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齎されし青の奔流

#UDCアース

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#UDCアース


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●それは偶然
 それはどこまでも、そう、どこまでも不運なことだった。
 その公園の茂みに、打ち捨てられたように大きな石が転がっていなければ。
 その石がかつて存在した祠の、要石と呼ばれる石でなければ。
 ある四月の寒い夜、この公園をサラリーマンの女性が通りかからなければ。
 この女性が男性経験のない女性でなければ。
 この女性の喉が荒れていて、血が滲んだ状態でなければ。
 この女性が痰を吐いた茂みが、この茂みのこの位置でなければ。
 しかし偶然は非情である。起こってしまう時にはどこまでも起こってしまうのが偶然というものだ。
 結果として女性の吐いた血の混じった痰は要石にかかった。場所がどうあれ、状況がどうあれ、要石に血が捧げられたことは確かである。汚れなき清浄な乙女の血が。
 女性が立ち去ってすぐのこと、茂みから青が煙のように溢れ出した。
 その青が闇夜の空に溶け込んだ次の瞬間、公園一体を包むように光が満ちる。
 そして。
「……あれっ!?」
 光が収まった時、公園のすべり台が繋がる砂場の上。右腕が異形と化した一人の少女が座り込んでいた。

●それは必然
「UDCアースの東京都立川市において、意図せず邪神が召喚される事件が発生する。諸君には対応を願いたい」
 イグナーツ・シュテークマン(炸裂する指弾・f00843)はグリモアベースにて開口一番、そう切り出した。
 その言葉を聞いて猟兵たちがざわつき出した。UDCアースでの邪神召喚がどれほどの意味を持つ事態か、この場にいる面々が分からないわけはない。
「きっかけは非常に些細なことだ。かつては祠の要石だった石が、偶然に市内の公園に転がっていた。その石があることに気づかず、とある女性が痰を吐いた。その女性は男性経験がなかった。また、喉が荒れており、痰には血が混じっていた……結果的に、『祠に清浄な乙女の血を捧げる』という召喚条件を、満たしてしまったというわけだ」
 そう話しながら、イグナーツはゆるゆると頭を振った。事実は小説よりも奇なりとはよく言うが、こうまで偶然が重なってしまうと、やりきれない思いになるのも当然だ。
 気を取り直した様子の彼が、鋭い眼差しを猟兵たちに向ける。
「いいか、これは緊急事態だ。女性は既に現場を立ち去っており、邪神の召喚が成されたことに気付いてもいないが、このまま邪神が世に放たれたら世界が終わりかねない……ついては、対処を願いたい、というわけだ」
 そう話すイグナーツへと、猟兵の一人が声をかけた。つまり、「対処」なのかと。「撃破」ではなく。
 その言葉に注目が集まる。邪神が召喚されたと言うならば、容赦も遠慮もなく叩き潰し、骸の海に還すのが通例のはずだ。
 しかして、頬に火傷の痕を持つ男は小さく頷いた。
「懸命な諸君なら、きっとそこに気がつくと思ったよ。召喚された邪神は大きな力をこそ宿しているが、意思の疎通が可能なタイプのようでね。加えて召喚された直後で混乱しているだろう。元の、外なる世界に穏便に戻すことが出来るに越したことはない」
 彼の発した言葉に、何割かの猟兵はざわめき、何割かの猟兵は納得したように頷いた。
 邪神といえども意思ある存在、意思疎通が出来る相手を容赦なく叩き潰してしまうよりは、穏便な手段で平和的にお帰りいただきたい。
 ある種の納得が広まっていく中で、イグナーツはぱちんと指を鳴らした。その指先に青い炎が点っては、彼の手によって握りつぶされる。
「まぁ、そうは言っても邪神は邪神だ。混乱のままに諸君らに牙を向くことも往々にしてある。話をしたいなら、何とか落ち着かせるなりしなくてはならないだろう」
 邪神、こと邪神融合体ヴィクティマ・セクスタは猛毒を生み出す邪神細胞を植え付ける攻撃、邪神そのものである右腕での攻撃、右手から放つ光線での攻撃を使ってくる。しかし、その本体である少女は混乱こそしているものの、ちゃんと話ができる存在だ。そこを踏まえて対応するといいだろう。
 と、蒼いグリモアを手の中で回転させながらイグナーツが口を開いた。
「で、ここからが本題だ。この公園の近隣には、邪神教団『青の教団』の支部組織があることが分かっている。邪神の召喚を察知して、あわよくば件の邪神を確保しようとするだろう。そうなれば、この世界に邪神が居続けてしまう。いいことではないはずだ」
 邪神教団「青の教団」は蒼き邪神を奉ずる教団だ。邪神融合体ヴィクティマ・セクスタは何とも都合の良い御本尊だろう。猟兵を殺してでも、なんなら邪神に傷をつけてでも確保しようとしてくるはずだ。
 邪神を殺したとして、彼らは襲ってくる。むしろ「ご本尊を害した憎き者共」として、殺意を顕に襲ってくることだろう。
 そこまで話したところで、イグナーツの手の中で蒼いグリモアが光を放つ。
「それでは、君達の健闘を祈る……無事に帰還してくれたまえ」


屋守保英
 こんにちは、屋守保英です。
 青にまつわるUDCが徹頭徹尾てんこ盛りです。
 召喚されてしまった邪神の少女を、まずはなんとかしてください。

●目標
 ・UDC「邪神融合体ヴィクティマ・セクスタ」の鎮圧。
 ・邪神教団「青の教団」支部の壊滅。

●舞台・戦場
(第1章)
 東京都立川市のとある公園です。
 公園にある古い祠にふとしたことで血がかかってしまった結果、邪神融合体ヴィクティマ・セクスタが召喚されてしまいました。
 召喚に関わった女性は事件に気づかず立ち去っているため、現場にはいません。
 邪神融合体ヴィクティマ・セクスタは意思の疎通は可能ですが、召喚されたばかりで錯乱しています。

(第2章)
 第1章と同様、立川市内の公園です。
 邪神融合体ヴィクティマ・セクスタを迎えに来た、「青の教団」信者との戦闘となります。
 優先的に邪神融合体ヴィクティマ・セクスタを狙ってきます。傷つけることも辞しません。
 邪神融合体ヴィクティマ・セクスタが撃破されている場合、帰還済みである場合は、神を貶めたものとして激昂して猟兵に襲いかかってきます。

(第3章)
 第1章、第2章と同様、立川市内の公園です。
 邪神融合体ヴィクティマ・セクスタを御神体として迎えに来た、「青の教団」支部のボス、青の狂信者との戦闘となります。
 優先的に邪神融合体ヴィクティマ・セクスタを狙ってきます。傷つけることも辞しません。
 邪神融合体ヴィクティマ・セクスタが撃破されている場合、帰還済みである場合は、神を貶めたものとして激昂して猟兵に襲いかかってきます。

 それでは、皆さんの力の籠もったプレイングをお待ちしています。
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第1章 ボス戦 『邪神融合体ヴィクティマ・セクスタ』

POW   :    DEXTRA TRISTITIAE
攻撃が命中した対象に【邪神オウデスの細胞片】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【邪神細胞が生み出す猛毒】による追加攻撃を与え続ける。
SPD   :    DEXTRA SCELEROSA
【邪神そのものと化した右腕】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    DEXTRA REDEMPTIONIS
【右手から放つ青色の光線】が命中した対象を燃やす。放たれた【対象の抱える「罪」の形を模した】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠リティア・イリアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●少女は錯乱する
「えっ、どこここ!? なにこれ!?」
 砂場にへたり込み、頭を抱えながら少女は喚いていた。
 その頭には獣のような耳が生え、右腕は大きく異形となっているが、それ以外は人間と大差ない姿をした少女だ。
 砂場の縁の部分には、幾本もの深い傷が刻まれている。少女の右手がつけた傷だろう。
 そこに踏み込む猟兵たち。少女の、頭上の耳がピクリと動く。
「ひっ、人!? 教えて、ここは何処!? あたしはどうなったの!?」
 そう口にしながら少女は立ち上がった。次の瞬間に砂場の砂を蹴り上げて飛び出す。
 困惑の色が濃い瞳をしたまま、少女は右腕を大きく振りかぶった。
ネリッサ・ハーディ
この状況を見る限り、彼女は邪神ではあるものの、突然の召喚に混乱を来し、また少なくとも明確な敵意は持ってはいない模様。下手に刺激しない様細心の注意が必要ですね。

まずこちらに敵意が無い事を両手を挙げてアピールしつつ、冷静になって貰うのが先です。ありきたりですが、深呼吸をして貰って落ち着いて貰います。
彼女が落ち着いたら事情を説明。ここに召喚されたのはまったくの偶然であること、これからあなたを探しに来る連中はただ単にあなたのその力を利用しようとしているだけであること、そして私があなたを元の場所に帰してあげる事をSIRD局長として約束します。

恐らく、私の魔術の知識と召喚術で何とかなる筈です。

アドリブ歓迎


灯璃・ファルシュピーゲル
原隊時から色々と邪神対応してきましたが、
本当に事実は小説より奇なりですね。

礼儀は持って、とはいえ変に媚はせずに
一礼して、局長と一緒に正面からゆっくり接触。

まず自分達の所属と目的を明確に話し、
必要であれば許可を貰って指定UCを使用し
猟兵である事を示し最低限の信用は得られるように努めます
冷静に話せそうならお願いして詳しく彼女に自身の素性を教えて貰い、
同時にこれは事故というべき事態であり、
元の場所に帰還するまで警護させてほしい旨を伝えます
(コミュ力、情報収集)

局長が具体的な帰還への話し合いに入ったら
補佐しつつ、UC:オーバーウォッチを発動し全周警戒
不意打ちに注意しつつ警護態勢につきます

※アドリブ歓迎


鬼子母神・麗子
最早邪神の召喚は必然だったのかもしれないな。だがこのまま居座らせる訳にはいかない。速やかに対処する。

まずは【闇に紛れる】で付近に潜み様子を窺うつもりだったが……そうもいかなくなったな。こちらの気配を察知される前に【不意打ち】を狙う。
【影縛り】で対象を【捕縛】。さらに【呪詛】で気力と体力を奪えば暫く大人しくなるだろう。

万が一拘束を突破された時の事を想定しつつ、少女との対話を試みよう。
といっても内容はシンプルだ。自らの意思で消え去るか、私たちの手で消し去るか……どちらか好きな方を選べ。
その右腕の凶暴性が物語るように、お前はこの世界に害をなす存在だ。それが分からぬほど幼稚ではあるまい。


厳・範
他世界にも出掛けるようになったお爺。半人半獣形態で参加。

さて、偶然とは恐ろしいものだが。今回の邪神にとっては『不幸な事故』よな…。
話せるのなら、穏便な手段を取りたいものよ。

爪が当たりそうになったらいなしつつ。落ち着くように声掛けしよう。『人ではない』姿に、親しみを持ってもらえればいいのだが。
…なるほど、見たところ左手は人の手か。なれば、器も掴めよう。飲み物でも飲むか?

