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姑獲鳥は氷雪に泣く

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●想う心あれば、憎む心あり。
 姑獲鳥が鳴く。
 当たり一面が雪化粧に彩られた平野。そこに立つ女性の姿をした妖怪。
 それは怪鳥の翼の如き羽衣を身にまとった女性の姿をした妖怪であった。
「―――あぁ、よし、よし。泣かないでいいのだよ。何も怖いことはないからね。寂しければ、そら、抱いてあげよう」
 カクリヲファンタズム。そこは文明の発達とともに妖怪に向けられる感情が、文明の発達とともに枯渇し生きられなくなった者たちが駆け込んだ世界。
 この世界に逃げ込んできた妖怪たちは、危険な道程をやっとの思いで乗り越えてきた者たちばかりだ。
 だが、幽世へと妖怪たち全てがたどり着けるとは限らない。たどり着けず死すことしかできなかった妖怪たちは皆、『骸魂』と呼ばれ妖怪を飲み込むことでオブリビオンへと変ずるのだ。

 そんな幽世へと至る道程で親である妖怪を失い、己だけが幽世へと逃げ込むことのできた幼い妖怪もいる。
 その幼い妖怪を抱き、姑獲鳥は慰める。それはもうどうしようもないことなのだと。せめて、己が母となって、と優しき心で慰撫するのだ。

「坊やだけじゃない。私の子どもたちは皆、そうであるよ。けれど、皆いい子だから、少しも寂しくない。一人ではないということは、とても暖かいものであるのだから」
 姑獲鳥は幼い妖怪を抱きしめる。
 いつの間にか、彼女と幼い妖怪のまわりには同じ様に幼い妖怪たちが集まってきている。彼等全てが姑獲鳥が保護している幼い妖怪たちである。
「何も忘れる必要はない。今は涙で全てを流してしまっても良い。けれど、信じておくれ。坊やの近くには私と、そして、兄弟がいるということを―――」

 その言葉は優しかった。けれど、次の瞬間、当たり一面に広がるのは大小様々なブラウン管型テレビ。
 まるで城塞のように雪化粧に彩られた平野に次々と山積していく。
 そのブラウン管画面に映し出されるのは、どれもこれも砂嵐。耳をつんざくような音がスピーカーから漏れ出たと思った瞬間、画面から飛び出す一つの骸魂。
 その骸魂は姑獲鳥の体を一呑みにすると、その姿を銀髪の美麗なる女性の姿へと変える。

「―――あぁ、何もかも止まってしまえばいい。幸せな時がずっと続くように。私は全て喪ったのに……愛子も、何もかも……もうこれ以上何も憎みたくない。生命育む全てが憎いと思いたくない。だから……」
 妖怪、姑獲鳥を一呑みに呑みこんだ骸魂は、オブリビオン『薄氷』の雪女へと変えたのだ。
 そして、それに呼応するように次々と、幼い妖怪たちを飲み込んでいく無数の骸魂たち。
 それらは即座に『剣客』ゆきだるまへと姿を変え、静謐に包まれていた雪原を駆け出す。
「だから、全て雪で覆ってしまえ。あらゆる時を凍結させる雪に満ちた幽世……『凍結の世界』へ―――!」

 その言葉は愛すべき対象を喪ったがゆえの行き場のない愛情が歪んだ末路にして、世界の終わり―――カタストロフであった。

●雪が全てを覆ってしまう前に
 グリモアベースに猟兵たちが集まってくるのを、頭を下げ、微笑みながら出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)である。
「お集まり頂きありがとうございます。早速ですが、手短に。新たに発見された世界、カクリヲファンタズムにて、世界を滅ぼす者の誕生が確認されました」
 UDCアースに隣接するカクリヲファンタズム。
 その世界の住人は全て妖怪である。彼等はかつてUDCアースにて、人間から向けられた感情を糧として生きていたのだが、人間たちは文明の発達と共に妖怪の姿を見ることができなくなっていった。
 そうなると彼等の生きる糧は得られず、滅びるしかなかった。だが、隣接する幽世に逃げ込むことで彼等は生き延びていたのだ。

「はい、そして、その幽世へと至る道程は優しいものではありませんでした。途中で死に絶える妖怪も多くいたのです。死した妖怪……骸魂となった彼等は妖怪を飲み込むことでオブリビオンとなり、世界を滅ぼすのです」
 今回、ナイアルテが余地したのは『雪』で覆われた幽世である。全てを凍結させる雪に満ちた世界は、『凍結の世界』へと姿を変える。
 生まれいづる者もなく、時間すらも停止したような永遠の冬が続く世界へと変わってしまうのだ。

「今もカクリヲファンタズムは大量発生した雪と共に無数の骸魂が飛び交い、妖怪たちが次々と飲み込まれてオブリビオン化しているのです。解決を急がねば、文字通り世界の終わり―――カタストロフが来ることでしょう」
 これを阻止し、骸魂に飲み込まれた妖怪たちを助け出さねばならない。
 未だ世界の終わり(カタストロフ)は来ていないが、大量発生したオブリビオンたちによって、その時は刻一刻と早められている現状なのだ。

「この事件の元凶であるオブリビオンは雪原に構えたブラウン管型テレビが山積して出来上がった要塞の中枢にいます。まずは、この要塞を踏破し、大量発生した群体オブリビオンを蹴散らしましょう」
 このブラウン管からは、過去に起こった事、過去の思い出が目の前のテレビ画面から映像として流される。それはどのようなものであるかは、対峙した猟兵にしかわからないことであるが、ネガティブなものであることは想像に難くない。
 それにどう向き合うかは猟兵それぞれの課題となるだろう。

「その後、中枢にいる元凶、『薄氷』の雪女を倒しましょう。そうすれば、世界の終わりは阻止され、元のカクリヲファンタズムへと戻るのです」
 緊急を要するような世界の終わりが起こりうる世界、カクリヲファンタズム。
 そこに生きる妖怪たちを救うのもまた猟兵の使命である。ナイアルテは再び頭を下げて、猟兵たちを送り出していく。
 彼等に待ち受ける試練がどれほど辛く厳しいものであるのか……推し量ることは憚られた。それは彼等の誇りに泥をつける行為であるからだ。

 だからこそ、ナイアルテは何も言わずに送り出す。
 きっと猟兵たちであれば大丈夫であると信じて―――。


海鶴
 マスターの海鶴です。
 今回は新しい世界、カクリヲファンタズムでの事件となります。まさかのいきなり世界の終わり(カタストロフ)。ピンチのカクリヲファンタズムを救うシナリオとなっております。

●第一章
 冒険です。
 追憶電波と呼ばれる電波を放つブラウン管テレビが山積された要塞を進みましょう。この中枢に、今回の世界の終わり(カタストロフ)を引き起こさんとするボスオブリビオンがいます。
 このブラウン管テレビから放たれ、対峙する猟兵の皆さんの瞳に映る映像は、皆さんのキャラクターのネガティブな過去の映像となります。
 この映像にどのように向き合い、対処するか。
 それを踏まえた上で、要塞を踏破していく章となります。

●第二章
 集団戦となります。
『剣客』雪だるまという群体オブリビオンとの戦いとなります。骸魂に飲み込まれたのは幼い妖怪たちばかりです。オブリビオン化していますが、オブリビオンを倒せば救出できます。
 ブラウン管テレビが山積された要塞のあちらこちらに潜み、猟兵達へと襲いかかることでしょう。

●第三章
 ボス戦です。
 世界の終わりである黒幕、『薄氷』の雪女との戦いになります。
 周囲のブラウン管テレビからは、皆さんの踏破してきた映像にまぎれて、このオブリビオンの映像も流れています。
 これを活用するも、しないも猟兵の皆さんの判断次第です。
 骸魂に飲み込まれた妖怪『姑獲鳥』は、カクリヲファンタズムへと至る道程で親である妖怪が死んでしまった幼い妖怪たちを引き取って育てていた妖怪です。
 骸魂は生前縁のあった妖怪を飲み込もうとします。同じく母親であった『薄氷』の雪女とは共通点や似通ったものがあるので、今回取り込まれてしまいました。
 倒せば、勿論救出されます。

 それでは、新たな世界カクリヲファンタズム。
 妖怪と世界の終わりが渦巻く世界で、皆様のキャラクターの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 冒険 『追憶電波』

POW   :    追憶の映像から目を逸らさない。

SPD   :    背を向け、追憶の映像から逃走する。

WIZ   :    映像から自身の過去を顧みて、精神負荷を軽減する。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ブラウン管に映る砂嵐は明滅する。
 そこに映し出されるのは、いつかの誰かの記憶。
 誰にでもある秘する記憶。呼び起こしたくない記憶。もう二度と見たくはない記憶。
 自身しか知り得ないはずの映像がブラウン管から流れ出る。それは他者の瞳には映らず、己の瞳にだけ映る光景。

 ―――全てを凍結させる雪が満ち溢れんとする世界に、ブラウン管テレビが山積したような要塞が生まれでていた。

 それこそが、カクリヲファンタズムを世界の終わり(カタストロフ)へと導かんとする骸魂に飲み込まれてオブリビオンへと変じた『薄氷』の雪女が潜む要塞。
 追憶の電波流れる要塞を駆け抜け、その追憶と向き合わなければならない。
 その瞳に映す映像がどれだけ苦しいものであっても、猟兵は戦わねければ、世界は終わってしまうのだから―――
エカチェリーナ・ヴィソツカヤ
・心情
さて、『猟兵』としての初舞台が『凍結の世界』を防ぐこととは、妙な縁もあることだ
しかし、永遠の『冬』とはいただけないな?
私は『冬』によって生まれたからこそ、これを否定しなければならないな
そのような寂しい『冬』は、もう十分だから

・行動
WIZを選択しよう
きっと、追憶の映像は『ジェド・マロース』お爺様が突如として消えてしまったあの日からの放浪の日々なのだろうね

寂しかった、苦しかった、気がつけばこのような『姿に』変化しなければきっと耐えられなかったくらいに

でも、私の胸には確かにあるよ
お爺様と過ごしたかけがえのない思い出も

それがあればーーこんなもの、へっちゃらさ。

・その他
アドリブ等は大歓迎さ



 カクリヲファンタズムは今は、滅亡の危機に瀕していた。
 そう、この世界はUDCアースに隣接する世界。妖怪が住まい骸魂が蠢く世界である。その世界において『雪』が溢れ出していた。あらゆるものを凍結させる雪。その雪が世界に満ち溢れた時、全てが氷結し時が止まるほどの停滞が訪れる。
 それはまさに世界の終わり―――カタストロフである。

「さて、『猟兵』としての初舞台が『凍結の世界』を防ぐこととは、妙な縁もあることだ……」
 降り止まぬ『雪』を降らせ続ける元凶たるオブリビオン『薄氷』の雪女の存在を余地したグリモア猟兵の求めに応じたのは、エカチェリーナ・ヴィソツカヤ(ジェド・マロースの孫娘『スネグーラチカ』・f28035)である。
 新たに発見されたカクリヲファンタズムにおいて猟兵の力を得た西洋妖怪である。
「しかし、永遠の『冬』とはいただけないな?」
 彼女の青い瞳が捉えるのは、雪化粧施された雪原に気づかれた要塞。ブラウン管テレビが山積したような奇妙な出で立ちの建物である。
 予知された情報によれば、あの中枢に元凶たるオブリビオンがいるのだ。
 この雪原を見てると、エカチェリーナはわずかに心が暖かくなるような気がした。懐かしさと言っても良い。

「私は『冬』によって生まれたからこそ、これを否定しなければならないな。そのような寂しい『冬』は、もう十分だから」
 彼女の脳裏に何が浮かんだのか……それは彼女自身しかわからぬこと。彼女だけ知る胸に秘めたるものである。
 だが、彼女は覚悟しなければならない。
 これより踏み入れるオブリビオンの位城たるブラウン管テレビの要塞には、それを暴き立てる罠が仕掛けられているのだから。

 要塞の中に一歩踏み出す。
 その度にブラウン管テレビの画面の砂嵐が像を結んでいく。
 懐かしい顔。『ジェド・マロース』。お爺様と呼び慕った存在。求めて止まなかった、その顔を再び目の辺りにして、エカチェリーナの心にが漣のようにささくれた。
 優しいお爺様の顔はすぐに砂嵐に紛れて消えていく。
 代わりに写ったのは、己の姿。ジェド・マロースたる存在が突如として消えてしまったあの日からの放浪の日々。

「予想はしていた―――」
 そう、彼女にとって追憶の、ネガティブな記憶があるのだとすれば、このような映像になるのだろうと。
 思い返すだけで胸が凍えるような気持ちになる。
「寂しかった、苦しかった―――」
 寂寞の思いは、澱のように胸の中に溜まっていく。こらえきれない。けれど、一人で生きていくとはそういうことなのかもしれない。
 耐えきれない想いは、彼女の体を変えていく。かつて、ジェド・マロースに祝福を与えられて吹き込まれた存在が主軸であったはなずなのに。

「……気がつけばこのような『姿に』変化しなければ……きっと耐えられなかった。それほどに私は寂しかった」
 この身はもうジェド・マロースの知る己の姿ではないだろう。
 けれど、彼女の心は変わらない。あの優しい祝福を受けた日から変わらない。なぜならばら。

「でも、私の胸には確かにあるよ。お爺様と過ごした、かけがえのない想い出も」
 そう、何もかもが色褪せない。
 どれだけの時間が流れたとしても、これからどれだけのことを経験していったとしても。変わることのないものが、その胸の内に『冷たい風』という『暖かい』祝福を与え続けているからだ。

「それがあれば―――」
 目の前に映るブラウン管の画面。そこに何が映されていたとしても、彼女は揺るがない。彼女の歩みは止められない。
 冬の凍える冷たい風だって、暖かいと言える。それだけの祝福を彼女はもう与えられているのだから。

「こんなもの、へっちゃらさ」
 懐かしい顔が見れた。それだけでも此処に来たのは間違いではなかった。そう思えるほどにエカチェリーナの歩みはよどみなく要塞の中を進むのだった―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

村崎・ゆかり
氷雪世界か。あいつの方が得意なんだけどなー。ま、仕方ない。あたしが世界を救いましょう。

それにしてもブラウン管ねぇ。お婆様のところでしか見たことなかったけど、液晶TVとかと違って奥行きがあるから積み上げやすいのね。

黒鴉召喚で式を打って要塞内の順路を探らせる。
後は順路通りに進めばよし。

見えてくる過去は、銀河帝国攻略戦の黒騎士アンヘル!
あの時は容易く刈り取られたけど、今なら討滅する自信がある。
まずは「全力魔法」で「オーラ防御」を展開。
七星七縛符でユーベルコードを封じ、「全力魔法」炎の「属性攻撃」の不動明王火界咒で焼き尽くす。
過去は焼き捨てた。大事なのは今!

