15
さくらのちかいはだれがために

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #籠絡ラムプ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ
🔒
#幻朧戦線
🔒
#籠絡ラムプ


0




●桜學府に憧れて
 ユーベルコヲド使いに、なりたかった。
 力を得て何とするかと問われれば――ああ、俗物めと笑っておくれ。
 人々から称賛を得て、己の存在意義を確固たるものにしたかったのだ。

 遠く海を渡った亜剌比亜の地では、ラムプを撫ぜれば願いを叶えてくれる精霊が現れるという御伽話があるらしい。
 魔法のラムプといったか、独特の形状をしたそれを模したオイルラムプを骨董品屋で偶然見つけたのは運命なのか。
 一人侘しく暮らす下宿に戻って、気慰みにと芯に火を灯した時『それ』は現れた。

『……敵と、影朧と、戦わなければ』

 何たることか――紛う方ない帝都桜學府の制服。軍刀に光線銃!
 憧れの學徒兵殿が、己が眼前で――しかし、何故?

『志ある青年よ、どうか私と』

 ――共に、戦って欲しい。
 そう手を差し伸べられて、どうして拒絶などできようものか!

●栄光の在処
 グリモアベースの一角で、今日もミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は猟兵たちの気を惹かんと両手をひとつ打ち合わせた。
「戦争、お疲れさま。疲れも取れないところに悪いけど、サクラミラージュで新しい影朧兵器が見つかってひと騒動起きそうなの」
 やれやれ、という表情を隠そうともせずにミネルバは中空にビジョンを展開させる。
「見た目は普通のオイルランプなんだけど、危険な影朧を手なずけてその力を自分のものにする『籠絡ラムプ』っていうシロモノでね」
 アルコールランプ、と言えば通りが良いだろうか、オイルなりアルコールなりを太い芯に染み込ませて、先端に火を灯すランプだ。
「それを偶然手に入れちゃった一般人も一般人がね、元學徒兵の影朧の力を手に入れちゃってさあ大変。今をときめく国民的スタアもかくやっていう――英雄気取りよ」

 はぁ、と大きく息を吐くミネルバ。
 ゲームの中で強くなっても自分が強くなった訳じゃないのにね、と独りごちて。

「簡潔に言うわね、今回『籠絡ラムプ』を使っちゃって調子ぶっこいてるのは『北大路』っていう男。歳は二十歳くらいかしら、ユーベルコヲド使いになって帝都桜學府で活躍するのをずっと夢見ていたけど、それが叶わなかった平凡な男よ」
 それが、かつて桜學府で活躍しながら志半ばで斃れた少女の影朧と惹かれ合ってしまい、しかも『籠絡ラムプ』の効果で影朧の力を自らのものとして――夢を、叶えている。
「ハッキリ言うわ、分不相応よ。それに、影朧兵器だもの、ロクなもんじゃないわ。みんなには、北大路から『籠絡ラムプ』を取り上げて、その根性を叩き直してもらいたいの」
 ミネルバが淡々と告げて指をひとつ鳴らせば、ビジョンが増える。
 花の帝都の大通りで、一人の青年が大勢の新聞記者らしき人々に囲まれていた。

「作戦の流れはこう。まずみんなには『期待の新星ユーベルコヲド使いに取材を申し込む』っていう感じで、北大路の素性を調べてもらうわね」
 あからさまに『超弩級戦力でーす!』なんて挙動をしたら、みんなが取材される側になるかも知れないけど。その時は北大路についての意見を述べるとか、うまくそっちに誘導してねと言い添えて。
「取材という名の調査で、割り出して欲しいのは『北大路が立ち寄る場所』。そこが割れればあとは先回りして、力のカラクリを暴いてやるの。そうしたらきっと『籠絡ラムプ』から影朧本体を喚び出して戦闘になるから、やっつけて頂戴」
 一番大変な戦闘を一言で済ませちゃったぞ、そんな顔をした猟兵もいたやも知れず。
 だが、ミネルバはすいと六花のグリモアを掲げてお構いなしに言った。
「まあ、それで解決すればいいんだけど。後には『公衆の面前で全てを失った』人間が残されるのよ。めんどくさいかも知れないけど、助けてあげてくれないかしら」

 ――悪人じゃないのよ、誰も。
 雪がしんしんと降るように、桜舞う帝都への道が開かれた。


かやぬま
●ごあいさつ
 初めまして、もしくはお世話になっております。かやぬまです。
 待ってましたの新展開、早速ですが乗らせて頂きました次第にて!
 帝都を賑わせる『偽ユーベルコヲド使い』が道を完全に踏み外してしまう前に、何としてもまっとうな道に引き戻してあげましょう。

●各章のご案内
 第1章「帝都記者と一緒」(日常)
 第2章「阿傍學徒兵」(ボス戦)
 第3章「籠絡ラムプの後始末」(日常)

 という構成となっております。
 第1章では『籠絡ラムプ』の持ち主『北大路青年』に取材をする、もしくは超弩級戦力として青年に対する意見を述べるなどで接触し、情報収集を行って下さい。
 何で取材されてるの? 突然めっちゃ強いユーベルコヲド使いが現れたからだよ!
 目的はオープニングでも述べた通り『北大路青年の立ち寄る先』を突き止めることですが、他にも気になることがあれば何でも質問してみて大丈夫です。
 PSWの行動例はあくまでも参考として、好きな行動でプレイングをかけて頂ければこちらで良きように致しますね。

 第2章以降は都度断章で状況説明を致します。
 ギャグ寄りになるかシリアスになるかは皆様のプレイング次第ではありますが、かやぬまの好きにして良いようでしたらギャグ寄りになる可能性が高いです。
 プレイングは皆様の書きやすいように、こちらも全力でお心に添えるよう頑張ります!

