●破滅願望
うららかなる不思議の国。木々は色とりどりで、木の葉は冴え冴えたる氷。
実るものは、ふんわり柔らかなアイスクリームの花々であった。
されど。
常であれば、それをせっせと収穫している住民たちの姿はあらず――。
その代わり、様々な殺戮刃物を携えた殺人鬼たちが、数多集い、躍動していた。
烈風は色彩鮮やかな氷の葉を散らし、細氷が霧のように世界を染めた。
柔らかな花々が溶けることをしらぬのは、斬撃があまりにも速いから。
彼らは皆、侵略者を始末するため、崇高なる戦いに挑んでいた――。
しかししかし。
衝動にリミッターをもうけぬことの、なんと心地よいことか。
風が唸り、肌を刺す全ての感覚が鋭敏で、屠る手応えは甘美。
狂う、狂う。
もとより、そのように生まれついて、あるいは変容して、居場所を持たず流転してきた殺人鬼たちなれば。喜悦に浸りながら、殺戮を紡ぎ出す。
――だが、無駄だと、侵略者は嗤う。
黒髪を靡かせ、獣の腕にて、命を刈り取りながら。
●共闘か、抜け駆けか
「さて麗しきは、故郷を守ろうと挑むものたちの心構えか――それとも、破滅を畏れず、戦い続ける覚悟でしょうか」
ジャグ・ウォーキー(詩謔・f19528)は微笑と共に嘯いて、猟兵たちを一瞥した。
「考えたものです。元の住人たちを避難させ、戦闘能力に優れた殺人鬼たちが、襲撃してきたオブビリオンを退ける――彼らはいつもは裡に秘めた『殺人衝動』を押さえ込んで戦いますが、これを解放すれば常の何倍もの力が……いいえ、真価を発揮できる、といった方が正しいのかもしれません」
その力はすさまじい。
猟書家とオブリビオンの軍勢にひけをとらぬ力を見せるのだから。
「勿論、勝てるならば、わたくしめがこのようなお話をすることはありません。ええ、軍勢であれば比肩もしよう。しかし猟書家『ディガンマ』には及ばない……それどころか」
彼女は一度、言葉を切った。
――彼らは『勝っても負けても、殺人鬼達が殺戮衝動に飲まれてオウガ化してしまう』という予知があったのだ。
彼らが死すこともないままにオウガと化すような事が実際に起こるかは、わからない。
しかし見過ごすわけにはいきません、と彼女はいう。
「そこで皆様に依頼したいことですが――殺人鬼の方々を宥めながら、戦っていただきたいのです。助力を得るのは結構ですが、衝動を更に解放させぬよう、然り気無く庇っていただきたいのです」
人差し指をたてたジャグは、まるで悪戯を仕込むように猟兵たちに告げる。
「いずれにせよ、お帰りいただくのです。ひとつでも多くの命を救えるよう――さて、皆様の心境や如何に、と興味は尽きませぬが」
グリモアのウサギが跳ねて、世界を繋ぐ。
いざや、狂瀾の戦場へ。
黒塚婁
どうも、黒塚です。
新環境での執筆なのでちょっとモタモタする予定です。
●1章:集団戦『グリードキャタピラー』
●2章:ボス戦『ディガンマ』
どちらにも名もなき殺人鬼の皆様が全力で戦ってくれます。
ですが、あまり衝動が高まると危険なので、何気なくフォローして後ろに下げたり、大人げなく獲物をかっぱらったりしてください。
ディガンマ戦に関しては、すべてを振り切った殺人鬼でもかないませんので、生存させるためには彼らを守りながら戦う必要があります。
●プレイングに関して
各章、導入とプレイング受付期間を案内いたします。
受付前に受け取ったプレイングに関しては、内容如何を問わず採用しませんのでご注意ください。
また全員採用はお約束できません。
ご了承の上、ご参加くださいますようお願い申し上げます。
それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。
第1章 集団戦
『グリードキャタピラー』
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POW : キャタピラーファング
【無数の歯の生えた大口で噛みつくこと】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 脱皮突進
【無数の足を蠢かせての突進】による素早い一撃を放つ。また、【脱皮する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 汚らわしき蹂躙
全身を【表皮から溢れる粘液】で覆い、自身が敵から受けた【敵意や嫌悪の感情】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
イラスト:猫背
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●狂喜
芋虫型のオウガが歯を鳴らした。
群れを成すそれらへと立ち向かう殺人鬼たちに、恐怖など微塵も過らぬ。
素早く距離を詰め、刃を叩き込む。
身を起こした芋虫が全身でもって彼らを蹴散らす。
反撃にすら、皆の表情にはただ喜びが滲む。
――もっと、もっと。
目を爛爛とさせた彼らは、すぐに身を起こして飛びかかる。
戦場を包む、異様な熱気。
生死の領域を渡るものを昂揚させる空気。これらを作り出しているのは、オブリビオンばかりではなく――防衛にあたる殺人鬼たちもまた、共犯なのであった。
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プレイング受付
11月4日(水)~6日(金)中
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ラフィ・シザー
そうだったよな…猟兵になる前の俺ならあんな風に戦うことに違和感なんか感じなかっただろう。
でも、今は…殺すだけの俺じゃない。はず…。
すくなくともディガンマと戦う為に準備をした殺人鬼達は『トモダチ』と言えなくはないだろう?
ならば俺は彼らだって守る。
俺はそう言う『殺人鬼』だからね。
だからみんなはいつも通りに戦ってくれればいい。俺は俺だ。
UC【Dancing Scissors】で攻撃。
味方の殺人鬼が九死殺戮刃を使おうとした場合は攻撃対象を【かばい】自信が攻撃を受けることで寿命を減らさせない。【盾受け】や【オーラ防御】で身を守りつつ攻撃を受けても【激痛耐性】【継戦能力】で耐える
●トモダチ
(「そうだったよな……猟兵になる前の俺ならあんな風に戦うことに違和感なんか感じなかっただろう」)
「でも、今は……殺すだけの俺じゃない。はず……」
己の掌を見つめ、ラフィ・シザー(【鋏ウサギ】・f19461)はそっと呟いた。
目の前で猛る殺人鬼たちの、裡から解き放たれる衝動は、ラフィにも輝かしく見えた。同じ性質を持っているから――その快感を、知っている。けれど。
――『トモダチ』は殺さない。『トモダチ』を守りたい。
「すくなくともディガンマと戦う為に準備をした殺人鬼達は『トモダチ』と言えなくはないだろう? ならば俺は彼らだって守る。俺はそう言う『殺人鬼』だからね」
自分に言い聞かせ、身を沈めた。
軽く双眸を閉ざす――珍しく、心は凪いでいた。
彼らを止めるか? 何のために?
「踊れ!踊れ!踊れ!」
ラフィのイメージ通り、複製された三種の鋏が、凍えた空を鋭く舞う。
グリードキャタピラーは左右から挟み撃ちを仕掛けてきた殺人鬼たちの片方へ、ぐっと身を縮めると、無数の足を蠢かせて突進する。
「ぐっ」
狙われた方は、その体を躱そうと身を捻る――よりも先に、芋虫の鼻先をラフィの鋏が掠めていく。
ざくっ、と肉が裂ける小気味よい音がした。頭部に切れ込みを入れられた芋虫は、体を捻り、荒々しくのたうつ。
後ろへ跳躍して躱した殺人鬼はかろうじて難を逃れ――もう一人が腹へとナイフを叩き込む。
鮮やかな斬撃はその薄皮を破り、芋虫は腹から得体の知れぬ液体をまき散らす。
「トドメだ――」
その傷に勝者の笑みを浮かべた瞬間、重圧な尾がしなった。
「――ッ!」
苦痛を覚悟し、身構える。否、更に衝動を解き放って反撃を――。
不穏な呼吸を吐き、瞳を輝かせ始めた殺人鬼の前に、小さな黒い影が飛び込んできた。
どんと重い衝撃の音がして、黒ウサギの少年は芋虫の体にしがみついていた――実際は、構えた鋏で貫いて、ラフィが敵の体を捕らえていたのだが。
殺人鬼がユーベルコードで芋虫に反撃を仕掛けたのも、同時だったのだ。
「えッ!?」
狙いと違う手応えへの驚きに、思わず身を引いた殺人鬼は、呆然と彼らを見つめる。
ラフィはといえば、そのまま空に浮かぶ鋏を操り、己が捕らえた敵へ次々降り注がせる――針山の如き、肉の残骸を背にラフィはくるりと振り返った。
「守るよ、こんな相手で寿命は減らすものじゃないからね!」
にっこりと微笑んで、我に返った殺人鬼に声をかける。浅く肌を引っかけた手応えで。一筋の赤色で我に返るんだから、彼らはまだ大丈夫だ。
ちろりと己の血を舐めて、ラフィは鋏を繰る。
「だからみんなはいつも通りに戦ってくれればいい。俺は俺だ」
彼らが全てを擲たずとも、そのまま戦えるように。
踊れ、踊れと鋏を回転させる。鋭利な刃に削られて、空気に漂う氷片が、かき氷のようにふわふわ躍る。
その中央で楽しげに、ラフィもまた跳ねて、彼らとともに芋虫を狩りを継続するのだ。
大成功
🔵🔵🔵
夏目・晴夜
へえ、これがアイスクリームの花ですか
実に興味深いです
殺人鬼の力は借りつつも獲物はかっぱらって食べ尽くしてしまいたく
『喰う幸福』の高速移動で敵の背後へ回り、
その身を【踏みつけ】妖刀を【串刺し】切り裂いて参ります
脱皮、するのでしょう? 特別に手伝って差し上げますよ
しかし殺人鬼たちは皆命知らずですねえ
このハレルヤよりも目立とうだなんて!
それでは早死に真っしぐらですよ
敵の突進には斬撃から衝撃波を放って阻害
勿論殺人鬼を庇うのも抜かりなく
ハレルヤに助けられたのは紛れもない事実
なので相応の代償は払って頂きます
後で存分に褒め称えてください
あとアイスクリームの花って美味いんですか?
