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紫陽花メランコリア(作者 霧雨りあ
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 水面に浮かぶ、青い花びら。
 ゆらり、ゆらりと揺蕩うそれは、誰かの想い。

「嗚呼、あのひとに逢いたい……」

 彼女は昏い水中から花びらに手を伸ばす。
 触れた瞬間、それは色を失い水面に黒い染みを作った。

「嗚呼、どうして……」

 青い花びらは、あのひと。
 黒い染みは、わたし。

 彼女は願った。
 それは、あのひとが願った世界。
 それは、雨の月に咲く花に溢れた美しい世界。

 ――あのひとにもう一度逢うために、セカイヲツクリカエテシマエ。

 もう覚えてはいない。
 声も顔も、何もかも。
 ただ『逢いたい』という想いに支配され、たったひとつだけ覚えている『雨の月に咲く花』を頼りに。
 例えこの世を創り変えることになったとしても――その『だれか』を探すのだ。


「再びカクリヨが大変なのです。カクリヨが『骸紫陽花』に覆われてしまったのです」
 椿のグリモアを抱きしめて、集った猟兵に沙羅は語る。
 骸紫陽花とは、骸魂に汚染された危険な紫陽花。その美しい花からは甘い香りが漂い、誰も彼もを眠りへといざなう。
「予知では、この骸紫陽花で妖怪たちが眠りについた後、骸魂が溢れ出してすべての妖怪を食べてしまうのだと……」
 沙羅は悲しそうに告げ、そして不吉な未来を払うかのように首をふるふると振った。
 深呼吸ひとつ。予知の内容を整理して、言葉にする。
「骸紫陽花で世界を覆ったのは、美しい女性の上半身と、大きな蜘蛛の下半身を持つオブリビオンなのです。彼女に記憶はありませんが、生前に恋した『だれか』に逢いたいという想いだけで、世界を滅亡に導こうとしているのです」
 彼女は生前『川姫』という妖怪だったと予知ではわかっている。彼女と紫陽花の関係は、その『だれか』が関係しているようだが……。
「彼女の想い人は、どこにいるのか分かっているのです。カクリヨに住んでいる妖狐のお兄さんなのです」
 妖狐の青年、名は『水風(みなかぜ)』。
 彼は骸魂とならず無事に幽世に辿り着き、今は風鈴を売って暮らしている。
「水風さんが彼女へ繋がる道の鍵だと予知にありました。なので、まず皆さんには彼に会いに行って頂きます」
 既に骸紫陽花で覆われ初めている幽世。
 彼が無事であるうちに、手がかりを掴まなければならない。
「水風さんは彼女を知っているのです。でも……何故か彼女のことを覚えていないのです」
 長い時を生きる妖怪であれば、数多の出会いと別れを繰り返している。しかし、たとえ恋しく想っているのが彼女だけだったとしても、一度出会った縁は消えることがない。
「縁を手繰り寄せて、彼女への道を築いてください。お願いします」
 ふわりとお辞儀をした沙羅のグリモアが輝いた。
 猟兵たちは、幽世へ――。


 青、赤、白。鮮やかな紫陽花の彩りが、世界を埋め尽くしている。
 背筋を凍らせるような美しい世界。

 骸紫陽花の香りをひとたび吸い込めば、物憂げに。
 みたび吸い込めば、憂鬱に。
 そして気付けば、もう眠ってしまいたいと願うのだ。

 古書に記される――それが『紫陽花メランコリア』なのだと。


霧雨りあ
 幽世からこんばんは、霧雨です。
 ふわりとした切ない恋のお話、お届けいたします。

 今回はふんわり心情系、綺麗目なリプレイになるかと思います。
 頂いたプレイングは極力採用しますが、悩んだ場合はお返しする場合もあるかと思います。

●第一章は冒険です。
 妖狐の青年『水風(みなかぜ)』の元を訪ね、今回の主役『川姫』(名前は不明)に繋がる情報を引き出しましょう。彼は彼女のことを忘れてしまっているので、思い出させるような工夫があると良いかと思います。

