White Rose Flambrella(作者 七夜鳥籠
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#アリスラビリンス 


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#アリスラビリンス


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●月夜に不穏な影ひとつ
 ――タタッ、タタタン。
 ――タン、タタタン。

 石畳の灰色道に、赤茶や白の煉瓦造り。屋根には煙突ぴょこんと飛び出て、小窓は小花で彩られ。
 絵本や童話に登場しそうな素朴な可愛さ溢れる光景。浪漫めいた彩りの、昔ながらの西洋の街並み。
 善良な人々のみが暮らす、平和な国そのものの。平穏無事な、街並みにて。
 夜の帳に紛れて降り立つ、不穏な影が、ひとつばかり。

 ――トントン、タタタン。
 ――トントテ、タタタン。

 不穏な空気は雨降りそうな、空模様だけで良かったというのに!

 ――タタッ、タタタン。
 ――タタタタタン。

「……たすっ……けて……っ、」

 血の滲む脚を引き摺るように、それでも躍りを止めぬ少女は。
 膝丈白のワンピース、それから視線を伸ばした先の軽快なステップを刻む足元――赤い靴をちらりと見ては、涙滲む眼(まなこ)をそのまま、縋るように空へと向けた。
 残虐たる赤のそれから逃れまいとするかのように、地とは逆の方向へと。神に助けを求めまいと、天に向かって指先伸ばす。
「かみ……さまっ、どうか……っ」
 月は静かに見つめるのみ。
 助けに来たとばかりなのは、黒い黒い雨雲だけ。
「……ごめ、っ、ごめんなさっ、ごめんなさいっ……!」
 それとももしや、雨雲が。厚く厚く重苦しいのは。
 少女の罪を、罰するためか。激しく責め立て、泣かせるためか。

 ひゅうひゅうごうごう、風が吹く。
 ぽつぽつぽたり、雨が降る。

 ざあざあ雨に、なるまえに。

「だれか、たすけて……っ!!」

 少女に救いは、やってくるのか。

●白の少女は赤に染められ
 御伽の国のトランプたちの薔薇塗りにも負けぬ懸命さで、己の任務をこなすためにとグリモアベースへやってくる猟兵。とあるその日の彼らの一部は控えめに響く鼻歌につられ、或いは苦情を言うためにか、黒衣の男の元に集った。
 ――――、――、――――、――――、la――、
「――The――、……おっと」
 今にも歌い出しそうだった男――ジェラルディーノ・マゼラーティ(穿つ黒・f21988)は、おほんとひとつ咳払いをしてからチェシャ猫めいてにんまり笑った。
「調子はどうだい? ――ウンウン、元気そうで何よりだ」
「梅雨はイヤ? うんうん、その気持ちもまァ分かるよ」
 肩に担いだ蝙蝠傘をもう一方の指で示して。
「だけどね。素敵な傘がありさえすれば、じめじめした気分も途端に吹き飛ぶ……と思わないかい?」
 そんなことない? と首を傾いで。
「まあ、物は試しだ。丁度アリスラビリンスにて、ぴったりな事件があってねぇ、」
 ――哀れな少女のお話だ。
「『赤い靴』という童話を皆は読んだことがあるかい? 正にそこから飛び出たみたいな、呪いの赤い靴――それが今回のオブリビオンだ」
 罪を犯したアリスのみを標的として近付いて、靴型である見目を利用し己へ足を通すよう仕向け。うっかり履いてしまったならば、死ぬまで踊らせ続けるのだと。
「彼女の罪を喧伝したり糾弾したりするオマケ付き」
 可哀想だろう? と口をへの字にする男。
「だから彼女を救っておくれ。可愛らしい白の衣装が赤く染まりきるまえに」
 グリモアが光り輝いて、転送の準備がいよいよ始まる。
 けれど手持ち無沙汰でか、男は突然蝙蝠傘をぴしっと天へと向けてみせ。
「あやつの首をちょんぎってしまえ! なんてね。今回ばかりは足首だけども」
 ――ん? いやいや、冗談だよ。
 御伽の国の誰かさんの、真似事を少ししてみただけさ。
「……ああそうそう、それとだね、」

「フラミンゴって、傘に似てると思わないかい?」

 不思議で素敵な傘屋の地図を手近な者に押し付けながら。
「ネック・ラック・フラミンゴ――語呂が良いね――兎も角オウガである彼らはクロッケーが大好きだ。本来の役割は槌なのに、自らの意思で遊ぼうとする。つまり彼らこそがプレイヤーで、しかも群れで行動するから被害は甚大、傍迷惑な敵というわけ。更にはボールはハリネズミでもなく何とアリスの首だという。残酷だね」
「此方は強さはそうでもないけど数だけはめっちゃ多いタイプ。とてつもない大軍勢で平和な国をめちゃくちゃにするから――うん勿論、本当にそうなってしまう前に何とか倒してくれたまえ。嗚呼それと、向こうの住民とも協力すると上手くいきそうな感じだよ。無事にボスまで辿り着くのを君たちは優先した方が良い」
 非常に残念なことながら、かの女王の真似事めいて彼らの首は刎ねられないしね。だって今回のフラミンゴ、フラミンゴの癖にチェシャ猫みたいなんだ。
 ……などとまるで謎かけめいた、意味深な呟き最後に残して。
「それでは――Good luck!!」
 爛々と輝く二つの月に猟兵たちは見送られ、ゲートをくぐるハリネズミが如く境界線の“向こう側”へ。


七夜鳥籠
 アリス要素盛り盛りでお送りしました。六作目はアリスラビリンス――御伽の国が舞台です。
 七夜鳥籠と申します。どうぞ宜しくお願いいたします。

●第一章
 集団戦。
 愉快な仲間達と協力してボスへの活路を切り開いてください。
 いそうな住人のご指定、お任せ、どちらでも構いません。

●第二章
 ボス戦。
 少女の罪とは何でしょう。

●第三章
 日常。
 梅雨の憂いも吹き飛ぶような、素敵な傘を探しに行きましょう。
 UDCアースで普段使いできそうなものから、アリスラビリンスらしいメルヘン・ファンタジックなデザインまで。傘を開くと花が舞う、柄が動く、雨が降る……等々、特殊な効果があるものもお求めいただけます。
 また、傘職人に注文すればオーダーメイドも可能ですので、イメージモチーフ風のものもご希望でしたらお作りいただけます。
 用途としては雨傘メインのイメージでお送りしておりますが、日傘や晴雨兼用のものも歓迎です。
 どうぞ自由な発想で、プレイングにてご指定ください。
 詳細や一部お任せ、全てお任せなどもご自由に。
 また、三章のみ。お声掛けいただけましたら、ジェラルディーノもご一緒させていただきます。

 一、二章は少数名の受付となりますが先着順では御座いません。
 三章は可能な範囲で執筆させていただければと存じます。
 また、受付期間などはマスターページにてお知らせいたします。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『ネックラック・フラミンゴ』

POW ●滅多刺しクロッケー
【全身が針で覆われたハリネズミ型のオウガ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
SPD ●気まぐれギロチン
【刃物状に変化させた羽根を飛ばし、その羽根】が命中した対象を切断する。
WIZ ●女王様のローズガーデン
戦場全体に、【赤く塗られた花と鋭いトゲを持つ薔薇の木】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●グッドラック・フラミンゴ
 ハリネズミを打ち損じ、女王に首を刎ねられた?
 ああ嗚呼なんて、お可哀想。バッドラックもいいところ。
 けれどもある意味運が良いのか、オウガとしてならまだ活躍。
 バッドラックなネックラックはグッドラックなテンションで、
 ボールをアリスの頭にすげ替え、楽しく遊んでいるようです。
 そしてある日のある時遂に。バッドもバッド、ラックなことに。
 群れは平和なこの国にまで。住民迷惑、大迷惑。
 いるかいないかなアリスなんて、迷惑どころか命の危機です。

 ドコドコドコドコやってくる。
 フラミンゴの群れやってくる。
 ピンクの大群、やってくる。
 ネックラック・フラミンゴ。

 迎え撃つは愉快な仲間と、
 個性豊かな猟兵たち。
 けれども気狂い鳥さんたちは、
 物ともせずに突進します。

 ドコドコドコドコやってくる。
 フラミンゴの群れやってくる。

 ところで脳無し鳥さんたちは、
 一言たりとも喋れない。
 けれどもきっと、フラミンゴ。
 クロッケー狂いのフラミンゴ。
 きっとお口があったのならば、
 こんなやり取りあったのでしょう。

 ――クロッケー会場はこちらですか?
 ――いいえどうぞ、お帰りください!!!!
ライラック・エアルオウルズ
打ち首とされて、打つ首も無いのに
未だ未だ遊ぶ御心算なのかい?
“ヘッド”以外で打つと云うのは、
ルール違反だと思うのだけどな

戯れに独り言ちるのは、そこそこに
傍に居る愉快な仲間達へ声掛けて

君たち、狙い所は解るかい?
喧しい足に狙い定めて、打つんだ
暫く彼らを場に留めておくれ

その隙に、僕は針鼠に対処を
《全力魔法/属性攻撃:氷》放ち、
まあるく氷付けにして行動妨害
針鼠の動く前に踏み込んで
引く二重線で、砕いて、壊して

球を片付ければ、次は木槌だ
仲間への攻撃は《オーラ防御》
留まる隙を突いて、複数狙い
右から左と薙ぐように黒線で裂く

ルール違反は首を刎ねよ
まあ、もう首は無いようだから
狙い狂って、身を裂く事になるがね


●第一フープ/刑が先、判決は後
「打ち首とされて、打つ首も無いのに」
 きちんと繋がった首を傾げ、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は言いました。
「――未だ未だ遊ぶ御心算なのかい?」
 答えはしかし、いえ、やはりと言うべきなのでしょうか。ともかく返ってはきませんでした。
「“ヘッド”以外で打つと云うのは、ルール違反だと思うのだけどな」
 “頭”ごなしに否定するのは彼とてご遠慮したいでしょう。けれども相手はその“頭”さえない状態なのですから、こなせるものもこなせないとも言える状況でもあります。なのできっとこれは誰もがノーカン判定してくれるでしょう。
 それにそもそもノーカンなはずの得点をオーケー判定にしてしまってまで、遊んでいるのは鳥さんたちです。
 確かに己の言い分を喋る嘴がないというのは仕方のない、鳥たちにとっての“現実”ではあるのでしょう。けれどそのまま許してしまえば夢のような不可思議世界があっという間に崩壊するのもまた此方の“現実”なのです。住民たちの安眠が、妨げられてしまうのです。
 ならば同時にこの男――ライラックという夢追い人が、かの我儘な女王のように一方的に裁定したとて責める人など出やしないでしょう。
 つまり遠慮をする必要など少しも毛ほどもありません。
 ルール違反には、お仕置きしましょう。

「暫く彼らを場に留めておくれ」
 喧しい足に狙いを、と画家たちに声をかけながら、手にしたのはご愛用の万年筆でありました。筆は筆でも毛筆でないのは、遠慮が毛ほどもないからでなく。彼が文豪と呼ばれる類いの職種についていたからです。
 画家たちが絵筆で足枷を具現化、鉄球まで生みだすのを感心してちらりと見つつ、けれど此方もピンクがちらちら、煩いのが召喚した針鼠を相手取ります。
 魔法でまあるく氷付け、けれどもその凍った球が手頃な大きさだからといって、さてボーリング!なあんて遊びに興じることはあるはずもなく――丁度ソチラにピンめいた、ピンクの棒はちらほらあるけど――空中そのもの紙面に見立て、するりと滑る、ペンの先。万年筆で引く二重線。
 誤字をいらぬとするように、黒のインクは夢の世界にオウガは余分と訂正します。あっさり砕いて屑としたなら、なかったことになりました!
 氷の球を片付けお次は、鉄の球がついた木槌。
 右から左と薙ぐように、鉄のような黒で裂く。
「ルール違反は首を刎ねよ」
 女王は顎をくいと上げて、謡うように宣告しました。
「……まあ、もう首は無いようだから――狙い狂って、身を裂く事になるがね」
 鎌代わりの万年筆は、鎌より鋭く軌跡を描いて仰せのままにと言わんばかり。女王に従い次々と、刑を執行してゆきます。
 頭のない木槌たちは、叫ぶ間もなく声もなく。
 そもそも嘴ないならば、声を上げられないのはもちろん。

 ――あんたなんか、ただの作家のくせに!