参考シナリオ
scenario_id=4394



 カクリヲファンタズムは『雪』に包まれようとしていた。
 降り止まぬ雪はブラウン管テレビが山積するような要塞が存在する雪原を中心に広がっていく。
 その歩みは徐々に、けれど確かに世界を覆っていく。もしも、このまま雪が止まず、世界が覆われてしまえば、訪れるのは世界の終わり―――カタストロフである。
 それを阻止せんと世界に遣わされたのが猟兵である。
 彼等の目の前に広がるブラウン管テレビに映る砂嵐が徐々に像を結んでいく。

 それは見る者それぞれに違う映像が流れ始めるのだ。
「氷雪世界か。あいつの方が得意なんだけどなー。ま、仕方ない。あたしが世界を救いましょう」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は雪原に一歩を踏み出す。
 それにしても、とゆかりは呟きを漏らす。
「ブラウン管ねぇ。お婆様のところでしか見たことなかったけど、液晶TVと違って奥行きがあるから積み上げやすいのね」
 要塞のように山積された光景を見て、彼女はそう感想を抱いた。けれど、どこか懐かしさを感じさせるのはなぜだろうか。
 郷愁……というわけではない。彼女の言うお婆様のところを思い出させるからだろうか。いやに頭の奥を突くような、不快な感覚がこみ上げてくる。
 これがグリモア猟兵の言うところの追憶電波であるのだろうか。徐々にブラウン管の画面に映る砂嵐が薄まっていく。

「と、その前に……急急如律令! 汝は我が目、我が耳なり!」
 追憶に囚われてしまう前に、彼女はユーベルコードを発動する。黒鴉召喚(コクアショウカン)によって召喚された鳥形の式神が要塞の中を征く。
 しかし、五感を共有していたとしても、あちらこちらから飛び交う目に見えぬ電波の影響は免れなかった。順路を探るために放った式神であるが、途端に視界を覆うのは、追憶の映像であった。

 呪いの剣がゆかりの体を切り裂く斬撃となって放たれる。己の身を守るオーラもひび割れ、放った炎も尽くが振り払われる。
 一瞬の出来事。煩わし気な表情すら鮮明に瞳に映る。
 三本の呪剣がオーラの隙間からねじ込まれ、意識を手放す。最後に彼女が視た煩わし気な顔。

 それは過去行なわれた銀河帝国攻略戦で相まみえた黒騎士アンヘル。
 オブリビオンの姿であった。圧倒的なまでの力量差。瞬く間に、あらゆる防壁をなかったかのように貫いてくる呪剣。
 放った炎はまるで虫を追い払うように振り払われた。あの表情は忘れようにも忘れられない。
 ただ己を振り払っただけであるというのに、己の意識は刈り取られた。
「……今なら討滅する自信があるのに」

 ゆかりの言葉が苦々しく響き渡る。
 今ならば、と。頭の中に思い描くのは、戦いの再編である。全力でオーラでの防御を行う。焦りは禁物である。
 防御を固め、敵の攻撃を防ぐ。呪剣の一撃は堪えられるはずだ。続くユーベルコード、七星七縛符でユーベルコードを封じる。
 できる。思い描くだけではない。確かに手応えを感じる。できるのだ。

「焦っていたからだとか、未熟だったからだと、そんな言い訳はしない。だって過去は変えられないもの。」
 目の前の映像、黒騎士アンヘルが斬りかかる姿が砂嵐の向こうで像を結んでいる。その一撃は彼女の意識を刈り取る一撃。
 だが、ゆかりは瞳を閉じない。慄くことなんてしない。まっすぐに正面から見つめ―――。

「だから、前を向いて人は歩いていくのでしょう」
 イメージの中で己の手にした白紙のトランプが炎を吹き出させる。圧倒的な炎。あの頃とは違う。己の力量も、何もかも。あの過去があったからこそ、今の己がある。それをなかったことにしてはならない。
 成功から学ぶことは少ない。
 けれど、失敗から学ぶことは多い。しかし、それでも人はくじけてしまうこともある。大切なのは折れないこと。どれだけ挫折したとしても、また立ち上がれば良いのだから。

 ゆかりの炎は黒騎士アンヘルを焼き払って前を向く。
「過去は焼き捨てた。大事なのは今!」
 その紫の瞳は曇り無く前を向く。立ち止まってなんて居られない。どれだけ追憶が彼女に追いすがろうとも、彼女の炎はいつだって、それを振り払って進む原動力なのだから―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒髪・名捨
〇心情
過去か…
失った過去を取り戻す機会か?
それとも記憶喪失になった後のこの数か月の記憶か。

〇背を向け、追憶の映像から逃走する。

さて、映像が見え始めたな。
どんな過去が…真っ黒?さすがに失った過去までは見えないか…。
いや、なんだこれは。
知らない。知らないぞ…こんなオレは知らないッ
(内容は不明。ただし凄惨すぎる内容に正気度チェックファンブル確定級)
オレは知らないぞぉぉぉッ!!
(『過去』の映像からの逃走。見かねた“寧々”が『ブレス攻撃』して名捨を攻撃するまで暴走を続ける。そして何故か見た映像を忘れる)

その後オレは、寧々の『動物の勘』と『第六感』に誘導されて中枢に進むのだったまる


〇アドリブ
大歓迎です



 カクリヨファンタズムに訪れるのは世界の終わり―――カタストロフ。
 世界を包むのは『雪』であり、何もかも凍りつかせ停滞させる『氷結の世界』へと変えようとするのは、妖怪を一呑みにした骸魂である。
 その姿はオブリビオンとなり『薄氷』の雪女へと姿を変えるのだ。元凶たるオブリビオンを中心に降り止まぬ雪は、ゆっくりとだが確実に世界を侵食していく。
 静かなる雪原であった場所に次々と山積していくのはブラウン管テレビ。まるで要塞とするかのように山積する様は、奇妙な懐かしさをも感じさせたに違いない。

 記憶になくても、その光景はどこか哀愁を感じさせる。ブラウン管画面に映る砂嵐が徐々に像を結んでいく。その画面が放つ追憶電波は、望むと望まざると関係なく相対する者の記憶を映像として放つのだ。
「過去か……喪った過去を取り戻す機会か?それとも記憶喪失になった後のこの数ヶ月の記憶か……」
 黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)の頭の上にぴょんこと乗る喋る蛙、寧々と共に、この事件の元凶であるオブリビオンの位城へとやってきたのだが、記憶喪失である彼にとって、この機会は逃すべきではないものであったのかもしれない。
 だが、彼にも懸念がある。
 完全に喪った己の過去なのか、それとも記憶喪失になってからの時間、それを差して過去というのか。その判断が付かないのだ。

 それは怖いもの見たさであったのかもしれないし、猟兵としての使命感であったのかもしれない。はたまためぐり合わせであったのかもしれない。
「さて、映像が見え始めたな」
 要塞たる山積したブラウン管テレビの合間を歩く。
 その画面はどれもが砂嵐を映し出しており、進むにつれて徐々に像を結んでいく。一体何が出るのか。わずかに期待もあったのは確かであろう。
 喪われた記憶。
 それを取り戻したいと思う想いもある。けれど、知らなくてもいいのではないかという想いもまた存在しているのだ。

「どんな過去が……真っ黒? 流石に喪った過去までは見えないか……」
 それはある意味で当然の結果であったのかもしれない。
 この追憶電波が対する者の記憶にあるネガティブなものを選んで増幅し、画面に映し出すものだとすれば、記憶を喪った者にまでは干渉できなかったのかもしれない。
 期待外れであった。
 そう思った次の瞬間。

「いや、なんだこれは」
 そこに写って居たのは、■■■■―――■■。■■■■■―――。
 名捨の赤い瞳が見開かれる。
 瞳孔が開き、そのブラウン管テレビが映す映像に息を呑む。動悸が激しい。胸をかきむしる。
「知らない。知らないぞ……こんな■■は知らないッ」
 髪をかきむしる。けれど、何もかもが手遅れであった。
 ■■を視てしまった。
 視なければよかったと思う時には、すでにその正気を散々に削り取られた後であった。過去。過去。過去過去過去過去。

 自分ではないような声が喉から漏れた。周囲を見回しても、どこもかしこも■■だらけ。赤い瞳が震える。
「―――オレは知らないぞぉぉぉッ!!」
 絶叫がほとばしる。
 知らない。知らない。知らない。
 こんな―――はずでは。

 頭に乗っかった寧々がいつの間にか誘導するように名捨を中枢へといざなう。
 幽世で出会った喋る蛙。彼と名捨の間に如何様な物語が遭ったのかはわからない。けれど、確実に言えるのは、名捨の暴走を止めたということだ。
 拭い難い経験。衝撃的な内容。だが、脳がシャットダウンするように視た映像の記憶を忘れてしまう。
 それが己の身を守るための防衛本能というものであったのかもしれない。
 ふらふらと覚束ない足取りで名捨は進む。その先に何が待ち受けるのかも知らずに。何もかも知らないと蓋をして―――。

「―――■■」
 だが、名捨を追い立てるようにブラウン管テレビの砂嵐が嗤う口元を映し出したのだった―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド
……他者の目には映らない、というのは幸いですか。

映るのは育ての親と死別してから猟兵となるまで、10歳から15歳までの記憶……私が、吸血鬼に従っていたころの記憶。
一度吸血鬼に捕らわれた私は、「生きる」ためではなく「生かされる」ために吸血鬼に従い、命じられるままに吸血鬼の「食事」を狩りにいくようになった。

ダークセイヴァーの治安の悪い街中で私が物陰から銃を構えている。狙っているのは他の世界であれば罪人となっていたような男。そんな男を狙ったのは少しでも罪の意識から逃れたかったから。男の足を撃ち、生かしたまま吸血鬼の屋敷へ連れて行く。

……分かっています。これが私の罪。
ですが、今は……前に進むだけです。



 降りしきる『雪』が世界を覆う時、カクリヨファンタズムは世界の終わり―――カタストロフを迎える。
 溢れかえった『雪』は全てを凍結させ、時間が止まったかのような停滞をもたらす。何も生み出さない、何も起こらない。それは滅びていることと同じことである。
 そのカタストロフをもたらす『雪』の発生源は、ある雪原にあった。ブラウン管テレビが山積したような要塞。その中枢に元凶たるオブリビオン『薄氷』の雪女が存在しているのだ。
 骸魂が一人の妖怪、姑獲鳥を飲み込んだことに端を発する事件は、瞬く間に世界を覆う終末へと変わり果てた。

 雪原に佇むのは、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)。彼女の瞳は雪原にあるオブリビオンの要塞……それを構成するブラウン管テレビに注がれていた。
 グリモア猟兵の情報通りであるというのならば、これから彼女が目にするのはネガティブな己の過去の映像。
「……他者の目には映らない、というのは幸いですか」
 ぽつりとこぼした言葉は雪原に吸い込まれて消えていく。
 彼女が歩を踏み出す音だけが雪原に響くのだ。覚悟はもうできている。これより彼女の瞳に入り込んでくるのは、目を背けたい追憶であるからだ。

「『生きる』ためではなく『生かされる』……」
 踏み込んだ要塞の中にあるブラウン管テレビの画面が砂嵐を映し出している。それは要塞の中を進む度に徐々に像を結んでいく。
 彼女にとっての忌まわしい出来事。
 結ぶ像は、育ての親と死別したあの頃の自分。それは己の人生を根底から覆す時間であったのかもしれない。

 吸血鬼に、ヴァンパイアに捕らえられた自分。命じられるままに吸血鬼の『食事』を狩りに行くようになった自分。
 師からの教えを、人に向ける。耐え難い。けれど、そうしなければ生きてはいけない。これは『生きている』と言えるのか。否。言えない。
 これは『生かされている』だけだ。
 圧倒的強者に強いられるだけの人生。

「―――」
 声が出ない。ダークセイヴァーの治安の悪い街。物陰に潜む。息を潜める。狙う標的はいつだって、他の世界であれば罪人となっていたような素行の者ばかりだ。
 だが、それが何の言い訳になる。
 殺してはいない。できるだけ新鮮な血液を吸血鬼に届けなければならない。あれは人の形をした容れ物だ。

 銃声が響く。
 うめき声が聞こえ、脚を穿たれた男が少女であるセルマを前に懇願する。
「―――他の人だって貴方のように懇願したでしょうけれど、貴方はそれを聞き入れたことがありますか」
 ないだろう。あるわけがない。そんなものばかりを狙っていたのだから。問答は無用である。
 大の大人が涙を流して懇願する。けれど関係ない。
 命じられるまま。ただの一度だって―――。

「―――……わかっています。これが私の罪」
 セルマは目を背けたくなる映像から目を離せなかった。どうしたって彼女の影に付き纏う過去。それを拭うことはできないし、なかったことにはできない。
 けれど、彼女は知っているのかも知れない。
 過去は彩られ、消えないかも知れないが、今彼女の瞳の前に広がる未来は常に白紙なのだ。
 だからこそ、彼女は歯を食いしばってでも、痛みに耐えてでも。それでも、と脚を踏み出さなければならない。
 それを彼女はもう知っている。
「ですが、今は……前に進むだけです」

 今はそれだけしかできないかもしれない。
 けれど、それでも前を向いている限り、彼女の人生はまだ続くのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジーク・エヴァン
全てが凍りつきそうなほどの雪景色
そしてあの歪な要塞に今回の骸魂がいるのか
このまま世界を終わらせるわけにはいかない
乗り込もう

なんだ?この変な箱達は?
わっ、光ったかと思ったら動く絵かこれ?

…これは、あの日の、光景か?
竜達に故郷を焼き付けされた…多くの人達が殺された…全てを失った、あの日

…………

確かに、何度ももしあの日々に戻れたらと思ったことはある
今でもあの日の夢を見るし、家族や故郷の人達の断末魔や悲鳴は今でも耳にこびりついてる
竜やオブリビオンを倒したって、故郷の人達が戻ることはないのも、分かってる

でも俺はこうして生きている
それは多分、理不尽な悲劇から人々を守り、俺のように悲しむ人々を救うためだ!



 世界の終わりを、カタストロフを迎えようとしている世界、カクリヨファンタズム。
 その終末は全てを凍結させる『雪』が覆われることに寄って訪れようとしていた。その元凶たるオブリビオン『薄氷』の雪女は、静かなる雪原にブラウン管テレビが山積したような要塞の中枢に存在していた。
 吐き出す息は白く、空気の冷たさを物語っていた。全てが凍りつきそうなほどの雪景色。
 そう、ジーク・エヴァン(竜に故郷を滅ぼされた少年・f27128)は思っていた。彼が見るのは要塞となった奇妙な形をしたブラウン管テレビの一群。
 彼にはあまり馴染みのないものである。猟兵となった今でも、彼には様々な世界、いろいろな文化は初めて見るものばかりであるものだから、物珍しさが先立ってしまう。
「あの歪な要塞に今回の骸魂がいるのか……このまま世界を終わらせるわけにはいかない。乗り込もう」

 そこにどんな罠が待ち受けているのか。
 グリモア猟兵の情報のとおりであれば―――。
「なんだ? この変な箱達は?」
 ジークの瞳に映るのはブラウン管テレビ。と言っても、彼にはそれがなんであるのかわからなかったことだろう。
 光る画面には砂嵐が映し出され続け、意味をなしているとはとても思えなかった。
 だが、徐々に砂嵐の向こう側に像を結ぶ映像。
「わっ、光ったかと思ったら動く絵かこれ?」
 新鮮な反応。
 彼にとって異世界とは発見の連続である。猟兵と覚醒しなければ、感じることのなかった感覚に、彼は驚きを持つも好奇心もまた刺激されたことだろう。

 じ、と画面を見つめる。結んだ像。
 それが何を意味するのか、彼は即座に理解した。
「……これは、あの日の、光景か?」
 そう、そこに映し出されたのは故郷である里をオブリビオンである竜達に焼き尽くされた、あの運命の日。
 多くの人が殺された、全てを喪ったあの日。

 耳にこびりつくような悲鳴。断末魔。家族、故郷の人々。今でも夢に見る光景。
 耳を覆いたくても覆い隠せない。
 手が動かない。震える体。視線をそらそうとしても反らすことができない。それは己の体が拒否している。
「―――いつだって、もしあの日々に戻れたらと思う」
 それは何度も夢見たことだ。穏やかなる日々に戻れたらと。戦う日々ではない、穏やかな時間の流れる日々。
 狂おしいほどに焦がれる平穏なる日々。
 だが、どれだけ竜やオブリビオンを倒したとしても―――。
「故郷の人達が戻ることはないのも、わかってる」

 わかっているのだ。生命は戻らない。どれほどの奇跡が起こったとしても、損なわれた生命は戻ることなどない。
 歯を食いしばる。涙はこぼさない。怒りに身を任せることもない。
「でも俺はこうして生きている」
 どうして自分が生き残ってしまったのか。
 その理由をいつも考えている。
 まだ確信は持てないし、確かなことではないのかも知れない。他の理由があるのかもしれない。
 けれど!

