●君死ニタマヘ
かつて戦争があった。
多くの血が流れ、多くの命が失われ、多くの涙とともに終わった戦いがあったのだ。
それは、その戦いを美しいと思った。大地に染みる鮮血と涙を吸い上げ、命を肥やしに紅々とした華を咲かせたその桜は、愛した美しい戦いの炎に捲かれて燃え尽きた。
――はずだった。
戦争から幾年月、戦場は蘇った。影朧となりてかつてを再現する兵士たちと共に。
彼らを呼び寄せ縛り付けるは紅に咲き誇る満開桜。己の愛した闘争を永遠に繰り返させ、邪魔するものが在らば両軍の兵をともにけしかけ追い返す。
己だけの箱庭で戦争ごっこに興じる影朧を討伐せんと、桜學府も幾度とユーベルコヲド使いを遣わせたが解決は出来ず、人類不可侵の逢魔が辻となった無限にして無限の戦場。
そして桜は思ったのだ。もっと大きな戦が見たいと。
呼び寄せる影朧の数を増やし、より激しく、より大きな戦火を望むは影朧・彼岸桜。
その蠢動に桜學府の戦力では対応できぬ。ならば、此処は超弩級戦力たる猟兵の出番であろう。
●君死にたまふこと無かれ
「皆さん、事件ですわ」
ひらりと軍装の袖を翻して振り返ったファウナは、集った猟兵達にまだまだ未熟さの残る敬礼を送って本題を切り出した。
「場所はサクラミラージュ、欧州某所。かつての大戦の古戦場に影朧が大量発生したのです」
厳密に言えばこの地での影朧の大量発生自体は数年前から起こっていた事象だ。桜學府が幾度か対策を講じたが、結果として鎮圧出来ず逢魔が辻――放棄領域として緩やかな監視と封鎖で対応してきた土地である。
「その古戦場での影朧の活発化をわたくしは予見しました。これが封鎖を破ることに結びつくのかは分かりませんけれど、良い兆候ではないことは確かですわ」
仮に影朧達が外へと雪崩を打って押し寄せれば、桜學府のユーベルコヲド使いではこれを止めることは出来ないだろう。良くて逢魔が辻の拡大、悪ければ市街地に影朧が攻め入り多大な犠牲を出してしまうことになる。
そんなことをさせるわけにはいかない。そしてそれを阻止することができるのは猟兵だけだ。
「行ってくださいますか? ……ありがとうございます」
では、とファウナは卵型のグリモアをこつん、と角にぶつけて罅を入れ、猟兵達を送り出す支度を開始する。
「現地はまさしく戦場ですわ。皆さんが出向けば、其処に居るすべての兵士が敵として襲いかかってくるでしょう。過酷な戦いですが、どうか皆さんご無事で戻ってくださいまし」
そしてグリモアの罅から漏れ出た光が猟兵達を包み込み、血と怒号、硝煙砲火の絶えぬ戦場へと彼らを送り出す。
紅星ざーりゃ
お久しぶりです、紅星ざーりゃです。
今回はサクラミラージュで純戦闘シナリオです。
第一章は戦闘!
第二章は戦闘!
第三章は戦闘!
でお送り致します。
永遠の戦場と化した逢魔が辻から、死すら許されぬ影朧兵士達を解放してあげてください。
加えて今回は無理なくリプレイをお返ししていく事を個人的目標とさせていただいております。
ご参加いただけた人数によっては全員採用が難しい場合もありますが、ご了承いただけますと幸いです。
それでは皆様のご参加をお待ちしております。
第1章 集団戦
『名も忘却されし国防軍擲弾兵大隊』
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POW : 戦車殺しは我らが誉れ
【StG44による足止め牽制射撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【パンツァーファウスト】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 弾はイワンの数だけ用意した
【MP40やMG42による掃討弾幕射撃】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : コチラ防衛戦線、異常ナシ
戦場全体に、【十分な縦深を備えた武装塹壕線】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
イラスト:nii-otto
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
猟兵達が降り立ったのは、降り注ぐ砲弾が大地を掘り返し、機関銃の唸りが絶えることなく鳴り響き、大地に爪痕の如く深々と刻まれた塹壕線を奪い合うように影朧達がぶつかり合う戦場だった。
そこかしこに散らばる影朧兵士の死骸から流れ出た鮮血が泥濘んだ土と混じり合い泥水となって、赤黒い川となり道連れを欲するように踏み越え渡ろうとする者の足を取る。
安全に進むならば塹壕を利用するのが得策であろう。砲弾が直撃する前に塹壕へと飛び込んだ猟兵は、しかし先客によって出迎えられた。
旧い欧州亡国の軍服を纏い鉄帽を目深に被り、防毒面で顔を隠した兵士たち。突然の闖入者に短機関銃を突きつける彼らもまた影朧に相違あるまい。
まずは彼らの陣地たるこの塹壕を突き進む。銃砲を構える彼らを打ち破ったその先にこの戦場を生み出した根源があるのだ。
猟兵は各々の武器を、技量を、信念を武器に過去を繰り返す兵団に挑む。
アリシア・マクリントック
これが人と人の戦争……私達はこのような戦いが必要にならないような世の中を作らないといけませんね。
さておき。彼らの知っている戦い方に付き合う理由はありませんね。変身!マリシテンアーマー!マリアはアーチャーモードに!
かつての戦場にも軍用犬はいたかもしれませんが、火器を駆使する獣はいなかったでしょう。マリアには牽制射撃をお願いして、私はカミカクシ・クロスで姿を隠して敵陣に潜入します。内側に入り込んでしまえばこちらのもの。順番に急所をついて仕留めていきましょう。友軍を巻き込むような攻撃はそうそうしないでしょうが……発見されたら無理をせずに撹乱しながら離脱します。あとは距離をとって攻撃しましょう
荒谷・ひかる
こんな急な遭遇戦になるだなんて聞いてませんよ!?
もう、加減なんてできませんからねっ!
まずは物陰に隠れつつ二丁の精霊銃で以て牽制
弾種は冷凍弾及び電撃弾を選択、凍結や麻痺による行動阻害を狙う
発動準備が整い次第【水の精霊さん】発動
塹壕の中に水龍もとい水流を発生させ、敵兵を一気に押し流す
水深1m程度あれば、人を溺れさせるには十分
ましてや武装塹壕線となれば深さは1mではきかないでしょうから、一網打尽です
弾薬の類にも、雨程度なら兎も角水没に耐えられるレベルの防水対策はしていないでしょうし効果はあるはずです
仲間の猟兵は水中でも行動ができるよう、精霊さんたちには加護をお願いしておきますね
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『こちら第4掩蔽壕、ヤパーニッシュ共の航空隊を撃退した。だが被害が大きい、補充要員の派遣を――』
頑強な屋根に覆われた塹壕の指揮所で、この区域を預かる将校が有線電信機の受話器に向けて応援を乞うている。
そこに忍び込む影がひとつ。否、それは影も形もありはしない。防毒面の分厚いレンズに積もった砂埃が視界を狭める中で、その存在に気づく者は居なかった。
斯くして陣中に入り込んだそれ――彼女は、将校の背中を守る護衛の兵士の喉元に目にも留まらぬ早業で刃を滑らせ、断末魔を上げるどころか自らの死にすら気づかせぬまま二人の兵を仕留めて将校の後ろに立った。
どさり。一拍遅れて倒れた兵士の身体が立てた音に、将校が振り返る。
『何だ――がっ!!』
その胸元に生えた短剣の柄。破れた心の臓から吹き出す赤黒い血が、不可視の侵入者の形を浮かび上がらせる。
『きさ、ま……どこから…………侵入者だ、救援……』
死にゆく中で軍人としての責務を果たすべく電信機に手を伸ばした将校。その手首に狼が噛みつき、最後の抵抗を組み伏せる。
将校が倒れたのを確認して、暗殺者は赤く染まったマントを脱ぎ姿を表した。
「ふぅ……まずはこの区画の指揮官を排除、ここまではうまく行きましたね」
これで指揮系統は寸断され、この周辺一帯で敵は組織的な戦闘能力を失ったことだろう。とはいえ指揮官が討たれたことに誰かが気づき、隣接する区画から指揮権が伸びてくればこの優位もすぐに失われる。
時間との勝負だ。後続の猟兵が突入する入り口としてまず此処を制圧する。そのためにやらねばならないことは多い。
少しでも時間を稼ぐために電信機から伸びるケーブルを切り裂き、部隊間の通信を遮断して、暗殺者――アリシアは振り返る。
相棒のマリアに武装を持たせ、此処からは正面戦闘も視野に活動せねばならない。
鎧と機関砲を用意してマリアを呼べば、彼女はアリシアの下へと駆けてくる。
その口には数枚の書類。受け取って繋ぎ合わせてみれば、それはこの指揮官が監督していた区画における戦力の配置状況を記した塹壕の地図であった。
「これは……お手柄ですよマリア。これがあれば制圧がいくらかやりやすくなるでしょう」
マリアの頭を撫で、アリシアはお手柄の相棒へと武器を纏わせる。
地形と配置、両方がわかっていれば奇襲で各個撃破することなど易い。
迅速に、大胆に、それでいて音もなく慎重に。暗殺者はその本分を果たすべく、指揮所をするりと抜け出してゆく。
「こんな急な遭遇戦になるだなんて聞いてませんよ!?」
対空砲火の華が咲く空に、ひかるの悲鳴が木霊した。
ひるひると甲高い金切り声を上げて飛来した砲弾から逃げるように飛び込んだ塹壕。そこには当然ながら先客がいた。
これが味方で、いやあさっきの砲撃は近かったですね、お互い無事で何より、などと談笑して別れられるならば良かったが、生憎この塹壕内で鉢合わせるのは八割五分で敵か、あるいは味方ではない敵の敵か。
ひかるが出会った鉄帽に防毒面の軍勢は、小柄な少女の姿を認めると間髪入れずに手にした短機関銃やトレンチガンの銃口を突きつけ、有無を言わさず引き金を引き絞った。
彼らにしてもいきなり後方から見知らぬ少女が飛び込んできたのだ、もう少し困惑があってもよいようにも思えたが、しかしひかるの服装が悪かった。
額に一角、白と紅の巫女装束。彼らが今まさに砲火を交える大日本帝国のユーベルコヲド使いとひと目で分かる姿は、ただでさえ彼岸桜の呪縛で友軍以外に敵対的な彼らの引き金を極限まで軽くしたのだ。
大慌てで泥濘み汚れた塹壕の底を転がり、積み上げられた兵士たちのための食料や毛布を詰め込んだ木箱を盾に取ってその陰に滑り込むひかる。
遠慮も容赦もない弾丸は箱の中の毛布に穴を開け、缶詰の中身を地面にぶちまけるがそれに彼らは構いはしない。
既に死んだ身、冷えた身体を暖める必要も、食事で栄養を取る必要もない。それより何より、憎き東洋の侵略軍の手先を討ち取るべし。
『クルツ、ケッセル、一緒に来い! トレンチガンを俺にも寄越せ、回り込んで仕留める! 残りは此処から援護射撃!』
『Ja! 分隊長、お気をつけて!』
そして迷路のような塹壕での立ち回りは、此処に縛られ幾年月もの間戦い続けた彼らのほうが上手。
拳銃と散弾銃で武装した三人組が迂回路を使って挟撃を試みている事を、ひかるは気づいていても阻止できない。
止めようと顔を出せばたちまち短機関銃の弾幕が噴火のように噴き付けるのだ。
万事休す、ひかるは初手にして最後の手段を取るべきかと身構える。
本来であれば他にこの区画に突入した猟兵が居ないか確認し、彼らに加護を与えてから放つべき水霊による水攻め。突然の濁流であれば、如何に訓練され武装した軍人と言えど太刀打ちできまい。
だがそれは猟兵にも同じこと。ひかる以外の猟兵達もまた、不意の濁流に反応できなければ相応の損害を強いられよう。
「どうしよう……やらなきゃやられてしまいますけど……」
逡巡する間にも分隊長率いる別働隊は刻一刻とひかるを仕留めるべく迫ってくる。
そこに、短機関銃のそれよりいくらか重く響く連続した銃声が轟いた。
「マリア、そのまま射撃を続けてください! 軍用犬は居たでしょうが、火器を駆使する獣は見たことがないでしょう!」
そっと顔を出せば、分厚い牽制射撃を展開していた兵士たちが機関砲を背負った狼に薙ぎ払われていた。運良く地面のくぼみや遮蔽物の陰に逃れた兵士も、突然切り裂かれたように血飛沫を散らして動かなくなる。
と同時、別働隊がひかるの背後の横道から飛び出した。
