揺蕩うシャボンの夢路
●言葉の果て
浮き連なる大きな岩々。
そのひとつの岩の上で、ひとりの少女は目を覚ます。
「……ここは?」
大きな青い瞳を瞬いて、彼女は不思議そうに小首を傾げた。
吹く風は強く、体温は奪われてしまったのかすっかり冷え切っていた。ほうっと溜息を零せば、一応自分に命があることを改めて実感する。
先程まで、神殿に居たことは覚えている。
何時ものように朝起きて、お祈りをしていたのだ。そう、そこまでは覚えている。突然背後から声を掛けられた気がするけれど、何を言っていただろう?
記憶はそこで途切れており、気付けば知らない土地に放り出されていた。
頭を押さえ、記憶を辿る。確か最後に見たものは――。
「……黒い、渦」
視界を覆った暗黒を思い出し、少女は瞳を見開く。
そう、あの渦が視界を覆ったかと思えば意識は途切れ、此処に来ていた。
高い空は澄み渡り、辺りには数多の岩が浮かんでいる。高度はかなりあるようだが、特に人体に影響のあるようなものは無いようだ。その事実には安堵の息を零し、ではどうやって帰ろうかと。何故此処に来てしまったのかと考えていると――。
『あなたは神を信じますか?』
突然の声に驚き、振り返る。そこには、淡い笑みを浮かべる同じ年頃の少女が立っていた。淡い桃色の髪に清潔な身なり、その言動から同業者なのだとは分かるが――。
「……っ」
その淡い笑みが、なんとも不気味に感じた。
きゅっと唇を結んで、少女は身体を震わせる。何の神を信仰しているか、それを語ってしまっては危険だと。自分の身体が警告している。
『あら、何も語れませんか? あなたは言葉に愛されなかったのかしら』
どこか挑発するように語るその口ぶりは、全て見透かしているかのようで。震えが増す身体を抱き締めれば、目の前の少女は細い手をかざす。
ぷかり、ぷかりと。
浮かぶシャボン玉だけが、どこか平和な空間を彩っていた。
●シャボンに乗って
「皆さん知っていると思いますが、平和になった各世界で再び敵の動きがありました」
ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は真剣な色を苺色の瞳に宿し、集う猟兵達へと言葉を零す。各世界で始まった猟書家の侵略は、少しずつだが確かに進行している。その目論見を阻止してきて欲しいと、ラナは語った。
「今回、皆さんに向かって頂きたいのはアックス&ウィザーズ。以前大きな戦いを行った、群竜大陸の中の『浮遊岩諸島』です」
数多のエリアに分かれる群竜大陸だが、その地によって特殊な性質を持っていた。今回向かう地は、名前の通り数多の岩が浮いている場所だ。
「ただ、ですね。クレリックの女性がいる場所は、かなり高い所にあって……」
普通では、辿り着けないのだという。
何かしらで己の飛行手段を用いることも不可能では無いかもしれない。だが、未知の地である群竜大陸では何が起きるか分からないので、避けたほうが良いだろう。
それならば、その手段は――。
「この場所にはですね、可愛いクジラさんがいるんです!」
突然、ラナは瞳をキラキラと輝かせて猟兵達に語りだす。
そのクジラはまん丸なフォルムで愛らしい見た目をしていると言う。陸地でも生きられるようになった彼等は、基本的にはごろごろと転がって過ごしているといるのだが――嬉しいことがあると、背中から大きなシャボン玉を作るという特性を持っている。
「シャボン玉なんですけど、かなり丈夫みたいで。そのシャボン玉に乗れば、きっと目的の所まで連れて行って貰えると思うんです」
だからまずは、彼等と仲良くなるように頑張って欲しいとラナは語った。
クジラはかなり臆病な様子。普段は人など立ち入らない地なので、猟兵の姿を見れば怖がって震えてしまうだろう。けれど、害が無いのだと伝えてあげればきっと大丈夫。仲良くなることが出来れば、自然とシャボン玉を作り送り出してくれる筈だ。
仲良くなる手段は何でも良い。友好的に接すれば、基本は穏やかな性格なので問題無く仲良くなることが出来るだろう。見た目はクジラだが雑食のようなので、何でも美味しく食べてくれるだろう。
「シャボン玉に無事に乗れれば、あとは戦いです。まずは神龍教派のクレリック達との戦いを。彼女達を倒せば、しびれを切らしたボスである少女が現れます」
少女の名前は『眠りの森の魔女ターリア』と云う。眠りの呪いを操る彼女は、数多の呪いを用いて猟兵達を襲うだろう。――幸せな眠りで夢に捕らえ。悪夢で心を蝕み。失った記憶で全てを無くす。そんな、恐ろしい魔法を扱うのだという。
「大切なのは心です。心を強く持って立ち向かえば、きっと突破出来る筈です」
皆さんならば大丈夫ですと、信頼を込めた笑みを浮かべてラナは紡ぐ。
敵の目的は、攫ってきたシャルムーン神のクレリックである少女を殺すこと。彼等は命尽きる時に『破邪の言葉』を放つとされており、その言葉を利用して群竜大陸に隠された何かを見つけ出そうと考えているようだ。
「それが何かは、分かりません。けれど、その為に人を殺めるなんて……」
それは、阻止してきて欲しいとラナは祈るように言葉にする。
クレリックを守ることが、猟書家の進行を阻止することにも繋がるだろう。少女を護りつつ配下を全て倒し、ボスである少女をこの場から退ける。一先ず出来ることはそこまでだが、世界を守るうえではとても大切なことだろう。
よろしくお願いしますと、最後に言葉を添えてラナは猟兵を送り出す。
これはまだ、新たな戦いの始まりの一幕――。
公塚杏
こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
『アックス&ウィザーズ』での幹部シナリオをお届け致します。
●シナリオの流れ
・1章 集団戦(神龍教派のクレリック)
・2章 ボス戦(眠りの森の魔女ターリア)
●舞台『群竜大陸、⑩ 浮遊岩諸島』
浮遊する巨岩群の密集地。その浮島のひとつが舞台です。
戦場として困らない広さがあり、地面も平坦で草が生えています。
辿り着けさえすれば、戦闘に支障はありません。
●シャルムーン神のクレリック『アニエス』
15歳くらいの少女。金色の髪に青い瞳。
大人しく真面目で、幼い頃から信仰深い子です。
基本的には後ろのほうで、震えながら猟兵達の活躍を眺めています。無茶や突飛な行動はしません。
●1章について
まずは浮島に辿り着く為に、現地にいる奇妙な生物と交流をして下さい。
仲良くなれば目的の島へと辿り着けます。
・奇妙な生物『しゃぼんくじら』
まんまるで円らな瞳をした小さなクジラ。
大体抱きかかえられるくらいのサイズです。
少し臆病で最初は警戒します。温もりが好きで撫でられるのが特に好きです。
嬉しいことがあると背中から、潮の変わりにシャボン玉を作ります。
●2章について
敵を倒せば、ターリアは現れます。
攻撃したUCによって以下の展開になります。
それぞれどんな内容で、どのように脱出するか、克服するかを考えて頂ければ。
POW:眠りの森の迷路に踏み入れると『幸せな夢』を見ます。
SPD:眠りの茨に触れると『悪夢』を見ます。
WIZ:『大切な人』の記憶を奪われます。
●その他
・1章は交流重視のお遊び。2章は心情重視で描写予定です。
・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
・どちらかだけの参加も大丈夫です。
・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。受付前に頂きましたプレイングは、基本的にはお返しさせて頂きますのでご注意下さい。
以上。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
第1章 集団戦
『神龍教派のクレリック』
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POW : 信仰心の証明
自身の【神龍教への信仰心】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD : 神罰の吐息
【天から降り注ぐ聖属性の突風】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に神龍教徒のみに及ぼす加護が満ち溢れ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ : 神龍降臨の儀
無敵の【神龍】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
イラスト:善治郎
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●虹色舞う
晴れ渡る空の下、数多浮かぶ岩々。
その岩を見上げるように、ひとつの地でころりと転がるまん丸が居た。
『きゅぅ~』
どこか楽しそうに鳴き声をあげると、彼は涼やかな冬の近付く風を感じ瞳を細める。そのまま、どこか寒そうにぷるぷると震え出した。
『きゅぅ』
別のまん丸が彼の様子に気が付くと。ぱちぱちと瞳を瞬いた後、ころころと転がりそのまままん丸へと近付く。きゅっと身体を寄せ合えば、互いに心地良さそうに瞳を閉じた。
まん丸だけれど小さな尾とヒレをパタパタと動かして。楽しげに鳴き声をあげながら彼等――クジラのような生き物達は、水の無いこの地で楽しそうに過ごしている。
ある者は身体を寄せ合って。またある者は野に咲く花をはむはむと食べて。木の実が食べたいのか木の下でぴょんぴょん跳ねる者も居れば、ころりと転がると、そのまま岩にぶつかり痛そうに震えている者も。
淡い水色を身体に宿した彼等は。此処、浮遊岩諸島のひとつの浮島に生息する特殊なクジラ。水の中でも草の上でも過ごすことが出来るようになった彼等は、どこか呑気に草むらで転がっている。
かつてはオブリビオンに支配されていたこともあったが、平和となった今は何ともフリーダムで。仲間と共に過ごせるひと時を満喫しているのだろう。
ぷかり、ぷかりと。
どこからか浮かび上がるシャボン玉が、そんな彼等を優しく見守っていた。
花澤・まゆ
陸でごろごろしてるクジラさん!
想像しただけでも可愛い!
でも、実際見ると超可愛いー!!
あまり叫ぶと怖がっちゃうからね、静かに心の中で叫ぶよ
仲良くなる作戦として、お花を帝都で買ってきたんだ
クジラさんはお花とか好きかな?
いい匂いがするんだよ、甘い蜜もちょっと舐められる
どうかなあ?
お花を差し出して、仲良くなれるか様子を見ます
もし気を許してもらえそうなら、一度だけなでなで
かわいい…(ほわり)
うまくシャボン玉に乗れたら、アニエスさんを助けに上へ!
シャボン玉に突風が当たったら、飛び降りながらUC起動
【空中戦】も利用し敵に衝撃波をお見舞いするよっ
えいえい!
アドリブ、絡みなど歓迎です
●
さわさわと吹く風が、花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)の肌を撫で艶やかな黒髪を揺らす。その涼やかな空気の中で、彼女の心に宿る想いは温かなもので。
(「陸でごろごろしてるクジラさん! 想像しただけでも可愛い!」)
まん丸で小さなクジラだと話には聞いていた。言葉だけで可愛いと思っていたけれど、いざ目の前にしてみればそのシルエットは思ったよりもまん丸で。パタパタと小さな尾とヒレを動かす様はどこか懸命に見えて、心がほっこりするよう。
(「実際見ると超可愛いー!!」)
大きな瞳をキラキラと輝かせて、心の中でまゆは叫ぶ。
彼等は臆病な性格だと聞いていた。人の住まないこの地では、人の姿すら怖がるだろう。そこに大きな音が合わされば、ぷるぷると震えて心を開いてはくれなくなってしまう。だからまゆは心の中を震わせながら、そうっと静かに彼等へと近付く。
ひとつ、ふたつ。深呼吸をして、ヒールの音をなるべく立てないよう、柔らかな草を選んで踏みしめる。草にじゃれつくように身を寄せるクジラの元へと辿り着くと、そうっとまゆはその場でしゃがみ込み。
「クジラさんはお花とか好きかな?」
挨拶を零しつつ、ひとつ問い掛けた。
不思議な声に気付いたクジラは、『きゅう?』と不思議そうな鳴き声をあげながら、まゆの存在に気付き円らな黒い瞳を向けてきた。彼女の存在を捉えると、驚いたようにまたひとつ鳴き声を上げて、微かに身体を震わせる。
その姿にまゆの心はちくりと痛むけれど――大丈夫、心を込めて接すれば。そう自分に言い聞かせて、帝都で買って来た花を一輪、クジラへと差し出した。
淡い春の色、桜色をした花弁は水色を宿す彼の傍に添えば愛らしく。風に乗りふわりと漂うその香に興味を持ったのか、クジラは恐る恐る、ころりと転がりまゆへと近付く。
「いい匂いがするんだよ、甘い蜜もちょっと舐められる」
どうかなあ? 小首を傾げ問い掛けてみれば、クジラは花を持つまゆの手との距離を詰める。じいっと花を見て、そのまま彼ははむりと花弁を口にした。
そのままはむはむと口を動かせば、まゆの指先からも甘い香りがしたのかクジラは彼女の指先を舐めてくれる。――それは心を許してくれたからこその行動な気がして、まゆは少しくすぐったく感じながらも、心に嬉しさが満ちるのを感じていた。
そうっと逆の手を伸ばしても、クジラは逃げない。恐る恐る丸い背に触れてみれば。
『きゅう~』
くすぐったそうに、心地良さそうに、声を上げつつ彼はきゅうっと瞳を閉じた。ぷるぷると尾は震えているけれど、それは先程の恐怖とは違うようで。
「かわいい……」
思わず言葉を零したまゆの眼差しはとても優しく、口許にも綻ぶような笑みが浮かんでいた。優しく撫でれば、彼女の柔らかく温かな手に満足したのだろうか。ぷくうっと泡がクジラの背から生まれたかと思うと、そのまん丸は次第に大きくなり――虹色を映す巨大なシャボン玉が、背から離れ宙を浮かぶ。
ぷかり、ぷかりと緩やかに昇るシャボン玉を見ると。まゆは少しだけ名残惜しそうに手をクジラから離しつつ、そのシャボン玉へと乗った。割れてしまわないか恐る恐るだったけれど、一瞬形が歪んだがそのままシャボン玉はまゆを宙へと運んでいく。
バイバイ――別れを告げ手を振れば、小さなクジラは見えなくなっていく。
戦いへと意識を変えれば、見えてきたのは岩島に佇む人影。
まゆの姿を見つけクレリックはすぐに突風を放つが、まゆは恐れることなく飛び降りると同時に桜の香が広がった。
大成功
🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と
うん、クジラさんだってっ
かわいいねえ
リュカの様子を見守る
話しかけてる姿を見てにこにこ
わたしもっ
びっくりさせないようにしゃがんで小さな声で
はじめまして、わたしはオズだよ
あ、そうだっ
わたしもね、シャボン玉をつくれるんだ
UCもあるけど、今日はこっち
じゃーんっ
シャボン液にストローつけて
ふーっ
きみたちにあえて、うれしいよ
つたわるかな
いっしょにあそぼうっ
作ったシャボン玉を追いかけて
ふふふ、リュカもなかよしだ
おかし?あるよっ
花や動物の形のクッキー出し
みんなでいっしょにたべよっ
たべたい子はおいでーっ
クジラクッキーもみつけたっ
ね、リュカもシャボン玉しようよっ
みんなもいっしょにしたいってっ
リュカ・エンキアンサス
オズお兄さんf01136と
鯨…これが、鯨?
