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ぐるりと回って猫の目だらけ

#サクラミラージュ #猫

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#サクラミラージュ
#猫


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 立派な幻朧桜を構えるそのお屋敷は、猫屋敷と呼ばれていた。
 その名の通り、飼い猫も野良猫も、なぜかそのお屋敷によく集まってくるのだ。
 人通りが少なかったからかもしれない。日当たりがよかったからかもしれない。
 理由は分からないけれど、そのお屋敷では猫たちがいつだってにゃあにゃあと戯れている。

 そんな知るひとぞ知る猫屋敷に、不思議な噂が流れ始めた。
 ――屋敷の猫と仲良くなれると、会いたいひとに会えるらしいよ。
 それはしょせんただの噂。
 けれど、噂に縋りついてでも会いたい誰かがいるひとたちもいる。
 そんな彼ら、彼女らは、噂を頼りに猫屋敷を訪れて――……、――そのまま帰ってこなかった。


「猫に気に入られると、会いたいひとに会えるって噂よ。夢みたいな話よね」
 もうこの世にいないひとにだって会えるっていうんだから、とメール・ラメール(砂糖と香辛料・f05874)がくすくす笑う。
「でもま、そんな話はだいたい影朧の仕業って決まってるのよねー」
 実際、猫屋敷へ向かったであろうひとが、そのまま帰ってこないことがあるらしい。
 残された家族や友人が官憲に猫屋敷の捜索を願っても、屋敷からは何も見つからない。
 猫屋敷の主人である老婆は捜索にも協力的らしいが、――……まともに見せかけて既におかしくなっていた、なんてのはよくある話だ。
「相手によって姿形を変えるからかしら。なんというか、騒ぎを起こしている影朧の姿がよく"みえ"なくて」
 だから、猫屋敷へ行ってその目で確かめてほしいの、とメールは告げた。
「猫と戯れながら会いたいひとのことを想っていれば、たぶん影朧のほうから近付いてくると思うわ」
 説明はおしまい、と。くるり指先を回せば、グリモアが光る。そのまま、猟兵たちへ手を振って。
 ――ほんとうのことは、忘れないないように気を付けて。ちゃあんと帰ってきてね。


あまのいろは
 あまのいろはです。遅すぎる初夢のようなお話。
 サクラミラージュにある屋敷にて、影朧退治をお願いします。
 屋敷の主は、人のよさそうな老婆。住人は老婆と住み着いた猫がたくさん。
 『会いたいひとに会える』という噂が流れており、好奇心から訪れるひとも多いようです。

●シナリオについて
 第1章 日常:『帝都猫物語』
 危険はありませんので、猫と戯れたり、誰かのことを想ったり、影朧の痕跡を探したり、ご自由にお過ごしください。
 会いたい誰かのことを強く想っていると影朧から近づいてくるかもしれませんが、猫と戯れているだけでも問題ありません。

 第2章 冒険:『???』
 ちょっと変わった屋敷内の探索になります。
 もしかしたら今まで消えたひとも見つけることが出来るかもしれません。

 第3章 ボス:『???』
 見つけた影朧との戦いです。貴方が誰かを想っていたならば、その姿で現れます。


 プレイングの受付については、マスターページをご確認いただけると助かります。
 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 日常 『帝都猫物語』

POW   :    猫を抱きしめる

SPD   :    猫を追いかける

WIZ   :    猫を撫でる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 黒猫白猫、まだらの子。垂れたお耳に鍵尻尾。
 甘えん坊に食いしん坊、ちょっぴりどんくさい子まで。
 飼い猫も野良猫も、このお屋敷に集まってくる。

 思い思いに過ごす猫たち。けれど、あなたに気付くとぱっと顔を上げた。
 まあるい猫の目があなたを見ている。ただただじぃと、あなたを見ている。
 にゃあ。あなたに擦り寄りながら。にゃあ。あなたを見上げて鳴いて。
 ――――ちりん。どこかで鈴が鳴った。
茜崎・トヲル
にゃんこだー!
っとっと、声ちっさくしねーと。うるさいとね、逃げられちゃうから。ね。
わーもふだ。ふかふかだ。やらけーねえ。生きてるねえ。
会いたいひと。ともだちとか? あ、たぶんちがうね、これね。
めっちゃ見てくるじゃんね。目をあわせるのってよくないんだっけ?
なんかケンカうってんな?お?って思われちまうって聞いた。どっかで。
(目をそらしてみる)(しかしまわりこまれた!)(そっと両手を上げた)(てきいはないよー)
会いたいひとかー。きっと大切なひとのことだよね。ふふ、ははふふ。おれ、そーゆーひといねーや。
いやいたんだよ? たーくさんいたよ。いいひといっぱい。でも昔すぎてさー。顔も思い出せないし。ね。




 あっちでごろごろ。こっちでもごろごろ。
「にゃんこだー!」
 ごとごと戯れる猫たちを見た茜崎・トヲル(白雉・f18631)は、子供のような笑顔をみせる。
「っとっと、声ちっさくしねーと。うるさいとね、逃げられちゃうから。ね」
 猫は騒がしいのは苦手だから。むぐ、と口を噤んでしゃがめば、猫はすぐにすりりと擦り寄ってきた。
 そろりと手を伸ばして、その背に触れる。指先がもふりと沈み込んであたたかい。そのまま背中を何度か撫でれば、猫がごろろと喉を鳴らした。
「わーもふだ。ふかふかだ。やらけーねえ。生きてるねえ」
 指先からじんわり伝わる熱も、撫でる手に合わせて揺れる尻尾も、それらすべてが生きている証だ。
「噂のこと、なんか知ってる? 会いたいひとに会えるっていうの。 ……会いたいひと。ともだちとか? あ、たぶんちがうね、これね」
 撫でられて喉を鳴らしながら、猫がトヲルを見上げる。まあるい瞳が、トヲルを見ている。その瞳にはトヲルが映るばかり。
「それにしても、めっちゃ見てくるじゃんね。目をあわせるのってよくないんだっけ?」
 目をしっかり合わせるのは、威嚇してることになるからだとか。そんな話を聞いた気がするけれど、どこで聞いたんだったっけ。
 トヲルをじぃと見つめる猫の目は、ケンカうってんな? お? なんて、思っているような目ではなかったけれど。
 実はそう見えないだけでそう思われていたら困るので、トヲルはぱっと目を逸らした。
『んにゃ』
 けれど、猫はトヲルが顔を向けたほうにするっと回り込む。もう一度反対へ逸らしてみる。やっぱり回り込まれた。
「えー、なに? 随分熱烈だなー?」
 敵意はないよ! と両手を上げたトヲルだが、猫が膝をてしんてしんと叩いてくるから、トヲルは手を下してその喉元をくすぐってやった。
「……会いたいひとかー。きっと大切なひとのことだよね」
 猫はトヲルの膝に飛び乗ると、くるりと体を丸めた。動けなくなってしまったからと、また猫を撫でていたトヲルだったけれど。
 ――――ふふ、ははふふ。はははふふ。
「おれ、そーゆーひといねーや」
 笑いごえが溢れ出す。トヲルは背を丸めて笑いながら思い出す。――思い出す。思い出す。大切なひと、大切な誰か。けれど。
「いやいたんだよ? たーくさんいたよ。いいひといっぱい」
 覚えている。大切な誰かがいたことは覚えている。けれど、それだけ。
「でも昔すぎてさー。顔も思い出せないし。ね」
 何を話した? 何を貰った? どんな表情をしていたっけ? ――思い出そうとしても、なあんにも、なにひとつ浮かんでこない。
 こんなおれの前に、どんな姿をして現れるのかな。ぽつりと呟いたその言葉は、膝に乗った猫だけが聞いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニャコ・ネネコ
アドリブ連携歓迎/SPD

にゃあの会いたい人…
おばあちゃまに会えるなら会いたいにゃ
でも、さびしがらないってきめたにゃ
にゃあはかしこくてつよいねこだから
おばあちゃまに心配はかけないにゃ!

にゃあ、にゃんこがいっぱいいるにゃ!
いごこちのよさそうなお屋敷だからかにゃ?
そこのにゃんこ、いっしょにあそぼにゃ!
(追いかけっこをしたり毛づくろいをしてあげたりしつつ)

…にゃ、おまえ、ここの屋敷の噂って知ってるにゃ?
なんでも、会いたいひとに会えるってきいたにゃ。
もし知ってたら、くわしく教えてほしいにゃ。


ヤニ・デミトリ
あああ生物がこんなに沢山…いいっスねえ
遊び好きの奴ァいるかな
調査もそこそこに
屑鉄の尻尾や掌から形成した猫じゃらしで遊びに誘うっス

会いたい人かァ
君らはそれを求めて来る人を沢山見ました?
猫の眼はヒトに見えないものを映すなんてハナシも聞きますけど
何が見えてるのか聞いてみたいなァ、なァんてね

そういや、あれは猫の相手が苦手だったっけな
好きなのに懐いてくれないからなんて言ってた覚えがある
だから俺が猫の容を覚えた時は触ろうとしてしつこかった
猟兵になった時から連絡も取らなくなったっスけど
今頃どこをほっつき歩いてんスかね

ねえ、他人の姿を騙るモノなんてホントは禄でもないと思うんスよ
だけどお仕事のついでっスから、ね




「あああ生物がこんなに沢山……いいっスねえ」
 目の前に人慣れしてる猫がいるのなら、遊びたいと猫の目が訴えているのなら、――その誘いを断るなんてのは野暮である。
 影朧の調査もそこそこに、遊び好きの奴ァいるかな、と、ヤニ・デミトリ(笑う泥・f13124)は屑鉄の尻尾から自作した猫じゃらしを片手に猫たちを見て回る。
 こちらを見ている猫に向かってその猫じゃらしを振ってやれば、猫はすんなりとヤニのもとへ駆け寄ってきた。 
「…………思ったより大盛況っスね」
 ヤニの作った猫じゃらしは大好評のようで、ふと気付けば彼は猫に囲まれていた。
「しょうがない……。まじまじと見ちゃイヤっスよ」
 とてもひとつじゃ足りそうにないので、掌からもうひとつ猫じゃらしを作ると、両手に猫じゃらしを持ってあっちへふりふり、こっちへふりふり。
 ヤニの手の動きに合わせて、猫たちが行ったり来たり、飛び跳ねたり。たまにごっつん衝突するのもご愛敬。
 猫たちの様子を見てけらけら笑っていたヤニだが、猫じゃらしを揺らす手をふと止めて。
「会いたい人かァ。……君らはそれを求めて来る人を沢山見ました?」
 分かっているのかいないのか、彼の言葉に猫が首を傾げる。ぱちり。黒い子猫と目が合った。
「猫の眼はヒトに見えないものを映すなんてハナシも聞きますけど。何が見えてるのか聞いてみたいなァ」
 なァんてね、そう言ってヤニが笑えば、黒い子猫はあおい瞳をぱちくり丸くして。
「んにゃ? にゃあに聞いてるのかにゃ?」
「うわっと!?」
 思わずその場を飛びのきそうになりながら、ヤニは黒い子猫をじっと見る。
 影朧の力影響で猫が喋ることだってあるかもしれない、なんて思ったけれど、子猫の正体はニャコ・ネネコ(影色のストレガ・f31510)。
 ニャコは、見ての通り猫の賢い動物である。そんな彼女が猫たちのなかに交じっているのだから、ただの猫と間違えるのも仕方がない話で。
「ごめんにゃの、びっくりさせちゃったかにゃ?」
「いや、大丈夫っスよ」
 謝るニャコの瞳がちょっとしょんぼりしているように見えたから、ヤニは慌てて頭を振るのだった。

