迷宮災厄戦⑲〜猟書家最強の男~
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「ついに、猟書家が現れたぞ」
テオ・イェラキ(雄々しき蛮族・f00426)は真剣な表情でそう猟兵たちへと語り掛ける。
猟兵たちは次々と道を切り開き、ついに猟書家たちと相対することとなったのだ。
その一人目となった猟書家は――サー・ジャバウォック。
猟書家最強の男たるサー・ジャバウォックは侵略蔵書「秘密結社スナーク」と青白き斬竜剣「ヴォーパル・ソード」を手に、焼け焦げた森の国で猟兵たちを待ち構えているというのだ。
「猟書家はどいつも手強い相手……その中でも、奴は猟書家最強と名高いらしい」
遠距離からは不可視の怪物をけしかけ、接敵すれば巨大化した青白き斬竜剣で切り払う。
そして追い込まれたならば、真なる竜の姿――人間の『黒き悪意』を纏いし竜人形態へと姿を変え、凶悪な能力を発揮することだろう。
「基礎能力の差は歴然……どうあがいても、先手を取ることは出来ないだろう。だが皆はもう理解しているはずだ、格上との闘い方というものを」
どのような策を弄そうとも、先手を取ることは不可能。
故に大切となるのは……相手の初撃に対しどう対応し、そして有効な攻撃を与えられるかどうか、だ。
それは当然厳しい戦いとなる。
だがこれまでの戦争を通し、幾度となく格上の強者と戦い続けてきた猟兵たちであれば、決して勝利をもぎ取ることが可能なはずだ。
「戦争はここからが本番……皆、十全な準備を以って、挑んで欲しい」
そう言いながら、赤きグリモア猟兵は皆を送り出す。
皆の勝利を信じて――皆の安全を祈って。
きみはる
●ご挨拶
お世話になります、きみはるです。
ついに来ました、猟書家戦。
ここからが正念場ですね。
●依頼について
もうご理解頂いているかと思いますが、敵は必ず先制攻撃を仕掛けて来ますので、その対応が必須となります。
その為、プレイングボーナスは下記内容となります。
プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
また、敵のUCに対応する為複数のUCを使用することはお控え下さい。
●プレイング募集について
OP公開~締まるまでをプレイング募集期間とさせて頂いております。比較的少な目人数での完結となりますことをご承知おき下さい。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『猟書家『サー・ジャバウォック』』
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POW : 侵略蔵書「秘密結社スナーク」
見えない【架空の怪物スナーク】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD : ヴォーパル・ソード
【青白き斬竜剣ヴォーパル・ソード】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ : プロジェクト・ジャバウォック
【人間の『黒き悪意』を纏いし竜人形態】に変身し、武器「【ヴォーパル・ソード】」の威力増強と、【触れた者の五感を奪う黒翼】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
イラスト:カキシバ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ラブリー・ラビットクロー
【最大級の脅威発生を確認
大変危険です
直ぐに避難を開始して下さい】
マザー!
ダメなん!
らぶたちがやらなきゃ!
【ネットワークに接続できません
直ぐに退避して下さい
生命を守る為の行動を
マザーシステムでのサポートが出来ません】
マザー!
