白い輝きを伴う闘気に赤熱した闘志を乗せて、怒号と共に、大地にブレイズブルーを擦過させた。
 鋭く擦過させられたブレイズブルーの先端が闘気の蒼炎と化して大地を走り、それらが再び呼び出された影朧達の何体かと、2発のグラッジ弾を覆いつくす。
「……悪く思わないでくれ」
 焼き尽くされ、絶望の嘆きを上げる影朧達の姿を直視しながら、苦しげに呻く響の呟きに合わせる様に。
 霧亥の生み出した無限のπの螺旋の円錐から、数字が鋭利な刃と化して、紫陽花を切り裂かんと解き放たれて紫陽花の全身を切り刻み、続けざまのミハイルの機関銃から吐き出された無数の弾丸が、瞬の攻撃で身動きを止めていた紫陽花の装甲の表面を撃ち抜くその間に。
 ネリッサの撃ち出した1発の銃弾が、右肩の大筒を、灯璃がスコープ越しに狙いを定めていた、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"から放たれた1発が、その左肩の大筒を撃ち抜いていた。
「これで終わりだと……思ってはいないでしょうね?」
 そう告げながら。
 肉薄した瑠香が、物干竿・村正を抜刀すると同時に、大地を踏みしめて一気に加速、音を越えた神速の一突を解き放つ。
 放たれた一突は、まるで生き物の様に蠢き六十二閃の斬撃と化して紫陽花の機体を襲い、その刃は、紫陽花の影朧甲冑の彼方此方に確かな裂傷を刻みつけていた。
『……少しはやるようだな、超弩級戦力達よ』
 それでも尚、まるで傾ぐことなく立ち続けながら称賛を送ってくる紫陽花に、柊が、霧亥から渡されたメモに目を走らせ、そこに書かれた言の葉を、紫陽花へと投げかける。
「……生命とは、終わりがあるから尊いもの。終わりを一度迎え、また生まれる輪廻を紡ぐ『転生』と、終わり無き『黄泉返り』。終わりが無くなれば、生命を軽んじる輩も増えよう。その様な世界に貴様は『展望がある』等と本気で言っているのか?」

 ――と。


『酔狂な問いかけだな、それは』
 柊の口を通して、投げつけられた霧亥の問いかけ。
 その問いに対する紫陽花の解は、何処までも無慈悲で残酷に世界に響く。
『では、逆に問おうか。確かに終わりが無くなれば生命を軽んじる輩も増えてくるだろう。だが、幻朧戦線に所属する者達の望みは、この世界の秩序の破壊。闘争の中にある人の進化だ。黄泉がえりは邪法であろう。だが……影朧の様にその不安定さ故に、『救済』と言う名目の元に殺されてしまう様な悲劇を避けることが出来、且つ人々はまた一つ新たな叡智を切り開き、先に進むことが出来ると言う事になるのだぞ? これもまた、人類の『進化』の可能性の一つ、とは考えられないのか?』
 そう告げたところで。
 ネリッサと灯璃に破壊された両肩の大筒をパージして、今度は、脇腹から二本の小筒を展開させて、更に身軽になって加速しながら、脇腹の二本の小筒から新たなグラッジ弾を射出する紫陽花。
 それは、先の屍山血河の後に残された、灯璃の狼兵化の恩恵に与ることの出来なかった積み重ねられた兵士達の死体に向けて放たれようとしていた。
「……させるものか!」
 叫びながら疾駆するは、深紅の残像を引いた、クロネコ着ぐるみの戦士。
 その両手で握りしめて振り上げた漆黒の大鎌『宵』が、宵闇を照らし出す淡い桜色の燐光を刃先から放ちながら、そのまま一閃されている。
 深紅の残像を曳いた刃の一閃が、小型のグラッジ弾を薙ぎ払い、パックリと割れたところに……。
「私には紫陽花さんが何を言いたいのか、柊さん達がどんな目に遭ってきたのか、難しいことはよく分からないけれど……それでまた影朧を増やさせるわけには行かないんだよー!」
ふわり、ふわり、と風の様に大地を舞い続ける葵桜が、舞うことで呼び出した桜吹雪を螺旋の竜巻の様に作り替えて、桜風へと変化させてそれらのグラッジ弾を吹き飛ばした。
「イザーク、喰らえ」
 そこに紅閻がすかさず命じ、影朧化の心配の無い自らのサイキックエナジーであるイザークに吹き飛ばされて空中へと浮かんだグラッジ弾を喰らい尽くさせ、更に地を這う様にレーヴァテインと篁臥を紫陽花に向けて突撃させる。
 シルクハットを被ったカボチャ型の終焉の炎がケタケタと笑い声を上げながら既に自己修復を行ないつつある紫陽花の影朧甲冑に喰らいつかせてその金属質な本体を一瞬剥き出しにさせ、更に篁臥がその黒き巨大な爪を振るおうとするが、紫陽花はその首の鎖を振るって篁臥に叩き付けて其れを牽制。
 そのまま止めとばかりに右手の拳銃を篁臥に突きつけるが、そうはさせじと白梟が上空で怪鳥音と共に吐き出したブレスに気がつき、咄嗟に急速後退をしてその攻撃を躱しきっていた。
『まだ戦うか、超弩級戦力達よ。……彼我の差は、歴然としているだろうに』
「……諦めるものか! 俺は……生者も死者も……彼等の魂を救いたいのだから!」
 吼える様に叫ぶ統哉の様子を見て、雅人もまた、必死に何かを打ち払う様に頭を振るい、腰に収めた退魔刀へと手を触れている。
 だが、まだ抜刀していない。
 それは、迷い故か。
 それとも……『機が熟す』時を待っているのか。
(「分かりませんね。ですが……分かっていることもあります」)
「流石に影朧甲冑、と呼ばれるだけはありますね。あの機動力と回復力……そして増殖力とも呼ぶべきその力、目を見張るものがあります」
 未だ拮抗状態にある紫陽花と、自分達の状況を、冷静な眼差しで見つめて観察しながら、ネリッサが呟き、溜息を一つ吐いた。
 ミハイルはその間にも機関銃を連射して常に牽制を続け、その牽制の援護を受けた瑠香が肉薄し再度斬撃を解き放つが、それでも紫陽花は真の姿を見せる気配が無い。
 陽太が、デビルカードに封じた『アスモデウス』の獄炎の炎を解放して、次の紫陽花の攻撃を牽制するその間にネリッサが、柊さん、と静かな口調で問いかけていた。
「あの影朧甲冑の長所は一体何なのです?」
 その、ネリッサの問いかけに。
 柊が小さく息を吐き、それからそれは、と説明を始める。
「あの機体の最大の特徴。それは通常の影朧甲冑に比べて数倍以上の機動力……特に推進力の高さと、疑似トレースシステムによるパイロットの動きの再現性、にある。もし、あの人が全力になっていたら、先程、彼女が彼等を生み出す時間を与える様な……そんな時間は無かっただろうね」
「其れは私の、Wild Jagd達の事ですか?」
 柊の、その解説に。
 人狼兵達にJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioによる低周波音波で指示を下しながら、人狼兵達の目を借りて、常に死角から自らのセミ・オートライフルで牽制射撃を続けていた灯璃が思わず、と言った様に目を白黒させた。
 その問いかけに、ああ、と柊は頷きつつ、同時に相変わらず訳が分からない、と言う様に小さく頭を横に振っていた。
『Elemental Power Converge……』
 ウィン、ウィン、と言う魔導駆動音が辺り一帯に響き渡る。
 それは、ウィリアムの『イデア・キャノン』の駆動音。
 コンソールに刻み込まれつつある精霊文字が、その先端の砲塔を幾重にも展開し始め、そこに火・水・地・風・光・闇……正反対の属性を持つ精霊達の力が圧縮、急速集中し始めている影響で、大気が振動する音を耳にしながら、軽くミハイルが肩を竦め、ネリッサが考える様に、軽く顎に手を当てていた。
「じゃあよぉ、柊。アイツに何かしら弱点とか欠陥とか、倒す糸口になるようなモンはねぇのか?」
「……弱点なら、ある。あの形態を取っているのであれば、恐らく其れを破壊すれば確実に第一装甲とも言うべき、影朧達を生み出し、時にその力をその身に宿す形態を解除させることが出来る弱点は。だが……それをすれば、この再現力が消える以上、より速く火力の高い本来の姿が現れる、と考えて貰って良い」
 沈痛そうな表情でそう告げる柊とは対照的に。
 鮫の様に好戦的な笑みを、ミハイルは浮かべて見せた。
「御託は良いんだよ、御託は。あの機械を最終的にぶっ潰せるってんなら、何でもやってやるぜ。で、具体的には何処が弱点なんだ?」
 積極的に先を促すミハイルに合わせる様に、霧亥の螺旋型の数字の竜巻がよりいっそうの唸りを上げて、暴風と化している。
 無限とも言われるπを詠唱し続ける事。
 唯それだけの事に過ぎぬのに、永久に続くそれらの数字の重ね合わせは、円錐型の螺旋を時間が経てば経つ程、より強固に、そして何よりも強くしてくれていた。
 決して萎えることの無いネリッサ達の闘志の在り方を見て、弱点は、と柊が静かに続ける。
「あの、首の付根だ。つまり、あの首を覆っている黒鉄の首輪を破壊し、その隙間から絶えず攻撃を仕掛けてやれば、あの形態は解除されるだろう」
「結局、あの機動性を殺させて、その後、首の付根に攻撃を集中させるのが有効、と言う事ですか……。それにしても、搭乗者の動きをフィードバックする、疑似トレースシステム、とは……」
(「あまりにも、オーバーテクノロジー過ぎますね」)
 それは、一部の天才によるオーバーテクノロジーがあるとは言え、基本的な文明レベルは、大正時代に収まっている筈のこの時代からしても、あまりにも異質な……超越した性能を誇る影朧甲冑。
 嘗ての大戦で使われた物の中にもこれ程の物は果たしてあったのか、と言う疑問がネリッサの脳裏をチラリと過ぎるが、しかし直ぐに頭を振って、ネリッサは柊の護衛についている、響、陽太の方へと視線を送った。
 ヴァンパイアと化した姫桜もまた、同様に柊の護衛へと回っている筈だが、その彼女は今、義透の支援の矢と、葵桜の桜吹雪を呼び出す舞による支援を受けて、周囲に召喚された無数の名も無き影朧達の猛攻を凌ぎつつ、紫陽花に向けて、統哉と共に、必死で語りかけていた。
 それから少し後ろの距離に機を伺っている様に見える雅人と、その雅人を守る様に壁と為って立ち塞がる瞬と奏と紅閻。
 そして、雅人と柊の中間に位置取り、もっふもふな小動物さん達を呼び寄せて、瞬や奏達を支援する美雪と、空中から常に状況を観察している暁音。
 更に姫桜達の話の中に割って入り込む様に今、正に攻撃を仕掛けようとしている祥華の姿を認めて、頭の中で戦術を抜本的に組み立て直す。
 ――と。
「精霊力充填率85%……皆さん、もう少し耐えて下さい……!」
 小さく呻く様に、叫ぶ様に。
 激しい勢いでコンソールを叩きながら、『イデア・キャノン』の砲塔に、多重構造型魔術砲塔と、爆発的な精霊達の力を集結させているウィリアムの姿が目に入った。
(「ふむ……ならば、あれを囮にさせて貰いましょうか」)
 そう判断し、ネリッサが、ミハイル、灯璃、霧亥……SIRD……――Specialservice Information Research Departmentの一員としてこの戦いに参加している、仲間達と、陽太達に告げる。
「SIRD――Specialservice Information Research Department、そして、皆さん。ウィリアムさんのあれが発射されると同時に一気に攻勢に移ります。其れまでは、各自各々の判断で、柊さん及び、雅人さんの護衛と安全、前線の姫桜さん達の援護を」
 そう、ネリッサに告げられて。
『イェス、マム!』
 灯璃、ミハイルが声を上げ、詠唱を続けながら霧亥が敬礼を一つして、それに対する返事としていた。
(「SIRDの奴等が一転攻勢に転じるその瞬間……その時までは、これ以上の犠牲者を誰一人として出さない様にするためにも、俺も気合い入れねぇとな……!」)
 その誓いを、心の裡で呟きながら。
 スパーダに790本の赤熱した短剣を召喚させ、驟雨の如く其れを降り注がせて、今も尚怒濤の如く進軍を続けてくる影朧達を焼き払うと同時に、アスモデウスの魔力を帯びた濃紺のアリスランスと淡紅のアリスグレイヴを構え直して、大車輪の様にヒュンヒュンと回転させ、迫り来る影朧達を陽太は薙ぎ払うのだった。