 ぽかぽか陽だまりのなか、猫じゃらしが揺れる。ニャコの尻尾もゆらゆら揺れる。思わず飛びつきそうになって、ニャコは慌てて毛繕いをした。
「ねえ、お兄さんも会いたいひとがいるにゃ?」
「俺は――……」
 考えるまでもなく、ぱっと顔が浮かんだ。――そういや、あれは猫の相手が苦手だったっけな。
「そんな感じっスかね」
 彼のそんな曖昧な言葉に表情に、込められたものが何なのか、まだ幼いニャコは読み取れない。
 ――好きなのに懐いてくれないからなんて言ってた覚えがある。だから俺が猫の容を覚えた時は触ろうとしてしつこかった。猟兵になった時から連絡も取らなくなったっスけど――……。
「今頃どこをほっつき歩いてんスかね」
 そんな言葉とともに、くるり。猫じゃらしが空中で円を描いた。
「あんたは?」
「にゃあの? にゃあの会いたい人……。……おばあちゃまに会えるなら会いたいにゃ」
 出会った日のことは、思い出すまでもなく、忘れたことなどなかった。
 拾い上げてくれたあの手のぬくもりさえも。なにひとつ、ぜんぶ。――そして、彼女と別れたあの日のことも。
「でも、さびしがらないってきめたにゃ。にゃあはかしこくてつよいねこだから」
 思わず垂れそうになった耳と尻尾をぴぴぴんと伸ばして。ニャコが心なしか胸を張れば、彼女の首輪についている雫型の石がきらりと光った。
「おばあちゃまに心配はかけないにゃ!」
「はは、強いんスねえ」
 ヤニは笑いながらニャコの頭を撫でようと手を伸ばすが、猟兵だということを思い出して伸ばしていた手をそっと引っ込めた。
「じゃあ、にゃあはもうすこし調べてくるのにゃ!」
 ニャコはぱちくり瞬いてから。言うが早いか立ち上がると、ぴょんっと猫の輪のなかに入っていった。
 その姿を見ながらヤニは呟く。――ねえ、他人の姿を騙るモノなんてホントは禄でもないと思うんスよ。
「だけどお仕事のついでっスから、ね」
 ざざあと風が吹く。彼の手に握られた猫じゃらしだけが、ゆらゆら揺れていた。

「にゃあ、それにしてもにゃんこがいっぱいいるにゃ! いごこちのよさそうなお屋敷だからかにゃ?」
 きょろきょろきょろ。ニャコは遊んでくれそうな猫を見つけると、鼻を近づけ猫同士のご挨拶。挨拶が終わったら、あちらの猫と追いかけっこ。こちらの猫と毛繕い。
「そこのにゃんこも、いっしょにあそぼにゃ!」
 ちいさく愛らしいいニャコは、すっかり猫たちの人気者。猫だけしか知らない話も、ニャコには教えてくれたりもするわけで。
『にゃおん、にゃあー』
「……にゃ、おまえ、ここの屋敷の噂って知ってるにゃ? なんでも、会いたいひとに会えるってきいたにゃ」
『んにゃあ。にゃむにゃむにゃむにゃむ……』
「……にゃあ。その話、もっとくわしく教えてほしいにゃ」
 ひとから見たら、それはにゃあにゃあ賑やかで可愛らしい猫集会。
 けれど、その話にはとっても重要な秘密も含まれている、かもしれない。――――真相を知るのは、猫ばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神宮時・蒼
…ねこさん、たくさん…。…ねこさん、いっぱい…。
…ここが、天国、ですか…

【WIZ】
…本当に、たくさんの、ねこさんが、いらっしゃる、のですね…
…此の、仮初の、写し身の、君。…あの方も、ねこさん、好き、でした、ね。…其れを、見つめる、創造主、様も…
…もう、逢う事は、叶い、ませんが…
…まあ、逢えたと、しても、ボクは、飾り物の、まま、なので、お話、することは、叶い、ませんが…
…あら、ねこさん、撫でても、いい、のですか
…でしたら、遠慮、なく…。ねこさんを、撫でる、てくにっく、なら、誰にも、負けません、ので…。

ふわふわ、もふもふ。…やっぱり、ねこさんは、いいもの、です…。
ねこさんとの戯れの一時を過ごします




 神宮時・蒼(終極の花雨・f03681)の視界に広がる、いっぱいのもふもふ。
「……ねこさん、たくさん……。……ねこさん、いっぱい……。……ここが、天国、ですか……」
 触ってもいいし、遊んでもいい。それに人懐こいだなんて。
 表情は変えず、けれどきょろりと動く蒼の瞳は、心なしか楽しそうだった。
「……本当に、たくさんの、ねこさんが、いらっしゃる、のですね……」
 黒猫白猫ブチ猫サビ猫。色違いの瞳の子。お耳がぺたんと垂れた子。長い毛がエレガントな子も見つけた。
 どんな猫たちがいるのかじっと見ていた蒼だが、暫くするとその場にすとんと腰を下ろした。
「……此の、仮初の、写し身の、君。……あの方も、ねこさん、好き、でした、ね。…………其れを、見つめる、創造主、様も……」
 その想い出を確かめるように。蒼は胸元で光る氷晶石と琥珀のブローチに、するりと指を滑らせる。
 ――ふたりもこの屋敷へ来ることが出来たなら。きっと喜んだろうけれど。
(……もう、逢う事は、叶い、ませんが……)
 喜ぶ姿を思い浮かべることは出来るのに。それは決して叶わない。なんだか胸のあたりが、きゅうと締まる気がした。――それに。
「……まあ、逢えたと、しても、ボクは、飾り物の、まま、なので、お話、することは、叶い、ませんが……」
 たとえ、ふたりに逢えたとしても、他の問題もあるのだから。
 叶うはずのない願いは、そっとそっと胸の奥へと仕舞い込む。ふう、と息を吐けば、近くに居たハチワレ猫の耳がぴんと立った。
「…………あら?」
 ハチワレ猫は蒼のもとへと駆け寄ると、彼女の前でごろんと寝転がった。お腹を見せながら、くねくね揺れている。
「こ、これは……。……ねこさん、撫でても、いい、のですか」
 躊躇いがちな蒼を誘うようにハチワレ猫はくねくね揺れていたが、ぱちり。蒼と猫の視線がぶつかる。蒼はこくんと頷いて。
「……でしたら、遠慮、なく……。ねこさんを、撫でる、てくにっく、なら、誰にも、負けません、ので……」
 手を伸ばすと、そのお腹に優しく触れた。ハチワレ猫が嬉しそうにみゃあと鳴く。
 猫のお腹は、ふわふわ、もふもふ、やわらかい。顔を埋めたくなる衝動に襲われるけれど、流石にそれは我慢と心を強く持つ。
 撫でられて気持ちよさそうにハチワレ猫が鳴いたからか、ふと気付けば蒼の周りには猫たちが大集合。にゃあにゃあ鳴いて、こちらも撫でて撫でてと蒼を催促する。
「……ええ、と……。それじゃあ、順番、ですよ……」
 順番に披露される、蒼の猫撫でてくにっく。撫でられた猫たちは、幸せそうににゃあと鳴いて尻尾を揺らす。
「ふわふわ、もふもふ。……やっぱり、ねこさんは、いいもの、です……」
 ――ああ、やっぱり。ここはふわふわもふもふな天国に違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【対の華】

会いたい人に会える、ねぇ…
火の無いところに煙は立たないって言うし
亡くなった家族とか、恋人とか
本当に会えるかもしれないって考えたら、縋りたい気持ちもわかるんだけど

そっとしゃがんで擦り寄ってきた猫を優しく撫でながら
思い浮かべるのは故郷の家族
と言っても物心の付かないような頃に僕が攫われてそれっきり
滅びたと聞いたのは見つけてくれた従姉弟伝て
だから…会いたいとは思っても、顔も声も覚えてないし
写真一枚すら残ってないんだけど
でももし、会えるなら…

思考を持って行かれる前に
聞こえてきた言葉に耳を傾けて
…うん、きっとお父さんも喜んでるよ
報告、出来ると良いね

はぁ~、猫ちゃんあったかい~(囲まれて幸せモード


百鬼・智夢
【対の華】

ぬいぐるみを片腕で抱きしめながら
澪君の真似をするようにしゃがんで
集まってくる猫ちゃん達をそっと撫で

私…霊は見えるのに、一度も会えないんです
死んだお父さん…
成仏できたなら、って…自分にも言い聞かせたけど
ほんとはずっと、寂しくて

でも…最近、なんだか…違うんです
父の事を思い出す時間が減った気がするの
お父さん以外の思い出が、少しずつ増えて…

父は…今の私を見て、どう思うでしょうか
友達が出来たよって、伝えられたら…喜んでくれるかな…

澪君の言葉にふわりと微笑み
ねぇ、猫ちゃん
貴方達も…応援、してくれますか?

