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あゝ栄光の地上艦隊

#クロムキャバリア #人民平等会議 #ガガンボ #モノアイ・ゴースト

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#クロムキャバリア
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●何処までも続くタイガよ
 見渡す限りの草原を長い長い車列が走る。車窓から目につくのは、あっという間に後方に流れてゆくちびの針葉樹の群れと、遥か北方に君臨して動かぬ冠雪の山脈。
 レールの上を滑るように駆ける装甲列車の車列は、その雄大な景色に違和感なく溶け込むほどに長い。
 百を越える車両が連結したその殆どは、西方国境区域のプラントから引き揚げられた物資を満載した貨物車だ。食料、弾薬、キャバリアの部品やあるいは予備機として眠っていた機体そのもの。およそ国境に詰める兵士たちを支えていたあらゆる資材が満載された列車は、西の隣国との停戦を機にこれを中央首都に持ち帰るべく駆け抜ける。
 ナロードニク・ソユーズ。この一帯では有数の強国であるこの国を東西に横断する鉄道を駆ける高速装甲列車の群れは、地上艦隊の愛称で親しまれる地上軍の代名詞。
 その車窓から代わり映えのしない景色をつまらなそうに見つめる十代半ばに届くかどうか、という若さより幼さを感じるキャバリアパイロットの少年の肩を、同期の手が叩く。
「トーリャ、中央までまだまだ掛かるってさ。あっちでトランプでもしようぜ。掛け金は今晩のコトレータ」
「ヤーコフ、また賭けトランプか? 同志指導将校殿にバレたら今度は便所掃除じゃ済まないぞ」
 如何にも悪ガキ、といった愛嬌のある笑顔の同胞にやれやれと肩を竦めるトーリャ。楽しみの少ない列車の旅、漸く首都に帰れるとはいえ少年少女たちにはそれまでが長い。
 永遠のようにすら感じられる退屈を紛らわすべく、監督役の大人――彼らが同志指導将校殿と呼ぶ、神経質そうな丸眼鏡を掛けた痩身の男の目を盗んで行われる賭けトランプは、誰が受け継いだわけでも無いのにこの地上艦隊を利用する少年兵士たちの恒例行事となっていた。
「大丈夫だって。今回はラズベリーのジャム一瓶でイリーナのやつをこっちに引き込んだからな。真面目の監督委員ちゃんが問題なしって言えばガリ眼鏡もいちいち部屋の中まで確認はしねえよ」
 賭け事だけでもやれやれなのに、指導将校側に立つべき部隊の代表まで引き込んだというのだから尚更やれやれ、だ。この悪友はこういう悪知恵にかけては根回しもしっかりしている。いっそのこと軍役期間が終わったら政治の道を志してはどうだろうか。きっとコイツは万事恙なく熟してのけるのだろう。
「で、やるのか? やらないのか?」
「――やるに決まってる。お前らの夕飯を総取りしてやるよ」
 少年たちは笑い合って、仲間の集う客車の個室へと歩いてゆく。
 そんな装甲列車の群れを狙うものがあると、その時には誰にも知る由もなかった。

●高速鉄道を護衛せよ
「よか? 新しい仕事の話ばするよ」
 訛り混じりの口調で集まった猟兵達に切り出した佳奈恵。グリモアを扱う手付きは未だに覚束ないし、自信なさげに背筋を丸めてこそいるが長身のグリモア猟兵は仕事の話に関しては生真面目だ。
「場所はクロムキャバリア、ナロードニク・ソユーズ。この辺りではそれなりに強国で通っとぉ国やね」
 その国がつい先日、隣国との長きにわたる冷戦状態に終止符を打った。停戦協定を結んだことで国境に配備した戦力が再配置されることになり、ついでに国境付近のプラントが生産、そのまま直接国境防衛軍に回されていた物資も配分を見直されることになったのだ。
「そん物資と兵隊ば積んだ列車がオブリビオンマシンの支配下にある部隊に襲わるっとよ。ほとんど騙し討ちみたいな奇襲やけん、襲撃されたら列車はひとたまりもなか」
 食料弾薬燃料部品、医薬品に衣料品、果ては――これは列車に乗る一握りの上級将校のみが知る、グリモアをしてそういうものが乗っている、とまでしか予知できなかった謎の「戦略資源」なるものまで積んだ装甲列車は、オブリビオンマシンに操られた警邏部隊の襲撃で脱線、多大な犠牲者を出した上に物資を略奪される運命にあるのだという。
「ただこれはこのまま放ったらかしとった時の話やけん、今から皆には現地に飛んで鉄道ば護衛して欲しかと」
 オブリビオンマシンの悪意による同士討ちで犠牲を出すわけにはいかない。正体不明の戦略資源なるものが、もしさらなる犠牲を呼ぶものであったならば――それも阻止せねばならないだろう。
 漸く停戦という束の間の平和を取り戻した国に戦乱の火種を燻ぶらせないために、猟兵たちは現地へと飛んだ。


紅星ざーりゃ
 おはようございます。
 身体が闘争を求めるあまりクロムキャバリアに囚われた紅星です。
 今回は護衛ミッションです。護衛対象を襲っても隠しパーツは手に入りません。

 一章はオブリビオンマシンの支配下に置かれた部隊との戦闘です。
 やたらと敵機の数が多いのは、お国柄というヤツなのでしょう。パイロットを死なせない程度に爽快に蹴散らしていただきます。
 二章では部隊を統率するオブリビオンマシンとの決戦です。詳細は不明ですが、こちらは指揮官機だけあって生半な相手ではないでしょう。
 三章は無事に窮地を切り抜けた後のお楽しみのお時間となります。物資が無事であるなら、生命の恩人たる猟兵のために多少の融通を利かせてくれるでしょう。

 いずれも冒頭、マスターシーンの掲載直後からの受付開始となります。
 それでは皆様、よろしくお願いいたします。
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第1章 集団戦 『ガガンボ』

POW   :    バルディッシュ並列化偽演粒子コーティングソード
【ユーベルコードで強化した装甲斬撃剣】が命中した対象を切断する。
SPD   :    D2エンジン起動
【補助動力炉D2エンジンを起動する】事で【通常時とは比較にならない高機動戦闘モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    マイナーチェンジ
自身の【各部、兵装】を【対空迎撃用又は対地砲撃用キャノンパック】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猟兵たちが送り込まれたのは、ナロードニク・ソユーズ――人民平等会議の領内を走行中の"地上艦隊"の只中であった。
 はじめは驚き、銃に手を掛け拘束すべきか、と身構えた人民地上軍の将校たちは、しかし猟兵の身分とその目的を知って黙り込む。
「猟兵と名乗る者たちが各地で紛争に介入しているという情報は我々も承知しています。貴方がたがオブリビオンマシンを見抜く力を持つということも」
 最初に口を開いたのは、顔の真ん中を真一文字に走る傷跡が特徴的な強面の大男であった。年の頃は四十かそこら、もしかすると五十に差し掛かっているかもしれない。
「少なくとも走行中の装甲列車にこれだけの大人数で突然現れたのだから、貴方がたが我々の常識の尺度で測りえない力を持つことは間違いないでしょう。同志指導将校大尉、私は彼らの言を信じ襲撃に備えるべきだと考えますが」
 傷の男の言葉に、痩せ細った、しかし陰険な光を丸眼鏡の奥に宿す三十ほどの歳の将校は渋面を崩さない。
「同志大隊長大佐しかしだな我々の任務はただの移送任務ではないのだ貴官のお気に入りの子供たちが大切なのはわかるが党本部は一刻も速い戦略資源の到着を望んでいるのだぞ戦闘を覚悟するならば地上艦隊を減速させねばならんそれでは到着が遅れてしまうだろうここは敵など無視して一息に突破するべきだ」
 息継ぎもなしに早口で捲し立てる指導将校。二人の指揮官が方針を違え、しかし階級上は上であるはずの大佐に指導将校が異を唱え続けることを大佐も受け止めている。
 ――人民平等会議。その異名が示すとおり、ナロードニク・ソユーズでは全て人民は本質的に平等であるのだ。子供も大人も適正があれば等しく労農から軍役に従事することは当たり前。軍においても階級という編成上の印はあれど、上官がそれを以て部下を支配することは認められていない。そんな理念のもと、部隊規模での指揮官による独裁を防ぐために配されているのが指導将校という人物であった。
 しかし実態として指導将校とは国家指導部の意向を兵に伝える伝令役と成り果てている。軍司令部の頭を越えて国家指導部の意向を現場に反映するため、指揮官とほとんど同格の――ともすれば指導将校の方が優越した――権限を持つのが、この国の軍の歪な特徴であった。
 その特徴が悪い方向に出ている。なんとなれば迎撃は自分たちだけで――と猟兵たちが取りなそうとしたその時だ。前方に配置された武装機関車から伝声管伝いに、悲鳴じみた叫び。
「――友軍のパトロール師団が急速に接近、こちらの停止命令に応答なし、通信回線封鎖を認む! ……レーダー照射を確認、ロックオンされています!! 同志大隊長大佐、至急指揮車両へ!」
 ――来てしまったのだ。オブリビオンマシンに操られし軍勢が。無為な言い争いに時間を取られてしまったが為に、敵の接近を察知していながら不意遭遇戦も同然の混戦状態で戦端を開かねばならないことに大佐も渋面を隠せない。
「すぐに行く!」
 手短に返事を返し、それから後方客車や貨物車に繋がる伝声管を引っ掴み。
「西方総軍臨時集成キャバリア大隊"トゥガーリン"の同志諸君、現在我々はオブリビオンマシン支配下の"敵性友軍部隊"の襲撃を受けつつある! 直ちに出撃しこれを撃退せよ!」
 俄に騒がしくなる後方車両。そうして指揮車に向かう寸前、大佐は猟兵達に振り返る。
「我が隊は殆どがまだ若い子供たちなのです。済まないが彼らをよろしく頼みたい。――貨物車のキャバリアも武装も好きに使ってくれて構いませんので」
「待ちたまえ同志大佐我が国の資産たるキャバリアを部外者に委ねるなど正気ではないこの件は首都に戻り次第党に問題として告発させてもらうぞまして損害でも出そうものならばこの全責任は君にあるということを忘れるな!」
 この場に於いて信用に足り、手を貸すべきは指導将校大尉ではなく大隊長大佐であることは外様の猟兵にとっても明らか。
 であれば、喚き続ける痩身の眼鏡を置いて猟兵たちも列車を守るべく出撃するため貨物車両へと向かうのだった。

「あんたらが"親父"の言ってた猟兵ってやつ?」
 出撃の用意を整え並ぶ人民地上軍のキャバリア部隊。これとともに出撃を待つ猟兵達の視線の向こうでは、飛来するキャバリアを装甲列車の機関砲や速射砲が迎え撃っている。
 凄まじい数だが、キャバリアパイロットの少年たちは物怖じをしていない。
「なぁ勝負しようぜ、外の国の人ならなんか良いもん持ってるだろ? コインでもお菓子でもさ。そいつを賭けて撃墜数を競うのさ」
「ヤーコフ、他所様相手にまで賭け事はやめろよ。同志指導将校がキレたら俺たちまで連帯責任にされちまう。なぁ、イリーナ!」
「トーリャの言うとおりよ。さっきは舶来のジャムに免じて見逃してあげたけど、この会話だって録音されてるかもしれないんだからもう庇えないわ」
 わいわいと賑やかな少年少女たちは、何でもないように日常会話を続けたまま次々に戦場に飛び立ってゆく。
「同志猟兵、"お父さん"の言っていたような英雄的な活躍をどうか私達にお見せください。――大隊続け! "同志大佐殿"の信頼に応えてみせるのよ!!」
 蛇のごとく長大な装甲列車。上空を舞うにせよ車上に陣を敷くにせよ、疾走するこれを守りながら雲霞のごとく襲い来る敵のキャバリアを撃退せねばならない。
 だが――猟兵ならば、数ばかりの敵に遅れを取る理由もないだろう。
クルト・クリューガー
ははは!威勢のいいガキだな
勝ったらなんてケチなことはいわねぇ
生き残った奴には外国の板チョコ1枚
更に3機撃墜する毎に1枚追加してやろう
生き残れねぇと味わえねぇぞ、いってこい

……戦場なんて、それ自体が命をかけた賭博場
生き残ればそれだけで勝ちさ
さぁて、お仕事だ
いくぜ、ボギー

列車の屋根の上に陣取り
前線の撃ち漏らしをマシンガンアームで弾幕を張り
撃墜、牽制しながら
UCを発動し周囲の味方に集まるよう呼びかけます
固まれ!敵の目的はあくまで物資
列車が吹っ飛ぶような火力は投射してこねぇ!
大砲持ちは他の連中に任せろ!
弾幕を張れ!近づく奴を蜂の巣にしろ!
敵を近寄らさせなきゃ俺らの勝ちだ!


アルナスル・アミューレンス
おー、いいよーちびっ子達。
面白い物ならあれこれあるよぉ。
全員無事に帰ってきたら勝負してあげるさ。

まぁ、ともあれ虫よけかぁ。
キャバリアってのは初めて見るけど、あれも喰っておいた方がいいかなぁ。
でも飛び回ってるし……。
向こうから近づいてくるなら、一切合切『枯渇(ウバウ)』としましょうか。
討ち漏らしや流れ弾もあるだろうからねぇ。

装甲列車の上へ。
自分の形は保って空を見ながら、足元から黒い「影/水」の様な異形を広げて列車全体を、運行に支障が出ない程度に覆いましょ。
流れ弾も、振るわれる剣も、防ぎ止めて捕食するよ。
空に飛んでも、異形を槍の様に、刃の様に、顎の様に届く限り高速で放ち、対空戦闘もしますよーっと。




「おー、いいよーちびっ子達。面白いものならあれこれあるよぉ」
 ヤーコフの生意気な挑戦に朗らかに応えるガスマスクの男。
 アルナスルはコートの裾を暴風にはためかせ装甲列車の屋根の上を走り抜けながら、預かった通信機で車外の空を並走する人民地上軍のキャバリア隊と言葉を交わす。
「マジかよおっさん! よっしゃ一番いいやつを――」
「待った。おじさんじゃなくてお兄さん、だよ。僕はまだ二十代だからねえ」
 お、おうと狼狽え気味に兄ちゃんと訂正したヤーコフに満足気に微笑んで。
「勝負には乗ってあげるから全員無事に帰って来るんだよぉ」
 任せておけ、と僚友を連れて加速、敵の群れに突入してゆくヤーコフ機。賭け事が絡んでいるからか、それとも根は真面目な兵士なのか。彼の分隊は凄まじい勢いで敵機を撃ち落とし、コックピットブロックを機体から切除していく。
「ははは! 威勢のいいガキだな。よーしお前らの頑張りを讃えて俺からもご褒美を出してやるよ」
 アルナスルの後を追うように、そして彼を狙い急降下してきたガガンボを腕部機関砲で迎え撃ちながら疾駆する半人半戦車の奇異なキャバリアを駆るクルトは、対空砲火飛び交う中に切り込んでいった少年兵達のキャバリアを見上げて発破をかける。
「いいかよく聞け! 撃墜数で勝ったらなんてケチなことは言わねえ。生き残ったやつには舶来の板チョコを一枚くれてやる。更にだ、三機撃墜するごとにもう一枚付けてやろう。生き残らねぇと味わえねえぞ」
 通信越しに沢山の口笛と歓声が聞こえてくる。これはチョコレート代で破産かもな、と肩を竦めて――しかしクルトは思うのだ。己の懐事情よりも心配してやるべき物があると。
「……戦場なんてのはそれ自体が命を賭けた賭博場みたいなもんだ。生き残ればそれだけで勝ちさ」
「生きてるだけで丸儲け、っていうのは誰の言葉だったかねぇ……」
 クルトの呟きにアルナスルがポツリと応え、敵が埋め尽くす空を見上げる。
 キャバリア。飛行能力を有する5m大の人型機動兵器。この世界ではごく当たり前の存在だが、別世界からやってきた彼のような猟兵には初めて見る存在だ。まるで映画やアニメの中から飛び出してきたような巨人が空中で銃弾を撃ち交わし、ときに刃をぶつけ合う姿は凄まじい迫力を以て小人たる生身の人間を圧倒する。
 アルナスルとて身の丈は相応に高い。人類としてはトップクラスの体格だと言ってもいいだろう。そんな長身覆面の怪人をして巨大さを感じざるを得ない巨人の戦場を見上げ、アルナスルは思うのだ。
「……あれも喰っておいたほうがいいかなぁ」
「は? 喰う?」
 およそ想像し得ないセリフにクルトが思わず聞き返し――そちらに一瞬気を取られた瞬間、弾幕を掻い潜ってガガンボの一機が急接近する。
「――チッ! ボギー!!」
 愛機の制御を分かち合うAIに呼びかけるが、彼をしても間に合わない。腕部の対装甲ブレードを構えて装甲列車上に降り立たんとする敵機。装甲列車の砲座も味方撃ちのリスクを恐れて撃てず、そも空から迫る後続を防ぐのに手一杯だ。
「おいおいおい万事休すかよ」
 クルトの戦術はまず敵機を近づけさせないことが大前提であった。敵の狙いは物資の強奪であるのだから、奪うために列車の脱線までは許容するにしても列車そのものを吹き飛ばすような大火力投射はしてこない。必然ミッドレンジでの射撃戦が主となり、こちらは距離を詰めてくるものから順に撃ち落とせばいい――それが歴戦の傭兵クルト・クリューガーの立てたプラン。
 だがそれは装甲列車の対空防御とトゥガーリン大隊の防衛線が正常に機能してこそ成立する戦術だ。そのいずれをもすり抜けてしまう機体が現れるほどの物量はとても常識で図れるものではない。
「パトロール部隊でこれだけの物量だなんて何考えてんだこの国の連中は――」
 ガガンボがブレードを構えたまま車上に着地する。斬撃は踏み込んだほうが威力も高まる。足場があるならば使わない手はない。
 だからパイロットも狂気の中でその戦闘の基本に忠実な機動を行い――そして"喰われた"。
 アルナスルの足元から染み出した影のような異形が、食虫植物の如く飛び込んだ羽虫を捕らえたのである。
「向こうから近づいてくれるなら都合がいいねぇ。一切合切『枯渇』うとしましょうか」
 鼻歌すら聞こえてきそうなほど上機嫌に、異形を広げ伸ばして一両まるごと包み込むアルナスル。思わずクルトが愛機を下がらせるが、敵味方の識別はできるらしくそちらに襲いかかることはない。
 拘束されたガガンボはめき、ばきと固いものが砕ける音とともに解体され、コックピットブロックだけを残して消滅した。
「助かったぜ……エゲツないもん見せられちまったが――」
 見れば先行した一機に続かんとしたガガンボ部隊もその悍ましい光景に恐れを為したか、距離を取るように射撃戦のレンジに引き返してゆく。
「なにはともあれこれで俺の距離だ。ガキども、列車から離れすぎるな! 大砲持ちはヤーコフ達に任せておけばいい、弾幕を張れ! 近づく奴は蜂の巣にしろ! 敵を寄せ付けなきゃ俺たちの勝ちだ!!」
 クルトの指示に呼応して幾つかの部隊が後退し、列車の直掩に回る。そうすれば敵は容易には列車に近づけない。キャバリア部隊の弾幕に追い立てられたガガンボは、クルトの銃撃で翼を砕かれ姿勢を崩したところをアルナスルの放った異形の投槍に貫かれてタイガの大地にフラフラと降着してゆく。
 ガガンボの脚では歩行で装甲列車に追いつくことは出来ないだろう。二人の猟兵と人民地上軍の少年兵たちは、連携で弾薬消費を最小限に抑えながら列車を守り抜く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィリー・フランツ
(POW・連携、アドリブOK)

目的:操縦士を殺さない程度に撃退

心情:(舌打ち)あの指導将校……今は例のオブリビオンマシンを撃退するのが先だな、行くぜヒヨッコ共!

手段:量産型のヘヴィタイフーンMk.Ⅹを持参、コングⅡ重無反動砲とクロコダイル電磁速射砲の予備弾薬だけは使わせて貰う。
出撃したらUC【熟練操縦士】発動、足場の狭い貨車の上で回避は出来ねぇから装甲で受けるしかねぇな。
無反動砲には対空霰弾を装填、直撃させなくても弾幕は張れる、肩の電磁速射砲も連射して列車への接近を阻止するぜ!
おい、ヒヨッコ共は単独で動くな、僚友と足並みを揃えろ!!

現場を知らねぇクソッタレ指導将校殿は口を閉じてろ、通信終了!