「姫ちゃん、柊さんは陽太さん達が守ってくれているみたいだから、大丈夫だよ!」
 背後で、不意に湧き上がった紅蓮の旋風。
 赤熱した790本の短剣が飛来して、義透が射落とした影朧達を焼き尽くす様を見て、ふう、と桜舞花に息を吹きかけ、渦巻きの様に影朧達を癒す幻朧桜の吹雪を叩き付けながら、叫ぶ葵桜。
「……姫桜殿、と言いましたか。貴殿はどうやら、紫陽花殿に言いたいことがある様に見受けられます。統哉殿も、ですが……彼とはまた、少し異なる形で」
 静かに、冷静に状況を見渡しながら。
 二槍を風車の様に回転させて、統哉と共に、グラッジ弾を叩き落としていた姫桜の背から発される何かを感じ取った義透の呼びかけに、姫桜がキツく唇を噛み締める。
「私も彼に出来ることなら、言ってやりたいことがあるのですが……」
 瑠香がポソリ、と呟きながら深紅の残像を引いて再び紫陽花に肉薄するのを見て取りながら、そうかも知れませんね、と義透が穏やかに呼びかけた。
「ですが……瑠香殿や統哉殿から発されている気配は現在、何処か似通っております。それに対して、姫桜殿はやや感情的に荒ぶっている様に思えるのですよ」
「まあ、そうだよね。姫ちゃん、どうしても言ってやりたいことがあるって息巻いているもんね」
 ちょっとだけからかう様に、悪戯をする子供の様に。
 表情こそ真剣でありながらも、何処か掴み所の無い声音で飄々と呟く葵桜に、真紅の瞳から寿命の代償として血涙が滲みだしてくるのを感じながら姫桜がただ、小さく頷く。
 その腕の玻璃鏡の鏡面の漣が、今まで以上に荒立っていた。
「私も、ちょっと聞かせて欲しいんだ、紫陽花さん」
 そんな、姫桜の様子を見て取りながら。
 続けて神楽舞を踊り続けながら、くりくりした子供っぽくも見える大きな藍色の瞳で紫陽花を見つめてくる葵桜に、その体を瞬の呼び出した鷹達に啄まれながらも尚、その速度を緩めぬ紫陽花がなんだ、と重々しく問いかけてくる。
『お前達の主張、話は既に聞いている。そして、今のままでは決してわかり合えぬと言う事も。にも関わらず、お前は何を私に尋ねる? 私に何を聞きたがる?』
(「やはり……少々奇妙だな」)
 その、紫陽花の反応に。
 もふもふ猫さん達を存分にモフって少しだけ心慰められる感触に想いを馳せながら、美雪が不信の様な何かを感じた。
 もっと、一方的に自分の主張を押しつけてくる、そんな相手だと思っていた。
 それが、『弔い』のためにこの戦いを起こしたのであれば、尚のこと。
 だが、自身の主張を押しつけるでも無く、此方の問いかけに『自分が絶対に正しい』とは主張せず、しかも今、葵桜の問いに、律儀にも応えを返そうとしている。
 それはまるで禅問答の様であり、ただ、己の我欲を満たすその為だけにこの戦いに命を賭そうとしている不逞の輩、と言うには些か不自然にも思えた。
(「それとも、紫陽花さんは……」)
 葵桜や姫桜……年若い少女達に、重ねてしまっているのだろうか。
 ――紫苑……今は亡き、紫蘭へと転生した、あの娘と。
(「竜胆さんから何か情報が来れば分かるかも知れないが……」)
 まだ、竜胆のいる諜報部へと送ったもふもふ猫は戻ってきていない。
「紫陽花さんが今、私達とこうして戦っているのには、その、紫苑さん? だっけ……紫陽花さんの娘さんが絡んでいるの? それとも、他の事情があるの?」
『さて……如何であろうな。だが、全ての果には、何らかの因が存在するものだ』
 その、紫陽花の回答に。
「……果? 因? ……どう言うこと? ……って、ああ~モフモフ猫さんだ、モフモフ猫さん♪ 姫ちゃん、姫ちゃん、猫さん可愛いね!」
 キョトン、と大きな目を瞬かせる葵桜の足下に美雪の呼び出したモフモフ猫さんがすり寄り、キャッキャッと歓声を上げながら、威力の増した桜吹雪で、名も無き影朧達を吹き飛ばす葵桜。
(「全ての果には何らかの因が存在する、ですか……」)
 先の柊とのやり取りを思いだし、葵桜に向けられた紫陽花の言葉を心の裡で反芻しながら、義透が納得と思案にその存在を陽炎の様に揺らめかせている。
(「紫陽花殿の言っている事は、正しくその通り……故に、我等は此処にいる」)
 ――オブリビオンへの、恨みや執念。
 その『因』が結実し、死した4人の人間が、死天山彷徨う四悪霊と言う『果』として、世界に生まれ落ちたのが、義透という存在なのだから。
(「なれば、姫桜殿や統哉殿、瑠香殿との問答が、『因』を特定する手がかりとなれば良いのだが……」)
 と、義透が内心で呟くその間に。
 踏み込みと同時に二槍で紫陽花を串刺しにするべくその懐に踏み込んだ姫桜が私には、と何処か千々に乱れた震える口調で、紫陽花へとそう問いかけていた。
「あなた……紫陽花さんが、紫苑さんを想うあまりに、影朧に変な肩入れをしている様に……そういう風に思えるのよ」
 その、姫桜の呼びかけに。
『……ほう』
 小さく低く唸る様な声音で紫陽花がポツリと呟き、その手の銃の銃口を至近まで肉薄していた姫桜の脇腹へと向ける。
「……篁臥」
 だが、そうはさせぬと言う様に。
 名も無き影朧達から雅人を守り続けていた紅閻がそう呼びかけると、漆黒の獣が咆哮を上げ、姫桜と紫陽花の間に割り込む様にその姿を曝け出した。
 ――パァン。
 銃声が鳴り撃ち抜かれ、地にのたうち倒れそうになる篁臥へと、天空より暁音が星具シュテルシアの先端を突きつけ星光を伴う神聖なる光の癒しを施し篁臥を癒す。
 目前で紅閻……仲間の相棒であり、使い魔でもある獣が苦しげに咆哮する様子に、びくり、と一瞬肩を振るわせる姫桜。
「……紫陽花さん。そう言えばあなたは、当時紫苑さんはMIA認定だったと話していたな。或いは其れで、紫苑さんの生への望みを繋いでいた、と言う事か?」
『別に、当時の紫苑がMIA認定されてもおかしくはあるまい。現に当時、絵梨佳もMIA認定されていたのだ』
「ほう……絵梨佳もか。随分と懐かしい名前が出てきたのう、おぬし」
 紫陽花のそれに空中を舞いながら祥華が目を細め、ホッホッホッと衣の裾で口元を拭って微笑みかけた。
「……絵梨佳、か。紫蘭……いや、紫苑の後輩……彼女と共に、あの獣を『救済』するべく戦場へと向かったが……彼女もまた、影朧として還ってきた存在……」
 紅閻もまた、その柳眉を顰め、ポツリ、ポツリ、と確認する様に呟いている。
 そんな紫陽花の、その言葉に。
 ぞわり、と冷たい汗が美雪の背を滑り落ちていった。
(「まさか、この男……だが、そうだとすれば……『弔い』の辻褄は合う……」)
 合って、しまう。
 紫陽花の口から漏れたその名に姫桜もまた一瞬怯んだ表情を見せたが、でも、と訥々と話し続けた。
「でも……美雪さんの言うMIA……即ち生死不明であれば、何処かで生きている望みを抱くことが出来るけれど……死が確定されれば、生きていて欲しいと願った想いは、行き場を無くしてしまうものだわ」
 つまり……。
「場合によっては、『紫苑さん』と同様に、全てを影朧にしてしまいたくも為るんじゃ無いかって……だから……あなたは……」
 その影朧甲冑を持ち出し、今回の様な騒動を起こした。
 そうして、実の弟と、娘が大切にしていた恋人をも『影朧』にしようと画策した。
 そう言うこと、なのではないだろうか。
 その姫桜の問いかけに、紫陽花は何も答えない。
 だがそれでも、伝えなければならないことはある。
 玻璃色の鏡の漣が、まるで荒波の様に唸っていた。
「……でも、もし今の状況の理由に、娘の……紫苑さんの話が絡んでくるのなら。父親って、ほんっと、馬鹿だと思うわ。父親を持つ娘として、これだけははっきり言っておいてあげる」
 ――だって、私は……。
「お父さんが大好きでそんなお父さんに辟易する様な『娘』である私は……そんなこと、何一つ、望んでいないもの」
 その、姫桜の言の葉に。
『……成程。そういうものなのだな』
 感じ入るわけでも、衝撃を受けたわけでも無く。
 真正面から受け止め、小さく呟く紫陽花の上空から緋色の残光と共に『宵』を振り下ろしながら統哉が問う。
「紫陽花。お前は……責めているのか? 娘を……紫苑を、だけじゃない。絵梨佳の様な、まだ未来のある娘やその親友を死地へと送り出した……その事実を」
『……』
 大上段からの統哉の『宵』の一閃。
 その一閃を、腰に帯びたサーベルを引き抜き正面から受け止めた紫陽花の乗る影朧甲冑の表情は、軍帽の鍔に隠れてまるで見えない。
 そのコクピットの中で紫陽花が何を思っているのかも分からぬままに、統哉がそもそも、と言の葉を紡ぎ続ける。
「革命を起こすその為だけならば、スパイ甲冑と言う手もあった筈だ。だが、お前が選んだのはその影朧甲冑。それも……数多の影朧を生み出すことの出来る能力を持った、恐るべき、『影朧兵器』」
『……』
 サーベルを横一文字に振るい、統哉の宵を弾き飛ばす紫陽花。
 そこに咆哮と共に、もふもふ小動物にチュッ、と一つキスをされて、その速度を高めた瑠香が物干竿・村正の切っ先を水平に突きつけ解き放つ。
 解き放たれた神速の諸手突きが紫陽花を貫かんと襲いかかるが、紫陽花が全身を鷹に啄まれ続けて動きが鈍らせながらも、尚、咄嗟にサーベルの逆刃を水平にして受け流した。
 バキン、と嫌な音と共に、物干竿・村正の刀身の半分が折れ飛ぶが、構わず瑠香が返す刃で剣先の半分で数十回の斬撃を烈風の如く叩き付け。
 そこに再び統哉が踏み込みながら『宵』を横一文字に振るい回した。
 刃先に纏った淡い輝きが、衝撃波となって紫陽花の鎧に一太刀。
 遂に微かによろけた紫陽花の姿を見ながら、気迫を籠めて統哉が問いを繰り返す。
「……お前は自らが影朧となって世界、いや自分自身を呪う為、生きる価値も無いと、転生など無意味だと……そう絶望し、その影朧甲冑に乗った……そう言うことなんじゃないのか!?」
 小さく低く問いかける統哉の其れに。
『その通りだと言ったら……お前は、如何する?』
 ただ、小さく問い返す紫陽花にそれでも俺は、と叫ぶ統哉。
「信じるよ。転生は、よりよき人の未来を紡いでいくための、希望の光なんだと。だから……!」
『だが、信じるだけでは何も出来ぬ。何も足りぬ。その光が強ければ強い程……影もまた、強烈になる。縋った希望の先に待つものが絶望であれば……人は、それ以上前に進むことも、成長することも出来ぬ』
 故に戦う。
 故に黄泉がえらせる。
 失われた希望を再生するため、その為の、黄泉がえりを渇望する者達もいる。
「一応、お聞きさせて貰いますけれど……貴方、雅人さんと柊さんのために死ぬつもりとかじゃありませんよね? 自分はもう後戻りできないから、彼等に道を踏み外して欲しくないから、此処で死ぬつもり等では?」
 瑠香のその問いかけに。
 小さく肩を振るわせながら、拳銃とサーベルを構え直す紫陽花。
『最初から死ぬつもりであるのならば、この様に抵抗をする筈などないであろう? それならば、あれだけ多くの同胞達の命を無為に散らさせる理由にもなるまい。ましてや……ずっと以前から共に歩んできた、戦友達をもな』
「なにっ……!?」
 何処か、愛おしむ様に、懐かしそうに。
 目を細め、積み重ねられた死体の山達へとチラリと目を向ける紫陽花のそれに瑠香が息を呑み、美雪がやはり、と思わず強く舌を一つ打っていた。
「……先程私達が戦ったあの部隊の中には、あなたの元部下も何人かいたのか……! 随分と統率が取れていた、とは思っていたが……!」
(「これが意味すること、其れは……」)
 帝都桜學府の在り方に疑問を覚え、造反するだけの動機を持つ者達がまだ帝都桜學府の中に隠れている可能性が高い、と言う事実。
『あれだけ大規模な組織なのだ。一枚岩な訳がないだろう』
 それは何処までも冷たく、酷薄とした突き放す様な呼びかけ。
 その呼びかけと共に、紫陽花が自らの身の内を焦がす怒りに惹かれてその姿を現そうとした、無数の影朧達の群れに向けて。
「……今ですよ、ウィリアム殿」
 義透が誰に共無くそう告げながら、氷雪属性の霊力で編み上げた霊矢を解き放って幾度目かの召喚を相殺し、名も無き影朧達の動きを阻害した、その直後。
『……Release. Elemental Cannon Fire!』
 ウィリアムの鋭い叫びと共に、赤・青・黄・緑・白・黒と……全てを切り裂く眩い光輝を帯びた極大の精霊光線が、大地を抉り取る様にしながら後方から走り、目を焼かんばかりの閃光が、極光と思しき爆発と共に戦場全体を覆い尽くした。


「……今です!」
 ぷすん、ぷすん、とオーバードライブを起こして煙を上げている『スチームエンジン』を見やり、同時に、『イデア・キャノン』の先端に作り出された、積層型立体魔法陣による魔力収束式仮想砲塔が、あまりにも巨大な精霊達の力の負荷に耐えきれずに明滅してこの場から消失するのを見届けながらウィリアムが叫ぶ。
 極大の精霊爆発に飲み込まれ、全身に霜が降りている紫陽花の様子を確認したネリッサが、愛銃、『G19C Gen.4』を構えながら前傾姿勢になって大地を疾走しつつ、その指に嵌め込まれた純銀製の指輪にそっと触れた。
「漸く掴んだ好機……見逃しはしませんよ。The Unspeakable One,him Who is not to be Named……!」
 その呟きと共に姿を現したのは、一体の黄衣を纏った不定形の魔王。
 その全身に無数の触手で覆われたその異形の魔王が、先程の大轟音と共に放たれた射撃に、初めて微かな恐怖心を覚えた紫陽花の影朧甲冑に向けて、その全身を覆い尽くす無限の触手にて全方位から襲いかかった。
「さぁ……貪り尽しなさい」
 言葉と共に解き放たれた無数の触手が、軍人将校を形取った影朧甲冑の両手両足を拘束し、そのまま凄まじい勢いで締め上げていく。
『……成程。猟兵仲間を囮に使ったか。大した策士だ』
「いいえ、囮ではありません。ただ、あなたの起こした所業の後始末のために、ウィリアムさん達に協力して貰っただけのことです」
 称賛と微かな苛立ちの籠められた紫陽花の呟きに、やや冷ややかに切って捨てる様に返すネリッサ。
 そのネリッサの背後から飛び出す様に現れたミハイルが、ダッシュして肉薄しながらUKM-2000Pの引金を引き、無限の弾丸を解き放っている。
「どんなに頑丈で再生能力が高くて早い影朧甲冑だろうとも、これだけの銃弾を受けてりゃぁ、耐えきれねぇだろ! いい加減ぶっ壊れやがれ!」
 前衛の統哉達を器用に避ける様にしながら出鱈目にミハイルがぶちかます無限の弾幕は、そのまま高速移動で一旦戦場から後退し、態勢を整え直そうとしていた紫陽花の動きを問答無用で阻害する。
 そして、その間に、ウィリアムが『スプラッシュ』の剣先を大地に突きつけ、そのまま滑る様に小さな氷の魔法陣を紫陽花の真下に移動させていた。
 ピタリ、とその真下に魔法陣が辿り着いた頃合いを見計らって、ウィリアムが小さく短く叫ぶ。
「Slip!」
それは本命の、氷の魔法。
 極大魔法による一撃を受け止めるのに全力を起動させた紫陽花の影朧甲冑の足下がその刹那に凍てつき、ミハイルの乱射とネリッサの黄衣の王にその動きを鈍らされていた紫陽花の影朧甲冑は其れに足を取られてその場にドシン、と片膝をつく。
 その瞬間を、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"のスコープ及び、戦場から出来る限り離脱させつつも、自らの視界内に留め置いていた人狼兵達の視覚及び、空中の暁音の視覚を共有していた灯璃と、空中で、何処か透き通る眼差しでその戦況が辿り着く果てを見つめていた祥華が見逃す筈も無い。
「――――――Ziel adfangen. 少し"目"をお借りしますよ」
 その呟きと共に、『天からの目』で紫陽花の影朧甲冑の足の間接部を正確に見通した灯璃がHk477K-SOPMOD3"Schutzhund"の引金を引き、音も無く、紫陽花の影朧甲冑の左足を撃ち抜き。
「どんなに言葉を飾り立てたとしても、決して取り戻すことの出来ない亡くした者に執着し、停滞し続けたままの君が、前に進むことが出来る筈もないよ」
 呟きながら、星具シュテルシアをスナイパーライフルへと変形させた暁音がそのスコープから覗き込み、灯璃とほぼ同時にその引金を引く。
 引金を引かれた星具シュテルシアの先端から撃ち出されたのは、星屑の光を思わせる星色の輝きを伴う弾丸。
 その弾丸が隕石の如き加速を得て紫陽花の右足の間接部を撃ち抜き、そのまま仰け反る様に紫陽花の影朧甲冑がその場に崩れ落ちた。
 その瞬間を狙って、穿たれたのはπの数式通りに描き出された無限の数字の羅列と共に作り出された円錐形のバリア。
 その先端が鋭く尖ったそのバリアは、まるで床弩から放たれたかの如き高速で正しく矢の様に紫陽花の影朧甲冑の右腕に突き立てられ、更に……。
「まだ、倒れている奴も、死体も影朧化させられなかっただけマシか……! スパーダ! アイツの左腕の間接部を焼き尽くせ!」
 濃紺のアリスランスと淡紅のアリスグレイヴを伸長させて、柊と雅人を守る様に旋回させながら、陽太が魂の籠った叫びを上げた。
 その叫びに応じた捻れた角を持つ漆黒の悪魔が咆哮し、3度目の790本の幾何学紋様がその刀身に刻み込まれた赤熱した短剣を放出し、一斉に左腕の間接部に殺到する。
 殺到した赤熱した790本の短剣の全てが紫陽花の左腕に突き刺さり、紅蓮の焔と共に、間接部から掌までの左腕の下半分を容赦なく焼き尽くしていた。
『……ちぃっ!』
 サーベルも纏めて焼き尽くされ、思わずと言った様子で舌打ちをする紫陽花の声を聞きながら、響が戦場を赤熱した自らの意志を反映したかの如き残像と共に走りつつ、雅人を守る様にしていた紅閻と奏に向けて叫ぶ。
「奏! 紅閻! アタシに合わせな! 紫陽花の影朧甲冑の首に巻かれている黒鉄の首輪を叩き斬るよ!」
「! 母さん……分かりました!」
 叫びながら自らの横を駆けぬていく響とその背を追う様に飛翔する瞬の鴉、朔の姿に気がつき、ハッ、と我に返った奏が頷き返すと共に、白銀と翡翠色の光を纏ったシルフィード・セイバーを大地に擦過させていた。
「良いだろう。……カミサマ、白梟」
 大地を擦過した奏のシルフィード・セイバーが抉り取った大地の欠片を風に乗せて、礫の嵐と化させて目眩まし兼、牽制としているその間に、紅閻が大地を滑る様に走りながら、懐にある一枚のスクロールを取り出し、其れをすかさず詠唱し始める。
「ひらけ……ごま!」
 其は、あらゆる状態異常を取り除き、或いは精神的な症状を改善するスペルの刻み込まれた特別な巻物。
(「コレが、影朧兵器にも効くのかは分からない……けれども」)
 影朧甲冑に掛かっている影朧の姿を取るために必要なそれが、もし呪いであるのならば、或いは、紫陽花本人の精神的な何かに依存しているのであれば……この術を、解除できる可能性があるのであれば。
「試してみない、理由は無いんだ……。俺はヤドリガミ……だから」
 嘗て主と共に在り、そしてその姿を以て此処に居る……血に塗れた、白銀ノ双翼を思わせる色褪せた指輪を嵌めた、今は亡き主の記憶を共有する、そんな存在。
 故にその時は、永劫にして無限。
『人』の様に命の儚さ、尊さ……その果てを何処まで正確に理解出来ているか……判然としない『モノ』
『ヤドリガミ……か』
 それは皮肉でも、同情でも、何でも無く。
 ただ、現実を確認するかの如き、そう言う呼びかけ。
 紫陽花の其れに紅閻が小さく頷きを返しながら、空中の白梟に、その鋭い鉤爪で、響に伝えられた黒鉄の首輪を掻き毟らせる。
 陽太と霧亥に既に両腕を射貫かれ、灯璃と暁音にその両足を撃ち抜かれているこの影朧甲冑に、その攻撃を切り抜ける手段は無い。
 そのまま喉に嵌め込んだ黒鉄の首輪を引っかき回させながら、動きを鈍らせている紫陽花に続けざまにイザークを解放し、その首輪のエネルギーの源となっているのであろうサイキックを喰らわせながら、でも、と軽く頭を横に振っていた。
 ――色褪せた指輪を嵌めたその右手で、紫陽花を見る度に、何かを思い出そうと言う痛みに疼く、紅の瞳の片方を抑え、左人差し指を紫陽花に向けて突き出しながら。
(「守りたいけれど……守れなかった」)
 あの靄がかった霧の向こうに『いる』と確かに感じるあの『彼女』
 その姿を思い出す度に胸が締め付けられる様な痛みに苛まれ、けれどもそれが誰で、どんな顔なのかすらも、靄がかって思い出せない。
 そんな想いが、締め付ける様な……。
「痛みになって……俺の中でずっと疼いている」
 スクロールを詠唱し影朧甲冑に纏われた、その表面装甲の一部を酸化させながら。
 小さく告げる紅閻に祥華が鈴の鳴る様な声で白夜、と呼びかけながら、何処か労りを籠めた眼差しで紅閻を見つめ、倶利伽羅に祈りを捧げていた。
 捧げられた祈りに応じる様に、倶利伽羅から紅蓮に燃え盛る焔が龍の姿を象ってその黒鉄の首輪を喰らう様に襲いかかり、そこに続けざまにその手の森羅万象の魔力を宿したアーティファクトを突きつけて、雷光を迸らせる。
 迸った雷光が紅蓮の焔と重なって炎雷の神楽を舞う様に捧げ、その首の黒鉄の首輪を融解させていった。
『ぐぐっ……!』
 くぐもった呻き声を上げる紫陽花の、酸化し、ドロドロに融解したその黒鉄の首輪に向けて。
 瞬の朔が体当たりを繰り出し、更に自らの闘志の全てをブレイズブルーに収束させた響が、ブレイズブルーをその首輪に突き立てる様に振り下ろす。
 振り下ろされた青白く光り輝くその槍の穂先が、その黒鉄の首輪を貫いて破壊して、その喉元を剥き出しにさせていた。
「統哉! 雅人! 此処からは、アンタ達の役割だよ! この首の付根を破壊するんだ!」
 その、響の叫びを受け止めて。
 雅人がギリリ……と唇を噛み締める様にしながら、鞘に納められた退魔刀へとその手を置く。
 そのままその首の付根を掻き切るべく退魔刀を抜刀しようとした雅人に、統哉が何処か静謐さを称えた声音で問いかけた。
「雅人は、転生のこと、どう思っている?」
 その統哉の呼びかけに。
「……それは……」
 その手で退魔刀の柄に手を掛けたまま、ポツリと小さく溜息を吐く雅人。
「もし、雅人が俺と同じ想いなら……それを彼に……紫苑のお父さんに伝える為にもその体では無く……紫陽花の中にあるその心を、絶望だけを切り裂いて欲しい」
 転生し、記憶の断絶が行なわれることに絶望し、黄泉がえりと言う誤った希望に想いを馳せた紫陽花の、その心の痛みを少しでも和らげるために。
 祈りを籠めて統哉がそう雅人に囁きかけ、雅人が其れに頷くその間に。
「姫ちゃん。私達、紫陽花さんに伝えたいことは、伝えられたと私は思うよ」
 葵桜が静かにそう囁きかけ、姫桜のその背を押していた。
「ええ、そうね……」
 ヴァンパイア形態の儘に、その葵桜の言葉に頷いた姫桜が、自らの二槍を……黒と白の竜が槍と化したその槍に、白と黒のオーラを纏わせて、紫陽花の在る影朧甲冑に突き立てると、ほぼ同時に。

