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魔穿鐵剣 〜一刀散磊刀狩〜

#サムライエンパイア #戦後 #魔穿鐵剣

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#戦後
#魔穿鐵剣


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●一刀散磊刀狩
「はン、八束の野郎がくたばったって? ざまアない。ヒトの身分で粋がって、妖刀なんぞに手を出すからさ。妖刀ってのはより強い化生でなけりゃア、扱いきれない呪いの刃。おとなしく、ヒトの枠に収まっておきゃアいいものを」
 ――どっこい頭、妖刀は妖刀でも、人が振るために打たれた刀があるって話でさ。晩年八束何某が振り回したは、知る人ぞ知る刀匠『永海』の作。化生を鋳込めて支配して、その力を都合よく使おうってなシロモンだそうで。
「なんだ随分日和った話じゃアねえか。野郎、この刃熊童子様にこてんぱんに伸されて、そんで求めたのが『安全な妖刀』だア? 眠気が過ぎて欠伸がでらァ」
 ――けんどもその妖刀永海、戦の趨勢を分けるほどの冴えを見せると評判で。
 ――結局野郎も死ぬまでに、永海の筆頭八本刀、全部を集めやできなんだ。
 ――しかし七本揃えた八束のわざは、空を焦がして山を割り、海を割いては鬼を断つと、音に聞こえたもんでやす。
「大袈裟言いやがってよ、八本刀も俺様の猿真似のヒト風情に、鬼が殺せるもんか! ……いや、しかし、野郎がね。そんな熱心に刀狩するほどいい刀だってかい。へえ。ふうん」
 ――興味が出てきやしたかい?
「バカ言うない、腑抜け野郎の欲しがった刀なんざア、頼まれたって要らねえや。けど、まあ、そうさな。野郎が死ぬほど欲しがった残り一本を、遊び交じりに奪ってやるのは、そこそこ気分がよさそうだ」
 ばんっ、
 畳より跳ねて起き上がったのは身の丈五尺弱、まだ童と言って差し支えない男児。しかし背中に負った八本の刀から発される禍々しい剣気、ずっしりと纏った威圧感、そして黒光りする角が、彼が凡百の男児でないことを告げている。
 その名も、『八刃の』刃熊童子。
 剣乱の世を駆け抜け生きた、名のある鬼の影法師。
「こんな話を持ってくるってこたア、大方おめえらも久々に奪いたくってウズウズしてんだろ。刃熊刀賊団のお通りといこうじゃねえか」
 ――へへ、ばれてらあ。
 ――しかし悪い話じゃねえでしょう。
 ――頭だって、暴れ足りてねえはずですぜ。
「あーあー、うるせぇ、乗せられてやらア。――立て、野郎共」
 鬼の号令に応え、むくつけき男たちが立ち上がる。死しても戦に舞い戻る、落武者どもが成れの果て。
 頭領を囲み刀を取る、鎺が揺れて凜と鳴る!
「そうと決まりゃァ永海とやらを拝みに行くぜ。一刀散磊、刀狩だア!!」
 応ッ!!!
 号令が鳴る。鯨波の声が応えた。
 駆け出す男どもの速度は尋常のものではなく――数日のうちに、彼らは刀匠の里を探り当て、里人を無惨に殺し、刀を奪い取るであろうと思われた。

●魔穿鐵剣
「――させるものか」
 午前四時。
 壥・灰色(ゴーストノート・f00067)は、自室の暗がりで、うっそりと目を開いた。

●斯くて猟兵は刃鍛つ
「集まってもらったのは他でもない。サムライエンパイアにある、とある刀匠の里を救って欲しい」
 灰色はグリモアベースの一角に集った猟兵達に、現状を噛み砕いて伝えた。
 永海――『ナガミ』という、妖刀匠の一派の隠れ里が、オブリビオンに襲撃される未来を予知したのだという。敵は山一つに棲む、オブリビオンの山賊団――敵総数は恐らく千近い。
「永海という名前に聞き覚えのある人もいるかもしれない。以前に、八刀流のオブリビオンに襲われかけて、皆の手で救われた刀匠の里だ。彼らの打つ刀は非常に強力で、属性を帯びたものや、単純に恐ろしいほど頑丈でよく斬れるもの――重量を操作する事が可能な刀なんかも打てるとか」
 眉唾物の話だが、神妙な顔で聞いている、経験者と思しき数名の猟兵を見れば、それが真実なのだと知れることだろう。
「今回は幸い、予知が早かった。準備をする時間がある。現地に着いたら、まず里長――永海・鍛座を訪ねて欲しい。彼は猟兵に非常に友好的だ。里に危機が迫っていることを教えれば、惜しみなく協力してくれるだろう」
 ぶん、と音を立ててホロ映像が浮く。豊かな白髪に曲がった背、好々爺めいた笑みを浮かべ、穏やかな顔立ちをした老夫が映し出された。永海・鍛座その人の姿である。
「敵の襲撃までには五日の猶予がある。それだけの期間があれば、里の防備を固めるだけじゃなく、きみ達の現有装備の強化や修復、新造を図れるかも知れない」
 いわく、永海の里には『妖刀地金』というものが伝わるそうだ。金属に、あやかしの血肉を鋳込んで生み出される化生合金。火の化生を鋳込めばその鉄は熱く燃え、氷の化生を鋳込めば凍てつくほどに冷える、という具合に。
 その性質を利用し、現有の装備を強化したり、設え直したりする時間があるのだという。
「詳しくは現地で刀匠達に聞くといい。きっと、惜しまず協力してくれるはずだ」
 灰色は人差し指で、揃った光の六面パズルを押し上げた。
 立体パズルが、光を発して宙を切り抜き、“門”を開く。
「襲ってくる敵は落武者風の野盗共と……『八刃の』刃熊童子。八本の刀を同時に使う鬼種だ。戦闘能力の詳細は相対したきみ達に測って貰うしかないけど――きっと、永海の助力を得たきみ達なら、打ち破ることが出来るはず。――どうか、あの里を守ってやってくれ」
 深く頭を下げた灰色の横に、“門”が定着した。

 どこか郷愁を誘う、懐かしい匂いがする。――この“門”を踏み越えれば、そこは永海の隠れ里。
 覚悟を決めたものから順に、猟兵達は、光の門へ飛び込んでいく。

 ――さあ、猟兵らよ。
 魔を穿つ鐵の剣を成せ!

 いざやいざいざ迎え撃て、一刀散磊刀狩!



 お世話になっております。
 煙です。

 戦国剣風絵巻、第二集をお届けいたします。
 タイトル難読なので改めて、「ませんてっけん いっとうさんらいかたながり」です。
 以下のシナリオの続編とは言わぬまでも、世界観と時間軸を共有する作品となります。
 魔穿鐵剣 〜業禍剣乱刃傷絵巻〜(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=5262)

 とはいえご新規様でも続投の方でも、いずれの皆様にもお楽しみいただけるよう努力致しますので、お気軽においでください。

●テーマ
 武装の修復、強化、新造。
 それによる獅子奮迅の大暴れ!

●構成
 一章:鍛刀、武装強化『蚤の市』。
 二章:対『落武者』集団戦。
 三章:対『八刃の刃熊童子』ボス戦。

●描写量について
 今回は一日に三名様ほどのお返しとなります。プレイングの着順による優先等はありませんので、受付締切日時まではプレイングをお待ちしております。
 試験的に、再送が一度で済むよう、最初に一度送信していただいた後は、書けるだけ書いて、再送して戴く必要のある方に個別に連絡させて戴き、再送をお願いする形を取ります。連絡を受け取った方は、お手数ですが一度だけ再送にご協力いただけますと幸甚です。

●プレイング受付開始日時
 断章掲載後の受付開始となります。締切も同様に掲示します。
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第1章 日常 『蚤の市』

POW   :    屋台で買い食い!

SPD   :    言葉巧みに交渉

WIZ   :    なにげなく売られている品が、意外な掘り出し物かも……

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「――事情は承知致しました。やれ、隠れ里とは名乗れませぬな、これでは」
 先遣の猟兵らに茶を勧めつつ、豊かに蓄えた白い髭をしごいて苦笑したは、刀匠一派『永海』を率いる烈光鉄鍛冶。『九代永海』永海・鍛座その人であった。
 時は白昼。開いた“門”から次々と飛び出した猟兵達に、里の民が仰天した風に目を見開いたのが一刻ほど前のことだ。
 宙が門のように開き光ったかと思えば、その奥からサムライエンパイアにはあるまじき姿をした猟兵達が――否、中にはエンパイア生まれのものもいたが――飛び出してきたのだ。目を見張るのも無理からぬ事である。
 それでも、この里は一度、猟兵達に助けられているという素地がある。猟兵達の中には、里人と接した事があるものもいた。話はすぐに纏まり、猟兵達は里一番の屋敷に通された。広い応接間に思い思いに座った猟兵らに、鍛座は糸のように細い目を薄く開け、言葉を継ぐ。
「刃熊刀賊団の悪名は音に聞こえておりましたが、しかしよりにもよって我らに目をつけるとは。以前もいらして下すった皆様はご存じかと思いますが、我ら永海、刀を鍛造る事には明るけれど、戦をする用意は心許ないのが実情。……お手を煩わせてしまいますが、今一度、我ら永海を救っていただけるとあれば、いかようにでも協力致しましょう」
 鍛座は脇に目を走らせ、鋭春、と呼びつけた。「は、」と、藍色の作務衣の男が応じて膝を立てる。落ち着いた様子の、鋼色の瞳をした――刃めいた目の男だ。背が高く、頭に白い手拭いを巻いている。精悍な体つきに、強い意志の光を帯びた瞳。まるで、無骨に無骨に鍛え上げられた、刀そのもののような男だ。
「――久しいな、或いは初めて顔を合わせる者もいるか。おれは――斬魔鉄鍛冶筆頭改め、鍛刀総代の『永海・鋭春(えいしゅん)』。――このほど、十代永海を襲名した。先代に代わって、この件を取り仕切らせて貰う」
 よろしく頼む、と鋭春は頭を下げる。
「下された指示を見るに、時間は充分にある。猟兵どのらの装備を調える傍ら、神楯衆(かんだてしゅう)と飛鉄衆(とびがねしゅう)の準備を整えさせ、里の防備を固めさせる」
 神楯衆とは、金属楯による防衛戦術に長けた、里人達で構成された防御部隊。飛鉄衆は逆に、神楯衆が築いた前線の後ろから、妖刀地金『緋迅鉄』の技術を用いて開発された連装式の銃『飛鉄』を用いる攻撃部隊だ、と鋭春は補足する。
「戦いは得手ではないとはいえ、我らのわざを嗅ぎつける者達と戦う力を得ようと、おれたちも足掻いたということだ。……神楯衆も飛鉄衆も、猟兵どのらの技術や、戦闘法に着想を得て組織された自衛部隊だ。……あんたたちがくれたものは、あんたたちが思うよりも、この里の中に根付いて息付いている」
 微かに笑って言う鋭春。しかし、すぐに表情を引き締め、彼は猟兵達をぐるりと見回す。
「……さあ、急ぎ始めよう。装備の強化、新造、補修。この永海の里のわざと誇りを、猟兵どのらの装備に吹き込もうじゃないか」
 鋭春の力強い言葉に頷き、猟兵達は思い思いの装備を取り出した。立ち上がり、導くように歩き出す鋭春に従い、三々五々と歩き出す。
 ――遠鳴りのように鎚音響く、鍛冶場へ。



≫≫≫≫≫MISSION UPDATED.≪≪≪≪≪
◆作戦達成目標
 1.装備を強化、もしくは補修する
 2.装備を新造する
 3.七代永海『筆頭八本刀』を受領する
 4.その他(自由行動)


◆作戦詳細
(作戦参加時は、以下ナンバーのいずれかを明記のこと)

1.装備を強化、もしくは補修する
 妖刀地金を用いて装備を強化、もしくは補修することができる。(妖刀地金を使わずに補修することも可能)
 伝統的な妖刀地金には以下の八つがあるが、これに当てはまらぬものでも、近年の技術革新により実現可能なものがある。(例えば、飄嵐鉄と絶雹鉄を合わせ打つことで、雷の魔力を帯びた刀を作刀するなど)
 具体的な妖刀地金の希望がなければ、希望する能力を告げれば、鍛冶師が提案してくれるはずだ。
 斬魔鉄:軽くて靱性高く頑丈でよく斬れメンテナンスフリー。単純な刀としては一番優秀。
 飄嵐鉄:非常に軽い。持った者の動きまで速くなる。
 地鳴鉄:非常に重くて頑丈。念じると更に重くできる。
 屠霊鉄:素の状態で、実体のないものを斬ることができる(魔術なども斬れる)。
 刹鬼鉄:鬼種に対し高い殺傷性能を示す。また、素材にした鬼と同種の力を宿す。
 緋迅鉄:熱や焔を発する。いかなる熱でも刀身が傷まない。
 絶雹鉄:冷気を発する。絶対零度ですら刀身が脆くならない。
 烈光鉄:単純な切れ味は斬魔鉄のそれ。意念を込めると光の斬撃が飛ぶ。

 【Notice.】
 ・強化後・補修後の武具の銘、形などがお決まりの場合はご明記下さい。
  指定のない場合、従来と同じ銘となるか、永海の工房にて、従来の銘に
  加えて相応しいと思われる追加の銘が加えられる可能性があります。
  銘お任せなど、注文がある場合はプレイングにてどうぞ。配慮致します。
 ・システム的なアイテム作成は伴いません。
  装備品として取得する場合、適宜、ガレージより
  アイテム作成をして頂く必要がございます。ご注意ください。
  【ガレージ】
   →https://tw6.jp/html/world/441_itemall.htm


2.装備を新造する
 1.同様、妖刀地金を用いた装備を新造できる。これも、妖刀地金を使わず通常の鍛冶で拵えることも可能。

 【Notice.】
 ・武具の銘、形などがお決まりの場合はご明記下さい。
  なき場合、永海の工房にて相応しいと思われる銘と形が与えられます。
  形お任せ、銘お任せ、など、注文がある場合はプレイングにてどうぞ。
 ・システム的なアイテム作成は伴いません。
  装備品として取得する場合、適宜、ガレージより
  アイテム作成をして頂く必要がございます。ご注意ください。
  【ガレージ】
   →https://tw6.jp/html/world/441_itemall.htm


3.七代永海『筆頭八本刀』を受領する
 以前この里を襲ったオブリビオン、八刀・八束より奪還した刀のうち、里に四振りの名刀が残されている。以下のうち、いずれかを受け取り使うことが可能。里の総意として、猟兵達に譲渡することは認められているため、遠慮は不要とのこと。

 ・疾きこと烈風の如く、飄嵐鉄製打刀 瞬刃“風刎”(かざはね)
 ・猛きこと大地の如く、地鳴鉄製打刀 剛刃“嶽掻”(たけがき)
 ・揺ぐこと幻霧の如く、屠霊鉄製打刀 霊刃“妖斬”(あやぎり)
 ・鋭きこと神槍の如く、刹鬼鉄製打刀 魔刃“穿鬼”(せんき)

 【Notice.】
 ・七代永海を所望の方の所望の刀が重複した場合、
  『プレイング送信時』の『素の能力値』を参照し、
  最も高い能力値を使用して、ダイスにて優先順を判定します。
  (重複自体、滅多にないとは思いますが)
 ・第二希望を書いておくなど、特記についてはご自由にお願いします。
  極力配慮致します。


4.その他(自由行動)
 想像力の及ぶ範囲で、任意の行動を取ることも出来る。
 里に対して不利になる行動でなければ挑戦してみてもいいだろう。
 関係ないが、永海の隠れ里の名物は山菜うどんである。


◆プレイング受付開始日時
 2020/08/28 22:20:00


◆プレイング受付終了日時
 2020/09/04 00:00:00
トゥール・ビヨン
1.装備を強化、もしくは補修する

/
アドリブ歓迎

/
ここが不思議な力を持つ刀を打つ匠の里
サムライエンパイアに伝わる妖刀作りの技術とても興味深いよ
刀匠さん達に話しを聞きながらパンデュールを補修するヒントを得てみよう

/
熱や焔を発する緋迅鉄、光の斬撃を生む烈光鉄。
この二つを用いて、パンデュールの関節部に搭載されたフォースセイバー(https://tw6.jp/garage/item/show?item_id=35530)を出力する機構に組み込み強化するパーツが作れないかな
刀匠さんにイメージを伝えて、協力して作成してみよう
光と熱の出力向上と効率性が図られるといいな

※武具の銘はお任せしたいです。



●時計仕掛けの彼に、針
「ここが永海の隠れ里か」
 一体の機人――全高二・二メートルほどの人型兵器が、中に開いた“門”より飛び出した。期待はメインカメラを左右に振り、空中から里を見下ろす。
 山奥深くに築かれたこの隠れ里は、十重二十重の欺瞞結界、呪術に守られているという。常人には認識出来ぬこの山村を襲う敵オブリビオンを排除せよ、というのが今回の任務だ。――だが、その前に。
「サムライエンパイアに伝わる妖刀作りの技術……とても興味深いね。刀匠さん達に話を聞きながら、パンデュールを補修するヒントを探そう」
 そう。新たな力を得て、備える時間がある。
 人型兵器――否、その巨体は正式名称を、対オブリビオン決戦鎧装『パンデュール』という。胸部ハッチの内側で空色の瞳を輝かせるのはパンデュールのパイロット――トゥール・ビヨン(時計職人見習い・f05703)である。
 トゥールはパンデュールを注意深く操作し、姿勢制御して路上に危なげのない着地を決めると、そのままゆっくりと、鎚音響く鍛冶場に進路を取った。何事かと目を白黒させた里人が、慌てた風に道を空ける。


 フェアリーにとって巨大鎧装であるパンデュールは、人間から見てもそこそこ巨大だ。
 鍛冶場に乗り入れたパンデュールに歩み寄る一つの影。
「おお、これはこれは、また猟兵どのってのは千差万別の体つきをしておるんだなあ」
 迎えたは背の低い壮年の小男だ。しかしその腕ときたら屈強で、下手をすれば女の細い腰ほどにあるのではないか、という太さである。老いてなお壮健な、岩の塊のような男。
「初に目に掛かる、儂は緋迅鉄筆頭鍛冶、『永海・頑鉄(がんてつ)』。名前を聞いてもいいかね?」
『もちろん!』
 トゥールは答えながら、胸部ハッチを開いてパンデュールの中から飛び出した。これには頑鉄も仰天した風に目を丸くする。
「なんと、中に小人とは!」
「小人じゃないよ、フェアリーさ! 初めまして頑鉄さん、ボクはトゥール・ビヨン。早速だけど、この鎧装――パンデュールの強化方法について相談したいんだ。いいかな?」
 友好的なトゥールの語りかけに、まん丸にした目を細めて笑い皺に埋め、頑鉄が応じる。
「トゥール坊やか。おう、良いとも。からくりの中の事は門外漢だが、見たとここのからくりも武器を振るんだろう。それならそいつは儂ら、永海の仕事じゃて。……さて、このからくりはどういう風に相手を討つんだね?」
 頑鉄の質問に、トゥールは淀みなく答える。薙刀型武装『ドゥ・エギール』による格闘戦、肘及び膝からフォースオーラを発振することで形成されるエネルギー刃『フォースセイバー』による格闘戦、手首から放つフック付きワイヤーによる機動及び接近・拘束などがメインの戦術になる、と。
 その中でもトゥールが重視したのは、フォースセイバーの発振機構の強化であった。
「フォースセイバーの出力向上と効率化を図りたいと思ってるんだ。妖刀地金の緋迅鉄と、烈光鉄を使うことで威力を上げられないかなと思うんだけれど、どうだろう?」
「ふむ――儂は緋迅鉄に関しては専門だ。十代目の意向でそれ以外の地金に関しても一通りの知識はある。ひとまず、試斬場に行って具合を見せて貰おうじゃないかね。そのふぉーすせいばーというのが、どういうものなのか――この目で見れば、糸口が掴めようものさ」
「しざんじょう?」
「試し斬りを出来る道場のようなもんさ。そら、こっちだ、付いておいで」
「わかった!」
 歩き出す頑鉄に従い、トゥールもまたパンデュールに搭乗し試斬場へ向け歩いて行く。


 斯くして披露されたパンデュールの力に頑鉄は目を輝かせ、その力の本質を掴むなり、パンデュールの肘と膝――つまりはフォースセイバーの噴出部に追加鎧装ユニットを取り付ける事を考案した。トゥールがそれにいくつかの注文をつけ、案は瞬く間にブラッシュアップされ――結果、生まれたものは。



◆永海・頑鉄作 烈光鉄・緋迅鉄 重打
  決戦鎧装追加ユニット『ブリッツハンド』◆
『閃光の針』、ブリッツハンド。
 烈光鉄を内側、緋迅鉄を外に張った、鋭角的なデザインの追加装甲。関節部の強度の上昇にも寄与する。
 パンデュールが発振するフォースセイバーを堰き止めるように取り付けられる。
 烈光鉄の光出力によりフォースエナジーを加速・増強、更に緋迅鉄による熱エネルギーを付与し、装甲先端部より出力。
 超高出力のジェット・レーザーブレードめいて、敵を焼断する。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈍・しとり
1
鈍刀『千代砌』の補修


妖刀なまくら。
この里には持ち込むことすら気が引ける有り様なのだけれど
これでなかなか気に入っているの、
斬り応えが在って

そう云う訳で手入れだけお願いできるか知ら
妖刀地金の打粉があれば、それを使って頂戴な
……もともとは神事に使われていた刀なの
この通り今は血濡れだから、相性が悪いことはないと思うけれど

それと、錆は無理におとさなくて構わないわ、そう云う刀だから
特に一部は古くからのもので――決して落ちはしないと思うけれど
大事な痕なの
遺しておいてね、きっとよ


嗚呼、有難う
粉化粧のおかげか知ら
何だか美人になったこと

次は私達がお礼をする番ね
先方にはしっかりと、振る舞ってさしあげるつもりよ



●雨のそば 留む刃に 粉化粧

 刀台に、一振りの襤褸襤褸の刀があった。
 
 持ち主をして妖刀なまくら、と称するやいばは、異常であった。
 なんせ血の跡、錆がべっとりとこびりつき、しかして赤錆は内部に及ばず、刀としての機能を決して失わずにあるというのが異常だ。永海の妖刀がそうでなくとも、刀というのは錆びるもの。錆はやがて内側に到る。そのまま進めば崩れるように折れてしまうだろう。
 だがその刀はそうなっていない。錆びているのに、錆が進まない。なまくら――鈍刀『千代砌』は、全く以て不可思議な刃であった。
「御免なさいね。立派な妖刀並ぶこの里に持ち込むなんて気が引ける有り様なのだけれど――これでなかなか気に入っているの、斬り応えが在って」
 揺らめくように笑って、女が言った。
 年の頃は二十歳になるかならないか。薄煙る雨のような目の色をして、長く伸ばしたぬばたまの黒髪を揺らした幽玄の美女である。この世ならざるものの、禁忌に踏み込んだ美しさと言おうか。恐ろしいほどに整った容貌はまさにあやかしめいており、相対した鍛冶――永海・鋭春の背筋が知らぬうちに伸びる。
 彼女の名は鈍・しとり(とをり鬼・f28273)。
 ひとに戀して天から零れた、あやかし崩れの雨女。
「構わない。……使い込まれた刀というのは、倖せなものだ。全ての刀は、斬ることを本懐として生まれるのだから。――どうやらこの刀、永海とはまた異なる理で打たれた刀の様子。心して掛かろう」
「そう硬くならなくても良いわ。なにも、打ち直して欲しいわけではないから。お手入れだけをお願いできるか知ら。……元々、神事に使われていた刀なの。この通り今は血塗れ、妖刀の手入れの仕方と相性が悪いことはないと思うわ」
 ふむ、と鋭春、しとりの言葉に応じて顎を撫でる。
「……斬魔鉄を研ぐ際の打粉がある、それを用いるとしよう。研ぎは? 磨き上げるか?」
「いいえ、いいえ。それは、そう云う刀なのよ。きっと落とそうとしても決して落ちない錆があるわ。……大事な痕なの」
 紫陽花のように艶めく唇で静かに言い、しとりは刀台に置かれた千代砌の血錆を嫋やかな指先でなぞりあげ、鋭春に流し目をくれる。
「遺しておいてね。きっとよ」
「……承った。では、鈍どの。妖刀地金での協力は出来なんだが、一つだけ。あんたとその刀の縁を強める呪いをかけよう。血の跡も消さずによいと言うことならば、きっと似合いの仕儀となろうさ」
「……?」
 眼を瞬くしとりに、鋭春は針つきのごく小さな金属筒を出す。
「僅かばかりで構わん。血を、貸していただきたい」
「……ええ、それは構わないけれど」
 消毒と採血はほぼ一瞬。受け取った筒を、確かに、と鋭春は受付台に置く。
「感謝する。研ぎと磨きだけなら、夕刻までには仕上がろう。何もない里だが――敵が襲うまで、ゆるりと過ごしてくれ」
「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて――」
 裾をふわりと翻し、背を向け歩き出すしとり。――刀のない身が慣れず軽い。戸口で一度振り返れば、鋭春が千代砌の刀身を検めているところであった。
 いかなる仕上がりになったものか。夕刻また訪れることとして、しとりはそのまま里中へと当て所なく歩いて行く。


◆“十代永海” 永海・鋭春指揮 妖化粧
            鈍刀『千代砌』◆
 妖刀なまくらと持ち主であるしとりが称す刃。錆が内側に侵食せぬ不可思議な刃を持つ。
 刀身に灼き付いたような錆が特徴的な見た目を形作っている。今回はしとりの希望を立て、『現在の切れ味に変わりなく、更に刃持ちをよくする刃角への研ぎ直し』と、斬魔鉄を磨くための打粉と、しとりの血を永海の技術で一つとし、専用の打ち粉として表面を磨く工程をとった。外観はほとんど変わりなく見えるが、以前より長切れするようになっている。
 心なしか、今までよりも手に馴染む。文字通り、血が通ったかのように。


 幾日後。
「――嗚呼、有難う。粉化粧のおかげか知ら、何だか美人になったこと」
 斯くて、戦場に立つ雨女。
 月光に光る刃見て、あえかに笑んで彼方を望む。
「次は私達がお礼をする番ね。先方にはしっかりと、振る舞ってさしあげるつもりよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

空亡・劔
……何故だろう…凄く緊張する
最強の大妖怪であるあたしとした事が(こほん)

1
まず此方
強化
氷結地獄

使う鉄は…
絶雹鉄

是一択よね
元々この剣は氷の力を操るの
その力を高めてほしい
追加する銘は任せるわ

本題
…本音を言うと怖いし緊張する
でも…あんたらが凄い鍛冶師ってのは判る
だから…「あたし」を預けるわ(空亡を差し出し

どう強化するか…どう弄るか…鉄は何を使うか…そして銘は…なんだか恥ずかしいけど全て任せるわ

正直どうすればいいのかはあたしも分からないのよね

…壊したりしたらもうすっごい祟るからね?(でも実は一般人相手には無力なのでそんな事できない大妖怪

そして…神殺しの大魔剣起動

(その体は消失して魔剣のみがその場に



●神を殺す刃
 ところは鍛冶場、受付所。
(……何故だろう……凄く緊張する。最強の大妖怪であるあたしとした事がっ!)
 んんっ、と咳払いを一つ。まだ年端も行かぬように見える少女――空亡・劔(本当は若い大妖怪・f28419)は刀匠らの前で幾度か深呼吸し、話すタイミングを伺っていた。深呼吸が三回目になったところで、出し抜けに鍛冶師の一人がぶっきらぼうに言う。
「……おい、いつになったら話が始まるんだ。武器を鍛えに来たんだろう、客人」
 白い膚に、まるで夜雪のような青銀の髪。身長は高く、六尺足らずといったところか。死装束に見紛うような白い着物を青い帯で止めた、不健康そうな男だ。年の頃は二〇後半と言うところだろう。――絶雹鉄筆頭鍛冶、永海・冷鑠(れいじゃく)である。
「いっ、今始めるところだったのよ!」
 反駁する剱。二人の間に取りなすように、するりと鋭春が入る。
「控えろ冷鑠。……済まんな猟兵どの。せっかちで横柄だが、腕は良いのだ、これで」
「誰がせっかちだ。このあとも注文が押しているというのに」
 不機嫌そうな冷鑠を鋭春が諫める間に呼吸を整え、剱はまず一本の剣を受付卓に置いた。言い合いをしていた冷鑠が言葉を止め、剣をしげしげと眺める。
「西洋剣か。銘は」
 ぶっきらぼうかつ端的な問いに、「『氷結地獄』」と剱もまた一言で応える。
「名前の通り、氷の力を操る剣よ。絶雹鉄で強化してほしいの。出来るかしら」
「出来なくはあるまい。この男の編み出した、化生冶金の技術を以てすればな。全く忌々しい」
 冷鑠は舌打ち混じりに鋭春を睨む。通常の鍛冶では、既に完成された一本ものの武器に手を加える方法などないに等しいはずだ。それこそ、剣をただの鉄として溶かし、打ち直す程度のことしか出来ぬはず。
 ところが冷鑠によるならば、今はそれが可能だという。
「注文は終わりか。ならばとっとと出て行け、俺は仕事に取りかかる」
 ぶっきらぼうもここに極まる物言いをする冷鑠。目の険を濃くした鋭春が一喝するその一瞬前に、剱が言葉をねじ込んだ。
「それは一つ目の依頼。本題は、次よ。――本音を言うと、怖いし緊張するわ。身体を弄らせるようなものだもの。どうすれば良いか解らないし、何が正解かなんて、きっと誰にも解らない。でも……」
 剱は鍛冶場の奥を見る。炉を前に額に汗して働く鍛冶師、生まれ行く刀のおそろしいばかりの煌めき。研ぎ上がった刃は、どれもこれも、息を呑むほどうつくしい。
 こくりと喉を鳴らし、剱は続けた。
「……あんたらが凄い鍛冶師ってのは判る。だから……『あたし』を預けるわ」
 言葉と同時に剱はもう一本の剣を受付卓に置いた。――銘を、『空亡』――ソラナキ。
「これは――また、ただならぬ作りの剣だ。しかし、あたしを任せる、とは?」
 ただならぬ険を放つ一刀に、鋭春が刀身を検めながら問い返す言葉に、剱が事も無げに返す。
「そのままの意味よ。どう強化するのか、どう弄るのか、どんな銘を打つのか。全て任せるわ。……壊したりしたら、もうすっごい祟るからね!」
 いい捨てざまにひらり、剱が身を翻す。
 冷鑠と鋭春が、一様に言葉を失った。
 剱の身が淡い光の粒子となり解けたかと思えば、粒子は瞬く間に剣――『空亡』の中に集まり呑まれていくのだ。一瞬のこと。劒の姿は最早どこにもなく、台の上には凄まじい圧を放つ一振りの剣と、氷結地獄が残される。
「……鋭春。猟兵というのは、斯様に理外の者ばかりなのか」
「いや流石に、おれもこれ程とは思わなんだ。……とにかく」
 しばらく呆けていた二人も、託された想いの重さは重々解っている。
「「仕事だ」」
 冷鑠は氷結地獄を。鋭春は空亡を。
 確と掴み、作業場へと消えていく。


◆永海・冷鑠改作 絶雹含
  永久凍剣『氷結地獄・極』◆
 えいきゅうとうけん『ひょうけつじごく・きわみ。』
 妖怪変化の血を用い、絶雹鉄の性能を既存の金属に吹き込む『絶雹含』(ぜっひょうぶくめ)と呼ばれる工程を施した氷結地獄の第二の姿。地獄の底さえ凍らせる、極まりし冷気を放つ。

◆“十代永海” 永海・鋭春改作 斬魔含
         殺神魔剣『空亡・紅』◆
 さつじんまけん『そらなき・べに』。
 妖怪変化の血を用い、斬魔鉄の性能を既存の金属に吹き込む『斬魔含』(ざんまぶくめ)と呼ばれる工程を施した後の空亡の姿。力を込めるとそれに呼応し、紅を引いたように刀身が紅く染まる。靱性、硬度、切れ味が従来より遙かに向上しており、今までよりも大きな力を行使出来るだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャオロン・リー

頼みたいんは槍の修繕と強化や
(折れた中華槍、代わりに使っていた中華槍を差し出し)
こっちの折れてもうてんのは、俺の中の火竜の血を励起させるんに最適なんやけど、もう帰らへん故郷から持ってきてん。一本物やねんな
これの修繕をして欲しい
そんでもってついでやから、この代わりに使ってたこいつを強化して欲しいんや
同時に使こうてもどっちも遜色ないように、出来るか?

どんな風に、か…せやな
余計な能力はいらんから、取り回すときは軽いほうがええ
そんで、俺の攻撃は手数が多くなりがちやから、その一撃一撃を鋭く重く出来ればええねんけど、できるか?

二本とも、銘も何もない…わからん
せやから俺のモンとして、アンタらがつけたってや



●竜に今一度、爪牙を
 鍛冶場を訪れる猟兵は後を絶たない。次に暖簾を潜ったのはシャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)。受付台に大股に歩くなり、そばにいた鍛冶師を捕まえて問う。
「よう、金物なら修理してくれるんやって? 二本ばかし預けたいんやけど、ええかな」
「無論の事よ。我ら永海、あやかしと鉄の扱いにかけちゃ三千世界に敵はなし。槍でも鉄砲でも直してやろうとも」
 どっしりとした壮年の小男であった。シャオロンの顔を見上げるほどに小柄であったが、しかしその腕ときたら筋骨隆々、下手なオブリビオンなら殴り倒してしまえるのではないか、と疑うほど。
 永海・頑鉄と名乗った壮年は、顎を突き出すように決って、受付卓に槍を置くよう促した。
 並べられた槍を検め、頑鉄はシャオロンを横目に伺う。
「して坊主、この子にはどういう謂われがあるんだね。猟兵どのらの持ち込むものには、悉く曰くがあるのが定石なんじゃろう」
「他の連中のことは知らへんけど、そうやな。こっちの折れてもうてんのは、俺の中の火竜の血を励起させるんに最適なんやけど、もう帰らへん故郷から持ってきてん。一本物やねんな。直してやってほしい」
「竜の血? ……猟兵どのらには色々おるとは聞いていたが、はあ、そらまた凄まじい話だの。任せとけい、新たに刃を作ってやるわ」
「助かるわ。そんでこっちが、こいつの代わりに使とったもんや。今はこっちも手に馴染んどる。同時に使こうてもどっちも遜色ないように、出来るか?」
 シャオロンの試すような注文に、にやりと頑鉄が笑う。
「朝飯前よ。しかしそれには坊主がどうやって戦ってるのか教えて貰わんといかんな。どんな風な強化が好みか教えて貰えるかね?」
「どんな風に……か。せやな、余計な能力はいらんから、取り回すときは軽い方がええ。そんで、俺の攻撃は手数が多くなりがちやから、その一撃一撃を鋭く重く出来ればええねんけど……できるか?」
「応さ。取り回すときは軽い方がよく、しかし攻撃を重くしろと言う話になれば、武器自体に推進力を備えさせるか、重量を操作させるかの問題になるが……向き不向きがあるからの。とりあえずお前さんの戦いをちょいと見せて貰わんとな。試斬場に行こうかね」
 頑鉄曰く、試し斬りをするための、広い訓練場があるのだという。彼が武器を作るときは、遣い手が戦う姿を見てから、というのが通例なのだそうだ。
「おもろそうやな。ほんなら、ちょいと暴れたろやないけ。吃驚しすぎて腰抜かすなや、爺さん」
「かっか、活きの良い事をいいよる! この爺の腰を抜かさせるほどの動きを期待しとるよ。……ところで坊主、銘はどう切る?」
 並んで歩き出しながらの頑鉄の質問にシャオロンは肩を竦めた。
「二本とも、銘も何もない――わからん。せやから俺のモンとして、アンタらがつけたってや」
「こいつはまた責任重大だの。相解った――竜の子に相応しい名を与えようとも。坊主が、これから何と闘っても負けんようにの」


 試斬場での一暴れを経て、猛き竜の子に与えられたのは――
 敵を引き裂く、牙と爪。


◆永海・頑鉄改作 緋迅鉄 純打
        禍焔竜槍『閃龍牙』◆
 かえんりゅうそう『せんりゅうが』。
 火竜の氣を込められた朱塗りの槍の折れた穂先を鋳溶かし、緋迅鉄に鋳込め、打ち直して挿げた中華槍。元となる緋迅鉄を鍛錬する際に、竜の血を持つというシャオロンの血を一定量用いることで、より彼と親和性の高い専用武器となった。
 閃龍牙はシャオロンの力を増し、シャオロンの力が閃龍牙の熱を増す。龍の牙は、今度は折れぬ。


◆永海・頑鉄改作 緋迅鉄 純打
        発破竜槍『爆龍爪』◆
 はっぱりゅうそう『ばくりゅうそう』。
 閃龍牙と同様、シャオロンの血を混ぜた緋迅鉄により石突と刃部を構成された中華槍。
 石突部分には噴出口があり、意念を込めることでそこから燃焼ガスを発生・噴出し、槍を加速する機構を持つ。また、刃部からも爆炎を発せるため、突き込みと同時に意図的に爆炎を生じさせ、その反動で引き戻し、突きに合わせて石突きから再度火を噴くことで推進する――というサイクルで、超高速・高威力の連続突きを実現可能。
 また、単純に熱を発する槍としても極めて高剛性で優秀。重量バランスは、元になった槍と同様となっている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

人形・宙魂
2.装備を新造する
重量を操る…
あ、あの、…私、こういう刀をもってて…

(自分のサムライブレイド、魂虚を見せ)
これは、私の先祖が使っていた物らしくて…あ、か、軽くします!
刀の重量を操り、軽くします。

元々は、この世界の刀だと思います。
どうしてこんな力をもったのかは…その、ちょっと…

あ、えっと、妖刀の短刀を、お願いします。
この刀の様に、重さを変えられる刀なら、きっと、使いこなせるから…

私は、戦いは好きじゃないんです。
でも、羅刹としての私は、戦いを喜んでいます。
抑えつけていたら、きっと、いつか壊れてしまう。
向き合う為には、戦わなくちゃいけないんです。

…だからえっと、あの、よろしくお願いします!



●確かな楔となれと祈って
 重量を操る刃、などというものが、自分の刀以外にあろうとは、という驚きと。
 ここならもしかしたら、という期待が、少女を動かしたのだと言ってよい。
「あ、あの、私、こういう刀を持ってて……、その、」
 身を縮めて慌てた風に、少女――人形・宙魂(ふわふわ・f20950)が切り出すのを、飄々と笑う一人の鍛冶師が受け止めた。受付卓を挟み、男が応える。
「慌てなさんな。大丈夫だよ、お嬢ちゃん。むさ苦しい男ばっかりで悪いが、誰もお嬢ちゃんを取って食いやしない。安心して、ゆっくり話してくれ」
 宙魂を迎えたのは、年の頃二〇半ばというところの、ひょろりと背の高い男だった。愛嬌のある顔立ちで、伸ばした銀髪を一本に纏めて、馬尻尾のように括っている。
「俺は当代飄嵐鉄筆頭鍛冶、永海・銀翔(ぎんしょう)。作刀の相談に乗ろうじゃないか」
「っあ、ありがとうございますっ。えっと……その、これは、私の先祖が使っていたものらしくて……あ、えと、か、軽くします! 刀の重量を操って、軽く出来る刀なんです!」
 宙魂は受付台に愛刀――『魂虚』を置く。銀翔は驚いた風に目を丸くしたが――
「へえ?」
 すぐに楽しげに――不敵に笑ってみせる。
「元々はきっと、この世界の刀だと思います。私のいた世界にこういうものはないと思うし。……どうしてこんな力を持ったのかは、その、ちょっと……わからないんですけど」
「あやかしの由来なんて、多くの人が知らんものさ。大丈夫、俺たちゃ妖異と鉄の専門家。預かるものの得体が知れなかろうが、必要以上にゃ恐れも引きもしねぇよ」
 片目を閉じて言ってみせる銀翔。宙魂に断りを入れて魂虚を提げ持つ銀翔だが、なるほど、といった風に目を細めた。やや手が震える。重いのか。
「なるほどね。で、今回の注文は?」
「……あ、えっと、妖刀の鍛刀をお願いします。その刀の様に、重さを変えられる刀を作って貰えたら……きっと使いこなせるから」
 宙魂は祈るような響きで言う。銀翔は目を細めた。彼女の内側を推し量るような目であった。
 宙魂は荒事に向いた体つきをしているようには、端からは決して見えまい。気性としても戦いを好まず、涙もろく引っ込み思案だ。――しかしてその裡側には、古き時代にUDCアースに流れ着き、ヒトを喰らった兇悪な羅刹の血が流れている。
「……私は、戦いは好きじゃないんです。でも、羅刹としての私は、戦いを喜んでいます」
「鬼だってのかい? お嬢ちゃんが?」
「はい」
 宙魂は黒曜石の角を撫でた。アクセサリーでも何でもない、本物の角だ。
「私の中には、脈々と、旧い鬼の血が流れています。戦いが嫌いだからと、本能を抑えつけていたら――きっと、いつか壊れてしまう。向き合う為には、戦わなくちゃいけないんです」
「……」
 あまりに壮絶。
 怪異を殺し、その血肉を鋳込める業を持つ銀翔達、永海の人間が、その生き方、決意に何を言えよう。
 人食い鬼の血を身に宿し、けれど彼女は闘うため、里を守るため、己と向き合うためにここに来たというのである。
「だから、えっと、あの、……よろしくお願いします!」
「承知した。……不肖、永海・銀翔、注文を承ろう。名前を聞いてもいいかい?」
「人形・宙魂と申します!」
「ああ、……いい名前だ。宙魂の嬢ちゃん、あんたの未来への道を穿てるような――そんな短刀を、きっと届けると約束するよ」


 魂虚と同等の性能を備えるためには、重と軽の相反する二つの地金を用いる必要がある。
 銀翔は同輩である地鳴鉄筆頭鍛冶、永海・荒金(あらがね)に教えを請い、その矛盾に挑んだという。


◆永海・銀翔作 飄嵐鉄・地鳴鉄 重打
     刃渡一尺三寸 不確重刃『魂揺』◆
 ふかくじゅうじん『たまゆら』。
 意念を込めることで刀身そのものの重量を軽く、遣い手の挙動を加速できる飄嵐鉄を皮鉄、意念を込めることで重量を増加できる地鳴鉄を心鉄として用いた短刀。配合が絶妙であり、平常時の重量は同寸の玉鋼短刀と同程度。
 宙魂の意志に従い、かなり広い範囲で重量の調節が出来る。軽くすればするほどに飄嵐鉄の効果が強まり、宙魂自身の動きをも加速する。重くすれば飄嵐鉄の効果は薄まり、逆に地鳴鉄の効果として、攻撃が重くなり、威力が上がる。
 重量操作を行いながらの戦闘に慣れた宙魂が扱うことで、この短刀は最大の効果を発揮することだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーノ・アルジェ
2
アドリブ歓迎。

……ええと。まず、失礼があったらごめんなさい。
それで、武具って、良く分からなくて。
あまり使った事がないし、なにより私の戦い方は雑、だから。
改めて自分で言うと、ちょっと恥ずかしいけど。

それでも、やっぱり。戦う力はあって困らない…というか。
痛いのも、血を流すのも、怖くないけど。
死んじゃったら、もう戦えないし。
……今の私じゃ、なにもかも、力不足。
化物の血を用いて生み出す金属…って、聞いたから。
私とも、私の力や戦い方とも、相性が良いんじゃないかな、って。

だから。形も銘も、お任せ…します。私に、力を、ください。

…失礼な事、言ってない…かな?
サムライエンパイアだし、ドゲザとか…するべき?



●暮れ前に、届け
 所在なさげに鍛冶場の受付の前を右往左往する見慣れぬ少女がいたとくれば、永海の鍛冶師がそれを放っておく訳もない。
 なぜならば普段、鍛冶場をうろつく少年少女は知った顔なのだ。将来、この里の花形である鍛冶師になろうと、技を盗みに詰めかける子供達ばかり。その顔かたちなど、鍛冶師一同先刻承知のことである。
「もし、猟兵どの。もしや、刀を求めてこちらにおいでか?」
 そのこともあり、永海・鋭春は猫撫で声とは言わぬまでも、極力優しい調子で声を掛けた。声を掛けられた少女が、藍色の瞳を瞬かせ、銀髪を揺らして振り返る。
「あ、――」
 不意を打たれたというように眼を瞬く少女だったが、すぐに鋭春に向き直り、呼吸を一つ。まだ幼い、年齢は十五かそこらか。痩せぎすと言ってもいいほど細く、大きな瞳は意思の光を湛えて光る。
「……ええと、まず、失礼があったらごめんなさい。武具って、良く分からなくて。……そもそもあまり使ったことがないし、なにより私の戦い方は雑、だから。……未熟なことを露わにするみたいで、改めて言うとちょっと恥ずかしいけれど」
 話し慣れないのか、語調は辿々しい。けれど明確に、伝えたいことがあると分かる声だ。鋭春はこくりと頷き、目線の高さを合わせるように少し屈んで腰を曲げた。鋭春の背丈は六尺あまり。まともに相対すれば、少女は首が痛くなるほど上を向かねばならぬ。
 少女は続ける。
「でもやっぱり、闘うための力はあって困らない……というか、痛いのも血を流すのも怖くないけれど、死んじゃったら、もう戦えないし……今の私じゃ、何もかも、力不足」
 少女は小さな掌をきゅっと握り締める。精々が十四・五、鋭春らの尺度で行くなら、成人したての年頃だ。鋭春は思う。成人したとて、悩みや懊悩が消えるわけもない。「大人になったので何もかも解決しました」などということが、あるわけがない。
 だというのにも関わらず、この少女は――己の不徳と不足を認め、悩むでもなく前に進もうというのか。
 それも、ただ、戦い――恐らくは今、この里を脅かすような何かを――
 ――『おぶりびおん』とやらを討つために。
「永海の妖刀の話を、案内役の……はいいろ、という人から聞いたの。彼らは妖刀地金――化物の血を用いて生み出す金属を操る……って。それなら、私とも、私の力や戦い方とも、相性が良いんじゃないかな、って」
 このような少女が、前に立って戦う。
 それを是とも非とも出来ぬ、頼らざるを得ない自分を呪う。
 呪いつつも、鍛冶としての鋭春は、少女の言葉に感じ入るように頷く。
 妖刀地金とは、あやかしの血肉、はらわたを金属に鋳込めて創り出される化生合金。
 そのわざを、この尊き戦士の元へ届ける事は、永海の里に生まれた者の本懐に他ならぬ。
「だから。形も銘も、お任せ……します。私に、力を、ください」
 ――全く、胸の詰まるようなことを言う。
 感銘に鋭春は声を失い、言葉を返せずに暫時、沈黙した。
「……?」
 少女が鋭春を見仰ぐ。鋭春は唇を噛み、彼女の希望に応えるための言葉を探すのを心配そうに眺めて、少女がおずおずと口を開く。
「……えと、失礼な事……言ってない、かな? ドゲザとかするべき?」
「無用の心配だ!」
 慌てて打ち消し、くしゃりと笑って鋭春は応えた。
「応さ。いいとも。我らのわざが、あんたの助けになるのであれば。おれ達は、腕が動かなくなるまで鎚を振るおう。――そのいのちを、誰かを助けるための戦いを、補佐出来る刃を打てるのならば」

 ――刀とは、所詮は人斬り包丁。戦になれば人を殺す。
 だが、それが誰かを救うこともある。護ることもある。

「それが、我らの本懐なのだ」

 きょとんとした少女に、感じ入るように呟いた。
 少女――ルーノ・アルジェ(迷いの血・f17027)が、その真意を知るのは、もう少し先のことかも知れぬ。
 けれども、鋭春は、彼女の瞳の光に応じて、一刀拵えることを即断したのであった。


◆“十代永海” 永海・鋭春作 斬魔鉄 純打
      刃渡二尺二寸 血鬼繋魂『黄昏』◆
 けっきはんこん『たそがれ』。
 純粋に強きあやかしの血を鋳込み、焼き入れに用い、硬く、強く、しなやかで、折れぬ――理想の刃鉄として傑出する『斬魔鉄』を用いた二尺三寸の打刀。
 ルーノ自身がダンピールという、永海の里の基準においては妖異とされる存在であるため、彼女自身の血も合わせて鋳込められている。
 凄まじい強度と切れ味を併せ持ち、また、ルーノの血に極めて高い親和性を発揮する。血を用いた術の触媒としても、高い効能を発揮するだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス
◎①
里を訪れたのも、もう一年以上前か。その間に色々あったし、様々な物事が変わった。ボク然り、この里然り…『煉獄』然り、ね
あれ以来、共に戦場を駆け抜けてくれたんだ。そろそろ見て貰うべき頃合いだろうさ

七代永海が筆頭八本刀、焔刃『煉獄』の整備を頼もう。
戦法上、融合や変形をさせては戻していたからね。その過程で随分と様変わりしてしまった。今のも好みだけれど折角の機会だ、往年の姿に戻すのも礼儀だろう。
その過程で更なる高みに至れれば幸いだ。研ぎ直しや焼き入れ、拵えを新たにして貰うのも良いかな。
加えて、もし七代目の作へ手を加えることに抵抗や異存が無ければ。
――薙神と同じ、烈光鉄を使った強化を願い申し入れたい。



●新たな光
 一年と四月ほど前のこと。
 ここ、永海の里は、兇悪な八刀流のオブリビオン――八刀・八束に襲われた。
 ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)は、その時のことを昨日のことのように思い出す。彼の剣豪の手の内で、天を衝くがごとき劫熱を発した、七代永海・筆頭八本刀、焔刃『煉獄』が、記憶に焼き付いて離れぬ。
 ――あのときから色々なことがあった。新たな世界が多数見つかり、多くのことが変わった。――ユエイン自身も、今は彼女の愛刀となった煉獄も、そして、新たな妖刀地金の使い方を開発したという、この里も。
「あれからずっと共に戦場をともに駆けたんだ。そろそろ見て貰うべき頃合いだろうさ」
 ぽつり、と呟きながらユエインは腰にマウントした煉獄を見下ろす。
 ……マウントした、という表現の通り、その姿は往時のものとは全く異なる。近代的なグリップに鋭角的な鎧装、角張った鞘。平は黒に染められ、鎬筋より先だけが赤熱したように光る。戦法上、合体と変形、融合を繰り返す為に、彼女の装備はその時の最適に応じて徐々に変形していく。その故の異様であったが――
「今の状態も好みだが、折角の機会だ。往年の姿に戻すのも礼儀だろう。……里の技術も革新されたというし――その過程で、さらなる高みに至れるかも知れない」
 柄を一つ叩いて凜と鳴らし、ユエインは一年余前にも歩いた鍛冶場までの道を歩く。鎚音間近に感じながら戸口を潜れば、探すよりも先に、一人の鍛冶師が彼女へ声を掛けてくる。
「おお、また懐かしい顔が来たものだ。また会えて嬉しいぞ」
 声の方を向けば、のしのしと、岩の塊のような小男が歩いてくる。壮年ながらにその筋肉に一切の陰りなし、浮かべた矍鑠とした笑みも、一年前と変わりない。
 緋迅鉄筆頭鍛冶。永海・頑鉄である。
「一年と少しぶりじゃのう、お嬢ちゃん。元気にしておったか」
「……おかげさまで。そっちも、壮健そうで何よりだよ、頑鉄」
「おうおう。……ふむ、随分とまた……煉獄を弄り倒したようじゃのう」
 現代風に言ってみれば長尺のタクティカルナイフめいた拵えになった煉獄を見遣り、しかし頑鉄は一切の迷いなくそれを七代永海の作だと看破する。
「こうなってもやっぱり分かるものなの?」
「分かるとも。七代永海の作は我ら全ての憧れにして、遠き星のようなもの。如何に姿を変えても、七代目の技は決して見紛うことはあるまい。……して、今日はどのような用向きかの?」
 受付台に誘うように歩きながら問いかける頑鉄。ゆったりとした歩調で続きながら、ユエインもまた言葉を返す。
「煉獄を診てもらいたくてね。……この通り、随分様変わりしてしまったから、拵えを新たにして、往時の姿に戻して貰おうかと。それに――妖刀地金を混ぜるという技術が開発されたと聞いて。抵抗や異存がなければ、薙神と同じ――烈光鉄を使った強化を申し入れたい、と思っているんだ」
「――」
 ぴたり、と、頑鉄は一度動きを止め、深く息を吸い、吐く。
「……ユエインの嬢ちゃん。あの技術はなかなか難儀なものじゃ。刀一振りが発揮出来るあやかしの力には限界がある。煉獄に、烈光含――烈光鉄の性能を吹き込む事を施せば、必ずや、煉獄が発揮出来る熱量の限界は下がる。天を焦がすと謳われた、その火が陰るということなんじゃよ」
「――」
 ユエインの脳裏に、天を衝いた鮮やかな火柱が蘇る。
「儂は――その刀の熱が失われる事を惜しく思う。いつかお嬢ちゃんの行く道でそうなるとしても、儂が手を下すのだけは承服しかねる。――老いぼれの我が儘を聞いては貰えんかの?」
 切実な響きを頑鉄の声に、数拍おいてユエイン、嘆息一つ。
「……そうまで頼まれちゃ、仕方がないね。諦めるとしよう」
「相済まんな。……だが、全てを諦めることもない。要は刀身に手を加えねばよいのだから」
「……?」
 不思議そうな顔をするユエインに、頑鉄はにいと笑う。

「刀に使われる金属は、なにも刀身だけではないという事よ」


◆“七代永海” 永海・鐵剣作 ――永海・頑鉄改作
 緋迅鉄 純打 烈光鉄鍔挿 閃輝焔刃『煉獄・赫』◆
 せんきえんじん『れんごく・かく』。
 七代永海・筆頭八本刀が六。
 刀身長二尺八寸の打刀。朱漆塗鞘、黒革巻柄。朱金の刀身、刃紋は乱刃、のたれ。猿手に赤い刀緒。往時の姿に復元されたほか、属性を調整の上、烈光鉄で作成した鍔を挿げてある。
 使用時に鍔に力の一部を流すことで、鍔より迸る『光閃』と刀身の熱を絡め、炎の刃――『焔閃』として投射することができる。刀身から発せる熱限界には変化なく、遠距離攻撃がオプションとして付与された純強化といっていいだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

比野・佑月
2. ◎
形・銘など詳細お任せ。短刀くらいの大きさ希望。

妖刀地金!う~ん、格好良くて憧れちゃうな!
ちょうど近接武器を新調したかったんだよね。
一本テキトーなのは持ってるんだけど専ら不意をついた闇討ち用でさ。
敵に食らいついていけるような攻撃的な子がいいんだけど、
そんな感じで頼んでも大丈夫?

――ありきたりな願いだけれど、力が欲しかった。
眷属たちは頼もしく心強いけど、俺自身はまだ足りない。
手も足も出ないだなんて状況で地を睨むのはもうまっぴらだ。
だからもっと強く、鋭く。敵の喉笛に食らいつくような"牙"が欲しい。
…なんて、最近ちょっとばかし悔しいこと続きだったからね。
どんな猛獣が来ようと手懐けて見せるさ。



●喰らい付くための牙
「妖刀地金! 火も出る氷も出る、軽くなったり重くなったりもする! う~ん、格好よくて憧れちゃうな! ちょうど一本、新しい近接武器を新調したいところだったんだよね」
 鎚音響く鍛冶場の中、数々の参考品の刀を眺めながら新たな装備に思いを馳せるのは比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)。腰に帯びた小刀――『逆月』は、小刃のみが光る黒染めの質実剛健な作りで、気に入ってはいるものの――専ら、隙を突いての闇討ちに出番が限られる。
 彼が今求めるものは、新たな牙。不意打ちだけでなく、真っ向から打って出られるだけの力である。
「相済まぬ、猟兵どの。声を掛けるのが遅れたな」
 展示品をうろうろと見回っていた佑月に不意に掛かる声。佑月が声を振り向けば、そこには先ほど里を代表して猟兵達と会話していた刀鍛冶――『十代永海』永海・鋭春の姿がある。
「いや、展示品見てるだけでも退屈しないよ。すごいね、妖刀って。どれもこれもすごそうなオーラがぷんぷんするっていうか。……鋭春さんだっけ? キミが話を聞いてくれるの?」
「応。どのような作刀の相談にも乗ろう。いかなる刀をお望みか? 或いは修繕が入り用か?」
 淀みない鋭春の言葉に、ふむ、と考える風に、佑月は顎に手を当てた。
「……そうだね。一本、テキトーなのはもう持ってるんだけど、こいつは専ら不意を突いた闇討ち用でさ。敵に食らいついていけるような攻撃的な子がいいんだけど――そんな感じで頼んでも大丈夫? 長さは短刀ぐらいがいい。取り回しがいい方が扱いやすいし」
「……ふむ。そうだな。短刀とは元来、攻撃というより、懐に入られた場合の護身や防御的な格闘戦に用いられるものだ。単純な射程の問題だな。長い刀と向かい合えば、如何しても射程の関係で不利とならざるを得ん」
 鋭春は諳んじる様に一般論を語る。
「んんと、じゃあ、俺の注文って難しいのかな……」
 声のトーンを少し落とす佑月に、
「――通常ならばな。しかしてあんたは猟兵、おれはこの永海の総代鍛冶だ」
 鋭春は堂々たる口調で言う。一般論で終わらぬからこその猟兵、そして妖刀鍛冶だ。
「足りないならば、射程を付与すればよい。刀身は斬魔鉄とし、柄の内部に仕掛けを施す」
「……出来るの? そんなことがさ」
「やるとも。しかし、少しばかり扱いに修練が必要な、癖のある武器となろう。その覚悟はあるか?」
 挑むような鋭春の台詞に「は、」と佑月は笑う。
「――あったりまえだろ」
 ありきたりな願いだけれど、力が欲しかった。使役する眷属達は力強く、頼もしけれど、自分自身の力が足りないことを、彼自身が誰よりも理解していた。
「手も足も出ない状況で、地を睨むのはもうまっぴらだ。――もっと、強く、鋭く。敵の喉笛に食らいつくような“牙”が欲しい」
 最近ちょっと悔しいこと続きだったからねと、佑月は迷宮災厄戦での苦闘を振り返る。仔細を語ることはないが――決意だけは確かに伝わるよう、鋭春の目を見て、言葉を結ぶ。
「だから鋭春さん、頼むよ。どんな猛獣が来ようと、手懐けてみせるさ」
「心意気や良し。――ならば十代永海の名に懸けて、一刀、献上仕る」
 鋭春が無造作に手を突き出す。一瞬呆気にとられるも、それが握手を求めてのものだと分かれば――「熱いね」なんて笑って、佑月は彼の手を握り返すのであった。


 決戦の前、佑月の手元に届けられたのは――


◆“十代永海” 永海・鋭春作 斬魔鉄 純打
 緋迅鉄仕込 刃渡一尺二寸 飛鉄短刀『穿牙』◆
 ひてつたんとう『せんが』。
 外見は無骨な鎧通短刀。しかし単なる白鞘というわけではなく、柄元にヒルト――西洋ナイフめいた鍔がある。外見としては、刀というよりはロングナイフというほうが近いだろう。
 ヒルト直下にコンパクトなスライド式の安全装置と引金が配されており、『飛べ』と意念を込めて引金を引くことで柄内部のロックが外れ、同時に発生した内部の緋迅鉄製着火装置に点火。燃焼ガスにより刀身を秒速一二〇~三四〇メートルで射出する。初速は緋迅鉄に注ぐ意志の強さで調整可能。
 これによる、ワイヤー長二〇メートルを限度とした遠隔攻撃を行うことができる。強く念じれば念じるほど速度は上がるが、反動も強まる。
 刀身は斬魔鉄製、かつ茎に斬魔鉄製の極細鋼線が結わえられており、射出後、もう一度引金を引くことで刀身を巻き上げ回収出来る。巻き上げは任意の位置で停止も可能。
 内部機構の部品にも斬魔鉄が用いられており、巻き上げる力は佑月の身体を引き上げるほど。
 使い方はアイディア次第で多岐に渡るだろう。先手打っての遠隔戦闘、ワイヤー展開状態で振り回しての攻撃、高所に刀身を打ち込んで固定、巻き上げることで移動――など。

大成功 🔵​🔵​🔵​

不知火・ミソラ
【2】
丁度先日自分の炎で刀を駄目にしちまったんだ。
新しく打って貰えんなら願ったりだな。
刀剣にはそこまで詳しくねぇんだが、俺に合った刀を頼みたい。
(ぶっきらぼうだが匠には礼を尽くす)
俺は火車。
咎人を焼きながら地獄にしょっぴくのが仕事だ。
だから思い切り燃え上がらせても痛まない刀が欲しい。
出来れば俺の炎をより熱く、強くしてぇ。
緋迅鉄っつー地金が合うンならそれで。
大太刀でぶん殴ったり薙ぎ払うのも悪くねぇが、最近はちょこまか動く奴が傍にいることが多くてな。
(同僚の顔を思い出し、ため息をついて後ろ頭を掻く)
出来れば取り回しの良い長さで頼まぁ。
細かい仕上がりと銘は任せる。
俺ァその手のことがてんで駄目でな。



●火車に捧ぐは
 一般的な刀というのは、熱で焼ける。
 ――鉄が焼けるというのはまた奇妙な話だが、熱を加えてそれを急冷することで入れた『焼き』が、ある一定の温度を超えることで戻ってしまうのだ。こうなった刀は、もはや研いでも使えぬなまくらとなってしまう。
 少年――不知火・ミソラ(火車の獄卒・f28147)は肩を竦め、目の前の小男――といっても筋骨隆々とした、身の丈五尺ばかりの岩塊のような男だったが――に経緯を説明した。
「丁度先日自分の炎で刀を駄目にしちまったんだ。新しく打って貰えんなら願ったりさ。刀剣にはそこまで詳しくねぇんだが、俺に合った刀を頼みたい」
「自分の炎でと来たか。坊主、お前さんもあやかしの力を使うのかね?」
 小男――永海・頑鉄と名乗った――は顎髭をしごきながら少年に問う。少年は頭を掻きながら軽々に応えた。
「坊主じゃねえ、不知火・ミソラだ。……火車って知ってるか? 咎人を焼きながら地獄にしょっぴくのを生業にする獄卒さ。名前のままだろ」
「はあ、なんともまた――見かけによらんな。めのこが放っておかんようなめんこい顔をしているというのに」
 驚いた風な頑鉄の声にひょいと肩を竦め、ミソラが続ける。
「今は顔の話はしてねぇだろ。……とにかく、そういうわけで、思い切り燃え上がらせても痛まない刀が欲しい。出来るんなら、俺の炎をより熱く、強くしてぇ。確か、あるンだろ。緋迅鉄っつー地金が」
「おうともよ。何を隠そう儂が、その緋迅鉄の筆頭鍛冶だからの」
 頑鉄が語るところによれば、永海の里には伝来の妖刀地金ごとに、『筆頭鍛冶』という、もっともその地金を打つ術理に長けた、鍛冶師の長がいるのだという。
「当代――十代永海、鋭春どのの方針で、どの鉄にも慣れよとお達しが下ってはいるがね。それでも儂が最も長く緋迅鉄と接してきたことには変わらん。緋迅鉄は如何なる熱によっても傷まず、意念を熱に換えて敵を焼く炎の刃。きっとお前さんの良き相棒となろうさ。この仕事、儂が承ろう」
 楽しい仕事を見つけたとばかり笑う頑鉄。
「刃物ならばいかような形にでも整えてみせるが、火車どのはどんな刃がお好みかね?」
 水を向けられ、ふむ、とミソラは顎元に指を添える。
「大太刀でぶん殴ったり薙ぎ払うってのも悪くねぇが、最近はちょこまか動く奴が傍にいることが多くてな」
 頭を掻きながら同僚の顔を思い出し、溜息交じりで後ろ頭を掻く。
「出来れば取り回しのいい長さで頼まぁ。細かい仕上がりと銘はあんたに任せる。俺ァその手のことがてんで駄目でな」
 ――それでもなんだかんだ、傍で戦うもののことを慮っての注文に、頑鉄は好好爺めいて目を細め、笑い皺を深めた。
「心得た。では少し丈を短めに、反りを緩く、扱いやすく鍛造るとしようかの。ではミソラどの、試斬場までご一緒願えるかな。似た丈の刀を振ってもらって、動きの癖を見て取りたいのだが」
「構わねぇけど……刀鍛冶ってのはそこまでするモンなのか?」
「趣味半分、実益半分というところかの。ま、注文が詳細まで詰まっていないときは、動きに聞くのが一番じゃて。――さて、こちらへ。善は急げ、鉄は熱いうちに打て、じゃ」


 先導して歩き出す頑鉄の後ろに、ミソラが続く。
 ぶっきらぼうな態度ながらに、しかし匠に対しての敬意を忘れぬミソラの姿勢に、頑鉄もなにがしか、感じ入るところがあったのやも知れぬ。
 演舞と細部の詰めはそれから暫時に渡って続き――
 決戦前、ミソラの手元に届けられたのは。


◆永海・頑鉄作 緋迅鉄 純打
   刃渡二尺一寸 炎熱地獄『絶焦』◆
 えんねつじごく『ぜっしょう』。
 革巻柄、乱刃、大丁字。意念を熱に換え敵を焼断する妖刀地金『緋迅鉄』での作刀。
 立ち周りの際の取り回しやすさに重点が置かれた造りで、重量配分に非常に気が遣われており、柄の造りも含め、ミソラに合わせられたそれ専用の一品ものとなっている。この為、ミソラが持つと本来の重量よりも軽く感じる程。
 火焔を吹き村を焼いた大蛇の生き血が鋳込められており、高い意念熱変換効率と優れた切れ味を持つ。ミソラの注文通り、高熱を浴びせられても切れ味が衰えること無く、むしろいや増す仕上がりとなっている。
 絶ち焦がすこと劫火の如く。字して、『絶焦』。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ
◎1

里長さまにご挨拶を済ませたら、この刀【開闢】の作り手
鋭春さまを探して鍛冶場へ向かい

鋼が鍛えられる音と炎が弾ける音を耳にしながら
鍛冶場の中をゆっくり歩を進め、刀が鍛えられる様を少し離れて眺め
何が作られる様を見るのは好きだ
開闢もここでああして生まれたのだ、と

件の刀匠に会えたなら
鋭春さま!ご無沙汰しております、以前開闢を拵えていただいた──
ええ、この一年と数ヶ月の旅路、開闢には幾度も助けられて、路を切り拓いて貰いました
まだ使命は果たせていませんが、少し早い開闢の里帰りです
少し見ていただけますか?日々、手入れはしていますが…

補強をしていただけるのなら
わたしは…もっと疾く。霹靂よりも、疾く、鋭く



●願いを鍛つ
 里を訪れるなり九代永海、永海・鍛座に挨拶をと律儀に村の中央の屋敷を訪れたはヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)。迎えた鍛座は、お世話になりますと会釈するヨシュカにこれはこれは、と深々頭を下げ――すん、と鼻を鳴らして言ったものだ。
「お心遣い痛み入ります。どうやら、斬魔鉄の拵えをお持ちのご様子――昨年のあの時打った物とすれば、打ったのは鋭春でございましょう。鋭春ならば鍛冶場に詰めております。どうぞ、あなた様の顔と、里帰りしたその子の肌を見せてやってくだされ。――それが鋭春にとっても何よりの土産となることでしょう」
 ヨシュカは思わず、刀身を見せてもいない短刀――開闢の柄に手を置く。
「……斬魔鉄と解るのですか? それは、なぜ?」
「妖刀には匂いがあるのです。……ふふ、この話はその鋭春にしか、ついぞ解って貰えませなんだが。ささ、この老骨の相手など退屈でしょう。鍛冶場へどうぞ――」


 煙に巻かれた心地で鍛冶場に辿り着けば、鎚の、鋼の、炎の爆ぜる、注文聞きの、焼けた鋼が水散らす、音、音、音、音、音。昨年よりも鍛冶場は騒がしくなっているようだ。訪れる猟兵の数が多いのか――詰める刀工の数も増しているように見える。
 ヨシュカは周囲を見回す。真っ赤に焼けた鉄が、はたまた周囲を白く煙らせるほどに冷えた鉄塊が、叩き伸ばされて刀の形に姿を変えていく。折り畳まれ、鍛錬。折り畳まれ、鍛錬。その繰り返しが刃を強くする。邪魔しないほどの距離を保ち、見入るように見つめる。
 何が作られる様を見るのは好きだ。感慨がある。開闢もここでああして生まれたのだ、と。
 しばらくそうして鍛刀の様子を見つめていた折、
「――おや、その透くような白髪はもしや――」
 横合いから唐突に掛けられた声に、ヨシュカははっとしたふうに振り向いた。
 一年前よりも雰囲気が柔らかくなったか。人を纏める地位に立ったことがそうさせるのか。頭の手ぬぐいは相変わらず、鋭い目を和ませて、永海・鋭春が立っている。
「鋭春さま! ご無沙汰しております、以前開闢を拵えていただいた──」
 迷いなく名前を呼ばわるヨシュカに、押すように手を翳してみせる鋭春。
「皆まで言うな、ヨシュカどの。覚えているとも。――此度は済まないな。あんたも、旅の途中だろうに」
 きっと話したことを、刀に込めた想いを、彼もまた昨日のことのように覚えているのだ。――でなくば、あの鋼の目に、これほどまでに労るような色が乗ろうか。
 ヨシュカは唇にうっすら笑み乗せ、ふるふると首を振った。
「いいえ、いいえ。この一年と数ヶ月の旅路、開闢には幾度も助けられて、路を切り拓いて貰いました。まだ使命は果たせていませんが――少し早い開闢の里帰り、です」
「そうか――ああ、切った銘に負けずに、働いて帰ってきたか。おれの息子が。……それは気合を入れて修繕せねばな」
「はい。少し見て頂けますか? 日々、手入れはしていますが……」
 ヨシュカは短刀を差し出す。永海・鋭春作、斬魔鉄製短刀『開闢』。頷き受け取るなり、鋭春は鞘から開闢を抜き、状況を検める。
「……そうだな。よく手入れされている。摩耗の状況を確認し、使い方に合わせて一度研ぎを入れ直そう。拵えやそのほか、気になる点はないか?」
「気になる点はありませんが――」
 ヨシュカは目を細め、きゅ、と小さな手を握り締める。
「……補強をしていただけるのなら、わたしは……もっと疾く。霹靂よりも、疾く鋭く、開闢と共に駆けたい。……この注文は、鋭春さまの専門外、でしょうか」
 眉を少しだけ下げて問うヨシュカ。対する鋭春、ふ、と口元を歪め、
「去年、初めて相対したときならそう云っただろう。……全てを叶えること能わずとも、今なら、意に添うよう努力することは出来る。仕上がりを、彼と共に待つといい」
 んなぁご。
 いつの間にやら、ヨシュカの足元に侍っていた灰色猫――
 ヴィルヘルムが『話は終わった?』とばかり、二人を見仰ぎ声上げる。


 祈る。
 疾く鋭く。
 あの天を裂く霹靂よりも。
 疾る一条の閃光となる、彼を導く刃をと。


◆“十代永海” 永海・鋭春作 斬魔鉄 純打
 飄嵐鉄鍔挿 刃渡一尺 迅輝瞬刀『開闢・煌』◆
 じんきしゅんとう『かいびゃく・きらめき』。
 永海・鋭春作、刃渡り一尺の短刀。朱色漆塗鞘、革片手巻柄、直刃、平造り。反りなし。
 ここ一年間のヨシュカの使用状況を鑑み、刃角――刃の角度を調節し、より強健に、長切れするように修正したほか、鍔を飄嵐鉄製のものに挿げ替え、属性が相反せぬよう調節してある。
 全飄嵐鉄製の刀には及ばないが、ヨシュカの身と刀身を一時的に極軽くし、限定的な短時間――現在のヨシュカの意志力では最大で五秒の間、移動・攻撃速度を閃光めいて加速することが可能。
 一度使用した後は、少なくとも発現した四倍の時間を空けねば再発動出来ないが、ここ一番での加速は恐らく、それまでの速度に慣れた敵を裂く、強力な刃となるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花盛・乙女

刀鍛冶の里か、賑やかでいいものだな。

さて、新造は論外だな。
未通の刀を戦場で育てるには時間が無いし、それほど私は器用じゃない。
強化か刀の受領かになるわけだ。
となれば…先ずは噂の妖刀を見せてもらいたいところだな。
気にかかるは穿鬼と嶽掻だ。
未熟の身なれど羅刹、怪力で握るだけで柄が壊れても敵わないからな。
試し切りをさせてもらうぞ。

さて、そのまま拝領できれば儲けものだがそうもいかないこともあるだろう。
その時は私の刀、【黒椿】と【乙女】の強化・補修をお願いしたい。
刀にこだわりはない性でな、別の地金が混ざっても構わん。
黒椿は文句をいうかもしれんが…まぁいいか。

この里の御為、羅刹女花盛乙女、推して参る。



●地の極み
「刀鍛冶の里か、賑やかでいいものだな」
 鎚音と威勢のいい声に、水焼き入れで蒸気爆ぜる音。活気満ち満ちた鍛冶場にまた一人足を踏み入れる猟兵の姿あり。
 彼女の名は、花盛・乙女(羅刹女・f00399)。美しくも凜とした顔立ち、長身に赤く鋭い目、絹糸のように踊る黒髪。男性ばかりでなく一部の女性も参ってしまうであろう秀麗な眉目で鍛冶場を見回しながら、乙女は隙のない動きで鍛冶師らに目を走らせる。
(新造は論外。未通の刀を戦場で育てるには時間が無いし、それほど私は器用じゃない。――ならば強化か刀の受領か、いずれかというところだろうが)
 受け取るにもその妖刀を見せて貰わねばなるまい。期待に満ちた顔で先に飛んだ猟兵達を見るに、恐らく鍛冶師らの腕は本物なのだろうが――それにしても素性の解らぬ刀をぽんと渡され、戦場で慣れよというのは、自分にはなかなかの難題だと乙女は認識している。
 手空きの鍛冶はいないかと探す乙女に、
「もし、そこのおめえさん、注文打ちかね」
 横合いから朴訥な声が掛かった。
 乙女がそちらを振り向けば、どん、と音の聞こえるほど、凄まじい隆起の筋肉が覗く作務衣の合わせが目に入る。
 視線をそのまま上に上げる、上げる、首が痛くなるほど上を見たところで、ようやく顔に行き当たる。身の丈七尺ばかりの大男だ。短く刈り込んだ髪に厳めしい顔つき。岩くれをつなぎ合わせて削り出したような、筋骨隆々の肉体をしている。
「――いや。噂となっている、七代永海・筆頭八本刀を見せて貰いに来た」
 乙女は半歩後ろに退いた。その男の間合いから己の身を外す。相手にその気がないと解っていこそすれ、己が郷里での教えは躰に染みこんで、殆ど反射的に彼女の脚を動かす。
 岩塊のような男は、後ろ頭をガシガシと掻き、「相済まねえ」と、歩み寄らずに足を止めた。己の凶相と容貌を知ってのことか。
「取って食いやしねえ。楽にしてくれ、ってこの顔で言って、おめえさんが楽に出来るか知らねえが。オレは当代地鳴鉄筆頭鍛冶、永海・荒金。七代様の作は、残るところ四振り。風刎、嶽掻、妖斬、穿鬼の四作だが、目当てがあるのかね?」
 飾りなく悪意も見えぬ声に、ほんの少しだけ警戒を緩めて、乙女は言葉を返す。
「……気になっているのは穿鬼と嶽掻だ。未熟なれどもこの身は羅刹、戦の中、怪力で柄が壊れたとあっては敵わない。故、試し切りをさせて貰いに来た」
「ふんむ。その角に剛力、羅刹と言えば鬼の一つ。なら、穿鬼は避けた方が良かろうなあ。あれは七代様が鍛えた鬼殺しの最高傑作。万一刃が自分を向けば致命の毒となろうよ。それにおめえさんには、恐らくだが、嶽掻のほうがよく似合っている」
 身を揺するように翻し、荒金と名乗った男は肩越しに乙女を振り返り、顎を決って、後に続くように促した。
「試斬場がある。場を設えよう。是非とも、試しに振ってみてくれ」
「……いいだろう」
 希望が殺到し受け取ることも出来ぬという展開もあると踏んでいた乙女は、まずは安堵しつつ、一間ほどの距離を空けて荒金の後ろに従う。
 ――これだけの猟兵達が集うほど著名な妖刀の価値たるやいかにと、かすか、胸を期待に躍らせながら。


 試斬場で握った、梨地、岩灰色の刃は、乙女の手の中で軋みを上げることなく踊り、訓練用の木人を数体一手に薙ぎ払って砕き斬った。
 折れてもらっては困ると浮かべた心配が杞憂と解る、圧倒的な剛性と重量。膂力がなくば真面に持ってもいられぬ扱いづらい刀だが、乙女の膂力を以てすれば、これほどまでに向いた武器もそうはない。


「――羅刹女、花盛・乙女。妖刀嶽掻を貰い受ける。この里の御為、護りの一人に名を連ねよう」
「おう。願わくばその刃が、おめえさんを阻む壁を砕く、無二の刃金となるように」


◆“七代永海” 永海・鐵剣作 地鳴鉄 純打
        刃渡二尺八寸 剛刃『嶽掻』◆
 ごうじん『たけがき』。
 七代永海・筆頭八本刀が三。
 極めて高純度の地鳴鉄で鍛刀された、二尺八寸の打刀。乱刃大丁字美しく身幅厚い。美観を重視する刀にあるまじき事に、岩灰色の肌は梨地に整えられており、まるで岩を削り出したかに見える。
 圧倒的に重く、その重量は同寸の打刀の倍程度。意念を注ぐことで重量をさらに増し、破壊力を向上できる。この重量変化は永続的ではないため、例えば敵に当たるときだけ重量を増す工夫をすることで、剣撃の威力を飛躍的に高めることが可能。
 刀と言うより打撃武器に近い。堅牢性を重視して刃角は大きく、斬ると言うよりそのインパクトで破砕するための刀。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
3
往くは御当主の御許へ。

いつぞ鍛座殿とは、只の己として膝突き合わせて頂いたものですが。
此度は一人の兵として。
御総代、鋭春殿に願い奉る。
鍛座殿に聞き及びし時より、これぞと。

刹鬼鉄製打刀、魔刃“穿鬼”
拝領仕りたく。

最早、剣士として在ろうとは思わない。
その心は変わらない。
けれど、それでも、
神槍の如き刀を望むのは…

兵で在る為に。
何より――生きる為に。
あの時とは異なる。論理では無く、
覚悟で以って。

意地も刃も捨て切れぬ儘、生きているから生きてゆく。
何とも半端と思って来た。
けれど、

今は己で、生きると、決めた。

業となろうと技は技。
使えるものは何でも使う。
足りぬなら補う。
望むのは…
一切を穿ち貫き、道を拓く為の力



●決意を胸に
 ――穿鬼の由来ですか。そうですな。
 ――あれは、我が王父、永海・鐵剣が時のあやかし狩りと協力して、『爪の鬼』を殺したとき、その爪牙を砕いて触媒とし打たれた『刹鬼鉄』の作でございます。
 ――爪の鬼とは、諸国の民を殺し脅かし、蹌々たるあやかし狩りを幾人も殺して喰らった、災厄の鬼。特殊な力を持つと謂われのある、あやかし狩りの血を呑んで、強力な力を得ておりました。
 ――その爪はまるで神槍のごとし。一度引いて突き出したなら、大木を、巨岩を、空気を捲いて穿ち抜く。まさしく、その爪を畏怖し、名も無きその鬼は『爪の鬼』と呼ばれるのに到ったのでございます。
 ――旅のあやかし狩りの一団、二十数名。そして我が王父と里に擁したあやかし狩り、総勢四〇名あまりの包囲を受け、ついに膝を付いた鬼より、王父は爪を、牙を奪い、血と涙を流す鬼に云ったといいます。

『怨まば怨め。我らが技に呑まれたその身を』

 ――死したる鬼の呪詛が強ければ強いほど、遺物を素材として作られる刹鬼鉄は強力となります。斯くて王父を呪う言葉を撒き散らしながら死んだ『爪の鬼』の爪牙は、かつてない呪いを秘めたまま地金に鋳込められ――
 ――人の手にあって穿てぬ鬼なし。刃銘、『穿鬼』を冠せられることとなったのです。


 一年と四月前に聞かされたあの時のエピソードを思い出す。
 思い出しながらも、脚は真っ直ぐに鍛冶場へ。
 永海・鍛座への挨拶は先だって済ませた。全ては鋭春に任せるとの彼の言葉に従い、男は鍛冶場の戸口を潜る。
 鎚打つ音も、熱気も怒号も、今は耳に入らない。
 男――クロト・ラトキエ(TTX・f00472)の目に映るのは只一人。
 手拭いを頭に巻いた長身の男。“十代永海”、永海・鋭春その人のみである。
「御総代――鋭春殿に願い奉る」
 ざ、と足を止め、真っ向鋭春に向き合うクロト。只ならぬ空気に思わず鋭春も身体の向きを変え、クロトと正対する。混ぜ返すこともなく、応ずる声は静か。
「聞こう」
「――我が名はクロト・ラトキエ。最早剣士として在ることを捨てた、一介の猟兵です。しかし、剣士として在ろうと思わねど、――」
 言葉を切る。
 クロトは闘ってきた。数々の世界を転戦し、走り続けた。剣士としての自分が失せようと、世界が必要とする力として在れることを知った。
 故にこそ。
「――兵で在る為に。何より、生きるために。一年余前、鍛座殿より聞き及んだ名を、今手に取りに参上しました」
 神妙な顔つきの鋭春に、クロトは畳みかけるように願いを口にした。
「鋭きこと神槍の如く、刹鬼鉄製打刀、魔刃“穿鬼”。拝領仕りたく。是か、非か」
 論理ではなく、覚悟で以て選び抜く。
 意地も刃も捨て切れぬ儘、生きているから生きてゆく。それを不徳と、何とも半端と思って来た。
 けれど、――決めたのだ。

 今は己で、生きると、決めた。

 業となろうと技は技。使えるものは何でも使う。
 今の己に足りぬなら、力を以て補おう。
 我が望むは、一切を穿ち貫き、道を拓く為の力也。

 鎚音さえ静まり、鍛冶場を奇妙な沈黙が包む。
 静寂が破れるまでは果てなく長く、けれど最初に動いた、刃金の目をしたその男が、
 一年越しの忘れ物を、微か笑って。

「否や無し。――十代永海の名に於いて、刹鬼の刃をあんたに託す」

 今まさに――クロトの手元に届けたのであった。


◆“七代永海” 永海・鐵剣作 刹鬼鉄 純打
        刃渡二尺六寸 魔刃『穿鬼』◆
 まじん『せんき』。
 七代永海・筆頭八本刀が五。
 鎬は真鍮めいた色合いの地金が美しいが、平は黒染めとなっている。刃渡り二尺六寸、直刃。切っ先鋭い。
 史上最悪のあやかし狩り一五〇余人殺し、『爪の鬼』と呼ばれる災厄めいた鬼から奪った爪牙を用いて鐵剣が鍛刀した、『貫くこと』と『鬼を殺すこと』に特化した刃。
 切れ味については(高水準ではあるものの)平凡だが、意念を込めて突いた際には、『爪の鬼』が振るったのと同じ、抉り穿つような衝撃波が発生し、突きの軌道上にあるものを意念の強さに応じて穿ち貫く。刀が物理的に届かぬ位置だろうと、然るべき意念の強さがあるならば、遠方の敵すら穿つだろう。
 鬼に対して圧倒的な殺傷能力を持つのは他の刹鬼鉄製の刀同様。

『――いつかきっと、お手に取られるものと思っておりました』
『長生きはするものですな。――そのやいばが、貴方様の道行きを穿ち拓きますように』

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
◎【1】/★レグルス

(ザザッ)
そうか、ここが"閃煌"の生まれの地か。
守る為にも今は戦に備えるとしようか。

(ザザッ)
――機械剣、銘は「剣狼」。
とある騎士の名を継いで造られた一振りだ。
これを強化して貰いたい。
形なきものを斬れる地金、光の斬撃を飛ばす地金があると聞く。強化素材として相応しいのはその辺りかと考慮するが――仔細は本業に任せたい。

君達が不得手とする機械系等の整備・加工・改造は本機ともう一名が補佐する。コレの製作者本人、白髪の妖精が此方に来ている筈だ。

思い入れのある一振りだ。
宜しく頼む。(ザザッ)

【依頼内容】
「剣狼」に相応しいと思う強化・改良を任意で
形状・追加銘含め全面的にお任せ


ロク・ザイオン
◎【1】レグルス

頑鉄。
(迷わず頼るのは、無論、閃煌の親たるキミだ)
こっちは、おれの相棒。
鎧。な。かっけー。
…ジャックのことも、頼む。

おれは、閃煌を頼みたい。
(ともに幾つもの修羅場を潜った二つめの牙
とても大事にしているのだが、その分酷使もしている
痛みも傷も積もっただろう)
(研ぎはちょっと上手くなった)

(刃の熱と鋭さに、不満を抱いたことはないけれど)
頑鉄。閃煌はもっと強くなるかい?
(この剣鉈の可能性を一番理解しているのはキミだ
だから、託しに来た)
…どんなになっても使いこなすよ。
頑鉄が得意なことを、してくれたらいい。
(そのままで完成形、とキミが言うなら
勿論、それだっていいのだ)

※全面的にお任せします



●星を掴む
 ――ザッ。
『そうか、ここが"閃煌"の生まれの地か』
「ああ。おれたちが護った里だ。……そして、これからもう一度護る場所」
『無論だ。守る為にも今は戦に備えるとしよう』
「うん」
 斯くして、レグルスが永海に降り立つ。
 ロク・ザイオン(月と花束・f01377)とジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)は、遠く鳴る鎚音を辿り、ゆっくりと歩き出す。


「頑鉄」
 鎚音響く鍛冶場の中で、名を呼ばわる声を聞いたように、永海・頑鉄が振り返る。
 懐かしい顔を見たように、頑鉄の瞳が笑い皺に埋もれた。
「おお――おお、ロクの嬢ちゃん。一年ぶりだの。元気そうで何よりじゃ」
 壮年とはいえ、躰の筋肉は一切の衰えを知らず、ロクの腰回りほどありそうな腕も一年前のままだ。喜色に満ち満ちた頑鉄の笑みを見て、ロクもまた笑う。
「うん。頑鉄も。変わりないみたいだ。なにより」
 一年前よりもなめらかな微笑み。
 ――ああ、他に鍛冶師など山といる、筆頭鍛冶もごろごろいるし、十代永海を襲名したばかりの鍛冶総代、永海・鋭春から話を聞くことも可能だった。しかし、ロクはそうしない。
 ロクにとって、永海の里で最初に頼るべきは、己が刃を打ったこの男――永海・頑鉄を措いてほかにない。
「頑鉄が刀を打たなくなるのは想像できないけど。ちゃんといてくれて、よかった」
「おうとも。儂はあと十年は現役を張るつもりでいるからの。……ところでそちらは?」
 首を巡らせて頑鉄が、ロクに並び立つもう一人を向き直った。――ザザッ。ノイズ。ロクの傍らの豹鎧の男が、顔の赤い面覆い――バイザーを光らせる。
「こっちは、おれの相棒」
『ジャガーノート・ジャックという。よろしく頼む』
「じゃがーのーと。……何やら恐ろしげな、力強い響きだの。じゃがしかし、その精悍な鎧に似つかわしい名でもある」
「鎧、な。かっけー」
「うむ」
『……』
 茶々を入れ訳知り顔で頷くロク。孫娘を見る目でうむうむ頷く頑鉄。首を捻りながら己が電脳体を見下ろすジャガーノート。
 なんともちぐはぐな三人だったが、ひとしきり談笑して「さて、」と頑鉄が表情を引き締めれば、漂う空気もぴりりと張り詰める。
「挨拶はそこそこにじゃ。他の猟兵どのらと同じで、装備の補修か強化に来たという所かと見受けるが。どのような用向きかの?」
「うん。おれも、ジャックも、その相談に来たんだ。おれは、閃煌を。ジャックは――」
 ロクの言を継ぐように、ジャガーノートが手にした
『――この機械剣。銘を、「剣狼」という。これに、強化を加えたい。可能だろうか』
「それが金物で、どんなことわりで動くのかさえ知れりゃあな。……そうさな、閃煌は儂が預かる。そっちの……剣は、十代目に持って行くといい。儂にゃいまいち見当が付かんが、話を聞かせれば、恐らく何がいいものか答えを出してくれようとも」
 あやつは鼻がいいからの、と笑い、頑鉄が声を上げた。
「おうい十代目! 新たな客だぞ!」
「応さ!」
 調度他の猟兵からの話を聞き終え、額に手拭いした長身の男が男が小走りに駆け来る。
 ロクとジャガーノートは互いに目配せを一つ、頷きを一つ。
 それぞれの、鍛冶との対話が始まった。


 烙印刀に続く二つめの牙として、ロクとともに幾つもの修羅場を潜った『閃煌』。
 いかにそれが過酷な戦いを潜り抜けたか。そして、いかに大事にロクが手を掛けて手入れをしてきたか――頑鉄は、刀身を眺め、まるで見てきたかのように言った。
「――言葉もない。よう生きて帰ったな、ロク。儂ゃあ、本当にそれが、嬉しい。我が子がお前さんを護った事を誇りに思う」
 傷も痛みも全て合わせ、誇らしげに鈍く光る紅き刃を、頑鉄の太く丸い指先が摩った。
 それに、と、刃先に指を添え、刃に対し指を直角に動かす。指紋に引っかかる刃先を確認して、にっこりと笑う頑鉄。
「研ぎも上手くなったのう。これならいつでも研ぎ師としてやっていけよう」
「へへ」
 唇を緩め、笑うロク。――これが戦後なら、そのまま他愛ない話を出来たろうが、しかし今この平穏は仮初めの物。それを知っているからこそ、すぐに表情を引き締める。
「頑鉄。閃煌はもっと強くなるかい?」
「……そうさな」
 頑鉄は眩しそうに、緋色をした山猫を見た。一年前とは体つきが違う。つぶさに見れば解る。筋肉のバランスと量、そして質が変わっている。生物は修羅場を潜れば、死なずに済む路を探すものだ。死を回避する生存本能が鎚となり、戦士という刃を鍛え続ける。
「一年と四月前ならば、閃煌はロク、お前さんの最良の友だったろう。……だが今は、閃煌の限界をお前さんが超えている。刃一つとっても、まだ長く出来る。そして、儂の技量もまた閃煌を打ったときとは違う。お前さんが駆け続けた一年四月、儂とて只立ち止まっていた訳も無い」
 ぐ、と頑鉄は閃煌の柄を握りしめた。
「打ち直そう。今ならば視える筈だ。お前さんのためのさらに強い刃の姿が」
「――ああ。どんなになっても使いこなすよ。頑鉄が得意なことを、してくれたらいい」
「応ともよ! さあ、試斬場へ行こう。お前さんのわざを、この老いぼれの目にとくと焼き付けねば!」
「うん。……征こう、頑鉄」
 ロクが突き出した小さな拳に、こつ、と、頑鉄の大きな拳が重なった。


 機械剣『剣狼』。天体の獣を覆う鋼殻より生み出された破邪の機顎。かつて闇蔓延る世界で運命に抗った、『哀色の牙』の名を持つ騎士を忘れぬ為の楔。
『とある騎士の名を継いで作られた一振りだ。名は――』
「聞こえていた。剣狼、というのだろう。内部の仕組みはどうあれ、秘めた力のほどは解る。おおよそ刀剣には見えんが――『これは』『斬るためにある』と。そう匂う」
 鋭春は極めて主観的で、共感性に欠ける言葉で言った。ジャガーノートのバイザーが僅かに明滅する。
『解るのか』
 サムライエンパイアの文明レベルでは、剣狼を見たところで使い方も、それが『けん』であるという認識さえ出来ないだろう。それが正常なはずだ。
 だが鋭春は迷いなく、駆動部を改めるように手を這わせ、鋼の瞳を緩く絞る。
「ああ。どう動かすかは皆目見当が付かんが。しかし手の付け所は解る。動かしたとき、敵を斬る部分だ」
 鋭春は機械剣より目を上げ、ジャガーノートに視線を移した。
「機構を教えて貰えるか?」
『了解した。機械系統の整備・加工・改造は本機ともう一名が補佐する。コレの製作者本人、白い妖精がこちらに来ているはずだ。後ほど声を掛けよう』
「忝い。――強化の方針は決まっているか」
『形なきものを斬れる地金、光の斬撃を飛ばす地金があると聞く。強化素材として相応しいのはその辺りかと考慮するが――仔細は本業に任せたい』
 ジャガーノートの実直な言葉に、ふ、と鋭春が笑う。
「あんたのような、超常のもののふに頼られることになろうとは、おれの鍛冶人生もわからんものだ。想像したこともなかった。――だが、やりがいがある。必ずや、あんたに相応しいものを作ってみせよう」
『ああ。思い入れのある一振りだ。矜恃とありようを鮮烈に見せつけた、闇に沈んだ騎士の名。それを継いだのだから――』
 ジャックは思い出すように、機械剣の筐体に目を落とし、しばし沈思。
 二呼吸ほどの間を置いて、鋭春へ向き直る。
『君に託す。宜しく頼む』
「拝命した。全力を尽くそう」


 レグルスは待つ。
 真っ赤に燃え、光に猛る、一等星の輝きを。


◆永海・頑鉄作 緋迅鉄 純打
 刃渡一尺六寸 悪禍裂焦『閃煌・烙』◆
 あっかれっしょう『せんこう・ろく』。
 極めて高純度の緋迅鉄を用いて鍛えられた剣鉈。元となった閃煌の刃を一度炉で溶かし、多量の火妖の血と必要元素を添加して再度緋迅鉄として精錬するという、言うなれば二度打ちのような芸当の果てに完成した。
 狩猟用剣鉈のほとんどは長くとも一寸ほどの長さである場合が多いが、その実に一・五倍強の刀身長を持つ。また重量もあり極めて頑健。
 ロクが現在振るえる限界筋力で扱えば、その破壊力は今までのそれとは比べものにならない。また、発する熱の総量もまた、過去よりも格段に向上している。
 閃煌の銘は刀身下部に。『烙』の一文字は、柄尻に焼き印めいて、鏡写しに刻まれている。

 罪人を灼く、それが森番の証である。


◆永海・鋭春改作 烈光鉄仕込
  機械剣 追憶昇華『剣狼・轟』◆
 ついおくしょうか『けんろう・とどろき』。
 ケンタッキー・マクドナルドが作成した機械剣・剣狼は機構展開を経て極光を出力する、言うなればプラズマ・ブレードの一種である。
 その内部のエネルギーサーキット及びエネルギーバスに烈光鉄製の部品を組み込み、出力口となるパーツを烈光鉄で鍛造成型したものに換装した改修後の姿。
 ジェネレータより生み出されるエネルギーを烈光鉄の光出力を利用して増幅・加速。超高速に収斂された極光に、ジャガーノートの『意思』を乗せ、彼方を断つ――今までの威力を上回る虹の一撃、『極閃』を放つ事を可能とする。

 それは願いを遂げて闇へと消えた騎士の剣――哀色の牙。
 彼が帰ることはないが、彼の残した咆哮は、消えず轟き続けるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

辻風・舞

2.装備を新造する
ほほう、刀鍛冶の里とな
丁度鎌がダメになったところゆえちょうど良い
やはりホームセンターの鎌で辻斬りは無理があるのよ
ここらでひとつ誂えて貰おうかのう!

わしは辻風舞と申す、これはからくりの踏
わしとわしの可愛いからくり人形とで揃いの武器が欲しいのじゃ

わしのは軽くてよう切れるものを頼む
風の力などつけられると尚よいのじゃが

人形に持たせるものは頑丈で壊れにくいのがよい
中にも武器を仕込んでおるが、それらは飛び道具ゆえ脆いのよ
ずうと使える武器も与えておかねば
いざという時にはわしも使えるしのう

双方銘も形もおまかせじゃ!



●辻斬小町が新たに抜くは
 纏った護符装束をひらひらはためかせ、往来を妙齢の女が行く。
 見目だけならば麗しい、しかし問題は独り言つその内容である。
「よりにもよって刀鍛冶の里とな、渡りに船とはまさにこのことよ。ちょうど鎌が駄目になったところゆえな! やはりホームセンターの鎌で辻斬りは無理があるというもの。ここらで一つ誂えて貰おうかのう!」
 いやお前そんなので辻斬りしてたのかよ、というか辻斬り常習犯かよ、という話については、突っ込みを入れる猟兵がいないことで見事にスルーされた。平和が保たれた。
 意気揚々と永海の里を歩くその猟兵は知るものぞ知る、一時期幽世の外れを騒がせた辻斬鎌鼬。
 名を、辻風・舞(辻斬小町・f28175)という。
「さあてわしの目に叶うような刀はあろうかのう? 仮にも妖刀鍛冶を謳うのだから、あって貰わねば困るがな!」
 糸操りのからくり人形『踏』をからからと伴って、舞は悠然と、鎚音響く鍛冶場に向けて歩いて行く。


 着いた鍛冶場は人でごった返し、あちらでもこちらでも注文と鎚音、刀を水で冷やす音、鞴の吹く音に火の爆ぜる音が満ち満ちて、朝の市もかくやという喧噪であった。むうと一瞬気圧されるも、戸口で立ち止まりおろおろとしていてはいつまでたっても武器にはありつけない。
「頼もう。わしは辻風舞と申す、これはからくりの踏。わしとわしの可愛いからくり人形とで、揃いの武器が欲しいのじゃ。我ぞという鍛冶はおらんかの!」
 舞は大声で声を掛けながら戸口を潜り、鍛冶場に入った。
「誰か――」
 と、重ねて呼ばわろうとしたその刹那。
 ずん、と舞の前の地面が揺れた。影が落ちる。反射的に見上げれば、身の丈七尺――二一〇センチメートルに迫る大男が、舞の行く手に進み出ていた。
「聞こえてるとも。おめえさんも注文打ちか?」
 短く刈った黒髪に、石塊を繋げて形作ったような身体。声は穏やかそのものだが、筋骨隆々。携えた鍛冶鎚は辺りに立てかけてあるものの二回りは大きい。只ならぬ圧を帯びた刀鍛冶だ。
「驚かすでないわっ。……見上げた巨軀じゃのう、おぬしも鍛冶なのか?」
「おう。オレは地鳴鉄筆頭鍛冶、永海・荒金(あらがね)。辻風どのと言ったな。どのような刀を探している?」
「刀――そうさな。お揃いの形ならどのようなものでもいい。ただ、わしには軽くてよう斬れるものを。人形――踏に持たせるものは頑丈で壊れにくいものがよいな。この人形、中に武器は仕込んであれど、それらは飛び道具ゆえ脆いし、尽きれば終わり。ずうと使える武器も与えておかねば、と思うての」
「ふむ。頑丈で壊れにくいとくれば、オレの得意だ。地鳴鉄で打った刀は絶対に折れず、意念を込めればその重さを増し、重量から生まれる圧倒的な威力で敵を叩き潰す。――しかし、軽く鋭い刃とくればまた別の鍛冶を呼んだほうがいいものができるだろう。――銀翔! いるか!」
 呼ばわられれば、ごたつく鍛冶場の人混みを縫い、そよ風のように、ひょろりと背の高い男が顔を出した。年の頃二〇代半ば、銀髪を一つに結った男だ。
「はいよっと……いやァ、千客万来だねぇ荒金どの。そっちの美人さんも作刀かい?」
「重そうな男の次は軽そうな男が来るのか。その体つきでは鎚に振られそうじゃが?」
 皮肉をぶつけた舞に、男は軽く片目を閉じて間髪入れずに言葉を返す。
「どっこい、これでも異例の速さで筆頭鍛冶入りしてるんだな。刀は筋肉で打つもんじゃねぇってね。――俺は飄嵐鉄筆頭鍛冶、永海・銀翔だ。よろしく頼むよ。……ま、人それぞれやり方はあるんだよ。荒金どのなんて絶対ェ筋肉で打ってるし」
「筋肉は裏切らんからな。……さておき、銀翔、軽くてよく斬れる刀が欲しいってえことだ。こいつはおめえさんの得手だろう」
「欲を言うなら風の力などつけられると尚よいのじゃが」
 注文を引き継ぐ荒金に被せるように舞の言葉が混じる。「了ー解了ー解」と、肩の高さに上げた手をひらひらはためかせ、ひょいと肩を竦める銀翔。
「ま、そんじゃ一本打ちますか。拵えは?」
「揃えろ、ということだ。オレは重、おめえさんは軽、と」
「はいよ。――お嬢さん、注文通りに打てたなら、少しはやるって認めてくれよな」
「考えておこう」
 ふふんとふんぞり返って、舞は片目を閉じてみせた。二人の職人は笑いを返し、軽い会釈をして、それぞれの仕事に取りかかる。


 数日して、舞が泊まる宿場の部屋に、一対の刀が届くのであった。


◆永海・銀翔/荒金作 飄嵐鉄/地鳴鉄 純打
  刃渡二尺三寸五分 相克双刀『疾空』『岩裂』◆
 そうこくそうとう『しっくう』『いわさき』。
 飄嵐鉄により鍛刀され、軽く、よく斬れ、さらに、意念を込めることで己の動きを加速する力を備える『疾空』。
 地鳴鉄により鍛刀され、重く、曲がらず折れず、さらに、意念を込めることで果てなく重くなる力を備える『岩裂』。
 双方二尺六寸の打刀で、疾空は翠銀の、岩裂は褐銀の肌を持つ。
 色味、力の他の要素は、細部の飾りに到るまで全く同じの、言うならば兄弟刀である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
【絶刀】ヒバリさん/f15821

いずれ里帰りには行かせてやるつもりでしたから、丁度良かったですね。
青葉の季節もよいものです。

●行動
1.『雷花』の手入れを依頼

折角ですから『雷花』の生みの親のお弟子さんに診てもらいます。
オレも都度調整をしていますが、本職の方には及ばないでしょうから。
というわけで、斬魔鉄の方。よろしくお願いします。
ご結婚されたそうで。気持ちばかりですがお納めください。
こちらは相変わらずです。よい刀ですよ。

そういえばヒバリさんはやってもらわなくていいんですか。
『鸙野』の調整。折角ですし行ってみたらどうです?
…ヤドリガミ的には整体とか按摩とか、そういう感覚になるんでしょうか。


鸙野・灰二
【絶刀】夕立/f14904

嗚呼、そうだな。
あの時は春だッたか。また此処で戦をすることになるとは思わなんだ。

【行動】
1.『斬丸』『忘花』の調整・強化、『鸙野』の調整

以前にも世話になッた永海鋭春殿に『斬丸』『忘花』の調整を頼みたい。
戦いの度毎に手入れをしていたが俺では至らぬ処があるだろう。
本職の、斬魔鉄の扱いに慣れた者に頼めるのは里帰りの時くらいだ。
今でもよく切れる刃だが、近く起こる戦には万全の状態で出してやりたいンでな。

『鸙野』の調整? ……全く考えていなかッた。
成程、良い刀鍛冶に本体を調整して貰えば、この体にも良い影響が出るかも知れん。
行ッてみるとしよう。

この刀――『鸙野』も、調整を頼めるか。



●兄弟杯
 先遣の猟兵らの注文が飛び交う頃、遅れて天に開いた“門”より、二人の男が飛び降りた。危なげなく着地し、ゆるりとした歩調で鍛冶場へと歩く。
 片や黒髪、緋色の目に眼鏡をした、どこか酷薄な印象を与える美少年。片や鋼色の長髪をして、刀引ッ提げ堂々歩く、翠の目をした荒くれ偉丈夫。
 色彩背丈顔つき体格、ただの一つも共通点がない。しかして彼らが揃うなら、その組み合わせはある一語で示される。
 絶ちたる刀。字して『絶刀』。
 木立より、はらり落ち来る緑の葉に、「嗚呼、」と、益荒男が息を漏らした。虚空に目を向け思い出すように。ここに来るのは初めてではない。――前は、桜の季節だった。鸙野・灰二(宿り我身・f15821)は、行く道の脇に埋まった桜の木に焦点を絞り、目を細める。
「あの時は未だ春だッたか。またここで戦をすることになるとは思わなんだ」
「ま、いずれ里帰りには行かせてやるつもりでしたから、丁度良かったですね。青葉の季節もよいものです」
 緋色の目も、端正な顔の表情も、露とも動かさず、矢来・夕立(影・f14904)が応えた。
「嗚呼、そうだな。――それに月がありゃア、それだけだろうと酒が飲めるだろう。不埒者どもには、とッとと退場願うとしようや」
「ですね。せっかく一度護ったのに、ここで潰されちゃ業腹です。――さて、見えてきましたね」
 鎚音が近づいてくる。二人の歩く先に、熱と活気と鎚音で、ごうごうきんきんとざわめく鍛冶場が見えてくる。
「行きましょうか、ヒバリさん。どうせ目当ては同じ。違います?」
「応。俺達の刀は斬魔鉄。なら自明ッて所だろう。行こうか、鋭春殿に会いにな」
 示し合わせたわけでもなく、二人の歩幅と歩調が増す。絶刀の後ろ姿が、そのまま鍛冶場に吸い込まれていく。


「無事だったか、ご両人。――なんとなく、来てくれるような気はしていたが」
 鍛冶場の中。一年と四月ぶりに相見え、永海・鋭春は、鋼の目を和ませて灰二と夕立を迎えた。
「おう。丁度、そろそろ調整を頼みたいと思ッていたところだったしな。今回も世話になる、鋭春殿」
 鷹揚に頷く灰二の横で、そつなく、夕立が礼をする。
「どうも、斬魔鉄筆頭――いえ、今は、“十代永海”を襲名されたんでしたね。それにご結婚されたそうで。おめでとうございます」
 気持ちばかりですがお納めください、と祝儀を包んだ封筒を手渡す夕立に、鋭春ばかりではなく灰二まで目を丸くした。
「耳が早いな、矢来どの。……こういう場合は有難く受け取るのが善し、か」
「そういうことです。遠慮なさらず」
「おい、おいおい、そンな目出度い慶事があったとは聞いてないぞ。俺も何か包んでくるべきだッたか――」
 ざんばらの銀糸に手を差し入れ頭を掻く灰二に「いや、気にされるな、鸙野どの」と鋭春がくすぐったげに笑って返す。
「あんた達が、永海のこどもを持って無事にまたこの里を訪れてくれたこと――またも危機に瀕した我が郷里を助けに来てくれたこと、これだけで十二分の土産、望外の幸福だ」
 笑ったまま一礼して、鋭春は出し抜けに表情を引き締めた。そう。笑ってばかりもいられない。
「……さて、積もる話をしたいところだが、生憎余裕がないのが本当のところだ。今回の注文を聞こう」
 敵はすぐそこに迫っている。五日のうちに襲い来るとなれば、里が総出で鍛刀しているとはいえ、決して余裕があるわけではない。
「嗚呼、俺から二振り。『斬丸』と――新顔だが、『忘花』を、調整と――余地があるなら強化してやってほしい」
 灰二は大小二振りの刀を受付台に置く。忘花を見た鋭春が、鼻を鳴らし、僅かながら目を瞠る。
「……これはもしや、陰打ちか?」
「ご明察。『雷花』の陰打ちです。姉刀といったところですかね」
 夕立が代わりと言ったように応える。何せそれは夕立が某所某日、真打ちたる雷花と共に掻っ払い――もとい、調達した刃なのだから。言いながら、夕立もまた受付台に一刀を置いた。
「で、オレからはその雷花の調整と強化を。オレも都度調整はしていますが、本職の方には及ばないでしょうから」
 夕立の言葉に灰二もまた頷く。
「ああ。そうさな、手入れを欠かしたつもりはないが、俺達では至らぬ処があるだろう。斬魔鉄の扱いに慣れた者など、三千世界にここを措いて無い。近々起こる大一番には、万全の状態で出してやりたいンでな。此度はどうか、よろしく頼む」
「承知した。身命を懸けて承る。――他にはないか?」
「ああ、特には――」
 灰二が頷いて是を唱えんとした矢先、「そういえば」、と出し抜けに夕立が言葉の流れを切った。
「ヒバリさんはやってもらわなくていいんですか」
「何をだ?」
「だから、調整をですよ。『鸙野』の」
 夕立の言に、虚を衝かれたような顔をする灰二。鋭春がやりとりに探るように目を向ける中、夕立が続けた。
「折角ですし行ってみたらどうです? 技術に疑いはないでしょうし。ヤドリガミ的には整体とか按摩とか、そういう感覚になるんでしょうか、いや知りませんけど」
「……全く考えていなかッた。成程、良い刀鍛冶に本体を調整して貰えば、この体にも良い影響が出るかも知れん。行ッてみるとしよう」
 すうと灰二は腰に差したもう一刀を鞘ごと抜き、ごとり、と作業台に置いた。
「これも頼めるか、鋭春殿。銘を、『鸙野』という」
「――鸙野どのと同じ名か。四方や、あんたももしや、刀のあやかしだと?」
「忘花の件といい察しがいいですね。……もしかして、他にもそういう猟兵が来ました?」
 問いを挟む夕立に鋭春は頷く。
「今さっき、目の前で剣に化けられて肝を潰したところだ。――そうか、そうか。鸙野どのの名を負うならば、それこそ半端は出来んな」
 額に巻いた手拭いを締め直し、刃のいろした目を光らせて、鋭春は一つ息を吸った。
「拝命した。これら四刀、十代永海の名に懸けて、最上の形で仕上げよう。――暫時、宿で待ってくれ」


 決然と言った鋭春の全霊を以て、それら四刀は鍛え上げられた。
 研ぎ上げられ研ぎ澄まされ、目釘を直され、組紐を巻き直し。
 前以上の状態であることは自明となった四刀のうち、忘花を除く三刀の許容量を見極め、鋭春は己の秘技の奥能を奮う。


◆“七代永海” 永海・鐵剣作
 ――“十代永海” 永海・鋭春改作 斬魔鉄 純打
  返し斬魔含 刃渡二尺八寸 修羅鋭刃『斬丸・絶』◆
 しゅらえいじん『きりまる・ぜつ』。
 七代永海・筆頭八本刀が一。
 刀身長二尺八寸の打刀。黒漆鞘、黒革巻柄。乱刃、小丁字。
 良く詰んだ肌は冴えた銀だが、以前よりやや暗い輝きを帯びたように見える。
 斬魔鉄に更にあやかしの血を込める至難技術『返し斬魔含』(かえしざんまぶくめ)を施した逸品。仮に含められる限界量を超えた場合、その斬魔鉄はたちどころに瓦解し、あやかしの力は霧散してしまうという。
 刀の匂いが分かると口にする鋭春が、ほとんど第六感めいてその限界を見極め、近年狩られた最大の妖異の血を最大限に含めた、斬丸の新たなる姿。
 斬魔鉄の理想を体現した刀。折れず、曲がらず、よく斬れ、軽く、硬い。
 玉鋼の刀を、まるで羊羹でも斬るように断ち切る、魔的な切れ味を持つ。
 永海・鐵剣が斬丸を打ったとき、斬丸は許容限界の血を含んでいたはず。だからこその筆頭八本刀だ。しかし、今、更に含めることが出来たのは――あの八刀・八束が。そして、鸙野・灰二が、斬丸を振るい、数々を斬り、育てて妖刀としての格を練り上げた為なのではないか、と鋭春は推察している。

『なあ――おい、おい、たまらねえなあ!
 早く、早く行こうぜ、兄弟!!
 敵はどこだよ、なあ、早く斬らせろよう!!』


◆“宿り我身” 鸙野・灰二 真体
 ――“十代永海” 永海・鋭春改作
   斬魔含 修羅閃刀『鸙野・絶』◆
 しゅらせんとう『ひばりの・ぜつ』。
 鍛刀より一〇〇余年を経て自我を持ち、存在意義を果たすべく動き出した刀のヤドリガミ、鸙野・灰二の本体である『鸙野』に、鋭春が斬魔含を施した後の姿。
 刀としての姿形は元の鸙野と全く変化ないが、その性能は以前より更に向上している。
 ヤドリガミとして覚醒したとは言え、七代永海・筆頭八本刀と正面より打ち合って四方や折れずに戦い抜いた『鸙野』に、斬魔鉄製の刀としての靱性、硬度が上乗せされており、その威力たるや壮絶である。強化された斬丸同様、凡百の打刀をまるで紙でも裂くように引き裂く魔性の刃を持つ。

『文字通り、血を分けた――ッてわけか。
 いいだろう。征くとするか、斬丸よ』


◆永海・鉄観作
 ――“十代永海” 永海・鋭春改作 斬魔鉄 純打
  返し斬魔含 飄嵐鉄鍔挿 迅雷華絶『雷花・旋』◆
 じんらいかぜつ『かみなりばな・つむじ』。
 斬魔鉄製の脇指。朱革巻柄、朱漆塗鞘。匂に朱が混じる美しい刀身。
 六四という長い刀齢と、矢来・夕立が数々の敵を屠り、愛用し続けた結果、妖刀としての格が上がったと見え、広がった許容限界の分だけ妖異の血を追加で込める『返し斬魔含』が可能となっている事を見抜いた鋭春により、同術を施された。
 施術に用いられた血は、鸙野、斬丸が呑んだものと同一のものである。
 刀身の朱が赫と言っていいほどに濃くなり、夕立の意念に呼応して淡く輝く。
 靱性、硬度が飛躍的に向上しているほか、鍔を飄嵐鉄製に改めてある。五秒ほどの短時間に限定される上、精神力を消耗するが、夕立の意念に応じて、彼自身の移動・攻撃速度を増幅する事が出来る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
4:本体の研ぎ直し

ほほう、ここが永海の里。
お噂はかねがね伺っておりましたが良い土地ですね。
土と水、槌と鋼がどれもいい響きを伴っていて…
なるほど、良い刀が生まれる訳です。

さて、こちらにヤドリガミの刀を扱える研師はおられます?
六百と十八の年月を数えて現在進行形で実戦に用いられる太刀ですが。
なかなか酷使しているので手入れをお願いしたく。

……ええ、承知してますよ。
研ぎが重なる程刀の寿命は減ることくらい。
それでも整備のなっていないものを振り回すよりましでしょう?

