紫陽花は血に染まり、思い出は雨に流れる
紫陽花が咲いている。
雨に濡れた青紫の花びらの色彩。
とても綺麗に。いっそ幻想的にほどに。
触れることは出来ないのではと、錯覚するほど。
周囲に咲き誇る紫陽花たちはその姿を見せている。
――ああ、どうしてこんなに大切だと思うのだろう。
とても大切なものだと、紫陽花を見つめる男の胸の奥で何かが告げていた。
とても大事な人と約束をして、守りたいと思った気がする。
でもそれがどんな人で、どういう約束だったのか。
思い出せない。
ただ、誰もこの花園には踏み入れさせないのだと。
――ああ、この刀を握り締めたのは、どうしてだろう。
紫陽花に似合わぬ血の赤が、雨粒に流されて落ちていく。
約束を忘れて、なお立つ男の手には、妖気を溢れさせる一振りの刀。
命を吸い、思い出を奪い。
どうしても守りたいという男の念に取り憑いて、離れない。
或いは。
守りたかったものは。
もはや、この紫陽花の下に。
――ああ、どうして、この刀を握り続けているのだろう。
降り止んだ雨は、何も応えてくれない。
紫陽花の花言葉のそのままに。
冷淡な美しさで、その有り様を飾り立てる。
剣鬼に墜ちた男の理由など、もはや、誰の唇も語らない。
ただ紫陽花の花園に踏み入れたものを斬る剣鬼があるだけだった。
●
「村の外れ、山の麓に気の早い紫陽花が咲いているそうですよ」
そう語るのは秋穂・紗織(木花吐息・f18825)だ。
サムライエンパイアという雅なる世界。
そこに息づく花は美しく、そして、時に妖しい。
ならばそれに魅了されるものもいるのだろうと。
「そして、それを守る剣鬼――正確には、妖刀に憑かれた男がでました」
既に被害者は出ているという。
皆、雨の降る時刻に、事件の場である紫陽花の咲き誇る園へと出向いたらしい。そして、皆、その妖刀で斬られてしまった。
誰ひとりとして帰るものはおらず、この男を捕らえようと、或いは、討ち果たそうとしたものまで、斬られて死んだ。
紫陽花の周囲から、妖刀に憑かれた男が動く気配はない。
ただ紫陽花を守ろうとするかのような、男の動き。
「どうしてなのかは判りません。ただ、この妖刀は気に入ったものに取り憑き、自らの傀儡へと変えてしまうのです」
そして、持ち主と周囲に不幸をばらまく。
命を喰らうと共に、記憶さえも蝕んでいった妖刀。
そして、その持ち主の記憶と思いはもはや確かめようがない。
雨に濡れて、流され、落ちて零れたように。
「真偽を確かめる術はなく、そして、無視することは出ません。討ち果たすようにとお願い致します」
例えそれが。
妖しの刀に手を握っても、叶えたかった願いが元であっても。
最早、原型も留めぬ呪いとなっているのだから。
「丁度、今から行けば雨の降る手前に、その紫陽花の場所へと辿り着くでしょう」
これといって何か調べて確かめることは出来ないかもしれない。
だが、その紫陽花の色を見ることは出来るだろう。
ほんの少し。
僅かな間だけ、その美しさに触れることは出来る。
「最早、救いのない話ではありますが……どうか」
雨が降れば、妖刀を携えた男と、それが連れるものたちが殺戮に来る。
血に染まらぬ前の紫陽花を。
もしかしたら、それを守りたかっただろう思いの亡骸を。
「ここで終わらせてあげてください」
紫陽花まで血の色に染まる前に。
遙月
初めまして、或いは、何時もお世話になっています。
マスターの遥月です。
少しばかり気が早いものですが。
紫陽花のお話をお届け致します。
今回、実は初めての通常形式のシナリオという事で、自分にとって得意と思っております、心情と情景重視の戦闘シナリオを出させて頂いております。……ドラゴンばかり書いておりましたので、剣戟ものを書きたいなと思いながら。
主に心情の方を優先しつつ、戦闘と絡めて書いていければと。
難しく考えるより、そのキャラクターの心情でこそ勝負するようにプレイングを書いて頂ければ何よりです。
シチュエーションとしては第一章は雨の降る前の紫陽花の園。
二章以降は、雨の降る中での紫陽花の中でのと思っております。また、二章以降は本当に小さいながら断章を挟んで、情報の整理などを。
プレイングの受付は基本として、送れる時ならば何時でもどうぞ。
OPで触れた妖刀に憑かれた男の真実は不明です。
ただ、どうしようもなく救いのないお話であることは確か。
もはや斬ることだけでしか終わることのない物語ですが。
どうぞ、宜しくお願い致します。
第1章 日常
『芳しく咲き誇る華』
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POW : 散策しながら藤を見て回る。
SPD : 藤棚の傍で花を愛でる。
WIZ : 腰掛けながら藤を眺める。
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神賛・ヴァキア
OPには紫陽花とあるが推奨行動欄には藤とある、
とりあえず両方があるとしてプレイングを記載します
馬のマロンウィナー号を連れて行動
たまにはゆっくりと乗馬してやるか、よしよし
馬を撫でてやったり 馬も道草喰ってたりのんびり花の観賞と行きます
紫陽花は食べるなよ。
腹壊すぞ、もっともお前は賢いからそんなもの口にしないだろうがな
リフレッシュしたら一緒に暴れような
ゆるりと流れる風は、雨の気配を連れて。
季節は移ろう。時は流れる。
ならばと、その僅かな一時をと愛馬のマロンウィナーに乗馬して過ごすのは神賛・ヴァキア(鞍上大暴走・f27071)だ。
青鹿毛の愛馬は、常は争うように駆けるからこそか。
ゆったりとした歩調で、周囲を巡る。
周囲に咲き誇る紫陽花は美しい。
それはヴァキアも、そして愛馬のマロンウィナーにも伝わることだ。
或いは。
それの為に何かが起きたのかもしれない。
ひとつの話がまつわるに相応しい、紫陽花たち。
「葉を食べたりするなよ」
毒のある紫陽花。毒のような物語を纏う神秘の色彩。
どんに美しいと思っても、越えてはならない一線があるのだ。
「お前は賢いから、きっと、そんなもの口にはしないだろうが」
ゆっくりと愛馬をよしよしと撫でながら、優しい声をかけるヴァキア。
見渡せば限りなく咲き誇る紫陽花たち。その周囲を巡りながら、のんびりとその色と雰囲気を味わっていく。
愛馬も気に入ったのか、歩調が早くなる。
気分転換。リフレッシュ。
常に駆け抜けるだけが、道と速さではないのだから。
「また全力で走る為に、今はゆっくりしよう」
纏めた髪は、愛馬の歩みに合わせてふわりと揺れ。
優しい空気に、瞼を閉じる。
いずれ暴れて、駆けて、全力でというのなら。
それこそ今は。
雨が来るまでは。
主たるヴァキアの思いを受け取ったのか、マロンウィナーも、その歩みの速度を落とす。
ほんの瞬間の、穏やかなる時。
紫陽花は静かに、揺れ動くことなく。ただ青紫の色彩を見せる。
大成功
🔵🔵🔵
ベルンハルト・マッケンゼン
アドリブ連携大歓迎
(どんよりと曇った空を見上げ、ため息を吐く)
……雨が、降りそうだな。嫌な天気だ。こんな日は、グアテマラシティを思い出す。
遠くにスコールの雨雲が迫る中、獰猛なカイビレスの奴等に追われた記憶を、な。
あの日も、紫陽花ならぬハイビスカスの花が、雨に煙っていた。
あぁ……全く、嫌な天気だ。フッ…
POW
同じく散策している猟兵達の邪魔にならないよう、静かに藤を……
いや、「戦場」を見て回る。
戦闘時の遮蔽物や障害物の位置、射線の通り方など、入念にチェック。
白兵戦、乱戦、追撃戦などあらゆる戦況を想定して備えておく。
風流でないのは承知しているが、これが戦争屋としての生き方なので、な。
戦術的に…フッ。
ああ、雨が来る。
遠い記憶を伴って、湿った風が肌を撫でていく。
どんよりと曇りはじめた空を見上げて、溜息が零れた。
ベルンハルト・マッケンゼン(黄金炎の傭兵・f01418)が見上げた空は、遥か遠い過去を映す。
雨を好むものもいれば、嫌うものもいる。
ベルンハルトにとって、雨とは思い出したくない記憶を伴うものなのだ。
雷を伴う暴雨が迫る中、更に獰猛にして残虐な兵士達に追われた、ある戦場の日のことを。
過去は変わらないし、囚われては自由など何処にあるのか。
だが、フラッシュバックとして蘇る過去の戦場は、確かにあったのだ。
それをなかったことには出来ない。
ベルンハルトの歩んだ人生のひとつで、今の自分を作り出す欠けてはならない欠片だ。
飲み込まれない為に、軽口を叩くベルンハルト。
「あの日も、紫陽花ならぬハイビスカスの花が、雨に煙っていたな」
そして、青紫の美しい紫陽花は、その花言葉の通りに。
ただ冷淡な美しさを咲かせるのみ。
無情の通りに、ベルンハルトの言葉に合わせて揺れもしない。
雨の中でこそ、より艶やかさを増す、その花びら。
例えベルンハルトが過去を思い出しても、花たちは気にしない。
「あぁ……全く、嫌な天気だ。フッ……」
だからと溜息をもうひとつ。
ベルンハルトが歩き、散策して見つめる紫陽花。いいや、『戦場』。
他の者たちの邪魔にはならないように、静かにだが、その青い目は風流とは遠く、鋼のような冷徹さを持つばかり。
ああ、紫陽花が過去の凄惨さを知らぬというのなら。
ベルンハルトも、今ある美しさをまた知らぬと返すのみ。
常に戦場にいるからこその戦争屋。
していうのならば、フラッシュバックも過去の戦場の再現を無意識にしているのかもしれない。
射線、障害物。迫る道に、逃げる通路。
過去に出来たことと重ねて。
考え、計算し、或いは乱戦となった場合や、不意打ちの可能性を考慮していく。
これがベルンハルトの生き方なのだ。
戦争の中で生きるのならば、花の美しさより、戦術の精密さを尊ぶ。
だからこそ。
もしかすれば。
この紫陽花たちも、いずれ、雨の記憶と共に。
妖剣を携える男と戦いの記憶を彩る、ひとつとなるのかもしれない。
「ああ、いや。それは勘弁して欲しいがね……ふっ」
その手のものにはどうにもならないと判るからこそ、ベルンハルトは薄く笑った。
今も過去も、戦場を自分ひとりでどうにか出来るわけではない。
ただ、最善を尽くすのみ。
不条理な世界に、対処していく為に。
だから紫陽花に秘められた意味よりも、この場でどう戦うのかと見つめるのだ。
求めるものは、戦場の先にあると信じて。
大成功
🔵🔵🔵
オヴェリア・ゲランド
とどのつまりはそれだ、剣を振るう理由(ワケ)…剣士という生き物が行き着く最果て。
問題はそれを貫徹出来るか、剣を握ったあの日を忘れないでいられるか、だ。
私は紫陽花を瞳に映し、それから瞑想する。
件の剣士は何を守りたかった?
なぜ剣を執り振るった?
全ては霧の中、そして知ったとて遅き事…されど私は知りたいと思う。
私はただ自らの為に剣を振るう、剣の理に達し頂きを見てなお我が道は終わる事なく続く。
全ては剣の極みへ、そこに意味は無く果たすべき目的は無い。
私はただ剣を振るう為に剣を握ったのだ、既に果たしたゲランド帝国の建国すらも我が目的ではない。
だからこそ知りたい、全ての剣士を。
剣に生きる者の生き様と太刀筋を。
初めて剣を握ったあの日のことを。
追い求め続けた理想の輝きを、何処まで忘れずに抱けるか。
突き詰めればそれこそが剣士の行く道。行き着く最果てのひとつ。
オヴェリア・ゲランド(銀の剣帝・f25174)は僅かに吐息を漏らした。
何処までも貫徹できるか。色褪せずに心に宿し続けられるのか。
少なくとも、曇りて光が翳っても、紫陽花たちの美しさが衰えることはない。
雨の中の花だからかもしれない。
或いは、その程度で変わるようなものではないからかもしれない。
そう、その程度で。
変わり、失い、消えてしまうものを美や誇りと呼べるのだろうか。
剣の頂を求める険しさだ。が、だから喪われてしまった剣の輝きに思いを馳せる。
オヴェリアは青い瞳に紫陽花の姿を映すと、瞼を閉じて瞑想する。
――なあ、何を守りたかったのだ?
剣鬼となったという男の輝きは、確かにあった筈なのだ。
守りたい。だから剣を執り、振るったのだろう。
だが結果として全ては霧の中。雨の中で輪郭を喪うように、何も解りはしない。
もう遅いのだ。過去は変わらないし、変えられない。
全てを知っているかもしれない紫陽花は、変わらぬ色彩を咲かせるのみ。
いいや、だからこそ、より強く思おう。
「私はただ自らの為に剣を振るう」
誓いを立てるように、喪われた剣の輝きの変わりにと、オヴェリアは口にする。
これは忘れない。
決して色褪せず、朽ちさせず、最果てまで抱き続ける夢だと。
「ただ、終わらないのだ」
剣理に達し、頂きをみて、なお道に終わりはない。
全ての極みへと駆け上らんとしたことに、意味と目的はやはりなくとも。
「ただ剣を握り、振るったのだ」
建国を成した剣がオヴェリアである。
天下無双、無窮の剣であろうとも、あくまで剣を振るう為に剣を握ったに過ぎない。
振るい続け、斬り続けた後に、帝国と極まった剣技があるのみ。
「だからこそ」
美しい貌に、超然とした雰囲気を宿し。
雨の気配が滲む風に、長い銀髪をゆらりと靡かせて。
「知りたいと思うのだ」
全ての剣士を。
剣に生きる者の生き様と、故に紡いだ太刀筋を。
その刹那に賭けた輝き、美しさ、そして求める夢と理想を。
「ただ喪われた。もはや判らない。それだけで消すには、なあ、悲しいだろう?」
だから求めよう。
剣を振るう理由。求めた願い。
「これから相見える剣士の振るう刃は、そんな虚しいものではないと、信じている」
紫陽花は揺れることなく、言葉を受け止める。
何処までも冷淡に。
無言で無情に。
それこそ――青紫に染まった、美しい刃のように。
大成功
🔵🔵🔵
政木・朱鞠
WIZで行動
別世界での戦が終わったばかりだし、今はのんびりと遊んで英気をチャージしておきたいね。
この季節ならではの新しい甘味とかに興味があるし、茶店をいろいろ見て回るのも良いかも…。
楽しんでいる反面、猟兵としての職業的な癖なのかな…なんとなくパトロールしている感じになっちゃうかも…つい、人の集まる場所では今後の参考にするため利用できる地形とか不釣り合いなモノを探す様に目線が動いちゃうね。
感覚共有した『忍法・繰り飯綱』を放ち周囲の音に気をつけながら【情報収集】のため見回ろうかな?
出来る事ならオブリビオンの襲撃の際の一般人の避難ルートとかを計画できる要素を集められたら及第点かな…。
アドリブ連帯歓迎
花より団子とはいうけれど。
共にあるから意味があるのだろう。
ひときれの羊羹を口に含み、紫陽花を見つめるは政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)だ。
茶屋は村と、そして道中までしかない。
紫陽花に人斬りの男が出てから、近くの店は全て閉まってしまっている。既に犠牲者が出ている以上、そこに近づくような酔狂はもういないのだろう。
「もったいないな」
ただ、逆にいえば。
甘味を片手に、満開の紫陽花の園を、周囲を気にせず自由気ままに歩き回れるということ。
別の世界で戦いが終わった後なのだから、余計に気持ちを膨らませ、鋭気を養うべきだろうと、朱鞠はもう一切れを口に。
ましてや、朱鞠の自由は条件つきのもの。頭首候補である彼女が、気ままに、自らの人生を楽しめるのには限りがあるのだ。
だから、出来る限りを楽しみたい。
美しいもの、優しいもの、甘いもの。
沢山の世界にあるものに、巡り会える、束の間の安らぎを。
そして、ここで出会った紫陽花はとても冷たい花言葉を持つ。
一方で後から付けられたものは、とても優しいものだ。
――辛抱強い愛情。
このサムライエンパイアで、それが広がっているかは判らない。
けれど、ただ冷たいものばだけでなければいい。誰かが用意していた腰掛けに座って眺める。
赤い瞳がつい、ついと周囲の地形や有り様を追いかけるのは今後の為、剣鬼が来た時の為のもの。猟兵としての習性のような、癖としてのものは、元々、人を守る為にだ。
子狐のような分霊を周囲に放って探させる。地形に、この場に不釣り合いなもの。
感覚を共有した分霊は周囲の音を拾い、万が一、一般人が踏み込んでいたら、非難させられるようにと。
幸い、それらはない。
それでも万が一と、紫陽花と甘味を楽しみながらも、忘れない。
そう、守ることを、忘れない。
「……ああ」
そんな思いを持つ朱鞠だからだろう。
気づいてしまった。
紫陽花が咲き誇る中で守られるように、ひとつの墓石があるということを。
忘れ去られ、けれど、花たちに囲まれて。
その物語りを、その名を、語り、告げるものはもういないけれど。
雨が来る。湿った風が流れる。
知ることのできないものの変わり。
終わるべきものが、来るのだ。
或いは、朽ちるならばこの紫陽花の中、墓石と共にと。
大成功
🔵🔵🔵
鈴木・志乃
花を愛でるなんて久しぶりだな。
普段が切った張ったばっかりだから、こういうのはどうしても遠い世界になりがち。ちゃんと日常に戻ってくる時間を作らないとね。
妖刀に魅入られて、そのままか……
今すぐにでも探したいけど、雨が降るまでは我慢、我慢。
友達に妖刀使いがいるけど、あの子は大丈夫かなあ。戦闘の時は性格変わるから、気づいたら無茶しそうで本当心配。
記憶まで侵食したりは、しないみたいだけど。
妖刀に選ばれた男性ってことは、ここの紫陽花に縁が有ったりしたのかな。今となってはもう分からないけれど、せめてその魂が浮かばれるように戦いたい。彼も、妖刀も。
……綺麗。
ここが血塗れの戦場になるなんて信じられないな。
花を愛でる。
そんな優しいことをするのは何時ぶりだろう。
繊細な思いを抱くのは、とても久しぶりな気がする。
けれど、それがとても大事なのだ。
戦い、争い、守って、傷つけて傷つけられて。そんな日々が続くからこそ、ほんの小さな日常を大事にしたい。
鈴木・志乃(ブラック・f12101)はそう感じているし、考えている。
神秘的なほどに美しい青紫の色彩が満ちる紫陽花の園で、ゆったりと笑みを浮かべた。
けれど、僅かに悲しみで笑顔が翳る。
日常に戻れた自分に対して、これから雨と共に来るのは妖刀に魅入られ、取り憑かれた剣鬼。
もう戻ることのできない、血塗れの道を転がり落ちる男なのだ。
オブリビオンでも、殺人鬼でも、笑顔でいて欲しい。そう願い、渇望するからこそ、紫陽花を愛でながら、剣鬼の男を憂うのだ。
果たして、笑顔になることはあるのだろうか。
この紫陽花を見て、綺麗だと囁くことはあるだろうか。
「我慢、我慢……」
今すぐに探したいと焦るが、自分に言い聞かせる。
雨と共に来るならば待てばいい。
ましてや此処に来るというのなら、この紫陽花たちに何かしらの執着があるのだろう。ならば、やはり此処で戦うというのが、せめてなのかもしれない。
取り憑かれ、魅入られ、最後に残ったのが紫陽花への思いだというのならば。
「気づいたら無茶してしまうのが、妖刀に魅入られる条件なのかな」
ふと友人のことを思い出して、呟く志乃。
戦いや、いざとなれば身を顧みずにという危うさこそ、妖刀を引き寄せる魂の性質なのかもしれない。
命を、魂を。記憶や人格を犠牲にして、それでもと力を求めて、何かの為に。
その友達もまた、無茶をするのだから余計に考えてしまう。
記憶こそは、蝕まれないけれど。
「だからね。心配だし、悲しいし、せめて魂だけは浮かばれるようにって願うよ」
男に残った記憶と感情は、紫陽花を守りたいのだという。
なら、それを叶えてあげたい。
大事に思っている紫陽花たちの中で終わりを。
せめて、ひとかけらの救いがその魂にあるように。
誰だって、終わりは大事なものに包まれて。
出来ることのなら、呪われたその刀さえも。
大切な縁あるものに看取られて、と、願うはず。
どんなに苦痛でも。どんなに狂おしくても。
――願ってはいけいないのかな。
真実は雨と共に零れ落ちた、男の成れ果てに。
大切な紫陽花に包まれて、魂は笑って欲しい。
そう戦いたいと、志乃は願うのだ。
そんな終わりを求めて、志乃は戦うのだ。
オレジンの瞳は、その心のようにゆるりと揺れて。
「……綺麗」
ここが、この花たちが。
血塗れの戦場へと変わるということを、信じられないと。
信じたくないのだと、呟く。
けれど、雨が来る。
ひどく冷たい雨の気配がもうすぐ、そこまで。
優しくて、暖かいものを求めるならば。
それに抗わないといけないのだと、志乃は瞼を伏せた。
血も、涙も、きっとあった男の笑顔と真実も。
洗い流してしまった、雨と戦いが来る。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
如何に同情すべき背景があろうと、これ以上の流血は防がねばなりません
振るう理由すら無き武力など怪物と同義なのですから
ですが妖刀に憑かれた経緯を調べる必要があります
騎士として、相対する者への最低限の礼儀として
近場の村民から●情報収集
妖刀持つ男の経歴や此度の騒動の詳細を可能な限り調査
事態収拾の為に幕府から派遣された侍と振舞えば人心の不安も払拭できるでしょう
紫陽花の園
調査結果振り返り
何故、妖刀を手にしたのか
…花を血で染め怪物と成り果てるなど本意では無かったでしょうに
名か装甲に嗜好が影響されている故か、紫の花は好みです
天然自然の紫陽花を楽しむ等、故郷では不可能な贅沢な一時ですが
楽しむ気にはなれませんね…
狂刃による流血など認められない。
何の罪もない人を傷つける武力など、怪物そのものだ。
如何なる理由と背景があったとしても。
例え、それが同情の余地があり、悲しみを覚えたとしても。
流れる血と、悲劇は止めなければならないのだ。
誇りを持って刃を抱く。
己が身をもって、人々の命と思いを守る。
それがサムライエンパイアの士道であり、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の抱く、騎士道という理想でもあるのだから。
それでも、もしかしたらと調べるトリテレイア。
理由や経緯を知らず、ただ斬るのでは相手と同じこと。全てを確認し、真実を知ることこそ、せめてもの敬意だ。
騎士であろうとすること。
少なくとも、その道を踏み外すことなんて出来ない。
この身は鋼だというのならば、抱く心はせめて。
理想により近づけるように。
そんな、トリテレイアの高潔さ。
ああ、だから。
こんなも苦悩し、真実を前に揺らぐのだ。
幕府より派遣された身として振る舞い、近隣の村から聞き取った話と情報は、心を軋ませるばかり。
常に最善を選べる訳ではない。
冷徹に、現実を見て、流れる血を最小限に。そう、考えても。
「割り切れませんね」
悩み、葛藤し、紫陽花の花園を前に立つトリテレイア。
湿った風はもうすぐ、雨が来ることを知らせている。
「本意ではかったのでしょう」
濡れることでその色艶をより美しくする紫陽花たち。
かつて昔、これを愛する女と、そんな彼女を愛する侍たる男がいた。
が、当時はまだ戦乱。敗れて賊に落ちた者達がここに辿り着いた。
村を荒し、財を奪い、人を殺す者達はかつて武士であったとは信じられないほど。その中には尋常ならざる化生――オブリビオンの存在もいた。
その犠牲者の中には、男の愛する女もいたのだという。
力の足りぬ己に怒り、嘆き、狂い。
男は社に封じられていた妖刀に手を伸ばす。
賊達は皆、斬り伏せる。彼は見事、仇を討ち果たし、村を救ったのだ。その魂と理性と引き換えに。
だが、零したものは返らない。喪ったものは取り戻せない。
せめて守りたかった、女の愛した紫陽花たち。
それを女の手向けと、そして墓標とすべく。
決して近寄るなと、妖刀に蝕まれる思考の中で告げて。
後、紫陽花たちに近づく者は皆、なんであろと斬り捨て始めてしまった。
「結局、愛した人の花びらを血で染めて――」
本意ではなかっただろう。
どうしてそうしたのか。本人に聞くしか出来ないのに、本人さえ覚えていない始末。
残されたのは、ひとつの墓石と、それを取り囲む無数の紫陽花たち。
美しく、鮮やかに。
雨の中で、静かに眠るように。
「天然の草花を楽しむなど、故郷では出来ない贅沢なのですが」
トリテレイアも紫の花は好きだ。
名や身、纏う武具の装甲といった、自らにまつわるものにそれが施されているからか。
だが、これは余りにも悲しい青紫の花だ。
「楽しむ気にはなれませんね……」
正義を求めて。
何もかも失い、剣鬼に墜ちた者に残された、紫陽花たち。
戦うならば、微塵も揺らぐ事はできないからこそ。
空が泣いて、雨が降るまで。
ほんの少しの間だけ、トリテレイアの思いは揺れる。
理想と現実。
どうしようもない、その狭間で。
足りぬと嘆いた男と、紛い物だと懊悩するトリテレイア。
重なるのは、錯覚だろうか。
紫陽花と共に、雨を待つ。
悲しい色彩に幕引きを。
惨劇の赤で濡れて、染まりきる前に。
大成功
🔵🔵🔵
セツリ・ミナカタ
記憶の中の紫陽花は、雨と共にある
いつだって眼裏へ鮮やかに浮かび上がる景色
紫、青、白、緑、とりどりの花たち
初夏の里、屋敷の庭でそぼ降る雨と、それを眺めるあの人の、
……見事に咲き誇ったものだな。日の下で見るお前達もまた格別の美しさだ
叶えたい思いも大切なものも、時に抱えるには苦しいが忘れたくはないよ
その刀の主にとって今が不幸せであるのか、私が判じられるものではないけれど
かの者が何を望んでいようと、終わらせるしかないのだろう
ならばそれに力を尽くすだけだ
――ああ、雨の匂いがする
どれほどの時が流れても。
例え、もう取り返しの付かない程に遠くなったとしても。
記憶の中で、今もなお、雨と共に花は咲く。
瞼を閉じるセツリ・ミナカタ(シャトヤンシー・f27093)の心の中で、それはとても色鮮やかに。
感情を伴う色彩は、紫に青、白に緑。色とりどりのものが、雨音と共に歌うよう、揺れている。
濡れて、なお艶やかに。
しずしずという雨の中で美しく。
初夏の里、屋敷の庭で、あの人が眺める姿こそ……。
――ああ、見事に咲き誇ったものだな。
その声は、誰のものだったのか。
何に向けてだったのか。
踏みにじられた故郷と、思い出は、決して戻らない。
だから瞼をあけよう。
日の下で見るお前達は、また格段と、誇らしいまでに美しいのだから。
まだ全てを喪っていない。
灰のようにぼろぼろと崩れ落ちるほど、セツリの心は脆くない。
目的を果たすまでは。そして、その最中で朽ちるつもりもない。
だから、咲き誇る紫陽花に思いを馳せよう。
一時、一時に触れられる美に、心を揺らそう。
――私の鼓動に宿る感情は、まだあるのだ。
炎のような激しさは、けれど、やはり温もりだってある。
だからこそこそ、抱え続ける苦しさをセツリは判る。大切だから。大事だから。その重さは増すのだ。
「私の感情は死んでいないよ。過去からも、続いている」
例え苦しくても、忘れたくない。
振り返ればどんな悲痛さが襲ってきたとしても、大切な思い出はそのままに。
輝かしいから。優しいから。何より、それが一番の強さになるのだから。
「かの刀の主は何を望んだのだろう」
紫陽花は応えない。
冷淡に、沈黙を続ける青紫の花びらへと、セツリは言葉を続ける。
「今が幸せか、不幸せか。そんな事は私には判らない。願いを、或いは、復讐を。遂げた先が忘却と呪詛というのなら、ああ、判じることはできない」
だって、セツリはその道の最中。
断じられる程、遂げてはいないのだ。
「けれど、もうダメなのだ」
知っているなら紫陽花よ、応えて欲しい。
そんな無理を祈りつつ、飾り付ける貴石へと触れる。
祈りを秘めた、その輝きに。花のように美しく、思いを込められたそれに。
「かの者が何を望んでいようと、終わらせるしかないのだろう」
忘れてしまった成れ果ての剣鬼。
もしも、妖刀に手を伸ばしてさえ叶えた願いさえも、血濡れてしまったら。
なんて悲しい悲劇。救いのない転落の話だろう。
「ならばそれに力を尽くすだけだ。もしも、せめて。叶えられた願いがあるなら、それが当人さえ忘れてしまったものだとしても」
その祈り、願い、思いを。
浄化の炎で焼いて、空へと舞わせて、届けよう。
「――ああ、雨の匂いがする」
立ちこめる雨雲さえ、越えて、月と星の浮かぶ夜空へ。
自由にして、美しい、光の花園へと、届けてみせよう。
終わりの、先へ。
この身と心は、決して鬼なる闇へと墜ちることなく。
そんな夢を、セツリは思い描く。
大成功
🔵🔵🔵
鞍馬・景正
如何なる理由があろうと、左道に堕ちたなら其処まで。
次の犠牲は、その魔剣士と徒党の首で最期になるでしょう。
◆鑑賞
とはいえ、敵の見えない間から剣気を発しても疲弊するばかり。
暫し、風流に身を任せるとしましょうか。
手毬のように咲く楚々たる淡青も、閑雅なる薄紫も等しく美しい。
俗に、紫陽花は移り気の花とも呼ばれるそうですが、それも許せるような可憐さです。
いずれも優しい色艶は、私のような無骨者の心すら慰めてくれますが。
彼の剣鬼とやら、血潮に塗れた身でこの透徹なる色を見ては、眩し過ぎて苦しくならぬだろうか。
それとも既に目蓋は鎖して、その裏に描かれるものを追い求めているだけなのか。
――刃を交えれば、何か解るか。
如何なる理由があったとしても。
それが悲劇や、或いは、願いの為だっとしても。
左道に墜ちたのならば其処まで。鬼へと果てれば、戻ることなど出来はしないのだ。一度枯れた花が、どうしてその瑞々しき色彩を取り戻せよう。
誇りと正しさも同じこと。
烈士として刀を携える鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)だからこそ、その信念を揺らがせることはない。
剣士として。義を掲げるものとして。何より、矜持にかけて。
違えることなどあってはならないと、物静かながら、その瑠璃色の眸が凄烈に語っている。
「花に血の色を重ねる続けるなど、無粋でしょう」
冥府魔道。修羅に墜ちた剣鬼と、その徒党の首こそ、最後の犠牲者とするのみ。
次に流れる血が、終わりの赤さと決め、瞼を伏せる鞍馬。
瞑色の髪が、冷たい風で揺れる。
雨が来ればその時こそ、刃にて問われる時。
だからこそ、その身から滲ませる剣気を緩ませ、風と共に消していく。
花に血は無粋というのなら。その前で武気を放つ無骨さもまただ。
「そうですね。ええ、暫し、風流に身を任せるとしましょうか」
瞼を開けば、紫陽花が咲いている。
手鞠のように楚々として咲く、小さな青の花びらたち。
或いは、静かなる上品さを匂わせる紫の色彩。
ひとつ、ひとつが美しく、優しい色艶は、剣と士道に生きる鞍馬の心も慰めるほど。
決して主張は強くない。
むしろ物静かに過ぎる程だが、思いを馳せるには相応しい。
移り気にて、冷淡。
そんな花言葉さえ許せてしまう、この小さな花の可憐さ。
忘れないで。見逃さないで。
そんな歌う声さえ、鞍馬には聞こえてきそうなほどに。
梅雨の降りしきる雨の中では、花とて薫ることはできないからこそ、その姿のみで人の心を惹き付けるのかもしれない。
「彼の剣鬼には、もう花の色も、歌も、届かないのでしょうか」
血潮に濡れ、錆び付いた身と心では、この透徹なる色は眩しすぎるのだろうか。
苦しく、痛むことにならないのだろうか。
これを血で穢すということに。
それとも、もう、何も見えず、届かないのだろうか。
目蓋は鎖して、心は閉じ、過去に描いた何かを追い求め続けるだけなのか。剣鬼は振るう妖刀のみが全てで、心はもはや人のそれではないと。