美味いなら食べてみたいのですが
●その意の儘に
ふわり、空に綿のようなものが浮かんでいる。そこへ指を差し出せば、彼の熱で解けるように消えていく。
「へえ、これがアイスクリームの花ですか――実に興味深いです」
戦場で散った花弁の一つを見届けて、夏目・晴夜(不夜狼・f00145)が目を細めた。
木々には素知らぬ顔で優雅に咲く、甘い香りの花々。
彼の関心は戦場と一線を画す。けれど、戦場を無視しているわけではない。
灰銀の耳が、ひくりと動く。
身を返しながら、白柴のからくり人形の頭を撫で――流れから、するりと妖刀を抜き払う。
「残さず食べて差し上げます」
そっと囁く。
刃から溢れる暗色の怨念は、周囲の熱気に紛れて曖昧だ。
殺人鬼が二人がかりで、正面から芋虫を狙う。体を蠢かせ、皮を捨て跳びだそうとする。幾度か受けてその凶悪さを知っているらしい彼らは、敵の瞬発力を利用し、目を狙って斬り込もうとしている――狙いは悪くないですね、晴夜は判定する。
だが、遅い。
迫り出した適当な木の枝を蹴って、彼は加速した。殺人鬼たちを抜き去って、グリードキャタピラーの頭を踏みつける。
「脱皮、するのでしょう? 特別に手伝って差し上げますよ」
そして無造作に、その背を刺す――芋虫は足を蠢かせて前へと進む。後頭部から尻尾の先まで。己の突出で真っ二つに割れていった。
それほどまでに、一瞬の出来事だった。
「しかしあなたたちは皆命知らずですねえ、このハレルヤよりも目立とうだなんて! それでは早死に真っしぐらですよ」
肉塊の上で、晴夜は天を仰ぎ嘆いた。
彼の声音には一切の疑念も混じっておらず。見上げた殺人鬼は呆気にとられている。
「ほらほら、次が来ますよ。次こそ、きちんと私を引き立ててくださいね?」
「ハァ?」
つんと澄ました表情で、晴夜は妖刀を無造作に傾ける。
「さっさと片付けましょう。このハレルヤの寿命を捧げさせる価値もない――」
果たして本心か否か。怜悧な眼差しを敵に向けるなり、軽やかに肉塊を蹴って飛び出す。
駆けつける先には、別の殺人鬼たちがいるものの。成すべき事は変わらない。醜悪な芋虫の攻撃も一辺倒ならば、一足で駆けて仕留めてくれる。
晴夜の姿は、もはや怨念の尾のみを視認させるばかり。
遅れをとるものかと、殺人鬼たちも追いかけてきた。置き去りにも出来たが、時々先行させてやって――彼らが張り切りすぎる前に、獲物をかっぱらう。
殺人鬼たちは、元々誰が屠ったなどを気にしないが、悉く「本気を出す」前に敵を仕留められて、複雑そうな表情をしていた。
――晴夜は、一切気にしなかったが。
そういえばと、彼は思い出したように『不遜にも』横に並んできた殺人鬼に問うてみる。
「アイスクリームの花って美味いんですか? 美味いなら食べてみたいのですが」
晴夜の満更でもない――彼は大体正直である――問いかけに、暫し悩んだ殺人鬼は、神妙な顔つきで、こそりと囁く。
「さっきちょっと舐めてみたら、美味しかった。色によって味が違うみたいだ」
我慢の効かぬ甘党の一言に、はは、と晴夜は声だけで笑う。
そうだ、腹一杯喰らっても、甘いモノは別腹なのだ。
「それはそれは――やる気の出る情報ですね」
大成功
🔵🔵🔵
黒川・文子
ここはわたくしめの出番でしょうか。
冷静さを保ったまま彼らには戦って頂きたいですね。
両手を鳴らしてもっと愉快な仲間達を召喚いたします。
戦闘力の無い部下ですが、支援は得意です。
愉快な仲間達、彼らが衝動を高めないように獲物を奪うのです。
彼らにバレないようにこっそりと地中でトンネルを掘り、落とし穴を作るのです。
落ちた芋虫はわたくしめが軽機関銃を使いトドメを刺しましょう。
殺人鬼の方。前に出すぎですよ。
衝動のままに戦っておりますと、敵に囲まれます。
たとえ相手が一人であっても、冷静な判断をお忘れなきように。
愉快な仲間達、次の芋虫を落とし穴に。
他にも冷静さを欠かした方から獲物を奪い取りましょう。
●よき助言
息をつかさぬ戦場においても、冷静なメイドは顔色一つ変えぬ。
殺人鬼たちは加わった猟兵たちの動きなど意に介さぬほど、己の戦闘に入れ込んでいるようである。猪突猛進とばかり、一線に仕掛けるのは如何かと思うが、このくらいのオウガならば、渡り合えるようだ。
確かに、彼らの迷いのない動きは、黒川・文子(メイドの土産・f24138)から見ても戦力と数えて問題がない。問題は、過剰に殺戮衝動を解き放ってしまうことなのだ。
(「冷静さを保ったまま彼らには戦って頂きたいですね――」)
それならば、メイドとして、すべき事を。
「ここはわたくしめの出番でしょうか」
誰にでもなく囁き、文子は両手を鳴らす。屋敷の中で、使用人を呼びつけるように――すると、どこからともなく、ひょこりと陽気な小人達が姿を現す。
彼らに戦闘能力がないのは、わかった上で――文子は内緒話をするように膝を折り、小人達へ協力を願う。
「愉快な仲間達、彼らが衝動を高めないように獲物を奪うのです――彼らにバレないようにこっそりと地中でトンネルを掘り、落とし穴を作ってください」
小人達は手を上げて、了解を唱えるなり穴を掘り出す。
あっという間に姿を消した彼らを確認すると、文子は静かに立ち上がり、軽くスカートを払った。
トンネルは真っ直ぐにグリードキャタピラーを目指して伸びていくが、傍目にはわからない。
ましてや、獲物を追うのに必死な殺人鬼や、芋虫が気づくはずもない。
その殺人鬼は、ひとりでそれと対峙していた。
表皮から溢れる粘液に覆われた芋虫が、牙を見せながら飛びかかる。バネのように跳ね上がって、肩口をあのおぞましい口が捉えようか――その瞬間、ずるっと芋虫が深く埋まった。
追い打ちをかける、けたたましき銃声。
規則正しい重低音が地を揺らし、芋虫を容赦なく剔り、肉塊へと爆ぜていく。
「殺人鬼の方。前に出すぎですよ」
振り返った者へ、文子は機関銃を慎ましく下げて、静かに告げた。
感情の読めぬ彼女の赤い瞳が、一度だけ、瞬いた。地中にいる小人達の動向を、捉えるように。
「衝動のままに戦っておりますと、敵に囲まれます。たとえ相手が一人であっても、冷静な判断をお忘れなきように」
こうして獲物を奪われることもありますよ、と彼女は言うなり踵を返す。
「あ、ああ……うん……」
まったくの正論である。そして同時に、殺人鬼たちは気づいた――不用意に動き回ると、穴に落ちるのでは、と。彼らの体重では芋虫のように半身をとられる勢いで落下しないだろうが、戦場においてその隙は致命的となるだろう。
冷静に見極めれば回避はできるだろうが――無論、今ここで、彼女の戦い方を見たものだけが気づいたのだから、他の殺人鬼たちには知れぬ事だ。
冷静さを欠けば、獲物を奪われる。
言葉通りの戦場が、完成しつつあった。
芋虫の行進を冷ややかに一瞥した黒衣のメイドは、地中の仲間に声をかけた。
「愉快な仲間達、次の芋虫を落とし穴に」
無駄のない機敏な所作で――再び機関銃を構えて、文子はその標準を哀れな虫へと定めた。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
◆SPD
周囲を広く見る為、敵に接近しすぎないように心がけて交戦する
突進してくる敵や脱皮を行う敵をユーベルコードで狙撃していく
戦いつつ周囲を確認
包囲されないよう、また殺人鬼たちの様子にも常に気を配っておく
殺人衝動が高まり過ぎないように、相手をしている敵を横から手出しをして倒してしまってもいい
交戦を続ければ危険だと感じる程衝動が高まっているなら、
「もっと戦いたいというのなら、今無理をするべきではない」だとか、適当な理由をつけて下がらせる
こうも露骨に獲物を奪っては文句の一つも出るかもしれないが、軽く受け流しておく
彼等を守る事が目的だ、揉め事になるのは本意ではない
猟書家の企みを挫く事にもつながるはずだ
●狂気の宿命
グリードキャタピラーの体が大きく波打つ。柔らかに見えて、非常に筋肉質なそれは、向かうものを一切弾き飛ばす肉弾となる。
その兆候を、鋭い眼差しが捉える。
ぱり、と頭部の細い傷が割れる。脱皮もするつもりらしい――。
立ち向かう殺人鬼が、化鳥のごとき声を上げながら、大きく腕を振るう。おそらく、彼の攻撃が先に当たるが、腹に食いつかれて、負傷するだろう。
それとて好んで迎え撃つ気配をその男の瞳に見いだし、殺戮衝動というのは難儀なものだ、とシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は思う。
――然し、己にも、そんな覚えがあるのだから笑いはすまい。
厭う人狼の証。
意識の外に追いやって、呼気を整える。
敵との距離を冷静に見極めたシキは素早く腕を上げ、標準を定める。
一瞬の一挙で、視線と腕の高さが合う。幾度となく繰り返した動作は、意識の有無に関わらず、狙い通り連動する。
刹那、詰めた深い呼吸。息を止め、丹田に力が満ちるや否や、解き放つ。立て続けに数発、弾倉が空になるまで。
ばすんと肉に銃弾が触れた瞬間、得も言われぬ悪臭が爆ぜた。放った弾丸は全て命中し、蜂の巣とはいかずとも的確に射貫かれた芋虫は、じたばたと無数の足を空転させた後、ごろりと横臥した。
言うなれば、始まる前に終わった――攻撃の名残は、頭部の裂けかけた皮だろうか。
「おい!」
横取りされた殺人鬼が、不満そうな視線をシキへと向けた。されど、彼のいらえは、肩を竦めただけだ。
シキは軽く木々に背を合わせて、芋虫どもの斜線から身を守る。ただ、ひたと彼は殺人鬼を見つめ、告げる。
「もっと戦いたいというのなら、今無理をするべきではない」
グリップに手を添えて、いつでも狙いを定められるようにすると、視線を彼から外した。
「う……うう」
正論と納得しつつも、その殺人鬼が不満そうな表情を浮かべているのは、消化不良というか、不完全燃焼だからだろう。シキは事を荒げるつもりはなかった――。
「悪いな――これも仕事だ」
伝われど、伝わらねど、そっと囁く。
狂気に捕らわれ、無明の闇に墜ちるなど。
欹てた耳が、物音を捉える。シキはすぐに駆けだす。氷の張る大地を踏みしめて、オーロラのようにまぶしい葉の中を掻い潜り、銃口を突きつける。
その先には、声に鳴らぬ叫びをあげて、枝葉を揺らし、氷を踏み砕きながら芋虫へ躍りかかる殺人鬼がいた。
瞳を輝かせ、獣のような笑みを浮かべ――解き放たれた娘は、とても楽しそうであった。
そっと息を吐く。
「生かし、帰すのが……俺の仕事だ」
――余計な感情を差し込むこともない。
構えた両手は震えぬ。シキは目を眇め――ただ、射貫く。
大成功
🔵🔵🔵
ジョン・フラワー
今日は悪いやつをたくさん倒す遊びをするよ!
いちばん倒したひとが勝ちなんだって! がんばるぞ!
アリスチームもたくさんのひとがいるから、どこが美味しそうなポイントか野生の勘で判断!
ささっと決めて全力ダーッシュ! こんにちは僕おおかみ! よろしくね!
大声と存在感で両陣営の注意を引いたら怪力と早業で悪いやつらをなぎ払っちゃう!
突進してくるやつは見切ってクリーンヒットを狙うよ
爽快だねアリス!
おっとこれは横取りじゃないんだよえーっとお手伝いさ!
いっぱい倒していっぱい守る。つまり作戦が必要なんだ!
でも僕考えるのあんまり得意じゃないからアリス達に作戦とかがんばってほしい
っていう言いくるめ。任せたよアリスたち!
●たのしいお遊戯
行く手には、妙に機敏に動き回る影たちと、不吉な虚みたいな口を広げたグリードキャタピラーが蠢いている。
「今日は悪いやつをたくさん倒す遊びをするよ! いちばん倒したひとが勝ちなんだって! がんばるぞ!」
ジョン・フラワー(まごころ・f19496)は朗らかに、ここにいる誰にでもなく気合いを披露し、その戦渦に飛び込む。
ぐっと膝を曲げたと思えば、弾けるように前へと飛び出す。
躊躇など知らぬかのように、全速力で距離を詰めた。
当然、乱入者を想定していない殺人鬼たちの軌道をまたぐ事になるが、ジョンは一切気にしなかった。それどころか、やぁ、アリス、と彼は気さくに人々に声をかける。困惑する暇も与えず、続けてこう名乗る。
「こんにちは僕おおかみ! よろしくね!」
戸惑いが広がったような、広がらなかったような――殺戮のみに意識を向けていた殺人鬼たちすら、巻き込むマイペース。
ジョンにしてみれば、言葉の中身で混乱させるつもりはなかったのだが。彼らが驚き、己に注意を向けてくれればいいのだ。
刹那、停滞した戦場で、ジョンだけが自由に躍動した。
否、敵もであった。
芋虫はぐっと身を縮めて脚をジタバタ動かすと、ぐんと伸びた。巨体から想像もつかぬ推進力は、十分過ぎるほどに確保された間合いを、一瞬で詰める。
あは、と明るい声をあげてジョンが深く身を沈めた。彼の体の影に、鈍く光るもの――。
「さあアリス! もっと楽しくしよう!」
大きな声で存在を主張し、大げさな所作ではさみを振るう。
無造作な薙ぎ払い。
ジョンの半身分の弧を描き、風を掻き裂く音が唸った。そんな空間へ、頭を預けた芋虫の、食わせろと主張する口へ、彼は平気で半身を突っ込んでいた。
電光石火の応酬の、勝者はいうまでもなく。
ザバッ、という何もといえない重く鈍い音がして、芋虫はぱっかりと上下に裂かれていた――。
「爽快だねアリス!」
するりと軽やかな足取りで、芋虫の残骸をすり抜けたジョンは、無邪気にはさみを振り回す。あの、なんの変哲もなさそうな、小さな刃で。
――それを言えば、殺人鬼たち愛用の刃物も大方刃渡りは短く、故に巨大化した芋虫を仕留めるにに手間取っていたのである。
状況から取り残された殺人鬼たちは――むしろ、彼の容赦ない一閃、その威力に――暫し呆然としていた。
再び訪れた、その虚に、ジョンは何を思ったか。にこにこと愛想の良い儘に、誤解しないでね、と取り繕う。
「おっとこれは横取りじゃないんだよえーっとお手伝いさ! いっぱい倒していっぱい守る。つまり作戦が必要なんだ!」
何かを打ち消すように、両手を振っている。
「でも僕考えるのあんまり得意じゃないから、アリスたちに作戦とかがんばってほしい! 任せたよアリスたち!」
なんか、勝手に任された。
真面目な一人が、「そ、そうか」と考え込み始める。彼らがジョンとの共闘の意味を理解した瞬間、結果は間違っていないが、課程は綺麗にすり替わっていた。
彼の怪力を生かすために、空間を広げ。ジョンの元へと、敵を誘導する――無論、その間に殺人鬼たちも短い刃を振るって、斬りつけ、芋虫達の怒りを誘う。
「遊びでも、いちばんがいいよね! まだまだいくよー!」
そして、人の良さそうなオオカミさんは――あっちこっちで朱を広げて。
にっこり、笑った。
大成功
🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
おっと、あんたらも殺人鬼かァ?
なあなあ俺も混ぜてくれよ
好きなだけ暴れてイイんだろ?
ところであんたらも殺人鬼ならやっぱコレ(九死殺戮刃)使うのか?