ここは地球だな。貴殿は、偶発的事故で召喚された…といった感じか。貴殿にとって不運な事故だ。
帰り方はわかるか?仙術で補助はできるが。基本、わしは邪魔をせんからな。


ティオレンシア・シーディア
「確率が高いことは起こりやすい」と同時に「0でない限りは起こりうる」ってことを示すものだものねぇ、確率論って。…まあ、さすがに今回のはふざけんな案件だけど。
賽子の女神がゲラ笑ってるのが幻視できそうだわぁ…

穏便にお帰りいただくためにも、落ち着いてもらわないといけないわねぇ。まずは●圧殺で無力化しましょうか。
閃光手榴弾からの煙幕で○目潰し・音響手榴弾で聴覚を潰してイサ(停滞)・ソーン(障害)・ニイド(欠乏)の遅延のルーン三種で〇捕縛しちゃいましょ。
ソーンの別意は「冷静」。頭が冷えればこっちの話も聞いてもらいやすくなるわよねぇ。

…こういう穏当にどうにかなりそうな案件ばっかりなら楽なんだけどねぇ…


ナイツ・ディン(サポート)
「ディロ、行くぞ!」
『竜たる我が力を見るがいい!』

ナイツは「」、一人称俺、冷静でありつつ好奇心旺盛
ディロ(竜槍/紅竜)は『』、一人称我、不遜な暴れん坊
ローア(竜槍/蒼竜)も『』、一人称私、丁寧な保護者

小柄な妖精種を生かして飛びながら(空中戦)ヒットアンドアウェイ、回避(見切り、第六感、盾受け、武器受け)してから弱点(鎧無視攻撃)を竜槍で突いたり薙ぎ払ったりカウンターが基本。場合によっては弓の援護射撃も有り。

UCは適宜使っていくぞ。
「暴れ倒してやるぞ、ディロ!」

援護よりも押せ押せ、アタッカー気質。変身系UCを使った場合は激痛耐性、火炎耐性、、氷結耐性でゴリ押すことも多い。



●兵は集う
 公園の外から中に視線を向けた厳・範(老當益壮・f32809)の蹄が、カツンとアスファルトの地面を叩く。
「偶然とは恐ろしいものだが。今回の邪神にとっては『不幸な事故』よな……」
 彼の横で飛行するナイツ・ディン(竜呼びの針・f00509)も、頭をかきながらため息交じりに言葉を吐いた。
「偶然にしても、ここまでの偶然が重なることってそうそう無いだろ……誰かがわざと要石をそこに置いた、って言われた方がまだ納得するぜ、俺」
「同感だ。ここまで来ると、最早邪神の召喚は必然だったのかもしれないな」
 鬼子母神・麗子(朧影・f32953)もナイツに同意しながら頭を振る。猟兵として仕事に当たるのはこれが初めての麗子だが、エージェントとして場数は踏んでいる。焦りはない。
 そんな新人を頼もしく思いながら、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は細い目をさらに細めながら深くため息をついた。
「『確率が高いことは起こりやすい』、と同時に『0でない限りは起こりうる』ってことを示すものだものねぇ、確率論って……まあ、さすがに今回のはふざけんな案件だけど」
 こんな低確率、ダイスを十個ほどばらまいてすべての目で1が出るようなものだ。ダイスの神様がいるのだとしたら、神様が高笑いする様が目に浮かぶ。
 旅団「特務情報調査局」のネリッサ・ハーディ(クローク・アンド・ダガー・f03206)と灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)も、その偶然という名の悪戯にはほとほと頭が痛い様子だ。
「原隊時から色々と邪神対応してきましたが、本当に事実は小説より奇なりですね、局長」
「全くですね」
 灯璃の言葉にネリッサも頷いた。フィクションの方がまだ現実的な展開をしてくれるだろう、きっと。
「この状況を見る限り、彼女は邪神ではあるものの、突然の召喚に混乱を来し、また少なくとも明確な敵意は持ってはいない模様。下手に刺激しない様細心の注意が必要ですね」
「はい、局長。敬意を払いつつ媚びない程度に……ですね」
 気持ちを切り替えて声を発するネリッサに、灯璃も頷いた。まずは穏便に、刺激しないように接する。それが二人の作戦だった。
 だが、応じない可能性もある。残りの四人はしっかり戦闘準備を整え、すぐにでもユーベルコードを発動できるようにしていた。
「このまま居座らせる訳にはいかないからな。速やかに対処する」
 麗子が足元の影を前足で踏むと、それがゆっくりと蠢き始めた。臨戦態勢の彼女に、範はちらと視線を向けつつ言う。
「とはいえ、な。話せるのなら、穏便な手段を取りたいものよ」
「そうだな。ディロ、相手が暴れるからって、叩き潰したりするなよ!」
『分かっておるわ、我を誰だと思っておる!』
 ナイツも相棒の紅竜・ディロに声をかける。自信満々にディロが答えるのとほぼ同時に、ネリッサと灯璃の二人が公園内に踏み込んだ。

●邪神は嘆く
 二人が公園内に立ち入り、地面を踏んだ瞬間だ。邪神の少女がすぐに反応を見せた。へたり込んでいたのがすぐに立ち上がる。
「ひっ、人っ!? 待って、来ないで!」
「落ち着いてください、こちらに敵意はありません」
 こちらを見つめながら右腕を構える少女。拒絶の姿勢を見せながらも、その右腕は敵意をこれでもかとばらまいていた。両手を掲げるネリッサの言葉にも応じようとしない。
 ネリッサに付き従うようにしながら、灯璃も一歩前に踏みでた。当然、両手は空っぽだ。
「私たちは特務情報調査局のエージェントです。落ち着いて、深呼吸を――」
「ダメ、ダメなの! この腕が――」
 だが、全てを言い終わるより早く少女が飛び出す。それはまるで、少女の意思とは反するように身体が動いているかのようだ。
 とっさにナイツが二人の前に飛び出した。ディロに鋭く声を飛ばす。
「ディロ、行くぞ!」
『竜たる我が力を見るがいい!』
 声に応じ、ディロが巨竜へと変身した。少女の前に立ちふさがり、その右腕の攻撃を受け止める。
「ドラゴン……!? イヤ、どうなってるの!?」
『逃げるな小娘! こちらに来い、我が相手をしてやろう!』
 突然のファンタジーな生き物の登場に少女はますます混乱する。ディロが挑発すると、そのまま少女の右腕はディロの身体を殴りつけ始めた。
 その様子を見ながら、ネリッサが小さく息を吐く。
「ふむ……理性でどうにか出来るものでもないようですね、深呼吸程度では止まりませんか」
「というより、彼女自身の意志があの腕には働いていないように見えます。多分、脳にも」
 灯璃も少女の行動を見やりながら、自らの所感を述べた。確かに少女の言動は、猟兵たちを遠ざけようとしたものだ。戦闘の意思は「彼女自身」にはない。敵意を見せているのは邪神の方だ。
 範が一歩前に進み出ながら言う。
「物理的に動きを止めて、邪神の方を観念させるしかなかろうな。幸い、攻撃はナイツの紅竜が受け止めてくれている」
 そう、少女の意識は完全にディロへと向いていた。不意を打って行動を封じるなら今がチャンスだ。麗子とティオレンシアが左右に散開してユーベルコードを発動する。
「この隙に動きを封じにかかりましょう。影よ、封じろ!」
「そうねぇ、これなら動きも止めやすいわぁ。それじゃ、行くわよぉ?」
 麗子が自身の影から触手を放つのと同時に、ティオレンシアが手榴弾を二つ投じた。少女の足元の地面に着地するや、強烈な閃光と爆音が炸裂する。
「うわ……!?」
『ぬう……!』
 公園が光りに包まれる中で、ティオレンシアはルーンを刻んだ。イサ、ソーン、ニイド。遅延のルーンと呼ばれるこの三文字を放って、麗子の触手と一緒に少女を捕縛しにかかる。
 果たして、光が収まる頃には、ルーン文字の浮かんだ触手でぐるぐる巻きにされた少女が、元の大きさに戻ったディロの前に転がされていた。
「はい、いっちょあがりぃ。ディロさんもナイツさんもお疲れ様よぉ。どう、落ち着いたかしらぁ?」
「ふぅ……無事に抑え込めたようで、よかった」
 ティオレンシアと麗子がほっと胸をなでおろしたところで、猟兵六人が少女を取り囲んだ。さらに灯璃のユーベルコードで呼び出した影の狼に、猟兵の回りを囲ませる。
「あなた、たちは……」
 逃げ場がないことを悟りつつも、少女の疑問は拭えない様子。改めて、最初に灯璃が口を開いた。
「改めて名乗らせていただきますね。私と彼女は特務情報調査局のエージェント……あとの四人は、そうですね、外部協力者、とでも言えばいいでしょうか?」
「私たちは皆、『猟兵』と呼ばれる存在……特務情報調査局は、その一部の組織みたいなものですよ。ここまで、話の概要は掴めましたか?」
 ネリッサも言葉の後を継ぐ。猟兵、その名前を聞いた時に少女のオッドアイは大きく見開かれた。
「猟兵……聞いたこと無いのに、知ってるの。敵だって……殺すべき存在だって、頭の中で言ってるの。でも、さっきお姉さんは」
 そう言いながら少女が視線を向けるのはネリッサだ。邪神からしてみれば確かに、猟兵は殺すべき存在だろう。猟兵としてもそれは同じだ。だが、今回ばかりは事情が違う。ネリッサが頷いて言った。
「そうです、敵意はありません。私たち六人とも、貴女とお話をしに来ました」
 彼女の言葉に、少女の瞳は僅かに細められる。訝しむような視線を向けた先は男性二人。この場にいる、人間でない範とナイツだ。
「私、たち? あの、そこの二人の男性、は……さっきの竜は……」
「わしも『こちら』側よ。人間ばかりが、我々猟兵ではないのでな」
「そうそう。いろんな姿のやつがいるんだぜ! ディロも俺の大事な相棒さ」
 顎をしゃくりながら蹄で地面を掻く範と、宙を舞いながら大きく両手を広げるナイツ。二人の、UDCアースではおよそあり得ない姿は、少女にとって驚くべきものだった様子だ。
「人間じゃ、ない……人間の世界にいるのに……そのままで……」
 彼女の驚愕の声に、ティオレンシアが頷く。指をくるくると回しながら彼女は言った。
「そうよぉ。ここは人間の世界。でも貴女みたいに、時々よその世界から飛び込んでくるのがいるの」
「私たちは、それが世界に溢れないように仕事をしている。だから私は貴女に問いたい」
 麗子も頷きながら口を開く。厳しい眼差しを彼女に向けながら、麗子はかがみ込んで少女に顔を近づけて言った。
「自らの意思で元の世界へと消え去るか、私たちの手で無理やり消し去るか……どっちがいい?」
 その、傍から聞けば敵意の見えるだろう言葉に、少女は大きな目を更に大きく見開いた。
 自分で消えるか、猟兵たちの手で消し去るか。同じことのように聞こえるが、本質は異なる。
「自分で、消える……つまり、帰る、ってこと、だよね」
「そうだな」
 少女が発した言葉に、麗子が頷いた。
 自分でこの世界から消えるということは、この世界から出て元の世界に帰るということだ。消滅させて骸の海に消し去るのとは訳が違う。
 しばしの間を置いて、少女がぽつりと零す。
「……帰れるの?」
 その問いかけに、すぐに一歩踏み出したのはネリッサだった。
「それはこれからの貴女次第です。貴女が邪神を抑え込んでくれるなら、私たちには手助けをする用意があります」
 優しく言葉をかけながら、ネリッサも少女に顔を近づけた。
 兎にも角にも、少女に融合した邪神が落ち着いてくれないと話も出来ない。つまりはそういうことだ。
 そして、意を決したように少女は頷く。
「……頑張って、みる」