何だか和むね
和むような生物と仲良くなるなんて少し苦手だけど
いつまでもお兄さんに頼ってばかりはいられないから
こわごわ近づいていく
岩にぶつかってるのに、大丈夫?って声をかけたり
?ああ
撫でればいいかな…
こう?
あ、割と手触りいいかも…
はい、すみません、もっと心を込めて撫でます
お兄さんは?
あ、もう仲良くなってる。さすがお兄さんだね
お兄さん、何かお菓子持ってない
いっしょにいただこう
勿論、俺も貰う。…うん、可愛いし美味しい
甘いもの食べると珈琲が飲みたくなるな
お兄さん、いる?
後は、鯨と一緒に遊ぶお兄さんを見ながらのんびり俺も日光浴…
え
わかった。何事も挑戦だ
やってみよう
●
地に転がる青い子達を前にして、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)はいつもどこか伏せがちの瞳を瞬いた。
「鯨……これが、鯨?」
心に想ったことが自然と唇から言葉として零れれば、傍に立つオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は温かな笑顔と共にこくりと頷く。
「うん、クジラさんだってっ。かわいいねえ」
じいっとリュカの視線は、静かにクジラ達へと注がれている。話に聞いた通り、平和となったこの地で彼等は転がったり、何かを食べたりと自由を満喫している様子。その見た目と行動に、何だか和むとリュカは零しつつ決意を決めたように胸元で手を握った。
和むような生物と仲良くなるのは、少し苦手。けれど、いつまでもオズに頼ってばかりはいられないから――ゆっくりと近付く様子は恐々と。そんな彼の姿を、オズは笑顔で見守っている。
クジラ達の中へと入っていけば、視線の先に水色のまん丸がころころと転がり。そのまま大きな岩に勢いよくぶつかる姿が見えた。
『きゅぅ~……!』
声を上げ、ぷるぷると震える。そんな彼の姿を見て、思わずリュカは恐る恐るだった足取りを変え、クジラの元へと駆け出すとそっと近くにしゃがみ込む。
「大丈夫?」
帽子の下で輝く青い瞳が捉えるのは、彼の瞳とは少し違う淡い青色。
かなり痛かったようで、クジラはリュカの声に反応することも恐れることも出来ずその場でまだ震えている。
どうしようかと、一瞬リュカは考えるけれど――撫でればいいかと思い、そっとその手を伸ばしてみる。
「あ、割と手触りいいかも……」
手に伝わるのは、獣とは違う滑らかな手触り。けれど冷たくはなく、どこかしっとりとした手触りは彼が獣でも海の生物でもない、独自の生体なのだということがよく分かる。
興味深そうにリュカが撫で続けていれば。気付けばクジラはじいっとリュカを見上げて何かを訴えかけているかのようで。その円らな黒い瞳を見返してみれば、彼は鳴きながらその身をリュカの手に擦り付けた。
「はい、すみません、もっと心を込めて撫でます」
違う、そうじゃないよ。そんなことを言っていると捉えたリュカは、思わずそう返す。そんな彼の様子を嬉しそうに見守っていたオズが、大丈夫だと察し笑顔で頷いた時――何かが足にぶつかる衝撃を感じ、不思議そうに視線を下ろす。
そこには転がってきたしゃぼんくじらの姿があった。何があったのだろうと、不思議そうに辺りを見るクジラ。オズはその場にしゃがみ込むと、じっと彼を見つめながら。
「はじめまして、わたしはオズだよ」
優しく、優しく声を掛ける。
その声はいつも明るい彼から零れたにしては小さいものだった。それは、臆病者だというクジラが怖がらないようにとのオズの優しさ。不思議そうに声のほうを見上げたクジラは、大きな影に驚いたように瞳を瞬いている。その様子にオズはくすりと笑みを零した。
「あ、そうだっ。わたしもね、シャボン玉をつくれるんだ」
猟兵としての力でも作れるけれど、今日は普通に用意してきたシャボン液とストローで。ちゃぽんと水音が小さく響いたかと思うと、すぐにオズの口許からキラキラと輝く小さな虹色が生まれる。
『きゅぅ~』
ストローから離れ、小さな虹が空へと浮かんでいく。
その様子をクジラはじいっと見つめると、シャボン玉に負けぬ輝きを瞳に宿し嬉しそうに声を上げた。パタパタとヒレを動かしてオズを見つめるその眼差しは、もう怖がってはいないようで。もっともっとと、せがんでいるかのよう。
きみたちにあえて、うれしいよ。その想いを込めたオズの行動はしっかりと伝わったのだろう。いっしょにあそぼうと立ち上がれば、彼等は共にシャボン玉を追い掛ける。
そんなオズがクジラと共に駆ける姿を見て、リュカはひとつ瞳を瞬いた後。
「あ、もう仲良くなってる。さすがお兄さんだね」
口許を和らげながら、そう紡いだ。そのまま傍までやってきたオズに向け。
「お兄さん、何かお菓子持ってない」
クジラを撫でながら問い掛ける彼の姿に、オズは嬉しそうに笑みを零し。問い掛けられた通り花や動物といった愛らしい形をしたクッキーを取り出す。
「みんなでいっしょにたべよっ。たべたい子はおいでーっ」
にこにこと差し出せばリュカは受け取り、すぐ傍のクジラへと欠片をあげた。嬉しそうにもぐもぐと食べる仲間の姿に警戒も解けたのか、辺りのクジラ達もオズの声に釣られるように傍へところころ寄ってくる。クジラに囲まれればどこかくすぐったそうにオズは笑うと、一匹一匹にクッキーを差し出した。
「お兄さん、いる?」
オズのすぐ横にリュカから差し出されたのは、温かな湯気が立つマグカップ。ふわりと鼻をくすぐった香ばしその香りは、よく知る珈琲の香りで――リュカ曰く、甘いものを食べると珈琲が飲みたくなるから。そんないつも通りの彼の姿に、オズは嬉しそうにカップへと手を伸ばし両の手を温める。
冷たい風に身体も冷えていたのだろう。互いに暖を取るように珈琲を口にして、暫しのんびりしようとリュカは思っていたのだけれど――。
「ね、リュカもシャボン玉しようよっ。みんなもいっしょにしたいってっ」
期待に満ちたオズのキトンブル―の瞳。辺りのクジラ達の黒い瞳もキラキラと輝いていて、リュカを真っ直ぐに見つめてくる。
そんな彼等の眼差しを受ければ、リュカは断ることなんて出来なくて。
「わかった。何事も挑戦だ。やってみよう」
こくりと頷くと、オズが差し出してくれたストローを受け取り唇へと運ぶ。
ぷかりと浮かぶシャボン玉は小さなものが沢山。この中に、あと少しで大きな大きなシャボン玉が溢れるのだろう。
――シャボンに乗って、辿り着いた先で星が降るのはもう少し先のお話。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
宵雛花・千隼
…本当に、くじらなのだわ
愛らしい動作を見つめているだけでも満足しそう
あまり普通の生き物に好かれないのだけれど
ワタシでも仲良くなれるのかしら
そうっと音を成さないように、驚かさないように近づき
ごめんなさい、怖い?
ならここから動かないから、大丈夫
寒いのかしら
なら襟巻きをお貸しするのだわ
ふふ、お似合いよ、くじらさん
仲良く、してくださる?
気を許されれば嬉しくなるわ
撫でても良いなら、撫でさせてね
可愛い子、寒いのが苦手なの?それともくっつくのが好きなのかしら
…ワタシもよ、内緒にしてね
しゃぼんが弾ける綺麗な色に微笑んで
――おいで
ぎゅうと抱き締めて頬を寄せる
こんな風に理由もなく素直に甘えられたら良いのに、なんて
●
「……本当に、くじらなのだわ」
小さな淡い水色のまん丸を、片目から覗く橙色に映すと宵雛花・千隼(エニグマ・f23049)は驚いたように言葉を零した。
距離がある為、彼等はこちらには気付いていない様子。ころころと転がり、小さな身体をご機嫌に揺らし、互いにくっつき愛情を確かめる。そんな彼等の姿も動作も愛らしくて、見つめているだけでも千隼は満足しそうだけれど。
彼等と近付きたい。
胸に宿る想いは確かなもので。けれど、普通の生き物には好かれにくいことを自覚している為、自分でも仲良くなれるかと不安が過ぎる。
けれど、この先に進む為にも彼等と仲良くなるのは必須事項。一歩一歩、余計な音を立てないようにと細心の注意を払いながら千隼は一匹のクジラへと近付いた。それは花に寄り添い、風に揺れる草が肌を撫でるのを楽しんでいるクジラ。比較的穏やかそうな彼ならば、仲良くなりやすいかもしれない。そんな仄かな期待を込め千隼は鮮やかな右目で彼を見つめるけれど――視線に気付いたクジラは、びくりと驚いたように反応した。
『きゅ、きゅぅ~……』
突然現れた人影。小さな彼にとっては、人間は相当大きな存在なのだろう。見たことも無い巨大な生物が現れれば、怖がるのも仕方が無い。そう、千隼は想う。
「ごめんなさい、怖い? ならここから動かないから、大丈夫」
一定の距離を取ったまま、その場でしゃがみ込む。大丈夫だと、安心させるように紡がれた声はどこまでも柔らかく、浮かぶ笑みも安堵を与えるよう。
ふわりと優しく吹く風が、千隼の肌を撫で柔らかな白髪を泳がせる。優しいけれど冷たさを宿した風は、千隼だけで無くクジラの身をも撫でていき。その風に吹かれれば、彼は再びぷるぷると震え出した。それは、先程の恐怖による震えとは違うように見えて。寒いのだろうかと想い、千隼は自身の首元を覆っていた白い襟巻を差し出した。
ふわふわと柔らかな手触りで、裾のほうが色付く襟巻が地面に置かれれば。クジラは様子を伺うように覗き込む。けれど温かそうだと気付くと、クジラはころりと転がるとその真ん中へと身を委ねた。
「ふふ、お似合いよ、くじらさん」
ふわふわに包まれたまん丸を見て、思わず千隼は笑みを浮かべ――そのまま「仲良く、してくださる?」と問い掛ければ、温もりをくれた彼女を彼はもう警戒などしない。嬉しそうに一声鳴いて、伸ばされた彼女の手を受け止めた。
そうっと頭を撫でれば、すべらかな心地が千隼の手に伝わる。柔らかく、仄かに温かさを感じるような気がする彼の身体を優しく優しく撫でれば、彼はまた心地良さそうに鳴き声を上げ尾を揺らす。
「可愛い子、寒いのが苦手なの? それともくっつくのが好きなのかしら」
あまりの心地良さに自ら千隼の手に身を擦り付けるクジラ。温もりが好きだと聞いた彼は、この地が寒いから温もりを欲しているのか。それとも誰かと寄り添うことが好きなのか。それは定かでは無いが、仲間と共にくっついている者が多く居る様子を見ると、後者もあながち間違いでは無いだろう。
「……ワタシもよ、内緒にしてね」
だから千隼は微笑むと、そうっと口元に人差し指を添えながら内緒の言葉を紡ぐ。意味は分からなくとも、クジラにも一緒だという彼女の想いは通じたようで。嬉しそうに鳴き声を上げれば、その瞬間背中からぷくりと泡が生まれた。
ぷくぷくと泡は大きくなり、巨大なシャボン玉へと変化すれば小さな身から離れていく。ふわふわと宙を漂うシャボン玉を見遣れば、千隼はその色に微笑み。
「――おいで」
両手を伸ばし、小さなまん丸を細い腕で包み込んだ。
そのまま頬を寄せれば、きゅうっと嬉しそうにクジラも瞳を閉じる。嬉しいと素直に伝えてくれるようにヒレを動かす彼が愛らしくて。
――こんな風に理由もなく素直に甘えられたら良いのに、なんて。
少しの羨ましさを胸に宿し、彼女はクジラと別れを告げた。
大成功
🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【月光】
あんなに高い島、に?
わあパパ!
小さなクジラさんね
本当にとってもかわいいわ!
こわくないわ
おいで~……むう、来ないわね
クッキー!ありがとう
うん、もちろんいいわ
クジラさん?いっしょに食べましょう?
ふふ、おいしいよ
と目の前で食べて見せ、クジラさんにも
近づけたら驚かせないようにそうとなでる
ツルツルしてフシギな感触
あなたはドコをなでられるのが好きですか~?
シャボン玉に乗れるなんて夢みたい
でも少し怖くもあるわ……割れないよ、ね?
思わずパパにしがみついてしまう
……うん安心、する
到着したらアニエスさんの所へ急ぐわ
もう大丈夫、後ろへ
【勇敢なお友だち】で
パパやアニエスさんに近づくクレリックさんを引きはなすわ
朧・ユェー
【月光】
なるほどあの浮いた島に辿り着かないといけないのですね
それにはまず……
ふふっ、ルーシーちゃんとても可愛らしいクジラさんですよ。
触れようとするも少し脅えて近づかない
おや、そういえば
懐から出したクッキー
彼女と食べる予定でしたが
ルーシーちゃんこの子達わけても良いですか?
