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泥濘に紐解く

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●花の一生
 群竹の隙間から差し込む月明かりはかそけきもので、瞬きひとつの間にも消えてしまいそうなほど細く青白い。それでも薄らと照らされた花だけは妙に美しくて、それは暗闇に口を開くばかりの大きな池を淡つかに彩っていた。
「......咲きそむ花のよろこびよ、」
 蓮華の花が、ひとつ。またひとつ。
 汚泥に塗れても枯れることなく、強く根差した先で花開く。
 綺麗に澄み渡る真水ではきっと、こうも美しく咲くことはなかっただろう。泥中であればこそ華やぐその色を見下ろしていたのは、月明かりにも似た幽鬼の女だった。
「主よ。あなたはわたしに恋をお与えになりました」
 厳しさを乗り越えて、その花は咲う。
「主よ。あなたはわたしに愛をお与えになりました」
 試練を乗り越えてこそ、その花は強く美しく輝く。
 なればこそ。
 それこそが教えられた道なのだと信じて、取り戻した愛を胸にしあわせそうに微笑む。
「わたしもまた、あなたがたに示しましょう」
 群竹の向こう側から聞こえていた祭囃子がふと消えて、生温い風が吹いた。
 水面に浮かんだ蓮華が風に揺らめけば、女は重さも感じさせない軽やかな足取りで蓮の葉を架け橋として池を渡っていく。
 そうして池底の泥のように深く、奥深く。
 沈めた疑問から目を逸らすように、小さく呟いた。

「時よ止まれ、お前は美しい」
 ──それは、ほんとうに?

●泥中の花
「世界の終わりを見たことはあるかしら?」
 カクリヨファンタズム。さまざまな妖怪たちが誘われたというその幽世でのカタストロフは思うより日常に近しいもののようで、彼らは楽しいお祭りの数だけよく世界の危機に瀕している。
 それはテテメア・リリメア(マーマレード・レディ・f25325)が予見した今回の事件でも同様のようだ。
「金魚市という小さなお祭りが開催されるはずだったのだけれど、このままでは世界が崩壊してしまうのよ」
 金魚市とは、たくさんの金魚を模した提灯が飾られたお祭りだ。
 金魚すくいをはじめとして、金魚の飴細工や金魚鉢のかき氷などそれぞれ金魚に因んだものが楽しめるそうで、ささやかながら根強い人気があるらしい。けれど。
 開催されるはずだった竹林の広場からほど近く、巨大な池にとある妖怪が現れたことによってそうもいかなくなってしまった──というのが、今回の事件のあらましだった。
 時よ止まれ、お前は美しい。
 たったひと言、その言葉だけで世界が崩れるのだと誰が知っていようか。
「滅びの言葉を口にしたとして、何も世界の終わりを望んでいるわけではないしょう?」
 時よ止まれと願うのは、大切な者の霊魂とひとつになったことで隙間風が吹いていた妖怪の心も満たされたが故のこと。
 霊魂を受け入れオブリビオンと化した妖怪が崩壊の中心であるなら、その霊魂こそを倒し、そしてひとつとなった妖怪から引き離すことで世界は救われるだろう。それが彼女にとって、幸いにならないとしても。
「彼女──アナスタシアのところまで行くには、大きな池を渡らなくてはいけないの。蓮の葉が橋のように連なっている、不思議な池よ」
 蓮華の花が美しく咲き誇る池には、人ひとりが乗れるほどの蓮の葉がてんてんと浮いている。これを架け橋として渡っていけば、池の向こう岸に着けるだろう。
 しかし、底なし沼のように深く、また月明かりしか望めない暗い池を渡るのであれば注意が必要だ。
「いたずらな囁きに、どうかお気を付けて」
 ──自身の心を見失えば、足元さえ見落としてしまうわ。
 ひらり、金魚のように赤い尾びれが揺らめいて。猟兵を見送るテテメアの腕の中で、お揃いの浴衣を身に纏ったぬいぐるみはぷうぷうと鼻ちょうちんを膨らませていた。


atten
お目に留めていただきありがとうございます。
attenと申します。

▼ご案内
【プレイング受付】
9月18日(金)8時31分~

★第一章:冒険
月明かりのみの暗い夜が舞台です。
周りは竹林ばかりで、ただ静かに蓮華が咲き誇る『試練の池』を渡ることになります。
友愛や親愛、または恋愛など愛にもいろいろありますので、オブリビオンと戦う前に自身の心と向き合っておくと戦いやすいかもしれません。
池に住まう妖怪や霊魂たち、そして心を映す水鏡が渡る者の不安を誘いますが、信じるものが確かであれば足元が揺らぐことはありません。

★第二章:ボス戦『絆の試練』アナスタシア
主と呼び慕う霊魂とひとつになって満たされた妖怪ですが、他ならぬ霊魂によって変容しているようです。彼女にとっては世界の崩壊もまた試練のひとつなのかもしれません。
世界の崩壊を止めるためには、崩壊の中心となっている霊魂を撃退しましょう。
変容してしまった妖怪は霊魂と引き離すことで救出できます。

★第三章:日常
世界の崩壊が止まれば、金魚市は無事に開催されます!
金魚の提灯などでライトアップされた竹林のお祭り騒ぎをみんなで楽しみましょう。
屋台を楽しんだり、空に揺らめく提灯を眺めたり、ご自由にお過ごしください。
お声掛けがありましたら、attenのグリモア猟兵も同行します。


皆さまのプレイングをお待ちしております。
よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『蓮華と月の池』

POW   :    勢いのままに通っていく

SPD   :    周囲を探りながら通る

WIZ   :    敢えてゆっくり進んでいく

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鈍・しとり
月があり花が咲き
何とも美しいこと
恐るるに足らず
もとより地に足つかぬ身なればこそ

視界すら持たぬものの頃は
成程、今に思えば心があった
先ず感じ
次に聞き
その次に見たのだったか
ついぞはなせずに

あの時を思えば眩いばかり
足浸すは血の泥濘でなし
今なら産声をあげたとて
皆にわたしを知らしめられよう
人の子一人遺さずに


ほんとうに?


わたしの声は届けられようか
遍く全ての者達に
今更
お前の居らぬ世で?

もっと己を識っていたなら
斯様な

水鏡に刹那わたしの宿る
この乙女は誰か、
曙のように現れ、月のように美しく、
時よ止まれ、
お前は……

――嗚呼、いいえ、違う。

青い口は閉じおけ、わたしよ
無暗に揺れる水面など斬って仕舞おう
太陽は隠れたのだから



●水月
 褐返しの墨を垂らしたかのような夜は、ひどく静かだった。祭囃子は疾うに止み、吹き込む風もなければ自らの足音ばかりが耳を打つ。けれど、その静謐さに安堵を覚えることはないだろう。
 少しでも振り返れば、そこには闇がある。音もなく崩れていく景色が世界の終わりというなら、なるほど確かに、それはもうすぐそこまで来ているらしい。
「月があり花が咲き、何とも美しいこと」
 元より、この道を進むしかないのだ。かそけき月明かりが照らした巨大な池を見据えた鈍・しとり(とをり鬼・f28273)は、そこに咲いた蓮華の花にそうと目を細める。
 月明かりを受けて青白く輝く天上の花は、それはそれは美しい。そして美しいからこそ、夜闇を呑み込んだようにどこまでも暗く深い池の水面とのコントラストは高く、ひとはその明暗の在処に不安を覚えるのだろう。──ただ、それでも。巨大な池を前に、しとりが踏み出す一歩を恐れることはなかった。
「恐るるに足らず」
 もとより地に足つかぬ身なればこそ。
 耳に痛いほどの静寂を打ち破り、しとりの細くしなやかな足先が蓮の葉を掠める。
「──成程、」
 あれは、視界すら持たぬものの頃。
 しかし今に思えば、そこには確かに心があったと言える。先ず感じ、次に聞き。その次に見たのだったかは、ついぞはなせずに。
 あの時を思えば、眩しいばかりだ。水面に映る月を覗くようにしとりが目を眇れば、血の気を感じさせない肌にけぶるような睫が影を落とす。足浸すは血の泥濘でなし、であればこそ。
「......今なら産声をあげたとて、皆にわたしを知らしめられよう」
 それはきっと、人の子一人遺さずに。
 ぽつりとこぼれ落ちた囁きが凪いだ水面を揺らして、月を掻き消す。ともすれば巨大な池はどこまでも暗く深みを増すようで、しとりは僅かに眉を顰めた。その時だった。

 ──ほんとうに?
 どこか幼子のような声音が、耳元で笑っていた。
 小さな疑問の種は不安の花を咲かすように水面に波紋を描いて、しとりは息を詰める。
 ほんとうに。ほんとうに己のこの声は、届けられるのだろうか。
 遍く全ての者達に、息衝くいのちに押し並べて。
「今更、お前の居らぬ世で?」
 波紋が広がるように栗立つ肌を抑えて自らを抱く腕は、微かに震えていた。
 見下ろしていた池は暗く、深く、それでいてどこまでも澄み渡り。そうしてしとりがひとつ瞬いた刹那──、
「もっと己を識っていたなら......斯様な、」
 そこには、青白い月明かりを背に受けた乙女が映っていた。
 曙のように現れ、月のように美しく。どんな夜露よりも儚いその顔貌。水鏡に映るその乙女は艶やかな唇を開き、しとりに囁きかける。
 時よ止まれ、
「お前は──嗚呼、いいえ、違う」
 青い口は閉じおけ、わたしよ。無暗に揺れる水面などまやかしに過ぎないのだと、そう言って踏み出した足は止まることなく、闇夜に煌めく一閃は鋭く刹那の惑いさえ斬り払う。
 そうして頬に伝う夜露さえも払い除けて、しとりはまっすぐと己が向かうべき前を見据えていた。まやかしの水鏡にも、いたずらな囁きにも、もう二度と足を取られることはないだろう。何故なら──太陽は、隠れたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と

新調した浴衣で参加
沼の上を…なあ
流水も水も平気で良かったわと水の弱点を受け継いでしまった兄を思い出し瞳を眇めつつリカルドを振り返んぜ
あんた結構重えだろ?沈まねえ様気を付けろよとそう声を投げつつ様子を見る様蓮の上に乗ってみる
意外と丈夫なそれを確認すればリカルドを振り返りつつ先へ進む…も
途中沼の中に故郷に居る筈の狂った母達や無表情で己を見つめる兄弟達の姿が映れば動揺に足がとまっちまうかもしんねえ
…これが不安って奴かよ
そう舌打ちしつつも同じような心持になっているだろうリカルドを振り返ればリカルド、と名を呼んでみんぜ
信じるもんなら傍に居っからな
…リカルド、あんたも大丈夫だろ?


リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎、新調した浴衣で参加

蓮の上を渡るのか
まあ、重量がある事は否定しないが
危険と知りながら、主を先行させるのは――って、おい……!?

無事に蓮の上に立つ様子を見て
つい、安堵の息を漏らしつつ
自分が乗っても沈まないと判断すれば
ライナスと共に、池を渡り切ろうと試みるが

――どうして、お前だけ
水鏡に映る数々の眼差しが、酷く痛い
守り切れず、死に絶えた……故郷の住人や騎士団の仲間達
あの日の後悔に、心が潰されそうになる

ああ、でも、それでも
こんな俺だが、守りたいと思える相手がいる
ライナス。ライナスの名を何度も呼び掛ける

……お前を信じている
信じたい、この感情は否定したくないと思うから



 昇り龍が描かれた裏葉色の浴衣の裾を払って、ライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)は巨大な池を見下ろしていた。
 月明かりが射し込むばかりの池は夜闇のように暗く、底が見えない。妙に美しく咲き誇る蓮華の花と橋のように連なる蓮の葉を交互に見渡して、ライナスは瞳を眇めた。
「沼の上を、なあ......」
 流水も水も平気でよかったと、流れるようにそう考えてしまうのは水こそを弱点と受け継いでしまった兄を思い出すからだろう。苦い笑みを浮かべる前にかぶりを振れば、ライナスはおもむろに背後を振り返る。
 そこに立っているのは、同じように池の様子を覗き込んでいたリカルド・アヴリール(機人背反・f15138)だ。雄々しく羽ばたく梟が描かれた灰青の浴衣をしっかりと帯で締めて、リカルドはライナスへと視線を返す。
「あんた結構重えだろ? 沈まねえ様に気を付けろよ」
「まあ、重量がある事は否定しないが。危険と知りながら、主を先行させるのは──って、おい......!?」
 悩むような仕草を横目にしながらも、容易に足を踏み出したライナスにリカルドが肝を潰すような声を上げてしまったのは仕方のないことだろう。止めるように伸ばした手も他所に、ライナスは蓮の葉の丈夫さを確認するように何度か足を踏み鳴らす。
 蓮の葉はひと一人を乗せられる程度の大きさではあるものの、十全な作りをしているようには見えなかった。しかしライナスが体重を掛けても不思議と沈むことはないようで、リカルドはようやくと詰めていた息を吐き出して安堵の息を漏らした。
「案外丈夫なもんだな」
「ああ、俺が乗っても大丈夫のようだ」
 ライナスに続くようにリカルドが蓮の葉へと足を下ろせば、今度こそ安全性が確かめられたのだろう。顔を見合せたふたりはどちらともなく頷いて、この巨大な池を渡るべく蓮の葉を架け橋として進んでいく。けれど。

 ──どうして、お前だけ。
 静けさを撫でるような囁きに、進んでいくはずの足は止まっていた。揺らいでいるのは蓮の葉なのか、それとも自分自身なのか。足元を見下ろせば、青白い月を映していたはずの池の水面が波紋を描いて、次の瞬間には異なる景色を映している。
 目だ。いくつもの目が、リカルドを見ている。万目睚眥のまなざしは鋭く胸を刺すようで、小さく息を呑んだ。
「これ、は.....」
 そこに映る者たちは、リカルドにとってよく見覚えのある顔といってもいいだろう。守り切れず、支え切れず、死に絶えた──故郷の住人や騎士団の仲間たち。その顔を見ればあの日の後悔が波のように押し寄せて、リカルドは軋む心に胸を抑えた。
 それは、ライナスも同じだった。まるで幼子のようないたずらな囁きが視線を誘って、試練の池に意識を引き寄せるのだ。それは誰しもの心の裡に潜む不安を引き摺りだすように揺れ動いて、ライナスもまたその水面に過去を見ていた。
「......これが不安って奴かよ」
 故郷の景色。母の背中。此方を無情に見つめる兄弟の顔。
 確かな動揺に足を止めるも、ライナスは小さな舌打ちをひとつ零して平静を保つ。
 きっと、ひとりであればこの足は止まったままだったのだろう。不安の種は恐ろしくも心に根を張り、一度花を開けばその恐れを捉えて離さないものだ。ああ、でも。それでも。
「──リカルド、」
 振り返れば、そこに信じるものがあるから。
「ああ、ライナス」
 何度でも、その名を呼ぼう。信じるものが、守りたいものがそこにある限り。例え不安にその心が傾いたとして、何度でも引き戻してみせようと月明かりより鈍く輝くようなまなざしを交わして、ふたりは強かな笑みを浮かべた。
「......リカルド、あんたも大丈夫だろ?」
「ライナス......お前を信じている」
 信じたい、この感情は否定したくないと思うから。
 歩み続けるふたりの足音が止まることはない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リシェリア・エスフィリア
【アンク(f00928)と行動】

見ているだけなら、奇麗な光景だけど
渡るとなれば話は別、悪条件が多すぎる

気を付けて渡るしかないけれど、アンクはこういうの、得意?

……この先にいる妖怪は、恋と愛を知ることで満たされた、って聞いた
その二つがあれば満たされる。……生きるっていうのは、そういうもの、なの?

私には……どっちも、よく、わからない
わかるのは、世界崩壊なんてよくない、ってことくらい

……恋と愛がそろっても、満ちるわけじゃない……
……難しい、ね、生きる、っていうこと。……生きるだけなら、いいけれど
誰から見ても、生きているって、そんな風になるのは

(深呼吸し、慎重に進んでいく。一歩一歩を確実に)


アンク・オーウェン
【リシェ(f00197)と行動】
月明かりか、空にしても水面にしても、呑まれそうな程の色だな
いや、しかし、蓮に乗るなんてファンタジーは、私の様な物には不似合いだろうが………

得意かと聞かれれば、得意ではないが、まあ、これが実は、無駄に生きていれば経験が無いわけでもない
恋だ、愛だと、直情で生きるには若くないが

ただ、いずれ知るかもしれないが、その二つさえあれば満たされるなんて事は無いさ
抱えた想いの重さに沈む事も

いやいい、今する話でもない

先行して進む
辺りを見つつ、後ろを気にして、頼り無さの割に沈まないだろうと予想する
きっと説明通りに、心さえ淀ませなければ行ける筈だ
恋より愛より、今の俺には守る者があるから



「空にしても水面にしても、呑まれそうな程の色だな」
 ぽっかりと口を開いた巨大な池は、夜闇のように暗く深くまるで底が見えない。これでは池というよりも、底なし沼といった方がまだ正しいだろう。しかしその水面に咲き誇る蓮華の花ばかりは妙に美しくて、月明かりを受けて青白く輝く花を見るようにアンク・オーウェン(unknown・f00928)は眼鏡の奥で静かに目を細めた。
「見ているだけなら、奇麗な光景だけど......渡るとなれば話は別、悪条件が多すぎる」
「ああ。いや、しかし、蓮に乗るなんてファンタジーは、私の様な物には不似合いだろうが......」
 池の様子を確かめるように覗き込んだのは、アンクの隣に肩を並べていたリシェリア・エスフィリア(蒼水銀の魔剣・f01197)だ。むずかしげに眉を顰めれば、アンクも同意を示すように小さく頷いてみせる。蓮の葉に乗ること自体、なかなかに勇気のいることであること確かだろう。けれど。
 少しでも振り返れば、そこには池の色とはまた異なる闇がある。それは月明かりすら呑み込んでしまうほど黒く、音もなく崩れていく景色はまさしく世界の終わりと言っていいだろう。戻る道は既になく、世界の終わりを止めるためにもリシェリアたちは進むしかないのが現状だった。
「気を付けて渡るしかないけれど、アンクはこういうの、得意?」
「得意かと聞かれれば、得意ではないが」
 まあ、これが実は、無駄に生きていれば経験が無いわけでもない。
 なんて言葉を濁しながらも真摯に応えたアンクの目を見るようにリシェリアは隣を見上げて、それから再び池の先へと視線を走らせた。この試練の池を越えた先に、世界を崩壊させる中心となっている妖怪がいるのだろう。
「......この先にいる妖怪は、恋と愛を知ることで満たされた、って聞いた」
 恋と愛。よく似ているようで、それでいて近くとも遠いふたつの言葉をリシェリアとて知らないわけではなかった。恋とは、愛とは。そんなものは調べればいくらでも出てくるけれど──知識と経験は、やっぱり違うものなのだから。
「その二つがあれば満たされる。......生きるっていうのは、そういうもの、なの?」
 分からない、とリシェリアは緩くかぶりを振る。
 恋にも愛にも満たされた場所で、妖怪は何を見るのだろう。世界の終わりはもうこんなにも近くまで来ているというのに。
 どちらも分からないのだと吐露する気持ちはひどく幼げで、アンクは少しだけ間を置いて、静かな声音で肩を落とした背をなぞる。
「いずれ知るかもしれないが、その二つさえあれば満たされるなんて事は無いさ」
「......難しい、ね。生きる、っていうこと」
「そうだな。時には抱えた想いの重さに沈むことも──いやいい、今する話でもない」
 口を噤むが否や、行こうと先を促したアンクがまず一歩目を踏み出す。きっと説明通りに、心さえ淀ませなければ行けるだろう。恋より愛より守る者があると思えば、いたずらな囁きなどそよ風にも満たない。
 それ故に、自重で沈みそうにも見えた蓮の葉さえも意外に丈夫なもので、危うげなく葉の上に立ったアンクが歩き出せば、リシェリアも深く息を吸って慎重に歩き出す。
「......暗い、ね」
 生きるだけなら、どれほど容易な世界だっただろう。
 恋も愛もいまはまだ遠くて、リシェリアにとっては望むように生きることも儘ならない。ただ、それでも。前を往く背中を見つめるリシェリアは、その目を逸らすことなく一歩一歩を確実に進んでいく。
 ──夜闇のように暗い池の上であっても、その背中さえそこにあるなら。
 それはまるで道標のように、恋も愛もまだ知らないリシェリアであっても不安に揺らぐことなく蓮の葉を渡っていけるような気がした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
へぇ、なんか月明かりの蓮池って神秘的だよな
蓮葉に乗ってかなきゃいけないのか
やっぱ飛んでくのは試練だし駄目そうだよなぁ

グラナトさんの後についていくぜ
愛か…大事な親友への友愛も、尊敬する兄貴分たちへの親愛も
どれもオレにとって大切なものだけど
やっぱり1番はグラナトさんへの愛情だな

オレの初恋…初めて自分を全部あげたいと想った人
この人になら魂まで縛られたい…
だからこそ、生まれ変わっても変わらない永遠の愛を誓ったんだから
それは揺らぐことないオレの愛
だから、ちょっかいだしてきても無駄だぜ?


グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と
泥に咲く花が清らかに見えると言うのは分からんでもないが。
泥水の方が栄養がありそれ故に美しく咲いている。
意外と強かな花だと私は思うがな。

蓮葉の上には一人ずつしか乗れんか…。
ならば私が先行して行こう私が安全を確かめるから後に続いてくれ。

私にとっての愛情はただ一つ。
マクベスに注ぐ愛情のみ。
永劫の愛を誓ったマクベスにだけに私の愛はある。
偏った思いだと人は言うかもしれないが。
私にとってこの思いだけは決して揺るがない。
試練で断ち消えるようなものではない。



 月明かりを受けた蓮華の花は、青白く輝くようで見るものの目を惹く。底が見えないほどに暗く深い池の水面とのコントラストはいっそ不気味なほどで、けれどだからこそひとはその自然の輝きの中に神秘を見るのかもしれない。
 美しい蓮と池の隅までを見渡すように背筋を伸ばしたマクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)は、思わずと感嘆の息を溢した。
「へぇ、なんか月明かりの蓮池って神秘的だよな」
「泥に咲く花が清らかに見えると言うのは分からんでもないが」
 しかし、その実態は泥水の方が栄養がありそれ故に美しく咲いているというものだ。「意外と強かな花だと私は思うがな」と付け加えたのはグラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)で、池の中央で橋のように連なっている蓮の葉を注視して考えるような仕草で顎を撫ぜる。
「蓮葉の上には一人ずつしか乗れんか......」
 思うよりも丈夫な作りをしているようではあったけれど、何人も乗れるほどではない。ひと一人が乗れるほど大きな蓮の葉も、過信できるものではないだろう。しかし、この蓮の葉以外に池を渡る術はないようだとも、グラナトは黄金の目を眇めて空を見た。
 夜闇のように暗い池よりも更に黒ずんだ、光さえ通さない闇がそこにはあった。それは背後に忍び寄る闇と同様に、どうやら世界の崩壊は静かに──けれど確かに、広がりはじめているらしい。
「やっぱ飛んでくのは駄目そうだよなぁ」
「私が先行して行こう。私が安全を確かめるから後に続いてくれ」
「分かった! グラナトさんの後についていくぜ」
 踏み出す一歩目は慎重に、けれど確かに蓮の葉を踏み締めて。
 自重を置いても沈まないことを確認しグラナトはひとつ葉を進み、続くように試練の池に降り立つマクベスを見守っていた。

 月明かりばかりが照らす巨大な池は、中心まで差し掛かる頃にはより暗くなっているように思えた。それは蓮の葉を移動する際に生じる波紋が、水面に映る月を消してしまうからだろう。水面から月が消えてしまえばより一層、底なし沼のように深く暗い不気味な色が広がっていくようだ。──それでも、グラナトが進む足を止めることはない。
「風が出てきたな」
 くすくす、くすくすと。
 幼子が笑っているようなそよ風が耳元を掠めていく。いや、これこそが池に住まう妖怪や霊魂たちの囁きなのだろう。その正体を見るように周囲に視線を走らせながら、しかし頑然と進み続けるのは確固たる意思がそこにあるからだ。
「......私にとっての愛情はただ一つ」
 マクベスに注ぐ愛情のみ。その心さえ明瞭であれば、揺らぐことなどない。
 ──それは、ほんとうに?
 そんないたずらな囁きであっても、それは同じことだ。どれほどその心に不安の種を蒔こうとも、永劫の愛を前にその花が咲くことはないのだとグラナトには断言できるだろう。そしてそれは、彼の背に続いたマクベスにも言えることだった。
「本当だぜ。やっぱり一番はグラナトさんへの愛情だからな」
 大事な親友への友愛も、尊敬する兄貴分たちへの親愛も。その感情に優劣を付けることはなく、どれもマクベスにとって大切なものには変わりない。けれど、その心の奥で鮮やかに色付くのは──その心、魂まで縛られたいと思うのは。
「オレの初恋。......初めて自分を全部あげたいと想った人」
 彼だけなのだとそのたくましい背中を見つめれば、振り返った黄金の瞳と澄んだ青空のような瞳が交わって、愛おしげにやわらいでいく。その心はどこまでいっても凪いだものもので、囁き程度のそよ風では波さえ立てられない。
「──行こう、マクベス」
 偏った思いだと、人は言うかもしれない。それでも。
 この思いだけは決して揺るがないのだと、やわらかく細められた瞳に誘われるようにマクベスは手を伸ばす。その手を取ったのは、他ならぬグラナトだ。
 繋いだ手は、決して離さずに。どんな試練にも断ち切れない思いをそこに、ふたりは試練の池を渡るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


「月の明かりはあるけど、なんだか心細い感じ......」
 夜闇のように暗く深く、目の前でぽっかりと口を開いたような巨大な池はまるで先が見えなかった。青白い月明かりを受けた蓮華の花ばかりが妙に美しく見えて、底が見えないほど暗い池の水面との明暗はむしろ不安を覚えるようだ。
 ひとつ、またひとつと咲き誇る花の傍ら、池の中央で橋のように連なる蓮の葉を遠くまで見ようと少しだけ背伸びをしたユニ・エクスマキナ(ハローワールド・f04544)、進めば進むほど暗くなってしまいそうな道行きの心許なさに思わずと足元の蓮の葉を確認した。
「これ、ユニ乗っても大丈夫? 池に落ちたりしない?」
 世界の崩壊は音もなく、けれど確かにはじまっているようで。ユニが視線を上げれば夜空とはまた異なる色が目に付く。
 それは後ろを振り返ればそこにある闇と同じで、光を通さないほど暗い黒色は少しずつこの世界を侵食しているようにも見えた。──それは、崩壊を止めるためにもこの池を渡るしかないのだと、否が応にも分かってしまう景色だった。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ......」
 自身を鼓舞するように、こっそりと呟いて。一歩踏み出した足先が蓮の葉をゆっくりと踏み締める。両の足が乗り切れば、その葉は少しだけ揺れただろうか。けれど思っていたよりも随分としっかりとしているのか、ひと一人の自重を置いても葉が沈むことはなかった。
 何度か確かめるように踏み鳴らせば水上に立つ浮遊感にも慣れて、ユニはそうっと蓮の葉を架け橋として池を渡りはじめる。
「......あっ、」
 でもユニ、羽があるの忘れてた。なんて。
 時折バランスを崩してしまうのは、ご愛嬌。体勢を直そうと羽ばたいたそれにようやくと気付いたユニは安堵の息をこぼして、いざとなってもなんとかなるという安心を胸に、しっかりとした足取りで歩いていく。

 巨大な池は、ユニが中心あたりまで進む頃には更に暗くなっているように思えた。それは崩壊が進んでいる故か、蓮の葉を渡る振動を伝って揺れ動く波紋が水面に映った月さえ消してしまう故か。
 この先にいる妖怪も、この空を見ているのだろうか。見ているとしたら、何を思っているのだろうか。
「恋に、愛に......友愛なら、なんとなくわかる気がする」
 恋を与えられ、愛を与えられ。そうして満たされたという妖怪の気持ちは、ユニにはまだ分からなかった。いくら考えてもピンとくるものはなくて、それは思わず天真爛漫なユニでさえ真顔になってしまうほど。
 大事なお友達を思い浮かべればふわふわと暖かくなる心の内こそ、友愛という形であれば分かる気がするのに。恋愛となってしまうと、これがまったく分からない。
「いつか、ユニも恋することとかあるのかな」
 ──そんな日が、ほんとうに来るのかな?
 くすくす、くすくすと。幼子が笑うような、そよ風がユニの耳元を掠める。けれど。
「逆に教えて貰いたい気分!」
 いまは知らなくたって、分からなくたって。ユニが足を止めることはないのだろう。先が見えない不安の種は花のような笑顔が吹き飛ばして、溢れんばかりの好奇心は未知への恐れさえ掻き消すようだ。
「──そのうち、わかる日が来ますように!」
 いたずらな囁きに誘われることなく、まやかしの水鏡に囚われることなく、前をまっすぐと見据えて。まだまだ先にあるいつかに思いを馳せて、ユニは薄桃色のやわらかな羽をはためかせるのだった。
ユニ・エクスマキナ
月の明かりはあるけど、なんだか心細い感じ
蓮の葉の上を渡って向こうに行くのかな?
これ、ユニ乗っても大丈夫?池に落ちたりしない?
おそるおそる葉の上を移動
途中、バランスを崩してヒヤリとするのはお約束
…あ、でもユニ、羽があるの忘れてた
いざとなったら空中浮遊できるからなんとかなる気がする!

友愛はなんとなくわかる気がする
ユニにも大事なお友達はいるし
でも、恋とか…恋愛はユニにはよくわかんない

いつかユニも恋することとかあるのかな
うーん…全然ピンとこない(真顔
あれ?そもそもユニって好きなタイプとかも考えたことなかった
逆に教えて貰いたい気分!
ユニにあう人教えてくれるかな?

仕方がないな
そのうちわかる日が来ますように



「月の明かりはあるけど、なんだか心細い感じ......」
 夜闇のように暗く深く、目の前でぽっかりと口を開いたような巨大な池はまるで先が見えなかった。青白い月明かりを受けた蓮華の花ばかりが妙に美しく見えて、底が見えないほど暗い池の水面との明暗はむしろ不安を覚えるようだ。
 ひとつ、またひとつと咲き誇る花の傍ら、池の中央で橋のように連なる蓮の葉を遠くまで見ようと少しだけ背伸びをしたユニ・エクスマキナ(ハローワールド・f04544)、進めば進むほど暗くなってしまいそうな道行きの心許なさに思わずと足元の蓮の葉を確認した。
「これ、ユニ乗っても大丈夫? 池に落ちたりしない?」
 世界の崩壊は音もなく、けれど確かにはじまっているようで。ユニが視線を上げれば夜空とはまた異なる色が目に付く。
 それは後ろを振り返ればそこにある闇と同じで、光を通さないほど暗い黒色は少しずつこの世界を侵食しているようにも見えた。──それは、崩壊を止めるためにもこの池を渡るしかないのだと、否が応にも分かってしまう景色だった。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ......」
 自身を鼓舞するように、こっそりと呟いて。一歩踏み出した足先が蓮の葉をゆっくりと踏み締める。両の足が乗り切れば、その葉は少しだけ揺れただろうか。けれど思っていたよりも随分としっかりとしているのか、ひと一人の自重を置いても葉が沈むことはなかった。
 何度か確かめるように踏み鳴らせば水上に立つ浮遊感にも慣れて、ユニはそうっと蓮の葉を架け橋として池を渡りはじめる。
「......あっ、」
 でもユニ、羽があるの忘れてた。なんて。
 時折バランスを崩してしまうのは、ご愛嬌。体勢を直そうと羽ばたいたそれにようやくと気付いたユニは安堵の息をこぼして、いざとなってもなんとかなるという安心を胸に、しっかりとした足取りで歩いていく。

 巨大な池は、ユニが中心あたりまで進む頃には更に暗くなっているように思えた。それは崩壊が進んでいる故か、蓮の葉を渡る振動を伝って揺れ動く波紋が水面に映った月さえ消してしまう故か。
 この先にいる妖怪も、この空を見ているのだろうか。見ているとしたら、何を思っているのだろうか。
「恋に、愛に......友愛なら、なんとなくわかる気がする」
 恋を与えられ、愛を与えられ。そうして満たされたという妖怪の気持ちは、ユニにはまだ分からなかった。いくら考えてもピンとくるものはなくて、それは思わず天真爛漫なユニでさえ真顔になってしまうほど。
 大事なお友達を思い浮かべればふわふわと暖かくなる心の内こそ、友愛という形であれば分かる気がするのに。恋愛となってしまうと、これがまったく分からない。
「いつか、ユニも恋することとかあるのかな」
 ──そんな日が、ほんとうに来るのかな?
 くすくす、くすくすと。幼子が笑うような、そよ風がユニの耳元を掠める。けれど。
「逆に教えて貰いたい気分!」
 いまは知らなくたって、分からなくたって。ユニが足を止めることはないのだろう。先が見えない不安の種は花のような笑顔が吹き飛ばして、溢れんばかりの好奇心は未知への恐れさえ掻き消すようだ。
「──そのうち、わかる日が来ますように!」
 いたずらな囁きに誘われることなく、まやかしの水鏡に囚われることなく、前をまっすぐと見据えて。まだまだ先にあるいつかに思いを馳せて、ユニは薄桃色のやわらかな羽をはためかせるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シン・コーエン
WIZ

眞白さん(f00949)と

カクリョファンタズムで祭り前なので、浴衣姿で帯に日本刀(村正)を差して。
眞白さんと手を繋ぎ、蓮の葉を共に渡っていく。
(蓮の葉は定員1名らしいので、乗る蓮の葉は別々にして。)

愛する人と共にあり、その瞬間が永遠に続くように願う。
(眞白さんの方を見て)その気持ちは判る気はするが、多くの犠牲者を出し、世界崩壊させて良い理由にはならん。

霊魂を成仏させてやるべきなのだろう。
そして心の中に相手への想いがある限り、相手は本当には死んでいない。
一緒にいないから別離した訳では無いという事を…どうやって伝えるか。

俺一人では答えは出せないか。
眞白さんと共に乗り越えよう、と迷わず進む。


神元・眞白
【WIZ/割と自由に】シンさん(f13886)と一緒に。
不思議な場所。妖怪の世界も毎回違う様に感じるけれど……一体?
けれど、することがあるなら、それはきっと縁が合ったからでしょう。
お祭りの前に金魚さんだけでなくて、すくうものをすくいましょう。

お祭りにそのまま向かうためにも浴衣の準備。この衣装もなんだか久しぶり。
蓮の葉は1人用みたいですからシンさんとは1つずつ別々に。少し残念です。

2人旅かと思ったらお話相手がちらほらと?
とはいえせっかくの機会ですから、少し話して帰ってもらいましょう。
不安はもちろん、今でも迷う事は多くありますが1人ではありません。
ごめんなさい。私は自分で決めたことは曲げませんから



 そこは、何だとても不思議な場所だった。
 世界が崩れはじめているが故か闇の色は濃く、夜の匂いも深いけれど。喧騒もない静けさが包み込んだ巨大な池の空気は、その深さを忘れさせるほどひどく澄んでいる。
 青白い月明かりが照らした蓮華の花を見つめながら首を傾げたのは神元・眞白(真白のキャンパス・f00949)で、妖怪の世界も刻々と様変わりしているかの如く毎回違う顔を見せるのだと肌身に感じていた。それが何故かは、分からないけれど。
「それでも......することがあるなら、それはきっと縁が合ったからでしょう」
 手を繋いだシン・コーエン(灼閃・f13886)が、青い縦縞の浴衣の裾を払うように蓮の葉を渡っていく。その後を追うようにゆっくりと、けれどしっかりと蓮の葉を踏み締めて、眞白はそうを目を細めた。
「お祭りの前に金魚さんだけでなくて、すくうものをすくいましょう」
 黒地に浮かぶ朝顔を、青白い月明かりが照らしている。それは決して明るいものではないけれど、どんなに暗い道もふたりであれば恐れることなく歩いて行けるだろう。
 涼し気な浴衣の袖を揺らしたそよ風が、くすくすと幼子のよう笑い声を上げて耳元を擽るから、シンは肩越しに眞白を振り返りながらも小さく息を吐く。
「愛する人と共にあり、その瞬間が永遠に続くように願う。......その気持ちは判る気はするが、」
 しかし、多くの犠牲者を出し、世界を崩壊させて良い理由にはならないだろう。何かを犠牲にしても通した恋も、世界を終わらせるほどの愛も、免罪符になどなりはしないのだ。
「そうですね。その想いが間違いであるとは言いませんが.....」
「ああ、霊魂を成仏させてやるべきなのだろうな」
 それがこの先に待つ妖怪にとって、幸いにならないとしても。
 心の中に相手への想いがある限り、相手は本当には死んでいないとシンは信じている。そしてそれは、共に歩む眞白にも言えることだ。傍にいられるなら、もちろんその方が言いけれど。一緒にいないからといって別離した訳では無いという事を──、
「さて、どうやって伝えるか」
 いたずらな囁きに、耳を貸すことはない。
 握りしめた手のひらは強く互いのあたたかさを知らせるから、不安があろうと、悩むことがあろうと。例え躓いたとして、ふたりであれば立ち止まることはないのだとまっすぐに前だけを見据えて、シンと眞白は蓮の葉の上を進んでいく。
「......ごめんなさい。私は自分で決めたことは曲げませんから」
 満たされたのだとしあわせそうに笑った妖怪を思えば、揺らいでしまいそうな目を少しだけ伏せる。
 そうして、すくうと決めたのだと呟いて。次にその目が開く頃には、彼女の青い瞳が揺らぐことはなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神坂・露
レーちゃん(f19223)と。
月光浴がしたくちゃっちゃうような場所よね。
この池に浮いてるお花って乗れるの?へー♪
でもでも二人いっしょは難しい気がするわ。
だからね。一人ずつ先に行こうと思うの。