●プレイング受付について
 基本的に全ての章で『MSページとツイッターで告知』を致します。
 断章はそれまでに投稿するように致しますので、お手数をお掛けしますが一度ご確認頂いてからのご参加をお願いできますと幸いです。

 それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしております!
 よろしくお願い致します、かやぬまも頑張りますね!
165




第1章 日常 『帝都記者と一緒』

POW   :    体力の求められる張り込みや機材運搬を手伝う

SPD   :    器用さの求められる撮影を手伝う

WIZ   :    話術の求められるインタビューを手伝う

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●偽りの英雄
 ――北大路さん! 最近のご活躍、素晴らしいですね!
 ――いやあ、帝都に斯様な凄腕のユーベルコヲド使いがいようとは!
『あはは、僕あんまりこうして目立つの得意じゃなくて……それで、ひっそり生きてたんですけど』
 そう受け答えをしながら、青年は内心で舌を出す。
『でも、最近帝都桜學府もすっかり超弩級戦力に影朧退治を任せっきりでしょう?』
 やや、周囲がどよめいた気がした。そうだろうとも、誰もが敢えて触れずにいたことに踏み入ってやったのだから。

『その手に余る存在である影朧を『転生』で『救済』しようなんてのがそもそもおこがましいんですよ』

 己に宿る力の、本来の持ち主に明らかに影響を受けた『思想』。
 影朧を明確な『敵』とみなし、ことごとく滅ぼし尽くさんという『意思』。
 敵は勿論、己さえも。『転生』なぞ、『甘え』だと。
 そうして偽りのユーベルコヲド使いとなった北大路青年は、柔和な人柄と顔つきに似合わぬ苛烈さで、時に逢魔が辻さえ壊滅させて――こうして注目の的となったのだ。

(『ああ、こうやって持て囃されるのも悪くないけれど。僕は今や正義の使者だ、世にはびこる影朧を退治しなければ』)

 求められるがままにカメラへと目線をくれてやりながら、青年は密かに笑んでみせた。
 肩から提げた鞄の中に、厳重に包んだ『籠絡ラムプ』を秘めながら――。
御桜・八重


「ちょっと、待ったーっ!」
人波をかき分けて北大路さんに向かってズンズン進む。
さすがに今の言葉は聞き流せない。
「そりゃ最近は超弩級戦力の活躍が目立ってるけど、
學徒兵のみんなだってがんばってるんだからね!」

巡回警備に情報収集、民衆の避難に戦後処理。
超弩級戦力になってみて改めてわかったけど、
猟兵だけじゃ回らない。
みんなの力があって、初めてわたしたちは戦えるんだ。

「それに!」
影朧は過去の悲劇の影なんだ。
その悲しみを晴らしてあげられるのなら。
「そのために振るう力は、甘さなんかじゃないっ!」

啖呵を切りながらその一方で思う。
この人は、この影朧は。

どんな思いを抱いて来たんだろう?


あ、立ち寄り先聞くの忘れた。



●御桜・八重は物申す
 得意げに持論を展開する北大路青年をぐるりと囲む新聞や雑誌の記者は存外多く、猟兵たちはなかなか割って入ることができずにいた。
 きっかけが作れなければ、情報ひとつ得ることもできぬ、しかしと攻めあぐねていた所に、ずんずんとまっすぐに輪の中心目指して人並をかき分ける一人の少女が現れた。

「ちょっと、……ふぬっ! 待ったーーーっ!!」

 一度得た絶好の位置取りを譲るまいとかたくなに足を踏ん張っていた記者さえ気合いで押しのけて、遂に声の主たる御桜・八重(桜巫女・f23090)は北大路青年の前にたどり着く。
『……何だい君は、騒々しいな』
 問題の影朧兵器『籠絡ラムプ』の所有者にして、その禁断の力に取り憑かれた男の態度は傲岸不遜なまでにして変わらず、八重をただの小娘と侮る目線さえ隠さない。
「さすがに、今の言葉は聞き流せない」
 だが、八重は負けじと北大路をにらみ返す。前髪で、やや隠れがちな瞳だと思った。
『ほう、僕は何か気に障ることを言っただろうか』
「そりゃ最近は超弩級戦力の活躍が目立ってるけど、學徒兵のみんなだってがんばってるんだからね!」
 白々しさは明らかな煽りだが、既に怒髪天を衝く勢いの八重には色々な意味で通じない。八重ははっきりと、近しいものも多く所属する帝都桜學府への侮辱に抗議した。