「それは多分、理不尽な悲劇から人々を守り、俺のように悲しむ人々を救うためだ!」
 ジークは前に進む。
 これから進む先、ブラウン管テレビの画面から常に彼の視界には、あの日の映像が流され続けるだろう。
 けれど、彼は足を止めない。目をそらさない。
 なぜなら、今の彼は二度目の悲劇を起こさぬために戦う者であるからだ。
 己と同じ苦渋を、悲劇を、他の誰かに与えぬために戦うと決めたものであるから、その決意はどれだけのことが起きようとも、揺らぐことなどない―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
過去…この手の障害は幾度目でしょうか
さて、今回は何を見せられるのか…

あれはダークセイヴァーの私ですか
村一つ全てがオブリビオンとして蘇り
その拡大を防ぐ依頼

無力な『村人』の『過去』を一人残らず虐殺した依頼

まず、母子を庇う父を
次は、我が子を掻き抱く母を
最後は、地に落ちる前に拾ったおくるみに包まれた『それ』を

振るった刃の何が『慈悲』なものか
御伽の騎士が現れ『過去』を『今』にし村人を救い、己を討ってくれないものかと血に塗れながら夢想した身で何を今更

己が正道の騎士でないことは百も承知
あの行いは全て我が身の無能と責任によって為された物

討つべきを討ち、護るべきを護る為
直視し只進み、囚われた妖怪を救うのみです



 一つの骸魂が、妖怪である姑獲鳥を一呑みにしオブリビオンとして世界を滅ぼす。
 その様な予知がなされ、猟兵達はカクリヨファンタズムへと降り立った。そこは静かなる雪原。
 ブラウン管テレビが山積したような要塞が雪原に現れていた。
 その中枢にこそ、世界の終わり―――カタストロフを引き起こした元凶たるオブリビオン『薄氷』の雪女が存在している。
 これを討ち果たし、世界を覆おうとする『雪』を止めなければならない。もしも、このまま全てを凍結させる『雪』が世界を満たせば、そこは『凍結した世界』へと成り果てる。
 先に進むことの叶わなくなった世界に、生命は存在せず、まさしく世界の終わりが訪れるのだ。

 要塞へと足を踏み入れたトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の眼前に広がる光景は、彼のアイセンサーを持ってしても要塞の中の全容を伺い知ることはできなかった。
 山積したブラウン管テレビ。その画面はどれもが砂嵐を映し出し、何も見えない。一歩を踏み出す度に、トリテレイアのアイセンサーが、砂嵐の向こう側の映像を捉える。
「過去……この手の障害は幾度目でしょうか。さて、今回は何を見せられるのか……」
 グリモア猟兵から得た情報によって、このブラウン管テレビが何を映し出すのか、トリテレイアは冷静に理解していた。

 歴戦の猟兵である彼にとって、この手合の障害は数ある中の一つであったのかもしれない。
 砂嵐が徐々に像を結んでいく。
 そこに写っていたのは、自分自身。村の中に佇む機械騎士の姿。
「あれは、ダークセイヴァーの私ですか」
 見覚えがある。というよりも、彼の電脳の中に残されたデータがそれを忘れることを許さない。
 村一つ全てがオブリビオンとして蘇った事件。その拡大を防がなければならなかった。

 オブリビオンと言えど、彼等は無力な『村人』。骸の海より還った『過去』であり、それを討たなければならなかった。
 それを彼自身は『虐殺』と捉えていた。オブリビオンである以上、骸の海へと還さなければならない。
 手にした剣が母子をかばう父を薙ぎ払う。
 我が子を掻き抱く母親を引き剥がすように切り払う。
 最後は抵抗も何もできないおくるみに包まれた『それ』を―――。

 ブラウン管テレビは延々と、その光景を壊れたかのように流し続ける。その光景ばかりを選んだかのように、何度も何度もトリテレイアのアイセンサーに伝える。
 目がくらむ様な光景。
 己の電脳がささやく。あれは『慈悲』であると。どれだけ姿形が無力な村人の姿をしていたといしてもオブリビオンである。
 討たねばならない。疾く。それが彼等への最大の『慈悲』なのだと。

「―――振るった刃の何が『慈悲』なものか」
 あれは断じて『慈悲』などではない。その剣を濡らすのは、結果としての過去。ならば、彼が願うのは御伽の騎士。
 機械の身である己のような紛い物ではない、本物の、御伽の騎士を望んだ。過去は変えられない。『今』となった村人たちを救う騎士を渇望した。
 夢想したと言っていい。
 今の己を討って欲しい。この凶行を、止めて欲しい。己の存在を保全せねばというシステムと、トリテレイアの意志が矛盾する。

『罰して欲しい。断罪して欲しい』

 その思いが膨れ上がっていく。
 だが、トリテレイアの頭部が前を向く。
「己が正道の騎士でないことは百も承知。あの行いは全て我が身の無能と責任によって為された物」
 あの日の行いが間違いであったとしても。
 その責は己にある。他の誰かにさばけるものではない。この責任こそが、『今』のトリテレイアを足を進めさせる。

「討つべきを討ち、護るべきを護る為……」
『今』は、目の前の映像を直視し、只進む。
『今』彼がしないといけないことはなにか。己の意志で選んだ道だ。
「―――囚われた妖怪を救うのみです」

 それを為さなければならない。止まることは許されない。あの日の映像こそが、己を紛い物と言う騎士道を邁進させるのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ポーラリア・ベル
冬だ!冬だー♪
冬告げのベルでもっともっと沢山雪を降らせて行くよー!

テレビに映るのは冬の記憶。
冬だから、冬の記憶や、ポーラが体験した記憶が色々。
UDCで緑の怪獣さんにお花にされちゃったりとか、恥ずかしー記憶があるかも!(きゃっ)
自然は自由だから、必然的にあれこれされちゃうのよね。いい思い出なのっ。

冬の記憶は雪の記憶。
雪にはしゃぐ人、凍え倒れる人、冷たい顔して行軍する人、火に当たって身を寄せ合う人…。
凍える姑獲鳥さんの記憶もあるかも?
積もる雪の中、マッチ売りの人みたいに幸せな記憶を眺めるのも乙だよね。
折角だからお届けしちゃおう♪
ユーベルコードか怪しいけど、映像を【氷幻鏡】に映して。



 ちりんちりんと澄んだ氷の音が雪原に響き渡る。
 冬を告げる音。冬告げのベルを鳴らして、小さきポーラリア・ベル(冬告精・f06947)の体が舞うようにして飛ぶ。
 彼女の鳴らす冬告げのベルによってふらされる雪は、この世界を覆おうとしている『雪』とは別物であった。
 彼女の降らす雪は、いつか雪解けて春を訪れさせる呼び水。

 だが、この世界を終わらせようとする『雪』は違う。永遠に世界を停滞させる氷結の雪。これに覆われてしまえば、カクリヨファンタズムは世界の終わり―――カタストロフを迎えてしまうだろう。
 雪原にブラウン管テレビが山積したような要塞が存在していた。
 その中枢に、この事件の元凶たるオブリビオン『薄氷』の雪女が存在しているのだ。
「もっともっと、たくさん雪を降らせて行くよー!」
 それを知ってか知らずか、ポーラリアは楽しげに銀雪降りしきる世界を飛ぶ。
 ブラウン管テレビの要塞に飛び込めば、彼女の瞳に映るのは、数多のブラウン管画面から放たれる追憶電波によって像を結ぶ映像。
 砂嵐しか映していなかったブラウン管画面は、徐々に像を結んでいく。
「……冬の記憶……」

 それはUDCアースで緑の懐柔にお花にされてしまったりとか、彼女が恥ずかしいと感じる記憶が映像に映し出されていた。
 けれど、それは総じていい思い出なのだとポーラリアは思っていた。自然は自由だから、必然的にあれこれされちゃうのだと。
 すいすいと宙を舞い、要塞の中を進む。

「雪にはしゃぐ人、凍えて倒れる人、冷たい顔をして行軍する人、火に当たって身を寄せ合う人……」
 彼女の瞳に映る映像は冬の記憶ばかりであった。
 氷幻鏡(フローズンシルエット)……ポーラリアのユーベルコードである。彼女は、この追憶電波がユーベルコードではないかと踏んだのだ。
 けれど、これは要塞の放つ不可思議なる領域。ユーベルコードではない。
 鏡に映された映像は、鏡合わせのように増幅されていく。幸せな記憶はないものかと思ったけれど、このブラウン管テレビが映し出すのは、ネガティブな記憶ばかりである。

 常にポジティブな者にとっては、追憶電波も無意味である。
 ネガティブだと断ずることの出来る記憶で差、いい思い出であると変換されてしまう。そこに、この要塞たる山積したブラウン管テレビから放たれる追憶電波は無いに等しい。
 ポーラリアは要塞の中を征く。
 きっとこの先には、無数の骸魂に一呑みにされてしまった妖怪たちが助けを待っているであろうから。

 それを捨て置くことなどできない。急いで助けてあげなければ、と彼女は宙を舞うのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルステラ・セレスティアラ
すべてを凍結させて、ずっと籠っていられる『幸せ』を私は知っている
けれどこの凍結世界は、たくさんの犠牲の上で成り立つ自分だけの『幸せ』だわ
犠牲が出ている以上、放っておけない

ブラウン管のテレビが流すは私の過去
故郷を失い放浪の旅路の果てに辿り着いた住み処の図書館でずっと籠っていた私の、過去

私は失うのが怖い
二度と失いたくないから、私は誰とも関わらないように生きてきてしまった
誰とも関わらなければ失うことなどないから

けれど図書館で出会ったヒトたちの優しさが私の凍てついた心を溶かした
自分だけが幸せな世界からみんなが笑顔になれる世界へ、歩んだ

だから私は、私の過去から目を背けない
すべてを受け入れて前に進むわ



 世界を終わらさんとする『雪』が降りしきる雪原。
 そこを中心に広がってく世界の終わり―――カタストロフ。それはカクリヨファンタズムの終わりを意味する。
 全てを氷結させ、停滞させる『雪』によって訪れるのは『氷結した世界』。何もかもが、時すらも止めるのだ。
 そんな世界を広げようとするブラウン管テレビが山積したような要塞に、この事件の元凶であるオブリビオン『薄氷』の雪女が存在している。

「すべてを凍結させて、ずっと籠もっていられる『幸せ』を私は知っている」
 メルステラ・セレスティアラ(夢結星・f28228)の瞳がブラウン管テレビの山積した要塞を見据える。
 その内に籠もって、何もかも止めてしまう企み。それを引き起こした元凶たるオブリビオンに一定の理解を示した。
「けれど、この凍結世界は、沢山の犠牲の上で成り立つ自分だけの『幸せ』だわ。犠牲が出ている以上、放っておけない」
 だが、一定の理解を彼女が示したとしても、それは一定であって一線を越えるものではない。
 その線引のできぬ者ではない。
 だからこそ、グリモア猟兵のもたらした情報から得た、このブラウン管テレビが放つ追憶電波の特性を知っていたとしても彼女に、メルステラに恐れはない。

「―――これは」
 要塞の中に一歩を踏み出す。
 そこに映し出されてるのは砂嵐。その砂嵐の奥で像が徐々に結んでいく。その時点でメルステラはよくわかっていた。
 それがなんであるのかを。
「これは、私の過去」
 故郷を失い、琺瑯の旅路のはてにたどり着いた住処の図書館でずっと籠もっていたメルステラの過去。

 故郷を喪った怖さは拭えるものではない。
 己で乗り越えていけるものばかりではない。それが尊いものであることは疑いようがないけれど、一人では立てないものだって居るのだ。
 誰だって最初は一人で生まれてくる。けれど、最初から一人で全てを出来るものなどいるはずもない。
 生命とは、そういうものだ。

 だからこそ、その人と人とのつながりは暖かく、失いたくないものである。
「私は失うのが怖い。二度と失いたくないから、私は誰とも関わらないように生きてきてしまった」
 それが誤った生き方であるとメルステラは知っている。
 けれど、その過ちがなければ今のメルステラは存在していない。

「誰とも関わらなければ、失うことなどないから―――」
 けれど、ああ、けれど。
 図書館で出会ったヒトたちの優しさを思い出す。凍りついた己の心を解かしてくれる暖かさ。
 そこには自分だけではない誰かを思いやる心に満ち溢れていた。
 何かを失う怖さも、恐れで一歩を踏み出せぬ歯がゆさも、何もかもを溶かしてくれる。そこには『自分だけの幸せ』はない。籠もっていた自分から殻を破る。
 一歩を踏み出す。

「自分だけが幸せな世界からみんな笑顔になれる世界へ」
 その一歩を歩みだした。
 彼女の瞳に映る映像は過去のものだ。どうあがいても消えない過去。拭うことのできないものであったとしても、メルステラの瞳は前を向く。
「だから私は、私の過去から目を背けない」
 何もかも捨てる必要なんてないのだ。
 過ちだと思っていた過去でさえ、今の彼女の足を進める要因の一つだ。
 彼女は今、その一歩の最中―――。

「すべてを受け入れて前に進むわ」
 追憶電波は届いている。
 けれど、前を向くものには追いすがることもできない。
 それが追憶ゆえに―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒覇・蛟鬼
相変わらず荒れたままですな、幽世は。
其れを正すのが仕事ですけれど。

■行
【POW】
何が現れようともら常に【落ち着いて】行動しましょう。

あそこに映っているのは……まだ小さな私ですな。
身内に似た骸魂に惑わされた仲間を、無断で処刑した時。
私を『災魔』、『死神』、『同族殺し』と呼び、蔑んだ。
無断でやったのだから、当然ですな。

ですが、私は悔いてはいません。彼女を放っておけば、
良からぬことが起こるのは必然だった。
小さかろうと、災いの芽は常に摘まねばならない。

頃合いが来たら、画面に映る小さな私と一緒に
周囲の者たちに言ってやりましょう。
『“破滅”は、ちっぽけな塵が呼び起こすもの』と。

※アドリブ歓迎・不採用可



 幽世、それはUDCアースに隣接する世界である。
 名をカクリヨファンタズム。人から感情を向けられなくなった妖怪たちが放浪の果に駆け込んだ世界。
 その世界では骸魂と呼ばれる死せる妖怪の成れ果てが妖怪を一呑みにして、オブリビオンと化す。
 今回グリモア猟兵が予知したのは、『雪』が覆う世界。
 全てを凍結させる『雪』が降りしきる雪原に置いて、ブラウン管テレビが山積したような要塞が存在する。
 その中枢に元凶たるオブリビオン『薄氷』の雪女がいる。かのオブリビオンが夢見るは『氷結した世界』。何もかもが止まる世界。生命は生まれない。変わらない。ある意味で不変たる世界。

 しかし、それは世界の終わり―――カタストロフを意味する。
 骸魂が世界を埋め尽くす、本当の意味での終わり。それは食い止めなければ、カクリヨファンタズムに生きる妖怪たち全てが死に絶えてしまう。
「相変わらず荒れたままですな、幽世は。其れを正すのが仕事ですけれど」
 雪原に一歩を踏み出したのは、荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)である。
 竜神族の一柱である彼にとって、この世界、カクリヨファンタズムは己の故郷のようなものである。
 その世界の終わりを捨て置くことなどできようはずもない。

 外見の年齢と身にまとう雰囲気は別物である。彼等の基準で言えば若い神であるが、その風貌は大人びたものであり、物言いを見ても彼が若輩であると思うものはおそらくいないだろう。
 落ち着き払った様子でブラウン管テレビの山積した要塞へと足を踏み入れる。何も恐れる必要はない。
 恐れとは抱くものではなくて、抱かれるものである。それが神の一柱たる蛟鬼である。
「彼処に映っているのは……まだ小さな私ですな」」
 ブラウン管テレビの画面に映る砂嵐が、徐々に像を結んでいく。
 そこに映っていたのは、幼き頃の蛟鬼。そして、その場には倒れ伏した仲間、少女。
 それは過ちではない。
 苦々しい想い出であるかもしれないが、間違っていないと彼は言い切ることができる。
 人は彼をなじるだろう。
『災魔』『死神』『同族殺し』。どのような中傷があったとしても、彼には揺るぎなきものがあった。
 己に非ががあったのだとすれば―――。