視えない何かが
音を追うだけじゃ避けきれない
木が倒れてく
煤が舞って
その一瞬だけ何かが見えるんだ
音に集中しながら野生の勘で何とか回避してみなきゃ
でもこれ以上は
こんなズルいなんて
らぶじゃ勝てない
ネットワークに接続しました
位置情報を確認
敵目標解析完了
これよりはマザーシステムがサポートします
不可視の熱源の接近を確認
六翼を起動
自動で回避を行います
火炎放射を3時方向
目標は蔵書の焼却処分です
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「最大級の脅威発生を確認……大変危険です、直ぐに避難を開始して下さい」
けたたましい警告音を掻き鳴らしながら、ラブリー・ラビットクロー(とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591)の片割れ――ラブリーの相棒たるAI、ビッグマザーが警告を発す。
ビッグマザーがそうまでして撤退を促すのは、ラブリーの眼前に立つ男――猟書家が一人、サー・ジャバウォックの存在故だ。
未だ表情が見えぬほどの距離にありながらも感じる圧倒的強者の気配に、ラブリーとてビッグマザーの本気の警告の意味を理解できる。
「マザー! ダメなん! らぶたちがやらなきゃ!」
しかしラブリーは……己が猟兵として成せばならぬ事を成すのだと、そう決意を示す。
誰かがやってくれる、では駄目なのだと。
この未曾有の世界の危機に、誰もが全身全霊で以て挑まねばならぬのだと。
「ネットワークに接続できません、直ぐに退避して下さい。生命を守る為の行動を……マザーシステムでのサポートが出来ません」
しかしビックマザーもまた、引くことを受け入れない。
何故ならば彼女にとってラブリーこそが全て……故にラブリー自身の意に沿わぬ内容とて、彼女の為になるのであればと、決して意見を曲げないのだ。
「マザー!」
これ以上の問答の時間は無いのだと、ラブリーは低く身構える。
彼女が感じたのはどこからか近づく殺気――サー・ジャバウォックの放つ不可視の怪物スナークが近づく気配だ。
見えない何かが駆け寄る気配。
反響する足音が、吹き上がる土煙が、砕ける大木が、迫り来る外敵の存在を教えてくれる。
一瞬一瞬に存在を感じるものの、しかしその姿を捉えるまでには至らない。
「っ!」
必死に耳を澄ませ感じるは、背後から駆け出した音。
避けるべく全力で飛び込むものの、背中に感じるは焼け付くような痛み。
一瞬紅に染まる爪が目に入るものの、しかしすぐに土煙の中に消える。
このままではまずい……本能的にラブリーは自身が追い込まれていくのを感じていた。
(こんなズルいなんて……らぶじゃ勝てない)
自分だけではどうにもならない――そう胸中に広がる絶望感。
己が実力の無さに歯噛みする彼女の耳に、無感情ながらも頼りになる――彼女にとって最も近しい者の声が。
「ネットワークに接続しました。位置情報を確認……敵目標解析完了」
それは撤退を推奨しながらもそれが受け入れられないのであれば次善の策を探し続けていた相棒の声。
異世界でありながらもネットワークへの接続を成功させた、ビックマザーの声だ。
「これよりはマザーシステムがサポートします」
頼りになる相棒の声に頷きながら、少女は戦場を進む。
自分一人では何も出来ない……だが、彼女と一緒なら何でも出来る。
そう、心の底から信じて。
大成功
🔵🔵🔵
御桜・八重
【POW】
いよいよ現れたね猟書家、サー・ジャバウォック!
どこから来るかわからない怪物スナーク。
わからなければ、突っ込むしかない!
強力な攻撃に備えてオーラ防御を前面に集中。
分厚いオーラを盾に突貫するよ!
と来れば、隙の大きいところを狙って来るよね。
きっとスナークは後ろから来る!
視線はサー・ジャバウォックから外さずに。
同時に背後に迫る気配を逃さずに。
ダッシュしながら全力集中!
「!」
気配を感じたら勢いを殺さずにすかさず反転。
スナークの攻撃をオーラで受け止め、
その反動でさらに加速。
「突貫んんっ!!」
【スクワッド・パレヱド】でサー・ジャバウオックに突っ込む!
単純なコースでも、二段構えの加速ならどうかなっ?