 この人は、桜學府に憧れていたと聞いていたけれど。
 知らないんだ、その華々しさの裏にどれだけの人の尽力があるのかを。
 ――巡回警備に情報収集、民衆の避難に戦後処理。
(「わたし自身が超弩級戦力になってみて改めてわかったけど」)
 そう、猟兵だけでは影朧退治は回らない。
(「桜學府の後ろ盾あってこそ、みんなの力があってこそ、初めてわたしたちは戦えるんだ」)

 青空の瞳に凜然とした意志を秘め、八重は北大路青年を見上げたままで。
『……ふぅん、成程。君は』
「それに!!」
 北大路青年が長い前髪をくしゃりとかき上げ言葉を紡ごうとしたのを、話はまだ終わっていないとばかりに八重が力強く右腕を振って叫んだ。

 黙って聞いていれば何という、影朧の転生はこの世界なればこそ許された『奇跡』にして『赦し』だというのに。
 世界を渡る力持つ八重だからこそ知ることだが、他の世界での過去の残滓の末路など哀れでしかないというのに。
(「影朧は、過去の悲劇の影なんだ」)

 ――ああ、ならばこの人は。この人が籠絡した影朧は。

 啖呵を切りながら、八重は頭の片隅でぼんやり思う。
 確かに気が大きくなって浮かれていて、予知で知らされていた通り――いや、下手をするとそれ以上に調子に乗ったいやらしい男だけれど。
 結託した人と影朧、それぞれが抱いた想いもまた、気掛かりなのは間違いない。
 いずれはその悲しみを、今までのようにこの手で晴らしてやるべき時も来るのだろう。

 だが、今は。
 ――とにもかくにもあの言葉を、否定せずにはいられない!

「癒やすために振るう力は、甘さなんかじゃないっ!!」

 しん、と。静寂が辺りを支配した。八重の勢いに記者たちのほとんどが呆気に取られて立ち尽くす中、北大路青年はひとつ頭をかいて、やれやれといった顔で苦笑いを浮かべる。
『……失言だったようだね。何処で誰が話を聞いているやも分からないとあっては、僕もますます言動には気をつけねばならないようだ――』
 仕立てたばかりと見えるスーツ姿をした青年が、巫女装束の少女を指し示す。

『そうだろう、君? いや、超弩級戦力!』

 ざわ、と。景色が音を取り戻す。記者たちがひとたびその言葉を耳にすれば、期待の新星の優先度もがくりと下がる。北大路青年を囲んでいた記者たちの視線が、一斉に八重へと向けられた。
「超弩級戦力だって!?」
「最近帝都で起きた事件で複数目撃情報が上がっている少女と、特徴が一致するぞ!?」
「ああ、間違いない――『祓って清めて邪気退散☆』の、シズちゃんに酷似した」
「わーーーーーっ! 今はわたしのことはいいから!!」
 桜の花咲く黒髪を揺らして、両手をぶんぶん、八重は自分に向いた視線から逃れるべく踵を返す。
「待って下さい、最近のご活躍について一言!」
「あの決め台詞、お願いします!!」
 気付けば八重も有名人になったものである。特徴的な外見ももちろんだが、何より本人のたゆまぬ努力と猟兵としての尽力の賜物なのだから、胸を張って答えても良いのだが。

(「ああ、北大路さんの立ち寄り先、聞くの忘れちゃった!」)

 それが心残りで、しまったなあという気持ちでいっぱいになってしまうが。
 八重の働きにより障害となっていた記者の包囲が解け、後続の猟兵たちにとって非常に有利な状況となったのだから結果良し、である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロノ・ライム

僕は留学生のフリをして、取材陣に紛れ込み、
北大路にインタビューを行いたいと思います。
「あなたが期待の新星ですね!
ぜひあなたについて書いた記事を故郷の新聞社へ送りたいのです。
どうか取材をさせてください」
故郷について怪しまれたら、
「あ、あの、欧羅巴の小国で…多分知らないと思いますが…」
という感じでごまかします。
インタビューでは影朧と戦うときの心構えとか、日常をどのように過ごしているかとかを聞ければいいと思います。
(これで彼についての情報がいくらか得られたでしょうか……?)


文月・統哉
誰も悪人ではない、俺もそう思うよ
志半ばで倒れ想いを遺してしまった影朧も
共に戦って期待に応えようとしている彼も
だからこそ悲劇になんてしたくないから

新聞記者へ【変装】
【コミュ力】活かしてインタビューにより【情報収集】
言葉だけでなく間の置き方や目の動き等も観察し
【読心術】で彼の思考を読み解いて
誰かの受け売りではない彼本来の人柄を掴みたい

ユーベルコヲド使いを目指した切っ掛けは?
影朧との戦いは時に命の危険もあるかと思います、怖くはありませんか?
それでも戦うと決めたのは何故ですか?
 多くの少年少女達が貴方に憧れを抱くでしょう
彼らに向けて何か伝えたい事はありますか?