「無断でやったのだから、当然ですな」
 身内によく似た骸魂に惑わされた仲間を処断した。無断でするべきことではなかった。
「ですが、私は悔いてはいません。彼女を放って於けば、良からぬ事が起こるのは必然だった」
 骸魂に取り憑かれた妖怪はオブリビオンとなる。
 今回と同じ様に世界の終わりをもたらす存在へとなったかもしれない。ならなかったかもしれない。
 だが、それは詭弁だ。

「小さかろうと、災の芽は常に摘まねばならない」
 それは画面の中の幼き頃の蛟鬼の言葉である。そこに一切の恥はない。どれだけの咎めを受けようとも曲げられぬ信念があった。
 彼を取り囲む大人たちが言う。
『急ぐ必要はなかったのだ。十分間に合うはずだったのだ』

 だが、それは間違いである。間違いである可能性がある。その可能性がある限り、誰かが傷つき生命を落とす可能性もまた存在しているのだ。
『なれば―――』
 画面の中の幼き自分と『今』の自分の言葉が重なる。

『“破滅”は、ちっぽけな塵が呼び起こすもの』

 蝶の羽撃きが竜巻を起こすように、些細なきっかけが世界の終わりをもたらすことだってある。
 自分の判断は間違っていなかった。
 故に目をそらす必要などない。恥じるところなど一つもない、その瞳は真っ直ぐにブラウン管テレビが映し出す追憶電波を真っ向から受け止めるのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『『剣客』雪だるま』

POW   :    雪だるま式に増える
自身が戦闘で瀕死になると【仲間】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    抜けば玉散る氷の刃
【その手でどうやって持つんだかわかんない刀】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    雪合戦
レベル×5本の【氷】属性の【雪玉】を放つ。

イラスト:祥乃雲

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ブラウン管テレビが山積する要塞内。
 未だ砂嵐の向こう側に像を結び続ける追憶電波は若干の弱まりを感じる。視界の端に己の過去を感じる程度である。
 無視しようと思えば無視できるほどの煩わしさ。

 だが、その隙間のあちらこちらから猟兵たちを伺う者たちがあった。

「―――来た。猟兵たちが来た! あれだけ辛い思いをしているっていうのに、なんてことないって顔しながらやってきた!」
 雪だるまに藁笠被った『剣客』雪だるまたちが、猟兵たちをブラウン管テレビの隙間から覗いながら嗤っていた。
 
 追憶追いすがる光景を目の前にして、目をそらさぬ者、逃げ出す者、立ち向かう者……猟兵達もまたそれぞれの戦いがあった。
 それを嗤う者がいる。
 骸魂に飲み込まれた妖怪たち、オブリビオン……『剣客』雪だるま。群体である彼等は一斉にブラウン管テレビの隙間から飛び出してくる。

「追憶にとらわれて、雪に覆われてしまえば、何も感じなくてすんだのに! 何も嫌な思い、怖い思い、思い出さなくても良い想い出を見なくてすんだのに!」
 全部全部無駄なのにと嘲笑うように猟兵たちを駆逐せんと群がってくるのだった―――。
エカチェリーナ・ヴィソツカヤ
・心情
全部無駄だと嗤うのか
お前達にとってはそうなんだろうな
でも、私にとっては意味はあったよ
この『『暖かい』祝福』を改めて感じることはーーきっと、お前達の言う世界では得られなかっただろうから

・戦闘
『雹嵐』で氷の刀を作り出し、雪だるま達に向かって飛ばそう
彼らの間合いで戦うつもりもないよ
『刀』にしたのは、意趣返し……になるのかな?
まぁ、仮に近づかれたとしても『クォデネンツ・メチェーリ』で対応するよ

・その他
アドリブ等は大歓迎さ



 全てを氷結させんとする『雪』を降らせる元凶たるオブリビオンより放たれた群体オブリビオン達『剣客』雪だるま。
 群体オブリビオンである彼等は一斉にブラウン管テレビの合間から飛び出す。見た目は愛くるしい雪だるまそのものであるが、その性質は骸魂に飲み込まれた妖怪たちのものとは似ても似つかないものであった。

 他者の苦しみ、悲しみ、それらを無駄なことだと嗤う邪悪さがあった。
 全ては凍結する世界へ至るための踏み台であると言わんばかりの傲慢さ。何もかもを諦めている癖に、誰かの足を引っ張らずには居られない。
 そういう醜悪さが、その可愛らしい外見とは似ても似つかないながらもにじみ出ていた。
「無駄! 無駄! 全部無駄なの! 君達が感じる苦しいとか悲しいとか、そんなものは全て凍る氷結の雪に覆われてなかったことになってしまうのだから!」
 雪玉が空を埋め尽くさん限りに浮かび上がる。それは彼等のユーベルコード。雨あられのように降り注ぐ、その雪玉は対峙する猟兵たちを撃つだろう。

「全部無駄だと嗤うのか」
 エカチェリーナ・ヴィソツカヤ(ジェド・マロースの孫娘『スネグーラチカ』・f28035)が言う。
 その瞳は静かに伏せられていた。目の前に迫る雪玉の雨。降り注ぐようにして大量の雪玉が彼女を襲う。
 けれど、見開かれた彼女の瞳には全て見えている。雪玉の軌道、その描く放物線全てが。
 手にした神剣型神器―――クォデネンツ・メチェーリ、またの名を『吹雪の魔法剣』が巻き起こす吹雪によって全ての雪玉が叩き落される。

「お前たちにとってはそうなんだろうな。でも、私にとっては意味はあったよ」
 見開かれた瞳が映す雪だるま達は、その瞳に恐怖した。
 彼女にとってはなんてことのない一瞥であったことだろう。けれど、『剣客』雪だるまたちにとっては、忌むべき瞳だった。
 絶望にも、恐怖にも染まらぬ瞳。それこそが、彼等の大敵である。世界を憎むこともなければ、他者を羨むこともない瞳。

 それは『祝福』を持つ者の瞳だからだ。
「この『『暖かい』祝福』を改めて感じることは―――きっと、お前たちの言う世界では得られなかっただろうから」
 あのブラウン管テレビが映し出した追憶の映像は、彼女にとって改めて感じるお爺様の『祝福』であったから。
 だから、彼女は追憶に晒されたとしても、前を向く。何も恐れない。他者を羨むこともない。

 叩き落された雪玉の全ては、エカチェリーナの周辺にあったブラウン管テレビの画面を叩き割ることによって漸く止まる。
 明滅するテレビ画面。
 その刹那に彼女の言葉が響く。
「踊れ踊れ雪の子達、今宵の舞台は今此処に」
 明滅するテレビ画面よりも眩き光が要塞内に輝く。それはユーベルコードの輝きにして、『祝福』の輝き。
 雹嵐(グラート・ブーリァ)、それがエカチェリーナのユーベルコードの名。幾何学模様を描き複雑に飛翔する魔力を帯びた氷の剣達。

「そちらの間合いで戦うつもりはないよ」
 号令の如き言葉で放たれた氷の剣が宙を舞う。幾何学模様を描き、複雑な軌跡を描きながらエカチェリーナを打倒せんと集まった『剣客』雪だるまたちを討ち果たしていく。
 その勢いはまさに嵐そのもの。
 吹き荒ぶ氷剣の乱舞は、群体であるオブリビオンたちを滅するまで続く。嵐の後には、骸魂より開放された幼き妖怪たちが気を失ったように倒れている。

「……邪悪さの欠片もない寝顔だ……お爺様もこんな気持だったのだろうか」
 幼い妖怪たちをまとめて保護し、安全な場所へと彼女は送り届ける。
 再び中枢を目指さなければならない。
 彼女の目指す先には、この元凶たるオブリビオンが残っている。未だに心の中が暖かいと感じる。
 彼女の胸のうちには、未だ『祝福』の風が渦巻いているようだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルステラ・セレスティアラ
辛い過去も嫌な思いも怖い思いも、そのすべてを以て『私』なのだと、今なら胸を張って言える
無駄なことなんて何一つないのよ
それを今から私達が証明してみせるわ

猟兵として戦うのはまだ不慣れ
そして、少し怖い
だけど、今の私に出来ることを果たすわ

魔導書を開いて魔法陣を構築する
放つは炎の竜巻
相手が雪玉を放つ瞬間を狙う
この世界を守るために、炎よお願い



「辛いのならば目を背ければいいのに! 嫌いなものならば消してしまえばいいのに!」
 その声は大合唱となってブラウン管テレビの山積した要塞内部で響き渡る。
 声の主は『剣客』雪だるまたち。群体であるオブリビオンにして、骸魂が幼き妖怪たちを一呑みにして顕現した存在である。
 彼等はブラウン管テレビの隙間から猟兵たちを指差して嗤う。
 どうしてそんなに無駄なことをするのかと。世界を氷結せしめんとする『雪』が覆ってしまえば、そんな思いをしなくても済むはずなのにと、無駄なのにと。

 けれど、猟兵たちは己の過去を見せつけられたとしても足を止める者など一人もいなかった。
 前を向く者たちばかりだった。だから『剣客』雪だるま達は忌々しげに嗤うのだ。そんなものは、まやかしであるのだと虚勢を張るなと大合唱で持って猟兵を追い詰めようとする。
「辛い過去も嫌な想い出も怖い思いも、その全てを以て『私』なのだと、今なら胸を張って言える」
 要塞の内部に響き渡る『剣客』雪だるまたちの大合唱に負けじとメルステラ・セレスティアラ(夢結星・f28228)の声が響き渡る。
 それは宣言であった。
 彼女の己を成す全てを誇らしく思う言葉。彼等が無駄だと言った者全てが彼女を形作るものなのだ。

「無駄なことなんて何一つないのよ。それを今から私達が証明してみせるわ」
 その力強い言葉は、先程までの己の過去を見せられていた者のものとは思えない。
 雪だるまたちは虚勢を張るなと言わんばかりに、宙を埋め尽くさん限りの雪玉を浮かび上がらせる。
 それは一つ一つが魔力の籠められた砲撃と同じ威力を持つ攻撃だった。
 あれを全て受けてしまえば、メルステラとて無事ではいられない。
 手が震える。寒さのせいではなかった。

 猟兵として戦うのはまだ不慣れであった。
 本物の悪意に晒されて、手が震えてしまった。他者の思いを、経験を嘲笑う者たち。自分たちができないものを妬む悪意。それを前にして立ち竦まない者など居ない。
 少し、怖い。
 怖いと思ってしまう。これもまた嫌な思いかもしれない。けれど、彼女はもう知っている。これもまた自分なのだと。戦いを恐れる自分。けれど、それに立ち向かう自分。
 どちらも正しく自分である。

 正直に言えば、まだ怖さはある。
「だけど、今の私に出来る事を果たすわ」
 メルステラの天の魔導書が風を受けたように頁を開く。
 魔法陣が構築されていく。それは彼女のユーベルコード、エレメンタル・ファンタジア。
 彼女の力が、想いが具現化していく。魔力を帯びた指先が魔法陣をなぞる。思い描くは氷結を溶かす炎。
 放つは何もかもをも破壊する竜巻。組み上げられた属性と自然現象。炎と竜巻は、まさに宙に浮かぶ雪玉が放たれようとした瞬間、その全てを溶かし尽くして『剣客』雪だるまへと放たれた。

 制御が難しい。指先が魔力で軋む気がした。
 けれど、彼女の想いはかげらない。自分の『幸せ』だけを思っていた頃の自分とは違う。
 誰かの笑顔のために力を振るうことが出来るのが『今』の自分だ。だから、メルステラは出来る。
「この世界を護るために、炎よお願い」
 その願いは正しく放たれた。完璧なる制御を持った炎の竜巻は、『剣客』雪だるまたちを尽く溶かし尽くして霧散させる。
 あとに残るのは、骸魂に飲み込まれてしまった幼い妖怪たちのみ。

 気を失ったように眠る彼等を見てメルステラは胸をなでおろす。
 よかった。できたよ、私―――。
 誰かの笑顔のために戦うことを誇らしく思いながら、メルステラは友に感謝するのだった―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

村崎・ゆかり
来たわね、オブリビオン。雪だるまは大人しく座っていなさい。
雪が深くなってきてるだろうから、「地形耐性」で対応。

ま、新しい術の効果を試すにはちょうどいいわ。太歳星君降臨。
これで雪だるま達の攻撃が全部外れるようにしてあげるわ。
たまに当たる軌道を描いてる雪玉があれば、「オーラ防御」しつつ薙刀で切り落とす。

それじゃ、この薙刀で片付けていきましょうか。
成功率低下は、攻撃の命中率だけじゃなく防御の回避率にも効果を及ぼしてるからね。
薙刀を「なぎ払い」「衝撃波」を放って範囲ダメージを与え、とどめが刺せそうなら「串刺し」に。

元の妖怪に戻ったみたいね。通り道も邪魔にならないよう、通路の端に寝かせておきましょうか。



 世界を凍結させる『雪』で覆おうとするオブリビオンの尖兵たる『剣客』雪だるまたちがブラウン管テレビの合間から猟兵たちに雪崩のように殺到する。
 彼等の瞳に映るのは、決してネガティブな追憶に染まらぬ者たち―――つまりは、猟兵たちの姿があった。
 妬ましい。
 そこにあったのは、それだけの感情であった。
「無駄なことばっかりする! 全部全部白一色に塗りつぶしてしまえば、全部なかったことになるっていうのに!」
 だから、彼等は無駄だと嗤うのだ。
 猟兵たちの思いも、覚悟も、全てが世界の終わり―――カタストロフと共に無駄になることを願ったのだ。

「来たわね、オブリビオン。雪だるまは大人しく座っていなさい」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は地面の雪を足で払いながら、薙刀を構える。
 迎え撃つ構えを取る彼女の紫の瞳には微塵の恐怖もなかった。
 彼女が見据える先にあるのは、オブリビオンである『剣客』雪だるまの放たんとする宙に浮かぶ膨大な数の雪玉。

「ま、新しい術の効果を試すにはちょうどいいわ―――地の底巡る大いなる厄災の神、太歳星君よ。我が願いに応え、怨敵を調伏せしめんがためこの地へと出でまし給え! 疾!」
 手にした霊符『白一色』。それは、この地において相応しい真白の霊符であった。それより呼び出される悪魔の名を太歳星君。
 彼女のユーベルコード、太歳星君降臨(タイサイセイクンコウリン)によって呼び出された、美髯を蓄え官服を纏い羽扇を持った悪魔。
 その羽扇が振るわれた瞬間、『剣客』雪だるまたちを襲う呪詛。

 それは『剣客』雪だるまたちのあらゆる行動の成功率を激減させる呪詛である。羽扇に乗って振りまかれた呪詛は、一気に彼等の行動すべてを失敗しやすくさせる。
 ゆかりへと放たんとした雪玉もまた、その呪詛の影響を受ける。
 一斉に放たれた雪玉は、見当違いの場所へと飛んでいく。周囲にあったブラウン管テレビの画面へと当たり、あちらこちらから画面の破片が舞い落ちる。
「それでもやっぱり当たる軌道っていうのもあるのよね。でも―――」
 手にした薙刀で直撃コースの雪玉は薙ぎ払われる。オーラによる防御も完璧であり、鉄壁だ。

「人を妬む嫉む―――そんな感情捨てちゃいなさい、なんて簡単には言えないけれど!」
 雪を撒き散らしながら、ゆかりの体が疾駆する。手にした薙刀に籠められた力が発露する。
 振るう薙刀から放たれる衝撃波が『剣客』雪だるまの体を撃つ。吹き飛ばされ、崩れ落ちていく姿に油断なく薙刀の刃が突き立てられる。

「世界を終わらせるほどのものじゃないでしょう」
 そう、どれだけ他者に嫉妬を覚えたとしても、すべてを滅ぼすほどではないはずだ。他者も己を構成する一つの世界であると知れば、世界とは己であり、己とは世界の一部だと実感できるはず。
 だからこそ、ゆかりは『剣客』雪だるまたちを薙ぎ払う。
 幼い妖怪たちを飲み込み、オブリビオンへと姿を返させた骸魂だけを祓うのだ。