●
「ふむ、猟兵ですか……お相手致しましょう」
圧倒的強者の風格を放ち、そしてその優雅な余裕を崩さず、猟書家――サー・ジャバウォックは猟兵たちに相対する。
一見それは猟兵たちを下に見た尊大な態度……しかしそれが嫌味に感じぬほどの圧倒的存在感を、猟兵たちは感じていた。
「いよいよ現れたね猟書家、サー・ジャバウォック!」
しかしそんな強者を前にしても尚、天真爛漫な声をあげる少女がいた。
例え圧倒的不利な戦況であろうとも。
例え絶体絶命のピンチであろうとも。
元気に声をあげるのが、御桜・八重(桜巫女・f23090)という少女なのだから。
「それじゃあ今度は、わったしっの、でっばーーん!!」
先陣を切る猟兵と入れ替わるように、八重は前へと駆け出す。
既に放たれた不可視の怪物――スナークの姿を確認することは出来ない。
であるならば、待ちに徹したところで追い込まれるばかりであろう。
故に彼女は、突撃するのだ。
その全ての力で全面へと不可視の壁を作り出し――格上の強者、サー・ジャバウォックへと。
(と来れば……隙の大きいところを狙って来るよね)
右手に青白き斬竜剣「ヴォーパル・ソード」を、左手に侵略蔵書「秘密結社スナーク」を握ったまま、悠然と佇むサー・ジャバウォック。
決して隙を見せぬよう、彼と視線を絡めたまま……しかし八重はその意識を背後へと集中させていた。
その姿は確認できないものの、不可視の狩人は常にこちらの隙を伺っているはず。
であれば敢えて隙を作ることにより、敵の動きを誘導するのだ。
「……っ!」
突如背後で膨れ上がる殺気。
じわりと額に浮かぶ冷たい汗を散らしながら、八重は全力でその身体を反転させる。
突如感じる衝撃――不可視の壁に押し付けられる燃え尽きた炭の跡が、今まさにこちらへ爪を振るう存在を教えてくれる。
攻撃は防いだ――だが急な方向転換ではその場で踏ん張ることも出来ず、八重はそのまま押され続けるでは無いか。
しかし彼女は焦らない――それこそが、彼女の狙いなのだから。
「ふんっ!」
受け止める勢いを殺さぬまま、しかし大地へとその足を突き出し――八重はスナークごと不可視の盾を持ち上げるようにして態勢を入れ替える。
見えずとも感じる困惑の気配。
その隙を逃さぬよう、八重は大地を踏みしめ更なる加速を見せるのだ。
「突貫んんっ!!」
ここが唯一かつ最大のチャンス。
乾坤一擲の一撃を放つべく、八重は闘気を纏い、サー・ジャバウォック目掛けて突貫する。
それは攻撃と共に敵を吹き飛ばすUC――スクワッド・パレヱド。
格上たるサー・ジャバウォックに対し、単なる突撃では不十分なことは承知済。
故に八重は、敵であるスナークの突撃の勢いを敢えて受け、それすらも己が攻撃の力へと利用したのだ。
「二段構えの加速ならっ!?」
こちらを覗き込む驚愕の視線を受け止めながら、八重は全身全霊で以て捨て身の一撃を放つ。
少女が敵を捉えた瞬間――衝撃と共に黒き粉塵が巻き起こり、辺り一面を覆うのであった。
成功
🔵🔵🔴
ネーヴェ・ノアイユ
ジャバウォック様の攻撃は全力魔法により作り上げた氷壁の盾受けにて受け止め……。その途中にUCへと変化させることでジャバウォック様の攻撃とそれに伴う効果の相殺を狙います。
さすがは猟書家の中で書家の王を除けば最強と呼ばれているお方……。ですね。私の実力では……。中途半端に立ち回れば何も出来ず終わってしまいそうです……。
なので……。攻撃は他の猟兵様にお任せし……。私は先程使用したUCにて……。味方猟兵様への攻撃を盾受けしかばうことを主軸に戦います。
私は……。アリスラビリンスを守りたい。でも……。他の猟兵の皆様の世界も守りたいのです。この欲張りな想い……。この思いだけは決して砕かせません……!
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「宜しい、私も本気を出すと致しましょう……」
少なくない傷を受け、しかし悠然と佇むその男こそ、猟書家最強の男――サー・ジャバウォック。
その言葉の通り、サー・ジャバウォックは骨の擦れるような異音を鳴らしながら、身体を変化させる。
その翼はより強靭に。
その尾はより力強く。
その角はより禍々しく。
どす黒く鱗が染まっていくその姿こそ……失われし片翼と角を備えたその姿こそ――人間の『黒き悪意』を纏いし竜人形態――サー・ジャバウォックの竜人としての真なる姿だ。