気付かれないようUC発動
黒猫の影で追跡する



●生きるということ、戦うということ
(「『誰も悪人ではない』、俺もそう思うよ」)
 魔法学園生らしい常のブレザーから、少し大人びたスーツに身を包んだ今は立派な新聞記者。文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)は手帳とペンを取り出しながらそう思う。

 ――志半ばで倒れ、想いを遺してしまった影朧も。
 ――共に戦って、期待に応えようとしている彼も。

(「だからこそ、悲劇になんてしたくないから」)
 そのための第一歩だ。標的たる北大路青年を視界に捉えれば、大半の記者たちが超弩級戦力の登場と聞いてそちらに向かったのを良いことに、悠々と立ち去ろうとしている。
「ど、どうしましょう……北大路が逃げてしまいます」
 傍らで北大路と己とを交互に見ては困惑する色白の少年ことクロノ・ライム(ブラックタールのクレリック・f15759)に、統哉は努めて安心させるように笑んで言う。

「大丈夫、むしろ今が声の掛け時だ。クロノは……留学生のていでインタビューをしようという心積もりだろ? 無碍にされることはないさ」
「! どうしてそれを」

 一見しただけでは、とてもブラックタールたる種族とは見破れないほどの端正な顔立ちをした少年の意図までも見抜いてしまう統哉の本業は猟奇探偵だ、造作もない。
 だが、それをひけらかすこともなく唇に指を当てただけで答えて、統哉はクロノの背中をそっと押す。
(「……よし、行くぞ。イメージした通りに、声を掛ければ大丈夫」)
 頼もしい先輩に背中を押されて、クロノが遂に猟兵として初めての任務を果たすべく、その一歩を踏み出す。まるで後見人のように、統哉がそれに続く。
 呼び止める役目は、己が担うのだと。クロノは無意識に理解していた。

「あの……あなたが、期待の新星ですね!」
『……其方は、随分と年若い記者さんだね』
 記者の質問攻めにそろそろ飽いていたという状態だった北大路青年だが、これまでの似たような質問しかしない、揃いも揃って同じような顔に見えた記者たちとは趣が異なる存在に興味をそそられたようである。
 先程の統哉の言葉が裏付けられたこともあり、クロノはいよいよ言葉に自信を宿す。今の自分は遠方よりの留学生、そう己を定義づけて。
「ぜひ、あなたについて書いた記事を故郷の新聞社へ送りたいのです。どうか取材をさせてください」
 お願いします! そう礼儀正しくぺこりと頭を下げるクロノに、北大路はこう返した。
『故郷、ねえ。見たところ欧羅巴の出とお見受けするが、僕の名前はどの国に轟くのかな?』
「……っ、あ、あの」
 声音は決して不快ではなさそうだったが、それを正直には答えられない。
 だが、クロノとて無策で挑んだ訳ではない。どもる仕草さえ、演技のうち。
「おっしゃる通り欧羅巴ですが、僕の故郷はとても小さな国で……多分、知らないと思います……」
 だんだんと消え入るような声になるのが、まるで恥じ入るかのように見えただろうか。尊大な青年は鷹揚に構えて、軽く手を振った。
『ははは、それは残念だ! 巴里や倫敦にまで僕の名声が届くのかと期待したのは事実だが、小国とて蔑ろにするつもりはないよ』
 すっかり気分を良くした様子の北大路青年を前に、クロノと統哉が一瞬視線を交える。

(「うまく、いきそうですね」)
(「ああ、この調子で取材をしていこう」)

 機を見てクロノの横に並び立った統哉を見て、北大路青年は顎に手を当てる。
『君も取材かな? これまた年若いながらに利発そうだ』
 人を値踏みするような言動から、傲岸ぶりがありありと伝わってくるが受け流す。
 記者も探偵もどこか通じるものがある――冷静に相手を観察するということ。
 言葉だけを素直に受け取るだけではなく、間の置き方や目の動きなども観察対象だ。
(「前髪を伸ばして目を隠しているのは、あまり目を見られたくないのか、それとも」)
 身なりに気を遣わない性質なのか、とも思ったが、それにしては仕立てたばかりのスーツが妙に浮いている。やはり、どこか後ろめたい所があるのだろう。
「お褒めにあずかり光栄です、今日は是非北大路さんの――」
 敢えて前髪に隠れがちな焦茶色の瞳を射抜くように見据えて、統哉はペンを構えた。

(「誰かの受け売りではない、彼本来の人柄を掴みたい」)

「上辺だけではない、その深いお考えをお聞かせ願えれば嬉しいです」
 若き新聞記者を演じる統哉の赤眼は、わずかに細められた茶眼を見逃さなかった。

 クロノと統哉が、重ね合わせるように取材のていで質問を投げ掛ける。
「ユーベルコヲド使いを目指した切っ掛けは、どのような?」
『切っ掛け……まだ子供の頃の話だからね、あくまでも昔話として扱って欲しいのだが』
 統哉の切り込みに、北大路青年はやや言い訳がましい前置きをする。
『僕にも、帝都桜學府に憧れた頃はあったということさ』
 くしゃり、と。前髪を掻き上げた北大路青年の言葉を統哉はしっかりと書き記す。
「影朧と戦うときの心構えは、どんな感じなんですか?」
「ええ、影朧との戦いは時に命の危険もあるかと思いますが」

 ――怖くは、ありませんか?