――短機関銃の牽制があれば、身動きの取れなかったひかるを仕留めるに困難はなかっただろう。
トレンチガンを適当に撃ちまくれば、散弾が狭い塹壕を隙間なく制圧してくれる。
だが今、ひかるは自由を取り戻した。分隊長へ駆け寄り銃口の下を潜り抜け、懐から取り出した二丁の精霊拳銃を兵士たちの顎先に突きつける。
「ごめんなさい、加減はできませんっ」
瞬時にひかるに反応し、拳銃を突きつけた右のクルツには引き金を引く前にその身を封じるために氷霊の宿る冷凍弾を。
やや対応が遅れ、トレンチナイフを引き抜こうとする左のケッセルにはその動きを阻害し武器を取らせぬために電霊の宿る電撃弾を。
二つの銃声がふたりの兵士を封じ込め、そしてトレンチガンのを投げ捨てスコップを振りかざした分隊長へは二丁の銃でそれを受け止め――
「私たちはこのような戦いが無用な世の中を作らねばいけません」
とす、と突き立てられた刃が分隊長の身体から赤い血とともに力を抜き取ってゆく。
「お怪我はありませんか、ひかるさん?」
分隊長の亡骸から短剣を抜き取り、血糊を払ってアリシアが問う。
「は、はいっ。おかげさまで助かりました……あっ、そうだ。この辺りで他に猟兵の皆を見かけませんでしたか?」
ひかるの問いにアリシアは首を横に振る。
一番乗りはこの二人ということか、それとも他の皆は別の区画に攻め込んでいるのか。ともあれ他に猟兵の姿を認めてはいない。
「だったら……この区画ごと敵を押し流します!」
アリシアとマリア、そしてひかるを包む水霊の加護。間髪おかずに虚空から勢いよく噴出した水流が塹壕を満たし流れてゆく。
「これは……すごいですね。そうだひかるさん、これって制御できたりしますか?」
「えっ? はい、精霊さんにお願いすれば流れを操るくらいはできますけど……」
だったら、とアリシアは懐から地図を取り出した。
狙うは敵への最大限の損害。そして、味方の進行ルートを塞がぬよう管理された洪水だ。
――そして、塹壕線の一区画が完全に戦闘能力を喪失したのはそれから数分と絶たぬうちだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御狐・稲見之守
……やれやれ、文明が進んだ先にある戦というのは恐ろしいものよ。尋常でない死に溢れている、これでは地獄絵の説法も生ぬるい。
[UC傀儡符][式神使い]無理やり戦わされているところを悪いが、戦場で力尽きている数多の兵達にはこの『戦争ごっこ』を終わらせるための『戦争』に力を貸してもらおう――汝ら、命保つが如くその身我に随すべし。
そうして兵達を揃えて塹壕制圧を命令、倒した兵達もまた我が兵列に加えて前へ、前へ。体を失って惑う魂も我とともに……その体その魂を泥に沈めたまま置き去りになどしないさ。
さあ、前へ、前へ。
シャルロット・クリスティア
血と硝煙に満ちた空間。泥沼ですね……。
ダークセイヴァーも物騒には違いありませんが、ここまでの大規模な戦場は向こうには余程ありませんよ。
入り組んだ塹壕内での戦闘。
自然と戦闘は狭所かつ近距離での戦いになる……長距離狙撃は採れませんね。
であるならば、ポイズンボールによる毒煙幕が効いてくる。こちらを巻き込まないようにさえすれば、敵に煙から逃げる術はない。
敵の視界を潰し、動きを鈍らせ、混乱させる。
完全に見えなくなることは無い、敵の目を欺きつつ、こちらからは狙える。
少しの間なら呼吸さえ止めておけばこちらは影響ありませんしね。
あとは……混乱に乗じて撃ち抜いて数を減らすだけ。
密やかに、闇に紛れ殺らせて頂く。
●
「やれやれ、文明が進んだ先にある戦というのは恐ろしいものよ」
泥濘に沈んでゆく命。一発の砲弾によって一山幾らで撒き散らされる死。
五体満足な死体のほうが珍しく、ヒトガタを保って死ねれば幸運とまで言っていいだろう。
近代欧州、そこはかつての皇国の民が夢想した地獄のそれより遥かに凄惨であった。
「尋常でない死に溢れておる。いつぞや見た地獄絵の説法が生ぬるく思えるのう」
とん、と塹壕に降り立った軍装の稲荷神は、幸いにして五体を留めた死せる兵士たち――どういうわけか軍服はぐっしょりと湿り、彼らは溺死したようである――に視線を向けて憐れむようにほうと一息。
「無理やりに戦わされておるところを悪いが、この下らぬ戦争ごっこを終わらせるための"戦争"に力を貸してもらおう――汝ら、命保つが如くその身我に随すべし」
まるで桜花の花片が如く護符が舞い、死せる兵士に張り付いた。
然る後に彼らは三度仮初の命を取り戻す。
永遠の戦争を繰り返す兵士ではなく、それを終わらせるための軍勢として。
「さぁ、汝らの同胞を解放しにゆこう。全軍前へ、さぁ前へ」
神の――稲見之守の命令に寡黙に従い、死者の兵団は迷宮の如き塹壕の中を突き進む。
「ダークセイヴァーも物騒には違いありませんが……」
シャルロットは故郷を想って、目の前に広がる地獄と比べる。
ダークセイヴァーが強大にして無慈悲な吸血鬼による気まぐれで一方的な蹂躙であるなら、眼前の戦争は正しく戦争であろう。敵も味方も殺し殺され、等しく平等に両者の頭上から死は降り注ぐ。
双方が流血し、漂う硝煙も常夜のあの世界の比ではない。もし故郷で銃が進歩し、それが普及したならこの地獄は向こうの世界にも侵蝕してくるのだろうか。
異世界で得た高度な銃器をも扱う銃士として、シャルロットは微かな不安を覚えざるを得ない。
「……いえ、でも今はダークセイヴァーの心配より眼の前の敵、ですね」
曲がりくねった塹壕線、彼女得意の長距離狙撃を試みるには些かに狭く、脇道や外を通って突然近くに敵兵が降って湧かぬとも限らない以上は接近戦が妥当であろう。
であれば。切り詰めた散弾銃を抜き、それを今回の武器と定めたシャルロット。取り回しがよく、狙いが多少乱雑でも命中率の高いソードオフ・ショットガンをメインアームに据えて、あとは危険な曲がり角を制圧するためのグレネードの代わりに毒ガスを込めたガラス玉をいつでも取り出せるよう用意しておく。
「問題は……」
そこらに転がる敵兵の死骸は等しく全員が防毒面をかぶっていること、か。
毒ガスを毒ガスとして使うことは難しかろう。あくまで煙幕と割り切るが、そこに己が切り込めぬことは重々に考慮せねばならぬ。
それでも無いよりはマシだと――訓練を積んだ職業軍人達を相手取るに、搦め手は必要だとシャルロットは判断して、塹壕の中を駆け出した。
『どういうことだ! 第4掩蔽壕の連中こっちを撃ってくるぞ!!』
迷路のような塹壕を、進む、進む、進む。
敵陣に辿り着くために、砲弾を躱すために、突撃を殺すために。ジグザグに縦横に無軌道に掘り抜かれた狭く深い大地の溝を、死者の兵団が損害を無視するがごとくざっくざっくと足並み揃えて行進する。
『だめだ、こっちの弾がまるで効いちゃいない! 何なんだ一体! だれか対戦車猟兵を呼んでこい! 誰か! もう誰も残っちゃいないっていうのか!?』
稲見之守独りであれば迷ったかもしれぬ、自然発生的に、しかし必要に応じて迷宮化したこの要害は、死体に宿る記憶が、霊魂に刻まれた想いが道案内をするが如く迷いなく進むことでほとんどその用をなさなくなっていた。
ざっく、ざっく、ざっく。泥を踏み固めて兵士たちは進む。
『お、おい……おまえ、フランツだろ……? おれだよ、ヨシュアだ。なあ、その銃を降ろ――』
未だに彼岸桜に縛られ、命を錯覚し戦争を続けんとする同胞を見れば手にした銃器で撃ち殺して解き放つ。
「お前も我が兵に加わるがよい。大丈夫、その身その魂を泥に沈めて置き去りになどしないさ」
優しく呼びかける小さな神――彼らが敵対していたはずの東洋のそれの言葉に、死して敵味方を強いられる呪いから一時的に解放された彼らは至極素直に従った。
ざっく、ざっく、ざっく。足並み揃えて兵団は突き進む。この区画に縛られ、戦争を演じ続ける友軍同胞を救うために。
『定時連絡が来ない。何か問題が発生したか、帝国の連中が塹壕内に侵入したか――詳細は不明だが、万が一に備える必要がある』
塹壕内の各所に展開し、機関銃や対空砲で敵軍を抑えていたはずの各部隊。この第3掩蔽壕に配置された彼らは、砲弾の残量や損害の有無などを報告し、司令部で待機する交代要員と入れ替わることで休息を取る――そんなサイクルを組んでいた。
だが、来るはずの定時連絡要員が来ない。司令部壕ではこの異常事態に指揮官が眉根に皺を寄せ、本来交代要員だった者たちで偵察隊を編成している最中であった。
まさか連絡を絶った部隊がまるごと死者の兵団と化して同胞を襲っているとは思わぬのは、あくまで地に足のついた軍人である彼らを責められることではないだろう。
かくて彼らは極めて理性的に偵察隊を送り出す。
しかし。
『がっ!』
『誰だ、貴さ――ぐぁっ!!』
司令部壕を出た兵士たちの悲鳴。よもや敵がこの司令部壕まで迫ってきたか。異常事態を知らせるべく、指揮官は部下に入り口の防御を固めるように命じて電信機を引っ掴む。
『こちら第3掩蔽壕、敵の奇襲攻撃を受けた! 麾下部隊との通信は途絶、当区画は壊滅したものと認む! 至急増援を送られたし!』
『こちら戦線司令部、了解した。しかし隣接の第4掩蔽壕との連絡が途絶しているため、そこから部隊を回すことが出来ない。到着には時間がかかる、それまでは独力で対処せよ。――第3掩蔽壕司令部、どうした? 応答せよ、第3掩蔽壕司令部!』
戦線司令部からの声が狭い司令部壕に反響する。受話器はだらりと空に投げ出され、それを掴んでいた指揮官はゲホゲホと荒く浅い息を吐きながら卓上に投げ出された短機関銃をひったくる。
防毒面を辛うじて装着した指揮官は、ようやく酸素を吸い込むことを許された肺に黴臭い空気を吸い込んで、目に滲んだ涙を拭おうと――レンズに遮られてそれはかなわなかったが――袖を目許に当てる。
その時だ。
マントを口元にまで巻いた蒼い少女が司令部壕に転がり込み、散弾銃を二連射。
投げ込まれたガラス玉から漏れた毒煙幕に混乱する守備兵をたちまちのうちに制圧してのけたのだ。
「密室ならば煙幕としての効果も見込めますし、どうやらガスマスクも間に合わなかったようですね」
素顔を晒したまま息絶えた守備兵の亡骸を踏み越え室内に侵入したシャルロットへと、煙幕の中から迫る影。
二発の銃声に敵の侵入を察知した指揮官が、短機関銃の銃床を棍棒のように振りかざして襲いかかる。
成人男性とうら若い少女では膂力が違う。身体の頑丈さも違うだろう。
当たりどころによってはヒトを死に至らしめるなど容易な銃床格闘術、自ら散布した煙幕によって作られた死角を利用して襲われればひとたまりもあるまい。
――未熟、とほくそ笑んだ指揮官は、しかし驚愕する。
少女は散弾銃を素早く放り、巨大な銃剣を"鞘"から引き抜き指揮官を一閃。
斬られた男は奔る激痛と傷口から染み込む毒に呻きながら飛び退り、銃口を少女に向けて引き金を引く。
重たい銃声が一つ。同時に軽く連続した銃声が三十と二発。
胸に風穴を開けた指揮官がゆらりと仰向けに倒れ、その手に握られた短機関銃は司令部壕の設備を撃ち抜きながらシャルロットの傍らを舐めて縦に弾痕の列を刻む。
最後に吊り下げられた裸電球が射抜かれ割れると、毒に満ちた地下の暗闇から少女は密やかに姿を消した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱酉・逢真
ったく、いつまでドンパチやってんだい。とっくにてめぇらは死んでんだ。さっさと彼岸に渡りな! でなきゃケツをぶっ叩くぜ!
(眷属《獣・鳥》を盾にして攻撃を避けつつ)聞く耳持たねえと。じゃあ仕様がねえ。
来なルキ坊。嫌そォな顔するんじゃねえわ。いま読書中だってぇ? 仕事終わりゃすぐ帰してやんよ。
俺ぁデケェ《虫》に乗って空に退避。ルキ坊に大地震を引き起こしてもらわぁよ。ああ、結界で放棄領域の外にゃ伝わらんようにすっからご安心だ。
塹壕ってなァ地面に掘るもんだろう。墓穴がわりにゃちょうどいいさ。そのまんま埋まって地の底に行きな。冥府が待ってンぜ。
宇迦野・兵十
いやだいやだ
國の為、人の為、何かの為に死んだ命の果てが
こんな所なんて良い訳ないだろうに
―【三類業】で防御を重視、鈍刀を片手に塹壕を進む
塹壕の中、狭い中での乱稚気騒ぎなんて手慣れたもの
お前さん達はそう思わないかい?