「さすがは猟書家の中で書家の王を除けば最強と呼ばれているお方……。ですね」
その圧倒的な存在感を。
その圧倒的な悪意を。
肌を刺すような威圧感に気圧されながらも、ネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)は禍々しい竜と化したサー・ジャバウォックへと相対する。
「私の実力では……。中途半端に立ち回れば何も出来ず終わってしまいそうです……」
ネーヴェの実力は他の猟兵と比較し、決して劣っているわけでは無い。
しかし眼前の圧倒的強者の風格を纏う邪竜を前にして、一人でどうにかすることが出来るとも奢ってはいないのだ。
故に彼女は冷静に判断する――今猟兵たちに必要なのは、立て直す時間なのだと。
「風花舞いて……。一つになれば全てを守る煌めきの盾」
巨大化した漆黒の翼をはためかせ、こちらへと距離を詰めるサー・ジャバウォック。
その一撃を受け止めるべく、ネーヴェは全力で魔力を練り上げるのだ。
氷晶のような複雑な煌きを放つその盾こそ、皆を守るのだという彼女の決意と共に放たれた氷の盾――六花の万華鏡(カレイドクリスタル)。
気圧され立ちすくむ他の猟兵たちの前へ飛び出し、ネーヴェは大きく振りかぶられた大剣を正面から受け止めて見せる。
「私は……」
全身全霊を以って大質量の一撃を受け止める。
必死に大地を踏みしめるその両の足は、抵抗むなしく土煙をあげながら大地に線路を敷く――そして吹き飛ばされると共に、急激に五感が失われていくでは無いか。
しかし彼女は諦めない……何故ならば彼女にも、矜持というものがあるのだから。
「私は、アリスラビリンスを守りたい。でも……。他の猟兵の皆様の世界も守りたいのです」
氷の盾鏡が美しく輝くと共に、暗闇に包まれていた視界に光が……何も捉えることのできなかった耳に音が還って来る。
焦点を合わせた瞳を――再び輝きの得た瞳に、眼前の邪竜から驚きの気配を感じる。
何故五感が失われていないのかと。
何故未だ諦めないのかと。
「この欲張りな想い……この思いだけは決して砕かせません!」
その問いに対し、少女は覚悟を以って答える。
この世界も、仲間たちも守ってみせると。
だからこの誇りにかけて、決してこの盾は砕かせないと。
成功
🔵🔵🔴
ハルア・ガーラント
【焼鳥】2名
【WIZ】
故郷で味わった人々の悪意を思い出し怯むけど相馬の言葉に励まされます
大丈夫、こんな刹那の悪意に負けない
敵に直接触れぬよう自分と相馬に[オーラを厚く張り防御]体勢、周囲に焼け続ける大木を[念動力]で動かし垂直にあちこち乱立させます
敵の速度と剣の威力を減衰させ且つ位置を把握する[情報収集]の為
UCを使うまでは[第六感]で敵を補足
初手を凌いだらUC発動、これで翼が当たっても即座にその効果は解除されます
相馬、わたしも少しは戦えるようになったからね
[銀曜銃でマヒ攻撃をのせた誘導弾]を上空から降るような射線で発砲し飛翔封じ
敵にマヒの効果が出たら尻尾を[咎人の鎖で捕縛]して動きを止めます
鬼桐・相馬
【焼鳥】
【POW】
震えるハルアに一言
悪意なんて俺のを四六時中見ているだろ、今更怯むな
不可視といっても存在しない訳ではない
放ってから効果があるまで僅かなタイムラグがある筈
気配、息遣い、音、これまで培ってきた[戦闘知識と世界知識]、自前の[野生の勘]をフル動員
ハルアが乱立させた大木の炎の揺らぎも情報源に
構えた[ヘヴィクロスボウ]で迎え撃つ
ハルアを狙う高速の攻撃は彼女を[かばい]真正面から[見切り、武器受け]する
受け止め切れないものは[激痛耐性]で耐え冥府の炎が補うに任せよう
その後は敵の攻撃を[冥府の槍に怪力をのせたカウンター]で地道に削って行く
敵の動きが鈍ったらUC発動
周囲の木々のように[焼却]を
●
「っ……」
怒りと共に邪竜が猛る。
鼓膜をビリビリと震えさせるその咆哮が、猟兵たち全員へと向けられる悪意が、白翼を持つ女性――ハルア・ガーラント(歌う宵啼鳥・f23517)の身を竦ませるのだ。
彼女の脳裏に浮かぶのは、故郷で過ごした日々。
人々から投げかけられる悪意を思い出し、彼女は身じろぎ一つ出来ないでいた。
「悪意なんて俺のを四六時中見ているだろ、今更怯むな」
そんな彼女の肩を掴み、声をかける男がいた。