澪君は、本当に動物によく好かれますね?
きっと、澪君が優しい子だからですね…ふふっ…




 ぽかぽかぬくぬく。あたたかいのは陽ざしのおかげ。――だけではなく。
「はぁ~、猫ちゃんあったかい~」
「澪君は、本当に動物によく好かれますね?」
 猫に囲まれた栗花落・澪(泡沫の花・f03165)と、百鬼・智夢(慈愛の巫女・f20354)は、ふたり揃ってほんわか幸せモード。
「きっと、澪君が優しい子だからですね……ふふっ……」
「ありがとう。そうだったら嬉しいなあ」
 寄り添う猫たちを慣れた手付きで撫でる澪の真似をして、智夢もテディベア片手に集まってきた猫たちを撫でる。

「会いたい人に会える、ねぇ……」
 猫たちと戯れながら、思い出したように澪がぽつりと呟く。
 火のないところに煙は立たないというし、会えないひとにまた会えるかもしれないと聞けば、それに縋りたいひとも居るだろう。――それが例え、幻のようなものだったとしても。
 そこまでして会いたいひとは、誰だろう。亡くなった家族だとか、恋人だとか。きっと、いろんなひとがいるだろう。
 自分は、どうだろうか。優しい手付きで猫たちを撫でながら、澪が想うのは故郷の家族。
 とは言え、澪は家族の顔も声も思い出せない。だって、物心もつかないような頃に攫われて、本当の家族とはそれっきりなのだから。
 自分を見つけてくれた従姉弟から聞いたのは、故郷が滅びたという現実で。
 ――燃え盛る街の、死んでいたひとたちの、そんな話を聞いてまだ会えるかもしれないだなんて思えるほど、澪は子供ではなかった。
(でももし、会えるなら……)
 どんな姿で現れるのだろう。どんな言葉を掛けてくれるのだろう。やはり、覚えてないひとは現れないだろうか。――それとも、それとも。もしかしたら。

 ゆるゆると思考の底に落ちていこうとした澪だが、智夢の視線を感じてふと顔を上げる。
「…………寂しい、ですよね」
「……え?」
「会いたいひとに、会えないのは……、……きっと、寂しいです」
 テディベアを抱く智夢の腕に、きゅうと僅かに力が籠る。
「私……霊は見えるのに、一度も会えないんです」
 死霊術士でもあり巫女でもある彼女は、『普通』のひとには見えないものもよく見てきた。
 生前の姿のまま成仏できずにいる姿や、おぞましい何かに変わっている姿も見たことがあったけれど。
「死んだお父さん……。お父さんだけ、一度も、会えない……」
 彼女が腕に抱いているこのテディベアも、父がくれたもの。今は亡き父との、大切な想い出のひとつ。
「成仏できたなら、って……自分にも言い聞かせたけど、……ほんとはずっと、寂しくて」
 会いに来てほしかった。一言でもいいから、最後に言葉を交わしたかった。
 父が事故にあわなければ。そんなもしもを考えて、悲しくなることも、泣きたくなることも、いっぱいあったけれど。
「でも……最近、なんだか……違うんです」
「違う?」
「お父さんの事を思い出す時間が減った気がするの……」
 あの時はすべてといっても過言ではなかった父だけれど。彼以外の想い出が、今はすこしずつすこしずつ増えていく。
「お父さんは……今の私を見て、どう思うでしょうか……。友達が出来たよって、伝えられたら……喜んでくれるかな……」
 智夢の表情が僅かに翳る。澪は、智夢の顔を見詰めてふわり微笑んでみせた。
「……うん、きっとお父さんも喜んでるよ。報告、出来ると良いね」
 ぱちくり、智夢は瞬いて。暫くしてから、同じようにふわり微笑んだ。自分がそんな表情をしていることを、彼女は気付いているだろうか。
「……ねぇ、猫ちゃん。貴方達も……応援、してくれますか?」
 智夢は猫の喉元に手を伸ばす。指先でくすぐれば、返事の代わりに猫の喉がごろごろ鳴った。
 忘れたい過去もあるけれど。忘れられない傷もあるけれど。胸に残るものは辛い想い出ばかりではなくて。気付けば、大切な想い出も出来ていたりするものだ。――生きていれば。きっと、きっと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルジュン・ラオ
暁彪さん(f11122)と

・心情
会いたい人、あぁ、居た気もしますが所詮私はモノですからね
はてさてあの人は、一体誰だったか、。

「ふむ、暁彪さんは猫に好かれるのですね」
猫に好かれれば影朧も来るでしょうか?
しかし猫に好かれるとはこれ如何に。
暁彪さんの見様見真似をしようにも、とんとわからず、ひとまず近くにいる猫に手を伸ばしてみて
「……これがもふもふですか」
妖にももふもふはおりますし、あぁ、そうですね
「お前たちも猫又になるのですよ」
そう問われればさて、どうでしょう。
「あぁ、これがぷにぷになのですね」
元々モノである私が長生き、それはとても不思議なことですね


桐生・暁彪
アルジュン(f30791)と同道

心情
もうこの世には居ねぇ奴にも獄卒ならあえるかなんて無駄なこと聞いた時期もあったな。好敵手を思い出す真っ直ぐな瞳に珍しく表に出さないが感傷的に猫をモフる。
本質は戦闘狂いの強面獄卒、再会なぞうっかりしたらどうなることか

行動
ビーストマスター故かすり寄ってくる猫を、毛並みを整えるように撫でる
『こんな労いくらいはわけねぇよ。』

一匹そっと抱え上げ、アジュンの頬に肉球で頬ツンしようとする
『なんだ、猫又に一緒に長生きしてもらいてぇのか?』
なれない冗談を交わしながら、いつの間にかできる猫だまりにお前らの大将んとこに連れてってくれやしねぇか
仲良くなってきいてみようかと親睦を図る




 桐生・暁彪(龍屠りし羅刹・f11122)がわしゃわしゃ猫を撫でる様子を、アルジュン・ラオ(鬼視ノ病・f30791)が見ていた。
 撫でられた猫は毛がぼわぼわになりながらも、とても満足そうだ。むしろ、もっとやってくれとでも言いたそうな顔付きである。
 暁彪を見る猫の目はどこまでも真っ直ぐで、それが自分の好敵手であるひとに似ていたから。彼にしては珍しく感傷的な気分になったりもする。
(もうこの世には居ねぇ奴にも、獄卒ならあえるかなんて無駄なこと聞いた時期もあったな)
 そんな感情を表には出さなかったけれど、ほんのちょっとだけ猫を撫でる手にも力がこもる。猫はもっとぼわぼわになる。
 会いたいという気持ちもあるけれど、自分の本質もよく分かっている。――――再会なぞ、うっかりしたらどうなることか。
『みょーう』
「おっと、悪いな」
 気付けばすっかりぼわぼわのぼわになった猫の毛並みを整えながら、暁彪が笑った。猫がふるると身体を揺らす。
「ふむ、暁彪さんは猫に好かれるのですね」
「こんな労いくらいはわけねぇよ」
 アルジュンが暁彪の顔を覗き込みながら言う。
 暁彪はビーストマスターでもあるわけだし。普段は虎やら豹なんていう生き物の相手もしているのだから、猫の扱いなんて朝飯前だ。
「猫に好かれれば影朧も来るでしょうか?」
「どうだかなあ」
 他愛のない会話をしながら、アルジュンも暁彪の真似をして近くにいる猫へと手を伸ばしてみる。
「………………」
 そぅっと。まるで壊れ物でも扱うように。指先が、そっと猫に触れて。――アルジュンが、そのまま動きを止める。
「どうした?」
「……このあと、どうしたらいいのか。とんと分かりません」
 ぎこちない動きのアルジュンを見て、暁彪が可笑しそうにかかかと笑った。
 とりあえず真似してみろと、暁彪がまた猫を撫でる。額を指でくすぐって、背を撫でてやり、喉元を掻いてやる。
 それを見ながらアルジュンも、おずおずと猫の背に手のひらをくっつけた。もふ、と指先が毛のなかに沈んで。
「……これがもふもふですか」
 もふ、もふ。控えめに猫を撫でるアルジュンを見て、こういうのに触るのは初めてか、と暁彪が聞く。
「妖にももふもふはおりますし、――あぁ、そうですね」
 猫の妖もいることをふと思い出した。アルジュンは、撫でられて気持ちよさそうにしている猫の耳元をかしかしくすぐると。
「お前たちも猫又になるのですよ」
「……なんだ、猫又に一緒に長生きしてもらいてぇのか?」
 そう聞きながら、暁彪は抱き上げた猫の手を持って、猫の手でアルジュンの頬をぷにぷにと突っついた。ぷに、ぷに、肉球がアルジュンの頬に触れる。
「元々モノである私が長生き、それはとても不思議なことですね」
 アルジュンがふ、と僅かに微笑む間にも、肉球がぷにぷにいったりきたりしている。ぷに、ぷに。猫の肉球はほんのりあったかい。
「あぁ、これがぷにぷになのですね」
 暫く肉球を堪能したふたりは、猫をいつの間にか足元に出来ていた猫だまりのなかへ帰してやった。ふと思いついたように、暁彪が聞く。
「そういえば、お前さんは会いたい奴がいるのか?」
「……さて、どうでしょう」
 そう答えるアルジュンはどこか遠くを見ながら、暁彪に聞こえるか聞こえないかの声で、ぽつりと続けた。
「……会いたい人、あぁ、居た気もしますが所詮私はモノですからね」
 ――――はてさてあの人は、一体誰だったか。
 もし、本当に会いたい誰かに会えるのなら。思い出せすことも出来るだろうか。
 そんな彼の独り言も、猫だけは聞いていた。――――どこかでちりん、と鈴が鳴る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
ここが猫屋敷…
猫好きのあたしにはまさに夢みたいな場所だけど
帰らない人がいるっていうのは気になるわ
なんとかしなくちゃ

でも今は…
寄ってきてくれた猫ちゃんを順番に撫でていく
ゴロゴロ甘えてくれると嬉しくて
持参したおもちゃのねこじゃらしで
たくさん遊んであげて

ここに来たのは猫ちゃんが好きだから
でも会いたい人に会えるって噂も気になって…
そんな都合のいいことあるはずないのに
あたしの会いたい人は生死もわからずいなくなってしまったから
ずっと寂しくて悲しくて
だから同じ思いをする人をこれ以上増やしちゃいけないと思って来たのに

ひょっとして会えるのかなってどこかで期待してる
おかしいでしょ?
泣きそうな顔で猫ちゃんに訊ねるの




「ここが猫屋敷……」
 いっぱいの猫たちを見て、思わずほうと息を吐いたエリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は、ぱしぱしと軽く自分の頬を叩く。
(猫好きのあたしにはまさに夢みたいな場所だけど……)
 会いたいひとに会える、そんな噂ももちろんだけど、帰らないひとがいる、という話もなかなか気になる。――だって、それは『噂』ではなく、『事実』なのだから。
 なんとかしなくちゃ、とエリシャはきゅうと拳を握るけれど。
 んにゃお。みゃーう。にゃあーん。――甘えた声で鳴きながら足元に擦り寄ってくるから、決意がちょっとだけ揺らぐ。だって、猫好きのあたしにはまさに夢みたいな場所だもの。
 みゃおみゃお。なーぉ。すりすりごろごろ、猫がエリシャを見上げるので。
 ――――うん。いろいろ気にはなるけれど、でも今は、ちょっとくらいは、猫と遊んであげたっていいだろう。