●第二章~第三章
 こちらは第一章完結後に、断章にて情報を公開いたします。

 以下、その他補足です。

●骸紫陽花
 幽世の妖怪たちは、その八割が『紫陽花メランコリア』を発症し眠っています。
 猟兵への影響は『物憂げになる』程度です。

●水風(みなかぜ)
 妖狐の美しい青年です。まだ『紫陽花メランコリア』を発症していません。
 彼の住む町には骸紫陽花が咲き始めましたが、彼は町はずれで風鈴屋台を出しているので、まだ気付いていません。

●風鈴
 非常に美しい細工を施した、ガラスの風鈴です。
 紫陽花モチーフが多め。お土産に買うこともできます。

 それでは、みなさまの冒険が良きものとなりますように。
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第1章 冒険 『失くしもの』

POWとにかく話を聞いてみる
SPD手掛かりを沢山集める
WIZ独自に推理してみる
👑7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 りーん、と風に乗る涼し気な音。
 浴衣姿の青年が売る風鈴の、それはそれは涼やかな音色は、まだ駆け出したばかりの初夏を遠ざけるようで。
 雲ひとつない空と、青い草の香りを運ぶ風に溶けあって、少しだけ郷愁を感じさせた。

「やあ、こんにちは。風鈴はどうかな?」
 訪れたあなたに気付いた青年は、優しく微笑む。
 彼が水風。『彼女』の想い人。
 彼女と紫陽花の縁を知る、唯一の妖狐。
 しかしそれも、今では記憶の奥底に沈み忘れていると言う。

 さて、何と声をかけようか。
 どう記憶を手繰り寄せようか。
月守・咲凛
ふーりん、きれいなお花なのです、このお花がいっぱい書かれてますけど、このお花には何かこだわりがあるのですか?
綺麗な物は好きは好きなのですけど、子供なので、最初はとりあえず息を吹きかけてみたりして風鈴をチリンチリン鳴らす方に興味を持ちますが、アジサイモチーフの物が多い事に気付いて尋ねてみます。
これがあじさいなのですね。いっぱいあったら綺麗でしょうねー。自分も同じ名を持つ兵器を使っているので、花の名前に興味を示します。
基本的には質問して話を聞いていき、話が終わったら風鈴をひとつ買って、武装ユニットに付けてみるのです。


 ふわりと降り立った少女の水色の髪が、陽光を反射して宝石のようにきらきらと煌めく。
 月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)の赤い瞳は、風に揺れる風鈴に描かれた紅紫陽花のようで。
「ふーりん、きれいなお花なのです」
 小さく息を吹きかけて。
 チリンチリンと響く音色。なんとも愛らしいその音に、咲凛が花のような笑顔を向ける。
「このお花がいっぱい書かれてますけど、このお花には何かこだわりがあるのですか?」
 ふと気付いて絵柄を指差せば、妖狐の青年は涼やかに微笑んだ。
「それは、紫陽花という花だよ。いろいろな色の花を咲かせるんだ」
 目線を合わせてそう告げると、少し待ってねと屋台の裏へ消えた。
 再び現れた彼の手には白い鉢植え。そこに咲く薄青紫の大輪、儚い気配の紫陽花。
「これがあじさいなのですね」
 自身が持つ円盤状のユニットの名前と同じ響きに興味を惹かれ、じっと見つめれば。
「いっぱいあったら綺麗でしょうねー」
 その光景は、きっと。砂糖菓子を並べたような、きらきらとしたものになるだろうと。
「今が見頃だから、きっと町に行けば咲いているよ」
 水風の言葉に咲凛は思い出す。
 骸紫陽花が、ここにも迫っているのだ。
 一瞬、鉢植えの紫陽花もそれかと不安になったけれど。水風の瞳は大きく開かれ、空のように蒼い瞳がしっかり咲凛を見つめている。
 ――きっと、だいじょうぶ。
 咲凛は思いつくかぎりの質問を投げかけて、水風の記憶を揺さぶる。
「紫陽花は昔から好きなんだ。ただ、この花を好きだと言ってくれた人がいた気がするんだけど……思い出せなくて」
 紫陽花から連想するのは、美しい女性の影。
 水風の記憶に、さざ波が立つ。