「こんなところね……元の妖怪に戻ったみたいだし……そうね、通路の端に寝かせておきましょうか」
 彼女が討ち果たしたオブリビオンは全て元の幼い妖怪たちに戻っている。気を失ったように眠る姿は、妖怪であっても可愛らしく見えてしまう。
 願わくば、彼等がまた骸魂にとらわれることがないように……そう思いながら、ゆかりは元凶たるオブリビオンが座す中枢へと駆けていくのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒髪・名捨
〇心境
ナニカ酷い目にあったような…ありがとう寧々。
でも寝るな。冬眠したら死ぬぞー。
『ブレス攻撃』で暖を取るんだ。

〇行動

『氷結耐性』+『環境耐性』で雪の寒さに対応。
あーそーいや、こんな手もあるな。
新技の『結界術』で周囲を覆って、結界内を寧々の『天候操作』で真夏の快晴に変更してもらう。あーついーぞー。

〇戦闘
さて、場はこれで整った。
んじゃ、あとは雪だるまだな。達磨なら達磨らしく転んでろ!!
『属性攻撃』+『焼却』の炎を宿った『衝撃波』を『範囲攻撃』でぶちまける。
どんなに増えようと、纏めて砕けばいいんだろう?
神無で溶かした雪でぐちょぐちょになった大地ごとブッ飛ばす。あばよ。

〇アドリブ
大歓迎です



 荒い息を吐き出す。それが自分のものであると判るのにしばしの時間を要した。
 汗で黒髪が頬にベッタリと張り付き、肩で息をしていることに驚く。自分が何から逃げていたのか、それすらもわからなくなってしまった。
 此処はどこだ、と見回す黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)。その彼の頭の上では緑色の喋る蛙が、てちてちと名捨の頭を叩く。
 しっかりしろ、と言うような雰囲気であった。口で言ってくれたら良いのに。喋れるんだから。
「ナニか酷い目にあったような……ありがとう寧々」
 なんとなく察することができる。喋る蛙である寧々が居てくれたからこそ、窮地を脱することができたのだと。
 だが、この雪に覆われようとしている世界は、今の寧々には少々つらいところだろう。なにせ喋れると言っても蛙には違いない。
「でも寝るな。冬眠したら死ぬぞー」
 自分のブレスで暖を取る寧々。
 しかし、その様子をブラウン管テレビの合間から覗き見て、嗤う者たちが居る。群体オブリビオン『剣客』雪だるまたちだ。

 彼等は皆幼い妖怪たちを骸魂が飲み込んで顕現したオブリビオンである。
「逃げて逃げて、それでも忘れてしまうほどに意味が無いのに。それでもありがとうって言った!」
 その物言いはいちいち名捨の癇に障る。その言葉にわざわざ言葉を返す必要はない。取り合うのが無駄というやつである。
 己は猟兵であり、彼等はオブリビオン。
 そこにどんな隔てりがあろうとも、やるべきことは一つである。
「この寒さに対応するっていうのも有りだけど……あーそーいや、こんな手もあるな」
 ブラウン管テレビの隙間から覗く『剣客』雪だるまたちが次々と現れる。ここら一帯に潜んでいた者たち全てが、その数で持って名捨を圧殺せんと押し寄せる。

「何もかも好都合ってやつだ。新技の『結界術』で周囲を覆って―――」
 全てのオブリビオンが結界内に納められる。結界は空間を切り取って封じ込める術。新たに習得したものであるが、よく手に馴染む。
 さらに寧々が持つ天候操作で結界の中限定ではあるが、結界内を真夏の快晴に変更。
「う、あーついーぞー」
 自分でやっておいてなんだが、夏の快晴と己の姿はすこぶる相性が悪いのかも知れない。とてつもなく日の光を吸収してしまう。

 ともあれ場はこれで整ったのだ。
「んじゃ、あとは雪だるまだな。達磨なら達磨らしく転んでろ!!」
 その手に宿る力が衝撃波となって『剣客』雪だるまたちを襲う。それは炎の属性を付与された衝撃波。
 その熱波は雪でできたオブリビオンである彼等の体を溶かす。
「―――でも、次の僕たちがいるからだいじょうぶ! 何もかもむだむだむだむだ!」
 そう、自身が瀕しになった瞬間次なる、『剣客』雪だるまを呼び出すのだ。こうなってしまうと取れる手段は一つしかない。

「どんなに増えようと、まとめて砕けばいんだろう?」
 名捨のユーベルコードが輝く。神無(カンナ)―――それは必殺を越えた必殺の一撃。結界の中は溶かした雪で泥濘んでいる。
 砕くのではなく吹き飛ばす。
 その拳の一撃は解けかけたオブリビオンも、そうでないオブリビオンもまとめて一撃のもとに吹き飛ばす程の威力で持って彼等を霧散させる。
「―――あばよ!」

 結界内に泥濘んだ土が充満する。結界を解除するとすぐに泥濘んだ大地も雪化粧を施され、周囲と変わらなくなる。
 そこに骸魂に飲み込まれた幼い妖怪たちが開放され、眠るようにして気絶している。

 それを一瞥してから名捨は、この要塞の中枢に座すオブリビオンを目指すのだった―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド
なんてことない顔、ですか。そう見えるのであれば私も捨てたものではありませんね。
あれは私の罪、理解してはいます、が。
見たくもないものを見せられて、何も思わないほど割り切れてもいません。
(機嫌が悪い)

骸魂に飲み込まれた妖怪たちまでは害するつもりはありませんが……取りついている輩は一体たりとも逃しません。

両手にデリンジャーを持ち戦闘を。
瀕死になると仲間を呼ぶのであれば、一撃で吹き飛ばせばいい。小型の銃ですが……この環境であれば、造作もありません。
雪で覆われたこの世界であれば威力は十分、両手のデリンジャーからの【砕氷弾】の『乱れ撃ち』で周囲の『剣客』雪だるまの頭や胴体を吹き飛ばしていきます。



 嗤うはオブリビオン。
 停滞する『氷結の世界』を望む彼等にとって、猟兵の存在は己たちの欲望の障害である。そんな彼等が嗤う。
 どれだけ辛い過去があろうとも兵器な顔をしていると。
 その顔をするためにどれだけのものが溢れる血潮のように流れてしまったのかを知らずに笑うのだ。
 それは一種の侮辱である。その溢れた血潮を哀れむことも、なじることも、何もかもが猟兵たちが歩んできた道程への侮辱にほかならない。

「なんてことない顔、ですか。そう見えるのであれば私も捨てたものではありませんね」
 師の教えが頭の中に反芻される。
 セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)の表情はいつもと変わらぬものであったかもしれない。
 しかし、その胸に渦巻く氷雪の嵐は言葉では言い表すことのできないほどに荒れ狂うようであった。
『剣客』雪だるまたちは、ブラウン管テレビの合間から顔を出す。ひょっこりと顔を出す様子は、状況によっては可愛らしいものであったかもしれない。
 だが、セルマにとって今、彼等は打ち倒すべき敵である。それ以外には見えるはずもない。

「あれは私の罪。理解してはいます、が」
 スカートの中に隠してあったデリンジャーが、その手に握りしめられる。
 過去は変えられない。罪は消えない。けれど、それを贖うことはできる。償うことはできる。
 セルマの青い瞳が『剣客』雪だるまたちを見据える。その瞳は、いつもの彼女を知る者たちからすれば、彼女が今どの様な感情を抱いているのかわかったかもしれない。

「見たくもないものを見せられて、何も思わないほど割り切れてもいません」
 そう、今彼女はとても機嫌が悪いのだ。
 手にしたデンジャーが火を噴く。装填されているのは、砕氷弾(サイヒョウダン)。周囲の気温が低いほどに威力の上がる特殊な弾丸である。
 デリンジャーに装填されている弾数は二つ。
 対する『剣客』雪だるまたちの数は……数えるのも億劫である。だが、それでもセルマは怯むことはない。
 今の彼女の胸中に渦巻く氷雪の嵐は、数で押せるほど甘いものではない。
「撃ち砕きます」
 ただ、静かに宣言する。
 骸魂に飲み込まれた妖怪たちを害するつもりはない。だが、彼女の放つデリンジャーから放たれる弾丸は、『剣客』雪だるまが瀕死になる暇すら与えない。

 一撃。
 たった一発の弾丸が『剣客』雪だるまたちを粉々に打ち砕いていく。
 小型の銃であるはずなのに、まるで大口径の銃で討たれたかのような大穴が穿たれる。仲間を召喚する暇もない。
 ただの一撃。それだけで全てがひっくり返っていく。
 頼みであった数もセルマの前では意味がない。そう、彼女の持つデリンジャーに装填された弾丸は、気温が低ければ低いほどに威力を発揮する。
 ならば―――。
「この環境であれば造作もありません」

 デリンジャーから二発の弾丸が放たれる。両手に持ったデリンジャーは乱れ撃たれ、まさに胸中の嵐を現す如く『剣客』雪だるまたちは撃ち砕かれていく。
 すぐに弾切れとなったデリンジャー宙に放り投げられる。それが落ちてくる前に即座にスペアのデリンジャーが火を噴く。
 目にも留まらぬ早業。神速の4連射はその銃声の数だけ『剣客』雪だるまを打ち砕いていく。
 だが、セルマの神がかった早業の極地は、早打ちではない。宙に投げたデリンジャーはすでに弾を装填するように開かれている。其処へ曲芸じみた手業でもって弾丸を投げ入れ装填を果たす。

 デリンジャーが彼女の手に落ちる頃には再装填の済んだ新たな銃がある。再び銃声が放たれ、鳴り止むことのない嵐は『剣客』雪だるまの姿がセルマの周囲から消えるまで続くのだった。
「―――冷静に。そう、私は冷静です」
 その吐き出す吐息は、激情に染まるように熱っぽく、彼女の冷たい頬を温めるのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ポーラリア・ベル
可愛い。

相手の台詞にくすりと微笑み、【楽器演奏】で静かな冬の音を鳴らす。
【氷結耐性】でへっちゃら顔で、吹雪でくらます【残像】を乗せて雪玉を躱しながら。
雪だるまには雪兎。【雪兎軍団】で対抗。だるまとうさぎの雪合戦。
全部に対抗すると数の差でやられちゃうから、当たりそうな雪玉だけぶつかって相殺で。
雪だるまにぶつかって凍って静止させたら、氷のハンマー状の杖に変えたスノーマンロッドで【怪力】の一撃。かち割っていくね。



「来たぞ、来たぞ! 猟兵たちが来たぞー! やっつけろー!」
 その言動と姿形は可愛らしいものであったかもしれない。『剣客』雪だるま。彼等はまごうこと無くオブリビオンである。
 カクリヨファンタズムにおいてオブリビオンとは、死せる妖怪たる骸魂が生ける妖怪を飲み込むことに寄って生まれる存在である。
 群体オブリビオンである『剣客』雪だるまは、次々とブラウン管テレビの合間から飛び出してくる。一体全体どこにこれだけの数のオブリビオンが潜んでいたのだと言いたくなるほどだ。
「猟兵たちは、みんなみんな辛そうなことを平気そうな顔をしてはねのけてくる! そんな必要なんて無いはずなのに、それでも戦うってやってくる!」

 雪崩込んでくる『剣客』雪だるまを見やるのは、さらに小さき妖精であるポーラリア・ベル(冬告精・f06947)は要塞の中を舞うように飛ぶ。
「―――可愛い」
 短く、小さく呟く言葉。
 それはオブリビオンである彼等の見た目を見て言った言葉であろう。彼等の台詞はどれもこれもどこかおかしみがあるようにポーラリアは感じられたのだ。
 くすりと微笑んで、静かなる冬の音を鳴らす。
 冬告げのベルの音が響き渡る。如何にここが極寒の雪原にあろうとも、ポーラリアは冬を告げる精である。
 この地に荒ぶ氷結の嵐であったとしても、彼女はへっちゃらな顔で吹雪と共に残像を残しながら、飛び交う雪玉を躱しながら飛ぶのだ。

「そんなの当たらないよ。雪だるまには、雪兎―――雪兎さんの力の想起! 戦場を支配せしは冬の遣い、ウィンターアーミー! セット! だよ!」
 彼女のユーベルコード、冬精式・雪兎軍団(ウィンターアーミー・セット)によって呼び出された小型の雪兎たちが、要塞内を駆け巡る。
 まさに戦場は、だるまとうさぎの雪合戦状態である。
 正直に数で対抗すると、その差でやられてしまう。だからポーラリアは己に当たりそうな雪玉だけ雪兎に相殺してもらうのだ。

「さあ、雪うさぎさんたち! お仕事だよ!」
 雪玉の雨が止む。盛大に放たれた雪玉は、一度全てを放ってしまえば、また位置から握り直しである。
 その一瞬の隙を見逃さなかった。『剣客』雪だるまたちへと突進していく雪うさぎたち。ぶつかってしまえば、そのユーベルコードで構成された雪うさぎたちは消滅時に強い冷気を放つ。それにぶつかって凍結されないものはいない。

 次々と雪だるまが凍結し、動きを止める。
「スノーマンロッド……同じ雪だるまの精霊だけれど、今は!」
 彼女の持つスノーマンロッド、雪だるまの精霊宿りし杖がハンマーへと姿を変える。
 その小さな体であっても、その怪力から放たれる一撃は砕けぬものなどない。振るうハンマーが散々にオブリビオンである『剣客』雪だるまたちを打ち砕いていく。
 要塞内に砕け散るオブリビオンの音だけが反響し、しばらくして冬を告げる音が遠く響くのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
精神状態で人は動作精度が左右される場合があると聞きますが
…無縁の身体というのは恵まれていると言えるかもしれませんね

何を言おうが『あの日』と同じく動作に支障はありません
妖怪達を解放していただきます

●怪力で振るう剣盾で攻撃
仲間を呼んだ? 

好都合!
隠れている全員を誘き出し解放するまでです!

施していた●防具改造で凍結防止処置や脚部滑り止めで●環境耐性は十全
センサーの●情報収集で物量包囲を●見切り向上した出力任せに防御やスラスターでの●スライディング移動で回避
纏めてなぎ払い制圧

倒すと本当に骸魂から解放されるのですね
幼い妖怪と聞き心配でしたが、無事で何より
運んで物陰に隠しましょう

…本当に、本当によかった



 人の怒りは瞬発力だ。怒りは一瞬で凄まじい出力を可能とするが、持続性がない。それだけ怒りとは強い力を発揮する。
 だが、それ故に波もある。上下があるのだ。
「精神状態で人は動作精度が左右される場合があると聞きますが―――」
 ブラウン管テレビの隙間から次々と雪崩れるように襲いかかるオブリビオン、『剣客』雪だるまたちを躱しながら、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は冷静そのものであった。
 挑発めいたオブリビオンの言葉も、彼等の言う言動も、トリテレイアは明確に正しく処理していく。

「……無縁の身体というのは恵まれていると言えるかもしれませんね」
 大盾で雪だるまの体を防ぎ、叩きつける。
 その動作、挙動に一切に狂いはない。有機物で構成された体ではないからこそ出来ること。それが今、他の猟兵や生命を救うことが出来ると考えられるのは、トリテレイア自身の言葉通り恵まれていると言ってもいいだろう。
 鈍い音がして雪だるまの体が大盾によってひしゃげる。振るう剣は胴を薙ぎ払い、両断する。

 だが、次々と瀕死の状態となった雪だるまたちが連鎖反応のように同じ『剣客』雪だるまたちを呼び出していく。
「むだむだむだむだむだだよ! 僕たちいっぱいいるからね! どれだけがんばっても! いくらでも増えてしまうんだから!」
 その声は嗤い声だった。
 全てを嘲笑する言葉だった。全ての努力、懸命さなどとは程遠い感情から吐き出される言葉。
 次々とトリテレイアを取り囲む雪だるまたち。嗤い声が連鎖するように鳴り響いていく。彼等は期待しただろう。
 トリテレイアが絶望するのを、諦めるのを。
 だが、違う。

「仲間を呼んだ? ―――好都合! 隠れている全員を誘き出し開放するまでです!」
 機械人形は守護騎士たらんと希う(オース・オブ・マシンナイツ)のは、トリテレイアの胸に抱く騎士道物語故か。あの日の己を罰する騎士はいない。
 だというのならば、誰かを守る戦いにこそ、彼の居場所はある。あの日の行いは己の騎士道に反するものであったとしても、それでも守られた生命があるというのならば―――!
 アイセンサーが光り輝く。

 トリテレイアを取り囲む圧倒的オブリビオンの物量差。
 だが、それが何するものぞ。今の彼は守護騎士である。骸魂に取り込まれた幼い妖怪たち。その全てを救うと誓う。己の騎士として相応しいと判断する行いは、理想でそのもの。
 オブリビオンにとって、その理想こそがトリテレイアに付け込む隙であったのかもしれない。
 だが、それでも―――!