ああ、ならば何故、この紫陽花たちに、雨と共に幾たびも来るのか。
美しく、繊細にして、優美なる紫陽花たち。
雨に濡れて、より、その姿は映えるというもの。
そこに情感を覚えるからこそ。
「――刃を交えれば、何か解るか」
音として。
響くのは、近づく雨音のみ。
誰の声も届かず、流れず、途絶えた中で。
刃だけが、何を訴えるのならば。
それを零し、流し、消さぬ為にと、鞍馬は再び瞼を伏せる。
瑠璃の眸は同じ剣士だっただろう男の残滓を探して。
雨を待つ。
流れた思いと記憶は、果たして、見つかるのか。
可憐なる紫陽花は、何も語らない。
全てを見届けることこそ、自らの役目だとばかりに。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
f01440シャルと行動
妖刀に付かれてまで守ろうとする紫陽花ってのがどんなモンか、興味あるぜ。
最近はシャルと遊ぶのも出来なかったから、今回のは丁度良い息抜きだ。
走ると転ぶぞ?と言いながら、紫陽花を見て回る。なるほど、確かに。俺がUDCで見た紫陽花とは少し違う気がする。なんつーか、上手く言えねぇが…目を奪う、っつーか。捉えて離さないっつーか。
確かに『心を奪う』ってのも冗談じゃねぇのかもな。
上手く撮れたか?とシャルに聞きながら。あいつが転ばないように少し後ろから追い掛けつつ。
紫陽花の園…紫陽花以外には何かあるだろうか、と少し探しつつ。剣鬼にゆかりのありそうなモンを少しだけ探してみるぜ
清川・シャル
f08018カイムと
紫陽花はこの時期ならではですよね、凄く好きな花です
梅雨がちょっと苦手だけど、紫陽花の為なら外に出ます、お散歩します。
たまにゆっくりするのもいいよね。
愛用の一眼レフカメラを持って散策しましょう
ねぇ綺麗〜!と走り出しそうですけど
エンパイア、久しぶりに来たなあ。やっぱり空気が違うというか、美味しい。馴染む感じ。
ぽっくり下駄を鳴らしながら、彼のちょっと先でも歩きながらシャッターを切りましょう
ピンクから青のグラデーションが本当に綺麗。
四季折々をカメラに収めるようになったけど、いつでも記憶とともに一緒に居れるっていうのが好き
写真、プリントアウトしてお部屋に飾ろうね
それはどんな花なのだろう。
妖刀を手にして、魂を蝕まれても、守ろうとした紫陽花は。
ただ綺麗なだけではないだろう。
優しい色合いを見せるだけではないだろう。
きっと、沢山の思いを注がれた花たちなのだ。
或いは、多くの思い出を小さな花びらとして連ねる紫陽花。
でなければ、何をしても守ろうだなんて思わないだろう。
そんな美しさと、優しさを見せたくて、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、連れ添うふんわりとした少女へと紫の瞳を向ける。
「どうしたのかな、カイム」
柔らかな月明かりを思わせる白金の髪。
青い瞳は何処までも純粋に。自分を抑える必要のない相手だからと、清川・シャル(無銘・f01440)は自らの在り方を見せる。
「雨は苦手だけれど、紫陽花の為なら外に出ます、お散歩します。雨が降る前に、好きな紫陽花たちと触れ合います」
ゆるやかに、ふんわりと紡がれるシャルの声は歌うかのよう。
そしてそのままに駆け出すのだ。
ふわり、くるりと。
「シャルは梅雨は苦手です。でも、この季節にしか咲かないのが紫陽花なんですから」
頼りないではなく、頼れるカイムがいるからこそ。
その足取りはあまりに軽やかに。
ぽっくり、こっくり、下駄を鳴らして。
「走ると転ぶぞ?」
「ねぇ、綺麗〜! ほら、カイム、見て回って、写真もとりましょう」
愛用する一眼レフのカメラを手に、浮かれてはしゃぐようなシャル。
追いかけるカイムの声はゆっくりと、でも、決して距離は離れない。一定の距離で、一定のリズムで、二人は言葉と歩みを重ねていく。
転ばないようにと心配して少し後ろから追いかけるカイムと、だから安心しておっとりと足音を刻むシャル。
決して離れない。
この距離こそ、ふたりの間隔。
ふたりの関係性。
決して誰も埋めることのできないそれを、紫陽花たちが取り囲む。
ああ、連れてきてよかったとカイムは安堵する。
微笑むシャルは年相応の無邪気さで、薄紅から青、そして紫へとグラデーションを変えていく花びらを見つめている。
こんな笑顔と、安らぎが欲しかった。
ゆっくりと、穏やかに流れていく時間と場所が。
息抜きであり、そして、日々を生きる心に潤いと活力、色彩を求めて。
もしかしたら、此処は誰にとって、そういう場所だったのかもしれない。それを剣鬼が忘れてしまっていたとしたら悲しすぎるけれど。
雨の気配が漂い、近づく中で、幾度となくシャルがシャッターを切り続ける。
四季折々を、一枚ずつ写真に収めて。そこに記憶を一緒に乗せて。
見る度に思い出に耽りたい。こんな幸せがあったのだと、シャルは何度でも味わいたい。
「上手く写真は撮れたか?」
背後からかけられる、カイムの優しい声。
それさえも写真の一枚に収められたら、なんて素敵なのだろう。
いいや、この写真を見る時、この声が傍で聞こえる、未来があるなら。
それを幸せだと、云うのだろう。
「ほら、カイム。一緒に写真にうつりましょう?」
「ああ、構わないぜ。シャルの頼みならなんでもだ」
シャルにとっては馴染み深く、吸い込めば美味しいとさえ感じるサムライエンパイアの風の中で、ふたりは寄り添う。
カイムはふと思う。共に見て回り、そして、背景に取ろうとする紫陽花はUDCで見てきたそれらとは何かが違う。
何というのだろうか。
上手くいえない。言葉に出来ない。
「目を奪う、っつーか、捉えて離さないというか」
「それはシャルといるからだよね」
「ああ、それもきっとあるんだろうな」
そんな惚気を聞き届ける紫陽花は、確かに魅力的だ。
物静かな色彩は、一種の気品さえ溢れるよう。
「確かに『心を奪う』、っていうのも冗談じゃないのかもな」
「だったら、何度でも心を奪われてね。シャルが奪い返して、取り戻してみせるから」
カイムの腕に抱きつくシャル。
一緒にカメラのレンズへと写る為に。
何度でも、心の中に思い出す為に。
「綺麗に撮れたら、プリントアウトして、部屋に飾ろうね」
はしゃぐシャルが転ばないように、支えるカイム。
何度も、何度も。ずっと注意していたその頬は緩んで。
紫陽花のように、音も無く、微笑んでいた。
例えば。
腰掛けとしておかれただろう木々の長椅子に、机。
もう残骸になれかけた、色々は。
誰かと、誰か。きっと剣鬼になった男と、誰かが此処に来ていた証だろうけれど。
そんな幸せを受けて咲き誇る姿こそが、この紫陽花の真実なのだろうから。
「転んで痛い思い出を作るなよ、シャル」
それには触れない。
悲しい思い出より、暖かくて幸せな色彩のみを。
一枚の写真に残すべく。
それはきっと色褪せない。
例え失われても、別の世界に移ったとしても。
紫陽花の前で微笑み合う、恋人たちの姿は、決して。
雨がもっと足が遅ければいいのにと。
冷たく、美しく。
紫陽花はふたりの姿を抱きしめるように、その色彩で包み込んでいた。
ぱしゃりと。
瞬間の幸せが、写真の一枚に切り取られ、映し出された。
そのひとひらは、きっと永遠に。
雨が終わっても、紫陽花が枯れても、その色と思い出を残すのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼静
男が刀を手に取った理由は不明、か。
何のためなのか、誰のためなのか…本来なら存在した筈なのだ。
研磨した腕を振るう明確な理由と機会が。
…いや、男が悪い訳ではないのか。
それ故に悔やまれるな、剣を交えるのは。
只の討伐なら容易い。
だが…救いのない話、と彼女は言っていた。
(紫陽花の先を一瞥し)
ならば――その過酷に挑むとしよう。
▼動
…古来、人が埋まると花の色に影響が出ると聞く。
【俯瞰ノ眼】で場に満ちる流れを読み、
周囲や地中に何か存在しないか確認。
考えすぎかもしれないが、
男がこの場を離れない理由の足しにはなるだろう。
…直に此処も戦場になる。
紫陽花の毒を吸い影響が出ないよう
マフラーで口元を覆っておく。
男が、その妖刀を手に取った理由はもはや、露と消えている。
いや、解るかもしれない。調べ、聞き、探せば。
だが問いただし、その胸の奥にあるものに、確りと触れることは出来ないのだ。
真実もまた、失われてしまった。
雨の気配は近づいている。
それは剣鬼となった男が、この紫陽花の園へと迫るという事。
「何の為なのか、誰の為なのか……本来なら存在していた筈なのだ」
武芸を磨き、武人たろうとするもの。
己の為か、それとも、誰が為か。
向かう先に違いはあったとしても、その光はある筈なのだ。
研磨した腕を振るう明確な理由と機会。振るう切っ先の先で、追い求めた理想と強さ。
それが失われたことに、悲しみを抱くのはアネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)。
彼もまた、ひとりの武人なのだ。
積み上げ、磨き上げた剣技と、そこに宿る思いは確かにある。
「……いや、男が悪い訳ではないのか」
無意識に触れていた腰の愛刀の柄。指先で撫でるように触れて、言葉を続ける。
「それ故に悔やまれるな、剣を交えるのは」
想いと信念を宿した刀剣とこそ、交えたい。
命の遣り取りが全てではなく、違う者同士が並び立ち、競い合うからこそ剣の道の頂きは輝かしく、誇りさえあるのだ。
ただの討伐なら容易い。
難易度の問題ではなく、それは遂げるべきもの。
飢えた虎を殺すのではなく、狂った龍を討つでもない。
だが失われ、救いのないものを語るならば。
飢えた虎に守護の想いを抱かせ、狂いし龍を鎮めて守り神へと。
そんな、途方もないお伽噺。
ただ剣戟の最中、一振りの刃で叶うものではないのだから。
救いはない。もう最初にそう諭されているのに、なお、諦めないアネット。
その漆黒の瞳は、紫陽花に向けられている。
冷淡に。無情に。小さな青紫の花びらを纏う、その姿へ。
「ならば――その過酷に挑むとしよう」
決意し、誓い、告げたアネット。
故に、瞳はただの色を映すに非ず。
俯瞰ノ眼として開かれた瞳は、もはや物質を捉えるだけではない。
その場に満ちて流れる気と力の流れ、地形の構造さえも見抜く心眼の極致。
古来より、人が埋まればその土の上で咲く花の色は変わるという。
気脈の流れというのもそういうものだ。
四神相応。その霊獣たちに色が当てはめられるのも、また同様だ。
ならば、この紫陽花たちの元に眠るのは何か。
美しく、冷たくて、無情に。それこそ涙のような悲しい色に思えるのは、アネットの錯覚なのか。
考えすぎかもしれない。ただの根拠のない論だ。
だが。アネットの心眼で捉えるのは、一筋の流れだ。
紫陽花の中心から渦を巻いて、紫陽花たちへと辿り着く、とても悲しい色。いいや、悲しみの気。
「そうだな。この地に未練と、執着があるから、離れないのだな」
紫陽花たちに気をつけながら歩み寄り、辿り着いた先は紫陽花の園の中心。
花たちに囲まれて守られ、祝福され、その全てを捧げるように。
ぽつんと、あるりのはひとつの墓石。
余りにも質素で、他に何もできなかったのだと悔やむように。
名前さえなく、色も形も墓石というには本来、相応しくないだろう。
ただ囲む紫陽花と、捧げられた念の残り香が、愛しさと悲しさを漂わせている。
――冷淡なあなたは美しい。
その花言葉を持つ、紫陽花。
――辛抱強い愛情。
その花言葉もを持つ、紫陽花。
「そうか」
墓石の下に埋もれる気は、女性のような柔らかさ。
しっとりと、穏やかに。
でもどうしようもない涙と哀惜をもって。
「この、『彼女』の為に」
そして、『彼女の為の紫陽花たち』の為に。
アネットの知り得た真実は、欠片のひとつ。
考えの足しにしかならず、刃を磨くものにはならない。
けれど。
黙祷し、鎮魂を祈る。
名も知らぬ女へと。紫陽花に囲まれるばかりの、魂へと。
「ここはじき戦場になる。それを許して欲しい」
マフラーで口元を覆うアネット。
それは紫陽花に毒があるからというだけではない。
どうしようもない悲しみは、呪いという毒にもなるから。
これ以上、悲しい色を吸い込まない為に。
「剣鬼と墜ちた彼を見せることを、許して欲くれ」
マフラーに覆われた口で、呟く。
ああ、終わらせなければ。
救いは何処に。空が泣きそうな色を湛える下で。
アネットは愛刀へと触れる。それをもって紡ぐ剣閃は、何を辿り、斬り裂き、見出すのか。
答えは、きっと、雨の中にある。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
……其の願いの容に覚えがある
唯々、護りたいと
己の何をも犠牲とする事に為ろうが、叶えたいと望んだ
しかし其れは叶わない――叶えてはならない
あまり荒らす様な事にならんよう、出来れば場を選びたい処ではあるが……
確認交えて紫陽花の間を巡り、端で脚を止めて眺め遣る
鮮やかな彩、其の1つ1つが異なる様相は
人が懐く願いや祈りの形が皆異なる様に、其々に美しいもので在るだろう
同様に――雨の元、彩の移り行く様は
願いが変容してゆく様に似ているやもしれん
戻らぬ其れは、何れ枯れ果てる花に似て
元の姿とはまるで異なるモノへと変わり果ててゆく
不変のものなぞ此の世に存在しないと解ってはいても
――憐れと云うには無情な事だ……
その願いの容に覚えがある。
瞼を閉じれば、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の記憶に浮かぶ、かつてのそれ。
悲しく、痛ましい。そう表現するには、とても深すぎるもの。
唯々、護りたいのだと。
己の何をかもを犠牲とする事に為ろうが、叶えたいと望んだ。
悲痛という言葉では生ぬるい。
絶叫が枯れ果てた先でこそ、ようやく、容となる。
しかし其れは叶わない――叶えてはならない。
何故。どうして。
問うことさえ、なくなった先でなのだから。
犠牲にするのは己と、それを取り巻く全てだから。
「叶えてはならないのだ。失い続け、身と心を削り、魂を亡くした先でなど」
呟き、石榴のような赤い隻眼で紫陽花たちを見つめる鷲生。
ただ護りたい。その為に全てを犠牲にする。その道筋を知っているかのような、悲しみと痛みに満ちたそれを、揺らして。
「それは狂気だ。せめて、この美しい花がそれに踏み散らされないようにせねばな」
これを男は護りたかったのだろう。
少なくとも護りたいひとつだったのではないだろうか。
ならば、その祈りは叶わずとも、想いだけは鷲生も尊重したい。
「出来れば場は選びたい処ではあるが……」
剣鬼が何処から現れるか解らない。雨と共にくるというだけだ。
ならば外周を回り続けるしかなく、鷲生はゆっくりと歩を進め続ける。
いや、その最中で。
ふと足が止まる。ぐるりと巡った端で、眺め遣るは紫陽花の冷たい美しさ。
いいや、それは何も単色ではない。
外より眺めれば解る。青に、青紫、僅かに白いものや薄紅をはいたものとてあるのだ。
鮮やかなる彩は様々。ひとつひとつが異なり、織りなすのはまるで綾模様の布のよう。
皆がその一糸、一糸に祈りと願いを込め、形と色を成し、作り上げた美しさに他ならない。
ならばこそ。
雨の元、彩をの移り行く姿は願いが変容していく様に似ているだろう。
梅雨があければ、この紫陽花も枯れ果てるのだ。
どんな祈りと願いが込めれていたとしても。
不変なるものなど存在しない。
世は儚き諸行無常。
元の姿に戻れぬ枯れ花は、まるで異なるモノへと変わり果てていく。
それこそ、祈りが強ければ強いほど。
護りたいという願いが強ければ強い程、それは異なる妖しへと変貌するのだろう。
人はそれを、鬼と呼ぶ。
「不変のものなぞ此の世に存在しないと解ってはいても」
剣鬼に墜ちたものこそ、想いの強さ故に。
移ろうモノこそ、この世界なのだから。
逆らい、留まり、濁りて墜ちる。
それはさながら、流れることを止めた水流のように。
永遠などはありはしないと、残酷なまでに美しい色彩が、醜へと果てた想いの骸を包む。
それもまた、誰かの祈りの糸で織りなした一枚の布図であるならば。
「――憐れと云うには無情な事だ……」
世界は、なんと儚き諸行無常。
枯れ果てる定めの紫陽花に。斬られて終わるしかない剣鬼に。
憐れみとそそぐは、空の雨ばかり。
涙を零してくれる者は、みな果てしているのか。
もう、誰もいないからこそ。
鬼へと成り果てたのか。
ならば冷酷に。冷淡に。そして怜悧な刃をもって。
然るべき場所へと葬り、導くべきのみかと、鷲生は嘆息して。
石榴のような赤い隻眼を瞼で閉じる。
煙草を探して懐へと潜る指。けれど、紫陽花の色が掠れるのを躊躇い、指先で摘ままれたそれに火がつくことはない。
紫煙は、迫る雨が上がれば。
その時に。
大成功
🔵🔵🔵
百鬼・景近
【花守】二人で
(生まれや経緯こそ違えど、互いに憑き纏う忌まわしき力が原因で、守りたかったものを失くした身――さて、心の奥底に思うところは――)
――やっぱり君は随分な物好きだね
また気紛れに声を掛けてきたかと思えば、こんなに見事な花園と静謐な空気の中に、よりにもよって俺と誘って楽しもうなんて
――酷いなぁ?
(軽く冗談めかして応じつつも、まぁ本当のところは、解っている――
何とも曰く有り気な話なれど、だからこそ――妖しだの呪いだのが絡む仕事には適任だものね、俺達
そんな言葉は胸中に沈め、今はそっと静かに花に目を向け)
それにしても、本当に綺麗だね
(それなのに、嗚呼、無常なんて――)
…穢す訳には、いかないね
呉羽・伊織
【花守】2人でふらり
(不幸をばらまく、妖刀――俺もコイツも、今でこそそんな呪いもある程度は抑えているものの、嘗ては――
……だから、如何しても、な
表にこそ出さぬも、きっと馳せる思いも互いに似た様な――)
おう、お前こそ相変わらず酔狂だな!
…おい、なんかちょっぴり虚しくなるコト言うなよ
フツーの花園なら女の子誘ってたに決まってんだろ?
でも裏話があるんじゃあ、なぁ?
(飄々と冗談紡ぎつつも、誘った理由は無論、此処に思うところがあったから――曰く付きの地にゃ、曰く付きの身がお似合いだろうと――
でも今だけはそんな思考を休め、目も心も花に向けて一息)
嵐の前の静けさ、か
――ああ、この花までは変わり果てぬように
心の奥底、揺蕩う本音を掬いて、見ることなど出来はしまい。
思う事は雨の裡で烟るように。
輪郭も定かでは無く、そして、告げようともしない。
ああ、雨はまだ遠いというのに。
妖しく、そして影のようにゆらりと。
その独特なる雰囲気を漂わせて歩くは、百鬼・景近(化野・f10122)。
産まれや経緯は違えども。
互いに憑き纏う忌まわしき呪い。守りたかったものを失いし身は、さりとて、決して真実の貌をみせず、色を出さず。
只管、水底に沈ませるように、思いを隠す。
「――やっぱり君は随分な物好きだね」
気紛れに声をかけられたと思えば、百鬼が誘われたのは冷徹と幻想の紫陽花の園。見事なる美しさと、静謐なる空気の中で言葉を転がす。
よりにもよって。
呪われたものと来る場ではないよと。
「おう、お前こそ相変わらず酔狂だな!」
が、返される声はなんとも軽い。
ふらりへらり。風が儘にと気楽な呉羽・伊織(翳・f03578)の態度は百鬼とは対照的なほど。
いいや、本当にそうか。
ならば、並びて歩く姿に違和感ないのは何故なのか。
何処か幽鬼たちが、遊び歩くに似ている。
戯れに。心残りを、更に置いて。
影ばかりが花と共に歩き踊るように、ふらり、ゆらりと。
「よりにもよって、俺と楽しもうだなんて」
真実と本音。思いと情。
全てを光から隠しながら、二人は言葉を交わす。
「――酷いよなぁ」
呟く百鬼のそれも、何処までが冗談と遊び事か。
「……おい、なんかちょっぴり虚しくなるコト言うなよ」
酷いのはどちらだと、ひらり、ふらりと声を震わせる伊織。
「フツーの花園なら女の子誘ってたに決まってんだろ? でも裏がある奴を呼ぶってことは、話にもあるってこと」
つまりは妖刀。魂と心蝕む剣鬼の握るそれ。
なんとも軽薄に傾くような二人でありながら、呪いへの情は、秘めることできず、瞳と声色に僅かに滲む。
「でも裏話があるんじゃあ、なぁ? 女の子は誘えないさ。お前誘うしかないじゃないか」
冗談で隠せぬ、妖しき刀への情念の色は如何に。
怒りか。嘆きか。悲しみか。それとも憎しみとなるか、哀惜となるか。
その全てを曝け出すことはなく。
不幸をばらまく、妖刀。
伊織も百鬼も、今でこそそんな呪いもある程度は抑えているものの、嘗ては、そう。
何とも曰く有り気な話なれど、だからこそ。
妖しに呪い、蝕む影が絡む仕事には適任。
喉の奥を成らす事も出来ず、或いはせず、百鬼は胸の中でのみ呟き、伊織は飄々と言葉を続けるばかり。
曰く付きの場所には、曰く付きの身がお似合いだろう。
表に出さぬも、思い馳せるはきっと似た様なことだろう。
正面より、真っ向より。感情と信念を見せるに見合うものいれば、それを隠すことで色艶と鋭さを持つものもいる。
ふたりは、恐らく後者。
呪いに引き寄せられ、呪いに適して、呪いと対峙するには、幽鬼こそよい。
ああ、こんな暗鬱で屈折した思いなど。
なんとも、無意味な。
今度こそ百鬼は笑い、そっと静かに、赤い眸で紫陽花を見つめる。
「それにしても、本当に綺麗だね」
が、無情。無常。世は移ろい、願いは果てて。
呪われた剣鬼ばかりが、やってくる。
「嵐の前の静けさ、か」
物静かに、揺れることもなく青紫の花びらが咲く。
それは小さな折り紙を、幾つも幾つも束ねたようで。
そのひとつひとつに、祈りがあっても可笑しくないような、神秘的な色彩。言わば、千羽鶴。叶える為に、いくらでも綴られている。
誰が、何の為に。
解らぬ、知らぬ、聞こえぬ見えぬ。
呪詛の闇に沈んで、何も。ただ、息遣いだけは迫るように感じるから。
「……穢す訳には、いかないね」
「――ああ、この花までは変わり果てぬように」
伊織が思考を休めるのは、僅かな合間。
雨が降りはじめる、その間だけ。
ただ全てのしがらみと思いを棄てて、紫陽花の美しさへと、思いを馳せる。その色に、濡れるように。
どうせ。
妖刀がくれば。
また棄てた筈のモノを、また拾い、胸に抱えるから。
この一時だけは。
変わり果てるとは、伊織と百鬼の有り様のことなのだろうから。
ならば、この花たちだけはと。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
忠海・雷火
斬って、終わり。何時ものように、多くの仕事がそうであるように
今回もそうして終わるとしても、特に問題は無いのだけれど
……そうね。時間と状況が許す限りは、想いを知りたい貴女(カイラ)の為にも
手分けして、少し探してみましょうか
▼
村外れに紫陽花がある以上、村に何か知っている者が居ないかしら
花園や、関係する村人や、妖刀の件
犠牲者の話もあるでしょうし、訊ねられる事は聞いておきましょう
△
訊く相手は生者に限らない
ネクロオーブで土地に根付いた、特に思念が強い死霊を喚び、話が聞けるか試してみよう
確たる証左は得られず、何も変わりはしないとしても
確かにあった筈の何か……その全てを見もせず踏み散らす事は、したくないから
花も散れば終わるように。
斬って終わり。斬れば終わり。
多くの出来事、何時もの仕事がそうであるように。
全ては無情。刃を振るえば、するりと片付くものだけれども。
「そうね」
今回もそれでいい筈なのだ。
何も問題など、ないのだけれど。
忠海・雷火(襲の氷炎・f03441は小さく呟く。
深紅の瞳を気怠げに揺らす姿から、その感情を見て取ることなど出来ずとも、続く言葉は冷淡ではない。
「時間と状況が許す限りは、想いを知りたい貴女(カイラ)の為にも」
この身に宿る、もうひとつの人格。
その為にもと、紫黒の髪をかきあげ、紫陽花の咲き誇る園へと、脚を編み入れる。
途中、村に寄り、聞き込みはしている。
花園での犠牲者の殆どは、村人ではなく旅人であるという。
そして、そこに現れるようになった男は、この周囲を守る侍であったのだと。
だが、いまだ戦乱が起きていた頃に、武士崩れの者達が賊として流れ着き、この辺りを脅かした。今は泰平の世。もはや過去の亡霊たちは現れぬが。
その中にはオビリオンの姿もあったという。
社に封じられていた妖刀。それを執らねば立ち向かえぬ程の悪逆の賊。
もっとも、それは半ば仇討ち。復讐だったのだろうとも村人は語っていた。
真実は男の中にしかない。
そしてそれは、妖刀に蝕まれて、消えてしまったものなれど。
「訊く相手は生者に限らないわね」
雷火が指先で触れるのはブラックオパールのブレスレットだ。
死霊を操る術を持つからこそ、この土地に根付く程に縁の深い霊魂を呼び出そうとする。
確かなる証左など、なかったとしても。
例え得られたとしても、これから先は何も変わらないとしても。
ただ踏みにじるのが全てなのか。
物静かに咲く花のみぞ知る物語を、血は血のままにと散らすのをよしとできないから。
それこそ、想いを知る為に。
カイラというもうひとりの自分と。
それから、剣鬼の男と、自分たちと――呼び出したモノの為に。
霊魂は踊る。浮かぶ遊色とともに。
そして、留まる。何も語れぬ、紫陽花の上で。
『――悲しき』
そして、歌う。青紫の花びらの上で。
誰にも告げられなかった悲嘆は、聞き手である雷火の想念に触れて、流れ込む。
『この紫陽花が好きだといった私の為に。貴方は、血で濡れ続けるのですね。共に好いた花を、血の赤さで濡らすことを、代償として』
これは、剣鬼に墜ちた男の愛した女。
報復と仇討ち。
何より、この紫陽花の園を、賊に焼かれぬ為に。
最後に残った思い出と、愛しき残滓が為に。
ようやく語る唇をもった女の情念は、止めどなく流れ出る。
「…………」
『私が紫陽花の色彩に囲まれる代わり、貴方は、血の色彩に囲まれて。最早、触れ合えぬのですね。……雨が全てを流してしまう、その時以外』
男は妖刀を握り、振るい、斬って捨てて、心は果てて散った。
だから、せめて。
女の墓標と、女の愛した紫陽花たちを守るべく。
『貴方は……もう、此処に踏み入るものを全て、賊としか見れない』
紫陽花の園に踏み入るもの、悉くを殺す剣鬼へと墜ちる。
ただ、それだけの一振りの狂刃と化した。
それが真実。誰も見ることのできない、過去の姿。
せめて愛したものは美しいままで。
愛するものが残したものは、大事で大切だから。
守りたいのだ。守りたいのだ。守れなかったのだ。
悔恨の情はあふれ出て、血のように赤く染まる。この紫陽花の下に埋められた女は、青紫の涙を花びらの上に溢れさせる。
嗤うは妖刀。
不幸と呪詛を振りまく、禁忌の刃。
全て、全て、赤く染めろと――真実も事実も、斬って散らせ。斬って、終わらせろ。
ああ、と雷火は吐息をつく。
危うかった。
全てはこの、紫陽花の下に、あったのだ。
幾度となく雨の度に訪れるのは、愛した女に会う為。
その理由さえ忘れてなお、繰り返し続けた、成れ果ての姿。夢と思いの輪郭はぼろぼろで、血濡れて錆び付き、ただ凶事をばらまくだけになったとしても。
そこにあったのは、何処までも愛。
「……そうか」
つまり。
何も知らず、何も見ようとしなければ。
救いはない。ああ、それは変わらないけれど。
そこに情念あり、想いあり、朽ちて果てても、なお消えぬものがあるのだと。
知らず、知らず、妖刀の呼ぶ不幸に飲み込まれていたかもしれず。
それは雷火の知る邪神の儀式にひどく似ている。家族を喪わせた、その邪悪な所業に似ているから、止めたいと思うのだ。
「なら、お前は何を望む?」
悔恨と、思いの残滓を凶刃と化してしまった男へと、亡霊たる女は何を望むのか。
人の想いを知りたい、貴女の為にも。
ただ妖刀の呪いに振り回されて、救いのひとかけらもない終幕へと転がり落ちない為にも。
「応えて欲しい。願って欲しい。魂だけになっても、此処に留まるのならば、まだ祈りがあるはず」
それに応えがれば。
雨の終わった後に、ひとかけらの、光はあるはずだから。
想いを知りたい。貴女たちの為に。
それはカイラというもうひとつの人格に触発されたせいなのか。
それとも、雷火の心からの願いだったのか。
どちらか解らずとも、言葉の全ては真実だった。
『彼の汚名を濯いで欲しい。彼の呪いを断ち切って欲しい。そして』
もはや、救って欲しいとは言わない。
その命は助からない。魂さえどうなるかも解らないから。
だから女の霊魂は、身勝手を知りながら、訴えるのだ。
『――彼を、私と共にこの紫陽花の下に埋めて欲しい』
冷淡だという。
移り気だという。
紫陽花の花言葉はとても冷たく、綺麗で。
けれど、愛情のそれも持つのだ。
青紫の花の下で、ふたりは、また出会えるのか。
「もしも出会えれば、ふたりで天国へといけるといいね」
そして、その先はあるのか。
雨に濡れて、血は、流れて消えるだろうか。
想いを知った貴女(カイラ)は、何を告げるのだろう。
確かめる間も、もはやなく。
雨が来る。
凍えた刃の気配が、ひしりと迫る。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『模倣刀『偽村雨』』
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POW : 雹刃突
【呼び起こした寒気】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 怨呪流血斬
自身に【過去の被害者の怨念】をまとい、高速移動と【止血し難くなる呪い】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 氷輪布陣
【氷柱】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を凍らせて】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:ボンプラム
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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● 断章・紫陽花と雨
誰かが見つけた墓標で。
誰かが知った、賊のもたらした悲劇で。
そして、誰かが呼んだ女の霊魂が。
悲痛なる叫びをあげるのだ。
『あの人を解き放って欲しい』
現世で救われることはないだろう。
鬼に墜ちたものが、楽土へと往く事などないかもしれない。
それでも。せめて。この紫陽花の下で、共に眠って欲しいのだと、女の哀惜の声が響き渡る。
剣鬼となって、修羅となって、血で濡れてなお。
想いと愛の残滓に動かされた男が、呪いに蝕まれながら、忘れた誓いと祈りの元、雨と共に来る。
ぱらぱらと雨が降る。
しとしとと空が泣く。
妖しの刃の所業に、悲しんで。
ああ、雨が降る間なら。
血濡れた自分も、美しい紫陽花(キミ)と過ごせるから。
けれど、それも呪い。
纏う怨嗟を呼び水に、幾つもの影が本体より生じてゆらりと動く。
冷たい雨の中で、幾振りもの刀が抜き放たれる。
それらは皆、信念を知らぬ虚ろなる亡者の刃。
贋作たる、呪いのものたち。