寿命削りたくねェ奴俺を斬ってイイぜ
合法フレンドリーファイア、最ッ高に爽快だわ
なんて変態発言かましたらドン引きで殺人衝動ちょっと収まったりしない?流石にしないか?そりゃ残念
俺はとーぜん自分を斬ってから攻撃よ
手数が多いのは殺人鬼共も一緒かも知れねェが
翼飛行のアドバンテージで奴らの獲物を奪いまくってやるのさ
…実はネ、妬いてんの
俺殺人鬼としちゃ三流以下なんだとよ
「衝動」がねェから
憧れだけを原動力に必死に技だけは磨いたが
こいつらの方がよっぽど「あの人」に近ェんだ
●ホンモノ
何匹腹に収めたのやら、人間様より大きい芋虫どもが、次の餌を求めて、むっちりと太った強靱な体をしならせる。
なんともイヤラシい、卑しい虫ケラだろう。しかしモテモテだ。男女問わず、目を爛爛と光らせた殺人鬼たちが、鋭いナイフを手に押し寄せている――。
なーんてナ、と軽く唇を舐めて、ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)はざくざくと戦場を跨いだ。
大きな声では言えないが、掠める程度の流れ弾は歓迎なので、彼は散歩気分で愛用の獲物を玩びながら、頭に血が上ってそうな団体に割り込んでいく。
「おっと、あんたらも殺人鬼かァ? なあなあ俺も混ぜてくれよ――好きなだけ暴れてイイんだろ?」
ニィっと唇を笑みに歪め、問う。
返事はないが、勝手にしろと一瞥くれた殺人鬼が仕掛けるのを見送って――それでもジャスパーが無造作に地を蹴れば、あっという間に追いついた。
「ところであんたらも殺人鬼ならやっぱコレ使うのか?」
ナイフを指さしながらも、ジャスパーが問うているのは、ユーベルコードの事である。
視線が、再びこちらを見た。警戒心マックスだ。
親愛を込めて、ジャスパーはウインクを返した。
「寿命削りたくねェ奴俺を斬ってイイぜ――合法フレンドリーファイア、最ッ高に爽快だわ」
(「なんて変態発言かましたらドン引きで殺人衝動ちょっと収まったりしない?」)
思惑七割、本音何割。この世界をふらふらしていた時代ほど、何でもオッケーとは言わないが、ジャスパーの白い貌を再び胡乱そうに殺人鬼は見つめて――。
「そんとき手が届く距離にいたなら、な!」
踏み込みの一瞬に発して、彼を取り残して前へと奔る。置いてゆかれたジャスパーは、やれやれと肩を竦めた。
「……流石にしないか? そりゃ残念」
でも、まともな会話はできるな、と呟いた。戦うな、とか言っても無駄だろう事は、とりつく島がないことで確認できた。
ならば、こちらも好きにやらせてもらおう。
己の二の腕に軽く刃を押し当てながら、身を屈める。背が歪に隆起するように――赤い翼が左右に広がった。
脚の力で勢いをつけて、並み居る殺人鬼を追い抜けるところまで一気に飛んだ。
それは殺人鬼達に前方を押さえられていたが、短い足をジタバタと動かしながら、前へと飛び出したところだ。血が爆ぜて、殺人鬼たちが蹌踉めいて、丁度距離が開く。
そこへ、落ちるように滑空する。鮮やかに瞳を輝かせ、ジャスパーは高い声を上げながら、グリードキャタピラーへと斬りかかる。
多段と閃く斬撃が、速度も乗せて、芋虫を蹂躙する。
風を斬る音と共にびしゃりと鈍い音が続いて、臭い袋が内側から弾け飛ぶ。
「……ッハ」
手応えを喜ぶよりも先に、再び高度を上げる。さて本気を出す前に、獲物を奪われた殺人鬼たちは――ジャスパーへ睨みを利かせることもなく、次の獲物へと全力で駆けていく。
(「ああ、死んじまったら、どうでもいい、か……」)
芋虫の死骸への興味も、誰が『獲る』かの興味も、彼らはもっていないのだ。
生きて動くものの元へ。芯から生じる衝動に突き動かされ、前へ奔る。
そんな彼らの動きを嘲笑うように空を行き、ジャスパーはうっそりと零す。
「……実はネ、妬いてんの。俺殺人鬼としちゃ三流以下なんだとよ――『衝動』がねェから」
憧れて、憧れ続けた、振り返ってくれないあの人。
幻の姿を浮かべて、消して。
「憧れだけを原動力に必死に技だけは磨いたが……こいつらの方がよっぽど『あの人』に近ェんだ」
ゆえに何度でも競って――悠然と、嗤ってやろう。
大成功
🔵🔵🔵
スティレット・クロワール
ふふ、面白い国だね。
私は司祭だからお説教も得意ではあるのだけど
止めとけって言われるからね
その衝動は君達にとって大切なものだろう
根幹を封じるのは趣味じゃないからね
さぁ、へび君も一口食べて。今日はマカロンだよ。
薔薇紅茶の時間で、殺人鬼さん達には少しゆっくりしててもらおうね。
効果が切れそうなら足しながら。
その間に私は客人を出迎えようか
虫さんの速度も落ちてるだろうけど、数もいるだろうからね
UDCのへびくんと一緒にサーベルで攻撃しよう。
脱皮はへび君に噛みついてもらいたいところだけど
まぁ、速度が追いついてきたら遊んであげるよ
傷は構わず、サーベルを突き立てよう
うんうん、私が招いてあげたのだから、楽しませてね
●優雅なお茶会
「ふふ、面白い国だね」
その辺の枝を無造作に摘まんで弾き、スティレット・クロワール(ディミオス・f19491)は微笑んだ。
「私は司祭だからお説教も得意ではあるのだけど、止めとけって言われるからね」
肩を竦める――まぁ、殺人鬼くん達の宗派もわからないしね、と嘯いて。
不思議の国の、不思議な植物を眺めるのと同じような眼差しで、グリードキャタピラーと戯れる殺人鬼たちを見つめた。
微笑んだ儘、まだまだ余裕のありそうな彼らの姿を眩しそうに眺めながら、ひとり頷いた――何かを確かめるように。
「その衝動は君達にとって大切なものだろう――根幹を封じるのは趣味じゃないからね」
そっと、囁いて。
袖のあたりに隠れた相棒を呼ぶ。するりと冷たい感触が肌をすべり、白蛇が顔をのぞかせてくる。
「――さぁ、お茶会を始めよう。さぁ、へび君も一口食べて。今日はマカロンだよ」
適当な場所で、唐突なお茶会が始まった。
紅茶にジャム、洋菓子と一頻り揃った不思議なティータイムセット――流石にテーブルなどない氷の森の中、バスケットを木の枝に引っかけて、器用にサーブする。
場違いなほど、豊かな紅茶の香りがあたりに広がる――。
愛らしい色をしたマカロンを、白蛇の口に放り込んで、自分も一囓り。紅茶の香りを楽しみながら、口をつける。
――一体、何をしているのだろう。
きっと他人が同じ事をしたら、自分もそう思うだろう。スティレットとて、そう思う。
そして、この場所において――それほどの注意すら、こちらに向けられていない。
「ああ、二人きりのお茶会は寂しいね。私の招待状が無視されてしまうのは、今に始まったことじゃないんだけどね?」
全く堪えていないように、嘆いてみせる。元気出してと言わんばかりに白蛇は肩の高さまで上って、白い頬に身を寄せてくれる。
うんうん、へび君は優しいねえ、と頷くスティレットの周辺で――殺人鬼たちの動きは、実に鈍くなっていた。
動いてはいるが、冗談のようなスローモーション。
そう、だが、不思議な事は何もない。アリスラビリンスの住民ならば、知っているだろうとも。ご機嫌な時計ウサギが、突然お茶会を始めたならば、それに付き合わなくてはならない――。
「でも、ほら、ご覧。やっと客人が来たようだよ」
スティレットは、藍色の双眸を嬉しそうに細めてた。
ひときわ大きく肥大したグリードキャタピラーが、のそりのそりと、香り豊かな紅茶と菓子に惹かれてやってくる。
食欲旺盛大いに結構。フランポワーズのマカロンの一欠片を品良く口に運ぶと、片手ですらりと美しきサーベルを抜き払う。
刀身が周囲の不思議な光を浴びて、鈍い虹色に輝いた。氷の葉は紅茶の熱でゆっくりと溶けて、周囲に色とりどりの露を零していた。
紅茶を欲する芋虫は、殺人鬼たちを振り切って、やってきた。彼の速度は、従来と変わるまい――ぐんと背を唸らせ、撓んだ敵へ、穏やかながら怜悧な笑みを向け、スティレットは切っ先を下ろす。
「うんうん、私が招いてあげたのだから、楽しませてね」
片手に紅茶を持ったまま、ソーサーが小さく音を立てた。どんと弾けるように、大口を開けて飛び込んでくる敵へ、遊ぶように剣閃が躍った。
すれ違いざまに、紅茶を支える左腕に絡んでいた白蛇が噛みついて。それを支点に、力任せに体を返す。
サーベルは肉に深く突き刺さった――後は、敵の推進力任せに。
ずぶずぶと掻き裂いていく感触。白い衣装を揺らめかせ、スティレットは楽しそうに呟いた。
「やっぱり、お茶会は賑やかじゃないと、ね」
大成功
🔵🔵🔵
ディール・コルメ
【水月】
アドリブ歓迎
へぇ、アレが殺戮衝動に駆られた姿ってヤツかい
随分と楽しそうだねぇ
あんなに楽しそうだと、止めるのも野暮ってモンだ……
――とか、言う訳無いだろうがァ!!!
劇薬の過剰摂取で手遅れになる前に
アンタら、全員!ソコを!今すぐ、さっさと退きな!
それでも聞かなきゃ、しゃあないねぇ……ユア?
UC:理不尽な暴力
虫だろうが、殺人鬼だろうが
アタシ達の道を塞ぐなら、薙ぎ倒して進むだけってな!
あぁ、殺人鬼達に対しては【気絶攻撃】に留めとく
偶には、ステゴロってのも悪くないねェ
ユア、そっちはどうだい
楽しいかい?
アンタも劇薬使いたくなったら、いつでも言いな
張っ倒してやるよ(くつくつ
月守・ユア
【水月】
ひゅ~♪君達、勢いあってとってもいい感じじゃないか!
ああ、ああ!衝動を解放してぶっ叩いていくのは、爽快だろうな
だ・け・ど
もー!なってない!なってないよ、君達!
そんな単純な捌きじゃつまらないんだよ!!
ドンッッ
月呪刀を地面に串刺し衝撃波を放つ
殺人鬼達の気を此方に向かせる為
殺戮っていうのはさぁ?
自我イかして殺るのが一番つまらないんだ
そうだろ?ディールさん
UC:命喰鬼
集団戦術
殺人鬼達が前に出すぎないようフォロー
確実に仕留められるよう
素早い動きで敵を翻弄するんだよ!
たっぷり蹂躙できるよう
敵の攻撃は武器受けで凌ぎ
殺人鬼達の動きに便乗して貫通攻撃で仕留める
あっは!さっきの拳を受けるの?
楽しそー!!
●バカにつけるクスリ
木の幹に、跳ね飛ばされた誰かが強か体をぶつけ、氷の葉が砕けて、さあっと細氷が舞う。
裂帛の声を上げながら飛びかかって、芋虫の背にしがみついているやつがいる。
自分の守りなど考えずに歯の中に飛び込んでは、進行を食い止めようとするものもいた――どいつもこいつも、楽しそうに笑い、目は血走っている。この世にこんな極上の快感などないと言わんばかりに、うっとりとした表情だった。
無論、そこに内包される本心は、きっと誰にも解らないだろう。
「へぇ、アレが殺戮衝動に駆られた姿ってヤツかい」
額に手を翳して、ディール・コルメ(淀澱・f26390)が青い瞳を細めた。
そこまでしなくても、十分見えているはずだが、敢えて、彼らの状態を見極めるように、そうして戦場を見つめていた。
「随分と楽しそうだねぇ、あんなに楽しそうだと、止めるのも野暮ってモンだ……」
はあ、とそのまま額を撫でるように、白銀の前髪を軽く掻き上げた。
白々しい声音になっている自覚はあった。
「――とか、言う訳無いだろうがァ!!! 劇薬の過剰摂取で手遅れになる前に、アンタら、全員! ソコを! 今すぐ、さっさと退きな!」
怒声を張り上げる。
その迫力たるや、過去に何度も患者を泣かせてきた事は間違いあるまいと確信させる。
だが、誰も、彼女の言葉に耳は貸さない――それもそうだろう。彼らは戦いに不要な情報を無意識に切り捨てている。
「はぁ、忠告はしたからね――それでも聞かなきゃ、しゃあないねぇ……ユア?」
「オッケーだ! 任せて、ディールさん」
だから、柔らかな跳躍で戦場に飛び込んできた影が、明るく応じる。
「ひゅ~♪ 君達、勢いあってとってもいい感じじゃないか! ああ、ああ! 衝動を解放してぶっ叩いていくのは、爽快だろうな」
囃すは、月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)――明るく輝く表情は、いつも以上に少年めいた印象を与える。
「だ・け・ど」
大太刀――滑らかに妖刀を抜き払い、彼女は金眼に厳しい色を湛えた。
「もー! なってない! なってないよ、君達! そんな単純な捌きじゃつまらないんだよ!!」
説教を放ち、大上段に振り上げると、大地に向け切っ先を垂直に突き立てた。
大地が撓んだような、衝撃が放射状に広がって――周囲の殺人鬼たちの身を襲う。攻撃のためではない、そよ風のような波動が、彼らを一斉に振り向かせた。
彼らを一瞥して、ユアは屈託のない、不適な笑みを唇に刻んだ。
「殺戮っていうのはさぁ? 自我イかして殺るのが一番つまらないんだ――そうだろ? ディールさん」
「おうとも」
やっちまいな、ユア。ディールの言葉にやったーと喜んで、地に刺した大太刀を手にしながら彼女は駆けだした。
風よりも速く。するりと殺人鬼たちの間を縫うように抜ける。
彼らが対峙していたグリードキャタピラーはかなり巨大で、あちこちに刃物の傷を刻まれて、汚らしい粘液を零していた。
それでもかなり強い個体なんだろうな、とユアは確信した。自分の動きを、あの何を考えてるか読めない丸い眼球が確り捉えている。
「それなら、もっと速く――!」
うんと低く踏み込んで、一歩を強く蹴り出す。
翻弄するように動き回り、様子見の斬撃を繰る。面白いほど、膨れた肉は捌けるが、粘液がすぐに傷を埋めてしまうようだ。
我を取り戻した殺人鬼たちも、隙を見て斬りつけているが――なんというか、殺人鬼的に相性悪いんだろうなー、と他人事のようにユアは思う。
「もっと、もっとだァアアア」
あ、バカ発見。
ユアが警告してやろうかと迷っている間に、ディールは来てしまった。ご愁傷サマ、知らんぷりして芋虫の腹を蹴り、ふわっと駆け上がる。
「虫だろうが、殺人鬼だろうが、アタシ達の道を塞ぐなら、薙ぎ倒して進むだけってな!」
どきな、と笑い、殺人鬼たちを押しのけ、直線的に距離を詰めたディールは、素手だった。
だが、その白衣に包まれた細い腕、ぐっと固めた拳から、得も言われぬ不穏な予感がする。
「邪、魔、だァァァッ!!!」
最後のステップは、宙に浮かぶほどの跳躍。ディールは拳を振り上げ、鋭く締めた。たたきつけるような徒手の一撃は、粘液の守りを突き破り、太い腹を突き破る。
――衝動を解き放ち、彼女の進路からどかなかった殺人鬼は、哀れ巻き込まれて、その腹に頭を突っ込むことになった……。
それを哀れむ暇はない。
ひどく負傷した芋虫は、それを埋めるためにか、食事を求めた。大口をあけて、目の前に飛び込んできた殺人鬼を飲み込もうとしている。
半身を高く持ち上げた事で、背に乗り上げていたもの達が振り落とされる。
ユアは刃をその肉へ差し込むと、大地をがりがりと削るように走る。乗り上げた芋虫の表面を掻き裂きながら、丁度額の位置まで到達すると、くるりと大太刀を構え直し――一息で、その頭部へ、鋭く叩き込む。
間一髪。天を仰いだ芋虫は、大きく戦慄くと、そのまま絶命した。不吉な大口が開きっぱなしなのを眺めて、ユアは小さく息を吐く。
「偶には、ステゴロってのも悪くないねェ……ユア、そっちはどうだい。楽しいかい?」
少しすっきりしたらしい、ディールが、腕を回しながら問い掛けてくる。然り気無く、道中の殺人鬼たちを殴っていたのは見てみないふりだ。
「この目の輝きが見えないかい?」
ユアが戯けながら、刀を引き抜いた。その刀身は、触れた生命を喰らう呪われた刃だ。巨躯などものともせず、一息に命を屠り切った。それでも、まだまだ、この刀は腹ペコ――それは、つまり。
思わず神妙な眼差しを落としたユアへ――ディールは拳を固めながら、笑い飛ばす。
「アンタも劇薬使いたくなったら、いつでも言いな――張っ倒してやるよ」
「あっは! さっきの拳を受けるの? 楽しそー!!」
軽口を交わす。
そうなる未来があろうと、なかろうと――きっと、悲壮な応酬にはなるまい。そんな風に思いながら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
然り気無く……って結構むずかしいよねぇ
ま、ヤるしかねぇならそうなぁ
余裕な素振りで獲物奪いまくってあげましょ
あまりに獲物を狩れないとなったら
がっかりして衝動も引っ込むとイイけど
接近戦してるトコへ敢えて割り込んで
動きをようく見切りオーラを盾に耐性で凌いで最小限の被害に留めながら邪魔……じゃない庇おうか
【震呈】でカウンター狙った殴打からの二回攻撃で隙なく攻めて
傷口抉って生命を頂戴して傷も回復しとくねぇ
ナンでこの武器かって?