―現れた兵士に【コミュ力】で語りかけるように呟き
地形を、そこから動く敵を【見切り】
名は知らない、でも忘れない
僕の出来る事なんてそれぐらいなもんだけど
―攻撃を【早業/武器受け/残像】で捌き
一人一人【早技/暗殺/破魔】で斬り捨て
お前さん達の話はきっと僕が誰かに伝えるよ
いつかその話がお前さん達の故郷に届くように
だからおやすみ
もうあの徒花の下で咲かなくていいさ
[アドリブ諸々お任せします]
●
『我らの任務は襲撃を受けた第3、第4掩蔽壕の救援である! 敵は短時間で二つもの防衛区画を陥落せしめた存在だ、充分に注意して事に当たれ!』
『Ja! 隊長、万一接敵した場合は!』
『ヤパーニッシュどものルフトカンプ・サムライと同じとして対処せよ! 対戦車兵装の使用を許可する!』
猟兵の襲撃によって沈黙した友軍を救出するべく、重武装を携えて塹壕を駆ける兵士たち。
その進みを呼び止める声がある。それを発したのは、今しがた通り過ぎた脇道からふらりと現れた男。
「いやだいやだ。國のため、人のため、何かの為に死んだ命の果てがこんな所なんて良い訳ないだろうに」
はぁ、と煙管で吸い込んだ煙を吐き出して、着流し姿の男――兵十はそっと鈍ら刀を手にとった。
「お前さん達はそう思わないかい?」
十年来の友に呼びかけるように、極めて気楽に親しげに引き止めたその男は、極自然な振る舞いに却って困惑する兵士達のうち、最も近くそして迅速に自動小銃の安全装置を外した兵を目掛けて鈍らを一閃。
ごぎ、となにかが砕ける音とともに、兵士はくずおれ倒れ伏す。
『……敵襲! 総員射撃開始、対戦者猟兵は対戦車榴弾を用意!』
「おいおい、対戦車だなんて。人様に向けるもんじゃないだろう?」
へらりと笑って、切り札を発射するまでの時間稼ぎにばらまかれる弾丸を目にも留まらぬ神速で切り抜け躱せぬとあらば潰れた刃で弾き飛ばして受け流し、兵十はひとりひとりの防毒面から覗く目を見つめてゆく。
「お前さん達の名は知らない」
『撃て、撃て! 仕留めろ、これ以上近づけるな!』
弾幕を張る兵士たちの後ろでは、対戦車猟兵が榴弾発射機の組み立てを終えつつあった。
あれが撃ち出され爆発すれば、二本の足で駆ける生き物に狭い塹壕で逃げられる場は無いだろう。
「でもね、その目は忘れない。僕の出来ることなんてそれぐらいなもんだけど」
青い目。緑の目。茶色の目、灰色の目、はしばみ色の目。
そのどれもが故郷のために必死で戦った英雄の目だ。きっと彼らの戦いは報われず、彼らの故郷はいまや帝都の御旗を掲げているのだろう。けれど、その戦いが無為であったとは言わせない。
「お前さん達の話はきっと僕が誰かに伝えよう」
勇敢な兵士たちの最期の話を。故郷の誰か、彼らのことを知る人のもとに届きますように。
瞬時の早業で、しかしその一人ひとりをしかと記憶するように丁寧に振るわれた三重の斬打が三人の兵士をさらに切り伏せる。
だが――ついに対戦車猟兵がその得物を組み上げ、倒れて呻く仲間もろともに兵十を捉えた。
そして打たれ転がる兵士もまた、どうせ死するならばと兵十の足首をがしりと掴む。
「っ……そうかい、お前さん達がそう望むなら……いいさ、僕も一緒に居てやろう」
しゅぼ、と気の抜けるような発射音。目の眩むような噴射炎の光。
そして戦車をも一撃で破壊する強烈な爆炎が塹壕を飲み込んだ。
「……おかしいね、てっきり僕も死んだものだと思ったんだけれども」
目を開けた兵十が見たのは、焼け焦げばたばたと落ちてゆく無数のフッケバイン。
鴉たちの齎す凶兆は果たして誰のものか。
爆風の直撃を受けた兵士たちは火傷や破片による裂傷を受けながらも銃を手に取り、まだ闘志衰えぬと兵十を――そして空に現れたもうひとりを睨みつける。
「ったく、いつまでドンパチやってんだい。とっくにてめぇらは死んでんだ、さっさと彼岸に渡りな! でなきゃケツをぶっ叩くぜ!」
対空砲の火線が彩る空に羽ばたく巨大な毒雀蜂。その背に乗って戦場を見下ろす逢真は、じろりとその赤い瞳を兵十にも向けた。
「お前さんもお前さんだぜ。死人に優しくしすぎちゃいけねぇ。一緒くたに引きずり込まれちまうぞ」
「いやぁ、わかっちゃ居るんだけどねえ。あんな徒花の下で無理に咲かされてる命を見捨てるのも気分が悪いもんだろう」
苦笑する兵十に物好きなやつだと顔を顰め、それはそうとこの場を預かった、と逢真は黒い牝馬を差し向ける。只者ではない隆々たる巨体の馬は、牙の生え揃ったその口で兵十の襟首を加えてひょいと背に乗せ塹壕から飛び出した。
すぐさま敵陣地――帝国軍の塹壕線だ――から機関銃の掃射が迫るが、黒馬はそれを物ともせずに駆けてゆく。
「あの趣味の悪い紅桜を切り倒すンなら先に行ってな。こいつらは俺が責任持って冥府に還して行くからよ」
雀蜂がぶぶぶと唸って機敏に舞えば、兵士たちの小銃が放った弾丸が空を裂く。
「そっちのてめぇらは言うことを聞く気はなさそうだな。じゃあしようがねえ」
――来な、ルキ坊。
逢真の呼びかけに応えるように――否、呼び出した存在が顕現できるように逢真がそうしているのだが――その名の通りの逢魔が時の如く暗く光が遮られる。
「あ? 嫌そォな顔するんじゃねえわ。いま読書中だってぇ? こちとらルキ坊の為にお日さん翳らせてんだ、終わりゃすぐ帰してやっからちっと来い」
逢真の強引な説得に渋々と引きずり出されたのは、やはり嫌そうな顔のままの悪魔であった。
眼下の兵士たちを見下ろした彼は、それが敵であることを判断するやすぐさまその権能を行使して敵を葬る事を選ぶ。
――ぐらりと地面が揺れた。小さな振動はやがて立っていられぬほどの激しさとなり、転んだ兵士の上に積み上げられた物資の山が崩れ掛かる。
それだけではない。至近に落ちた砲弾の破裂にも耐えるはずの補強された塹壕に亀裂が入り、補強として打ち付けられた木板を留める釘が弾け飛ぶ。
「てめぇらが丹念に掘り固めた立派な塹壕だ。墓穴代わりにゃ丁度いいさ。そのまま埋まりな、冥府が待ってンぜ」
――塹壕が崩れる。敵を迎え撃ち、兵士の命を守るはずの強固な防衛設備は、そっくりそのまま兵士たちの眠る墓場となってゆく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
チトセ・シロガネ
オゥ!降り立ってみれば弾丸飛び交う豪勢なパーティー!
テンション上がるネェ!
ん、お前の所属と作戦目的だって?
ボクはチトセ、ただの賞金稼ぎ!
そしてユーたちの死神となる女さ!
9㎜や7.92㎜の弾幕の嵐の中に興奮を覚えつつ、第六感と早業で弾丸の密度を図り、空中浮遊で大きく回って回避。
その間に念動力を込めてUC【蒼ノ躯体】を発動し『蒼穹』を展開、大きな翼で自身を覆い、オーラ防御で弾幕を防ぐ。
砂煙の中、兵士の1人が「やったか!?」と言えば……
蒼い翼のような刃が死神の鎌の如く振り回される。
属性攻撃の稲妻の刃で兵士を武器ごと一刀両断!
鎧砕きで戦車も豆腐の如く切り裂かれる!
そのセリフはタブーってやつネ!
エルデラント・ズィーマ
純粋な戦闘とあらば迎え撃つとしましょう。まずは大まかな敵勢力を確認、把握します。それまでの攻撃に対しては武装の副腕で防御しつつ、移動を続けることで少しでも被弾を避けましょう。ええ、問題はありません。痛みだけはありませんので
しかし弾幕を展開されてる上に集団となりますと一度こちらも範囲攻撃を仕掛ける必要がありますね。物陰があればそちらへ、無かった場合は跳躍しましょう。そこからユーベルコード発動、副腕で思い切り地面を叩きつけます。強力な地震の上では人は立つことが困難な計算です
動きを封じた後はアームを使い一体ずつ胸を串刺しにして処分していきましょう
●
次々と兵士たちの守る塹壕を制圧し、前進を続ける猟兵たち。
あるものは激流に押し流され、あるものは刃に倒れ、あるものは同胞だったものに撃ち抜かれ、あるものは毒霧の中で凶弾に斃れ、あるものは強かに打ち倒され、あるものは生きたまま土中に葬られた。
僅かな間に防衛線は壊乱し、組織的な抵抗力を保てるのはもはや前線総司令部として誂えられた堅固なバンカーと其処に立てこもる一握りの部隊のみ。
繰り返される永劫の戦争の中で、彼らが此処まで一方的に、そして壊滅的な損害を被ったことはこれまでなかった。これが猟兵、これが超弩級戦力の為せる業。
「敵は二個小隊規模、奥にはまだいくらか予備戦力を温存しているようですね」
エルデラントはヒトガタを模した機械骨格に手足を通し、肩から伸びた一対の副腕と尾のように靡く三本目の腕を駆使してバンカーを守る兵士たちが据え付けた機関銃の電動ノコギリのような唸りとともに吐き出される弾丸を弾き飛ばす。
金属同士がぶつかり合い、火花が散って視界を明滅させるが、それだけだ。サイボーグである彼女にとって、八十年は昔の機関銃などいくら基本構造が優秀であろうと致命傷を与えるには力不足。その上弾けて欠けた弾丸の破片が頬を掠めて傷をつけようと、痛みを感じぬ彼女は怯まない。
「これだけの攻撃が有効打足り得ていないというのに増援を出さないのですか。いえ……出せない、ということは」
目の前のベトンで固められた壕こそが敵軍の思考中枢であり、眼前の彼らが全滅してでも護らねばならない総司令官が護衛とともに立て籠もっているのだろう。
「戦力評価は終了しました。ええ、そういうことでしたら一気呵成に陥落させてしまいましょう」
全体の頭を潰してしまえば近代軍など盲目も同然。放置して彼岸桜へ強攻を掛けようと、彼らはもう脅威にはならないだろう。
効率よく逢魔が辻を制圧するために。あるいは囚われ戦いを強いられ続ける彼らを出来る限り戦わせぬまま冥府に帰すために。効率を重んじる機械の思考がためであろうが、しかし他者から見れば英霊への敬意と慈悲を宿した判断を下して、エルデラントは行動に移る。
翡翠色の鋼靴がぬめる泥濘を踏みしめ、茶灰色の飛沫を散らして蹴り飛ばす。
疾駆である。相対速度が増せば弾丸もまた威力を増して副腕の装甲に食い込むが、痛覚を持たないエルデラントはそれで止まらぬ。速度も緩めぬ。
『Scheiße! なんなんだ、まるで止まらないぞ!』
「申し訳ありませんが――ええ、ワタシに痛みはありませんので」
壊れるまで止まらない。しかし彼女を壊すには対戦車火砲が必要であろう。
つまり彼らでは力及ばぬ。それでも機関銃手は銃把から決して手を離さず、装填手も決して手を止めることをしない。
長い永い戦いの日々が彼らを死すら受け入れた"兵士"へと鍛え上げたのだ。
「塹壕内に障害物はなし。目標までは一本道、駆け抜けやすいのは利点ですが身を隠せる遮蔽がないのは同時に難点ですね」
故にエルデラントは跳んだ。両の脚で土を蹴飛ばし、高らかに。
機関銃が仰角を取るが追いつけぬ。咄嗟に装填手や部隊長らがスリングで提げた短機関銃を構え弾幕を張るが、機関銃より威力に劣るそれでエルデラントを止められようはずもない。
「対地攻撃を展開」
空中でくるりと身を翻したエルデラントが、副腕の拳を握り固めて地へ飛び込む。
大地に向けて落下の勢いを乗せた打撃。兵士たちを狙い、しかし必死の抵抗によって外れた――否。打撃は地を揺らし、兵士たちの足元を不確かにするばかりか据え付けられた機関銃をも激しく揺さぶり照準を不可能にする。
『う、狼狽えるな! 地震ごとき――』
誰かが兵士を立ち直らせようと声を上げたが、その言葉は続かなかった。
エルデラントの尾が、その先に生えた爪が、兵士の胸を深々と抉り取る。
続いて機関銃手を仕留め、両の副腕をも用いて近い兵士から致命傷を与え可能な限り一瞬で、一撃で命を奪ってゆく。
「このペースであれば、バンカー内部の制圧も――」
返り血に染まったエルデラントがバンカーの頑強な鉄扉に目を遣ったその時だ。
『Sieg Heil Viktoria…………!』
たった今胸を貫かれた兵士が嗤う。自身の死を齎した鋼の腕に抱きつくように倒れ込み、組み付いた彼の手から転げ落ちるは柄付きの手榴弾。
「――!!」
雷轟のような爆発音が戦場を駆け抜けた。
「フー、間一髪ネ!」
――爆発は果たして、エルデラントの鋼の四肢を吹き飛ばしはしなかった。
あの爆発とほぼ同時、電信回線を辿り此処へ現れたチトセが光の如き素早さで手榴弾の柄を蹴飛ばしたのだ。
くるくると回転しながら弾き飛ばされた手榴弾はバンカーの鉄扉に当たって爆ぜ、分厚いそれをわずかに歪ませ隙間を開けた。
「降り立ってみれば弾丸飛び交う豪勢なパーティ! テンション上がるネェ!」
ふふん、と鼻歌交じりに残党をフォースセイバーで薙ぎ払い、しかし此処に至るまでに接敵した部隊ほどの抵抗力が残っていなかったことにウーン、と不完全燃焼の素振りを見せたチトセ。
「でしたらバンカー内の掃討をお任せしてもよいでしょうか。奪還部隊が来ないとも限りません。彼らの敵軍が到来する可能性もあるでしょう。制圧と防衛、同時にこなす必要があると判断しました」
エルデラントがそう提案すれば、チトセもぽん、と手を打って笑みで応える。
「オーケー、じゃあそういうコトで。任されたネ!!」
青色のマフラーを腕のように、歪んだ鉄扉の片側に引っ掛けるチトセ。
もう片側をエルデラントの尾が掴み、二人は同時に鉄扉を抉じ開けすぐさまその正面から飛び退る。
『撃ち殺せ!! 中に決して踏み込ませるな!!』
二人が飛び退いた後の何も居ない空間を弾丸の嵐が吹き抜ける。
侵入者を仕留めるべく万全の構えで布陣された機関銃。そしてその傍らに立つ兵士たちの短機関銃に、本来は戦闘要員ではないのだろう、泥汚れの少ない上等の軍服を纏った将校らの拳銃までもが弾幕を形成する。だがその初撃を躱した二人は――そして内部制圧を請け負ったチトセは、来ると分かっているただの銃弾に斃れるような未熟ではない。
弾幕の厚い、薄いを瞬時に見極めその間をすり抜けて距離を詰めた彼女は、敵陣のド真ん中へと飛び込んだ。
『馬鹿め……撃て!!』
機関銃は確かに振り返るのに時間がかかろうが、手持ちの短機関銃や拳銃はそのような制約はない。
ほくそ笑んだ将校が命じ、チトセ目掛けて弾丸が四方八方から叩きつけられる。
外れ弾が床を削り、壁で弾け、天井を砕いて埃を巻き上げる。
ただでさえ砂が吹き込み埃っぽいバンカーだ、瞬く間に立ち込めた砂塵にチトセの姿は消えてゆく。
機械人形の如きもうひとりとは違う、明らかに生身の女一人。
回避の余地ももはやない、あれだけの弾丸の一斉射撃を浴びたのだ。生きてはいまい。
『やった! やったか!!』