 なんて台詞も吐けやしません。不思議の国のアリスめいて、叫ぶこともできないままです――つまり何と、何ということでしょう!夢から覚めるきっかけの台詞が、ないままということです!
「――、」
 しかし寧ろ、女王にとっては。その展開は好都合。
 自身が夢から覚める時もまだまだ訪れはしないのだと、此度の女王たる彼も、きっと安心できることでしょう。

 刑が先、判決は後? 理不尽だって何だって。

 今ばかりは我らが女王の。
 女王さまの、お気に召すまま!
大成功 🔵🔵🔵

冴島・類
ありすがこの世で踊るなら
彼女を迎える愉快な子らと
多少おかしくて
楽しい夢になるものでないと

赤い靴を血で染めるなど
言語道断なんせんす

住民の子ら(お任せ)には
僕と瓜江が先に駆けて羽を引きつけるから
反撃に転じれるよう、何かを鳥に投げつけ
一瞬だけ注意を逸らすのを手伝ってくれないかいと
でも、絶対無理はしないでとは念押し

壱、遊ぶなら僕らとはどう?薙ぎ払いでご挨拶
二、羽の反撃はこっちと残像残すフェイントで引き連れ跳んで
三、気を抜くとこっちの球が届くよと

気が逸れたら、踏み込みながら
喚んだ花で縛り上げ問いを
その遊び方じゃ
誰もいなくなってしまうけど
それでいいのかい?

ああ、失礼
お口がないのだった
では、げえむはお終いに


●第二フープ/モドキ、お話、なぞなぞに、そしてとっとき、最高のバター
「ありすがこの世で踊るなら、彼女を迎える愉快な子らと」
「多少おもしろおかしくて、楽しい夢に、なるものでないと」
 冴島・類(公孫樹・f13398)は、詩を読むように。調子をつけて、言いました。
 最後に更に、戯れで。ででんとひとつ、決め台詞。
「赤い靴を、血で染めるなど」
「言語道断、なんせんす」

 ……けれど実は、これらの台詞。独り言でありました。
 類はころころ、飴舐めるように頬の内で言霊転がし。
 食指動かぬ上に好きには、なれそうになかった鳥さんたちには。
 ハはハでも歯ではなく、ナイフでもなく短刀の刃を、向けて隙なく構えてみせます。
 だってあの、ドドピンク。とても美味しそうには見えないんですもの。
 そして詠うように詩を紡いだのを意外とばかりにぱちくり見ていた、料理人に助力を請うため普段の口調で話しかけます。
「僕と瓜江が先に駆けて羽根の方を引きつけるから、その後反撃に転じれるよう注意を逸らすのを手伝ってくれないかい」
 一瞬だけでいいと言い、気負わぬようにさせるのと。絶対無理はしないでほしいと、念押しするのを忘れずに。
 元より闘う覚悟であると頷く彼に頷き返し、近くの獲物に狙いを定め、ピンクの毛並みを見据えます。
 そして御伽の兎のように、地面を踏みしめ一気に跳ねれば、飛んで鳥まで一直線。
 もちろん彼の相棒である、絡繰瓜江もご一緒です。

 ――壱、遊ぶならば僕らとはどう?
 薙ぎ払いでご挨拶。
 ――二、さあさあおいでやす。鬼さんこちら、手の鳴る方へ。
 羽根の反撃、こっちに頂戴!と言わんばかりに追いかけっこ。残像残すフェイントで、絡繰瓜江と引き連れ跳んで。
 ――三、けれども背後にご注意、ついでに横にもご注意を。
 追うのばかりに集中して、すっかり時計の長針気分にばかりになってしまっていると、いつか。いつの間にやらこっちが鬼に、なっているのに気付かぬやもね?
「気を抜くとほら、この通り。こっちの球が届いてしまうよ」
 クロッケーになぞらえて、刃物状に変化して飛ぶ羽根の合間を縫う短針。
 不思議不可思議御伽の国では時計は逆に、回りもするもの。
 ――おやもしかして、ご存知ない?
 ――時間と口をきいたこともない?
 それは兎も角時計を握るは帽子屋でなく、類兎。
 時間にちょいと耳打ちすれば、一瞬で時計がグルグルと!
 世界にちょいと耳打ちすれば、一瞬で展開もグルグルと!
 それをお忘れになられては、この世界じゃあ生きていけない。

 そんな彼らのすぐ先の未来を皮肉ってか、偶然か。料理人が投げているのは骨になったチキンたち。
 スープのダシになった後のカスカス骨っこだけれども、料理や食べ物の無駄遣いにはなっていないので安心ですね。他の鳥の気を引く役目も果たしているのでなお完璧。
 ところでこの大量の、ピンクの煩いチキン擬き。煮ても焼いても代用スープの役目すら果たすのは難しそうです。
 ならば用はないけれど、一言だけ問いたいのだと。完全に彼らの気の逸れた、瞬間を狙い喚んだ花。
 召喚された情念の花は邪心を養分に喰らう根を持つ、本音を語る花であるので。
 縛り上げて問い掛ければ、まるで鏡映しのように。強制的に存在問答を始められるというわけです。
 さてさてそれでは七月兎。健脚自慢の類兎。
 かの御伽の兎が如く、狂ったテンションというわけでもなく。つまりはお話してくれよぅ!と声を上げてはございませんが。
 静かな口調で鳥さんへと、答えを求めて問いました。

「その遊び方じゃ、誰もいなくなってしまうけど」
「……それでいいのかい?」

 嘴のないフラミンゴ。足をドタドタ、ドードーと、その場で足踏み暴れるだけ。

「――ああ、失礼」
「お口がないのだった」
 ヤマネのように慌てて喋るお口さえもないならば、本音も嘘も、ありません。なぞなぞの答えを言うこともできず、お茶会仲間になれもしません。
「では、げえむはお終いに」
 類は最後にそう言って、炎の術を繰り出しました。

 ――最後は炙ってチキンステーキ? バターの用意ならあるぜ。

 強い胃にでも自慢があるのか、料理人が茶々を入れます。
 ああまったく、きっとぜったい美味しくはないと思うのだけど!
 彼は少し困ったように、苦笑をして返しました。
「これはもう、バターじゃダメです」
「最高のバターだったんだぜ」
 繰り返すようにそう言ってはしょんぼりする料理人。ならばと類は最高の笑顔で励ますように言いました。
「ではその最高のバターを使って、是非とも素敵で美味しいステーキを僕たちに食べさせてくださいな」

 ――もちろんチキン擬きではなく、ホンモノのチキンステーキを!

 料理人は笑顔となり、途端に元気を取り戻したので。
 きっとそのお茶会も――それともディナーと呼ぶべきでしょうか。
 兎にも角にもそのお話も、最高なものになったことでしょう。
大成功 🔵🔵🔵

宵雛花・十雉
かんろちゃん(f18159)と

大丈夫か?
おっかなかったら後ろに退がっててもいいんだぜ?
なぁんて男を見せる

オレからも住民たちに頼むよ
アンタらの力を貸してくれ

かんろちゃんの歌を聴いてたら不思議と力が湧いてくる
けど、条件付きで寿命を削るってのも知ってる
友達が命削ってんのを黙って見てられねぇよ
遠慮せず一発やってくれ

指揮棒での攻撃は可愛いけどそこそこ痛かった
当たったとこをさすりながらも全然平気なフリ

よっし、これで心置きなく戦えるってモンだ
9倍か、なら紙飛行機も大量に飛ばせんな
矢の雨の如く、頭上に降らせてやるよ
自慢の霊力込めた破魔矢をさ

本日は局地的に激しい雨が降るでしょう、なんてな


世母都・かんろ
十雉さん(f23050)と

ひっ(首無しフラミンゴに少し怯え
あ…だ、いじょう、ぶ
戦え、ます

この国に住む人達が
傷つかなくていいように

住民達に視線を合わせて
お願いします

一緒、に、戦って、くれ、ます、か?

わたしにできるのは
片想いを歌うこと

十雉さんと
愉快な仲間達の皆の力が
一番揮うように


雨降りダーリン傘の下
待ちぼうけのまま石を蹴る

君に首を横に振られちゃ
てるてる坊主も意味がない

雨降りダーリン傘の下
おとといおいで、二度と来ないから

きっともう、二度とないから


指揮棒で十雉さんをえい、と攻撃
い、痛く、ない、です、か?

寿命が減る事を「大丈夫じゃない」と
ちゃんと叱ってくれる友達が出来た

赤い靴の彼女は
可哀想、だわ


●第三、第四フープ/詩(うた)と時計、きのこに扇子
 此方に立つは二人組。宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)と世母都・かんろ(秋霖・f18159)のペアはどちらも男の子。けれど紫の髪持つかんろは物語のヒロインに憧れる、(身長以外の顔と)心はただの一人の女の子でした。
 そんなかんろは化け物を前に、震える無力な少女のように。ドタドタと現れた大量の、顔なし首なしフラミンゴに。ひっ、と声上げ一歩二歩と、後退りをしてしまいました。ホラーな物語はお好みではないのか、少し怯えてしまったようです。
 そんな乙女なかんろに対し、心も体も男の子である十雉は友達背に庇いつつ。
「大丈夫か? おっかなかったら後ろに退がっててもいいんだぜ?」
 と格好つけて、言いました。
 “彼女”がヒロインになりたいならば、己はヒーローになってやると。
 それともやはり、ここは物語の王子様が定番でしょうか。
 とにもかくにも彼女より、僅かに高い彼の背は。
 それが僅かな差であっても彼女の目には逞しく、男らしく感じられ。たいそう心強かったのです。
「あ……だ、いじょう、ぶ」
「戦え、ます」
 彼の気持ちは嬉しいものの、離れて見ているだけとなっては申し訳なく思うかんろは、勇気を振り絞り声を上げて、戦えるのだと宣言しました。
 昔ながらのヒロインや、お姫様も素敵でしょう。
 けれど今どきのヒロインは、戦ったっていいのです。
 かんろは近くの住民たちに、視線を合わせてお願いします。
 この国に住む人たちが、傷つかなくていいようにと。
 わたしたちに、力を貸してほしいのだと。

「一緒、に、戦って、くれ、ます、か?」

「――もちろん!!!!」

 住民たちそれぞれの声が、一斉に重なって響きました。

「ハハ、かんろちゃんは凄いなぁ」
 十雉は思わずぽりぽりと、頬をかいてしまいます。
 彼女自身にも住民たちにも心底感心しはしましたが、己も一言頼む間もなくこうもあっさり進んでしまうと。
 ――オレも頑張らなきゃな。
 改めて、自分も格好良く活躍せねば、と思ってしまうのも無理はありません。
 御伽の国の物語において、乙女のパワーはぜつだいなのです。
 それでもきっと、大丈夫。王子様とはいつだって、最後に全てをかっさらってハッピーエンドにするものですから。

 和風な衣装の王子様が千代紙飛行機構える後ろ。手を繋ごうと思うならば簡単に繋げてしまえる距離の、彼よりほんの、ほんの僅かに後ろのばしょで、姫様が。梅雨に咲きゆく紫陽花めいた、姫様かんろが歌います。

 ――雨降りダーリン傘の下。
 ――待ちぼうけのまま石を蹴る。

 ――君に首を横に振られちゃ。
 ――てるてる坊主も意味がない。

 ――雨降りダーリン傘の下。
 ――おとといおいで、二度と来ないから。

 ――きっともう、二度とないから。

 ……それはそれは、うつくしい。うつくしい歌声でありました。
 皆の力がいっそう一番、揮うようにと願い紡ぐ。
 透き通るようなうつくしさの、彼女の歌と、歌声は。
 みずみずしい果実のように、或いは恵みの雨のように。
 まるでしみわたる愛のように、辺りにさあさあ響いてゆきます。

 紡いだのは、片想い。かんろが甘く降らしゆくのは、片想いのうたでした。
 一方的な、愛のうた。物語の多くにおいてはかなしくせつない意味を持つ、ハッピーエンドになれぬうた。幸せには、なれぬうた。
 けれどもその歌の力は彼女の連れゆく霧雨輝かせ、物語の魔法めいて、きらきら願いを叶えます。しとしとせつない片想いが、皆に力を、勇気を湧かせ、困難へと立ち向かうすべをみごとに与えてみせたのです。