コレのがインパクトあってイイじゃない
それに、喰らうならしっかり調理しないとネ
さあ、誰か火か食材は持ってないかしら?
あればもっとスゴイの、見せてアゲル
ナンて調子で空気変えてきましょ
●通りすがりの料理人
グリードキャタピラーの数は次第に減っているように見えた。同時に、殺人鬼たちの数は増えている――だが実際のところ、小さな弱い個体は、彼らでも仕留めるに容易で、残された大型の個体に手間取っている、という構図のようだ。
勿論、持ちこたえればこうして殺人鬼の援軍が加わって、有利になる。
敵しか見ていない情熱的な殺人鬼の一軍が、芋虫へと向かっていく姿を傍目に、小さな吐息をひとつ。
「然り気無く……って結構むずかしいよねぇ――ま、ヤるしかねぇならそうなぁ」
コノハ・ライゼ(空々・f03130)は軽く思案する。
恐らく、言葉は届くまい。止めて、止まるものならば、彼らはこの戦場に陣していないだろう。
まあ、色々考えても、仕方ない。結局のところ、コノハが導く結論はシンプルだ。
「――余裕な素振りで獲物奪いまくってあげましょ」
つまり、好きなように、狩る。
(「あまりに獲物を狩れないとなったら、がっかりして衝動も引っ込むとイイけど――」)
副次的な効果も気にかけつつ、コノハは駆った。
地に伏せているのに、誰彼よりも大きな個体。その凶器たる頭部を中心に、殺人鬼たちは波状に仕掛けていた。
その人波を飄々と潜り抜ける。髪が揺れて頬に触れ、それ以外は何も彼に気づかない。
コノハが最前列に躍り出た瞬間、芋虫は軽く跳ねた。ぼよんと全身を波打たせ、重たそうな頭部が殺人鬼たちの頭上まで持ち上がった。
流石に、これは全うに受け止めたくはない。無論、自分が傷ついても、コイツから命の御代はもらうつもりではあるけれど――。
「ゴメンなさいネ、っと」
軽く謝り、殺人鬼たちへ体当たりしてその場を分捕る。身を翻せば、彼の体の影で隠れていた手の中には、いつしか丸くて重い鉄の――フライパンが、収まっていた。
「さあ、遠慮なく」
一瞬の溜めから、速度を上げ、コノハ自身も芋虫へと向かう。牙を剥くその頭部へと、フライパンを思いっ切り、横薙ぎに振るう。
両手が痺れるほどの衝撃を捻じ伏せ、コノハは芋虫の頭を横へ払い、進行方向を反らす。
ぐわわぁん、という金属のもたらす振動音と共に、抵抗するすべもなく押し遣られた芋虫に更なる追撃を与えんと、彼はすぐさま身を沈め、跳ね上がりながら力任せに振り抜く。
芋虫の、後頭部のあたり。小気味よい風切りの音がしたかと思えば、確りとした手応えの肉が、綺麗に丸く凹んだ。
フルスイングが描く円弧を見送れば、巨大な芋虫は木々をなぎ倒しながら、彼方へと吹き飛んでいた。
「アラ、見かけ倒しだったカシラ」
もしくは、当たり所が良かったか。動かなくなった芋虫を眺めながら、コノハは小さく笑った。
一瞬にして獲物を奪われた殺人鬼たちは、暫し目を瞬いていた。後方から追いついてきた殺人鬼たちはそのまま駆けだして行ってしまうが――、コノハは待ち受ける次の敵を見定めながら、一時平静に戻ってしまったらしい殺人鬼たちへ、問いかけた。
「さあ、誰か火か食材は持ってないかしら? あればもっとスゴイの、見せてアゲル」
片目を瞑り、軽やかに。
美味しく料理してアゲル、と嘯いて。
大成功
🔵🔵🔵
冬薔薇・彬泰
衝動は誰しもが心に秘めているもの
けれど、飲まれてしまうのはいただけない
…ふふ、若いと思いませんか、レディ?
レディを一時避難させ、鯉口を切る
【剣刃一閃】で丁寧に虫を解体していこう
一匹片付いたら、次は近くの個体を斬る
然し瞬間的に思考を巡らせ、攻撃後は常に間合いを空けて反撃に備える
回避が難しければ、武器で受け流して反撃に移ろう
助太刀…と云う名目で殺人鬼から獲物を奪った際は事も無げに
…ああ、すまない
つい横取りしてしまったけれど、態とではないんだよ?
ふふ、少しくらい僕に対抗心を燃やしてもらった方が
もしかすると殺人衝動も鳴りを潜めるかも
…なんて、希望的な観測だけれども
*苗字+君呼び
猫の使い魔をレディと呼ぶ
●鬼ごっこ
頭上を、細氷が霧のように散った。木々の枝を使い、殺人鬼たちが駆けていったのだろう――地上で暴れるグリードキャタピラーの姿と、そこへ一心不乱と駆けつける彼ら。
ひんやりと膚を冷やす空気が漂っているのに、紛れもない狂瀾の戦渦がそこにあった。
我先にと駆ける様子を、硝子の向こう石蒜の瞳を僅かに細めて一瞥し、
「衝動は誰しもが心に秘めているもの――けれど、飲まれてしまうのはいただけない……ふふ、若いと思いませんか、レディ?」
冬薔薇・彬泰(鬼の残滓・f30360)が肩に伴うレディ――毛並み麗しき黒猫へと、問いかける。
彼女のいらえは特になく、優美に首を傾いだ。彬泰は満足げに笑いを零す。
「さて、暫し退避願えますか、レディ」
少々荒事になりますと囁き、黄昏の鞘を下げると――鯉口を切りながら、彼は前へと駆った。
速度に乗った彬泰の体が軽く浮く。白刃が煌めいた、と思った瞬間に、すれ違う芋虫が一体、ざっくりと横薙ぎに割れていた。
彼の剣閃はあまりに速く、その刃の輝きはすぐにその体の影に隠れた。一歩、二歩と、勢いを殺さずに次の芋虫へと迫る。
後ろからもごもごと行進を続ける小さな個体を切り捨てながら、殺人鬼たちをも追い抜いていく。
彼らはいずれも同じ戦場を駆ける、新参者を気にとめなかった。
その眼差しは熱に浮かされたようで。力強いが、敵しか映していないようだ。
彬泰などに言わせれば、無謀極まりない戦い方だった。
殺人鬼たちは技巧よりも四肢の力に任せた突進で、芋虫へと斬りかかる。手足も短く、攻撃方法が頭部に偏っている敵であれば、後から動いても間に合うが、到底強者とは渡り合えないと解る。
――お手本を、見せるわけではないのだが。
他のものより、少々巨大な芋虫がいた。あの不自由な体を自在に跳ねさせ、周囲の刃をうまく退けながら、がぶりと腕や足に反撃と噛みついている。
その個体へと彬泰は正面から挑みかかるふりをして――朱がこぼれた大地を蹴って、横に跳んだ。
コヲトを靡かせ、空を叩く音がしたかと思うと、幹を蹴る衝撃が続く。
重力を感じさせぬ跳躍と共に、彬泰が斜めに刀を滑らせれば、歯を突き立てんとする芋虫の口を左右に割った。
その時ふと、砕けた氷の葉が、はらはらと落ちていくのが目に入った。
殺人鬼たちが今にも刃物を首根に当てんとした芋虫が暴れていた。醜悪にめくれあがった口が、その手首を捉えようとしている。
彬泰は一直線に走りながら、刀を下から振り上げた。
背を割られた芋虫は、臭い体液を吐き散らし、絶命する。
「わっ」
慌てて下がった殺人鬼の前で、まるで一息つくように、いつもより長く地に脚をつけた彬泰が、軽く頭を下げた。
「……ああ、すまない。つい横取りしてしまったけれど、態とではないんだよ?」
挑発にも似た、言葉を投げてみる。
こうして、獲物をとることで――彬泰に対抗意識を向けて呉れるなら。
それが殺戮衝動が引くだろうか。
まだ若い――本当に年若い少年が、むすっとした表情でそっぽを向いた。
「ふん、競っているわけじゃない――次は、負けない」
「ふふ、そうだね」
全く逆の言葉を二つ投げ返してきた少年へ、敢えて、負けられないな、と『血濡れ鬼』は薄く笑った。
冷厳なる双眸にも、彼は気づかず。脱兎の如く前へと向かう。
「――おや、火に油を注いだかな……? 元々、希望的な観測だったけれども」
しかし彼らの熱は、幾分か鎮まった。
勿体ないような、これで良いような――それを言語に置き換える必要はないと。ただただ、彬泰は微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵
ロキ・バロックヒート
ああ、息が詰まってしまいそう
可笑しげに笑って
この身には過らぬ命の高揚
それを眺めに来たのだけど
終焉に近い命の灯
摘み取るのはまだ早いと思わない?
こんなに同じものたちが集えば
ひとりは素質を持つ者が現れる
そう、リーダーになるような
こんな極限状態でも他の子を気遣うとか
魂がきらきらしてる
そんな子を探す
第六感にでも引っかからないかな
ねぇ君
そこの優しい子
このままじゃ皆死んじゃうよ
ううん死んじゃうほうがマシかもしれない
だってこいつらと同じになるんだもの
いいの?