 エリシャがちゃっかり持参していた猫じゃらしを振れば、はっしと猫が食いつく。
 片手で猫をじゃらしながら、足元にきた猫を撫でてやる。うっかり噂のことを忘れてしまいそうになるほど、和やかな気持ちになった。
「やっぱり猫ちゃん可愛いー……」
 エリシャは猫が好きだ。この屋敷に来たのも、猫が好きだからだ。――けれど、それだけではなくて。
(会いたい人に、会える、かあ……)
 それが、もうこの世にいないひとだとしても会えるだなんて。随分とよく出来た、都合がいい話である。そんなことあるはずないのに――、――それに縋りたくなる気持ちも、エリシャには分かる。
(あたしの会いたい人は生死もわからずいなくなってしまったから)
 ずっと寂しかった、ずっと悲しかった。だから同じ思いをする人をこれ以上増やしちゃいけないと思って来たのに。
「……ひょっとして会えるのかなってどこかで期待してるの」
 猫を撫でていたエリシャの手が、ゆっくりと動きを止める。口をきゅうと結んで、視線を落とすとエリシャは猫に訊ねる。
「――おかしいでしょ?」
 エリシャは、くしゃりとぎこちなく笑う。それは今にでも泣き出しそうな彼女の、せいいっぱいの強がり。
 思わず、視界がじんわり滲む。――ああ、いけない。泣きたいわけじゃないの。
 軽く目を擦って顔を上げれば、エリシャの前からあんなにたくさんいた猫はいなくなっていた。
「猫ちゃん……?」
 きょろり、辺りを見回せば、一匹の黒猫がじぃとエリシャを見ていた。
 まあるい澄んだ瞳は、心のずぅっと奥まで見透かしているようで、なんだか居心地が悪い。エリシャが目を逸らせずにいると、猫はふと視線を逸らして歩き始めた。
 ――ちりん。ちりん。ちりん。猫が歩くたびに、寂しそうに鈴のおとが響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『帝都地下道迷宮行』

POW   :    とにかく真っ直ぐ突き進む、曲がり角は必ず曲がるなど、分かりやすい法則に従って地下道を進む

SPD   :    空気の流れや音の反響などを頼りに地下道の構造を把握し、駆け抜ける

WIZ   :    通った通路を都度記録し、地図を作成しながら地下道を攻略する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 妖しい猫が向かったのは、猫屋敷のなか。
 猫は猟兵たちはちらり一瞥すると、するりとそのままなかへ入っていった。

 ――あの猫は、きっとこの事件の鍵に違いない。追いかけて屋敷のなかへ入れば。
 ひとの気配はなかった。――けれど、あなたは見つけてしまった。地下へ降りる階段の前に立つ人影を。
 それは噂に聞く会いたい誰かかもしれないし、この屋敷に来て姿を消したと言われる被害者たちかもしれない。
 あなたが一歩踏み出せば、その人影はふわりと消えた。誰か、何かが、この地下にいる。

 地下へ降りれば、そこは外から見た屋敷よりも広い地下迷宮。
 影朧はきっと、この迷宮を抜けた先にいるのだろう。
 ――――ちりん、ちりんと鈴の鳴るおとが、やまない。
茜崎・トヲル
? だれかなあ。よく見えなかったね。顔もすがたも。ね。
おれだからみえなかったってオチだったらどーしよ。ふふ。
まーいっか。ちーか地下さがそ。
めーきゅー。ラビリンス。メイズとちがって空からみれねーのがなー。うーむ。
爪も骨のいっしゅだし。ながーくかたーく伸ばしてボーンブレイドにしてー。
かべにキズつけて、あとのこしながらいきましょー。
耳長いから、音もね。きをつけて。ひと耳よりは聞こえると思うよ。
鈴の音もだいおんきょーだけど。あ、もしかしたら鈴のなるほーにいるかな?
いちおーそっちにいってみよ。だめならまたガリガリやりながら出口さがすよ。
ふふふ、あはふふ。たのしーねえ。たのしーねえ。だれもいないけど!




 ぱちぱち瞬いて、首を傾げる。目も擦ってみる。階段の前に人影があったような気がするけれど。
「? だれかなあ。よく見えなかったね。顔もすがたも。ね」
 そもそも、人ですらなかったかもしれない。――それに、おれだからみえなかったってオチだったらどーしよ。
 そう言いながらもトヲルの顔はどこか楽しそうで。ふふ、と思わず笑みも零れる。
「まーいっか。ちーか地下さがそ」
 階段を下ればぎしりと軋むおとがする。それに加えてりんりんと鈴が鳴っているのだから、随分と騒々しい。
 それでも、トヲルの足取りはどこまでも軽やかで。
「めーきゅー。ラビリンス。メイズとちがって空からみれねーのがなー。うーむ」
 地下迷宮に踏み入れた足をふと止める。言葉だけはまるで困っているようだったけれど、そんな様子はまるでない。右に左に首を傾げてから、にぱ、と笑った。
 ――トヲルの爪がじわりと伸びていく。より鋭く、より長く、より硬く。より深く、傷をつけられるように。
「かべにキズつけて、あとのこしながらいきましょー」
 言うが早いか迷宮へと飛び込んだトヲルは、迷宮の壁へ爪を突き立てた。そして、そのまま――。
 がりがり、がりり。がりりりり。彼の軽やかな足取りに合わせて、伸ばした爪が迷宮の壁を削っていく。
 彼が一歩進むたびに、壁が削れるおとと鳴り止まない鈴のおとが合わさって、迷宮に騒々しい不協和音が響く。
「いきどまりかなあ? じゃあ戻らなくちゃ。ちゃんとキズがあるから、だいじょーぶ」
 一瞬だけおとが鳴りやむのは、トヲルが道を勧めなくなったときだけ。道を引き返しながら、トヲルはくく、と笑った。
「鈴の音もだいおんきょーだね。あ、もしかしたら鈴のなるほーにいるかな?」
 耳も長いから、ひとのそれよりもよく音は拾える。足を止めてよおく耳を澄ませてみれば、確かに、おとの大きさに差がありそうだ。
「いちおーそっちにいってみよ。だめならまたガリガリやりながら出口さがせばいーし」
 くるり。トヲルは鈴が大きく鳴るほうへ向きを変えると、やっぱり足取り軽やかにそちらへ向かって駆け出した。
「…………ふふふ、あはふふ。たのしーねえ。たのしーねえ。だれもいないけど!」
 ――りん、りん、ちりぃん。彼の言葉に応える代わりにやっぱり鈴が鳴っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【対の華】
人影は気になるけど
まずは先に進む事だね
百鬼さん、手叩いてみてもらっていい?

音の反響を【聞き耳】で判別し周辺の道構成を探る
少しでも風があれば流れも参考になるかも

ん、多分ここ行き止まり
あっち行ってみようか
通り道には目印付けたいけど…

目印に迷っていたところ
百鬼さんの申し出にきょとんとし

…なるほどね、考えたこともなかったや
ごめんね、退屈かもしれないけどお願いできると助かるよ

あ、言ってなかったっけ
僕も霊感はそれなりに
といっても会話できる程度だけど
似たもの同士だね

百鬼さんは多分気にしてるんだろうから
笑顔で言葉裏に教えてあげる
僕の前では気にしなくていいよって

よーし、この調子でゴールまでがんばろー!


百鬼・智夢
【対の華】
今の人影…なんだったんでしょう…
え、手…ですか…?
あっ、は、はい…!

すぐに理由を察知しなるべく大きい音でぱちんと手を叩き

澪君は、耳がいいんですね…
目印なら…協力、お願いしてみましょうか…?
★リアムの力を借りて、善霊さん達を呼び出します
霊感が無いと見えないから邪魔にもならないし…
なにかあれば、情報を貰うこともできるかも…
あ、壁すり抜けられるなら道探ってもらうのもいいかも、ですね…?

霊に壁際に立っててもらうようお願い
けど、澪さんが彼らを見えてるとは思わなくて
話しかけた時には思わずびっくり

似た、もの……そうなん、ですね
話の合う方、初めてです…
被害者の方も、できるだけ見つけてあげたいですね




「今の人影……なんだったんでしょう……」
「人影は気になるけど、まずは先に進む事だね」
 霊の類ではない、――と思う。それならば、智夢ならすぐに気付くはずだから。
 ここであの人影について考えていても、分かることなんてきっとそう多くはない。だから、まずは澪の言うとおり先に進まなくては。
「百鬼さん、手叩いてみてもらっていい?」
「え、手……ですか……? あっ、は、はい……!」
 きょと、と一瞬不思議そうな顔をした智夢だが、澪のしたいことを察するとすぐに手を大きくぱちんと叩いた。
 澪はそのおとをじっと聞き分けると、右側の通路を指さした。
「ん、多分あっち行き止まり。こっち行ってみようか」
「は、はい……! 澪君は、耳がいいんですね……」
 智夢の言葉に澪は微笑むと、行こうと智夢を誘う。智夢はこくりと頷いて、澪の後を追っていく。
「うーん。通り道には目印付けたいけど……」
 澪がきょろりと辺りを見回した。迷宮の壁が削れているのは、どうしてだろう。誰かの目印、のような気もするけれど、影朧の仕業の可能性も捨てきれない。迷っていると――。
「あの……目印なら……協力、お願いしてみましょうか……?」
 きょとんと瞬きする澪に、智夢がおずおずとテディベア・リアムを掲げて見せる。
 智夢がリアムに何か囁けば、リアムの瞳が青く輝いて。彼女の声に応えた善い霊たちがふわりとどこからか集まってくると、壁際にそぅっと並んだ。
「これなら、霊感が無いと見えないから邪魔にもならないし……」
 何かあれば、情報をもらうことも出来る。この迷宮に囚われているかもしれないひとたちを、見つけることが出来るかもしれない。
「……なるほどね、考えたこともなかったや」
「あ、壁すり抜けられるなら道探ってもらうのもいいかも、ですね……?」
 智夢がこんこん、と軽く壁を叩けば、霊たちがするり壁を抜けていく。どうやら道を探すことも出来そうだ。
「ごめんね、退屈かもしれないけどお願いできると助かるよ」
 澪がそう声を掛けたのは、智夢ではなく壁際に立つ霊たちに向かってだったものだから。今度は智夢がきょとんと瞳をまるくする。
「あ、あれ……。澪さん、みえるん、ですか……?」
「あ、言ってなかったっけ」
「僕も霊感はそれなりに。……といっても会話できる程度だけど」
 似たもの同士だね、と澪が笑う。智夢はやっぱりぱちぱち瞬いてから、澪の顔をじぃと見詰めた。
「似た、もの……そうなん、ですね」
 なにやら感慨深そうに呟くと、きゅうとリアムを抱きしめる。
 みえてよかった記憶なんて、智夢にはほとんどない。だって、ひとは目にみえないものを、自分には分からないものを、『違うもの』と決めつけて恐れるものだから。
 ――恐れるだけなら、よかったかもしれない。
 自分たちが『正しいもの』だと思い込んだひとたちは、数の力で『違うもの』を排除しようとする。智夢は、そんな悪意に晒されながら生きてきた。
「話の合う方、初めてです……」
 もじもじと指先を弄びながらそう言う智夢を見て、澪はすこし困ったように笑った。
 きっと、彼女はみえることを気にしているんだろう。誰かのためになることでも、後ろめたさを感じるくらいに。――だから、ちゃあんと伝えてあげなくちゃ。
「……僕の前では気にしなくていいよ」
 そう言って澪がいつもと変わらない笑顔で笑ってくれるから。智夢はなんだか胸のあたりがほっこりとあたたかくなる。
「…………ありがとう、ございます……」
「ふふっ、気にしないでって言ったでしょ?」
 智夢の表情がすこし明るくなったことを確認すると、澪はぐっと高く拳を突き上げた。
「よーし、この調子でゴールまでがんばろー!」
「は、はい……っ! 被害者の方も、できるだけ見つけてあげたいですね」
 澪と智夢のふたりが迷宮を行く。今度は、智夢が後ろをついていくだけでなく、隣に並んで。
 ふたりで一緒に歩いていけば、きっともう、出口はすぐそこに違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルジュン・ラオ
暁彪(f11122)