この刀が、正しく刃生を全うできるよう。
今を生きる人々を守る為に振るえるよう。
わたくしを──『結ノ太刀』を、よろしくお願いいたします。



●戦化粧
 山間にあって風清く、夏の終わりの鈴虫の声が流れていく。
 近くを流れる川もまた清涼で、町中に水車で引いた水の流れる音が、ちょっとしたBGMのようだ。
 遠鳴りに鎚と鋼の音。職人達の声と、活気。
「ほほう、ここが永海の里――お噂はかねがね伺っておりましたが良い土地ですね。土と水、槌と鋼がどれもいい響きを伴っていて……なるほど、良い刀が生まれる訳です」
 独り言ちながら歩くのは穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)。
 ヤドリガミという、器物が自我とかりそめの身体を得た種の猟兵がある。その中でも、彼女は本体を太刀とするものだ。年頃の、可憐な少女の容貌をしているが、刀齢を数えれば数百を余裕で上回るほどの神刀である。これと比べてしまえば、七代永海・筆頭八本刀すら、いまだ子供にすぎぬというほどだ。
「振るう刃は己のもので充分。でしたら、ここはお色直しにお力添え頂くとしましょうか」
 神楽耶は鍛冶場に併設された補修工房へと真っ直ぐに向かう。ほとんどの猟兵は鍛冶場の受付で鍛冶を捕まえ、注文をつけていたが――妖刀地金を使う仕事をするでもなく、新たな刃を鍛造る訳でもないなら、初めから適所に行った方が鍛冶の仕事も減るだろう。
 補修工房の戸を潜れば、受付に眼鏡をした男が一人。柔和な顔立ちに細身の、未だ少年の面影を残した男である。
「おや。その美しい着物、見事な拵えの太刀。もしや猟兵様ですか。こちらは補修工房となります、新たな刀がご入り用のようでしたら、隣にございます鍛冶場にて、我らが筆頭鍛冶が鎚を振るっております故――そちらへ行かれるのがよろしいかと存じますが」
 丁寧な案内の声に、神楽耶は胸元に手を当ててそっと頭を下げた。
「はい。猟兵、穂結・神楽耶と申します。此度は新たな刀を求めて来たわけではないのです。――お願いしたいのはまさにその補修。こちらに、ヤドリガミの刀を扱える研師はおられます? 六百と十八の年月を数えて現在進行形で実戦に用いられる太刀ですが――なかなか酷使しているので手入れをお願いしたく」
 眼鏡の男が首を捻る。
「……なんと、六〇〇年とは。恐ろしいほどの古刀ですね。して、宿り神、ですか?」
「ええ。生まれ使われ百年を過ごした器物が、かりそめの身体を得て動き出したもの。分かりやすく言うのなら、人の姿を得た付喪神とでも言いましょうか」
 神楽耶は迷い無く踏み出し、眼鏡の男の前に、受付卓を挟んで立った。席に着いていた眼鏡の男も、応ずるように椅子を立つ。
 常識に照らせば、俄には受け容れがたいか。如何に妖刀を扱う里の民とは言え、ただの付喪神ではなく、身体を持って動き回る古き刃など、すぐには想像出来なかったのだろう。
 しかしそれでも、眼鏡の男はくいと眼鏡の位置を直して、一息置いてはっきりと言った。
「――如何に神とつこうと、それが触れられる刃であれば、我ら永海に研げぬもの、整えられぬものはありません。……しかし、研ぐとは即ち刃を細らせること。況してやそれほどの古刀です、研がれたことは一〇や二〇ではありますまい。それを更に研ぎ減らせば……」
 懸念するような男の声に、神楽耶は花のように笑う。
「……ええ。承知しています。研ぎが重なるほど刀は死に近づく、と。それでも整備のなっていないものを振り回すよりはましでしょう。研ぎで細って折れる前に、敵を斬り損ねて折られてしまうなど、文字の通りに刀の名折れ」
 微笑みながら、神楽耶は受付台に刀を置いた。
「――この刀が、正しく『刃生』を全うできるよう。今を生きる人々を守る為に振るえるよう。『わたくし』を──『結ノ太刀』を、よろしくお願いいたします」
 神楽耶は己の真体――『結ノ太刀』を、その正体を明かしながら男に向けて滑らせた。男は少しの間、目を丸くして沈黙していたが、ややあってゆるりと目を閉じ、嘆息一つ。
「……まったく、驚く間もありませんね。――ようございます、その覚悟あって預けるものに応えぬなど、それこそ鍛冶の名折れでしょう。補修工房総代、永海・靱鉢(じんぱち)。『結ノ太刀』の整備、拝命致します」
 肯定の言葉に、神楽耶は今一度、花開くように顔を綻ばせるのだった。

「綺麗に仕上げて下さいませね」
「無論。今より別嬪になるよう、手前の技を尽くしましょう」


◆“あやつなぎ” 穂結・神楽耶 真体
 ――永海・靱鉢研直 神刀『結ノ太刀』◆
 永海の数々の妖刀地金の作をことごとく研磨出来る、補修工房の技粋を集めた砥石と打ち粉により、美観も含め輝かんばかりに磨き上げられた太刀。
 刃こぼれ一つ無く、平は鏡のように煌めき、対手をぬらりと映し込むほど。
 常の仕上がりよりも、刃が鈍りづらくなっている。これはほんの僅かに刃先に糸刃を付け、刃角大きく仕上げ、加えて側面の刃鋼をやや研ぎ抜くことで、『切れ味』『抜け感』を鈍らせぬまま、刃の耐久性を保つという微細な調節を施したためである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネグル・ギュネス
●◎
この方々が、刀匠…
里も人も守るのが、俺の──いや、俺達の仕事であり、…護るのが、俺の生き方
全力を尽くす、その代わりにお願いがあります

この剣を鍛えて欲しい
構造は未知かも知れないが、刀身自体は変わらないはずだ
銘を、『黒天・輝花』と

わからない部分は俺が補うし、解体メンテナンスも自分でしていたから、触る事も可能だ
…頼む、力を、俺に更なる力を与えて欲しい

もう負けるのも、護りきれないのも御免なんだ
何より、誰の脚も引っ張りたくないのです
独りでも、負けぬ刃が、力が、欲しい…!

その為ならなんだってやる
雑用だって、防護の為の罠設置でも、なんだってやる!だから!
何卒、何卒お願い致します…!

※銘柄はお任せ致します



●空を裂く
「――この方々が、刀匠」
 訪れた鍛冶場は、文字の通りの鉄火場だった。職人同士の丁々発止の遣り取りを縫って、楽章めいて響き渡る、圧倒されんばかりの鎚音。いくつも打っては畳み、打っては畳み――一刀出来るまでに、果たして何度叩くものか。
 自分たちが――この里を守る猟兵達が敗れれば、ここでこうして力を尽くし、刀を生み出す美しき職人の技も、思いも失われてしまう。ネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)は下唇をくっと咬み、決意を新たにする。
(里も人も守るのが、俺の──いや、俺達の仕事であり、……護るのが、俺の生き方)
 一人で事を成せるとは思っていない。
 だからこそ、力を借りる。力を合わせる。一人で何事をも成せる猟兵などいはしない――少なくとも、ネグルは己はそうではないと解っている。だからこそ、鍛冶師に頭を下げることも厭わない。躊躇わない。
 鍛冶場の中を歩み、ネグルは真っ直ぐに、たった今手の空いた様子の鋭春の元へ歩み寄った。真っ直ぐな輝きを帯びて燦めくネグルの視線に気付いたか、鋭春が姿勢を正し、汗を拭いながらネグルに向き直る。
「ネグル・ギュネスと言います。――総代殿。俺も、他の猟兵と協力して村の防衛、全力を持って尽くすつもりです。その代わりにというのも乱暴ですが――刀を二振り、鍛えて欲しいのです」
 名乗りから入り、端的な要件を告げるネグルに、鋭春が腕を組む。
「……話を聞こう。猟兵どのらの持つ武器はそれぞれ個性的だ、見ずして受けられるとは言い切れない」
 ネグルは頷くなり、二本の刃を抜いた。鋭春の前の作業台に、二刀を並べて置く。
「銘を、『黒天』、そして『輝花』と。合体機構があったり、属性を付与するためのスロット――孔があったりと、構造は確かに未知かも知れません。けれど、刀身自体は通常の刀と変わらないはず」
 これを作ったのは猟兵小班、チーム・アサルトの頭脳。原理まではネグルも解らないが、しかし、もう使って長い相棒だ。基本的な構造と保守の手順は解っている。
「わからない部分は俺が補います。……頼みます、俺は力が欲しい。更なる力が。もう負けるのも、護り切れないのも御免なんだ。何よりも、誰の脚も引っ張りたくないのです。俺は、」
 チーム・アサルト――鳴宮・匡、ヴィクティム・ウィンターミュート、ネグル・ギュネスのスリーマンセル。匡にもヴィクティムにも一芸あり、その二人と己を比べることもしばしばだった。無論ネグルにしか出来ないことがある。それ故の三人組だ。しかし、ネグルは、それを果たすだけでは足りないと考えるタイプの男だった。
 匡も、ヴィクティムも、強い。
 足を引っ張りたくはない。一番に前線を張るための盾役――タンクとしての役割を負いながら、彼らの後塵を拝したくはない。並び立ちたい――そう思う。
 そうでなくても。チームとしてのことを抜きとしても、逆に彼らがいないとき――自分の力が足りないせいで、救えないものを見て、無力を痛感することもあった。なぜ、と呪う。なぜ、こんなにも、足りない。もっと力が欲しいと、砕けるほどに歯を噛み締める時があった。
 故にこそ思う。
「独りでも、負けぬ刃が。――力が欲しい!! そのためならば何だってやる。雑用だろうと、罠の設置でも、この里の助けになる事ならばなんだってしてみせる! だから……だから、何卒、何卒、よろしくお願い致します……!!」
 なんと切実な叫びか。血を吐くように吐露し、頭を下げるネグルの声に、鋭春はふるふると首を横に振った。
「どうか顔を上げてくれ、ネグルどの。……気持ちはありがたい。しかし、我らとて、対価に扱き使おうという肚があるわけではない。あんた達がここに来てくれた、只それだけで、おれ達は、本当に……心から、感謝しているんだ」
 鋭春は言い含めるように云ってから、二刀を見下ろし、続けた。


「――どこまで出来るかはわからんが、最善を尽くそう。……あんたが、独りでも、きっと負けないように」


◆“十代永海” 永海・鋭春改作 斬魔含 烈光鉄仕込
             機工刀 天花一条『裂空』◆
 てんかいちじょう『れっくう』。
 黒天と輝花の刀身に斬魔含――既存の金属に妖異の血を含ませる特殊施術を行い、その硬度・靱性を飛躍的に向上した上で、宝珠のスロット全てに烈光鉄の珠を埋め込んだもの。
 斬魔鉄の切れ味と、意念を込めることで『光の斬撃を飛ばす』――『光閃』の権能を得た、機工刀一対の新たなる姿。単体で用いる場合は従来通り、黒天と輝花として銘を呼ぶが、二刀を合体させた場合の形態をして、『裂空』の名を持つ。
 烈光鉄の性能をより強く発揮するためスロットは交換不可となり、汎用性は落ちたが、その分威力はピーキーに向上している。

 刃一閃、黒き天割る輝く花が如し。空を裂く光、字して『裂空』。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【2】
武器。武器なァ――
私の武器は術式と、そうでなければ呪詛から生んだ刃か、竜が変化する槍ばかり
人の作った武器はあまり手に馴染まない……というのも、食わず嫌いと似たようなもんなのかも分からんな

これも機という奴だ
ひとつ作ってもらいたいんだが、良いだろうか?

この世界の技術に親しんではいないが
なまじ使い方を知っている武器よりも学びやすいやも知れん
幸いにして周りにカタナを使う奴も多いことだし
見よう見まねで何とでもなろう。そういうのは得意だ

希望は――あァ、そうだ
間合いを取る戦いに親しんでるんで、刃が長いと有難い
背丈と同じくらいまでなら取り回せる
バランスを見て作ってくれ
後は分からん!任せる!

【銘お任せ】



●氷のあぎと
 猟兵の戦闘スタイルというのは、一〇〇人いれば一〇〇通り、まさしく千差万別のものだ。徒手を貫く者もあれば、武器を取っ替え引っ替えと使い分ける者もいる。ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(f01811)もまたその例外ではなく、永海・鋭春に戦闘スタイルを問われ、応えて曰く。
「武器、武器なァ……私の武器は術式と、そうでなければ呪詛から生んだ刃か、竜が変化する槍ばかり。人の作った武器はあまり手に馴染まない……というのも、食わず嫌いと似たようなもんなのかも分からんな」
 成程、自分で武器を作り出して戦う事が出来るのであれば、今更手入れが必要な武器などをわざわざ手に入れて使う意味も薄かろう。しかし言葉を俯瞰して捉えてみれば、『それ以外をあまり使ったことがない』という事情も読み取れる。鋭春はニルズヘッグに提案するように云った。
「……食わず嫌いを直すのも悪くあるまい。あんたが生み出した刃は、あんたがあんたのために生んだものだ。ならば、誰知らぬ人間が作りだした武器より手に馴染んで当然と言えよう。比べるのが酷というものだ」
 言葉を切り、用立てた試し振り用の刀を数振り、刃の具合を確かめながら鋭春は続ける。
「それと同じように――あんたのために、おれ達が生み出したものならば、過去に握った武器よりは手に馴染むことだろう。おれ達が扱うのは妖刀地金。超常の技を使う猟兵どのらの力に、きっとなれるはずだ」
 無理にとは言わないが、と鋭春は言葉を結び、ニルズヘッグの返答を待つ。
 ニルズヘッグはこめかみをこりこりと掻き、考え考え訥々と応えた。
「ふむ。……これも機という奴か。なら、一つ作って貰いたいんだが、良いだろうか? この世界の技術に親しんではいないが――なまじ使い方を知っている武器よりも学びやすいやも知れん。幸いにして周りにカタナを使う奴も多いことだし、見よう見まねでなんとでもなろう。そういうのは得意でな」
 あっけらかんとしたニルズヘッグの台詞に、鋭春は額の手拭いの位置を直しながら、感心したような困ったような、なんとも言えぬ顔をする。
「刀の扱い一つに生涯を懸けても大成せぬ侍もいるというのに、猟兵というのは理外の才の持ち主ばかりなのだな」
「何、向き不向きがあるだけのことだろう。例えば私にはそういう真似は出来ても、ひっくり返ったとてカタナを打つような真似は出来ん。その侍にとっても、きっとカタナ以外の道があったはずだ。選べなかった事は不幸、不運ではあろうがな」
 長広舌を並べてから、話が逸れた、と肩を竦め、ニルズヘッグは注文をつけた。
「語ってしまったな。間合いを取る戦いに親しんでいる。刃が長いとありがたい。背丈と同じほどまでなら取り回せよう。バランスを見て作ってくれ」
「承知した。他に注文は?」
「後は分からん! 任せる!」
 あっけらかんと云うニルズヘッグ。明るく投げっぱなしにされて額を押さえる鋭春。
「……ではそうだな、もう幾つか――聞きたいこともあることだ。少しだけ時間を貸して貰えるか、猟兵どの」
「構わん。どうせ、敵が来るまではすることもないだろうしな」
 打てば帰るような了承を得て、鋭春はニルズヘッグを試斬場へと誘うのであった。


 試斬場にて、ニルズヘッグが持つユーベルコードと、その身に宿る氷竜の力を知った鋭春は、刀の細かい丈を打ち合わせた上で、絶雹鉄筆頭、永海・冷鑠に一本の作刀を依頼した。
 不平を垂れ流しながらも仕事は確かな冷鑠のこと、出来上がった刀は、予定された納期通りに、ニルズヘッグが泊まる宿場の部屋に届けられたという。


◆永海・冷鑠作 絶雹鉄 純打
 刃渡五尺二寸 氷殺顎門『冥竜』◆
 ひょうさつがくもん『めいりゅう』。
 絶雹鉄製、長大な刃を持つ大太刀。凄まじいリーチを持つが、その分重量も半端ではなく、普通の人間には全く使いこなせない代物だが、ニルズヘッグは自己申告の通り容易く振り回して見せる。
 込めた意念を凍気に変える妖刀地金『絶雹鉄』を専門とする、絶雹鉄筆頭鍛冶『永海・冷鑠』が仕上げた作。ニルズヘッグの血を僅かに混ぜた絶雹鉄で鍛刀されており、彼の力との親和性が極めて高い。
 単純な刀としての切れ味もさることながら、斬り付けた対象を凍結させたり、空気中の水分を集め凍結させ、氷柱弾として投射するなどは当然朝飯前、氷竜としての己の力と絡めて使うことで、より高威力なユーベルコードを繰り出すことが可能となるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御十八・時雨

はいりさま(f27446)と
ほぁー……
はぁー……

はいりさま、はいりさま見てください
あんなに鉄が赤くなってます
刀を打つところ、おれ初めて見るんです
和歌津も乱天もこんな風に生まれたのでしょう
すごいです、すごいです
なんだかそわそわしてしまいます

……え、おれの刀も打ってくださるので?
はい、はい!おれの刀、一振りお願いいたしまする!
おれは力は強いが軽いので、重い刀がほしいのです
地鳴鉄と、あと緋迅鉄も加えてくださいませ
銘は任せます。名付けはやはり親の方が良いでしょう

どんな刃となるでしょう
楽しみですね、はいりさま
一振り打つにも時間はかかるでしょうし
山菜うどんでも食べながらゆるり待ちましょう
……たのしみだぁ


岬・珮李
【2】
時雨(f28166)と

ほんとだ。ボクも実際に見るのはかなり久しぶりだよ
ああやって、鉄に命を吹き込むのが鍛冶師の役目なんだよ
折角だし新しい子を授けてもらおうかな
時雨もそうする?

飄嵐鉄と、屠霊鉄で刀を造ってもらえるかな
速くて。可視不可視関わらず、斬りたいものを斬れる刀。肉より先に骨を断てるみたいなのがいいね
時雨は圧して、焼き斬る刀かな。いい子が生まれてきそう
ボクも銘は任せるよ。大事に育てるからね

うん、ボクもこういうのは久しぶりだしすごい楽しみだな
これからひと暴れしないといけないのに、ついワクワクしちゃうよ
よーっし、それじゃあ刀の完成待ちと英気を養うためにも食べにいこう
名物らしいし。楽しみだな



●重ねの極み
「ほぁー……はぁー……」
 呆けたような声が少年、御十八・時雨(帰依・f28166)の口からまろび出る。漆黒の髪と瞳に仮面、まだほんの三尺六寸ばかりの身体。野太刀と並べたら刀の方が大きいと言う事になりかねない、まだ年端も行かぬ子供が、きょろきょろと鍛冶場の中を見回している。
「はいりさま、はいりさま、見てください。あんなに鉄が赤くなってます。すごいです、あんなにも大きく鎚音を立てて、火花を散らして鍛えるんですね。刀を打つところ、おれ初めて見るんです。」
 興奮した調子でまくし立てる少年の横で、ふわふわとした薄桃の白髪をした女――岬・珮李(スラッシュエッジ・f27446)が、猫めいた耳を頭で跳ねさせて応えた。
「ほんとだね。ボクも実際に見るのはかなり久しぶりだ。ああやって、鉄に命を吹き込むのが鍛冶師の役目なんだよ」
「そうなのですね。作っているようすを見ると、なんだかそわそわしてしまいます。和歌津も乱天もこんな風に生まれたのでしょうか」
 太刀、乱天丸。そして大太刀、和歌津姫。己が携える二本の刀を伺いながら、傍らの珮李を見上げる時雨。くすり、と口元に笑みを湛え珮李がいらえた。
「そうだろうね。どこで、誰が打ったのかは分からないけれど。鍛冶師が己の魂を鎚に込めて、打ち込んだものだろう。刀は、鍛冶師のわざと魂の結晶だからね――ああ、久しぶりに熱に中てられたみたいだ。この際だし、新しい子を授けて貰おうかな、ボクも」
 時雨だけではなく、珮李もまた刀を扱うことを得手とする猟兵である。かつて神の血を呑み、神格と悠久の命を得て以来、刀を相棒として三千世界を渡り歩き、人助けと鍛錬に勤しむ気楽な戦神だ。いくさの神と言うだけあり、刀に目がないのは当然。
「時雨もそうする? この里を守る代わりにというわけでもないけど、折角妖刀鍛冶がボクらのために働いてくれるんだ。打って貰うのも悪くないと思うけれど」
 翻る鎚と火花の輝きに魅せられたように鍛冶師らの仕事を見つめる時雨が、突然の提案にぱちぱちと眼を瞬いてから、真ん丸に開いた目を輝かせる。
「……え、おれの刀も打っていただけるので?! はい、はい! おれの刀も、一振りお願いしとうございます! 妖刀地金、というものがこの里にはあるのだとか、それで作っていただきたいです!」
「あはは、注文はボクにじゃなく、妖刀鍛冶の人にしようか。丁度、今、前の人の話が終わったみたいだしね」
 珮李が顎をしゃくる先で、永海・鋭春が一息をつき、つけられたらしい注文を筆で書面に書きしたためる。それが終わるのを待ってから、珮李は無造作に歩み寄り、軽い調子で声を掛けた。
「やあ。次の注文をつけてもいいかい?」
「応。まだまだ受けられる。……一騎当千の猟兵どのらが、これほど多数集まるというのは壮観だな。身が引き締まるような思いだ」
「あはは、そうかもね。ボクらは初めて来る口だけど、この里のことは、グリモア猟兵――案内役から、すごい里だと聞いているよ。ボクは岬・珮李。そしてこっちが、」
「御十八・時雨と申しまする!」
「なんと、斯様に小さな……まだ成人もしていないような年の頃の猟兵どのがいるとは、全く、我らのことわりでは測れぬものだと痛感するな。よろしく頼む、ご両人。改めて、“十代永海” 永海・鋭春、注文を承る」
 眼光鋭く、鋼色した瞳に整った顔と、一見取っ付きづらい外見をしてはいるが、言葉の端々から仕事に対する真剣さと、真摯さが伝わる話しぶりだ。珮李は口端を上げ、考えておいた注文をすらすらと並べ立てる。
「飄嵐鉄と、それに屠霊鉄を使って一振り造ってほしい。疾く、鋭く、可視不可視関わらずに、斬りたいものを斬れる刀。肉より先に骨を断てるみたいなのが理想だね」
「ふむ」
 さらさらと注文書きに筆を走らせる鋭春の手が止まるのを待ってから、促すように珮李は時雨に目を向ける。
「時雨はどんな刀が良いんだい?」
「はい! ええと、ええと、おれは力が強いけれど軽いので、敵に打ち負けぬよう、重い刀がほしいのです。ですので、地鳴鉄と、あとは緋迅鉄をくわえて鍛えてくださいませ」
「ふうん、圧して、焼き斬る刀かな。いい子が生まれてきそうだ」
「したいことが明確であるのはいいことだ。鍛刀は、『何が出来るのか』が明らかになっている方がやりやすい。疾く鋭く、常世幽世のあらゆるものを斬る刃に、重く熱く、一切を焦断する刃。完成像を思い浮かべやすければ、それだけ出来上がりの精度が変わる。……さて、銘についてはどうする?」
「おれは……銘はお任せいたします。名付けは、やはり親がされるのがいいでしょう」
「ボクも銘は任せるよ。大事に育てるから、とびきりのをよろしくね」
「無論のことだ。我が技術の粋を注ごうとも」
 鋭春の迷いのない答えに、珮李はにっこりと笑い、時雨はぺこりと頭を下げて応じる。鋭春は頷き、注文書きに内容をしたため終えると、帳簿に書き終えた紙を挟んだ。
「では岬どの、御十八どの。しばしゆるりと里を巡り、英気を養っておいてくれ。何もない里だが――山の幸と、良き水、それに麦には恵まれていてな。饂飩はちょっとしたものが出るのだ。どの店も自信を持って勧められる。食べて、ゆっくりと休まれると良いだろう」
「ああ、そういえばそう聞いてたね。じゃあお言葉に甘えて、行こうか時雨」
「はい! ではえいしゅんさま、よろしくお願いいたします」
 再度頭を下げる時雨。鋭春は笑って返礼する。
 ひらり、手を振って、時雨を伴い珮李が歩き出す。
 外に出れば、永海の里の一日目は早くも終わりに差し掛かり。高かった陽が、徐々に沈みつつあるのだった。


「どんな刃となるでしょう。楽しみですね、はいりさま」
「うん、ボクもこういうのは久しぶりだしすごい楽しみだな。これからひと暴れしないといけないのに、ついワクワクしちゃうよ」
「ですねえ。……一振り打つにも時間はかかるでしょうし、山菜うどんでも食べながらゆるり待ちましょう」
「そうだね。よーっし、それじゃあ刀の完成待ちと英気を養うためにも食べにいこう。楽しみだな」
「はい!」


◆“十代永海” 永海・鋭春作 飄嵐鉄・屠霊鉄 重打
          刃渡二尺二寸 刹舞霊殺『斬風』◆
 せっぷれいさつ『きりかぜ』。
 飄嵐鉄を心鉄、屠霊鉄を皮鉄として打ち上げられた打刀。
 意念を注ぐことで、刀身の重量を下げ、持ち手の速度を加速する飄嵐鉄としての性質と、この世ならざるものを断ち切る事が可能な屠霊鉄の性質を併せ持つ刃。高い精度で二種の金属を鍛接してあり、金属一種の純打と遜色ない強度・靱性を持つ。
 疾きこと風の如く、常世幽世の別なく、全てを斬る刃。
 字して『斬風』。


◆“十代永海” 永海・鋭春作 地鳴鉄・緋迅鉄 重打
            刃渡三尺 重圧焼断『砕炎』◆
 じゅうあつしょうだん『さいえん』。
 地鳴鉄を芯鉄、緋迅鉄を皮鉄として打ち上げられた大太刀。
 意念を注ぐことで、重量を上げる方向に操作し、インパクトの瞬間に炎を発することで、重く熱い必殺の剣閃を実現し、敵を爆砕する。
 地鳴鉄を芯鉄とした故に長時間の高熱には耐えられない――心鉄となる地鳴鉄の焼きが戻ってしまう――故に、鋭春の意図的な調整が加えられており、敵に斬撃が当たったときのみ緋迅鉄が火炎を発するようになっている。この発火は瞬発的に行われるため、傍目からは、命中と同時に敵が爆発しているように見える。
 砕き灼くこと爆炎の如し。字して、『砕炎』。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛

ロゼくん(f01535)と

【1】銘お任せ

んーー!久しぶりの空気です
ロゼくんはここに来るのは初めてですよね?
私、以前刀を造っていただいたことがあるんですよ

里をばっちり守るためにも、しっかりと準備をしなくちゃいけませんね!(ふんっ)
さあさあロゼくん、ごーごーですよ!(拳を突き上げる)

「燦星」を強化していただきたいと思います!
近距離戦は得意なのですけど、距離をとった戦いが苦手なんですよね
烈光鉄を使って光の斬撃が飛ばせるようにしたいですっ

頑丈さも欲しいので地鳴鉄との掛け合わせが出来たらしたいです
重いものを振るうのは得意なので!

ロゼくんはどうですか?
屋台いきましょー! 山菜うどんがおいしいらしいですよ


ロゼ・ムカイ

【2】銘おまかせ
織愛ちゃん(f01585)と行くぜー!

実は初めてなんだよなー。
サムライエンパイア自体、あまり来る機会が無いから。
お、織愛ちゃんはお得意様って感じか。
色々と教えてくれよな!

よっしゃ!準備なら任せてくれ!
ちょうど新しい刀ほしかったんだよな!レッツゴーだっぜ!
(織愛と拳を合わせようとする)

そうだなぁ。地金はなんでもいいんだが、
俺ってフードファイターだし、敵を倒すたびに強くなるような刀にしてほしい。
命を喰らうたびに強くなる刀ってかっこよくね?

よし!刀が出来るまでの間、屋台で色々と食べようぜー!
お、うどんかぁ。楽しみだなぁ!



●星花と悪食
「んーー! 久しぶりの空気ですっ。やっぱり、サムライエンパイアは空気が美味しい感じがしますねっ」
 この世界には大気を汚染する機械類が存在しない。空気が清浄なのも頷けることだ。三咲・織愛(綾綴・f01585)は胸いっぱいに空気を吸い込み、はあと吐き出して栗毛を揺らした。桃色の目を輝かせて道を行く。
 その横を固めるのは身長六尺弱、碧眼が印象的な青年だ。物珍しげに、里の景色を見回している。
「そういえば、ロゼくんはここに来るのは初めてですよね?」
 織愛に声を掛けられ、青年――ロゼ・ムカイ(社会人3年目・f01535)は軽く頷く。
「実は初めてなんだよなー。サムライエンパイア自体、あまり来る機会が無いから」
「なるほどですっ。私、以前にここで刀を作っていただいたことがあるんですよ。なのでここでは私の方が先輩ですね!」
 ふふん、とちょっぴり得意げに胸を張る織愛に、ロゼがからりと笑う。
「お、織愛ちゃんはお得意様って感じか。そんじゃ色々と教えてくれよな、なんせ右も左も分からないからさ」
「はい、お任せ下さい! 鍛冶場は確かこの先です。随分遠くからでも、もう鎚音が聞こえてきますね」
 ぎん、ぎん、かん、かん、と響く鎚の音は、鍛冶師達の鬨の声のようだ。数十人からなる鍛冶師達が、猟兵達の装備を作るため鋼を鍛えているのだろう。
「里をばっちり守るためにも、しっかりと準備をしなくちゃいけませんね! さあさあロゼくん、ごーごーですよ!」
「よっしゃ! 準備なら任せてくれ! ちょうど新しい刀ほしかったんだよな、レッツゴーだっぜ!」
 ぶん、と拳を振り上げ気合を入れる織愛の拳に、ロゼが己の拳をこつんと重ねる。両者ともに気合充分、歩む脚は次第に早まり、最後にはどちらからともなく走り出す。
 目指すは一路、鍛冶場である。


「鋭春さん、お久しぶりです!」
 鍛冶場の戸口を潜り、織愛は目敏く目当ての刀工を見つけるなり声を掛けた。頭に巻いた手拭いに鋼色の目、身の丈六尺あまりの長身の男。織愛の刀を鍛えた、“十代永海” 永海・鋭春である。
「おお、これは三咲どの。来て下さったか。ご足労、誠に痛み入る。……そちらは?」
「織愛ちゃんの猟兵仲間みたいなもんだよ。ロゼ・ムカイってんだ、よろしくな!」
「なるほど。いずれにしても猟兵どの、と。では改めて、ロゼどの。おれは永海・鋭春という。この里を取り仕切る、総代鍛冶として腕を振るっている。よろしく頼む」
 鋭春は礼をして、咳払いを一つ。
「積もる話をしてゆっくり茶でも飲みたいところだが、どうもそうした余裕もないらしい。ここに来られたということはご両人とも、鍛刀か、武器の強化をご所望とみるが、相違ないか?」
「はい! 私はええと……昨年造っていただいた『燦星』の強化をお願いしたいです。近距離戦は得意なのですけど、距離を取った戦いが苦手なので……去年よりも造るのが簡単になっているなら、烈光鉄を使って間接攻撃ができるようにしたいのと、地鳴鉄を使って頑丈さを付与して欲しい、というのが希望ですね。……それから、」
 織愛がちらりと視線を横向ける。視線を受けたロゼがこくりと頷き、言葉を継ぐように口を開いた。
「俺は新しく一本打って欲しい。……そうだなぁ、地金はなんでもいいんだが、俺ってフードファイターだし、敵を倒すたびに強くなるような刀にしてほしい、かな。命を喰らうたびに強くなる刀ってかっこよくね?」
「ふむ――なかなか難しいことを言う。我らの持つ技術の内での解釈にはなるが、最善を尽くすとしよう」
 難題ほどに、職人の心というものは滾るものである。
 作刀についての要求を注文書きにしたためて、鋭春は続いて質問を投げる。
「丈については希望はあるか?」
「私は燦星の長さと同様にして頂ければそれで大丈夫です。ロゼくんはどうですか?」
「んー、特にこだわりねぇかな。俺の背丈に合ってればそれで大丈夫だ。多少長くてもなんとかなるさ、使い慣れればいい話だし」
「……猟兵どのらに、多少の丈の違いなどそれこそ些末なことか。只人に鍛造る時はこの辺り、細かく丈を測って決めるのだが、無用の心配のようだな。では、拵えなどについてもこちらで決めておこう。何か注文があれば受け付けるが」
「特にありません。素敵に仕上げて下さるのは知っていますし」
「俺も。織愛ちゃんがそれで充分満足してるなら、きっと良いのが出来てくるだろ」
 あっけらかんとした猟兵二人の台詞に、鋭春は頬を掻いて破顔する。
「……こうも手放しで信頼されるのも、なかなか面映ゆいものがあるが……相分かった、では預かった注文の通りに、我らの技術の限りでお応えするとしよう。打上がりには暫時時間を要する故、里の中を回るなり、宿で休むなりしていてもらえるか」
「はい、わかりました! じゃあロゼくん、屋台にでも行きましょうか。この里の名物は山菜うどんらしいですよ」
「いいねぇ、うどんかぁ。楽しみだなぁ!」
「麦と水が自慢の里だからな。店がいくつかあるが、どこも創意工夫している。よければそれぞれ味わっていってくれ」
 鋭春の見送りを背に受けながら、織愛とロゼは手を振って、日の落ちつつある永海の里を、二人並んで歩き出すのであった。


 三日の後、宿場に泊まる二人の元に、新たなる刃が桐箱に入り届けられた。
 差出人は永海・鋭春。彼ら二人の性質に合わせた、専用の刃の名とは――


◆“十代永海” 永海・鋭春作 地鳴鉄・烈光鉄 重打
        刃渡六寸五分 光舞重刃『燦星・隕』◆
 こうぶじゅうじん『きらぼし・いん』。
 地鳴鉄を心鉄、烈光鉄を皮鉄として打ち上げられた鎧通短刀。
 注文に従い、斬魔鉄製であった刀身は一度材料の鉄として還元され、それを基材として作成した地鳴鉄と烈光鉄にて新造された刀身を据えられている。鎺は従来同様の、燦めく星の彫金の施されたもの。夜空を思わせる黒漆塗鞘、黒糸巻柄常組。目釘頭が金の、星を思わせる鋲頭。
 従来の刀身と異なり、烈光鉄で出来た刀身表面は、常に淡く輝きを放っている。
 意念を注ぐことで、刀身の重量を上げる地鳴鉄としての性質と、意念を込めることで心の強さを光の刃――『光閃』に変ずる烈光鉄としての性質を併せ持つ。高い精度で二種の金属を鍛接してあり、金属一種の純打と遜色ない強度・靱性を持つ。また、地鳴鉄の性質を発揮することで、刺突に凄まじい重さを乗せることが出来、特に振り下ろしての逆手刺突に極めて適性が高い。
 烈光鉄純打の刀の威力には譲るものの、燦星・隕による光閃は、現時点の織愛が扱えば最大で三十九・五メートルまで伸びるとのこと。これからの成長も加味すれば、中距離戦闘に於いて大いに役立つであろう事が予想される。


◆“十代永海” 永海・鋭春作 屠霊鉄・烈光鉄 重打
          刃渡二尺五寸 一切貪飲『悪喰』◆
 いっさいどんいん『あくじき』。
 屠霊鉄を心鉄、烈光鉄を皮鉄として打ち上げられた打刀。
 赤漆打刀拵、黒革巻柄仕上。直刃。
 単純な刀としても非常に完成度が高い仕上がりだが、特殊な仕上げの屠霊鉄を心鉄に据えてあり、貫き、或いは斬ってダメージを与えた対象の生命力を吸い上げ、心鉄に蓄積する性質を持つ。
 この蓄積した力を皮鉄の烈光鉄に通すことで、自身の意念に加え敵の生気を利用した高威力の光の刃――『光閃』を放つことが可能。その射程は現在のロゼの力で三六メートルまでをカバーする。
 屠霊鉄が表面に露出していないため、霊体に対しては(全く触れられないわけではないが)攻撃力が落ちる、敵の生命力を吸わねば、充分な威力の光閃を発露出来ない――という、それぞれの純打の刀にはない弱点はあるものの、多数の敵の命を捕り篭めて放つ光閃の威力は極めて高い。ロゼの扱い次第で、この上ない彼の相棒になり得るポテンシャルを秘めた一刀である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

斬幸・夢人
3
第一希望「妖斬」
第二希望「風刎」

なぁ、七代永海の刀あるんだろ?
ミーハーなんて笑ってくれるなよ
刀使いとしては興味があるんでね
それに――どうせなら巧い奴に使われた方が刀も幸せだろう?
自分が世界一の剣豪かはわからんがね
が、物心がついてから負ければ死ぬ生活だったんでね
だから負けたことはねぇぜ
これくらいの答えしか用意できねぇがね

どんな鈍らでも斬るだけなら俺が技術と速さで斬ればいい
だが俺がいくら巧くても斬れねぇもんは斬れねぇもんがある
だからどうせなら何でも触れる刀がほしい
魔法だろうが超能力だろうが幽霊だろうが
触れるなら――あとは俺が斬ってやるよ
最もどうせならいい刀に越したこともねぇがな?



●いつかは神に届く牙
 りぃん、
 鈴の音。

「邪魔するぜ」

 身の丈、六尺あまり。鋭春と目線の高さが合うほどの、長身の男が鍛冶場に踏み込んだ。目敏く気付いた鋭春が、他の刀鍛冶に指示を下して現場を回し続けながら、大股に彼に歩いて声を掛ける。
「ようこそ、永海の鍛冶場に。あんたも猟兵どのということでいいのか」
「ああ。ケチな猟兵のひとりさ。ついでに言うなら、永海の刀に興味がある。――俺は、斬幸・夢人。聞いたぜ、まだ七代永海の刀が残ってるんだろ?」
 灰の髪を揺らし、黒い瞳で真っ向、鋭春を見遣る男――名を、斬幸・夢人(終焉の鈴音・f19600)。
「――む。新たな鍛刀ではなく、筆頭八本刀をご所望か。いかにも、今までに鋭刃『斬丸』、剛刃『嶽掻』、魔刃『穿鬼』、焔刃『煉獄』、氷刃『玉塵』が主を見つけ巣立ったが。確かに瞬刃『風刎』、そして霊刃『妖斬』がこちらに残っている。そのどちらかに用向きがあるならば承ろう」
「ハ、やっぱりまだ残ってたか。ミーハーだなんて笑ってくれるなよ、なんせ妖刀の里の、史上最高の鍛冶と称えられた鍛聖の作だ。刀使いとしちゃ、興味が湧いて当然だろ」
 軽い調子で語る夢人。鋭春は未だ、夢人の器を量りかねるように目を細めて、見定めるような視線を注いでいる。
「そう睨むなよ。……刀ってのは振るわれてなんぼ、それも、どうせなら巧い奴に使われた方が幸せだろう。桐箱の中、硝子箱の中で、誰にも触れられずに朽ちていくほど、悲しいこともないだろうさ」
「――その『巧い奴』の中に自分が入っていると?」
 試すような鋭春の言葉に、夢人はひょいと肩を竦める。
「自分が世界でどれほどのもんかは知らんがね。だが、物心ついたときからずっと俺は、負ければ死ぬ世界で生きてきた。そいつは今だってそうだ。ここで生きてるって事は後は分かるだろ、俺は今まで負けたことがねぇ。そしてこれからもそうであり続ける」
 傲岸不遜に言い切って、夢人は鋭春の目を見詰め返した。
「これくらいの答えしか用意出来ねぇが、託してくれりゃ悪いようにはしねぇ。――極端な話、どんな鈍らを使おうが、斬るだけなら俺が技術と速さで斬ればいい。だが、俺がどれだけ巧くやろうが、触れられないもんは斬れやしねぇ。だから欲しかったのさ、なんにでも触れられるような刃が」
 言いながら、夢人は腰の刀を外して、手近な作業台に刀を置く。
「見てくれりゃ解るだろうが、こいつも名のある刀じゃない」
 ガンブルー――表層腐食液を使って黒染めにした黒刀だ。鋭春は刀身を検め、ふむ、と嘆息する。
「……悪い刀ではない。質実剛健と言おうか。しかし、業物と呼べるほどの仕上がりには、確かに見えん」
「だろうよ。ただ気に入ってる色にしただけの普通の日本刀だ。……だが、そろそろ普通だけじゃ足りないところに来ててね」
「……成程。それ故に、妖斬を求めるか」
「その通り」
 ニヒルに笑い、夢人は続けた。
「魔法だろうが超能力だろうが、幽霊だろうが妖だろうが。屠霊鉄とやらなら触れるんだろ? ならあとは俺の仕事だ。斬ってやるよ、なんだってな。さっきも言ったが、刀は何かを斬るために生まれてくるもんだ。なら、俺がその存在意義の全てを揮ってやる。――それとも、俺の腕前に不安があるかい?」
「……否。刀の様子を見れば良く分かる。使い込まれてはいるが、致命的な欠けはない。刃筋を立て、真っ直ぐに敵を引き斬る技術があり、なおかつこれほど使い込むまで五体に欠けなく戦い抜いてきているところを見れば、あんたに相応の技術があること程度は、兵法素人のおれにでも分かろうというものだ」
 ふう、と鋭春は一つ息をつき、大きく頷く。
「――いいだろう。ならば、妖斬を試し振りしてみてくれ。あんたの眼鏡に適うようならば、研ぎ直して仕上げ、お納めしよう。全てを斬れると謳ったならば、――里に迫る賊の群など、朝飯前に断ってくれるのだろう?」
 夢人の皮肉っぽい物言いに合わせるように、鋭春もまたアイロニカルな問いかけを投げる。ハ、と笑い、夢人は片目を閉じて答えた。

「当たり前だろ。ヤツらにくれてやるよ。神さえ覆せない終焉をな」


◆“七代永海” 永海・鐵剣作 屠霊鉄 純打
        刃渡二尺六寸 霊刃『妖斬』◆
 れいじん『あやぎり』。
 七代永海・筆頭八本刀が四。
 刃渡二尺六寸の打刀。刃紋重花丁字、梨地塗拵、平糸巻組。
 特殊な、霊的・魔的なものを帯びやすい成分配合をした上、護符や妖ゆかりの霊験あらたかなる供物を焚いて得られる炎で焼き清め精錬した鉄、屠霊鉄による作刀。永海・鐵剣の作刀であり、筆頭八本刀の第四番として数えられる。
 屠霊鉄による作刀ながら、単純な刀としての能力は斬魔鉄製の刀に引けを取らず、極めて硬くよく斬れ、軽い。
 強い厄除け・魔除けの作用を持つ。持っているだけで低俗な霊は近づくことすら叶わない。
 刃では触れられないとされる霊現象の類を、意念を込めて振るうことで断つことが可能。
 現在の永海で打たれる、常に霊に触れられるよう調整された一般の屠霊鉄とは仕様が異なり、妖斬は術者が意志を強く込めれば込めるほど対霊攻撃力が向上するよう造られている。反面、使いすぎれば精神の摩耗を招くとも言え、遣い手を選ぶ刃と言ってよい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
2.装備を新造する

俺はこの里に訪れるのは初めてだが、猟兵達が守った地なら今度も守らないといけないな。その助けとなる様に俺も善処したい

竜槍「ミヌレ」の強化を頼む事も考えたが…それは、何か違う気がしてな。
今まで様々な者達と対峙した事によって感じたのはいつも同じやり方でぶつかっていては駄目だという事だ。
だから俺は自身が出来る戦い方の幅を広げたい。その為に新しい武具を頼めたら、と思う

そうだな…緋迅鉄は熱や焔を発すると聞いたが、それとは逆に燃え盛る炎を吸収し守る力へ変える術はないだろうか…?
否、炎というものはどうにも意識しちまう…それが難しいならば、力の在り方は如何様にも。全て任せるよ

形も銘も共にお任せ



●炎を呑む
「ここが永海の里か。……これから戦が起こるとは考えられないほど長閑だな」
 道行く里人に鍛冶場の場所を訪ね、示された路に従って歩むのはユヴェン・ポシェット(opaalikivi・f01669)。“門”に飛び込むなりすぐさま戦闘……という流れに慣れきっていた為か、平穏そのものと言った村の光景に逆に多少戸惑いすら覚える。
 それでも、道を教えてくれた里人が別れ際に零した『里のこと、どうぞよろしくお願いいたしやす……』という言葉や、道行く人々の、不安を押し殺したような表情を見ていると、この平穏がずっと続くわけではないことを嫌が応にも感じる。仮にユヴェン達が手をこまねいて眺めたとすれば、この里は滅ぶのだ。グリモア猟兵が予知したとおりに、ほぼ、確実に。
「……ここを訪れるのは初めてだが、かつて守られた地というのなら、今度も守らないといけないな。……その助けになるように善処せねば」
 人々が死に絶え、悲しみに塗れるのを放ってはおけぬ。
 ユヴェンは決意を新たにすると、確かな足取りで、遠く鎚音の鳴る鍛冶場へと歩いて行くのであった。


「ようこそ、永海の里へ。あんたは――初顔だな。今回はおれ達のために、わざわざご足労戴いて感謝する。改めて、鍛冶総代、永海・鋭春だ。よろしく頼む」
 鍛冶場に踏み込んだユヴェンを迎えたのは、猟兵達の装備鍛冶の総指揮役を務める、今代の永海の総代。“十代永海” 永海・鋭春であった。ユヴェンも決して上背が低い方ではなかったが、鋭春はユヴェンよりもまだ上背がある。長身に鋼色の鋭い眼光、いかにもただ者ではない圧を纏っている。
「して、この度はどのような強化をご希望か。或いは装備の新造か、はたまた手入れか。何でも承ろう」
「……そうだな、」
 ユヴェンは肩に乗った鉱石竜『ミヌレ』を一瞥する。きゅう? と鳴きながらミヌレが視線を返してくる。ユヴェンは表情を緩め、ミヌレの頭を指先で掻くように撫でた。
「……新しい武器を作って貰いたい。今まで、様々な敵と対峙して分かったことがある。いつも同じやり方でぶつかっていては、いつか道が塞がってしまう。自分が絶対的に苦手な相手と対峙したとき、取れる手管がなくなってしまうんだ。――だから、俺は自分が出来る戦い方の幅を広げたい。そのための新しい武具を作って欲しいと思う」
 初めはミヌレを強化して貰うことも考えたが、如何に名工の手とは言え、自身の相棒を造り替えると言うのは――どこか違う気がした。
 それよりも。
 自分が扱える新たな力を得て、より幅広い戦術を手に入れることを選んだ。
「緋迅鉄という鉄は、熱や炎を発すると聞いた。……それとは逆に、燃え盛る炎を吸収して守る力に換える術はないだろうか。炎というのは、どうにも意識しちまうんだ……それが難しいならば、力の在り方は如何様にでも。全て任せるよ」
 無茶振りをするつもりで言うユヴェンに、しかし鋭春は顎を撫で、一つうなずく。
「ふむ――であれば、腹案がある。何でも考えておいてみるものだな。少しばかりあんたの持ち物を検めさせて貰いたい。炎が苦手というのなら、炎を避ける何かしらを持っているだろう」
 目を丸くするユヴェンに、鋭春はに、と口端を上げて言ってのけるのであった。
「伊達に“十代永海”を名乗ってはいない。永海の秘術、御覧に入れよう」


◆“十代永海” 永海・鋭春作 絶雹鉄・緋迅鉄 重打
          刃渡二尺五寸 炎氷削水『青凪』◆
 えんひょうしょうすい『あおなぎ』。
 心鉄に絶雹鉄、皮鉄に緋迅鉄を用いた打刀。
 絶雹鉄と緋迅鉄という、相容れないはずの組み合わせを極めて高い精度で鍛接してある。絶雹鉄と緋迅鉄が同居しているため、氷を発生させる事も、炎を発生させる事も出来ない。
 ――この刀の真価は、『後の先』にある。
 焼け焦げるような熱気を受ければ、絶雹鉄がその炎を吸い。凍えるような冷気を受ければ、緋迅鉄がその凍気を吸い、敵の攻撃を無効化する。
 特筆すべきは、吸った熱気と凍気を『水』に換えるこの刃の性質である。
 糸巻柄には、ユヴェンの布盾『sateenkaari』の一端をほぐして得た糸が用いられており、柄を介して意念を込めることで、攻撃を吸収することにより帯びた水を鋭い刃に変え、敵を攻撃する武器とする事が可能となった。
 青く凪ぐこと、揺らがぬ水面の如く。字して、『青凪』。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
1.強化
屑霊鉄

実体のないものを斬れるようになるなんて夢みたいだ
……お化けなんてのも斬れるんだよね?
……なんて理由を本命っぽくヒソヒソ話すが
もしかして病も斬れるんじゃないかな、なんてさ
そしたら僕自身がまるで万能薬になれるじゃないか

僕の刀『窈窕たる』は妖刀らしい
らしいってのは、家からかっぱらってきたものだから
実は正体を知らなくてさ
でも僕の血をやると活き活きするし妖刀じゃないかな
まさか名刀だったりすんの?職人さん、そういうの分かる?

だからね、銘はない…というより不明なわけ
悪党やら魑魅魍魎やらを斬る道具としか思ってなかったんだけど
共に死線を潜ってれば愛着も湧くもんで

これも縁だし、良いのをつけてやってよ



●病斬
「やあ、ちょいと僕の話を聞いてもらってもいいかな、職人さん。千客万来なところ申し訳ないんだけど、どうしても相談に乗って欲しくてね」
 鎚音響く鍛冶場の中、一人の猟兵が永海・鋭春に声を掛けた。年の頃、二〇代後半と言うところか。いや、もっと若々しくも見える。捉えどころの無い、毛先にかけて紅を帯びる、不思議な色合いの黒髪をした伊達男である。
「構わない。刀の事とあれば、何でも承ろう。先ほどの顔合わせの時にも名乗ったが、おれは永海・鋭春。当代の永海、総代鍛冶を務めている」
「ははあ、こりゃあ助かる。総代鍛冶って要するに、一番エラい鍛冶の人って事だろう? 君に聞けば、永海の妖刀のことが全部分かるっていうんなら、話が早いや」
 男はにんまりと笑い、ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)と名乗った。
「全てかどうかは分からないが……そうであろうと努力はしている。して、どのような相談か、お話し頂けるか」
 先を促す鋭春に、ロカジはへらりと笑って切り出した。
「わかった。……なんて言ったかな、妖刀地金? の、なんとか霊鉄……について質問があるんだけど」
「屠霊鉄だな。霊を屠る鉄、と書き、とれいてつ、と字する鉄だ。それが何か?」
「そう、それそれ」
 ロカジはにししと笑い、ひそひそと声を潜めた。
「屠霊鉄の刀は、普通じゃ触れられないようなものでも斬ることが出来るようになるって話だったからさ。その真偽について訊いておきたかったんだ。実体のないものを斬れるようになるなんて夢みたいな話じゃないか。形ないものを屠るって言うんなら、……お化けなんてのも斬れるんだよね?」
 ひそひそ、と声を潜めて鋭春に問うロカジ。鋭春は当然だ、とばかりに頷く。
「その通り。鉄の粒に呪的干渉が良く掛かるよう幾つかの添え物をした上で、護符や妖ゆかりの霊験あらたかなる供物を燃料として焼べた霊炎により精錬することで完成する鉄、それが屠霊鉄だ。この鉄による刀は、霊や、物理的な姿を持たぬ妖、果ては呪いで起こされた炎や雷、かまいたちなど――そうした現象までも断ち切る事が可能となる」
 鋭春の淀みない説明に、ははあん、とロカジは息を漏らし、目を細めた。
「成る程ね。――現象を斬れるって言うなら、もしや病なんかも斬れたりするのかい?」
 こちらが本命か。ロカジの目が、問いと共に刃めいて光る。
「そうしたら僕自身が、まるで万能薬になれるじゃないか」
 鋭春は驚いたように目を丸くして、顎元に指をあて、思案げに呟いた。
「刀とは人斬りの道具。それを、人を生かすために振るという使い方は――寡聞に過ぎる。あんたが、『病魔』という概念を捉え、それを刃先で捕らえられたなら、或いは断てるやも知れんが、人に巣喰う病をどのように引き出すかは……おれには、とんと考えがないな」
「あっはは、そりゃそうだよね。……まあでも、もし捉えられたなら斬れると思っておけば、いつかは刃が届くかも知れない。なら、こいつにそういう力をつけてやってほしいのさ」
 ロカジは、鋭春の傍らの作業台にごとりと刀を置いた。いつもロカジと共に戦場を駆ける刀である。
「……拝見しても?」
「どーぞ。そいつも妖刀らしくてね。……まあ、家からかっぱらってきたものだから、実は正体は知らないんだけどね。でも、僕の血をやると活き活きするし多分そうなんだろうな、と。まさか名刀だったりすんの? 職人さん、そういうの分かる?」
「ふむ……」
 手に取った刀を抜き、細かく観察して唸る鋭春。
「少なくとも永海の作った作ではない。しかし業物には違いないだろう。あんたはかなりの遣い手と見えるが、この刀には目立った損傷がない。然りとて真新しいようには見えない。つまり、使い込まれようと折れず、曲がらず役目を果たしていると言うことだ。よい刀だ」
 それ以外のことは未だなんとも言えぬ、と首を振る鋭春に、ロカジは笑みを崩さず続けた。
「あはは、そりゃどうも。そっか、由来は分からないか。悪党やら魑魅魍魎やらを斬る道具としか思ってなかったんだけど、共に死線を潜ってれば愛着も湧くもんで――そいつを職人さんらの手で、生まれ変わらせてやってほしい。できるかな?」
「努力しよう。……銘の希望などはあるか?」
「そうだね……今は、銘はない……というより不明なわけ。まぁ、これも縁だし。僕がそいつを呼べるようにさ、良いのをつけてやってよ」
 飄々とした調子で言うロカジに、鋭春は確かに一つうなずいて、窈窕たる抜き身を鞘にカチリと収める。
「拝命した。これに合う刃銘を刻み、形なき物を裂けるよう、力を吹き込もう。――暫時、宿で待ってくれ」
 ロカジは片目を閉じて、笑って応じるのであった。
「楽しみにしてるよ」


◆“十代永海” 永海・鋭春改作 屠霊含
           窈窕病斬『艶華』◆
 ようちょうやみきり『あでばな』。
 ロカジが数々の戦場を共にした銘不詳の妖刀『窈窕たる』刃に、屠霊鉄と同様の力を込める付与工程『屠霊含』(とれいぶくめ)を施し、研ぎ直しと磨き直し、目釘直しに柄巻き直しなどのメンテナンスを施したもの。
 今までと基本的な能力・性質に変わりは無いが、研ぎ直された事による鋭い切れ味を得たほか、最適な屠霊含の施術により、霊や魔術などの形なき物を断つことが可能になった。

 艶やかなること華の如く。字して、『艶華』。

 病を断てるか否かは、はて。
 試してみるまで、とんと知れぬが。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木佐貫・丹菊
2)アドリブ◎
やあやあ、ここが噂の。
私も得物が刀なものだから、いつかお目に掛かれたらと思っていてね?
野太刀が得手なのだけれど…長物が得意な刀匠殿はいらっしゃるかしら
ちょいと長年使い込んだから、柄から何から随分へたれてしまっていて
この子の後継をお願いしたいのさ

飄嵐鉄と緋迅鉄を主軸に
あたたかい炎がいいな、桜は春が好きなんだ
私は輪廻を祈れないが
それでも巡る命の道筋は、花咲溢れる炎が好い

…ねえ、これに地鳴鉄を混ぜたらどうなっちゃうのかな
たてほこ…みたいなことになってしまうのかい?
やあほら、重い一撃って浪漫だろう?

ああ、そう
戦の前には腹ごしらえだね
山菜うどん山盛り…てんぷら…おかわり何杯いけるかな。ふふ



●散桜に捧ぐ刃
「やあや、ここが噂の永海の鍛冶場か。頼もう、手透きの鍛冶はいるかね」
 一人の男――否、年の頃としてはまだ少年と言っても良い――が、鍛冶場の戸口を潜るなり問いかけた。身の丈六尺あまりの長身に鋼の瞳、萌黄がかった金髪をさらりと流した美男である。
 それを聞くなり、すぐさま跳ね返る応答の声。
「応、一寸待ってくれ。この指示を出したらすぐに話を聞こう!」
 人の流れは全く途切れぬ。朝からもう、ほぼ動きっぱなしで猟兵らから話を聞き続けているはずの、手拭いを頭に巻き締めた刀匠――“十代永海” 永海・鋭春が少年の声に応え、慌ただしく注文書きを紙にしたため、受け取りに来た刀匠に渡している。
(なるほど、分業か)
 恐らく、ある程度決め打ちで行える作業は他の鍛冶師と分担しているのだろう。技あるものにしか出来ない仕上げはあれど、誰がしようと一定の仕上がりが期待出来る部分は他者に行わせる。そうでなくば、五日という短期間で数十名の猟兵達の武器を拵え、調整することなど出来るまい。
 少年が観察する間に鍛冶太刀に指示を下し終えたか、鋭春は少年に向き直って軽く手招きする。答えるように歩み寄れば、深く確かな礼を一つして、鋭春は芯のある声で言った。
「お待たせした。猟兵どのだな? 十代永海、永海・鋭春だ。注文を承ろう」
「ああ。――私は木佐貫・丹菊。急がせて済まないね。私も得物が刀なものだから、この里の鍛冶師には、いつかお目に掛かれたらと思っていてね? 野太刀が得手なのだけれど……長物が得意な刀匠殿はいらっしゃるかしら」
 少年――木佐貫・丹菊(バラァドの嚮後・f23324)は軽く胸元に手を当てて名乗り返す。どこか捉えどころのない、嵐に散った桜を思わせる――何にも流されず拘泥しない、どこか超然とした雰囲気を纏う少年である。
「我ら永海、刀の形をしたものならば丈にはこだわらぬよう育てられる。――恵まれた体躯のようだ、確かに大太刀野太刀も取り回せよう。――おれが注文を請けよう。どのようなものを所望か?」
「そうだね、いつもはこの子を使っていたのだけれど。ちょいと長年使い込んだから、柄から何から随分へたれてしまっていて。この子の後継をお願いしたいのさ」
 丹菊は手にした野太刀を鞘ごと、横合いの作業台に置く。「拝見する」と、鋭春が鞘をずらして刃の状況と、目釘、柄巻の具合などを細かく確認する。
「……相分かった、丈は同じほどで鍛造るとして……他に希望は?」
「そうだね。……飄嵐鉄と緋迅鉄を主軸に据えておくれ。温かい炎が良いな、春を思わせるようなね。……私は輪廻を祈れないが、それでも巡る命の道筋は、花咲溢れる炎が好い」
「――また風流なことを言う。どこまで意に添えるかは分からないが、やれるだけやってみるとしよう」
 年の頃に見合わぬ、どこか達観した風雅な語り。感じ入ったように頷く鋭春に、丹菊が「あ、」と何かを思い出した風に息を漏らす。
「……ねえ、これに地鳴鉄を混ぜたらどうなっちゃうのかな。たてほこ……みたいなことになってしまうのかい?」
 問いに、むむ、と眉根を寄せる鋭春。
「……そこは打ち手の技量次第だが、絵の具を多く混ぜるのと同じだ。重なるほどに色は重くなり、いつかなんの色でもなくなってしまう。三種以上は扱いが難しいと思った方がよかろう」
「それは残念。やあ、ほら、重い一撃って浪漫だろう。なんとかならないかなと思ったのだけれど」
 丹菊が明確に示した目標に、鋭春、再び顎元に指中てて思案顔。
 暫時の沈黙のあとに、整った、という風に頷く。
「――ふむ。求めるのが攻撃の重さだけならば――一工夫の予知はあるか」
「おや、腹案が?」
「まあ、試す価値はあろう。打上がりまでは暫時時間を戴く。名物の饂飩の店がいくつかあるから、そこを巡るなり宿で休むなりして、しばらくお待ちいただけるか」
「勿論。簡単に打ち終わるものでもあるまいしね。――じゃ、いくさの前に腹ごしらえとしようか。山菜うどん山盛り……てんぷら……おかわり何杯いけるかな。ふふ」
 うきうきとしながら一礼して歩き出す丹菊。その背中を見送り一礼すると、鋭春はまた、用意する地金の指示書きに筆を走らせるのであった。


◆“十代永海” 永海・鋭春作 飄嵐鉄・緋迅鉄 重打
    地鳴鉄鍔挿 刃渡三尺五寸 春風緋花『桜燐』◆
 しゅんぷうひばな『おうりん』。
 刃渡三尺五寸の野太刀。心鉄に飄嵐鉄、皮鉄に緋迅鉄を用いた作刀。見た目にそぐわず、同寸の玉鋼野太刀の七割ほどの重量となっている。
 淡い桜色を帯びた刀身は、銘に合わせて鋭春が色味を調整し鍛刀した結果である。桜銀とでも言うべき見事な肌は良く詰んでおり、輝き著しい。
 常に刀身を燃やし続ける事は出来ない(心鉄となる飄嵐鉄が焼けてしまうため)が、敵への打ち込みの際のみ炎を発することで、斬撃に炎を付与して敵を焼き祓う事が可能。また、心鉄となる飄嵐鉄の性質により、純打には劣るものの動きを加速して攻撃を行うことが可能となる。
 さらには、鍔として挿げられた地鳴鉄の働きにより、意念を込めた際のみ刀身重量を二倍まで重くすることが可能。多機能な分非常に扱いは難しいが、巧く扱えば非常に強力。

大成功 🔵​🔵​🔵​

青葉・まどか


2.

ここが名高き刀匠の里!
やっぱり独特の活気があるね!

刀匠さんに造ってもらえる機会なんて滅多にないからね、是非とも造ってもらわないと!

造っていただくのは、やっぱり使い慣れたダガーがいいな
サムライエンパイアだと短刀や鎧通し、脇差や小太刀に分類されるのかな?

普段使いのダガーでは対応が出来ない魔術や霊体にも対抗出来る屠霊鉄
一点物を投擲で投げ捨てるなんて出来ないからね、投擲の代わりになるように光の斬撃が出せる烈光鉄
この二つの妖刀地金を用いて新造して頂くね

永海の――妖刀匠に造っていただいた特別な一振り
この里を、安寧に生きる人たちを守るために振るわさせていただきます

※形状・銘 共にお任せいたします



●有も無すらも断つ光
「ここが名高き刀匠の里――やっぱり独特の活気があるね!」
 少女は思わず声を漏らす。鎚音、鍛冶師達の指示伝達、赤熱した鉄を浸した水の爆ぜる音。未だ鍛冶場に入らずとも、それが少女の――青葉・まどか(玄鳥・f06729)耳には聞こえている。遠目に映る鍛冶場が近づくにつれ、胸が高鳴る。
「刀匠さんに武器を造ってもらえる機会なんて滅多にないからね。今回は是非とも造ってもらわないと……!」
 鍛冶場に向かう脚は知らず知らずのうちに弾み、いつしかまどかは駆けだしていた。
 彼女の健脚を以てすれば、活気渦巻く鍛冶場は目と鼻の先である。
「――ごめんください!」
 戸口を潜れば、そこはまさに鎚音と火の熱、そして人の意志が渾然一体と混じってざわめく鉄火場であった。――まるで戦場だ。指示を飛ばす鍛冶、鎚を振り下ろす鍛冶、その一挙一動が鬼気迫るもの。一心不乱に刃打つ様は、恐ろしくも美しい。
 あれほど、真摯に打つ刃が手に入るのかと。ぞくり、背筋が震えるのをまどかは感じる。
「ああ、猟兵どのか。騒がしくて相済まぬ、飛ばさねば全員分の注文打ちが終わりそうにないものでな」
 鍛冶場の圧に束の間目を奪われたまどかに、不意に掛かる声。声の方を向けば、頭に手拭いを巻き締めた、鋼色の目をした男がいる。身の丈六尺あまりの長身、見上げるまどかの首が痛くなるほどだ。
「十代永海、永海・鋭春だ。注文を伺おう」
 総代として、猟兵達の案内をした男であった。まどかとて無論覚えている。まどかは頭を一つ下げ、応じる。
「初めまして。私は青葉・まどか。今回は鍛刀のお願いをしに来ました。……作っていただくなら、使い慣れたダガーをお願いしたいな、と思って」
「ダガー? ――西洋の短剣のことか」
 鋭春が博識にも応じるのにまどかは頷き、「こういうものです」と自前のダガーを抜いて、作業台に置いてみせる。
「この世界で言うと、短刀や鎧通し……脇指しとか、小太刀にとかに分類されるんでしょうか。このくらいの大きさのものをお願いしたいです」
「まさに丁度、短刀と同じほどの丈だな。このダガーを預からせて貰えれば、意匠は似せて設えられるだろう。他に注文はあるか?」
 まさに職人、出来ぬ事などないとばかりに淀みなく答える鋭春。まどかは口元に指を当て、希望を並べる。
「この普段使いのダガーだと、魔術や霊体といったものには対抗が出来なくて。そういうものを斬れるように屠霊鉄を使っていただきたいのと……私はダガーを投げたりして使うんですけど、一点ものには流石にそんなことは出来ないから、投擲の代わりになるように、光の斬撃を出せるよう烈光鉄を使ってほしいです。いくつかの地金を重ねることが出来るようになったと効いているからの希望ですけれど……できますか?」
 少し不安げに締めくくるまどかに、鋭春は穏やかに、しかし力強く笑って応えた。
「複数の性能を持つ妖刀を鍛造ることは問題なく出来る。扱いが難しくなったり、それぞれの性能としては、単一性能のものには一歩譲るという欠点もあるが。……しかし、目的が明白であればあとは遣い手次第だ。青葉殿が目指す刃を鍛造る為、この永海・鋭春、全霊を以て承る。暫時、宿で待っていてくれ。きっと、希望に添うものを届けよう」
 力強い言葉に、ぱあ、とまどかの笑みが花開く。
「――はい! 永海の――妖刀匠に造っていただいた特別な一振り。きっと、この里を、安寧に生きる人たちを守るために振るわせていただきます!」
「頼もしい限りだ。――ならば活躍を支えるに足る、飛び切りの一刀を鍛造らねばな」


◆“十代永海” 永海・鋭春作 屠霊鉄・烈光鉄 重打
            刃渡七寸 霊断光刃『煌駆』◆
 れいだんこうじん『きらがけ』。
 刃渡り七寸――二一センチメートルの、やや大振りのダガー。握りまでが一体成型の総金属製となっており、何重にも硬く巻き締められた紅い組紐が柄の代わりとなっている。
 一見無骨な作りだが、心鉄に屠霊鉄、それを巻く皮鉄に烈光鉄を用いる繊細な鍛接技術により成立した作であり、心鉄とした屠霊鉄の対霊攻撃力と、刃に込めた意念を光の刃――『光閃』に変換する烈光鉄の光出力能力を併せ持つ。それぞれの専門の作には一歩譲るが、その能力は高次元でバランスしており、まどかが猟兵としての能力を付加して使えば、十二分に戦いの役に立つことであろう。
 光閃の射程は、現在のまどかが振るうことで四一メートル。今後力をつけ、意志力を鍛えたならば、更に射程は伸びゆくことだろう。
 煌めき駆けること彗星の如く。字して、『煌駆』。

大成功 🔵​🔵​🔵​

玉ノ井・狐狛
◎2
妖刀地金の種類と銘はお任せ
希望する仕様:
魔術的作用、とくに視線・視認を介するものを遮断・反射し得る鏡面状の刀剣(尺は長めの打刀~短めの太刀程度)
運用に魔術行使や思念を必要とせず(武器の機能のみで完結する)、上述の性質を恒常的に有している
通常の斬撃武器として使用可能

――といったところだ
アタシぁ、鍛冶にはさほど詳しくない。可否の判断や細部については任せるぜ
あァ、視認トリガーの呪術については実践できるから、標本や試験が必要なら言ってくれ

面倒を頼む分は、あとで働いて返すからよ
タワーディフェンスにゃ慣れてらァ

鍛刀の待ち時間なんかがあるなら、地理(マップ)の下見をしとこうか
この里に来るのは初めてだしな



●搦め手使いの鏡刀
 玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)は鍛冶場に入るなり、その場の鍛冶師らを統括する鋭春の姿を捉えると、迷わず脚を進め彼の方へ向かった。過分な遣り取りは必要ない、欲しいものの最低限の仕様は既に固めてあったし、その希望が叶えられぬような鍛冶達だとも思っていない。――何せ、一度この里を守ったはずの猟兵達が、嫌な顔一つもせずに、こぞってもう一度と集うような里だ。
 身の丈五尺ばかりの狐狛は胸を反らし、たっぷり頭ひとつは上背の差のある鋭春に、気後れする事無く声を掛けた。
「よう、アンタが総代鍛冶だよな。アタシは猟兵、姓を玉ノ井、名を狐狛。アンタたちに打って欲しいもんがあってね。一つ、注文を聞いちゃァくれないかい?」
「いかにも、おれが当代永海の総代鍛冶。十代永海、永海・鋭春だ。……なんともすがすがしい真っ直ぐな物言いだな。聞こう、何でも言ってみてくれ」
 鋭春の頷きと了承を見るなり、狐狛は片目を閉じて、諳んじる様に言った。
「アタシは妖刀地金の種類には明るくない。だから出来るもんかどうかはアンタたちの判断に任せるが、求めているのは――呪い返しの鏡刀さ」
「……ふむ?」
 虚を衝かれた風に眼を瞬いた鋭春に狐狛は仕様を並べ立てる。
 曰く、魔術的作用に対し、物理的に干渉出来ること。特に視線、視認を介するものを遮断・反射する鏡面を持つ剣を作成してほしい、という依頼であった。
 また、その作用に関しては常時発露でき、運用時に魔術行使、思念などのリソース消費があってはならないという条件が付く。つまりは武器のみ、スタンドアローンで機能する、恒常的な魔術殺しの刀でなくてはならない。その上、刀として普通に使えるもの、丈は長めの打刀ほど――という、要件山盛りの複雑な注文であった。聞くにつれ、鋭春は難題を考える顔で眉根を寄せる。
 一通り説明を終え、息をつく狐狛。
「……ってところだ。アタシぁ、鍛冶には然程詳しくない。さっき言ったとおり、出来るかどうかも知らないで、無茶を言ってるかも知れないが、無理かどうかは分からないから注文してみたってところだ。可否の判断、細部の詰めなんかはアンタらに任せる。――どうだい、難しそうか?」
 からっとした口調で言う狐狛。……無理なら引っ込めると言いつつも、狐狛の瞳は職人の矜恃を擽るように弧を描いている。
 ――やりもせぬうちに諦め撤回を頼むのは職人にあらじ。きっと眦を決した鋭春は、手元の注文書きに狐狛から寄せられた注文の内容を事細かに書き記す。
「出来る、とも、出来ぬ、とも断言はできぬ。何分、魔術を斬る刃は打てても、そのように跳ね返すなどという注文を賜ったことはないからな。しかし、透ける怪異に触れて裂けるならば、打ち返すことも出来るが道理だろう。試してみようとも」
「それでこそだ。面倒を頼む分、あとで働いて返すからよ。タワーディフェンス……防衛戦はアタシの十八番、騙くらかして陥れる化かし合いに、狐が負ける訳がないサ」
 コン、と手で狐を象ってみせ、皮肉に笑う狐狛。頭の上で狐耳が跳ねるのを見て、なるほど、と鋭春は肩を竦める。
「……道理で口と乗せ方が巧いと思った。だが、乗せられようとも。我ら永海、不可能がないとは言わずとも、刀の事で出来ぬと言うのが、死ぬほど嫌いなものばかり。里の叡智の全てを揮い、一つあんたを唸らせてみせよう」
 熱を帯びた鋭春の返事に、ししし、と笑って狐狛はくるりと踵を返した。
「期待してるぜ、総代。試したくなったらいつでも呼んでくれ。アタシがちょちょいと呪いを飛ばしてみせるからさ。――そんじゃァ、アタシは里の回りを見て回ってくる。騙し討ちには地の利が不可欠だしな。出来上がったら、宿に届けてくれよ」
「承知仕った。行き詰まることがあれば呼ぶとしよう。……三・四日待ってくれ。敵が襲う前には仕上げ、あんたの元に届けよう」
 背中に受けた声にひらひらひらりと手を振って、風に乗った木の葉のように悠々と、狐狛は鍛冶場をあとにするのだった。


◆“十代永海” 永海・鋭春作 屠霊鉄 純打
      刃渡二尺七寸 幻想籠絡『纏女』◆
 げんそうろうらく『まといめ』。
 屠霊鉄純打の打刀。打刀と呼ばれる分類の中でもかなり長い。
 一般的に、狐狛ほどの身長で刀を扱う場合はおよそ長くとも二尺二寸ほどが限度とされるが、それよりも更に五寸長く丈を取ってある。
 更に身幅が大きく、標準的な刀の元幅と先幅はそれぞれ三センチ、二・二センチほどと言われるが、纏女は四・五センチと三センチとなっており、規格外の重厚な造りとなっている。切れ味、耐久性共々凄まじい。
 超常の霊、魔術現象などに触れて断つことを可能とする妖刀地金『屠霊鉄』での作刀。その大きな身幅は、妖の骨粉と妖刀研ぎの際に生じた打ち粉で傷、曇り一つ無く磨き抜かれており、幅広の身幅も相俟って、鏡めいて敵を映し込む。
 極めて高い純度で打ち上げられた屠霊鉄を執拗に磨き込むことにより、その霊的干渉能力は極致に至った。呪的な視線、視線をトリガーとして発露する類の魔術などを反射し敵を呪い返す、呪い殺しの霊刀として仕上がっている。
 騙くらかして纏い絡めて、手中に堕とすは妖女の如く。字して、『纏女』。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】1◎

あの時壊れてから何となくそのままだった剣
先に進む為にもちゃんと直してやりたい
それに俺の剣もアレスの盾も
やっぱないと落ち着かねぇからな

直して欲しいのはこの『青星』だ
こっち星の瞬きは属性攻撃が得意で
青星は速く斬りやすいのと
魔力の通りがいいから全力で魔力流してでっかい剣みたいにして…って感じで使い分けてたかな
またそういう風に使えるようにしてくれっと嬉しい
詳細は任せるぜ
だって腕がいい職人なんだろ
誇りもってるヤツは信用できる
だから…任せる
希望はアレスの剣として、共にあれるくらい強くってだけだから
ああ、でも
青星の名前だけは
対のそのままで頼む

お前の盾もかっこよくなったじゃん
ああ…そうだな
おかえり


アレクシス・ミラ
【双星】
1


ここでなら君の剣と僕の盾を直してもらえるんだね
折れた青星に
戦争卿との戦いの…傷だらけの彼を思い出してしまう…けど
ふたりで強くなりにきたんだ、と振り払う

頼みたいのは『早天の盾』
セリオスから貰った盾だけど、帝竜戦役で無茶をさせてしまって…
オーラの障壁と併せたりして強大な攻撃を受け止めてきた
…色々考えたけれど
騎士として、セリオスの盾として
守るべきものを守り抜き…共に在れるような盾を
職人さんにお任せしたい
貴方達の誇りを信じてるよ

あと、此方は出来ればだが…『赤星』も烈光鉄で強化を頼めるかな…?

…セリオス、青星を見せてもらえるかい?
新しい青星に盾を合わせる
…うん
帰ってきたって感じがする
おかえり



●双星、再臨
 鞘の中で眠り続ける、砕けてしまった剣を。
 亀裂がそこかしこに走り、本来の役割を果たせなくなった盾を。
 二人は携え、夕暮れに差し掛かる里の路を、同じ歩幅で歩く。
「ここでなら、君の剣と僕の盾を直してもらえるんだね。……随分、長いことそのままになってしまったけれど」
「あぁ。……この里のことは噂にゃ聞いてたけど、渡りに船ってところだな」
 夕暮れの道を行くのは、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)とセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)。
 アレクシスは、帝竜戦役において最強の帝竜――オブリビオン・フォーミュラ『ヴァルギリオス』の数々のブレスを防いだ際に、盾のそこかしこに亀裂を受け、以来、盾を失ったままに戦い続けてきた。最早攻撃を防ぐことも叶わぬ、壊れかけの『早天の盾』を、その腕に携えている。一方のセリオスは、強大なオブリビオン――『戦争卿』との戦いで砕き折られた愛剣、『青星』を持ち、永海のわざを頼りにこの地に降り立ったのである。
 燃えるような夕暮れの日差しを頬に受け、セリオスは傍らのアレクシスに笑ってみせる。
「ホント、長かったけどよ。俺達が先に進む為にも――そろそろ、きっちり直してやる頃合いだろ。俺の剣も、アレスの盾も、やっぱりなきゃ落ち着かねぇからな」
 ――その笑みが、戦争卿の元に独り、戦いを挑みに羽撃いた、あの日の彼と重なって、アレクシスは一瞬、それと悟られぬほどに息を詰めた。折れた青星は、あの悪夢のような戦いの象徴だ。嫌が応にも、命を喪うほどの傷を負い、手脚を無くして地に伏したセリオスの姿を思い出す。
 ……けれど――そうだ。
 あの悪夢のような光景を二度と見ない為に、より強くなると誓った。『先に進む為に』とセリオスが言ったとおり、新たな力を手に入れ、今までよりも強くなる為。二人で強くなる為に、ここに足を向けたのだ。
 故に振り払う。後悔も、胸の痛む悪夢めいた記憶も。
 アレクシスは空色の瞳を細め、遠目に見える、鎚音響く建物の方を真っ直ぐに見た。間違いない。あそこが、案内された鍛冶場だ。
「そうだね。……行こう、セリオス。不安がないわけじゃないけれど――何もしなければ、壊れたもののは壊れたままだ。僕達は取り返す。失ったものを、確かな形で」
「ああ!」
 細く細く、鉄を焼く煙の上る平屋へ、二人は確かな足取りで歩いていく。


 鍛冶場の中は、既に夕暮れに差し掛かろうというのに未だ蜂の巣を叩いたような騒ぎであった。鎚音に指示の声、威勢の良い応答に、仕様を議論する猟兵と鍛冶師。そんな喧噪の中、長身に、頭に手拭いを巻いた、刃金の目をした偉丈夫――“十代永海” 永海・鋭春を捕まえたセリオスは、時間が惜しいとばかり、早口に用件を並べた。
「あんたが、一番凄い鍛冶だって聞いてきた。俺はセリオス・アリス。で、こっちが、相棒のアレクシス・ミラだ。用件は一つ。俺達の武器と防具を、あんたらの技で鍛え直して欲しい」
 端的なセリオスの言葉にクッションを挟むように、鋭春が一つうなずく。
「ふむ――そうだな。では、まずは物を拝見しよう。どの程度の補修が必要か見極めたい」
 横合いにある作業台に手を衝く鋭春に応え、セリオスはアレクシスに目配せ一つ。アレクシスも頷きを返し、作業台の上に己の武具を置く。
 斯くして、作業台の上には早天の盾、青星、そして青星の対となる長剣――『赤星』が並んだ。
 鋭春が仔細を検めるまでもない。一瞥しただけで分かるほどに、早天の盾と青星は破損している。
「――この西洋剣と盾は完全に破損しているな。接ぐ補修は出来るが、以前より優れた使い心地を求めるなら、これを機に打ち直すのも悪くはあるまい。一度只の鋼として還元し、妖刀地金として鍛え直すのが良いと考えているが、如何か。拵え、形については、現在と同様に仕上げると約束しよう」
 問いかけに、アレクシスとセリオスは暫時視線を交わして、一つ頷いた。まず口を開くのはアレクシスだ。
「……色々考えたけれど、騎士として。セリオスの盾として、守るべきものを守り抜き……共に在れるような盾を。職人さんたちにお任せしたい。貴方達の誇りを信じてるよ」
 アレクシスの言葉を継ぐように、セリオスが続けた。
「あんたら、腕がいい職人なんだろ。誇りを持ってるヤツは信用できる。だから……細けぇことは任せるよ。希望は俺も、アレスの剣として、共にあれるくらい強くってだけだから」
 口に出すことを衒わぬ、強い友愛。
 そのなんと眩きことか。
「……ふむ。互いに無二の相棒といったところか。絆があるというのは良いものだ。この剣から、盾からも、匂いがする。互いを守る戦いの果てに、その命を全うしたのだという、一度は果てた――倖せな鉄の匂いだ」
 セリオスとアレクシスが、驚いたように目を丸くする。この剣が、盾が、折れ砕けた瞬間のことを話したわけでもないのに、ぴたりと鋭春はその今際の際を言い当てたのだ。
「不肖、永海・鋭春。全霊を以て事に当たろう。他に注文はあるか?」
「――ああ、じゃあ、ひとつだけ」
 セリオスが、折れた刃に指を這わせる。
「……こいつ、『青星』って銘なんだ。それだけは変えないでやってくれ。アレスの剣――赤星と対になる名前なんだ。それだけは、そのままで」
「無論だ。思いのこもる名は、武器に命を与える。その銘を承継しよう。――であれば、そちらの剣、赤星と似た強化を施すことにしよう。ご両人、それぞれの装備の特質、使い方などあれば教えていただけるか。それに合わせた作りとし、必ずや、あんたたちの力になる物を作り上げてみせる」
 鋭春の力強い言葉に、アレクシスもセリオスも、破顔一笑頷いた。


 ――早天の盾は、溢れ出る光のオーラを纏わせ、そのサイズ以上の大楯として強大な攻撃を幾度も防いできた。赤星もまた、アレクシスが持つ光のオーラを纏わせ、光の斬撃を飛ばして敵を断った。青星は、幾度もセリオスの『根源の魔力』を帯び、その魔力により構築した種々の魔力刀身により敵を断ったという。
 二人の力の仔細を、実際に試斬場で目の当たりとして、暁と宵、常に背中を預け合い闘ってきた双星の力に合わせ、鋭春は一気呵成と鎚を振るったという。


「――セリオス、青星を見せてもらえるかい?」
「ああ。お前のももっと近くで見せろよ」
「うん。……ああ、帰ってきたって感じがするね」
「そうだな。お前の盾もかっこよくなったじゃん」
「そうだね。信じて預けて、良かった」

 ――新たなる姿を得た剣と光の盾が、きん、と音を立てて重なる。
 アレクシスは、笑った。セリオスもまた、それに応えるように微笑んだ。

「――……おかえり。僕の剣」
「ただいま。そんで、おかえり。俺の盾」
「――ただいま」


◆“十代永海” 永海・鋭春作 烈光鉄 純打
             閃盾自在『蒼天』◆
 せんじゅんじざい『そうてん』。
 早天の盾を一度鋳溶かし、それを素材として妖刀地金『烈光鉄』を精錬。出来上がった烈光鉄の塊を小盾の形に打ち伸ばし、その上で更に冷間鍛造。極めて堅固な盾の形に仕上げ、表面を磨き上げた結果生まれたカイトシールド。
 意匠、装飾も含め、原型となった早天の盾と同様の形状をしているが、常に微かながら燐光を放つ、いかにも神秘的な盾に仕上がっている。
 意思に応じた伸縮機能は失われたが、アレクシスがその意念を込めることにより、光の壁――『閃壁』を発生させ、身に迫るあらゆる攻撃を遮断する。
 閃壁の硬度は彼の意志の堅固さに比例する。信じ、守り抜くと決めたのならば、あらゆる攻撃を防ぐことが可能となるだろう。
 銘は、元の盾の銘を継ぎ、さらに鋭春が願いを込めたものである。
 願わくば、いと高く、蒼き天さえ包む楯となれ。字して、『蒼天』。


◆“十代永海” 永海・鋭春作 烈光含
       長剣 双星暁光『赤星』◆
◆“十代永海” 永海・鋭春作 烈光鉄 純打
       長剣 双星宵闇『青星』◆
 兄弟剣『赤星』『青星』を、永海・鋭春が仕立て直したもの。
 仕立て直したと言っても、基本的な姿形は変化ない。原型を最優先に尊重した上で丁寧に仕上げられている。
 刀剣としての機能を保っていた赤星には、烈光鉄の性能を吹き込む『烈光含』という工程が施され、砕け折れた青星は、蒼天同様鋳溶かされた上で、烈光鉄として再鍛錬された。
 性能的には、永海作の刀剣としての鋭い切れ味、高い靱性はさることながら、意志を込めることにより光の刃『光閃』を放つことが出来る。この点は他の烈光鉄の一般的な作と変わりない。
 セリオスの青星はそれに加え、彼の魔力を通しやすくする為、鍛錬の最中にセリオスの歌を聴かせて――鋭春曰く(およそ正気とは思えないことに)『声を鋳込めて』――あり、『彗星剣』などの、刃に魔力を込めて放つユーベルコードの威力を増幅する造りとなっている(セリオス曰く、前よりやりやすい、とのこと)。
 此度永海の里で改修・新造された武器のうち、唯一と言っていい工夫が施されている。赤星にはセリオスの血が、青星にはアレクシスの血がごく少量、鋳込められている。
 これはセリオスを守るアレクシスの意志と、アレクシスを案じその力をいや増さんと歌うセリオスの意志を、互いに増幅する為の施術であるとのこと。これにより、僅かではあるが、彼ら二人が揃って闘う場合、刃から放つ意念の光刃――『光閃』の限界射程が延びることが確認されている。詳細な検証を行う時間は無いが、恐らく揃って闘えば、両名の戦闘能力は単身で闘う場合よりも高まるのではあるまいかと思われる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
◎●
1補修
補修が困難なら玄夜叉の刃を使い2

多少の猶予と最悪を防ぐ手段があるのは有難ェ
刀匠の里、か
またとない機会だ

里到着後は里の中や部隊など確認
鋭春と初顔合わせ
己の剣を任せるに値するか軽く話す

すまない、見定める真似をして
…十代目、改めて頼みたい(頭下げ
コイツは…玄夜叉は、俺が故郷を出る時から共に戦ってくれてたンだ
今まで大分無茶させてきた
剣に司る魔精は恐らくもう居ねェ
生まれ変わらせられるか?
再び己が正義を貫く力が欲しい

ガイオウガ戦で折れた剣見せ相談
※使い手が無茶しすぎないよう実は剣の真の力は封印されてた

銘お任せ
黒の大剣
長さは身長程
形状は西洋寄りで派手
五行説を用いれれば嬉しい
難しいなら緋迅鉄と絶雹鉄



●五輪の剣
「多少の猶予と最悪を防ぐ手段があるのは有難ェ。準備する時間があるんなら、それだけ勝率が上がるからな」
 男――杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は永海の里を歩きながら呟いた。猟兵達は猶予のない戦いを――或いは、既に犠牲の出ている戦いをすることもしばしばだ。しかし、彼らがそれに怒りを唱えることはない。
 グリモア猟兵は予知を選べぬ。グリモア猟兵が視てしまったものを、最少の損害で退ける――それが責務だと、全ての猟兵が知っている。
 里の自衛部隊の練度と装備を確認し、里の外形、地形を頭に叩き込んだ後、彼は一路鍛冶場へと歩いていた。空は暮れ、じきに夜が来ようという頃合いのことである。
「しかし――刀匠の里、か。またとねェ機会だ」
 クロウはぽつりと呟く。彼は背に、砕けた大剣を負っていた。それは帝竜『ガイオウガ』を相手どり、かの火焔竜を叩き切った際に、役目を終えたかのように砕けた彼の愛剣。――銘を、『玄夜叉』。
「さて、噂の永海の鍛冶の腕前――まずは測ってみるとするかね」
 果たして、己の剣を、相棒を預けるに足るものか。
 猟兵として動き出してからずっと、己の命を預けてきた業物だ。半端な技で直されては浮かばれまい。
 クロウはぶつける質問を幾つか考えながら、鎚音鳴り渡る鍛冶場の方へ、ゆっくりと歩いていく。


 ――結論から言うのであれば、永海・鋭春は傑出した鍛冶であった。作刀に当たって心がけていること、気をつけていること。自分――クロウに刀を作るとすればどれほどの丈で造るか。
 鍛冶場にてクロウが矢継ぎ早にぶつけた質問に、鋭春は全て、当意即妙の調子で揺るぎなく答えた。身長に対する最適な丈という概念、しかして剛力無双の猟兵ならば、そのセオリーを無視して大刀としても構うまいという知見を言い添え、果ては教えてもいないクロウの利き腕を当て、それに基づいた調整を施す旨まで付け加える――まさに、遣い手に寄り添う鍛冶の姿である。
 加えて折れ砕けた原因が強敵との戦いの折、限界以上の力を込めたためであることまで言い当てられては、クロウも認めるほかはない。
「答えに不足があれば、後学のため教えて貰えるか。大分解ってきたとはいえ、あんたたち猟兵のわざは、おれ達の常識の埒外だ」
 謙虚にも言い添える鋭春に、クロウはゆるゆると首を振り、折れた剣を作業台に置いた。身の丈ほどの大剣、かつて玄夜叉と呼ばれた黒剣である。
「……すまない、見定める真似をして。十代目、アンタの腕を見込んで、改めて頼みたい。コイツ――玄夜叉は、俺が故郷を出る時から共に戦ってくれてたンだ。今まで大分無茶させてきた。剣に宿る魔精は恐らく――もう居ねェ。今じゃコイツは、ただの残骸に過ぎない」
 クロウは滔々と語り、折れた刃に指先を置く。
「――それでも俺はコイツと共に戦いてェ。生まれ変わらせられるか? 再び己が正義を貫く力が、欲しいんだ」
 切々とした訴え。深々とした礼を一つ。クロウの切なる願いに、鋭春は暫時沈黙。
 しばしの瞑目の後、ゆっくりと目を開く。
「この剣の鉄はかいだことのない匂いがする。これを我が、永海の技で鍛え直せばどうなる物かは未知数だ。しかし、頼ってきたもののふの願いに応えぬは鍛冶の名折れ。聞きたいことが幾つかある、暫時、あんたの時間をくれ。聞くべきを聞いたなら――あとはこの鉄の声を聞き、二度とは折れぬ靱の極みとして、一剣、献上仕る」
 確実に出来るとは言い切れまい。それでも精一杯、クロウの気持ちに寄り添うよう努めると、鋭春はそう謳った。
 返答を噛みしめるように目を伏せ――
「……ありがてェ。頼むぜ、十代目」
 クロウはただ一言。
 鋭春に願いを託すように言い、玄夜叉の破片から指を離すのだった。


◆“十代永海” 永海・鋭春作 崩し烈光含
         大剣 五行相生『伍輝』◆
 ごぎょうそうじょう『いつつき』。
 玄夜叉をベースに打ち鍛え直された、漆黒の西洋大剣。クロウの身の丈と同じほどの長さを持つ。その形、色は以前の玄夜叉と変わらぬが、強度、靱性、切れ味の全てが向上している。
 鍛え直した刃に、鋭春は『烈光含』の施術を施した。七つの妖刀地金、それぞれの性質を適切な配分で調和させることで、いかなる属性にも寄らず、意念を『光閃』として出力することを可能とする、妖刀地金の中でも極めて精錬の難しい鉄――烈光鉄と同質の性質を、既存の金属に帯びさせる術である。
 だが――鋭春は施術途中、その調和を意図的に崩し、一振りのうちに、調和させぬまま多数の属性を内包するという離れ業をこの剣に施した。
 破断した大剣『玄夜叉』を烈光鉄の製錬工程と同様の工程にかけ、意図的に属性ごとのバランスを崩し、流転させたのである。一歩間違えば刃が二度と使い物にならぬ屑鉄と化しかねぬこの工程を、鋭春は『崩し烈光含』(くずしれっこうぶくめ)と名付けた。
 ――結果その大剣は、一つの属性に依らず、主が望むままに、五行思想に基づいて種々の属性を出力する魔剣と化したのである。無論、一属性一属性の力は純粋なそれぞれの妖刀には及ばぬが、しかしそれは剣そのものの性能で比べた場合の話だ。
 この剣をクロウが、決意と共に振るうならば――向かう処に敵などない。
 流転し燦めく伍つの輝き。字して、『伍輝』。
 永海の里としての銘は前述の通りだが、風雲児の元に帰り着いた刃を、元の名として呼ぶのならば――『玄夜叉・伍輝』。アスラデウス・エレメンツ、となるとは鋭春の弁である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
1
同じく鍛冶の里であっても矢張り趣は違うものだな
ともあれ先ずは話をするとしよう

銘は凍瀧と云う此の刀、梶本という里の作なのだが
打った御老に因ると、銘を切った晩の事
1本の川が竜へと変じ、此の刀に呑み込まれる夢を見たのだそうだ
しかし其の事で未だ「足りぬ刀」だと察した、と
そして本来ならば自身の手で完成させるべきであるのに
己には“足りぬ何かが掴めず叶わない”とも

――譲り渡される折、頼まれた
『未完の刀をお譲りするのは大変に業腹だが、此れが刀自身の望み
如何にされようとも構わぬ故、どうか完成させて遣って欲しい』と

此の里へ足を運んで確信した
如何様に、何を使われても構わん
其方が思う様に此処で整えてやって頂きたい



●『答え』
「もし。総代鍛冶殿とお見受けする。僅かばかりでいい、私の話を聞いてはくれまいか」

 鎚音と声強く響く中、男は探し当てた鍛冶に声を掛けた。
 一年あまり前に与えられた命題の答えが、その鍛冶の中に垣間見えたからなのやも知れぬ。

 一年と四月ほど前。
 ここ、永海の里と同様に、猟兵に救われた、もう一つの刀匠の里があった。
 梶本村、という名の村だ。
 古くより鍛冶産業にて栄えた刀匠の村である。徳川の治世となって以降、戦乱・騒乱の数はめっきりと減り、武器打ちには厳しい世となったこともあり、いよいよ食い詰めていたその村だが――彼の村もまた、柱のように村に残した、名刀梶本八本刀を、奪いに参じたオブリビオンに襲われたのだという。猟兵達に救われた梶本村は今も、細々と刀を打ち、農業に精を出しながら存続しているというのだが、
 ごとり。
 一振りの刀を作業台に置いて、男は本題を切り出した。
「――ご存じかどうかは分からないが、この刀は、その梶本の里の作だ。銘を『凍瀧』と云う。……良く詰んだ肌、硬く強く、よい刀としか見えないが……受け取る折に、気になる話をされてな」
 一年あまり前の記憶を手繰り、思い出しながら鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は続ける。聞き手は無論、“十代永海” 永海・鋭春である。鋭春の背丈は六尺あまり、里の中では相当な巨漢の部類であったが、嵯泉はそれより上背が高い。そんな二人が相対すれば、そこには奇妙な威圧感が生じる。
「梶本村の話は聞いている。刀が産業とならぬようになったのちの凋落もな。我らは抱えた商人に妖刀を卸し食い扶持を稼いで凌いだのだが、卸先がないとなれば難儀したことだろう。……で、その気になる話とは?」
 鋭春は同族とも言える刀鍛冶の村の舐めたであろう辛酸を想像しながら眉を下げ、往時を偲ぶように目を閉じた。――だが長く意識を飛ばしているわけにも行かぬ。今は、この里を守る為に手を動かさねば、明日を生きられる保証もないのだ。
 嵯泉とてそれは承知している。故に、打てば響くように話を続けた。
「打った御老に因ると、銘を切った晩の事。一本の川が竜へと変じ、此の刀に呑み込まれる夢を見たのだそうだ。私は夢占いなどには詳しくはないが――御老は云った。『完璧な物には、入る余地がないのだ』と。つまりは――しかし其の事をして、これは未だ『足りぬ刀』だと察した、というのだ」
「……単純かつ明快な理屈だな。その夢は、きっとそのご老人に閃いた天啓だったのだろう。おれ達刀鍛冶に限らず、職人というのは第六感めいた直感を覚えることがある。……根拠も、理屈も、薄いことの方が多いが――良く確かめてみれば、それは得てして正鵠を射ているものなのだ」
 自身にも覚えがあるのか、鋭春は幾度か頷いて答えた。相槌に嵯泉もまた頷き、言葉を発したときの老人の声と表情を思い起こしながら語る。
「――本来ならば自身の手で完成させるべきであるのに、己には“足りぬ何かが掴めず叶わない”とも云っていた。私も猟兵だ、次の戦場が押していた。去るまでに、御老が閃くことはついぞ無く――最後の最後に譲り渡す折、頼まれたのだ」
 ――あの言葉を、一言一句。切なる願いの表情と共に覚えている。
「『未完の刀をお譲りするのは大変に業腹だが、此れが刀自身の望み。如何にされようとも構わぬ故、どうか完成させて遣って欲しい』と」
「――」
 鋭春が、ぐ、と唇を咬む。
 そう云わねばならなかったこの刀の親の胸中はいかばかりだったろう。しくじたる思いだったに違いない。己の不足を認め――しかも、それを正す時間も、閃きもなく。送り出さざるを得なかった気持ちは。
 無念だったことだろう。或いは、今も囚われているやも知れぬ。
 表情を厳しくした鋭春に、しかし嵯泉は折り目正しく礼をして、注文をつける。
「此の里へ足を運んで確信した。ここに、答えがあると。――如何様に、何を使われても構わん。其方が思う様に此処で整えてやって頂きたい。頼めるか」
 嵯泉の真っ直ぐな言葉に、否を云うわけもない。
 今もきっと、遠い空の下、刀を打っているか――鍬を手に地を耕しているかは知れぬが。
 無念を抱いた同胞に報いる為。その思いをここまで運んだ猟兵に報いる為。
「不肖“十代永海” 永海・鋭春、拝命仕る。――必ずや、その刃の答えを御覧に入れよう」
 強く、強く。
 奮うように歌う。



◆梶本作 退魔刀『凍瀧』――改メ
 “十代永海” 永海・鋭春改作 絶雹含
            衝天凍牙『晶龍』◆
 しょうてんとうが『しょうりゅう』。
 妖怪変化の血を用い、絶雹鉄の性能を既存の金属に吹き込む『絶雹含』を施した『凍瀧』の真の姿。
 優美なる拵え、良く詰んだ肌に優れた硬度と切れ味はそのままに、嵯泉が意念を込めることでいてつくごとき凍気を放ち、斬った対象や触れたものを凍結させる。この冷気は意念を発した人間には作用しない為、嵯泉が巻き込まれて凍ることはない。
 また、低温脆性による刀身の破損も絶無。従来の優れた刀としての性能に、凄まじい氷結属性の威力が乗った物と考えればよい。
 一振りすれば雪晶渦巻き、龍の如く天に昇る。字して『晶龍』。
 梶本の優れた鍛冶に捧ぐ。是こそが貴方の作、その涯て。天を穿つ凍龍の牙也。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四辻・鏡
◎2
用意ってもなぁ…守るもんは守る、跡は強い方が勝つか負けるかって話だし

無辜の民の呪いを映し化わった妖刀として、こっちの都合で新しい武器を生み出すことには気が乗らず
とりあえず研師の旦那に挨拶でもとぶらぶら

その道中に主無き折れた大薙刀を見かけ
あれ、もう直せねぇの?打ち直しとか…

刃をじっと見つめて
お前…まだ戦い足りないかい?
ここで眠っちまえば楽さ
そうすりゃ清いままさ
けれどまだ、足掻くなら
共に、修羅の果てまで往くかい?

