●ある数十日前の晴れた日の演説
手元の本を開き、風に遊ばせているが気にしない。
内容は頭の中にあり、何度も何度も読み込んだこの本にある。
「お聞きなさい我らが迷える子らよ。目を開き心を落ち着かせて、傍らの喜びに気づくのです。不安のありそうなそこのあなたも、私になんでも相談なさい」
「おらの畑が豊作すぎて……周囲の目が怖いんだなあ。日当たりがよく、畑の世話もよく焼いたもんだがどうも周囲はよくなかったらしくて……」
「……成程。驕りに足を踏み込みかけているのですね。あなたの行いは、相応の額で売渡し、行商を行う者から買い取った者が頂くそれとなるものでしょう。生きる術として必要な循環です。驕るべきではないですが、あなたは正しく尊いものです」
本を開き、柔和そうな微笑を向ける神父姿の男は、町民の男の震え声を受け止め、ただ応えて返した。
町民は安心したかった。正しい行いをしていると、御上身が逐一示してくれるわけではないし……この男の身分はそれほど高いものではない。天下の台所へと連なっていく商業で賑わう大きな町の、その一角に踏み入る農家の出。
つまりは、"作る者"にあたる。
「おお……」
「あなたの志に夢を紡ぐものがいて、あなたはそれを支えているでしょう。生きるという行為に置いて、"罪"は上位に向かえば向かうほどその身を染めていくのです」
「……え?」
「あなたの悩みは、人生への根源的な問いかけです。私へ話して聞かせたことで、あなたの悩みは此処に晴れて、心晴れやかになれたことでしょう。おめでとございます。生きていることは"悪"である、と私は思うのです。手や肩には"原罪"がのしかかる……罪から逃れる唯一無二の救いをお教えしましょう」
まくしたてられても、農民はただこの男が正しい事を言っているような気しかしなかった。困惑はしたが、どうしても否定の言葉を紡ぐことができなかったのである。
「"死"の手を取るのです。飯と水と交友を絶ち、家屋の内で麗しき死の刻を待ちなさい。これより暫く雨が降り続けると予言しましょう。……神はあなたの罪を赦す。神に祝福された蘇生者へと、至る祝福の道がもたらされることでしょう」
遅効性の言葉の毒物を、盛られに盛られ脳によってまず一人救った。この男の姿を以降見たものはなく、男の住む家屋からは黒い黒いあやかしが飛び立った。
「……親友が消息を絶った。それが、伝え聞いた最後の目撃された日の話だってんだ。よく知らねぇがある日を境目にみんながみんな、宗教とやらに手を出した。色んな奴が持ってるだろう噂に聞く天下自在符が存在するなら……こんなの間違いだと強く強く、御上のそいつらの同意をもって否定されるれるべきなんだ。おれのわりぃ頭でもそれくらいわからなぁな」
農民の男の親友、破戒僧の男は今の町におかしなものを見ていると語る。決して正気の沙汰ではなく、布教の毒は誰も否定しないまま雨となって降り注ぎ、誰かの魂は消えていく。今日で一体何日目の大雨だろう――。
●罪雨が降る町
「雨のやまない町から、江戸幕府に知らせを直接持ち込んだ破戒僧からの話だよ」
ソウジ・ブレィブス(天鳴空啼狐・f00212)がいうところによれば、雨はずっと何十日も前から止まずに降り注いでいる。
「予知……とは少し状況が違うかもね、自分に罰を与える意味で名前を捨てて町に暮らしていた破戒僧が異変に気がついたのは、結構早期段階だったみたい。活気のある方の町から少しずつ、商業を営む声が消えていった、っていうんだよね」
雨音だけがいまの街の活気。
人の声が飛び交わず、殆ど誰も外を出歩くことさえしない。
農家も商人も、どちらの身分に属さない町の人間でさえ家屋にひそりと閉じこもり、誰も仕事をせず無抵抗になにか小言をつぶやくばかり。
『"死は救済"。逃れるためには命を絶たねばならぬのが生きるを行う私達。私達は祈り与えられる術を、甘んじてこの身に受けるべき』
「破戒僧の申告によれば、死ぬことは救済である……みたいな宗教を流布させた存在あるようでね。集団催眠が発生してるようだと、僕も睨んでいるよ。これがどんどん拡大していけば、いずれば"江戸幕府の転覆"だって現実に起こってしまうかもしれないんだ」
経済がじわじわと傾いていけば、国に影響が出るだろう。
うまく御せない責任は誰に等と、不安は流布して正常な人たちまでも自主洗脳に掛かっていってしまう。
「誰かが"悪"を絶たなくちゃ、だよね。町に詳しい破戒僧は、この洗脳に全く同意を示してないから僕らに協力的だよ?唯一正気の存在といえるだろうねぇ。町のことなら彼に聞くといいかな。小さな細道から、辿り着きたい場所までの最短ルートをきっと知っているし、些細なことでも力になってくれるはず」
雨を降らせているのは、お天道様が不機嫌だからが理由では、ない。
全ての元凶は、猟書家救済と祝福で翼を濡らしたカラスが増えていくこと。時折点在する古き家屋の軒に黒い羽がいて、その翼と存在が暗雲を文字通り町に運び続けている。あれは死によって救済と祝福を受けた元町民などといえばとても後味が悪くなるかもしれないが、姿を変えてもまだ、彼らは迷える魂のままである。
「君は……エンパイアウォーで戦った話を聞いた覚えは、ある?渡来人であり、魔軍将である"コルテス"。その名前に聞き覚えは?じゃあ、『超・魔軍転生』って秘術の話は……そっか。聞いている、よね?」
かつて暴れるに加担したコンキスタドール。
再びその霊は還って来るに至ってしまった。単体の強者としてではなく、なんの因果か"武装する力"としてこともあろうかあやかしに憑依させられている。
「雨を更に降らすカラスの集団と口にするのは簡単だけど、祝福を受けた彼らは全て、全部が『コルテス』と同じくらいの脅威だよ。黒き翼のコルテス集団は無抵抗な町を殲滅する気なのさ」
強気に攻める戦いをするわりに、作戦の立案はどことなく向かない戦下手な彼の戦術も頭脳もここに健在。カラスの装飾となっている彼の猛威は……実際羽毛の様に隙しか生み出さないかもしれない。戦い殺し尽くす戦法に未だ移っていないのは、ギリギリまで、幹部「ブラザー・アポストロス」が布教活動に勤しんでいたから。
決して町から逃さす、死するを受け入れるだけの中身のない者たちへと洗脳していけばいずれ大量に無抵抗の躯ができる。
あとはただ町ごと殲滅するだけと、頭脳を切り離して暗躍していたに過ぎない。
「雨の原因、カラスの集団を探して?そして、隠れ潜むだろう場に合わず微笑み言葉を布教する神父を止めてくれなぁい?まだ少数の被害で留まっている……まだ経済は止まりかけてるだけなんだ。江戸幕府の転覆を阻止する方法を問わないっていうのが上様の猟兵へのお触れだよ」
タテガミ
こんにちは、タテガミです。
この依頼は、猟書家の侵略に関わる感じの"二章編成"のシナリオです。
雨降りサムライエンパイアin天下の台所的賑わいの片隅。
殲滅戦を始める日取りに猟兵たちが正面から殴り込む形です。
この依頼にでは、山のようなでかい破戒僧の男が同行します。
猟兵より強くありませんが、破戒僧と協力して戦う(この町に詳しいです)とプレイングボーナスがスッ……とつく感じです。協力の仕方は、想像におまかせ。
ノー武装ではなく、"大連珠"を手にぶん殴るのが得意なようです。
集団敵は死によって救済された元町民たち。
憑装されてた「コルテス」が喋らないことはなく、彷徨えるカラスはネガティブなことばかりを語りながら雨を降らせる元凶となっています。
コルテスとあやかしの相性は、とってもわるいです。
端から見たら自問自答喧嘩をしてる風にみえるかもしれません。
ボス戦は、死は救済と語る神父。
どこかで雨除けしながら、"力ある本"に目を通しています。
コルテス憑きのあやかしが町内にはびこる罪を、全面的に摘み取る(殺し尽くす)のをニコニコほほえみながら、待っています。
●???
カラスなあやかしが存在する限り降り続ける雨は、猟書家ほどの洗脳の伝播をおこしませんが。自身の罪を思い起こしてしまうほどひやりとした呪いの雨です。
あなたもまた、雨に当たるのでアレば……思い出してしまうものも、あるのではないでしょうか。ただ"思い出して"しまうのです。
強い心がアレば打ち負けるような事にはなりません。
第1章 集団戦
『雨告が羽』
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POW : 嵐軋みの夜戸
【広げた翼を嵐風を起こす巨大な翼】に変形し、自身の【雨雫の矢への耐性】を代償に、自身の【周囲に降る雨雫の矢】を強化する。
SPD : 忌み雨の樋縁
【光を周囲から奪い、胸に抱いて動かぬ姿】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【雨雫の矢を降らせる『暗雲』】を放ち続ける。
WIZ : 遠鳴りの呼鈴
【降る雨雫の矢】から【反響する雨音】を放ち、【空間の知覚能力にズレを生じさせる事】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:烏鷺山
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ある屋根の下にいたあやかし
『……ああ、おでは……ほんとうに救われただか…………?』
心に雨が降るような、ずっと凍えているような。身体は確かに軽くなった気がするが、わさわさと羽音を立てる黒の身体に呪いを弾く能力はない。
『さむい……さむいだよ。何も飲まず食わず、神とやらを信じただが……』
死は祝福。このあやかしも、祝福の果にこの姿となった。己の元にあった温もりを求めて、次なる標的は己と同じく黙して家屋に潜む隣人。はたまた知人。
祝福を、あなたへ。
『なあ。いまおめぇのとこは、あたたけぇだか……?』
雨が降る。ずっと降る。
重く、心に侵食してくるような、痛みの雨が。
『……エンパイア人の悩みの小さきことよ。評価を改めるべきか、知的生物よりも更に下のなにかであると』
陽川・澄姫
悪意と迷子の魂の存在を感じます。これは浄化と案内が必要ですね。
ただ、近頃は活力を摂取していなかったので不調気味です。件の破戒僧さんに話を聞いて、あやかしが密集していない辺りから手を付けていきましょう。
この強い雨風は、大昔に私を可愛がってくれた人と出会った日を思い出しますね。当時はまだ幼くて、結局あの方に碌な御礼も出来ないままになってしまいました。
物思いに耽っている場合ではありませんでしたね。
あやかしを逃がさないように髪を伸ばして【捕縛】します。捕まえられたら久々の食事です、存分に頂きましょう。
残った迷える魂は行くべき所へ案内し、憑いてる方にはお仕置きが必要ですね。専門の部署にお連れ致します。
●生殺与奪の巡回者
ざわざわ、と全身の毛が逆立つような異質な気配が溢れていた。
「……この町には、悪意と迷い子の魂の存在を感じます」
陽川・澄姫(現世の巡回者・f30333)は、町に踏み入るなり眉根をひそめる。
人に紛れ込むそれらは普段、明確な数が把握できぬほどに細々と存在しているはずなのに、感じる気配は普段の比ではなかった。
「やっぱ、わりぃ状態ってやつかこれは」
「はい。これは浄化と、真に正しい案内が必要かと。ただ……」
「……相当に状態は、わるい、と?」
澄姫の言葉に、破壊僧もまた不安げな顔をした。
山のようにでかい男が、不安のあまりに肩身を狭くしていて小さく見えるほど。
「いいえ、個人的な話なのですが……近頃は活力を摂取していなかったので不調気味なのです。多くの数を導くには厳しい面がありそう、と思いまして」
元々持つ妖力以外の余剰は今持ち合わせがなく。数が相手では些か心もとなく、それを不調と表した。事件の解決には力不足と冷静に判断して、澄姫は問う。
「あやかしが密集していない場所へ向かいましょう。心情を察するならば、おそらく泣き濡らして、待っているはずですから」
「なら……逸れて佇んでる奴のもとへ。こっちの細道だ。最短で迎えるでよ」
のしのしと歩いてく破戒僧は雨に何の変化も現れていないようだが、澄姫は少し異なった。背中を追って、注意深く周囲へと気を配っているが、強い雨風に呪いの雨が染み付いて……瞳を閉じれば心がどこか導かれる。
思い出の本が勝手に開かれて、頭の中にある光景が浮上してくる。
――……ああ。
――大昔、私を可愛がってくれた人と出会った日の光景ですね。
あの日の天気は朧げだが……雨など降っていなかった気がする。
雨が思い出に油を注いでいるが、澄姫はそれをそこまで気にしなかった。
――懐かしい。
あの時どんな話をしたものか。
思い出してみると不思議と頬が緩む。
深く深く胸に秘めたままだった記憶。
――当時はまだ、幼くて。
――結局あの方に碌な御礼も出来ないままになってしまいました。
貰ったものが、ある。今に続く、大切なものだ。
しかし、狐の御礼は満足できるものと自分が思えていない。
――私の罪といえば、罪となるのでしょうが……。
「……あれだ。みえるか?」
破戒僧に声を掛けられて、物思いに耽けるのを払うようにあやかしの姿を視界に収める。バサバサと音を立て、羽を揺する個体が確かに存在した。
その数は、一話。ただし、大きさは人丈くらい。大きなあやかしだ。
広げた漆黒の翼は嵐風を起こすほどの巨大なモノへと変質させて、敵対する意志を示す。巨大化した翼が更に生み出す雨は矢のように鋭くなる。
くわっと開いたクチバシからはカァという鳴き声ではなく、言の葉が乗った。
『腹ぁ減っただよ……何か食べるものねぇだか…………』
『欲望にしてみても、エンパイア人の願いはあまりに小さい』
ネガティブな発言に、噛み付くような男の声。
カラス自体は戦う意志など無さそうだ、と澄姫は見て取る。
あくまで、カラスに貼り付けられた誰かが勝手に攻撃姿勢をとっているのだと。
「食べるものはあいにく……。ですが、その魂に手を貸すことならば出来ます」
『そうかあ、痛ぇ雨に当たらなくて済むんなら……』
『お前の意志を完全に無視し先に物理的に殺してから別の場所から殲滅すればいいな。人を殺したともあれば、脆弱な心は更に死に絶えよう』
大きく翼広げたカラスが風向きを澄姫の方へと差し向ける。
吹き荒ぶ雨雫の矢で射殺して、更に被害拡大を狙っていくつもりのようだが――。
「逃げるも進むも、ご自由に。ただし、その翼が本当に自由なら、ですが」
瞬間、カラスの足にぎゅっと何かがキツ絡みつく。
静かに静かにソレは這い寄って、囚われた鳥は空へ飛び立つ自由を無くした。
澄姫の妖気を纏った黒き髪。
すぅうと更に長く伸びて、身体を這い、両翼を鮮やかに縛り上げる。
「嵐を起こすほどの翼。それが動かなければ、さほどの脅威ではないはずです」
「……おみごと」
「久々の食事です、存分に頂きましょう。――それでは、いただきますね」
あやかしに近寄り、体に触れた部分から"活力"を奪い取る。
少しずつではなく急激に、だ。余剰分としてありがたく今この目の前の者に必要じゃない力を奪い取り、生と死を分かつチカラで魂と力を引き剥がすのだ。
黒き羽毛の輪郭がブレるように揺らぐのを見て取る。
「弱体化させられては、憑いてる方も勝手なことはできないでしょう。残った迷える魂へは、暖かい正しき道をお教えします」
それは一体何処へ?破壊僧が問いかけたそうな顔をしていたが、雨脚から悪いものが僅かに消えた事に澄姫は微笑んだ。
「それは勿論。――魂が至るべき"専門の部署に"ですよ」
冥界の王が正しき判断を下す、――地獄の世界へ。
成功
🔵🔵🔴
外邨・蛍嘉
「」内クルワの台詞。
私は藤色蛇の目傘、クルワは妖影刀『甚雨』が武器。
破戒僧の人に聞こう。この町を見渡せる場所はあるかい?
