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時間銀行(作者 霧野
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 末原良吾は深夜に歩いていた。
 ブラック会社で残業を終え、フラフラになりながら帰ってみたら住んでいたアパートが火事になり全焼。慌てて財布を探すがどこかに落としたのか見当たらない。親類も縁遠く、頼れる友人もいない。
 ともかくどうにか、どうしたら、と悩みうろうろと歩き回る。今日寝る場所にも困っているのだ、もうすぐ雨も降りそうで。
 せめて雨宿りを、と、朽ちた神社の鳥居をくぐったら。

 その境内には男が立っていた。

 不気味な不気味なその男はやあ、と手を差し出した。
「やあ、失った君。もう一度その手で取り戻してみないかい?」

 飼っていたペットが亡くなっても。
 家族が事故で亡くなっても。
 お金が無くなっても。
 家が無くなっても。
 命があと僅かでも。

 何も、失ってなんかいないんだ。
 このアプリを使えば戻ってくるんだから。


「人の「噂」で増殖する、UDC……ご存知でしょか」
 黒猫柄のカバーをつけたスマートフォンを手に、寧宮・澪がグリモアベースで猟兵に語りかける。
 「感染型UDC」と呼称されるそれ。それは、病が感染するように、見た人、噂話やSNSで広めた人、その広まった噂を知った人全ての「精神エネルギー」を餌として、大量の配下を生み出すのだ。UDCアースのような情報化社会では用意に爆発的に広がりかねない。
 澪は新たな感染型UDCを予知した、という。
「そのUDC……トレーダーは、第一発見者の末原良吾さんに、とあるアプリのはいったスマホを与えて見逃します」
 それは「時間銀行」と名のついたアプリ。持ち主の過去に失ったものを、持ち主の未来を対価に取り戻せるというアプリ。実際に良悟がなくした財布、と自身の時間をアプリに入れたら財布が見つかったそうだ。中身もそのままで。
「良悟さんはそのことをSNS乗せてしまいます……現実か、迷って、同意が欲しかったんでしょね……」
 それはリツイートされ、引用され、噂が爆発的に広まっていった。
「もうすぐ、噂を知った人々の精神エネルギーが良悟さんの周囲に集まって…… 大量発生します」
 そのエネルギーはUDCの姿を取ってまた散らばろうとするだろう。まずはそれを撃破してほしい。
 その次の大量発生は世界規模になるかもしれない。その前にトレーダーを倒さなくてはいけない。良悟からトレーダーと出会った場所を聞き出して、向かってほしい。
「そこに至る道が、すでに怪奇現象で変貌しています……気をつけてください」
 無事到達できたら、トレーダーを倒さなくてはいけない。強力なUDCと思われるが、どうか倒して──この感染を収束させてほしい。
「喪失は、ひどく辛いものです……それを癒せても……その方法が間違いでは、行けないんですよね」
 どうぞご無事で、よろしくお願いしますと澪は頭を下げて、猟兵を末原良吾の元へと送るのだった。


 とある川べりの原っぱ。薄暗くなってきた梅雨の夕方に良吾はスマホを持ちながら歩いている。
 開いているのは不思議なアプリ。
 左に失った物を、右に時間を入れれば戻ってくるという。
 なら何でも戻ってくるのか、渡す時間は、それでももう一度……会えるなら……。
 なんてぐるぐると悩むままに歩く彼の周囲に、何かが現れる。

 それは、人の形で、けれど人ではなく。
 ただ喪失を否定するアプリケーションだった。


霧野
 よろしくお願いします。霧野です。

●シナリオについて
 感染型UDCの発現を阻止してください。
 一章のプレイングは、オープニング公開後からすぐに受け付けます。

 一章:喪失否定アプリケーションの戦闘です。
 集団戦です。
 二章:神社に至る道は、怪奇現象で変異しています。門を見つけて探してください。
 冒険です。
 三章:トレーダーとの戦闘です。
 ボス戦です。

 いずれかの章のみ参加、というのも歓迎です。

●複数人で参加される方へ
 どなたかとご一緒に参加される場合、プレイングに「お相手の呼び名(ID)」を。
 グループ参加を希望の場合は【グループ名】を最初に参加した章にご記入いただけると、助かります。

●アドリブ・絡みの有無について
 以下の記号を文頭に入れていただければ、他の猟兵と絡んだり、アドリブ入れたりさせていただきます。
 良ければ文字数節約に使ってください。
 ◎:アドリブ歓迎。
 ○:絡み歓迎。
 〆:負傷OK。
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第1章 集団戦 『喪失否定アプリケーション』

POW ●「やっとここまで取り戻せたんだ」
戦闘力のない【執着対象を模倣するモザイクの塊 】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【周りの人を代償に現状を都合よく変えること】によって武器や防具がパワーアップする。
SPD ●「あんたも協力してくれるよな?」
攻撃が命中した対象に【因縁 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【対象の未来を奪い不幸を招くこと】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ ●「この手は二度と離さない」
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【未来 】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