ルーシーちゃんにもクッキーを渡して
近づいて食べている間にそっと触れ優しく撫でる
ふふっ、やっぱり可愛いですね
彼女を抱き上げてシャボン玉にそっと乗せて
しがみ付く彼女を落ちないよいに傍に
大丈夫、怖くないですよ。
着けば彼女の前に立ち
大丈夫、後ろに隠れてくださいね
ルーシーちゃんはありがとうねぇ
【美喰】暴喰グールが相手の行動を覚えて攻撃する
●
「あんなに高い島、に?」
宙に浮かぶ影を見て、ぱちぱちとルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は左目を瞬いた。そんな彼女の純粋な眼差しに笑みを零すと、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は。
「ふふっ、ルーシーちゃんとても可愛らしいクジラさんですよ」
視界の先で転がる淡い水色を見て、そう言葉を掛けた。彼の言葉にルーシーは空から視線を下ろすと、空と同じ色を宿す彼の姿にキラキラと無垢に瞳を輝かせる。
「わあパパ! 小さなクジラさんね。本当にとってもかわいいわ!」
まるで見て見てと語るように、ルーシーはユェーの服の袖を握り軽く引っ張る。そんな幼い彼女の行動に微笑ましく思いながら、ユェーはすぐ傍に居る小さなまん丸へと手を伸ばしてみるけれど――臆病だという彼は残念ながら逃げるように転がってしまった。少し残念そうに眉を寄せ、ユェーは笑みを零す。
彼の隣で、ルーシーも一歩踏み出すと。視線を合わせるようにしゃがみ込み両手を伸ばし、こわくないとアピールするけれど。クジラ達はじいっとこちらを見つめるだけ。
「おいで~……むう、来ないわね」
頑張って小さな手を伸ばし、手招きするように振ってみるけれど。警戒する彼等は少しだけ興味は持っているようだが動かない。そんな彼等に、ルーシーはどうしようかと悩むように唇を小さく尖らせる。
その姿が愛らしいと思いつつ、ユェーはそうだと何かを思い出した。
彼の言葉にルーシーが不思議そうに見上げていれば、ユェーの懐から出てきたのはきつね色のクッキー。その現れた欠片にルーシーは不思議そうに小首を傾げるけど。
「ルーシーちゃんこの子達にわけても良いですか?」
一枚、ルーシーへと手渡しながらユェーは問い掛ける。
本当は、少女と共に食べる予定だったけれど。いまだ警戒する彼等と仲良くなるのは、この手段が良いと思ったから。その意図はルーシーにも伝わったようで、彼女はクッキーを受け取りながら瞳を輝かせ大きく頷く。
「クジラさん? いっしょに食べましょう?」
そのまま彼女は辺りのクジラを見て、まずは自分がそのクッキーを一口。
パキリと砕ける音が響けば、クジラ達は興味深げにじいっとルーシーを見つめている。もぐもぐと口を動かせば、広がる小麦の香りとジャムの味わいに幸せそうに少女は頬を押さえる。彼女の横でどうですか? とユェーがクッキーを差し出せば、一匹が恐る恐るとだがこちらへと近付いて来た。
匂いを嗅ぐように顔を寄せ、ぱくりとクッキーを口にする。
もぐもぐと口を動かす彼の様子を、じっと見つめるルーシーとユェー。このクッキーが、互いの仲を深めてくれると信じているけれど――。
『きゅぅ!』
上がる鳴き声は甲高く。ぷるぷると震える身体は寒さでは無く、きっと嬉しさの表れなのだろう。パタパタ揺れる尾と共に、もっともっととせがむように彼はユェーへと顔を寄せる。仲間のその様子に、大丈夫なのだと察した他のクジラ達も段々と寄ってきた。淡い青に囲まれれば、ふたりは顔を見合わせ笑みを零し合うと、クッキーを分けていく。
もぐもぐと食べる彼等はすっかり警戒が解けたようで。手を伸ばしても恐れない。
「ふふっ、やっぱり可愛いですね」
「ツルツルしてフシギな感触」
零れる笑みでユェーが零せば、ルーシーはまじまじとクジラを見る。
獣らしい毛の感触では無く、海の生物らしい滑らかな触り心地。けれど冷たくはなく、陸で過ごせるよう独自の構造をしているのだろう。興味深げにルーシーはクジラを覗き込むようにその身をかがめると。
「あなたはドコをなでられるのが好きですか~?」
尋ねながら、小さな手を動かす。
背中、頬の辺り、ヒレの部分。様々なところを撫でてやればどこも心地良さそうに瞳を細めるけれど、一際嬉しそうに震えたのは尾の付け根。温もりを分けるようにルーシーがクジラを撫で続けていると――突然、その背にぷくりと泡が生まれた。
ぷくり、ぷくり。
泡は次第に大きくなり、虹色を宿すシャボン玉へとなる。
小さなクジラが生み出したとは思えぬほど大きくなれば、シャボン玉は自然とクジラの身体から離れぷかりと宙に浮かぶ。
「わあ……!」
その様子にルーシーは大きな瞳を輝かせ、浮かびあがるシャボン玉を視線で追う。すると突然、大きな手が触れたかと思うと小さな彼女の身体を持ち上げシャボン玉へと乗せてくれた。すぐに彼女を抱えるように、同じシャボン玉へと乗るユェー。ぷかり、ぷかりと。緩やかに、のんびりとしたスピードで。けれど確かにシャボン玉は空へと上る。
「シャボン玉に乗れるなんて夢みたい。でも少し怖くもあるわ……割れないよ、ね?」
重さに潰れるように歪んだシャボン玉に不安そうに触れた後、ルーシーはユェーの身体へとしがみつく。そんな彼女を安心させるように抱え直すと、ユェーは顔を覗きながら。
「大丈夫、怖くないですよ」
優しく、優しく。安心させるように声を掛けた。
包み込みようなユェーの大きな腕と温もりに。その言葉に。その笑顔に。満たされれば先程までの不安な気持ちはすっかり消えていて。
「……うん安心、する」
ルーシーはこくりと頷くと、暫しの空中散歩を楽しむ。
そんなふたりの姿を、地に残されたしゃぼんくじら達がぴょんぴょん跳ねながら見送ってくれているのに気付き、ふたりは手を振り応えた。
冷たい風が吹く中、不思議なことにシャボン玉な流されることなく真っ直ぐに浮かび上がり。人影見える岩へと辿り着くと、ユェーはルーシーを抱えたままシャボン玉から降り立つ。地に触れた瞬間、ルーシーは同じ金色の髪を抱く少女の元へと駆け出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
七那原・望
アマービレでねこさんをたくさん呼び出し、りんごを多めに用意してからしゃぼんくじらさんに会いに行くのです。
まずはねこさん達と【踊り】ながら刺激が少ない優しい歌を【歌って】しゃぼんくじらさんの警戒心を解きほぐすのです。
こんにちはなのです。わたしは望。
しゃぼんくじらさん、一緒に歌います?
しゃぼんくじらさんやねこさん達と踊って歌ってちょっと疲れたら用意しておいたりんごを食べながら休憩なのです。
休憩の間はたくさんのねこさん達にくっついてもらってもふもふとぬくぬくで幸せな気持ちにしてあげちゃうのです。
戦場に辿り着いたら【結界術】でアニエスさんを護りつつ【Lux desire】で敵を【蹂躙】します。
●
りん、と鈴の音が響いたかと思うと。白いタクトを振った先から魔法猫が現れた。
上がる鳴き声に七那原・望(封印されし果実・f04836)は、友達が現れたことを確認する。吹く風は冷たさを帯び、薫る匂いは今まで感じたことが無い香り。
それは、望が知らない地に居るのだと証明しているのだ。
視覚以外の感覚に頼る彼女にとって、匂いや触覚はとても大切なもの。――そして、研ぎ澄ました耳に届いた鳴き声に、彼女は迷うことなく一歩を足を踏み出した。
彼女に寄り添うように、猫達も鳴き声を上げながら鳴き声の主へと近付いて行く。それはまるで、望をこっちだよと手招くようで――その声に応えるように、そしてそこに居るであろうクジラを安心させるように。望は優しい歌を奏でながら軽やかなステップを踏む。その音色とリズムに猫達も楽しげにくるくると踊れば、しゃぼんくじらは不思議そうな声を上げた。声の主が近くに居ることを鳴き声で気付いた望は、笑みを浮かべると。
「こんにちはなのです。わたしは望。しゃぼんくじらさん、一緒に歌います?」
優しく、優しく問い掛けた。
まだ子供である彼女は、まだ小さく威圧感も控えめで。人に慣れないクジラでも比較的恐怖心は薄かったのだろう。少し戸惑ったように震えたけれど、再び歌を奏で軽やかなステップを踏む望と。彼女の周りで楽しげに駆ける猫の姿を見て。自身もリズムに合わせるようにその場でころりと転がった。
にゃあ、と嬉しそうに上がる猫の鳴き声。
転がりだせばクジラも楽しくなってきたようで、望の歌声に合わせて自身も鳴き声を上げている。彼等の声を聴けば、共に楽しんでくれているのだと望にも伝わってきて――自然と口許には笑みが浮かび、舞う足取りも軽くなる。
言葉はいらない。触れる必要も無い。
こうして音楽に身を委ねれば、仲良くなれると信じているから――疲れを感じて音色を止めても、新たに紡いだ絆は変わらないはず。
「りんご、食べます?」
沢山持ってきた林檎をひとつ差し出せば、興味深そうにクジラは顔を寄せる。安心させるようにまずは自分が一口食べれば、クジラも続くように林檎を齧った。
シャクシャクと響く林檎を食べる音。鼻をくすぐる瑞々しい果実の香りが心地良くて、望は微笑むけれど――そうだ、と気付き猫を手招きした。
その瞬間、林檎を食べるクジラの周りに集う猫達。――それは温もりが大好きだという彼に、猫の温もりを分けてあげようという望の優しさだった。
自身の膝の上に乗る猫を撫でながら、気持ち良いかと彼女は問い掛ける。
ふわふわの獣の毛は、きっとこの一帯では味わえない温もり。動物故の高体温も相まって、包み込まれたシャボンクジラは嬉しそうに黒い瞳を輝かせる。
その姿は望には見えない。喜んでくれているかは分からない。
『きゅう~!』
けれど上がった声を耳にすれば、見えぬ彼が喜んでくれたことは伝わってきて。
「なのですー」
思わず嬉しそうに、言葉を零していた。
ぷかりと、シャボン玉が浮かんだのはその瞬間だった。辺りの猫達が望へと合図を送れば、彼女は彼等に導かれながら大きなシャボン玉に乗る。
ふわふわと漂う空中散歩。
その先に待つ戦いへの準備をするように、彼女は金色の王笏を握り締めた。
大成功
🔵🔵🔵
千波・せら
か、かわいい……!
小さいクジラだね、すごくかわいい……!
私と一緒に……あっ…!
警戒心の強い子みたい。
よーし!
この足を海属性の物に変えて小さな海を生み出したら
水の上を飛び跳ねる真似をするよ。
敵意が無いことをクジラたちに教えるんだ。
怖くないよ、大丈夫だよ。
私の名前はせら。
探索者のせら。
楽しいことが大好きなんだ!
クジラの皆、よかったら私と一緒に遊ばないかな?
水の上で飛び跳ねるのもね、すごーく面白いよ!
ほら、みて!
私の生み出した小さな海は気に入ってくれたかな?
木の実が食べたいなら任せて!
せーの!
海属性の足で飛び跳ねて、木の実をキャッチ!
はい、どうぞ!
他にもいる子はいないかな?
●
ころころとしたまん丸のクジラ達。その姿を見て、千波・せら(Clione・f20106)の瞳はキラキラとより強く煌めいた。
「か、かわいい……! 小さいクジラだね、すごくかわいい……!」
私と一緒に、と言葉と共に手を伸ばしかけて止まる。
彼等は、警戒心が強いと聞いた。それならば軽率に近付いては怖がらせてしまうだろう。だからせらは少し考えると、不意に煌めく青纏う足を海属性へと変え――小さな海を生み出した。陸地である此処に海が出来上がる。
『きゅう?』
突然の水に彼等は不思議そうに声を上げる。けれど、怖がるよりも先に興味のほうが強い様子。きっと彼等が陸地で生きられるように進化したとしても、やはり水が良いのだろう。せらはクジラ達の姿に思わず嬉しくなってしまい、楽しそうな足取りでも水の上を飛び跳ねクジラ達へと近付く。
それは、敵意が無いことのせらなりのアピール。
響く水の音。水飛沫を上げてせらが段々と近付けば、淡い青色はこちらを見る。
『……きゅぅ』
ほんの少しの警戒。それと同じだけの好奇心。
距離が近くなれば、彼等の気持ちが伝わってくるようで――せらは笑みを零し、輝くような笑みと共に挨拶を。
「怖くないよ、大丈夫だよ。私の名前はせら。探索者のせら」
安心させるように、いつもよりも落ち着いた声色で。楽しいことが大好きなのだと、自己紹介をすればクジラはせらに興味を持ってくれたようで。彼女の足元で満ちる海に小さなヒレで触れてみれば、心地良さそうに瞳を細めた。
1匹が触れてみれば、他の子も興味を持った様子で近付いてくる。ころころと転がりながら近付き、セラの足元の水に触れていく彼等を見てせらの頬は綻んだ。
「クジラの皆、よかったら私と一緒に遊ばないかな?」
水のうえで飛び跳ねるのも、すごく面白いと。せらはまず自分が跳ねてみる。同時に上がる飛沫が陽射しを浴びてキラキラと輝き、せらの身体の青い結晶も強く煌めきどこか眩しそうにクジラ達は瞳を細める。
そのまま彼等は水に触れ、自分達も遊びたいとねだるように鳴き出した。
最初は大丈夫かと少し不安だったけれど、この様子ならば水は大丈夫なのだろう。彼等の為に少しだけ海の範囲を広げれば、小さな身体で海に乗り。まん丸の身体がぷかりと浮かび上がる姿はまるで風船が浮かんでいるように愛らしい。
心地良さそうに瞳を輝かせ、パタパタと尾ビレを振る様子にせらは嬉しそうに笑い。そしてその仕草の愛らしさに、ついつい彼女の笑みも深くなる。
ぴょんっと跳ねる彼等に合わせるようにせらも一緒に跳ねて。木の上に生る木の実を同時に手に取り。1匹のクジラへと差し出せば彼は嬉しそうにその身体を震わせた。
パクリと食べれば嬉しそうな鳴き声を上げて、満足そうな彼の姿を見て。
「他にもいる子はいないかな?」
羨ましそうに見ていた他の子へと声を掛ければ、彼等はきゅうきゅうと鳴きおねだりするようにその場で跳ねる。
――果物を食べた彼から、ぷくりとシャボンが上がったのはその時だった。
――海に浮かぶ虹色。それは空へとせらを運ぶ、ひとつの架け橋。
大成功
🔵🔵🔵
ノイシュ・ユコスティア
平和になったこの世界を、奪われたくないんだ…!