 ――願いと祈りの籠められた、刃先に桜色の輝きを伴った統哉の『宵』と、雅人の退魔刀が桜色の輝きを欲しながら、紫陽花の影朧甲冑の喉元を貫いた。


「これでミッションコンプリート……ですか?」
 統哉と雅人の止めの一撃。
 その一撃に喉元を貫かれ機能を停止させた紫陽花の影朧甲冑の様子を見て、微かに拍子抜けした表情で、ネリッサがポツリと呟いている。
 独り言の様に呟かれるその言葉に、ミハイルがいや……と小さく頭を振った。
「柊がさっき言ってなかったか? この首の付根と間接部を機能停止に追いやれば、あの形態を解除させることが出来るってよぉ」
「……そうですね」
 ミハイルの、その呟きに。
 暁音との視覚の共有を解除した灯璃が人狼兵達に直ぐに退避をと命じ。
 一旦πの詠唱を切った霧亥が、次の敵の動きに備えて身構えていた。
 シン、と動かぬままの紫陽花の影朧甲冑の様子を、統哉もまた、雅人と共にじっと見つめている。
 ハァ、ハァ、とヴァンパイアになり続けた反動で息を荒げる姫桜と其の肩を支える様にする葵桜の様子をちらりと見やりつつ、祥華と紅閻、響と奏、そして瞬もまた警戒の色も露わに、一時的な機能不全に陥っている、紫陽花の姿を見つめていた。
「如何しましたか? まさか、本当にこれで終わり、何てことは無いでしょうね?」
 何処か挑発的な瑠香の呼びかけに、義透が小さく頭を横に振る。
「いいえ……瑠香殿。私達が聞いている紫陽花殿であれば、その様な無様な真似をすることは無い、と思いますよ」
 その、義透の呼びかけに答える様に。
『……やはり、これでは人形としての力を完全には発揮できないか』
 低く、そう呟く紫陽花の声と、共に。
 融解し、ドロドロに溶けて崩れ去った軍人将校の体から。
 まるで蛹から羽化する蝶の様に、紫陽花の乗るその影朧甲冑の本体が、その姿をウィリアム達の前に曝け出す。
(「くっ……この戦いには竜胆さんからの情報は間に合わなかったか……!」)
 美雪が、ギリリ、と軽く唇を噛み締め、立ち上がる紫陽花とその姿を曝け出した影朧甲冑を見つめ。
「……後は、コイツを何とかするだけだが……流石に気絶して、死んでいる奴ら全員が、灯璃のユーベルコヲドだけで逃がせる程甘くは無いって事か!」
 柊をその背に庇いながら、クソ、と言う様に陽太が鋭く舌を一つ打つのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『影朧甲冑』

POW   :    無影兜割
【刀による大上段からの振り下ろし】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    影朧飛翔弾
【甲冑の指先から、小型ミサイルの連射】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    影朧蒸気
全身を【燃料とされた影朧の呪いが宿るドス黒い蒸気】で覆い、自身が敵から受けた【影朧甲冑への攻撃回数】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記の予定です。
プレイング受付期間:11月27日(木)8時31分以降~11月29日(土)13時頃迄。
リプレイ執筆期間:11月29日(土)14時以降~11月30日(日)一杯迄。
何卒、宜しくお願い申し上げます*

「『弔い』と言えど、やはりそう簡単にはいかないか……流石は超弩級戦力達だ」
 それは、紛れもない称賛の声。
 淡々と無機質に紡がれる紫陽花のその呼びかけに、超弩級戦力と呼ばれた猟兵達、及び雅人と柊は咄嗟に身構える。
「だが、私とて何の勝算も目的も無く、此処に来た訳ではない。私には、私なりに張り通さねばならぬ『意地』というものがある」
 ――それは、自分を信じて亡くなっていた者達の為でもあり。
 ――嘗て自分が送り出して不帰らぬ人となった、年若き娘や部下達の為でもある。
「それを彼等や彼女達が望むのかどうか……既に直接話すことが出来ぬ彼等では分からん。だが、私と共にこの『弔い』を望んだ者達は、少なくとも私が私の意地を張り通すことを望んでいることだけは、理解しているつもりだ」
 その、紫陽花の呟きに
「……兄……上……」
 只、呆然と呟き返す柊を、何処か痛ましいものを見るかの様にコクピットの向こうから見つめてから、紫陽花は雅人、と自らの邪心……絶望の一部を削いだ目前の『敵』に、淡々と呼びかけた。
「私の中の絶望の一部を断ち切り、お前達は転生の向こうにある一筋の希望を、私の前に差し出した。だが……私には、私なりの信念がある。故にその信念を貫き通すために必要なことは……」
「貴方に勝つことしか無い……と言う事ですか」
 何処か諦念の混じった声音で呟く雅人に、その通りだ、と紫陽花が呼びかけ……それから超弩級戦力達よ、と酷く厳かな声で呼びかけた。
「其れはお前達も同じだ。お前達は、私に一つの可能性を提示こそ出来たが、その全てで私をねじ伏せることは叶わなかった。故に、お前達にも示して欲しい」

 ――お前達の中にある、その応えを。

 そう、心の裡で呼びかけながら。
 雄叫びの様に蒸気機関が唸りを上げ……影朧甲冑が……その乗り手である紫陽花が、超弩級戦力と雅人達に戦いを挑む。

 ――己が果たすべき役割を果たす、その為に。


 
*第3章は下記ルールにて運用されます。
1.第2章の判定の結果、気絶していた周囲の兵士達、及び死体達を避難させることが出来ました。しかし、全てでは無いので気絶している人々及び死体達が巻き込まれる可能性は残っています。
2.死体や気絶者をそのままにしておいても構いませんが、戦闘に巻き込まれた場合、心残りを残しているため、無念の思いを以て影朧化する可能性がございます(その分、難易度が上昇します)
3.気絶した人々を戦場外に逃がす時間はございません。但し、ユーベルコードの使い方次第では不可能ではありません。
4.第3章でも、引き続き雅人・柊が戦場に存在しています。2人については下記ルールで対応致します。
a.基本的に猟兵の指示に従います。但し、戦場から撤退することはありません。
b.2人とも何らかのケアが無ければ、紫陽花に倒され死亡します。
c.雅人はUC:剣刃一閃を活性化しています。但し、プレイングがあれば『強制改心刀』を使用します。
d.柊は研究者の一般人です。この戦いを見届けるために最後まで戦場に残っています。また、第2章まで柊が生存していたため、紫陽花に特殊な能力が付与される、と言う事はございません(第2章までのプレイングボーナス)
e.柊に、影朧甲冑(本体)について、質問をすれば何らかの情報を聞き出すことが出来るかも知れません。
f.攻撃を仕掛けながら、紫陽花と引き続き会話をすることは可能です。但し、全ての質問に答えるわけではありません。

 ――それでは、最善の結末を。
※MSよりお知らせ。
プレイング受付期間及び、リプレイ執筆期間が間違っておりました。訂正してお詫び申し上げます。
プレイング受付期間:11月26日(木)8時31分以降~11月28日(土)13時頃迄。
リプレイ執筆期間:11月28日(土)14時頃~11月29日(日)一杯迄。
ご迷惑お掛けして誠に申し訳ございません。
何卒、宜しくお願い申し上げます。
ウィリアム・バークリー
人は死ねば、幻朧桜の桜の精によって、真っさらになって生まれ直す。それも実は、前世の記憶がない以上、ただの信仰なのかもしれませんね。
でも、亡くなった人も新たにどこかで生まれ直して生きていると考えることが出来れば、遺族にとっては慰めになります。
前世までの宿縁を捨て、身軽になって生まれ直す。それでいいんじゃないですか?

この生々流転を否定する考えは二つ。一つは『死んだら終わり』。ですがこれは、影朧化が存在するため、完全な終わりとは限りません。もう一つが『黄泉がえり』。死を乗り越える業。こちらを選ぶなら、様々なしがらみに絡み取られて、いつか動けなくなりますよ。

おしゃべりが過ぎました。ルーンスラッシュ!


灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で連携

弔いを口実に「世間が悪い」とテロを実行して、
辛い現実や責任から逃げた人間なら五万といますよ…
転生問題以前にまず、「父として意地」を見せて
娘さんや仲間との思いでを笑顔で他の人に伝え続けられる
強さを持つべきだったはずだと思いますよ。お父さん?

言いつつ指定UCで黒霧を纏った狼達を召喚
(先制攻撃・迷彩)で敵頭部と腕部に食らいつかせ
霧で視界を、狼で攻撃行動の妨害をさせ
味方の戦闘と避難活動を支援

更に自身もUC:ウロボロスアーセナルを使用し
機械腕付きのロボット車両群を展開
要避難者を掴んで全速力で戦域離脱を指示。
同時に動力ライン・関節を狙撃(スナイパー)し
確実なダメージも狙う

アドリブ歓迎


天星・暁音
全くどうしてこう…君みたいなタイプは揃って不器用なんだろうね…
とはいえ、俺にも譲れないものはあるからやり合う事を否定はしないよ
しないけど…ね
(ねじ伏せてくれとでも言わんばかりでちょっとムカつく…答えを戦いの先に、他人に委ねてるようにも見えるから…まあ、所詮は俺の主観でしかないけど…最も最早後戻り出来ないのも確かなんだけどね)

柊、雅人、周囲の人たち、一番手薄な所を庇えるように動き手が足りるなら回復と支援に集中します庇う味方を癒すことで間接的に守ります

フレーバー的な扱いで良いので最後にUCトゥインクルスターで墓地内のお墓や自然を修復できればしたいです


スキルUCアイテムご自由に
アドリブ共闘歓迎


真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

そうかい。これがアンタなりの意地の張り方か。紫陽花。アタシの死んだ夫はアンタと似たタイプだった。自分の武でしか信念を示せないような。

でも、アンタのやり方を認める訳にはいかない。多くの命を預かる立場であるアンタが多くの命を危険にさらして、自分の命も無駄にするような責任放棄なやり方は。

ここは夫の力を借りるか。無敵の相棒を発動。引き続き【拠点防御】【かばう】で柊をフォロー出来るようにしながら、【残像】【見切り】で攻撃をかわしながら【衝撃波】で攻撃。【戦闘知識】で敵の動きを観察。隙が出来たら【怪力】【気合い】【グラップル】で力の限り殴り飛ばす。


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

紫陽花さんは、亡くなったお父さんに似ています。不器用で、自分の信念を示すのが下手な。紫陽花さん、貴方なりの責任の取り方なんでしょうが、無辜の人々を巻き込むやり方を認める訳にはいきません。

まずトリニティエンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で引き続き、雅人さんを【かばう】態勢で。

雅人さん、紫陽花さんは大きすぎる壁でしょう。でも貴方の信念を貫く為に。乗り越える手助けをします。

攻撃は【衝撃波】で行いますが、敵が近づいてきたら【怪力】で全力で【シールドバッシュ】。これ以上は犠牲は出させません!!必ず止めます!!


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

失礼ですが、貴方のやり方には賛同できません。紫陽花さん。確かに多くの命を死地に送り出した責任は取らなければいけないでしょうが、無辜の人々を危険に巻き込み、自分の命を粗末にするような。

責任ある立場だからこそ、生きて示せねばならないのです。死んでいった人達の事を。僕が両親と故郷の人達の命を背負って生きているように。

敵が動きださない内に、先手を打ちましょう。まず【オーラ防御】を使ってから【高速詠唱】で【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】を仕込んだ【結界術】を敵に向かって展開。追撃で【吹き飛ばし】を併せた疾風閃を使います。


白夜・紅閻
カミサマ(f17147

雅人、柊、
お前たちはどうしたい?
殺したいか?
それとも止めたいか?

アレは、お前たちに死に場所を求めているのだろう
自分ではどうしようもない想いの先に、破滅が待っていることも
知っている
(…ずっと、耐えるつもりだったのだろう。だが、奴の許容範囲が越えてしまった…だから、自分で在るうちにでも思ったか?)