 かんろあまいのおおきいの。
 かんろのあいも、おおきいの。

 この国に詩人がいたなら、そんな詩(うた)でも残しそうな。ほのかに降りゆく雨と愛と、飴の乙女の光景でした。

 力の湧いた住民たちは、一斉に反撃を開始します。
 靴屋の店主はいらなくなった木型をぽかぽか投げていき。
 服屋はメジャーをシュッと放り、数匹分の骨ばった足をあっという間に一纏め。ついでにリボン結びにして、可愛くしてやるおまけ付きです。
 布屋は鮮やかな彩を広げ、フラミンゴの視界――はあるのかまでは分かりませんが、ともかく感覚封じるように頭のあった部分を覆い。同時にピンク一色のみの、退屈な景色を色とりどりに。仲間や猟兵たちの目をも楽しませてくれています。
 装飾売りは大きな宝石がたくさんついた派手派手ネックレスを両手いっぱいに空へとかざし、その羽根先に光を集めて。やがてはジュッと焦げさせて、刃物めいた凶器としては飛ばせぬようにとしてしまいました。

「かんろちゃんの歌を聴いてたら不思議と力が湧いてくるな」
 十雉もその手を開いては閉じて、歌う彼女を眺めます。
 今すぐにでも住民たちに加勢したいところでしたが、十雉には譲れぬやり残したことが、ひとつばかりあったのです。
 聴こえているのは美しく、のびやかにひろがる音色たち。まるで物語のお姫様の、歌声そのものかのような――かんろの甘い、歌の声。
 けれど彼女の片想いの歌は、そのまま歌い続ければ。彼女自身の寿命を削る代償が伴うということを、彼は既に、知っていたのです。
 絶大な力や奇跡には、それと同じくらいの大きな、不可避の代償が伴うもの。
 けれど不可避なはずのものを回避する方法が、実は、一つだけ。たった一つだけ、残されておりました。
 それを王子は求めます。自らその身を委ねながら、お姫様に言いました。
「遠慮せずやってくれ」
 友達が命を削ってんのを黙って見てられねぇよ、と。
 お姫様はその眸にも、薄く水たまりをつくります。
 かんろの寿命が減ることを、大丈夫じゃない、と。
 ちゃんと叱ってくれる友達が、かんろにもついに、できたのです。

 お姫様は“それ”をしかりと握り、構えて王子に振りかぶります。

 ――代償から逃れる唯一のすべ。それは――、

「えいっ」

 ぱしんッ。

「(あいたっ)」

 ――指揮棒での一撃。たったこれだけでありました。

「い、痛く、ない、です、か?」
 あわあわと寄るお姫様に、王子は全然平気なフリ。
「大丈夫」
 心臓の辺りをさすりながらも、胸板が守ってくれたからと嘯いて、微笑みます。
「よかっ、……た……」
 かんろはほうと息を吐きました。

 そう。此度のお姫様の得物とは、何の変哲もない指揮棒でした。銀のナイフでないならば、心の臓も王子も無事です。
 つまり唯一のすべといっても、“攻撃”という概念であれば何でも良かったというわけでした。
 いつの間にやら固唾をのんで見守っていた住民たちは、ほっと安心して息を吐きます。
 首のないフラミンゴたちもまるで空気を読んでいたみたいにその場でどたどたするだけでしたが、その足踏みは今では不思議と拍手めいたものにも見えます。
 ――ご都合主義? いいえいいえ、だってここは御伽の国。何が起きても不思議ではない、不思議な御伽の国なのですから!

「よっし、これで心置きなく戦えるってモンだ」
 十雉はいよいよ出番とばかり、紡がれていく歌のなか。千代紙由来の紙飛行機をたくさんたくさん飛ばしてゆきます。
「さあさあ皆様ご立ち会い。ご自慢破魔矢をご覧あれ!」
 空へと飛んだ紙飛行機はみるみる破魔矢に変形し、敵の頭上へ落ちる頃には矢の雨となり、降り注ぎます。
 フラミンゴはなすすべなく、倒れていくしかありません。
「本日は局地的に激しい雨が降るでしょう、なんてな」
 ピンク色の水たまりが如く積み重なるフラミンゴに、十雉はにかっと白い歯見せて王子めいて笑いました。

 一方こちらのお姫様。やさしい愛を降らす乙女は。
 幸先の良い展開たちにひとまず眦緩めながらも。この先のことを不意に思い、歌う合間にぽつりと小さく、霧雨めいて呟きます。
「……赤い靴の彼女は。可哀想、だわ」
 この幸せな展開が、やがては彼女にも降り注ぎますように――。ただ今は、そんなことをも願い、うたって。

 ああ、この乙女にも。不思議の国のあのきのこが、背の大きさの自由自在になれるきのこが、その手にたったひとつきりでもあったならば良かったのに!
 けれどもきっと、白兎めいて命の時計を気にしてくれる彼が傍にいるのであれば、これから先の物語はそう悪くはないのでしょう。
 しかもその彼というのは、彼女を小さく見せてくれる背丈まで持っているのですから!

 ――そうまるで、あの兎の扇子みたいに。

 十雉兎が皮手袋をきゅっと嵌め直してみせてから、そうしてまた鳥へと向かうのをかんろは傍で見つめます。

 長いからだを持つ芋虫は。今は人から醜いと、思わるのやもしれません。
 けれどもその芋虫は。いつかは必ずサナギとなり、力を蓄えて、そして。
 やがてやがては蝶となり、空へと羽ばたいてゆくのです。

 そんなめでたしハッピーエンドは、この紫陽花の乙女にだって。
 きっとかならず、いついつか――。



●バッドラック・フラミンゴ
 ネックラック・フラミンゴたちはある意味まだまだグッドラック?

 ――いいえやっぱり、やっぱり彼らは、
 バッドラック・フラミンゴ!!

 だってあんなに大勢で、ドカドカドカドカやってきたのに。
 愉快な仲間や猟兵たちに、ポカポカバタバタ退治され。
 バサバサと逃げる暇なんてなく、一匹二匹と消えてゆきます。
 もちろんお好きなクロッケー遊びに興ずる暇も与えられず。
 少し長針進んだだけで、すっかりいなく、なってしまいそう。

 これらの素敵なご活躍。クロッケー遊びにたとえるならば。
 第五フープと第六フープを潜らせぬままに駆逐できそう?
 そんなたとえもできそうな程の、勢いにてございました。

 それならあとは、仲間に任せ。
 猟兵たちは、先へと進む。
 名残惜しさを引き連れて――、
 ――それとももうお腹はいっぱい?
 とにもかくにも首なし鳥とは、
 おさらばさよならしましたならば。
 次の頁が待ち遠しいと、
 此度のボスまで一直線!

 バッドラック・フラミンゴの次。
 お次に猟兵待ち構えるもの。
 それはさてさて、何でしょう?
 一体どんな、敵でしょう?

 それはそれは、次の頁を、
 頁を捲ってのお楽しみ!!
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第2章 ボス戦 『赤い靴』

POW ●この女の罪を教えてやるよ!
【絶望した魂を好んで捕食する口を開いた形態】に変形し、自身の【操るアリスの罪を喧伝、言葉でいたぶること】を代償に、自身の【操るアリスの舞踏と鋭い牙による噛み付き】を強化する。
SPD ●罰として死ぬまで踊ってもらおうか!
【舞踏に合わせて放たれる殺傷力十分な脚撃】【美しい所作で攻撃を回避する華麗なステップ】【足切断時アリスが死亡する呪い(常時発動)】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ ●赦されるいい方法を教えてやろうか?
自身の【憑りついたアリスが罪の記憶を取り戻すこと】を代償に、【アリスの足を切断する為召喚した首切り役人】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【首切り斧と「赤い靴」が操るアリスとの連携】で戦う。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はトリテレイア・ゼロナインです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●赤い靴
 ――タタッ、タタタン。
 ――タン、タタタン。

 足音が、聞こえてくる。

 ――トントン、タタタン。
 ――トントテ、タタタン。

 靴音が、聞こえている。

「……ごめっ……なさ……っ!」

 猟兵たちが、まず見たものは。
 灰色高く蹴り上げて、空へと伸ばす赤い靴。
 そして少女の願い空しく、そのまま堕ちゆく華奢な肢体。
 爪先跳ねたところから、水滴だけがうつくしく。
 虹の煌めき刹那残して夢のような軌跡を作るも、
 それから瞬きしたあとには水溜まりの泥水だけが、
 まるで現実突きつけるように、バシャリと白を汚していった。
 此処は天の国ではなく、
 此れは夢のオアシスの水でもないのだと言わんばかりの世界。
 夢のような一瞬を、現実の色ですぐさま塗り替え。
 少女を罰し続けるような――そんな光景に見えただろうか。

 少女の犯した罪故か、それとも赤い錘のせいか。
 天の国へは届かずに、固い地面に着地したなら。
 その反動は弱った身体に、殊更重く、響くよう。

「め、なさ……」

 はたしていつから乞うていたのか、少女の声は掠れきり。
 はたしていつから踊っていたのか、白色衣装は泥塗れ。
 足先なんて血が滴って、また乾いて、擦りきれて。
 そうしてまた来る暗雲が、少女の罪を暴きにと。
 責め立てようとやってきては、厚く影を落としていく。

 ――ぽつ、

 顏濡らす、染みひとつ。

 ――ぽつ、
 ――ぽつ、ぽつ、

 ひとたび一点、濡れてしまえば、
 あとはもう、真っ逆さま。

 一点きりの染みがぽつぽつ、
 二点三点と続いてゆき、
 やがてそれらは繋がるように、
 大きな染みへとなってゆく。
 断罪の雨粒もたらすものは、
 寄り集まって、広がって。
 石畳の灰色道は、鼠色から煤色へ。

 このままどんどん染められては、
 少女も衣(ころも)も濡れ鼠。
 綺麗な白は血の赤と、
 断罪の灰――そして黒へと染まりきって、穢れてしまう。
 罪深し、と謗られ続け、踊り続けて尚赦されず、
 涙枯れ果て喉潰れても、赤と黒から逃れられず。
 天には昇れず地へと重く、縫いとめられたままにして、
 赤々燃える地獄の業火に焼かれてそれでも死ぬまでそのまま。

 まさに此処は生き地獄。
 逃れるすべは一つだけ。

 物語の『赤い靴』――あの子みたいになるまえに。

「だれか、たすけて……っ!!」

 ――ぽつぽつ、ぽたぽた、
 ――ぽたぽた、さあさあ、

 ヒュウ、とぬるい風が吹いて。
 ケタケタ誰かが、嗤っていた。
 
●白の少女は黒に染められ
 ケタケタ。ケタケタ。赤い靴は言いました。
「こいつの罪を知りたいか?」
「こいつの名前を知りたいか?」

「教えてやろう!まずは名前だ。こいつの名前は――」

「フィオナ・ホワイトリー」

「フィオナ・ローズ・ホワイトリーだ!」

 声高らかにその名を明かし、爪先高くステップを踏むと。
 途端に少女の背後にあったとある店のショーケースが、スクリーンのように透明度を失い、セピア色に染まりました。
 赤い靴は良く見えるようにと、少女をその場からどかします。
「罪の物語の始まり始まり――」
「どうぞ心ゆくまで、お楽しみください――ってナ!」
 ギャハハハハハハ。
 そのまま遠ざかってしまう彼らでしたが、今はきっと、彼女の過去を知るべき時です。
 雨粒弾くステップの音は響き続けておりますので、そう離れてはいませんし、見失う心配もありません。
 そう判断した猟兵たちは軒先へと寄っていき。雨の降る音をBGMに、映像の映し出されるままを受け止めようと、ショーケースを見詰めました。
 ――其処は、丁度靴屋であったということを。
 ドア付近の壁から垂れるアイアン製のサインプレートが、ひそやかにけれどまざまざと、見る者全てに示していました。
 ハイヒールと、その下の“SHOES”という字によって。