否なら神様に祈ると良い
奇跡なら起きるよ、なんて
UCで脅威を掻き消す
君だけでも皆の無事を祈り願うといい
生きる意志はいずれ伝播する
大丈夫
神様が手を貸してあげる
●カミサマ
「ああ、息が詰まってしまいそう」
言って、可笑しそうに男は笑う。
ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)の低い笑声は、何処からともなく響いた――色賑やかな氷の葉が次々折り重なって、向こう側も見えぬところ。
「この身には過らぬ命の高揚、それを眺めに来たのだけど――」
金の瞳は興味深そうに戦場を見つめている。
それは、慈悲深そうにも――ただ興じているようにも――。
ただ、それを断じる者は、今はここにはいない。
「終焉に近い命の灯、摘み取るのはまだ早いと思わない?」
ふふ、と笑いのような吐息で囁いて、ざくざくと細かな足下の感触を楽しむように進むと、戦場に突き当たる。
木々を縫ってグリードキャタピラーに回り込もうとする殺人鬼たちと、正面から足止めを挑むものたち。
彼らは好き好きに動いている。本能的に、こうすれば敵が死に至る――そんな感覚を求めて、真っ直ぐに斬りかかっていく。
ロキは変わらず、その間合いには踏み込まない。数で行けば、五、六人だろうか。殺人鬼たちの動きを観察している。戦い方をというよりは、表情や、発言。目の動き――殺戮衝動を解き放とうとも、好き好きに仕掛けるよりは、効率よく仕留めるための判断を下しているものがいるはずだ。
(「こんなに同じものたちが集えば、ひとりは素質を持つ者が現れる……そう、リーダーになるような――こんな極限状態でも他の子を気遣うとか、魂がきらきらしてる――」)
ある一点で、彼の眼差しは少し細くなり――見つけた、と微笑んだ。
芋虫は、大きな体に無数の傷を負っていた。
殺人鬼たちの攻撃の激しさを示す傷は、いずれも粘性の高い体液を流して、傷を塞いでいる。
「ぐ、こいつ、キモチわる……」
ひとりの殺人鬼が、呻いた。悪臭を放つ体液は、ねっとりと粘り着き、彼らの気分を阻害する。反面、芋虫の勢いが増すように感じる。
「ねぇ、無策に仕掛けちゃダメ――この体液……」
ひとりの殺人鬼が警告の声をあげる。
だが、誰一人、彼女の声を聞かなかった。芋虫はされるが儘に攻撃を受けながら、力を溜めている。どころか、どんどん刃物がうまく刺さらなくなっているようだ。
それに気づいた殺人鬼の、途方に暮れた横顔に。
「ねぇ君、そこの優しい子……このままじゃ皆死んじゃうよ」
何処か、他人事のような声が向けられた。
警戒心も明らかに、殺人鬼の少女が振り返れば、其処には微笑みを湛えた青年がいた。
纏う空気が独特だ。異様な迫力に、彼女は刃物を構えるのも忘れた。
青年――ロキは、優しげな微笑みを浮かべた儘、続ける。
「ううん死んじゃうほうがマシかもしれない。だってこいつらと同じになるんだもの――いいの?」
「同じ……?」
訝しげな問い掛けに、ロキはゆっくり頷いた。死んだらオウガに、というのは知っている。けれど、ただ戦い続けるだけで……ということは知るまい。
だが多くを語らず、彼はただ視線を彼女の向こうへ促した。
金の眼差しは、戦場を見つめる。攻め込んでいるのは、殺人鬼たちばかりだが。芋虫は力を溜めていて――恐らく、反撃で多くの殺人鬼が命を落とすだろう。
「いいの? 否なら神様に祈ると良い……――奇跡なら起きるよ」
「……お願い。みんなと……この世界を、守りたい」
命に代えても。それは矛盾した願いだろうけれど。
それでいい、と。ロキは肯定した。
「君だけでも皆の無事を祈り願うといい。生きる意志はいずれ伝播する」
救いを与えてあげる、彼が囁けば――放たれるは、概念、事象、魂を灼く破壊の光。
視界を白く染め上げる光が、芋虫の体を滅却するかのように飲み込み、包んで――須臾、戦場を埋め尽くす。
それが消えた後、その身を守っていた粘液は、すべて消え去っていた。生々しい腐臭を帯びた肉塊は、そうなれば瀕死に追い込まれた虫に過ぎぬ。
わっと歓声を上げて、殺人鬼たちが踏み込んでいく。
驚きに目を瞠り、再び振り返った少女に、ロキは楽しそうに、告げた。
「大丈夫。神様が手を貸してあげる」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『ディガンマ』
|
POW : 引き裂く獣腕
単純で重い【獣腕】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 恩讐の獣霊
【周囲の廃品や不用品と融合する】事で【獣性を露わにした姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 縫い留める獣爪
命中した【獣腕】の【爪】が【怯えや劣等感を掻き立てる「恨みの針」】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
イラスト:シャル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠虚空蔵・クジャク」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●猟書家『ディガンマ』
「無駄だ」
低い声音が刺すように告げた。黒髪が躍る狭間で、ディガンマの双眸が弓と撓る。
次々と迫り来る殺人鬼たちは言葉にならぬ咆哮を上げて、小さくとも鋭利な刃物を突き立てようと身を倒す。
獣のように。
果たせるかな――、対峙する男の笑みは消えぬ。
相手の攻撃を躱す足取りは、いっそ優雅だ。
空を音を立てながら掻く刃は、薄くも相手の膚に触れることあたわず。
咄嗟の判断で身を当てようと突進するも、相手の影すら踏めぬ。
「――もっと、もっと」
何もかもを忘れて、殺戮に没頭せねば。
じわじわと不穏な空気が周囲に広がっていく。そこに幾つもある人らしい生気が、薄れていく。
戦闘という原始的な暴力に身を投じているにも関わらず、しんと静まりつつあるこの場所で――。
「普段抑えている殺人衝動を全開にすれば、倒せぬ者など無い、か……本気で信じているのならば――この国で、俺を迎えた不運を呪え」
獣の爪を輝かせ、ディガンマは嗤った。
今、対峙する両者の間にあるものは。
ただ殺戮の期待であることは――誰が見ても明らかであった。
===◎===○===◎===○===◎===
プレイング受付
11月12日(木)8:30~14日(土)中
※状況補足
殺人鬼数人は、既にディガンマに挑んでいます。
皆様は彼らが殺戮衝動を最終解放する直前に戦場に割り込むことになります。
庇いながら戦い、最終的に「死なせなければ」彼らはオウガになることもなく、救出されます。
===◎===○===◎===○===◎===
ラフィ・シザー
アドリブ連携歓迎。
『殺戮』の衝動はきっと今でも俺の中にもある。
でもそれだけではディガンマが倒せないと言うのなら。
少しだけ普通の殺人鬼とは違う俺がやるしかないだろう?
俺は『トモダチ』のみんなが『殺戮衝動』に呑まれない戦い方を!
『九死殺戮刃』で仲間を攻撃しようとする『トモダチ』からその仲間を【かばう】
【激痛耐性】【継戦能力】なのどで力付きいないようにしながら。
【ダンス】をするようにディガンマや仲間の間を縫い歩きつつ少しずつ装備している鋏を落として身を軽くしSingle wingのみになったところで
UC【シーブズ・ギャンビット】を【暗殺】【切断】で発動。
●黒ウサギの挺身
空間が、どくん、と脈打つような。
死地に身を投じるときの、醒めた感覚――わかる、とラフィ・シザーは小さく囁いた。
自分だって、殺人鬼だ。彼らの衝動、そして全てを擲つ事への躊躇いと喜悦。
それが理解できてしまう。
(「『殺戮』の衝動はきっと今でも俺の中にもある」)
すっと貌を上げる。
視界は明瞭で、取り囲まれているにも関わらず、敵の姿がはっきり見えた。
何処を駆け抜けて迫ればいいのかも、解る。
「でもそれだけではディガンマが倒せないと言うのなら――少しだけ普通の殺人鬼とは違う俺がやるしかないだろう?」
誰にでもなく。否、自分に向けて、告げる。
地を蹴るが同時、黒い弾丸のように、ディガンマとの距離を詰める。
「俺は『トモダチ』のみんなが『殺戮衝動』に呑まれない戦い方を!」
意思を言葉に、鋏を振りかざす。
ラフィはでたらめに、踊るような足取りで踏み込んだ。身の丈ほどもある鋏が描く弧が、ディガンマの鼻先を掠めた。
当然、男は軽く背を丸めた姿勢で跳び退いた。悠々とした、余裕のある回避――それは同時に、それと殺人鬼たちとの距離も開いたことになる。
殺人鬼たちは揃って身を低くした。どんと跳びだそうとする瞳は爛爛と光っている。
芋虫の侵攻と立ち回っていたもの達と比べても、身体能力はかなり向上しているというか――此所に辿り着いている時点で、それなりに理性は捨てているのだろう。
ひゅっと呼気を吐いて、ディガンマへと躍りかかる。彼らを送り出すかのように両手を広げたラフィが、その刃の前に身を挟んで、ユーベルコードの代償を購う。
細い手足に、細い朱色が走って、血の珠が輝いた。だが、ラフィは構わず、彼らより先に、敵へと迫る。
「――ハッ、献身か。馴れ合いか。甘く見られたものだな」
低く、ディガンマは吐き捨てると、周囲のなぎ倒された木々がふっと消えた。氷の残骸と成り果てていた神秘の木々はディガンマを構成する『何か』に変わる。
黒銀の毛並みを備えた、大きな獣がそこにいた。唸るような呼気が、空気を揺らし――吼えた。否、ディガンマは前へと駆った。
疾風が、殺人鬼の無防備な腹を割いた。接触の折、刃で撫でる暇もなかった――呻いて崩れるが、絶命はしていない。ぐるりと身を返したラフィが、鋏を前へと伸ばして、ディガンマの爪を弾いたからだ。
「俺にとって『トモダチ』は特別だからね」
銀の瞳を細めて、小さく笑う。
金属と爪が擦れ、ギギ、と鈍い音がした。痺れるような打撃の重みに、ラフィはそのまま身を任せ、鋏を捨てた。敵を軸にターンを決めて、翻したもう片腕に、細身の鋏。
ディガンマは力任せに薙ぎ払う――烈風が、ラフィの胸に線を描く。
(「……見えない、か」)
その動きは予想できたのに、対応できなかった。それほどに速く、そして重い。
然れど――灼熱を伴う痛みにも、ラフィは退かぬ。
鋭い一閃を腕の動きを予測して、彼は刀身を垂直に叩き込む。そんな腕を、獣のような一笑と共に、蹴り飛ばされ、鋏が空を舞う――否、自ら、手放した。
気づくまい、手応えのある戦いに、血の臭いに酔いつつある獣は。ラフィはあくまで己の舞踏を披露している。
ほら、また、距離が一歩、近づいた。
腰のホルダーに残した鋏は、あとひとつ。大振りのナイフくらいの、片刃の鋏。
指をかけながら、倒れ込むほどに身を伏せて、最後の一歩を。
「さぁ、踊れ!」
「――……ッ!」
にっこりと笑いながら、ラフィはディガンマに向け、突進した。
その速度は、獣に劣らぬ。視認も及ばぬ速さで――男の脇腹を、深々刺していた。
成功
🔵🔵🔴
黒川・文子
引き続きもっと愉快な仲間達と挑みます。
冷静さを欠いてしまっては相手の思うツボでしょうに。
愉快な仲間達。トンネル堀りはお任せいたします。
わたくしめが殺人鬼たちを庇いながら戦いますので
わたくしめがピンチになったら殺人鬼の方共々穴の中に落としてください。
相手はとても強い相手ですから迂闊には近付けません。
銃での援護を行いながら、彼らが死なないように立ち回ります。
愉快な仲間達、今です!
彼らの掘り進めたトンネルを通り、敵の背後に回り込み銃弾を撃ち込みます。
そこのあなた、何をぐずぐずしているのです。
状況判断はしっかりと。
時には味方の技を利用するのも大切だと思いますが?
わたくしめも行きましょう。
●彼女の奉仕
黒ウサギが踊る、傍らで――殺人鬼たちも足止めを喰らっていたわけではない。ディガンマが一者に攻撃を仕掛けている隙を突こうとしている。
ああ、またですか、黒川・文子は深く嘆息した。
「――冷静さを欠いてしまっては相手の思うツボでしょうに」
何より、状況はより悪化している。
あの男は、撫でるように彼らを殺せる。敵に誘われているなど、冷静さを欠いた力任せの殺人鬼たちには解るまい。
メイドは手を一つ叩いた。乾いた音が響いて、周囲に小人達が整列する。
「愉快な仲間達。トンネル堀りはお任せいたします――ええ、……後は手はず通りに」
今度のお願いは、声を潜めて――。
ディガンマの性格は知らぬが、警戒されては元も子もない。
愉快な仲間達がトンネルを掘り始めて、姿を消すと、文子は機関銃を手に戦場を見た。
彼女から、殺人鬼たちと、ディガンマを挟んで一直線に並ぶ。
すうっと息を吐いて、確りと構える。狙いを定めて、連射する。反動など彼女の身体には何ら影響を与えぬかのように――ただ、黒く長いスカートを大きくはためかせながら、けたたましい銃撃音でディガンマを追い回す。
避けるにせよ、こちらへ仕掛けるにせよ、男の注意は一度逸れる。殺人鬼たちは其処に食いかかった。
次々に短い斬撃が、幾度となく閃く。腕を上げ、ディガンマはそれを受け止める。彼の腕にざっくりと傷をつけるが、軽く腕を薙ぐだけで振り払われた。
眼前に待ち構えた死の予感に、男の目が鋭くなる。
しかし、機関銃がそれを許さない。彼らが反撃されぬよう、文子はその場を動かず、弾が尽きるまで掃射を続けた。
轟音の中、突如としてディガンマが声をあげる。
「――ッアア!」
それは、悲鳴ではなかった。
ディガンマの胸から絞り出された空気が、声となって吐き出されたものだ。
するとどうだろう、銃撃されていた男が空に舞い上がる。脚力だけで、高々と――一気に斜線を上げられぬ掃射から、逃れた。
彼が着地した瞬間、殺人鬼たちが押し寄せる――。
「……甘い」
ディガンマは笑っていた。身を低く倒した彼の右腕が、みしりと動いた。
その時、文子は強く地を踏みつけた。
「愉快な仲間達、今です!」
彼女の足下が崩壊して、その身体は土の中に潜る。ひんやりとした空気に包まれながら、文子は一気に駆けた。
同時に、殺人鬼たちの足下も崩落した。
ディガンマの爪が空を掻く――ン、と不機嫌そうな声を出す。
すかさず、轟音が、その背を襲う。常人ならばズタズタに身が裂けそうな無数の銃弾に襲われながら、ディガンマは獣のように無造作に跳ねた。
然し、無傷とはいかぬ。
血の滴が、その足下に広がり、血を汚す――。
トンネルを通り抜け、その背に奇襲を見事叩き込んだ文子が、穴から這い出した殺人鬼たちへと叱咤する。
「そこのあなた、何をぐずぐずしているのです。状況判断はしっかりと。時には味方の技を利用するのも大切だと思いますが?」
怒鳴りつけるでもなく、凜と響く声。
くるりと踵を返す動作は優雅なれど、隙がない。機関銃を抱えたメイドは、わたくしめもおります、と重ね告げた。
「ご理解いただけましたか?」
踵を揃えて、礼儀正しく敵を捉える――戦いは、まだ始まったばかりだ。
成功
🔵🔵🔴
ジョン・フラワー
大変大変! 遅刻しちゃう!