初めはおっかなびっくりだったけど…。
乗れるってわかったらぽんぽーんって渡わ。

レーちゃんのことをどう思っているかって?
えへへ♪大好きよ。あたしの一番大事な人ね。
でもね。『愛』とは違うんじゃないかしら…。
愛ってゆーのはよくわからないけど違うと思う。
でもでもレーちゃんが大好きってことは確かよ。
どのタイプの愛か?うーん。どーなんだろう。
全然不安はないけど…少し考えてみてもいいかも?
「よし到着~。レーちゃんも早く♪」


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
ふむ。茶会をするには最適な場所だな。
蓮華と月が幻想的で感じがいい。好みだ。
この大きさだ。人は乗れるとは思うが…。
露の言うように二人同時は難しいだろうか。

露の渡る様子をみるに問題はなさそうだ。
私も露を追うように葉を渡るとしよう。

愛も様々だということは知識(本)で知っている。
だが私は理解はできていない。興味もあまりない。
これは両親の愛を知らず独りだった影響だろうか。

知識から鑑みるに。露のことは嫌いではない。
嫌いではないが友愛や親愛では無い…と思う。
勿論。恋愛というものでもない…と思う。
強いていえば仕事をする上での相棒…か?
それにしてもよく露を傍に置いているな私は。



「ふむ。茶会をするには最適な場所だな」
「月光浴がしたくちゃっちゃうような場所よね」
「ああ、蓮華と月が幻想的で感じがいい。好みだ」
 ぽつぽつと紡がれる言葉たちは、暗く深い水面を覗き込めばその池底に落ちていく。夜闇を呑み込んだような巨大な池はまるで底が見えないが故に、その水面で美しく咲き誇る蓮華の花がよく映えていた。
 池の中央で橋のように連なっている蓮の葉を遠くまで見ようと背筋を伸ばしたシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は、ひと一人が乗っても余りある大きさの蓮の葉を見据えて首を傾ぐ。
「この大きさだ。確かに人は乗れるとは思うが......」
「でもでも二人いっしょは難しい気がするわ」
 いくら十全な作りをしていたとしても、水面に浮かび続ける以上は耐えうる重さも決まってくる。「一人ずつ行こう」と提案したのは神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)で、おっかなびっくりではあるものの、惑うことなく足先を蓮の葉へ付ける。
 それは少しだけ、揺れただろうか。けれどひと一人自重を置いても蓮の葉が沈むことはなく、やはり一人でれば大丈夫そうだと確認した露はもうひとつ先に行く。足先から伝わる振動が水面に波紋を描くけれど、靴音さえ吸い込まれているのか葉から葉へと渡る間も静かなものだった。
「......問題なさそうだな」
 水上特有の浮遊感にも慣れたのか、ぽんぽんと軽い仕草で渡っていく露の様子を見れば蓮の葉自体に危険性がないことはよく分かった。置いてかれないうちにシビラも蓮の葉へと下りて、ゆっくりと、けれど確かに蓮の葉を架け橋として巨大な池の上を進んでいくのだった。

 この池の先に待つのだろう妖怪は、恋と愛に満たされたと言っていた。時よ止まれと望んだのは、今この瞬間が永遠に続けば良いと思ってしまうほどにその強く想ってしまったからだろうか。
 恋に、愛に。言葉にするには簡単で、けれどその形は様々であるということシビアも知っている。しかし、理解できるとは言えなかった。そもそも、興味だって小指の先程もないだろう。
「......これは、両親の愛を知らず独りだった影響だろうか」
 ──それは、ほんとうに?
 くすくす、くすくすと。幼子の笑い声のようなそよ風が耳元を掠めて、銀の髪をいたずらな囁きが撫でていく。ほんとうに両親のせいかな。ほんとうに環境のせいなのかな。くすくす、くすくす。静寂には喧しいほどの風が脇を通り抜けていくから、シビラはバランスを崩さないように慎重に、けれど足を止めることなく空を睨む。
「知識から鑑みるに。露のことは嫌いではない」
 恋も、愛も。分からねども、確かな何かが胸の内にはあった。
 それは友愛だろうか。親愛だろうか。──否、恋愛でもないだろう。かぶりを振って、シビラは再び考える。どうにも名前の付けられない感情ではあったけれど、それでも──共に仕事ができるほど、背中を預けられるほど信頼がそこにはあったのだ。
「強いていえば仕事をする上での相棒......か?」
「そうね、愛とは違うんじゃないかしら」
 もちろん大好きよ、あたし一番大事な人。なんて、進む先で露が笑うから。
 なんとも言えないような感情を噛み締めるようにシビラは息を呑み込んで、その青白い月明かりにも似た瞳を見る。
「愛ってゆーのはよくわからないけど違うと思う。でもでも、レーちゃんが大好きってことは確かよ」
 だから、その気持ちさえ確かであれば不安なんてひとつもないのだ。
 ただ、強いていえば。いつかこの気持ちを言葉にできた日も変わらず傍にいるのだろうな、と漠然とそんなことを考える。
「よし到着~。レーちゃんも早く♪」
 少しは考えてみてもいいかも、と呟きながら、蓮の葉を露に続いて渡り切ったシビラに手を差し伸べて。ふたりは迷わずに、先へ先へと進んでいくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

琴平・琴子
――暗い道は嫌
良くないもののが隠れてる

月の光を受けて光を蓄えた蓄光宝石のランプをかざし
あの日助けてくれた彼の人への気持ちを呼び起こす
――いつだって魅力的に見えた
恋などではなく
憧れだった
恋なんて知らない
恋慕の好きと言われても私には分からない

だから
それがどんなに恋慕ではなく
憧れと言っても
伝わる事の無い気持ちに嫌気がした
言葉に蓋をした

違うの
恋ではなく憧れ
童い心が抱いた気持ち

どんな時でも明るく照らすこのランプだって
貴方を見ている様で好き

この好きは
この憧れは
この心は

私にとって大事だから
誰にも否定させないし
揺らがないわ

辿り着いたならランプのお前は少しお眠り
布で隠して光を閉ざせば
お前の眠りを迎えに来るから



 暗い、晦い、静かな夜。
 闇に包まれた巨大な池に咲き誇る蓮華の花は青白く輝くけれど、射し込む月明かりはかそけくも頼りないものだ。夜より深い池の水面はまるで底が見えないのだから、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)の表情は険しく、緑色の瞳が蓮の葉を静かに睨めつけてしまうのも仕方のないことだろう。
「──暗い道は嫌。良くないものが隠れてる」
 囁く声が、笑う声が。ほら、聞こえるだろう。
 蓮の葉に足を下ろすよりも前に、琴子は月の光を受けて光を蓄えた蓄光宝石のランプをかざして、あの日助けてくれた彼の人への気持ちを呼び起こす。

 いつだって魅力的に見えた。
 それはきっと恋などではなくて、憧れだったのだろう。
 恋とはと問われても、琴子には答えられなかった。ましてや愛など、知る由もない。けれど、だからこそ。それがどんなに恋慕ではなく憧れと言っても、伝わることの無い気持ちに嫌気が差したのかもしれない。
 手のひらの中で揺らめくランプの灯りは青白く水面を照らして、輝くようなその色に唇を噤む。あの時と同じように、言葉に蓋をする。
 ちがうの、そう唇を震わしても。その言葉が音になることはなかった。
 ──ほんとうに?
 くすくす、くすくすと。幼子の笑い声のようなそよ風が耳元を掠めて、切り揃えられた琴子の髪を撫でていく。それが妙に生温く感じるものだから、琴子は風を追い払うように大きくかぶりを振った。
 恋ではなく、憧れ。童い心が抱いた気持ち。
 どんな時でも明るく照らすこのランプだって──、
「貴方を見ている様で、好き」
 この好きは。
 この憧れは。
 この心は──今度は、蓋で隠したりなんてしない。
「私にとって大事だから、誰にも否定させないし、揺らがないわ」
 だから、ほら。蓮の葉を渡る足取りは、その心のように惑わない。
 ゆっくりと静かに、けれど確かに蓮の葉を架け橋として巨大な池を渡った琴子は、辿り着いた彼岸でランプを掲げていた手を下ろして、やわらかな布を被せる。
「......お前は少しお眠り」
 布で隠して光を閉ざせば、きっと。お前の眠りを迎えに来るから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮沢・小鳥
【旅人の軌跡】で参加。今回はネージュさんと2人だけど、金魚市の時には他にも人が来てくれる予定。アドリブ歓迎。
金魚市、楽しみ! でも、テテメアさんの予見した事件も頑張って解決させてもらうよ!
あたし、意外と怖がりだから、池を渡るとき、怖くて怖くてたまらない。でも、ネージュさんが手を差し伸べてくれたから、その手をぎゅっと握り返して、しっかり池を渡れる。
ネージュさんも、【旅人の軌跡】のみんなも、すごく信頼してるから! みんながいれば、ううん、ネージュさんだけでも傍にいてくれたら、あたしは平気!
「ネージュさん、ありがとう! 大好きだよ!」
笑顔でお礼を言わせてもらうね! みんなのことが大好き!


ネージュ・ローラン
【旅人の軌跡】で参加。
旅をしながら色々なお祭りを見てきましたが金魚のお祭りというのは初めてでとても興味がありますね。
無事に開催できるように事件は解決しましょう。

不安そうにしている小鳥さんに気がつくと、そっと手を差し出します。
正直この足を踏み外せば帰ってこられないような池はわたしも怖いですし、恋や愛といったものも未だよくわかりません。
今回のオブリビオンもただ倒せばそれで終わりにできるのか……。
ですが一緒に旅する仲間が、わたしを信じてくれるこの手が、わたしの戦う力となります。
立ち止まってなんていられません。

アドリブ歓迎



「うう、結構暗いんだね......」
 お楽しみの金魚市のためにも頑張ろうと張り切る宮沢・小鳥(夢見る雛・f23482)も、暗く深い巨大な池を眼前してしまえばその景色に小さく身を竦ませていた。
 青白い月明かりはかそけきもので、空から垂らされた蜘蛛の糸のような細い光は決してすべてを照らしてはくれないのだ。夜闇にぽっかりと口を開いた池は底さえ見えず、まるで自分までぱくりと食べてしまいそうに思えて仕方ない。
 この池の上を、頼りない蓮の葉を、渡っていけというのだから。怖がりな小鳥にとっては肝を潰すほど恐ろしい瞬間である。けれど。
「大丈夫ですよ、小鳥さん。一緒に行きましょう」
 隣立つネージュ・ローラン(氷雪の綺羅星・f01285)がそっと手を差し出してくれるから、小鳥はそのやわらかな手をぎゅっと握り返して、ようやくとこの場に立てるような気がした。
「うん。みんながいれば......ううん、ネージュさんだけでも傍にいてくれたら、あたしは平気!」
「ふふ、その調子ですよ」
 正直、この足を踏み外せばそのまま池底に沈んで帰ってこられないような池は、ネージュにとっても怖いものだ。不安を煽るいたずらな囁きや、まやかしの水鏡も警戒してもし足りないだろう。
 それでも、と握り返された手のひらを見下ろして、ネージュはゆっくりと蓮の葉に向けて足を踏み出す。
「......共に旅する仲間が、わたしを信じてくれるこの手が、わたしの戦う力となります」
 ──それは、ほんとうに? なんて、くすくすと耳元で笑うようなそよ風は強かに払い除けて。頑然と前を見据えたネージュの青い瞳は強い輝きを灯して、先行するように蓮の葉を歩いて小鳥の手を引く。
「立ち止まってなんていられません」
 世界の崩壊は静かに、けれど確かに広がっているのだから。この先に待つ妖怪を倒すことで解決できるというならば、いま出来ることをすべきだと。
 揺らぐ葉の上であっても凛と伸ばされた背筋は姿勢を崩すことなく、一歩ずつ確実に前へと進むその姿はそれは頼もしくて。その背を追いかけるように進む小鳥もまた、確かな信頼を繋いだ手のひらに預けて大輪の花のような笑顔を浮かべる。
「うん、そうだよね。──ネージュさん、ありがとう! 大好きだよ!」
 笑顔でお礼を言えば、気付けば不安の種なんてもうどこにもない。
 脇を通り抜けていくそよ風を置き去りに、ふたりは蓮の葉を架け橋として巨大な池を渡っていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

旭・まどか
無駄な電飾も喧噪も無い
暗くて、静かで――落ち着く
そんな、夜だね
水音が耳に心地よい
葉の上を渡る度、靴音は池に吸い込まれ
まるで水に住まういきものにでも成ったようだ


彼女が時よ止まれと口にしたのは何故だろう

師と尊崇する“そのひと”と、ひとつに成れたから?
彼が教えてくれた“恋”と“愛”を、彼に捧げる事が出来たから?

他人を敬愛する事も
ましてや恋慕の情を抱く事さえ程遠い此の愚身

彼女の心情は到底察せられないけれど
それが“善い事”で無い事ぐらいは、解るよ
――そして彼女の選んだ途が、間違っている事も

鳴らない靴音の代わり生まれるのは水面を揺らす波音だけ
寄せては返す波のように
問いを投げかければ望む答が得られるだろうか



 少しずつ崩れていくように、闇が深まるばかりの世界は思うよりも静かなものだ。無駄な電飾もなければ、喧騒もなく。風さえ吹かないその場所では青白い月明かりだけが空から垂らされた蜘蛛の糸のようで、空を見上げていた旭・まどか(MementoMori・f18469)は何度か目を瞬かせた。
「暗くて、静かで──落ち着く。そんな、夜だね」
 惑うことなく踏み出した足は、吸い込まれるように蓮の葉を踏み締める。自重に揺れた蓮の葉から伝わる波紋は弧を描いて、僅かな水音を立てるのが耳に心地よいとさえ思えた。夜闇にぽっかりと口を開いたような巨大な池も、暗く深く底の見えない水面も、まどかにとっては不安を煽る種にはならないのだろう。
「......まるで、水に住まういきものにでも成ったようだ」
 葉の上を渡る度、爪先が宙を踊る度、靴音は池に吸い込まれて流れる水の音に変わっていく。この先にいるのであろう妖怪も、この景色を歩んだのだろうか。まっすぐと見据えた池の先は暗く未だ見えるものではないけれど、その先に思いを馳せるようにまどかは目を眇める。
 時よ、止まれ。彼女がそうと口にしたのは何故だろう。
「──主、か」
 師と尊崇する“そのひと”と、ひとつに成れたから?
 彼が教えてくれた“恋”と“愛”を、彼に捧げる事が出来たから?
 ぽつりと零れた呟きさえも、水面に描いた波紋に攫われていく。いくら考えたところで、察せられるものは決して多くない。他人を敬愛することも、ましてや恋慕の情を抱くことさえ程遠いのだから、寄り添いようもないというものだ。それでも。
「彼女の心情は到底察せられないけれど、それが“善い事”で無い事ぐらいは、解るよ」
 ──そして彼女の選んだ途が、間違っている事も。
 何かを犠牲にしても通す恋は、世界を終わらせるほどの愛は、さぞかし心地よいことだろう。けれど愛に盲たその目では、きっと正しい道さえ選べない。
 そうして、いたずらな囁きがそよ風のように耳元を掠めようとも、まどかは変わらず歩くような速さで蓮の葉を渡り続けていく。鳴らない靴音の代わり生まれるのは水面を揺らす波音だけだ。それはさながら、寄せては返す波のように。
 問いを投げかければ望む答が得られるだろうか、なんて。あまり期待は出来そうにないと肩を竦めたまどかが、目には見えないものたちの囁きに耳を傾けることは終ぞなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杠葉・花凛
まあ、美しい!
見事な蓮華も、風に揺れる水面も
夏の終わりを感じる見事な情景ですわね
ふふ、私四季や美しいものに目がありませんの

この神秘的な池こそが、試練ですのね
少しばかり頼りの無い葉の足場
恐れること無く、確かに一歩踏み出して
水面の不安定さに、落ちないようにと慎重に
けれど背筋は伸ばして、優雅に歩むことは忘れずに参ります
足元が心許無いならば
情景を邪魔しない提灯の灯りを片手に

ヒトの語る愛は、物である私には少々遠い御話
けれどヒトに愛を頂いたから
今此の世界を歩んでいるのです

不安など何もございません
手招きされても、私は真っ直ぐ前を見つめるだけですわ
私はこうしてヒトの身を宿すことが出来たことが
倖せなのです



「まあ、美しい!」
 月明かりを受けて青白く輝く天上の花に思わずとこぼしたのは、感嘆の吐息だ。静謐に包まれた巨大な池に咲き誇る花と、橋のように連なった蓮の葉を前にした杠葉・花凛(華蝶・f14592)はぱちりと扇子を開いて、風に揺れる水面を覗き混むように視線を落とす。
「夏の終わりを感じる見事な情景ですわね」
 四季の移ろいや、自然に触れることで呼び起こされた情緒の趣深さ。美しいものに目がない花凜はきらきらと輝くような表情で見事な蓮華を見納めて、ひとつ頷く。美しく、静かながら華やかな景色だ。けれどこの神秘的な池こそが、試練の場なのだろう。
 ひと一人が乗っても余りある大きさの蓮の葉を見ればゆらゆらと水面に揺れていて、見るには良くとも足場とするにはどうにも頼りない。けれど。
「──行きましょう」
 どんなに先が見えなくても、恐れることなく。確かに踏み出した一歩目が蓮の葉を踏み締めれば、先程よりも大きく揺れたかもしれない。しかし思うよりも十全な作りをしているのか、両の足が体重を掛けても葉が沈むことはなかった。これなら、大丈夫だろう。
 何度か葉の上を踏み鳴らし、水上の浮遊感に慣れた頃。
 落ちないようにと慎重に、けれどしっかりと背筋は伸ばして。月明かりの如く淡く灯された提灯を片手にした花凜は、惑いさえ見せない優雅な足取りを念頭に進んでいく。

 歩く道に、不安など何もなかった。
 葉の上を歩くことで伝わる振動が波紋を描いて、水面に浮かぶ月を掻き消したとして。吹き込むそよ風がくすくすと、幼子のような笑い声で耳元を掠めたとして。そのいたずらな囁き、まやかしの水鏡にも花凜が足を止めることはない。
 その足取りはこの池の先に待つのだろう妖怪の軽やかな足取りにも負けず優雅なものであったけれど、しかしその目が見つめる先はまったく異なるものだ。
「ヒトの語る愛は、物である私には少々遠い御話」
 ──けれどヒトに愛を頂いたから、今此の世界を歩んでいるのです。
 そう言って、たおやかな仕草で頬にかかる髪を払った花凜はただひたすらに、例え池底に手招きされようと誘われることなく真っ直ぐに前だけを見つめていた。
 囁きが何を吹き込んでも、水面が如何様に揺らいでも。信ずるものは確かにここに。
「私はこうしてヒトの身を宿すことが出来たことが──倖せなのです」
 往く道を照らすようにかざした提灯が、やわらかに足元を照らすから。夜闇にぽっかりと口を開いたような暗く深い池の上であっても迷わずに歩いていけるのだと、花凜は吹き抜けたそよ風に微笑みかけるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
此岸から彼岸へ渡る橋のよう
静謐で荘厳な光景なのに――否
清らかな景色だからこそ
花や葉を揺らすものが
風ばかりでは無いと違和を知れるのか

悪戯者の正体を探そうと
水面を覗くかんばせは
私のものであって私のものではない
此の姿は主の模写
私自身が鏡

――悔しいですか、

届く筈もない問いは
己の主へ向けて

水鏡は
怯えたような
眉を顰めたような
表情を映すけれど

――ふふ、可笑しい

だって私は笑っているのだから
ちっとも対になっていない

ね、覗き見は駄目ですよ

心を映す水鏡は妖の戯れだろうか
嫣然と笑みを浮かべ
誰にも覗かせない、
誰にも見せない、
宿神としての顕現の真意を笑顔の奥に閉じ込める

屈んで指先で水面を弾けば
ほら、また静かな風景に元通り



 此岸から、彼岸へ。
 夜闇に口を開いた巨大な池の中央に連なる蓮の葉は、まるで境目に架かる橋のようだ。青白い月明かりが射し込むばかりの水際では自身の鼓動さえ聞こえてきそうなほどで、その静謐さと荘厳な光景に都槻・綾(糸遊・f01786)はそっと目を細める。
「──否、」
 静謐も、荘厳も。美しく咲き誇る天上の花さえも、清らかな景色だからこそ。それらを揺らすものが風ばかりでは無いと、違和を知れるのだろう。
 くすくす、くすくすと。幼子が笑うかのようなそよ風が脇を通り抜けて、綾は辺りを見回すまま葉の上で足を止める。
 風は吹き抜けども、耳元を掠める囁きは拭えない。悪戯者の正体を探そうと綾はおもむろに水面を覗き込むけれど──そこに映るかんばせは、彼のものであって彼のものではなかった。
「悔しいですか」
 それもそのはずだ。此の姿が主の模写であるように、綾自身が鏡であるのだから。
 眼前の映し身に動揺することなく問いかける声は静かに水面に落ちて、吐息が波紋を描いても尚、目は逸らさない。
 届く筈もない問いが、池底に沈んでいく。己の主に向けた言葉が作り出した波紋が凪いだ頃には、水鏡は異なる表情を映していた。それは怯えたような、眉を顰めたような。複雑に歪む水面に顔を近付けて、綾は口を開く。
「──ふふ、可笑しい」
 だって、私は笑っているのだから。
 ちっとも対になっていない、なんてゆるやかに唇は波紋のような弧を描いて。
「ね、覗き見は駄目ですよ」
 嫣然と笑みを浮かべ、綾はゆっくりと蓮の葉の上に屈む。
 心を映す水鏡は妖の戯れだろうか。彼らの真意は泥の中に眠ったまま、綾には分からないけれど。それでも。
 誰であっても、何であっても──覗かせない。見せない。
 宿神としての顕現の真意を笑顔の奥に閉じ込めて、綾は青白い月明かりを受けて夜闇に浮いたようなしなやかな手を伸ばす。そうして、指先で軽く水面を弾いたなら。
「ほら、また静かな風景に元通り」
 ぱしゃりと小さな水音を立てて、凪いだ水面には月が笑っている。
 それを見届けた綾はゆっくりと背筋を伸ばして、深呼吸をひとつ。澄んだ空気に肺をふくらませて、再びの静謐に包まれた巨大な池を危うげなく渡っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
エドガー(f21503)と

ほんとだっ
池もはっぱもおおきいねっ

覗き込んでからわくわく最初の一歩
ぴょんと跳ねて確かめて
うんうんと満足げ

エドガー、いこっ
手を伸ばして

月のあかりだけでもきれいだけど
月にてらされたエドガーの髪がひかってみえるから
ふふふ
見つめて笑み零す

あっ、花がさいてる
花もひかってるみたい

白が光を映して

まっくらじゃないからへいきだねっ

エドガーとはじめて並んで歩いたのは
アリスの落とし物をあつめたとき
暗闇の中に落ちてる仄かな光たち
すこし今と似てる気がして

エドガーはわすれちゃうって言ってたから
おぼえてないかもしれないけど
でもだいじょうぶなんだ
わたしがおぼえていたら、いつでもおはなしできるんだもの


エドガー・ブライトマン
オズ君(f01136)ごらん。大きな池だねえ
あの蓮の葉を渡るんだっけ
事前に本で見た通りだ、葉にしてはなかなか大きいよ

行こうか、オズ君
葉から葉へ、飛んで渡ろう
月明りだけがボンヤリと照らす試練の池でも
きっとそう簡単に惑わされやしないさ。だって――

葉を渡るオズ君の方をチラと見た
かれの頭はまるくて金色で、
まるで満月がもうひとつあるかのようだもの
ウンウン、やっぱり頼もしいな

ああ、本当だ。あれは蓮の花だっけ
葉と一緒に本に載っていたよ
ぼうっと明るい様はランプのようにも見えて
以前、オズ君とこんなふうに探しものをしたような気もして

もう詳しくは思いだせないけれど
その時みたいに、今回だって乗り越えられるとおもうんだ



「オズ君、ごらん。大きな池だねえ」
 細く青白い月明かりに照らされて輝く天上の花は、ただ静かに水面に咲き誇っていた。夜闇を呑み込んだように暗く深い池を揺蕩う姿はまるで送り火と放された灯籠のようで、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)はやわらかく目を細める。
 池の中央に架け橋のごとく連なる蓮の葉もまた、見事なものだ。ひと一人を乗せても余りある葉の大きさを確認しながら、エドガーは事前に見ておいた植物図鑑を脳裏に思い浮かべる。
「事前に本で見た通りだ、葉にしてはなかなか大きいよ」
「ほんとだっ! 池もはっぱもおおきいねっ」
 隣に肩を並べたオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)も、池を覗き込んではキトンブルーの瞳をきらきらと輝かせる。この葉の上を、これから渡るのだろう。それはちょっとしたフィールドアスレチックのようで、わくわくと心を躍らせたオズはひと足先に最初の一歩を踏み出した。
 ゆらり、ゆらりと。両の足を乗せた蓮の葉は、踏み込んだ振動に少し揺れただろうか。しかしひと一人の自重を置いても葉が沈むことはなく、オズがその場でぴょんと跳ねて見ても水面に波紋を描くのみだ。
 その水上特有の浮遊感を楽しみながら、オズはうんうんと満足げの頷いて白皙の手を伸ばした。
「エドガー、いこっ」
「うん。行こうか、オズ君」
 葉から葉へ、恐れることなく飛んで渡ろう。
 伸ばされた手に応えて蓮の葉に足を着けたエドガーもまた、ほのかな笑みを湛えて前を見据えている。この池が美しいばかりではないと知っているけれど。吹き込む風の生温さを肌身に感じているけれど。それでも。
 月明かりだけがボンヤリと照らす試練の池でも、きっとそう簡単に惑わされやしないだろう。だって──、
「ふふふ」
 思うことは、いっしょだったのかもしれない。
 葉を渡りながらも視線を向ければ、金色に輝くあたたかな光がそこにはある。まあるくて、星よりきらきらと輝く色。月に照らされたその金糸はまるで満月のようで、ふとかち合う視線にふたりはどちらともなく頬を緩めた。
「ウンウン、やっぱり頼もしいな」
 どんなに暗い道も、どんなに深い夜も。
 輝くみちしるべがそこにあるなら、恐れる理由はひとつもないというものだ。

 ゆっくりと、けれど確かに。
 葉の上を歩く浮遊感にも巨大な池の中心に差しかかる頃にはすっかりと慣れて、オズは苦もなく周囲を見渡す。暗く深い池の水面は変わらず底さえ見えないけれど、それ故に蓮華の花の色がよく映えた。
「あっ、花がさいてる。花もひかってるみたい」
「ああ、本当だ。あれは蓮の花だっけ。葉と一緒に本に載っていたよ」
 白が光を映して、何かを彷彿とさせる。
 ぼうっと明るい様は、ランプのようにも見えて。
「以前、オズ君とこんなふうに──探しものを、したような」
 そんな気もして。紡ぎかけた言葉が、霞がかったように小さく消えていく。
 エドガーはもう詳しくは思い出せない記憶の頁を捲るように目を伏せて、息を吐き出した。
「......あのね、エドガー」
 オズとエドガーとはじめて並んで歩いたのは、アリスの落とし物をあつめたときだった。暗闇の中に落ちている仄かな光たちは、すこしいまと似ているかもしれない。
 それは言葉にせずとも、オズには瞬くほど簡単に思い出せるから。繋いだ手をぎゅっと握りしめて、ゆっくりと開かれる青空のような瞳に微笑みかける。
「エドガーはわすれちゃうって言ってたから、おぼえてないかもしれないけど」
 ──でも、だいじょうぶなんだ。
 忘れてしまっても、思い出せなくても。
 そうしていつか、分からなくなってしまっても。
「わたしがおぼえていたら、いつでもおはなしできるんだもの」
 ほら、もうすぐ着くよ。なんて言ってやさしく手を引いて。
 前を歩くオズは変わらず、子猫のように軽い足取りでぴょんと蓮の葉を跨ぐ。エドガーもその後に続くようにひとつひとつ、蓮の葉を踏み締めて。例え思い出せなくとも、その足を止めることだけは決してしなかった。
「うん、うん。──ああ、やっぱりキミは頼もしいよ」
 だからこそ。
 もう詳しくは思いだせないけれど。それでも、きっと。
 その時みたいに、今回だって乗り越えられるとおもうんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シン・バントライン
アオイ(f04633)と

月明かりしかない暗い場所を歩くのは慣れている。
小さい頃からいつも一人で歩いた。
池の中に咲く花も見慣れたものだった。
花の一つ一つに言葉が寄り添っている事を彼女に逢って初めて知った。
花言葉を聞くと蓮華は恋の花では無いと思う。

彼女をそっと大事に抱き上げてゆっくりと蓮の葉の上を渡る。
このまま二人で一緒に池に沈めばお互い傷つける事も傷つく事も無いんだろうな、と暗い水面を見つめる。自分の腕の中から彼女が何処かへ行ってしまう事も無いだろう。
そんな邪な心も救ってくれるのはいつも彼女で、知ってか知らずか泳いで助けると笑った。
どんなに暗い道のりも彼女の温かい心を信じて歩いて行ける。


アオイ・フジミヤ
シン(f04752)と

蓮華の花がきれいね
蓮華の花言葉は…あなたと一緒なら苦痛は和らぐ

霊魂が、滅びの言葉を口にした心がわかるよ
幸せなのに、その愛が世界を壊すなんて辛いね

シンに抱えてもらって池を渡る
愛という感情が楽しいだけではないことを知っている
私はずっと愛は苦しいものだと思っていた
叶わぬ恋を止めることが出来なかった

けれど私はシンに出逢った
私の手を取り傍に居てくれた
シンは自分を大事にすることを教えてくれた
彼に出会って、私はどれだけの人に愛されていたかを知った
あなたに救われた

もし落ちたら私が泳いで助けるねと戯れに笑う

あなたを信じているから
腕を回すこの温もりが、あなたの”信じる”に少しでもなればいいな



 月明かりしかない暗い場所を歩くのは慣れていた。
 かぼそい光が蜘蛛の糸のように空から垂れるばかりの暗い夜。静かな道。
 そんな場所を、小さい頃からいつも一人で歩いた。だからこそ、シン・バントライン(逆光の愛・f04752)にとっては池の中に咲く花さえ見慣れたものだったのだろう。けれど。
「蓮華の花がきれいね」
 隣でやわらかに微笑んだアオイ・フジミヤ(青碧海の欠片・f04633)が、歌うように花に言葉をなぞらえる。
 蓮華の花言葉。あなたと一緒なら苦痛は和らぐと、ただの植物に与えられたその花詞まではシンは知らなかった。花の一つ一つに言葉が寄り添っている事を彼女に逢って初めて知ったのだ。
「そうやな、此処からでもよう見えるわ」
 それはきっと、恋の花とは程遠いものだけれど。
 月明かりを受けて輝くような花は池の水際からでもよく見えて、シンも薄らと笑む。行こか、と伸ばされた手のひらは優しく、けれどしっかりと繋がれて。アオイを先導するように降り立った蓮の葉は、やはり水上らしくゆらゆらと揺れていた。
 その葉の大きさは、ひと一人ほどだろうか。シンは葉が沈まないことを確認するように何度か踏み鳴らして、安全であると分かればそっとアオイの手を引く。そうして、自分はもうひとつ先の葉へ。
「気ぃ付けてな」
「ふふ、離さないでね」
 本当は、大事に抱き上げてしまいたかったけれど。ひと一人がようやく渡れる程度の蓮の葉に、ふたり分の体重は耐えきれない。だからせめて、その手だけは離さずに。
 そうしてゆっくりと渡る蓮の上は、しばらくもすれば浮遊感にも慣れてきた。あたりを見渡す余裕も生まれて、シンは視線を蓮の葉の傍らに落とす。
 暗い、晦い、夜闇を呑み込んだような池だ。その暗い水面を見つめて、シン小さく息を吐いた。このまま二人で一緒に池に沈めばお互い傷つける事も傷つく事もないのだろうと、吹き込む生温い風に思考は沈んでいくばかり。
 ──池底まで沈んでしまえば、きっと。自分の腕の中から彼女が何処かへ行ってしまう事もないだろう。なんて。
「ねえ、シン。もしシンが落ちたら、私が泳いで助けるね」
 それでも、沈む思考を掬い上げるように彼女が戯れに笑うから。
 ほのかに灯るような温かさをと、その心を信じてシンは歩いて行ける。けれど、それはきっとアオイだって同じだった。
 愛という感情が楽しいだけではないことを、知っているが故に。ずっと愛は苦しいものだと思っていた頃を思い出させるように、いたずらな囁きはアオイの耳元を掠めていく。それでも。
「──信じているの、」
 シンと出逢ったことは、アオイにとって確かに幸いだった。
 手を取ってくれた。傍にいてくれた。自分を大事にすることを教えてくれた。── どれだけの人に愛されていたかを知った、そのひとつひとつを思い出すように少しだけ目を伏せる。
 他ならぬ、あなたに救われたのだと。そう思うから。
 シンを信じているからこそ、アオイは繋いだ手の温もりが彼の“信じる”に少しでもなれば良いと願いを込めて、その手をもう一度強く握り締めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ティル・レーヴェ
亮殿(f26138)と

わぁ、亮殿!
此処に乗って渡るのかえ?
大きな蓮の葉渡りは楽しげで
蓮華に竹林と揃う景は幻想的で
童話や昔話の中のよう

一緒に行こうと手を差し伸べて
ぴょんと蓮の葉飛び乗れば
少し揺れるのも楽しいのぅ

蓮を咲かせる泥の池
底も見えぬよなその色は
澄んだ水とは異なれど
花を育む数多を混ぜた
きっと思い出や縁の様なもの

水鏡映す心も
綺麗ばかりではきっとない
憂う過去も悲しみも羨望も欲もある
されど其れも己の一部と今なら言える

繋ぐ手の先
友の温もり感じたら
空いた指先
首に添い咲く花へ触れたなら
惑わす声など怖くない

彼女を襲う其れは大丈夫かと
そと窺い見るも
上がる顔見れば微笑んで

うむ、ゆこう!
掛る声に応え共に駆け行く


天音・亮
ティル(f07995)と

きみの弾む声につられるように私の声もいつしか弾む
蓮の葉の上を歩いていけるなんて本当に物語の中みたいだね

ん、一緒に!
伸ばされた手を繋いで跳んで行こう
音の響きの様に蓮の葉から波紋が広がっていく
少しぐらついた身体もぎゅっと握ったその手が支えてくれて
楽しくてつい笑顔になっちゃうや

暗い足元に不安はつい過るものだけど
私は私の歩みを信じてる
私を信じて見守ってくれている人も居る
どんなに影が差そうと道が見えなくなろうと
進んでいくんだ、この道を

こんなに心強い友達だっている
顔を上げよう
前を向こう
そして一歩を踏み出そう

ティル、行こう!