私たちのUCを有効活用したいからね。
飛翔する前に叩き斬ってあげるさ。
「雨剣鬼の二つ名にかけて、負けるわけにはイキマセン」
私もだよ。それに、死が救済なわけないよ。
「デハ、ヤりマショウカ」
※雨
私がクルワを宿した結果、兄は家にとって不必要な存在になってたんだ。次世代の子は、私が生むのは最初から決まってたし。
「ワタシが選んだんデス。垣間見た未来(蛍嘉が鬼になる)を変えたくて、ケイカを選んでしまったんデス(運命が入れ替わっただけ)」
ま、誰も責めなかった、すでに終わった話さ。
●横殴りの雨
「一つ先に片付いたのかい?」
片手に藤色蛇の目傘を携えた外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)がふらりと現れて破壊僧は大層驚いた。音もなく、現れたような気がしたから。実際は雨音に隠されて忍び歩いてきただけなのだが、きっとその真実には気づくまい。
「ああ。正しく救われた事を願うばかりだがよ」
「そうかい。ところでだね、町に詳しいと聞いているよ。そこで一つ聞かせておくれ、この町を見渡せる場所はあるかい?」
「町を、というと高いところがいいってやつかい」
「そう。私たちのユーベルコードを有効活用したいからね」
「……見渡す事が必要なら、案内する。少しばかり小高い丘が、あるんだ」
「助かるよ」
大連珠をぎゅっと握りしめた破戒僧に道を案内されて、少し遠くへ足を向けることになった。
蛍嘉の肩に雨が当たる。
雨から除ける意味で差していても、雨粒は勝手に心に入り込む。
些かに、罪の意識が脳裏を疾走る。
――私がクルワを宿した結果。
――兄妹の運命はそこで定まり、急激に加速して走り出した。
外邨家のなかでも、確定したのは重要な事。
兄は、家にとって不必要な存在になったのだ。
――『ワタシが選んだんデス』
――『垣間見た未来、蛍嘉が鬼になる結末を変えたくて』
結末はある日を境に、進んでいったのだと、分かっている。
それこそ兄を置き去りに、人を守る稀有な"鬼"は選び取った未来。
――『ケイカを選んでしまったんデス』
運命は、綺麗に結末を入れ替えただけ。
どちらかが必ずそうなる運命だったと、雨剣鬼は感じていた。
誰も、――責める者はいなかった。
この流れも、全て運命と片付けられて過去へと流れていったもの。
――今となっては兄妹仲良く死者だけれど。
――再会もしているし……本当に終わった話さ。
「……ここなら、どうだ」
染み入る雨露が引きずり込もうとする意識を、頭を振って振り払う。
「よく見渡せる。黒い黒い動く滲みが見えるねぇ、あれらが標的のようだ」
まだ明るい時間帯。
家々に灯る火の影が一斉に消失して辺りが暗くなる気配が、忌み雨の中で増していく。その中心に、カラスが居た。
光はカラスに集中し、胸に抱いて動かなくなる。
黒が抱く輝きが見て取れる数だけで、片手より多い。
手当たりしだいに集めた光の温もりでも満たされぬ、飢餓の魂は更に被害を周囲にばらまくだろう。
「だいじょうぶなのか……?」
「飛翔する前に叩き斬ってあげるさ。道案内ありがとう、そこで待つといいよ」
『そうデス、雨剣鬼の二つ名にかけて、負けるわけにはイキマセン』
手に携えた妖影刀『甚雨』。
いつの間にか蛍嘉とは別に増えた声。別人格が表だって現れているのである。
「負けるわけにはいかないのは私もだよ。それに、死が救済なわけないよ」
『ケイカ。デハ、ヤりマショウカ』
まだまだ光を集めて温もりを集めようとしている遠方のカラスたち。
だがこれは、動かぬ姿格好の的だ。
「鳥として飛ぶなら迅速に、翼を広げておくべきだったね」
影のように黒く、一瞬蒼く刀身を煌めかせて雨を切り裂き、横殴りの雨のような飛翔する斬撃がある一体のカラスに突き刺さる。
黒い羽毛が派手に舞うのがよく見えた。悲鳴にも似た嘆きの声が、カラスの口から大量に大声で漏れ出すのが聞こえてくる。
『あああァアア……どんなに集めても、暖まれねぇ…………!!』
「そうでしょう。魂が冷え切って止まっているのだもの」
『雨を降らせて、凍える仲間を増やしテモ……誰も暖まれマセン』
こちらの声はきっと聞き取れてはいないだろうが……あれは自身の罪から救済されて、死んだ上にオブリビオンとなった者。
救済された、と思っている死した元住人の、誰か。
寒さから開放するには、祝福されたという姿もまた、捨てなければならない。
「居るべき場所へその翼で飛びなさい。まだ間に合うからね」
戦場とした町に、雨粒の矢が降り注ぐことはない。雨剣鬼が許さない。
横から吹き込んだ別の雨の勢いに流され、黒い野望は斬られて綺麗に霧散する。
光源を奪い返したと思えば、また別の方向へ奪い去られる。
更に多くの光源で、暖まろうとするカラスの執着に似た未練は計り知れない。
「雨宿りをする気はないようだね」
『冷エル一方だとイウノニ』
雨剣鬼は次の標的へと斬撃を放つ。
別の光抱く黒いモノの在処へ真っ直ぐ降り注ぐように雨は――降り止まない。
嘆き悲しむ魂が、泣くことをやめるまで降り続く。
止まない雨があるのなら、雨剣鬼の剣戟が衰えることもない。
死が救済のはずがない。死しても神は誰も救わない。
生きた年月から悟り知る横殴りの雨が、嘆くだけの鳥が育てる雨を攫ってしまうのも時間の問題だ。止(や)まず、止まらない。
死者の囀りに混ざり――人を殺す悪が暗躍していると鬼が、ずっと囁くから。
大成功
🔵🔵🔵
備前・編笠丸鬼矗
うぉおおのれぇッッッ!!
エンパイアの民草になんと惨い事をするッ!!
許さぬ猟書家共ッ!
誅殺せんッ!!!
【行動】
せめて痛みを感じる間も無く
彼等を斬る事が武士の情けッ!
たとえそれがどんなに強き者だとしても、民草に苦しみを与える者は武士に在らず!!サムライに在らずッッッ!!
彼等を介錯することこそがせめてもの情けッ!
僧殿!!一撃一殺でゆくぞッッッ!
我こそは誉れ高き備前国の地頭ッ!備前編笠丸鬼矗也ッ!! いざ斬り殺さんッ!
【怪力】【範囲攻撃】【重量攻撃】を使って一撃、一撃に魂を乗せて斬り殺そうぞ。
傷は天命回生で常時瞬間超回復を使い対象する。
敵との距離は備前地国の刀身を伸ばして対処し、ぶった斬る。
介錯ッ!!
●いざ討たんおぶりびおん
「うぉおおおのれぇッッッ!!」
嘆きの声が、ある異形の武者からあがった。
「エンパイアの民草になんと惨い事をするッ!!」
その者の名を備前・編笠丸鬼矗(鎌倉武士・f29057)。
姿形は異形に成り果てども、義に厚い男の嘆き。
「許さぬ猟書家共ッ!探し出して誅殺せんッ!!!」
「強い言葉、頼もしい限りだ」
鬼矗が向かう先は、破戒僧に聞いたわけではない。
ただ、向かう先に敵影ありと睨んで進んできただけだ。
「アレがそうだろう?」
破戒僧に示され、わさわさと夜羽を震わすカラスの集団。
光を周囲から奪いカラスの胸元がキラキラと煌いている。
しかし、その当人はその場から動かず輝きを抱く。
『温もりに夢を見るエンパイア人の考えなど私は興味などない。衝動のまま破壊を尽くせばいいものを。今からでも飛べそして、殺せ。晴れる気持ちもあるだろう』
あやかしに憑けられた男の吐き捨てるような言葉に、カラスは応えない。集めた光で暖かさに溺れようとしていのか飛翔する素振りはまだ、見えそうになかった。
まるで宝物を大事にする――子供のよう。
「せめて痛みを感じる間もな無く、彼等を斬るコトが武士の情けッ!
たとえそれがどんなに強き者だとしても、民草に苦しみを与える者は武士に在らず!!サムライに在らずッッッ!!」
まるで子供のような仕草をしていようとも、アレに見えるはオブリビオン。あやかしとも呼ばれる、堕ちたもの。
生者にあらず。死によって姿を変えるに至ってしまった何者か。
「騙された者を責めることなどしない!その者にとっては必要なことだったのだッ!しかし……」
敵の全長より巨大化かさせたは妖刀、号を"備前地国"。
大きさは、鬼矗に迫る程の大きさへと至っている。目に見えるカラスが小柄な敵ではないことは、刀身の長さから一目瞭然だ。
「彼等を介錯することこそがせめてもの情けッ!」
身体を揺すり、光を抱く鳥たちは静かに飛翔を始める。
コルテスの思惑通りに浮かび上がり、戦場の敵全てに向けて"暗雲"を作り出して空を今よりも更に分厚い雲で覆い出した。
空から注ぐ雨粒は、矢となって鋭く零れ落ちてくるのは時間の問題だ。暗雲を作り続けるカラスが居る限り雨は止まず、弱い攻撃でも、他人を傷つけ続ける。
そしていずれは攻撃され続けた者は死に至り、祝福を得て、あやかしへと姿を落としていくサイクル。
「僧殿!!一撃一殺でゆくぞッッッ!」
「応ッ!……ハァアアアアアア!!!」
強き者の援護にと、大連珠を握り込んだ拳で未だ飛び立たないカラスをぶん殴って黙らせる。不戦の戒律を破った事のある男もまた、躊躇せずあやかしを昏倒させた。
「さあ、他のものを頼む!」
「我こそは誉れ高き備前国の地頭ッ!備前編笠丸鬼矗也ッ!!いざ斬り殺さんッ!いざ、――参るッ!」
矗也の声に警戒したのか、戦場の空気がガラリと変わった。
降り注ぐ雨が、男の心意気に燃やし尽くされて届いていないかのよう。
ザッ、と足元の砂を散らし矗也は前へ前へと躍り出る。
自身に妖刀の怨念を纏い、衝撃の波動を振るう妖刀に乗せて届く限りに一体一体、斬撃でぶった斬る。振るう一撃は範囲に重力を伴わせた。
「介錯ッ!!」
武士の魂が篭もる一撃によって、確実に絶命させる斬撃となる。
高速の足さばきも合わせ、立たれた首、もしくは身体。
そのどちらであったとしても痛みすら感じていないだろう。
気がつけば切り離されていた。
心が理解する頃には霧散して消えている。
雨を降らすカラスが霞と消えるにつれて、抱いていた光は元のあるべき場所へと先んじて還っていく。
「……お見事、おれも一つでも多く叩き伏せ、斃そうぞ」
ひとつ、ふたつと叩き伏せる破戒僧を鼻で笑う誰かの声が聞こえた気がした。怪我をする場に居ない、幻がごとき男の声だ。
『ただ殺されるだけのエンパイア人。滑稽だ、戦える術があっても嘆くだけ。使えない駒を揃えて一体何になる』
「小言を喋りは――ッ!!」
斬。
ぼとり、と落ちる正しい名も知らぬあやかしの首が足元に転がった。
動いた者は、矗也。鬼も泣き出す威力と冴えの殺しの技で、魅せる。
「民草を使うというのに武士の前に姿を見せぬものに、語る口は成しと知れッ!!!!」
コルテスが喋れば喋るほど矗也の刃がカラスの首を跳ねる。
妖力を纏ったデッドマンが止まることはなく、降り注ぐ雨雫の矢で傷を追っても矗也の怪我は瞬間的に治癒して見えなくなる。
妖刀の呪いにて死ぬことならずのこの男。
そう、この者こそ魂熱き猛き真の武人なり――。
成功
🔵🔵🔴
ヨナルデ・パズトーリ
死を救いと為す
其れ其の物は嘗て陽を沈ませぬ為に民に贄を捧げられた身として妾は否定せぬ、いや否定してはならぬ
じゃが貴様等オブリビオンによって意思を侵されたならば話は別よ
ましてコルテス
貴様が……妾の民を滅ぼした者と同じ名を持つ者が言う等言語道断
貴様は討ち滅ぼす!!
