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なんちゃって謝肉祭! 甘党キョンシーを倒せ!

#カクリヨファンタズム #悪の組織ワルイゾー

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#カクリヨファンタズム
#悪の組織ワルイゾー


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●まあ死人だって女子だし。
「どうなってるんだこの世界は!」
 腹立たしげに机を叩くのは額に大きなお札を貼り付け、チャイニーズな服装に死人の肌をした、文句のつけ様のないキョンシーであった。
 彼女は名をキョンシー将軍、とある悪の組織に所属していた改造キョンシーが骸魂により復活した姿である。
 各間接を高可動ジョイントに置き換えた超機能キョンシーである彼女は死体であるにも関わらず、死語硬直望む所とばかりの運動性能で太極拳もお茶の子さいさいだ。
 そんな彼女が頭を悩ませているのはこの世界、カクリヨファンタズムに真っ当な人間がいない事に因む。
 彼女らキョンシーは人肉大好きゾンビマンだが、ここにあるのは骨なのに動く者や陸にいるのに磯臭い者やそもそも食べるのに困難な者ばかりだ。
 これでは幸せなキョンシーライフは送れない。
「アネゴーッ!」
「ジェネラルと呼びな!」
 横文字かよ。
 女の子の個室の戸を蹴破る無礼な部下にも度量広く呼び名に対する注意だけである。
 そんな彼女へ目を輝かせて見せたのは豆腐小僧。笠の下はにこにこ笑顔で、手にした皿にはこれまたにこにこ笑顔の生首が乗っている。
 おめー豆腐小僧じゃねえな。
「こ、これは!?」
「アネ、じゃあねえや。じぇねらるの為に作ったんでさぁ!
 いつもいつも、人肉食いたい食いたいって、くっそやかましくてしょーがなかったもんで」
 へへーっ、と掲げる。君は正直者だと良く言われないか?
 言動はともかく忠義の精神は素晴らしい。皿の上の生首、顔は笑顔だが全体的にのっぺりとしていて、なるほど贋作かと分かろうもの。
 しかし湯気立つそれを、久々の人肉と思い込んだキョンシーは気付きはしなかった。
「…………!? しっとりしている。それでいてまるで骨もないような柔らかさ!」
「へ? へえ、そりゃ饅頭ですから」
「マンジュウ? 蒸す料理と聞いてはいたが、ここまで軟らかくなるとは」
 もみもみ。ハレンチですよ!
 衝撃を受けて饅頭をいじくる将軍にやきもきした豆腐小僧は、さっさと食べないと皿を下げるぞと脅しにかかる。
 そう強気に出られては遊んでられず、むんずと掴んだ饅頭をがぶり。
「…………!!」
 広がるつぶ餡のずっしりとしていて後味のすっきりした甘味、焼きを入れた香ばしさ。
 包む皮もしっとりとした感触はさることながら柔らかく、まるで餅のようにむっちりと餡を包み食べ応えは十分だ。
 鼻腔を満たす香りと脳を駆け巡る糖の癒しに言葉を失う。
「今まで生が最高だと思っていたが……こんな世界があるとは……!」
「いやきちんと調理した物を食べて下さいよアネゴ」
 キョンシー将軍を哀れむ豆腐小僧を張っ倒し、彼女は衝撃の出会いを果たした饅頭を掲げる。
「遂に見つけたぞ、このカクリヨファンタズムに足りなかった一片を!
 この世界を包むべき存在を!」
 何ゆってんですかね。
 キョンシー将軍の双眸は、力強く狂気に輝いていた。

●甘党による世界の滅亡。
「と、言う訳で馬鹿馬鹿しい発端から大それた事件の発生だ」
 疲れた様子の大門・有人(ヒーロー・ガンバレイにして怪人・トゲトゲドクロ男・f27748)は、目頭を揉んで集まった猟兵たちへ目を向けた。
「饅頭に偉く惚れ込んだオブリビオンによって、カクリヨファンタズムのあちこちで饅頭が溢れかえってしまったんだ。
 飯に困らないのは良い事だが、均衡の崩れた世界に骸魂が蔓延り、挙げ句、住人たちも暴走している」
 百鬼夜行だ。語る有人によれば、暴徒化し、昼夜を問わずカクリヨファンタズムを騒がせているらしい。
 その中には特に影響力の強いオブリビオンが紛れており、暴徒を鎮圧しつつ彼らを倒せば、各地の暴走百鬼夜行も治まると言うのだ。
「木を隠すなら森、だったか。件のオブリビオンは小さい。まずは森を伐採して目当ての木を見つけるのが手だろうな」
 暴徒化した妖怪たちを鎮圧し、影響力の強いオブリビオンを倒し。
 そして。
「最後はこのとんちきな事態を巻き起こしたオブリビオンを倒すんだ。
 それらしい姿が神社で目撃されているが、そこには一際大きな百鬼夜行の列が向かっている。どうあっても接触は避けられん」
 道程を示すなら、下町から神社へ向かう道。
 下町で暴れる暴走百鬼夜行を鎮圧し、神社までの雑木林の道で影響力の強いオブリビオンを倒し、その先――、邪魔者のいなくなった神社で決戦となる。
 下町での戦闘は、下手を打てば被害を拡大させる。とは言え何でもお祭り事にする彼らの事、修理するも楽しくやってくれるだろう。
 それどころか、目の前で活躍する猟兵の為に役立つ物を貸してくれるかも知れない。
「このオブリビオンは人の手が加わった者。カクリヨファンタズムの者とは違う歪んだパワーを感じる。気をつけてくれ」
 有人の忠告に頷く面々。彼は、それからと言い辛そうに頬を掻く。
「溢れかえった饅頭なんだが、人の体のパーツを模したものだ。はっきり言ってグロいと思う。
 そういうのに耐性がない者は気をつけておくんだぞ」
 とは言え、饅頭は饅頭だがな。
 疲れた笑みを見せた有人は、そのマンジュウに影響でも受けているのかいないのか。
 元気なく髪を整える彼の姿に、いつものリーゼントも寂しげであった。


頭ちきん
 頭ちきんです。
 カクリヨファンタズムでなんちゃって人肉が溢れ、健康にマラソンしてる妖怪たちを救ってください。
 それぞれ断章追加予定ですので、投稿後にプレイング受付となります。
 それでは本シナリオの説明に入ります。

 一章では下町で爆走する、暴徒化した妖怪たちを正気に戻してあげて下さい。三択に囚われない対応でも構いません。
 街中ですので皆さんの行動で被害が拡大したり縮小したりしますが、住人さんは暇してるので嬉しそうに直すでしょう。
 また、猟兵は人気者なのでその辺の家から必要な物を借りる事ができ、全章通して使用可能です。
 二章では妖怪たちに影響を与えるオブリビオンとの戦闘になります。雑木林の道を利用し、相手の死角から攻める事も可能です。
 三章はこの騒動を引き起こしたボス・オブリビオンとの戦闘になります。動機はともかく武術に心得があり、仙術も合間って遠近共に高い戦闘能力を誇ります。

 注意事項。
 アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
 その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
 ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
 これらが嫌な場合は明記をお願いします。
 グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
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第1章 冒険 『暴徒だらけの百鬼夜行』

POW   :    暴徒をねじ伏せるなど、気絶させる

SPD   :    暴徒に水をかけるなど、沈静させる

WIZ   :    暴徒を眠らせるなど、無力化する

👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●でもって下町の様子だよ!
「ヘイヘイ、モテたいなら走れよ百鬼夜行♪
 輝く汗に爽やかイケメンオゾンホール♪
 君は町の中心さ、決まったゼ! ダンスポール♪」
『イェーイ!』
 イェーイじゃねえよ。
 何を言っているのかよく分からないが、お立ち台を神輿にした河童が鬼やら入道やらに担がれてマイクにスピーカーで騒音を撒き散らしている。
 彼らにつき従う妖怪の皆さんも、とてもじゃないがこんな音楽にノるようではマトモとは思えない。正気を失っているのだろう。
 夜行と言いつつ、日の出と共に朝陽に向かって爆走する彼らは下町の迷惑そのものだ。寝かせてやれ。
「走るぜ俺たち朝陽に向かえ、健全健康幸せ筋肉爽やかイケメンボ~イ♪
 ハイッ!」
『おはようイケメンボ~イ♪』
 騒音の主たちのコールよいしょに、下町の妖怪たちも眠そうに瞼をこすり、あるいは歯を磨きながら手を振っている。
 …………。おかしいぞ、誰も煩わしく思っていないようだ。
 しかし、これも全ては世界の均衡が崩れた事による。各地に散らばる人饅頭を食べてお腹を壊した者や、胸やけに悩まされるもの、いくら食べても食べきれずに太ってしまう者と散々な被害をもたらしているのだ。
 その結果、現れた骸魂に次々と妖怪たちがオブリビオン化している。
 猟兵たちよ、雰囲気に騙されず暴徒を鎮圧するのだ。特に河童。

・手段を問わず、暴徒を鎮圧して下さい。
・結果、町に被害が出ても暇してる住人が喜んで直してくれます。
・猟兵はカクリヨファンタズムの人気者のなので、下町の妖怪から好きな道具を借りる事が可能です。
・借りた物は全章通して使用できますが、いずれかのプレイングに返品描写がない場合は返し忘れの扱いになるので注意して下さい。
・絶品人饅頭は猟兵もむしゃむしゃできます。
●町ごと潰せ、百鬼夜行?
「……美味しい事件の匂いがする……」
 昇る陽射しを前に鼻をひくつかせたのは一ノ瀬・はづき(人狼の正義の味方・f29113)。
 見渡せば陽気に暖められた人の形をした饅頭の散らばる世界。イッツ・ファンタジック。
 耳がぺたんと下りたはづきの肩に手を乗せて、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は頷いた。
「料理は見た目も大事なんです。
 いくら味が良くたって、人のパーツっぽくされると食欲が一気に……減るというか……」
 逆に食欲の増える奴もいるそうですよ。
 食べ物に困る事もなくなり、朝の飯だと人の腕を模したむっちり饅頭を食べる妖怪たちの姿は正に悪夢。
 そして、それらを掲げて町を爆走する暴徒化した妖怪たちなど目も当てられない。
 でも皆、いい笑顔で食べてんだよなぁ。
(ううっ。……あんこが絶品という部分には心惹かれるものが……っ。
 いけません。ともかく今は、朝のまどろみを妨害する妖怪たちを成敗しましょう!)
 頬をぴしゃりと叩いて渇を入れた摩那。お饅頭に心惹かれるのは万物共有の現象故に仕方のない所だが、そうそう誘惑に負けてしまっては猟兵は務まらないのだ。
「さわわっ、さわさわ爽やかっ、やかやか♪」
(まずはあの珍妙なラップ──……ラップ? で騒ぐ河童からですね)
 目標捕捉。
 珍妙なステップを揺れる神輿で決める河童に対し、摩那も彼の視点に合わせる為に近くの家に上がり込む。もちろん許可は取っているぞ!
 ベランダの窓をがらりと開けて、摩那は騒ぐ河童へ指を突き付けた。
「そこな河──」
「待てぃッ!!」
 びりびりと鼓膜を震わせる大声量。
 摩那の言葉を更に頭上の屋根の上から遮ったのは、鳳鳴・ブレナンディハーフ(破戒僧とフリーダム・f17841)だった。おめー許可取ってるのか?
 見せ場を横取りされて僅かに眉を潜めた摩那が見上げれば、鬼のような視線を河童に向ける鳳鳴の姿。
 法衣を纏い、朝陽を乱反射する彼の鏡の如き頭部に思わず目を背ける摩那。迷惑だぞ鳳鳴さん。
 声は勿論、その睨みっぷりに暴徒化百鬼朝行の一面も「あの人ちょー怒ってない?」と浮き足だっているご様子。
 むしろ朝っぱらから走り回って怒られないと思っていたのか。
「朝もはよから健やかに……人々の惰眠を妨害し爽やかな朝へと導く正道の者共……!」
 …………。
 何か言ってる事がおかしいぞ?
「これ以上の健全、例えお天道様が許しても、この僕!
 ブレナンディハーフが許さん!」
 HENTAIやんけ。
 熱い叫びと共に一息で法衣を脱ぐ。朝もはよから全裸である。
 大事な所は幸福を呼ぶケサラン・パサランが守ってくれているので直下の摩那もダメージはない。やったぜ幸福妖怪!
 とは言えHENTAIがHENTAIしている事に変わりはないので、無言で視線を反らす少女を他所にテンションを上げていくブレナンディハーフ。
 その側ではがっくりと項垂れた彼と瓜二つの顔を持つ鳳鳴の姿があった。元々、肉体を同じくする彼らがユーベルコード【オルタナティブ・ダブル】により二人へと別れたのだ。
「さあさあさあ、今すぐその健全行為を止めないか! どうなっても知らんぞー!」
「喧しいやHENTAI! 俺たち健全スピリット! HENTAIなんかにゃ止められねえ!
 スピリット宿るは健全ボディ、程よく鍛えた程よい体、爽やかイケメンイェーイイェイっとお!」
 健全スピリットは騒音行為をしないと思うんですけど。
 しかし河童の言葉に共感したのか、暴徒化百鬼朝行の面々は神妙な顔で頷いている。
 まあ、HENTAIを前にしたら常識人ぶりたくもなりますよね。
「言いたい気持ちはわかりますが。貴方がたの騒ぎは迷惑行為!
 まずはその変な音楽をすぐに止めなさい!」
「──変っ……!?」
 そうだ、お前たちの音楽はラップですらないぞ!
 びしりと指摘した摩那の言葉にびしりと固まる河童。その間にもブレナンディハーフは項垂れた鳳鳴へ背中から手を回している。
 何してるんですかね?
「芸術、それは孤高の象徴っ。理解、得られるつもりはないぜ!
 そうこれが俺の音楽さ! 唯一無二で突っ走る! その先ゴールはいつだってモテモテロォーオドォ~♪」
『モテモテロォオオドッ♪』
 こいつらモテたいだけやんけ。
 間違った方向で異性の気を惹こうと暴走するのは思春期なら誰もが覚えのある事だろう。とは言え。
「あくまで止めないワケね?」
「あくまで止めないワケだ!」
 摩那とブレナンディハーフの言葉が重なる。
 少女の手にはアースクライシスの折に入手した、謎金属制の頑丈なる超可変ヨーヨー【エクリプス】が収められていた。意思の力で質量を変化させるそれは、生まれもって超常を起こす能力を秘めた摩那には扱い易い品だろう。
 一方、ブレナンディハーフにも扱い易い者が。自分自身でもある鳳鳴である。
「……拙僧はどちらの味方をしたら良いのだ……」
 鳳鳴さんは悪くないよ。
 悲壮感溢れる本体を捕まえた悪魔の男、否、HENTAIは畑から作物をぶっこ抜くように全身の筋肉を使って持ち上げると、その勢いのままに河童へ向けて投げつける。
 炸裂☆HENTAI式投げっぱなしジャーマン!
「のわあああっ!?」
「げろおおおっ!?」
 人間砲弾の直撃を受けて、神輿から転げ落ちる河童。
 何だかんだ言った所で、きちんと仕事はするのではないかと摩那はヨーヨーを投げつけて、神輿を担ぐ鬼たちを捕らえた。
「接地、反転」 
 摩那の言葉で光を帯びるのは、靴に取り付けられた宝石状の呪力型加速エンジン【ジュピター】。反発力を高める事で大きく踏み込んだ摩那の足にかかる力。
 アンカーが作動し縛りあげた鬼たちを固定する。
「──力場、解放!」
『ほげええええっ!』
 ナイスフィッシング。
 解放した力で飛び上がった摩那の魔手により、絶叫マシーンもかくやという速度で空中に投げ放された鬼たちはそのまま家屋に墜落する。自然を守る模範的なキャッチアンドリリースである。
 こりゃ雨漏り確定ですな。でも天気予報は晴れが続くから大丈夫だね。
「ぼ、暴力反対ーっ!」
 残る鬼も神輿を投げ捨てて逃走を図るが、あろうことか進路上の家屋を突き破るという傍若無人ぶりである。お前はまず暴力を辞典で引いてみろ。
「私のエクリプスからは逃げられません」
 再び呪力エンジンをフル回転させて二度目の発動となるのはユーベルコード、【獅子剛力(ラ・フォルス)】。
 自らの為に町民の家屋を破壊するなど言語道断、力場に包まれ逆立つ黒髪と、ともすれば宙に浮きそうになる赤い眼鏡を片手で抑え、残る手の中指からエクリプスが放たれる。
「さっきより怖いですよ?」
 がんじ絡めにした鬼を、そのまま引き抜く。
 町を横断したエクリプスと摩那の中指とを繋ぐ糸は、直上の全てを切断し、不躾な輩を天高く追放した。
 鬼って頑丈だから、成層圏から落下しても平気だよね。
 左肩に止めた手へエクリプスがぱちりと戻り、摩那の頬を伝う汗。
「……ご、ごめんなさい……」
 家が真っ二つになって、お茶碗を持ったままぽかんと呆けている住民の姿に、少女は素直に頭を下げた。


●かますぜボーイ!
 謝った所で、百鬼朝行の暴徒化が終わった訳ではない。未だに朝陽を目指して奔走する妖怪たちは自動車並みの危険物だ。
 エクリプスで強制解散を続ける摩那の姿に、地面に這いつくばった河童は怒りの炎を瞳に燃やす。よう負け犬。
「……いつだってそうだ……新しい芸術は理解されない……ばかりか、理解しようとすらしない……!
 そんな者たちの手で、俺たちアーティストは迫害されるんだ!」
 寝ぼけたまんまの住民を肩車して朝陽に爆走するような奴らがアーティストを気取ってるんじゃねえぞ。
「それでも俺は心を信じてるからよぉ、歌う事を止めねえからよぉ。皆、俺を信じてくれーっ!
 ラァブッ、アンド! ピィィィィス!!」
『ラブ・アンド・ピース!!』
「うおおっ、ラブアンピー!」
「ラブリービーズ!」
 テンションぶち上げの河童に合わせて、未だに抵抗を続ける鬼や他の妖怪たちも立ち上がる。住民さんは良くわかってないなら空気に飲まれずに座ってくれませんか?
 そんな河童の足下から立ち上がったのは鳳鳴だ。
「……うぐぐ……本体を投げるな本体を……!」
 痛む体を引きずり起き上がると、河童に指を突き付けた。
「芸術だ愛だ平和だを唄いながら、やる事は暴徒による住民への圧迫の数々!
 こんな混乱が許されていいはずがない。正されなければならぬ!」
「正論嫌いだ暴力嫌いだ、そんなものには負けないぞ♪」
「行くぞ、健やかな野郎どもめ!」
「HENTAIは来ないで下さい!」
 いつの間にか鳳鳴の隣に立つブレナンディハーフ・ウィズ・ケサランパサラン。そりゃ河童も叫ぶというもの。
 HENTAIの登場により高まった士気もだだ下がりの中、旗色悪しと見て後退する河童の前に一人の男が立つ。
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)、握るは剣でなく、希望を奏でる為の【ワイルドウィンド】。
 河童はそれを見ると尻のポケットからサングラスを取り出した。河童って有袋類なの?
「……お前……アーティストだな?」
 かけるだけで雰囲気出ちゃうサングラスはずっこい。
 シャープなグラサンでお間抜けな顔を隠し厳つく見せた河童さんは口調も変えて、真面目な雰囲気を醸し出している。
「折檻折檻!」
「痛ぁいっ!」
「呉越同舟の忠言!」
「なんかよくわかんないけどミギャァア!」
 その後ろでは鳳鳴が暴れていた天の邪鬼を取り押さえてお尻ぺんぺんしていたり、天狗がブレナンディハーフの股間に顔を押し付けられたりしている。
 ケサラン・パサランのお陰で直接触れてないあたり幸福なのだろうが、幸福とは誰かの犠牲の上で成り立つのだと証明される場面に毛玉の幸せを祈らずにはいられない。
 そんな凄惨な光景からは目を反らし、ウタは構えたギターの弦を弾く。
「河童、あんたもアーティストを自称するなら、分かるよな?」
「……対バン……いや、セッションのつもりか。面白い」
 大物気取りの河童さんの方が面白いです。
 ニタリと笑った河童はグラサンを投げ捨てる。もったいねえ。
 捨てられたサングラスはブレナンディハーフの股間のケサラン・パサランにぴたりとはまった。もったいないとは言ったが再利用しろとは言ってない。
「あんたらのボスにはキョンシーがいるらしいな」
 やはりそれには触れずにウタ。突っ込んでたらキリないからしゃーないね。
「ボス? よく分からんが、この爽やか行進は神社にいるお偉いさんに生放送でお届けされる非常に奥ゆかしくも素晴らしい団体行動です」
 大体把握したから黙っていいぞ。
 大体の言葉を聞き流して、まあ中華風の方がいるならとギターを奏でる。しかしそれは河童らの得意とするようなノリノリな曲調ではなく、落ち着いた雰囲気のそれこそ奥ゆかしい曲調だ。
 中国の弦楽器を模した二胡風の演奏はどこまでも柔らかく、強い朝の陽射しすら和やかに感じさせるそよ風の如き音の波。
 予想を外れた音楽に目を点にしていた河童であるが、黙っていても演奏は進む。そして黙していればそれは敗北に等しい。
「あ、あー、ゲコゲコ、おっほん! ……えー……」
 ヘイヨォ河童小僧、お得意のゲラップはどうしたんだYO。
 すでに音楽で場を支配したウタを前に、咳払いや何やらで自らを奮い立たせようとしても全くノれないご様子。そりゃクラシカルに真面目な雰囲気を健やかイケメンが邪魔できるわけないもの。
 暴力に頼らないながらもえっぐい視点から斬り込んだウタは、お返しとばかりにやりと笑う。このままいけば歌う場を失ったイケメン爽やかボーイが敗れるのは間違いない。
 しかし。
(まあ、河童のラップと協奏するってのも中々出来ない体験だし)
 折角だ、下町の妖怪らに好意や愛情を沢山感じて貰えるよう、セッションのつもりで楽しんで演奏しよう。
 ウタは考えを改めて曲調を変えた。はっ、としてこちらを見つめる河童にウインクする。
 そう、それが何より嬉しいから。
「ゲコッ、ゲコゲコ♪
 蹴散らせ暴力羽ばたけ応力、俺らアツいスピリット交わすぜ♪
 刻むぜ効力歌うぜ抗力、何故なら俺たち爽やかイケメンかますぜボ~イ♪」
『かますぜボ~イ♪』
 活きのいいリスナーだぜ。河童は嘴をさすって笑う。
 ユーベルコード、【サウンド・オブ・パワー】を発動させているウタであるが、これはただ戦闘能力を上昇させるだけではない。沸き上がる連帯感は人との繋がりをも繋げる。隣人の愛を歌うのだ。
 突然の暴力にも負けなかった。正論にだって挫けなかった。だからこそこうして出会えたのだ、強敵と書いて『とも』と呼ぶ、そんな素敵な仲間を。
 脳内お花畑でウタに親指を立てる河童さん。ウタもそれに応えて親指を立てるが、君そんな事やってる間に頭の皿が乾いてきてるから気を付けてね。
 ウタさん知らないみたいだけど河童は皿乾くと死んじゃうからね。諸説はある。