夕凪・悠那
はぁ…
(赤い国ってめんどくさー…。仮に眼鏡の意見を聞いても大損害出たら大佐に責任押し付ける気でしょあれ)

まあいいや、それじゃあ感覚を忘れないうちに復習といきますか
前の機体とは特性が全然違うけど、こっちも面白そうだ

クロムキャバリアを借用
信頼性が高く質実剛健な機体――の、カスタム機
ウェポンラックを増設し、火力を増強した機体
電脳魔術でのシステム補助による高精度マルチロックオンで命中力を向上させる(ハッキング+誘導弾)

【戦艦白鯨】を召喚
護衛戦闘機を出撃させると共に、攻撃回数を重視した艤装で面制圧(集団戦術+範囲攻撃)
装甲斬撃剣は白鯨と連携し、接近を妨害することで対処
当たる距離まで近づけなきゃいいんだよ




 大隊の指揮を取る大佐の背後から、不機嫌そうに軍靴で床を蹴りつけながら大尉がやってくる。
 気に入らない。党本部の代弁者たる己の命令に従わない大尉も、突然現れ恩着せがましくも此方を手伝ってくださっているお偉い猟兵様とやらも。
 このままでは敵を撃退し貨物を守りきった手柄はすべて猟兵と大佐のものになるだろう。党の意向が恙なく果たされたとして、それを成し遂げた者たちに反論する一方であったなどと大佐に報告されれば更迭もありうる。
 指導将校がその任に適さないと判断されれば行く先は極東総軍の寂れた港町でフジツボを数える日々か、北方総軍送りになれば吹雪のハドロスク山脈の薄気味の悪い隣国に備えた監視所で氷漬けにされるかだ。
 戦闘になった以上は功績を立てねばならない。幸いにも党本部の意向を伝える指導将校の指揮権限は大佐より優先される。
 大尉は大佐のヘッドセットを不意打ち同然にひったくると、唾を飛ばしながら全部隊に伝わるオープン回線で怒鳴りつけた。
「何をやっている迎撃に出たからには早急に敵を排除しろ不殺など考えるなオブリビオンマシンなどに操られる軟弱な兵士より国家の資産たる地上艦隊とその貨物こそが最優先に守るべきものと知れわかったら突撃だ英雄的に突撃せよ貴様らの命で血路を開け」
 通信機の向こうでは大尉の無茶苦茶な発言に激怒する大佐の怒号が聞こえる。戦闘中だというのに無茶苦茶な命令を通そうとする指導将校にも、それをシステム上抑えることの出来ないナロードニク・ソユーズ人民軍の機構にもほとほと呆れ果てたと悠那はため息を吐いた。
 赤い国とは斯くも面倒なものなのか。たとえ指導将校の指揮に忠実に従ったとしても、それで損害が出ればあの眼鏡はその責任を大佐に押し付けることだろう。
 そんな人格に難のある指揮官が、まだマシな部類の指揮官を押しのけて軍隊を動かすなど半ば悪夢だ。
「あの指導将校は……!」
 悠那と同じ貨物車両にやってきたヴィリーは舌打ちも隠さず大尉への憤りを顕にしていた。
 オブリビオンマシンの襲来という有事において、面子と威信を気にするあまり兵士の命を軽視しているのがその言葉の節々から聴いて取れる。
「おいセルジュー、どうするよ」
「同志指導将校はああ言ってるけど……」
 混乱した様子の護衛キャバリア部隊。このままでは彼らが無為に危険に飛び込んでいくことは間違いない。
 あのヤーコフやトーリャ、イリーナの三人組ほどの腕前ならばそれでも切り抜けるだろうが、大佐とイリーナが割り振った配置的に列車直掩の者たちは技量未熟な者も多い。
 ヴィリーは歴戦の経験からそれを見抜くと、動揺する少年兵達を呼び止めた。
「おい、ヒヨッコ共はここで俺たちと留守番だ。僚友と足並みを揃えて列車を守れ」
「で、でも同志指導将校殿は行けって」
「あのクソッタレ指導将校殿の言うことは聞かんでいい。何か言われりゃ俺が指示したって言ってくれて構わん」
 其処まで言われれば、もともと大佐から下されていた命令を優先するに決心もつく。列車に並走するように飛行するキャバリア隊に満足気に、しかしヴィリーはそのうちの一機を呼び止めた。
「あー、お前。セルジューだったか? お前はこっちで手伝ってくれ」
「り、了解! 手伝うって何を?」
 そりゃお前――セルジュー機を貨物車両の内部に収容して、ヴィリーは後ろの貨物の山を指し示す。
「荷運びさ」

「ありがとうね、セルジュー。さて……感覚を忘れない内に復習と行きますか」
「大丈夫なのかよ、ユーナ。無理して落ちるんじゃねえぞ」
 機体の立ち上げ――貨物として積んであった以上、実弾は装備されていなかった――を手伝ってくれたセルジューの機体に手を振って、悠那の借り受けた重装甲タイプのクロムキャバリアが貨物車両の上部に姿を現せば、一足先に展開し砲撃戦を繰り広げているヴィリーのヘヴィタイフーンMk.Ⅹが入れ替わるように車内に後退してゆく。
「セルジュー、対空散弾と40mmをもってこい! 大佐から使う許可は貰ってる!」
 通信機から聞こえる声に、悠那はなるほどと頷いた。ヴィリーが補給を終え戻るまで、子供たちのフォローは自分の役目ということらしい。
「武装は……高射機関砲にミサイルか、悪くないんじゃない。それじゃ――」
 電脳魔術による火器管制システムの直接掌握。本来の性能を無理矢理に底上げされた機体は、無数に押し寄せるガガンボを視野に収まる限り全て捕捉する。
「撃ち切っても補給の心配が無いのはいいね。全弾発射だ」
 機関砲が巨大な虫の羽音のように唸り、ミサイルが白く尾を引いて空に昇ってゆく。
 少年兵たちが近寄せなかったガガンボどもが被弾し、次々に黒煙を噴き出して降下していくのが見えた。
 そうして空に穴が開く。すぐにでも敵の後続が塞ぎに掛かる穴だろうが、そうはさせない。
「戦艦白鯨召喚、護衛戦闘機は全機出撃、と」
 悠那機がこじ開けた敵陣の空白に巨大な空中戦艦が出現し、その艦載機を一斉に吐き出したのである。
 地上の装甲列車を相手取っていたはずの襲撃部隊は、突然背後である空に出現した新たな敵に驚き僅かに陣形を乱し攻め手が衰える。
「おう、派手にやってんな。こっちも補給終わり、火器管制システムオンライン、センサー・駆動系異常なし、全システムオールグリーン……よし、反撃開始だぜ!」
 そこに補給を終えて戻ってきたヴィリーの機体が肩部レールガンの速射で敵機を追い立て、纏まったところに抱えた無反動砲から対空散弾をぶちまけ撃ち落とす。
 貫通力に劣る小粒の散弾だが航空型の軽装甲キャバリアにはこれがちょうどよく効くのだ。コクピットブロックまでは貫通せず、だが手足のような細い部分は容赦なく砕いてもぎ取っていく礫にガガンボは次々と墜ちてゆく。
 反撃をしようにも白鯨から出撃した艦載機が纏わりつき、ガガンボはそれを振り払うのにブレードを振り回すので精一杯だ。
「次はボクが補給する番かな。セルジュー、30mmの機関砲弾とミサイルのお替り出しといて」
「う、撃ち尽くすのがはやいよ! 弾込めだって結構神経使うんだけど!!」
 交互に戻ってきては大食らいの砲戦機への弾薬補充を要求する猟兵に悲鳴を上げながら、それでも彼らの齎す大戦果が僚友を救うと信じて、少年兵は貨物車両を駆け回る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

イコル・アダマンティウム
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と出陣】
「了解、渡り禽(レイヴン)。敵機を殲滅」
超格闘戦特化の愛機で出撃

使用UC【零距離格闘】
「この先には団長がいる、列車がある
だから行かせない」

<ダッシュ>で列車と並走して護衛
突っ込んできた敵を<ジャンプ>とか体術で近づいて<カウンター>
翼を殴る<暴力><鎧砕き><貫通攻撃>
「これで、飛べない」

「蹴散らす」
特に<団長の支援>で鈍った敵がいたら優先的に近づいて
その敵機を足場にして蹴り墜として次の敵に跳ぶ<踏み付け>


殴った敵機の損傷が少ない時は別の敵にぶん投げて攻撃に使う
<吹き飛ばし><グラップル>
「すとらーいく」

賭け?
「バジル、お菓子あるの?」
「僕も食べたい」

アドリブ歓迎


ユーニ・グランスキー
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と出陣】
アドリブ・連携歓迎
我等を雇ったのは正解だ大隊長大佐殿! 騙まし討ちを撃退する闘争だ!
エレクトロレギオンで団員を支援
列車に攻めて来た敵へ小型機で大弾幕を張り妨害
急接近へは惜しげもなく小型機をぶつけて無力化
敵軍には【ジャミング】と【ハッキング】で照準をずらし通信を妨害して指揮系統を乱し霍乱
団員に指揮して雲霞の如く押し寄せる軍勢を蹴散らす
「あはははは!これこそが闘争だ!気張れよ諸君!」
「往け!渡り禽(レイヴン)達よ!」
「イコル!ワン!アレク!殺さず蹴散らせ!」
「ナイスだリリウム攻め続けろ!多喜は合わせて支援だ!」

賭け
「面白い!我等に勝てたらフルコースをくれてやる!」


リリウム・マーセナリー
※アドリブ・連携歓迎
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と出陣】

「さて、こうして何かに属して戦うというのも、久しぶりですね。……柄に無く滾ってしまいます」

愛機『ホワイトアウト』に狙撃型量産機のパーツを強引に装着して狙撃に徹するとしましょう(スナイパー)【選択UC(射程5倍/機動力半減)】。
高い火力(貫通攻撃)は【威嚇射撃】としては十分。護衛対象に近づけさせないのが最優先、勿論武装を中心に狙い、無力化を図りますが。コックピットさえ無事なら大丈夫でしょう。

「団長、これで宜しいでしょうか?」

ある程度敵が片付き次第、換装したパーツは投棄、通常状態の愛機で戦闘継続します。


ワン・イーナ
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と出陣】
ハ、賭けにならねぇよ
やるか?じゃ俺らが勝ったら武勇伝を聞かせな

・SPD

「愛しのワルキューレ、敵の戦闘知識(データ)は?」
『強力なブレードを装備。機動と格闘に優れています。注意を』
「了解。エインヘリャル起動。団長の指示でやるぞ」

ハン、<空中戦>なら負けねェ。推力最大で突撃し<レーザー射撃>
乱戦密集じゃぁぶつけるのビビッて速さは活かせねェよなァ!
んで全身のスラスターで鋭角軌道とりつつオーバーブースト・マキシマイザー発動<限界突破>の速さで<推力移動>し一斉発射で食い破る!
列車を優先するなら後ろから食う、よそ見しても邪魔しても撃墜だ

「遅せェよ七面鳥共」

アドリブ改変等OK


数宮・多喜
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と出陣】

さぁて〈渡り禽〉としちゃ正式な初陣か、
アタシもせいぜい足を引っ張らないようにしなきゃぁね。
最初から"Overed"を呼び出して『騎乗』しておくよ、
少しでも『操縦』勘を養っておきたいからね。
今回はしっかり武装も備えておいて……と、来やがったな!

団長の『ジャミング』と『ハッキング』を同調させるように増幅し、
その裏で友軍に【超感覚網】でテレパスの通信系統を構築するよ。
これで奴らは大混乱、こっちは盤石で迎撃できるってもんさ。

もちろんアタシもブラスターで『援護射撃』しつつ、
"英霊"で味方を『かばう』ように『盾受け』させるのも忘れない。
このままアタシらがお菓子総取りかねぇ!


アレクサンドル・バジル
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と出陣】
俺達を猟兵と認識するか。耳が早いな。
まあ、話が早くて助かるぜ。ああ、キャバリアは自前ので行く。
(『無限収納』から『スルト』を召喚して搭乗)
スルトに黄金の魔力を纏わせ飛翔。(戦闘モードⅠ)
敵に突貫。(殲禍炎剣に引っかからない程度の高度を維持)
『スルト・コックピット』により、ゴッドハンドの体術をスルトで完全再現。コックピットは避け、四肢を破壊して戦闘能力を奪っていきます。
(グラップル×部位破壊)
敵POWUCは見切って回避からのカウンター

ハハ、賭け? 百年はえーよ。
そうだな、ちゃんと生き残ってたら美味い菓子をやるよ。
ん、イコルもか。良いぜ、楽しみにしてな。怪我すんなよ?




「戦況は我が方が優勢に推移していますが、敵の攻勢が衰えない。大隊も猟兵の皆さんも良くやってはくれているが……」
 喚き散らしていた大尉を指揮車から叩き出し、適当な客車に詰め込んで。
 ようやく正常な喧騒を取り戻した指揮車で大佐は傷跡を指先で撫でながら唸る。
 どうにも敵の勢いは留まるところを知らない。ガガンボの推進剤容量と巡航速度からして、如何に地上艦隊がキャバリアを展開するため速度を落としたとはいえ最初に接敵したパトロール師団くらいはそろそろ完全に振り切ってもいいはずなのだ。
 だというのに敵は無尽蔵に襲来している。ということは、だ。
「考えたくはないことですが、鉄道路線沿いに配備されたパトロール部隊の殆どが敵の支配下にあると想定したほうが良いようだ。つまり我々は絶対的に手が足りない」
 出ずっぱりのトゥガーリン大隊の面々はそろそろ燃料弾薬ともに残少、一旦帰艦して補給を受けねばならない。
 その間の直掩を担える者は――
「なるほど、そういうことなら我等を雇ったのは正解だ大隊長大佐殿!」
 自信満々に胸を張るのは、同じく自身に満ちた表情で笑む長身の少女。
「その任務、我等<渡り禽>が確かに請け負った! ――というわけだ団員諸君、我等の初陣だぞ、派手にやろう!」
 通信機越しに聞こえる、百戦にて練磨のキャバリアパイロット達の呼応する声。彼らに並ぶべく貨物車に向かう少女の背を見送って、大佐はつぶやく。
「あれが傭兵、か……同志指導将校大尉が不在で本当に良かった」
 頼もしい味方だが、武と命を鬻ぐものとは資本主義の極地にも近い。あの神経質な指導将校がこの場に居れば、彼らの力を借りるくらいなら子供たちに弾薬も推進剤も無いような状態で継戦を強要するくらいはしただろう。
 けれど、だ。
「頼もしい味方には違いない。が、あの子もまだ子供じゃないか……!」

 渡り禽の面々出撃する。少年兵たちが補給を受け、万全の状態で再出撃を果たすまでの一抱えの金より貴重な時間を稼ぎ出すために。
 ゆっくりと、徐々に防衛線を縮めて各々空いた貨物車に収容されていく大隊のキャバリア達。だが、その中でたった三機だけ交代せずに戦い続ける者がいる。
 ヤーコフとトーリャ、イリーナの分隊だ。
「おいおい何をやってるんだ! 君たちは後退したまえ、あとは我等が引き継ぐ!」
 ユーニが呼びかければ、それに応じるのはヤーコフだ。やや疲れを感じさせるが、まだまだ生意気盛りな表情でユーニに反抗する。
「そっちこそ何言ってんだ、もともとこれは俺らの仕事だぜ。それにな、まだ撃墜数が足りねえよ! 賭けに勝つにはもっと相手をビビらせるくらいの結果を出さなきゃな!」
「……というわけでこのバカを放り出しておけないからな、イリーナやるぞ!」
「はいはい。あなた達、戻ったら同志大佐から大目玉食らうわよ」
 少年らしく騒ぎながら敵陣で暴れまわる三機は、なるほど後退命令を拒むだけあって見事な機動でガガンボの群れを散らしていた。
 トーリャが狙撃で動きを封じた機体をヤーコフがソードで仕留め、イリーナが二人をフォローして敵機から守っている。ユーニはそんな少年たちの姿にいいじゃないかと破顔した。
「あれで大佐殿のお気に入りじゃなければぜひとも引っこ抜いて帰りたいところだが――諸君! いよいよ待ちに待った闘争だ! 気張れよ!」
 dunkel Onyxの名を冠した、細身の流麗な女性型が飛び立てば、それに続いて複数のキャバリアが貨物車から現れた。
「ハハ、ガキどもが賭け? 百年はえーよ。だがまあ、そうだな。ちゃんと生き残ったら美味い菓子をやるよ」
 耳の早い大佐殿に恩を売れば、今後の人民平等会議領内での活動にも融通が利くだろう。そのための布石として小生意気な少年兵とも仲良くしておくに越したことはない。アレクサンドルは僅かな打算と、そして生意気な口を叩くだけの事はある少年兵への称賛を込めて賭けに乗ってやった。
「バジル。……バジル、お菓子あるの?」
 その言葉に思わぬ方向から反応があった。イコルだ。赤い瞳でじっとアレクサンドルを見つめる寡黙な少女は、物欲しげに青年の瞳をモニター越しの視線で覗き込む。
「僕も食べたい」
「あっはっは! いいじゃないか、じゃあ大隊の子達が戦線復帰するまでに誰が一番多く敵をやっつけたかで勝負といこう」
「ふむ……それなら勝ったものにはフルコースを奢ってやるぞ!」
 多喜がそう取りまとめれば、ユーニが商品の上乗せを提案する。そうすればお腹いっぱい食べられる予感に、イコルはどこか無気力さを感じる無表情のまま闘志を燃やす。
「やる。僕が勝ってお菓子もフルコースももらう」
「ん、イコルもやるか。いいぜ楽しみにしてな。頑張りすぎて怪我すんなよ?」
 アレクサンドルの黒い機体が瞬く間にユーニの機体を追い越して手近なガガンボに突進していく。
 突撃するスルトが金色に輝けば、まるで砲弾の如く超加速してガガンボをその腕で捕らえた。
 出力が違いすぎる。逃げようとしたガガンボは、しかし掴まれた手を中心に自身のスラスターに振り回されてくるくると旋回するばかり。
「コックピットは避けるんだったな」
 忘れちゃいけねえ、と呟いて、アレクサンドルの操るスルトはまるで人体さながらの流麗な所作でガガンボの四肢をへし折っていく。
 関節部のみを正確に破壊された機体はもはや戦闘など不可能であろう。フラフラと墜落していくならばそれを追い打ちまではせず、次の相手を――
「おっと危ねえ」
 僚機が拘束、破壊されていくその瞬間すら囮として対装甲剣を構え突撃してくる機体。いい割り切りと覚悟であろう。格上を相手に最小の犠牲で戦果を得ようとする、兵士としてはやや冷酷なきらいはあるが優秀なパイロットが乗っているに違いない。
 が、機体性能差はもちろん相手が悪かった。
 すんでのところで見切り回避、そしてカウンター。突き出された刃を躱し、左腕を掴んで肩口から引っこ抜く。部品とオイルを散らして姿勢を崩した機体を解体して放れば、それを地上で――そう、地上でだ。Last ONEの青い機影は主脚走行にて地上艦隊と並走している――見上げたイコルはその技量に感嘆の息を溢す。
 そうして余所見をしている陸戦機があれば、それを見逃す者はいない。
 急降下の勢いに乗せ補助動力を起動、高機動モードで強襲を仕掛けるガガンボをイコルは――
「速い。けど、僕ほどじゃない」
 跳躍。脚部ブースターの噴射も込みでビルの数階分ほど跳んだLast ONEの下にガガンボが潜り込む形になれば、青のキャバリアは空中で身を捻りその翼の上に両手で着地し――そのまま砕き折る。
 主翼を喪ったガガンボはそのまま地表に叩きつけられ、土砂を撒き散らしながら滑走しコックピットブロックを吐き出した。
「手間が省けた。これで蹴散らす」
 そうして出来上がった、ガガンボだった残骸を引っ掴み、Last ONEはそれを振り回して空へと放り投げる。
「すとらーいく」
 見事残骸が直撃したガガンボが僚機を巻き込み姿勢を崩し落ちゆくのを、イコルは相変わらずの無表情で見送っていた。