 ――ジジッ、
 セピアが揺れて、字幕付の映画がいよいよ始まってゆきました。

 ジジッ、ジジ――、――、――。


「……ィオナ!フィオナ!」
「はい、お母様」
「ああもう、部屋にいると思って探したのよ!」
「お母様が玄関で待っていなさいと」
「まさか20分前に其処にいるとは思わないじゃない!」
「でも先日は10分前には待機していなさいと」
「そうよ、でもこんなに早く支度を終えているだなんて何処かがおかしいに違いないわ。……ああほら、髪のリボンが歪じゃない!やっぱりこんなことだろうと思ったわ」
「……ごめんなさい」

 ――フィオナという少女は、金の糸のような髪が美しい、空めいて鮮やかな眸を持つ少女でした。
 緩く波打つ柔らかな髪をハーフアップにしていたリボン。羽根の左右が少々歪な蝶々結びを結び直し、几帳面そうなブルネットの髪をきつく纏め上げた母親は、下を向いて謝る娘に尚も厳しく迫ります。

「ハンカチーフは持ったかしら?」
「はい、此方に」
「もっと良く見せなさい……まあ、一ヶ所だけだけどシワがついてるわっ」
「……たぶん、今朝ポケットに入れた時にそうなったのかと」
「だから慌てるのはダメだって言ってるのよ!ハンカチーフは丁寧に、シワがつかないように入れること!レディの嗜みよ!?」
「……、」
「何か言いたいことでも?」
「……いえ、」
「怒らないから言ってごらんなさい」
「……あの、」

 ――ただ、早く準備ができたのねって、褒められたくて。

「……はあ、」
「……」
「まったく……この子は一体何を言っているのかしら」
「……」
「ただ褒められたいばっかりに慌てて“レディ”を忘れるなんて、そんなことして良いって、いつ誰が言ったのです?」
「……ごめんなさい」
「……まったく。お母さん、娘の躾に失敗したのかしら……」
「……ごめんなさい……」

 両の手で握りしめられ、ハンカチーフはよりしわくちゃになってしまいました。

 ――そんな、ある日のこと。

「……あ、雨」
 街を歩いていた少女のウェーブがかった金髪に、ぽつりと雨粒が当たっては、パッと弾けて散りました。
 一人散歩をしていたところを立ち止まっては空を見上げ。掌で受けるように暫く待てば、――ぽつり、ぽつり、とやはり雨が降ってきます。
「かさ、傘……っと」
 ――几帳面すぎるほどの几帳面、用意周到な母のことです。
 ――娘のバッグにはいつも、たとえ終日晴れの日予報でも折り畳み傘まで入れさせるように厳しく言い含めておりましたし、娘も母の言い付け通りにしつけられておりました。
「あった……」
 ――今日も言い付けを忘れることのなかった“良い子”な娘はバッグから、傘を見付けて手に取ります。
「……」

 ――少女は確かに、濡れないようにと。一度は傘を広げました。

「……、」

 ――嗚呼、けれど。

「……、……」

 ――少女はずっと、雨と戯れてみたかったのです。

「……、……少しくらいなら、ばれないかしら」

 ――丁度傘を広げたところで、昨晩から残っていたらしい水溜まりを見付けてしまい。見詰め続けて悩みます。
 ――頭上で傘が雨粒を弾く、くぐもった音を聴きながら。
「……もし汚れても、こっそり一人で洗ってしまえば良いのだもの」
「……そうよ、きっと大丈夫……」

 ――少女はうずうずと湧き上がる欲を堪えきることができず。

「おかあさま、ごめんなさい……っ」
 ――そして、ついに。

 ――お行儀良く揃えていた足を、一歩、二歩、

 ――ちゃぷん、――

「……!」

 ――そうして綺麗な白色の、エナメルパンプスとフリル付きソックス、そして膝丈スカートは。
 ――泥に塗れ、汚れてしまいましたとさ。



 ジジッ、ジジ――。
 映像が、切り替わります。

 それは自室にいるらしき少女が、ベッドから起き上がる様子でした。
 どうやら翌朝の出来事のようです。
 身支度を整え、廊下への扉を開けた少女でしたが。
 その、目の前に。

「……?」

 真っ赤な靴が、きれいに揃えて置かれていました。

「お母さまが、私のために……?」

 真面目な少女のことですから、靴も衣類もきちんと洗ったことでしょう。
 結局母親に見付かったのか、汚れは落ちきったのかというところまでは、台詞からは判然としません。
 再び字幕が流れます。

 ――少女は甘い果実のような、赤い靴へとどうしても。
 ――足を通してみたくなって、仕方なくなりました。

「……お母さまに確認を取らなくても、大丈夫かしら……」
「……ええ、きっと。少しくらいなら……」

 ――大丈夫。
 ――少女は最後にそう呟くと、そっと幼い爪先差し込み――



 夕暮れめいたセピアが揺れ、猟兵たちの眼前のガラスは本来の役目へと戻りました。
 ショーケースの奥には様々な、素敵な靴たちが爪先を揃えて、汚れ一つもない様子できちんと並べられておりました。
 軒先がぱたぱたと、雨を防いでくれる音だけが静寂を取り戻したその場に暫く、しんみりと響くようでありましたが。
 仮初めの平穏と静けさは、直ぐに破られることとなります。

「ケケケ! どうだったァ!?」

 頃合いを見計らい、態々様子を見に来たようです。

「母親の言い付けを守らず、敢えて服を汚すなんて悪い子だよなァ!?」

 少女の服は、あの日以上に泥塗れ。

「ソンナニ雨に濡れたいンナラ、思う存分濡れるガイイサ!!」
「そして死ぬまで踊り続けるがイイ!!」

 嘗ての金は白色に。そして晴天の青色は、暗く濁った色合いへと赤い靴に変えられてしまい。
 未だ少女に成すすべなく、踊り続けて、雨に濡れて。

「……ごめん、なさい……っ」

 少女は助けを請うように、冷えた指先を猟兵たちへ瞬きの間伸ばしましたが。
 赤い靴に翻弄され、くるんと回転させられました。
 ケタケタ、ケタケタ。
 少女を嘲笑う声がいっそう、大きく甲高く響きました。

 ――ぱたぱた、ぱたぱた。
 ――さあさあ、さあさあ。
 雨は暫く止みそうになく。
 少女の頬を伝うそれも、止み続けずに雨と混ざっては流れて白を汚しております。

 どうするかは猟兵次第。
 首を落とせる鎌はもう、それぞれの手にあるのですから。
世母都・かんろ
十雉さん(f23050)と

あなた、は
お母さん、が、だい、すき、で
愛されたかった、の、ね

ああ
おんなじだ
わたしと、おんなじ

褒められたくて
愛されたくて
でも、悪い子でも
許されたくて

十雉さんに頷いて歌う
あなたに、届くよう

聴いて
わたし、あなたの為に
歌うから


箱庭の向こう、楽園の外
どしゃ降り真っ暗君がいない

ひかりを墜として泣いていた
あの子の足元水たまり

だいじょうぶって笑ったら
君も笑ってくれるかい

雨が降ったらいつかは晴れる
ずっと前からそうだろう

裸足のままでも僕らはゆける
走りだしたら一緒に跳ぼう

箱庭の向こう、楽園の外
お天気雨の虹が出た


【歌唱、パフォーマンス、ダンス、封印を解く、優しさ

大丈夫
あなたは、いい子、よ


宵雛花・十雉
かんろちゃん(f18159)と

成る程ね、今のがその子の罪って訳かい
けど気に入らねぇな
やりたいことやって何が悪いんだよ
子供は親の所有物じゃねぇんだぞ

首も脚も斬り落としてやるつもりはねぇ
窮屈な靴なんて脱いで自由になんなよ

ここはオレに任せてくれ
かんろちゃんには、少しの間あの子の足を止めておいて欲しいんだ
頼めるかい?

フィオナがかんろちゃんの歌に聴き惚れている間に、オレも動く
そいつは悪い憑き物だ
【厄祓い】で赤い靴だけを狙って、霊力で攻撃するよ
安心しな、女子供に傷なんざ付ける趣味はねぇ

そうだよ、アンタはいい子だ
それにかんろちゃんだっていい子だ
自分で自分を悪い子なんて言っちゃいけねぇよ


冴島・類
それで?
今聞いたのが罪と呼べる程とは思えないね

疲弊した様子のフィオナさんに、声を

泣かないで
君は謝らなくて良い
僕らや、その靴には

服なんてのは汚れるもの
言いつけを破ったことが、悪いなら
きちんと詫びて、けりは己でつける…
自分で洗えば済んだこと

そも
家族の問題に天罰などあってたまるか
赤い君?に謗られる謂れはないよ

舞踏の牙を恐れず
踏み込み
蹴りの軌道を見切り直撃は避け
合わせ、踊るように

隙を見て、冷えた掌を繋ぎ
泣かないで
れでぃに嗜みなんかがいるとすれば
遊び心と、良い子、じゃなくて
己を持つことぐらいだよ

速度についていく為
風を爪先に下ろし蹴りに風刃のせ
靴だけを狙いたい
また、引きつけ
他の皆の攻撃を通りやすくできたら


ライラック・エアルオウルズ
――それきり、のことかい?
はて、僕には罪とは思えないね
好奇の芽生えは責めようがない

甘過ぎると言うのならば
女王様に御伺いを立てよう
本当に悪いのは、誰かを

彼女の足“首”を切る心算は無い
降る雨も利用し《属性攻撃:氷》
地と靴だけ凍らせ行動妨害
或いは、態と隙見せ《誘き寄せ》
噛み付く瞬間を狙い、栞を投擲
君に要らぬ罪増えぬよう
攻撃は《見切り》で回避して

赤い靴に宣言するルールは
『汚く罵る口を少しは閉じなよ』
攻撃通れど、口噤まぬようなら
それを遮って、彼女に声掛けを

君の好奇は許されていい
だって、縛られてしまう程に
誘惑は強くなりゆくものだもの
ひとつ、悪を指摘するなら
正直に言えなかったことさ

ね、ちゃんと次は言うんだよ


●はじまり
 夜の帳が下りる中。二つの声が重なりました。
「それで?」「――それきり、のことかい?」
 冴島・類(公孫樹・f13398)と、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)それぞれの唇から飛び出たものです。
「はて、僕には罪とは思えないね。好奇の芽生えは責めようがない」
「同じく。僕にも今聞いたのが罪と呼べる程とは思えないね」
 口火を切ったライラックに、続く類の二人とも。冷めた声は靴へのもの、澄んで通る声色でした。静かな怒りを纏う空気は周囲の温度を下げるようで、淡紫と緑のまなこもそれぞれ冷ややかな眼差しを送り。
 そんな中でもう一人、男の声が加勢します。
「オレも確と見せてもらったぜ。……成る程ね、今のがその子の罪って訳かい」
 声の主――宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)はひとつ頷き、腕を組んで。
「けど気に入らねぇ。気に入らねぇな。やりたいことやって何が悪いんだよ」
 子供は親の所有物じゃねぇんだぞ、と険しい目付きで抗議をしました。
「あなた、は」
 最後に漸く声上げたのは。少女へとはじめに、声掛けたのは。
 少し後ろに佇んでいた、世母都・かんろ(秋霖・f18159)でありました。