・心情
あの人は……あぁ、そうでしたね、あれは最後の持ち主
では、その前の持ち主は

・行動
はてさて、モノゆえ細かいことは特に得意ではないのですが。
そのまま愚直に進むのも吝かではないですが、それはそれ
地図でも作りながら向かいましょうか
暁彪さんが何か方法があるというのならお任せいたしますが、そうですね、せめて道順らしきものは作りましょう
右か左かそれともまっすぐか、それがわかれば迷いも多少はしないでしょうから
おや、猫ですか?確かに心強い。
共に探して見つけ出しましょう


桐生・暁彪
アルジュン(f30791)と参加

心情
件の猫屋敷にたどり着いたはいいが、鬼が出るが蛇が出るか
にしても鈴の音が煩わしい、アルジュンにも聞こえているのだろうか?
ふわり消えた人影に再会の期待半分、鳴り響き続ける鈴の音に殺意半分。
広そうな地下に壁をぶち抜いて進むかなどと物騒な考えが頭をもたげるが、屋敷で消えた者やほかの探索者のこともあるので我慢だ。
今回の探索で運良く行方不明者にあうか、それとも―
いずれにせよ敵陣との腹づもりはしておこう

行動
空気の流れや音の反響など野生の勘を頼りにゆくかとも考えたが、先程交流したうちの猫が力を貸してくれそうだ。
地図の作成?ああ、細かいこたぁ苦手なんでな。頼んだぞ、アジュン。




 足を止める。人影は消えてしまったけれど、あのひとを、知っている気がする。
 思い出す、思い出す。あのひとは。――――あぁ、そうでしたね、あれは最後の持ち主。では、その前の持ち主は?
「アジュン?」
 名前を呼ばれて、アルジュンはふと我に返る。暁彪がアルジュンの顔を不思議そうに覗き込んでいた。
「なんでも……」
 なんでもありませんよ、と呟く声は小さくて。首を傾げながらもまあいいか、と暁彪は迷宮へと視線を移す。
「……さて、鬼が出るが蛇が出るか」
 ――りん、りん、ちりぃん。鈴のおとが響いている。
 ――ちりん、りぃん、りんりん、りん。どこからか聞こえてくるか分からないそのおとは、ふたりを誘うように鳴り続けている。
(にしても鈴の音が煩わしい、アジュンにも聞こえているのだろうか?)
 ちら、ともう一度視線を戻せば、アルジュンは聞こえているのかいないのか、表情を変えずに涼しい顔で隣に立っていた。今度はアルジュンが暁彪の顔を不思議そうに見上げる。
「……まあ行くか。りんりんりんりんうるせえし」
「そうですね、行きましょうか」
 迷宮へと向かった人影は、もしかしたら。――もういないことなんて分かっている。けれど、噂が本当ならば再開出来るかもしれない。
 暁彪は、そんな淡い期待を胸に抱くけれど。鳴り続ける鈴のおとが思考の邪魔をして煩わしいので、鈴のおとに対して思わず殺意も抱いたりする。
「広そうな地下に壁をぶち抜いて進むか」
 ちぃ、と舌打ちひとつ。苛立つ彼の様子に気付いたのか、アルジュンはくす、と僅かに笑ってみせた。
「はやく行きましょう、きっと抜ければ止みますよ」

 迷宮を進む暁彪とアルジュン、そして――猫の群れ。
 猫たちがふたりの近くでにゃあにゃあ行進する姿は、この場に似合わずあまりにもファンシーである。
 ――――こんなファンシーなことになった理由は、ほんのすこし前に遡る。
 迷宮を進もうとしたふたりだったが、アルジュンがはたと足を止める。
「そのまま愚直に進むのも吝かではないですが、それはそれ。地図でも作りながら向かいましょうか」
 ただ歩くだけでも、きっと出口には辿り着くだろうけれど、――鈴のおとに疲れた暁彪が、壁を壊しはじめるかもしれないし。
「暁彪さんが何か方法があるというのならお任せいたしますが……」
「地図の作成? ああ、細かいこたぁ苦手なんでな。頼んだぞ、アジュン」
「わかりました。そうですね、せめて道順らしきものは作りましょう」
 ――はてさて、モノゆえ細かいことは特に得意ではないのですが。右か左かそれともまっすぐか、それがわかれば迷いも多少はしないでしょうから。
 地図を作るための準備をはじめたアルジュンを見ながら、暁彪も考える。
 迷宮を突破するために、何をすればいちばんいいだろう。空気の流れ、音の反響、野生の勘を頼りにするのもいいかもしれない。
 けれど、このりんりんと騒がしいなかでそれらに集中出来るかと聞かれると、すこし難しい気がする。
「……あ」
「? どうしました?」
「先ほど交流した猫の力を借りよう」
 ここは、呼び名の通り猫屋敷。猫がいることで有名な屋敷だ。――猫たちがこの屋敷に入り浸っているのなら。迷宮についても詳しいかもしれない。
「おや、猫ですか? 確かに心強い」
 こうして、猫の手も借りたふたりは、迷宮を進むことにした。その結果が、この可愛らしい猫の行進である。

「そっちの道は行き止まりみたいだぞ」
「そうですか。では地図に書き足しておきましょう」
 手に持つ地図にさらさらと書き足しながら、迷うことなくふたりは進んでいく。――気付けば、出口はもうすぐそこ。
「……行方不明者も、やはりここにいたようですね」
「ああ。でも眠っているような感じだったし、後回しだな」
 ふたりが出口へ足を踏み入れた瞬間、ぴたり。鈴のおとが止んだ。――迷宮で眠るひとたちがどんな夢をみているのか、ふたりが知ることはない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神宮時・蒼
……見知らぬ、影…。…斯様な、ところに…?
…まずは、此の、迷宮を、突破、せねば、なりませぬ、か…
……とりあえず、入り口を、見失わぬよう、気を、つけなければ…

【WIZ】
細かい地図の作製は、時間的に難しいですね
ひとまず、通ってきた道が判るように、身に纏う武具の花を導としましょうか
補填は可能ですし、問題無いでしょう
何が潜んでいるか分からないので警戒は怠らず
移動は「忍び足」と「目立たない」を使いましょう
ちりん、ちりん―
軽やかな鈴の音
此れは猫の誘いか、はたまた黄泉路への誘いか
焦がれる相手が、二度と会えぬ事なぞ、わかりきって、います
さあ、奥で待つのは、一体、何でしょう、ね




「……見知らぬ、影……。……斯様な、ところに……?」
 会いたいひとに会えると噂の屋敷に現れた人影。――罠である。そう、直感する。
 けれど、足を止めることはしなかった。誘われるままに、一歩、もう一歩。ぎしりと軋む階段を下りていく。
「……まずは、此の、迷宮を、突破、せねば、なりませぬ、か……」
 ――りん、りん、りん。鈴のおとが聞こえて、視界の端に先ほどの人影らしきものが揺らめいた気がするけれど。蒼はふるり、頭を振る。
「……とりあえず、入り口を、見失わぬよう、気を、つけなければ……」
 迷宮に囚われて、帰れないなんてお話にならない。足を踏み入れた迷宮は、外から見たのでは分からないほどに広大で。
 細かい地図の作製は困難と考えた蒼は、身に纏う武具の花を、ひとつ摘まんだ。ひらり。花びらが落ちる。
「……補填は、可能ですし……、問題無い、でしょう……」
 ――月下香、幽霊花、時計草、それから茉莉花。ひらり、はらりと、蒼の背後に出来る、花の導。
 様々な花びらで飾られた迷宮は、より妖しく幻想的な雰囲気を醸し出す。何も知らないひとが蒼を見たら、影朧と思われたかもしれない。
 蒼が歩いたあとの道は、それほど幻想的で、儚くもうつくしかった。――りん、りん、ちりぃんと、鈴が鳴る。

 今のところ何かが現れる気配はないけれど、この迷宮に何が潜んでいるかは分からない。
 蒼は忍び足で目立たないように迷宮を進んでいく。その間にも、ちりんちりんと軽やかに鈴は鳴っていて。
 猫の鈴のようだと思う。確か、鈴をしている猫もいたから。――此れは、猫の誘いだろうか、はたまた黄泉路への誘いだろうか。答えは、迷宮を抜けなければ分からない。
「……焦がれる相手が、二度と会えぬ事なぞ、わかりきって、います」
 願いを込めてもらった。――赤い組紐は赤いいと。白い布地は花嫁の。嗚呼、けれど、けれど。其の願いは――――……。
 ――……ちりん、ちりん。ちりぃん。
 まるで耳の横で鳴っているかのように、鈴のおとが大きくなる。思わずぱっと耳を塞ぐが、鈴のおとが小さくなることはなかった。
 ふるり頭を振れば、手に握っていた花びらがひらりと指先から抜け落ちた。耳を塞ぎたくなる気持ちを抑えて、蒼は迷宮を進む。
「……さあ、奥で待つのは、一体、何でしょう、ね」
 ――――会いたい。会いたくない。会えるわけがない。それでも。
 いま、ちりりと胸を焦がすこの気持ちをなんと呼べばいいのか、蒼にはよく分からなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヤニ・デミトリ
ヒトの領域っぽくなくなってきたなァ。楽しそうスね
影が何だったかまではわからんかったっスけど
進めば行きあたるかなァ。多分何かには