まん丸な生き物を探す。
うわぁ…!丸い魚?ころころしてかわいいなぁ。
仲良くなるために、様子を伺ってみよう。
まずは「こんにちは」とあいさつをして
少し距離を置いて、穏やかに、眺める。
この子たちは、一度転がったらなかなか止まれないのかな…。
転がって、何かにぶつかりそうになった子の体を止めてあげて
そのまま優しくそっと、持ち上げる。
「寒いのは苦手?」
抱いて…こうすると温かいよね。
僕も、気持ちいい。
「いい子だね。」
頭をなでなで。
仲良くなった証に少しもふもふさせて…。
シャボン玉で無事に島にたどり着いたらアニエスと敵を探す。
彼女を守りながら
敵をロングボウで攻撃する。
●
ノイシュ・ユコスティア(風の旅人・f12684)にとって、この世界は自身の生まれ育った世界である。だからこそ、この世界を再び奪われたくない。その強い強い意志が彼の胸には強く宿る。
その為には、まずは此の地で生物と仲良くならなければならないと言うが――辺りを見渡し目的の生き物を探せば、緑の中に不釣り合いな淡い水色が。
「うわぁ……! 丸い魚? ころころしてかわいいなぁ」
遠くからでも、ノイシュならば良く見える。まん丸で、小さくて、小さな尾びれが揺れるその姿は良く知る陸上の生き物ではない。魚のようでもある彼等が、話に聞いていた陸地でも生きられるしゃぼんくじらだと気付き、ノイシュはそっと近付いて行く。
触れられないくらいの距離で、その足を止めると――。
「こんにちは」
挨拶と共に、彼等の様子を見る。
不思議そうにノイシュの姿を捉える者。ぷるぷると怖がっている者。反応は様々だけれど、いきなりノイシュに近付いてくる者はいないようだ。話に聞いていた通り、警戒心はかなり強いらしい。
だからノイシュはそれ以上距離を詰めることはせず、ただ静かに見守っている。穏やかな笑みと共に、その場でしゃがみ様子を伺っていれば――逃げるように転がりだした1匹のクジラが見えた。
(「この子たちは、一度転がったらなかなか止まれないのかな……」)
それは、ふと浮かんだ疑問。
自然生物とは思えないほどのまん丸さ。小さな手足は身体を止めるのには不適切だろう。ころころ転がり続ける彼の先に――岩がある事に気付いたノイシュは、はっとすると慌てて駆け出す。
止まれない。つまりその先に待っている未来は――転がるスピードはそこそこあるようなので、ノイシュは真剣に駆けていく。地を蹴り、踏みしめ、懸命に走ればなんとかクジラとの距離は縮まって。寸でのところでその丸い身体を抱き上げていた。
『きゅう?』
何があったのかは分かっていないのだろう。ぱちぱちと瞳を瞬いて、不思議そうにすぐ近くにあるノイシュの顔を見つめるクジラ。ぷるっと震えたのは、冷たい風が吹いたからだろうか? だからノイシュは寒いのは苦手かと問い掛けると、そのまま彼の小さな身体を包み込みように抱き締めた。
「……こうすると温かいよね」
伝わる生き物の熱。毛の無い滑らかな身体の心地良さ。
その心地良さと愛らしさに、自然と口許には笑みが浮かんでいる。最初は震えていたクジラだけれど、次第にその震えが取れてきたことに気付いたノイシュは、優しく優しく彼の頭を撫でてあげる。
「いい子だね」
害を成す存在と成さない存在。その見極めがうまい程に、彼等は敏感で繊細なのだろう。だからこそこうして大人しくしてくれたことが嬉しくて。少しの間温もりと柔らかさを満喫していたノイシュだけれど、クジラの背中からシャボン玉が生まれるとやるべきことを思い出しすぐさまシャボン玉に乗り込んだ。
ふわふわと浮かぶシャボン玉は、不思議なことに風に流されること無く真っ直ぐに上がっていく。様々な浮島が見える中、人影が見えたのに気付き――慌てて飛び降りると同時、ノイシュは弓を構え風精霊の加護宿る矢を素早く放った。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
ぷかぷか浮かぶシャボン玉をおいかけて、ひいらりゆらり穹游ぐ
わぁ!見て、櫻!
まん丸の可愛いくじらがいる
かわいいな、仲良くなりたいな
ヨルは遊ぼうよというように嬉しそうにクジラの元へかけていく
どうやったら仲良くなれるかな…
こわくないよ、こわくない
そうだね!それは名案だよ
怖くないよって心を解す歌を歌おう
遊ぼう一緒に
僕らも君たちの仲間にいれて
友達になろう―想い込めて歌う
触る時は優しくそうとね!
可愛いって撫でながら櫻宵を呼ぶ
見て、櫻!
櫻宵も抱っこしてごらん
春の日差しみたいに優しく抱きとめる彼に心もあたたまるよう
一緒にお昼寝したいなぁ
でもその前に―
お邪魔虫を眠らせなきゃね
僕には信じる神がもういるもの
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
シャボン玉と戯れる人魚のかぁいらしいこと
あら本当
ころころしてかぁいらしい鯨だわ
ヨルはもうご挨拶してるわ
私達も負けてられないわね、リル
そうねリルは歌ってみたらどうかしら?
仲良くなりたいって想いをこめて
私は……この子達ってチョコレート食べるかしら?
持ってきたチョコをわけましょう
食べないなら、甘い果実を
召し上がれ
私達は敵じゃないわ
あなた達と仲良くなりたいと想い重ねてほほ笑みかける
桜吹雪を纏わせればじゃれてくれるかしら
壊してしまいそうだから見ていたけれど
リルに誘われるまま手を伸ばす
優しく柔く撫でて…噫、かぁいい
少しは私も仲良くなれたかしら?
リルはお眠なのね?
うふふ勿論
私にも信ずる朱の神がいるの
●
ひらりと秋空の下泳ぐのは、美しき月光ヴェール。光を浴びて真珠のように輝くその白に思わず誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は目を奪われながら、優しく微笑んだ。
冷たい風に流れるのは美しき虹色抱くシャボン玉。けれどもそれはどれも小さくて、彼等を運んでくれる大きさではない。
「わぁ! 見て、櫻! まん丸の可愛いくじらがいる」
不意に上がるリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)の無邪気な声。櫻宵が視線を、彼が示す指先の向こうへと送ると――そこには、淡い水色を宿すまん丸が居た。
1匹、2匹、3匹。転々と存在する彼等はどの子ものんびりとしていて。風に流されるようにころころと転がる様を見て、思わず櫻宵は笑みを零す。
「あら本当。ころころしてかぁいらしい鯨だわ」
口元に手を当て彼が呟いた時。じいっと見つめるリルの傍から、とてとてと歩く影――式神のヨルが、まん丸のクジラに興味を持ったのか近付いて居た。自分よりもほんの少し小さなクジラをじいっと見ると、挨拶するように頭を下げるヨル。けれど臆病な彼等は、初めて見る仔ペンギンの姿にぷるぷると震えている。
そんな、小さくて愛らしい彼等の様子を眺めていれば。櫻宵の瞳は優しく細められ、そのまま視線は隣のリルへと向けられる。
「私達も負けてられないわね、リル」
「どうやったら仲良くなれるかな……」
彼の言葉にリルはこくりと大きく頷くけれど、悩むように口元に指先を当てた。こわくないよと紡いでみても、彼等はぷるぷると震えながら警戒して寄ってこない。だからといって、こちらから近づくのは逆効果だろう。何とかヨルが仲良くなってくれるのを待つのが良いのだろうか? 少しずつ、彼等は歩み寄っているように見えるから。
うーん、と悩むリルの横顔を眺めていた櫻宵は。
「そうねリルは歌ってみたらどうかしら?」
ひとつ、思いついたことを言葉にしてみる。愛しい人だからこそ、自分をよく知るそのアドバイスにリルの瞳は悩む色から、キラキラと興奮で輝いて。
「そうだね! それは名案だよ」
頬を紅潮させ、櫻宵を見ながらそう語る。リルが得意な歌を紡ぐのなら、櫻宵は自身の作るチョコレートを。彼等は特殊な生体だから、動物と云えど食べられるかもしれない。
距離はそのままで。すうっと息を深く吸って、リルは静かに歌を紡ぐ。
怖くないよと、心を解す優しい歌を。一緒に遊ぼうと、僕らも君たちの仲間に入れてと、友達になろうという温かな想いを込めた歌を。
広い世界の果てに響き渡るリルの歌声は、どこまでも澄み春の柔らかさを宿している。その心地良い音色に、クジラ達はぴくりと反応すると顔を上げた。ヨルが心地良さそうに身体を揺すれば、彼と一緒にクジラ達も身体を跳ねさせ尾びれでピタピタと地を叩く。
少しずつ、緊張は解けてけてきただろうか。
確かめるように、彼等の元へと櫻宵は近付く。リルの歌声の邪魔にはならないよう、なるべく足音は立てないように注意を払い。朱に染まる爪先に摘ままれたのは、春の色である桜色をした愛らしいチョコレート。
「召し上がれ」
1匹のクジラの口許へと運びながら、優美な笑みで彼は紡いだ。
そのまま彼は、私達は敵じゃないと。あなた達と仲良くなりたいと言葉を続ける。それはリルの紡ぐ歌に想いを乗せるかのようで――彼等の意志を感じ取ったのか、クジラの傍らに立つヨルも大丈夫と伝えるように、優しくクジラの背をぺちぺち叩く。
『……きゅぅ?』
顔を寄せ、これは何だろうと確かめるクジラ。変わらぬ優しい櫻宵の笑みに惹かれたのか。そのまま彼は小さな口を開け、はむりとチョコレートを口にした。
最初は恐る恐るといった様子で。次第に口の中で溶けるその甘味に、次第にクジラは嬉しそうに夢中で口を動かす。
そして――。
『きゅぅ~!』
鳴き声を上げたのは、チョコレートを食べ切った合図。もっともっとと言いたげに、彼は櫻宵の足元へところころと転がり円らな瞳を向けてくる。
1匹が心を開けば、辺りのクジラ達も警戒を解いてくれて。櫻宵の元へと、そして心地良い歌を紡ぐリルの元へと転がってくる。
自分の足元へとやってきてくれた小さなまん丸に、リルは嬉しそうに口元を綻ばせると。キリの良いところで歌を終えそうっと手を伸ばす。
優しく、そうっと。
気持ちを込めて撫でてあげれば、彼は心地良さそうに瞳を閉じる。滑らかで、ほんのりと温かな彼が可愛らしくて。思わずリルは更に幸せそうに笑みを浮かべて。
「見て、櫻! 櫻宵も抱っこしてごらん」
キラキラと瞳を輝かせて、大好きな人を呼んでいた。彼の言葉に櫻宵はリルを見るけれど、宙へと伸ばされた手は戸惑うかのように。壊してしまいそうだから、見ているだけにしようと思っていたのだけれど。リルに誘われてしまったのならば仕方が無い。足元に擦り寄ってくれる先程チョコレートをあげた彼へと、そうっと手を伸ばせば――。
「……噫、かぁいい」
腕の中で嬉しそうに鳴く彼の姿に、思わず心からの言葉を零していた。
そんな櫻宵の姿を見れば、リルはまるで自分の事のように嬉しさが心に満ちる。ふわりと笑みを浮かべながら――腕の中の温もりと心地好さに思わず小さな欠伸を。
「一緒にお昼寝したいなぁ」
少し眠たげに瞳を瞬いて、紡ぐリルに櫻宵は穏やかに微笑んだ。
でも、と。眠気を払うように首を振るうとリルは空を見上げる。――これから行かなければいけないところが、彼等にはある。
そんな彼等の眼差しを見て、腕の中のクジラ達はぷくりとシャボン玉を作り出す。
ぷくぷくと大きくなったかと思えば、身体から離れ浮かび上がる。そのシャボン玉の上へと、慌てて櫻宵が乗ればリルとヨルも続いていく。
――迷いなどは無い。
――だって彼等には、信じる神は既にいる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
パルピ・ペルポル
自前で飛べるけど、ここは郷に従うべきよね。
しゃぼんくじらは臆病だということだから無理には近づかずに。
小ぶりの岩の上に座ってドライフルーツ齧りつつ待つことにするわ。
こちらに反応示したくじらがいたら「食べる?」って感じでドライフルーツ差し出してみましょ。
近寄ってきて食べたら他の子も警戒とくかしらね。
ドライフルーツならいっぱいあるから皆に配れるわよ。
仲良くなれたらたっぷりなでなでするわ。
このもっちりした弾力もいいものね…ひたすらなでなでするわ。
シャボン玉がぷかぷかしだしたら名残惜しいけどそれに乗っていかなきゃね。
ところで神龍教派の連中はここが帝竜が2度墜ちた地だって忘れてないかしら。
●
小さな身体に透き通る翅。
フェアリーであるパルピ・ペルポル(見た目詐欺が否定できない・f06499)は、自身で飛ぶことは出来るけれど、そのままでは強い風に流される可能性も否定出来ない。
だからこそ、この地に相応しい攻略があるのだ。
パルピはなるべく音を立てないように気をつけながらクジラの視界に入る位置へと近付くと、直接触れることは無くひとつの岩の上に腰を下ろした。
そのまま彼女が取り出したのは、鮮やかなドライフルーツ。真っ赤なそれは苺だろう。両手で持った果実を口にして、彼等のほうから興味を持ってくれることを期待する。
すると風に果物の香りが乗ってきたのか。興味を持った1匹が、小さなパルピへと近付いた。人間と違って、フェアリーであるパルピの身体は随分と小さい。しゃぼんくじら達と比べても、彼女のほうが小さいだろう。
だから、だろうか。少しの警戒心は持っているけれど、近付いてくるのが早いのは。
「食べる?」
そのままパルピが手にしていたドライフルーツを差し出せば、目の前のクジラは『きゅう!』と嬉しそうな鳴き声を上げて。彼女の手から小さな果物を口にした。
もくもくと食べる姿はとても嬉しそうで。仲間のそんな姿を見れば、他のクジラ達も寄ってくる。皆甘酸っぱい果実の香りは気になっていた様子で、パルピに欲しい欲しいとねだるような眼差しを送ってくるから。パルピは沢山用意しておいて良かったと、密かに安堵の吐息を零していた。
食べ物を分け合えば親しくなるのも早いもの。
翅を羽ばたかせ、彼等へと近付くと。視線を合わせた彼等は嬉しそうに手をパタパタと揺らす。そのまま小さな手を伸ばしてみれば――怖がること無く、受け容れてくれた。
手に伝わるのは滑らかな感触。同時に仄かに感じる弾力ともっちりさ。
猫や犬とは違うその感覚に、パルピは一瞬驚いたようだけれど。虜になってしまったのか、ひたすらに手を動かしクジラの頭を撫でる。小さな彼女に撫でられるのが嬉しいのか、クジラも素直に受け入れていれば――ぷかりと、シャボン玉が浮かんだ。
それは嬉しい時、彼等が作り出すシャボン玉なのだとパルピは気付く。
人が乗れるほどの大きさを作るのは時間が掛かるが、パルピが乗れるくらいのサイズならばすぐに出来るだろう。ぷかり、ぷかりと。小さなシャボン玉が続く中、サイズを見極めるように辺りを見れば――丁度良い大きさのシャボン玉が生まれた。
触れていた手を離すのは名残惜しいけれど、彼女は行かなければならない。
それが、この地を救う為に必要なことだから。
ぷかり、ぷかりと上がっていくパルピ。
そんな彼女にバイバイと、伝えるようにクジラは鳴き声をあげている。
小さな彼女の姿がクジラ達から見えなくなるのは早いけれど――彼等の優しさを感じて、パルピは小さく微笑んでいた。
大成功
🔵🔵🔵
ロキ・バロックヒート
雲珠(f22865)くんと
クジラの抱き枕見たことあるけどそっくり
かーわいー
そうだね野生動物だね(一応
しゃがみ込んであんまり威圧しないように
こんにちはってにこにこ笑顔でそーっと近付く
挨拶と笑顔は万国共通かはわかんないけど
雰囲気は伝わるかな
俺様からは袋いっぱいのリンゴ
柿もいいよねおいしいよっておすすめ
俺様も食べたーい交換しようか
おいしそうに食べてたら食べたがらないかなぁ
雲珠くんもう懐かれてない?ふふ
【動物と話す】【読心術】で
クジラたちの気持ちを汲んでご機嫌をとって
抱っこを許してくれるぐらいになったら
どんどん雲珠くんの隣に積んでく
だってクジラに埋もれたらほら
かーわいー
当初の目的も忘れるぐらい愛でそう
雨野・雲珠
ロキさんと/f25190
うわっ、かわ…(咳払い)
ころころまるまる無防備に見えるとはいえ
相手は野生(?)動物。
驚かせないよう動きはゆっくり…
そして万国共通、友好の証といえば贈り物!