●紫陽花ヒロイン、陽の色ヒーロー
「あなた、は、」
 拳を握り、ふるふると。常よりも震える喉から出るのはあまりにか弱い音色をしていて。けれど少女に向き合いたいとの必死さはきっと、誰よりも。ゆえにぽつぽつ、ぽつりとだけれど、想う言葉を降らしてゆきます。
「お母さん、が、だい、すき、で」
「愛されたかった、の、ね」
 ――ああ、おんなじだ。
 ――わたしと、おんなじ。
「褒められたくて、愛されたくて」
「でも、悪い子でも許されたくて」
 ――ありのままを、受け入れてもらいたくて。
「わたしと、おなじなの」
 ――理想と現実の狭間のなか。ぎゅう、ぎゅうと押し潰されて、心はもう、つかれてぺしゃんこ。
「でも、大丈夫。あなたは、いい子、よ」
 踊り続ける少女の瞳が、大きく揺らぎ、瞬きました。
「そうだよ、アンタはいい子だ」
 十雉もかんろの言葉に続けて、力強く断言します。
「それにかんろちゃんだっていい子だ」
 思わぬ彼の台詞にかんろの、しゃぼん玉が弾けました。僅かに紫がかるような、乳白色の揺れる双眸。そして彼女の柔らかな心や、その奥底の魂までもが、ぱちんと瞬き、弾けたのです。
「とき、じ、さん……?」
「自分で自分を悪い子なんて言っちゃいけねぇよ」
 ふたりともだ、と尚も強く、ふたり自身を肯定しつつ。それぞれとしっかり視線を合わせてみせた十雉の、声に、言葉に。橙色の、そのまなこに。
 ふたりの眸はまた新たに、水たまりを作るのでした。
「かんろちゃん、」
 湖面のようなそれからぽろぽろ、雨粒流す紫陽花のきみ。
 彼女の固く握っていた、けれどいつの間にかゆるんでいた拳を掬うようにそっと取って。両の掌で包み込むように柔く握ってやりながら、十雉は再び湖面を覗き、灯る炎を強くさせます。
「かんろちゃん、ここはオレに任せてくれ」
「かんろちゃんには、少しの間あの子の足を止めておいて欲しいんだ」
「――頼めるかい?」
 それとも陽の光でしょうか。少なくともかんろには、その色がとても耀かしく、まばゆいものに映ったのです。
 真白の前髪に覆われた、右目の様子は窺えない、今は左のひとつきりしか見えない彼の橙色。ひとつきりの燈は、まさに太陽のようであり。
「――はい」
 かんろは掌と心の奥底に温かな熱を感じながら、確と十雉に頷いて、白の少女に向き直ります。
 繋いだ手を離したって、まだ熱は残っているから。
 今は、わたしはだいじょうぶ。
 今度は彼女が、救われるばん。
「フィオナさん」
 生きる気力を奪われて、濁ってしまったその眸に。
 だいじょうぶだと、ぎこちなくでも心からの微笑みを贈ります。
「聴いて」

「わたし、あなたの為に。歌うから」

 ――箱庭の向こう、楽園の外。
 ――どしゃ降り真っ暗君がいない。

 ――ひかりを墜として泣いていた。
 ――あの子の足元水たまり。

 ――だいじょうぶって笑ったら。
 ――君も笑ってくれるかい。

 ――雨が降ったらいつかは晴れる。
 ――ずっと前からそうだろう。

 ――裸足のままでも僕らはゆける。
 ――走りだしたら一緒に跳ぼう。

 ――箱庭の向こう、楽園の外。
 ――お天気雨の虹が出た。

 祈りの歌。願いのうた。
 夢よ届けと、響くうた。
 心と魂をゆさぶるほどの、うつくしき音色たち。
 それらはすべて、雨音にも掻き消されず。
 白の少女――フィオナへと届きます。

「ぁ……」
 枯れることなく流れる涙。けれどまたひとつ零れおちたのは、きっとあたたかなひと粒でした。
 疲れ果てた少女の魂さえをも柔く、然れど確と掴んで、感銘に震えさせられたのなら。
 根源へと触れる歌の力は赤い靴への抵抗力を少女の身体に、脚にと与え。飛んで跳ねて回転してと、激しくステップを刻んでいた足元は少しばかりペースを落とし、踊るダンスや足運びは緩やかなものへと変わりました。
「そう、その調子」
 十雉は笑むように陽の色を細め、二人へと宛てて紡ぎます。
 かんろへはこのまま歌い続けてほしいのだと。フィオナへはそのまま抵抗し続けてほしいのだと。
 そして、あともうすこし。先程よりも少女の動きが遅くなった瞬間に。
 十雉は素早く地を蹴って、赤い靴へと駆けてゆきます。
「フィオナ、そいつは悪い憑き物だ。オレが今から祓ってやる」
 突然の動きや発した台詞に動揺してか、白の少女は眸を大きく揺らしましたが不安に思う必要はないと。十雉は瞬きの間だけ、彼女と視線を合わせてやり。まるで優しい兄のように、語りかけては笑いました。
「安心しな。女子供に傷なんざ、付ける趣味はねぇからさ」
 彼女に最も近付いた、その時。
「――っ!」
 ハ、と僅かに息を吐き、霊力の波動を赤い靴へと。

「グアアアア!!」

 十雉が放ってみせたのは、巫女でもある彼らしい、憑き物のみを落とす力。
 対象の肉体を傷付けることなく、悪しきものを祓える術――つまり元より少女に当てても支障はない術でしたが。然れどもやはり、か弱き乙女を不必要に怯えさせるのは忍びなく。それに加え、術を敵にのみ当てられる状況を作り出す努力も、惜しみたくなく。全ては少女のためを思って理想としていた攻撃や動きを、彼は見事に成し遂げたのです。
「窮屈な靴なんて脱いじまってさ、もっとのびのび、自由になんなよ」
 とはいえ一度の攻撃で、強力なオウガは祓いきれず。しかしそれも想定内な、十雉は慌てず騒がずに、かんろののびやかな歌声が未だ、聴こえ続けているなかで。靴の生やした牙が顔へと、灯る陽へと迫るのを避け、後方へとステップを踏み、一時距離を取りました。
 そして彼を警戒してか、彼らとの間に召喚された、斧を手に持つ首斬り役人がのそりと身を起こしゆくのを、十雉は尚も余裕の笑みで流し見ては言い放ちます。
「何でい、お次は『赤い靴』の首斬り役人ってか?」
 フフン、と鼻を鳴らすように。
「いい子なフィオナの首も脚も、斬り落としてやるつもりはねぇ」
 勿論いい子なかんろちゃんだって守りきってみせるさ、なんて。歌う彼女を振り返っては、勇猛果敢に敵と戦う王子様めいた台詞を紡いで。
 そうして敵どもを見据えたなら、ふたりのヒロインを守るためにと首斬り役人を相手取り。破魔の力の宿る符を、ピンと伸ばしたその指先に数枚ほど挟みつつ、十雉は今こそヒーローたらんと再び前へと駆けゆくのでした。

 祈り、願い、そして夢。
 それらの希望が叶うまで。
 それはきっと、あとすこし。
 ハッピーエンドはすぐそこに。


●無罪、有罪判決と、刑の宣告、死刑執行
 苦悶の声を上げながらも靴の動きは止まらぬまま。少女も踊らされ続け、一度は止まったその涙も今にも零れてしまいそう。
 罪に罰をと染め上げる勢いは少しばかり落ち着いて、それはかの二人の魔法が今でも続いている証。
 ――魔法とは。赤へのダメージだけでなく。
 二人の掛けた、愛ある言葉。そして聴こえる愛の歌。
 少女のみにと紡がれる、少女のためだけの愛の魔法。
 二人の優しい魔法使いによるそんな愛の魔法たちが、解けてしまわぬうちにと並ぶは此方の二人の騎士でした。
 赤い靴は勇敢な騎士の近付く気配にも気付かぬまま、先の魔法使いたちへと向けて罵声を浴びせておりました。
「グッ……この女の罪を認めないっていうのか!?」
「認めるも、何も」
 割り入ったのはライラック。さえざえとした声と眸で赤い靴へと応えます。
「罪ではないと言っているんだ」
「……!?」
「そう、罪じゃない」
 並び立つもう一人、類も続いて敵の言葉を否定し訂正してみせました。そして涙の零れそうな少女へ向けて言葉を掛けます。
「フィオナさん、泣かないで。服なんてのは汚れるもの……自分で洗ったならそれで良いし、そうでないならきちんと詫びて、次からは洗えば良いんだよ」
 行動の責任を取ったならば尚更罪はないのだと。諭すように、けれどあくまで声は優しく、柔らかに。
 潤む眸のわけは果たして、拭いきれぬ罪悪感か。それともかの魔法使いの、うつくしい歌声に心動かされてか。それとも降りゆく雨のせいや、ただただ止まってくれぬだけか。理由は解らなかったけれど、拭いきれぬ何かがあるならそれを拭ってやりたかったのです。
「っ、洗った……、洗ったの……! でも、落ちきらなくて……ごめんなさい……」
「洗おうとしたことが大事なんだ、君は謝らなくて良い……まして僕らや、その靴には」
 類はちらりと靴を見遣って、風の魔力を己の脚へ。
「言いつけを破ったことが悪いのだとしても、お母様にだけ謝れば良いんだよ。それでけりはつくのだから」
 トランプを模した金の栞を取り出す傍らのライラックと、視線を交えて頷き合います。引き付け役を買って出たのです。
 そうして靴へと視線を戻すと、低く鋭く言いました。
「赤い君?に謗られる謂れはないよ。天罰なんてあってたまるか」

「……ハァ?」
「甘い! 甘ェなァ!!」
「甘過ぎて反吐が出そうだ!」
 二人の答えを聞いた靴は、何やらわあわあ喚いていて。
 反吐が出そうなのは此方のほうだと言わんばかりにライラックは、静かに溜息吐いてから、赤い靴を見据えつつ。それならばとつめたい声でこのように言い放ちました。
「甘過ぎると言うのならば、女王様に御伺いを立てよう」
「――本当に悪いのは、誰かを」
 その一言が裁判の、始まりの合図でありました。

 石畳を踏み締めて駆ける類は少女とダンスを踊るように。緑を喰おうとずらり並んだ牙を顔を逸らして避け、後方へと傾く身体でそのまま蹴り上げ風刃を。代わりにと喰らわせてやったそれは見事牙の一部を砕き。
「グガギャッ、」
 痛みにたたらを踏むようにしてバランスを崩した一瞬を、逃すまいとその手を伸ばし。雨に濡れて冷えきった、少女の掌を掬い上げて。そっとけれどしっかりと、掴んで柔く握ったなら。
「泣かないで」
 泣き腫らした目を覗き、間近で再度、言いました。
 そこにすかさずライラックが魔術で靴のみ凍り漬け。水溜まりへと踏み込んでいた靴裏を地へと縫い留めれば、いつぶりかの“踊らない時間”を彼女は漸く取り戻したのです。
 攻撃に集中しなかったわけは、彼女が体力を使い果たし、死んでしまっては意味がないから。
 類は暫しの自由を得た、彼女の掌を両手で包み。炎の加護を灯しゆき、常人よりも温かくなった指先の熱を分けてやりつつ。
「れでぃに嗜みなんかがいるとすれば、良い子――じゃなくて、己を持つことぐらいだよ」
 あと、遊び心もね。と、和ませようと微笑みました。

 類の熱とその言葉と、絶えぬ歌の力もあり。少女の双眸がほんのりと、意志と光を取り戻して。
 けれどパリンと不穏な音がその場に響いて赤い靴が、氷を砕いて二人の会話に割り込んできてしまいました。
「良い子こそがレディだろう! この女はそれを――」
「君は黙った方がいい」
 遮りながら栞放つは接敵していたライラック。氷の割れを察知して、踊らせまいと駆けたのです。
 煩い口を封じるようにトランプめいたそれを投げて、女王のように命じるは。
「“汚く罵る口を少しは閉じなよ”」
「ハッ、そんなの聞くかってんだ――ギャ!?」
 たとえ栞を噛み砕こうが、千切って破いてしまおうが。
 宣言されたルールは絶対。掟破りをした者には罰を。
 これより先は赤い靴が、ルールを無視して喋ろうとする度にダメージを負うこととなりました。
 けれど敵も中々しぶとく。それでも口を噤みません。
 類の風刃やライラックの攻撃を避けるように後退し、牽制しながら再び少女を踊らせて、嗤います。
「この女はなァ、恵まれた環境に生まれながらそれを台無しにしやがったんだ!」
「我慢すれば良かったものを、たったヒトカケの好奇心で!」
 然れども少女の涙だけは、もう流れてはいませんでした。
 耐えるように眉を寄せ、たすけて、と口が動きます。
 彼女がまた泣き出すまえに。その口が“ごめんなさい”とまた紡いでしまうまえに。
 ライラックは彼女へと、想う言葉を掛けてゆきます。
「君の好奇は許されていい」
 見失うまいと追い掛けながら。要らぬ罪が増えぬよう、攻撃は敢えて避けながら。
「だって、縛られてしまう程に誘惑は強くなりゆくのだもの」
 降る雨により濡れる靴の水滴を氷へと変えて重石に。類の風刃が閃けば、両足同時にヒールが取れて。
「ひとつ、悪を指摘するなら正直に言えなかったことだけさ」
 靴の苦痛に叫ぶ声に邪魔をされてしまわぬよう、白の元へと一跳びに。言葉のようく届くよう、耳元へと囁いて。
 そして赤が見えぬよう。赤に惑わされてしまわぬようにと彼女の視界を独占し。此方の紫の眸だけがようく見えるようにしたなら。
 少女のそれより大きな手で、バランス崩した背を抱いて。
 薄く大きな唇で、おそろしいほど優しげに。
「――ね、次はちゃんと言うんだよ」
 ぱちりとウインクしてみせながら、もう片方に持つ万年筆を赤い靴へと突き刺しました。

 ――ギャアアア!!