「おいおいあいつらもやべーな! 見たかよトーリャ、ありゃジュージュツか? ガガンボの手足が枝みたいに折れちまった! あっちはあんな高度までキャバリアを投げ飛ばしちまうし……」
「ハ、誰に賭けを挑んだか思い知ったかよ。俺ら相手に勝負になるかっての」
 興奮冷めやらぬヤーコフに自慢気に食って掛かったワンは、同年代の軍人を相手にまるで旧来の悪友のように売り言葉と買い言葉の応酬を繰り広げる。
「ンだこのガキ。見学の坊っちゃんは大人しく見てなっての」
「あぁん!? 言ったな? 俺とも勝負するか? じゃあ俺が勝ったら武勇伝を聞かせな!」
「ハッ、そんなン一晩中だって語ったらあ! 勝つのは俺たちだけどな! トーリャ、イリーナ、ペース上げるぞ!!」
 やれやれと肩を竦めるイリーナとユーニ。敢闘精神旺盛なのはいいが、もうちょっと仲良く出来ないものかと二人の少女指揮官は通じ合う。
「ま、こうやって焚き付けたおかげで敵のデータは効率よく集まるわけだ」
 ヤーコフたちが果敢に攻め始めたおかげでガガンボの動きも活性化している。操られているパイロットたちも技量と機体性能の全てを駆使して才ある少年兵たちと激戦を繰り広げているのだ。
「愛しのワルキューレ、敵のデータは?」
《強力な対キャバリアブレードを装備。機動性と近接白兵戦性能に優れています。注意を》
「了解、エインヘリャル起動。あいつらにだけは絶対負けるなよ」
 もはや敵機を敵機とも思わぬほどの絶対の自信。ワンは愛機を――その鉄巨人を共に操る自身の至高の傑作たるAI、ワルキューレを信じている。彼女とともにあれば、有象無象ごときに遅れを取るなどあり得ない、と。
 ――エインヘリャルが翔び、最大推力で戦場を貫徹する。
 機体背部のレーザー砲が瞬く度にガガンボが火を噴いて墜ちてゆくが、その戦果を確認することすらせずおよそ人型機動兵器の限界に近い超機動でガガンボの群れを切り裂いていったのだ。
「はン、密集乱戦じゃ衝突にビビるよなあ!」
 ガガンボは味方機に衝突することを警戒するあまり、機動に制約がかかっているがエインヘリャルはぶつかりそうになれば撃ち落とすだけ。
「遅ェよ七面鳥ども!」
 存分に暴れまわる戦乙女の姿に満足気に頷き、ユーニはいよいよ号令を下す。
「戦端は開かれた! さあ往け渡り禽達よ!」
 dunkel Onyxがビットを放ち、空を地を駆ける朋友に群れの長の加護を与える。
 死角を守り、砲弾を防ぐ黒曜石の羽根は、強引に接近を図る機体にはその身を犠牲にするように体当たりをして反撃の機を作り出す。
「イコル! ワン! アレク! 殺さない程度に蹴散らせ!」
「ん。蹴散らす」「言われなくても!」「ハハ、我等が団長殿に良い所を見せつけなきゃな」
 三者三様に応えながら、それぞれの磨き上げた武でガガンボを蹴散らす傭兵たち。
「――リリウム、あの三人が掻き回した穴を埋めさせるな! 多喜はリリウムの支援!」
 大暴れする三機に対し、静かに機を伺っていたのがホワイトアウトとOveredの二機だ。
 静かに雌伏していた二人は、いよいよ満を持して動き出す。
「今回で少しでも操縦感を養っておきたいからね。武装もしっかり備えておいたし、いつでも行けるよ!」
 キャバリアサイズのブラスターで対空迎撃を開始するOveredだが、それはあくまで副次攻撃。本命はサイキックキャバリアの持つ精神波増幅能力による同調にある。
 指揮官機たるdunkel Onyxの電子戦能力の影響を受け、機体をハックされ空間識を失調したパイロットの感覚を伝染させればそれだけで敵陣は恐慌に陥るだろう。
 逆に味方それぞれの視野を情報として共有する事もできる。リリウムのコックピットには、敵陣に切り込み奮戦する僚友三機の視界が観測情報として表示されているはずだ。
「これで相手は大混乱、と。どうだいリリウムさん、見え具合の方は」
「良好です。――さて、こうして何かに属して戦うというのも久しぶりですね」
 ふぅ、と息を吐く。ホワイトアウトに接続した人民平等会議製の重狙撃型キャバリアのパーツは、急造とはいえよく馴染む。
 狙撃用センサーが狙撃用という割に精度に難があったのだけが気がかりだったが、それも多喜の寄越した統合観測情報が補えば無視できる。
「……柄にもなく滾ってしまいます」
 奮戦する同胞戦友の助けを借りて戦う。亡国の民であるリリウムには久しく得られなかった感覚に、鼓動が微かに跳ねるような錯覚。
「目標を捕捉、射線に友軍機なし。ファイア――次」
 狙撃砲が跳ね上がる度、吐き出された砲弾がガガンボの手足や翼を破砕する。 コックピットを避けるあまり、ダメージこそ与えても撃墜には至らないこともある。単独で活動していた頃なら反撃で撃破されてもおかしくはない失敗だろうが、今は違う。
 片腕を喪いながらもマシンガンを構えたガガンボの残る片腕を、スルトが捻り上げてへし折った。
 翼を失って尚機体を地上艦隊に向け、自爆まがいの急降下を仕掛ける機体には地上から跳び上がったLast ONEの蹴脚がそれを弾き返す。
 頭部を喪い四方八方に出鱈目な弾幕を張る機体は、dunkel Onyxのビットがその武装を奪いエインヘリャルがトドメとばかりに手足を落とす。
 フォローはある。独りなら失敗でも、連携ならば許容できる。一射一殺に拘るあまり機を逃すこともなく、そして万一反撃されても直掩の多喜がカバーリングに入ってくれるおかげで、リリウムは最大のポテンシャルを発揮出来たという手応えを得た。
「狙撃支援を終了します。団長、これで宜しいでしょうか?」
「ああ! ナイスだリリウム! これは賭けも我々の勝ちかな?」
 ユーニが笑えば、ヤーコフが吠える。
「チッ、まだ俺たちが負けたって決まったわけじゃねえだろ!」
 貨物車両から大隊のキャバリアが再出撃してくる。渡り禽の仕事はひとまず此処まで。できる傭兵は契約範囲をキチンと守るものだ。たとえ善意であろうと、無駄に踏みとどまったりはしない。
「総員そこまで! 一旦撤収だ、もちろん大佐殿から依頼があれば再出撃もあるからそのつもりで気を抜かないように!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

才堂・紅葉
“親父”と慕う姿に少しだけ過去の自分を重ねた

「そうね。もしあんたの三倍落せなかったらこの銃をあげるわ」
値打ち物っぽい古びたリボルバーを見せ付ける
「結果が楽しみね。ヘマるんじゃないわよ?」
にっと笑んで、指を鳴らし迦楼羅王を召還

・方針
六尺棒を三節に伸ばし敵機を打つ。威力は重力【属性攻撃】で底上げだ
近くには棒で、遠くには三節で敵機を迎撃する。素早い相手は【戦闘知識、見切り】で攻撃を“置く”のがコツだ
相手が引き気味になれば攻める。機構靴の【メカニック】で跳躍して相手を捕え、踏み台にして跳ぶ事を連続する【捕縛、グラップル、重量攻撃、早業】

「気を抜かない!」
紋章板の【結界術、拠点防御】で子供達も支援したい


チトセ・シロガネ
初めて降り立った世界でボクは……プラントの事故でキャバリアの頭脳になっていた。
いつもより2倍ちょっとほどビッグになった自分の体に戸惑いを覚えつつ、戦場の匂いを嗅ぎとれば回収された貨物室から飛び出す。

とりあえず、目の前の兵士たちに襲い掛かるそれはオブリビオンであることはアンダースタンドしているから体が勝手に推力移動で弾雨迫る彼らの前へ飛び出すヨ。

とっさに手を前にかざし、オーラ防御……と同時にUC【アストラル・ブルー】が発動! 弾丸の物理エネルギーや砲弾の熱量を自身のエネルギーへ変換されるのを確認、カウンターのホーミングレーザーをぶっ放してやるネ。

この体、ビッグだけどいい性能してるネ。




「これで何機目よ……!」
「二十から先は数えてない!」
「もう百機くらい撃ち落としたんじゃねえの!?」
 実際にはそれより少ないだろうが、そう錯覚しても仕方のないほどの数を迎え撃った少年兵達の疲労は色濃い。それでも尚彼らを戦場に踏みとどまらせるのは、
「親父の期待に応えなきゃな……! イリーナ、トーリャ、ヘバるんじゃねえぞ!」
「突撃バカのお前が一番心配なんだよ!! くっそ、突っ込む前に予備弾倉置いてけ! どうせ使わねえだろ!」
 ヤーコフとトーリャの悪友コンビの応酬に眉間を押さえて、イリーナは分厚く重い眼鏡のズレを直す。
「貴方達のそれがお父さんの頭痛のタネだってわかってやってる!? ああもう、大隊は中隊規模で分散して鏃型隊形! 地上艦隊と並走して直掩よ! 補給してきたんだからしっかり車列を守りなさい!」
 いくら自分が消耗していても、いくら戦友たちが補給を受け多少マシな状態でも、あの特級のバカに随伴してフォローをできるのは自分だけだ。
 西方国境地帯の寒村でストリートチルドレンをやっていた頃からの長い付き合いのおかげであの二人の連携に合わせられるが、掛け値なしのエース級の実力を持つがゆえに自身の技量に頼りすぎるきらいのある彼らと練度未熟を連携で補う大隊の相性はいいとは言えない。
 その橋渡し役として、戦術指揮の才覚を発揮し大佐や二人との信頼厚いイリーナが苦労を一手に担っているのだ。
「あーもう、お腹痛い……でもこれもお父さんのため……!」
 そんな声が通信機から漏れ聞こえてくれば、紅葉は思わずふっと肩の力を抜いて口元に笑みを浮かべた。
「父親、か……」
 思い返すのは傭兵団の仲間たち。父であり兄であり戦友であった彼らを慕う過去の自分と、大隊長大佐を父と慕う少年兵達が重なって見えたのだ。
 きっと大佐は軍人として人間としてだけでなく、大人としても彼らを導くに足る人格者なのだろう。その指導を受けて少年兵たちがいったいどんな大人になるのかを楽しみに感じて、だから尚更に彼らを守らねばならないと決意する。
「あの子達を生きて大佐のところに返すわよ。――迦楼羅王!!」
 高らか掲げた指を鳴らせば現れ出るは黒鉄の巨人。身の丈ほどの長柄の棒を武器とするその機体に飛び込めば、アイセンサーに炎の如き輝きを宿し、首元からはまさしく炎を襟巻きのように噴出した迦楼羅王が列車の上に立つ。
 頭上はあの三人組がよく抑えている。此方の相手は地上スレスレを滑翔し、地上艦隊の対空砲火をすり抜け迫る敵部隊だ。
「こっちにも結構来てるじゃない。ヤーコフ、これはあんたのトリプルスコアは堅いんじゃない?」
「はぁ!? やれるもんならやってみやがれ! ぜってえ負けねえ!」
 いい返事だ、と紅葉は不敵に笑いかけた。撃墜数に拘るあまり肩に力が入っているわけでもなく、かといってこちらに気圧されるわけでもない。
 これでもう少しトーリャ、イリーナの事を省みるゆとりを持てばいいパイロットに育つだろう。
「そうね、じゃああんたの三倍落とせなかったらこの銃をあげるわ」
 コックピットに据え付けられたカメラに見せつけるように、古いが質のいいリボルバーを抜いて。
 だがこれを易々とくれてやるわけには行かないと、紅葉は飛来したガガンボを棍で叩き伏せ装甲列車から振り落とす。
 土煙を上げて地面に落下し大破した機体には目もくれず、大隊の防空網を突破した敵機を次々にいなして捌いて捻じ伏せれば、あっという間に撃墜数は増えてゆく。
「このペースだと結果が楽しみね。焦りすぎてヘマするんじゃないわよ?」
 突撃は危険と判断し、地上艦隊の弾幕に晒される覚悟で中距離射撃戦に移行した敵部隊を迦楼羅王は逃さない。
 棍が届かない距離ならば手も足も出ない? なるほど、道理だ。相手の攻撃範囲外から一方的に攻め立て脅威を排除するのは常道の戦術に相違ない。
 ――だが、これがただの棍だといつ、誰が言ったのだ?
「悪いけど私の撃墜数になってもらうわよ」
 しゃらりと棍が三つに割れ、鎖で繋がったそれらを鞭のように振るう迦楼羅王。不意打ち気味の薙ぎ払いに対応できたガガンボは極僅か、その殆どがただの一撃で纏めて地面にぶち込まれる。
「すごい……」
 誰が零したのか、その呟きに同意するように呆然と一掃された低高度空域を漂う大隊のキャバリアを狙って、薙ぎ払いを間一髪回避した機体が襲いかかる。
「そこ、気を抜かない!」
 紅葉の叱責に正気を取り戻した時にはもう遅い。振りかぶられた対装甲剣に、思わずコックピット内で身を捻り逃れようとするパイロットの少年――だが、その時は一向に訪れない。
 恐る恐る目を向けた眼前、剣は迦楼羅王の放った鎖付きの金属板に受け止められ火花を散らしている。
 反撃せねば――慌てて敵機を照準する少年兵の眼前で、貨物車両から飛び出した青い閃光がガガンボを貫いた。

 ――時は遡り数日前。
 西方国境地帯のプラントで一つの事故があった。
 偶発的にレプリカントやジャイアントキャバリアをプラントが産出することはままあることだが、そのジャイアントキャバリアが無人のまま起動したのである。
 脳なき巨人であるはずのジャイアントキャバリア素体がコックピットを組み込まれる前に自力で稼働することなどほぼあり得ない。その機体はほんの短時間だけ活性反応を見せ沈黙し、人民地上軍に回収された後「脳がある」という驚愕すべき事実が明らかになった。昏睡状態のその巨人を詳しく解析するべく、首都の科学アカデミーに輸送する――それも今回の地上艦隊の任務の一つだった。
 閑話休題。そのジャイアントキャバリアことチトセは、都合二度目の目覚めで大欠伸――後、周囲に積み重ねられたコンテナから自身の置かれた状況に困惑する。
 目が覚めたら乗った覚えのない列車の中に居た。まあいい。たまによくあることだ。が、その内装といい周囲のコンテナといい、これはどうにもミニチュアじみている。
 なんとなくだが眠る前にもミニチュアの町並みを見たような……というところで、もしかして自身が大きくなったのでは、というところに思い至った。
「ワーオ……ボクってばまだまだ成長期だったのカナ……」
 いくらなんでも成長しすぎな気もするが、UDC由来の義体を使っているのだ絶対に無いとは言い切れない。
 と、そこまで考えたところで衝突音。見慣れぬ細身のロボットが車窓の向こうで地面に叩きつけられそのまま後方に流れていった。どうでもいいけれど人間サイズの窓から外を伺うのはなんとも窮屈である。チトセはおもむろに走行中の貨物列車のハッチを開き、頭を突き出して様子を伺う。
「さっきのロボットはキャバリアカナ? てことは此処はクロムキャバリアネ、オーケーオーケー把握したヨ」
 ついでに細い方からはオブリビオンの気配を感じる。一帯を包み込むような激烈な気配に比べれば薄いそれは、そのものというより操られているように感じて取れた。
 そんな操られている機体が列車を守ろうとする機体に襲いかかり、車列の上に立つ黒い機体が庇うように鎖付きのプレートでそれを遮る。
 そこまでを見て、チトセは半ば本能的に貨物車両から飛び出した。
 彼女の意に従い放たれた青色のレーザーが敵機――ガガンボを貫き、パイロットを強制脱出させた後に爆散する。
「た、助かっ……ああっ、積み荷のジャイアントキャバリア!!」
「ンー、そんな名前じゃなくてボクのことはチトセって呼んで欲しいナ」
 ジャイアントキャバリアとはいえ見た目はもともとのチトセによく似たグラマラスな女性型だ。それがいたずらっぽい笑みとともにウィンクなどすれば、コックピットの中で少年兵は頬を染めて頷くしか無い。
 少年の性癖を歪めてしまったことに気づく由もなく、チトセは敵陣に飛び込んでいく。
 ちょうど迦楼羅王を相手に生半な距離では不利と悟ったガガンボたちは、遠距離砲戦の陣形を組んで地上艦隊を狙っていた。そんなところに新手のジャイアントキャバリアが猛然と突撃してきたのである。
 たまらず照準を迦楼羅王からチトセに切り替えた敵部隊が砲弾のありったけをぶちまける。チトセは被弾の予感に咄嗟に手を翳し、いつもどおりのオーラ防御でそれをいなそうとする――が、発動したのはオーラと言うよりバリアと呼ぶべき強固なフィールドであった。
 青い結界に着弾した弾頭は急速に勢いを喪い落下するか、榴弾の類は本来のそれと比較すれば極小規模な爆発とともに崩壊して飛散する。
 ではそれらが本来発揮するべきであった威力、エネルギーは何処に消えたのか――
「なるほどネ。この体、ビッグだけど良い性能してるじゃナイ」
 答えはチトセの手の中に。バリアを介して変換された純粋エネルギーを励起し、花が開くように放たれたレーザーが砲撃部隊を一層する。
「状況はわからないケド……ひとまずこれでヨシ、カナ?」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『モノアイ・ゴースト』

POW   :    バリアチャージ
【バリアを纏った】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【支援機】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    パルス・オーバーブースト
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【オブリビオンマシン】から【光学兵器による一斉攻撃】を放つ。
WIZ   :    ゴーストスコードロン
自身が【敵意】を感じると、レベル×1体の【支援キャバリア】が召喚される。支援キャバリアは敵意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 同志指導将校大尉――名をヴィクトル・セルゲーエフ・コシチェイという男は、虚栄心が服を着て歩いているような人間であった。
 親から褒められたいという一心で学業に打ち込み、他者から優れた人間だと思われたいが為にエリートコースである軍士官アカデミーに進み、そして国家から有用な人材だと重用されるために党への忠誠厚い指導将校たらんと振る舞ってきた。
 党の政治的目標を達成するためならば軍人の正論を捻じ伏せるだけの弁舌と権力を行使してきた彼が、戦争孤児たちを集めた戦闘部隊を編成していると問題視されていたかの大佐のお目付け役としてこの大隊に配属されたのは飛躍のチャンスであったと言えよう。
 問題児だらけの大隊を監督し、党の意向に従順でない大佐を制御して任務を成功に導く。その先にあったのは党本部でのポストと不朽の栄光だったはずだ。
 だが、現実はどうだ。大佐とそれに同調する蒙昧野蛮な軍人たちによって指揮系統から切り離された今、彼に待つものは大佐の牽制に失敗したという事実。
 それは党の意向を軍部が受け入れなかったということ。これが知れれば、党は指導将校が力量不足であったと判断するだろう。なぜなら大佐の大隊は得体のしれない傭兵部隊と協同しつつも、地上艦隊の防衛を成功させつつあるのだから。
 あの男が栄光を手にしつつある今、反対に自分はそれを失おうとしている。許せない、許せるものか。そんなことはあってはならないのだ。
 放り込まれた客車のドアは、手を掛ければいとも容易く開く。独房ではないのだから、外から鍵を掛けられるわけでもない。当然のことなのに、先程までさも出られないと思い込んでいた自身を鼻で笑い、大尉は地上艦隊の車内を後方車両に向けて歩んでゆく。
 窓の外では猟兵や大隊と交戦したガガンボが次々に落とされてゆく。
 無尽蔵にも思えたガガンボの数に陰りが見えてきたのは、地上艦隊がそろそろ首都防空圏――パトロール部隊を必要としない重監視領域に侵入するからであろう。
 ――関係のないことだ。襲撃を切り抜けた実績は大佐達のもの。此処まで戦闘せず強行突破すべきと主張した己の判断が誤っていたかどうかはわからないが、自身が否定した迎撃論が結果として地上艦隊の損害を抑えたのだから党本部はそう判断するだろう。
 党本部の同志たちは軍人ではないのだから、戦術、戦略的な妥当性よりも結果をのみ考慮するはずだ。そうして大佐が為した愛国的、英雄的な防衛戦を喧伝するに違いない。
 ――もう、どうでもいい。どのみち己が満たされる道はない。
 惨めな辺境勤務か、下手をすれば党からの除名もありうる。そんな状況で忠誠心などと騒ぎ立てるつもりはない。
 ――むしろ、どうせ破滅するならば。
 足を止めたのは"戦略資源"のコンテナが満載された貨物車両。そこに一機のクロムキャバリアが鎮座している。
 かつて東方同盟戦線への侵攻の際に撃破された我が軍の古い機体だ。回収され、首都にて修復の後停戦記念式典の警護部隊に譲られることになる大事な貨物。
 そのコックピットが開いているのを見て、大尉はふと胸中に湧き上がった衝動に従い機体に滑り込む。
「どうせ破滅するのであれば党本部に切り捨てられるのならば大隊の同志達に最後に――」
 罪滅ぼしとは言わない。党に忠実であった己の言動が罪であったはずはないから。だが、少年少女に対していささか厳しすぎたと反省するところも無いではない。その仕打ちの償いではないが、別れる前に一度くらいは手助けをしてやろう。古い機体は意外なほど素直に起動し、機体に灯が入る。単眼が輝き、そして――
『――最後に共に地獄に落ちよう同志諸君いいかね私に従いたまえ私の意向は党の意向国家の意向なのだから』
 眼鏡の奥で揺らめくその眼差しは、機体の単眼と同じ昏い光を宿していた。

「――火器管制システムが! だめだ、出力も戦闘レベルまで上がらない!」
 ガガンボと交戦していた大隊の直掩機が次々と戦闘システムをダウンさせていく。同時に全くガガンボも攻めてこなくなったのが不幸中の幸いであり、不気味な気配を感じずには居られなかった。
 列車から離れていたヤーコフ、トーリャ、イリーナの三人と猟兵を除けば、この戦場のほぼすべての機体が突然戦闘を停止したのだ。
 数十秒か、数分か。機体を再起動させようとする少年たちの苦闘が無線で漏れ聞こえ、そして復旧を喜ぶ歓声と共に通信が途絶した。
 と同時に、友軍機であるはずの猟兵やヤーコフたちをロックオンするトゥガーリン大隊の機体たち。
「バカやめろ! 冗談にしても巫山戯すぎだぞ!」
 トーリャが彼らを窘めるが、それにも応答はなく、ただ一人状況を把握するべくあらゆるセンサーを注視していたイリーナが声を荒げる。
「全機回避機動! 最後尾貨物車両に高熱源!」
 イリーナが叫んだ直後、貨物車両の屋根を突き破って飛び出したクロムキャバリアがレーザーライフルを三機に浴びせ撃つ。
 かろうじて回避した三機はすぐさま反撃をするが、銃撃も斬撃も機体を覆う不可視のバリアフィールドに阻まれ届かない。それどころか、ガガンボの生き残りはおろかトゥガーリン大隊の機体までもがそのアンノウンを守るように集まってくる。
『ヤーコフそれにトーリャまた君たちかイリーナ君まで加担しているとは嘆かわしいな君の忠誠心には期待していたのだがまあいいたかが三機だすこしばかり先に死なせても許容範囲だろう同志大佐の嘆く時間はほんの僅かで済む安心したまえ』
「……ガリ眼鏡か! てめぇ……」
「同志指導将校大尉、なんのおつもりですか! 党の資産であるキャバリアを私的に持ち出したあげく同士討ちだなんて!」
『何のつもりかと問われればシンプルな回答だよイリーナ君君たちは此処で私とともに破滅するのだ私だけが終わるなど認めんこれは連帯責任というものだよ』
 大隊の機体とヤーコフ達をぶつけながら、機体――オブリビオンマシンが増幅した身勝手なエゴを垂れ流しにして戦闘態勢に入る大尉。
 パトロール部隊のガガンボを暴走に誘っていたオブリビオンマシンは、最初から地上艦隊と共に居たのだ。無尽蔵の増援も、近くに居た、あるいは戦闘の気配に急行した部隊が片端から掌握されたがためか。
 そんな悪辣な機体が乗り手を得てついに自らの姿を現したのである。
 これは窮地であり、好機でもある。子供たちが乗ったまま奪われた大隊の機体をなんとかいなして元凶たるオブリビオンマシン、モノアイ・ゴーストを討てば戦闘は終わるだろう。
 そしてそれを為せるのは、連戦と友との戦いに疲弊しきった三人の少年パイロットを救えるのは、ただ唯一猟兵を置いて他にない。
ヴィリー・フランツ
(WIZ・アドリブ連携OK)
目的:モノアイゴーストの撃破

心情:おいおいおい…洗脳してたのは警備隊長機じゃねぇ、俺達が守ってた貨物に混じってたのかよ!?
とんでもねぇハードゲームだが、ヒヨッコを死なせる訳にはいかねぇな!