(柿を積んだ籠(※誠意)を取り出す)
ほどよく熟れて甘いですよ!先に召し上がりますか?
(小刀で柿を剥く)
(何なら林檎も剥きます!)
俺も林檎食べたいで……あ、それは皮です!
(長く伸ばした皮をクジラに引っ張られて)
弱ってる子がいれば、桜を舞わせて癒やしたりして。
仲良く馴れたら是非撫でてみた……あれっ、
(いとも容易く抱っこに成功している神様)
(そして隣にほいほいと積まれていくクジラ)
あっ
ちょっ、
わー(埋もれていく)(ぬくい)
●
地に転がる数多の空色。
小さくて、まん丸で、円らな黒い瞳を持つ彼等の姿は――。
「クジラの抱き枕見たことあるけどそっくり。かーわいー」
かつて見た癒しの存在を思い出し、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は思わず言葉を零していた。
そんな彼の横で、少年の姿をした雨野・雲珠(慚愧・f22865)はぱちりと瞳を瞬く。
「うわっ、かわ……」
思わず零れる言葉を塞ぐように、ひとつ咳払いをして。改めて雲珠はクジラを見る。淡い水色は春の空色のようで、自然界の動物とは思えないまん丸の身体、小さなヒレと尾、小さな瞳にころころまるまるしたその姿はあまりにも無防備に見える。
けれど、相手は野生動物。
自分に言い聞かせるように紡がれたその言葉に、思わずロキも同意を示した。
そう、彼等は臆病な性格だと聞いているくらい。ぱっと見は呑気に見えても、しっかりと警戒もしているのだろう。そろりそろりと、動き出したのは雲珠のほうだった。
両腕の中には籠いっぱいの柿を抱き。彼等の様子を伺いながらゆっくりと近付く。
(「万国共通、友好の証といえば贈り物!」)
腕の中の柿は、彼なりの誠意の証なのだ。近付く足音だろうか、それとも熟れた柿の匂いに気付いたのだろうか。クジラは不思議そうな鳴き声を上げると、視線を上げ。
『きゅぅっ!!』
雲珠の姿に気付き、驚いたように声を上げた。
そのまま逃げることも無く、ただぷるぷると震える小さなまん丸。そんな彼の元へと近付くと、柿をひとつ手に取り彼等へと差し出し。
「ほどよく熟れて甘いですよ! 先に召し上がりますか?」
明るく、友好的な声色で雲珠は紡いだ。
そんな彼に続くように、ロキも雲珠が覗き込むクジラの元へと近付く。彼等からすれば自分は大きな存在だろうと気付き、その場でしゃがみ込むとじっとその瞳を見る。輝く金の瞳に優しさを宿していうるのは、威圧しないようにと注意を払っているから。
「こんにちは」
口元に笑顔を浮かべて、紡がれるのは始めの挨拶。
贈り物が友好の証ならば、挨拶と笑顔も万国共通かもしれない。イマイチ自信は無いけれど、きっと間違いでは無い筈だ。そして、こちらが親しみを抱いていることは分かってくれるだろうと――ロキは雲珠に倣うように、大きな袋をガサガサと漁ると。真っ赤に熟れた林檎をひとつ手に取る。
柿と林檎。
此処では出来ない甘い果実の香りに、震えていたクジラも興味を持ったようで。更に匂いを確かめたいのか、ぐぐっと顔を近付けようとしてくる。けれど、まん丸な身体はなかなかふたりの手元には届かなくて。思わず雲珠は笑みを零し、小刀を取り出すと柿の皮を剥き小さく刻む。
食べたい。けれど大丈夫かな。
そう言いたげに瞳をうろうろさせるクジラ達。そんな彼等の様子に気付き。
「俺様も食べたーい交換しようか」
雲珠の手にある柿の欠片を摘まむと、ロキはそのまま口にぽいっと放り込んだ。
(「おいしそうに食べてたら食べたがらないかなぁ」)
そう想うから、なるべく美味しいと分かりやすくしようと口を動かせば――口に広がる甘味と果実の香りがとても濃く。演技の必要が無い程美味しい柿だった。
丸ごとの林檎を受け取った雲珠は、自分も林檎が食べたいと想いしゅるしゅると慣れた手付きで林檎の皮を剥いていく。赤い皮が段々と長くなり、地へと伸びて揺れれば。
「……あ、それは皮です!」
不意に訪れた重みに視線を下ろしてみれば、そこには林檎の皮に食いつくしゃぼんくじらの姿が居た。美味しそうに食べるロキに影響されたのだろう。欲しいと言いたげにぐいぐい皮を引っ張る彼に雲珠は微笑むと、こっちですと果実の欠片を差し出した。
シャクシャクと響く心地良い音色。
嬉しそうに食べる彼の背中に、ふと傷があるのに気付き――雲珠は呪文を唱えると、雪のように白い桜の花弁が優しくクジラの背を撫でた。すると傷はすっかり治ってしまう。
傷が消えたことにも気付かずに、ただひたすらクジラは柿と林檎を味わっている。そんな彼等とはすっかり距離も縮まっている様子で。少し遠慮がちに、ロキが手を伸ばしてみれば――クジラは大人しく彼の手に抱かれ、そのまま身を任せた。
「……あれっ、」
その様子に雲珠は驚いたように声を漏らす。
仲良くなれたら撫でてみたい……と思っていた矢先に、ロキがすんなりとクジラを抱き締めていたから。彼の腕の中にいるクジラは、とても心地良さそうに瞳を細め。『きゅぅ~』と声を零している。
羨ましい、と心の声が伝わってしまったのだろうか。ふたりの視線が合ったかと思えば、ロキは雲珠の隣に次々とクジラを積んでいく。クジラ達も抵抗することなく大人しく積まれ、ご機嫌な鳴き声を上げている。
「あっ。ちょっ、」
突然のことで慌てたように雲珠が零す。けれどロキは止まらずに、気付けばすっかりしゃぼんくじら達に埋もれていた。
小さなまん丸が重なるのは、少し難しいけれど。そこは彼等が絶妙にバランスを取ってくれていて。じいっとその様子を眺めて、ロキは。
「かーわいー」
ついつい、先程までよりも幸せそうに彼等を撫でていた。
――何よりも幸せなのは、愛らしい彼等に包まれ温もりを感じる雲珠かもしれない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リリスフィア・スターライト
優しくお淑やかな人格のフィアで参加します
どのような理由であれ女の子の命を
奪うなんて放っておけません
その為に現地に行かないといけないのですけれど…
あれはクジラなのでしょうか?
まんまるで可愛らしいですけれど…
臆病みたいですし、無色変換で姿を消して慎重に近づきますね
でもバディペットである銀猫のリンフォースが興味を持って
尻尾を揺らしながらクジラに近づいてしまいます
猫とクジラが仲良くなったところで私も近づいて優しく撫でますね
シャボン玉を作ってくれましたら感謝してから
目的の島にへと向かいます
辿り着きましたら神龍教派のクレリック達からアニエスを守ります
UCで姿を消してからの奇襲攻撃で迎撃しますね
●
淑やかなリリスフィア・スターライト(プリズムジョーカー・f02074)だが、その胸に宿る意志は確かな強さだった。
(「どのような理由であれ女の子の命を奪うなんて放っておけません」)
それは真っ直ぐな彼女の想い。
突然知らぬ土地に連れてこられ。命の危機に直面する少女のことを想うと、なんとかしなければと強い想いが次々と湧き上がってくるよう。同じ年頃の少女のことだから、その恐怖はリリスフィアにもなんとなくわかる。
そう、それにはこの高い高い空へと上らなくてはいけないから――。
「あれはクジラなのでしょうか?」
その手段を持つクジラの姿を捉え、リリスフィアは不思議そうに言葉を零す。
クジラ、と呼ばれるように尾とヒレはそれっぽい形をしている。けれど身体はまん丸で、円らな瞳と淡い水色の身体はクジラと言うにはどこか異色。
クジラかどうかは疑問に思うけれど、可愛らしいとはリリスフィアも想う。必要なことだという意味と、僅かな好奇心を持って彼女は静かに近付いて行く。――自身の姿は消してあるから、今ならば銀猫のリンフォースだけが彼等に見えているだろう。
どうしてもリリスフィアの身体は彼等より大きいから、臆病だという彼等は怖がってしまうだろう。ならばせめて、同じくらいの大きさの動物ならどうだろうと思ったのだ。
ゆらゆらと揺れる猫の尾。円らな金色の瞳でじいっとリンフォースが見つめれば、仄かな警戒を宿していたクジラは少しずつ歩み寄ってくる。ころころとクジラが近付いて、何だろうと確かめるようにリンフォースを覗いていた。
そう、此処には他の動物はいないようで。だから彼等にとっては、猫も初めて見る生き物なのだろう。匂いを嗅ぐように、存在を確かめるかのように。顔を寄せ、辺りを転がる彼等。そんな不思議なクジラ達に、リンフォースは仲良くなろうとアピールするようにその身を寄せる。伝わる猫の体温は寒がりな彼等にとっては心地良かったようで、きゅうっと瞳を閉じると今度は自分から距離を詰めた。
ぴったりとくっつく猫とクジラの姿は愛らしく、すっかり仲睦まじく見える。
だからリリスフィアは透明を解除すると、今度は自分がクジラへと近付いた。リンフォースが主人の姿に嬉しそうに鳴いてくれたからだろうか。クジラは警戒すること無く、リリスフィアのことを受け容れてくれて――伸ばした手にも、素直に撫でられる。
伝わる心地も温度も猫とは違う。穏やかなで滑らかで、けれど心地良さは同じよう。
リリスフィアに撫でられればクジラは嬉しそうに鳴き声を上げ、ぷくりとその背からシャボン玉を作り出した。
ぷくぷくと次第に大きくなるシャボン玉。
これに乗れば、リリスフィアを彼の地へと運んでくれるのだろう。
だからリリスフィアはお礼を言うと、感謝を告げるようにクジラを一撫でしてシャボン玉へと飛び乗る。彼女に続くように銀猫が乗れば、共にその姿は消え去っていた。
大成功
🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
クジラ…可愛いです、まん丸…
ずっと眺めて、居られます
怯えさせては可哀想なので、急には近付かず
一定距離を保ったまま膝をついて
初めましてと名乗り、ご挨拶
近付いてくれる子が居れば
撫でても良いですかと訊いてから、そっと撫でます
…可愛い、です
岩にぶつかった子には駆け寄ります
痛そうに震えてるの、切な過ぎて…
大丈夫?
どこ、痛い?
目視や岩との位置、クジラの様子で患部の見当をつけ
氷の精霊を招き、軽く冷やします
出来れば、寒さが他に回らないように抱えて
吃驚したね、大丈夫ですよ…と、いいこいいこ撫でて
他の子も呼んで、皆で宥められる様に
シャボン玉が、出来るのは…
嬉しいと思ってくれた事が、私も嬉しいです
…行ってきます、ね
●
ころころと転がるまん丸クジラ。
「クジラ……可愛いです、まん丸……」
静かな声色で、けれどその声に輝きを宿し泉宮・瑠碧(月白・f04280)は紡いだ。
まん丸の彼等は思い思いに過ごしていて、その仕草や鳴き声はどれも可愛らしくずっと眺めて居られると思う程。
けれど、この先に進む為には彼らの協力が必要だから。瑠碧は覚悟を決めると、彼等に視認されない位置から、少しだけ進み彼等との距離を縮める。
すると瑠碧の存在に気付いたのか、彼等はのんびりとしていた様子から警戒するようにじいっとこちらを見てきた。円らな黒い瞳が微かに、潤むように輝くのが見える。
これ以上近付いては怯えてしまうだろう。それは可哀想だと想い瑠碧は足を止めると、その場に膝を突く。
「初めまして」
それと同時に紡がれる挨拶。言葉は彼等には通じないが、瑠碧が害を成す存在では無いとは伝わったのだろう。興味を持ちながら、けれど距離を近付けることは出来なくて。困ったように互いに身を寄せ合って、相談するように『きゅう』と彼等は鳴く。
そう、こちらからは近付かない。
あくまであちらから、距離を詰めてくれるのを願って――。
じっと静かに見つめていたら、警戒心の強い彼等の中でも好奇心が強い子がいるのだろう。1匹がころころと転がって来て、瑠碧の足元で止まるとじっと見上げてくる。なあに? と言いたげに鳴き声を上げた彼へと、瑠碧は恐る恐る手を伸ばし。
「撫でても良いですか」
『きゅう』
許可を貰えば、ゆっくりとその細い手でクジラの背中へと触れた。
滑らかな手触りは獣とは違う海の生き物らしい手触りで。けれど身体の温もりは、海の生き物より陸地の生き物らしい温かさ。
その可愛らしさと気持ち良さに、瑠碧は口許を綻ばせる。
元々水と風の精霊が寄り添う彼女は、元海の生物である彼等とは相性が良いのだろう。すぐに打ち解けたようで、クジラの震えは止まり心地良さそうに瞳を閉じている。
その姿が愛らしい、と思った時――目の前の岩にぶつかるクジラの姿が見えた。
『きゅ、きゅう~……』
痛い、と言うように鳴き声を上げ、ぷるぷると震えるクジラ。その姿があまりにも痛そうで、切なくて。
「大丈夫? どこ、痛い?」
慌てて近寄ると、瑠碧は問い掛ける。クジラはここ、とは言えないようで。ただぷるぷると震えて痛みに耐えるだけ。
だから瑠碧は目視と位置関係で、彼の頭辺りへと手を伸ばすと――呪文を唱え、氷の精霊が手が触れた辺りを冷やしてくれた。
「吃驚したね、大丈夫ですよ……」
そうっと抱き上げて撫でてあげれば、痛みはすっかり引いたのか嬉しそうにクジラは鳴きその身を瑠碧へと擦り付ける。
それは、ありがとうと言っているのだろうか?