所詮は影。だが、呪いのひとかけらを宿すもの。
この場で斬り殺したものの魂と命を縛り付け、氷のような気配を纏って、雨の中をひたりと。ひたりと。
真実も想いも知らぬと、全て斬り裂くべく。
妖刀の呪いが、雨粒より冷たく嗤う。
美しい紫陽花(アイ)も、血で染めれば変わらぬ。
思い出を穢せと、影たる刃に告げるのだ。
誰か。男と女の愛した、紫陽花たちの元へと。
血を求める虚ろなる氷刃たちが、迫り行く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(※捕捉)
念の為に。
紫陽花を巻き込まないようにと注意して頂いた。
或いは、周囲や外周へと警戒して頂いた猟兵さん達のお陰で、紫陽花の花園の外周り、紫陽花たちを背にしての付近での交戦が可能です。
プレイングで紫陽花を巻き込もうとしない限り。
紫陽花たちへの攻撃の余波などは注意せずとも大丈夫です。ある程度ならば守ろうとせずとも、紫陽花たちに被害は出ません。
政木・朱鞠
呑気と笑われるかもしれないけど、小さなお墓と模倣刀『偽村雨』達にどんな因縁が有ったか知りたい。
その答え次第で手加減をする気はないけど、彼等に心が残っていれば相対する前に訊いてみたいね。
でも、心まで凍り付いた血を求める悪鬼ならば、悲しいけど今は心残りと呪われた咎を抱えたまま骸の海に帰ってもらう事になりそうだね。
戦闘
相手は多勢だけど一体一討で妖刀達に対応して行くよ。
武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして、技能をいかして【鎧砕き】で防御を緩めて【串刺し】にして【傷口をえぐる】流れでダメージを狙うよ。
冷気敗けない様に『忍法・煉獄炮烙の刑』の炎で妖刀達を覆うように配置して追い打ち攻撃だよ。
アドリブ連帯歓迎
降りはじめた雨に、紫陽花が揺れた。
冷たい気配は影のように周囲を包み、辺りを暗く映す。
その中で凍てつくような刃を携え、来たる者たち。
知っている。政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)はこの者たちを。
自らが回収すべきもの。贋作にして影の刀。
模倣されし『村雨丸』。
それが空虚で冷たい気配を持つからこそ。
「へぇ」
紫陽花たちを背に右へと朱鞠は駆ける。
元より多勢に無勢。出来るだけ一体ずつ対峙すべく、誘うように。
その狙い通りに一体が流れるように朱鞠へと走り寄る。
凍えた気配。刀身から滲む冷気は、触れる雨粒を雹へと変えてしまうほど。
ならば、その身に宿る心は何を思うのか。
「ねえ、聞かせて貰っていいかな。あの小さな墓に、この紫陽花たちに、あなた達はどんな因縁を持つのか」
何を感じ、何を抱きながらこの雨に打たれるのか。
もしも影たる身であれ、心が残っているというのなら、せめてと。
何の為だと聞かれれば、朱鞠とて上手く答えられない。
だが知りたい。或いは、もしかして。
そう願ったとして、何が可笑しいだろうか。
「知らぬよ」
だから、此処で道を踏み外しているのは影たる身のほう。
空から零れる涙のような雨を、氷へと凍てつかせながら、朱鞠へと迫る姿は、寒々しい程に空虚。
「そこに呪詛がある。我らを動かす怨嗟がある」
構える刃から流れる冷気は朱鞠の肌と身に刺さる程。
触れずとも、それほどの威を見せるものが、流れるように朱鞠へと繰り出される。
寒気を伴った氷刃は鋭くも、禍々しい。
描く軌跡が美しくとも、その裡にあるのは怨嗟と狂気だ。
「何より、斬るべきものと血肉があるだろう。より我らの氷刃を研ぎ澄ませる、魂が」
「ようは、関係ない。知ったことではないと、ね」
ひらりと身を翻し、紙一重で避ける朱鞠。
軽やかな忍びとしての姿と裏腹に、携える武器は村雨丸の氷刃にも劣らぬ禍々しさ。
蔓薔薇のように棘を持つ拷問用の鎖、『荊野鎖』だ。
絡みつき、血を啜り、肉を抉って、赤き花を咲かせる凶器。それが風を切りながら、雨粒を散らせて振るわれる。
「いいや、違うな。題名も縁の者も知らぬが、悲劇がある。知っていよう。解ろう。悲劇こそが、妖しの刀を打ち、悲嘆の涙こそが妖しの氷を紡ぐ。此処は我らが在るに相応しいのだ」
つまり。
人を斬り、更なる呪詛の氷刃と化す為に。
果てなく。終わり無く。ただ、虚ろな刃に哀惜を宿す為に。
「縁というのなら、ただ、冷たい悲しみこそが我らを呼んだだけ――知らぬよ、この地に埋もれた屍など」
「成る程、つまり、何も思うことはない。自分たちしか顧みないのだと」
鬼とはこのようなもの。
外道とは確かにこういう者達。
凍てついた心で血と涙を求める悪鬼に他ならない。
ならば今は心残りと呪われた咎を抱えた儘、骸の海へと帰って貰うのみ。
この者達に渡すものは、血も涙も、幸せも温もりも、何一つないのだと。
ひゅんと、と雨風を咲いて鳴くは茨蔦の鎖。
朱鞠の手元で手繰られるそれは、自ら意志を持つように軌道を変える。
村雨丸も咄嗟に刀で受け流そうとするが、逆にその刀身へと絡み付く姿はさながら、罪人を喰らう蛇の如く。
その動きを奪い、縛り、態勢を崩させる。
「だったら加減も慈悲も、何もいらないね。……そう、貴様たちはもう言葉を紡ぐ必要さえない」
一度絡みついた茨鞭だが、朱鞠の腕が振るわれた槍のように先端が伸びて、村雨丸の喉元へと突き刺さる。
元は拷問具。串刺しとなっても貫通せず、そのまま肉を抉り、血を啜って苦痛をもたらすそれ。
物理的に喉を塞ぎ、言葉を封じて。
「この冷たい雨も、いらない」
ぼうっ、とその拷問の鞭へと業火が宿る。
妖刀の呪いが周囲へと放つ冷気を焼き尽くすように。何も、この世にそれがもたらした悲劇の欠片をも残さないように。
串刺しにされた身の内側から、煉獄の炎で焼かれていく。
その罪、その魂。血濡れた悪鬼の、何も許さぬと。
「私の紅蓮の宴……篤と味わいなさい」
逃れようとした処を、業火を纏う茨鞭で絡め取り。
「何処にもいけはしないのだから。ここで、この雨と共に」
消え去り、散れと。
求める血も、肉も、そして呪いも最早此処から消えるのだから。
氷刀の悪鬼。その影が炎に包まれ、崩れゆく。
紅蓮の色彩が、雨に濡れる紫陽花へと投げかけられた。
成功
🔵🔵🔴
アネット・レインフォール
▼静
(墓石を一瞥し)
成る程…女はそう願う、か。
騒がしくなって申し訳ないが…
見届人としてそこで見守っているといい。
一部とは言え…アレは信念無き影だ。
本物の剣筋に比べれば遠く及ばないだろう。
油断とはまた違うが、加減の類は必要無い。
存分に剣を振らせて貰おう。
▼動
予め葬剣をコートにして寒気対策。
必要なら他の刀剣を念動力で盾代わりに。
霽刀・式刀の二刀流にて【流水戟】で一閃する。
高速移動と連撃で斬り結び
本体が消耗するよう一体でも多く減らそう。
花々と泥濘にも注意しないとな。
猟兵達に影など無意味だ。
(男に剣先を向け)
――疾く、出て来るがいい。
過去に残した未練も後悔も…
全ての想いを込めて俺達にぶつけて見せろ。
そう願うのかと。
いいや、もうそれ位しか求めるものはないのかと。
降り始めた雨は冷たく、無慈悲で。紫陽花の色が優しく思えるほど。
流れるものは止まらない。始まった戦いは、決着へと走り転がるだけ。
ならばせめて、見守り、見届けて欲しいのだと。
アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は振り返り、視線を向ける。
背後にある紫陽花、そして、女の墓標へと。
敵が迫る中、その姿から視線を逸らすなど、油断や隙といってもいいだろう。
ましてや相手は呪詛の氷刃。剣鬼の影たる身なのだから。
だが、ぴたりととまったのは理由がある。単純に、互いの切っ先の届く範囲に踏み込んではならないと、剣士の直感がそうさせるのだ。
葬剣の形を組み替え、マントとして纏ったアネット。
無数の刀剣を念動力が浮かせ、泳がせるその姿。
隙と見て踏み込んでも、次の瞬間に抜き打ちの一閃が走るだろう。
そこは剣鬼の影。嗅覚に似た者を持つからこそ。
いいや、或いは武人としての名残がそうさせるのか。
「行くぞ」
告げたアネットは、青の漣刻まれし霽刀と、焔の刃紋を持つ式刀へと指を伸ばす。
二刀を携え、構えるアネットの呼吸に、妖剣の影が応じる。
踏み込むは互いの剣の間合いではない。が、纏う寒気は文字通り、身を斬る程に冷たく、鋭く。
村雨丸の刀身が振るわれ、巻き起こるは冷気の斬風だ。
一閃、二閃と重ねて繰り出される迅なる斬撃。常人であれば何が起きたか解らず、その刃に触れることもなく斬り刻まれているだろう。
が、ここに立つのはアネットだ。数えきれぬ程の戦を経た武人は、たかが空を走る刃に揺らぎなどしない。
むしろ、ならばよいと。
誠の剣との差を見せるが如く、振るわれる二刀は流麗。
流れる水のように淀みなく、静かに、けれど尋常ならざる速度で繰り出され続ける。
妖刀の冷たき斬風と、高速で振るわれる流水の剣戟が真っ向から衝突する。
雨が散り、風は散る。重なり合う刃は、砕ける氷の音色のよう。
背にある花と女の思いのひとひらさえ、零しはしないと剣閃を瞬かせるアネット。気迫が違う、思いが違う、込めた信念の桁が違う。
正面から斬り結ぶのが成立したのは僅かな間。
互いに斬撃を繰り出しながらも、数瞬の後には太刀筋を乱して構えの崩れる妖刀。
流水の如き二刀の連撃の前でそうなれば、流れ着く先は瞬きする間もなく。
流れる斬閃が纏う妖気と共にその身を捉える。
吹き上がる鮮血。
それは一太刀のみに非ず。幾重にも斬り裂く刃。
まるで葬送の花を咲かせるように。妖しの穢れを洗い流すが如く。
そして、一輪では足りぬと高速で駆け抜け、アネットは次なる相手を捉える。
火焔のような凄絶さをもって大太刀が薙ぎ払われ、漣のように鋭い斬撃が妖刀の影を斬り捨てる。
この程度では足りない。
まだ足下の泥沼に気を取られる。
「判らないか。俺を相手に、影などでは無意味」
呪われた刃ではあるだろう。
寒気を覚えるのは事実として認める。
剣を振るえば、並の剣士など惨殺せしめるモノではある。
だが、その程度だ。
本物には程遠い。魂を秘める太刀筋ではない。
軽く、薄いのだ。
油断なく、加減なく、幾らあっても斬り伏せる。
所詮は凡百の数打ちの剣に過ぎず、模倣の影法師でアネットはとまらない。
四体、五体と斬り伏せる。
流水の剣戟は止まることを知らず、呪いの残骸たちを屠っていく。
だが、根源であり源泉たる男を討たねば終わらない。
そうだ。終わらせてくれと。共に眠らせてくれと願った女。
それは身勝手で我が儘で、独りよがりのものではない筈だから。
「――疾く、出て来るがいい」
烈閃を振るい、新手を斬り捨てた直後にアネットは切っ先を向ける。
雨の帳の向こう、かたかたと。
呪いを嗤わせ、その有り様を烟らせる男に。
悲しくはないのか。悔しさに身を焼かれないというのか。
己が剣を修羅の血で汚し、あまつさえ愛した女の魂に悲痛なる叫びを上げさせて。
「過去に残した未練も後悔も……ああ、捨てれないな。流せないだろう」
簡単に終わらせることができるならしている筈だ。
こんな惨めな、決して、女に見られたくないだろう有り様など続ける筈がない。呪いとして、怨嗟として、影を滲ませる程に溢れる訳がなく。
ならば、忘れられぬ何かが、残っているのでは。
この紫陽花の場に、留めおく、その何かを。
「全ての想いを込めて俺達にぶつけて見せろ」
共に剣にて晴らそう。
悔恨尽きぬ、雨と雲を。
空を知り、光を浴びようと、アネットの切っ先が雨に濡れ、輝いた。
成功
🔵🔵🔴
オヴェリア・ゲランド
贋作、影、呪い、此奴らは想いの残滓だ。
剣士たるもの死する時は心を残さず逝くべし、私はそう考えている。
ゆえに斬らねばならない、この影を祓い本質へと迫る為に。
●斬獲
「我が剣は剛、しかして太刀筋は静…花弁一つ散らさずに貴様らを斬る事など造作もない」
剣を見せる、技を魅せる、それこそが古今東西全ての剣士に対する手向け。
「剣帝の業、とくとみよ」
物理、呪いを問わず遮断し逸らす剣帝の覇気(オーラ防御・覇気・念動力)を纏い、静かなる構えから繰り出すは【皇技・百華剣嵐】
。
敵の位置を【野生の勘】で補足した我が剣は紫陽花を傷つけず、敵のみを【薙ぎ払い】【蹂躙】する。
「これが剣の頂き、その一端よ」
●アドリブ歓迎
雨の中でも隠すことは出来ない。
贋作、影、呪い、彼らは想いの残滓。
つまる所は形取られた悪い夢。
凍えるような気配を纏い、妖しき刀を手にしていたとしても。
所詮、それらは形だけ。中身となるモノはない。
「無惨だな」
オヴェリア・ゲランド(銀の剣帝・f25174)の呟きは、だからこその想念を言葉にしていく。
聞くモノなどいないだろう。
届けるべき男の魂は、妖しに呑まれている。
「剣士たるもの死する時は心を残さず逝くべし、私はそう考えている」
ゆえに斬らねばならない。
この影を祓い本質へと迫る為に。
残されたものは何もないならば、妖刀が嗤っているように感じるのは何故か。
「安心しろ。心残りなど、私が全て――剣で散らしてくれる」
超然たる銀の美貌に微笑みを浮かべ、歩み出るオヴェリア。
豪奢なる大剣を諸手に構えて。剣帝たる覇気を纏う刀身は、まるで祝福を受けた騎士のように打ち震える。
「判るか。これが剣というものだ。本物というのはこういうものを指す。紛い物の劣化品ではこうならぬ。……ああ、数打ちが悪いはいっていないよ」
半身を引いて、上段に。切っ先は空へと向けて。
「如何なる剣にも、想いと信念で刃を研ぎ澄ます――それが剣士の携える剣だ」
決して鋼の棒ではないのだ。
研ぎ澄まされた石や、装飾の施された美品ではない。
結果として振るわれ、引き起こされる超絶は、心身と剣の一体故に。
見せてやろう。
誉れと知れと。
「我が剣は剛、しかして太刀筋は静……花弁一つ散らさずに貴様らを斬る事など造作もない」
剣を見せる、技を魅せる。
それこそが古今東西、全ての剣士に対する手向け。
憧れ、焦がれ、命尽きた果てでさえ、輪廻の先でなおその輝きを追い求めるように。
至福など遠いのだ。
真に永遠と無謬なるものなどが故に。
「剣帝の業、とくとみよ」
今、そこに至ったと告げる剣帝の技――その呪いで濁りし眼で受けよと。
静謐なる構えと起こりから、無尽と放たれるは剣閃の烈波。
物理、呪詛、魔術に奇跡。悉くを遮断し、斬り裂いて周囲一帯に奔るは百花繚乱と咲く剣撃の嵐だ。
鋼の剣といった。その通りに剛たる音色を立てながら、けれど、背後の紫陽花はいうまでもなく、足下の草葉や石ころのひとつ傷つけない。
ならば音は何処からか。
言うまでも無い。妖刀構えし影たちから血飛沫が舞い、受けて砕けた刀身が散る。
鋼を斬り砕く剛剣の連撃。
敵として捉えたモノのみを、悉く蹂躙する剣帝の一閃。
「これが剣の頂き、その一端よ」
斬らぬと思いしもの。傷つけぬと感じしもの。
それらは如何にしても斬ることない、帝たる刃。
「如何に。奮うか。恐れるか。畏敬などあるまい。――手向けはまだ尽きていないぞ」
まだ。
これから、これよりこそ。
雨の奥、妖刀に蝕まれた剣鬼たる男の魂へと、切っ先を向けて。
「来い。影は払ったぞ。後は貴様の身と心に巣くう闇を晴らしてくれる」
対して、剣鬼は。
嗤うことなく、雨に流されることなく。
ゆらりと流れた剣気は鋭く、苛烈に、剣帝たるオヴェリアへと吹き付ける。
濡れる姿は、なお、威厳に満ちて。
それに挑むからこその刃であると。
――でなくばならん。
からからと、ざあざあと。
嗤う妖刀の気配は濃く、深く。感じた男の情念は薄くとも。
剣士のそれが、雨のひとしずくのように、濡れた空気に滲む。
成功
🔵🔵🔴
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
成程、防衛戦か
専守防衛は大得意だ
まして呪詛が相手となれば最適の戦場だな
幸い紫陽花の中で戦わずに済んでいるんだ
ここから先は一歩たりとも通さんよ
まずはその源を奪わせてもらうぞ
起動術式、【破滅の呪業】
充分な呪詛が集まれば、蛇竜を変えた黒槍に氷の属性攻撃と共に乗せ、端から叩き割ってくれよう
氷も呪詛も私の力の内
そんな残滓で挑んだことを悔やむのだな
全て奪い取って、我が槍の錆としてくれる
――あァ、よく知っているよ。約束は大事だとも
命の楔、意志を繋ぎ止めるためのよすが
ここに生きるための、いっとう大事な理由
ならばその象徴に一筋たりとも傷はつけさせん
模倣の妖刀如きの呪詛で、この私に敵うと思うなよ
これは一種の防衛戦。
守る為の戦いであり、残された願いのためのものだ。
背後にて咲く紫陽花が血で濡れ、染まらないように。
これ以上の呪いを浴びさせることなく、全てを終わらせよう。降りしきる雨は、きっと呪詛の残り香さえも消し去るから。
「ああ、任せろ。ここから先は一歩たりとも通さんよ」
紫陽花の美しき青紫の色彩、霞ませはしないとニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が、笑みさえ浮かべて告げる。
灰燼の色彩たる忌み子は、自らに突き刺さる氷刃の呪詛と怨嗟を受けても、その調子を崩すことはない。
むしろ、これこそニルズヘッグの本領。
死者の怨嗟、正者の情念。それらを糧に呪詛を編む氷竜こそが彼なのだから。
「まして呪詛が相手となれば最適の戦場だな。たかが、呪いの残滓と影。この私に向けた事、残り僅かな時間で悔やめよ」
故に、この虚ろなる呪詛に満ちた場こそ、ニルズヘッグはその掌の中へ。
まずはその力の源。雨と共に満ちる呪詛を操り、取り込むべく術式が起動する。全てはニルズヘッグの指で導かれ、操られるものに過ぎないと。
最初から呪詛ならば扱いは容易い。編む必要なく、糸のように指先で手繰り寄せていくだけだ。
奪われていく。集められていく。
ニルズヘッグを中心として、その周囲にある呪詛が、村雨たちの持つ魔性の氷刃が。
「どうした。剣は得意でも、この手のは不慣れか?」
警戒し、驚異と思い、迫る妖刀。
切っ先に呼び起こした冷気を纏い、斬ったものを凍てつかせる斬撃へと繰り出そうとするが、その力もまた呪詛なのだ。
衰える寒気。振るわれる刀も鈍く、遅く。力の源を奪われ続けるのであれば、真っ当に動けない。
「氷も呪詛も私の力の内」
逆に奪い、扱うには十分過ぎる程のものを手にしたニルズヘッグ。
傍らに控えていた黒い邪竜『Ormar』が、主の意志を汲んでその身を黒き槍へと変じさせていく。手にしたそれへと、奪い取った呪詛と、氷の属性を乗せる。
振るわれる槍の一閃は呪い術者とは思えぬ程の冷たい冴えを見せる。
伸びた穂先が村雨の胸へと突き刺さり、その身を凍てつかせていく。血も、肉も、骨さえも。
断末魔の吐息さえも、霜振るものへと化して。
「この程度の残滓、全て奪い取って、我が槍の錆としてくれる」
そう、この程度。芯がない。思いがない。
裡にあるべき己というものは空虚で、故に他者の怨念を必要とする。
そんな虚ろなるものに、ニルズヘッグが劣る筈がないのだ。他者の残滓がなければ何も出来ない影如き、灰燼の忌み子はその力を奪い、槍で貫き、凍てつかせる。
「――あァ、よく知っているよ。約束は大事だとも」
誰に向けた言葉だったのか。
決して届かない虚ろなる村雨たちに対してか。それとも、雨の奥で控える剣鬼か、本物の妖刀へか。
それともこの地に眠る女の魂へか。
「命の楔、意志を繋ぎ止めるためのよすが」
それを以て心は流れる。感情は揺れて、喜怒哀楽と色彩を移ろわせる。
呪詛もその一端、一部でしかない。
どんなに強烈に感じたとしても、表面だけのそれなど意味がないのだ。
「ここに生きるための、いっとう大事な理由」
槍を振るい、次なる影を凍てつかせ、薙ぎ払う槍撃にて叩き割る。
「その意味や理由、情念という光のない、薄い影では私には触れられない」
だからこそ、背にした紫陽花には近づけさせない。
言った筈だ。一歩たりとも通さない。
むしろ、剣鬼の男へと迫るべく、前へと踏み出すニルズヘッグ。
この紫陽花たちは美しいが故に。
宿り、咲き誇る思いは何処までも純粋だから。
「ならばその象徴に一筋たりとも傷はつけさせん」
模倣の妖刀如きが纏いて滲ませる呪詛で敵うと思うなよと、真の呪詛と氷撃を以て告げるニルズヘッグ。
合間、歌うように口ずさむ言葉は、彼の祈り。
世界は愛と希望に満ちている。
少なくとも紫陽花たちの元で、女の愛はあり続けているのだから。
雨を斬り裂き、凍てつかせ、旋風を描く黒き槍が、虚ろなる影を討ち滅ぼす。
氷の欠片を周囲に撒き散らし、満ちる呪詛を吸い上げるように奪いながら。
花と思いに、このようなものは不要なのだと。
その気配が触れることさえ認めず、許さないとニルズヘッグの槍が閃く。
成功
🔵🔵🔴
鞍馬・景正
雨の日は異界と繋がりやすく、怪異が現れやすくなると聞いた事があります。
渡辺綱が羅城門の鬼と出逢ったのも雨の日だったと。
されど、この場に立つべきは猟兵と剣鬼のみで十分。
◆戦闘
寒気程度、抜刀の【衝撃波】で吹き払い。
そのまま踏み込んでの返す刃で【鞍切】の打ちを披露いたしましょう。
間合、呼吸、手の内――全てを基本のまま繰り出す初歩にて奥義。
傍目にはただの袈裟か拝み打ちにも見えるでしょうが、ひとつの業を極めるとは、それに付随するものも極めるということ。
触刃の瞬間に【怪力】を刃先に乗せて、そのまま【鎧砕き】の一閃を。
他にもいれば同じく相手にしつつ、退散を願いましょう。
六道四生の奈辺にでもなく、骸の海へ。
佇む剣鬼とその影は、雨が呼んだのか。
それとも呼ばれたのだろうか。
雨粒の斜幕に覆われた現は何も定かではない。
異界と繋がりやすいという話もあり、ならばと妖異が湧き出すのも当然なのかもしれない。
かの羅城門の鬼と、四天王たる剣士が出逢ったその日のように。
「されど、この場に立つべきは猟兵と剣鬼で十分」
小さく告げながら、ゆると前へと踏み出すは鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)だ。
降りしきる雨、突き刺さる凍える妖気。
それらを意に介さぬと、瑠璃の眸で前を見つめる。
背にした紫陽花に、虚ろなる影と血が触れる事を認めぬように。
此処にいるべき者は、この紫陽花と物語に纏わる者のみなのだから。
「呪いも、悲しみも、憎しみも。貴方達が代弁し、刀に宿してよいものではない」
故に影へと語りかけ、手を伸ばすは冷艶なる拵えは担い手の眸に似て、風雅なる姿は語る声色に通じる。
鯉口を切り、戦の始まりは告げられる。
全ては正面より。それ以外を知らず、そして望まぬが鞍馬だ。
「怨嗟を纏う氷刀。しかし、全ては軽薄なる模倣でしょう」
だからこそ、飾らぬ言葉を受け、妖刀を携えた影が迫る。
凍てつく寒気を伴い、繰り出されるは疾風の如き刺突だ。
殺意を一点に凝縮し、命を穿つべく放たれる切っ先。鳥肌が立つ程の冴えを見せる殺人剣の技だ。
だがその程度。殺気と呪詛の氷気など、恐るるに足らずと、鞍馬が繰り出す抜刀の一閃。
鞘より抜き放たれた刀身から放たれる斬威は波涛の如く。呪いの寒気を吹き払い、周囲に凪いだ空気を産む程。
清冽にして凄絶。のみならず、迫る妖刀の切っ先へと更に踏み込む鞍馬。
抜刀の起こす衝撃波に呑まれ、乱れた刺突を見切るなど容易い。
殺す為の邪剣など、逆に言えばただそれまで。
そのまま返す刃で繰り出される技は静謐なる斬閃だ。
余りにも静かで、透明とさえ感じる程に。
斬られた側をして、何をされたか判らない。
袈裟か拝み打ち。諸手で振るわれた斬撃と辛うじて判るのは、全てが過ぎ去った後だ。
肩口より脇腹へと走る朱線。数秒遅れ、両断された胴体が地へと落ちる。
迅速にして、なんという精緻。
風すら気づかぬ裡に振るわれ、羅刹の怪力が触刃の刹那のみに刃先に乗り、妖しの身を一刀で斬り伏せている。
後に残るは何も無く、刀身は僅かな音さえ立てていない。
起こりも見えない程に研ぎ澄まされた刃は、まるで奥伝の秘技を宿したかのよう。
これがただの袈裟切り、というには常を越えたものがある。
「これが斬るということです。これが、信義を宿す刀というものです」
間合い、呼吸、手の内。
全ては戦と剣の基礎なれど、幾千と重ねられた初歩は奥義へと達する。
ひとつの業を極めるとはこういう事。
一振りの斬撃に付随する全てを極め、昇華すれば、それは秘剣の如く放たれる。
斬る。ただ真っ直ぐに、何もかもを。
正剣遣いの脅威とは、ただその一念を遂げる為に重ねられ続けた思いと歳月が産み出すに他ならない。
肉と骨を断った筈の刃に震えはなく、ゆるりと再度、掲げられる鞍馬の濤景一文字。荒波の如き威を、それこそ刃の一筋に集めて。
「次は誰が相手を」
声に応え、飛び込む者の先を制して走る斬閃。
秋風のように澄み切った斬撃が、そして、先と同じように繰り返される。
奇跡的に受けた筈の氷刀がそのまま両断され、鈴のような音色を奏でて砕け散った。後には赤い鮮血と、洗い流し続ける雨。
鞍馬は何かしら特殊なことなどしていない。
だからこそ幾らでも振るえる。何時とて繰り出される。
これが鞍馬の剣。誇ることなく、けれど、己を告げるもの。
「さあ、退散願いましょう。六道四生の奈辺にでもなく、骸の海へ」
故にこの斬撃を防ぐ事は、同じく極まりし剣以外にありえず。
一閃と刃が走る度に、真っ正面より斬り崩される影。
空虚なる模倣の妖刀に、抗う術はなく。
腕を残して、逃げることもできはしない。
流れる切っ先が、その先にあるもの悉くを斬り祓う。
刃は斬り裂いていく。
これら皆、ただ越えるべき者なのだ。
本当に斬り結ぶべき、この場にあるべき剣鬼に辿り付くまで。
成功
🔵🔵🔴
ベルンハルト・マッケンゼン
アドリブ連携大歓迎
妖刀に魅入られし剣鬼、か。
かつて私も、そのような男と戦った記憶がある。
シャルルマーニュの12勇将、聖騎士パラディンが筆頭はローラン。
味方に裏切られながらも、聖剣デュランダルを振るう猛き姿は、まさに鬼。
……敵ながら、感嘆したものだ。
POW
UCを発動、セントリーガンの砲火の中、グレネードを投げ目潰し。
ライフルで制圧射撃後、バヨネットを着剣。銃剣突撃でランスチャージ。
距離が開いたら再びライフルで銃撃へ。
古今東西の戦場で得た戦闘知識を活用、移動と攻撃、
停止と回避を組み合わせた独自の戦術で戦う。
倒した後は、スキットルでウィスキーを呷る。
雨が上がるまで、酩酊に浸ろう。戦術的に…フッ。
雨の向こうに立つ、妖刀に魅入られし剣鬼。
烟るように流れる雨。姿形をも確かに捉えられないけれど。
冷たさばかりが、肌身に染みていくけれども。
――ああ、これもまた知っている。
それは閃光のように蘇る記憶。
叙事詩めいた光景はかつての昔。時さえ定かではないのは、この冷たく、呪いに満ちた雨のせいか。
聖なる騎士の筆頭として、聖剣を振るう猛き姿はまさに鬼。
味方に裏切られ、けれど、その身を倒すことなく。
あまつさえ、死を悟り、剣を砕こうと放つ最後の一閃は岩をも砕いた。
ああ、これもまた知っているのだ。
感嘆したのを覚えている。いいや、思い出している。
その情念。その猛り。憤激と表裏一体の憎悪。
もしも、それが剣で看取られたのなら。
正しき剣の元で、戦いが行われて、終わっていたら。
「だが悪いな。私は剣士ではない、傭兵だ」
知っているのは戦場の道理だけだ。
勝敗こそが全てで、負ければ何もかも失う。
だからこそ、正しく果てるよりも、生き残ることを。不条理な世界を奔り続け、何かを成す為に生き残る。
「フッ……そう、知っていて、知らないさ。私に剣士の生き様など」
相手に戦場には付き合わない。
例えば不死身のような吸血鬼と削り合いをするのか。
答えは否。化け物には、化け物を殺す為の戦術と特別な弾丸を。
だからと呼ばれ、展開されたガンタレットは雨を吹き飛ばすような勢いと轟音を以て、砲火を繰り出す。
ガンタレットによる弾幕の蹂躙。けれど、過去の被害者の怨念を纏い、高速で走り抜ける村雨達は致命傷を避け、或いは弾丸を氷刀で弾いて、なお迫る。
返しとばかりに刀身から放射されるは氷呪の斬気。
ベルンハルトの肩口を斬り裂き、とめどなく血を流させる。
「が、だからと刃で突き合う義理もない」
雨よりなお多く。呪いよりもなお激しく。
放たれるガンタレットと、ベルンハルトの構えるライフルが弾丸を吐き出していく。
近づかれれば不利。だというのなら、遠距離に徹して、ひたすら削り殺すのみ。
徹底した戦術の論理性であり、感情を伴わない鋼の合理性だ。
剣鬼や、それに従う妖刀の影と斬り合う。そんな相手にとって有利な戦場と戦い方など選ばない。
それが戦。相手に不利で、こちらに有利な戦術と戦場を選ぶことこそ、傭兵の姿であるからこそ。
「強引に迫るお前にはオマケだよ」
なお前進し、妖刀で斬り結ぼうとする者へと手榴弾を投げ、爆発する音と光で五感を奪う。瞬間でも隙が出来れば、続くのは弾丸の驟雨だ。
血煙と共に舞い、崩れる影。
遮蔽物のない平地での弾幕と蹂躙は耐え間なく、無理に迫ろうとすれば犠牲を払う。
それを成してこそ、勇者で鬼、なのだろうと。
だからこれは影。残滓で、呪いの残骸。付き合う道理などないと、移動と攻撃、そして停止と回避を繰り返す。
言わば流れるように組み立てられる、ベルンハルトひとりによる陣形と戦術。最適の攻め筋と防け筋を作らせず、一方的に削る。
あくまで戦術的に。
このような理不尽を、越えることこそが勇者なのだと。
鋼鉄の五月雨を潜り抜け、辿り着くものこそ、思いの筈だから。
「さて」
まだ全てを倒した訳ではない。
だが、近づき切れないと見た敵が散会しながら離れていくのを見て、ベルンハルトは懐を探る。
長い戦いになるだろう。
絶え間ない銃声は、どちらも、互いの芯を捉えられずに響き続けるからこそ。
「酩酊に浸ろう。痛みなど、忘れて……フッ」
それは肩口に刻まれた傷のことか。
それとも心に染みこむ、或いは過去から蘇る何かなのか。
忘れる為か、より、浸る為なのか。
ウィスキーを一気に呷り、ベルンハルトは喉を鳴らす。
熱い酒気を帯びた息は、何も言葉を続けない。
青い瞳は高速で動き続ける戦場を見つめる。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
紫陽花を背に出来たのは幸いでした
男の、いえ、二人の経緯を知れば、戦の申し子たる戦機(ウォーマシン)が花園に長く留まる気にはなれませんでしたから
紫陽花に近づけさせぬようスラスターでの●スライディング移動で先手を打ち敵集団に接近
その程度の寒気、真空の極寒と恒星放つ熱に耐える私を阻めると思わぬことです(●環境耐性)
包囲をセンサーでの●情報収集で●見切り●盾受け●武器受けで防御
●怪力で振るう剣や盾の●なぎ払いで正面を
同時に頭、腕、肩部格納銃器での●スナイパー射撃で左右や背後
それぞれ別方向の敵を殲滅
銃器残弾無し
撃ち過ぎ、いえ…
男が待つ花園に無粋な物を持ち込みたくなかったのでしょうね、私は
この身は、鋼の戦機という器だからこそ。
紫陽花たちの外で、それらを背に出来ることに安堵する。
踏みにじる気がするのだ。
どうしても、そこにある大切なものを散らしてしまう気がする。
それは心にある優しさだけではなく、魂を苛む拭いがたき葛藤でもあるのだから。
戦の申し子、鋼鉄の戦機たるトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は紫陽花の花園は留まれない。