手段:一旦下がって機体に持参した増加装甲装着と補給。
セルジューの奴、一段落付いたからって機体に乗ってねぇだろうな?
出撃したら最後尾に向けて移動、ゴーストの支援機となった警備兵や学徒兵の機体は無反動砲の霰弾と電磁速射砲で翼や武装を破壊する事で対応、俺を子供を殺した罪深い人間にさせないでくれよ!

最後の一発は【EMP弾頭】を付与、ゴーストの足元に打ち込んで電子機器をぶっ飛ばしてやる!!


クルト・クリューガー
あれはオブリビオンマシン
何のつもりで機体を持ちだしたのかは知らんが
今の奴は正気じゃねぇ
狂人の戯言を真に受けるな
ちゃちゃっと片付けて助けるとするか
毎度毎度、殺しは厳禁っていうのが辛いところだが
いくぞ、ボギー

UCを使用し攻撃回数を5倍に装甲を半分
逆間接足で高く飛び上がり緩急の激しい三次元戦法をとり
常に相手の上を取りながらマシンガンアームで射撃
随伴機を撃破、牽制し分断
下手に動くなよ命の保証が出来なくなるからな
ある程度数が減ったら
UCを再使用しUCでアーム部分に格納している戦車砲を胴体にセット
攻撃力を5倍に射程を半分
どっしり構えてよく引きつけてから撃つ
バリアごと撃ち抜いてやる
一発あれば十分だ!




「ありゃ……オブリビオンマシンか!?」
「おいおいおい……連中の親玉は俺たちが守ってたってのかよ!」
 地上艦隊の車上に展開したヴィリーとクルトは、後方車両から出現した新手のキャバリアの姿に驚愕する。
 ガガンボを統率する指揮官機が潜んでいるのだという想定を覆し、オブリビオンマシンは護衛対象の腹の内から飛び出してきたのだから。
 その機影はヤーコフらの分隊を襲撃するなり、装甲列車を守るために戦っていたトゥガーリン大隊のキャバリアすら掌握してその暴威を振るう。
「ガガンボ連中だけでも手一杯だってのに、この上ヒヨッコ共まで敵に回るのか……」
 とんでもねぇハードゲームだとヴィリーは舌打ちしながら機体を下げる。ガガンボの迎撃で弾薬の残りが少ないのと、実弾メインのガガンボに加えて件のオブリビオンマシン、モノアイ・ゴーストの光学兵器に対応する増加装甲を身にまとう必要があるのだ。
 僅かな弾薬を惜しんで長期戦に陥れば、それだけ少年兵に危害が及ぶ時間が長引く。ならば最大火力の全力投射で一気にカタをつけることが最上であろう。それに――
「セルジューの奴、一段落ついたからって出撃してねえだろうな……! クルト、暫く任せられるか!」
「あ? おい待てよヴィリー! ああクソ仕方ねえ! いくぞボギー、殺しは厳禁だ!」
 ヘヴィタイフーンが車内に引き返してゆく。その動きに防衛網の一部が綻んだとみて、モノアイ・ゴーストはすぐさま随伴機と化したキャバリアを差し向けてきた。
 先鋒を務めるはトゥガーリン大隊の機体。最初から敵として相対していた顔も声も知らない警備部隊より先程までの友軍機を差し向ける敵機の悪辣さたるや、歴戦の傭兵であるクルトをして憎々しげに表情を歪めさせるほどであった。
「あの馬鹿野郎が何のつもりで機体を持ち出したのかは知らんが……」
 歩行戦車然としていた彼のキャバリアが、脚部を展開してその身をもたげる。装甲の隙間を晒す代償に可動域を確保したその姿は陸を駆ける駝鳥の如く。
「どんな理由であれ、オブリビオンマシンに呑まれちまった今の奴は正気じゃねえ」
 そんな奴も、奴に良いように使われている連中も、変わらぬ被害者に違いないのだ。
「ちゃちゃっと片付けて助けるぞ」
 機械仕掛けの相棒が応答すれば、彼のキャバリアが大きく跳躍する。突撃してきたトゥガーリン大隊のキャバリアは人民地上軍の思想を色濃く反映した機体。つまりはパトロール部隊のガガンボのような快速巡航能力を重視した機体と異なり、戦線死守及び強行突破を最も得てとする重装甲タイプだ。
 が、それとて全身を覆いきっているわけではない。肩を並べたからこそわかる。あの機体は正面装甲こそ比類なき堅固さを誇るが、正面装甲以外はガガンボとさして変わりない防御力しか持ち得ないのだ。
「戦車相手ならトップアタック、これに尽きるぜ」
 跳躍したクルト機に対応しきれない機体を頭上からのマシンガン連射で撃破すれば、墜ちてゆくその機体を地上艦隊の車上に蹴飛ばし再跳躍。
 そうして此方に攻めかかってくる敵機を減らして、減らして――
「ヴィリーの野郎まだかよ、いい加減に俺一人じゃ支えきれねぇぞ!」

「セルジュー! おいセルジュー、弾薬を……クソッ!」
 貨物車両にセルジューの姿はない。どころか、彼のキャバリアも見当たらない所をみるにヴィリーの懸念の通り彼は出撃してしまったのだろう。そうしてモノアイ・ゴーストに機体を奪われたのであれば、見知った少年が望まぬ戦いを強いられていることに歯噛みして一刻も早く彼らを助け出すべく自ら補給のために駆け回る。
 二人がかりであればあっという間にこなせていた弾薬の装填も、一人ではやけに時間がかかるように思えて仕方がない。だがそこに文句を言ったところでモノアイ・ゴーストはセルジュー達を解放してはくれないだろう。だったら手を動かせと自身を叱咤して、ヴィリーはどうにか愛機を対レーザー装甲に換装し弾薬補充を終えコックピットに滑り込んだ。
「待たせたなクルト!」
 出撃し、挨拶代わりに無反動砲から散弾をぶちまければ、モノアイ・ゴーストは大隊の機体を盾にそれを受け止める。さすがの重装甲機ともなれば巻き込まれたガガンボが墜落していく中でもそれをほとんど無傷で耐えてみせるが、そうして密集防御陣形を取ればしめたもの。
「俺を子供殺しの罪深い人間にさせないでくれよ……!」
 レールガンの速射が大隊キャバリアを貫徹する。肩口から腕を喪い姿勢を崩したその機体をクルトのキャバリアが蹴り飛ばせば、ヘヴィタイフーンはそれを抱きとめそっと貨物車の中に横たえる。
「遅ぇぞヴィリー! こっちはそろそろ燃料がヤバい、戻――」
 地上艦隊に向け降下を開始したクルトの背後、禍々しく輝く単眼。
『そもそも貴様ら猟兵という存在さえ無ければこうはならなかったのだ私の栄光を翳らす害虫めよくも我が物顔でやってくれたな』
 空中で身動きの取れないクルトに向けて突進するモノアイ・ゴースト。激突すれば着地点がズレ、クルト機は地表に墜落するだろう。運が悪ければ機体はその衝撃で粉々に大破してしまうかもしれない。
「させるかよ……!!」
 そうはさせるかとクルトもヴィリーも弾幕を張って阻止を図るが、強固なバリアはそのいずれをも弾き返す。
「畜生、出鱈目な防御力してやがる!」
「……先に謝るがクルト、受け止めてやるから恨むんじゃねえぞ!」
 それはなるべく多くの子供たちを無傷で助け出すべく用意したとっておき。高価な砲弾はヴィリーにとって惜しむに値する貴重品だが、仲間を目の前でむざむざやられるのに比べれば遥かに安い。
「特別仕様の弾をくれてやる! 外れんじゃねえぞ!」
 無反動砲が吼え、放たれた弾頭は空中で炸裂し――強烈な電磁波を撒き散らす。
 モノアイ・ゴーストの肩部バリア制御装置が火花を散らし、クルトの機体もシステムダウンに巻き込まれ――落下してきたのをヘヴィタイフーンが受け止める。
 バリアを破り、被弾を嫌ったモノアイ・ゴーストの脚が止まる。だがしかし猟兵たちにも再起動される前に撃ち込める弾は――
「てめぇ、おかげでボギーが気絶しちまったじゃねえか」
 墜落の衝撃で目眩を覚えながらクルトがぼやく。相棒たる制御ユニットはEMPをモロに浴びて気を失ったまま。だが、電子制御に頼り切りのお高い新型キャバリア様と違ってクルトの機体は良くも悪くも古臭くシンプルだ。
「手動操作なんざクソかったるいことさせやがって……おいヴィリー、しっかり支えてろ!」
 油圧式のアームを軋ませながら腕部の戦車砲が展開し、その照準をひたりとモノアイ・ゴーストへと向ける。
「俺からもとっておきのAPFSDSをくれてやる。てめぇには一発あれば十分だ!」
 長く質実剛健にして簡素な砲から飛び出した弾は、空中で分解し内に秘めた鋼鉄の鏃を解き放つ。
 細く尖った徹甲弾芯は、復旧したてのバリア諸共にモノアイ・ゴーストを貫いた。
『バリア制御装置に被弾だとなんという破壊力だ忌々しいだが連発はさせん』
 肩のバリア制御装置に大きなキズを刻みつけられたモノアイ・ゴーストを守るように大隊のキャバリアが盾となる。
 猟兵が不殺を徹底していることをよく理解しているからこその悪辣な手に、数人の少年兵を救出した事を戦果として二人は仕切り直しを強いられるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エル・クーゴー
●POW



L95式キャバリア【アルテミス】――Go ahead.
ワイルドハントを開始します

・二発一対の三日月型バーニアを背負った人型二脚、自キャバリア『アルテミス』を【操縦】し飛行にてエントリー(空中戦+推力移動)


●対支援機
・機体に【嵐の王・蹂躙円舞】を纏い、回避機動に専心
・そうして飛んでいる間、このコードは敵の支援機を片端からロックオン、推力機構に不全を誘うポイントを狙って【誘導弾】をバラ撒く
・目的は非致死制圧


●対モノアイ
・最大戦速解禁
・敵機上方を擦過ざま『殲禍炎剣』を誘いバリアを攻めさせるという、速度と計算と度胸で勝負のトンデモ戦法

・誘導弾群をありったけ置き土産に畳み掛け、そのまま戦域離脱を


荒谷・つかさ
……なるほどね。
クサいとは思っていたけれど、まさか本当に積み荷がオブリビオンマシンだったなんて。
でもまあ……そういうことなら、そいつを叩き潰せば終わりってこと。
そうでしょう?

「XGG00『機煌炎神』スルト」を召喚、合身して列車から出撃
何かあった時のために待機していたから、この位置なら奴の背後から仕掛けられるはず
即座に列車上から【噴進式・螺旋鬼神拳】発動
噴進式鉄拳にドリルユニット装着して射出し攻撃
反撃に突進してくるならこっちも突撃、残った方の噴進式鉄拳で殴りつけつつ再度【噴進式・螺旋鬼神拳】発動
正面バリアをドリルで削りぶち抜きつつ、背後から射出した方の「戻り」もぶち当てる




「此方はL95式キャバリア【アルテミス】。これより戦闘空域に突入――」
 積み荷から現れたオブリビオンマシンによって部隊の指揮系統を乗っ取られた地上艦隊は、直掩キャバリア部隊がほぼ全て敵性友軍機体と化した状況で必死に抵抗していた。
 対キャバリア用としてはいささか過剰火力であるが故に味方殺しを厭うてその全力を尽くすことが出来ず、機関砲程度の武装でしか戦えない装甲列車が未だ持ちこたえているのは、大隊が抜けズタズタとなった戦線を支える猟兵の奮闘と指揮車両にて兵士たちを適格に統率する大隊長大佐の差配あってこそだろう。
 そんな大隊司令部将校達の耳を打つ涼やかな声音。確かにキャバリアは陸戦兵器でありながら飛行能力を有する兵器だが、「戦闘空域」などという物言いはまるで古の航空兵器の如く――
「――ワイルドハントを開始します」
 月が、至る。

「――ありがとうエルさん。そろそろ降りるわ」
 三日月の如きスラスターユニットを背負った流麗なキャバリアの肩からまるで散歩にでも赴くように自然体で飛び降りる鬼人の女。
 5mに及ぶ巨人の肩から一息に降りるだけでも相当の度胸と鍛え上げた身体が必要となろう。だがその巨人はそれだけに及ばず空を飛翔している。
 殲禍炎剣に捕捉されないギリギリの高度。人類が空を奪われた世界において、それはかつての低空飛行にほど近い這うような飛翔である。が、生身の人間においては十分以上に致死に至る高さにも関わらず、だ。
 はたはたと巫女服を揺らす風に笑って、彼女は自身の戦友を喚ぶ。
「顕現せよ 焔の鉄巨神 紅き眼光 鐵の腕 その姿 神をも灼く刃也! ――合身!」
 虚空より出し炎が鬼をその身に宿す。降下する先には敵陣。今まさに装甲列車に襲撃を仕掛けんとする単眼の亡霊の背に、紅蓮の鋼鉄巨人が激突する。
「機煌炎神、見参! 話を聞いてクサいとは思っていたけど、まさか積荷がオブリビオンマシンだったとはね」
 諸共に地表目掛け落下してゆく機煌炎神スルトとモノアイ・ゴースト。
「上空待機で身体が冷えた分殴り合いで温まらせて貰うわよ!」
『なんだ貴様不躾な乱入とはやはりスーパーロボット乗りという連中はつくづく理解に苦しむ』
 衝撃。二機の鉄塊が地表に叩きつけられれば、スルトは持ち前の機体剛性で、モノアイ・ゴーストはその強靭なバリアで機体が分解するのを防ぐ。
「あら、理解してもらわなくても結構よ。あなたを此処で叩き潰せば終わりなんだから!」
『確かに理解する必要がないという点には賛成しよう君も此処で終わる存在なのだからな』
 鞭のように撓るモノアイ・ゴーストの左腕ワイヤーユニットがスルトの装甲を刻む。ただのワイヤーではない、先端にプラズマ刃を展開した凶悪なそれを一身に受け止め、スルトはしかし一方的にやられるわけではない。拳を固め、モノアイ・ゴーストを打ち据える。
 双方ともに防御に特化した機体、戦いはその激しさに反比例するように決め手を欠いている。だが、単騎同士の決闘ではなくこれは多対多の戦闘である。
『――降下戦闘用意』
「――対空迎撃戦開始」
 単眼の悪鬼が傀儡を遣わせば、その機先を制するが如く月女神のキャバリアが割り込んだ。
 本体を襲うスルトより優先して手近な邪魔者たるアルテミスを狙うキャバリア部隊を、アルテミスを駆るエルは得意の空中機動でひらりひらりと躱して捌く。あちらの弾はアルテミスの装甲を削ることも出来ず、反面でアルテミスも美しからぬ無用な反撃はせず回避に専念しつつ地上で戦うスルトへ向かう敵を牽制し続ける。
「ありがたいわねエルさん、これで集中できるわ。といっても攻めあぐねているけれど……」
「ならば作戦を提案します」
 ――良い提案だ、とつかさは獰猛に笑んだ。ならばまず空を覆う敵の群れを散らし、密着状態で殴り合うモノアイ・ゴーストを一旦引き剥がさねばならない。
「状況を開始します」
「>サプライユニットパージ、友軍機・機煌炎神スルトに強化パーツを投下」
 アルテミスが分離して落下したコンテナが開けば、スルトは中を見ることもせず腕を突っ込み内蔵されていたそれを接続、コンテナから引っこ抜く。
「セットアップ完了! ぶち抜けッ!!」
 ――スルトの鉄拳が爆ぜる。
 同時、空では。
「敵機の構造を把握。対空殲滅戦開始します」
「目標、敵推力機構」
「誘導弾ファイア」
 アルテミスの各部に搭載された誘導弾が白尾を連れて空に翔ぶ。機動の精彩を欠くキャバリアなどふわふわと踊る蝶よりも与し易い。推進器を狙ったピンポイント攻撃が次々に着弾し、火を噴きながら墜ちてゆくキャバリアをさらなる追撃で選別すれば、トゥガーリン大隊の機体は追加で手足を吹き飛ばされながら地上艦隊の上に降着する。
 そうすれば空はいくらか隙間ができる。見遣った地上、つかさは今まさにモノアイ・ゴーストに目掛け双の鉄拳を放っていた。
 手首より先、固めた拳に追加接続されたのは円錐型のドリル。凄まじい勢いで回転するそれは、初弾こそ奇襲でモノアイ・ゴーストのバリアに激突したもののもう片方は身を翻した敵機に回避されてしまった。
 が――
『奇襲としては及第点だがねそれは奇襲であればこそ成立する兵器じゃないか二度は通用するまい』
「躱した? 違うわね、お前は躱させられたのよ。これに懲りたらスーパーロボットのお約束も勉強しなさい」
 ――ロケットパンチは戻ってくるものだ、ってね。
 つかさの言葉に大尉が目を見開くのと同時、背面から帰還した螺旋の拳が突き刺さる。
 損傷し不安定化したバリアがどうにか耐えるが、出力をバリアに回さねば耐えきれぬほどの衝撃。故にモノアイ・ゴーストは動きを止める。
「お見事です。カウント03で上空を通過」
 つかさがモノアイ・ゴーストを封じれば、エルはアルテミスの機首を引き上げ高度を取る。
「3――」
 殲禍炎剣に捕捉されてもおかしくはない高高度。速度を落とし、巡航。
「2――」
 モノアイ・ゴースト上空に至るその瞬間、最大加速で飛翔する。
「1――」
 衛星軌道に星の煌めき。人類から空を奪った超兵器がその眼光でエルを捉え、滅びの光を解き放ったのだ。
「0、弾着今」
 瞬時に殲禍炎剣の照準からすり抜けたアルテミス。それを逃した殲禍炎剣は誘導兵器ではないが為に本来の獲物を逃しても解き放った矢を曲げることも戻すことも出来ない。
 そうして頭上をアルテミスが通過した直後、衛星軌道から降り注ぐ光の柱がモノアイ・ゴーストを飲み込んだ。
「作戦終了、戦域を離脱します」
「ありがとうエルさん、いい援護だったわ」
 月の女神が空の彼方に飛び去ってゆき、炎の神は装甲列車に飛び乗って。
 しかし操られた機体との戦闘は未だ続いている。殲禍炎剣の直撃を受けて尚、モノアイ・ゴーストの怨念を宿す眼は未だ地を駆ける装甲列車を睨みつけていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