決めた。こいつを身請けする
そうだな、小太刀二振りに打てばちょうど良いだろ
大層な力なんて要らないよ
靭い、刀にしてやってくれ

あ、銘?
別に興味ないけど…覚えといてやるよ


武器の性質、銘はお任せ



●修羅の牙
 四辻・鏡(ウツセミ・f15406)にとって、戦いとはシンプルなものだ。押し寄せる敵からこの里を護るために必要な武器は、既にこの身に備わっている。
「用意ってもなぁ……守るもんは守る、あとは強い方が勝つか負けるかって話だし」
 故に、準備のための時間を貰ったところで手持ち無沙汰にぶらぶら歩くくらいしかやることがない。――彼女の正体は齢百を超え命を宿した匕首――鏡刀『影姫』。人の都合で生み出され、長き『刃生』の果てに、無辜の民の呪いを映し化わった妖刀としては、手前の都合で新しい武器を生み出すことには気が乗らぬ。
「ま、でもせっかく来たしな。研ぎ師の旦那に挨拶くらいはしておくか」
 一年と四月前、鏡はこの里を護るために訪れ、その仕事の最後に自身の真体たる影姫を里の補修工房にて研磨した縁がある。
 此度は打ち直し、研ぎ直しが必要なものもない。挨拶をして終わり――などと考えながら補修工房へ歩く鏡だったが、鎚音近づく中でふと、足を止める。
「……こいつは」
 鏡が目を留めたのは、刀の墓場といってもよい、無数の折れた刀剣が突き立てられた一角であった。恐らくは失敗作や廃棄された刀の一時置き場なのだろう。その中で、一際目を引く武器があった。
 常人にはとても扱い切れそうにない大薙刀である。身の丈六尺と五寸はなくば取り回せまい。刃に亀裂が入り、柄は折れ、主の姿も無く、骸めいて突き立っているのに――どういうわけかその刃は目を引いた。
 鏡は道を逸れ、折れた大薙刀に足を向けた。錆の浮いた刃が、しかし鈍く光って鏡の顔を映し込む。
「――お前。まだ戦い足りないかい」
 言葉など、返るわけもない。恐らくは生まれて百年も経っていないであろう刃だ。よしんば百年級の作として命を得ていたとて、こうも折れて綻べば口など聞けぬだろう。
 それでも鏡は問いかけた。
「ここで眠っちまえば楽さ。そうすりゃきっと清いままさ。私が行くのは星の黒点を潰す道。這いずる過去の成れの果てを、血で血を洗いつ殺す道だ」
 刃に手を添える。やはり声は聞こえぬ。
「――けれどまだ、足掻くなら。終わりにしたくないのなら。共に、修羅の果てまで往くかい?」
 ただの気まぐれだ。けれど、なぜだか放っておけなかった。
 ――鏡の声に、まるで応えるかのように。物言わぬ刃が西日を浴びてぎらりと光る。それが錯覚だとて、偶然だとて、もう構わない。
「なら私が、お前に新しい姿をくれてやる。行こうじゃないか」
 鏡は突き立った大薙刀を引き抜いた。補修工房へ向け、共に、歩いて行く。


「――これ、直せねぇかな。打ち直すんでもいい」
「何も、朽ちた刃を用いずとも。新たな物を手前どもが用立てますが」
「いいんだよ。これでいい。……これが、いいんだ。使ってる鉄の量からしても、小太刀二振りくらいにはなるだろうよ。それとも、そういう注文は受けてないかい?」
「……頑固でございますな。いいえ、我ら永海、鉄にかけては三千世界で最優と自負しております。猟兵様たっての願いとなれば、注文通りに仕上げましょうとも。――他に希望なぞございますか」
「いいや。大層な力なんて要らないよ。ただ、今度は折れないように。ただ、しなやかで――靭い、刀にしてやってくれ」
「は。補修工房総代の名にかけて。確かに鍛冶らに言って聞かせましょう。折れず曲がらず良く切れる、無窮の双牙を鍛えるようにと」


 一年と四月ぶりの再会をというのに、往時を懐かしむことも無く、補修工房総代、永海・靱鉢と鏡の会話は淡々と進んだ。
 付ける銘を問われ、興味がないと涼しく言う鏡に、『貴方様にとて美しき銘があるでしょう』とやり込められ――『……わかったよ。好きに付けてくれ。覚えといてやるよ』と、肩を竦めて言う鏡に、靱鉢は笑って言葉を結ぶ。

 ――きっと、呼びたくなる出来となりますよ。
 この鉄は、貴方様を呼んだ鉄なのですから。


◆“十代永海” 永海・鋭春作 斬魔鉄 純打
       刃渡一尺九寸 斬鉄双牙『荒咬』◆
 ざんてつそうが『あらがみ』。
 斬魔鉄製、黒漆拵、赤組紐常巻の、二刀一対の小太刀。
 廃棄された無銘の玉鋼製大薙刀の刃を鋭春が再度還元し、斬魔鉄の製造工程と同様に処置して鍛え上げた刀。
 折れず、曲がらず、しなやかにして固く、鉄さえ裂く程に鋭い――斬魔鉄の見本のような作。刀緒の替わりに、柄尻から斬魔鉄製の細い撚線――緻密に編まれたワイヤーが出ており、この尖端金具を組み合わせることで二刀の柄をワイヤーを介して連結、二節棍のように扱うことが出来る。この場合のワイヤーの最大長は最大で二メートル。
 無論、この仕掛けを使わずに単純に使っても十二分以上の活躍を見せることだろう。

 斯くて朽ちゆき眠るはずだった刃は、夜。
 押し寄せる敵の群に臨む鏡の手の内で、荒ぶるように輝くのだ。

 荒ぶり咬み裂くこと、獣の如く。字して、『荒咬』。

大成功 🔵​🔵​🔵​

信楽・黒鴉
七代永海『筆頭八本刀』を受領する

第一希望:“風刎”
第二希望:“妖斬”

奇しくも僕とて『刀賊』を標榜するもの。まだ見ぬお宝の危機と聞いては、いよいよこの事態を看過する訳にも行かず。刀賊団、結構。ならばその目論見、この刀賊鴉が横槍入れてご破産と致しましょう。

里長と接触後、【コミュ力】で八本刀のお話を伺いつつ(情報収集)、【礼儀作法】も意識し、八本刀を一振り頂けないか【取引】を持ちかける。聞いてもらえるかは、僕の技(UC)でも見て検討してもらいましょう。名刀、妖刀の類には目がありませんのでね。どれほどのものか、拝見させて頂きましょう。あわよくば、僕の元にも一振り……来ませんかね。来ればいいなあ。



●その速さ、神風の如く
 ――風刎ですか。ええ、そうですな、あの刃は――我が王父、“七代永海” 永海・鐵剣が生み出した、最も疾く鋭い飄嵐鉄の作であります。
 あまりの速度に誰も姿を捉えられず――数々の人間を殺し、果てに里一つを滅ぼすような鎌鼬がおりました。元来鎌鼬というのはさして凶暴性の高いあやかしではないのですが――それは物狂いだったのか、己が疾く、目にも留まらず動けることを誇るかのように、見せつけるかのように、人を殺して回ったのです。
 時のあやかし狩り達がそれを危険視しました。当然でありましょう、いつその腕の鎌が次の里を滅ぼすとも知れぬとなれば、災いは摘み取らねばなりませぬ。
 熟練のあやかし狩り達は、手練れを集め、罠を張り、その上で、翻弄される無能を演じて鎌鼬の縄張りに踏み込み、斯くてその神速のあやかしをおびき出し、誘い込んだのです。
 ――そのあやかし狩りの一団の中には、我が王父、永海・鐵剣もおりましてな。王父は、ここ一番の獲物の話を聞いてはその現場に行き、現場で素材の最もよいところを見極めたと云います。里の衆がどれだけ止めても聞かぬのです。……その無茶のお陰で、筆頭八本刀が生まれたとも云えるのですが。
 鎌鼬は数名のあやかし狩りを殺して暴れ回りましたが、罠に嵌まり速力を失っては、本来の力の半分も発揮出来ませぬ。四方八方より刀槍受け、どうと倒れた鎌鼬に、王父は刃を振り下ろしたのです。
『断たれたものの無念を知れ。おまえは、これより我らの糧となるのだ』
 滅ぼされた里の民の弔いの意味を込め、鎌鼬の骸はそのまま野に晒されました。――王父が奪い取った、その両腕の鎌だけを除いて。
 王父はその鎌を使って飄嵐鉄を精錬し――出来上がった、史上最強の飄嵐鉄の作に、何もかもを刎ねる風と銘を打ったのです。それ即ち――疾きこと烈風の如く、飄嵐鉄製打刀――瞬刃“風刎”。
 術者の速度を速め、身体を軽くし、元になった鎌鼬そのものを彷彿とさせる速度での移動・攻撃を可能とするその刃は、斯くて七代永海・筆頭八本刀の二番目を戴くことになったのです――。


 ところは、試斬場。
 幾つか並ぶ木人の前で、語りを結んだ九代永海――永海・鍛座に、信楽・黒鴉(刀賊鴉・f14026)は感嘆した風な声で言った。
「なんとも破天荒な長殿だったのですね。自ら戦場にお出でになるとは」
「ええ。自分に厳しく、他人には優しく、しかしこれと決めたことは一切曲げず、刀を鍛造ることに心血と生涯を捧げたひとでした。……尊敬しております。この年になって尚」
 黒鴉は永海の里に着くなり、里長――永海・鍛座に話を持ちかけ、その持ち前のコミュニケーション能力で七代永海・筆頭八本刀の由来を聞き出していた。風刎の由来は、やはり血に塗れた物であった。永海の妖刀は全て、あやかしを鋳込めたもの。……害あり強力なあやかしほど、その宿業が凄まじい力に化けるのである、と鍛座は言う。
「……となると、やはり外に出すのには躊躇いがあるのではありませんか。尊敬する王父殿の作となれば」
 黒鴉の探るような問いに、鍛座は首を横に振って、笑った。
「時を超えて、王父の作が尚選ばれるというのは――孫の身として誇らしゅうございます。特に、恩人たる猟兵様らから求められたとあらば、尚のこと。……試斬場に来た意味が分からぬほど、耄碌してはおりませぬ」
 試斬場に誘い、道すがら筆頭八本刀の話を聞き、探りを入れた黒鴉が、何を欲しているか分からぬ鍛座ではない。好好爺然とした細い目をぐっと開き、
「この老いぼれの目に、技を見せて下さるというのでしょう」
「これは全く話が早い――」
 見透かされていることをしかし、意に介することもなく、黒鴉は無造作に刃を抜いた。しゃん、と抜いたのは無銘の脇指。刃渡一尺八寸の数打ちである。要は有り触れた刀だ。それを逆手に構え。ゆらり揺らめき、マフラーの端を揺らした刹那――
 黒鴉は消え失せた――否、踏み込んだ。鍛座が目を瞠ったときには、変幻自在に翻る脇指の刃が、木人一体に無数の銀線を引く。『我流再現・転』。木人と擦れ違うように横を抜けた黒鴉は制動、血振りするようにひゅひゅんと刃を回して逆手納刀。背で、木人が崩れ落ちる。
 あまりの速度、技に驚きを隠せぬ鍛座を振り返り、黒鴉は口上を述べる如く言った。
「奇しくも僕とて『刀賊』を標榜するもの。まだ見ぬお宝の危機と聞いては、いよいよこの事態を看過する訳にも行かず参上しました。刀賊団、結構。相手にとって不足なし。瞬刃『風刎』、拝領出来るならば、彼奴らの目論見、この刀賊鴉が横槍入れてご破産と致しましょう。是か、非か」
 年若い少年の身で、なんたる研鑽か――
 刀に身を捧げ、武を極める為に生きねば、あれほどの技が手に入るわけもない。
 鍛座の答えは一つきりであった。ゆるり、頭を下げ、祈るように言う。
「――是非もなく。その技、疾さに、我が王父の力をお役立て下さいませ、信楽様」


◆“七代永海” 永海・鐵剣作 飄嵐鉄 純打
        刃渡二尺五寸 瞬刃『風刎』◆
 しゅんじん『かざはね』。
 七代永海・筆頭八本刀が二。
 一〇〇人殺しの鎌鼬の、血の染みついた腕の鎌を素材とした飄嵐鉄で鍛刀された、二尺五寸の打刀。飄嵐鉄独特の翠銀色をした肌は美しく、乱刃逆丁子燦めく。身幅は細身に取られており、非常に軽く取り回しやすい。
 飄嵐鉄の一般的な作と同様、持つ者の意念に従いその身を軽くし、攻撃・移動速度を爆発的に増幅する性質を持つ。その速度の増幅効率は極めて高く、達人たる黒鴉が揮えば、並大抵の敵では、彼の影すら捉えられまい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シズル・ゴッズフォート

4.神楯衆訓練

まさか、このような形でまたも彼らと関わる事になろうとは……
しかし予知されてしまったものは仕方ありません
彼らが1人でも多く―――いえ。1人も犠牲者を出さずに済むよう、私も力を尽くすとしましょう

……あの頃の私とは、幾分かけ離れましたが
彼らに平穏に生きて欲しいと願うのは変わりませんからね



訓練内容はシンプル
私を攻撃側の仮想敵と見なし、準実戦形式で彼らの防御技術を鍛え上げる
それだけです

彼らの生き方は望む望まぬを問わず、妖刀を求める敵に狙われ続ける
それでもこの里を守ると決めた、彼らの覚悟を後押しするためにも

……幾分厳し目で参ります。さぁ、どれ程成長したか見せて下さい!



●イージスの教え
「――敵は強大。油断すれば――否、気を引き締めて掛かろうとも、死ぬものが出るかもしれません」
 厳しい女性の声が、村はずれの訓練場で響いた。
 ――本当ならば、もっと、認めるような言葉で始めてあげたかった。彼女が握るものと意匠を同じくした、彼岸花と蝶の紋章が刻まれた鉄楯を構えた民兵達――『神楯衆』なるその部隊は、彼女――シズル・ゴッズフォート(騎士たらんとするCirsium・f05505)がこの里に伝えたゴッズフォート流の戦闘術を受け継ぎ、彼女の楯の意匠を真似た楯を握って、この里を守るべく立ち上がった者達だ。
 もともとは戦闘訓練を受けたこともなかった彼らが、教えたあの日から一年と四月、戦士の顔となって自分の前に立っていることを、褒めてあげたい。彼らが訓練を欠かさなかったであろうことは、体つき、立ち姿を見れば解る。
 ――けれど、今は。
「まさか、このような形でまたも貴方たちと関わる事になろうとは思いませんでしたが……しかし、予知されてしまったものは仕方ありません。こうなった以上、泣き言を言っても敵は来る。敵が来るまであと五日――一人でも多く―――いえ。一人も犠牲者を出さずに済むよう、あの日伝えきれなかった技を、貴方たちの骨身に叩き込みます」
 神楯衆の男達は、己の師と言ってもいいシズルの言に、一も二もなく頷いた。本当ならば、再会を祝して言葉を交わしたいと、顔に書いてある。けれど皆、そうしない。今は一分一秒、その寸暇すら惜しいのだ。
 故にシズルは剣を抜いた。ここでこうして技を教えた一年余前のことを思い出す。様々なものが変わり、裡に潜む獣を受け容れ、シズルはあの頃からはかけ離れてしまった。……けれど変わらないこともある。
 彼らに平穏に生きて欲しいと願う、祈りに似たその思いだけは。あの時から一切変わっていないのだ。
「訓練の仕方は昨年と同じです。私が仮想敵として、貴方たちに打ち掛かります。神楯衆は飛鉄衆の援護を得るまでは護りの戦いをするもの、と訊きました。……私に倒されず、一秒でも長く立ち続けてください。――これは訓練。ですが、手は抜きません。幾分厳しめで参ります」
 低く構えを取る。それに応じて神楯衆の男達も楯を構えた。小ぶりな片手持ちの小太刀を反対の手に構え、臨戦態勢の様相だ。
 ――それでこそだ。
 シズルはほんの僅か、唇に笑みを乗せる。
 彼らの生き方は望む望まぬを問わず、妖刀を狙う敵に狙われ続ける。
 けれど、今はもう脅かされるだけの存在ではない。強い目の光が、輝く楯と、光帯びる刀が、里を守ると決めた彼らの覚悟を示すかのようだ。
 それを後押しするために――教えきれなかったこと、もう一度伝えたいことを、盾と刃を合わせて彼らに刷り込もう。
「倒れたものは死んだものとして見做します。――命を喪わぬうちに、『死ぬ』たび、何故死んだかを考えてください。何度も死んで、覚えて下さい。その思考が、死んだ経験が、回数が五日の後、貴方たちを本当の死から遠ざける。……さあ、行きますよ! どれ程成長したか、見せて下さい!」
 どうっ!
 蹴り脚で地面を爆ぜさせながらシズルは、隊伍を組んで真っ向から迎え撃つ構えの神楯衆へ突っ込んだ。推進力を刃先に乗せた突きを放つ。
 先頭の男が、楯を斜めに、角度をつけて構えて突きを受けた。シズルが教えたとおりだ。真っ向から受ければ、堅固な楯でも貫かれる可能性がある。故に、刺突は斜めに『流す』。
 ――そして流したならすぐさま反撃をする。巧く流せたならば、そのまま楯によるぶちかましをかければよい。
 一年前に教えた時には逆立ちしても出来なかった、シームレスな防御から攻撃への連携。先頭の男は吼えながら、シズル目掛けシールドバッシュを仕掛ける。しかし、
 ――が、ぎンッ!!
「なっ――?!」
 男の狼狽の声。完全に入ったはずのシールドバッシュだが、シズルは小揺るぎもしない。バッシュを受けた瞬間、震脚で地面に杭を打ち、攻撃の威力を地面に逃がして耐えたのだ。狼狽と同時に生まれた隙に、反対に自分の楯をねじ込んで、シズルは男を殴り倒す。
「ぐあああっ?!」
「……!」
 吹っ飛ぶ男。他の神楯衆の間に動揺が広がる。無理からぬことだ。だが、それで片付けてはならない。シズルは力強い声で一喝する。
「戦場で平常心を崩しては敵の餌食! 常に想定外を想定しなさい! 攻撃が巧くいくことの方が稀です、常に二手、三手先をイメージして!! ――一人倒されても足を止めないで!! 闘いなさい!!!」
 叱咤の声に、――おお!! 男達が吼える!!
 斯くて、訓練は激化していく。

 ……戦いが始まれば、彼らはもう守られる側ではない。守る側だ。
 だから、楯として出来ることを。心構えを。今度こそ全て叩き込む。

 窮すれど敗せぬ、この里の楯たらんとした、心優しき男達に!

大成功 🔵​🔵​🔵​

セフィリカ・ランブレイ

1
そも、シェル姉何で何時の間にか治ってるの?
刀鍛冶の里でのメンテいる?

相棒の魔剣と里巡り

『後7年早く欲しかった質問ね』
磨いたりはしたげてるでしょ!

『セリカの好きなロボットに例えると私のこの宝石が搭乗者、剣がロボット。で、鞘が整備工場。戦闘で減った体積は高濃度の魔力含有のある魔石から出来た鞘から吸ってる』

なるほど、ならオーダーは…
『魔力の通りがいい金属で設えた鞘ね。今の鞘、少し薄くなってきたから』

シェル姉を改造大幅パワーアップ!とか無理?
『職人に聞いてみたら?セリカが使う想定でこれをもっと強い剣にできるかって』

段階を踏めと

『常にアンタに相応しい力って事ね』

身も蓋もない話。刀鍛冶の里まできて!



●一足飛びの路は無し
 二人の女性が連れ立って歩く。一方は紅い瞳に金の髪、尖った耳が目を引く、活発な印象の美少女。装飾の効いた軽鎧に、見事な拵えの西洋剣を腰に佩いている。他方は豊かな蒼い髪に紅い瞳、やはり尖った耳をした黒いローブの美女だ。――セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)と、その魔剣――『シェルファ』の真の姿である。
 セフィリカは遠くなる鎚音を聞いて、今思い出した、とばかりの口調で傍らに問いかける。
「……気になってたんだけど、そも、シェル姉は何で何時の間にか治ってるの? 刀鍛冶の里でのメンテいる?」
『それ、あと七年は早く欲しかった質問ね。私に対して関心が薄すぎじゃないかしら』
 質問にクールな口調でやり返すシェルファ。「磨いたりはしたげてるでしょ!」と反駁するセフィリカに、じとー、と細くした目を向けて、シェルファは肩を竦めた。
『セリカの好きなロボットに例えると私のこの宝石が搭乗者、剣がロボット。で、鞘が整備工場。戦闘で減った体積は高濃度の魔力含有のある魔石から出来た鞘から吸ってる』
 シェルファが、セフィリカの腰にある魔剣――自身の本体の部位を順に指さしながら言う。
 単純明快、実に分かりやすい説明だ。つまりシェルファには自己修復機能が備わっており、その源泉となるのは鞘から発される魔力ということである。
「なるほど。ならオーダーは……」
『魔力の通りがいい金属で設えた鞘ね。今の鞘、少し薄くなってきたから』
「今言おうとしてたのに!」
『分かっているなら同じことよ。別に正解を言って景品があるわけでもないし』
 まるで本当の姉妹のような距離感で会話をしながら、見えてきた鍛冶場に目を細め、またもセフィリカが切り出す。
「ダメ元で言っちゃうけど、シェル姉を改造大幅パワーアップ! とか無理?」
『……さあ。私は鍛冶じゃないからね。職人に聞いてみたら? セリカが使う想定でこれをもっと強い剣にできるかって』
「そうだね。じゃ、聞いてみようかな。評判のいい鍛冶さんだって言うし、もしかしたもしかするかも――」


「それは――無理、だろうな」
「即答?!」
『でしょうね』
 ところは鍛冶場。意気揚々と赴いたセフィリカは、端的な回答に頭を抱える。
 セフィリカの話と、鞘の下りを聞いた“十代永海” 永海・鋭春はなんとも悔しげな顔で言ったものだ。彼は頑固だったが、しかし出来ないことを認めざるを得ないとき、諦め悪く食い下がるほど蒙昧ではない。
「……そもそも、鞘に入れると元の状態に巻き戻り治る、というのが法外なのだ。刀を、剣を研ぐというのは、その刃先に細かな傷をつけ、斬る対象物に食い込ませやすくすることを言う。どれだけ鋭く刃肉を落とし研ぎ上げても、落とした分の金属が補われてしまうとなれば、それでは全く意味がない。斬魔含を初めとする、妖刀地金の性質をその刃に込めるような施術を施すのも、同じことだろう。本体というのならばご婦人、あんたにはよくお分かりのはずだ」
『そうね。……まぁ、この子の勉強の為に聞いておくのも悪くないかと思ったのよ』
 論理的な鋭春の説明に頷くシェルファ。……治癒能力があると言うことは、逆に言うのならば、シェルファは傷ついても元の状態に修復するため、刀身そのものに研ぎを入れる、何らかの変化を及ぼすことは、復元の対象となってしまうのだ。聡くもそれを見抜き語った鋭春に『試すみたいにして御免なさいね』と微笑んでから、シェルファは言う。
『一足飛びにズルをして、新たな力なんて手に入らないのよ。――私が貸せるのは、常にアンタに相応しい力って事ね』
「身も蓋もない話。刀鍛冶の里まできて!」
 落胆した風なセフィリカに、まあまあ、と取りなすように鋭春が語りかける。
「せめて鞘だけでも仕立て直すといいだろう。魔石とやらからあやかしの力をひり出していたのなら、それに似た性質の素材には幾つか覚えがある。――鞘とは莫迦に出来ぬものだ。抜いている時間より、鞘に収めている時間の方が、剣にとって間違いなく長いのだから」
 規格外の魔剣が相手である。鋭春はシェルファに丁寧に頭を下げた。
「暫時待たれよ。きっと、居心地のいい鞘を仕立てよう」
『ふふ。楽しみにしているわ。宜しくね、鍛冶の方』
 甘く微笑み返すシェルファをよそに、セフィリカはむうう、と膨らせた頬のやり場を失くし、唇を尖らせるのだった。


◆“十代永海” 永海・鋭春作 屠霊鉄 純打
         洋剣鞘 蒼魔鍛成『隠神』◆
 そうまたんせい『いぬがみ』。
 外装デザインは既存のシェルファの鞘を採寸して流用したものの為、一見すると元の鞘とほぼ変わりなく見える。更にまだ使える魔石を粉末に加工、それと霊遺物を合わせて焚きあげた炎で全体を鍛造してある、妖刀地金『屠霊鉄』製の三ピース構造の鞘。限りなく薄く打ち上げられており、重量は従来のものが僅かに重くなった程度。刃を保持する部分に妖異の革を当ててあるフローティング構造の為、刀身を傷める心配が無い。
 元となった魔石の魔力量をそのまま承継したほか、調整した屠霊鉄の作用により、外界から魔力を吸い上げて裡に溜め込む性質を帯びている。例えるならば、今までは魔石を電池として用いていたものが、充電池式になったようなもの。この魔力はシェルファが自己修復の為に用いることが可能なほか、一時的にシェルファの性能を上げるブーストにも用いられる。
 相応に疲労はするが、魔力が枯渇した際はセフィリカが魔力を込めることもできる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シュシュ・リンクス
2!
アドリブ大歓迎!

オーダーメイドのマジックアイテムなんて激レアじゃない!?
やっぱり憧れちゃうよね、こーいうの!
いやー、ぶっちゃけ、筆頭八本刀もすっごく興味あるけど、流石に私が扱うには荷が重いだろうしね!
技能はともかく、覚悟とか、色々。

でもでも、折角作ってもらえるならお願いしたいなーって!
武器でも防具でも構わないんだけど、電脳世界と相性が良いと一番嬉しいよ!
なんとか烈光鉄とか屠霊鉄あたりでこう…良い感じにできないかな!?
なーんて、そこは難しそうだし、無理はしなくて大丈夫っ。
操作の邪魔になると困っちゃうから、持ち歩きが楽だと嬉しいなー。

銘とか詳しい形状は任せるよ!
専門家じゃないしね、私!



●Hello, world
「オーダーメイドのマジックアイテムなんて激レアじゃない!? やっぱり憧れちゃうよね、こーいうの!」
 永海の里、夕刻。虚空に声が響いた。傾いた日が沈みかけた折のこと。出し抜けに空に開いた“門”から、また新たな猟兵が飛び出す。くるんと宙で一つ身体を廻し、しなやかに着地。
 勝ち気な紫の瞳に金髪、頭に猫耳ぴこんと揺らし――シュシュ・リンクス(電脳の迷い子・f11333)は胸を反らして伸びを一つ。
「いやー、ぶっちゃけ、筆頭八本刀もすっごく興味あるけど、流石に私が扱うには荷が重いだろうしね! 技能はともかく、覚悟とか、色々」
 先行した猟兵達の情報を集めてみれば、筆頭八本刀は既に担い手が決まっているとのことだった。今更それに横入りするつもりもなければ、それら八本刀を担う為に抱く思いも、覚悟も薄い。――興味だけで背負うには重すぎる刃だと、少女はなんとなく悟っていた。
「……それより、折角作って貰えるんなら、私に合わせたものをお願いするのも悪くないよねっ。皆が噂するような刀匠の里だもん、私に合わせた武器か防具なってきっと余裕だろうし」
 とんと、軽やかに地面を蹴る。スキップをするような歩調ながら、まるで風に乗ったように少女の身体は宙を舞った。一路目指すは、夕暮れ掛かってなお金音盛んな鍛冶場である。


「――というわけで、武器でも防具でも構わないんだけど、私の戦いに合わせて一つお願いしたいんだよね。電脳世界と相性がいいと一番嬉しいよ!」
「電脳世界――というのは、いかなるものか」
 シュシュからぶつけられた注文に顎を撫でながら応えるは“十代永海”、永海・鋭春。流石に数十人からなる猟兵達の注文を請け、その一つ一つに対応してきた彼は、今更知らぬ単語の一つ二つを出されたところで毛ほどにも動揺せぬ。
「ええと、なんて言えばいいのかな……見せるのが一番早いかも?」
 ちゃ、とシュシュは電脳ゴーグルをかけ、ゲームデバイスを操作した。次の瞬間、鋭春とシュシュの周りに風船に目の付いたような、ドット絵のキャラクターが十数体と析出した。
「なんと、これは奇怪な!」
 鋭春が目を瞠り、キャラクター達に腕を伸ばすが、当然のようにその指先はキャラクター達を擦り抜ける。シュシュはキャラクターを投影しただけ。まだ、電脳世界から具現化させてはいないのだ。
「要するに、このゴーグルとか……端末とかで操作出来る、別の世界があるんだよ。私は今、その世界で作り出したモノを、鋭春さんに見せただけってところ。触れられないでしょ?」
「……ふむ、確かに。これに干渉するとなると……そうだな、屠霊鉄なら或いは可能か」
 顎に手を当て冷静に考える鋭春に、シュシュがぱちぱちと手を叩く。
「私もそう思ってたんだ! 烈光鉄とか、屠霊鉄あたりでいい感じに出来ないかなって。操作の邪魔になると困っちゃうから、持ち歩きが楽だと嬉しいなー。銘とか、細かい形状は任せるよ。専門家じゃないしね、私!」
「相分かった。……ならばしばらく時間を頂戴したい。その、電脳世界のものに触れるならば屠霊鉄をどのように扱うべきか――烈光鉄に何らか添え物をして、その世界に働きかけることが出来るか。少しばかり、試させて貰おう。ご同行願えるか」
「いいよ! ……じゃあ、しばらくのあいだよろしくね、鋭春さんっ」
「応。こちらこそ」


 試斬場にて、シュシュの能力と屠霊鉄・烈光鉄の食い合わせを勘案し、最終的に鋭春が出した答えは――


◆“十代永海” 永海・鋭春作 烈光鉄・屠霊鉄仕込
           変則飛鉄 一切貫光『燦釘』◆
 いっさいかんこう『きらくぎ』。
 烈光鉄製の薬室と屠霊鉄製の銃身をねじこみ接合したバレルアセンブリーを組み込んだ、永海の里の自衛武器『飛鉄』の亜種。直線的なフレームに直接マウントされたバレルアセンブリーと、スリムなグリップを持つ、競技用オートマチックピストルめいたデザイン。
 従来の飛鉄は弾丸を送り込む為の弾倉をグリップ内に組み込む必要があり、総じて少女の手には余る巨大となるが、燦釘はグリップについた烈光鉄製の金属パーツを介し、烈光鉄製のバレルブロックにシュシュの意志力を『装填』する。引金を引くことで、意念を固めて光の弾丸として射出するため、弾倉を用意する必要が無く、グリップが彼女の手に合わせ極めて細く絞り込まれている。
 シュシュの意志力の続く限り発射できるため、弾切れを警戒しなくともいい利点がある。また、放たれる光弾は屠霊鉄の銃身を通り、対霊攻撃力を持つ。加えて、バーチャルキャラクターであるシュシュの意志を光の弾に変えて放たれるその銃撃は、電脳世界の存在に対して干渉力を持ち、具現していなくとも撃ち込んでクラッキング・破壊を行うことが可能。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
◎【1】
皆様ご壮健のようで、何よりだわ。
厄介ごとがなければ一番だったのだけれども、
厄介が起こる前に来られたのは幸いね。

べりるちゃんの包丁の研ぎをお願いしに行きましょう。
鋒竜さんを尋ねるのが良いかしら。
日用に使っていて欠けるようなものでもないでしょうけれど、お手入れは必要だもの。

あとはひとつ、ご相談を。
鞘の仕立てはお願いできる?
できるだけ柔いものか、できるだけ頑丈なものが良いわ。
こっちは矢鱈斬れるし、こっちはあんまり抜きたくないの。
……ああ、えぇと。
刀身の方はね、元々は神威もあったのだけれど。
いろいろあって、今は只の残骸。由縁は気にしなくて良いわ。
職人さんにお願いするのが一番よ。好きにして頂戴。



●君を留む楔
 やがて夜。鎚音止まぬ永海の鍛冶場に、一人の少女が現れる。
 鬼の角持ち、空の色した目をしていた。長く豊かに揺れる髪に、怜悧な印象を与える眼鏡をしている。
 少女は鍛冶場に入るなり、一人の鍛冶の姿を探した。刹鬼鉄の専門家、桐箱に包んだ包丁を打った男を捜しぐるりと見渡すと、程なく見つけた様子で歩み寄る。
「鋒竜さん。一年と四月ぶりね。ご壮健のようで、何よりだわ」
 凜とした声で呼ばわる少女に、鍛冶が振り返る。中肉中背、年の頃三十過ぎ、綺麗に剃った髭に禿頭、仏のような穏やかな顔立ちが特徴的だった。仏師か坊主かと名乗った方が通りがいいかと思いきや、この男、鬼の力で鬼を殺す――鬼殺の鉄、刹鬼鉄の担い手である。名を、刹鬼鉄当代筆頭『永海・鋒竜(ほうりゅう)』。
「おお、これはこれは――花剣様ではございませんか。里のことでまたもお手を煩わせてしまい、まこと申し訳ございません。ご助力、忝うございます」
 鋒竜は作務衣の襟を正し、耀子に深々と頭を下げる。耀子はいいえ、といらえながら首を横に振った。
「厄介ごとがなければ一番だったのだけれども、その厄介が起こる前に来られたのは幸いというところね。……今回はべりるちゃんから預かってきた包丁を研いでいただきたいのと……あとはひとつ、ご相談を」
 桐箱に入った文化包丁『星鏡』を作業台に寄せつつ、その傍らに耀子は二本の刀を置いた。それを見るなり、鋒竜が穏やかな顔をきっと引き締める。
「……これは、これは。すさまじき刀をお持ちのご様子。我ら永海、古よりあやかしの力のみを揮えるような刀を打って参りましたが、その黎明には、このように、凄まじき力を持ちながらも、殺しきれなかったあやかしの遺恨怨念が染みついて、持ったものを悉く滅ぼす、文字の通りの呪われた妖刀も数多くあったと言います。それを彷彿とさせる――禍々しい呪詛ですな」
 鋒竜は残骸剣――『アメノハバキリ』を見て、触れずにその恐ろしさを看破した。如何に危険な刀か分かる。今はまだ大人しくしているが、油断して手に取れば、即座に魂までも大蛇の呪詛に喰われかねぬ。
「……分かるのね。そう。こっちはあんまり抜きたくなくて――」
 アメノハバキリから視線を滑らせ、もう片方。布で封をされた刀、『フツノミタマ』に視線を向け、耀子は続ける。
「そっちは、矢鱈と斬れるから、硬いもので封をするわけには行かないの。普通の鞘をつけると斬れてしまうから。……今回相談したいのは、この二つの鞘の仕立てよ」
 お願い出来ないかしら、と首を傾げる耀子に、フム、と声を漏らして暫時思案する鋒竜。
「……であれば、あやかしより剥いだ副素材を用いて何らか、封じの手立てを考えてみましょう。……しかしこれほどの業物、一体どのような由縁が……」
 問う鋒竜に、耀子は首を左右に振った。……答えはある。けれど、それは耀子が知っていればいい。彼女が忘れなければそれでいい。人に言う必要は、ない。
「刀身のほうには元々神威もあったのだけれど、色々あって、今はただの残骸。呪詛の妖刀と、硬いものほど良く斬れる刀、それだけよ。細かなことは気にしなくていいわ」
 うっすらとした笑みの下に全てを覆い隠して、耀子は一つ頭を下げる。
「……餅は餅屋というもの。あとは、全てお任せするわ。好きにして頂戴」
「――」
 鋒竜とて、そう言われては続けて食い下がることはしない。聞かれたくないこと、踏み込まれたくない領域が誰にとてあると分かっている。
「承知致しました。では花剣様、刀の寸を教えていただけますか。いざ造って反りが合わぬのでは、目も当てられませんからな」
「ええ、勿論よ」
 耀子が諳んずる刀の寸法を、鋒竜は丹念に紙に書き認めていく――。


 流石に刹鬼鉄にてその要望を満たすことは出来ぬ。
 考えに考え、鋒竜は片方の鞘の作を、同輩である屠霊鉄筆頭『永海・寂鐸(じゃくたく)』に依頼することを決めた。仕上がった二作は、あの危うげな少女を、蛇の呪詛から守れるようにと――込められた願いが、そのまま宿っているかのようだった。


◆永海・鋒竜作 妖蛇革編組
    革鞘 封留堅刃『機尋』◆
 ふうるけんじん『はたひろ』。
 布織る機から伸びた布が蛇と化した――という伝説があるという。その布蛇の名から取った、言うなれば『革鞘』。
 伸縮自在の妖蛇の革を細く裂き、緻密に編み合わせて造られた、短冊ほどの大きさの緒。新たに用意された、フツノミタマの柄頭に通された、小さな金属輪に結わえられている。
 意念を込めると薄く長く伸び、瞬く間に刀身を巻き締めて固定する。この固定は一振りすることで解除され、瞬く間に刃を露わとすることが出来る。意念に応じて伸びる為、敵を絡め取るなどの用途にも使用可能。
 硬きものほど良く斬れるフツノミタマは、決してこのしなやかで柔軟な革を断つことが出来ない。収めている限り、フツノミタマで何かを傷つけることは難しいだろう。

◆永海・寂鐸作 屠霊鉄 純打
     鉄鞘 呪詛総呑『蟒蛇』◆
 じゅそそうどん『うわばみ』。
 残骸剣『アメノハバキリ』を封じる為だけに生まれた鞘。よく鍛錬された屠霊鉄と、刃に当たる部分には霊木を用いて造られている。身が浮く為、納める刀の刃が傷まない。
 極めて堅固であり、鞘単体が武器として使用に耐えられるほど。単純な強度だけでも凄まじいが、特筆すべきは、素材として用いられた屠霊鉄がオロチの呪詛を食い続け、霊力に還元して外に漏出する、言わばフィルターのような役目を持っていることだ。呪詛が起因となる耀子の身体への負担は、この鞘によって確実に減ぜられることだろう。
 ……霊力の概念を扱えるならば、漏出する霊力を己が力に転化することも可能である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紅呉・月都
1.装備を強化、もしくは補修する
アドリブ歓迎

お?何、刀強化してくれんのか?
火に強いやつ…あー、緋迅鉄ってやつで紅華焔(ベニハナホムラ)をやってくれよ!
コイツもわりと古いもんだからさ、そろっとちゃんとした補修しとかねえとなあ

へえ…俺もコイツもあんたらみたいな職人に打ってもらったんだろうなぁ
な、邪魔しねえから作業見てても良いか?

あん?形?んー…まぁできりゃこのままがいいな
少しでかくなる分には構わねえけど
刀の銘も…紅華焔は残しといてくれ
俺と、コイツと…俺らの主の繋がりだからな

思い浮かべるのはまだナイフだった頃の俺と紅華焔を振るうアイツの姿
アイツはもういねえけど
俺らがアイツの意思を継いで護っていくんだ



●過日の断章
 鎚音響く永海の鍛冶場、夜半のこと。一日人の途切れなかった広い鍛冶場も、ようやく一通りの注文聞きが終わりかけ、人が捌け出す頃合いだ。
 その折、また新しい猟兵が一人、滑り込むように戸口を潜った。
「よう、刀を強化してくれるってのはここか? 俺のも頼みたくて来たんだけどよ」
 はっきりとした声で言うのは赤毛の少年――紅呉・月都(銀藍の紅牙・f02995)だ。少年……とはいえ、間もなく二十歳に跨がろうという年頃に、六尺あまりの上背だ。精悍な青年と言ってもよかろう。よく通る威勢の良い声に、一人の鍛冶が歩み寄った。
「おう、粗方捌けたかと思ったが、今回の猟兵どのらの一群は人数が多いの。……まあ、前回も同じようなものだったか。儂は妖刀地金、緋迅鉄筆頭鍛冶。永海・頑鉄と申すもの。御名を伺ってもよろしいか?」
 上背はそれこそ五尺と少しと言ったところ、小男と言って差し支えのない身長だったがしかし、その腕や胴回りと来たら筋肉の塊だ。オブリビオンすら殴って倒してしまいそうな丸太のような腕、脚。西洋伝承のドワーフを彷彿とさせる立ち姿である。
「ああ、俺は紅呉・月都。で、今回任せてぇのは、こいつだ」
 月都は無造作に――しかし刃を痛めぬよう、刀を作業台に置き、頑鉄に示した。黒鉄の刃に、紅い装飾が美しく光る。ほう、これは、と息を漏らす頑鉄に、
「……こいつ……紅華焔ってんだが、もう随分長いこと使ってきて、ろくに補修なんぞしてこなかったからな。そろっとちゃんとした補修をしてやりてぇんだ。できるか?」
「無論のことよ。鉄とあやかしを扱わせりゃあ、我ら永海は三千世界で一等賞。他に遅れなど取りゃせんわい。して、どのように強化を施せばよいかの?」
 打てば響くような小気味好い応答に、月都はそうだな、と軽く瞑目する。
「……火に強い鉄があるんだろ。ちょうど、あんたの専門だっていう緋迅鉄ってのがそうだって聞いた。それを使って、こいつを今より強くしてやってくれ」
「ふむ。緋迅鉄による作刀は、意念に応じて熱を発し、敵を灼く焔の刃となる。あらゆる熱により刀身が傷まなくなる性質をも併せ持ち、妖刀地金の中でも花形と言われて久しいものよ。よかろう、儂がその仕事、承った」
 ほとんど即断の勢いで頷く頑鉄に月都は破顔一笑。
「筆頭鍛冶ってことは一番巧い奴ってことだろ。頼もしいな。任せるぜ。……しかし、そうか」
 頭を下げて、月都はゆるりと周りを見回した。鎚音、散る火花。鉄が鍛えられ、刃が生まれていくその現場。あまり縁の無いはずの場所なのに、どこか懐かしいのは――
「……俺もコイツもあんたらみたいな職人に打ってもらったんだろうな、きっと」
「おや、お前さんも『宿り神』というやつかね。今日来た猟兵どのの中にも数人、そうした御方がいるのは聞いていたが」
「ああ、俺の他にもいたのか。……ま、そんなとこだ。それよりさ、頑鉄さん。あんたの仕事、横で見ててもいいか?」
 唐突な問いかけに頑鉄が目を瞬く。
「お、おう、そいつは構わんが。……そこそこ長い仕事となるぞ」
「いいんだ。そいつがどういう風に生まれ変わるのか、横で見ててやりたい」
 月都は懐かしむように、紅華焔を見下ろす。思い出すのは、まだただのナイフだった頃の自分と、紅華焔を振るうかつての主の姿。
「アイツはもういねえけど――俺らが。俺と、紅華焔が、アイツの意思を継いで護っていくんだ」
 往時をただ偲ぶ、月都の優しい声に、頑鉄は何かを感じ取ったように目を細める。
「……この刃と、お前さんを結びつけた者がいたのだな」
「ああ。形も、銘も、なるべく残しておいてやってくれ。俺と、コイツと、かつておれ達を揮った主の繋がりなんだ。――きっとずっと忘れないように」
 願うような声に、頑鉄はそれ以上の野暮を言わずに頷き、月都を鍛冶場に誘った。
 節くれ立った指で鎚を握る。――鎚音に包まれて、長い、夜が始まる。


◆永海・頑鉄改作 緋迅含 打刀
      斬禍炎焼『紅華焔・燼』◆
 ざんかえんしょう『べにはなほむら・じん』。
 月都のかつての主が握ったという黒刀、紅華焔に、妖異の血を含めて緋迅鉄と動揺の性質を呈させる施術『緋迅含』(ひじんぶくめ)を施した紅華焔の改修後の姿。
 緋迅鉄は敵を灼くという強い意志を熱に変換する妖刀地金。月都が意念を込め振るうことで、比喩ではなく刃が燃え、炎を伴う斬撃で敵を灼き裂く。
 平に施された紅い彫金装飾は、紅華焔の熱が上がれば上がるほどに紅く紅く、美しく赫くという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真守・有栖


1.

お久しぶりね、里長さん!元気そうで何よりだわっ
えぇ、私も月喰もこの通り!わっふわふでわおーんよ!

兎・風・猟・毘・魔
強者との武狼伝を語り尽くし
うどんをわふっと平らげて

それでね?思ったのよ


今の私には“狼”が足りないって


えぇ、そう!狼よ、お・お・か・み・っ

月に呑まれず、月を喰らう
銘に刻まれた“月喰”に至るには
刃を牙と為すのでなく。狼を込めて、斬る。
これだ!って思ったの(尻尾ぶんぶん

そーゆーわけで!里長さんに月喰を鍛え直して欲しかったんだけど
あれ?でもさっき十代目が云々って……んんん?

鍛え直した刀を受け取り

空を眺めて、狼報を待ってて
貴方の“月喰”は“薙神”に勝るとも劣らぬ刀だって、魅せてあげる!



●終刃に届く
 空で月が笑っていた。三日月の冴え冴えとした光が注ぐ。
 月下。ほう、ほうとフクロウの鳴く中、一人の少女が里長の屋敷を訪れた。
 その来訪を、里長――“九代永海” 永海・鍛座は、玄関口で自ら迎えた。くしゃりと深まる笑い皺。
 深く深く頭を下げた鍛座へ、しかし少女は「顔を上げて!」とただただ明るい声で語り、笑いかける。
「お久しぶりね、里長さん! 元気そうで何よりだわっ」
「おお――お久しゅうございますな、真守様。あとは老い枯れ消え行くだけの老いぼれの身ですが、御姿をもう一度見られたというだけで生きていた甲斐があるというものです。……真守様もお変わりなく。よくぞ、よくぞ我が里へ戻られました」
 一年と四月前。光刃『月喰』を手にした彼女を送り出したことが、鍛座にとっては昨日のことのようなものなのだろう。年を取るほどに、時は早く流れるものだ。
 真守・有栖(月喰の巫女・f15177)は、腰に下げた刀、月喰の柄に手を置いて、鍛座へ向けて微笑んだ。
「えぇ、私も月喰もこの通り!わっふわふでわおーんよ!」
 腰に手を置いてえへんと胸を張る有栖。……直後、きゅううう、といかにも切なげな音がする。
「わふぅう……」
 へにょ、と耳が垂れ下がる。何のことはない、腹の音だ。永海の里の危機と聞き馳せ参じたはいいが、聞くなり飛び出したものだから食事の一つもしていない。
「まずは腹ごしらえと致しましょう。ひいきの饂飩屋の麺がございます故」
「!」
 ぴん、と立つ有栖の耳。鍛座は孫娘を見るような目で穏やかに笑い、屋敷の奥へと有栖を誘うのだった。


 広い応接間で、二人は小さな卓を囲んで饂飩を啜った。有栖は瞬く間に饂飩を平らげ、お代わり一つを挟みつつ、早口に、過去の高揚を思い出しながら語った。いかなる戦いを潜り抜けてきたか。いかに強大なオブリビオン達を倒してきたか。ラビットバニー、ウインドゼファー、吸血猟姫ディアナ、戦神上杉・謙信、――そして第六天魔王、織田・信長。
 月喰と彼女が潜り抜けた修羅場の濃密さを楽しむように、鍛座は相槌を挟みながら、月がとっぷりと傾く頃まで彼女の話を聞いていた。
「――それでね? 思ったのよ。今の私には、“狼”が足りないって」
「狼、ですか」
「えぇ、そう! 狼よ、お・お・か・み・っ」
 来たぞ、と鍛座は笑う。有栖の言葉は、決して共感性のある類のものではない。だが、不思議と聞く気分にさせる。理解しようと努めたくなる。
 この美狼の剣士に、少しでもいいものを、と鍛冶師としての本能が騒ぐ。
「月に呑まれず、月を喰らう。銘に刻まれた“月喰”に至るには、刃を牙と為すのでなく。狼を込めて、斬る。――これだ! って思ったの」
 尻尾をぶんぶんと振りながらの言葉が、微笑ましくてならない。
「ははあ。この老骨の言葉を覚えておいででしたか……感無量、極まりますな。さて、儂らに、どのような手伝いが出来ますでしょうか」
 鍛座はぱちりと器の上に橋を渡しながら問いかける。待ってましたとばかりに、有栖がぴっと指を立てる。
「そーゆーわけで! 私が狼そのものを込められるよう、里長さんに月喰を鍛え直して欲しかったんだけど――……これは、十代目に頼んだ方がいいのかしら、どうなのかしら」
 話の流れで、鋭春――先代斬魔鉄筆頭鍛冶が、十代永海を襲名した旨を聞いていた有栖が、考える風に首を傾げる。
 鍛座は揺らめくように笑って、
「否。――月喰の世話は譲れませぬ。恐らく、今生最後の我が、烈光鉄の作です。あとは消え行くのみのこの老骨ではございますが、最後まで面倒を見させてはいただけますまいか」
 膝を揃え、深々と礼をする鍛座に、有栖は微か息を呑んで、こくりと一つ頷いた。
「私だって! そうしたいと思っていたのだわ。私と共にあらゆる世界を駆け抜けたこの刃の……月喰の真の力を、あなたの手で引き出して頂戴!」

 ぐいと差し出された打刀を、枯れ木のような老人の手が、
 しかし万感の思いを込め、力強く掴んだ。

「“九代永海” 永海・鍛座。我が生涯の技の粋を集め、今一度、鎚を振るいましょう」


◆“九代永海” 永海・鍛座改作 烈光鉄 純打
 返し烈光含 鞘内烈光箔仕上 刃渡二尺二寸五分
               月下戦吼『月喰・狼』◆
 げっかせんこう『つきばみ・ろう』。
 数々の戦いを越え、妖刀としての位階が一段上に至った月喰に、追加であやかしの血肉を込める至難技術『返し烈光含』(かえしれっこうぶくめ)を施した逸品。仮に含められる血肉の限界量を超えた場合、その妖刀地金はたちどころに瓦解し、あやかしの力は霧散してしまうという。
 刀の匂いを感じ取る――特有の才覚を持つ鍛座が、その限界を見極め、瓦解せぬほんの僅か手前のところまで妖異の血肉を含め、鍛え直したもの。
 強度、光閃の威力、射程、その全てが跳ね上がっている。また、鞘の内側に烈光鉄を箔に加工したものが一面に張られており、抜刀術の際に意念を込め光を溢れさせることで、刀身を『射出』。その速度を用いた神速の抜刀術を放つことが出来る。

 月を喰らえ、美狼の剣士よ。
 その天剣の威力、今ならばまさに星に届く。

「――空を眺めて、狼報を待ってて」

 有栖は笑った。
 ああ、山の下より敵が駆け来る。
 一年四月前のあの時よりも遙かに多く、強い敵が来る。
 だが、何も恐れることはない。この手に、新たなる牙があるのなら!

「貴方の“月喰”は“薙神”に勝るとも劣らぬ刀だって、魅せてあげる!」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『落武者』

POW   :    無情なる無念
自身に【すでに倒された他の落武者達の怨念】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    欠落の決意
【武器や肉弾戦】による素早い一撃を放つ。また、【首や四肢が欠落する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    妄執の猛撃
【持っている武器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●刀襲斬戮、刃熊万鬼夜行
 鯨波の声が、山一つ向こうから聞こえた。
 バサバサと音を立てて、鳥が梢を羽撃いた。おそろしいものが来る、と察したかのように。
 飛鉄衆の若者が、自分の飛鉄をぎゅっと握り締めた。神楯衆の長が、どか、と片手剣を地に突き立て、腕にした鉄楯の握りを検める。

 鬼が来る。鬼達が来る。
 黄泉比良坂降り損ね、浅ましくもこの世にしがみついた、刃熊の鬼共が襲い来る!

 戸口の内で泣く童がいた。腕に童を抱き、震える女がいた。
 
 広い部屋の真ん中で、手に終刃『薙神』を握り、瞑目して不乱に祈る里長、永海・鍛座の姿があった。

 最早腕も上がらぬ様となって、鍛冶場の壁にもたれ、虚空を見仰ぐ永海・鋭春の姿があった。

 その総代を労い、鍛冶場から、ろくに振るったこともない刀を、己の作を持ち出して、筆頭鍛冶ら率いる鍛冶師達が、鍛冶場の周りを固めた。

 気付かぬ間に終わった以前の夜襲とは違う。今度は、知った上で、或いは自分たちも闘わねば、この里を守れぬかも知れぬ。
 里人達は間近に迫った戦いを恐れ、震え、しかして迎え撃たんと奮い立つ。

 その気配、微かばかりの勇気。恐怖、縋るような念。
 それら全てを背に浴びて、猟兵達は彼方の敵を睨む。
 油断はならぬ。敵は何れ劣らぬ、戦国を生きた狂気の剣士共。
 腕が取れど脚が取れど、首が落ちても襲い来る万鬼夜行。


 ――――剣鬼上等。我らの手には永海あり!!

 
 研ぎ直し、妖化粧――
   ――鈍刀『千代砌』
   ――神刀『結ノ太刀』

 七代永海・筆頭八本刀――
  ――修羅鋭刃『斬丸・絶』
  ――瞬刃『風刎』
  ――剛刃『嶽掻』
  ――霊刃『妖斬』
  ――魔刃『穿鬼』
  ――閃輝焔刃『煉獄・赫』

 当代永海、技の粋――
  ――一切貪飲『悪喰』
  ――一切貫光『燦釘』
  ――不確重刃『魂揺』
  ――五行相生『伍輝』
  ――迅雷華絶『雷花・旋』
  ――修羅閃刀『鸙野・絶』
  ――光舞重刃『燦星・隕』
  ――刹舞霊殺『斬風』
  ――双星宵闇『青星』
  ――双星暁光『赤星』
  ――呪詛総呑『蟒蛇』
  ――天花一条『裂空』
  ――封留堅刃『機尋』
  ――幻想籠絡『纏女』
  ――悪禍裂焦『閃煌・烙』
  ――斬禍炎焼『紅華焔・燼』
  ――斬鉄双牙『荒咬』
  ――春風緋花『桜燐』
  ――月下戦吼『月喰・狼』
  ――殺神魔剣『空亡・紅』
  ――氷殺顎門『冥竜』
  ――永久凍剣『氷結地獄・極』
  ――炎氷削水『青凪』
  ――炎熱地獄『絶焦』
  ――相克双刀『疾空』『岩裂』
  ――発破竜槍『爆龍爪』
  ――禍焔竜槍『閃龍牙』
  ――窈窕病斬『艶華』
  ――蒼魔鍛成『隠神』
  ――血鬼繋魂『黄昏』
  ――衝天凍牙『晶龍』
  ――迅輝瞬刀『開闢・煌』
  ――追憶昇華『剣狼・轟』
  ――重圧焼断『砕炎』
  ――閃盾自在『蒼天』
  ――霊断光刃『煌駆』
  ――飛鉄短刀『穿牙』
  ――決戦鎧装追加ユニット『ブリッツハンド』

 何れ劣らぬ刃犇めく。一刀散磊刀狩、何するものぞ。
 名乗り音に聞き目にも見よ。永海の技と猟兵の力、夜闇に尚眩く――

 いざ、一手ご披露奉る!!!



≫≫≫≫≫MISSION UPDATED.≪≪≪≪≪
【Summary】
◆作戦達成目標
 刃熊刀賊団構成員『落武者』の撃破


◆敵対象
『落武者』×無数


◆敵詳細
 いくさばにて果てた無念の骸共が、いくさと刃打ちあうひりつく感覚を忘れられず、死して尚動き出したもの。過日の剣鬼の残影。
 一人一人が精鋭の武者であり、かつ恐ろしいほどの物量で襲い来る。五体が欠落しようと止まらぬ為、多少の攻撃ではひるみもしない。
 動きを止めるならば、物理的に四肢を断つか……その怨念の塊、霊核を穿つか。
 いずれにせよ、並々ならぬ攻撃で討たねばならぬ。


◆戦場詳細
 永海の里、周辺。
 永海の里は山間に隠された隠れ里で、一般の人間には見つからぬよう結界が張られているが、敵はそれをものともせず、刀の匂いにつられ一直線に襲い来る。
 所々に戦い易い、小広く開けた平地があるが、そのほかは鬱蒼とした森と獣道がほとんど。
 戦場を選ぶのであれば、プレイングに記載すること。
 記載無き場合、プレイングから逆算し都合のいい戦場が決定される。


◆プレイング受付開始日時
 2020/09/15 08:30:00


◆プレイング受付終了日時
 2020/09/19 23:59:59
鈍・しとり
うれしや
お前の躰を鞘にしたあの日
もはや交じらぬと思っていた
血迷ひし甲斐のあったこと

人里の恐怖も不安も不味いばかりで啜るに耐えぬ
もっと口に合うもので満たしましょう
再びわたし達の結ばれた
この良き日に

あれご覧
千代、
今に血雨を降らそうぞ


無念の骸が己だけと思うのか知ら
この身を斬らせてやる気はないが
死に損ないはお互い様
だからよくわかるの

瞼に指に
腱に筋
その躰の結び目が、何処か
だから私がひらいてあげる
打ち合い、斬り合い、馴染む手のままに

彼方も此方も鬼だらけ
何時の世も人に鬼ありね
怖いこと

あら、里の子か知ら
逸れたの?
君は外へ
鬼さんは此方よ
千代の雨降るに相応しい
良い子だけ生きて帰れるのだから



●鈍刀死虜
 ――あな嬉しや。
 お前の躰を鞘にしたあの日、もはや交じらぬと思っていたが。
 血迷ひし甲斐のあったこと。ふふ。

 鈍・しとり(とをり鬼・f28273)は、妖化粧を施された己が刀――鈍刀『千代砌』を抜き、永海の里の程近く、広く開けた平野でゆるり、月光浴びて佇んでいた。歌うよう、かそけく紫陽花の唇が動く。
 嗚呼、穢れた付喪の声とおとめの声が、とろり混ざって溶け合って、しとりの声を作っている。

      ――鬼門に曰く、
        かつて刀のうちに命あり。
        神成す前に人の身を斬り、付喪の道を外れたり。

 ――人里の恐怖も不安も不味いばかりで啜るに耐えぬ。
 もっと口に合うもので満たしましょう。再びわたし達の結ばれた、この良き日に。

      ――かくして妖めた果ては鈍ら、雨乞い刀の、
        その名を死虜と云いにけり。

 艶然と笑い、しとりは闇の奥に視線を遣った。
 視線の先、遠目に剣鬼。約十体。駆け寄せてくる。接触まで目測で、あと十秒と少し。
 ああ、如何に鬼と言え、しとりの姿を見るがいい。その美しい珠肌と、細い手脚に幽玄の美貌。引き裂くような爪はなく、砕くような牙もない、か弱いか弱い手弱女よ。
 だというのにも関わらず、鈴鳴る声が嗤ったものさ。
「あれご覧。千代、今に血雨を降らそうぞ」
 鈍刀燦めく。
 しとりは、逃げるでもなく敵を睨めつける。
 鬨の声上げ迫る落武者共は、月下に姿を晒した妖女に、舌なめずりで殺到した。
「女だッ、」
「壊すなら脚だけにしておけよ!!」
 下卑で野卑な声。殺して仕舞っては『使えない』、とでも言いたげだ。
 女が聞けば恥辱と怒りと恐怖に震えて然るべきその遣り取りを、雨女は醒めた声で嗤う。
「無念の骸が己だけと思うのか知ら。この身を斬らせてやる気はないが――死に損ないはお互い様。だからよくわかるの」
 しとりの淨眼が天の冴えた月めいて、青く妖しく煌めいた。
「あァ?」
「何をほざいて――」
 怪訝げな返しを縫う雨粒のように。
 しとりが、とん、と踏み込み地を縮めた。
「はっ?」
「瞼に指に腱に筋。その躰の結び目が、何処か。だから私がひらいてあげる」
 鈍刀千代砌、月光血錆に照り返し踊る。
 落武者らからすれば、殺して犯すだけの対象が、全く唐突に踏み込んできて牙を剥いたと見えるのだ。
 翻った千代砌が、腕を眼を脚を腱を筋を耳を首を脇を腸を切り抉り刺し削り削ぎ、
「い、っぎゃあああアァァあぁっっ?!」
「な、なんだこの女、ごえッ?!」
「っでええ、えっ、この、クソあっ」ざくり、ぶしゅう。
 瞬く間に八人が、脚を腕を首をざっくり断たれてぶらぶらさせて、もんどり打って倒れ込む。
 噴き出る血は、さながらしとしと注ぐとをりあめ――
「て、手前ェッ!!」
 吼えながら、残った一人の武者が大上段に振った刀をしとり目掛けて振り下ろす。
 しかし雨粒を、ひとが刃で捉えることなど出来ようか?
 しとりは千代砌の刃跳ね上げ、上段一閃を軽やかに受け流し、眼から入って後頭部までを刺し貫いて、
「彼方も此方も鬼だらけ――何時の世も人に鬼ありね、怖いこと」
 くわばらくわばらと鈴転がるような声で言うなり、そのまま真っ直ぐ切り下げた。
 斬れるところが見えてでもいるのか。眼窩から顔をそのまま下に割り、顎を抜けて首を開いて、心の臓の近くに見えた霊核を、ついでとばかりに断ち割って、飛び散る血から身を翻して飛び退く。どしゃり。声もなく武者が倒れて、ほんとうに『死んだ』。
 瞬く間に九人を屠って、頬に跳んだ紅を指先で拭うしとりの後ろで、ど、と重い音。
 振り向いてみれば、茂みの影で、まだ十にもならぬような少年が尻餅。唇わななかせ震えている。
「あら、里の子か知ら。逸れたの?」
「あ、ああ、あの、りょ、猟兵様の御姿を、ち、ちか、近くで見たくって……、」
 好奇心高じて、いくさばに紛れたか。
 ふう、としとりは溜息一つ、
「――悪い子。ここも、もう危ないわ。お家にお帰りなさい。君は外へ――鬼さんは此方よ」
 歩み寄り、嫋やかな手で少年を引き起こすと、しとりは目を細めてささやいた。
「誘われるよに、鬼が来るわ。未だ、未だ、沢山。――天晴れこそすれ、ここは千代の雨降るに相応しい。良い子だけ生きて帰れるのだから――ほら、真っ直ぐに、お行きなさいな」
 言い含めるような声に、壊れた人形のように頷く少年。細い指で背を突いてやれば、こけつまろびつ里の門の方へと駆けていく。
「可愛らしいこと」
 しとりは笑い、ぴしゃりと血に染まった草いきれを越え踏み出した。遠くに聞こえる鬨の声。
 ――まだまだ、雨は降り止まぬ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャオロン・リー

呵呵ッ、まぁようさん集まってくるもんやなぁ!おもろい、おもろいやんけ!わかるで、ナガミの刀にはそれだけの引力があるもんなぁ!
せやけど残念やったなぁ、お前ら如きに一舐めもさせたらん
ここまでええもん拵えてもろたんや、きっちり暴れ倒さな折角直してもろたこの槍が泣いてまうわ

敵の攻撃は見切り、激痛耐性と継戦能力で凌ぎ切る
俺も新しなった槍で暴れ倒したいからな、好きなだけ二槍流で蹴散らしてから
金磚、翼を生やして空中戦や
空から見える分の敵全員に、多重分身させた槍を一撃一撃食らわしたろやんか
「よぉ喰らえや、こいつがお前らが欲しがっとるナガミの刃の攻撃や!!」
「俺が暴れ足りるまで、くたばりきってくれるなやァ!」



●龍牙龍爪
 最前線に、一人の男が立っている。小広く開けた広場にて、駆け来る敵を待ち仁王立ち。
 ここに敵が来るのは解っている。わざわざ上から敵の進路を確認し、格別敵が通りそうな所に当たりを付けていたのだから。
 広場に到る獣道の坂下から、地鳴りに似た足音、鬨の声。戦の匂いだ。男、シャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)はにいいと歯を剥き出しにして笑う。
「呵呵ッ、まぁようさん集まってくるもんやなぁ! おもろい、おもろいやんけ!」
 前情報によるならば、敵総数は千近い。その数を聞いて怖じけるどころか、暴れ倒すにはもってこいと、シャオロンは鮫のように笑ったものだ。
 人魂どろどろ伴って、獣道を抜けた落武者が広場に顔を出した瞬間、シャオロンは獣を思わせる低姿勢で、弾けるように駆け出した。
「ぬうッ?! 貴様、永海の手の者、」
「っしゃァッ!!!」
 裂帛一閃!! 皆まで言わせずシャオロンの閃光めいた刺突が唸り先頭の落武者の胸を一衝きッ!!
「ごばあっ?!」
「な、なんだ貴様はッ!!」
「名乗るほどのモンやあらへん――だがわかるで、お前らが惹かれてきた理由が。ナガミの刀にはそれだけの引力があるもんなぁ! せやけどなァ、」
 落武者の背中から突き出た穂先が赤熱し肉の焼ける音!
「ぎ、いいい、いぎゃあああっ?!」
 ――遂には発火!! 火達磨となった敵を、シャオロンはブンと脇に放り棄て、槍を構え直す。――どころか、左手に新たなもう一本の槍を抜く。徐々に藻掻く動きも緩慢となり死んでいく落武者を尻目に、シャオロンは吼えるが如く言い放つ。
「残念やったな。お前ら如きにナガミの刃、一舐めたりとてさせたらん。ここまでええもん拵えてもろたんや、きっちり暴れ倒さな折角直してもろたこの槍が泣いてまうわ」 双槍を鋭く回旋させれば、熱を帯びた槍の刃が陽炎めいて揺らめく。二つの火輪がその手にあるかのような見事な回旋演舞だ! 取り回すこれらは共に永海・頑鉄の作。右に禍焔竜槍『閃龍牙』、左に発破竜槍『爆龍爪』!
「かかって来ィや。まァ、来んなら来んで暴れ倒したるがなァ!!」
「突如現れたかと思えば何を世迷い言をッ!!」
「面倒くせえェ! ブチ殺しちまえッ!!」
 落武者達とて戦狂いの武人共。挑発されて下がるほど、大人しい育ちのものはない。瞬く間に一群がシャオロン目掛けて殺到した。
 四方八方より敵迫り、刀が槍が次々襲う! シャオロンは低姿勢を取り、閃龍牙を短めに持って攻撃を流しては左手の爆龍爪に意念を流し込む。
 ――ブチ抜け!!
 ば、ごあぁぅうっ!! 猛虎の咆吼めいた音を立て爆龍爪の石突きより火焔が噴出! 柄を手の内で滑らせば、ノーモーションからのロケットめいた突きとなる!
 ず、どッ!!
「ごえぅっ?!」
 重い音を立てて眼前の敵を一衝き! しかし、
「捉えたぞ! 今だ、一斉にかかれ!!」
 一人の落武者をを囮に、上、左右からと次なる敵手が殺到する! 刺突で刃が止まれば、後は多勢で圧し潰せばいいという判断だ!
 冷酷ながら、極めて合理的だ。……だが!
「ハッ! そう来ると思とったわ!」
 ぼ、がァッ! 最初の落武者に突き刺さった爆龍爪の穂先で火焔爆ぜる! そのインパクトで落武者の肉が抉れ、反動に穂先が引き戻される。
 爆龍爪は、石突きと穂先より爆炎を放ち、突きの打ち始めと終端で反動を活かす事で、まるで自動小銃めいた高速連続突きを可能とするシャオロン第二の槍である。――乱戦だとて、暴れ龍の爪を、人の身一つで止めること罷り成らぬ!!
「しゃらアッ!!」
 ばばばばばば、ばンッ!! 超高速、発破連続突き!! 襲いかかった五人の落武者が胸に顔に大穴空け、爆炎に包まれて吹っ飛ぶ!!
「何、だとォッ……?!」
 驚愕に目を見開いて思わず戦慄する敵群。機と見るなりシャオロンは背に翼を広げて跳躍!
「よぉ喰らえや、こいつがお前らが欲しがっとるナガミの刃の攻撃や!!」
 竜血励起。高らかに笑いながら、シャオロンは一瞬で地上二十メートルまで上昇、両手の槍にあらん限りの意念を流し込む。閃龍牙がシャオロンの力を増幅し、放つべきユーベルコードの威力を増す!

 ――その名も、『金磚』!!

 爆龍爪の発破加速によりシャオロンの躰は弾丸めいて下方に飛んだ。力の限り槍を振るえば、閃龍牙と爆龍爪の穂先がぶれ、何十に――百に届かんと言うほどの、無数の炎の槍撃として、まさに空より、霹靂雲霞の如く伸び落ちる!!!
 まさに爆撃。災害めいた暴力に、落武者達が抗する術なし。二十数人の落武者が炎槍の雨に巻き込まれ、抉り抜かれ燃え尽き吹き飛ぶ。余りの威力にクレーターだらけの焦土と化した広場に揚々と降り立ち、シャオロンは生き残った落武者共に閃龍牙を差し向けた。
「よォし、まだおるな。まだまだ暴れ足らんねん。――足りるまで、くたばりきってくれるなやァ!!」
 戦鬼は哄笑し、浮き足立つ敵の群の中へ再三突撃する……!

大成功 🔵​🔵​🔵​

辻風・舞

見よ踏、武者どもが来ておるぞ!
いつもの辻斬りとはわけが違う、気合を入れて臨まねば斬られるはわしらよ
森の中に陣取り武者を迎え撃つ
まず主に働くはこの可愛いからくりよ
動かすわしは目立たないよう木の上にでも隠れていようかの

踏の刀が武者に当たるたび念を込めてみれば驚き
骨をも圧し切る重量攻撃、これが岩裂か!
しかし一撃が重すぎてからくりの動きがついていかぬ
改良せねばな

片手に疾空を構え、木から降り鼬術「颶風陣」を発動
吹き荒れる風に紛れ攻撃
さ、切り落とせておらぬ武者どもの四肢を落としに行こうかの



●相克双刀
 鬱蒼と茂る永海の山森の中、人魂揺れて鬨の声響く。月の光も届かぬ鬱蒼たる闇の中を、迷い無く、蒼白い眼と人魂を光らせて走ってくる、十数人からなる落武者の一群。
 辻風・舞(辻斬小町・f28175)は樹上より、目の上に庇めいて手をかざし、遠間より敵群を眺望する。
「見よ踏、武者どもが来ておるぞ! いつもの辻斬りとはわけが違う、気合を入れて臨まねば斬られるはわしらよ」
 舞が語りかけるは己の絡繰人形、『踏』。命無き人形は答えるでもなく、舞の操作に従ってしゃりり、と刀を鞘走らせる。
 褐銀色の梨地肌。荒々しい岩くれを思わせる色をしたその刀は銘を、『岩裂』。永海・荒金作、刃渡二尺六寸、地鳴鉄の作である。
 踏に二度ばかり素振りをさせて、舞は操り糸を手繰る手をぶらつかせる。
「うむう、確かに素の状態でもなかなかに重い。意念を込めればどうなるものか。――それは彼奴らで試すが吉よな」
 独り言ち、舞は名を下すように手を振った。それに従い、踏が樹上より音も無く下に降り立つ。空は細い銀月が登る晴天ではあったが、森の中となればか細い月の光など届かない。刀をゆるりと持ち上げ構えを取る踏は、敵勢から見れば一人孤独に佇む標的と見えたに違いない。
 鯨波の声が近づく。舞は樹上より、薄笑みを零して糸を手繰った。
「そら、可愛いわしのからくりよ。荒金殿の作、いかほどのものか振るって見せい」
 舞の操作に従い構えを取った踏の前方、藪を蹴り抜けて十人あまりの男達が飛び出した。ひゅうどろどろと人魂揺れて、眼はその青い鬼火と同様に煌めいている。どこからどう見ても常世のモノではない。
「アア? おいおい、こんなところにガキが一人?」
「しかも長物ぶら下げてやがる。里のガキか?」
「まぁいいだろ、どこのモンだろうと関係ねえ。どうせ今から、お待ちかねの皆殺しと略奪だ! 先祝いにこのガキをブチ殺してやろうぜ!」
 ぎゃはははは、と笑う落武者たち。舞は思わず指で眉間を抑えた。歴戦の戦狂いが聞いて呆れる。不死となってから、温い戦場しか歩いていないと見える。

 ――なれば。
 一度、いくさばの恐ろしさを思い出させてやらねばならぬ。

 手を翻し、行け、と意念を込めて舞は糸をぎゅるりと操作した。糸が宙でうねり、動きが踏に伝わるなり、踏は滑らかに前傾。どう、と地を踏んで踏み込む。
「はっ?」
 ただの子供と侮っていたならお生憎。舞が操る踏は戦闘用の人形だ。ただの童と比べて貰っては困る。
 低姿勢での踏み込み。刀を背負うようなバックスイングから、真っ向唐竹割りに振り下ろすッ!! 落武者、反射的に刀を跳ね上げそれを受ける。甲高い音が立つその瞬間、糸を通して舞は念を込めた。
 ――沈め!!
 瞬間、糸に掛かる手応えが激増する。踏が手にした岩裂が、意念を吸って重くなり――構えた落武者の刀を叩き砕いて、頭から地面にむけ、ぐしゃり、と裂き潰した。どう見ても即死。絶殺に値するインパクト。地を揺るがすよな音がして、岩裂の切っ先が地面に沈む。規格外の重量に、踏がよろめく。流石の舞も、これには驚きを禁じ得ぬ。
(――骨をも圧し切る重量攻撃、これが岩裂か! しかし一撃が重すぎて踏の動きがついていかぬ……これは改良せねばな!)
「あっ、お、」
「こ、このガキィッ!!!」
 呆気にとられた武者共が我に返るそのタイミングを狙う。全員の注意が完全に踏に集中した瞬間に、舞は鋭く、それこそ風に紛れて樹上を跳んだ。
 片手に飄嵐鉄製打刀、永海・銀翔作『疾空』を抜刀。
 鎌鼬は笑う。
「そうら、そちらばかりに気を取られては、命取りぞ?」
 踏に集中した注意が、宙から降る新たな声で乱れる。注目点をずらされて一瞬迷ったその隙を、舞は決して逃がさない。
 びょうッ!!
 鼬術『颶風陣』、発動! 舞を中心として風吹き荒れ、地から木の葉と砂利を巻き上げ視界を悪化させる。怯んだ男達のもとに飛び込み、今再び、妖刀へ意念を込める。
 ――翔けよ!!
 ぎいん、と疾空が燦めいた瞬間、舞は己が巻き起こした風に乗り、それこそ飛葉の如くに飛び込んだ。意念の力を浴びた疾空が、彼女の動きを加速する!
 敵に驚愕の声すら上げさせず、翻る刃が手を、脚を、斬る、斬る、斬る斬る斬る!!
「い、ぎゃあああっ」
「がっ、て、てめぇッ、畜生ッ!!! 止まれェッ、殺してやる!!」
「おぬしの郷里では、戦というのは待ったで止まるものなのかえ? ――それは、」
 呆れたような舞の声。武者共の悲鳴と腕と脚がポンポン飛んで、斬られたものに刻まれた『印』を目印に、『颶風陣』の風刃が四方八方より降り注ぐッ!! それはまさに刃の嵐、
「――随分、長閑なところで暮らしていたものじゃのう」
 乱風一過、血振りし刀を納める舞の回りには、文字の通りに、手も足も出ぬ有様となった落武者共が、十とあまりの呻きを上げる。

 さて、次と。
 辻斬小町は、ことも無いよに歩を進め。

大成功 🔵​🔵​🔵​

青葉・まどか


里の人達の想いを背中に感じる。
敗けられない。
ここからが本番だ!
造っていただいた『煌駆』を携えて、刀賊団を迎え撃ちにいくよ。

刀賊団は数えるのも馬鹿らしい程の人数。
まともに戦うのは厳しい。
だったら、多人数で戦うのに不向きな場所。
鬱蒼とした森と狭い獣道で戦わせてもらうね。

百戦錬磨の戦狂い。
雑兵なんて舐めて掛かれない。
妄失の猛撃を【視力】で【見切り】、森の【地形の利用】をしたフック付きワイヤーによるワイヤーアクションの立体機動で回避する。

傷つく事を恐れず、四肢が欠けても立ち向かってくる。
生半可な攻撃では止まらない。
私の技量では一撃必殺は望めない。
なら、動かなくなるまで撃つまで!
『霊断光刃・散』発動



●霊断光刃
 永海の里、その西側。里に巡らされた高さ三メートルの外壁の上で、少女が一人息を付く。
 眼鏡の内側の目を細める。闇によくよく目をこらしてみれば、山の麓の方からうぞうぞと、青くどろどろ光る人魂が、数百、千と獣道を駆け上ってくる。
 刃熊万鬼夜行とはよく言ったものだ。凄まじい数である。
 少女は里を振り返る。家々の明かりは落ち、死んだように静まりかえった里は、まるで闇の中に隠れようとしているかのようだ。――あの家、一つ一つに、里人が、鍛冶が、まだ年端もいかぬ童達がいる。きっと震えている。
 恐怖も、奮い立つような勇気も、猟兵達という超常の存在に願う希望も。背から感じる想いは様々だが、青葉・まどか(玄鳥・f06729)にとって、一つだけ確実なことがある。
 ――この大一番には敗けられない、ということだ。
「さあ、ここからが本番だ。……征くよ、『煌駆』。礼儀知らずの刀賊団を、地獄に叩き返すッ!」
 決然と言うなり、まどかは外壁を蹴った。
 永海の里は山間を切り拓いて作られた里。里から少しでも外に出れば、道とも言えぬ獣道と急斜面が続く。しかしてまどかは熟練の猟兵。
 ユーベルコード起動、『神速軽妙』! まどかは凄まじい速度で木から木へ跳躍。落下速度も合わせて加速。自由落下の速度すら遙かに凌駕し、永海の山林を落ち下る!
 ――おお、おお、おお!!
 そうして下れば程なくして、鬨の声がまどかの耳を突く。人魂ともない駆け寄せる十数人の敵の一団に、眼鏡の下で目を刃めいて絞り、まどかは腰のシースから刃渡七寸のダガーを引き抜いた。
 燐光を零す刀身が煌めく。“十代永海” 永海・鋭春作、屠霊鉄・烈光鉄重打。――霊断光刃『煌駆』である!
 敵は百戦錬磨の戦狂い。数がいるイコール雑兵と舐めてはかかれない。
 数的不利を覆すならば、敵が数的有利を発揮できぬ場所を選ぶのが定石。まどかは極めてシンプルかつ有効な策を選ぶ。――即ち、この鬱蒼とした森、そして走りやすい場所が限られる獣道で戦うことを取る!
 まどかは全く唐突に木を蹴り、地面に突っ込むほどの速度で樹上より飛び降りた。敵からしてみれば、ざわめいた木々の中から突如何者かが現れたように見えたことだろう。
「ぬうッ?!」
「何奴!」
 盗人に答える名などない。まどかは無言で吶喊。稲妻めいた速度で、獣道をジグザグに掛ける。
「野郎共、敵だ!! 構え、構えィ!!」
 先頭を駆けていた男が刃を振り翳し前進。踏み込み一閃の振り下ろしを、しかしまどかは横っ飛びに回避。
「ハッ、何かと思えばめのこが一人!」
「いたぶりがいがありそうだなァ!!」
 嘲弄の声と同時に、落武者共が弓弦引き絞る! 鏃が人魂の炎で青く燃える。間髪入れずに斉射!! 無数の青火矢がまどかの躰を穿たんと降り注ぐ!
 しかし視えている。全て。
 まどかは煌駆をコンパクトに振るう。燐光放つ刀身から光刃が迸り、迫る火矢を瞬く間に叩き落とす! 一度の斬撃に三つの光刃が付随して、まるで刃の結界めいて矢を通さぬ!
「何だあ、ありゃあ?!」
「アイツあまさか、永海の妖刀――」
「――そのまさかだよ。十代永海の技、その身に刻んで黄泉路に堕ちろ!!」
「舐めるな、小娘ェッ!!」
 落武者達は飽かずに矢を放つ! 矢嵐の密度は上がるばかり。まどかはフックワイヤーを左手から放ち、迫る矢を煌駆で叩き落としつつ跳躍! 木に掛けたフックを巻き上げ、ワイヤーアクションめいて宙に躍る。
 ――敵は、傷つく事を恐れず、四肢が欠けても立ち向かってくる。生半可な攻撃では止まらない。私の技量では一撃必殺は望めない。
 そう判断し、まどかは空中から十数体の敵を俯瞰する。弓が上向き、鏃がまどかを指し示す。
 それが放たれる、その一瞬前。まどかは月を貫くように煌駆を突き上げた。――意念迸り、煌駆が月より眩く燦めくッ!!
 ――一撃必殺が成らぬなら、動かなくなるまで撃つまでのこと!!
「散らせ煌駆、光の驟雨をッ!!」
 叫びながらまどかは煌駆を振り下ろした。――同時、その尖端から無数の光の斬撃――『光閃』が迸り、地より彼女を見仰ぐ十数体の落武者に降り注ぐ!!
 これぞまどかの新たなるユーベルコード――
 名付けて、『霊断光刃・散』!!
「ば、」
「莫迦なァッ――!?」
 驚愕の叫び。恨み言も痛罵も最後まで発せぬ。まさに千撃鏖殺。一瞬にして降り注いだ四〇〇余りの光の斬撃が、敵の一団を呑み込み斬り刻み尽くした。手脚どころか霊核までも破壊され、落武者達は血色の灰となって、饐えた匂いを残して消し飛ぶ。
 身をひねって華麗に着地したまどかは、即座に移動を再開する。
 一体でも多く倒す。――ここより先へは、行かせない!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
◎連携可

鍛冶の音が止む
準備は整った
後は迫りくる敵を屠るのみ

俺の意図を余す事なく汲みとってくれて改めて礼を言う、十代目(頭下げ
まさに匠の技
任せて良かった
総ての輝きを照らすのは今は難しいだろうがいずれは

遠慮なく揮わせてもらうぜ!

懐の御守り握り臨戦態勢
玄夜叉・伍輝の強度や切れ味確認
剣の重みに比例し一薙ぎすれば敵が飛ぶ
一番使ってた炎属性を剣に宿す
以前と違い完全に使い手の技量次第ゆえ思う様にいかず

(あァ…未だ俺のモノになってねェこの感覚
これからが愉しみだなァ!)

【沸血の業火】使用
紫電が体中を纏う
この戦場で一回り成長し剣との波長を掴む
応え応えられ
固い意思を込め
敵の衝撃波を炎で絡め取りカウンターし一掃

─穿て



●五行相生
 炎で焼き。鎚で打ち。水で冷やし、水砥石で刃を着け。
 様々な工程を施す鍛冶場から、最後の一本の作業音が消えた。

 敵が襲うその夜、作戦開始の少し前のことだ。杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)が鍛冶場の中に踏み込めば、作業台に手を衝き、ぜえぜえと息をつく、永海・鋭春の姿があった。藍色の作務衣は汗で濃く染まり、如何に今手がけた刃に気を遣っていたかが見て取れる。
 トレードマークの手拭いをかなぐり捨てて、灰のざんばら髪も露わに肩で息をする鋭春に、男は真っ直ぐに歩み寄った。
「――首尾はどうだい。十代目。後は、俺のだけだよな」
「……、たった今、仕上がったところだ。研ぎ手は既に避難した故、僭越ながらおれが研ぎ仕上げた。――これがあんたの注文の刃だ。崩し烈光含、魂添、“五行相生”。――銘を『伍輝』と打った」
 鋭春は作業台の大剣を、最後に布で全体をひとぬぐいし、クロウに示した。
 凄まじい大剣だ。身の丈ほどの大きさがある。鉄の塊と言って差し支えない。鋭春の筋力では持ち上げることすら難儀する。砥石側を動かして研がねば、まともに研ぎも入れられぬ。
 クロウは、示されるままに刃を手に取った。――魔精は確かに既におらぬ。しかし、握り締め、己の魔力を込めればすぐに分かる。この刃には、新たなる五行の力が備わっている。即ち、火・水・木・金・土。その全てを今すぐに使いこなすことは難しいだろう。だが、いずれ必ず物にしてみせる。クロウは往時と変わらぬ姿と新たなる力を備えた魔剣――『伍輝』を、う゛ぉん、と振って肩に負った。
「――俺の意図を余す事なく汲みとってくれたこと、改めて礼を言う、十代目。あんたに任せて良かった」
「なんの。……その剣が、あんたの力となることを、心より祈る」
 唐突に。ずるり、と手が滑り、鋭春はへたり込むように地に座り込んだ。
「十代目?!」
「……いや、少しばかり疲れただけだ。おれに構うことはない」
 鋭春は、大儀そうにクロウの顔を見上げた。鋼色の目が光る。
「征け、杜鬼どの。――永海の銘を翻し、杜鬼・クロウが最初にして最強の刃にこの銘を奉ずる」
 一拍、

    アスラデウス・エレメンツ
「――『玄 夜 叉 ・ 伍 輝』。二度とは折れぬあんたの鉄の力、我が技の粋、いくさばにて篤とご覧じろ!」

 そう言って、総代鍛冶は笑うのだ。自分の仕事に束の間ながら、やり尽くしたと満足をして。クロウは目を見開き、力強く柄を握り締める。
「……応!!」
 万感の思いを込め返せば、それ以上案ずるような無粋はせず踵を返す。脈打つように、伍輝――玄夜叉・伍輝が、手の中で鼓動した気がした。
 クロウは走り出す。
 放たれた矢の如く、戦場目掛け、真っ直ぐに!!


 懐のお守りを一つ握り、願いを託すように祈って二秒。
 山間の獣道を駆け下りれば、遠目に人魂ともない駆け登ってくる亡霊武者共の一群あり。
 見るなりクロウは加速した。最早獣が四足で駆けるかのごとき速度!
「なんっ、」
 先頭の武者が闇間に紛れ、大剣振り翳し駆け下ってくるクロウに驚きの声を上げたのも一瞬、クロウは駆け下る勢いの侭に加速して踏み込んで刃を振るった。
 ご、しゃあッ!!
 打撃力、壮絶。防ごうと振り上げられた武者の刀が砕け、そのまま全身の骨を砕き斬り肉を裂き、一人の武者を、二つの肉塊と血の霧に変えて吹き飛ばす。その壮絶な結果をもたらしながら、刀身には綻び一つもない。
 これぞ永海の魔技。五行相生『玄夜叉・伍輝』、壮絶なり!!
「何奴ッ――?!」
「曲者とでも答えりゃ満足かよ!!」
 クロウは軽口で敵の誰何を受け流し、玄夜叉・伍輝に力を流し込む。炎の力を帯び、刃が瞬く間に赤熱する。が、炎を発するまでには今までよりも時間が掛かった。魔精の補助は最早ない。全ては、クロウの技量次第なのだ。
 しかし、クロウは舌打ちをするでもなく笑う。
 ――あァ……未だ俺のモノになってねェこの感覚。これからが愉しみだなァ!
「獄脈解放ッ!!」
 同時に、ユーベルコードを起動。己が血を燃やし、全身に紫電を纏い、爆発的に瞬発力、移動速度、攻撃速度を増幅する。――『沸血の業火』!
「う、狼狽えるな、斬れ、斬れェ!!」
 最初に真なる意味で滅された一個体の怨念を刀に纏い、四方八方よりクロウ目掛け刃が振り下ろされる。その剣先から衝撃波迸り、クロウの身体を刻まんと迫る!
 クロウは全く躊躇いなく身を廻す。回転力と膂力で竜巻めいて大剣を廻し、手首の返しと身の捌き、そして刃に帯びた炎にて、衝撃波をなんと絡め取る!
「なんだとォッ?!」
 敵の驚きの声など、効いてやる由もない。
 ただ、クロウは己が刃に語りかける。応えろ。俺も、お前に応える。
 我が正義を貫く力になれ。今までと同じように!
「穿て。玄夜叉!!」
 叫びと共に突き出す!! 刀身に帯びた炎が、敵から巻き取った衝撃波と混じり、砕く爆炎として前方範囲に炸裂、敵の悉くを呑み込んで焼き砕く――!!
 悲鳴も残さず十体余りが葬られる。だが、今のだけで戦いが終わるわけがない。
「さァ、行くぜ。真打ちが来る前に……お前の波長を掴んでやらないとな、相棒!」
 クロウは不敵に笑い、ましらの如くに獣道を駆け下る!

大成功 🔵​🔵​🔵​

御十八・時雨
はいりさま(f27446)と
ええ、お忙しいなか打っていただいたんです
おれ達も仕事をきっちりこなしましょう
……へい、そいでは行きましょう

長い名前はどうにも苦手だ、短く呼ばせて貰うな
さあ、ゆこうか砕炎
まずは御前様がどんな子かを教えとくれ
おれの身体を好きに使って暴れるといい

はい、もちろんですはいりさま
砕炎は親の顔もわからぬやや子ですから
敵と味方の区別はおれが教えまする
禍つ刀とならぬよう、目と握る手にて導きましょう

斬って、爆ぜて、飛ばして
反動がびりびり伝わってくる
はいりさまに始末をお任せし、砕炎を知るために兎に角振るう
成る程、御前様はなかなかにやんちゃのようだ
おれが兄ぃとして手綱を引かんとな


岬・珮李
時雨(f28166)と

いやはや、かなり頑張ってもらっちゃったね
行こう時雨。彼らの働きがどれだけ素晴らしかったか、ボク達の働きが何よりの証明になる

起きて斬風。初陣だよ
一緒にキミの生まれ故郷を守ろう
例え雨礫の数だろうとも、一粒たりとて通すものか

時雨、好きに任せるのもいいけど。ちゃんとキミの刀だってことは教えてあげるんだよ
キミが派手にぶち撒けるなら、ボクは一人ずつ的確に
骨はいい、肉もいらない。ただその核だけを突いて貫く
この子のおかげでいつも以上に身軽だから、動きやすくて助かるよ

さあ、とくと見ろ!
眩いだろう。鋭いだろう
これがお前たちを冥府へと叩き返す輝きだ
生きるものだけが奮うことができる、活きた剣だ!



●刹舞焼断
「いやはや、かなり頑張ってもらっちゃったね。猟兵は結局何人いたんだろう? あれだけの数の猟兵分、五日で刀を打つなんて、ただ事じゃない話だ」
 永海の職人達の仕事を評して、岬・珮李(スラッシュエッジ・f27446)は感嘆の息を付く。手の中に包んだ刀の柄は、まるで珮李の手に吸い付くかのようだ。もうずっと使い込んでてきたかのような錯覚を覚えるほどである。
 ……自分たちだけではない。行き会った他の猟兵達も、細やかに注文を聞かれ、それに応じた刀を打って貰ったという。話によるなら、全ての作業を終えた鋭春はそのまま鍛冶場で座り込み、もはや腕も上がらぬ有様だと聞いた。宜なるかな、五日にわたって鎚を振るい続け、不眠不休で指示を下し続けたというのだから、その精神力足るや尋常のものにあらずといったところだ。
「ええ。お忙しいなか打っていただいたんです。あの方々は仕事を果たした。ならおれ達も、仕事をきっちりこなしましょう」
 珮李の傍らで、小柄な、目元を黒面で隠した少年が呟いた。身の丈三尺五寸といったところの幼子である。名を、御十八・時雨(帰依・f28166)という。その手には既に抜き身の大太刀があった。赤銅色の刀身は刃渡三尺。躰と同じほどの長さというのに、時雨は峰を苦もなく肩に負う。
 張り切った様子の時雨に目を和ませると、珮李もまたすらりと刀を抜いた。妖しき煌めきを帯びた白銀の刃、刃渡二尺二寸。肌良く詰んで美しい。
「うん。行こう、時雨。彼らの働きがどれだけ素晴らしかったか、ボク達の働きが何よりの証明になる」
「へい、そいでは行きやしょう!」
 地を蹴り、獣道を駆け下りる珮李と時雨。


 雲霞の如く押し寄せる刃熊刀賊団、その一端と遭遇戦となるまで、走り出しておよそ二十秒。そばに行灯めいて人魂揺らして駆け上って来る落武者らを視界に捉えるなり、珮李が時雨を呼ばわった。
「やるよ時雨」
「御意に」
 珮李達は里から只人の脚で一時間というあたりに陣取っていたが、もはやこれほど近くまで敵が来ている。この一陣に長い時間を使うわけにも行かぬ。
「起きて斬風。初陣だ。一緒にキミの生まれ故郷を護ろう」
 珮李が命じて意念を込めるなり、ひゅるり逆巻く翡翠の光風。刀身を、珮李の身体を取り巻くような翠の光波が、彼女の身体を、刀――魂添“刹舞霊殺”、刃銘『斬風』の重さを軽くする。斬風の心鉄に用いられた飄嵐鉄が意念を吸い、その効果を発揮したのだ。
 その速さ、韋駄天も斯くや。
 まるで突如翼を得たかと見紛う程の速さで珮李は突撃。地面の草いきれが彼女の疾歩に合わせ爆ぜ、巻き起こる飄風が千切れた草を舞い散らす!
「な、なんだァッ!?」
「悪いね。ここから先へは行かせない。例え雨礫の数だろうとも、一粒たりとて通すものか」
 刃のような声で謳う。同時に銀光翻る!
 ――骨は要らず、肉も要らぬ。衝き貫くは核一つのみ。
 振り下ろしの斬撃に対応し刀を上げて弾かんとする落武者。珮李は受け止められた一撃を、そのままぎゃりりと滑らせて、身体を這うほどに縮めた。まるで雲のような低姿勢から、敵が態勢を整える前に身体のひねりで刃を引き、
「はあッ!!」
 裂帛一声!
 伸び上がると同時に弾丸めいた突き! 胴丸諸共丹田を貫いた刃が、――その奥の、不可侵の筈の霊核を破壊する。
「――、」
 貫かれた落武者が声もなく目と口をかっ開いた。引き攣り、あり得ないと、もはや恐れることもなかった筈の『死』を目の前にして、あらん限りの声で叫ぼうとした。しかし叶わぬ。頬から肉が削げ落ち眼窩が落ちくぼみ、肉が風化し崩れ落ち、髑髏を剥き出しにして崩れ落ちる。
 狙い澄ました珮李の雲耀の一撃が、落武者を動かす怨念の塊、源泉――不可視不可蝕のはずの霊核を貫いたのだ!
「ば、莫迦な! 貴様、何者――」
 死なぬはずの、否、既に死んでいるはずの落武者を再殺せしめる刃の異様に、恐れたように数体の落武者が蹈鞴を踏む。
「恐ろしいか。そうだろうとも。これは今を生きる、永海の鍛冶が生んだひかり。お前達を冥府へと叩き返す耀きだ!」
 珮李が雄々しく吼え跳ぶなり、然りと肯定するように、もう一つの耀きが闇の奥より地を蹴った。珮李が宙に舞うことで生まれたスペースに駆け込むのは当然、時雨。
「ゆこうか、砕炎。まずは御前様がどんな子かを教えとくれ。おれの身体を好きに使って暴れるがいい」
 独り言つなり、三尺の刀身をぶうんと回し、
 ――絶禍一閃!!
「「あばあぁっ!?」」
 奇声を上げて二人、落武者が宙を舞った。何が起きたのか。時雨が振るった大太刀、魂添“重圧焼断”、『砕炎』の刃が一撃し二人を捉えたのである。
 斬撃の命中するなり、大太刀の刀身が爆ぜ、敵を吹き飛ばしたかに見えた。それもそのはず、砕炎の皮鉄は妖刀地金、緋迅鉄より成っている。時雨の意念を、敵を砕く意志を吸い、その刀身は敵を焼き砕く爆炎を生む!
 びりびりと手に返る爆裂の反動の儘に、独楽のように廻り、時雨は再び地を踏み切る。浮き足立つ敵さらに二名を斬、爆、斬、砕!!
 刀の反動の儘に暴れ回るといった様相の時雨に、ひらり降り立った珮李が再び駆けながら謳う。
「時雨、好きに任せるのもいいけど。ちゃんとキミの刀だってことは教えてあげるんだよ。仮にも妖刀、主従はきちんとさせないとね」
「はい、もちろんですはいりさま。砕炎は親の顔もわからぬやや子ですから」
 ややこと言うには余りに巨大な太刀をして、解ったふうに時雨は言う。
「敵と味方の区別はおれが教えまする。禍つ刀とならぬよう、目と握る手にて導きましょう」
「よしよし。――さあ、蹴散らすよ!」
「こ、此奴ら……永海の妖刀を得たかッ!」
「ええい怯むな、押し切れ!!」
 落武者共が、珮李と時雨の超常の力の源泉を察し、遠間より矢を一時に射かける。闇夜、見て落とすには難儀しそうな数の矢の嵐! だがそれを、
「成る程、御前様はなかなかにやんちゃのようだ。おれが兄ぃとして手綱を引かんと、なあ!」
 時雨が、まるでゴルフスイングめいて振りかぶった砕炎の刃を地に叩き付けた。ど、ばうっ!! 燃える砂利と土礫が巻き上がり、唸る矢を弾き燃やして防ぎ止める。舞い上がった燃土の下を潜るように、珮李が駆け抜けた。
「――さあ、とくと見ろ! 眩いだろう。鋭いだろう。これこそお前達が失った輝きだ。生きるものだけが奮うことができる、活きた剣だ! ――黄泉路転げて地獄に戻れ!!」
 宙に燃え上がった土礫の光を照り返し、珮李は今一度斬風の力を解放。神速で踏み込み、刺突斬撃を織り交ぜ敵五人を瞬く間に血祭りに上げる。無象具象の区別なく、悪禍悪念を絶つ神速の剣。これぞ、『終宴月』!!
 ほぼ爆発するような勢いで塵屑となり吹き散る落武者達。制動し残心する珮李目掛け生き残りが抜刀、距離を詰め一斉に襲いかかる。
「貴様ァッ!!」
 だが珮李、そこまで織り込み済みというように片手後方転回。しなやかに降り立って酷薄に笑う。
「そんなだからお前達は負けて死んだのさ。視野が狭いね」
「――おおっ!!」
 珮李の痛罵の語尾に被り、空が燃える!
 はっとしたように見仰ぐ落武者ら。その視線の先に、妖刀砕炎に衝撃波纏わせ、宙、海老めいて反り力を溜める時雨の姿あり!
 大技の好機とみるや跳躍し、珮李の攻撃に乗じたのだ!
「焼き、砕けッ!!!」

 奇しくも正に、それは魂添の願いの通り。
 重圧、焼断。

 時雨が全力で振り下ろした剣の先で、『妖剣解放』による衝撃波と、刀身より迸る緋迅の炎が交わり、爆ぜ潰し断つ劫炎として放たれる!!
 おお、それはもうただの刀で止められるものではない。振り上げた鉄の牙の細いこと細いこと、劫炎はいともたやすく四人の落武者を呑み込み、悲鳴を上げる事さえ許さず焼き潰した。
「驚いたな。斬風もいい刀だけど、砕炎も随分と男前じゃないか」
 珮李が目を細め感嘆を示せば、地に降り立った時雨はかすか誇らしげに胸を張る。
「ええ。おれのおとうとですので」
 ――時雨は砕炎について、未だ知らぬ事も多い。
 未だ不慣れ、未習熟。この戦いのうち、もっと上手く振るえるようにもなろう。
 しかし、誇るちいさな兄の手の内で、燃える炎に照らされて、揺らめく刃肌の煌めきは、それこそ、まるで嬉しげに笑っているようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

人形・宙魂
戦場・けもの道

銀翔さんが鍛ってくれた刀。……魂虚みたい…でも、
魂揺を鞘から抜き放ち、軽くして空中浮遊。
木々を足場に、ジャンプ。軽々と飛び移って移動します。
この刀は、私の為に、鍛ってくれた刀。

魂虚よりも、暖かい……ッ!
人喰羅刹紋を浮ばせ、眼下に捉えた落武者へ、急落下。
自分と、弾揺を重くする事で加速状態から一気に近付いて蹴ります、連なる敵を纏めて踏みつけ。

再度魂揺を軽くして早業で落武者の一人を軽く切りつけて『鬼重・人間道』
猟兵として、私の為、永海の皆さんの為…

暗く、黒く、消えて。
跳び上がりながら、落武者達を纏めて重力の塊で重量攻撃。
これで全部じゃ、ないよね。…人、の血の匂い、
今なら、辿れるかな…?