罪があるならば己の民を守れず滅ぼされた事
何より怒りを掻き立てる
破戒僧に町の地形を確認
其の情報を元に自分なら何処に隠れるか『物を隠す』技術を元に思考
『野生の勘』と『第六感』を活かし敵の拠点という『失せ物探し』
戦闘時は常時『高速詠唱』
UC発動し『敵を盾にする』様に位置取りつつ『残像』で回避
『浄化』の炎『属性攻撃』『全力魔法』で敵を『薙ぎ払い』
●征服者の面影
「問おう。この地、町の地形はどのようになっている?」
ヨナルデ・パズトーリ(テスカトリポカにしてケツァルペトラトル・f16451)は心を落ち着けるように努めて、破戒僧へと問いかける。
「小高い丘が点々とあるが、基本は平地、っつーのか?隣通し密接に、くっつき合う平屋が多いだな」
「……ふむ。死角は、思ったより多く存在しそうか」
「この雨が降るようになってからは、火を灯す家屋が減ったように思う。ボロ屋が更にボロになる……っつーか」
寂れた家屋が存在する、と破壊僧はいう。教え通りに死を待って祝福という形で死後すぐにオブリビオンとなった町人は、その体で一体何処へ潜むのか。
「民の姿が変わったままで、その翼のまま人の営みを再開できるはずもない」
物を隠す思考は、第六感の網に何かを捕らえた気がした。
野生の勘と、言い換えてもいい。
「姿が変わっただけで民が即座に空を飛ぶわけがなかろう」
家屋の奥に、火の灯らない場所。火を灯す手を失った民。
暗がりにあやかしとは潜むもの。ヨナルデならば、想いの地を忘れない。
「もし敵が拠点を持っているのなら……」
早々に、歩き始めるヨナルデに、破壊僧は置いていかれる。推測で居場所を突き止めたらしい、小柄な少女の姿は振り返る。
「――あやかしが生きていた場所、そのもの」
裕福そうな家屋の内側、其れは黒の帳を落としていた。
至るところが閉じられていて、ただ暗い。
『此処ではない空の色を見ろ、自力で飛び上がれエンパイア人。下等生物如きには理解できないか?』
あやかしに語りかけるは憑依した征服者の男。
大きな羽を広げて大きい声で鳴き出した。家屋のなかで、バタバタと暴れるように金切り声で。
『カ"ァ"ア"ア"!!!』
己の罪に身を潰された気がして叫ぶ。
ひたすらに神を信じ、命を取り零すまで飢餓の中に居た誰か。その心に、直接張り付くように存在する渡来人コルテスの言葉はあまりにも鋭利すぎた。
救われるより先に、言葉さえ無くして壊れた心が叫ぶのは、誰が聞いても聞くに耐えない嗄れきったカラスの声。
家屋の外で降り続ける雨粒は矢へと替わり、屋根に降り注ぐそれらは落ちるたびに反響して、雨の音は何倍にも増える。空から降る筈の雨音は、空間を把握する知覚にまで染み込んでどこからの音かを誤認させるのだ。
「"死は救いと為す"……其れ其の物は、妾は否定せぬ」
ぴたり、と足は止められた。だが、意志までは止まらず。
――嘗て、陽を沈ませぬ為に民に贄を捧げられた身として。
「いや、否定してはならぬ。ならぬのじゃが……」
古き神の一柱として。死によって救われたというのなら、それは否定することではなかった。
宗教的考え方を肯定するではなく、否定しないと口にするが言いよどむ。
「貴様等オブリビオンによって意思を侵されたならば話は別よ」
ヨナルデは、あやかしに憑くそれを見た記憶があった。
好敵手にして戦友。兄にして伴侶たる名を冠する神にあまつさえ騎乗し、辱めたあの顔は。指折り数えて16度もその顔を間近に捉えて見たならば、ヨナルデの記憶にも深い滲みを創る。
存在感色濃く、慢心の顔は健在。
戦う力のみ物理的にあやかしに干渉するが、コルテスの手はオブリビオンに干渉する手段を持たない。
傲慢の態度はカラスの心を壊し続ける。
名も知らぬ誰かは、隷属を強いられている。ああ――ただ神を信じただけの死者の魂を冒涜し、悲鳴に似た声をあげさせられている。
「やめよ。……ましてやコルテス、またしても虐殺に加担するか」
『戦いに準じる駒は多いに越したことはない。しかし、全く使えん奴らばかりだ……』
ため息に似た音。カラスが遠鳴りに呼鈴鳴らし続けているのを、"使えない"と言い捨てた。
戦いに向いてない嘆きの神経系へ染みる錯覚で、ただ足を止めさせているだけ。
「貴様が……妾の民を滅ぼした者と同じ名を持つ者が言う等、言語道断。出会ったが最後、貴様は此処に討ち滅ぼす!」
がらがら。
その時、破壊的あやかしのハイパーボイスがついに家屋の屋根を破壊した。
すぅうと顕になった空から、雨が当たる。
エンパイア人の悲鳴で成る雨は、矢のようで知覚を揺らされては僅かに身体が動かないのが歯がゆい。ああ除ける術がない。
雨粒の怨嗟が思い起こさせること。じわじわと胸にこみ上げるある想い。
――悲鳴が、沢山の民の聞こえるよう――。
「わざわざ引きずり出さなくとも、罪があるならば己の民を守れず滅ぼされた事」
悲しみ、罪の思い。
違う。ヨナルデの胸に沸き立つものは、己の民への懺悔ではない。
燃えあがるほどの、掻き立てる、怒り。
「――我ジャガーにして煙吐く鏡、テスカトリポカにしてケツァルペトラトルたる者。民と共に在った嘗ての妾の猛き力、目に焼き付けるが良い!」
一時的にでも動けないのが、足ならば。
嘗てヨナルデに捧げられた血と骨で形成された翼で、飛ぼう。
ジャガーを模した黒曜石の鎧に身を包み、家屋内で勇ましく飛ぶ超速度を発揮すれば、鳴き叫ぶあやかしなど赤子のようだ。
「寒い寒いと悲しむものなら、妾が此処に陽を喚ぼう!」
悪の根源、エンパイア人の生活をも蹂躙せんとする男の野望は、あやかしがあって成し得ること。
ぼぼぼ、と灯る浄化の炎があやかしの体を全力で燃やす。
『ア"ア"ア"づゥイ……』
捧げるつもりのなかった哀れなる魂を、黒曜石の斧がコルテスの面影ごと薙ぎ払って薙ぎ潰した。
斧によって家屋の壁に叩きつけられて散る羽毛。もはや再起は不能のあやかしに舌打ちしながら歪んだで消えるしかない男の面影を確かに見た。
征服者は、あやかしの一つも思うように御しきれなかったのである。
大成功
🔵🔵🔵
逢坂・理彦
猟書家が動き始めたみたいだね…せっかく平和な世界にするために頑張ったって言うのにまた戦わないとだ。
とりあえず破壊僧さんに町の詳細を聞いて【戦闘知識】で作戦を考えてみたけど細道を通ってコルテス1に対して俺達が多数になれるような場所に誘導してみようか。
俺はその囮を引き受けよう。
【誘惑】で混乱を招きながら移動。
雨…たぶん猟書家の方とは相性がいいみたいだけどコルテスとはいまいちみたいだね。
俺の罪は守れなかったこと…けれど次は絶対に無くさないその為に戦ってる。
UC【日照雨・狐の嫁入り】に【破魔】と【祈り】を載せて。
雨にはより激しい雨をさぁ、あの鳥を消せ。
生きてないと幸せは感じられないんだよ。
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
破戒僧には貴方呼び
死が救済というならまずは自分から示せといいたい
何処でも宗教の詐欺はあるもんだが、これは一層質が悪い
罪があろうと俺は自分の信念のままに行動した。後悔はない
SPDで判定
敵は見えやすい場所にはいないだろうと破戒僧からは日の当たらない見えにくい場所を教えて貰い【情報収集】
その場所に行き【視力】【暗視】【聞き耳】で敵を捕捉
銀腕を【武器改造】で剣にして【早業】【怪力】【先制攻撃】【鎧無視攻撃】を使い敵を【切断】する
攻撃されれば【覚悟】して受ける
●雨を切り裂け
「死が救済というなら、まずは自分から示せといいたい」
ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)はこの状態を作り出した元凶こそがその身で見本に成ればいいという。一度死んだあと、戻ってくるなとはいわないが……実証してみせないのは布教するものとしてどうなのか。
「何処でも宗教の詐欺はあるもんだが、これは一層質が悪い」
金が奪われるならまだ可愛い方。
この宗教は命を奪うし、悪用する。死者への冒涜もいいところだ。
「うん、猟書家が動き始めたみたいだからね」
ひそりと声をひそめる逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)。
怪しい本を持った誰かが、暗躍している事は間違いない。
「……せっかく平和な世界にするために頑張ったって言うのにまた戦わないとだ」
この場で煙草を蒸し、死者への弔いも兼ねたいところだが我慢する。
敵に居場所を教えてしまうのは、断じてよくない。
「そうだ。町の詳細をきかせてくれないかい、ザックリでも構わないよ」
「俺が貴方に聞きたいことは、日の当たらない見えにくい場所に思い当たる場所がないかだ。敵は見えやす場所になどいないだろう」
破戒僧は少しだけ悩むようにして、応えた。
「詳細、ってーほどでもないんだが……大きな屋根が重なり合うような家屋が集まる場所があるだな」
道を尋ねれば、右手側を示す。
「このまま真っ直ぐのが店ばかりが並んでる通り。一人が通るくらいの細道なんかも、点在してるはずだ」
「成程。屋根が重なり合うということは、必然的にそこは暗いね」
「細道があるなら、回り込める。数で落とすことは不可能じゃないな」
言う成れば、その場所はあやかしの巣と成っているはずだ。
陣取って留まり雨を降らし続けている個体が存在してもおかしくない。
雨は、自身の罪を思い起こさせる。宗教に触れておらずとも、思い出した罪をキッカケに自決するものすらあるかもしれない――。
「じゃあ、君は少し待機した後に真っ直ぐそこへ。俺は、先に囮を引き受けよう。連れて行くから」
「わかった」
「おれは……どうしたほうがいいだろうな。拳を貸そうか」
「いや……他の場所に力を貸しに行ってくれ」
町の有様は、そこまで変わっていないだろうが……知った誰かがあやかしとなりいつの間にか死んでいた等という現実が存在してしまう。
「もし俺たちが誘い出そうとしているやつが貴方の知り合いだったなら……気まずいだろ」
「そう、だな……。気遣い、感謝する」
「……細道を通って、釘付けに出来る事が望ましいね」
たたた、と軽快に駆ける理彦が疾走る細道に、雨が降る。
暖かい光がある場所を知ってると誘惑したら、煌めきを求める溺れるカラスが釣れないものかと左右を警戒しながら。肩がだいぶ雨露に濡れた頃、一体のカラスが躍り出てきたのを見て更に、声を掛ける。
「おいでおいで、あちらに火を灯しているから」
『ほんとぉかぁ……?じゃあ、いまそっちいくでよぉ……』
『罠だとも気づかないほど頭脳がないのか。常識も教養もない……せめて暴れて脅してみせろ。羽を伸ばし、啄んでやればいい』
『やだよぉ……さみぃんだもの……あたたけぇ場所に行くほうが先にでええはずじゃあ』
コルテスの意志にそわないあやかしが、バッタバッタと無邪気に羽ばたいてついてくる。時折塀や壁にぶつかっては問答無用に破壊するが、痛そうにはしていない。
持ち得るパワーを、使おうとしなければ戦など勝てるはずもなかった。
「雨……たぶん、猟書家の方とは相性がいいみたいだけど、コルテスとはいまいちみたいだね」
雨を降らすあやかしと、意志を揃えることすらしない。
魔将軍直々の鼓舞であっても、見るからに力とか体はバラバラの動きをしている。
――ああ、なんだか別のこともチラついてしまうね。
あやかしに思考に想像通りの混乱を招いた理彦だったが、胸のうちにちらつくものに気づいていないわけがなかった。
――俺の罪は、守れなかったこと。
――これどね、次は絶対に無くさないその為に戦ってる。
押しつぶされるほど、この男は罪の意識に囚われてはいない。
「この場所での戦いは、もう始まってるんだよねぇ……これが」
理彦が屋根の折り重なった暗がりに飛び込む。光、とは言い難いガマ油と縄で灯る弱い光がこの場でゆらゆらと、幾つか揺れていた。
風が吹けば消えてしまうほど、よわい、ひかりが。
『……ああ、あたたけぇ…………』
うっとりとした声色でカラスは弱い光でも自らの胸に抱え込むようにして奪う。
胸に抱いてそのままふわふわと浮かび上がる。不思議な光景だ。
速度こそあるので、屋根にぶつかり――そのまま破壊して浮かんでいこうとする勢いがある。
「ほんとうか?火種で温まれるほどの魂の凍えでは無さそうだが」
ルイスが遅れて到着すると同時。
片目の視力だろうと弱い光源を見て取った。
敵影を、――捕捉。
銀色の義手を、撫でるようにして変形を促しそれは鋭く長い剣と成って煌めく。
雨の振らない屋根の下で暗雲が広がり始めた時点で、ルイスはあやかしの身体をもくもくと発生していく雲ごと切断する。
息もつかせぬ早業で、雨粒が降り注ぐよりも圧倒的速さで。
ぼとり、と落ちたそれはカラスの足と翼。
剣にした腕に滴る流血を、ルイスは無言で振ることで弾いて落とした。
上空で片翼と片足となり、あやかしから滴るおびただしい血が上空からぼたぼたと降ってくる。
「おやおや、迷いのない一撃だね。雨に惑わされなかったのかい」
「罪があろうと、俺は自分の信念のままに行動した」
雨に濡れたルイスにも呪いの雨は滲みていたが、拭くことも払うこともなく、気に留めている様子はない。ルイスの鋭い眼光は迷いを跳ね返していた。
「後悔はない。赤いこれを雨と言うならいい趣味してるようだが?」
「そうかい。これはこれで後悔の雨といえそうだけどねぇ。本格的な雨が降る前に」
見えない雨のような、ふわりと暖かな破魔の力を宿した矢が理彦の足元から立ち上る。振り上げた手、差し向けた指先にあるのは、地濡れた黒い塊。
なるべく多くが向かっていくように、祈りを込めて。
「雨には、より激しい雨を。さぁ、――あの鳥を消せ」
『これで幸福なエンパイア人だろうに』
「いいや。生きてないと幸せは感じられないんだよ」
無差別に放たれた雨は、嘆き悲しみ口を開く生き物を浄化して光として消し去り、思うように働かない手足に、苛立つような男の舌打ちもまた光の向こうに消し去った。一羽の迷える魂は、これで正しく――開放されたことだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花盛・乙女
雨、雨か。
死が救いである等という欺瞞の流布に加えて、この雨。
猟兵であっても気も重くなるというものだ。
雨に当たり、思い出すまでもなく我が身の未熟さへの悔いが膨らむ。
強くあれば救えた命。
未熟でなければ恐れさせなかった娘達。
浮かび消える頭の絵図を頬を張ることで払おう。
立ち止まって意味などない。進む。それが花盛乙女の在り方だ。
破戒僧殿、この雨を降らす烏を斃そう。
貴殿の友も、この雨に惑わされているのだろう。
【黒椿】を抜き、息を吐く。
人心を惑わす悪鬼、生かしておく理由はない。
その身を断つのは我が剣技。一切を断つ、剣刃一閃。
この悪しき気を放つ根源。猟書家。
必ずこの手でその首を叩き落してくれる。
●烏に咲く花
――雨、雨か。
さぁああああああ、と降る音はただ天気がわるのだ、と思えたかも知れない。
ただ、この雨は数十日に渡り降り続いているもの。
何処かが氾濫したりはしていないようだが、"晴れ"というものを見なくなって久しいと破壊僧は語る。
「死が救いである等という欺瞞の流布に加えて、この雨」
「雨はきらいか?」
いいや、と首を振る花盛・乙女(羅刹女・f00399)。
「猟兵であっても気も重くなるというものだ」
「……天下自在符を持つような強者でもか。これは相当の呪詛だったか」
「強い?私が?」
雨が遮られるようなものはない。乙女の体にも今もずっと雨が叩いてきている。
染み渡る、どことなく渦巻いてくる今考えなくても今思い起こさなくていいこと。
その一つをつかみ取り、口に出すことで確定させる。
「いいや、我が身の未熟さへの悔いがある」
膨らんでいく想いは、思い出すまでもなくずっと胸のうちにあった。
――強くあれば救えた命。
――未熟でなければ恐れさせなかった娘達。
浮かんでは消えていく地獄絵図。
断末魔は今もまだ耳の奥で聞こえるような生々しさだ、覚えている。
今へ続く力のあり方へと強引に変えていく。
破戒僧が聞こうとする前に、乙女は自身の頬を平手で張る。
片手では弱いと思ったのか、両手だ。
結構な勢いで、ぱちんと音が高鳴った。
「立ち止まって意味などない。進む。それが花盛乙女の在り方だ」
ぎゅ、と強く拳を握り標的を望む。
「やはり、強い者ではないか……」
気持ちの切り替え方一つをとっても、この町に乙女のように強く存在するものはなかった。
生きることが罪である、などと言われては、縋るものが必要になる。
「そのような心構えが、此処の住人にもあればよかっただがなあ……」
「さあ破戒僧殿、この雨を降らす烏を斃そう。貴殿の友も、この雨に惑わされているのだろう」
「ああ。……あまり明るくはねえかもだがな。可能性は、あり得るかもしれねえ」
極悪刀、黒椿を鞘より抜き、深く深く息を吐く。
「人心を惑わす悪鬼、生かしておく理由はない」
ばさばさばさばさ。
雨音に混ざり、羽音が。
嵐を起こす大きいな翼が複数――奇襲だ。
周囲に降る雨粒は硬さと鋭さを増して、石のような硬さを誇る。
降り注ぐたびに積もって跳ねて、道を抉る。
遠距離にして周囲から壊していく終焉の雨。
カラスが複数でぎゃあぎゃあ鳴いている。
雨音より大きな羽音も引き連れて。
慢心する男の嗤い声が混ざる大きな声が響き渡る。
『そうだ。やればできるじゃないか、はじめからそうしていればいいものを。お前は使い潰される運命、同時に羽ばたいた者が放つ矢に射抜かれてもどうせ使い潰されるだけだ』
使い捨てる駒に憑けられたとは思えない言葉だった。
「――その身を断つのは我が剣技」
黒椿の刀身で雨露の矢を跳ねさせて、防ぐ。
切り裂く刃は、ただ一刀に。
『くぎゃぁあああ!!』
他のカラスに矢に身体をえぐられて、一つの鳥がぼとりと落ちる。
乙女はそれを足場に、跳ね上がる。悪が囁くは、更に上空。
何よりも高く、大きく羽ばたく一羽成り――。
「一切を断つ、剣刃一閃」
悪を屠るに二の太刀いらず。
大きな大きな胴体を、見事な切れ味でバッサリ二つに分け切り裂いた。
しばらくしてどしゃりと落ちた音がある。
ごろりと転がる素っ首は、コルテスなる名をなのる男。
カラスと一緒に、無駄口を叩く暇なく落とされた。
「まだ……この悪しき気配は止まらずか。根源、猟書家」
雨はまだ、降り止まない。
誰かの嘆きが、どこかに存在しているようで。
布教の成果はこれほどまでに実を結んでしまっていた。
――必ずこの手でその首、叩き落としてくれる――――。
このまちの何処かで、全てが終わるのを待っている者。
猟書家の首が、繋がっていられる時間はもうさほど長くないだろう。
羅刹の剣豪はどこまでもその姿を追い求める。
その姿、あり方に破戒僧は心を打たれる思いだった。
自身にもっと力があったなら……そう思わずにはいられないほどに。
大成功
🔵🔵🔵
杜鬼・カイト
※アドリブ歓迎
死は救済、ねぇ?