ずっと鈴の音
迷宮じゃ遠くまでは見通しにくそうっスけど、音なら波が立つかな
体表を水鏡に変えて、響く波紋から鈴音の元を探ってみるっス
鈴の音、自分の足音の反響、物音、水面を揺らすものなら何でも
そいつを元に周りの状況や構造を手繰って進むっスよ
鏡は映したままを何でも見るけど、
さて、消えた何かが映るかまではわかんないっスね

行き止まりやダメそうって道にはバツ印
邪魔な高低差や隙間があれば、
伸ばした泥をロープ代わりにしたり
液化したりして超えちまうっスよ




「ヒトの領域っぽくなくなってきたなァ。楽しそうスね」
 影が何だったかまではわからんかったっスけど、進めば行きあたるかなァ。――多分、何かには。
 鉄屑の尾がどこか楽しそうに揺れる。影の正体は分からなかったけれど、きっとひとではないと思うのは、ヤニも似たようなものだからだろうか。
 そんなことを考えながら、すっぽり被ったフードを引っ張って、もう一度深く被りなおす。フードの奥で銀の瞳が妖しくひかる。

 ――りん、りぃん、ちりぃん。ずっとずっと鈴のおと。ずっとずっと続く迷宮。
 ヤニはちらと天井を見上げる。迷宮を作っている壁は高く、遠くまで見通すことは難しそうだ。
「……けど、音なら波が立つかな」
 ぐにゃり。ヤニの体表が形を変えていく。作り上げたのは、ゆらゆら揺れる水鏡。彼のひとの形が揺らぐけれど、それはフードに隠れて誰にも見えなかった。
「鏡は映したままを何でも見るけど、さて。消えた何かが映るかまではわかんないっスね」
 その水鏡はまわりの景色だけでなく、あらゆる気配も映し出す。先ほどの影は映るだろうか。映るとしたら、ひとの形をしているのだろうか。
「とりあえず、鈴音の元でも探ってみることにするかな」
 鈴がりぃんと鳴るたび、水鏡が波紋を描く。
 いま浮かんだ波紋は、自分の足音。ちいさく揺れているこれは、きっと誰か他のひとのもの。壁の向こうに誰かいるっスね。
 ヤニが迷宮を進む間、鈴のおとは弱くなったり強くなったりしていた。ヤニにとって特に役に立ったのは、他の猟兵たちの足音だ。
「うーん、この道は行き止まり、っと……」
 壁にバツ印を書いていたヤニが、ぴたと手を止める。
 進んでいた足音が、水鏡からふっと消えたのだ。――きっと誰かが、迷宮から出たのだろう。
 それならば、そちらを目指していけばいい。残念ながらこの道は行き止まりだけれど、先ほどの足音が消えた場所からそこまで遠くはなさそうだ。
「じゃあ、そっちに行けばいいっスね」
 答えが分かれば、あとは出口へ向かうだけ。――ヤニの身体をつくる泥が、楽しそうにゆらゆら揺れて、また形を変えていく。
 泥をロープのように伸ばして飛び移って、狭い通路は液化して隙間を抜けて。彼にしか出来ない方法でヤニは迷宮を進んでいく。
 出口を見つけてから辿り着くまでは、あっという間だった。人の形に戻すと、ヤニはぽつりと呟いた。――それじゃあ、影の正体を確かめに行くっスかね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
猫ちゃんたちどこに行ったの?
UCでランプを作って光源を確保するわ
え…あれは…
背が高くて黒髪で…本当にあの人なの?
そんなことあるわけない
こんなところにいるわけない
でも自然と足はその人影を追うの

あの人がいなくなったのも
行った人が帰ってこないっていういわくつきの遺跡だった
その調査に行ったあたしと義弟とあの人
遺跡にしかけられたトラップで誰か一人が残らなくてはいけなくて
あの人が残ると言って
応援を呼びに行ったあたしと義弟が外に出ると
遺跡は崩壊
必死に探してもあの人の遺体は見つからなかった…

でもねあなたは亡くなっていない
そうなんでしょう?
だからどこかにいるなら会って話がしたいの…
祈るような気持ちで人影を追うの




 みんな隠れてしまったのだろうか。いっぱいいた猫はすっかり姿を消していて。屋敷は不気味なくらい、静かだった。
「……猫ちゃんたちどこに行ったの?」
 ユーべルコードで作ったランプを掲げて。きょろり。エリシャは辺りを見回す。ランプに照らされ、視界に映った人影は――……。
「え……、あれ、は……」
 人影が揺れる。姿を消す。見間違いかとも思ったけれど、――あたしは、あのひとを知っている。
「背が高くて黒髪で……本当にあの人なの?」
 そんなことあるわけない。こんなところにいるわけない。だって、だって!
 けれど、その人影に誘われるようにエリシャは迷宮へと足を踏み入れる。
 帰らないというひとたちも、きっと、こうしていなくなったのだろう。頭では分かってはいるけれど、影を追うエリシャの足は止まらなかった。

 あのひとのことを、おもいだす。
 あのひとが、いなくなった日のことを思い出す。
(あの人がいなくなったのも、行った人が帰ってこないっていういわくつきの遺跡だった)
 遺跡の調査に行った、エリシャと、義弟と、あのひと。遺跡にはトラップが仕掛けられていて、誰かひとりが残らなくてはいけなかった。
(あの人が、残ると言って)
 エリシャと義弟は、あのひとを置いて応援を呼ぶために外に出た。――その、直後だった。遺跡がおとを立てて崩壊してしまったのは。
 運が悪かったのだろうか。それとも、そういうトラップだったのだろうか。エリシャには分からない。
 崩れた遺跡を掻き分けて、日が暮れても、涙で視界が歪んでも、爪が割れても気にせず探した。
 ――けれど、あのひとの遺体すら、見つけることは出来なかった。だから。
(……あなたは亡くなっていない)
 だって、遺体が見つからなかったもの。あなたに繋がる痕跡ひとつ、なかったんだもの。
「――……そうなんでしょう?」
 視界が歪む。ああ、まるであの日のようだ。
 生きているのなら出てきてよ。また声を聞かせてよ。話したいことが、言いたいことが、こんなにも、こんなにもあるんだよ。
「おねがい。どこかにいるなら会って話がしたいの……」
 喧しく鳴る鈴のおとも気にせずに、エリシャは祈るような気持ちで人影を追う。気付けば、迷宮の出口に辿り着いていて。
 ――――鈴のおとが止む。どこからか飛んできた桜のはなびらが、エリシャの頬を撫でるようにすり抜けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『寄り添う存在』

POW   :    あなたのとなりに
【寄り添い、癒したい】という願いを【あなた】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
SPD   :    あなたのそばに
【理解、愛情、許し、尊敬、信頼の思い】を降らせる事で、戦場全体が【自分が弱くあれる空間】と同じ環境に変化する。[自分が弱くあれる空間]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    あなたはもう大丈夫
自身の【誓約。対象の意思で別れを告げられ消える事】を代償に、【対象自身の選択で心に強さを持ち、己】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【過去を振り切った強さ】で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠宮落・ライアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猫がいた。
 まあるい瞳の、黒い猫だ。首にはきんいろの鈴がついている。
『にゃあ』
 猟兵たちを屋敷のなかへと案内した、ちょっと妖しい猫だった。
 まじまじと猫を見れば、それはなんの変哲もない猫に見える。
 ――けれど、そのなんの変哲もないように見えた猫の鈴がちりんと鳴ったその瞬間、その身体が桜の花びらに変わりぶわあと辺りを包むように広がっていった。
 視界が淡く霞む。あなたはもしかしたら、そのいっぱいの桜の花びらのなかに、懐かしい顔を見るかもしれない。

 そうして、桜の花びらは姿を変える。
 花びらのなかに見た、そのひとに。会いたいと願った、そのひとに。
 特別会いたいひとがいないのならば、この幻に囚われたひとたちの、会いたかった誰かへと次々に形を変えることだろう。
 『それ』はあなたに言う。大丈夫だよと、隣にいるよと、傍にいてと。やさしい声で、あまい言葉で、あなたが望めば望むだけ。

 刃を向けるならそのように。別れを選ぶならそのように。
 ああ、でも気を付けて。――ずうっと傍にいるよだなんてもし答えたら、あなたも帰れなくなってしまうよ。
アルジュン・ラオ
暁彪(f11122)さんと

・心情
はてさて、まさかまさかその兄弟を見ることになろうとは
モノゆえ何にも出会えぬと思ったが…

・行動
その兄弟はとても大事に扱ってくれた、形見として最後に持っていたのは弟だったか
さて、然しもう私はモノではなくヒトになっている
「今、私の隣にいるのは”仲間”と呼ばれるものですからね」
暁彪さんとそのような関係かはいざ知らず。
然しはたから見ればそうなのでしょう?
はてさて、貴女の”嘘”はどれくらいなのでしょうか
懐かしい者を見せてくれたお礼がてらに、あるべき場所に還って貰いましょう
そうでしょう?暁彪さん


桐生・暁彪
アルジュン(f30791)と参加

心情
あの影は俺がやりそこねた好敵手。桜の花びら、たいがいオマエにも似合わんな。

起こされる側は幸せな夢ン中のつもりかもしれんが、生ぬるく"やさしい“だけのまやかしの檻はとっととぶっ壊すから覚悟しとけ。

世話になった猫どもに余計な客のねぇよう褒美になりゃいいがな?