●不確重刃
 永海・銀翔というのは軽薄な態度をした刀鍛冶で、飄々とした物腰を崩さぬ、最も捉えどころの無い男だ、というのが里の中での評判であったが、直接相対し言葉を交わして、刀を鍛ってもらった人形・宙魂(ふわふわ・f20950)は、そうは思わない。
 態度こそ確かに軽いかも知れない。けれど、かれは真っ直ぐに宙魂を見て、その先行きに幸いあらんと、道を塞ぐ困難を穿ち拓く為の刃を鍛造るとはっきりと言い、自分の専門外の領分に至る注文に挑むような男だ。真っ直ぐで、一本気。それこそ鍛えられたこの刃のような。
 宙魂は獣道を、樹上を蹴り渡って進む。決して地には降りない。手の中に、きらりと短刀が光る。手にするは地鳴鉄心鉄、飄嵐鉄皮鉄、重打――魂添の名を不確重刃、刃銘『魂揺』。
 かの刃は、軽く重い。――矛盾しているようだが事実だ。宙魂の意念に呼応して、重くも軽くもなる刃。軽くすれば、皮鉄とした飄嵐鉄の性質が強く出て、宙魂の動きを加速する。重くすれば地鳴鉄の性質が強く出て、刃の靱性と攻撃の威力を倍加する。重さの定まらぬ不確定の刃は、彼女の持つ刀――『魂虚』と性質を揃える為のあつらえだ。
「銀翔さんが鍛ってくれた刀。……魂虚みたい」
 宙魂は呟きながら、軽やかに木の枝を蹴る。枝がしなり、その反動で宙魂は華麗に宙返り、次の枝へと吸い寄せられるような、流れるごとき動きで林間を跳ぶ。――変異した鬼の心臓、『宙殻心』の力も相俟って、その様と来たらまるで宙に浮き、風に乗って舞うかのようだ。
「――でも、この刀は、私の為に、鍛ってくれた刀。魂虚よりも、暖かい……ッ!」
 きゅっと柄を握り締める。銀翔が彼女の無事を祈り鍛造った刃が、細い月の光を映し、応えるように鮮やかに、翠銀の刃紋を煌めかす。
 宙魂は魂揺の力を引き出し、意念を燃やして己の躰に速力を付与し、獣道を辿る。――敵が駆け来るならば、完全に道がない山中よりも、僅かなりとも草が倒れた道を選ぶだろう、との判断だ。……そして、逃げ場が少ない方がこれから取る戦術は良く機能する。
「――見つけた」
 宙魂の眼が、山の下より駆け上ってくる敵の集団の姿を捉えた。その数、十あまり。人魂を漂わせ、鬨の声上げて駆け上ってくる。
 宙魂は、き、と眦を決した。
 彼女は争いごとが得意ではない。戦いを好む訳でもない。――ただ、過去に父母を奪われ、己まで生贄にされかけて、猟兵に覚醒しただけの少女だ。後になって己がルーツを辿れば、UDCアースに古来流れ着いたという人食い鬼の子孫だと判明し、未だにそれを公にせず、心の裡で気にしている。
 ……だというのに闘うのは何故か。自分のルーツたる羅刹の力と向き合わねばならぬからだ。そして力を振るえるのならば、誰かの為に振るわねばならぬと思うからだ。
「猟兵として、私の為、永海の皆さんの為――闘います」
 宙魂は戦闘態勢を取り、躰に紋章を浮かべた。人喰羅刹紋と名の付くそれは、忌むべき烙印にして彼女の力の源泉。
 だん、と樹枝を蹴る。最高速に至ったその瞬間、魂揺を最大まで重くした。軽くなったからだが元の重量に戻り、重力に捉えられる。しかしここまでつけた速力はそのまま。
 ――それ即ち、運動エネルギーの激増に他ならぬ。
「はあっ!」
「ッ――!?」
 敵からしてみれば全く唐突に上から少女が降ってきたようなものだ。先頭の落武者の胸当てに、全体重を乗せた宙魂の踵がめり込む! まるで投石機の直撃を喰らったように吹っ飛んだ落武者が、後続の数人を巻き込んで転がる。
 宙魂は止まらぬ。着地の寸前に再び己の躰を魂揺の作用で軽くし、軽やかに着地して敵に吶喊!
「貴様ッ、何者……!」
 誰何の声も無視してそのまま掠めるように、魂揺で敵の具足の隙間を縫うように斬り付ける!
「ぐうっ!」
「がっ!?」
 斬る、斬る、斬る斬る斬る――動き凄まじ、場にいる敵全てに瞬く間に傷を刻む! だがしかし浅い! やはり軽くした状態の魂揺での攻撃では有効打とならぬ。
 苦し紛れとは言え浅手の落武者らが斬り返しを掛けてくるのを、宙魂はバック転を一つ打って避け、膝を撓めて再度跳んだ。
「ちょこまかとっ! 矢を射かけて落とせッ!」
 班長格の男が指示を下すなり、残った三人が矢を番え、鏃を宙の宙魂に向ける。
 中空。狙う矢が放たれるその前に――宙魂は、
「暗く、黒く、消えて」
 絞り出すように詠唱した。
 刹那、下方に突き出した魂揺の切ッ先に、重いハム音を立てて闇が凝った。一拍遅れて放たれた矢が、ぐにゃりと軌道を曲げ、その闇の中に吸い込まれる。
「なんだと……!?」
 相手の驚愕もよそに、宙魂はまっすぐ、その闇の塊を投射した。
 目印は、既につけてある。
「さよなら」
 宙魂の声を、聞くことが叶ったかどうか。放たれた闇の塊――それは、真っ黒な重力の塊、ブラックホールと呼ばれる類のものだ。ユーベルコード、『鬼重・人間道』。
 刀で叩き落とそうとした武者が、振り被った刀ごと上半身を吸い千切り取られて、死んだ。――この重力塊は、宙魂が刀で攻撃した敵を果てなく追う。
「う、うわあアアアッ!!」
「ぎゃあっ、ぐげっ」
 次々と闇に呑まれて絶えていく敵を尻目に、宙魂は鼻を鳴らす。
 ――今なら、落武者に染みついた血の臭いを辿り追うことができる。
 人食い羅刹としての血を励起し、宙魂は今一度樹上に降り、再び次なる敵を探して枝を蹴るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
★レグルス

(ザザッ)
''魂添"。
そうあれかしと願う一句。
『追憶昇華』か。

(追憶――記憶、経験を昇華する。この剣にも自分の戦い方にもしっくり来る四字だ。)

魂添、確かに拝領した。
そして――本機の力として見せよう。

ロクが追い立てた敵に"剣狼・轟"を向け――

 メモリアライズ
【追憶昇華】。

想起・追憶する。
剣を交えた騎士『剣狼』の構え、太刀筋を。
その上で戦闘流儀を本機流に昇華・実現する。

対峙するお前も努努油断ならぬ武士だ。無念とて否定はすまい。

然し刃を向けるべき相手が誰か忘れなかっただけ
哀色の牙の方が強かった。
その濁った怨嗟、噛み砕かせて貰おう。

唸れ、"極閃"。
(学習力×威厳×破邪×決闘)
(ザザッ)


ロク・ザイオン
◎レグルス

(新たに冠された烙の一字
灼くべき病に向ける、己と同じ名だ)
行こう、閃煌。
…ジャックが待ってる。

(森に獣道は森番の領域だ
見つかる前に先んじて【追跡】
【目立たない】よう肉薄し先ずは【早業】の一撃を)

(ああ、心地よい重みだ
お前すこし、頑鉄に似たな。)

――――ああァァアアア!!!
(ならばこの【大声】を里まで轟かそう)
(「烙禍」
印を燃やし叩きつけ、脆くした木々や土も【地形利用】
殺気無き地の罠の攻めも交え、敵をジャックのもとへと追い立てる)

ましらでも、けだものでも、好きに言えよ
狩られているのはお前たちだ。



●裂焦昇華
「征くのか」
「うん。征かなくちゃ。ありがとう、頑鉄」
「礼などよい。儂からせねばならん立場よ。――月並みだが幸運をな、ロクよ」
 岩の塊のような筋肉をした壮年の男が、女の頭を撫でた。
「わが快作、緋迅鉄製大山刀。魂添を“悪禍裂焦”、刃銘『閃煌・烙』。『それ』は、『おまえ』だ。しなやかで、固く、強く、熱く、決して病葉を許さぬ、強靱無比の猛きやいばよ。――生きて帰れ、必ず。儂も生き延びる」
「うん。――うん。行ってきます」
「おう! じゃがーのーと殿に、よろしく頼むぞ!」
 笑う壮年に、女もまた笑った。
 踵返して走り出す。腰の革鞘から、しゃ、と刃を抜いた。
 ――『それ』は、『おまえ』だ。
 然り。壮年、永海・頑鉄が言ったとおり。刃に冠された新たな銘一文字は、奇しくも女、ロク・ザイオン(λήθη・f01377)と同じ名だ。森を侵す、灼くべき病を許さぬ、森番の名と。
「征こう、閃煌。ジャックが待ってる」
 じぃ、と、応えるように、閃煌の刃紋が赤く燃える。ロクは、地を駆ける四足の獣の如く跳ねた。
 門を飛び越え。永海の山間の森の中へ、藪を突き抜け消えていく。


 ――ザザッ。
『――“魂添”』
 たまぞえ。永海の鍛冶が近年、己が打った刃にそうあれかしと願いを込め、漢字四字で刻む言霊のことをそう呼ぶのだそうだ。悪禍を裂いて焦がせと願い、頑鉄がロクの刃に“悪禍裂焦”と刻んだように、願った名が、その刃の性質にそのまま現れる。永海の鍛冶は、鍛冶である前に『儀式呪術』。呪術に於いて、名というのは凄まじい意味を持つ。
 永海・鋭春の話を思い出しながら、男――ジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)は手の内にある機械剣を見下ろした。
『“追憶昇華”か』
 永海・鋭春改作、機械剣……追憶昇華『剣狼・轟』。
 烈光鉄で随所を補強した機械剣『剣狼』の新たなる姿をして、鋭春がつけたその魂添は、奇しくも己そのものを示すようだとジャガーノートは思う。
 追憶――記憶、経験を昇華し、己の力とする。
 かつてダークセイヴァーに生きた誇りの騎士、ヴァイ・ランの氏族が一人の名を継いで生み出されたこの剣と、あらゆる技術を吸い上げ自分の物として改良し使いこなすジャガーノートそのものを示すかのごとき一句ではないか。
『――確かに拝領した。ならば、本機がそれを示し――力として見せよう』
 剣狼・轟の可動部品が展開。ジェネレータ起動。エネルギーバスに動力が供給され、剣狼は目覚めたように鈍く光る。
 ジャガーノートはレーダーを確認。既に敵集団に、先行したロクが会敵している。
 手筈は共有済、やることは分かっている。ならば後は、精密に実行するだけだ。
 ジャガーノートは背面のブースターを吹かし、闇夜に推進炎の尾を引いて低空を飛んだ。
 バイザーの赤が闇にジグザグに光を曳き、美しくも禍々しい軌跡を残す――。


 襲おうと思えば、いつでも痛撃を加えることが出来た。しかしそうしない。
 ロクは森の中を駆ける敵集団の横を取った。視界判然とせぬ夜闇の中、二〇余名の集団で森の中を走ったというならば――いかに夜目が利いたとて、転ばぬよう注意を払いながら前方を見るだけで意識の八割は持って行かれる。横合いで同じ速度で駆けるものがいたとて、仲間だと考えて疑わない。
 そこを衝いた。森に獣道は森番の領域。まさに庭のようなものだ。植生の同定は容易く、どのように立ち回ればよいか、脅威になるような植物はないか、ロクは事前にその森の性質を把握している。
 であるが故に、固い蔓を這わせるため脚を掛けてしまいやすい植物の群生している地点で、ロクは仕掛けた。敵がもたもたと蔓を跨いでいる間に、横合いの藪から飛び込んだのだ。
「なァッ?!」
 敵の驚愕も然もあらん。味方だと思っていた足音が敵のものだったとは真逆思わない。頭をかち割るように繰り出された閃煌の一撃を、よろめきながらも落武者が刀で受ける。
 ぎちッ、
 軋んだのは落武者の刀だ。ききぃっ、ぢりぢりぢりヂリッ、悲鳴を上げる。火花を散らしながら閃煌の刃が落武者の刀を食い裂いていく。
「な、なんだとッ……!?」
                    おや
 ――ああ、心地よい重みだ。お前すこし、頑鉄に似たな。
 なればこそ。あの鋼のような男に似たからこそ、並の刃を相手に打ち負けるわけがない。
 拮抗は二秒のことだった。落武者の刃とて決して凡作ではあるまい。なのにそれを、まるで豆腐を切るように溶断し、ロクの一撃が敵の頭を叩き潰した。
 ――それだけでは死ぬまい。知っている。
 故に身を翻し、柄頭に彫られた、『烙』の字を敵に叩きつけた。
「あアあっぁアぁぁあァあァァア」
 頭から喉までが破壊された落武者が、喉に息が通っただけというようなしまりのない悲鳴を上げた。烙印が刻まれた彼の身体が一瞬で燃え上がり、燃え落ちる。ユーベルコード、『烙禍』。
「き、貴様、何者ッ……!?」
「……森番。“烙”」
 落武者たちの動揺をよそに、名乗るロクの声は静かだ。
 ロクはすかさず次の敵に襲いかかった。腕を斬り飛ばし、刀を焼き切り、印を叩きつけ、瞬く間に更に三人を屠って、
「――ああァァアアアアァァァアア!!!」
 けものの如く吼え立てる。鑢のような声がビリビリと空気を震わせる。里まで届くだろうか。届けばいい。ここで生きている。おれたちは、永海の刃は決して負けないのだと、全ての鍛冶に、頑鉄に届けばいい!
 吼えると同時にロクは地に這う蔓に焼印を叩きつけた。ロクの意念が熱となり、閃煌の印より周囲の地形に伝わる。生木のはずの蔓が赤熱発火、一帯の落武者たちの足元に炎這い、彼らの脚を灼き焦がす!
「ぐうっっ!!」
「落ち着け!! 蔓を切って下がれ、ここは足場が悪い!! 敵はましらかけだものぞ、このような場所では相手に仕切れぬ!!」
「ぬううッ、業腹なり……!」
 流石百戦錬磨の武者共、彼我の能力の有利不利、地形的不利をすぐに分析し、蔓を切って獣道をそれ、開けた方向に逃げ出す。ロクは、その後ろをまるで猟犬のように追い立てる。
「ふん。ましらでも、けだものでも、好きに言えよ」
 ロクは笑うでもなく、哀れむでもなく、ただ吐き捨てるように口にした。

「――狩られているのはお前たちだ」

 その先の広場に、哀色の牙が待っている。


 武者たちが藪を突き抜けて広場に至ったとき、ジャガーノートは既に構えを取っていた。躰を十二分に捻り溜め、剣狼にエネルギーを充填。
 想起・追憶する。剣を交えた騎士『剣狼』の構え、太刀筋を。
 極閃。アウロラと名付けられた剣技は、己が闘気と魔力を裂帛の気合に乗せ叩きつける武芸の際涯。斬光は虹の如く極彩色に光り、対峙した全てを両断する破壊力を秘めていた。
 あの剣技をここに再現する。技の思想。生み出された動機。威力、使い方。姿勢、体幹の位置、刃のスピード。プロセスの全てを。
 今まさに、その全てを昇華する。
 それはもうただの魂添、言霊にあらず。

            メモリアライズ
 ジャガーノートの技。『追 憶 昇 華』である。

『対峙するお前達も努努油断ならぬ武士だ。その無念とて否定はすまい』
 ジャガーノートは呟く。無念の果てに骸の海に沈み、生者を殺す過去として析出した彼らは、源流としてはかの騎士、剣狼と同質の存在だ。
 だが、しかし。
 剣狼はそれでも誇り高く、断つべき敵を忘れなかった。
 決して、殺すべき対象を誤らなかった。
『——だが、お前達とて、かつては何かを守る為闘ったはずだ。刃を向けるべき相手が誰かを忘れ――ここに押し寄せたならば、もうお前達に誇りはない。――哀色の牙の方が強い。そう断言する』
「何をごちゃごちゃと……!」
「ええい討ち取れ!! モタモタするな、後ろからけものが来る!!」
 落武者たちがそのまま駆け寄せた。広場に向かって駆けてきたのだから、制動して反転しロクを迎え撃つよりも、駆ける速力をそのまま活かし、進行方向のジャガーノートを排撃するのが最適と見るのは妥当な判断だ。
 ――しかし、それすらジャガーノートの計算の内であるとしたら?
『その濁った怨嗟、噛み砕かせて貰う』
 じゃ、ぎッ!!
 真体抜剣、剣狼展開。剣狼の可動部品が一斉に開き、発振部の烈光鉄が露出。同時にエネルギーバスに蓄積されていた力が溢れ光剣を成す! その長さ、広場の半径を埋めるほど!
「は――!?」
「な、なんとォッ?!」
 驚愕の声を挟むことが出来たものは幸運な方だ。
『唸れ、"極閃"』
 ジャガーノートはノイズ混じりの声で断ずるように言い、躰のひねりを解き放った。
 ――際涯の剣。極閃。
 極彩色の光閃が、駆ける落武者らの躰を上下真っ二つに斬り断ち、余波に巻き込み吹き飛ばす――!! たったの一撃、しかしそれはその一撃に全てを懸けた騎士の剣。
 継いだ騎士の手にあって、断てぬ物なし!!
『ロク。次の一団の排撃に移る。南東二〇三メートル、北に移動中、オーヴァ』
『了解。もう向かってる、おーば』
 ザッ。
 ノイズを残して通信を終え、ジャガーノートは踵を返す。
 彼が飛び立った後に、破壊免れ落ち来た一本の日本刀が、落武者らの墓標の如く、地に深々と突き立った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーノ・アルジェ


……すごいね、この刀。まるで身体の一部みたい。
これなら、もっと守れる。もっと、戦える。
行こう『黄昏』。夜を超えて、夜明けまで――!

ひたすらに、敵を目指して突き進もう。
私にできるのは、どう足掻いてもそれだけだから。
それでも、今の私は今までの私とは、違う。
重き血の咎よりも小回りの効く黄昏なら、攻撃も防御も人型の相手をするにはちょうどいい。
黄昏の強度と切れ味に重き血の咎を組み合わせれば扱う技術の不足も補える。
多少の被弾は生命力吸収で押し通して、捨て身の一撃で四肢を狙おう。
即死さえ避ければ、戦える。戦えれば、護れる!

他の道は、他の人に任せよう。
でも。ここを通りたいなら、私を殺しきってからにして…!



●血鬼繋魂
 抜刀。
 一振り。ぴたり、狙ったところで刃を止める。コントロールの容易さに驚嘆する。
 確りとした手応えを返すも、玉鋼製同寸の刀よりも軽く、然りとて硬く、しなやかで強い。
 妖刀地金『斬魔鉄』で打たれたその刃は、実体を持つ武器としては異例と言える精度で、少女の手に馴染んだ。
 刃渡二尺三寸、誰かを救う為の刃。
 血鬼の流れを汲む少女の手にありて、彼女の魂と繋がる刀。魂添を“血鬼繋魂”、刃銘『黄昏』。
「……すごいね、この刀。まるで身体の一部みたい。これなら、もっと守れる。もっと、戦える」
 少女、ルーノ・アルジェ(迷いの血・f17027)は頷きを一つ、鞘に刀身を収めて柄頭を叩く。この刃とならば、きっとどこまでだって戦えるという、漠然とした確信があった。
「行こう、『黄昏』。夜を超えて、夜明けまで――!」
 凛、と。
 応えるように、刃が鳴った気がした。


 ルーノは獣道を真っ直ぐに駆ける。山を登ってくる敵の数は、この里に訪れた猟兵らの二〇倍はくだらない。この作戦の根底は、一人頭二〇人を倒しても尚余るというパワーバランスをひっくり返せという無茶振りだ。いかに猟兵とて尻込みをして然るべき所。
 ……だが、その苦境にあって尚、ルーノの眼の光は陰らない。
 ――今までだってそうだった。敵を目指し、真っ直ぐにひたすらに突き進むだけ。私にできるのは、どう足掻いてもただそれだけだから。
 ルーノは知っている。自分が余り器用な部類ではないことを。けれどそれでも、今は腰に差した刀の重みがある。今までとは、違う。
 おお、おお、おおっ!!
 鯨波の声が連なって、獣道を駆け上ってくる敵の一群あり。ぼんやりと光る人魂を伴い、死霊の武者共が走り来る!
 ルーノは黄昏を抜刀。普段使う血の大鎌――『重き血の咎』は、大鎌となる以上人型の相手をするには持て余すことが多い。その点黄昏は、ルーノの身の丈に合わせて打たれているために小回りが効き、防御・攻撃共にやりやすい利点がある。
「――ここは、通さない!!」
 決然と宣言し、真っ向から武者共に突っ込むルーノ。待ち伏せも奇襲もせぬ。ただ真っ向から挑みかかる!
「ぬうっ、貴様、永海の手の物か!」
「めのこ一人に何が出来るか! 立ち塞がらば容赦はせぬぞ!!」
 武者達が口々に言い、刀を手にして襲いかかった。先陣を切った一人の武者と切り結ぶ。鍔迫り合いの押し引き合いとなる前に、ルーノは身体を捌いて敵の刃を滑らせすかし、つんのめる武者を無視して、その横手後方にいた武者に斬りかかった。
「うおっ!?」
 ターゲットのスイッチ。敵の虚を衝いて斬る! 渾身の一撃が袈裟懸けばっさり、落武者の躰を二つに分けた。いかに四肢いずれかを失っても襲うと謳われようと、躰が二つになってしまえば最早走れまい!
「ぎゃああっ!」
「貴様ッ!!」
 すかさず他兵が槍を突き出しルーノを狙うが、踊るような足捌きで身体を廻し槍の一撃を透かしてすかさず一閃。穂先を断ち飛ばす。踏み込んで喉を貫き通し、そのまま股下までを二つに裂く! 声無く倒れる敵の後ろで、数名が矢を番えルーノを睨む!
「放てェ!」
「く……!」
 ルーノは低姿勢で駆ける。次の瞬間放たれた矢が右肩、左脇腹に突き立つ。……しかし、ルーノは止まらない。その程度で止まる安い覚悟ではない! 即死さえ避ければ、戦い続けられる。戦えば――誰かを護れる!
 矢を無造作に抜き取るなり、溢れた血を黄昏に纏わせる。ルーノは吼えた。
「――奪わせない。もう、誰も奪わせない!!」
 血鬼咆哮。黄昏に纏い付いた鮮血呪装、重き血の咎がゆらり煌めく。
 二射目を射かけようとした弓兵共に射程外よりすかさず一閃! 剣先から血が刃の形となり迸り飛ぶ、血の遠隔斬撃、言うならば血閃が唸る!
「なッ、」
 驚愕の声は喉をざっくりと裂かれて止まった。ルーノが立て続けに繰り出した血閃が首を飛ばし、その四肢を刈り、弓兵らを瞬く間に無力化する!
「おのれえっ!!」
 激した風に横手から襲いかかるは打刀の武者二人。その刃片方を黄昏そのもので受ける。動きが止まったところにもう一人が刺突をかけてくるが、それが届くよりも先にルーノは身を捌き、剣先を間髪避けながら黄昏に意念を注いだ。纏い付いた血が刃より枝分かれするように伸び、突きを透かされた武者の頭を貫く!
「おぐぅっ」
 奇怪な呻きに狼狽えたように、刃をかみ合わせた武者の顔に動揺が走る。
 その隙に食いつくように刃を滑らせ、均衡を崩した。蹈鞴を踏んだ武者と擦れ違うように、刃走らせながらルーノは駆け抜ける。――走る無数の剣閃。二人の武者の四肢が斬れ飛んで、芋虫のようになった胴が地にどしゃりと落ちる。
 獅子奮迅の戦舞いに、落武者ら、恐れるように一歩下がる。
 変幻自在の鮮血呪装と黄昏の力が重なれば、この血鬼止めること並々ならず!
「ここを通りたいなら、私を殺しきってみせて!!」
 刃指し向け、血鬼は謳う!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
ふはは、ようやく来たな!
さァ掛かって来るが良い。この私と、この『冥竜』が、その首根こそぎ刈り取って――っとと
流石に槍と同じとはいかないな……

普段なら蛇竜を喚ぶところだが
折角だ、こいつ一本の私がどこまでやれるか試してみたい
広場で振り回させてもらおうか!

こちとら蛇竜との和解に数年費やしたんだ
どんなじゃじゃ馬でも乗りこなしてみせよう
至近に寄られないよう薙ぎ払い
或いは重量攻撃で地形ごと砕いて殲滅する

……流石にまだ心許ないか
天罰招来、【氷霜】
念には念を
増幅させた氷の属性攻撃、見せてくれるよな、冥竜?

……あ
こういうときは名乗りを上げるのがジャパニーズ・サムライ・マナーだっけか?
……もう遅いか……



●氷殺顎門
 距離四〇。下方獣道より敵勢多数。人魂をどろどろと従えて、槍だの刀だのを振り翳し、戦国の世の影絵共が来る。過去から蘇りし星の黒点達が。
「ふはは、ようやく来たな! さァ掛かって来るが良い。この私と、この『冥竜』が、その首根こそぎ刈り取って――」
 一人の男が、小広く開けた広場にて、携えた刃渡五尺二寸の大太刀を一度振った。勢い余って、振った刃の重さに僅かばかりよろめく。
「っとと。流石に槍と同じとはいかないな……」
 当然、槍と大太刀では重量配分が全く異なる。槍よりも大太刀の方が重く、しかも持ち手の位置の関係で振るった際の力の掛かり方がまるで異なるのだ。刃近くを持ち支えられる槍と異なり、太刀は刀身を持つわけにも行かぬ。
 しかし男はそれを気にした風もない。もう二度三度と振るい、力の掛かり方を確認した。そのまま慣れた槍を喚ぶでもなく、大太刀一本引っ提げて、迫り来る敵集団に対する。
「折角だ。こいつ一本の私がどこまでやれるか試してみようではないか――こちとら蛇竜との和解に数年費やしたんだ。どんなじゃじゃ馬だろうと乗りこなしてみせるとも」
 彼が普段手にする槍――ドラゴンランス『Ormar』を引き合いに出す。今でこそ至って良好な仲だが、その関係を粘り強く構築するには数年の時間を要した。
 その時の経験が彼を支える。時を掛ければ、扱いきれぬ武器など無いと。
 ニルズヘッグは大太刀――絶雹鉄製大太刀、魂添“氷殺顎門”『冥竜』を片手に引っ提げ、広場に到達した敵勢に一手先じて襲いかかった。
「ここから先は通行止めだ、夜盗共。我ら冥竜の顎門、生きて抜けられると思うなよ!!」
「ぬうッ、貴様永海の手のものかッ!!」
 応える必要は無い。故にニルズヘッグは、その長身と精悍なる体躯から来る筋力をフル活用し、敵の間合いの外から渾身の一撃を見舞った。横一閃の薙ぎ払いである!
「ぎゃあっ!?」
「ごうっ……!」
 先頭四名ばかりが断たれ吹き飛ぶ。一人は胴を上下に真一文字、他二名が腕を飛ばされ、最後の一人は刀で受けたものの刀身が粉砕、勢いの弱った刀身に殴られるように側方にふっ飛んだ。断たれた傷口より血は出ない。――それもその筈だ、冥竜の発する冷気が、その傷口を凍てつかせている。血管までもが凍り、白い冷気を上げている。
(――浅いか)
 ニルズヘッグは舌打ちするでもなく現状を認識。天地に裂かれた一人はともかく、残りの三人はすぐさま立ち上がり、無事な腕に武器を持って耐性を整え直す。
 ならば実質戦闘不能は未だ一名。まだこれではとても、使いこなせたとは言えぬ。
「敵は一人ぞ! 討ち取れィ!!」
 号令一下、数人が一斉にニルズヘッグへ襲いかかる。飛びかかってきた槍使いの突きをスウェーバックして回避、そのままバックステップ。続けざまに飛び込んできた敵二人の刀による斬撃を、腰を入れた冥竜の一撃により打ち返す。あまりの撃力に蹈鞴を踏み、敵がよろめいたその瞬間、ニルズヘッグはそのまま振り抜いた刃を、舞うような体捌きと腕力で跳ね上げ、大上段から地に振り下ろした。
 ――炸裂!!
 大太刀の重量とニルズヘッグの腕力が一挙に集中し、地面を爆ぜさせ、弾丸めいて土砂と氷柱を巻き上げる! 刃が炸裂した瞬間に地の水分が凍り、それが一閃の撃力で跳ね上げられて散弾銃めいて敵を襲ったのだ。
「――!!」
 間近にいた二人の落武者が、胴丸すら貫くその威力の雹礫をまともに受けて声もなく吹っ飛ぶ。少し後ろで顔を庇い一撃をやり過ごそうと、槍の武者の動きが止まる。
 その硬直をニルズヘッグが見逃すわけもない。背の翼を一度打ち、同時に跳躍。槍の武者が態勢を整える前に、振り下ろしの一撃!! 声も上げさせず、頭から股下までを一刀両断、勢い収まらず地を打った刀が土柱を跳ね上げる!
「クッ! 一筋縄では行かぬか!! 矢を放てい!!」
 敵からすれば瞬く間に四名が屠られたようなものだ。警戒するように、刃の射程外で武者達が矢を番える。しかし、ニルズヘッグからすればまだ足りぬ。
(……流石にまだ心許ないか。これは嵯泉から教わらねばならんかもな)
 ニルズヘッグの戦い方はおおよそ剣術のそれではない。膂力で重量をぶん回し、敵をその威力で圧倒している類のものだ。ふん、と嘆息すると、ニルズヘッグは意念を冥竜へ注ぎ込む。
 空気が、ぴしりと音を立てて凝った。
「お前の力を見せてくれるよな? 冥竜。我が氷を研げ、氷殺顎門!!」

 絶雹鉄とは。
 注がれた意念を冷気に変換する、妖刀地金の一つである。
 
 ぎ、ぎちちちぎちちちっちぎぎぎっ!!
 ニルズヘッグの周囲に無数の氷柱が析出する! ユーベルコード、『氷霜』の発露だ! その威力、常に増して強烈である。
 敵に驚愕の声を上げる間も与えぬ。届かぬ刃を振り下ろすなり、無数の氷柱が敵の群に襲いかかった。放たれた矢も、放とうとした侍も、逃げようとしたものも、氷柱の嵐が何もかも呑み込んでいく。
 氷柱に貫かれ氷像のように凍った武者達が残る頃、ニルズヘッグは思い出したように呟いた。
「……ああ、こういうときは名乗りを上げるのがジャパニーズ・サムライ・マナーだっけか? ……まあ、もう遅いか」
 くるりと逆手に回転させ、大太刀を鞘に収めると、ニルズヘッグは次なる戦場を求め外套を翻し、闇の中へと消えていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シュシュ・リンクス


よーし、今回もパーフェクト目指して頑張っちゃうよ!
おニューの武器も用意してもらっちゃったし、ねっ。

ということで、今回はシューティングかな!
ゲームだとちょっと卑怯だけど、これは戦いだからね。
リロードの隙も無い事だし、ユーベルコードを使って霊核を狙って撃ち抜いていくよ!
複数相手はゲームキャラクターの召喚とステルスクロークで誤魔化していく方向で!

おおっと、下手に攻撃を加えて加速されると面倒だからね。
ヘッドショットっていうワケでもないけど、一撃で仕留めるようにしないと。

……うん、良い仕事。リアルな武器は専門外だけど、そのぐらいは分かるよ。
きっちり答えないと、ゲーマー失格だもんね!
さ、まだまだいくよ!



●一切貫光
「よーっし、今回もパーフェクト目指して頑張っちゃうよ、おニューの武器も用意して貰っちゃったし、ねっ!」
 シュシュ・リンクス(電脳の迷い子・f11333)は革製のホルスターから抜いた競技用オートマチックめいた拳銃――魂添“一切貫光”、銘『燦釘』を構えながら呟く。
 シュシュは電脳ゴーグルを降ろすなり、フロート・ボードとでも呼ぶべき、反重力型のスケート・ボードめいたものを構築してその上に飛び乗る。
「ということで、今回はシューティングかな! 対人ゲームだとちょっと卑怯だけど、これは戦いだからね。悪く思わないでよ、お侍さん!」
 ゴーグルのダイヤルと入力パッドを操作し、チートモードを設定する。電脳ゴーグルがシュシュの反射神経及び運動神経の一部と接続し、その演算能力を使っての自動攻撃モードを実現したのだ。ユーベルコード、『T・A・S !』の応用である。
 視界と足場の悪い森の中を戦場に選び、自分は電脳ゴーグルによる視界最適化と、フロートボードによる浮遊移動でディスアドバンテージをカット。自分の不利な要件を限りなく潰し、敵に不利を押しつける――ゲームでの戦いとはそういうものだ。そして、シュシュ・リンクスはことゲームにおいては海千山千、ジャンルがなんであろうとすぐに最適解を見つけ勝利を取りに行く、筋金入りのバトルゲーマーである。
「ゲームスタートっ!」
 フロートボードを蹴飛ばせば、始動したボードが森の中を進み出す。慣れたガンシューティングゲームと同等の移動速度。
 進み出してしばらくすれば、電脳ゴーグルの視界の片隅に、ちらりと青い炎が映り込む。即座にそちらを向けば森の中を駆ける落武者の集団がある。シュシュは躰を捻り、フロートボードの速度を上げて進路を敵の一団の方向に取った。
 抜いた拳銃――燦釘の銃口を上げる。
 これを作った永海・鋭春に曰く、燦釘はグリップからシュシュの意志力を吸い上げて、引き金を引くたびに意志力を光の弾丸に換え、射出するのだという。また、銃身となっている屠霊鉄を通ることで、その光の弾丸は霊的なものをも撃ち抜くことを可能とするのだと。
 ――なら、あの落武者たちの、霊核とやらを撃ち抜くことも可能なのではないか?
 シュシュは自信が立てた仮説に基づき、敵集団の背後より、フロートボードにより隠密に接近しながら狙いを絞る。
 電脳ゴーグルにより演算を実行させる。敵体内の魔力濃度分布をスキャン。また、魔力の流速を分析。最も濃度の高い部分、というより、魔力を他に供給していると思しき部分を特定。そこを『霊核』と仮定し、ターゲットマーカーを置く。
 敵がいつ振り向くか分からない、やや後方からの照準作業。ギリギリまで演算を続ける。シュシュは口の中がひりつくような感覚を味わいながら、唇を舐めて湿らせ――
 がさり、
「!」
 袖口が立ち木に当たり、その音に最後尾の武者が振り返ったその瞬間に行動を開始した。
 振り向いた武者のマーカー目掛け燦釘をダブルタップ! ちょうど心臓の辺りを、発された光の弾丸が貫くなり、首を失えど駆け続けるはずの武者が膝から崩れ落ちて地面を滑る。
「なんだ?!」
「おい、どうし――」
 皆まで言わせぬ。
 シュシュは即座にステルスクロークを起動し、低容量で使用可能なドット絵のキャラクターを数体具現化して嗾ける!
「うおっ!?」
「な、なんだこいつらは!! おい、全員止まれ! 後ろから敵が来るぞ!」
 後方からの奇襲に気付き、ドット絵のゲームキャラクター目掛け刀を振り翳す落武者ら。だがゲームキャラクターは、それこそ当たり判定もないただの囮。シュシュが作りだした目くらましの為の存在に過ぎない。次々と刀が空を切る。
 シュシュはその隙を縫うように、視界にあるターゲットマーカーにナンバリングする。ナンバー十三までカウントアップ!
(下手に攻撃を加えて加速されると面倒だからね。ヘッドショットっていうワケでもないけど、一撃で仕留めさせてもらうよ……!)
 フロートボードの出力を全開にし、ウィリーめいて傾くボードを華麗に乗りこなしながら、シュシュは両手で構えた燦釘の照星と照門の間にターゲットマーカーを挟み込むッ!! まるで硝子製の瓶を打ち合わせるような、銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声ッ!!! まさに燦めく釘のような銃弾が闇夜を引き裂いて、瞬く間に落武者十三人の霊核を撃ち貫く――!!
 シュシュは口笛を吹きながらフロートボードを回頭。
「……うん、良い仕事。リアルな武器は専門外だけど、そのぐらいは分かるよ。こんなものを貰っちゃったからにはきっちり答えないと、ゲーマー失格だもんね! さ、まだまだいくよ!」
 ステルスクロークにより身を隠し、シュシュは次なる獲物を求め、再び森の闇の中を翔けていく!

大成功 🔵​🔵​🔵​

セフィリカ・ランブレイ

山道なんかを張っておこうかな

シェル姉はどう?新しい家

『寝具一式のグレードが上がった感じね。良い仕事してくれたわ』

ならよかった
でも、私も光や炎がブワーってなるの、やってみたかったな!
シェル姉、魔剣としては能力が地味だし

『私以外をほぼ握ったことない癖によくいう
剣に必要なものは全部揃ってんの
それ以外が欲しけりゃ精霊魔法か工作でどうにかしなさい
っと、そこの影から三体』

はいはい!
【月詠ノ祓】にて纏めて斬り伏せる!

『霊核の見極め方、教えた通りよ
最初みたいに首だけ落としても動くからと騒がないことね』

わかってるよっ!
手応えもわかってきた!

しかし、どんどんくるじゃない
多勢に無勢!けどこっちも常に二人!いける!



●蒼魔鍛成
「さあて、と。……シェル姉、どう? 新しい家の調子は」
 こきこき、と蓮っ葉な調子で肩首を回し、セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)は己が魔剣に問いかける。
『寝具一式のグレードが上がった感じね。良い仕事をしてくれたわ』
 血を呑む魔獣の革によるクッションの効いた鞘の裡側で魔剣が応えた。その革は如何ほどに血を吸おうとも決して劣化しないのだという。何を斬ろうとそのまま剣を納めてくれればよいと、永海・鋭春は自信満々にセフィリカに告げたものだ。
 その宣言に従い、既に二人ばかり斬って、そのまま鞘に収めたが――魔剣シェルファは文句一つ漏らさぬ。確かに効果抜群なのだろう。……しかし、地味だ。少なくともセフィリカにとっては。
「ならよかった。……あーでも、私も光や焔がブワーってなるのやってみたかったな! シェル姉、魔剣としては能力が地味だし」
 漏らした軽やかな愚痴に、シェルファの声が尖る。
『私以外をほぼ握ったことない癖によく言う。言わせて貰うけど、剣に必要なものは全部揃ってんの。それ以外が欲しけりゃ精霊魔法か工作でどうにかしなさい。そこの影から三体来るわ、油断しないで片付けんのよ』
 自動索敵。シェルファがセフィリカにのみ聞こえる声で言ってのけるなり、山道の曲がり角から急激に飛び出す落武者三騎。セフィリカはシェルファの警告が入るなり即座に抜剣。その反応速度も並々ならぬ。
「はいはい!」
 シェルファの感知性能とセフィリカの反射神経が合わさることで、彼女らに対する不意討ちは成立しなくなる。
 完璧なタイミングで飛び出したはずの敵三騎。しかしセフィリカに飛びかかってみれば、既に彼女は躰を捻り即応の姿勢を取っている。
 莫迦な、と言葉を漏らす間すらない。
『霊核の見極め方、教えた通りよ。最初みたいに首だけ落としても動くからと騒がないことね』
「わかってるよ!!」
 踏み込みと同時に躰のひねりを爆発的に解放し、セフィリカは斬撃を繰り出す。――単純な、セフィリカの瞬発力とシェルファの切れ味によってのみ成される技。技の銘を、『月詠ノ祓』という。
 飛びかかった武者の胴丸が、無造作にばっくりと裂けて、その内より血が迸った。踏み込みと同時の全力一閃が、武者の胸を深く裂いたのだ。舞うようなステップから更に二撃走る!!襲いかかった三人が、ほぼ同時、一瞬にて、胴を、胸を、腹を割かれて血を散らした。
 とはいえ両断するまでの傷ではない。ならば、落武者らは動き続ける。
 常人ならば死に至る傷さえ、彼らには浅手に過ぎない。四肢を失った重量変化を、躰が軽くなったとして、それまでに増す速度で襲いかかるような連中だ。であれば胴に傷が一つ刻まれた程度、なんの影響もない。
 ――その筈なのに。
 斬られた武者は悉く、空中でがくりと力を失い、身を庇うことも無いままぐしゃりと地面に落ちて、血の色の塵となって果てた。
 首を失おうとも駆け続けるはずの武者達が、その形を維持出来なくなり四散した。ただ振るっただけのセフィリカの剣が、頑健なる落武者たちを破壊出来た理由とは――シェルファが彼らの、霊力を集中している部分を見極め、その見つけ方をセフィリカに教授した為に他ならぬ。
『ん、上出来ね。でも今のは先遣隊だわ。セリカ、まだまだ来るわよ。聞こえる?』
「……うん。五〇メートルくらいかな」
『悪くないわ。四七、四五、四二……近づいてくるわね。今度は二〇人レベル。止まらないで動き続けないと、喰われるのはこっちよ』
「どんどん来るじゃない。多勢に無勢ってヤツ?」
 いかに一撃で一体屠れるとて、それが二〇来るとなればセフィリカとて無傷でやり過ごせる保証もない。だが、それでも不敵に笑う。
「手応えも分かってきた。それに、こっちだって二人だ。シェル姉と二人なら負ける気しないね!」
『……さっきまで魔剣にしては地味とか散々言ってくれたくせに、調子いいんだから』
「でも私、シェル姉から持ち替えたことないでしょ?」
『――そうね』
 セフィリカの即座の斬り返しに、ふ、とシェルファが笑う。
 セフィリカとて理解しているのだ。自分の知覚の外にあるものを、即座に教えてくれる、もう一対の眼を持つこの魔剣の強さを。その性能をより引き出せるよう、研鑽すべきは自分なのだと。
『切り抜けるわよ、セリカ。本命はこの後なんだから』
「了解! ――行くよ、シェル姉!」
 襲い来る二〇人からの落武者の群へ、蒼剣姫は迷い無く、真っ直ぐに、弾丸のように踏み込んでいく!

大成功 🔵​🔵​🔵​

比野・佑月
【🐶🐱】
イイ子を仕上げて貰ったからにはちゃーんと恩返ししなくちゃだ。
「反省しそうに無い悪い子は地獄へ退場願おうか!」
新たな牙を光らせながら落武者の群れへと突っ込むよ。
加速して迫って来たところに射出した穿牙のワイヤーを巡らせれば
良い感じに千切れたりしないかな。
無理でも動きを阻害できれば後はミソラくんが燃やしてくれるでしょ。
言葉なんていらない。俺は俺で暴れるだけってね。

「…あ、やば。ごめーん、みーくん助けて?」
敵に囲まれすぎたら木とかを利用したワイヤー巻き上げで脱出!
ミソラくんに多勢の対処を頼んだ代わりに背くらいは任されようか。
「逃がすわけないのにね。――飛べ、燃え損ないの喰い放題だ!」


不知火・ミソラ
【🐶🐱】
打って貰ったばかりだってぇのに、この馴染み具合。
期待させてくれるじゃあねぇか。
「仕事の時間だ」
俺が言うまでもなく上機嫌に突っ込んでいく佑月の背中を追い、落ち武者の群れへと突っ込んでいく。
「燃えろ」
刀と共に炎を奔らせ、佑月の奴が動きを阻害した奴らを屠る。
注文通りの取り回しの良さで、変則的な動きをするあいつを間合いに巻き込むことは無い。
「ったく、はしゃぎ過ぎだ」
佑月の声に嘆息して刀の封印を一段階解除。
燃え盛る刀身に俺の炎を乗せて振り抜き、佑月を取り囲む落武者達を灰と化して脱出の機を作ってやる。
代わりに俺の背中は佑月に預けるぜ。
「俺の炎を逃れた奴は運がねぇ。はしゃいだ犬に嬲り殺されっぞ」



●炎熱飛鉄
 ひゅうと夜風が逆巻いた。
 広く開けた山間の広場に、二人の妖が立っている。
 緋迅鉄製打刀、魂添“炎熱地獄”『絶焦』を抜いて軽く振り、その重量バランスに思わず軽く笑むのは不知火・ミソラ(火車の獄卒・f28147)。その傍ら、とん、とん、と、新たなる牙――魂添“飛鉄短刀”『穿牙』の柄を叩き、耳をひくつかせるのは比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)。示し合わせるでもなくこの永海の里に至り、各々の武器を用立てた後に合流した妖怪同志である。
「気に入ったみたいだねミソラくん。そっちのもいい感じかな?」
「ああ。打ってもらったばかりだってのに、吸い付くみたいに馴染みやがる。期待させてくれるじゃねえか、あの爺さん」
「へへ、そりゃよかった。イイ子を仕上げてもらったからには、ちゃーんと恩返ししなくちゃだ。――さあ、おいでなすったみたいだよ。準備はいい?」
「おう。……始めるとするか。仕事の時間だ」
 二人の尖ったけもの耳がぴんぴんと跳ねた。正面、獣道下方五〇メートルばかりから、二〇人ばかりの足音が聞こえる。目を凝らさずとも、すぐに視界に入った。人魂を伴い、多数の落武者が鬨の声を上げて突っ込んでくる。
「オーケー。それじゃあ……反省しそうに無い悪い子は、地獄へ退場願おうか。先に行くよ!」
 佑月が言うなり、革製のシース――鞘から穿牙を抜剣。右手に持ち、刀身を地面と水平に、真っ直ぐに貫くように構えた。左手を柄に置く。脚幅を広く、地面を掴むように取り、安定させる。
 敵の群がこちらを認識する。距離四〇。敵が的を絞ったようにこちらを見据える。まだ引き付ける。距離三〇。ミソラが佑月を伺う。佑月がウィンクで応える。
 ――距離二〇。トリガー。

 いぬ
「射貫け、穿牙ッ!!」

 ば、ごぉぅうっ!!
 火球めいた発射炎を上げ、佑月が手にした短刀が炸裂した。――否、その刀身が射出されたのだ。飛鉄短刀『穿牙』は、内部に緋迅鉄製の射出機構を備えた仕込みナイフ。佑月の意念に応え、その刀身を射出し敵を射貫くことを可能とする特殊武器!
「なッ――」
 真っ先に射程内に入った先頭の男が、初速三四〇メートル秒で射出された刀身に胸をブチ抜かれて吹き飛ぶように後ろに転げた。生き残りの落武者らも思わず、第一の犠牲者に反射的に目を遣る。――即ち、彼らの注意が前方から逸れる。
 ぎャ、リリリりぃっ!!
 鋼線の軋み音! 落武者たちが反射的に前を向き直る。しかし、それでは遅い! 佑月は既に、彼らの間近に駆け来ている!! 最初に貫かれた固体が今度は引かれるように前に飛んでいる――そう、即ち、ワイヤーを巻き上げての加速を使用した神速の接近だ。
「ばッ、莫迦な!?」
 驚きの声を無視し佑月は藻掻きながら飛んできた武者の胴に刺さった刃に穿牙の柄を突っ込みロック。刺さったところから脇腹までをずしゃりと斬り裂いて抜け、黒染めのナイフ『逆月』を逆手抜刀。突っ込む速力のままに立て続けに三人の喉笛を掻っ斬り抜けるなり跳躍、空中から再び穿牙の刃を射出!一人の頭を貫くと同時に、手のひねりと撓りで、手近な敵に弛んだワイヤーを掛け絡め、すぐさま最大速度で巻き上げる。
 ――斬魔鉄製の極細ワイヤーは、荷重をかければ鋭利な刃と何ら遜色ない切れ味を持つ!
「っぎ、いぃぃあああっ!?」
 ワイヤーに巻かれた腕が首が、幾つも飛んだ。佑月はそのまま頭を貫いた敵へ急降下、刀身を柄で回収するなり敵の頭を割り裂き抜いて跳躍、空中でひらりと身を捻って着地する。なんたる身の熟しか。その技の冴え、三国に名の轟く乱波も斯くやというほどである。
「ぬううっ! 猪口才な、者ども囲め!! 活かして返すな!!」
「あらら、怒らせちゃったかな」
 佑月は視線を走らせる。敵のド真ん中に突っ込み暴れたのだから当然だが、四方が敵。囲まれたままの戦いは、穿牙の強みが活かしづらい。佑月は穿牙の刀身のロックを解除、数十センチほどワイヤーを伸ばして刀身を振り回し、飛刀めいて敵を牽制。襲う落武者の剣を逆月で流し、振り回した穿牙の刃で引き裂き、距離を稼ぎながら乱戦する!
「やばーいこれちょっと保たないなー! ごめーん、みーくん助けてー!」
 あははは、と緊張感のない調子で笑う佑月の後方で、ごお、と赤く炎が上がる。
「誰がみーくんだ。……ったく、はしゃぎ過ぎだ、お前」
 ミソラだ。手にした刃、『絶焦』に意念を注ぎ、己の炎の権能を増幅する。その結果、緋迅鉄の刃は真っ赤に燃え、まるで光剣を手にしたるが如くに燦めく。
「燃えろ」
 ミソラは真っ向から突っ込むと、佑月を囲む敵をその焔の刃で次々と斬り倒す。受け太刀しようとも燃える刃が刀身に食い込み、まるでチョコレートでも溶かすかのように玉鋼の刀を溶断してしまう。そのまま両断、傷口が燃え上がり瞬く間に武者を炎で包み込む。その断末魔の叫びすら焼べるかのように、絶焦の炎が荒れ狂う!
 大きく薙ぎ払えば、剣先から迸る爆炎が軌道上の敵を灼く! 然りとて取り回しのいい刀身は操作しやすく、射程内に佑月がいても決して巻き込まずに攻撃を打ち分けられる――実に融通の利く刃だ。
「あははっ、すごいじゃん! ありがとミソラくんっ」
 ミソラの乱入によって生まれた隙を縫い、佑月は穿牙を巻き上げた。すかさず再発射、今度は手近な樹上狙い。同時にぐん、と彼の身体は地より舞い上がる。ワイヤーを高所に絡め巻き上げることでの緊急離脱だ。
 掻き回すだけ掻き回しての鮮やかな離脱に呆気にとられる落武者らの眼前に、絶焦を正眼に構えるミソラが残る。
「佑月、焼くぞ。燃え損なった連中は任せる」
「はいはい、了ー解!」
 樹上からリボルバーによる牽制射撃。無論佑月によるものだ。銃弾の跳ねる音と銃声をバックに、ミソラは集中を深める。
 絶焦に込められたるは、その吐息で数々の村を焼いた大化け蛇の血。朱色の炎を吹き散らす呪いの蛇、字して朱蛇――シュダと呼ばれた蛇の血だ。
 蛇の道は蛇とはよく言ったもの。同じ東方妖怪として、その力の解放の仕方は心得ている。
「愉しめよ、朱蛇。今宵は食い放題の飲み放題だ。馳走してやる、大口開けて喜び噎べ!」
 刀からごう、と蛇の形の炎が燃え上がり、炎の顎門を形作る!
「なんだと――?!」
「永海の刀……これ程までとはッ……!!」
 その異様に驚愕の声を上げ、蹈鞴を踏んだが最後。
 逃げる獲物を、けものは決して逃がさない。
「絶ち焦がすこと劫火の如く。字して、『絶焦』。――灰燼と消えろォッ!!」
 ミソラが意念を込めて振るった絶焦の剣先より、炎の大蛇の首がのたくり伸びた。五体ばかりを一呑みにし、燃えうねり荒れて、更に五名ばかりをその炎の躰に巻き込んで灼き潰す!
 ユーベルコード、『絶刀・劫火焦刃』。己の命を削り、刃に込められた化生のルーツを引き出して、この妖刀の性能を全て引き出す技術である。
 ――今まさに引き出したる、絶ち焦がしたる刃の真価、まさに鮮烈、凄烈なり!!
「ひ、ひいっ!?」
「斯様な威力の剣があろうとはッ――頭に知らせねば、」
 あまりの威力に転進しようと後退し始める数人に、しかしミソラは酷薄に笑いかける。
「運がねぇな、お前ら。はしゃいだ犬に嬲り殺されっぞ」
「なんっ、……?!」
 なんだと、と。
 反駁することすら許さず、刃が飛んだ。飛鉄短刀『穿牙』の発射炎が空で咲いたのだ。頭蓋を貫かれ空中に巻き上げられる男。刃をロックするなり、頭から股下までを切り下ろして両断。斬魔鉄製刀身の持つ、圧倒的剛性と切れ味によってのみ成せる技である。
 斬り抜けた刃を再び射出、二人目の心臓を捉えて巻き上げ襲いかかり、瞬く間にズタズタに斬り裂いて、佑月が無邪気に――凶暴に笑う。
「逃がすわけないだろ。――さあ、飛べ、射貫け、穿牙。燃え損ないの食い放題だッ!!」
 襲いかかる佑月に続き、ミソラもまた姿勢を低め追撃に掛かる。
 潰走する敵をまさに伸びる火の手の如く牙に掛け焼き飲み込み、火車と犬神は黄泉送るべき次なる咎人求め、闇に沈む山間を駆ける……!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

信楽・黒鴉
この『風刎』、僕にお誂え向きの刀だ。
扱いを間違えれば自分を斬りそうな程に軽い。……それでこそ。ただ便利なだけの道具に『技』など不要、リスク無しに武の真髄を探求することなど出来ようものか。

いい試し斬りの的が来てくれましたね。
刀自身にも持ち主の太刀筋を確かめて貰いましょう。
この刀の出自が鎌鼬の身体の一部なら、この『禍魔異太刀』以上に相応しい技は他にない。

如何に連中が素早かろうと我が剣が後れを取る事はなし。
暴風を【迷彩】に【暗殺】の要領で【先制攻撃】。返す刃で繰り出す風刃が周囲を【なぎ払い】、浮足立つ敵を【カウンター】で仕留める。四肢や首が落ちた程度で止まらないなら、更に斬り刻んで跡形も残すまい。



●瞬刃風殺
 七代永海・筆頭八本刀、第二番。
 瞬刃『風刎』。
 魂添もなく、ただ瞬く間に断つ刃と号されたその打刀こそ、自分のために誂えたもののようだと信楽・黒鴉(刀賊鴉・f14026)は考える。
 軽く、取り回しが容易すぎ、刀の鉄に込められた力を使えば、持ち手の動きまでもが加速する。一度扱いを過てば、己の身を裂くような刃。それが風刎だ。その扱いに安全装置など設けられているはずもなく、刀に振り回されれば最後にずたずたになるのは己と言うことにもなりかねぬ。
 化生の力をひとに扱える形に鋳込めたものが永海の妖刀と聞いてはいたが、成程、七代永海の作は規格外。誰にでも扱える刃ではない。――だが、それでいい。それでこそだ、と黒鴉は思う。
 ただ便利なだけの道具を扱うのに技など不要。リスクも成しに探れるほどに、武の真髄は浅くはない。
 ――おお、おお、おお!
 遠くより伝わる鯨波の声に、黒鴉はぱちりと目を開く。
 声の重なり具合、足音の数、諸々合わせて察するに、黒鴉が立つ獣道に差し掛かる敵数、おおよそ十五というところ。
 黒鴉は親指で鍔を押し上げ、鯉口を切る。
「いい試し斬りの的が来てくれましたね。刀自身にも持ち主の太刀筋を確かめて貰いましょう――行きますよ、『風刎』。おまえの出自が鎌鼬のからだからと言うのなら、僕のこの剣以上に相応しい技は他にない。――それを、最も近くで見るがいい」
 しゃ、ん。
 まるで硝子で出来た刃を抜いたような、鈴めいた刃鳴り。鋭く青い月の光を照り返し、翠銀の肌した刃が露わとなる。羽めいて軽く、成る程これは重みを乗せて斬るのには全く向かぬ。撫で斬りにするか、はたまた刃に風を纏わすか。一芸凝らさねば、まともに使うことすらできまい。曲者揃いの筆頭八本刀の中でも、更に一癖あるというところか。
 だからこそ、これがいい。にいい、と黒鴉は、刀が笑えばこのように笑うかというような、歯を剥きだした凶暴な笑みを浮かべ、目をぎらり開いた。常の朴訥な表情はどこへやら、簒奪の剣鬼が目を覚ます。
 ――おお!!
 もはや間近に迫った敵の群が、黒鴉を認識した。視線が突き刺さる。黒鴉の身の丈は六尺に三寸届かぬばかり、敵の武者はそれより大柄なものばかり。況してや齢十七才の少年だ、刀を帯びていたとて、侮り嘲るような眼ばかりが向く。――踏み潰して進んでくれようと、落武者の眼がそう言っている。
 上等。距離十五。黒鴉は深く身を沈め、刀を巻くように脇構えに溜めた。

 ――いかに猛々しく、いかに強い武士であろうと。
 我が剣が後れを取ることはなし。

「さて、我が妖の刃を御覧に入れる。不肖刀賊鴉の剣、見切れるものか試してみるがいい」
 堂々朗々、刀賊鴉は吟じるように言ってのけ、
 ばんッッッ、
 消えた。
「「「――?!」」」
 仰天したは刃熊刀賊団である。獣道に立ち塞がった対手が、踏み込みの音一つ残して、瞬き一つの間に消え失せたのだ。どこへ行ったかと左右を見回すが見つかるはずもない。
「鈍い」
 声が落武者らの足元で響いた。果たして黒鴉はそこにいた。顎で地を削るほどに上体を倒し、地面を這うように踏み込んでいたのだ。
 びゅ、あっ! 風荒れる!
 黒鴉が纏った禍つの風が、彼の動きに従って翻る。黒鴉は敵の刃が振り下ろされる前に落武者一人の膝を蹴登り、そこを足がかりに二人目の肩、三人目の頭を立て続けに蹴飛ばして駆け抜ける。――そう、駆け抜けた。『一瞬たりとも刃を止めず』に。
 空を裂く風刎の刃は、まさに鬼蜻蜓の翼めいて翻った。無数の斬先に月光が照り返し、出し抜けに注いだ驟雨の煌めきのように映る。
「なんッ――」
「早ッ、」
 敵がそのあまりの速度に追いつけず、駆け抜けた黒鴉を振り向こうとした瞬間――その身体に血の線がぴぴぴぴ、と走り、ブツ切りとなったいくつかの肉塊になって崩れ落ちる。
「う、うおおおっ?!」
「なんだ、刃は触れていないはず……!?」
「捉えてんですよ。僕の風の刃を、風刎が飛ばした」
 黒鴉は手近な樹に吸い付くように着地。逆手に携えた風刎の刃を返す。
 躰に風を纏い高速移動。妖力を帯びた鋭い風の刃を剣先より飛ばし、射程外の敵を斬りながら敵陣斬り抜ける荒技。名付けて『禍魔異太刀』。風刎によって放つ禍魔異太刀の威力はまさに、過日に数々の里を血の海に沈めたあの鎌鼬の脅威を彷彿とさせるものであった。
「四肢や首が落ちた程度で止まらないなら、今の御仁のように、更に斬り刻んで野に晒すまで。――この刀賊鴉、簡単に落とせると思わぬことです。いざ、参る」
 ばんッ!!! 今一度の跳躍!
 浮き足立つ刃熊刀賊団へ、瞬刃風刎引っ提げて、刀賊鴉が牙を剥く!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

花盛・乙女

泣く子らの頭を撫でて安心させてやろう。
案ずる事は無い、ここには頼もしき猟兵がある。
数多の名刀妖刀もある。
何よりも、この羅刹女がある。

七代永海・筆頭八本刀が三【嶽掻】。
振るうは羅刹女、花盛乙女。いざ尋常に。

【嶽掻】と【乙女】を抜き二刀を構え落ち武者を討つ。
乙女で迫る剣戟を捌き、嶽掻を振るう。
一閃に念を込め、一振りに渾身を放つ。
成る程、選ばれし七振りの一つである筈だ。
羅刹の怪力を持ってもこの疲弊。妖しくも走る軌跡。
一筋縄ではいかないというわけだな。
ふふ、頑固者は嫌いじゃないぞ。
黒椿には悪いが…此度はお前を共にしよう。

心地よい腕の疲弊、吹き荒らすは鬼吹雪。
只の一人も村には近付けさせてなるものか。



●剛刃吹雪
 己の家では心許ないと判じた里人に、鍛座が己の判断で屋敷を解放して二刻余り。ぼんやりとした雪洞の灯だけが室内を照らしている。
 薄闇の中、うわあん、うわあん、と大声で泣く幼子があった。父母が泣かぬように泣かぬようにとあやすも、それで泣き止むようならば初めから苦労もない。一人泣き出せば二人、二人泣き出せば四人。不安は伝播し、屋敷の広間はすぐにぐずりむずがる子らの嗚咽の合唱の様相となる。
 泣き声というのは想像以上に神経を削るものだ。常ならば理性的な判断も出来ようが、長くそうした声に晒されれば焦燥と怒りが湧く。所々で黙らせろ、煩い、という声が湧く。それに親が平身低頭と謝る――見ているだけで、胸の詰まるような光景。
 ――そこに、堂々と進み入る一人の猟兵の姿があった。
 彼女は、羅刹女。
 そう名乗り、そう呼ばれている。
 女は泣き声の一つにゆるりと寄る。涙を溜めた目を見開く母の、腕に抱かれた幼子を、そっと撫でる。
「――案ずる事は無い、ここには頼もしき猟兵がある。数多の名刀妖刀もある。何よりも、この羅刹女がある。大船に乗った気持ちで待つといい。刃熊某に、この永海の里を渡しはしない」
 朗々と語る声は、或いは周囲の大人達に向けて発されたものでもあったのやも知れぬ。撫でられた幼子が泣き声を零すのを止め、指を舐りながら、涙で濡れた目で猟兵を見上げた。
「――あ、あんた、それはもしや……七代様の、」
 里人の一人がはっと気付いたふうに、猟兵が腰に差した打刀を指した。答えは頷き一つ。
「七代永海・筆頭八本刀が三【嶽掻】。振るうは羅刹女、花盛・乙女。朝を待て、里人らよ。きっと晴れやかな暁を、この屋敷にまで届けてみせる」
 名乗る声、強く。
 猟兵、花盛・乙女(羅刹女・f00399)は、里人を勇気づけるように嶽掻を抜き――宣言するように言い放ったのであった。


 里の南、ほど近く。
 数々の猟兵が四方八方で迎撃戦を繰り広げる中、いよいよ永海の里の喉元と言ってもよい、門が見えるほどの距離に到った敵勢が鬨の声を上げる。
「見えたぞ、里だ!! 未だ門を割ってもおらぬ、我らが一番槍よォ!!」
 オオッ!!
 先頭の男の快哉に沸きながら、十五人のむくつけき武者共が刀を抜き、地を踏み鳴らして門を目指す。
「――むッ!」
 しかし。その前方、二刀引っ提げ佇む影あり。
「里へは通さぬ。この羅刹女の名にかけて。――いざ、尋常に」
 乙女である。
 里に到る水際の防御に回った彼女は、嶽掻と小太刀『乙女』を抜き、大小二振りで二天一流の構えを取る。
「ハッ、里の前の最後の護りがめのこ一人とは、妖刀の里が聞いて呆れる! 者ども、踏み越えて門を抉じ開けようぞ!」
 嘲り笑い、気勢そのままに男達が襲う。乙女はぎらりと目を光らせ、敵が最後に踏み込む前に、自分から間合いを詰めた。一足飛び三メートル、迅駛の縮地。
「なあっ、」
 驚愕に目を見開き護りの構えを取る先頭の男目掛け、右手にした嶽掻を横殴り一閃!! ば、ぎいんッ!! まさかまさか、玉鋼の刀がいとも容易く打ち砕かれ、まるで牛車に跳ねられた如く、捻れた男の身体が吹き飛ぶ。横合い二人を巻き込んで転げたその男が立ち上がることはもうない。ただの一撃で、左上体の骨の殆どが砕けた。背骨までもが粉砕している。
「は――?」
「なん、ったる剛力……!!」
 驚愕の声上がる。否、と乙女は手の中の妖刀を見やる。
(……力だけではない。この刀の重さと剛性が、私の力を全て伝えたためだ。成程、流石は選ばれし七振りの一つ。軌跡妖しく灰銀に煌めき、我が剛力を以てしてもこの疲弊――)
 一振りしただけでも腕に重い手応えが残る。幾度も振るえば乙女とて疲労は免れまい。扱いにくいその刃に、しかし乙女は楽しむように笑う。
「いりゃぁアッ!!」
 態勢を整えた落武者が横手より襲いかかる。乙女は即座に小太刀を翳し、振り下ろしの一撃を平を滑らせて薙がすと同時に、身体のひねりを使って嶽掻により胴打ち一閃。真面に入る。身体が「く」の字にへし折れ、まるで鞠のように落武者が吹き飛ぶ。
 嶽掻は決して思い通りにならぬじゃじゃ馬。一筋縄では扱いきれぬ。だが、それがいい。
「ふふ、頑固者は嫌いじゃないぞ。黒椿には悪いが……此度はお前を供にしよう。吹き荒れよ、嶽掻!」
 吼えるなり乙女は二刀取り回し、舞うが如くに荒れ狂う。花盛流剣技『鬼吹雪』、吹き付ける雪粒の嵐が如く、嶽掻と乙女の斬光疾る!!
 打音と悲鳴連なって、次々と落武者が吹き飛んでゆく。
 羅刹女の手にあり、剛刃、正に砕けぬものなし――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬幸・夢人

本来なら抜くほどの相手じゃねぇが……

不敵に笑みを浮かべ
死んだのなら負けたのだろう
負けた程度の奴らだったのだろう
ならば生者の俺が負ける道理はねぇ

せっかくのデビュー戦だ。華々しく使って上下関係をはっきりさせてやらねぇとな

四肢を切り落とし――
その圧倒的な切味と完璧な重みに口笛を吹き

試し斬りだ、と霊核を両断すれば
触れられぬモノを斬る感触に笑みを深め

いつしか骸の残骸の山を築く

――なるほど。上等だ
が、生みの親の名誉のためにこれくらいは使わせてやるか、って匂いがプンプンしてやがる
表面はいいがとんだ腹黒刀だな
いいねぇ、好みだぜ
そういう素直に靡いちゃくれないくらいの方がよ
――俺のモノにしてやるって気にさせるね



●屠殺霊刃
 里ほど近くの開けた平地で、十数名の落武者が、一人の男を囲んでいる。囲む落武者らの目に慢心の色無し。
 ――彼らは超常の力持つ戦士達が、永海の里を防衛しているという事を、斥候を通じて知っていた隊だ。故に、動きに油断なく、確実に囲んで殺す、という構えを取った。
「此奴も恐らくあやかしの力の遣い手。総員ゆめゆめ油断するな、確実に殺るとしようぞ」
 既に抜刀している彼ら武者の一隊に対し、囲まれた灰髪の男――斬幸・夢人(終焉の鈴音・f19600)はしかし、咥えた煙草を吸い付けて大きく吸い込み、長く薄い煙を吐き出す。
「御託を並べる前に斬りかかるモンだぜ。戦場ならな。さて――本来、テメエらなんぞは抜くほどの相手じゃねえが、せっかくのデビュー戦だ。華々しく使って上下関係をはっきりさせてやらねぇとな」
 夢人は、すうと腰を落として腰に差した刀に手を掛ける。
「……!!」
 ずんッ、と、圧が増した。周囲に緊迫が走る。
 否さ、それは落武者達以外には感じられぬプレッシャーだったかも知れない。夢人が手にした刀から、清浄なる霊気が漏れ出ている。――亡者たる落武者達には毒となる、祓い清めるための霊気が。
「テメェら、一回死んだんだろ。オブリビオンってことはよ。死んだんなら負けたって事だろ。その程度だったって事だろう? それなら、今日まで生きてきた俺が負ける道理はねぇ。嘘だと思うなら掛かってこいよ。テメェらの命を懸けて、俺を否定してみせろ」
「ぬ、ううう、言わせておけばッ!!」
 わかりやすいほどにあからさまな挑発に、一人の武者が釣られて飛び込んだ。大上段からの振り下ろし一閃! 怒りで雑になった振り下ろしを、夢人は抜刀した刀で受け太刀。
「ハッ。単純で助かるね」
 せせら笑い、間近から火の付いた煙草を敵の顔面に吹き飛ばす。
「ぐっ?!」
 顔に当たった煙草がぱっと火灰を上げて落武者の目元を焼く。たじろいだその一瞬の間に、夢人は刀を閃かせて前に踏み込んだ。
 瞬撃四閃。血の筋が宙にぱっと散り、落武者の四肢が断たれ飛ぶ。
「っぎいいあああっ!?」
 響く絶叫と芋虫のように落ちる落武者の胴に、周囲の敵兵が息を呑む。そんな中、夢人だけが満足げに笑っている。
 完璧な重心バランス。圧倒的な切れ味。無銘の刀には決してなかったものがここにある。
「ハ、悪くねぇな。さて、次は――」
 夢人は目を懲らした。手の中の刀から伝わってくる気配、感覚を、己が超感覚に絡めて、視覚に乗せる。――ぼう、と、落武者共の身体の中、首やら心臓やら、土手っ腹、或いは頭など、まちまちの位置に青く光り脈打つ光点が見える。
(――なるほどね)
 夢人はにやりと笑うなり、無造作に踏み込んだ。
 反応を許さぬ、圧倒的な歩幅の踏み込み。受け太刀が跳ね上がる前に胴を引き裂く一閃。光点を裂く。――胴を深く断った程度ならば変わらず継戦するはずの落武者が、その瞬間、糸が切れたように膝から崩れて倒れ伏し、ぼん、と血色の塵となって風に溶ける。
「な、何だと……!?」
「貴様、一体何をしたァッ!!」
「決まってるだろ。――試し斬りだよ」
 敵は恐怖と怒りが綯い交ぜになった顔で、四方八方から夢人に向けて襲いかかった。しかし、恐怖で硬くなった動きに、怒りで力任せになった打ち込みで、飛葉の如くに剣舞う夢人を止めるに能わず。
 夢人が刃の重みを確かめ、身体に映る光点を断つたび、不滅の筈の落武者が次々と滅却され、赤き塵と化し空気に溶ける!
 敵第一陣、十体余りを鎧袖一触に蹴散らして、夢人は手にした妖刀を見下ろした。
「――なるほど。確かに上等だ。が、生みの親の名誉のためにこれくらいは使わせてやるか、って匂いがプンプンしてやがる。表面はいいがとんだ腹黒刀だな」
 表する言葉は決してプラスの表現ではなかったが、しかし、夢人の顔はどこか、新しい玩具を見つけた少年のように、好奇の笑みに歪んでいた。
「……いいねぇ、好みだぜ。そういう素直に靡いちゃくれないくらいの方がよ――俺のモノにしてやるって気にさせるね」
 意志薄弱なるものが振るえば、心を喰われ空ろとなる。
 そう評された屠霊の刃を、男は血振りをひとつして、軽やかに鞘に収めた。
「さぁ、行こうぜ、『妖斬』。夜はまだまだこれからだろ?」

 ――その刃の名をして。
 七代永海が四、霊刃『妖斬』と人は呼ぶ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ
【戦場:森 ◎】

夜の森を静かに駆ける
気付かれぬよう枝を渡り影に紛れ、樹々の合間を縫うように
出来るだけ多くを把握する為に金の瞳で闇夜を見渡す

位置と距離と行軍の速度と自分が捕らえられる総数を把握して
仕込みが終われば後は静かに「穿て」と言葉をひとつ

止まらないというのなら、森に、樹々にくちゃくちゃに縫い留めて
ごめんなさい、わたしはあなた達に誉ある死、という様なものを与えられません
もののふらしく斬り合いの果てに潰えたかった事でしょう
誰とも解らぬ何かによって終わる筈ではなかったと

ええ、恨んで下さって構いません。あなた達も、その恨みも無念も全部、全部、覚えておきますから



●針霜籠檻
 ざあ、ざっ、ざざざっ。
 吹く風と、遠くに聞こえる落武者達の剣気と気勢が、夜の梢を揺らしている。静かな夜は、荒くれ共を追い払うまで返るまい。
 ヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)は懐にした短刀――『開闢・煌』を抜かぬまま、夜の森を音も無く駆ける。枝を飛び渡り、影に紛れるその身のこなしは忍びも斯くや。しゃらりと流れる銀糸の髪さえ、一度闇に紛れれば易々とは見つけられぬ。
 ヨシュカは隠した右目と、露わな左目を闇の中を見通すように開いた。琥珀のような瞳が燦めいて、ざわめく夜の森から必要な情報をも拾い集める。
 敵数多数。相対距離六十、五十七、五十五、五十一メートル、加速度的に縮まっていく。木立の隙間にひゅうどろと浮かぶ人魂を数えれば、それがちょうど敵の頭数となると確認。敵数、十七。人魂で道を照らしながら走っているのか。分布はちょうど魚鱗の陣。横幅大きく約三十メートル。広い。止められるか。――止める。敵の数は多い。一体一体斬っていたのでは間に合わぬ。であれば、纏めて縛するが上策。
 ヨシュカは腕をクロスすると同時に、その指先からぶわ、と糸を放った。鋼の、細い細い細い糸。本来ならば絡繰人形を吊り操る為のその鋼糸は、扱い方を変えればひとの肉を容易に断つ武器へと変じる。月夜とは言え、空にあるのは未だ欠けたまま満ちぬ月。伸びた糸は闇に浸されたように暗がりに溶け、――すぐに静寂。派手な雷も炎も、何らかの術理の音も無い。只静かだ。ここまで駆けてきたヨシュカの動きそのもののように。
 いまや敵陣先頭の個体との相対距離二〇メートル。ここまで気取られず走ってきたヨシュカは、まるでひとの子のようにすうと一つ息をして、枝を蹴り樹上より飛び降りた。白い髪なびかせてひらりと降り立てば、すぐに気付いた風に落武者共が各々武器を抜き、口々に吼える。
「ぬう、現れおったか過去殺し!! 我らと事を構えたことを後悔させてくれる!」
「小さななりをして油断を誘うか、内実化生と差して変わらぬ身の分際でのう!」
「我らも既に同胞を殺されておる、決して許さぬぞ、一人で勝てぬならば十で、それで及ばねば二十で! 万軍尽くして貴様らを必ずや――」
「謝っておきます」
 怨念と嘲弄、怒りと恫喝の声に割り込み、ヨシュカはかの覚悟の刃、開闢と同じほどの鋭さで謳った。落武者らの前進の歩調が緩む。
「――ごめんなさい。あなた達は、ここから先には行けません。わたしは、あなた達に名誉ある死という様なものを、与えられません」
 ヨシュカはただ静かに、彼らさむらいのいさおしは、ここには無いと呟く。
「もののふらしく斬り合いの果てに潰えたかった事でしょう。誰とも解らぬ何かによって終わる筈ではなかったと。……ですから、ごめんなさい」
「なァにを世迷い言をォ!!」
「我ら屈強の刃熊刀賊団を前に、貴様が何を出来るというのだ!! 進めェい、踏み潰せェ!!」
 ヨシュカの言葉を挑発と取ったか。
 無理もない。敵からすれば、既に勝負が付いていると宣告されたようなものだ。
 再び速度を速め襲いかかる刃熊刀賊団。今更止まれと言って止まるものでもない。言ったところで火に油、烈火の如く燃えたつは自明のこと。
 だからそれ以上、制止の言葉も謝罪も口にしなかった。草いきれを草履で掻き毟り、土を蹴立てて駆け来る十数人のむくつけき武士を前に、ヨシュカは後方へ地を蹴り宙返り。ひらり降り立ち膝を折り、両手地に付け、弔うように呟いた。

「穿て。――『針霜』」

 ちきッ、ちききききき、ひゅ、ひゅ、ひゅひゅ、ひゅゥん!!
 両手に帯びた鋼糸の、張り巡らせた鋼糸の、巻き上がり地を割り飛び出し、空を裂いて飛ぶ、音、音、音、音!! この暗がりでは極細の鋼糸など見て取れぬし、よしんば見えたところで――
「な、なんだッ?!」
「ぐうっ、これは……糸か?! これほど多量にッ――」
「おのれ、謀ったか童ッ!!」
 あらかじめ仕込んだ糸を、限界まで引きつけて放ったとあれば、その物量を回避する技量は落武者共にはない! 瞬く間にほとんどの落武者が糸に囚われ、絡んだ鋼糸に藻掻き転げる。
「――ですから、申し上げたのです。ここには名誉ある死など、ないのだと」
「オオッ!!」
 平静な調子で並べるヨシュカ目掛け、偶然にも糸の嵐を掻い潜った落武者が白刃引っ提げ襲いかかる。走るその勢いを剣先に乗せ、飛びかかりざま、袈裟懸けにヨシュカを断たんと振り下ろす! 徒手のヨシュカがそれを受ける術は無いかに見えたが――
 ――ぎいっ、ゥンッ|!!
 掲げた手の間で、あやとりめいて張られた鋼糸が、火花を上げて刃を受ける! 目を見開いた落武者の、その一瞬の虚を衝いて、股下を転がるように抜けるヨシュカ。
 手を一つ翻せば、解けた綾取りがまるで蛇めいてうねり翻り、背後の落武者を雁字搦めに絡め取る。
 掲げた右手を、ヨシュカがぐ、と握るなり、落武者共を絡めた鋼糸がびんと張り、彼ら総勢十七人の悉くを森の立ち木に縫い止める!!
「――ええ、怨んで下さって構いません――」
 甲冑の隙間より糸が肉に食い込む。ピン刺しの標本めいて動きを止められ、藻掻く落武者らを前に、ヨシュカは刃を抜いた。覚悟の刃。開闢・煌。
「あなた達も、その恨みも無念も全部、全部、――覚えておきますから」
 歩み寄りながら、ヨシュカは極静かに、平静に、呟く。

 確かめようもない事だが、落武者たちは最後に聞いたその声を、きっと恐れたことだろう。
 ――彼らは初めから、敵に回してはいけなかったのだ。針霜の主を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ


ヒィ、落武者お化けおっかない!……なんてのは昨日までの僕
そりゃ本当は会いたくないけども
新生妖刀艶華の魅力に負けた

開けた平地、木立に登って敵を待つ
お化けって言っても見えるからさ
いつもみたいに直接斬ってもいいが
せっかくだし霊核ってのを斬ってみたくないかい?
言ってもヤツ等はお化けだし

この世ならざるものをこの世から斬り放す
死せるものには正しく死んでてもらうのが命の理
不具合をもたらす間違いを治すのが僕の使命だもの

艶華の刃に掌を撫でつけたなら
敵の数だけ雷をよび寄せる
落雷が土に還るのと一緒に、彼らの御霊もあるべき場所へ収まるように
いうこと聞かない頑固者は
わざわざ降りてって斬ってやろう
全く世話の焼けること



●窈窕病斬
 ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)は開けた平地の木の上に、それこそ狩りの狐がするように、見通せぬほど鬱蒼と茂った木立の枝に上って、獲物の到来を待っていた。
 聞けば相手はくたばって、その上地獄に行きそびれ、黄泉比良坂を駆け上ってきた死霊共。ああいやだ、古今東西、ヤツらはタチが悪いのばっかりだ。こじれた愛と同じほど、やり場に困るってなものさ。刀で斬れりゃあ容易いが、呪いだの、怨霊だのは専門外。なんせ棒振りがいくら得意だろうと、透けりゃあ刃は立てられない!
「ヒィ、落武者お化けおっかない! ……なぁんてね」
 昨日までならそりゃあ怖かった、なんせ手に持った刀が妖刀だとて、どうやったって『触れない』もんは斬れないから。けれども今日からの彼には、ひと味違う妖刀がある。
 家伝来の妖刀に、里一番の総代鍛冶、永海・鋭春が魂込めた、病だろうと斬っちまうって触れ込みの刀。魂添“窈窕病斬”、名無しの妖艶な刃につけられた銘は『艶華』。
「まぁそりゃ、会いたいか会いたくないかって言や会いたかないけども――けどねえ? お前の御披露目だってんだから、たまには僕も本気を出してやろうかってねえ」
 艶華の刀身は従来と同様、美しく詰み冴えた肌。けれども今宵は格別に、あの細い月を映しこんでは、きらりぬらりと良く光る。
 惚れ直したとでも言おうか。ロカジの脚を敵の元に駆り立てるほどの、妖しい魅力が刃にあった。
 ――鬨の声が聞こえる。近い。声の重なり具合からして恐らく十名強。すぐに目視で確認。この平地は足場が良い。獣道ばかり抜けてきたとあらば、気を緩めて走れるだろう。――それに見通しがいい、弓兵を置けどもすぐに看破出来る。敵にとっては比較的安全に通過出来る地形だ。――真逆平地の途中にある木立に、薬屋路橈が一人きり登って、獲物を待っているなんて、彼らには想像だって出来ないだろう。
「さぁて、やろうか艶華。お化けって言っても御覧の通り、見えるからさ。いつもみたいに直接斬ってもいいが――せっかくだし霊核ってのを斬ってみたくないかい? 言ってもヤツ等はお化けだし」
 ロカジは宥め賺してあやすように艶華に囁くと、刃に掌を撫でつけた。今までよりも更に鋭く、抵抗もなくロカジの掌を刃が裂く。
 塗りつけられた血で濡れた、刃が一つ脈打って、あるじの紅に喜び噎び、ぴりりばりりと雷散らす。
「この世ならざるものをこの世から斬り放す。死せるものには正しく死んでてもらうのが命の理。不具合をもたらす間違いを治すのが僕の使命だもの」
 不具合をもたらす間違い――それ即ち、『病』。
 言ってみれば、死人が立って歩いている、オブリビオンという概念そのものがこの世の病だといっても過言ではない。
 ロカジに応えるように雷が跳ねる。気紛れな妖刀は珍しく、付き合ってやろうとばかりにロカジの意に添った。薬屋は薄く笑う。
 駆けてくる敵が、木立の間近に至る。距離二十、十五、――十!
「在るべきところに帰りなよ。この先は、生きてる人間の世界だ」
 ロカジは木立を飛び降りるのと同時に、問答無用で帯電した艶華を振り下ろす。
 ――誘雷血、艶華繚乱。
 落武者共が驚きの声を上げる前に。口の中がひりつくような破裂音。空気が爆ぜて雷が走った。剣先から迸った紫電が人数分に分化、ジグザグに宙を裂き、空から落ちる雷電も斯くやという勢いで、十余名からなる落武者たちを猛撃する。
 運良く刀を地に接させ、雷電を地に逃がせた二名だけが残った。それ以外は雷のあまりの威力で霊核諸共身を灼かれ、声を上げるいとまもなく赤い塵となって吹き散る。
 そう。発された雷は、敵の霊核をも焼いた。いまや艶華は、妖刀にして霊刀である。
「が、あぁっ、 き、……貴様、」
「名乗りも無く騙し討ちとは……卑怯なり……!」
「まだ喋れんのかい、頑固者。二度も死に損なうなんて運がいいのか悪いのか。どっちにしても、全く、世話の焼けること」
 全身からブスブスと煙を上げ、血走った目で睨む落武者に、ロカジは悪びれもせずに地に降り立つなり、ひょいと風のように軽やかに踏み込んだ。
「でもまぁ、」
 その飛葉のごとき歩法に瞠目した生き残り二名が、守りの構えを取る前に。

「――三度目はない。なんてったってもう僕は、君らに触れるわけだから」
 翻った艶華が、病を斬った。

 風吹き過ぎるようにロカジが一過。その背で、武者の躰から血が飛沫く。
 両者きっちり一撃ずつ。水月と首を、燕すら落とすような斬弧銀月がぬるりと薙いだ。
 躰の裡側で霊核が二つに裂け、今度こそ、言葉もなしに落武者共が膝を付き、ぼわう、と紅い塵になって空気に散る。
「ご機嫌だね、艶華。でもまだまだ食い足りないって顔だ」
 散った敵を一顧だにせず、細い弧月に刃をかざす。
「いいともさ。たまの本気の出しどころだ。まだまだ付き合おうじゃないか」
 血振りを一つくれ、歩き出す。刃を撫でて、睦言めいて、ロカジは一声うたうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四辻・鏡
荒咬を握り、感覚を確かめ
なかなか、悪くないな

覚悟は決まったかい
此処が生まれ変わったお前の初陣だ
墜ちようか、果ての無い道へ

敵の群れに真っ向から対峙
見獲を駆使しつつ二刀で斬りかかり
手足への攻撃は武器受けで防ぎ、敵を斬ることが可能なら残りは不要と捨身の型を貫く

腕を落として止まらぬならば足を折る
這いずり首だけでもと向かってくるなら、その延髄を踏み砕き刻んで核を討つ
寄らば斬り、退けば刃を投げ、撚線で手繰り寄せ縊り

最期は安らかに、なんて冗談
残滓の様なその命、塵となるその時までぶつかり、喰らい合うのが礼儀だろうよ

だから

斬るは武器の業
敵一匹、永海に渡してなんかやらねぇ
その手を鉄以外の赤で染める必要など無いさ



●斬鉄双牙
 おおお、おお――
 声が聞こえる。地鳴らす男共の行軍の音が届く。
 距離、七十前後。女は広場の真ン中に陣取っていた。獣道の奥を伺えば、寄せる敵の群がちょうど見えだしたところだ。
 腕を交差。両腰につけた刀の柄を握り抜刀。×の字に銀光閃き、二振りの刃が露わとなった。ひゅ、と振る。剛性の高い刃特有の硬い振り心地だが、けれど折れそうに張り詰めているわけでもない。
 斬魔鉄とは、誠に不思議な鉄であった。硬いばかりの刃は、どこか折れそうな危うい手応えを帯びているものだが、その刀にはそれが無い。硬く、よく粘り、そのくせ軽い。――優れた刀というものの素質を、ほとんど全て備えている。
「なかなか、悪くないな」
 四辻・鏡(ウツセミ・f15406)は携えた二振りの小太刀を見下ろし、顎を引くように頷いた。彼女が持つのは二刀一対の噛み裂く牙、魂添“斬鉄双牙”、刃銘『荒咬』。
 朽ちるの待つだけとなった、しかし未だいくさばを忘れられぬと言うように夕日に光った大薙刀を斬魔鉄として打ち直した刃にして、鏡と共に修羅道を征くことと相成った妖刀である。
「――さあ、荒咬。覚悟は決まったかい。此処が生まれ変わったお前の初陣だ。墜ちようか、果ての無い道へ」
 宛ても涯ても無い、引き返せぬ道へ誘うのに、鏡の口調はごく穏やかだ。応えるように、構えた二刀が月の微かな光を映し、きらり、と光る。
 敵が迫る。
「どけ、どけ、どけェい! めのこの首級を一つ挙げたとて物の数にも入らぬ! 素直に退くならば命までは取らぬぞォ!」
 広場の端、獣道から高らかに吼えながら武者達が駆け寄せる。
「はッ。武人気取りか。今から里人を殺して刀狩りをしようって連中が」
 鏡は右足を後ろに引き、二刀の構えを取る。
「斬るは武器の業。お前ら一匹たりとて、永海に渡しちゃやらねえ。ここで私と荒咬が、一つ残さず噛み砕いて平らげてやる。――来いよ、落武者共。残滓のようなその命で成すべきは只人を殺す安寧と快楽じゃない。どうせ端から戦狂いだろ? 塵になるまでぶつかり、喰らい合って鉄火場を演ずるが礼儀だろうよ。それともそれさえ忘れた臆病者か、手前ェらは!!」
 鏡の舌鋒鋭い。空気をビリビリと震わせる一喝に、落武者共の目の色が変わる。
「よくも吼えたな、端女が!! そんなに死にたくば望み通りにしてやる、貴様の棒振り遊びが我らに通ずる物かよォ!!」
 先頭の男が十文字槍を振り翳し、まず一番に鏡に襲いかかった。槍の射程は刀のそれより遙かに長い。ましてや鏡が持つのは小太刀、レンジの差は歴然! しかし鏡、全く頓着せずに一歩踏み込み、
「お、らァッ!!」
 全く射程外より腕を一閃。――その場のほぼ全員が意表を突かれて目を瞠る。
「ぬうおァッ!?」
 初手が投げ太刀! 真逆いきなり武器を手放すなどとは予想外、回避が遅れ槍武者の左肩口に荒咬・甲が突き刺さる。槍武者が蹈鞴を踏み耐性を整えようとしたときには鏡、既に槍の間合いの内側に潜っている!薙ごうとした槍の柄を蹴り踏み付けて敵の手から叩き落とし、手に残る荒咬・乙で右腕を斬り飛ばす。武器が持てねば死に体だ。
「ぐあああっ!?」
 無い右腕と血を流す左腕に、苦悶に噎ぶ槍の武者。
「吼えたのは手前ェらだ。私の『棒振り遊び』についてこれるかよ!!」
 鏡は全く止まらない。荒咬・乙の柄尻から出た鋼線つなぎの金属環を振り回し、槍武者に刺さった荒咬・甲の柄飾りに当てる。まるで魔法のようにばちんと繋がる二剣。
 ――荒咬は柄に連結機構を持ち、二節棍めいてトリッキーな取り回しを行うことが出来る。鋼線を巻き上げながら引き、荒咬・甲を引き抜くなり、連結したままの二刀を引っ提げて鏡は敵の群に斬り込む!
「はああっ!!」
 鏡が振った荒咬の一閃が、不自然に遠くまで『伸び』た。敵一人の喉笛を掻っ斬り、間合いを計りかね蹈鞴を踏んだ二人の脚と腕を裂く。倒れる敵の延髄を踏み砕き、踏み越えて次なる敵に迫る。
 ――連結状態の荒咬の間合いは刀のそれではない。甲・乙それぞれの柄の内部に仕込まれた斬魔鉄製鋼線は、それぞれが全長一メートル。つまり最大で二メートル先、足すことの刃の長さまで攻撃を届かせることが可能となる。手に持ち振るだけでは決して得られない軌道と速度で翻る荒咬の刃は、真っ当な剣術に目が慣れた者ほど避けにくい!
「こ、小癪なァッ!!」
 刃の軌道を見て、繰り出された一撃を間髪潜り、右腕を飛ばされながらも左手に脇指抜いて飛び込んでくる敵が一体。懐に潜れば良いと見たか。――しかしてそれも盤石では無い。

 その距離は、荒咬の本来の距離だ。

 キンッ!!
 弾けるような金属音と共に、振り回されていた荒咬・甲の金具が外れ天高く舞う。連結も解除も、鏡の意念一つで自在。
 手の中に残るは荒咬・乙。即ち小太刀一振り。襲い来た落武者の刺突を外に流して、泳いだ躰を擦れ違い様、
 斬斬斬斬斬斬斬斬ッ!!!
「――カッ、ぁ」
 心臓と首を含む全身八箇所をざっくり斬り断たれ、白目を剥く落武者を背に、落ちてきた荒咬・甲を右手逆手で受け止める。
 二刀で残心する鏡の背で、斬られた男の全身に、噴き出す血潮の薔薇が咲く。
「安らかに逝こうなんて冗談だろ。戦う為に起き上がったなら、最後まで戦ってみせやがれ」
 たじろぎ後退る落武者の群へ、鏡は再三飛びかかる! 寄らば斬り、退けば刃を投げ、伸びた撚線を手繰り寄せ、隙あらば引っ掛け縊る。斬鉄双牙の名に相応しく、二つの牙が鉄さえ裂いて、驕れる武者を食い荒らす……!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ

戦さ場問わず。
唯…里へは一騎たりと通さじ。

手には『穿鬼』
そして…
数多の永海と猟兵が、此処には在るのだから。

視線、体幹、踏み込み、手足の挙動…
各々の癖はあれど、人型であれば自ずと視る点は、
見切り方は絞られる。
一合交わし、一撃を躱し、
怨念の集積を、流れる鬼を、気を探り…

…にしても、見事。七代、鐵剣殿。
呪詛を込めに鋳込めた一刀、切れ味も申し分無く。
相性、結構良いのでは…?
なんて感想はさて置き。

…ご存知無い?
僕は、剣士じゃない。
真っ正直の真っ向勝負ばかりなんて柄じゃ無いですから。
動くに合わせ仕掛けたは鋼糸。
端から起動済みのUC。
彼奴等の動き、減じた所へ、
『怨まば怨め』
術中の尽く…
その霊核を、穿ち貫く



●魔刃極衝
 敵の鯨波の声轟く山中、前方より来たる人魂と落武者の行軍を見て、男は戦の高揚に浮かされるでもなく、ただ真っ直ぐに敵の群を睨んだ。
 彼――クロト・ラトキエ(TTX・f00472)がその戦場に懸ける思いは只一つきり。
 戦の場など端から選ばぬ。唯、後ろの里へは一騎たりとも通さじと、考えることは唯それだけ。
 クロトは腰に差した刃を抜く。戯画に描かれた雷のいろのような、金とも黄とも付かぬ眩い輝きを放つ鎬。平は真っ黒に染め抜かれ、闇の中においては鎬から刃先だけが浮いて見える。ただならぬ圧を放つその刀は、七代永海・筆頭八本刀が五――魔刃『穿鬼』である。
 一年余前、七代永海の作の由来悉くを聞いたクロトが、また縁の繋がることがあればと過日に願い――そして、先日ついに永海・鋭春より託されることと相成った妖刀だ。
 ……恐れることなどない。此処には、僕と『穿鬼』が。数多の永海と、その担い手たる猟兵達がいるのだから。
 クロトは胸の裡で独白し、眼鏡を押し上げた。
 彼が立ち塞がる獣道に、最早間近に迫った十四人の敵が押し寄せる。
「優男! 退かねば膾切りぞ!」
「どうぞご随意に。出来る物なら」
 売り言葉に買い言葉、当意即妙で返しながら、駆け寄せる敵の群に、クロトは自ら突っ込んだ。左手にカチカチと鋼糸仕込みのグローブを鳴らし、穿鬼を右手一つに引っ提げて踏み込む!
「むうッ?!」
 クロトの動きは武者らからすれば奇妙なものだったろう。押し寄せた敵の悉くと刃を重ね、打ち込みを流し、斬りかかられれば弾き、突かれれば透かす。突っ込んでおきながら防御重視の戦闘を繰り広げる不可解な戦い方は、しかしクロトにとっては必要なフェーズ。情報収集の時間だ。
 視線、体幹、踏み込み、手足の挙動。同じ軍で戦えば、教練の際に注意を払う部分はおのずと似通う。彼らに共通の『型』とそれぞれの動きの癖を視て取る。
 振るわれた槍を潜る。唸りを上げる刀を、穿鬼の刃で流して躱す。敵の鬼気を、殺気を、怨念を、探りながらに攻撃を潜る。
 ――鉄火場を潜りながら、クロトは手の内の刃が己に誂えたように馴染むのを感じていた。片手で扱っているのにもかかわらず、穿鬼は彼の意図通りに、宙に斬閃描いて舞う。打ち合った相手の刃を抉り、よもや圧し斬りながら、クロトはその刃のあまりの硬度、靱性、そして切れ味に感嘆の息を吐く。
(見事。七代永海、鐵剣殿。お会い出来るものならしてみたかったものですが)
「ええい、ちょこまかとッ!! 刀持つ士ならば堂々と勝負せぬかッ!!」
 感傷めいた思いを断ち切るのは落武者の威圧的な胴間声。クロトははあ、と溜息零して、左手のグローブをカチカチと鳴らす。
「――ご存じない? 僕は、剣士じゃない。真っ正直の真っ向勝負ばかりなんて柄じゃ有りません。……ですので一計巡らせました。少しばかり早いですが、お然らばです」
 クロトは言うなり、ぐんと身を縮め、全身の撥条を反るように一気に起こした。バックフリップ、中空三回転。十メートルあまりを一足で跳び下がり、天に翳した左の手を、裁きの如くに振り下ろす。
 ぎち、いっ!!
「ぐっ?!」
「な、なんだ?!」
「面妖なァ!!」
 情報収集の時間を無為に使うような、手際の悪い真似をクロトがするわけも無い。
 周囲にあらかじめ仕込んでおいたワイヤーに編み込むようにワイヤーを足し、敵を取り捲く結界のように張って、それを一気に跳び下がり巻き上げ締めることで、敵十体余りを一挙に縛する。
 敵とて戦国を生きる狂気の武士。しかも手脚を失うことに躊躇が無いとくれば、四肢切り落として駆け出すのも時間の問題。――だが、一瞬、ほんの僅かに動きを止めるだけでいい。
 敵が全力で駆けたとして、届く最大射程の一歩外。既に見切ったそのギリギリの距離で、クロトは地を這うようなストライドで右足を引く。身を深く捻り、溜める。
 穿鬼に、意念を込める。
 鬼唸るよな音を立て、剣に金剛の風が捲く!!
「怨まば怨め」
 男の声が断頭台の刃のように、冷たく落武者共に食い込んだ。
「――ッ!!! 避けろ!!!!」
 聡くもその一団の頭目と思しき武者が叫んだ。
 しかし、それはあまりに遅きに失する。
 クロトは最大の溜めを解き放ち、穿鬼を全力で突き出す。――瞬間、刀身に渦巻く金剛の風が、話に聞く神槍のごとくに凝って放たれた。
 落武者らとて、鬼は鬼。戦国を生きた狂気の戦鬼ども。クロトがそう断じて衝くのならば――穿鬼の爪に、貫けぬ道理無し。

 魔刃、極衝。

 クロトが繰り出す突きに乗った衝撃波――『神槍』が散弾の如く枝分かれ。書いて字の如く、神すら殺す槍めいて、拘束された全ての落武者の胴を頭を突き抜けて、四肢千切り飛ばして滅却する。
 鬼を貫く鬼の力、ここにあり。刃を振って残心を極めるクロトの前方で、貫かれ千切れ襤褸崩れた武者共の躰が、爆ぜるように紅い塵となって空気に溶ける――!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

シズル・ゴッズフォート
たった数日でしたが、彼らの技量は大いに上がった
常人の賊が相手ならば十二分と言って良いでしょう
……しかし、相手はオブリビオン
過去より来たりて現在を蝕み、未来を食らう怪異。常ならば只人の叶う相手ではない

しかし、彼らとて力がある。武器がある。覚悟がある
ならば私は、ただ彼らよりも前に立つのみ

此方でそれなりの数を受け持ちます。後ろは任せましたよ!


騎士刀と大楯を構えつつ初手にてUCを展開
暖かな光を灯し、誘蛾灯の如く剣鬼達を惹き寄せる
戦術そのものは普段と同じく。華やかさも派手さも無い、堅実一辺倒で泥臭いもの
されど、異能に頼り切らない「只人でも到達可能な技術」であると。神楯衆の皆に見せるように



●掲誇蒼楯
 苛烈なる刃熊刀賊団の攻勢を前に、猟兵達は善戦していた。いや、一人につき二十人程度の同時攻撃を逐一制圧しつつ、それでなお未だに里に一体も通していないというのだから、それは既に善戦という言葉では表しきれぬ。殆ど奇跡のようなものだ。
 ――しかし、それでも、遍く全ての方角をカバーしきれるわけではない。
 遊撃する猟兵達の数にも限りがある。一〇〇〇対四〇余で対等の戦いを演じようというのだから、その物量差だけは如何ともしがたい。
「視えたぞ!! 西門だ!!」
「者どもかかれ、既に散ったものの念を纏え! 死してなお刃熊刀賊団はここにありと、永海の民に見せつけてやるのだ!」
 おおっ!!
 三〇人からなる落武者の隊が、魚鱗の陣を組み真っ直ぐに永海の里、西門へと殺到した。迎撃する猟兵らの手が回りきらず、ついに里への接敵を許すこととなった。
 門が破られれば、敵が雪崩れ込む。永海の里は強固な防壁と門を持つが、一度それが破られ中に敵が入り込んだなら――門と壁は、中より民を逃さぬ籠となってしまう。
 それだけは避けねばならぬ。
 誰も死んではならぬ!!
 ――門より二十メートル、目と鼻の先に武者の群が駆け寄せ、まさにその凶刃を里に突き立てんとするその刹那――

「今です!! 飛鉄衆、放て!!」

 凜と声鳴り、
 ど、ばらららばばばば、どばん、ばばばん、ばばばばばばぁんっ!!
 闇を劈く轟音、轟音、破裂音!! 門上壁上の銃眼より迸るされる発射炎が夜を引き裂き、無数の鉛弾が敵に向かって降り注ぐ!
「ぬう――ッ?!」
「何事かァッ!!」
 鉛弾が先頭の数人を撃ち倒した。手脚失えども駆ける武者共とは言え、弾丸のインパクトをなかったことに出来るわけではない。銃火が敵の進撃を一瞬止める。
「命中確認! 神楯衆、続けっ!!」
 再び号令が下る。同時に、壁上より二〇人がらみの盾を持った軽戦士が飛び降り着地した。
 ――その一番前、命を下すのは猟兵。シズル・ゴッズフォート(騎士たらんとするCirsium・f05505)である!
「こちらでそれなりの数を受け持ちます――後ろは任せましたよ!」
「「「応!!」」」
 先頭切って走り出すシズルに、楯と片手剣で武装した自衛部隊――神楯衆が続く。
 シズルは壁上に神楯衆と、鉄砲様の飛び道具である『飛鉄』を用いる部隊、飛鉄衆を配し、指揮することで押し寄せる敵を水際で食い止める策を選んだのである。
 たった、数日。
 その間に伝えられることは伝え、隊の全員に濃密な教練を施した。飛鉄衆、神楯衆ともに、彼らの技量は大いに上がった。並の賊が相手ならば十二分であろう。
「ぬおォッ、小癪な!! ええい、ひねり潰せェ!!」
 しかし、敵は海千山千の刀賊共。過去より来たりて現在を蝕み、未来を食らう星の黒点。只人である彼らでは対処のしようのない怪異である。無策で挑めば――否、策を持って当たろうとも、敗色濃厚であろうと思われた。

 それでも――
 彼らには意志が、武器が、覚悟が――護るために研鑽した力がある。

 シズルはそれを信じていた。
 故に旗印となるべく、高く高く楯を掲げる。
 これなるは無窮の光。
 派手さはなく、華やかでもなく。しかし、ただひたすらに暖かく力強く。敵の目を引きながらにして決して消えず、倒れぬ、彼女そのものを示すような輝き。
 ――神塞流挑発術・灯の型。『咆我灯光』!
 敵の注意が、突出して駆けるシズルに向く。敵意が集中し、相対的に神楯衆にかかる負担が減る。……そして集まった敵意の分だけ、シズルの速度はいや増すのだ!
「目障りな灯よ!! 貴様の命共々吹き消してくれる!!」
「出来るものならやってみなさい。神塞の楯を貫くこと、易々叶うと思わないことです!!」
 激突ッ!!
 斬りかかってきた敵の攻撃を楯でいなし肩甲冑を叩き込む。浮いた身体を騎士刀で貫き振り棄て、続いた敵にブチ当てる。浮き足立った後続に、盾を構えて突撃。シールドバッシュで吹き飛ばし、陣中駆け込んで乱戦に持ち込む。
 剣から光が出るわけでも、炎を吹き出すわけでもない。魔法を使うわけでも、超能力を発するわけでもない。
 異能に頼り切らぬその体術と、重ねた研鑽から来る位置取り、体捌き、防御技術。シズルの戦法はその大部分が只人でも到達可能な技術――極限まで錬磨されているが――である。
 それを示すようにシズルは暴れ回る。士気の上がった神楯衆が、落武者共に決して劣らぬ檄声を上げた。
「シズル殿に続けぃ!! 我ら神楯衆、永海の楯ぞ!!」
「「「応ッ!! この彼岸蝶に懸けて!!」」」
 彼岸花と蝶の彫金のある、蒼き楯を月下に輝かせ。
 シズルに続くように、神楯衆が落武者共に激突。前進を食い止め、里の水際を護る……!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

トゥール・ビヨン
アドリブ歓迎

/
頑鉄さんに作って貰った新しい武装
恩義に報いるためにもこの里はボク達が守り抜くよ!

さあ、行こうパンデュール
新しい力、存分にあいつらに見せてやろう!

/
これだけの数の敵を相手にするのは骨が折れそうだ
でも、ボク達には新しい力がある
それをいかして落武者達を蹴散らそう

ブリッツハンドの出力であれば恐らく敵の四肢を切り落とすのは容易い
なら、必要なのは速さと瞬発力
先ずはコール・アヴニール・テクスチャーを発動して戦場を加速空間に
同じ戦場に仲間がいるなら事前に話しておく
敵の速度も上がるだろうけど、対応される前に一気に距離を詰めてドゥ・エギールとブリッツハンドのフォースセイバーで敵の四肢を落として回ろう



●閃光長針
 四肢に装着された追加装甲が、月下に燦めく。
 二メートル余りの威容を誇る決戦鎧装『パンデュール』のコクピットで、トゥール・ビヨン(時計職人見習い・f05703)はフォースセイバーのパワーレベルを確認した。全て正常の定格出力。装甲追加による負担なし。
『頑鉄さんに作って貰った新しい武装――恩義に報いるためにもこの里はボク達が守り抜く! さあ、行こう、パンデュール。新しい力、存分にあいつらに見せてやろう!』
 う゛ぃ、ヴンッ!
 トゥールの声に応えるように、パンデュールの胸部のレンズパーツが、フォースオーラの蒼白い光を帯びて輝く!
 背の推進器から蒼光を放ち、身を撓めたパンデュールは一瞬後に激烈に跳躍。中空から、眼下の山森を俯瞰する。
『すごい数だ……これだけの数の敵を相手にするのは骨が折れそうだね』
 上から見ればすぐに解った。人魂の蒼白い輝きを伴い、刃熊刀賊団の手勢が多数、山間を駆け上ってくる。その数無数、恐らくは前説明通りの一〇〇〇近い!
『――でも! ボク達には新しい力がある!』
 多数の敵を前に、しかしトゥールは決然と言った。敵は多勢、しかし随所でそれを迎え撃つ猟兵、永海の武器の耀きが閃いている。――そこに轡を並べるべく、トゥールはパンデュールを駆り飛ぶ!
『行くよパンデュール、ブリッツハンド・レディ!』
≪ラージャ。フォースセイバー・フロム・ザ・ブリッツハンド。レディ≫
 フックワイヤーを手から放ち、木々に絡めて巻き上げ、推進器の推力と合わせて超高速で飛び渡るパンデュールの四肢、肘・膝関節の噴出口より蒼光が漏れる。パワーレベル、コンバットモードに移行。展開待機!
 眼下前方、直線距離七〇メートル地点に落武者十二体を捕捉。
 落武者達の防具は、サムライエンパイアで一般的にありふれた甲冑だ。ブリッツハンドを用いれば、易々貫ける事だろう。――ならば威力は十分、今必要なのは、相手に当てるための速度だ。
『――さあ、時を超え、その先へ……!!』
 トゥールはすかさずその戦域にユーベルコードを発動する。『コール・アヴニール・テクスチャー』!
 ――響くは鐘の音!
 パンデュールとは時計を意味する語。そこに謂われを発するのか、パンデュールが天上に鐘の音を響かすなり、時の流れが狂い出す。視線の先で、落武者達が急加速した。一様に驚いた顔で次々と転けまろぶ。当然だろう、認識速度と移動速度が噛み合わなくなったのだ。備えていなければ行動に支障を来して当然。
 コール・アヴニール・テクスチャーは言うなれば、局所的な現実改変のユーベルコードだ。『戦場を全ての物質の動きが加速する空間に書き換える』という効果は、一見、敵も加速することでデメリットを生む様に聞こえるが、――敵の感覚認識を狂わせるという意味においては、短期的には有効な妨害要素となり得る!
『疾れ、パンデュール!! この隙を逃がすな!!』
 敵が環境変化に順応するより先に、トゥールは推進器をフルスロットルで吹かし、加速!!
 この超加速した世界に慣れているのはトゥールだけだ。故に彼は迷わない。常に考え決断しなければ、身体が思考を置き去りにする。それを知っているからだ。
 トゥールの叫びに答えるようにパンデュールは低空飛行。背にフォースエナジーの翅を限定展開し、空中を有機的な軌道で羽撃いて、超高速で敵の群へと突っ込む!
『行くぞ……!!』
 レバー操作、兵装駆動。パンデュールの肘装甲――ブリッツハンドからフォースエナジーが吹き出し、まるでレーザー・ブレードのように収斂して眩く輝く!! フォースセイバーの収束率・温度、つまりは運動エネルギー熱エネルギーを烈光鉄と緋迅鉄により増幅・加速・収束することで、威力を飛躍的に増す。永海・頑鉄の技術と、パンデュールの性能、そしてトゥールの操縦技術の全てが融合した結果生まれる、輝ける長針。――これぞ、『フォースセイバー・フロム・ザ・ブリッツハンド』!
『斬り裂けっ――!!!』
 加速した世界の中、トゥールだけが自由に動く!
 飛び過ぎざまに腕を脚を首を、超高熱・高圧の閃光刃が、藁束切るように刈り斬り飛ばす! まともに聴き取れぬ痛罵を発しながら落武者が振り回す刃をドゥ・エギールにより弾き飛ばし、回転しざまに膝から伸びた刃で胴を貫いて、力の抜ける肉体を速度任せの蹴りで砕き飛ばす!
 さながらそれは殺人蜂の舞踊。閃光の針翳すパンデュールを止めること叶わず、次々と断たれ裂かれて砕かれて、武士の骸が折り重なる――!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子

ここは、一番呪詛の影響を受ける世界。
祓い損ねたオロチの呪詛が、己が半身を断った剣を怨んで呪って追ってくる。
それは正しく諸刃の剣だったのだけれども。

冥く重く淀むばかりだった剣が、随分と大人しい。
嘗ての神威を取り戻すとは行かなくても、いまのあたしには充分よ。

――掛かってきなさい、有象無象。

四肢が無くなろうと動ければ斬る。
そうね。あたしだってそうするわ。
……だから、根を潰さないと駄目なのよ。

毀れる霊力を機動力に。
速く、疾く。
風を巻き込んで、敵の只中へと叩き落としましょう。
逸れて逃れたものは『機尋』で阻むわ。
此処から先へは通さない。

性能の限界を知るには限界を超える必要があるのよ。
まだいけるでしょう?