 クロノの問いに統哉も続き、果たしてこの青年はいかなる心地で力を振るっているのかの探りを入れる。
『心構え、ねえ。それは勿論、影朧相手に油断はしないことかな。何しろ――』
 常に余裕を持った口ぶりで受け答えをしていた北大路青年が、初めて言葉を切るという様子を見せた。何か、思う所があるのだろうかと統哉が注視をすれば。

『油断すると、死ぬからね』

 それは、北大路青年自身の言葉か。それとも、宿した影朧が言わしめる言葉か。
 見極めるべく、統哉はさらに言葉を重ねた。クロノは意図を汲んで一歩引き、とっておきの質問をぶつける機をうかがう。
「……それでも、戦うと決めたのは何故ですか?」
『言うまでもない。戦える者が、戦えぬ者を守るのは義務だからさ』
 ああ、その言葉が本心からのものであったなら。
「多くの少年少女達が、貴方に『憧れ』を抱くでしょう」
 かつての北大路青年が、帝都桜學府の學徒兵たちに憧れたように。そんな意図を込めて。
「――彼らに向けて、何か伝えたい事はありますか?」
 真摯に問う統哉に呼応するかのように、北大路青年もまた、尊大な態度を引っ込めた。
『……そうだね、もしも今彼らが思うように生きられないでいるとしたら、伝えたいことがある』
 真新しいスーツを一度整えて、青年は告げた。

『――生きてさえいれば、夢は必ず叶うと!』

 統哉が思わず息を呑む。メモを取る手を止めてしまいそうなほどに、北大路青年の言葉は力強く響いたのだ。
(「今の言葉だけは……間違いない、本心だ」)
 読心術の心得がある統哉だからこそ確信を持って仲間たちに伝えられる、確かな情報。
 なればこそ、影朧に今再びの生を歩む機会を許さないその苛烈さが際立つというもの。

「で、では……日常ではどのように過ごしているのですか?」
 良い感じに北大路青年の本音が引き出したのに乗じて、クロノが絶妙なタイミングで行動パターンを読み解くヒントにつながる問いを投げ掛けた。
『最近はもっぱら影朧退治ばかりだけれど……ああ、店が開いているうちなら、その後でカフェーに寄ったりするかな』
「どこのお店ですか? 僕も行ってみたいです」
 すかさずクロノが食いつくも、そこにいたのは不遜な態度に戻った男であった。
『残念、まだ君たちの懐では珈琲一杯も頼めまいよ――どうやら、次が待っているようだね』
 北大路青年がクロノと統哉の背後に目線を送る。その先には、次なる猟兵たちの姿が。
 それを察した二人は、感謝の言葉と共に揃って一礼して、その場を後にした。

「これで、彼についての情報がいくらか得られたでしょうか……?」
 はあとひとつ、ひと仕事終えたことからか安堵の息を吐くクロノは、危うく『溶けかける』一歩手前になるのをぐっと堪え、統哉は何かを確かめるような仕草をしつつ答える。
「上出来だよ。あとはちょっとした仕掛けをしたから、その成果を楽しみに、ってね」
 クロノの最後の質問に答えているその隙に、統哉は北大路青年に対してそっと黒猫の影を放ち後を追わせていたのだ。

 そんなこともできるんですね、という顔をするクロノに、ウインクひとつ。
 統哉は、ぎっしりと文字が書かれたメモをそっと懐にしまい込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

柊・はとり


なんでそう特別になりたがるかね…
生まれついての『猟奇探偵』にとっては思わず眉をひそめる話
死にてえのか?
…まあ俺も餓鬼じゃないし此処は我慢だ

奴の取材に来た新聞部の一般人学生を演じる
そうですね…最近のマイブームとか
日々のルーティンとかお伺いしたいんですが
あくまでインタビューの体は崩さず違和感ない範囲で【情報収集】
熱心にメモを取るふりをしいい気にさせる
無愛想なのはほっとけ
かえって本物っぽく見えろと【祈る】

ああ…でも
『救済』ってのは俺も苦手ですよ
いると思いますよ
いっそ殺してくれって思ってる奴

後は得た情報からUCで推理
事件が起きてからの方が楽なんだが…
そうも言ってられない
正義を騙る輩にろくな奴はいねえ


雪華・風月

正義の心はあれど戦う力を持たなかった故燻っていた彼が借り物とはいえ力を手に入れそれを振るう…
わたしも力を持たなければ彼のようになっていた可能性はあります(疑いなき目)

しかし、借り物の力、それを振るい続けても彼の正義の心が自身を糾弾し続けるに違いありません!それも思想に影響を与えるとなれば目が冷めた時大きな罪悪感となるに違いありません!
必ずや『籠絡ラムプ』の回収を果たしましょう


聞く質問は普段どのような鍛錬をしているかでしょうか?
正義の心をもった彼ならランプを手に入れる前から力を得るため努力をしていたはずです
日課の修行場所を把握できれば広く戦いやすいはずです!