●善意と悪意!
 その日、化野・花鵺(制服フェチの妖狐・f25740)は怒りに耳を立て、尻尾を膨らませていた。
「戦争は大事じゃ。季節いべんと、とやらも必要であろ」
 そう、世は迷宮災厄戦という季節イベント扱いしてはならない世界の危機の真っ盛り。それも他世界に危険が波及しかねない深刻な状況だ。
 優秀な猟兵が人饅頭を気にかけている場合であろうか? ありがとうございます!
 しかしこの狐が考える事はそこではない。
「じゃがな、じゃがあまりにもせぇふくが足りんのじゃ!
 衣食足りて礼節を知る、ならば衣の足りぬ妾は悪鬼羅刹の如く振るもうても良かろうがぁ!」
 それ既に礼節を知ってる人が傍若無人になっていいよって免罪符にならないから。
 どちらにせよ、世界危機よりも現状の嗜好不足による活力低下が彼女にとっては一大事。妖狐ともあれば当然かも知れない。
 そう考えれば地団駄を踏む花鵺の怒りも理解でき、る、かな?
 そんな花鵺の脇をするすると通り抜ける蛇が一匹。舌をちろちろしながら、多少は気になったのか花鵺を見つつも、別の世界へと消えていく。
 それを見送ってにやりと笑う狐の不気味さよ。
「……死に装束も……せぇふく、よな。幽世務めを探すも一興か」
 なんて?
 余りにもな不穏な言葉を残して、花鵺は蛇を追うのであった。

 そしてこちらはカクリヨファンタズム。
 もちもちした人の腕、もとい人の腕の形をした饅頭をつつくはづき。
 見た目はともかく、やはり香りは食欲をくすぐるものだ。熱々のそれは陽射しに焼けたのではなく、現れた時からその温度だったのだろう。
 手に持ち、食うか食わざるかと迷う彼女の目の前に、摩那がぽいぽいしていた妖怪が降ってきた。
 失神して目を回す鬼の姿に頭を掻けば、前髪が揺れて右の眼帯が顕となる。とは言え、ファッション用の代物ではあるが。
「鬼君、大丈夫?」
 腕饅頭でほっぺをぺったんぺったんしていると、鬼が大きく口を開いて息吹く。
 気がついたのではない。その口から毒々しい紫色の甲殻類が顔を見せた。それはよっこらせと鬼から途中まで這い出て、はづきと目が合うと「あ、やっべ」とばかりにおたつき始めた。
 鬼の顔をそこら中掻いて、なんとか抜け出したそれは尾っぽが長い。ザリガニ、というよりは殻のないヤドカリだ。かさかさと逃げていく紫色を追うように、一回り小さな赤いヤドカリが鬼の口から次々と這い出して行く。
 だがどこか足取りがおぼつかず、まるで操られているかのようだ。
「…………。ていっ」
 手に持っていた腕饅頭を紫色のヤドカリへ投げると、直撃を受けたそれは「ひゃーっ」と両手のハサミを振り上げ霞となって消えていく。
 残る赤いヤドカリは暫く辺りを伺っていたが、やがて散り散りに、思い思いの方向へと離れて行った。
 見渡せば、摩那にぽいぽいされて目を回している妖怪から、同じように紫色ヤドカリが這い出てそれに引き連られて行くヤドカリが、群れとなって神社へ向かっている事に気がつく。
(……確か神社には例のキョンシーがいるとか……?)
 と、なればこの紫のヤドカリもどきに何か原因があるのではないか。
 ふむ、とひとつ頷いて立ち上がれば、はづきと同じく人饅頭に興味津々な男の姿。
 金髪を揺らして八榮・イサ(雨師・f18751)は立ち上がり、こちらも手に持ったにこにこ顔の人饅頭をしげしげと掌で転がしながら観察している。
「おはようございます」
「あっ、おはよう。ここは饅頭人気なんだねぇ」
 楽しそうだよう。
 そう言ってイサの顔を向けた先では人饅頭を菜箸に突き刺して走り回る餓鬼の姿。
 文字通りガキで人饅頭でなければ「はしたない」で終わる話だが、もはや言い逃れできぬ邪教の集団である。
「……まあ……おれはこし餡のやつしか食べないけど」
「食べやすさと濃厚な甘さがセットになってるもんね」
 イサの言葉に腕を組み頷くはづき。しかしここの人饅頭は残念ながらつぶあんだ。これは議論が起こり……起こらないな……妖怪どもは食い物なら何でも良さそうだ。
「とは言え、暴れるのはよくないよう」
 人饅頭を掲げた餓鬼たちが、道すがら知らぬ人の家の戸を叩いたり、ピンポンダッシュを繰り返す様に心を痛める。クソガキども許さんぞ。
 イサの視界が別の存在へと共有される。ユーベルコード【目醒まし(メザマシ)】。
 イサの捉えたピンポンダッシュ餓鬼の情報を受けて、狭い道からすらりと現れたのはイサの仕える神の眷属のでありまた最愛の者となる蛇、【慈雨】だ。
 ピンポン後に駆け出そうとしたその先に現れ、大口を開けて威嚇する。
「うへえっ!?」
 驚き飛び退いた隙に、両手にあちこーこーの人饅頭を持って突撃するイサ。覇気を纏い高速で接近した後に足を払う。
 高速かつ接地箇所を狙った痛みのない、地味ながら高等技術を披露した彼には、その優しさが垣間見える。
「なー、掌大で熱々の、こし餡饅頭はこのへんに売ってないかい」
「えっ、えっ? 知らないっス」
 状況が飲み込めていない様子の餓鬼に、そうかと残念そうに瞼を閉じる。
 ところで。
 イサは不揃いな色の瞳を見せると、頬を膨らませた。
「賑やかで楽しそうだけど、やり過ぎたらダメなんだぞう」
 めっ、とばかりのイサに頷くように、その肩へと巻き付いた慈雨も舌を出す。
「は、はあ、すみませ──おごっ!?」
 餓鬼の開いた口に詰め込まれるあっつあつの人饅頭。これは地獄だ。やったぜ!
 あまりの熱さに左右に振る顔、口から覗く人の腕は恐怖の光景だ。
「怒っちゃダメだぞ。饅頭食え」
「もごごっ!? もがーっ!!」
 暴れる姿に怒っていると思ったのだろうか、怪力で押さえつけてそのまま人饅頭を押し込んでいく。
 役に立つ豆知識として、餓鬼さんは喉が針金のように細く食事が出来ないと言われている。そんな彼らの為に人饅頭をしっかり胃袋に送ろうとするイサの寛大さのなんとありがたいことか。
 ザマぁねえぜピンポンダッシュ野郎。
「……ひええ……」
「饅頭は落ち着く効果があるからな、体にいいぞう」
 知らないけど。
 ぼそりと言葉を付け加えながら立ち上がるイサ。ぐったりと動かなくなった仲間を目にして戦々恐々とする餓鬼たち。さあ次は誰が落ち着きたいのだね。
「ち、畜生っ。俺はモテたいんだ、こんな所で死ねるかよ!」
 仲間を見捨てて背を向ける一人の餓鬼。ならこんな所でピンポンダッシュしてるんじゃない。
「モテたい、とな?」
「──はッ……!?」
 曲がり角からすらりと現れたのは制服姿の一人の少女、ではない。花鵺だ。
 残念だが、君たちの行き先には地獄しか残ってないね。
「モテたいならせぇふくに決まっておろうがこのうつけぇ!
 世界、せぇふく、せぇらぁふくぅ!」
「ええっ、何にキレてんのこの人! 怖い!」
 妖怪の分際で正論を吐くんじゃない。
「ヌシらもせぇふくに塗れるがよいわ!」
 頭に葉っぱ、ではなく【霊符】を頭に乗せてその場でとんぼ返りを行う。
 どろんとにわかに霞たち、現れた狐の影が餓鬼らへと疾駆して。
 あ、これ住民にも行ってますね。
 餓鬼とともにピンポンダッシュを受けて玄関先に現れた一目一家や座敷童などにも影響を与えてすやりと寝かせてしまう。
 朝の大事な睡眠時間を邪魔されたのだ、これぐらいは許してやろう。
「くふふ。妾が悪夢をすり替えて見せようぞ」
 死屍累々と横たわりに夢の中の世界へ旅立った暴徒化百鬼朝行の連中と周辺住民たちの真ん中で、耳をぴこぴこと揺らす花鵺。
 そんな花鵺より離れて少し。
 大型のリヤカーに死体の如く妖怪を詰め込んだ猟兵が現れた。近くの住民の呼び鈴を鳴らし、出てきた者へ丁寧に頭を下げた。
「すみません、この方達にお布団を貸してあげて下さいませんか。勿論一緒に寝て下さって構いませんので」
 要求が妖怪のそれ。
 きいきいと妖怪を山積みされたリヤカーを引き、寝床に寝かせてやれと家を回るなどまさに妖怪の如く。しかし彼女、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はそういった類いではない。ないったらないのだ。
「あんたー! 猟兵さんが朝から騒がしいシャバシャバの若造どもを寝かしてやれってさー!」
「おうおう、幾らでも寝かしてやるぜい。暖炉の中に炉の中、仏壇の線香立てとどんなサイズにも対応してやるぜぃ!」
 突然の訪問にも関わらず、嫌な顔を見せないえんらえんら夫妻。
 でも灰の山に寝かせようとしてるあたり、相当にご立腹なのかも知れない。
 リヤカーには往来の邪魔となってしまった昏睡・気絶妖怪たちを、これ幸いとはづきが次々と追加していく。これは怒ってもいい。
 しかし、桜花は怒りも見せず、摩那のぽいぽいにより未だに気絶していない鬼にも桜の花びらを放ち寝かせ、荷物こと駄妖怪を増やす始末。
 この桜の花びらはユーベルコード、【桜の癒し】。花鵺のユーベルコードと同じく寝ている間に傷を回復させる効果を持つので、目覚めと同時に爆走を開始するだろう。が、桜花はそうはならない確信があった。
「同じ釜の飯ならぬ、同じお布団の仲間なら。
 此方のみなさんも、もう少し静かに爆走なさるようになると思うのです」
 そうかなー?
 その言葉を聞いて駄妖怪を集めるはづきも小首を傾げていたが、まあいいやとばかりに投げ込んでいく。
 幾らなんでも重いですよ!
 朝の心地好い運動は超える量で汗をかきリヤカーを引く彼女、一体なんの罪があろうと言うのか。
「美味しい樽詰が精神的苦痛になると思わなかったものですから。
 ……お布団詰めなら、安全に睡眠不足解消可能かと思うのです……」
 別世界はウチじゃノーカンだから。
 とは言え何やら後悔しているご様子の桜花。故に苦行となっても妖怪らのふれあい、癒やしを優先しようと言うのだろう。
 たとえ樽の中にキノコやタケノコタイプの住人二家族を詰めて蜂蜜漬けにした挙げ句に静電気で責め抜かれた者たちが生涯背負うようになった蜂蜜へのトラウマを植え付けた所で彼女がここまで罪の意識に苛まれる必要があると言うのか!
 …………。た、たとえのお話ですから。
 一軒一軒回りながら呼び鈴を鳴らし、若い夫婦や恋人を見た桜花はリヤカーに残る駄妖怪を見つめる。
「まあ、すぐ布団内プロレスに移行する方もそうそういらっしゃらないでしょうし」
 愛の営みを邪魔する駄妖怪はNG。だからモテないんだよお前ら。
 目を逸らす桜花。彼女の行為が恋のキューピッドとなるか、既存夫妻の愛を冷めさせてしまうのかはまた別の話である。


●さよならイケメンボーイ!
「……ど、うや……ら……ここまでのよう、だな……」
「! 河童!」
 ふらりと倒れ込む河童を、演奏を止めて抱き止めるウタ。河童は小さく、力なく笑うと何をやっているんだと彼を叱咤した。
「……俺たちアーティスト、は……歌を止めちゃあ……なんねえよ……あんたの、名前と一緒に……生きてんだからよ……!」
 やけましいぞハゲ。
「……河童……!」
「……へっ……おいおい、情けねえ声、出すなよなぁ……! 可愛い女の子じゃなくて野郎の涙で復活、なんて──」
「泣いてはいないけど」
「…………。そスか。あ、猟兵さんって結構ドライな方?」
「普通じゃないかなぁ」
「……そっスか……」
 げっそりした様子の河童に首を傾げていたウタは、周囲へ目を向ける。
 既にそこに暴徒化百鬼朝行の姿はない。すべてぽいぽいされ、あるいは絞め落とされたりHENTAIにより堕とされたりしている。
 周辺に散らばっていた者も全て収容され、…………。収容しちゃったんだよなぁ。
 ともかく、解散状態なのだ。
「これ、美味しいよう」
「あ、美味しいですね! ……さっきのおうちの人たちにも持っていきましょうか……」
 さすがに桜花だけにリヤカーを引かせる訳にはいかないと手伝っていたイサ。あまりの駄妖怪どものせいで早めに店を開けた小豆洗いの熱々こしあん饅頭を手に入れていた。
 皆の分と大きな紙袋から掌大のつやりと輝く饅頭を口にし、摩那もその甘さに頬へ手を当てた。僅かに感じた苦味は罪悪感か。
「ええい、いい加減に離れ──おうふっ!」
 股間のケサラン・パサランを剥がそうとしていたブレナンディハーフであったが、伸びた毛玉が戻る要領でサングラスが股間に直撃して蹲る。因果応報。
「そのまま大人しくしておれ」
 自らの分身に法衣を着せてやり、鳳鳴は河童へと目を向ける。
 騒動もまずは一段落か。
「……ウタ……俺たちって、友達に……なれたのかな……?」
「さあ?」
「げこっ!?」
 そこは頷く所じゃん、と非難の目を向けた河童に対し、ウタは笑顔を見せて親指を立てた。
「楽しいセッションだったぜ。サンキュ!」
「! …………。ふっ、こっちこそ」
 始まりと同じく。ウタへサムズアップで返す河童。よし、綺麗にまとまったから死んでいいぞ。
 そんな世界の夢が叶ったのか、キメ顔の河童にピンク色の塗料が直撃して死にかけの河童を空へ舞い上げる。
 はづきのユーベルコード、【グラフィティスプラッシュ】!
「げっ…………こぉおおおおおおっ!!」
「追加もどうぞ」
「げろろろろぉっ!」
 ピンクの液体を撒き散らし回転する河童。色むらを気にしたはづきによる追加オーダーも受けてはどうしようもなくピンクに染まり、頭から地面へ叩きつけられた。
 …………。
 何か割れる音がしたな?
「ふう。ピンクの河童ってかわいいね」
「……え……」
「いや今の、大丈夫なんですか?」
 さすがに彼の身をウタと摩那が案じた時、むくりと立ち上がる尻。芋虫のような動きで立ち上がった河童は咳き込むと、ピンクの嘴から紫色のヤドカリを吐いた。
「あ、あれ。ここは? 僕は一体?」
 目を白黒させている。
 逃げ出す紫のヤドカリに敵意を見せた慈雨が噛みつくと、「ひゃーっ」とばかりに鋏を上げて霞と消える。
 すっかり大人しくなった河童であるが、頭から真っ二つに割れた皿が落ちるのを目撃した鳳鳴が、恐る恐るとその事実を指摘する。
「尊公、……皿が割れておるが……」
「え? あ、ほんとだ! 危ない危ない、ご指摘ありがとうございます」
 尻のポケットから取り出したスペアの皿を頭に乗せる。
 ……だ、だから諸説あるって……。
「慈雨ちゃん、変なの食べるのは良くないよう!」
 食べてないっす。
 心配して持ち上げたイサの頬を舐めて無事を報せる。それよりも先ほどのヤドカリは何なのかと首を傾げた摩那に、はづきはそう言えばと神社へ向かう殻なしの紫ヤドカリを皆へ告げた。
「神社へ。もしかして、このヤドカリたちが彼らを操り、暴徒化させていたのでしょうか」
 桜花は疑問を口にしつつドヤ顔で仁王立ちする花鵺を乗せたリヤカーを引いて河童の元へ向かう。どういう状況?
「神社か。その雑木林の抜け道や裏道って知らないかな?」
「はい、知ってますよ。この先に饅頭を売ってる店があるので、裏通りを行けばショートカットできます」
 尻ポケットから取り出した眼鏡をかけて河童。ピンク色の体に疑問はもたないのかい。
 すっかり憑き物が落ちたような河童にお礼を言って、他の猟兵たちへ道を教えに行くウタ。
 彼とすれ違い現れたリヤカー引きのメイドに河童は目を瞬かせて眼鏡をかけ直す。気持ちは分かるよ。
「ほほぅ、二度見とはの。狐狸の類いと侮ったか。ならば化かされ泣きを見るが良かろうよ」
「えっ」
 そんなつもりじゃないと思います。
 問答無用である。花鵺がリヤカーの上でとんぼ返りをすると、影となった狐の姿が疾駆した。
 途端に崩れ落ちて眠る河童に、狐は笑う。
「さて。ヌシの、ヌシらの夢はいつ醒めるかのぅ。ホーッホホホホ!」
「この先のバカップルさんの家がまだ寝床を貸せるとのことでしたので、そこまでお運びしますね」
 にっこり。
 本人は善意かも知れないがソロには辛い寝起きとなるので止めてあげてほしい。勿論、寝てしまった河童にそんな言葉を述べる力などなく。
 安眠は爆走を抑える癒やし効果があるはずだ。そう考えた桜花にも何か、一抹の不安が胸を過るが、その正体を知ることなくバカップルたちへ河童を引き渡す。
「大丈夫でしょう。……多分……」
 まあ、制裁だから。その不安は無視していいよ。

「……ん……ここは……?」
 そこは夢の中。妖怪たちの夢が繋がる場所。
 暗がりから前方に浮かぶ明かりへ向かう河童は、目をしょぼしょぼさせながら眼鏡をかけ直す。
「ひゃーっ!」
「らっせーらっせーらっせーらーっ!」
「わっしょい! わっしょい!」
「よっこらしょーいち!」
 そこには、それぞれ美男美女を宛がわれ踊り狂う妖怪たちの姿があった。
 誰もが法被を着て無理やり踊らされる。そんな悪夢へと導かれていた妖怪たちであったが、普通に楽しんでるあたりこいつら幸せそうでいいよね。
 そんな彼らの視線はまっピンクの河童へ自然と向けられる。
「主役の登場だ!」
『河童! 河童! 河童! 河童!』
(ああ、そうか、僕は)
 響くコールに導かれ、薄れた記憶が甦る。ピンクの体に金ぴかのすっげー悪趣味な法被を着せられて、それでも河童は両手を上げた。
「爽やかイケメンボ~イ♪」
 身を包む爽やかさは妖怪たちの善意のお布団。ありがとう桜花。
 そう、ここには善意しかないのだ。例え起きた時、アベックの愛の営みにより寝た振りを続けるしかなかったとしても、独り身である苦痛に舌を噛みちぎりそうになっても、それは現実の世界。
 河童よ、今君は爽やかイケメンなのだ。
 元暴徒たちの暴走は、こうして幕を閉じたのだった。
木霊・ウタ
河童のラップに合わせギター奏でる

キョンシーがいるから
二胡風のアレンジで中華風
なんとか夜曲ってカンジで
落ち着いた曲

この旋律が奏でる真面目空間に
どこまで耐えられるかな(にやり

河童がノレなくなって消沈して唄を止めたり
対抗の余り体力や皿の水を使い果たしてバタンQ
ってのを狙う

河童のラップと協奏するってのも
中々出来ない体験だし
折角だから下町の妖怪達に
好意や愛情を沢山感じてもらえると嬉しいし
セッションのつもりで
俺自身が楽しんで演奏するぜ

河童が中々粘るようなら
力押しだけど
河童の周囲を獄炎で高温にして
皿の水を干上がらせる

事後
楽しいセッションだったぜ
サンキュ(ぐっ

雑木林の裏道とか抜け道とかあれば
教えてもらうかな


八榮・イサ
暴れるのは良くないよう。
UCで慈雨ちゃんと視覚共有。
それぞれ先に暴徒を見つけたら呼び合う約束。後でなー!慈雨ちゃん!