男と女の、二人の思いを知れば、知るほど。
雨に打たれて、冷たさを痛みと感じられない鋼の身は、この場に相応しくないのだと、心が揺れそうだから。
「参りましょう。ええ、私も、あなた達も」
戦機という鋼と、妖刀という鋼。
決して花と相容れぬ。触れてはならない。
戦と呪いは、この場に不要だと、迷いを吹き散らすようにスラスターを噴出し、雨の中を滑るように駆けるトリテレイア。
「――この花たちを、思いを、穢してはならない」
敵の集団へと正面から迫る鋼の騎士の姿。
血を持たず、熱も抱かない。が、そこに宿る思いと魂に引き寄せられるように、妖刀達が殺到し、冷気を伴った斬撃を繰り出す。
何も刀身のみならず。纏う冷気を圧縮し、雹の飛刃として振るう村雨たち。
さながら、獲物へと群がる狼の牙。無数に、幾重にも、四方より放たれるそれへと、更に踏み込むトリテレイア。
「その程度の寒気、真空の極寒と恒星の放つ熱に耐え続けた私を阻めると思わぬことです」
全包囲をセンサーで捉え、攻撃を見切って盾で受け止める。
軋み、凍てつく装甲は、けれど表面だけだ。スラスターによる疾走が衰えることはなく、そのまま手にした白銀の騎士剣と大型の盾を薙ぎ払い、正面を斬り崩す。
弾かれるように飛び退く者。
逆に、遠距離でダメならば妖気を込めた氷刃で仕留めると迫る者。
皆、動きは違えど一様に虚ろなる影だ。自らが朽ち果てる姿など考えもしないから、他者の事など考慮の外だ。
血を、血を。呪いと怨嗟を。
求めるのは渇きにた狂気。それらが同じ鋼より成る身だという事に、トリテレイアは瞬間、胸に痛みを覚えて。
「騎士道より外れたとしても――貴方達への相手にはこれこそが相応しいのでしょう」
思いのひとひら、触れさせはしない。
トリテレイアの腕や頭部、肩部に格納されていた銃器が現れる。それはこの雨と、紫陽花の場を穿ちて裂く、鋼鉄の現実。
夢も思いも、全てを穿つように。
つんざくような響き渡る銃声。騎士の戦いにあるまじき掃射。機銃のひとつひとつがセンサーで捉えた敵を狙い撃つ。
雨粒よりなお多く。
雨音を掻き消す程に盛大に。
容赦も慈悲も、呼吸さえない儘に連射される格納機銃。
銃身が熱を帯びる。空薬莢が、麗しき大地に零れていく。
血霧を吹き出し、倒れていく村雨達へは確かに絶大な力だ。例え弾幕を凌いで近づいても、盾で受け、或いは剣で弾き飛ばされて掃射を受けてその身を散らす。
それは一対一、正面から挑むという騎士の姿に反したものを。
ただ殲滅の為に身を旋回し、続けて刻む銃声。嘆くように、或いは、認めぬと猛るように。
銃火が轟き、血と影が跳ねる。
近くの敵影が動きを止めてもなお続く格納機銃の銃撃は、それこそ、苦悩と葛藤を自らの身から弾き出そうとするかのよう。
けれど、思いは尽きぬ。
終わりの方が先にくるからこそ、悔恨が残るのだ。
からからと、銃弾が尽きた機銃が虚しき音を立てる。ばらばらと、零し続けた弾丸が、周囲に散らばる。
血が雨と鋼の欠片を、濡らしていく。
「銃器、残弾無し」
後に剣鬼の残る戦いで、ひとつの武装を失ったという事実。
それを確認するように呟き、いいや、と頭を振るう。
「撃ち過ぎ、いえ」
この銃と、妖刀たちは似ているのだ。
どちらも流血を求めるもの。誰かを守る為ではなく、傷つける為の。
戦いの為の鋼の器に過ぎない。
「男が待ち、女が眠る花園に、無粋な物を持ち込みたくなかったのでしょうね、私は」
そんな自己分析も、何処か、とても冷たくて。
持ち直した騎士剣を、ゆらりと泳がせるトリテレイア。
花園の中に、踏み入るは。
ただの思いと魂だけでよいのだと。
美しきもの、尊き理想にこそ、心を凍てつかせるトリテレイアは、振り返らない。
今はただ、目の前の剣鬼を。
その男を討ち、女の願いを叶える為に。
騎士にあるまじき身でも、この心ばかりは。
その裡に、誇りと魂の輝きを宿し続けたくて。
「魂など……私にあるか判りませんが」
もしも手に入れられるのなら。
確かな鼓動として、この胸の中で感じたい。
或いは、刹那、他人のそれに触れてていた。
いずれ、手にした時、しっかりと判るように。
トリテレイアの懊悩を、騎士の受難と断じるには――彼自身が清冽すぎた。
成功
🔵🔵🔴
忠海・雷火
人格:カイラ
想いを知り、願いを聞いた
……命を救う事は出来ずとも。その望みは、きっと叶えてみせよう
その為にも、今は眼前の敵、呪いの影を斬りはらうのみ
敵は人型、故に太刀筋は人の振るうそれと大差無いと見て
対人戦闘知識で間合いや動作から攻撃を見切り、直後の隙を突いて踏み込み一太刀
躱し切れぬものは無理にそうせず、左手で抜いた短刀で武器受け。破魔・呪詛喰いで力を殺し受け流し、右手の刀で斬るカウンターを
敵UCの氷柱は、紫陽花への影響を考え敢えて避けず、不知人魂での焼却にて相殺狙い。それでも受けてしまう場合は各種耐性で堪えよう
余った鬼火は紫陽花への延焼を防ぐ様に制御しつつ、残る敵数に対し数が均等になるよう放つ
雨が降ると共に、その心と人格が入れ変わる。
宿す身はひとつだけ。だからこそ、忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)が呼んだ思いを知り、カイラという人格は思いを揺らす。
想いを知り、願いを聞いた。
それこそ求めるものの一つであり、知りたいと願ったものだから。
「……命を救う事はできずとも」
カイラは呟く。雨に濡れ、雨に紛れ、それでも消えぬ声で。
「その望みは叶えてみせよう。聞かせてくれて有り難う」
その為にもと、左右の手で握るは銘なき刀と短刀。
UDCの遺骸から討たれた刀身は嘆くように脈動し、短刀は辺りに満ちた呪詛を吸い、呪詛を返すべく術式を刻まれた茎が震える。
一種、目の前に立つ影や妖刀たちは邪神に近いのだ。
共に人の正気を奪い、蝕むものたち。魂にまで触れて、蹂躙する怨嗟の鼓動。
許せず、認めらない。
その為に。
「今は眼前の敵、呪いの影を斬りはらうのみ」
二刀を構え、ゆるりと前へと身を勧めるカイラ。
敵は人型。ならば振るう太刀筋は人のそれと大差ないと見たのは間違いない。
疾走と共に横薙ぎに振るわれる村雨の氷刀。
ただ寒気や冷気、氷を操るだけではなく、殺人の剣技をも身につけている。
だが、だからと恐れることも、退く理由にもならない。
勢いを乗せて走る太刀筋を見切り、左手で握る短刀で受けて捌き、流すは太刀筋のもならず。
攻めた村雨の身体と姿勢ごと崩して、出来た隙へと右手の刀でカウンターの一閃を繰り出す。
噴き出す鮮血。そして、続けて繰り出されるカイラの刃は止まらない。
連続で繰り出される斬撃。それはさながら旋風のように走り抜ける。
自らの攻撃の勢いを利用され、体勢の崩れた所へと斬り込まれた村雨の負傷は深く、瞬く間に劣勢へと追い込まていく。
怨嗟と呪詛を氷刀に纏おうとしても、そこに喰い込むのは破魔の力を乗せ、呪詛を喰らう術式を刻まれた短刀だ。
攻めれば攻める程、力と速度を失い、受ければ受けるほど、自らの本質である妖刀の呪いを失う影。
「どうした。所詮は影、という事か? ……私が知り、聞くべき想いは、その身にはないということか」
螺旋を描くように身を翻して、二刀を振るい、敵手の身を削るカイラ。
間合い、動作、読む呼吸は次第に相手の攻めより、守りを読むことへと。重ねて放たれる斬撃に、村雨は返す刃と機会を失っていく。
まるで光に照らされ、消えゆく影。
だからこそと、残る力を込め、村雨が空に浮かべるは巨大な刃の如き氷柱。手繰る氷刀で応じられないならば、その力でと放たれる呪氷の一撃だ。
だが、それを迎え撃つのは邪神とその眷属を相手取る氷炎の者。衰えた呪氷に臆す事なく、赤い瞳をもって迎え撃つ。
いいや、カイラの力のみならず。
呼び起こされるは死霊たちの怨嗟。未だ晴れぬ想いを抱き、骸の海を漂う者達が、現へと呼び出される。
ぼう、ぼう、ぼうと灯るは鬼火。
果たされぬ願いに燃え盛る、冥府の呪詛。
「骸の海より来たれ、来たれ。我が意に従い、彼岸、此岸、隔てなく燃やせ」
カイラは避けない。頭上より迫る氷柱は村雨の渾身の一撃なれど、避ければ周囲の紫陽花へと被害が及ぶ。
想いを知り、願いを聞いた。
ならば、それの宿る美しき花びらたちに、血も、氷も、呪いも。これ以上は何も及ばせないと、真っ向から鬼火を纏って迎え撃つ。
呪氷を焼却して相殺させ、それでも残る欠片はカイラが自らで斬り込み、集めた鬼火たちを宿した二刀を持って討ち砕く。
身は傷つき、血は流れど、カイラの背にする紫陽花たちには届かせない。
何一つ、もはや呪いも怨嗟も触れさせないのだと、氷柱を放った村雨を鬼火を宿した刀で斬り捨てる。
火を揺らし、風切る炎刃は、呪詛の欠片も残さず灼き尽くし、その影たる身を滅ぼして。
「燃やせ。悔恨も残滓も、呪詛も怨嗟も」
残る鬼火が、振るわれる二刃に従って舞う。
群がる呪い影は、未だ多いが故に。
紫陽花を守り、祈りと願いに従うよう、揺れて舞う。
それは、まるで赤き蛍たちのように。
雨の中、名も知らぬ人魂が炎に燃える。
もはや果たされぬ思い、妖刀の怨念を共に冥府に連れ込もうと。
そこから、男と女の魂ばかりは救う為に。
成功
🔵🔵🔴
セツリ・ミナカタ
同輩たちの心遣いと、そしてつかの間に懐かしい情景をくれた花々へ反する行いはすまいよ
紫陽花と墓を傷つけぬよう戦いの内も常に念頭に置く
我が炎に抗ってみせよと、白い熱を身に纏い
見切り第六感を活用しながら
襲い来る氷の全て、溶かし砕き跡形もなく消してみせる
そして大きく火明を振り抜き白炎の衝撃波を飛ばして
通り過ぎた後、なお立ち上がる者がいるのなら
その懐に低く飛び込み刀競り合い受け流し
返す手でお前の喉元へ触れて、浄化を
これらもまた哀れな存在なのだろう
聞こえた昔語りに胸締め付けられる思いがする
男の取り戻せない過去へ我が身を重ね
だが炎が、刃が鈍ることはない
呪いから解き放つべきなのだと決意新たにして
この思いたちに、背を向け、反することなどしない。
確かにあったのだ。感じたそれに偽りも嘘もありはしない。
今はただ、降りしきる雨の冷たさばかりがあったとしても。
同輩たちの優しき気遣いに、感謝を。
つかの間に懐かしき思い出に触れさせてくれた花に、祈りを。
変わりに叶えてみよう。
呪いが終わり、一筋の救いがあることを。
誓い、願い、火明を構えるはセツリ・ミナカタ(シャトヤンシー・f27093)。
胸が締め付けられる思いはするけれども。
本当に苦しむのは誰なのか。
自分が何が出来るのかと問えば、躊躇う事などありはしない。
「呪い、呪いか」
ゆらりと舞い上がり。
セツリが身に纏うは浄化の白焔。
真白の炎が持つ熱を持って、迫る呪いの冷気を打ち消していく。
いや、抗ってみせろ。我が思い、心に。呪いて絡め取ろうというのならば、目の前に立つ影の全てを焼き尽くしてみせる。
虎眼石の瞳をもって睨み、第六感で捉えるは空で形成す氷呪の柱たち。
視界の外とて関係ない。動きを見切り、振るう一閃が放つは清浄なる白焔だ。迎え撃ち、飲み込み、迫る来る氷の全てを溶かしていく。
例え外れてとしても、地に落ちればこの場を、紫陽花たちの咲くこの場所を蝕むのだ。欠片となって降り注ぐモノへと、身を転じさせながら真白の炎を纏う火明を振るう。
白き翼のように飛翔するは、烈火の斬衝波。
唸るそれらに焼かれ、斬られ、朽ちて消えるのは何も氷たちだけではない。
それらを産み出した村雨たちもまた同様にだ。
紫陽花たちを背にするからこそ放てる広範囲への一撃。燃え盛るのは浄炎だけではなく、その思いと武威も。
ごうと音を立て、けれど、崩れることなく立ち上がる影へ、セツリは身を低くしながら迫る。
「まだ立つか」
その姿はまるで狩りへと走る豹のよう。
気流を操りて飛翔する動きは自由自在にして、捉えて予測するなど困難だ。
決して逃さない。そして、必ず仕留めてみせる。
その思いを元に、セツリの身に依りて形を成す炎が猛る。
「判らないのだろうな。お前達は終わるべきものなのだ。模倣して、怨嗟を纏い、その虚ろな身で何を叶える?」
ただ血を浴び、呪詛を纏い、けれど中身には何もない。
花を美しくいと思う心も、振り返る思い出もないのだろう。
それこそ悲しいと、セツリは思うのだ。
だからこそ、燃え上がりながらも氷刀を振るう姿は、どうしようもなく憐れだった。
「ただ、真の剣とあることを」
袈裟に一閃。肌身に刺さるような冷気を纏わせた斬撃は、確かに鋭い。だが、恐れることなどありはしない。
飛び込みながら受けるは火明の刀身。鬩ぎ合うのは一瞬で、するりと刀の腹を滑りて流れ、鍔せりあうより更に懐へ。
勢いを乗せ、伸ばす手が触れるのはその喉。浄化の炎を纏う指先で握り絞め、業火を以て包み込む。
触れた肌、肉は死人というより、まるで氷のように冷たい。
「これもまた、哀れな存在なのだろう」
故に、此処で終わらせるのだと、受けて封じた刀身と、握る掌に宿す真白の炎の勢いをより強く、増していく。
雨音の中で、昔語りがまた聞こえる。
哀惜の念は女だけではなく、男もまた。
影達の動く奥で、ゆらりと立つ剣鬼。その姿にセツリは自らの身を重ねる。取り返せない過去、大切なる思い出。
だからこそ沸き立つ憎悪と悔恨は炎か氷か。白か黒か。その位の違いでかしないのかもしれない。
だが、その違いが全てを決める。
何もかもを失い、周囲に不幸と呪いをばらまく姿など、断じて認められないから。
「来るがいい。いいや、私から行って、終わらせてやろう。終わりたいと、そう思うことさえ出来ないのだろうから」
セツリが繰り出す刃が鈍り、振るう炎の閃きが衰えることはない。
呪いから解き放つべき者を見つめ、決意を新たに。
纏う真白の浄炎が、よりその激しさと、美しさを増す。
悲しい雨と色彩など。
全て祓ってみせると歌うかのように。
成功
🔵🔵🔴
鷲生・嵯泉
護る事叶わず喪って、狂い果てた其の魂
嘗て此の身に起きた“出来事”が胸裏に過る
似通う其れは余りに苦く――だからこそ討たねばならぬものと知れる
戦闘知識と第六感に拠る先読みを使って攻撃は見切り躱し
行動に影響を及ぼしそうなものは武器受けで以って弾き落とす
なぎ払いでのフェイント攪乱から死角へと移動し
破魔を纏わせ怪力乗せた斬撃を叩き込む
――緋圏疾影、灼き砕け
如何な冷気であろうとも、滅びの焔が無意味と変えて呉れよう
お前が取るべきは、既に其の刃では無い
凝り固まり引き剥がせないのならば、此の刃を以って切り離してやろう
此の世に居場所は無くとも、行かねばばらない処がある筈
――唯1人の、待つ者の元へ帰るが良い
ああ、どうして、人はこうして繰り返すのか。
全て人。同じく心持つ。
だから、同じように、似たように悲劇は起こる。
切実なるのは、その思いを知るからこそ。
嘗て此の身に起きた“出来事”が胸裏に過る。
胸の奥底、心から流れる鮮血と痛みは、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の裡で色褪せることのない傷として刻まれているから。
似通う其れは余りに苦く――だからこそ討たねばならぬものと知れる。
癒えることなどない。
ただ、それを乗り越え、新たなるものへと踏み出すしかない。
止まれば朽ちる。
進めど苦しみ、過去を置き去りにするのだ。
ならば、此処にあるのは影法師か。
ああ、そうだ。だから討たねばならず、斬らねばならぬのだと。
無常なる雨が降り注ぐ中で、鷲生はするりと刀を抜き放つ。露を露を掃い、雨粒さえ立つ鋭き刀身は、災禍を絶ち斬る為だけにあるならば。
「護る事叶わず喪って、狂い果てた其の魂」
その災い、呪いの深さをなお知る鷲生が手繰る刃なら、なおのこと。
捨て置けぬ。
見逃せぬ。
「此処で終われ。逝くべき先に、待つ者はいるだろう」
闇と影に溺れるではなく、微かでも見える光へと。
手を伸ばし、足を踏み出す苦しみは知るからこそ、告げる言葉には苛烈なる重さがある。
が、その鷲生の行く手を阻むは影たる模倣の妖刀。
妖しき寒気を氷と化して刀を包み、更なる鋭利さを宿して、鷲生へと斬りかかる。
「貴様らは相手ではない」
だが、避ける。
迫り、追いすがり、振るわれる斬撃の悉く。
眼中にないの一言と半身となり、身を翻し、退く所か前へと踏みだして、切っ先から逃れ続ける鷲生。
いや、これではまるで影が道化であるかのよう。
積み重ねた経験と知識からなる第六感。真実、戦場と修羅場を潜り抜けた数が違うのだと、更に数を増やす影の振るう刃を避け続けるのだ。
「だが、それも判らぬのならば、斬り捨てるのみ」
喉元までと走った刺突。けれど、それを弾き落とし、ようやく、鷲生は攻めの姿勢を見せる。
或いは、それは剣鬼へと見せる為のものだったのかもしれない。
ゆらりと揺れる鷲生の身体。けれど、それは高速の踏み込みによって起こされる錯覚。姿を見失い、戸惑う影の死角へと踏み込み、破魔の力を纏わせ、怪力を込めて構える鷲生。
この悲劇の災禍絶つ。
ならばこそ、烈火の如き斬威を見せねばならぬ。
まるで誓いを立てるが如く、振るわれるは熾烈なる斬閃。
――緋圏疾影、灼き砕け
呟きと共に放たれるは、あらゆる技を焼く破滅の焔。
呪いであれ、冷気であれ、怨嗟であれ意味はない。終わりの具現として咲く紅蓮の色彩。
そこへと続けて繰り出されるは、悉くの守りを無視する斬撃となって奔る秋水による一閃。
術も鎧も知らぬと斬り伏せる。全て過去、終わる事と、走り抜ける刃を止められる者はいない。当たれば終わる、必殺の斬撃が瞬く。
さながら、緋色の光と、それを追いかける影。
共に破滅の表裏として。
如何なる冷気も、妖刀による守りも、全てを終わらせる焔の前では無意味に変わる。続けて重なる刃は、触れたものを斬滅するのみ。
「動かないか。それとも、動けないのか」
続けて秋水を振るう鷲生。
斬り捨てる影のなんと薄く、脆いことか。
喪いし魂の慟哭。その欠片もない。だから容易く断てる。幾ら斬れど、刃に響かず震えぬ。
こんなものなのかと、幾度となく死角へと踏み込み、振るう緋の疾風の斬撃。
幾ら雨に塗れど、幾ら斬れど、途絶えることのないかつての“出来事”の思い出。
ならばこそと。
石榴のような赤い隻眼が見つめるは、雨の奥。隠せぬ呪詛と悲嘆を滲ませる剣鬼だ。
「お前が取るべきは、既に其の刃では無い」
かたかたと嗤うように震える妖刀など、望みではなかっただろう。
翻る刃にて斬り捨て、剣鬼の男へと迫る。
「凝り固まり、引き剥がせないのならば、此の刃を以って切り離してやろう」
周囲に影と呪いしかない身。
定かではなくなった思い出。
残滓と残骸。それだけに埋もれ、全てを雨で濡らす。
「此の世に居場所は無くとも、行かねばばらない処がある筈」
未練などあるまい。
むしろ、最後の残った理想と救いこそがそれである筈。
破滅をもたらす焔を纏い、災禍を絶つ刀を振るいて、更に剣鬼の元へとと踏み込み、剣気を放つ。
それは呪詛こそを斬るべく。
残された未練と悔恨の情を晴らすべく。
「――唯一人の、待つ者の元へ帰るが良い」
雨さえ絶ち、吹き抜ける風となって男へと届く。
待つ者がいるのならば。共に居ようと願ってくれるものがいるならば。
ああ、それは何処であれ――煉獄の焔さえ、優しき寝床となろう。
ましてや、この紫陽花たちの中であれば。
辿り着けぬ楽土より、美しく優しき園として、男を迎える筈なのだから。
護る事、叶わぬとて。
喪いし先に、あるならば。
――総てでは、ないのならば。
じわりと胸に、鮮明なる痛みと情念が滲む。
振り払うように、鷲生は刃を構える。
それが男へと届くは、近い。
成功
🔵🔵🔴
清川・シャル
f08018カイムと第六感連携
シャルも刀使うし鬼なんですけどね
オブリビオンになってさ迷ってるのは見逃せません
雨は空が泣いてるっていいますよね
せめて素早く終わらせるのが良いのかもしれませんね。骸の海へ還してあげます。
寒気対策をしましょうか、全力魔法で強い風を起こしてみます
寒気を舞いあげて分散出来たらいいですね
呪いって力にもなるんです、こうやって使うんですよ
呪詛を帯びたそーちゃんでのなぎ払い攻撃を
チェーンソーモードにして振り回します
敵攻撃に備えて多重障壁を展開、カイムにも気を配ります
近距離には激痛耐性と武器受け、カウンターで対応です
紫陽花はいつでも綺麗ですね
血で汚れないようにしたいです
カイム・クローバー
f01440シャルと第六感連携
どうやら紫陽花を化物の血で汚す必要は無さそうだ。死して尚、妖刀の呪縛に魅入られた者。思い出があったろうに汚すなんざ無粋だぜ。
シャルと背中合わせの共闘と行くか。魔剣を右手に顕現させて、【二回攻撃】に黒銀の炎の【属性攻撃】を纏わせて、近距離戦。
俺は寒いのは苦手でね。どうせなら、内側から燃えるような情熱に突き動かされたいモンだ。つーわけで、アンタらの剣技じゃあ、熱くなれねぇよ。
【残像】と【見切り】を併用して雹刃突を躱しつつ。機を見て、UC。
【範囲攻撃】も交えて、広範囲。勿論、紫陽花に被害は出さずにクールに決めるぜ。
シャル、まだへばってねぇよな?手が必要なら言えよ?
紫陽花を鬼の血で穢す必要は、もうないのだ。
溢れんばかりの思い出があったはず。だからこそ、妖刀に魅入られてなお、この地に留まる。
ならば、それを終わらせるのに無粋なことなどあってはならない。
戦う者としてではなく、ただ心持つものとして、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は紫陽花を見つめる。
それは、とても記憶と写真として、刹那を持つからこそ。
大切なのだ。大事なのだ。
そこに続く思いもまた、鮮やかなままでいさせたいの。
空は泣いているというのならば、それを止めさせてないといけないだろう。
せめて素早く終わらせたいのだと、清川・シャル(無銘・f01440)もまた桜色の金棒、そーちゃんと名付けられたそれを構えた。
呪魔力を帯びたそれらは、羅刹たるシャルが振るうに相応しい重さ。雨を、氷を、妖刀を討ち砕くだけの威力を秘めている。
「骸の海へと還してあげます」
渦巻くのはシャルの魔力で吹き上がる強き旋風。
冷気と寒気を巻き上げ、雨と共に空へと散らす。
少なくとも、自分と、背中合わせのカイムに呪いの冷たさが届かないように。
「呪いって力にもなるんてす、こうやって使うんですよ」
優しく、暖かい。そんな鬼の力の使い方。
刀を使うし、鬼でもシャル。けれど、雨の奥で佇む剣鬼とはまったく違うのだと、吹き抜ける風が告げている。
「有り難うな、シャル」
そんな彼女に背を預け、右手に魔剣を顕現させるカイム。
渇望する者の剣にして、黒銀の炎を従える刃。全ての神を滅ぼす為の一振りも、今は傍らの愛しき少女の為だけに。
「俺は寒いのは苦手でね。どうせなら、内側から燃えるような熱い情熱に突き動かされたいモンだ」
例えば、背中に触れる暖かさとか。
少し前まで紫陽花の中で感じた思い出だとか。
或いは、この後に続く、二人の幸せ。
惚気というならそれまで。だが、それが力になるというのなら、何も間違いなどありはしない。
事実、駆け寄る村雨が放つ寒気を纏う斬撃を見切り、するりと残像を残して避けるカイム。
「つーわけで、ほら、アンタらの剣技じゃあ、熱くなれねぇよ」
更に迫るは雹を伴う疾風の如き冷たき刺突。喉を狙ったそれは、シャルの展開した多重障壁が受ける。
揺らぐ村雨の体勢。一瞬の隙を見逃さず、シャルがカウンターとして繰り出すは呪詛を帯びた鬼金棒による一撃だ。
「ほら、隙ですよ。鬼神の一撃、ご覧あれ」
棘を高速で回転させるのはさながらチェーンソー。羅刹の力と呪詛を乗せて薙ぎ払われるそれは単純ながら、故にこそ超重の脅威。
受けた筈の村雨の氷刀が砕け、胴ごと両断される。全ての重さが乗る縦での一閃ならば更に複数の敵をも巻き込めただろうが。
それでは紫陽花の咲くこの地まで巻き込む。ならば、背中合わせに戦いのワルツを共に踊るカイムを信じて、ひとつずつ屠るのみ。
カイムへと気を配り、多重の障壁を分けて彼の身にも。
「ここまでされて、何もカッコいい所を見せない訳にはいかないな」
迫る虚ろなる影たる村雨の数は多くとも、互いの隙を補い、避けて翻弄し、受けて止め、一体ずつを粉砕し、斬り捨てる。
呪詛の寒気もシャルが巻き上げ続ける旋風で軽減され、思うように氷の力が乗らない。焦り、削られ、そして隙を晒していく村雨たち。
そう、此処までされて、何も出来ないのではあれば男ではないだろう。
ごうっ、と周囲の雨を掻き消して。
シャルの羅刹の風と共に舞うは、カイムの黒銀の炎だ。
風を得た火炎はより勢いを増し、その揺らめきを大きくする。
ただひとりの力で放つではないからこそ、必殺の威力を持って広がるのだ。
「ハッ! 逃がすかよ!」
黒銀の斬撃が閃く。
それは無慈悲にして、滅びを呼ぶ色彩だ。
連携するシャルとカイムの二人を相手取り、近接し過ぎたと後悔してももう遅い。
カイムの振るうはただの斬撃ではない。刀身より溢れ、周囲に放たれる黒銀の炎は奔流と化して二人を取り込んでいた村雨たちを灼き尽くす。
雨が掻き消える。氷呪が溶ける。
影たる身が焼かれ、斬られ、滅び行く。
その中で、諦めきれぬと燃え盛る身で、相打ち狙うように斬り掛かる一体の村雨。
だが、それもやはり届かない。
「させませんっ!」
間に割って入り、鬼金棒で受けて弾くシャル。そのまま、ぐらりと体勢が崩れた所へと薙ぎ払う羅刹の剛撃。
くるりと互いが入れ替わる。背中合わせ。呼吸を合わせ、互いの隙を埋め、防御と攻撃を繰り返し、敵を討ち滅ぼすチャンスを紡いでいくふたり。
その連携に入り込むことなど、虚ろなる模倣の身では不可能だ。
「シャル、まだへばってねぇよな? 手が必要なら言えよ?」
更に新手が迫るが、その数は減ってきている。
もう少し。あと少しなのだ。
「大丈夫ですよ。シャルはこの程度では疲れもしません」
それは、カイムが気を配ってくれるからなのか。
それとも、ふたりで、だからなのか。
ただ、気遣い、思う。
「紫陽花はいつでも綺麗ですね」
視線の隅に捉えたそれへと、呟くシャル。
これが変わる事はない。これからも思い出の中で咲き続けるその花びらは、血で濡れ、染まったりはしないように。
「血で汚れないようにしたいです」
あの写真で捉えた、美しさのままで。
二人の思い出を。デートを、明日へと繋ぎたいという願いだとカイムは思うから。
「当たり前だ。終わったら、また、写真の続きを取ろうな」
その為に無論、紫陽花に被害は出さずにクールに。
過去に悲恋があったというのなら、今、また新しい恋人たちの幸せを重ねよう。
流れる過去と時間はあったとしても。
続く日常と、恋はある。
桜色の剛撃と、黒銀の焔斬が幾度となく振るわれる。
それは全て、互いの為に。
背中合わせの、キミの為に。
そんな思いの絆を斬ることなど、模倣の妖刀では叶わぬこと。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
宴・段三郎
相、お待たせ致した
これより刀工『地国』がおんしらの打ち直しを仕る
【行動】
影打ではなく、贋作と呼ばれるのは刀にとって辛いことじゃ
はよう新たな妖刀に打ち直して助けてやるのが情けというもの
使用する妖刀は
号 『化生炉』
妖刀を鍛刀する妖刀
そして
号 『戎』
戎は、妖刀のみに力を発する妖刀。妖刀のオブリビオンとしての怨嗟を刃を重ねて吸い尽くしてゆく
そして化生炉で
鞘から溢れる炎、
鎚の役割を持つ刀身、
これをもって鍛刀す
ゆーべるこーどは
『地国炉開闢』
鞘による敵の【焼却】で相手の魂ごと熱し、刀身を何度も火花が散るほど打ち付けて、新たな怨恨、憎悪を持った荒魂を憑依させる
この炎はおんしらにとっては懐かしいはずじゃ
積もりに積もった思い。
果たされぬそれが呪いへと化し、心と刃を錆び付かせるならこそ。
それこそが悲劇へと導いていくのだろうから。
「相、お待たせ致した」
転がり落ちる様はなんとも悲しく。
救いようのない在り方は、早く終わらせねばならないのだ。
「これより刀工『地国』がおんしらの打ち直しを仕る」
告げるは宴・段三郎(刀鍛冶・f02241)。荒魂を宿す刀ばかりを打ちし希代の刀匠が、目の前で斬り結ぶ影の携える妖刀へと語りかける。
「影打ではなく、贋作と呼ばれるのは刀にとって辛いことじゃ」
そして宴が鞘ごと構える大太刀の号は『化生炉』。
妖刀を鍛刀する妖刀は火炉の熱と大槌の威を宿すもの。
斬れば鉄に、打てば鋼に、火と共に重ねてまた妖刀へと。宴の打つ刀は皆、そうなるが故に。
「はよう新たな妖刀に打ち直して助けてやるのが情けというもの」
そしてもう片手でするりと抜き出されるは、号『戎』。
妖刀のみに力を発する、これも妖刀。剣戟で刃重ねる中、オビリビオンとしての怨嗟を吸い尽くす、妖刀を殺しの業を秘めるもの。
「さてさて、如何なる妖刀へと変わるやら」
少なくとも、今の模倣。
薄く、脆く、数打ちにして虚ろにはなるまい。
「芯のなき刀は総じて鈍くら。そのようには断じてせぬから、安心せよ」
言葉と共に化生炉の鞘から溢れるは深紅の炎だ。
まるじ鍛冶場の真っ只中。鋼鉄を深紅に染めるような色彩を揺らし、それ自体が槌としての役目をも果たす。
「これをもって鍛刀致す。異議あるならば、それこそ、斬り掛かられよ」
どのような刀鍛冶か。どのような刀身を鍛え上げるか。
知らぬ儘に身を任せるなど屈辱だろう。斬り結ぶ中でこそ、宴の作り上げた刀の素晴らしさを、荒魂とはいえ、ひとつの霊魂宿る太刀に変わると知らせようと。
互いに向けて放たれる斬撃。
凍える程に冴えた雹刃。燃え盛らんばかりの火炎の剛撃。
が、妖刀殺しが刀身越しに触れ、その怨嗟を吸い尽う。それを元に、猛る化生炉の焔。
幾度となく火花が舞い散る程に打ち付け合い、今ある怨嗟と呪いを喪わせ、新たなる怨嗟と荒魂を憑依させようと。
「ほう、そのようになりたいか」
袈裟に放たれる斬撃。翻って流れる払い。返す刃が鳥のように翻って。
生半可な刀ではその寿命を削り、失い切るような剣戟の嵐の中で、宴が見出すは次なる妖刀、荒魂宿す一振りの姿。
かくあるべし。
或いは、こうありたかろう。
怨嗟、呪詛をばらまく刀である事に変わりは無く、そこは鬼才の感性。追い求め、突き詰め、己が宿業として、新たなる妖刀を紡ぐのだ。
その姿は使う者次第。
正しいも、邪もありはしないと。
創るという事に魅入られた宴の魂に火がつき、その意欲を纏えば、その動きは加速し、化生炉の炎を周囲へと放射する。
「この炎はおんしらにとっては懐かしい筈じゃ」
産まれる際に、幾度となくその身を抱いたもの。
そして鉄は赤きうちにと、高速で振るわれる化粧炉の剛撃。刀身に傷を刻むではなく、討ち砕くでもない。
新たに、打ち直す為に。
刀匠の願いと意欲の元に焼却され、消えるはかつての妖刀の魂。
氷を纏い、寒気を呼ぶそれは今はもうなく。
それは如何なる憎悪と、怨恨を宿す鬼の剣か。
「さて、それは、振るう者次第じゃな」
創ることしか心にはない。
存在自体がデタラメなそれを、気紛れで他者に渡して如何様に振るうか。
歌舞伎を見て楽しむように、それを観察することこそ、宴の求める、世界の姿。
荒れて揺れて。
降りて転がり。
斬れよ、斬れよ。
如何なる悲劇も、妖刀の業さえも、乗り越える人の姿は美しいのだから。
成功
🔵🔵🔴
鈴木・志乃
……報われない物語に一抹の救いがあるのなら、それは一体何だと思う?