●人は話す
 麗子が触手を解いても、少女が暴れだすことはなかった。右腕が振るわれる様子もない。必死で抑え込んでいるのだろう。
 公園のベンチに腰を下ろす彼女に、ユーベルコードの蝴蝶を飛ばした範が冷たい烏龍茶を入れたコップを手渡す。
「見たところ左手は人の手か。なれば、器も掴めよう。飲み物でも飲むか?」
「……ありがとう」
 少女は素直にそれを受け取った。烏龍茶に恐る恐る口を付け、小さく飲み込む。ホッとした様子で息を吐く少女に、灯璃は一緒にベンチに座りながら声をかけた。
「だいぶ落ち着きましたかね。名前は言えますか? 貴女の名前は」
「……ラリサ。ラリサ・ルー」
 少女――ラリサは灯璃に自らの名を名乗った。曰く、内に融合している邪神はオウデス。人間が邪神を内包する世界で、彼女は暮らしていたらしい。
「にしても、不運だよな。気が付いたらこっちに来てたんだろう? きっと、全く予兆もなしに」
「う、うん……普通に部屋に居て、そしたら突然床が光って……眩しくてつぶった目を開けたら、ここにいて……」
 ナイツの言葉に、ラリサはこくりと頷いた。その言葉を信じるならば、彼女の側にも召喚される予兆とか、そういった要素は何一つなかったらしい。
 ティオレンシアもラリサの前にしゃがみながら声をかける。
「ラリサさんのその右腕は? 元からそうだったのぉ?」
「ええと……いつもは隠してるんだけど、こっちに来てから戻せなくなって……」
 彼女によると、邪神を内包する人間はあちらの世界では所謂エリートだそうで、市民の羨望の的らしい。しかし邪神を表出させたままでは日常生活に支障があるので、普段は腕や足の邪神を隠しているのだそうだ。
 ラリサの話を聞いていた範が、こきりと首を鳴らしながら言う。
「元の世界では制御できていたものが、こちらの世界では制御できなくなった。そんなところかの」
「もしかしたら、猟兵がこの世界にいるせいかもしれないわぁ。彼女の中の邪神が、猟兵に反応して制御が効かなくなったんじゃない?」
 ティオレンシアも顎に手をやりながら彼女の右腕を見た。確かに、この世界には猟兵がいる。邪神の敵たる猟兵が。それに反応し、邪神が表に出てきたのだとしたら、先程の戦闘行為も頷ける。灯璃も納得したように頷いた。
「可能性はありますね。どうでしょうラリサさん、これはあくまでも不運な事故。元の場所に帰還するまで、貴女を警護させてはもらえませんか?」
「……いいの?」
 右手にそっと手を添えて言う灯璃に、驚いた表情でラリサが問い返した。その言葉に頷きながら、ネリッサが口を開く。
「ここに貴女が召喚されたのはまったくの偶然ですし、特務情報調査局の局長として貴女を見過ごすことは出来ません。恐らく、私の魔術知識で何とかなるだろうと踏んでいます」
 しっかりと、言葉を区切りながら発するネリッサに、ラリサがまっすぐ視線を向ける。その視線をまっすぐ受け止めながら、ネリッサが指を立てつつ言葉を続けた。
「それに。これから貴女を探しに、ここにやってくる連中がいるでしょう。その連中はただ単に、貴女の……その邪神の力を利用しようとしているだけ。連れて行かれたら、貴女に元の生活は望めなくなります」
「えっ、やだ」
 元の生活は望めない、その言葉に反応したのだろうラリサがびくりと身を強張らせた。そうだろう、青の教団は今もこの公園に向かっているはずだ。彼らに捕まったら、ラリサは御本尊として祀り上げられてしまう。
 ふと、ネリッサがかがみ込んだ。ラリサの右手に優しく手を添えながら話す。
「約束します。必ず私たちが、貴女を元の場所に帰してあげる」
 その彼女の約束に、ラリサの目から一筋の涙が零れた。涙を流す彼女を見ながら、麗子が小さく肩をすくめる。
「自力でこの世界から出ていければ一番いいのだが、不意に召喚されたのでは元の世界の場所も分からないだろうしな。手伝いが必要なら、手伝うとも」
「だな! ラリサは話せば分かる邪神みたいだし、それなら元の世界で元の生活してたほうがいいからな!」
 ナイツもラリサの顔に近づきながら元気づけるべく声をかけた。その優しい言葉を聞いたラリサがますます涙を流す。
 そして彼女の表情が、うっすら和らいだ時。範の目が不意に公園の外に向いた。
「……む」
「どうした、範」
 麗子が表情を引き締めながら聞くと、彼は静かに口を開いた。
「青服の連中が来おったぞ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『青の信者』

POW   :    「祈りを……」
自身が装備する【儀礼ナイフ】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
SPD   :    「祝福を……」
【まるで啓示が降りてきたかの様に】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    献身
【儀礼ナイフを突き刺した後、青の従者】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●信者は来る
 公園内に走ってきたのは、揃いの青い衣装を身にまとった十数人の男女だった。
「おお、あそこにおわすは間違いなく邪神オウデスの化身!」
「邪神オウデス、お迎えに上がりました。我々と共に行きましょう」
 彼らは口々にオウデスの名を発しながら、ラリサに目を向けつつ呼びかける。その言葉に、ラリサは答えない。
「……」
 思った通りの反応が得られないことを訝しんでか、青の信者たちがざわめき出す。そして視線は、ラリサから彼女を守るように立つ猟兵へと向いた。
「そこに居並ぶのは猟兵ども! 我らの神を迎え入れる邪魔立てをしようというのか!」
「そのような者共の言葉に耳を傾ける必要はありません、邪神オウデス。我々こそが貴女を幸せの絶頂に導いて差し上げます!」
 猟兵に敵意を向けて、ラリサを誘おうとして。信者たちは口々に言葉を発した。
 だが、その言葉を聞いていたラリサは、力強く首を振る。
「幸せなんて……私の幸せは、私のパパと、ママと一緒に暮らすあの家にあるの! こっちには無いの!」
 堰を切ったように吐き出す彼女の声を聞いて、信者たちは驚きに目を見張った。だがその驚きが収まるやいなや、彼らは一様にナイフを取り出す。その切っ先から青い液体が溢れ出し、地面に染みを作った。
 ふと、ラリサの左手が猟兵の誰かの服を掴む。そして振り返ったその人に、彼女は懇願する目を向けた。
「お願い、皆……さっきの、家に帰すって約束、守って。私、家に帰りたい」
 その言葉に、猟兵たちがこくりと頷く。「青の教団」を退け、彼女には自分の家に帰ってもらうのだ。

●特記事項
 ・邪神融合体(ラリサ)は公園内にいます。戦おうとすると猟兵を狙ってしまうために積極的に戦闘には参加しませんが、自分の身は自分で守れます。
津崎・要明
【特務情報捜査局(SIRD)】所属
さて、といつも通りバトルデータ記録装置のスイッチを入れる
局長達の戦闘を間近で見られるなんてワクワクだ!

こんばんは〜、伏兵でーすっ。

今回、俺の役割は前座
狙いは撹乱と補助になる

横合いから出て「ツルガー」から「手裏剣」で「範囲攻撃、一斉射撃」
以降手裏剣は「レーザーを乱れ撃ち」
敵から攻撃されれば「受け流し」で対応

敵が範囲攻撃をどう避けるかデータも取れるし
ビットを撒いとけば、この後の攻撃が分散されるハズ!
後は主に見学ってコトで。

UCは儀礼用ナイフが金属なら当たるかな?