言葉が通じない為詳細は分からないけれど、瑠碧にはそう感じ取れた。
それがとても嬉しくて、思わず花咲くような綻ぶ笑顔を浮かべた時――抱き締める彼の背中からぷくりと泡が生まれた。
最初は不思議そうに、瑠碧は瞳を瞬く。
けれどそれが、彼等が嬉しい時に作るシャボン玉だと気付くと。そう想ってくれたことが、自分も嬉しいと想いその気持ちを伝えるようにクジラを優しく撫でる。
ぷくり、ぷくりと大きくなるシャボン玉は。次第にクジラの背を離れると宙に浮かんで。そのままふわふわと高い高い宙へと上って行こうとするから。
「……行ってきます、ね」
瑠碧は抱いていたクジラを地に下ろすと、迷うこと無くシャボン玉へと乗る。
『きゅう~!』
言葉は通じなくとも。
跳ねながら鳴くクジラは、瑠碧を送り出してくれているようだった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『眠りの森の魔女ターリア』
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POW : ようこそ眠りの森へ
戦場全体に、【「眠りの森」 】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD : 醒めざる夢の茨
【棺の中から伸びる「眠りの茨」 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 忘却の眠り
【記憶を一時的に奪う呪詛 】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【過去の記憶】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
イラスト:梅キチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠リミティア・スカイクラッド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●子守唄
高い高い空の中。浮かぶ岩はあまりにも大きく、空に浮かぶ土地のよう。
こんなにも高いところでも種は風に乗り運ばれてくるのか、地には草が覆い自然溢れるのどかな地だった。
かつては帝竜ヴァルギリオスが住んでいたと語られる土地。その地にて、彼の竜を盲信する者達は人を殺めようとした。
「あなた方は……?」
純白の衣に身を包む少女は、突然現れた人々が。自身を囲む存在を一瞬で倒したことに戸惑いを隠せないでいた。何が起きたのか分からない。何故自分が此処にいるかも分からないのだ。少女は頭の整理が追い付かずに、ただ座り込むだけ。
――分かることは、自分が今危険な状態であるということ。
自身を襲う者よりは、今しがた助けてくれた人々――猟兵達を信じるしかない。祈るように両手を組んで、震える身体を守るように縮めて。彼女は願う。
「……助けて下さい」
零れるような声は悲痛な叫びのようだった。
その声を聴けば心が痛む者も居るだろう。
なにせ彼女は、この地で死す為に連れ出されたのだから。
『あなたたちは邪魔をするのですか?』
突然現れたのは緩やかな金の髪を抱く少女。上品なドレスを身に纏っているけれど、その装いとは不釣り合いな目隠しによりその瞳は見えない。
茨で覆われた棺の中に入ったまま、ふわふわと浮遊する少女はそのまま猟兵達へと距離を詰めてくる。
『わたしは、帝竜の封印を解いて欲しいのです』
紡がれる言葉は不穏な言葉。
瞳が見えない為、彼女の表情は分からない。丁寧ながらも不穏な言葉を紡ぐ姿に戸惑いは無いようで、彼女は強い意志の元この事件を起こしていることが伺えた。
『仕方がありません。今回はわたし自ら手を出しましょう』
――紡ぐ言葉はどこまでも淡々と。
けれど彼女は眠りの呪いを操るとされる猟書家。
その力は数多の人の心を捕らえ――ほら、眠りの世界からアナタは逃れられない。
リュカ・エンキアンサス
オズお兄さんf01136と
なるだけ茨に触らないように注意して一緒に移動しつつ隙を見て灯り木で攻撃
どちらかが悪夢にかかったら残ったほうが起こすってことで二人同時に悪夢にかからないようにはしたい
俺の悪夢は…俺の一番の悪夢って、自分が苦しんで死ぬことだから…
…うわ、大丈夫、起きた。死ぬかと思った。ていうか夢の中で30種類ぐらい死んだ
お兄さん。…お兄さん?
…起きて、お兄さん。俺はここにいるよ
約束しただろ。お兄さんより先には俺は死なない
思い出して
…あ、起きた。おはよう
大丈夫?
手を繋いでいるほうが、生きてるってわかりやすいかな(手を繋いで
ほら、行こう
眠るように死ねるなんて割と理想的だけどな、とは胸の内
オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と
だいじょうぶ、守るよ
いっしょに帰ろう
アニエスに笑いかけ
リュカに茨が触れないよう斧で武器受けをしながら進む
ガジェットショータイム
持ち手がラッパのような投斧
遠くから迫る茨に投げて生命力吸収すれば
シャボン玉が生まれる
悪夢は
だいじなひとの
リュカの目が覚めないこと
おはようリュカ
おきて
触れれば冷たい
呼吸をしてない
わたしはおぼえたんだよ
寝ていることと、生きていないことのちがいを
リュカ、おきて
おきて
ああでも、生きていない人を目覚めさせる方法はしらない
手が震える
声が聴こえる
やく、そく?
気づけばそこにリュカがいた
いきてる
あったかい
よかった
抱き着くのは堪え
ぎゅっと手を握る
だいじょうぶ、いこう
●
だいじょうぶだと、神を信じる少女へ語るオズ・ケストナーに浮かぶのは優しい笑み。
お日さまのようなその笑みは人々を安堵させ、いっしょに帰ろうと紡ぐ言葉は人々に希望を持たせる。
そのまま夢へと捕らえる茨が敵の少女から放たれれば、オズは器用に金色の斧で弾いてみせる。けれど伸びる茨は数多あり、リュカ・エンキアンサスの身を包み込んでいた。
がくりと揺れる黒髪の少年の姿。
「リュカ! リュカ!」
地に倒れるその姿を見て、慌ててオズは身体を揺すり声を掛ける。
浮かぶ表情は必死なもので。楽しさに輝くキトンブルーの瞳には影が落ちる。彼が目を覚まさなければどうしよう――不安が心に満ちた時。
「……うわ、大丈夫、起きた。死ぬかと思った」
瞼が開き、細い瞳がオズを捉える。
紡ぐ言葉はいつも通りどこか淡々としているけれど、彼は身を起こすと倒れる拍子に外れてしまった帽子を被り直す。
夢の中で30種類ぐらい死んだと語るリュカの一番の悪夢は、自分が苦しんで死ぬこと。数多のパターンに襲われていた衝撃が未だ離れず、逸る心臓を抑えるように胸に手を当てた時――視界の端で、ぐらりと崩れる姿が見えた。
「お兄さん。……お兄さん?」
音を立て地に倒れゆく金の髪を見て、リュカは自然と彼を呼んでいた。
気付けばオズは、闇の中倒れるリュカを見下ろしていた。
先程彼は目を覚ましたはずでは? そんな疑問が胸に宿る中、その場にしゃがみ込むと先程と同じように彼の名を呼び身体を揺すろうとするが。
「っ!?」
決定的に先程と違うのは、触れた彼の身体が冷たかったこと。
驚いたように瞳を見開き、恐る恐る彼の口許へと手を伸ばしてみれば全く呼吸をしていないことに気付く。
すうっと、息を止めるオズ。
普通の人ならば、血の気が引く瞬間なのだろう。けれど人形である彼にはそのような感覚は訪れない。きゅっと握る手の関節を見下ろしながら、オズは想う。
そう、彼は覚えたのだ。寝ていることと、生きていないことの違いを。
人形には無いそれが、人には訪れるということを。
「リュカ、おきて。おきて」
必死に声を掛けるオズ。
ああでも、生きていない人を目覚めさせる方法はしらない。
身体を揺する手が震える。
零れる声は擦れていくけれど、紡ぐ言葉は止められない。
起きてと。ひたすらに彼の名を呼んでいると――。
――やくそく。
声が聴こえ、はっと瞳を見開いた時。気付けばオズの視界には、先程まで瞳を閉じて倒れ伏していたリュカの姿が見えた。
「リュ、カ……?」
ゆるゆると開かれる輝く瞳を見て、リュカはほっと安堵の息を零す。
「……あ、起きた。おはよう」
淡々と紡がれる言葉はいつも通り。けれど安堵の息を零す彼に、とても心配させてしまったのだとオズは気付く。
――お兄さんより先には俺は死なない。
その約束をリュカは言葉にし、眠りに落ちる彼を夢から導き出したのだ。そしてその言葉は、深く意識の海に落ちるオズの元へも届く一筋の光。
まだ朦朧とするように瞳を瞬くオズ。そんな彼の姿を見て、リュカはそっと細い彼の手へと自身の手を重ねた。こちらのほうが、生きていると分かりやすいと思ったから。
とくん、と人の熱がオズの手に伝わってくる。
いきてる。
あったかい。
よかった。
心に満ちるのは安堵の想い。普通ならば瞳には涙が浮かんでいるのだろうけれど、浮かばぬオズはその温もりを感じる為に抱き着いてしまいそうになるけれど――唇を噛みぐっと堪えると、握られた手をぎゅっと握り返した。
返されたその力に、リュカは笑みを浮かべると。
「ほら、行こう」
導くように立ち上がり、そっと優しくオズの手を引く。
「だいじょうぶ、いこう」
導かれるように立ち上がったオズの瞳には、もう悲しみの色は無い。大丈夫だと紡ぐ通り、すぐ傍にリュカの熱を感じるから――彼は何度だって立ち上がれる。
前を真っ直ぐに向き、手にしたガジェットを変形させるオズの勇ましい姿を見て。安堵を感じると共にリュカは心に密かに思う。
(「眠るように死ねるなんて割と理想的だけどな」)
痛みを感じずに倒れたこの瞬間に対して。そう感じてしまうのは自身の死をいくつも経験したからこそなのだろう。
それは、オズには絶対に言えないことだけれど――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
宵雛花・千隼
誘うような夢の気配
眠りたくないわ
そう思うのに、もう悪夢の中にいる
四方八方から腹を背を刺し貫く痛み
落とされた足は動きようもない
まだ死なないと数多宣う声に薄く笑う
これは泣いてはならぬ夢
死ぬ迄耐えれば終わる夢
やっと死んだと祝う声――ええありがとう、これで自由よ
夢の中で身を起こす
…本当の悪夢を見せてあげる
奇跡の蒙昧と死んだくだらない夢はもう良いでしょう
助けてと言えた子を放って悲劇に浸る気はないの
目が覚めたなら少女の元へ
震え怯える子には襟巻を、温もりを
信じて良いわ、ワタシたちはアナタに死ねと言わない
苦無を放ち茨を弾く
少女を狙うものを最優先に、蝶の誘惑で動きを誘いましょう
ターリア、アナタの言葉は響かないわ
●
ふわりと、戦場に少女が現れた瞬間。宵雛花・千隼を一瞬で強い眠気が包み込んだ。
柔らかな何かに包まれる心地。ふわふわと頭が霞み、段々と重くなる瞼。
(「眠りたくないわ」)
抗うように心に想うけれど――不意に訪れた痛みに、彼女は声にならない声を零す。
それは四方八方から腹を、背を刺され身体中に鋭く走る痛みだった。足は落とされこの場から逃げることは許されず、ただただ訪れる痛みに身を任せることしか出来ない。
零れる声は悲痛になり、いつまでも消えぬ。次々と訪れる痛みにただただ耐えるだけ。
――まだ死なない。
聴こえる声に思わず耳を塞ぎたくなるけれど、もう手の自由も利かない。柔らかな白磁色の髪はすっかり血に汚れ、もう元の色など分からないほど。
それは苦痛な景色。苦痛でしかない体験。
けれども、千隼は泣かない。
だってこれは、泣いてはならない夢だから。
死ぬ迄耐えれば終わる夢だから。
はあ、っと苦痛を声にせず。荒い荒い息を密やかに零した時、強い痛みが背中に走る。ぐらりと揺れる身体。地に広がる血の中に柔らかな髪が浸っていく。
――やっと死んだ。
薄く聴こえる声に、そうっと千隼は瞳を瞼で隠しながら心に想う。
(「――ええありがとう、これで自由よ」)
ゆるゆると閉ざされていく瞼――けれ瞬間、その瞳は開かれ。突然彼女は起き上がった。周りからは動揺するような声が上がっている。今目の前の彼女は、確かに死んだ筈なのにと。それは千隼にとっては想定内の言葉で。
「……本当の悪夢を見せてあげる」
言葉を零す唇は、もう痛みに耐えたりはしない。柔らかく笑みを浮かべると、彼女の瞳には苦痛一色では無い。確かに強い想いが宿っていた。
奇跡の蒙昧と死んだくだらない夢はもう良い。助けてと言えた子を放って悲劇に浸る気など無いのだ。そう、心を強く想った時――視界に広がるのは、鮮やかな空だった。
さわりと吹く風が頬を撫でる。その風に触れるように頬に触れてみれば、そこには鮮血など見えはしなかった。
そう、今のは全て夢。
ほうっとひとつ溜息を零すと。千隼は立ち上がり震えるクレリックの少女の元へと駆け寄る。震える身体は寒さだけではない、恐怖もある。その恐怖を優しさで包み込むように、彼女は首元の襟巻で少女を包み込む。
「信じて良いわ、ワタシたちはアナタに死ねと言わない」
覗く右目は優しい色を宿し、紡ぐ言葉も柔らかに。
彼女を傷付けないと。安堵させるように紡ぐと千隼は立ち上がり――ターリアから放たれた茨を弾いたかと思うと、彼女の姿は美しき蝶へと変わった。
「ターリア、アナタの言葉は響かないわ」
夢へと誘う者。
彼女の悪の手へは、もう招かれなどしない。
大成功
🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【月光】
ゆぇパパの姿が見えなくなって
ああ、いつもの夢
青花を胸に差した
ブルーベルのおとうさま
虚ろな左目で告げる
忘れるな
お前の使い道を
お前の終わりを
お前はあの子の代わり
お前の事を
愛しては
ふふ
ええ解っているわよ全部!