チトセ・シロガネ
オゥ……とんでもない上司がいたものダネ。
貨物室の陰に隠れつつ少年兵に語り掛け、周囲を見れば見慣れた武器を見つけてニィと笑う。
少年兵のユー、賭けをしないカ?
ここを切り抜けられたら、この体に詳しい人を紹介してほしいネ。

その武器を拾い上げ、ハッキングでユーザー認証を登録。
「BZファントム」プラズマではなくフォトンを使う以外は使い慣れた武器ネ。

UC【幻影乃型】を発動、レーザー射撃による乱れ撃ちで注意をこちらに向けて挑発、お互い交差する状況に持ち込むヨ。
バリアを切断ならボクの18thネ。向かってくる上司に推力移動で前に飛び込み、上段の構えから光の刃(属性攻撃)で鎧砕きでオシオキネ。


アルナスル・アミューレンス
なんだい、獅子身中の虫って奴かな?
いや、そんなカッコいいモノじゃなさそうだねぇ。
路傍の石にも劣る自尊心を掲げちゃってまぁ、可哀そうに。

それにしても、そんなウンカみたいな手駒を揃えちゃって。
猿山の大将のつもりかい?
自ら敗北者と言ってるように見えるけどねぇ。

ま、いいや。
――拘束制御術式、解放
被害はあれだけど、ちょっとそれ『貪食(ツカウ)』よ。

不定形の異形を解放し、津波の様に放出。
ガガンボも直掩機も纏めて呑み込んで、あの単眼を丸裸にしてあげよう。
そしたら、ガガンボだけ捕食して大量に複製。
D2エンジン起動させて単眼追い込んで、装甲斬撃剣で滅多刺しにしちゃおうか。

あ、大丈夫。
乗ってるヒトは喰わないから。




「なんだい、獅子身中の虫ってやつかな」
 屋根をぶち抜かれた最後尾車両、モノアイ・ゴーストが眠っていた貨物車の上でアルナスルは後方から地上艦隊を猛追する敵を見る。
 禍々しく輝くオブリビオンの単眼からは、シンプルな憎しみや恨みこそ感じられてもそれが何か一つ目的のために策を弄するような知性の光を感じられはしない。
「うーん、どうにもそんなカッコいいモノじゃなさそうだねえ」
 場当たり的に戦力をけしかけ、たまたまパイロットを得たから力を行使し、その目的とするものは破滅の拡散以外にない。
 理想も大義もありはせず、取り込まれた大尉の願いすら歪めて従える歪な主従。
「そんな屑鉄に弄られた路端の石にも劣る自尊心を掲げちゃってまぁ、可哀想に」
『黙れ黙れ黙れ黙れェ!!』
 線路を辿るように猛然と突進するモノアイ・ゴースト。迎え撃つアルナスルの足元より滲む汚泥のような異形が貨物車を取り込み漆黒に染め上げる。
『同志諸君やれ』
 迎撃に対して味方を盾とする所業。ガガンボもトゥガーリン大隊機も一絡げにアルナスルを包囲し、モノアイ・ゴーストへの射線を塞ぐ。
『貴様たちは不殺を掲げるが故に攻撃を即断できないその迷いの一瞬を圧倒的物量で強い続ければ叩き潰すことなど容易なのだ』

「オゥ……とんでもない上司が居たものダネ」
 味方が撃墜し装甲列車の車上に降ろしたトゥガーリン大隊の貨物車両に引き摺り込み、機体を一つ一つ丁寧に解体して囚われていた少年兵達を解放していたチトセは、オブリビオンマシンに呑まれた大尉の叫びを聞いて肩を竦める。
 両の掌でそっと掬い上げた少年兵は、そんな彼女の苦笑にぽっと頬を染めて首を横に振る。
 直接の上官として認めていないという意図か、あるいは本当の大尉はあのような人間ではないという否定か。どちらにせよこの罪なき少年兵たちを虐げ利用するようなオブリビオンマシンを討たねばなるまい。
「ま、あんなノでもオブリビオンに良いように使われてる可愛そうなヒトだもんネ。助けないト」
 決意を新たに少年兵を下ろしてやったところで、チトセは武器を求めて視線を巡らせる。ジャイアントキャバリアと化した機体に固定武装はあれど、その火力であの機体のバリアをぶち抜けるとは思えない。そうやって見回すチトセの脚をノックして、少年兵が一人貨物車の奥を指す。その先にあるのは、どこか無骨で質実剛健な印象の強い人民平等会議の装備において異彩を放つ近未来的な武器。
「ワーオ。ありがとう最高ダヨ、ユー。そうだ賭けをしないカ?」
 この武器を使ってここを切り抜けたならば、大佐に掛け合ってこの身体に詳しい人を紹介してもらう。その援護をして欲しい。
 チトセの頼みに少年兵が頷けば、手にしたその武器をハックしてユーザー認証を上書き登録。もとより己のために誂えられたかのようにしっくりと馴染むそれを握りしめ、チトセは装甲列車から今一度飛び出した。

「よくもまあそんなウンカみたいに手駒を揃えちゃって。猿山の大将のつもりかい? いや……ハナから使い捨てようなんて、自ら敗北者ですと言ってるようなものだねえ」
 己を包囲し圧殺せんと迫るキャバリアの群れをも前に、アルナスルは泰然と待ち受けるのみ。
 なぜなら数ばかりで意志の伴わない巨人など、何体現れたところで――
「拘束制御術式、解放」
 黒泥に包まれた貨物車両が膨れ上がる。津波の如く噴出した影が全集包囲を敷くキャバリアの群れを根こそぎ飲み込んだ。
「被害はあれだけど――ちょっとそれ、"貪食"よ」
 機体の隙間から水のように流れ込んだアルナスルの異形の身がキャバリアの機構をこじ開け、コックピットブロックを強制排出させる。そうして開いた空間にずるりずるりと流れ込む黒い流体によって、主なきキャバリアたちはその制御をアルナスルに奪われる。
「凄いネ! おかげで道がクリーンになったヨ!」
 影を切り裂き駆ける蒼き閃光。大隊の機体が吐き出したコックピットを流体マフラーで柔らかに包んで地上艦隊へと受け流し、チトセは単眼の亡霊へと躍りかかる。
 手にした銃から乱射されたレーザーが敵機のバリア表面で弾け、ダメージには至らぬともその注意を引きつけた。
 ――交錯。二機がすれ違うその瞬間に、チトセの銃が変形しレーザーブレードとなった。
「バリア斬りならボクの18thネ!!」
 上段からの振り下ろしの一刀にて両断――バリア制御ユニットの片方が根本から断ち切られて脱落してゆく――そこへ、
「ガガンボの火力じゃバリアは抜けないからねぇ。助かるよ」
 アルナスルによって制御を奪い返された操り人形のガガンボが殺到する。内包する機関を最大出力で稼働させ、モノアイ・ゴーストの放つワイヤーウィップやレーザーライフルの迎撃に数を減らしながらも突撃したガガンボ達のうち見事にたどり着いた者たちの装甲斬撃剣が、亡霊の機体を貫いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

夕凪・悠那
あんなに多かったのはそういう理由か…
似たようなことしたことあるけど、やられると厄介だなぁ

白鯨を奪われるとは思わないけど念のため送還

直掩機が全部盗られた上に懐に潜り込まれた状況か
弾丸を撃ち尽くして再補給が見込めない武装は全パージ
機体を少しでも軽くして、
【Overlode】――機体性能を限界突破
『仮想具現化』――キャバリア用の光剣、BXフォースセイバーを形成
極短時間限定ながら、超重装甲と機動力を併せ持つ機体へと仕立て上げ――
機能停止までの制限時間、69秒以内に目標を破壊する!(覚悟+操縦+空中戦)

撃破目標の単眼を――最悪、周囲の支援機だけでも無力化する
よーし、セルジュー
ボクの活躍、特等席で見てなよ


才堂・紅葉
「ったく、本当に悪趣味なこと」

方針
支援機は撃破。大隊の機体に対して六尺棒で四肢の関節を【早業、部位破壊】して無力化を図る
厄介なのはあの機体だ。高速飛翔の上に鉄壁のバリアで隙がない

(死中に活ありか……嫌いな言葉ね)

【戦闘知識、情報収集】で攻撃を読み、動きの止まる一斉攻撃の機会に突貫する【野生の勘、見切り、カウンター】
両掌に重力を纏い偏光力場を形成し廻し受け【グラップル、オーラ防御、属性攻撃】
バリアを【気合、結界術】で抉じ開け、奴を【捕縛】したい

「この距離ならバリアは張れないわね」

すかさず生身で飛び出し、超偽神兵器の欠片を最大励起させた“楔”の一撃を見舞いたい【零距離射撃、封印を解く、吹き飛ばし】




「あんなに多かったのはそういう理由か……」
 なるほど、地上艦隊に近づいたものが乗っ取られるのなら、地上艦隊を襲う敵が一向に減る様子がなかったのも納得がいく。
 猟兵達の奮戦でガガンボはその殆どが撃破され、大隊のキャバリアも次々と救助されていくが、それはすなわちモノアイ・ゴーストに向けるべき戦力がそちらに引き剥がされているということでもある。
「似たようなことはしたことあるけど、やられる側になってみると厄介だなぁ」
 悠那はしみじみとつぶやく。敵の戦力をまるごと乗っ取る、という手はそれが成立するのであればどこまでも嫌らしく効率的な攻め手だろう。無人機という都合、奪われるリスクをゼロにはできない白鯨とその直掩機も撤退させ、借り受けたキャバリアとともに貨物車両に陣取る。
「ったく、本当に悪趣味なこと」
 その間近で迫る敵営を迎え撃ち、思わず零した紅葉の言葉に悠那はコックピットの中で肩を竦める。自分のそれは悪趣味でない、などと区別をするつもりはない。彼女の感想は自分に向けられたものではないとはいえ、同じ穴の狢と言われても仕方ないことだと思えば、微妙な気持ちにもなる。
「せッ! やァッ!!」
 僚友がそんな表情を浮かべていることを彼女は知らず、装甲斬撃剣を振りかざして斬り込んだ二機のガガンボを棒術で瞬時に制圧してのける。
 だが、そこへ三機目。大隊の重装甲型キャバリアが奇襲攻撃を仕掛けて来た。紅葉は歴戦の傭兵だ。時間差の波状攻撃など捌くことは容易い。が、今この姿勢からあの機体を無力化するならば――
「コックピットを潰すしかない……ッ」
 手足を砕くなどと生易しい事を言える状況ではない。間合いの内側に踏み込まれ、決断を強いる敵機に躊躇おうものならその時やられるのは紅葉だ。
「――ホント、悪趣味だよね」
 金属が破裂する音。至近距離で炸裂した対キャバリアミサイルが敵機を横合いから吹っ飛ばせば、間合いを取り戻した迦楼羅王がコックピットを外してトドメを刺す。
 車上で機能停止したキャバリアの胸部が跳ね上がり、中から悠那の見知った顔が這い出してきた。
「おっ、セルジューじゃん。さっきヴィリーさんが探してたよ。怪我してない?」
 大丈夫、と頷く少年兵に笑いかけて、悠那は残弾を吐き出し尽くしたガトリングガンやミサイルランチャーを投棄し気合を入れた。
「よーしセルジュー、ボクの活躍を特等席で見てなよ」
 地上艦隊の直掩機はほぼゼロ。ヤーコフ分隊は遥か前方で奪われた友軍機と交戦中、後方からは傷つき怒り狂うモノアイ・ゴーストが猛追。敵は防衛ラインの遥か内側まで食い込んでいる状況で、背中をがら空きにしてでも首魁を倒さねばならない。
「なかなかハードモードだけど……」
「あら、じゃあ私一人に任せてくれても良いんですよ」
 冗談でしょ、と迦楼羅王に肩を並べた悠那の機体は、その腕部に光の刃を実体化させて近接白兵戦の構えに移行する。
 不要な装備は捨て軽量化はした。武装も用意している。
 万全だとは口が裂けても言えないが、今できる最善は尽くしたつもりだ。
「そ、じゃあ行きましょうか」
 並ぶ紅葉も万全とは言い難い。不殺に徹し、再前衛で敵機と近接戦闘を繰り広げれば精神の疲労は尋常ではないだろう。
 だが、やらねばならない。時間を掛ければそれだけヤーコフ達に、あるいは彼らと戦っている少年兵達に仲間殺しの十字架を背負わせてしまう可能性が跳ね上がるのだから。
(疲弊した私と、どう見ても接近戦は専門外の僚機で二機吶喊。死中に活ありか……嫌いな言葉ね)
 それでも確かに皆が笑顔で終われるための活路はそこにしか無いのだ。
 どちらからともなく迦楼羅王は列車の背を蹴飛ばして、悠那の機体は電脳魔術によってたった一分強の性能ブーストを受け、バーニアの炎を一際強く噴射して迫りくる敵へと突撃する。
「こっちで奴を抑えるわ」
 どう見ても僚機は小回りの利く質ではない。一撃を加える好機を作ってやるならば、それは接近戦に特化した迦楼羅王の役目だろう。
 モノアイ・ゴーストの放つレーザーを巧みな機体制御で回避し、それが難しいものや僚機に向かうものは両の掌に纏った偏光力場による廻し受けで捻じ曲げて、迦楼羅王に率いられた分隊が亡霊のもとへとたどり着く。
 迦楼羅王の掌がモノアイ・ゴーストの不安定化したバリアに干渉し、それを切り裂いて細身の機体をがしりと掴んで組み伏せた。
「この距離ならバリアは張れないわね! 今よ!」
「ありがと、紅葉さん! ――あとはよろしく」
 残るは数秒。迦楼羅王からの干渉で著しく減退したバリアを貫きねじ込まれた刃がモノアイ・ゴーストの左腕を根本から断ち切った。
 これでもうバリアは張れまい――悠那の機体が力なく堕ちてゆく。全力を尽くしたことで悠那の脳にかかった負荷が、パイロットの意識を刈り取ったのだ。
 後を頼まれたならばその期待に応えるのみ。紅葉は迦楼羅王のコックピットから飛び出して、モノアイ・ゴーストの背中に杭打機を突きつける。
「ここらで目を覚ますべきだわ、同志指導将校大尉さん?」
 亡霊の背に大穴が開く。
 コックピットの鉄杭が天面を貫いて、引き抜かれれば冷たく乾いたナロードニク・ソユーズの風がモノアイ・ゴーストの胸中に吹き込んだ。
『私は正気だ狂気になど陥っている筈がないならばなぜ私は地上艦隊に攻撃を仕掛けているのだなぜ子供たちを戦いに駆り立てているのだ私は正気――正気なのか……?」
 パイロットを狂わす狂気が漏れ出てゆくのを嫌うように、隻腕単眼の亡霊戦機は迦楼羅王と紅葉を振り落とす。
 高速機動するキャバリアからの転落、猟兵と言えど無事では済まない大惨事――
「間にあっ――た! おはよう、お待たせ」
 間一髪目を覚まし滑り込んだ悠那のキャバリアに抱きとめられた紅葉は、狂乱して地上艦隊に突撃してゆくモノアイ・ゴーストの背を見送る。
 あれはもう狂気に微睡めない存在だ。あとはあのバカ大尉を引きずり出すだけ。それをしくじるような猟兵は居ないと、彼女たちは知っているから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イコル・アダマンティウム
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と出陣】
「同士討ちじゃない
あれが敵。オブリビオン」

「まだ賭けの結果、聞いてない」
前衛として後衛と少年兵を護る
敵支援機を徒手空拳で対処、無力化
「……キリがない」<継戦能力>

「"アレ"が操ってる?」
「なら隙を作る
バジル、倒して」

【覇気解放】
バジルに連絡後、イジェクトモジュールでゴーストに向けて僕を射出
ゴーストに近づきつつ覇気解放を使用
支援機、バリア等を無力化する
バジルが接敵した瞬間に解除する、疲れる

ゴーストが倒されたら中から大尉を素手で引きずり出す
「ちぇすと」
<暴力><肉体改造><鎧砕き>

気になった
敵意じゃない、僕が持ったのは疑問
「大尉
なんで"コレ"に乗ったの?」

アドリブ歓迎


アレクサンドル・バジル
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と出陣】
灯台もと暗しだったか。しかし、大尉殿は何をやっているのやら。

モノアイを仕留める為に行動。
最初は騎兵団の前衛組として『炎の剣』を振るって前進。
イコルのUC発動によりできた隙に乗じて突貫。
モノアイに接敵、イコルがUCを切ったタイミングで『万象斬断』を発動。(炎の剣は虚空に収納)
流れるような動きで残像を残しながら敵機の周りを囲み、敵機に攻撃のタイミングを渡しません。
そして、そのまま360度方向から(に見える)攻撃を。
コックピットだけを残して頭部四肢武器を斬り裂き破壊していきます。

ま、死なねー限り、どーとでもなるもんだぜ。


リリウム・マーセナリー
※アドリブ・連携歓迎
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と出陣】

どのような経緯であれ、周りに被害を出させません。

「――標的確認。団長、指示をお願いします」
「了解。ホワイトアウト、【援護射撃】を開始します」
後方からロングレンジレーザーライフル(貫通攻撃、レーザー射撃)を構えて狙撃(スナイパー)。四肢や進行方向を狙う事で動きを阻害し、友軍の一撃が効果的になるようにします。万が一敵機から近づいて来た場合はアサルトライフルで迎撃しつつ、距離をとります(威嚇射撃)。


ワン・イーナ
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と出陣】
アドリブ歓迎

灯台下暗しってか
ま、仕事にゃ変わらん。財布ん中確認しとけよォ

・SPD
バリアは抜けねぇな、火力不足か

「オーライ団長。ワルキューレ、ユーハブコントロール」
『アイハブコントロール。電子戦用意、回避モードに切り替えます』

後方に下がりオーディン使用
支援機や操られてる機体を<ハッキング>して<ジャミング>
センサーやカメラを封じ照準をズラし、スラスターを止めて連携を乱す
不意の事態にゃ<瞬間思考力>で対応。敵ボスの攻撃を回避しつつジャミングして目潰し!

「目隠しして飛ぶと危ねぇぜ?」

今この瞬間は俺たち(レイヴン)の空だ、亡霊(ゴースト)

イコル何し……生身で砕いてるぅ!?


ユーニ・グランスキー
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と出陣】
連携・アレンジ歓迎
呑まれたか‥
大隊長大佐殿、我等も加勢して宜しいですね?
今は時間が無い故貰う物は後ほどに

エースを敵機に叩き込むべく連携
多喜、リリウム、ワンに援護を任せ
敵を掻い潜ってイコル、我、アレクが攻撃を慣行
エレクトロレギオンで周囲の敵を牽制しつつ飛行しビームサイズを振るい前進
支援機を引き付けつつビットで攻撃を吸い
隙をつき最大火力アレクを敵ボス機体へ
「ワン、サポートを代われ。アレは君のUCが適任だ」
「ワン、多喜、リリウムは後方より前衛の支援。我とイコルで最大火力のアレクを送り込んでアレを落とす。アレク、倒せるな?」
「いくぞ渡り禽共!」

三人組に
「我等の勝ちだな?」


数宮・多喜
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と出陣】

あの眼鏡、マシンに呑まれたか!?
そんな物騒なのを積んでたのもヤバいけど、
躊躇なく乗りやがって……!
さっさと引きずり出して一発ぶん殴らせろや!

ブラスターの『属性攻撃』モードを電撃に切り替えて、
メガネ大佐の直掩機を牽制するように『制圧射撃』の『乱れ撃ち』さ。
そうして『弾幕』を張りながら、テレパスを周囲に放ちつつ
「そんなのに頼らなきゃ威厳を保てないなんて高が知れてるねぇ!」
とオープン回線で『挑発』するよ。

そうしてアタシらへの敵意がむき出しになったら好都合。
先の射撃で周囲に満たした静電で、
戦場全体に【超感覚領域】を展開する!
これで直掩は剥がせるはず、後は頼んだよ!