 嘘を吐き出すその口が、鋭く光るその牙が。少女の心を喰いきるまえにと。
 鋏の代わりに切っ先は、煩い口の奥へと走り。
 積もり積もったダメージの、最後のひと押しとなったそれは。
 銀の弾丸めいて魔性を、討ち滅ぼしてみせました。

 灰となってばらばらと、崩れ消えゆく赤い靴。
 水溜まりにも石畳にも、痕跡なく消えきって。

 魔法使いと騎士たちは。
 囚われのお姫さまを魔の手から、救い出すことができたのでした。


 少女の“首”はどちらも繋がり、ペンも欠けず無事であると一通り確認したライラックはふと空を見上げました。
「――ああ、」
「ええ、」
 類も倣い、顔を上げて呟きます。
「雨が、止んでいる」

 重く厚く垂れ込めていた雲の波がひいてゆき、雲間から漏れ出た月の光が薄く淡く降り注いで。
 やがて光が強くなり、金の月がぽっかり浮かぶさままで見て取れたので。

 作家の男は作家らしく。こう紡いで〆としたのです。

「――めでたし、めでたし」


●おわり
 ――翌朝。
 一晩それぞれに休息を取り、再び集った猟兵たち。
 彼らの見守る靴屋の扉を時刻通りに開き、現れたのは。白薔薇の少女――フィオナ・ローズ・ホワイトリーでありました。
 金糸の柔らかそうな髪に、晴れやかな空めく青の眸。
 寝て起きたらこうなっていたの、と落ち着かぬ様子でもじもじとする彼女の足には“物言わぬ”靴。
 快く一晩受け入れてくれた靴屋のおばあさんが新しく、少女のためだけに一から靴を作ってくれだのだと彼女はいいます。
 そのサイズはぴったりで、しかもきちんと“静かな”靴が嬉しいのか一回転。これまた新しく服屋さんに作ってもらったのだという衣装――雲のような白色ワンピースがふうわりひらめき、揺らめいて。
「――どうでしょう?」
 似合うかしら。
 目尻の赤も消えかかり、昨晩は暗かった眸には希望の光が宿っていて。
 笑みを咲かせた一人の少女の足先を鮮やかに彩るのは、青のストラップ付きラウンドトゥ――青の靴でありました。

 実は明け方のお散歩で、扉を見付けていたのだという少女は。
 石畳を軽快な脚運びで楽しげに歩いてゆきながら、それもこれも猟兵たちの戦闘や、治癒のおかげだと礼を言います。
 道中、空色を映す水溜まりをふいに見掛けては立ち止まり。
 せっかく色々新調してもらったから今は気分じゃないけれど。もしかしたらまた好奇に心が疼いてしまうかも、と。悪戯っぽくぺろりと舌を出してみせて。
 ――どうやら本来の白薔薇嬢は不思議の国のアリスめいて、好奇心の旺盛な性格の乙女であったよう。
「次はちゃんと、もう棄てようかなと思うお洋服でやってみるわ」
 少女の漏れ出た呟きに、ふふ、と彼らが笑います。
 懲りてはいないらしいのは、良かったのか、悪かったのか。
 いいえ、きっと良かったのでしょう。
 そのあどけない顏に、笑みが戻ってきたのですから。

 やがて、扉の前に立てば。帰り道を背に、深くお辞儀を。
「――ほんとうに、ありがとうございました」
 礼には及ばぬと口々に、言葉を返す猟兵たちの。
 掌をひとり、ひとり、しかりと握って。
「お別れは、寂しいけれど。……あたたかな気持ちを分けてもらったから、私、がんばりますね」
 ――褐色の兎。
「……いいえ。自然と、がんばれるんです」
 ――だからだいじょうぶ、と白兎へ。
「……お母様とも、なんとかやっていきますね。ちゃんと、話し合おうと思います」
 ――紫陽花の乙女と視線を交えて。みんなから、あなたから、勇気を貰ったのだと笑って。
「だから、よかったら。応援、していてくださいね」
 ――やさしいやさしい女王様。もとい、帽子屋な作家さんの手をぎゅ、と最後に強く握って。
 そうしてそっと離れた少女は、後ろへと一歩、二歩と下がり。
 くるりと回って、今度は前へと。一歩、二歩、三歩と駆けて。
 この世にひとつきりの、己のためだけに在る扉へとその手を伸ばし――ぬくもりのある木の扉には、青空と白いもくもく雲、水色と黄色の花柄が可愛い白の雨傘、そして上部に、大きな大きな七色の虹が鮮やかに描かれておりました――名残惜しげに、けれど顔だけで振り返ってみせたなら。
「――じゃあ、ほんとうにさようなら!」
 とびっきりの笑顔を咲かせ、光満ちる扉の中へとあっという間に消えてゆきました。

 彼女もきっと、気付いたのでしょう。
 扉の向こうの青空には。

 それはそれは大きな虹が、きらきらと輝いておりました。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第3章 日常 『不思議の国の市場』

POWとにかく隅から隅まで見てみる
SPDオススメを訊ねてみる
WIZ直感に従って覗いてみる
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●傘まつり
 街一番の大通り。賑わう中を見上げれば、煙突屋根の建ち並ぶ、あいだになんと、傘の群れ!
 雲めいて浮かぶ傘たちは空を鮮やかにするだけでなく、地へと落ちる影をも彩り、まさに色彩の奔流です。
 そしてその傘の波がはじまる通りの入り口は、空へと架かる虹の橋の、端っこを見つけてしまったかのよう。心ときめくままに踏みだし、通りへと入っていったならば。虹の中やその下を、歩んでいくかのようであり。
「おや……きみたち、もしかして初めてかい?」
 声を掛けたのはこの祭り――傘まつりが開かれるのを毎年楽しみにしているのだという、スーツ姿のおじいさん。
 老齢ながら、背筋はしゃんと。クリーム色のスーツに白シャツ、落ち着いた茶色の革靴と、衣装を着こなす洒脱な紳士は、この場を訪れた人々の、かがやく眸と咲く笑みに。そして彼らを楽しませてくれているたくさんの彩りに双眸細め。この街の、この国の自慢のお祭りでもあるのだと、何処か誇らしげに語りました。
「傘を探しているのかい? それならオススメは色々あるけど――地図がある?」
 どれどれ、と覗きこんで。
「ああ、中でも評判のところだね。そこならあっちの方にあるよ。僕が今回お迎えしたのもその店に並んでいた子でね――これも何かのご縁だ、急ぎでないならどうかこの子を見せびらかされてはくれないかい?」
 どうにもうきうきしてしまってしかたなくてね……と口元緩ませ、往来の邪魔にならぬように手に持つ傘を広げれば。
 白の傘に鮮やかな黄色の大判柄の花模様が、白髪頭の綺麗な紳士とネクタイの黄に映えるよう。スーツの下の白シャツや、パナマ帽風に被る帽子の淡く柔らかなクリーム色、そしてその差し色の、リボンの黄とも調和していて。
 腕を広げてポーズを取れば。
「どうだろう、似合うかな」
 ふふ、と笑みをこぼしました。
「見てくれてありがとう。……ああ、因みに。そこに行くまでにも傘屋は幾つか通りかかるし、期間限定で出店みたいに通りに並べているところもあるから、よかったら色々見て回って祭りを存分に楽しんでおくれ」
 歓迎の意を示してみせて。
「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。プレゼントのお揃いの傘と一緒に、おばあさんが待ってるからね。――これからデートなんだ」
 朗らかに笑って、傘の柄くるり。
「――きみたちにもお気に入りが見つかりますように」
 紳士は最後にそう言って、スキップをしながら去っていきました。
宵雛花・十雉
かんろちゃん(f18159)と

※D晴雨

すげぇなァ
上に浮かんでるやつ、これ全部傘か
おお、足元まで綺麗じゃん
ついついかんろちゃんに負けないくらいにはしゃいじまって

ん、オレかい?
実はまだ迷ってんだよなぁ
目移りするほどたくさんあるからさ

お、いいねぇ
ならオレにもいっちょ似合いそうなの選んでくれよ
隣のこの子と一緒に傘さして歩いた時にさ、いっとう映えるようなのがいいや

かんろちゃんが優しい顔してんのに気がついたら
どうした?ってひょいと顔を覗き込んで
へへ、そいつは何でもない顔じゃねぇよ、お嬢さん
けどかんろちゃんが嬉しそうならそれでいいや

気が付けばお誂え向きの天気雨
狐の嫁入りだねぇ
選んでもらった傘、早速さして帰ろ


世母都・かんろ
十雉さん(f23050)と

D晴雨

わぁ、と声が出て
空いっぱいの傘の虹を見上げ

すごい
虹の、下、みたい
花、が、沢山、咲いた、みたい

花畑のような風景
自然と嬉しくなってしまって
はしゃぎすぎて、ないかしら

傘を探し通りをふらり
不思議なもの、綺麗なもの
色んな子達を見ては目を瞬かせて

十雉、さん、は
決まりまし、た?

わた、しも
迷って、しまって

ふと目についたお店の傘が
どれも不思議で可愛かったから

あの
わたし、に、似合うもの、を

…雨、女、なの、で
雨が降らない傘が、いいな

隣の友達が初対面の時に
わたしを雨男と呼ばなかった事をふと思い出して
やわらかい気持ちが浮かぶ

ううん
なんでも、ないの

出会えた子を差して
一緒にお天気雨を歩きたい


●陽と雨と
「わぁ、」
 空いっぱいの傘の虹。見上げて声を漏らすのは、紫陽花色の髪の乙女、世母都・かんろ(秋霖・f18159)でありました。
「すごい……。虹の、下、みたい」
「花、が、沢山、咲いた、みたい」
 色とりどりの傘たちが空を覆っているさまは、まるで花や、花畑のよう。自然と心はうきうきと、嬉しくなってしまっていて。珍しく頬は上気めいてあえかに染まり、足取り軽く。ふわふわ海月が揺蕩うように、色彩の海へと入ります。
 その傍らで同じく空を見上げていた宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)も、すげぇなァと感心して。己自身も高揚しつつ、気弱で慎ましやかな友人の、いつになくはしゃいでしまっている姿に何とも微笑ましい心地になっては、更に浮かれて頬が緩み。一歩遅れてはぐれぬようにと、後を追ってゆきました。


 紳士と別れて通りをふらり。
 ウィンドウショッピングを楽しむように、露店に並ぶ様々な傘やお店の窓を覗いてまわって。

 ――わあ、あれ、きれい。 これ、かわいい。
 ――上に浮かんでるやつ、これホントに全部傘なんだなァ。 足元まで綺麗じゃん。
 ――お、あれ格好良いな。 そっちのも赤が鮮やか。
 ――すてきな、いろ。 色違い、の、白も、かわいい。

 なんて二人してはしゃいでしまって。
 ふらふら、ふわふわ、あちこち見ては、その度にほう、と息を吐き。
 擦れ違う人々のさしているのも気になり振り返って見てしまって。
 不思議なもの、綺麗なもの。素敵なものが、数えきれぬほど。
 色んな子たちに目を瞬かせて、幸せなひとときを過ごします。