死んでもあんな姿になってちゃ世話ないけど。
カラスは好きなんだけどなあ、残念。
オレが好きなカラスは、こんなネガティブじゃないんだよね。
破戒僧には敵の攻撃から身を隠せるような場所を教えてもらう。
雨にはなるべく当たりたくない。
けど、当たってしまったら…
(自分の罪、そもそも自分の本体は呪われた鏡。元の持ち主はオレのせいで死んだ。オレが存在することが罪)
……だけど、そんなの今更。
オレはオレ。邪魔するやつらは壊すだけだよ。
【その身に宿すは瑠璃蝶草】で負の力をまとい、高速でカラスに近づき攻撃し墜とす。
死が救済だっていうなら……助けてあげないとだよね?
●カラスの喧嘩
「……ねえ。敵の攻撃から身を隠せるような場所を知らない?」
「あそこなら、時間が稼げそうだど思うんだよな。ついてこい」
杜鬼・カイト(アイビーの蔦・f12063)が訪れた時、雨脚を強める黒の群れは暴れ狂うように羽ばたいていた。
ぎゃあぎゃあと泣き喚くあやかしの声。
虚無と寒さに押し負けて、ただ叫ぶしか出来なくなった元町人の成れの果て。
耳を凝らして聞こえる声は、雨露に濡れる身体が寒いと嘆き、飢餓と虚無感に苛まれ、聞くに耐えない。
『救済、されたのか?』
『それとも、おれらは罪の化身になったのか?おれたちの罪は、なくならない?』
『なぜ、なぜなのすか!救済を、救済を……!!』
大きく広げた翼で叩きつける嵐風は、大小様々な家屋をぐらぐらと容赦なく揺らした。風に負けて吹き飛ぶものも、瓦礫に巻き込まれて二次被害で壊されていく家。
誰ともしれない神に赦されて、死と共にあの姿になって。
許された気になって、別の被害を生み出すあやかし。
「雨には、なるべくあたりたくないんだよね……」
「んなら、姿勢をなるべく低くしてるこったな。おれのでけえ身体で当たるのをかわってやれるさ」
言われたとおりに姿勢を低くするカイトの視点からでも、上空からは見て取れるほど大きな雨粒が風に乗ってド派手に乱舞する。
周囲に振る雨雫の矢がまたひとつ、家屋を貫いて破壊した。
容易く破壊できるほど、力を得た信者のちからは凄まじく、――何処に逃げても身体を濡らすような気がして。
鋭利な雨粒は、どこにでも突き刺さって深く染み渡るような気がして。
「足元に、抜け道が見えねえか?おれが通れる大きさじゃねえから、ちと回り込んでくる」
破戒僧が離れるタイミイングで、示された穴からカイトはカラスの視界を掻い潜り逃げるように家屋に潜り込んでいく。
中には、――誰も居ない。
火を灯す油も、最近まで使われていた痕跡がある。
どこをみても生活感は消え去っておらず、不思議なことに住人だけが消え去っていた。一部壊れた壁の穴以外、どこか切なくなるような気配が締め切られた空間の中に滞っている。苦しさにもがき壁に穴を開けて、今の状態から逃れるべく空へ飛び出した夜羽が一つまたはそれ以上、あったのだろう。
「おお……柱はまだまだしっかりどっしり構えられてる」
回り込んで入ってきた破戒僧が柱を軽く叩いて、そう告げれば、カイトはようやく落ち着ける場所を見つけたように安堵する。
「……死は救済、ねぇ?」
どの辺りが救われたのか疑問だけが残る。
救われたとして、姿を捨てる命を粗末にする必要は、――あったのか。
「死んでもあんな姿になってちゃ世話ないけど」
「もともと人間だった、なんておれでも信じられそうにねえなあ」
「……カラスは、好きなんだけどなあ、残念」
ちらりと見掛けたカラスは大分大きな存在だった。
ただどの黒い翼も正気とは言いづらく、黙ろうとせず、とても喧しい。
誰かの温もりにすがろうとするのか、見境なく襲いかかってくる。今も屋根の上を叩き続けている。
あれに流れる血が暖かいと、憑けられた者にでそそのかされたように、執拗に。
「オレが好きなカラスは、こんなネガティブじゃないんだよね」
曲がった事が嫌いで態度の大きい。
強さまでもその手に収める、とあるカラスが此処にはいない。
隙間から、雨粒が入り込んでいた事に気づかなかったカイト。
胸の内に濁々と罪の意識が浮上してくる。
――自分の罪。
――そもそも、自分の本体は呪われた鏡。
今はもう、なにも映らない曇った鏡。
――元の持ち主はオレのせいで死んだ。オレが存在することが罪……。
――罪だね、ほんと。でも……だけどそんなの今更。
「……はあ、だから当たりたくなかったのに。足元すっかり濡れてたみたい」
――オレは、オレ。
「邪魔するやつらは壊すだけだよ。壊したいんだろうし、丁度いいよね」
――そして、悪意で満たされしもの。全てを壊す鏡なり――――。
鏡があやかしを映しとった負の力。目の前のカラスのように、どす黒い黒を纏う。
聞こえるものは怨念、嘆き、悲しみ、それからそれから――。
天井が破壊され、屋根が落ちてくるのを見越して、高速移動しながら駆け上がりカラスの頭上を取る。
「飛ぶ鳥は落とされる、そろそろ大人しくして貰おうかな」
破壊の魔力で翼を撃ち、頭を撃つ。
「だって、死は救済だっていうんなら……助けてあげないとだよね?」
思考するから嘆くのだ。停めてしまえば、もう、苦しまなくて済む。
死は救済。その言葉が指し示す未来は――これが正しい行い。
身を持って知るには、あやかしには――遅すぎた。
大成功
🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
彼等はもう助けられないのですね
ならば、私達が終わらせるのみ
雨は三度笠を被るのみ
思い出す己が罪は、敵……妖と言えど、殺生を繰り返す罪
長きに渡る罪なれど、争いを止めるものとして覚悟を決めた身
今更手を止める訳にはいきませぬ
破戒僧には近くに人が居るならば避難誘導、道中に敵が居るならば対処を
刃には破魔を付与
駆け出して敵の群れに接近
なぎ払いの広範囲を併せた早業の『断ち風』
敵の邪気を祓った後、2回攻撃を仕掛ける
倫太郎と手分けして敵を片付けます
敵が飛んでいる場合は視力にて飛び移れるものを探し、段差を利用して攻撃
これが救済ですか
救われているのならば、彼等の心はこんなにも凍えていない
篝・倫太郎
【華禱】
往こうぜ、夜彦
救える限りを救う為に
『これ以上』を産まない為に
用意した笠と蓑は破戒僧に着るように言っとく
あんたは頼みの綱だ
保険を賭けときたいンだよ
思い出す罪、な
んなのは一族の滅びの原因が俺ってのだろうな
守護者の証である華焔刀の所有者の不在
それが滅びを招いた
大層な罪だな、こうしてみれば
それでも、だからと言って立ち止まれない
俺の刃が罪を背負って往くのであれば
盾の俺も同道する、それだけだ
それは覚悟で矜持だ
呪い如きでどうこう出来るモンじゃねぇよ
拘束術・真式使用
先制攻撃で真式を使用
繋いだ敵を引き擦り降ろす
同時に破魔と衝撃波を乗せた華焔刀でなぎ払い
刃先返して2回攻撃
敵の攻撃は見切りと残像で回避
●隣の温もり
つめたいつめたい、あめがふる。
しずかなまちに、あめがふる。
「――彼等はもう、助けられないのですね」
死んだからこそあやかしに、オブリビオンへと姿を変えたと聞いた月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)。原罪(現在)から逃れるために、過去になってしまった彼ら。
つまりは、――死者だ。
「ならば、私達が終わらせるのみ」
「往こうぜ、夜彦。救える限りを救う為に」
篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は空を見上げた――雨はずっと降り続いている。
空を昏い雲で覆い尽くし雨を降らせている鳥が、まだ何処かに潜んでいる鳴いている印。まだ、――誰かに祝福を、齎そうとしている印。
「"これ以上"を産まない為に」
「ええ」
夜彦の頭上に三度笠。
空から振る冷たい呪詛は、静かにじわじわと濡らした領域を増やしていく。
――妖と言えど敵、幾度とも殺生を繰り返す、……罪。
虫垂れ衣が付いた向こう側で目を伏せた夜彦に、僅かな沈黙が降りた。
――長きに渡る罪なれど、これは今も尚続く進行中の罪。
――争いを止めるものとして、覚悟を決めた身であるからこそ……。
「……今更手を、止める訳にはいきませぬ」
罪の意識を覚悟の意志、打ち消す。何度這い寄ろうとしても、何度思い起こさせようとしても夜彦の決意は揺るがない。
「なあこれ」
倫太郎は事前に用意してきた笠と蓑を破壊僧へ。
身につけていたが、おもむろに手渡した。
「……それは、そちらのものだろう?」
「いいや、着といてくれ。あんたは頼みの綱だ、保険を賭けときたいンだよ」
雨に派手に濡れることになるが、倫太郎は構わなかった。
「思い出す罪、な……」
大量に濡れて、込み上げてくるものが今考えるべきことから視線を逸らさせる。
――ああ、やっぱりだ。一族の滅びの原因は、俺ってのだ。
守護者の証である、華焔刀。
所有者の不在は、滅びを招いた。
――そうか。大層な罪だな、こうしてみれば。
「……だからと言って、俺も立ち止まれない」
隣を居場所と定めたから。
「盾の俺も同道する、それだけだ」
止まらないと夜彦が言うのなら、刃の罪もまた背負って往くのが然る道。
覚悟であり、胸に灯す強固な矜持である。
――呪い如きでどうこう出来るもんじゃねぇよ。
呪いの魔の手を吹っ切ったらしい倫太郎の顔は、破戒僧から見ても晴れやかなものだった。
「成程。修羅場の潜った数が違うってんだな……」
「この近くに人が居るならば避難誘導を頼みたく思います。道中に敵があれば、対処はこちらが」
「わかった。だが、正気な連中は人知れず集まって豪邸の奥で震えてるだろうさ」
飛び出してくるものはないだろう、と男は言うのだ。
「この町にもたまにいるのさ、陰陽師崩れや呪力に詳しいやつがなあ」
「それはいいことを聞いた」
『おかなすいたよぉ!!』
『きれいなお水はどこなの!』
『くるしいよぉ、さむいよぉ!』
『見苦しいものだ……自分でそうなったのを、鳥あたまで忘れたか』
子供のような声色で、巨大な翼がひとつ羽ばたいているのが見えた。
ぎゃあぎゃあ騒ぐ烏合の衆。
カラスの姿でひょこひょこ道を駆けてくる。
どれもこれも、鳴いて騒いで雨を喚びよせるようで、雨脚がわずかに強くなった。
上空でばさりばさりと羽音が起こるたびに荒れる嵐風。
猟兵の元へじわじわと近づいてくるように移動してくるようにも見えた。
元々降っている雨に力を与え、雨雫は順番に矢と成って家屋を潰して回る。
「あちらか来てくださるなら好都合……」
黒塗りの鞘から抜かれる霞瑞刀 [ 嵐 ]。
退魔の力によく馴染むこれに、破魔の力込めて。
駆け出しながら、あやかし二羽に駆けていく夜彦。
「そよ風のよう。真の嵐は――」
薙ぎ払うように振るわれる刃は、絶ち風が如く。
群れに抜刀の刃が煌めいて、悪しき邪気を見紛うこと無く払って切り捨て足元の水を跳ねさせて身をひねる。
抜かれた刃が煌めき食らうは、妖。此処に一つまた、罪で刃を濡らした。
「まだ飛んでいるものが……」
「いいや、飛んでいるだけ」
絶対逃さない。
倫太郎の高速術・真式にて、羽ばたく一羽ははじめから囚われていた。
歩いて騒ぐひよこのように攻撃の仕方を忘れたあやかしよりも、脅威と見て、足を捕らえた。ばたばたと逃げようとするものを、掴んだ不可視の鎖を思い切り引いて、空の庭から引きずり落とす。
ずしゃり、と羽毛が地上の水にぶつけられる。
個体自体に水を弾く能力が無いために、質量は相当重く、動かす身体は訛りのようでいざ地面に落とされてからはだいぶ緩慢な動き。
「まだ動くかよ、だが」
見えない鎖は繋いだまま、細い足で立ち上がろうとするならその足を引くだけで、カラスは倒れる。破魔と衝撃波を乗せた、華焔刀でなぎ払いで胴を思い切り薙ぎ払えば飛ぼうという考えさえ無くなる。
「刃はいってかえるもの、覚えとけ」
風を起こして矢を降らせようとする翼から首を、刃先を返して切断してやればカラスの鳴き声も同時に失われて静かになった。雨雫の矢は籠められた力を失って、ただの雨に戻り心を陰らせ濡らすものに戻った様子。
「これが、本当に救済ですか?」
――救われているのならば、彼等の心はこんなにも凍えていない。
どのあやかしの顔も泣き濡らすように涙を流していたようにしか、見えなかった。
救われて喜ぶ顔など、――いなかったのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鬼桐・相馬
【POW】
不安な心の隙に付け込まれた事については同情するが
他者へ不幸を撒き散らす位なら、俺が冥府へ送ってやろう
UCを発動し破戒僧へ話を
上様は江戸幕府の転覆を阻止する方法を問わないとのこと、それはかなり差し迫っている状況と言える
淡々とあれらを迅速に処理して行く
それが彼らの救いでもあると思い込め
[ヘヴィクロスボウ]に[ジャバウォックの鉤爪]を接続し敵へ向け射出、ワイヤーを絡ませ動きを奪い[怪力]で引きずり降ろす
そこを破戒僧と俺で攻撃して行こう
敵の雨雫は彼と己に[結界術]で障壁を張り軽減を
研究施設にいた皆があの日忽然と消えたのは
俺のせいなのかもしれない
ふと思うが――下らない仮定は好きじゃないんだよな
●業務命令
男は町の様子を、暫く静かに眺めている。
ふと、討たれたカラスが遠くで啼いた。
おそらく――誰かが不幸の翼を数羽、迅速に還したのだろう。
「不安な心の隙に付け込まれた事については同情する」
この昏い光景は、誰も笑顔で居られない空気を双肩に押付ける。隣人が隣人を祝福に招くさまなど、火種を撒いた神父ひとりから始まった地獄の有り様だ。
「他者へ不幸を撒き散らすくらいなら、俺が冥府へ送ってやろう」
鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は振り向きざまに、心の内で詠唱する。
――標のない昏き冥府、それが己を灼く炎であっても縋りたいだろう。
――その渇望を、俺に。
敵の侵略に屈するどころか挑もうとする気概。
渡来人が発祥と思わしき未知の宗教に乗らなかった男だが念の為。
「上様は江戸幕府転覆を阻止する方法を問わないとのこと。それはかなり差し迫っている状況と言える。この町に巣食うモノ、あれらを淡々と、迅速に、処理していく」
相馬が淡々と説得の言葉を破壊僧に伝える。
すると男は肩を震わせて驚いたような顔をした。
「……上様?ってえと、あんたは」
「必要なら見せればいいか」
江戸幕府から与えられた符を持つもの。
天下自在符――それは実際に存在し、持つものが御上の言葉を告げに来た。
噂ではなかった。知らせを持ち込んだのは、無駄ではなかった。
「いや、いい。ありがてぇ」
相馬の言葉は破戒僧の耳に入って出ていったのか。
彼は言ったハズだ、――"処理"していくと。
それが、彼等の救いでもあると思い込め。
知った顔を殺したかもしれないなどと、決して悔やむな。
ばさばさばさばさ。
カラス自身への不穏な会話を察知したのか。
それとも、憑いた男の冴え過ぎた勘か。
「来た」
いうより早いか、相馬は成れた手付きで威力重視に改造された黒塗りの重弩に、素早くジャバウォックの鉤爪を装着する。鉤爪の付いた切れない闇色のワイヤーを、狙い定める動作もなく敵よりやや上へ射出。
『かえりたいよ……もうかえらせてぇ!』
『啼かなければまだ空を飛んでいられただろうに。何処へ帰る。その姿で』
『おうちはどこ?ねえねえねえねえ!!』
大きな翼に変形させた両翼は、格好の的だ。
多少の誤差があっても、雨に速度を落とされても。
放たれたワイヤーのずしりとした重さが、黒い羽毛に落ちるよう、射出した
重力に手を引かれあやかしに絡みつき翼の自由が奪われる。
「いいから、降りてこい」
あやかしの自由意志に関係なく、ギャアと啼く声を無視して相馬は怪力で勢いよく叩き落とす。どしゃりと水たまりに落ちたカラスへ群がるように、どこからともなくあやかしがわらわらと集まりだした。
カラスの行水とでも思ったのか、汚れを落とす仲間がいると思ったのか?