この体の隅にまで
あなたの言葉は染み込んでる
今更よ
指に牙をたて
あかを溢し目覚める
それでも夢は嫌いじゃない
あなたに会えるから
パパは何を見ているの
繋いだ手に力を込めて
【天蓋花の紡ぎ】
例え心の傷が塞げなくても
あなたに向日葵色のいとを届けたい
わたしは傍にいるよ
おはよう
パパ
魔女さんを青糸と銀針で縫いとめ動きを止める
眠りはもう終わり
もしまたパパが悪夢を見たら
ルーシーが助けにいくわ、ね?
…うん、待ってる
朧・ユェー
【月光】
ルーシーちゃん?
あの子が居ないここは…
アイツが笑う
僕と同じ顔で嘲笑う様に
その身体は私のモノだと
小さな女の子?
あの子じゃない子
少女が笑う
赤い涙を流しながら
何故、何故なのお兄ちゃん
すまない…謝ってもあの日の過ちは消えない
わかってる…僕が幸せになるなんて許されない
赤に染まる…
赤が消える…
いや、オレンジ色?これは向日葵
ルーシーちゃん?君の声が聞こえる
横に居るのがわかる
僕よりもツライ夢を見ているのにはずなのに
大丈夫だよと手を握る、小さな手まだ幼い娘の手
美食
暴食グールが夢を喰べる
敵の攻撃などを分析して攻撃する
おはよう、ルーシーちゃん
えぇ今日の夢は終わり
ふふっありがとうねぇ
僕も救いに行くよ、悪夢から
●
「パパ?」
愛しい人の姿が見えなくなり、ルーシー・ブルーベルは不安そうに言葉を零した。
いない、彼が居ない。
だからこそ、彼女は気付きぬいぐるみを抱き締め瞳を細める。
――ああ、いつもの夢。
動揺などしない。この夢の先に待つのは――おとうさまの姿。
青花に胸を差した彼の夢など、もう何度見たか分からない。彼は、ブルーベルの父は空ろな左目でルーシーを見ると、強く強く語り掛ける。
忘れるな。
お前の使い道を。
お前の終わりを。
お前はあの子の代わり。
お前のことは愛しては――。
浴びるように降る言葉は、『愛』という温もりが一切無いもの。幼きルーシーに浴びせるには酷な言葉であるはずなのに。
「ふふ」
彼女は、口元に笑みを浮かべていた。
それは幼い彼女から零れるにはどこか不釣り合いな笑み。例えどんな関係であれ、父と云う存在ならば愛を注いでくれる筈なのに。それが無いと断言されても彼女は真っ直ぐに前を見て、『おとうさま』に向け。
「ええ解っているわよ全部!」
強く、言葉を放った。
解っている。この体の隅まで、あなたの言葉は染み込んでいるのだから。
今更よ――。
ぎゅっと細い指に牙を立てれば、鋭い痛みと共にあかが滲み零れていく。
痛い、痛い――。
その痛みが消えた時、意識が戻ったのだと少女は気付く。肌を撫でる冷たい風が心地良く、少女を現実へと戻ったのだと伝えてくれるようで。
はあ、っと乱れる心音を落ち着かせるかのように、ルーシーは息を零した。
――ルーシーちゃん?
紡いだ言葉は虚しくも消えていく。
いつも真っ直ぐで、愛らしいあの子が居ない此処は――。
きょろきょろと辺りを朧・ユェーが見回した時。目の前に突然人影が現れた。
驚いたように息を飲み、じっとその姿を見れば。
「――っ」
笑みを浮かべたその姿を見て、ユェーは言葉にならない声でその存在を認識する。
それは、彼と同じ顔。
けれどその笑みは幸せを想う笑みでは無く。嘲笑うような歪んだ笑み。
その身体は私のモノ。
注がれる声は大きなものでは無い。けれどユェーの身体に沁みるように落ちてくる。
同じ顔の人物の横に現れる新たな人影。小さな女の子の姿をしているけれど、それはよく知る金の髪の少女では無い。
少女は口許に笑みを浮かべていた。
両の目から伝う雫は、あかいろを宿し。
じっとユェーを見つめながら、彼女は苦しそうに言葉を零す。
――何故、何故なのお兄ちゃん。
その言葉はユェーの心に強く響く。
「すまない……」
零れる声は悲痛ともいえるもの。
頭を抱えるように両手を当て、苦しそうに彼はその場で震える。
謝ってもあの日の過ちは消えないことは、分かっている。
自分が幸せになるなんて許されないことも、分かっている。
赤に染まる。
赤に染まる。
視界が、世界が、目の前の人々が。赤に赤に、染まっていく。
「――」
零れる吐息は苦しみを宿し、ぎゅうっと胸元で服を握り締めた時。
視界の不快な赤はいつしか段々と温かなお日様の花色に変わっていき――。
「……ルーシーちゃん?」
瞳を開けた時、こちらを覗き込む青い左目を捉えユェーはその名を呼んだ。
手に伝わる温もりも。心配そうに自分を見つめる少女の姿も。全部全部、今が現実なのだと伝えてくれているようで――彼は安堵の息を零すと同時に、少女は心配そうに見た。
僕よりもツライ夢を見ているのにはずなのに。
繋がる小さな手の温かさと柔らかさが心地良い。
「おはよう、パパ」
彼女の心が、彼を夢から救おうと祈ってくれたのだ。その心の傷が塞げなくとも、向日葵色のいとを届け少しでも救いたいと少女は祈ってくれていた。
――わたしは傍にいるよ。
その想いを込めたいとは、確かにユェーを救い出してくれた。
「おはよう、ルーシーちゃん」
だからユェーは感謝と、溢れる程の愛を伝えるように笑みと共に言葉を零す。
握られた手を優しく包むように握り返し、小さな小さな幼い娘の手を感じる。
彼女の優しさが心地良い。彼女の温かさが嬉しい。
――そう、此処は現実なのだ。
今日の夢は終わりなのだと、改めて想えば彼等は立ち上がる。
夢に手招いた少女の動きを糸で留め、暴食のグールが少女の身へと喰らいつく。彼女の力で、悪夢へと手招かれることはもうごめんだけれど――。
「もしまたパパが悪夢を見たら。ルーシーが助けにいくわ、ね?」
そよぐ風を柔らかな頬で受けながら、紡いだ少女はユェーを見上げながら小さく笑む。
その優しさと、愛おしさにユェーは笑みを返すと。
「ふふっありがとうねぇ。僕も救いに行くよ、悪夢から」
緩やかな笑みと共に、優しく少女へと言葉を掛けていた。
……うん、待ってる。
静かに返るは小さな頷き。
――傍にこの温もりがあれば、もう囚われなどしないから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花澤・まゆ
眠りの茨に触れた瞬間、世界は暗転した
泣いている子供がいる
帝都の片隅でしゃがみこんで泣いている子
ああ、あれはあたしの昔の姿だ
母に捨てられ、捨てられたことを理解できず
泣いていれば帰ってくると思ってた
思い出すたび胸が苦しい
しかも泣いている子に黒い影が忍び寄ってる
黒い影が飲み込もうとしている
あたしはあのとき、涙を拭いて歩きだした
だから、黒い影なんて知らない
これは悪夢だ
思い出しちゃいけない悪夢だ
わかってる
今でもときどき、黒い影に飲み込まれそうになる自分がいる
でも、あたしは一人でも大丈夫だって
今の「あたし」が証明してるから
これは悪夢
さあ、今の「あたし」で破って決着をつけよう
アドリブ歓迎です
●
茨が伸びたのは見えた。
その茨が花澤・まゆに触れた瞬間、見える世界は一変よく知るあの世界へと変わる。
常に桜が散る、長き世を統べる者による美しき世界。
佇むまゆの耳に届いたのは、幼子の鳴き声。その声に聞き覚えがあって、この景色にも覚えがあって。まゆは大きな瞳を伏せると、ひとつ息を吐く。
(「ああ、あれはあたしの昔の姿だ」)
覚えがあるのは当然だ。
あれは、自分の事なのだから。
母に捨てられたあの日。捨てられたことを理解出来ず、泣いていれば帰ってくると思っていた。泣いて、泣いて――ひたすらに温もりを待っていた。
あの感覚を鮮明に思い出して、きゅっと胸が締め付けられる。
唇を結び、胸元で両手を握りその痛みを抑えるように微かにまゆは屈んだ。
苦しい、苦しい――。
はあっと零れる息が荒くなる。
その時――目の前で泣く少女の元に、黒い影が忍び寄ってくるのが見えた。
正体は分からない黒い影。大きな影はゆらりゆらりと少女に近寄ると、その身体を飲み込もうと身体を広げる。
――違う。
その光景を見て、まゆの心に浮かぶ言葉は鮮明だった。
あの時のまゆは涙を拭いて歩き出した。
今目の前で広がる、黒い影なんて存在は知らない。何者かに干渉なんてされていない。
(「これは悪夢だ」)
浮かぶ言葉は鮮明に。これは、思い出してはいけない悪夢なのだとまゆは気付き、伏せていた瞳を開くと深く深く息を吐いた。
分かっている。今でも時々、黒い影に飲み込まれそうになる自分がいることを。
でも、まゆは一人でも大丈夫だと。今の『まゆ』が証明しているから――。
「これは悪夢。さあ、今の『あたし』で破って決着をつけよう」
前を見据え、未来へ進むかのようにカツリとヒールを響かせ一歩踏み出した時。はらりと零れる幻朧桜の花弁がまゆの頬を撫でたかと思うと、世界は淡い空に包まれていた。
あの帝都特有の街並み広がる世界では無い。淡い空に溢れる自然。此処がまゆのよく知るあの世界では無く、猟兵として歩み出した彼女の選んだ場所だと気付く。
そうっと確かめるように背の翼を揺らしてみれば、彼女の意志に合わせて動いた。
嗚呼、大丈夫だ。
まゆは安堵の息を零すと、そっと胸元へと手を当てる。逸る心臓はまだ収まらないけれど、この心音が現実へと戻ってきたのだと証明するかのようだった。
過去に泣いていた自分は消えはしない。
けれど、あのままでは無いと再確認をしたから。だからもう、負けはしない。
――夢へと手招いた少女が。残念そうに唇を結んでいた。
大成功
🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
悪夢…?
違う…其処に笑う姉様が、居る
似た顔でも、金髪に緑の瞳の…
凛々しい姉が
夢でも、つい姉様に駆け寄り
私が近付くと…
急に、姉様が血に塗れて倒れ
何が起きたのか、呆然とすれば
倒れた姉から声がする
重なる様に、様々な者の声がする
お前の所為で
お前が居なければ、と
里ごと、全てが燃えたあの日
姉の最期、そうは言わなかった、ので
…悪夢だと理解します
知ってます
私が居なければ、産まれなければ
多くの者が、生きていた筈で
姉も、里の外で幸せに過ごせたのに
…赦されるつもりは、ありません
でも、生きて、と姉に願われ
其処に守るべき命が在るから
氷牙を手に風牙剣舞
風の精霊を招いて力を借り
…奪う命は悲しくとも
もう、茨には、囚われません
●
悪夢……?
目の前に現れた人影を見て、泉宮・瑠碧はぱちぱちと深い青の瞳を瞬いた。
金の髪に緑の瞳。美しい色を宿す彼女は、色こそ違うが顔は瑠碧とよく似ている。
――姉様。
間違えるわけがない。あの顔は、あの笑顔は、瑠碧のよく知る存在。凛々しい姉。
気付けば彼女は走り出していた。ひらひらと泳ぐ淡い青い髪は、姉とは似ていない。唇から零れる吐息が動揺で荒れているけれど、それでも瑠碧は駆け寄っていた。
――姉様!
駆け寄り名前を呼ぼうと深く息を吸った時――目の前の彼女の笑顔が崩れるかのように、その顔に鮮血が零れていく。
鮮血は次第に身体を、四肢を、美しい金の髪を汚し、塗れて。瑠碧の目の前で立っていた細い身体は、ぐらりと傾ぐとそのまま血の海へと倒れた。
パシャリと響く水音は、鮮血の量を表しているようで。その音と倒れる彼女の姿を前にして、瑠碧は深く深く息を吸い立ち尽くす。
――倒れゆく瞬間は、いやにゆっくりに見えた。
何が、起きたのだろう。
理解が追い付かずにその場に呆然と立ちすくむ。血に染まる金の髪が広がる様子を見て、思わず一歩踏み出した時。
――お前の所為で。
――お前が居なければ。
聴こえる声に、また彼女は足を止めてしまった。
その声の出所を探すように辺りを見回すが、それは倒れ伏した姉から。そして四方八方から、重なるように次々と瑠碧を責め立てる声が響いてくる。
浴びるような言葉に、細い身体が震える。
里ごと、全てが燃えたあの日は鮮明に覚えている。
自分は生贄であり、幽閉されていた身だけれど。唯一命と認めてくれた姉の存在は彼女にとっては全てであり大切な存在。
――あの記憶が今こうして襲ってくるのは、これが悪夢だからなのだ。瑠碧は理解すると、きゅっと唇を結び俯いた。
震える身体は収まらない。
知っている。分かっている。自分が居なければ、産まれなければ。多くの者が生きていた筈で、姉も里の外で幸せに過ごせていた。
「……赦されるつもりは、ありません」
彼女の唇から零れるのは、許しを請う言葉ではなく罪を認める言葉。自分が悪くないとは思っていない。むしろ全てが、自分の所為だと。もう彼女は分かっている。
だから瑠碧は今まで、その咎を背負いながらこの地に立っているのだ。
だって――生きて、と姉に願われたから。
そして、其処に守るべき命があるから。
すうっと息を深く吸うと、瑠碧は蒼く輝く短剣を握る。その切っ先に逆巻くような風の力を宿せば、武器を構える彼女の青い瞳にはもう戸惑いの色は無かった。
「……奪う命は悲しくとも。もう、茨には、囚われません」
風が強くなれば悪夢を打ち破り、目の前に現れるのは夢を扱う少女。
――悲しみの色は消えることは無いけれど。
――罪と共に、彼女は一歩進むのだ。
大成功
🔵🔵🔵
パルピ・ペルポル
大事な人ね…強いて言うなら。
以前冒険者やってたときにパーティー組んでた仲間たち。
真面目で優秀だけど時々ポンコツになる魔法剣士。
温厚だけど怒らせると怖い僧侶。
マイペースな魔法使いと…あと一人…誰だっけ…?戦士ではあったはず…。
ああなんか重い出せなくてすごくもやもやする。
もやもや感を抱えたまま戦闘は続行するわ。
わたしもここで死ぬわけにはいかないのよ。
解散した日に皆と約束したから。数年後のこの日にいつもの酒場でまた集まろうって。
背の高いあいつを目印にするんだって決めてるんだから!