大好きな人達が笑顔で居られる世界なら
私は駆けていけるから



「わぁ、亮殿! 此処に乗って渡るのかえ?」
 青白い月明かりを受けて輝くような蓮華の花と、橋のように連なっている蓮の葉。巨大な池の水面こそ底さえ見えない暗く深いものであったけれど、その上で咲き誇る景色は美しく、大きな蓮の葉たちを架け橋としてこれから渡ることを思えばフィールドアスレチックのようで。楽しげに勿忘草にも似た紫の瞳を輝かせたティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は、小さな体を乗り出して池の先までを見渡す。
「あっ、落ちないように気を付けてね!」
 天音・亮(手をのばそう・f26138)もまた、その背に声をかけながら楽しげな様子につられて笑みを零す。うむ、と返事する声さえ弾んでいるものだから、亮の声もいつしか弾んでしまっていた。
「蓮の葉の上を歩いていけるなんて本当に物語の中みたいだね」
「あゞ、一緒に行こう亮殿!」
 蓮華に竹林と揃う景は幻想的で、大きな蓮の葉渡りも合わせればそれはさながら童話や昔話の中のよう。けれど、それもきっと楽しいばかりではないと分かっていた。
 だからこそティルは手を差し伸べて、ひと足先にぴょんと蓮の葉に飛び乗る。ひとりでは恐ろしい道であっても、ふたりなら。その不安さえ楽しむように、跳んで行けるはずだと。
「──ん、一緒に!」
 伸ばされた手を繋いで、亮も勢いよく蓮の葉に跳び乗る。乗った勢いと伝わる振動で、蓮の葉は少し揺れただろうか。けれどひと一人自重を置いても蓮の葉が沈むことはなく、音の響きの様に蓮の葉から波紋が広がっていくばかり。
 少しぐらついた身体もぎゅっと握ったその手が支えてくれるから、亮は自然とほころぶ笑顔を隠すことなく、またひとつと蓮の葉を渡っていく。

 進めば進むほど、その道は暗くなっていくように思えた。それが世界の崩壊が少しずつ進んでいるが故か、水面に映る月さえ弧を描いた波紋が消してしまうから故かは、分からないけれど。青白い月明かりを受けて輝く花の色ばかりが妙に美しくて、暗く深い水面との明暗が不安を誘う。それでも。
「......大丈夫、」
 どれほど暗くなっても、その心も、その道も。見失うことだけはないだろう。
 過ぎる不安に振り返ることなく前だけを見据えて、亮は変わらず笑みを浮かべたまま。
「私は私の歩みを信じてる」
 蓮を咲かせる泥の池を見下ろしてなお、その笑みは崩れない。それはきっと、共に歩むティルも同じだった。
 底も見えないようなその色は、確かに澄んだ水とは違うかもしれない。けれど、その色こそ花を育む数多を混ぜた──きっと、思い出や縁の様なものなのだから。その色を恐れることは、ないのだ。
 水鏡が映すこの心も、きっと綺麗なばかりではないだろう。ティルは吹き抜けていくそよ風が運ぶいたずらな囁きに気付きながらも、それを振り払ってまたひとつ蓮の葉を渡る。
「憂う過去も、悲しみも。羨望も欲もある。されど──、」
 其れも己の一部と今なら言えるのだと、繋ぐ手の先に友の温もりを感じて。
 空いた指先で自らの首に添い咲く花に触れたなら、もう囁く声は聞こえなかった。どちらともなく顔を上げた亮とティルは、交わる視線にふと微笑んで、それからもう一度ぎゅっと繋いだ手を握りしめる。
 信じて見守ってくれる人がいる限り。心強い友達がいる限り。どんなに影が差そうと、道が見えなくなろうと進んでいこう。
「ティル、行こう!」
「うむ、ゆこう!」
 ──顔を上げて、しっかりと前を向いて。共に一歩を踏み出そう。
 そうして手を繋いだまま駆け抜けていく足はそよ風より早く、ふたりは蓮の葉を瞬く間に跳び越えていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
千隼(f23049)君と

…時よ止まれ、か
願う気持ちは分ろうものだが
世界の終わりを二人で見たいと
言い換えるのは少し、厳しいな

煙草に火を点け
カンテラにも火を入れよう
見える導があれば迷いも晴れるもの

花愛でるのはまた後で
蓮葉を足掛りに進む

昏い水が目に映る度
しきりに囁く声に足が重くなる
誰しも通り過ぎるばかり
振向けばもういないのだと

名を呼ぶ声に顔を上げ
笑顔作って、声の方へ手を振り
大丈夫かい?
あと一息だ、千隼君

時が止まらないからこそ
得られたものだってある
取られるくらいなら
何処へだろうと、取り返しに行くさ

渡り切れば、煙を吐いて
酷い夢を見た気分だ…
触れた指を絡ませて
これでやっと安心だとも
…君がいてくれて良かった


宵雛花・千隼
梟示(f24788)と

…いけないわ
時よ止まれと願う程、満たす愛には憧れるけれど
世界が終わってしまったら、傍にいられないでしょう

足音なしに葉を渡る
暗い夜は恐れずとも
全て夢だと囁くものに気づいてしまう
幸せを知れるはずもないと

…梟示
カンテラの灯火に安堵して顔を上げ
返る笑みには困ったように泣き笑んで
とても怖いわ、縋りたい程
けれどアナタを沼底に取られたくはないから

その影を追い、聞こえた言葉に瞬いて
…ふふ、だめよ、取らせては
ワタシの恋も愛も幸せも、アナタと共にあるのだわ

止まらぬ時のように歩み重ねて行きましょう
渡り切ったなら、その手に触れて確かめて
…夢でなくてよかったわ
絡む指を握り返して離さぬように、繋いで



 音もなく、けれど確かに闇が深まっていく。
 その色は夜というにはあまりにも晦いもので、打ち寄せた波のように少しずつ世界を侵食していく様を愛の成れの果てだとするなら、その先には救いなどひとつもないように見えた。けれど。
「......時よ止まれ、か」
 それでも、あの妖怪はしあわせと笑うのだろうか。
 かぼそい月明かり受けて青白く輝く天上の花は世界の崩壊の中でも美しく咲き誇っていて、一本の煙草を弄ぶ手元に視線を落とした高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)は小さく息を吐いた。
「願う気持ちは分ろうものだが......世界の終わりを二人で見たいと言い換えるのは少し、厳しいな」
「ええ。時よ止まれと願う程、満たす愛には憧れるけれど。──世界が終わってしまったら、傍にいられないでしょう」
 薄い唇が煙草の吸口をくわえて、慣れた仕草で火を点ければ紫煙が一筋の糸のように立ち昇る。それを眺める傍ら、カンテラにも火を入れていく梟示の横を影が過ぎった。宵雛花・千隼(エニグマ・f23049)だ。
 底が見えないほど暗く深い池の水面を覗いた千隼は、頬から伝い落ちた雫が描く波紋を見つめて目を眇める。「......いけないわ、」呟いた声が、生温い風に攫われていくのを見送ればこの池の先に、それでも確かに満たされたのだと笑う妖怪の声が聞こえたような気がして。
「行こうか、千隼君」
 花愛でるのはまた後でと、ふたりは蓮の葉へと一歩を踏み出していく。
 闇が月さえ覆ってしまう前に、辿り着かねばならないのだから。

 蓮葉を足掛かりに進む道は、次第に気持ちまで暗くなっていくように思えた。
 暗い夜は恐れずとも、昏い水が目に映る度しきりに囁く声に足が重くなるのだ。誰しも通り過ぎるばかりで、振向けばもういないのだと──くすくすと笑う幼子のようなそよ風が耳元を掠めるから、梟示は草臥れた肺に目一杯の煙を吸い込む。脇を通り抜けていくそよ風が、ひどく煩わしい。
「......梟示、」
 囁くような風の音は、千隼にも届いていた。聞こえる囁きは別物なれど、疎ましいものであることには変わりないだろう。全て夢だと囁くものに気づいてしまえば、歩む足さえ止まってしまいそうだ。それでも。
 幸せを知れるはずもないと笑う囁き声に少しだけ身を竦めた千隼は、ゆらゆらと目の前で揺れるカンテラの灯火にいつの間にか強ばっていた力を抜いて、顔を上げる。
「──大丈夫かい? あと一息だ、千隼君」
 そのとき安堵したのは、はたしてどちらだったのか。
 名を呼ぶ声に顔を向けた梟示は、笑顔を作って空いた手のひらで手を振ってみせる。
「とても怖いわ、縋りたい程。......けれど、アナタを沼底に取られたくはないから」
「取られるくらいなら何処へだろうと、取り返しに行くさ」
 時が止まらないからこそ、得られたものだってあるのだと。
 返された笑みに困ったように泣き笑んだ千隼に、梟示は呟く程度の声音を煙と共に吐き出して、最後の蓮の葉を踏み締める。その背から離れてしまわないように影を追えば、道に残る紫煙の香りが鼻腔を掠めるだろう。
 倣うように蓮の葉を踏めば、残響のように届く言葉に静かに瞬いて、それからゆっくりと千隼は目を伏せた。
「......ふふ、だめよ、取らせては。ワタシの恋も愛も幸せも、アナタと共にあるのだわ」
 止まらぬ時のように、歩み重ねて行きましょう。なんて、巨大な池をいたずらな囁きに誘われることなく渡り切ったふたりは、ぬくもりを探すように互いの手に触れる。
「──君がいてくれて良かった」
 池を渡る道中こそ、まるで酷い夢を見た気分だったけれど。触れた熱を確かめるように指先を絡めれば、夢でなくてよかったとようやく安心できるだろう。
 そうして決して離さぬように繋いだ指先に、寄り添うふたつの影は試練の池を越えていく。揺らめくカンテラの光跡と、くゆる紫煙の香りを僅かに残して。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【対照】
(酷く生温い風、暗く深く淀む泥濘――静かに差し込む仄かな月光、強く清く咲き誇る華――嗚呼、この光景そのものに、心の内を写し出された様な錯覚すら浮かぶ)

……
さて、と
心ってモンと向き合うにゃ、確かに打ってつけの雰囲気だな
――ま、決心がつかずにまごつくなんて事だけは避けるさ

ところでさ、春!
今は二人きりなんだし、照れ隠したりせずに心置きなく愛情表現とかしてくれても…待って聞いてー!

(不安と不吉を纏う声、底知れぬ泥や闇――まるで己の奥底に潜むモノと同じ様
でも、其も抱えて行くと――時に迷い覚束無くなりかけても、それでも泥臭く足掻いてでも進むと決めたから)
大丈夫、踏み出そう――呑まれも呑ませもしない


永廻・春和
【対照】
(深い夜闇と泥濘に、一条の光と華の群――心が沈み行く様な洗われる様な、表裏と陰陽が隣り合わせの世界
――成る程、この御方が斯様に神妙になる理由が、少し解ってきた様な――)

悠長に立ち止まり眺め続けたり考え込んだりという訳にも参りませんが――其処は大丈夫、と信じさせてくださいね

…?(全く何も心当たりがない顔で)
あまりふらふら軽い調子でいると、足を掬われても知りませんよ
さぁ、行きましょう(さらりとスルーし池へ向き直り)

…私は揺るぎません
貴方様が何を抱えていようと、奥底より何が覗こうと

(泥濘の上でこそ強く実を結ぶもの、輝くものもあると――分かっているから)

なれば――今は信愛を以て、進みましょうか



 酷く生温い風を、肌身に感じていた。
 暗く深く淀む泥濘、その上澄みに静かに差し込む仄かな月光。そして、強く清く咲き誇る花。そのひとつひとつを確かめるように一瞥を向ければ、蓮渡りの感覚に慣れる内にも考える余裕が生まれたのだろう。その光景そのものに、心の内が写し出されたような錯覚すら浮かぶようで、呉羽・伊織(翳・f03578)は僅かに目を眇める。
「......さて、と」
 ひと一人を置いても沈むことのない蓮の葉は、足音さえ水の流れが吸い込むせいだろうか。葉を渡る振動が伝わることで描かれる波紋から視線をあげれば零した声音ばかりが静寂に響くようで、伊織は囁く程度に留めて息を吐く。
「心ってモンと向き合うにゃ、確かに打ってつけの雰囲気だな」
 ──ま、決心がつかずにまごつくなんて事だけは避けるさ。と、笑った横顔を見るのは、後に続くように葉から葉へと渡る永廻・春和(春和景明・f22608)だ。
 夜闇に溶けていく景色を同じように経て、心が沈み行くような、洗われるような。そんな表裏と陰陽が隣合わせの世界を覗くように春和はまたひとつ、葉を渡る。
 目の前を進む彼が斯様に神妙になる理由が、少し解ってきた様な。そんな気がしたと言えば、彼はどんな顔をするだろうか。
「悠長に立ち止まり眺め続けたり考え込んだりという訳にも参りませんが──其処は大丈夫、と信じさせてくださいね」
「ああ! ......ところでさ、春!」
「どうかしましたか?」
「ほら、今は二人きりなんだし、照れ隠したりせずに心置きなく愛情表現とかしてくれても......待って、聞いてー!」
 全く何も心当たりがない。そんな顔だった。
 素知らぬ顔でひとつ抜かし飛び越えて道を先んじた春和は、肩越しに伊織を振り返って薄く微笑む。「あまりふらふら軽い調子でいると、足を掬われても知りませんよ」なんて、言われてしまえば伊織は小さく肩を竦めるしかなかったけれど。その顔にも同じように笑みが浮かんでいるのを、空に浮かぶ月が確かに見ていたことだろう。
 だから、ふたりはきっと何にも恐れることなくこの試練の池を渡っていける。
 不安の種を蒔こうと吹いたそよ風が運ぶ、いたずらな囁きも。その心の内に澱んだ恐れを映す、まやかしの水鏡も。何も、恐れることはない。
「大丈夫、踏み出そう──呑まれも呑ませもしない」
 不安と不吉を纏う声が聞こえていないわけではない。底知れぬ泥や闇、澱んだその色を知らない訳でもない。それでも。
 まるで己の奥底に潜むモノと同じ様でも、其も抱えて行くと。
 時に迷い覚束無くなりかけても、それでも泥臭く足掻いてでも進むと伊織は他でもない自分の心に決めたのだ。それ故に。
 こんな場所で立ち止まることだけは、しないのだと。
 伊織の強いまなざしが春和の背を追いかけるように見つめるから。そして春和自身もまた、泥濘の上でこそ強く実を結ぶもの、輝くものもあると──分かっているから。
「......私は揺るぎません」
 貴方様が何を抱えていようと、奥底より何が覗こうと。
 信じているのだと、試練の池をふたりは往く。なればこそ。
「──今は信愛を以て、進みましょうか」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳳来・澪
【花蝶】
静謐な場所、やね
泥濘すらも、不思議と悪くは見えへんような
(天地を見渡し、それから隣の姿へ淀みない言葉と笑顔を向け)
うん、それじゃ一思いにいこっか!
ふふ、姐さんと一緒ならいつだって怖いものなしやし大丈夫!
(どれだけ薄暗い場所だって、どんなに綺麗な華の中だって、姐さんを見失うなんて事はありえへんもん――その眩い姿はいつだって憧れで、導のようで)

外野が何を言おうと、不安なんて欠片も浮かばんよ
胡乱な者が紡ぐ心無い言葉より、親愛懐く相手の心強い言葉を信じて進めば良いと解ってるから

軽やかに舞い遊ぶような姿に合わせ、一緒に着実に前へ
例えこの先で何が待とうと――心苦しい道であるのだとしても、乗り越えに


花川・小町
【花蝶】
ええ
貴女と眺めるなら何だって愉しく思えるわ
(暗夜でも一際輝いてみえる笑顔へと微笑返し)
でも休息は後、ね
あら、そんな風に言われたら、私もお応えするしかないわ
(綺麗なものばかりに囲まれた世界も良いけれど、例え泥中であっても凛と佇む彼の花の様に、二人揃って在れるよう――その眼差しに背かぬよう、その笑顔が曇らぬよう――珍しく包み隠さずやる気をみせて)

上面を写す鏡と心内を写す水鏡の対面だなんて面白いこと――
でも御免遊ばせ
今は愛らしいあの子に心を向ける時
余計なものに目を向ける暇も惜しい

水鏡に写る私の何と楽しそうな事
道と心を照らし出してくれるような、直向きな姿と共に先へ
滅びという行き止まりを、変えに



「静謐な場所、やね。泥濘すらも、不思議と悪くは見えへんような」
「ええ、貴女と眺めるなら何だって愉しく思えるわ」
 空から降るようなかぼそい月明かりと、月を映した水面。その天地はどちらも青白く染まるようで、それでいて巨大な池はどこまでも暗く深く底が見えない。水面に咲き誇る蓮華の花ばかりが妙に美しくて、蓮の葉の先までも見通すように視線を辺りに走らせた鳳来・澪(鳳蝶・f10175)は、隣に肩を並べていた花川・小町(花遊・f03026)に淀みない言葉と笑顔を向けた。
「......でも休息は後、ね」
「うん、それじゃ一思いにいこっか!」
 暗夜であっても一際輝いて見える笑顔は花のようで、静かに微笑を返した小町はぱちりと小気味よい音を立てて扇子を閉じると、これから進む先を見据える。
 夜闇に口を開いたような、暗く深い池。底なし沼といった方が正しいほどの泥濘も、中央で橋のように連なっている蓮の葉を渡っていけば、池の向こう側まで渡ることができるだろう。それは進むにつれて暗くなっていくような、吹き込む生温い風までもが不安を誘う薄暗い場所であったけれど。
「ふふ、姐さんと一緒ならいつだって怖いものなしやし大丈夫!」
 どんな場所であっても、見失うなんてありえない。そう信じるのはその眩い姿がいつだって澪にとっては憧れで、導のような存在だからだ。隠すことのない信頼を寄せた澪に、小町もまた珍しいほど包み隠さずやる気を見せる。
「あら、そんな風に言われたら、私もお応えするしかないわ」
 綺麗なものばかりに囲まれた世界も良いけれど、世界はそればかりではないと知っているから。例え泥中であっても凛と佇む彼の花の様に、二人揃って在れるように。
 ──その眼差しに背かぬよう、そしてその笑顔が曇らぬように。

 そうして渡り出した、蓮の葉の上。
 ひと一人が乗れるほど大きな蓮の葉は両の足を置いても沈むことはなく、ただ葉から葉へと渡る度に伝わる振動から描かれる波紋が静かに水面を波立たせるばかり。何度か繰り返せば水上特有の浮遊感にも慣れて、やがて脇を通り抜けていく風の音が変わっていくことに気付いた。
 くすくす、くすくすと。幼子の笑い声にも似たそよ風が耳を掠めて、射干玉の髪を撫でていく。それはいたずらな囁きのように、戯れに不安を誘うものだ。
 ──それは、ほんとうに?
 先を往くその背を、見失う日が来るかもしれない。眩い姿に目をくらませてしまうかもしれない。なんて、小さな疑念と不安の種を蒔くような囁きが響く──けれど、澪には耳を傾ける余地もなかった。
「外野が何を言おうと、不安なんて欠片も浮かばんよ」
 胡乱な者が紡ぐ心無い言葉より、親愛懐く相手の心強い言葉を信じて進めば良いと、知っているから。力強いまなざしは変わらず前を見据えて、澪h小町の姿を追いかける。それはきっと、その先に立つ小町も同様に。
「上面を写す鏡と心内を写す水鏡の対面だなんて面白いこと」
 でも、御免遊ばせ。唇の端を釣り上げて、艶やかな笑みを乗せて。
 不躾な輩には目もくれず、小町は澪の心に寄り添うようにゆっくりと蓮の葉を進む。道と心を照らし出してくれるような、直向きな姿と共に。軽やかに舞い遊ぶように、そして風に踊る花と蝶のように姿を合わせ、けれど着実に前へ。
 例えこの先で何が待とうと──心苦しい道であるのだとしても、一緒に乗り越えるために。
「先へ進みましょう。──滅びという行き止まりを、変えに」
 そうして過ぎ去れば、吹く風もなく。
 楽しげに踊るふたりの姿を映した水鏡もまた、弧を描く波紋に消えいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『絆の試練』アナスタシア』

POW   :    疑心の罪
【滔々と語られる愛の説法】を披露した指定の全対象に【己に向けられている愛情に対する、疑いの】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
SPD   :    煌々たる失翼
【慈愛と歓喜の感情】を籠めた【飛ばした羽根の乱舞】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【持つ、大切な者との様々な関わりの記憶】のみを攻撃する。
WIZ   :    真偽不明の愛
自身が【愛する者同士の深く強い絆】を感じると、レベル×1体の【両者の、極めて精巧なニセモノ】が召喚される。両者の、極めて精巧なニセモノは愛する者同士の深く強い絆を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠御形・菘です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●interval
 青白い仄明かりを降り注いでいた月が、まるで闇に喰われるかのように欠けていく。
 夜の静寂は変わらずそこにあるというのに、荒々しくも削り取られたように景色が変わり続けているのだ。少しずつ、けれど確かに侵食するように広がっていく闇は夜と似て非なる暗澹としたもので、このままでは月光さえゆるやかに先細り、いずれはすべてが闇に覆われてしまうということが見て取れた。
「主よ。どうかわたしを憐れみください」
 そこは試練の池を越えた先にある、崩壊の中心。
 空はおろか足元まで崩れはじめ、不安定に様変わりしていく景色を覆うように青々しい竹が背を伸ばしている場所で、女は崩壊など気にも止めずただ一心に空を見上げていた。
 その細くしなやかな指先があたたかな心の裡を確かめるように胸元をなぞれば、やがて丁寧な仕草で指先は両の手に組まれていく。
「主よ──わたしの神よ。あなたをおいて、誰のところに行きましょう」
 わたしの祈りをここに。
 あなたの赦しをここに。
 蜘蛛の糸のように空から垂れる一筋の光を見上げて彼女──アナスタシアは微笑む。
 そうして、試練の池を越えてきた猟兵を振り返ったなら。
「わたしの道は、永遠にあなたと共にあります」
 ひどく人の好い笑みは、まるで親しい隣人に挨拶をするかの如く。
 音もなく片足を引いたアナスタシアは右手を体に添えて、深々とお辞儀をしてみせる。

 さあ、試練をはじめましょう。その愛を示しましょう。
 ──例え世界が、終わりを迎えたとしても。
琴平・琴子
貴女に説法なんてされなくても結構
私が向けられた愛情は揺るがない
――そうでなければ
このお守りは、このブザーは何の為に渡されたと言うの
何でも褒めてくれたお母さんとお父さんは何だと言うの
――時に叱ってでも琴の稽古を止めてくれたお祖母様だって
無茶をする私の事を愛を持って止めてくれたと思ってるから
それに疑いを持ったとしても、私は今の私を作ってくれた家族に感謝しているから
貴女の説法如きに揺らがなくてよ

そのべらべらと喋る口に狙いを定め
足元から羽、羽から口元へ茨を伸ばす
食い込む茨の棘は痛いですか?

愛は時に痛くて
時に苦しいけれど
揺らがなくて真があるんですよ

だって真ん中に心があるじゃないですか



●月食
 すらりと天高くまで伸びた竹林だけを見れば風情のある景観といえるのに、夏の影よりも深い闇がひたひたと近付いてくるような、そんなどこか得体の知れない薄気味悪さが産毛を逆立てていた。
 静かな夜にゆだねる安らぎなどは既になく、それこそが試練のはじまりだというのならすべてに降りかかることだろう。それはきっと、眼前でやわらかに微笑む彼女──アナスタシアの身にさえ等しく、すべてのものに。
「貴女に説法なんてされなくても結構」
 恋とは何たるか。愛とは何たるか。何を以て、愛と足り得るのか。
 そんなものは聞くまでもないと、アナスタシアが口を開くより早くに一蹴したのは琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)だ。月光を受けて煌々と輝く緑の瞳は冷ややかにアナスタシアを睥睨し、つんと突き上げた顎で仁王立つ。
「私が向けられた愛情は揺るがない」
 ──そうでなければ、
 このお守りは、このブザーは何の為に渡されたと言うのか。
 そう言って握り締めた、手のひらの内。琴子の幼い掌中にも収まる程度の防犯ブザーは小さく、けれどその卵型が何よりも心強く。鮮やかな黄色を見ればいつだって背中を押してくれるのだから。
「あなたにとって、愛とは目に見えるものなのですね」
「いいえ、それだけじゃないわ」
 目に見えるもの、傍にあるもの。琴子の心を支えているのは、それだけではない。
 アナスタシアから決して目を逸らすことなく、琴子はかぶりを振った。
「いまは目に見えなくても、傍にいなくても。失くなったりなんて、しないのよ」
 何でも褒めてくれた母と父の笑顔。時には叱ってでも琴の稽古を止めてくれた祖母の、歳の重ねて皺が刻まれた目元。大切に慈しんでくれた家族たちの姿を脳裏に思い浮かべて、琴子は言葉を紡いでいく。
 無茶をする自身を止めてくれたのは、寄り添ってくれたのは、紛れもなく愛だったのだと信じているのだ。故にそこに疑念を抱いたとしても、感謝の気持ちは間違いじゃない。だからこそ。

「──貴女の説法如きに揺らがなくてよ」
 愛するものが傍になければ信じられないのなら、それが貴女と私の違いなのだと。
 薄らと笑みさえ浮かべた緑の瞳には、足元から太く伸ばされた茨の蔓が映っていた。そうしてアナスタシアの足元から不意に伸び上がれば瞬く間、足元から羽、羽から口元まで茨を伸ばして彼女の口を閉ざす。
「愛は時に痛くて、時に苦しいけれど。揺らがなくて真があるんですよ」
 ──だって、真ん中に心があるじゃないですか。
 心を受けとめると書いて愛と読む、なんて。いつか習った漢字の成り立ちを指先で描いた琴子に呼応するように、靱やかな茨は闇夜に踊る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
暗がりに舞う羽根は
降雪のようにも
流星のようにも
花嵐のようにも見えて

美しいですねぇ

抗うことなく
ただそっと手を差し伸べる

ゆらり
積もりし羽根の絨毯に倒れ込むかの如く
後ろへ傾ぎ

――縫、

頽れる間際
口中で詠い呼ぶ、片割れの名

とさり
真白き羽根の海に沈むのは
己ではなく身代わり人形の姿

式神たる彼女の周囲から
真白き羽根は朱に染まり
やがて
白々しき煌きを静穏の無に還す

縫への労いは後程に、と
今は一瞬の静寂の機を逃さず
地を駆けて抜刀
淡く笑んで
試練の天使を一閃
返す刃で
舞い散る羽根ごと薙ぎ斬る

脳裏に浮かぶ人々との絆があるかどうかは分からないけれど
私にとっては大切な日々の記憶だから
容易く触れさせる訳にも穢させる訳にもいかないの



 刻々と深まるような闇に白い羽根が舞う。
 ふわりとまるで重さを感じさせない綿毛が、ひとつふたつと層を重ねて。風も吹かない場所で、地に落ちるまでひらひらと。それは降雪のようにも、流星のようにも、ともすれば花嵐のようにさえ見えて都槻・綾(糸遊・f01786)は視線を空へと上げる。
「美しいですねぇ」
 迫る闇も、蝕む月も。差し迫る崩壊の気配にも、今は抗うことなく。
 空を舞う羽根へ、ただそっと手を差し伸べたなら。身の内に受ける一撃からゆらりと、降り積もった羽根の絨毯に倒れ込むかの如く後ろに傾いて。「──縫、」頽れる間際、綾が口中で詠い呼ぶのは片割れの名だった。
 そうして、ただひと言。傾く重力のままに倒れ込んだかのように見えた。
 けれど、とさりと小さな音を立てて真白く闇を染め上げるような羽根の海に沈むのは綾ではなかった。
 艶やかな紅唐着物。綺麗に切り揃えられた黒檀の髪を揺らして、再び羽が空を舞う。そこにいたのは綾の姿ではなく──紛うことなく、彼の式神である身代わり人形の姿だ。

「ごめんなさいね」
 どれほど美しく見えても、それに触れることはないだろう。
 黒檀の算盤と宵に閃めかす退魔の刀。美しい牡丹の花に、両曜の勾玉や髪飾り。忘れじの野紺菊に根付けと菓子、沢山の手紙を添えて手招く猫が笑って誘う微睡みの福々とした日々。
 目を閉じれば、すぐにも見えるものが其所にある。それが脳裏に浮かぶ人々との絆があるかどうかは綾にも分からないけれど、それでも大切な日々の記憶には変わりないのだから。
「......容易く触れさせる訳にも、穢させる訳にもいかないの」
 だからこそ、大切に胸の裡に閉じ込めて。
 式神たる彼女を中心として真白い羽根が朱に染っていくのを背に、アナスタシアのやわらかな笑みに綾は惑うことなく微笑を返す。朱に染まった羽根はそのまま、やがて白々しき煌きを静穏の無に還すことだろう。
 眠り姫のように横たわる『縫』への労いは後程に、今は一瞬の静寂の機を逃しはすまいと駆け出した綾は腰に据えた刀の柄に手を掛ける。
 静けさの中に小さく響いた鯉口を切る音は妙に耳に響いて、そしてアナスタシアが大きくその目を見開いたそのとき。眼前まで距離を詰めた綾の淡い微笑みを見た瞬間には、月よりも眩い一閃が煌めいて──返す刃は舞い散る羽根さえも一纏めに薙ぎ斬るのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
進んだ先に綺麗なおねーさんと出会ったわ。
凄く素敵な笑顔。なんだか親近感が湧いたわ。
だってだってあたしも同じことを考えるもの。
…大事な大事な人といつまでも一緒になるなら。
それは世界よりも重くて世界よりも大切なこと。
うん。おねーさんにとってそれは一番なのよね?
でもね。おねーさん。ごめんなさい。
あたしは貴女を辛くさせることしちゃうわ。
同じ苦しい気持ちを二度も経験させちゃうわ。
ごめんなさい。

あたしはレーちゃんを疑わない。
だってレーちゃんのすることは確かだもの。
もしレーちゃんとの記憶を攻められても大丈夫。
だってれーちゃんいるからまた一から作れるもの。
だから連携で攻めるわ。


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
世界に影響を与えるほどの強い意志か。
想う力はこんなにも強力なものなのだな。
私にはまだよく理解できない感情の一つだ。
この試練を経れば私も理解できるのだろうか?
…私は…。
露の私への接し方が愛情なのか私にはわからない。
暑苦しいし邪魔なことが多いが悪い気はしない。
露との記憶が傷つけられても大した問題はないな。
受けた一瞬は苦痛かもしれないが再び作れるものだ。
露の偽物を作られても躊躇せずに魔術を行使する。
本人は怒るだろうが私が露を傷つけるはずはない。

露が消えてしまったら私も同じ気持ちになるだろうか。
君のように滅びの言葉を紡いで世界を壊そうとするだろうか。
…わからない。しかし…。



「世界に影響を与えるほどの強い意志、か」
 想う力とはこんなにも強力なものであるのかと目の当たりにした気がして、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は何度か目を瞬かせる。やはり、何度考えてもまだよく理解できない感情のひとつだ。そう思ったが故に、この試練を経れば理解できるのだろうかという興味が首をもたげる。けれど。
「......大事な大事な人と、いつまでも一緒になるなら。それは世界よりも重くて世界よりも大切なこと。うん。おねーさんにとってそれは一番なのよね?」
 ──でもね。おねーさん。ごめんなさい。
 隣立つ神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)は眉尻を下げて、眼前に立つ妖怪であり今はオブリビオンと化してしまっているアナスタシアへと言葉を向ける。
 試練の池を越えた先で待っていた彼女の笑顔はそれはしあわせそうで、素敵なものだった。露が親近感さえ感じてしまったのじゃ、自分であっても同じことを考えるからだろう。
 大切な人といつまでも、いつまでも一緒にいられるなら。これ以上の幸いはないと、露にもその気持ちは分かる。けれどだからこそ、露は言わずにはいられないのだ。
「あたしは貴女を辛くさせることしちゃうわ」
 同じ苦しい気持ちを二度も経験させちゃうわ。ごめんなさい。
 これが試練だと言うのなら、きっとアナスタシアにとっても試練であるのだと、そう言って露は痛む胸を抑えて空に舞い上がる白い羽根を『クレスケンスルーナ』で薙ぎ払う。
 それは天高くで青白く輝く月の色にも似て、三日月のように反る形がひどく特徴的な剣だ。この世にふたつとしてないようにも見えたそれを──しかし、気付けば向かい立つ影もまた、同じように構えている。
「露......私は、露の私への接し方が愛情なのか私にはわからない」
 そこに立っていたのは、シビラと露だった。
 髪の色に目の色、背丈からその体躯まで。それは一見して、まるで鏡のように酷似していると思えたかもしれない。しかし次の瞬間には、ただそれだけだとふたりはすぐに気付いた。何故なら極めて精巧でありながら、中身のない虚のようなそれは人形の如く表情もないからだ。
 硝子玉のような眼差しを見返して、シビラは言葉を続けながら目を細める。
「──けど、悪い気はしないんだ」
 暑苦しいし。邪魔だし。良いことなんてないはずなのに、不思議と悪くない。
 それ故に、シビラはしっかりと大地を踏み締めて魔力を練り上げる。湧き上がる魔力が髪を揺らす度に周囲の温度は下がり、寒さに戦慄いた唇から白い息が零れても一度はじめた詠唱を止めることはない。
 そうして透き通った水が氷の蔦と形を成して大地を這い進み、驚くほどの速さで偽物の露へと襲いかかったなら。氷の蔦は抵抗も虚しくその身を絡め取って締め砕く。
「記憶が傷付けられても大した問題はないな。受けた一瞬は苦痛かもしれないが再び作れるものだ」
「ええ、そうね。だってレーちゃんのすることは確かだもの」
 崩れていく偽物の自分を見ても、露がシビラを疑うことはなかった。
 鏡のように襲い掛かる偽物の蔦を切り捨て、詠唱するシビラを守るように前へと立った露は肩越しに振り返ってやわらかに微笑む。
「消えてしまっても、大丈夫なのよ。だってれーちゃんいるからまた一から作れるもの!」
 羽根が触れることを、消えてしまう記憶を、恐れたりなんてしないと掠める白い羽根も恐れずに尚も手を伸ばす偽物の蔦と切り結んだなら。
 その間にも詠唱を続けていたシビラの蔦は偽物よりも更に冷たく、鋭く、硬度を増した氷で偽物のシビラ自身を打ち穿いて──、
「あなたがたの愛は、そこにあるのですね」
 背中を預けて、隣合って。傍にあるが故の強さが、アナスタシアには眩しく見えた。けれど、その眩しさを求めるが故に──やはり、アナスタシアは止まるわけにはいけないのだと微笑むから。
「......分からない、」
 露が消えてしまったら私も同じ気持ちになるだろうか。
 シビラは考える。君のように滅びの言葉を紡いで世界を壊そうとするだろうか。君の姿がいつか私と重なる日が来るのだろうか。シビラは考え続ける。しかし、それでも。
「ああ、分からない」
 変わらず自身を庇うように前に立つ露とアナスタシアの境界に線を引くように氷の蔦は伸びて、シビアは小さく息を吐いた。
 分かることは、ただひとつ。
 いずれにしても、崩壊した世界の静寂ばかりは愛せそうもない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リシェリア・エスフィリア
【アンク(f00928)と行動】
世界が滅びれば、恋も愛も滅びる
その刹那でも思い続ける事に意味がある?