 ユーベルコードの輝きは、トリテレイアの抱く理想の輝き。
「御伽噺に謳われる騎士達よ。鋼の我が身、災禍を払う守護の盾と成ることをここに誓う」
 いつだってそうだ。彼が戦うのは、誰かのために。
 オブリビオンとして成った体は骸魂が幼き妖怪に取り憑いたもの。であるのならば、彼が護るべきは幼き妖怪たち。
 物量的包囲が一切役に立たない。それほどまでにトリテレイアの戦闘力は凄まじいものであった。

 攻撃が全て見切られ、スラスターによる動きは縦横無尽。振るわれる攻撃は尽くが一撃必殺。
 制圧するのに少しの時間もかからなかった。
「倒すと本当に骸魂から開放されるのですね……」
 かの機械騎士の腕の中には、骸魂から開放された幼き妖怪たち。
「幼い妖怪と聞き心配でしたが、無事で何より―――」
 抱えた妖怪たちを物陰へと運ぶ。
 あの日の再現ではない。けれど、トリテレイアの電脳は確かに安らぎを、安心を感じていた。

 そこにあるのは一人の騎士としての姿。
 機械の身であり、紛い物であるとわかっていたとしても、漏れ出た言葉は真実であろう。
「……本当に、本当によかった」
 護ることができた。
 それがトリテレイアの新たなる誇りであったのだ―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒覇・蛟鬼
あら、あなた達も私を『死神』となじりますか?
結構、ええ結構です。なんにせよ私獄卒なものでして。
世を蝕む“塵”を振り払うのが、わが役目なのです。
■闘
何回も増えられたら厄介ですな。
討ち漏らさぬよう、各個撃破で着実に頭数を減らしますか。

孤立している敵に接近、【残像】を伴う動きから
【構え太刀】を放ち、頭と胴体を切り離しましょう。
同時に回りの敵に“あなたも何れこうなります”と宣告し、
【恐怖を与えて】やりますか。

敵が仕掛けてきたら刀の軌道を【見切り】つつ
白羽取りの如き【グラップル】で止め、仕上げに
【カウンター】の蹴りで振り払います。

取り込んだ妖怪を返して頂いたら、次へ進みますか。

※アドリブ・連携歓迎



 ブラウン管テレビが山積する要塞に、その隙間から溢れるようにして雪崩込んできたオブリビオン『剣客』雪だるまたち。
 彼等は一斉に猟兵たちへと襲いかかっていたが、その尽くが猟兵達によって打ち倒されていた。
 残る一群もまた要塞へと入り込んだ猟兵たちを打倒せんとする。
 しかし、その前に立ちふさがるのは荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)である。竜神族の一柱であり、骸魂狩り。
 幼い妖怪を飲み込んでオブリビオンとなった骸魂にとっては天敵のような存在である。

「いた! やっぱりいた! 我等を狩る者! 『死神』!」
 彼等は恐れる。己たちを狩り尽くそうとする存在に畏怖すら覚える。
 口汚く罵ったとしても、それで怯む存在ではないことはわかっている。けれど、口を噤めば、それだけが理由だといわんばかりに骸魂は狩り尽くされてしまう。
「あら、あなた達も私を『死神』となじりますか? 結構、ええ結構です。なんにせよ私、獄卒なものでして……」
『剣客』雪だるま達は一斉に体をビクつかせる。
 だが、それで彼等は怯むだけでは終わらない。こちらは多数であり、あちらは一人。今ならばまだ数で圧することができるのだから。

「敵は一人ー! 怯むないけー!」
 一斉に襲いかかる姿は雪崩そのもの。さらには瀕死になれば、己と同じ強さを持つ個体を召喚するという。
 その厄介さに蛟鬼は警戒する。狙うは各個撃破。確実に頭数を減らすということ。
「何回も増えられた厄介ですな―――」
 だが、それでもやるべきことに変わりはない。
 駆け出す先には、一体のオブリビオン。狙うは各個撃破であるのならば、群れより外れた者から倒していくが定石。

 残像を伴うほどの速度で駆け抜けた蛟鬼から放たれるは、構え太刀(カマエタチ)。剣閃の如き鋭い蹴り技が、『剣客』雪だるまの頭と胴を泣き別れにする。
 それはただの蹴撃ではなく、一閃のもとに両断する刀剣の如き一撃。
「―――……」
 言葉を発する必要はない。
 それは知らしめるための一撃。ただ、在るだけでいい。在るがままを見せればいい。ここに在るのは結果である。

 ―――“あなたも何れこうなります”

 その宣告であった。
 それは死の宣告と何ら変わらぬもの。放たれう刃も白刃取りの如き左右からの拳で叩き折る。
 放たれる蹴りは全てが刀剣の如き技の冴えによって、『剣客』雪だるまの首と胴を切り離していく。
 次々と霧散していくオブリビオンたち。霧散した彼等から現れるは、飲み込まれたであろう幼い妖怪たち。

「然と、皆さんは返して頂きました―――」
 こうして全ての骸魂に飲み込まれた妖怪たちは取り戻すことができた。
 残すは、この世界を覆おうとする『雪』の元凶たるオブリビオンのみ。蛟鬼はさらなる中枢へと足を踏み入れる。
 そこが自分の求める敵―――“破滅”の体現者がいるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『薄氷』の雪女』

POW   :    吹雪
【吹雪】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    薄氷の折り鶴
【指先】から【薄氷の折り鶴】を放ち、【それに触れたものを凍結させること】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    氷の世界
【雪】を降らせる事で、戦場全体が【吐息も凍りつく極寒の地】と同じ環境に変化する。[吐息も凍りつく極寒の地]に適応した者の行動成功率が上昇する。

イラスト:祥乃雲

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は御狐・稲見之守です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 嘆く声が響く。
 それは慟哭と言っても良い。呪うのは己の運命。子を喪った母の想いは、強烈なる怨嗟となって世界に響く。

「もうこれ以上酷いことが起こらぬようにと―――だから世界は止まればいい」
 世界を覆い、すべてを凍結させる『雪』。
 それがカクリヨファンタズムすべてを覆ってしまえば、もう何も酷いことは起こらない。

「もうこれ以上悲しいことが起こらなければ―――だから世界は止まればいい」
 何もかもが止まってしまえ。
 悲しみも喜びも怒りも楽しさも、全て全て凍りついて、停滞してしまえばいい。

 この世界に滅びをもたらす者―――『薄氷』の雪女は、生前交錯した縁である姑獲鳥を辿って、オブリビオンとして顕現した。
 同じ子を喪った母同士。
 けれど、決定的に違うのは―――注ぐ愛情の種類。
 他者を、他人を思う愛に溢れる姑獲鳥と、己の子だけに注ぐ愛に溢れた雪女。

 ブラウン管テレビの画面が映し出すのは、カクリヨファンタズムに移り住む道程で喪った子を抱える姑獲鳥と雪女。
 姑獲鳥は生きて、誰かの母の代わりを。
 雪女は絶望の果に子を追って、同じ死を。

 その決定的な違いが、世界の終わり―――カタストロフを引き起こす。
 それはボタンの掛け違いであったのかもしれない。
 けれど、世界を終わらせるわけにはいかない。そのために猟兵は戦うのだから―――。
黒髪・名捨
〇心境
ヤレヤレ…。
雪だるまの親分は雪女か…。
しかし母ねえ…ぶるッ…何この寒気…ああ、寒いから…か?
(何か脳裏をよぎるが防衛本能が全力シャットダウン?)
さて、寧々が冬眠してしまう前にさっさと片付けようか。

〇戦闘
さぶさぶ、『氷結耐性』があるから少しは耐えれるが、長時間も浴び続けたいものじゃねーな。
氷にはアレだろ。
炎だ。
炎の『属性攻撃』を込めた火炎『衝撃波』と
寧々の『焼却』+『ブレス攻撃』火炎放射による二重攻撃で吹雪を相殺。

よしここがチャンスだな。
アーラーワルを取り出して、『槍投げ』で穂先に『破魔』の魔力を込めた槍で『串刺し』にする。
んじゃ、“幻爆”起動。
―あばよ…

〇その他
アドリブや連携歓迎



 それは記憶の澱に沈んだ何かであったのかもしれない。
 その意味を知ることはないのかもしれないが、確かに己の身体には残滓として残っていた。それが正しいのか間違っているのか。もしくは幸いであるのか、そうではないのか。
 判別は付かないし、つけてはならないことであったのかも知れない。
 目の前に迸るような慟哭を放つ『薄氷』の雪女―――この世界の終わりを引き起こさんとするオブリビオンを見て、黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)は肩を竦める。
「ヤレヤレ……雪だるまの親分は雪女か……」
 その赤き瞳に映る白き麗人たる『薄氷』の雪女。周囲には吹雪が吹きすさび、無差別に全てを凍結しようと荒れ狂う。
 それは彼女の激情から来るからこそ、強大なる威力で持って名捨の体に霜が降り注ぐ。

「ああ―――私の愛しい子。どこにもいない……此処がどん底であるはずなのに、もっと底があるように思えてならない。だから、私はこれ以上悲しいことがないように……私のような母が増えないように。世界を凍結させなければならない」
 吹雪く冷気は、ブラウン管テレビの画面すらも凍りつかせるようであった。
 死した我が子を抱く母の姿。
「しかし、母ねえ……ぶるッ……何この寒気……ああ、寒いから……か?」
 名捨が要塞の中枢と言えど、雪原の如き雪で埋まる戦場を駆け抜ける。何かを振り払うように、脳裏に浮かぶ何かを思い出さないように。
 けれど、今の名捨が勝負を急ぐのには理由があった。
 共に行動するようになった喋る蛙、寧々。冬眠してしまう前に片をつけなければと思っているのだ。

「さぶさぶ……少しは耐えられると思ったが……! 長時間も浴び続けたいものじゃねーな」
 寧々! と名捨が叫ぶ。
 己は炎の属性籠めた火炎の衝撃波、熱波を。寧々は焼却するような吐息による火炎放射を。
 二人の攻撃は吹雪く風を己の身に寄せ付けぬようにと対抗する。
 急激に冷やされた空気が温められ、一気に膨張していく。爆風のように衝撃波が『薄氷』の雪女と名捨の間に生まれ、頭の上に乗っかっている寧々が吹き飛ばされまいとしがみつく。

「熱い―――。熱い―――。こんなにも熱いのに、私の腕の中にはあの子のぬくもりがない―――」
 怯む吹雪。全てを凍結される風が一瞬止む。
 もうここしか無い。名捨は一瞬で判断する。彼のユーベルコードが輝く。手にした短槍アーラーワルを投擲する。
「とっておきだ。とりあえず喰らっていけ」
 穂先に破魔の力宿りし槍は過たず『薄氷』の雪女の肩に突き刺さる。胴を狙ったはずではあるが、世界を滅ぼそうとするオブリビオンである。そこはずらされたと素直に名捨は認める。

 だが、彼のユーベルコードがただの槍の投擲で終わるわけがない。
「んじゃ……“幻爆”起動」
 一瞬にして周囲がまばゆい閃光に包まれる。
 それは小規模核融合爆発。ユーベルコードの輝きであり、彼の放った槍の穂先を中心に圧倒的な力の奔流によって引き起こされた爆発が『薄氷』の雪女の肩をえぐる。
 凄まじい爆風の中、寧々と共に要塞の外へと押し出される名捨。

 その赤い瞳は、『母』であった『薄氷』の雪女の姿を捉えていた。
 ノイズが走る。
 何がそうさせるのかわらかない。けれど、己の脳が防衛本能によって、それ以上の追憶をシャットダウンしている。
 何もかもがわからないことだらけであるが、名捨はただ、言葉を紡ぐ。

「―――あばよ……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルステラ・セレスティアラ
……そう、貴方も全てを喪ったのね
あの痛みを、貴方も知っているのね
私にだって憎しみの感情が無いわけじゃない
故郷を焼くあの焔に私はずっと苛まれている
けれど私にはあたたかな救いの手があった、から……

貴方と私はきっと似ている
何かがひとつ違えば私は貴方だったのかもしれない
幼い妖怪達が『お母さん』を恋しがっている
貴方を倒して『お母さん』を助けるのが私の仕事

貴方を救うことは出来ない
だから、せめて貴方に光を
先刻震えた指先を確り向ける
「貴方を導く光を」
天から降る光が貴方の還る路を導くから

猟兵ってやっぱりすごい、ね
みんないつもこんな風に戦っているんだね
涙が頬を伝うのは何故なんだろう
……もっと強くなりたい



 子を失う母。
 それは姑獲鳥と雪女、どちらにも共通した悲しみであったことだろう。悲しみに大きさはない。あるのは受け入れる器の大きさだけだ。
 ひび割れた器に注がれた悲しみは、容易くひび割れを大きくし壊してしまう。
 けれど、ひび割れた部分になにか別のもので塞ぐことができた時、その悲しみは糧となり、人を活かすこともあるだろう。
 全てはタイミングであり、きっかけであり、その器を囲む何か別の要因によって結果が決定してしまうのだ。

「あ、ァ―――ああああっ! 熱い! 熱い! どうして! こんなにも身を焦がす熱があるのに! 私のあの子のぬくもりだけがこの世界にないの!」
 絶叫じみた慟哭が響き渡る。『薄氷』の雪女の悲鳴が響き渡る。放たれた猟兵のユーベルコードの一撃は、その方をえぐり、膨大なる熱でもって、その体を溶かした。
 だが、その体は降りしきる『雪』によって修復されていく。
 吐息も凍りつく極寒の地へと『雪』によって変貌した要塞の内部に明滅するブラウン管テレビの画面に映るのは、幼き妖怪の子の笑顔。極寒の中にあって感じる春の息吹のような笑顔。
 それが永遠に喪われたのだ。

「……そう、貴方も全てを喪ったのね。あの痛みを、貴方は知っているのね」
 薄茶色の髪が極寒の地においてもなおみずみずしさを喪わない。その淡い色の瞳が見据えるのは、慟哭する『薄氷』の雪女の姿。
 何かを喪う痛みに慣れたわけではない。知っていたからといって、耐えられる痛みでもない。
 それをよく知っているのは、メルステラ・セレスティアラ(夢結星・f28228)自身であった。
 極寒の地とは対極に位置する獄炎の焔に灼かれた故郷を思い出す。あの焔は今でも、メルステラの心の内を焼く焔に違いはない。
「私にだって憎しみの感情がないわけじゃない」
 ずっと彼女の心を苛む焔。今でもそうだ。思い出す。理不尽。目を瞑れば在々と浮かぶ光景。けれど、その肩を、背中を……そっと押す掌の感触があった。
「けれど、私にはあたたかな救いの手があった、から……」