背の高さを合わせ、その瞳を覗き込むのはその額に紅の角を持つ青年――鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)だ。
俺と比べて、どちらが怖いのか……それは不器用な彼なりの励ましの言葉。
しかし共に過ごすハルアにとって、相馬のぶっきらぼうな言葉の真意を理解することなど容易――動揺し、虚ろになっていた目に光が戻って来る。
「大丈夫、こんな刹那の悪意に負けない……」
こちらへと強い視線で覗き込んでくる相馬の瞳を見返し、そう力強く頷くのであった。
「まずは、これで……」
敵の攻撃を防ぐ為、不可視の盾を貼るハルア。
二人の眼前にはこれまでの猟兵たちとの闘いにより、既に真なる竜人形態を形態を取り戻したサー・ジャバウォックの姿。
片翼と片角は対となり、尾はより雄々しく、全身はより黒く……より禍々しく変化をした竜人形態。
その存在感は圧倒的――だが、これまでの戦いを見守ってきた二人は敵がサー・ジャバウォックだけで無いことを理解していた。
「次は……」
ハルアが動かしたのは朽ちた大木の数々。
焼け落ちた森に転がるそれらを植え直すかのように次々と大地に突き刺していく。
それは翼を大きく広げる邪竜に対する妨害という意味だけでは無い。
今も尚戦場を駆ける不可視の獣――スナークを警戒する為、動きを制限させる為に行なっているのだ。
「不可視といっても存在しない訳ではない」
ハルアの支援を受けながら、相馬は不可視の狩人を迎え撃つべく武器を構える。
肉眼で姿を捉えられずとも、感じ取れるものがある。
その足音を、巻き起こる土煙を、荒い息遣いを頼りに、その獣の気配を感じ取るのだ。
しかしそれは無限にも感じる範囲から探し出すのは困難――だが、周囲にはハルアによって打ち立てられた木々が乱立している。
その木々によって制限されたルートの中であれば……限られた範囲であれば、五感を集中し不可視の獣を見つけ出すことは、不可能では無いのだ。
「……そこだ」
焦らず、冷静に……残り火の微かな揺らぎからその獣の存在を感じ取った相馬は黒塗りの重弩を放つ。
くぐもった悲鳴と共に突き刺さるボルト。
そうして“鈴”が付いたのならば何ら問題は無い。
不可視の獣の姿が見えるのならば、それはそこいらの獣と何ら変わりないのだから。
「ヤリマスネ……」
空中から事態を見守っていたサー・ジャバウォックは、相馬が槍を突き出した先――虚空から流れ落ちる紅により己が配下の死を理解する。
怒りを発露する、だがどこか楽しそうな声をあげながら、その両の翼をはためかせ二人目掛けて滑空するでは無いか。
そのくぐもった声も、禍々しい人外の姿も恐怖を覚えるもの。
だが、もう大丈夫……震えの止まった掌を握りこぶしに変え、ハルアもまた空へと飛び出すのだ。
「ホウ……来マスカ」
最初の震えていた様子は微塵も感じさせず、強い光をその身に宿すハルア。
そんな彼女の様子を眺め、サー・ジャバウォックもまた襟を正す。
弱者には死を――強者には、尊厳のある死を。
強者を好む彼は、覚悟を決めた戦士には全身全霊を以って正面から叩き潰す。
漆黒の翼をはためかせ、その手に握る巨大化した青白き斬竜剣を振るうのだ。
「くっ、私だって……」
視界がゆがむ程の衝撃を歯を食いしばるように耐え、ハルアが突き出すのは銀曜銃。
全力を以って備えた不可視の盾が砕かれるまでの数瞬の時を用い、避けられぬ程の至近距離から放つのだ。
「ソノ程度デ……グッ!?」
傷口は軽微――だが、全身に回る毒の気配を感じ、サー・ジャバウォックはその牙を剥く。
そして何より体内に打ち込まれた鉛の弾が芽吹き、翼を、尾を……全身を絡めとるように青々とその蔓を伸ばすでは無いか。
翼を封じられては飛行は不可能――サー・ジャバウォックは土埃を巻き上げながらその身を大地へと投げ出すのだ。
「……よく燃えそうだ」
そして堕ちた邪竜を迎え撃つは、紺青の炎をその身に纏う冥府からの使者。
一切の怒りも、慈悲も無く……唯々悪意を以って死を与える。
突き出した槍から放たれるは紺青に燃え盛る冥府の炎――絡めとるように青々と茂る草木を、そして悶え苦しむ邪竜と共に焼き払う。
煌々と光る焔と共に、魂を震わせるような咆哮が響く。
そしてそこには、静かに寄り添い見守る二人の姿があったという。
大成功
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