オーラ防御展開
第六感で攻撃を見切り光の鎖で早業武器受けからのカウンター捕縛を狙うよ。
刀に鎖なら相性は悪くない。
どうやっても現実は残酷だ。覆らない事実もある。
それだけの強い呪いは……何かの気持ちの裏返し、だったんじゃないかな。
怨霊になって終わるなんて悲しいよ。せめて、一瞬でも貴方に、夢を。
早業高速詠唱全力魔法UC発動
温かい気持ち
誰かが何かを思う気持ち、残ってるはずだから。
そのままなぎ払い攻撃するよ
はあ……冷えるね。
ならば問おう。
或いは、考えてみよう。
ここはひとつ、答えを出さないといけない。
雨で濡れ、流れる儘に物語を終わらせない為に。
例えばここで出した答えが、何時かの物語の為になるかもしれないのだから。
鈴木・志乃(ブラック・f12101)はここに問うのだ。
――報われない物語に一抹の救いがあるのなら
パフォーマンス。演劇。歌としての物語だけではなく。
――それは一体何だと思う?
他者の幸福の為に生まれ、他者の夢の為に生きる愚者。
全員の笑顔という理想を見続ける無謀者というのなら、余さず全てを拾い上げ、救いあげるべく。
オーラを纏って防御を固め、雨の中を駆け抜ける志乃。
手にするのは何かの輝きを吸い込み、淡く光る鎖。
じゃらりと音を鳴らしながら振るわれ、螺旋を描く姿は、何かの希望を歌うかのよう。
敵である村雨も真っ向より踏み込も、妖刀を振るう。
だが、志乃の腕で手繰られる光の鎖はその軌道を変え、迫っていた刀身に絡みつき、その動きを封じる。
のみならず、その先端は勢いをもって村雨の顎を打つ。
刀に対しての鎖ならば相性は悪くない。どころか、変幻自在に姿を変える動きは、剣士に対して有利だ。
刀を持つ者からすれば、相手取りたくない得物のひとつだろう。
「さて」
そのまま鎖で打ち据え、捕縛し、投げ飛ばす志乃。
呟く言葉は悲しみで揺れながらも、しっかりと流れていく。
「どうやっても現実は残酷だ。覆らない事実もある」
振り切る雨を止めることはではない。
紫陽花が何時か枯れ果てることも、やはり、覆らない事実。
けれど、と。
「それだけの強い呪いは……何かの気持ちの裏返し、だったんじゃないかな」
志乃の周囲で渦を巻くように振るわれる光の鎖。
寒気を散らし、呪詛の冷気を逸らさせながら、志乃は声を紡ぐ。
「怨霊になって終わるなんて悲しいよ。せめて、一瞬でも貴方に、夢を」
現実で叶わないなら、夢をみさせてあげたい。
それこそ、報われない物語への、一抹の救いだろうから。
向ける剣鬼の男に、それは届いたのか。
まだその胸に、大切なものを、残しているのか。
夢を見る思いは、未だにある筈だと信じて。
「――飛んでいけ」
探せ。失ったモノを。
何処までも、飛び続けて、光の翼たち。
志乃の祈りを込めた千羽鶴から、飛び立つのは淡くも確かな無数の光の鳥。
折り重ねた思いをここに。
失われた想いを引き寄せるべく。
暖かい気持ち。ぬくもりの記憶。
誰かが、何かを思う気持ちは、何時、どんな時だって、残っている筈だから。
大切なる輝きは消えないのだと、翼の輝きが増し、千羽の嵐が閃く。
放たれようとしていた氷柱をも飲み込み、影たちを薙ぎ払う。
動きを封じられ、更に千の光翼で掻き消される呪詛。
それは、剣鬼に落ちた剣鬼の身には届かずとも。
心に残った、失しなった何かを呼び戻した筈だと信じて。
「はあ……冷えるね」
呼びかける志乃。
雨に打たれるは共に。
「でも……少しだけでも、胸の中に、温かさは戻っていないかな?」
それは願いであり、祈りであり。
雨と紫陽花の物語の向こうに求める、一抹の救いであり、希望だった。
これより旅立つ先にこそ、光あれ。
成功
🔵🔵🔴
呉羽・伊織
【花守】
(響いた声に一瞬だけ目を伏せるも、即座に顔上げ)
――呪いってのはつくづく厄介だな
(ああして囚われた者のみならず、縁を結んだ相手の心までも縛り付け、今尚苛んで――ああ、でも、其でも、互いに未だ残るものが在るのなら)
UCで先制
水は控え、闇での目潰しと毒で腕部位破壊を狙う
更に早業と2回攻撃駆使し、弱った影から烏羽で霧散を
足場は耐性で補い、攻撃は残像で眩まし回避
(俺にも忘れたくない、叶えたい、大事な誓いや祈りが在る――そして同時に、俺も一歩違えばきっと――だからか余計に、嗚呼――)
影と呪詛は容赦なく斬って捨てる
妖刀が齎す暗雲の悉くを斬り払い――奥底に残る想いに微かでも光明差す道を、斬り開きに
百鬼・景近
【花守】
(妖刀と呪詛を鎮める――何があろうと最初から、成す事も、心の内も、変わらない
――ただ、聞こえた声に、改めてその想いを強くして――一瞬、嘗ての誰かの面影が重なるも頭を振って)
――本当、妖刀や呪詛ばかりに愛されるなんて参るよね?
(少しだけ冗談を交えるも、視線は真剣に
――ああ、でも彼は違う
真に彼を愛しているのはそんなものじゃない
心を曇らせ、魂を翳らせるものとの悪縁を絶ちに)
UC展開し氷と相殺しつつ、早業で刀振るい伊織と合わせ2回攻撃
敵の狙いは残像で撹乱し直撃回避
…過去は最早変えようがなくとも、せめて今、変えられるものは変えに行こうか
(聞き届け、見届け――
願わくは、互いの心が再び届く結末へと)
響いた声は、さて、何処まで深く届いたのか。
痛みを覚える程に。
苦しみを思い出せる程に。
或いは、振り切れぬ業を感じさせる程にまで。
ああ、或いはそれは蝕まれ過ぎた者だからかもしれない。
呉羽・伊織(翳・f03578)は一瞬だけ瞼を閉じる。自分達のようなものでなければ、このような感傷に浸ることなどないだろう。
だから開いた赤い眸は、流水の様ながら、常とは違う揺れを見せた。
「呪いってのはつくづく厄介だな」
さりとて払えぬのは、しがみつく掌のようで。
悪しき縁ほど拭いがたい。何処で拾い、何処で絡まったのか。さてはてと、顧みればそこには大切なものがあるからこそ。
払えぬ。切れぬ。大事なものと硬く、結びついているのだから。
捨てるなど出来ないのだ。
それは妖刀、呪詛を鎮めると心の裡で定めた百鬼・景近(化野・f10122)も同じく。
何があろうと最初から、成す事も、心の裡の模様を変えることはない。
ないのだけれど。
ああ、変わらぬ。呪とはかくも同じかと、吐息をついて頭を振るう。
誰かの面影を呼ぶ。その姿は、ああ、変わらぬ。重なる。今と、それと。呪いを終わらせると心に強く思えば思う程、面影は鮮明なる形を取るから。
「――本当、妖刀や呪詛ばかりに愛されるなんて参るよね?」
少しでも冗談を混じらせて。
けれど、それがより一層、百鬼の視線の鋭さを際立たせる。
「似たものを、影のようなものを好むのかね。それとも、似ているものだから、自然と寄るのか」
呟く伊織の声に応えはない。
曰くあり、呪いあり。そう聞いて、巡りて来たのは彼らふたり。
似た呪い影に、匂いに、呼ばれたのか、呼んだのか。辿ったのか。
もはや定かではないのは、剣鬼の男の思いだけではなく。
「――ああ、でも彼は違う」
真に彼を愛し、包もうとしているのはそんなものではない。
心を曇らせ、思い出を濁らせ、魂を翳らせる妖刀との悪縁を絶ちに。
さあ、いざと。
この悪しき糸を見れるは、悪しきを知るふたりのみと。
忌みと咎は、背負いし者にしか見られぬ故に。
或いは、そうでなくば、また呪われる連鎖が為。
「なら払おうか。何、空気が淀んでいる。風が凍えている。渦巻く雲は、少々暗く、重すぎる」
剣鬼の呪詛、その残滓を受けて動く影。
きっと、あれはもう何も思い出せない。
大切なる何かを喪って、零して、落として。
そうして囚われた者の人生のみならず。
縁を結んだ相手の心までも縛り付け、今尚苛むこそ、呪いというもの。
己のみならず、周囲に不幸を振りまく、災禍の種にして、幾らでも伸びる蔦。
ああ、でも、其でも、互いに未だ残るものが在るのなら。
その悪縁の蔦さえ断てば、男と女の情と心と、縁は再び結ばれる筈。
そう信じて願い、指先を伸ばすことを誰が咎められよう。
救いあることに、目を向けること、当然なのだから。
「囚われたままでは、ね」
技の起こりは滑らかにて、素早く。
伊織が振るった着物の袖より伸びて空走るは闇と毒属性を宿した暗器だ。
騙し技、殺し技による先制。気づけば腕へと刺さり、心を蝕む幻惑の刃。一度のみならず、返す腕の動きで再度。
二度も刺されば上手くは動けぬ。眩暈と幻覚、惑わされた村雨の目は、呪いや妖しに魅入られたかのように、今と現を捉えられぬ。
「さて、霧散を願おうか」
そのまま滑るように迫る伊織が手にするのは冷ややかなる黒刀。
銘を烏羽。
村雨の持つそれの比ではない怨恨と暗翳を纏い、音も光もなく滑る刃。するりと斬り抜けば、ころりと首より上が転がり落ちる。
毬のようなそれに、構うことなく。
ふわりと揺れて、舞うは無数の火。雨を散らして消す百鬼が手繰るそれは、生み出された氷柱を空で焼き払っていく。
地に落ちようとも、その威と脅威は微弱。八割以上を相殺し、なおかつまた百鬼も迫り、構えし妖刀を振るう。
斬撃は続けて。瞬く間に斬り、返す刃で薙ぎ払う。
幻惑の上に肩口を、腹を、脚を斬られて揺らぐ影へと、間を置かずに振るわれる伊織の鳥羽。
唯静かに、雨音さえも呑むような黒をもって、死を運ぶ。
闇雲に。いいや、幻惑されてもなお、命の温もり捉えて、氷刀が振るわれる。目がダメなら嗅覚で。正確さを失っても、妖刀であることは変わらぬ鋭さで奔る殺人の剣。
けれど、届かぬと避ける伊織と百鬼。
雨でぬかるんだ泥に足元囚われることなく跳ね飛び、残像を残して、ひらりと、ゆらりと伊織と百鬼。
幽鬼はここにあり。定かにと囚われることのない姿をもって、死と刃を運び、流しゆくふたり。
幻惑と攪乱。
早業にて紡がれる斬首の剣閃。
例え伊織の鳥羽による霧散を逃れても、百鬼の妖刀の切っ先が心臓を穿つ。
ふたり並びて剣を振るえば、呪詛と影など斬って払われる露の如く。
だが、こんなものが相手ではない。
この奥で佇む剣鬼こそ、ふたりの、いや、みなの狙い。
呪詛の桁が違う。雨降り注ぐ空間が歪んで見える程の邪気と妖気。
されど、それで怯まぬ。なお進む。
伊織は心の中で呟いた。
死を運ぶ刃を手繰る姿に、似合わぬ故に、声に出さず胸に秘めて。
(俺にも忘れたくない、叶えたい、大事な誓いや祈りが在る)
――そして同時に、俺も一歩違えばきっと、
――だからか余計に、嗚呼。
揺らいだ思いを現に繋ぎとめるは百鬼の声。
「……過去は最早変えようがなくとも、せめて今、変えられるものは変えに行こうか」
呼んだのは君じゃないか。
――酷いなぁ。
想い馳せる相手が、過去だなんて。
物好きだねと。
そんな百鬼の声が聞こえる気がして。
話には裏があるんだよ。表があれば裏がある。
思いが台詞には出ず、地にも出ず。けれど、声色で匂わせるものもあるだろう。
ようは表あれば裏があり、裏があるから表がある。
悪くはないだろう、と伊織も囁くように返して。
受け取ったか判らない。ただ百鬼は微笑む。
独特過ぎる彼の、その裡を知るもののみ判る表情にて。
(聞き届け、見届け――願わくは、互いの心が再び届く結末へと)
妖刀が齎す暗雲の悉くを斬り払い。
ざあざあと騒ぎ立てる雨の、先で。
微かでも光明差す道を、斬り開きに。
それは呪われたものが求める、救いの光。暗雲が立ち込める悲劇の先、果たしていかなる色彩が待つのか。
呪い、呪われるからこそ。
心の望む結末へと、ふたりは刀を振るいて駆け抜ける。
紫陽花がその背を見送り、祈るように揺れた。
刹那に吹いた風ばかりは、とても清らかな。
妖刀の前では掻き消える儚いものであれど。
ひとの優しき、愛しき、情念を抱いたものであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 ボス戦
『憑き刀』
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POW : 主喰いの武具
戦闘中に食べた【自身を装備している者の寿命】の量と質に応じて【纏っている妖気が増大し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : 憑依カミヤドリ
【自身を装備している者の理性を侵食する】事で【装備者は凶悪な妖剣士】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 仮初の使い手
【装備者が戦えなくなると代わりに武人の死霊】を召喚し、自身を操らせる事で戦闘力が向上する。
イラスト:童夢
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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※スケジュール調整と共に、断章投下予定。それまで、プレイングはお控え下さると幸いです。
お待たせすることになりまして、申し訳御座いません。
●断章・男の名残りと剣鬼に、果ての先を求めて
雨の帳の奥から、男が歩み寄る。
その姿は何処か朧。生きているとは思えない程に生命の存在が薄く、蝕まれている。
では印象に薄いのかと言われれば否だ。
「ああ、大切な何かは……光はあった気がする」
纏い、放つ妖しき気配は桁が違う。
滲み出す怨嗟と呪いは、成る程、先のが影だといえる程に強烈。
「紫陽花に、誰か。少しだけ、少しだけ思い出する」
声は物静かに。だが、どうしようもない哀惜を漂わせて。
「夢を見ていた気がする。懐かしく、大事な……もう取り戻せず、思い出せない」
言葉と共に、すらりと抜刀。
その仕草だけで手慣れなのだと判る程。
元々が研ぎ澄まされた武芸者。剣豪といって良いのだろう。
生きていると思えない程に生命の色彩を失い、なおかつ、その剣気は凄まじい。
それが妖刀に憑かれ、命と心を代償に、力を得た果て。
寿命や理性、記憶だけではない。生命力を、存在さえも奪い尽くす鬼の所業。いいや、鬼が新たなる鬼を作るためのもの。
だが、放たれる剣気と妖気は更に増す。白々とした刀身は、しかし、脈打つように呪詛を滲ませ続けていた。
「大切な誰か……がいた……」
微かに思い出した記憶を辿り男は、握る柄に力を込める。
かけられた言葉に、思いに、切っ先に、確かに男の心は震えて。
残滓たるものが、確かな形を結ぶのだ。
「終わるべきなのだろう」
だが。
かたかたと、刃を振るわせて嗤う妖刀。
微かに、仄かに、けれど、未だ男の裡に眠っていた思いを見つけたと、まだ奪える光を見て、その呪いを増す。
鬼は嗤う。空と心を泣かせ、それを飲み干し、更なる力を得て。
「ああ、終わるべかは――刃のみぞ知る」
ゆらりと構えられる姿は静かにして、隙はなく。
告げる名さら失い、研ぎ澄まされた妖刀は、鋼も鎧も盾も、気も術も何もかもを悉く、斬り裂く呪刃と化している。
まともに受けることは不可能だろう。
その流れは一方通行。戻りなど出来ない。
変わりに莫大な力を得て、周囲に呪いを振りまいて突き進む。
剣鬼へと墜ちた男に、例え、情が残っていても、心の欠片が残っていても。
それが呼び起こされる度に、妖刀は端からそれを吸い上げ、自らと剣鬼の力へと変えていく。
ぼうっ、ぼうっ、と鬼火を伴い。
するりと走る姿は、一瞬とはいえ戻った心で、声を紡ぐ。
「斬り結ぶ裡ならば、何か判る気がする」
それは、お前達の戦う姿を見て、胸の鼓動を感じたからこそ。
哀惜と慟哭は止めどないけれど、痛みこそが心と魂があることを告げている。
ならば、斬り結ぶ刹那ならば。
失うよりもっと早く、何かを取り戻せるのでは。
――刃が閃いて散る、その刹那の中でならば。
「参る。死合うぞ」
嗤うは妖刀。ここに来て更なる力を得て、刀身から滲む呪詛。
ならばもっと、もっと転がり墜ちてしまえ。
或いはこの戦いの中で、もっと心を取り戻せば、更に力を増す。
だが、それを奪うよりもも早く、この男が終わってしまえば。妖刀が魂を喰らう前に、確かに終わるのだ。
それもよし。どのような思いが雨の中で起きるのかと、妖刀は嗤い続ける。
所詮、これこそが悪鬼。魂の果てこそを見たいのだと。
「この先に、何かがある気がするのだ」
視線は、猟兵たちの背負う紫陽花へと、一瞬だけ吸い込まれて。
救いのない物語に、果たして如何なる終わりが刻まれるのか。
それを歌うは、今より。
交わる刃と、交差する気。
喰らい合う呪詛と、清き思いが。
舞いて歌い、己が道と求めるものを重ね合う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※変更点
プレイング受付ですが、私のシステムの把握不足により。
13(土曜)日の、朝09:00からの受付となりますこと、どうぞ宜しくお願い致します。
オヴェリア・ゲランド
まだ奴は全てを取り戻せていない、全てを失っていない。
ならば、ゆえに、私が相手をしよう…剣で語り、剣で終わらせる為に。
●斬り結ぶ〜語り合う
「喜べ、貴様の全てを出し切れる剣士が目の前にいるぞ。
来い…剣に生き、己が修羅を捻じ伏せて理に至った剣帝オヴェリアが心逝くまで相手をしてやる」
【切り込む】そして斬り結ぶ。
【念動力】で逸らし、【オーラ防御】で防ぐ剣帝の【覇気】を纏い、【野生の勘】を頼りに刹那を重ねる。
何の為に剣を執る?何の為に斬る?何の為に生きる?
問いかけは全て幾重にも重ねた【剣刃一閃】で語る。
【薙ぎ払い】【吹き飛ばし】【武器受け】流して…奴が逝くまで、心ゆくまで語ってやろうぞ。
※アドリブ歓迎
それは偶然か、必然か。
剣を極めし後に築きし者と、悲願の為に剣の鬼へと墜ちし者。
ふたりが対峙する事に何かの意味がある気がしてならない。
主を喰らう妖刀が涼やかに成る。雨を切りて、するり、ゆらりと。
――だが、まだ全ては失っていないのだろう?
問いかけるオヴェリア・ゲランド(銀の剣帝・f25174)の眼差しは鋭く、超然として。
青い瞳は刃ように鋭く。
剣鬼へと切りつけるよう睨み付ける。
「まだ全てを取り戻せてもいないのだろう?」
言葉にしたのは心の問題。
妖刀に蝕まれ続けた魂が取り戻せたのは僅かな欠片。
そして、それが失われるのも時間の問題だ。人として終わるのも、もう遠い先でないのだから。
ならば。いいや、故にこ。
語るが剣でしか出来ぬ今、刃を交えて語り合おう。
せめて、心と魂宿した、正しき剣で終わらせる為に。
「喜べ、貴様の全てを出し切れる剣士が目の前にいるぞ」
お前の一生、そして選択。
例え妖刀に嗤われようとも、無意味などではないのだと。
誇るがいい。
そして、己の魂に光を取り戻すがいい。
剣をもって帝国を築きしてオヴェリアは、斬り結ぶ最中でそれを受け止め、なお輝かせてみせる。
「全霊を燃やして、来い…剣に生き、己が修羅を捻じ伏せて理に至った剣帝オヴェリアが心逝くまで相手をしてやる」
故に踏み込む。躊躇いなどある筈もない。
剣皇の覇気を纏う大剣による一閃。
それは剣刃の真髄を秘めている。すなわち、触れれば斬る。
余りにも単純。だが、森羅万象、形あるものの全てを斬るという業は一種の理想だ。
だからこそ、鋼が悲鳴を上げるような激突音を起こしたことにオヴァリアは目を細める。
「ほう、弾くか」
刃が触れればそのまま斬り裂く。
ならばと鎬で受けると同時に、その力を見切り、早業にて刀身を捻って攻め掛かる太刀筋を弾き飛ばす。
力と速さによるものではない。雅と呼べる程の技量がもたらす受けの業にして、この国の剣豪たちの求めるもの。
そのまま出来た隙へと滑り込むように流れる妖刀。紙一重で避けるオヴェリアだが、肩に浅く切っ先が触れる。
「切っ先三寸、通れば人は殺せるか」
僅かな隙を作り、そこへと致死の刃を滑り込ませる。
何とも実直。なのに美しい理念かと微笑むオヴェリア。迫る太刀は一つに留まらず、二の太刀、三の太刀と翻る妖刀は止まることを知らない。
一度、隙を作れば、後は流れるように攻め続けて斬り伏せるのみ。
剣皇の名を以てしても、剣鬼の刃からは容易く逃れられない。
「これ程の力があれば、国盗りのひとつなど容易かろうに。……いや、そんなものが目的ではないからこそか」
片道のみ。その先など求めない。
刹那に散りゆく思いのみを、祈りと呪いとして刃に宿している。
身を刻まれ、鮮血を散らしながら後ろに下がるオヴェリア。
故に迫る斬撃。此処で仕留めると、今までより一段と早く流れる刃は、音さえ置き去りに。
緩急を付けた剣は邪剣の一言。命を奪う瞬間、殺人の剣は驚異的な冴えを見せる。
だからこそ、再び響き合う鋼の激突音は両者の技量を物語る。
「ならば、かつて、そして、今」
扱いの難しい大剣を持ってして、振るわれた斬撃を弾くオヴェリア。
「何の為に剣を執り、振るっているのだ?」
それは一度ではない。
互いに触れたものを悉く斬り捨てる刃を持って振るう剣撃。
それらが交差し、弾き飛ばし合い、そして再び絡み合うように繰り出される。
一瞬の誤りが、己が持つ剣と身と、命を失うその瀬戸際。だからこそ、火花散らして、刃が輝く。
雨音を掻き消す、鋼の音色。
「何の為に斬る? 何の為に生きる?」
その中で超然とした笑みを浮かべ、問いただすオヴェリア。
幾重にも重ねた斬撃の嵐の中で、二人の持つ刃は刃毀れのひとつを起こさず。けれど、何度とてと斬り結ぶのだ。
「いいや、如何なる願いと夢を、今とて抱く?」
ただ知りたい。
全ての剣士を、その生き様を。
だから、こんな者ではないだろう。
呪いで鈍る眼を醒ませと、激烈なるオヴェリアの剣閃が放たれる。
見切り、受け流すは不可能と後ろに飛ぶ剣鬼。
だが避けることは叶わず、肩口から胸板にかけて走る傷跡。ぱたたっ、と雨に混じって落ちる血の滴。
「俺……は」
それでも戦意を失わない。
いや、これだけの敵手を前に、ゆらりと小さく。
けれど何かが輝くのだ。
「俺は」
「そうだ。思い出せ。剣に込めろ。お前が逝くまで、心逝くまで語ってやろう」
それは剣鬼に更なる技の冴えを取り戻させる。
妖刀の蝕みはより一層。主喰らいの呪いは今もなおだから。
だが。
「志半ばで果てるなど、無念と心残りあって倒れるなど、できまいよ」
剣皇たる身。
その矜持をもって、オヴェリアは再び大剣を構える。
「さて、語ろう。斬り結ぼう。刃を重ねる中でのみ、見えるものあるならば」
斬り結ぶとは、つまり。
その全てを受け止めてみせるということに他ならないのだから。
身より流れる血を気にせず、オヴァリエは超然と微笑んでみせた。
成功
🔵🔵🔴
政木・朱鞠
可哀想に…どうして思いが強いわからず屋さんになっちゃったのかな?
贄を求めて彷徨い…元のまま助けられないなら、せめてもの手向けとして望み通り『死合』でその歪な信念に凝り固まった思いから解放してやらないとね…。
たとえ貴方がどんなに強くても、その咎をここで一時的だけど幕引きさせて貰うよ…そして、オヤスミナサイ。
戦闘
避けきれなければ斬撃を貰うリスクは有るけど、武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使って体に鎖を絡めて動きを封じたいね。
心情的な攻撃なのかもしれないけど…『忍法・咎狐落とし』で今まで罪を犯した魂に対して絞り出させる様にダメージを与えたいね。
アドリブ連帯歓迎
可哀想そうに。
どうしてそうなったのか。そうやって果てようとしているのか。
強すぎる思いは、他を見聞きして覚えることができなくなってしまったのだろうか。
ただ判るのはひとつ。
贄を求めて彷徨い続けるのが、剣鬼たる男の定め。
妖刀を手に取った時から決まってしまっていることなのかもしれない。
ならばと政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は思うのだ
元のまま助けられないならば。
「せめてもの手向けとして望み通り、『死合』でその歪な信念に凝り固まった思いから、解放してやらないとね……」
じゃらりと鳴るは蔓薔薇のように茨を纏う鎖、『荊野鎖』だ。
両手に携え、振るいて撓らせるは鞭の如く。
「例え貴方がどんなに強くても」
抱いた思い、最初の悲痛なる願いが強くても。
「その咎をここで一時的だけど幕引きさせて貰うよ……そして、オヤスミナサイ」
その悲しき夢と、痛ましき罪に、終わりを。
最早眠れと、薙ぎ払われるように繰り出される荊野鎖。
だがその動きは自由自在。手元の手繰り寄せる朱鞠の意志に応じて、走る最中で毒蛇の如く動きを変え、男の腕へと迫る。
身を封じること。まずその為にと。
「眠れ、と」
だが、放たれる剣気の禍々しさは、決して封じられるものではない。
半身となって避け、あまつさえ流れる鎖を刀身で叩き落として動きを狂わせ、一気に朱鞠の元へと迫る剣鬼。
「何故だろうか。ああ、まだ眠れぬと、何かが大切なのだと」
果てるには早いのだと。
「言っているのだ」
「っ」
男の体捌きは早い。妖刀の範囲に朱鞠を納めるや否や、放たれる一閃は脇腹を捉え、更に翻る。
元より受けるには向かないのが鉄鎖の『荊野鎖』。避けられれば終わると感じる、死剣の冴えを感じて、全力で飛び退く朱鞠。
斬撃は虚空を切る。だが、避けた先で膝を付く朱鞠も次はない。
だからこそ、手繰り寄せるは叩き落とされた『荊野鎖』だ。鎖鎌の如く振るい、再び動かすのは地面から。つまり、視界の外、真下からの奇襲だ。
忍びが剣士と真っ向から立ち会う道理もない。
剣鬼の身体へと叩きつけ、更には突き刺さった茨を支点に絡みつかせる。身を拘束して封じられればよいが、剣鬼にはそんな隙などない。
全ては罪咎。受けた呪いと、流した血、捧げた命によって極まった剣の鬼ならばこそ。
例え封じた所で、即座に抜け出し、刃が流れる。
だとすれば、朱鞠の取る行動はひとつだ。迷う暇などない瞬間の決断。
「咎に巣食いし悪狐の縁……焼き清め奉る!」
浄化の炎が宿す拷問の鎖。その身には一切の傷を与えず、咎人としての魂のみを焼く霊魂への攻撃だ。
これは先ほど言った通り、魂と思いで動いている。
未だに残った思いが、眠れぬ、終われぬと嘆いて、妖剣を振るうなら。
「貴方はどれほどの悲しみと咎を抱いているのか」
この炎を持って示せ、いいや、痛みとして思い出せと。
――その罪を全て灰と消し散らせば、貴方の魂は善き所へといける筈だから。
「……ぐっ」
罪と咎というのならば、修羅となった剣鬼に重なるものは多く、深くて重い。それを薪として燃え盛る浄化の炎。
いいや、それのみならず、繋がりし妖刀の纏う呪いさえも、一瞬薄らいだからこそ。
「ごめんね、その身と心が、これ以上の血で流れないように」
体勢が崩れた一瞬の隙を見逃さず、再び荊野鎖を振るい、剣鬼の身体を拘束する朱鞠。
そして縛した上で、絞り出すようにして魂へと炎と鎖の棘でダメージを与えていく。
そんな最中だからこそ気づく。
何も剣鬼だけが敵ではないのだと。
真に罪咎を背負うは、妖刀。荊野鎖の纏う浄化の炎に触れて、激しく妖気を減じさせている。
敵は一人ではなく。
一人と、一振り。それに気づいた瞬間、身を前へと転がして、剣鬼が鎖の束縛から逃れる。
再び閃く妖刀の一閃。
だが、そこには先ほどの冴えと速度はない。
ひらりと身を翻して避ける朱鞠。
ただの偶然と言えばそれまで。だが、確かに、妖刀が持つ力を、罪を、そして命あるものから奪った魂を焼いたことで。
剣鬼となった男の技も、力も、衰えている。
それは、真に狙うべきモノのを示すようで。
かたかたと。かたかたと。
まるで怨嗟を奏でるように、刀身から溢れる妖気が朱鞠へと放たれる。
この罪、この魂は己がモノだと。
嗤うではなく、初めて、怒りを見せて。
成功
🔵🔵🔴
ベルンハルト・マッケンゼン
アドリブ連携大歓迎
(剣鬼の怨嗟に、瞳を閉じ)
私もまた、夢を見ている。過去は事実か? 記憶は真実か?