 慟哭する『薄氷』の雪女はきっと写し鏡である。
 似ていると思った。自身と彼女。とても似ている。親近感を覚えたと言っても良い。吐息が凍る。息が詰まる。彼女の慟哭から放たれる重圧の凄まじさが、凍気となてメルステラの体を撃つ。
 けれど、足を止めることはしない。してはならない。
「何かがひとつ違えば、私は貴方だったのかもしれない……」
 だが、彼女の心に浮かぶのは幼い妖怪たちの姿。骸魂に飲み込まれた彼等が最も欲しているのは猟兵の助けではない。
 血の繋がらない、他人。けれど、打ちのめされて、寂しくて悲しい時に寄り添ってくれた人。
 そう―――。

「幼い妖怪たちが『お母さん』を恋しがっている。貴方を倒して『お母さん』を助けるのが私の仕事―――」
 目を見開く。どれだけの冷気が、この瞳を凍りつかせようとしたとしても関係がない。目をそらさない。自分が成すべきことを理解していた。
「貴方を救うことはできない。だから、せめて貴方に光を」
 震えていた手が止まる。
 あれだけ膨大なる魔力を使ったユーベルコード。それを制御する度にきしんだ指が、もう震えていなかった。しっかりと指先を『薄氷』の雪女へと向ける。

「貴方を導く光を」

 それは天より降り注ぐような光。要塞のような山積したブラウン管テレビの天井を突き破って彼女のユーベルコード、光紡(ルークス)が『薄氷』の雪女へと注がれる。
 慟哭は紡がれた光の中にかき消える。
 せめて、そう。この暗澹たる雲を切り裂き光の梯子が降り注ぐように。
「天から降る光が貴方の還る路を導くから―――」
 だから、返してあげて。
 その言葉は力の奔流に飲み込まれて消えた。
 涙が溢れてくる。
 
「猟兵ってやっぱりすごい、ね。みんないつもこんな風に戦っているんだね。涙が頬を伝うのはなぜなんだろう」
 その涙の意味を彼女は知るだろう。
 いつかのどこかで彼女の背中を押してくれた暖かくも優しい手。それは今彼女の中で切実たる思いを花開かせる。

「……もっと強くなりたい」
 誰かを傷つけるためではない、誰かを救う力を。切に願う思いが、彼女の頬を伝って、雪を溶かす―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジーク・エヴァン
…母親、か
あの雪女の愛情も一つの形なのは分かる
でも、それでも世界を止めさせるわけにはいかない
子供の雪だるま達は他の猟兵の皆さんに片付けてもらったから温存させてもらった分、やらせてもらうぞ

あの強烈な吹雪を押し止め、皆を守ろう
【巨竜退ける砦盾】を十枚ずつドーム状に重ねてかまくらのように吹雪を防ぎながら奴に近付こう
寒さも環境適応で耐え、近付いたらグラムに奴の力を喰らわせる
喰らいつけグラム!(生命力吸収、二回攻撃)

過去がどれほど残酷で、未来がどれほど苦しくても、俺はその2つに繋がる「今」を進む

それが過去に俺が見送った人々の為、未来の誰かの為、そして今苦しんでる雪女、姑獲鳥、貴女達の為だと俺は信じてる!



 天から降り注ぐ光が世界の終わりを齎さんとするオブリビオン『薄氷』の雪女を打つ。ブラウン管テレビが山積した要塞の天井を突き破って穿たれた光は、『薄氷』の雪女の体を溶かした。
 だが、それでも世界を滅ぼさんとする力を持つオブリビオンは、吹き荒ぶ吹雪によって体を復元し、体面を保っていた。
「熱い……熱い……ああ、あの子、私の愛おしい子……どんなに涙を流しても戻ってこないあの子……」
 その言葉は慟哭。
 生命は戻らない。骸の海より戻り出ることはあるかもしれないが、それはオブリビオンであって、別のなにかである。
 決して、損なわれた生命は戻らない。それがカクリヨファンタズムであったとしても、不変の理である。

 だからこそ、その慟哭は喪った者の胸を打つのかもしれない。
「……母親、か」
 それは小さな呟きだった。
 ジーク・エヴァン(竜に故郷を滅ぼされた少年・f27128)にとって、それは追憶の彼方にしかないものである。
 もしも立場が違えば、己の母親もまた、ああして泣いてくれたのかもしれない。それを思うと胸が締め付けられる。
 だからこそ、あの『薄氷』の雪女の愛情も一つの形なのがわかるのだ。だが、どれだけ尊い感情に突き動かされた結果だとしても、それでもとジークは言葉を繋がなければならない。
「それでも世界を止めさせるわけにはいかない」
 一歩を踏み出す。
 それは冷気渦巻く中へと飛び込むことと同義である。全てを凍結させる雪をかき分け、折り鶴舞う中枢を目指す。

 幼い妖怪を取り込んだ骸魂が形をなした『剣客』雪だるまは、仲間の猟兵たちが全て打倒してくれた。温存させてもらった力は、今此処で存分に振るわねばならない。
 凍える足を叱咤し、ジークは進む。
 強烈なる吹雪を押し止める。
 彼より後に吹雪を逃さない。それが彼の選んだ道だ。
「来たれ!竜の一撃を受け止めし鉄壁の軍勢よ!我と共に、集いて竜の進撃を弾き返せ!」

 それは彼のユーベルコード、巨竜退ける砦盾(フォートレス・アイアス)。数字の刻印がされた巨大な盾が収監される。6つの巨大盾がドーム状に重ねて張り巡らされる。
 全てを凍結される吹雪も、氷結させる折り鶴も、そのジークの意志に後押しされた盾によって全てが防がれる。
 どれだけ体を鎧っていたとしても、全てを凍結される吹雪の寒さは、耐え難い。だが、それでも―――。
「耐える……! 過去がどれほど残酷で、未来がどれほど苦しくても、俺は……!」
 一歩が重い。
 それだけ猛吹雪の勢いは凄まじい。その勢いは、すべてかのオブリビオンのもつ怨嗟故であろう。
 残酷さに膝を屈してしまいそうになる。苦しさに息が切れる。かじかむ手はもう盾を握っていられないほどに指先の感覚がなくなっていた。

「俺はその二つに繋がる『今』を進む! 喰らいつけグラム!」
 漸く辿り着く間合い。折り鶴の猛攻に巨大盾も限界が近付ている。だが、それでもジークは己の剣を振るう。
 放たれた一撃は袈裟懸けに『薄氷』の雪女の体を斬りつける。
 絶叫と迸る冷気がジークを襲う。
 目を見開いた。これから目を背けてはいけない。そう思ったからだ。

「それが過去に俺が見送った人々のため、未来の誰かの為、そして今苦しんでる雪女、姑獲鳥……貴女達の為だと俺は信じている!」
 返す刃で魔剣グラムが振るわれる。
 その一刀は再び、悲しき母であった者の体を切り裂く。
 響く慟哭に目を背けない。己が信じるものが何か、ジークはもう知っているから―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
同行:ポーラリア・ベル(f06947)

ようやく中心部へ辿り着いたわ。それじゃ、最後の仕上げといきましょう。
村崎ゆかり、陰陽師。参る。

単純な話よ。氷には炎。それだけ。
不動明王火界咒。
「高速詠唱」「魔力溜め」「全力魔法」炎の「属性攻撃」「破魔」で。
炎に晒された雪は溶けてなくなるものよ、雪女。

雪女が巻き起こす吹雪は、式神の『鎧装豪腕』を遮蔽物にして耐え凌ぐ。
この程度なの? だったら、ポーラの吹雪の方がよっぽど凍えるわ。

吹雪が途切れたら、雪女を薙刀の間合いに捉えるため前へ駆け出す。
円弧を描く「なぎ払い」の連続から「衝撃波」をまとう「串刺し」に繋げて。

さあ、ポーラ。締めは任せた。思いっきりやっちゃって!


ポーラリア・ベル
わ、ゆかゆか(f01658)、冬の世界に来てたのね(合流の形)
永遠の冬もいいよね。万年雪ってあこがれちゃう♪でも―。
ふふ、そうね。戯れに行きましょう。
🔴無いけど【雪人転身】で、真の姿(雪女の少女)に。
氷の攻撃や吹雪に同じ技で対抗するよ!
【氷結耐性】で慣れながら、押されそうな時は【属性攻撃・風】で受け流しつつ、近づいていくの。
ゆかゆかの力で溶けた体は凍らせて、雪の地面に固定してあげるっ。

十分近づいたら、くいくい袖を引っ張って、こういうの。
「大丈夫」「雪はね、溶けてもいいんだよ」
あなたに覆う骸の氷は、抱きしめながら、薄氷の如く脆くなるまで凍らせて、
そっと崩して、風に乗せて飛ばしていくね。



 不変たるものほど脆く容易いものなどない。
 変わり続けるものこそが、連綿と紡がれていく。生命も物質も全て変わっていく。だからこそ存在し続けることが出来る。
 世界の終わり、カタストロフたる不変の闇をもたらそうとする『雪』は、その実脆いものであったのかも知れない。

 剣閃が煌めく。その一撃は母たる者の慟哭を切り裂いた。
 迸る絶叫。切り裂かれた体は『雪』が瞬く間に修復し、その存在を霧散させぬとばかりに塞いでいく。
「私は変わらない。この愛情も、この悲しみも変わらない変わらない変わらない、あの子への想いは変わらない変わってはならない―――」
 それはもはや妄執と言ってよかったのかもしれない。変わることを恐れる不変を謳う者。それが『薄氷』の雪女である。

「ようやく中心部へたどり着いたわ……あ」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は、ブラウン管テレビが山積した要塞の中枢に置いて思わぬ出会いを果たしていた。
 時同じくして中枢にたどり着いたのは、ポーラリア・ベル(冬告精・f06947)。その小さき妖精とは顔見知りであった。
「わ、ゆかゆか、冬の世界に来てたのね」
 互いに見知った顔である。ならば、ここから先は言葉は無用であり、彼女たちが対峙する者を打倒さんとする意志が確認できればいい。
「それじゃ、最後の仕上げといきましょう。村崎ゆかり、陰陽師。参る」
「永遠の冬もいいよね。万年雪って憧れちゃう♪でも―――ふふ、そうね。戯れに行きましょう」

 それが戦いの火蓋を斬って落とす合図であった。
 猛烈なる吹雪が『薄氷』の雪女から放たれる。それは全てを凍結させる吹雪。絶対零度の吹雪が無差別に吹き荒れる。
 ゆかりは判断した。それが制御しきれていないことに。彼女たちが辿り着く前に攻撃を与えていた猟兵たちの力によって、吹雪く力が削がれているのだ。
「単純な話よ。氷には炎。それだけ―――ノウマク サラバタタギャテイビャク――」
 ゆかりのユーベルコード、不動明王火界咒(フドウミョウオウカカイジュ)。それは白紙のトランプより噴出する炎。
 全力の力を籠めた炎が破魔の力を伴って吹雪く凍結の世界を溶かしていく。熱波に圧されるようにして『薄氷』の雪女の体が後ずさる。
 いや、後ずさろうとして、足が動かないことに気がついた。

「特別に人の姿で―かちこちにしてあげる」
 ポーラリアの姿が変ずる。それは十代前半の人の姿をした雪女の少女。それは奇しくも対する雪女と同じである。
 彼女のユーベルコード、雪人転身(ペルソナム・ニーヴィス)によって、あらゆるものを凍らせる冷気の力によって、溶かされた雪が再び足元で凍結されたのだ。
 それは『薄氷』の雪女の足元を凍結させ、動きを封じる。

「―――アァァァァ! あんまりだ! その姿で私の前に現れるなんて!」
『薄氷』の雪女の絶叫が響き渡る。
 ポーラリアの姿は、同族のものに見えたのだろう。己の子を想起させたのかもしれない。絶叫は猛烈なる吹雪となって再び放たれる。
 ゆかりとポーラリアを打つ吹雪の強烈は、今までの比ではない。これまで猟兵たちの攻撃がなかったかのような猛烈なる力は彼女たちの皮膚を凍らせる。
 だが、それでも彼女たちは歩みをすすめる。

「この程度なの? だったら、ポーラの吹雪のほうがよっぽど凍えるわ」
 駆け出す。
 未だ吹雪は止まない。けれど、この吹雪の中を進まねば、あのオブリビオンは止められない。視界に捉えるのは泣き叫ぶように吹雪を放ち続ける『薄氷』の雪女。
 捉えた―――!
 その瞬間、彼女の手にした薙刀が円を描いて振るわれる。その体を斬りつけ、すかさず衝撃波を伴う突きが放たれる。
 呼吸が止まる。吹雪が止んだ。
「さあ、ポーラ。締めは任せた。思いっきりやっちゃって!」

 その言葉に応えるようにポーラリアがうなずく。
 彼女の姿はいつのまにか『薄氷』の雪女の直ぐ側にあった。それはまるで母親に何かをねだるような、そんな仕草でもって、着物の袖を引っ張る。
 見上げた瞳が見上げるのは、雪女の瞳。それは哀しみと憎悪と……絶望に塗れていた。
 だからこそ、紡ぐ言葉はポーラリアの中で決まっていたのだ。
「大丈夫」
 それは優しく響いた。哀しみと憎悪が氷で体を鎧うというのならば、抱きしめよう。ポーラリアの腕が優しく『薄氷』の雪女の体を抱く。
 それは『薄氷の如く』脆くなるまで、ポーラリアの放つ冷気が覆っていくのだ。
「雪はね、溶けてもいいんだよ」
 その言葉が紡ぐのは許しか、それとも―――。

 触れる手が『薄氷』の雪女の体を崩す。
 核たる骸魂の怨嗟は未だ晴れないだろう。けれど、その言葉は楔のように『薄氷』の雪女の魂に穿たれた。
 後は、そう―――。

「風に乗って飛んでいけばいい」
 それが子を喪った母への慰めとなるのならば。ポーラリアは、そう思うのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
●防具改造等の●環境耐性あれど

…この吹雪で何時まで動けるか
時間は掛けられません

吹雪を●盾受けで身を●かばい●怪力で地を踏みしめ接近

私は母子の絆を知らぬ身ではありますが
子を失った哀しみが察するに余りあるものであろうとは存じております

ですが世の全てが凍り止まれば、一体誰が貴女の子の死を悼むことが出来るのですか
止まった世界で貴女一人だけが哀しむならば、それは悲劇です
貴女の心も凍り付いてしまえば…子は母からも『忘れられて』しまうではありませんか

幼き子らの母を解放し、どうかその愛を胸に…お眠りください
(骸魂殺害目的でUC突き刺し)


過去が向かうは骸の海…
母子殺しの私が再会願うのは、身勝手に過ぎますね



 風が吹き荒ぶ。
 冷たい風は世界を終わりへと導く『雪』を運ぶ。一度は猟兵の攻撃によって体を崩壊まで導かれたオブリビオン。『薄氷』の雪女は、その楔のように穿たれた体を再び組み上げていく。
 その怨嗟、慟哭、何もかもが彼女の体を崩れさせるわけにはいかないとつなぎとめるのだ。吹雪く『雪』が『薄氷』の雪女の体へとまとわりついていく。纏う羽衣のように形を作っていく。
「私は忘れない。私は覚えている。あの子を。あの子を。あの子を……」
 ゆらりと立ち上がる『薄氷』の雪女の姿は、妄執にとりつかれた存在そのものである。嵐のように吹雪がブラウン管テレビの山積した要塞に入り込み、再び周囲にホワイトアウトを引き起こす。

 一面が白であった。何も見えない。あるのは白一色。それがこのオブリビオン『薄氷』の雪女の望んだ世界であるのだろう。
「……この吹雪で何時まで動けるか……時間は駆けられません」
 吹雪を大盾で受けながら怪力のままに大地を踏みしめて進むトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の姿があった。
 猟兵、と幽鬼の如き『薄氷』の雪女の瞳が、その機械騎士の体を捉える。忌々しい猟兵。自分が望む世界を阻もうとする存在。