「同志指導将校大尉、あれに呑まれたか……」
 奪われた機体の過半が撃墜ないし奪還され、敵の数は大きく減ったとはいえ友軍が防戦を強いられていることには変わりなし。
 使える手は一本でも欲しいだろうと踏んだユーニは、機体のコックピットで待機したまま指揮車両の大佐へと通信を繋ぐ。
「大隊長大佐殿」
「グランスキー団長か、君たちには――」
 ええ、心得ておりますとも。ニコリと可憐に笑う少女に、大佐は傷跡の残る強面を苦渋に歪める。
「済まないがよろしく頼む」
「勿論。貰うべき物の話はまた後ほど。今は一秒でも惜しむべきですから」
 大佐が頷き、指揮に専念するべく通信回線を閉じる。
 ユーニはひとつ深呼吸を挟んで、回線を部隊内で開き――
「というわけだ諸君、再出撃の後オブリビオンマシン本体を叩く。敵は先の有象無象とは格の違う強力な機体だ、よって全機の連携で最大の威力を叩きつける!」
 握った拳を掌に打ち付ける指揮官の姿に、仲間たちはおお、と感嘆する。
「同士討ちじゃなかった。あれが敵」
 倒すべき相手がはっきりとしたことにイコルがやる気を出せば、積み荷から現れた敵機に確かそういう故事があったなとワンとアレクサンドルが記憶を辿る。
「こういうのなんて言ったっけな」「あー、わかるぞ、お前が言いたいこと。そう……」
「「灯台下暗し」」
 同時に答えにたどり着いて思わず吹き出す二人に緊張の色はない。いい傾向だと言えるだろう。
「この調子なら案外苦戦しないかもね。勿論油断していいって話じゃないけどさ」
 多喜の感想もあながち的外れというわけではないだろう。チームの歯車が滑らかに回るなら、一個の戦闘機械としての渡り禽の性能をこの面々はフルに発揮させることができるはずだ。
「後方、敵残存部隊再接近。編隊最後尾に標的確認。団長、指示をお願いします」
 ただ一機、装甲列車の屋根の上で伏射姿勢を取り長大な長距離用レーザーライフルのセンサースコープを覗くリリウムのホワイトアウトが、敵の接近を知らせるつぶやき。
 和気藹々としていた面々はその瞬間に兵士の貌になる。
「リリウムはその場で狙撃支援。多喜とワンはリリウムのカバーに入って敵支援機の迎撃! イコル、アレクは我に続け! 親玉は我等で狩るぞ!」
「了解、ホワイトアウト援護射撃を開始します」
 指揮官号令と同時に放たれた高出力の長距離レーザーが、敵の編隊を乱し武装を掠めてダメージを与えてゆく。
 だが正確な狙撃はだからこそ操られているパイロットの生命を守るために致命傷を与えることが出来ず、敵もそれを理解するなり無理攻めを押し通そうとする。
「おっとそうはさせるかっての。物騒なマシンを積んでたのも十分ヤバいけど、躊躇なく乗りやがって……このバカ、引きずり出して一発ぶん殴らせろや!」
「ははっいいな、ついでにガリ眼鏡殿からも救出手数料もらおうぜ!」
 そこへ割り込んだOveredが大型のブラスターからの雷撃で、そしてエインヘリャルがレーザー機関砲で弾幕を張りリリウムに迫る敵機を追い散らす。
 しかし、不殺という枷は此処でも猟兵の脚を泥濘に引き込むのだ。
「しまった、抜かれた!」
 弾幕と狙撃を掻い潜って突破した敵機が、味方機を鎮圧するべく奮戦していたヤーコフ達の方へと突進していく。
 完全な奇襲である。少年兵達に対応するだけの時間の猶予はなかった。
 ――誰もが最悪の事態を想像するような刹那を切り裂き、青い機影が舞い上がる。
「ヤーコフ、気を抜かない。まだ掛けの結果聞いてない。お菓子」
「なっ……」
 徒手空拳――果たしてキャバリアによる体術を徒手と呼ぶものかはさておき――で敵機を鎮圧し、地上艦隊の貨物車に放り込んでイコルは淡々とヤーコフを煽る。
 煽られれば燃える質なのは短い会話で判っている。トーリャとイリーナを巻き込んで、目に見えて機動に精彩を取り戻したヤーコフに満足気に鼻息を一つ、イコルは仲間たちと同じ戦場に視線を向けた。

「バリアは不安定化しているのに、狙撃も当たっているのに……」
 ホワイトアウトの放つ狙撃をモノアイ・ゴーストは単純な装甲で受け止めて猛進する。
 別の世界でキャバリア的な立ち位置にある主力戦車という兵器は、己の砲弾に耐えうる装甲を必須条件とするという。であるならば、主力戦車に相当する兵器たるキャバリアもまた、己の兵装に耐久しうる防御力を持っていておかしくはない。
 それがレーザー兵器に特化したモノアイ・ゴーストであれば、尚更光学兵器への耐性も強かろう。
 瞬く間に距離を詰められ、右腕からのワイヤーウィップでライフルが絡め取られる。
 リリウムは執着せず冷静にライフルをパージ、アサルトライフルに持ち替え牽制射。
 そこへエインヘリャルが同じくレーザーを浴びせ撃つが、やはり十分なダメージにはなりえない。
「チッ、バリアなしでも装甲が抜けねぇ。火力不足か」
「なら直接さァ!」
 Overedが横合いからモノアイ・ゴーストに体当たりをぶちかませば、ようやくよろめいた単眼の亡霊がギロリとその視線を多喜に向ける。
 コックピット越しにも怖気が走るような死霊の眼差しに怯むことなく、多喜は戦域全体に伝わるように声を張り上げた。
「そんなものに頼らなきゃ保てない威厳なんてたかが知れてるねぇ!」
『黙れ黙れ黙れ私の栄光は私の栄達は私の――私の、』
 モノアイ・ゴーストが向ける殺意に従って、生き残った随伴機が敵意をOveredに集中する。
 渡り禽はこれを、この瞬間を待っていたのだ。
「アタシに気を取られたのがアンタの運の尽きさ! 皆後は頼んだよ!」
 敵意の視線を遡るようにOveredからほとばしる雷撃が次々にキャバリアを打ち、オブリビオンの力を持たない取り巻きがシステムダウンして堕ちてゆく。
「ああ見事だ多喜! 行くぞ渡り禽ども、一気呵成に指揮官機を叩くのだ!」
「オーライ団長。ワルキューレ、ユーハブコントロール」
《アイハブコントロール。電子戦用意、機体制御を回避モードに切り替えます》
 麗しき電子の伴侶の声に聞き入りながら、エインヘリャルを後退させたワンはその真価を解き放つ。
 戦域を掌握する戦乙女。ユーニが武力とカリスマによってそれを成すならば、ワルキューレは戦わぬことで、戦わせぬことでそれを成す。
 オブリビオンマシンですら逃れられぬシステムへの介入。FCSが狂い、照星が荒れ狂う中ではまともな戦闘など出来はすまい。
 まして、メインセンサからの外界把握に偽情報など噛まされた日には――
「目隠しして飛ぶと危ねぇぜ?」
 ワンの言葉通り、ふらついたモノアイ・ゴーストはそのまま装甲列車の上に膝をつく。
「今が好機だ、アレク、イコル、三方から掛かるぞ!」
「おうよ!」「了解」
 動きを止めたキャバリアは的も同然。この大きな隙を逃すものなどいない。
 ビットを引き連れたdunkel Onyxと徒手で駆けるTALONE、炎の剣を携えた黒のスルトが三方向から一気に肉薄する――が。
『舐めるなよ傭兵風情が私は滅びを迎えるその瞬間まで負けられん国家の党の栄光を汚すわけにはいかんのだ!』
 ワイヤーウィップが周囲の空間ごと削り取るが如く振り回され、三機はそれぞれの得物でそれを防いで進撃を止めざるを得ない。それはまるで空気を切り裂く恐ろしい音とともに主を守るべく荒れ狂う蛇のようで。
「こういうのをなんと言うんだったか、そう……まるでメデューサのようだ」
 ユーニが呟く。恐ろしい眼光に睨まれ、暴れる蛇を前に三機のキャバリアは石と化したかのごとく防御姿勢で前進できぬまま。
「このままじゃ埒が明かない。団長、バジル、僕が行って隙を作る」
 イコルの言う通り、睨み合っていても状況は好転すまい。あるいはこの膠着状態のまま首都とやらに入るのも手だが、首都に配備されているであろうキャバリアが味方となるか敵となるか……決して勝ちの目の大きな賭けとは言えなかった。
「おいおいイコル、そういうのは団長たる我の仕事だ。取るんじゃない」
 だから短期決戦で決める。そのために最大級の火力を敵機に叩き込むならば、適任者はアレクサンドルだ。
 それを確実に敵機に叩き込むために、ユーニはイコルと己を差し出すことを決断する。
「アレク、我とイコルで隙を作る。三機掛かりの当初の予定とは違うが、倒せるな?」
「……ハッ、勿論やれるさ。誰に言ってやがる団長」
 信頼できる部下、同胞、戦友の言葉を信じて、ユーニとイコルは決戦に挑む。
 ユーニの放つビットがウィップに貫かれ爆散する。一機、二機、加速度的に数を減らしていくビットは無為に落とされているようで、しかしウィップの攻撃方向を大きくdunkel Onyxへと集中させている。
 時折迫るウィップの一撃をビームサイスで振り払い、ユーニは見事に己に課した陽動を成し遂げた。
「団長ありがと。いくよ」
 ウィップの殆どがユーニを襲っているとはいえ、決して此方ががら空きに成ったわけではない。だがTALONEは斬撃めいた鞭打ちを耐えて突き進み、モノアイ・ゴーストとの距離を詰めきった。
 叩き込まれるのは青銅巨人の拳――ではない。
「いじぇーくと」
 コックピットブロックを開放し、その一瞬だけ凄まじい覇気を放ったイコルが巨人の胸から飛び出した。
「は? イコル何して――生身で!?」
 その様を遠巻きに観測していたワンが驚くのも他所に、イコルは敵機に飛び移る。
 明滅するバリアは吹き飛ばされ、もはやモノアイ・ゴーストは丸裸。イコルはそのまま、先の交戦で猟兵がぶち抜いた背中の破孔からその華奢な身体を敵機の内に潜り込ませた。
「バジル、やって」
「ッ、おう!」
 黒のスルトは炎の剣を虚空に収め、モノアイ・ゴーストに肉薄する。
 鞭が迫るより速く、残像すら残すような超機動からの連撃。魔力を纏った四肢はもはや鋭利な刃物に等しく、全方位からの多重斬撃がモノアイ・ゴーストの五体を解体して――
 胴体だけになったそれが黒のスルトからの攻撃の余波でほんの僅かに天へ舞い上がったその時、破孔からイコルが飛び出して。
 ――モノアイ・ゴーストが爆散する。最後には胴体だけと成った悪霊は、粉々に砕けてその怨念を散らした。
「作戦終了! どうだ少年兵諸君、賭けは我等の勝ちで文句はないな?」
「……言いたいことはあるがダチを助けてもらっちゃ文句は言えねぇよ」
「ヤーコフ、お前ありがとうくらい言えねぇの?」
 トーリャに諌められ、うっせ、などと小突き合う少年たちのキャバリア。
「バカ二人と大隊総員に代わって、猟兵の皆さんに感謝します。救援、ありがとうございました」
 イリーナがそう締めくくれば、地上艦隊を襲った最悪の一日は終わろうとしてゆく――

「ねえ。ねえ、起きて」
 ――貨物車両の車内で、申し訳程度に拘束された同志指導将校大尉――ヴィクトル・セルゲーエフ・コシチェイの頬を叩く小柄な影。
 真っ赤な髪を揺らしながら、イコルは痩せ細った上に煤けた眼鏡の男を揺さぶった。
 戦闘終了からまだそう時間は経っていない。生き残りのパトロール部隊は仲間を救助するべく飛び回り、トゥガーリン大隊も損傷機を応急的に共食い修理してその手伝いをしている。地上艦隊は敵影無しということで救助活動に専念すべく、しばし停車中だ。
 この事態を引き起こした――とまでは言わないが、悪化させてしまった要因であるヴィクトルは拘束され、貨物車の隅に転がされていた。オブリビオンマシンを起動させてしまった彼は首都に到着すれば然るべき裁きの上で相応の処罰が下されることになるだろう。
 だが、イコルは一つだけ気になっていた。彼は文官然とした将校であり、キャバリア戦など得意とするようには見えなかった。生白い手にはパイロット特有の操縦桿タコも出来ていなければ、筋肉の付き方だってパイロットのそれとは程遠い。
 そんな素人が戦場に出たとて何の役に立ったというのか。
 そも、規則を重んじる彼が無断で国家と党の所有物たるキャバリアを持ち出したのは何故か。どちらも事態を好転させるものではないとわからない頭ではないはずだ。
 そこがどうにも解せなかったのだ。
「大尉。おはよう。ひとつだけ気になってる。なんでアレに乗ったの?」
 その問いかけに、同志ヴィクトル・セルゲーエフ・コシチェイはしばし驚いたように目を丸くし、それからため息を吐き出すように呟いた。
「何故だろうな…………ただどうせ失脚するならば最後に子供たちに償いたかったのかもしれん」
 それは自己満足だ。しかし、自己満足であっても、栄達を絶たれた男はせめて子供たちに多少はマシな指導将校だったと、嫌なだけの大人ではなかったと思われたかったのかもしれない。
「そっか、ありがと」
 それじゃ、僕は行くね。イコルが立ち去れば、薄暗い貨物車両に男が一人取り残される。
 ――いや、独りじゃない。
 賑やかな子供たちの声やってくる。男を冷たく堅い虚栄心と蹴落とし合いの世界から引き上げるような、暖かな声音が。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『歓談食堂』

POW   :    がっつり食べて体力を付ける

SPD   :    食事は軽めにして会話を楽しむ

WIZ   :    いっそ自分も厨房に入り、料理を作る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 最後尾車両。モノアイ・ゴーストが眠っていたそこには、指揮官級の将校のみが知る戦略資源のコンテナが山と積まれていた。
 とはいえ、だ。それを輸送するよう指示したのは国家指導部たる党で、指揮官たる大佐はそういう荷物があることは知らされていてもそれが何なのかを知る権利を与えられていなかった。
 確かめる必要がある。もしそのコンテナの中にモノアイ・ゴーストの親類縁者が如き墓場から蘇ったキャバリアが詰まっていようものなら、党の意向に逆らってでもそれを此処で潰す必要がある。猟兵という強力な戦闘力が帰還してしまう前に。
 もっと言うならば、キャバリア部隊の稼働機が救助のため地上艦隊を離れている今なら、またモノアイ・ゴーストのような周囲の機体を掌握支配する敵が出現しても被害を最小限に抑え込めるだろう。
「万が一の時は頼みますよ、猟兵……」
 まだ子供も居た。そんな彼らにこれ以上頼るのは忍びないが、しかし軍人として合理的に判断すればそれこそが最良。
 司令部将校達とともにバールをコンテナのハッチに差し込み、息を合わせてこじ開ける。
 ぎぃ、ぎぃと軋む音を立てて封印が解かれてゆく――
 そのコンテナの中身を見て、大佐は目を見開いた。それは到底あってはならぬものだったのだから。

 少年兵達に"仕返し"と称され一発ずつ拳を頂戴した大尉は、その青く腫らした顔とは裏腹に晴れやかな表情であった。
 グーで一発。それ以上の報復は無し。死人が出なかったこと、そしてその真意が子供たちを思ってのことであると猟兵が聞き出したのを少年兵が聞いていたのが良かったのだろう。
「まさかイリーナ君の一撃が一番応えるとは予想外だったが……」
「あの子は生身の白兵戦では負け無しですから。自慢の娘ですよ」
 それで、と拘束から解放された大尉を最後尾車両に連れてきた大佐は、極秘の戦略資源のコンテナを前に大尉に問うた。
「これは一体どういうことか、説明してもらえますか」
 コンテナに満載されていたのはキャバリア――ではなく。
 条約で禁止された火器兵装その弾薬類――でもなく。
 人民平等会議がその国是によって不倶戴天の敵国と断じ、隣国を挟んで睨み合う経済連合――ユナイテッド・エコノミカの企業ラベルが貼られた嗜好品の数々であった。
 贅を凝らした菓子や食材、飲料に酒、煙草。玩具や書籍、映像ソフト、テレビゲームその他諸々――人民平等会議領内では堕落の象徴とされ、輸入はおろか所持ですら処罰されるそれらが複数のコンテナいっぱいに詰め込まれている。
「党上層部のための"秘密の宝箱"というものだよ大佐我が国はあの国を批判しているが指導部にはあの国の製品の熱烈なファンも多いのだ」
 経済活動を国家が完全に掌握している人民平等会議では生まれ得ない、利益のために品質を追求した敵国の嗜好品。その味を知るものが居たならば、それを手に入れることができる力を持つならば、こうして罪を隠して得ることができる。
 触れてはならない国家の暗部に大佐は息を飲むが、大尉は逆に軽薄に笑う。
「いいかね大佐貴官は何も見なかった最後尾車両はオブリビオンマシンの攻撃で大破し戦略資源はすべて破壊されたのだ強いて言えば責任はオブリビオンマシンの操縦者である私にあるが概ねとして事故による損失である」
 ――どうせキャリアなどもう何処にもないならば、どこまで転げ落ちようと構わない。だが、必ずや這い上がってみせる。今度は誰にも誇れるやり方で。
「流石に本や玩具の類は破壊して処理することになるだろうが食べ物であれば腹に納めてしまえば誰にも分からんだろう幸いにもこの地上艦隊には腹を減らした悪ガキどもが山ほど乗っている」
「同士指導将校大尉……貴官はそれで良いのですか」
 なに、と大尉は歪んだ眼鏡のズレを直して、負傷兵を抱え次々帰還して来るガガンボや大隊のキャバリアが飛び交う空を見上げる。
「党のお偉方の悪事が潰れあの子供たちと迷惑を掛けた猟兵達に多少の詫びができるならば私の首はくれてやるとも」
 さあ、食堂車に人を集めろ。悪い高官の財布で宴を催せ。もともと存在しなかった積荷が名実ともに存在しなくなるだけなのだ、何に気兼ねすることがあろう。
 それは同志戦友諸君の無事の生還を祝うために。猟兵の活躍を称えるために。人民平等会議では手に入らないような食材の数々に奮起した厨房担当の将校たちの手で鮮やかな料理が食堂車に並んでゆく。
 陽が傾く頃、少年兵やパトロール部隊のパイロットたちとともに食堂車に招かれた猟兵達を迎えたのは、そんな贅沢な晩餐会であった。
ヴィリー・フランツ
(アドリブ・他者のとの絡みOK)

心情:折角の持て成しだ、ありがたく頂くぜ。

手段:(貨車の積み荷を見て)グリモア猟兵の小和泉が言ってた戦略物質ってのが所謂"嗜好品"だったのは予想外だぜ…クリューガー(f30011)への詫びの品に酒でも見繕うか。

お、葉巻もあるじゃねぇか!
(16本入りの箱を開けて一本手に取り香りを嗅ぐ)
コイツは上物だ、本来は政治家か将軍の取り分だった感じか
……どうせ後で破棄するだろうし、この1ケースだけは頂くか。

おお、セルジューか
夕凪(f08384)に落とされたらしいが、無事で良かったな。
早く食堂車に来いと?スマンな今行く
ついでに武勇伝も聞きたいと?
よーし、嫌と言うほど聞かせてやる


夕凪・悠那
まさか謎の戦略資源がねぇ
自分たちだけおいしい汁を吸うのは上層部あるあるだけどさ
ま、今回はボクらのものだからいいけど
(何ができるでもないので気にせずに思いっきり楽しむ構え)

SPD
ユナイテッドからの"戦略資源"に舌鼓を打ちながら、気を抜いてセルジュー達と談笑
あの機体特性でだいぶ無茶したけど、なかなかうまいこといったのでドヤりなどする
こういうヒロイックなの、たぶんみんな好きでしょ
あ、真似はしないように釘は刺しておこう
素のスペックであんなこと無理だし、まずはあの三人に技量で追いつかないとね

アドリブ満喫、PCNPC問わず絡み歓迎


クルト・クリューガー
遠慮なく出されたものを食べています
出されたものを食べないのも失礼だからな
仕事終わりの食事は生き残ったことを実感させる
あー、罪の味は五臓六腑に染み渡るな!