 ……けれど、何かをひとつ、となると。
 たくさん、たくさん、ありすぎて。なかなか迷ってしまいます。
「十雉、さん、は。決まりまし、た?」
「ん、オレかい? 実はまだ迷ってんだよなぁ」
 目移りするほどたくさんあるからさ、と苦笑してみせる十雉を見て。
「わた、しも。迷って、しまって」
 嬉しくも困ってしまったと、そっと瞼を伏せるかんろ。
 ……でも、わたしだけじゃなくてよかった。
 迷惑を掛けていやしないかと、ふと冷静になったものの。その心配はなさそうで、ほっと安心したのでした。
「まあ、まだまだ道はあるしさ。楽しもうぜ」
「はい、」
 今居る場所は、通りの半ばを過ぎた辺り。虹の終わりは遥か遠く、橋を渡りきってしまうと焦る必要もありません。
 そうして再び気分は上向き、目線を上げてきょろきょろと、道の先を見遣った時。
「……あ、」
 ふと目に留まったお店の傘が、どれも不思議で、可愛かったから。
「あの、お店、に、入って、も、いい、ですか?」
「もちろん! オレも着いていこ」
 ちょん、と着物の袖を摘まむ、乙女なかんろに十雉はにかり。二人は導かれるように、そのお店へと向かいました。

「わ、あ、」
「こりゃすげぇや」
 そこは不思議な傘屋さん。
 扉を潜って目に入った傘の花柄はくるくる回って、雨雫が描かれたのは降りゆくように布地を流れ、さらさらと。可愛い猫の尻尾は揺れて、耳もぱたぱた動いていて――つまりつまりは何と傘の、柄が動いているのです!
 しかもしかもそれだけでなく。小鳥の囀りが聴こえたかと思えば、歌っているのは傘に描かれた絵の鳥ではありませんか。
 ぴよぴよ、ぴよぴよ。黄色の嘴小さく動かし、可愛らしく奏でていて。自然の中にいるような、錯覚さえ覚えそうです。
 あちこちくるくる見回しながら、店の奥まで進んでいけば。
 店主が一人、カウンターでお客さまを出迎えました。
「何をお探し?」
 優しげに問うおばあさんに、かんろは浮かれた勢いのままに求めるものを注文します。店主の柔らかな雰囲気も、ひとつの助けとなりましたが。高揚していた心は自然と、かんろに勇気を湧かせたのです。
「あの、。わたし、に、似合うもの、を」
「それと、出来ることなら……雨、女、なの、で。雨が降らない傘が、いいな」
 そうだねぇとかんろを眺めるおばあさんに、声ひとつ。
「お、いいねぇ」
 ならオレにもいっちょ似合いそうなの選んでくれよ、と片頬上げて、十雉が隣に並び立ちます。
「隣のこの子と一緒に傘さして歩いた時にさ、いっとう映えるようなのがいいや」
 柔いまなざしかんろに向けて。
「そうだねぇ」
 二人を眺めておばあさん、首を傾げて悩みます。頭が揺れれば魔女めいた、三角帽子もつられてゆらり。
「そうだ、あれがあったんだった」
 ぽんと手を打ち一度奥へと。戻ってきたその手には。
「わ、」
 かわいい。
 かんろの声が漏れたのも、無理もないことでした。
 それは所謂、和傘でした。
 ぱっ、と開けば満開に咲く花のような彩は紫。和紙の風合いにも似た彩は、柔らかで可憐な印象です。それひとつが紫陽花めいた淡い紫でありながら、傘には紫や白色の本物の紫陽花の花びらが、かの花そのものを象って。彩りと華やかさをよりいっそうと、咲き誇っておりました。
「ほら、持ってごらん」
 紫陽花の下へと入ってみれば、かんろを彩が包みます。透ける花びらを見上げるように覗くかんろの白雪の頬へ、影を落とすは淡藤色。ふわふわ揺れる髪の彩にも似た色合いは溶け合うようで。
「可愛らしいお嬢ちゃんがより可愛らしくなってしまったね」
「なるほどな、かんろちゃんによく似合ってる」
 十雉もおばあさんと一緒になって、うんうん頷きかんろを褒めます。
 頭上の花は真白の彩と、あえかに染まる白菫色。花を支える華奢で可憐な骨組みまで、乙女にお似合い。
 露先にはしゃぼん玉、或いはまあるい雨粒めいた、連なる小さなガラス玉がゆらゆらしゃらり、揺れていて。
「このガラス玉に魔法が込められていてね。周囲を晴れにしたいと願えば晴れになりやすくなり、雨にしたいと願えば雨になりやすくなるという、秋の空めいて気分のころころ変わる女心や、天候に恵まれない哀れな雨女にまさにぴったりの魔法の傘さ」
 その効力は、手に馴染むほど。当人が傘を供として、連れ歩き愛するほど、身体に流れる魔力に適応し強くなってゆくのだといいます。
「とても、気に入り、ました。ありがとう、ござい、ます」
 あえかに頬を染めるかんろに、おばあさんは笑みをおくり。
「それは良かった。ああ、でも、待っておくれ」
 そう掌で示しながら、もっと見どころはあるのだと傘持つ彼女に近付いてゆき。その柄をとんとん、タップしました。
 すると。
「――わ、」
 傘の色は淡い青へと。花は紫へと変わったのです。
「綺麗だろう? 青から紫、ピンクや白に気分次第で変えられるのさ」
 女心にぴったりとは、そういう意図でもあったよう。
 紫陽花めいた色合いのみに限られはするけれど、それでも組み合わせは何通りにも、わたることは明らかで。服装にも合わせられるため、長く愛用できることでしょう。
「こちらさんの傘も、また特別さ」
 開いたのは、淡黄色。一見すると、かんろの傘とは色違いのようであり。けれど細かな部分のデザインは異なっておりました。
 露先から滴るは、しゃぼん玉でなく花びらたち。菜の花の黄が一連一連、垂れて揺らめくそのさまは、藤下がりの一房一房がそよ風に靡く姿にも似て。
 さりげなく春を告げる舞妓たちの髪飾り――そんな印象も受ける傘を渡されるままに肩に担けば、その雰囲気は途端にぐぐ、と、色艶の増したように見え。
「どうよ、似合うかい?」
「とても、お似合い、です」
「うんうん、お兄さんもまた似合うねぇ」
 促されてとんとんと、柄を軽くタップすれば。花は菊や、睡蓮に。色は白、ピンク、赤などに変わってゆき。
 曰く、此方はあたたかみのある、陽の光や灯す火めいた彩りばかりで揃えていると。色だけでなく花もまた、十雉に似合いそうなものを選んだとおばあさんは説明して。
「ベースはそれぞれあったけれど、色々変わるアレンジについてはオーダーメイドみたいなものさ」
 即興魔法の仕上がりはどうだい? と、うふふと自慢げに笑いました。
「あともう一つ、ささやかなおまけをしてあげようねえ」
 おばあさんが杖を振れば、なんと、なんと。
 二本の傘が、それぞれ銀のブレスレットになったではありませんか!
「友達とのお揃いは楽しいものだからね」
 それぞれ淡い紫と、角度によって黄~橙に変わる彩の宝石一つ。
 ステッキやベルトでないけども、何かに変わるアクセサリー――はからずも、その概念は変身ヒーローやヒロインのもの。
 わあ、わあ、と感激のあまりぱちぱち拍手してしまうかんろ、きらきら眸を輝かせる十雉に、おばあさんは悪戯っぽくウインクしてみせましたとさ。


 空に恋する空色と、太陽に恋する陽の光色。
 そんな傘を二人で差して。

 虹の下を潜り抜けて、晴れた空を満喫しながら歩くかんろが隣を見遣り。彼の横顔を見た拍子。
 ふと思い出すは、あの日のこと。

 ――へぇ、面白いこと言うねェ。つまりなんだ、お嬢さんがあの雨を降らしてるってのかい?
 ――スーパーパワーってヤツかい? すげぇじゃねェか。雨女だな、雨女。

「――ふふ、」

 わたしたちが、出逢った時。わたしを雨男と呼ばなかった。

 それはこの乙女にとって、どれほどの救いであったことでしょう。
 やわらかい気持ちがほわほわ浮かんで、つい微笑んでしまったのを。
「どうした?」
 なあんてひょいと覗く彼に気付かれてしまったと、ほんのりちょっぴり、照れてしまったり。
「……ううん、」
 ――なんでも、ないの。
「へへ、そいつは何でもない顔じゃねぇよ、お嬢さん」
 ――けどかんろちゃんが嬉しそうならそれでいいや。

 乙女心を秘める乙女と、敢えて追及せぬ男と。
 そんな二人で、歩いたりして。

 そうして二人は暫くは、幸せな時を過ごしましたが。魔法が解ける時間はすぐに、やってきてしまいました。

「――お、」
 ぽつぽつ、ぽたり。
「お誂え向き」

 けれど、けれども。今日という日の物語でだけは。
 これからこそがかんろにとって、魔法の一時であったのです。

 狐の嫁入りだねぇ、なんて。十雉も掌翳し笑って。
「早速このままさして帰ろ」
「うん。せっかく、出逢えた、子だもの」

 一緒に歩くお天気雨。
 この日のばかりは雨の音が、幸せな音色に聴こえた気がして。
 帰り道の家の窓際で、ふいに見つけたカスミソウみたいな。
 そんな小さな幸せが、いつまでも、いつまでも、続いてゆきますようにと想う――今は“ただのひとりの乙女”な、世母都・かんろでありました。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ライラック・エアルオウルズ
類さん(f13398)と

とりどりの傘に感嘆の声
開いた口に密か笑いつつ
本当だ、空も地も綺麗だね
影踏むようにふたつ跳ねて
浮き立つ心のままに往こう

ね、傘も奥が深いものだ
故に惹かれるものばかりで
あれ、これ、それ、――何て
このままだと傘屋になれそう

貴方は?参考に聞かせて
選ぶものを追えば、愛らしくて
僕の候補が増える程に素敵だもの
贈り物、喜んで貰えると思うよ

然して、また増えてしまった
しっくりくるの、と悩んで、ひとつ
広げてみたのは、カメレオン傘
好きな景に染まる、何て
我儘な僕にぴったりだな
不思議と手にも馴染むよう

貴方の借りる姿見を覗いて
映る傘は、とりどりの空色
僕には鮮やかすぎる、けれど
友の想い出で暫し染めようか


冴島・類
ライラックさん(f01246)と

彩鮮やかに、空に咲く傘の群
上に見惚れて
口を開けっぱなしにならないよう
気をつけないと
あ、影も綺麗ですよ
連れ立って選べるのは心躍る

絵柄や形がこんなにあるなんて、ですよね
ひとつの芸術みたい
ライラックさんはどれが気になります?

僕は…前選んだのが季節に合う
花色だったので
今度は人に選ぼうかなぁ
濡れたら小花柄が浮かぶものか
海みたいな色合いに魚が泳ぐびにーる傘を手に

眼を奪われ過ぎて悩むなら
広げてしっくり来るのをとかは?
合うものは肌馴染みが良かったりしますし

貴方が広げたかめれおん
借りた姿見に写し
求めた景を受け入れ染める
ふふ、似合うし
道行の連れにぴったりかも
今は一緒の景色に染まって


●空と海
「わ――、」
 空に咲く傘の花。花畑に見惚れるは、冴島・類(公孫樹・f13398)の姿でした。
 開いたままの口にくすりと、笑うはライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)。気付き照れる友人に、ゆるり小さく首を振って気持ちはわかると紡ぎます。夢のような体験に、浮き立つ心は彼も同じ。
 だってこの下を潜れるのかと思うと、もう――!
「上に見惚れて口を開けっぱなしにならないよう、気をつけないと――あ、影も綺麗ですよ」
 地をも彩る光の魔法に類が気付いて指し示せば。
「本当だ、空も地も綺麗だね」
 なんて、頷き感嘆の声を上げて。
 影踏むように、ひとつ、ふたつ。跳ねるは好奇の兎たち。
 新たな冒険へ飛び込まんと、爪先踵を鳴らしてステップ。
 不思議の国は傘の国。色彩の渦へ、さあ。いざ――!