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

●アドリブ歓迎

いよぅ、局長。何やら楽しい事になってるじゃねぇか。俺も混ぜてくれや。

今まで邪神を倒すってぇのは何度かあったが、今度は守らなきゃならねぇとはな。普段と逆だぜ。まぁ世の中、何があるかわからねぇから面白い。おまけに、その邪神とやらがこんな可愛い子ちゃんとはな。こいつは是非ともお近づきになりたい、のは山々だが、今はあの狂信者共をぶっ飛ばすのが先だ。
UCを発動してUKM-2000Pの弾幕射撃を展開。狂信者共を薙ぎ払ってやるぜ。覚悟しな。
あーゆー手合いは、傭兵時代に中東で散々お目にかかってきたが、程度の差こそあれ結局は連中やってるコトは同じだな。話をするだけムダだ。


灯璃・ファルシュピーゲル
SIRD一員で連携

我々、保護した民間人の子を親御さんの処に
届けないといけないので誘拐犯に付き合うほど暇じゃありませんよ?(呆れ)

言いつつ狼達を指定UCで召喚
四方から絶え間なく襲撃させその回避に予想UCを使わせ
仲間の攻撃が通り易くなる様に支援(援護射撃・先制攻撃)
敵が青従者化し始めたら適宜に黒霧を散布展開させ
視界不良で攪乱させつつ狼の速い動きで釣って他の敵へ誘導し
敵の同士討ちの誘発を狙う(罠使い)

自身は全体を監視し指揮者を発見次第、
狙撃(スナイパー・情報収集)で即排除を試み
敵が集まって態勢を整え始めたら
UC:ツェアシュティーレン・フリューゲルで集中爆撃
地形ごと破壊しダメージを狙います

アドリブ歓迎


ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動

さて、個人的にはラリサさんの住む世界に非常に興味があるのですが…どうやら招かれざる客が来たようですね。詳しい話はまた後程。
目標はパッケージの安全確保及び襲来した青の信者の殲滅。それでは、始めましょう。

念の為ラリサさんの安全を確保しつつ、一定の距離を保つ。あまり近寄り過ぎると、邪神のターゲットにされる恐れもありますしね。
UCの炎の精を召喚、信者たちに向けて放ちます。取りこぼすと厄介ですから、信者達を包囲する様に炎の精を展開。信者を一ヵ所に集めて、SIRDメンバーや他の猟兵達が仕留め易くなる様試みます。
招かれざる客には、退場願いましょう。

※アドリブ・他者との絡み歓迎



●エージェントは踊る
 落ち着いてラリサと話をしようと思っていたのに、ここでの闖入者。ネリッサと灯璃は改めてラリサを庇うように彼女の前に立った。
「……どうやら招かれざる客が来たようですね。詳しい話はまた後程」
「我々、保護した民間人の子を親御さんの処に届けないといけないので、誘拐犯に付き合うほど暇じゃありませんよ?」
 灯璃がさっと腕を振りながら言い放てば、信者たちを囲むように影の狼が姿を見せる。その狼たちが小さく唸り声を上げる中、信者の一人が不愉快な表情を見せた。
「民間人だと? それはお前たちが庇い立てしている、その大いなる邪神オウデスを指してのことか?」
 彼が視線を向けるのは、二人が庇っているラリサだ。目を向けられてラリサが小さく身を縮こませる。彼の言葉に勢いづいたのか、女性の信者も声を上げた。
「彼女は我らが多いなる神の現身! それがこの場にご降臨なされたのです。元の世界になど返させはしません!」
 二人の言葉に同調して、他の信者も一斉にナイフを抜いて握りしめた。そして先頭に立つ一人が地面を蹴る
「行くぞ――」
「こんばんはー、伏兵でーすっ」
 だが、そこに横から突っ込むように、茂みから姿を見せる人影がいた。津崎・要明(ブラックタールのUDCメカニック・f32793)と。
「いよぅ、局長。何やら楽しい事になってるじゃねぇか。俺も混ぜてくれや」
 ミハイル・グレヴィッチ(スェールイ・ヴォルク・f04316)の二人である。
 一斉に放たれる大量の手裏剣と、機関銃の弾丸。それが全く無防備だった信者の横から、叩きつけるように直撃した。既に何人かの信者が倒れている。
「なっ!?」
「来ましたか、二人とも」
「お疲れさまです。ご協力よろしくお願いします」
 対して、突然姿を見せた二人に、ネリッサも灯璃も動じる様子はない。何しろ、二人とも特務情報調査局のメンバーだからだ。
 銃弾を一通り撃ち尽くしたところで、リロードしながらミハイルがラリサに目を向ける。邪神を倒してきたのが今度は邪神を守る側につくとは、人生も世の中も、何があるかわからないものだ。
「ハッハ、今まで邪神を倒すってぇのは何度かあったが、今度は守らなきゃならねぇとはな。普段と逆だぜ」
「全くです。こんな貴重な機会を間近で見られるなんてワクワクだ!」
 要明も楽しそうに言いながら、手裏剣をレーザーに変えて乱れ撃ちしている。その瞳はこの特異すぎる状況への興味と楽しさに満ちていた。
 その手からもう一度、何本ものレーザーがばらまかれる。
「これだけの広範囲にばらまいたら、どう避けますか!?」
「うわ……っ!」
「おのれ、小癪な!」
 そのレーザーに肌を焼かれ、ローブを焼かれた信者たちが歯噛みした。こうも広範囲に矢継ぎ早に攻撃をされては、ラリサに近づくどころか包囲網を突破することすらままならない。
 それをいいことに、ミハイルが軽薄な笑みをラリサに向けた。
「おまけに、その邪神とやらがこんな可愛い子ちゃんとはな。こいつは是非ともお近づきになりたい」
「えっ……」
 その言葉にシトリンとアメジストの瞳を大きく見開くラリサだが、ミハイルはニカッと笑うと再び銃口を信者に向けた。
「……のは山々だが、今はあの狂信者共をぶっ飛ばすのが先だ」
「ラリサさんはもう少し後ろに。そこなら攻撃も届かないでしょう」
「あ……うん」
 ネリッサの指示を受けて、ラリサがもう数歩後ろに下がる。彼女の中の邪神にターゲットにされる危険性を排除するための指示でもあったが、今の所彼女のオウデスが牙をむく様子はなかった。
 これなら目の前の敵に集中できる。ネリッサは己の魔法を発動させた。
「フォーマルハウトに住みし荒れ狂う火炎の王、その使いたる炎の精を我に与えよ」
「仕事の時間だ、狼達」
 灯璃の影の狼が一層信者との距離を詰めていくと共に、ネリッサが召喚した炎の精がさらに信者たちを取り囲んだ。狼に加えて炎の妖精。ますます生身の人間である信者には逃げ場がない。
 さらに、要明とミハイルも攻撃を続けている。多数のビットを展開する要明に、まだまだ機関銃を撃ち続けるミハイルは手を休めていない。
「ビット展開! さあ、まだまだ行きますよ!」
「ハッハハハ、薙ぎ払ってやるぜ、覚悟しな!」
 信者たちは完全に手詰まりの状態だった。元々近接攻撃しか攻撃手段のない彼らだ。攻撃を神託で回避するにしても、完全にジリ貧である。
「く、くそっ、猟兵どもめ!」
「一箇所に固まれ! 我が身を省みるな、献身を!」
 慌て始める信者たちに対し、一人の信者が声を上げた。先程から猟兵たちに言葉をかけてきていた男性だ。
 その姿を認めて、灯璃が長距離狙撃ライフルを構える。
「なるほど、貴方が集団の指揮者でしたか」
 信者たちが次々自分の体にナイフを突き立て、青の従者へと変貌していく中、指揮者の男性信者が的確に頭を撃ち抜かれた。彼はそのまま後方に倒れて動かなくなる。
「が――!!」
「呉須色さん!?」
 その一撃で、中心の方にいる信者たちの動きに乱れが出始めた。外周にいる信者は既に変貌を終えているが、理性はとうに弔われている。ビットや精霊、狼の動きに釣られて、隊列は完全に乱れていた。
「招かれざる客には、退場願いましょう。灯璃さん、どうぞ」
「分かりました。Zerstoeren Fluegel、展開します」
 ネリッサが灯璃に声をかけると、灯璃はすぐさま手を掲げた。呼び出されるのは無人爆撃機。住宅地に似つかわしくないそれが、砲口を信者に向ける。
「うわ……!?」
「ここで叩きのめします」
 その容赦の一切ない攻撃に、信者が次々身を伏せた。次の瞬間、大火力の爆撃が信者たちに降り注ぐ。
 轟音と爆音が炸裂し、もうもうと土煙が上がる。爆撃によってあらかた信者は吹き飛んだが、まだ何人か、息があるものはいるようである。従者と化した信者も、爆風によって吹き飛ばされて動かなくなっているものが大半だ。
 あまりにもオーバーキルな攻撃に、要明がぽかんと口を開けている。
「うわぁ、容赦ないですね……」
「市街地の公園の中だぜ、ちっとは加減してやれよ」
 ミハイルもあまりの攻撃に呆気に取られた様子だ。だが、ゆるゆると頭を振るとラリサに再び目を向ける。
「つっても、ま、あーゆー手合いは、傭兵時代に中東で散々お目にかかってきたが、程度の差こそあれ結局は連中やってるコトは同じだな。話をするだけムダだったろ」
「う、うん……それに、私を家に、帰してくれなさそうだし……」
 ラリサもミハイルの言葉に頷くが、その両手は頭の上にある耳をしっかりと押さえていた。やはり、爆音は彼女の耳にも堪えるようである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

キング・ノーライフ
遅れたので【ヴァーハナ】に乗って間に入る。
スマン、手土産を買っていたら遅れたと駅で買ったアップルパイを渡す。
そもそも供物も依代も無く神の力を借りようとは不遜ではないか?と【威厳】たっぷりに言い放つ。