アンタは、諦めたんだ…茨の道ではなく楽なほうに


このまま雅人と柊を守る
もう一度、アレを使ってみる…


・篁臥は雅人と柊の守り俺のサポート
・白梟は空から皆の援護や威嚇、ブレスや羽根を飛ばす、グラップル等

イザークは重量攻撃と鎧砕き等
レーヴァテインは力溜め・鎧無視攻撃の乱れ打ち・貫通・二回攻撃等


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

おーおー、すっかり人間辞めちまった、って感じだな、おい。
将校とか指揮官ってのはな、死んでいった部下達に必要以上の情を抱いちゃなんねぇんだ。抱いたが最後、精神的にマトモでいられなくなる。その辺、ある種の鈍さが必須なワケだが…どうやら、アンタも必要以上に抱いちまったクチらしいな。
いずれにせよ、そこまで人であるコト辞めちまったからには、覚悟は出来てるんだろうな?

他の猟兵の攻撃に紛れて相手に気付かれない様に射撃位置につき、相手が隙を見せるか弱点が発覚したら場合、UCを発動してRPG-7を急所に叩き込む。
ちょいと早いが、クリスマスプレゼントだ、受け取れ!

アドリブ・他者との絡み歓迎


馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。
引き続き『静かなる者』

知りながらそれに乗っている、ということは不退転ということ。
因果は巡るものですよ。

基本は、二人をフォローしつつの後衛から風と氷雪属性矢での援護射撃。
纏う呪いには、この白雪林のみが扱える破魔を。

このUCで時間が稼げるのならば、使用してでも。
墓場を騒がす輩は好みませんが、被害を少なくはしたいので。
UCの制御は私が、そして。


第一『疾き者』のほほん唯一忍者
SIRDメンバーと面識あるのはこちら。

UC使用時の身体制御は私ですかー。一種のだまし討ちですねー、これ。
ずっと『静かなる者』が出てましたから、想定外にはなりそうですー。
…私だって、思いは同じなんですよー。


ネリッサ・ハーディ
SIRDのメンバーと共に行動

どうやら、話は平行線の様ですね…恐らく、紫陽花さんもあそこまで覚悟を決めている以上、最早穏便に済ます事は不可能です。止むを得ませんね。雅人さん、柊さん。ここで紫陽花さんを倒します。よろしいでしょうか?

柊さんの傍に付いて護衛役をしつつ、UCの炎の精を召喚、紫陽花さんに対して全方位から攻撃して牽制を行いつつ、柊さんにあの影朧甲冑の弱点を聞き取り、もしそれが判明したらSIRDのメンバー及び他の猟兵に(紫陽花さんに悟られない様に)知らせます。その後、炎の精の攻撃を囮としてその弱点が露わになる様仕向けます。

全ての物事には終わりがある・・・世の理ですね。

アドリブ他者との絡み歓迎


吉柳・祥華
白夜(f18216

遥か昔
独神が居った
独神は自らの力を二つに分けで世界を創った
しかし
己の手で生み育てた民に裏切られ
片割れを失い
制御出来なくなった想いを暴走させて
世界そのものを壊した…

其方の行動は其れと似たようなものかの?

知っておるか?
転生によって生じた失われた記憶は誰が受け持っておると思う?

他ならぬ幻朧桜と此処を創りしモノだ
(実際は知らんが…独神がそうであったように)

其方の言う弔いとは
その全てを壊してしまうことに他ならないのじゃぞ

死んでいった者の中には…弔いに感謝するモノも居るじゃろ
中にはそれを望まない者もいる

(神を諫めようと命掛けた者も)

貴様たちの弔いという身勝手な所業で
その全てを消すのか…?


朱雀門・瑠香
周囲に残っている兵士達は他の方に任せましょう、私にできることはありませんし・・・
私にできるのは貴方を倒すことだけですので。
間合いを詰めるべくダッシュで接近、相手の攻撃は大上段からの振り下ろし一択見切ること自体はたやすい、威力重視ならそのまま軌道を見切って回避、回数・命中重視なら軌道を見切って回避、避けきれない攻撃は武器受けで受け流す。そして間合いに入ったら破魔の力を込めて切り払いましょう。


亞東・霧亥
【SIRDと共闘】

「我、生きずして死すことなし。理想の器、満つらざるとも屈せず。これ、後悔と共に死す事なし。」
己の信念を口にして、互いの正義をぶつけ合う。

・暗殺、目立たない、毒使い、残像、切り込み、殺気、ダッシュ、切断、忍び足、グラップル、ジャンプ、足場習熟、リミッター解除、不意打ち、限界突破、高速詠唱

斬撃に重きを置いて、あらゆる手段を用いてUCに繋ぐ布石とする。
時に仲間の陰から、隠れる時は隠れ、不意を打つ。
よもや卑怯とは言うまいな?

【UC】
様々な布石を回収し、全方位から槍衾の様な殺気を放つ。
「肉を斬らせて骨を断つ。骨を断たせて命を絶つ!」
腕一本あれば事足りる。
千の殺気と一の本気で命を突く。


彩瑠・姫桜
引き続きUCで戦闘力強化
[かばう、武器受け]を駆使して
柊さんの守りを中心に動くわね

紫陽花さん、
貴方の『意地』は、私にはわからないわ

確かに貴方の背負うものは、
もう貴方だけのものじゃないのかもしれない
でも、貴方が意地を張り続けることが
その人達の望みの全てだとは、私には思えない

けれど、戦わなければ区切りがつかないっていうなら
仕方ないからとことんまで付き合ってあげる

強い信念を持った貴方だからこそ
貴方は、転生する必要があるのよ
貴方を信じてくれた仲間のためにも
今ここに居る、柊さんや、雅人さんや、転生した紫蘭さんのためにも

自分の力ではどうしようもできないなら
この戦いで全部削ぎ落として
もう一度生まれ変わるのよ


榎木・葵桜
気絶者と遺体の守りに専念するよ

UCで巨大田中さんの力を借りて、動けない彼らを運搬するね
運搬できないならその場で盾になってもらって
可能な限り彼らを守るよ

私は[見切り、かばう、衝撃波、範囲攻撃]を活用しながら
流れ弾の攻撃の相殺を狙うね

紫陽花さんの意地、分かる気がするよ

紫陽花さんはどこまでも優しいんだよ
だから意地を通そうとする
自分のためじゃなくて皆のために

紫陽花さんはリーダーだったわけだし
一緒に戦ってくれた大切な仲間の想いだもん
自分だけのものじゃないから
簡単に翻すわけにはいかないよね

意地を貫き通す事、私は悪い事じゃないって思う
でもその意地は正しく通さなくちゃ
だから誰も巻き込まないように、私が守るよ!


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

不器用だな、紫陽花さんも部下達も
経験から来る信念ではなく、諦念に見えるな
それも長き間、自分より若い者が命を散らすのを見て来たからか

私はその思想自体は否定せぬ
だが、我々は諦めることを良しとしないのだよ
影朧は過去に囚われし存在
大なり小なり破滅しか齎さん
それを未来への希望に繋げるのが転生ではないのか?

紫蘭さんを見捨てようとした理由、確かに我々は知らぬ
紫陽花さんはそれを掴んだのか…?

引き続き「歌唱、優しさ、鼓舞」+指定UCで回復と戦線維持
もふもふさんの力で皆を治癒し鼓舞し続ける
私自身は気絶した人々をひとりでも多く戦場の端へ移動

竜胆さんに遣わしたもふもふさんは…間に合うか?


森宮・陽太
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

…紫陽花も部下たちも、皆過去に囚われてやがる
だがよ、古きものの破壊だけでは未来には繋がらねえ

死した娘や部下達の想いを背負うなら
生きてそれを伝え続けるべき
死を覚悟した時点で既に想いを踏み躙っていないか?

俺は未来に繋げるためなら、過去の俺の力も使う
過去への想いは過去の俺が葬ってやる
紫陽花、今からてめえは俺の「敵」だ

「高速詠唱」+指定UCでサブナック召喚
サブナックに気絶者を戦場外へ移動するよう命令
ミサイルは身を挺して庇わせコピー、時間の許す限り連射

俺自身は「ランスチャージ、部位破壊、暗殺」
接近して操縦席を狙い、躊躇なく二槍を突き出す
できれば柊から構造上の弱点を聞きたい


文月・統哉
仲間と連携
攻撃見切り
オーラと武器受けで柊や雅人や兵士達庇い
戦いの中話す

大切な事
転生するか決めるのはあくまでも本人だ
手放せない痛みがあるならそれもいい
ぶつけたい想いがあるならそれもいい
無念を抱え何度影朧となったとしても
いつか立ち止まり思い晴れる時が来たならば
そこに選択肢があるという事そのものが
救いなんだと俺は思う

少なくとも俺にとっては
間違いなく希望だよ
俺は俺の故郷で災魔になった親友を
ただ倒す事しか出来なかったから

そうだねこれは弔いだ
だからこそ俺は願い祈る
戦場に散った彼らの
そして貴方の魂が救われる事を
輪廻の先でいつかまた出会える事を

雅人も手伝ってくれるかい?

戦場に渦巻く数々の無念を
祈りの刃で払おう


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ、却下可
無表情だが瞳に宿るのは絶望

過去に囚われている武人、か
思うところがあって赴いたが
その兵器を持ち出すなら、俺は破壊するまで
…影朧を残しては未来には繋がらないんじゃないのか

「忍び足、闇に紛れる」で極力他の猟兵からも気配を消し接近しつつ
「視力、戦闘知識」で影朧装甲の構造上弱そうな箇所を見極め
「2回攻撃、怪力、部位破壊、属性攻撃(炎)」+指定UC(※味方斬りなし)で見極めた弱点を徹底的に攻める
ミサイルは「聞き耳、第六感」で発射音を察知しつつ「ダッシュ、残像」で移動し続け回避

雅人
これが復讐と闘争に、過去と絶望に囚われた奴の末路だ
こうなるのは俺だけでいい
…希望を、未来を紡げ!