黒木・摩那

過去に失ったものを取り戻せるアプリとか、絶対に流行るやつですね。
道に落としてしまったアイスとか、
食べ損なったプリンが戻って来るならば、
いくらでも時間をつぎ込む人はいるでしょう。

しかし、それだけに感染大爆発は必至です。
小さいうちに刈り取ってしまわないといけません。

まずは出現したオブリビオンから末原さんを守らねばいけません。

魔法剣『緋月絢爛』にUC【トリニティ・エンハンス】で【水の魔力】を付与【属性攻撃】。【念動力】で水流を操作して相手攻撃を防御します【破魔】。

戦いが終わったら、末原さんには彼らが時間銀行に引き寄せられたことと、どこから入手したかを聞き出します【情報収集】。



 喪失否定アプリケーション達は、不確かな物を抱えながら口々に言う。失っていない、取り戻せたんだ、ほらこんなに、と。まるで同情を誘うかのように。
 けれど黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)にその訴えは届かない。
「過去に失ったものを取り戻せるアプリとか、絶対に流行るやつですね」
 指を口元に当てながら、摩那は呟く。
「道に落としてしまったアイスとか、食べ損なったプリンが戻って来るならば、いくらでも時間をつぎ込む人はいるでしょう」
 そういった小さなものでも未練は大きいことがある。そして小さいものほど気軽に試してみてしまうものが人でもある。
「しかし、それだけに感染大爆発は必至です。小さいうちに刈り取ってしまわないといけません」
 急に意味不明な集団に囲まれ、おろおろと傘をさしたまま辺りを見渡す良悟をかばうように摩那は立つ。
 突如庇われた良悟は摩那の登場にも驚いたように声を上げた。
「あ、あんたはいったい。こいつらのこと知ってるのか? 何が起こってるんだ!?」
「説明は後で。こちらもお聞きしたいことがあるので。今は彼らを排除します」
 喪失否定アプリケーション達は不確かなモザイクの塊を呼び出した。
「なあ見てくれ、ようやくここまで取り戻せたんだ」
 彼らの執着する何かは呼び出されたまま不気味に佇んでいる。
「これを、きちんとしたものにするためにあんたらの協力が必要なんだ……なあ頼むよ、協力してくれよあんたの時間を、未来をくれよ!」
「ひぃっ」
 失った物をもう一度手に入れられる噂から実体化した喪失否定アプリケーションは、噂のエネルギーの中心である良悟へ手を伸ばす。
「そうはいきません」
 魔法剣『緋月絢爛』に水の魔力を纏わせる。梅雨の雨の中、刃じたいが煌めくようにルーン文字が輝き、剣の周囲に水が生まれる。
 水流を念動力で操作し、掴みかかってくる喪失否定アプリケーションの腕を押し流し、空中に流れる水に押されて体が泳いだところを切り捨てる。喪失否定アプリケーションは光の粒子となって消えていった。
「き、消えた」
「はい、消えますよ」
 また新しい喪失否定アプリケーションの一体を切り捨て、摩那は言う。
「これは人でも生き物でもないので」
「え、あ」
「時間銀行に引き寄せられてきた存在です」
 冷静に、アプリケーションをまた切り捨て、新たに押し寄せる一体を水流で押し流して距離をとる。
「そのアプリ、どこから入手したんです?」
「これ、これは……行き方がわからなくなった、古い神社にいた奴にもらったんだ」
成功 🔵🔵🔴

シャルロット・クリスティア
失ったものは戻って来ない。
手に入れることがあるかもしれなくとも、それはただ、そっくりなだけの偽物です。
……私は、それを痛いほど知っている。

いくら不本意でも、未来へ進むためには、過去を過去として置いて行かねばなりません。
縋りついているだけでは、進めませんよ……末原さん。

私は救い手ではない。失ったものを取り戻すことなどできない。
だからこそ……偽りの救済者は、ここで討つ。
闇夜に身を潜ませ、気配を殺し、攻撃される前に狩る。ただそれだけ、単純な事です。