一般の信者なら【誘惑】して改宗させるが仕方ない、オブビリオンでも敵の目を我にだけ引き付ける事も出来よう。
そしてあくまで回避の技なら攻撃のカウンターや【敵を盾にする】を狙えば少なくとも攻撃は出来んだろう。

ただ攻め手が足りないでな、【神は神を呼ぶ】で邪神を呼んで手を借りるか。教団の反応も面白そうだしな。ついでに邪神にも土産としてアップルパイを渡して頭を撫でとく、触手で戦いながら人の手で食べれば良かろう。



●神は神を喚ぶ
 キング・ノーライフ(不死なる物の神・f18503)の乗ったヴァーハナが、急停止しながら公園の前に飛び込んでくる。そのままハンドルを切ると、装甲車が公園の中に飛び込んできた。
「おっと、既に始まっていたか」
「な、なんだっ!?」
 信者たちを轢くのもお構いなし、そのまま信者とラリサの間に飛び込んだキングが、後方で目を見開いているラリサを一瞥した。満足した様子で目を細めると、彼女に一つ、ケーキ屋の箱を差し出す。
「すまんな、手土産を買っていたら遅れた」
「これは……」
 ラリサが恐る恐る箱の蓋を開けると、そこにはつやつやした表面のアップルパイが二切れ入っていた。
「アップルパイだ。疲れた時や混乱した時には甘いものを食べて落ち着くのがいい」
「ええと……ありがとう」
 キングが優しく告げると、戸惑いながらもラリサはアップルパイを手に取った。場所が場所故にそのままかじる形になるが、口に含むと濃厚な甘酸っぱさがいっぱいに広がる。
 ラリサの表情が少々和らいだのを見ると、ヴァーハナを格納したキングが金の瞳を信者たちに向けた。
「さて、貴様ら。そもそも供物も依代も無く神の力を借りようとは不遜ではないか? 神を相手取ろうというのなら、相応の対価を支払って然るべきだろう」
 キングの至極もっともな言葉に、言葉に詰まる信者たち。返答に窮しながら、一人の女性信者が声を上げた。
「そ、それはこれからお捧げするんです!」
 その言葉に、キングだけではない、ラリサも呆れ顔を隠そうともしない。神を手中に収めようとしていて、その神に捧げる品をこれから捧げようとは、まさに泥棒を捕らえて縄をなうが如しだ。
「神に何かをお願いする時って、対価は先払いが基本だよ?」
「全くだ。先んじて神を喚び出して、生贄はこれから用意しますなどと、そんな戯言が通用するはずはない」
 首を傾げつつアップルパイを頬張るラリサに同調しながら、キングが信者たちに冷たい視線を向けた。
「まあ、我は神であるが故に。同じ神を呼び出すことなど造作もないがな。来い」
 その視線をちらと傍らに向ければ、そこに開く異界の扉。そこからずるりと触手が這い出してくると、あどけない少年の姿をした邪神が姿を見せた。
「あうー……」
「あ……っ!?」
「あ、新たな神が……!?」
 その少年の姿を見て、信者たちが狼狽する。ラリサに続いて新しい邪神が現出したのだ。それもこんなにあっさりと、あっけなく。そのとんでもない事態に慌てふためく信者たちを見ながら、キングが手を前方に向けた。
「さあ邪神よ、お前の力を見せつけてやれ。アップルパイも一切れやる」
「あむっ」
 もう二切れ買ってきていたアップルパイの一切れを、ラリサに渡したのとは別の箱から取り出して邪神の手に持たせてやる。邪神は嬉々としてアップルパイを頬張りながら、信者たちに向けて無数の触手を伸ばした。
 鈍い音を立てながら、邪神の触手が信者たちの身体に突き立てられていく。
「ひぃっ!?」
「ぎゃぁっ!!」
 悲鳴を上げながら次々に触手に身を貫かれていく哀れな人間を、機械の神は目を細めながら見やる。
「ふん、自分に都合のいいことばかりを考える狂信者とは、これだからいかんのだ」
 そう言葉をこぼしながら、キングは傍らの邪神の頭をなでた。

成功 🔵​🔵​🔴​

厳・範
半人半獣のまま。
何故こうも狂信者は厄介なのだ。彼女の話を全く聞く気がない反応だぞ、あれは。
彼女は確かに邪神を宿すが、『不幸な事故で迷子になった少女』だというに。

彼女を巻き込まんためには、【使令法:豹貓】で呼び出すベンガルヤマネコが一番いい、か。あの信者どもを攻撃せよ。
このベンガルヤマネコは睡眠属性攻撃…つまりは『睡魔を呼ぶ』。
強烈な睡魔に襲われれば、念力で動かすはおろか、複製もままならぬだろうて。
もちろん、彼女に近づくこともな。

それでも来るならば、焦熱鎗の石突き側で打ち払う。
まったく…崇めるのなら、その相手の話も聞けというに!



●獣は怒る
 信者たちの物言いに、範は険しい顔付きをますます険しくさせた。
「何故こうも狂信者は厄介なのだ。彼女の話を全く聞く気がない反応だぞ、あれは」
 人の話を聞かない、というのは狂信者にはよくあることだが、崇めるはずの神の言葉すら聞こうとしないのは重篤だ。ゆるゆると頭を振りながら、範は呆れ顔で言葉を吐き出す。
「彼女は確かに邪神を宿すが、『不幸な事故で迷子になった少女』だというに……」
「あ……」
 その言葉に、ラリサが大きく目を見開いた。
 猟兵は自分を邪神としてではなく、迷子の少女として扱ってくれている。それは誰しも変わらないことだった。だのに、あの信者たちは。
 憎らし気な表情をしながら、女性信者の一人が声を張り上げた。
「少女の御姿を取っていようとも、邪神の本質には変わりありません! その御方は確かに『神』なのです!」
「そうやって、彼女を『神』だと決めてかかっているだけじゃろうが。崇めるのなら、その相手の話も聞けというに!」
 そう言いながらナイフを取り出して複製する信者に、範も言い返しながら焦熱鎗を構えた。ちら、と後方のラリサを見る。そこそこ距離は離れているが、あそこまでナイフを飛ばされないとも限らない。
「相応に距離を離れておるが、念の為じゃ……招来」
 小さくつぶやくように唱えると、範の前に94匹のベンガルヤマネコが姿を見せた。その全てが信者を睨みつけ、唸り声を上げている。
「フーッ」
「あの信者どもを攻撃せよ」
 範が冷たい声で指示を飛ばすと、ヤマネコたちは一斉に飛び出した。信者の数は既にだいぶ減っている。一人に対し二匹、三匹で襲いかかるのも多く見られた。
「フシャーッ!」
「くっ、こんな……っ」
 ヤマネコを振り払おうと信者がナイフを振るう、が。そのナイフが途端に地面へと落ちた。
「あ……」
「れ……?」
 突然ぐうぐうと寝始める信者たち。そちらを驚いた顔で見ながら、ラリサが呟いた。
「……寝ちゃった?」
「このベンガルヤマネコは睡眠属性を持つ。これなら、ナイフを念力で動かすはおろか、複製も、貴殿に近づくこともままならぬだろうて」
 彼女の言葉に頷いた範が、前足の蹄で信者の頭を踏む。そうして鎗を振るえば、その首が呆気なく断ち切られた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティオレンシア・シーディア
さぁて、と。あの娘自衛くらいはできそうだし、さっさと連中片付けちゃいましょうか。
…あの液体、効果は知らないけどあんまり体によろしくなさそうねぇ…

ミッドナイトレースに○騎乗してエオロー(結界)で〇オーラ防御を展開、さらに轢殺・適応を起動。射程半減・装甲強化で敵陣に○騎乗突撃かけるわぁ。この子武装なんて積んでないし、実質ノーリスク。そのままドリフトスピンで○重量攻撃ブチかましちゃいましょ。
流鏑馬にグレネードの〇投擲、魔術文字を利用した足引き…やれることはいろいろあるわねぇ。
知ってる?人間、バイクに撥ねられたら基本タダじゃ済まないのよぉ?

うん、はっ倒してもどこからも文句が出ない連中はやっぱり楽ねぇ。



●戦士は機器を駆る
 バイクの形をしたUFOが唸りを上げる。そのUFOに跨りながら、ティオレンシアはにぃと口角を持ち上げた。
「さぁて、と。あの娘自衛くらいはできそうだし、さっさと連中片付けちゃいましょうか」
 ラリサは確かに自分で自分の身を守れよう。ならばそこまで彼女のことを心配する必要はない。バイクのエンジンをふかしながらティオレンシアは笑う。
 彼女の顔を見てか見ないでか、残った信者たちがナイフを構えながら声を上げた。
「こ、この期に及んで誰らを滅さんとするか!」
「そうはさせないぞ、猟兵め!」
 彼らの握るナイフから、青い液体が滴り落ちる。それを見やり、ティオレンシアが僅かに口角を下げた。
「うーん、あの液体、効果は知らないけどあんまり体によろしくなさそうねぇ……」
 邪神の力を宿すであろうその液体、身体に触れたらきっと良くないことが起こるだろう。ティオレンシアもその辺りはすぐに察することが出来る。とはいえ。
「ま、細かい話は抜き。行くわよぉ」
 要は触れなければいいのだ、もう一度バイクのエンジンを吹かしながら言えば、彼女の騎乗するミッドナイトレースが一気に加速した。
「わっ!?」
「なっ!?」
 撥ね飛ばされるのをすんでのところでよけた信者二人。彼らの間を通り抜けたミッドナイトレースが、急旋回して再び信者の方を向く。
「ふふ、この子の限界はまだまだこんなもんじゃないのよぉ?」
 そう言って笑いながら、ティオレンシアが手元のアクセルを捻った。一気に急加速したミッドナイトレースが、一人の信者を撥ね飛ばす。
「ぐわっ!?」
「な、なんだとっ!?」
 その予兆のない急加速に驚愕する信者だ。こんな加速、通常のバイクならばあり得ない。とはいえミッドナイトレースが通常のバイクであるはずもなく。
「知ってる? 人間、バイクに撥ねられたら基本タダじゃ済まないのよぉ?」
 そう言って笑うティオレンシアは公園の中を縦横無尽に駆け回った。その機動力は波のバイクを遥かに凌駕して。
「ぐはっ……!」
「お、おのれ……!」
 信者たちは思い切り撥ねられながら、力なく公園の地面に倒れ伏して消えていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『青の狂信者』