●正義を謳う、その資格
 猟兵たちによる『取材』という名の『素性調査』の順番待ちとばかりに、先だって北大路青年に突撃した仲間たちの背をやや遠巻きに見やりながら、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は眉間に寄せる皺を隠すことなく言い捨てた。
「なんでそう、特別になりたがるかね……」
 求めても得られなかったというのならば、それは『相応しくなかった』という他ない。だが、偶然にも手に入れた結果が『これ』だというのなら。
 はとりは生まれながらの『猟奇探偵』、そして図らずも一度死に――『探偵助手』の文字通りの献身により再誕した身。この茶番には、思わず眉もひそめよう。

 だが、隣に偶然居合わせた雪華・風月(若輩侍少女・f22820)は北大路青年に一定の理解を示す。
「正義の心はあれど戦う力を持たなかった故燻っていた彼が、借り物とはいえ力を手に入れそれを振るう……」
 青年を見据えながらそう言った後、風月はおもむろにはとりの方を向いて告げた。
「わたしも『力』を持たなければ、彼のようになっていた可能性はあります」
「……そんなくもりなきまなこで、堂々と言わないでくれるかな」
 きぱっ、と。言い放たれた風月の台詞も分からなくはない。
 北大路青年に対して『こいつ死にてえのか?』まで考えていたはとりとしては、何だか毒気を抜かれるかのような心地でさえあり。
(「まぁ、俺も餓鬼じゃないし。此処は我慢だ』)
 探偵たるもの、常に冷静であらねば。まずもって味方にペースを乱されては仕方がない。何より風月は、真剣も真剣なのだ。その世間知らずさが、眩しいほどに。

 風月ははとりと並んで、自分たちが北大路青年と接触する機会を窺う。
 自らも帝都桜學府に所属する身でありながら、侮蔑としか思えない言葉を吐かれなお風月が平静を保っていられるのは、ひとえにその真面目な性根からと言えよう。
 良家の出自という余裕もあったかも知れず、しかしそれを風月本人が鼻にかけることはなく。ただ、引き受けた任を誠実に全うせんという心意気ばかりがあった。
(「……しかし、借り物の力。それを振るい続けても、彼の正義の心が『自身を糾弾し続ける』に違いありません!」)
 今や桜學府さえも見下すに至ってしまった青年も、もとを正せば功名心からとはいえ正義を為して称賛を得たかっただけの、まことに人間らしい人間だ。
 それが斯様にも歪なカタチとなってしまっては、いつか、きっと己を責める。
(「それも、思想に影響を与えるとなれば」)

 ――止めなければ。

(「目が覚めた時、大きな罪悪感となるに違いありません!」)
 故に、必ずや『篭絡ラムプ』の回収を果たさんと心に誓い。ぐっと拳を握ったその時、肩を軽く突かれる感触に風月は結った長髪を揺らして振り返った。
「……順番だ、行くぞ」
 はとりだった。風月を捨て置かず、連れて行ってくれるという。
「はいっ!」
 力強く頷いて、風月は首の継ぎ接ぎが印象的な少年について行く。
 だが、決してそのことに触れることはなかった。

『今日は何かね、学生さんの取材が課外授業なのかな?』
 冗談めかして言う北大路青年は、それでも悪い気はしないのか。肩掛け鞄にそっと手を触れてから、真新しいスーツを整えた。
「……どうも、新聞部に所属するごく普通の学生です」
 生来の無愛想はどうしようもない、その代わりに敬意と礼節を込めた右手を差し出せば、己よりも一回りほど大きな男の手が握手で返してきた。
(「ああ、これで『本物』っぽく見えてくれよ」)
 かくしてそんなはとりの祈りと願いは天に届き、北大路青年から笑顔を引き出す。
『どうやら君たちの他にもインタビュアーはいるようでね、申し訳ないが質問はひとつでお願いしようか』
 ひとつ、と制限が課せられる。だが、幸いにもはとりと風月が尋ねたかった内容はほぼ合致していたため、二人は狼狽えることなく青年に向き合った。
 風月がまず切り出す。
「普段、どのような鍛錬をしているか……それを教えていただきたいです!」
 先程はとりに向けたものと何ら変わらぬくもりなきまなこで。これは強い。
『僕の強さの秘訣に迫りたい、と?』
「はい! その通りです!」
 快活に答えた風月の、本心はこうだ。

(「正義の心を持った彼なら、ラムプを手に入れる前から力を得るため努力をしていたはずです」)

 これで『日課の修行場所』などが判明すれば、この後北大路青年が立ち寄るであろう場所も自然と判明するというもの。
 追い討ちを掛けるように、はとりも手帳とペンを手にして一言たりとも聞き逃さないという姿勢を見せながら、こう質問を投げ掛けた。
「ええ、俺からも……最近のマイブームとか、日々のルーティンとか、お伺いしたいんですが」
『ほう、ほう! 憧れはいつしか本当の強さになるからね。尊重しようではないか』
 胸を張る北大路青年の姿は、事情を把握している猟兵たちからすれば酷く滑稽だったやも知れぬ。だが、今は。その言葉のひとつひとつこそが、解決の糸口となる。

『僕は軍刀と光線銃を使って戦う、遠近どちらの間合いにも対応できる戦法を好む。さすがに人前でひけらかすものではないからね、とある河原とだけ言っておくが……力を振るっても迷惑が掛からない所で毎朝鍛錬をするのが、ルーティンと言った所かな』
 饒舌な男の言葉を熱心にメモを取るていで、はとりは時折ちらと目線を上げて観察する。借り物の力に酔いしれる愚かな男の姿ばかりが、そこにはあった。
『済まないね、お嬢さん――明確にはお答えできなくて申し訳ないが、その代わりにもう一つおまけだ、最近のマイブームについても』
 気障ったらしくピンと立てられた人差し指に、はとりが思わずため息を吐きそうになるのを堪える。一方の風月は、目を輝かせて聞き入っている。純粋な娘だ。