茨は雨紡ぎの風糸で切り裂いて。
UCで隙を作ってから穢れを知らぬ薔薇の蕾を棺の中に投げ込んで、拘束させるわ。
●
薄れゆく記憶を辿るように、パルピ・ペルポルは頭を抱えていた。
そう、彼女には大事な人が居た。
以前、冒険者をやっていた時にパーティーを組んでいた仲間達が。
真面目で優秀だけれど、時々ポンコツになる魔法剣士。温厚だけれど怒らせると怖い僧侶。マイペースな魔法使いと――。
「あと一人……誰だっけ……? 戦士ではあったはず……」
頭に浮かぶ姿はもやが掛かったようで、全く足取りがつかめない。姿もかたちも、色も匂いも。すぐ傍にあった筈の彼の存在が、全く掴めない。
「ああなんか重い出せなくてすごくもやもやする」
少しだけ苛立ったかのように彼女は言葉を零すけれど、その想いに囚われ続けるわけにはいかない。冒険者として経験を積んだ彼女ならば、今は何をすべきか分かっている。
そう、今は戦闘中。
心を支配し、無効化する相手ならば。心に囚われなければ良いのだと分かっている。
だって――パルピは此処で死ぬわけにはいかないから。
もやが掛かった彼等の姿。けれど、この約束だけは失ってはいない。解散した日に交わした約束を。数年後のこの日に、いつもの酒場でまた集まろうと云う約束を。
「背の高いあいつを目印にするんだって決めてるんだから!」
囚われた心を解放するように、パルピは強く叫ぶとそのまま透明な糸を世界へと放つ。確かな強度を持つその糸はパルピを捉える茨を逆に捉えると、切り裂きその姿を消していく。小さな身体ながら彼女の力は確かなもので、数多の冒険を経験したひとりの冒険者なのだということを語っている。
そう、あの思い出は夢では無い。
彼女の理想が作り出した幻でもない。
この力が。術が。あの日の軌跡を確かなものへとしているから――。
「あ」
紡いだ言葉は不意なもの。その言葉に反応した金の髪の少女を、パルピは棺の奥へと誘導するように強い衝撃を与える。
瞳の見えない少女から戸惑う吐息が零れた時。既にその身体の自由は奪われていた。
大成功
🔵🔵🔵
ロキ・バロックヒート
SPD
ひどく冷たい
くらくてなにも見えない
おちて沈んで
私ですらなくなっていく
まるで世界から捨てられるような―
気が付くと色んな子たちに囲まれていた
なんとなくどこか見知った顔
そんなに険しいお顔してどうしたの?
可愛いのに台無しだよ
おのおの武器を構えて
その矛先を向けるのは―私?
ああ、そっか
ついに私も《過去》になっちゃったんだ
これが悪夢?そうかなぁ
だって《過去》になれば
すでに《過去》となった皆と一緒になれる
この救済をだれも望んでいないなんて
なんにも悩むことも考えることも無く
世界に滅びを齎してあげられる―
影の獣が茨を食い千切る
ああ、良いところだったのに
なんて笑う
でも続きは良いかな
まだそうなるつもりはないから
●
ひどく冷たいと、ロキ・バロックヒートは想った。
辺りは暗くて何も見えない。ただ、落ちて、沈んでいく感覚だけが彼の身を包む。
それは自分ですらなくなっていくような、まるで世界から捨てられたような感覚で――抗うことは出来なく。瞳を閉じ、ただ身を任せることしか出来なかった。
次に彼が瞳を開いた瞬間、金色の瞳が捉えたのは数多の人の姿。
驚いたようにひとつ瞳を瞬くけれど、彼等は皆武器を構え。真っ直ぐにロキを見つめている。その眼差しは優しいものでは無い、険しく今にも武器を振り下ろしそうな姿。
「そんなに険しいお顔してどうしたの? 可愛いのに台無しだよ」
紡ぐ言葉はいつも通り。けれどその視線の意味を考えれば――彼等の矛先は、自分なのだと彼は気付く。
――ああ、そっか。
――ついに私も《過去》になっちゃったんだ。
言葉にはせず、ロキは納得したように心に想う。
蜜彩の瞳は今も彼等を捉え続ける。よく見れば見知った顔のような気がするけれど、これが彼にとっての『悪夢』なのだと気付いた。
ふうっと吐息が零れる。
これが、悪夢?
ひとつ疑問が彼に頭に過ぎる。本当に悪夢なのだろうかと云う疑問が。
だって《過去》になれば、すでに《過去》となった皆と一緒になれる。この救済をだれも望んでいないなんて、なんにも悩むことも考えることも無く。世界に滅びをもたらしてあげられるのだと。
――それは長くを生きた、神であるロキ故の考え方なのだろう。
人は、愛でるけれど愛してはいない。
彼を囲む彼等は、睨み続けるけれど肝心の一撃を下ろしてはこない。様子を伺っているのか、ロキに恐れを抱いているのか――それは分からないけれど、だからこそ彼は微笑んで見せる。悪夢故の、恐れなど彼の心には無いのだから。
けれど、ロキの元に突然現れた獣が。悪夢を喰らうと世界が歪む。闇の中立つ人々は歪み、掻き消え、その険しい表情は見えなくなり霞んでいく。
――それは、ロキの持つ力であるひとつ。影の獣が茨を喰らい、食い千切り悪夢を断ち切ったから。闇が晴れ、淡い空の下頬を撫でる冷たい風を感じて。
「ああ、良いところだったのに」
ロキは笑いながら、そんなことを紡いだ。
そう、良いところだった。
けれど続きを見たいとは思わない。
「まだそうなるつもりはないから」
瞳を閉じ首を傾げそう紡げば、首元の首枷がじゃらりと重い音を響かせた。
悪夢か、そうでないかは各々の心の問題だけれど。
あれはあくまで、夢の世界――。
大成功
🔵🔵🔵
雨野・雲珠
呪詛には【呪詛耐性】で抗いつつ、
忘却について今は考えないことにします。
できそこないとはいえ、俺は年輪刻む桜樹の精。
梓弓【花鳴り】の弦をはじく音で【結界】を展開。
クレリックのお嬢さんをこれ以上の呪いの干渉から守ります。
神に仕える俺たちの命のつかいどころは、
ただ神と己とで決めること。
あなたにどうこうされる謂れはないです。
その呪い、言祝ぎでもってお返しします。
お嬢さんも俺たちも大丈夫です。
傷は癒える、ここは死ぬ場所ではない、何も失くさないと!
【花吹雪】でしつこく相手を寝落とし狙い。
眠気で思考と動きが鈍れば、他の方が仕留めてくださるはず。
ねんねしやんせ、竜らと共に
ん。あれ…
…結局、誰を忘れたんだろう。
●
目の前の少女が紡ぐ言葉。
その言葉が雨野・雲珠の身を包み込めば、何かが薄れていく感覚があった。
何とか耐えようとその身に力を纏わせるが、強大な存在である彼女の術からは逃れることは出来ず。段々と雲珠の薄れていく部分に、もやが掛かったような感覚になる。
ふうっと彼は息を吐くけれど――ひとつ首を振ると、そのまま彼は敵へと向き直る。
忘却について、今は考えない。
(「できそこないとはいえ、俺は年輪刻む桜樹の精」)
歴史が、記憶が、積み重なり自身を形成していることは確かだから。薄れゆくこの感覚はさほど問題では無い。それ以上に今は、震える少女を助けることが最優先だ。
彼は梓弓を構えると、伝う弦を弾き微かな音を響かせると共に結界を展開させる。その結界は戦場を包むことは出来ないけれど、背に守る少女を包み込んだ。
全ては、彼女がこれ以上呪いに浸食されないようにと云う彼の優しさ。
否、優しさだけでは無い。彼にとって彼女は、無視出来る存在では無かったから。自分と同じような立ち位置で、自身より幼い彼女のことは。
だからこそ、分かるのだ。
「神に仕える俺たちの命のつかいどころは、ただ神と己とで決めること。あなたにどうこうされる謂れはないです」
真っ直ぐに、桜色の瞳で敵を見据え。彼は言葉を紡ぐ。
自身の生き方は、きっと彼女と同じ。神に寄り添う彼等の生き方は、他人に干渉されるものでは無いと強く強く想うことを、真っ直ぐに言葉にする。
守るべき少女も、言霊を用いる信仰者。ならば彼の言葉は彼女にも、そして敵にも意味を成すのだろう。今此の地には、きっと言葉が有効だと信じるから。
包み込む呪いはまだ解けない。
けれど雲珠は迷う色など瞳に宿さず、ただ少女を護らんとその場に立つ。
「その呪い、言祝ぎでもってお返しします」
包み込む呪いを跳ね除けるかのように、雲珠が紡いだ時――背に守る少女が、共に祈るように胸の前で手を組んでいた。一瞬振り返った時その姿を見た雲珠は、柔らかく笑むと少女へと視線を送る。
「お嬢さんも俺たちも大丈夫です。傷は癒える、ここは死ぬ場所ではない、何も失くさないと!」
視線と共に零れる言葉は、恐怖で震える彼女を安堵させる温かな色。彼の生まれた世界を染める優しい桜のような温もり。大丈夫だと、言葉にされれば彼女は安堵したのか。大きな瞳からぽたりと雫が伝っていた。
大丈夫、それは雲珠の心からの言葉。
破邪の言葉を彼女が使えるかは分からない。使えたとしても使わせない。強い意志を持ち雲珠が生み出したのは、雪のように白い桜の花びら。まるで雪が舞うかのようにちらちらと舞ったかと思えば、花弁は吹き荒れ世界を包み込み――棺の中に居る少女を眠りの世界へと落としていく。
「ねんねしやんせ、竜らと共に」
共に居る猟兵へと後は託しつつ、彼は世界に桜を降らせ続ける。
――結局、誰を忘れたんだろう。
薄れゆく記憶の正体は、掴めないまま。
大成功
🔵🔵🔵
ノイシュ・ユコスティア
●悪夢
倒したはずの帝竜ヴァルギリオスが復活し、この世界の大地を襲撃する。
一度取り戻した平和が壊れていく。
僕はヴァルギリオス戦で途中で力尽き、苦戦した過去があり、少しトラウマ。
帝竜を見て「倒されたはずなのにどうして…?」
「止めたい。でも僕には何もできない。」
怖いんだ…
でも、それじゃあこの先だって変わらない。
「流花、力を貸して。」
ユーベルコードで召喚した流花に騎乗し、射程距離まで近づく。
せめて一矢!
竜の顔面を狙って。
悪夢を振りほどくことができたら、まずアニエスの無事を確認する。
流花に騎乗したまま、敵の気を惹く。
敵とは距離を取りながらロングボウで攻撃。
もう、悪い夢は信じない。全力で…
●
気付けばノイシュ・ユコスティアの目の前には、強大な存在が居た。
数多の頭を持つ竜――かつてアックス&ウィザーズを襲ったが、二度に渡り討ち滅ぼした強大な敵。名を『帝竜ヴァルギリオス』として伝えられる彼。
一度は、古に伝わる勇者達が。
そして二度目は、ノイシュを含む猟兵達が。
そう、彼は以前彼の敵と対峙している。自分の世界の平和を乱し、蹂躙し、破壊する彼の存在に黙ってはいられなかった。猟兵に選ばれたのならば、自身の力を用いるべきだと思った。確かにこの矢を放ったことを覚えている。
「倒されたはずなのにどうして……?」
青ざめた表情で、ノイシュは言葉を零した。
血の気は引き、すっかり身体は冷え切っている。弓を握る手が震え、感覚が無くなってきた。そう、あの時猟兵が倒した筈。――自分は途中で力尽きた為、直接止めを刺せたわけでは無いけれど。確かに、倒した筈。
足元がぐらつく。
美しい緑の世界が、破壊され荒れ果てる。
――確かにあの日、平和を取り戻したのに。再び、壊されていく。
地が、世界が、壊されていく。
ガラガラと崩れる音が耳に届く。弓を握る手はだらりと垂れ、震えは止まらない。
「止めたい。でも僕には何もできない」
――怖いんだ。
ぎゅうっと唇を噛み、俯きノイシュは呟く。
あの日、自身の力が彼の敵には及ばなかったことが鮮明に思い出される。そう、自分が戦ったのでは大した貢献は出来ない。
『さあ、今度こそ最終決戦だ!』
瞳を光らせ、堂々と語る帝竜ヴァルギリオス。威圧されたかのように、ノイシュは思わず一歩引くけれど――。
それじゃあこの先だって変わらない。
きゅっと結ぶ唇はそのままで、震える手に意思を込める。
例え止めが刺せなくとも、このまま世界が滅びゆくのを見ている訳にはいかないから。
「流花、力を貸して」
言葉を掛ければ、現れるのは相棒のハヤブサ。巨大な彼は翼を羽ばたかせると、背に乗るノイシュと共に空へと羽ばたく。
敵は強大ゆえ、その懐に入り込むのは難しい。――けれど、ノイシュならば。彼の弓ならば、流花の力を借り少し近付ければ攻撃することが出来る。
(「せめて一矢!」)
深呼吸をして。弓を構え彼は――真っ直ぐに、帝竜の顔面へと矢を放った。
矢が顔面へと命中し、咆哮が響いたかと思うと。気付けば視界は崩れゆくあの世界では無かった。淡い空に浮かぶ島々。夢の世界と同じ群竜大陸ではあるけれど、もう滅びゆく世界では無い。支配されていた此の地さえ、猟兵達により平和となったのだ。
遠目から、少女の無事を確認し。ノイシュは流花と共に金の髪の少女を射る。
(「もう、悪い夢は信じない。全力で……」)
弓を構える彼の眼差しは、もう夢の中のような恐怖の色は無かった。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年11月23日
宿敵
『眠りの森の魔女ターリア』
を撃破!
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