POW   :    カルマレガリア
技能名「【適応進化/自己再生/並列思考/高速演算】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
SPD   :    メルティングウェポン
【寄生体から体内に取り込んだ武器】で攻撃する。[寄生体から体内に取り込んだ武器]に施された【魔兵覚醒】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
WIZ   :    クリスタルファージ
自身が操縦する【レベル×5体の、召喚「青の従者」】の【装備武器/使用能力】と【自立行動/連携/思考能力】を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はナハト・ダァトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●狂信者は来る
 公園になだれ込んできた青の信者を全て動かなくしたところで、猟兵とラリサが一息ついたところである。
「おやおや、これは困りましたねぇ……うちのメンツが、軒並み殺されているじゃありませんか」
 革靴のソールの音を響かせながら、スーツ姿に眼鏡をかけた、ビジネスマン風の初老の男が公園に入ってきた。
 身をこわばらせる猟兵たちに、男はそっと頭を下げながら言う。
「失礼、私、『青の教団』立川支部の支部長を仰せつかっております、縹、と申します」
 男――縹はそう自己紹介をしつつ、引きつった笑みを猟兵たちに向けた。
「先程はさんざん、うちのメンツに好き勝手に言ってくださったようで……させるものですか、我らの悲願たる青き神オウデスが遂に降臨召されたのです」
 そう言いながら彼が指先を向けるのは、当然ラリサだ。身体を震わせながら猟兵たちの後ろに隠れるラリサを見ながら、縹は歪んだ笑みを浮かべて話す。
「生贄を用意し、降臨会を行ったのに結果は不発。失敗したのかと思ったらここで反応がある。予想しませんでしたとも! 『旧き方法』が未だ生きており、その中でほぼ同時に召喚が為されたなどと!」
 その言葉にハッとする猟兵たちだ。
 ラリサ・ルーとオウデスの召喚は、確かに不幸な事故だった。しかしその事故が起こったのとほぼ同時刻に、彼らもまた召喚を実行していたのだ。
 彼らが何としてもラリサを手中に収めようとしたのも道理だ。元々しっかり準備を整えて、生贄も用意していた。そのまま召喚が実行されていたら、問題なく手中に収めることが出来たのだから。
 信じられない表情をするラリサに、縹はゆるく右腕を伸ばす。
「依代の少女よ、今ならまだ間に合います。我らの元においでなさい。したらばオウデスをその身から引き離し、貴女だけを故郷の世界に送り返して差し上げる」
「え……っ」
 縹の言葉に、言われた当のラリサも、猟兵たちも目を見開いた。
 邪神をその身から引き離してラリサを送り返す。だが、そうなったら邪神がこの世界に残ってしまう。それはこの世界にとって良いことではない。
 表情を固くする猟兵の前で、縹は天を見上げながら言い放った。
「少女の『ガワ』になど興味はないのですよ! 我々が望むのはオウデスのみ、貴女は邪神の力を手放し、元の世界で穏やかに過ごせばいい!」
 その力強い物言いに、ラリサの瞳が揺れた。次の瞬間、その眼に縹への害意が宿る。
「や……やだっ! オウデスは、渡さない……あんたなんかに!」
 その言葉に猟兵たちも頷いた。
 ラリサにとって、邪神オウデスは大事な存在なのだ。エリート階級にいるための証でもある。幼い頃から人生を共にしてきた友人でもある。
 それを今更引き離して、自分だけ元の世界に戻るなど、彼女にとって、首を縦に振れるわけがない。
 右手の鋭い爪を構えるラリサを見て、縹が青く大きな剣を取り出した。剣を持った右手から、深い青色の物体がぞわり、と溢れ出す。
「そうですかぁ……ならば力づくで連れて行くまで!」
 そう叫びながら縹は地を蹴った。猟兵も、ラリサも立ち向かうべく大地を蹴る。
 邪神を帰すため、あるいは手に入れるため。今、青と青のぶつかり合いが始まった。

●特記事項
 ・この章ではラリサ・ルーも猟兵側NPCとして戦闘に参加します。猟兵への憎しみよりも縹への怒りが勝っているため、猟兵を攻撃することはありません。
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

ふん、親玉のご登場みたいだな。いかにも早死にしそうなツラしてやがるぜ。
まぁラリサの嬢ちゃんを元の世界に戻す前に、コイツを倒すのが先決みてぇだな。そんじゃま、メインディッシュといこうか。

UCを使いUKM-2000Pで援護射撃を展開、相手の行動を阻害する。別に当たらなくてもいい、弾幕を張ってヤツが自由に行動できなきゃいいんだ。要するに足止めと時間稼ぎだ。その隙に、局長や他のSIRDメンバーが仕掛けてくれるハズだ。
こちとら場数踏んでんだ。手前の様な狂信者如きにそう簡単にやられるかっつーの。そんなに邪神に会いたきゃ、俺達がその邪神の元へ送ってやるぜ。

アドリブ・他者との絡み歓迎


灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で連携

帰るのは彼女ら2人の自由です…
誘拐犯の出る幕じゃありません。

先ずは間髪入れず指定UCで黒霧と狼達を展開し(先制攻撃)
霧で敵の視界を遮蔽し敵配下が集団連携して戦闘し辛い様に妨害し
更に狼達を個別に配下達へ襲撃させ二重に動きを牽制、
仲間の縹への攻撃を支援する(援護射撃)

同時に自身は(見切り)で攻撃を回避しつつ動き回り
弱った配下から、頭部・腕、足を狙撃(スナイパー)して
各個に仕留め確実に数を減らす様に戦闘

ある程度数を減らせたらUC:オーバーウォッチを使用し
(鎧砕き・鎧無視攻撃)で縹の寄生体の隙間を縫って
武器を持つ手・足の関節・頭部を狙撃し戦闘力を
確実に奪うよう戦います

アドリブ歓迎


ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動

さて、ラリサさん。あなたを元の世界へ戻す為には、私の魔術の召喚を応用すれば可能かもしれません。万が一失敗しても、帰れる様になるまでSIRDで保護しますのでご安心を。

(縹に向かって)残念ですがお引き取り願います。もしそれが不服とおっしゃるのなら・・・あなたを実力で排除します。

他のSIRDメンバーとラリサさんの攻撃と並行してハンドガン(G19C Gen.4)にて牽制射撃を行いつつ隙を伺う。
チャンスが訪れたならば、すかさずUCの黄衣の王を召喚して攻撃。
どうやら邪神に執着している様ですから、お望み通り邪神を召喚して差し上げましょう。但し――あなたの敵として。

アドリブ歓迎


津崎・要明
【SIRD所属】
召喚された青の従者が居れば手裏剣レーザー乱れ撃ちしつつ、大声で

はははっ、アンタらマヌケもいいとこだ!
散々手間ぁかけて準備した儀式を偶然に邪魔されて失敗、あまつさえ信じる神と敵対するとはね!
こりゃもう偶然通り越して必然だよな。見放されてんだよ、神からも天運からも‼︎

…防具が保つだろうか。
安い挑発だ、と自分でも分かってる。でも相手が狂信者なら…

頭悪いと退き際も分からないのかな?ご本人も嫌がっておられる事ですし?【UC】発動「オウデスサマは金輪際諦めたらどうですか?」
本心から諦めると回答するまで攻撃


キング・ノーライフ
双方の事情でよりややこしくなった気がするが物別れに終わったのなら良しとしよう。

【ヴァーハナ】の【内臓ガトリング】で【制圧射撃】と【弾幕】で仕掛けてもこの数で連携を取られると厳しい。仕方ない、【王の天兵】を使うか。

召喚した我が信者に美貌と機械の翼の加護を与えて空から攻撃させ。我は地上でガトリングを撃ちまくる上下の立体攻撃で敵を減らそう。

狂信者は自立行動を取らせているとはいえ青の従者を操縦している…つまり百人近い魅了する美貌と我による【誘惑】を従者を通じて影響を受け続ける訳だ。いかに狂信していても多少は思考が鈍るだろう。そこを突くか。

何故召喚しながら加護を与えないかだと?
変化するのが面白いからだ。


厳・範
半人半獣のまま。
聞いていたお爺、あまりの言い分に口が悪くなる。

馬鹿か、お前は。いや、馬鹿だからそう言えるのか。
友人を別世界に置いていけ、で首を縦に振るわけなかろうて。
しかし、ここに出たのは、ラリサ殿とオウデス殿にとって、不幸中の幸いだったのか…(引き離されないという意味で)

滅多に使わぬUCであるが、相手にはちょうどいいか。
お前の運は地の底に。相対的に、この場の味方も運が良くなるからな。
雷公鞭による雷撃、焦熱鎗での突き。ああ、足技での蹴りも考えようか。簡単に避けられると思うなよ?
防御は仙術による結界術。難しいようなら、焦熱鎗でいなすことも考える。


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

あー、うん。そりゃそういう反応にもなるわよねぇ。
図ったようにきれーに地雷踏み抜くんだもの、正直知ってた。

本人すごぉく殺る気みたいだし、あたしは○援護射撃に回ろうかしらねぇ。
動きを〇見切って●的殺の先制攻撃、魔術文字の特殊効果も乗せて片っ端から動き出しを潰してアシストするわぁ。
遅延のルーン三種による〇足止めや捕縛、帝釈天印による〇マヒ攻撃――フラッシュバンの〇目潰しやグレネードの〇投擲も合わせれば足引きの手ならいくらでもあるわよぉ?