そのまま思い出として、じっとしていなさい。
過去は糧にはなれど、未来を奪うものであってはいけないのだから。



(失ったものは戻って来ない)
 送り出されたシャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は到着するやいなや、アサシンズ・ダガーを抜き放ち、手近な喪失否定アプリケーションの首を掻き切った。
(手に入れることがあるかもしれなくとも、それはただ、そっくりなだけの偽物です。………私は、それを痛いほど知っている)
 幾つもの予知で、事件で、彼女は見てきた。失ったものを再び寸分違わす手に入れたと思ってもそれは錯覚。過去へ置いてきたものはもう戻ってはこないということをシャルロットは痛いほどに理解している。
 音もなく、誰ぞ彼刻の河原に迫る闇に黒いコートにフードを被ることで潜みむ。シャルロットは姿勢を低くして良悟に手を伸ばす喪失否定アプリケーションに迫り、また急所を切り裂いた。
 そのまま顔も向けず、庇うように立って良悟へと声をかける。
「いくら不本意でも、未来へ進むためには、過去を過去として置いて行かねばなりません。縋りついているだけでは、進めませんよ……末原さん」
「ひ、は、はい」
 いきなり現れたように見えるシャルロットの静かな声に良悟は上ずった声で頷いた。
 そんなシャルロットに何を見たか、喪失否定アプリケーションはいきなり話し出す。
「なあ、なあ、あんたも失ったことがあるんだろう? ならわかるだろう? どんなに喪失が辛いか、ようやく取り戻せそうなんだ!」
 そう言って彼女に手を伸ばした。助けてくれ、救ってくれと。
「だからあんたも協力してくれ! そうしたらあんただって取り戻せるはずだ! 救えるんだよ!」
 その言葉を告げると同時にその個体の首が切り裂かれる。
(私は救い手ではない。失ったものを取り戻すことなどできない)
 シャルロットは剣にはなれても救済などできるはずがないのだ。故にその言葉が届くことはない。
(だからこそ……偽りの救済者は、ここで討つ)
 ただ迫りくる宵闇に身を沈め、息を、動作の音を、気配を殺し、攻撃される前に狩る。
(ただそれだけ、単純な事です)
 光らぬ刃が振るわれるたび、喪失否定アプリケーションが倒れていく。崩れて偽の希望は消えていく。
(そのまま思い出として、じっとしていなさい。過去は糧にはなれど、未来を奪うものであってはいけないのだから)
成功 🔵🔵🔴

空見・彼方
◎失ったものを取り戻せるねぇ…
死人も蘇んのか。はっはっは。こっわ。

ステイクライフルで制圧射撃。
うわ当たんねぇ。じゃこいつならどうだ!
そーれ、ふっとべ!【重ね釘】
回避も防御も困難な呪殺弾の弾幕を張る。

ふー、空白。ちょっと警戒お願い。
えーと、良悟さん?大丈夫ですかね?
まま、まずは深呼吸、落ち着いてー(邪眼催眠術)
甘い話には裏がある、そいつは使うとよくないものを引寄せるんです。
俺達、これからその悪徳商人を捕まえますから、
逮捕への協力、お願いします。

社からの見えた風景とか、社の名前とか、
道中にあった物とか、なんでも良いです、何か思い出せませんか?



 空見・彼方(デッドエンドリバイバル・f13603)は依頼の話を聞いたとき、こう感じた。
(失ったものを取り戻せるねぇ……死人も蘇んのか。はっはっは。こっわ)
 どれほどの対価を必要とするのか想像もつかないが、死者すら蘇らせるなどとんでもないアプリだ。それを与えるUDCが爆発的に増えるなんてまさに狂気の沙汰である。
 阻止すべき事象に対し、送り出された河原で彼方はステイクライフルを構えた。自動で杭を打ち出し、辺りに集い、良悟へと迫る喪失否定アプリケーション達へと掃射して制圧射撃を行う。
「邪魔するなよ、この手を二度と離すことはないんだ!」
 けれど大きな杭を反動を抑えながらばら撒いても簡単には当たらない。喪失否定アプリケーション達は自分の未来を犠牲にして回避を成功させる。彼らの進むスピードが遅くなっても止まることはない。
「うわ当たんねぇ。じゃこいつならどうだ!」
 彼方はステイクライフルを下ろし、ネイルガンを構える。そこに込めるのは釘と呪い。近寄る人の形をしながら人でないものへと向ける。
「そーれ、ふっとべ!」
 込めた呪いは回避させず防がせず、当たって砕ける呪い。たっぷりと練り混んだ呪いを込めた呪殺の釘を345本生み出して、弾幕として射出する。
 呪いの釘の弾幕に襲われた喪失否定アプリケーション達が釘に刺さり動きを止めていった。
 今なら話をする時間もあるだろう。
「ふー、空白。ちょっと警戒お願い」
 媒介道具の空白人形に宿る人格に警戒を任せ、彼方は良悟へと近づいた。
「えーと、良悟さん? 大丈夫ですかね?」
「は、は……何なんだ、いったい、あんたらも、あいつらも」
 大分混乱してきたのか、がたがたと傘を持つ手が震えている良悟を落ち着かせるために彼方はサングラスを外す。
「まま、まずは深呼吸、落ち着いてー」
 良悟と視線を合わせるその目は普通の目ではない。かつて衝突した邪神の力が混ざった邪眼だ。その目で良悟を見つめ、鎮静させ、さらに意識を曖昧にさせていく。
 見つめられ、深呼吸するうちに恐慌状態を脱した良悟の手の震えが収まり、その目も眠たげになっていく。
「甘い話には裏がある、そいつは使うとよくないものを引寄せるんです」
「裏……引き寄せる……」
 つい、と彼方は良悟の手にしたスマホを指差す。そこに入っているのは破滅を呼び寄せるのだ、と。
「そいつを渡したやつは、もちろん裏の意図を持って渡したんですよ。俺達、これからその悪徳商人を捕まえますから、逮捕への協力、お願いします」
「悪徳商人……逮、捕……協力?」
「はい。そいつのいた社からの見えた風景とか、社の名前とか、道中にあった物とか、なんでも良いです、何か思い出せませんか?」
 じっと邪眼が良悟の記憶を浚うように問いかける。思い出せない記憶を辿り、良悟はおぼろなそれを語る。
「ここから、歩いていったんだ……山の方に……」
 この河原から近くの山の方へ。小道を辿り、狭い路地を抜けて、古い鳥居をくぐり抜けて。七回、何かをくぐり抜けた、そんな道行きを。
成功 🔵🔵🔴