行動
「待ちくたびれたぜ」
望んだ相手に目を細め戦闘狂の愉悦にのまれ、容赦なくその影に得物を振りかぶる。一時は茶番に付き合ってやるが、その太刀筋・言動に違和感を感じてしまえば迷惑なオイタへのお仕置き獄卒思考に。

「応。遊びは仕舞いにしネェとな」とアジュンに応じる。
あるべき場所ってのに還すのなら、早く終わらせネェと。




 こえがする。
 かすかに聞こえる言葉は、迷宮内で見つけたひとたちが求めたものだろうか。
 求めたひとが、求めた言葉をくれる。それはきっと救いであるに違いない。
 けれど、それは生ぬるく、"やさしい"だけのまやかしだと、暁彪は思う。
「まやかしの檻はとっととぶっ壊すから覚悟しとけ」
 桜の花びらが揺れて混ざって形を作っていく。暁彪ははっと笑って、得物を握った。
「世話になった猫どもに余計な客のねぇよう褒美になりゃいいがなァ?」
 桜の花びらにそう声を掛けてみても、答えはない。――けれど、胸が高鳴る。血が騒ぐ。
 待つ時間がもどかしい。ああ、はやく。はやく遣り合いたい。誰が現れるかなんて、分かりきっているじゃないか。
 ざざあとひと際大きなおとを立てて。桜の花びらが塊になったかと思うと、望んだ好敵手がそこに居た。
「待ちくたびれたぜ」
 暁彪が地を蹴る。躊躇わずに振り下ろした得物は、受け止められたけれど。
 びりりと手を伝わる感触が懐かしい。――ああ、そうだ。血沸き肉躍るとは、こういうことを言うのだ。
「くははッ。桜の花びら、たいがいオマエにも似合わんな」
 目を爛々と光らせて暁彪が笑う。ああ、楽しい。戦うことは楽しい。――コイツが相手だから、なおさらだ。

 自分はモノである。
 長く使われた道具にどんな偶然か悪戯か、魂が宿った存在である。
 どんなにひとの形をしていても、仮初の身体。例え傷を負っても本体であるモノが破壊されない限りは死ぬことはない。
 だから、何かに出会えるだなんて思っていなかった。――けれど、どういうことだろう。
 アルジュンの表情には、驚きの感情がほんのわずかに滲んでいた。彼の前に現れたのは、ひどく懐かしい顔。
「…………はてさて、まさかまさかその兄弟を見ることになろうとは」
 その兄弟は、未だモノであったアルジュンをとても大事に扱ってくれた。形見として最後に持っていたのは、弟だったか。――もう、とおいとおい昔のはなし。
 言葉を交わすだなんて、想像したことがなかったからだろうか。兄弟は静かに微笑むだけ。
 ひどく懐かしいけれど、然し。アルジュンはもう、モノではなくヒトである。そう、思っている。
「今、私の隣にいるのは"仲間"と呼ばれるものですからね」
 その、隣にいる人物であるところの暁彪は、既に好敵手と遣り合っている。
 彼とそのような関係かは、アルジュンには分からなかったけれど。共に戦場に立っているのだから、傍から見ればきっとそうなのだろう。
 隣に立つひとがいる。守りたいものがある。だから、もう私は道具ではなく。――私は、ヒトである。

「……はてさて、貴女の"嘘"はどれくらいなのでしょうか」
 姿を真似ても、どこまでが本当で、どこまでが嘘なのだろう。
 それはそれは長い時間を彼らと過ごしてきたアルジュンを、騙せるほどだろうか。
「私の目を欺けると思わないでくださいね。……懐かしい者を見せてくれたお礼がてら、あるべき場所に還って貰いましょう」
 懐かしく思うことはあれど、彼らとのことは私が覚えている。だから、縋るつもりはない。
「そうでしょう? 暁彪さん」
 その言葉を聞いて、遣り合いながらも暁彪がぱっと視線だけをアルジュンに向けた。
「応。遊びは仕舞いにしネェとな」
 早く終わらせねェと、そう彼は呟いたけれど。折角の再開である。――だからいまはまだ、もうすこしだけ。この時間を楽しんでもいいだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
わん、つー、すりー、ふぉー。わー、たくさんいるね。
ひとがたくさんいる。みーんなおれ見て笑ってる。うれしそーにやさしーく話しかけてくるんだ。
でもね。おれはそのなかのひとりだって知らないんだぜ。
忘れてるんだろーなー。ぜーんぜんわかんねえ。よくききとれねーってのもあるけど。ね。
あはは。だからなんでもないよさびしくないしつらくだってないんだ。みんな知らないひとだからね。みんな死んだひとだからね。
あんたたちに言うことはないんだ。だってお別れはしてるんでしょう。おれが覚えてないだけで。ハンマーでおもいっきりなぎはらっちゃう。
(楽しいことは相手が居なくなったら忘れるんだ二度と戻らないから一緒に行けないから)




 嵐のようにざざあと吹き荒れる桜の花びらが、集まって出来たのはひとの形。それも、ひとりではなくてたくさんの。
「わん、つー、すりー、ふぉー。わー、たくさんいるね」
 彼らはやさしく笑っていたけれど、時折不意に形が崩れてざざと桜の花びらに戻っていた。トヲルはそれを見てへらりと笑う。
「みーんなおれ見て笑ってる。うれしそーにやさしーく話しかけてくるんだ」
 傍にいようと、泣いてもいいよと。耳に届く言葉はなんだか霞みがかったように聞き取りづらかったけれど。
 きっと、誰かに言われた言葉。きっと、誰かから聞きたかった言葉。――――でもね。
「おれはそのなかのひとりだって知らないんだぜ」
 笑うひとたちに、トヲルはあっけらかんと知らない、と告げた。
 桜の花びらで出来ている形が揺らぐ。――うまく形を保てていなかったのは、そのせいでもあるのかもしれない。
「忘れてるんだろーなー。ぜーんぜんわかんねえ。よくききとれねーってのもあるけど。ね」
 ざざざ。それの形がまた崩れる。声がさらに遠くなる。聞き取りづらい。あれ、桜の花びらに戻っちゃった。

 集まっては形を作って、けれどすぐにまた崩れるそれを見ながら、トヲルはハンマーを握った。
 大事な誰かと別れたら。寂しい? 悲しい? 苦しい? ――ぜんぶぜえんぶ、よく分からない。
 子供のように無邪気に、けらけらとトヲルが笑いだす。
「あはは。だからなんでもないよさびしくないしつらくだってないんだ」
 みんな覚えていないから。みんな知らないひとだから。みんな、――死んだひとだから。
「あんたたちに言うことはないんだ。だってお別れはしてるんでしょう」
 ――――おれが覚えてないだけで。
 笑顔のまま、笑顔のそれらに向かって、ぶん、とハンマーを振るう。薙ぎ払う。
 手応えはなかったけれど、形が崩れたそれはもう元には戻らない。
 いくつものいくつもの桜の花びらとなったそれは、はらりはらりと散っていく。
 そうやって薙ぎ払って、叩き潰して、気付けば。トヲルの足元には、桜の花びらが絨毯のように広がっていた。
 それを見下ろしながらもう一度彼らのことを思い出そうとしてみても、やっぱりなんにも思い出せない。
(楽しいことは相手が居なくなったら忘れるんだ二度と戻らないから一緒に行けないから)
 ――だっておれは死なないもの。
 見送るだけしか、出来ないから。そんな彼を寂しい、とひとは言うのかもしれないけれど。
 どうしてひとがそう思うのか、トヲルにはよく分からない。――だってだってほんとうに、寂しくなんてないのだから。
 トヲルの足元に広がる桜の花びらのなかには、もう、何も映らなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神宮時・蒼
…叶わぬ、情景。…果たされぬ、出会い
…けれど、ボクの身は、もう、呪いに、堕ち、満ちた
…もう、二度と、あの方々の、もとへは、戻れません
…まやかしだと、しても

【WIZ】
過去は、過去
喪った者は、二度と帰ってこない。其れが、世の摂理
けれど、迷う事はない
例え、呪いに穢されようと、創り手が、どんな想いを込めたのかは、知っているから

過去を、振り切った、自分が、相手、ですか
相手の攻撃は「結界術」と「見切り」でいなします
過去の、自分には、囚われ、ません
「高速詠唱」「全力魔法」「魔力溜め」を乗せた白花繚乱ノ陣を手向けに

…知って、いますか?…この白花、月下美人には、「強い意志」、という、花言葉、が、ある、のです、よ




 それは、幸福を絵に描いたようだった。
 ――永遠に、あなたと共にいられますように。そんな、どこまでもうつくしい約束。
 そう言って手を取りあう姿を、幸せそうに微笑むふたりを、蒼は知っている。
「……叶わぬ、情景。……果たされぬ、出会い……」
 だって、蒼は「彼」によって作られて、「彼女」に贈られたのだから。この光景を知らないわけがなかった。彼女の手のなか、きらりと光るそれは紛れもなく蒼である。
 ほんとうのふたりではない。まやかしだ。でも、でも。傍に歩み寄ることくらい、許されるのではなかろうか。そんな考えが浮かんでは消える。――だって。
「……けれど、ボクの身は、もう、呪いに、堕ち、満ちた」
 祝いの品だったはずの彼女はひとの欲に歪まされ、気付けば呪いをもたらす品として扱われるようになった。
 だから、いまのボクにはあの光景には似合わない。あの幸せな光景のなかにいるのは、ボクでは、ない。
 声を掛ければ、優しく迎えてくれるだろう。咎めるものは誰もいないだろう。
 けれど、他ならぬ蒼自身が、それを許さない。それが例え、まやかしだとしても。

 その光景をきっと見据えれば、幸せな姿はぐんにゃり歪んで。蒼の前に立ちはだかったのは、ほかの誰でもない蒼自身。
「……過去を、振り切った、自分が、相手、ですか」
 思うことは、いくつもあるけれど。過去を嘆いて、足を止めてばかりではいられない。――蒼は、迷わなかった。
「……何にも、染まらぬ、誠実なる、白」
 幸せだった日を覚えている。約束を覚えている。でも。――喪った者は、二度と帰ってこない。其れが、世の摂理。
「何にも、染まる、無垢なる、白」
 だから、せめて。蒼の持つすべてを乗せて、過去に手向けの花を送ろう。――過去の、自分には、囚われ、ません。
「……舞え、吹き荒れろ」
 ――――白花繚乱ノ陣。それはまるで、吹雪のように。
 月下美人の花びらが桜の花びらでできた蒼を襲い、その身体を削っていく。
 形が崩れて膝をついたそれが、蒼を見上げた。蒼はそれを見下ろして聞いてみた。
「……知って、いますか? ……この白花、月下美人には、『強い意志』、という、花言葉、が、ある、のです、よ」
 それの口が僅かに動いて。けれど、何か言う前にぶわあと弾けてしまった。最後の表情は、笑っていたのだろうか。
「…………例え、呪いに穢されようと、創り手が、どんな想いを込めたのかは、知っているから」
 蒼はもう、迷わない。囚われない。想い出はこの胸に、確かにあるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百鬼・智夢
【対の華】
……お父、さん……