それが人間らしさなのかもしれない

でも、破滅が確約する魔剣と契約しても為したい事があったかつての契約者達と通じる何かがある

アンクには、何か、強い感情がある?
理屈で説明できない何かこそ人間らしさ、なのかな


でも私は彼女を止める
愛を理解していない私に試練がどう効力を為すかは不明でも

【魔法使いの記憶】
強い信念で復讐の刃を取った女性。刃に残った業で、相手をする
触れれば切り裂き、凍り付く氷の花弁

全部が終わった後、アンクに聞いてみようか
遅かった、って話。感情を優先させなかったことを、後悔している? と


アンク・オーウェン
【リシェ(f00197)と行動】
想いに殉じるか
その無垢な信仰は貴ぶべきかもしれんが、認めるわけにもいくまい
踏みにじらせていただく

……さて、強い感情と言われても、な
ただ、確かに、道徳や理性や、世界そのものを捨ててでも抱えるべきだと、感情で動く者もいるだろう
私なんかは、遅かったわけだが

おしゃべりはまた今度
いざ、止めようか
愛する者なぞついぞ持たなかった私だから、感情より優先すべきモノの為なら何者でも斬り捨ててみせよう

wiz判定
剣と槍で二刀流
前に出て、仮に偽物が現れたとしても躊躇わず斬り、自分やリシェのUCの一撃を叩き込める隙を作る

やれやれ、貪欲に知りたがる
いずれ君が愛を知ったなら、その時教えよう



 世界が滅びたなら恋も愛も滅びてしまうというのに。その刹那でも思い続けることに、どれほどの意味があるというのだろうか。
 夏の影よりも濃い闇夜は刻々と世界の終わりに近付くから、暗い色に蝕まれていく月はどんな斜陽よりも薄弱のものと思えて仕方ない。けれど、それでも。それこそが人間らしさなのかもしれないとリシェリア・エスフィリア(蒼水銀の魔剣・f01197)は静かな眼差しで空を見る。
「想いに殉じる、か......。その無垢な信仰は貴ぶべきかもしれんが、認めるわけにもいくまい」
 何故ならその無垢な信仰ゆえに、世界は崩壊を迫られているのだから。
 アンク・オーウェン(unknown・f00928)は指先で眼鏡を押し上げて、許容する理由はそこにはないのだと告げる。
「でも、破滅が確約する魔剣と契約しても為したい事があったかつての契約者達と通じる何かがある。アンクには、何か、強い感情がある?」
「......さて、強い感情と言われても、な」
 人間らしさを説くことは、愛を説くよりむずかしいだろう。
 道徳や理性、世界そのものを捨ててでも抱えるべきだと、感情で動く者もいるのだから、それを否定することはやはりしなかった。それは、自身にも覚えがある感情だからかもしれない。──自分が抱えるには、少しばかり遅かったわけだけれど。なんて、アンクはひとりごちて慣れた仕草で『猩々緋の片刃剣』と『神格武装・紅鋼』に手をかける。
「おしゃべりはまた今度。いざ、止めようか」
「うん、彼女を止めよう」
 理屈で説明できない何かこそ、人間らしさと足らしめるのか。それはリシェリアにとって未だ分からない難問に違いない。それでも、目の前で崩れていく世界を見逃すことだけは出来ないから。
 視線を交わして瞬く間、どちらともなく大地を蹴れば氷の花びらが空を舞った。

「愛する者なぞついぞ持たなかった私だから、感情より優先すべきモノの為なら何者でも斬り捨ててみせよう」
 例えそれが、自分たちによく似た何かであっても。
 闇から産まれ出ずる影がひとの形を成したとして、アンクが躊躇することはなかった。一見してよく似ているように思えたそれも、よくよくと見れば紛い物であることは分かるのだから。自分はおろか、リシェリアの形を取ったとしてもアンクが武器を振るう手を緩めることはない。
「──言ったでしょう、あなたを止めるって」
 同じ形。同じ顔に、同じ色。持ちうる武器さえ同様であっても、見間違えることなく氷の花びらが偽者たちの動きを阻むように舞い散っていく。「邪魔をしないで、」そう言って触れた花びらが偽物の肌を切り裂けば、凍り付いた体に二の足を踏んだ偽物の隙を逃さずアンクの放つ鋭い刃がもうひと断ち。
 愛とは何か。人間らしさとは何か。いつか知る日が来るだろう。こうして知りたがる心を忘れずにいれば、いつか必ず。だからこそリシェリアは、今日も問いかけるのだ。
「ねえ、アンク。全部終わったら聞かせてくれる?」
 遅かった、って話。
 感情を優先させなかったことを後悔しているか、それをどうしても聞きたかった。
 そう言って舞い上がる氷の花びらにつられて乱れた銀の髪を押さえて、リシェリアが視線を向ければ。倒れ伏した偽物たちが影と消えていくのを背に、アンクは小さく苦笑するのだった。
「......やれやれ、貪欲に知りたがる」
 ──いずれ君が愛を知ったなら、その時教えよう。
 世界は終わらせない。だからきっと、遠くて近い先の未来で。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈍・しとり
引き離されることは
引き裂かれるも同じ
怨むと良い、同胞よ
貴方から御魂を奪おうとするわたし達を

けれどこの御代こそ私の全て
赦しは要らないわ
お互い様だもの
わたしも私を示しましょう


立ちはだかるのは『わたし』と「私」
水鏡以来ね
此方と同じ、『刀』を手にした「一人の女」。

はて――真偽不明の愛だったか知ら
莫迦なこと
真偽明かすまでもなし
この身遍く一つになった、一人きりのわたし達
これ程の絆が他にあろうか
そうでしょう、アナスタシア

疑うことなく斬れようよ、初めてでもあるまいに。

ニセモノとは云え懐かしや
その身今また鞘に為しなむ

次は其方の結びをひらきましょう、アナスタシアよ
時は止まらない
進むしかないのよ、遺されたものは



 月を蝕むように深まる闇が、ひたひたと近付いてくる。それは美しいというにはあまりに暗澹とした先の見えないもので、いずれ来る終わりを思わせる退廃の気配を醸していた。それでも、か細い月光を見上げる妖怪はそこに救いを見るのだろうか。
 鈍・しとり(とをり鬼・f28273)が雨垂れのように透けた青色の瞳を向ければ、妖怪──否、オブリビオンと化してしまったアナスタシアの黄金の双眸と交わったような気がした。
「引き離されることは引き裂かれるも同じ。怨むと良い、同胞よ」
 交わる視線を割くように、暗闇から影が産まれ出ずる。
 はじめは流動。まるで水のように暗闇から流れて、沸騰したかのようにぼこぼこと影が沸き立っていく。
「──貴方から御魂を奪おうとするわたし達を」
 そうして形を生した影は、寸分の狂いもなくひとの形をしていた。
 しかしそれだけに留まることはなく、しとりの視線の先で生まれた影の泥人形は月明かりを受けて徐々に色付いていく。肌は朝霧のように白く、髪は夜より深い艶やかな黒檀の色。やがて瞳にも光は帯びて──、
「けれどこの御代こそ私の全て。赦しは要らないわ、お互い様だもの」
 わたしも私を示しましょう。
 そう告げたしとりの目の前には、よく似た女が立っていた。

 立ちはだかるのは己自身、というには過言だろうか。
 それでもよく似た相貌はまるで鏡を見ているようで、しとりは僅かに唇を歪めて笑む。「水鏡以来ね」と言えば、ほら。手に持つ『千代砌』の形までそっくりだ。
「はて──真偽不明の愛だったかしら」
 目には見えぬものとを見ようとするのは、彼女の願望が成すところか。
 小さく首を傾げて、しとりはゆるやかにかぶりを振る。
「莫迦なこと。真偽明かすまでもなし......この身遍く一つになった、一人きりのわたし達」
 崩れていく大地を恐れることなく蹴りつけて、しとりは走り出す。
 視線は逸らすことなく偽物の自身を貫いていたけれど、その声は確かにアナスタシアへと向けられていた。そうして、闇夜に赫き尾を引くような鋭い一閃。
「これ程の絆が他にあろうか。そうでしょう、アナスタシア」
 ──疑うことなく斬れようよ、初めてでもあるまいに。
 切り結んで近付いた顔は、よく見えていた。人形の瞳を覗き込むようにしとりは刀を押して、偽物を退ける。
 とても、とても懐かしい。その懐古さえ刃に乗せて、しとりは止まらずに妖刀を振り上げた。
「ニセモノとは云え懐かしや。その身今また鞘に為しなむ」
 鋭く胸元を穿かれ、どしゃりと音を立てて地に伏した人形にもはや視線をくれることなく。止まらない猛攻に警戒の色を見せるアナスタシアの方へ一歩を踏み出して、しとりは刀身に付着した泥のような影を振り払う。

「次は其方の結びをひらきましょう、アナスタシアよ」
 これが試練だというなら、この場にいるものすべて等しく試されているのだから。
 夏の影よりも色濃く、刻々と差し迫る世界の崩壊を傍らにおいても真っ直ぐにアナスタシアを見据えて、しとりは再び刀を構える。さあ、試練を続けましょう。
「時は止まらない。──進むしかないのよ、遺されたものは」
 例えその先に、何が待っていたとしても。

大成功 🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
千隼(f23049)君と

ふむ、他人を試すとは性根が悪いな
君自身まだ試練に打ち勝ってないだろう
目を逸らしているのかい、君も君の神も
幸福の甘さを知ればこそ現実は一等苦かろうが

千隼君と息合わせ
攻撃はドロップテーブル
絡む絞縄でマヒさせ動きを止めたなら
鎧砕く怪力を載せた、標識の一撃を叩き込む
悪いね、まだ世界の終りには早い

敵攻撃は残像でいなし
反撃の機会へと転じよう

釈迦に説法って知ってるかい?
心変わりは人の世の常という
だが人でなしなら失うも忘れられるも慣れたもの
この心は変わらない

もし千隼君が記憶を失くしても
また思い出を重ねて行けばいいさ
誰、と問う声には微笑んで
素敵なお嬢さん、心変わりの相手は、わたしでも?


宵雛花・千隼
梟示(f24788)と

それがアナタたちの幸せ?
解らないわ、ワタシが知ったものとは違うから
その裡を満たすのは本当に愛かしら
本当に愛した方かしら
一つになってしまえば触れて確かめる術もないのに

梟示の攻撃に合わせ蝶を舞わせて
彼の隙を埋めながら、叩き込まれる一撃と共に苦無を蝶の群れに乗せて

永遠に共にと願う気持ちが愛ならば
ワタシもそれを知ったけれど
もっと知りたいと願うから
アナタの幸せを夢にしましょう

羽は舞い躱せど揺らぐ記憶に彼の背が霞む
…だめ、嫌よ
どれほど大切か知りもしないで奪わないで
抜け落ちるような感覚に息が止まりそう

誰…いいえ忘れない

…心変わりしようがないわ
忘れられても良いなんて
ばかなことは言わないで



「ふむ、他人を試すとは」
 性根が悪いな、そう明け透けたひと言を溜め息と共に吐き出して、高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)は目元にかかった前髪を鬱陶しげに指先で払う。
 これが試練だというのなら、それはこの場にいるものすべてに等しく降りかかる。つまりそれは、彼女自身がまだ打ち勝っていないという事実に他ならない。
「目を逸らしているのかい、君も君の神も」
 幸福の甘さを知ればこそ現実は一等苦かろうが。しかし現実は煙草の煙のようには巻けやしないだろう。世界の崩壊、その終わりの時はいまも確実に差し迫っているのだから。
 厳しい目線で蝕まれていく空を見上げた梟示の隣で、宵雛花・千隼(エニグマ・f23049)もまた涙に濡れた橙の瞳を瞬いて小さく首を傾ぐ。
「それがアナタたちの幸せ? ......解らないわ、ワタシが知ったものとは違うから」
 恋に満たされ、愛に満たされ、その先で骸の魂を受け入れた妖怪に問う。
 愛にも、幸せにも、さまざまな形はあるだろう。けれど。その裡を満たすのは本当に愛なのだろうか。本当に愛したものなのだろうか。
 ひとの記憶ほど不確かなものはないと、千隼はアナスタシアの瞳の奥までも視るように見据える。
「一つになってしまえば触れて確かめる術もないのに」
 目に見えないものを見ようとして、正体を失ってしまえば元も子もない。愛も、魂も──このままでは世界の崩壊さえ受け入れてしまいそうなアナスタシアに僅かに目を伏せて、次いで千隼は苦無を慣れた仕草で手に取る。
 試練の行方も幸せの在処も、問答で解決できるものではないと分かっているから。どちらともなくひとつ頷いて、彼らは走り出すのだった。

 梟示と千隼、ふたりの戦闘の肝は連携にある。それは魂を受け入れたとして、この場にひとりであるアナスタシアには到底できることではなかった。
 梟示が宙から頸部へ垂れる絞縄を放ち、アナスタシアの動きを抑制する内に千隼が蝶を舞わせて隙間を埋めて。身動きが取れなくなった瞬間にも、蝶の群れに乗った苦無と標識の角が鋭く、そして何より鎧さえ砕いてしまいそうな程に重い一撃となってアナスタシアへと襲いかかる。──その間に、ふたりの視線が交わることはない。
「......ああ、あなたがたは信じていらっしゃるのですね」
 そこにある熱が、ひどく羨ましいと。痛みに呻くも束の間、ふたりの間に目に見えない何かを確かに見たような気がして、アナスタシアは眩そうに目を細める。それはきっと、彼女が求める愛の形と少しだけ似ていた。
「永遠に共にと願う気持ちが愛ならば、ワタシもそれを知ったけれど......もっと知りたいと願うから、アナタの幸せを夢にしましょう」
「心変わりは人の世の常という。だが人でなしなら失うも忘れられるも慣れたもの」
 ──この心は変わらない。
 アナスタシアの呼吸に合わせて空を舞う白い羽根が、この記憶を奪おうとも。それはきっと梟示だけではなく千隼にも言えることだ。
 どれほど躱しても少しずつ揺らいでいく記憶に、その背が霞んでも。唇を噛み締めて、千隼は零れる涙を気に求めずに蝶と舞う。嫌だと叫ぶこの心こそ、その記憶が大切であるという証左だった。
「誰......いいえ、忘れない」
 背中に問い掛けかけた言葉に息を止めて、すぐにかぶりを振る。
 誰、なんて。どれほど大切か知りもしないで。
 白い羽根に奪い去られ抜け落ちるような感覚を抱き込んで、今にも止まりそうな息を深く吸い込んで、千隼は力強い眼差しを梟示に向ける。そこには変わらず、薄く笑みを乗せたあなたがいるのだから。
「──素敵なお嬢さん。心変わりの相手は、わたしでも?」
「......心変わりしようがないわ。忘れられても良いなんて、ばかなことは言わないで」
 もし記憶を失くしても、また思い出を重ねて行けばいい。
 そうと分かっていても、大切なものが零れ落ちていくことを千隼には耐えられそうにないから。笑う背中を小突いて、綿毛のように闇夜に舞い踊る白い羽根を苦無の刃で斬り捨てるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
エドガー(f21503)と

彼女のいってることはよくわからないけど
とめなきゃいけないのはわかる

わたしはね
おぼえておくことには自信があるんだよ
ぜんぶわすれないでおぼえておくんだ

いつか『おとうさん』に伝えたいし

それにね、エドガーにだって
いつでもおはなしするって言ったもの
わすれるわけにはいかないよ

わすれたくない
今この瞬間だって、だいじな思い出になるんだもの

マントで払うエドガーに
かっこういいっ

ガジェットショータイム
背を押すように風が吹く
プロペラが回り羽根を蹴散らす

浮かぶたくさんの小さな飛行機が
気を引いてくれるはず
よろしくね

飛行機に当たれば小さな爆発
斧を携え追って
チャンスには目配せを

まだまだ世界はつづくよ


エドガー・ブライトマン
オズ君(f01136)と共にゆこう
彼女の思い通りにはさせないよ
この世界は、終わらせやしないさ!

私は一身上の都合でちょっと忘れっぽくて
持っている記憶はあまり多くはないんだけれど
それでも、あの羽は厄介だな。なるべく当たりたくないね
きっとオズ君だってそうだろう

オズ君は、……大切な思い出をたくさんもっているんだろうな
キミが覚えていてくれるなら助かるよ

乱舞する羽は、マントを脱ぎ捨てるのに合わせて払い落す
オズ君ともタイミングを合わせれば、きっと隙が生まれるだろう
キミの紙飛行機だって、とてもステキさ!
それは暗闇の中であっても、希望を運んでいるかのようで

好機は逃さず“Jの勇躍”
斧と剣で、未来は切り拓かれるのさ



 夏の影よりも色濃く深まっていく夜に、少しずつ月が蝕まれていく。欠けていく月明かりは気が付けば随分と細くなってしまって、木の皮の如くぼろぼろと剥がれていく世界は確かに終わりへと近付いているらしい。
 妖怪──否、オブリビオンと化してしまったアナスタシアの胸の内など知りようもないけれど、世界がこのまま崩壊へ進んでいくのをただ見ている訳にはいかない。「とめなきゃいけないのは、わかるんだ」そう言ってオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は一度だけ目を伏して、月明かりに近付いた。
「わたしはね、おぼえておくことには自信があるんだよ」
 目を開けば、綿毛のように降り積もる白い羽根がそこにある。煌々と輝く羽根は美しくとも、触れたいとは思えなかった。それがどういうものか分かっているからだ。
「ぜんぶわすれないで、おぼえておくんだ」
 いつか『お父さん』に伝えたいし。
 音にはせず、唇だけが言葉を紡ぐ。忘れるわけには、いかないのだ。
 きっとこの羽根を避けたいのは、彼も同じだろう。ふわりと舞い上がる羽根を躱すように身動いだオズは、そのままきらきらと輝く満月にも似た金糸に吸い寄せられるように目を向ける。エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)だ。
「──彼女の思い通りにはさせないよ。この世界は、終わらせやしないさ!」
 ちょっと忘れっぽいところはあるし、持っている記憶もあまり多くはないけれど。どんな一身上の都合があっても、だからと言って羽根の触れることを良しとはしないだろう。オズだって、エドガーだって。大切な宝物は、大事にしまっておくものだ。
 そうしてキトンブルーの瞳に視線を返せばやわらかに微笑んで、エドガーはたなびくマントに手を掛ける。
「キミが覚えていてくれるなら助かるよ」
「わすれないよ! 今この瞬間だって、だいじな思い出になるんだもの」
 いつかお話すると言ったのだから、忘れたくない。
 そんな気持ちを込めてオズが『Hermes』を強く握り締めれば、その視線の先で。白に黄金、裏地には高貴の色を鮮やかに染め上げたマントをエドガーが翻して──乱れ空に舞う羽根を払い落とし、それを合図としてふたりは大地を蹴って駆け出していく。

「かっこういいっ」
「キミの紙飛行機だって、とてもステキさ!」
 白い羽根は置き去りに、はじまるガジェットショータイム。マントを脱ぎ捨てたエドガーに爛々と輝く目を向けながらオズも続けば、その背を押すように風が吹く。小さな飛行機たちだ。
 ペーパークラフトのような可愛らしい見た目とは裏腹に、しっかりと作られた飛行機たちのプロペラは止まることなく回っている。そこから生まれた風は羽根までも蹴散らして、ふたりのために進む道を作るだろう。
 それは暗闇の中であっても、希望を運んでいるかのようで。エドガーは笑みを深めて、追い風を受けて更に加速していく。オズも間もなく追いかけて、ふたりは羽根によって遮られていたアナスタシアのすぐ傍まで迫っていた。
「旅路は明るい方がいい。そうだろう?」
 見えた終わりに進むより。知れた崩壊を歩むより。
 明るい希望が照らしてくれる、そんな道を往こうと優しく微笑んで。
「──斧と剣で、未来は切り拓かれるのさ」
「まだまだ世界はつづくよ、アナスタシア」
 きっとその先に待つのは、世界の終わりなどではないのだと。
 羽根と衝突した飛行機が爆発して生まれた一瞬の隙間、その好機を逃さずにオズとエドガーは視線を交わして、逆光を受けて輝く剣と斧を振り下ろすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杠葉・花凛
美しき世界に、佇む方もまた美しく
白き装いが青白い明かりに照らされる姿は
どこか神々しくも感じますわ

貴女の神が何者かは分かりませんが
一種の神である私は
他の神を崇めは致しません
何者かに信仰される神よりも
私にこの身を宿す機会を下さった
人々のほうが私には尊いのです

私にも大切な方はおりました
数多の人の手に渡りましたが
私を一番初めに手にして下さった御方
彼の方が大切に扱って下さったから
今私は此の場に佇むことが出来るのです

物であった私の宿す記憶など僅かなもの
けれど…その欠片ひとつも
どなたかに触れさせるわけにはまいりません

扇と共に幽世蝶を世界に舞わせて
その視界を塞ぎましょう
時は、止まらぬからこそ儚く美しいのです



 美しき世界に、佇む方もまた美しい。そう思ってしまうのは悠然と構えてしまいすぎだろうか。それでも美しいと思う心に嘘なんてひとつもなくて、どんなときでも杠葉・花凛(華蝶・f14592)は有りの侭にまっすぐと前だけを見据えていた。舞い落ちる羽根と純白の装いが青白い明かりに照らされ、いっそ神々しささえ感じられるその姿さえも。
 けれど。その光景に感嘆こそすれども、彼女の心に寄り添うことはできない。
 花凜は桔梗にも似た紫色の目を眇めて、眼前に立つアナスタシアの心の奥までもを視るように暫し注視する。既にいくつかの戦いを経り、変わることのない笑みの裏には少しの疲れが見て取れた。しかし、それでも止まることのない彼女の心に在る神とは何者なのだろうか。
「......貴女の神が何者かは分かりませんが、一種の神である私は他の神を崇めは致しません」
 心の在処に貴賎なく。しかし何者かに信仰される神よりも、この身を宿す機会を与えた人々のほうが尊いと思うのも、またひとつの心であればこそ。花凜が道を譲ることはできないし、ましてや人々が生きる世界の崩壊をただ見ていることもできない。
 ぱちりと音を立てて華やぐ扇を開けば、どこからともなくふわりと蝶が羽ばたいて空を舞う白い羽根を遠ざける。花凜の瞳と同じく紫色の輝きを帯びた幽世蝶たちだ。
「私にも大切な方はおりました」
 白い羽根を遠くに見ながらも、懐古を覗かせた小さな呟きが零れ落ちる。
 ヤドリガミとしての生とは、数奇なるものだ。長い年月の中で数多の人の手に渡ってきた過去を思えば、僅かながら大切なものはしっかりと覚えている。思い返すように一度だけ目を瞬いて、花凜はやわらかな笑みを口元に浮かべた。
「私を一番初めに手にして下さった御方。彼の方が大切に扱って下さったから、今私は此の場に佇むことが出来るのです」
 いまでこそ、こうして様々なことを見聞きできる。四季の移り変わりを肌身に感じることができる。けれど、その毎日の根幹にはいつかの過去が眠っているのだから。──その欠片ひとつも、触れさせるわけにはいかないのだと。扇を返して、またふわり。
 花凜が扇と共に幽世蝶を世界に舞わせれば、アナスタシアの視界は瞬く間に白から紫色へと移り変わっていく。
 長い時間を生きるからこそ、立ち止まってしまう日もあるだろう。変わり続ける永遠に踏み止まってしまう日もあるだろう。それでも、その目を盲てしまえば見えるものさえ見えなくなってしまうのだと知っているから。花凜は扇を舞わせながら、アナスタシアに向けて静かに微笑むのだ。
「──時は、止まらぬからこそ儚く美しいのです」

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
君が時よ止まれと口にしたのは
――世界に対して願ったのは、どうして?

師と尊崇する“そのひと”と、ひとつに成れたから?
彼が教えてくれた“恋”と“愛”を、彼に捧げる事が出来たから?
他者から与えて貰えなかったものを独力で手にしたから?
絶えず祈り、願い続けていた羨望が、成就したから?

君が敬愛する主たる存在へ向ける感情を僕は理解出来ない
僕には欠けているから
怨嗟で以って目醒めた此の身が、如何して理解出来ようか?

僕を可哀想だと嘆くなら、きっとそれは正解
僕を不憫だと憐れむなら、きっとそれだって正解

他人を必要としない僕に対して、君の力はあまりにも無力だ
――ねぇ、そうでしょう?
現に君は、何も召喚出来ていないじゃない



「君が時よ止まれと口にしたのは──世界に対して願ったのは、どうして?」
 口を衝いて出たのは、そんな疑問だった。旭・まどか(MementoMori・f18469)は臆面もなくアナスタシアの目を見て、小さく首を傾げる。時を止めてしまうほどの想いの起点、その引き金となる感情を視るように黄金の瞳を覗いても、まどかには分からない。
 師と尊崇する“そのひと”と、ひとつに成れたからだろうか。
 それとも、彼が教えてくれた“恋”と“愛”を、彼に捧げる事が出来たから?
 崩れていく世界を見ればその想いの強さは見て取れる。しかし思い続けるということはひどく難しい。猟兵たちとの戦いを経り、彼女からは確かな疲弊と負傷が伺える。それでもなお心折れることなく戦い続け、その果てに世界の終わりさえ受け入れてしまいそうな様子を目に、まどかは眉を顰めた。その頑なさは、どこから来るものなのか。
 他者から与えて貰えなかったものを独力で手にしたからだろうか。
 もしくは、絶えず祈り、願い続けていた羨望が、成就したから?
「理解できない」
 ゆるくかぶりを振って、花色に華やぐ瞳をそうと伏せる。
 敬愛する主たる存在へ向ける感情、その深さを見ても理解することはあまりに難しい。
「......僕には欠けているから」
 怨嗟で以って目醒めた此の身が、如何して理解出来ようか。
 目を開けば見える、月のような黄金の瞳。そこに浮かぶのは悲嘆か、憐憫か。しかし目が合えば思うより静かなもので、闇より産まれ出ずる影の向こう側でアナスタシアはまどかを見ていた。
「すべてを満たされ生まれてくる子はおりません。かつてのわたしも、それは同じでした」
 何かが足らない。何かが満たされない。そんな隙間を抱えて、生きてゆくしかないのだと知っているからこそ。アナスタシアはしなやかな指先で影を撫でるけれど──何者にもなれず、形をあやふやに崩したままの影に目を瞬く。
「......嗚呼、神はあなたも憐れみくださるでしょう」
 愛なくば、形を成せない泥人形。そこには何もないのだと知れば、びしゃりと地に流れた影へ祈るように言葉を紡ぐアナスタシアにまどかは唇を歪めて笑った。
「その必要ないよ」
 天から流るる星が、月も照らせない大地に墜ちる。尾を引くような光跡に煌めく瞳は、無力にも星に呑まれゆくただの影を冷ややかに見下ろしていた。
「他人を必要としない僕に対して、君の力はあまりにも無力だ──ねぇ、そうでしょう?」
「ええ、きっと。けれど、愛がなければひとは生きられないのですから、止まりようもありません」
「だから君は世界に願ったの?」
 時よ止まれ、お前は美しい。
 今以上を望まない崩壊の祈り。未来を見ない停滞の願い。
 その有様が今この時だと、まどかは空を見上げる。もう幾許もない月の影は暗澹としていて、月明かりも随分と細くなってしまった。こんな世界では美しささえ霞んでしまうだろうに、アナスタシアはそれでも願い続けるのだろうか。
 まどかがもう一度と問えば、アナスタシアは変わらず笑みを湛えて頷いた。
「これ以上は望みません。だって、ひとは忘れてしまうでしょう?」
 目にも見えず、声も聞こえず──離れてしまえば、いずれ風化してしまう。そんな未来を迎えるならば、満たされたまま笑って終わりを迎えたい。その先に待つのが崩壊でしかなくとも、愛した魂とともにずっと離れずに。
 その思いはあまりに身勝手で、けれどそんな身勝手さこそが愛だとすれば。
「──やっぱり、理解出来ないな」
 生きた証を、生きる道さえも自ら手放すなど。
 少なくとも自分は御免だと言うようにその視線と共に星が影を貫けば、光は瞬く間に爆ぜるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

永廻・春和
【対照】
…本当に転がされても知りませんよ
(此処に来てまた誤魔化す様に浮わついた調子に、生温かい視線向け)
いえ、呆れと哀れみです(すっぱり)

…それにしても、妙な紛物が出たものですね?
(一体何処に何を感じたのかと心底不思議に)

今一度、廻り逢い、想い合い――終ぞ魂までも結び合った二人の道を別つというのは、心苦しくもありますが(相対する女性を切なく見据えるも)
――この紛物を断つにあたっては、躊躇は無い
彼の心配も無用と、其処は信用している

紛物はUCで静めつつ迷い無く切り払い
本命たる彼女の元へ

紛物を断てど
骸魂と別てど
其で全てが無に帰す様な縁では無いでしょう?

――貴方様も、離別の試練を乗り越えて行けますよう


呉羽・伊織
【対照】
正に天の遣いだな
降り立つ舞台が此じゃ暢気に拝む訳にもいかないが、しっかし麗しい事で
(真摯な一瞬は何処へやら、またへらりと笑い)
何?ヤキモチ?
…ヤメテ俺は哀情じゃなくて愛情を求めてるの!

あ、いや、そういう偽物が出たって事はやっぱ愛も向けてくれてる?
――なんて、これ以上の冗談は後だな!

(不意に真顔に戻ったかと思えば、UCで技を高め刀や暗器振るい、羽根の武器落とし狙い――其々の大事な記憶を確と守る様に)

…御免な
こんな形での永遠は、例え神が赦せど、俺達は認めてやれない

羽根を凌げば一気に肉薄――足並は自ずと合う筈

世界ではなく、破滅の道を終わらせよう
試練を越え、時を進め――本当に、望ましい道へと



「正に天の遣いだな」
 降り立つ舞台が此じゃ暢気に拝む訳にもいかないが、しっかし麗しい事で。なんて嘯いて、呉羽・伊織(翳・f03578)は赤い瞳を弓形に細めて笑う。
 闇に蝕まれ、喰われ、その先で呑まれるようにすっかり細く絞られてしまった僅かな月明かりを受けて輝く純白の翼は確かに後光が差したかのようだけれど。世界の崩壊はもうすぐそこまで来ているのだ。後がないことを思えば、溜め息を吐いてしまっても仕方ないだろう。へらりとした笑みで誤魔化すように浮ついた調子に永廻・春和(春和景明・f22608)は隠すことなく生暖かい視線を向ける。
「......本当に転がされても知りませんよ」
「何? ヤキモチ?」
「いえ、呆れと哀れみです」
 そんな素気無いやりとりさえ、いつもの調子で伊織は肩を竦める。求めるのは哀情ではなく愛情であったのだけれど、どうにも彼女には伝わらないらしい。もう少し粘ってみるかも一考、しかし不満そうに唇を尖らした伊織が仕方なく前へと視線を向ければそこには闇より産まれ出ずる影があるのだから、どうやらそうも言ってられなさそうだ。
 はじめは流動。まるで水のように暗闇から流れて、視線の先で影は沸騰したかのようにぼこぼこと沸き立っていく。
「......それにしても、妙な紛物が出たものですね?」
 そうして形を生した影は、寸分の狂いもなくひとの形をしていた。いや、ふたりの何処に何を感じたのか、参照元を思えばどこか少し歪な場所も見受けられるだろうか。
 いずれにしても、視線の先で生まれた影の泥人形は月明かりを受けて徐々に色付いていく。肌の色を成して、髪の色を写して、最後には瞳の色まで。手にした武器の形までそっくりそのまま、鏡合わせのような不可思議な偽物の人形を目前にすれば、伊織も笑みを潜めるしかなかった。
「あ、いや、そういう偽物が出たって事はやっぱ愛も向けてくれてる? ──なんて、これ以上の冗談は後だな!」
 不意に真顔に戻ったかと思えば、そう間もなく。予備動作もなしに振るわれた『風切』は狙い澄ましたかのように空に舞いあがる羽根を斬り捨てる。
「初めからそうして下さい」
 苦言もそこそこに、その動作は視線を交わさずとも息の合ったもので。春和もまた手にしていた退魔刀を容赦なく振るって羽根を薙ぎ払っていく。そうして吹き荒れる桜の花吹雪は、人形たちの視界を阻むように伊織と春和の往く道を作り──、
「今一度、廻り逢い、想い合い──終ぞ魂までも結び合った二人の道を別つというのは、心苦しくもありますが」
 この紛物を断つにあたっては、躊躇は無いと静かに告げて。アナスタシアを切なく見据えた視線は瞬く間に切り替えられるように己が偽物を睥睨する。
 振るうは一閃。伊織が確と守るように羽根を削いだ瞬間を狙って、すれ違いざまに撫切るような刃で音もなく偽物たちを春和が斬り伏せる。崩れ落ちていく偽物をふたりが振り返ることなく大地を蹴れば、自ずと揃う足並みが肉薄となったアナスタシアへと迫っていた。
 そこには、言葉にせずとも確かな信頼があったのだろう。背を預けるのではなく、共に駆けるに足り得る信頼は月明かりよりも眩く、アナスタシアの目が暗むのが分かる。
「......御免な、」
 こんな形での永遠は、例え神が赦せど、俺達は認めてやれない。
 だからこそ、今は祈ろう。
「紛物を断てど、骸魂と別てど。其で全てが無に帰す様な縁では無いでしょう?」
 振り被る、刃と刃。
 交わるような一閃は闇夜に煌めいて───、

「世界ではなく、破滅の道を終わらせよう。試練を越え、時を進め──本当に、望ましい道へと」
「──貴方様も、離別の試練を乗り越えて行けますよう」
 そこに待つのは行き先のない崩壊などではなく、未来に続く輝かしい道であれと祈りを込めて。
 伊織と春和は世界の終わりへ別れを告げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天音・亮
ティル(f07995)と

なるほど
じゃあ私達はおじゃま虫だね
恋する女の子は応援してあげたいけど
他の子達が恋を出来なくなっちゃうのを見過ごすわけにはいかないから
だからごめんね

愛を語れるほど私は時を重ねてないけれど
愛がもたらしてくれるものは知ってるつもり
誰かが愛してくれている
それだけで世界は色づく
どこまででも駆けて行ける気がする

今共に駆ける友達にも大切な人がいるみたい
きみが心寄せる人だもの
きっと素敵な人なんだろうね
だから尚更引けないの
皆の笑顔を、想いを、私は守りたい

きみが夜明けを連れてくる
だから何も怖くない
示された花降る光の道を足跡刻んで駆けていこう

─ねえ、
夜が明けるよ
本当のきみの想いに逢いに行こう


ティル・レーヴェ
亮殿(f26138)と

愛しきものとひとつになれた
満たされし其方の前に立ちはだかる妾達こそ
其方にとっての試練なのやもなぁ

先に滅びがあろうと構わぬ程の
その胸にある想いはあゝ尊い
されど失えぬ愛おしきものを
妾もこの世の誰かも裡に抱くから
世界の滅びを迎えさせるわけには
大切な記憶や想いを
傷つけさせるわけにはゆかぬのよ

妾の其れも
共にとある友の其れも

あゝこれは妾の我儘
唯の身勝手
博愛の聖女などとは程遠い
近しき者が大切な、妾の

駆ける足の道行を其処に残る足跡を
明るく照らす朝を歌おう
守りたいと紡ぐ優しき友の手を引けるよう
身も想い出も癒せるよう

そうして試練越えた先
其方にも光が
添い見えるものがありますよう
身勝手にも願うよ



「......なるほど、じゃあ私達はおじゃま虫だね」
 しあわせなハッピーエンド。ふたりきりの末路。
 ひどく疲弊した姿を見せるアナスタシアの、その頭上。蝕まれていく月の形はあともう幾許か、それでも大地を照らし続ける光がその行く末を見守っているから、天音・亮(手をのばそう・f26138)は静かな眼差しで呟いた。
 恋する女の子は応援してあげたい。そう思う気持ちは確かにあった。けれどこの先に待つものが終わりでしかないというなら、それは。
「他の子達が恋を出来なくなっちゃうのを見過ごすわけにはいかないから。......だから、ごめんね」
 その道行きをを祝うことは、できないと。
 太陽の光を帯びたようなレガリアスシューズの爪先でこつりと大地を小突いて、亮は大きく息を吸い込む。駆け抜けるのは一瞬、けれどタイミングはしっかりと合わせて。その瞬間を見るように隣立つティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)へ視線を向ければ、彼女もまたやわらかな朝焼けのような目で妖怪──否、オブリビオンと化してしまったアナスタシアを見つめていた。
「愛しきものとひとつになれた、満たされし其方の前に立ちはだかる妾達こそ其方にとっての試練なのやもなぁ」
 そのしあわせの在処に、愛の在り方に、正否はなくとも。世界の崩壊を前に勝負は生まれてしまうものだ。ならばそれこそが彼女にとっての試練に他ならないのだと知って、ティルは僅かに痛む胸に手のひらを乗せる。
「先に滅びがあろうと構わぬ程の、その胸にある想いはあゝ尊い。──されど、」
 失えぬ愛おしきものを、妾もこの世の誰かも裡に抱くから。
 尊ぶべきものは、ひとつではなく。この世界は貴ぶべきものに溢れているから。そんな世界の滅びを迎えることを許すことは出来ないのだと告げて、ティルもまた消えゆく夜に祈るようにそっと指先を組んでいく。そうして。
「大切な記憶や想いを、傷つけさせるわけにはゆかぬのよ」
 ふわり、と。
 綿毛のように空を舞う白い羽根を境に、ふたりの戦いははじまった。

 愛とは何か、そう考えたとき。
 亮はきっと、愛を語れるほど時は重ねていない。けれど、それでもその愛がもたらしてくれるものは知っているのだ。大地を蹴って、駆け行くその瞬間。誰かが愛してくれている──それだけで世界は色付くのだから。亮はそれだけで、どこまででも駆けて行ける気がした。
「きみが心寄せる人だもの。きっと素敵な人なんだろうね」
 だから、尚更引けないの。
 進む道を明るく照らす朝のような、あたたかな声を背に受けて。止まらぬ足で駆け抜けて、亮はアナスタシアの黄金の瞳を見た。稲穂のように豊かなその目が、ずっと揺れているのだ。不安か、疑念か、それとも恐怖だろうか。試練と相対する猟兵たちの揺らがぬ心に、信じる心に、そして何より明るく眩いほどの未来に戸惑いを隠せていないのだ。
 愛を語る口はやがて狼狽に口を閉ざすから、その場に響き渡る朝焼けの歌を連れて亮は微笑む。ひとりの夜明けが怖いなら、せめて寂しくないよう太陽の光を以てその道を照らしてあげよう。
「妾が皆の夜明けとなろう──」
 きっと、その思いは同じだったのだろう。
 博愛の聖女などとは程遠く、近しき者が大切で仕方ない。それでも祈らずにはいられないからと、身勝手にも願ってしまう。そんなティルの気持ちさえ連れて、あたたかな歌に手を引かれるように亮は迷うことなく花降る光の道を行く。
 それは正しく、夜から朝へと生まれ変わる空の兆しのように。舞い上がる白い羽根さえ蹴散らして、聖なる光は広がりを増していく。