数宮・多喜
◎〆

まったく。
都合よく、なくしたものが戻ってくる?
ふざけるな。
時間の流れってのはな、簡単に変えちゃならねぇんだよ。
それなのに無理を押すなら……
アタシのダチみたいに、何を求めていたかまで分からなくなっちまう。
だから、アタシはアンタらみたいなアプリを「否定する」。
元々因縁みたいなもんはあるようなもんさ、
けどなぁ。これ以上未来を奪われちゃたまらねぇ。

だから、アンタらの未来をもっと磨り潰せ。
奴らの攻撃を【災い拒む掌】で受け止め、そのまま返す。
今までにも「未来」を払ってたなら、更にその代償は必要になるだろうね。
末原さん、そのアプリはすぐ削除しな。
この惨状もSNSで拡散だ。
火消しは早い方が良いからね。



 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は苛立たしげに地を蹴った。手近な喪失否定アプリケーションの腹へと拳を叩き込む。
(まったく。都合よく、なくしたものが戻ってくる?)
 そんなアプリがあるという。そんな噂で生じるUDCがいるという。そうしてそれを配るのか。未来を代償に過去を呼び起こすのか。
「ふざけるな」
 そんなものがあってたまるか。多喜は河原に集う喪失否定アプリケーション達を睨めつけ、吐き捨てた。
「時間の流れってのはな、簡単に変えちゃならねぇんだよ。それなのに無理を押すなら……アタシのダチみたいに、何を求めていたかまで分からなくなっちまう」
 いなくなった後に過去から蘇ってきてしまった彼女。そうやって戻ってきた存在は、かつての友では無くなっていた。微かな記憶を頼りに帰ることを望み、失った言葉と心を求めながら歪んでしまった、悲しい存在。
 波の音のきれいな夕暮れに、過去に戻った彼女のような存在をまた生み出すというのか。
 それを許せるわけがない。
「アタシはアンタらみたいなアプリを「否定する」」
 喪失を否定する彼らを、多喜は否定する。過去を歪める彼らを否定する。
 否定された彼らはその声を聞いていない。ただ失ったことを認めない、失ったものを取り戻す、そのことに拘泥して未来を寄越せと腕を伸ばす。
「なあ、なあ、あんたの協力があれば、絶対に戻ってくるんだ! だから協力してくれるよな? なあ!」
 モザイクのかかった不確かな何かが多喜へと押し寄せる。お前の未来を寄越せと迫ってくる。
「元々因縁みたいなもんはあるようなもんさ、けどなぁ。これ以上未来を奪われちゃたまらねぇ。──だから、アンタらの未来をもっと磨り潰せ」
 多喜は手を伸ばす。その手の中にはごく小規模の特異点。押し寄せたモザイクが吸い込まれ、吐き出される。
 吐き出されたそれは、喪失否定アプリケーションを飲み込む。彼らの未来を奪って、彼らに不幸を招く。その存在を消していく。
「今までにも「未来」を払ってたなら、更にその代償は必要になるだろうね」
 消える喪失否定アプリケーションの向こうに、ぼんやりしている良悟が見えた。多喜はそんな彼に語りかける。
「末原さん、そのアプリはすぐ削除しな」
「……は、はい」
「この惨状もSNSで拡散だ。火消しは早い方が良いからね」
 噂には噂を。異形が迫るこの情報を拡散しよう。そうすれば、あんな荒唐無稽な噂の勢いを削げるだろうから。
成功 🔵🔵🔴

神奈木・璃玖
◎○

時間を対価として払い、何かを得るというのは道理にはあっています
しかし、『未来』を消費して失った『過去』を取り戻すことはあってはいけません
何故ならば『過去』というものは、戻ることは許されないのですから
それにもし、未来を消費することで本当に失われた過去が戻ってくるのでしたら様々な秩序が崩壊してしまいます