 朗らかに鼻歌うたう紳士を見送り歩いて店の前。
 お勧めされた店の名前を看板にきちんと確認してから、その扉を押し開けばカランコロンとベルの音。
 出迎えたのは色とりどりの傘とふわりと花の香り。
 外の海にも負けぬ種類や不思議なものまでありそうです。
 何故ならまずはと足向けた先。謎と答えを求むる好奇の探偵が如く赴けば。その香りの正体は、なんと花柄の傘だったのですから!
 他にもぐるりと周囲を巡れば――。
 花の色の変わる傘、虹色カラーの鮮やかな傘。
 シンプルイズベストと言わんばかりの無地の白や、空色一色、深い緑。
 ラメのきらきら輝く傘に、正反対の、透明傘。
 ぱっと傘を開く度に桜の花びら舞うものや、白兎の柄がぴょんぴょん、飛び跳ねぐるぐる、動き回るもの。
 形もコウモリ傘などから、番傘めいたものもあり。
 素材もレースのあしらわれたものや、ビニールはもちろん、謎素材まで。
 ――大雑把に分けるなら。街中でも目立たぬものから、不思議でメルヘンな魔法の傘まで。
 たくさんの傘が手に取られ、出逢いを果たすのを今か今かと待ち望んでいるかのよう。そして各々アピールを、人々や二人に精一杯、しているかのようでした。
「絵柄や形がこんなにあるなんて……ひとつの芸術みたいですね」
「ね、傘も奥が深いものだ」
 故に惹かれるものばかり。ライラックはまたふわふわと、何処かへと爪先向けていて。
 にゃーにゃー鳴く猫の傘に気を取られていたのだと分かると、微笑ましく目尻を下げて、類は彼へと問いました。
「一度、離れて少し経ったら合流するというのはどうです?」
 淡い桃やら橙やらの毛糸玉に纏わりつくようにじゃれる黒猫たちは、類もつい釘付けになるほど愛らしい姿をしていて。その隣にはバージョン違いで、白猫なんかもいるものですから。好みの猫ちゃんを連れ帰れるんだなあ、とほのぼの感心してしまうのでした。
 一方問われたライラックは、はっと我に返ったようで。
「ああ、申し訳ない。……そうだね、このままだと日が暮れてしまいそうだ」
「わかります、わかります。どれもとても魅力的ですから。……では、後程」
 そうして二人はそれぞれに、出逢いを楽しむことにしたのです。

 端の方から攻めていく類は、一通りぐるりとしてみる心算。気になるのは場所を覚えて、戻ってまた確認しようと。
「しかし……」
 何とも種類が多すぎて、気になるものは増えるばかり。気になる子それぞれの居場所も、きちんと覚えきれるかどうか。
 足元から天井まで、余すことなくひしめく傘は、展示品のそれが如く広げられているものも多く。けれどやはり閉じられた姿で並ぶものが過半数で。
 気になった子が後者の子だと、類は当然広げてみたくなるのですが。とはいえ勝手に広げるのもと、躊躇われてしまいできず。
 そういう悩みも加わって、迷うなあと誰にともなく呟きを漏らしてしまったところ。
「おや、何かお困りですか?」
 店員らしきおねえさんが、丁度良く現れました。
「ああ、そうなんです。実は……」
 気になる子があまりに多く迷ってしまって、と嬉しいやらな表情で説明する類の姿におねえさんは笑みを浮かべ。
「それはそれは、とっても嬉しいです! ありがとうございます。うちの店ではどれでも自由に広げてくださって構いませんよ」
 広げなければ分からない柄や効果のものもありますし、傘は広げてこそですから。と朗らかに応えました。
「そうなんですね、それは良かった」
 類は早速気になっていた傘をひとつ手に取って、わくわくとする心を抑えてぱっと広げてみせました。
 すると。
「わあ、」
 金木犀の薫りがふわりと漂い、花と木の葉はふるふる震え。それらがちらちら散りゆく中、二匹のリスが円描くように、くるりくるりと追いかけっこ。
「可愛い」
「そうでしょう?」
 店員さんは鼻高々。動物ものは私も好きなんです、と瞳を輝かせいいました。
「ところで、お兄さんにはこういうのもお好きかなと思うのですが」
 どうでしょう? と差し出すものを広げてみれば。
 瑞々しい青もみじが徐々に黄、橙、赤へと変わり、紅葉してゆくさまのようで。
 お兄さんは秋のお色味がお似合いになるかなと思って、というおねえさんに。
「秋は確かに好きですし、この子もうつくしいと思いますよ」
 と、そう微笑む類でした。
「けれど、今回は自分用ではなく……」
「あら、それはそれは……」
 店員さんとのお話は弾み――。

 せわしなく揺れる、まなこと帽子。
 こちらのライラックも類と同様、一度は全てを見て回るつもりだったものの。気付けば腕にはたくさんの、お友達が増えている状態でした。
 視線も手指も落ち着きなどなく、気になる子を見つけては、あっちにひょい、こっちにひょい。
 気になる子たちの元いた居場所など、もはや覚えてなどいません。
 広めの通路に狭い通路。迷路すらも楽しんで、あっちへふらふら、こっちへふらふらとしていたところ。
「おや、まるでキャンディケインだ」
 にこやかに笑む茶髪の紳士に声を掛けられたのでした。
「ふふ、サンタクロースじゃあないんだけどね」
 クリスマスに因むようにライラックがそう返すと、紳士はハハッ、と歯を見せてから。
「君がたとえ季節外れのサンタクロースだったとしも、僕はもちろん歓迎するとも」
「けれどそうではなく、決めきれないというだけなら……そうだね、」
「“運命の子”の候補に、この子も加えてみてはどうかな?」
 と、とあるひとつの傘を差し出してみせました。
「これは……?」
 ライラックがそう尋ねると、紳士は待ってました! とばかり。
「これは僕――当店全ての傘を知り尽くした店主の自慢の品であり、お勧めの子――その名はカメレオン傘……!」
「かめれおんがさ……?」
 いかにも、といった風に頷く紳士、もとい店主は。
「好きな色――どころか好きな柄や景色にまで、自由自在に変わる、否、変えられる傘なのさ!」
「……しかしここで広げるには狭いからね。迷いに迷ってしまった……! と頭を抱えたくなった時には、この子を是非是非、思い出しておくれ」
 さして説明せぬままに、閉じられたままのその傘を新たに一本、腕に足し。
「君の“色”に染められた、愛しいその子が見られる時を僕は楽しみに待っているよ」
 今は透明一色の、無垢な子へと眼差し送り。最後にライラックをもう一度見遣ると、ぱちりとウインクをして去ってゆくのでした。

 合流後。類はまず、何やら友が腕にたくさん傘を引っかけ重そうな状態であるのに気付き、瞬きをぱちぱちとしてしまいました。素敵な出逢いがあったよう、と口角を上げ問いをひとつ。
「ライラックさんは、何か気になるのありましたか?」
「ええっと、ね……」
 木の葉のさやさや揺れる傘はきっと木陰で読書の気分。
 星降る夜を表す傘は月や星の見えぬ夜をも明るく照らす、流星群。
 クリーム色に鈴蘭は、やわい彼女を思わせて。
 音符を撫ぜれば音鳴る傘は、雨の日には楽器となる。一人演奏会と洒落込み、音を奏でるも楽しいだろう。
 他にも幾つか、あれ、これ、それ、――なんて。
「このままだと傘屋になれそう」
 ライラックは肩をすくめ、困ったように笑いました。
 けれどもこれは、嬉しい悲鳴。贅沢な悩みに幸せ気分。
 ――貴方は? 参考に聞かせて。
 と。選びきれぬままに返せば、類は幾らか絞ったようで。
「僕は……以前選んだのが、季節に合う花色だったので。今度は人に選ぼうかなぁと」
 右手には、水に濡れたら小花柄が無地の中から浮かんでくるもの。
 左には、海のような透ける青に、魚が泳ぐビニール傘。
 どちらか迷っていると言い、けれど類は思い切り良く、間もなく決めてしまいました。
 左の海が如くのそれを、贈り物にしよう――と。
「贈り物、喜んで貰えると思うよ」
 僕の候補が増える程に素敵だもの、とライラック。
 内側から眺めれば、空をも泳ぐ魚たち。或いは自身が海中散歩をしている気分にもなれそうで、雨の日のお出掛けが楽しみになりそう……と想像力を働かせます。
 けれど彼にも漏らした通り、候補がひとつ増えたことは甘くて苦い大人の現実。然してまた増えてしまった……と溜め息めいて呟いて、知らず知らず困り眉も作ってしまっておりました。
 ライラックは改めて、視線を傘へと送ります。友はもう決めたため、これ以上の優柔不断は申し訳なく思いつつ。けれど絞りきれぬからといって、適当に選んでしまうというのも今度は傘たちに申し訳なく。
 手元の傘を見比べて、小さく呻く友人に。類は時間は気にせずに、と予め添えてみせてから、ささやかながら助け船をと、唇開き紡ぎます。
 ――眼を奪われ過ぎて悩むなら、広げてしっくり来るのをとかは?
 合うものは肌馴染みが良かったりしますし。それに店員さんも、どれでも自由に広げても良いと。などと、経験談も含め語って。
「しっくりくるの……」
 ライラックは少し悩んで、まずはひとつ。けれど結局は気になるあの子もその子もと、一通り開いては閉じてを繰り返し味見をちょいとさせてもらって。そうして最後にもう一度と、選び広げたお気に入りは。
「あれ、先程とは映るものが違う……?」
 傘は開かれた数瞬後、布地は白へと素早く染まり、柄は昨日助けたアリスの扉に描かれたモチーフを複数、絵本風に可愛らしく映し出しておりました。
 一度目とは違う……と不思議そうにする類に、ライラックは説明します。
 離れて傘を探していた頃、通りがかった店主によってその存在を教えられたと。
 そう、選んだのは。
 カメレオン傘と名付けられた、透明色のまっさらな子――真白のキャンバスのような子でありました。
「好きな景に染まる、何て。我儘な僕にぴったりだな……と思ってね」
 やはり先程と同様に、不思議と手にも馴染むよう。
 因みに一度目に開いた時には、迷っていた鈴蘭柄の傘に化けるように変わっており。照れ混じりの苦笑めいた表情になったのは、ここだけのひみつ。
 類の借りた姿見を覗けば、今度はとりどりの空色に――通りの空を染めていた、傘たちの色が映っていて。
「なるほど。求めた景を受け入れ染める、まさにかめれおんな傘なんですね。……ふふ、似合うし、道行の連れにぴったりかも」
 笑む友の、そんな評を聞きながら。ライラックは傘の柄くるり、控えめに回して肩に添え。
「僕には鮮やかすぎる、けれど……折角だ、」
 ――友の想い出で暫し染めようか。
 そう柔く、口元綻ばせ紡ぎました。

 たまにはこんな日があっても良い。
 何せ主の気分次第で、白にも赤にも染まってみせる素敵な従者なのだから。


 扉の向こうの通りへと出て、歩いてゆけば、ほら。すっかり絵筆を操る画家や、混ざりゆく絵の具そのものの気分。
 既に豊かな色彩なれど、空と地との間にも、もうひと彩りと洒落込んで。
 己の選んだ彩と共に、色に溶け合い、混ざり合い。キャンバスをさらに、さらにとばかり、思う存分染めていく。
 素敵で不思議な空間は、うっかり時間を忘れかねぬほどとってもとっても魅力的。
 けれどくれぐれもご注意を。出口だけは見失わぬよう。
 だって冒険はまだまだこれから。これからも続いてゆくのですから。

 鏡映しの相棒携え、海を泳ぐ相棒土産に。
 この冒険は、物語は。誰に聞かせようかと考えながら。
 今は暫し、もう少しだけ。時計の針は止めておこうか。
 にやにや笑いの悪戯猫が、目を覚ませと起こしにくるまで。
 次の物語の“扉”の方から、霧と共に迎えに来るまで。



●めでたし
 物語を終えたなら、愛おしげに背表紙撫ぜて。
 じんわりと余韻に浸るように、瞼を閉じて息を吐く。
 それから漸く腰を上げて、大切に大切に本棚へ。

 ……そして、次は何をしよう。そう君は、迷うかもしれない。
 ここで先人からの助言をひとつ。
 もしもゆっくり休みたいなら。
 そのままベッドに潜り込み、眠ってしまうといいだろう。
 夢のような出来事を、夢の中で反芻してまた楽しむことができる。

 けれどもしも、次を求めてやまないなら。
 振り返った先の鏡をじっと、見つめてみるといいかもしれない。
 もしかするともしかして。
 鏡は溶け、銀の霧のようになり。
 君を新たなる冒険へと、呼んでいるかもしれないのだから。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2020年11月17日
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