それにしてもここは饅頭人気なのか。楽しそうだよう。
おれはこし餡のやつしか食べないけど。
なー、手のひら大で熱々のこし餡饅頭売ってないかい。

暴徒を見つけたら饅頭もって突撃だ!
賑やかで楽しそうだけど、やり過ぎたらダメなんだぞう。
覇気を纏った状態で、怪力を込めて足払い。
複数人いたら力づくで地面に倒して、饅頭を口に突っ込んでいくぞ。

怒っちゃダメだぞ。饅頭食え。
饅頭は落ち着く効果があるからな、体にいいぞう。

知らないけど。


御園・桜花
「すみません、この方達にお布団を貸してあげて下さいませんか。勿論一緒に寝て下さって構いませんので」

UC「桜の癒やし」使用
百鬼夜行を片っ端から眠らせたら近隣宅を1軒ずつ回ってお伺い

「同じ釜の飯ならぬ、同じお布団の仲間なら。此方のみなさんも、もう少し静かに爆走なさるようになると思うのです」
「美味しい樽詰が精神的苦痛になると思わなかったものですから。お布団詰めなら、安全に睡眠不足解消可能かと思うのです…すぐ布団内プロレスに移行する方もそうそういらっしゃらないでしょうし」目を逸らす
布団を借りる斡旋はするが自分自身は借りない
仲間と、良質な睡眠があれば、爆走自体自然減になると考えた

「大丈夫でしょう…多分」


一ノ瀬・はづき
「美味しい事件の匂いがする…」
 この事件に対してこう感じ、猟兵として参加します。

「暴徒をねじ伏せ気絶させる(POW)」に挑戦します。
 ユーベルコード「グラフィティスプラッシュ」を扇動する河童に向かって放ちます。
 ピンクの河童ってかわいいのでピンク色の塗料にしておきますね。
 河童をまず沈黙させて、それでも向かってくる者がいましたら力でねじ伏せます。
 
最大の目的は、この行動を成功させることです。
 その為なら、ある程度の怪我や些細な失敗はやむを得ないものとします。


鳳鳴・ブレナンディハーフ
【アドリブアレンジ共闘等歓迎】
☆…主人格
★…第二人格

(主人格主導、第二人格はUCで実体化)

★待ていっ!
これ以上の健全は……このHENTAIが許さん!(特に理由のない全裸)

☆拙僧はどちらの味方をしたら良いのだ……

★行くぞ、健やかな野郎共め!

ひとまずなんだか日和見な態度の主人格を暴徒の元締めに向かって【投擲】する
あとは向かってくるやつから素手でぶちのめす
しつこい奴は【グラップル】だ
どんな変態なコトをしてやろうか!(MS裁量でお願いします)

☆本体を投げるな本体を!
一応拙僧も暴徒を無力化させるため戦意を失わせる程度に痛めつける
こんな混乱が許されていいはずがない
正されなければならぬ!


化野・花鵺
「戦争は大事じゃ。季節いべんと、とやらも必要であろ。じゃがな、じゃがあまりにもせぇふくが足りんのじゃ!衣食足りて礼節を知る、ならば衣の足りぬ妾は悪鬼羅刹の如く振るもうても良かろうがぁ!」
本性駄々盛れの狐、地団駄した

「…死に装束もせぇふくよな。幽世務めを探すも一興か」
狐、にんまり笑った

そして幽世

「モテたいならせぇふくに決まっておろうがこのうつけぇ!」
「世界、せぇふく、せぇらぁふくぅ!ヌシらもせぇふくに塗れるがよいわ!」
初っ端から「狐の化かし」連打
暴徒も庶民も男は美女、女は美男子に両腕掴まれ法被を着せられ密着して踊りまくらされる悪夢を贈呈

「くふふ。妾が悪夢をすり替えて見せようぞ」
狐、にんまり笑った


黒木・摩那
料理は見た目も大事なんです。
いくら味がよくたって、人のパーツっぽくされると食欲が一気に減るというか……
でも、あんこが絶品という部分には心惹かれるものが。

いけません。
ともかく今は朝のまどろみを妨害する妖怪たちを成敗しましょう。

まずは微妙なラップ?で騒ぐ河童からですね。
その変な音楽をすぐに止めなさい!(ビシッと)

それで止めないなら、ヨーヨー『エクリプス』の登場。
神輿の河童から、それを担ぐ妖怪たちまで、次々とUC【獅子剛力】でヨーヨーに絡めて、神輿からぽいぽいっと、投げて強制解散させます。

屋根とか壁に妖怪たちがぶつかって、壊してしまったら、ごめんなさい。



●町ごと潰せ、百鬼夜行?
「……美味しい事件の匂いがする……」
 昇る陽射しを前に鼻をひくつかせたのは一ノ瀬・はづき(人狼の正義の味方・f29113)。
 見渡せば陽気に暖められた人の形をした饅頭の散らばる世界。イッツ・ファンタジック。
 耳がぺたんと下りたはづきの肩に手を乗せて、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は頷いた。
「料理は見た目も大事なんです。
 いくら味が良くたって、人のパーツっぽくされると食欲が一気に……減るというか……」
 逆に食欲の増える奴もいるそうですよ。
 食べ物に困る事もなくなり、朝の飯だと人の腕を模したむっちり饅頭を食べる妖怪たちの姿は正に悪夢。
 そして、それらを掲げて町を爆走する暴徒化した妖怪たちなど目も当てられない。
 でも皆、いい笑顔で食べてんだよなぁ。
(ううっ。……あんこが絶品という部分には心惹かれるものが……っ。
 いけません。ともかく今は、朝のまどろみを妨害する妖怪たちを成敗しましょう!)
 頬をぴしゃりと叩いて渇を入れた摩那。お饅頭に心惹かれるのは万物共有の現象故に仕方のない所だが、そうそう誘惑に負けてしまっては猟兵は務まらないのだ。
「さわわっ、さわさわ爽やかっ、やかやか♪」
(まずはあの珍妙なラップ──……ラップ? で騒ぐ河童からですね)
 目標捕捉。
 珍妙なステップを揺れる神輿で決める河童に対し、摩那も彼の視点に合わせる為に近くの家に上がり込む。もちろん許可は取っているぞ!
 ベランダの窓をがらりと開けて、摩那は騒ぐ河童へ指を突き付けた。
「そこな河──」
「待てぃッ!!」
 びりびりと鼓膜を震わせる大声量。
 摩那の言葉を更に頭上の屋根の上から遮ったのは、鳳鳴・ブレナンディハーフ(破戒僧とフリーダム・f17841)だった。おめー許可取ってるのか?
 見せ場を横取りされて僅かに眉を潜めた摩那が見上げれば、鬼のような視線を河童に向ける鳳鳴の姿。
 法衣を纏い、朝陽を乱反射する彼の鏡の如き頭部に思わず目を背ける摩那。迷惑だぞ鳳鳴さん。
 声は勿論、その睨みっぷりに暴徒化百鬼朝行の一面も「あの人ちょー怒ってない?」と浮き足だっているご様子。
 むしろ朝っぱらから走り回って怒られないと思っていたのか。
「朝もはよから健やかに……人々の惰眠を妨害し爽やかな朝へと導く正道の者共……!」
 …………。
 何か言ってる事がおかしいぞ?
「これ以上の健全、例えお天道様が許しても、この僕!
 ブレナンディハーフが許さん!」
 HENTAIやんけ。
 熱い叫びと共に一息で法衣を脱ぐ。朝もはよから全裸である。
 大事な所は幸福を呼ぶケサラン・パサランが守ってくれているので直下の摩那もダメージはない。やったぜ幸福妖怪!
 とは言えHENTAIがHENTAIしている事に変わりはないので、無言で視線を反らす少女を他所にテンションを上げていくブレナンディハーフ。
 その側ではがっくりと項垂れた彼と瓜二つの顔を持つ鳳鳴の姿があった。元々、肉体を同じくする彼らがユーベルコード【オルタナティブ・ダブル】により二人へと別れたのだ。
「さあさあさあ、今すぐその健全行為を止めないか! どうなっても知らんぞー!」
「喧しいやHENTAI! 俺たち健全スピリット! HENTAIなんかにゃ止められねえ!
 スピリット宿るは健全ボディ、程よく鍛えた程よい体、爽やかイケメンイェーイイェイっとお!」
 健全スピリットは騒音行為をしないと思うんですけど。
 しかし河童の言葉に共感したのか、暴徒化百鬼朝行の面々は神妙な顔で頷いている。
 まあ、HENTAIを前にしたら常識人ぶりたくもなりますよね。
「言いたい気持ちはわかりますが。貴方がたの騒ぎは迷惑行為!
 まずはその変な音楽をすぐに止めなさい!」
「──変っ……!?」
 そうだ、お前たちの音楽はラップですらないぞ!
 びしりと指摘した摩那の言葉にびしりと固まる河童。その間にもブレナンディハーフは項垂れた鳳鳴へ背中から手を回している。
 何してるんですかね?
「芸術、それは孤高の象徴っ。理解、得られるつもりはないぜ!
 そうこれが俺の音楽さ! 唯一無二で突っ走る! その先ゴールはいつだってモテモテロォーオドォ~♪」
『モテモテロォオオドッ♪』
 こいつらモテたいだけやんけ。
 間違った方向で異性の気を惹こうと暴走するのは思春期なら誰もが覚えのある事だろう。とは言え。
「あくまで止めないワケね?」
「あくまで止めないワケだ!」
 摩那とブレナンディハーフの言葉が重なる。
 少女の手にはアースクライシスの折に入手した、謎金属制の頑丈なる超可変ヨーヨー【エクリプス】が収められていた。意思の力で質量を変化させるそれは、生まれもって超常を起こす能力を秘めた摩那には扱い易い品だろう。
 一方、ブレナンディハーフにも扱い易い者が。自分自身でもある鳳鳴である。
「……拙僧はどちらの味方をしたら良いのだ……」
 鳳鳴さんは悪くないよ。
 悲壮感溢れる本体を捕まえた悪魔の男、否、HENTAIは畑から作物をぶっこ抜くように全身の筋肉を使って持ち上げると、その勢いのままに河童へ向けて投げつける。
 炸裂☆HENTAI式投げっぱなしジャーマン!
「のわあああっ!?」
「げろおおおっ!?」
 人間砲弾の直撃を受けて、神輿から転げ落ちる河童。
 何だかんだ言った所で、きちんと仕事はするのではないかと摩那はヨーヨーを投げつけて、神輿を担ぐ鬼たちを捕らえた。
「接地、反転」 
 摩那の言葉で光を帯びるのは、靴に取り付けられた宝石状の呪力型加速エンジン【ジュピター】。反発力を高める事で大きく踏み込んだ摩那の足にかかる力。
 アンカーが作動し縛りあげた鬼たちを固定する。
「──力場、解放!」
『ほげええええっ!』
 ナイスフィッシング。
 解放した力で飛び上がった摩那の魔手により、絶叫マシーンもかくやという速度で空中に投げ放された鬼たちはそのまま家屋に墜落する。自然を守る模範的なキャッチアンドリリースである。
 こりゃ雨漏り確定ですな。でも天気予報は晴れが続くから大丈夫だね。
「ぼ、暴力反対ーっ!」
 残る鬼も神輿を投げ捨てて逃走を図るが、あろうことか進路上の家屋を突き破るという傍若無人ぶりである。お前はまず暴力を辞典で引いてみろ。
「私のエクリプスからは逃げられません」
 再び呪力エンジンをフル回転させて二度目の発動となるのはユーベルコード、【獅子剛力(ラ・フォルス)】。
 自らの為に町民の家屋を破壊するなど言語道断、力場に包まれ逆立つ黒髪と、ともすれば宙に浮きそうになる赤い眼鏡を片手で抑え、残る手の中指からエクリプスが放たれる。
「さっきより怖いですよ?」
 がんじ絡めにした鬼を、そのまま引き抜く。
 町を横断したエクリプスと摩那の中指とを繋ぐ糸は、直上の全てを切断し、不躾な輩を天高く追放した。
 鬼って頑丈だから、成層圏から落下しても平気だよね。
 左肩に止めた手へエクリプスがぱちりと戻り、摩那の頬を伝う汗。
「……ご、ごめんなさい……」
 家が真っ二つになって、お茶碗を持ったままぽかんと呆けている住民の姿に、少女は素直に頭を下げた。


●かますぜボーイ!
 謝った所で、百鬼朝行の暴徒化が終わった訳ではない。未だに朝陽を目指して奔走する妖怪たちは自動車並みの危険物だ。
 エクリプスで強制解散を続ける摩那の姿に、地面に這いつくばった河童は怒りの炎を瞳に燃やす。よう負け犬。
「……いつだってそうだ……新しい芸術は理解されない……ばかりか、理解しようとすらしない……!
 そんな者たちの手で、俺たちアーティストは迫害されるんだ!」
 寝ぼけたまんまの住民を肩車して朝陽に爆走するような奴らがアーティストを気取ってるんじゃねえぞ。
「それでも俺は心を信じてるからよぉ、歌う事を止めねえからよぉ。皆、俺を信じてくれーっ!
 ラァブッ、アンド! ピィィィィス!!」
『ラブ・アンド・ピース!!』
「うおおっ、ラブアンピー!」
「ラブリービーズ!」
 テンションぶち上げの河童に合わせて、未だに抵抗を続ける鬼や他の妖怪たちも立ち上がる。住民さんは良くわかってないなら空気に飲まれずに座ってくれませんか?
 そんな河童の足下から立ち上がったのは鳳鳴だ。
「……うぐぐ……本体を投げるな本体を……!」
 痛む体を引きずり起き上がると、河童に指を突き付けた。
「芸術だ愛だ平和だを唄いながら、やる事は暴徒による住民への圧迫の数々!
 こんな混乱が許されていいはずがない。正されなければならぬ!」
「正論嫌いだ暴力嫌いだ、そんなものには負けないぞ♪」
「行くぞ、健やかな野郎どもめ!」
「HENTAIは来ないで下さい!」
 いつの間にか鳳鳴の隣に立つブレナンディハーフ・ウィズ・ケサランパサラン。そりゃ河童も叫ぶというもの。
 HENTAIの登場により高まった士気もだだ下がりの中、旗色悪しと見て後退する河童の前に一人の男が立つ。
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)、握るは剣でなく、希望を奏でる為の【ワイルドウィンド】。
 河童はそれを見ると尻のポケットからサングラスを取り出した。河童って有袋類なの?
「……お前……アーティストだな?」
 かけるだけで雰囲気出ちゃうサングラスはずっこい。
 シャープなグラサンでお間抜けな顔を隠し厳つく見せた河童さんは口調も変えて、真面目な雰囲気を醸し出している。
「折檻折檻!」
「痛ぁいっ!」
「呉越同舟の忠言!」
「なんかよくわかんないけどミギャァア!」
 その後ろでは鳳鳴が暴れていた天の邪鬼を取り押さえてお尻ぺんぺんしていたり、天狗がブレナンディハーフの股間に顔を押し付けられたりしている。
 ケサラン・パサランのお陰で直接触れてないあたり幸福なのだろうが、幸福とは誰かの犠牲の上で成り立つのだと証明される場面に毛玉の幸せを祈らずにはいられない。
 そんな凄惨な光景からは目を反らし、ウタは構えたギターの弦を弾く。
「河童、あんたもアーティストを自称するなら、分かるよな?」
「……対バン……いや、セッションのつもりか。面白い」
 大物気取りの河童さんの方が面白いです。
 ニタリと笑った河童はグラサンを投げ捨てる。もったいねえ。
 捨てられたサングラスはブレナンディハーフの股間のケサラン・パサランにぴたりとはまった。もったいないとは言ったが再利用しろとは言ってない。
「あんたらのボスにはキョンシーがいるらしいな」
 やはりそれには触れずにウタ。突っ込んでたらキリないからしゃーないね。
「ボス? よく分からんが、この爽やか行進は神社にいるお偉いさんに生放送でお届けされる非常に奥ゆかしくも素晴らしい団体行動です」
 大体把握したから黙っていいぞ。
 大体の言葉を聞き流して、まあ中華風の方がいるならとギターを奏でる。しかしそれは河童らの得意とするようなノリノリな曲調ではなく、落ち着いた雰囲気のそれこそ奥ゆかしい曲調だ。
 中国の弦楽器を模した二胡風の演奏はどこまでも柔らかく、強い朝の陽射しすら和やかに感じさせるそよ風の如き音の波。
 予想を外れた音楽に目を点にしていた河童であるが、黙っていても演奏は進む。そして黙していればそれは敗北に等しい。
「あ、あー、ゲコゲコ、おっほん! ……えー……」
 ヘイヨォ河童小僧、お得意のゲラップはどうしたんだYO。
 すでに音楽で場を支配したウタを前に、咳払いや何やらで自らを奮い立たせようとしても全くノれないご様子。そりゃクラシカルに真面目な雰囲気を健やかイケメンが邪魔できるわけないもの。
 暴力に頼らないながらもえっぐい視点から斬り込んだウタは、お返しとばかりにやりと笑う。このままいけば歌う場を失ったイケメン爽やかボーイが敗れるのは間違いない。
 しかし。
(まあ、河童のラップと協奏するってのも中々出来ない体験だし)
 折角だ、下町の妖怪らに好意や愛情を沢山感じて貰えるよう、セッションのつもりで楽しんで演奏しよう。
 ウタは考えを改めて曲調を変えた。はっ、としてこちらを見つめる河童にウインクする。
 そう、それが何より嬉しいから。
「ゲコッ、ゲコゲコ♪
 蹴散らせ暴力羽ばたけ応力、俺らアツいスピリット交わすぜ♪
 刻むぜ効力歌うぜ抗力、何故なら俺たち爽やかイケメンかますぜボ~イ♪」
『かますぜボ~イ♪』
 活きのいいリスナーだぜ。河童は嘴をさすって笑う。
 ユーベルコード、【サウンド・オブ・パワー】を発動させているウタであるが、これはただ戦闘能力を上昇させるだけではない。沸き上がる連帯感は人との繋がりをも繋げる。隣人の愛を歌うのだ。
 突然の暴力にも負けなかった。正論にだって挫けなかった。だからこそこうして出会えたのだ、強敵と書いて『とも』と呼ぶ、そんな素敵な仲間を。
 脳内お花畑でウタに親指を立てる河童さん。ウタもそれに応えて親指を立てるが、君そんな事やってる間に頭の皿が乾いてきてるから気を付けてね。
 ウタさん知らないみたいだけど河童は皿乾くと死んじゃうからね。諸説はある。


●善意と悪意!
 その日、化野・花鵺(制服フェチの妖狐・f25740)は怒りに耳を立て、尻尾を膨らませていた。
「戦争は大事じゃ。季節いべんと、とやらも必要であろ」
 そう、世は迷宮災厄戦という季節イベント扱いしてはならない世界の危機の真っ盛り。それも他世界に危険が波及しかねない深刻な状況だ。
 優秀な猟兵が人饅頭を気にかけている場合であろうか? ありがとうございます!
 しかしこの狐が考える事はそこではない。
「じゃがな、じゃがあまりにもせぇふくが足りんのじゃ!
 衣食足りて礼節を知る、ならば衣の足りぬ妾は悪鬼羅刹の如く振るもうても良かろうがぁ!」
 それ既に礼節を知ってる人が傍若無人になっていいよって免罪符にならないから。
 どちらにせよ、世界危機よりも現状の嗜好不足による活力低下が彼女にとっては一大事。妖狐ともあれば当然かも知れない。
 そう考えれば地団駄を踏む花鵺の怒りも理解でき、る、かな?
 そんな花鵺の脇をするすると通り抜ける蛇が一匹。舌をちろちろしながら、多少は気になったのか花鵺を見つつも、別の世界へと消えていく。
 それを見送ってにやりと笑う狐の不気味さよ。
「……死に装束も……せぇふく、よな。幽世務めを探すも一興か」
 なんて?
 余りにもな不穏な言葉を残して、花鵺は蛇を追うのであった。