 倒さねば、倒さねばならない。
 その情念に圧されるようにして吹雪の圧が強くなる。
「私は母子の絆を知らぬ身ではありますが、子を喪った哀しみが察するに余りあるものであろうとは存じております」
 それは自分に言い聞かせるような言葉でもあり、雪女へと投げかけた言葉でも在る。電脳にちらつく映像がある。我が子を庇う母の姿。ノイズが走った気がした。
「わかるわけがない! 私の苦しみ、哀しみは誰にも理解できるわけがない―――!」
 吹雪の勢いはますますもってトリテレイアを苦しめる。
 あまりの温度低下にジェネレーターの反応が弱くなっている。関節部に霜が噛み始め、動きが鈍る。
 このままで最悪、機能を停止してしまう。

 だからなんだというのだ。これが心だというのならば、機械騎士の体の内側で燃え上がる炉心の熱は一体なんだというのだろう。熱が装甲に伝播していく。関節に詰まった霜が溶けていく。
 一歩を踏み出す。
「ですが、世の全てが凍り止まれば、一体誰が貴女の子の死を悼むことができるのですか。止まった世界で貴女一人だけが哀しむならば、それは悲劇です」
 自分たち猟兵の使命は世界を守ることだ。
 だからこそ、オブリビオンである彼女の前に立つ。だが、その心を救えずして、何のための戦いであるのか。

「貴女の心も凍りついてしまえば……子は母からも『忘れられて』しまうではありませんか」
 トリテレイアの放熱し、湯気を放つ巨躯が『薄氷』の雪女の前に立つ。
 どれだけ強烈な吹雪を放ったとしても、その巨躯が一歩も引くことはなかった。
 慈悲の短剣(ミセリコルデ)。それはトリテレイアの出来る唯一の方法であったのかもしれない。

「……幼き子らの母を開放し、どうかその愛を胸に……お眠り下さい」
 手にした短剣が突き立てられる。その一撃は些細な一撃であったかもしれない。けれど、決定的なものでもあった。
 その短剣に籠められたナノマシンは、オブリビオンにだけ作用するもの。この一手が続く猟兵たちの戦いを導くだろう。

 雪女の体が吹雪の向こう側へと消えていく。
 それを見送りながら、トリテレイアは立ち竦む。これ以上炉心を回せば、オーバーヒートしてしまう。
 だが、それでもトリテレイアは見送る。
「過去が向かうは骸の海……母子殺しの私が再会願うのは、身勝手に過ぎますね……」
 機械騎士の放熱だけが、その残滓を教えるように要塞となったブラウン管テレビの画面に映って、消えていった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒覇・蛟鬼
全く、その情が世を蝕む“塵”となるというのに。
まあ、取り込まれている以上助けますさ。

■闘
身体に【オーラ防御】を纏い、雪に耐えましょう。
【第六感】を巡らせて吹雪の弱い場所を探り当て、
そこを通り接近します。
威力がばらけているような感じですし。

接近できたら顔を打とうとする【フェイント】をかけ、
鳩尾を指でつっつきます。
これが何かというと、【嘗女の惑乱】あなたの感覚に
『身体が燃えている』と間違った情報を送ったのです。
【精神攻撃】を用いた似非炎【属性攻撃】ですな。

特別に『劫火に包まれている』と伝えましてね、
溶けはしませんが、狂い死ぬ程熱いでしょう。
さあ、我が同胞を返してくださいな。

※アドリブ歓迎・不採用可



「あ、あ―――ァ、アァ……私の愛おしい子……どこに……どこにいるの?」
 その声は吹雪の中心で響いていた。慟哭のような声は、哀惜含んだ声色で持って細々と響く。
 吹雪く風が全てを振り払うように荒ぶ。
 そのような哀惜ですら凍りつかせてしまえばいい。何もかもが雪一色に染め上がってしまえば、停滞し、世界は進まなくなる。
 そうすれば、これ以上悪くなることはない。良くはならないかもしれないが、これ以下になることはない。
 だとすれば、それはすべてを喪った『薄氷』の雪女にとって救いであったのかもしれない。
「誰も彼もがあの子を救ってはくれなかった。ならば、世界の終わりから、救う必要なんて、ない」
 無差別に吹雪が荒れ狂う。
 もうその体は猟兵の一撃によるナノマシンの投与に寄って視界を奪われ続けていた。その脳裏に浮かぶのは懐かしき我が子の姿ばかり。

「全く、その情が世を蝕む“塵”になるというのに。まあ、取り込まれている以上助けますさ」
 荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)は、身にまとったオーラにより吹雪く雪を耐えていた。『薄氷』の雪女の慟哭は彼にとって嘆息と共に吹き飛ばせるほどのものであったのかもしれない。
 それを情と表現し、世を蝕むきっかけとなることを憂いたのだ。

 足をすすめる。何処に足を置き、体を向ければいいかわかっている。吹雪く風はいつまでも強大なものではない。
 必ず強弱がある。全ての風に逆らう必要はない。
 隙間のように風の強弱を読んで進めばいいのだ。それに他の猟兵たちの攻撃のおかげだろう、強弱の上下が凄まじいのだ。
 これならば想像しているよりもずっと楽に間合いを詰められる。

「―――おや」
 それは唐突に現れた影。蛟鬼の眼前に彷徨い出たような『薄氷』の雪女の姿があった。
 驚きもなかった。それは彼にとって至極当然の光景。そこにいる、という第六感。吹雪く風が彼の肌を凍結させる。
 だが、それよりも速くフェイントを混ぜた拳が放たれる。
 顔を狙う、と見せかけて、蛟鬼の指先が『薄氷』の雪女の鳩尾を突く。
「これが何か……という顔をしていますね。嘗女の惑乱(ナメオンナノワクラン)―――あなたの感覚に『身体が燃えている』という間違った情報を送ったのです」
 放たれたユーベルコード、それはあらゆる知覚に様々な誤情報を流す当身。
 ただ、小突いただけにしか見えない一撃。

「特別に教えて差し上げましょう。貴方は今『劫火に包まれている』……溶けはしませんが、狂い死ぬ程熱いでしょう。さあ、我が同胞を返してくださいな」
 その声は恐ろしく平坦な言葉であった。
 瞬間、小突いただけの『薄氷』の雪女の身体が吹き飛ばされる。
 傍目からは本当に鳩尾に触れた程度にしか見えなかった。けれど、その一撃は超高速かつ、絶大なる威力を持つ一撃である。

 さらに『薄氷』の雪女の絶叫が響く。
 実際には体は燃えてない。けれど、ユーベルコードに寄って、その身を苛む炎が消えないのだ。
 のたうち回る体。それを見やる蛟鬼。
 それでも、そこまで己を苛む炎に包まれたとしても、まだ。『薄氷』の雪女は、全てを諦めきれない。
 諦観が歩みを止めるというのならば、彼女はまだ。
 まだ諦めていない。ならば、と蛟鬼が踏み出す。力づくで、と踏み入った瞬間、猛烈なる吹雪に『薄氷』の雪女の姿がさらわれて消える。

「―――逃げられましたか。ですが、一手は加えました。逃げられはしますまい」
 静かに己の第六感が告げる。
 きっと同胞返るだろう。ただ、それが己の手によってではない、ただそれだけ。だが、それでいいのだ。
 救われるものがあるのならば、救われたほうが良い。
 そう、蛟鬼は思うのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
私は親の顔も覚えていません。代わりに育ててくれた人も「死んだ」としか語りませんでしたし、きっとあなたの言う酷いことが私にも起こったのでしょう。

ですが、この先また何かが起きたとしても私は止まらないと決めています。故に、あなたのエゴで私の前に立ち塞がるのであれば、撃つのみです。

【吹雪と歩む者】を使用、寒さも吹雪も私の武器、それで歩みを止めることはできません。
あちらも寒さへの耐性はあるでしょうし、吹雪の効きは悪いでしょうが、この極寒の地であれば戦闘力増強の効果だけでも十分です。
増強された身体能力を活かして敵の攻撃を『見切り』避けつつ接近、銃剣による『串刺し』からの実弾の『零距離射撃』を撃ち込みます。



 その身を焼くは煉獄の如き暑さ。狂ってしまいそうなほどの熱。だが、実際には己の体は炎の包まれているわけではないと気がついたのは、猟兵のユーベルコードの効果が切れた後であった。
『薄氷』の雪女は、呆然と立ち竦む。未だその身はブラウン管テレビが山積する要塞の中。自分は逃げ延びたのだと確信する。逃げおおせたのだ。
「ああ―――これで、まだあの子を、あの子だけを思って止まる世界を作れる。もっと酷いことは起こらない。起こらない……!」
 その言葉はすでに妄執に塗れていた。
 己が心に在るのは、喪った我が子だけだ。だが、心の何処かでわかっていた気もする。いや、違う。
 これは取り込んだ妖怪、姑獲鳥の記憶。ブラウン管テレビの画面に映るそれは、亡くなった我が子を埋葬する瞬間。
 別れは訪れる。それは己が先か、子が先かの違いでしかなかったのだろう。願わくば、己が先にと思った。
 それは酷いことだ。我が子を見送らねばならないなんて―――なんて酷い現実。

「私は親の顔も覚えていません。代わりに育ててくれた人も『死んだ』としか語りませんでしたし、きっとあなたの言う酷いことが私にも起こったのでしょう」
『薄氷』の雪女が視線を上げた先にいたのは、銀髪の少女、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)であった。
 彼女の言葉は平坦だった。ただの事実を述べただけであった。わからないものはわらかないと素直に受け入れた者の言葉だった。

「なのに何故。何故、そんな顔をしているの? もっと悲嘆に暮れていなければならないはずなのに」
 戦場に『雪』が降りしきる。それは吐息も凍りつく極寒の地へと返る魔性の雪。凍えるような寒さがセルマを襲う。
 だが、彼女は何も感じていないかのように振る舞う。
「ですが、この先また何かが起きたとしても私は止まらないと決めています。故に、貴方のエゴで私の前に立ちふさがるのであれば―――」
 それは絶対たる意志。
 セルマの青い瞳がオブリビオンである『薄氷』の雪女を捉える。
「―――撃つのみです」

 セルマの全身を覆う触れた者の体温と生命力を奪う吹雪。それは彼女のユーベルコード、吹雪と歩む者(ブリザード・ウォーカー)。彼女は今まさに、吹雪の渦中にいる。
 オブリビオンの放つ魔性の雪と、己の身に纏う吹雪。
 それは拮抗していたように見えて、セルマの圧倒的な力の前に『雪』は支配されるしかない。
 周囲の冷気に比例する彼女の戦闘力は、全てを凍てつかせる戦場に置いて絶対者である。

「―――アアアアアッ!!!」
 猛烈なる吹雪がセルマを襲う。それはどうしようもないほどに、セルマには無意味な攻撃であった。
 今のセルマは吹雪と歩む者。
 どれだけ吹雪こうが、彼女には意味がない。増強された身体能力で、一瞬の内に『薄氷』の雪女との距離を詰める。
 青い瞳に映るは、『薄氷』の雪女の瞳。互いに互いを映す瞳は、何をもたらしただろうか。
 恐怖か、怯えか、それとも。

 銃剣がオブリビオンの体を穿つ。マスケット銃、フィンブルヴェトに装着された銃剣アルマスがついに、その体を捉えた。
 引き金を引く力は、躊躇うことをしなかった。
 そう決めたのだから、それをすることは己自身への侮辱だ。だから、彼女は引き金を引く。

 銃声が吹雪の中鳴り響き、『薄氷』の雪女は、その体の大部分を喪う。それでも嘆きは止まらない。
 セルマにとって、その嘆きは歩みを止める理由にはならない。
 吹雪に紛れて逃げる雪女の背中を青い瞳が追う。手にしたマスケット銃が再び銃声を響かせた。

「―――例え、もっと酷いことが起こったとしても。それでもと私は前を向きます」

大成功 🔵​🔵​🔵​

エカチェリーナ・ヴィソツカヤ
・心情
その悲しみを否定することはできない
けれど、世界を終わらせることは、許されないんだ
『雪』は、何もかもを覆い尽くす為だけにある訳じゃあないんだ
あなたもきっと、覚えがあったはずだ
寒さの中で、肩を寄せ逢うことで感じる『あたたかさ』を

・戦闘
WIZを選択する
クォデネンツ・メチェーリの『天候操作』で、この『雪』を操ろう
なぁに、『極寒の地』なんてへっちゃらさ
私も、そういう『妖怪(モノ)』だからな
そして『雹嵐』で作り出す武器で攻撃しよう
その悲しみに、今度こそ幕引きをーー

・その他
アドリブ等は大歓迎さ



 銃声が二発響き渡った。
 カクリヨファンタズムにおいてオブリビオンとは、骸魂に飲み込まれた妖怪である。その飲み込まれた妖怪と骸魂は、生前の接点、似通った部分があると言われている。
 子を無くした母。
 それが姑獲鳥と『薄氷』の雪女との共通点であった。
 だが、同じ子を亡くした母であったとしても、その後に続く人生までも同じとは言えない。
 子を喪ったとしても、生きて他の親無し子に愛情を注ぐ姑獲鳥。
 子の後を追うようにして自ら生命を断った『薄氷』の雪女。

 どちらが正しくて、どちらが間違っているなどと言えるわけがない。
 けれど、ブラウン管テレビの画面に映る彼女たちの姿を見て、エカチェリーナ・ヴィソツカヤ(ジェド・マロースの孫娘『スネグーラチカ』・f28035)は思うのだ。
 その哀しみを否定することはできないと。

「アァ……アァ……ああ……」
 涙がこぼれていた。
 それは傷の痛みによるものか、それともブラウン管テレビに映る己の痛ましき過去か。『薄氷』の雪女は傷つき雪原となった要塞の中に立ちすくんでいた。
 その体はすでにもうぼろぼろである。
 数多の猟兵たちの攻撃に晒されているからに違いはない。もう虫の息であろう。だが、それでも妄執の如き想いに囚われた彼女には関係がないことであったのかもしれない。

「わかるよ、その悲しみ。けれど、世界を終わらせることは、許されないんだ」
 エカチェリーナの言葉は優しかった。
 冬の風のように冷たく厳しいものであったかも知れないけれど、その『冷たい風』のような祝福を受けた者の言葉は、その憂いを、悲しみを晴らそうとしていた。
「『雪』は何もかもを覆い尽くす為だけにある訳じゃあないんだ。あなたもきっと、覚えがあったはずだ」
 それはただの言葉であったかもしれない。
 けれど、それは『薄氷』の雪女にとっては力そのものであった。
 ブラウン管テレビの画面が映し出す。過去。我が子を胸に抱いて、吹雪く中を歩く時間。大きくなってほしい。できれば健やかに。できれば自分より後に、ずっと後に天寿を全うして欲しい。

 その願いは『薄氷』の雪女も、姑獲鳥も同じ想いであった。
 だからこそ、骸魂となった『薄氷』の雪女も惹かれたのだろう。
「寒さの中で、肩を寄せ合うことで感じる『あたたかさ』を……」
 エカチェリーナの手が天に向けられる。
 降りしきる『雪』を操るつもりなのだ。どれだけ此の地が極寒の地になろうと彼女は笑って言うだろう。
「へっちゃらさ」と。彼女は、そういう『妖怪(モノ)』なのだから。

 ユーベルコードが輝く。
 雹嵐(グラート・ブーリァ)によって生み出される幾何学模様を描き複雑に飛翔する魔力を帯びた氷の武器たち。
「……その悲しみに、今度こそ幕引きを―――」
 振りかざした手が、降ろされた―――。

 ブラウン管テレビの画面が最後に映し出していたのは、笑う幼い子の笑顔。
 今際の際に思い出す、最愛の笑顔。
 それだけがあればよかった。失くしてしまったものだけれど、それを思い出すだけで生きていけるはずであったのに、涙で見えなくなってしまっていた。

 暖かいものが頬を伝う。
 骸魂から開放された身体が、とめどなく涙をこぼし続ける。吹き荒ぶ嵐のような雪は止み、弱々しく吹雪く『雪』はもう嘗てのような力を喪っていた。

 己と同じであった『薄氷』の雪女の想いを腕に抱いて―――姑獲鳥は氷雪に泣く。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月26日


挿絵イラスト