「そうかい。これが、アンタなりの意地の張り方か、紫陽花」
 目前に姿を現した紫陽花と、影朧甲冑の姿を見つめながら。
 紫陽花の呼びかけに、酷く静謐な口調でそう応えを返したのは、真宮・響。
「アンタは……」
 影朧甲冑の中にいる紫陽花に、律の面影を見出しながら響がそう告げるのを……。
「……紫陽花さんは、似ていますね」
 響の『娘』である、真宮・奏が引き取り訥々と告げる。
『私が似ている、か』
 ゆっくりと甲冑を前進させながら淡々と呟く紫陽花に、はい、と奏が頷き返した。
「そうです。不器用で、自分の信念を示すのが下手な所とか、特に」
「奏の父であり、アタシの死んだ夫は、アンタと似たタイプだったんだ。自分の武でしか信念を示せない、そんなね」
 奏の其れに応じる様に、紡がれる響の言葉。
 ――でも。
「アンタのやり方を、アタシ達は、認めるわけには行かない。多くの命を預かる立場であるアンタが多くの命を危険に晒して、自分の命も無駄にする様な、責任放棄なやり方はね」
『違いない、話だな』
 響の糾弾に動じる風でもなく。
 けれども、決して退く様子も見せぬ紫陽花の思わぬ反応に、響が微かに鼻白んだ。
『だが、それでもこれは、私がやらねばならないことなのだ。其れこそが、今の私に取って選び取れる最善の『道』なのだから』
「紫陽花さん。それは、あなたが多くの命を死地に送り出した責任故、ですか?」
 何か引っ掛かる物言いをする紫陽花にその整った眉を顰めながら。
 神城・瞬がそう水を向けると、そうだ、と紫陽花が頷き返した。
「超弩級戦力達よ。お前達は知らないのか。今、お前達と共にいる私の弟、柊が研究している兵器のことを」
 その、紫陽花の問いかけに。
「確か……『人体に影響を及ぼさない、一般人でもある程度扱える対影朧兵器』、と聞いています」
 ウィリアム・バークリーが嘗ての事件で得た情報をそうして差し出すと、紫陽花はそのとおりだ、と頷いた。
「では、その対影朧兵器に最も興味を抱いてるのが誰かは知っているか?」
「兄上……それは……」
 紫陽花のその問いかけに、顔を青ざめさせる柊に変わる様に。
「……軍需産業関係者、でしたか」
 その情報を収集したSIRD――Specialservice Information Research Departmentnの局長ネリッサ・ハーディが、その事実を思い出し、軽く頭を振りながらそう呟くと、紫陽花がそうだと力強く首肯で返した。
「人はより強き力を、『武』と言う名の叡智の結晶を、常に求め続けている。その武器を手に取ったその先で起きる無数の喜怒哀楽を持つ『個』が失われる戦争をだ。その事実を、私達は、私達なりに憂いている」
「それが今回弔いを口実に『世間が悪い』とテロを実行した理由と言う事ですか?」
 ネリッサの、その背中に身を潜める様にしながら。
 淡々と問いかける灯璃・ファルシュピーゲルのそれに、紫陽花は無言。
 それを肯定と感じ取り、ですが、と灯璃が静かに呼びかけた。
「それは、口実ではありませんか? そうして世間や誰かのせいにして、あなたはあなたが向き合うべき辛い現実や責任から逃げたのでは? そういう人間は、五万といますよ……」
 その灯璃の呼び掛けに。
『そうだな。或いは、お前の言う通り、これは『逃げ』なのかも知れない』
 自らの罪を肯定し、それでも尚、怯む様子を見せぬ紫陽花と影朧甲冑の中に歪な何かを感じ取り、灯璃がすっと、目を細めた。
「……あなたは、転生問題以前に先ず、『父として意地』を見せて、娘さんや仲間との思い出を笑顔で他の人に伝え続けられる強さを持つべきだった筈ではありませんか? ……『お父さん』」
『それも一理ある。だが、私達ヒトの全てがそこまで強くなれるものなのか? 多くの兵器に撃たれ、無辜なる人々は死に絶え、けれどもその過ちの記憶を転生によって喪い、新たな命として、この地に私達人々はまた生まれ落ちる。それは、今あるこの700年以上にも及ぶ平和の大切さを、尊さを忘れてしまう……そういう事にならないか? ヒトは記憶を持たぬが故に、同じ過ちを繰り返してしまう……そんな存在なのだから』
 紫陽花の粛々としたその言葉に。
「おーおー、本気ですっかり人間辞めちまった、って感じだな、おい」
 サングラスを軽く上げて、軽く肩を竦めるミハイル・グレヴィッチ。
「此処迄来ると、もう筋金入りの化け物じゃねぇかよ、おい。そんなんじゃあ、将校とか指揮官ってのは務まらないぜ? 死んでいった部下達を駒扱いできず、必要以上の情を抱いちまったらよぉ」
『……そうかも知れぬ。だが、それでも部下達や敵対する者達が『人』であり、其々に営んできた生、そして育んできた想いや感情に思いを馳せられぬ程、私が『戦争』には徹しきれぬのもまた事実よ』
「……テメェも、部下達も、囚われてやがるんだな。敬輔みたいに」
 その気配を肌でびりびり感じ取りながら。
 森宮・陽太が唸るように低い声音で翡翠色のその瞳を鋭く細め、呻いている。
 陽太のその呼びかけが、聞こえたのだろうか。
 幻朧桜並木の一端を走る黒い影……館野・敬輔が無意識にピクリ、とその肩を震わせ、桜並木が風に揺られる様に左右に揺れた。
 その様子を目の端でちらりと陽太が捕らえながら、だが、と言葉を続けている。
「だがよ、古きものの破壊だけでは、未来には繋がらねぇんだ。死した娘や部下達の想いを本当に背負っていくつもりなら、テメェは生きてそれを伝え続けるべきだったんだ」
『そうだな。それもまた、一つの真実であろう。だが……私達の様な者達がお前達をこの場で倒すことで、その忌々しき記録は、世界の人々の中に残る。この帝都の片隅ですら、テロは起こる。ならば、自分達の身はある程度自分で守らなければならないのではないか、と彼等が危機意識を持つことが出来る様になるだろう』
 その言葉の中に、強く焼け残っているそれを拾い上げたのだろう。
 マグマの泥濘の中に叩き落された様な灼熱感を共苦の痛みが絶えず与え続ける理由の一つに気が付き、天星・暁音が全く、と小さく頭を横に振った。
「どうしてこう……君みたいなタイプは揃って不器用なんだろうね……自らの『力』でしか、自らの意思を示すことが出来ない」
『ふふっ……それこそ武人の性、と言うものだ』
 暁音のその問いかけに、くぐもった笑い声をあげてそう返す紫陽花。
 ネリッサがそれに小さく頭を振り、これは、と静かに息を吐いた。
「話は、平行線ですね。……あなたもそれだけの覚悟を決めている以上、最早ことを穏便に済ます事は不可能でしょう」
 ネリッサの冷徹な分析に。
「……」
 その手を腰に帯びた退魔刀の柄にかけながら雅人が黙したまま紫陽花を見ている。
 雅人の、その様子を見て取りながら。
「……雅人」
 落ち着いたよく通る声で、白夜・紅閻が粛々とそう呼びかけた。
 続けて……。
「……柊」
 とも。
「お前達は、如何したい?」
 その、紅閻の問いかけに。
「どう、とは?」
 目を瞬いて問い返す柊に、紅閻が紅の瞳を鋭く細めながら続ける。
「奴を殺したいか? それとも、止めたいか? アレは今、お前達に死に場所を求めている……そう言うことだろうと、俺は思う」
 しかも……紫陽花は、ただそれだけでは、きっとない。
「奴は……あの男は、自分でもどうしようもない想いの先に、破滅が待っている事も知っている」
 紅閻の、その呟きに。
『……』
 紫陽花は黙して語らず、無言でその背の影朧エンジンの駆動音を上げるだけだ。
(「……本当はずっと、耐えるつもりだったのだろう。だが、奴の許容範囲が
越えてしまった……だから……」)
「アンタは、アンタで在る内に、とでも思ったのか? 少なくとも、俺にはアンタが、諦めて選んだ様に思える……茨の道では無く、楽な方に」
『そうかも知れぬ。そうでは無いのかも知れぬ。ただ、お前が言っている事に関して私が言えることは、私も含め、全ての人々がその様に常に笑って過ごすことが出来る程の強く清らかな心の持ち主ばかりでは無い、と言う事だ』
「……それも、貴方の『意地』なのかしら?」
 紅閻の呟きに、些かの沈痛さを籠めて答える紫陽花の応えを聞いて。
 榎木・葵桜に肩を借りて立っていた彩瑠・姫桜が深呼吸を一つ。
 その瞳は、変わらぬヴァンパイアの真紅の瞳。
 ――ポタリ、ポタリ。
 その両目から滴り落ちる血の涙を拭う様に掌で擦り取り、柊を庇う様に前に出て、schwarzと、Weiß……黒と白の二槍を構える姫桜のその呼びかけに、それもある、と言う様にガション、と音を立てて頷く紫陽花。
 姫桜の腕の玻璃鏡の鏡面は先程とは打って変わって水面の様に静まり返っていた。
 微風に金髪を靡かせながら、姫桜が小さく頭を振る。
「確かに貴方の背負うものはもう、貴方だけのものじゃないのかも知れない。でも、貴方が『意地』を張り続けていることが、その人達の望みの全てだとも、私には思えないの」
「そうだね。確かに、姫ちゃんの言うとおりな所はあるんじゃないかな、と私も思うよ」
 血を瞳から滴らせ、疲労から両足を軽く震わせながらも尚、毅然とした態度でヴァンパイアとして紫陽花の前に立ち続ける親友の想いを真っ直ぐに受け止める様にその背を見送り、頷きながら。
 葵桜がその場でばさり、と桜舞花を手の上で翻して田中さんを呼び出しながら、でもね、と小さく呟いている。
「私には、紫陽花さんの意地が、全部じゃ無いけれど分かる気もするんだよね?」
「あお……?」
 葵桜の口から飛び出した、思わぬその言葉に。
 姫桜が微かに驚いた様に真紅の瞳孔を縦長に広げていた。
 そんな姫桜に葵桜が悪戯っぽく笑い、紫陽花さん、と静かに呼びかける。
「違う形でミハイルさんも言ってくれているけれど……紫陽花さんはきっと、本当は何処までも優しいんだよ」
 大切な人々を、守る為。
 その為に出来ることを自分なりに考え、周囲を気遣う方法を結論づける。
 だって……。
「紫陽花さんはリーダーだった。大切な仲間達の想いを託されて、一緒に戦っていた人達の。そんな人達の為に、意地を通そうとしているんだよね? そうじゃなきゃ、あんなこと言う事出来ないって、私は思うよ」
『私には、責任がある。ただ、それだけの事。その為に、意地を貫き通すことを彼等やあの子達の為にも行なおうとしているに過ぎぬ』
「紫陽花さん……」
 何処か諦念を伴っている様にも聞こえる、紫陽花の囁きに。
 姫桜が微かに吐息を漏らし、藤崎・美雪が小さく頭を横に振った。
「まったく、どうしてそれ程までに不器用なのだ。紫陽花さん、そしてあなたの部下達は。私にはあなた達がもとめているそれは、経験からくる信念というよりは、諦念にしか見えんぞ」
 美雪のその呼びかけに、紫陽花は何も答えない。
 ――答えたくない、のだろうか。
 ただ、これだけは言える。
「様々なことを紫陽花殿、貴殿は知っている様ですね」
 ――自分の選んだ道が、間違っている可能性も。
 ――転生が見せる希望も。
 ――そして……その希望が潰えた時に生まれ落ちる絶望の深ささえも。
「ですが……いや、だからこそ、でしょうか? それらを知りながらも尚、其れに乗っている、と言うのは」
『そうだな。私は、私の思いを変えるつもりは無い』
 紫陽花の、その応えに。
(「まだ、私が出る幕ではありませんよね-」)
 問いを発した、馬県・義透……『静かなる者』に、のほほんとした口調で呼びかけてくる疾き者の声に心の中で軽く頷き、『静かなる』義透が続ける。
「であればこそ、やはり紫陽花殿は不退転である、と言う事ですね。そう因果が巡るのですから」
『そう因果は巡る、か……』
 その義透の呼びかけに返した紫陽花の呟きには、虚空に向けて口を開いた様な、そんな物憂げなものが漂っていた。
「さて、そろそろでしょうか?」
 ウィリアムの呼び出した氷の精霊達に、折れた物干竿・村正の刀身を、無理矢理凍らせてくっつけて貰いながら。
 微かに蒼白く光り輝く物干竿・村正を携えた朱雀門・瑠香がそう呼びかけている。
「ああ、皆さん。すみませんが、周りの兵士達については皆さんにお任せしますよ? 私に出来ることはありませんし。それに……」
 そう、告げながら。
 物干竿・村正を青眼に構え直す瑠香。
 彼女の瞳は、其れまで其々の想いにじっと耳を凝らしながら、周囲の兵士達の遺体や気絶者達を守る様にクロネコ刺繍入りの緋色の結界を練り上げていた文月・統哉や、自分の身長の2倍ある甲冑武者、田中さんとともにヒラヒラと舞い踊る様に兵士達の前に駆けつけた葵桜へと向けられている。
 そうして、葵桜達を一瞥しつつ。
「帝都桜學府所属者の後輩として、私はあなたにケリを付ける必要がありますので。そうでしょう……紫陽花さん?」
 そう問いかけた瑠香に、思わず、と言った様に笑い声を上げる紫陽花。
『成程……確かにお前にとっては、身内の不始末とも取れるか、朱雀門次期当主候補、朱雀門・瑠香殿よ』
「ああ……私と、私の家の事は、流石に知っていましたか、あなたは。ならば尚更、私が切らぬ理由はありませんね」
 そう瑠香が告げた、その刹那。
 不意に、紫陽花の頭部と腕部を包み込む様に生まれ落ちた漆黒の霧。
 全ての光を飲み込む漆黒の森の如きそこから生まれ落ちた狼の群れが、影朧甲冑に喰らいつくのに、ふむ、と小さく頷く紫陽花。
『私の視界を奪い、そして攻撃を仕掛けるか。良かろう、超弩級戦力達よ。なればこそ、私も最初から全力で挑ませて貰う』
 その、紫陽花の呟きに応じる様に。
 その腕部と頭部を覆い隠さんことを欲していた漆黒の霧を喰らい尽くすかの如き勢いで、その全身を闇黒の蒸気で覆い尽くす紫陽花。

 ――かくて、意地と意地の張り合いの戦いの鐘が、戦場全体に轟いた。


「我、生きずして死すことなし。理想の器、満つらざるとも屈せず。これ、後悔と共に死すこと無し」
 懐中時計のヤドリガミ、と言う自らの『器』に宿した信念を、言の葉に乗せて紡ぎ出しながら。
 腰を深く落として疾風の如く大地を蹴って亞東・霧亥が、灯璃の濃霧に紛れる様にして戦場を疾駆する。
 一方、空中では、まるで神代の代に伝わる神歌の様に鈴の鳴る様なその声で。
「……遙か昔、独神が居った」
 自らの内に宿る『其れ』を意識してそう紫陽花に向けて呼びかけながら、肉薄していく『神』たる吉柳・祥華が、微かな虹色の輝きを、その羽衣のヴェールに発させつつ、闇の様に昏い瘴気を発している。
「独神は、自らの力を二つに分けて、世界を創った」
 ほぼ直感的なものであろう。
 その指先に仕込まれた無数の小型ミサイルを射出する紫陽花。
 一度撃ち出せば止まることの無いそのミサイルの一発目が空中の祥華に向けて射出されたのを祥華は見て取り、全神経を回避へと集中させ、一度言葉を途切れさせる。
 その無数のミサイルの群れを吐き出した、その指先を見つめながら。
「……俺は、未来に繋げるためなら」
 それによって、『現在』と『未来』を守る事が出来るのであれば。
「過去の俺の力も使ってやる。そうして……過去への想いを、過去の俺が葬ってやる」
 着弾しようとする、ミサイルの群れ。
 その前に立つ様にしながらそう呟いた陽太は、その手に、濃紺のアリスランスと淡紅のアリスグレイヴを構え、だから、と告げた。
「紫陽花……今からてめえは、俺の『敵』だ」
 その言葉と、ほぼ同時に。
 陽太の顔を覆う様に不意に姿を現したのは、能面と呼ぶに相応しい白いマスケラ。
 そして冷たく冴え渡った、何の感情も浮かばぬ翡翠の瞳。
『過去』の陽太へと姿を変えた彼は、その左手の濃紺のアリスランスを突きつけ、冷たく告げる。
「意識喪失者達を守れ、サブナック」
 無機質さを帯びた陽太の呼びかけに。
 サブナックが流れてきたミサイルの着弾点で伸びている人々の前に立ちはだかって咆哮し、そのミサイルの一部を獅子頭の口腔を開けて飲み干し、吐き出す。
 吐き出された無数のミサイルが、次々に紫陽花の周辺の地面に着弾、爆発してその足下の動きを制限した。
 敬輔が、その爆発の渦に身を隠す様に身を翻して飛び込んで肉薄するその間にも、無限にも等しいミサイルの掃射は続く。
「田中さん! 私達が皆を守るよ! 紫陽花さんの貫き通そうとしている意地を、正しく通して貰う為にもね!」
 そう叫びながら。
 そのまま陽向桜の袴を翻してその場でクルクルと踊りながら、柄の部分に魔除けの鈴が取り付けられた朱色地に金装飾の薙刀で、空を裂く葵桜。
 その葵桜の動きをトレースする様に巨大田中さんもまた、その手の槍を横薙ぎに振るい、正しく胡蝶の鱗粉を思わせる衝撃波を生み出しそれらのミサイルを纏めて叩き落としていた。
「最初の一点を避けさせて、その上で連射したミサイルの流れ弾で周囲を巻き込もうとするねぇ……こりゃ、完璧に殺る覚悟決めていやがるな……」
「暁音さん、すみませんが、周囲の人々の護衛及び、救出活動の優先をお願いします。このミサイル群は一度放たれれば決して止まることは無いでしょうが、その為に却って周囲の人々を巻き込む危険が高いです」
 ネリッサの、その言葉に。
「そうですねー、私もそう思いますよー、ネリッサさん」
 何処か、間延びした穏やかな口調で。
 のんびりとそう受け答えをしながら、その手に、仄青く光り輝く白弓を構え、そこに矢を番えてひょうと義透が放っている。
 聞き慣れた間延びした口調と共に、『静かなる者』の霊力によって生み落とされた雪の様に白い矢が放たれ、其れが無数の矢雨と化してミサイルを撃ち落とし、或いは紫陽花の全身に纏われた紫陽花の影朧達を凍てつかせていった。
「身体制御は私で、UCの制御は私とかー。一種の騙し討ちですよねー、これ」
「!?!? 義透さんの話し方が変わった!?」
 義透の人格の変化に美雪が思わず目を白黒させながら問いかけると、ネリッサもまた、改めて義透さん、と微かに眉を上げていた。
「普段、私達とお会いしている時とは何か雰囲気が異なっている様に見えましたが……今のあなたは、普段お会いしているあなたですね」
「ああー……まあ、ネリッサ殿達と面識があるのは私ですからねー。彼がUC制御に専念し、私がこの体の制御を任されましてねー」
「そ、そうなのか……何というか、色々大変なのだな……」
 背筋から冷汗を垂らしながら告げる美雪の声音が、やや引き攣っている。
 胸に手を当て深呼吸をして気を落ち着けた後、美雪がネリッサさん、と呼びかけていた。
「葵桜さんや陽太さん達が護衛してくれている間に、私も避難に回ろう。もう暫く時間稼ぎを頼めるか?」
「Yes.マム。『……Was nicht ist, kann noch werden』」
 美雪の、その呟きに。
 ネリッサの目配せに気がつき敬礼を一つしながら灯璃が素早くドイツ語を詠唱すると同時に生み出されたのは、機械腕付きのロボット車両群。
 そのロボット車両群に、思わず微苦笑を漏らしつつ、美雪が自らの目前にグリモア・ムジカによる譜面を展開。
 その譜面に沿って奏でられる曲を歌い上げ……。
 ――ひょこひょこ。ひょこひょこ。
 全部で82体の猫やらリスやらと言った、可愛いモフモフ動物達を召喚していた。
(「もふもふさん、もふもふさん、皆の傷を癒してくれ。ついでに皆に踏み潰されない様に気をつけてくれ」)
 ちょびっとだけ召喚したもふもふ小動物さん達に心配の言葉を投げかけながら、勇ましい駆動音と共に、自分の隣を歩くロボット車両群に微かに美雪が、虚空へと遠い眼差しを向ける、そんな表情になった。