寒いと言うそのクチバシで。震えてるようにしかみえない、その身体で。
「これで手が届くだろう」
「ああ、迅速に……草場の向こう側に眠らせようかっ!」
ぶんぶんと、大連珠を振り回し数珠の一つを鷲掴み、宝珠でカラスの頭部に打撃を加える破壊僧。
勢いこそ、パワー。踏み砕いだ地面の抉れ方は尋常ではなく、その威力はカラスの意志を見事に奪った。仮に友かもしれない個体が混ざっていたとしても、親友の手で正しく永眠を与えられるならば悔いはない。人殺しをさせられる為に、殺されていたとしたら、それこそ親友が止めずしてなんとする。
『クアァアアアアアア!!!!』
あやかしが一体黒い煙となって消えたのを、仲間が弔うように大声を上げて翼をばたばたと。
雨雫の矢が消してくれるなら……そんな、潔ささえ感じさせる。
自分たちを巻き込んで、敵味方関係なしに矢へと変えた。
悲鳴が上がる。だが、カラスたちだけだ。
「結界術の障壁。多少なら、どれほど鋭い矢だろうと軽減できるだろう」
先程までずっと浴びていた雨が障壁によって遮られ、ずぶ濡れになっていた相馬の中にも、罪を抱えた記憶はじわじわと流れてくる。
いつもどおり目覚めたあの日。
――研究施設にいた皆があの日忽然と消えたのは。
誰もいなかった。
両親をはじめ、施設にいた"いきもの"全てが、いなくなっていた。
――俺のせいなのかもしれない。
可能性は、ゼロではないだろう。
施設に襲撃された様子はなかったのに、相馬だけがそこにいたのだから。
誰がなんのために。今も行方知れずの皆は生きているのか。
考え出せば、きりが無い。
――などと、ふと思うが。下らない仮定は、好きじゃないんだよな。
雨の矢に痛がる幾多の悲鳴を環境音に、思考を手放す。
「仲間内で自滅を狙うのはいいが、迅速さに欠ける」
冥府の槍を手に、防衛をやめる宣言を破戒僧へ。
「俺は右でお前は左側。同時に行くが構わないな?」
「……ああ。虫の息になるさまをただ見てるのは胸がいてぇとおもってたトコだ!」
結界術を解いてすぐに身体を打つ矢の如き雨雫のことも、一旦意識の外に置いた。
黒い生存者を全て撃ってから、怪我の度合いを確かめればいいのだから。
大雨に隠されて、この場の悲鳴は――全て何処へも届かず消えていく。
大成功
🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
…雨は、苦手てす。
刃金たるこの身が錆び付いていくようで、ひどく寒いから。
けれど、この雨に打たれて死した彼らはもっと寒いのでしょう。
だから、案内して頂けますか。
かの教えが始まった場所…恐らくは鴉がもっとも密集しているだろう場所へ。
道中も鴉を見かけたら複製太刀を飛ばします。
狙いは素っ首ひとつきり。
できるだけ素早く、効率良く、そして苦しめることなく。
断末魔だけを聞き届けて刈ってゆきましょう。
―…罪があるとするならば。
こうなるまで猟書家の暗躍に気づけなかったこと。
幸福に生きる権利があった彼らを無惨に死なせてしまった……救えなかったことです。
おやすみなさい。
どうか今度こそ、あたたかな夢をみてください。
●おやすみなさい
「……雨は、苦手です」
穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)は、宿神。
仮初の身であっても、止む気配のないこの町の雨は、指先をどんどん冷たくさせた。濡れ続けるならなおさら、いずれ凍りついていきそうだと思えるほど。
「なにか悪い思い出でも?」
「いいえ、刃金たるこの身が錆び付いていくようで、ひどく寒いから」
焔と共に征く太刀である彼女にも、錆を齎す呪詛を含んだ呪いの雨は身を陰らせるような気分を募らせる。
「……けれど、この雨に打たれて死した彼らはもっと寒いのでしょう」
だから、と言葉は続く。
「かの教えが始まった場所、恐らくは鴉がもっとも密集しているだろう場所へ……案内していただけますか?」
「カラスが多いところ……それなら、おれの僧職仲間が敷いた道に多い」
手招き。大柄な男が、小柄な動作で神楽耶を呼ぶ。
「迷い込むやつは、わりといるんだがよ……その道に基本人は居ないんだ、いつもなら。だが、妙に"見えないところから声がする"気がしていてな…………」
「なにか、呪術が仕組まれて……?」
「御名答。特定の順番で進むことで現れる――陰陽術が仕込まれた道だ」
破戒僧に案内されて入った控えめな小道。
よく見れば入り口はびっしりと符が貼り付けられている物々しさしか感じない道であった。
歩を進め踏み込んでしまえば、特に気になる箇所はなく。
寂れた妙に長い小道という印象。時々道であるというのを示すように、何らかの地蔵菩薩が点在していた。
横を通り抜ければ左右非対称に点在する地蔵菩薩の薄く掘られた目に光が灯る。
ぼおう、と地蔵の宝珠が進むべき道を怪しくを照らすのだ。
「これをななつ、間違わずに進む。どういう仕組みか、間違えたなら始めの場所に戻される」
「……これは」
灯った明かりは虹の色を映すような順番で。
宝珠の光以外にヒントになりそうなものは、どこにもない。
道を曲がり、壊れかけた塀の隙間をくぐり抜け道と言えぬ道を歩き抜けることしばし。雨はずっと、神楽耶の身体を濡らしていた。
カラスの姿は未だ見掛けておらず、嘆きの声もどこか遠く。
ばきりと道の外側で、何かが壊れるような音が聞こえたような気もしたけれど、どこか現実味がない。
――わたくしに……罪があるとするならば。
神楽耶の意識が徐々に雨に攫われる。
――こうなるまで猟書家の暗躍に気づけなかったこと。
斬るべき過去の、用意周到な暗躍。
今を過去にしたくないのに、過去と成ってしまった町人の数は数え切れない。
――幸福に生きる権利があった彼らを無惨に死なせてしまった。
死に祝福されて、飢餓に苦しんで。
温もりを求めて、親しい人を殺して。生きるという罪から赦されたはずの死後の姿で、更に別の罪を黒い翼に塗りたくって。
――……救えなかったことです。わたくしの、罪は。
「……しまった。空間の認識にズレがあったようだ」
『ここはどこだあ、さみいだよ……?』
『おではどこに、いるんだべか……そこにおめえはいるだかか?あったけえだか?』
『そおかあ、そおかあ。そっちへ……いくだべなあ』
痛みの雨の向こう側。
破戒僧は既に、僧職仲間が敷いた道を通り抜けていた事に気がつく。
ある屋根の下から躍り出てくるあやかしが、ぬくもりを持つ人の来訪につばさをひろげて歓迎する。
『どうしたあ、おらがみえてねえだかあ!』
『煩いぞ。口数が多いお喋りカラスが何を言おうが誰も気にしない。ただ言われたとおりに壊して進め。嘆いて果てろ。小競り合いのための力はあるだろう。駄々をこねたいなら勝手にすればいい。暴れて嘆くしか脳のないエンパイア人め……』
はた、と罪の意識から心を浮上させた神楽耶が、黒き罪の翼を見やる。
いつの間にか一時的に止められていた時間は、――動き出す。
「いいえ、見えています」
神楽耶は己そのものたる神体たる太刀に手を掛ける。
ちゃき、と澄んだ音をたて、煌めくと刀身を鞘から外へ。
落ち着いた心で鋒を差し向けて。
「おやすみなさいと、伝えに来ましたから」
本体より複製された銀の煌めきが周囲に浮かび、黒き鳥への真っ直ぐ突き進み突き刺さった。
あやかしに、避けるという考えはなく。
両翼は刀に刺し貫かれて貫通し、羽の間に孔が開く。
カラスは驚いたようにぎゃあぎゃあとその場でぐるぐる回って暴れだし呪いの掛けられた地蔵を体当たりで破壊する。
コルテスの声ももはや、混乱した魂には届かないだろう。
「痛みは其れ以上に差し上げませんから……ご容赦を」
破壊の力がその身にあっても、頭脳と体と心が追いつかなければ役には立たない。
翼を貫通した後待機させていた複製太刀を操って、左右同時に首を責める。
――出来るだけ素早く。
ごろり。
狙われた素っ首一つが転がった。効率よく頭を落とされて、残された部分は雨に紛れて消えゆくだけ。
あやかしに堕ちた首が最後に叫ぶを聞いた。
『死は救済そんなのありえねえことだったべなあ!!これをみろ、救われてねぇだよ……真実救ってくれたのはよお、おでらを止めたこの人らだぁよ!!!』
殺されたとも、苦しいとも言わない頭は、果たして誰のものだったのだろう。打ち倒された事を、"救った"とあのクチバシは紡いでいた。
――どうか今度こそ、あたたかな夢をみてください。
――冷たい雨の中で、震える必要はないのですから。
刈った魂が、迷いなく眠れるようにとあとは――祈るばかりである。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『ブラザー・アポストロス』
|
POW : 悔悟せよ、汝罪深き者
対象への質問と共に、【自身の侵略蔵書】から【野心の獣】を召喚する。満足な答えを得るまで、野心の獣は対象を【引き裂く爪と牙】で攻撃する。
SPD : 報いを受けよ、愚かなる者
【侵略蔵書の表紙】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、侵略蔵書の表紙から何度でも発動できる。
WIZ : 来たれ我らが同胞よ
【火縄銃】で武装した【聖戦士】の幽霊をレベル×5体乗せた【ガレオン船】を召喚する。
イラスト:いもーす
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠枢囹院・帷」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●猟書家『ブラザー・アポストロス』
町に隠れたあやかしが討たれ、雨が――上がった。
ただ、暗雲の雲はそのままだ。
猟書家の洗脳から抜け出していない住人が、まだどこかにいるということだろう。
「おや。せっかくの雨が……」
ぱたんと閉じる、聖書でもある侵略蔵書。
「神が与えた赦しを得た彼等を、罪深き者たちが摘み取りましたか。あなたがたの生き方もまた、"試練"多きものなのですね」
ブラザー・アポストロスは、微笑んで猟兵たちの訪れを歓迎した。
「いいでしょう迷える子羊たち。救済者を討つ原罪に手を犯し続ける者たち。行き急ぐあなたがたにもまた、多くの悩みがあるのでしょう。その悩みもまた、私が聞き届けましょう」
町人へ演説したように、言葉を促すように。
男の仕草は、どこまでも聖職者。
「……"憑装"?はて、なんのことでしょう。私には必要のないものです。死んだ魔軍将の魂を大量に複製して召喚し、救済された者たちに私からの祝福として与えはしましたが……」
ハハハ、と談笑でもするようにアポストロスはただ笑う。
昔ながらの旧友とでもいうくらいに親しげに。
「あなたがたにも改めていいましょう。あなたの人生は、神の与えた"試練"そのものです。生きること自体が"悪"なのです。死はあなたもまた救済するでしょう……おや、何でしょうその目は」
逢坂・理彦
罪深い。ねぇ。
まぁ俺はそれでも生きていくつもりだし。
そもそもあんたとは信じる神自体が違うだろうからね。
まぁ、あんたの神が死が救いだというのならあんたも今すぐ死んだらどうだ?救われるんだろう?
それとも布教者は別だと宣うのかな?
…これ以上の問答は不要だろう。
わかりやすく戦って終わらせよう。
UC【狐火・穿ち曼珠沙華】に【破魔】と【除霊】を乗せて。
敵のUCはこれでなんとかして…あとは【早業】で肉薄し墨染桜で一気に【なぎ払う】
陽川・澄姫
生きる事が悪、ですか。確かにその通りかもしれませんね。彼自身に限っては。
ですから、彼を救済出来る場所に私がご案内致します。
そこで罪を贖えば新しい未来が待っているでしょう。長く苦しい時間が続くでしょうが、救われる時は来ます。いつか、きっと。
さぁ、こちらへ。
最初に妖気を纏わせた扇を相手に投擲します。初撃は避けられても構いません。その上で、念動力を使って扇を操作して背後から斬りつけ、以後何度も飛来させ続けます。
一箇所でも傷が付けばこちらのもの。活力を吸い出して相手を弱らせましょう。
船からの攻撃に対しては念動力で弾を逸らすか髪で防ぎつつ、もう一つの扇を投げて攻撃し、幽霊達の活力も奪って黙らせます。
●So what(だからどうした)
「……罪深い、ねえ?」
逢坂・理彦はあまりに当然の事のように言ってのけるアポストロスを、怪訝な顔で見た。
「まあ?俺はそれでも生きていくつもりだし……そもそもあんたとは信じる神自体が違うだろうからね」
どんな神かはわからない。
ただ、何処までいっても理彦の人生に交差したりしないだろう。
「神はそんなあなたの言葉も広い心で聞くことでしょう。別の信仰、宗教。祈りの対象……個人が考え、理想とするものならば、それはいいことでしょうね」
「随分広い心をお持ちのようだ、よく知らぬ神サマは」
アポストロスは笑みを崩さない。
閉じていた"侵略蔵書"である彼のバイブルが、パラパラと風に遊ばれて捲られた。
「生きる事が悪、ですか。確かにその通りかもしれませんね」
――彼自身に限っては。
――彼を救済出来る場所に私がご案内致しましょう。
陽川・澄姫の言葉の裏を掬い取ったように、アポストロスは視線と微笑みを投げかける。彼からしたら彼女もまた罪を犯す者。
その場で言葉を待つように、男はただ、笑っているようにみえた。
「そうでしょう?御心のままに」
「……まあ、だからといって、俺は同意とかは示さんのだけど。それに、少々耳に挟んだが…………あんたの神は"死が救いだ"というそうだね?」
「はい。罪は生を受けた時点で始まっています。あなたがたの手もまた……」
「いや、俺の話はいいよ。ただ、そういうことなら……あんたも今すぐ死んだらどうだ?」
"死が救い"だと流布して歩くのなら。
"生"あることが罪だというのなら。
「死ぬと救われるんだろう?――それとも布教者は別だと宣うのかな?」
「おや……」
「死んだ後、罪を贖えば新しい未来が待っているでしょう。長く苦しい時間が続くでしょうが、救われる時は来ます。いつか、きっと」
「これはこれは手厳しい。妖狐さまたちは口がお達者でいらっしゃいますね。ですが、私が布教者だとご理解なさっているのなら、それがどういう意味を持つものかも勿論……」
――おわかりですよね――――?