 そしてこちらはカクリヨファンタズム。
 もちもちした人の腕、もとい人の腕の形をした饅頭をつつくはづき。
 見た目はともかく、やはり香りは食欲をくすぐるものだ。熱々のそれは陽射しに焼けたのではなく、現れた時からその温度だったのだろう。
 手に持ち、食うか食わざるかと迷う彼女の目の前に、摩那がぽいぽいしていた妖怪が降ってきた。
 失神して目を回す鬼の姿に頭を掻けば、前髪が揺れて右の眼帯が顕となる。とは言え、ファッション用の代物ではあるが。
「鬼君、大丈夫?」
 腕饅頭でほっぺをぺったんぺったんしていると、鬼が大きく口を開いて息吹く。
 気がついたのではない。その口から毒々しい紫色の甲殻類が顔を見せた。それはよっこらせと鬼から途中まで這い出て、はづきと目が合うと「あ、やっべ」とばかりにおたつき始めた。
 鬼の顔をそこら中掻いて、なんとか抜け出したそれは尾っぽが長い。ザリガニ、というよりは殻のないヤドカリだ。かさかさと逃げていく紫色を追うように、一回り小さな赤いヤドカリが鬼の口から次々と這い出して行く。
 だがどこか足取りがおぼつかず、まるで操られているかのようだ。
「…………。ていっ」
 手に持っていた腕饅頭を紫色のヤドカリへ投げると、直撃を受けたそれは「ひゃーっ」と両手のハサミを振り上げ霞となって消えていく。
 残る赤いヤドカリは暫く辺りを伺っていたが、やがて散り散りに、思い思いの方向へと離れて行った。
 見渡せば、摩那にぽいぽいされて目を回している妖怪から、同じように紫色ヤドカリが這い出てそれに引き連られて行くヤドカリが、群れとなって神社へ向かっている事に気がつく。
(……確か神社には例のキョンシーがいるとか……?)
 と、なればこの紫のヤドカリもどきに何か原因があるのではないか。
 ふむ、とひとつ頷いて立ち上がれば、はづきと同じく人饅頭に興味津々な男の姿。
 金髪を揺らして八榮・イサ(雨師・f18751)は立ち上がり、こちらも手に持ったにこにこ顔の人饅頭をしげしげと掌で転がしながら観察している。
「おはようございます」
「あっ、おはよう。ここは饅頭人気なんだねぇ」
 楽しそうだよう。
 そう言ってイサの顔を向けた先では人饅頭を菜箸に突き刺して走り回る餓鬼の姿。
 文字通りガキで人饅頭でなければ「はしたない」で終わる話だが、もはや言い逃れできぬ邪教の集団である。
「……まあ……おれはこし餡のやつしか食べないけど」
「食べやすさと濃厚な甘さがセットになってるもんね」
 イサの言葉に腕を組み頷くはづき。しかしここの人饅頭は残念ながらつぶあんだ。これは議論が起こり……起こらないな……妖怪どもは食い物なら何でも良さそうだ。
「とは言え、暴れるのはよくないよう」
 人饅頭を掲げた餓鬼たちが、道すがら知らぬ人の家の戸を叩いたり、ピンポンダッシュを繰り返す様に心を痛める。クソガキども許さんぞ。
 イサの視界が別の存在へと共有される。ユーベルコード【目醒まし(メザマシ)】。
 イサの捉えたピンポンダッシュ餓鬼の情報を受けて、狭い道からすらりと現れたのはイサの仕える神の眷属のでありまた最愛の者となる蛇、【慈雨】だ。
 ピンポン後に駆け出そうとしたその先に現れ、大口を開けて威嚇する。
「うへえっ!?」
 驚き飛び退いた隙に、両手にあちこーこーの人饅頭を持って突撃するイサ。覇気を纏い高速で接近した後に足を払う。
 高速かつ接地箇所を狙った痛みのない、地味ながら高等技術を披露した彼には、その優しさが垣間見える。
「なー、掌大で熱々の、こし餡饅頭はこのへんに売ってないかい」
「えっ、えっ? 知らないっス」
 状況が飲み込めていない様子の餓鬼に、そうかと残念そうに瞼を閉じる。
 ところで。
 イサは不揃いな色の瞳を見せると、頬を膨らませた。
「賑やかで楽しそうだけど、やり過ぎたらダメなんだぞう」
 めっ、とばかりのイサに頷くように、その肩へと巻き付いた慈雨も舌を出す。
「は、はあ、すみませ──おごっ!?」
 餓鬼の開いた口に詰め込まれるあっつあつの人饅頭。これは地獄だ。やったぜ!
 あまりの熱さに左右に振る顔、口から覗く人の腕は恐怖の光景だ。
「怒っちゃダメだぞ。饅頭食え」
「もごごっ!? もがーっ!!」
 暴れる姿に怒っていると思ったのだろうか、怪力で押さえつけてそのまま人饅頭を押し込んでいく。
 役に立つ豆知識として、餓鬼さんは喉が針金のように細く食事が出来ないと言われている。そんな彼らの為に人饅頭をしっかり胃袋に送ろうとするイサの寛大さのなんとありがたいことか。
 ザマぁねえぜピンポンダッシュ野郎。
「……ひええ……」
「饅頭は落ち着く効果があるからな、体にいいぞう」
 知らないけど。
 ぼそりと言葉を付け加えながら立ち上がるイサ。ぐったりと動かなくなった仲間を目にして戦々恐々とする餓鬼たち。さあ次は誰が落ち着きたいのだね。
「ち、畜生っ。俺はモテたいんだ、こんな所で死ねるかよ!」
 仲間を見捨てて背を向ける一人の餓鬼。ならこんな所でピンポンダッシュしてるんじゃない。
「モテたい、とな?」
「──はッ……!?」
 曲がり角からすらりと現れたのは制服姿の一人の少女、ではない。花鵺だ。
 残念だが、君たちの行き先には地獄しか残ってないね。
「モテたいならせぇふくに決まっておろうがこのうつけぇ!
 世界、せぇふく、せぇらぁふくぅ!」
「ええっ、何にキレてんのこの人! 怖い!」
 妖怪の分際で正論を吐くんじゃない。
「ヌシらもせぇふくに塗れるがよいわ!」
 頭に葉っぱ、ではなく【霊符】を頭に乗せてその場でとんぼ返りを行う。
 どろんとにわかに霞たち、現れた狐の影が餓鬼らへと疾駆して。
 あ、これ住民にも行ってますね。
 餓鬼とともにピンポンダッシュを受けて玄関先に現れた一目一家や座敷童などにも影響を与えてすやりと寝かせてしまう。
 朝の大事な睡眠時間を邪魔されたのだ、これぐらいは許してやろう。
「くふふ。妾が悪夢をすり替えて見せようぞ」
 死屍累々と横たわりに夢の中の世界へ旅立った暴徒化百鬼朝行の連中と周辺住民たちの真ん中で、耳をぴこぴこと揺らす花鵺。
 そんな花鵺より離れて少し。
 大型のリヤカーに死体の如く妖怪を詰め込んだ猟兵が現れた。近くの住民の呼び鈴を鳴らし、出てきた者へ丁寧に頭を下げた。
「すみません、この方達にお布団を貸してあげて下さいませんか。勿論一緒に寝て下さって構いませんので」
 要求が妖怪のそれ。
 きいきいと妖怪を山積みされたリヤカーを引き、寝床に寝かせてやれと家を回るなどまさに妖怪の如く。しかし彼女、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はそういった類いではない。ないったらないのだ。
「あんたー! 猟兵さんが朝から騒がしいシャバシャバの若造どもを寝かしてやれってさー!」
「おうおう、幾らでも寝かしてやるぜい。暖炉の中に炉の中、仏壇の線香立てとどんなサイズにも対応してやるぜぃ!」
 突然の訪問にも関わらず、嫌な顔を見せないえんらえんら夫妻。
 でも灰の山に寝かせようとしてるあたり、相当にご立腹なのかも知れない。
 リヤカーには往来の邪魔となってしまった昏睡・気絶妖怪たちを、これ幸いとはづきが次々と追加していく。これは怒ってもいい。
 しかし、桜花は怒りも見せず、摩那のぽいぽいにより未だに気絶していない鬼にも桜の花びらを放ち寝かせ、荷物こと駄妖怪を増やす始末。
 この桜の花びらはユーベルコード、【桜の癒し】。花鵺のユーベルコードと同じく寝ている間に傷を回復させる効果を持つので、目覚めと同時に爆走を開始するだろう。が、桜花はそうはならない確信があった。
「同じ釜の飯ならぬ、同じお布団の仲間なら。
 此方のみなさんも、もう少し静かに爆走なさるようになると思うのです」
 そうかなー?
 その言葉を聞いて駄妖怪を集めるはづきも小首を傾げていたが、まあいいやとばかりに投げ込んでいく。
 幾らなんでも重いですよ!
 朝の心地好い運動は超える量で汗をかきリヤカーを引く彼女、一体なんの罪があろうと言うのか。
「美味しい樽詰が精神的苦痛になると思わなかったものですから。
 ……お布団詰めなら、安全に睡眠不足解消可能かと思うのです……」
 別世界はウチじゃノーカンだから。
 とは言え何やら後悔しているご様子の桜花。故に苦行となっても妖怪らのふれあい、癒やしを優先しようと言うのだろう。
 たとえ樽の中にキノコやタケノコタイプの住人二家族を詰めて蜂蜜漬けにした挙げ句に静電気で責め抜かれた者たちが生涯背負うようになった蜂蜜へのトラウマを植え付けた所で彼女がここまで罪の意識に苛まれる必要があると言うのか!
 …………。た、たとえのお話ですから。
 一軒一軒回りながら呼び鈴を鳴らし、若い夫婦や恋人を見た桜花はリヤカーに残る駄妖怪を見つめる。
「まあ、すぐ布団内プロレスに移行する方もそうそういらっしゃらないでしょうし」
 愛の営みを邪魔する駄妖怪はNG。だからモテないんだよお前ら。
 目を逸らす桜花。彼女の行為が恋のキューピッドとなるか、既存夫妻の愛を冷めさせてしまうのかはまた別の話である。


●さよならイケメンボーイ!
「……ど、うや……ら……ここまでのよう、だな……」
「! 河童!」
 ふらりと倒れ込む河童を、演奏を止めて抱き止めるウタ。河童は小さく、力なく笑うと何をやっているんだと彼を叱咤した。
「……俺たちアーティスト、は……歌を止めちゃあ……なんねえよ……あんたの、名前と一緒に……生きてんだからよ……!」
 やけましいぞハゲ。
「……河童……!」
「……へっ……おいおい、情けねえ声、出すなよなぁ……! 可愛い女の子じゃなくて野郎の涙で復活、なんて──」
「泣いてはいないけど」
「…………。そスか。あ、猟兵さんって結構ドライな方?」
「普通じゃないかなぁ」
「……そっスか……」
 げっそりした様子の河童に首を傾げていたウタは、周囲へ目を向ける。
 既にそこに暴徒化百鬼朝行の姿はない。すべてぽいぽいされ、あるいは絞め落とされたりHENTAIにより堕とされたりしている。
 周辺に散らばっていた者も全て収容され、…………。収容しちゃったんだよなぁ。
 ともかく、解散状態なのだ。
「これ、美味しいよう」
「あ、美味しいですね! ……さっきのおうちの人たちにも持っていきましょうか……」
 さすがに桜花だけにリヤカーを引かせる訳にはいかないと手伝っていたイサ。あまりの駄妖怪どものせいで早めに店を開けた小豆洗いの熱々こしあん饅頭を手に入れていた。
 皆の分と大きな紙袋から掌大のつやりと輝く饅頭を口にし、摩那もその甘さに頬へ手を当てた。僅かに感じた苦味は罪悪感か。
「ええい、いい加減に離れ──おうふっ!」
 股間のケサラン・パサランを剥がそうとしていたブレナンディハーフであったが、伸びた毛玉が戻る要領でサングラスが股間に直撃して蹲る。因果応報。
「そのまま大人しくしておれ」
 自らの分身に法衣を着せてやり、鳳鳴は河童へと目を向ける。
 騒動もまずは一段落か。
「……ウタ……俺たちって、友達に……なれたのかな……?」
「さあ?」
「げこっ!?」
 そこは頷く所じゃん、と非難の目を向けた河童に対し、ウタは笑顔を見せて親指を立てた。
「楽しいセッションだったぜ。サンキュ!」
「! …………。ふっ、こっちこそ」
 始まりと同じく。ウタへサムズアップで返す河童。よし、綺麗にまとまったから死んでいいぞ。
 そんな世界の夢が叶ったのか、キメ顔の河童にピンク色の塗料が直撃して死にかけの河童を空へ舞い上げる。
 はづきのユーベルコード、【グラフィティスプラッシュ】!
「げっ…………こぉおおおおおおっ!!」
「追加もどうぞ」
「げろろろろぉっ!」
 ピンクの液体を撒き散らし回転する河童。色むらを気にしたはづきによる追加オーダーも受けてはどうしようもなくピンクに染まり、頭から地面へ叩きつけられた。
 …………。
 何か割れる音がしたな?
「ふう。ピンクの河童ってかわいいね」
「……え……」
「いや今の、大丈夫なんですか?」
 さすがに彼の身をウタと摩那が案じた時、むくりと立ち上がる尻。芋虫のような動きで立ち上がった河童は咳き込むと、ピンクの嘴から紫色のヤドカリを吐いた。
「あ、あれ。ここは? 僕は一体?」
 目を白黒させている。
 逃げ出す紫のヤドカリに敵意を見せた慈雨が噛みつくと、「ひゃーっ」とばかりに鋏を上げて霞と消える。
 すっかり大人しくなった河童であるが、頭から真っ二つに割れた皿が落ちるのを目撃した鳳鳴が、恐る恐るとその事実を指摘する。
「尊公、……皿が割れておるが……」
「え? あ、ほんとだ! 危ない危ない、ご指摘ありがとうございます」
 尻のポケットから取り出したスペアの皿を頭に乗せる。
 ……だ、だから諸説あるって……。
「慈雨ちゃん、変なの食べるのは良くないよう!」
 食べてないっす。
 心配して持ち上げたイサの頬を舐めて無事を報せる。それよりも先ほどのヤドカリは何なのかと首を傾げた摩那に、はづきはそう言えばと神社へ向かう殻なしの紫ヤドカリを皆へ告げた。
「神社へ。もしかして、このヤドカリたちが彼らを操り、暴徒化させていたのでしょうか」
 桜花は疑問を口にしつつドヤ顔で仁王立ちする花鵺を乗せたリヤカーを引いて河童の元へ向かう。どういう状況?
「神社か。その雑木林の抜け道や裏道って知らないかな?」
「はい、知ってますよ。この先に饅頭を売ってる店があるので、裏通りを行けばショートカットできます」
 尻ポケットから取り出した眼鏡をかけて河童。ピンク色の体に疑問はもたないのかい。
 すっかり憑き物が落ちたような河童にお礼を言って、他の猟兵たちへ道を教えに行くウタ。
 彼とすれ違い現れたリヤカー引きのメイドに河童は目を瞬かせて眼鏡をかけ直す。気持ちは分かるよ。
「ほほぅ、二度見とはの。狐狸の類いと侮ったか。ならば化かされ泣きを見るが良かろうよ」
「えっ」
 そんなつもりじゃないと思います。
 問答無用である。花鵺がリヤカーの上でとんぼ返りをすると、影となった狐の姿が疾駆した。
 途端に崩れ落ちて眠る河童に、狐は笑う。
「さて。ヌシの、ヌシらの夢はいつ醒めるかのぅ。ホーッホホホホ!」
「この先のバカップルさんの家がまだ寝床を貸せるとのことでしたので、そこまでお運びしますね」
 にっこり。
 本人は善意かも知れないがソロには辛い寝起きとなるので止めてあげてほしい。勿論、寝てしまった河童にそんな言葉を述べる力などなく。
 安眠は爆走を抑える癒やし効果があるはずだ。そう考えた桜花にも何か、一抹の不安が胸を過るが、その正体を知ることなくバカップルたちへ河童を引き渡す。
「大丈夫でしょう。……多分……」
 まあ、制裁だから。その不安は無視していいよ。

「……ん……ここは……?」
 そこは夢の中。妖怪たちの夢が繋がる場所。
 暗がりから前方に浮かぶ明かりへ向かう河童は、目をしょぼしょぼさせながら眼鏡をかけ直す。
「ひゃーっ!」
「らっせーらっせーらっせーらーっ!」
「わっしょい! わっしょい!」
「よっこらしょーいち!」
 そこには、それぞれ美男美女を宛がわれ踊り狂う妖怪たちの姿があった。
 誰もが法被を着て無理やり踊らされる。そんな悪夢へと導かれていた妖怪たちであったが、普通に楽しんでるあたりこいつら幸せそうでいいよね。
 そんな彼らの視線はまっピンクの河童へ自然と向けられる。
「主役の登場だ!」
『河童! 河童! 河童! 河童!』
(ああ、そうか、僕は)
 響くコールに導かれ、薄れた記憶が甦る。ピンクの体に金ぴかのすっげー悪趣味な法被を着せられて、それでも河童は両手を上げた。
「爽やかイケメンボ~イ♪」
 身を包む爽やかさは妖怪たちの善意のお布団。ありがとう桜花。
 そう、ここには善意しかないのだ。例え起きた時、アベックの愛の営みにより寝た振りを続けるしかなかったとしても、独り身である苦痛に舌を噛みちぎりそうになっても、それは現実の世界。
 河童よ、今君は爽やかイケメンなのだ。
 元暴徒たちの暴走は、こうして幕を閉じたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ニクカリ』

POW   :    お礼参り
自身の【寄生した肉体の無念解決】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    今生焼き
自身の【命】を代償に、【寄生先に憑依するヒヌカン】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【紅蓮の炎】で戦う。
WIZ   :    死期目
攻撃が命中した対象に【運命的生命力を減少させる呪い】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と発生する「不慮の事故」】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●さりとてそれらは幽鬼の如く。
 雑木林の道を行き、かさかさと神社を目指す殻なしのヤドカリ一向。
 否、彼らはニクカリと呼ばれる歴とした妖怪だ。元は御仏に仕え、急死した者の体を操り最期の挨拶を行わせる者であった。
 しかし骸魂に取り込まれた結果、死体どころか生きている者にすら寄生するよう変化してしまったのだ。
 そんな彼らを操る骸魂というのが、紫色のニクカリである。
 彼に導かれ神社を目指しているものの、やはりヤドカリと同じ彼らの足では辛いものがある。体がなくてはならないのだ。
 いや、あるではないか、そこら中に。
 それに気付いたニクカリたちは、散乱する人の体をかき集め始めた。ばらばらにされたそれらを集め、皮を繋ぎ、こねて、人の形へと戻していく。
 それが別の部位などは関係がない。何故なら彼らは、寄生先さえあれば良いのだ。
 人の形であったものが解体され、それをニクカリたちが集まって繋ぎ合わせていく吐き気を催す光景の中、遂に一人、二人と人の形をした肉人形が立ち上がる。
 違うか。正確には、……饅頭人形が……!
 …………。いやもうホラーっぽくするの無理ですって。最初でオチついてるもん。
 ともあれ、にこにこ笑顔の饅頭人形を歩かせて、得意気な紫ニクカリとそれに続くニクカリたちにより、彼らは再び体を得たのである。
 雑木林を行進する饅頭の群れ。猟兵たちの対処は如何に。

・木霊・ウタの得た情報により雑木林の道をショートカットし先回り、或は林の影から奇襲をかける事が可能です。
・敵は凄く美味しいです。ですが骸魂を祓わずに饅頭だけ食べてると紫ニクカリが悲しみます。
・敵SPD対応ユーベルコードにより紫ニクカリは消滅し、その個体に操られていたニクカリは解放されますがヒヌカンとの戦いは避けられません。なお、人饅頭は人焼き饅頭にグレードアップし、回収すれば三章で使用可能です。
・ニクカリたちはそれぞれ画像のように人饅頭一体ごとにくっついており、内の一匹が紫色をしています。
・骸魂を祓い(物理攻撃でも構いません)ニクカリたちを解放して下さい。
木霊・ウタ
心情
饅頭人形に寄生ってシュールだけど
世界の危機だ
全力でいくぜ

ニクカリ達を解放して
骸魂を海へ還してやろう

戦闘
教えてもらった裏通りから回り込み奇襲

獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払い
元通りバラバラにし
寄生先を失くした紫を砕き燃やす