まだセーフ? 楽しむ時間残ってる?
アリスたちもお疲れでしょ? ちょっと僕に代わってよ!
その間にそう、もっと遊べるように手当とかするといいと思う!
ねえお兄さんタイマンごっこしよ! 横槍とかナシだよ!
誘惑に乗ってくれたら嬉しいな!
刺さった爪が抜けなくなる? 僕と接近戦をお望みなんだね!
激痛耐性と狂気耐性、経戦能力となにより楽しい!
そういう遊びもおおかみ的にはアリアリさ!
さあ手を繋ごう! これで僕たち仲良しだね!
右手で握手したらはさみ使えなくなっちゃうな
でも爪はおおかみだって持ってるのさ!
かしこいおおかみの隠された爪がね!
相手にうっかりミスが目立ってきたら攻め時だ!
●たのしいという狂気
殺人鬼たちは猟兵に支えられ、誰一人欠けずに戦っていた。
できればその戦いそのものを控える判断をしてくれれば、話は早いのだが――この戦場に集った時点で、そう易々と引き返せぬところまで踏み込んでいる。
「減らない、か」
ディガンマは小さく零す。
咆哮をあげ距離を詰めてくる殺人鬼たちの事だ。
猟兵と渡り合った事で、負った傷――それは直ちに戦闘不能になるほど深くもないが、浅くもない。小蠅のようにまとわりつく殺人鬼たちに、煩わしさを覚える程度に。
――終わらせるか。
冷笑を浮かべた男が身を屈め、一掃してしまうかと力を溜めた瞬間。
「大変大変! 遅刻しちゃう! まだセーフ? 楽しむ時間残ってる?」
ばーんとか、どーんとか。
そんな擬音を自分で口にしながら、花かんむりを乗せた花色のオオカミが、彼らの間に割り込んだ。
にっこりとジョン・フラワーが中断中断と、殺人鬼たちの間で腕を振る。
「アリスたちもお疲れでしょ? ちょっと僕に代わってよ! その間にそう、もっと遊べるように手当とかするといいと思う!」
一気に捲し立てると、今度はディガンマを振り返って、ふっ、と笑う。
緊張感などを纏めて投げ捨てたようでいて――、ジョンの双眸の輝きは、純粋なる何かを宿している。ディガンマの嗅覚でいけば、殺意、という名がつくモノ。
「ねえお兄さんタイマンごっこしよ! 横槍とかナシだよ!」
「タイマン『ごっこ』か。さっきから、安く見られてばっかりだな」
「そんなことないよ。お兄さんが乗ってくれなきゃ、僕にはどうしようもないからね!」
弱いのを追い回す鬼ごっこの方がいいなら、それでもいいけど――。
あくまでもにこにこと、表情を崩さぬジョンの言葉に、ディガンマは鼻を鳴らす。
爪が合わさって、カチリと音がする。
「お前はひとりで遊ぶのにも慣れてるツラだな」
「やだなぁ」
ひとりより、沢山で遊ぶ方が楽しいに決まってるじゃないか。
ディガンマは笑っていたが、一切の油断もなく――獣のように身を伏せて、跳ねた。
振り下ろされる獰猛な輝きはひと掻きで、どれほどの肉を剔るだろう。だが、ジョンは正面から迎え撃つ。
躊躇いもなく鋏を握る右手を差し出す――その懐をくぐって、前へと出していた太腿を爪が捉える。
ディガンマの爪は「恨みの針」と変じて、深々とジョンの機動力を奪った。
ただ――。
「刺さった爪が抜けなくなる? 僕と接近戦をお望みなんだね!」
ジョンは朗らかに笑うと、痛みも怯えも微塵も見せず、右手を滑らせた。はさみが、鈍く光る――。
「レッツ、たのしい!」
シャ、と布と皮膚を裂く音がした。肩口で受け止めたディガンマは、再び鼻で笑う。
「緩い」
おや、とジョンは目を丸くした。ディガンマの爪の先が折れて、刺さった針だけ残し、彼は自由になった。
軽やかな跳躍で間合いを少しだけ取り直すと、すぐに距離を詰めてきた。然し同じ事だ。ジョンは避けぬ。そして、瞬間に反撃する。一撃、二撃――お互いの攻撃が確実にぶつかりあう。
ジョンが楽しそうな表情を、苦痛に歪めることはなく。
心から楽しいという感情をあらわにしている。
「……やりづらい」
素直に、ディガンマは零した。だというのに何故だろう。妙に、心がざわめく。このまま叩き潰してやろう――何かがおかしいと本能が思うのに、爪を振るうのを止められぬ。
ジョンが右手を思い切り差し出す。
「さあ手を繋ごう! これで僕たち仲良しだね!」
獣の唸りに似た音を、喉が鳴らした。
鈍い音がする。本当に、鈍い、肉をゆっくりと掻き裂く音――ジョンの身体は、何が楽しいのかと疑いたくなるほどの傷を負っている。びちゃりと滑る音が足下でする。
ジョンの右の二の腕あたりへ、ディガンマの爪は埋まっていた。
軸を捉えきれなかったのは、脚を少し、滑らせたから。ジョンの仕掛けた罠は、本当に『たのしい』という心を暴走させて――。
ディガンマの判断をすべて、ジョンに集中させた。だから、気づかなかった。
「でも爪はおおかみだって持ってるのさ! かしこいおおかみの隠された爪がね!」
ジョンの微笑みは日だまりのように暖かく。
オーラの爪が、敵の腹を突き破り、外套の先まで赤黒い何かを滴らせていた。
大成功
🔵🔵🔵
夏目・晴夜
敵と殺人鬼の間に割り込み、妖刀で【武器受け】を
随分と乱暴な戦い方をされるのですねえ
それでは誰にも褒められませんよ
こちらへ攻撃すべく接近してきた瞬間を狙い【カウンター】
片方だけでも目を潰せれば御の字、どこかに少しでも傷を負わせられたら上出来です
そうすれば後はその傷や殺人鬼たちが与えた傷を狙って、
妖刀で『恋う欲求』に【串刺し】にして存分に甚振って参りますよ
敵の攻撃は刀身や、時には腕や身を用いてでも庇って差し上げます
殺人鬼たちは何があっても死なせませんし、オウガにならせもしませんよ
このハレルヤが存分に褒め称えられる為に、最後までその衝動に飲まれないように勝ち抜いて、最後まで人として生き残って頂きます
●すべては、ただひとつの欲求
「……」
ディガンマは呻き声ひとつ上げなかった。だが、吐きそうな声を腹の底から絞り出して、傷を埋めるように筋肉を締めた。
「随分な有様じゃありませんか。でも、大丈夫ですよね? まだまだ、遊べますよね――」
冷徹な声音が、すぐ近くで聞こえた。
疾風の如くディガンマは――肩から前へと飛んだ。障害となるものは全て薙ぎ払い、攻撃を仕掛けようとする獰猛な本能。
その射線と称すべき軌道の間に、踏み込んでしまった殺人鬼に――。
「邪魔だ、木偶」
冷厳な爪が斜めに走る――それを、下から跳ね上げられた妖刀が、止めた。
暗くもないのに火花が散ったような、刹那の衝突。
「随分と乱暴な戦い方をされるのですねえ、それでは誰にも褒められませんよ」
咎めるというよりは、教示するかのような口ぶりで、夏目・晴夜は零す。
どちらにともなく告げて、唇の端を曲げた。
敵に比べれば小柄な晴夜の身体が、ぐっと縮まり、相手が動くより先に、力で押し遣る。爪を打ち下ろして、顔面を狙って刺突を繰る。
電光石火の切り返し、不意も突いたはず。
容赦なく顔面を狙った一刀は、ディガンマの歯で受け止められていた。
いつの間にか、周囲の残骸から霊気を吸い上げ、獣性を解き放った男は信じられぬ反応を見せた。
風が吹いた、と思った瞬間、殺人鬼ともども吹き飛ばされる。
木の幹に強かぶつかった殺人鬼とは異なり、晴夜は衝撃に跳躍し、柔らかに逃れると、すかさず地を叩いて妖刀を走らせる。
こうなれば、もう正面から渡り合うしかない。
ディガンマが他者の生命力を啜って回復するような性質をもっているかは解らないが――後ろに……殺人鬼たちへ、流れ弾一つ、攻撃を通すつもりはない。
ディガンマが深く腕を巻いて、薙ぐ。
まさに颯が生じたように、晴夜とそれの間を裂く。頭上で折れた氷の葉が、目障りな霧を舞わせた。
身を低く、晴夜はくぐってディガンマへと打ち込む。
「殺人鬼たちは何があっても死なせませんし、オウガにならせもしませんよ」
彼にしては、殊勝な台詞――などと、思った者は此所にはいない。彼を知るものがいない、というのもあるが。知っていたところで――。
「このハレルヤが存分に褒め称えられる為に」
生き残って、褒めよ。
晴夜がいたからこそ、成功したのだ――そういう、誉れを。
「それがお前の本能か」
男が、笑う。挑発も、関心も、どちらもあるような不思議な声音であった。まだ、先の喜悦の毒が残っているのかもしれぬ。
「足枷をしたまま、できるものか」
「褒めていただけるなら、手枷だってしてあげますよ。そんな無様な姿、まっぴら御免ですが」
矛盾を平然と吐き捨てて、打ち合わせる間に、紫色の瞳を鋭利と細める。
血の匂いは数多に渡る。腹、腕、背中――身体の軸ばかりではないか。ただ、いずれを喰らってもこれだけ動き回れるディガンマを見れば、効いていないのか、まだまだ足りないのか。
庇う様子もない。これは僥倖。
「おや、怪我しておられる様子」
優しく優しく、晴夜は呟く。
深く間合いを詰める。突き出した妖刀が、ひとつめの傷を剔る。軽やかに横に逃れると、すかさず垂直に振り下ろす。血の匂いが強くなる。
「……ッ」
視線を下げて、潜り込む。もう傷の位置も深さも、記憶している――後ろ手に握った柄で、腹から肩までを斜めに裂いた。
「さあ、あと幾つなぞってあげましょうか。褒めてくれても、やめませんけど」
大成功
🔵🔵🔵
スティレット・クロワール
楽しそうにしているところ悪いけれど
少し邪魔をさせて貰おうか
少々強引でも、ディガンマの意識を奪おうかな
UDC<ヘルメス>とサーベルの衝撃波を使って、気を引くよ
さぁ、私が来たのだから、遊んでくれるよね?
邪魔をしてると明確に示しておこうか
すばしっこい獣くん。君にその理由を問うのは私ではないからね
荊の兆しにて、彼を捕まえよう
見えている限り、私の庭だよ
影ひとつでも、ほら、君と君じゃないものは分かる
私の首を落としてご覧?
それとも、君の爪は届かないのかな
煽るように告げて、至近でも構わず鎖に捕らえよう
腕でも、足でも良い
追撃は刃を届けよう。私の傷は構わないしね
うん、良い子良い子
俺が来た戦場でよそ見はしないことだ
●荊
佇んでいる足下が、血で染まっていく――ディガンマは荒々しく息を吐く。
少し疲労した、そんな雰囲気だ。
逆にこういう時にちょっかいをかけると、手ひどく噛みつかれるんだよねぇ、とスティレット・クロワールは他人事のように思う。
殺人鬼たちの動きを、素早く確認する――猟兵とディガンマの動きについていけず、手出し出来なくなってきていた。
それこそ、未だ引き返せないところにはまだ辿り着いていない印なのだろう。だが、あまり放っておくと、これぞ好機と殺人鬼たちが押し寄せぬとも限らぬ。
よしよしと一人頷いて、スティレットはサーベルを抜いた。
「楽しそうにしているところ悪いけれど、少し邪魔をさせて貰おうか」
これは揶揄だ。揶揄に違いない。
知って、声をかけながら、獣の男へと仕掛ける。鋭く最短を駆けながら、隙間を斬撃で起こした衝撃波で埋めることも忘れない。
「さぁ、私が来たのだから、遊んでくれるよね? ――すばしっこい獣くん。君にその理由を問うのは私ではないからね」
己に仕掛けよと命じるような虚言で遊び、スティレットはゆっくりと切っ先で大地を引っ掻いた。
「——時を知らせ、時を沈め。私が誰に見える?」
大地に浮かび上がった円形のステンドグラス――薔薇窓の、魔方陣。
玻璃を重ねた輝きの美しさは、何の訪れを告げる前触れだろうか。
そこへ、ディガンマは躊躇いなく、踏み込んでくる。獣性を高めた彼の、今の速度であるならば、正しい判断であろう。
ふっ、とスティレットは息で笑った。
影のように消えそうなその姿を、足下から伸びた冥界の青白い荊が絡め取る。それは、彼が敵をそう視認している限り、狙いを外しはしない。
「見えている限り、私の庭だよ――影ひとつでも、ほら、君と君じゃないものは分かる」
「この程度」
浅く笑って、ディガンマは荊を引きちぎる。その脚が赤々と血で染まったが、それは気にせず爪を振りかざす。
自分の身体に落ちる陰に、スティレットは楽しそうに、双眸を細める。
サーベルを緩く上げて、後ろへ跳んで。
開いた空間を埋めるは荊。ディガンマを捉えようと腕を伸ばす青き壁に身を隠すように、膝を折って、刀身を返す。
「私の首を落としてご覧? ――それとも、君の爪は届かないのかな」
「隠れておいて、笑わせる――」
そうだね、とスティレットはやはり笑う。
荊の槍だか、盾だかが消え失せるのは、刹那。ディガンマの鋭い爪撃で、掻き裂かれた荊は、空に躍るその黒い影と。
下から狙い済ます白い影を一直線上に結びつけた。
その肩から、しゃっと伸び上がったのは、白い蛇の顎。
ディガンマの袖口に食らいついて、その距離を不意に加速させ、縮める。
先に振り下ろされた爪が、白き衣の肩を赤く染めていく。首には数センチ、届かない。片や、サーベルの刀身はディガンマの掌から肘までを貫いていた。
やや、血の色が混ざった敵の眼差しは、笑っていた。
そうでなければ――思うのは、どちらの心だろうか。スティレットはそっと息を整えた。
その刀身が軽く湾曲する。膂力で折られそうになっている――怯めば、終わる。
「うん、良い子良い子。俺が来た戦場でよそ見はしないことだ」
だからこそ、藍の双眸から一瞬だけ、笑みを消して――挑発を重ねた。
朱のしたたりが、しっとりと背を濡らす。次の瞬間の一挙一動――倒れようとも、あの子らを引きずり落とさぬよう。
そして一矢は報いれば、十分なのだから。
大成功
🔵🔵🔵
ロキ・バロックヒート
こんにちは、獣
ここはアイスクリームの花が咲く国なんだって
可愛くておいしそうだよね
食べてみたくはない?