●祈念双蛇
 サムライエンパイアは、祓い屋、花剣・耀子(Tempest・f12822)にとって最も因縁深い世界だ。かつて祓い損ねた大蛇の呪詛が、己が半身を断った剣を、残骸剣『アメノハバキリ』を呪って追ってくる。
 オロチの呪いは諸刃の剣。劇毒であると同時に、耀子の個体性能を跳ね上げるブースターでもある。強力だからとて使いすぎれば、命を縮めることが分かりきっているものだ。
 冥く重く淀むばかりの剣の重みは、彼女の命を喰らって肥え太った呪いの重みか。今まで、耀子は、後いくらあるか分からない寿命をすり減らし、数々の強敵に呪詛を使って勝ってきた。
「……」
 ――しかし、今日は違う。
 鉄鞘――呪詛総呑『蟒蛇』で包まれたアメノハバキリをすっと持ち上げる。軽い。呪いの存在は確かに感じるが、剣から立ち上るのは重い、生乾きの血のような呪詛ではなく――清冽な、しかし烈しい霊気だ。屠霊鉄で造られた鞘が、呪詛を飲み干し霊気として放出しているのだ。呪詛に食らい付くようにアメノハバキリに咬み付いた鞘は、耀子が抜こうと思わねば、決して抜けぬ造りとなっている。
 剣が、かつてオロチを断つ前の神威を取り戻したかと言えばそうではない。鞘を解けば、たちまちオロチの呪いが溢れ出すだろう。そして、屹度そうせねば勝てないとなれば、耀子はまた、躊躇いなく残骸剣を抜き、その身に呪いを浴びるのだろう。
 だが、出来ることの選択肢は増えた。呪いを浴びないままで戦う事が出来る。この霊気を活かすことも出来る。鋒竜と寂鐸が、耀子の身を案ずるようにこさえて渡したこの鞘は、彼らの祈りの具現だ。

    テンペスト
 どうか 花 剣 が止まぬように、と。

 ――今のあたしには、これで充分よ。

 山間の平地。木立少なし。耀子は前を睨む。藪を割り、前方三十メートルにある獣道の出口から、敵が十二体。ほどほどに散って走っている。範囲攻撃で巻き込むのでも難儀しそうだ。『ヤクモ』を使えば容易いだろうが、この後の強敵に備え手札は残しておきたい。
 今までならば、どのようにするか一計を案じねばならなかっただろう。
 だが、此度は悩む必要など無い。
「――掛かってきなさい、有象無象」
「ふん、何かと思えばめのこが一人!」
「者ども、蹴散らせ!!」
 耀子を認めるなり完全に侮った風に武者達が笑う。だが、耀子がそれを意に介することはない。見返してやろうだとか、腹が立つだとか、そんな情動は些末事。――こいつらが、やがて人を襲うのであれば。いつも彼女がやることは一つだけだ。

「斬り果たすわ」

 踏み込んだ音の方が、後に聞こえたのではないか。
 そう思わせる踏み込みだった。一歩目で爆ぜ舞い上がったた草いきれが、地に落ちる前に耀子は落武者に接敵。目を見開く一体目に、蟒蛇ごとアメノハバキリを振り下ろした。
 鉄鞘が敵の受け太刀を砕き、頭を叩き潰した。――蟒蛇は呪詛を喰う。霊核を砕き吸い上げ、絶殺。ばう、んッ!! 落武者の躰が赤き塵となって弾ける!
「はっ――?!」
 後方の落武者が上擦った息を吐く。耀子は、蟒蛇から立ち上る霊気を吸い、己の機動力に転化したのだ。呪詛をそのまま身に装填して使う天羽々斬――ポーラーナイト程の威力、速度は出ずとも、雑魚相手ならば百殺して余りあるッ!
「次」
 ばんッ!!
 一声発するなり耀子は再び踏み込み、風を捲いて敵に襲いかかった。速く、疾く、彼女の速度は増し続ける。速度はそのまま攻撃の重さに換わる。アメノハバキリが一打振るわれるたび、落武者の身体が奇妙に拉げ、霊核を砕けて爆散する!
 耀子の踏み込みから逃れるように、数人が泡を食って散開。しかし、それを見越したように耀子は左手に残骸剣『フツノミタマ』を取る。
「捕らえなさい、『機尋』」
 銘呼ぶ冷たい声に従い、フツノミタマの刀身を巻き締める革鞘がリボンめいて解け、生きているかのように伸びうねる!!
「な、なんだッ?!」
 フツノミタマを封じるのは革鞘『機尋』。術者の念に従い伸縮する、妖異の革で編まれた革鞘である! その役は刀を封ずるだけにあらず、高速機動する耀子の動きからは独立して伸び、逃れようとした敵の足を取り、絡めて転ばせ引きずり回す!
「うわああッ!?」
「これは、なんたるッ、」
「こ、このようなことがあるわけが……!!」
「現実よ。――ここから先へは、通さない」
 転んで、或いは絡め取られ、動きが止まったものから順に餌食となる。瞬く間にフツノミタマが首二つを刎ね、アメノハバキリが三体の魂魄を砕いた。霊核潰えた骸から順に血の塵になって爆ぜ、風に吹き消える。
 実にほぼ、十数秒の殺陣であった。十二体を鎧袖一触に屠り、耀子は機尋でフツノミタマを封じながら地に降り立つ。着地、膝を撓め、そのまま一挙動に獣道へ。
 ひとときも休まぬ。
「性能の限界を知るには限界を超える必要があるのよ。……まだいけるでしょう? おまえたち」
 新たなる耀子の守り、一対の蛇は物言わねども、ただ耀子の命に従いその性能を発揮する。
 耀子は珍しくも口元に微かな笑みを浮かべ、森の闇に紛れるように駆けていく!

大成功 🔵​🔵​🔵​

紅呉・月都
どいつだ…
ここの奴らに手ぇ上げたのは
勿論ぶった斬られる覚悟、出来てんだろうなあ?

なーにが刀狩りだ
今日の狩りの獲物は…テメエらだ
UCを発動、銀狼と共に狩りを開始
紅華焔・燼に念を込め、炎を灯し
里を壊さぬよう、まずは一振りなぎ払う

いいな…
気に入った!流石、職人は違えわ!!
その威力・斬れ味に、赫く紅に、ニタリと笑い

コイツをこんなに良くしてくれたんだ
恩を返さなきゃ、罰が当たるよなあ?
武器で受けた刃は払い落とし、体勢を整えられる前にぶった斬る
追い詰めた敵は怪力で鎧ごと砕き、容赦無く灼き裂く

ここのもんは全部テメエらには過ぎたるもんばっかだ
職人もそうじゃないやつも、物も場所も
この里のもんを渡すわけねーだろうが



●斬禍炎焼
 敵の声近づく獣道。
 紅呉・月都(銀藍の紅牙・f02995)は愛刀、魂添“斬禍炎焼”『紅華焔・燼』を抜く。
 いつもと同じ――いや、いつもにいや増す刃の美しさよ。黒染めされた漆黒の刀身、平に紅き彫金装飾が施され、鋭さと優美さが共存する刃。かつて月都の主たる守護役が握り、数々を守った名刀だ。
 ――その思いは、月都に受け継がれ今なお息付いている。
 月都は刀を片手で構え、闇の奥より駆け来る敵に目を凝らした。人魂どろどろと伴って襲い来るは、悪名高き刃熊刀賊団の猛者共だ。
 駆け来る落武者が月都を認め、嘲るように言い放った。足を止めることもない。
「ふん、永海の連中め、面妖な用心棒を雇ったと見える。しかし我らの前に物の数にあらず、ひねり潰してくれようぞ!」
 距離二〇。突っ込んでくる!
「――ここの奴らに手ぇ上げるってことは、テメエら、勿論ぶった斬られる覚悟、出来てんだろうなあ?」
 月都は刃軋るような声で唸る。その剣気に嘲るような声をしていた武者も一度息を止めた。純粋な怒りだ。怒りが月都を衝き動かす。
「なーにが刀狩りだ。勘違いするなよ。狩るのは俺達の仕事。――今日の狩りの獲物は、テメエらだ!!」
 月都は吼え、ユーベルコードを起動。怒り、浅ましき刀賊団共への嫌悪が凝り、四肢に炎纏う銀狼が月都の周りに次々と召喚される!
 これぞ、『遁走許さぬ銀の狩人』。召喚された銀狼の群、その数六〇!
「行くぜ、逃がしやしねぇ――一人たりともなァ!!」
 月都の檄に狼たちが一斉に突っ込む。
「なんとぉ!?」
「面妖な……!」
 襲い来る銀狼を、落武者たちはそれぞれの武器で迎撃した。腐っても戦国に生きた剣鬼、狼に臆するような者はいない。次々と狼が迎撃され、断たれ、銀の光の粒子となって消えていく。勝ち誇ったように一人の武者がせせら笑った。
「口ほどにもな――」
 だが、言葉を言い切るその前に、武者の一人に月都が寄せている。狼たちの総攻撃に紛れ、既に距離を詰めていたのだ!
 月都は意念の限りを込め、燃やせ、と紅華焔・燼に命じた。彫金装飾が熱の余りに紅く紅く紅く赫き、刀身の周りの空気が陽炎に揺らめいて、ついには発火!!
「おらぁああぁッ!!」
 気合裂帛。真一文字に断つような胴打ち一閃。反応した落武者は堅守の構え、打刀上げて守りを固めるが――しかし無為。構えた打刀が、紅華焔・燼の前にあっさりと断たれた。目を見開く武者をそのまま上下に両断。刀に纏った炎が、断たれた落武者をごおうと燃やす!! 声もなく地に落ちる武者。
 それだけ鋭い切れ味を見せながら、しかし耐久性も一級。刃には綻び一つ無い。
「いいな。……気に入った! 流石、職人は違えわ!!」
 魅せられたように月都は笑い、壮絶な威力を前に蹈鞴を踏む落武者たちに刃を向ける。
「コイツをこんなに良くしてくれたんだ。恩を返さなきゃ、罰が当たるよなあ?」
「ぬ、抜かせ、一人紛れで獲った程度で粋がるなッ!」
 二人の落武者が、狼たちを斬り裂きながら月都に向かって襲いかかった。袈裟懸けの一撃を振り下ろしてくるのに合わせて刃を構え、平を滑らせるように受け流し、泳いだ躰をそのまま胴から両断。落ちる上半身を回し蹴りで蹴りつけ、もう一体にぶつける
「オラァ!!!」
 大上段に振り上げての、天雷めいた振り下ろし!! 熱量と全力の振り下ろしの威力が重なり、受け太刀を焼き砕いて、その頭から股下までを真っ二つ!!
「こ、こいつ……出来るッ!!」
「うわっ、ぎゃああっ!! クソッ、狼が多すぎる……!!」
 足場の良くない獣道だ。最初は優勢を保っていた落武者らだが、狼の物量と、足場をものともしない俊敏さに翻弄され、その爪牙を前に傷つくものが増える。
 ――そこに加えて月都の攻撃が重なれば、長く保つわけもない。月都は敵を真っ直ぐに見据え、刀を構え直した。
「ここのもんは全部テメエらには過ぎたるもんばっかだ。職人もそうじゃないやつも、物も場所も。――あいつらに想いを――妖刀をを託された俺たちが負ける訳がねー。この里のもんは、何一つだって渡さねえ!!」
 月都の声に合わせ、狼たちが武者らを威圧するように高々吼える!!
 一人の武者が恐れるように一歩後退った瞬間、その恐怖につけ込むように狼らが、月都が襲いかかった。
 夜気に鮮やかに、紅華焔の炎咲く。月都の刃が、陋劣たる落武者共を焼き祓う――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・ミラ
【双星】


青星と赤星が揃うのは久々だね
盾…蒼天も手に馴染む
ああ。この新しい力で、永海の里を守り抜こう

光の魔力を脚鎧に充填
セリオスと共に駆ける
森の中でも戦えなくはない…が
彼の声に応えて平地の方へ

来るがいい。どれだけ来ようとも、セリオスと人々に手出しはさせない!
声を上げ光の斬撃で存在を示し、引きつけよう
僕達への攻撃は盾で防ぐ
平地へ出る瞬間、地を踵で削りながら向きを反転
―これが、永海と僕達の力だ
セリオスと一緒に光刃を放つ

…この場所なら、君が見える
今度こそ、君と青星に光を!
【天聖光陣】展開
この陣と光は
セリオスと共に在る
それを示す様に彼を守り、援護する光の柱を放つ
その無念、その怨念ごと…骸の海へと還そう


セリオス・アリス
【双星】◎
やっぱ2本あると落ち着くな
職人らしいいい仕事を見せてもらったんだ
今度は俺たちの番、ってな
いこうぜアレス!

歌で身体強化して、風の魔力を靴に
旋風で一気に加速する
狭い森でも戦えるが
どうせならぶっぱなしやすい開けた場所へ
アレス!
一声呼んで合図して同じ方向へ

見かけた敵に斬撃を叩き込んで挑発して
ハッ…この程度じゃ倒れねぇよな、そりゃそうだ
けどな、
開けた場所へ出る瞬間跳び上がり反転
光刃をアレスと一緒にぶっぱなす

さあこいよ、こっからが俺たちのステージだ
敵の攻撃は打ち合わず
最小限見切ってかわして
歌い上げるは【暁星の盟約】
アレスと共にある
その証のようなこの歌と陣と斬撃で
無念も未練も、全部ぶったぎってやる



●蒼天双星
「青星と赤星が揃うのは久々だね」
「ああ。しっくりくるな。お前の楯は……しかし、やっぱ二本あると落ち着くな。職人らしいいい仕事を見せてもらったことだし、今度は俺たちの番、ってな。……行こうぜ、アレス! 俺とお前と、青星と赤星。それに、蒼天。空と星がついてる俺たちに、斃せないヤツらがいる訳ねぇ!」
「はは、自信満々だな。――でも、同感だ。蒼天も、手にしっくり馴染む。この新しい力で、必ず、永海の里を守り抜こう」
「おう! ――さあ、行くぜ!」
 斯くして、夜のとばりに黒歌鳥の歌が響く。高らかに、高らかに。
 その歌を聴き、訝るように足を止めた落武者ら、二十数名――
 黒歌鳥の耳は、立ち止まった彼らの音を決して聞き逃さない。この先の平地だ。

「歌声に応えろ――力を貸せ!! アレスッ、こっちだ!!」

 黒歌鳥、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)が歌を結び、相棒を呼ばわった。
 同時に踏み出す。彼の歌は、『根源の魔力』を引き出し、彼と彼が信を置く仲間の力を高める。それを証明するように、その傍らで払暁の騎士、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)が、声に応えて地を蹴った。その速度は常のそれより遙かに速い。
 セリオスは風の魔力を魔導蒸気ブーツ、『エールスーリエ』に突っ込んで炸裂させ、足下で炸裂する旋風に乗って爆発的に駆ける。アレクシスはそれに倣うように脚の甲冑の中に光の魔力を満たし、それを噴出することでロケットめいて加速。黒き外套と白き鎧の好対照の二人が、獣道を突っ切る!
 藪を突き破って駆け出た先は平地。その中ほどに立ち止まった敵集団、その数二四! お誂え向きだ。狭い森だろうと変わらず戦ってみせるが、新たな力のデビュー戦は広いステージで華々しく、と言うのが定番だ。
 セリオスは青星を抜剣して、確かめるようにその刀身の平を一撫で。柄を通じ、剣へ意念を込める!
「帰ってきたお前の力――魅せてみろよ、青星!」
 同時に、跳躍! 空中で身を翻し、眼下のアレクシスに目配せ一つ。
 瞬間、セリオスの意図を汲んだようにアレクシスもまた抜剣。踵で地面に杭を打ち、地面を抉りながら制動、躰を捻って溜めを作る――同時に一喝!
「どれだけ来ようとも、セリオスと人々に手出しはさせない。――この耀きを恐れぬものから来るがいい!! これが、永海と僕達の力だ!!」
 声の終わりと同時。空中でセリオスの剣と、地上でアレクシスの剣が、闇を切り裂いて一閃唸る。
 その刃は共に星の名を冠す剣。
 “双星宵闇”『青星』、そして“双星暁光”『赤星』。
 宵と暁は常に背を預け合い寄り添う、何より近しい闇と光――
 烈光鉄の力を得た二振りが、セリオスとアレクシスの力を受け、今まさに、永海が生んだ奇跡――『光閃』を成す!!

 ご、おうっ!!!

 光が唸った。二人の剣の先から、光により成された斬撃――『光閃』が飛び、未だ二〇メートルは先にいようかという落武者たちを猛撃したのだ!
「なぁ、っ」
「なんだッ……!?」
 仰天する間もなく、六人ばかりが真っ二つにされて次々地に倒れ落ちる。
 辛うじて回避したもの、偶然にも軌道上から身を逸らしたもの、未だ生き残りは多いが初撃の奇襲としては上々だ。
「ぶっつけ本番にしちゃ上出来じゃねぇか! 先行くぜ、アレスッ!」
 セリオスは着地するなり再加速。アレクシスさえ追いつけぬ圧倒的な速度で飛び込むなり、敵集団の先頭にいた武者目掛け、最大速度を乗せて斬りかかる!
 が、ッぎいいん!!
「ぐウッ!?」
 先頭の武者が持つは三尺五寸の野太刀であった。だがそれが、折れこそ竹刀にせよ目に見えて歪む。対する青星には傷、刃こぼれの一つもない! 強度はまさに従来以上だ!
「なんたる撃剣……!」
「ハッ、この程度じゃ倒れねぇか。そりゃそうだよな」
 セリオスは軽く笑い、続けざまに斬撃を連発。剣勢に押されるように、武者が剣受けながら退がる。
「ぬうッ、舐めるな……!」
 曲がった野太刀を放り出し、腰から二刀を抜刀して武者がセリオスに打ち掛かるが、しかしセリオスは嘲笑うようにバックステップ。――スイッチするように二者の間に、遅れて駆け参じたアレクシスが突っ込む! 左手に携えた大楯――蒼天が眩い光を放つ。
「やらせるものか!!」
 虚を衝かれた武者を殴りつけるように盾を叩きつける! たまらず吹き飛ぶ武者だが、射線が開いた。周りの武者とてぼうと眺めているばかりではない、既に弓に持ち替え、セリオスとアレクシスに狙いを定めている!
「セリオス! 僕の後ろに!」
「ああ、分かってらぁ!!」
 まさに阿吽の呼吸、引き絞られた弓弦が解き放たれるその瞬間には、セリオスはアレクシスの背に身を隠している。背中に当たるセリオスの手を感じた瞬間、アレクシスは己が盾の権能を解き放った。
「――阻め、蒼天!!」
 注ぎ込まれた意念に従い、烈光鉄製大楯『蒼天』がその縁から光の壁を展開! 放たれた矢の嵐を全て止め、弾き散らす!
「莫迦な……?!」
「あれも永海の技だというのか、小癪なッ!」
 矢では埒が開かぬと再び抜刀、踏み込んでくる落武者らを前に、アレクシスは赤星を地に突き立て、ユーベルコードを起動する。
「この場所なら君が見える。見える限り、どこに居ようとも君を照らしてみせよう、セリオス。――今度こそ、君と青星に光を!!」
 赤星が眩い光を放ち、剣を中心に光の魔法陣が地に広がる。
 敵がたじろいだその瞬間には、地面から複数の光の柱が間欠泉の如く吹き上がり、数人の落武者を巻き込んで消し飛ばす! アレクシスのユーベルコード『天聖光陣』だ!
 天聖光陣の光に攪乱され、敵の突撃が緩んだ瞬間、またもセリオスが前に出る。――この陣と光は、セリオスと共にあるもの。この陣の上は、即ちセリオス・アリスがメインアクトを務めるステージだ!
「さあ来いよ、こっからが俺たちのステージだ。ついてこれねぇヤツからぶった斬っちまうぜ……!」
 セリオスは吼え、歌い上げる。求むるは今、拓くは明日。そうとも、彼らは永海の里を救いに来た、その明日を拓きにここに来たのだ!!
 天聖光陣の上に立つことでセリオスは、最も近しい友であるアレクシスの光の魔力を受け、自らの体力を回復。己の最奥から呼び覚ました根源の魔力を、溢れるアレクシスの光と一体とし、自身に宿す。純白の燐光を帯び、巻き起こった魔力風でセリオスの長髪が美しく翻り舞いうねる!
 ユーベルコード『暁星の盟約』の発露である!
 セリオスはエールスーリエに魔力を装填、低姿勢でのダッシュ! 瞬く間に接敵、武者が振り下ろす刀を潜り抜け、魔力を宿した青星でその胴を一閃! ――強烈! 刃はあっさりと胴丸ごと敵の躰を一刀両断! 刃先に光が集い、青星の威力がより強化されている!
「ッ、オオオッ!!」
 剣を振り抜いたセリオス目掛け、横方向から落武者が一騎駆け込んでくる。隙を狙っての上段からの一撃だが、しかし暁星の盟約により強化された身体能力で、セリオスは無手側転して落武者の刃を回避、
「悪いな。俺とアレスが揃ったところにいた不運を呪えよ」
 皮肉っぽく言うセリオスの声を皮切りに襲いかかった武者の足元から天聖光陣の光柱が迸った。悲鳴すら無く呑まれ、光に溶ける落武者。
 瞬く間に落武者らの戦力が削れていく。天聖光陣と、響き渡る暁星の盟約。これらが光り轟く前に、怨念のなんと矮小なことか。
「無念も未練も、全部ぶった斬ってやる。今日で、刃熊刀賊団は解散だ」
「――その無念、その怨念ごと骸の海へと還そう。覚悟はいいな、外道共!」
 セリオスが、アレクシスが、兄弟剣を指し向け吼える!
 今再び邂逅した天の双星の前に、敵などない――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木佐貫・丹菊
さぁさ、君の初陣だ。『桜燐』

鞘を払えば光を弾く、桜色のしろがねに目を細める
寸法は違いなく手に馴染んで
鋒は唯真っ直ぐに万鬼夜行へ向き直る
沸いた血潮に瞼見開き、知らず上がる口角を舌でなぞった
戦さ場の空気は相も変わらず、身に馴染んで拭えない

刀の振りは軽やかで、その分今までより当たりが軽いか
ならば薙ぐより叩き付ける方が良い
雅やかではないけれど
この上背と得物では大抵の場合に効果的だ、残念な事に
振り下ろす重刃は骨も核をも構わず叩き割る
折角聞いて貰った我儘だから、存分に活かさなくてはね
通すものかよ

桜焱花を散らし流して、暖かな春を夢想する
千切れた躰で、罅割れた魂で歩き続けた彼等に
いつか咲き誇る花束を、あげよう



●春風緋花
 どう、どどう、と獣道を踏み荒らし、敵が来る。その数一四、五。人魂がどろどろと揺れて、彼らが常世の存在でないことを告げている。合戦を幾度も体験した武士ですら、怖気の震うような光景を前に、しかし少年はゆるりと笑う。
 戦国の世から蘇った物の怪相手だろうが、恐れることなどなにもない。背に負った野太刀の柄を掴み、身体を巻いてずらりと右手で抜刀。
 淡い桜色を帯びた良く詰んだ肌が、冴え冴えと月光に光る。刃渡り三尺五寸、魂添を“春風緋花”。刃銘、『桜燐』。
「さぁさ、君の初陣だ。『桜燐』。踊って見せておくれよ」
 瞑目の儘、少年、木佐貫・丹菊(バラァドの嚮後・f23324)は呟いた。その背丈は六尺余りという所、只人にとって決して扱いやすいとは言えぬ丈の桜燐を、苦もなく取り回して見せる。
 鞘を払えば光を弾く、桜銀とでも言えば良いのか、美しく燦めくしろがねに目を細め、鍛菊は無造作に構えを取った。ぴたり、真っ向襲い来る万鬼夜行へ鋒を据える。
 事前に扱いを確かめた際にも感じたことだが、ぴったりの寸法だ。重さも問題ない。心鉄となる飄嵐鉄の効果か、振ってぴたりと止められる重さに仕上がっている。確かな仕事だ。
 穏やかで、決して荒事に向くとは思えぬ丹菊の顔はしかし、敵の足音近づくにつれて堪えきれぬような笑みに歪んだ。
 目を見開く。血潮が沸くようだ。釣り上がる口角を舌でなぞり、丹菊は調息。
「……やれ。戦さ場の空気は相も変わらず、身に馴染んで拭えない」
 独り言ちるなり、丹菊は野太刀に意念を通し、軽やかに踏み出した。正に春駆ける風のようだ。真っ向突っ込んでくる多勢を恐れぬ如き正面突撃!
「くははっ! どうやら数の差が分からぬいかれがきたと見える、血祭りに上げてくれようぞ!!」
「生憎だが、私の血は限りがあるものだから。君たちにはもっといいものをあげよう」
 吼える武者に軽やかに返せば既に距離十、一瞬後には激突するその間合いより丹菊はさらに加速! 速度を活かしたまま躰を捻り、先頭の男目掛け、渾身込めて振り下ろす。
「なんのォッ!!」
 敵もまた手に引っ提げた野太刀を上げ、すかさず受け太刀――したはずが、
「残念。この刃は見かけよりも重い」
 丹菊は即座に鍔の地鳴鉄の力を発揮する。
 瞬間、桜燐の刃が鈍く煌めき、
「なッ……?!」
 天雷の如き打ち下ろしが、武者を襲った。
 撃剣威力凄まじく、武者の野太刀をへし切って、そのまま敵の頭から、股下までを叩き割る。落武者らが絶句するほどの威力だ。頬に飛んだ血を拭わず、真ん中から開いて倒れる骸を踏み越え、丹菊は次の敵に迫る。
 ――桜燐は心鉄を飄嵐鉄とする故、野太刀としては重量が軽い。これは取り回しにおいては利点であるが、威力の面では欠点となる仕様だ。それを補うため、鍔に取り付けられた地鳴鉄により、任意のタイミングで、刀身重量を二倍まで上げられるよう調整してある。
 そのまま打てば当たりが軽い。だが、地鳴鉄により重量を上げれば、一撃の威力は途端に増す。――並べても、振り下ろしの際において、それは顕著である。重力が乗るためだ。桜燐という得物と、丹菊の恵まれた体躯があって初めて成せる技である。
「ふふ。思った通りの刃だ。散々我儘を聞いて貰った分、存分に活かしてみせねばね」
 次なる武者には振り下ろしではなく胴打ちから入る。今度は刀を重くせず、その刀身に桜色の焱を纏わせて、打ち込み、打ち込み、打ち込み、一打ごとに蹌踉めく敵の姿勢が崩れた瞬間を狙ってざっくり裂く。傷口を舐めるように焱が広がり、悲鳴を上げて転がる武者を尻目に、次の敵に踏み込む。
「ここを通すものかよ。この手にあるのは里を護るための彼らの意志、望み。決して折れぬよ」
「抜かせッ、優男……!!」
 迎撃するように打ち掛かる武者の刀を重くした刃で受け、束の間鍔迫り合いを演じつつも、不意に重量を軽くして敵の攻撃を透かし流し、空いた胴に胴薙ぎをねじ込んで斬り飛ばす。丹菊が踏み込み剣舞うたび、花嵐荒れ、桜色の焱散る。
 重きも軽きも、熱きも冴えるも、全ては丹菊のさじ加減。まるでかれそのものの様な刃が、闇間に武者共の怒号を縫って光る。
「さあお出で、いつか一度は千切れた躰で、罅割れた魂で歩き続けた君たちに。燃え咲き誇る花束を、あげよう。ここが旅の終わりだよ」
 戦舞の中、丹菊は詠う。
 或いは、落武者らを哀れむように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス
◎戦場お任せ
刀の匂い誘われる、ね。武人の習性だと笑うべきか感心するべきか。ともあれ、そう言う事ならば極上の釣り餌が此の手にある。
さぁさ、七代永海が筆頭八本刀が六。冥土の土産にご覧じろ。

初手にUC起動。なれど発動はせず。装いを戻して鍔を新調したんだ。慣らしに余計な雑味を混えさせたくはない。まずは純粋な剣技にて勝負といこう。
積極的に敵陣へ【切り込み】、赤熱化した刀身にて得物の溶断を狙う。【属性攻撃、焼却】
囲まれる事に注意しつつ、手が足りない場合は機人によるカバーと援護を。この程度の手妻、卑怯などとは言わないでくれよ?

…本命はこの次だ。なら、最上の一撃を叩き込む為に。今はただ、熱量を練り上げるのみ。



●閃輝焔刃
 里に程近い広場にて、打刀の柄に手を置き、ただ瞑目して待つ少女の姿がある。黒い洋装には刀は似つかわしくないように思われるが、しかし彼女が携えた刃は、不思議と誂えた様に似合っている。――当然だ。一年と四月余りを既に共に過ごしたのだから。
 ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)というのが彼女の名だ。銀髪冴え冴えと夜気に輝く。傍らに相棒、『黒鉄機人』を従え、少女はぽつりと独り言つ。
「刀の匂い誘われる、ね。武人の習性だと笑うべきか感心するべきか。ともあれ、そう言う事ならば極上の釣り餌が此の手にある――黙っていても、敵の方から寄ってくるだろう」
 然り。永海の里付の呪術師らがまじないによって施した隠匿の結界を、敵は刀に対する嗅覚で越えて襲い来るのだという。なればこそ、永海で生まれた妖刀を携えたユエインのいる場所に到らぬ訳がない。彼女が持つのは永海の中の永海とでも言うべき、七代永海・筆頭八本刀の一つなのだから。
 暫時の沈黙、遠くに鬨の声と刃打ち合う音。戦は既に始まって久しい。ユエインは遠叫を聞きながらも、地を揺らす振動を感じて、ゆっくりと目を開いた。
「――来たか」
 地を踏み鳴らす音が近づいてくる。ユエインが真っ直ぐに見る先、獣道に続く藪を割って、十余名ほどの落武者達が駆け出てくる。
「むうッ、貴様らも永海の手のものか!!」
「言わずもがな。――さぁさ、七代永海が筆頭八本刀が六――冥土の土産にご覧じろ」
 荒々しく吼える武者を一顧だにせず、ユエインは妖刀を一息に抜刀した。刃渡り二尺八寸、これぞ七代永海が手がけた最強の緋迅鉄の作。焔刃『煉獄』、改め――閃輝焔刃『煉獄・赫』!
 抜いただけで熱が渦巻き、刀身の周囲が陽炎めいてゆらり揺らめく! 赤銅色の肌は赤熱し、やがて夜目に鮮やかに耀き出す。
「ふん、妖刀を持った程度で粋がるとは! 良かろう、貴様が頼みにするその妖刀も召し上げて、頭に献上するとしよう。者どもかかれ、生かして帰すな!」
 おおっ!!
 意気衝天とは正にこのこと。走る勢いもそのままに、士気高く敵がユエインに殺到した。刃熊刀賊団の主はよほど求心力が高いと見える。
 ユエインは肩を竦めると、煉獄に意念を流し込む。呼び覚ますは新たなる技、『焔閃・天焦空断』。しかし、未だ発動はせぬ。慣らしは雑味を混えず行うべきだ。高まる熱を解き放たぬまま、ユエインは敵陣に一直線に斬り込んだ。
 先頭の男と激突、互いの急所を狙う刃が空中で打ち合い火花が散る! 瞬く間に三合打ち合う音が響き、
「ッ、ぬあァ?!」
 四合目で、甲高い音を立て落武者の剣が中途より折れ飛んだ。否、ユエインが折ったのだ。煉獄に宿る超高熱が敵の刃を鈍らせ斬り断った! 妖刀地金による刀ならいざ知らず、只の刀で煉獄の熱に耐えようなどとは自殺行為!
「はああっ!!」
 落武者が折れた刀に動揺を呈した瞬間、ユエインは滑らかにその隙に食いついた。踏み込みながらの二段突き。水月と心臓を破壊、熱で刺創を焼きながら、声なき絶叫を上げる武者の躰を振り棄てる!
「おのれッ!!」
 ならばと間合いの外から、弓に持ち替えた落武者らがすかさず矢を放つ。ユエインは言葉もなく身を屈める。即座に反応した黒鉄機人が前に出て、腕をクロスし堅牢な装甲で矢を弾き防ぐ!
「ぐぬっ、なんたる堅さ……!」
「黒鉄機人もまたボクの武器の一つ。この程度の手妻、卑怯などとは言わないでくれよ?」
 皮肉げに言うなり、ユエインは黒鉄機人を敵の群に突っ込ませた。弓を持つ武者達がそれに対応するために武器を再び槍と刀に持ち替える。
 ユエインはそれをこそ待っていた。
 黒鉄機人の、腕を振り回しながらの我武者羅な前進を、数体の落武者が殆ど横っ飛びに回避! 辛うじて着地するもその体幹はぶれて隙を晒す! そこに乗じ、ユエインは煉獄を引っ提げて低姿勢で踏み込んだ。
 熱高まる刀身は正に地獄の炎そのもの、しかし剣筋は流麗極まる。踊る鋒はいつしか夜気を巻き込み焔を帯びていた。踏み込み振るわばその軌道、地獄に轟と吹き荒ぶ旋風が如し!
 擦れ違い様に落武者四人を、斬斬、ざ、斬!! いずれも胴を二つに断たれ、傷口から迸る煉獄の炎に焼かれる! 藻掻きながら落ちる八つの肉塊を一顧だにせぬ。地面に杭を打ち反転、黒鉄機人を自分の死角が減るよう暴れさせながら、切っ先鋭く突きつけて、挑発するように言い放つ!
「悪いが、前座にいつまでもかかずらっている暇はないんだ。さっさと退場してもらうよ」
「抜かせ小娘ェーっ!!! 者ども、油断するな! 一人が刃を届かせれば良い、一斉にかかれッ!!」
 しかし戦鬼どももその剣気並々ならぬ。
 ユエインの技に数名絶殺されたとて、意気未だ軒昂なり!
「やれやれ、骨が折れそうだ――」
 ユエインはぼやくように言いながら、しかし溜めた熱量を解き放つことはしない。
 ……本命はこの次だ。なら、最上の一撃を叩き込む為に。今はただ、熱量を練り上げるのみ!
 今一度前進! 戦国を生きた狂気の剣士どもと、少女の刃が軋り合う!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
平地と森の境界。
木に登り、横に張り出した太い枝に立ち平地を監視。
平地に敵集団の先頭が現れた所でUCを始動。
『……四肢断ち出来るほど器用じゃない。御免』
[第六感]を併用、霊核を探す。
10秒後、程良く現れた敵集団を全て認識した上で
木から飛び降り、亜音速で駆け抜け『霊核を縦真っ二つ』にして斬り捨てる。

仲間が居れば合流。
刻祇刀・憑紅摸に[焼却]の効果を付与しながら声を掛ける。
『……及ばずながら、助太刀します』
敵の刀を巻き上げて弾き飛ばすように[カウンター]。
灼熱の刃で斬撃、燃やし尽くす。

ある程度の負傷は覚悟の上。
でもタダで傷を受けては武士の名折れ。
敵の刃が我が身に食い込む寸前で[早業]の一閃を放つ。



●縮地灼閃
 獣道の出口。一歩踏み出せば見晴らしの良い平地となる境界。
 樹上、張り出した横枝に立ち、藍色の凪いだ目を凝らす女が一人。
 琥珀の髪に狐耳。ふわふわの毛皮尻尾が背に揺れる。一見するだけで妖狐と分かる。矢絣柄の着物を纏い、表情は薄く――しかし目に確固とした光を宿す、物静かながらに、眼差しの奥に熱を秘めたる女であった。腰にした刀は花弁を模した鍔をしており、遊び心が垣間見えるも、一度それを抜けば血風荒れるであろうという覇気がある。
 女の名は、クロム・エルフェルト(半熟仙狐の神刀遣い・f09031)。
 妖狐の身にして妖術を使えず、捨て駒として扱われた過去を持つが、しかし彼女には剣才があった。術扱うこと罷り成らずとも、彼女の研鑽はその剣を術の域にまで高めたのである。
 クロムは、永海の里に縁があるわけではない。しかしグリモアベースでこの話を聞き、助太刀せねばなるまいと、遅参ながらに駆けつけたという次第である。聞けば敵の数は千に届こうかという。いかに精鋭の猟兵達が数十と飛んだとて、必ずしも勝てるかと言えば、その補償などあるまい。――オブリビオンたちの殺戮が、彼女の故郷たるエンパイアの片隅で起こるとあれば、その思いは益々強くなる。
 遠く、剣戟の音と叫びが聞こえる。この昏き山のどこかで、今も猟兵達が戦っているのだ。里の民から託された妖刀を握り、命燃やして剣を振るっているのだ。
 届け、と思う。こうして、貴方たちが戦うその背を押す為に、ここに一人参じたものがいると。
「――及ばずながら、助太刀します」
 クロムは一つぽつりと呟くと、耳を跳ねさせた。耳の角度を動かし前方の音を集める。クロムの位置とは平野の反対側、藪向こうから敵が来る。数は正確には判じあぐねるが、およそ十以上であることは間違いない。声の反響から計算した移動速度はかなりのもの。この平野の横断に二十秒と掛かるまい。
 ――敵の先鋒が藪を蹴破り顔を出した瞬間、クロムはすうと目を閉じた。
 敵が十秒で平野中央に至るならば好都合。まだ猶予がある。少しずつ大きくなっていく敵の足音、鬨の声を聞きながら、深く呼吸をする。視界を閉ざし、感覚を削ぎ落とす。不要なものを閉じる。心乱れぬこと止水の如く、敵の哀れを映し出すこと明鏡の如し。

 是即ち、明鏡止水の境地なり。

 十秒経過と同時に目を見開く。この技は十秒の集中を必要とするが、一度その境地に至ればクロムの刃に断てぬものなし。計算通り、平地の中程を突っ走る敵集団目掛け、クロムは大樹の枝をしならせる程に強く踏み切った。
 まるで弾丸の如く、クロムの躰が斜め下に飛ぶ。
「むッ?!」
「けものか? ――否!!」
「貴様、永海の手のものか!!」
「問答無用。――四肢断ち出来るほど器用じゃない。御免」
 クロムは常の、友に見せるような柔らかな声音をおくびにも出さず、それこそ刃のごとき声で言い、地面を草履で抉って加速、加速、加速! 踏み切られた草いきれが土と共にちぎれまくれて舞い上がる!
 一歩ごとに速度が上がる。四歩で最高速に。目を瞠る落武者たち。それもその筈、視えぬ! たった四歩でクロムは超加速! その速度から放たれる抜刀術は、剣先が亜音速に至る程のまさに天剣。立ち塞がるものを一閃で斬滅する、明鏡止水の一刀なり!

 っきんッ!
 鍔鳴り!!


   仙
   狐
   式
   抜
 櫻 刀
 華 術
 風
 吹


 鞘から抜くなり刃が燃えて、ひらめく光が落武者共の目を焼いた。
 ざ、ざ、ざざ斬ッ!! 反応すら許されず瞬く間に四体が斬り裂かれ、真っ二つとなって燃え上がる! 第六感にて、見えざる霊核の位置を見当づけての一撃。――仮に裂けておらずとも、刻祇刀・憑紅摸に炎を帯びさせての斬撃だ。躰を二つに分けて燃やしてしまえば、いかに死を恐れぬ武者と言えど立ち上がること罷り成らぬ!
「お、おおおっ!?」
「速い……!」
「うおおッ、怯むな!!!」
 ざあッ! 制動をかけるクロム目掛け、すぐさま反転した二体が襲いかかる。クロムは身を返すなり、再び身を縮めて突っ込んだ。
 振るわれた敵の刀を身に食い込みそうなほど引き付け掻い潜り、腕の内側に潜り込むなり、全体重を乗せて柄を胸元に叩き込み胸骨を破壊。蹴転がし、次の敵の刀を受ければ、まるで蛇のように剣先を巻き上げて絡め、一瞬の隙を突いて敵の刀を上に弾き飛ばす!
「――!?」
 驚愕の表情。無手となって息を呑む敵に灼熱の刃を一閃、返す刀でもう一撃! Xの字に咲かれた躰がずるりとずれて、炎に燃えて崩れ落ちる。
「この剣尽きるまで、この先に路無し。死合ってもらおう、もののふらよ」
 息を呑み蹈鞴を踏む落武者らを前に、憑紅摸に炎帯びさせるまま霞に構え、クロムは決然と言うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空亡・劔
共闘アドリブ歓迎

戦場
平野

そう…あんた達も元々は普通の人間だったろうに
残念ね

空亡と氷結地獄両方を掴み

うん…力が高まってる
あたし自身も感じ取れる

【天候】
吹雪に変更
進軍も押しとどめる

命を失い人の未来を滅ぼす宿業を背負った時点であんた達は…「人類の脅威」なのよ
だから…此処で終わらせるわね

氷結…折角鍛えたその力
たっぷりと見せて貰うわよ

【属性攻撃】
氷属性を武器に付与

ユベコ起動
【残像】を残しながら襲い掛かって
【二回攻撃】で切り裂くわ
切り裂かれ尚進むというのであれば
凍らせればいい
元々氷は得意なのよ

あたしは最強の大妖怪
立ちはだかる強者が神であるならばその神をも切り裂く大妖怪よ!

吹雪は続く
血も全て飲み込んで…



●殺神凍剣
 夜風吹き荒ぶ山間の夜は、初秋とて冷える。
 まばらにある平地の一つで、向かってくる敵の一団と相対し、空亡・劔(本当は若い大妖怪・f28419)は敵を視てすいと目を細めた。
 かつてはきっと、あの落武者達とて家族があったことだろう。笑い泣き、その一人一人が人生を過ごしていたはずだ。何故彼らが抗して畜生道に堕ち、オブリビオンとして人を脅かす側に回ることになったのか――それは望んでのことか否かも解らぬ。ただ一つ確かなのは、
「――あんた達も元々は普通の人間だったろうに。残念ね」
 ここで奴らを逃がせば、誰かが泣くことになるということだけだ。
「何が残念なものかよ! 太平となれば我ら戦だけが得意の武人などはお払い箱! ならば災禍を作り出し、その中で永久に踊れば良いと、頭はそう言った!」
「いくら斬ってもいい、いつまででも斬っていていい! おれ達人斬り包丁に、これほど似合いのこともあるまい!」
 劔の声を一笑に付す落武者達。彼らに人だった頃の情動など、既にあるまい。戦こそが自らの居場所だと、それを第一に刷り込まれ、人を殺すための武器に、人斬り包丁に成り下がった戦士達。
 解っていたことだ。彼らは既に、終わらせるしかない存在だと。
 劔は殺人魔剣『空亡・紅』を右手、永久凍剣『二世氷結地獄・極』を左手に掴み、一息に抜剣。掌に伝わってくる力は、かつてのそれと同質ながらより強力になっている。
(力が高まってる。あたし自身も感じ取れる)
 劔は脈打つ二剣の力を感じながら、落武者らに傲然と言い放つ。
「そうやって、命を失ってなお人の未来を滅ぼす宿業を背負った時点であんた達は……『人類の脅威』なのよ。好き勝手はここまで」
 躰をぐっと捻り溜めを作る。敵との距離未だ一〇メートル、斬撃の届く間合いではない。……しかし!
「だから……ここで終わらせるわね」
 劔はそれでも氷結地獄を振り抜いた。世迷い言をと笑う落武者らの顔に、全く不意に、身を裂くような雪風が吹く。
 ――びょおう!!
 風が唸り、顔に当たれば痛いほどの雪粒吹き荒れる!
「なんとぉッ?!」
「時期はずれなっ、」
 それもその筈。俄に吹いた吹雪は劔が放ったものである! 強風に乗って吹き寄せる大粒の雪は顔に痛い。前兆があれば堪えられもしよう、しかしまったく突然のこと! 不意を打たれれば怯み、足も止まる!
 この場に只人はなく、戦舞うは彼奴ら、星の黒点、人類の脅威のみ。ならばこそ、振るう『神殺しの大妖怪』、冴え渡る。
 劔は敵の一瞬の隙を逃さず踏み込んだ。
「氷結……折角鍛えたその力、たっぷりと見せて貰うわよ」
 氷結地獄から生み出した凍気を空亡にも宿し、ジグザグの軌道を描いて襲い掛かる劔。
「洒落臭いわァッ!」
 吹雪に視界を塞がれながら、一人の武者が野太刀を振るった。劔を過たず捉える。しかして残像。本物はその二歩先を駆けている! 斬撃、斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃ッ! 一打一打は決して重くはない、両断したり四肢を全て斬り断ったりとはいかない。しかしその動き凄まじく速く、冷たく、鋭利である。斬り裂かれた落武者らの躰が白く霜吹き、凍って軋む! 腕を斬られたものは手が動かなくなり剣を取り落とし、脚を斬られたものは動きが鈍り立ち止まる!
「ぐわああっ?!」
「つ、冷たい……ッ」
「おのれ、面妖な!!」
「何とでも言えばいいわ。元々氷は得意なのよ――絶雹含、いい仕事だわ。前よりも、ずっと力が伝わりやすい」
 劔は左手にある二世氷結地獄・極の刀身を見下ろした。白い冷気を放つ刃は冴え冴えと、細い月光を照り返す。
 そう、多少の攻撃で倒れずとも、凍らせ、動きを止めてしまえばそれ以上進軍することすら儘ならない。劔の狙いは最初からそこにあった。動きの鈍った敵をさらに斬る、斬る、斬る斬る斬る!!
「――あたしは最強の大妖怪。立ちはだかる強者が神であるならば、その神をも斬り裂く大妖怪よ!」
 誇るが如くに謳う劔を止められる武者はなく。
 飛び散る血も、武者の悲鳴も、全ては白い吹雪の中に呑み込まれていく。
 吹雪は続く。斬られ凍えて折り重なる、武者の骸も覆い隠して。季節外れの白い雪が、氷結地獄の名に相応しく、永海の山を雪化粧――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット


守る為に此処へ来た
守る為にこの刀は生まれた
奴らにこの里は踏み入らせはしないさ
そうだろう?『青凪』。

炎氷削水『青凪』…不思議なんだ。
俺は普段槍で戦う。剣も扱うが、刀となればまた違う。だから馴染むまで自身の身体と刀と互いを慣らすのに難儀すると思っていた。
だが…意外にも、手に馴染む。
あまりこの手に抵抗を感じないのは、この柄につかわれたと聞いたsateenkaariの影響だろうか。
まさかそれも見越していたのか…?
はは、すげぇな。

刀を手にする時の扱い方や理想の動きってのがある筈だ。この刀の初めて相手がアンタらで良かった。俺に教えてくれよ、刀の扱い方ってのを。
そしてこの『青凪』を以て終わらせてやる。



●炎氷削水
 ――守る為に此処へ来た。
 守る為にこの刀は生まれた。
 心鉄に絶雹鉄、そして皮鉄に緋迅鉄を用い、相反するその性質のために、辺りを凍らせることも熱を帯びることもなくなった中庸の刃。注文したものの希望に基づき、炎を鎮める刀として産み落とされたそれは、魂添を“炎氷削水”、刃銘『青凪』という。
 薄蒼、冬の湖水のような冴えた色の刀身をすらり抜き、男――ユヴェン・ポシェット(opaalikivi・f01669)は呟いた。
「奴らにこの里は踏み入らせはしないさ。そうだろう? 『青凪』」
 清かな月光に濡れ、応えるように刀が一度燦めく。
 山間の平地に佇み、敵を待ち受ける構えのユヴェンの耳に、遠くから駆け寄せる敵の一団の音が届く。目を向ければ十人ばかりの武者の一団が、獣道を抜け、ユヴェンのいる平地に踏み込んだところであった。
 先頭の男が特に目を引いた。上等な甲冑に見事な拵えの打刀。体中より立ち上る剣気。ぼおう、と燃え上がる人魂揺れる。後続を制するように手を挙げ、一人前に進み出る。
 張りのある声が夜気を揺らした。
「名のある戦士とお見受けする。刃熊刀賊団、十本槍が三、牙刀・鷹正(がとう・たかまさ)。貴殿に一騎打ちを申し込む。受けぬならば刀を棄て道を空けよ。命までは取るまい」
 身の丈六尺余り、精悍な顔立ちに大振りの打刀。骸の海を経て盗賊に身を窶してはいるが、かつては名のある武士だったのだろう。言葉の端々に、往時の品格が覗く。
 ユヴェンも意表を突かれたふうに目を見開く。――が、すぐに我に返りすうと息をひとつ吸い、頷いた。いずれにせよ、黙って引く択はない。
「ユヴェン・ポシェット。――こういうときは『相手にとって不足なし』って言うんだったか。いいぜ、受けよう」
 迷いないユヴェンの言葉に、鷹正はニイと笑った。兵法者の無骨な笑い。
「心意気や良し。ならば、いざ、尋常に」
 ごお、おうっ!!
 傍に揺れる人魂の炎が蒼白く燃え盛り、抜いた鷹正の刃が同じ炎に染められ燦めく!
「勝負ッ! ――我が鬼火の剣、防げるか!」
 どうっ!! 地面を蹴立てる鷹正! 熱量が伝わってきそうな青い炎揺らし、瞬く間に迫った鷹正がユヴェンに刃を振り下ろす!
 ユヴェンはそれを、翳した青凪で真っ向から受けた。ユヴェンの得手は本来ならば槍や剣。刀など、扱ったこともない。故にその動きは辿々しく――始め、数合を防戦一方で受ける。
 ――だが。
(……意外にも馴染む。まるで、昔から持っていたようだ)
 ユヴェンは内心驚嘆しながら、青凪を振るい鷹正の斬撃を打ち弾き流す。驚愕は鷹正とて同じだ。一手ごとにユヴェンの動きが鋭くなっていくのだから、宜なるかな。
 重量バランス、刀の丈、純粋な質量、柄の巻き具合、目釘の合わせ、さらには糸巻柄の糸に仕込まれた布楯、sateenkaariの存在。
 それら全てが、ユヴェンのため。彼の道行きを護り、敵を討つために考え抜かれ、研ぎ澄まされたもの。その刀は、ユヴェンの腕の延長のように閃く。
「――はは、すげぇな!」
「むうっ、兵法素人のような動きをしたかと思えば瞬く間に速くなる――貴公、何者か!」
「俺はこの里を護りにきただけのただの猟兵だ。――ああ、でも、こう言うのも何だが。アンタらと戦えて良かった――俺に教えてくれよ、刀の扱い方ってのを」
「良く吼えた――ならば受けよ、我が撃剣!!」
 大きく踏み込んでの振り下ろし。宙にばぉうっ!! と蒼白い爆炎を引く一撃を、ユヴェンは片手バック転で避け、しなやかに着地するなり、追撃をかけにきた鷹正の胴薙ぎを青凪で受け、押し返す!
 ユヴェンは一合毎に馴染んでいく青凪の感触に目を細めながら、今度は自分から打ち掛かる。当然防がれるが、防戦一方の戦いのバランスが崩れ始める。
 ユヴェンは吐いた言葉の通り、防戦しながら敵、鷹正の動きを学習していた。歩法、握り手の形、構え、呼吸、間合いの取り方。それこそ、学習することは幾らでもあった。それを即座に噛み砕き応用し、自分の戦法に組み込んでいく。
 打ち合い合わせて三〇合。もはや、ユヴェンは前に出て鷹正の剣を押し返すに到る。ぶつかり合った剣圧が爆ぜ、互いの躰が数メートルずつ押される。
 鷹正は驚愕ながらに、しかし猛者と太刀合うた喜びからか、声を上げ呵々と大笑した。
「何という才か! しかもその刀――我が鬼火ををここまで受けて四方や折れぬとは……!」
「折れないだけじゃねぇ。この刃は炎呑む刀だ。……征くぞ、牙刀! この『青凪』を以て――アンタを終わらせてやる!!」
 ユヴェンは意念を注ぎ込み、踏み込んだ。幾度も炎の斬撃を受けた青凪の肌が潤み、清冽なる水を滲ませる!
 鷹正が目を見開き、対応を考えるように一歩後退った瞬間、ユヴェンは射程外、たっぷり二メートルの間を空けて全力で青凪を振るった。
 ――び、しゅッ!!
 それこそ鞭めいた風切り音。青凪の尖端から水の刃が伸びた。
 炎氷削水『青凪』は熱の動きを水とする護りの刃。いかに苛烈な炎とて、それを吸い水に換え己が力に換えてしまう。撓る水の刃が、鷹正の首と腕、脚を深々引き裂き、斬り飛ばす。
「――おお、御、見事、也」
 発せた言葉はそれで最後。飛んだ四肢と首が地面に転がり、血塵となって崩れ果てる。
 感傷を抱く間も、その潔き散り様に感じ入る間もない。この戦いは、血肉となる。ユヴェンは確かな技前の成長を感じながら、居並ぶ武者共を睨め据えた。
「さあ、次は誰だ。――俺と青凪が、お相手仕る!」
 ユヴェンは未だ水を帯びる刃を正眼に構え、狼狽える落武者らに向き直る!

大成功 🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛

ロゼくん(f01535)と

永海の刀を握ると不思議と気持ちが落ち着きますね
この里を護るために力を貸してくれそうで

高揚もしています
腕が鳴るとはこのことでしょうか
永海の刀、護るために揮わせてもらいましょう

迎え撃つのに適した場を探します
敵の方から来てくれる方が手間がなくていいですよね
ロゼくんと背を合わせ、私は目の前の敵を討ちます

牽制の光閃を放ち、抜けてきた敵には『閃撃』によるカウンターの刺突を
見切り、武器受けからのカウンターを主軸に動きます
極力体力を消費しないよう立ち回りながら、数を減らします

ロゼくんの様子を窺いながら、光閃は多くの敵を巻き込めるよう振るいましょう
まだまだいけますよね、ロゼくん!


ロゼ・ムカイ

織愛ちゃんと行くぜ

今日出会ったばかりの刀だが、妙にしっくりくるぜ
鍛冶屋ってのはすげぇな!
ああ、どれだけ出来るか分からねーが俺だって護ってみせる!

土地勘のある織愛ちゃんの先導で移動しよう。
迎え撃つだけなら俺にでも出来るだろ多分!
背中は任せたぜ!

と意気込んだのは良いが、
ちょっぴり不安なのでオルタナティブダブル!!
来いよ、ロゼリア・レイズ!

もう1人の俺に織愛ちゃんの周囲を任せて俺は刀の試し斬りだ。
お前の力を見せてみろよ悪喰ィ!!

俺は悪喰の力で敵を蹴散らしつつ、
もう1人の俺にはナイフやらフォークの投げで援護してもらう。

いや、こっちは割と疲れてんだけど織愛ちゃん元気すぎねぇか?



●双舞光閃
 里より半刻ほど歩いた平地に、二人の男女が駆け足で差し掛かる。先導は栗毛をしたエルフの女、その後ろを茶の髪に青の瞳が印象的な、長針の男が従う。
 彼らの手にも例に漏れず、永海の妖刀があった。女――三咲・織愛(綾綴・f01585)の手には鎧通し短刀、魂添を“光舞重刃”……『燦星・隕』が。男、ロゼ・ムカイ(社会人3年目・f01535)の手には、魂添“一切貪飲”――刃銘『悪喰』がある。両者、既に共に抜き身。
 既に一度この永海の森に来たことがある織愛が道行きを先導し、ロゼがそれに従い駆ける格好だ。
「永海の刀を握ると不思議と気持ちが落ち着きますね。この里を護るために力を貸してくれそうで」
 駆けながら織愛が歌うように言った。ロゼも応えるように頷き、引っ提げた刀の重みを感じ取るように剣先を揺らす。
「ああ、そーだな。それに今日出会ったばかりの刀だが、妙にしっくりくるぜ。鍛冶屋ってのはすげぇな!」
 悪喰はぴったりとロゼの手に合い、まるで吸い付くかのよう。武器と言えばナイフやフォークなどを常用してきたフードファイターたるロゼだが、それらの馴染み有る感覚と遜色なく、悪喰は彼の手に収まり、食事の時を待っている。
「はい、永海の鍛冶の方はそれはもう、とってもすごいんですよ! ――こんな技を代々継いで、ずっと守ってきた皆さんが、オブリビオンの気紛れで殺されてしまうなんて――絶対に許せません。一緒に守りましょう、ロゼくん」
「ああ! どれだけ出来るか分からねーが、俺だって猟兵だ! 守ってみせるさ!」
 力強いロゼの返答に織愛は頷き、すぐに表情を引き締める。進む彼らの道行きの先、平地の調度反対側から、がさり音立て藪破り、武者の一隊が駆け出る!
「うお、出たっ!」
「ロゼくん、私が先に行きます! 背中を任せました!」
「おう! 迎え撃つだけなら俺にでも出来るぜ――織愛ちゃんの背中は俺が守る!」
 頼もしいロゼの声に背中を押されるように、織愛は地面を靴底で抉りながら急加速! 握った燦星・隕に意念を注ぎ込む! 敵との相対距離三十メートル弱。
「ここから先へは……」
 通常ならば刃が届くはずも無い間合いで、しかし織愛が短刀を振り被る。その剣先に光が集まり、燦星の銘の通りに燦めいた。
「行かせません!! 走れ、光閃っ!!」
 叫びながら、叩きつけるように振るう。刹那、織愛の声に応えるように刀身から光の斬撃――『光閃』、迸る! 込めた意念を光とする烈光鉄に特有の現象。刀身から溢れ出た光が斬撃の形となり、伸びて遠間の敵を斬裂するのだ!
「むうっ!?」
「なんと……?!」
 一人が回避間に合わず正面より真面に斬られ倒れ臥すが、その他の者は目を瞠りつつも潜り抜け飛び越え間髪回避! 敵の統率だった動きが乱れる。元より織愛の狙いはそれだ。遠間から牽制として放ち、敵に隙を作るのが主目的! その隙に全力で走り、織愛は瞬く間に敵との間を詰め、燦星に光を宿したまま敵に襲いかかる!
「はあっ!!」
「う、うおおっ?!」
 短刀に似つかわしくない振り下ろし。敵の得物は打刀である。重さが圧倒的に違う、織愛がいかに速度を乗せようと、短刀での振り下ろしの威力はたかが知れている――
 そう。彼女が持つ短刀がただの短刀なのであれば。
「墜ちてっ、燦星!!」
 織愛が言うなり、ずん!! と燦星の重みが増し、受け止めた落武者の刀を軋ませ押し込む!
「莫ッ、迦なァ……?! 何故斯様に重、い……!?」
 落武者がそれを識ることはない。織愛はそのまま押し切り、今一度切っ先から迸る光で、打刀ごと武者を真っ二つに斬った。
 燦星・隕の心鉄は地鳴鉄製。彼女の意念を注ぎ込めることで、刀身は鉛のように重くなる。攻撃のインパクトに合わせ加重することで、織愛は敵の防御を圧し斬り断ったのである!
「お、おのれ、貴様ァ!!」
 右方にいた武者が即座に反応して斬りかかるも、織愛はそれを閃光めいてステップターン、紙一重で潜り抜け、バックハンドブローめいて逆手に握った燦星で胸を貫き、股までを斬り下げて裂く。カウンターからの残虐なまでに鮮やかな一閃。体幹が裂かれれば人とは歩くもままならぬ。無力化の一手だ!
「いぎゃああっ!?」
「クッ――、囲め、者共ッ! 一人で当たるは愚策ぞ!!」
 圧倒的な織愛の攻勢に驚愕の声が上がるのも一瞬。落武者たちは数を以て織愛を取り囲もうと動くが、
「させるか! ――出番だぜ、来いよ、ロゼリア・レイズ!」
 後方未だ十メートルの間合いを置いて、ロゼが叫ぶ。――同時に一つ飄風が吹く!
『まったく。女性を大勢で囲んで襲うとは、武士が聞いて呆れますね』
 全く突然に、ロゼと全く同じ顔をした青年が闇の中に姿を現したのだ。風と共に織愛の背につき、その両手に鋭いナイフとフォークを合わせて八つ手挟んで敵を睨め回す! ――ユーベルコード、『オルタナティブ・ダブル』! 現れたるはロゼ・ムカイの片割れ――ロゼリア・レイズ!
「任せるぜ!」
『了解しました』
 喚び出したロゼの意に添うように、ロゼリアが織愛と息を合わせ動き出す!


 ナイフとフォークが乱れ飛び、織愛が振るう光閃が周囲の敵を寄せ付けず薙ぐ中、ロゼは抜いた一刀引っ提げて敵に突撃。底知れぬ刃の性能、いかなるものか。ロゼは握り締めた刃に語りかけるように吼える。
「さぁ――食い放題だぜ。お前の力を見せてみろよ悪喰ィ!!」
 フードファイターたる己の似姿、喰えば喰うほど強くなるものとして作られた刃を翳し、ロゼリアと織愛の攻勢にたじろぐ敵目掛け側撃をかける。
「――!!」
 反射的に避けようと身を捩る落武者に、ロゼはもう一歩だけ踏み込んだ。合わせて上段一閃! 一撃の下に斬首、首がまるでジョークのように飛ぶ。――首を失ってもまだ動くという前説明に反し、ロゼに斬られた落武者はそのまま倒れ臥し痙攣。
 それに伴いずん、と。ロゼの手の中で、悪喰の重さが増す。
「――ハ、なるほどこいつは――悪喰って名前が付いてるだけのことあるぜ!」
 一切貪飲、悪喰。この刀はその名に相応しく、心鉄に据えられた特殊な配合の屠霊鉄により敵の魂を喰らい捕り篭める性質を持っている。更には捕り篭めた敵の魂を燃やし、皮鉄である烈光鉄に通すことで、それを織愛が持つ燦星・隕同様の『光閃』として放つことが可能である。
「おのれッ、ただで済むと思うな……!!」
 落武者が更に二体、ロゼ目掛け反撃に出る。ロゼは二名から立て続けに振るわれる剣先を身を捌き回避、バック宙しざまの斬り上げで一体の顎から頭にかけてを割る。ぎゃあ、と言う声もなく崩れ落ちる敵を一顧だにせず、着地と同時に身を縮めてもう一体の斬撃を潜り、伸び上がるような突きで首を貫く。
 倒せば倒すほど悪喰は重くなる。どこまで重くなるのか、薄ら寒いものを感じつつ、ロゼは織愛に目配せを向けた。目敏く認めた織愛が頷き一つを返すなり、ロゼは織愛に向けて駆け出す。
 織愛もまたそれに倣った。ロゼリアが高々と跳躍し樹上に退避。織愛とロゼはそのまま吸い寄せ合うように交錯!
 織愛はロゼを追う敵を、ロゼは織愛を追う敵を視界に捉え剣先を引く!

「「斬り裂け、」」
「悪喰!」「燦星っ!!」

 声が重なり、光閃が唸った。
 駆け寄せ合い、擦れ違いざまに攻撃対象をスイッチ、同時に放たれる光閃が前後に吹き荒れ、全く同時に合わせて十名ばかりを上下に断裂する!!
「な、なんという……!」
 驚愕にたじろぎ狼狽える落武者らを前に、織愛が燦星を一振り。
「まだまだいけますよね、ロゼくん! どんどんやりますよ……!」
「ウッソだろ!? あー息が切れる! こっちは割と疲れてんだけど織愛ちゃん元気すぎねぇか……!?」
『女性ばかりに働かせるものではありませんよ。僕も手伝います、もう一踏ん張りといきましょう』
「わぁったよ、畜生!」
 樹上から響くロゼリアの声に悪態をつきながらも呼吸を整え、ロゼは構えを新たにした。
 次々襲う戦鬼共に、今一度、二人と一人が戦舞う――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
──ええ。
此処までの技を継ぐ永海の里、むざむざ蹂躙させてたまるものですか。

とはいえ、若い刀達が故郷の為にと張り切っていますから。
ぽっと出のお婆ちゃんがはしゃぎ倒すのも悪いですね。
此度は支援に徹しましょう。

おいで、【神遊銀朱】。
刀の匂いにつられるなら、鼻先に突き付けて差し上げます。
鬼さんこちら、刃の生る方へ。
求むるいくさばは此方に御座いますれば──
ほら、足元不如意。
足が無くなれば進みも戻るも踏ん張りもできないでしょう。
後続を留める生垣になってくださいな。

それでも衰えぬ気勢……生前はさぞ大暴れしたのでしょうね。
ですが、研ぎ直した『わたくし』の鋭きに断てぬものではなし。
いざ、黄泉路を下るときですよ。



●神遊銀朱
 グリモア猟兵は言った。座して待てば、里は滅ぶと。
 その言葉に応じ、数々の猟兵が永海の里に参じた。彼女、穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)もその一人。
 いくさとなる前に彼女は自身の真体である刀、『結ノ太刀』の研ぎ直しを申し出、そしてその願いは補修工房が総代、永海・靱鉢の手によって叶えられた。
 周りの猟兵のように派手な強化を頼んだ訳ではない。永海の技術を用いた訳ではない、ただの研ぎ直しである。
 しかし、清かな夜気にしゃん、と、鈴の鳴るような音を立て、神楽耶が鞘を払えば、かすかな月光にきらり煌めく刃の光。
 丁寧に研ぎ上げられ、美しく磨き上げられた刃には傷一つない。刀の事を愛さねば、こうも美しくは研ぎ上げられまい。そのくせ、ただ闇雲に光るまで研いだというわけでもない。過度に研ぎ減らす事は刀の命を削る事だと、この里の職人達は十分にわきまえている。
「――ええ。此処までの技を継ぐ永海の里、むざむざ蹂躙させてたまるものですか」
 刀として生を受け六百余年。こうも刀と向き合う刀匠の里と出会ったことは、そうはない。仮に技がなかろうと無辜の人々が襲われるとあれば助力を惜しまぬ神楽耶ではあったが、この美技を見てはなお気が入ろうというものである。
「――とはいえ、若い刀達が故郷の為にと張り切っていますから。ぽっと出のお婆ちゃんがはしゃぎ倒すのも悪いですね」
 少女そのものの容姿で可憐に笑うと、神楽耶はとんと地を蹴って、森を疾駆する。木から木を蹴り渡り、ことさら高い木の枝を蹴り上っては森を見下ろし、敵の集団が通る道を見極める。
 落武者らの身体能力は人間とはかけ離れているとはいえ、いくら彼らも完全に道のない山を効率よく疲れなく駆け上るとは行かぬらしい。彼らの道は獣道に限定される。
 獣道はそれこそ無数とあるが、敵の侵攻を押しとどめるならば広い道を潰すが最良。即座に判断を下せば、神楽耶は手近な広い道に枝を飛び走り、通りがかった敵の一団の前に鋭く降り立つ。
「むうっ?!」
「何かと思えば――生き残りから聞き及んでおるぞ、さては貴様、永海の手の者だな!!」
 突如樹上から
「ふふ、答える義理はございません。さあさ、鬼さんこちら、刃の生る方へ。求むるいくさばは此方に御座いますれば」
「笑止! まずは貴様から斬って捨ててくれる!!」
 落武者どもの気勢たるや並々ならぬ。
 即座に神楽耶めがけて突撃してくる者が七名ばかり。その後ろにはまだ二〇人ばかりが詰めている。これを真っ向一気に相手にするのはさすがの神楽耶といえど骨が折れるだろう。
 ならばどうするのか。相手にせねばいい。神楽耶は口元を手で隠し、くすりと笑って飛び退いた。
「刀の匂いにつられて来るというのなら、鼻先に突きつけて差し上げましょう。おいで、『神遊銀朱』」
 神楽耶は詠うように言い、ユーベルコードを起動! ひゅんと結ノ太刀を差し向ければ、銀の風がびゅうと吹いた。――しかしそれだけ。銀の光を孕んだ風が一過して、身構えた落武者らを撫でただけ――
「ぬっ!?」
「ただの目眩ましかッ、小賢しい真似を!」
 一瞬足を止めた落武者らが再び襲いかかろうとした矢先、
「足下不如意」
 神楽耶は鈴を転がすように笑った。その刹那、無数の銀の刃が落武者らの足下に凝り、彼らの足を刈り、あるいは貫いて地面に縫い止める!!
「ぐわあっ!?」「ぎゃあっ!!」
 痛みに呻く声が唱和する。ユーベルコード、『神遊銀朱』。複製された刃を飛ばすだけのユーベルコードだが、刃として結実する前の銀風を囮にし、足下から注意を逸らしての時間差発動により多勢を捉えた!
 此度の戦、決して敵の五体をばらばらにする必要はない。足を刈り動きを止めてしまえば、進むも戻るも踏ん張るも出来ない。故に、ただそれだけでいいのだ。
「ここでただの生垣になって頂きましょう」
「うっぐ、おッ、この、程度ォォッ!!」
 それでも勇壮なものが数体、勢い任せに神遊銀朱の刃を足から抜き、跳ね駆け、神楽耶をめがけて襲いかかる。動けるならば痛みを恐れず戦うその気勢、生前はさぞ名のある武士だったのだろう。
 ――しかしてその気勢でも、断てぬものがある。
「あなた方がひとの子らを害するというのならば、わたくしは容赦しません。――永海の民が研ぎ直した我が刃に、断てぬ物なし」
 身を撓め、飛び込んだ。低姿勢から襲いかかり、痛みで大ぶりになった敵の刃をまるで舞うように抜けて、身体の回転を乗せた刃を擦れ違い様に叩き込む!! 
 襲った三名に、一撃ずつ。銀孤が三つ走って、血振りをくれる神楽耶の後ろ、六つの肉塊が臥す音がする。
「――なお手向かうならば、いいでしょう。黄泉路を下るときですよ」
 息を呑む敵勢に、神楽耶は声も鋭く謳うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
【絶刀】ヒバリさん/f15821
義兄様と呼んであげましょうか。絶対に嫌です。

あれらがただの死に損ないなら、刀の介錯をしてやる者も必要かと考えていました。
打ち合うには十分な相手らしい。
楽しくともあまり長引かせてはだめですよ。

言い含めてから《闇に紛れて》獣道へ向かいます。
連携は…今はいいですね。
だって正々堂々なんてご冗談でしょう。
アレを正面から二人も三人も相手できるのは背丈か得物のデカい奴かいくさバカです。

…女を上げましたね。
おまえが餓えたガキについてきたわけは知りませんが、
【神業・静嵐】。
――後悔させた覚えは、一度たりともありません。
世界で一番綺麗なおまえを、一番綺麗に揮ってあげます。


鸙野・灰二
【絶刀】夕立/f14904
呼んでも構わんぞ。俺も義弟と呼んでやろう。

奴ら、死に返ッて戦いを望むとは大層な戦狂いじゃアないか。
よく死んだ。俺達が殺して遣る。
ちいとばかし遅くなるかも知れんが、なに、追い付くさ。

夕立と別れ逆方向へ向かう。死合うなら開けた場所の方が良い。
―― そら「兄弟」。敵は此処に居るぞ。
抜いた斬丸で《先制攻撃》。返す刀で《切り込み》真ッ向から迎え撃つ。
二人も三人も同時に来るなら、一人ずつお相手願おう。

【刃我・相闘】
正々堂々、一騎討ちと行こうじゃアないか。
余所見も不意打ちも無しだ。良いだろう?
永海の里に行きたけりゃ、俺達を斬ッてから行けよ。



●絶刀
 ところは山中に開けた広場。二人の男の話し声が響いていた。
「どうやら、名実ともに血を分けてしまったわけですが」
「おう。どうやらそうらしいな。裡から力が込み上げるようだ。成る程、斬丸が喜ぶ訳だな」
「刀の身からするとそういう風に感じるんですね。雷花も今頃、喜んでいるんでしょうか」
        ほんにん
「さてな。それは 本刃 に聞いてくれ」
「そうします。……しかし、血の縁ですか――義兄様と呼んであげましょうか」
「呼んでも構わんぞ。俺も義弟と呼んでやろう」
「ウソですよ。絶対に嫌です」
「なンだ、つれないことを言う。――さて。冗句はここまでだ。奴ら、死に返ッてまで戦いを望むとは大層な戦狂いじゃアないか」
「ただの死に損ないなら、刀の介錯をしてやる者も必要かと考えていましたが――どうやら打ち合うには十分な相手のようです。楽しくともあまり長引かせてはだめですよ、ヒバリさん」
「おう。ちいとばかり遅くなるかもしれんが――なに、追いつくさ。そッちは任せるぞ、夕立」
「委細承知しました」
 ザッ、
 鈍色髪の男のそばから、影が一つ、跳躍打って忽然と消える。残るは身の丈六尺あまり、緑の瞳を光らせた大男。迫るいくさの予感に、浮き立つ心を静めつつ、二本の刀を手に抜いた。
 右手。魂添“修羅閃刀”『鸙野・絶』。
 左手。魂添“修羅鋭刃”『斬丸・絶』。
 絶つ刃の担い手。その偉丈夫は名を鸙野・灰二(宿り我身・f15821)という。
「そら、『兄弟』。敵が来るぞ」
 ――おう、おう、待った! 待ちかねたぜ、兄弟!! 強えかな、恐ろしい奴が来るんだろうなあ、そいつを斬ってもう一段と、斬れる刃金になりてえなあ!!
 左手の斬丸が、灰二にはしゃぐように言う。波長が近い灰二にのみ聞こえる声で、彼はそうして時折語りかけてくる。ヒトの手を渡り歩き、あまりに多くを斬った故、物の怪になりかけているのだ。
「見繕おうとも。奴らにも粒の大小がある。――来たな」
 灰二が正面に視線をやると、藪の中から獣道を来たとおぼしき敵の一団が顔を出す。藪を蹴散らす益荒男どもの中でも、先頭の男が一際目を引いた。七尺はある大男。野太刀を片手にひっさげ、苦もなく振り回してみせる。
 彼ら一人につき一つ、間近に浮かんだ青白い炎。人魂。黄泉の国から立ち戻った、奴らは剣の亡霊だ。死んでなお、殺すために夜に太刀戻った。灰二は笑う。

 斬りたくて揮いたくて、仕方がなかったんだろう。
 俺もだ。

 二刀にて無双の構えを取り、灰二は唇を一嘗め、低い声で敵に語る。
「よく死んだ。俺達が殺して遣る。鸙野・灰二、尋常に勝負を申し込む」
「刃熊刀賊団十本槍が二、鎗田・豪次(やりた・ごうじ)。匂う、匂うなあ。死合い好きの匂いがする」
 いいだろう、と言わんばかりに、大男が名乗った。ずいと進み出る。周囲の武者すべてが勝負を譲ったとばかりに数歩退くが、
「止まるな走れ、この死合い見世物にあらず! 俺が追いつく前に、里の門を開けておけ!!」
 豪次の胴間声に打たれたように、すぐにまた走り出した。武者総勢二〇名が地面蹴立てて走れば、まるで地が小揺るぐようだ。
 十本槍を名乗るからには、精鋭の武者を率いるに足る力があるのだろう。体躯とその威圧感からしても、一人にして武者多数に匹敵する力があると思わせる。
 丁度よかッた。一針目から、でかい獲物が掛かッたらしい。
「余所見も不意打ちも無しだ。この剣、『斬丸』――そして『鸙野』と死合って呉れよ。正々堂々、一騎打ちと行こうじゃアないか。永海の里に行きたけりゃ、俺を斬ッてから行けよ」
 灰二はすでにユーベルコードを使用している。『刃我・相闘』。敵の心理に作用し、一騎打ちを望む感情を与えるユーベルコードだ。元より武人としてのプライドを色濃く残していそうな強者となれば、灰二の声に応える目算は高くなる。
 果たして豪次は応えて、野太刀を八相に構えた。
「是非もない。いざ、尋常に!!」
 答えを聞いて満足げに笑えば、
「応。――勝負!」
 灰二は踏み込んだ。細かい理屈は抜きだ。もうこの瞬間には、あの群れ一番の強者と打ち合うことしか考えていない。
 縮地めいた踏み込み。先手は灰二が取った。斬丸を真っ向から振り下ろす。豪次が野太刀で受ける。空いた脇腹を鸙野で狙いに行く灰二。豪次は小太刀を逆手抜刀し鸙野を真っ向受ける。刹那の押し合い鍔競りあいとなったその刹那、
 ギチ、ギチチギちちィッ!!
 刃を咬む音! 灰二が眉を顰め噛み合った刃に目をやれば、敵の野太刀と小太刀の刃先に、細かい光の鋸刃が高速で走っている。例えるならばまるでチェーンソーだ。
 豪次が笑う!
「掛かったな、鸙野! 我が力は『破刃』!! 打ち合った刃を噛み裂き砕く魔性の剣よ! 貴様の刀は我が刃の前に喰われ荒らされ砕ける定めッ!」
「――」
「砕ける定めの刃で我にどう挑む、鸙野ォッ!!」
「どうも何も」
 刃荒れるような音を聞きながら、灰二はしかし笑った。
「器用な真似は出来ねえ。なら、何時もの通りに、踏み越えるしかなかろうさ」
 灰二は踏み出し圧し払うように敵の身体を押した。豪次が目を見開く。
「莫迦な、破刃相手に踏み込むは刃の命を縮めるようなものぞ!?」
「生憎、俺たちは、死ぬよりも振られん方が恐ろしい質でな」
 ぎうんっ!! 押し込み払い、突き放して鍔迫り合いを解除!! 踏み込み、打ち込む、打ち込む、打ち込む! 一打ごとに光と火花が飛び散り、激音と共に豪次の野太刀が歪む!!
「有り得んっ、死を恐れぬのは我らばかりではないというのか!!」
 蹈鞴を踏んだ豪次が、大振りの一撃を引いた瞬間に、
「死合いの最中に余計なことを考えるなよ、」
 灰二が今一度、縮地めいて踏み込んだ。
「――!!」
 驚愕に目を見開く豪次に、大上段。天雷が二閃。
 右の鸙野、左の斬丸が上から下へ平行の剣閃を描き、受け太刀に回った豪次の破刃を三つに叩き斬って、その両腕を斬り飛ばした。腕が地に落ちる前に、
「余所見は無しだと言っただろ?」
 身を廻しての鸙野の胴一閃が、豪次の胴を上下二つに断ち割ッた。口から血を迸らせ、末期の言葉もなく倒れる豪次に背を向け、灰二は刃より血振りを一つ。
 ――恐るべきはその技もさることながら、修羅の刃二振り。
 破刃を受けたその刃は――
 割れ欠けただの一つもなく、月下に冴えて燦めいている。


 灰二を背後の豪次に任せ、先に急いだ一味、その数二十名が獣道に入ってしばらく。
 その横手を、物音も立てずに影が這い追っている。絶刀の鸙野・灰二が戦場に現れたならば、その男もまたどこかにあるのは必定。
 木より木を音も無く飛び駆けながら、矢来・夕立(影・f14904)は機を伺う。
 敵は何れ劣らぬ刃熊刀賊団とやらの精鋭。灰二が相手取ったものはその精鋭の中の更に精鋭。正面からあんなものを二人も三人も相手に出来るのは、背丈か得物がデカいか、或いはいくさバカ、戦狂いの連中だけだ。
 そして生憎夕立は、正面から戦うのが嫌いであった。隠れて刺せば済むものを、姿を晒して名乗りを上げて、真っ正面から斬った張ったなど、ガラでもないにも程がある。
 矢来・夕立は『紙忍』。現代の戦場に生きるしのびである。
 義侠道徳クソ食らえの、暴力効率至上主義。名乗ってなんぼの武侠浪漫を、せせら笑って踏み倒す。彼が得意と頼みにするのは、虚言嘘吐き暗殺奇襲、駄目押し一手のだまし討ち。
 そもそもだ。武家が勝手に決めたルールを、勝手に破って何が悪い?
 そういうわけで、夕立は先ほどの灰二との会敵で張った敵の気が緩んだ瞬間を見計らって、闇の中で刃を抜いた。名乗らないしここにいるなどと教えてやらない。必要もない。
 どうせ、一人残らず殺すのだ。
 刃に意念を注ぎ込む。五つ、猶予を。
 手にした刃は、魂添“迅雷華絶”、脇指――刃銘『雷花・旋』。永海・鉄観が作、斬魔鉄に返し斬魔含。鍔に挿げられた飄嵐鉄が、注いだ意念に従って、夕立の動きを加速する。
 ぎらり、雷花の刃紋が赤く、揺らめくように流れた。それは女が表情を笑みから酷薄の相に移すような、滑らかで背筋の冷えるような、不気味な揺らめきであった。余りに美しく、余りに鋭く、余りに危険な刃。
 迅きこと雷の如く。華閃疾り敵を絶やす。故に魂添、迅雷華絶。
 ――ああ。女を上げましたね、雷花。おまえが餓えたガキに付いてきたわけは知りませんが――それを後悔させた覚えは、一度たりともありません。
 夕立は木を蹴った。恐ろしいほど軽く小さな足音と共に、かれはまるで人間では無く、ましらかけもののような軌道を描いて駆ける。
 闇の中、輝く夕立の赤き目と、紅く輝く雷花のいろが、それこそかみなりのようにジグザグに宙を裂き、全く突然に落武者の一団を、横より雷霆として打った。
「――っ!?」
 第六感めいて夕立の方を見た男がまず、首と足を片方斬り飛ばされて地面に転んだ。転んだ後で、もう片足も取れた。刃が走るのが速すぎて、斬れたことに気付かなかったように。息を呑もうとしたその後ろ二人だが、息は入っていかない。出て行くだけだ。何せもう首が飛んでいる。疾い。いや、疾いという言葉ではそれはもう、表現しきれていない。
 そこに何かがいる、ということを武者達とて理解はしている。だが、『認識できない』。知覚外の速度、認識を盗まれている。
 ――飄嵐鉄の鍔と、雷花の切れ味に、忍びの絶技が重なったとき。矢来・夕立はあらゆる敵の認識外に至る。

 これぞ名付けて、『神業・静嵐』。

 落武者らは、言葉を発する前に悉く喉を、脚を断たれ、まるで関節の砕けた模型のように立て続けに倒れていく。噴き出す血の滴が花吹雪めいて闇に舞う。
 持続時間は上限五秒。静嵐止むまであと二秒。
 残敵六。殺す。
 今一度跳びながら、夕立は囁く。
 ――今も、昔も、これからも。世界で一番綺麗なおまえを、一番綺麗に揮ってあげます。
 静嵐が闇の中に今一度吹き荒れる。夕立の睦言は闇にかそけく。
 聞いていたのは、紅に掠れる刃紋を揺らす、世界に一つの佳刃のみ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真守・有栖


綺麗な月

呆と仰げば、滾る本能
迫る夜行に輝刃を剥き

ふーん???たっくさんいるわね?わらわらじゃないの!?
いいわ。かかってらっしゃい!
“真守・有栖”が受けて、立つ…!

威風狼々と名乗り
真っ向から
渾身を以て、立ち振る舞うわ

潰えども消えぬ骸の怨念
憑きて果てぬは狼の欲念

思念渦巻く戦場

脳裏に過るは鎚を振るう、老いた腕(かいな)

意念(やいば)を、打つわ

滾る熱を裡に込め
振るうたび、研ぎ澄ます
群がる無念を一身に受け
一心にて断ち

怨念纏いし武士(もののふ)見据え

刀に捧げた刃生
残念なく、無念なく

この一刀にて
美事に散らせて魅せる

…参る


光刃、一閃


えぇ、此れなるは『月喰・狼』
月を喰らいて終いに至る

“わたし”の“やいば”よ!



●月下戦吼
 鋭く、刺さりそうな弧月。
 天にただ孤独に、雲に隠されることも無く佇む青き煌めき。
「――綺麗な月」
 仰いだ天に、けれど今日はまだ酔うことはない。 山間の平地。月から見下ろせばよく見えるであろうそこで、少女は天を仰いでいた。今はもうそこかしこで剣戟と争う声が飛び交っている。この永海の山、全体が戦場となっているのだ。
 目を閉じる。視界を閉じて感覚を研ぎ澄ませば、近い者なら敵の気配も読み取れた。
 しばしの沈黙。近づく気配を感じ、少女の狼耳が跳ねる。正面、藪むこうの獣道より、迫る敵数、十余り。一部隊と言ったところか。接敵まで、約一〇秒。
「来たわね」
 いくさの予感に、調息。ゆるりと目を開く。
 予測の通り、藪を割って飛び出した万鬼夜行を真っ向見据えて、少女はにいと笑った。
「ふーん??? たっっっくさんいるわね? わらわらじゃないの!」
 滾る本能もそのままに。
       キバ
 鞘を払って、輝刃を剥く。
 少女の名は、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)。そしてその唯一なる輝刃は、月を喰らうと目された、『九代永海』永海・鍛座が最高傑作。
 魂添“月下戦吼”。刃銘を『月喰・狼』!
「いいわ、かかってらっしゃい! この、“真守・有栖”が受けて、断つ……!」
 名乗りは威風『狼々』と。姿を隠すつもりもない。身体を捲き、腰を落とし、霞構えにて真っ向迎え撃つ。渾身以ての太刀振る舞い! 今までずっとそうしてきた、いかなる強敵と戦う際も!
「ぬうッ……! ただならぬ剣気!」
「めのことはいえ油断はするな!!」
 有栖が相対した敵の群れは、どうやら有栖の持つ覇気と剣気を過たず見定めたらしい。おのおのが即座に抜剣、立ち止まった数体が弓に持ち替えて矢を番える!

 潰えども消えぬ骸の怨念。
 憑きて果てぬは狼の欲念。
 思念相渦巻いて煙る戦場。

「一挙に掛かれっ!!」
 敵の号令。まずは矢が放たれた。落武者らの射の腕、凄絶なり。瞬く間に雨のごとくに降り注ぐ矢の連射の中を、有栖は鋭い歩法にて地を蹴り進む。矢を掻い潜り、斬り払い、打ち弾いてなお前に出る。
 戦いの中、脳裏を過るは鎚を振るう、老いた腕。月喰を最期の作として、刀を打つのを止めるつもりだったと鍛座は有栖に言った。
 もとより、限界だったのだという。腕は老い、細り、鎚を持つことすらままならなくなっていく。刀の匂いも、近頃は気を尖らせねば解らない。おそらくは、才が鋭春へと移ったのだろう、と鍛座は語った。老いて役を果たせなくなれば、己はただ消えゆくのみと。
 ただ、それでも。難儀しながら鎚を持ち、それでも月喰だけはと、己が最期の作と決めた輝刃を、有栖のために、己の今生最強の作として仕立て直したいと、彼は言ったのだ。
 美狼の剣士は、かの老鍛冶が、命を削って仕立てる刃を、間近で見守った。打ち上がるまでの十数時間を、ただ、一言も交わすことなく。一挙手一投足を目に焼き付けるように、見つめ続けた。

 そして今、月喰は有栖の手の中にある。

      やいば
 ――月喰。意 念を打つわ。

 有栖が強く念ずるなり、月喰が煌めいた。紫水晶の眼でそれを見て取るなり、有栖は心の内にある熱をすべて刃に込める。この狼の輝刃を今生最期の作と決めた老鍛治に応えるべく。里で震える、すべての民の目にこのきらめきが届けばいいと祈りながら。
「死ねえっ!!」
 痛罵と共に振り下ろされる一閃を受け弾く。飛び退く。追撃が来る。複数人での、打っては横に逃れる波状攻撃。それはさながら無念の群がるさまを見るようだ。弾く、流す、打ち返す、下がって避ける。
 ああ、彼奴らとてこうして刀賊に身を窶すため生まれてきた訳ではなかったろう。剣で身を立て生きて行くべく、研ぎ澄ましてきたのだろう。成らなかったが、かれらとてかつて熱を持って、刃生を刀に捧げたのだ。
 その熱も。残念も無念も。すべてこの一刀にて、美事に散らせて魅せようぞ。

 武者がこれには勝てぬと笑って終われるような。
 鍛座がこれこそが至上と笑って終われるような。

 無窮の一刀。今正に。

「参る」

 ぎゃ、うんッ!!
 旋風。身を翻した有栖が一転しながら後退、一歩で七メートルを下がりながら四五〇°回転。甲高い納刀の鍔鳴り。――っキンッ!!
 前の敵に背を見せるほどに身体をひねり、深く腰を落とし、息を鋭く吸う。遠吠えを絞り出す前の一瞬ほどに深く深く深く。込めた意念を、鞘の中で炸裂するイメージを抱く。
「下がったとて無駄よォ!!」
「膾切りにしてくれる――!」
 すかさずの追撃が来る。だがもはや、意にも介さぬ。
 世界の音が止まる。時が鈍る。敵の動きが泥のように遅く。ただ、光高まる刃の鼓動だけが、有栖の感覚のすべてとなる。


“九代永海” 永海・鍛座 終作
 烈光鉄 純打
 返し烈光含 鞘内烈光箔仕上 
 刃渡 二尺二寸五分
 魂添 “月下戦吼”――裏刻“月華閃光”


「此れなるは刃銘、『月喰・狼』」


 有栖が腰の身体のひねりを解き放ち、刀身鞘走ると同時に、閃光散った。ほんのわずか一瞬。しかし、霹靂めいて意念の刃は涯てに届く。
 斬れた。斬撃の延長線上のすべてが。武者一〇余名が、軌道上の木立が、抵抗すら赦されず上下に鋭断されて、地に落ちた。
 刀身から光爆ぜ、鞘の内圧上がり、射出されるその刀身を、己が抜刀術に完全なタイミングで乗せたときに生み出される、涯てを裂く刹那の光。
 烈光鉄により生み出される奇跡、『光閃』。その極致――『雲斬』。天に向ければ、屹度彼方の雲が割けた。手応えがそう言っている。

「月を喰らいて終いに至る。――“わたし”の“やいば”よ!!」

 有栖は刀を納め、断たれ呻く落武者を踏み越え進む。
 心は一つ。この光にて――里を脅かす悪鬼を討つ!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネグル・ギュネス

里人達よ、此処は退け
アンタらは最後の砦だ、帰る場所を護ってもらわにゃならねぇ
こっからは任せろ

──あ?独りで大丈夫かって?
敵が十あろうと、百いようと関係無い
全て滅するのみ

襲来すれば、殺気を放ち怯ませようとはさながら、光の斬線にて鎧を無視する剣を放つ
複数群れれば斬線を飛ばし、孤立すれば斬り捨てる
走り込み、見切り、そして首を刈り取る
次は貴様らだと宣言するように、見せつけるように切り込む

独りでも負けはしない
我は怨敵の希望を塗り潰す黒
我は仇為す存在を灼く名を持つ者

諸余怨敵・皆悉摧滅!
破魔の力よ、稲妻となりて戦場を照らせ

これこそが悪鬼を灼き、人々の光となる一閃だ
目に焼き付けながら、地獄に還るが良い!



●天花一条
 猟兵達は奮戦していた。驚異的な働きと言っていいだろう。全方位、獣道だらけの山を登り、物量に任せ襲い来る敵の群れを倒して倒して倒しまくり――事ここに至るまで、里の人的被害をゼロに押さえているのは、善戦を通り越して異常な事態であった。オブリビオンからすれば何故落とせぬと歯噛みするような事態である。
 しかして永海の里、南門より百メートル地点。事ここに至り、初めて永海の人間に被害が出た。襲い来た落武者の一軍と真面に正面からぶつかり合った神楯衆に重傷者が出たのである。
 飛鉄衆の者達が飛鉄に弾丸を装填する間の突撃を受け、援護を受けられないまま奮戦した数名が、ついに斬撃をまともに受けた。一角崩れれば瞬く間に押され、防御ラインが崩れかかる。
「押せ押せ押せェ!! 所詮はただの人間、一人二人殺せば意気も挫けようぞ!!」
 哄笑しながら襲いかかる落武者どもの士気は高く――正にその言葉の通りになろうかと思われた瞬間のこと。
「させるか。――それをさせないために、私達はここに来たッ!!」
 神楯衆の後背より、高々と跳んだ灰髪の男がいた。――ネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)である。
 その手にあるのは二刀が組み合わさって一刀を成した、大ぶりの機工刀。常人では持ち上げることもままなるまいそれを、ネグルはいともたやすく持ち上げて振りかぶる。
「放て、裂空!!」
 吼えると同時に間合いの外での斬撃。届く訳のない斬撃はしかし、その切っ先から迸る光の刃により致命の一撃となる。――放つは『光閃』! 込めた意念が光の刃となって敵を討つ、烈光鉄の権能である!
「うおおっ?!」
「なんとっ!!」
 落武者達が泡を食い、慌てて飛び退く。ネグルはそのまま神楯衆の防御ラインを飛び越えて着地、機工刀『裂空』を敵に差し向け、敵を睨む。
「りょ、猟兵殿……?」
「すまない、待たせた。里人達よ、此処は退け。アンタらは最後の砦だ、帰る場所を護ってもらわにゃならねぇ。こっからは任せろ」
 ネグルの言葉に「しかし!」と反駁する者が数名。
「いかに猟兵どのとて屈強の刃熊刀賊団を相手に単身では……!」
 心底から案ずるような調子で言う神楯衆の若者達に、ネグルは好ましいものを感じながらもしかし、覇気にじませて応える。
「心配無用。敵が十あろうと、百いようと関係無い。全て滅するのみ。独りでも負けはしない。――我は怨敵の希望を塗り潰す黒にして、我は仇為す存在を灼く名を持つ者」
 ごう、と殺気が荒れた。
 会話の隙に踏み込もうとした落武者数名の足が止まる。
 寄らば斬る、鬼気に迫る殺気をにじませて、ネグルは腰を落としゆらりと構えをとった。
「行ってくれ。アンタらを里に帰すために、殿を担いに来たんだ」
 ネグルの祈るような声。こうまで言われては、神楯衆もなにも言えぬ。口々に感謝の言葉を述べ、後方の飛鉄衆を伴い撤退に掛かる。
「みすみす逃がすものかよォ!!」
 しかし敵の目の前で背を向けて逃げれば、それは当然追撃を煽るようなものだ。ネグルの鬼気すら踏み越えて、数体の落武者が神楯衆を追撃すべく駆け出すが、
「――おい。誰の許可を得てこの道を通ろうとしてるんだ」
 それを赦すネグルではない。
 即座に踏み込んだ。三体ばかりが群れて走るところを、切っ先から光の刃、光閃を飛ばして真一文字に斬裂。孤立した者は飛び込み、迎え撃つように振るわれた太刀を弾いて敵の身体を泳がせ、産まれた隙に一閃をねじ込んでまた一殺。浮き足だった敵が守りに入れば、今度は積極的に踏み込んで攻撃を加える。
 その攻撃は四肢を飛ばすなどという生易しいものではない。腕ごと胴を真っ二つ、頭を潰して股下まで唐竹割り。『次は貴様だ』と見せつけるような必殺の一撃を、立て続けに放って鬼神のごとく暴れ回る!
「ぬ、うおッ――?!」
「なんたる戦……羅刹のごとき様よ!」
「諸余怨敵・皆悉摧滅! 破魔の力よ、稲妻となりて戦場を照らせ……!!」
 裂空の刃に光が、そしてネグルの力たる破魔の雷光が集う! スパークを上げ燐光を帯びた機工刀が、ネグルの声に応えるように高音できぃんと哭く!
「これこそが悪鬼を灼き、人々の光となる一閃だ!! 目に焼き付けながら、地獄に還るが良い!!」
 ネグルは吼えるなり、残る敵七名に向け、光閃に破魔の雷を乗せて放った。
 剣の先より迸る光の刃が伸び、破魔の雷光帯びて蒼白く赫く。断った落武者の霊核までをも破魔の雷にて灼き尽くし、その身体をたちどころに崩壊させる――次々、爆ぜるように、声もなく赤き塵となって散る落武者達。
 ネグルは即座に道の先に向き直る。次の一団が来る。ここはもはや激戦区、ひとときたりとて油断は出来ぬ!
 しかし、
「上等だ。千でも万でも持ってこい。一体残らず、叩き斬ってやる……!!」
 意気軒昂なり!
 たとえどれほどの群勢が来ようとも――裂空手にあり心折れぬ限り、ネグルに敵などありはしない!
 襲い来る群勢に向け、今ひとたび、ネグルは吼えて突撃する!

大成功 🔵​🔵​🔵​

玉ノ井・狐狛


さて、仕事の時間だ
下見は済んでらァ、配置に悩む必要はない
※戦場:刀を振るに不自由ない場所、解釈お任せ

隠れるでもなく、ごろつきどもを待ち構える
正面からの立ち会いなんざ普段はやらねぇが、今回はコイツ(得物)の馴らしもあるんでな
※刀術:実戦志向の古流いくつかを混ぜたイメージ

――あァ、そうそう
わざわざ準備期間をくれといて、やったのが下見だけってワケもない
►八卦などを用いた罠
さらに►紗を用いた三次元動作、霊力などを逐次投入

おっと、そろそろタネも割れてきたか?
ってな頃合いで剣戟の最中にUCを使用
なにせ総代の完璧な仕事、纏女は対象から外れるってモンだ

馴らしは十分だろ
あとはイージーモードでやらせてもらうぜ



●幻想籠絡
「さて、仕事の時間だ」
 里の東、ほど近く。比較開けた一角。
 西側にはシズル・ゴッドフォートが直接指揮を執る神楯衆が、南には神楯衆の殿を務めると口にしたネグル・ギュネスが回っている。里の北には切り立った岩壁。この戦いは、端から三方を護る防衛戦である。つまり、陣を張るならば東だけしか残っていない。
 玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)はこの周辺の地理を完全に把握していた。故に今更悩むこともない。里の東に陣取って、隠れるでもなく突っ立って待つ。永海の里が見え――終着点はすぐそこだと敵に安堵が訪れるような位置で、無造作に。
 戦端が開かれたらしい撃音がどこかから聞こえて一時もも経てば、狐狛の耳に突撃してくる敵の足音が届き出す。
「やれやれ。急いてがっついて、どいつもこいつも忙しねぇこった。正面からの立ち会いなんざ普段はやらねぇが、今回はコイツの馴らしもあるし――ちぃとばかり身体を張るとするかい」
 狐狛は涼やかに言うなり、腰に差した二尺七寸の大打刀を抜刀した。魂添を“幻想籠絡”、刃銘『纏女』。細腕というのに、刀を持つ手に震えはなく、軽々と振り扱う。
 正眼に構え、狐狛は道向こう、坂の下に敵の一団、二〇名ばかりが見えた瞬間、弾けるように踏み出した。
「さすがに数が多い。ちぃとばかり削らせてもらうぜ」
 狐狛は駆けながらパチンと指を鳴らす。その瞬間、走る落武者らの足下が地雷めいて火柱吹き上げ爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる! 威力も花火遊びのそれではない、もろに巻き込まれた五人ばかりが、下肢を吹っ飛ばされて転げる!
「なんとォッ?!」
「罠か!? 全員警戒せよ!」
 即座に敵勢が脚を止めた。狐狛はその反応の早さを賞賛するように口笛を吹いた。全くその通り、わざわざ準備時間を設けておいて、狐狛が下見だけで時間を無為に過ごしたわけもない。既に里の東は地雷原だ。本来ならば花火玉に過ぎないが、攻撃用に調合した『八卦』の威力は御覧の通り。霊力による遠隔着火で、こうして迎撃用の罠として用いることが出来る。
 しかし敵が足を止めれば、その一帯の発破の罠は使えない。ならばとばかりに打って出る。
「よう。ちょっと遊ぼうぜぃ、お兄さん方」
「貴様ッ、永海の用心棒か……!」
 先頭の武者が構えを取った。狐狛は真っ向から突撃、正面から武者に斬りかかる――かに見せて、唐突に横っ飛びに跳んだ。武者達がその鮮やかな金髪を目で追う。しかし狐狛は空中でまたも跳ぶ。なんと奇怪な! 何も足場の無い空中で、まるでお弾き遊びの硝子玉めいて、狐狛は跳ね回り尚も加速! ――『紗』を使用した三次元機動! 初見でこれを看破出来る者などどこに居よう!
「な、な、なっ」
 狐狛の動きを追いきれぬ者が動揺して息を漏らした瞬間、狐狛は狙っていたかのようにそこを衝いた。またも空中で反射し敵のド真ん中に切り込む! 勢いを乗せて斬り付ける。落武者はギリギリの受け太刀で防ぐも、それでは甘い。刃噛み合った位置を滑らせて、押し込むように敵の頭を割る。頭を押さえて蹈鞴を踏む敵にすかさず、身を翻し両手での胴薙ぎ一閃。天地上下に一刀両断! 「おのれ!」と声して横から来る振り下ろしを、跳ね上げた纏女で弾き上げつつ剣先を飛燕のように翻し、弾いた剣と逆側から斬り込んで逆袈裟に両断。実戦本意の古流剣術は、少女の容姿から繰り出されるには余りに血腥く凄絶である。
 軽い。そして手に馴染む。そのくせ硬く鋭く、恐ろしいほどよく斬れる。単純な武器として、ここまで優秀だとはと思わされる業物の出来だ。
「囲め囲め!! 一斉にかかれ! 逐次行っては思う壷ぞ! 足下を気にするな、此奴がここにおるのなら、先の発破は来ぬ!!」
 恐らく最も位階の高い武者が指示を下す。「おっと、」と狐狛は軽薄に唇の端を歪めた。なかなかどうして良く見ている。その通り、八卦を自分を巻き込んで起爆すれば無論自身もダメージを被るし、そもそもこの一帯に仕掛けたものは先ほど使ってしまった。場所を変えねば再度は使えぬ。紗による三次元機動も囲まれて距離が詰まれば再度出すのは困難――
「そろそろタネも割れてきたか? いや、褒めてやるよ。そこそこやるじゃあねぇか」
 狐狛は周囲の敵をぐるり一望。残敵十三。視線で敵をジリリと舐める。
「抜かせ!! 貴様こそ姑息な手でよくまあ我らが同胞をやってくれた!! 楽には死なせぬぞ!!」
 一群の頭目と思しき武者が狐狛に打ち掛かる。それと同時に残り三方から武者が斬りかかった。受けようにも、一つ受けて止める間に残り三つの刃がめり込む。死は免れぬと思われたその瞬間――
 斬風一旋ッ!!
 狐狛は踵を軸に一転!! 手にした纏女を大きく振り回す! 自棄を起こしたかに見えるが違う、旋描いて舞った剣先が、あろうことか、四方一挙に襲いかかった武者らの太刀を、木の棒でも斬るかのような軽さで鋭断し、その具足ごと身体を断って薙ぎ倒したのだ!
「なん、――だと」
 いかに鋭い刃でも、四人を一刀で斬るなど不可能であろうに――「莫迦な、」と声を漏らして四人の武者が上体下肢と二つに分かれて墜ちる。
「悪いな。残りはイージーモードでやらせてもらうぜ。――アタシに刀を振るより先に、得物の具合を確かめておくんだったな、兄さん方」
 狐狛の声に、はっとしたように落武者たちが己が武器を見下ろす。
 刀が、ボロボロに黒く紅く錆び、腐食している。そればかりではない、纏う具足も劣化して崩れだしている! なるほどこれでは纏女の攻撃を受けること叶うわけが無い。 狐狛のユーベルコード、『顔に泥塗る死に化粧』の発露である!
 ぐるりと回りの敵を一望した瞬間には、狐狛の攻撃は再開されていたのだ!
「な、なんだこれは――……!?」
 そして、武者共が異常を察したときにはもう遅い。いや、武具を確かめろと言ったあの言葉自体が隙を作る布石か。騙くらかして策に絡め取る手管で、狐と張ろうと思うなど、無謀も無謀、愚の極み。
「さあ続けようぜ、戦は待っちゃくれねぇって知ってんだろう、アンタらもさ!」
 隙に斬り込む纏女の刃が、狐狛の手の中で翻り跳ねる。武者共の錆びた剣では、最早荒れる撃剣、止められぬ――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
――来たか
なれば此れよりは我等の仕事……鎚の音と焔に応えてみせよう
往くぞ晶龍……お前の産声、聞かせてやるが良い

堕ちたりと云えど、嘗て兵で在ったモノの動向なぞ読むのは易い
先読みと研ぎ澄ませた勘で以って、見切り図って総てを掴む
――殲遍萬猟。陰氣招来、氷氣を纏え
逃げるも躱すもさせはせん
四肢を飛ばし、首を落とし――其れでも動くなら微塵に斬り刻んで呉れる
容赦も慈悲も、此処には無い
在るは氷獄の牙が齎す終焉のみ……心得、疾く潰えろ

此の手が握るのは人の手に成る刃
人を、世を護る為に鍛えられた、祈りの牙
お前達なぞに渡す事は元より、折る事とて出来はしない
魂をも凍てさせ砕く、氷刃の味だけを抱え骸の海へと還るがいい



●衝天凍牙
 永海の里、東方――
 山間の開けた平地にて、瞑目して敵を待つ偉丈夫がひとり。背丈六尺三寸と余り、差した刀は魂添“衝天凍牙”、刃銘『晶龍』。
 暫時待てば、すぐに出番が来る。今やこの山は敵のるつぼ。見晴らしのいいところに群れずにいれば、向こうの方から浮いた駒を狩りに来る。
「――来たか。なれば此れよりは我等の仕事……鎚の音と焔に応えてみせよう」
 男は気配を察して目を開いた。それに遅れること一拍、平地の向こう側、藪の向こうに複数の人魂が揺れた。がさがさと樹枝踏み越えて敵が来る。一団、数は十四名ほど。一人で断つには荷が勝つかと思われるその数の差を、しかしものともせずに男は踏み出した。
「往くぞ晶龍……お前の産声、聞かせてやるが良い」
 鞘を払う。
 月光映し、蒼銀に冴えた刀身。ゆらりと立ち上る白い冷気が、ぴしぴしと音を立てて空中の水分を凝結させ、ダイアモンド・ダストとして燦めかせる。
 そのただならぬ様相に落武者達すら、恐れるように蹈鞴を踏む。
「どこからでも来い。悉く断ってくれる」
 ぎん、と、赤い瞳を刃のごとくに尖らせて、男――鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は噛み付くように吼えた。
「ぬうっ! ただならぬ剣気……! しかして今更恐れるものかよ!! 者ども、刃熊刀賊団の力を見せてやるときぞ!!」
 おおっ!!
 落武者らとて、嵯泉の実力を直感しつつも、しかしそれで退くような男達ではない。いまや奪うために襲う陋劣なる刀賊どもと成り果てたとは言え、かつて戦国で恐れ知らずに戦った剣鬼どもだ。
 来る。大部分がまっすぐに。一部が左右に回り込んで来る。囲んで数で圧し潰す戦法を取るつもりか。
 ――嵯泉には、敵の考えていることが容易く知れた。かつて兵であった、その訓練を受けた者の動きほど読みやすい。セオリーを踏襲した、合理的な、効率重視の動きをする。敵が定石を重視するのなら、百手先すら読んでみせる。
 嵯泉は深く息を吸う。
「――殲遍萬猟。陰氣招来、氷氣を纏え」
 きぃ、いん!! 晶龍の刀身が甲高く哭き、その刃が白く霜を帯びて凍える。
 相対距離三メートル。正面より襲いかかる先頭の武者が片足で地面を蹴り離したその瞬間。方向転換が出来ないその一瞬を見極め、嵯泉は刀を振りかぶり、這うような低姿勢で踏み込んだ。
 ぞんっ!!
 一瞬のこと。
 気合の声すらなく振り下ろされた晶龍の刃が、先頭の男の頭から股下までを真っ二つに斬り裂いて、左右に開いた。その後ろの二人が驚愕の声を上げる前に、嵯泉は鋭く身体を捲いて刃を返す。
 斬、斬、ざざざ、斬ッ!! それはまるで刃の結界。逃げるも躱すもままならぬ。
 斬撃が無数と疾り、四肢が跳び、首が落ちた。残った胴までもが微塵に裂けて、凍えてがらごろ、氷転げるような音を立てる。
「はっ……?!」
 瞬く間に三人。鎧袖一触と言ってすら足りぬほど、圧倒的で一方的な虐殺。
「な、何という太刀捌き――貴様、何者……!!」
「お前達なぞに名乗る名などない。――容赦も慈悲も、此処には無い。在るは氷獄の牙が齎す終焉のみ……心得、疾く潰えろ」
「う、うおおっ!!」
 打ち掛かる敵の刃を受け止める。意念を注ぎ、敵の刃に冷気を注いで、軽く力を込めてやる。ぱ、きいんっ!!! 刃が、いとも容易く折れ砕ける。
「何ッ――?!」
 低温脆性。晶龍が帯びる極低温が、打ち合う敵の刃を悉く脆くする。それに嵯泉の膂力と技が合わされば此この通り、生半な刃では一方的に砕かれるのみ……!
 刃砕けて呆然とする敵の胴丸を蹴り飛ばし、嵯泉は今ひとたび刃を振るう。斬閃の数圧倒的、ともすれば嵯泉一人の手数で、武者らの手数を凌駕するのではないかという攻撃密度! これぞユーベルコード『殲遍萬猟』、人の死を食い物にする外道共に、相応しい死を齎す無数の刃!!
「ぐわっ、」
「ぎゃあっ!?」
「は、速……ぐおっ!!」
 落武者達とて歴戦の強兵。一打、二打、三打までは受ける。しかし四、五、六まで来れば一太刀浴びて、七、八で留め。よくても九撃、両手の指まで生き残ること叶わぬ。
 一度裂かれれば骨身まで凍り、後は動けぬほどに砕かれるばかり。はじめに敵に告げたとおり、容赦も慈悲も、此処には無い。
「此の手が握るのは人の手に成る刃。――人を、世を護る為に鍛えられた、祈りの牙」
 八人目を斬り倒し、嵯泉は声も低く、憤怒の化身がごとく吼え猛る。
「お前達なぞに渡す事は元より、折る事とて出来はしない。――魂をも凍てさせ砕く、氷刃の味だけを抱え骸の海へと還るがいい!! 吼えよ晶龍、梶本の冴えを、永海の凄みを、この愚物どもに知らしめろ!!」
 嵯泉は左右両翼に襲いかかった敵を旋風一閃首刎ね断って、同時に跳躍! 残る四名を俯瞰し空中より、無数の斬撃を揮い飛ばすッ!! まさに斬撃の絨毯爆撃とでも言うべき異様。嵯泉の飛ばした斬撃に触れれば、そこから凍てつき斬れ断たれ、そのまま怒濤に巻き込まれるように砕け潰えるのみ。
 着地。十四名をまさに手のひらで転がし捨てて、嵯泉は晶龍を鞘に収める。――そして、歩き出す。まだ夜は終わらない。
 この修羅どもを、一人残らず地獄に叩き返すまで、彼の戦いは終わらない!