或いは紫を狙って剣を振るい
寄生先の部位ごと炎で包み焼却

序でに焼き饅頭も出来上がりってな


饅頭人形の無念って何だろ?
やっぱ食べてもらえなかったコトかもな
饅頭だし

喰わせようとしてくるかもしんないけど
押し売りは御免だ
武器受けしながら炎で焼いてやる

ニクカリ
アンタたちも災難だな
待ってろ
すぐに助けてやる


幽世に辿り着けず残念だったな
歪んじまって可哀想に
今、海へ送ってやる

事後
鎮魂曲を奏でる
安らかに


一ノ瀬・はづき
共闘可能です。

美味しいというのでこれは食べずにはいられないね。
食べます。
奇襲を仕掛けて敵にUC人狼咆哮を放ちます。
このシチュ、「はらへったー!」って叫べばいいのかな…?
これで寄生したヤドカリ君が落ちてくれればいいんだけど。
ゾンビっぽいものを食す、なんだかこれも貴重な経験だよね。
で…なんだかよく分からないけれどこんがり焼けるのを待つのもいいのかな?
焼いたらなお美味しいよね。
おいしくな~れ~、っておまじないをかければいいのかな?
メイド服着て行こう。
あー、それとほうじ茶もいるよね。
あんことよく合うんだぁ。
あと饅頭で喉詰まらせたときの救済措置。

こんなんでも僕、作戦が上手くいくことをねがってるのだー。


御園・桜花
「饅頭で人型…芸術的ですよね。この完成された食材を微塵切りすることに、少々罪悪感を覚えます」
目を逸らす

「これで間違ってないですよね…?」
UC「桜吹雪」使用
饅頭人形を桜吹雪で微塵切りにしてニクカリを探し出す
骸魂からオブリビオンを引き剥がせれば妖怪を助けられる筈なので、ニクカリだけにしたら桜鋼扇で叩いて殻を割って身(囚われた妖怪)を取り出そうとする

「ここまでぐちゃぐちゃにしたら、食べられない以前の問題ですよね…」
饅頭人形のミンチぶりを見て気分が悪くなる人が出ないよう、戦闘終了後は掃除道具を借りてそそくさ回収
回収したごみ袋も掃除道具と一緒に返却
「すみません、一緒に捨てていただいても良いでしょうか…」



●遊んでる場合じゃないぞヤドカリども。
 うきうきわくわくらんらんらん。
 そんな声が聞こえてきそうな散歩道。神社へと続く雑木林の歩道を、肩を張って楽しそうに歩く人饅頭の群れ。
 リズムを刻んで歩く者もいれば、三歩進んで五歩下がる者もいる。進めや。
 しかしそんな事をしているものだから、猟兵たちが追い付くには十分な時間となってしまったようだ。
「材料は饅頭とは言え、見た目は完璧なゾンビですね。
 やっぱり食欲がわかないとは黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)。河童よりもたらされた情報で先回りした彼女は、饅頭の群れを前につ。
「でも焼き饅頭の匂いは良い、……とか……苦行でしかないです」
 ふんわり漂う甘い香り。これ絶対に美味しいやつですぜ。別の猟兵からいただいた饅頭がなければ耐えられなかったかも知れない。
 そんな摩那の登場に緊張感を見せて歩みを止め、狼狽える人饅頭。ニクカリさんたちそのジェスチャー必要?
「……饅頭で人型……芸術的ですよね。この完成された食材を微塵切りすることに、少々罪悪感を覚えます」
 す、と群れの背後に現れる御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の言葉は脅しにも聞こえ、にこにこ顔の饅頭の上で戦くニクカリから目をそらす。
 無言の肯定ですね。
「! …………!」
 人饅頭の上に座るニクカリさんの動きに合わせて、人饅頭が桜花を指差し何やら非難しているご様子。日本語を覚えてから出直して来い。饅頭じゃ喋れないだろうけど。
 それはニクカリも気づいたのだろう、頭の上の者がそのまま饅頭を掘り進み、にこにこ顔の口を引き裂いてあんこを撒き散らしながら現れた。
 ホラーするならホラーするって言ってくださいよ。
 鋏を振り上げると人饅頭も両手を振り上げ、今にも襲うぜとばかりのアピールだ。しかし。
 虚空に疾る焰の一陣。
「!」
 炎の軌跡は駆け抜けた人饅頭を八つ裂きにし、元通りばらとなって地上に落ちる。焼けて香ばしい香りが散歩道に漂い、ぽてりと落ちたニクカリたち。
 何が起きたのか把握出来ずにいた紫色のニクカリへ、その脳天から真っ二つにする獄炎の刃。
「…………、饅頭人形に寄生ってシュールだけど」
 払えば炎を波打つ【焔摩天】。刃に刻まれた梵字の名を誇張する如き大剣を肩に担ぎ、深く息吹く木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)。
「世界の危機だ、全力でいくぜ」
 笑みを見せるウタに、ギターはどうしたのだとばかりに割りと見事なエアギターを披露する人饅頭。こいつこれだけで食っていけそうだな。食い物だけど。
「そういう相手じゃないしなぁ」
 頬を掻く。その判断は間違っていないぞ。
 前門のスケバン、後門のチョッピング予告に中腹の勇者と勢揃いな猟兵に、すでに負け越した感の漂うニクカリたち。
 だがここで諦める訳にはいかない。彼らもあつあつほかほかの饅頭を届けるという使命があるのだ。
 片足と両腕を上げて鶴のポーズを見せる人饅頭。両足を大きく開き、地を這うが如く低く構えた人饅頭。周りのポーズにとりあえず合わせるようにY字バランスを取る人饅頭。
 彼らなりの威嚇のポーズのようだ。人間社会から何を学んでるんだ君たちは。
 と。
「はらへったー!」
『!』
 茂みからの唐突な咆哮は衝撃波となり、人饅頭たちをばらばらに吹き飛ばす。
 焼けて香ばしい香りに誘われ茂みをかき分け姿を見せたのは、何故かメイド服姿の一ノ瀬・はづき(人狼の正義の味方・f29113)。
 はづきに撒き散らされて新鮮なあんこの香りがまた拡がるが、ぽてぽてと再び散歩道に落ちるニクカリたちは、慌ててばらされた饅頭へ向かう。
「よっと」
 その内の一匹を摩那が拾い上げると、ニクカリは命乞いするように鋏を合わせた。非力な姿に同情を覚えるがそこは猟兵、泣き落としなど通用しない。
「さあ、これ以上先には進ませませんよ。それとも、このぷりっと美味しそうなヤドカリ仲間を見殺しにしますか!?」
 この人でなし! 鬼畜ッ、悪魔! 猟兵!!
 構造上、背中を捕まれては抵抗できずにじたばたするニクカリを掲げた摩那へ非難するような人饅頭らのジェスチャー。痛くも痒くもないね。
 などとやってる間に腹ぺこメイドが背に迫る。
「食べます」
 はづきの言葉に「えっ」とばかり振り返った人饅頭にそのままかぶりつく。
 美味しいと言われてるんだから食わずにはいられないよね。ユーベルコードでもなければ害意を持った攻撃でもなく、ただ当然の如く咀嚼される一生懸命こねこねして作った人饅頭。
「ゾンビっぽいのを食すのも貴重な体験、とは言え、やっぱり饅頭だね」
 むっちりとした皮に包まれた優しい甘味。それはやはり焼きを入れられてざっくりとした感触とつぶ餡の食べ応えが良く合う。
 実に美味である。
 満足そうなはづきと裏腹に寂しそうに自分の取りついた人饅頭の皮をいじるニクカリ君。いじけてんの?
 しかし、君たちにいじけている暇などないのだ。何故か。
 目の前に炎を纏った大剣を担ぐ男が暇そうにしているから? いやいや、彼は優しい。
 後ろにいるメイドさんが申し訳なさそうに微塵切りを敢行しようとしているから? …………、まあ、それはあるかも知れない。
 そうでない、そうではないのだ。
 何故なら悪魔、もとい猟兵の魔の手は続々と迫っているのだから。さあ、なんちゃって謝肉祭の始まりだ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳳鳴・ブレナンディハーフ
☆…主人格(主導権)
★…第二人格(UCで実体化)

★危ない!(敵UCを避けるために鳳鳴を盾にする)

なんてことだ鳳鳴に敵が乗り移ってしまった!
これでは手出しができないぞ!
(と言いつつHENTAI costumeを何本もの触手に変形させ鳳鳴を縛り付けいたぶる)

触手が燃やされたら自らタックルして【グラップル】
触手は一瞬でも足が止められれば良かったのさ
恥ずかし固めを仕掛け、股を広げる
「さあ、鳳鳴から出ていけ!
さもなければ股が避けるぞ」
パンツぐらいなら余裕で裂く
ちなみにアイスランド国旗の模様のトランクスだ

☆もう元に戻っておるわうつけ!
(でも止めてもらえない)
いかん見える!



●明日の生を掴むため。戦えニクカリ人饅頭!
 むしゃこらされる人饅頭を目撃して危機感を募らせたニクカリたちは、人饅頭の中に潜り込む。お前ら饅頭なんぞに籠城できると思ってるのか。
 しかし姿が見えなくては件の紫ニクカリを探せない。
「……口からザリガニ……土左衛門を模してるってことぉ?」
 和製物体エックスに現実的な言葉を付け加えたのは化野・花鵺(制服フェチの妖狐・f25740)だ。
 先程の大暴れにより制服に対する想いも少しは紛れたようで、落ち着きを取り戻している。でも簡単にグロテスクな映像を想像できてしまうワードは止めてください!
 土左衛門と比較するなら膨らんでないし、腐敗臭もしないと小首を傾げる狐。腐敗臭溢れる人饅頭なんてあってはならない歪みです。
 ニクカリ自身、ヤドカリと習性が近いだけでそれそのものではない為、別に水場に住んでいるという訳でもないのだ。勿論、ザリガニでもない。
「体の土左衛門は饅頭だしぃ、ザリガニダマは食べれば中からアヤカシがコンニチハするだろうしぃ。
 それなら、全部食べさせちゃえばいいかぁ」
 だそうです。良かったなニクカリども、お前らの処遇が決まったぞ。弁護人いないから有罪しかないけどいいよね?
 よっこいしょと取り出したのは【竹筒】、管狐を封入した狐使いには一般的な代物だ。
「アヤカシがコンニチハするまで喰い尽くせ、管狐!」
 封を開くと同時に行われた【管狐の召喚】は、数十の群れの足へ更に千里をも駆け抜ける呪を与える。
 群がるそれらに為す術なく美味しいお家を貪り食われていくニクカリたち。負けじとはづきも食べる速度を増しているが、そこは対抗する所じゃないです。
「やっぱり……これで間違ってないですよね……?」
 花鵺の行動を見ての桜花の言葉。
 変わらず申し訳なさそうにする桜花の身を一陣の風が廻り、彼女の持つ【破魔の銀盆】は何気に腰に備えられた【軽機関銃】と共に桜の花弁へと変じた。退魔刀と同じ製法であるがそれ自体にそのような力はなく、色づく刃となって人饅頭を襲うのは彼女のユーベルコード、【桜吹雪】だ。
「ほころび届け、桜よ桜」
 歌とも祝詞とも取れる軽やかな声に導かれて、迫る風が悉く人饅頭をスプラッタ映画も真っ青の微塵切り。もはやミキサー、ミンチよりも酷い状態だ。
 ぼとぼとと液状化して滴り落ちる黒々としたあんこの予想外のグロさと対称的に、微塵切りされた事で甘い香りが散歩道から更に色濃く拡散する。
 食ってないのに食傷気味になっちゃうよ。
 すっかりこし餡になった人饅頭から這い出たニクカリ。よく無事だったな。恐怖の一瞬を潜り抜けて、ほっと一息吐くのは紫色。
 狙い通り人饅頭を剥ぎ取られた彼の頭上に落ちる影がひとつ。はたと気づいて見上げれば、神妙な顔をした桜花だ。
 紫ニクカリはかさかさとこし餡の海を渡り、骸魂の影響であんこまみれのままぼんやりしている他のニクカリの元へ向かう。
 彼らを盾にする気か。身構えた桜花に対してしかし紫ニクカリは鋏を振り上げた。
 この子たちには手を出さないで、そう言いたげな、まるで父母を思わせるニクカリの行動。
「うぐぅ!?」
 情に訴えるニクカリに迷いの中にいた桜花は胸を押さえてよろめいた。猟兵にも血と涙はあったんだよ!
 そこへ通りがけの管狐が、ひょいと紫ニクカリを空から掴んで持っていく。こりゃ今日のお弁当ですね。
 「あれーっ」と連れ去った紫ニクカリをばりばり食らうと、彼の影響を受けていたニクカリたちも元に戻ったのか、きょときょとと辺りを見回した後にこし餡を鋏で器用にこねて、団子状に頭に乗せて何処かへと消えていく。こりゃ今日のお弁当ですね。
 そんなニクカリも連れて行こうと現れた管狐を桜花が慌てて追い払うが、その様子に怒りを見せたのは人饅頭だ。
 骸魂も妖怪もまるで関係のない無分別な攻撃に、猟兵許すまじとそれぞれがジェスチャーを見せる。
 桜花や花鵺のユーベルコード、ついでにはづきがむしゃこらしているとは言え相手は等身大の人饅頭、早々と数が消える訳ではない。
 そんな彼らを横目に喉につかえた饅頭に胸を叩き、あつあつのほうじ茶で飲み下し一息吐くはづき。
 彼女はお裾分けとばかりにメイドらしく、盆に乗せた湯呑みを摩那とウタへ持っていく。
「粗茶ですが」
「あ、ありがとうございます」
「熱々だ!」
「あんこと良く合うんだぁ」
 下町で手に入れたこし餡饅頭を食べる二人に、照れた笑みを見せた。鎌鼬やら管狐やらに巻き込まれないためだろうが、くつろぎすぎではないですか。
 人質にされたニクカリは摩那の頭上で落ち着いたようで、彼用の小さな湯呑みを摩那の頭の上に乗せるはづき。気の利くメイドさんだがバレたら怒られるぞ。
 しかし摩那とウタはそれに気づかず、言葉を喋れぬ彼らのジェスチャーに言葉を宛がうのに夢中なようだ。
「えっと、お前たち猟兵は許せない?」
「よくも仲間を、俺を……体を、かな……あ、食べられちゃいましたね」
「ふむふむ、立ち上がれ同士たちよ! 敵は猟兵! って感じかな」
「なるほど。そろそろ相手も本気になるって所ですかね」
 拳、もとい饅頭を掲げる人饅頭と、彼を囲んで拍手する人饅頭たちに、一休みを終えた二人はすっかり充電を終えてやる気に溢れた笑みを見せる。
 進み出る彼らに、その頭の上であつあつのほうじ茶を美味そうに飲んでいたニクカリは湯呑みを落としそうになって慌てていた。こいつ可愛いな。
 再び大剣を構えたウタに合わせるように、魔法剣【緋月絢爛】を抜く摩那。刀身のルーン文字は陽光を受けて万華鏡の如く映り変わり、細剣を飾り立てるようだ。
 やる気に溢れる前から殺る気だった猟兵たちが本腰を入れた事に気づき、ニクカリたちも鋏を振り上げて威嚇。そのまま人饅頭を突撃させる。
 ──狙いは桜花。
 迷いを見せた所に鬼畜猟兵の中では攻め易いと踏んだようだ。走る君たちの足の下のあんこの海はこの人が殺った結果なんだけど、分かってる?
 即座に軽機関銃構えてる辺り特殊部隊出身レベルのソルジャーですよ?
「危ないッ!」
「ぬぐわあ!」
 その危険に対し叫ぶ声と同時に法衣の男が桜花を庇い──、違うな人間砲弾にされただけだな。
 そんな事をするのは勿論、皆様ご存じの。
「鳳鳴さん!?」
 驚く桜花の声。そう、鳳鳴・ブレナンディハーフ(破戒僧とフリーダム・f17841)だ。
 いきなり目の前に飛んできた人間の姿に、「うひゃっ」と驚いた紫ニクカリの鋏が鳳鳴に命中、だがそんなもので止まる訳がなく人饅頭ごと紫ニクカリを押し潰す。
 哀れな。
「……う……、つつつ……!」
 腰を打ったのか、呻く鳳鳴に彼を投げた分身たるブレナンディハーフは戦いた。
「……なんてことだ……! 鳳鳴に敵が乗り移ってしまった!」
「えっ? 拙僧に?」
「これでは手出しが出来ないぞ!」
「そんな!?」
 目を瞬く鳳鳴と、オルタナティブ・ダブルによって存在するブレナンディハーフの言葉に口元を押さえる桜花。自分の迷いが招いてしまった結果かとショックを受けているようだが、むしろその手の銃を即座に構えた事や鳳鳴を蜂の巣にしなかった事を考えるとめちゃんこ素早い判断下してると思うよ。
 そんなブレナンディハーフの言葉に混乱を見せたのは猟兵だけではない、ニクカリたちもだ。
 彼らは寄生する事で人を操る事は出来るが、猟兵に対して問答無用で寄生できる程に強力な力はなく、ユーベルコードに至ってもその類いはない。
 唯一、鳳鳴には運命的生命力を減少させる呪いをかけているものの、そのニクカリも直後には押し潰されてお陀仏だ。
 つまり、今の鳳鳴は腰を打った以外に特に異常はないのである。
 鳳鳴とニクカリたちはしばらく戸惑ったような視線を交わしていたが、やがて一匹の紫ニクカリが人饅頭を捨て、鳳鳴の頭上に移って鋏を振り上げた。
 膨らむ期待に応える姿は妖怪の鑑である。親切ぅ!
「…………! ……な、何て事だ……拙僧は、この者に取り憑かれてしまったのか……!」
 それ思い込みですよ鳳鳴さん。そいつただ鋏振ってるだけです。
 愕然とする本体の姿にしたり顔で頷くブレナンディハーフ。その真面目さが分身の自由に拍車をかけてるんだよなぁ。
 何故か敵に回った鳳鳴を先頭に、何故か仲間になった人饅頭たちは戸惑いながらも突撃を再開する。
 鳳鳴が先頭では斉射する事もままならない。桜花は内心ほぞを噛み、接近戦用の銀盆を構えた時、背後からひょっこりと八榮・イサ(雨師・f18751)が顔を出した。
「──ニクカリ……、肉借りか?」
 行動と名から、それを表す文字を当て嵌めてイサは嘯く。そのまま自己暗示にかかって突撃する鳳鳴を受け止めるように抱き止めつつ、その勢いを利用して巴投げ。抱き止めてないなこれ。
「ぬおおっ!」
 悲鳴を上げて空飛ぶ鳳鳴をナイスアシストだとばかりにブレナンディハーフが【HENTAI costume】を変形、無数の触手と化してしっかり捕らえる。
「よし、鳳鳴を引き離した。今がチャンスだ!」
 何か恨みでもあるのかと言いたくなるほどけったいな格好でふん縛って踏みつけるブレナンディハーフ。無視されてる紫ニクカリも鳳鳴に同情したのか、そこらのこし餡をこねた団子を彼の元へ持っていく始末。
 それはそれとてブレナンディハーフの言葉通り、攻撃のチャンスであるのは間違いない。
「屍肉が動いてちゃ可哀想だよう。
 …………、でも、まあ。饅頭なら良いかぁ」
 本来とは全く別であろう宿主を操るニクカリたちに、イサの瞳にも優しさが映る。
 これは慈悲だと、その手に浄化の光を帯びて。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!」
 迫る人饅頭へ真正面から殴りかかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八榮・イサ
肉借りか?
屍肉が動いてちゃ可哀想だよう。
でも、まあ。饅頭なら良いかぁ。

―これは慈悲さ。
攻撃の際に浄化を込めような。
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!
基本行動は力技。
怪力で真っ向から相手をグラップル。
襲ってきた相手にはカウンターで投げ飛ばし、そのまま敵を盾にするのも良いなぁ。
遠くの敵には天下駄を飛ばして攻撃さ。
相手からの攻撃は宝傘で武器受け。もしくは空中浮遊して回避。
口から宿借り吐いて間抜けだぞう。
吐くなら餡子の方が良いさ!

お供え物には饅頭。
おれがしっかり味見したこしあんさ。
美味しいこと間違いないさ。
饅頭食え!