……どうでも良い。世界の全てがどうであれ、私はベルンハルト。
我が存在、永劫の戦士マッケンゼン一族の末裔として、貴様を打ち負かそう。
(真の姿を解放。古今東西の全戦闘の記憶を脳内に再現。
瞳を開け、マシンピストルにバヨネットを着剣し、ゆっくり構える)
POW
UCを発動。ラグナロク、最終戦争を告げるギャッラルホルンの銃声を轟かせ、連射。
未来を捨て、過去を頼りに動き、撃ち、止まり、避け続ける。
近付けば剣で突き、遠ざかれば銃で撃つ。マッケンゼン流撃剣術。
……雨は、嫌いなんだ。早く上がってくれ。戦術的に…フッ。
これは夢なのか、現実なのか。
触れて、感じるは剣鬼の怨嗟。そこより鮮やかに蘇るは、果たして何か。
見えし姿と思い出は事実なのか。
記憶は果たして真実なのか。
ベルンハルト・マッケンゼン(黄金炎の傭兵・f01418)には答えを出せない。確かに、聖騎士がその鬼のような武勇を振るった時代に、彼のような傭兵はいない筈。
銃声が戦場を支配していた頃と、剣の名誉こそが戦場の印だった頃。
重なり合う筈の時が、記憶の中で混在している。
さながら古来より、あらゆる戦場に現れし伝説。
或いは苛烈極まる場に現る戦の亡霊か。
ならば、今はどうだ。
この雨に打たれ、剣鬼と対峙する瞬間は。
果たして、本当の出来事なのか。
「フっ……さふ、どうだろうな」
笑うベルンハルトの顔は何処にシニカルに。
楽天的でもあり、それでいて冷笑と皮肉。それこそ、激しさと戦術性という戦場のバランスを体現するように。
「……どうでも良い。世界の全てがどうであれ、私はベルンハルト」
それだけが大事なのだ。
己を見失わず、走り抜けること。
世は不条理に満ちているからこそ、その先へ。
「我が存在、永劫の戦士マッケンゼン一族の末裔として、貴様を打ち負かそう」
それこそ唯一無二の思いだと、刹那、閉じていた瞳をひらく。
流れるような手つきでマシンピストルを取り出し、バヨネット装剣するのはましさく傭兵の手付きと手際。
如何なる思いも、その動きを鈍らせないのだと。
「打ち負かす? 俺を、貴様が?」
ゆらりと流れる剣鬼の切っ先。
溢れる妖気と剣気は絡み合い、悉くを斬り裂く斬刃と化している。
隙の無い構え。次に如何なる攻撃が来るのか予測しづらい、緩やかな姿勢。これは強敵だと、ベルンハルトは唇の先端を歪める。
「そうだとも。言っただろう、永劫の戦士、マッケンゼン一族だと」
そうある以上、負けるつもりはないのだと。
真の姿を解放し、古今東西、あらゆる戦場を経験した何かとして。
その体験を再現し、永劫の戦に挑む者として剣鬼の前に立つ。
ゆっくりと拳銃を構える姿に隙がないのは、ベルンハルトも同じこと。
如何なる技を持つか。放つか、互いに見えぬまま。
「さて、初めよう。黄昏の時、此処に来たれり……コード・エクスティンクション!」
開幕を告げるは最終戦争を告げる角笛の如く響き渡る銃声だ。
封印を解かれたマシンピストルはラインの黄金そのもの。世を支配するも、呪われた力を宿す弾丸を連射していく。
世の破滅はこれにして起こる。
ならば、この戦もまた同様に。開戦の火蓋であると同時に、破滅の調べとして繰り出される。
だが相手も己を犠牲にした剣鬼だ。
「銃……聞くには、聞いたものだが」
流れる斬撃が銃弾を斬り落とす、幾度となく斬撃が走り、放たれた銃撃を打ち払いながら迫る剣鬼の姿。
音速を越えたといっても、一撃は一撃で、銃はあくまで武器のひとつだ。恐れる理由はないと、一振りの剣で進み往くは確かに鬼の姿。
「フッ……ああ、貴様のようなものを見たことはある、知っている」
が、古来の戦場でもそのようなものはいたのだ。
降り注ぐ矢の雨を切り払って進む、英雄の姿を、ベルンハルトは知っている。
故にと銃撃の直後、重ねるようにバヨネットで斬り払う。
弾丸を弾いた所に迫る銃剣の切っ先を避ける剣鬼。だが、返す太刀より早く放たれる弾丸。
刀身で弾き、そのまま斬撃を送る剣鬼の技量は賞賛の溜息が出る程、滑らかで美しい。
――けれど、ベルンハルトはそれらをも知っているのだ。
風切り、虚空を滑る切っ先。
古き戦場で、このような刀術を使う者がいた。
古今、東西全ての戦場の知識と経験を、今のベルンハルトは永劫の戦士のひとりとして身に宿すからこそ、先を読める。
それは未来を犠牲にした、過去の力を重ねる技。
奇しくも、それは寿命と思いを代償とする剣鬼と同じこと。
「フッ……私にはまだ先はあるさ」
ニヒルに口ずさむベルンハルトに、気負いはない。
カウンターのように更に自ら踏み込み、銃剣での刺突を繰り出す。
避ける剣鬼。だが、まるでその動きを知っているかのように放たれる弾丸。
受けきれずに着弾して鮮血の花が咲く。それでも止まらない。
剣鬼もベルンハルトも、まるで流れるように動き続け、そして、虚を付くように止まりて攻める。
攻撃に緩急と、そして唐突な技をいれて惑わす。
更には近づけば銃剣で突き、離れようとすれば銃撃。
戦場のペースと間合いを奪うこそこそ、マッケンゼン流撃剣術。
それに翻弄されながらも、次第にベルンハルトの動きを捉え、切っ先を届け始める剣鬼はまさに驚異の一言。
だが、それでも。
「いや、こんなこと、どうでもいいのか? 俺は、紫陽花を……いや、もっと大切な」
「理不尽な戦場で、センチメンタルな呟きは無意味……フッ、返す私も私だが」
互いに未来を、命を、失いながら戦う姿。
決定打は付かず、巡り巡りて、互いを削り合う。
少しずつ、少しずつ。
積み上げてきた戦の歴史と経験の重さで、ベルンハルトが優位に流れようとも。
それは剣鬼の一閃が直撃すれば覆る。
紫陽花と共に。命と心、思い出をも蝕まれて、なおう動く鬼と。
ラインの黄金よりなお深く、魂を蝕む呪いの刀のせいで。
この戦いは、瞬間で覆るのだ。
薄氷の上ど踊るような戦いの中で、ベルンハルトは笑ってみせる。
――ああ、こんな戦いも、前に経験したのだと、感じて。
「……雨は、嫌いなんだ。早く上がってくれ。戦術的に……フッ」
だって、雨は思い出させるから。
どうしようもない敗戦を。
屈辱に満ちた勝利を。
あっけない逆転劇を。
どのような戦場にも纏わる影の物語を、今のベルンハルトは身と心に宿すのだ。
雨と共に汚泥を跳ね上げ。
轟く銃声と、風切る切っ先が加速していく。
熱の籠もらない戦闘は、互いの未来を失わせながら。
それこそが戦争であるのだと。
成功
🔵🔵🔴
宴・段三郎
……ふむ…ふむ…ほんに可愛いやや子じゃのう……妖刀になったのはよいが…あの妖怪変化が邪魔じゃのう…
【行動】
使い手に憑依するのも許すし、使い手の生命を蝕むのも許す……本来妖刀とはそういうものじゃからな
だか…こんなに可愛いやや子がおぶりびおんに堕ちるのは…許さん
使用妖刀は
号 『斃』
号 『酔月』
号 『戎』
まずは斃を使用。
【早業】でノーモーションの抜刀からの居合抜きで切ろうかの。抜刀時の音も刀身の煌きも見えない程の速さで切るのじゃ
次いで戎で妖刀に対しての【生命力吸収】。刀身の釣り針返しで相手の刀身を絡めとりがりがりと削る。
最後はやはり化生炉でU C発動。
おぶりびおんの部分だけを消滅させよう
愛しき、愛しきと。
やや子の如く、妖刀を愛でるは宴・段三郎(刀鍛冶・f02241)。
荒魂宿す刀しか打たぬ希代の刀匠、その鬼才と感性は理解出来ない。
出来るとすれば、同じく、荒魂を宿した刀を打つ者のみだろう。
「よき妖刀となったの……ふむ、ふむ、ほんに可愛いやや子じゃのう」
新しい妖刀へと造り替えたそれを愛でるように撫でてる宴。
どのような災いを、悲劇を呼ぶか。
呪いとも云えるものを宿す刀を、我が子と囁くは、如何なる感情を元にするのだろうか。
「そう、よいが……あの妖怪変化が邪魔じゃのう……」
宴が銀色の瞳を向ける先は、雨の中で戦う剣鬼だ。
背負う妖刀の中から、此度、使うものを指でなぞりて選びつつ、剣鬼の男へと歩み寄る。
だが、語りかけるは、男の持つ妖刀へだ。
「使い手に憑依するのも許すし、使い手の生命を蝕むのも許す」
言うまでも無い。語るのでもない。
妖刀の打ち手たる宴が告げるのだ。
「本来、妖刀とはそういうものじゃからな」
かたり、と嗤う妖刀の気配。
憑依されるも、生命を蝕むも承知で我を握った筈。
そうでなくとも、刀とはそういうものだ。殺し、殺されるを良しとして、初めて鞘より抜き放たれるもの。
そこに荒魂宿り、更なる力を求めるならば、その先は言うまでも無い。
「だか……」
言葉と共に、宴が選び取りし妖刀の号は『斃』。
天下に二つとない切れ味を誇りながら、誰もその刀身を見たことがない一振り。
まるで存在自体が妖異。
その真実の姿を見られれば終わる、夢幻のようなそれの柄を握り締める。
「こんなに可愛いやや子がおぶりびおんに堕ちるのは……許さん」
宴の言葉と共に鞘より放たれるは居合い。
溜めも構えも見せはしない。無拍子での抜刀は、けれど、音も光もない無明の刃を奔らせるのみ。
何も見せぬ。聞こえもさせぬ。
愛しいやや子、その姿は。
神速というよりも、幻のような『斃』による迅の一閃。ただ斬るという結果だけを残す、まさに妖しき刃の疾走だ。
煌めきも音もなく、気づけば鞘にするりと収まり、剣鬼の身体から吹き出る鮮血。
目に止まらぬ故に、神速というのも難しい。
果たして刃が、妖刀が居合いで放たれたのかも定かではない。
少なくとも、斬った宴と、斬られた剣鬼以外には。
「ほう、判るか」
致命傷を避けた剣鬼。腕も足も健在で、胴より鮮血を溢れさせるが、宴の狙いもまた外されている。
「太刀筋も刀身も見えぬが、それの一閃で終わる程、容易くはない」
意と気を読んだのか、身を逸らして深手を避けた剣鬼が宴へと斬り掛かる。
迅閃というのならばこれもまた同じく。
瞬く間もなく、宴の首を斬り飛ばそうと翻る姿は、ほぅ、と宴が感嘆の息を漏らす程。
「お主のような使い手にならば、わしのやや子も預けてよいが」
続けて宴が取り出す妖刀。その号は『酔月』。姿、形を見ればこれがどうして刀というのか判らずとも、手に取れば判る大杯。
そう、刀とは斬るもの。その為の本質を外さぬのなら形状など問わぬものなれば。
この妖刀もまた同じく。
ぎいんっ、と鋼が互いと激突する絶叫をあげる。杯の中にある小さな月が光を発し、斬撃として放たれるが剣鬼の纏う妖気と相殺する。
が、押し込まれる宴。諸手で構えるか片手で扱うかの力の差が此処に出て……逆に、『酔月』を片手で構えるからこそ、もう一振りの妖刀が振るわれる。
「ちとやり過ぎておる。何より、お主は終わっておる……吸われ過ぎておるが故に、な」
三振り目の妖刀、その号は『戒』。妖刀殺しの異名を持つそれが、剣鬼の持つ妖刀へと振り下ろされる。
剣鬼の身を狙ったのではない。元より宴にとって、それは眼中にないのだ。
ただ狙うは妖刀のみ。
多くの釣針返しが付いた『戒』をもって、妖刀の刀身を絡め取り、がりがりとその鋼と怨嗟、そして奪い、蓄えた生命力を奪い取る。
今度は妖気の奏でる絶叫。禍々しい気が吹き荒れ、斬風と化して宴の身を斬り裂くが、妖刀を鍛え直すという事に意識の向いた刀匠の瞳は揺らがない。
「荒魂が更に命を蓄えすぎておるな」
更に重ねてがり、がりと。鋼と荒魂が悲鳴をあげるが、止めることなく、それこそ、刃を磨き、曇りを取るが如く宴は続ける。
押し込まれた刃に首筋に触れる。
肌を破り、つぅ、と血の滴が溢れても、なお、気にしない。
妖刀のみを打つとはこういうもの。
そのもの自体が、妖しき何かの魂を持つものならば。
成る程、やや子というのは、言葉通りなのだ。宴の魂の形が妖しき刀であるからこそ、作られる全ては妖しき刀となる。
形状ではない。概念として。
宿す性質と、業として。
まるで血筋を受け継ぐかのように。
宴の首筋から零れた血の滴が、妖刀へと触れた、瞬間。
「――鍛刀」
唇から囁かれた言葉によって巻き上がるは、背負いし妖刀『化生炉』の鞘から溢れる炎だ。
鍛冶場もかくやという紅蓮の焔。それは剣鬼の持つ妖刀へと迫る。
雨が蒸発する。過去の残滓からなる、呪いを焼いて溶かすべく。
「悲しく、哀れな、過去の残骸……おぶりびおんのまま、終わらせてなるものか」
その魂、根幹に絡まりし、過去からの糸だけを焼き払い、消滅させるべく。
二刀で受け、削り、そして鍛刀の焔をもって妖刀を飲み込む。
そう。
例え、宴は気にもとめなかったとしても。
真実の敵と呪いの根源は、この妖刀にあるのだから。
それを骸の海へと還してはならないと、刀匠『地国』の炎と想念が、包み込む。
大成功
🔵🔵🔵
鞍馬・景正
何も変えられぬ。
どれだけの血と骨を築いても還る過去はなく、孵る明日もない。
しかし正しく、葬る事くらいは出来ましょう。
……堤る我が一太刀、今此時ぞ天に抛つ。
◆戦闘
青眼に構え、剣鬼の姿を注視。
特に両拳、両肩の動き。
剣と一口に言えど、そこには間合と拍子を崩し、誘い、奪う、様々な駆け引きがあるもの。
斬るも斬られるも、その帰結に過ぎぬ。
しかし此度の私の狙いはどちらにも非ず。
数合、切り結んだ後に起こりをわざと見せ、受けさせる為の打ちを。
そのものの性質を反転させる念を込めた【神変鬼毒剣】を妖刀に。
――即ち、穢しただけ、奪っただけ、妖気が弱まるように。
己ばかり、如何様に転ぼうと愉快など都合の良い事は赦さぬ。
流れ過ぎたものは変わらない。
零れた水が、元の器へと戻ることなどないように。
或いは、砕けた器の欠片を集めて重ねても。
その裡にあった思いと記憶までは、集めきれないように。
「過ぎし昔日は、何をしても掬えぬもの」
呟くは鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)。
だが、その声色は信念に見て、真っ直ぐに剣鬼へと向けられている。
瑠璃の眸は己の成すべき事を見つめている。
それは切っ先を向けるように鋭く、凛烈だからこそ。
「どれだけの血と骨を築いても還る過去はなく、孵る明日もない」
言葉と視線、放たれる鋭き気勢に、剣鬼もまた妖刀を向ける。
ゆらりと泳ぐ切っ先は武芸を修めしもののそれ。静かなる動きは、かつては男も士であった影を残す。
いいや、それらは鞍馬の清冽な剣気と思いに、呼び起こされるもの。
高潔なる武と信義をもってこそ、武士たらん。
そこに男とて異はなく、むしろ、焦がれ、憧れ、その道を突き進んだのだろうから。
「ああ、変わらない。帰れない。ただ漂うのが俺なのだろう――だからと求めるのだ」
「剣を重ねる裡に、何かをと」
「そうだ。お前達の剣は、眼は、輝かしく、眩く、そして、懐かしくて憧れる」
「…………」
「そうありたかったのか。それとも、そういうものの傍にいたかったのか。最早、判らぬ。ああ、還る過去もなく、孵る明日もないのだ」
「ならば、と」
これより剣鬼が往く道にあるのは血と屍ばかり。
還る道も場所もなく。それどころか心を失い、彷徨う先は無明の闇だ。
故に、朧ろながらも己を取り戻した剣鬼へ、鞍馬が向けられるはただひとつ。
変えられないと判るからこそ、鞍馬も荒波の如き威を放つ愛刀、濤景一文字を構え直す。
せめて正しく葬ること。
これ以上、魂を血と呪いで蝕まれる前に。
「……堤る我が一太刀、今此時ぞ天に抛つ」
この一刀をもって、斬り、導こう。
剣鬼ではなく、共に刀を捧げる士として。
だから呼応する剣鬼のそれは、在りし日の声。
「地に縫われし魄たる身なれど、彷徨う果てを剣に求めて――いざ、尋常に」
大切だった。大事だった。
全ては過去に流れてしまったものなれど。
振るう刃に宿る残滓は、斬られてならぬと叫ぶのだ。
故に激しい雨の中で円を描いて歩む二人。
剣と一言に言えど、ただ振るうばかりが全てではない。
視線が語る。呼吸が告げる。刀を握る両の拳が、それを振るう肩が先んじて動く。
間合いに拍子。
振るわれる技の起こりと、続く太刀筋の可能性。
実と虚を挟んで、それらを悟らせず。変わりに騙し、誘い、流して封じ、奪いて崩す。
ただ雨の中で無言で対峙するものなれど。
鞍馬の瑠璃の眸と、剣鬼の瞳の裡では、意志と剣気が幾重にも流れて重なるね斬撃として閃き、瞬いている。
こう斬り込めば、こう防がれ。
流れて返され、弾かれる両者の表裏の思惑。
――斬り、斬られるとはただ、その帰結に過ぎぬ。
鞍馬は吐息を零す。
竜胆という、正義の意味を背負う武者として。
文字通り、現の儘に剣を夢見て。
互いに命をその切っ先に宿したままに。
その幻影を脳裏に描き、理想を目指し、青眼に構えた鞍馬が斬り込む。
繰り出すは波涛のごとき一閃。
凄絶なるは羅刹の力と、磨き上げられた技量によって。
音の壁を斬り裂いて奔る太刀筋を、横手より薙ぎ払う妖刀によって斬り乱す。
飛び散る火花に、流れる狂う双方の刀身。
だが瞬きもせぬ間に、放たれる剣閃。二人の刃が荒れ狂うように閃いて、切り結ぶ剣撃の音を奏でる。
響き渡るのは鋼同士が衝突し、互いを削り合っていると思えぬ程、涼しき音。
まるで、互いの魂と信念でこそ斬り合うかのよう。
それこそ、士の刀と言うのかもしれない。
ならば、舞い散る火花は――鋼鉄の断末魔ではなく、瑠璃色の烈威の思いか。
知らぬ。判らぬ。切り結ぶ、二人以外には。
斬り込み、打ち払うは烈火の如く。
身ごと転じて翻り、太刀筋を止まらせぬ姿は、まさに疾風。
相手の太刀ごと斬り伏せんとする刀身は、大滝から落ちる瀑布のよう。
一振りの刀身から繰り出されているとは思えぬ、剣威の凄まじさとその質の多彩さ。
鞍馬が振るう太刀の先に立ち塞がるものが人であれ、化生であれ、鬼神や龍だとしても退かず、変わらぬのだと。
だからこそ。
斬り、斬られる帰結として、正しく葬る為に、狙うモノはひとつのみ。
鞍馬は斬り伏せる。相手の振るった一閃そのものを。
ただ真っ直ぐ、一直線に。その間に袈裟に振るわれている最中の妖刀の太刀筋、斬撃さえそのまま斬り落とす。
これぞ鞍馬が正剣。真っ向より全てを斬り崩すという信念の元に、対峙する刀ごと相手を切り崩す。
後の先を制した、活人の剣が奥義ともいうべきもの。
「さて」
放った斬撃が切り崩され、姿勢は揺らぐ剣鬼。
半歩退いて身構えようとも、再び上段へと構えた鞍馬の方が早い。
鎬に手を当て、受ける構えを取ろうとも、剛の一閃と奔る鞍馬の太刀は此処にて真の冴えを見せる。
「――嗤うのは此処まで。貴様、見えていないとでも?」
凄絶なるまでの剣気を込めしは秘術を剣にして示す一閃。
それは人は神に、鬼は塵に。酒呑の首を奪いし、鬼屠りの技だ。
ごうっ、と周囲の雨粒を空へと舞い散らせる烈閃。
それが狙うは、男が握る妖刀のみ。状態、性質を反転させし術理を乗せた刃は、男の肉体を傷付けることはない。
だが、巻き起こるは絶叫。
怨嗟を、呪詛を、宿していた刀身そのものから霧散させていくのは、妖刀に宿りし荒魂だ。
今まで奪い、穢し、その身に詰め込んで、今の今までかたかたと嗤っていた憑き刀が断末魔の如き絶叫をあげる。
するりと竜胆の意を込めた刃が、妖刀の身へと食い込み。
そこに宿るものを、斬り散らす。
鞍馬の放った秘剣――それは即ち、穢しただけ、奪っただけ、妖気が弱まるように。
人は神へ、鬼は塵へ。ならばと、妖刀がため込んだ呪詛が、己が業として我が身を滅ぼす毒となるというもの。
切り結ぶ中、かたかたと嗤う妖気に気づかぬと思ったか。
戦う最中、男から更に生命と理性、心を蝕み、奪っていたと判らぬとでも。
「己ばかり、如何様に転ぼうと愉快など都合の良い事は赦さぬ」
ただ圧し斬るだけでは、この悪鬼の如き妖刀には生温い。
それさえも嗤って受け止めるだろう。
ならば、竜胆という義を背負い鞍馬は、更に己が刃を、妖刀の芯へと食い込ませながら。
「終わるならば。妖刀たる貴様こそが無明へと消るがいい」
疾くと斬り消えよと、その念を刃へと流して。
ぎんっ、と弾き飛ばされる鞍馬。全身の力と、妖気の奔流を持って己が存在を断たれ、これ以上の呪詛を反転させられることを避けた妖刀。
だが、その力と存在は確かに薄まり。
「男は、ここに置いていって貰おう」
「ああ……ようやく」
男の眼差しが、鞍馬を確かに捉える。
「――思いが晴れた気がする。刀など、私のひとつだったと……もっと大切なものを握っていたいと、思い出した」
刀てではなく、紫陽花でもなく。それは、とある女の手だったのだと。
「ならば」
「握られぬ以上は」
もうそれはないのだと、男はわかっている。
「その元へと」
「葬ってくれるか、剣にて」
このままでは、女の元にいき、また手を握れぬから。
罪も血も、剣で切り伏せて欲しいのだと願う。
「鞍馬の名にかけ」
「剣士として果てられるならば、せめてもの……」
そう、剣鬼ではなく、剣士として終われたのなら。
何処か遠くで。或いは紫陽花の下で。刀ではなく、女の手を握れるかもしれない。
雨が続く。
けれど、その果てに残るのは何か。
救いなき物語を紡いでいて妖刀が、嗤いを止めて、呪詛と怨嗟を撒き散らす。
ああ、これを討たねばならぬと。
妖刀を手放せねば、女の手を握れる道理もなしと、鞍馬は青眼に構え直した。
確かな邪悪の気配を、鼓動のように震わせる、憑き刀。
真に討つべき相手を、決して逃す事はない。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
あの武芸者が真に欲し、また救われる為に何が必要か
(花畑の墓に視線を遣り)
…儘ならぬものですね
数多の世界、数多の事件
魂の扱いなど出来ぬと無い臍を噛むのはこれで幾度目か
魔法の剣を一振りと出来ぬ身ですが
その妖刀、花園への持ち込み能わず
私同様、置いていただきましょう
如何に切れ味増そうとも、刃を立てねば切れぬもの
懐飛び込む剣士の刃の腹や背を絶対的なリーチ差頼りに●怪力での●武器受け●盾受けで逸らし防ぎ
光学センサーによる●情報収集で刀の脆弱点を●見切り
超重フレームの前腕部伸縮機能を起動
エンパイア流では予測困難な●だまし討ちUC
剣の一突きで妖刀『のみ』を破壊
そのような物、逢瀬には無粋に過ぎますよ
彼が真に欲し、求めたものは。
その武芸を以て、本当に手にしたかったもの。
いいや、握りたかったものはと、言葉が零れて。
「……儘ならぬものですね」
振り返るトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が見つめるのは、紫陽花たちに囲まれた、小さな墓。
そこに眠る女と共に。
救われる為に必要なことと、場所。
数多の世界、数えきれぬ事件。
その中で失われた魂たちを扱いことなど出来はしない。
魔法の剣を一振りで叶えられればと思うのも、幾度目か。
そも、魂がこの身にあるかさえ、定かではないトリテレイア。
どうすればそれが救われるのか。
魂が求める幸せとは。
決して実感出来ない気がする。
持たざるものは、持って産まれた者の光を追いかけるだけだ。
届かずとも。手に入らずとも。
だからそうだ。この身は魂と輝きを、誇りを尊ぶ騎士として、剣鬼の前へと立ちはだかる。
「その妖刀、花園へと持ち込む事、能わず」
諸手で構えるは義護剣ブリッジェシー。
紫陽花に似た薄紫の装飾の施された、白銀の騎士剣の切っ先を剣鬼へと向けて。
吐息はない。呼吸もできぬ、紛い物。
戦いの為の鋼の身ならばこそ。
「私同様、此処に置いていただきましょう」
血で血を洗う、魂なきものは此処で止まれ。
美しく花園と、そこに眠る愛にそれらは不要と断じるのだ。
だが、膨れ上がる妖気が脈打つ。
『そうか。そうか。なら、お前こそ命を置いていけ。鋼の身であれ、通う生命と想念は糧となる』
その声は、妖刀より生じたもの。
けたけたと嗤う姿は最早なく、斬りて奪う、蝕みて奪うという妖しの性質を曝け出している。
「……そんなものに縋るしかなかったのですか」
それこそ悔しかったのではないのか。
命を、魂を、思いを。全てを纏めて鬼へと投げ売った男。
それで果たせた願いも、また掠れて削れて、今がある。
だが痛みと苦しみは捨て置くのだ。
悩むのは後。後悔など積み重ねて幾らでも。
「それとも捨てられぬなら、砕いてみせましょう」
だから立ち塞がるトリテレイア。
妖刀を手放し、その呪いから解放されて、初めて、女の思いと魂に辿り着けるのだから。
疾風のように駆け抜け、トリテレイアの懐へと飛び込む剣鬼の間々では、決して救われない。
「如何に鋭き刃を持とうとも」
トリテレイアの目はただ色彩を映すだけではない。
周囲へと張り巡らせたセンサーは、何一つの動きを見落とさないのだ。
戦の申し子の名は偽りではない。
懐に飛び込もうとした剣鬼へと、絶対的なリーチを以て迎え撃つトリテレイア。
駆けて飛び込む速度は計算済み。ならば冷徹なまでの剣撃を、機騎の怪力を持って斬り込むのだ。
響き合うのは轟くような鋼の衝突音。妖気を纏った刀の腹を打ち払い、太刀筋を逸らしている。
「刃を立てねば、何事も切れぬというもの。……思いもまた、向きを整えねば同じこと」
何を求めて、何を願いて動くのか。
それを忘れてただ彷徨う者は、何も成せぬ。
――魂とそれを手繰る指がないと、嘆くばかりでは、何も救えぬ。
続けて繰り出される剣撃の応酬。
鋭き剣気が奔り、妖気を纏った刃が閃く。
絶対的なリーチ。体格差と剣の間合いをもって悉くを弾き飛ばすトリテレイアだが、次第に押される。
真っ向から受ける事が出来ず、切り結ぶにもサムライエンパイアの流麗とも云える、けれど、命を奪う為の邪剣の前では僅かに劣るのだ。
『どうした、鋼の騎士どの。守るだけでは勝てぬ、護るだけでは奪われる、この男のように。刀を執れ、呪いを纏え。それを斬って、蝕んで、我の欠片としてくれよう』
「………………」
声に反応することもないトリテレイア。
いいや、それは本当にそうなのか。
トリテレイア程の者が、容易く押され、劣勢に立つのか。
じりっ、と一歩下がる。だが、剣鬼は一歩半踏み込む。
更に苛烈に、緩急の自在さを付けて振るわれる妖刀の斬閃。一重の斬撃と思えば、二つ、三つと重なるように続くのはまさに、幻惑の太刀筋。
惑い、騙されれば命に届くそれ。
だが、それに付き合うつもりはない。命の奪い合いに、トリテレイアの眼と思いは向いていないのだ。
勝敗と優劣など、その願いは気にしない。
「情報収集、完了」
呟きながら一気に後ろへと飛び退くトリテレイア。
一見すれば剣撃の応酬に競り負け、一端、間合いを取ろうと跳躍したように見えるだろう。
対して一気に迫り、斬り伏せようと飛び込む剣鬼。
これぞ好機。と、思うのは両者だ。
ちゃき、と構えられたトリテレイアの騎士剣が音を鳴らす。
「私達は、あの花園には似合わぬといった筈です」
到底、トリテレイアの身長を以てしても、間合いとは思えぬ距離から放たれるは刺突の一閃。
剣鬼からすれば唐突かつ、意味が判らない。
ただ空を滑り、何にも届かず、隙を晒すだけだろうと虚を突かれる。だからこそ、その直後に起こる出来事は必然だ。
騎士剣の刺突が伸びる。
異様な程の長さ。刀身が倍に伸びたか、それとも振るう腕が伸びたというのか。
事実は後者。フレームに収納された前腕収縮機能で一気に腕の長さを伸ばし、更に刺突の速度を加速させる。
騎士の剣というより、騎兵の槍だ。勢いを乗せて放たれるそれは、今から攻め掛かろうとした剣鬼へのカウンターとして放たれる。
加え、精密にして鋭利。飛び退き様に繰り出されたと思えぬ冴えを見せて、狙うはただ一点。
「私の敵はその男ではなく、あなたですよ。妖しき刀よ」
機械騎士だからこそ出来る、精密攻撃。それが振り上げようと隙を晒していた妖刀へと突き刺さる。
きぃぃんっ、と響き渡る音はなんとも冷たくも、清らかに。
呪いの身が砕かれた事を、祝うが如き音色が響き渡る。
鋼の欠片、妖刀の破片が雨と共に舞い散った。
『……っ。おのれ!』
だが纏う妖気が、その完全なる破壊は許さない。
扱う剣鬼の技量が、刀を砕くという敗北を認めない。
罅の刻まれた刀身。鎬や鍔の一部も砕け散る。それでも妖気で己を固め、守り、刀が粉砕される事を認めない。
だが、他の猟兵と重なる妖刀への攻撃で、妖気による斬撃の強化は著しく減衰している。
血を、命を、怨嗟を更に取り込まなければ、妖刀にも最早、先はなく。
これから受ければ受ける程、憑き刀の本性たる呪いが薄まり、その思いと心が薄くなる。
それは奇しくも、男へと妖刀がしてきたように。
もはや、自らばかりが嗤って転がることなど出来ぬと、烈士と騎士の刃で断たれて。
「そのような物、逢瀬には無粋に過ぎますよ」
瞬間、両者が飛び退いて距離を取る。
妖気は薄らぎ、けれど、剣気が流れる。
それは、男の意識が戻ったということだ。
「助かる。……だが、すまない。この妖刀を手放せぬ。例え腕を切り落としても、恐らくは」
「判っています。ならば、士として心のある内に。……彼女を抱きしめられるように」
魂の存在を証明するのは難しい。
それこそ奇跡の存在証明だ。
だとしても。
それを救いたいと思うトリテレイアは再度、白銀の騎士剣を掲げる。
「或いは、もっと彼女のことを思い出せるように」
切り結ぶ中で。
妖刀の力が薄らぎ、記憶と思い出、感情が戻るのならば。
紫陽花たちの色彩から、悲しみのそれは洗い流されるだろうから。
せめて。
せめてもの救いを。
機械の騎士は、再び、巡り会うふたつの思いと魂を思い描くのだ。
お伽噺のようなそれを。
雨の晴れた後に、語れるのであれば。
大成功
🔵🔵🔵
セツリ・ミナカタ
過去を知り、掛ける思いが異なろうとも
初めより目指すものはただ一つ変わらない
お前と刃交わし、討ち果たすこと
いざ、いざや参らん
構えた火明に真白の炎纏わせ
束ねたばねで一歩を加速させ踏み出して
氷刃共とは格が違う
その刃を受け止めることは叶うまい、なれば
目を決して逸らさず半身躱し近づくことに先ず専念する
多少の傷は厭わず先へ
二の刃に繋がる前に
利き腕へ一撃なりと
そしてその手で握る妖しの刀へ破魔の浄化を
呪いをほどき
蘇る心啜る鬼を幾ばくかでも弱める事が出来たなら
最期はお前自身で刃を揮い、そして終わりを迎えてほしいと
そう思うことは感傷だろうか
戦いは引き続き花園の外でを心がける
……来世こそどうか二人で幸せに
過去を知り、掛ける思いが異なろうとも。
初めより目指すものはただ一つ変わらない。
そうだ。同じく復讐を願い、刃を握れど、辿る道が違う。
選んだ手段が違うし、他の全てを犠牲になど出来ない。
我が身、傷つき、燃えようとも。
そうは思えど、喪えぬ思いはあるから。