戦闘慣れしていない将校が歓声を上げ、部隊を指揮する熟練の下士官は部下に警戒を解かぬようん手信号を送る。
その時だ。砂煙を切り裂いて振り抜かれた蒼い刃が、将校と彼を守ろうとした数名の兵士をまとめて真二つに両断してのけた。
「ダメだヨ、戦場でそのセリフはタブーっってやつネ!」
そして砂煙からチトセは無傷で現れる。マフラーを翼のように広げ、それで身を覆い隠して弾丸に耐えた彼女は、手にした星雲の如く輝く刃で兵士たちを切り捨ててゆく。
『…………もはやこれまで、か。幾度目の敗戦かな』
「さあネ。でも一つだけボクらにわかるのは――」
これで最後ってコトさ。
防毒面のレンズ越しに、力なく――しかし安堵したように笑う下士官の首を、その刃はすらりと撫でた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『大日本帝国陸軍八〇式『柳月』』
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POW : 死スル覺悟デ進ムベシ
【飛翔の勢いに乗って振るわれる軍刀 】が命中した対象を切断する。
SPD : 敵撃摧ト舞イ降ル
【手榴弾による爆撃 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【小銃狙撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ : 御世ノ栄ヲ祝ギ奉ル
対象の攻撃を軽減する【決死の突撃体勢 】に変身しつつ、【銃から拳に至るまで死力の限り】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:柿坂八鹿
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
塹壕を制圧した猟兵たちだが、彼岸桜はこの軍が押さえていた塹壕の更に反対側、"敵軍"の陣地奥深くに聳えている。
敢えて触らずに残しておいた陣地の兵士たちが未だに戦争を続けているおかげで"敵軍"の戦力がすべて猟兵に傾いているわけではないが、司令部を喪失し連携を欠いた兵士たちが総崩れしてしまうのも時間の問題のように思われた。
つまりは背後に影朧の軍勢を残したまま、堅固な守りを固めるもう一つの軍勢に突撃を掛ける。これが猟兵達に示された事態解決への最短の案であったのだ。
事此処に至っては丁寧な掃討戦をしていればその間に敵軍がこちらに進出し、彼岸桜に近づくどころではなくなってしまうだろうからには、もはや最短を駆け抜ける以外に策も無いだろう。
猟兵達が塹壕の縁に手をかけ、その身を戦場の荒野に踊り出させたその瞬間、頭上でプロペラの唸る音が鳴り響く。
見上げた者は見た。空を駆ける武者の姿を。
振り返るものは見た。つい先程まで猟兵達も戦っていたあの塹壕に無数の手榴弾が投下され、溝に沿うように幾多の爆発が土砂を天高く巻き上げるのを。
『大隊長より編隊各騎。独助の防衛線は破壊した。各自散会して残敵の掃討に務めよ』
『了解! 陛下の御為に!』
ぶぅん、と身体を傾け塹壕内に降り立ち、手にした軍刀で敗残の兵を斬り伏せてゆく鎧武者。
そのうちの一隊が猟兵達の方へと向かってくる。
『――我、眼前に敵兵を認む。いざ尋常に……参る!』
敵は帝都が誇る天駆ける武者。それも戦乱の時代を生きた最精鋭。
彼らの襲撃を切り抜け、猟兵達は彼岸桜の聳える戦場の反対側へと駆け抜ける。
朱酉・逢真
空なら優位を取れると思ったのかい、隊長サン。銃弾プロペラ手榴弾、その他もろもろ破片まで。みぃんな立派な無機物だろう。ならばよ、こいつの出番だなぁ。
来い、サールウァ。吹き散らせ。猛毒の大嵐だ。レベルメートル半径内の無機物を代償に呼び起こせば、不浄の風は健常な大気を巻き込んで、大きく広がっていくものさ。ああ、ちょうど夏だなぁ。台風のシーズンだ。屋根をはがしヘリを落とし街灯をへし折り毒に溶かそう。封鎖されてンだろ、ここはさ。なら根こそぎ腐らせちまってもかまうめぇ。ああ、猟兵サンにゃ被害及ばんよう、個個に結界張っとくよぅ。俺ァ真ん中の無風地帯。台風の目で、眷属盾にしつつ結界の維持さ。気張りなぁサル坊。
エルデラント・ズィーマ
次の相手は戦闘機モデルの機械兵ですか。飛行出来るのは此方にない利点ですね
尾部アームを展開、エネルギーを充填させます。手榴弾による爆撃は副腕にブラスターを持たせ空中で爆破を狙います。生身の腕ではない分、反動による身体の負担も最小で済むでしょう
エネルギーが集まりましたらアームを私の頭上へ移動、敵集団の中に発射、炸裂させます
ブラスターを一度捨ててから地上へ落ちた部隊へUCの追撃を用いて叩き込みます。武装の損壊は頭部を除く70%まで許容、ゴリ押しです
●
「次の相手は戦闘機モデルの機械兵ですか」
我が物顔で空を支配する武者の一団を見上げてエルデラントは彼我の戦力差を思う。
制空権を掌握された以上、こちらが不利を強いられるのは間違いなかろう。であるならば何処まで被害を押さえて進軍するか。あるいは塹壕線に用意された対空陣地で防御を固め、遠距離攻撃でまず数を減らすのもよいだろう。ベトンで補強された陣地であれば、直撃さえなければ幾分か耐えることも出来そうである。
「味方の支援も考慮すると、まずは制空権の奪還を優先するべきでしょうか」
エルデラントであれば装甲と速度を頼みに武者の攻撃を掻い潜り敵陣に切り込む事も可能であろう。
だがただ一人辿り着いたとてその先が続くかどうか。一人でも多くが彼岸桜の根本に辿り着く事を考えれば、塹壕から顔を出した途端に小銃で狙撃してくる頭上の暴君を叩き落とすほうが効率的に思えた。
「そういうことですので退避を推奨しますが?」
対空陣地を占拠するべく塹壕を走るエルデラントに、爆撃を浴びてボロボロになった兵士たちが立ちはだかる。
だがその銃撃のことごとくを弾き返し、両の副腕で押しのけて、対空陣地に立てこもる兵士たちを放り出してエルデラントは改めて空を見上げた。円形のトーチカの天井を切り取ったような陣地は、その主として存在感を示す対空砲を乱入者の手で早々に追い出され、視界良好防御充分なよい砲撃地点と為った。
「ここなら射角も充分に取れますね。それでは――」
両の副腕にブラスターを構え、尾の先端に仕込まれた砲に空を薙ぎ払うだけのエネルギーを蓄えるエルデラント。
だが空がよく見える陣地ということは、空からもよく見えるということ。
そして敵は高高度から爆弾を落とすことしか能のない飛行機ではなく、一騎当千の航空機甲武者なのである。
『進め、進めィ! 我ら官軍、敵は容れざる朝敵ぞ!』
翻り、手にした手榴弾をばら撒きながら降下してくる武者の一隊。
その数たるや。エルデラントも両腕のブラスターで弾幕を張り、見事な精度でこれを迎え撃つ。だが空中で撃ち抜かれた手榴弾の爆風に煽られくるくるりと空を転がるそれを狙い撃つのは極めて至難。
「照準が定まりません……このままでは、っ」
暴れまわる手榴弾の撃墜にエルデラントの意識が囚われた一瞬。
百戦錬磨の武者たちにはそれだけあれば充分。
爆炎の掻き消えたその奥に見えたるは小銃を構え、銃口をひたりとエルデラントに向けた武者たちの姿。
砲撃態勢を取り、力を貯めるエルデラントに今これを切り抜ける術はない。
『総員、射撃――』
武者の鉄指が引金に掛かる、その時だ。
「空からなら優位を取れると思ったのかい、隊長サン」
まるで戦場に似つかわしくない笑みを湛えた声音が、辺りから響く爆音や銃声をするりと抜けて耳朶を打つ。
「来い、サールウァ。吹き散らせ」
小銃から飛び出した銃弾が、糸玉を解すようにふわりと溶けて風に舞う。
ただの風ではない。弾丸、そして撃墜された手榴弾から鉛を溶いた毒の風。
それがひゅうと渦を巻き、地表で転がる兵士たちの死骸からも武器を巻き上げ毒に混ぜ込み広がってゆく。
「ああ、そういや丁度日本は夏だなぁ。台風のシーズンだ。懐かしいだろ?」
欧州くんだりで十年百年と戦争に明け暮れる武者たちはたいそう故郷が恋しかろう。
影朧と成り果ててはもはや連れ帰ってやることは出来ないが、せめて嵐の中で故郷を思い出すといい。
「それにどのみち封鎖されてンだろ、ここはさ。なら根こそぎ腐らせちまっても構うめぇ」
風は嵐となり、人体を犯す毒は鋼すら腐食する猛毒と化す。
そしてその渦の中心に座するのは、眷属蟲と共に舞う逢真であった。
『怯むな、高度を上げて離脱せよ! 回せ、上がれェ!』
隊長らしき武者が叫び、各騎が必死に高度を上げようとプロペラを全力で回転させる。だが逢真の呼んだ嵐からは逃れられず、一機また一機と風の渦に飲まれ行く。
然るに待ち受ける運命は猛毒によって装甲を融解し、渦の中で溶けて消える末路。
だがそれを抜け出した機体もまたあったのだ。隊長騎をはじめとした数騎の武者が、逢真の控える嵐の目から切り込み急降下。
『彼奴さえ討ち取れば嵐は収まる! 戦友の仇ぞ、怯むな進めェ!』
墜落すら恐れぬ強攻。翼の端が毒嵐を掠め、制御を失いぐるぐると暴れる騎体もある。それでも武者たちは決して逢真から目を逸らさずに突き進む。
「さすが皇軍の兵隊さン、覚悟が決まってやがらァな」
だが――逢真の役目は果たされた。
「サル坊、お疲れ」
ふっと嵐が掻き消えた。開けた視界、すいと身をずらすように武者の軌道から逃れる逢真。
そして武者たちが見たのは、地上に輝く一等星。
「チャージ完了、撃てます」
蠍のごとく頭上に擡げた尾の先端。なみなみ湛えた光が空を穿つ。
『もはやこれまで! 皇国万歳!! 我が君の世は千代に八千代に――』
地上の星が天へ駆け、一瞬遅れていくつかの二等星が空に瞬き消えていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
宇迦野・兵十
空飛ぶ相手にゃ鈍刀も届かないからねぇ
まいったまいった、坂東武者よろしく弓でももってくればよかったか
―うろちょろと【残像】で身を隠しつつ逃げ回り
その間、兵士の動きを【見切り】続ける
鳥や虫にだって動きに癖はあるもんさ
人の手で造った、人の為の武器なら尚更に
―逃げ回りつつ動きを見切り、
相手が『飛翔の勢いに乗って軍刀振るう』状況を作り出す
さて鎧武者殿、一騎討ちと参ろうか
ー敵の攻撃の出だしを【見切り】
振り返りざまに鈍刀を【早業】で抜き放ち
軍刀の剣筋を【見切り/早業/武器受け/水月鏡】で受け流し、斬り抜ける
お美事
―ただ一言、鎧武者に告げそのまま彼岸桜に向けて駆け抜ける
[アドリブ諸々お任せします]
●
「ありゃ侍かい。まいったまいった、まいったねぇ。空飛ぶ相手にゃ鈍刀も届きやしない」
頭上から絶えず降り注ぐ銃弾を軽快にして鋭利な足捌きでひらりひらと掻い潜り、兵十は奇っ怪ななりの武者を見る。
「今どきの侍はあんな高くまで飛ぶのかい。こりゃあ坂東武者よろしく弓でも持ってくればよかったか」
兵十がそんな軽口を吐きながら射撃を躱し続け、武者の体捌きを見極める間に、武者もまた兵十の動きを少しずつ学んでゆく。
一発目は三尺ほど離れたところに転げた石を跳ね飛ばした。
二発目は一尺ニ寸ほどのところに斃れる兵士の頭を柘榴のように割り砕いた。
三発目は五寸ほどのところで水溜りを波立たせ、そして四発目に至って兵十は鈍刀で弾丸を弾き飛ばさねばならなかった。
それなりの速度で飛び回りながらに、武者の狙撃は少しずつ精度を高めている。
――だが兵十に焦りはなかった。
「そうかい、お前さんの動きはなぁんとなくは読めてきた」
この世の万物万象、個性というものを持つものは、虫や魚から鳥獣に至るまでおおよそ癖があるものだ。
まして相手は鋼鉄で鎧っているとはいえども人、人の身に染み付いた癖を読み取るなどたやすいこと。
ほうら、お前さんはそこで撃つ。
分かっているとも。だから弾丸の行く先に刃をことりと置いておく。
ちぃんと小気味よい音を立てて、弾けた弾丸がどこぞへ飛ぶ。
弾倉が空になれば弾込めよりも次の手を選ぶ。そういう短気さも分かっているとも。
「ほうら、抜いた」
しゃらりと鞘を滑る軍刀が、天上の光を浴びて鈍く輝く。
『いよいよとなればもはやこれまで。我が一刀にて切り捨て申す!』
「願ったりだ鎧武者殿、一騎討ちと参ろうか」
かたや天往く鋼の武者。
かたや地駆ける狐の剣士。
武者は降下の勢いを重ねて猛然と剣士に打ち込みかかり、剣士はそれを柳のように自然体で迎え撃つ。
『ちぃぃぃぃぃぇすとぉぉぉぉッ!』
それは明治の激動を戦い抜き、御国の為に生きた武士の叫び。
兵十にしてみれば近くも遠い未来の同胞が裂帛の気合とともに繰り出すその一撃、真っ向より相手をせざるは剣士にあらずの恥であろう。
剣が届かぬならば届くところまで引きずり降ろせばいい。
銃を使うのであれば銃は無為だと知らしめるがいい。
だが相手が剣を抜くなら、剣の間合いで勝負を望むなら、そしてその一撃に生命を焚べるほどの並々ならぬ尽忠報国の志士であるならば。
「これを流すのは無礼も千万」
鈍らを鞘にするりと収め、構えを取って武者を待つ。
一瞬の後に両者は交錯し、そして。
「――この剣、水面に映る月の如くに」
『――死地に入るのも君が爲……』
三狐新陰流・水月鏡。
抜き打ちの一刀は武者自らの勢いをそっくりそのまま武者に還し、鋳造の鎧に罅を刻む。
「『――お美事」』
兵十と剣戟で以てすれ違い、着地と同時に振り返った武者は大袖に描かれた重ね山桜の御紋に手を触れ、そのまま崩れ落ちた。
だが兵十には勇猛なる侍の死を悼む暇はない。彼のような者をも捕らえ、夢幻の戦争に興じる桜を討ち取るべく、侍を討ち取る武勲と引き換えに相打ちで負った傷を押さえて兵十は彼岸桜へ向けて駆け出した。
苦戦
🔵🔴🔴
御狐・稲見之守
よくやった我が兵ども諸君、魔女の婆さんがケツに口付けしてやるところよ。
さて諸君の故郷は独逸という国であったか。音楽の国と伝え聞く…ならば故郷の音楽を歌うが良い。力尽きようとも、その魂に故郷ある限り転生を経て再びその土を踏むであろう。
それに彼奴ら勝った気でいよる、さあ諸君の歌を聴かせてやれ。
[UC傀儡符][式神使い]対空陣地が生きていれば対空砲火並びに機関砲による弾幕射撃を命令。塹壕に入り込んだ奴は銃火の金切り声と鉄のげんこつを以て泥と血と炎の地獄に来たことを歓迎してやろう。
皇国の武士よ、異国の地で忠義を尽くし戦い続ける理由などもはや何処にもないのだ。我が軍門に降るが良い。
荒谷・ひかる
本当にキリがないですね……!