化野・花鵺
「口からザリガニ…土左衛門を模してるってことぉ?その割には膨らんでないし腐敗臭もしないねぇ?」
一暴れして落ち着いた狐、鼻をすんすんした

「土左衛門は饅頭だしぃ、ザリガニダマは食べれば中からアヤカシがコンニチハするだろうしぃ、それなら全部食べさせちゃえばいいかぁ」
「アヤカシがコンニチハするまで喰い尽くせ、管狐!」
「管狐の召喚」で肉饅頭もニクカリも等しく喰らい尽くさせる
連鎖事故は野生の勘で避けてオーラ防御で防ぐ
「呪詛は狐狸の専売特許だというに…業腹よの。ヌシらは少しばかり痛い目を見た方が良さそうじゃ」
狐、ニクカリを頭からかぷっといこうとした

「アヤカシ同士、マウントの取り合いというヤツじゃ、ホホホ」


黒木・摩那
材料は饅頭とは言え、見た目は完璧なゾンビですね。
やっぱり食欲がわかない……
でも、焼き饅頭の匂いはよいとか、苦行でしかないです。

さて、ヤドカリ達をこのまま神社に行かせてしまうと、神社に待っているというボスオブリビオンのご飯になりそうです。
ご飯を食べれば、当然元気溌剌。
それでは少々困りりますので、ここはヤドカリ達には帰ってもらいましょう。

せっかくですので、ヤドカリ達の先回りします。

魔法剣『緋月絢爛』で戦います。
ヤドカリ達を【敵を盾にする】しながら、通せんぼします。
そして、渋滞して密になったところで、
UC【風舞雷花】を発動して、饅頭たちをヤドカリ共々電子レンジでチンします。



●現れたるは紅蓮の神、散歩道の大死闘!(嘘)
 迫る人饅頭へ放たれた裏拳がその顔面を捉える。牽制の一撃は人を止めるには十分だ。
 が、相手は饅頭なのだ。幾ら怪力をもってしても受ければ揺れ飛ぶのは饅頭のみ。
 いや紫ニクカリも饅頭と一緒に豪快に吹っ飛んだな。浄化の波動は皮を破りあんこに浸透し、裏にすがりつくニクカリを消し去ってしまったのだ。
 紫ニクカリがいなくなった事で、無事に骸魂から解放されたニクカリたちはなぜ自分たちが人饅頭をえっちらおっちら動かしていたのかと顔を見合わせつつ、先ほどのニクカリのように皮とあんこをこねたミニ饅頭を頭に乗せて戦場から離脱していく。
 イサはその様子を笑みのままで見送り、ニクカリのいなくなった人饅頭を盾に迫る人饅頭と向かい合った。
 彼を呪縛しようと人饅頭の口から顔を出す紫ニクカリにそれを投げつけて、先程とは別種の笑みを見せた。
「口から宿借り吐いて間抜けだぞう。吐くなら餡子の方が良いさ!」
 投げつけた人饅頭ごと眼前の人饅頭を拳で貫き、それを支店にぐるりとぶん回して投げつける。
 力業に堪えられず人饅頭から落ちたニクカリの内、紫色のものにだけ狙いをつけたウタがイサの影から飛び出して、瞬時に叩き斬った。
 獄炎に包まれ、無念の内に鋏を振り上げたまま霞となる紫ニクカリ。
 そもそも人饅頭の無念とは?
(やっぱ食べてもらえなかった事かもな、饅頭だし)
 あんこの無念か皮の無念か、それともやはり饅頭としての無念か。そう考えればこの戦力差に立ち向かうのも分からない事ではない、気のしたウタ。
 だが。
「喰わせようとしてくれてるのかもしんないけど、押し売りはごめんだ」
 饅頭パンチを刀身で受け止めてその表面を焼きつつ、返す一撃で肩の辺りで驚いていた紫ニクカリを貫く。
 霞と消えるも、未だにぼんやりと人饅頭へ縋りつく他のニクカリたち。
「アンタたちも災難だな。待ってろ、すぐに助けてやる」
 剣から膨らむ炎が人饅頭を包み、取り憑いていたニクカリたちも支配を抜けて慌て逃げ出した。
 こんがり狐色のお肌になった人饅頭から焔摩天を引き抜き、次は誰だと周囲を見回し紫ニクカリたちへ言葉を投げた。
「幽世に辿り着けず残念だったな、歪んじまって可哀想に。
 今、海へ送ってやる」
 彼らのように立ち向かう者もいれば、やはり無理だと先を目指す者も。あるいはそれが元よりの作戦か。
 そんな奴らにはどうするのかって? 決まってらあ、伝家の宝刀、人質よぉ!
「このヤドカリが目に入らぬかっ!」
 紋所の如くびしっ、と摩那の差し出したニクカリはもはや人質業も慣れたもので、はづきから貰った湯飲みでお茶を啜っている。
 これ脅す効果なくね?
「!」
「!? …………!」
 効果あったわ。
 足を止めた人饅頭たちが、摩那の心無き行為に非難する様子を見せる。人饅頭が何をした所で心に響くものはありませんなぁ。
 非難しつつも抜ける瞬間を見計らっているのだろう。じりじりと迫る群れに、まとまるには良い具合だと摩那は眼鏡をかけ直す。
「励起。昇圧、帯電を確認」
 ぴりり、と前方空間に走る緊張は感情によるものではない。重苦しく固められた空間そのものの緊張。
 そこかしこで静電気が走り火花の爆ぜる異様な雰囲気に人饅頭たちはお互いに抱き合い恐怖する。
「……敵味方識別良し……散開!」
 ユーベルコード、【風舞雷花(フルール・デ・フルール)】が始動する。携えた緋月絢爛から雷光が生じると、ほどけるようにその先端から七色の無数の花弁となって広がっていく。
 帯電するそれらは周囲に固定され、雷による結界を形作る。
「さあ、ヤドカリ共々電子レンジでチンしてあげます!」
 それグロテスクなあれじゃないですか?
 電圧が高まると同時に発生したプラズマが大気を焦がし、次の瞬間には紫ニクカリたちがそりゃもう口では言い表せない形になって地面に落ちる。
 焼けたあんこと焼けた甲殻類の食欲を誘う香りが風に乗り。
 熱せられた人饅頭から逃げ出すニクカリたちは無傷。摩那は紫ニクカリと人饅頭のみを加熱したのだ。
 紫ニクカリが消えると同時に食欲をそそる香りも減り、ふうと溜め息ひとつ。
「貴方たちを進ませると、神社で待っているというオブリビオンのご飯になりそうでしたから」
 ご飯を食べれば、当然元気溌剌のはず。それでは少々困るのだとした摩那は、頭上でお茶を啜るニクカリを持ち上げて、雑木林に降ろす。
「ご協力ありがとうございました。帰っても大丈夫ですよ」
 微笑むと、ニクカリは鋏を振って頭にはづきから貰った湯飲みを乗せる。
 茂みへと消えていくそれに手を振って見返せば、後続の人饅頭たちも随分と数が減っているようであった。
「…………!」
 このままでは勝ち目がない。
 そう判断した紫ニクカリは覚悟を決める。次々と解体されていく仲間たちを前に、鋏を振り上げ仰ぐは天。
 彼らは元々、神性を持つ妖怪だ。故に神とも繋がりがあり、その力の一部を行使出来るのだ。
 自らの命を供物とする事で行われる神の召喚。それは、太古より人が大災害に対して行った自然への唯一の反抗であり、そして神性との繋がりを強固とするもの。
 今ここに、骸の海より過去から蘇ったオブリビオンによる、その再現が行われたのだ。複数の紫ニクカリたちがその身を犠牲にして喚び込んだ神の名は、ヒヌカン。
 空より落ちた紅蓮の炎が火柱を上げて、紫ニクカリが霞と消えると同時、焼ける饅頭から正気を取り戻したニクカリたちが逃げていく。
 炎に包まれた人饅頭はその皮をぱちりと焼き、倒すべき猟兵を睨み付けた。
 炎の魔人、もとい炎の人饅頭。
「? …………!?」
 歩いたヒヌカンは己の肢体に気づいて驚愕する。饅頭やんけ。
 ニクカリさんたちちゃんと伝えてあげなよね。
「隙ありぃッ!」
 あまりにも意味不明な状況で動きを止めてしまったヒヌカン・イン・人饅頭の一体にブレナンディハーフが触手を伸ばす。
 防御にと引き上げた腕を巻き取るその一瞬の間に、触手は焼けてしまう。ブレナンディハーフの顔に浮かぶのは不適な笑み。
「一瞬で良かったのさ、触手は。一瞬でも足が止められれば良かったのさ!」
 身を低く構え、走るブレナンディハーフは一瞬にして燃え立つヒヌカン人饅頭の足を取る。
 そのまま体を持ち上げる勢いで投げ飛ばすその体は、ヒヌカンの紅蓮により酷い火傷を──。
 美味しそうに焼けた饅頭がついてるなぁ。饅頭ガードとは恐れ入ります。
 表面がぱりっ、と焼けた饅頭をむしゃこらするブレナンディハーフ。接触面を饅頭で保護していた彼の投げにより空を舞うヒヌカン人饅頭。
 イサはブレナンディハーフの対応になるほどと頷いてこちらも両手に饅頭を持つ。
「南無阿弥怒雷刃ーっ!」
 受け止めた人饅頭にブリッジ式ジャーマンで散歩道へと叩きつけた。
 落下の速度に加え回転力を加えた凶悪な一撃に、ヒヌカン人饅頭も頭どころか上半身の全てがあんこと共に散る。
 イサはそのまま倒立、体を上手く回して立ち上がり、ふうと息吹いて焼けた饅頭を口にする。うめえ。
 完全に沈黙したヒヌカン人饅頭の下半身からは徐々に火が消えており、イサは残る焼き饅頭を供える。
 仕える者は違えど彼もまた神に通ずる身。敬意を怠る事はない。
「おれがしっかり味見したこしあんさ。美味しいこと間違いないさ!」
 饅頭食えっ、とばかりに供えられたそれを、ヒヌカンもまた天の彼方で美味しく頂いている事だろう。
 イサの足下に這い寄る慈雨も頭を垂れる中で、残る敵は。


●かくて騒ぐ者たちは風となり。
 ヒヌカンたちの登場で戦場を色濃く染めた甘い香りに、はづきは思わず生唾を飲み込んだ。
「焼いたらなお美味しいよね。
 それならおいしくな~れ~、っておまじないをかければいいのかな?」
 胸元で両手を合わせ、ハートの形を象る。
 それを見たヒヌカン人饅頭は親指を立てて、どうぞどうぞとばかりに胸を張った。ははーん、こいつさてはミーハーだな?
 隙だらけのヒヌカン人饅頭に近づいて、思い切り蹴り飛ばしてやればあっさりと転ぶ焼き饅頭。可哀想。
 「何をするんですの!?」とばかりに上体を起こしたその体へ、管狐が群がった。ひえっ。
 燃え盛る体をものともせず、いやちょっと熱そうだな。「あちっ、あちちっ」といった様子で怯みながらもやはり焼けた饅頭の魅力には逆らえず、必死に食らいつく。だらしねえ顔しやがって。
 すっかり甘党となってしまった管狐を従えて、花鵺はふふんと鼻を鳴らす。指をつい、と上げれば管狐が綺麗に切り取った焼人饅頭を自分とはづきに渡す。
「ありがとう! はい、ほうじ茶でございます~」
「こちらこそぉ」
 給仕を忘れないメイドの鑑。目の前で体を貪られてるヒヌカンさんを忘れないであげてね。
 あつあつぱりぱりむっちむちの饅頭を頬張りながら、のたうち回るヒヌカン人饅頭を見ながらほうじ茶を飲む麗らかな昼下がり。
 これはおカルトではありません。猟兵たちにはよくある和な光景です。
 そこへ、一仕事終わったと現れた桜花。履き物をあんこで汚して、どこぞから借りてきた掃除道具でミキシングされた人饅頭を袋詰めし終えたようだ。
「…………、ここまでぐちゃぐちゃにしちゃったら、食べる食べられない以前の問題でしたから」
 二人の視線にばつが悪そうに笑う。確かに散歩道をミンチとなった人饅頭でドロンチョしたこし餡溜まりはエンガチョ間違いなしである。
 しかし、掃除の余裕があるほどに落ち着いてしまった。ヒヌカンたちも幾らなんでも饅頭が依代ではどうしようもなかったらしく、あっさりと壊滅している。
 はづきのほうじ茶を飲んで一息入れて、最後の仕上げだとガッツポーズを見せた桜花の視線の先では、あられもない姿となった鳳鳴と、その上で彼を心配する紫ニクカリとが居た。
「とあああーっ!」
 そこに躍り出るは饅頭を食べて元気百倍のHENTAI、もといブレナンディハーフ。いやHENTAIでいいや。
 縛られて動けない鳳鳴の背中に組み付くと、そのままひっくり返って股を開いた鳳鳴を高々と掲げた。止めろHENTAI!
「鳳鳴の体を使って炎の魔人を召喚するつもりだな、そうはさせんぞ。さあ、鳳鳴から出ていけ!
 さもなければ股が裂けるぞ!」
「ごわああああっ、止めんか!」
 ぎしぎしと軋む股関節。広げられた股に縛られていた衣服は裂け、アイスランドの国旗が覗く。鳳鳴さん中々ハイカラお召し物がお好きなようで。
 女性人が気まずく視線を逸らす中、見せびらかすように上下に揺さぶるHENTAI。悪質ですよ!
「……さあ……! 早く鳳鳴から離れろ……でないと……!
 おパンツを! 裂くッ!!」
「ぎぎぎっ、もう元に戻っておるわうつけぇ!」
 二人の醜い争いに、「私の為に争うのは止めて!」と紫ニクカリがブレナンディハーフを鋏でぺちぺち叩く中、遂におパンツが裂ける。
 イサとウタは同時に走った。男子の情けである、鳳鳴を救うべく、そして女子諸君の健全を守るべく。
「! ぬうッ、おのれケサラン・パサランッ!!」
 どうやったのかは知らないが、鳳鳴のおパンツから顔を覗かせたのはサングラスをかけたケサラン・パサランであった。やったぜ。
「くっ、くそう、まだだ、まだ僕は負けてない!」
「そういうのいいから」
「鳳鳴はこっちに来るのがいいさ」
「……すまぬ……すまぬ……」
 無事に保護された鳳鳴と隔離されたブレナンディハーフ。残るは紫ニクカリだ。
「おヌシ、よくも妾に見苦しいものを見せようとしてくれたのう」
 頬をひきつらせる狐。おこかな?
 誤解です、この子は空気を読んだだけで悪いのは全部、あのHENTAIなんです!
 しかしそんな想いなど誰が分かろうか。手を伸ばす花鵺に、窮鼠猫を噛むとばかりに飛び掛かる。
 ぴくり、と耳を動かしてそれをかわした花鵺は、続く鋏の一撃をオーラで保護した掌で受け止める。
 ただの鋏であれば大した事はないが、呪詛を含めた一撃なのだ。
「……呪詛は狐狸の専売特許だというに……業腹よの。ヌシは少しばかり痛い目を見た方が良さそうじゃ」
 駄目じゃん、絶対おこだわ。
「アヤカシ同士、マウントの取り合いというヤツじゃ。ホホホ」
 高笑いをすると、ぷりっとした尻尾の先を掴んで持ち上げる。じたばたする紫ニクカリを頭上に、口を大きく開く花鵺は丸呑みの姿勢だ。
「ま、待ってください!」
「むっ」
 それを止めたのは桜花。先程のブレナンディハーフに対する態度や仲間であるニクカリたちを守ろうとした事から、彼らが善性であると桜花は確信していた。
 花鵺を説得して紫ニクカリを離させてやると、懐から取り出すのは桜の花弁が刻印された【桜鋼扇】。
 怯えて蹲る紫ニクカリの恐怖を和らげようと笑みを見せる。
(骸魂からオブリビオンを引き剥がせれば、妖怪を助けられるはず。なら、この紫色のニクカリを桜鋼扇で上手く叩いて殻を割ってしまえば、囚われた妖怪は助かるはず!)
 ち、違うんです。その紫色のが骸魂なんです。
 もはや結末の見えた結果に対し、知らぬ桜花は笑顔に心を開いた紫ニクカリへ、桜鋼扇を振り下ろしその背にぴしゃりと当てた。
 加減の一撃。しかし、それを受けた紫ニクカリは衝撃に両手を上げて、そのままぐったりと動かなくなると霞へと消えていく。
「……え、エグいのぅ……」
 その様子に思わず呟いた花鵺。桜花は扇を振り下ろしてからショックに動けずにいた。大事故やんけ。
 だ、誰か、誰かーっ! フォローしてあげてえ!
「桜花さん、あの……彼らは……彼ら自身が骸魂ですから、祓ってあげるしかなかったんですよ」
 さすがに目もあてられぬ状況を摩那が解説し、どうあっても倒すしかなかったのだとする言葉に漸く立ち直る桜花。
 彼女たちの動きをよそに、ウタは先程は使用しなかったワイルドウィンドを構える。
「これだけお前たちの事を想ってくれてる人もいるんだ。安らかに眠ってくれ」
 鎮魂とすべき曲は、彼らも気に入っていたのであろうノリの良いビート。神社へ向かう様子を思い出しても、彼らを送るには明るい曲調の方が良いだろう。
「色々とあったけどぉ、もう終わりだねぇ」
「そうだねー。あと一人、……倒しさえすれば……」
 こんなんでも、作戦が上手くいく事を願っているのだ。
 神社を見つめていたはづきは、隣に立つ花鵺の転がした言葉に頷く。
 残る敵は、ただ一人。この騒動も、それを倒せば終わるのだ。
 鎮魂を終えて饅頭を供え、黙祷を終えた猟兵たちは道の先を急ぐ。雑木林を抜け、オブリビオンの待つ神社へと──!
「あ、すみません。ごみ袋捨ててきますね」
 あ、はい。
 神社を目前に踵を返す桜花に、他の面々も顔を見合わせてその後を追う。
 猟兵らによって片付けられたごみ袋の饅頭シェイクは、掃除道具を貸してくれた下町の住民が引き取ってくれた。猟兵皆さんと握手できて、写真も撮れて一家は非常に嬉しそうであったことも記しておく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『北の幹部妖怪』

POW   :    走れ白波、肢体よ舞え
【手に持つ、或いは浮遊する近接斬撃武器】が命中した対象を切断する。
SPD   :    仙術・僵尸浮遊
全身を【白い霞】で覆い、自身の【僵尸としてのプライド】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ   :    いざ往かん、勝利の為に
【封印符を剥がし、僵尸の本能のみ】を使用する事で、【武器を捨て逞しい筋肉と大きな牙】を生やした、自身の身長の3倍の【巨大僵尸】に変身する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠大門・有人です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●空腹な屍女。
 もはやお昼も越えると言うのに、食べ物も無く。
 ぐったりと神社の賽銭箱にへばりつく女は死人特有の血の気のない肌を晒して空腹に呻く。
 いつもならば妖怪たちが饅頭を届けてくれるというのに、今日はその様子もない。
「……一体、なんで……うう、腹が……」
 死人の癖にご立派に腹の虫を鳴らすんじゃないやい。
 この大騒動の原因であるボスでアネゴなキョンシー将軍は、口許の血を拭う。そばに倒れるは豆腐小僧。
 空腹に耐えかね、部下にすらその歯牙にかけたというのか。キョンシーはぎらつく陽を見上げて、舌を打つ。
「こら、いつまで寝てんだい。早く雪女からかき氷のお代わり貰ってきな!」
「ア、アネ、もといボスぅ。まだ頭が痛くてぇ」
「馬鹿だねぇ、かっこむからだよ」
 倒れていた豆腐小僧はかき氷の食べ過ぎでキンキンする頭を押さえる。ほーん、つまり口許のはイチゴシロップって訳ですかい。
 いい加減シリアスな空気出そうとするの止めてくれよ。
 しかしかき氷では空腹をごまかすだけなのだ。境内で日除けをしながらかき氷をしゃりしゃり作ってる激マブな雪女に鼻の下を伸ばす豆腐小僧。
 ──そして、将軍は鋭い視線を石段へ向けた。
「なるほど、猟兵が来ていたのか」
 その気配に太い笑みを見せて、賽銭箱を割ると中に納められていた刃を抜く。何処に隠してんだ罰当たり。
「ここは平和だ、厄介なぐらいね。この刃と同じく腕が錆びちまわないか心配だったんだよ」
 独り嘯き、睨む先は。
「さあ、久々なんだ。愉しませてくれよ猟兵」
 その背に複数の武器を並べて気を漲らせた将軍。凄まじい圧は境内の豆腐小僧たちにも届き、何事かと身を伏せた。
 戦いの準備を整えた女に、死角は無い。

・ボス戦となります。なお、この後、猟兵たちは御園・桜花と共に一度下町まで戻っている状態です。
・待ちぼうけを食らったボスに奇襲や先制攻撃が可能です。
・二章で人焼き饅頭を入手している為、三章参加者はどなたでも一回だけ、饅頭で敵の注意をそらせますが、対策がなければ饅頭を奪われ、気力を回復してしまいます。
・パワー、スピード、タフネス、テクニック、全てにおいて高水準の強敵となりますので、上手く隙をついて倒してください。
・キョンシー将軍は日本語しか喋れませんが、キョンシーであることに誇りを持っていますので、そこを利用することも可能です。
一ノ瀬・はづき
奇襲による先制攻撃はUCオルタナティブダブルを使用し、念のため【フェイント】【2回攻撃】【目潰し】の技能を使って相手に反撃されないように立ち回る

敵の攻撃は【武器受け】【残像】【第六感】の技能を使って極力当たらないように立ち回り防ぐ

キョンシーのプライドいうものが皆目見当もつかないね。
昔やったキョンシーごっこの真似事でも試してみようかな。
息をとめてる人は捕まえちゃいけない、っていうルールあったけれど。
通用するのかな。