「それでは、このふーりんをひとつください」
 咲凛が選んだ風鈴は、武装ユニットの先で風に揺れる。
 チリンチリンと涼やかに。
大成功 🔵🔵🔵

神代・凶津
事件と聞いてこの世界に来たが、見渡す限りの見事な紫陽花の咲き乱れる風景だな。
これがヤバい代物じゃなけりゃじっくり眺めていたい所だがな。
「・・・早く止めないと。」
おうよ、相棒。
先ずは風鈴売りの兄ちゃんの所へ行かねえとな。

風鈴売りの兄ちゃんはオブリビオンの事を覚えていないらしいが、どちらも紫陽花に思い入れがあるようだから其処から切り込んでみるか。

よう、兄ちゃん。こいつは見事な風鈴だな。一つ買うぜ。
にしても、紫陽花のモチーフが多いな。
何か思い入れでもあるのかい?
例えば女との想い出とか?
こんないい風鈴を作れるんだ。
興味が湧くぜ。

こんな感じの雑談で情報収集するぜ。


【技能・情報収集】
【アドリブ歓迎】


 幽世の町が、赤に青に紫に――咲き乱れる骸紫陽花に飲まれていく。
 優しい香りは、住人たちを眠りにいざなう危険な香り。
 それは、ふわりゆらりと彼らの元にも。
「事件と聞いてこの世界に来たが、見渡す限りの見事な紫陽花の咲き乱れる風景だな」
 神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は、黒髪の少女の手の中から骸紫陽花を眺める。
 その鬼の仮面に空いた暗い穴にも彩りは映り、香りは鼻孔をくすぐった。
「これがヤバい代物じゃなけりゃ、じっくり眺めていたい所だがな」
 なあ、と相棒の桜に声をかければ、彼女は視線そのままに静かに告げる。
「……早く止めないと」
「おうよ、相棒。先ずは風鈴売りの兄ちゃんの所へ行かねえとな」
 骸を冠した紫陽花が、彼の元へ辿り着く前に。

 ――チリンチリン。
 風に揺れる風鈴の音は心地よく。
「いらっしゃい」
 迎える妖狐の蒼い瞳は、黒髪の少女を映す。
「よう、兄ちゃん。こいつは見事な風鈴だな。一つ買うぜ」
「……? ああ、驚いた」
 桜へ向けられた視線が一瞬彷徨って。彼女の手の中の仮面に移り、ふわりと微笑む。
「ええ、柄はすべて違うから、ゆっくり選んでもらえれば」
 屋台に並ぶ紫陽花柄の風鈴は、先に町で見た骸紫陽花のように艶やかで。
 ――オブリビオンの事を覚えていないらしいが、どちらも紫陽花に思い入れがあるようだから……其処から切り込んでみるか。
 凶津の目を細める気配に、桜もこくりと頷く。
「にしても、紫陽花のモチーフが多いな。何か思い入れでもあるのかい?」
 そう尋ねれば、水風は嬉しそうで。
「そうなんだ、昔から紫陽花が好きで。良い想い出がたくさんあるからね」
「例えば――女との想い出とか?」
 ぴたりと。
 水風の顔は微笑を貼り付けたまま、時を止めた。
「こんないい風鈴を作れるんだ。興味が湧くぜ」
 続く凶津に言葉に、水風は目を三度瞬かせ。
 ゆっくりと、首を左右に揺らした。

 動き出した時。
 動き出した記憶。

「そう、なんだ……。彼女が、好きだと……彼女って誰だ……?」
 朧げに浮かぶ美しい娘。

 水風の頬を、一筋の雫がこぼれ落ちた。
大成功 🔵🔵🔵