場違いに敵に笑い掛けるけど
殺人鬼たちにも呼びかける
ねぇ君たち
虫を倒せたのは実はこの子のおかげだよ
さっきの子を示して
だって対処法に気付いてたんだから
だからこの子の云う通りにすればきっと勝てる
なんて即興のリーダーに仕立て上げる
ほら、願いはなぁに
皆生きること?世界を守ること?…かれを倒すこと?
どれも叶えてあげよう
殺人鬼を【かばって】怪我をするか手首を切って流した【神血】で
敵の【捕縛】を可能にする
影が網か手のように獣を捕まえ動きを止める
さぁ今だ
号令のこえは私かあの子か
かれらの輝きに魅入る
ああ
とっても素敵
●神の御業
殺人鬼たちは十分な休息をとって――さて、負傷は癒えぬが、十分に戦えるものたちは、愈々「無傷」とは言いがたいディガンマを狙う。
彼らにとっては不可解であろうが、ディガンマは疲弊していない。
そこに存在する身体が、死に近づいているだけ。より正確には、ディガンマの死ではないから――愚かだな、と彼は笑い、事切れる瞬間まで戦うのだ。
ゆえに。
場違いな甘い香りが、不意に戦場に強く漂う。
ぽきりと枝を手折った男が、その柔らかで鮮やかな花弁を眺めながら、微笑んだ。
「こんにちは、獣。ここはアイスクリームの花が咲く国なんだって。可愛くておいしそうだよね――食べてみたくはない?」
不思議と実った花は強く匂わぬが、こうして木から離すと、アイスクリームらしい甘い香りを放つようだ。散った花々は、誰のか解らぬ血の匂いで埋め尽くされてしまっているけれど。
おもしろいね、とロキ・バロックヒートが軽く首を傾げて問う。
ディガンマは値踏みするように彼を見やり――その視線を無視して、ロキは殺人鬼たちへと両腕を広げて見せた。
「ねぇ君たち。虫を倒せたのは実はこの子のおかげだよ」
「ッは!?」
驚いたのは、後ろから着いてきていた殺人鬼の娘。
無事に生き延びたからには、この戦場にも立たねばと思ってはいるが、急に引き合いに出されて、目を大きくしている。
片や、ロキは愉快そうに片目を瞑った。
「だって対処法に気付いてたんだから――だからこの子の云う通りにすればきっと勝てる」
「ああああ、あの……」
皆が言うことを聞くかどうか、という問題はあった。
「ふふ、ものは試しだよ」
彼は殺人鬼の背を押した。君には、君たちには、かみさまがついているよ、と。
娘は、裂帛の気合いと共にディガンマへと駆け出す。軽く手に滲む血を払った彼は、獣のように身を倒して、構えた。
「横だッ」
娘が叫ぶ。ディガンマの速度には敵わない――ならば、動きを誘導する。
だが、囮になった彼女は、どうにもならぬ。冷たい風が膚を舐めた瞬間に、深手を負わぬよう、身を固くするだけだ。
だが、その痛みは訪れなかった――代わりに、暖かな滴りが。
彼女を庇うようにディガンマの爪を身体で受け止め、ふう、と息をついたのは――ロキだった。
肩から胸へ。疑う余地もなく肉を剔っている爪と、滴る朱を交互に見つめ、娘はただ戸惑う。
殺戮の衝動の欠片もない彼女の様子に、思わず笑って、ロキは問いかけた。
「ほら、願いはなぁに。皆生きること? 世界を守ること? ……かれを倒すこと?」
彼の囁きは、神の救いの手というよりも――何処か、悪魔の誘惑に似ていた。
「――どれも叶えてあげよう」
倒す、殺す、守る。
殺人鬼たちの魂からの唱和が――ロキに届く。
「そのザマで、一体何が……」
茶番か、と鼻白んだディガンマを。今度こそ、黄昏色の瞳を細め、見つめる。
「祈りを聴き届けよう」
ロキの身体から、流れる血が、裸足の脚を伝い――。
その深い影が静かに伸びて、ディガンマの脚を掴んだ。
次々と影の腕が伸びて、ディガンマの身体を捉えて離さぬ。爪はまだロキが身体で捕らえている。
――然るに紡いだ好機であれど、それが好機である時間は短い。
だから、ロキは口を開いた。
「さぁ今だ」
号令は、本当に細やかな一言であった。肉声が伝わったのは、かの娘ぐらいであろうに――、殺人鬼たちを動かした。
波濤と寄せる殺意と、それを乗せた短刀の煌めきに、ロキは軽く目を伏せた。まるで自分を殺しに来ているような幻想。
困難を突き抜け、難敵に反撃を与える、この瞬間の、かれらの輝き。
避けようがない血の匂い。
獣が、悔しそうに低い声で唸った――。
ああ、と。
そっと、溜息を零す。
「ああ……――とっても素敵」
成功
🔵🔵🔴
ジャスパー・ドゥルジー
あーやだやだ
才能ある奴らはこれだから
それがありゃ何でもできるってツラしてやがる
そうだよ僻みだよ
僻んでるから邪魔してやんの
自らを斬りつけ流れた血で【イーコールの匣】
作り出すのは殺人鬼連中をディガンマから護り、そして閉じ込める檻
全員閉じ込めるにゃ血が足りねェか?
なら一部でいい、オウガ化が近そうな奴からだ
そっちに力を使ってる分、強化されたディガンマに俺は素の力だけで挑まにゃならねェ
握りしめたナイフと
傷付けられるたびに流れ出る炎の血
空を飛ぶ翼
それから無敵の【激痛耐性】ってね
殺人鬼よりよっぽど属性盛り盛りだって?知るかよ
スピードが増大したディガンマを捉える為
わざと攻撃を食らう
俺のナイフはとびきりアツいぜ
●熱
殺人鬼たちの刃が閃いて、次々とディガンマの身体を切り裂く。彼の外套はあちこち解れて、元の丈が思い出せぬほど、短くなっている。
濃厚な血の匂いを漂わせながら、男は笑う。
「それで俺を追い込めたつもりか? ――ならば、自惚れもいいところだ」
獣爪の一閃で、彼らは振りほどかれる。
さて、傷つきながら、転がる殺人鬼たちであるが――高められた戦意は萎えていない。むしろ、自分の攻撃が効くと、その瞳はより強く輝いていた。
折角、冷静になれと忠告をもらったのに、すぐこれである。衝動が多少解き放たれていることで、単純な思考に陥りがち――戦いに没頭してしまうのだろうが。
「あーやだやだ。才能ある奴らはこれだから。それがありゃ何でもできるってツラしてやがる――」
ジャスパー・ドゥルジーは呆れて首を振る。
本能の儘に、殺す。
後先考えない退廃の、なんと羨ましく、愚かしい事か。
「……――そうだよ僻みだよ……僻んでるから邪魔してやんの」
誰にでもなく。投げ遣りに言い放ち。
くるりと右手で躍ったナイフの、柄を掴み。青白い己の膚へと滑らせる。無造作に肩へと差し込んで、くるりと捌く。深すぎず、浅すぎず。肉を剔るは、慣れたものだ。
本当は確り出血した方が良いのだが、この後、獣退治が待ち構えている。
がしゃんがしゃんと、血腥い――血まみれの檻が大地を鳴らして、未だ尻餅ついてる間抜けどもを捕らえた。
彼らが掴みかかっても、動かせぬ程の重い檻――出来映えは上々。欠点として、数が足りぬことだが、全員捕らえる程の血は出せぬ。
「そこで指くわえて、頭冷やしてな――さて、と」
指先でナイフを玩び、構え直す。自分でつけた傷は熱を帯びて、炎を吐き出す。
ディガンマの爪が、頬を裂いていた。
随分と熱烈だな――笑いながら、深く膝を折って羽ばたく。空へ逃れる――といっても、間合いの少し外くらいだ。
熱を帯びながら、ディガンマ目掛け、滑空する。回避する気はあまりなかった――獣性を解放している彼の速さは先程体感した。
元より強敵。そこへユーベルコードによる強化を得た相手に、容易く渡り合えるものではないだろう。
確実な遠間より、接点を誘導する。頬を溢れる熱源を刃に這わせながら、速度を落とさず飛来する。
ディガンマは短く息を吐くと、迎え撃つべく、跳びかかってきた。獣の速度を乗せた跳躍は、ジャスパーとの距離を一気に詰めてきた。
だが、大地で戦うよりも、直線的な動きになる。下から振り上げられる爪撃の気配は放置して、ナイフを脇から滑らせた。
「傷だらけじゃねえか、羨ま……じゃなかった、止血してやるよ」
笑って、赫と燃える刃を、動けぬ肩へ。
己の腹にも、焼け付くような痛みが走るが、ただ堪え。
「俺のナイフはとびきりアツいぜ」
低く、笑う。肉の焼ける臭いと、生々しい感触。宙に朱珠を撒き散らしながら――彼らは衝突を繰り返す。
摩耗し合うような戦い方だった。
木々を蹴って鳥を落とそうとするようなディガンマと、それへ反撃するために、傷を負うジャスパーと。
恐らく先に落ちるのは俺だろうな、と自覚しながらも、ジャスパーは策を改めようとは、思わなかった。
才能なんてなくても出来るのだと証明するように――此所にはない何かへ、見せつけるように――。
大成功
🔵🔵🔵
冬薔薇・彬泰
殺すか殺されるか…うん、実に単純で分かり易い
君が望むならば――『鬼』の戦い、此処に御覧に入れよう
衝動をぎりぎりで抑える殺人鬼達よりも
可能な限り率先して猟書家の牽制に努める
愛刀を手に瞬間的に思考を巡らせ
微かでも隙が出来た箇所へ【剣刃一閃】を浴びせる
戦闘中も、敵の情報収集は怠らない
獣の腕が動けば、重い一撃の合図
直ぐ様周囲に居る皆へ警告し、回避
この際、逃げ遅れた殺人鬼が居たら、多少の怪我覚悟で庇う
…此方は既に首を失った身
今更腕一本失おうが、片手さえあれば得物は振える
寧ろやられたと確信させられたならばカウンターを叩きつける
…否然し、何回やられても痛いものは痛いなあ
等と嘯きつつ受けた傷は激痛耐性で凌ごう
●不均衡
均衡は崩れつつある。
けれど、だからといって――殺人鬼たちが無事に生き延びられるとは、冬薔薇・彬泰には思えなかった。
その先に待つリスクを、彼らは知らないようだが。いずれにせよ、更に食い下がるには、自ら踏み込んで解放せねばならぬ衝動の果てが必要らしい。
そこに、猟兵たちが戦場を掻き乱しているのだから、奇妙な話だが、殺人鬼たちはディガンマに渡り合えぬのだ。
まあそんな事は、彬泰には、どうでも良い事だった。惜しいな、と見るべきか。それが彼らの救いとなると見るべきか――いずれにせよ。
「殺すか殺されるか……うん、実に単純で分かり易い」
嘯き、鯉口を切る。
重みで滑らかに落ちてくる柄を握り、石蒜の瞳でひたと見据える。レンズが、その鋭さを覆えども――獣ならば、察するだろう。
何よりも研ぎ澄まされた、彼の殺気を。
「君が望むならば――『鬼』の戦い、此処に御覧に入れよう」
笑うような声音と共に、地を蹴り出す。
「ハッ――鬼と来たか」
ディガンマは上半身を倒した姿勢で、軽やかに駆けた。出血は夥しいが、速度に鈍りはない。腕を広げ、軽く薙ぐ。
彬泰も併せて、抜き払う。
白刃が弧を描いて、爪と高い音を奏で合う。反響する音の繰り返しは、仕掛ける機を窺っているものだ。斬り下ろしながら、彬泰は軽く後ろへ退けば、ディガンマは同じ距離を詰めてくる。
不用意に仕掛けてこないのは、恐らく――。
(「此方が、この間合いを得意とするのが、解っている」)
裡で、零す。
逆に誘われているのだ。力で捻じ伏せる自信があるからか、或いは。
少しだけ、彬泰は剣速を早めた。短い踏み込みで、数を打ち込む。深手は狙えぬ、小手先で終わる斬撃だが、相手の観察を続けるには丁度いい。
ゆえに――付けいる隙、というのを、見いだしてしまったのだろうか。
「ハァアアッ――!」
横から、殺人鬼が飛び出してくる。彬泰は涼しい貌で、ディガンマが無造作に繰り出した爪の前へと、身を晒した――。
鈍い、肉を裂く音がした。
深い、深い溜息を――お前もか、というような息を。ディガンマは吐き出して、彬泰を見た。均衡を崩す、その切っ掛けを――彼は殺人鬼を庇うことに――攻撃ではなく防御を選び、肩を貫かれている。
「くだらんな」
すかさず、二撃目が来た。窄め引き抜いた爪が、そのまま打撃と共にもう一撃。
地形すら破壊する凄まじい一撃が、彬泰の肩から先を消し飛ばす――彼の双眸がとても細くなる。殺人鬼をすみませんね、と小さく謝り蹴り飛ばし、その反動で銀雪の刀身を返した。
その輝きを、ディガンマは眼前で見た。そして彬泰は、血潮の熱を膚で感じる。
刀身が、男の肩に深く埋まっていた。
「……此方は既に首を失った身――今更腕一本失おうが、片手さえあれば得物は振える」
少々、他人には真似できない虚の突き方であるが。
片腕が無くなった事を意にも介さず、飄々と身を返し、刀を自由にする。躍り、切り返し斬りかかりながら――誰にも聞き取れぬ声音で、ぼやく。
「……否然し、何回やられても痛いものは痛いなあ」
大成功
🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
ああ、ダメねぇ
喰らいつくなら、もっと余裕を持たなくちゃ
危険な状態のコの前へ割り込み庇いましょうか
受けた攻撃はオーラ防御で削ぎ激痛耐性で凌ぐわ
生憎食材前に怯むほど腑抜けじゃなくてネ
どんなに頑張ったって無理なモンは無理なのよ
のめり込む程周りが見えなくなるだけ
【焔宴】発動、マヒ攻撃乗せた月白の焔を範囲攻撃で暴れさせ
一旦相手の動きを止めるわねぇ
さあそのまま狂気に呑まれ『倒される側』になるか
それとも協力して『倒す側』になるか、ドッチがお好み?