さて、無事生き残った諸君らにはご褒美がある
約束通り、外の世界のチョコ(UDCアース産)をやろう
ここだけの秘密だぞ?(にやりと笑いながら)

贅沢は敵だ!とかいうやつがいるが、大抵そういうやつは上の層の連中だよな
下の奴らは贅沢なんて知らなくていい、機械のように働けというわけだ
馬鹿馬鹿しいよなぁ
なぁ、大尉さんよ(チョコを差し出しながら)




 山と積まれた貨物を前に、ヴィリーはほうと息を零して僅かに頷いた。
 グリモア猟兵から聞かされていた戦略資源――すわエネルギーインゴットか、あるいは鉱物の類かと思って蓋を開けてみれば、中身は所謂嗜好品の山。
 指揮官級の士官に存在のみを知らせ、その正体は謎に包まれていたそれがこんなモノだったことにも驚きだし、これが禁制品扱いとされている人民平等会議の内情にも、そしてその上で敵国からその品々を密輸し軍に輸送させている国家上層部の腐敗にも思うところは様々ある。が、
「折角の持て成しだ、ありがたく頂くぜ」
 無かったことにするために、消費できるものは此処で消費していく。食材の類は早々に食堂車に運ばれていったが、胃の腑に納めて消しさることの出来ない品々はまだ破損した貨物車に残されている。
 食堂車での『証拠隠滅』が成った後、最後尾車両ごと切り離してキャバリア隊の砲撃で跡形もなく消し飛ばす――法自体の是非はどうあれ、所持が罪に問われる品を残さないという点ではヴィリーもそれに異論はない。
 が、やはり勿体ないのだ。
 同じように考えた猟兵たちも少なからず居たようで、猟兵に限り――加えて今後人民平等会議内にこれを持ち込まないという条件で――報酬代わりに物品の放出を取り付けたのである。
「アイツが飲めるタチか聞いときゃよかったな……」
 ヴィリーの脳裏に浮かぶのは、轡を並べて戦った戦車乗りの顔だ。
 やむを得ない状況にあったとはいえ随分負担を強いたのも事実、それを結果良ければ全て良しと有耶無耶にしないのが傭兵稼業で長生きするコツだ。詫びねばならないと思ったらしっかり詫びて禍根を残さない、そうしていれば背中を撃たれる心配も減らすことができる。
 そんな訳で成人男性に贈る詫びの品といえば酒だとばかりに木箱を物色するヴィリーだが、彼がどんな酒が好みなのか、そもそも飲めるのかどうかすら知らないことを思い出して苦い顔をする。
「あー、まあいい。こういうのは気持ちだ気持ち。飲めねえなら料理にでも燃料にでもしてくれるだろ」
 考えても埒が明くものでなし、適当に酒瓶を引っ掴んで大きめの鞄に突っ込んで――そこでふとヴィリーはすん、と鼻を鳴らして立ち止まる。
 傍らの資材の山の上に放り出された小さな紙箱を手に取り、封をしているテープを切ると、中から出てきたのは上等の飾箱。ゆっくりと蓋を開ければ芳しい香りが漂う。
「やっぱりな。葉巻もあるんじゃねぇかと思ってたんだ」
 古今東西、上級の政治家や軍司令官なんかのポストに収まるお偉い方々は紙巻たばこもそうだがこういう葉巻を好むもの。わざわざ密輸を企てるような連中なら絶対に葉巻を取り寄せない筈がない、というヴィリーの見立て通りであった。
「いい匂いじゃねえか。コイツは上物だな」
 どうせ捨てるものなら自分用に頂戴しても咎められまい。ヴィリーはそっと飾箱を懐に忍ばせた。
「――ヴィリーさん、まだお土産漁りしてるの? もうみんな食堂車に集まってるよ」
 がらりと貨物車の戸を開け呼びかけられた声に、ヴィリーは振り返る。
「おお、セルジューか。スマン今行く」
 酒瓶の詰まった鞄を抱え、セルジューとともに食堂車へ向かう――

「うめぇなオイ、このハンバーグもう一個くれ!」
「だからクリューガーさん、コトレータだって言ってるでしょうが!」
 空っぽになった皿に追加で盛られる肉料理に、クルトは遠慮なく舌鼓を打っていた。
「あーうめぇ……罪の味は五臓六腑に染み渡るぜ」
 一仕事を終え、自分はまだ生きている。その証を立てるように肉を噛み締め、喉奥に流し込めば命を繋いだ実感を、生き残った実感を得られるのだ。
 クルトはこのひとときが好きだ。普段は戦場の真ん中で、味気ない保存食を齧って得ていたこの感覚も、それが悪どい高官の財布から出た高級食材で賄われた美味い料理となればひとしおに素晴らしく感じられる。
「贅沢は敵だ! とか煽るやつは何処にでも居るが、たいていそういう奴ほど上の層で贅沢してやがるもんだ」
 UDCアースで買い込んだ、一枚でもさして値のはらない、そこらのスーパーマーケットで手に入るような板チョコを生還のご褒美として少年兵に配った時の事を思い出す。
 ラベルを剥き、銀紙をビリビリに破ってチョコにかじりついた少年兵たちは、こんなに美味しいものを食べたことはないと言いたげに目を輝かせていた。
 世界の、国の豊かさが違うといえばそれまでだが、あの程度の菓子の味すら知らない子供たちが居る一方で、こんなに美味いものを法を犯してまで手に入れる事ができるものも居る。
「下の奴らは贅沢なんて知らなくていい、機械のように働けというわけだ。全く馬鹿馬鹿しいよなァ、大尉さんよ」
 付け合せのじゃがいもピューレをコトレータの最後の一口でキレイに拭き取り腹に収めると、クルトは視線を前に向けたまま通路に手を伸ばす。
 チョコレートを差し出すように伸ばされた手を見下ろし、指導将校――ヴィクトル大尉はそれをそっとクルトに戻して対面の席に腰を下ろす。
「大昔はそうしなければ国家自体が成り立たなかったのだと聞いている当時は党上層部も人民と同じ目線同じ暮らしに甘んじていたというがな……」
「どこの国もデカくなりゃどっかが腐っちまう、ってわけだ」
 さらに大尉の横に腰掛けるヴィリー。
「よ、早速食ってるみたいだなクリューガー。さっきはお前にも随分迷惑かけたからな、詫びに酒を見繕ってきたぞ」
「一仕事終えたっても帰るまでは常在戦場って言わねぇか? ま、俺の帰るところは機体なンだが……」
 いいじゃねぇかと適当に鞄から引っこ抜いた酒瓶の栓を開け、グラスに注ぐヴィリー。
 自分と、クルトと、それから大尉と。三人分のグラスに透き通るような酒がなみなみと注がれる。
「それじゃ、乾杯しようぜ」
「あー、子供たちの無事に乾杯?」
 男たちの盃がカチンと小気味よい音を立ててぶつかりあった。

「おかえりセルジュー、ヴィリーさん居た?」
 戻ってきた少年兵に微笑みかけて、近くの椅子に座るよう促す悠那。お土産の品定めから中々戻ってこないヴィリーを呼びに行った彼の取り分が減らないよう、悠那は彼の皿に料理を取り分け待っていた。
「うん、今はあっちでクルトさんと同志指導将校大尉と飲んでるよ」
 セルジューが示す先では、如何にも傭兵らしい風体の二人と顔を青黒く腫らした大尉がどこか大人びた空気を纏って盃を交わしていた。
「ふーん、大尉もなんだかんだ楽しんでるみたいで良かったじゃん」
 ある意味で事態を悪化させた元凶とはいえ、彼の真意に悪意は無かったことは猟兵の問いかけとそれを陰から聴いていた少年兵たちによって皆の知るところ。
 人民平等会議上層部的には大事な物資を守りきれなかった彼の責任追及は免れないものだろうが、今の大尉ならそれも乗り越えられるような気がした。
「ま、それはいいとしてセルジュー、キミも食べなよ。美味しいよ、このポテトサラダ」
 蒸したチキンの入った甘酸っぱいポテトサラダは、じゃがいもや人参だけでなくピクルスやトマト、オリーブなどなど沢山の野菜が混ぜ合わされていて目にも舌にも楽しい。
「首都サラダだ! 僕好きなんだ、ありがとうユーナさん」
 奇しくも好物だったらしいそれを頬張るセルジューに、彼の僚友たちはアレも食えコレも食えと彼の皿に山盛りに盛っていく。
 そのどれもを美味しそうに食べるセルジューは見ていて気持ちがいいが、なるほど他の少年兵より気持ちふっくらしているのはそういう訳で……と悠那は変なところに納得を覚えるのだった。
「ところでユーナさん、僕を助けてくれた時のあれどうやったの?」
 あれ――とは、彼らと同じ重装甲キャバリアで見せた高機動格闘戦だろう。
「あー、あれね。あの機体特性で随分無茶しちゃったけど、中々上手いこと行ったでしょ」
 ふふん、と自慢げに胸を張る悠那。他にも保護されその様子を見ていた少年兵は居たらしく、どうやったらあんな動きができるのかとあっという間に質問攻めだ。
「あーハイハイ、みんなああいうカッコいいの好きなのはわかるけど、あの機体で白兵戦とかホントむちゃくちゃだからね。真似しないでよ?」
 大体ボクのはズルしてるし、と電脳魔術による機体性能ブーストを揶揄して、少年兵のブーイングを受け流す。
「どうしても真似したいんならボクよりヤーコフに聞きなよ。あっちのほうが正統派に白兵戦してるし。まずあの三人組に技量で追いついてからだよ」
 ヤーコフたちのことを例に出した瞬間萎びていく少年兵たち。付き合いが長い分力量差がしっかり刻まれているのだろう。
「あーほらしょげないの。頑張れば追いつけるって、ねぇ!」
 慌ててフォローする悠那。そんな中で一人黙々と料理を頬張っていたセルジューが拳を握って突き上げる。
「僕はやるよユーナさん、きみみたいな強いパイロットになって次こそ今日の恩を返せるようになるんだ!」
 その宣言をやいのやいのと同期に誂われるセルジューに、悠那は未来のエースの気配を感じたとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

才堂・紅葉
「景気が良くて何より。合理的理由のある物資の浪費はとても素晴らしいですね」
ニコニコと宴会に加わりつつ、そっと抜けてちょっとだけお土産を準備しよう

この物資の引受先の人民平等会議の高官と、それに噛まない別派閥、もしくは追落しを測る勢力の割り出しや、口外出来ないお偉いさんの個人的な趣味の把握
敵国と癒着し物資を横流す経済連合の企業の推測
そう言った情報源として、工作員にとってもこれは宝の山だ【情報収集、野生の勘】

まぁ自分がこの世界に居座るならの話である
お銭様に化けない事も無いが、それも野暮だろう

「上手く生き延びなさいな、大尉殿」

手早く【暗号作成】したメモを、大尉殿の懐に【早業、忍び足】で忍ばせておこう


チトセ・シロガネ
【SPD】
ふぅん……ユーたちの国はこういう娯楽も堕落の象徴なんだネ。
出発する際には処分されるであろう秘密の宝箱を名残惜しそうにみつめつつボコボコの大尉に話しかけるヨ。

こんな楽しいものを禁止してみんな平等にシアワセ……カ。
ボクはそうは思わないネ。人生の大半は暇つぶしネ。娯楽を楽しんでこその人生ヨ。それにこんなのを独り占めなんてひどいヤツらネ。

贅沢品をほおばる子供たちに視線を移してカメラアイの色が穏やかな青へ
ボクはああいうシアワセな表情をする平等のほうがいいナと思うヨ。子供たちには銃よりおもちゃ、剣より暖かいスープを掬うスプーンを持てる国がイイネ。大尉はそう思わないカナ?


荒谷・つかさ
(美味しい料理に舌鼓を打ちつつ、大佐さんに顛末を聞いて)
ふうん……最初の頭でっかちな印象の割には中々根性あるじゃない、あの大尉さん。
彼は、今どこに?
(居場所を聞けたら礼を言ってから向かう)

……見つけた。
今回は災難だったわね、色々と。
ところで気になったのだけど、貴方はどうして軍人に?
官僚とかの方が余程向いてそうに思うのだけれど。
(聞けたらどういう答えであれ、聞かせてくれた事に礼をして)
それじゃ、今後の歩みを応援する意味も込めてこれをあげる。
(【頒布版・超★筋肉黙示録】を渡す)
そこそこ絵は入ってるけれど、身体を……筋肉を鍛えるための「実用書」だから、所持も問題無いでしょ?
きっと、今後の役に立つわ。




「いくら非合法、極秘の荷物だって目録はあるはずなのよね」
 誰も居なくなった貨物車両。猟兵たちが思い思いに回収し、随分とスッキリした貨物の山を物色する影がある。
 宴会をするりと抜け出した紅葉は、人民平等会議軍の人々の目が離れているこの時を待ち望んでいたのだ。
 目的はこの戦略資源とは名ばかりの密輸品を求める者たちに繋がる手がかり。傭兵であり工作員でもある彼女にとって、禁制品の密輸とは即ちモノ自体の価値以上に情報としての価値がある。それは黄金よりも高価なものだ。
「おっ、これなんかそうじゃないかしら?」
 幾つかの箱を開けて漸く行き当たった数枚のコピー紙。製品購入者へのお礼状なんて体裁を取っているが、これは暗号文だと紅葉の勘が訴える。
「此処が工作員としての腕の見せどころね」
 目を凝らして紙面に視線を走らせ頭脳を高速で回転させる紅葉。この書類は宝の山に等しい。物資を受け取る予定だった人民平等会議の高官が分かれば、これに対抗する――善悪は置いても国是に忠実な派閥も分かるだろう。
 国家上層部の醜聞は上手く使えば敵対派閥が汚職官僚を攻撃する材料にも、あるいは敵対派閥を猟兵の意で攻撃させるための脅しにも使える。
 あるいは敵国に窓口を持つ経済連合企業を知れば、いずれ彼の国で活動するときの役に立つかもしれない。
 情報とは金より重い。知りすぎれば身を滅ぼすが、滅ぼされない強さを身につけた彼女には何処までも有益な蜜の湧き出る泉である。
「この程度の暗号で私を止められるとは思わないことね――」
 凄腕の女工作員の手で、悪辣なる人民指導者達の罪が暴かれてゆく。

「――という訳でしてね。子供たちが同志大尉を許すと言うのであれば、私は彼を必要以上に糾弾しません。彼なりに子供たちを思っての行動だったようですから」
 難しい表情で代用コーヒーに口を付ける大佐から事の顛末を聴いたつかさは、シャシュルィーク――串焼きの羊肉を頬張ってなるほどと頷いた。
「最初は頭でっかちな奴って印象だったけど、中々根性あるじゃないあの大尉さん」
 グリモア猟兵が見た予知では党に忠実な堅物であるといった雰囲気の強かった大尉も、この戦いを経て忠実さと柔軟さを兼ね備えたいい軍人に成長したのだろう。
 彼がこのまま硬軟織り交ぜ国家を良い方向に導く軍人になるか、あるいはこの失敗を責め立てられ再起不能となるか。今こそが分岐点と言えるだろう。だったら、とつかさは立ち上がる。
「彼は今どこに?」
「あぁ、さっきまで猟兵と飲んでいましたがね。大隊傾注、同志大尉が何処に行ったか見たものは居るか?」
「Да、同志大佐。夜風に当たりに客車の方へ行かれました」
 敬礼とともに少女兵士――彼女は確かイリーナと言うのだったか――が答えれば、つかさは彼女に礼を言って食堂車を出ていった。

「ふぅん……ユーたちの国はこういう娯楽も堕落の象徴なんだネ」
 貨物車両から持ち出した玩具を掌の上で弄び、食堂車に収まりきらず車外の人であることを余儀なくされたジャイアントキャバリア――チトセは窓から夜風を浴びる大尉に話しかけた。
「何も玩具を持つこと自体が悪というわけではない無用に贅を凝らすことで貧しきものが手に入れられず富むものにだけ届く格差が生まれるこれが我が国の定める悪なのだ」
 誰にだってあるだろう。自分より豊かな子供に玩具を自慢され、しかし自分は買ってもらえなかったという苦い記憶が。
 けれど人民平等会議ではそんなことは起こり得ない。富むものも貧しきものもおらず、玩具も菓子も全て国民皆が平等に手に入れられるものしかないのだから。
「こんな楽しいモノを禁止してみんな平等にシアワセ……カ」
 確かに"手に入らない"ことで涙を流す子供は居ないのだろう。けれど、誰もが手に入る――祖父も父も息子も孫も皆同じものを与えられる玩具などというものは楽しさの追求をやめて足踏みするだけの存在だろう。
「ボクはそうは思わないネ。人生の大半は暇つぶしヨ、娯楽を楽しんでこその人生だと思うんダ」
 ただ働き、子を生み、死んでいくだけだなんて人らしい生き方とは言えない。ましてそれを強いた指導者だけが自ら禁じた富を独占しようなど。
「それには同意するがしかしこの体制で強国となった我が国を今更変えるにはあまりに私は非力だと思わんかね」
 そりゃあネ、とチトセは肩を竦める。国という巨大な集団の、かくあるべしという固定観念に立ち向かうには大尉一人では――きっと大隊の全員が賛同したとしても――力不足に違いない。けれど。
 チトセは視線をついと食堂車に向ける。窓から見える暖かな情景は、悪徳が齎した贅沢品を頬張り幸せそうな笑顔で談笑する子供たち。
 巨人の瞳が穏やかな青色に変わり、その視線に優しさが宿る。
「それでもボクは子供たちがああいうシアワセな顔をする平等のほうがいいナと思うヨ。銃よりおもちゃ、剣より温かいスープを掬うスプーンを持てる国がイイネ」
 大尉もそう思うでショ? なんて問われれば、青黒く腫れた顔を困ったように歪めてため息を一つ。
「卑怯な問いかけをする機体もあったものだ首都に搬入される前で心底良かったと思うよ」
 言外に同意の雰囲気を滲ませる大尉に笑顔を作るがごとくアイカメラの光を絞ったチトセに、食堂車の窓から呼びかける声。
「あ、あのっ! もしよかったら一緒に食べませんか!」
 身を乗り出して手を振るのは、チトセが助けたあの少年兵だ。
「ンー? いいヨいいヨ、ちょっと待っててネ」
 頬を染めた少年が拳を握って引っ込むのを微笑ましく見送って、チトセは大尉に最後に振り向く。
「ユーがあの子たちをシアワセにしてくれるってボクは願ってるヨ」
「まったく厄介な願いを押し付けてくれた」
 窓の外の巨人が食堂車のほうへ歩いていく。会話を切り上げ振り返った大尉は、客車の入り口に寄り掛かる有角の女に気づく。
「探したわよ、大尉さん。今回は災難だったわね」
「猟兵というのはよくよくお節介焼きばかりらしいな私より子供たちを構ってやりたまえ」
 困り顔の大尉につかさは貴方に用があるのよと歩み寄る。
「色々聞きたくってね。貴方はどうして軍人になったのか、とか。どう見ても官僚の方が向いてると思うのだけど?」
「我が国の官僚組織では取り殺されるだけだからだよお嬢さん党指導部に逆らえば待つのは左遷か粛清だ最初からそのような組織に身を置けば瞬く間に腐るか消されるかの末路を迎えるが軍の指導将校として実績を得れば私は私のまま党の上層に食い込む事ができる――そうか、私の初心はそうだったな……」
 思い出した初心は確かに出世欲が起点であったのだろうが、国家の腐敗に巻き込まれたくはない、大多数に迎合せずより良い国家を求めるという意志があったのだ。
 それを思い出して、大尉は己の変容に愕然とする。軍という異なる領域で、腐らずとも子供をすら出世に利用しようと考えてしまうほど歪んでいたのだ。
「聞かせてくれてありがと。その顔だともう大丈夫そうね、まだ子供を使って出世しようとか言うようなら私からも一発あげるつもりだったけど」
 殺すつもりだろうか、というツッコミは野暮なものだろう。つかさの鉄拳制裁を必要とすることなく、大尉はいい方向に立ち直ろうとしている。
「そういうことなら私からは今後の応援をあげるわ。これなら別に咎められもしないでしょ」
 突き出されたつかさの手には一冊の本。つかさをモデルにしたようなキャラクターの絵が入っている表紙は漫画のようにも見えるが、ぱらぱらとページを捲ればどうにも参考書や実用書といった雰囲気だ。
「これはなんだね?」
「身体を鍛えるための実用書よ。貴方子供たちからガリ眼鏡なんて呼ばれてたでしょ。もう少し筋肉をつけなさい、鍛えた身体はきっと今後の役に立つわ」
 捲り終えて表紙にもう一度目を戻せば、『超★筋肉黙示録』なんてトンチキなタイトルに思わず大尉も吹き出してしまう。
「まったく君たち猟兵という連中は理解が及ばんな使うかどうかはさておきありがたく頂戴しよう」
 その本を軍服の内ポケットに納めた大尉に手をひらりと振って、つかさは食堂車に戻っていく。
「よい筋肉はよい食事から、よ。貴方も程々で戻って鶏肉を食べなさい」

 まったくもって奇妙な連中だった。
 オブリビオンマシンに呑まれた哀れな男、忠誠と傲慢を履き違えた愚かな男をこうまで気にするとは。
 だが、その心遣いに応えることが国家と軍を良き方向へ導く指導将校の目指すべき道であろう。
 客車から足を踏み出した大尉の肩を、気配もなく現れた陰がぽんと叩く。
「あっちは賑わってますね。景気がよくて何より。合理的理由のある物資の浪費はとても素晴らしいですね」
「君も猟兵かその物言いは経済連合的だぞ我が国では控えたほうがいい」
 ご忠告どうも、と微笑むのは紅葉。此処まで漂ってくる美味しそうな匂いは、戦い疲れた彼女の胃袋を刺激する。
「私もごちそうになってこようかしら」
「そうしたまえどうせ余ったものは処分せねばならんのだ少しでも胃袋に詰めて持って帰ってくれればこちらも助かる」
 お言葉に甘えてそうさせてもらいますわ、などと笑って大尉とすれ違い食堂車に歩んでいく紅葉は、ふと振り返って。
「あとで一人になられたら内ポケットの本、ちょっと目を通してみるのをおすすめしますよ。とても面白いですから」
 あの筋肉本がかね、と怪訝な顔をする大尉にそれ以上応えず紅葉は颯爽と歩み去る。
 秘密の宝箱から得た党上層部の弱み、あるいは経済連合側の窓口になっている企業の正体や取引に用いられている暗号――紅葉が割り出した"表沙汰に出来ない話"のメモを超★筋肉黙示録の適当なページにスリ挟んでおいたのだ。
 千金に値する情報だが、紅葉はこの世界に居座るつもりも、まして人民平等会議に留まるつもりもない。持ち腐れるより、泡銭に化かすよりは有効に、そして正しい目的で使う人間が持っておいたほうがいいだろう。
「上手く使って生き延びなさいな、大尉殿」
 その呟きは窓から吹き込む夜風に溶けて消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と宴】

しかしまぁ、これが重要物資ねぇ……
なんだか歴史の一幕を見てる感じだよ。
ここはひとつ、チョコレートでも貰っとくか。
ギブミ―チョコレート、って古いかな?