わかってる
あの人は本物じゃない
でも、だけど…ほんの少しだけ
触れる事が…話す事が、叶うのなら

うん…そうだね
お父さんはいつも側にいてくれた
どんな時も、味方でいてくれた
お父さんの笑顔が、大好きだった

昔から友達作りが下手で
心配かけてばかりだったけど
お父さんに会ったら伝えたかった事

私ね…友達が出来たの
今はもう1人じゃないの
どんなにうじうじしても、弱音を吐いても
待ってくれる、話を聞いてくれる…
認めてくれる友達が

諦めないでいられたのは、お父さんのおかげ
だから…ありがとう
お父さん…大好きだよ

一緒には行けない
私はもう、過去には囚われない
振り切るように【破魔】の【指定UC】を


栗花落・澪
【対の華】
会いたい人は、僕の両親
だけど姿が見えたとして
それが本物か僕には判断つかないから
形見のお守りを握り締め
決して心は囚われないように
かけられる言葉が心地よくないかと問われれば
きっと否定も出来ないけれど

心配なのは…百鬼さんの方かな
彼女の見る幻影は、きっと本物そっくりだろうから

けれどそっと手を引かれたら
彼女が会いたくてやまなかった愛する父親に
真っ直ぐな声で“友達“と言われたら
驚きと同時に嬉しくて

お父さん、お母さん
それから…百鬼さんのお父さんも
本当にごめんなさい
でも、僕達は前に進むから
僕らの幸せを望んでくれるなら
どうか優しく見守って

敵にしか効果の無い
【優しい祈り】を乗せた【破魔】の【指定UC】を




「……お父、さん……」
 わかってる。あの人は本物じゃない。でも、だけど。ほんのすこしだけ。
 それでも、触れたいし、話したい。あの優しい笑顔で、笑いかけてほしい。
「触れる事が……、……話す事が、叶うのなら」
 ふらり。誘われるままに、一歩、二歩。躊躇いがちに近付く彼女の名を、それが呼ぶから。
『…………智夢』
「…………お父さん……!!」
 智夢は思わず、それに飛びついた。――生きているはずがない。分かっているのに。
 優しいこえは父のもので、ぬくもりは懐かしく、耳元で鳴る心臓のおとは心地よかった。

 目の前に現れたひとを見て、澪は困ったように笑う。
(会いたかった、僕の両親)
 けれど、澪は両親の顔は覚えていない。だから、目の前にいるひとが両親であるかも分からないのだ。
『澪』
『ねえ、こちらへおいで』
 それに近付きながら、形見のお守りをぎゅうと握り締める。決して心は、それに囚われないように。
 ――会いたかった。大きくなって。私たちのいとしい子。これからは、ずっと一緒よ――……。
(困ったなあ)
 顔すら覚えていないのに。掛けられる言葉ひとつひとつが心地よい。――けれど、分かっている。これは影朧の見せる夢なのだ。
 覚えていなくともこの夢にすべてを委ねたくなってしまう。だから、望んだ姿を見たひとは、きっととても苦しくて、幸せに溺れそうになるだろう。
(心配なのは……、百鬼さんの方かな)
 澪はちらりと智夢に視線を移す。――彼女の見る幻影は、きっと本物そっくりだろうから。

「うん……、そうだね。……お父さんはいつも側にいてくれたよね……」
 どんな時も、味方でいてくれた。優しい父の笑顔が、大好きだった。ずっと一緒に居られると思っていた。事故に遭っていなくなるだなんて、思ってもいなかった。
「あのね、お父さん……。私ね……、友達が出来たの。今はもうひとりじゃないの」
 そう言いながら、智夢は澪を見るとその手をそっと握る。
「どんなにうじうじしても、弱音を吐いても、待ってくれる、話を聞いてくれる……。……認めてくれる、友達が」
 澪はぱち、ぱちと瞬きして。それから嬉しそうに、僅かに顔を綻ばせた。
 真っ直ぐな"友達"という言葉は、なんだかくすぐったくてあたたかい。
「諦めないでいられたのは、お父さんのおかげ。だから……ありがとう。……でも、ごめんね。一緒には行けない」
 智夢がそれの胸をとん、と押して離れる。智夢に手を伸ばそうとしたそれの間に、澪がさっと割って入った。
「……お父さん、お母さん。それから……百鬼さんのお父さんも、本当にごめんなさい」
 それの顔が悲しそうに歪む。思わず胸がちくりと痛むけれど、――僕たちは前に進むから。
「僕らの幸せを望んでくれるなら、どうか優しく見守って」
「…………お父さん……、……大好きだよ」
 さようなら。すこしだけでも、しあわせだったよ。だいすきな、たいせつな。ぼくの、わたしの。
 傍にいるよと、行かないでと、愛しているとそれが言う。
 それを振り切るようにふたりのユーベルコードが発動して、辺りは眩いほどの光に包まれた。
 こえが、聞こえなくなって。光がすっかり引いたころには、それの姿は跡形もなかった。
「………………れい、くん」
「うん」
「……これで、よかったんですよ、ね」
「……うん」
「……そう、ですよね……。そう、です。……私はもう、過去には囚われないって……」
「百鬼さん……」
「っふ、……ぅ、あ……。…………ごめんなさい、ごめんなさい澪君……。でも、……でも」
 でも、今だけは。ちいさく震える智夢の肩を支えながら、澪は大丈夫だよと呟いた。
 どこからかひらりと飛んできた桜の花びらが、そんなふたりの頭を撫でるようにひらり舞って、そのままふわりと消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
鈴の音
桜の花びら
会いたかったあの人が目の前に

無愛想で笑顔もほとんど見せてくれなかった
でも自信に満ちてどこか尊大で
曖昧になっていく記憶の中のあなたの姿が

やっと会えた…
わかってる
あなたがいるわけない
ここにいるのはあなた自身じゃない

でもその姿を見れただけで嬉しくて
大丈夫傍にいるって言ってくれたら幸せで

…本当はあの時に聞きたかった
あなたが決して言えなかった言葉

あなたが生きているのなら
きっとあたしを想って姿を消したのだと今ならわかる
あたしを守るために…

だからあたしも祈るの
あなたの幸せを
もう大丈夫
あたしも幸せを見つけたの
だからどうかあなたも自分の信じた道を
願わくはその行き先が光あふれるものでありますように




 りんりんりん、喧しかった鈴のおとが小さくなって。
 エリシャの前に現れたのは、会いたかったあのひとだった。

 不愛想で笑顔もほとんど見せてくれなかったあのひと。
 でも自身に満ちていて、どこか尊大で。――すこしずつ曖昧になっていた記憶のなかのあのひと。
 そんなあのひとが、目の前にいる。曖昧だった記憶が、鮮やかに形を取り戻していく。
「…………、……やっと、会えた……」
 エリシャは分かっている。あなたがいるわけない。ここにいるのはあなた自身じゃない。
『大丈夫、傍にいる』
 姿を見れただけでも嬉しいのに。自分に向けられた言葉ひとつひとつに幸せを感じる。
 あなたが決して言えなかった言葉たち。本当はね、あの時に聞きたかったんだよ。
「ねえ、姿を消したのはあたしを守るため、だよね」
 ――今なら分かる。あなたが生きているのなら、きっとあたしを想って姿を消したのだと。
 エリシャの言葉に、そのひとはこくんと頷いた。
『もう、どこにもいかない』
 欲しい言葉をくれるあのひと。慰めてくれる優しいあのひと。
 けれど、それらすべてが自分の望むものばかりだから。――ああ、やっぱりこのひとは、あのひとではなく桜が見せる幻だ。
「ねえ、あたしも祈るわ。……あなたの、幸せを」
『――……それは』
 言葉を遮るように、ふるり頭を振ってから、それの手を取って微笑んだ。
「もう大丈夫。あたしも幸せを見つけたの」
 そんな目で見ないで、気持ちが揺らぐじゃない。エリシャの手のひらにある、聖痕が淡く光る。
 聖痕から発された淡い光が、それを包み込んでいく。それはひとつ、ふたつとゆったり瞬きをすると、目を閉じた。――それがエリシャの見た、最後のあのひとの姿だった。
 あたしも、もっと幸せになるから。――だからどうか、あなたも自分の信じた道を。
 願わくはその行き先が、光あふれるものでありますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヤニ・デミトリ
あは、桜の色似合わないっスねえ
いつか連れ添った姿
桜色を映してても身体は人みたいに柔く温くはないし
出会った時にはもう無機物に置き換わっていた表情は相変わらず解らない
思った通りの、思いたくなかった通りっス
しょうもない軽口の変わりの優しい言葉が、これは幻だと告げてくる
あれは誰の隣にも寄り添わない

なのに存外姿が鮮明でイヤだな
誰か解らない位を期待してたんスけど
得たはずの自我が今は無ければ良かった気さえする
特に話しておくこともないんスけど
その姿を見たら何かを感じたりするのか確かめておきたかった

解った以上、もう充分ですね
刃に変えた脚で斬り飛ばします

過去を騙るなんて、やっぱりいけない影朧っスねえ




「あは、桜の色似合わないっスねえ」
 ヤニの目に映ったのは、いつか連れ添った姿。
 桜色を映していても、身体は人みたいに柔く温くはないし、表情は相変わらず解らない。
 出会った時にはもう、無機物に置き換わっていたから、それは仕方のないことかもしれないけれど。
「思った通りの、思いたくなかった通りっス」
 記憶にあるままの姿。案外しっかり覚えているものだ、なんて思いながら、それの声を聞く。
 けれど、しょうもない軽口代わりの優しい言葉が、これは幻だとヤニに告げている。
 ――だって、あれは誰の隣にも寄り添わないから。分かっているのに。
「存外姿が鮮明でイヤだな。誰か解らない位を期待してたんスけど」
 ぐるりと胸に渦巻く、この感情はなんて言うのだろう。ぐるぐるもやもや、不愉快だ。
 もしも自分が自我を得ず、泥のままでいたならば。こんなことを思いもしなかっただろうに。
「特に話しておくこともないんスけど……」
 姿を見たら、何かを感じたりするのか確かめておきたかった。それだけだ。
 だから、その答えが解った以上、ヤニにとってはもう充分。

 ヤニの脚が、ぐにゃと刃に形を変える。
「……痛くないから覚悟しなくていいスよ」
 気の利いた別れの言葉なんてものは出てこないから。言葉の代わりにそれに向かって足を振るえば、それの身体はすぱんと真っ二つ。――実にあっけない、最後だった。
 切り口からぼろぼろと桜の花びらに戻っていく様を見ながら、ヤニはぽつりと呟く。
「過去を騙るなんて、やっぱりいけない影朧っスねえ」
 これで、影朧が見せる夢に囚われていたひとたちも、目が覚めるだろうか。
 それが幸せなことかは、誰にも分からないけれど。もう、この屋敷に迷い込んで帰れなくなるひとは出ないだろう。
 ――ただの桜の花びらに戻ったそれらが、屋敷のなかをぐるりと舞って飛んでいく。
 近くで見ていた猫たちが、桜の花びらにじゃれついたけれど、誰も捉えることは出来なかったそうな。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月02日


挿絵イラスト