「……了解だよ、ネリッサさん」
 一方で。
 神気を纏い、空中を浮遊していた暁音もネリッサの指示を受け取り、両手で構えていた星具シュテルシアを構え直して祈りを手向けつつ、葵桜と田中さんの後ろに隠れる様に着地しながら、人々の救助へと手を回す。
 ミサイルを乱射する速度を、義透の凍結させた時間の中で鈍らせつつも、まるで其れに抗うかの如く、歩みを止めぬままにその手の巨大な刀を振り上げる紫陽花に、姫桜が鋭く目を細めた。
「義透さんの時間凍結の中でも尚、貴方は貴方の意地を張って前に進んでくるのね。良いわ。なら、柊さんを守りつつ、私達が最後まで付き合ってあげる……!」
「そうですね……! 朱雀門が次期党首、朱雀門・瑠香。……いざ、参ります!」
 その言葉と、ほぼ同時に。
 正しく矢の如き勢いで紫陽花に向かって飛び出す姫桜と瑠香の、その背後で瞬が、その手の六花の杖の先端に風を思わせる翡翠色の魔力を纏わせていた。
「ならば、僕がその道を切り開きます……行きますよ!」
 告げると同時に、翡翠色に凝縮させた光球を紫陽花に向けて発射する瞬。
 撃ち出された翡翠色の砲弾が網状に広がり、紫陽花を束縛する枷と化して紫陽花を締め上げるのを認め、続けざまに瞬が水晶の様に透き通った風の刃を解き放った。
「疾風よ、奔れ!」
 叫びと共に放たれた衝撃波にその鉄の装甲の一部を切り裂かれ、微かに後退する紫陽花に向けて、姫桜が二槍を突き出し正面左翼から、ウィリアムに刃を凍らせて貰い、無理矢理繋げて貰った瑠香がその愛刀を細剣の様に突き出して迫った。
『ふむ……そう容易く倒せると思うな!』
 その怒号と共に。
 全身を覆い尽くす影朧の漆黒の蒸気に包み込まれた紫陽花の機体が、まるで水を得た魚の様に鮮やかなスピンを繰り出しながら、大上段に構えた刀で瑠香の神速の一突きを受け流し、ミサイルを乱射し続けていた左腕の手甲で、姫桜のヴァンパイアの膂力の乗った二槍の一撃を鮮やかに受け止めていた。
「……!!」
 灯璃の漆黒の濃霧をものともせずに、当然の様にそれらを受け流す紫陽花の機動性と機体操作力に灯璃が目を見開き、攻撃を受け止められた姫桜と瑠香もまた、目を白黒させている。
(「流石に手強い、と言う事ね……!」)
「まだまだ温いぞ……超弩級戦力達よ!」
 怒号と共に、ズシン、と大地に足を叩き付ける紫陽花。
 地面を踏みしめたその足音に、大地が鳴動する様な音と共に、激しく震えた。
「見た目、鈍重そうですが……これ程ですか……!」
 足下で起きた地震に足を取られて瑠香が思わず足をもつれさせるそこに、紫陽花がすかさず、と言った様子で大上段に構えた刀を袈裟に振り下ろす。
 目に見えぬ早業で解き放たれた一刀に瑠香が思わず息を呑むそこに割り込む様に、柊の右隣を守る様に立っていた響が駆けた。
「さあ、アンタの力を借りるよ!! 共に戦おう!!」
 その響の叫びと共に姿を現したのは、自身の身長の2倍の……死した夫……律を模した巨大ゴーレム。
 巨大ゴーレムに自らの動きをトレースさせ、瑠香と紫陽花の間に割り込む様に入り込ませて、その両腕の巨大な真紅のガントレットで辛うじて攻撃を受け止めさせながら、紫陽花に肉薄しつつ掌底を突き出す響。
 掌底から放たれた真紅の『気』の塊が叩き付けられその動きを一瞬制したその間に。
「妾の申した独神は、己の手で産み育てた民に裏切られて片割れを失った」
 そう告げながら、白梟が口から吐き出す白きブレスの援護を受け、先のミサイルの群れを突破した祥華が、その掌に籠めた瘴気を解放する。
 生み出されたのは、荊棘に覆われた怨念の籠められた、巨大な黒龍。
 その怨龍が、紫陽花を喰らわんとその顎を開きながら紫陽花へと飛びかかった。
『ふむ……』
 問答の様な祥華の問いかけに合わせた黒龍に迫られながら。
 小さく鼻を鳴らす紫陽花に、故に、と祥華が読み上げる様に問答を続ける。
「片割れを失ったそれは、自らの制御を出来なくなった想いを暴走させて、世界そのものを壊したのじゃ……。其方の行動は其れと似たようなものかのぅ?」
 童女の様に。
 遊女の様に。
 柔らかく、何処か艶やかな声音を創って問いかける祥華に合わせる様に、ミサイルを発射する左手を拘束するように黒龍の顎が閉ざされる。
 閉ざされた顎が荊棘の檻と化し、そのままその左手を貪り喰らい始めているにも関わらず、落ち着いた口調で紫陽花は答えた。
『そうだな。復讐と絶望に囚われて行動を起こすという事は、そう言うことだ。それは、私達が行動を起こした切っ掛けなのは間違いない』
 ――パリン。
 潔く自らが犯した罪を認め、その罪を当然の様に告白する。
 あっさりとしたその告白に荊棘の檻が一瞬解けたその瞬間を狙って、即座にミサイルを再び発射する紫陽花。
 そのミサイル群が狙っているのは、今度は周囲に倒れている人々では無く、雅人と柊の中間地点。
 ともすれば纏めて2人だけで無く、ネリッサ達猟兵を纏めて焼き尽くすことの出来る着弾点。
「守り抜きます……雅人さんは絶対に!」
 奏が何処に着弾するのかに気がついた爆心地の中心に向けて雅人の脇を駆け抜けて告げ、エレメンタル・シールドに精霊達の力を宿して爆風へと向かう。
 風の精霊シルフィードの如き滑らかな動きでその着弾点を予測して動いて身構えて、その爆風の余波での衝撃を少しでも食い止める、その為に。
「……やらせぬ。白梟、ミサイルを焼き払え」
 紅閻が短く小さく告げて、上空の白梟に命令を下した。
 命令を下された白梟が嘶きと共に、放物線上に撃ち出されたミサイルを焼き払うべくブレスを吐き出し、それらのミサイルの一部を着弾するよりも前に焼き払い、更にネリッサが、愛銃、G19C Gen.4の引金を引いて、一発でも多くのミサイルを仕留めるためにその信管だけを撃ち抜いている。
(「こいつ……戦い慣れてやがるな。これだけ適格な戦況把握能力と、判断力、胆力……伊達に帝都桜學府の将校だったわけじゃねぇって事かよ……!」)
 ネリッサ達に向けて放たれるミサイル群を具に観察し、次に浮かぶであろう隙を探る様に、墓地から墓地の間隙を拭う様に駆け抜けながら。
 ミハイルが冷静に戦況を監視して、内心でそう小さく舌を一つ打つ。
 その口元に、愉快そうな笑みを浮かべながら。
 同時にその爆風は、それに紛れる様にして隠れて肉薄していた敬輔の胸中にある思いを抱かせていた。
(「復讐心に燃えた者……その絶望を帯びた者の成れの果て……しかし、多分コイツの絶望は……」)
 あの時、自分が抱いた其れと同等か、それ以上に巨大なものだ。
(「ちっ、何処だ……何処なんだよ、コイツの弱点は……!」)
 ミサイルの間隙を拭う様にして肉薄しつつも敬輔が焦りを伴った舌打ちを一つ。
 その間にも、紫陽花の爆風の放った絶え間なきミサイルが着弾し、その爆発の向こうから、漆黒の大鎌『宵』を大上段に構えた、クロネコ刺繍入りの緋色の結界を張り巡らしていた統哉が飛び出していた。
 爆風を強引に突破してきた衝撃からか、服は煤けて、剥き出しになっていた皮膚の一部が焼け爛れていたが、そんな統哉の体を支える様に、人々の避難の手伝いに従事していた暁音が、錫杖形態の星具シュテルシアの先端に取り付けられた神楽鈴をりん、と勇ましく鳴らし、星光の如き優しき輝きを伴った、神聖にして妙なる光を注いでいた。
「……君は、転生について、大切な事を忘れている」
 ――それは、伝えなければならない、大切な事。
 紫陽花にとっても、雅人にとっても。
「転生するか決めるのは、あくまでも本人だ」
 告げながら振り抜いた漆黒の大鎌による一閃が、紫陽花の胴部の胸甲を切り裂く。
 大上段に構えたままだった紫陽花の刀が、まるで殺意を投影するかの様に無数の分身と化して統哉を全方位から切り裂こうとするが、義透が再度解き放った無数の氷雪属性の矢が無限に分身している様にも見えた、刀達の幻影の『時』を凍てつかせた。
「手放せない痛みがあるなら、それもいい」
 そっとその手が、先の爆風で爛れた皮膚に触れる。
 炭の様に黒く焼け焦げたそれが、暁音の癒しの光でポロポロと剥がれ落ち、まだ生まれたての赤ん坊の様に新しい皮膚が、その下から顔を覗かせていた。
(「――っ!」)
 一瞬、針の様に鋭い痛みが、暁音を襲う。
 それはマグマの中にいる様な灼熱感の中でも、際立つ針の筵の如き、鋭い痛み。
 表情に表れぬ様、ふてぶてしい表情をしながら暁音が続け様に星光を星具シュテルシアの先端から発した。
 それは、爆発の中心点にいても尚、その爆発の衝撃から雅人を守るべく耐え抜き、全身を火傷させて一瞬意識を失わせていた、奏の心身の傷をゆっくりと癒していく。
「ぶつけたい想いがあるなら、それもいい」
 返す刃で『宵』を撥ね上げながら絶えず攻撃を仕掛ける統哉に合わせる様に。
 姫桜が、紅閻の白梟の足を掴んでクルリと一回転してその背に跨がり、そのまま白梟と共に、戦場を滑空。
 紅閻が其れに合わせる様に、イザーク、と自らのハロウィンのカボチャの如き姿をしたとんがり帽子を被った変質したサイキックエナジーを解放する。
 滑空する事で生まれる風を味方に付け、より勢いを増した姫桜の二槍が紫陽花の左上肩部を貫き、白梟の鉤爪が、その装甲を穿ち。
 右の脇腹の方に向けて、飛び込む様にイザークが紫陽花の影朧甲冑に喰らいつき、その傷口を抉る様に、瑠香の神速の刺突が、その脇腹を貫いた。
 そのままクルリと刃が一回転し、全部で65撃の怒濤の斬撃と化して紫陽花の甲冑に切り傷を刻みつけていくその間に、統哉の逆袈裟の一閃がその身を抉る。
「だって俺は……思っているから」
 確信を持って告げる統哉の其れに。
『……何をだ?』
 低く呼びかける様な声音を上げる紫陽花に、統哉が答えた。
「無念を抱え、何度影朧になったとしても、いつか立ち止まり想い晴れる時が来たならば、そこに選択肢があると言う事そのものが……救いなんだってね」
 晴れやかにそう告げる統哉だったが……その口調には何処か自嘲じみた翳りが僅かに漂っている様に墓影から見守っていた敬輔には微かに思えた。


「人は死ねば、幻朧桜の桜の精によって、真っ新になって生まれ直す」
 統哉が紡いだ其れを聞き取りながら。
 ルーンソード『スプラッシュ』に氷の精霊達の力を這わせ、その刀身を青白く光り輝かせつつ、爆風の範囲から幸いにも離れていたウィリアムが、『スプラッシュ』を下段に構え前傾姿勢になって突撃しつつ、何かを確認するかの様に呟いている。
「それが如何した?」
 周囲の幻朧桜を塹壕代わりにして好機を伺う様に暗殺者の歩法によって、無数の紫の残像を生み出し、自身を視認されぬよう、機会を伺って駆け回っていた霧亥が分身に紛れてそう水を向けると、ウィリアムがもしかしたら、と既に姿を消した霧亥と、目前の紫陽花に聞こえる声音で呟いている。
「この転生というシステム自体、前世の記憶が無い以上、もしかしたら只の信仰なのかも知れないと、思いまして」
『……ほう。興味深い考察をする』
 瑠香の六十五の斬撃を受けきり立ち上がり、尚、全身を覆う影朧達の執念が、更なる強化を重ねていっている事を、コクピットの中で感じ取りながら。
 興味深げな口調でそう告げて、大地を抉り取る様に刀の切っ先を大地に突き立て、その土埃を弾丸の様に撃ち出す紫陽花の攻撃に美雪の呼び出したもふもふ動物さん達にその傷を癒されつつ、ええ、と静かにウィリアムが首肯する。
 同時にそれは雅人をも打ち据えようとしていたが、それは、雅人の目前に姿を現した奏によってすべて防ぎきられていた。
 その一方で、ウィリアムの体の彼方此方に青痣が浮かび上がるが、青痣を舐めて癒してくれる小動物達が、そんなウィリアムを援護する。
 美雪の呼び出したその小動物達の頭をポン、とお礼代わりに叩きながら接近し、でも、とウィリアムは続けていた。
「亡くなった人が、新たに何処かで生まれ直して生きている。そういう風に人々が考えることが出来ること……それ自体が遺族への慰め、になるのでは無いですか?」
『為る者には、為るかも知れぬ。だが、そうならない者達も確かにいる。私達は、あくまでもその者達の為に立った。それ以上でも、それ以下でも無い』
 短くそう告げながら。
 義透の時間停止の矢の力を更なる影朧達の力を出力することで断ち切り、そのまま薙ぎ払う様に刀を一閃する紫陽花。
 紫陽花のその一閃を、一旦引き戻した怨龍に受け止めさせながら、今度は祥華がでは、と問いかけていた。
「おぬしは、その転生によって生じた、失われた記憶は誰が受け持っておるか、知っておるのか?」
 その、祥華の思わぬ問いかけに。
『……何?』
 微かに怪訝そうに声を上げながら、未だ砕かれていない左手を挙げて三度目の小型ミサイルの連射を行なおうとする紫陽花。
 だが、今度は新たな問答に対する応えが無かった事を鋭敏に察知した怨龍が、荊棘の檻を再び作り出して、その怨龍の牙を突き立て容赦なくその左手を食い千切る様に蠢いている。
「どうした? この世界に住み、転生を否定するおぬしにならば、分かるのでは無いか? 少なくとも、この世界と縁のある妾には、それなりの『解』があるぞぇ?」
 何処かゆったりと、教え諭す様な、そんな口調で、そう問いかける祥華。
 その問いに対する応えが直ぐに思い浮かばず、ミサイル群を一時的に封じられている紫陽花の隙をつき、先程の爆風で体半分を焼き焦がしたネリッサが、その身を張って守り抜いた柊に小声でポソリ、と囁きかけていた。
 そのネリッサの姿を悟られぬ様に。
「スパーダ。行け」
 無機質な声音でそう呼びかけた陽太に応じたスパーダがネリッサと紫陽花の間に割って入り、更に灯璃が自らが生み出した漆黒の森の如き濃霧をより一層強めてネリッサを正しく森の中にある一樹の様に覆い隠した。
 その濃霧の向こうから、灯璃がGPNVG-42 "Nachtaktivitaet.Ⅱ"の赤外暗視を利用して紫陽花を目視、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"の引金をすかさず引いている。
 無音で射出された一発の弾丸が、祥華の怨龍に牙を突き立てられている紫陽花の左腕部の間接部に食い込み、指先の銃口の位置の調整を困難にさせた。
 その間に、ネリッサが柊に聞いたのは。
(「あの影朧甲冑の何処かに、弱点はありますか?」)
 そう言う、問いかけ。
 そのネリッサの問いかけに、ギリリ、と唇を噛み締める柊。
 その柊の様子に感じいる事があったのだろう。
 響が確認する様にあるんだね、と囁いている。
 その、ネリッサの問いかけを後押しする様な響の呼びかけに。
 柊が頷きつつも、静かに目を逸らし。
 グルル……と篁臥がそんな柊を守る様に寄り添い、低い唸り声を上げていた。
(「お前はどうしたい? 紫陽花を殺したいか? それとも、止めたいのか?」)
 先程、篁臥の主、紅閻の深紅の瞳に陽炎の様に映し出されながらされた問いが、ひしひしと柊の胸を押し潰す様に圧しかかってきた。
(「……柊さん……」)
 その柊の背後での躊躇いを感じ取り、姫桜がさりげなく気遣わしげな視線を柊へと向けるが、直ぐに踵を返して二槍を薙ぎ払う様に振り上げながら、紫陽花さん、と祥華の問いに対する解を思案する彼へと呼びかけていた。
「強い信念を持った貴方だからこそ、貴方は転生する必要があるのよ」
 本当にその言葉を伝えたい相手は……紫陽花ではないけれど。
 それでも、姫桜は、そう言わずにはいられなかった。
『何故だ?』
 その姫桜の呼びかけに、問い返す紫陽花には答えず、schwarzを振り下ろす姫桜。
 姫桜のその一撃が、強化された装甲に弾かれ、手が痺れる様な感触を覚えつつも姫桜が淡々と続けた。
「貴方を信じてくれた仲間のためにも。今此処に居る、柊さんや、雅人さんや……紫苑さん……いいえ、既に転生し新たな人生を送る紫蘭さん……転生という概念、そのシステムによって自らの心を救われた人々の為にも」
「……っ!!」
 その姫桜の呼びかけに、はっ、とした表情になったのは、柊。
 巨大甲冑武者田中さんと共に、灯璃のロボットと美雪の手でもう、数えるほどにまで減った人々を守る盾として、蝶の様に舞っていた葵桜もまた、姫ちゃん、と驚いた様にクリクリした大きな瞳をパチパチと瞬かせていた。
「前世までの宿縁を捨て、身軽になって生まれ直す。そう言った生きている人々の心が救われる様な概念、信仰が無ければ、人々が生きていくことはただ辛いだけ……そう、ぼくも思います」
 ただ、静かに淡々と。
 姫桜の呼びかけと葵桜の驚愕……その2つを受け止めながら、ウィリアムが静かに告げる。
『スプラッシュ』は右手で青眼に構えたままだったが、左手はその前髪を軽く弄っていた。
「この生々流転を否定する考え方は2つありますよね。1つは、『死んだら終わり』。ですがこれは、影朧化という現象が現実に存在するため、終わりとは限りません。そしてもう1つが、あなたが支持する『黄泉がえり』。死を乗り越える業(カルマ)」
 そう告げたところで、ですが、とウィリアムが淡々と続けた。
「『黄泉がえり』……死を乗り越える業(カルマ)があれば、確かに貴方の言うとおり、記憶の断絶、消失という現象は起こりえないでしょう。ですが、それだけ今の貴方の様に様々なしがらみに絡め取られ続ける事になる。その縁は……業(カルマ)は決して拭えず、ただ自分自身の首と心を……思考を締め付けてしまう。それでは、人はいつか動けなくなってしまいます。そう……今の貴方が仮に死に、そしてまた黄泉がえったとしても、同じ業(カルマ)を繰り返してしまうのと同じ様に。記憶に縛られ続けると言う事は、そう言うことでもあるのですから」
 その、ウィリアムの呼びかけに。
 柊の目が大きく見開かれ、何かを思い出すかの様なはっ、とした表情になった。
「……柊。もう一度だけ、聞かせて貰うぞ」
 その柊の表情を、篁臥と視覚を共有して見つめながら。
 終焉の炎の名を持つカボチャの様なフォースイーター……シルクハットを被ったレーヴァテインにその口を開かせて、エネルギー弾の様な炎を吐き出させながら、お前は、と紅閻が呼びかけた。
「奴を止めたいのか? それとも殺したいのか?」
 その、紅閻の問いかけに。
「私は……兄上を……止めたい……けれども、その為には……」
 ポソリ、と呟く柊のその一言。
 それはネリッサが聞き、陽太と敬輔が求めた『其れ』への解。
 ――即ち、あの影朧甲冑の、その弱点。
「……分かりました」
 小さくネリッサがそう呟きながら、腰に止めている、小型情報端末MPDA・MkⅢに素早く触れて、見えないままにそのコンソールに情報を叩き込んで其れを一斉送信し、或いは紫陽花には解読不能な手信号でその情報を共有する。
 それは、猟兵達の反撃の狼煙となる有益な情報だった。