「さあ、こちらへ」
会話の間に澄姫は妖気を纏った妖桜扇を投擲していた。
ひゅっ、と風を短く切る音が飛ぶ。
真っ直ぐ飛ぶ扇は、侵略蔵書にぶつけることでその場に落とす。
アポストロスはこれを脅威と判断しなかったようで、燕が壁にぶつかった……そんな調子で、ぽとり。
――当たらないことは、構わないのです。
初撃を外した澄姫だが、それも計算のうち。今足元にある扇が、ただの扇ではないのにも関わらず叩き落とすで留めた事が大きな間違い。
「176ページを此処に。"来たれ我らが同胞よ"」
"侵略蔵書"がピタリとあるページで止まった。ゴゴゴゴという空を裂くような音。
ぎぃいいと木が軋む音。空の暗雲から覗く船首、それこそが同胞。
「教えて差し上げてください。"死は救い"あなたがたこそが、祝福されて昇華した聖なる使徒(せんし)であるということを!」
ずずず、とゆっくり降りてくるガレオン船に見える人影の顔は理彦にはよく見えなかった。あれは宗教の虜になった亡霊。逃れるという言葉を、必要としないままに堕落したいつかの誰か。
あやかしたちと成り立ちは似たようなものだろう。
ただ、実態があるかその場限りの寄せ集めかの違いくらいだ。
「……これは、随分と厚いね。これ以上の問答は不要だろう」
――わかりやすく戦って終わらせよう。
「……」
念動力で扇を動かす。澄姫の扇は、アポストロスの認知外でふわりと浮かんだ。
ガレオン船の幽霊たちが、彼の身の回りを警備しているわけではない。
控えめに言って、背後は――。
澄姫はくい、と手を手前からこちらへ。あえて意味ある動きを取ることで、扇の動作を感づかれないように努めた。
「……!?」
背後から切りつけられ、男はたたらを踏む。
何に切られた?何処から切られた?
「どうかされましたか?」
「……いいえ。どうやら風の悪戯があるようですね、本日はとても不思議な天気をしていますね」
「そうですね。雨のちくもりと、鎌鼬……」
二度、三度。会話しながら斬りつける。
アポストロスもこれには違和感を感じていく。
「鼬はどうやらあなたのようですね」
「一箇所でも傷がつけばこちらのもの。活力を吸い出して差し上げましょう」
――少しでも、弱ればこちらのものです。
――だから味見を。失礼しますね。
澄姫には見えている、切り口から漏れ出すアポストロスの活力の流れ。
傷は小さくても確かについている。
活力を吸い出し続けることで、じわじわと、自身の妖力へと力を変換していく。
ニコリと笑っていた男の顔から、笑みの色が少しばかり控えめに。
痩せ我慢。その言葉がピッタリ合うだろう。
「……うーん。どうにも殺風景だね、あの渡来の船は。色合いに――赤を添えよう」
ガレオン船から火縄銃が一斉に吼える。充填までに、ややの時間を要する銃が火を吹いた。
着弾を避けるのは大変だ、なにしろ大勢。
自分の名も身体も"祝福"の"犠牲"にした大群が全員で打ち込んできているから。
揺れる狐尾。ばさっと耳を跳ねさせる。
「破魔と、あとはそう。除霊が必要かな」
理彦が周囲にすばやく並べる燻る火種、それすなわち狐火なり。
手を右から横に薙ぐように、空へ放つ弾丸は、まるで曼珠沙華を幻視するように美しく花開く。
燃える花の杭がこれでもかと打ち込まれ、理彦は弾丸の雨の追撃を止める。
火縄銃が狙っていたのは理彦と、澄姫だけ。
刹那の瞬間ひらりと踊るように身を躱す理彦。
それくらいの距離感を戦闘知識から導き出していた。
「ああごめんね。これは火だから船が帆が真っ赤に咲き乱れて燃えてしまうね」
片や澄姫は、念動力で弾を反らすには時間が足りないと判断して、妖気を纏った髪で弾く。
高い強度を持っている事も合わせて、未回収の扇をもう一度念動力で動かして幽霊たちの抵抗する力も奪う。
扇というなの蝶となり傷を作って飛べば、澄姫のユーベルコードの効果で活力を奪われて、黙るだろう。
「二通りの意味で彼岸送りに?罪に罪を重ねるのが、お好きなようですね。いいご趣味をお持ちのようだ」
召喚されたガレオン船が激しく燃えて火に包まれていく。
理彦の耳に、悲鳴のようなものが多数飛び込んでくる――。
除霊の力が籠もった焔を浴びたならあれは彼岸へ送る渡し船代わり。
大人数で、あのような大きさで。死者の国は大賑わいになることだろう。
「そりゃあどうも」
ガレオン船を仰ぎ見る男に、理彦は素早く手元に墨染桜携えて手に肉薄し切り払う。薙ぎ払ったつもりだ、手応えはあった。
「残念。この本は、とても厚く厚く出来ているのですよ」
アポストロスは、侵略蔵書を本を掲げていた。
力を受けたが、強引にその場に踏みとどまったようである。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
神から与えられた試練ねぇ、俺は一度死んで生き返った身だが救済なんてなかったぞ
お前の為に死になおすなんてごめんだ、逆にこっちが救済とやらをしてやろうか
SPDで判定
攻撃されれば【戦闘知識】【見切り】で避け、【カウンター】として義眼の橙の災い:爆破【爆撃】を【範囲攻撃】【全力魔法】を駆使して発動
敵が同じ攻撃を使用したと同時に受けたように【演技】し爆風で目を晦ます【目潰し】
【視力】【聞き耳】で敵の位置を把握し【迷彩】【早業】【悪路走破】で背後に回り銀腕を【武器改造】で剣にし【怪力】【鎧無視攻撃】【貫通攻撃】【捨て身の攻撃】を使い【切断】し【串刺し】にする
外邨・蛍嘉
御託は聞き飽きたよ。
オルタナティブ・ダブルでクルワを再度召喚。
「その口、閉じサセマス」
私は藤色蛇の目傘を刀に変換。クルワは妖影刀『甚雨』使用。
基本はクルワと息を合わせての早業+切り込み。私は風、クルワは雨の攻撃属性つきさ。
「雨剣鬼の名において、負けるわけにはイキマセン」
UCコピーされたとして、相手が増えるだけだから、破魔つきの2回攻撃で攻撃してすぐに数減らそう。
死が救いと言うのなら、あんたの目の前にいる私は何なんだろうね?
「どう答えても、切り裂くのみデスガ」
クルワって、やっぱり鬼だね…。
ま、敵への処遇は同意するけどね。
●After dying
「それはどうかねえ、御託は聞き飽きたよ」
別の方向から外邨・蛍嘉は藤色蛇の日傘を刀に変じさせて迫っていた。オルタナティブ・ダブルによって召喚されたクルワが妖影刀『甚雨』を手に、差し迫る。
『その口、閉じサセマス』
息を合わせた風の切り込みにも、アポストロスは本を使用した。
表紙はどれほどの強度があるのだろう。
刀に連続して切られても、裂ける様子も表紙が割れる様子もない。
綻びもなければ、クルワの雨の攻撃属性付きの濡れた刃の煌めきも、動じている様子がない。
「御託。そうでしょうか。隣人と会話することは、特に悪い事ではないはずです。むしろ善きことであると思いますね、話して軽くなるものもあるでしょう。私の語りを、口を閉じさせる、といいいましたね。出来ることならどうぞお試しを」
侵略蔵書の表紙であえて連続攻撃を受けていた理由。
本を軽く手でたたき、命ずるように本へと促す。
「0ページ目の奇跡を。――"報いを受けよ、今此処に愚かなるものよ"」
蛍嘉がやっている事を、報いという名で写し取……りまるで分裂するようにアポストロス"が"増える。
文字通り、同じ顔が複製されるように、ダブルに。
ただ、何度も何度も切り裂こうとする蛍嘉とクルワの猛攻に思うところがあるのか、何度も使って頭の数はトリプル、フォース。いや、もっとだ。
神父の数は増えに増える。
どれの顔もニコニコと、微笑みかけて子供にでも聞かせるように。
「これだけ口が増えて、全てを閉ざす事ができそうですか?」
『雨剣鬼の名において、負けるわけにはイキマセン』
「増えただけだろう?斬ってすぐ減らせばいいだけの話さ」
風によって、薙ぐ。剣圧に乗せた風圧で、襲う。
蛍嘉は近場で見た。アポストロスは武器らしいものを持っていないようである。
増えた男は風圧にバランスを崩して、影のように追従する黒い妖刀に心の臓を貫かれる。かと思えば、雨の攻撃属性の連撃を増えた男が本でガードしようとするのを、今度は蛍嘉が死角から突き刺す。
距離感を掴みにくい2回攻撃だ。
忍ぶ早業の前で、増えただけではすぐに減らされてしまう。
「減ったところで私の口は閉ざされません。では気分を少しだけ切り替えましょう?そうですね、はい。先程の話、ご意見を詳しくお伺いしましょうか」
「御託は聞き飽きた、ってところかい?戦闘中に大概だね、……"死が救い"というのなら、あんたの目の前にいる私は何なんだろうね?」
蛍嘉は、――悪霊だ。
今を猟兵として過ごしているが、死者なのだ。
「生きていることが罪なら、私は今、救われているのかい?」
「これは……不思議な迷える者に出会ってしまいましたね。その場合は、やはり人としての経験、考え方によるのでしょう。幸せだというのなら、"生きている"と同じ。無だというなら"祝福"はその身にあるのです。ただ、後者の場合ならばその欠片にあなたが気が付いていないのでしょう」
『どう答えても、切り裂くのみデスガ』
雨剣鬼が身を滑らせて肉薄し、本物のアポストロスかどうかを確認せず、刃を首に滑らせて落とす。
骨まで断った見事な切り口。
雨露に紛れて滑り落ちてごとりと落ちる頭に重さはあったが、少し経つと頭部はすうと消える。増えた影のひとつだった。
「クルワってやっぱり鬼だね……ま、敵への処遇は同意するけどね。それにほら、そこの…………」
蛍嘉に声を掛けられた気がしてルイス・グリッドが、複数のアポストロスの間に躍り込んでくる。
「俺は一度死んで生き返った身だ。少し、あなたとは異なると思う」
悪霊に続いてデッドマンが訪れたことで、アポストロスの表情が意外なものをみている、そんな呆けた調子になった。
「珍しいお客人ばかりですね。長生きしている方から、死んだ方まで」
「俺のこれが神から与えられた試練?」
増えたアポストロスが、侵略蔵書で物理的に強打しようとしてくるのを素早く見極めて数歩下がることで躱す。
本が分厚いからこそ、それで殴る。短絡的だ。
本が大事なのか、本を大事にしていないのか、いまいち判断が難しい。
「……救済なんて、なかったぞ」
死んだことで無くしたものが幾つか存在する。
目覚めるまでに、取りこぼしてしまった記憶。
思い出せない。どこで生まれたのか。
もっと重要なこと――ルイスにメガリスを託したあれが、誰だったのか。
「それは簡単な話ですね。あなたが今、死者そのものではないからです」
「…………」
深い深い、ため息。アポストロスはルイスに、生きている、という。
オブリビオンの目線から見ても、動き考える身体がアレば生者、などとでもいう気なのか。
「だからこそ、俺も死で救済すると?お前の為に死になおすなんてごめんだ」
手を出さない男。ルイスをそう見ていたのなら、男の過ちはその点だ。
複数の分身体を揃えても、いつの間にか露わになっていた左眼に映された事実から逃れることはできない。
小さな水晶、その義眼の色が橙を灯す。
ぢぢぢ、と控えめな着火音がした途端、周辺に尋常ではない爆風が巻き起こる。
メガリスが起こす災い、虹色の願い。適当な一体目掛けて発動した爆撃は、周辺のアポストロス全部を巻き込んで激しく煙を上げた。
「ではご自身のために、死を選ぶのもよいのではないでしょうか。再び此処に、0ページの奇跡を。私はその、僅かな手助けを致しましょう」
本物の男は、侵略蔵書の表紙で爆煙を防いでいた。
いや、それは少し正しくない。男に爆撃が届かなかったわけではないのだ。
本は本以上であるはずはなく、大きさを変えたわけではない。
攻撃そのものを防いだわけではない。
すすすと掲げた侵略蔵書、その表紙にルイスの義眼に良く似た光が出現する。
似て非なる、ただその力をコピーした力が橙に輝いて、周囲に爆撃を無差別に発動した。破裂する爆撃、ルイスのそれとアポストロスのコピー。
手助けという言葉に正しく、侵略蔵書から何度もその力を発動させて、周囲は爆煙に満ちていく――。
――ここだ。
攻撃を受けたように仰け反って、煙の中に身を隠し……ルイスは聞き耳を頼りに本物のアポストロスの位置を探る。あちらから見定められてないのは明らか、なにしろ爆撃を何度も発動させているから。悪路だろうと、進むと決めた道を視力で補い普通の道を駆けるように煙の中を征く。
振り上げた銀腕、それは既に剣の状態に改造を完了していた。
軽く地面を蹴り、ルイスが跳ねる。
飛び跳ねて、重力に引かれて落ちるそこは――アポストロスの背後。
「逆にこっちが救済とやらをしてやろうか」
深々抉る。突き刺して、――腹の中の臓を問答無用に潰した。
捨て身で近づき、貫いた。アポストロスの顔は、それでも何故か――笑っていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヨナルデ・パズトーリ
死が救いと成り得る事は否定せん
妾の民も陽を沈ませぬ為、妾達に贄を捧げ自ら贄となったからの
彼等にとって贄となり死す事は誇りであった
じゃが生きる事が罪等という事がある物か!
もし罪だと言うのなら其れを赦す度量もなくて神を名乗るなぞ滑稽極まるわ!
故に貴様の言う神を妾は認めぬ
個人的な怒りも込みで全力で叩きのめす故、覚悟致せ?
魔法は全て『高速詠唱』『全力魔法』
攻撃は野生の勘で察知し『残像』を囮に回避
UCを即発動
『先制攻撃』で『破魔』の力を込めた『神罰』の炎『属性攻撃』魔法で聖戦士を『焼却』し『浄化』
其の侭高速飛行の『空中戦』で敵に肉薄
『怪力』の『鎧無視攻撃』をぶち込み『傷口をえぐる』様『零距離射撃』の魔法
杜鬼・カイト
あー、はいはい。死は救済、ね。
オレは別に救ってもらいたいとか思ってないし、第一、キミなんかに救ってもらうなんて勘弁だよ。
オレを救ってくれるのは、あの人だけなんだから。
キミと話してても意味がないし、さっさと壊しちゃうね?
敵の攻撃は、【呪詛】の力を込めた刀で対応。
【なぎ払い】による【衝撃波】で吹き飛ばす。
UC【永遠の愛を誓え】で敵の動き封じ、【ダッシュ】で距離を詰めて刀で斬りつける。
「キミを救ってあげるから。だから、オレから逃げないで?」
だって、死は救済なんだもんね。
キミがそう言ったんだよ?