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『八刃の刃熊童子』

POW   :    空絶閃
【魔眼『鬼天』】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【七色の斬撃と透明な斬撃】で攻撃する。
SPD   :    刃熊旋風
【超高速移動する狂剣士】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    鬼天開眼
【魔眼『鬼天』で】対象の攻撃を予想し、回避する。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠上泉・信久です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●刃熊万鬼夜行・真打
 腕を失い、脚を失い、芋虫のように闇の中で這いずるは、刃熊刀賊団十本槍が二、鎗田・豪次。
 自慢の『破刃』を永海の刀に圧し斬られ、それでも未だ死にきれず、はらわたを零しながらずるずると這いずっていく。這いずった先で何が出来るわけでもない、精々が敵の脚に咬み付いてやる程度のこと。しかしそれすらせずに死にきれるものかと、いつまで掛かるか分からぬ道を、顔を傷だらけにして這っていく。
“おい。おいおいおい。十本槍を全部出して、未だに里をどうにもできずに、大方が地面に転がってるってのは、一体全体どういうことだ?”
「……!!」
 思わず豪次も動きを止めた。脳裏にぴんと響いたは、苛立ったような頭の声だ。
 刃熊刀賊団、頭目、『八刃の刃熊童子』――
「頭、相済みやせぬ、里の用心棒共が恐ろしい手練れ揃いで……」
 応える豪次に、脳裏で声が続く。
“手練れだろうがなんだろうが殺せるようにてめえらを走らせたんだろうが。里一つに千人かけてこのザマか、情けねえ。情けなくって情けなくって、俺様も、そろそろ腹が立ってきたぜ”
 ひときわ冷えた声が頭の中に響いて、ああ、これまでか、と豪次は観念した。程近くの藪の中から、命乞いをする武者達の声が聞こえた。
 ――不死のはずの武者達が、不様に叫んで助命を請う。なんたる異様。それも無理からぬこと。刃熊刀賊団というのは、刃熊童子が過去よりもののふの骨を集め、骸の海より記憶を汲み上げて肉付けした死霊の万鬼夜行だ。
 生殺与奪、その全てが、刃熊童子の采配一つ。
“てめえらとも長い付き合いだが、今度ばっかりは見込み違いだったな。骸の海で頭を冷やしやがれ”
 刃熊童子が言うなり、藪向こうで悲鳴。ぶしゅう、と血の霧が散り、渦を巻いて天に巻き上がった。それが幾つも幾つも続く。
「面目次第もねぇ。……頭、やつら永海の刀は異様。努々油断召されるな」
“俺様の心配より、沈む先の心配をしとけ。だがまぁそうだな、今際の際にてめえが遺した言葉だ――”
 臓腑を絞り尽くすような圧迫感が豪次を襲った。堪えるでもなく身を任す。
 拉げる躰、潰れる目玉。痛苦と共に躰が宙に舞う。その中で、
“頭に留めておいてやるさ。気が向いたらまた拾い上げてやる。あばよ”
 聞こえた刃熊童子の声が、豪次の世界で最後の音であった。


「――まずい」
 一番最初に気付いたのは、敵の四肢を奪い、動きを止めた猟兵達だった。
 無論その策に瑕疵などない。霊核を穿つ術が無いならば、手脚を奪って侵攻を止めるが最上。
 その彼らが、突如喚きだした落武者らに気付いたのが、たった今のことだ。
 武者達は口々に命乞いの言葉を、虚空に向けて喚き散らした。
 何か、大いなるものを恐れるような。まるで、神を相手にしたかのような。
 恐れ知らずの落武者たちが、斯様に恐れるものなど、彼らの上位者以外にあるまい。
 気付いた猟兵が警戒を叫ぼうとした瞬間、落武者たちの躰がまるで絞られたように潰れ、血と塵の渦となって宙に舞い上がった。
 何らかの手段で霊核を穿たれた死骸の、その塵もまた同様に渦を巻いて天に昇る。
 天に至った血の渦柱、その数合わせて千近く。つまりは、猟兵達が倒した敵の数に等しい。
 空に登り切った血渦は紅点となった。紅点同士が、それぞれから迸る血で結ばれ、有機的に繋がり、やがて空に禍々しい文様を描く。永海の里をすっぽりと覆い隠す紅陣は、例えようもなく不吉でおそろしい!
「……全員走れッ!! 里が危ない!!」
 一人の猟兵が叫んだ。端的な言葉が、何より的確に危機を告げていた。


 見抜けた者もいよう。――しかし止めることは叶わぬ。
 千の命を礎に編み出されたるは、魔結界・鬼伏八卦陣!
 里の空に天蓋めいて広がった紅陣から影が舞い降りる!


「さあて――連中の数は四十ってところか? もうちと多いか。……要所が、ひい、ふう、みい、よ」
 影が分かれる、
「全部で五か? あのデカい屋敷。鍛冶場。その横の工房。どでかい倉が二つ。後はけっこう広いしな、走り回って里人を喰うぐらいかな」
 更に分かれる、
「ざっくり十くらいに化けりゃあよかろうよ。屋敷に一つ、鍛冶場に三つ。工房に一つ、倉に四つ、里を荒らすのに一つ。糞の役にも立たなかった連中に見せてやろうぜ。これが本当の刃熊万鬼夜行だってなあ!」
「「「「「「「「「おうともよォ!」」」」」」」」」
 分かれに分かれて、天から降りた刃熊童子の数、一〇!
 展開された鬼伏八卦陣は、刃熊童子の転送を可能とするほか、『分け身』――分身の術を強化し、分身に本体の力を分け与え、遜色なく戦う事を可能とする魔性の術だ。
 剣鬼千体を触媒として生み出された陣の強度凄まじく、あれを途中解除する事は困難であろう。
 里から近い者も、里から遠いものも、猟兵達は皆全力で走った。電子戦が得意な猟兵が全員の発話をリンクし、短時間の交信を可能とし、相互連携を図る。
 ――里より火の手が上がる。
 最早一刻の猶予も無い! 猟兵達は、己に出来る全力で駆け、永海の里へと驀地!
 この里を、ここで潰えさせるわけにはいかない。刀が、武具が、そう言っている。

 我らが父祖を、ここで絶やすな。
 そのために、我らの力を揮ってくれと!



 刀襲斬戮、刃熊万鬼夜行・真打!
 八刃猟兵十番勝負、愈々開幕!!

 いざや、いざいざ、尋常に――



 ――――――勝負ッ!!!!!!



≫≫≫≫≫MISSION UPDATED.≪≪≪≪≪
【Summary】
◆作戦達成目標
 八刃の刃熊童子、全個体の撃破及び撤退


◆作戦推奨目標
 八刃の刃熊童子、全個体の撃滅



◆敵対象
 八刃の刃熊童子×一〇



◆敵詳細
 戦国の世より生きた名のある鬼の影法師。
 この個体は刀術の他、瞳術、結界術の心得を持ち、此度は部下の命を贄とした結界を張ることで永海の里を強襲した。
 童の姿をしているが、秘めたる力はそれこそ異様。
 魔眼『鬼天』と八刀流刀術を以て、猟兵達に襲いかかる!



◆戦場詳細
 以下の戦場番号①~⑥のいずれかをプレイングに明記の上、参加すること。

!!!!!!!!!CAUTION!!!!!!!!!
 敵数一〇。分散しての戦闘が推奨される。
 全戦場の適正戦力が満たされない場合、
 人命及び資材の損失の可能性がある。
!!!!!!!!!CAUTION!!!!!!!!!

※以下、『●必要猟兵数未達の場合』の表記は、最悪のケースを示す。
 人数を満たしていずとも、プレイング次第で結果が変わる可能性はある。
 その逆もまた然り。

【戦場リスト】
①永海・鍛座の邸宅(必要猟兵数:4)
 永海・鍛座と終刃『薙神』、避難してきた三〇余名の里の民がいる。
 屋敷は広く、鍛座達のいる広間には中庭が隣接しているため、敵を中庭に追い出せば戦い易くなるはずだ。
 ここに突入した猟兵は、薙神を抜き、里人らを背に庇って構える鍛座、それと相対する刃熊童子、という構図に直面することとなるだろう。
 ●必要猟兵数未達の場合
  永海・鍛座および避難してきた里の民が落命。薙神が奪われる。
  薙神を奪った後、敵は撤退する。

②鍛冶場(必要猟兵数:8)
 里の生産設備、鍛刀が終わったばかりの刀や、鍛刀に関する覚え書きなどがある。
 また、疲弊しきって動けない永海・鋭春と、彼を守る為、鍛冶師の若衆が二〇人ほど詰めている。
 鍛冶場の前は大きく開けているため、迎撃するならばそこで戦う事になるだろう。
 突入した猟兵は、怖じけながらも刀を構えて鍛冶場を護る若衆と、相対する刃熊童子二体の間に割って入ることになる。
 ●必要猟兵数未達の場合
  永海・鋭春および鍛冶若衆らが落命。
  鍛冶場が被害を受け、当面の間刀を生産出来なくなり、作刀技術の一部が失われる。
  目的を果たした後、敵は撤退する。

③補修工房(必要猟兵数:4)
 研ぎ、または接ぎ刃補修など、刀を補修する能力に長けた職人達がまだ建物の中に残っている。
 その中には、補修工房総代である永海・靱鉢も含まれているようだ。
 鍛冶場と隣接しており、同様に、前が大きく開けているため、迎撃するならばそこで戦う事になる。
 この戦場に挑む猟兵は、飛鉄を構え迎撃の姿勢を取った補修工房若衆十名余りと、刃熊童子の間に突入することとなる。
 ●必要猟兵数未達の場合
  永海・靱鉢、及び補修工房の若衆二十名が落命する。
  里の補修技術の一部が失われ、刀の補修が困難となる。
  目的を果たした後、敵は撤退する。

④刀倉 壱(必要猟兵数:8)
 永海の里で打たれた刀、その中でも、斬魔鉄、飄嵐鉄、地鳴鉄、絶雹鉄で出来たものが貯蔵されている倉。弐の倉とはやや距離を離して建てられている。
 筆頭鍛冶である銀翔、荒金、冷鑠と、十五名ほどのその徒弟がここを守っていた――が、猟兵の突入時点で既に倉の戸は破られており、中から盗み出した永海の刀を抜いて武装した刃熊童子二体と対決することとなる。
 幸いにもまだ死亡者はいないが、速やかに向かわねば刃熊童子が、鍛冶師らの躰で試し斬りを始めるのは明白である。
 ●必要猟兵数未達の場合
  筆頭鍛冶、銀翔、荒金、冷鑠、およびその徒弟十五名が落命する。
  斬魔鉄、飄嵐鉄、地鳴鉄、絶雹鉄製の刀の内、秀作が十六本失われる。

⑤刀倉 弐(必要猟兵数:8)
 永海の里で打たれた刀、その中でも、刹鬼鉄、屠霊鉄、緋迅鉄で出来たもの、あるいは応用品――『飛鉄』などが貯蔵されている倉。壱の倉とはやや距離を離して建てられている。
 筆頭鍛冶である鋒竜、寂鐸、頑鉄とその徒弟二〇名ほどが詰めている。が、猟兵らが到着した時点で倉は既に破られており、中から盗み出した永海の刀で武装した刃熊童子二体と対決することとなるだろう。
 幸いにもまだ死亡者はいないが、速やかに向かわねば刃熊童子が、鍛冶師らの躰で試し斬りを始めるのは明白である。
 ●必要猟兵数未達の場合
  筆頭鍛冶、鋒竜、寂鐸、頑鉄、およびその徒弟二〇名が落命する。
  刹鬼鉄、屠霊鉄、緋迅鉄製の刀の内、秀作が十六本失われる。

⑥里内防衛戦(必要猟兵数:4 但し、神楯衆の指揮に長けるものが含まれるならば、2)
 里内を荒らし回る刃熊童子一個体と対決することとなる。
 神楯衆は敵の圧倒的な力により士気低減しており、重傷者が多数出ている状況。
 このまま放置すれば、神楯衆は瓦解し、盾を無くした飛鉄衆も壊滅。晴れて自由となった刃熊童子は里の民を食い荒らすことだろう。
 戦闘中の神楯衆と刃熊童子の間に割って入ることとなる。神楯衆に的確に指示を下せるものがいれば、或いは彼らも戦力となり得るかも知れないが――?
 ●必要猟兵数未達の場合
  神楯衆、飛鉄衆が壊滅。人的被害は死亡者だけで六〇余に及ぶ。
  また、里の一般人が多数死傷する。その場合の被害規模は俄には計上出来ない。



◆補遺
 本作のプレイング採用は、例外的に、二章までに参加している猟兵を優先するものとする。



◆プレイング受付開始日時
 本断章上梓後即



◆プレイング受付終了日時
 2020/10/11 23:59:59
 
 
 
(文中一部訂正:
 戦場② 鍛冶場の必要猟兵数は12、敵刃熊童子の数は三体となります。)
 
 
 
◆よくわかる断章まとめ
・三章では、二章までに一度でも参加している猟兵が優先採用される
・三章は、以下から戦場を指定して参加すること
  ①永海・鍛座の邸宅(必要猟兵数:4)
  ②鍛冶場(必要猟兵数:12)
  ③補修工房(必要猟兵数:4)
  ④刀倉 壱(必要猟兵数:8)
  ⑤刀倉 弐(必要猟兵数:8)
  ⑥里内防衛戦(必要猟兵数:4)
・⑥のみ、神楯衆に縁深いものがいれば、必要猟兵数は2となる。
・猟兵数が満たないなどで失敗すると以下の被害。
  ①鍛座、里の民三〇余名が死亡。終刃『薙神』損失
  ②鋭春、鍛冶若衆二〇名が死亡。鍛刀技術逸失
  ③靱鉢、補修工房技術者十余名が死亡。補修技術逸失
  ④銀翔、荒金、冷鑠、およびその徒弟十五名死亡、刀秀作十六本損失
  ⑤鋒竜、寂鐸、頑鉄、およびその徒弟十五名死亡、刀秀作十六本損失
  ⑥神楯衆・飛鉄衆合わせ六〇名死亡、里の民被害多数
シュシュ・リンクス

⑥!

私達を無視して里を狙うとか、ちょっとズっこくない!?
…と、思わなくもないけど、たしかに相手の勝利条件はそれだもんね。
大丈夫、ここから巻き返すのが腕の見せどころでしょ!

他の所は他の人達がやってくれると信じて、私は里内の防衛に加勢させてもらうよ!
使い減りしないゲームキャラクターを壁にして、燦釘で援護射撃を撃ち込もう。
とにかく数を武器に、相手の動きを妨害する事を第一に。
相手はラスボスなワケだし、自由に動かれるのがこっちの敗北条件だからね。
正直、いつまで持つかは分からないけど…できる限り、保たせてみせるよ。
……こっちの体勢を立て直す時間くらいは作れると良いんだけどね!


木佐貫・丹菊

ふ、はは
良い手を考えるじゃないの
戦さには物量、策謀、何れも兼ね備えたなら敵は無し
まあ物量ならこちとら負けちゃいないんだけれどね

やあやあ鬼のご頭目、お初にお目にかかります
人血のお味は如何だったかな
それが最期の食餌ゆえ。忘れておいででないよ

間に割り入り、怪我人がいれば鬼との距離を取らせよう
さあ刀を取られよご頭目
一手と言わず幾許なりとも、私と躍ってくださいましな
振りの速さで釘付けに、降りの重さで楔が如く
そう、砕き折るのなら
刀と云う魂を持ったあなたが好いの
喰われるのは初めてかしら
優しくしては差し上げられないけれど
髄までなら、貪ってあげるよ

さあ抗って
その先に終の残英を、焼き付けて
左様なら。


トゥール・ビヨン


アドリブ歓迎
パンデュールに搭乗し操縦して戦おう

/
里の中で既に被害が出ている。これ以上、神楯衆のみんなを傷付けはさせない!
いこうパンデュール、里のみんなを絶対に護りぬこう!

/
先ずはこの場に重傷者がいたら戦いにくい
パンデュールの胸の宝石にふれて貰いルーム・オブ・エクランで重傷者を回収し、ボクは一旦離脱し安全な手当が出来る所まで運びだすよ

大丈夫、ボク達は絶対に負けない!
ボクの勇気が伝わるように神楯衆の人達に声をかけ気持ちを奮い立たせて一緒に戦って貰おう

庇ったり、神楯衆の人をルーム・オブ・エクランで中に入れたり、そこから突然出たりとフェイントを織り交ぜながら隙を作ってブリッツハンドの閃撃で敵を討つ!


シズル・ゴッズフォート
⑥◎

間に合ったようですね……!

重傷者は後方へ。戦える者達は2つに分け、片方を率います
もう片方は重傷者の後方への護送と、住民の退避を指示

……防衛戦を行う事だけが、「負けぬ戦い」ではありません
其処に生きる人達の身と、命を守る。それもまた大事な事です
皆さん、頼りにしていますよ?

先の言葉を演説としUCを発動
神楯衆に生成した大楯を携えさせつつ、共に前線へ
攻撃は他猟兵に任せ、彼らの援護に専念する
もし敵大将と相対する時は必ず2人以上で
重傷を負ったら戦闘範囲外への離脱を徹底させる

……あの悪鬼の相手は、本来なら未だ彼らには荷が重い
ですが。異能武具の増幅効果とこの場に集った猟兵の力があれば、負ける道理はない!


ネグル・ギュネス
◎ ⑥参加
【失っても、壊せ】起動
超高速を以って里内の防衛に疾る

手出しを赦す前に、速く疾く捷く突き抜けて真っ先に向かう

遅刻せずに来れたかね、それじゃあ始めよう
──我流、天花一条『裂空』が所持者、ネグル。いざ、尋常に斬り合おうか!

手出しさせぬよう、抜刀衝撃波で牽制
また神楯衆は下がらせ、体勢を立て直させながら、里の人を護るように指示。陣形は守を中心にとるように

挑発を交えヘイトを稼ぎ、向かって来る輩を剣閃を飛ばしたり、二刀で捌いたり、合身させた刃で切り込む

どうしたその程度か?
俺風情を突破出来なければ、…そら、増えるぞ

他メンバーが来れば、民を守る構えにシフト、専守防衛は得意でね

悪いが、皆全て守らせて頂く



●八刃猟兵十番勝負 一番目
 里の危機。一分一秒が里の民の生死を分ける極限状況にあって、しかし猟兵達は迷いなく疾った。
 その中でも、即座に寿命を削るユーベルコード――『失っても、壊せ』を用いて、己の身体部位各所を機械に置換し矢の如く駆ける男の姿が際立った。ネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)である!
 里の外壁を跳躍で越え、天辺を蹴りとばしさらに高々と跳躍!!
 追加のナビゲーションで敵の所在は割れている。要所は五つ、倉が二つに鍛座の邸宅、補修工房に鍛冶場。その他で剣戟起きたる場所を探す。
 センシング――里中の大路、撃剣打ち合う火花の煌めき、視界の端にちかりと光る!
「捉えた!」
 ネグルは機械化した背面パーツより推進炎を吹き上げ、夜闇をジグザグに急降下した。後付けのブースターだ、推進制御などない。躰一つ、腕の振りと身体の捻りだけで姿勢制御、凄まじい速度で夜を駆け下る!
 神楯衆と刃熊童子の戦闘は、それこそ一方的だった。いかにシズルの薫陶を受けたからとて、彼らは飽くまでただの人間に過ぎない。人外の力には抗しきれぬ! 刃で裂かれ、紙くずのように吹き飛ばされ、最早立ち上がることもままならぬ者もポツポツいる。
 ネグルは望遠した視界の中に視た惨状に、ぎりりと歯を食い縛った。
「――よォし、そろそろ死ね、人間共! そろそろ俺様も腹が減って来たところだ、つまみ食いと洒落込ませてもらうぜ!」
「させるか、外道がッ!!」
 一喝!
 ネグルは空中で逆手抜刀した二刀をワンアクションで連結。機工刀『裂空』を現出するなり、その刀身に意念を込め振り下ろしの一閃を放った。
 裂空の鋒より光迸る。妖刀地金『烈光鉄』が権能、意念を刃と成す奇跡『光閃』である! 二十五メートルは離れた刃熊童子を裂かんと光閃唸る!
「ハッ、来やがったか過去殺し!」
 刃熊童子、即座に飛び退き回避。光閃が地面に食い込み土柱を上げる! 神楯衆と刃熊童子の間に割り込むように、地面を踵で抉りながらネグルが着地。
 向き直った先で刃熊童子、両手に刃を抜刀。抜刀の所作あったものの、右手の刀が見えぬ。不可視の刃か。
 しかしこの局面でそれを恐れるネグルではない。
 周囲の神楯衆のバイタルを確認。弱っている者はいるが、未だ死人はいない!
「辛うじてだが――遅刻せずに来れたようだ。それじゃあ始めよう」
 ネグルは裂空を霞に構え、各機械パーツから排気一つ。機眼ぎらりと閃かせ、見得を切る!
「──我流、天花一条『裂空』が所持者、ネグル。いざ、尋常に斬り合おうか!」
「良く名乗った、ブッ殺してやる! 俺様は戦国の野を股に掛け、いずれは世界も獲る鬼、刃熊童子様よ! 子分共の礼をしてやらにゃあなとは――思ってたんだよなア、俺様もォ!!」
 どォッ!!
 見た目は五尺弱の鬼の子だが、名乗りの通りその動き峻烈である!地面を立て続けに爆ぜさせ、ネグル目掛け超高速で踏み込んでくる!
 ネグルは牽制とばかり刀振り光閃を連射するが、刃熊童子はそれを嘲笑うように潜り抜け、いとも容易くネグルの間合いに潜り込んでくる。
 そこまでは織り込み済みだ。後の先を取り、裂空で斬り込み、受け太刀させて跳ね飛ばす。着地後即飛び込んでくる敵。ネグルは間合いに合わせ機工刀を二分割、『黒天』と『輝花』に分けて刃熊童子の乱撃を受ける!
 がががっ、がががががき、がきいぃんっ!! 常人には最早視てすら取れぬ超高速での乱打戦! ネグルですらもその速度に完全にはついて行けない。そのうえ敵の刃は片方が不可視! ネグルの躰の各所から次々と血が飛沫く!
「猟兵殿ォーッ!!」
 聞き覚えのある声がした。ネグルが先刻助けた神楯衆の若者の声。生き残っていたか。ネグルは即座に檄を飛ばす
「狼狽えるな! アンタらが崩れれば里の人間が死ぬぞ! 怪我人を陣の内に! 護りを固めろ!」
 檄に打たれたように即座に神楯衆が動きを改める。せせら笑うように刃熊童子が嘲り声。
「ハッ、お優しいこった! なるほどちったア固えようだが、どこまでその強気を通せるかな? 試してみようじゃアねえか!」
 刃熊童子はさらに速度を上げ、魔眼『鬼天』を燦めかせた。飛び退きざまに、神楯衆を狙った斬撃を複数飛ばす。こうあっては是も非もない。ネグルは二刀を翻して斬撃を打ち落とし、間に合わぬものは機械部位で受け止め火花散らして防ぎ止める! 傷付きながらも後ろに攻撃を通さぬ力戦奮闘、しかし創は増え続ける。
「猟兵殿ッ!!」
「――ク」
 悲痛な神楯衆の若者の声に、しかしネグルは虚勢を張るでもなく、喉を鳴らして笑った。
「あ? 何がおかしい、手前」
「くくくっ、笑わずにいられるかよ。その程度か、刃熊童子。俺風情を突破できなければ――敵が増えるぞ。そら、今すぐにでも!」
 ネグルが言うなり、硝子瓶を叩き合わせるような不可思議な高音が響いた。ぎぃぅん、ぎぅんぎぅんぎぅんぎぅんッ!! 同時に闇を引き裂いて七条ほどの閃光が唸り飛び、刃熊童子を猛撃する!
「チッ!」
 跳び下がりながら光弾を二刀流で弾き飛ばす刃熊童子。舌打ち混じりの動きに、にやりとネグルが笑う。
「悪いが皆護らせて貰う。一人たりとて殺させはしない!」
「そのとーりっ!」
 ネグルの宣言を受けるように明るい声が一ついらえた。フロートボードに乗って飛来したのはシュシュ・リンクス(電脳の迷い子・f11333)、その手にあるのは弾切れ知らずの変則飛鉄、一切貫光『燦釘』! 持ち手の意念を光弾に換えて射出する専用武装だ。なおも射撃射撃射撃! 特徴的な銃声を伴い射出される光弾の速度・威力は、実弾を用いる飛鉄のそれと遜色ない! 
「ハッ、しゃらくせェ! チマチマチマチマと遠くから、やってくれるじゃアねぇか!」
「しゃらくさいのはそっちも同じだよ! 私達を無視して里を狙うとか、ちょっとズっこくない!?」
 刃熊童子の唸りにシュシュは舌鋒鋭く切り返す。――しかし宜なるかな、敵がこうしたチートを備えているのならばそれを使わぬ理由がない。奪取目標はこの里で作られた刀。その作刀技術を亡きものと出来るのならば、奪取した刀の価値も跳ね上がろう。例えるならば奴らは略奪というゲームをしているのだ。最終的に、奪ったものの価値と、里人の不幸の総和――スコアが、高くなればなるほど良いというゲームを。
「――でもおあいにくさま! やらせないよ! 状況は良くはないけど、ここから巻き返すのが腕の見せ所ってね!」
「大口を叩きやがるじゃねえか!! てめえらはどうやら、後ろにお荷物を背負ってるってのを忘れてるらしいな!」
 ネグルが顔を引き締める。飛び退いた刃熊童子が八本の刃を立て続けに抜刀! 次々宙に投げ上げるなり、次々と、鋒をネグルらに向けて向けて刃が静止する。
 ――八つ。静止したその鋒から、禍々しい鬼気と威圧感から伝わってくる!

    はてんくるまがかり
「八刀流『八 天 車 懸』、荷物を抱えて受けきれるかよォ!!」

「……!」
 刃熊童子が印を組むなり、刃の鋒が煌めき、七色、極彩色の光条が立て続けに迸った。それは例えるならば烈光鉄により発される光閃に色づけをしたような、運動・熱エネルギーの奔流だ。
 光の機関銃めいた連続射撃! 弾幕の面積が広い! ネグルがキッと表情を引き締めた次の瞬間、
「させるかーっ!」
 シュシュが待機させたユーベルコードを起動! 『サモンプログラム!』と銘打たれたそのユーベルコードは、最大で五十八体のゲームキャラクターを召喚し、敵を攻撃させる使役プログラムだ。一瞬で現出した五十八体のキャラクター達がそれぞれの武器を構え真正面から八天車懸を防ぎ止める! 一瞬で五八ものキャラクターを召喚するシュシュの手腕でこそ防御できたといっても過言ではあるまい。
 ――だがそれでも完全ではない! 八天車懸の威力は壮絶、壁となったゲームキャラクターたちが立て続けに崩壊していく。シュシュはその都度ゲームキャラクターを再構築し防衛に当てるが、敵の火力が一歩勝る!
「……っく、うっ……!」
 ――押し負ける。このままでは。だがしかし、退く選択肢などない! いつまで保つかが分からなくとも、力の及ぶ限りは粘り続け、保たせ続ける! シュシュは力を振り絞り、ゲームキャラクターの再構築を継続!
「どうしたどうした、さっきの台詞をそのまま返すぜ、そんなもんかよ過去殺しィ!」
 威勢良く吠え立て息巻く刃熊童子。このまま行けば押し負けるは必定、ネグルが次策を講じるその一瞬前――
「ふ、はは。いい手を考えるじゃないの。戦さには物量、策謀、何れも兼ね備えたなら敵は無し――」
 ひゅ、おッ!!
 全く唐突に刃熊童子の側方から、影が一つ、まるでつむじ風のように飛び出した。繰り出す斬撃は首討ち狙い!
「うおっ!?」
 これには刃熊童子も目を瞠った。側方からの不意打ちを、宙の赤刀を引っ掴んで受け止める。壮絶な剣戟響き、散った火花に顔を照らされ、細面の美丈夫――木佐貫・丹菊(バラァドの嚮後・f23324)、ゆらりと笑んだ。印を組む手が解ければ八天車懸は維持出来ぬものか、宙を裂く光条の嵐が止む!
「まあ、物量ならこちとら負けちゃいないんだけれどね。――さあ刀を取られよご頭目。一手と言わず幾許なりとも、私と躍ってくださいましな」
「手前ェ、横からたあご挨拶じゃアねえか、行儀と作法を習わなかったらしい! 言われんでも斬り殺してやる、覚悟は出来てんだろうなア!!」
 ひとりでに鞘に戻る中の七刀のうち、もどかしげに一刀掴み取り、刃熊童子が丹菊に打ち掛かる!
「鬼相手に尽くす礼儀作法ってどんなものかな、喰われる前には禊ぎをしろとか? やあやあ失敬、無駄口が過ぎるね。鬼のご頭目、お初にお目に掛かります。名乗るほどのものではないけれど一つ問おうか、最後に呑んだ人血のお味は如何だったかな」
 丹菊は、二刀による刃熊童子の撃剣を弾き受け流しながら飄々と問いかける。春に踊り舞う旋風のような、いかにもつかみどころの無いゆらゆらとした物腰。しかし立ち位置は後背のシュシュ、ネグルらを気にかけ割って入るような態勢だ。
「ハッ、手前ェは最後に食んだ麦の味を覚えてるってのか? 説法なんざア、聞き飽きてんだよォ!!!」
 刃熊童子、猛る!
 丹菊目掛け打ち込まれる乱打、乱撃! 二刀流の連打の速度が天井知らずに上がっていく。敵の目は特別製、予知を成し空を断つ魔眼『鬼天』。無策で挑めばいかに丹菊が手練れであれどもじりじりと追い込まれる。数撃の掠り傷、浅手を負って血を流しつつも、丹菊は一刀にて敵の刃を打ち払う、払う、払う、払う、流す!
 丹菊はちらり視線を横に流し、ゆるりと笑って、鋭く飛び退った。
 隙と取ったか。刃熊童子は唇を吊り上げて笑う。
「獲ったぁ!」
 直線的な後退。敵からすれば絶好の機だ。基本的に戦場というのは、追われる側より追う側が有利に出来ている。故に刃熊童子が快哉を叫んで飛び込み躍り掛かったは必定であったが――
「いただきっ!」
 ぎぅんっ!! ぎぅんぎぅんぎぅんぎぅんぎぅんッ!! 横から立て続けの燦釘、連射! ゲームキャラクターとネグルに後背の守備を任せ横手に回り込んだシュシュが、連射出来る限りの燦釘の光弾を刃熊童子に叩き込んだのだ!
 とにかくこちらの強みは数。数を武器にし、相手の動きを妨害する事を第一に――そう考えたシュシュの咄嗟の援護だ。守る側というのは攻める敵の動きを封じ込め、いかにして反攻するかを考えねばならない。それを知るが故の効果的な援護射撃!
「があああっ!」
 手脚を射貫かれるも、刃熊童子の傷は一瞬で再生する。――然れど一瞬、動きが止まった隙に潜り込むは丹菊!
「よくよく思い出すことだね、それが最期の食餌ゆえ。忘れておいででないよ」
 貴様に、これ以上の血は呑ませない。
 言外にそう告げ、丹菊は苛烈に駆けた。手にせし野太刀『桜燐』に意念込め、その振りを加速する。縮地めいた踏み込みから凄まじい速度で、飛燕の軌跡のごとき自在の剣筋にて刃熊童子に打ち掛かる!
「ぐッ……!?」
 唐突な加速だ。追いつかず、刃熊童子の躰にいくつかの手傷が刻まれる。しかしすぐにその速度に慣れたように剣を合わせ出す。流石は剣の鬼、八刃の刃熊童子!
 故に変拍子。即座に丹菊は今度は意念の限りを込め、刀の重量を常の二倍にまで押し上げる。飄嵐鉄の心鉄、地鳴鉄の鍔持つ桜燐ならではの、緩急見事な連続斬撃!
「そう、砕き折るのなら――刀と云う魂を持ったあなたが好い。喰われるのは初めてかしら? 生憎、優しくしては差し上げられないけれど――髄までなら、貪ってあげるよ」
「訳の分からねぇことを抜かしやがる!! 喰われる側の分際で、ガタガタ口を利くんじゃあねえよ!!」
 右手、不可視の刃が閃き丹菊を襲うが、丹菊の刹那の見切りとシュシュの咄嗟の一撃が奇跡的に噛み合う。走った刃に光弾当たり、軌道ずらして丹菊の腹を浅く薙ぐ。
 ――血が散るが、即死にあらず。丹菊は、酷薄に嗤った。
「御礼をしないとね。――さあ、抗って。その先に終の残英を、焼き付けて。左様なら」
 斬撃振り抜き泳いだ刃熊童子の躰に、丹菊は渾身を込めて袈裟懸けの一撃を振り下ろした。斬撃が食い込むその最後の一拍、桜燐の刀身がさくらの色に燃え上がる! 皮鉄に用いられた緋迅鉄により巻き起こる、彼の、彼だけの炎。『残英』。
 ざっくり身を裂いた一撃の炎は、まるで塗り付けられたように刃熊童子の傷口を舐め伝い、
「ガッ、あああアアッ……!!」
 その身体を燃やし、燻る熱で灼き続ける――!!


 傷焼けて尚暴れ猛る刃熊童子を、手負いの丹菊とシュシュが抑え込む。バックアップのネグルが付け入る隙を探すその戦場に、新たな猟兵が空より翔け参じる。――これ以上里を、神楯衆の皆を傷つけさせはしないと、強い決意を持って飛び来たその猟兵はトゥール・ビヨン(時計職人見習い・f05703)。決戦鎧装『パンデュール』に登場し、正義の心を燃やすフェアリーである!
『状況は?!』
「敵はデカい隠し球を持ってる! 迂闊に前に出ると神楯衆がまずい!」
 ネグルが端的な言葉から始め、戦況をつぶさに説明する。すぐに状況を了解したトゥールが取った行動は、即座に重傷者を退避することであった。神楯衆のものが囲んだ重傷者の元に疾り、その手を取ってパンデュールの胸の宝石に触れさせる。
「な、なにを……?」
『怪我を負った皆を退避させたいんだ、怖がらなくて大丈夫――そこは、もうパンデュールの中だよ!』
 トゥールが優しく言い聞かせるように語るなり、宝石に触れた重傷者の身体が燐光に包まれ、宝石の中へと掻き消える。周囲の神楯衆の兵らがどよめく。
 ユーベルコード、ルーム・オブ・エクラン。パンデュール内に無抵抗の対象を収容し、安全に護る――或いは隠匿するユーベルコードだ。
『さあ、続けて乗って! 敵はもうすぐそこにいる!』
 トゥールが収容を進める中、神楯衆の一人がぐっと歯を噛みしめる。
「俺達は……俺達には、里を護ることさえ出来ねぇのか……結局猟兵様に頼りっきりで……今だって護られて……!」
 いたく胸を打つほどの、無念と痛恨とが滲む声。まるで絞り出すような調子に、コクピットの中のトゥールも、思わず服の胸元をぎゅっと握る。
「それに……あんな化物に勝てるのか? あれがまだ、幾体も里に下りたって話だ。里長の屋敷や……鍛冶場は、今、どうなってるんだ」
 一度疑念を抱き出せば、それは加速度的に伝播する。刃熊童子の圧倒的な力に、前衛の猟兵二人が圧され出す。そうなれば神楯衆の若者らの動揺はさらに増す。
 悪循環だ。疑念を抱いた人は、弱く、脆い。
 このままでは本来のスペックの半分と発揮できまい。
 無力に苛まれる人々と、かつて孤独に旅したときの自分の姿が重なる。拳を強く握り――殆ど、衝き動かされるようにトゥールは叫んだ。
『――大丈夫! ボク達は絶対に負けない!! 永海の武具が、この里がボク達に力を貸してくれる! 信じるんだ、負けたりなんてしないって!』
「――っ」
 力強いトゥールの檄が、神楯衆の男達の表情を動かす。
 ――強い言葉は、寄る辺となる。
 救いたいという思いだけではない。無力に負けないで欲しいという思いから来る叫びが、男達の胸に確かに響く!
「そうです。己を信じ、我々を信じてください。信じねば、守れるものも守れません。そう教えましたね」
 凜とした声が鳴った。神楯衆の男達が、皆一様に声の方を向く。後背の闇より大路を駆け来たのは、シズル・ゴッズフォート(騎士たらんとするCirsium・f05505)!
「シズル殿!」
「来て下さったのですか!」
 トゥールに励まされ色を取り戻していた男達の顔に、さらに喜色が点る。宜なるかな、神楯衆の名は、シズルがもたらした彼岸蝶の大楯と、その闘法に由来するものだ。
 シズルは微笑み、しかしすぐに表情を引き締める。
「無論です。どうやら間に合ったようですね。隊を二つに分けます。半数は重傷者の護送とこの近辺の住民の待避を。もう半分は私と共に来て下さい。……敵を討ちますよ」
『重傷の人はボクが送る! 住民の人の待避に集中して大丈夫だよ!』
 トゥールの言葉に、シズルは目を瞠ったのち、嬉しげに頷いた。救うこと、護ることに意識を傾ける供行きがいたのだ、その喜びも一入だろう。
「なんと――それは助かります。ではそこはお言葉に甘えて。……傾注なさい、神楯衆!」
 鋭いシズルの言葉に、神楯衆の背筋が伸びる。
 シズルは二十数名はいよう神楯衆、一人一人の顔を見ながら声を紡いだ。
「……防衛戦を行い、敵を倒す事だけが『負けぬ戦い』ではありません。其処に生きる人達の身と、命を守る。それもまた大事な事です。土地が残れど、暮らすものがいなければそこは亡国です。――皆さん、頼りにしていますよ?」
 諭し、励ます声。同時にシズルはどん、と大楯を地に衝く! 同時に光の波紋が地を駆けて、神楯衆らを足下より立ち上る光で包んだ。
「なっ、」
「これは……!」
 光晴れた後、神楯衆の手の内には、真新しい彼岸蝶の大楯と突撃槍が握られていた。シズルのユーベルコード――『神塞流陸殲術・防楯の型 騎勇昂醒』が起動し、神楯衆にその異能の力を分け与えたのだ!
 ……あの悪鬼の相手は、本来なら未だ彼らには荷が重い。猟兵ですら手を焼く相手である。只人が抗しうる訳もない。
 だが、シズルの指揮があれば。そしてこの槍盾があるのならば!
「敵は異能の悪鬼。ですが、その槍盾ならば、必ずやあの鬼に届く。相対するときは必ず二人以上で。誰も死なずに帰りましょう。――いいですね?」
「「「――応ッ!!!」」」
 神楯衆の男達が盾を掲げる。士気を取り戻した神楯衆を前に、パンデュールのカメラアイとシズルの視線が重なる。確かな頷き一つ。
 ――そうとも。今この時、ここからが、反撃の始まりだ!


「く、ふふ、なんとまぁ――呆れるほどに強健だこと」
 何十合目か。打ち合わせた刃を弾かれ、満身創痍の丹菊が跳び下がる。未だ桜花と炎に嬲られながら、悪鬼・刃熊童子、健在なり!
「いい加減この炎もうざってえなあ、やい、手前を消せば消えるんだろう、のっぽ。そろそろ終わりにしてやるから、動かず黙って斬られやがれ」
「言われて黙って斬られてやるとお思いで? 鬼なら鬼らしく力に訴えるがいいよ」
 軽口で丹菊が注意を引く間に、横手からシュシュが再度射撃! 燦釘の連射を、しかし刃熊童子は顎を反らし回避、続け身体に迫る光弾も二刀にて弾き散らして防御!
「その手品も見飽きたぜ! さっきから鬱陶しい餓鬼だな、手前から先に殺してやる!」
 魔眼・鬼天による動態予測。シュシュが取る回避機動を予測の上で繰り出されるは『空絶閃』。不可視の一閃がシュシュを襲い――
「ッおおおっ!!」
 身を縮めたシュシュの前に、間一髪で疾風が割り込んだ。ネグルだ。裂空の頑健な刀身で空絶閃を止め、返す刀で光閃を放ち刃熊童子を猛撃する。刃熊童子はすかさず身を伏せ、横薙ぎの光閃をやり過ごし舌打ち。
「チッ、手前、いよいよ子守を棄てやがったか? いいぜ、なら足手纏い共から食い荒らして――」
「足手纏い? 勘違いはいけませんね。――彼等は、戦士です」
「あァ……?」
 シズルに率いられ、十名の神楯衆が進み出る。手に盾。そして槍。
「武器を換えた程度で良く吼えたなぁ! その屑肉共に何ができるってんだ、言ってみろよォ!」
 どうっ!!
 音を立て地蹴立てる刃熊童子! 丹菊ら三名を無視してシズルと神楯衆の方へ吶喊する! 建物の壁、地面に反射し、ときには魔術を使ってか、空中そのものを蹴立てて縦横無尽と跋扈する悪鬼。どこから来るか見えぬ!
 だが、
「円陣!! 盾構え!!」
 鬼に対する恐怖よりも――槍盾から伝わる力と、シズルの声が神楯衆を衝き動かした。
 男達は一瞬で円陣を組み全方位防御! 惑いない動きに刃熊童子の表情が歪む。
「ナメやがって! 這い蹲って恐怖を思い出せ、血袋風情がよォ!!」
 八方変幻自在の動きより繰り出される連続斬撃は正に驟雨の如く、周囲の地形すら斬り断ちながら無数に降り注ぐ!! 
     おにちさめ
 八刀流『鬼 千 雨』! これに巻き込まれては只人など、ミキサーに入れられた肉塊さながらに千切れ飛ぶか――
「突き出し!! 前へ!!」
 ……否!!
 シズルが分け与えた大楯と槍は、それそのものが所持対象の戦闘能力を爆発的に増加する! 傷付いた者も、血を流したものもいた。しかし未だ膝をつくものなく――全員、健在! それどころか、号令に沿って突き出された槍のうちひとつ、ふたつが、刃熊童子の脇腹を、右脚を掠め捉える!
「ンっ……だとォ?!」
 バランスを崩し着地し損ね、バウンドして転がる刃熊童子を、すかさずシズルが追走!
「異能の武具とこの場に集った精兵、皆の力あって負ける道理なし! 詰みです、刃熊童子! 己が罪を噛み締め、ただ還れ、骸の海の水底に――ッ!!」
 ダッシュから、振り上げた盾で上から殴り潰すようなシールド・バッシュ! 鉄槌めいた打撃で刃熊童子を殴り潰すッ!!
「ッが、ァッ!?」
 二刀で受けるも、シズル渾身の一撃は重い! 受けきれず背中から地面に叩き付けられ跳ねる刃熊童子! そこに、
「――言ったはずだ。全て護らせて貰う、とな!」
≪The Eclipse――Over DrIvE!!≫
 ジ・イクリプスを限界稼働! その速度、正に星の光。漆黒の流星となったネグルが宙に跳び、裂空による無双の一閃!! 闇を裂く光の一撃が、咄嗟に跳ね上げた刃熊の二刀を打ち砕く!!
「っ手前ェ……!!!」
「さて、出し惜しみはなしと行こうか。届けておくれ」
「りょーかいっ! 全弾、持ってけーーーっ!!!」
 丹菊がシュシュの肩に預けた手より、桜色の焱が這い、燦釘へと流れ込む。シュシュと丹菊の意念が合わせ込められた燦釘が、今一度吼えた。此度吐き出すは桜色の炎弾の嵐! 次々着弾し、空中、刃熊童子の身体が爆ぜるように燃える!
「く、っそがァ!! 糞虫共に、この俺様がァッ……」
『――虫じゃない。ボク達は!! お前を倒しに来た、戦士だッ!!!』
 宙に朗々と吼える声! トゥールだ! 怪我人を待避させ前線に参じたのだ。
 空中で隙を晒した敵。この好機を逃さない。
『いこうパンデュール、神楯衆のみんな! 里のみんなを絶対に――絶対に護り抜くんだ!』
『『『『『承知ッ!!!!』』』』』
 パンデュールのモニタールームには五名ほどの神楯衆精兵が詰めている。――それ即ち、シズルが神楯衆に遣わしたあの槍盾が五名分、パンデュールに『装填』されているようなものだ。
 一人が盾を掲げる。パンデュールのエネルギー翼が輝きを増す!
 一人が盾を掲げる。パンデュールの推進器からなお強く推進炎が迸る!
 一人が槍を掲げる。パンデュールの全身を巡るフォースエナジーが加速する!
 一人が槍を掲げる。パンデュールの膝、そして肘にエナジーが集う!
 そして最後の一人が槍盾を、ふたつ揃えて地に衝いた。
 
 彼岸蝶の大楯と槍のエネルギーがパンデュールに流れ込む!!
『パンデュール!! ブリッツハンド――オーバークロックッ!!!』
≪ラージャ。リミッターカット――レディ!≫
 その瞬間、パンデュールは先の刃熊童子の連斬撃を凌駕するスピードで飛んだ。
 皆が作った好機に、神楯衆、そしてシズルの想いとユーベルコードを乗せて、パンデュールが雀蜂のように唸り飛ぶ!!
『いっ、けええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!』
 肘、膝からから迸るブリッツハンドの閃光!!
 肘で殴りつけるようなフォースセイバーの斬撃、膝のセイバー一刺し引っ掛けて抜け、翅を羽撃き即座に回頭! 獲物を逃さぬ三次元挙動、異次元級の方向転換! 傷重なる刃熊童子、その速度に――追いつけぬ!
 斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃ッ!!! 空中、四肢が千切れ飛び刻まれた刃熊童子の躰目掛け、最大加速のパンデュールが突っ込む!

 膝から迸るブリッツハンドの閃撃、――おお。まさにそれは大槍の刃!!

 最後に吼えようとした刃熊童子の叫びすら飲み込み――
 パンデュールが繰り出したニー・ブリッツハンドの一撃が、悪鬼の躰を突き抜けた。

 ――閃光、爆発ッ!!!
 空に咲いた光の大輪から、パンデュールが飛び出し、勝利を告げるように、宙を大きく旋回する。
 見上げた猟兵らの口から、神楯衆から快哉が漏れる。

 重なった全ての思いが――今まさに、鏖殺の悪鬼の分体を粉砕したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

比野・佑月
【🐶🐱】

鋭春さんには俺もお世話になったからさ……頼んだ。

クロウくんが行くんなら安心だ。
ミソラくんがしたのと逆の手でハイタッチを交わしてそれぞれの戦場へ。

「俺的にはみーくんをくれてやるつもりも無いんだけど」
ここには世話になったからね。
刀も鍛冶師たちの命も、欠片たりともやるもんか。

足が速かろうと、腕が立とうと、行動が読めれば対処は出来る。
まんまとミソラくんを狙った敵にわんわんトラップを放ち、
さらにトラップを避ける先を狙って穿牙を射出!
「射貫け穿牙ッ!狩りの始まりだ!!」
ワイヤーで刀を絡め落としたり、動きの起点である脚を集中的に狙ったり。
部位破壊と傷口をえぐるのを繰り返してじわじわ削いで行こう


ユエイン・リュンコイス
◎⑤
他も気になるけど、頑鉄殿には補修の礼がある。死なせる訳にはいかないね。

駆月に乗って現着次第、機人を接続したキャバリアを吶喊させる。攻撃狙いではなく、その巨躯と質量を以て師弟たちへ覆い被さり防壁とする。【かばう、拠点防御、救助活動】

ただ、それのみで全て防げるとは思っていない。ボクは煉獄を手に切り結ぶ。基本は赤熱化させた刃による得物破壊狙いつつ、必殺の機を伺う【属性攻撃、焼却、切り込み】

煉獄の能力は相手も聞き及んで居るはず。されど、その姿を見た事までは無いだろう。当然、施された改良もまた然り。
ならば、練りに練った熱量を解き放つは今。
如何に相手が魔眼で見切ろうとも。

ーーこの焔閃、避ける事能わず!


シャオロン・リー
⑤◎
爺さんら、まだ生きとるか!
間に合うた…今度こそ、俺は間に合うたんやな!?
花狐貂、巨大化!里のもんを守ったれ
オマエらはそいつの陰に隠れとき!

俺みたいな悪党が善人助ける理由なんぞ、私利か私情に決まっとるやろ
槍を直してもろた恩がある、義理がある
せやからこそ!この二槍で暴れ倒したらなあかんよなぁ!

空中戦に持ち込む
敵の攻撃は見切って躱して
喰らってもうたもんは激痛耐性と継戦能力でとことん耐え抜く

二槍での攻撃、蹴り、頭突き、何でもええ、とにかく相手に攻撃を当てる事に専念

俺は今こそ爪牙揃うた暴れ龍!
暴力、暴走、暴動、その権化!
力尽きるまで暴れ倒すのが俺の役目や!

火尖鎗!
全部ぶっこんだるわ、ぶち抜かれろォ!


不知火・ミソラ
【🐶🐱】


はっ、任されてやるさ。
そっちもうちの連れの分を頼まァ。

不敵な笑みを浮かべて擦れ違いざまにクロウの手を叩き、佑月と弐の蔵へ

頑鉄のオッサンには刀を打って貰った恩がある。
他の鍛冶も刀も含めて好き勝手にされて堪るか。
おい、佑月。
相手がどんなにすばしっこくても俺が餌になりゃ夢中で食いついてる間にお前が捉えられっだろ?
やっちまえ。
俺も黙って食われるだけじゃねぇからよ。
「……朱蛇、てめぇも腹減ってるだろ?」
俺の血と寿命をくれてやる。
存分に燃えろ。
佑月に噛みつかれ抉られても止まれない奴らを纏めて焼き払っちまえ!
炎に破魔の力と衝撃波を乗せ、回避されても二回攻撃で追撃。
刀は燃やさず童子らだけを焼却。


ジャガーノート・ジャック
◎レグルス ⑤

(継承。追憶。昇華。
過去在ったものを今に継ぎ未来へ征く。
変遷し元の儘ではあらねども
確かにその息吹を芯に宿し
より強くなる。

『鍛治』とは斯くあるもので
そして『人』も『想い』も
そうかもしれない。)

それを踏み躙る真似など
させてやるものか
なあ そうだろう"剣狼"。

(赤毛の相棒が飛び込んだ先
生茂る森と其処にいる敵が見える。)

相対距離:7km超。
問題皆無。
狙撃は本機の本分だ。
そして――

(轟。誂えられし追銘。
其が今のお前の名前なら
其も我が物とし"昇華"する。)

刮目せよ。
この咆哮
この間合から
お前の喉元に届くぞ。

此は破邪の閃光にして戦吼。

追憶昇華――"我式極閃"。

咆えろ、

 ロア
『轟吼』。
(ザザッ)


花剣・耀子
◎⑤
恩がある。
義理がある。
好意も情もあるけれど。
無事を問うより先に、斬るべきものが目の前に在る。

抜かずに差した残骸剣から毀れる霊気を脚に、背に。
どれだけ疾く駆けられるかは判っている。
声を出すのも、音を聞くのだって惜しい。
視界に捉えてから接敵までの僅かな間に、
振るった残骸剣から伸びる革鞘で童子の行く手を、
……阻むなんてまどろっこしい事はしないわ。同着よ。

革鞘の陰から一閃。
その閃を起点に重ねて九閃。

相手は八刃。万鬼夜行。
それで足りるとは思っていない。
――いまのあたしなら、ひかりに追いつく。

一を九に。
九の一を九に。
重ね累ねて、八刃を斬り果たすまで咲かせましょう。


おまえ、悪手を打ったわね。
散りなさい。


クロム・エルフェルト
⑤ ◎
縮地走法で永海の里へ
勢い殺さず刃熊に挨拶代りに一合
鬼さん此方。刃の鳴る方へ。

敵の手の永海の刀に注意しつつ回避防戦
斬らせ散らすは髪、尾の毛、血

鬼伏八卦陣、破れぬなら重ねるまで
髪、毛、血を触媒に
「燃料」も確り注ぎ込んで
灼落伽藍を解き放つ

刀の儘では永海に届かない
この憑紅摸、刀にして刀に非ず
かの本能寺を呑んだ刧火そのもの
宿るは軍勢を相手に戦い抜いた手練れの気勢
過去の者よ、肺を焼かれる気分はどう?

刀身にも焔を纏い、反撃開始
傷はその都度瞬間的に焔で舐め、止血
残像を残す流水の足捌きで掻い潜り
潜れぬ刃は受け流し、打ち落とす
防げぬ刃は体勢を崩し、浅く受け
肉を斬らせて「……骨は、貰うよ」


紅呉・月都
⑤◎

俺らはいいように使われたってわけか…胸糞わりぃ
だとしてもだ
テメエらを野放しにしとくほど、俺らもバカじゃねえんだよ!!
頑鉄さん達を背に敵と向き合い
刃一閃、マヒ攻撃の衝撃波を放つ

同じ戦場を立ち回る味方の動きを戦闘知識を用いて見切り、連携を取る
刀を紅く紅く赫かせ、焼き祓いながら継続ダメージを与える

さっき、言ったろうが
想いを…妖刀を託された俺達は負けねえ
この里のもんは、何一つだって渡さねえ!!
向けられた攻撃は野生の勘で見切り武器受け・もしくは残像を用いて回避
敵の戦力を削ぐために魔眼と八の刃を狙い、穿ち、破壊を試みる

海底から二度と上がってくんじゃねえ!!
鎧を砕くがごとく、怪力で、燃える刀で灼き裂く


ロク・ザイオン
◎⑤レグルス

頑鉄!!!
(【殺気】を籠めた【大声】で矛先をこちらに引き付け
閃煌、雷華二刀で【早業】打ち掛かる
猛るものの売った喧嘩を無視して弱者に拘う、そういう手合ではないだろう)

…ごめん。
ちょっと中荒らすから、大事なものだけ持って逃げて。
ここはもうおれと閃煌の森(なわばり)だ。
お前らは、
(危機に臨み尚研ぎ澄まされた鍛冶の技
新たな刀たち
そして今、攻撃の度、降り積もる灰すらも!)
ーーおれたちの、糧だ。

(烙印に火を灯せ
「栄灰」
急速に伸長させた木々で、鬼を宙に跳ね上げる
視線が通らなければ奴は攻撃を避けられまいが)

おれの相棒には、全部見えてるよ。



●八刃猟兵十番勝負 弐之倉 幕間
 永海の里には刀を保管する倉が二つある。特性の異なる刀を同じ倉に保存すると、相互に悪影響を及ぼす可能性がある為だ。
 舞台はその内の一つ、東にある倉である。見れば倉の戸口は鋭利に刃で切り抜かれ、既に暴かれた後。倉の周りのそこかしこに、手持ちの武器で応戦しようとした鍛冶師達が転がっている。見れば解るだろう。防戦敢えなく、鎧袖一触に蹴散らされたのだ。
 ……しかしいずれも刃傷、打撲を負っているものの、未だ息がある。刃熊童子からすれば、殺すことは容易だった、その筈なのに。
「ぐ、ううッ……よもや、斯様な妖術を使って猟兵どのらの守りを抜けるとは……」
 唸りながら、よろめくように一人の男が立ち上がった。身体の各所に刃傷、作務衣がしどどに血に濡れている。――緋迅鉄筆頭鍛冶、永海・頑鉄である。強健なる彼の身体が幸いしたか、鍛冶師らの中で唯一未だ、立ち上がるだけの気魄が彼にはあった。
「ンだぁ、まだ立つのかよ」
「まあいいじゃねえか、藁束を立てる手間が省けたってもんだ。回りの根性無し共を起こすよりか、その爺で試し斬りをすりゃあいい」
 倉から適当に選んだと思しき二刀を手にして、峰で肩を叩きながら出てくるのは刃熊童子、その分体が二体!
 見せびらかすように永海の刀をひらつかせる二体の刃熊童子。頑鉄は目を細め睨む。
 片方が、緋迅鉄純打――“炎羅葬送”『紅影』、剛力鬼・刹鬼鉄純打――“騒乱羅刹”『猛躍』を。
 もう片方が、屠霊鉄純打――“喰霊皆蝕”『魂呑』、魔瞳鬼・刹鬼鉄純打――“縛動念鎖”『絡根』を。
 べにかげ、もうやく、たまのみ、からみね。いずれも永海の筆頭鍛冶たる頑鉄――そして今は後方で倒れ、爪で地を掻く二人、寂鐸と鋒竜が打った渾身の作だ。
「ってわけで、爺、そこを動くなよ。まあ、動いたら動いたで斬るからいいが、」
「動かずいたら、ほんのちょっぴりばかり楽に死ねるかも知れねえぜ。手元が狂わねえからな!」
 げらげら笑う悪鬼二匹。
 ――殺さなかった理由がそれで分かる。ああ、ヤツらは要するに、刀を盗み出す過程を見せつけたかったのだ。そして、鍛造った我が子に殺される、鍛冶師の顔を眺めに来たのだ。
 なんたる悪辣。なんたる邪悪。
 怒りを覚える頑鉄だが、しかし彼に何が出来るわけでもない。
 彼が手にした刀は既に折れている。頑鉄は鍛冶としては超一流であったが、それを振るう身としては三流以下だ。折れた刀で、今更抵抗の仕様もない。
(……儂も此処までか)
 ごく自然に諦念が浮かぶ。勿体ぶるようにゆっくりと二体の鬼が、倉の階段を降りて歩いてくる。
「が、頑鉄殿ッ……」
「逃げて下され、頑鉄殿!」
 立ち上がろうとしながら呻くように、寂鐸と鋒竜が絞り出す。しかし逃げない。折れた刀を出鱈目に構え、頑鉄は眦を決する。――やけっぱちで、根拠も無い信頼が彼の中にはあった。一秒でも長く立ち続ければ、或いは、次の誰かが斬られるまでに、猟兵がここに至るやも知れぬと。
 そう、戦場を駆け抜けるだけの力を持った武器を打った。幾つも鍛えた。禍焔竜槍『閃龍牙』、発破竜槍『爆龍爪』、閃輝焔刃『煉獄・赫』、炎熱地獄『絶焦』、斬禍炎焼『紅華焔・燼』、
 ――悪禍裂焦『閃煌・烙』。
「我が愛し子らよ。願わくば、猛き主と共に、この悪鬼共に地獄の炎鎚を下さんことを」
「ハッ、何を世迷い言をほざいていやがる?」
「くだらねえ。どこのどいつが俺様達に、そんなご大層なモンを振り下ろせるッてんだ?」
 頑鉄の切なる祈りすら、悪鬼共は平気で笑い飛ばし――
 助けなど来ぬと嗤って、ひゅん、と風めいて踏み込んだ。

 一瞬。
 たった一瞬の後に、頑鉄の首が落ちると思われたまさにその刹那。

「――頑鉄ッ!!!!!」

 獣の声が、そして炎の荒れる音が宙を引き裂いた。
 ご、ォばぅっ!!! 突如として側方から迸った炎が頑鉄と悪鬼二匹を隔てる!
「チッ!」
「いいところだってのに、つくづく燗に障る連中だぜ!」
 口々に嘯き飛び退く刃熊童子。
 しかしおお、頑鉄さえ目を瞠る程の凄まじき炎。熱が間近の頑鉄の産毛を焼く。――この炎を、頑鉄は知っている。悪禍裂焦『閃煌・烙』。その吼え猛るような熱を。
「おお……おお、」
 目尻に滲む涙は、命の繋がった安堵からではなく、それはただ――我が子が、我が孫が、己を助けんと、今まさに命を懸けて駆け参じた、想いが胸に響いてのこと。
 頑鉄は万感を込めてその名を呼ぶ。
 
「待っておったよ、ロク」

 真ッ赤な髪を怒りの余りに逆立てて、横合いから強襲したのはロク・ザイオン(変遷の灯・f01377)だ!
 頑鉄と目を交わして目元を和ませたのも一瞬、殺気を膨れ上がらせ、ロクは真ッ直ぐに敵へ襲いかかった。右に閃煌、左に雷華! 二刀引っ提げ飛びかかるその動きときたら、まるきり獣かましらのようだ。
 ロクと刃熊童子の一体が打ち合い出すと同時、その隙に頑鉄に向かおうとしたもう一体を、空から降る火砲めいた炎閃が遮る! 飛び退き避ける悪鬼をさらに二射、三射! いずれも回避されるが、刃熊童子は忌まわしげに舌打ち。
「ぞろぞろと連れ立ちやがって……!」
「ハッ、何とでも言いや! ――爺さんら、まだ生きとるか!」
 空から声が注いだ。背中の翼を羽撃いて空気を掻き混ぜながら、頑鉄を庇うように竜の子が降り立つ。シャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)である!
「坊主! お陰さんでの、しぶとく生きとるわい。手間を掛けるのう!」
「ええわいそんなん! 間に合うた……今度こそ、俺は間に合うたんやな!?」
「応とも! 未だ誰も死んでおらん!」
 シャオロンが安堵したような表情を見せる。――かつて仲間を失った。自分の不在時に。助けに行くことも、共に死ぬことも選べぬまま。
 ――あんな想いはもう懲り懲りや!
 シャオロンの顔にもう懸念はない。間に合いさえすれば、あとは暴れ倒して敵を悉く鏖殺するのみ!
 ロクとシャオロンの到着とほぼ時を同じくし、倉の横手に軽装甲車両がドリフト停車! 倒れている鍛冶師らを護るように停まった装甲車に続き、後方から巨大なキャバリア――『黒鉄機人』とデザインモチーフを同様とする――が地を揺らし駆け来る。機械仕掛けの巨人はそのまま膝をつき、鍛冶師らの防壁となるように構えを取った。
「頑鉄殿には補修の礼がある。死なせる訳にはいかないね。――勿論、他の鍛冶師の皆もだ」
 装甲車両から飛び降りるのはユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)。黒鉄機人を核としたキャバリアと軽装甲車を使い遮蔽物を仕立て、そこで鍛冶師達を庇うという策を採ったのだ。
 それにシャオロンが乗ずる。
「花狐貂! あのデカブツと一緒に鍛冶師のおっさんらを護れ!!」
 シャオロンの呼び声に応え、彼の肩にいた小さな犬――『花狐貂』が飛び降り、瞬く間に巨大化! 象ほどの大きさとなって倒れた鍛冶師らを咥えるなり跳ね駆け、ユエインが築いた陣地へと運び集め出す。
「爺さん、はよ行き! そん陰から出るなや!」
「うむ!! 済まんな……無事での、シャオロン!」
「当たり前や。俺の手には、オマエの作った爪牙があんねんぞ!」
 カラッと笑い、シャオロンは二槍を構え直す。
 ロクとシャオロンが戦端を切り、瞬く間に整った戦場。ロクが受け持つ個体とは反対、もう片方が忌々しげな舌打ちを零しながら、右手の赫刀――『紅影』を掲げる。
「でくのぼうに鉄猪、図体のでけえ犬っころ。それで手前ら、この刃熊童子様を阻んだつもりでいやがるのか? ちゃんちゃらおかしいッてんだよお!!」
 ご、おおうっ!!!
 剣先燃え上がり、天を衝くほどの熱が渦巻く! 永海・頑鉄作“炎羅葬送”『紅影』! 夜気を灼き裂く熱が集う。――あれ程の熱量が解き放たれれば、いかに遮蔽しようとも、その影にいる人間は只では済まぬ!
 緊張が走るその一瞬を、
「横から失礼」
 だ、だ、だンッ!
 縮地の足音が引き裂いた。
「ッ!!」
 振り上げた紅影の刃が振り下ろされるその前に、側方より金の風が吹く。
 ――否、色つきの風に見える程の速度で駆け現れた、クロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)による登場同時の側撃である! 地を縮めるが如き神速の運足より放たれる、勢い殺さぬ全力の一合!
 ギッ、きぃぃいんッ!! 掲げた紅影と左手の猛躍を交差して盾とし、刃熊童子は受け太刀。放たれるはずだった熱が霧散する。
「手前ッ!! どうやら命が要らねぇらしいなァ!!」
 敵の意識がクロムを向く。視線を受け、すうと目を細めた。他方では既にロクとシャオロンが戦闘開始、ならばこちらの鬼は他の猟兵が受け持たねばならない。
「命を棄てるに躊躇いはないけど、貴方相手にくれてやる命もない。……鬼さん此方。刃の鳴る方へ」
 挑発をくれてやれば、刃熊童子は正に猪の如くクロムへ吶喊した。
 単純だ。挑発して怒りの向きを操作するのは難しくない。……だが御しやすい相手でもなし。荒れ狂う二刀の連撃、正に瀑布か怒濤の一言である!
 高熱を孕む紅影の連撃に、猛躍の性質による剛力が乗る。軽いクロムの身体は一撃ごとに圧されて踵で地を削り滑る! 受けきれぬ刃が身を裂き傷を焼き、断たれた髪と血の幾許かが夜気に散る。
 速い。そして強い! 刃熊刀賊団頭目は伊達ではないという事か。
 ――しかし。
 クロムは『憑紅摸』の柄を握る手に力を込める。
 いかに強い相手であろうとも。いかに険しい戦いとなろうとも。ここには仲間がいる。この厳しい戦いを制するために集まった、四十三人の精兵がいる!
 だ、ダンッ!!
 屋根瓦踏み切る音二つ! 空から二つの声が降る!
「よう、クソ鬼。随分好き勝手にやってくれたじゃねぇか――頑鉄のオッサンには恩がある。他の鍛冶も刀も、てめぇの好きにはさせねぇぞ!!」
「そうさ、ここには世話になったからね。――刀も鍛冶師たちの命も、欠片たりともやるもんか!」
 刃熊童子の後背上方、倉の屋根を蹴って空に躍った猟兵の影二つあり! 不知火・ミソラ(火車の獄卒・f28147)と比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)の二人組だ! 間髪入れず、佑月が右手にした短刀――『穿牙』のトリガーを引いた。緋迅鉄、激発! 刀身が凄まじい速度で射出されて刃熊童子を狙う!
「次から次へと虫かなにかみてえに涌きやがる!!」
 咄嗟に身を捩って横っ飛びに転がり、穿牙を回避する刃熊童子。そこへ空中からミソラが『絶焦』より噴出する炎で姿勢制御・加速・急降下!
「倉を荒らす虫は、てめぇの方だろうがッ!!」
 空を翔け下り真っ向からの打ち下ろしッ!刀軋んで高く鳴る!! 余りの撃力に刃熊童子の踵が地を陥没させて沈む。
 ギッ、と悪鬼が牙を剥いた。
「だぁれが、虫だ、手前ェェッ!!!」
 めこりと腕の筋肉が隆起! 陥没した地面を踏み切り二刀でミソラを圧し払う刃熊童子。ミソラの身体がまるでボールのように宙に吹っ飛ばされる。間髪入れず刃熊童子、紅影による突き! 切っ先から荒れ狂う炎閃が伸び、ミソラを打たんと迫る!
「みーくん!」
「!」
 それを即座に佑月がフォローした。横合いから飛んでミソラの身体を腰抱きに掻っ攫い回避、穿牙を立木に撃ち込んで巻き上げ高速退避!
「ちょこまかとうるせぇ連中だぜ! 小細工だけは一人前だなア、ええおい?!」
「――小細工はお互い様だろ。いいように使ってくれたじゃねえか」
 ザザ、ッ。
 土を蹴立てる音がして、駆け参じた赤毛の男がもう一人、制動した。
 ずらり、黒刀を抜刀。刃銘、『紅華焔・燼』。紅き地金が闇夜に揺らめき、その刀身から陽炎立ち上る。
「手下共を燃料にブチ撒けて、術式を使うなんてのは予想外だったさ。確かにしてやられたが
――テメエらを野放しにしとくほど俺らもバカじゃねえんだよ。テメエはここで俺らが――」
 強く握り締めた黒刀、紅華焔・燼を中心に渦を巻くように火炎が熾り、男の精悍な顔を照らす!
「ぶった斬って、灼き尽くしてやるッ!!」
 紅呉・月都(銀藍の紅牙・f02995)。彼の名だ。月都が振り抜く黒刀より、火炎と衝撃波迸る! 
 その一閃が闇を裂くのが号砲だ。
 立会人は傷ついた鍛冶。地に伏し見仰ぐ彼らを背にし、今まさに――八刃猟兵十番勝負。二番・三番、剣乱死合、開幕である!



●八刃猟兵十番勝負 二番目
 ――というのが、戦闘が始まるまでのおおよその流れであった。
 バイザーに映り込んだ情報を元に、戦闘プランを修正、それを随時ロクに無線通信で伝達しながら、ジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)は、右手に抜いた機械剣――追憶昇華『剣狼・轟』を握り直し、里を駆ける刃熊童子と、紅き剣槍の光曳き走る二人の猟兵――ロクとシャオロンにピントを絞る。
 見えていた。
 猟兵らが激闘を開始するその一部始終を、彼は視界を最大望遠し、遙か離れた地より俯瞰していたのだ。
 おおよそ作戦の通りの流れだ。ロクが片方のヘイトを取り、シャオロンと協力して現場から引き剥がす。一体ならばともかく、二体揃っての乱戦となればいくら猟兵達でも、鍛冶師を防衛しながら戦うのは難しい。戦場の混乱が極まれば、挙句、誤射もしかねない。
 故に戦場を二つに分ける必要があった。この戦場へ志願したは合計九名、二人の刃熊童子を独立させて相手取るならば四名と五名に分かれる必要がある。
 ――結果、人数で勝る五人組に鍛冶師らのいる現場を任せて、ロクとシャオロンは最大火力で敵を圧し、現場から遠ざける役割を負った。
 幸いにしてロクとジャガーノートは勝手知ったるツーマンセル、そしてシャオロンとはアポカリプスヘルの荒野にて一度共闘体験がある。呼吸を合わせるのは難しくない。集まったメンバーの中では最良の人選のはずだ。
(――しかし二人。手札を切るタイミングを間違えれば、負ける)
 そう。五人分の手数があるもう一つの班とは違い、ロクとシャオロンはたった二人で敵を圧さねばならない。最低でも四人を以て事に当たるべしと推測される敵に二人で挑んでいる。それが最大のディスアドバンテージ。
 しかし、そのディスアドバンテージは、隠し通せたならば最強の剣となって突き刺さる。
 未だ姿を見せぬもう一人。そして遙か遠くから戦場を一望するジャガーノート。
 この二人の存在が最適なタイミングで姿を現せば、敵とのパワーバランスは一気にひっくり返るだろう。
『今しばらく耐えてくれ。……必ず貫く』
 通信に声を吹き込み、ジャガーノートはその機を見定める。
 まだだ。露見せずに撃てるチャンスは唯一度。しかも敵には予知の魔眼がある。外せばロクとシャオロンを窮地に追い込むことに繋がる。――失敗は、許されない。

 だが、上等だ。

 継承。追憶。昇華。
 過去在ったものを今に継ぎ未来へ征く。
 変遷し元の儘ではあらねども、確かにその息吹を芯に宿し、より強くなる。
『鍛治』とは斯くあるもの。
 そして『人』も、『想い』も、また、そうかもしれない。
 永海は、それを継いで来たのだ。遙か昔から、歴史の狭間に消えてしまいそうな僅かな灯火を、けれど決して消さずに、大事に抱いて歩いてきたのだ。そうでなくば、何故未だ七代永海、永海・鐵剣の名が遺る? 七代永海・筆頭八本刀がここに在る?
『それを踏み躙る真似などさせてやるものか。……なあ、そうだろう"剣狼"』
 剣狼・轟。壱文字、繋いで誂えられた追銘。
 それが今のこの剣の名ならば、それすら我が物として『昇華』する。
 ジャガーノートは剣狼のジェネレータを始動。低い唸りを上げて目を覚ます狼と共に、遙か向こうの機を見定める――


 屋根瓦を踏み割りながら、夜の里の空を、三つの影が剣戟奏で疾駆する。
 ががッ、がきッ、ぎぎぎっ、ぎぃん!!
 高速で打ち合うシャオロンと刃熊童子、二名を追いながら側撃を交えるロク! ロクもシャオロンも全力を尽くし打ち込んでいるが、刃熊童子はそれを余裕をもっていなし、それどころか鋭い突き返し・斬り返しにてシャオロンとロクに傷を刻む!
 傷を負うたび主担当をスイッチしながらダメージ分散をしてきたが、負傷と出血が徐々に二人の動きを蝕んでいく。
「――ッ、この、くらいっ!」
「ははッ!! やりおるやないけ、見た目はただのチビジャリやのにのぉ!!」
「強がりもほどほどにしとけよ過去殺し! 痛くて痛くてたまらねぇだろうによ! ――しかし解せねぇなアおい、槍の。手前ェからはクズの腐った臭いがぷんぷんしやがる。むしろ俺様達と同類って感じだ。その悪党様がよォ、わざわざこんな山奥の小せぇ里を守るだなんて一体全体、どういう風の吹き回しだァ? 地獄に落ちるのが怖くでもなったかよ!」
 言葉の間に打ち合った数二〇数合! 哄笑しながらの痛罵に、しかし「ヘッ」と鼻で嗤う声、シャオロンが長広舌を笑い飛ばす。
「よう知っとるやないけ。そこまで解っとって想像もできんボンクラかお前は。俺みたいな悪党が善人助ける理由なんぞ、私利か私情に決まっとるやろ?」
 悪党であることを否定するつもりなどない。かつて犯罪組織に身を置き、一時は檻の中で過ごしたこともある。暴れなければ生きてもいけぬ、真っ当な社会から零れ落ちたアウトサイダーの暴竜。それがシャオロンだ。
 ……だが。だからこそ!
「槍を直してもろた恩がある、義理がある。せやからこそ! この二槍で! お前相手に暴れ倒したらなあかんよなぁ!!」
 燃える、燃える、燃え盛る! 右手、禍焔竜槍『閃龍牙』が炎を帯びて過熱する! 閃龍牙がシャオロンの竜としての力を励起し、限界を超えさせる!
 暴れ竜、一瞬の目配せ。ロクの空色の目がそれを受けて尖る!
「死ぬにゃ安い理由だったな、手前。そんなにくたばりたけりゃそうしてやらア!!」
 刃熊童子、バックスイングした“縛動念鎖”『絡根』を閃かせての斬り上げ! ほんの僅か一瞬だが、シャオロンの動きが鈍る。
 ――そう。ここまでシャオロンとロクが苦戦を強いられた理由の一端がそこにあった。この刀は、縛動念鎖の魂添の通り、瞳術を得意とした鬼の眼漿を鋳込んだもの。意念込めた刀身より放つ光を見た敵の動きを一瞬縛る、まさに絡みつく根のごとき刃!
 動きを阻害されたシャオロンは、力の入らない急ごしらえの受け防御の構えを取り――
 眼を、閉じた。
「ブチ抜けェ! 爆龍爪ォ!!」
「――?!」
 受け止めた瞬間。自身の眼前で、爆竜爪の爆炎を炸裂させた。
 間近で炎が炸裂すれば眼を灼かれる。たまらず目を庇いよろめいた悪鬼を、シャオロンは即座に開眼、下から掬い上げるような爆竜爪の一撃で打ち上げる!! 再び炸裂ッ! 刃熊童子が吹っ飛ばされて宙を舞う!
「っぐ、うおッ!?」
 ――動きを止められ防御のタイミングをずらされるのならば、自爆覚悟で爆竜爪の爆炎を使い、敵の意表をつけばよい。けは、と口から黒い焦煙を吐きながら、シャオロンはすかさず地を蹴った。
(出る。頼むで!)
(わかった!)
 ちらり残した視線にロクが頷くのを確認するなり、シャオロンはすかさず背の翼を羽撃いて急上昇!! 全ての力を使い尽くさんばかりに加速! 傷の痛みも、消耗も、全ては湧き上がるアドレナリンで押し流して、二槍に意念の限りを注ぎ込む!!
「燃えろや、閃龍、爆龍!! 俺は今こそ爪牙揃うた暴れ龍! 暴力、暴走、暴動、その権化、狂奔の化身!! 力尽きるまで暴れ倒すのが俺の役目やッ!!!」
 激痛を抑え込み、痛みの全てを押し殺し。
 シャオロンは凄まじい速度で、今なお打ち上げられて上昇する刃熊童子を追い越し、その上へ回り込む!
 両手の槍に極限の力を注ぎ、――解放。

 ミラージュスパイク
「火   尖   鎗ッ!! 全部ブッ込んだるわ、ぶち抜けろぉおぉぉォッ!!!」

 ユーベルコード、『火尖鎗』!!
 二槍の切っ先が無数にぶれ、押し寄せる瀑布が如く刃熊童子に炸裂する!
 その威力、凄絶! 刃熊童子の身体が焼け焦げ貫かれ欠け、瞬く間に炭化し吹き飛ぶ!
 地面に叩き落とされた悪鬼、身体を返して四肢を突っ張って着地、ゼェッ、と驚愕混じりの喘鳴を漏らすが、鑢のごとき声が、その呻きを断つように響いた。
「――逆鱗に触れたな。おれと、竜の。ここはもう、おれと閃煌のなわばりだ」
 なわばり。領域。テリトリー。
 ロク・ザイオンがそう称する場所。――それ即ち、森である!
 ぶあうっ! ロクがここまで戦う間、閃煌の柄の焼印で灼いたものの灰が渦巻く! 渦巻いた灰が地面に食い込み、――直後、
「お前らは、――おれたちの、糧だ」

 地から凄まじい音を立て、巨大な樹が伸び上がり、屹立した。
 ――『栄灰』!! 閃煌の焼印で灼いた灰を『森』に変ずる、現実侵食系のユーベルコードだ!
 その樹一本で森と呼ぶに値するのではないかという大樹の切っ先が童子の土手っ腹に突き刺さり、その身体を遙か上方に叩き上げる。
 そればかりではない。どんどんと高度が上がるその最中も、枝分かれし伸びる大樹の枝が刃熊童子を絡め取り抑え込む! ロクが、閃煌の炎にて灼いた灰で生み出された森は――無辜のひとびとを。そのいとなみを。そして永海という里に生きる、彼女の『祖父』を。
 脅かす悪鬼を、病葉を、決して許しはしない!!
「頑鉄たちの作ったかたなを、これ以上汚すな。――それはお前が握っていいものじゃない!!!」
 ――アアァァああァアァッ!!!
 天を擦り削るようなロクの叫びが響き渡った。呼応するように木の生長が早まる。枝分かれした大樹の枝、無数の切っ先が刃熊童子の身体を突き刺す、突き刺す突き刺す突き刺す突き刺す突き刺す突き刺す突き刺す突き刺す突き刺す突き刺すッ!! 口から凄まじい量の血を吐き散らし、刃熊童子はしかしそれでも、ロクの言葉をせせら笑うように刀を振り回し、突き刺さる大樹の枝を斬り払う!!
「クッソ下らねぇなア!! 人斬り包丁は生まれたときから殺しの業を負ってんだ!! 汚れるもクソもあるもんかよ、お上品なおべんちゃらを垂れてんじゃアねぇ――ッ!!!」
 ロクのユーベルコードが生み出した奇跡的な隙。それが瞬く間に削れていく。突き刺さった樹枝が斬り払われていく。最初には二十数本と突き立っていたものが。ああ、残り、一〇、六、五、三、


「――斬り果たすわ」
 声とともに、間隙に割り込む影があった。


 恩がある。
 義理がある。

 やさしい、善良な人々だった。
 縁もゆかりも無いのに、唯一度、助けられたという恩に報いる為に、人に合わせた装備を造り。出来上がった装備の煌めきに、子供のように笑う。

“花剣様”
“どうか、ご自愛下さい”
“……貴女様は、自分に無頓着すぎるのです”
“貴女様が、己を顧みぬなら”
“その分だけ、我らが祈りましょう”
“――どうか、どうか、貴女様が絶えぬようにと”
“花嵐が、止まぬようにと”
“我ら一同、そればかりを祈って、これらを編んで打ったのです――”

 ああ、そのなんと面映ゆいこと、いじらしいこと。
 ――好意も情もある、けれど。
 かれらの無事を問うより先に、斬るべきものが目の前に在る。
 かれらを脅かした、悪鬼の命が剣先にある。


 影は音速を凌駕した。音の壁を突き破り、ロクが伸ばした樹を駆け上るひとつの弾丸。
 それは黒曜石の刃。悉くを斬り、悉くを涯たすもの。
 腰に差した残骸剣から毀れる霊気の全てを自身に装填。
 駆け上る。蹴り上る。清浄なる霊気に推されるように、地と真逆、そらにむけて一直線に加速する!!
 眼鏡の下で淨眼が光る。晴れた空の色。
 明けぬ夜に追い込まれしずむこの里に、
 明け空を取り戻すとうたうかのように。


 斬涯機構、花剣・耀子(Tempest・f12822)。
 翔ぶ!!


 最早声を出すのも聞くのも、その間すら惜しい。全ての知覚リソースを、刃熊童子の動態予測に費やす。音が聞こえなくなる。刃熊童子が全ての樹枝を斬り払い、動き出す。視えている。捉えている。一四四分の一秒をさえ捉える耀子の眼が、刃熊童子の刀の切っ先を睨んでいる!
 振るわれる鬼の刀の先から迸るほむらを一足飛び、スライド移動回避。
 回避した瞬間には既に『フツノミタマ』を抜刀――否、正確にはその革鞘、封留堅刃『機尋』を撓らせている!! 機尋は伸縮自在の妖異の革で出来た鞘、伸びた革が刃熊童子の身体を捉える!
『――?!』
 童子、悪態をつく唇の動き。やはり聞こえぬ。瞬く間に機尋がその身体を雁字搦めに絡め取り、
 一閃。
 それを起点に二、三、四、五、六、七、八。
 一瞬で重なった剣閃は八!! フツノミタマは硬いものほど良く切れる刃、柔軟でしなやかな機尋を斬れぬが故――多重剣閃の全ては、童子の身体のみを裂く! 八閃叩き込んだ耀子はそのまま、刃熊童子と擦れ違うように樹を蹴り、空へと駆け抜ける!
『――!!!』
 ばらばらの肉塊に分かたれかけながらも、驚異的な再生能力で身体を維持、刃熊童子は枝を蹴立てて巨樹から逃れようとする!!


 ――だが。
 その一瞬を待っていた男がいた。
 魔眼を使う余裕すらも失われた、
 そのたった一刹那を捉える為に、
 彼方より戦場を俯瞰した機人が。


「――悪いけど。おれの相棒には、お前の動きが全部見えてるよ」
 ロクの突き刺すようなこえと同時に、七キロメートル超先で、光が瞬いた。


 狙撃はかれの本分だ。そして――
 蒼穹すらも裂くこの刃が、たかだか見て取れる先の世界を断てぬ道理なし。

『刮目せよ、悪鬼。
 この咆哮。この遠鳴。
 二里を隔てて、お前に届くぞ』

 ジャガーノートは、全ての出力を手の中の機械剣、剣狼に突っ込んだ。最大、最強、正真正銘の全力。
『此は破邪の閃光にして戦吼。追憶昇華――"我式極閃"!!!』
 剣狼が展開し、光刃発生、収束。
 地を這うほどに大きなストライド。上体の捻りと踏み込みの勢いを乗せたただ一撃の突き。被害面積を極限に抑え、里に傷の一つもつけず、宙の鬼だけを穿つ神業めいた一撃。それはただの刺突にして、この距離、二里を無にする至上の『狙撃』!!

       ロア
『――咆えろ、轟吼!!!!!』

 解放されたユーベルコード。その名も、追憶昇華・我式極閃 『轟吼』。
 剣狼より極光迸る。その一撃はまさに光の速度で、七キロ離れた隣山の頂点より、悪鬼の胸を貫いて吹き飛ばした。胸郭のほぼ全てが吹き飛ばされ、瞬刻、再生もままならなくなる。ただのオブリビオンなら百殺して尚余る一撃。それでも生き汚く、心臓から再生を始めようとする悪鬼を――
「おまえ、悪手を打ったわね。散りなさい」
 空から落ち来た耀子が、頭から一撃した。
 ――否。一撃ではない。一撃かに見えたが、実際に走った閃の数は最早無量。
 一を九に。九の一を九に。重ね累ねれば斬撃は、いつか――否。
 いま、まさに、ひかりに届く。
 
   デイブレイク
 ―― 布 都 御 魂!!!
 
 刃熊童子の身体に、夜明けの名を冠す無数の斬閃が刻まれ――空中、その身体が盛大に爆ぜて散った。

 悪鬼より解き放たれた魂呑が、絡根が、廻り落ちて地に刺さる。
 墓標のように突き立った刃に歩み寄るは、森番。慈しみ、花を摘むように引き抜き、勝利を確かめるように、握った。

 綱渡りに綱渡りを重ねた勝利。しかし、その場の四人は確信していたのだ。
 ――我らの決意と覚悟を以て、断てぬ鬼などこの世に無しと!



●八刃猟兵十番勝負 三番目
 正に、激闘であった。
 鉄火を散らし、凄まじい勢いで赫刀と赫刀がぶつかり合う!
 後背の鍛冶師らを、キャバリアと連結した機人とシャオロンの魔犬『花狐貂』に任せ、吶喊したユエインが振るうは閃輝焔刃『煉獄・赫』。七代永海の技の粋、その熱天を衝くと謳われた魔剣である。
 それに真っ向打ち応えるは、永海・頑鉄作“炎羅葬送”『紅影』! 遣い手の技量もさることながら、その剣勢凄まじい。
 溜め込んだ熱により、煉獄は最早赤熱し、朱く燃えていた。その超高熱により敵の刃を熱破壊する狙いだったが、――当代緋迅鉄の極みもまた、峻烈! いくら熱を加えようがその刃綻ぶことなし! 紅影の打ち込みを受けたユエインが踵で地を削りながら飛び退く。
「……これが最新の永海の刀の力か。けど、こっちだって負けちゃいない。焔刃『煉獄』の力を見せてやる」
「ハッ、八束の野郎が後生大事に抱えてた刀かよ。勿体ぶるじゃあねえか! とっとと見せてみろよ、じゃねぇと手前ェ、死ぬぜ!」
 毒舌をぶりながら、しかし刃熊童子の実力は確かであった。口ぶりからして、焔刃煉獄の能力を察していたし、その名を聞けば八刀・八束が手にあって、天を焦がしたやいばだと知っている。洞察力と知識があり、煉獄の熱を警戒して猛躍を退き、紅影の一刀流でユエインに応ずる即応性がある。
 一刀流になった事でその膂力の全てが紅影に乗る。凄まじい速度での踏み込み、袈裟懸けの打ち込み! 剣跳ね上げ受けたユエインの踵が地面にめり込む。空が落ちてきたかのような激烈なる一撃。それに続いて、剣先が飛燕のように鋭い軌道で翻った。熱風捲いて、逆袈裟、胴打ち、喉突き、逆胴、首討ち!! 瞬刻放たれる連続攻撃は、その全て、一撃一撃に致命の威力がある!
 防戦一方。身体を捌き、刀を這々の体で受け流す。受けきれぬ刃が次々、身を浅く裂く。肉が焼け、吹き出た血が熱に爆ぜる音立て蒸気を上げた。単純な剣の腕では勝負にならない。しかしユエインは表情を変えず――真っ向から敵の刃と打ち合った。
 打ち合うたび、熱が上がる。
 紅影の熱さえ喰らい、ここまで溜め込んだ煉獄の熱は最早臨界寸前。ユエインは落武者らとの戦いの折より意念を込め続け、煉獄の火力を練り上げていたのだ。
 解き放つ機を見定める。隙がない。いかに強大な熱であろうとも、当てられなければ意味がない。だがユエインの顔に焦りなし。
 ――ここには未だ、共に戦う仲間がいる!
 ぎいんッ! 一際強く煉獄と紅影が打ち合い両者が膠着した刹那、
「……鬼伏八卦陣、破れぬなら重ねるまで。熾きて、憑紅摸」
 その側方にて刀を正眼に構え吼える影。クロムだ!
 刃熊童子の意識がクロムに向いた瞬間、クロムは断たれた髪、尾毛、そして全身の傷から今なお流れる血を触媒とし秘術を発露した。
 ――轟ッ!! 音を立てて世界が燃える!
 周囲の猟兵達が息を呑む。
 現出するは異界。『灼落伽藍』! 周囲が荒れ燃え盛る炎に包まれる!
 戦地そのものを上書きする空間浸食。それはかつて、かの本能寺を呑んだ刧火そのもの。クロムの刃、刻祇刀『憑紅摸』は、刀にして刀に非ず。実休光忠の焼身、その裡に封ぜられた過去を焼く大火こそがその本質――クロムの寿命を燃料として、過去たるオブリビオンを燃やす葬送の炎である! その炎は過去のみを焼き、無辜なる民と猟兵を傷つけることはない!!
「ンッだア、こりゃアッ……!」
 クロムが敵意を向ける刃熊童子にこそ、劫火は覿面に作用した。呼吸が乱れ、動きが鈍る。
「過去の者よ、肺を焼かれる気分はどう?」
「クソがッ! 小癪な真似をしやがって、手前ェから殺してやるよ!!」
 凄まじい膂力で噛み合った剣を打ち払い、ユエインの身体を突き放すなり、クロム目掛けて跳ねる刃熊童子。今一度、紅影と猛躍の二刀流だ。クロムは焔気渦巻く中、深く、鋭く息を吸い、低姿勢より今一度の縮地。踏んだ地が立て続けに爆ぜ、クロムの稲妻めいた歩法の形に土巻き上がった。
 ――その手の内、憑紅摸が猛火を纏って燃え上がり、彼女の戦意を物語る!
 接敵! 両者、無呼吸での打ち合い! 近づいた者から断たれかねぬ、刃の嵐が如き乱打戦。クロムほどの手練れを以てしてもその剣勢止められぬ! 捌ききれぬ紅影の斬撃が、力で押し切る猛躍の一撃が、クロムの身体に浅く食い込んで抜ける!
 脇腹に、右脚。常人ならばめり込んだ刃の痛みに、熱に、確実に足が止まる。しかしクロムは決して止まらない。斬り裂かれた傷口を灼落伽藍の炎にて焼き止め、振るわれる天衣無縫の連続斬撃を流水が如き足捌きで掻い潜る! 残像曳いて太刀廻りながら、潜れぬ刃を打ち弾き流す、まさしく達人の技なり!
「このッ、ちょこまかとォ!! もういい、死ねやアッ!!」
 二刀が物凄まじい音を立て振るわれた。描かれる斬閃の数は無数、まるで刃の牢獄だ。ここまで、烈火の気勢を流水の歩みにて抜けてきたクロムですら、それを潜り抜ける道はない。そう、彼女自身が判断するほどの連続攻撃。
 ……潜れぬ。

(――そう。無傷では)

 クロムは踏み出した。その身体に雨霰と刃を受けながら。体中から血が迸る。焼けど止まらぬほどに。
 だが、まだ動く。止まらぬ――すんでの所で致命傷を避け、振るう憑紅摸が急所に迫る斬撃だけを選び取り弾く! 絶技。死なぬ傷など全て浅手とでも言うかのような迷いなき前進に、悪鬼さえもが目を瞠る!
 ――是、正に剣の極意の一つ。肉を斬らせて、
「……骨は、貰うよ」
 憑紅摸、華焔一閃!!
 振り下ろしたクロムの一刀が、悪鬼の左腕を斬り飛ばすッ!! 猛躍諸共くるくると回って地に落ちる刃熊の左腕!!


 ――「おい、佑月。奴がどんなにすばしっこくても、俺が餌になりゃ夢中で食いついてる間にお前が捉えられっだろ?」
 ――「俺的にはみーくんをくれてやるつもりも無いんだけど? ……でもそうだね。今の俺には、牙があるから。絶対に食らいついてみせるよ」
 ――「なら、それで行こうぜ。安心しろ、俺も黙って食われるだけじゃねぇからよ」
 ――「……信じるよ。ミソラくん、忘れないで。アイツは強い。俺一人でも、キミ一人でも届かない。でも二人ならきっと――」


 そうだ。届く。


「クソ虫どもがッ!! そんなに俺様の刀が見てェかア!!」
 斬り飛ばされた左腕が一瞬で再生! 手から離れた猛躍に替わり、無色の刃がその手に抜かれる。渾身の一刀を放った態勢より二の太刀打てずによろめいたクロムに、紅影の一撃が振り下ろされたその刹那!
 正に戦場に吹く刃風の如く、ミソラが二者の間に割入、紅影の一撃を受け止める!
「……!」
「退がれ!!」
 ミソラの声に頷きクロムが後退。一瞬での入れ替わり。数に勝る猟兵の特権、電撃的なスイッチ戦術だ。ミソラが渾身の力を込め推せば、鍔迫り合いを嫌って飛び退いた刃熊童子が忌々しげに吐き捨てる。
「次から次へとッ!! つくづく業腹だぜ、雑魚も群れれば厄介なもんだなア、おい!」
「何とでも言ってろ。――悪いがここにてめぇにくれてやる命はねぇ。この火車が、てめぇを地獄に運んでやるよ!! そろそろ腹が減った頃合いだろ――起きろ、朱蛇!!」
 ミソラが叫ぶなり、その手の内にある妖刀――緋迅鉄純打、炎熱地獄『絶焦』が烈しく燃え上がる。ミソラを主と認めたか。彼の身体をとり捲くように炎が燃え、絶焦に鋳込められたあやかし――火焔大蛇の『朱蛇』の形を取る!
「虚仮威しがッ!!」
 然りとてそれを恐れる刃熊童子ではない、紅影を振り翳し踏み込む! 此度は紅影だけではない、間合いの視えぬ無色の刀も共に襲い来る!
 斬撃、斬撃斬撃斬撃! 刀の達人たるクロムでさえ受けるに難儀した刀の連撃、ミソラはそれを敢えて前に出て臆さずに受ける。
 一打受ける間に反対の刃が翻り身体を裂く。血が飛沫き傷が焼け、激痛がミソラを苛む。真面に打ち合えば長くは保つまい。
 それを知りながらミソラは絶焦に意念を込める。存分に燃え上がれ、俺の血と寿命をくれてやる、と! 赤銅色の刀身が赤熱し、纏う炎が苛烈さを増す!
「ハッ! ご大層に力を溜めてるみてェだが、そのすっトロい剣筋で俺様に一撃入れられるとでも思ってんのか、手前ェ!!」
 猛剣襲う! ミソラの身体の各所が鎌鼬に断たれたかのように裂けて血が噴き出す!! よろけかけるが、しかしミソラは倒れない。滴る血を、絶焦に浴びせる。主が捧いだ血に噎ぶように、絶焦の熱、高まる! ミソラは笑う。ここまで傷つき窮地に立たされながらも!
 刃熊童子がミソラの表情に不快げに鼻を鳴らす。
「ニヤニヤしてんじゃアねえよ、何とか言ってみたらどうだ、優男ォ!!!」
 激して二刀引き、再び猛連撃――八刀流『刃熊旋風』の構えを取る刃熊童子――ああ、今、まさに、地を蹴る。その瞬間。
 引き付けた。限界まで。そろそろ、『待て』を止めるときだ。
 だから躊躇わず言った。相棒に。――友に!
「――待たせたな。やっちまえ、佑月!!」
「?!」
 ミソラの声と同時に、地に宙に突如として鉄顎が析出した。それは鎖に繋がれた犬の顎門を模した、黒鉄のトラバサミ! 駆けだした刃熊童子の脚を、腕を、咬み付いて咬み込んで食い締める!
「待ちくたびれたよ。ヒヤヒヤさせるのやめてくんないかな!」
 気配を顰めて隠形していた佑月が、闇からまろび出るように姿を現す。ミソラを囮として罠――妖力で自在に操れるトラバサミを隠匿敷設し、このタイミングで同時起動したのだ!
 それに気付いたとてもう襲い。刃熊旋風は超高速の連撃だが、それは事前に走るコース、放つ斬撃の型を決めてルーティンとすることではじめて実現されるものだ。――即ち、一撃入れる前に不都合が発生したとて、連撃が終わるまでは解除出来ぬ!
 ミソラに向けて襲いかかった刃熊童子に、計一六個のトラバサミが食いついた。速度が鈍る。ミソラが横っ飛びに跳ねて刃熊童子の突撃を回避すると同時に、マズル・フラッシュが瞬く。銃声が六――否、大小合わせて十二鳴る!! 射手は当然佑月、『春宵』、『秋暁』の二丁拳銃から放たれた全弾が下肢に食い込んだ。刃熊童子の脚から、ぱっと血の飛沫が散る!
「があっ?!」
 いかに足が速くとも、いかに強かろうとも――行動が読めれば対処できる。
 先の猟兵が目の前で戦い、動きのパターンを割り出していけば目も慣れる。佑月程の猟兵が、先達が粘ったその時間を無為に過ごす訳もない! 下肢を集中して攻撃し、その機動力を削ぎ落とす!
「てッッッ、めぇェらあああっ……!!!」
 怨念滲む凄まじき声で凄み、脚から血を散らして制動する刃熊童子。
 最大の機だ。失った腕を一瞬で復元するような再生能力を誇るこの悪鬼のこと、元同様に動けるようになるまで多く見積もっても十秒とない。万全となった刃熊童子はその手足に食いついたトラバサミを玩具のように引き剥がし壊し、猟兵らに襲いかかることだろう。
 ――だが、そうはさせない!!
「テメエの剣には想いがねえッ!!!」
 紅華焔を翻し、月都が止まった悪鬼の背後より襲いかかる!!
 戦場を立ち回る仲間、ユエイン、クロム、ミソラ、佑月の位置関係と動きを確認し、いつでもバックアップに入れる態勢を整えていたからこその即応だ。蓄積された戦闘知識が自然に導いた、最高にして至適のタイミング!
「テメエの手下にも言ってやっただろ。――想いを、妖刀を託された俺たちは負けねえ。この里のもんは、何一つだって渡さねえ!!」
「何が想いだ、薄気味悪い綺麗事で、人斬り包丁を飾るんじゃアねぇよ!!」
 刃熊童子が二刀にて斬り返す、しかし月都の動きはそれよりも速い! 類い稀なる野生の勘で斬撃を潜り抜け、意念を注ぎ込んだ紅華焔で敵の刃を受け、弾き、流す!!
 奇跡的なバランス。
 事ここに至り、猟兵達の劣勢が終わる。拮抗。
 ここまでに積み重ねたダメージ、回復を許さぬ連続攻勢が奏功し、月都の動きが刃熊童子の運動性能に追いつく!! 月都は刀を紅く紅く赫かせ、打ち合う都度迸る炎で敵の傷を焼き祓い、回復を遅滞させながら戦闘を展開!
 怒りの余り、罅の入るほどに歯を軋った刃熊童子が大振りに紅影を振り被ったその瞬間を、
「飛べッ!!!」
 佑月が逃さぬ!!
 銃声と共に射出された穿牙が唸り、反射で首を逸らした刃熊童子の顔横を飛び過ぎる! 外したか? ――否!! 端から狙いは刃熊童子ではない! ワイヤーを引きながら巻き上げるその瞬間、佑月は手首を返して刀身の軌道をコントロール、――紅影の刀身をワイヤーで絡め取り、巻き上げて刀をその手からもぎ去り、払い捨てる!
「ッ――?!」
 余りのことに言葉を失い、一瞬呆ける刃熊童子に、月都が畳みかけた。打ち込む。打ち込む。打ち込む……打、打、打、打打打打打打打打打打打打打ッ!!!! 月都の動きが加速し続ける! 隙を縫っての刃熊童子の突き返し、斬り返しをまともに受けて血を噴きながらも、打ち込みの勢いは止まらない!!
 ――ユーベルコード、『奮迅する諸破の紅牙』。
 己の活力を、血液を、痛覚を代償として支払い、その刃、紅華焔・燼の真価を発揮する技だ!!
 形勢逆転であった。今や防御が間に合わぬは刃熊童子の方! 全身に火傷と切傷を刻まれ、今なお失せぬクロムの炎が肺腑を灼き、鈍った動きに漬け込まれ、瞬く間に劣勢に追い込まれ――
「こんなッ、ことがッッ、クソッ、クソクソクソッ、クソがあああぁァァア!!!」
 認められぬと叫んだ声を、月都の叫びが真っ向断つ。
「沈め、骸の海にッ!!!! 海底から二度と上がってくんじゃねえ!!!!」
 この手前勝手な鬼を許すわけにはいかぬ。絶対に。
 だから力を貸せ、紅華焔!! そう、心の底から強く願った。
 ――瞬間、クロムが描いた『灼落伽藍』の炎が、共鳴した。
 紅華焔・燼に。絶焦に。煉獄・赫に。


 月都が振り上げた紅華焔が周囲の炎を取り込み、紅を通り越して白く燃え上がる。そのまま、天に響くような裂帛の気合と共に振り下ろし。刃は、童子が挙げた透明の受け太刀をいとも容易く千々に砕いて、その身体を断った。
 ほとんど二つに千切れかけながら吹き飛ぶ刃熊童子の身体を、軌道上に回り込んだミソラが皮肉な笑みで迎える。
「――デザートだ。良く味わえよ、朱蛇!!」
 灼落伽藍の炎を捲いて、下から掬い上げるような、渾身の斬り上げ! 破魔の力と衝撃波が乗った焔柱が刃に乗り、悪鬼の身体を灼き砕き空へと吹き飛ばすッ!!!
 その瞬間をこそ、ユエインは待っていた。魔眼での予測が成ろうが、成るまいが、関係ない。最早敵にこれを回避する方法はない、完全な『詰み』の瞬間を!
 烈光鉄製の鍔に、煉獄から熱が伝わる。
 天を焦がすと謳われた、無上、史上最強の焔刃、その威力を彼方に伝える為に!!
「この焔閃、避ける事能わず!!!」
 叫びと同時に解き放たれた刃が、瞬刻空の雲を穿った。圧倒的な熱量が灼落伽藍の焔と溶け合い、渦巻いて空気を上に推し、雲を掻き乱したのだ。
 振り下ろされた刀の先から迸るは、『焔閃』。煉獄が得た、『炎を刃として飛ばす』権能!
 正面からまともに受けた刃熊童子の身体が真っ二つにぶった斬られて炎上する。その有様となってさえ、分かれた肉体が足掻くように蠢く! 断面より覗く心臓が拍動し、再生しようとするその刹那!