ならばどうするか、という問いには、『止めるしかない』とお答えいたしましょう
選択UCの狐火を敵に放ち、炎の【属性攻撃】による【範囲攻撃】を行いましょう
私自身も「獄炎ノ剣」に炎を纏わせ、応戦します(【切り込み】【焼却】【属性攻撃】)
「御饌津の使い」も戦闘支援という名のお手伝い、よろしくお願いしますね



 神奈木・璃玖(九尾の商人・f27840)は与えられた時間銀行というアプリについて、良悟へ、喪失否定アプリケーションへと語りかける。
「時間を対価として払い、何かを得るというのは道理にはあっています」
 例えば雇われて働き、金銭を得る。例えば料理や物品を制作、提供、販売し、対価を得る。働きに見合う正当な報酬が支払われるべきであり、対価に見合った時間と労力を提供するべきである。
 すべてギブアンドテイク。等価交換である。
 しかし、と璃玖は続ける。
「しかし、『未来』を消費して失った『過去』を取り戻すことはあってはいけません。何故ならば『過去』というものは、戻ることは許されないのですから」
 そう、過去は戻らない。
 仮に落とした財布が未来で見つかったとしても、それは過去から戻ってきたのではない。財布を見つけるという未来の結果があったからだ。
 死者は蘇らず、壊れたものが過去のまま戻ることはなく、時間は逆行しない。
 故に時間銀行はあってはならないものなのだ。
「それにもし、未来を消費することで本当に失われた過去が戻ってくるのでしたら様々な秩序が崩壊してしまいます」
「でも、ここに戻ってくるんだ! 今たしかに! ならばこの手を話すことなんてできるものか!」
 喪失否定アプリケーションにはその声は届かない。良悟は力無く項垂れている。
「じゃあ、どうしたら」
 わかっているけれど、でも、と言うようなその呟きに、璃玖は告げる。
「止めるしかありません」
 人の未来すら求めて失ったものを取り戻そうとするUDC達へと璃玖は狐火を放つ。ぼう、ぼうと虚空に生まれた七十を超える炎は喪失否定アプリケーション達を取り囲み、燃やしていく。
「熱い、痛い……!!」
 彼らは自分の未来を捧げて、炎に耐えて璃玖へと手を伸ばす。その未来を寄越せと訴える。
 獄炎ノ剣を手にした璃玖は、燃えながら近づいた喪失否定アプリケーションへと切り込んだ。優美な動きで振るわれる熱を纏った両刃の剣が、未来を食いつぶすUDCを切っては焼却し、光の粒子へと返していく。彼の背後に迫るUDCは、御饌津の使いが体当たりで跳ね除ける。
 払えるはずもない対価を一方的に要求する喪失否定アプリケーション達へと、璃玖は剣を突きつけ言い放つ。
「私への対価は高いですよ? ……それに、「未来」をお支払する気はありません」
 この世界、世の中はあくまでも等価交換でなくてはいけない。矛盾した法則、歪な報酬と労力ではいけないのだから。それは、商人の鉄則でもある。
 
成功 🔵🔵🔴

古峰ヶ原・美琴
◎〇(WIZで挑戦)
不運続きでかわいそうだよ
涙と鼻水が止まらない、ずびぃ
おにいさんを見つけたら、死んじゃダメえぇー!!ってしがみついて引き留めるよ
死んで地獄に落ちたって、ヒトはなんとかして生きようとするんだよ
生きても死んでも苦しいなら、生きてるほうがずっといい
ヒトは失ったものを別のもので補う強さがあって
まだまだ、これから見た事ないモノを手に入れる事だってできる!(力説)
原因のスマホ、わたし、持ち主に返してくるよ。だから、ちょうだい
スマホを調べれば何かわかるかもしれないね
かわりに、白いおむすびあげるよ
わたしも一緒に考えるから、おにいさん、戦場で共に生き抜こう!
幸せは自分の手で掴み取らなくちゃ!


波狼・拓哉
◎○

別に好きに否定したらいいんじゃないですかね
…二度と前には進めなくなるとは思いますが、過去に縛られてりゃ何もなせませんよ

ミミック、化け喰らえ
死ぬほど避けるでしょうから、影顎を避けらない量出して喰らい付いてください

自分は衝撃波込めた弾で、戦闘知識、第六感、地形の利用、視力でミミックの影顎に合わせて更に早業、二回攻撃、制圧射撃で回避する余地を消すように撃ち込んでやりましょう
…動きが止まれば後は簡単でしょうし、心に響くこともないですから気にせず撃ち込んで終わりですね