焼き饅頭はどうしよう?
危なくなったらこれで敵の気を逸らすけれど、食べられて気力を回復されても困るから、【物を隠す】技能で中に唐辛子をたくさん詰め込んでおこう。


化野・花鵺
「僵尸のせぇふくって帽子とお札かなぁって思ってたのにぃ。お札剥がしたら意味ないじゃん、ばかぁ」
狐、巨大化僵尸見てぷりぷり怒った

「これ、大女総身に知恵回りかねってやつぅ?武器が爪楊枝で持つことすらできなくなったってことだもんねぇ。カッコわるぅい」
狐、くすくす笑って煽った

人饅頭を「フォックスファイア」で炙って美味しい匂いを振り撒きつつ将軍に見せつけるように咀嚼
相手を煽り注意を引いて他の仲間の攻撃が通りやすくなるような隙を作らせる

「おっきいと当てやすくて便利ぃ」
「フォックスファイア」連射して攻撃にも弾幕代わりにも使う
敵の攻撃は野生の勘で回避しオーラ防御で防ぐ

「せぇふくが全然足りないぃ」
狐、ぶーたれた



●隙だらけだぜッ! 神社決戦!
 みーんみんみんみん。
 蝉の鳴き声も遠く、自らの割った賽銭箱にへばりつくアンデッド。格好をつけて待つこと十分、休憩を挟み三十分、もしかして勘違いだったかと一息吐きながらも更に身構えて一時間。
 すっかり待ちぼうけを食らった女は全てのやる気を捨てて熱気の下に倒れ込んでいたのだ。待ちぼうけなら幾らでも食えるから喜べ。
 すぐ近くでは雪女と豆腐小僧が仲良く並んでかき氷を食べていた。夏ですなぁ。
「…………、ん!?」
 どこからともなく香ばしくも甘い香り。
 それに気付いた将軍が鼻を引くつかせて身を起こすと、慌てて周囲を見回す。そこにはいつの間にいたのか、香ばしく焼けた饅頭をうちわでぱたぱたと扇ぐ化野・花鵺(制服フェチの妖狐・f25740)の姿があった。
 焼き饅頭を更に炙るのは、下にちろちろと蠢く怪火、【フォックスファイア】だ。
「ア、アンタ、何してんだい?」
 戸惑うゾンビガールに狐はにっこり微笑むと、負けず劣らずにこにこしている人焼き饅頭にかぶりつく。
 熱々の皮はぱりっ、と裂けて香ばしく、中のあんこも焼きが入りざっくりとした歯応えとジューシーな甘味が口一杯に広まり、幸せそうに頬を緩めた。
「美味しい?」
「まぁまぁかなぁ?」
「ぐあああああっ! それ絶対美味いやつの反応ぅう!」
 ふふん、と鼻を鳴らしてしたり顔の花鵺に、空腹と羨ましさに耐えかねて頭をかきむしるキョンシー将軍。おのれ、とばかりに拳を握り締めると武器も持たず突進する。落ち着け。
「!」
 そんな彼女を横合いから殴り付けたのは巨大な張り手。一ノ瀬・はづき(人狼の正義の味方・f29113)の毛髪に霊的エネルギーを流す事で変質させた【髪の毛武器】だ。
 咄嗟に腕を引き上げ防御したものの、吹き飛ばされた女はしかし空中で反転、鳥居の柱を蹴りつけてはづきへ直進する。
(速い!)
「だりゃぁーっ!」
 さらに身を捻り反転、キックを繰り出した女。はづきは髪の腕で受け止めるように見せかけて、その姿がかき消える。
 驚愕する女は着地、するも失敗。その直前にはづきが【ペイントブキ】により滑るよう絵の具をまいていたのだ。
 直後に現れたのは髪の毛を翼のように広げ、鷹の如く狙い済まして急降下するもう一人のはづきの姿。
 ユーベルコード、【オルタナティブ・ダブル】である。たゆたう毛髪は意思を持って寄り集まり、巨大な拳となって女の腹へと突撃する。
 轟音。
 巨人の鉄槌の如きそれはキョンシー将軍を挟み大地を叩き割った。
 余りの光景にかき氷の器を持ったまま、呆けて口を開く豆腐小僧と雪女。の、隣でかき氷を食べて頭にキンキンきている花鵺。
 会心の一撃であったとするも、着地し残心する分身と共にペイントブキを構えるはづき。
「……やるじゃないか……だが……!」
 倒立。そのまま身を返して立ち上がる将軍は余裕の笑みで腹をさする。衝撃の瞬間、僅かに腕を拳と腹の間に挟んで壁とした事、更に背面に回した手の掌打により自らも地を砕き間隙を作る事で威力を半減させていたのだ。
 理屈が良く分からないって? これが武道である。半減させたったらさせたのだ。
 なんて奴だと額に浮かぶ汗の玉。緊張感に圧迫される中、しゃりしゃりとかき氷を崩す花鵺はここで人焼き饅頭を取り出し、真ん中から割って溶け始めたそれにちぎり入れる。
 即席金時かき氷の出来上がりである。絶対美味しい。
「何々なにそれ美味しそう!?」
 だよね。
 敵を前に注意をそらすなど武を修める者として言語道断。でもお腹空いてるしスイーツ相手じゃ無理だって。
『隙ぃっ!』
「え、告白――、ぶっ!」
 告白な訳あるかい。
 正々堂々隙を逃さず挟み撃ちした二人のはづきの髪巨拳が、今度ばかりはまともに直撃してたたらを踏む。
 これを受けて倒れないとは。内心でほぞを噛むはづきを、キョンシー将軍が睨み付けた。
「気は済んだかい? そんなら、そろそろこっちからも仕掛けさせて貰うぞ!」
 溢れるのは凄まじき闘気。風すら伴って感じる女の威圧感が炸裂し、はづきは呻いた。気圧された瞬間を把握しながらも強者としての余裕か、キョンシー将軍は即座に仕掛けずに腕を振るう。
「来たれ我が手足、眼前の塵を掃除せんが為に!」
 どやっ。
「…………?」
 なんかどやってるけど特に変化なく。花鵺の金時かき氷をかきこむ音が境内に響く。
 疑問に思ったのは当の本人も同じくで、きょとんとしているはづきに眉を潜めて振り返り、小さく驚きの声を上げた。
「ぬおっ!? 何故、武器がないっ!?」
 失敬、糞でっけえ驚きの声を上げた。本来ならば背後に浮かぶはずの武器の群れは一振りとして無く、驚くのは無理もない。
 まあ、とりあえず隙だらけよね。
「せいっ!」
「だありゃあっ!」
 分身ががっちりと髪の毛武器でホールドし、そのままジャーマンスープレックスを放つと同時に追撃の低空ドロップキックが女キョンシーの顔面へ突き刺さった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳳鳴・ブレナンディハーフ
☆…主人格
★…第二人格

第二人格は「変態に目もくれない腹ペコなんて相手しても面白くない」などと言って引っ込んでしまった

あとは拙僧がやるか……

飢えた亡者には食い物を施すのが道理
焼き饅頭を与え、食い終わるまで待つ

戦いになったら、素手で立ち向かう
(そして不利になる)


待っていたぜこの時を!
敵が万全の状態なら有利になり、慢心が生じる!
そこに隙がある
その瞬間に追い詰められた鳳鳴から僕に変わることで意表をつく!
倒れる直前ギリギリで人格を交代させ、HENTAI costumeを変態させた触手を巻き付けて引き寄せ……
UCを発動!火の鳥を召喚
頭上から炎の羽を飛ばし、僕ごと焼け!
少なくとも僕の服は無事では済まない


木霊・ウタ
心情
骸魂を海へ還し
依代の僵尸?を助けてやろう

戦闘
浮遊武器で足止めされて
接敵出来なくなると厄介だ

奇襲と同時に迦楼羅を炎の翼として顕現
翼をジェット噴射の如く
一気に間合いを詰める

当然
武器が迎撃に来るよな

で獄炎で正に焼き直し中の熱々饅頭を
将軍の近くへ投擲

気が逸れた隙に浮遊武器を躱し弾き接敵
焔摩天の間合いに

因みに将軍が掴んだ饅頭は
獄炎で消し炭になり
その炎は将軍の体へ延焼するぜ

獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払い
武器ごと砕き焼き払う

将軍
硬直した手足だからこそキョンシーだろ?
そんな動けるんだから
きっと本物のキョンシーじゃないよな
と煽る

事後
骸魂へ鎮魂曲
海で安らかにな

憑りつかれていた妖怪>
お疲れさん
大変だったな
饅頭喰う?


黒木・摩那
いよいよボスとの対決ですね。
まずは饅頭にひと細工しておきます。
中のあんこを先に食べてしまって、代わりに秘蔵の唐辛子を詰めておきます。
これでボスに饅頭獲られても安心?です。

今回のボスは武器の数で押していくようです。
まずはその手数を減らしていきましょう。

せっかくなので、奇襲します。
神社の裏から武器を【念動力】で回収します。
さらに戦闘中もヨーヨー『エクリプス』で剣を弾いて【武器落とし】していきます。

キメ技はUC【獅子剛力】。
僵尸をヨーヨーで絡めとって、一気に投げ飛ばして、びったんびったんにしてあげます。



●攻撃、キョンシー将軍!
「がああああッ!」
 はづきを振り払い、咆哮して立ち上がるキョンシー将軍は血走った目を割れた賽銭箱へ向けた。
「……武器が……私の武器がないっ! どうなってんだい!」
「アネゴ、だからきちんと片付けるようにいつも言ってるんですぜ」
「無くさないようにすぐそこに置いてたもん!」
 アネゴの言葉に、仕方ないなとばかり豆腐小僧は武器探しに立ち上がった。地味に苦労してるなこいつ。
 このような会話を戦場でしている時点で隙だらけと見えるが、実際には気を張り巡らせ猟兵を牽制している。待ちぼうけを食らったが、実戦慣れした様子が窺える。
 さて。
 豆腐小僧が離れれば、向かい合うのは猟兵のみ。先程の情けない会話は無かったかのように余裕の笑みを見せた。
「よくもやってくれたね。ゆっくりと嬲り殺しにしてやる、覚悟するんだね!」
「お待ちください」
 きりりとギヤを軋ませ、拳を構えたキョンシー野郎、もといキョンシー女の前に立ちはだかるのは黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)。
 彼女はその手に持つ人焼き饅頭を掲げた。漂う焼かれた皮の香ばしい匂いは暴力的で、将軍の胃袋は渾身の右ストレートを受けたかのように存在を主張する。
 響き渡る鳴き声は、地獄の亡者の如き腹の虫。
「…………、ふっ」
 キョンシー将軍は肩にかかったおさげを指で弾くと、血の気のないはずの頬を紅潮させながら蹲る。いやこれ土下座じゃん。
「おひとつで良いので、どうか、どうかこの卑しいゾンビ腹にお恵みください!」
 卑屈ぅ!
 本気の土下座にはさしもの摩那も憐れに思ったのか、饅頭を近づけてやれば、ぶんどるように乱暴に奪うキョンシー将軍。にやりと晒い、甘ちゃんめと摩那を見下す。
 おめえ全力の土下座で得たのが饅頭一個に過ぎない事を自覚しろよ。
「それじゃあ、ありがたく頂くとしようか。この甘い甘~い饅頭をね!」
 表面ぱりっ、中はもちっ。そんな感触を楽しむように掌でもみもみする将軍は何故か勝ち誇った顔をしている。おめえ饅頭一個貰っただけだぞ。
 勢い良くがぶり。中のごろっとした具の重みに満更でもない表情。なんであんこがごろっ、としてんの?
「ほげええええええええッ! 辛っ、かっ、かあああああっ!」
 口内から火を噴き上げん勢いで吠えたキョンシー将軍。手水舎へ走ると、水に顔を突っ込んで飲み始める。お行儀がお悪いですこと。
 辛いのは苦手か、と少々残念そうな顔をする摩那。この少女、絶望的な辛党である。どの位かと言えば今時の少女であるにも関わらず、マイ唐辛子なる物を常備し持ち歩き、口にする物へ振りかけると言えばそのヤバさの一端を察せるはずだ。
 とは言え甘いものが嫌いという訳でもないからこそ、饅頭を悪く思う事もない。故に彼女はキョンシー将軍へ渡す饅頭、その中身のあんこを食し中身をマイ唐辛子とすり替えたのだ。食べ物を粗末にしないのは流石の猟兵である。
 どうせならば将軍も辛党の同志となってくれれば、そんな淡い期待もあったようだ。が、常人どころか死人も火を噴く絶望的な舌へのダメージを好む者はそうそういないのだ。
「…………」
 ごっくごっく手洗い水を飲む女キョンシーの姿に、はづきはちらりと隠し持つ人焼き饅頭に目を向けた。何か細長い物が沢山詰めこまれたような形をしている。
 これは唐辛子入ってますねえ!
「ぶはっ、ばあっ! きしゃ、はあっ、貴様、良くもあんな毒物を……死人に効果を与えるなど、浄化した聖煎か……!?」
「いえ、私の常食ですけど」
「え、おま、猟兵やる前に人間の食生活を身につけて来い!」
 アンデッドが猟兵様の味覚にケチつけてんじゃねーぞ。
 などと罵るキョンシー将軍の頭上に閃く一筋の炎。余りの辛さに彼女が吐き出しもの、では勿論無く、将軍目掛けて落下する。
 翼を広げた炎の一矢はブレイズキャリバーである『彼』の獄炎に潜む【迦楼羅】と呼ぶ金翅鳥のもの。
「――……、ぬ!?」
 降り注ぐ巨刃を咄嗟に左腕で受けたキョンシー将軍であるが、その威力を殺し切れるはずもなく、骨をごと両断される。
 それ以外にダメージがないのは、左腕を犠牲に体をひねり、かわす時間を作ったからだ。
 流血もなく斬り飛ばされた左腕を見送る事も無く、舞い降りた猟兵を睨み付ける。
 炎を収め、たなびく【旅人のマント】を翻し、焔摩天を肩に乗せるのは木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)。
 堂々の登場に女ははづき、摩那へと視線を向けて、再びウタを正面から見据える。
 この場で最大級の危険度であると判断したのだろう。口元を歪めて笑みを作ると、丸腰にはきつい相手だと嘯く。だがその耳には、得物を見つけたであろう豆腐小僧の駆け寄る足音を捉えていた。
「ボスぅ、ありやしたーっ!」
「ジェネラルだよっ!」
 さっきはボスでも怒らなかったじゃん。とは言え、空腹で怒る元気もなかったのだろう。中の人のミスとかではない。
 それはともかく、やって来た豆腐小僧は大量の武器を抱え、内のひとつである柳葉刀をジェネラルへ投げる。
 摩那は「あちゃー」とばかりに頭を掻いているので、武器を隠した張本人である事は明白だ。
 はづきとキョンシー将軍が戦ってる間に念動力で武器を取り、隠していたのだ。その隠し場所がどこかと言うと。
「……なんか臭いね……、何処にあったんだい?」
「男子トイレっス!」
「汚ァ!?」
 汚いとか言うな腐敗人間。
「あ、あそこトイレだったんですね。近かったから思わず」
「またお前かよ糞ったれっ!」
 お下品な言葉を使うんじゃない。
 怒りのままウタから摩那へと標的を変えたジェネラル・キョンシーは、片手で器用に柳葉刀を回すとびしりとポーズを決めて突進する。
 散開するはづき、留まる摩那は挑発的な笑みを見せ。
「そう簡単には行かせないって!」
 焔摩天に獄炎を纏わせたアッパースイング。地面を削り、【ブレイズフレイム】により延燃した炎の弾丸が背後からキョンシーを狙う。
 舌打ちひとつ、肩越しに向けた瞳は瞬時にその軌道を見極めて、左足を背面に蹴り上げた。
 薄い靴底のカンフーシューズながらも危険となる礫だけを弾き、同時にその勢いを利用して跳躍、空中で縦に回転し刃を摩那に向けて振り下ろす。
 速度、回転、重量と力をかけた強力な一撃。しかし動作故に軌道を読むのは、女のやってのけた事と比べれば容易い。
 念を通して強化したエクリプスの糸で刃を受ける。とは言え、そのまま受けてはエクリプスであっても防ぎ切れるものではない。
 摩那は糸を斜めに、女の剣を左へと滑らせた。打点を反らし、受け流したのだ。加えて対面する女の左腕はウタにより斬り飛ばされている、いわば死角。
「――狙いはイイけどねぇ!」
「! ぐっ!」
 着地と同時に放たれたサイドキック。そんなスペースが何処にあったかと思われる場所から放たれたのは、彼女の広可動関節ギヤ故の動作だろう。
 人の動きを無視した足の回転が、通常ならば威力を出せないはずの距離を潰したのだ。
 重い一撃に空を舞う体を、勢いにのせて中空でくるりと回して受け身を取る。腕に残る痛みが、キョンシー将軍の実力を示していた。
「摩那さん!」
「おっと」
 更に側方で挟撃しようと構えていたはづきに刃の切っ先を向けて牽制する。本体を囮に背面に回っていた分身には気づいているぞと視線を送る。
 片腕を失っても猟兵を相手に互角以上の戦い振りだ。これは功夫積んでますわ。
 刃をくるりと回し、足を下げ。お返しとばかりに摩那へ挑発的な笑みを見せた将軍であるが、残心は怠っていない。
 次は誰から行くか。
 言葉にせずとも伝わるのは闘争への熱意。そしてその空気を全く読まないしゃりしゃり言うかき氷を食べる音。
 狐と豆腐小僧である。大盛況ですね雪女さん。
「待てぃッ!!」
 びりびりと鼓膜を震わせる大声量。さっき見たような?
 階段を上り現れた人影は、鳥居の前で手を合わせ頭を下げ、それから境内へと踏み込んだ。
 HENTAIではない、鳳鳴・ブレナンディハーフ(破戒僧とフリーダム・f17841)の登場である。ちなみに法衣はケサラン・パサランが幸福パワーで修復した。やったぜ!
 ただならぬオーラを放つ坊主の登場に、将軍は笑みを止めた。
「すみません、神社は後で掃除してお返しします!」
「いや拙僧とは縁のない場所なんだが」
「紛らわしい格好してんじゃねえよタコ!」
 直球で毒づくゾンビ。お前、さては権力に弱いタイプだな?
 果たして鳳鳴はキョンシー将軍の言葉に怯むでもなく、懐から取り出した人焼き饅頭をそのまま差し出した。
 きちんとビニールに包んでいる。偉い。
「…………、何の真似だ?」
「拙僧の片割れは、HENTAIに目もくれない腹ペコなんて相手しても面白くない、などと言って引っ込んでしまったのでな。
 しかし飢えた亡者に食い物を施すのは、仏の道を行き修行する拙僧の身において道理なのは、また確か」
 天の恵みである。しかしこの女、先程絶望を味わった所。また敵である鳳鳴の言葉など早々と聞くはずもない。
「マジ? もう腹ペコで死にそうだったから助かるよ~!」
 嬉しそうにビニール袋を受け取るキョンシー。ネズミよりちょろいわこいつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「鬼子母神も無花果を食べるようになったのですもの。貴女が人饅頭を主食になさるのは、共存への望ましい変化だと思います…人饅頭が世界を壊そうとしなければ」

UC「幻朧の徒花」
生命力吸収能力全開
最前線で桜鋼扇とシールド使用し殴り合い
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
躱せない場合盾受け又はカウンターからのシールドバッシュ

人饅頭の腕は懐に仕舞い敵消滅時に渡す

「貴女の望みが人饅頭普及でなく…こういった力試しなら。何度でもお付き合いいたしましょう。だから、転生を望み何度でも戻って来られれば良いと思います。此処は…生と死が、とても近いのですもの。何時か共存出来る日もあると思うのです」
「饅頭を作ってお待ちしますね」


八榮・イサ
おうおう、腹ぺこかあ!
それじゃあ饅頭やらなきゃ可哀そうだよう。

仲間と連携しつつ、宝傘で空中浮遊。上からどーんと奇襲さ。
そのまま相手の体制を崩すことを目的に、怪力による地形破壊。
切断されるのは避けたいよう。
相手からの攻撃には宝傘で武器受け、もしくは衝撃波で狙いを外すぞう。

ほらよう、饅頭さ!
饅頭を宙に投げ上げて、気を逸らしたらUC発動。
ー畏れろ、畏れろ!
おれたちの神を、畏れろ。
でっかくなった慈雨ちゃん。単純に考えたら可愛さも倍増ってことだよう。
まあ、それだけ的がでかくなるんだけど!
仲間や慈雨ちゃんへの攻撃はかばいつつ、腹ぺこ僵尸にはお帰りいただくさ!