 ――ブルル、ブルル。
「……っ?!」
 突然、自分の懐に入っていたサバイバル仕様スマートフォンが震える音に気がつき、周囲に隠れる様にして様子を伺っていた敬輔がビクリ、と思わず肩を竦める。
(「何だってこんな時に……」)
 とは言え、この状況下でスマートフォンが震えるのだとしたら、恐らく理由は一つしか無い。
(「誰かが俺のことに気がついて……情報を送ってきたか……?」)
 それも恐らく敬輔が求めるであろう、その情報を。
 何かに怯える様に、震える様に。
 震えたスマートフォンを取り出し、入っていたメールに、敵に気がつかれぬ様にチラリと目をやり……そこに送られてきた情報に成程、と一つ頷いた。
(「どれ程孤高を……絶望の果てを味わおうとも」)
 そこから拾い上げようとする誰かがいる、と言う事か。
 メールの差出人……ネリッサと言う者には、恐らくそんな意識は無いだろう。
 そもそもBCCで送られてきているのだから、本人もこの場にいる猟兵達全体に向けて送ってきているに過ぎぬ。
 と、その時だった。
『……分からぬな』
 無骨に、そして訥々と。
 祥華の怨龍の牙にその左腕を噛み砕かれながら、紫陽花がそう答えたのは。
 それに対して、祥華は口元を扇子で覆う様にして、フォフォフォフォフォフォ……と雅な笑い声を上げた。
「然もあらん。妾が考えているその応えは、これじゃ。転生によって生じて失われた記憶……其れを受け持つ者は、他ならぬこの世界を覆う幻朧桜と、此処を創りしモノ達なのだと」
 ――故に。
「其方の言う弔いとは、その全てを壊してしまう事に他ならぬ。まあ……おぬし達のしている事……弔いに感謝するモノも確かに居るじゃろうが……何故、これ程簡単な事に気付かぬのじゃ? それを望まぬ……今の世界の在り方を、幻朧桜の存在を望む者達もいるであろう、その事実に。或いは……気付かぬふりをしているか、気付いた上で敢えてこの様な事を起こしたのかぇ?」
 と、祥華が問いかけた、その刹那。
「――SIRD&Jaegers……Initiating Operation!」
 柊の隣で彼の護衛に徹していたネリッサが叫ぶと同時に、歌う様にその呪を紡ぐ。
『フォーマルハウトに荒れ狂う火炎の王、その使いたる炎の精を我に与えよ!』
 そのネリッサの叫びに応じる様に。
 ネリッサの周囲に生まれ落ちたのは、84体の『炎の精』。
 その炎の精に、合わせる様に。
『……仕事の時間だ、狼達≪Kamerad≫!』
 灯璃が叫びと共にパチン、と指を鳴らすと、それまで紫陽花を覆っていた光一つ無き漆黒の森を思わせる霧が今までで最大の濃厚さとなり、同時に、その中に生まれ落ちた光をも喰らい尽くす狼達の群れが一斉に群がる様に紫陽花に喰らいつく。
 そこに、まるで放り込まれた松明の様に。
 84体の『炎の精』達が殺到し、その濃霧に辿り着き、着火。
 着火した炎の精達が連鎖的に爆発を起こし、其れが紫陽花の影朧甲冑の動きを拘束する。
 そしてその間に……。
「へへっ……狙い通りだぜ」
 対戦車ロケットランチャー……RPG-7V2を肩に担いだミハイルが、口元に愉快そうな笑みを浮かべ。
「まあ……そうだろうね」
『この場所』の主である暁音もまた、星具シュテルシアをスナイパーライフル型に切り替えてそのスコープで戦場を上空から覗き込み、其れに合わせる様に、一丁銃型のエトワール&ノワールも構えている。
 ミハイルと暁音のいるその場所は、暁音の帆船『星の船』の上。
 即ち……戦場全体を見回す事の出来る、絶好の狙撃ポイント。
 暁音が避難を完了させたところで、ネリッサが得た情報と、共有した作戦をもとに選んだ、ミハイルを連れてやって来た、そういう場所。
「それじゃあ、ちょいと早いが、クリスマスプレゼントだ、受け取りやがれぇ!」
 愉快そうな叫びをあげて。
 ミハイルがRPG-7V2の引金を引く。
 上空から放たれたロケット砲が吸い込まれる様に、柊から伝えられた紫陽花の乗る影朧甲冑の弱点……操縦席を保護する股関節部に直撃し、暁音もまた、二丁の長銃の引金を引いて、股関節から鳩尾に当たる部分に向けて精密射撃を開始。
 凄まじい轟音と共にRPG-7V2から発射されたそれが爆発を起こしてその装甲の大部分を抉り取り、そこに暁音の放った銃弾が正確に二回突き刺さった。
『ぐうっ!?』
 最も頑丈に作られているコクピット周囲。
 けれども、トレースシステムを実装しているこの影朧甲冑は、パイロットを外側の攻撃から守るその場所に繊細で巧緻な精密機器を詰めている。
 ならば、それを崩すことが出来れば?
「遅いぜ……そこだ」
 その隙を見逃さず。
 陽太が濃紺のアリスランスと淡紅のアリスグレイヴを伸長させ、ミハイルによって穿たれた装甲を刺し貫き、パイロットである紫陽花をも貫こうとするが……。
『させぬ……させるものか……!』
 苦しげに息を荒げながらも尚、抗う姿勢を決して緩めぬ紫陽花に向けて……。
「掛かったな。閃・撲・殺!」
 ミハイルの爆炎の向こうから姿を現した霧亥が、剥き出しになりつつある紫陽花のいるコックピットに向けてジャブを叩きこんだ。
 装甲が剥ぎ取られ大きく傾いでいたそこに叩きこまれた最初のジャブにグラリと大きく機体を傾がせながらも、その機体の中で抜いていた刀で霧亥を一閃する紫陽花。
 その動きに応じる様に、影朧甲冑も又同様の袈裟切りを放つが、足元が大きくぐらついているこの状況では、それは、ズン、と大地に突き立てる事しか出来なかった。
 そこに二発目の霧亥のジャブ。
 恵まれた膂力で放たれたその攻撃を刀を水平にして受け流す紫陽花だったが、そこに霧亥が流れる様な動作でローキックを叩きつけその機体と紫陽花自身を傾がせる。
 だが、紫陽花も又、練達の剣士。
 そのローキックによる鋭い衝撃に怯む様子も見せずに、返す刃で撥ね上げる様に刀を振り上げ、霧亥の左腕を切断。
 空中を舞う自らの左腕の事など気にも留めず、霧亥は、続けざまに右ストレートを紫陽花に向けて叩きこんだ。
「肉を斬らせて骨を断つ。骨を断たせて……命を断つ!」
 その霧亥の叫びと、ほぼ同時に。
『……っ! してやられたか……!』
 千の殺気が、紫陽花の影朧甲冑全体を刺し貫く槍衾と化して、その全身を串刺しにするべく襲い掛かった。
「よもや卑怯とは言うまいな?」
『これでこそ、命を賭けた甲斐があったというもの! 如何な手で私を追い込もうとも、それはお前達の覚悟の現れよ!』
 雄叫びと共に霧亥の殺気に機体を貫かれ、その反動が来たか、ゴボリ、と血反吐を吐きながらも、尚、コクピットにいる紫陽花は修羅の如き笑みを浮かべる。
 全身傷だらけと化した紫陽花と、その影朧甲冑を断ち切らんと、そこに敬輔が滑り込み、それと同時に赤黒く光り輝く黒剣を振りぬいた。
「終われ……永遠に……!」
「敬輔?!」
 飛び出す様に現れた敬輔の姿を見て、思わず統哉が息を飲むが、敬輔はそれに構わず、右の青き瞳に漆黒の絶望の輝きを乗せて、十八連撃を叩きこむ。
 全方位から放たれた漆黒の剣閃が、紫陽花の乗る影朧甲冑を容赦なく叩き切り、また、既に剥き出しになった紫陽花本人にも向かうが、その体が血しぶきを上げる凄絶な様を見せつけながらも尚、紫陽花は決して揺るがぬ意志と共にその手の刀を振りぬいていた。
 一合、二合、三合、四合……。
 永劫にも等しい漆黒と銀の剣閃と火花の散る音が響き渡り続け、ごぼり、と血泡を吹きながら敬輔がよろよろと後退する。
 左腕を切り落とされ、右目を切り伏せられても尚、紫陽花はその口元の笑みを掻き消さない。
 その姿は……正しく修羅。
『まだだ……まだこの程度で、私が倒せると思うな、超弩級戦力達よ。私は、私の意志は、この程度ではまだ折れぬ』
 血塗れになり、その全身から覇気を放出する紫陽花の姿は……正しく人知を越えた何かの様にもこの時の敬輔には、一瞬思えた。


「まだ頑張るんですかー。すみませんねー。これ以上墓場を騒がしくされたくないのですよね-」
 のほほんと、好々爺の風情でそう呟きながら。
『白雪林』に霊力製の氷雪属性の矢を番え、ひょうと放つ義透。
 天に向かって放たれた氷雪属性の矢が矢雨の如く降り注ぎ、半壊している紫陽花と影朧甲冑を包囲する様に分裂して地に突き刺さる。
 突き刺さった氷雪属性の矢の一本、一本が青白い輝きを発し、紫陽花の時間を凍結させる氷雪の結界を生み出し、彼を取り囲んだ。
 その様子を見ながら、義透が微笑んだままに何処か自嘲気味に呟いている。
「……私だって、想いは同じなんですよー……あなた」
 その義透の……否、疾き者の一言は、白雪林から放たれる時間凍結のユーベルコードを制御する『静かなる者』に手向けられた言葉なのか。
 それとも……。
「……紫陽花さん」
 人々の避難を灯璃のロボットと、葵桜と、巨大な田中さんと共に完了させた美雪が呼びかけた相手に向けてのもの、だったのであろうか。
『……まだ私は終わっていないぞ、超弩級戦力達よ』
 重々しくそう告げる紫陽花に、美雪が小さく溜息を一つ吐く。
「傷だらけのその体で、まだそれを言う事が出来るのか……執念だな」
(「竜胆さんの所に使わした、あの子は戻ってこれるのか……?」)
 そう、内心で疑問を抱きながら。
 感嘆とも諦念とも取れる溜息を吐く美雪に、がぼっ、と口から血反吐をぶちまけながら、さて、と頭を横に振る紫陽花。
『私には私の果たすべき役割がある。故に私はまだ倒されるわけには行かぬ』
「そうか……。だが、其れは私達も同じだ。我々とて諦めることを良しとはしない」
 美雪の、その呟きに。
 目を鷹の様に鋭く細めて、ほう……と小さく呟く紫陽花に、美雪は、私は、と言の葉を紡いだ。
「少なくとも私は、長き間、自分より若い者が命を散らすのを見て来たあなたの、その思想は否定せぬ」
(「いや……」)
 軽く頭を振りモフモフ小動物達に霧亥の傷を癒させながら、軽く髪を弄る美雪。
「私の場合は、出来ない、と言う方が正確かも知れないがな」
「美雪……アンタ……」
 その美雪の言の葉に。
 思い当たることがあったのであろう、響が悟った様な呻きを上げた。
「美雪さん……」
 同じく雅人の護衛に当たっていた奏が微かに気遣わしげな視線を美雪に投げかけると、美雪が大丈夫、と言う様に軽く頭を縦に振り、だが、と言の葉を紡ぎ続けた。
「影朧が過去に囚われし存在であり、大なり小なり破滅しか齎さん存在である事は、あなたにもよく分かっている筈だ」
『ああ、その通りだ。それ程までに影朧とは不安定で脆い存在だ。故に私は、そもそも影朧達を生み出さない世界……黄泉がえりの世界を望み、そしてその為の技術革新を推し進めるための戦いを望んでいる』
 じゃらり、とその首に嵌められた黒鉄の首輪を右手でそっと撫でて確かめながら。
 既に無き左腕から滴る血を抑える様に応急での止血をしながら、義透の時間凍結の結界に動けずにいた自らの影朧甲冑をただ、己の意志を通すと言う意志のみで稼働させ続ける紫陽花。
 そこにある悲壮なまでの決意を美雪は反射的に読み取り、思わず鋭くその目を細めて、紫陽花を見つめた。
「……あなたは何故、帝都桜學府の人間が紫蘭さんを見捨てようとしたのか、その理由を、知っているのか?」
『ああ……そうだ。あれは、紫蘭を……あの娘を再び自分達の元に連れ戻すために、大規模な戦力を影朧達が投入する為、そうなった時に自分達の力では、紫蘭は愚か、人々を守る事さえ出来なくなる……そう帝都桜學府の上層部が判断したからだ。……君達、超弩級戦力との接触が、まだ、そこまで当たり前ではなかった頃の話でもある以上、其れは当然の措置であろう』
 その、紫陽花の呼びかけに。
「僕達超弩級戦力の存在が、きちんと認められていなかったから、ですか……」
 瞬が引っ掛かりの様な何かを覚えて微かに眉を顰めつつ呟くその間にも、祥華の怨龍の牙が紫陽花の甲冑を喰らい、その体を更なる傷に蝕んでいく。
 その傷痕も癒える時間が訪れる間もない程に損傷した自らの影朧甲冑を微かに微笑みを浮かべて見つめてから、さあ、と紫陽花が刀を構え、その動きをトレースした影朧甲冑が、ギチギチと錆びた機械の様な音をあげながら、其れに応じて刀を八相に構え直していた。
「最期まで我を通すつもりの様ですね。それでしたら、私達も最後までその我を押し通す……それだけです」
 八相に構えた刀の動きを見つめながら、ポツリと瑠香が呟き、物干竿・村正を下段に構え。
「少しお喋りが過ぎましたね。そろそろ最後の決着と行きましょう」
 そう呟き、ウィリアムが『スプラッシュ』を上段に構え直し。
「姫ちゃん、こっちは後は、田中さんと私だけで大丈夫だよ!」
「あお……ありがとう」
 葵桜のそれに短く頷き、姫桜が二槍を腰だめに構え直した。
「この戦いで、今までの貴方の全てを削ぎ落して、もう一度、生まれ変わるのよ!」
 その、叫びと共に。
 真紅の瞳から血の涙を零した姫桜の二槍が、黒と白の波動を纏って鋭く解き放たれ、影朧甲冑の右腕を穿ち。
『いりゃぁぁぁぁぁっ!』
 絶叫と共に振り下ろされた紫陽花の影朧甲冑の一太刀を、瑠香がぎゃりぎゃりぎゃり……と氷で強引に繋ぎ止められていた物干竿・村正の刀身の背の部分でギリギリまで受け流しながら破魔の力を込めた神速の一突きを解き放ち。
「断ち切れ! 『スプラッシュ』!」
 瑠香の物干竿・村正が紫陽花を貫いた直後、耐久の限界を迎えてパリン、と硝子細工が割れる様に折れた音を皮切りに、ウィリアムが大上段に構えていた『スプラッシュ』を袈裟に一閃。
 氷の精霊の力が凝縮された凍てついた袈裟の一閃は、既に傷だらけの紫陽花の影朧甲冑の右肩から、左脇腹に掛けてをかち割る様に叩き斬っていた。
 影朧甲冑の内側から、ウィリアムの放った一閃による氷塊がビキビキと根付いて甲冑の全身を凍てつかせていく、その間に。
「行け、篁臥。俺は……もう一度、アレを使ってみる」
 そう告げた紅閻に応じて嘶きを上げた篁臥が甲冑の喉元に喰らいつき、更に紅閻が懐から取り出したスクロールをパラパラと広げていく。
「ひらけ……ごまっ!」
 その叫びと、共に。
 あらゆる状態異常や、精神的な症状を改善するための魔法や祝詞を備えた巻物が淡い輝きを発し、そこから溢れ出した無数のスクロールの文字が、呪詛の様に紫陽花と、その影朧甲冑の体を締め上げていく。
「……響」
「ああ、分かっているよ!」
 静かに呼びかけてきた紅閻に頷き、夫を模したゴーレムと共に、腰を深く沈みこませた響が、真正面から影朧甲冑の鳩尾……パイロットである紫陽花のいるその場所でもあるそこに正拳突きを叩きこみながら。
「奏! 瞬!」
『はい、母さん!』
 叫ぶ響の呼び掛けに応じた奏と瞬が同時に頷き、奏がシルフィード・セイバーを振るって風を割った真空波を叩きつけ、更に瞬の疾風の如き一閃を思わせる刃が、影朧甲冑を断ち切らんと襲い掛かった。
 響・奏・瞬の一糸乱れぬ連携攻撃は、ミハイルのRPG-7V2や陽太の刺突、そして霧亥の千の殺気に串刺しにされて既に半ば案山子と化していた影朧甲冑の、パイロットを守る最後の防壁を割り砕き、引き裂いた。
 その装甲の罅が瞬く間に全身に広がっていき、どしん、と遂に限界が来たか、紫陽花の影朧甲冑がスクラップと化してその場に崩れ落ちるが、その搭乗者である紫陽花本人は、逃げることも出来ず……否、せずにただ、全てを見通すかの如き鷹の様に鋭い瞳で『世界』を見つめている様に、その時の統哉には見えたのだった。