…過去に縋る、未来に賭けるってのを全て否定するわけではないですけど、今現状どう足掻くべきかってのが一番重要だと俺は思いますよ



 古峰ヶ原・美琴(神出鬼没・f28138)は号泣していた。
「うぇええ、かわいそうだよぉ」
 良悟のあまりの不運続きに涙も鼻水も止まらない。けれど泣いてばっかりもいられない。ずびぃとティッシュで顔を拭き、美琴は周囲を見渡す。
 潤んだ視界に喪失否定アプリケーションに囲まれた良悟を見つけた。
「死んじゃダメえぇー!!」
「うわっ!?」
 美琴は祟り縄を振り回し、群がるUDCを吹き飛ばす。その縄が弾いた体には消えない傷がつき、急に転ぶ、互いにぶつかる、執着するモザイクの何かを取り落とす、など不幸が連鎖して彼らを襲う。
 跳ね飛ばされるもの、辛うじて避けるもの、転がるものと入り乱れながらも、喪失否定アプリケーションは叫ぶ。
「失ってない、俺は失ってなどないんだ!」
 頑なに否定する彼らに、河原に送り出された波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は、ミミックを召喚しながら静かに語りかける。
「別に好きに否定したらいいんじゃないですかね……二度と前には進めなくなるとは思いますが。 過去に縛られてりゃ何もなせませんよ」
 失った、喪ったことを認めることでまた歩き出せる。それを否定するのは、失ったことに囚われているのと一緒だ。未来を見て、今を進むこともできやしないのだ。
 その言葉は良悟にも届いた。過去へと囚われて進めないと聞けば、彼は力無く項垂れる。
 そんな良悟に、美琴は縄を振るい終わった勢いそのままに飛びつき、しがみついた。
「死んで地獄に落ちたって、ヒトはなんとかして生きようとするんだよ」
 焼かれても、飢えても、苛まれても。その罪を償いながら苦しみながらも生きようともがくのだ、と美琴は言う。
「生きても死んでも苦しいなら、生きてるほうがずっといい。ヒトは失ったものを別のもので補う強さがあって、まだまだ、これから見た事ないモノを手に入れる事だってできる!」
「いや、死にたいなんて欠片も思ってないから!」
「え、そうなの?」
 いきなり飛びつかれた良悟はとまどいながらも、力説する美琴を引き剥がそうとする。励ましてくれるのは分かるのだが、いきなり過ぎてついていけていない。
 そんな彼らに再び集おうとするUDCへと、拓哉は狼を放つ。
「ミミック、化け喰らえ」
 言葉と同時に、ミミックが開いた口から無数の影の顎を吐き出す。喪失否定アプリケーションが自分の未来を捧げ、避けたところに拓哉の銃撃が襲う。
(……動きが止まれば後は簡単でしょうし、心に響くこともないですから気にせず撃ち込んで終わりですね)
 拓哉はカラフルなMODELtypeβ・γ バレッフ&ノットを手に、影の顎を避けて回る喪失否定アプリケーションへと向ける。影顎の動きにあわせて逃げ惑う喪失否定アプリケーションの進路へと弾丸を素早く撃ち込んだ。発射された衝撃波の弾に吹き飛ばされ、回避する隙を奪われるほどに圧倒されるUDCへ顎が噛みつき、光の粒子へ変えていく。
 その間に美琴は良悟へ手を差し出した。
「原因のスマホ、わたし、持ち主に返してくるよ。だから、ちょうだい」
「え……これ、危ないやつだろ?」
 そんなものを小さな見た目の、泣いていた子供に渡すには、と良悟は躊躇する。
「大丈夫!」
 どんと胸を叩く美琴。ただ背筋を伸ばしただけなのに、奇妙なことに自身の何倍も年を重ねた何かを感じた良悟は、恐る恐るスマホを差し出した。それを美琴は受け取る。
 「ありがとう! かわりに、はいこれ」
 とん、と手に乗せられたのは真っ白な、温かいおむすびだった。手に伝わる温もりに良悟はなんとも言えない表情になる。
 そんな彼を励ますように美琴は明るく笑いかける。
「わたしも一緒に考えるから、おにいさん、戦場で共に生き抜こう! 幸せは自分の手で掴み取らなくちゃ!」
「自分の手で……」
 半ば呆然としている良悟へと、拓哉も言葉を添える。
「……過去に縋る、未来に賭けるってのを全て否定するわけではないですけど、今現状どう足掻くべきかってのが一番重要だと俺は思いますよ」
 すでに過ぎ去った取り替えのつかないもの、全く不明な未知を示すものに拘泥するよりは、今を。
 かつて何も知らぬままに正気を消費し、今を足掻いた経験のある拓哉の言葉は存外重く、良悟の胸に届いたのだった。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

故無・屍
…ふざけんじゃねェぞ。
失くした物が、追われた場所が。 …死んだ奴が戻って来ることなんざ無ェ。
全部がそっくりそのままでそこにあったとしても、
そいつは何かを捏ね合わせた単なる木偶にすぎねェんだよ……!!