「射貫け穿牙。――これで終わりだッ!!!」

 トリガー。
 今一度の銃声に似た咆哮。

 佑月の叫びと同時に、穿牙が吼えた。刃が放たれ、秒速三二〇メートルにて飛ぶ。
 飛んだ刃が、重い音を立てて刃熊童子だったものの心臓を食い破り、血と肉を同心円状に散らした。
 それが、最後。
 ――悪鬼の手脚から力が失せ、どうと音立て肉落ちて――
 その身体、今まさに、紅い塵屑と化して大気に溶ける。

 くるくると宙を回って、墓標のように、紅影が地に突き立った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

人形・宙魂
◎④
空中浮遊とジャンプ、空を跳んでロープワーク、霊力の糸で身体を引張って刀倉へ急行

銀翔さん!
魂虚を怪力で振るい、重い刀を鬼へ叩きつけます!
その刀、貴女が使って良い物じゃないッ!
弾かれた刀を重くして即座に肩に担ぎ、軽い魂揺を早業で抜きなぎ払う。

…鍛ってもらったのは、短刀の方です。
魂虚は、そんな良い物じゃない

『鬼重・修羅道』
重力制御、袖の中で圧壊させた、鬼縛鎖の破片を腕を振って宙へばら撒き、吹き飛ばし、相手に破片を高速で落とし、目潰し。
呪詛で相手の動きを阻害。ついでに魂虚も相手に落します

……貴女にあげる程、どっちも安くはないです。
相手の懐へ高速落下で切り込み、魂揺から、重力の塊を放って、重量攻撃


三咲・織愛

ロゼくん(f01535)と④

そうですね。刀倉壱へ参りましょう
筆頭鍛冶や徒弟の方々を守らなければなりません

奪うことも、盗むことも、傷付けることも
許せることは何一つなさそうですよ
ふふ、ロゼくん苦労しているんですね
そんな上司さんはぼっこぼこにしちゃいましょう

さて、冗談ここまでにしておきましょう

人々の護りに重きを置いて動きます
他の方々が後ろを気にすることなく戦えるよう、この身は盾と思いましょう
敵の間合いから人々を遠ざけるよう場所の誘導を
敵の動きを注視し常に射線に入っていけるよう身構えます
他の猟兵の方々と連携し効率を意識しましょう

燦星・隕を袂に、【想駆星穿】で自身を強化、
光閃で隙を作ってみせましょう


ロゼ・ムカイ

なあ、織愛ちゃん(f01585)
俺らは④刀倉壱の方に行かねぇか?
敵が2体も攻め込むみたいだし、人手は多い方がいいだろってな。

人の作った秀作を盗むとかさー
そう言うの許せねぇんだわ、マジで。
人の成果を横取りする太てぇ輩はウチの上司だけで十分だっての!!

さっきはヘバっちまったけど、
もう織愛ちゃんには情けないとこ見せらんねぇよな。
本気出す。

スプーン、ナイフ、フォーク、のカトラリーを投げつけてワイルドハント!
来いよ、猟犬ども!狩りの時間だぜ!
三匹の犬は言わば囮だ、隙を突いて悪喰で魂ごと喰らってやる

おつかれ、織愛ちゃん。
あいつへの怒りのおかげか、今回はバテずに済んだぜ。


辻風・舞
◎④
鼬術「烈風陣」発動
わしのからくりを先に遣わす
地に足つけて駆ける必要などないぞ踏
おぬしはからくり人形なれば
飛んで行け
その方がずうと速かろう

踏を起点に結界術で防壁を築く
童子めと鍛冶師・徒弟らを分断する
わしらが着くまでの時間稼ぎよ
狂剣士の攻撃はからくりの身で受けよ
結界を壊されぬよう守れ
踏は壊せば壊すほど、怪異侵す毒が染む
仕込んだ暗器が敵を討つ
壊れてもなお継続ダメージを与えるという寸法よ
わしの可愛いからくり
よい武器であろ?

わしも気合を入れて参る
喧騒に紛れてだまし討つ
辻斬小町の本領発揮といこうかのう!


御十八・時雨

はいりさま(f27446)と
命も、刀も、奪わせるわけにはいきませぬ

さあ砕炎、やんちゃの時間は終わりだ
おまえの兄姉を取り返すぞ
おまえの親を護るぞ
その為に今度はおれの言うとおりにしておくれ

はい、はいりさま。あなた様に続きます
もののふのひとりとして、必ずや、ご期待に応えまする

身体を使わせないのなら、はいりさまのように速くは駆けられない
だから確実に、懐へと潜り込むために歩を進める
見目の鮮やかさに誤魔化されるな
刃の生んだ音を聴き、いなし、避けきって進め
あの御方が敵を止めてくださるのだ
傷を負えども突き進もう

怒れ砕炎、おまえの兄姉をこのように振るうあの敵へと
そして叫べ、おれの渾身とおまえの全力で斬り飛ばせ


岬・珮李

時雨(f28166)と

知ってるかい?
悪いことをすると、神様から天罰が下るんだよ

斬風、さっきの戦いでキミの事を識ることはできたよ
だから次は、ボクを識って欲しい

時雨、ボクは先にいくよ。先にいって、隙を作る
キミと砕炎のうんと重い一撃が、今は必要だからね
ここに立つキミは立派な戦士だ。信頼してるよ
さあさ、おいで?悪餓鬼
速さなら負けないし。こっちはお前と違って自由が効く
足裏での発雷位置を変えれば、横に避けるも飛び退るも自在
これで敵の攻撃を避け、いなし
動きが止まるまで耐え、止まった所を斬る

猛れ斬風、お前の故郷を穢さんとするあの敵へ
そして歌え。今この場に我らの影を踏めるものなど存在しないと、高らかに切り刻め


青葉・まどか




精魂込めて造くられた刀を奪い、里の職人たちを害するなんて許さない!
その刀は、刀に込められた職人たちの想いを理解しようとしないお前が持っていい物じゃない
必ず取り戻す!

敵は強い、仲間の猟兵との連携を意識して戦うよ

『神速軽妙』発動
速さを活かしたヒット&ウェイ

刃熊童子が持つ刀に注目
刀倉に保管されていた妖刀の特性を思い出す
高い基本性能、俊敏な動き、重い斬撃、放たれる冷気
永海の妖刀の恐ろしさが身に沁みる

敵の攻撃を【視力・第六感】で【見切り】、敵の手を狙って【カウンター・部位破壊・武器落とし】を仕掛ける

何本刀を所持していても刀が握れなければ意味がない……本来なら
相手は剣鬼
倒れるその瞬間まで油断せずに残心


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
人間らしいやり方には疎いが、幾ら何でもそこまで恩知らずじゃあない
刀の礼をしに来たぞ
ニルズヘッグ、参る
なんてな

倉の中で無節操に振り回せる長さでもない
ここはひとつ私の得意技で追い詰めさせてもらおうか
――天罰招来、【奸計の霜王】
冥竜の力で氷の属性攻撃を増幅、寄せた呪詛を乗せて威力を増そう
重点的に狙うのは当然、足だ
この狭い倉の中
八十八の刃を相手に、魔眼とやらの力がどこまで及ぶか、見せてくれよ

動きが制限されていれば慣れぬ武器とて充分
ようやく冥竜の生みの親に切れ味を見せられる
斬り合い?卑怯?聞こえんなァ
勝利を犠牲に正々堂々打ち合うほど馬鹿ではないよ
どんな武器でも勝てりゃあ振るうさ
丁度、こんな風にな!



●八刃猟兵十番勝負 壱之倉 幕間
 斬魔鉄、飄嵐鉄、地鳴鉄、絶雹鉄で打たれた永海の刀が収蔵される刀倉の重扉は、今や鬼の剛力で破壊され見る影もない。
 倉の中から、がちゃがちゃと、乱雑に刀を物色する音が聞こえてくる。突如襲い来た鬼二匹が、倉を守る鍛冶師ら総勢十八名をほんの一瞬で蹴散らし、倉を破ったのが先刻のことだ。
「糞、」
 地を爪で掻き、呻くように、永海・冷鑠は悪態をついた。
 自分の得意は鍛冶だ。決して、作った得物を振るのを得意と言った覚えはない。だというのにあの糞鬼二匹ときたら、そんな自分に刀を抜かせた。
『斬魔鉄の子らを頼んだ』と無念そうに言ったあの男のことも気に入らない。腕ももう上がらないほどに鎚を振るい、最後まで鍛冶場に詰めることを決めた鋭春のことが。
 そして何より、絶雹鉄の得物ならば手伝えもするが、――あらゆる鉄を手脚のように扱うあの男に、最早自分は付いてはいけぬのだという諦観が、何より憎い。
 ああ、気に入らないことだらけだ。浮世というのは。
 冷鑠は痩せぎすの身体を、刀を杖にぐっと持ち上げた。傍らでふらふらと、血を流す男がもう一人立ち上がる。
「しぶといな。もうくたばったかと思っていたぞ、銀翔」
「バカ言いなさんな。俺ぁ可愛子ちゃんが飛んできてくれるのを見るまでは死ねねぇよ。……なァ、荒金どの」
 飄々とした物言いをそれでも崩さぬは永海・銀翔。
「そうだなあ。我らの刀を持つ誰かが、もしや間に合わぬものでもないかも知れぬ。まだ抗い尽くしたわけでもない。ひょっとすれば、ひょっとするかもしれん。……それに、徒弟らだけは何が何でも逃がしてやらんとな。これまでオレたちが教えたコトが、無に帰してしまう」
 その横で大男がぐっと腹に力を入れてのそりと起き上がる。永海・荒金だ。自身の鍛えた地鳴鉄製の鉞を握り、構え直す。
 こいつらはどうしてこれほど、強くあれるのだろう。冷鑠は二人の胆力を羨む。冷鑠、鋭春と同期の入門にして、三人の中で最も早く筆頭鍛冶となった気鋭の天才、銀翔。元は名のある武士だったが永海の技に魅せられて、地位と刀を捨てて鍛冶の道に命を捧げたという荒金。
 鮮烈な生き様。死地に立って尚失せぬ耀き。己にはないもの。
 ギッ、と歯を食い縛って冷鑠は言う。虚勢を張る。
「ああ、ああ、そうだろうとも。覚えの悪い莫迦弟子共ばかりだが、」
 死にたくはないし、ここで死ねば、鋭春に追いつくことは叶わなくなってしまう。けれど――
「それでもこの俺の技を継ぐ為に鍛え上げた。ここで殺されるのは剛腹だ」
 ならば、前に立たねばなるまい。
 背にした、傷ついた鍛冶らの為に。彼らが一時でも長く永らえる為に。
「――おんやア、そこそこ痛めつけてやったつもりだが……そこそこ骨のある人間がいたモンだなア」
 冷鑠達の上から声が降る。高床の倉より、刀を引っ提げて二体の鬼が進み出た。その手にしているのは冷鑠ら、筆頭鍛冶らの快作だ。
「……おいおい、あの四振りを取られちまったら、次の取引がご破算だぜ。抱き合わせで何本売るつもりしてたっけ?」
 げぇ、とげんなりした顔で銀翔が吐いた。冷鑠も肩を竦める。
「金より命の心配をしろ。……しかしヤツらにも、刀の善し悪しが分かるのだな」
 夜目にもはっきりと分かる。敵が持ち出したるは四刀。
 一体が、斬魔鉄純打“一刀斬皆”『葬裂』、絶雹鉄純打“喰侵凍裂”『氷蝕』。
 もう一体が、飄嵐鉄純打“疾風翻弄”『瞬嵐』、地鳴鉄純打“万象破砕”『潰鉄』。
 そうれつ、ひょうしょく、しゅんらん、かいてつ。四本全てが、次の大口の取引の目玉として用意された、筆頭鍛冶の作であった。
 中でも葬裂は斬魔鉄筆頭であった鋭春が総代となったことで値段がつり上がったと聞く。仮に持ち去られれば次の取引が危ぶまれるだろう。……もっとも、あの鬼共を野放しにして、この里に生き残りがいれば、の話だが。
「小馬鹿にしてたがなかなかいいもんだな、こりゃあ。さて、試し斬りに付き合ってくれよ、刀鍛冶共。自分の作った刀で死ぬ気分を、地獄に落ちた後にでも教えてくれや」
 ひゅん、ひゅん、と刀を振りながら二体の鬼が階段を下り来る。勿体ぶった足取り、しかし叩きつけられる殺気は本物。自分の身体が数倍の重さになったようだ。動けない。少しでも動けば次の瞬間には、刃が喉元に迫るのではないか、という恐怖感がある。
 横を見れば銀翔と荒金も身を竦めている。銀翔の額に汗が浮くところなど、鍛冶場以外で見たことがない。
 一歩。また一歩。死が近づいてくる。身体が硬直し、鬼共から目が離せなくなる。予感があった。倉の階段を、ヤツらが下り終えたとき、自分は死ぬ、と。
 あの階段の下から、距離九間ほど。最後の一歩を今まさに鬼が下り終える。
 その瞬間、冷鑠の視界から鬼が消えた。然もあらん。あの鬼の前に九間など一歩だ。一刹那の後には眼前、唸りを上げて刃が襲い来る。ああ、死ぬ、と確信したその瞬間――


 闇に煌めき。二体の鬼の刃を受ける、永海の鋼の光あり!!



●八刃猟兵十番勝負 四番目
「人の流儀にはとんと疎いが――幾ら何でもそこまで恩知らずじゃあない」
 ぎぃっン!! ぬうと横から突き出された、刃渡五尺の冴えた刀身が、一人の刃熊童子の一撃を遮った。――その刀身を、冷鑠は知っている。此度鍛えた刀の内の一振り。氷殺顎門『冥竜』――
「刀の礼をしに来たぞ。――ニルズヘッグ、参る」
 この地の時代に合わせた調子の名乗りから、なんてな、と冗談めかして言葉を括るのはニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)だ! 辛うじての防御、一瞬でも遅れれば冷鑠が死んでいたところを紙一重で救ったのである。
「銀翔さん!」
 続けて声が降る。倉の横手の茂みを突き破り、突如飛び出す影一つ。呼ばわられた銀翔が眩しげに少女を見上げて呼ぶ。
「宙魂の嬢ちゃん!」
 人形・宙魂(ふわふわ・f20950)だ。自身の重量を軽くし、縛霊手『重鬼乙女』より発される霊力の糸を樹や建物に絡め引くことで超高速でここまで参じたのだ。
 銀翔の無事に表情を和らげるのも一瞬。宙魂は空中で魂虚を抜刀。怪力込めその重量を増しながら、隕石さながらの打撃力を持って上より襲いかかる!
「チッ! いいところだってのによォ!!」
 舌打ち紛れに跳び下がる刃熊童子。外れた魂虚の切っ先が地面に炸裂し、巨大な土柱を上げる。――その土柱を突き破り、何かが飛来する!
「話に聞くとおり、散々群れやがるッ!」
『……』
 人間――否、人形だ。悪態をつく刃熊童子に上から斬りかかったのは『踏』と銘打たれた絡繰人形。からくり故に返す言葉無し。その手にした地鳴鉄純打『岩裂』が褐銀に煌めき、後退して刀を構えたところの刃熊童子を上より打つ!
 壮絶な音鳴り、刀軋り合う!
 凄まじい威力により刃熊童子の動きを暫時封じるも、敵の手にもまた地鳴鉄純打の刀あり。その名も“万象破砕”『潰鉄』!
「ア? 良く見りゃ手前ェ、人間ですらねぇってか。笑わせるぜ、からくり人形が棒振り遊びの真似事かよ!! 粉々にしてやる!!」
 打ち合った姿勢から、人外の力の以ての全力での斬り上げ。なんたる威力か、踏はそれこそ木っ端の如くに吹っ飛ばされるが、空中でぎゅるりと身体を捻り、姿勢を整えニルズヘッグの横手に着地。
 ――地に足つけて駆ける必要などないぞ踏。おぬしはからくり人形なれば、飛んで行け。その方がずうと速かろう。
 そう言って己の鼬術『烈風陣』によりこのからくり人形を飛ばしたは辻風・舞(辻斬小町・f28175)! 一刻も早く、自身よりも先に現場にからくり人形を届けて戦闘を開始させる手を取ったのだ。
 当然、斬りかかって終わりではない。踏が地を蹴りつけるなり、冷鑠らを囲むように籠目が浮かび、六面の柱めいた結界が彼らを覆う! 舞が発露した、踏を帰天とした結界術による防壁である。童子と鍛冶師らを分断する策だ。猟兵が到着していないならば時間稼ぎになるかならないかといったところだが、猟兵らがいるならば話は別だ。攻撃の余波で鍛冶師が傷つく心配を低減出来る。――つまりはより全力を出して戦う事が出来る!
 踏が今一度前進し、岩裂をぶん回して刃熊童子へ叩きつける。しかし刃熊童子、横薙ぎに振るわれた刃を地面すれすれまで伏せて回避、間髪入れずの斬り上げで踏に一撃を返す。
「鈍いぜ、がらくた! 俺様の相手にしちゃあ役者不足だったなア!!」
 やはり遠隔で舞が操作する人形、しかも術者本人たる舞が未着の状態で単独で相手取るには、刃熊童子は強すぎる。刃熊旋風唸りを上げて、踏の身体が次々と裂け砕けていく!
 ニルズヘッグと宙魂が救援のタイミングを計るように間合いを調整しだしたその時、
「今ブッ壊してや――ッうお?!」
 潰鉄を重さ任せに叩きつけようとした刃熊童子が仰け反る。刹那の後、砕けた踏の胸郭から仕込み矢が立て続けに射出された。刃熊童子の野性の勘なくば眼を射貫かれていたであろうタイミング。
 半壊しながらも踏は刃熊童子へと前進。刀を振るって受けさせて、破損箇所から暗器による騙し討ち。破損を恐れず前に出る上、壊した部分から暗器が出るなど、常人の動きにあらず。故に束の間、踏の戦術は刃熊童子の感覚を混乱せしめた。
 飛刃と鏃が接近戦の中幾つか刃熊童子に命中する。その傷がジュウ、と音を立て爛れる! ――とどめとばかりに暗器には毒を仕込んである。舞がこの場にいたのなら、『わしの可愛いからくりの味は如何かの、よい武器であろ?』と得意顔をしたことだろう。
 踏が善戦するその後方で、ニルズヘッグが機を伺う。今や戦場は二つに分けられた。ニルズヘッグと踏の後ろに鍛冶師ら、総勢一八名。眼前、一体目の刃熊童子はニルズヘッグと宙魂、そして踏が受け持っている。もう一体はとニルズヘッグが目を走らせれば、そちらには既に他の猟兵が白兵戦を挑んでいた。こちらから引き離すように、押し気味で戦っているようだ。
(状況は悪くないな。倉の中で窮屈に戦うよりも力が揮いやすい)
 ニルズヘッグが冥竜を構え直した折、
「あァアアァ、しゃらっくせええェエ!! どいつもこいつも、纏めてブチ砕けやがれァ!!!」
 刃熊童子が力の限り踏を薙ぎ倒し、そのままましらのごとき動きで跳んだ。軌道は吹っ飛んだ踏を、またその後ろ、鍛冶師らのいる結界を狙っている。一足で二〇メートルばかりを跳び上がる、恐ろしいまでの跳躍力!
「潰れッちまえよおォォッ!!」
 宙魂と踏の攻撃に対する意趣返しか、右手に持ち上げた潰鉄に意念を注ぎ込み、重量を上げ、空から凄まじい勢いで襲いかかってくる。落下エネルギーに鬼の膂力、それを地鳴鉄の刀に乗せてきている――まともに食らえば叩き潰されて仕舞いだ。然りとて避ければ、あの地を割る一撃が土礫を撒き散らし地を割ろう。結界を抜けて鍛冶に被害が出る可能性もある。
 ニルズヘッグがユーベルコードを発露し止めようと決意したその刹那、横手から光の閃が咲いた。
「貫け、『煌駆』ッ!!」
 突然のアンブッシュ。叫びと同時に闇が裂け、ぎらり一閃空を裂く! 烈光鉄製短剣、霊断光刃『煌駆』による『光閃』が伸び、童子の腹を穿とうと唸りを上げたのだ。
「ンなッ、」
 これは流石に予想外か。驚愕しながらも刃熊童子、左手の飄嵐鉄純打――“疾風翻弄”『瞬嵐』にて瞬時に光閃を弾く!
 しかして立て続けの二連射、三連射!
 これには防戦に回るほか無い。連射される光閃を弾きながら、刃熊童子は空中を『蹴り飛ばして』後退。恐らく鬼の異能の一つであろう。ダメージこそ与えられないものの、一撃は未然に防いだ格好だ。
 光閃の出元を見れば、大振りのダガー――『煌駆』を手に、決然とした眼を眼鏡の下で光らせる少女が一人!
「その刀は、刀に込められた職人たちの想いを理解しようとしないお前が持っていい物じゃない――必ず取り戻す!」
 青葉・まどか(玄鳥・f06729)である! 精魂込めて鍛造られた刀を奪い、里の職人たちを害するなど言語道断、決して許すものかと参じた精兵の一人だ。手にした刃、煌駆は皮鉄に烈光鉄を用いた作、彼女の意念に反応し光の刃を形作る。
 身を捻り着地する刃熊童子は不快げに鼻を鳴らし、右手の潰鉄の峰で肩を叩く。
「人斬り包丁を誰が持とうと同じこったろうが。結局斬る為にあるんだよ、こいつらはな!」
「違うッ! 刀は斬るだけのものじゃない、守る為のものでもあります! まどかさんの言う通り――その刀、貴方が使っていいものじゃないッ!」
 凜とした声。宙魂が吼えた。どっ、と地面を蹴る音。宙魂が前進し、刃熊童子に襲いかかる。重量を増した魂虚で斬りかかる。並のオブリビオンであればその一撃を受けては刀ごと手がお釈迦に成りかねぬ撃剣であったが、しかし刃熊童子は防御に回るどころか潰鉄の重量を増して真っ向から打ち返す!
 打つ、打つ、打ち合う! 凄まじい重量となった魂虚を、身体のひねりと腕の振り、身の捌き全てを使って叩きつける宙魂の剣勢凄まじいが、しかしげに恐ろしきはそれを正面から受け捌く刃熊童子の実力である。
「はン、それも重さを操作するってぇ刀かよ! 生憎種は割れてるぜ、俺様もさっきこいつらを戴いてきたからな!」
 ガッ、きィン!!
 一際強く弾かれて宙魂の身体が泳ぐ。即座に瞬嵐での突き返しが来る! 胸を穿つ軌道で放たれた致命の突きを、
「鍛ってもらったのは――こちらの方ですッ!!」
 宙魂が加速し回避! 心臓を穿つはずの突きが彼女の腕を浅く斬り裂くに留まる!
 これには刃熊童子も一瞬虚を衝かれた。宙魂はそのまま加速、踏み込んで左手に抜いた『魂揺』での薙ぎ払い。魂揺は軽くすればするほどに担い手の速度を上げ、重くすれば重くするほどに攻撃の威力を上げる軽重一体の妖刀である。短いリーチを速度で補い、今まさに刃熊童子の胴を薙ぐ! 血がぴしゃりと散る。浅手とは言え、確かに入った。
「チッ、もう一本隠し球がありやがったか……!」
「生憎でしたね。魂虚は、そんな良い物じゃない」
 舌打ち混じりに飛び退く刃熊童子に、すぐさままどかが追撃をかける。まどかは最初から、他の猟兵との連携戦闘を意識していた。宙魂に続いて畳みかける!
 まどかは目を凝らす。敵が持ち出した刀の性質を、まどかは観察により把握していた。敵が持っているのは、刀身の地肌の色から恐らく飄嵐鉄のものと地鳴鉄のもの。地鳴鉄の刀は、凄まじく重いはずの宙魂の剣を難なく受けたことから見ても、宙魂の刃と同等以上の力を持つことは明白だ。刀としての圧倒的な基本性能に加え、付加された能力の恐ろしさが身に染みる。
 ――だが、だからといって退くわけにはいかない。
「負けない。――その刀は、刀匠の皆が打った魂だ! それを軽々しく語らせるもんか!」
 叫ぶなり、まどかはユーベルコードを起動。『神速軽妙』!
 ライト・スピードと当てられたこの技は、まどかの速度を急上昇させるユーベルコードだ。左手に普段使いのダガーを、右手に煌駆を握り、まどかは速力を上げてジグザグにステップ、稲妻めいた軌道で接敵!
「すばしこい女だな!」
 悪態をつきながらも刃熊童子は即応。速さには速さをと、左手の瞬嵐にて驟雨のごとき連続攻撃を仕掛ける。しかしまどかとて無策で挑んだわけもない。その類い希なる第六感と動体視力で剣先の軌道を見切り、軌道上から最低限の動きで身を躱す。そうしながらも、煌駆に注ぎ込む意念の量を調整し、光閃を『放たず』『留め』、煌駆の刀身を光で延長しながらの白兵戦。まどかの手の中で翻る煌駆は、今や刀身およそ九〇センチメートルを誇る光のロングソードだった。必要に応じ刀身を延伸・短縮することで、刃熊童子に間合いを掴ませぬ!
「味な小技を使いやがる! だが――いつまでもやられっ放しと思うなよ!!」
 おお、しかし、この鬼も剣に生きた、達人の境地を知る鬼だ。まどかのフェイントが、剣技がいかに精緻だろうとも、暫時打ち合えば目が慣れてしまう。そうなればまどかが一転劣勢に立たされるのは明白。
「ふは、小技と言うが、随分と手を焼いているようだな。ここは一つ、それに加えて私の得意技も見てもらおうか」
 ――故にそこで切り札を切る。
 ニルズヘッグが後方より、己の術を解放した。――天罰招来、『奸計の霜王』! 冥竜に呪詛と魔力を注ぎ込めば、周囲の空気がピンと冷たく張り詰める。ニルズヘッグはもとより氷と呪詛を司る、凍てつく邪竜の身。その権能を冥竜が増幅する! 冷えた空中に析出する無数の氷の刃!
「ここならば気を遣う必要もない。八八〇の刃を相手に、魔眼とやらの力がどこまで及ぶか――見せてくれよ、オブリビオン!」
 ニルズヘッグが冥竜を真っ直ぐに差し向けるなり、命に従い呪氷の刃が唸り飛んだ。一つ一つが複雑極まりない、幾何学模様めいた弾道を描く。まどか諸共敵を射貫くかに見えた刃はしかし、まどかだけを綺麗に避け、回り込んで刃熊童子を左右上下より猛撃する!!
「クソがッ!! 調子に、乗ってんじゃ、ねえッ!!」
 初見でそれを見て捌くなど、常人の技でなし。しかし刃熊童子の剣技、ここに来てなお冴える。下肢狙いの氷刃を両手の刃で弾く、弾く弾く弾く!! ニルズヘッグの猛攻を前に一歩も退かぬ!
 ――だが!
「その隙、貰った――ッ!!」
 刃熊童子が氷の刃の防御に意識を裂いた隙に、まどかがその身をねじ込んだ。いかに刃熊童子と言えど、この氷嵐を全て避けながら、まどかに対しても常に十全の警戒を払うことは不可能! 隙は確かに小さく、うかつに挑めば断たれよう。しかし狙い澄まして、一つの目的の為に踏み込むのならば――それは決して不可能なことではない!
 顔面狙いに左で投剣! クロスするように刃を跳ね上げ遮った刃熊童子、顔の高さに上がったその二刀こそがまどかの狙いであった。
 ――煌駆、渾身かつ刹那の斬り上げ一閃!! 交差した刀身のその真中を、絡めるように掬いあげ、――打ち上げる!!
「ンッ、だとぉォ?!」
 まどかの狙いは端からそこだ。最初に告げたとおりに、永海の刀を悪鬼が振ることに我慢がならなかった。故に言葉通りに奪い返したのだ!
 舌打ちの間すら惜しみ刃熊童子が己が刃を抜刀するも、手より武器が失せたその間を狙い、ニルズヘッグの呪氷刃が刃熊童子の下肢を裂く!
 凍結した傷口は、一瞬では癒やせぬ。寸刻、刃熊童子の敏捷な動きが鈍る!
「がアアアッ?! ッこの、真面に斬り合いも出来ねえか、正義の味方が聞いて呆れらア、卑怯者共め!!」
「斬り合い? 卑怯? 聞こえんなァ。勝利を犠牲に正々堂々打ち合うほど馬鹿ではないよ。ついでに言うなら、正義の味方を名乗った覚えもない」
 嘯き嗤うはニルズヘッグだ。刀を捕るべく跳躍したまどかとスイッチしての前進!
「ようやく冥竜の生みの親に切れ味を見せられる――さあ吼えろ冥竜。どんな武器だろうと勝てりゃあ振るうさ、丁度、こんな風にな!!」

 当代絶雹鉄筆頭鍛冶。
 永海・冷鑠が作、氷殺顎門『冥竜』、慟哭す。

 踏み込んだニルズヘッグが振るった冥竜に、宙を舞う氷の刃が纏い付き、まるで巨大な鋸刃剣のように伸張した。斬撃ッ!! 自前の打刀で受けた刃熊童子をその質量と威力で押し、凍らせ裂きながら吹き飛ばす!!
 ゴム鞠めいて後方に吹っ飛ぶ童子に影が落ちる。跳躍しての追走、宙魂だ!
「刀狩と言いましたね。――私の刀は……貴女にあげる程、どっちも安くはないです」
 宙魂はその袖のうちで『鬼縛鎖』を圧壊し、破片に超重力を掛けて振り撒いた。『鬼重・修羅道』! 重力に惹かれ、弾丸めいて刃熊童子に落ちる鎖片!
 無数とは言え真っ直ぐ落ちるだけのもの。雨粒すら斬り弾く腕を持つ刃熊童子、迫る破片に刃を構え防御姿勢を取るが、
「くふふ、そこに一つお節介という奴じゃ。遅参ですまんの!」
 横合いから割り込む声と共に飄風、荒れる!!
 渦巻いた風が鎖片の軌道をねじ曲げ、刃熊童子の予測を覆す! 鼬術『烈風陣』! 先んじて絡繰人形を差し向けていた舞が戦場に参ずるなり、宙魂の攻撃に合わせたのだ!
 次々と突き刺さる鎖片! 目を潰し、身体を穿ち、束の間ではあるが鬼縛鎖の呪詛が刃熊童子の動きを封ずる! 烈風陣の風の流れに乗せ、宙魂は右手の魂虚さえも投げ放った。舞が操る風が刃を加速し、刃熊童子の腹を射貫く!
 ごば、と血を吐き散らしながら、それでも辛うじて着地、刃熊童子は真っ先に眼球を修復。視界を取り戻し、


 そして見た。
 宙魂が、そして舞が。手に永海の煌めき引っ提げ、最高速で襲い来るのを!!


「最後に見るのが我らの刃とは、おぬしもつくづく運が良い。見よ、辻斬小町の一閃を!!」
「歪めろ――魂揺!!」
 肉薄しながら宙魂が突き出した刃が先んじた。その戦端に集った重力塊が、まるで黒いレーザーのように一直線に伸びて、刃熊童子の胸を貫く。命中した部分が超重力により『圧縮』され、まるで削り取られたようにぽっかりと、刃熊の胸に穴が開く。肺と心臓が壊れて声なき声を上げる鬼に、続けて迫った舞の刀が、彼女の名の通りに――見るも美しい斬弧を舞った。
 首討ち、一閃!!! 擦れ違い様の一撃が、悪鬼の首を鋭断した。首高く飛び、血の飛沫宙に遊ぶ。
「――やるではないか。銀翔殿」
 く、と笑って。
 辻斬り小町は刎ねた鬼の首に目を細め――手にした『疾空』の打ち手を、言葉少なに、けれど確かに称えたのだった。
 鍛冶場での、小さな口約束の通りに。


 ――後方でまどかが、確かに取り戻した二刀の煌めきに目を細め、残心を取るように修羅を見やる。
 彼女の視線の先で、ぼろり、と、刃熊童子の肉体が崩れ出す。まどかは、決然と呟いた。
「これが報いだよ。永海の力の意味を知らなかった、お前の負けだ」
 言葉を聞いてか聞かずにか。
 修羅の肉体は爆ぜ、幾万の塵屑と散った。



●八刃猟兵十番勝負 五番目
「時雨、ボクは先にいくよ。先にいって、隙を作る」
「はい、はいりさま。あなた様に続きます。おれは少しばかり遅れますが――すぐに至りましょう」
「ああ、いいとも。奴を殺す為には、キミと砕炎のうんと重い一撃が必ず必要になる。ここに立つキミは立派な戦士だ。信頼してるよ」
「は、勿体なきお言葉。命も、刀も、奪わせるわけにはいきませぬ――もののふのひとりとして、必ずや、ご期待に応えまする」
「いい返事だ。じゃあ――また、後で」
 縮地。全てを置き去りにする速度。
 岬・珮李(スラッシュエッジ・f27446)、爆ぜ駆ける!!
「斬風、さっきの戦いでキミの事を識ることはできたよ。だから次は、ボクを識って欲しい」
 抜刀。“刹舞霊殺”『斬風』!! 心鉄となった飄嵐鉄の権能が、珮李の動きを加速する!
 空気を肩で引き裂き、音の壁を食い破り、珮李は駆けた。周囲の景色が集中線を曳いて後ろにすっ飛ぶ。
 最後の藪を飛び越えて、今まさに襲いかからんとする鬼共。ヤツらが引っ提げたその刃の一歩先へ、全速にて割り込み――

 ――ッぎんっ!!
 世界が軋むような、甲高くも太い剣同士の激音!!

 ニルズヘッグが冥竜を突き出して冷鑠への攻撃を阻んだのとほぼ同時、荒金目掛け振り下ろされた刃を、駆け割り込んで受けたは珮李である。間一髪のインタラプト!
 珮李は敵の刃に目を細める。よく詰んだ銀の肌、特殊な力は感じぬがそのぶん剛健にして鋭利なるあの刃は、見紛うことはない。斬魔鉄の作だ。この里の刀について興味を抱き、鍛冶達から様々な話を聞いていた珮李だからこその識別。
「知ってるかい? 悪いことをすると、神様から天罰が下るんだよ」
「ほおう、そいつア初耳だなア!! 俺様はここまで生きてきて未だに天罰とやらに出会ったことがねえ。神様なんてのがいるか怪しいもんだぜ!」
「神様はいるさ。例えば、ここにも一人いる。――お前に天罰を持ってきてやったぞ、この戦神が!!」
 敵二体に連携を取らせては守れるものも守れない。珮李は腹を決め、空いた左にも刃を引き抜いた。右に斬風、左に『暮月』! 見得を切るなり踏み込んで、二刀流での乱打を浴びせる!!
 剣勢凄まじく、圧されるように跳び下がる刃熊童子。しかしてその表情は余裕綽々、嵐の如く繰り出される珮李の連撃の一つ一つを両手の刃により弾きながら後退。そうしながらも反撃を挟む手管、超常の技に近い。受け太刀の合間の斬り返し、珮李の目を以てしても見切れぬ。珮李の身体の各所から血が飛沫く!
「――!」
「なんだなんだ、手前ェ風情が神を名乗るかよ? 手前ェが神なら俺様は差し詰め閻魔大王様って所かなア! 閻魔の裁きが必要なんなら、全員打ち首獄門、晒し首だア!!」
 げらげらと笑い飛ばし、童子は一際強く後ろに跳んで、空中でぐいと身をひねった。左手の刃を振りかぶる。虚空、剣先に冷気渦巻く!
 蒼ざめたる冷たい耀きをした肌、あれは絶雹鉄の作か!
 珮李が反射で横っ飛びに避けるなり、空気が軋んで氷壁が析出・屹立した。一瞬でも回避が遅れれば、氷壁に捕り篭められて氷漬けだったろう。なんたる威力か!
「ふん、なるほど、妖刀鍛冶を名乗るだけあらア。葬裂に、氷蝕か。気に入った!」
 ――厄介な。
 鬼の力に加え永海の妖刀の力! 相乗すれば正に凄まじ!
「ちいとばかり本気で振ったらどうなるか気になっちまったなあ。おい、下手に避けたら後ろの連中、氷漬けだぞ、女ア!!」
 氷蝕に禍々しい剣気集う!空気が軋み、周囲の気温が瞬く間に下がる! 震えを覚える程の気配に、珮李の膚が総毛立つ。
 敵との相対距離七メートルと少し。後背二〇メートル余りに鍛冶師らの一団!
 避ければ恐らく敵の言葉通り後ろの鍛冶らに範囲攻撃が直撃する。珮李は即座に踏み込む。敵が一撃を放つ前に止める――しかし間合いがやや遠い、珮李の剣では一歩足らぬ!
 しかし、
「穿て、光閃!!」
 側撃! 側方にて燦めいたは光舞重刃『燦星・隕』の刀身。闇を穿つ一条の光、烈光鉄より放たれる意念の光刃『光閃』が唸りを上げ、刃熊童子が掲げた氷蝕の刃を弾く! 冷気が薄らぎ、刃熊童子が舌打ち混じりに飛び退く。
「チッ、新手か!!」
「そうさ、人の作った秀作を盗むような太てぇ輩はウチの上司だけで十分だっての!! 人の成果を食い物にするような連中は、この俺と織愛ちゃんが許さねぇ!!」
 横から駆け来た猟兵が二名! 吼えたのはロゼ・ムカイ(社会人3年目・f01535)、光閃を放ったのは三咲・織愛(綾綴・f01585)だ。壱の倉に二体の鬼が来ると聞きつけ、筆頭鍛冶三名とその徒弟らの命を案じて駆けつけたのである。
「ふふ、ロゼくん、苦労しているんですね。そんな上司さんはぼっこぼこにしちゃいましょう!」
 可憐で美しい顔形に似つかわしくないことを言い放ちつつ、織愛は燦星を構え直す。駆けながらもう一度、刃に意念を流し込む。燦星の刀身が、天に瞬く星の光を帯びる!
「――冗談はここまで。奪うことも、盗むことも、傷付けることも――許せることは何一つありません。私とロゼ君がここに来た以上――刃熊童子、あなたにはもうこれ以上誰も傷つけさせません!」
 織愛は一歩退いた距離を保って位置取り、刃熊童子と後方の鍛冶師らの間に割り込んだ。いつでも光閃を放てるように備えながら構えを取る。敵がどのようなタイミングで攻撃を仕掛けようが射線に割り込めるポジショニング。
 人々の守りに重きを置き、いざというときに楯となり即応出来るようにする覚悟だ。ユーベルコード『想駆星穿』を起動。全身を白きオーラで覆い、仕掛けるタイミングを見定める!
「よく吼えたもんだなア、小生意気な餓鬼め!! 手前ェらを斬り刻んで、鍛冶共を一人一人食い散らかしてやるよ!!」
「――それが出来ると思っているなら、お前は随分お目出度い頭をしているみたいだね、悪餓鬼。やらせるものか!」
「ああ、その通りだぜ! さっきはヘバっちまったけど、もう情けねぇところを見せやしねぇ――こっから本気だ、吠え面掻くなよ!!」
 珮李とロゼが立て続けに叫ぶ。敵の大技を放たせぬよう、前進して畳みかける二名。
 二者間でアイコンタクト、
(先に仕掛けるぜ!)
(了解、続くよ)
 ニイと笑って、ロゼが先に動いた。ジャキッ、と音を立ててロゼの右手にスプーン、ナイフ、フォーク――三つのカトラリーが首を擡げる。
「来いよ、猟犬共!! 狩りの時間だぜ!!」
 吼えると同時に投げ放った三本のカトラリーが、ぎゅるりと捻れてそのシルエットを変じ、空中で身をうねらせる猟犬へと姿を変える。
 ユーベルコード『ワイルドハント』!! 投げ放ったカトラリー――ステンレス、すなわち無機物を凶暴な猟犬に変換し操るユーベルコードだ!
 身を波打たせながら猟犬が三体疾走、涎を散らして立て続けに刃熊童子へと襲いかかる!
「ハッ、洒落くせぇ!! 犬ころを嗾けてこの刃熊童子様をどうにか出来ると思ってんなら、お目出度ェのは手前ェらの方だア!!」
 びゅっ、おォ!!
 葬裂、氷蝕の二刀が吼える!!
 氷蝕が振られるなり地面より突き上がった氷柱が一匹を串刺しにする。そのまま凍り付いて動かなくなる一匹を尻目に迫る残り二匹に、刃熊童子が踏み込んで二刀を凄まじい速度で振るった。宙でバラバラの肉塊に分解されて落ちる二匹。
「口ほどにもねぇ――」
 嘲笑うように両手の刀から血振りする刃熊童子。しかし、ロゼの攻撃はそこで終わりではない!!
「それだけで終わりのわけがねぇだろっての!!」
 ロゼは吼えるなり、左腰の刀の柄に手を伸ばした。左に溜めを作り、刀を抜き放つなり思い切り振り抜く!
 ――唸るは、光閃!!
「!!」
 全くの不意打ち。三匹の猟犬はただの囮だ。ロゼはここまで使っていなかった妖刀――一切貪飲『悪喰』を解放し、その剣先より意念の光刃を発して刃熊童子を猛撃した。一呼吸にて光閃、六連!! 
 悪喰は喰らった魂を光刃に変換し放つ刃。ここまで喰ってきた落武者共の魂が、光の刃となって刃熊童子に襲いかかる!
 最早声もない。無呼吸の連打にて刃熊童子が光刃を弾き受け散らして身を守るその隙に、今度は珮李が滑り込んだ。珮李は足下にて雷を爆ぜさせ、その反動を靴裏に受けて疾歩。ばぢっ、ばち、ば、ば、ばばばばばばちいっ!!! 最早足元で爆ぜるその光の順でしか、珮李の姿を追うこと罷り成らぬ!
 ――ロゼが敵の動きを止めたこの一瞬が好機だ!
「お前もそこそこすばしこいようだけど、速さ自慢はこっちも同じ。負けてやらないよ。――さあ猛れ斬風。お前の故郷を穢さんとするあの敵へ。そして歌え、今この場に我らの影を踏めるものなど存在しないと!!」
 珮李は二刀を腰に納め、――しかし一刀。斬風を握った。
 意念の限りを注ぎ込み、己の身体を軽く軽く。速度をより速く、速くと念ずる。果たして斬風の心鉄となる飄嵐鉄はその願いに応えるように、珮李の速度をただ純粋に増幅する!!
「高らかに斬り刻め!!」
 吼え、最高速にて地を蹴った。雷走り地がべごりと陥没し、珮李の身体が弾丸めいて飛ぶ。親指で鯉口を切り、右手が斬風を走らせる。束の間、その速度は刃熊童子の反応速度をさえ凌駕した。守りに刀が上がるその前に、珮李の刀が風切り一つ、

 ――一刀両断。『燕去月』。

 地を削り着地する珮李のその後ろで刃熊童子の躰が袈裟懸け二つに裂ける!!
 しかし、その一閃を以てしてまだ浅い!! 二つに裂けた躰が血の線で繋がり合い、手が刀を握り直す!
「過去殺し風情が、やってくれるじゃあねェか……!!」
「風情とはまた随分見下げた言い方をしてくれるね。……お前は今から、その過去殺し風情に負けるんだよ」
 血を流す珮李の冴えた声に重なり、どうと地面を蹴る音が響いた。
 珮李のものでも、ロゼのものでもない。はたまた織愛のものでもない――
 その場に到る最後の猟兵の立てた、荒れ狂うような踏み込みの音だ。


「――さあ砕炎。やんちゃの時間は終わりだ。おまえの兄姉を取り返すぞ。おまえの親を護るぞ。その為に今度は、おれの言うとおりにしておくれ」
 皮鉄に緋迅鉄。赤銅色の刀身をした、刃渡り三尺の野太刀――砕炎を引っ提げ、戦場を弾丸めいて突っ切るのは御十八・時雨(帰依・f28166)。刀に躰を『使わせ』、落武者らを薙ぎ倒したその時とは異なる動き。
 だがそこには意志がある。敵を断つ、それそのものが一つの鋼のような、固く鋭き決意が。
「またぞろ増えやがるか、クソ共がよォ!!」
 地を踏みしめ二刀を捲き溜め、刃熊童子は捻りを解き放った。氷刃と刃風が荒れ、鏖殺の渦が巻き起こる!
「!」
「デタラメしやがる……!」
 ロゼと珮李が飛び退き、その効果半径から逃れる。
 そんな中、時雨だけが前に進んだ。制止の声があろうと、きっと聞くまい。
 冷たく鋭い剣風と氷刃の舞が、時雨の躰を斬り刻む。しかし致命傷だけを淡々と避ける。
(見目の派手さに惑わされるな。刃の生んだ音がある。氷の刃など、砕炎で散らせる)
 時雨は面の下で目を見開き、砕炎に意念を注ぎ込んだ。
 刀身に轟と炎が巻き付く。傷を負おうが、血を流そうが止まることはない。先に征き敵を留めた珮李に報いるのならば、この手で鬼を断たねば止まれない!!
「哭き叫べ!! 砕炎!!」
 時雨は吼えて、大上段から砕炎を振り下ろした。まるで焼夷弾が炸裂したような爆炎が巻き起こり、刃熊童子の剣舞に穴を空ける!
「死ぬのが怖くねえのか、いかれ野郎め……!」
 驚愕したのは刃熊童子。躰を斬り刻まれながら、強引に攻撃を中断させる一撃を叩き込んできた敵手に舌を巻き、迫る爆炎より飛び退く。
 ――その爆炎を肩で斬り裂き、高下駄からり、時雨が飛び出す!!
「死が怖くないわけなどあるか。だが信頼に応えられぬことは、ときに死んでしまうよりおそろしい。――はいりさまがおまえを止めてくだすったのなら、応じて砕くのがおれの役目だ!!」
 猛り荒ぶる声と叫びに呼応して、砕炎に再び炎が纏い付く!
「怒れ、猛れ、砕炎!! おまえの兄姉をこのように振るうあの敵へと!! そして叫べ!! おれの渾身とお前の全力で、やつを斬る!!」
 高下駄で地面を抉り、躰より血を散らしながら時雨は地を蹴った。空中前転、後方に向けて振った砕炎から爆炎発し、その反動で時雨はさらに急加速! その速度、後退する刃熊童子の速度を瞬刻凌駕する!
 息を呑む刃熊童子の受け太刀を、
「――おおおッ!!!」
 裂帛一閃、時雨の一撃が薙ぎ払った。
 数倍の重さに膨れ上がった砕炎の刀身、ここに到るまでの時雨の加速、交錯の瞬間に振り絞った意念の爆炎――その全てが相乗し、受けた鬼の手より二刀を弾き飛ばし、その身体を深く断つ!!
「かッ……は?!」
 赤い血を吐き蹈鞴を踏む鬼。着地ままならず転げる時雨。――その一瞬の間隙を、コーラルピンクの瞳が射貫く。
「言いましたね。あなたにはもうこれ以上誰も傷つけさせないと!」
 織愛だ。唸りを上げる白いオーラ。『想駆星穿』。
 想い駆け、星を穿つ。星さえ穿つその一撃が、鬼を貫けぬ訳もない。
 刃熊童子と鍛冶師らの間に割り込んだという事は、逆説的に言えば、常に自身の視界、直線上に刃熊童子を捉えていたということ。
 ――つまりは、織愛という弾丸は常に刃熊童子を照準していたのだ。最後にして最大の機に、織愛は迷うことなく己の力の全てを解き放ち、地を蹴った。
 最大加速、一直線。
 手の内、燦星に注ぎ込んだ意念が、光の刃を形作る!!
「調子に、乗ンなあぁあアッ!!!」
 刃熊童子、即座に自前の鬼刀を抜刀。二刀にて魔剣、空絶閃を放つ放つ放つ放つ放つ放つ放つ放つ放つ放つ放つ放つッ!! 正に刃の嵐、斬撃の檻!! 突っ込む織愛の躰を刃が斬り刻み、血が飛び散る。織愛の勢いが鈍る、しかし!
「うるッせえええええ盗人が!! てめぇの方こそ!! 調子に、乗んなァ!!!!」
 全力、全開。悪喰に残った魂の全てを一撃に込め、ロゼが力の限り刀を振るった。最後の光刃が迸り、織愛を刻む空絶閃の嵐をほんの一瞬、切り拓く!!

 ――征け、織愛ちゃん!
 ――はい、ロゼくん!

 声のやりとりを挟む一瞬の間すらない。
 だが織愛の速度は初速のそれに戻り、その手の中で光燦めく。
 光舞重刃『燦星・隕』、烈光鉄の刃が織愛の白きオーラを吸い上げ纏い、今まさに、鬼を貫く無窮の剣となる――!!
「はああああああああああああああああっ!!!」
 裂帛の気合。手を伸ばせば届きそうな、至近距離に突っ込んでの全力刺突。
 燦星・隕より迸る、彗星めいた蒼白の光が、交差して受けんとした鬼の二刀を打ち砕き――その胸郭に突き刺さって、後方へ抜けた。
 カッと目を見開き、口を戦慄かせるも――肺腑も心の臓も潰えた鬼が言葉を紡ぐことはなく。
 今ここに、刃熊童子の影絵の一つが、赤き血の塵と成って爆散する。
「――はぁ、っは、……、」
 地面を削りながら着地した織愛が、失血と力の消費からよろめき倒れかける。それを、駆け寄せた男の手が支えた。
 ロゼだ。
「――おつかれ。織愛ちゃん。怒ってたせいかな……今回は、バテずに済んだぜ」
「……ふふ。援護ありがとうございます、ロゼくん。……やりましたね。私たちの、勝ちです」
 支えるロゼの手に身を寄せ、織愛は目を細めた。
 他方では珮李が時雨を助け起こしている。両者傷付いているが、命に関わりはあるまい。
 四者は、それぞれの表情で散る鬼の血塵を見つめていた。その最後のひとひらが風に溶けてしまうまで、ずっと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈍・しとり
逃げよと云うのは酷か知ら
魂を遺して退けぬも道理
ならば魂の在り処と共に彼らを護りましょう
此処も亦わたしの結びの地
何をも別つこと罷り成らぬ

職人の命は勿論腕を手を斬られぬ様警戒
視えぬ斬撃は雨の歪みで推測し声掛け
何と成れば己の躰も盾に

血を流す程に血の気の通うが如く
分け身如きが、私の身を、よくも

嗚呼然し
此の胎の相も変わらず柔いこと
詮無き思考は敵の結末を定めたが故
この身を穿つものは今世に二つと要らぬ故

ひらゐた

青い舌から赤い血を滴らせて告げる
化け物が物の怪に勝る道理があろうか?

形代が厄を反す様に
『千代』の身に受けた負傷を敵へ

最早碌に動けないけれど
今日ばかりは仕舞われぬ
お前を負かすは彼らの腕よ
殺れ、千代砌


穂結・神楽耶


失礼、邪魔しますよ!
【空夢揚羽】、分断なさい。刃熊童子を囲い込んで!
何より守るべきは技術とそれを継ぐ人材と心得ます。
それが何よりの大前提。
それが為せねば、勝利とは言えません。

──ですのでどうかお下がりください、若衆様方。
あなた方が握るべきは飛鉄ではありません。
この戦が終わった後、また補修をお願いせねばなりませんから。
ご準備の程お願いしまね?

──あら、お気付きですか?
もちろん完膚なきまでに勝つつもりです。
そのつもりで挑まねば失礼に当たると判じましたので。

それでは、刃熊童子様。
味方を庇い、流れ弾を受け、退路を塞いで強化した揚羽の炎。
───全周一斉起爆。
どうぞ、お召し上がりくださいな。


玉ノ井・狐狛


お客サマは刀をご所望らしい
たらふく食らわせてやろうぜ
ほら、アンタら(飛鉄衆)も手伝ってくれよ

飛鉄も、この里で造られた刀にゃ違いない
無力ながらくたじゃァないハズだ
乱戦にブチ込むつっても、なぁに、猟兵連中は勝手に避けるだろ
敵にもそうそう当たらないだろうが……それでイイ

さて、アタシの仕事はディフェンスかな
ああいう術にゃ詳しいし……おあつらえむきに、鍛ってもらった得物の相性がイイ(敵POWに対処
未来視? いやいやとんでもない
ただの偶然さ

刃熊のやつが状況に慣れて、戦局を動かそうとした頃合い、そこが狙い目だ
飛鉄を弾道上でバフ、弾体に含まれる妖刀地金の性質をブースト(UC

そろそろお帰り願おうか、お客サマ?


四辻・鏡
◎③

美しいと言ってくれたアンタには出来れば見られたく無かった…なんて、戯言だな
なら存分に刮目するが良い
我らが刀の生き様を

敵の前に身を晒し、庇う様に立ち

よう、遊んでくれるかい
ここの奴らには縁があるんでな
月並みだが、手を出すなら私を倒してからにしてくんな

敢えて初手は愚直に
小太刀の間合いよりもさらに深く踏み込み、匕首にて一撃を入れUCを発動

向こうも手練だ
下手に感覚を奪っても、他のもんで補っちまうだろうよ
故に認識をズラす
ほんの少しだけ、間合いの感覚を読み違えるように
斬れぬ筈が当たる、当たる筈が空を斬る
勘を鈍らせ、致命的な一撃へと繋がる様に

搦手、使わねぇとでも思ったかい
お綺麗な剣術は得意じゃねぇんだよ



●八刃猟兵十番勝負 六番目
 永海の里の鍛冶場、その隣にある補修工房は異様な緊迫感に包まれていた。天に描かれた血を思わせる魔法陣より降り立った鬼が、ここにも一つ到ったためである。
 刃鬼『刃熊童子』。八本の刀を負い、真なる『八刀流』を扱う、文字の通りの剣の鬼。
 対するは補修工房に詰めていた若衆、その数二十名ほど。率いるは補修工房総代、永海・靱鉢である。
「よう。案内書きを眺めて来てみたが、いい作業場だなあ。俺様も刀の手入れをしたくってよお、頼みたいんだがどうだい、ひとつ引き受けちゃあくれねえかい」
 戯けた調子で問う刃熊童子。身体から匂い立つような殺気が立ち上っている。殆どの技師が言葉を返せずに詰まる中、顔面蒼白の体ではあれど、唯一、靱鉢だけが口を開き、尖った声で返事をした。
「……鬼は人を喰らい、血を呑むと聞きます。鬼が人を狩る牙となれば、それは血肉に喜ぶ魔性の刃でございましょう。――我らの血肉でその牙をあやすおつもりか、剣鬼よ」
 靱鉢の言葉に刃熊童子は目を丸くすると、泥を煮詰めるような声で嗤った。
「へえ……。少しは頭の回る人間がいたもんだ。媚びへつらって頷きゃあ、その首刎ねてやるつもりだったが。――いかにもいかにもその通り、だったらどうする? 手前ェらは無力で、俺様に抗う力もない」
 ざ、と刃熊童子が一歩踏み出せば、恐れるように鍛冶師らが筒先を上げた。緋迅鉄の爆圧で弾体を射出する飛び道具――『飛鉄』である。補修工房に所属するものならば、当然その扱いには精通している。
「我らとて、鬼の腹に収まるために生まれてきたわけでは無し。足掻かせて頂きましょう」
 靱鉢は声に諦念が滲まぬよう、精一杯に気丈に言った。装填した弾頭はなるほど、刹鬼鉄製。当たればそこそこの効果は見込めるだろう。
 ――当てることさえ出来たのならば。
 実のところ、全員で飛鉄を放ったところであの鬼に当たる保証はない。否、『当てられる気がしない』。靱鉢とて、飛鉄の扱いは大の得意だ。だがそのかれをして、目の前の鬼はどうしようもないほどに格が違うと、そう認識せざるを得ない。
 そこに確かにいるはずなのに――触れることさえ叶わぬ。そうする前に、ともすれば、引き金を引く前に殺されているのではないかという恐れだけがある。
 恐れを押し殺し言葉を紡いだ靱鉢に、歯を剥き出しにして刃熊童子が笑う。
「よォく言った。なら、俺様は俺様で勝手によろしくやらせてもらわア。――今からここは俺様の狩り場だ! 精々醜く足掻きやがれ!!」
 だ、と音を立てて地を蹴ッた瞬間、もはや靱鉢らが刃熊童子を捉えることは不可能となった。彼らの目には、刃熊童子がまるで数十体といるかに見える。――認識速度の埒外に至れば、目に残るは残像のみ。
 刃熊童子が跳ぶ、跳ぶ、跳び回る。時には鬼の術か、空中さえも蹴り飛ばし跳ねる。高笑いが反響し、技師達の恐怖を煽る。靱鉢とて恐ろしいのは同じ。然りとて闇雲に撃ったとて当たらぬことだけはわかっている、故に発砲の号令を下さぬ。飛鉄は単装式、一発撃てば十数秒は撃てぬ。その十数秒で刃熊童子はこの場の全員を絶殺するだろう。
 ――まごつく銃口をせせら笑う刃熊童子。靱鉢の胸に無力感が募る。
「いい啖呵を聞かせてくれたからなア。お前が死んだら周りの連中がどんなツラをするか、見せて貰おうじゃねえか、なア!!」
 笑う刃熊童子の殺気が、靱鉢に突き刺さる。
 ――上等だ。靱鉢は、眼鏡の下でキッと目を尖らせた。
 ならば、ならば。この身を貫いた瞬間に、やつを引っ掴んで発砲の号令を下そうではないか。差し違えてでも傷を負わせてみせよう。その結果、たとえ己が死のうとも、後悔などせぬ。
 靱鉢は飛鉄を捨て、両手を空け、さあ来いと、視えぬ敵に目を凝らした。
 靱鉢殿、と悲痛に、部下が、友が、己を呼ぶのを聞きながら。

 そんな彼の決意すら嘲笑うように、補修工房の樋を蹴り、悪鬼は靱鉢の後ろから襲いかかった。
 鬼からすればだれもかれも、止まっているようなもの。ここまでもったいをつけなければ殺せぬようなものでもない。本気となれば最初の一言を掛ける前に皆殺しと出来た。
 けれどそれではつまらぬ。悲痛に泣き叫び、絶望に噎ぶのを見てからでなくては、血肉の味も褪せるというもの。
 まずはこの長らしき男の首を一撃で落とし、後は一人ずつ嬲り殺しにしてやろう。
 殺し方を考えながら、刃熊童子が刃を振り下ろす、まさにその時!!

「――涙のあめは要ら無いわ。降らすなら、そう、お前の血でこそ相応しい」

 ぎゃり、ッイィ!! 刃軋り、火花散る!! 割って入った血錆の刀が、刃熊童子の刃を受けた!!
 刃熊童子すら瞠目した。一瞬前まで何もなかった、いなかったはずのそこに唐突に現れた影。鬼。刃熊童子と同じく、角を生やしたあおいおにがいる。
 受けたは鈍刀、『千代砌』。執るは手弱女の白い手。
 幽玄の美に揺らめくような微笑。鈍・しとり(とをり鬼・f28273)がそこにいる!
「ハッ、もう嗅ぎつけて来やがったか!! あながち襤褸滓にやられた子分共も、大法螺吹きの盆暗ばかりってわけじゃなかったらしい!」
 軋り合う刃。しとりがその細腕に似合わぬ強烈な押し返しで刃熊童子の刃を圧せば、それに逆らわず刃熊童子は軋り合った刃を支点に、腕の力と勢い活かして前方に跳び、ましらの如くしなやかに着地する。
 ――その着地際を狙い、銀の風吹く!
 横手から突き刺さる殺気に鋭敏に反応した刃熊童子が刃を構えるなり、一足飛びに影襲い来て、刃風が吹いて銀閃連なる。刃熊童子、退がり受ける、弾く、弾く、弾く! 敵手との距離に違和感。とても通常の刀の射程ではない。刃の起点は刃熊童子から二メートル先。だというのに刃が余裕を持って届く。薙刀か? 否。刀だ。
 違和感を覚えるほどのリーチと、振るう腕と剣先の動きが一致しない感覚。それを測りかねるままに刃熊童子は地面を蹴って七メートルを跳び退がる。
 割り入った影は手の内の刀をひゅんと一つ振り回すと、パキンと音を立てて二つに分けて二刀を構えて残心した。――撚線仕込みの連結二刀。『荒咬』!
「よう。遊んで貰おうじゃねえか。ここの奴らには縁があるんでな――月並みだが、手を出すんなら私を倒してからにしてくんな」
「鏡殿!!」
 ――そう。後ろより飛んだ靱鉢の声の通り。踏み込んだ銀風は四辻・鏡(ウツセミ・f15406)。
 涼しくも、指先ほどの寂念を込めて、鏡は肩越しに振り向き笑う。
「よう、工房総代。――美しいと言ってくれたアンタには出来れば見られたくなかった……なんてのは、戯言か」
「逃げよと云うのは酷でしょう。魂を残して退けぬも道理」
 靱鉢を守って刀を振ったはずのしとりが、気付けば鏡の横にいた。
 彼ら工房の職人達が、ここを守る為に踏み止まったならば――鏡が戦場をここと定めた時点で、己が本性を晒すことは決まっていた。
 しとりに応じて鏡は肩を竦める。
「――そうだな。そうだろうさ。応とも、なら存分に刮目するが良い。我らが刀の生き様を」
「遣る気は充分というところか知ら。――ならば私も、魂の在り処諸共に彼らを守りましょう。此処も亦わたしの結びの地――何をも別つこと罷り成らぬ」
 かたなとむすめが今一度結ばれたこの永海の地を、これ以上土足で踏み躙らせはしない。
 涼やかにしとりが云う。その横で、熾火のようにふつふつとした熱を湛え、鏡が二刀を構える。
「なんだなんだ、えらい別嬪が二人顔を揃えて、おっかねえ顔をしやがる! そんなにこのちんけな工房が大事かよ?」
 剽げて、刃熊童子が肩を竦めた――その矢先。
「鬼の目には摺り硝子の珠でも嵌まっているのですか? それはさぞかし不便をされることでしょうね。――失礼、邪魔をしますよ!」
 凜とした女の声がもう一つ。同時に、八二の焔の蝶が空を舞う! その名も『空夢揚羽』! 幻想的ですらあるその焔の蝶は、画一的な動きではなくまさに生きているかのようにそれぞれがばらばらに宙を舞い、鍛冶場の若衆らと刃熊童子を隔てるように防御線を描く。
「この里が継いだ技術は、遙か昔、永海に妖刀という言葉が生まれて以来脈々と受け継がれてきたもの。尽きかけた炎を、新たな燭台に灯して継ぐように、ひとが子に託して作ってきた歴史そのものと言っても過言ではありません。――その灯火を、決して消させない。わたくしたちは、そのためにここに来たのです」
 長広舌は上から降った。誰もが見上げたその先に、着物を夜風に翻し、朗々と歌うのは穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)。
 声は凜としながらも、祈るかのような切実さがあった。里そのものを護れたとて、この里に伝わる歴史が、技術が死んでしまえば、その魂は潰えてしまったと同然。技術と人が護れなければ、この戦は勝利とは言えぬ――そう、訴えかけるかのよう。
「ですから、どうかお下がり下さい、若衆様方。あなた方が握るべきは飛鉄ではありません。この戦が終わった後、また補修をお願いせねばなりませんから――ご準備の程、お願いしますね?」
「「「「っ……はい!」」」」
 若衆らに呼びかける声の優しいこと、思わず赤面する者もいたほどだ。素直に数歩退いた人垣を見るなり、屋根を蹴る。若衆らが数歩下がったその隙間に軽やかに降り立ち、神楽耶は右手、すらりと刀を抜いた。『結ノ太刀』。彼女の真体である。
「ぞろぞろ群れて来るもんだ。しかし手前ェ、今から戦後の心配たア、この俺様を斃せるつもりでいやがるってのか? そいつアちっとばかり、いやかなり、度しがてえなア!!」
「あらいやだ、お気づきですか? もちろん完膚なきまでに勝つつもりですよ。そのつもりで挑まねば失礼に当たると判じましたので――ね」
「言いやがったな、一度ならず二度までも――吐いた唾は飲めねェぞ。そんなに死にたきゃア、仲良く全員地獄に叩き送ってやらア!! 来やがれ!!」
 ご、おう!!
 刃熊童子の剣気が、空に轟いて風を巻き起こした。紛うことなき強敵だ。鏡も、しとりも、無論神楽耶も、それを理解している。
 だが負けてやるつもりは一つもない。麗しの三本刀が、互いに目配せ一つ、一斉に刃熊童子目掛けて襲いかかる!


 凄まじい音を立て、刃熊童子と三人の猟兵が打ち合う。人の目からでは、最早何が起きているのか負うことすらままなるまい。夜気に、剣と剣がぶつかり合って火花が爆ぜるのが見えるだけ。剣勢凄まじく、あれが自分に向いたら、と仮定するだけで、常人では堪えきれずへたり込んでしまうような剣戟だ。
 固唾を呑んで見守る靱鉢以下二十名。その中から、出し抜けに女の声が響いた。
「始まっちまったねえ」
「……?!」
 数名が驚愕の表情で声の方を向いた。補修工房に女性の職人はいない故だ。いつの間に紛れ込んだのか――果たして振り向いた先に、金髪の、琥珀の目をした女の姿があった。
 玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)だ。手に引っ提げるは幻想籠絡『纏女』。
「前を見たままで聞いてくんな。さて――あっちの姉さんはアンタらに下がってろって言ったが、アタシはそうは思わねえ。むしろ、一つ手伝いをしてほしいと思ってんだ」
 狐狛は密やかな声で、しかし如何なる術か、その場の若衆全員に届く声で、続きを語る。
「どうやらあのお客サマは刀をご所望らしい。たらふく食らわせてやろうぜ。アンタらが使う飛鉄も、この里で造られた刀だろ。無力ながらくたじゃァない。誇りを以てアンタらが磨き上げた武器だ。そうだろ?」
 狐狛の声に、恐怖と怯懦に濡れていた男達の瞳が揺れた。職人としての誇りが、矜恃が、燻るように目の奥で光る。
「それなら一撃、カマしてやろうじゃあねぇか。難しいこたぁ何もねぇ。アタシの合図で一発、あの乱戦にブチ込んでくれりゃいい。それまでのケツ持ちも、補助も、皆アタシが受け持つからさ」
 狐狛が言う鳴り、二〇メートル先、三人の猟兵と互角以上の格闘を見せる刃熊童子の剣がぎらりと光った。その瞬間、飛ぶ剣閃――衝撃波が数十と唸り、夜気を引き裂いて補修工房へ迫る!! 刃熊童子の八刀流が一つ、『空絶閃』である!
 若衆らが息を呑む間もない。神楽耶が布いた空夢揚羽が幾つもの衝撃波をその身で受け爆散、攻撃を阻むが、その陣さえも突き抜けて数撃が擦り抜ける! まともに当たれば人の身体など絹を裂くように両断するであろう衝撃波が迫る――しかしそれを前に、ぬるりと動いた狐狛が飛び出した。
 ――否、正確には。
 彼女は、空絶閃が放たれたその瞬間には、若衆らの前に躍り出ていた。
 がッ、ががガッ、がきぃんッ!!
 空夢揚羽の守りを抜けた空絶閃を、まるで流水のごとき歩法で疾歩しながらに刃振り叩き落とす狐狛! ひゅっと大きく刀を振って、ニイと笑ってみせる。
「ああいう術にゃ詳しいし、それに、おあつらえむきに、鍛ってもらった得物の相性がイイ」
「なんと――」
 補修工房の長、眼鏡の男――靱鉢が狐狛の動きに瞠目した。
「……貴方様には、未来がお見えになるのですか? まるで来ることが分かっていたかのような――」
「いやいや、とんでもない。ただの偶然さ」
 笑ってみせる狐狛。しかし否、種も仕掛けもある。敵の魔眼、『鬼天』は未来視の魔眼。『斬閃がそこで振るわれる未来』を連続的に集束顕現し、擬似的に斬撃を『飛ばす』のが空絶閃の正体だ。
 狐狛の刃は幻想をかどわかす魔性の刃。纏女。――鬼天が睨んだ未来さえも、纏女は映し出す。後は単純。見えた都合の悪い未来を、狐狛は打ち落とすだけでよい。
「けれどアタシは賭博師。偶然を引き寄せるのにはめっぽう強い。――さあ、守りは任せて飛鉄を構えな。アタシに賭けて博打をしてくれ。なあに、損はさせねぇからさ」
 飄々と言う狐狛の声に――
 男達が、怖ず怖ずながらに上げる飛鉄の金属音が重なった。


 先立って戦う三人の猟兵は七色の剣と刃熊童子の未来視に苦しめられ、その身体の各所から血を流していた。
 前線を下げないようにするのが精一杯という有様。このまま続けば、長くは保つまいと三人が共に認識している。

 ――切欠が要る。攻撃に転ずる、敵の余裕を崩す為の何かが。

 それを初めに認識し、敢えて突出して飛び込んだのは鏡だった。
 敵は手練。下手に感覚を奪っても、他の感覚で補ってくるだろう。目を潰しても耳がある。耳を潰しても鼻がある。鼻がなくとも肌があり、その手に剣を握っている限り、その攻勢が鈍ることはあるまい。
 手札の中で、そんな敵の動きを狂わすことが出来るものはたった一つしかない。
 浴びせんとするならば、深く深く――息の触れるほどに近く潜り込まねばならない。
 だが、そうせねば勝てぬなら。そうせねば、あの気のいい鍛冶共が死ぬというのなら。
 命を賭けるのも惜しくはない。
「おらァッ!!」
 意識を自分に引き付けるように吼える。荒咬・甲を投げ太刀。突っ込む。刃熊童子、当然の如く弾く。
「なんだァ、自棄にでもなったか?」
 刃熊童子は即座に、突出した鏡を狙った。七色の斬撃が立て続けに鏡を襲い、脇腹、右肩、左脚より血が飛沫く。深い傷だ。血が噴き出ている。然りとて止まらぬ。
 ――届け。一刺しだけでいい。
 遮二無二小太刀を振り、鬼の間合いの内側に潜る。せせら笑うように鬼が小太刀を鏡の手から弾き飛ばした。
「まず一人ッ!」
 快哉叫びながら刀を振り上げた鬼の懐へ――鏡は、声なき声で叫びながら飛び込む。
 手を閃かせ後ろ手に抜いたは、己が真体――鏡刀『影姫』。ど、とぶつかるように鬼の腹を穿つ。
「かッ……はは、おいおい、そんなモンじゃ俺様を殺せやしねぇ――ぜッ!!」
 当然。匕首の一突きで殺せるほど柔な鬼ではない。刃熊童子は当然のように、振り上げた刀をそのまま鏡に振り下ろす――
 しかし奇妙なり。刀が空を打った。
「――ア?」
 当たるはずが空を切る。気付けば鏡は既に飛び退いている。ズレがある。見ている世界と、現実の間に断続的なずれが生じる。
「手前ェッ、」
「悪いね。搦手、使わねぇとでも思ったかい? お綺麗な剣術は得意じゃねぇんだよ」
 鏡が血塗れで笑った。――それは神経攻撃を行うユーベルコード、『狂禍衰欠』! 敵の認識、間合いの感覚を読み違えるよう神経を傷つけ、剣鬼、刃熊童子の戦闘識覚に罅を入れたのだ!
 長くは保たぬ。それを知るからこそ、即座に神楽耶が謳う。
「凄まじい撃剣でございました。ええ、それ故にこそ揚羽も盛る。それでは、刃熊童子様。あなたの刃を喰ろうて燃える幻想蝶の熱――どうぞ、お召し上がりくださいな」
 若衆に飛んだもの、戦闘中に他の二者を庇ったもの、八二の空夢揚羽が今一度燃え上がる。爆ぜて散っても揚羽の形を取り戻し空に舞っていたそれらは、今まで受けた攻撃の威力を喰らい、尚も烈しく燃えるのだ。蝶とは思えぬ疾さで宙を滑り、立て続けに刃熊童子を爆破、爆破、爆破!!
「がアアッ……!!」
 たまらぬとばかり宙に跳び上がる刃熊童子。蝶が放たれたとなれば後背、若衆らの防御はもうないと知ってか。民を殺して動揺を誘うべく、剣先を職人達に向け振り上げるが――
「いいタイミングだぜ――そら上だ、ブチ込め!!」
 跳び上がった刃熊童子を、二〇の銃口が睨んでいる。狐狛が指揮した若衆らが飛鉄の狙いをつけているのだ!
 発砲に合わせ、狐狛がユーベルコードを起動。『寇釖無形』――自信の周囲の対象に、呪術的な概念を付与して強化するユーベルコードだ。
 放たれるは、二〇条の『銀の弾丸』。刹鬼鉄製弾頭の性能を増幅し、鬼に対する殺傷力を伸ばす。彗星の如くに放たれた銃弾の群が次々に刃熊童子を射貫く。着弾箇所が腐れて崩れるのを、刃熊童子は肉を抉って対処、再生しながら落ちて転げる!
「そろそろお帰り願おうか、お客サマ? これでも負けが認めらんねぇかィ」
「糞、クソクソクソクソッ!! 手前ェら、殺してやる、小賢しい小技でここまで俺様を虚仮にしやがったこと、一人残らず後悔させてやる……!!」


「――無理ね。それは」


 復位した刃熊童子に、しとりが流れるように襲いかかった。気付けば、彼女の名のように、しとりしとりと霧雨が漂う。身体は幾度も刻まれて、その唇さえ今は紅に掠れている。けれど、鬼に止めを刺す為に。鬼を殺して仕舞いにするために。女は迷わず踏み込んだ。
 鈍刀千代砌翻り、鬼の刀と互角真面に打ち合う。先程までは敵の剣勢に圧されていたが、鏡が狂わせた感覚と、神楽耶と狐狛が負わせた損傷が、互角以上の戦いを演ずることを可能としている。
 吼えながら刃熊童子が透いた刃での一閃。しかししとり、雨の歪みを視て取って、剣先を上に逸らすように流し回避。背には二度とは飛ばさせぬ。彼女もまた、戦いの中多量の血を喪った。美しい服も柔肌も、今やべったり血に濡れて、身体は冷えていくばかり。
 けれどそれでもわらう。――嗤う。血を流す程に血の気の通うが如く。
「分け身如きが、私の身を、よくも」
「如き? 如きだと、群れなきゃ何も出来やしねぇ、手前ェら雑魚の分際でェッ!!」
 刃熊童子の剣、この後に及んで速まる。ズレた感覚を、ズレに合わせて動くことで克服しつつあるのだ。
 剣戟が加速する。失血で、しとりの動きが鈍くなる。そこに、食い千切るような刃熊の二刀が突き込まれた。
 ず、んっ。
 二本の刀が、しとりの身体を穿つ。かふ、と吐いたしとりの赤い血が、びしゃりと鬼の顔を濡らした。

 目の前で鬼が勝ち誇って喚いている。

 ――嗚呼然し、此の胎の相も変わらず柔いこと。こうも容易く破れてしまう。
 しとりは朧に掠れる意識で、けれどひどく冷めて、透徹に思う。
 この身を穿つものは、世に二つと要らぬ。胎に踏み入ったのはひとつでよい。
 ならばどうする? 二つ目、消すまで。

「ひらゐた」

 しとりがあえかに囁くなり、刃熊童子の腹に、鬼の腕がめり込んだ。瞠目する刃熊童子、何が起きたのか分かるまい。
 死に体の女の胸から、鬼の腕が咲いた。それが、刃熊の腹を穿った。血がびしゃりと散る。
 或いは幻だったのか、そうした形をした呪い返しだったのか。事実は重要ではない。確かなのは、腹に大孔を開けて、刃熊童子がよろりとよろめいたこと。
 ――是なるは『門開』。『千代』、おんなの身体を傷つけたものに、傷で応報す鬼術の一つ。

 死虜が嗤う。青い舌から赤い血を滴らせて。
「嗚呼、可笑しや。化け物が物の怪に勝る道理があろうか?」

「ってめ、え、ぇえぇえええぇ!!」
 腹に力が入らぬのだろう。逆上せ上がっての斬撃は今までより遅い。そこに横から刃が飛んだ。『荒咬』。乱れる息をつきながら、鏡が二度目の投げ太刀を極めたのだ。今度は命中。頸を貫く。鬼の身体がぐらりと泳ぐ。
 しとりは最後の力を使って踏み込んだ。鈍刀千代砌翻し、

 最早碌にも動けぬけれど、
 今宵ばかりは仕舞われぬ。
 鬼を負かすは彼らの腕よ。
 
「――――殺れ、千代砌」

 逆手に構えた千代砌で、左脇から心臓を一突き。錆の刃で臓腑を荒らし、ざりりと裂いて斬り抜ければ――
 鬼の顔、凄絶に歪んで血に爆ぜた。
 最早身体の維持も罷り成らぬ。その全身、腐臭ぷんぷんたる血の塵と成って、小雨に混じり溶けて散る――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーノ・アルジェ

②鍛冶場へ

…間に合った!
……あまり、見せたい姿じゃないけど。
黄昏があれば、きっと大丈夫。
…だから。もっと深く。もっと力を貸せ…私の中の、化物!
悠長な戦いができる相手じゃないから…全力で、行くよ。

…とはいえ。悔しいけど、刀を扱う技術も、それ以外も、私では届かないだろうから。
だから、前に出る。私以外を見る余裕なんか与えないくらいに。
私の持てる全部を使って、分け身の一つだけでも釘付けにしてやる。
それが時間稼ぎにすぎなくても。少しでも多く、少しでも長く。
護ってみせる、繋いでみせる。それが、今の私にできる事だから。

……一瞬でも、目を離してみろ、オブリビオン。
たとえ刺し違えてでも、その首を貰うから――!


杜鬼・クロウ
◎②
何としても、護り通す

空見て獣道から里へ
到着時に佑月、ミソラと遭遇
状況と役割察し

そっち頼むわ
佑月、仔猫チャン

二人へハイタッチ
振り返らず鍛冶場へ

よく耐えてくれた
後は引き継ぐ
動けるヤツは怪我人を頼む

十代目へ目配せし頷き
敵見据え
背中で語るは闘志
魅せるは剣の力

誰も、死なせねェ…ッ!

鍛冶場の外へ誘導
剣に炎熱を宿した儘大振りで押し出す
鍛冶場を背に

【射干玉の思慕】使用
(今こそ新たな力を使う時
借りるぜ)

視えずとも在るンだろ
テメェらの剣術もさるコトながら
其の野望は俺が打ち砕く

視覚に頼りきらず敵の殺意感じ斬撃断つ
増えた手数でフェイント
実践で剣と対話
徐々に強く重い連撃を
未熟な阿修羅が吼え
敵の心の像と伍輝の殻を壊す


セリオス・アリス
【双星】◎


アレスの攻撃を後押しするように
出会い頭に剣に風の魔力を注いで衝撃波でまず一撃
できるだけ鍛冶場から敵が離れるように
踏み込んで斬りつけて

攻撃の予兆を見切ったらバックステップでアレスの所へ
他のやつらと交代だ
怪我人は?
こっちにはアンタらがなおしてくれた剣も盾もあるんだ
心配せずに下がってろよ
大丈夫だって、アレスがいる
コイツ、守るのは得意だからよ
ニヤリとアレスに視線を向けて

ってなわけで色々任せたぜ
回避の為に敵の動きを見るのも
防御も投げ捨てて
アレスの声と力を溜める事にだけ集中する
声が聞こえたらその通りに回避しながら
歌で呼び起こした魔力を剣へ
さぁ…復帰一発目だ
全力でいくぜ
派手にかませよ【彗星剣】!


斬幸・夢人
◎②

なる、ほど――な

さてさて目の前の二匹は当たりなのか外れなのか……
まぁ――どっちでもいいか
どうにせよ他の場所にゃ間に合いそうもねぇし、とりあえずこの二匹を斬ってから考えりゃいいんだろ

下がってな、と若衆たちに指示しながら

いざいざいざ、ってな
さぁやろうぜ、刃熊童子

傷つきながらも敵の攻撃を見切る
透明な斬撃恐るに足らず……というには格好がつかねぇな
だが、ああ――見切ったぜ、お前の思考と癖をな
ここまで言ってやったんだ、次はねぇ

作り出す分身体は3体
敵の攻撃を回避しながら4人同時の重ね斬り
別れたのは失敗だったな刃熊童子さんよ
全員で一斉にくりゃ、俺くらいまでの首は取れたかもしれねぇのにな


矢来・夕立
【絶刀】ヒバリさん/f15821
②鍛冶場
このタコが。オレの祝儀を香典にする気か。
恩義を果たせずに死なれては困るんですよ。
時間稼ぎに一合ほどは打ち合ってあげます。

あれは嵐みたいなつるぎですから、すぐに来るでしょう。
――この狼藉、女の平手打ち程度で済むと思いましたか。
彼がお前の欲しいものをくれますよ。その土手ッ腹にな。

交代です。《闇に紛れて》敵の背面へ。
…おまえのお姉様が頑張ってますね。
悪戯好きはオレと雷花の共通点です。
正道で以て、邪道を行きましょう。
正しく構え、駆け、背への刺突で心臓を狙う。

【神業・絶刀】。

こんなものでは死なないでしょうね。
首級を取るべきヤツがいるんですよ。
そうでしょう。斬丸。


ヨシュカ・グナイゼナウ
②◎
まだ鋭春の、彼らの命がある事に安堵し
その先を考える
無くなるは命だけではない
この後作られるかもしれない、先の刀達までも無くなってしまう
未来は平等に開かれて然るべきなのだ
ひとだろうと物であろうと

鍛冶場の物陰の闇に紛れて死角から
不意打ちを狙い先ずは一刀
虹の色の斬撃は眼で、見えない斬撃は音で見切り
あなたの八刀を開闢で受け弾き
機を見て五秒 もっと速く、閃光めいた一刀を
狙うは首級

この開闢での一刀も全部、全部、全力でのブラフです
接近したわたしの機体に一太刀でも入れたなら
条件は揃った

ひとりだったらこの様な手段は決して取らないのですが
後に続く方々がいらっしゃいますので
あなたの戦力を削げれば御の字なのです

結べ


鷲生・嵯泉

道理に添わぬ頼みを通して貰った恩義、此処で返さねば梶本にも顔向け出来ん
……目の前で『育ての親』を喪っては晶龍も悔しかろう
何より――私の矜持が赦さん

勘を極集して研ぎ澄ませ、得られる情報の全てを培った知識にて図り活かし
読んだ攻撃の手へとなぎ払いを咬ませ潰して相殺してくれよう
成る程、流石に先の連中とは違うと見える
なれば……凍てつけ晶龍――剔遂凄氷、極下へ至れ
ずらし飛ばした衝撃波にて攪乱し、隙を抉じ開け逃しはせん
動きを阻害しない程度の傷なぞ捻じ伏せ一気呵成に接敵
素っ首目掛け怪力乗せた斬撃を叩き込んで呉れる

――お前の目的なぞどうでもいい
だが人の世に災い為すものを見逃す道理は私には無い
疾く潰えろ、残骸


セフィリカ・ランブレイ

2へ参戦

鋭春サン達を護るよ
『他は信じておきなさい、アレを前に雑念は死よ』

確かに敵は速いし力も凄い!
回避に専念すれば身は守れるが攻めが届かない

私の剣じゃ突破が厳しく
ゴーレムは遅いし、集落では被害が出過ぎ
現状は削られて負ける
加速と威力を両立した一撃が要る

賭けよう
魔剣を収める

想定外の使い方
あくまで少しの補助用の機能の筈
鞘も、頑丈さより使い易さを重視してある
だがこの鞘は、私の魔力を効率よくシェル姉に伝えられる
故に私の全部を叩き込める
『正気?普段の私とセリカは互いに魔力を循環させているだけ
それを一点に集めれば強くはなるけど…もつの?』

ま、信じてよ
私の成長

機会は一度
【月詠ノ祓・隠神】
…行くよ!


アレクシス・ミラ
【双星】◎


先ずは敵の意識を僕達に向けさせよう
盾を構え鍛冶場を、十代目達を守る為『閃壁』展開
シールドバッシュで吹っ飛ばす

防御の構えのまま、彼の言葉に頷いてみせる
僕達がいる限り、誰一人…刀一振り傷付けさせません
貴方達に鍛え直して貰ったこの剣と盾に誓って

ああ、君も斬るのは任せたよ
【蒼穹眼】発動
敵の動きを予測し、セリオスに指示を
彼や鍛冶場に攻撃が向かいそうになれば
後ろには通さない覚悟で盾と閃壁で防ぐ

…この剣と盾に鋳込められてるのは
永海の魂の技と誇り
そして、我が守護の意志と誓い
例え敵が魔眼を持っていようとも…守り抜くと誓ったんだ!
限界突破
隙を見出せ、魔眼を越えろ
共に在る剣を導く為に!
―いけ、セリオス!


鸙野・灰二
【絶刀】夕立/f14904
②鍛冶場
あの夜よりも速く走る。
里には返すべき恩がある。死なせる訳にはいかん。

――おう、遅参で済まねえな。
《早業》《切り込み》、鸙野で斬り払う。
攻撃は俺が引き受けて《かばう》。常の通り前に出る。
なアお前、俺と死合えよ。永海の刀の斬れ味を体で試してみろよ。
夕立の妨害に合わせて引き、敵の斬撃に合わせ忘花で《カウンター》。
忘花(こいつ)もお前を斬りたいとよ。

影が闇に紛れたなら、鸙野・忘花を鞘へ。斬丸を抜く。
嗚呼、待たせて悪かッた。
見えるか兄弟。あの八刃が大将だ。
正々堂々、真ッ向勝負と行こうじゃアないか。
正面から構え、駆け、狙うは刃熊童子の首。

【刃我・刀絶】。

お前が取れ、斬丸。


空亡・劔
共闘了解

戦場

あたしを打った鋭春を助けたいし鍛えた刃の冴えも見せたいの

妖怪を前に百鬼夜行の真似事とはあれよ
片腹痛いって奴か

あんた…中々に笑いのセンスがあるわ

そのお寒いギャグに対しておひねりをあげないとね
百鬼夜行の最後は黒き太陽が昇るの

神も鬼も切り捨てて見せる

【天候操作】
冬晴

是だけの力
己さえ増やす苛烈
あんたを人類の脅威にして超常の存在と断定する

UC発動
故に…躯の海に還す!

【属性攻撃】
氷属性を剣太刀に

【残像】も駆使して可能な限り回避し
但し一般人に刃が向かったら己の身を挺して庇
【結界術】も加えて致命は避

【二回攻撃】で二刀の猛攻

誰一人殺させはしない!
あたしは最強の大妖怪!

人間共!
己と我が偉業を心に刻め


ユヴェン・ポシェット

②鍛冶場へ

奪わせはしない、必ず守るぞ。

タイヴァス。飛ばしてくれ!
仲間の鷲タイヴァスを呼び、鍛冶場まで最速で自身を運ばせる。
タイヴァスは外で待機。もしも窓や入口等外へ通ずる場所へ敵が近づいた時、鍛冶場の外へ引き摺り出す様指示
…この場所で戦うには大切なものが多すぎからな

この地の人々を傷つけさせやしない。だから…
UC「piilo」使用。鋭春及び鍛冶若衆達を水晶庭園へ保護。
尚、他に人々を守るより有効な手立てがあればそちらを優先

青凪、お前が生まれたこの場所を守るぞ。力貸してくれ…!
熱気・冷気を感ずれば水の刃へ
例え強大な相手でも超える力で迎え討つまでだ。

まだだ。
傍で控えていた竜ミヌレも槍へと姿を変え参戦


ロカジ・ミナイ



可愛い可愛い艶花ちゃん、お手入れしましょうね
……なんて呑気に休憩してたらグイと里へ向く愛刀
それは僕の勘が働くのとほぼ同時だった

向かうべき場所は言わなくても分かってるよ
お前が別嬪さんでいるために
たまに通わなきゃなぁなんて言ってた矢先だもの

道すがらの戦場を横目に戦況と敵スペックを予測
どうやら嫌いなタイプのチート野郎だ

鋭春の旦那とそのお弟子さん方
アンタらの仕事の成果を披露出来るなんて僕は嬉しいよ
アリーナ席最前列でとくとご覧あれ
……おっかない?じゃあ後で動画を見せよう

さぁ僕の妖刀よ、もうひとつ踊ろうじゃないか
見えない斬撃を斬り躱し、見える敵首を切り落とす
お前が散らす血飛沫の美しさもまたお前の魅力さ



●八刃猟兵十番勝負 鍛冶場 幕間
 敵兵を四〇ばかり片付けて、さあてそろそろ仕事も終い、後半戦に掛かるまで休憩かって頃合いのことさ。
 可愛い可愛い艶華ちゃん、お手入れしましょうね――なんて、暢気に刃先に指を当てたときだ。ぐいんと刀の切っ先が、村の空を睨むように僕を引っ張ったわけだ。指を切るかと思ったろって、文句をつけるより先に勘が働いた。休憩は後回しだってね。
 僕が踏み出して十秒の後、空に紅い陣が広がった。なるほど、ありゃあよくない。せっつくように艶華が僕の腕を引っ張った意味も分かる。
「嗚呼はいはい。言わなくたって分かってる。お前が別嬪さんで居るために、たまに通わなきゃなぁなんて言ってた矢先だもの」
 ――そんじゃあ、ちっとばかし急ぎますか。
 そんなわけで、僕、ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)は抜き身の刀、艶華を引っ提げて走り出したわけだ。即座に猟兵達の間で会話をする算段が整えられて、僕の行き先も自ずと決まった。
 どこかって? 位置が近いのが幸いした。鍛冶場さ。鋭春の旦那がまだ詰めているらしい。
 里全体が緊迫感に包まれている。西の壁を飛び越えて、壁上の警護兵にウィンク一つ、刃引っ提げ突っ走る。屋根から屋根を飛び走っていると、横合いから猟兵の声が鋭く舞った。
「――俺ァ十代目の所に行く! 佑月、仔猫チャン、倉の方は頼むぜ」
「はっ、任されてやるさ。そっちもうちの連れの分を頼まァ。よろしく伝えてくれ、あんたの牙が、きっとクソ鬼をブチ抜きますってよ」
「クロウくんが行くんなら安心だ――鋭春さんには俺もお世話になったからさ……頼んだよ。お互い、無事でね!」
 目をやってみれば三人の青年が、ぱあん! と軽やかなハイタッチを重ねている。爽やかだねえと目を細めれば、二名――あやかしの匂いのする、猫耳と犬耳の青年が、刀倉のある方向に駆けていく。――そしてもう一人。身の丈一杯の大剣を携えた青年が、僕と同じ方に地を蹴った。
「おや、もしかして君も鍛冶場行き? 強そうな人が供行きで頼もしいねぇ」
「!」
 屋根の上から声を掛ければ、鋭い目を向けてくる青年。アイブロウ、リップ、ラブレットにピアスを通している。強面だけど整った顔だ。
 ひらりと手を振って、合言葉みたいに艶華を振ってみせた。
「お互い鋭春の旦那に恩がある身らしい。急ごうじゃないか」
「……おう! 何としてでも、護り通すッ!!」
 青年は即座に杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)と名乗った。そんなわけで、禍々しく広がった紅い空陣の下を、僕らは駆け抜けた。
 途中、交戦中の猟兵達を横目にもした。敵の挙動を盗み見れば、変幻自在の刀術に、『八刀流』を称する奇々怪々な術の数々。未来を視て取るって噂の目。
「ははあ、こりゃまた――どうやら、僕の嫌いなタイプのチート野郎らしい」
「チートが好きな奴なんているかよ。敵がどう出ようが、真正面から叩き潰してやるだけだ」
「頼もしいねぇ」
 どうやら楽な戦いにはなりそうもない。
 けど味方に骨がありそうなのは収穫だ。どうやって仕掛けてやろうかな、なんて思いながら、先行する男の背中を追う――。


「おうい、鍛冶共、聞こえるかア? いよいよ手前ェらも年貢の納め時だ。人斬り包丁を作り続けて七代だか十代だか、よくまあ続いたもんだ!」
 ――外から鬼の声がする。
 永海・鋭春は、頭に手拭いを巻き直し、ゆっくりと立ち上がった。
「総代!」
「身体に障ります、どうかご自愛を!」
 徒弟らが鋭春を留めるように声を掛けてくる。そのいずれもが震えていた。鬼を恐れているのだろう。
 自分とておそろしい。外より聞こえる鬼の声には支配的な響きがある。生命としての格が違う。その気になれば、やつらは、指先一つで人を殺してみせるだろう。
「これから手前ェらを皆殺しにするが、だがまあ俺様は慈悲深いからな! 手下共を痛めつけてくれた刀を打ったやつを纏めて差し出すんなら、他の有象無象の命は考えてやってもいい。いるんだろ、ここによぉ、この里一番の鍛冶様がよォ!」
 徒弟らの瞳が揺れる。
 一瞬でも、その目に、鋭春を差し出せば助かるのかと、その迷いが浮かばなかったとは言い切れぬ。
 ……しかし、だ。
「ッ、――なりませぬ!!」
「師匠、鬼の甘言に耳を貸すことはございません!!」
「立て籠もれば今しばらくのときは稼げましょう。どうか、どうかここは堪えて下され!!」
 並ぶ言葉を聞いて鋭春は笑う。
 ああ、善良だ。かれらは。
 人は迷う。利己的な面などないとは言えぬ。けれどもそれを圧して、だれかを守ろうとする。それこそが人の善性だ。
 ――だからこそ、おれも彼らを護りたいと思うのだ。
「奴らは、おれを所望だ。お前達はここで待て」
「十代目!!」
「案ずるな。おれには打ちたい刀がまだまだある。他の筆頭鍛冶に教わりたいことも、未だ山のようにある。――ここでは死ねぬ」
 征けば死ぬ。解っている。
 だが、強がり一つも言えぬ身で、覚悟で、総代の看板を背負ったわけもない。
 立ち塞がった徒弟らの頬に、涙が伝う。その肩を、ぐっと掴んで横に退けた。
「有り難う。――凡庸な人生だが――おれのために泣く弟子が出来たというのは、紛れもなく望外の幸福だった」
 止まる気は無い。征かせてくれ。
 鋼の色の目で告げて、十代永海は徒弟を掻き分け、留めようとする手を払い、鍛冶場の外に出た。
 戸を後ろ手に閉める。
「おッ、来た来た、出てきやがった」
「人間ってのは解らんなア。とことん生き汚い一方で、仏か何かって程真っ正直な連中もいる」
「そういうのの皮を剥いで、その下にある本性を確かめたくなっても仕方がねえやなア」
 鬼が、三つ。それも寸分違わず同じ姿形だ。
 悪名高き刃熊刀賊団、その頭、八刃の刃熊童子に相違あるまい。如何なる術にてその身を分けたか、鋭春には全く解らなかったが、相対した瞬間に圧し潰されそうな重圧が来る。鬼気、剣気とはこうしたものを言うのだろう。――動けぬ。
 気圧され何も言えなくば、このまま殺されて終いだ。故に静かに名乗る。
「初に目に掛かる。刀派“永海”、鍛刀総代――十代目。永海・鋭春だ。いかにもおれが、猟兵どのらの刀を鍛造った」
「手前ェが。ふん、なるほど、道理でいけ好かない目をしていやがる」
 ぶん、と無造作に鬼の一人が刀を振った。鋭春には全く見て取れなかったが、その刃は一呼吸で四度ほど振るわれていたようだ。七間ばかりの距離を置いて、鋭春の頬が、右上腕が、左ふくらはぎに左脇腹が、浅く切られた。血が溢れる。
 動脈に到らぬ浅手ではある。しかし武人でもない鋭春にはその判断さえつかぬ。失血にパニックを来しても無理からぬ所だったが――しかし鋭春、直立姿勢を崩さぬ。
 刀を振った鬼が不快げに鼻を鳴らす。
「スカしやがって。嬲り甲斐がねえな」
 それを二体の鬼が混ぜ返す。
「まあまあいいじゃねえか、ノコノコ出てきてくれたんだからよ。潔しってなもんだろう?」
「よう、総代、どうだい、素直な手前ェに免じてひとつ褒美をくれてやろうじゃねえか。さっきの話の通りによ、俺様達ゃア慈悲深いのさ。ほうれ」
 ぽい、と、一体の鬼が短刀を放る。
 受け止めて、鋭春は反射的に短刀を抜き、検分した。何の変哲も無い鎧通し短刀。妖刀地金の匂いはない。ありふれた、世に溢れる凡作だ。
「後ろにいる連中を順繰りに呼び出して、それで殺せよ。そしたら手前ェと、ほか何人かは助けてやるよ。手前ェが出てきたときみたいに潔くやれたら、その分多く助けてやる。――だが、モタったりするようならそん時ゃ予定通り全員殺す。簡単だよな? 命捨てる覚悟で出てきてんならよう」
 なんたる悪辣か。
 命を捨てる覚悟を決め出てきた人間の目標設定をさらに揺さぶりひっくり返し、価値判断基準を掻き乱す。また別の鬼が笑った。
「手前ェが命を捨てるのを、引き摺ってでも止めようたアしなかった連中だぜ。つまり手前ェを殺したも同然のクソ共だ! 手前ェを殺そうとした連中を殺せば、手前ェの命が助かる。安いもんだよなア?」
 げらげらと笑う鬼の声。釣られるように他の二体も笑う。

 鋭春は悪鬼共の笑い声を聞きながら、鞘を棄て――
 嗚呼、知らず笑っていた。

「……なるほどな。確かに安い」
 鬼達の笑みがなおも釣り上がる。鋭春は目を細め、勿体を付けるように、鋭い切っ先に指を立てた。指紋を撫でて刃を確かめる。人を殺すのに、不足のない刃だ。――だが、
「安い、鉄だ」
 鬼の笑みがぴたりと固まった。
 ギンッ。
 鈍くも高い音がして、鋭春の手の内で短刀が二つに折れた。鋭春が手を開けば、真ん中から真っ二つとなった短刀が零れ落ちる。
 それは手品ではない。鍛冶師としての筋力に加え、鉄の匂いを嗅ぎ分け、その弱い部分を、綻びを知悉した彼ならではの離れ業。片手で短刀を圧し折ったのだ。
 ごう、と殺気が膨れ上がった。鬼共の殺意が一瞬にして最高潮に高まる。だがそれを前にしてなお強く、煮え立つような声で鋭春は言い放つ。
「見括るな。この永海・鋭春、己が泥を啜って血を吐き死すとも堪えて見せよう。しかし、友を、徒弟を売ってまで永らえようとは思わん」
「アア――そうかい、そうかい。折角の俺様達の厚意を無にするって訳だなア、手前ェ!!」
「全員ブッ殺し希望って事でいいな、そんなに死にてぇなら望み通りにしてやらア――!!」
「……」
 鋭春はすん、と鼻を鳴らして、首を振った。
 刃を折っての挑発。勿体付けた時間稼ぎ。自分一人が死ねば済むならそれで納めたが、けれどどうやら未だ足掻けると、迫る匂いが教えてくれた。

 賭けようとも。命一つの種銭を。

 感じていた、
 刃の匂いに。
 ここに来る、
 我が子らの。

 ――沸き立つばかりの力の匂いに!!