ですが、態々降りてきたのなら好都合です!
お願いします、精霊さんっ!
【本気の闇の精霊さん】発動
目標はわたしから半径81m圏内の敵全て
彼らの装備する無機物へかかる重力を無差別に一万倍化し圧し潰す
81mより遠方から銃で狙撃しようにも、その銃弾にかかる重力も一万倍化するのでわたしに届く前に地面へ落ちます
手榴弾の爆発も、重力に圧し潰されて破砕片が散らないなら脅威にはなりません
唯一高空直上からの攻撃には対処できませんので、そちらは精霊銃から竜巻弾を放って飛行を牽制しておきましょう
重装備が仇となりましたね。
どのような甲鉄であろうと……高重力の前ではただの枷であると知りなさい!
●
『降下ァ降下ァ降下ァ!』
『近づけば面妖なユーベルコヲドに落とされるぞ、全騎一撃離脱を心がけよ!』
頭上を旋回し、隙とみては急降下して榴弾を放り投げてくる武者の一団を睨みつけ、ひかるはわずかに滲みはじめた疲労を長い吐息とともに身体の外へと押し出した。
「本当にキリがないですね……!」
徐々にではあるが着実に前進を繰り返す猟兵を守るため、その持てる力を振り絞って重力を司る闇の精霊を使役する彼女が武者たちを退けたのはこれで数度目。
緒戦で二、三騎が叩き落されてからこちら、武者たちはひかるの術の範囲を見定めるように慎重に接近と離脱を繰り返しながら爆撃を試みているのだ。
尤も、降り注ぐ手榴弾は空中で見えざる何かに握りつぶされるがごとく圧潰し、炎の欠片すら残さず塵芥と消えていく。焦れた武者が急降下突撃を敢行すればひかるの精霊銃から放たれた風を纏う弾丸がそれを牽制するが、武者もそこで深追いはせずにするりと空へ退いてゆく。
両者とも決め手を欠いたまま繰り返される戦い。ひかるにとっての勝利条件は猟兵が戦線を突破するまで武者の空襲を退け続けることだが、武者たちもまたそれによって疲労の蓄積したひかるが隙を見せれば幼気だが強力なユーベルコヲド使いの首を刈るべく一気呵成に攻め立ててこよう。
また一隊の武者が騎首を下げ急降下してくる。ひかるは彼らに視線を這わせ、闇の精霊へと狙うべき兇器を伝えるべく――
「違う、これは爆撃じゃ……」
武者の進入角度が違うことに気づいたのは、既に彼らが必殺の間合いに踏み込んだその時であった。
ひかるを前にして地表すれすれまで高度を落とした武者たちは、そのまま地上を這うように滑翔して距離を詰めてくる。
『信藤隊は射撃援護! 我が隊はユーベルコヲド使いの首級を挙げる!』
『『承知!』』
舞い降りたる武者の数は八騎。うちの四騎が花の開くように散開し、残る四騎は一直線にひかるへと突き進む。
そして人というものは動きの大きなものへと視線が吸い寄せられるものだ。ひかるの視線が散開した四騎に向いたことで、闇の精霊はそれを命令と受けて武者へと襲いかかる。
『撃て、撃て、撃て! 中尉殿の隊を援護し――ぐあっ!!』
「わざわざ降りてきたのなら好都合です、が……!!」
闇の精霊の腕が武者を握りしめ、地面に刷り込むように叩き潰す。
小銃を構えた部隊は残さず地面に緑色の鉄片と赤黒い何かを塗りつけて消滅し、しかし彼らの命を捨てた援護を受けて四騎の武者が軍刀を振りかぶってひかるに肉薄するに至る。
『――ここは戦場、女子供とて銃を取るなら容赦はせぬ。その細首、討ち取らせていただこう!』
「くっ……!」
振り下ろされる刃のひとつを交差させた精霊銃で受け止め、どうにか引き戻した精霊がまた一騎を地に組み伏せる。
されども残る二騎、白刃の太刀筋に些かの迷いも狂いもなく。
寸分違わず鋏のように左右から滑る刃がひかるの首へ――
「よく耐えたのう、我が戦友。少女でなくば魔女の婆さんがケツに口付けしてやるところよ」
果たして刃を受け止めたのは、トレンチナイフを手にした防毒面の兵士二人。
人間戦車、あるいは人間戦闘機にも等しい武者を相手に生身の兵士が稼げる時間はほんの数瞬。そのままナイフの刃ごと両断された兵士たちが斃れるまでの間に、ひかると鍔迫りあう武者の顔面にピストルを浴びせうちながら割り込んだ三人目の兵士が彼女を後方へと突き飛ばし、脳天から真二つに断ち切られた。
「一体何が起こったんですか……!?」
つい先程まで敵だった兵士たちが、命を捨てて己を助ける。その異様な光景に絶句したひかるの隣に立った稲見之守は、口元を押さえて上品に笑った。
「なぁに此奴らは我が軍門に降ったまでのこと。さあて諸君らの故郷は音楽の国と伝え聞く。ならば故郷の歌を歌うがいい。力尽きようと魂に故郷ある限り、転生の果てに還る日は来よう」
それに、と軍装の狐は三人の勇敢な兵を切り捨て、しかし狙いのひかるを斬れなかった武者たちに――雑兵脅威にあらず、稲見之守ごと斬れば良いと驕る者たちを指差した。
「彼奴らめもう勝った気でいよる。これをひっくり返さばさぞ痛快であろ。さあ、諸君の歌を聴かせてやれ」
――歌が聴こえる。
『雷鳴は叫びの如く哮り狂う 剣戟の響きと波打つ衝撃の如く』
『ええい、独逸の雑兵風情がわらわらと……! 気圧されるな、肚に力を込めて声を上げろ!』
――武者もまた、兵士たちの歌に怯まず声を張り上げる。
『彈丸雨飛の間にも 二つなき身を惜まずに 進む我身は野嵐に 吹かれて消ゆる白露の』
歌だ。歌だ。歌だ!
死せる兵士たちの、此処を死守せんという誓い。
鋼鎧う武者たちの、その身を捨てても押し通るという決意。
歌に乗って両者の意志がぶつかり合い、銃声と剣戟がまるでオーケストラの如くにそれを彩ってゆく!
武者の刀が兵士を分隊ごと引き裂けば、中隊からの銃撃を浴びて脚を止めた一騎が対戦車榴弾の直撃で羽根をもがれ、高射砲の直撃を受けて跡形も残さず弾け飛ぶ。
数の暴力で取り囲まれ、スコップで滅多打ちにされる武者が、信奉する帝に万歳を唱え兵士たちごと手榴弾で自爆する。
戦争だ。そこには戦争があった。幾年月を経て、彼岸桜に納める演目ではない戦争がそこに帰ってきていた。
「これが……」
思わず絶句しかけたひかるであるが、これこそ千載一遇の好機にほかならぬ。
最後に残った、中尉の階級章を描いた武者は手強くも鎧で弾丸を弾き兵士たちを膾切りにして抵抗しているが、その鎧こそひかるにとっては付け入る隙にほかならぬ。
「どのような甲鉄であろうと高重力の前ではただの枷、重装備が仇となりましたね!」
強襲を捌いた今ならば精霊術に傾ける集中力もある。
なによりその身を賭して己を救った兵士たちに報いねばならぬ義がある。
ひかるの使役する闇の精霊が、武者の四肢を超重力にて地に縫い付けた。このままゆけば彼は押しつぶされ、繰り返す生から解き放たれよう。
が、稲見之守がそれに待ったを掛ける。
「のう、皇国の武者よ。異国の地で忠義を尽くし戦い続ける理由などもはや何処にもないのだ。我が軍門に降らぬか」
死なば彼女の冥府の軍勢に加えてやろう。戦争を弄する彼岸桜に報復する機会をくれてやろう。蠱惑的に武者に囁く稲見之守の誘いに、武者は兜の裡で小さく笑って頷いた。
『お断りだ。もはや九段の桜に帰れぬ身だが……最期まで皇國と我が君に刀をさぶらうことこそ我が使命!』
「そうか、見事よな――」
稲見之守の敬礼を最期の瞬間まで見つめていた武者は、最期まで己の信念とともにくしゃりと散った。
「……稲見之守さん」
「そんな目で見んでも此奴を無理やり従えたりはせんよ。ま。他の連中には諦めず勧誘してみようかの……」
武者の一群を退けて、二人の少女と死者の軍勢はざくざくと土を踏み固めながら行進す。
目指すは彼岸桜。この逢真が辻の根源である。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シャルロット・クリスティア
空挺部隊!?
こちら側が崩れたと見たのをいいことに惜しげもなく投入してきましたか……!
いいでしょう……ならば!
敵の主兵装は小銃、軍刀、そして擲弾。
軍刀は言うまでもなく、狙撃ならともかく空戦機動からの銃撃は命中精度は格段に落ちる。接近と狙撃体制を許さなければ大した脅威にはなり得ません。
制圧力の高い擲弾は脅威ですが、ならばこちらも物量を以て着弾前に叩き落とす。
ヘイルストーム・オブ・ジ・ガンファイア、全砲門展開!
85挺の機関銃による超高密度の対空弾幕をお見舞いします。
自身の進軍は難しいでしょうが、味方の行軍の邪魔立てはさせませんよ!
アリシア・マクリントック
航空兵……!マリアの銃を借りて迎撃するのもいいですが、私達は二人だけで戦っているわけではありません。ですから……変身!セイレーンアーマー・神話形態!マリアは援護をお願いします!
槍を手にドッグファイトを挑みましょう。爆撃を受けないよう高度を上げて……マリアにも負けないよう敵に喰らい付いて見せます!
そして私の戦いはそれだけではありません!戦場に響け!我が魂の歌!
貴方達も軍人であるのならば、歌の力はよくわかっているでしょう?歌の力を受けた猟兵の力、存分に見せてあげます!
●
「航空部隊……!」
「こちらの戦線が崩れたと見て惜しげもなく投入してきたようですね……」
独軍側の塹壕からいくらか前進したところで、アリシアとマリア、そしてシャルロットは足止めを受けることとなった。
シャルロットの機関銃とマリアの機関砲が展開する弾幕を、敵の武者たちは巧みに掻い潜って損害を抑え込んでいる。逆に武者たちの反撃もシャルロットの狙撃によって照準の暇を与えられず、ようやく放った弾丸も二人と一頭が身を潜める壕に阻まれて互いに有効打を与えることのないまま時が過ぎてゆく。
「このままだと不味いですね」
幾度目かの迎撃で刻まれた術式が赤熱し使い物にならなくなった銃身を交換し、新しい弾倉に交換したシャルロットが頬に跳ねた泥を手の甲で拭ってつぶやく。
「このままここで削り合いをするには弾薬に余裕がなくなってきました」
「そろそろ打開する策が必要、ということですね……わかりました」
アリシアは一度目を閉じ、それから敢然と空を見上げて武者と目を合わせた。
「ならば私がゆきます。マリア、シャルロットさん、援護はお願いしますね」
「そんな、無茶です! 相手は制空権を取っているんですよ、アリシアさんが飛べるとしても離陸の瞬間を狙われたら……」
それを阻むことは出来るだろう。シャルロットにはその自信がある。だがここは戦場で、敵は目の前の部隊だけではないのだ。
二人の預かり知らぬ別部隊が割り込んでくれば事情は変わるし、それがありえないと断言することは誰にもできない。
「それでも、です。大丈夫、私はあなた達を信じていますから。――変身! セイレーンアーマー! 神話形態!」
白い鎧に虹色の翼を広げて、アリシアは塹壕を飛び出してゆく。
『敵、上昇してくるぞ! 頭を押さえろ、高度を取らせるな!』
すかさずアリシアを撃ち落とさんと頭上より急襲する武者の一団。
「ああもう、それしかないからって無茶しすぎです!」
その装甲で弾け、機動を乱したのはシャルロットとマリアの射撃。
だが止まったのは半数に足らず。残る武者は弾幕を切り裂いて、高度優勢によって得た加速のままに小夜啼鳥を狩る隼の如くアリシアへ襲いかかる。
――その時だ。
『我らの進軍によって、君は護られる』
『信仰の中で剣を握る』
『愛しき祖国よ安らかであれ』
『愛しき祖国よ安らかであれ』
遙か後方から聴こえる声。いや違う。
それは歌だ。兵士たちが声を揃えて歌う、その声だ。
猟兵によって従えられた死者の兵団があった。そこから始まった歌は、今や戦線全体を包んで独軍の陣地を満たし逢魔が辻を震わせている。
「この歌は――」
『ええい、気圧されるな! 一気呵成に眼前の敵を撃ち落とせ! 制空権は我らにぞ有り!』
指揮官騎が軍刀を翳してアリシアに肉薄する。長柄の槍を持ってはいても、一息にその間合いの遙か内に飛び込まれた彼女はそれを受け止めるのがやっと。
大きく高度を削がれ、あわや墜落、シャルロット達の直ぐ側まで降下を強いられた彼女は諦めることなく空を見上げ――そして。
『愛しき祖国よ安らかであれ!』
『愛しき祖国よ安らかであれ!!』
力強い歌声とともに飛来した高射砲弾が、アリシアと激突した反動を殺さんと空中に立ち止まった武者を直撃した。
「これは……彼らが援護を?」
「そういうことならば活路は見えました! アリシアさん、もう一度いけますか!?」
「…………はい、任せてください!」
シャルロットの言葉を受けて、アリシアは再び舞い上がる。
口ずさむのは兵士たちと同じ歌。
祖国を守る誓いの歌。
アリシア自身の歌ではなくとも、かつてこの地で戦った人々の想いが、願いが、彼女に力を与える。
「戦場に響け、我らが魂の歌! 軍人ならば歌の力はよくおわかりのはず!」
『くっ……こいつ、動きが先程とは段違いだ!』
指揮官を討たれ動揺した武者たちは銃撃でアリシアを迎え撃つが、歌声に背を押された彼女は止められない。
「エーテル圧縮……エレメント組成変換、構築開始……限定固着、生成完了! さぁ、蜂の巣です!」
そして後方の軍勢の砲撃に支援されたアリシアが凄まじい機動で武者の隊列を切り崩せば、シャルロットはようやく詠唱の時間を得てその本領を発揮する。
其はまるで雷轟の如く。銃火は桜吹雪の一片をも撃ち抜くほどの密度で以て、頭上の侍を飲み込んだ。
「Halestorm of The Gunfire! 全砲門展開! 撃て、撃て、撃て!」
八十五もの銃口が、そして後方陣地からの対空砲撃が、武者たちを空に縫い止める。
あるものは翼を砕かれ地に墜ちた。
あるものは空中で粉々に弾けて消えた。
またあるものは――
「歌の力を受けた猟兵の、影朧の――いいえ、人の力を存分に見せて差し上げます!!」
――白き歌姫の槍に貫かれ、ここにまた一つの部隊が壊滅した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
羽堤・夏
アドリブ絡み歓迎
大空の侍、この世界にもいたんだなぁ…でも悪いけど、あんたらの戦いはもう終わってるはずなんだろ!