●赦さない
「あー、はいはい。死は救済、ね」
問いかけは猟兵である杜鬼・カイトにも向いていると気づいた返答。
深入りを拒否するように、男との距離感を崩さない。これは言葉巧みに人を溺れさせて救済という名の死へ誘う男への対策。アポストロスという男の布教する信念そして言葉は、――罠であり、馬鹿みたいに甘い甘い毒物だ。
「あなたは救いが欲しそうな、迷いの在る仔であるとお見受けしたのですが、……違いましたか?」
「まさか。オレは別に救ってもらいたいとか思ってないし……第一、キミなんかに救ってもらうなんて勘弁だよ」
救われたいと、一瞬でも考えことがないわけではない。
しかし、目の前の男になんとかしてほしいわけではないのだ、カイトは。
――オレを救ってくれるのは、あの人だけなんだから。
指折り数えても、"あの人"を上回る者などいない。
――そうでしょう?……兄さま?
神父だろうと、神だろうと。
救う力を真偽問わず存在してしまうかもしれない可能性の存在をカイトは、許さない。想いの影響か普段の笑顔に歪さが映る。不思議なことだ。
「妾は少し違う。……"死が救い"と成り得る事"は"否定せん」
じゃりりと足元で砂を踏む、ヨナルデ・パズトーリ。
「ほう、それはそれは。あなたのご意見を伺いましょう」
アポストロスは改めて、ヨナルデに向き合う。
拝聴しますと手を向けてくる仕草。
本当にオブリビオンかどうかも伺わしい、余裕のありそうな佇まい。
「妾の民も陽を沈ませぬ為、妾達に贄を捧げ自ら贄となったからの。彼等にとって贄となり死す事は誇りであった」
死すること残る者たちに希望を、贄となった者は英雄に。
それは、古きメキシコの時代における意味がある死、意味のある贄。
だが此処町で布教されたこの猟書家の教えは――。
「……じゃが、生きる事が罪等という事がある物か!」
「あなたの誇り、あなたの思考。それはとても大きな憤怒で、否定の言葉を告げるのですね。大変よろしい。言う成れば、とても素直な考えの投擲と言えるでしょう」
侵略蔵書を撫でる手。聞いているはずのに、聞いていないという態度。時折頷くので、聞いていないことはないようだが、ヨナルデの神経を余計に逆撫でる。
「笑止!!もし罪だというのなら、其れを赦す度量もなくて神を名乗るなぞ滑稽極まるわ!」
「……うん。大人しく聞いてたけどキミと話してても意味がないって分かったよ」
カイトが傾聴する姿勢を一気に崩す。
――もういいよね、もう充分喋ったよね?
片や怒りを露わにした声で。
片や表情だけで何かが伝わったのかアポストロスが動く。
「わかりました。お気持ちは確かに。では此処に、冥界からの復唱を求めましょう、"来たれ、我が同胞よ"」
何度も開かれたのと同じページ、176ページの項を本を開き、朗々と召喚を試みる。彼の声に応え、祝福された者たちが冥界から戻ってくる、その道標に。
「異端の神は此処に訪れました。あなたがたを赦してくださる度量をお持ちだそうですので、ふらりと現れた神の一柱にあなたがたの言葉を伝えてみてはどうですか。地獄からの渡し船は、私がお出ししましょう」
言葉を積み重ねた喚び掛けに、ガレオン船が時間の壁を引き裂いて上空から落ちてくる。浮く事無く、巨大な船が突然崖から置いてきたかのように、玩具のように落ちて来る。ずしり、みしみしと、周囲の建造物を巨大な船はもれなく組み敷いて、大量の地蔵を薙ぎ倒して潰した。
うぉおおお、と雄叫びをあげ、続けてがちゃがちゃと船の上で音がする。火縄銃の武装、銃口を向けて、アポストロスの指示を待つ。
聖なる戦士たちは"声"に縋る。幽霊と成ってしまっても、死が救いであったと今でも信じて止まない教信者の群れだ。
「貴様の言う神を妾は認めぬ。あのように大勢の死者を見せびらかす神の使いなど……論外じゃ。個人的な怒りも込みで全力で叩きのめす故、覚悟致せ?」
問答無用のヨナルデは、ユーベルコードを即発動。
ジャガーにして煙吐く鏡、神の名を持つモノがガレオン船にひとっ飛びで乱入する。背に捧げられた血と骨で形成された翼を携えていたが、それで加速する必要もない。荒ぶるものが、神罰を下しにやってきた。
「みなさん、その方が神です。迷いなき、破壊を齎す怒りの化身。やられる前に思いの丈を存分に"死"で伝えてさしあげてくださいね。死を恐れる必要はありませんとも。あなたがたは生者ではなく、祝福された死者なのですから」
アポストロスの演説に触発されて、火縄銃の一斉掃射が始まった。
狙いはヨナルデただ一人。
ただし――。
「さぁさぁさあ討ってみよ!その手に神を撃てる自信があればじゃが!」
黒曜石の斧をその手に、高速詠唱された魔法を全力で発動した。
ヨナルデは神罰に燃える破魔の炎の波を船上に流した、真っ赤に燃える炎の中に幽霊たちが否応なしに飲み込まれる。
大量の狙撃手たちが乗った船の上に、逃げる場所などありはしないのだ。炎の波をすり抜けて飛んできた弾丸は、炎の陽炎に吸い込まれ、ヨナルデにあたらない。
「あっちは……うん。気軽に手を出すと危なそうだし、相手はオレだよ。いいよね」
アポストロスと燃えるガレオン船を見ていたカイト。
「ええ、あの神は過激なようですから、近づき過ぎては火傷ではすまないでしょう……とはいえ、あなたもあなたで、危険な気配があるようですが」
妖刀を手にするカイトに、神父はそう指摘してきた。
やはり支え、迷い。
何かがあるからその手段をとるのではないか、と。
「ああそうです。いいことを思いつきました。殴れば直る、とは何か、困った時に行う神頼みでもあるそうですから、此処で確かめましょう」
提案は、絶対に侵略蔵書の内部に記載されていないことだ。
だがアポストロスは本気で侵略蔵書を鈍器として扱い、思い切り振りかぶってカイトの頭を狙った。
分厚い分厚い本で本気で殴られたら、流血どころの騒ぎではない。男の握力、腕力その他諸々が重なっても、考えるだけ無駄だ。まず粉砕、または骨折を免れない。
「……正気?それ」
狙った場所が宣言通りであったため、侵略蔵書の侵略を呪詛を込めた刃で受けて、攻撃を受け止める。
重い。攻撃に使われた侵略蔵書が、まるで鋼鉄のように、硬い。
「行動に移すくらいには、試す価値アリと思いました」
「ふうん。人助け、向いてないねキミ。オレはいらない、っていったつもりだったんだけど」
受け止めた本を、刃を振り抜き薙ぎ払う衝撃波で、弾く。
重かろうが硬かろうが、弾けば関係ない。ああ、無謀を攻めた男が仰け反った。
「キミを救ってあげるから。だから、オレから逃げないで?」
たたらを踏ませた男がいうセリフではない。
「これは……」
カイトの左手薬指の指輪から凄まじい速度で伸びて絡め取るアイビーの蔦。
何処からともなく生い茂り絡みつく蔦に、目を奪われるアポストロス。
しんでもはなれない。そんな束縛を敷くカイトから一瞬でも目をそらしたあいだに間を詰めたカイトが、首に刃を突きつける。
薄皮一枚なら安いだろう、つう、と浅く長く苦しむように、ぶつりと最後に深く押し込むように――脅す。
「だって、死は救済なんだもんね。キミがそういったんだよ」
「――――そう、ともいいますね。モノはいいようとも、いいますが」
ぎらりと輝く高速の飛翔。
少し前に焼却と浄化を終えて旋回していたのが、カイトには見えていた。
「残念だったね。誰に死で救済されたいかを選ぶ権利は、キミにもあるのにさ」
普段の笑顔で、カイトは語った。
アポストロスの背面。怒れる神の肉薄は、怪力というなの力技で傷口に叩き込まれるのをみながら。体の内側に打ち込まれる零距離射撃の魔法の爆発を。口から煙があがる、何かを燃やしと溶かされたか?
防具を無視した神の一撃を何人も――防ぐこと、能わず。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
篝・倫太郎
【華禱】
神父サマよ、教えてくれっか?
生きられる時間が天地程違う癖に
傍に居たいと思う気持ちをどうすればいいかを
そう、お悩み相談の体で話を振ってみる
隣で夜彦の気配が少し強張るのが判って、小さく笑う
話を振ってみたけど、正直なトコ
この件についちゃ、一応の結論は出てる
自分達以外がどう考えるか知りたかっただけ
根本が揺るがないあんたの答えなんて、端っから判ってるしな
死は救済――
そう思ってた時期があって今の俺が居る
試練だ罪だと言われても、もう主旨を変えるつもりはねぇよ
燎火使用
神霊には命中率重視の炎属性で先制攻撃を指示
同時に夜彦とタイミングを合わせて
衝撃波と破魔を乗せた焔刀でなぎ払い
敵の攻撃は見切りと残像で回避
月舘・夜彦
【華禱】
私は物であり、肉体を得た人でもある
しかし人と同じ時は生きられない
ある程度受け入れたとしても、愁いが消える訳でもなく
この先も私が抱えていくのでしょう
生を罪とするならば、死を救いとするならば
何故人は生まれ、死ぬのか……貴方には分かるのですか
生きているから愁う、過ちさえ犯す
ですが、死すれば解放されるとは思えないのです
私には全てを放棄したようにしか見えません
だから私は貴方を否定する
倫太郎と連携して行動
駆け出して接近、2回攻撃を基本に使いながら距離を詰めて戦闘
召喚された獣には早業の火華咲鬼剣舞
獣にも本体にも届くようなぎ払いも併せる
敵の攻撃は残像にて回避、困難であれば武器受けで防御
その後カウンター
●Time is finite
砂を踏む二人分の足音。
息を整えるようにしていたアポストロスは、次なる子羊の来訪を受け入れる。
「神父サマよ、じゃあ教えてくれっか?」
篝・倫太郎が見せた姿勢は、アポストロスの親しげな様子に乗っかるもの。
「見解の違い、武器を取る。そちらは結果と発言と決意の証明にしかなりません。お悩みとあれば伺いましょう、ご両人」
顎に手を当てて、男は申し出を受け入れた。
それではどうぞ、と言葉を譲る。
「じゃあ遠慮なく。生きられる時間が天地程違う癖に、傍に居たいと思う気持ちをどうすればいいのかをな」
これは、生きる時間が異なる種族同士となれば発生する悩みである。
長命と定命。書き換える事の出来ない、運命。
――聞きたそうな気配があったんでお悩み相談って体で先に話を振ってみたけど。
アポストロスの表情は、返す言葉を考えているような雰囲気だ。
拝聴の姿勢は大したもの。聖職者な格好は伊達ではない。
最期まで一連を聞いて、語るつもりなのだろう。
――意外と真面目に、迷える子羊の問いかけに対する解を考えてるってとこか。
――でもまあこの件についちゃ、一応の結論は出てる。
自分たち以外がどう考えるものなのか。
倫太郎はそれが知りたかった。だが、アポストロスに信頼など置いていない。
――根本が揺るがないあんたの答えなんて、端っから判ってるしな。
話題に対して、隣の月舘・夜彦が少し強ばる気配がある。
倫太郎の問いは、名前も種族も性別ですら口に出していないが、何を指しているかなどバレバレなことだ。
――……ふふ。
思わず小さく笑ってしまう。
その調子で、俺にさあさあ続け――。
「お答えはまだお待ちを。貴方の答えを聞く前にもう少し詳しく情報を足しましょう――私は物であり、肉体を得た人でもある」
夜彦の語り口。
それは敵対する者へと語るような口調ではなかったが、倫太郎がぼかした部分を明らかにするように自分を語る。
「しかし、人と同じ時は生きられない。ある程度受け入れたとしても、愁いが消える訳でもなく、この先も私が抱えていくのでしょう」
永い時を生きるヤドリガミ、それが夜彦だ。
胸に手を当てる――無意識に。
「生を罪とするならば、死を救いとするならば。何故人は生まれ、死ぬのか……貴方には分かるのですか」
「ふむ……どちらも迷いの縁にいらっしゃるようですね。では順番に、角のあるあなたの問いかけから解答をはじめていきましょう。"生きる時間が天地ほど違う"。あなたはそれを、少なからず枷だと思っているということでしょうか。"傍に居たい"、という想いで打ち消せないほどの問題でしょうか」
時間は有限だ、だから、――最期の別れを気にする。
アポストロスはそう前置いて、身振り手振りをふわふわ重ねて、考えを口にした。
「共にいることで大切に出来る事は多いはずです。どうすれば、という点だけをお答えするのであれば、そうですね。尊い気持ちを優先し、行動し続けることがよいでしょう。それにより、あなたが救われると申されるのであれば正しい行いであるはずです。試練の多い、茨の道だとしても」
「ふうん。参考には、留めておくぜ」
倫太郎の返答に頷いて、続ける。
「罪を享受し続けることを良しとするのであれば……、あなたの罪はあなたの殆どに染み付いていることでしょう。罪深いあなたに救済(死)は必要だと、思いますね。必要とあればいつでもご相談を」
町人相手なら、救済にすがり始める頃合いだったが……倫太郎の眼に、救済を欲しがる色は見えなかったから。
真っ直ぐを敵対者を見る目だった。
「死は救済――そう思ってた時期があって今の俺が居る。試練だ罪だと言われても、もう主旨を変えるつもりはねぇよ」
「そうですか。あなたにはもう取り返しのつかない希望がおありなのですね?それは残念ながら、よいことです。……さて、そちらの侍なあなたへの解答もお返ししましょう。"何故人は生まれ、死ぬのか"…………それは、生と死に関わる重要な話となりますね」
質問を投げかけながら侵略蔵書のページを捲り、在る一点で留められた。
本の中、文字からずずずずっと鳥獣戯画のように身体を起こして顕れる野心の獣。それも二体の召喚だ。獣は人を背に乗せそうなほど大きいようだが、影の塊のように生物として姿は見て取れない。
獅子か狼か、翼のない竜か不明な獣には牙があり、爪がある。
獰猛な獣であえることはまず間違いないだろう。
ぐるるる、と喉を鳴らす音が、倫太郎に向かって身を捩って飛び跳ねる。
「生きることは"原罪"、生き続けることでそれは色濃く存在を染めていくものです。生きる時点で、誰しもが罪を持つのです。誰一人、何も持たないものなどいない……ああ、意志の持たないものに罪はないと私は考えます。"生きる"か"創られた"の違いではありません。考え、行動することが特に"罪"を多く生み出すのです…………身に受け続け溜め込んだ罪は、神の庭に戻る時、赦される為に代償を払わなければなりません。神がその罪全てを許した時、祝福として罪から開放されるのですから」
「生きているから愁う、過ちさえ犯す。ですが、死すれば開放されるとは思えない」
夜彦が見てきた、永い月日。過ぎ去っていった時間。
それらに全てが罪があった?そんなはずはないだろう。
普通に時間を過ごして天寿を全うしたものだって、あったはずだ。
罪だと決めつけるのは、何か。猟書家の宗教観だろう。
すべての生きるものに、信仰していないものに、当てはまるはずがない。
「私には祝福(死)という言葉と行動、全てを放棄したようにしか見えません」
災禍を祓い、往くべき先を照らすは倫太郎の召喚した神霊。
獣の前に素早く陣取って、炎で囲い、鋭い爪と牙の矛先を猟兵たちから反らして、燃やしその場に推し留める。
「だから私は、貴方を否定する」
罪だから、で片付けていい事ばかりではない。
命を絶って全てをなかったコトにするのではなく――罪ならば、自分の手と覚悟で罪と向き合うべき。
「倫太郎、同時です。いいですね?」
「ああ。夜彦のタイミングに合わせる!」
野心の獣を躱し、駆け出してアポストロスに接近すると、獣の吼える声が聞こえる。距離を詰めて駆けると、二体目の獣が強靭な爪で殴りかかってくのだが――。
「舞いて咲くは、炎の華」
夜彦の流れるような演舞で獣の顎を身体を、火の粉の乱舞が飲み込んでいく。
合わせて、倫太郎が衝撃波と破魔を乗せた焔刀で振り抜き、広範囲に炎を押し広げて獣もアポストロスも巻き込んで燃やす。
炎の領域を拡大し、舞い踊るは炎の乱舞。
花びらのように舞う火種は、燃やすべきものを炎に包み込んで、離さない。
「"否定する"が、私の返答に対する答えなのですね。成程……なるほど…………」
肺が激しく焼かれたようで呼吸のしづらさを主張するように炎に巻かれながらむせこむものの、猟兵の返答と行動に満足したのか、炎の勢いに根負けしたのか。
野心の獣が炎の中に――すぅうとかき消えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
死ねば、苦しむことはなくなる。悲しいことも、痛いこともなくなる。
それを『救済』だなんて、ただの欺瞞でしょう。
死は、ただの終わりですよ。
それを『救済』と呼ぶのなら。
――わたくしは、罪を犯すものでいい。
だからあなたに懺悔する罪などありません。
どうぞ、速やかに骸の海へとお帰り願います。
問答は隙を窺うための時間稼ぎ。
一瞬でも隙を見つけたら神器を背で爆裂させて加速。
受け止めるだろう侵略蔵書ごと叩き斬ります。
書が予想外に硬く、一息に斬れなくともそれはそれ。
競り合いに持ち込み、膠着状態になれば…
ほら、破戒僧様が殴る隙が出来るでしょう?