「斬れるとあらば斬ってみろ。
 ……我ら永海と猟兵の、鍛えに鍛えた刃と技に、貴様らの刃が立つのなら!!」


 鋭春が吼えた刹那、物陰から一つ、側方左手より一つ、鬼共の後方より一つ、弾丸の如く迫る影あり!!
「!!」
 物陰から飛び出した影がまずいの一番に接敵した。ミルクホワイトの髪に琥珀の眼。右眼を深く覆う黒眼帯。手にした刃は銀に閃く。覚悟の刃、迅輝瞬刀『開闢・煌』!!
 ヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)の斬り込みだ!! 開闢は短刀、しかしてそのリーチの短さを感じさせぬ凄まじい速度での踏み込み。後手に回った刃熊童子が刃を受け止め、ぎりりと牙を食い縛る。
「手前ェ、そこを退きやがれッ!!」
「退けと言われて退くならば、端から参じておりませぬ」
 涼しげなヨシュカの返しに続き、立て続けに他の二個体に打ち込む激音、二つ!
 息を詰める鬼に、口上二つ!
「――道理に添わぬ頼みを通して貰った恩義、此処で返さねば梶本にも顔向け出来ん。ここまでだ、残骸共。これ以上の狼藉は我らが許さん」
 低い、怒りの滲む零下の声で鷲生・嵯泉(烈志・f05845)が、衝天凍牙『晶龍』を。
「十体に分かれて化けたんだってな。さぁて、お前らは果たして当たりか、外れか――ま、どっちにしてもぶった斬るんだ、関係ねぇよな? ――いざ、いざいざ、ってやつだ。さぁやろうぜ、刃熊童子!」
 揺らめくような軽薄な調子で斬幸・夢人(終焉の鈴音・f19600)が、霊刃『妖斬』を、それぞれを構えて鬼を間近に鍔迫り合いッ!
「鋭春さま、ご無事ですか!」
「ヨシュカどの、助力、誠に痛み入る! ――おれのことは考えずともよい!! 努々油断されるな、その鬼共は恐ろしい遣い手だ!!」
 案ずるヨシュカの声に、打てば返すような鋭春の声。果たして、手練れの鬼共は三者全く同時に唾を吐き捨て、打ち合う対手を渾身の力で押し返した。
「「「!!」」」
 刃軋り、ヨシュカがバックフリップ、嵯泉が踵で地を削り、夢人が力を逃がしながらバックステップ、三者三様に後退。それぞれ空いたその間合いに、鬼が咆哮しながら刃を振るった。
 ――八刀流『空絶閃』!!
 因果律を歪曲し、未来を見る――現象収束の魔眼『鬼天』が煌めく。刃熊童子は空打つ斬撃の軌跡、その軌道上に、『刃が至った未来』を連続的に再現。斬撃を擬似的に『飛ばす』! この斬撃は鬼天が捉えるその視界の範囲を射程とする、長射程かつ高威力の連続斬撃である!
 先ほど鋭春を襲ったそれがまるで子供を撫でるほどの加減だったことが分かる! 七色、極彩色の剣閃が雨霰と注ぎ、三名の猟兵を猛撃! 三者三様に刃を構えて受けるが、それぞれ浅からぬ傷を負う!
「なんて剣だよ――目が慣れねぇ。さっさと片付けて次に征くつもりだったが――まずはこいつら三匹の斬り方を考えるとこからだな」
 剣戟を響かせながら血を流し、夢人がぼやく。咄嗟に発生させた分身三体による多重防御で、後ろの鋭春に攻撃を通さぬよう防ぎ止める。が、じりじりと圧されて退がる! 長くは保たぬほどの劣勢、明白である!
「七色の斬撃は視えます。残り一つ、透明なものは、音を捉えて受けるしか」
 身体のそこかしこに斬撃で刻まれた小さな罅と亀裂。そこかしこから小さな欠片を溢しながらヨシュカが金眼を細める。
「……成る程。流石に先の連中とは違うと見える。なれば、」
 定石に従い料理するのみ。
 猟兵二者に聞こえる声で言うなり、嵯泉が刃を握り締めた。彼の頬を流れ落ちる血が、急激な気温低下で凍り付く!
「……凍てつけ、晶龍!」
 一瞬の刃の間隙を縫い、嵯泉が刃を地に突き立てた。その刹那、地が隆起し、道を割りながら無数の氷柱が乱立する。一本一本がヨシュカの胴回りほどもある巨大な逆氷柱だ。地中に晶龍の冷気を通わせ、水分を凝集・凍結させることで連続で氷柱を生み出したのだ!
 地中の冷気はそのまま、鬼達の足下に向けて走る。その軌跡を辿るように乱立する氷柱が突き出る、突き出る、突き出る! ユーベルコード『剔遂凄氷』の応用だ! 氷柱の尖端は鋭く尖る絶死の鋒。如何なる防御すら侵徹し貫通する威力を誇る!
 さしもの鬼共もそれを前に馬鹿正直に受けるわけもない。攻撃を中断、迫る逆氷柱を避けるように散開!
「チッ!」
「小細工をしやがるッ!!」
 ――そしてそれこそが嵯泉の狙い。
 敵の高い火力を一箇所に固められては突き崩すのも困難だ。ならば、一体ずつに散らして、後は数を頼みに圧し潰せばよい!
「目の前で『育ての親』を喪っては晶龍も悔しかろう。何より――私の矜持が、それを赦さん」
 故。
 お前達には、ここで消えて貰う。
 おお、と嵯泉は吼えた。時間差で剣先より衝撃波を連発。鬼共に回避を強い、僅かな時を稼ぐ! 衝撃波を掻い潜り、忌々しげに吐き捨てる刃熊童子。
「調子に乗りやがって!! 叩き潰してやるッ!!」
「――それはこちらの台詞だ、刃熊童子ッ!!」
 全く唐突に、上から声! 
 見仰げば、光の翼を広げ羽撃き、払暁の騎士が飛び来たる! その左手にはカイトシールド――閃盾自在『蒼天』、右手に長剣、双星暁光『赤星』!
 正義と理想の体現者。彼こそ闇を祓う騎士! アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)である!
「なッ――」
「弾け、蒼天ッ!!」
 アレクシスの咆吼と同時に、その左手の盾が暁めいた光を放つ。アレクシスの身体をすっぽりと覆い隠すほどの光の壁が盾の縁より展開! ――烈光鉄により実現された護りの権能、『閃壁』である!
「うおおッ!?」
 刃熊童子の一体が瞬時に空絶閃を放つも、腰の入っていない急拵えの斬撃では閃壁を徹し得ぬ! アレクシスは空絶閃を弾きながら急降下、バレーのスパイクめいて刃熊童子の一体にシールドバッシュを叩き込む!
「があっ!?」
 盾を通じた全力の体当たりだ。刃熊童子の身体が地面に急角度で叩き付けられバウンド! そこへ、
「ぶちかませ、青星ッ!!」
 闇空に瞬く星が如き、蒼白い光を纏った剣が振るわれた。アレクシスが敵を叩き落とすのに合わせて地を駆け、踏み込んだのはセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)! 長剣――双星宵闇『青星』に風の魔力を込め、嵐のごとき衝撃波で鬼の身体を薙ぎ払う!!
「――!!」
 巻き起こった衝撃波が刃熊童子を巻き込んで轟いた。言葉もなくボールめいて吹っ飛ぶ一体を、「っへ、」と笑って夢人が分身を伴い追撃する。猟兵達の即興でのコンビネーションが冴え渡る!
「ってめ、」
「余所見は禁物です」
 牙を剥く残りの二体の内、一体を踏み込んだヨシュカが狙った。激しく開闢と鬼の刀が打ち合う音を背景に、またも新たな猟兵が一人参じる。
 ――夜気に眩い朱い瞳。
 常ならば藍色に沈んでいるはずの彼女の瞳は、今や闇夜に赫く軌跡を曳く。それは彼女の本性、ヴァンパイアとしての姿だ。決して、見せたいものではないだろう。下手をすれば暴走の危険すらある。
 だが、それでも、
「――一緒に戦って、黄昏」
 その刀がある。血鬼繋魂『黄昏』が、彼女の中にいる吸血鬼の力を押さえ宥め賺し、手懐ける一助となる。
「もっと深く。もっと力を貸せ……私の中の、化物!」
 少女は、ルーノ・アルジェ(迷いの血・f17027)は叫んだ。右手に抜き身の黄昏。その刀身に、ぎゅるりと血が渦を描くよに纏い付く。ユーベルコード、『血の覚醒』。彼女の中の吸血鬼が目を覚ます。今や彼女の力は、血に狂う化物の原型――ヴァンパイアそのものだ。
 先行したヨシュカが鬼と打ち合うその後から、ルーノは刀を翻し振るった。纏い付いた血が流体刃を成し、まるで鞭のように撓る。ヨシュカを避けての間接距離斬撃! ヨシュカの動きを阻害せず、かつ刃熊童子に攻撃を加える妙技である!
「小蠅が一匹から二匹に増えた所で、何ができるかよォッ!!」
 悪態を吼える刃熊童子だが、ヨシュカとルーノの表情は変わらず、その剣勢も緩まない。太刀筋見切られる前に勢いで圧し、一体を鍛冶場より引き離す!
「次から次へとワラワラ涌きやがって、ゴミ虫共がア!!」
 がっ、ぎっ、ぎぎんっ、ぎぃんっ!! 打ち合う音、火花、華々しく猛々しい!
 引き離される個体を横目に吼えた最後の刃熊童子を、踏み込んでいた嵯泉が押さえ込む。
 嵯泉はその戦闘識覚を、勘を、全て目の前の敵に集中した。今までに見た太刀筋の全て、得た情報の全てを戦闘経験に基づきふるいに掛け、膂力と体捌きの限りを尽くして互角真面に打ち合いを演ずる。
「今からその塵虫に斬られる身で何を喚く。……目を見開いてよく見るがいい。死が来るぞ。お前の死が」
 嘯く嵯泉のその声に、鍛冶場の屋根を踏み切る音が重なった。二つの影が地に降り立ち、鋭い刃の鋒を、最後の一鬼に指し向ける!
「やあやあ、鋭春の旦那! アンタの仕事の成果を直接疲労できるなんて僕は嬉しいよ。アリーナ最前列でとくとご覧あれ! お弟子さんらには後で動画をプレゼントだ!」
「十代目!! よく耐えてくれた。後は俺達に任せとけ!!」
 ついに辿り着いたは、ロカジ・ミナイと杜鬼・クロウ!
 二者は辿り着くなり、バックステップを踏む嵯泉と入れ替わりに鬼に踏み込んで左右より交差斬撃を叩き込む! たまらず蹈鞴を踏み飛び退く刃熊童子!
 ――分断。鬼と鬼の間に距離が開き、連携が断たれる!

 斯くして、鍛冶場の前は混戦を脱した。猟兵達は数体対十数人ではなく、一体対数人の構図を作り上げることに成功したのである。
 剣戟は加速する。これより演ずはもっとも苛烈に刃鳴る、聞くも激しき鬼殺の演武!!
 八刃猟兵十番勝負、七、八、九番目!
 開幕である!!



●八刃猟兵十番勝負 七番目
 撃剣打ち合う最前線を支えるのは、夢人とその分身三体。さらに、新たに参じたもう一人の猟兵だ。
「妖怪を前に百鬼夜行の真似事とはあれよ――片腹痛いって奴か。あんた……中々に笑いのセンスがあるわ」
 ――己の真体――魔剣『空亡』を鍛え上げた鋭春に報いるため。この鍛え上げられた刃の威力を彼に見せるため。敵を前に吼えるは、空亡・劔(本当は若い大妖怪・f28419)。彼女は参戦するなり、永海・冷鑠の手をして強化された剣、『二世氷結地獄・極』により天候を操作した。キンと冴え渡る冬空。両手に構えた二剣に冷気が宿る。右手に殺神魔剣『空亡・紅』、左手に永久凍剣『二世氷結地獄・極』!

「そのお寒いギャグに対しておひねりをあげないとね」
「調子よく回る口がついてやがるなあ、削ぎ落としてやりゃ少しは黙るか、手前ェ!!」
 刃熊童子が怒りに猛る。空絶閃、唸る!!
 七色赫く虹の斬撃にひとつ、透明な閃が混じる。しかも、疾い。斬撃がパターン化されていない。見切るのは至難の業だ。開戦当初から打ち合っている夢人でさえ、未だこの鬼の剣技を掌握しきれぬ。
 劔もまた同じ。自身に迫る七色の斬撃を弾いて流して叩き落とし続けるも、捌ききれぬ斬撃が、死角より迫る不可視の一閃が、次々と彼女の身体を裂き、身体の各所から血を飛沫かせる!
 しかして絶えず二剣を振るい、受け弾き、恐れることなく刃熊童子に迫って斬り結ぶ。
 ――敵は強大。
 超常なるもの。
 ならばこそ、冴える刃がここにある。
「是だけの力――己さえ増やす苛烈。あんたを人類の脅威にして超常の存在と断定する」
 劔の背にパキパキと音を立てて氷の翼が析出する。透くような音のする氷翼を一度羽撃き、劔は断ずるように謳った。
「故に――骸の海に還すッ!!」
 ――ユーベルコード、『魔王を滅ぼすのは人の勇者のみ』!
 背に翼を造りだし、赫く二剣を構えたその姿、魔王が如し。己に超常存在に対する特効を付与する、劔の本質を示すユーベルコードだ。
 その威圧感、劔に宿った属性と特質を悟らぬ刃熊童子ではない。僅かに眉を動かすが、――しかし、それで怯むような生半な鬼ではない!
「やれるもんならやってみやがれッ!!」
 空絶閃に加えて鬼天開眼。因果より未来を手繰る刃熊童子の魔眼、『鬼天』の本来の権能の発揮。
 凄まじい剣勢で振るわれる劔の二刀乱撃、それに加えて夢人の分身・多重斬撃を、受け弾き回避、避け抜け空かし掻い潜る!!
 避けると同時の空絶閃斬り返しを、夢人は分身を盾に、劔は残像を残して回避、或いは結界を限定展開して辛うじて防ぐ!
「誰一人殺させはしない――」
 誇る如く。
 己の刃の冴えを見せつける如く、劔は嵐のように舞う。施された斬魔含の賜物か、劔の手の中で、まるで血の通ったように空亡・紅が朱く朱く輝いた。その名を謳うが如く、鋭春に訴えかけるように!
「――あたしは最強の大妖怪!!」
 後ろを振り向くことはない。だが、視線を感じる。
 鋭春は確かにこの戦いを見詰めている。
 だから、吼えた。
「永海・鋭春!! 己と我が偉業を心に刻めッ!!」
 その技を誇れ。
 この技を見よ。
 空絶閃の嵐の中を、劔の声と刃が荒れ狂う――!


「タイヴァス! 飛ばしてくれ!」
 巨大な鷲『タイヴァス』の翼を駆り、夜空を滑るように飛ぶのはユヴェン・ポシェット(opaalikivi・f01669)。最前線にて刃熊刀賊団十本槍、牙刀・鷹正を屠り、彼の配下たる精鋭を相手取ったために、やや遅れての合流である。
 新たな力をくれたこの里の人々を。才気溢れる無二の鍛冶、永海・鋭春を。そして、その弟子達を――決して奪わせはしない。必ず守る。木々の遙か上を気流に乗って翔ければ、永海の里が瞬く間に近づく。
 不意に、タイヴァスが声高く鳴き、ぐいと翼を傾けた。急激なローリングとヨーイングにユヴェンの視界が揺さぶられる。どうした、と問う前に七色の剣光が過ぎり、刃風の余波が頬を嬲った。
「ッ――今のは!」
 地上からこの上空に、『斬撃』が届いたのだ、と肌で感じる。タイヴァスに意を伝え、鍛冶場へと急降下しながらユヴェンは目を懲らす。……戦闘は既に始まっている!
 降下し、直ちに戦闘に入ることも可能だ。いや、むしろ敵の戦闘能力を鑑みればそうするのが妥当ですらある。しかし、
(この空に届くような威力の斬撃――里人に当たればただでは済まないだろう)
 ユヴェンの第一目標は、『人々をこれ以上傷つけさせないこと』だ。そしてそれは他の猟兵にも有利に働くはず。
 ――鍛冶師らを保護し、後顧の憂いを断つ!
 己の役割を定めると、ユヴェンはタイヴァスに羽音を抑えるように指示しながら、戦闘を避けて鍛冶場の裏手へ急降下していく。

 タイヴァスを裏口の見張りに立たせ、ユヴェンは鍛冶場の中に入った。幾度か鍛冶場に足を運んでいたのが幸いした。彼を知る鍛冶師が戸を開け、手引きしたのである。
 見回せば二〇名の鍛冶師は皆憔悴し、意気消沈している。ここ数日、あれほどまでに賑わっていた鍛冶場の空気は見る影もない。刃熊童子の哄笑と、剣戟の音が外から響いて伝わってくる。ユヴェンは鍛冶師らの言葉を聞いて、ここまでの経緯を知った。
 鋭春が己が身を犠牲に、皆を救おうとしたこと。
 それを止めることさえ出来なかった不甲斐なさ。
 その不出来さを嗤った鬼。
 それでもなお、高潔にあった鋭春の声を。
「この様では、お師匠様に顔向け出来ませぬ……」
 さめざめと、憚らず一人の鍛冶師が落涙する。嗚咽を堪え上を向くもの、眼をぎゅっと閉じ震えるもの、様々だったが、皆一様に無念と無力感に耐えるように拳を握っていた。
 ユヴェンは、痛ましげな眼で男達を見る。彼らは悪くない。悪いのは、襲い来た鬼だ。……けれどそう言った所で、彼らの心が晴れることがないのも知っている。
 彼らを苦しめているもの。それは、襲い来た鬼により詳らかにされた、己が心に潜む浅ましき鬼だからだ。
「――すまない。俺は、アンタ達の苦しみを、癒やしてやれない。だが、二つ、約束できることがある」
 ユヴェンの言葉に耳目が集まる。若衆二〇名ばかりを前に、ユヴェンは二つ指を立てた。
「ひとつ。アンタ達を必ず守る。これ以上傷つけさせやしない」
 小さなガーデンクォーツを掌の上に浮かべ、差し出す。『piilo』。ガーデンクォーツに触れた対象を吸い込み、敵の攻撃及ばぬ水晶庭園に匿うユーベルコードだ。
「――ふたつ。その苦しみも、無念も、俺が背負って持って行く。あの鬼に、熨斗を付けて返してやる。……俺を信じてくれるなら、今はこの中にいてくれ」
 ユヴェンの腰には、鋭春が鍛えた刀。炎氷削水『青凪』。師の刀を持つ若者の真摯な言葉が鍛冶師らの胸を打つ。
 落涙憚らず、鍛冶師らは次々と水晶庭園へと消えていく。最後の一人が『御武運を』と言葉を託して吸い込まれていくのを確認してから、ユヴェンは正面玄関に向き直った。
 引き戸の向こうから激戦の音。しかし最早迷いなく、進む。
 左手に青凪を抜刀。同時に、肩に乗っていた小さな竜――ミヌレが身を翻し、一本の龍槍に化ける。槍と刀の二段構え。
 ――例えいかに強大凶悪な相手だろうと――それを超える力で迎え撃つまで!
 ユヴェンは引き戸を開け放ち、激戦の中へ飛び込んでいく!!


 激化の一途を辿る戦線を、鋭春は唯々見詰めていた。横合いに控えた一人の猟兵が、気負わぬ調子で声を掛ける。
「心配せずに下がってていいんだぜ。――アンタが、最後までここにいる必要なんてない。俺達にはアンタらが直してくれた剣も、盾もあるんだ。負けやしねぇさ」
 セリオスである。敵の一体に一撃をくれて弾き飛ばし、前線を築くのに一役買った彼は、攻撃の機を伺うために一時後退し、今は鋭春の隣で青星を構えている。
 セリオスの言葉に、鋭春は首を横に振った。
「否。負けぬと言うなら、それこそだ。おれは――この場を見届けなくてはならない。背にいる徒弟らの分も。助けに来てくれたあんたたちと、その刃の煌めきを、覚えていなくてはならないと、そう思う」
 鋭春は失血し、蒼白くなった顔で――しかし、決して譲ることなく言った。セリオスには、彼がどんな心境で、思いで、そう口にしたのか解らない。
 けれど、痛みを堪え、決して目を逸らさずに戦いをつぶさに目に焼き付ける様子を見れば、そこに込められた思いの丈はいやというほどよく分かる。それ以上後退を促すことなく、セリオスは横目にした鋭春の容態を慮った。
「……なら、止めねぇけどさ。傷はもう大丈夫か?」
「ああ。アレクシス殿のお陰だな。傷はもう仔細ない。……手数を掛けた、済まないな」
「気にすんなって。アイツは護ることにかけちゃ誰にも負けない。なんたって俺の盾だからな」
 ――ががっ、がぎっ、ぎぎぃんッ!!
 セリオスが笑み混じりに前へと視線を流すなり、前方で刃音。空絶閃と光の壁がぶつかり合い、激しい火花と光が飛び散る。
「面映ゆいですが、そう自認しています。詫びなど無用です、鋭春殿。僕達がここにいる限り――これ以上、誰一人、刀一振り傷つけさせません。貴方達に鍛え直して貰ったこの剣と盾に誓って」
 まさしく、そこに立つのは真の騎士。
 アレクシス・ミラが防御の構えのままに答えた。
 アレクシスは敵に一撃くれたのち、後退し、鋭春を『生まれながらの光』で応急処置。その後はセリオスと鋭春を背に庇い、鬼達の攻撃の流れ弾を、蒼天により発生させる光の壁『閃壁』で阻み続けていたのである。
 持ち前の盾捌きと防御技術。攻撃の来る位置を予測し、閃壁を展開して、背に攻撃を徹さない。
「僕が盾ならば、彼が剣です。僕達が揃うなら、断てない敵なんてどこにもいない」
「そういうこった! 出るタイミングは任せるぜ、アレス!」
「ああ!」
 迷いのない遣り取りに、鋭春は感じ入ったような息を付いた。
「正に一心同体というところか。己のことのように信じておられるのだな。友のことを」
 アレクシスは、セリオスを。
 守り抜けば、必ずや青星を手に敵を断ってくれる――と。
 セリオスは、アレクシスを。
 自分が攻撃に移るまで、決して、彼が攻撃を通すわけがない――と。
 強固な信頼。その証拠に、セリオスは一切の守りの構えを棄て、魔力を練り上げるべく歌を口ずさむ。時が経つにつれて、青星に集まる光が強まっていく。
「奴には余力がある。前衛の二人が削ってくれてはいるけど、奴は二人を捌きながらそれでも力を溜めている――」
 晴天を映し出したようなアレクシスの目が、尚光を増して敵の動きを捉える。――あの空の彼方までも見通す目。『蒼穹眼』。無数に分岐し広がる未来の内、これから起こりうることを汲み取り、予知して拾い上げる眼だ。これがある故にアレクシスは今の今まで、一度として攻撃を後ろに反らしていない。
 未来を視て取る。奇しくもその本質は敵の魔眼、鬼天と酷似している。
「力が高まっている。――回避は難しい。面的な範囲攻撃だ。防いで、その上で全力の攻撃を叩き込むしかない。勝負は一瞬――いけるかい、セリオス?」
「野暮なこと聞いてんじゃねぇよ。お前が征くなら俺も征く。当たり前だろ」
「――そうだったね」
 蒼く輝く目が肩越しにセリオスの視線と重なる。
「反撃を始めよう。たとえ敵が魔眼を持っていようとも、僕のこの目がそれを越える。君を、仲間を導くために――限界を超えてみせる!」
「ああ!」
 セリオスが応じたその時だ。
 後方で、がらりと鍛冶場の扉が開く音。鋭春とセリオスが振り向くと、飛びだしてきた人影と目が合う。――ユヴェンだ!
「鍛冶師の皆は退避させた。後ろを憂うことはない! 俺の力も使ってくれ!」
 ユヴェンの簡潔な情報共有にアレクシスが迷いなく頷く!
「心強い! ――なら、征こう、二人とも。刃熊童子をここで討つ!」
「「おう!!」」
 三者が同時に地を蹴った。色付きの風かに見える速度で前線へ吶喊する三人を、鋭春は最早一挙手一投足を見逃すまいと見つめた。
 眩しい。何と眩き者達か。
 人を救うため、現世に蘇った過日の残影を殺すため。
 戦い続ける高潔なる戦士達。猟兵。
 ――鋭春は祈る。
 我が刃よ。我が子らよ。
 願わくば、彼らの道行きを斬り拓け。
 折れる最後のその時まで、彼等の力に寄り添い給えと。


 アレクシスらから二四間ほど先。鬼の両手の刃が赫く。新たに迫るアレクシスらに気付いたか、急激に鬼のプレッシャーが膨れ上がった。
「しゃ、ら、くっせええェェえンだよォッ!! 全員削り殺してやらァ!!」
 ぼご、ぼごッ、と音がして、鬼の腕が増えた。上下に四本。元からある腕も含めればこれで六本の腕。空いた腕に次々刀を抜き、残り二本を足の指に挟んで高下駄めいて履く。出鱈目に見える構えだが、まさしく同時八本。あれぞ八刀流の真の姿か。
 厄介だ。格闘攻撃というのは動作の起点となる関節が増えれば増えるほど、見切るのが難しくなる。手一つに握り込む武器の数が増えるのと、腕そのものが増えるのとでは攻撃の複雑性が違うのだ。
(――やはり回避は困難!)
 アレクシスは表情を引き締める。予知していた未来の通り、敵はこれから最大の攻撃を繰り出すだろう。――これを防ぎ、一撃加えなければこの鬼を破ること罷り成らぬ!
 剣勢凄まじく、鬼の速度が更に増す。打ち合う夢人の分身が瞬く間に三体とも両断された。剣を交差させ防御の構えを取った剱が凄まじい打ち込みを受け、――防御しながらにして吹っ飛んだ。凄まじい撃力。
「二人とも!! 僕の後ろに!!」
 そこにアレクシスが走り込んだ。剱と夢人の視線が交錯、両者地に足付くなり後方へ跳び、アレクシスの後ろに回る。
 アレクシスは即座に意念の限りを盾に凝らした。守る、絶対に後ろには通さない。予知したこの一撃こそ、相対した刃熊童子最強の一撃!

     ハジンコクフウ
「八刀流、八 刃 黒 風!!ブッ千切れてくたばりやがれええェえええぇ!!」

 一閃一閃に空絶閃が乗る。それが手脚の数、同時に。八刀流・刃熊旋風に更に空絶閃を乗せ、八肢にて放つ連続斬撃。竜巻と嵐と瀑布が同時に襲ったような、全てを埋め尽くす斬撃の『壁』が押し寄せる!!
「おおおおおおおおおッ!!!」
 アレクシスが吼え、蒼天より閃壁を展開する。光の壁が真正面から、八刃黒風と衝突した。
 凄まじい音を立て、閃壁が光の粒子を散らして削れていく。アレクシスの踵が、押し寄せる剣勢の余りの強さに、じりじりと地面に沈んで土を削る。
 八刃黒風の威力は余りに強大。アレクシスが全力を尽くしたとて、保って数秒。……だが、蒼穹眼が見たその未来を、アレクシスは奥歯を砕けんばかりに噛み締めてねじ曲げる。
「……この剣と盾に鋳込められているのは、永海の魂の技と誇り――そして、我が守護の意志と誓い!! 限界を超えろ、――蒼天ッ!!!」
 閃壁の煌めきが増し、八刃黒風の斬撃壁をじりじりと押し返す! 数秒が、十数秒にまで伸びる。決して折れぬ意志が、未来をねじ曲げる。――永海の武具とは、人の意念にて未来を切り拓くもの!!
 光の壁の後ろから、押し寄せる斬撃壁を、そしてその災禍の中心にある刃熊童子を見つめ――不意に、夢人が呟く。
「あァ――これだけ時間が浮いたんなら、ありがてぇ。透明な斬撃恐るに足らず……って言うにゃ格好がつかねぇが、ようやく、見えたぜ。勝ち筋ってやつがよ」
 全身血塗れの満身創痍で、煙草に火をつけ、一口吸い付ける。
「見切ったぜ。お前の思考と癖をな。ここまで言ってやったんだ、――次はねぇ」
 最早限界寸前。傷だらけの身体で、しかし迷いなく言う。敵の斬撃の間、一閃をねじ込めるだけの隙を見切る。
 夢人はひどく静かに踏み出した。その後ろに、残像めいて現れた三体の分身が付き従う。閃壁を回り込み横合いから突出。最低限の斬撃を捌きながら、地を蹴って跳ぶ。
 相対距離、一五メートル。見下ろし気味のアングル。
 間近を掠めた斬撃が、煙草の火口を斬り飛ばす。紅い灰がぱっと散るその向こうで、
 ぎらり。夢人が鋭く目を開けた。

 ――抜刀。
 霊刃『妖斬』。

 キンッ、と一条の閃光が走った。分身三体と全く同時に重ね打った斬撃が衝撃波を伴って伸び、敵の斬撃の間を縫って刃熊童子の眼前を『斬った』。
 端から見れば外れたようにしか見えなかったろう。しかし、
「――ッ?!」
 刃熊童子の剣勢が緩む。
 そう。そこには夢人が狙ったものがあった――魔眼『鬼天』の『視線』である!
 直接当てるには斬撃の密度が高すぎ、届かない。故に彼は、敵の剣勢を削ぎ落とす手を取った。未来を視通す眼の力という、不可視で曖昧模糊とした概念を、妖斬の力で斬ったのである。鬼天の力によって成される空絶閃の威力が唐突に弱まり、隙が生まれる!
「分かれたのは失敗だったな刃熊童子さんよ。全員で一斉にくりゃ――俺くらいまでの首は取れたかもしれねぇのにな」
 せせら笑うような夢人の声に刃熊童子が反駁するその前に、びょう、と凍風吹く!!
「散々やってくれたわね――利子つけて借りを返すわよ!」
 剱だ。両手の二剣に凍気を纏わせ、跳躍と同時に氷翼を羽撃いて急上昇。閃壁を越え、身を溜めるように反らせて、真っ向より二剣を打ち下ろす!!
 ぎ、きィんっ!!!
 空気が軋む音がして、巨大な氷剣が振り下ろされた。剱が振り下ろした二剣の先に巨大な氷の刃が析出し、その重量と冷気で鬼を叩き潰さんとする!
「舐、め、る、なアアアアッ!!」
 喉から絞り出すような絶叫。刃熊童子、真正面から八刃黒風を氷剣に向けて叩きつけ、削る削る削る削る!! しかし剱が絞り出す全力もまた凄まじい!! 削れた氷に魔力を通わせ、空中で制御、氷の薄刃の嵐として刃熊童子の全身に突き立てる!! まるで氷のミキサーだ、嵐の如く荒れる薄氷の渦が、刃熊童子の身体を斬り刻んでいく!
「があッ……!!」
 刃熊童子の身体から血が飛沫く。有効打。血を流しながら歯を食い縛り、刃熊童子は身体を溜めるように回した。八刃黒風で削った巨大なる氷剣の横っ腹を、凄絶な威力で側撃、――へし折る!!
 氷の細片が飛び散り、宙に銀風を描いたその時、
「青凪!! お前が生まれたこの場所を守るぞ。力を貸してくれ……!!」
 ユヴェンが飛び込む。
 八刃黒風の威力が弱まったときには既に回り込み、奇襲の機を探していたのだ。
 剱が作りだした氷剣の欠片が周囲に燦めき、凍気が満ちるこの状況――それは、彼の刃、炎氷削水『青凪』にとって格好の舞台。
 凍気が青凪の刀身に吸われ、その表面に水が生まれる。ユヴェンは地を蹴り、刃熊童子目掛けて真っ直ぐに打ち掛かった。龍槍と刀での同時攻撃!
「ぐっ――……!?」
 青凪から生まれた水の刃が、刀身から迸るように枝分かれし軌道を読ませぬ! 鬼天による未来予測が途絶えた刃熊童子、槍と刀は受けられようと、迸った水の刃の軌道までは十全には読めぬ!
 ユヴェンは一瞬に全力を注いだ。
 水の刃を横から三つ回り込ませる。それを受けたところを見切って、回旋させた槍の石突きで逆サイドを薙ぐ。これも受けられる。だが、それを布石に最後の一手。足元に這わせた水の鞭で敵の脚を絡め、
「はあああああっ!!!」
 そのまま大きく振り回し、投げ飛ばす! 青凪にて操る水の形、まさに変幻自在!

「今だ――征け、セリオスッ!!」
「おう!!」

 最早閃壁はなく。
 蒼く煌めく眼で敵を睨み、号砲を告げたアレクシスの声に従い、黒歌鳥が跳ね駆けた。

「歌声に応えろ。力を貸せ。――この壁を打破する、無窮の力を!!」
 セリオスが唱える力あることばに応じ、青星に光が収束する。
 根源の魔力によって紡がれる、白蒼の剣。その名も、――彗星剣!!
 闇を穿ち、流れる一条の星の如く、セリオスが地を蹴って、投げ飛ばされた鬼に迫る!!
「さぁ――復帰一発目だ。全力でいくぜ!!」
「――!!」
 最早鬼天は機能せず。宙に投げ出され体幹はぶれ、身体に刻まれた傷が動きを阻害する。全ては、彼が虫螻と嘲笑った猟兵達の力の積み重ねが成したこと。
 そして今。最後の刃が唸りを上げる。
 目を見開く鬼が最後に見たのは、

           メテオール
「派手にかませよ――【彗 星 剣】ッ!!!!」

 あの空に輝く星々を、剣の形に固めたような――
 眩い輝きを帯びた剣による一閃だった。

 鬼が咄嗟に上げた一刀での受け太刀を打ち砕き、彗星剣が、悪鬼の身体を両断する。
 唐竹割りに割られては断末魔の声すらない。左右に鬼の身体がずれ――
 ぼう、と。
 その身体が、幾億の血の塵と成って爆ぜ散り、夜気に溶けて消えた。



●八刃猟兵十番勝負 八番目
 刃と刃の打ち合う音が、絢爛豪華な楽章のように鳴り響いていた。
「そろそろ目も慣れてきたぜ。見てみりゃちんけな短刀一つに打刀一つ! 俺様の八本刀にそれで楯突こうッてんだから笑えてくるなあ! さあ、どう料理してやろうか!!」
 刃熊童子の言葉の通り――戦況はよくない。
 ヨシュカ・グナイゼナウとルーノ・アルジェが押し込み、引き離した一体との格闘戦は、猟兵らの優勢から劣勢へと傾きつつある。それもその筈、最低四人で対するのが前提の敵だ。不意討ちと初見殺しで挑んで引き離し、ここまで優勢・互角を保ったことがむしろ、大金星と言えよう。
 身体に走る亀裂を見下ろしながら、ヨシュカは無温の息を吸う。
 ――想う。ここで鋭春ら、鍛冶師らが死ねばどうなるか。
 死ぬだけでは終わらない。彼等が持っていた技術は闇に閉ざされ、この先作られるであろう幾本もの刀が、生まれず終わることとなる。
 刀を生むことで永らえてきた里にとって、それがどれほどの痛手であるか。――そして、生を受けるはずが、日の目を見ることさえなく葬られる刀たちが、いくつあることか。
 それを思うと、自然と開闢を握る手に力が籠もる。
 未来は、平等に開かれて然るべきなのだ。
 それが人であろうと、物であろうと。
「これ以上は、奪わせません」
 ヨシュカは逆手に握った開闢に意念を込める。斬魔鉄製の刀身に、飄嵐鉄製の鍔。霹靂よりも速く鋭くと願った彼の、願いを叶える刃。
「ルーノさん」
「!」
 ともに駆けるダンピールの少女に呼びかける。
 刃熊童子の剣を伸びる血の刃で払いながらヨシュカの横に並んだ少女が、眼だけでヨシュカを見た。
「先に征きます。後詰めを」
 瞠目は一瞬。覚悟の籠もるヨシュカの声に、ルーノがこくりと頷く。
「死に方の相談でもしてやがるのか? 無駄口叩く暇がア、手前ェらにあるってのかよォ!!」
 声高らかに笑い、刃熊童子のやいばが今一度宙を薙ぐ、その刹那!
「閃け。開闢」
 とッ、と地面を蹴るヨシュカ。合わせるように最適なタイミングで振るわれた魔剣・空絶閃が空を切った。
「――?!」
 ルーノばかりではない、刃熊童子すら息を呑んだ。その疾さは今までにない。ここまで、トリッキーな太刀筋と身のこなしで刃熊童子と互角以上の剣戟を演じたヨシュカが、更に速くなる。飄嵐鉄製の鍔に意念を込めることで、その身体を軽く、動きを加速したのだ。
 振るう開闢の刃はまさに閃光。狙うは首級!!
「ハッ、面白ェ!! まだ隠し球がありやがったかよ!!」
 ヨシュカは応えぬ。その余裕もない。意志力を吸い上げ行使するこの力は、今のヨシュカを以てしても五秒使うのが限度。その時間の間、ひたすらに打ち込み、打ち込み、打ち込み、八刀を凌駕して斬り込むッ!!
 凄まじい疾さだ。八刀打ち捌き、開闢の刃が鬼の首を――捉える!
「ヘッ――人形風情がやるじゃあねえか! だが――浅ェ!!」
「……!」
 開闢の刃が刃熊童子の頸から血を飛沫かせた。しかし浅い、切断には至らぬ! 刃熊童子、間髪身を逸らして皮一枚を斬らせるに留めた! 鬼の口元が笑みに歪む。頸を掠めた一撃だが、一息で殺せねば鬼にとってはないのと同じ。どっ、と重い音がして、ヨシュカの身体に二刀が突き刺さった。刺突が背中に抜ける。
「これでまず一人ってか! ハハァッ!!」
 勝ち誇り快哉を叫ぶ鬼。ヨシュカの膝が力を失い、そのまま撓垂れ掛かる――前に、
 だん。と地を踏みしめる脚。刀握る敵の手を握る、ヨシュカの手。
「あァ……?!」
「……一人だったらこのような手段は決して取らないのですが。今回は、後に続く方々がいらっしゃいますので」
 ヨシュカは琥珀の眼で、間近から鬼を見つめた。全てはブラフだった。不意討ちも、開闢による加速も、捨て身めいた全身と斬り込みも。
 ――全てはこうしてあなたの戦力を削ぐ為の、布石だったのです。
「結べ。刺霧」
 ぶ、あうっ!!
 それこそヨシュカの瞳と同じ色の、鋳溶かした黄金のような体液が、剣突き立ったその傷口から噴出した。体液は霧状になって噴霧され、間近より鬼の身体に吹き付ける。
「なッ、……あ"ア!?」
 鬼の声が濁る。ざ、ギンッ、ギチチッ、ギぎぎギッッ……、黄金の軋る音。
 噴霧された黄金の体液が、鬼の体表で、或いは吸い込んだ口腔内、肺腑の奥で、針状の結晶と化したのだ。肺や気管支に抜けぬ棘が突き立った状態を想像出来るだろうか? 息をするだけで地獄の苦しみが肺腑を満たし、当然、呼吸などままならなくなる。オブリビオン故それでも死なずに生きられるのが、この場合は尚のことの不幸なのかも知れぬ。
「で、っめ"え"ぇ、えェエェエ……!!!」
 刀突き刺さったままのヨシュカの身体を蹴り飛ばし、鬼はその手に新たに二刀を抜く。身体に纏う剣気膨れ上がる。ヨシュカの攻撃が、鬼から余裕と余分を奪い去った。刺霧が肺に突き刺さり、彼の運動機能にはかなりの障害と制限が出ている。


 ――それ故に最早慢心はなく。割れた硝子ほど鋭いものはない。
 最早敵にあるのは、純然無垢なる殺意のみ。


 蹴られてゴム鞠めいて吹き飛ぶヨシュカ目掛けて空絶閃が振るわれた。一瞬で七つ。迫る剣閃を受ける程には力が残っておらぬ。ヨシュカがそれでも護りの構えを取ろうとしたところに、ルーノが割り込んだ。七つの空絶閃をギリギリのところで受け弾き、紅き瞳を爛々と輝かせて襲いかかる。
「次の相手は……私だ、オブリビオン!!」
 鬼の血走った目が、ルーノを捉えた。両者ともに弾けるような前進。鬼は最早、一言すら口にしようとしなかった。酸素を無駄に出来ぬ為だろう。ヨシュカの残した爪痕が、この瞬間も鬼を苛み続けている。
 初手から全力。後も先もない。
 ルーノは黄昏を全力で振るい、鬼の二刀を受けた。八刀流『空絶閃』は距離を問わぬ、七色・極彩色の魔剣。その一閃一閃に属性が伴う。赤の閃がルーノの血刃を蒸発させ、青の閃が血刃を凍えさせ、黄の閃が凍えた血刃を眩く鋭断する。そして防御を擦り抜けた不可視の一撃が、ルーノの身体を斬り裂いて血を溢れさせた。痛みに顰めた顔、僅かに視界が狭まったその瞬間に鬼が踏み込んでくる。二刀揃えて圧し斬るような一撃。剣先跳ね上げられ防御が緩んだ刹那、槍めいた鬼の中段蹴りがルーノの胴に突き刺さる。
「かはっ……!!」
 血を吐き吹っ飛びながら、しかしルーノは歯を食い縛る。空中、後方宙返り。傷口から溢れ出た血を操り、アンカーめいて地に打ち込んで縮め、着地制動。
 ――負けない。
 悔しい思いはある。けれど、認めなくてはならないことがある。
 刀を扱う技術では、決してこの剣鬼相手に届かない。それはルーノ自身が一番よく分かっていることだ。
 まるで叩かれたピンボールのボールめいて、ルーノは再度前進!
 同時に血で幾つもの鎌を生み出す。『重き血の咎』という名の呪血兵装、その小型版だ。生成するなり投擲投擲投擲! 空絶閃を振るうより先に防御を強いることで、敵の手数を減らす!
 目の前がぶれる。世界がぐらつく。血を流しすぎている。今すぐにでも倒れ込んでしまいたいが、――けれどもう決めたのだ。負けてやらない。
 だって、間に合ったのだ。誰もまだ死んでいない。いまや彼女の肩にはほかの猟兵達の、そして血を流して敵に抗った鋭春達の願いが乗っている。
 ルーノは応報術式『鮮血の枷』を起動。ユーベルコードと掛け合わせ、その戦闘能力を純増する。
 近接。打ち合い。持てるものを全て使う。こうして自分が戦う事が、時間稼ぎに過ぎずとも構わない。一手でも多く。一秒でも長く。敵が自分だけを見る時間が増えれば増えるほどに、誰かが来る可能性が増える、誰かが生き残る可能性が上がる。
 ――護ってみせる、繋いでみせる。それが、今の私にできる事だから。
「……一瞬でも、目を離してみろ、オブリビオン。たとえ刺し違えてでも、その首を貰うから――!」
 ひたむきな自己犠牲の精神が、ルーノを突き動かす。
「ッざけ、やガッ……てぇえ!!」
 血が声帯に絡みつきずたずたになった声で鬼が吼える。常人であればそこに滲む鬼気だけですくみ上がり動きが取れなくなったことだろう。だがルーノは恐れない。吸血鬼とて鬼は鬼。鬼が鬼を恐れる道理が、一体どこにあるというのか?
 凄絶な打ち合い。幾度も刀を受け傷だらけになりながら、ルーノは血を纏わせ打刀の威力を強化する。血鬼繁魂『黄昏』が夜目に鮮やかな赤の閃を曳き、二刀を振るう鬼を真っ向から迎え撃つ。上段から来た一撃を、刀身から枝分かれした血の刃で受け、刀身そのもので二撃目を流す。巧みに分岐させた血の刃で手数を補い、弾き弾き流し避けて、
「はあああっ!!!」
 裂帛の気勢一つ、踏み込みながらの袈裟懸け一閃!! がきんと音を立て受け止められるも、ルーノは受けられた刃を滑らせながら身体を一転した。――腰布に染みた血が固まり、布の端が硝子めいて尖る!!
「!!」
 斬ッ!! 鬼の腹を深々と割く腰布の一撃! 刃熊童子が腹を押さえ蹈鞴を踏む程の、会心の一撃。――しかしてそれを以て尚鬼は倒れぬ! 一瞬で傷を最低限塞ぎ、吼えながらの踏み込み、振り下ろされる一刀が、受けて尚ルーノの身体を弾き飛ばした。叩きつけられた余りの撃力に、ルーノは背中から地面に叩きつけられてバウンド、そのまま後方に吹っ飛ぶ。
「手前ェも、そこの餓鬼も、鍛冶共もォぉお"、っ殺ッ、して、や"らぁアアァ!!!」
 血の泡を飛ばして吼え、吹き飛ぶルーノへ追撃を掛けんとする刃熊童子――然し、


「このタコが。オレの祝儀を香典にする気か」


 ずどっ、どどど、どどどどどどッ!!!
 凄まじい速度で、地面に手裏剣が無数に突き刺さった。カバーリング。うすっぺらな四方手裏剣。金属的な質感のないそれは、真逆の紙製。しかして地面を削り、機関銃の掃射の如く土を巻き上げた。弾幕めいた手裏剣の前に蹈鞴を踏む刃熊童子。ざ、と土を踏む音がして、闇から輪郭が滲み出た。
 間に合った。――ルーノが抗戦し作った時間が、彼を呼んだのだ。
 男だ。身長六尺たらず。朱い瞳。整った顔。酷薄な表情。
 キィン、と音を立て、逆手に刀を抜く。瞳と同色の錵。
「恩義を果たせずに死なれては困るんですよ。――時間稼ぎに一合ほどは打ち合ってあげます」
 絶刀の『絶』。矢来・夕立(影・f14904)、推参。
 同時に刀を手にせぬ左手を閃かせる。闇夜にあざやかな、千代紙の蝙蝠が浮いた。忍法紙技、『冬幸守』!! その数無数、夕立が腕を振るって嗾ければ蝙蝠達は瞬く間に羽音を荒れさせ、刃熊童子に向けて襲いかかる!
「しゃら、っくせェええ!!!」
 ぎゅる、と刃熊童子が身体を捲き、抜いた剣を竜巻の如く振るった。ぱぱ、ぱぱぱぱァンッ!! 宙で蝙蝠爆ぜる音数十! ざりぃっと音を立てて地を踏みしめて止まったときには、刃熊童子の腕は四本に増え、同時に四刀を扱っている。肉体操作だ。
「乱波崩れがア、偉ッそうに、……!?」
 未だ傷の残る喉でがなる鬼が寸刻、絶句。……蝙蝠を嗾けてきたはずの夕立が既にどこにも居ない! 冬幸守を嗾けるなり本人は闇に紛れている!
『強がるヤツの声ほど荒くなるものです。お前、何で腕を増やす前に喉と肺を治さない?』
 夕立の声が、刃熊童子の背側から響いた。刃熊童子、応えることなく振り向きざまに背側に二刀をぶんと薙ぐ! しかして刃は空を斬る。そちら側に夕立の姿はない。
「残念。そっちにはもういません」
 振り向いた刃熊童子の死角より夕立が踏み込み、ざん、と浅く刃熊童子の大腿を斬った。
「がアァッ……!」
 残る二刀で斬ろうとするが、夕立は斬ると同時に駆け抜けている。既に射程外。鬼が捉えたのは彼が地に落とした影が精々だ。
「治さないんじゃない。それは治せないんでしょう。落ちた運動能力を補うために腕を生やした、とかそんなところですか。まあ、悪くはないと思いますよ。――あの嵐のようなつるぎに、それで敵うかは知りませんが」
「うっせえェえ……んだよォッ!」
 夕立の鋭い考察に、応ずるように放たれる空絶閃・四剣。嵐の如く繰り出される斬閃を、しかし夕立は斬魔鉄製脇指『雷花』にて受け流し、闇に溶けて潜り抜ける。多少の手傷を負うも、行動に支障なし。
 刃嵐の間を潜り抜け、唐突に闇を抜け出て、逆手にした雷花で薙ぐように打ち掛かる! 烈しい音と火花! 敵の刀が雷花を受け止める。
「クソが、ちょこまかと――!!」
「約束の一合です。オレからはこんなところですが――」
 胴を薙ぐように振り抜かれた刃を身を反らしブリッジ回避、そのまま四連続でバック転を打ち、着地するなり闇の中に沈むように消える夕立。実体はある、ある筈なのに何人にも触れられないと思わせる――これ即ち忍びの隠形、その極致である。

『――この狼藉、女の平手打ち程度で済むと思いましたか。
 彼がお前の欲しいものをくれますよ。その土手ッ腹にな』

 またも虚空から残響残る声が告げる。それは告死鳥の声めいていた。
 死を告げる鳥の声に従い、ざ、ざ、ざ、ざ、ざ、ざ、地を蹴り走る益荒男の足音がする。
 ざ、ざ、ざ、――戦場に駆け込み、刀を抜く。身長六尺強。抜いた刃は脇指と打刀。斬魔鉄製脇指『忘花』、斬魔含打刀『鸙野・絶』。
「――おう。遅参で済まねえな。何人もが支えてくれたらしい。なら、俺もその分戦働きで返すとしよう」
 絶刀が『刀』。鸙野・灰二(宿り我身・f15821)、見参。
 ――里には帰すべき恩がある。誰も死なせるわけにはいかん。
 そうとだけ決めて、かつてこの里を救ったときよりも速く、遮二無二駆けた彼のこと、敵を捉えたならば他に言葉は要らぬ。
 灰二は敵の異形も四刀も全く少しも意に介さずに、真っ直ぐに踏み込み、常の通りの豪快な刀法にて斬り掛かった。鸙野による薙ぎ払い一閃! 二腕を使って二刀交差の受け太刀を問題ともせず、そのまま振り抜いて、刃熊童子の身体を後ろに推す! 剛剣!!
 ざあっと地を削りながら跳び下がった刃熊童子を即座に追走!
「なアお前、お前が今度の大将首でいいンだな。俺と死合えよ。永海の刀の切れ味を、お前の躰で試してみろよ。お前が踏み躙ろうとしたものの重さと味をよ。そら、聞こえるか。こいつもお前を斬りたいとよ」
 この里生まれの刀、忘花をひらつかせて襲いかかる灰二に、刃熊童子が牙を剥く。
「ほざけ、木偶の坊が……!!」
 二刀と四刀が白刃の間合いで、蜻蛉の羽めいて振るわれる!!
 ぎゃっ、ぎっ、ぎん、ぎがガガがッ、がギンッ!!
 斬魔鉄の刃が、鸙野の刃が、鬼が握る四刃と互角真面に響き合う!
 これ以上、敵の太刀をどこにもくれてはやらない。全ての攻撃を引き受けんと、灰二は退かずに前に出る。
 ――全盛の状態のこの鬼を前に、同様に打ち合いを演じたならば長くは保たなかったろう。灰二はごくフラットにそう感じる。しかし、先の猟兵が死力を尽くしてこの鬼の力を削った。そのお陰で、今は二手・三手先を考えながら打ち合うことができる。
 鬼が軋むような叫びを上げ、至近距離にて魔眼を燦めかせた。空絶閃が来る。
 七色、極彩色の属性付き斬撃と、それに紛れる透明な一閃! 灰二は最早心眼めいて、殺気の行き着く先だけを読んだ。心臓に一撃。木を隠すなら森の中、不可視の一撃が来るとするなら、それを致命の一撃とすることは簡単に想像が出来る。色付きの閃は鸙野で払えるだけ払い、心臓への致命の刺突を忘花で受け流す!! 赤、青、緑の閃が身体に食い込むが、致命の一撃を火花散らして見事に受ける!! 必勝の型を受けられ、鬼の顔に焦りが浮く。
 その焦りを見逃さず、灰二はわざとよろめくように後ろに下がった。地を蹴り飛び退くそこに、鬼が即座に踏み込んでくる。

 焦り逸ったところに隙を転がせば、人でなくとも勝負を急ぐ。
 ――そうだろう、夕立?

 応えるように宙に姿を現した夕立の手が一閃。雨霰と手裏剣が降った。水練、牙道、黒揺。千代紙製にして鉄と同等の強度を持つ『式紙』。それが立て続けに鬼の身体に突き刺さった。黒揺――苦無型の式紙に至っては、刺さると同時に先端が開き、傷口を抉るオマケ付きだ。
「いぎっ……ッ!!」
 それでも仕掛けて止まるわけにはいかぬ。下がれば喰らい損、ならばせめて打ち掛かった敵だけでも仕留めたいと思うのは、情動を持つ生物のサガだ。
 だが灰二は隙を見せただけ。実際にはそこまで大きなダメージを負ってはいない。振り下ろされた斬撃を避け、後の先。黒揺で千切れかけた左の上腕を忘花で切り飛ばし、そのまま竜巻めいて一転、刹那の間も置かず閃かした鸙野が、右の上腕を斬り飛ばした。
「ッギィイイイイッ!!!」
 最早鬼は血涙を流し、噛み締めた牙が砕けるような様。内臓を掻き乱すヨシュカの術と、ルーノに負わされたダメージ、そして夕立と灰二の攻撃が内外から敵を追い詰める。
      かげ
 灰二は再び夕立が闇に紛れたのを見ながら、二刀をすう、と鞘に収めた。
 ――おう、おうおう、兄弟、出番か?
 ――嗚呼。待たせて悪かッた。
 代わりに引き抜く一刀。刀身長二尺八寸。黒漆鞘、黒革巻柄。乱刃、小丁字。昏く沈んだ銀。良く詰み冴えた肌。
 七代永海の一番刀にして、十代永海の技の粋。“修羅鋭刃”『斬丸・絶』。
 灰二は斬丸に声もなく語りかける。
 ――見えるか兄弟。あの八刃が大将だ。
 頭の中に響くように、斬丸が返す。
 ――おうとも! 見えるぜ見えるぜ、匂うねえ、沢山殺したヤツの匂いだなあ!! 斬ンのか、あれをよう!! あれをおれが斬っていいのかよ、鸙野よう!!
 ――そうだ。あいつを今から叩き斬る。正々堂々、真ッ向勝負と行こうじゃアないか。
 ジャリッ、と音を立て、草鞋の裏が土を握る。八相構え、前傾姿勢。斬丸の刀身を肩に負うように、灰二は最後の構えを取った。
「お前の首を貰う。辞世でも詠むか?」
「手前ェが読みゃアがれええぇええぇっ!!!」
「そう言うだろうな」
 灰二の踏み込み。地が爆ぜる。


 真正面から大仰に踏み込む灰二。
 夕立は、相手がそれに気を取られた瞬間を狙っていた。
 ――そら。お前のお姉様も頑張りました。お前も、もう一撃くらい入れてやればいい。
 悪戯好きはお互い様。夕立と雷花の共通点だ。
 夕立は迷いなく踏み出した。木の上から、枝を蹴り、横手の幹に反射、地に付くなり疾駆。今度の構えは真っ当な剣術の構え。しかし狙い所は邪道。正しく構え、駆け、――背への刺突で心臓を狙う。
 気付いたとて振り返れまい。振り返れば前にいる灰二を疎かとすることとなる。空いた一刀をノールックで背に振るのが精一杯だろう。――実際その予測はその通りだったし、それでは夕立を捉えられぬ。

 夕立が刃を潜り抜けた。
         灰二が童子の目の前に迫る。
 雷花が鬼の心臓を貫き通す。
         鬼が血を吐きながらも透明な刃を前に出す。
 夕立が刃を捻り心臓を破壊した。
         灰二が、走る速度と膂力を刃に乗せる。
 夕立が刃を引き抜く。
 これぐらいでは死なないでしょう。それに、首級を取るべきヤツがいる。

「そうでしょう」――【神業・絶刀】。
「お前が獲れ」――【刃我・刀絶】。

「「斬丸」」

 絶刀の声が、斬魔の極みを呼ばわった。
 灰二が振るった無双の一撃が、刃熊童子の透明な刃を、火花一つなく断ち切った。
 まさに銘が如し。斬るために生まれた、無上の刃金。鋭刃『斬丸』。
 最早止めるものなし。灰二の斬撃はそのまま鬼の首をまるで紙を裂くように断ち、螺旋に血を飛沫かせながら撥ね飛ばした。頸だけとなれば恨み言も言えぬ。四肢より力を失った鬼の身体が頽れて――
 どう、と血煙爆ぜる。
 ぴしゅ、と音を立て。絶刀が、背中合わせに血振りを一つ――。



●八刃猟兵十番勝負 九番目
 剣を振るうその前に、杜鬼・クロウは背中を一度振り返る。
 その先にいるのは、十代永海、永海・鋭春。身体から血を流し、しかし震えも怖じ気もなし。鋭春の目にあるのは、この戦いがどう転ぼうが、最後まで見届ける覚悟のみ。
 鋭春が頷く。クロウも、また頷いた。――後は、この戦いで示すのみ。鋭春が鍛えた刃、玄夜叉・伍輝の力を。己が覚悟を、闘志を。言葉ではなく、背中で語ればよい。
 向き直る。横には飄々と艶華を構えるロカジ・ミナイと、傷だらけになりながら尚退く気を見せぬ鷲生・嵯泉。そして、
「ちょっと遅れちゃったね。――まだ私の席、残ってる?」
 鍛冶場回りの木立の枝を蹴り、宙で身を返してひらりと降り立ったのはセフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)。ロカジがへらりと笑う。
「勿論。あんなの相手じゃ何人いたって、いすぎるってこたないだろうさ」
「そ。ならよかった! ……よくもないか。すっごい強そうだもんね。他のところは大丈夫かな?」
『他は信じておきなさい。アレを前に雑念は死よ』
 虚空より声が一つ。セフィリカが腰に帯びた剣の宝珠が明滅するように光る。魔剣『シェルファ』だ。セフィリカを主と定め、その権能を振るう意志持つ魔剣である。
「そういうことだ。他の鬼は、他の猟兵に任せるがいい。――足りぬと言うなら、我らがまず此奴を斬って補うまでのこと」
 嵯泉がシェルファの言を継ぎ、衝天凍牙『晶龍』を構え直す。
 四者、全員が意気軒昂。
「――ならおっ始めようぜ。俺たちが戦うんだ――絶対に誰も、死なせねェッ!!」
 口火を切るのはクロウだ。
 地面をどうと蹴り、地を爆ぜさせ土を散らしながら前に出る。
 突出するクロウの動きにまず付き従ったのはセフィリカ。ロカジと嵯泉は後方を固めるようにして、一足譲って後ろを駆ける。
「飛ぶ斬撃にとんでもない速さの連続攻撃、こっちの動きを予知したような回避動作――随分芸が多いみたいだ。油断しないようにね」
 道すがらに盗み見た敵の技を纏めてロカジが一口で説明するのを聞いて、せせら笑うように刃熊童子が肩を竦める。
「手前ェ、俺様の八刀流を見てきたように言うじゃアねえか。――だが見るのと受けるのとじゃア大違いだぜ、蘊蓄だけで避けられるんなら、八刀流の名がここまで残ることもなかったろうよ!!」
 吼えながら刃熊童子が身体を捲くように刃を振り被ったところに、
「五月蠅ェんだよ!! 人を斬るための外道の技に、俺たちの刃が負けるかッ!!」
 ご、ばウッ!! ロケット噴射炎めいて、クロウの足下で炎が爆ぜる! 鬼さえ目を瞠る速度、超高速での突出前進!
 五行相生『玄夜叉・伍輝』は、『崩し烈光含』を施された鋭春の快作。通常の烈光鉄の如く光の刃を放つことは出来ぬが――火・水・木・金・土、五行の属性を等しくその剣の内に宿しており、担い手たるクロウの扱いによりその全てを等しく発揮出来る万能の刃だ!
 クロウは火の属性を全開にし、己の足裏より噴出、推力に変えて襲いかかったのだ。伍輝の刃が朱く燃える!!
「オラァアァッ!!」
 全力の一撃!! 刃熊童子の受け太刀が軋むほどの威力! 激突と同時に巻き起こる爆炎が刃熊童子の身体を遙か後方に弾き飛ばす! 鍛冶場と鋭春より敵を遠ざけ、被害を極小に抑えるためだ。
 吹っ飛んだ刃熊童子、しかし攻撃は全て刀で受けている。未だ産毛が焼けた程度!
「ハッ! 派手にやってくれるぜ。威力はたいしたもんだが、デケえ剣を振り回してるぶん動きが鈍いなァッ!!」
 刃熊童子は空中で身を返し、手近な木に着地するなり蹴飛ばして、クロウ目掛けて跳んだ。直後、刃熊童子の足下で衝撃波が爆ぜ、空中でその向きが変わる!
 追撃をかけるクロウが目を瞠る!
「!」
    うろはぜ
「鬼術、 虚爆 。手前ェに見せるにゃ勿体ねぇが、今夜は特別だ。目ェカッ開いて良く見やがれ!!!」
 空中を蹴り軌道を変えながら、まるで三次元ピンボールめいて機動し幻惑、どこから来るか予測も付かない状態からの空絶閃、連撃、連撃、連撃、連撃ッ!!!
         おにちさめ
「こいつが八刀流『鬼 千 雨』よォッ!! くたばれやアァアアァッ!!!」
 まさに八方より降り注ぐ千雨の如き斬撃の驟雨!! 玄夜叉を取り回して受けるクロウの身体から血が噴き出、重い斬撃を受けるたび骨が軋み、熱い斬撃が身を灼き、凍える斬撃がその血まで凍てつかせていく!!
「ぐッ……!!!」
 しかし流石のクロウ、傷つきながら、この窮地にあって尚、成長する。属性を帯びた斬撃よりも、視えぬ一撃が急所を狙っていることにいち早く気付き、水の気を引き出した玄夜叉によって流れるような受け太刀! ――水は如何様にも、器に応じて形を変える。その事実を思い出させるが如き流水の防御、すんでの所で致命傷を避ける!!
 荒い息を付きながらも命を繋ぎ、クロウが吼える!
「視えずとも在るンだろ。――テメェらの剣術もさるコトながら、其の野望は俺が打ち砕くッ!!」
「雑魚が、ボロボロの格好でよく吼えやがる!! 足掻くなよ、ブッ殺してやっからよォ!!!」
「させるかッ!」
 バンッ、と地の爆ぜる音。同時に宙を小柄な影が舞い、鬼千雨を降らす刃熊童子を側撃した。追いついたセフィリカである。クロウの突出に合わせて速度を上げて付いてきた少女が、腰の鞘――蒼魔鍛成『隠神』より引き抜いた魔剣、シェルファを構えて横合いから吶喊したのだ。
 斬り掛かる。セフィリカの剣才は類い稀なるものだ。加えて、魔剣たるシェルファと同調することでその力を引き出し、切れ味の上昇は言うに及ばず、反応速度強化、身体性能強化まで同時に行っている。
 セフィリカが打ち合う間にクロウが飛び退き、スイッチ。それを視界の端に捉えながらセフィリカは剣速を上げる。出し惜しみはない、全速だ!!
 シェルファと鬼刃の打ち合う火花が散った。その数、一瞬にして十五合余り。疾い。疾すぎる。目を見開いたのはセフィリカだ。全力、全速での打ち込み。ここまで駆けることで乗せた速力のその全てを使って打ち込んだのに、しかして互角。速力を失えば後は劣勢を強いられる。
「軽ィなあ、女!! そんな剣じゃあ俺様は止められねえぞ!!」
 ぎらりと鬼の目が燦めく。現象収束の魔眼『鬼天』! 攻撃を予測・予知して回避することを基本の能力としたその魔眼の前に、スピード勝負は分が悪い。敵にあるのがその目だけならばともかく、刃熊童子には類い稀なる剣の技術がある!
「くっ――!」
 打ち合いながらセフィリカは敵の剣先に集中する。一瞬で送り込まれる致命の斬撃から身を捌き、剣で打ち返し、斬り返す。敵が三合くれる間に、セフィリカが一合打ち返せればよい方、という攻撃の割合だ。疾い。疾すぎる。しかも一合一合が必殺の威力を持っている。膂力自体の強さ、力の乗せ方が根本的に違うのだ。回避に専念してさえ、逸らしきれぬ斬撃の余波、空絶閃の端がセフィリカの身を斬る。血が溢れる。
「ぐっ、う……!」
 なんとか致命傷からは身を守れるが、攻めが届かぬ。一対一での勝負は難しい!
 セフィリカは自分の手札を確認する。剣と並ぶもう一つの得手、ゴーレムを召喚したところで、この圧倒的な速力と技を持つ鬼の前に通用するとは到底思えぬ。それにゴーレムが扱う魔術・武技の数々が、里に壊滅的なダメージを与える可能性もある。ならば使えない。
 剣は今試したとおり、ただ振るうだけの剣技ではあの鬼を留めること罷り成らぬ。このままでは削られて負けるだけだ。こうしている間にも、
 ――貫き通すならば、加速と威力を両立した一撃が要る。
 セフィリカはそう結論づけるなり、マントを翻してフォースビットを一〇個余りバラ撒いた。フォースビットとは敵意持つ対象に魔術属性弾を叩き込む自律機動型の魔導銃である。すぐさま弾幕が生じ、束の間刃熊童子を足止めする!
「小細工がよォッ!!」
 最初の二秒で七つ落とされた。フォースビットとて鋭角的に方向転換し、回避機動を取りながら射撃しているのに、である! 何たる技か!
 しかし恐るべき鬼の技をよそに、セフィリカは剣を鞘に収める。
(シェル姉、――ちょっとだけ手伝って)
(……何をする気、セリカ?!)
 セフィリカは笑う。
「賭けだよ」
 想定外の用途。隠神は魔力を周囲から吸い増幅し、それをシェルファに供給することで自己再生を促し、性能を維持することを主目的として鍛えられた剣鞘だ。だがこの鞘は、魔力を吸い最適な形でシェルファに供給することを可能としているとも取れる。
 ――ならば、セフィリカ自身の魔力を伝え、増幅して、最大効率でシェルファに叩き込むことも可能ではないのか?
 思考を呼んだように、シェルファがセフィリカの手の内で光る。
(正気? 普段の私とセリカは互いに魔力を循環させているだけ。それを一点に集めれば確かに強くはなるけれど――保つの?)
 腕が。手が。ひいては身体が、そして魔術回路が。案ずるようなシェルファの思念を、しかしセフィリカは笑った。
(だから、賭けなの。――ま、信じてよ。私の成長!)
 セフィリカとシェルファの思念の応酬はまさに光の速度! しかし声を交わし終わったときには既にフォースビットは全機撃墜、踏み込み鬼が追い縋る!
 口元引き結びセフィリカが剣を握った瞬間、
「乗ったよ。賭けに乗るのは男児の嗜み、美人が切り出しゃ尚更だ」
 剽げた声が風に乗って、バチバチ火花の刃がぬうと、鬼を遮るように顔を出す。
「!!」
 鬼が目を見開き受け太刀の構え。刃と刃がぶつかり合い、蒼白い火花を散らす!! 剣がぶつかって生まれる火花ではない、それは――刃そのものが発する雷電だ!!
 長く触れればオブリビオンとて痺れる高圧の電流である。鍔迫り合いを嫌って鬼が一歩退く。
 その紫電の名は『誘雷血』。蒼玉の片目を閉じて追い斬り込んだのは薬屋、ロカジ・ミナイである!!
「邪魔立てするかよ、伊達男ォ!!」
「そりゃ当然。でなきゃ最初からここに来ちゃいない」
 ヒョウッ、と音がして窈窕たる抜き身――屠霊含『艶華』の剣先翻る!!
「――さぁ艶華。もうひとつ踊ろうじゃないか」
 刃熊童子とて全開の全力、降り注ぐ七色の斬撃を受け流し弾き、避けきれぬものは敢えて浅手となるように受けて、血を散らしながらも紫電を纏わせた刃を引く。
 ロカジが振るう斬撃は、まるで夜を裂く光剣だ。屠霊含を施された刃にロカジの血が染みて、艶華はまさに棘捲いて咲き誇る雷の薔薇の様相を呈する。打ち返す、打ち返す打ち返す打ち返す!!! 打つたび刃の雷電光り、鬼の手に痺れを積み重ねる。逸れた刃がロカジの身を裂くたび、流れる血は刃に伝って雷電強まる!!
「くっそッ、がッ!!」
「熱くなりなさんな。キレた悪役から順に死ぬって定番だろ」
 傷だらけになってもロカジは飄々とした物腰を崩さず、大振りになった鬼の刃をまるで飛葉の如く潜り抜けて刃を閃かせた。
 ――誘雷血、一閃!! 鬼の胸から胴にかけて真面に入った一閃が、ざっくりと身を裂いて、傷口に這う雷が血を沸き立たせ灼く!! 飛び散る飛沫が宙で紫電に沸き、紫電の色似美しく弾け散る!
「ぎいぃィィッ!!?」
「熱いか。ならば冷やしてやる。――剔遂凄氷、極下へ至れ」
 キンッ、と音を立てて周囲の空気が冷える! ロカジが鬼と打ち合ったということは、併走していた嵯泉も前線に至っているのは道理。
 嵯泉は身体に刻まれた傷の痛みすら、強靱な精神力で踏み越える! 八相構えから渾身を込めて振り被った刃――『晶龍』を、まさに稲妻めいて振り下ろせば、斬撃の軌跡がそのまま氷の断頭刃めいて凝結し唸り飛んだ。鬼は交差した刃で受けるも、嵯泉の全力を乗せたユーベルコード『剔遂凄氷』の勢いをそれだけで削げはしない。受けた刃が凍り付き砕かれ、正面から真面に鬼の身体に氷刃食い込む!! 奇しくも、ロカジが刻んだ傷と合わせ、Xの字を描くような氷刃傷!!
「ッッッ、て、めえええェェェエエッ!! 俺様の、俺様の刀狩をこうまでして、邪魔ア、しやがってぇええぇ……!!」
「お前の目的なぞどうでもいい。だが人の世に災い為すものを見逃す道理は私には無い。疾く潰えろ、残骸」
 身に食い込んだ氷刃を柄尻で叩き砕き、吼える鬼の声に、しかし嵯泉が動じることなし。新たな刃を抜刀する鬼目掛け踏み込む嵯泉! その横に合わせるようにロカジが踏み込む!!
 刹那、目配せ。ジグザグに駆ける不規則な軌道より、ロカジと嵯泉が全く同時に踏み込んだ。交錯軌道、敵の眼前二メートルで交差して、ロカジが右から、嵯泉が左から頸狙いの一閃を繰り出す!!
 それぞれの力並々ならぬ! ほぼ同時に繰り出した頸討ち狙いの斬撃が、真っ向鬼の首に迫る!
 両手、払うように振った刃熊童子の刃が間一髪受けるも、余りの威力に刃に亀裂!! 瞬刻、飛び退く! 砕ける両手の二刀を捨て、鬼は己が肉体を操作し、肩上に盛り上がるように腕を二本生やす。出来損ないの阿修羅が如く、手に四刀を握る!
「手前ェら――生きて朝日を拝めると思うなよォッ!!!」
「いいや。朝日を見られねぇのは、」

 傷だらけの身体を突き動かす思いがある。
 この鬼を、許しておけぬ。ここで斬ると定めて前に出る。
 今こそ、玄夜叉・伍輝の力を振り絞るとき。新たな力を借りて、敵を断つ!!

「テメェの方だァッ!!!!!」
 クロウだ。ユーベルコードの発露。――『射干玉の思慕』!!
 ボロボロの自身の傷を黒き霊気にて癒やしつつ、やいばを走らせる。――疾い。クロウが無傷、全盛にて放ったあの炎の斬撃よりも、なお速い!! それもその筈、このユーベルコードは仲間が負った傷が深ければ深いほど、その威力を増すユーベルコードだ。
 嵯泉が、ロカジが、セフィリカが、そしてクロウ自身が負ったその傷の総量が、そのままクロウの力となる!!
 撃剣疾る!! 鬼が最早声すらなく、己の必殺の技、鬼千雨を放つ。しかしクロウは最早死角に頼ることなく、迫る敵の攻撃の全てを斬り断った。剣との対話。最適な軌道を、玄夜叉が教えてくれる。クロウはひたすらに駆ける。教えられたその軌道をなぞり、なお速く――あの鬼を屠らんが為に!!!
 鬼の斬撃を全て斬り止めて、尚止まらぬ。身体を廻しながらクロウは全霊にて斬撃を放った。四方から迫る剣閃が鬼に防御を強いる。疾い。凄まじき剣だ。重いならば遅いと刃熊童子が断じた、その結論が間違っていたと、万人が思うほどの剣速。
 ――いまだ未熟。発展途上。しかして、
「砕けて死ねッ!! これが、永海の力だッ――!!!!!」
 ――これぞ、まさに阿修羅の剣。
 打ち掛かる撃剣を這々の体で受け切る鬼へ、隙を縫いクロウが剣を、玄夜叉・伍輝を突き出した。その尖端から炎の渦が捲き、炎の槍めいて螺旋の波動を放つ!!
「っが、ああぁぁぁぁあ……!!!!」
 四刀集中させての防御!! しかしそれさえも砕き徹し、クロウの剣波が鬼の心臓を穿つ!!


 刹那。きん、と全てが噛み合う音が響いた。
「――行きな。全額、君に賭けた」


 ロカジ・ミナイが笑った瞬間、少女は笑って頷いた。
 轟音。踏み込みで地面が陥没し、クレーターを描く。
 自身が持てる九割方の魔力を鞘に押し込み、残り一割を残らず脚力の強化に突っ込んで疾る。セフィリカが、赤の瞳を煌めかせ、真っ直ぐ前へと踏み込んだ。
 鞘が、或いは自身の腕が、身体が砕けても無理はない。だというのに、セフィリカはそれを実行した。自身のほとんどの魔力を鞘を介して剣に突っ込み、――鞘内で爆ぜるその威力を用いて斬撃を加速し、敵を断つという荒唐無稽な荒業を。
 ――しかし彼女がここまで詰んだ研鑽が。
 永海・鋭春が生んだ、魔剣を覆う唯一無二の鞘、『隠神』が、それを可能とする。


   一
   式
   改
 月
 詠
 ノ
 祓
 ・
 隠
 神


 抜剣、
「ってめえぇえら、如きがあああぁぁぁぁぁあぁっぁぁああああっ!!!!」
 断末魔の叫びを置き去りに、蒼剣が頸を薙ぐ。
 否。今この瞬間、セフィリカが抜いた刃は視えもしなかった。
       み
 ある筈の刃が隠えぬ程の神速の一閃。まさに、隠神の名を体現する技の極致!!
 斬圧の余りに頸が天高くに飛んで、花火が如くに爆発四散した。
 地に脚で杭を打ち制動。震える手を圧してセフィリカが、刃を収める。
 金属と金属の噛み合う、きん、という冴えた音。

 今これにて。
 鍛冶場を襲う悪鬼との争い、その幕が下りたのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真守・有栖




初撃。雲斬
渾身の一刀にて、太刀合わせ

後先要らず
今生 この限り、と
涯てを定め 太刀振る舞う

里長さんに笑顔を返し 
薙神を背に 悪鬼と対峙

言葉は不要
示すは刃にて

真守・有栖。参る

弐撃。参撃。餓狼と狂鬼が刃命鳴らす

肆撃。伍撃。鉄火舞いて、血華散らす

陸撃。漆撃。輝刃が匂い立つ

雲を断つが己に非ず
この銘を遂げろと
刃紋が煌めく

“捌”きて、納刀

嗚呼 ならば
今 此処で
宿願果たす、会心の一刀を

雲を斬り 星に届け
鬼を伐り 魔を穿て
 
狼よ
滾り狂え
猛り吼えよ
光となりて 月を喰らえ

込めるは決意
宿すは本能

意念(ねがい)で断つが光刃なれば

往くぞ

此れが 我らの 返しの刃

終刃、抜狼


“月喰”


剣閃止みて
行方知れず 
跡に残るは刃のみ


クロト・ラトキエ
◎ ①
鋼糸を軒へ
振り子の如く空中より広間に躍り込み
里人達を背に敵との間へ

鍛座殿
薙神を抜くは尚早かと
永海の柱を目するなど、彼奴には分不相応が過ぎます故


透明でも斬撃なら…予兆は視れる
視線、体幹、身の捻り、踏込に屈み、八刃操る手…
凡ゆるを見切り、躱し
但し万一人々へ害為すなら、刀を以て鍔迫り往なし
間合い有りてこそ本領を発揮するとみれば
此方も地を蹴り詰め
奴を庭へ下がらせたく

一刀三礼の敬虔さも知らぬ賊に
永海の心と術、触れる事能わず

片足を引く
身は深く…
只の片手平突きなれど
持てる自身の最速
――今
刀に生きる御三方と共にあればこそ、賭せる全力の一撃
鬼ならば、

魔刃『穿鬼』に穿てぬ道理無し

王父殿の志
絶やさせやせんとも


信楽・黒鴉
戦場①
全部守らなきゃいけませんが、光り物と鍛座殿を優先させてもらいます。薙神、特に気になりますし。さ、皆さんどうかお下がりを。
強欲さにはシンパシーも覚えますが、キャラが被ると僕の印象が薄くなっちゃいますからね。

超高速剣の術理を【盗み】取って【見切り】、風刎にて【武器受け】或いは【カウンター】で出掛かりを潰し対処、連撃の隙を誘い、鍛座殿の終刃を拝借(盗み)して『我流再現・転』。猛攻の流れを操作、無数の斬撃で【切断】した後、鍛座殿に刀を返却。

造り手も技も消えてしまえば、確かに価値は増すだろうけど。
そういうのって、コレクター的には邪道なんですよね。

要するにさっさと死ねって事だよ、すっとこどっこい。


花盛・乙女
◎邸宅
子供らと約束したのだ。暁を届けると。

UC『火喰鳥』を用いて一秒でも早く到着を目指す。
【嶽搔】と【乙女】を構え、名乗る。
願わくば剣士として誇りのある輩であって欲しいものだ。
羅刹女、花盛乙女。いざ尋常に。

嶽搔を振るい屋敷から刃熊は叩き出す。
見えぬ剣に気を張り、二刀で剣戟を捌きつつも全身の筋肉を「怪力」で固め「第六感」「気合」「激痛耐性」で受けよう。首さえ落ちねば、それでいい。
一度でも刀が私の身に触れたなら「怪力」で締め付けて抜かせはしない。
「グラップル」にて組み伏せて一斬二打の『雀蜂』を顔面に放つ。

鬼の拳骨、その痛みを骸の海に持っていけ。
泣く子があれば、もう大丈夫だと言って安心させてやろう。



●八刃猟兵十番勝負 十番目

 鬼伏八卦陣、直下。
 永海・鍛座の屋敷。

 その大広間、震え怯え竦む三〇名の里人を背に、一人の老人が立っている。そして彼らを害するべく、相対するは一匹の鬼。八刃の刃熊童子。
「なァ、爺さん、簡単なこった。そいつを渡せよ。さっさと渡せば、殺すのは手前ェだけにしてやってもいい。悪い条件じゃねェだろう?」
 鬼があやすような声で言うのを、険しい顔をした老人が撥ね除ける。
「――貴様の力を以てすれば、もとより儂から刀を奪う程度、造作もなかろう。儂の心根を折って楽しもうというのが透けて見える。――奪わば奪え。今まで貴様がそうしてきたようにな。だが、唯で奪えると思うでないぞ」
 すう、と腰を落とす。永海・鍛座は、七代永海、永海・鐵剣より直接の薫陶を受けた最後の総代だ。鐵剣の教えを受けたものは、現場で直接あやかしを殺し、素材を剥ぎ取ることを流儀とする。故に、彼はあやかし殺しの刀術を識っている。鯉口を巻く手、刀を握る手、抜刀の予備姿勢は堂に入ったもの。
「貴様が遊びで奪わんとするこれは、我らの柱。終刃『薙神』。永海の歴史そのもの。貴様の腐れた手に取らせるには、些か過ぎた代物よ」
 神秘に包まれし烈光鉄の刃は、今は老いさばらえた老人の手の内にあった。ひゅうう、と風の吹くような音がする。呼吸音。鍛座が息を吸うその音色だ。
「おい、おいおいおいおい、冗談だろ? まさか手前ェ、その細っこい腕で、古臭ぇ刀で、俺様を斬ろうってのかよ?」
 びき、びき、と青筋を立て、鬼が嗤う。
 怒りと嘲弄の嗤いが同居し、刃熊童子は酷く攻撃的な表情をした。鍛座でさえ息を呑む。無力な里人らが震え上がり、そのうち幾許かが失神するほどの鬼気!!
「どうやら腐れてんのは手前ェの脳味噌の方らしいなア、莫迦は死ななきゃ治らねェってのは本当らしい!! いや、死んでも治らねェかもな!! いつか地獄で会えたらよお、教えてくれよ!! 死んだらその腐った脳味噌がましになったかどうかをよォ!!!」
 き、キンッ、
 音が鳴るなり、抜く所作さえ見せずに鬼の手の内に剣が現れた。常人には抜刀の動作が見えぬ。
 それも当然。オブリビオンの戦闘能力は、人間を遙かに凌駕する。そこには絶対に埋められぬ、抗えぬ差がある。

 いかに構えたところで。
 鍛座が、鬼に敵う道理無し。

 鬼が畳を撓ませ踏み込んだ。鍛座、全く反応できぬ。
 透明な刃が老人を一刀のもとに斬り伏せんとする、まさにその時!!
 ――ッキン!! 鍔鳴りの音が広間を貫く!
「!!」
 鬼が第六感めいて飛び退る。光刃が、刹那の前まで鬼がいた空間を薙いだ。『光閃』、その極致。刹那に満たぬ一瞬のみ顕れ、軌道上の全てを断裂する虚空の刃。『雲斬』!! 広間奥、断たれた襖がずれて倒れる!!
「来やがったか、過去殺しどもが!!」
 舌打ち混じりに鬼が斬撃の出元を振り向けば、そこには狼が立っていた。
 距離二二間。既にその手には月下戦吼『月喰・狼』を抜刀している。
 細った月を背に、塀の上に立つは真守・有栖(月華閃光・f15177)!!
 刃熊童子が彼女に刃を向けるその前に、どばん、と音を立てて障子戸が広間の中へ向け吹き飛ぶ!! 
 悪鬼が目を瞠る間もない。障子戸を蹴り飛ばし、それを隠れ蓑にしての突入。

 ――襖の影にて閃く刃、鬼殺しの金色。
 魔刃『穿鬼』、抜刀!!

 ど、どど、どウッ!!
 障子戸が空中、合わせて四の衝撃波に射貫かれる!!
 それは七代永海筆頭八本刀が五、穿鬼の刺突に伴う衝撃波『神槍』である!! 狙うは当然悪鬼、刃熊童子!
「味な真似をッ!!」
 鬼は衝撃波を刀で斬り裂きつつ飛び下がる。奇襲によるダメージは皆無、しかし鍛座と鬼を引き離すことには成功した。
 それで充分。命を救えたことに意味がある。
 突入した黒き影はすかさず鍛座らを守るように、鬼と鍛座らの間に割り込み立ち塞がる。
「ご無事ですか、鍛座殿!!」
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)である! 軒先に鋼糸を絡め、振り子のように身体を振り、タクティカル・フォースのガラスブリーチングエントリーめいて突入したのだ。
 塀を蹴り、有栖がクロトの後を追って広間へ飛び込んでくる。二者が刃の先を並べ、手出し罷り成らぬとばかり鬼に太刀向かう!
「クロト様、真守様!! おお、……忝うございます!」
 老人の眼に泪が浮く。柱たる薙神までも手に取ったのだ、端から頼ろうと思っていたわけではないだろうが――しかし心のどこかで待ち焦がれてもいたのだろう。悪を挫く、この猟兵らの到来を!
「いいえっ! この時のために来たのだわ!」
「その通りです。――鍛座殿、薙神を抜くは尚早かと存じます。永海の柱を目するなど、彼奴には分不相応が過ぎます故」
 打てば響くように、有栖が笑いかけ、クロトが抑えた声で後退を促す。鍛座がはっとしたような表情を浮かべ、深く頭を下げて二歩、後ろに退がる。鬼は徹頭徹尾嘲るような表情で耳を小指で抉り、ふっと息を吹きかける。
「おいおいおい、黙って聞いてりゃずいぶんな言いようじゃねえか。チッ、醒めるぜ。これから愉快な全殺しの時間だってのによォ。――だがまあ、手前ェら血祭りに上げてよぉ、無様に泣き叫ぶジジイ共を眺めてやるってのも悪くねぇ趣向だな。そうすらア。爺共にお涙頂戴するぐれえの役にゃあ立ってくれるんだろうなぁ、クソ猟兵共ォ!!!」
 長広舌をぶると、鬼がぎらりと目を尖らせた。先程までの鬼気が遊びに思える、圧倒的なプレッシャーが発される。ビリビリと肌が震えるような重圧が場を支配する中、不意に横合いから女の声がした。
「本気でそれが出来ると思っているならば――目出度いことだ。やらせんよ。この羅刹女ある限り」
 広間脇の廊下より声。
 ぼう、と腕に光る羅刹紋が薄闇の廊下に浮かび上がる。柄は千々に咲き乱れる数多の花々、夜闇に咲き誇るかのようだ。ずらりとその両手に二剣を抜刀。小太刀『乙女』、剛刃『嶽掻』。
 刃熊童子が誰何するまでもなく、広間に進み入った羅刹紋の主が名乗る。
「子供らと約束したのだ。暁を届けると。――羅刹女、花盛乙女。いざ尋常に」
 花盛・乙女(羅刹女・f00399)である! 南門近くから敵を迎撃し、遙か遠くまで前進と転戦を繰り返していた彼女もまた、里の危機を察知し、文字通り息も付かずに駆け戻ったのだ。ユーベルコード『火喰鳥』。息を止める間、凄まじい速度で駆けることを可能とする秘技を使ったのだ。
 堂々たる名乗りにしかし、刃熊童子、嘲笑うように吐き捨てる。
「ッハ、洒落くせェ!! どうせ今から殺し殺されの間柄よ、名乗りなんぞに何の意味がある? どうやら手前ェは鬼のくせにヒトに味方する腑抜けらしい。ブチ殺してやるよ、念入りにな!」
 舌をべろりと出しての悪言に、乙女がすう、と怒りを目に乗せた。どうやら剣士としての誇りなど、疾うに地獄か戦場に捨ててきた様子。――手加減手心、一切無用。
「いやいや、名乗りは重要ですよ? ――立てる墓に刻む名前がわかんなくなっちゃいますからね。あんたもナントカ童子、なんて書かれたかないでしょう」
 もう一人。じわりと廊下の闇から滲み出るように、刀賊が姿を現した。
「さ、皆さんどうかお下がりを。後は僕らがどうにかします――あの強欲さにはシンパシーも覚えますが、キャラが被ると僕の印象が薄くなっちゃいますからね。さっさと退場して貰う事にしましょう」
 刃熊童子を前にして些かも緊張した様子を見せず、飄々と嘯くのは信楽・黒鴉(刀賊鴉・f14026)。先の打ち合わせの通り、鍛座の屋敷に辿り着いたはこの四名だ。
 それが切欠となった。後退を促す黒鴉の声に這いずるように、鬼の殺意に飲まれかけた里人達が動き出す。――しかし常人が、恐怖に縛られた状態での後退だ。刃熊童子の俊敏性、そして剣技の前ではその動きは蝿が止まるほどに遅い。逃げ切るまでに千殺して余りある!!
「黙って逃がすと思ってんのかア?! 頭の中が花畑らしいな、モツブチ撒けた人間共眺めて後悔しやがれよォ――ッ!!!」
 八刀流。空絶閃!!
 鬼が刃を振るえば、里人を鏖殺するべく極彩色の斬撃が飛ぶ! 魔眼・鬼天を用いて因果律をねじ曲げ、斬撃がその空間に存在する可能性を連続再現することで、擬似的に剣閃を『飛ばす』、それが空絶閃の正体だ!!
 しかし、
「――!!」
 言葉さえなく、月狼が吼えた。まさに天に届くような遠吠え。有栖が剣を振るったのだ。里人を狙う空絶閃を連続迎撃!! その剣先から伸びる意念の輝刃、『光閃』が、刃熊童子の空絶閃の連撃を束の間押し止める!!
「あァ? ンだ、少しは使う奴がいるじゃアねえか……!」
 本腰を入れて斬撃を重ねようとした刃熊童子だが、ピクリ、とその表情が動いた。畳を蹴って飛び退く。う゛ぉうっ!!! 凄まじい風切り音を立て、一瞬前まで刃熊童子がいた空間を嶽掻が薙いだ。乙女が側撃したのだ。獄卒の金棒ですら立てぬような鈍い風音が、嶽掻の凄まじい重量を物語る!!
「――どうやら貴様に誇りを期待した私が間違っていたらしい。表に出ろ、外道ッ!!」
 苛烈に吼える乙女に、
「カハハハハッ!! 誇りだあ? そんなモン、飯の足しにもなりゃしねえ! 俺様ァなあ、面白く愉快に、殺したいときに殺して生きたいだけ生きることにしか興味がねえんだよ!!」
 尚も打ち掛かる乙女の嶽掻と小太刀による斬撃をひらりひらりと舞い避け、刃熊童子は一足で畳五枚を真っ直ぐ跳び下がりながら、
「ぃぃぃぃぃやアァっ!!」
 裂帛の気合、空絶閃を無呼吸連打!! 里人達への攻撃を庇う体勢の有栖からの援護は期待出来ず、乙女の身体を無数の刃が襲う!!
「――ッ!!」
 乙女は歯を食い縛り、全身の筋肉を持ち前の怪力で固めた。短時間ではあるが、彼女の筋密度を以てすれば、硬直した筋肉は鎧となる。
 ――首さえ落ちねば動ける。それでよい!!
 壮絶なる割り切り。痛みは耐えられる。斬撃の軌道は読める。後は気合、気魄あるのみ!!乙女は透明な空絶閃の軌道のみ警戒しつつ、急所へ迫る閃のみを嶽掻で叩き落とし、――全身から血を飛沫かせながらも真ッ直ぐに刃熊童子へ突撃する!!
「ッ、牛車か何かか手前ェッ……!!!」
 流石の刃熊童子もその凄まじき捨て身の剣勢に息を呑む。応じてやる義理もない。跳び下がった刃熊童子に三足で追いつき、
「はあぁぁあっ!!」
 気合一閃、嶽掻を胴薙ぎに叩きつける!!
「ッがァアァッ?!!」
 嶽掻の恐ろしさは、その剛性と重量だ。牛車と刃熊童子が評したのはあながち間違いではない。高速移動する超質量――その運動エネルギーは、何よりも単純で、何よりも純粋な『威力』となる。
 刃熊童子は二刀で嶽掻を受け止めた。そして、『受け止めたはずなのに、吹き飛んだ』。
 鞠のようにすっ飛び、庭の石灯籠をブチ砕いて抜け、石垣に激突して土煙を濛々と上げる。その機を逃す猟兵らではない。有栖が里人達の前を守るように固める前を、乙女ら三名が疾り飛びだし追撃をかける!
 直後、ばうッ! 土煙を破り鬼が跳躍!
「ッてええぇぇえなあァアアァ!! 決めた、手前ェらはこの百万倍痛くしてブチ殺すッ!! 腑分けして目を抉って時間を掛けて神経を削いで、グチャグチャの挽肉にしてブチ殺してやるッ!!」
 再び姿を現した鬼は、本来の腕の上下に二本の腕を更に生やした六腕の姿となっていた。まさに阿修羅めいた異様! もはや加減は無しと言うことか! 六腕それぞれに抜刀し、宙から打ち下ろすように、六刀同時の空絶閃――連撃、連撃、連撃連撃連撃連撃連撃連撃連撃連撃ッ!! さながら絨毯爆撃めいて、庭に飛び出した三名を猛撃する空絶閃の嵐ッ!!
「引き受けます!」
 だん、と三者の中で先んじて前に出たのは黒鴉。刀賊を自称する彼は、敵の技を盗み、或いは刀を奪い取り我が物として戦う『奪刀術』なる特異な技能の遣い手だ。
 黒鴉は巻物『刀剣目録』より風刎を瞬時に抜刀、自信の速さを限界まで引き上げて降り注ぐ空絶閃を弾く弾く弾く弾くッ!!!
(本当なら薙神を振って使いたかったとこですが)
 里の柱たる薙神をこの鬼如きに見せる必要はない、とクロトが言い放ったのを黒鴉もまた聞いていた。――なるほど、蒐集家の立場からすればそれは堪える。遙々こんな山奥の里まで来て、目当てを見られず斬られる無念たるやいかほどのものか。この悪鬼には丁度良い冥土の土産だろう。
 鍛座の手より薙神を取って振るう予定を変える。――いずれにせよ大勢に支障なし。
 材料は幾つもある。
 事前に、薙神の刃体自体は鍛座に頼み込み、無理を言って視ていた。実際に振ったわけではなけれども、その形、柄、拵え、全てを記憶している。
 ――そしてさらに、有栖が放った、烈光鉄を使った刀による迎撃の剣閃。『光閃』。刃の先より迸る、意念尖りし光の刃。あれもまた、見た。
 加えて降り注ぐ、この敵の空絶閃、壮絶連撃!! 受けそびれ身体に刻まれる傷の鋭いこと、深いこと。どのような術理、どのような技を元に放たれたるものか、剣で受け身体で受けて『盗み取る』。
 後ろの二人にだけは攻撃を徹さぬよう受けながらのラーニング。黒鴉の書生服が血で真っ赤にじとりと濡れる。しかして、剣の鬼は――黒鴉は、薄笑みの表情を崩さずに言った。
「視えた。――お二人、僕が切欠を作ります。最大火力を叩き込んでください」
「承知!」
「了解しました!」
 乙女が、クロトが応えるのを背に聞きながら、黒鴉はひゅう、と息を吸った。
 手に握る風刎にテクスチャを貼るイメージ。技術的には、想像より作りだした刃を振るうユーベルコード――カゴツルベに近い概念。風刎に、想像の『薙神』を『着せる』。
「確かに、造り手も技も消えてしまえば物の価値は安直に上がります。なんたってもう作れない、取り戻せない、失われるだけの物になるのだから。――でも、遊び半分に刀を集めようと思ったあんたには分からないかも知れませんが、そういうのって、コレクター的には邪道なんですよね」
「あぁア?! ごちゃごちゃうるっせえな、まな板の上で肉団子にされるだけの屑肉が俺様に説教でもくれようってかァ?!」
 剣が加速する、更に空絶閃の数が増える! 嵐か、瀑布か! もはや壮麗なる鍛座の邸宅の庭はありとあらゆる物が斬り刻まれ吹き飛び惨憺たる有様、そこを尚も斬り刻む無慈悲なる鬼の閃!!
 ――だが、もう受けぬ。
 長くは維持出来ないが、隙を作る程度ならば――造作もない。
 にい、と。黒鴉は、歯列を剥き出しに、唇の端を吊り上げた。
「説教に聞こえました? いえいえ。僕が言いたいのは悪言をたった一言。――要するにさっさと死ねって事だよ、すっとこどっこい」
 敵の連続攻撃の型、速度、パターンを全て解析。そこから得られた動きの術理を己が肉体にフィードバックする。黒鴉の速度が上がる。
 空絶閃は魔眼『鬼天』がなくば放てない。
 だが、今、黒鴉の手には――
「――我流再現。『薙神』!!」
 想像より作りだした、この里最期の柱刀、薙神がある!!
 斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃ッ!!! 薙神を模倣させた風刎にて放つは、天に牢を描くが如き連続光閃!! 鬼の術理を盗み取り、永海の刃の原理と奥能を盗み取り、刀踊らせて空絶閃を斬る、斬る、刻み墜とすッ!!!
 鬼の体術を人の身で真似れば関節と筋肉に異音。加えて、仮想的にとはいえ薙神を再現すれば脳が焼けるほどの精神力を使用する。ともすれば死に近づくほど己の心身を摩耗させながら、しかし黒鴉は止まらない!
「ッ、手前ェッ、俺様の八刀流を……!!」
「自信ありげに言いますね。――もう覚えましたよ。こいつは」
 斬撃の密度にムラを作る。敵の攻撃を誘導する。敵の刃の角度を揃える。一直線上に全ての刃が並んだその時。

 渾身。
 真一文字、全力を込めて斬り上げた刃が凄まじき光閃を発し、刃熊童子の六刀を弾き上げる!!
 ――我流再現・転。変幻自在の太刀回りにて、敵の動きを操作し隙を作る。無念無想に至らずとも、刀賊の剣が確かに、放たれる空絶線の嵐を止め、鬼の隙をこじ開けるッ!!
 手にした贋作・薙神が揺らめいて、風刎の形を取り戻す。今です、と黒鴉が声を発するまでもない。地面を爆ぜさせる音を供に、乙女が跳ねた。
 高々と跳躍! 地上十二メートルの高みから一方的に猛撃していた刃熊童子の高さにまで一瞬で至る!
「女ァッ、手前ェ……!!」
「名乗ったはずだぞ。私は羅刹女――花盛乙女だッ!!!」
 大上段から振り下ろす刀の一撃!! 乙女が放った斬撃を、刃熊童子が四腕を使って剛力、重ね受け!! 鬼術『虚爆』により宙を蹴り踏み躙り、乙女の斬撃を防ぎ止める!!
 鬼の口元が狂笑に歪んだ。残った二腕が、至近距離から大鋏めいて乙女の両腹を引き裂かんと振るわれる。
 ず、ぶしゃぅッ……、肉が刀に打ち裂かれる鈍い音、噴き出る血――
「ハハハハアッ!! 手前ェが最初の――」
 獲物だ、と結ぼうとしたのか。しかし、言葉が最後まで発されることはなかった。
 刃熊童子の表情が変わる。乙女の腹に左右から食い込んだ刃が、――動かぬ!!
 筋硬直!! 持てる怪力の全力を込めて筋肉にて刃を咬み込んだのだ!!
「この悪童め。叱る者もなかったと見える。――仕置きだ。鬼の拳骨、その痛みを骸の海に持っていけぇッ!!!!」
 ――嶽掻による最初の一撃は布石。斬撃を避けぬ者には二撃がある。
 乙女は空中にて嶽掻を最大加重し、鬼に押しつけるように手放した。拳を握り固める!!
 鬼が嶽掻を打ち払う前。ゼロコンマゼロ二秒の間隙にねじ込むのは――我流実戦術『雀蜂』ッ!!! 洗練された拳ではない、だが恐ろしいほどに重く疾い!! ペースを乱された刃熊童子の顔面に、乙女の拳が突き刺さるッ!! 刹那の内に一打二打ッ!! 叩き落とされたバレーボールめいて刃熊童子の身体が地に落ちるッ!!
 ドオォオンッッ!! 凄まじい土柱を上げ地にめり込んだ刃熊童子だが、上がった土柱を肩で引き裂き飛び出す! その顔は今や半分潰れ、右目はただの虚となっていた。壮絶たる乙女の拳の威力の成せる技だ。
 残る血走った目で未だ空中の乙女を、満身創痍の黒鴉を見、鬼は迷わず黒鴉に刃を振り被り、「死ね!!」と吼える。だがその一瞬前に、インバネスコートが風をはらみ、まるで羽音を奏でるように、ばう、と翻った。
 空絶閃が振るわれるその前に、地を蹴り間合いを詰めたのはクロト! 振り降ろされた斬撃が空絶閃を描く前に穿鬼にて攻撃をインターセプト!!
「一刀三礼の敬虔さも知らぬ賊に――永海の心と術に触れる事能わず!!!」
「人斬り包丁に敬虔もクソもあるかよォーッ!!!」
 間近での無呼吸での打ち合いが始まった。比喩ではなく、呼吸を挟む暇がない。鬼の動きはは速く、一瞬でも気を抜けば死がすぐそばに迫る。七色付きの閃は見てからでも受けに動けるが、透明な斬撃はそうは行かぬ。
 ――避ける手は無いのか?
 否。ある。透明だろうと何だろうと、斬撃である以上、刀を振るという動作がある。その動作に目を凝らせ。視線、体幹、身の捻り、踏込に屈み、八刃操る六手。見切る。躱す。息が保たぬ。苦しい。だが耐える。限界を超える。僅かな、本当に僅かな隙に咬み付くように息を吸い、八刀流たる鬼の連撃を穿鬼ただ一刀にて受ける、流す、弾く!!!
「雑魚の分際でしつこく食い下がりやがるッ!! 嗚呼もういい、手前ェは一足先にブッ千切れて死ねェッ!!」
 ば、ばばば、ばばばばバンッ!!
 鬼が三次元ピンボールめいた挙動で宙を、血を跳ねた。クロトを囲うごとき軌道は、まるで檻。その速度から空絶閃を振るう、振るう、振るうッ!! これぞ、斬撃降ること千雨の如く――八刀流奥義『鬼千雨』!!
 その壮絶なる速度を前に、クロトの身体のそこかしこから血が飛び散った。もはや受けきれる限界を超えている。凄まじい速度に六本腕の手数、今打ち返した刃が空絶閃なのか実体の刃なのかすら分からぬ。内臓に刃傷が届いたか、口からびしゃりと血を吐くクロト。
 倒れそうになる。眼鏡が吹き飛ぶ。
 傷だらけの顔を、それでも上げた。
 負けが。死が。すぐそばに見えているのに――
 なのに。

 クロトの目には、諦念も絶望もない!!

 刻まれながら刃でも受けられるものだけを受けながら、ここまでの戦闘経験から五手先に敵が辿り着く予想座標を導き出す。虚空を睨む。
 一瞬でいい。最速を極める。まだ腹筋と脚、右腕は動く。
 右足を引く。身を深く捻る。
 ――これは、刀に生きる刀賊と、羅刹女と、月狼に導かれ放たれる一撃。
 クロトの現在の全力。持てる自身の最速。
「そろそろ、くたばり、やがれッ……てんだよオォォオォッ!!!」
 袈裟懸けの斬り上げから跳ねて、六刀一挙の斬り下ろしを放たんとする鬼の姿が、その瞬間だけ――まるでスローモーションのように見えた。
 クロトは鈍化した世界の中で吼えた。――この刃に込められし王父殿の志。決して、絶やさせやせぬ!!

 ――――ッッッッッッッッッパァアァァアンッ!!!

 凄まじい破裂音が世界を揺らした。腹筋と脚の撥条、腰の回転のみで放たれた最速の片手平突き。その切っ先が音の壁を食い破ったのだ。
「え」
 鬼は、自分の腹を見下ろした。土手っ腹に風穴。口から冗談のような量の血が迸る。
「――あ?」
 信じられないものを見たかのように、鬼は小さな音を立てて着地し、二歩後退った。腹の穴を、そして下腕に取った二刀を見た。へし折れていた。遅れて、折れた刀の片割れが、地面にど、ど、と突き刺さる。
 受けたはずなのに。クロトの刺突は、その上から、鬼を貫いたのだ。
 魔刃『穿鬼』。刃そのものの銘を関した最強の刺突。
 刃熊童子とて、鬼だ。
 鬼ならば、――このやいばに穿てぬ道理無し!!

 ばしゅううっ!! ばしゅ、ばしゅっ、ばしゅうっ!!

 空に異変。朱く禍々しく燃えていた鬼伏八卦陣に点った十の光点が、一つ、一つ、また一つと消えていく!! クロトは聡くも、あの光点は分体の生死を示すものなのだと悟った。でなくば、鬼があれほど呆けた顔をするものか。
 やがて刃熊童子が呆然と見上げる前で、光点は一つを残して全て消え――陣は、自身を維持できなくなったかのようにねじれ歪み――まるで受像出来なくなったテレビジョンのように、ぶつん、と消えた。
「――ッ!!!」
 その瞬間、鬼が駆けた。誰に向けてでもない。屋敷の敷地外に向けて、だ。
 ――逃げる!?
 余りに突然のこと。身体を斬り刻まれたクロトは元より、過負荷にてユーベルコードを運用した黒鴉も追撃困難。三人の中では比較的軽傷の乙女の脚でも、全力で逃げ出した鬼を捉えられるかどうか――
 三者が一瞬次の行動に迷ったその瞬間、
「私を飛ばして」
 凜と声がした。


   ねえ、里長さん。
   見ていてね。
   星に届く、あなたの刃を。

   空を眺めて、狼報を待ってて。
   きっと、届くように吼えて魅せるわ。

   少女は謳い、永海・鍛座を振り向いた。
   どうしてか、それがまるで、さよならを言うかのようで。
   得も言われぬ不安から、鍛座は手を伸ばした。
   「真守様、」
   「約束よ!」
   けれど届かぬ。まるで月下の蜃気楼。
   少女がもう、後ろを振り向くことはない。


 庭に飛び出した真守・有栖が跳ねる。
 飛ばせ、という言だけで聡くも全てを理解した乙女が、嶽掻の刃を返して振り被った。
 羽の落ちるように嶽掻の峰に有栖が着地。全身の傷から血を飛沫かせながらも、
「ッ……お、ぉぉぉッ!!!」
 渾身の力で、乙女が嶽掻を振る。
 乙女の怪力をカタパルトとして、今、まさに、最後の猟兵が月夜に跳んだ。





●八刃猟兵十番勝負 終ノ番
 負けるなどとは、考えたことも無かった。
 分体の全てが潰されるなど、想定外にも程がある。
 これからも、殺し続けて生きていくつもりだった。
 自分が奪う側の存在だと、そう信じて疑わなかった。
 何が悪かった? 何が敗因だ?
 否、今はそれを考える時間も惜しい。
 とにかく身を隠し、生き延びればいい。
 生きてさえいれば次がある。また力を蓄えて今度こそこのちんけな里を滅ぼしてやる。
 考えながら大路を走る刃熊童子は、もはや六腕を維持出来ぬまでに弱っている。潰れた目も拉げた顔もそのままだ。腕を二腕に戻す代償に腹の傷を辛うじて塞ぎ、己に出来る全力で逃げ、駆け――

 首元が粟立つような、死の直感を覚えて、左目一つを見開いた。

 刃熊童子、抜刀反転ッ!! 振り上げ受け太刀ッ!!
 錵より光を散らす一本の打刀を手に、天より襲いかかった猟兵一騎あり!!
 天雷めいた振り下ろしと刃熊童子の防御が重なり激音轟く!! 月を打ち鳴らせばこのような音が鳴ろうか! 美しくも禍々しい、刃と刃の軋る音!!
 何が起きた? 何故敵が追ってくる? どのようにして? 否、考えるのは無意味。
 目の前にある事実は、ただひとつ。
 後先無用、今生、この限りと、涯てを定めて太刀振る舞う、
 美狼の剣士が輝刃を引っ提げ、鬼殺果たさんと空より来た。
 ただそれだけ。たった、それだけだ。

「真守・有栖。参る」
「――ッ、“八刃の”刃熊童子ィッ!!!」

 名乗り声高く。しかし次の瞬間の剣戟はそれすら容易に上回る。
 天に響くほどの音を立て、刃熊童子の二刀流と、有栖の光剣が激突した。


 もはや言葉は不要。生き様、示すは、刃にて。
 刃熊童子、手負いにしてその力弱り、自慢の魔眼も片方がない。――だがこの期に、この期に及んで、その剣は最大限に冴えた。鍛えに鍛え抜かれた純粋な剣技。無駄を全て削ぎ落とした二刀による打ち込み。無数に打ち込まれる斬撃を、有栖は掻い潜る。
 刃と刃の激突は、他で聞けぬほどの激音を奏でる。両者躱せる斬撃を全て躱していながらにして、互いの致命部位を狙った斬撃同士が、まるで吸い寄せられるようにぶつかり合う。

 弐撃。参撃。餓狼と狂鬼が刃命鳴らす。
 
 肆撃。伍撃。鉄火舞いて、血華散らす。
 
 陸撃。漆撃。輝刃が光赫き、匂い立つ。

 有栖はそのぶつかり合う致命の斬撃の余波に身を裂かれ血を飛沫かせながらも、思う。
 雲斬。光閃の極致とされる一閃。だが、雲を断つので満足は出来ない。
 刃が雲まで届いても。その先の空には至らない。
 月喰が哭く。手の中で哭く。雲を断つのが己に非ず。
 この銘を遂げろと、刃紋が煌めく。

 捌撃。打ち来る力に逆らわず、『捌』きて跳び下がる。
 八間を一瞬で後退、四五〇°回転、納刀。歌うような鍔鳴り。

 ――嗚呼、ならば。
 今、此処で。宿願果たす、会心の一刀を。

「オオォオオオオォオオオオォオオアアアアアッ!!!!」
 鬼が猛々しく吼えた。恐れを、怒りを、自己保存の本能を、その全てを籠めた声で。
 襲い来る。ともすれば、この里で振るわれた中で最も速く、鋭い一刀を放つべく。
 だが関係ない。有栖が見ているのは、もはや鬼ではない。
 彼女が心の目で見据えるは、空で目を細めて笑う、あの月の欠片だけだ。
 
 雲を斬り
     星に届け
 鬼を伐り
     魔を穿て

 狼よ
 滾り狂え 猛り吼えよ
 光となりて月を喰らえ

 込めるは決意。宿すは本能。

 ねがい
 意 念で断つが光刃なれば。
 これより放つこの一閃、これこそが、我が剣の極致なり。

 コマ送りに鈍化した世界の中で、有栖は全ての意念を刃と鞘に注ぎ込んだ。
 刹那を生きて、瞬く間に散る。それが己の生き様なれば。
 放つは一撃、これが最後。魔穿鐵牙の九撃目。

「――征くぞ。
 此れが 我らの 返しの刃――」

 鬼に一歩遅れて踏み出したというのに、なのに、有栖の方が速い。
 光刃、鞘走る。その軌跡を、常世の誰が認識出来たろうか。
 鬼ですら、百戦錬磨の剣鬼ですらも、それを見ることが出来なかった。
 ――何故分かるのか?

            「――――――終刃、抜狼。“月喰”」

 瞬刻、無二の速度で放たれた抜刀斬り上げの光閃が――
 反応すら許さずに、鬼の身体を真っ二つに斬り断ったためである。
 剣先より迸った光が天の雲を抜き、光柱めいて月に届いた。
 ――ああ、なんと、美しい。
 狼が叫ぶ月下の戦吼の如く雄々しく。
 月すら飲み込み煌めく月華の閃光の如く眩い。

 天を貫く光は、里の空を見上げた全ての人間の目に入った。
 光が月に届き、月の煌めきを喰らったようだったと、後に里の民がまことしやかに語るほど、神秘的な光景だった。
 光は数秒残り――
 やがて、薄らぎ細り、すうう、と消える。
 続く剣戟はなく――月下に、静寂が戻ってくる。

 夜に冴えた、晩秋の風が吹く。
 戦の跡に、刀が一つ。
 ぽつんと、激戦の爪痕残る大路に残されたのは、月下戦吼『月喰・狼』。
 主なく、当然声もなく。
 ただ、役目を終えたように地に突き立てられたそのやいばが――

 一刀散磊刀狩の、真の終わりを告げていた。



  魔穿鐵剣 一刀散磊刀狩
     ~了~

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月05日


挿絵イラスト