選んだなら行きましょうか、ひとつ深呼吸してネ
2回攻撃でもう一振り
一度目の傷をえぐって生命を頂戴しつつ呪詛のようにダメージ継続させて
もう一時動きを止め隙を作りましょ
●その心得
「――ッ、はは、やるな――お前達」
負傷を深めたディガンマは、笑った。
無論、その賞賛は猟兵たちへ向けたものだ。だが、同時に――熱心に、諦めぬ殺人鬼たちへも向けられていた。
彼は、命つきるまで存分に奮うだろう。そんな彼の狂気に似た在り方に――終焉を見た殺人鬼たちは、呼応したように、目をぎらつかせた。
煽動されて、静止も聴かずに飛び出すものがある――。
すかさず閃いたディガンマの爪が、その喉元を掴もうと無造作に開かれる。
斬り込む方は、気にも止めぬ。傷つけど、それが好機と、猟兵たちが示したからには。己も同じく血で道を拓こうとする。
そこで、静かな声音が笑った。
「ああ、ダメねぇ――喰らいつくなら、もっと余裕を持たなくちゃ」
片手を振って、コノハ・ライゼが進む。
その足取りは戦場をゆくには軽い。だが、しなやかに――速かった。
疾風と最短を駆ける殺人鬼の前へと身を翻し、先から手にしたフライパンを、ディガンマの爪に合わせて、躱す。その爪が空を掻くように、軌道を逸らす。
「生憎食材前に怯むほど腑抜けじゃなくてネ」
片手に掴んだ、蒸留酒。
召し上がれ、と囁きフライパンに注げば、狂い渦巻く、月白のフランベ――紛い物ではない青い炎と熱に、ディガンマは一度距離をとった。
軽くフライパンを煽れば、飛び出した炎がとぐろを巻いて、男を追い、囲い込む――。
この男がこのまま封じられるに甘んじる事はなかろうが、これで暫し、時間は稼げるだろう。
首尾を見届けたコノハは――変わらず、そちらへ意識を向けながら、背に庇う殺人鬼を軽く振り返った。
「どんなに頑張ったって無理なモンは無理なのよ。のめり込む程周りが見えなくなるだけ」
きっぱりと告げる言葉に比べ、薄氷の瞳は、存外に柔らかい。
それに、殺人鬼が気づいたかどうか――。
フライパンを揺さぶって、炎の確認する。美しい色のそれは盛んに燃えている。ディガンマはその熱に馴染んできたようだ。突破の姿勢を見せている。
「さあそのまま狂気に呑まれ『倒される側』になるか。それとも協力して『倒す側』になるか、ドッチがお好み?」
だが焦らず、コノハは静かに問いかけた。
――共に、来いという。
問われた方は目を瞬く。自分の衝動にだけ向き合っていたはずの視界が、軽く晴れたような、そんな表情だった。
「――選んだなら行きましょうか、ひとつ深呼吸してネ」
ああ、その殺人鬼は静かに息を吐く。ディガンマが、炎の拘束を解いて、距離を詰めてくる。
鋭利な爪が空を掻き裂き、衝撃が伝わってくる。それを、コノハは身体で受け止める――微笑みと共に、フライパンを翳す。
甘い、というかのように伸びた爪が、足先を地に縫い付けるように刺し穿ってこようとも。怯えも、劣等感も――ない。コノハの心に漣一つ立てなかった。
「言ったデショ、食材の前に怯んだりしないッテ」
喩え、見え透いたはったりに見えたとしても。
――元より、本心や真実を吐露するような性格はしていない、筋金入りの『空っぽ』なのだ。
コノハにとってみれば――命はすべて、食材だと笑う。
ディガンマはその言い様を鼻で笑いながら、応酬を休めない。更に際どいところを掠める爪を躱しながら、コノハは熱く燃える鉄の鍋で頭部を薙ぐ。
男が彼への対応に集中していると――下から刃物が膝を剔ってくる。目に見えた驚愕を浮かべはしないが、虚をつかれたらしいディガンマは、ひとつ仕掛ける機会を挫かれる。
いい包丁捌き、とコノハは軽口ひとつ。
すかさずフライパンを叩きつければ、体勢が崩れきる前に、炎が男の身を包む――。
身を縛るような炎は呪縛の力も孕んでいる。ゆえに、ディガンマは不本意に動けぬ時間が出来る。
気づけば、彼の助手は数を増やし――コノハの動きに合わせて、ディガンマへ確実に傷を増やしていく。
「火加減を間違えたりもしナイから。こんがり、美味しくしてあげる」
そう、身も魂も、すべて美味しく――。
青い炎の向こう。料理人は楽しそうに、微笑んでいた。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
殺人鬼たちを庇いながら戦う
彼等の殺害と、これ以上の殺人衝動の解放を防ぐ為だ
ユーベルコードを発動、獣人の姿で接近戦を挑む
獣腕の一撃は増大した行動速度で回避を試みる
庇う場合は避けず、その場で敵の腕の挙動を注視
振り下ろされる動きに合わせて腕へ反撃、軌道を逸らし威力を殺ぐ
獣腕を捌いたら距離を詰められた事を利用して攻撃を仕掛ける
先の攻防で傷を受けても、この距離なら外さない
爪を振りぬき、蹴撃を叩き込む
やはりこの姿は好まない
満月の夜に凶暴化を引き起こした昔を思い出してしまう
それでも庇い守る為に最適だと判断し、この姿を選ぶ
…衝動に頼らずとも力を引き出し戦えると示したかったという気持ちも、全く無いとは言わないが
●傷と、解放
数多の刺傷、火傷、銃創――血にまみれても、息ひとつ切らさなかったディガンマが、ひとたび脚を止めた。
絶えず戦場を踊っていた黒髪が、静かにその背を覆っている。
「よし、一度退く――隠れて、一気に仕留めるよ!」
声をあげたのは、殺人鬼の娘。
気炎を吐いて纏め上げ、怪我人は彼方に放り出す。
そうして、ある程度の殺人鬼たちは木々の向こうへ、姿を隠した――否、彼らはまだ虎視眈々と、ディガンマの首を狙っている。ただ、少しだけやり方を変えられるくらい、冷静なものが残っただけ。死者は未だいないようだ。
――然れど、それが全てと、甘えた期待を持つわけにはいかぬ。
膚を刺す殺意の痛みは、ディガンマが発するものばかりではあるまい――そして、それを止める理由もない。
ただ状況を確認しながら、シキ・ジルモントは目を伏せて、感覚を研ぎ澄ませる。
いずれにせよ、答えはひとつ。
さっさとケリをつけることだ。
「見て呉れを気にしている場合では無いな」
囁きは、誰にも届かずに消える。覚悟をひとつ――シキの姿が、銀の毛並みをもつ狼の容貌に近づく。
尾も耳も戦意に逆立ち、四肢もより屈強に、原始的な力を帯びる。毛先を撫でる風の流れも読める、鋭敏なる獣の感覚。
ただ、ただ。
シキにとって、その姿は嫌悪の対象でもある。そこには力を暴走させた事への、後悔が根付いている。
――冷静に。
地を蹴った。呼応するようにディガンマも倣う。黒と銀がぶつかる。大きな弧を描くディガンマの爪には触れぬよう、大きく迂回する。
風が、シキの膚を軽く裂いた。
牽制なのは動きで読めた。本気で狙うならば、もっと深く踏み込んでくるだろう。相手もシキの動きを探っているようだった。速度、膂力――試すように数撃を合わせ、回避する。
不思議な話だが、そうなれば死線の中でも呼吸のようなものが生まれ、相手の本気が読める。殺人鬼たちの追随を許さぬほどに、彼らの衝突は苛烈であった。
ディガンマが深く上半身を下げた。来る――察したシキは警戒に耳を欹て、両腕を構えて、前へ駆る。
まずは、腕を捌く。男の身体の軸はデタラメに駆けてもぶれぬから、それだけを定めて間合いを計る。相手のリーチが、やや長い。ゆえに、仕掛けるのも向こうが早い。
向こうの身体が伸びきる前に、シキは軽く跳躍して、予測した腕の軌道を潜るように前へ出た。
シキも鋭い爪と、合わせた打撃でディガンマの腕を凌いで、蹴撃で畳みかける。脇を強かに捉えた前蹴りに、反吐の代わりにディガンマは嗤った。
「――獣が」
その声が、嘲りの色を宿していたか、或いは同胞を呼んだのか。どちらにしても、シキは不快と感じた。
(「やはり、この姿は――」)
無意識に表情が歪みかける。
――この姿は、好まない。
相手が此方のそんな感情を揺さぶった自覚があるのか否かは解らぬが、むしろシキの脳裏は冷たく冴えた。
ディガンマは、離れなかった。そのまま力任せに追撃を仕掛けようとしている。見れば、その全身は汗の代わりに血で塗れ、足下には夥しい朱が広がっている。
全てをかけて、まさに血を絞り出すかのようにディガンマは身体を捻り――地形ごと破壊するような一撃での逆転を狙う。
笑みで覗いた犬歯の輝きに、その唇の端から溢れる血液に、シキは静かな息を零す。
「どちらが」
腹を括って、ディガンマの腕の動きに合わせて、その背に乗り上げるようにシキも身体を捻った。男はそのまま足下に一撃食らわせ、氷と泥と血が混ざった大地を陥没させる――空に浮いたシキは、着地すべき地までの距離を、僅かに狂わされる。
地面に這って、両腕で跳ね上がることで素早く転身したディガンマが、爪と拳を今度こそ叩きつけようと振るう。
踏みしめる力はかからぬが、シキは膝を上げた。骨と筋力でディガンマの顎を狙い、蹴り上げると、獣のように両腕で引き倒し、爪で肉を穿って、肩を砕く。
同じく、ディガンマの爪が、腹を掠めていた。直撃はしていないが、全身を砕かれたような痛みが、息を奪う。
このまま、何処までも戦える。ディガンマの目は同意を求めるかのように、そう語っていたが。
――否、止めだ。
彼を繋ぎ止め、シキたらしめるのは――理性。
片腕を、その胸へと振り下ろす。獰猛なる獣は、それで、全てを止めた。ぐっと血を詰まらせるだけで、何も告げず、このディガンマは滅び去った――。
それを見届けると、シキはゆっくりと息を吐く。未だ獣のような両腕、厭う姿を眺め落とし――凶暴化した記憶に、流されず、守り切った。
「……衝動に頼らずとも力を引き出し戦えると示したかったという気持ちも、全く無いとは言わないが」
ゆっくりと頭を振ると、シキは立ち上がり、周囲を見る。殺人鬼たちが顔を見合わせた後――空気が歓喜に、緩く震え出す。
破壊のしるしは幾つも刻まれたが、誰も喪われていない。
――故郷を守り、生存を喜ぶ小さな声たちが次々と湧くと、凍えるような、噎せるような殺意の衝動は何処へやら。綺麗に洗い流され――。
世界の危機の狭間のひとときと知れども、猟兵たちもまた――今はただ、快哉を重ねたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年11月17日
宿敵
『ディガンマ』
を撃破!
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