「いいや、それは同じか」
呟くはセツリ・ミナカタ(シャトヤンシー・f27093)。
雨と悲しみに濡れる声色は、けれど、揺れることなく。
「これ以上、思いを失わせない為に。紫陽花が血で濡れることないよう。……お前が何を今、望んでいようと、終わらせる」
短刀である火明を構えるセツリ。
その刃に込めた思いは、決して揺るがない。
「お前と刃交わし、討ち果たすこと」
それが救いだというのならば、そのように。
少なくともセツリはそう信じているのだから。
「いざ、いざ」
貴石より紡いだ真白の炎を、火明の刀身へと纏わせて。
翼のように揺らめくそれを、ひとつに束ねて、集め。
始めよう。
救いと終わりへの、浄炎の舞踏を。
「いざや、参らん」
一歩の踏み込みに全身のバネを束ね、集めて一気に加速。
操る気流も爆発させて飛ぶように。ただ、前へ、前へと速度を高める。
揺らめく白焔を舞い散らせ、飛び込むは無論、剣鬼の懐へと。
残滓であった氷刃達とは格が違う。
振るう刃も、纏う妖気も。何より、振るう剣の冴えが。
緩急自在にして、悉くを斬り裂く妖刀と切り結ぶも、受けるも困難。
受け止める事は叶うまい。ならば。
その思いごと斬り裂くは、凪いだ湖面の如き静かなる一閃。
「……っ!!?」
セツリの身体から鮮血が舞う。束ねた筈の真白の炎が散る。
男が放ったのはまさに明鏡止水の一太刀。
刃の間合いに踏み込んだ瞬間に放たれたそれは、避けようとしたセツリの身を斬り裂いて流れる。
美しいとさえ云えるだろう。
殺人の剣も極めればひとつの芸術だという事を、弧を描く切っ先が告げている。
「見事。まさに眩き、炎のような姿。……そのように真っ直ぐに進めれば、ああ、違ったのか」
剣鬼の男の声は賞賛そのもの。
妖気から幾ばくか解放されたからこそ、心の底から声を漏らしている。
ならば放った一閃は男が本来、積み重ねた技なのだろう。
だが、だとしても。
いいや、だからこそ。
「まだ、まだ……っ!!」
元よりセツリは多少の傷は厭わない。
むしろ負傷など覚悟の上。痛みがあれ、鮮血が舞い散れど、向けた視線も思いも、逸れてはいない。
避けることはできなかった。だから何だ。
それ程の剣を、妖しに堕とすというのか。
輝きを取り戻しかけた、心と魂ごと。
否。絶対に認めないと、更に真白の炎を猛らせ、踏み込むセツリ。
「命には届いていない。私はまだ、戦える!」
ならば言うまでも無い。
二の刃へと繋がる前に、その懐に踏み込み、振るうは浄炎を纏う一閃。
半ば捨て身。だが、思いを遂げる為の果敢なる戦巫女の姿がこれだ。
理想と勝利を求め、傷つく事を厭わず、突き進むのみ。
その魂、燃え尽きるまで。
「私が戦い、終わらせたいのは、お前なのだ」
狙いは利き腕。自在に剣を振るえぬようにと、勢いを乗せた刺突を繰り出す。
突き刺さる刃は急所を外される。だが、それで構わぬと火明の刀身を食い込ませ、一瞬でも動きを封じる。
僅かでいい。刹那でもいいのだ。
届け。叶え。祈りと浄化の炎よ。
「我が真白、我が清浄。この身に依りて――妖刀に宿る鬼の呪いを焼き払わん!」
我が身の負傷を意に介さず、セツリは浄化の白焔を至近距離から妖刀へと解き放つ。
純白の烈火。清浄たる破魔。
それは守護を司る聖獣が放ちし牙のよう。
妖刀を握る手が離せぬというのなら。
そして、魂と結びついて離れられぬというのならば。
結びし縁と呪詛を焼き払い、灰も残さず消し去ろう。
「なあ、これは感傷だろうか」
確かに薄らぐ妖気。
元が莫大なせいで、数人がかりで妖刀を狙えど、それを消し去ることは未だ未だにできずとも。
確かに弱まり、嗤うこともできなくなった妖刀の邪悪なる魂の一部が焼けて、男の霊魂が浄化される。
清められた男の命はもう、先のない――寿命など残されていない、ぼろぼろの生命でも。
「最後はお前自身で刃を奮い、そして終わりを迎えて欲しい」
突き刺さった火明の切っ先から逃れる男。
転がるように。けれど、するりと流れる動きは、セツリへと次の一閃を放てる様に。
だが、追撃はなく。
「……そう望んでくれるならば、なんという幸せか」
変わりに言葉が届いて、セツリは火明を構え直す。
直後、放たれる斬撃は静かなるもの。
確かに男の剣気を宿したものを辛うじて受け流し、セツリは身を反転させながら火明による一閃を繰り出す。
受け止められ、鍔競るふたり。
セツリの身から止めどなく流れる血は、長くは戦えないと告げている。
呪いに蝕まれ続けた男の命もまた、明日に続くか判らない。
だかにこそ。
「剣を握った時の誇りを思い出せてくれ。真白の炎を纏う戦巫女よ」
「そうして終わってくれ。名も知らぬ男」
瞬間、短くとも。
交差する刃と刃が、火花を散らして、互いの願いを奏でる。
雨の帳を斬り裂いて。
救いの無い物語を、否と、突き進んで。
幾度となく切り結ぶ最中に、確かに光はあった。
取り戻していたのだ。
故に、浄炎の白と、刃の白が舞う。
妖刀の呪を掻き消し、雨の中に散らしながら。
来世でこそ。
平穏で幸せな日々を迎えられるように。
苛烈なる戦の舞いを、セツリは踊る。
真白の炎刃と共に、呪いを斬り払いながら。
大成功
🔵🔵🔵
忠海・雷火
女の声は聞こえるか
お前を想い、待つ者の声だ
……私は、頼みを引き受けた
故に、終わりを与えよう
戦闘知識や経験を以てしても、最初の内は見切りも難しいか
武器受けを中心に様子を見て、構えや太刀筋、呪いの質等、一撃入れる為の情報を収集。可能なら動きを鈍らせる為に足を狙い斬撃
概ね把握したら、敵意・害意を強く受ける為に妖刀を挑発。果たして私達を喰えるかな
捨身の覚悟で一撃受けて。UC+カウンターの一太刀に全霊を注ぐ
二人が想い交わして眠れる結末を望むから。男の心を……魂を、これ以上喰わせはしない
狙うは元凶たる妖刀のみ。かけら一片も残すものか
エネルギー体を纏わせた刀と破魔の短刀で、呪詛も力も概念も全て喰い滅ぼそう
幾度となく、それこそ数多の刃の元に。
斬り散らされるは呪いと妖気。
どのようになろうとも嗤うつもりだった憑き刀は、今や妖気を脈打たせる悪鬼の様を晒している。
それは怒りて、憎み、妬みて呪う。
醜悪ながら、それこみが鬼だと納得させるものだ。
その中で、ぽつりと。
「女の声は聞こえるか?」
雨の音ではなく。
「お前を想い、待つ者の声だ」
それは忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)が囁くもの。
声は穏やかに。けれど、来たる戦いの気配を纏っている。
避けて通れぬ道なのだ。
どのような物語にも終わりは来る。
「……私は、願いを引き受けた」
ならば、出来ることはひとつだけ。
銘なき刀と、銘なき短刀。その二振りを携え、構えるカイラは誓うように、言葉を紡ぐ。
「故に、終わりを与えよう」
その終わりをどのようにするのか。
それを祈り、願い、動くこと。結末を引き寄せることはできる筈。
現に、嗤っていた妖刀の余裕はもう、微塵も無い。
「ならば、求める終わりを。戦いの中で果てることを」
男の声はあくまで剣士としてのだ。
このまま戦いの中で死すれば、少なくとも剣士としては終われる。
呪われた間々に果てるは本望ではなく。
剣鬼として血の海に溺れるなど、屈辱でしかない。
ならばせめて。
更なる強者に、斬り捨てられれば。
それは正しく罰せられ、正しく葬られるということなのだろうから。
「ああ、今、お前の願いも、聞き届けた」
言葉と共に、間合いへと踏み込むライラに躊躇いはない。
そして、死に様にて加減をする程、男の剣は軽くない。
襲来する斬撃は苛烈にして迅速。起こりを見切るも難しく、妖気の乗った刃は未だに恐ろしい鋭利さを宿している。
だが、最初ほどではない。全てを斬り伏せるという妖気は何人もの祈りと刃で衰え、切り結ぶ事を可能としている。
故にカイラは受ける。
二刀を手繰り、受けては弾き、返しては身を翻す。
幾度となく切り合い、切り結ぶふたり。次第に加速していくのは、互いの手の内を理解するから。
より深く踏み込み、より鋭く攻める。
その命に届くようにと。
僅か寸前まで身体のあった所へと妖刀の切っ先が滑り、流れてカイラの首筋へと追い縋る。
ぎんっ、と鋼の音色を立てて受け止められる妖刀。
銘なき刀も元は邪神だ。
共に邪悪にして人の心を蝕み、奪うもの同士。
きりきり、ぎりぎりと何が軋み合い、互いを傷付け合う。
「成る程、願いを、祈りを。想いを奪う」
正気を奪うのがUDCの邪神。そして、正しき願いと祈り、想いを蝕むのがこの妖刀、憑き刀。
その呪いの質を受ける事で見定め、逆手に握る短刀を振るうカイラ。
足を狙った斬撃は避けられるが、一度距離を離れる。
十分に相手の戦術、そして呪いの質は判った。
構えや太刀筋は実と虚の織り交ぜ。加えて、妖気によって強化されて見切る事は出来ないが、そこが問題ではないのだ。
呼吸を整えながらカイラが発するのは挑発だ。
「大分弱っているようだな、妖刀。銘もなく、弱り切った今の貴様で、果たして私達を喰えるかな」
それは今まで切り結んだ男ではなく、憑き刀へと向けたもの。
怒る鬼の如く、再び主導権を男から取り戻す妖刀。だが、それでいいのだ。
敵意と呪詛を向けられ、妖気を当てられてこそ、カイラの力は発揮するのだから。
何より、滅ぼす敵は男ではない。
人の魂に取り憑き、蝕む、この妖刀こそが元凶なのだから。
紡がれる声は、まるで歌のように澄んでいる。
呪いを、敵意を、害意を受けてこそ輝く混沌の光として。
まずはそれらの全てを受け止めなければならないのだから。
「我が身が浴びるその意志の主こそ、汝の贄、汝の渇きを刹那彩る響音なり」
全身を滅ぼす為にあるエネルギー体で覆い、その身に受けた負の感情に応じて力を得る。
「狂える力、沸き立つ混沌よ」
荒れ狂う邪神の力を、我が身の理性と心を削って操るのがカイラの力であるのならば。
「心に爪痕を刻みみし意志の主に、その濁り士瞳と狂いし牙を向けよ」
応じたのは妖刀。
操る剣鬼を疾走させ、その勢いを乗せた一閃を繰り出す。
妖気纏う斬刃はこの上なく凶悪。怒りを乗せたそれは、禍々しいまでの黒い斬閃を描き、カイラの身を斬る。
舞い散る鮮血。まるで徒花が咲き誇るように。
だが、捨て身の覚悟を乗せたカイラは倒れない。致命傷を避けながら身で受け、後の先を取った一ノ太刀に力を込める。
「我慢できなかったか?」
笑われること。嘲られること。
自分がしてきた筈のそれらを。
ならば、これは応報。狂沌の力と、カイラの全霊を注いだ一閃が放たれる。
黒を呪詛も喰らう邪神の牙を宿す銘なき刀。
斬られる変わりに、確実に届かせる斬撃が狙うは、妖気を吹き上がらせる妖刀へと。
痛みも敵意も、呪いも妖気も。全てを上乗せして放つは存在自体を消滅させる斬刃だ。
斬り捨て、打ち砕くことはできずとも、妖気と刀に宿る荒魂を喰らう邪神の業。妖刀が抗えるのは、これもまた、同様の存在であるからこそ。
ならばと。
「二人が想い交わして眠れる結末を望むから」
刃同士が触れ合い、互いを喰らわんと混沌と妖気が鬩ぎ合う中、更に、カイラの持つ短刀が振るわれる。
それは澄んだ音色を立てて、雨粒を斬り裂いて。
「男の心を……魂を、これ以上喰わせはしない」
狙うは妖刀。
そのかけらの一片たりとも残すものかと、呪詛を反転させる破魔の刃が妖刀へと斬り付けられる。
邪神の混沌宿す刀と、破魔の短刀。
二つの刃に存在自体を貪り喰われながらも、妖気を脈動させ、カイラを吹き飛ばす。
悪鬼、荒神とさえいえるような妖しの憑き刀。
奪い、蓄えていた命はこの男のものだけではなく、先代や先々代がいたのかもしれない。だからこそ、社に封じられていたのかもしれない。
だが。
「どうした、薄いぞ」
カイラの指摘通り、その妖気は、禍々しさは、最早薄れている。
蝕み、奪おうとも、男の意志と心を操る程のものはなく。
妖気を溢れさせ、人を狂わせる為に囁くしかできぬ妖刀へと、その存在を薄らがせていた。
だが。
言った通り、この程度では終わらせない。
その存在のひとかけらも残さない。
全ては雨に流されて消えよと。
夥しい血を零しながらも、カイラは立ち上がり、二刀を構える。
薄らぎし妖念。
それが尽きるまで。
この雨が降り終われば。
二人が想い交わして眠れる結末が来ることを、望むから。
もう少しだけ雨よ続いて欲しい。
願った女に、刀に憑かれし男の姿が見えないように。
覆い隠して欲しい。
もう少しだけ。結末がくる、その瞬間まで。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
護るべきものを護れず、手にしてしまった妄執に絡め捕らえられ
だが如何に僅かであろうとも、遺る光がまだ在るならば
終わらせてやろう――絡み憑く呪詛を断ち切る、此の刃は今は其の為に
視線や足先、切っ先の向きから、戦闘知識と第六感を以って方向を見極め
致命に至る攻撃は見切り躱し、間に合わねば武器受けにて弾き落とす
衝撃波にて牽制加えて接敵、カウンターのなぎ払いで態勢を崩させ
纏い無に帰せ――遮斥隕征
怪力に破魔を乗せ、呪詛諸共に斬り払って呉れる
――似通う途を歩み、違う結末へと辿り着いた……我が同類
刃の向こう、想い出す事が叶うのならば
せめて待つ者が其処に在る事くらいは知るが良い
共に還れ、骸の海で静かに休む為に
悔いて、悔いて、悔やみ果てない。
後悔は溢れんばかりで、それを消す為ならば何をしても構わない。
護るべきものを護れなかった、その掌の中に。
残り香があるからこそ、妄執は心に絡み付いて離れないのだ。
忘れられない程に大切だからこそ、より一層に。
「判らないでもない。いいや、似通う姿は、同じ路を行く同類、或いは影か」
呟くは鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。石榴のように赤い隻眼が見つめる先は、かつての己だろうか。
剣鬼と重なるのは、鷲生もまた喪いし過去があるから。
護りたくても、零れ落ちた大切なものと、その慟哭を知るからこそ。
「だが、全ての路と、光を断たれた訳ではないというのならば」
それが如何に僅かであろうとも、遺る光がまだ在るのだ。
幾度となく妖刀をこそ消すべく、繰り出された切っ先たち。
呪詛と妖気は薄らぎ、男の眼は濁った呪詛より醒めかけている。
自らが逝くべき場所を知り始めて。
そして、その為に何が必要なのかと、求め始めている。
ただ、ただでは終われないから。
介錯してくれと懇願する訳でもない。
絡み付く罪咎と共に、この命を解き放って欲しいのだと。
「そう、終わらせてやろう――絡み憑く呪詛を断ち切る、此の刃は今は其の為に」
妄執は晴れぬ。終われぬ限り。
雨の中で、鷲生の構える秋水の切っ先が流れる。
「そうか。ならば、是非もなし。俺と違う先を歩む者だというのなら」
己を取り戻しつつある男が告げて踏み込む。
未だ剣鬼として、その手には妖刀を握り続けていても。
「終わる者と、続いた者。その差を、明暗を剣で示そう」
故に交差する刃は必然なのだろう。
両者の違いを明らかにする為、全身全霊を以て斬撃を繰り出す両者。
込められた剣気に躊躇いも迷いもなく、奔る剣閃は静かながらに凄烈だ。
ただ斬る。この先を求めて。
終わるならば、何も残す事なく、ただ光を求めて。
瞬く刃は、それこそ残された光を追い求めるかのよう。
しかし、幾度となく繰り出される斬撃は、互いの身どころか刀身が触れ合う事もない。
視線を読み取り、足捌きを感じ、切っ先から流れる向きを読み取る。
それは鷲生だけではなく、男も同じこと。
膨大な戦闘知識と、研ぎ澄まされた第六感が相手の先を捉え合うから、振るわれる切っ先の悉くが空を切る。
それはさながら武芸奉納の演舞であるかのように、鋭利に美しく。
互いの影法師が切り結ぼうとするかのように、交わる事がない。
繰り出されるはどれも致死の一閃だというのに。
「――似通う者同士、か」
此処までとなれば笑うしかないだろう。
それほどに似通った動き。双方の刀が流れて過ぎるばかり。
似通いながら、辿る路と先が違うからこそ、真っ向から交わる事はない。
刀に心と信念を通して振るうが鷲生という烈士だからこそ、このような有り様なのかもしれない。
だが、加減などないのは、放たれる剣気が物語る。
触れ合うのは、相手の全てを斬る刹那のみ。
吐息と共に呟く鷲生。
「全く、儘ならん」
「容易く終わるには、抱えた想いが大きすぎてな」
答える男に、成る程、確かにだなと頷きながら、薙ぎ払う鷲生の剣は、更に冴えを宿していく。
届かぬならば更に踏み込むのみ。
鷲生が違いを示さなければ、全てを良しとして男は終われないのだから。
「一切合切、怨念払いて妄執の災禍を断とう」
その言葉を宣言に、振るわれる秋水より放たれるは衝撃波。
雨を散らし、間合いを狂わせ、男の繰り出す太刀筋を歪ませる。
自ら踏み込んだせいで妖刀の切っ先が鷲生の首筋の付け根を掠めて削るが、鷲生は意に介さない。
後の先、相手の勢いを利用してのなぎ払いで姿勢と構えを崩させる。
それはさながら流水のように。
朧のように微かな隙を生じさせる、その刹那に。
「纏い無に帰せ――遮斥隕征」
放たれたのは破魔を宿せし剛の一閃。
あらゆる技、呪詛、妖気を斬り裂いて無効化する刃が奔り、男とその身に蝕む呪詛の諸共を斬り払う。
飛び散る鮮血。
のみならず、霧散していく妖気。
剣鬼の男へと傷を刻み、妖刀の存在を更に削る。
だが、終わりではない。そのまま死角へと回り込み、鷲生の秋水が更に振るわれる。
刃の向こう、想い出す事が叶うのならばと。
祈りというには鋭すぎて、願うというには苛烈すぎる切っ先に、全てを込めて。
「せめて待つ者が其処に在る事くらいは知るが良い」
言葉と共に男を斬る災禍を断つ刃。
共に還り、共に眠れ。
そこに光と救いはある。
骸の海の中で静かに休み、揺れて夢見て、幸福を思い出すがいい。
それが容易ではないと鷲生は知るからこそ。
男の罪と命、悲しき路往きに終わりをもたらすべく、斬撃を繰り出し続ける。
似通う路を往きながらも、触れた者、出会いし者とで違う結末へと辿り着いた同類へと、せめてもの願いを込めて。
速やかに眠れと、鷲生の繰り出す秋水が慈悲の艶を帯びて流れる。
悔いて、悔いて、悔やみきれぬ、絡み付きし想いと呪いを。
断ち切りて、解き放とう。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
f01440シャルと第六感連携
良いぜ、終わらせてやる。アンタだって不本意だろうしな。寄生虫に操られてるだけなんて、よ。
魔剣を顕現し、刀身に紫雷の【属性攻撃】を纏わせて接近戦。剣鬼の攻撃は【残像】と【見切り】で見極めて躱す。
懐に潜り込まれるようにワザと【フェイント】を掛けて動く。距離が近くねぇと使えねぇUCなんでな。
雨粒を弾くように至近距離での下から斬り上げつつのUC。躱すには難しく、受けなら可能かもしれねぇ。が、その選択を待ってた。【怪力】を加えて、妖刀狙い。
更にもう一発、シャルの援護をアテに、振り上げてから振り下ろしの【二回攻撃】で追撃のUC。
そんなモンに頼らなくても、アンタ、充分に強いぜ。
清川・シャル
f08018カイムと第六感で連携
雨は、嫌いなんです
低気圧って頭が痛くなるから。
余計な事も考えてしまうでしょう?
貴方もそうでしょうか?そうだとしても…人を傷つけていい理由にはなりませんからね。
悲しい事は雨で流して終わらせましょうか。
敵の拘束狙いで、全身魔法で氷柱を含むブリザードを起こします
動きが鈍くなったら攻撃開始です
愛用のそーちゃんを片手に走ります
チェーンソーモードにして、UC起動
呪詛を帯びたなぎ払い攻撃を行います
すかさず櫻鬼の仕込み刃で蹴りの連撃を行います
敵攻撃には激痛耐性、武器受け、カウンターで対応
防御に多重障壁を展開、カイムにも気を配ります
優しい雨も、あるから。
雨は嫌いなのだ。
憂鬱になる。頭痛がする。
低気圧といえばそれまで。
でも、立ちこめる雲は暗く、そして、湿った風は重い。
どうしても 嫌な事を思い出してしまうのだ。
「ね、貴方もそうでしょうか?」
清川・シャル(無銘・f01440)が言葉を向ける先にいるのは、鮮血を流し続ける剣鬼たる男。
だが、血を零し、雨で洗い落とされれば、落とされるほど。
その想いと心が戻るのだ。悲しい記憶が、大切な思い出が、感情と共に蘇る。
雨が呼び覚ますように。
痛みが蘇るのだろう。
戦えば戦う程。そして、目覚めれば、目覚める程。
「そうだとしても………人を傷つけていい理由にはなりませんからね」
青い瞳に悲しげな色を滲ませながら、シャルは呟き続ける。
それが届くかどうか判らない。
いいや、届いたとしても余計に痛みを覚えさせるだけかもしれない。
そうだとしても。
「悲しい事は雨で流して終わらせましょうか」
血で濡らして染め、汚すのではなく。
雨の上がったばかりの、優しい風を迎えたい。
ここはシャルの故郷だから、ただ悲劇だけで終わらせたくないのだ。
「良いぜ、終わらせてやる」
それはカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)も同じこと。
愛しいと思うシャルが悲しまないように。
痛み、冷たい雨で心に咲いた記憶が色褪せないように。
出来る事は、優しき終わりを。
男に一筋の救いを。便利屋だというのなら、世界を越えてもだ。
それがシャルの傍でだというのなら、なおのこと。
「アンタだって不本意だろうしな。寄生虫に操られてるだけなんて、よ」
せめての光を閉ざさない為にも。
カイムにとって大切なシャル。シャルにとって大事なカイム。
それをなかったことにされ、操られて終わるなんて。
絶対に出来ないし、許せないのだ。
「さあ、終わらせましょう。紫陽花の物語に、優しい雨と、結末を」
白金色の髪をふわりと靡かせ、シャルが呼び起こすのは氷柱を含んだ嵐だ。
羅刹の全力によって紡がれた冷気の奔流。
身が凍えて、血さえ止まりそうになるような冷たさ。
だが、それは呪いと、妖気さえも鈍らせる。
「さて、終わりを刻みにいかせて貰おうかね」
氷嵐が終わるや否や、顕現させた魔剣を片手に切り込むのはカイムだ。
一気に迫り、紫電を纏わせた刀身を一閃させる。
それを避けるからこその剣鬼。命を、寿命を、記憶と魂を。
代償に得た力はまさに尋常ではない。今は妖刀より心を取り戻しても、受けた力は未だその手に。
「なんとも」
だから僅かに笑う男は、剣鬼となる前のものかもしれない。
凍えて鈍った身体。だが、目の前の二人を前に、暖かく、懐かしいものを感じるのだと。
「……眩いな、お前達は」
憧れて。懐かしくて。
もっと見せてくれ。大切な姿と形を。
取り戻して終わる為に。
故にとカイムへと放たれる斬撃には一切の容赦はない。
この程度を避けられるのであれば、それこそ、自分が大事にした思いもまた、その程度だと断じている。
「全く、苛烈で真っ直ぐで、元がどんなのだったのか」
太刀筋を見切り、残像を生み出しながら避けるカイムだが、胸板に刻まれる朱線。完全には避けられない。
だが、その程度で怯んでどうする。恐れる理由などはなく、背に感じる息遣いは、シャルのもの。
応じて繰り出す斬撃に躊躇いはない。カイムのそれを避け、懐へと迫る剣鬼からは必殺を狙う気配。
下段から跳ね上がる斬撃は冴え冴えとした殺人の三日月を描く。が、それをカイムは誘ったのだ。
ひやりとカイムの首筋に妖刀の冷たき刃が触れるが、シャルの紡いだ多重の防壁が肌に傷ひとつ付けることを許さない。
だが、防いだならば、次は二人による乱撃だ。
速やかに。そして、絶え間なく。
それはふたりだからできること。互いが互いに重ね合うということ。
つまり、絆の輝き。
男が眩いといったそれを、まずはカイムが繰り出す。
「聞こえるかい? これが、死神の嘲笑だ。……妖刀っていう寄生虫さんよ」
下段より雨粒を弾くように、斬り上げるように放たれるは神殺しの一閃。
人の身には過ぎし技。至近距離の相手にしか効果はないが、此処まで肉薄していればその効果は十全に。
内に秘めた邪神の力をも乗せた神を殺す斬撃。
それは比喩や暗喩ではなく、格ある神魂さえ滅ぼす斬刃だ。
懐に飛び込み、殺技を放った直後の男には妖刀で受けるしかない。
それこそがカイムの狙い。元より、滅ぼすは妖刀のただひとつ。
神の纏う力さえも斬り裂く魔剣の滅刃が妖刀へ衝突する。軋み、罅が広がり、妖気が零れて、雨の中で溶けていく。
「耐えるのは流石、根性つっーか、悪役の気迫だな。けどよ」
そのすぐ後ろから飛び込んで来るのは、桜色の鬼金棒であるそーちゃんを片手で携えるシャルだ。
「耐えるなら、幾度となく打ち込むまでです!」
呪詛を纏わせ、棘をチェーンソーのように高速で回転させて振り上げるシャル。
華奢な身体の何処にそんな力があるのかという疑問は、鬼神の繰り出すが如き剛撃が敵と諸共を吹き飛ばす。
薙ぎ払う一撃は地形さえも破壊して作り変えてしまうほど。それを耐え抜く妖刀はもはや鋼や物質ではなく、霊魂としての存在であるのだろう。
だが、だから何というのだろう。
地獄へと誘う鬼神の一撃で吹き飛ばされた所へと、追い縋ってシャルが放つのは高下駄による蹴撃。
魔力によって飛び出す仕込み刃が妖刀へと突き立てられ、更に回転するように連続で繰り出される蹴りと金棒による乱撃。
鬼神乱舞の名の如く。
或いは、鬼櫻の花吹雪と化して。
シャルの羅刹の力による連撃が繰り出される。
一度、構えと姿勢を崩され、更に吹き飛ばされた男にそれを捌き、凌ぐことは困難。
呼吸を整える間もなく、再びカイムが斬り込む。
「眠って貰おうか」
「雨音の中なら、きっと安らかに」
今度は振り下ろされる死神の斬撃。
シャルの連撃を捌くのに必死だった剣鬼に、それを避ける事はできず。
響き渡る鋼の断末魔。
ひび割れ、砕け、ああ、けれど――するりと、斬り流されるカイムの魔剣。
カイムの斬撃に合わせて、男も切っ先を流し、受けると同時にカイムの魔剣の上から斬り伏せたのだ。
結果として太刀筋はカイムの意図せぬ方向へと流れ、狙った結果を果たせない。
更に翻る妖刀がカイムの胴を薙ぎ払おうとするが、やはりシャルが割って入り、多重の障壁結果によって妖気を纏う刃を防ぐ。
震える妖しの刀身。
ぼろぼろになりながら、それでも憤激と呪詛をばらまくそれ。
辛うじて刀と云える、まるでUDCの邪神のように、人の思いと心、理性と記憶を蝕むそれにカイムは紫の瞳を向ける。
「そんなモンに頼らなくても、アンタ、充分に強いぜ」
だから、そんなモノを手に取ることが悲劇だったのだ。
残されていたこと。あったことがどうしようもないの惨劇の始まりなのだ。
ならばその欠片も残す訳にはいかない。
「お前は強い。……ああ、自分を捨てて、それでもって姿には文句も言いたいが、力も心も強い。だから、よ」
許してやれよと。
刃の触れるような距離で、カイムは男へと呟く。
「悔いて、後悔して。失って、守れなくて、悲しくて。でも、お前の大事なそいつは、お前を恨んだりしない」
呪ったりするのは。
その刀だけだから。
「強いじゃないか。不幸に負けんなよ。……もう一発、もしかしたら後、何発もいくから、それも耐えてくれよ」
「ええ、優しい雨もある。シャルはそう言いました」
再び高下駄での蹴撃。男の腹部へと深く叩き込み、距離が離れた所にカイムの紫電纏う斬撃が振るわれ、男が妖刀で受け流した所に、シャルの鬼金棒の一撃が。
「シャルは思うんです。もう少しだけ、もう少しだけ」
その呪いが果てるまで。
雨の中の戦いで溶けて、消えるまで。
罪は消えないけれど。
「その妖刀が砕けて、終わるまで。戦ってください」
そうだ。
一番大事なのは、思いだから。
「自分の思いを、もう見失わないでください。自分の辿り着きたい所を、思い描いて」
それは刀を握り、振るうのではなく。
心に閉まった、刹那に切り取った風景は何なのかと。
妖刀に蝕まれても、その輪郭と色彩は失わなかったのだから。
取り戻して欲しいとシャルは願い、カイムは男の強さを信じて、斬撃を重ねる。
優しい雨は、ある。
それはきっと、そこにいる人達が、優しさを宿すのだ。
涙のように、ほろりと。
零れる何かが、男の身より。
それは呪いになど蝕まれていない、大切な何か。
二人を前にして、眩いと、憧れると。
手にしたいと思った筈の何か。
失った筈なのに、胸の奥であった。何か。
それこそを魂と呼ぶのかもれしない。
ざあぁっ、と雨が降りしきる。
痛みを呼ぶことのない、暖かくて、優しい雨が。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
百鬼・景近
【花守】
――そうかい
ならば此方も相応の刃と心を以て応えるのみ
確と受け止めてご覧に入れよう
(対照的に薄く笑んだ侭、そっと鬼面下ろし)
オーラと耐性で意識保ち真向勝負
見切りと第六感で剣筋読み痛手阻止
UCも即利用し速度に対抗
例え命を喰らわれようとも、心までは呉れてやらぬ――だってこの心は、彼の娘に捧げた侭――
嗚呼、君とてそうだろう
その心を捧ぐべき存在は、そんなモノじゃない
想いは最早、刃に乗せるだけ
奥底に封じられたものを解く様に、怨嗟斬り払い――尚尽きぬなら、生命力代わりに呪詛すらこの刃に吸い上げ――奪われる前に奪ってしまおう、邪魔なものは
後に残るは、どうか二人の静かな時と、優しく包む手向花であれ――
呉羽・伊織
【花守】
鬼に妖、禍殃に呪詛――上等だ
俺達は其を斬りに来た
唯其だけを、絶つ為に
(常と真逆の真剣な色を、下ろした仮面の裏に引っ込めて)
己が呪詛にも彼の呪詛にも打ち克つ覚悟の下――第六感や見切りで動作読み、耐性で被害緩和し、UC使い速度に対抗
十八番の搦手は使わず真正面から喰らい付き、ひたすら其の鬼を斬り伏す為に早業で剣戟
語るは刃で
嗚呼――人の心とは斯くも目映い――此程に飲まれて尚、未だ確かに灯ってる
俺はこの灯を見失うまい――否、アンタだって未だ、もう一度、見出だせる筈だ
其を翳らす呪詛は景近と共に斬り払い、或いは此方の妖刀で請け負い――晴れるまで付き合おう
最後に笑うは妖刀でなく、彼の二人の穏やかな――
ゆらりと、ゆらぁりと。
赤い瞳が剣鬼の男を捉えて離さない。
いいや、それに憑きし呪いと悪縁をこそ見つめている。
他にも方法はあったのか。