ああ団長、運ぶのは手伝うよ。
アタシが自分好みに味付けすると阿鼻叫喚だろうし、ね。
その後はゲームに乱入さ!
こういうのはテレパスなしで、真剣勝負。
運を天に賭けて、楽しんでやらないとねぇ!
ほらほらそこの眼鏡ももうちょい楽しめよ!
こうしてまだ生きてるんだ、死んで花実が咲くものか、ってね。

って設置技かよ!?
そこでコンボに繋げられるかぁー!?
ああクソ、もう一回!
(格ゲーは飛び道具なしの暴れキャラ使い、ボドゲでは策に嵌まりやすい)


ワン・イーナ
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と宴】
アドリブ歓迎

ハハ、そーゆーもんだよなァ禁止だのってやつは
業務外にゃ口出ししねーさ

UCドヴェルグ使用。チビども、運搬・修理を手伝ってこい。ワルキューレ、指示頼む
『了解。ドローン指揮権受託』
これで良いだろ

で、賭けは俺らの勝ちだな?
それとも白黒ハッキリさせっか?ゲームでなァ!
一部のドヴェルグを料理とその運搬と応援の雑務にまわし、いざ万全のゲーム体勢
ハ、ワルキューレと自作AIしか相手がいなかった俺の腕前にビビんなよォ
(遊びの範囲で)マジの勝負!(でも負けたら悔しい)

「見たか、俺の勝ち!」
「…負けてな『負けです』負けたぜェ」

追加報酬は電子機器もらうぞ。素材にゃ違いねぇからな


アレクサンドル・バジル
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と宴】
まあ、悪くねぇ結果に終わったな。大尉殿はどーなるにせよ、初めて見た時よりはだいぶマシな顔になった。大丈夫だろうよ。
そんで打ち上げか。美味い飯を食べながらのゲーム大会は楽しいもんだ。
何であれ勝負事は本気だぜ。
基本的にガンガン攻めの姿勢。勘所でカウンターを仕込む感じ。
ゲーム慣れしない者には親切。王道パターンから邪道パターンまで惜しみなく説明。でも手は抜かない。勝っても負けても楽しむタイプ。
(何故かゲーム内容を知っている模様)
ハハ、どうやらウィクトーリアは俺に微笑んでるみてーだな。(勝利)
おっと、フォルトゥーナにそっぽを向かれちまったか。(敗北)
アドリブ歓迎


リリウム・マーセナリー
※アドリブ・連携歓迎
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と宴】

「こ、これは……話に聞くお菓子、というものでしょうか……?」
軍属時代も食べた事も見た事もない品々に、困惑を隠せませんが、開封されたものからは良い香りが漂ってきます。美味しそうに皆さん食べてますし、私も一口……。
「お、おいしい……!?}
普段は口にしない味に、目を輝かせながら食べ進めます(但し一口は小さい)。

「ゲーム、ですか。……ユーニ様、最初は見物させてもらえますか?」
慣れないものは観察して覚えるのが一番です。――やるのなら、負けたくはありませんからね。勝つための準備位はします。
「――さて、やらせて頂きますよ」


イコル・アダマンティウム
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と宴】
アレンジ歓迎

「ん。大尉、男前になった。ふとっぱら。」

【POW判定】
僕はがっつり食べる
キャバリア動かしてお腹減ってたから、助かる
団長の料理とお菓子を一杯食べる
<大食い><エネルギー充填>

「いいチョコ。高そう
――ん、にがい……」


格納庫でゲーム大会に参加
ゲーム中は両手が塞がる
から口直しで飴とか手を使わないお菓子食べながらプレイする
「ん。んーん(ん、負けない。)」

少年兵たちがいたらまたお菓子の話する
「またお菓子、賭ける?」

ゲームはどんなのジャンルも反射神経で頑張る<見切り><肉体改造>
キャラ選はスピード重視で一撃必殺、醤油はムース

「ん(僕の勝ち)」

「んぅ(僕の負け……)」


ユーニ・グランスキー
【騎兵団〈渡り禽〉の皆と宴】
【WIZ】
アレンジ歓迎

暇な少年兵やイリーナ達を誘い格納庫の一角でゲーム大会
自分は借りた厨房で腕を奮ってビーフシチューを作り運ぶ時に大佐と大尉を誘う
お菓子もいいがこのご馳走はどうだ!
闘争こそ我等の仕事だ、大佐殿礼には及ばん
飯の最中可能なら外で良い働きをしそうな大尉を我が隊に誘うが無理は言わず
我と来る気は無いか?君を活かす道があるぜ?

話を終わらせたら自分も遊ぶ
イコル君もワン君もアレクもやれー!トーリャに負けるなー!
リリウム君、このゲームはこうやるのさ!我が教えてあげよう!
読み合いが入る格ゲーは強いが運が絡むゲームは割と弱く戦略倒れで沼る
ぐわー!そのマスに地雷はやめ給え!




「うん、こんなものかな。やはりいい食材が使い放題だと俄然やる気が出るものだ!」
 コンロの上で芳しい湯気を立ち上らせる鍋の中には、ごろりと大きめにカットされた肉が浮かぶ茶褐色のスープがぐつぐつと煮えている。
「父上秘伝のビーフシチューだ。確かこの国では珍しいのだったな。少年兵どもが喜ぶ顔が目に浮かぶぞっ……!」
「あぁ、グランスキー団長。丁度いいところに。探しましたよ……厨房に?」
 エプロンの紐を解き、鍋ごと抱えて食堂車から運び出そうとするユーニに大佐が声を掛けた。
 自ら料理していたのか、という問いかけに首肯して、ユーニは手近なテーブルに鍋を置き姿勢を正して大佐に向き直る。
 戦闘は終わったとはいえクライアントと傭兵として礼を失した態度は取れない。そんな彼女に崩すよう促して、それから大佐は自身の姿勢をピンと正してユーニに敬礼する。
「貴隊の勇戦に敬意と感謝を。おかげで最小の損害で窮地を乗り越えられました」
「何、闘争こそ我等の生きる糧、これ以外の仕事を知らない我等に礼は無用」
 それに、と。少年兵たちと変わらぬ年頃の少女指揮官に言葉を接ごうとする大佐を制して、ユーニは更にもう一つ。
「我が父上の背から学んだこの生き方が私は存外に好きなのですよ」
「お父君、ですか。そう言われると何も言えませんね……」
 自らも血の繋がらないながらに父として少年兵を導き、しかし軍役しか教えられない男として、ユーニを戦いの道に残しながらもこうまで慕われる彼女の父を引き合いに出されればもはや何も掛けるべき言葉などありはしない。
「わかりました、無粋な言葉は飲み込んでおきましょう。報酬に関しては首都に到着次第大隊の予算から用意します」
「あぁ、それについてだが――」
 ちら、と視線を走らせたユーニ。その先では小柄な少女が、取り分ける前の数人前はあろうかという大皿を何枚も積み重ねている。
「ん、おいしい。これおかわり貰える? あとそれと、あれも」
 もぎゅもぎゅと頬いっぱいに詰め込んだ料理を飲み込んでおかわりを求めるのはイコルだ。見ているこちらもお腹が膨れそうな健啖ぶりは、食べ盛りの少年兵を支えてきた料理番の兵たちの闘志に火を付けたらしい。次から次に繰り出される人民平等会議の郷土料理の数々を美味しそうに平らげていく彼女は、既に相当量を食べているはずだ。
 ついでに言えば、ワンとアレクサンドル辺りが何やら少年兵を巻き込んで催しを企画していたようでもある。土産代わりに持ち帰る積荷を使って何か企んでいるようだが、そこでも他の猟兵より多めに土産を貰うことになるだろう。
「割増分の報酬は既に頂戴していますから。大隊の資産は子供たちの為に使われるべきだ……そんなことより大佐、大佐も我が父上秘伝のビーフシチューを召し上がるといい」
 パチリとウィンクをひとつ、皿にシチューをよそって大佐に差し出すユーニ。
「……貴方達には本当になんとお礼を申し上げていいか。ならばいつか貴方達が力を欲する時、私は人民地上軍の軍人としてではなく個人として力になるとお約束しましょう」
「それは頼もしい。さあイコル君行くぞ、皆が腹を空かせて待っている! まったく君は一人でどれだけ食べるつもりなんだ」
 視線で頷きあい、シチューを受け取った大佐に背を向けて。ユーニはイコルを呼んで仲間の待つ後方貨物車に向かう。
 大隊キャバリアの多くが失われ、広々とした空間が用意された貨物車両では、密輸品から引っ張り出された大型モニターにこれも密輸品のゲーム機が接続されていた。
 ワンの放ったドローンに手伝われて整備士たちが苦心し電圧を調整した発電機から給電されてぼんやりとランプを点灯させるそれらは、ユーニとイコルがシチューの香りを引き連れやってきたその時煌々と光を放つ。

「よっしゃあ! コイツで白黒はっきりさせようぜ!!」
 音頭を取るのはワンだ。なんと撃墜数は(彼とヤーコフそれぞれの単独撃墜に限りだが)きっかり同じ。あれだけ競い合って引き分けという結末に双方納得できず、すわキャバリアを持ち出しての実機演習へと発展しかけたところをアレクサンドルが宥める形でもっと穏当な戦い――即ち密輸品のテレビゲームを用いたゲーム大会を企画したのである。
「なんだかわからねぇけど勝負なら負けねえぞ! 今度こそ俺の勝ちだって認めさせてやるぜ」
 血気盛んな少年二人が盛り上がるのを微笑ましく見守っていた多喜は、ユーニとイコルの姿に気づいて手招きをする。
「よっ、団長。悪いね料理番をお願いしちまって」
「気にすることはないよ多喜君。我は好きでやっていることだしね」
 適当な木箱をテーブル代わりに鍋を置くと、簡易的な椅子に腰掛けた二人に多喜はねぎらいも兼ねて板チョコレートを差し出した。
 分厚く、ココアバターの油脂の感じが強く出たチョコレートは現代UDC日本のチョコレートに慣れた多喜にすればどこか古く異国の味を感じさせる。
「ギブミーチョコレート、って古いかな? こんなのまで重要物資とはねえ……何だか歴史の一幕を見てる感じだよ」
 ラッピングの紙を破いてチョコレートに齧りつくイコルを微笑ましく見守って、多喜とユーニは操作練習のためコントローラーをガチャガチャといじる少年兵たちへ視線を向ける。
 どうやらワンとヤーコフはこちらでも互角、イリーナは一段落ちる腕前で――一際手慣れた操作を見せるアレクサンドルに追随する凄腕のプレイングを見せるのはなんとトーリャであった。
「すごいですね、彼の飲み込みの速さ」
 機材の調整を手伝っていたリリウムが戻ってくれば、いよいよトレーニングを終え操作を掴んだ少年兵たちとの試合が始まろうとしている。
「団長、僕も行ってくる。シチュー残しといて」
「うん、我等の精強さはゲームであろうと変わらないと見せつけてくるんだイコル君!」
 リリウムと入れ替わりにモニター前に駆けていくイコルを送り出して、三人は楽しげに騒ぎながら対戦に華を咲かせる子供たちと仲間の背中を見守りながらシチューを味わい、そして多喜が集めておいた菓子に手を伸ばす。
「これは……話に聞くお菓子というもの、なのでしょうか……?」
 初めて見た、と目をぱちくりとさせるリリウムになんだなんだと二人が絡む。お菓子を見たことも食べたこともないなんて一体どんな人生だったんだと問われれば、リリウムは初体験する菓子への困惑の中にもそれを否と言わせない力強さを秘めてキャバリアパイロットたるエリート軍人としての半生を振り返る。
「私は軍務に全てを捧げてきましたから、こういうものに触れる機会はあまりなくて……栄養補給も固形タイプやゼリー型の簡易レーションとサプリメントで事足りますし」
「おいおいそれは勿体ないぞリリウム君、人間らしい生活の第一歩は美味い食事からというものだ! 多喜君、オススメをありったけリリウムに!」
「任せとくれよ団長! ほら食べな食べな、なぁに合わなきゃ次のを味見すりゃいいのさ!」
 勧められるままチョコやらクッキーやらマシュマロやらスナック菓子やらを口に放り込み咀嚼するリリウム。その表情がぱぁ、と綻び、頬に僅かに朱が差した。
「お、おいしい…………!?」
 それは初めて味わう甘美な味。栄養補給など慮外のもの。味と食感によって娯楽として楽しむべく生み出された菓子の数々にリリウムはあっという間に魅了された。
 機能的で効率的な代わりに味気なく、どこか保存料や添加された栄養剤のケミカルな風味が漂うレーションとは次元の異なる味覚への刺激を前にして、磨き抜かれたスキルを持つ冷徹な狙撃手もただの少女同然にお菓子を頬張っていく。
 かりかりと小さな一口で、それでも普段の彼女からすれば結構なハイペースで菓子を味わう姿はなんだか小さな齧歯類のようで愛らしいものだと二人は笑う。

 そうこうしている内に初戦の決着がついたらしい。
 最速で終わったのはイコルVSイリーナの対戦カード。
 一撃の重さを追求したイコルのキャラクターがイリーナのキャラクターをついに捉え、ほぼ一撃でKOしたのだ。
「ん」
 棒付きのロリポップキャンディを咥えた無表情のまま振り返りVサインを送るイコル。
 反面イリーナは根の生真面目さからか、リプレイを何度も再生して双方の動きを研究するべくモニターの光を眼鏡に反射させている。

 続いてはワンとヤーコフだ。
「よっしゃ今度こそ俺の勝ちだな!!」
「はぁ? 目ン玉付いてんのかさっきのはどう見ても俺の勝《負けです》負けたぜェ……」
 ワンもヤーコフも双方ほぼ同時に体力ゲージがゼロになった。
 となれば勝敗はどちらが速く最後の一撃を命中させたかの判定だが、その結果が出る前にワルキューレが無情な宣告。
 果たして彼女の言葉の通りヤーコフの勝利と画面に表示されれば、ワンは歯噛みして悔しがる。
「畜生、ワルキューレと自作AI相手にこの手のゲームはさんざん練習して来たのによぉ!」
「友達いねーのかよお前……可哀想に友達になってやろうか?」
《それは素晴らしい提案です。マスターにもようやく生身の友人ができますね》
「うるせー!! 覚えてろヤーコフ! お前なんか菓子に埋もれちまえ!!」

 そしてプロさながらの読み合い、激しい戦いが繰り広げられているのがアレクサンドルとトーリャの対戦であった。
 どちらも体力ゲージは八割を残し、ミリ単位で削り合う高度な攻防は見ているものが無意識に呼吸を止めてしまうほど。
「ハハッやるじゃねぇかトーリャ!」
「そっちこそそろそろ隙見せてくれねぇかな……!」
 アレクサンドルの猛攻をトーリャが上下段の回避で上手く捌いて反撃すればそこにカウンターが放たれ慌てて攻撃キャンセルで防御を強いられる。
 かと思えば被弾覚悟、コンボに呑まれない怯みにくい攻撃をあえて受けたトーリャがそこから猛然と反撃し攻守が逆転する。
「凄いな彼らは……前にこのゲームを遊んだことがあるのか?」
 思わずユーニが呟くほどのハイレベルな攻防は、最終的にタイムアップ、体力ゲージもまったく同値という引き分けに終わる。
「おっと、お互いフォルトゥーナにそっぽ向かれちまったようだな」
「いや、つかアンタ相手に引き分けた時点で実質俺の勝ちにしてほしいくらいなんだけど」
 トーリャが額の汗を袖で拭って零せば、次は加減してやろうか、なんて挑発して。

「いいねぇ、アタシ達も参加しようか団長」
「そうだな、おーい、我等も参戦だ! いくぞ多喜君、リリウム君!」
 そんな戦いを見て居ても立っても居られなくなった多喜が腕捲くりして立ち上がれば、ユーニも肩を鳴らしてそれに続き、リリウムに手を差し伸べる。
「ゲーム、ですか……あれはちょっと、見学を……」
 アレクサンドル達の激戦を見て及び腰のリリウムに、ユーニはしばし黙考して。
「確かに格ゲーをゲーム初心者にいきなりは酷なものだな! ワン君、もう1本あったろ! あれをもってこい!」
 団長の鶴の一声で用意されたミニゲーム付きの双六ゲームは、しかし対象人数が足りない。
 コントローラーを一台のゲーム機に集約したところでそれに気づいたのである。
「しまったな……」
 それなら、とアレクサンドルとイリーナが立ち上がる。
「俺は見学に回るよ、皆で楽しみな」
「私も、さっきの試合結果を分析したいので……」
 ついでにビーフシチューをもりもりとすごい勢いで平らげているイコルも手をふりふり、今回はパスということらしい。
「これならなんとか遊べるな……リリウム君、最初は我がレクチャーしよう。さあ少年兵諸君、そして渡り禽諸君! いざ勝負だ!!」

 ――その後も列車が再始動するまで、一同の楽しい時は続いた。
 主にユーニの悲鳴とかユーニの悲鳴とか、あとはユーニの悲鳴が響き渡っていたが。後に団員たちは語る。ルーレットであそこまで的確に罠のあるマスだけ踏むのは逆に神がかっていたと。なんなら前周の自分が仕掛けた罠すら踏み抜いていくユーニはある意味で皆の記憶にその背中を刻みつけていったことだろう。
 負けず嫌いの多喜が何度ももう一戦をせがみ、面子を入れ替えながら何度も遊ぶ内にリリウムが楽しみ方を理解したのか異様な強さを発揮し始めたりと、そんなレクリエーションが盛り上がる中で参加権をイリーナに譲ったイコルはそっと貨物車から外に出る。
 冷たい風が吹く中、大尉が一人佇んでいた。
「中に入られないのか。子供たちにはその顔で許してもらったのだろう?」
「折角の楽しい催しに私などが加われば台無しというものだそうだな貴官にも礼を言っておこう私の失態の始末をつけてくれたこと感謝する」
 気にすることはないさ、と湯気の上るカップを差し出すユーニ。中身はコーヒー、疲れた身体には良く効くだろう。それを受け取り口を付けた大尉に並んで、ユーニは空を見上げる。
 何処までも続く遥かなタイガに地上艦隊以外の灯りはなく、それ故に満天の星空が何者に邪魔されることなく輝いている。
「我等と共に来ないか、ヴィクトル・セルゲーエフ・コシチェイ大尉」
 世界は広い。人民平等会議、ナロードニク・ソユーズの外にこそ大尉のような人材が活躍する余地があるに違いない。
 むしろ凝り固まった体制の中にあって子供たちを助け導いている大隊長大佐のような支持基盤もなく、忠誠を捧ぐ党こそ理想を阻む存在であることを知った彼のような人間が生き抜くことは難しかろう。
 ならばいっそ国を捨て渡り禽となれ。
 差し出された手を見下ろして、大尉はふと笑った。
「折角の申し出だが辞退させて頂く君たちのような傭兵に私のような規則規則とやかましい男は似合わんそれに私にはこの国でやるべき事やらねばならぬ事ができてしまった」
 猟兵から受け取った情報を駆使し、党をいつか改革する。今回の件で左遷されようと、どん底から頂点まで這い上がってみせるという強い意志をその腫れた瞼の奥に見出して、ユーニは残念だと微笑んだ。
「いや、本当に残念だ。君を活かす活躍の場を幾つか思いついていたんだがね。まあ無理にとは言わないよ、"同志大尉"。だがもし、君が戦いに敗れたか、この国を諦めた時はいつでも声を掛けてくれるがいい。我等は君を歓迎するからね」

 星空の下、猟兵たちは奇妙な全体主義国家の、奇妙な異端の少年兵部隊の面々と絆を結ぶ。
 国家指導者たる党の汚職、そしてその現場に紛れ込んだオブリビオンマシン――不穏な気配は未だ漂っているが、しかしいつか彼らの戦友が、あるいは彼ら自身の手でこの閉塞された国家の未来が切り開かれることだろう。
 その日は存外に近くまで迫っているのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月02日


挿絵イラスト