『この大通りにあるカフェーなのだけれど、そこの珈琲が僕のマイブームさ』

 北大路青年は、次に待ち受ける記者たる猟兵たちの元へ向かおうとする。
 その背に向けて、はとりが良く通る声音で告げた。
「ああ……でも。『救済』ってのは、俺も苦手ですよ」
『……』
 ぴた、と。北大路青年の足が止まる。振り向くことはなく、表情は窺えないが。
「いると思いますよ――『いっそ殺してくれ』って思ってる奴」

 青年は、右手を上げてひらひらと振ってみせて。それを返事とした。

「日課の修行場所を把握できれば広く戦いやすいはずだと思ったんですが……」
「毎朝鍛錬する、っていう情報さえあれば十分だ。極論今日逃しても明日の朝にでも尾行すりゃほぼ確実にビンゴってことだろ」
「あっ……なら、良かったです!」
 質問が空振りに終わったかとしゅんとする風月を、はとりがぶっきらぼうな口調ながらもフォローする。
 情が湧いた訳ではなく、ただ得られた情報に対しての正当な評価をしたまでだが。
 くしゃりと灰色の髪を掻いて、はとりは思考を巡らせる。
 恐らくは、大通り沿いのカフェーに狙いを絞れば正解が導かれるであろう。
(「事件は起きてからの方が楽なんだが……」)
 今はそうも言っていられない。ちらと眼前の少女を見て『正義』という言葉を思う。

(「知ってるか? 『正義』を騙る輩に、ろくな奴はいねえってことを」)

 風月は、世間知らずのままでいるのが幸せなのか。
 今はまだ、誰にも分からない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜枝・冬花
存在を認められたい――という思いは
わたくしにもよくよく、覚えがあるものです
だけれどそれを借りものの力で為したとて何になりましょう

わたくしの見目であれば、この世界の方々から浮くことはございませんでしょう
取材をする方々とご一緒にお話を伺います

日頃、影朧討伐のためにどのようなことをなさっているのかお聞きするていで
よく立ち寄る場所、今注目している場所など
首尾よくお聞き出来ないか試してみます
日頃カフェーでお客様のお話を聞くこともございます
話術(コミュ力)は些少ながらあるかと

夢はいつか覚める
まして人ならざるものに与えられた仮初の夢であればなおのこと
せめてその終わりが凄惨なものにならぬよう、尽力をいたします


シキ・ジルモント
◎●
取材をするという体で、情報収集を試みる
記者の真似事など似合わない?…別にいいだろう、北大路が居る今、誰もこちらなど気にしていない

北大路への取材内容は、好んで利用するカフェーだとか、気に入っているスポットだとか、
彼の人となりに興味をもっているように話しかけて反応を見る
普段の行動を聞き出しつつ、立ち寄る場所を絞り込むのに必要な情報を得たい
話すうちに湧いた本心からの興味で、更にひとつ聞いてみる
危険を承知で、戦う理由を

最低でも情報を聞き出すまでは、猟兵だと周囲に悟られないよう注意
こちらが取材される側にならない為だ、目立つのは好まない
バレたらユーベルコードを発動した本気の『ダッシュ』でその場を離れる



●素顔の貴方が好きなもの
 予知の段階で既に北大路という青年の正体は暴かれていた。
 他者からの称賛を得たいと願うそれを、世間では『承認欲求』というらしい。
 そしてそれは決して特別なものではなく、知性ある者ならば誰でもが抱きうるのだ。

(「『存在を認められたい』――という思いは、わたくしにもよくよく、覚えがあるものです」)
 桜と菫のエプロンドレスに、愛らしいヘッドドレスを飾るように映える寒緋桜は紛れもなくこのサクラミラージュに於ける奇跡を体現する存在――『桜の精』を示す。
 幻朧桜より出でしもの、カフェーの特級パーラーメイドとして精を出し誰からも慕われているであろうもの、そんな冬花でさえも心当たりがあるというのだから。
 分岐点はきっと、その感情をどういなすかに尽きるのだろう。
(「だけれど、それを借りものの力で為したとて――何になりましょう」)
 冬花のように、己が努力と実力で給仕の腕を高みにまで押し上げた者からすれば、今の北大路青年の在りようの果てには破綻しか見えない。

 だからこそと、顔を上げた先には。銀髪が陽の光に良く映える、一人の青年が居た。
 その名もシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)、耳と尻尾さえ凜々しく見える、人狼の猟兵であった。
 超弩級戦力――猟兵には、等しく『世界の加護』が与えられるとは知っていた。
 いかなる姿形をしていようが、現地の一般人に訝しがられることはまずないと。
 それでも、思わず冬花はシキと己とを見比べてしまう。
(「わたくしの見目であれば、この世界の方々から浮くことはございませんでしょうが」)
 そんな冬花の視線に聡く気付いたか、シキが尻尾を揺らして振り返る。
「……俺に記者の真似事など、似合わないと思うか」
「! いいえ、滅相もございません」
 まるで客を値踏みしてしまったかのようなごとくに詫びる冬花を軽く制し、シキは動じることなく視線だけを北大路の方へと戻す。
「……別にいいだろう。北大路が居る今、誰もこちらなど気にしていない」
 言われてみれば確かにそうだ、未だ話を聞けずに機を窺う一般人の記者も数名残ってはいるがその意識は完全に北大路に向いており、余程あからさまなことをしない限りは、そもそもシキの方にそれが向けられるということもなかろう。
 粛々と、記者として取材をする。これこそが今、求められていることであった。
「……ご一緒しても、よろしいでしょうか?」
「見たところ女給か、助かる」
 冬花が改めて同道を願い出れば、シキは渡りに船と快く応じる。
 そうして――北大路青年と、ちょうど視線がぶつかり合った。