違う結末。辿れる路はあったのか。
判らないし、こうなって最早、異は唱えまいと。
「――そうかい」
百鬼・景近(化野・f10122)は鬼の仮面へと指を掛ける。
それが覚悟。男の思いと願いというのならば。
無様は晒させまい。
無念のひとつ、残しはさせまい。
刃に生きたその様のまま果てさせて欲しい。
その元に終われたのなら、きっと女の所へと逝ける筈だから。
罪咎ならべて、己を斬ってくれと、その男の眼は訴える。
「ならば此方も相応の刃と心を以て応えるのみ」
決して加減して、半端に終われぬのだというのなら。
そして、加減されて果てるもやはり、本望ではない。
我が儘というなら確かにそうだ。だが、そうでなければ剣士と云えぬのではと、景近は薄く笑い、鬼面をすぅと下ろす。
「確と受け止めてご覧に入れよう」
もはやその表情は判らない。だが、言葉に偽りの響きはない。
横に並ぶ呉羽・伊織(翳・f03578)もまた、仮面に手をかけながら言葉を紡ぐ。
「鬼に妖、禍殃に呪詛――上等だ」
鬼のような刀。妖しき気は男と女を別けて合わせず。
禍殃は雨の帳の中にあり続け、呪詛を滲ませ続ける。
それこそを。
「俺達は其を斬りに来た」
常の飄々とした伊織の雰囲気と声色はもはやない。
何処までも真剣に。それこそ、携えし刀の如く鋭く。
「唯其だけを、絶つ為に」
女の手を握りたくとも、呪詛にて叶わぬというのならば。
見事、斬り捨てて見せよう。
舞台を整え、嗤い転げていた妖刀よ。
最早、幾度となく、何人もの力と刃を受け、ひび割れ、崩れ落ちる前の亡骸よ。
それでも、お前はまだ赦されぬ。
何も求めるものは手に入らず、冥府で転がるがいい。
何故なら、景近と伊織が求めるのは、妖刀とは真逆なのだから。
故に仮面をかぶる二人。
姿を隠し、顔を覆い、その役を得る。
下ろした仮面に、どんな表情と思いを浮かべるかなど、誰にも知られぬ為にも。
鬼面とは即ち、魔除け。厄払い。
妖しの刀を振るう二人が、今は妖しを屠る為に、それを被り。
「来なよ。此処に来て、だんまりは、酷いねぇ」
景近の告げる言葉は、ぼろぼろの妖刀へとだ。
滲む妖気。湧き出る怨嗟。
それは数代に渡って斬り、斬られ、果てたものたちの魂の集まり。
もはや一種の祟り神だ。
『憎い。ああ、憎い。貴様らを斬れど、この身はもはや朽ちる。嗤うに嗤えぬ。何も知らず斬り合えば、この身が砕けても腹を抱えて地獄へ落ちたものを』
だからこそ、地獄さえ生温いのだ。
全て、ひとかけらさえ残さず、斬りて、斬りて、無明の闇へと散らす。
そう思う景近と伊織の思いに間違いなどない。
この妖刀の悪鬼を討たねば、救いはないのだと。
だから呼び起こしたのだ。斬り伏せる為に。
結果として男の意識が呑まれ、理性を蝕まれた妖剣士へと変じたとしても、これが妖刀の放てる最後の呪詛。
「さあ、行こうか俺達も」
「怨念を身に宿して――心までは暮れてやらぬと」
ふたりが同時に発動させたのは、自らが手にする妖刀の怨念を身に纏う技。代価に命と寿命を求め続けるが、凄まじい高速移動を可能とする。
そして、それは妖刀の発動させた技も似て、同じこと。
ならば後は。
ただ、語るは刃で。
黒き風が螺旋を描き、交差する。
纏う呪怨と、鬼の慟哭を伴いながら、常人で視認出来ぬ速度で繰り出される無数の斬撃たち。
伊織の黒い刃が咲かせるは漆黒の牡丹か。
冷ややかなる黒刀は音も光もなく、斬閃の色艶を、死の色彩として葬るのみ。
十八番である筈の絡め手は一切なし。
真っ正面から剣鬼へと食らいつき、斬り伏せる為の早業を翻すのみ。
彼が呪詛、己が呪詛に打ち克つ覚悟があるならば、影に隠れてなど出来はしないのだから。
見切れず、感じ取れぬ程の早業は互いに。
だから傷を負って鮮血を流したとしても、同じくこちらの妖刀が相手を削り斬っている。
景近も身に走る激痛に耐えながら、疾風でさえ追いつけぬ速度で駆け抜け、斬撃を閃かせる。
痛みだけではない。纏う呪怨に心を蝕まれぬよう、気を巡らせて。
更になお加速する、三人の剣士による妖し剣舞。
退かず、止まらず、妖刀と身体を翻す景近。
――例え命を喰らわれようとも、心までは呉れてやらぬ。
それは妖刀を携える者の矜持。
呪われている身と言われども、それが景近の選んだ道なのだ。
心の芯として真っ直ぐに。それこそ、魂の、鼓動の中にあるもの。
――だってこの心は、彼の娘に捧げた侭。
それは在りし日のこと。
決して妖刀の呪いに負けぬと定めし思い。
嗚呼、君とてそうだろう。
最早言葉を紡ぎ余裕もなく、連続で繰り出す斬撃の応酬の最中で思うのだ。
その心を捧ぐべき存在は、そんなモノじゃない。
剣技の冴えは景近をして驚くもの。それは単に、妖刀の力によるものではあるまい。
例え、そうだとしても。
その力に見合うだけの輝きを持っていたということ。
「が、言葉にさえできないか」
思わず呟いた瞬間、肩口を斬り裂かれる景近。
神速の剣戟の最中では、言葉の一つが死に繋がる。
だが、その条理を越え、想いの籠もった切っ先が剣鬼の身を深く捉え、鮮血と身に詰まった呪詛を舞い散らせる。
故に、想いは最早、刃に乗せるだけ。
その切っ先で相手の身に、そして、心と魂に届けるのみ。
だが、加速していく最中。
怨念に、呪詛に打ち克つは何も伊織と景近だけではないのだ。
技に緩急と冴えが戻る。第六感で捉えきれぬ、騙しと殺しの技が混じり出す。虚実を織り交ぜ、意識の表裏を付くのは、人の心から紡がれる太刀筋。
ちらりと見れば、男が妖刀の怨念に打ち克ち初め、その眼で伊織を見据えている。
感謝を。そして、より高みを。
誰かの力ではなく、確かに、今、己は妖刀の呪いに打ち克ったのだと。
例え弱っていたとしても。
その存在を浄化され、蝕まれ、喰われ、反転されせれ、斬り砕かれかけていたとしても。
取り戻した、確かなる心が、瞳に宿っている。
嗚呼――人の心とは斯くも目映い。
ならば更に舞おう。
剣に刃に、悉く禍いと呪いを断つ為に。
――此程に飲まれて尚、未だ確かに灯ってる。
どれほど蝕まれようと、魂さえ握られても。
恐らく、男は自分の名など今でも忘れた儘。
それでも、大切なる何かを取り戻したのだ。
「俺はこの灯を見失うまい――否、アンタだって未だ、もう一度、見出だせる筈だ」
身に宿りし怨念と呪詛を、振り切って。
走りて舞い、踊りて振るえ。その心の刃を。
もう一度、更に深く。
一番大事なものだけではなく、己というものを根こそぎ、妖しの刀より引きずり出してくれよ。
願うように。祈るように。
だが、そんなものに縋るより、全てを斬るべしと。
景近と伊織の振るう刃が変わる。
斬るのは身ではなく、その身に染みこみし妖気。
それは男が纏う怨嗟を斬り払い、翳らす呪詛を己が妖刀で吸い上げる為に。
元より、人ではなく、呪いを断つ。ただその為だけに二人は来たのだから。
想いを、目的を、例え妖刀を握り絞めたままでも、景近と伊織は忘れない。見失わない。
男を蝕む呪いは邪魔なのだ。
ならば、景近と伊織の二人にて背負ってみせよう。
奥底に封じられたものを解く為に。
そこにある魂の輝きを信じて。
晴れるまで付き合おう。
奪われる前に奪ってしまおう、邪魔なものは。
妖刀の荒魂が何か絶叫を上げるが、それを二人の刃が斬り捨て、更に奔る。
最後に笑うは妖刀でなく。
二人の穏やかな魂の微笑みで。
握り絞めるその手が、二度と離れぬように。
後に残る二人。男と女が楽土か、この紫陽花の園で。
どうか二人の静かな時を過ごせるように。
優しく包む手向花であれ。雨の晴れて咲く、美しき紫陽花の色彩よ。
永遠などないと、知る景近と伊織だけれども。
僅かな瞬間。魂の安らぎを願い。
自らの心を蝕む妖刀の呪怨に笑ってみせる。
この程度で揺らぎ、動じて、変わる筈がないのだと。
それが人なのだと。
鬼面に隠され、誰も見えぬその貌で。
願いし結末まであと少し。
誰の目にも止まらぬ妖剣士の神楽舞は、彼と彼女を葬る為に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
――貴様と同じ、護るために刃を握る男を知っている
故に、貴様がそうなって尚それを忘れられないというのも合点が行くよ
ならば望みを叶えよう
生憎と切り結ぶのは得意じゃあないが
それで構わんのならば――正々堂々、勝負といこう
起動術式、【三番目の根】
味わうのは女が遂げただろう非業の死
少しだけ力を貸してくれよ
私に、個人へ向ける「愛」というのは分からんが
愛する人が堕ちるなら、それを止めたいのが、人間なのであろう
戦闘力が増強していようが構わん
呪詛を乗せた黒槍で以て応戦しよう
致命の傷以外ならば覚悟で耐え切ってくれる
元よりこの身は呪詛にも痛みにも慣れているのでな
――ああ、だがやはり
人が命を削るところは、見るに堪えんな
雨に濡れ、けれど立つ剣鬼の姿。
身に纏いつく呪詛と妖気は薄らぎ、その自我も取り戻されつつある。
全てはその魂に、一筋の光を与える為に。
それが人間なのだろう。
心と魂に触れることはではず、その形を見ることもでないけれど。
きっと、何処かで似て通じるものがあるのかもしれない。
例えば、そう。
「――貴様と同じ、護るために刃を握る男を知っている」
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が、とある男の姿を思い出すように。
護る為にと自らを省みず、幾ら傷を負えど止まることはない。
身の内側から灼け崩れ、それでもなお、思いの為に振るわれる刃。
その悲痛で、切なる思いを抱く男をニルズヘッグは知るからこそ。
「故に、貴様がそうなって尚それを忘れられないというのも合点が行くよ」
終われないのだろう。
残り火としては強すぎる悔恨が。
どうしても貫きたかった、願いが未だ胸に突き刺さった間々なのだ。
自らでは、ただひとりではもう何処も辿りつけない。
ならば、せめてと。
黒い蛇竜が変じた長槍を翻し、その穂先を剣鬼へと向けるニルズヘッグ。
未だに消え去らぬ呪詛を斬り払い、その思いへと突きつけるように。
「ならば望みを叶えよう」
僅かに頬を緩めて笑うのは、ニルズヘッグが切り結ぶなど得意ではないから。それでも相手の望みと願望の上に乗ろうとしている。
構わないだろう。
そうでなければ、果てて消える事など出来ないのだろうから。
「――正々堂々、勝負といこう」
「感謝する。そう、でなくば俺の望みは叶わぬから」
それは剣鬼となった男の、せめてものけじめか。
或いは抱いていた筈の、最後の誇りなのか。
ニルズヘッグにとっては、どちらも同じ望み。ならば、どちらも叶えてみようと、駆動させるは己ではない誰かの死に際を追体験する術式。
「私を呪え。愛する者を救う為に」
訴えるは非業の死を遂げた女の魂へ。
未だ逝く事できず、紫陽花たちに抱かれて眠る魂へと呼びかけ、死の痛みと悲哀を魂にまで刻む。
振り下ろされる刃。
血で赤く染まる視界。
そして、助けようと手を伸ばす男の――涙。
ああ、どうしてもニルズヘッグに人の、個人に向ける愛は理解出来ない。
痛みより、憎しみより。
護ろうとしてくれたアナタが悲しみ、苦しむ事のほうが我慢出来ないのだと。
死の間際に見て覚えているのは、泣き叫ぶ男の顔と涙ばかり。
愛情の花言葉を持つ紫陽花のような女の魂が、悲痛な嘆きをあげている。
もういい。
救われて欲しい。あなただけでも。
流れる念と想いはそればかりで、誰かを憎み、呪いことなどありはしない。
――ならば、少しだけ力を貸してくれよ。
愛するひとが墜ちるなら、それを止めたいと願うのが、人間なのであろう。
泣かないで。嘆かないで。
怒り、狂い、染まって変わらないでと願うのならば。
いいや、そうなっていく事を止めたいのが、女の死に際での記憶で思いなのだから。
「受け止めてやろう。その望みも」
蛇龍の黒槍が変形する。
受けた死の記憶を元に封印が解かれ、殺戮の為の形と刃へと。
見届けた剣鬼が、踏み出した。
「ならば、参る」
ぼろぼろの妖刀。けれど、手放す事も叶わぬそれは、男の寿命と生命を急速に吸い上げ、此処にて異常な速度をもたらしている。
だが、ここが分水嶺。
これ以上、新たな贄なければ妖刀が男を操る事など出来はしない。
「構わんさ。その呪いも、穿ってみせよう」
滑るように繰り出す黒槍の刺突。
受け流す剣鬼の妖刀だが、黒槍の纏う呪詛の密度に刀身が悲鳴をあげる。それでもなおと前へと踏み込む姿は、流石というべきか。
いいや、むしろ、妖刀を使い潰すように動きをしてくれれば、ニルズヘッグにとっては上々。
袈裟に振るわれる一閃は、速くて鋭く。
半歩下がって避けたつもりが、ニルズヘッグの肩口から鮮血が零れる。
「切り結ぶのは苦手なものでな」
だが、ただで終わらない。刺突として流れた筈の黒槍を払いながら引き戻せば、下段より跳ね上がる斬撃となって男を襲う。
太股を斬り裂き、さらにくるりと反転する槍。穂先ではなく石突きを以て一撃を叩き込み、後方へと飛び退くニルズヘッグ。
「だが、退屈も後悔もさせはしないさ」
痛みにも呪詛にも慣れ過ぎたニルズヘッグの動きは止まらない。
女の情念と己が呪詛を乗せ、奔る黒槍の動きはまさに龍の牙。
連続した刺突は、剣鬼に容易な前進をさせない。
加え、緩急をつけて斬り払う。ニルズヘッグの黒龍の長槍は、剣鬼の身を刻み、穿ち、血を散らせながら、更に加速する。
妖刀で受けた所で、纏う呪詛と術式の重みに、罅の刻まれた刀身が持たない。一度や二度は出来ても、連続すれば砕け散るのは目に見えている。
奏でて散らされるは、妖刀が持つ怨嗟と呪怨。
幾度となくその妖しき刃が翻り、ニルズヘッグの身を斬り裂くが、どれも浅い。届かない。何より、ニルズヘッグはそれで怯まない。
絡み合う黒槍と妖刃は、雨の帳の中で瞬き、戦いの中で願いの先を求めるのだ。
そして。
「言った筈だ。望みを叶えよう」
それも続かない。
どれほどの妖気で強くなっても、越えられないものがある。
五月雨のような流れる黒龍の槍がついに妖刀を弾き、男の腹部へと深々と突き刺さる。
女の哀惜の情が刃を伝い、男へと流れる。
いいや、切り結ぶ最中、妖刀の荒魂さえも払っていたのだ。
「やはり、個に向ける愛は私には判らないが」
もういいのだと。
終わっていいのだと。
終わりを求める男へと、女の魂が、死して残る記憶が囁く。
――ああ、だがやはり。
金色の瞳を、身ではなく、心の痛みで揺らす。
悲しき女の嘆きが。狂い蝕まれた男の姿が。
触れ合うのを、ニルズヘッグは感じてしまうから。
「人が命を削るところは、見るに堪えんな」
例え、この命をかけても護りたかった。
その願いは、雨の中で消える。
護るのではなく、傍にいてくれればいいと。
女の魂が、歌うのだから。
妖刀より先に、この女の魂に先に触れていたのならば。
こんな歪んだ話など起きなかった筈なのに。
けれど、それはもしかしたら。現実には起こりえなかった例えばのこと。
ようやくそれを届け、巡り合わせた灰燼の忌み子は、空を見上げる。
雨が途切れる。もう少しで。
この物語の結末が、光と共に訪れる。
大成功
🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼静
過去は変えられない
そんな事は百も承知だ
眼と耳を塞いで逃げる事も出来ない
故にあっても良い筈なのだ、別の結末が
…勇者達と帝竜を打倒したように
彼の命は彼のもの
女の元へ行くのも選択の一つ
だが…止まぬ雨は無い
其方が剣鬼ならば
敬意を込め最後まで正面での相対を誓う
九天無刃流、アネット・レインフォール――参る!
▼動
葬剣はコートにし防御用
霽刀を手に【剣聖覚醒】による
高速移動と連戟で斬重ね互いの技を高め合う
折を見て式刀で斬返し峰打ちの上から
霽刀で金槌の如くブッ叩き妖刀の破壊を試す
救助成功時は極限へ至ってから会いに行けと
殴り合いを以って未練を断ち切る
失敗時は刀を地に突立て
周囲を夢想流天で覆い男と女を花と共に送る
それこそ、過去の残骸たちを相手取るからこそ。
過去は変えられないのを痛感するのだ。
どんなに振り返り、戻っても、事実はそのままに。
それどころか、目を閉じて耳を塞ぎ、逃げることさえ出来ないだろう。
それは百も承知なのだ。
だが、夢を見てもいいのではないか。
アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は、血に濡れる事のなかった紫陽花たちを振り返る。
夢を、現実に変えてもいいのではないだろうか。
あっても良い筈なのだ、別の結末が。
別の世界、かつの昔の……巡り会えない筈の勇者達と帝竜を打倒したように。
葬剣はコートの形へと変じさせて防御用に纏う。
それはアネットが戦いへと向かい、踏み込むという事。
つまり、勝ち取りたい夢を、明確に心に描いたということに他ならない。
「彼の命は彼のもの」
女の元へ行くのも選択の一つだ。
その為に罪も血も、全てを斬られて流す必要があると。
思うのも自由。命と魂の使い方に間違いはなく、あるとすれば、未だにその身を保たせる妖刀こそが邪そのもの。
「だが……止まぬ雨は無い」
もはや果てる寸前の妖刀。
振り翳された刃と思い。浄化と破魔の願い。
そして女の魂が囁いた悲哀で。
妖気は薄らぎ、流れる呪詛は止まっている。
「其方が剣鬼ならば」
戦いの中で果てる事を望むというのならば、アネットに嫌なはない。
「敬意を込め最後まで正面での相対を誓う」
抜き放ち、武人としての礼節を以て掲げるは霽刀【月祈滄溟】。
青の漣を帯びた滄溟晶は雨の中でも煌めきが衰えることはない。
「名すら忘れたが……俺もまた剣士の端」
剣鬼に墜ちたとはいえ。
その身と心を蝕み、操る妖刀の支配などもはやないようなもの。
ゆるりと構えれば、剣鬼の身体へと流れる妖気。
凄まじい速度を持つ妖剣士へと変じながら、今やその眼から理性は失われていない。
「受けて立とう。いいや、挑ませて頂こう。剣の瞬く間に、輝きを求めて」
それさえあれば。
もはや憂うことなく、女の元へと辿り着けるから。
男の思いを汲めど、アネットが告げるのはただひとつ。
「九天無刃流、アネット・レインフォール――参る!」
武人として名乗り。
戦の始まりの口上のみ。
他は無粋、最早、要るまい。
アネットの色彩が変わる。白髪にて緋眼。剣聖へと覚醒した反動で牛ないし色の変わり、手に入れるのは尋常ならざる速度。
音など容易く越えて、斬り裂く、刃の境地へ。
両者が躊躇いなく踏みだし、光も音も置き去りにした斬撃を繰り出す。
振るわれた後に風切りが唸り、アネットが過ぎ去った後に鋼の響き。
連撃として紡がれ続ける太刀筋はどれも流麗にして怜悧。
共に切り結ぶ中で震える刃が、更なる高みを目指して閃き続ける。
それは瞬間にして刹那。
瞬きの間に、十を超える斬撃が空間を奔り、斬り裂いては斬風を巻き起こす。
呼吸をする間もなく、そして、目を瞑れば刃が心臓を穿つだろう。
アネットと剣鬼が繰り出す斬閃には一切の容赦がなく、全身全霊を賭して振るわれている。
いいや、残すモノなど何もないように。
己が全てを燃やしながら、刃を瞬かせる剣鬼と、それに応じるアネット。
思い残しなどありはしない。
これほどに眩い思いを、戦を、閉じて濁った瞳に映してくれたのならば。
だが、アネットは武人であり、剣鬼もまた武芸者だ。
故に此処で、第三者から見れば矛盾が見える。何故、全霊を以て殺し合うのか。
捌ききれず、受け流しきれぬ切っ先が鮮血の花を舞い散らす。
両者が共に無数の傷を負い、それでも加速していく剣戟の嵐。戦いに身を置くものでなければ、容赦や加減のない殺し合いにしか見えないそれ。
「どうした」
脇腹を斬り裂かれながらも、返す刃で逆袈裟に剣鬼を斬り付けるアネット。剣の冴えは更に磨き上げられ。
「極限へと至るには、まだ遠いぞ。こんなものが、目指したものか」
「……ならば」
絡み合うように、切り結ぶ斬刃。
それは切っ先で理想を描き、夢を形へと結ぶかのように。
奏でられるは戦の歌であり、その中に輝きを見出すから武に生きるのだ。
「お前が辿り着けばいい。俺は、この場で全力を出しきれればよい」
嗤う妖刀の意志などもうありはしない。
行きたい女の元に辿り着くのだと。
その為に罪咎を斬り散らし、武の誉れを得て逝くのだと。
「極限? 極致? 今が、それだ。常に最善を描くが剣士たるものだろう」
凄烈なる意志を込めた剣鬼の一閃。
血飛沫と共に後ろへと流れるアネットは痛みも意に介さず、成る程と頷く。何処までも真っ直ぐで、愚直で、他を見る事のない精神。
故に妖刀を手に執ったのだろう。
他を頼るではなく。逃げるでもなく。
今を立ち向かうしかない、その意志に。
「なら、俺も」
後方へと飛び退いた。と同時に鞘走らせるは式刀【阿修羅道】。
焔の刃紋が揺らめくそれを、諸手で構える。唐突なる得物の変化に、剣鬼の反応が一瞬送れる。
そして、それで十分なのだ。
「お前の望みなど、知る事ではない!」
身を翻しながら繰り出されるは、大太刀による抜刀だ。
まさに烈火の如き一閃。峰打ちで放たれたからとその威力は強烈の一言。
受けた妖刀がそのまま地面へと弾き叩き落とされ、地に切っ先を埋める。のみならず、流水の如き滑らかさで、霽刀を再度握り絞めるアネット。
「未練を断て。生きているお前に、明日はあるだろう!」
過去は帰れない。変わらない。
だが、夢見る明日は、叶えられるのだから。
幾人もの想いと刃を受けて、朽ち果てかけていた妖刀が、ついに打ち抜くような霽刀の一撃でその刀身を砕き折られる。
周囲に響いたの鋼の断末魔のみならず、妖刀の魂の悲鳴。
怨嗟が消える。呪詛がなくなる。妖気が雨に溶けて消えるようにして。
どのようになろうとも、嗤い転げるつもりだった悪鬼は、消え失せたのだ。
けれど。
「血濡れの鬼に」
ぽう、ぽうっと。
溶けて消える筈の妖気が、砕かれた刀身に再度、宿る。
尋常ならざる切れ味はもはやなく。
己の力を高める事もままならずとも。
「その先があると」
いいや、あったはならないと、鬼が嘆いて、折れた刀を振るうのだ。
執念が違う。意志が違う。
剣鬼の捨て身の斬撃はアネットを斬り、そして、翻って。
「この、判らず屋が!」
拳では生温いと、霽刀の峰打ちで剣鬼へと殴りかかるアネット。
説得など土台不可能であり。
救いというのならば、もはや死しかなく。
それを覆すだけの言葉は誰も知らない。罪を償う方法も。
何より。
血を吐き、半ばで折れた妖刀を振るうは、燃え尽きる寸前の魂の姿なのだから。
「己に残された寿命の短さ、薄さならば。数日と持たぬならば、腹を切るより、此処で斬られて果てたいのだ!」
どうしても判らない。
何人も斬り殺した罪を洗い流すものはなく。
雨とて、もう、ついに消えたのだ。
眩くて、憧れた。
もう失う事はないからこそ。
己が意志で、向かう先を決めたいのだと、男は叫ぶ。
それにどう答えればいいのか。
男と女を花で覆い、葬るならば、それは確かに今しかなて。
「最後まで相対すると誓ったのは、誰だ!」
それはアネット。
告げたのはアネット。
描いた夢は叶わない。
いいや、それで救われたと、澄んだ男の眼がそこにあるから。
「ちく……しょう……!」
振り上げた霽刀を地面へと突き刺す。
このままでは、確かに。
憑き刀が嗤いながら容易した筋書きの一部にまだ乗っているのだと気づいたからこそ。
罪を購えなければ。
男の手は血濡れて、女の手をもう一度、握ることなどできないのだ。
大成功
🔵🔵🔵
鈴木・志乃
……すまないなァ。
私は切った張ったは苦手なのだ。
第六感で行動を見切り光の鎖で早業武器受け
破魔と祈りを鎖に籠めて、念動力操作で捕縛する
天馬精霊のユミトを召喚し、体当たりかまして
此方の攻撃の隙を減らしてもらう
相手に隙が出来た瞬間、高速詠唱で超加速し急接近
抱きしめる。強く、きつく。
全力魔法UC発動
失せ物探しで見つけ出した、彼の失われた想いと手をつなぎ
何が何でも復活、昇天させる。
不器用な戦い方しか出来なくてすまない
これが正しい行いなのかも分からない
それでも……放っておけと言われても困るよ
それだけ大切な心を、失くしたまま逝くのはあまりに哀しい
戦いが得意であれば、貴方の望み通りに出来たかもな
……安らかに。
ついに、幾つもの想いを受け、砕かれた妖刀。
もはや妖気と、そこに宿りし悪鬼の魂が嗤うことはない。
こんな筈ではなかったと。
不幸をばらまき、望まぬ悪夢を見せることこそ、妖刀の筋書きだったのに。
例え男が討たれても、紫陽花の園は血で塗れるように。
雨が全てを洗い流してしまうつもりだったのに。
妖刀の怨念は消えゆく。ただ、微かな妖気を男の身に残して。
その男が、折れた妖刀を手に戦うだけの力を残して。
いいや、その生命はもはや既に、尽きかけている。元から薄く、残りなく、ならばと妖刀が描いた剣鬼の悲劇。
それを阻止した時点で、救いではあるのだ。
ただ、どうしても。
どうしても、男の願いは。
「……すまないなァ」
悲しげな呟きは、鈴木・志乃(ブラック・f12101)より。
光の鎖を手に、折れた刀で最後の相手を求める――それこそ、介錯など頼めぬから、斬り捨ててくれと願うような男へと歩み寄る。
けれど、その願いを叶える訳にはいかない。
「私は切った張ったは苦手なのだ」
一筋の救いは出来た。男はきっと、女と再び巡りあえるだろう。
だからこれは後悔の問題。罪を抱いた男が、善き所へと逝けるのだと、諭して導く為のこと。
ただ全員の笑顔を夢見る。
志乃は、その思いで此処にいる。
男の前に立つのだ。
折れた刀を手に斬り掛かる姿は、むしろ嘆いているかのよう。
念動力で自在に振るう鎖が腕ごと絡め取り、動きを封じる。少し前ならば、いいや、幾人もの想いが妖刀を砕いていなければ、これさえ困難だっただろう。
だが今や天馬の精霊を召喚する必要も無く、捕縛できてしまう男。
最早、残る力などないのだろう。ただ纏う妖気で、枯渇した生命を補い、戦おうとしている。
破魔と祈りを込めたそれを振りほどこうとするのは。
「……ああ、泣き叫びたいんだな」
志乃にはそう思えるのだ。
慟哭が止まらず。心だけではなく、身体さえも突き動かされる。
涙は涸れてしまっている。己への怒りで。
どうすればいいのか。ただ見えた光と武士としての義と志に、剣に殉じようと。
或いは、斬られればこの罪も諸共、消え去れるのだろうかと。
取り戻した心は、湧き上がる後悔で痛み、震えている。
「そんなわけ、ないじゃないか」
自分ながらなんて不器用な戦い方だろうかと苦笑して。
志乃は男を抱きしめる。
強く、きつく。決して離さないのだと。
「……貴方の罪があったしても、それは許されなければ消えないんだ」
だとしても貴方には。
貴方自身を許せはしないだろう。
志乃たちが許すといっても、では犠牲者たちは。
斬り、斬られ、喪われた魂たちにこそ、許しは出来るから。
身に宿る魔力の全てを、僅かひとつの御技へと志乃は込める。伝われ、届け、そして、見つけて思い出して欲しいのだと。
瞬くは、奇跡の光の柱だ。
それは呪詛や術、禍々しきものにて失せた想いを蘇らせる聖光。
空へと。雨が止んだ雲を裂いて、その先へと立ち上る清き光の流れ。
それだけではない。踏み躙られたこの土地に眠る、女の魂へと繋がるように。
そこにあった記憶を見つけてくれと、願い、繋げる。
だって、魂を繋ぐ絆は断たれたりしないから。
奇跡じゃなくて、当たり前の、夢に見る程、鮮明な想いの形。
「……ぁぁ」
男の喉から零れたのは、嗚咽に似た何か。
その瞳が映すのは、かつて女と共に過ごした記憶。
何がなんでも思い出せる。取り戻させる。
志乃の想いと光に背を押され、男は在りし日の優しさを、温もりを取り戻していく。
そうだ。
「ねぇ、貴方を愛してくれた人は……貴方を許さない程、心が狭い人なのかな」
違うだろう。
深く、深く、思い合うからこの悲劇はあった。
喪いたくない、護りたい。その願いが一方向の筈がない。
だから結びつく。何度でも。巡り会う。幾度となく。
「大丈夫、貴方の罪は、彼女が許してくれる。一緒にいってあげて。もう、彼女をひとりにしてあげないで」
不器用な戦い方しか出来なくて。
申し訳が立たないし、雄々しく、烈士として、或いは清き思いと、喪失の痛みと共に闘った仲間とはまったく違うものだ。
憧れ、眩いと。懐かしいと男が思い、戦いの中で手を伸ばそうとしたものとは、きっと違う。
これが正しい行いなのかも分からない。
「それでも……放っておけと言われても困るよ」
これが志乃に出来る精一杯なのだから。
男の鼓動がゆっくりと穏やかになる。
終わりまでの余韻を、ようやく感じるように。
「それだけ大切な心を、失くしたまま逝くのはあまりに哀しい」
あの紫陽花たちを咲き誇らせたのは。
ね、彼女だけではなく、貴方の心もまた、なのだね。
囁きが聞こえたかどうかは判らない。
望むものとはやはり違うと、叫ぼうとしたかもしれない。
でも、抱きしめる身体はするりと力が抜けて。
吐息はとても穏やかに、そして、鼓動はゆっくりと、とくん、と脈打つから。
これでいいのだと、志乃は自らに言い聞かせる。
「戦いが得意であれば、貴方の望み通りに出来たかもな」
とくん、と脈打つ鼓動は次第に小さく。
けれど、何かを見つけたように。
逝くべき場所を、共にいたいと願うひとの手を握ったように。
取り戻した心の鮮やかさは、濡れて艶やかなる紫陽花のものを宿して。
「お休み……安らかに」
そして共に、昇天して欲しい。
大切なるものを抱いたまま。
悲しくて、苦しい思い出は雨に濡れて流してしまって。
ほら、血の色なんて何処にも無いのだから。
喪った間々に男は終わらなかった。
呪いは砕かれ、嗤う鬼は無明の闇へと消えて。
救いのないと言われた物語は、こうして結末を迎える。
雨があがった直後だからこそ。
志乃の放った光の柱を受けて、空に虹がかかった。
その路を歩く男と女がいる気がするのは錯覚だろうか。
ただ、綺麗な色に包まれて。
呪われた話と罪など、過去の事と。
忘れてしまっていた女の名を、男が呼ぶのは、幻なのか。
これを救いというにのは傲慢で、ただの無謀な夢だろうか。
紫陽花たちは、斬り散らされることも、血で濡れることもなく。
愛され、笑顔を向けられていた頃のように。
空と虹を見上げて、優しく咲いていた。
大成功
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