あなたの救いは拒絶されてるのです。
信ずる者なき宗教は、ここでお仕舞いです。
●Get over
「さて、今どのようなお気持ちでしょう」
「……どのような、とは?」
穂結・神楽耶が、猟書家へと問いかける。
アポストロスの背中には、おびただしい怪我。
内側の臓器はズタズタ。生存している臓器があといくつるものか。
顔に、身体にうっすら見えるのは直射日光を浴び続けてるかのような大量の汗。
サムライエンパイア、本日のこの町の天候は、――曇天だ。
太陽光で発生する汗などありえない。
そして、脂汗をかきながらも誤魔化すように微笑む神父の胡散臭さ。
「死ねば、苦しむことはなくなる。今その背は、身体はどこをとっても痛いのではないですか?」
感性が死んでいないのなら、同時にアポストロスは苦しいはずだ。
身を抉られる痛み、身を斬られる痛み。
加えられた痛みは、まだまだ見えない腹の中にあるだろう。
「あなたのその表情、それは"救済"だと言えるのでしょうか。この町の住人は、怪我などはなかったでしょうが……どうも、悲しんでいたように見えました」
死ねば悲しいことも、苦しいこともなくなる?
否、断じて否だ。
「ただの欺瞞でしょう。死は、ただの終わりですよ」
「救済に耳を傾けないから、ただ終わってしまうのですよ。想うことや考えること。それ自体を悪であると断じることは出来ません。神の与えた試練に挑むか、逃げるか、罪の中に沈むのか……罪に赦されて蘇生の道をたどるか、どれを選ぶのかは人それぞれが、怯えながらも考えることです」
「それを、"救済"と呼ぶのなら――わたくしは、罪を犯すものでいい」
はっきりと、神楽耶は言い斬る。
これは、聞くものと尋ねるものの立場から決裂した証。
話して聞かせると広げたアポストロスの佇む領域に、大きな綻びが生まれる。
「だからあなたに懺悔する罪などありません」
「生きている事を受けてめて、後悔しないと。いいですね、強い意志を示せる者は私の言葉を聞いても否と応えるものでしょう。あなたは、おそらく決して"迷える子羊"ではないのです
「どうぞ、速やかに骸の海へとお帰り願います」
少しだけ会話にのっていた神楽耶。
楽しげに過ごそうとしたわけではない。
男がため息を吐きながら、侵略蔵書を叩いている。
神楽耶が言葉で堕とすには強敵だと、アポストロスは考えたのかもしれない。
――今、此処ですね!
此処が天命分ける、隙の間。
背の神器を激しく瞬間的に爆発させて、足に速度を与える。
爆煙に寄る加速した移動に合わせ、結びは結びに連ねて構える、冴え渡る太刀筋は――素早さの上に成り立つ。
キィイイイン!
おおよそ本とは思えない音が耳を突く。
アポストロスが持っていて、神楽耶の刀を防いだものは侵略蔵書の表紙。
「速やかにとの言葉の通り、本当にお早いですね。素晴らしい、大変素晴らしい。これまでの試練に連なる生き方は、その力を身につけるに至ったのですね。では僭越ながら、私も同じことをお返し致しましょう。どうぞ、削ぎ落とされませんよう」
侵略蔵書の表紙に光が集まって作り出されるのは名も無き太刀の柄。
突き刺さるように表紙に生成されたものを、アポストロスは平然と引き抜く。コレは本物の刃にあらず、ユーベルコードとして侵略の文書から生み出された物体だ。
「使いこなせますか?攻撃に転じては、防衛に孔が生まれてしまいますよ」
――書を一息には、斬れませんでしたが……それはそれ。
――予想外な硬さがありました。でも……。
太刀を振るわない者が、太刀そのものたる神楽耶を上回れる道理はない。
撫でるように斬り結ぶ神楽耶の太刀を、アポストロスは真っ向から受けて、挑む。
止めて留まって、込める力でだけで押し返そうという魂胆だろう。
「競り合いの経験は如何です?いえ、言わなくても伝わります、その腕前は……」
――膠着状態になれば……、わたくしへの集中が必要になります。
――ほら、別の場所に隙が出来てしまいました。
気合を足に、腕に。
飛び込んでくる、大連珠を持つ大男の姿は完全に死角となった。
「わたくしは此処へ一人で訪れたわけではありません」
「……?」
大きく振りかぶられた大連珠を握りんだ怪力が、男の頭を捉えて揺さぶる。
ぐらりと物理的に動く男の視線。
「あなたの救いは、町民全てが信じたわけではありません。こうして拒絶する者すらいるのです」
完全な不意打ちを食らい、男は吹っ飛び地を舐める。
手にしていた太刀の模造品もかき消えた。
「信ずる者なき宗教はここでお仕舞いです。さあ、どういたしますか?」
信仰されない宗教など、戯言も同然。
こうして行動に示されては、――アポストロスも舌打ちを隠せない。
大成功
🔵🔵🔵
鬼桐・相馬
【POW】
破戒僧には猟書家と戦って貰う
俺は獣の相手と破戒僧の攻撃を援護する死角からの厭らしい攻撃を
破戒僧とは力を求め信仰を捨てた者
違う道を進む相手に目にもの見せてやれと[鼓舞]
どうせ「死は救済である」答え以外納得しないのだろう
記憶はなくとも獄卒の身
死は救いだけではない
敵の攻撃は[冥府の槍]を手に動きを[見切り、武器受け]するが破戒僧へのフォローを優先
それで負傷しても構わない
猟書家が見せた一瞬の隙を狙い[ダッシュ]で接近
槍と負傷部位から滲む炎を使いUC発動
破戒僧の大連珠と腕を[結界術]の障壁で覆い、炎を更に敵内部へ押し込んで貰おうか
折角「死は救済」に則っているのに、抵抗される
これが今の悩みかな
備前・編笠丸鬼矗
貴様かッ!? 貴様がこの者達を拐かした異国の魍魎かッ!
【行動】
エンパイアに害なす者は殺すッッッ!!
まずは奴に近づかなくてはならんッ!その為には僧殿にお頼みしたい義がある。
備前地国を貴殿に託す!
某が奴の背後を押さえたと同時に某ごと奴の腹めがけて突き刺せいッ!
決して抜けぬようどこまでも刀身を伸ばされよ。
まずは韋駄天が如く突っ走り!!【残像】攻撃を避けながら背後まで道を開く。攻撃をうけても天命回生で瞬間超回復を行うッ!決して怯まん!
もし行動が成功したら刺した妖刀で拙者諸共横一文字に切腹し、誉の炎を音声認証で点火して武士の誉れある死を教えるのだッ!!
『武士とはァァァッ!!死ぬ事と見つけたりィィッ!!』
●審判の瞬間
「ああ、ああ貴様かッ!?貴様がこの者達を拐かした異国の魍魎かッ!」
備前・編笠丸鬼矗の大きな大きな声。
エンパイアに害為す者は何処ぞ、探し歩いてたどり着いた屈強なる鎌倉武士が此処に。侵略する魑魅魍魎の類、妖怪が如き妖艶の微笑み。
どれもこれもが鬼矗がおぶりびおんであると、察する点を否定できない。
「害為す者は、殺すッッ!!」
「作戦が、なにかあるのか?」
「まずは奴に近づかなければならんッ!その為には僧殿にお頼みしたい義がある」
「ほう、わしに出来ることならば助力しよう」
ぐい。渡されたものは、鬼矗が刃。
敵の全長よりも自在に巨大化する妖刀、号を備前地国、刀工地国が作の一振り。
鬼矗が振るう、武士の魂だ。
「では備前地国を貴殿に託す!」
「……そ、それでは丸腰に」
受け取らざるおえなかった妖刀を突き返そうとするものの。
鬼矗は、首を振るばかり。
「某が奴の背後を押さえたと同時に、決して折れず曲がらず溶けぬそれを持ち、奴の腹めがけて突き刺せいッ!」
作戦に難しいことは一切ない。
がしゃがしゃという音を立てて、腹を叩いてみせてくる。
異形の武者は、――捨て身で捕らえるというのだ。
「決して抜けぬようどこまでも刀身を伸ばされよ。貴殿はそれを間近で見ていたであろうッ!」
破壊僧は強さは確かにあるだろう、だが、それでも猟兵より強いことはない。
強きものが強きものを持ち闘う事が正しいと、考えて返却しようしたが、その行動を否定するように、ぽんと肩を叩かれる。
「心配はいらない。合間を見て、援護する」
叩いてきたのは鬼桐・相馬。彼の手には、冥府の槍。
先に駆けるは鎧武者、続くは拳と刃を預けられた破戒僧。
相馬は作戦に同意を示した。
簡単とは言えないかも知れないが――希望に準ずるものだ。
「破戒僧とは力を求め信仰を捨てた者、違う道を進む相手に目にもの見せてやれ」
鼓舞の言葉を、今度は男の背中を強く叩くことで強調する。
大きな山のようにデカイ男だなら、胸を張って立ち向かえ。
「では行け。武運を祈っている」
「然り、然り。いざ参らんッ!」
声を受け、韋駄天が如く突っ走っていく武者に止まるという文字は無し。
我に続け後に出来た道を辿れ。
背後を取る、必ずや。
駆け出した男の背中は語りに語っていた。
「どうせ、"死は救済である”答え以外納得しないのだろう」
「それは少々の誤解があります。必要であるならば、もう少し親身に話を聞くこともあります。しかし、あなたも、あちらの方も、どうやら話すようなタイプではないようですね……仕方がない」
侵略蔵書を、ぱらぱらめくる。
「295ページを。"悔悟せよ、汝罪深き者"――私は話を聞きましょう、あなたは何をお悩みですか?」
質問と共に、吹き上がるのはページ内に描かれた文字。
つらつらとページから離れて、肉を持ち、実態を持ち、唸り声を上げる。
侵略蔵書から侵略する野心の塊、獣が姿を表したのだ。
鳥獣戯画のように動く黒、本物の獣とはにても似つかず、獣としか表現できない。
唸ることから考えて、犬か狼か、トラか獅子か。
何を思ったか、野心の獣は頭を二つ持っていた。
おそらくは、これは男の抱く野心の欠片。
もしくは、神という存在に祝福されて書物に閉じ込められたもの。
男は、――見た目以上に、内側にどす黒いものを抱えているのかもしれない。
『グァアアアアアアオウ!!!』
悩みを尋ねられ、鬼矗は残像を残してその身を躱す。
躱しきれずに足を取られたが、気迫を込めて蹴るように振り払い――男は止まる事をしない。
勢い余ってごろりと本体は地を転がったが、最後まで道を開き、ただ進む志は男の足をやはりとめない。
託した妖刀がある。後ろを僅かに追う男の気配があるのがわかる。
そして、援護する、そう口にした別の男が――背後に居ると、知っているから。
「止まるな、続け。ただ真っ直ぐ後を追え。振り返らなくていい。気にするな」
「……ああ!」
「記憶はなくとも獄卒の身だ。死と不思議と近いところを歩いている」
破壊僧の返事を聞いて相馬は、獣相手に牙を爪を、自分の槍に惹きつけるように立ち回る。
穿ち、燃やして止まる獣か?それもまた、否だ。
「死は救いだけではない」
「……といいますと?」
別の生き物を見つけて爪を伸ばそうとする獣の腕を、ガッ、と突き刺して地面に縫い留める。
鋭い牙が腰に喰らいついたが、気にするものか。
負傷すら、今あればと思っていたところだ。
「例えば、……ああ」
興味と関心、アポストロスが他の二人から気を逸した。
「町の死の淵から、反撃に手を出す者がそこにいるだろう」
槍と負傷部分から滲む炎を使って、相馬が冥府を魅せつける。
知るがいい、延焼する地獄を。死に最も近い、炎のチカラを。
「その拳に、その武器に。細工を施させて貰った。獣は俺が貰っておく」
相馬の炎が破戒僧の大連珠に絡みつき、そして腕へ登る。
軽く跳躍、先を疾走る韋駄天が、その道を作り出したから。
「隙だらけの背後、此処に取ったなりィ!いざいざいざぁッ!!」
結界術での障壁で覆い、男の拳はの猟兵二人の武装を借りてアポストロスに迫る。
「利き手は両の掌に、腹の中身も全て此処においてゆけえ!」
大連珠を握った拳が、動きを封じられた腹に深く衝撃を与えた。
腹を貫くほどの勢いが掛かったのだ、好機を逃さず相馬の炎が敵の内部になだれ込んでいく。対象の内側に入り込んで黒き楔が複雑に分岐していき、入った箇所を掻こうとも抜けない。
男は焦る。死が迫る。
「……し、しにたくない!!」
「それが、町の者たちが思っていたことだあ!!」
指示通り、破壊僧はどこまでも刀身を伸ばして、男の腹に妖刀をも突き刺す。
「かたじけない、見事見事な働きッ!」
相馬に促され、即座に後退する破戒僧の置いていった、突き刺さったままの妖刀を鬼矗は掴む。
男の腹から、自分の身体へ。ずずずと腸をばっさりと一思いに、横一文字。
―― 切 腹 ――――。
デッドマンの腹が一緒に斬られる。
「武士とはァァァッ!!死ぬ事と見つけたりィィッ!!」
妖刀の呪いにより死ぬ事ができない男は、音声認証で自身の装備以外を巻き込ん爆破して炸裂する。
誉れの炎。死は、此処に救済を果たさん――。
「言いそびれたが、折角"死は救済"に則っているのに、抵抗される。これが、今の悩みかな」
自分のユーベルコードで自身ごと斬る猟兵がいるくらいだ。
「俺の悩みに答えなくて、結構」
指をパチンと鳴らして、任意のタイミングの着火で更に派手に爆発して燃えた。
アポストロスもデッドマンも、獣も。
侵略蔵書も、何も残さず、救済されてなにもかも。
全てが火の中に、消え去った。
曇り空が徐々に晴れていく。
陰鬱とした陰りは、ようやく――正しく救済の道に至れたのだ。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2020年11月10日
宿敵
『ブラザー・アポストロス』
を撃破!
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