「──ねえ、夜が明けるよ」
 闇に閉ざされる終わりなんて、星より遠くに蹴飛ばして。
 行き止まりの壁を、いっしょに跳び越えて。
「本当のきみの想いに逢いに行こう」
 その先の、もっともっと先へ。
 そう言ってアナスタシアへと手を伸ばした亮の後には、深い闇をも照らす太陽のように輝く足跡が残っていた。


●残花
 目に見えないものを信じることは、ひどく難しかった。
 確かに恋しているのに。確かに愛しているのに。
 過ぎ行く月日に、満たされていたものは少しずつ欠けていく。
「主よ。あなたは恵み深く、すべてをお赦しになる方」
 はじめに忘れてしまったのは声だった。その次に顔、最後には思い出までも薄れてゆくからこそ、ようやく再び満たされたその瞬間を手放すことが恐ろしい。まやかしのように過去に消えていくことが耐えられない。それを弱さと言うひともいるかもしれないけれど。
「いつかまた、あなたを忘れてしまっても。わたしの心は、永遠にあなたと共にあります」
 いまは少しだけ、前より信じられるような気がして。
 目の当たりにした絆の深さを思い返しては、朝焼けが恐れを溶かしてゆくのを感じるようにアナスタシアはそっと目を閉じた。
 離れていても、目には見えなくても。──そこにあなたが、いなくても。
 あなたが与えてくれた恋は、愛は決して変わることなく。わたしの心の水底で、幾度となく花を咲かすのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『ライトアップステージ!』

POW   :    屋台巡りで楽しむ

SPD   :    幻想的なステージで踊ったり歌う

WIZ   :    より良いステージの為に演出する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●interval
 夜を越えて、朝を迎えて。そうしてまた、新しい夜が巡ってくる。
 それは世界が終わることなく、明日に続いていく何よりの証明になるだろう。
 褐返しの墨を垂らしたかのような夜に灯りはじめるのは月明かりだけでなく、竹林の更に奥へと誘おうと輝く竹は空まで照らしているように見えた。
「祭囃子が聞こえますか? もうすぐ、金魚市がはじまりますよ」
 静かな蓮池のほとりで、その水面のように凪いだ微笑みを湛えたアナスタシアが手のひらで指し示す。耳を澄ませば確かに、祭囃子が聞こえるようだ。
 少しずつ増えはじめる人影に続いて歩いていけば、やがて輝く竹と共に辺りを照らす金魚提灯たちも見えてくることだろう。きゃらきゃらと楽しげに笑うこどもたちが脇を通り抜けて、道なりに進めば次第に甘い匂いも漂ってくる。
 ──そうして、一際輝くような竹の緑門を通り抜けたなら。
 そこには夜であることを忘れてしまいそうなほど、鮮やかな猩々緋の幕が空を覆っていた。
 素赤、更紗、猩々に丹頂。背赤や六鱗、さまざまな模様で色付けられたそれらすべてが、金魚を模した提灯たちだ。風が吹けばたなびく尾が透けて、その向こう側で覗く夜空がまるで水の中から水面を見上げているような錯覚をおぼえてしまう。
「......小さな祭りですが、古き良き納涼祭のひとつです。皆さんにもお楽しみいただけると思いますよ」
 金魚すくいはもちろんのこと、金魚の飴細工や金魚鉢のかき氷。近年では新しい妖怪たちが取り入れたのか、ぴかぴかと金魚カラーに光る不思議な綿飴なども人気らしい。
 アナスタシアはそのひとつひとつを眺めるようにゆっくりと見渡して、猟兵と目が合えばくすりと笑みを零す。
「賑やかでしょう。先程の池まで戻ればお祭りの夜を静かに楽しむこともできますから、ご安心くださいね」
 売り出されている小さな金魚の提灯をひとつ、携えて。猟兵たちに小さく手を振ってから蓮の花が美しく咲く池の方へと戻っていくアナスタシアの小さな背中を見送れば、やがて涼やかな夜を過ごすひと時がはじまる。
 金魚市を歩き尽くしてその時間を存分に楽しむのも良いだろうし、彼女のように静かな池のほとりで夜を過ごすのも良いだろう。
 楽しみ方はひとの数だけ、幾らでも。如何様にも。
 この世界は終わることなく──夜は、これからなのだから。
榎本・英
嗚呼。とても可愛らしいね。
折角だから買って行こう。
ナツ、良いかい?
これは提灯だ。食べれない。

何か食べたいのなら、金魚鉢のかき氷かそれとも飴細工か
ナツには飴細工を、私はかき氷を食べよう。
その前に、金魚掬いをしても良いかい?
この子たちは食べては駄目だよ。

ナツが金魚に手を出さないように懐に入れておこう
ふわもこ達も此処が好きだが
ナツも懐がお気に入りのようでね
寝る時には良く潜り込む。
もっとも、今は寝る気配など全く無いが。

これが中々に難しい。
一匹掬えたら万々歳と云った所かな。

さて、掬い終えたら飴細工とかき氷を買いに行こう。
ナツ、歩けるかい?
嗚呼。金魚は駄目だよ。
これは、君の友人だ。



●月華
 仰げば揺らめく金魚の群れ。ふわり、ゆらり、煙のようにくゆる尾びれはその模様も然ることながら、よくよくと見れば尾の形まで異なることが分かる。
 鮒尾、桜尾、孔雀尾、蝶尾から反尾、三尾に四尾まで。伸びやかに育った竹を細く割り、組み立てた枠に貼り付けた紙を始めとしてすべてが手作りであることを知れば、表情のひとつひとつまでが違って見えるようだ。
「嗚呼。とても可愛らしいね」
 折角だから買って行こう。そう言って思わずと手が伸びてしまうのは、綺麗に並べられた金魚の提灯たちがつぶらな瞳でこちらを見上げているからだろうか。
 そのうちのひとつ選べば、小さく笑みを浮かべた榎本・英(人である・f22898)はおだやかに目を細めて、しかしすぐさま横から伸ばされた小さな手に提灯を肩より高く上げる。『ナツ』だ。まんまるに膨らんだ黒目がちな猫の目が狙うのはゆらゆらと揺れる金魚の尾びれのようで、その尻尾は天高く立ち上がっている。
「──ナツ、良いかい? これは提灯だ。食べれない」
 程よく湿り気がある桃色の小鼻を指先でそっと小突いた後、やがて居住まいを正した仔猫にも見えるように英はゆっくりと提灯を手元まで下げていく。その仄明かりが照らすのは、華やかなお祭りの道行き。
 鼻腔をくすぐる甘やかな香りを辿るように歩き出して、英は提灯が道を照らすままに雑踏を進んでいく。

 金魚鉢のかき氷か、それとも飴細工か。
 香りに誘われて悩むも束の間、英が視線を奪われたのは金魚たちが悠々と泳いでいる水槽だった。膝ほどの高さで並べられた平たい水槽と円形のすくい枠、金魚掬いは縁日には定番の屋台ながら不思議と心惹かれるものがある。それはこの金魚市でも同様のようで、小さな屋台にも人足が途絶えることはなさそうだ。
「......その前に、金魚掬いをしても良いかい?」
 少し並ぶことになるだろうか。列の最後尾に立った英はこちらを見上げるナツをひょいと持ち上げて、懐へと招き入れる。「この子たちは食べては駄目だよ」と囁くも、猫の視線に気付くこともない無防備な金魚たちは変わらず好き勝手に泳いでいるものだから、右往左往と頭ごと動いているナツの小さな額を撫でて英は肩を竦めた。
 ふわもこたちが暖かな場所として好むように、英の懐はお昼寝にぴったりのナツもお気に入りの場所であるけれど。爛々とする目を見てしまえば、どうやら今は寝る気配もないらしい。
「じっとしているのだよ。そう、手は伸ばさないように」
 自分の番が来れば、渡されたお椀とすくい枠を手に。
 膝を折って屈めばより近付いた水槽に首を伸ばしたナツ抑えるように声を落として、英は水中を泳ぐ金魚たちを目で追いかける。──しかし、
「これが中々に、難しい」
 一匹でも掬えたら万々歳と云った所だろうか。薄い和紙で作られたすくい枠は水に濡れればすぐに破けてしまう。小さな金魚の尾びれであっても、和紙を破くには充分なものだ。
 水面を映す眼鏡の奥で、金魚の朱金よりも暗く深い赤色の双眸を眇めて英は狙いを付ける。獲物を掬い上げるのは一瞬。水を斬るように水面を撥ねて、手首を捻る動作ですくい枠を金魚の腹に潜らせ、最後には縁を使ってお椀へと流し込む──そして、ぱしゃりと水滴は空を舞って。

「さて、飴細工とかき氷を買いに行こう。ナツ、歩けるかい?」
 透明な金魚袋に入れられた一匹の金魚が、ゆらゆらと水中に尾びれを漂わせている。それはナツの目にもよく似た柑子色をしていて、するりと懐から抜け出したナツが物珍しげに覗き込んでいた。
「嗚呼。金魚は駄目だよ。......これは、君の友人だ」
 分かっているよ、そう言うように目を瞑ったナツは目の前の金魚袋に鼻を押し付けて、小さく鳴く。にゃあ。
 それはきっと、仔猫なりの挨拶だったのだろう。まるで応えるように水中でくるりと一回転してみせた金魚と仔猫の小さな邂逅を見守って、英は慈しむように微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンク・オーウェン
【リシェ(f00197)と行動】
やれやれ、久しぶりの実戦は堪えるな
……まあ、なにがあっても、なかったとしても、結果こうなったのなら、それでいい

それより今は、なんとも恨みがましい視線の同行者が問題だろうな
文句を言われても、感情なんてものは、人から教えられるものでもなし、いつか気付くものだ

それに、自身の失敗談なぞ子供に語って聞かせるものじゃないだろう
単に、君にはまだ早いです、と言うことさ

食い気に意識が向いたのは助かるので付き合おうか
いや、それなりの歳だからね、ある程度見るだけで許して欲しいのだが……相変わらず、よく食う

(……大人扱いされたいのか、年頃の女性はわからん……)


リシェリア・エスフィリア
【アンク(f00928)と行動】
彼女は、大切な存在と一緒にはなれなかった
勿論、そうさせないためだったけど
さっきの彼女は、悪い表情ではなかった

彼女の中で、何かが変わったのかな
それもまた、恋や愛……?

屋台、おまつり……
自然と視線は沢山の屋台のほうへ
定番の品から、未知の品

……アンクはずるい
答えを探すための質問に、理解を得てから回答する、なんて

だから、このもやもやは屋台に挑戦して解消
……私もわかってきた。『おいしい』は、とても楽しい
だから、たくさんおいしいをしにいこう

目標は、ぜんぶ
ところで、私、14歳。……アンクにはまだ子供らしい

(どこに入るのか、と驚くほどの量を食べることが可能な少女であった)



「やれやれ、久しぶりの実戦は堪えるな」
 息を吐いて肩を回せば、こきりと小気味よい音が鳴る。
 ひと仕事を終えた後というのはどうにも開放感があるようで、拭えない疲労感もあった。それが体力によるものか、精神によるものか。それは分からないけれど。
 しかし何があっても、なかったとしても、こうして賑やかな金魚市を見れば世界が終わることなく続いているという事実が、これ以上ない結果であるのだと思える。アンク・オーウェン(unknown・f00928)はもう一度だけ小さく吐いて、それから視線をちらりと横に向けた。
 結果こうなったのであれば、それでいい。それよりもアンクにとって目下の問題はなんとも恨みがましい眼差しを向けた彼女である。
「......アンクは、ずるい」
 眉を顰めて、リシェリア・エスフィリア(蒼水銀の魔剣・f01197)はぽつりと呟く。
 金魚市を去りゆくアナスタシアの背中は、その表情は、決して悪いものではなかった。それが彼女の中で何か変わった証拠であるなら、きっと。あの場所で彼女はひとつの答えを見つけたのだろう。それが恋か、愛か──はたまた別の何かであるのか、それはリシェリアには分からないけれど。だからこそ。
 ずるい、と唇が不貞腐れたような声音で口遊ぶ。お祭りも、屋台も、気になるものはたくさんあれども目の前の感情は消せないだろう。
「答えを探すための質問に、理解を得てから回答する、なんて......」
「はは、悪いな。だが、まあ......単に、君にはまだ早いです、と言うことさ」
 文句を言われても、感情なんてものは人から教えられるものでもなし、いつか気付くものだ。少なくとも、アンクはそうであると思っている。それ故に、自身の失敗談なぞ子供に語って聞かせるものではないとも。
 空気をはらんで膨らんだ幼い少女のまろい頬に笑って、それから流れるようにアンクは金魚の飴細工が並べられた屋台を指差す。
「ほら、あっちに飴細工があるぞ。それともかき氷か、綿飴なんてのもどうだ?」
「......全部食べる」
 このもやもやは、このお祭りを楽しむことで解消しようと。またひとつ流されてしまったようで飲み下せないもやもや感を抑えるように、リシェリアはふいを顔を逸らして飴細工の屋台へと足を向ける。
 食い気に意識が向いたことで助かったのはアンクだったのか、リシェリアだったのか。あっちもこっちも、と止まることなく歩けば屋台を制覇しかねない背中を追うようにアンクも歩き出して、ふたりは甘い香りに抗うことなく屋台へと吸い込まれていく。
「......私もわかってきた。『おいしい』は、とても楽しい」
 だから、たくさんおいしいをしにいこう。
 差し出された飴細工ひとつ、受け取って。空泳ぐ金魚の提灯に照らされてきらきらと輝くそれをはじまりの合図に、小さな夜の屋台巡りは始まるようだ。
 目標は屋台の全制覇。そう告げたリシェリアの眼差しはひどく澄み渡っており、間違いなく本気だった。
「いや、それなりの歳だからね、ある程度見るだけで許して欲しいのだが......、」
「大丈夫、おいしいから」

 ところで、そう前置いて。見上げる青い瞳はアンクに語りかける。
「──私、14歳」
 大人扱いされたい、そんなお年頃だったらしい。
 お詫びするようにもうひとつ飴細工を買い足して肩を竦めたアンクを前に満足そうにリシェリアはひとつ頷いて︎︎︎︎、制覇するのならば時は金なりと次なる屋台、巨大な金魚鉢のかき氷が売られているところへと急ぐのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
縫への労いに

土産をひとつ
好きなものを選んでくださいな

人形へ手を差し伸べ
祭りへいざなう

どれも素敵ですねぇ

屋台を渡り歩く様は
あっちにふわふわ
こっちにひらひら
まるで気儘に游ぐ金魚

細工飴
縮緬手提げ
便箋に封筒――あぁ、此れは店の棚の仕入れに素敵

縫の表情も
祭りの賑わいに耀いているみたい

目を留めた先を追ったなら
金魚型のぬいぐるみが、二つ
紅唐色と、紅白の錦と

此れにしますか?

柔らに問えば
たいそう真剣な眼差しで
どちらの彩にしようか迷いに迷っている姿が
とても可愛らしくて
両方くださいな、と店へ願う

ね、
私とあなたでひとつずつ

ふくふく笑んで金魚をふたつ差し出せば
嬉しそうに両手いっぱいに抱き締める姿も、ほら
やっぱり愛らしい



 殷々と轟く鼓の音、鳥の鳴き声にも似た笛の音。鉦をあしらえば華やぐ祭囃子が賑わいに彩りを足して、金魚市は幕開きも早々に行き交うひとで溢れていた。今宵は月が高く登るまでは眠らないとばかりに道を照らす明かりは夏の果実よりもよほど赤く、都槻・綾(糸遊・f01786)は肩越しに振り返ってやおらと微笑む。
「土産をひとつ、好きなものを選んでくださいな」
 切揃えの黒髪を揺らして見上げる、少女人形。『縫』の幼くも白くまろい頬も、今日ばかりはお祭りの賑やかさに少しばかり紅潮しているようにも見えて、綾は手を差し伸べて道の先へといざなう。
 水面を跳ねた尾びれが覗いた金魚すくい、提灯明かりに照らされてきらきらと艷めく飴細工。歩みを進めれば目に留まる可愛らしい金魚鉢に盛り付けられたかき氷は涼やかに、甘やかな蜜の香りが通り掛かるひとの心を奪うのか、それは盛況している様子が見えた。
「どれも素敵ですねぇ」
 あっちにふわふわ。こっちにひらひら。
 袖振る縁のままに屋台を渡り歩く様は、まるで気侭に游ぐ金魚の如く。連れ立った縫の手を引いて人混みを縫うようにすり抜ければ、そのまま屋台から屋台へと。飴細工、縮緬手提げ、便箋に封筒──、
「あぁ、此れは店の棚の仕入れに素敵」
 なんて、つい考えてしまうのは職業病だろうか。脳裏に描く店の佇まいを思いながらの足し引きは心が躍るようで、金魚市を歩くうちに綾は自然とふくふくとした笑みを湛えていた。それは繋いだ手の先、視線をあちらこちらへと向けている縫も同様に。
 祭りの賑わいに耀いている双眸は月よりも明るく、きらきらと瞬くから。やわらかな眼差しで縫を見下ろした綾は、その視線の先を追って小さな屋台の飾り棚に目を留める。
「......此れにしますか?」
 視線の先には金魚型のぬいぐるみが、二つ。
 紅唐色と、紅白の錦と、色味を替えて。けれどどちらも持ち味を活かした愛らしいぬいぐるみは、両手に収まるほどの手頃な大きさだ。お土産には丁度良いだろうと綾が柔らに問えば、たいそう真剣な眼差しでどちらの彩にしようか迷いに迷っている姿がとても可愛らしい。
 それをしばらく眺めていても良かったけれど。祭りの夜の賑わいは財布の紐まで緩めるようで、悩みに悩んだ縫の視線の先からぬいぐるみを攫った綾が「両方くださいな」と店主へ声を掛けるのは、そう間もなくのことだった。

「──ね、私とあなたでひとつずつ」
 視線の先。今度は飾り棚の上などではなく、その手のひらの中に。
 ふくふく笑んで金魚をふたつ差し出せば、縫はそれは嬉しそうに両手いっぱいに抱き締めるものだから。綾もまた笑みを深めて、そのこどもの小さな頭をやさしく撫でる。
「ほら、やっぱり愛らしい」
 お土産ふたつ、小さな夜の思い出に。
 お祭りのさなかを泳ぐように楽しめば、ゆらゆらと揺れる紅唐色と紅白の錦の尾びれが提灯明かりと同じくらい目に焼き付いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

琴平・琴子
これお前、それは食べ物ではありませんよ

手には金魚の提灯
足元には猫の使い魔のお前
ゆらり揺れる提灯を手先で突かれるより先に上へ上げる
まるで猫じゃらしのよう

歩みを進めれば、連なった金魚を模した食べ物の出店に
お前の目も爛々と輝くも
より一層心惹かれたのは手を出せば届きそうな金魚掬いの水槽
ぽちゃり、ぽちゃりと手を出すお前にこら、と言えば渋々引っ込められた手に溜息一つ
食べなかったのは良い事ですけど、手を出してはいけませんよ

店主さんに頭を下げて立ち去ると、金魚の提灯を持つ人たちが行き交う通り道
ああまるで、金魚が空を飛んでいるみたい

その光景を不思議そうに見るお前
そうね
食い気も良いけど空飛ぶ金魚も美しいでしょう?



「これお前、それは食べ物ではありませんよ」
 手には金魚の提灯。揺らめく尾びれを追いかけるように、足元には猫の使い魔の『お前』。どこか偉そうな我が物顔で歩く割腹の良い黒猫がにゃあと鳴くから、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)はゆらり揺れる提灯を手先で突かれるより先に上へ上げる。
 まるで猫じゃらしのよう、なんて。言えばお前は遊んでやっているのさ、と鼻で笑うのかもしれない。
「......金魚にもいろんな色があるんですね」
 歩みを進めれば、見えてくるものがある。
 同じ赤色に見えて少しずつ違う金魚たちはよくよくと見ればその表情だって豊かなもので、金魚を模した食べ物の出店には琴子だけでなく傍らを歩むお前の視線まで奪うようだ。爛々と輝き出した猫の目は黒目がちに瞳孔を開いて、より一層心惹かれた先におのずと手が伸びる。金魚掬いの水槽だ。
 琴子の膝より低い位置に並べられた平たい水槽は、透明な作りをしているおかげで猫の目線からもよく金魚が見えている。悠々と泳いでいる金魚はこちらを気にすることもないけれど、手を出せば猫にだって届いてしまうだろう。
「こら、」
 ぽちゃり、ぽちゃり。
 悪戯に手を出すお前を小さく叱りつけて、渋々と引っ込められた猫の手に溜息を零す。
「食べなかったのは良い事ですけど、手を出してはいけませんよ」
 金魚掬いも立派な売り物のひとつであれば、手を出したところで猫のお前が住み着く部屋では金魚は飼えないのだ。つまらなさそうに濡れた手を舐める猫の丸い背中を撫でて、琴子は店主に頭を下げた。
 けれど、退屈に埋まる時間もそう長く続くことはないだろう。泳ぐ金魚がいるのは、何も視線の下ばかりではない。屋台の前から立ち去って、琴子の足跡を追いかけるように歩く猫と共に、金魚の提灯を持つひとたちが行き交う通り道を仰ぐ。
 素赤、更紗、猩々に丹頂。背赤や六鱗。鮮やかな猩々緋の幕が眩く道を照らす景色は、決して日常では見られない光景だ。
 不思議そうに目を丸くしたお前をよいしょ、と力いっぱいに抱き上げて琴子はそっと微笑む。猫の目線よりも高く、近付いた仄明かり。
「──そうね、食い気も良いけど空飛ぶ金魚も美しいでしょう?」
 たまには、こんな夜も良いものだと。
 ご機嫌とばかりに揺れるお前の正直な尻尾が、きっと何よりの応えだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と
金魚鉢に入ったカキ氷か…なかなか面白いが量は少し多めだな。私はマクベスが食べきれなくなったらそれを貰うとしよう。

金魚と言うのは思っていたより種類が多いな。
観賞用に愛されてきた故と言うのもあるだろうが…確かにこうやって泳ぐ姿は見目に楽しいものだ。まぁ、見ていて一番楽しいのはマクベスだが。
飴細工か…よくできている。どれ一つ買っていくか。マクベスはどれがいい?私はそうだなこれか(赤と白のひらひらしたリュウキンのイメージ)
マクベスは…赤に金…まったくマクベスは私を喜ばせるのがうまいな。


マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
お~、売ってるもん全部金魚だっ
綺麗な赤がいっぱいだ、グラナトさんどこからいこうか?

金魚鉢のかき氷っ
こんなの普通の屋台だと売ってないよな
せっかくだし食べてみたいっ♪
ん~…美味しいけど口ん中冷たくなってきた…
グラナトさん半分食べる?

金魚とか縁日くらいでしかあんま見ないしなぁ
ヒラヒラ泳いでるの綺麗だよな
飴細工も色んな柄の金魚がいて可愛いなっ
グラナトさんはどれにするの?
ん~…オレはこれがいいな(赤と金の鱗の和金)
ふふっ、オレが1番好きな色だもん
食べるのが凄く勿体ないけどね



 目の前に大きな金魚鉢がひとつ。
 たらふく盛られた氷の山に掛けられた青空のような爽やかな色合いの蜜と反対に、飾られているのは金魚を模した赤色のゼリーだろうか。その上には金魚の中でも代表的な素赤の金魚に似せた飴細工も差し込まれて、なかなかに華やかだ。
 グラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)はしげしげと金魚鉢を見下ろして、満面の笑みで銀色の匙を手に取るマクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)を見守る。金魚鉢は面白いが、量が多めとあってはひとりで食べ切るのもむずかしいだろうから。もし彼が食べきれなくなったら、それを貰おうと心に決めて。
「金魚鉢のかき氷っ! こんなの普通の屋台だと売ってないよな」
「ああ、綺麗なものだな」
 屋台の奥に設けられたイートインスペースには金魚たちが悠々と泳ぐ姿を見れるように水槽が飾られていて、目にも涼やかなものだ。
 綺麗な赤がいっぱいだ、と目を輝かせていたマクベスは今はかき氷に夢中のようで、きーんと頭にまで来た冷たさに米神を押さえる仕草にグラナトも思わずと笑みを零す。かき氷を食べる上では避けられない試練である。
「んー......美味しいけど、口ん中冷たくなってきた。......グラナトさん半分食べる?」
「舌が真っ青だな、マクベス。残りは私が貰うとしよう」
 べ、と舌を出せば青空にも似た見事な青色が覗くものだから。マクベスとグラナトはどちらともなく笑って、夏の温度に溶けはじめたかき氷の山を崩していく。
 そんなふたりを見守るように、傍らを揺らぐ影。水槽に揺蕩う小さな金魚たちだ。それは飴細工の金魚ともよく似ていて、かき氷の山から抜き取ってくるりと飴細工を回したマクベスは、次いで見比べるように水槽に近付ける。
「観賞用に愛されてきた故と言うのもあるだろうが......確かにこうやって泳ぐ姿は見目に楽しいものだな」
「金魚とか縁日くらいでしかあんま見ないしなぁ。ヒラヒラ泳いでるの綺麗だよな」
「飴細工は確か、隣の屋台で売られていたな。帰りにひとつ買っていくか」
 見ていて一番楽しいのはマクベスだが、なんて。
 そんな言葉と共ににぺろりと残りのかき氷を平らげて、グラナトは席を立つ。マクベスも倣うように彼の後に続けばふたりは屋台から屋台へ、飴細工の甘やかな香りに誘われるように足を向けていた。

「飴細工も色んな柄の金魚がいて可愛いなっ」
 素赤の金魚はシンプルながら一際美しい色に輝いて目を引くけれど、赤に白と華やかな金魚や、黒縁がよく映えている金魚だって見応えのあるものだ。
 美しく均等に整列された飴細工たちを端から見渡したマクベスがグラナトの手を引けば、グラナトは応えるように少しだけ屈んでマクベスと同じ目線で群れを生した飴細工の金魚たちを楽しむ。
「グラナトさんはどれにするの?」
「どれもよく出来ているな。私はそうだな......これか。マクベスはどれがいい?」
 促すような声に、グラナトは一番最初に目を留めた飴細工を手に取る。先程のかき氷に差し込まれていた飴細工とはまた異なる赤と白が調和した美しい金魚は、さながら琉金のイメージだろうか。提灯明かりに輝く色を見るようにくるりと手の中で回しながら、グラナトもマクベスに問い掛ける。
「──オレは、これがいいな」
 そう言って微笑んだ彼の手の中には、赤と金の鱗が眩い和金の飴細工。
 それはグラナトにとってもよく知る色であったし、やおらとその黄金の瞳に翳すように飴細工を掲げて、どこか悪戯げに微笑んだマクベスを見れば思うところは一緒なのだろう。グラナトが瞠目してしばらく、格好を崩してしまったのも仕方ないことだった。
「......まったく、マクベスは私を喜ばせるのがうまいな」
「ふふっ、オレが1番好きな色だもん」
 仲良く束ねられた、琉金と和金の飴細工。
 連れ添う金魚たちと同じように、お祭りの賑わいの中へと再び消えていくふたりの背中は仲睦まじく寄り添っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨野・雲珠
菊花お嬢さんと/f24068
・JCの浴衣着用 ※風船はなし
・勢いにやや圧されつつも保護者のつもり

お嬢さんと祭囃子に誘われて、
静やかに賑わう金魚のお祭りに。
はぐれないように手をつないで歩きましょう。
お嬢さんがあっちこっち行くので
時々手がビンッてなりますが離しません。
はぐれたら絶対見失う…!

いいですよ!きっと今年は食べ納めですね。
俺は金魚の飴細工をひとつふたつ、
お土産に買っていきましょう。

おお…金魚というより…ちょっとフグみたいな…
あ、それはかっこいいですね。
いっとうお気に入りのものが決まったら、
おいくらですか?と聞いてお支払いを。
プレゼントさせてください。
遅くなりましたが、お誕生日の贈り物に。


八重垣・菊花
雲珠くんと/f22865
レースのあしらわれた椿と菊のレトロモダン柄の浴衣に、兵児帯
金魚の提灯が欲しいんよ、と雲珠くんとこに突撃したままお祭りに来たで!
行き交う人の提灯が綺麗で、つい見惚れてしもた
うん、迷子ならんようにうちが雲珠くんの手繋いどくよってな!

飴細工は食べるん勿体ない気もするなぁ、あっカキ氷! 雲珠くんカキ氷半分こしよ!
うちあれ知ってるで、金魚玉や。こないだ見た!
(あっちにふらふらこっちにふらふら、金魚のように祭りを楽しんで)
あ、提灯屋さん!
どれにしよかな、間抜けな顔したんも可愛いし、ちょっとカッコいいんもええなぁ…カッコいいやつにしよ!
 
ほんまにええの? おおきに!(満面の笑み



 金魚の尾びれのように揺らめく亜麻布の帯が、垂れ先を翻して立ち止まる。
 目に鮮やかな椿と菊を探すように雨野・雲珠(慚愧・f22865)が振り返れば、その視線の先で行き交う人の提灯に気を惹かれた八重垣・菊花(翡翠菊・f24068)がきらきらと輝く瞳のまま立ち尽くしていることに気付いて、小さく安堵の息を吐いた。
「お嬢さん。──菊花お嬢さん!」
 人波に呑まれてしまう前に踵を返して数歩戻って声を掛ければ、ようやくと気付いたのだろう。見惚れていた金魚たちの揺らめきから意識を戻した菊花の手を取って、雲珠は少しの焦燥から心を落ち着ける。これだけのお人混みなのだから、はぐれたら絶対に見失ってしまう。
 はぐれる前に気付いてよかったと手を引けば、にこりと幼い笑みを向ける菊花に雲珠は眉尻を下げた。
「......はぐれないように手をつないで歩きましょう」
「うん、迷子ならんようにうちが雲珠くんの手繋いどくよってな!」
 あっちへ、こっちへ。ふらりふらりと誘われるまま、ひらひらと泳ぎ回る金魚のように。
 菊花は時折何かに気を引かれたかと思えば勢いよくその場に足を向けるものだから、手を繋いでおいだのは間違いなく正解だった。繋いだ手がぴんっと伸びても離さずに、追いかける雲珠の背中には保護者の苦労が滲んでいたのかもしれない。

「飴細工は食べるん勿体ない気もするなぁ、あっカキ氷! 雲珠くんカキ氷半分こしよ!」
「いいですよ! きっと今年は食べ納めですね」
 夏が終われば、やがて秋が来るだろう。長くも短いような束の間の季節を惜しむように金魚鉢のかき氷をひとつ、仲良くふたりで分け合って。目に留めた飴細工もお土産に買えば、この小さな夜の思い出になるはずだ。
 出目金を模したような暗い色の飴細工に、イエローコメットによく似た短尾の飴細工。仲良く束ねられた飴細工を手にしても足は止まらず、更に屋台から屋台へと。悠々と泳ぎ回る金魚のようにお祭りを楽しんだなら、最後にふたりが辿り着いたのは金魚の提灯を飾り付けた提灯売りの屋台だった。
「あ、提灯屋さん!」
「おお......。金魚と言うよりも、ちょっとフグみたいな......」
 ふくらと膨らんだ頭に、風にたなびく和紙の胸びれや尾びれ。ひとつひとつを大事に描かれた黒目がちな金魚の目を見れば不思議とそれぞれ表情が見えてくるようで、菊花は並べられた提灯たちをじっくりと眺める。
「どれにしよかな」
「あそこに吊り下げられている子はどうですか?」
「間抜けな顔したんも可愛いし、隣のちょっとカッコいいんもええな」
 そうして悩みに悩んで、しばらく。
 白く小さな指先が差したのは、どこかキリッとした眉が印象的な金魚の提灯だった。
「こっち! カッコいいやつにしよ!」
 ちょっとだけ雲珠くんに似てへんか、なんて。
 お気に入りのものを見つけてご機嫌な様子を横目に、雲珠はするりとお支払いを済ませてしまう。それは流れるような速さで、きょとりと目を丸くした菊花に選んだばかりの提灯を差し出して雲珠は唇をつりあげてほんのりと微笑んだ。
「......プレゼントさせてください」
 遅くなりましたが、お誕生日の贈り物に。
 そう言って月よりも明るく、あたたかな灯りを点して。ゆらゆらと尾びれを揺らめかせた金魚の提灯を受け取って手提げれば、菊花はそれは嬉しそうに笑みを返す。「──おおきに!」
 それはきっと、満開と咲う花のように。
 手を繋いでゆっくりと帰路を辿るふたりの道行きを、提灯の仄明かりがやさしく照らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
すっごいわ。凄い鮮やかでぴかぴかで綺麗♪
「ねー、レーちゃ…あれ? レーちゃん?」
隣に居るはずのレーちゃんが消えて探すわ。
あ。屋台の前で真顔で蹲ってる。可愛いわ♪
なに見てるの…って後ろから覗いてみる。
「わぁ~。金魚ね。金魚ね。可愛い~♪」
暫くレーちゃんの隣で眺めてみたけど。
もっと色々見てまわりたいわ。飽きた!
「わ! あっちの飴、綺麗で可愛いわ」
「あっちの綿飴もふわふわで可愛い~♪」
「わお! 鉢のカキ氷美味しそうだわ♪」
あれ?何で笑ってるの?レーちゃん?
レーちゃんには力一杯否定されるけど。
「えー。笑っていたわ。笑ってた」
くっついてぎゅーってするわ。
えへへ♪またみせて?


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
「…ふむ」
金魚。こんな鮮やかな小魚がいるのか。世界は広いな。
素赤に更紗…猩々か名前が不思議かつ興味深く面白い。
いつまでも気持ちよく泳ぐ金魚の水槽を眺めていたい。
だがまあ邪魔が入るんだがな。
「…ああ。わかったわかった。一緒に、な」
上を見上げても金魚を想像させる装飾と提灯だ。
あっちこっち…と引っ張り回され目がまわりそうだ。
もう少しゆっくりと見させてくれると助かるが。
まあ露だしな。まったく♪
「…笑ってない。君の事などしらん!」
抱きついて身体を揺さぶっても私は認めん。

こっそり露とはぐれる形で池に行く。
アナスタシアに声をかけようと…したがやめよう。
問題はなさそうだ。後姿だが。



「すっごいわ、どこを見ても綺麗! ねー、レーちゃ......あれ? レーちゃん?」
 きらきら、ぴかぴかと。灯された提灯明かりは月よりも明るく、星より鮮やかに瞬いて美しく、神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)は目を輝かせていた。
 しかし、そんな景色に気取られていたからだろうか。気が付けば傍らにいたはずのシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)の姿が忽然と消えており、露は慌てて周囲を見渡した。
 小さな金魚市ながらも大賑わいのお祭りは人混みも多く、その間を縫って進むように辺りを探る。そうして見つけたのが、屋台の前で蹲っているシビラの後ろ姿だった。
「......ふむ、」
「わぁ~。金魚ね。金魚ね。可愛い~♪」
 どうやら彼女の目を惹いていたのは、可愛らしい金魚たちが悠々と泳いでいる水槽のようだ。目にも鮮やかな小魚たちはシビラの目に新しく映るようで、水槽の前に貼られた金魚たちの写真と名前を交互に見比べて、興味深そうに水槽を覗き込んでいる。
 叶うことなら、いつまでも気持ちよく泳ぐ金魚の水槽を眺めていたい。けれど、背後から躙り寄る気配がそれも叶わぬ夢であることを知らせていた。
「レーちゃん、あたしもっと色々見てまわりたいわ。飽きた!」
「......ああ。わかったわかった。一緒に、な」
 見るものは何も、この水槽ばかりじゃない。上を見上げても金魚を想像させる装飾と提灯があるように、金魚の飴細工やかき氷と、このお祭りはどこを歩いても金魚を見失うことはないだろう。
「わ! あっちの飴、綺麗で可愛いわ」
「ああ」
「あっちの綿飴もふわふわで可愛い~♪」
「そうだな」
「わお! 鉢のカキ氷美味しそうだわ♪」
「.....まったく、」
 あっちへ、こっちへ。忙しなくも目まぐるしい足取りに引っ張り回されれば、そのうちに目が回りそうだけれど。だけれど、やっぱり不思議と嫌ではない。
 そうして気が付けば。どれを見ても楽しそうに笑って駆けていく露を追いながら、シビラもまたいつの間にか静かに微笑んでいた。
「──あれ、何で笑ってるの? レーちゃん?」
「......笑ってない。君の事などしらん!」
 ぎゅうと抱き着いて離れない体から、あたたかな温もりが伝わればまた、不思議と笑ってしまいそうになるけれど。もう一回笑ってと揺さぶる露から思い切り顔を逸らして、シビラは緩む頬を押さえるのだった。

 ──その、帰り道。
 月明かりにも似た幽鬼の女は、変わらず池のほとりに佇んでいた。
 けれど、寄り添う金魚の提灯があたたかにその横顔を照らしていたから、シビラは静かに踵を返す。
「......問題は無さそうだ」
 きっと、もう大丈夫だと。何も語らぬ横顔であってもそう思えたのは、シビラ自身もどこかで少しずつ変わりつつあるからなのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
【猫ひげ】

祭りの中をきょろきょろしながら
俺様探してるものがあるんだ
でめきんの飴細工!
きんぎょといったらでめきんだよ
そうそう、おめめがでっかいやつ
金魚の中であれがいちばん好きなの
ぜーったいかわいいよね
え?面白い?かわいいよ
光る綿飴にも誘惑されつつ探して
ほんとだあった!ほらかわいーじゃん
ご満悦で手伝ってくれたふたりにも買ってあげるよ

わぁ終夜くんかき氷買ってきてくれたの?
流石甘いのに目がないね
やったぁありがとーって受け取って
これは…一気にたべてきーんとなるやつ
かき氷も一緒に食べて皆で同じ顔
懲りずに食べておいしいねって笑う

―え?なぁに?
ライトアップに顔をあげて
わぁすごいきれい
楽しい夏の終わりの思い出を


空・終夜
【猫ひげ】

金魚の提灯が並ぶ祭りの風景を眺めながら
二人と金魚の飴細工を探しにいく

でめきんは、あの目が…ぼんっ、とデカい奴だな…?
アレが飴になってたらさぞ面白いだろうな…

ふと…探してる途中
かき氷の屋台を発見
…夏の最後
アレを食べなければ終れない
甘党心をくすぐる甘味の存在に足が向かう

でめきんぎょ飴が見つかった頃合いで
かき氷を三人分両手に抱えて戻ってくる
イチゴ、メロン、ブルーハワイの三食

これも、見つけてきた…
二人に差し出す

かき氷を食べると頭がきーんとする
神経を刺す感覚は痛覚がない俺でもよくわかる
2人ときっと同じ顔してる
でも、甘くてうまいから…満足だ

――あ…
ライトアップに気づいて
思わず声を零して指をさす


兎乃・零時
【猫ひげ】

祭りだ―!
金魚市は初めてだけど楽しそうだな!