UC【暗黒剣・無尽】にて敵を一掃、怪力、捨て身の一撃、2回攻撃を用いて「苦戦している」と思う暇も与えない。
相手の攻撃に対してはカウンター、良悟に攻撃が向かうなら「かばう」。

…おいアンタ、怪我はねェだろうな。
そのアプリがどんなモンなのかは今のである程度は分かっただろ。
そいつはどこで、どんな奴から手に入れた?

例えそのアプリが本物だったとしても。
過去を変える対価が未来だなんざ割に合わねェ。
……安すぎてな。



 未だ途切れず集う喪失否定アプリケーション達。彼らはかつて失った何かをもとに戻そうと、この手に取り戻そうという意志のままに、大きなエネルギーの集う良悟へ集まっている。
 そのエネルギーが集まったのも、謎の人物から手に入れた、未来を払って過去に失ったものが戻るアプリのせいだった。
 故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)は低くなった声で言い放つ。
「……ふざけんじゃねェぞ。失くした物が、追われた場所が。……死んだ奴が戻って来ることなんざ無ェ」
 屍の大切なものは『バケモノ』に飲み込まれた。自分で振り払った。全て消えた。過去に沈んでもう戻らない。
 それが戻ってくるなんてことは、起こらないしありえない。
「違う違う、ほらもうここまで戻ってきた! 大切な 大切なこの子はもうここにいる!」
 喪失否定アプリケーションが胸に抱えた何かを示す。それはモザイクでよくわからない、不定形の何かだ。けれどそれを大切そうに抱えて、失った事実を否定する。
 その個体にはかつて失った大切なものに見えているのだろう。
 屍はそれを否定する。その手にアビス・チェルナムを握りしめ、痛みをこらえるような声で吐き捨てる。
「全部がそっくりそのままでそこにあったとしても、そいつは何かを捏ね合わせた単なる木偶にすぎねェんだよ……!!」
 形、中身が寸分違わず一緒に見えても、偽物でしかないのだ。決して失ったものが蘇ることなんてない。
 力を込める。歪曲した剣が闇を纏い、10mもの長さまで巨大化した。それを屍はその力で軽々と振るい、喪失否定アプリケーション達を切り捨てる。一周したら逆回りにもう一周。
 防御を捨てた斬撃は、喪失否定アプリケーションを薙ぎ払う。彼らが何を思う間もなく、巨大な闇の剣に切られたものが倒れて消えていく。
「……おいアンタ、怪我はねェだろうな」
「あ、ああ」
 呆然としている良悟へと屍は声をかける。
「アンタが持ってたアプリがどんなモンなのかは今のである程度は分かっただろ。そいつはどこで、どんな奴から手に入れた?」
「これは、行き方がわからなくなった、神社で……黒いスーツのやつからもらったんだ」
 良悟は夜だった上に、混乱していてどこを歩いたか定かでなく。ただ七回、門や鳥居などの何かをくぐったような気がする、と言う。
 そしてもらった相手も、もうボロボロで明かりのない神社だったから黒いスーツの、おそらく男性から、という曖昧さだった。
 屍はまた押し寄せる喪失否定アプリケーションを打ち払うため、そこで会話を切り上げる。おそらくこれ以上の情報は、ゆっくり話でもしない限り手に入れにくいだろうから。
 再びアビス・チェルナムに闇をまとわせながら、屍は呟いた。
「例えそのアプリが本物だったとしても。過去を変える対価が未来だなんざ割に合わねェ。……安すぎてな」
 屍と名乗る自身の未来と、大切な過去。それは、到底釣り合わないように思える、という自嘲を込めて。
成功 🔵🔵🔴

灰神楽・綾
【不死蝶】◎〆
ゲームの世界ではボタンひとつで
いくらでもやり直しが効くからね
そのくらいの感覚でそんな眉唾ものを
うっかり信じちゃう人が出るのもおかしくないかもね
この世界、この時代ならではの手口といえる
いやぁ上手いこと考えるねぇ
なんて感心している場合じゃないか

自身の手を斬りつけUC発動
やられる前にやれ、の精神で
高速でDuoを大きく振り回し
範囲攻撃で一気に薙ぎ払っていく
俺のこの力も、言ってしまえば
俺の未来を対価にして叶えているようなものだよね

情報収集は他猟兵がしてくれているだろうから
雑談がてら良吾に聞いてみる
何だか思いつめていたようだけど
それに頼ってまで取り戻したい大きな何かが君にはあるの?