好きに動いていいわよぉ?あたしのほうで合わせるから。
あなた「たち」を舐めたあいつに、思いっきりブチかましてやりなさいな。



●人は立つ
 ミハイルがUKM-2000Pに7.62×54mmR弾を装填しながら笑う。
「ふん、親玉のご登場みたいだな。いかにも早死にしそうなツラしてやがるぜ」
「帰るのは彼女ら二人の自由です……誘拐犯の出る幕じゃありません」
 灯璃もオートライフルを構えながら縹に告げた。彼女の隣で、キングは拳銃を片手にラリサへと視線を向けた。
「双方の事情でよりややこしくなった気がするが……まあ、物別れに終わったのなら良しとしよう」
 確かに事態はややこしくなったものの、結果はすっぱり物別れだ。これはこれで、物事が単純になっていい。ラリサも翻意する気はさらさら無いようで、鋭い爪を備えた右手を構えながら言い放った。
「そうよ! こんな考えのもとに召喚されそうになっていただなんて、召喚事故が起こって本当に良かった!」
 その言葉に、全員の目が見開かれた。あの召喚事故は彼女にとって決して望ましいものではなかっただろうし、混乱も大きくあった。
 だがそれを、起こってよかったとまで言い放つとは。彼女の縹への怒りは留まるところを知らない。ティオレンシアがため息交じりに話す。
「あー、うん。そりゃそういう反応にもなるわよねぇ。図ったようにきれーに地雷踏み抜くんだもの、正直知ってた」
「ここに出たのは、ラリサ殿とオウデス殿にとって、不幸中の幸いだったか……」
 範もゆるゆると頭を振った。幼い少女にここまで言わせるとは、先の縹の発言がどれほどショッキングだったのかが分かるというものだ。
 しかし、しかしだ。それほどダメージの大きい言葉をこうして口から吐けるなど。
「しかし馬鹿か、お前は。いや、馬鹿だからそう言えるのか。友人を別世界に置いていけ、で首を縦に振るわけなかろうて」
「なっ」
 範の言葉に縹がかっと目を見開いた。そこに畳み掛けるように、要明が大きな笑い声を上げる。
「はははっ、アンタらマヌケもいいとこだ! 散々手間ぁかけて準備した儀式を偶然に邪魔されて失敗、あまつさえ信じる神と敵対するとはね!」
「んなっ……! 黙って聞いていればぎゃあぎゃあと、嘲りの言葉もそこまでにしてもらおう!」
 明らかな嘲笑に縹はますます目を見開いた。剣を握っている右半身を覆う青い物体がぞわりとうごめく。
 それを睨みながら、拳銃を構えたネリッサがラリサに声をかける。
「ラリサさん」
「うん」
 彼女の言葉にラリサが視線を向けると、その目を見つめ返しながらネリッサが告げた。
「あなたを元の世界へ戻す為には、私の魔術の召喚を応用すれば可能かもしれません。万が一失敗しても、帰れる様になるまでSIRDで保護しますのでご安心を」
「うん……信じてる」
 彼女の言葉に頷いたラリサがもう一度前を向いた。視界では左半身にまで影のような物体を伸ばし、鎧をまとった騎士の姿が重なっている縹がいる。
 彼に向かって、ネリッサは冷たく言い放った。
「残念ですがお引き取り願います。もしそれが不服とおっしゃるのなら……あなたを実力で排除します」
 彼女の言葉に花だが剣を振る。剣から滴る青い液体が地面に飛び散った。
「この期に及んで何を馬鹿な! 退くなどするものか、逆に排除してあげますよ!!」
 縹は退く様子を見せない。ここまで虚仮にされて、おまけに目の前に狙う邪神がいるのだから当然か。戦いは避けられそうにない。
「そんじゃま、メインディッシュといこうか」
「私と私の友達を引き離そうとするあんたなんかに……絶対、負けない!」
 ミハイルの言葉に合わせてラリサが身を沈める。そして、全員が一斉に動き出した。

●邪神は怒る
 双方が動き出す中、灯璃がさっと手を挙げた。
「先んじて動かせていただきます……仕事の時間だ、狼たち」
 告げれば、公園一体を夜闇のような霧が包み込む。その霧の中から湧き出すように、狼たちが何頭も。影の獣が牙を剥いて唸り声を上げる中、縹は皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「霧に影の狼ですか、先程拝見いたしましたとも、バカの一つ覚えのように!」
 そう言いながら剣を振り、飛びかかってくる狼を切り捨てる縹に、ミハイルとネリッサがすぐさま銃を向けた。
「おっと、させるかよ!」
「思い通りには動かさせません」
 機関銃と拳銃による牽制射撃。足元に何発も銃弾を打ち込まれながらも、縹はひるまない。剣を地面に突き立てながら吼えた。
「無駄だぁっ!」
「なっ」
 途端に、前衛に立っていた面々が数歩後ずさる。縹を取り囲んで守るように、何十人も、何百人も、青い寄生体で象られた怪物が姿を表したのだ。青の従者の召喚だ。
 ネリッサが拳銃をリロードしながら奥歯を噛む。
「召喚ですか。かなりの人数ですね」
「しかもあれが指揮を取っているようだ。この数で連携を取られると厳しいな」
 キングも同じように拳銃を手にしながら目を細めた。数百人の兵士が一糸乱れぬ動きで連携をとって動くとなると、なかなかに厳しいものがある。ラリサが右腕を振るった一撃で崩れ去るほどの強さだが、猟兵の攻撃ではどの程度撃てば殺せるか、分かったものではない。
「くっ、一体一体倒していたらキリがないよ!」
「ラリサ殿、下がれ! そこにいては囲まれてしまうわ」
 取り囲まれつつあるラリサの手を引いて、範が包囲網から離脱する。その隙にと前に出るのはキングだ。
「仕方ない、手数を増やすか。我が信徒に祝福を、そして我が為に事を成せ」
 さっと手を掲げれば、天から降りてくるように92人、美麗な外見をした男性女性が出現した。その様子に縹が目をみはる。
「むっ、召喚を使う者が他にもいたとは!」
「さあ我が信徒たち、その背に翼を授ける。空より襲い来たれ」
 キングが言い放てば、信者たちの背中に金属製の翼が生えた。その手に拳銃や槍を握った信者たちが中に舞い上がると、キングもヴァーハナを喚び出してその操縦席に乗り込む。
 上空からと地上から、二方向からの立体攻撃によって従者が少しずつ倒されていく中、範が焦熱鎗の石突で地面をついた。
「味方が増え、敵も増えている今こそ好機よ。滅多に使わぬユーベルコードであるが、ちょうどいい!」
 彼が両腕を広げて天を仰いだ瞬間だ。狂気が開放されて戦場一帯に彼の力が伝播する。その瞬間、戦場の様子が一変した。
「むっ……なんです!? 急にあちらの攻撃がクリーンヒットするように」
「ハッハァ、こいつはいいぜ、面白いように急所に当たりやがる!」
 猟兵側の攻撃が、青の従者にクリーンヒットするようになったのだ。ミハイルが機関銃をぶっ放しながら笑う。
 クリーンヒットすれば、さしもの従者も猟兵の攻撃一発で倒れるようになるらしい。みるみる数を減らしていく敵陣営に、要明が皮肉った笑みを向ける。
「こりゃもう偶然通り越して必然だよな……縹、アンタは見放されてんだよ、神からも天運からも」
「ぐぬぬ、だがこの程度の攻撃をいくら繰り返したところで、私の兵を全て倒し切ることなど!」
 だがまだまだ縹の強気は衰えない。歯噛みしながら剣を振るう彼に、キングがヴァーハナの操縦席から不敵な声を届ける。
「ふん、その強がりもいつまで続くことかな。我の信徒は魅了の力を持つ。従者を操縦する貴様にも影響はあるだろう」
「くっ……!」
 その影響は少なからず縹を蝕んでいたのだろう。縹がゆるゆると頭を振ってはキングの信者から目を背けるようにしている。その情けのない有様に、要明が呵呵と笑って言った。
「頭悪いと退き際も分からないのかな? ああでも、灯璃さんの狼が逃してくれないか」
「何を分かりきったことを! 元より退くつもりなど――」
 彼の言葉に縹が言い返した瞬間だ。最大級の侮蔑を以て、要明が彼に言い放つ。
「ご本人も嫌がっておられることですし? オウデスサマは金輪際諦めたらどうですか?」
 その言葉に、縹の眼鏡の奥の瞳がきゅっと小さくなる。そこに追い打ちをかけるように、ラリサが従者の身体を三人まとめて引き裂きながら言った。
「甘いよ、お兄さん。諦めたとしても、私はこいつを許さない」
「うふふ、そうよねぇ。諦めたほうが身のためよぉ。アンタはこれから、アンタの信じるこの神様に八つ裂きにされるのよぉ、血の一滴だって残してはもらえないわぁ」
 ティオレンシアもリボルバーを絶え間なく撃ち、ルーンを乗せた弾丸を撃ち込みながら笑った。彼女の言葉通り、ラリサの怒りはもう止まらないだろう。どの道縹には救いの道などない。
 それでも彼は救われようと、ラリサに手を伸ばして言った。
「おお神よ、そのような――ぐわっ!」
 だが、その救いの言葉は最後まで紡がれなかった。彼の足元から立ち上がった黒い触手が、彼の足を刺し貫く。要明が冷たく言い放った。
「アンタの影には暗黒物質が溶け込んだ。もう遅いよ、アンタが本心から諦めるまで攻撃は止まない」
 その言葉通り、縹の影から立ち上がる黒い触手は、次々に彼の身体を貫いていった。その有様を見ながら、要明が鼻で笑う。
「ああでも、たとえ諦めたとしても、ラリサはアンタを許さないよな?」
「おのれ……!!」
 苦々しい表情で歯を食いしばる縹の前で、青の従者は次々に数を減らしていった。残すところ、あと数十人。
「皆さん、従者の数は順調に減っています。このあたりで一気に畳み掛けましょう」
「そうだな、ここらで勝負をつけよう。ヴァーハナ!」
 灯璃とキングが言葉を交わしあった次の瞬間、オートライフルとガトリング砲が火を吹いた。同時にミハイルの機関銃も銃弾をばらまいて一層しにかかる。
 そこに追い打ちをかけるようにキングの信者が槍と銃を以てとどめを刺していった。数人、十数人と相対する敵がいなくなったのか、縹の方へと向かっていく。
「さあ、数が減れば減るほど、我の信徒は貴様に直接向かうぞ。さすれば魅了の力をより一層受けることになろう?」
 キングの言葉に縹は言葉を返さない。自身を取り巻く信者の相手で精一杯、という様子だ。加えて要明のユーベルコードによる攻撃はまだ続いている。
 好機だ。ネリッサがラリサに声をかける。
「そろそろ攻め込めそうですね、ラリサさん、いきますよ!」
「うん!」
 そうして二人は飛び出した。その二人を追い越すように範が焦熱鎗を構えながら突撃する。
「わしも前に出よう。その身を焼き焦がしてくれるわ」
 キングの信者が道を開けた瞬間、範の突き出した鎗が縹の右腕を貫いた。寄生体を以てしても守りきれぬ一撃。縹が苦悶の声を上げて後ずさる。
「く――」
「ああ、逃げようなんて考えちゃダメよぉ? アタシの全身全霊を以て足を引っ張ってあげるわぁ」
 だがその足を、ティオレンシアの弾丸が撃った。遅延のルーンを三つ全部乗せ、さらに帝釈天印も乗せている。もはや彼の脚は、ぴくりとも動かせない。
「な、な……」
 恐れ慄く縹がぺたんと地面に腰を抜かした。彼を見下ろしながら、ミハイルが機関銃で自分の肩を叩いて言う。
「こちとら場数踏んでんだ。手前の様な狂信者如きにそう簡単にやられるかっつーの。そんなに邪神に会いたきゃ、俺達がその邪神の元へ送ってやるぜ」
 そう言いながらミハイルが機関銃の銃口を向けた時だ。ネリッサが小さく頭を振る。
「いいえ、ミハイルさん。そこまでする必要はありません」
「何? 局長、そりゃあ――」
 その言葉にミハイルがネリッサの方を向いた瞬間だ。彼のサングラスの奥で、目が見開かれる。ネリッサの周囲に、これまでとは明らかに異なる魔力が満ち満ちていたからだ。
「どうやら邪神に執着している様ですから、会いたいのなら会わせてあげましょう。今、ここで」
「なっ――」
 縹が息を呑む。その場の全員が縹の前から退く。そして、ネリッサの前にいたのは。
「あ、あれは……」
「『黄衣の王』?」
 ティオレンシアとラリサがはっとした表情をした。黄衣に身を包んだ不定形の邪神。名状しがたいもの、旧支配者の一員、ハスター。ラリサの宿す邪神オウデスとは比べ物にならないほど、高位の邪神がそこにいた。
「The Unspeakable One, him Who is not to be Named... さぁ、貪り尽しなさい」
「ひ――!!」
 ネリッサの言葉を受けて、ハスターの衣の内側で触手が蠢く。縹が引きつった声を上げた瞬間。衣の内側から何本もの触手が飛び出し、縹の全身を貫いた。
「ぐあ!」
 苦痛の声を上げる縹。未だ息があるのは邪神の力の影響か。しかし、その生命はもはや風前の灯だ。灯璃が冷たく言い放つ。
「これで貴方は逃げられない。叫んだとしても聞き届ける人はいない」
「哀れだな。貴様は縋るべき神にも見捨てられ、許しを請うことも出来ぬのだ」
 キングもヴァーハナから降りてこちらに近づきながら言った。その言葉に縹はびくりと身体を震わせるので精一杯だ。
 ティオレンシアが、ちょうど自分の後方に立っていたラリサに微笑みかける。
「さあ、トドメは譲るわよぉ? あなた『たち』を舐めたあいつに、思いっきりブチかましてやりなさいな」
「……うん」
 彼女の言葉に頷いたラリサが前に進み出る。彼女の行動を止めるものはいない。元々彼女は、彼らの勝手に巻き込まれただけなのである。彼女が決着を付けて然るべきだ。
 巨大化した右腕を下げながら歩み寄るラリサに、縹が血を吐きながら声を発する。ハスターが帰還するとともに触手を彼の身体から抜くと、彼はべしゃりと地面に這いつくばった。
「お、オウ、デス……!」
「……勘違いしないで」
 その縹を見下ろしながら、悲しそうな目をしてラリサが言う。はっきりと、左手を自分の胸に当てながら言う。
「私はラリサ。ラリサ・ルー。邪神オウデスは、私の身体に生まれた時から宿っている友達。今更引き剥がせるような関係じゃないの」
 そう言うと、ラリサはふと視線を自分の右腕に向け、左手を右腕に当てた。
「そうだよね?」
「ラリサ?」
「どう――」
 その言葉と彼女の纏う空気に、キングと範が声をかけた次の瞬間だ。
 ラリサの全身から、言い知れぬ威圧感と魔力が膨れ上がった。それはまるで邪神が新たに顕現したかのようであって。
「っ!?」
「やれやれ、ようやく手を離したか。幼子の内にて抑え込まれたまま聞かされ続けた、我の身にもなってみろ、愚か者め」
 発した声色は、明らかにラリサのものではない。もっと低く、威厳のある声色だ。今、ラリサの口を通して話しているのは、ラリサではない。
 縹が血だらけのぐちゃぐちゃになった顔で、潰れかけた目を大きく見開いた。
「お、おぉぉ……!」
「……オウデス?」
 そう呟いたのはネリッサだったか。彼女の言葉に答えることなく、ラリサ……否、オウデスは言葉を発する。
「我らの仇敵たる猟兵が我の傍にいること以上に腹立たしい。我と幼子を引き離すだと? 寝言としても聞き捨てならん」
 その容赦のない言葉に、縹ののどから引きつった音が漏れた。なおもオウデスは喋ることを止めない。
「この幼子の中には全てがある。怒りも、嘆きも、喜びも、安らぎも、親愛も、失望も。我はこの幼子の内であらゆる感情に触れ、それを糧として生きるのだ。成長も思考もしない依代に宿されて、貴様らの薄っぺらい崇拝の念を浴びて何になる」
「そ、それは……」
 オウデスの言葉は、きっと本心から発せられたものだろう。彼が、もしくは彼女が今更、ラリサ・ルーという存在を手放すはずはない。ラリサにとってだけではない、オウデスにとっても、縹の申し出は唾棄すべきものだったのだ。
 困惑したように声を発する縹の手を、オウデスが踏みにじる。
「ああ、もう話すな。貴様の声を聞いていると耳が腐る……で、だ」
 そしてオウデスは、ふと後方に視線を投げた。シトリンの色をした瞳が爛々と輝き、ネリッサの姿を捉える。
「殺してしまってよいのだろう、猟兵?」
 その視線と、言葉に、小さく身を固めるネリッサだったが。
「……ええ」
 すぐに、頷きながら言った。それを受けて視線を戻したオウデスが右腕を高く振り上げる。
「ま、待っ――」
「死ね」
 刹那、ぐちゃりと肉塊が潰れる音がした。