でめ…きん?
あー、そんな奴いたな!なんか黒くて目がでかい奴!
あれが飴になってる奴を探しゃいいんだな!任せろー!
こーゆう時は飴細工の出店を片っ端から探せばいいのさ!…多分!
なんならうちのパルにも協力してもらうさ!(ふわぁと浮いちゃう紙兎)
所でロキはなんかでめきん好きだったりするのか?
それとも珍しい飴細工が好きとか?

あー!あった!飴細工!これ!此れだろロキ!でめきん飴細工!

ん?
それは…かき氷!わー、あんがとな空!
やっぱ食べるとキーンってなるよなぁ
でもおいしいからついまた食べちゃうんだけど!

おぉー!
声と光でライトアップに気付き
感嘆の声を漏らすのだ



「祭りだー! 金魚市は初めてだけど楽しそうだな!」
 素赤、更紗、猩々に丹頂。背赤や六鱗。さまざまな模様で色付けられた金魚の提灯たちは仄明かりを灯して、鮮やかな猩々緋の幕のように路を照らした空の下。
 行き交う人々たちの楽しそうな声、どこまでも響くような祭囃子。そのどれもがきらきらと輝くようで、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)は歓声を上げながら辺りを見渡す。甘い匂いが鼻腔を掠めたようだ。
「俺様探してるものがあるんだ、でめきんの飴細工!」
「あっちから甘い匂いがするぜ!」
 ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)も当たりを見渡すようにそう言えば、零時はすんと鼻を鳴らして金魚市の屋台が軒を連ねる先を指で差す。
 そんなふたりから逸れないように後を追いかけながら、首を傾げたのは空・終夜(Torturer・f22048)だ。肩から落ちかけた工字繋ぎの裏地が印象的な羽織を直して、零時が指差す先を見据えている。
「でめきんは、あの目が......ぼんっ、とデカい奴だな......?」
「そうそう、おめめがでっかいやつ。きんぎょといったらでめきんだよ!」
 金魚鉢のかき氷に、ぴかぴかと光る不思議な綿飴。お祭りの屋台というものは、なかなかどうして色んなものに目を奪われてしまうけれど。
 多種多様な金魚の中でも出目金が一番好きなのだとロキが笑えば、終夜と零時は顔を見合わせて、それから甘い匂いを辿るように歩き出す。「こーゆう時は飴細工の出店を片っ端から探せばいいのさ!」と任せろとばかりに胸を叩けば、その傍らでふわりと浮いた『紙兎パル』も探してくれるようだ。
「アレが飴になってたらさぞ面白いだろうな......」
「え? 面白い? かわいいよ」
 ぜーったいかわいいよね、なんて。
 見方の違いに首を傾げ合いながら、出目金探索隊のお祭りがはじまった。

 金魚市は道なりながら、ぴかぴか光る綿飴の甘い香りにも釣られたり、金魚鉢のかわいいかき氷に足を止めたり。数ある誘惑に揺れながらも目的の飴細工を見つけたのは金魚市の中ほどまで歩いた頃だった。
 提灯明かりに照らされて艶々と煌めく素赤の金魚たちに紛れるようにして、ようやく見つけた美しい黒色の金魚。ぽっこりと膨らんだような目玉はまさしく出目金をイメージしているもので、零時はロキを手招きしながら声を張り上げる。
「あー! あった、飴細工!」
「ほんとだ、あった!」
「此れだろロキ! でめきん飴細工!」
「そうだよー。ほら、かわいーじゃん!」
 並べられた飴細工の中でも特にかわいい出目金をまずはひとつ、ご満悦な様子で眺めては手伝ってくれたふたりにも──と、仲良く束ねられた飴細工を手にしたところで。
 ひとり足りないことに気付いたロキは「あれ、終夜くんは?」と周囲を見渡した。そして、はぐれてしまったのだろうかと眉を顰めるも束の間、他でもない終夜によって目の前に差し出されたかき氷に目を丸くする。どうやら、途中でかき氷の誘惑に乗っていたらしい。
「これも、見つけてきた......」
 差し出された小さめの金魚鉢は、左からイチゴ、メロン、ブルーハワイのシロップが掛けられたかき氷がこれでもかと盛られている。こちらもまた金魚に因んでいるものようで、ロキと零時が覗き込めば可愛らしい金魚の形をしたゼリーが乗せられていた。
「わぁ終夜くんかき氷買ってきてくれたの? 流石甘いのに目がないね」
「わー、あんがとな空!」
 夏の最後といえば、これを食べなければ終われない。
 どこか満足そうな終夜からふたりも金魚鉢を受け取って、金魚市の端に避けた場所で肩を並べてかき氷を食べたなら‪。三人同時に襲いかかるかき氷の冷たさに、きーんと響くような頭を抑えて笑い合う。舌を出せばきっと、それぞれが食べたかき氷の色に染まっているのだろう。
「──おいしいね」
 甘くておいしいから、懲りずに食べては冷たささえも夏の思い出に。
 吹き抜けた風につられるように顔を上げれば、吊り下げられた金魚提灯たちも笑っているようだった。
「......わぁ、すごいきれい」
 風にたたびく尾が透けて、その向こう側に夜空が覗く。
 ちかちかと星の瞬く夜空を泳ぐ金魚たちを見上げれば、まるで自分たちまで金魚鉢の中にいるかの如く。美しい仄明かりを見上げた三人は、楽しい夏の終わりの思い出を目に焼き付けるように眺めては、思わずと感嘆の声を漏らすのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネージュ・ローラン
【旅人の軌跡】で参加。
ついにお祭りが始まりましたね。
皆さんと合流していっぱい楽しい思い出を作りますよ!
浴衣を着て、手には出店で買った金魚の提灯を下げています。

金魚のお祭りとなるとまずは金魚すくいでしょうか。
ゆっくりと落ち着き、狙った子の呼吸を読んで合わせることでタイミングを計りましょう。
その子とわたしのダンスのようなものです。
うまく掬えたら皆さんと見せ合ったりしましょうか。
この子はヒレが格好いいですし、こっちの子は目元がとてもカワイイです!

あとは大きな金魚鉢のかき氷も気になります。
カラフルな盛り付けにときめいてしまいますよ!
せっかくなので皆さんと一緒に分けたりしながら食べましょう。


宮沢・小鳥
【旅人の軌跡】※アドリブ歓迎
無事に戦いも終わって、みんなで金魚市にやってきたよー! 楽しみにしていたんだ! 今年作った浴衣を着て、お祭りを見て回るね!
みんな、浴衣、綺麗……かわいい! あたしも似合ってたら嬉しいな~!
みんなの金魚すくいを見て、あたしも挑戦してみる! ネージュさんもジョーカーさんもウィユちゃんもうまーい! リミティアさんとネーヴェさんはあたしと一緒に頑張ろうね! わーい、金魚、かわいい子が取れた! って、ジョーカーさん、金魚さんは食べちゃダメだよ!?
金魚鉢のかき氷、おいしそうだよね~! あたしも食べてみる! 金魚の飴細工、綺麗だよね~! 美味しいもの沢山食べれて、幸せ~!


ウィユ・ウィク
【旅人の軌跡】の皆さんと参加です!折角なので浴衣コンテストの時の甚平を着ていきます!

金魚すくいが初めての方もいるみたいです?コツを覚えると意外と簡単にすくえますよ!
ポイの面が水の力で破れないよう斜めに水へ入れたり、あまり高く持ち上げず水面近くで器に入れたり・・・口で言っても分かり難いです?
こんな感じでささっとすくうのです!(1つのポイで上手に何匹もすくっていく)

はしゃいだらお腹がすいてきちゃいましたね!・・・光る綿飴!?これは珍しいです!ボクはこれにします!(迷わず購入)
おおっ!金魚さんみたいな色に光っているのです!さっそく金魚さん綿飴を頂きます!(ほっぺたに付くのを気にせずめいっぱい頬張る)


ネーヴェ・ノアイユ
【旅人の軌跡】にて参加致します。
浴衣を着て遅ればせながらも皆様と合流しお祭りを楽しもうと思います。金魚すくい……。私は初めてゆえにまずはすくえるかですけれど……。和金と呼ばれる金魚様に興味がありますので頑張ってすくってみます……!何度もポイが破れ……。その度に新たなポイを購入し挑戦するということを繰り返し……。苦労の果てに一匹のとても元気な和金の金魚様をすくいあげます。

皆様とお食事の時間となりましたら……。不思議な綿飴も気になるところですが……。かき氷好きとしてはやはり金魚鉢のかき氷が気になりますので……。ローラン様の後ろをついていき私もかき氷を購入しようと思います。


リミティア・スカイクラッド
【旅人の軌跡】で参加
浴衣を着て更紗の金魚提灯を片手にお祭りを楽しみます

いろんな金魚が泳いでますね
せっかくですしリムはあの大きいやつを……む(ポイが破れた)
一筋縄ではいかなそうです。みなさんの掬い方も見て勉強しながら何度も挑戦します
ちょっとリムに掬われてくれませんか?と【魔女の異言】でお話したりもして
狙いの金魚をゲットできたらほっと一息です

それからお互いの成果を見せあいつつお食事です
リムは金魚の飴細工を。細かいヒレの形までよくできています
すこし食べるのが勿体なくなりますが……他の人のぶんも買ったり、逆にちょっと味見させてもらったり
それとみんなで掬った金魚用に、大きめの金魚鉢も買っていきいましょう


渡月・遊姫
【旅人の軌跡】で参加 合計6人 
オウガの人格・ジョーカーで参加 
浴衣を着崩して登場。 
金魚すくいに興味津々。へえ、これが金魚すくい。ほな、金魚いっぱいとろうか。 営業終了になるまで狩りつくしたるわ。 
連コインでひたすら金魚をたくさん捕りにいく。初めてだが徐々に上手になっていく、はず。
合流した後で金魚は食べられないということに気付く。
「ええ、金魚って食べられへんの!?」
合流した後はみんなとごはんや。金魚あかんかったから鯛焼きが食べたい。



「ついにお祭りが始まりましたね!」
 提灯の仄明かりに染まった道を振り返って、ネージュ・ローラン(氷雪の綺羅星・f01285)はひらひらと蝶のように揺蕩う帯の垂れ先を翻しながら、青い瞳をそうと細める。
 視線の先には合流したばかりの仲間たちがそれぞれ模様の違う金魚提灯を手提げていて、光を楽しむように提灯を揺らせば道を照らす明かりもふわりと移り変わっていた。
「みんな、浴衣、綺麗......かわいい! あたしも似合ってたら嬉しいな~!」
 金魚たちの模様が異なれば、纏う浴衣もそれぞれまったく違う色を見せる。
 柑子色の可愛らしい浴衣を見せるように宮沢・小鳥(夢見る雛・f23482)がくるりと回ってみせれば、茶染めの帯が上品さを醸した中にも牡丹の花飾りがよく映えていた。「もちろん、とて良くお似合いですよ」と微笑んだネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)もまた涼やかな浴衣の裾を払ってしずしずと歩いて、彼女たちが向かう先は向き合うように軒を連ねた屋台である。
 そうして歩くこと、しばらく。
 飴細工にかき氷、鼻腔をくすぐる甘い誘惑は数あれど、中でもまず初めに目に留まったのは金魚すくいだ。
「......いろんな金魚が泳いでますね」
 黒地に咲いた彼岸花が一際目を引く浴衣の袖が濡れないように押さえて、リミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は水槽を覗き込む。
 金魚たちが悠々と泳いでいる水槽は膝ほどまでの高さで、平たく並べられていることもあって上から覗けば金魚たちがよく見えるようだ。一匹一匹と異なる色や形をつぶさに見ようと膝を曲げて屈めば、お椀と紙ポイをさっそく購入したウィユ・ウィク(幸せの黒いキマイラ・f13034)が皆に手渡していく。
「金魚すくいが初めての方もいるみたいです? コツを覚えると意外と簡単にすくえますよ!」
「へえ、これが金魚すくい。ほな、金魚いっぱいとろうか!」
 渡月・遊姫(二重人格の殺人姫・f19443)も興味津々の様子で、ふんすと意気込んで見せれば。お椀と紙ポイが行き渡ったところで肩を並べて、彼女たちの金魚すくいチャレンジは一斉にはじまった。

 金魚すくいが初めての者も、そうでない者も。水に濡れていくうちに破れてしまう和紙にはその実力が如実に現れるらしい。
 その中でも特に手馴れているのはウィユのようで、金魚が逃げて破れてしまった紙ポイを手に肩を落としたネーヴェとリミティアに身を寄せて声を掛ける。
「ポイの面が水の力で破れないよう斜めに水へ入れたり、あまり高く持ち上げず水面近くで器に入れたりすると良いですよ。......っと、こんな感じでささっとすくうのです!」
 慣れれば容易いが、慣れるまでが至難の業。それが金魚すくいなのだろう。口で言う傍ら、言葉だけでは伝わりづらいと思ったウィユは手本のように紙ポイを滑らせる。
 まずは水を斬るように水面を撥ねて、次に手首を捻る動作で紙ポイを金魚の腹に潜らせて。最後には縁を使ってお椀へと流し込むといった軽い仕草でウィユがひょいひょいと紙ポイを動かせば、金魚たちはまるで飛び込むようにお椀に吸い込まれていった。
「わあっすごい。うまーい! リミティアさんとネーヴェさんはあたしと一緒に頑張ろうね!」
「頑張ってすくってみます......!」
 金魚すくいの良いところは、何度でも挑戦できることだろう。
 トライ&エラーを繰り返して、時折アドバイスをもらいながらも何度か試してみれば次第に手も慣れてくるものだ。少しずつ紙ポイの動かし方も分かってきたなら、あとはそう、タイミングの問題が大きい。
「ゆっくりと落ち着き、狙った子の呼吸を読んで合わせることでタイミングを計りましょう」
 ──その子とわたしのダンスのようなものです。
 欲張らずに、まずはただ一匹のみを狙っていけばいい。そう静かにネージュは告げて、ひと足先に宣言通りに金魚を捉えてみせる。それから後は、流れるように。
「......ちょっとリムに掬われてくれませんか?」
 なんて、泳ぎ回る金魚にお話したりもして。苦労の果てに、最後には手間取っていた小鳥、ウィユ、ネーヴェの三人もお目当ての金魚をすくうことに成功したようだ。
 お椀の中でゆらゆらと尾びれを漂わせる可愛らしい金魚が一匹ずつ、それぞれの違いを楽しむように持ち寄った彼女たちがくすくすと顔を見合わせ笑いあえば、その苦労を讃えるように金魚市は歓声と拍手に包まれていた。

「──ええ、金魚って食べられへんの!?」
「ジョーカーさん、金魚さんは食べちゃダメだよ!?」
 たくさんはしゃいだ後は、仲良く甘味巡りが待っていたようだ。
 金魚が食べれないことに愕然とした遊姫が「金魚あかんかったから鯛焼きが食べたい」と言はじめたことを皮切りに、それぞれが食べたいものを見つけては持ち寄っていくことにしたらしい。
 特に目立っていた大きな金魚鉢に山のように盛り付けられたかき氷は、爽やかなブルーハワイに金魚を模したカラフルなゼリーが飾り付けられているところがポイントだろう。
 きらきらと目を輝かせたネージュとネーヴェは迷いなくかき氷を選んで、小鳥も釣られて小さめの金魚鉢をひとつ。
「光る綿飴!? これは珍しいです! ボクはこれにします!」
 その傍らで、ウィユは綿飴を選んだようだ。
 金魚に因んだ猩々緋を初めとして、紅唐から流れるように丹色、柑子色まで。きらきらと不規則に光る不思議な綿飴を手に、細かいヒレの形までも精巧に再現している金魚の飴細工を手にしたリミティアも集まって、金魚市の端に設けられた食事スペースに陣取る。
「美味しいもの沢山食べれて、幸せ~!」
 楽しいお祭りのひと時は、みんなで過ごせばより楽しくて。美味しいものに囲まれれば自然と笑顔も溢れてしまう。
 そんな楽しい時間は、きっとあっという間に過ぎてしまうのだろう。けれど、だからこそ素敵な思い出と変わるのだと、彼女たちは持ち寄った甘味を分け合いながら小さな夜のひと時を過ごすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷雫森・レイン
【紫雨】
「暇そうだったし。貴方も私の我儘にはもう慣れたでしょ」
斜に被った狐面のモデルになった妖狐の友人には恋人が出来たという
なら邪魔をしないのが友としての選択
とはいえ折角今年用意してもらった浴衣を来年まで箪笥の肥やしにするなんて出来なかったから
「さ、お祭りが終わってしまう前に行きましょ。ほら、貴方は私の椅子なんだから」

量を食べられないから魅蓮の食べる物を分けてもらう形で楽しみましょう
それと
「金魚すくい、やってみたら?」
別に、飼う気がなければリリース…返してあげればいいのよ

本当は
今日連れてきたのは都合よく使う為じゃない
「金魚、綺麗だったわね。貴方の舞の参考にしてみたら?」
成長を促すのも妖精の役目


白寂・魅蓮
【紫雨】
金魚市…へぇ、こんなお祭りもあるなんてね
見渡す限り、どこもかしこも金魚が見えてなんとも不思議な景色だな。
それにしても君のほうから誘いをかけるなんて、珍しい日があったものだね?レインさん。
せっかく自前の浴衣まで用意してくれたんだし、楽しまないとね。
…はいはい、いつも通り君の特等席の肩は用意してあるさ。

屋台に売られた綿飴など食べてお祭りを満喫しよう
せっかくだからレインさんも色々と食べていきなよ

夜の中に浮かぶ沢山の金魚達…か。なんだかこういう景色を見ていると、今後の舞のお題になりそうだな。
そう思うとここについてきたのは正解だったのかも
…その時が来たら、君にもお披露目するとしようか。



「金魚市......へぇ、こんなお祭りもあるなんてね」
 空には鮮やかな猩々緋。幕のように空を覆うのは金魚の形を模した提灯たちで、素赤、更紗、猩々に丹頂をはじめとして背赤や六鱗まで、さまざまな模様を美しく見せようと灯された仄明かりが路を照らしていた。
 空を仰いだ白寂・魅蓮(蓮華・f00605)は、そのまま視線を提げても至るところで目が合う金魚たちに思わずと息を吐く。見渡す限り、どこもかしこも金魚が見える景色というのはなかなか不思議なものだ。
「それにしても君のほうから誘いをかけるなんて、珍しい日があったものだね?」
「暇そうだったし。貴方も私の我儘にはもう慣れたでしょ」
 景色を見渡すように走らせた視線はそのまま、目線の高さでふわりと宙に舞い上がった氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)を映す。
 側頭部に結ばれた狐面が落ちないように押し上げながら澄ました顔でレインがくるりとまわって見せれば、今年仕立てたばかりだという黒地に白い花を美しく咲かせた浴衣の裾がふわりと揺れるから、魅蓮は小さく笑った。
「せっかく自前の浴衣まで用意してくれたんだし、楽しまないとね」
「そうよ。さ、お祭りが終わってしまう前に行きましょ。──ほら、貴方は私の椅子なんだから」
 薄付いた水色が涼やかな妖精の羽が震えれば、音もなく。魅蓮の方に身を寄せるように腰掛けたレインにひとつ頷いて、歩き出す。
「......はいはい、いつも通り君の特等席の肩は用意してあるさ」
 どうぞ、心往くまま。ご自由に。
 僅かな重みにも慣れた肩を揺らさないように笑いを収めて、魅蓮は近場の屋台から順繰りに覗いていくのだった。

 屋台が連なる軒並みは、それぞれが金魚に模したものを並べていて非常に賑やかなものだ。金魚によく似た飴細工はもちろんのこと、金魚鉢のかき氷なども屋台によって様変わりしているのか食べ比べも楽しみ方のひとつとして人気らしい。
 その中でも食べやすい綿飴をひとつ選んだ魅蓮は、レインにも食べやすいように綿飴を肩に寄せて声を掛ける。
「せっかくだから、レインさんも色々と食べていきなよ」
「私は貴方のを分けてもらうだけで足りるわ」
 フェアリーであるレインから見れば、魅蓮が手に持つ綿飴さえ大きくひとつの入道雲のようだ。魅蓮の小指の先ほど、小さなひと口を齧ったレインは砂糖のほのかな甘みに舌鼓を打ちながらも、進む先に見えてきた屋台を指で差す。どうやら、金魚すくいをやっているらしい。
「──金魚すくい、やってみたら?」
 なんて、先へ先へと誘うのには、ちゃんと理由があった。
 本当は、今日連れてきたのは都合よく使う為じゃなくて。我儘だったかもしれないけれど、それだけじゃなくて。
「夜の中に浮かぶ沢山の金魚達......か。なんだかこういう景色を見ていると、今後の舞のお題になりそうだな」
 悠々と泳ぐ金魚たちを共に見下ろして、「そう思うと、ここについてきたのは正解だったのかも」と静かに笑う魅蓮にレインは小さな胸を張る。
 成長を促すのも妖精の役目──心に秘めた言葉は他でもない魅蓮のために、レインが決めたことなのだから。
「良いお題になりそうね」
「......その時が来たら、君にもお披露目するとしようか」
 その答えを聞けただけで、我儘を言った甲斐もあったというものだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
苺/f16654

わぁ!苺!金魚のお祭りだよ!
赤い琉金の提灯揺蕩わせ、紅い灯火に白の尾鰭を揺らす
宵の金魚鉢を泳いでるみたいだ
祭囃子に戯れるよう鼻歌口ずさみ
金魚市場を泳ぐ
苺、かき氷があるよ
金魚鉢にはいっててかわいいね
あっちは金魚飴だ!
綺麗な綿飴も
どれから食べよう――苺は全部制覇?

たくさん食べる姿は可愛らしくて微笑ましくて
君が笑う度に僕の心も花咲くように楽しさに満ちていく

ヨルも君に抱っこされて嬉しそうだ
抱っこしてくれてありがとう
金魚掬いに挑戦するよ!
いっぱい掬ってみせるんだから!

ぽちゃりポイを浸して
ひたすら金魚達に翻弄されて
むぅ……すくえない
えいやと破れる前の悪あがき
みて、苺!
やっと一匹すくえたよ!


歌獣・苺
リル/f10762
ほんとだ!りるくん!金魚さんのお祭りだね!
ゆらゆら揺れる白の尾鰭と同様に
自分の尻尾も自然とゆらゆら…♪
泳ぎ、鼻歌を奏でる
闘魚の声を聴き漏らさないよう
とてとて着いていく

かき氷に、金魚飴に、
きらきら綿あめ……
決めた!全部食べる!(ふんす!)
おねーさーん!
それ全部くださぁい!!

むぐむぐ…えへぇ、
おいひぃね、りるくん…♪
ん!りるくん金魚すくいするの?
それじゃあヨルししょーは
私と一緒にりるくんの応援ね!
(子ペンギンを抱いて)

頑張れりるくん!
…ああっ、惜しいっ!よぉし!
(自分の尻尾を水面近くでふりふりしながら金魚をおびき寄せ)

今だよりるくん!!!
わぁい!やったやったぁ!
おめでと~っ!!!



「わぁ、苺! 金魚のお祭りだよ!」
「ほんとだ、りるくん! 金魚さんのお祭りだね!」
 金魚の提灯明かりが幕の如く垂れた、猩々緋に照らされた空の下。
 赤い琉金の提灯をゆらりと水中のように揺蕩わせ、紅い灯火に白の尾鰭を揺らしてリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は頬を緩める。星の如く瞬いた明かりが尾鰭に合わせて揺らめけば、光さえも瞬きの間に表情を変えるようだ。
「宵の金魚鉢を泳いでるみたいだ」
 殷々と轟く鼓の音、鳥の鳴き声にも似た笛の音。鉦をあしらえば華やぐ祭囃子に戯れるようにリルが鼻歌を口ずさめば、肩を並べて歩く歌獣・苺(苺一会・f16654)の尻尾もいつの間にか自然と揺れていた。
 右へ、左へ。ゆっくりと揺れる尾はご機嫌そのもので、囁くほどの小さな声を聞き漏らさないようにしっかりと耳を傾けて、苺は耳に残る音を追いかけて着いていく。
 ふたりが歩むその道は、たくさんの屋台が軒を連ねた金魚市だ。小さいながら人混みも賑やかな市場を縫って進むようにするすると泳いでいくリルは、やがて目に留めた屋台を指で差す。
「苺、かき氷があるよ。金魚鉢にはいっててかわいいね」
「ふたりで食べても大きそうだね!」
「あっちは金魚飴だ! それから、綺麗な綿飴も」
 どれから食べよう、なんて小首を傾げて悩む傍らで、きらきら輝く綿飴のように煌めく赤い眼差しは、美味しそうな甘味たちを捉えて離さない。「苺は全部制覇?」なんて悪戯げに問えば、彼女が大きく頷くのはそう間もなくのことだった。
「決めた、全部食べる! ──おねーさーん! それ全部くださぁい!!」
 その勢いの、何とも潔いこと。
 両手いっぱいに抱えた甘味ひとつひとつを味わうように、たくさん食べる姿は可愛らしくも微笑ましくて。苺が満足そうに笑えば、その様子を見守るリルの心にも花が咲くようだった。
 そうして楽しさに満ちた、可愛らしい花が一輪。ひとつ心に咲き誇れば、またひとつと蕾が綻ぶように。ふたりはその次に金魚すくいの屋台を目に留めて、どちらともなく頷き合う。
「ん! りるくん金魚すくいするの?」
 ──それじゃあヨルししょーは、私と一緒にりるくんの応援ね!
 なんて、ふくらとしたお腹を包む金魚柄の帯が可愛らしい『ヨル』を腕に抱えた苺の声援を受けて。いっぱい掬ってみせると決意を胸に、リルは金魚すくいに挑むのだった。

「むぅ......すくえない」
 さてはて、その結果といえば。
 金魚すくいと一言でもなかなか難しく、薄い和紙で作られた紙ポイは水に濡れればすぐに破けてしまうものだ。小さな金魚の尾鰭であっても和紙を破くには充分なようで、リルは破れてしまった紙ポイを新しいものと交換して水面を見下ろす。
 悠々と泳ぐ金魚たちはこちらをまったく気にしていないようで、何とも言えない歯がゆさがあった。しかし、まだ諦めない。ふんす、と気合を入れるように紙ポイを水平に構えたリルの横で、苺も固唾を飲んで戦況を見守っていた。そして。
「頑張れりるくん! ......ああっ、惜しいっ! よぉし!」
 ここは連携だ! と身を乗り出した苺が自分の尻尾を水面近くで揺らしたなら、我関せずだった金魚たちの気を引くように右へ、左へ。やがて集まりだした金魚たちを前に、最後の悪あがきを叶える瞬間は訪れる。
「今だよりるくん!!!」
 えいや、と声に合わせて水を斬るように。縁を使って捉えた金魚を流し込むように、お椀の中へ移したなら。
「──みて、苺! やっと一匹すくえたよ!」
 金魚提灯によく似た、赤い琉金の小さな金魚が一匹。
 喜び合うふたりを祝福するように歓声と拍手が鳴り響いて、金魚市の夜は更けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

宵游ぐ提灯金魚が二つ
隣には柔く笑む大切な友の姿

キンギョはひらひらして可愛いね
櫻宵

櫻宵が買ってくれた金魚飴を勿体なさそうに舐める
甘くて美味しい
櫻宵が食べるかき氷を一口食べさせてもらうよ
冷たくて美味しいね
何という味なの?
気に入ったよ
カグラとカラスは光る綿飴に感激してる

櫻宵は金魚を掬うのが上手だね
掬うように『私』のことだって…なんでもないよ
無意識に零れた言葉に首を傾げて笑う
私はあの桜模様金魚をすくいたい
うちには一匹金魚がいるから
お友達に

いいの?櫻宵
黒出目金まで貰って嬉しくて堪らない

柔い朱に照らされて咲む櫻は美しい
心にまた彩が咲く

次は何を食べよう
何処に行こう
まだまだ私達の旅路ははじまったばかりだ


誘名・櫻宵
🌸神櫻

隣には楽しげに笑むカムイ
綻ぶ笑顔に私の桜も満開よ
心に灯ともすように金魚提灯に光灯しそぞろ歩く

不思議な光景もあなたと一緒だからいっとう特別
紅い灯火に照らされた銀朱の美しいこと

かぁいいお魚よね
私は金魚、好きよ

カムイ
かぁいい金魚の飴をみつけたから買ってあげる
私は金魚鉢かき氷
ソーダ味よ
気になる?はい、あーん
食べさせてあげる
涼やかで美味しいでしょう?

金魚すくい得意なのと胸をはる
四苦八苦するカムイが微笑ましくて
応援するわ
カムイの金魚のお友達に?
じゃあ私の大きな黒出目金もあげるわ!

隣同士、並んで歩いていこう
この夏はあなたに出逢えた…とびきりの季節
長い旅路ははじまったばかり

時を重ねて
彩っていきましょう



 宵口の路を游ぐ、提灯金魚が二つ。手提げた仄明かりが歩く度に揺らめいて、隣で柔く笑む横顔を照らす。ふわりと綻ぶような桜の花びらごと、視界の隅に納めては朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)は朱砂の彩を抱いた桜色の双眸を静かに細めて笑っていた。
 そのあまりに楽しそうな、笑顔といったら。釣られ花開く誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の桜はこの世の春の如く満開で、心にまで光を灯すようだった。
「キンギョはひらひらして可愛いね、櫻宵」
「かぁいいお魚よね。私は金魚、好きよ」
 空を覆わんと幕のように連ねた提灯が見せる、猩々緋の明かりも。その向こう側に見える夜空の煌めきも、華やぐ祭囃子の音色さえも。
 どんな不思議な光景もあなたと一緒だからいっとう特別だと、そう思えるのは紅い灯火に照らされた銀朱が美しく輝くからだろうか。ふくらと膨らんだ提灯金魚の頬を突いては小さく笑って、櫻宵は歩く先でやがて見えてきた飴細工の屋台に目を留める。
「カムイ、かぁいい金魚の飴をみつけたから買ってあげる」
 手のひらより小さな、それでいて精巧な作りの飴細工は手にしている提灯の金魚によく似ていた。
 ひとつ差し出せば勿体なさそうに舐めるカムイの隣で、櫻宵もすぐ近くで売られていた金魚鉢のかき氷に舌鼓を打つ。しゅわしゅわと弾けるような爽やかさは、青空のように涼やかな青色に相応しいソーダ味だ。
「それは?」
「かき氷よ。気になる? はい、あーん」
 ひと口含めば冷たくて、それなのにどこか甘くて。
 しゅわしゅわと溶けていく氷菓子の味がソーダ味だと知れば、カムイは「気に入ったよ」と唇の端に残る蜜まで舐めて微笑んだ。

 そうして、言祝ぐ桜纏う人形と三つ目の鴉が光る綿飴に気取られる傍ら。
 ふたりが次に訪れたのは、金魚すくいの屋台だった。膝ほどまでの平たい水槽の中を悠々と泳ぐ金魚たちを見下ろしたカムイと櫻宵は、肩を並べて挑戦することにしたようだ。
「金魚すくい得意なの」
「ほんとうだ、櫻宵は金魚を掬うのが上手だね」
 手渡されたお椀とすくい枠を慣れた仕草で水面に近付けて、瞬く間に狙い付けた一匹捉えて見せた櫻宵の手腕といえば、なるほど確かに得意らしい。感心するように頷いたカムイといえば反対に苦戦している様子で、四苦八苦するカムイを微笑ましげに見つめて櫻宵は応援する。
「掬うように『私』のことだって......なんでもないよ。私はあの桜模様金魚をすくいたい」
 視線の先で、ゆるりと優美な尾鰭を翻して揺蕩う金魚。既に家にいるのだという金魚の友達に、と言うもカムイの手の中には既に破れたすくい枠がふたつほど。和紙が綺麗に貼られたままのものは残るところ一本で、金魚すくいの難しさを物語っていた。
 けれど、経験も積めばいずれ感覚を掴めるものだ。四苦八苦を越えて、カムイがようやくとお椀に迎えた桜模様の金魚が寂しくないように、櫻宵は自身が掬った黒出目金そうと流して移す。
「じゃあ、私の大きな黒出目金もあげるわ!」
「いいの? 櫻宵の分も、友達が増えるね」
 仲睦まじく揺蕩う、金魚が二匹。
 透明な金魚袋を手下げたカムイと並んで、櫻宵は連れ添うようにゆっくりと提灯明かりに照らされた路を往く。ふと目と目が合えば、柔い朱に照らされて咲む櫻は美しく、カムイは心にまた彩が咲くのを感じながら、眩しげに目を細めた。
 そんな、小さな夜のこと。夏の終わりは近付こうとも、ふたりが出会えたとびきりの季節は終わることなく巡って、長い旅路はこれからも続いていくのだろう。
 ──次は何を食べよう。何処に行こう。なんて、始まったばかりの旅路と時を重ねて、その先までも彩るように。カムイと櫻宵はどちらともなく微笑みあって、空を游ぐ金魚たちのようにお祭りを最後まで楽しむのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
優樹さん(f00028)と

黒地に花咲く浴衣着て
金魚が照らす路を往こう
隣の微笑ましさに綻び乍ら

初めての浴衣はいかが?
僕はね、素敵だと思ってる
賛辞は伝えねばと忘れずに
返されたら視線は明後日に

飴なら容易く得られるが
僕らが狙うは掬う金魚だ
腕を捲りの、必ず成そう

とりどりの子が游いでるね
優樹さんはどの子を狙う?
僕は黒い魚が気になるな
真剣に眸追って、ポイ浸し
然れど、すいと逃げられて
矢張り貴方には才が、あっ
――紙が破けた!

どうやら網より脆いよう
膝付き悄気るも、再度挑戦
心強い応援と助言に頷いて
末に掬えれば、ポイ掲げ
歓声と拍手が心地良い…

金魚の名前、考えないとね
すっかり愛着の湧いた子眺め
ね、来年は大漁を目指そうか


萌庭・優樹
ライラックさん(f01246)と

初の浴衣は深緑に
勧めて貰った七宝柄
我ながらばっちりでは!?

すごくワクワクしてますッて即答
浮かれて転ばないようにしなくちゃ
素敵なお方の隣を歩けるんだから!
ねっ、て花の浴衣姿を見上げ

挑むは金魚掬い
おれは真っ赤なのを獲りましょう
断言憚らずポイ構え
狙って狙って…それっ
はッ、獲れました!うおお!見て!!

でも、小器をひらり泳ぐ裾に見とれてたら
勢い任せで狙った二匹目に敗北…!