「統哉くん……!」
 葵桜が必死に叫ぶ。
 まるで、何かを統哉に託すかの様に。
 そして、統哉と共に雅人を守る、奏達に何かを願うかの様に。
 その、葵桜の呼び掛けに。
「ああ……分かっている」
 統哉が静かに頷き、奏が、その戦いの行く末を、その果てにある何かに思いを巡らすかの様に紫陽花の視線を真正面から受け止め、凍り付いた表情と化していた、雅人へと視線を向けた。
「雅人さん、此処まで追い詰められたにも関わらず、まだ尚あなたの前に立ち塞がる紫陽花さんは、きっと、あなたには大きすぎる壁なのでしょう、と私には思えます」
 その、奏の呼び掛けに。
「……」
 雅人は何かを答える様子もなく、その手にある退魔刀と、その胸に差した羽根と、その胸につけた帝都桜學府の徽章にそっと無意識の内に触れていた。
 その様子を横目で見やりながら雅人の左隣に立ち、雅人を守る様にしていた統哉が、紫陽花に対して俺にとっては、とひどく透明感のある声で呼びかけている。
「転生は、間違いなく希望で、救いだよ、俺にとっては。……俺には、俺の故郷で災魔になった親友を、ただ、倒す事しかできなかったから」
 その、統哉の告白に。
「……っ!?」
 再び姿を消す様に後退しようとしていた敬輔が、思わず目を見開いていた。
 ――統哉が……災魔と化した親友を……殺していた……?
 それは、自分達に会う前の話なのだろうか。
 それとも……?
(「だが……だとしたら……?」)
 自らの瞳と心を覆いつくす絶望に戸惑いが生まれ、まるで突然頭を殴りつけられた様な、そんな衝撃を感じながら。
 戸惑いに揺れる敬輔の漆黒の闇の如き輝きを伴ったその瞳をちらりと横目で見やって認めてから、統哉はそうだね、と不意に酷く優しい微笑を紫陽花へと向けた。
「紫陽花、貴方にとってこの戦いが弔いだったのは、間違いない。でも……いや、だからこそ俺は、願い、祈るんだ」
 今は葵桜達によって安全地帯へと運び出された兵士達の亡骸や、気絶した兵士達の痕跡を、穏やかに見回す様に見つめながら。
「戦場に散った彼等の、そして、貴方の魂が救われる事さえも」
 予期せぬ統哉の、その言葉に。
『私の魂が救われる……だと?』
 血の泥濘に身を浸し、影朧甲冑と共に死んでいく自らの体を思いながら、紫陽花が問いかける。
 祥華が、成程のう、と小さく囁く様に呟いた。
「紫陽花、おぬし達の弔いと言う身勝手な所業によってなされる凶事によって生まれる罪、即ち、この場を創りし者達の全ての想いを踏み躙る事、そしてそれを消し、滅ぼす事……その罪はこのままでは決して消える事はないであろう」
 仮に『黄泉がえる』にしても。
 今世で既に罪人と化した、その手を他者と自らの血で汚した彼のその魂は、そのままでは決して癒されることも、浄化されることも無い。
「それは、世界の理のみならず、この世界の全てを否定し滅ぼす事にも等しい。それをおぬしは是とするのか……?」
『……言ってくれるな』
 頭が、重い。
 既に流れ出た血の量は夥しくて、思考がまともに回らなくなってきている。
 そんな瀕死の紫陽花に俺は、と統哉が静かに続けた。
「貴方のその輪廻の先で、いつかまた出会えることを願い、祈っている。……雅人、君はどうなんだ?」
 その、統哉の呼び掛けに。
「……僕は……」
 雅人が静かに呻く様に呟き、それから自らの前に立つ紅閻とその紅閻を守る様に寄り添う篁臥をちらりと見やった。
「紅閻さん、貴方は僕に、さっき聞いたね。僕が紫陽花さんを如何したいのか、と」
 その、雅人の確認に。
「ああ……そうだな」
 紅閻が静かに頷き、そのままその指に嵌め込まれた色褪せた指輪を見やる。
 血に塗れた錆びたその指輪の向こうに靄がかったままの『彼女』の姿が薄くぼんやりと見えた気がした。
(「守れなかった筈の、『彼女』」)
 でもそれは、本当は、『守らなかった』
 のではないのかと言う疑問が、今までとは異なりその脳裏を掠めていく。
 気のせいの様で気のせいで無い何かを感じながらそう呟く紅閻に、それなら僕は、と雅人が呟いた。
「……僕も、柊さんと同じく紫陽花さんを……あの方を『止めたい』。そう、思う。そう、それが……」
 ――『紫陽花』と言う人の、『死』を意味することだとしても。
 そこは言の葉として出すことは出来なかったけれど。
 それでもその意図を察したのであろう統哉がそれならば、とそっと雅人に向けて左手を差し出す。
『宵』の大鎌は、雲の隙間から差し込む陽光の様な淡い太陽色の輝きを伴い、それを一筋の線とした煌めく光をその刃に蓄えている。
 ――ドクン。
 急速に暁音の体を焼き付くす様な、マグマの泥濘に突っ込まれたかの様な灼熱感が薄れていく。
 押し寄せる波の様な灼熱感の代わりに、今暁音の体を絶え間なく襲い続けているのは、火傷の時の痛痒の様にじわじわとその身を苛む、焼かれる様な、そんな痛み。
(「これは……この痛みは……」)
「おい、どうしたよ、暁音?」
 先程とは違う種類の苦痛に一瞬、その顔を歪めてしまったか。
 暁音の様子が少々おかしい事に気が付いたか、ミハイルが一応、と言う様に呼び掛けるが、暁音はなんでもない、と軽く頭を振った。
「そうかい。まっ……もう殆どミッション自体は完了している。別にアンタがどんな痛痒を感じていても、どうせ時が流れれば癒えるから構いやしないと言えばしないんだが……何かあったら、まあ、一応言ってくれや。これでアンタのこの船が墜落、なんてことになったら笑い話にもなりゃしねぇ」
 冗談とも本気ともつかぬミハイルのそれに、暁音が思わず微苦笑を零した。
「それは、大丈夫。そもそも俺には、まだやり残していることがあるしね」
 そう告げて。
 星具シュテルシアを錫杖形態にして、松明の様にして、ゆっくりと星の船を地表へと近づけるその間に。
 統哉が、雅人に差し出した左手を、雅人は何かを決意する様に握り返し、それから退魔刀を抜刀した。
「手伝ってくれるんだな。ありがとう、雅人。これで、俺達は戦場に渦巻く数々の無念を……想いを、払うことが出来る」
 その、統哉の呼び掛けに。
「ああ……終わらせよう、今度こそ」
 雅人がそう呟き、抜刀した退魔刀を一閃し、統哉もまた、太陽の如き輝きを伴った『宵』に弧を描かせて死にゆく紫陽花の心の中にある、部下達や娘への悔恨、世界への憎悪……そう言った『邪心』を一閃する。
 その一閃と同時に紅閻が、紫陽花とその影朧甲冑を束縛した呪の書き込まれたスクロールを再度高らかな声で読み上げた。
 読み上げられたスクロールに書き込まれた呪が、影朧甲冑と、そこに纏われた影朧の呪い……どす黒い蒸気と、紫陽花の首に掛けられた黒鉄の首輪を融解させ。
 統哉と雅人の一閃が、彼に残された邪心を叩き切る。
 影朧甲冑との繋がりと、自らの絶望を断ち切られ、それでも最期の力を振り絞って刀を構えようとする紫陽花に。
「ケジメは、つけさせて貰います」
 そう呟くと共に、瑠香が折れた物干竿・村正を突き出した。
 突き出された折れた妖刀が。
 紫陽花の体を貫き、続けざまに放たれた六十五の目にも止まらぬ斬撃が、紫陽花の体を細切れに切り刻む。
 瑠香の斬撃に、その身を切り刻まれながら。
 義透の生み出した時間を凍結させる、その檻の中で。
『これで……良い……これ……で……』
 そう呟いた、紫陽花の言葉を耳に残すことが出来た者は、誰もいなかった。


「……ようやく終わった様ですね」
 ウィリアムが重い息を吐きながら、ポツリとその言の葉を紡ぐ。
「ええ、そうですね。これで、このミッションは完了です」
 ネリッサがウィリアムのそれに同意する様に頷きながら、愛銃をホルスターに収め、小さく呟いていた。
(「全ての物事には終わりがある……正しく世の理ですね」)
「呆気なかった……と言うには、流石に此方の被害も少なくなかったか」
 ネリッサの、その心の呟きを耳にしていたのだろうか。
 影の様に姿を現し、静かに黙祷を捧げて息をつく霧亥の呼び掛けに、そうですね、とネリッサが小さく頷きを返した。
 そんな、ネリッサの頷きに応じる様に。
「ですがネリッサさん。『彼等』……まだ生きていた者達は、幸いにも生き残ることが出来ました」
 灯璃が小さく言の葉を紡ぎつつ、手を振りながら此方へと近づいて来る葵桜とそのお気に入りの田中さん、そしてその更に向こうから姿を現した機械腕付きの無数の車両群が姿を現すのを指さしていた。
「お~い、灯璃さん、ネリッサさん! 私達の方はきちんとあの人達を守り切りましたよ~! 応急手当も済んでいるから、生きている人達は一命をとりとめましたよ~!」
 ひらひらと振っていた手を三角形にして、拡声器代わりにして。
 ワイワイと大声を上げて、生者達の無事の生還を報告する葵桜に、姫桜と瞬が思わず微苦笑を零していた。
「……終わったか……」
 陽太もまた同様にポツリと呟きながら、能面の様に嵌め込まれていた白のマスケラを解除し、表情を和らげて安堵を混ぜて肩を竦める。
「雅人さんも、皆さんも……無事で何よりです」
 雅人を守り切った、と言う達成感からか安堵の表情を浮かべてそう呟く奏の背を、頑張ったね、と言う様にバシン、と叩く響。
「ふむ、一先ず事件は解決した、と見て良いなんしか?」
 やや訛のある花魁言葉で。
 そう告げる祥華に、ああ、と紅閻が静かに頷いた、丁度その時。
 瞬達の傍に空中を浮遊していた『星の船』が着陸し、その甲板から暁音とミハイルが下りてくる。
「まっ、取り敢えずこれでミッションコンプリートって所じゃねぇの?」
 ミハイルがやや投げやりな敬礼と共に、ネリッサに肩を竦めて見せると、ネリッサがそれに頷き同じくミハイルに敬礼を返す。
 その間に。
 暁音が疼く様な鈍痛を共苦の痛みで敏感に感じ取りながら、星具シュテルシアに星色の輝きを伴った錫杖形態をとらせて天に掲げながら、新たな祈りの呪を紡ごうとしていた。
「うん……? 暁音くん……?」
 何処か神々しい儀式を行おうとしている様な暁音の様子に葵桜が気が付き、ばさり、と桜舞花を広げるのと、ほぼ同時に。
『降り注げ金色(こんじき)の雨、大いなる慈悲をもちて慈雨となれ、蝕まれし大地に祝福を、命の息吹を齎せ、走れ魔法陣、輝け、星命の灯……』
 暁音がその呪を紡ぎ始め、それに合わせて葵桜が舞う。
 それが神に捧げられる雨乞いの祈りと、神楽舞である事に気が付いた祥華がふむ、と柔和に微笑み、しゃん、しゃん、とそれに合わせる様に粛々と独神に捧げる舞を舞い始めた。
 捧げる神も、その方法も其々に異なれど。
 其々に思いを込めてそれを舞い、歌う彼等の様子に義透が思わず目を眇めた。
「これは皆さん……無事に成仏できそうですねー」
 のほほん、とした調子で呟く義透のその言葉が届いたかの様に。
 暁音の星具シュテルシアの先端から光線の様に光が天へと伸長し、陽光と幻朧桜の桜吹雪と共に。
 星色の輝きを伴った光の雨がシャワーの様に降り注ぎ、荒れ果てた墓と大地を清めていく。
 それは、荒れ果てた植物の成長を促進し。
 その地に漂い続ける統哉と雅人が浄化しきれなかった暁闇を払う星の光と化した。
(「これは、これは……気を付けないと浄化されてしまいそうですねー。まあ、私……我等を創り、育みしそれは……」)
 自らの憎悪と復讐の念であり、霊力であれども。
 そんなことを思いながら好々爺の風情で大地が浄化され、墓石が修復されていく様を義透が見つめている、その間に。
 ひょこひょこと小動物の影が蠢き、トトトトトッ……、とそれが美雪に接近してくる。
 そのもっふもふの黒猫の首に、首輪の様に巻かれた手紙に気が付き、美雪が漸くか、と疲れた様に息を吐いた。
「事件はひとまず解決したが……竜胆さんから見た紫陽花さんがどの様な人だったのかは、一応知っておくか」
 そう思い。
 美雪が小動物に巻かれた紙を丁寧に取り、ゆっくりとそれに目を通していく。
(「これは……」)
 竜胆から見た紫陽花の人柄は、大まかには雅人や柊が抱いているのと同じ印象ではあったが……思わぬ一言が、そこには記載されていた。
『彼は、私にとっては同胞でした。帝都桜學府内にいるであろう、スパイ達を炙り出すための、同胞です』
 ――と。
「まさか、な……」
 背筋を伝っていく冷や汗を誤魔化す様に拭って頭を振り、美雪が、茫然自失の表情を浮かべている敬輔を見る。
 その表情に絶望と、困惑の2つを滲ませた敬輔を。
「これも、復讐と闘争に、過去と絶望に囚われた奴の末路……か」
 でも……ここはダークセイヴァーではなく、サクラミラージュ。
 故に、それが『救済』となる可能性を最も体現できる場所でもあった。
 ただ……それでも。
 それでも……。
「雅人。お前は、希望を、未来を紡げ。紫陽花の様な結末が訪れるのを回避する、そのために」
 その敬輔の言の葉に。
 瞬が憂い気な表情を浮かべて敬輔を見やり。
「大丈夫だ、敬輔。きっと未来は……希望は何時か、必ず訪れる」
 統哉が静かに敬輔に伝え、そっとその肩を叩く。
 その様子を複雑な表情で陽太が見つめていた。
 ――明けない夜は訪れぬ。
 けれどもそれがいつ訪れるのかを知る者は、この場には、誰もいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月29日
宿敵 『幻朧将校』 を撃破!


挿絵イラスト