●少女は帰る
 戦闘が終わり、現場復帰が終わる頃。ネリッサたち特務情報調査局のメンバーによるラリサ・ルー帰還のための術式構築は滞り無く進んでいた。灯璃がネリッサに声をかける。
「……どうですか、局長」
「ええ……大丈夫。座標の特定も召喚式の解析も問題ないわ。これなら、帰してあげることが出来る」
 彼の問いにネリッサは頷いた。どうやら、帰還のための準備は問題なく整ったらしい。その間、キング、範、ティオレンシアと話をしていたラリサがネリッサの方に近づいてくる。
「邪神オウデスの抑え込みには、成功したのかしら」
「あ……うん、成功した、でいいのかな」
 ラリサがその言葉にうつむきつつ右腕に触れると、再びシトリンの目が輝いた。オウデスがラリサの口を借りて喋りだす。
「我も多少取り乱した。部屋で幼子が寛いでいたと思いきや、突然敵地のど真ん中。混乱したことは否めない。幼子の右腕と耳も、家に戻れば戻るであろう」
 ラリサとオウデス曰く、先程のように自分の身体の主導権をオウデスに渡しても、本来ならすぐに切り替えが出来るらしい。召喚直後に関しては、ラリサだけでなくオウデスも混乱しており、その場に猟兵が現れたことで抑えが効かなくなっていたのだそうだ。
 ともあれ、準備は整った。これで二人は元の世界に帰り、いつもどおりの日常を送る。
「それじゃあ……お別れですね」
「残念だぜ、せっかくお近づきになれると思ったのによ」
 灯璃が残念そうに言うと、ミハイルが後頭部に手をやりながら軽口を叩いた。その言葉にラリサが戸惑うように目を開く。
「そ、それは」
「貴様も寝ぼけたことを抜かすな。元より隔たれた世界の住人同士。縁など繋がるはずもない」
 と、戸惑うラリサを押しのけてオウデスが口を挟んできた。
 とはいえその言葉通りだ。元々交わることのない世界同士の住人、こうして出会い、言葉を交わしあえただけでも奇跡なのだ。
 それにだ。重ねてオウデスが忠告する。
「それにだ。今回は不幸な事故により轡を並べる事となったが、次に相まみえた時にはこうは行くまい。肝に銘じておけ」
「へいへい」
 その言葉にひらひらと手を振るミハイルだ。そんなこと、彼自身もよくよく分かっている。
 と、最後の調整を行い、魔法陣を描いていたネリッサがこちらを向いた。ラリサに呼びかける。
「準備ができました。ラリサさん、こちらへ」
「うん」
 その言葉に素直に従い、ラリサが魔法陣の中心に立った。ネリッサが魔法を発動させると、公園の地面に描かれた魔法陣が輝き出す。
 その魔法陣の外側から。範が、要明が、ティオレンシアが笑顔で手を振る。
「それではな、気をつけて帰るのだぞ」
「ご両親にもよろしくお伝え下さいね!」
「そうねぇ、明日もまた、あなた『たち』にとっていい日になりますように!」
 その、優しい見送りの言葉を聞いて、光りに包まれ始めるラリサの表情もほころんだ。そして、大きな右手をそっと振る。
「うん……ありがとう、みんな」
 その言葉が猟兵の耳に届いた瞬間、魔法陣から立ち上る光が柱となり。
 その柱が夜更けの空に登リ行き、細くなって消えていくのと一緒に、ラリサ・ルーは猟兵たちに見送られながら帰路についた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月29日


挿絵イラスト