ライラックさんの奮闘には胸熱く
動きをようく見るんですよっ、勝機は必ず!
ついに掬い上げた最後にはワッと歓声、拍手まで

お名前、つけたらぜひ教えてくださいっ
そして来年はもっと沢山を!
誓いあって笑いあえるのも幸せ



 黒地に花咲く小粋な浴衣を金魚の提灯明かりが照らす傍ら、華やかな七宝柄の浴衣の裾を切るように歩く萌庭・優樹(はるごころ・f00028)の足取りは軽い。
 お勧めの浴衣に似合いの帯と、ころんと涼やかに鳴る下駄の音。「我ながらばっちりでは!?」なんて思うも心の内から滲むようで、隣を歩くライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)と言えばそれは微笑ましそうに顔を綻ばせていた。
「初めての浴衣はいかが?」
「すごくワクワクしてますッ」
 身振り手振りと伝える優樹の柑子色に輝いた瞳が、無邪気に見上げるから。浮かれて転ばないようにしなくちゃ、と気合を入れる彼女にライラックもひとつ頷いて、しかし賛辞はしっかりと伝えねばと言葉を続ける。
「僕はね、素敵だと思ってる」
「がんばりました! だって、素敵なお方の隣を歩けるんだから!」
 間もなく返された曇りの無い眼は、ともすれば月よりも眩しいものかもしれない。
 褒めるは良くとも褒められればどこか気恥ずかしくなるもので、ふらりと明後日に向けられたライラックの視線に優樹は梟のように首を傾げてしまった。

 そうして明後日の先に見つけたのは、金魚すくいの屋台だ。
 これ幸いとライラックが屋台へ誘えば、ふたりは膝ほどまでの高さにある平たい水槽の前で並んでお椀と紙ポイを手に挑む。
 子供向けのかんたんな遊びに見えて、金魚すくいとは中々に難しいものだ。飴なら容易く得られるが、金魚はそうはいかない。薄い和紙で作られた紙ポイは水に濡れればすぐに破けてしまうし、小さな金魚の尾びれであっても和紙を破くには充分なものだろう。──しかし、だからこそやり甲斐があるとも言える。
「色とりどりの子が游いでるね。優樹さんはどの子を狙う?」
 必ず成そうと心意気を示すように、腕捲り。真剣な眼差しで金魚たちが泳ぐ水槽を見つめるままに、ライラックが問い掛ける。
「おれは真っ赤なのを獲りましょう」
「僕は黒い魚が気になるな」
 まず先に仕掛けたのは優樹だった。断言に憚らず紙ポイを水平に構えたなら、お椀を傾けて真っ赤な尾びれを揺らめかせた金魚を付け狙う。そうして、泳ぎが止まった一瞬の間。
「狙って狙って......それっ!」
 水平に構えていた紙ポイで水を斬るようにして、優樹は手首を捻る動作ですくい枠を金魚の腹に潜らせる。水の重さ、金魚の重さに和紙が負けるよりも早く縁を使ってお椀へと流し込めば──、
「はッ、獲れました! うおお! 見て!!」
「矢張り貴方には才が、あっ──紙が破けた!」
 勝者は空を見上げ、敗者は地を見下ろすと言うが、金魚すくいにもそれは適用されるのだろうか。方やお椀に吸い込まれるように捕らえた金魚を掲げて歓声を浴び、方や音もなく破けてしまった紙を見下ろして肩を落とす姿がそこにはあった。
 しかし、しかしだ。金魚すくいの良いところは何度でも挑めることである。
「動きをようく見るんですよっ、勝機は必ず!」
 勢い任せで狙った二匹目に破られてしまった紙ポイ片手に、優樹の声援がライラックの背中を押す。膝付き悄気るも、その助言に頷いたライラックが新しい紙ポイを手にもう一度挑めば──、

 長いようで短い、激闘の末。
 端が破けながらも縁を使った戦法が功を成して、狙いを定めていた黒い金魚がライラックのお椀の中でゆらゆらと尾びれを揺らしていた。
 聞こえる歓声と拍手が心地よく、にこにことご機嫌な様子を隠すことなくライラックは金魚を見下ろす。
「金魚の名前、考えないとね」
「お名前、つけたらぜひ教えてくださいっ」
 一線を交えてすっかりと愛着が湧いてしまった子が、間違いなくこの夜の思い出になるだろう。それぞれ透明な金魚袋に移してもらえば、それを手提げてふたりは金魚提灯が照らす路を往く。
「──ね、来年は大漁を目指そうか」
 なんて、まだ見ぬ未来を思って笑いあえる幸せを仄明かりと灯して。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シン・バントライン
アオイ(f04633)と

金魚提灯、金魚の浴衣、尾鰭の帯。
彼女は夜を泳ぐ金魚のようだ。
「そうやなぁ、金魚欲しいな、金魚」
彼女の瞳を見つめながら呟く。
自分の隣を歩む金魚は手を繋いでいないと、夜空を泳いで何処かへ行ってしまうのではないかとさえ思う。

金魚掬いは一度やった事がある。
大して上手くは無いけれど、彼女が喜ぶ顔が見たくて真っ赤な金魚を紙のすくいで追いかける。
最初は部屋で育てて、大きくなったら池に放そうかなんて細やかな未来を話してみる。
「きんちゃん、しゅーちゃんか…ええんちゃう」
金魚だって彼女が呼んでくれるならきっと何だっていいのだ。
名前も姿も香りも過去も。未来をくれるなら何だっていい。


アオイ・フジミヤ
シン(f04752)と

金魚の浴衣を纏って金魚のお祭りに
彼の目の中を泳ぐ金魚みたいに鮮やかに映ったなら
欲張りなそんな願いを抱いて

ねぇシン、真っ赤な金魚が欲しいな

右手に彼の手
左手に赤い金魚提灯で上機嫌
真っ赤な鰭がひらひら夜の帳を泳ぐ

金魚すくいにもチャレンジ
でも初めてで…紙だよ?濡れちゃうよ!?
騒いで笑ってシンにやり方を教えてもらいながら
真っ赤な小さな金魚を2匹連れて帰りたい
ふたりの場所で大事に飼おう

名前つけてあげたいなぁ、きんちゃん、なんてどう?
朱色だから、しゅーちゃん?

彼の紡ぐ未来が優しくて暖かかった
好きなものを共に慈しむ明日
同じものを見て笑う未来

今度のおやすみには飛びきり綺麗な金魚鉢を探そうね



 金魚提灯、金魚の浴衣、尾鰭の帯。
 紅唐の色に染まる視界で夜のように深い黒地に描かれた深緋の金魚はひどく目を惹いて、華やかな花飾りをしゃらりと鳴らしてアオイ・フジミヤ(青碧海の欠片・f04633)が振り返れば、彼女自身がさながら夜を泳ぐ金魚のようだとシン・バントライン(逆光の愛・f04752)には思えた。
「──ねぇシン、真っ赤な金魚が欲しいな」
「そうやなぁ、金魚欲しいな、金魚」
 眩しげに細められた青い目に、何より鮮やかに映っているのだと知れば彼女は笑ってくれるだろうか。同じようでどこか違う、海のように深い青色の瞳を見つめてシンは呟く。
 その間にも。シンの手は決してはぐれてしまわないように、アオイの手を離さず繋いでいた。そうでもしなければ、隣を歩む金魚はこのまま夜空を泳いで何処かへ行ってしまいそうだったから。
 真っ赤な鰭がひらひら夜の帳を泳ぐのを見ながら、その細くしなやかな指先を搦めて。赤い金魚提灯を左手に提げて上機嫌なアオイの手を引くように、シンは提灯明かりが照らす金魚市を歩いていく。

 ゆっくりと歩むふたりの足先が向いたのは、金魚すくいの屋台だ。お祭りとしてはやはり定番で外せないもののひとつであれば、この金魚市でも人気のひとつなのだろう。いくつかある屋台のうち、人混みの少ない場所で足を止めたシンは戸惑う様子のアオイに笑って店主からお椀とすくい枠を預かる。
「大丈夫やって、ほら」
「でも初めてで......紙だよ? 濡れちゃうよ!?」
 金魚すくいを一度やったことがあるシンは、彼女にもすくい枠を手渡しながら膝ほどまでの平たい水槽を前に腰を屈めて覗き込む。まずはやり方をと口頭で教えながらも見せる実践は大して上手くは無いけれど、それでも彼女が喜ぶ顔が見たくて。
 アオイが身に纏う浴衣によく似た真っ赤な金魚を追いかければ、すくい枠が破け切れる前にお椀の中へと金魚を追い詰めることが出来たようだ。
「シン、すごい! 尾びれまで真っ赤でかわいい子だね」
 手放しで喜ぶアオイもシンに教わりながら、なんとか捕まえた二匹の金魚。
 どちらも赤く可愛らしい素赤の小さな金魚は仲良く透明な袋に入れられて、目の前に掲げてみればくるりと互いに触れる近さで回転してみせては、ふたりの視線も意に介さずに悠々と泳いでいた。
「名前つけてあげたいなぁ、きんちゃん、なんてどう? 朱色だから、しゅーちゃん?」
「きんちゃん、しゅーちゃんか......ええんちゃう」
 最初は部屋で育てて、大きくなったら池に放そうか。なんて、倩と語る未来はやさししくて、あたたかい。
 金魚だって、他でもない彼女が呼んでくれるならきっと何だっていいのだとシンは分かっていたけれど、共に紡ぐ未来が心地良くて、どうしようもなくて。はぐれないようにもう一度手を繋ぎながら、アオイの言葉に相槌を打つ。
 未来はきっと、目に見えるものではないけれど。それでも、好きなものを共に慈しむ明日が尊いから、同じものを見て笑う未来を思ってふたりは微笑み合う。
 ──名前も姿も香りも過去も。未来をくれるなら何だっていい。
 そんな思いを、心に秘めて。
 いまはただ、歩くような速さで同じに道を往こう。
「今度のおやすみには飛びきり綺麗な金魚鉢を探そうね」
 ふたりで歩くこの道は必ず、いつかの未来に繋がっているはずだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サン・ダイヤモンド
【森】
祭囃子に胸躍らせ、くるくると跳ねるような足取りで竹林をゆく
ふわり、愛しいあなたが選んでくれた琉金の浴衣を揺らし
彼の言葉に嬉しそうに頬染めて

「ブラッドブラッド、すごいね!
あっちにも、こっちにも、金魚がたくさん!」
祭の景色にわあと瞳輝かせ、逸る心は奥へ奥へと誘われて

あなたの声に振り向いて
「行こ!」笑顔で手を繋ぐ

「ブラッド見て見て、本物の金魚だ!
飼ってもいいの?」
初めて見る本物の金魚とまさかの許可にじっと水の中を見る

店主にやり方を教わり狙うは大きな黒い出目金
でも何度やっても失敗で、耳も尾もしょんぼりと
「も、もう1回だけ…!
優しく、そーっと、そーっと…」
漸く成功、あなたへ向けてぱあと幸せの花開く


ブラッド・ブラック
【森】同行サン、自身は甲冑姿

「思った通り、よく似合っている」

白に映える赤の彩
宙を游ぐ様な金魚の羽織
幻想的な灯りに照らされて楽し気に前を行く白いサンは
いつも以上に美しく、夢のようで

非日常の空気と祭囃子
酔いそうな人混みの中をスルスルと抜けていく儚いお前は
動もすれば神に気に入られ
そのまま連れ去られてしまうのではないかと―

「サン」
途端寒気がして呼び止め
逸れてはいけないからと手を繋ぐ

「掬えたら飼っても良いぞ」
一生懸命なサンを微笑ましく見遣り
俺は白に紅の可愛らしい金魚を狙う

意外にも自分から飛び込む様に掬われてくれた
嗚呼、やはりサンに似ている
本物のサンは「…大丈夫か?」

愛し子の笑顔に俺の胸にも幸せの花が咲く



「思った通り、よく似合っている」
 心のままにそう告げたのは、祭囃子に胸躍らせ、くるくると跳ねるような足取りで竹林をゆく姿がいつも以上に美しく見えたからだ。
 殷々と轟く鼓の音、鳥の鳴き声にも似た笛の音。鉦をあしらえば華やぐ祭囃子も今はどこか遠く、ふわりと視線の先で揺れた琉金の浴衣を追いかけてブラッド・ブラック(LUKE・f01805)は目を眇める。
「ブラッドブラッド、すごいね! あっちにも、こっちにも、金魚がたくさん!」
 白から赤へと流れる尾鰭のような裾を翻したサン・ダイヤモンド(apostata・f01974)は嬉しそうに頬を染めながらも、祭の景色にわあと瞳を輝かせている。その白に映える赤の彩が幻想的な灯りに照らされる様が、夢のように思えてならない。
 非日常の空気と祭囃子の中で小さく息を吐いて、ブラッドは少しだけサンの後に続くように歩いていた足を早める。離れないように、離さないように。
 そうでもしなければ、酔いそうな人混みの中であってもスルスルと抜けていく儚い後ろ姿が、動もすれば神に気に入られ、そのまま連れ去られてしまうのではないかと──「サン、」そう思わず声を漏らしたのは、きっと無意識だったのだろう。
「ブラッド?」
 振り向いた彼が、花のように笑うから。
 自身が声を掛けていたことにそこで気付いて、ブラッドは寒気を押し退けるように手を伸ばした。逸れないように、消えてしまわぬように。
「──共に征こう」
 笑顔で応えたサンの手を引いて、ブラッドは金魚提灯が照らす路を歩いていく。
 繋いだ手のひらのぬくもりを感じれば、背筋を凍らすほどの寒気を感じることはもうなかった。

 そうして人混みに流れることなく、ゆっくりとした足取りで金魚市を楽しむ中。ふたりが目に留めたのは金魚すくいの屋台だった。
 膝ほどまでしかない平たい水槽の中で、行き交うひとびとなど気にすることもなく悠々と泳いでいる金魚たちを見下ろしたサンがブラッドの手をそっと引く。
「ブラッド見て見て、本物の金魚だ! 飼ってもいいの?」
 初めて見る本物の金魚が目新しく映ったのだろう。よくよくと見れば同じ金魚でも色味や形が異なることを知って、より目を輝かせたサンにブラッドは鷹揚と頷いてみせる。
「掬えたら飼っても良いぞ」
 店主から受け取るお椀とすくい枠を手に、挑戦してみるのも良い思い出になるだろう。水槽を前に肩を並べたふたりは、やり方を教わりながらも金魚をじっと見つめて狙う金魚を定めていく。
 ブラッドが狙うことにしたのは、一番初めに目に留まった白に紅の可愛らしい金魚だ。サンによく似た琉金の金魚を狙ってすくい枠を構えつつ、近くにお椀を傾けたら水を斬るように金魚目掛けてすくい枠を潜らせる。
「──嗚呼、」
 和紙が破れてしまうかと思うも束の間。
 意外にも自分から飛び込む様に掬われてくれた金魚が、やはりサンに似ている。なんて、笑むように息を吐いたブラッドだったが、しかし反対に当の本人は上手く行かなかったらしい。
 見事に破れてしまったすくい枠を手にしょんぼりと耳と尾を垂らしたサンは、笑って新しいすくい枠を寄越した店主に甘えてもう一度と意気込む。
「も、もう1回だけ......」
 優しく、そーっと、そーっと。
 狙いを付けた大きな黒い出目金が逃げてしまわないように、一瞬の好きを狙って──そして、ぱしゃりと尾びれが跳ねたなら。
 手にしたお椀の中で優雅に泳ぐ黒い出目金をブラッドに見せて笑う笑顔の、なんとも無邪気なこと。幸せの花が開くように笑いかけるサンに己の胸にまでも幸せの花が咲くようだと、ブラッドは無骨な手のひらでやさしく琉球の金魚を出目金が泳ぐお椀の傍らへと添わせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
ティア(f26360)と

燿く竹林を超えて
祭囃子と共に視えた彩溢る魚達
ティア、見上げてみて
金魚が涼やかに游いでる
星はマリンスノー、宵空は紺碧の海で
揺れる尾追い掛け眸も瞬く

人集りを避け喧騒から離れた竹林の脇道へ
そっときみの手を引いてシィ、と内緒の人差し指
靜かな処で共に寄り掛かり金魚達を仰いで
ティアはどれが好き?
俺は…あれ、更紗に似てる桜錦みたいな淡い色
鰭が可愛いんだよね
本当だ、黒曜も夜色と混じって格好良い

思い出したように
愛らしい薄桃金魚の飴細工を取り出し
彼女の口元へ
少し似ていたからティアにあげたくて
自分もぱくり飴を頬張り
間接きす?…甘いねって咲み
きみの唇を指先で触れて

二人で口の中も綻び溶けてゆく


ティア・メル
千鶴(f00683)と

どこか甘い香に胸が躍る
んふふ、なーに?
わわっ綺麗!
ちらりと覗き見た君の横顔が負けじと綺麗だから
もっともっと嬉しくなっちゃうのはきっと仕方ない話

星にも夜空にも金魚にも手が届きそうに思えて
伸ばしてみても擦りもしない
少しだけ寂しいゆびさきには君の熱
そっと絡めて笑みが咲く

ちーくん、ありがとう
一緒にしぃっとゆびを立てよう

こてりと体を預け合って
君の声に浸る
視界いっぱいに広がる幻想的な光景
伝わる温度
しあわせー
ぼくはね、あれがすき
桜錦の隣を游ぐ黒曜の鰭がかっくいーよ


いいの?ありがとね
あーんっ
手ずから食べさせて貰ったなら
もう一口は君の口元へ
間接ほにゃららだねっ

甘い余韻がそっと滲む



 燿く竹林を道なりに、一際眩い竹の緑門を通り抜けたならその先で祭囃子と共に視えた彩溢る魚たちに、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)は紫色の目を眇めて足を止めた。
「ティア、見上げてみて」
「んふふ、なーに? ......わわっ綺麗!」
 どこか胸の奥をくすぐるような甘い香りは、綿飴が運ぶ砂糖の匂いだろうか。金魚を模した飾りで彩られた金魚市を見渡していたティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)は、千鶴の呼び掛けに気付くとふわりと海月のようにゆるやかな仕草で振り返る。彼の指先が示す先を見れば、そこには空を覆うほどの提灯飾りたちが風に揺れていた。
 和紙で作られた尾びれを風に遊ばせている様はまさに金魚が涼やかに游いでるようで、だとすれば星はマリンスノー、宵空は紺碧の海だろうか。
「うん、綺麗だ」
 揺れる尾追い掛け眸も瞬けば、星を映したその色もきらきらと煌めくようで。
 ティアがちらりと覗き見たその横顔は宵空に負けじと綺麗だったから、隣を歩くうちに嬉しさは募って、長い袖先で隠した口元がゆるゆると綻んでしまったのも、きっと仕方のない話だろう。

 そうして歩く、ふたりの小道。
 お祭りの人通りを避けて喧騒から離れれば、視線と竹林脇道へと逸れていく。それでもはぐれてしまわないようにと手を引いたなら、千鶴は唇に置いた人差し指で「......シィ、」なんて内緒話を囁くように小さく微笑む。
「ちーくん、ありがとう」
 ここまで来れば、きっと静かにこの夜を楽しむことが出来るだろう。
 一緒にしぃっと指を立てて、靜かな処で肩を寄せ合ったままどちらともなく金魚たちを仰いでみれば、星にも夜空にも金魚にも手が届きそうに思えて。言葉もなく、ティアはそうと空に向かって手を伸ばす。
 けれどやっぱり、伸ばしてみても擦りもしないから。ティアが小さく息を吐いて手を下ろせば、少しだけ寂しいような気持ちでさまよう指先にほのかな熱が触れた。
「ティアはどれが好き? 俺は......あれ、更紗に似てる桜錦みたいな淡い色。鰭が可愛いんだよね」
 素知らぬ顔で囁く声に浸れば、伝わる温度が寂しさまで溶かすようで。ふふり、と小さな笑みを零してティアはそのままこてりと千鶴と体を預け合う。
 しあわせだと確かに感じるぬくもりに、視界いっぱいに広がる幻想的な光景をようやく心の底から楽しめた気がした。
「ぼくはね、あれがすき。桜錦の隣を游ぐ黒曜の鰭がかっくいーよ」
「本当だ、黒曜も夜色と混じって格好良い」
 そして、ふと思い出したように千鶴は懐から屋台で売っていたという飴細工を取り出す。愛らしい薄桃色の金魚は頭から尾びれまで精巧に表現されていて、提灯明かりに照らされば艶々と輝くようだ。
 そのやわらかな色が、どこか似ているように思えたから。千鶴は自身が食べるよりも先にティアの口元へと飴細工を運ぶ。
「いいの? ありがとね。あーんっ」
 どこか甘酸っぱいような、程よい酸味と舌に残る甘さが丁度良い。手ずから食べさせてもらったなら、もうひと口を返すように千鶴に差し出して「間接ほにゃららだねっ」なんて、ティアはくすぐったそうに微笑む。
「──甘いね」
 飴が溶けゆく柔らかな温度と、指先に残る熱。
 そっと滲むような甘い余韻に身を寄せあうふたりを、金魚提灯の仄明かりがやさしく照らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【対照】
そんじゃさっきの冗談の続きを――いやアレは言葉の綾でオレは本気――ねぇお願い構って?
くっ、金魚に夢中で眼中にないってか!
あっソレなら迷子防止に手を繋ぐとかさ~!
…ハイゴメンナサイ、良いコについてくヨ

金魚掬いな~
オレは結構得意な方だケド――(器用に黒を一匹掬ってみせつつ)金魚は手に入っても、な?
肝心の存在が捕まってくれなくて参るというか、春のが余程手強いと思うヨ?(ウ~ンやっぱ眼中にない~!)

…?お、どーした急に?
ホント大丈夫だって
そりゃまぁ時々ふらっとしたりはするケドさ~

逸れやしない
見失いもしない
(闇を晴らす祭の灯の様に
或いは泥中の蓮の様に
翳も淀も照らす様な思い出と仲間が在るから――)


永廻・春和
【対照】
(華やぐ金魚提灯に目を細め、軽い戯言は聞き流し)
――またふらふらと、迷子にならないでくださいね?
幼気な童子なら兎も角、貴方様を甘やかすつもりは御座いませんので(すっぱり)

ところで呉羽様、金魚掬いの腕は如何でしょう
折角ですので私も一匹お迎えしたいのですが、如何にもまだ修行が足りぬ身で…
(早業に少し見直した様な目を向け、何とか倣おうと金魚を見つめ直し――続く戯言は最早耳にすら届かぬ模様)

(何とか紅の子を掬い漸くまた顔をあげ、ふと)
本当に、ふらりと消え去らないでくださいね――私は、信じておりますから
(小さく笑み咲かせ、再び揺るぎない眼差しで見据え――どうか彼の道行にも花と灯が絶えぬようにと)



「そんじゃさっきの冗談の続きを──、」
 夜も祭りに華やぐ、金魚提灯に照らされた明るい道を歩く永廻・春和(春和景明・f22608)の後ろや横を絡むように動き回るのは呉羽・伊織(翳・f03578)だ。その一切合切を聞き流すが如く金魚提灯を眺めてやわらかに目を眇めた横顔に、伊織は尚も言い募る。
「いやアレは言葉の綾でオレは本気──ねぇお願い構って? くっ、金魚に夢中で眼中にないってか!」
「......またふらふらと、迷子にならないでくださいね?」
「あっソレなら迷子防止に手を繋ぐとかさ~!」
「幼気な童子なら兎も角、貴方様を甘やかすつもりは御座いませんので」
 きっぱり、すっぱり。鮸膠もない。
 右へ左へと春和の視線を追うように彷徨くも、つんと顔を逸らして足を早めた様子に駄目押しと声を上げたところで効果は薄く「......ハイゴメンナサイ、良いコについてくヨ」と肩を落とした伊織はしょんもりと哀愁漂う背中で春和の後ろを良い子に着いていくのだった。

 そんな温度差が激しいふたりも、お祭りの楽しみ方といえばやはり定番の金魚すくいは捨て難い。大人にもなれば膝ほどまでしかない平たい水槽を前に足を留めたのは春和で、後ろを振り返ることなく問い掛ける。
「ところで呉羽様、金魚掬いの腕は如何でしょう」
「金魚掬いな~」
「折角ですので私も一匹お迎えしたいのですが、如何にもまだ修行が足りぬ身で......」
 相槌を打ちながらするりと脇を通り抜けて、水槽の前に屈む伊織の背中。慣れた仕草でお椀とすくい枠を手にすれば、貼られた和紙が濡れることも恐れず水槽の中に潜らせる。
「オレは結構得意な方だケド......」
 ──金魚は手に入っても、な?
 なんて、口に出した傍から器用に黒い金魚を一匹を掬いあげて、お椀の中へ。場を移しても変わらず悠々と泳ぐ金魚を見下ろして溜め息を吐いて見せれば、伊織は屈んだままちらりと春和を見上げる。けれども。
「肝心の存在が捕まってくれなくて参るというか、春のが余程手強いと思うヨ?」
 視線の先の春和といえば、早業に少し見直した様な目を向けていたのも束の間、何とか倣おうと金魚を見つめ直すまでが早く、伊織の言葉はもはや耳にすら届いていなかったようだ。
 やはり眼中にない、と大袈裟に肩を落とした伊織もよそに、春和も金魚を掬うべく膝を屈めて新しいすくい枠に手を伸ばす。
 ──それから何程、時間が経っただろうか。
 四苦八苦の末、なんとか狙いを付けた紅色の金魚を掬いあげた春和はようやく水槽から顔を上げて、ふと呟く。
「本当に、ふらりと消え去らないでくださいね──私は、信じておりますから」
 小さく笑み咲かせ、再び揺るぎない眼差しで見据えて。
 どうか彼の道行にも花と灯が絶えぬようにと祈る。その花のように凛と、それでいてやわらかな春和の瞳が伊織の目を見るから。目が瞬くほどの刹那、変わらず伊織は笑みを浮かべて応える。
「ホント大丈夫だって。そりゃまぁ時々ふらっとしたりはするケドさ~」
 逸れやしない。見失いもしない。
 その言葉だけは、戯れでもなく真っ直ぐなものだ。
 水槽の前から立ち上がった伊織は、明るく照らし続ける金魚提灯を仰いで静かに目を伏せる。
 きっと、その闇を晴らす祭の灯の様に。或いは泥中の蓮の様に。翳も淀も照らす様な思い出と仲間が在るから──どこまでも往けるのだと伊織もまた、信じている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クレア・オルティス
アドリブOK

お祭りは楽しいな…
浴衣に身を包み、下駄をカランコロンと鳴らしながら歩く
携えた色鮮やかな金魚提灯がゆらゆら揺れる
こうして眺めるだけでも楽しいって思う…
でも…せっかく来たのだから、何かお土産の一つでも買おうかな
よし、露店を巡ろう!

何がいいかな…そうだ!動物に变化できるアイテムが欲しい!ほら、狸さんが变化の時によく使う葉っぱみたいな…あるかな?できれば手首にはめられるような物がいいなぁ…リボンとか
え?イタズラに使ったりしないよほんとだってば…!
動物になってね、陽のあたる場所で日向ぼっこをしてみたいんだ…!变化するとしたら…犬…兎…猫……うん、やっぱり猫がいいな!



「お祭りは楽しいな......」
 からん、ころん。
 涼やかな音を奏でる下駄を惜しげもなく鳴らしながら歩いて、クレア・オルティス(天使になりたい悪魔の子・f20600)は黒地に臙脂色が雅やかな浴衣の袖を降る。手提げた先でゆらゆらと揺れているのは、色鮮やかな金魚提灯だ。仄明かりが揺れる度に長めに取られた尾びれのような和紙もひらひらと風に遊ぶようで、クレアは静かに微笑む。
 こうして眺めているだけでも、充分に楽しいものだ。けれど耳に届く祭囃子がもっともっとと誘うようで、手元の提灯から顔を上げたクレアはちらりと屋台に視線を向ける。
「......でも、せっかく来たのだから、何かお土産の一つでも買おうかな」
 ──よし、露店を巡ろう!
 一度決めてしまえば、後は早く。
 からころと鳴る音は間隔を早めて、クレアは屋台に吸い込まれていくのだった。

 小さな屋台ながら、土産屋らしく所狭しと並べられた商品の数は多い。置物のようなものから、お皿やお箸、はたまた何かのメダルのようなおもちゃまで。その端から端までを吟味するように見渡していたクレアに屋台の店主が声を掛けたのは、売り子としては当然の流れだったのだろう。
「お嬢さん、何をお探しだい?」
「え、えっと。何がいいかな.....そうだ! 動物に変化できるアイテムが欲しい!」
 例えばそう、狸の妖怪が変化のときに使うような。
 あるかな、とおそるおそる首を傾げたクレアに店主の女は笑って棚を差す。
「ああ、あるとも。どろんはっぱは人気のアイテムだからね」
「できれば手首にはめられるような物がいいなぁ......リボンとか、」
 棚に置かれていたものは一見ただの葉っぱのようで、どうにも味気ない。狸たちからしてみればその葉っぱの色や形、お気に入りとする何かがあるのかもしれないけれど、失くしてしまいそうなところも今ひとつだ。
 店主を伺いながらクレアが悩むように頭を捻れば、しばしの間。奥からがさごそと小さな箱を持ってきた店主はクレアにも見えるように箱を開けていく。
「リボンとまでは行かないが、これなんてどうだい?」
 そこに入っていたのは、葉っぱで作られたような可愛らしいブレスレットだった。「それにします!」と間髪入れずに頷いたクレアはそうして、お土産ひとつ手に満足そうに微笑む。
「まいどあり。悪戯にでも使うのかい?」
「え? イタズラに使ったりしないよほんとだってば......!」
 揶揄するような声に慌ててかぶりを振って、動物に変化して日向ぼっこをしてみたいと小さな夢を語るクレアの瞳は、金魚提灯にも負けないほどきらきらと輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リグ・アシュリーズ
カーくん(f01967)と夜市めぐり!
屋台をめぐって、いろんな食べ物を楽しみたいわ!

手はじめにわた飴、色の違うのを二人分買って半分ずつ。
わ、ホントだ、光ってる!
金魚鉢のかき氷は、せっかくだし赤のイチゴシロップで!
ひんやり夜風にほっぺが冷たいけど、目を瞑りながら耐えて味わうわ!

金魚の飴細工は、赤と白のぱっきり分かれた模様の子を。
きれい……更紗模様、っていうのね?
彗星みたいなしっぽの子と迷うけれど、私この子をお迎えするわ!
カーくんの選んだ黒い子も、おめめがユーモラスで。
ね、どうしましょ。かわいすぎて食べらんない!

写真、ナイスアイディア!
せっかく来たんだし、私たちもお店の方に撮ってもらいましょっか!


カー・ウォーターメロン
リグさん(f10093)と一緒に。

光るわたあめ! キラキラきれいなんだよー。
あっちもこっちも目移りしちゃう。でもかき氷も食べたいからうーんうーん……
選べなくて困ってたから、リグさんの提案が嬉しいんだよ。
えへへ、はんぶんこ!
かき氷は何味があるかな? UDCには無い味とかあったら食べてみたいな。
溶けないうちに食べるよ。ひゃー、きーんってするんだよー。きーん。

更紗、きれいだね。ボクはいつもお祭りで掬えない黒くてまぁるい子にしようかな。
キラキラ金魚さん、飴? 食べれるの?
……どうしよう、もったいないね?!
んーと、えっと……写真撮っておこう!
食べ終わったかき氷の鉢に飾って、ぱしゃって。



「光るわたあめ! キラキラきれいなんだよー」
「わ、ホントだ、光ってる!」
 屋台巡りは端から端まで、お腹がいっぱいになるまで。
 いろんな食べ物を楽しみたいと逸る心でまずはじめに手にしたのはぴかぴかと光る不思議な綿飴で、カー・ウォーターメロン(マンゴーフレイム・f01967)が歓声を上げればそれを覗き込むようにリグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)もくるりと手の中で綿飴を回して、綿飴にも負けないくらいに目を輝かせる。
「あっちもこっちも目移りしちゃう。でもかき氷も食べたいから、うーんうーん......」
「じゃあ半分こ、しましょっか!」
「する! えへへ、はんぶんこ!」
 ひと口含めばふわふわと雲のように下の上で溶けて、瞬く間に消えていくだろう。色違いをひとつずつ買えばそれさえ楽しむように半分こしたふたりは、ぱくぱくと端から食べ進めて最後には光る綿飴の正体を見た。普段であれば割り箸出るところんk綿菓子棒が、お祭りらしいライト仕様になっていたらしい。
「かき氷は何味があるかな?」
 UDCには無い味とかあったら食べてみたいな、なんて言っても定番も外せない。イチゴ、メロン、ブルーハワイにレモン。謎が謎を呼ぶハテナマークの味も気になるけれど、リグはイチゴシロップを選ぶことにしたらしい。さっそくと注文を済ませれば、目の前で大きな金魚鉢に盛られていくかき氷の山と、その上から掛けられたイチゴシロップが華やかだ。
 最後には金魚を模したゼリーも添えて、差し出された鉢を受け取ってさっそくスプーンでぱくり。
「つめたーい!」
 ひんやり夜風にほっぺが冷たい。甘さと冷たさが同時に襲いかかる不思議な気分に頬を押さえて目を瞑りながら味わえば、それこそが夏の醍醐味というものだろう。
「ひゃー、きーんってするんだよー。きーん」
 溶けないうちにスプーンを進めれば、次第に襲い掛かるのはこめかみに刺すような鋭い冷たさだ。ほっぺの冷たさとはまた違った刺激にカーがお面のような顔の横を押さえれば、リグは笑って、それから自分もかき氷の冷たい刺激に慌ててこめかみを押さえるのだった。

 そうして歩く道すがら、寄り道もすべて楽しんだふたりが最後に足を向けたのは飴細工の屋台だ。色とりどりの金魚たちの姿かたちを精巧に表現した飴細工は見るだけでも楽しくて、リグは思わずと感嘆の息を吐く。
「きれい......更紗模様、っていうのね?」
 赤と白のぱっきり分かれた模様の、可愛らしい金魚が一匹。
 更紗と書かれた名札と交互に見比べて、試しに手に取ってみれば提灯明かりに照らされた飴細工は艶々と煌めくようだ。その頭から尻尾、胸びれの繊細な流れから背中の鱗までをじっくりと眺めたリグは大きく頷いて、肩を並べたカーにも見せる。
「彗星みたいなしっぽの子と迷うけれど、私この子をお迎えするわ!」
「更紗、きれいだね。ボクはいつもお祭りで掬えない黒くてまぁるい子にしようかな」
 同じくして、カーが選び取ったのは出目金を模した飴細工のようだ。ふくらと膨らんだ目のはもちろんのこと、どこかまるまるとした印象を受けるフォルムも目に可愛らしく映って、カーは満足そうにひとつ頷いた。
 けれど、「ね、どうしましょ。かわいすぎて食べらんない!」といえば驚いたように飴細工を見下ろして、慌てて屋台に視線を向ける。そう、なんと食べられます。店主が頷けばカーの鬣のように見事な緑色の髪が驚愕に逆立っていく。
「キラキラ金魚さん、飴? 食べれるの? ......どうしよう、もったいないね?!」
 おろおろと手元屋台を見比べること、しばらく。
 カーは意を決したように出目金の飴細工を見つめて、それからリグに告げる。
「んーと、えっと.....写真撮っておこう!」
 飴細工は、食べてしまえはお腹の中の消えれしまうけれど。きっとそうすれば、思い出の中にいつまでも残るから。「ナイスアイディア!」と笑ったリグとカーがせっかくだからと身を寄せ合えば、店主は快くふたりと飴細工の写真と撮ってくれた。
「ふふ、よく撮れてるわね!」
 思い出ふたつ、それは心の裡と手のひらの中に。
 綺麗に撮れたという写真を見てリグとカーが笑い合えば、金魚鉢に飾られた飴細工もからりと音を立てて笑っているような気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と

金魚市は、初めてじゃ
せーちゃんは?
金魚釣り…とも思うんじゃけど釣っても世話するんがな
~って、はやい…!いつの間に…!

…金魚鉢かき氷じゃと?
せーちゃん、わしあれがええ
かき氷をみたら勝負せねばいかんのじゃ…!