空から戦場に参戦
飛行能力と速度に力の配分を割り切った吹雪の姿へと姿を変え飛翔
翼を広げ太陽を背に強襲し【空中戦】を挑む!
コードを最速で発動する【早業】を見せてやる!
急降下の中で突き出した両手から氷の矢を連射して手榴弾を凍結させ無効化を試みる
へへっドッグファイトって言うんだっけか、こういうの?
この姿なら戦闘機だって追いつける…!
あえて相手の土俵に持ち込み、氷の矢で牽制しつつ凍てつく手刀と日輪丸を駆使しすれ違いざまの【カウンター】狙い
纏う吹雪で熱を遮断する【火炎耐性】で炎の戦場を突っ切るぜ
チトセ・シロガネ
ボクもスペースサムライの端くれ、ここはひとつ力比べといこうじゃあないカ!いざ、尋常にファイト!
向こうが特攻ならこちらも踏み込むまでネ。
空中浮遊で空中戦に挑み、抜刀スタイルでワンショットキルを狙うヨ!
弾丸の雨は『蒼穹』を腕の形に変えて前面に展開、念動力で見えない壁を作ってオーラ防御、無理やりかいくぐるネ。
クロスレンジになったら早業でUC【破邪光芒】を発動して縦一閃!
踏み込みの速さならこちらも負けないネ!
鎧砕きの技術で相手のUC、装甲ごと稲妻纏った刃でツーピースにしてやるネ!
さらに2回攻撃とリミッター解除で追撃の横一閃、高出力の刃で他のサムライごとバラバラに解体してやるネ。
●
「空の侍……か。悪いけど、あんたらの戦いはもう終わってるんだ!」
『笑止!! 陛下がおわす限り皇國の覇道に終わりなし! 然らば我らとて!』
「だからその覇道ってのがもう行き着くところまで行っちまってるんだろ!」
オラトリオの白い翼を広げて武者と激しく相見える夏。彼女が刃を納めるよう訴えても、武者たちはそれを聞き入れる素振りも見せぬ。
『我らを惑わすな娘ッ! かくなる上は子供相手とて容赦は出来ぬ!』
放り投げられた手榴弾は、空中で起爆すれば生身の翼で空を飛ぶ夏をずたずたに引き裂き地に落とすだろう。
「あーもー、話を聞けっての! 貫け、氷の閃光!」
それをすんでのところで凍らせて、夏は一気に高度を上げた。
上からの強襲ならば推力の差を埋めて余りあるほどの威力が生み出せよう。生まれながらに空を飛ぶ術を知る少女は、その経験則から武者に挑む。
対する武者も一歩も引かぬ。高度を落としつつ加速し、然る後に速度を上げて上昇する心算で夏の降下に対抗せんとしたのだ。
「行くぜ、侍! へへっ、ドッグファイトって言うんだっけか?」
急降下! 夏はたちまちのうちに武者の頭上から高度を落とし、その背中に氷の矢を放たんとする。
しかして武者とて歴戦の兵。これをひらりと回避したかと思えば、身体の前後を反転して追いすがる夏に相対する。
「ドッグファイトだと? 我らを飛行機乗りと同じと見たか、愚かなり! 武者の戦は背追いに在らず!」
銃撃だ。小銃弾が容赦なく襲いかかる。それを辛うじて盾で受け流した夏は、顔をかばうように掲げた盾を降ろし――自らの加速を利用我が身を両断せんと待ち受ける軍刀の刃を見た。
「や……っば!」
「――Hey! 大丈夫かナ、こいつはボクに任せなヨ!」
その刃を弾いて阻み、夏をマフラーで受け止めた乱入者。
チトセは愛刀・霹靂を鞘に収めるように居合いの構えを取って、夏に離脱を促した。
――いや、各所で猟兵の反撃が実を結び、武者たちは残る戦力を――極僅かながら――集結させようとしている。
指揮官級はおろか腕利きも眼前で相対する彼が最後であろうが、しかし力量未熟だろうと数が揃えば脅威に変わりない。
空戦の論理を知る夏が軍隊としての武者たちを相手取り、そして剣術に秀でた己が武士としての武者を相手取る。これがチトセの判断であった。
「……わかった、任せてくれよ!」
「ウン、いい子ネ。そっちは頼むヨ!」
背を向け離脱してゆく夏に振り返ること無く、チトセは武者と向かい合った。
「うおおっ! あんたらの信念を弄ぶやつはアタシがぶっ飛ばす! だからその邪魔をさせられる前に、悪いけど凍ってもらうぜ!」
『さ、散開! 散開! 包囲して撃ち落とすぞっ!』
武者の部隊に切り込んだ夏は、行きがけの駄賃とばかりに甲鉄の鎧に手刀を叩き込む。
打撃の当たったところから凍りついた武者は、しまいにはプロペラまでも凍てつき滑空しながら落ちてゆく。
あれでは戦力にならないだろう。己の判断が誤りでなかった事を確かめると、夏は痛む手をかばう素振りも見せずに残る武者に立ち向かう。
『怯むな、大隊長殿がお戻りになるまで空域を死守せよ!』
「いいさ、来いよ! 片っ端からアタシが相手をしてやる!」
銃弾を盾で受け、氷矢で手刀で武者を行動不能に追い込んでゆく夏。
迎撃しきれなかった手榴弾の破片や、盾で弾けた弾丸の欠片が肌を切るがそんなもの、
「こんなところで永遠に戦わされるアンタ達の痛さ苦しさに比べたらなんてことないね……!」
「ユー、この世界のサムライなんでショ? ボクもスペースサムライの端くれ、ここはひとつ力比べといこうじゃあないカ! いざ尋常に――」
『面白い。西洋かぶれの侍もどきが我が相手とは、相手にとって不足なし! いざ――』
「ファイト!」『参るッ!』
武者の刃は捨て身であった。守りや受けを投げ出して、ただ一刀を相手より先に滑り込ませる神速の剣。
対するチトセも同じく神速。武者が決闘を受け銃を使わぬと分かったときから守りを捨て、そして武者より深く一歩を踏み込む一刀。
片や砲弾飛び交う戦場で腕を磨いた侍の。
片やレーザー飛び交う宇宙で戦い抜いたサムライの。
両者の刃が互いに手応えを感じさせる。
「……やるじゃなイ」
武者の軍刀は裂帛の気合とともに、先んじてチトセに届いていた。
マフラーの如き触腕を斬り落とし、その刃はなおも銀色に輝いている。
『……ふっ。いや、世の中は広いものよ』
されど、チトセの多く踏み込んだ一歩がそれを致命傷から逸していた。一歩足りなければ真二つに両断されていたのはチトセであったろう。武者の刃はただ一歩分の踏み込みがために致命に至らず、そして。
『見事なり、宇宙のもののふよ……女なのが心底惜しい。貴様が男子ならば、皇國の臣民ならば――』
肩口から股までを断ち割られた武者は、口惜しげに、しかし戦場において優れた剣士とまみえた喜びを確かに抱いて墜ちてゆく。
その行く先は地獄か、あるいはさらなる戦場か。
「ちゃんとあの世に逝ってくれればいいんだけど」
武者たちを残らず凍らせ地表に落とした夏が、戻ってくるなり切り捨てられた一騎を思って声を零す。
「大丈夫ヨ、彼は満足してくれたしネ。さっ、次はいよいよボス戦ヨ! オーマガツジを生み出すオブリビオン、一筋縄では行きそうもないから用心しなきゃネ!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 ボス戦
『彼岸桜』
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POW : 【フレーム間干渉型UC】サクラメント・モリ
【各章に参加した猟兵達の分身を再現する。こ】【の分身は各章で猟兵達が使用した装備・技能】【・UC・戦法を使用し、複数人で連係する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 【フレーム間干渉型UC】サクラメント・モリ
【各章に参加した猟兵達の分身を再現する。こ】【の分身は各章で猟兵達が使用した装備・技能】【・UC・戦法を使用し、複数人で連係する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ : 【フレーム間干渉型UC】サクラメント・モリ
【各章に参加した猟兵達の分身を再現する。こ】【の分身は各章で猟兵達が使用した装備・技能】【・UC・戦法を使用し、複数人で連係する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
イラスト:礎たちつ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
そして至るは彼岸の桜。
数多の死体の血を啜り、紅に染まった桜吹雪。
砲弾が耕した野を満たすのは赫い赫い彼岸花。
春と夏の花が狂い咲く戦場は幻想的な光景だが、しかし猟兵達はその美しい華から底知れぬ悪意を感じ取った。
これは死を弄する花だ。誇り高き護国の想いを、気高き忠節の誓いを捻じ曲げ己の享楽に費やす邪悪そのものだ。
逢魔が辻などという匣庭の中で、英霊の尊厳を踏みにじりごっこ遊びに興じる幼稚で醜悪なモノ。美しい花弁を一片千切れば、その下から覗くのはそんな悪意に他ならない。
この華を咲かせてはならない。この華はあってはならない。死者の摂理を狂わすこの花の園は焼き尽くされねばならない。
だが――
猟兵達は耳にした。
己と同じ声、共に戦う戦友と同じ声。
耳に馴染んだ親しい声音が、それはならぬと己の闘志を拒絶する。
ああ。
ああ、彼岸の軍勢がやってくる。
無意識に忘れ去ったなんでもない一瞬を切り取って。
骸の海にたゆたう朧気な、過去とも言えぬ過去が現在に還ってくる。
――それは紅い赫い花弁でできていて。
――それは、猟兵たちと同じ貌をしていた。
朱酉・逢真
ひ…ひひっ、ひひはっ、ひゃはははっ! っごほ、げほッ…! ひ、ひ。おいおい笑わせてくれるなよ…そいつぁ俺を真似たのかい? っくく…いや、いや。影の影ってェ? よしとくれ笑っちまう、俺ぁ気管支系も弱いんだ。
つかなァ、俺をコピッたとこでなんの意味もありゃしねえぜ。無能も無能、戦闘能力なんざありゃしねえ。ただの猛毒肉袋だよ。サル坊ルキ坊眷属どもを喚ぶ気ならもっとムリだぜ。あいつらはいきものだ、魔法じゃねえ。偽物にゃ従わんさ。
ああったく、笑かしてくれらぁ。お礼に本物の《昔の貌》を見せてやる。顕れろ《世界悪》。大好物(*悪意)のフルコースだ。飛び回って踏みにじって、きれいな花ごと食いつくしちまえ。
エルデラント・ズィーマ
最後の相手はワタシたちの紛い物ですか。いえ、外観や戦闘能能力に於いてはほぼイコールと見て間違いなさそうです。タイマンでは長期戦になる確率がかなり高いので可能であれば乱戦に持ち込みましょう
ブラスターで牽制、接近して生身の腕を用いた格闘戦を仕掛けると見せかけて副腕でワタシの複製の背後を取り、尾部を捕獲。思い切り振り回して別の複製に放り込んでやりましょう
そのまま敵味方の集団へユーベルコードで突っ込みましょう。申し訳ございません。区別が付かないので……本当ですよ、ええ本当に
御狐・稲見之守
ほぅ、我の写し身か。あの様子では傀儡符や式神繰りしか使えんようであるが、軍勢を呼び出す上に骸まで操って来るのは厄介極まりない。
お客さんだ、パーティーが始まるぞ諸君。さあ、己が故郷を想い心して歌うのだ。
[UC魂喰らいの森]――この戦場を魂喰らいの森へと変え、森が魂を啜った者全てを『森の番人』として我が戦列へと。幾ら彼岸の軍勢が現れようと蹴散らしてくれる。
喰魂卿、御狐稲見之守が命ず。『森の番人』よ、『大河の番人』に続け。彼岸を焼き払い、徒花を粉砕せしめよ。
勝利を、そして安らぎを。
アリシア・マクリントック
これは……私たちの幻影ですか。たとえ姿かたちを真似ようと、その魂までは真似られないはず。真に強いということはどういうことか見せてあげましょう!
と、大見得を切ったのはいいですが、紛い物とはいえさすが私達、敵に回すと厄介ですね。この力にはあまり頼りたくはなかったのですがやむをえません。
……変身!マーナガルムアーマー!長くはもちませんから短期決戦です!敵の攻撃を限界まで引き付けて、一太刀で『噛み砕く』!アーマーを維持できる時間いっぱいまで戦ったら……あとは生身でも戦います。この手に剣がある限り、下がるわけにはまいりません!