乱獅子・梓
【不死蝶】◎〆
失ったものを取り戻せる、か
仮にそんなものが実在したとして
無くした財布を見つけるくらいなら可愛いもんだが
「どうせ戻せるから殺しても構わない」だとか
極端な発想に至る奴も出てくるだろう
物や命の価値なんてのが大暴落するな

さっさと黒幕を見つけて叩くためにも
ここはサクサクと切り抜けていくぞ
焔を成竜に変身させUC発動
広範囲・高威力の炎のブレス攻撃で
敵の群れをまとめて蹴散らしていく
焔!灰も残らないほどに全て燃やし尽くせ!
…まぁ人じゃないからもともと骨も灰も残らないだろうが…

財布探しくらいなら試しに使えたのに
使用をためらってしまうような大きな何か…
さしずめ、死んでしまった誰かというところか?



「失ったものを取り戻せる、か」
 現場の河原に到着してすぐに、焔を成竜に変身させながら、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は苦々しく呟いた。
 なんとも夢のようなアプリケーションだが、結局それは、堕落させるだけの代物だろうと。
「仮にそんなものが実在したとして、無くした財布を見つけるくらいなら可愛いもんだが……「どうせ戻せるから殺しても構わない」だとか、極端な発想に至る奴も出てくるだろう。物や命の価値なんてのが大暴落するな」
 取り返しのつかないものやことが、簡単に元に戻せるなら、そういうものをやってしまう者も必ず出てくるだろう。人の理性のたがねは簡単に飛びやすいものだ。
 だからこそ、過去が蘇ってはならないのだ。
 灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は逆に感心したように言う。
「ゲームの世界ではボタンひとつでいくらでもやり直しが効くからね。そのくらいの感覚でそんな眉唾ものを、うっかり信じちゃう人が出るのもおかしくないかもね」
 コンピュータゲームの発達しているUDCアースならではの思考でもある。ゲームの世界ではいつだってやり直せてしまうから、それを現実に持ち込む幼い思考。綾はDuoの刃を自分の手のひらに滑らせながら、明るく笑う。
「この世界、この時代ならではの手口といえる。いやぁ上手いこと考えるねぇ……なんて感心している場合じゃないか」
 良悟の周囲に集まった大きなエネルギーから、新たな喪失否定アプリケーションが生まれてくる。そいつらは未来がほしい、失ったものを取り戻したいと猟兵や良悟へと手を伸ばして襲い掛かってくる。
「なあ、あんたも協力してくれるよな? もう少しで取り戻せるんだ」
 哀れな声で、不定形のモザイクを抱えながら、すがるように手を伸ばすUDCへと綾は大鎌を向け、梓は焔の背を撫でて対峙する。
「いくよ、梓」
「ああ、さっさと黒幕を見つけて叩くためにもここはサクサクと切り抜けていくぞ」
 先手必勝、とばかりに綾は喪失否定アプリケーションの集団に飛び込んだ。
 羽よりも軽く、自在に操れる大鎌を風切音をさせながら振り回し、軌道上の喪失否定アプリケーション達をなぎ払っていく──毎秒、綾自身の寿命を支払いながら。
(俺のこの力も、言ってしまえば俺の未来を対価にして叶えているようなものだよね)
 そこにあるだろう血腥い「殺し合い」を求めて未来を支払って今に費やす。残念ながらこの敵は血を流さず、粒子になって消えてしまう上、あまり歯ごたえもない。
 それでも笑いながら大鎌を振り回し、高速でなぎ払っていく綾に、梓はため息をつく。もう少し自分を大切にできないものかと。
 あとで話し合いという名の説教タイムを設けるとして、今は喪失否定アプリケーションへと意識を戻す。綾が散らしているが、その軌道上から逃れたものもいるのだ。
「焔! 灰も残らないほどに全て燃やし尽くせ!」
 主の意を受けて、焔がブレスを吐き出す。高温の炎が一面に広がり、周囲の喪失否定アプリケーションを焼いては粒子へと戻して消していく。
(……まぁ人じゃないからもともと骨も灰も残らないだろうが……)
 そこは言葉の綾である。高威力で焼き尽くすイメージを伝えるための選択だった。
 大鎌で切り裂かれ、炎で燃やし尽くされて、喪失否定アプリケーションが一時姿を消す。
 短い間だが、今なら良悟と話す時間もあるだろう。
 すでに情報収集は他の猟兵が行っているだろうから、綾は雑談がてら気になっていることを聞いてみることにした。
 予知で聞いたとき、良悟はちょうど悩んでいたという。
「ねえ、何だか思いつめていたようだけど。それに頼ってまで取り戻したい大きな何かが君にはあるの?」
「財布探しくらいなら試しに使えたのに、使用をためらってしまうような大きな何か……さしずめ、死んでしまった誰かというところか?」
 梓にも重ねて尋ねられ、良悟は口を開く。
「いや、まあ……昔、死んだ家族に会えるなら、と思っていたけど」
 でも、それはしてはいけないと思った、とぽつりと呟いた。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