ぐぬ、あ、頭にキーンと…!
せーちゃんは涼しい顔よの…やはり箱じゃからか
あとちょっとになってから猛威を振るうキーンに負けそうじゃが、今日は勝つ…!(ふんふんと尻尾振らしながら食べる)

かき氷は手強い相手じゃった…
留守番のこんこんとメメになんぞ土産でも探そかの
折角じゃし金魚の提灯にしよかな
尾鰭がかっこええやつ探そ
ふふ、せーちゃんの甘いもの探しにももちろん付き合お


筧・清史郎
らんらん(f05366)と

金魚市か、俺も初めてだな
本物の金魚さんは世話を確りしなければだが
甘い金魚さんならばその点は問題ないぞ、らんらん
(いつの前にか金魚飴細工と金魚カラーな不思議な綿飴を手に微笑む超甘党

ほう、金魚鉢かき氷か、良いな
沢山シロップをかけて貰えたら嬉しい
ふふ、では勝負を挑もうか

やはり甘い物は良いな(涼し気上品な所作で難なく食べ進めつつ
キーンとは…どうやればなるのだろうか(一度体験してみたい箱
今度こそらんらんがキーンに負けぬよう俺も応援しているぞ
らんらんならできる(微笑み
おお、らんらんのふわもふ尻尾が(じー

土産か、提灯は良いな
俺もひとつ買っていこうか
あとはやはり、甘いものだな(微笑み



「金魚市は、初めてじゃ。せーちゃんは?」
「金魚市か、俺も初めてだな」
 殷々と轟く鼓の音、鳥の鳴き声にも似た笛の音。鉦をあしらえば華やぐ祭囃子と、鮮やかな猩々緋の幕が空を覆う賑やかな金魚市。どこを見ても金魚に因んだものと思われる飾りが施されているのはもちろん、中でも目に付くのは金魚提灯だろう。
 風に揺れてたなびく金魚提灯の尾びれを見上げたのは筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)で、振り返ることなく問いかければ同じように空を仰いだ終夜・嵐吾(灰青・f05366)も頷いていた。どうやらふたりとも、金魚市に訪れるのははじめてだったらしい。
「金魚釣り......とも思うんじゃけど、釣っても世話するんがな──って、」
「本物の金魚さんは世話を確りしなければだが、甘い金魚さんならばその点は問題ないぞ、らんらん」
「はやい......! いつの間に......!」
 ゆっくりとした緩慢な仕草で振り返った清史郎の手には、いつの間に買ったのか金魚を模した飴細工とぴかぴか光る不思議な綿飴。既に金魚市を満喫していると言っても過言ではない姿に嵐吾は慄いたように目を丸くするのだった。
 ──とはいえ、金魚市の目玉は飴細工と綿飴だけではない。
 少し歩けばすぐに金魚すくいの屋台や、涼し気な金魚鉢を飾った屋台も見えてくるだろう。清史郎と嵐吾もそれをしっかりと目に留めたようで、金魚鉢にもりもりと盛られていくかき氷の山を見て足を止める。
「......金魚鉢かき氷じゃと? せーちゃん、わしあれがええ」
「ほう、金魚鉢かき氷か、良いな」
「かき氷をみたら勝負せねばいかんのじゃ......!」
 ふふ、では勝負を挑もうか。なんて。
 負けられない戦いが、そこにはあったのかもしれない。多分、おそらく。

「ぐぬ、あ、頭にキーンと......!」
 大きな金魚鉢に山のようなかき氷に、たくさんかけてもらった青いシロップ。ブルーハワイの爽やかな味に、しゅわりと弾けるソーダ味のゼリーは金魚の形を模していた。
 山を崩すように食べ進めるのもしばらく、かき氷の冷たさは時間差で襲ってくるのだろう。ややもすれば頭に刺すような冷たい刺激に呻いて、嵐吾は空いた片手でこめかみを押える。
 これもまた、夏の風物詩。かき氷の醍醐味。と言えればよかったのだけれど、こればかりは慣れるものでもなかった。
 しかし、冷たさに呻いた嵐吾とは反対に、幸か不幸か清史郎にはまったく効果がなかったらしい。
「やはり甘い物は良いな。キーンとは......どうやればなるのだろうか」
「せーちゃんは涼しい顔よの......やはり箱じゃからか?」
 それもヤドリガミたる所以なのか、単なる性質か。
 涼し気な顔は元より、変わらず上品な仕草で難なく食べ進める清史郎を少しばかり恨めしそうに見つつも、再びかき氷の山を崩していく嵐吾は完食を諦めない。
「今度こそらんらんがキーンに負けぬよう俺も応援しているぞ。らんらんならできる」
「あとちょっとになってから猛威を振るうキーンに負けそうじゃが、今日は勝つ......!」
 ふんす、と意気込んだなら鉄は熱いうちに。もとい、猛威がなりを潜めているうちに。
 猛然と食べ進める嵐吾の尻尾がもっふりと揺れる様を正面から眺める清史郎は、それはそれは良い笑顔だった。

 そうして、甘くて冷たいひと時を楽しんだなら。
 手強い相手だったとしみじみ頷く嵐吾と共に、清史郎はお土産に出来そうな金魚提灯に手を伸ばす。屋台に所狭しと並べられた提灯たちはそのひとつひとつにも個性があるようで、色や模様も違えば表情まで豊かなものだ。
「留守番のこんこんとメメになんぞ土産でも探そかの。折角じゃし金魚の提灯にしよかな」
「俺もひとつ買っていこうか」
 尾びれがかっこいい、風に踊るような琉金の提灯をふたつ手に取って。
 ああ、けれどやっぱりお土産と言えば。
「──あとはやはり、甘いものだな」
 顔を見合せたふたりはどちらともなく笑い合って、漂うような甘い香りに誘われるがまま。賑やかなお祭りを最後まで楽しもうと、提灯明かりが照らす金魚市の雑踏に消えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・千隼
梟示(f24788)と

提案は嬉しいもの
浴衣を纏えば和装の彼を見上げ
袖をふわりと振って笑み返し
…お揃いね、アナタも素敵だわ

金魚の泳ぐ祭り路は美しくて
彼の手で泳ぐ子をつい目で追ってしまうわ

ええ、来られて良かった
これくらいなら大丈夫、と視線を返して頷いて
…人混みを理由に袖を引けないのは残念かしら
何て冗談めかし

金魚飾りに和小物
どれも気になってしまうわ

足元を見れば気紛れな黒猫又の子
今宵限りの相棒だけれど
良いの?
帯留めを受け取れば、嬉しげにありがとうと微笑んで

問う声にくすり笑って
にゃあ、と勝手な鳴き真似ひとつ
蓮華と金魚の泳ぐ携帯灰皿を包んで貰って渡しましょう
…お土産はアナタへ、だそうよ
今宵の忘れぬ思い出に


高塔・梟示
千隼(f23049)君と

折角の祭りだ、浴衣に着替えて行こう
蝶を纏った彼女を見れば
今宵も綺麗だね、と微笑んで

金魚の浮かぶ空を見上げれば
自分達も魚になった気分
提灯携えて、祭りの夜を泳ごうか

小さいが素敵な市だね
このぐらいの賑わいなら平気かと
傍らの彼女に視線向け
返る冗談にはくすり笑って

ゆるり歩きながら
紅白鮮やかな屋台を覗いて
飴細工も小物も愛らしいな
千隼君、目を惹かれるものはあるかい?

目に留まった、黒猫に金魚の切り絵の帯留を
君の相棒も黒猫だっけと
包んで貰い、彼女に手渡して

ふと気付いて難しい顔になれば
…猫君にも何かお土産を?
鳴き真似には瞬いて
おや、二人にお礼を言わないと
この夜の景色のようだね、どうも有難う



 折角のお祭りだからと、浴衣に着替えたのは正解だったのだろう。蝶を纏う彼女を見れば、金魚を模した提灯の仄明かりに照らされてより雅やかに目に映る。夜の色に身を包んだ高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)は隠すことなく薄い唇に笑みを浮かべて、赤茶色の目を眇めた。
「今宵も綺麗だね」
「......お揃いね、アナタも素敵だわ」
 普段の装いとは異なる和装は目新しく映る。言葉少なに、けれど率直に言葉を送る梟示に宵雛花・千隼(エニグマ・f23049)もやわらかな笑みを返して、彼を見上げる。
 その頭上よりも高く、空を覆うのは猩々緋に染まる幕の如く吊り下げられた金魚提灯たちだ。釣られるように梟示も空を仰げば風に揺られてたなびく尾びれに、まるで自分たちも魚になった気分を味わえる。同じ金魚提灯を手提げて歩けば、まさしく金魚の群れのようだった。
「小さいが素敵な市だね」
「ええ、来られて良かった」
 祭りの夜を泳ぐようにゆっくりと歩き出せば、その歩幅に合わせて手提げた提灯もゆらゆらと静かに揺れる。その灯りさえ瞬きの間に表情を変えるようで、千隼が思わずと目で追えば梟示が小さく喉で笑っていた。
 そうして、その声を耳に視線を上げればこのぐらいの賑わいなら平気か、と問うような視線が向けられていることに気付いて、千隼は視線を返してひとつ頷く。このくらいなら大丈夫だ、と。──ああ、けれど。
「......人混みを理由に袖を引けないのは残念かしら」
 なんて、冗談めかしに囁けば。
 梟示もくすりと笑って、おだやかな時間は過ぎていく。

「千隼君、目を惹かれるものはあるかい?」
 回遊する金魚たちのようにゆるりと歩いて、しばらく。
 紅白鮮やかな屋台を覗いたふたりは、かわいらしい飴細工や小物に視線を奪われて足を留める。精巧な作りをしら金魚飾りに、上品な和小物。どれも気になってしまう、と千隼の悩むような仕草を受けて、梟示は金魚の切り絵が描かれた帯留めに手を伸ばす。
「──どうぞ、千隼君」
 君の相棒も黒猫だっけと千隼の足元に一瞥を向けたなら、そこには暗闇のような黒猫の姿。今宵限りの相棒と連れ添った黒猫又の子だ。
 手に取ってから包んで貰うまでは早く、梟示はきょとりと目を瞬いた千隼に手渡す。
「いいの?」
「いいよ、その為に買ったのだから」
 ありがとうと嬉しげに微笑むその顔が見れたなら、買った甲斐もあったというものだろう。けれど。
 ふと足先を踏むような僅かな重みに気付いて梟示が視線を落とせば、此方を見上げる黒猫の姿。じっと見つめるまま、何を言うでもない猫の目を見返して梟示は難しい顔になる。
「......猫君にも何かお土産を?」
 難しげに問う梟示の声に、千隼は思わずといった風にくすりと笑みを零して──、

 にゃあ、と勝手な鳴き真似ひとつ。
「お土産はアナタへ、だそうよ」
 この夜の景色のような、蓮華と金魚の泳ぐ携帯灰皿を包んで梟示へと渡したなら。
 今宵の忘れぬ思い出を手のひらの中に、ふたりは顔を見合わせてどちらともなく笑いあうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花川・小町
【花蝶】
(夜闇や泥濘に沈む心地とは程遠い――明るく澄む水面の様な夜空、愁い晴らす様な金魚の灯火を見上げ、一息ついて)
ええ、私達も立ち止まっている暇はなさそうね
ふふ、心置きなく祭巡りと洒落込みましょう

色鮮やかな金魚は眺めているだけでも心が華やぐわね
(揃いの金魚提灯を仲良く揺らし、回遊するように悠々と)
あら気が合うわね?
それならもう、此処は両方買って一緒に幸せを分かち合うしかないよわね
私も貴女なら乗ってくれると信じてたわ(嬉しげな様子につられる様に、この上なく上機嫌に笑んで)

本当に、貴女とならば幾らだって、何処でだって、明るく鮮やかに花を咲かせていけるわ
有難う――ふふ、その目映い笑顔が何よりの――


鳳来・澪
【花蝶】
(ほっとした様子で、明るく眩い祭の様相を見て微笑み――乗り越えて、踏み出せたみたいで、ほんまに良かった)
よし、姐さん――折角やし、後はうちらも晴れ晴れと楽しんで帰らなね!

ほんまに金魚可愛ぇよね、ふふ!(早速金魚提灯をお揃いで手にして、池での一時以上に軽やかに弾む足取りで)
うち綿飴もかき氷も気になるんやけど――やった!流石、姐さんならそういってくれるって信じてた!
嬉しい~!(にこにこ半分こして堪能して)

金魚提灯の景色も、姐さんとこうして過ごしてると一際輝かしくみえるの
話に花を咲かせて、笑顔も咲かせて――幸いが実を結ぶこの一時があればこそ、時に仄暗い闇や泥に触れても、まっすぐに歩めるの



 それは、夜闇や泥濘に沈む心地とは程遠く。
 殷々と轟く鼓の音、鳥の鳴き声にも似た笛の音。鉦をあしらえば華やぐ祭囃子は賑やかに、明るく澄む水面の様な夜空と愁い晴らす様な金魚の灯火を見上げて花川・小町(花遊・f03026)は小さく息を吐く。
 明るく眩いこのお祭りこそ、変わらず明日に続いていく何よりの証拠だろう。ほっとした様子で微笑んだ鳳来・澪(鳳蝶・f10175)は、黄金の花をあしらった鮮やかな紅唐の袖を翻して小町を振り返る。
「よし、姐さん──折角やし、後はうちらも晴れ晴れと楽しんで帰らなね!」
「ええ、私達も立ち止まっている暇はなさそうね」
 もう、大丈夫なのだと。乗り越えて、踏み出せたからこその今があるのだと知れば、こうしてはいられない。楽しげな金魚市に踏み出すように一歩前へ、提灯明かりに照らされた明るい道を行く澪の後に小町もゆっくりと続いていく。
「ふふ、心置きなく祭巡りと洒落込みましょう」
 きっと、そうすることでこの小さな夜も、良い夏の思い出と変わると信じて。

「色鮮やかな金魚は眺めているだけでも心が華やぐわね」
「ほんまに金魚可愛ぇよね、ふふ!」
 揃いの金魚提灯を手遊びのように仲良く揺らせば、その光は回遊するように悠々と移り変わる。瞬く星の如く表情を変える光に小町がそう言って頬を緩めれば、澪も軽やかに弾む足取りで微笑んだ。
 そんな彼女たちの鼻腔を掠める甘やかな香り。すんと鼻を鳴らせば風に乗って漂うようで、澪は屋台に自然と視線を向けていた。
「うち、綿飴もかき氷も気になるんやけど......」
「あら、気が合うわね? それならもう、此処は両方買って一緒に幸せを分かち合うしかないよわね」
「やった! 流石、姐さんならそういってくれるって信じてた!」
 この日、この夜のお祭りは今しか楽しめないのだからと顔を見合わせれば、思いは同じく。金魚に因んだ色にぴかぴかと光る不思議な綿飴も、金魚鉢が可愛い涼やかなかき氷も。きっと、欲張りなくらいが丁度良いのだろう。
 手提げた提灯を機嫌良さげに揺らしながらさっそくと買えば、綿飴も金魚鉢もふたりの顔ほどに大きく。「はんぶんこ、しよか」なんて笑って、肩を寄せ合う。
「私も貴女なら乗ってくれると信じてたわ」
 にこにこと花開くように笑顔が咲けば、つられるように。甘味を堪能する澪に小町もまたこの上なく上機嫌に笑んで、お祭りの夜は和やかな時間の流れの中を過ぎていくのだろう。
 金魚提灯の景色も、甘く美味しい食べ物も。こうして一緒に過ごすからこそ、一際輝かしく見えるのだと澪はよく分かっていた。話に花を咲かせて、笑顔も咲かせて──こうして、幸いが実を結ぶこのひと時があればこそ。時に仄暗い闇や泥に触れても、まっすぐに歩めるのだと思うから。
「......本当に、貴女とならば幾らだって、何処でだって、明るく鮮やかに花を咲かせていけるわ」
 囁くような声で、けれど確かに伝えよう。
 小町が笑えば、応えるように澪も笑顔の花を咲かすように。
「──有難う」
 その眩い笑顔が、何よりの宝物なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
【手記】
すごい、金魚がたくさんだ
暗闇に鮮やかな赤がよく映える
目当ての飴細工には興味津々
まるで本物みたい。金魚だけど、美味しそうにも見える
これが職人のワザってやつ。勿論買おう!

これがヨーヨーすくい!青いやつが欲しい。白いのも良い…
上手いよオズ君!私もやってみようっと
…あっ、二つ取れた!流石私
ぱしぱしと響く音が楽しい

私はやったコトないよ。ナルエリ君はある?
すごいな、こんな道具で泳ぐ魚を捕まえるなんて…
飼ってあげられないし、私は後ろから覗き込んで見学中
そつなく一匹掬うオズ君に拍手
すごいな、キミは祭りの達人だね

ナルエリ君も頑張って!キミなら出来るよ!
ホラ、いつもみたいに耳を立てて

やった、とても上手だ!


オズ・ケストナー
【手記】

わあっ
あっちにもこっちにもきんぎょっ
視線巡らせ
飴細工に目を丸くする
これ、あめでできてるの?
エドガー、買おうっ

ナルエリ、これだよヨーヨーすくいっ
手招いてしゃがんで
やるぞーっ
気合いとともにえいっ
黄色のヨーヨーがとれたらご満悦
エドガーふたつもとれたのっ?
すごい
並んでぱしぱし

おまつりできんぎょといったらきんぎょすくいだよね
ふたりとも、やったことある?
わたし、あるっ
スッと一匹掬い
ふふふ、去年ねえ、勝負したんだよ

たつじんっ
恰好いい響きに喜んで
ナルエリの応援

まだいけるっ
ちょっとやぶけてもだいじょうぶだよっ

こつはねえ
ポイを水から出さないのと、横にうごかしてすくうことかな?

そう、そのちょうしっ
やったーっ


ナルエリ・プローペ
【手記】

エドガーさん、オズさん、お疲れ様です
金魚市という名前の通り、ですね。
金魚を象った飴細工は、職人芸というのでしょうか……
すごく似ていて、飴細工の奥深さを感じます

手招かれるまま最初はヨーヨーすくい
上手に取れるかな……お二人ともお上手ですね?
全然取れなくてもめげずに、狙いは菫色のヨーヨー
何とか取れたら二人を真似るようにぱしぱしと

私も金魚すくいもやった事がなくて……
エドガーさんの応援を受けながらも
次々と破れていく網に苦戦して、少し耳が垂れ気味
……オズさん、こつはありますか?と聞き
教えて貰った通りにゆっくりと焦らずチャレンジして
……! 上手く出来ました……!
掬い上げた金魚を見て、尾がゆらりゆらり



「これ、あめでできてるの?」
「職人芸というのでしょうか......すごく似ていて、飴細工の奥深さを感じます」
 暗闇に鮮やかな赤がよく映えるように、金魚提灯たちは整然と飾られている。空を覆う幕の如く吊り下げられた金魚たちの猩々緋は色濃く、印象的に見えた。しかし美しい景色もさることながら、視線を奪うのは甘やかな香りを漂わせていた飴細工だ。
 金魚の形を模した飴細工は、提灯明かりを受けて艶々とまるで輝くよう。あっちにもこっちにもいる金魚に視線を巡らせていたオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)もその輝きに気付けば、いち早く興味深そうに覗き込んで目を丸くしていた。
 ナルエリ・プローペ(Waker・f27474)も同様に、側頭部に結んだ狐のお面が落ちてしまわないように手で押えながら、そっと飴細工へと視線を寄せる。
「まるで本物みたい。金魚だけど、美味しそうにも見える」
 小さな頭から優美な尾びれまで、鱗の模様までも精巧に表現された飴細工は近くで見ても本物と相違ない。素赤をはじめとして、琉金や出目金など姿かたちもこだわって作られているのだろう。
 エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)も興味津々な様子で、飴細工を手に取って微笑む。
「エドガー、買おうっ」
「ああ、勿論買おう!」
 まずお土産をひとつ、目当てにしていたこともあってか迷う間もなく買うことにしたようだ。
 そうしてお次は、飴細工の屋台のすぐ近くにあったヨーヨーすくいへと流れるように吸い込まれて、真っ先に駆け寄ったオズは膝ほどまでの平たい水槽を前に腰を屈めてふたりを手招く。
「ナルエリ、これだよヨーヨーすくいっ」
「これがヨーヨーすくい! 青いやつが欲しい。白いのも良い......」
 手招かれるまま隣にしゃがんだナルエリと、ふたりの後ろから覗き込むように見下ろしたエドガーもヨーヨーすくいをはじめて見るのだろう。好奇心に身を乗り出せば色とりどりの可愛らしいヨーヨー風船がぷかぷかと水の上を漂っていた。
 どうやらこのヨーヨーに括り付けられたゴムの輪っかに、釣り針を上手く通してすくい上げるという縁日では定番の屋台らしい。「やるぞーっ」と意気込んだオズに続くように、ナルエリとエドガーもさっそく挑戦しようと釣り針に手を伸ばすのだった。

「エドガーふたつもとれたのっ?」
「青い方も白い方も取れたんだ。流石私」
「お二人ともお上手でしたね。私もなんとか、ひとつ取れました」
 めげずに挑戦した菫色のヨーヨーを見様見真似でぱしぱしと。
 無事に取ることができたヨーヨーを仲良く手のひらで弾く音を楽しみながら三人が並んで金魚市を歩けば、その足は自然と金魚すくいの屋台へと向いていた。こちらもまた、ヨーヨーすくいと同じく定番の屋台である。
「おまつりできんぎょといったらきんぎょすくいだよね。ふたりとも、やったことある?」
「私はやったコトないよ。ナルエリ君はある?」
 慣れた様子でお椀とすくい枠を手にしたオズが問いかければ、エドガーが静かにかぶりを振る。そのままナルエリを振り返れば、どうやら彼女も金魚すくいをやったことがないらしい。
 それならばとオズはすくい枠を構えて、ふたりが見守る中でひょいと軽い仕草でひと掬い。水を斬るように素早く、狙いを付けた金魚をすくい枠の縁に潜らせればそのまま流れるようにお椀の中に飛び込んでいく金魚に得意げに笑って、オズは胸を張った。
「ふふふ、去年ねえ、勝負したんだよ」
「すごいな、キミは祭りの達人だね」
 こんな小さな道具で泳ぐ魚を捕まえるなんて。
 感心するままにエドガーが拍手を送れば、達人という言葉の響きが気に入ったのだろう。喜びを隠すことなくオズは笑みを深めて、それから興味深そうにお椀の中を覗いたナルエリの背中を押すようにまだ使っていない新しいすくい枠を手渡す。
「ナルエリ君も頑張って! キミなら出来るよ!」
 戸惑う素振りも、エドガーの声援を受けて。初挑戦に身を乗り出したナルエリが水槽を前にお椀とすくい枠を構えたなら──、
「......オズさん、こつはありますか?」
 中々どうして、やはり初めてはむずかしいもので。次々と破れていく様子に苦戦して肩を落としたナルエリのその耳は、哀愁を漂わせてしょんもりと垂れ下がっていた。
 しかし、金魚すくいの良いところは何度でも挑戦できることだろう。失敗を重ねる傍ら、オズからも「ポイを水から出さないのと、横にうごかしてすくうことかな?」と助言を受けたナルエリは次第に手の動きも熟れて、エドガーの声援を背にゆっくりと焦らずもう一度構える。そうして。

「......! 上手く出来ました......!」
「やった、とても上手だ!」
 掬いあげられた、長い尾びれを揺らして可愛らしい金魚が一匹。
 オズが掬った一匹と合わせて二匹に増えたお椀を手にしたナルエリもまた、長い尾をゆらりゆらりと揺らしながらふたりの歓声と拍手を受け取るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杠葉・花凛
お勧め頂いた金魚の提灯を片手に
金魚市を共に楽しませて頂きましょう

折角ですから人も妖怪も楽しげな
お祭りのひと時をご一緒させて頂ければ
テテメア様をお見掛け出来ましたら
暫しの間ご一緒させて頂ければ

金魚すくいで泳ぐ金魚は優雅ですわね
1匹手にしたいところですが
私ではお世話は出来ませんので眺めるだけ

その代わりに
本日はこちらの飴細工を頂きましょう
見事な細工の腕前に溜息を零しつつ
金魚と云えばやはり赤色でしょうか
ひらひらと優雅な見目のものに視線が止まり
思わず2つ手にして

ふふ、テテメア様の浴衣のようですわね
愛らしくも美しい姿が素晴らしいですわ
よろしければ本日の御礼におひとつどうぞ
この日の縁に感謝致しますわ



 ゆらり、ゆらりと。
 歩く度に揺れる金魚の提灯は、まるで空を泳いでるかの如く。道を照らす提灯明かりさえも揺れる間に表情を変えて、お祭りの夜を華やかに彩っている。
「人も妖怪も、皆楽しげですわね」
 周囲をぐるりと見渡して、杠葉・花凛(華蝶・f14592)は小さく呟く。
 この光景こそ世界が終わることなく続いている何よりの証拠なのだと思えばこそ、金魚市を共に楽しもうと手提げた提灯をやさしく揺らして、花凜は賑わいの中へと歩きはじめた。

「金魚すくいで泳ぐ金魚は優雅ですわね」
「どの子もかわいかったですね」
 揃いの金魚提灯を手提げたテテメア・リリメア(マーマレード・レディ・f25325)もまた、時折揺らしてはその灯りを楽しみながら花凜と肩を並べて歩く。
 お祭りの屋台としてはやはり定番と言うべきか、金魚すくいの屋台は人気なのだろう。膝ほどまでの高さにある平たい水槽の中で悠々と泳ぐ金魚たちを掬おうと励むひとたちの背中を見守りながら、しばし眺めてそのまま視線は隣の屋台へ。
「1匹手にしたいところですが、私ではお世話は出来ませんので......その代わりに本日はこちらの飴細工を頂きましょう」
 そう言って花凜が手にしたのは、金魚の小さな頭から優美な尾びれまでを精巧に再現した飴細工だ。素赤、更紗、猩々に丹頂。背赤や六鱗、色とりどりであれば形も異なる金魚たちを見事に表現した飴細工は、提灯明かりに照らされて艶々と煌めいている。
 その見事な細工の腕前に感嘆の息を零した花凜の横で、テテメアもまた興味深そうに飴細工を覗き込んではそのひとつひとつを見るようにつぶさに眺めていた。
「一言に金魚といっても、たくさんいらっしゃるのね」
「ええ、けれど金魚と云えばやはり赤色でしょうか」
 種類ごとに分けてか、綺麗に整列した中でもひらひらと優雅な見目のものに視線が止まり、花凜は思わずと手を伸ばす。長い尾の飴細工をふたつ手に取れば、それを目の前に翳してそうと微笑んだ。
「ふふ、テテメア様の浴衣のようですわね」
 提灯明かりに照らされて艷めく飴色と、その向こうに透けた浴衣の帯は揺れる垂れ先がまさしく金魚のようで。手に取った飴細工のうち片方をテテメアに手渡して、花凜は桔梗にも似た深い紫色の瞳をおだやかに細める。
「よろしければ本日の御礼におひとつどうぞ」
 この日の縁に感謝致しますわ、なんて。受け取ったテテメアもう微笑みを返せば「こちらこそ、素敵な飴細工をありがとうございます!」と飴細工をくるりと回して、ふたりはその甘やかな香りをお祭りの思い出に小さな夜を楽しむのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天音・亮
ティル(f07995)と
※テテメアも一緒に!

さあさあ金魚市の始まりだ
探して見つけた背
テテメアー!一緒に金魚市回ろう!

先まで並んだ金魚提灯にわぁと声あげたり
光る綿飴をくるくる眺めた後で舌鼓をうったり

そしてもうひとつ大切な目的
ティルと目配せ、同時にひょこりきみの前に出したもの

『やあ、はじめまして。ぼくはラア。』

向日葵色のテディベアを動かす動作に合わせアテレコ
男の子の声真似て
ティルが連れた子のご挨拶も終わるのを待ってから
──せーの、

お誕生日おめでとう!テテメア!

きみときみの友達に新しいお友達を
そう思って作ってきたクマ達
喜んでくれたなら
やったねってティルにピース

続く世界にまた、思い出を刻んでいこう


ティル・レーヴェ
亮殿(f26138)と
テテメア殿にも声をかけ

待ちに待った金魚市!
おひさま色の友人と
並び駆け護ったひとときは
笑顔溢れる祭の景も相まって思い一入

愛らしい金魚飾りに並ぶ品
幻想的でもあって友と巡る時間も夢心地

テテメア殿のお浴衣は
この景色にもよう合って
一緒に歩くと金魚の国に来たかのよう!

友の目配せ感じたら微笑み頷き
ひょっこり顔出す
淡雪色したふわふわテディ

向日葵色の子に続き
ホワイトレースフラワーの飾られた
檸檬色のリボンを耳に揺らし
こんにちは、とお辞儀をひとつ

『私はサルビア。テテメア、これからよろしくね?』

口許隠し少女の声で告げたなら
せーのに合わせ笑顔満開

お誕生日おめでとう!テテメア殿!

素敵な日々をこの先も



 待ちに待った金魚市。それは鮮やかな金魚提灯が夜を明るく照らしていて、殷々と轟く鼓の音や鳥の鳴き声にも似た笛の音、鉦をあしらえば華やぐ祭囃子もひどく賑やかなものだった。
 暗く深い大きな池を越えて、蝕む月の夜に朝を迎えて。そうして護ったひとときは、笑顔溢れる祭の景も相まって思い一入なのだろう。ふわりと綻ぶように微笑んだティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は、おひさま色の友人の背中を追いかけて歩き出す。天音・亮(手をのばそう・f26138)だ。見知った背中を見つけたのか手を振る亮もまた、楽しげな金魚市の様子に自然と笑みが浮かんでいた。
「テテメアー! 一緒に金魚市回ろう!」
 ふらり、ひらり。
 賑わいの中で合流を果たした三人は、大きな金魚鉢の中を回遊する金魚たちのように市場を歩いていく。

「わぁ、すごい。光る綿飴だよ!」
 先まで並んだ金魚提灯に、ぴかぴかと輝く綿飴に。お祭りだからこそ見れる幻想的な景色に歓声を上げては、甘い綿菓子に舌鼓を打つ。友と巡る時間はゆったりと過ぎていくような夢心地で、なんとも晴れ晴れしい。
 金魚によく似た帯の垂れ先を揺らしたテテメア・リリメア(マーマレード・レディ・f25325)に「テテメア殿のお浴衣は、この景色にもよう合っているのう」と微笑んだティルもまた、夜明けのように華やかな浴衣に優美なレース飾りを彩った袂を翻したところで、亮の目配せに気付くと小さく頷いてみせる。そうして。
「やあ、はじめまして。ぼくはラア」
「私はサルビア。テテメア、これからよろしくね?」
 目を瞬かせたテテメアの目の前にひょっこりと差し出された、柔らかな色がふたつ。
 向日葵色のテディベアの手を振る動作に合わせて声を当てたのは男の子の声を真似た亮で、淡雪色をしたふわふわのテディベアがお辞儀をした後にかわいらしい少女の声を当てたのはティルだ。
 耳元にホワイトレースフラワーを飾った檸檬色のリボンはお揃いなのか、亮とティルがひょこひょこと揺らしてみせれば、それはまるで仲の良い姉弟のように見えた。
「まあ、はじめまして。素敵なおともだちね!」
 テディベアはもちろん、口許を隠してお話する亮とティルの様子がかわいらしくて。
 手を合わせて笑ったテテメアも、倣うように小さなお友達にお辞儀を返したなら。
「──せーの、」
「お誕生日おめでとう!」
 そう、声を合わせたふたりの笑顔は満開に咲いた花の如く。
 金魚提灯の仄明かりに照らされたテディベアも、どこかやさしく笑っているようだ。
「とても、とても嬉しいわ。おふたりで作ってくださったの?」
「ふふ、ティルと一緒に頑張ったよ」
 喜んで両手で抱えるように受け取れば、亮とティルは顔を見合わせてピースサイン。どちらともなく笑いあえば、またひとつと花開くように笑みは深まるばかり。そんな風に素敵な日々をこの先も、続く世界にまた、思い出を刻んでいこう。
 そうして、かわいらしいテディベアのお礼に買った飴細工も手にして、提灯明かりが照らした道を三人は肩を並べて歩いていく。──楽しげに微笑むテテメアの腕の中で新しいお友達と挨拶するかの如く、出目金浴衣のぬいぐるみも手を振っているような気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
祭りは、要らない
彼処へ向かいたくて此処へ来た訳では無いから

ねぇ
まだ時間が許されているなら僕にその時間を頂戴

再び蓮の葉に靴音吸わせ
君の隣を――或いは君の先を歩もう

たらればの話はあまり好きでは無いけれど
例えばもし君が満たされたまま永くを生きられるとしたら
どうした?生きたいと願った?

欠けたものを埋める“なにか”が何なのかも
そもそも在る事すら解らないのなら
どうすれば良い?どうする事が正解?

それが僕にとって正解じゃなくて良い
あくまでも君はどう考えるかを教えて


此処は静かでいいね
囃子も喧噪も嫌いだから
君の話を聞いている方が落ち着く

こう聞くのは間違っているのだろうけれど
また、逢える?

そうしたら君の話が聞きたい



 宴もたけなわ、夜もすがら。
 殷々と轟く鼓の音、鳥の鳴き声にも似た笛の音。鉦をあしらえば華やぐ祭囃子もいまは遠く、まだ静けさの残る池のほとりに旭・まどか(MementoMori・f18469)は佇んでいた。「祭りは、要らない」と小さく呟いた声の通りにまどかが輝く竹林の先を見ることはなく、暗がりに沈むような池を振り返って月明かりにも似た女へ声を掛ける。
「ねぇ、まだ時間が許されているなら僕にその時間を頂戴」
「──あなたが、そうと望むのでしたら」
 幽鬼のような気配は変わらず、しかしその顔は不思議と晴れやかに。
 まどかの静かな眼差しに微笑みを返した女、アナスタシアは蓮の花が咲く池の方へと彼を手招いていた。

 再び蓮の葉に靴音を吸わせて歩く水面の上は、やはり静かなものだ。
 アナスタシアの先をゆっくりと歩きながら、月明かりを受けて輝く蓮の花に時折視線を向ける以外は暗く深い池の水面を見下ろすばかり。まどかは鏡のように映る己の瞳を眺めながら、自身の後ろを音もなく歩く彼女に問いかける。
「たらればの話はあまり好きでは無いけれど......例えば、もし君が満たされたまま永くを生きられるとしたら。どうした? 生きたいと願った?」
 静かな時間は、まるで時が止まっているようだ。
 自分が踏み鳴らす蓮の葉から広がる波紋を見てはじめて、流れる時間を認識出来る。そんな波紋がいくつか広がる程度の少しの間。アナスタシアは足を止めて首を傾げる。
「そうですね。いまとなっては詮のないことですが......どちらでも良かったのではないかと、思います」
「どちらでも良い?」
「ごめんなさい、答えにはなっていないかもしれませんね。ただ、死んでいても──生きていても。共に在ることが、覚えていられることが重要で、」
 ぽつり、ぽつり。
 考えながら、思考を整理しながら答えているのか、呟くような声音で落とされる言葉の応酬はふたりの間で池の底まで落ちていく。
 きっと満たされたまま永く生きられるなら、しあわせなのだろう。けれど、それは死んでいてもきっと同じことで。そうしてアナスタシアがかぶりを振って「やはり、詮のないことですね」と笑みを零すから、そこで漸くまどかは彼女を振り返って、少しだけ離れてしまった距離を詰めるように蓮の葉を数歩戻る。
「欠けたものを埋める“なにか”が何なのかも、そもそも在る事すら解らないのなら、どうすれば良い? どうする事が正解?」
 アナスタシアを見上げる視線はどこまでもまっすぐで、飾らない言葉は痛いほどで。まどかの立て続けるような問いかけに何度か目を瞬いて、それから淡く微笑みかける。
「......迷って、いらっしゃるのですね」
「それが僕にとって正解じゃなくて良い。──あくまでも、君はどう考えるかを教えて」
 蓮の葉をゆっくりと踏み締めて、一歩、二歩。
 まどかの横を飛び越えるようにアナスタシアは追い越して、その先で振り返る。
「以前のわたしであれば、過去を振り返るでしょう」
 歩いて来た道。或いは、過ぎて来た場所。人。その記憶。
 振り返っても過去には戻れないけれど、後戻りできないと知りながらも失くした何かを求めて振り返ってしまう。それは人にしかできないことで、同時に人の業でもあった。けれど。
「いまは......そうですね。わたしも、信じてみることにしました」
 過ぎ行く月日に、満たされていたものが少しずつ欠けていくとしても。
 月の満ち欠けのように巡る月日の中でいつかまた、どこかで。

「此処は静かでいいね」
 蓮の葉を渡り切った先で、水上の浮遊感に慣れてしまった足で何度か地面を踏みならす。輝く竹林から遠のけば遠のくほど祭囃子も小さく消えて、囃子も喧噪もない場所でまどかは薄らと見えるお祭りの仄明かりを眺めていた。
「......こう聞くのは間違っているのだろうけれど。また、逢える?」
 そうしたら君の話が聞きたい。なんて、伺うような眼差しにアナスタシアは何も言わず、手下げていた金魚の提灯をまどかへと受け渡す。
 逢えるとも、逢えないとも。アナスタシアが口にすることはなかったけれど。それでも夜を越えて、朝を迎えた先で続いていくいつかの未来を信じるならアナスタシアは微笑むだろう。
「また、どこかで」
 それはきっと──泥濘に紐解く、花のように。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月17日


挿絵イラスト