荒谷・つかさ
――さて、と。
ここから先は、私の出番ね。
常世に造り上げられたこの地獄、今終わらせてあげる。
持ち込む武装は幻朧桜の枝から削り出した木刀のみ
これを芯として【心魂剣】を発動
この場が多くの戦死者を出した古戦場であるならば
そして彼らの黄泉返りし影朧が幾度も、幾多も死を繰り返したのならば
この地は、無念を抱いた死者の魂で溢れかえる土地であるはず
彼らの魂に呼びかけ、その心を慰め、意思を束ねて巨大な刃金と成し
彼岸の軍勢諸共、彼岸桜を斬り伏せる
『我らの護国の想い、忠節の誓い』
『己が享楽の為に貶め続けたその悪意、断じて許す事は出来ぬ』
『今ここに国の違いなどは最早些事』
『悍ましき「彼岸桜」……人類の敵、滅すべしッ!』
宇迦野・兵十
不思議なもんだね、徒花にもこんなきれいな花が咲く
…ああ、だからこそお前さんをここで咲かし続ける訳いかないよ
―【見切り】で回避し、相手の攻撃は【見切り/武器受け】で捌く
向こうが今までの動きを見て分身を作るなら
こっちとしてもある程度は何を仕掛けてくるかが解る訳だ
何も知らずにいるよりは上手くやれるよ
しかしまぁ嫌な顔してるね、僕そんな顔してるかい
―分身達の動きをひたすら【見切り】機を待つ
彼岸桜への道筋が通り次第、倉稲魂から取り出した種を
【早業/暗殺】で指弾として弾き【戯事・泥梨の花】
逢魔時は終わり、後に待つのは夜の闇
死せる英雄達へ迷わぬよう
松明代わりに咲いて散り逝け
[アドリブ諸々お任せします]
チトセ・シロガネ
キレイな花のクセにロクなことしないンダネ。
2度とこんなことができない様にしてやるネ。
アイシー、今までの戦闘データを基に生み出したコピー、ネ。
コピーが連携に入り込まない様に早業でインタラプト、武器受けとオーラ防御で鍔迫り合いに持ち込んで足止めするネ。
ハロー、過去のボク、こんな芸当はできるカイ?
UC【H-EX】を発動させて六角型ビットを展開。
ボクのコピーにハッキングを仕掛けて義体の利用権限を奪い取って操り人形にして連携を崩してやるネ。ボクの光子頭脳にビットの演算力が加わった早業のハッキング思う存分味わうといいヨ。
羽堤・夏
アドリブ絡み歓迎
…今度の敵はあたし達かよ
ようは最後にはあの桜がどうにかなればいいんだろ?
なら…防人が道を切り開く!
力の配分を猛火の姿に変える
炎を纏い舞い散る桜を焼き払いながら猛進
あたしを放っておいていいのか?燃やしちまうぞ!!
桜を恫喝しとにかく目立ち再現される猟兵の攻撃から皆を庇う。
体力と馬鹿力なら、どんな相手でも一歩も引かねぇよ
無理やり踏みとどまり鉄拳のカウンターで、怪力で捻じ伏せる
ある程度集まってきたら…あるいは吹雪の姿のあたしがいたら?
日輪丸を投擲、ワイヤーで空の敵を絡めとる
全力全開限界突破…コード発動!皆あたしから離れろ!
両拳をぶつけ、全身を自爆
辺り一面を敵諸共、焼却する…後は頼んだ!
シャルロット・クリスティア
空挺部隊はどうにか沈められましたか……。
いやしかし、あれは……何とも不吉な紅ですね。美しくはあれど、どこか嫌悪感をよもおす。
……花とは散るもの。英霊の記憶とともに過去へと沈みなさい。
空がある程度クリアになったのなら、愛騎を呼びましょう……ほら、レン。行きますよ。
降下しての突撃戦はリスクを伴いますが、空中を維持して遠距離攻撃に徹していれば、回避は難しくはない。
上空からの対地掃射です。私の目と技量なら、誤射を出さない程度の精度は維持できる。
この戦いでは見せていなかった、人竜一体の竜騎兵、此処に披露いたしましょう。
……私の戦いは、まだここで終わるわけには行きませんから。
●
まるで地獄のようにおぞましく、まるで浄土のように穏やかな彼岸桜の原に猟兵達は辿り着いた。
数多の屍を踏み越えた先、辿り着いた久遠の花の野はまた、多くの屍の上に根を張る死者の国だ。
「空挺部隊はどうにか殲滅できましたか……」
殿軍を守り、皇國武者の残党から猟兵を守り抜いたシャルロットが最後に彼岸花の乱れ咲くそこに踏み込めば、ぞわりと生ぬるい夏の夜の墓場に吹くような風が彼女の首筋を舐めた。
地獄のような塹壕戦をくぐり抜けたことで泥に塗れ、汗の染みた彼女は、その上で爽やかさなどない風に不快感も露わに眉を寄せる。
「それにしても……いやしかし、あれはなんとも不吉な紅ですね。美しくはあれど、どこか嫌悪感を催すような」
シャルロットがぼやけば、兵十は煙管の先でついとその紅の根本を指す。
「不思議なもんだね。徒花にもこんなきれいな花が咲く」
ひらりと舞い散る花弁を見遣り、しかし声には怒りを滲ませ兵十は言う。
その煙管を辿ってシャルロットが視線を桜の下に向ければ、そこには武者も兵士も一緒くたに、牢獄のような根に囚われ果てた無縁塚がある。
瞬間誰もが理解するだろう。この美しく鮮やかな紅は、彼らの血で染められた死の色だと。
「……本当にきれいだ。ああ――だからこそお前さんをここで咲かせ続けるわけにはいかないよ」
「まさしくです。花とは散るもの、英霊の記憶とともに過去へ沈みなさい」
飄々の剣士は鈍を紅に翳し、少女銃士は照星を幹に添える。
既に戦闘に備えて彼岸桜を取り囲んでいた猟兵達も各々の武器を、術を、持てる力を翳してこの醜悪なる花を倒さんと構えた、まさにその時。
ざわりと枝が揺れ、花吹雪が視界を覆う。
然る後に猟兵達の前に現れたのは自らの写し身であった。紅い紅い桜の花弁が描き出すもうひとりの自分自身。
鏡写しに身構える"桜の君"たちが、一言も言葉を紡ぐこと無く静かに猟兵たちへと襲いかかった。
「キレイな花のくせにロクなことしないンダネ」
神速、一番槍の誉れをもぎ取るが如く切り込んできた偽物の振るう紅の刃を蒼白の刃で受け止めて、チトセは吐き捨てるように呟いた。
「ハロー、過去のボク。――返事くらいしなヨ!」
火花を散らして鍔競り合う刃を弾き返せば、紅のチトセは無言のままに光刃を伸ばして二撃を狙う。
「アハ、ホントに同じ技が使えるんダ。アイシー、今までの戦闘データを基に生み出したコピーってトコかナ」
その太刀筋の鋭さたるや寸分違わずチトセ自身のもの。敵もまた己であるがゆえの理解から斬撃を弾き続けることは出来ているものの、それは相手も同じこと。
完全に拮抗する技量のぶつかり合い。双方ともに決め手を欠いたまま、幾合もの剣戟が散らす閃光が彼岸の桜を照らしていく。
「嫌な顔してるね。僕そんな顔してるかい」
厭世的な、何もかもをへらりと受け流すような薄笑いを貼り付けた己の偽物見て、兵十が抱いた感想は驚嘆ではなく嫌悪であった。
「僕はそこまで世の中のことを嫌っちゃいないと思ってたんだけどね――」
きぃん、と派手な音を立てて、両者の鈍刃が互いの刀身をぶつけ合う。やはり自身のことはよく分かるものだと兵十は感心した。僅かな足運びの違和から、手首のしなりから、紅の分身が放つ一手が読み取れる。これが他者ならよほどの技量の差がなければこうはいくまい。伯仲した実力は攻めるにあぐねる難物ではあるが、逆に守勢に徹してなお押し切られるほどの脅威にもあらず。
「さぁて、ここからどうしたものかな……」
そんな思考に意識を割けるのは、勝手知ったる己相手だからこそ、ということか。
「外見だけでなく戦闘能力もほぼイコールと見て間違いないですね」
飛来する熱線を掻い潜り、エルデラントはもうひとりの、紅に彩られた自身の写し身を観察していた。
彼岸花の上に陣取り、両の副腕のブラスターと尾のエネルギー砲で牽制する偽物の射撃精度は己のそれと比較しても遜色なく、即ち正確無比と言って差し支えあるまい。
尤も、射撃管制システムのコンマ以下で訪れる誤差に至るまで熟知し、それを踏まえて戦い抜いてきたエルデラントにしてみれば彼女はただ自身の性能をフルスペックで活用しているだけ。そこに応用や小技はなく、付け入る隙はいくらでもこじ開けることが出来るだろう。
「なにはともあれ、接近戦に持ち込む必要がありますが……と」
ブラスターの熱線を副腕を吊り下げる肩部の装甲で受け止める。さすがの高威力は装甲を微かに灼き溶かすが、許容範囲だ。
「頭部を除く損害許容率は70%……それまでに接近できなければ長期戦を覚悟する必要がありますね」
そうなれば――もしかすれば彼岸桜はこの戦いをすら反映した新たな複製を投入してくるやもしれない。
多少の無茶は承知の上で、短期決戦を挑むしかない。
彼岸花の絨毯を軍靴が踏みつける。
片や呪符を貼り付けた傀儡の屍兵。
片や紅桜花を粧った紛い物の死兵。
呪符の軍勢が小銃を構え駆け出せば、桜花の軍勢がそれを掃射で迎え撃つ。
屍体が彼岸花の上に倒れ込み、赤々とした血を流せばそれを踏み越えさらに前進した軍勢が桜花の兵を銃剣で貫き銃弾で貫き果ては手にしたナイフやスコップで打ち倒す。
戦争だ。彼岸桜の望んでやまぬ戦争がそこにある。それを演じてみせるのは、黒と紅二人の妖狐。
「ほぅ、我の写し身か」
黒の――猟兵、稲見之守が死兵を操る偽物、紅の稲見之守の術を見定めその精度に嘆息する。
見事であった。我ながらに称賛に値するほどの完成度。古今、洋の東西問わず見渡したとて屍体をこうも大規模に使役する術士など数えるほどであろう。
その術を完璧に写し取ってみせた彼岸桜の写し身を、稲見之守は称賛する。
「いや厄介極まりないな。我と全く同じく軍勢を呼び出す上に骸を遣うか。あの様子では傀儡符や式神繰りしか使えんようであるが――」
それだけあれば充分か。なにせ猟兵、個として弩級。その弩級を写し取れるならば、足りぬは拮抗を崩す数のみだ。
稲見之守の軍勢が打ち破られればその時こそ戦線を貫き雷電の如き速さで進撃する桜花の軍が己の複製と相対する猟兵に襲いかかり彼我の戦力差を決定的なものとするだろう。
「そうはさせぬ。させるものか。さあ諸君、パーティの始まりぞ。己が故郷を想い心して歌うのだ」
歌え歌え死者の軍勢よ。もはや生きて故郷に帰ることはかなわぬならば。
死出の旅路の安らかならんために歌え。国の歌を、懐かしき歌を。
『旗を高く掲げよ!』
『隊列は固く結ばれた!』
屍兵が歌う。死兵が歌う。
『褐色の衣を纏った軍勢に道を空けよ』
『突撃隊員に道を空けよ!』
その歌が戦場を満たす頃、稲見之守は彼岸桜の知らざる一手を打ち込んだ。
即ち領土の召喚。彼女が治める群竜大陸が領地、魂喰らいの森を以て彼岸の園を塗りつぶす。
「喰魂卿、御狐稲見之守が命ず。『森の番人』よ、『大河の番人』に続け。彼岸を焼き払い、徒花を粉砕せしめよ」
ラインの守護者たる兵士たちに代わり、森に還った魂が番人として前に出る。
桜花の戦線が突き崩され、此処に戦局は流転する。
「今度の敵はあたし自身かよ。相手にとって不足なし、いいぜ相手になってやる!」
夏は盾を構え、勇ましく啖呵を切って駆け出した。相手にするべきは己の複製、だけではない。拮抗する戦いを覆すには、己の複製だけを相手にしているだけでは足りぬ。
ならば少しでも目立ち、少しでも多くの敵を引きつけ、仲間たちがこれを打ち破る隙をこじ開ける。
「それが防人の戦いってもんさ……あたしが道を切り拓く!」
氷の弾丸を打ち込んでくる、紅の桜花を咲かせた己の複製を睨みつける。
わかる。何処を狙っているのか、いつ撃つのか。手にとるように理解できる。だから回避とて容易いし、無傷で拮抗することもまた容易。
だが、それは防人の戦いに非ず! 己の保身など後回しだ。進め進め突き進め、そして敵を打破して初めて保身を考えろ。
「威力も狙いも申し分ねぇ! だけどそんな氷であたしを止められるもんか!」
吹き上がる炎。夏の身を焦がすほどの灼熱がたちまち氷を溶かし踏みつけた彼岸花を焼き払う。
「おらいくぜっ、全部燃やしちまうぞ!」
燃えたぎる心臓。血液はマグマのように。向日葵の少女は桜花の少女の抵抗など存在しないもののようにすべてを受け止め焼き尽くして、縦横無尽に野を駆ける。
然らば彼岸桜もこれ以上燃やされては堪らぬと、氷の術で止めることは適わぬと他の複製を送って寄越す。
一対一にて互角の技量を持つ猟兵の複製。それを複数呼べばどうなるか。
答えは明白、一体あたりの再現に割く力が減じ、乱れが生じる。
夏は己に向かってくる紅猟兵の一団を見て、そして明確に戦闘能力が下がった己の複製を殴り飛ばして笑った。
剣士の刃が肉を貫き滑り込む。鈍ら刃が骨を打つ。銃弾が盾を持つ腕をかち上げ、熱線がその身の焦げゆくを加速させる。歌声が響く中、数多の猟兵の写し身に貪られながらなお夏はニヤリと笑ったのである。
「みんな、後は頼んだ……!」
拳を打ち付け、夏はその身に溜め込んだ焦熱を解き放つ。
彼岸花がゆらぎ、跡形も残さず消し飛んで硝子となった土が曝け出される。桜花の花弁で創られた紅猟兵などひとたまりもなく吹き飛んだ。