●激戦キョンシー!
「くっくっく。まさか、本当に人肉をただ食わせるだけとはな」
 施しを受けた分際で何故か偉そうな態度のキョンシー将軍。いっけね、そういう設定だったわ。彼女は饅頭を人肉だと思い込んでます。
 本来ならばその隙を突くべきであったろう。しかし、そうはさせじとしたのが鳳鳴だ。紳士的である。
「お礼に痛みも感じる間も無く、真っ二つにしてやるさ」
 たったひとつ分とはいえ回復した気力に力を漲らせ、柳葉刀を構える。紳士の心遣いを何と弁える。
「そう上手くはいかんな」
 両の拳を構えた鳳鳴。ほう、そなた武闘派紳士にござったか。
 そういや妖怪どもを折檻してたもんね。
「さあ来い、猟兵ども。ここをお前たちの死に場所にしてやる。
 ──坊主もいるしな」
 にやりと笑う。顔がうるせえ。
 取り囲まれながらもこの余裕。圧を増したキョンシー将軍の闘気は風を生み、女を中心に吹き荒れる。
 先ずは拙僧から行かせて貰う。
 進み出たのはやはり鳳鳴だった。将軍の闘志にも怯まぬ彼に対し、女は笑う。
「一人で戦わせる訳にはいかない」
「当然です」
「右に同じく!」
 焔摩天を携えたウタと、それに同意する摩那、はづき。
「誰からでもいいんだ、ちゃっちゃと来な!」
 待ちきれないといった様子の強大なオブリビオンを相手に、三人は顔を見合わせて。
 言葉通り、先手は鳳鳴。地に伏せる程に低く構えたキョンシー将軍へ、赤の法衣をはためかせて風に逆らい、大きく踏み込んだその足で拳を放つ。
 対するは女の掬い上げるような斬撃。リーチを活かした攻撃でもってその拳を狙うも、鳳鳴は即座に拳を引く。
 無手と得物を持つ者との差を理解できない彼ではない。空振る刃に前蹴りを放ち、軸を逸らして接近する。
 続く拳こそ本命。だがその一瞬に見事合わせたのは女の前蹴りである。
(動きを読まれたか!)
 リーチを見切らせない為に、あえて拳を打つ事で敵の初撃を封じる策であったが、女には看破されていたのだ。外されると分かっていて返しの二の撃を用意していた。
(しかし、ならばこそここは更に踏み込むっ!)
 距離を縮める事で威力を殺し、そのまま拳を振り切るのだ。さきほど摩那へ放った攻撃と違い、距離は近くても狙った箇所へ合わせた蹴り足の伸びがなければ威力を最大限に発揮する事はできない。
 各部の連動による予備動作を失った蹴りに殺人級の攻撃を持たせることなど不可能だ。勿論、同じく鳳鳴の拳も軌道を無理に変えては威力も乗らない。
「くっ!」
 さすがにこれは読めていなかったか、慌てて半身を反らす女の頬を掠める鳳鳴の拳。女の顔を狙うなんてサイテー!
 同時に前蹴りによって鳳鳴は弾き飛ばされるが、右手、左足と攻撃に使用した将軍の隙をはづきは逃さない。
 獣の如くしなやかな動きで足下に滑り込んだ彼女は、スライディングの要領で将軍の足を払った。
(あの坊主を囮に──、畜生め、今の拳で完全に気をそらされていた!)
 滑走してそのまま女から離れるはづき、同時に空から迫るはその分身。翼の如く広げた髪を前にキョンシーは舌を打つ。
「舐めんじゃねえ、三下ァ!」
 足を払われたままで身を切り、体を空で回転させた女はそれを勢いに変えて、分身体を柳葉刀で両断した。
「へっ」
 様を見ろ。
 余裕の笑みを見せて着地──、は、摩那がさせなかった。その手より放たれたエクリプスが死人の体を捕らえたのである。
 有無を言わさず縛り付けた強大な力。
 呻き声すら出せずに投げ放たれた先には、往年の強打者の如く悠然と構えたウタの姿。
「さっきはよく受けたな。けど、これはどう、だっ!」
 フルスイング。
 空であれば抵抗できるはずもない。そう誰もが考えた刹那、将軍の体が上昇し、空振る焔摩天の軌跡を追うように業火が走る。
「!」
「これは!?」
 空へと引っ張られ、慌て拘束を解く摩那。エクリプスを戻し、視線の先に霞を纏い、空へ浮かぶキョンシーの姿が刻まれる。
「今のは、ちょいと肝が冷えちまったよ」
 肝あんのかお前。猟兵たちは瞬時に頭に浮かんだ思考をかき消して、睥睨する女を見上げた。
「で、出たーっ! ジェネラルの仙術、キョンシー浮遊だ~っ!」
 叫ぶ豆腐小僧。黙れ小僧。
 空になった器を叩いて鳴らす狐さんの為に、雪女からもらったかき氷にシロップをかけている所だ。
「長い時を経て仙術を覚えたキョンシーは空を飛べるようになる、それを知り一人で一生懸命特訓してキョンシーとしてのプライドを糧に掴んだ秘術なのに名前が直接的過ぎてセンスねぇことになってる対猟兵用ユーベルコードのひとつ!
 これはもう、勝負が決まっちまいましたかねぇ?」
 解説ご苦労。
 すっかり花鵺の小間使いになってしまった小僧は肩を揉みつつにやりと笑う。へりくだるか挑発するのかどっちかにしなさいよ。
 しかし花鵺は、浮かぶ女の姿を見上げて、そして豆腐小僧の言葉になるほどと意地の悪い笑みを見せるのだった。


●追い詰めるのは。
 空より猟兵たちを見下ろしながらも、キョンシー将軍には焦りが生まれていた。
 仙術を扱うとなればやはり仙人、仙人は霞を食って生きるとされるが彼女はキョンシーに過ぎないのだ。 
「さっきの饅頭だけじゃあ、この集中力を保たせられないね。他にも食い物があれば──」
「おうおう、腹ぺこかあ!」
 天高く居座る女よりも更に上から声をかけられて、ぎょっとして振り向く彼女を見下ろすのは、【宝傘】を広げて空に浮かぶ八榮・イサ(雨師・f18751)だった。
 八吉祥の一つである宝傘は、それだけで全ての悪や危害から護ってくれると曰くされる。その聖なる力に怯み目を細めたキョンシー女を目掛け、直接落下攻撃を仕掛けるイサ。
 怯んでいた将軍はイサの一撃をかわせず捕まり、そのまま地面へ真っ逆さまに落下していく。
「うああああっ!」
 衝突。
 揺れる衝撃と共に、地面を陥没させる。女を下敷きにする形で着地したイサは、直後に殺気を感じて飛び退いた。
 空を走る銀光に閉じた宝傘を構えれば、間髪入れずに重い一撃が襲い来る。
 受けたかと、苛立ちを隠そうともせずにキョンシー将軍。柳葉刀で地面を叩き、立ち上がる姿はその不十分な姿勢でこれ程の威力を出したのかと気を引き締めるには十分だ。
 しかし、無傷ではない。衣服は敗れ、ぎこちない体の動きがその傷を物語っている。
「豆腐小僧!」
「はいよ、ジェネラル!」
 呼び声に答えて女の残る武器を投げる豆腐小僧。
 除菌消臭された独特の香りが空間に広がる。そんなに臭かったの?
 受け取った武器を背面に浮かべて、猟兵を睨み付けるオブリビオン。
「遊びは終いだ、皆まとめて細切れにしてやるよ。そのぐずぐずに裂いた内臓の一滴から粉々にした骨の一片まで食ってやるから、光栄に思いな」
「本当に、そうお思いですか?」
 人食いの化物として本性を現し、瞳を怒らせる。
 だがここで異を唱える者がいた。御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だ。
「鬼子母神も無花果を食べるようになったのですもの。
 貴方が人饅頭を主食になさるのは、共存への望ましい変化だと思います」
 何を戯けた事を。
 現れた桜花の言葉を鼻で笑い、刃の切っ先を向けた。
「人食いが、ともすれば妖怪だって食べよう者が、一体どう共存しろって言うんだい」
「でも饅頭食べたじゃないですか。あれ人肉じゃなくて和菓子ですよ」
「えっ」
 目を瞬くキョンシー将軍。豆腐小僧へ視線を変えれば、沈痛な面持ちで頷く姿。まあ最初からそう言ってるもんね。
「ち、ちょっと待ちな! それじゃこの私が和菓子で満足してたなんて言うのかい? キョンシーとしてのアイデンティティーが!?」
 知らん知らん。
 桜花は破魔の銀盆と桜鋼扇を両手に構えた。
「このまま増え続ける人饅頭が、世界を壊そうとさえしなければ。
 ──咲き誇れ徒花。敵の力を我が糧に!」
 ユーベルコード、【幻朧の徒花】。受けた傷をエネルギー源に、自らの体を強化する桜吹雪を身に纏う。
 突進。
 背面に浮かべた何本かの武器を前方に回し、壁として桜花を迎撃する。直後にぶつかり合う両者。互いの間で火花を散らし、走る拳を盆で受ける。
「ぶっ壊れな!」
 連打に連打を重ねるキョンシー将軍。裁き切れず、幾つかの拳をその身に受けた桜花だが、それはまた力となって桜花へ還元される。
 おのれ。
 退く様子を見せない桜花に、再び空へ舞い上がろうとしたキョンシー将軍。その様子を見て、遂にかき氷をかきこんでいた花鵺は立ち上がり声を張り上げた。
「皆、聞いてぇ! キョンシーさんの力の源は、キョンシーであるプライドから来てるんだってえ。それを利用すればいけるよー!」
「え、そんな直接的なこと本人の前で言う?」
 目を丸くする将軍はさておき、花鵺の言葉に顎へ指を添えて思案するのははづきだ。
 当然と言えば当然だが、キョンシーのプライドいうものが皆目見当もつかない様子。しかし、ふと彼女が昔やったキョンシーごっこを思い出す。
(息を止めてる人は捕まえちゃいけない、っていうルールがあったけれど。通用するのかな?)
 懐かしい遊びである。
「桜花さん、息を止めて! そうすればキョンシーには桜花さんの居場所が分からなくなるはず!」
「何その設定!?」
 叫ぶキョンシー。設定じゃなくてお前の伝承なんだわ。
 よくよく考えて見れば空を飛ぶ辺り、目で確認しているのだから呼吸の有無など関係ない訳だが。
 将軍の反応にウタも乗る。
「やっぱり本物のキョンシーじゃあないってことか。硬直した手足だからこそキョンシーだろ?
 そんな動けるんだから、きっと本物のキョンシーじゃないよな」
「…………!」
 ウタの煽りに血の気のないはずの顔を真っ赤にしたキョンシー将軍。高性能ギヤに取り替えた手足を硬直させると顔をそらし、すっとぼけた声を上げる。
「あれぇ? さっきまでいた猟兵が見えないぞー? どこ行ったんだろー?」
「……あの……、私、まだ息を止めてませんけど」
「…………」
 沈黙。そういうのは黙っててあげよう桜花さん。
 しかしまあ、チャンスはチャンスだ。武器に止められていた扇を閉じて、隙だらけのキョンシーの腹に突き込む。
「えいっ」
「おぶっ!」
 もんどりうって倒れた女の額に、青筋が浮かんだ。これは怒ってますねぇ!
 宙に浮かぶ武器を旋回、その身からまるでミサイルのように射出する。咄嗟に盆で受ける桜花だが、弾かれたそれは方向転換し、執拗に刺突を繰り返す。
 これは桜花だけでなく、周りの猟兵も同様だ。
「全く、やりづらい相手ですね!」
「斬られるのは避けたいよう」
 迫る戟や剣を摩那のエクリプスで打ち落とし、あるいはイサの衝撃波で反らす。
 ウタはその様子に隠し持っていた人焼き饅頭をブレイズフレイムにて焼き直し、オブリビオンへ接近する。
「隙があると思ったのか!」
「思ってないから作るのさ!」
「むむっ!?」
 饅頭投擲。食べ物を粗末にするなとばかりに口でキャッチするキョンシー女。行儀悪いですよ。
 次の瞬間、燻っていた地獄の炎が饅頭を炭へと焼き払い、そのままオブリビオンに燃え移る。
「うわっちゃあああっ!!」
「そうら、行くぞ!」
 防御の為に猟兵たちの元から呼び戻した武器を、ウタの焔摩天が打ち砕く。
 地面を転がって消化に努める間で、既に女はウタの間合いだ。
 獄炎を纏う焔摩天はその熱で大気を揺らぎ、ウタをまるで地獄の悪鬼の如く歪めていた。
 防御策を失ったオブリビオンへの、必殺の一撃。
「舐めるな!」
 しかし、右手を支点に跳ね上げた将軍の蹴りが焔摩天の腹を打ち、軌道を変えた。
 泳ぐその身に立ち上がり様の掌打を受けて、弾き飛ばされたウタの体を復帰した鳳鳴が抱き止める。
「……あんたら……、……この、私を……!」
「あ、お饅頭どうぞ」
「おや、いいのかい?」
 怒りに染まっていた顔が、はづきの饅頭献上により童心に返ったが如く嬉しそうな笑顔へ変じる。ちょれえ。
 明らかに形のおかしい唐辛子饅頭を頬張ったキョンシー将軍。直後には、顔を真っ赤にして空へ向かって咆哮する。
「ほげええええええええッ! 辛っ、かっ、かあああああっ!」
 さっきも聞いたなあ。
 可哀想になるぐらいのたうち回り、再び手を洗うべき水をごっくごっく飲み干す姿に同情を禁じ得なかったのか、遠巻きに見つめる猟兵一同。
 しばしの後に口内も落ち着いたか、ゆっくりと振り返るオブリビオンの顔は怒りにより赤黒く染まっていた。
「はーん、そうかいそうかい。あんたらはそんな事をするんだねぇ」
 むしろ何で敵を信じたオブリビオン。激怒した様子の女は自らの額にそよぐ符を引き剥がす。
 本来ならばキョンシーを操る為の符であるが、彼女の場合は違う。その本能を縛る為の。
「あんたら、……全員……! 挽肉だぁああッ!」
 隆起する体は目覚ましく、膨張する筋肉が袖を裂く。ぎしぎしと軋む音をたてて伸びる骨は女を巨大化させ、ぞろりと伸びた歯は牙となり、真っ赤に血走った目を猟兵へ向けた。
 体の変化に結ばれた髪も解け、ざんばらに振り乱すは悪鬼の如く。


●決着の大将軍!
 身の丈五メートルはあろうかという屍鬼へと変じた将軍は、その巨体に見合わぬ俊敏さで付近にいたはづきとその分身へ迫る。
「ううっ!」
 分身体を利用した目眩ましによる回避を行うはづきだが、如何せんその巨体、腕のひと振りの範囲から脱する事が出来ない。
 迫る強靭な腕はしかし、摩那のエクリプスによって絡め取られた。
「調子に乗らないで!」
 力場解放。
 摩那の放つ獅子剛力により軽々とその巨体は宙を舞い、エクリプスに導かれ彗星の如く地面へ叩きつけられた。
 地面を揺らす程の一撃は体重を増やした将軍にとって、先のイサの一撃よりも重いもののはず。しかしオブリビオンは即座に立ち上がると、逆に腕に絡まるエクリプスを手繰り寄せ、こちらへ攻撃を仕掛けようとする始末。
「……う、くう……!」
 作動したアンカーにより早々と力負けはしないが、このままでは地面ごとひっくり返されるだろう。
「ほらよう、饅頭さ!」
 その危機を仲間が見逃すはずもなく、放り投げた饅頭にオブリビオンが気を引かれた隙を突いてエクリプスの拘束を解く。
 入れ替わりに接近するイサはユーベルコードを始動する。
 畏れろ、畏れろ。祈る言葉が天に通ずるか、それともこれは神命なのか。
「おれたちの神を、畏れろ!」
 瞼の裏に走馬灯の如く駆け抜けるのはいつかの記憶であり、そして無用となるもの。
 【記喰い】は丸一日の記憶を供物とすることで、彼の仕える神、その眷属である慈雨に力を与えるのだ。
(でっかくなった慈雨ちゃん。単純に考えたら可愛さも倍増ってことだよう。
 まあ、それだけ的がでかくなるんだけど!)
 だが、互いに巨大となれば問題もないだろう。迫る巨蛇の噛みつきを受け止める屍鬼との間合いを測る猟兵たち。
 一方、遂に狐こと花鵺が動く。
「キョンシーのせぇふくって帽子とお札かなぁって思ってたのにぃ。お札剥がしたら意味ないじゃん、ばかぁ」
 あ、そっちっすか?
 変わらぬ行動理念に執念を燃やし。狐は、巨大化キョンシーを見てぷりぷり怒った。あんたそれで大人しかったんかい。
 しかし最早、武器を操る事も出来ぬ力押し一辺倒の姿にくすくすと笑い。
「これ、大女総身に知恵回りかねってやつぅ?
 武器が爪楊枝で持つことすらできなくなったってことだもんねぇ。カッコわるぅい」
 煽りますねぇ!
 言葉を聞き入れて怒りに振り返った将軍へ、予め浮かべていた数十のフォックスファイアを撃ち込む。
「おっきいと当てやすくて便利ぃ」
 顔面に炸裂する炎の群れに怯むと同時、その体にぐるりと慈雨が巻き付き拘束する。
 動きを封じた獲物の喉元へ、巨大な牙で噛みついた。打ち込まれるは強力な神経毒。
 しかし。
「ぐっ、がああああ!」
「危ない、慈雨ちゃん!」
 吠えてその首筋に更に噛みついた屍鬼の頭を宝傘で殴り飛ばし、巨大化を解除した慈雨をそのまま回収する。
「ウタ殿!」
「任された!」
 鳳鳴を剣先に乗せてぐるりと大回転、力を乗じて放り投げるは、毒により鈍ったオブリビオン。
 気配に気付き、振り向き様の巨大な裏拳。
 摩那が、そしてはづきがその足へ攻撃したことで伸びを封じ、更には毒により間合いを外した一撃はそれでも、掠めただけで鳳鳴を弾いた。
「鳳鳴さん!」
 怪我をした慈雨の様子を看ていた桜花、その身に纏った桜の花弁が鳳鳴へと力を与えたのか。
「待っていたぜこの時を!」
 へ、HENTAIだー!
 力に慢心した敵の攻撃、そこに生じた隙。
 その瞬間こそを狙っていたブレナンディハーフは、鳳鳴から変化、HENTAI costumeをHENTAI、もとい変態させた触手をその巨大拳に巻き付け、自らを固定する。
 発動するはユーベルコード、【火照火威(ホデリ・カイ)】。
「僕ごと焼けぇえッ!」
 背後に召喚された神々しき光を放つ火の鳥が、炎の羽ばたきにより燃え盛る羽根を飛ばす。
 それはブレナンディハーフの願い通りその身を貫き、爆炎を上げた。
「……お、お……おおお……!」
 炎に包まれ行く巨体の前に、歩み寄るのは桜花。
「貴女の望みが人饅頭普及でなく……こういった力試しなら……。
 何度でもお付き合いいたしましょう。だから、転生を望み何度でも戻って来られれば良いと思います」
 そう、此処は生と死が、とても近い場所だから。何時か共存出来る日もあるだろうと、桜花は自らの火傷も省みずその手を取って腕の形をした人焼き饅頭を渡す。
「饅頭を作ってお待ちしますね」


●そして。
 戦いの後で、すっかり全焼してしまった神社は持ち主の和尚さんに化けた古狸の好意により、特にお咎め無しとなった。代わりに、また再び遊びに来てほしいとだけお願いをされて。
 猟兵たちが激闘を繰り広げたキョンシー将軍は最後の炎により浄化されたのか、この世界にはもういない。ただ、その依代となっていたキョンシーが残るのみ。
「お疲れさん、大変だったな。饅頭食う?」
「ああ、お腹ぺこぺこです。いただきますぅ」
 すっかり小さくなったキョンシー娘はあっけらけんと笑い、片腕も全く気にせず饅頭の絶品さに舌鼓を打つ。
「慈雨ちゃん、無事で良かったよう」
 怪我をした慈雨はしっかり手当てを受けて包帯を巻き、涙を浮かべるイサを舌で拭う。
「予想通り、美味しい依頼でした」
「まあ、確かにそうでしたね。……グロかったけど……」
 腹一杯の饅頭ににこにこと笑顔を見せたはづきに摩那も同意する。
「これでこの町の怪異も収まり、平和になりますね」
「……そうだね……」
 夕暮れに向けて傾き始めた太陽を見上げて微笑む桜花と、どうやっても股間から離れないケサラン・パサランに諦めを見せたブレナンディハーフ。
「最期に、歌を贈ろうか。骸の海へ還った骸魂が安らかに眠れるように」
 ギターを取り出したウタに賛成の言葉を送り、彼を囲む猟兵たち。
 そんな彼らから離れて一人、神社の階段を降りる花鵺の姿。
「せぇふくが全然足りないぃ」
 狐、ぶーたれる。彼女が最後に目指すは、妖怪学校かそれとも現実世界か。
 こうして、カクリヨファンタズムの怪異は幕を閉じる。
 だがこれからも、この世界で騒動は続くだろう。何故ならば生と死が近く、そしていつでも賑やかなこの世界は、誰もが羨む場所だから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年09月07日


挿絵イラスト