「あたしの……役目は、果たしたよな……?」
その爆心地で満身創痍の夏は、笑顔のままに倒れ込む。
戦局の流転は加速する――
「ひひっ……ひはは、ひゃはははっ! なんだその冗談、おいおい笑わせてくれるなよ……!」
腹を抱えて大笑いし、しまいにはげほごほと噎せる逢真。彼が指差す先には桜花の複製した己の写し身が、二体の悪魔を真似た木偶人形を従え立っている。
「それは俺を真似たのかい? っくく、いやいや。影の影ってェ? よしとくれ笑っちまうよ、俺ぁ気管支系が弱いんだ、戦いじゃなく笑い過ぎで死んじまうよ」
だって、お前が自慢げに従えているそれは。
姿形ばかりはよくよくあの一瞬で真似たものだと感嘆するが、その写し身の精度が故になお滑稽なそれは。
「見た目ばっかり恐ろしいだけのお人形じゃねえか!」
耐えきれない、どうしても耐えきれない。そんなものを従えて、さもお前の完璧な複製だとばかりに立ちふさがるそいつの滑稽さが逢真を嗤わせる。
「つかなぁ、そもそも俺をコピったところで何の意味もありゃしねえのよ。なんたって俺は無能も無能、戦闘能力なんざありゃしねえ。ただの猛毒肉袋だよ」
そして悪魔たる彼らはあくまで従っているという体で力を借りた協力者なのだ。逢真の力ではないならば、ありもしないそれを彼岸桜がなぜ写し取れようか。
「ったく笑かしてくれらぁ。面白い見世物のお礼に、本物の"昔の貌"を見せてやるよ」
嗤う青年の顔が、ああ。貌が崩れて――
「千座の祝詞に罷り越しませ、いと古き吾が一側面――顕れろ世界悪、見ろよお前の大好物だぜ。飛び回って踏みにじって、きれいな花ごと食い尽くしちまえ」
蛇が蜥蜴が鰐が亀がありとあらゆる『蟲』からなる悪意を喰らうものが、逢真の招来に応えて現れる。
紅の逢真が悪魔の複製をけしかけるが、それをまるで羽虫でも食むように一瞬で平らげ悪は戦場を席巻する。
なぜなら此処は悪意の園。己が京楽、美貌が為に戦争を繰り返し死を冒涜する悪なる桜の園なれば。
其の凶星の異面を止める術は無く、其が喰らう餌に不足なし。
斯くて戦局は決定的に覆る――
「はぁぁぁッ!」
紛い物とはいえマリアによく似た狼を屠るのは気分が悪い。貫かれ桜の花弁と化して散った狼を貫いて、アリシアはふと空を見上げた。
歌が聞こえる。先程から自身の唄を穢す紅の、翼持つ偽アリシアの歌声ではない。また兵士たちの歌が、誇り高く闘志滾らせる戦場の歌が聴こえる。
そうだ、負けていられない。
姿を消したまま短刀で斬りかかってくる写し身を剣で受け止め、上空から迫る槍を身を翻して薄皮一枚で回避する。
負けられない。こんなところで。魂の宿らない偽物の自分などに。
「そう……真に強いということはどういうことか、見せてあげましょう! ――変身! マーナガルムアーマー!」
其れは彼岸桜も知らぬ新たな姿。半身を白、半身を黒に飾った光と闇の相克する狼の姿だ。
「敵に回すと厄介な私たちでも、この力ならば……!」
本当ならば頼りたくなかったというのが本音だ。負担の大きいこの姿では長くは戦えぬ。良くて己の複製二体を倒してそこで力尽き、悪ければ一体も倒せず限界を迎えるやもしれぬ。
でも、だから。それで止まるならば此処に私は居はしない。
「来なさい……私は姿かたちを真似た偽物に負けはしません!」
不可視のマリシテンが短刀を滑らせる。最低限の動作で無駄なく鎧の隙間を狙う刃を、右の剣でかち上げ左の刃でがら空きの胴を薙ぐ――ワイヤーで跳躍されたか、手応えは無し。
次に来るのはセイレーンか。いいや、このタイミングでマリシテンとセイレーンが同時――!
「けれど、私はもう下がりません、下がるわけにはまいりません!」
退かぬ決意を胸に、アリシアは捨て身でセイレーンに背を向けマリシテンが来るであろう方向に双剣を振り抜いた。
「噛み砕け、光と闇の舞!」
果たして。双剣が切り裂いた空間から、上下を分断され驚愕に目を見開いたマリシテンのアリシアが現れ、そして桜花と散る。
だが、そこまでだ。訪れた限界はマーナガルムアーマーを強制解除させ、無防備な背中をセイレーンに曝け出す。
「――レン!」
無防備な背中に吸い込まれるように突き出される槍を、一発の銃弾が跳ね返す。
次いでアリシアは浮遊感に襲われて、目を開けばそこは竜の背中。
「間一髪、でしたね。間に合ってよかった」
有翼の騎竜を操るシャルロットが、未だ硝煙くゆる機関銃を片手にアリシアに振り返る。
「助けてもらったのですね、ありがとうございますシャルロットさん」
「いえ、これからが本番ですよ。ちょっと揺れたり天地がひっくり返ったりしますが、しっかり掴まって耐えてくださいね!」
シャルロットが言うが速いか、騎竜は縦横無尽に旋回し追撃するセイレーンと激しい空戦を繰り広げる。
槍を携え突撃してくればそれを紙一重で躱し、シャルロットが弾幕を張ればひらりひらりと掻い潜って再攻撃の機を伺う。
「飛べない相手は簡単ですが、やはり飛ばれると面倒ですね……」
己の写し身を上空からの狙撃で瞬く間に仕留めたシャルロットをして、同じ空を戦場とするセイレーンは難敵であった。
「いえ、私とレンの戦いはこの程度じゃない……ですよね? 見せてやりましょう、レン! 人竜一体の竜騎兵を!」
騎竜が鳴き、銃が吼える。
「――私の戦いは、まだここで終わるわけには行きませんから!」
竜と翼人の神話の如き戦いは、しかし近現代の空戦の如く互いに前後を、上下を入れ替える激しい機動の末に竜が打ち勝った。
「そこです、墜ちて!」
シャルロットの一発の銃弾が、セイレーンの頭を射抜いて花弁に還す。
「これで空はクリア。他の皆さんも戦線を突破し始めたようです。私達も彼岸桜のもとへ急ぎましょう!」
「ンー、足止めはこのくらいでいいかナ?」
花園の向こうで火柱が上がった。今までの戦場で見なかったそれは、猟兵の誰かが防衛線の一角を突き崩した証拠に他ならない。
ならばここからは反転攻勢。チトセは剣を振り払い、紅の写し身を弾き返す。
至近距離で剣戟ごっこに興じ、己の複製体を別の猟兵の元に行かせない。あるいは彼岸桜に迫る己の妨害をさせない。そのために状況が動き出すまで膠着状態を敢えて生み出していたチトセがついに動き出す。
「過去のボク、こんな芸当はできるカイ?」
ざらりと宙に現れる六角形の群れ。
それは写し身の剣に切り裂かれながらもそれを取り囲み、包囲網を作り上げる。
「さぁ、カーニバルのスタートネ!」
ばちり、と。電流が流れたように写し身の身体が跳ね、だらりと全身が弛緩する。
桜花に還ることは許さず。されど猟兵に刃振るうこと能わず。
「これでユーはボクの操り人形だヨ。このタイミングならおかわりも来ないでショ、フフン」
己によく似た人形を従えて、チトセはいよいよ本陣を突き崩すべく雷のごとく駆け出した。
「そろそろ、かね」
剣をぶつけ合うこと幾合。今までの兵十の動きを完璧になぞる写し身は、完璧だからこその隙の無さと完璧だからこその読みやすさ故に千日手のまま両者の剣を膠着させていた。
「みんなうまい具合に切り抜けたみたいだ。いやあ凄いもんだ、僕もあやかりたいものだねぇ」
道は既に開かれた。あとは目の前の剣士を斃し、その道を一息に駆け抜けろ。
「狐の松明は彼岸の標。さて、そいつに憑かれたお前さんの逝く先はどこだろうね?」
ぴん、と目くらまし代わりに一粒の種を指で弾いた兵十は、それがぶつかり視線がわずかに逸れた相手に攻めあぐねるのを承知で再び斬りかかる。
無駄だ、とばかりにへらりと笑ってそれを受け流す写し身。だがそれでいい。兵十は流された勢いのままに駆け出した。
それを写し身は追おうとするが、しかし。
「それだけ咲いてちゃ多少増えたところで気づかないもんさ。僕がお前なら知ってた分で違っただろうがね」
ああ。弾かれた種が芽吹いてゆく。
血のようにどす黒い彼岸の園に、鮮やかにて艶やかな彼岸花が花開く。
死者を縛り付ける呪いの花を上書きするように、死者を悼む彼岸の花が広がってゆく。
それは桜の花弁が象ったヒトガタを食いつぶし、花束を供えるように辺り一面に散らばった。
「友軍はどうやら突破に成功したようですね」
なるほど、最後尾か――エルデラントはどうしたものかな、と眼前の写し身を見つめて思案する。
互いに銃撃戦で装甲はボロボロだが、それ以上の致命傷には至らず。
そろそろ決着をつけるために動かねばなるまい。
ならば。
「あなたも同じ考えでしょう。見せた技を複製するなら、取れる手は予想できますが――」
彼我の性能が全く同一であるならば、予測したところで阻止する術は多くない。
其の中でも最も確実なのは、先んじて速攻で相手を沈める、これひとつだ。
「これ以上思考に時間を割く余裕はありません、行きます」
エルデラントが駆け、四ツ腕を大きく広げて殴打の構えを取る。
対する写し身も副腕を広げて対抗しようとするが、エルデラントはその裏をかくかのごとく副腕を巧みに操り跳躍し、写し身の背後に降り立った。
「やってみれば案外うまくいくものですね」
そのまま尾を掴み、膂力に任せて振り回し叩きつける。自分の頑丈さは自分がよく分かる。この程度で壊れはしない。だから放り投げたそれを目掛けて、エルデラントは全力で突っ込んだ。
受け身を取れない空中で、自分と同質量の、それも充分に加速した上で耐衝撃姿勢を取った存在に直撃された写し身は四散し桜の花弁に消えてゆく。
「あっ、止まれません。進路上にどなたか居ましたらいい具合に回避してください」
――そのままノーブレーキでエルデラントは彼岸桜目掛け突進していった。
「さて、と――」
妹を真似た写し身二体を鉄拳制裁したつかさは、散りゆくそれの花弁を背に彼岸桜に向き直る。
「ここから先は私の出番ね。常世に造り上げられたこの地獄、今終わらせてあげる」
すらりと抜くは真剣にあらず。幻朧桜の枝から削り出されし霊験あらたかなる木刀。
影朧を引きつけてやまない霊力は形を変えても衰えず、それゆえにこの逢魔が辻では一層の力を持つ。
ここが多くの命が尽きた古戦場であるならば、彼らの魂がいまだ救われず影朧として彷徨い、死を繰り返しているならば。その無念は、その魂は、まだ此処にいるはずだ。
「私の身体を、おまえたちに貸してあげる……」
彼岸桜の枝がわなないた。やめろと、よせと叫ぶように。
それが玩具にしていた魂たちが、最期の誇りを抱いてつかさに集う。
『我らの護国の想い、忠節の誓い』
そうだ。敵も味方も、ただそれだけを抱いて戦った。
断じて狂い桜の無聊を慰めるためではない!
『己が享楽の為に貶め続けたその悪意、断じて許す事は出来ぬ』
そうだ。我らは兵士であり戦士であった。
その気高き誇りを、誰の悪意が汚してよいものか!
『今ここに国の違いなどは最早些事』
そうだ。かつて敵であった者たちは今、地獄から解き放たれる為に手を取り合う。
そうだ――同じ人同士だったのだ。永遠にとは言わぬ。ただ一時、同じ目的のために手を取り合うことだってできる。
『悍ましき「彼岸桜」……人類の敵、滅すべしッ!』
――木刀はその時、幾多魂の輝きを得てこの世のどんな刃より鋭く巨大な剣となる。
「我らが心、我らが魂、刃金となりて――悪鬼、両断!」
すらりと振るわれた刃が彼岸桜の幹に半ばまで食い込み――そこで止まる。
嗚呼。幾百年もの間悪意を湛え生き血を啜った大妖樹を屠るには、人の魂ではあまりに矮小なのか。
否。
否。
――否である!
「…………皆、任せたわよ!」
楔は打ち込まれた。あとは人の意志が悪意を穿ち、斬り倒す。
巨大な蛟が幹に噛みつき毒を流し込む。
死者の軍勢が野砲で大樹を釣瓶撃ちにする。
三人と一体の剣士がそれぞれの剣を手に、刻まれた傷を押し広げてゆく。
空を往く銃士が枝葉を撃ち落とし、そして駆け抜ける機兵が幹に勢いよくぶつかり衝撃を加えてゆく。
人の意志だ。これはすべて、彼岸桜が玩具と弄した人の想いのその現れだ。
みしり、と巨木が悲鳴を上げた。
「おお――」
誰の声だったか。
いいや、誰の声でもない。此処に居た全員の声だ。
「おおおおおおぉッ!!」
声は雄叫びとなって、人々の意志を一つに撚り合わせ――然るに、それは。
悪鬼羅刹、邪なる桜花を遂に斬り倒す力となる。
逢魔が辻が消えてゆく。紅の桜が倒れ、彼岸の花が枯れ落ち、地獄はそして本来あるべき荒野へと変わってゆく。
「「――ありがとう、やっと還れる」」
「――戦友よ、ゔぁるはらで会おう」
「――Ja。クダンのサクラに会いに行くよ、戦友」
そんな声を聞いた気がして。猟兵達は取り戻された青空を見上げるのだった。
大成功
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