 北大路青年の興味は、今や一般人の記者から猟兵たちの方へと完全に傾いていた。
 最初に派手に啖呵を切られたのも効いていたし、その後に投げ掛けられた質問も新鮮であり、受け答えのし甲斐があったからだ。
 なればこそ、他にも取材をしたがる記者たちは居ただろうに。敢えてそれとは異なる雰囲気を纏った――強いて言うなら『商売っ気がない』存在に、純粋な受け答えを求めたのだ。
 まずシキが、続いて冬花が一礼してそれぞれの目的を告げる。
「知り合いの雑誌記者が体調を崩してしまってな、俺は代役だ。至らぬ所があったら申し訳ない」
 嘘も方便とは良く言ったもので、シキ自身は本職ではなくとも、これならある程度筋が通る。冬花もこれには内心で舌を巻きつつ、シキに続いた。
「わたくし、帝都のカフェーに勤めますしがないメイドにございますれば」
 エプロンドレスの裾を軽くつまんで一礼し、ちらと北大路青年を見上げる。
「今をときめく北大路様のお話、是非とも聞かせていただきたく」
『遠慮は要らないよ、何でも聞き給え。ただし――』
「手短に、だったか?」
『話が早い、ますます気に入ったよ――始めよう』
 冬花とシキの受け答えは完璧にて、かくして『取材』は始まった。

 事前に軽くすり合わせた質問内容が奇しくも近かったことを受け、こうして連れ立って取材を申し込むことにした二人が用意したお題は、こうだ。
「恐らく、皆して貴方の戦いぶりや強さの秘訣などに注目したのではと察するが」
『全くだよ、聞かれるのも悪い気はしないがね――やはり、企業秘密というものもあるから中々答えにくいよ』
 君、本物の記者になれるんじゃないか? そんな軽口さえ叩く余裕が、この男にはある。
 上機嫌な今だからこそ聞ける、青年自身の『人となり』を突く。
「ありがとう――さて、知人から預かってきた質問だが、どうやら貴方自身にフォーカスを当てたいようでな」
 そこでシキが冬花に視線を向けて、それを受けた冬花が言葉を継いだ。
「ええ、カフェーの女給やボウイ仲間も皆知りたがっておりました。北大路様の影朧討伐の活力ともなるであろう『日常』――」
 例えば冬花が勤めるカフェー『花あかり』も、こことはまた別の表通りに面した場所にあるのだが、北大路の活躍が聞かれるようになってまだ一度も客として現れたことはなく。
「お気に入りの場所や、もしも行きつけのカフェーなどございましたら、勉強のためにも是非わたくしたちに教えていただきたく存じます」
「……と、俺たちからはこんな所だ。良ければ、教えてくれないか」
 何気ない、日常の過ごし方。これひとつ答えられないほどに、後ろめたいこともあるまい――そんな、密かな圧力がなかった訳ではない。
 だが何より、シキの偽りの身分と、冬花の日頃カフェーで客の話し相手を務めることも多い受け手としての話術とが合わさった、心からの問い掛けが青年の答えを引き出すのだ。

 果たして北大路青年は、はにかむような顔をして、両手をやれやれといった風に掲げた。
『名が売れるというのも困ったものだね、プライベートにまで興味を持たれる。だが、もったいぶる程の話ではないし』
 そう言って一呼吸置く辺りがもう既にもったいぶっているのだが、そう言いたくなるのをシキはグッと堪えた。冬花は接客で鍛え上げた鉄壁の笑顔で、答えを待っている。
『カフェーはね、あまり言いたくはないが……ほら、客が増えると行きづらくなるだろう? だが、この通りをひとつ右に入った路地裏の店が、美味しい水出し珈琲を淹れてくれるのさ』
(「……分かるか、お嬢さん」)
(「はい、ここまでヒントが揃えば簡単です。後で皆様に店の場所と名前をお伝えしましょう」)
 視線を交わして、得意げに語る北大路青年の目を盗んで意思の疎通を図る二人。
 そして――シキが、おもむろに動いた。
「ありがとう。貴方の人となり、確かに知人に伝えて記事にしてもらおう」
『いやあ、困ったなあ。ついうっかり口を滑らせてしまったが、店に迷惑が掛からねば良いのだが』
 自惚れにも程がある、そう思われるやも知れないが。今、この青年は世間では『そういう』立ち位置に居るのもまた事実。

 だが、そんな北大路青年の姿を、冬花は笑顔の向こうで冷静に見つめていた。
(「夢はいつか覚める、まして人ならざるものに与えられた仮初の夢であればなおのこと」)
 このままでは、辿る末路は目も覆わんばかりの悲劇でしかない。ならば。
(「せめて、その終わりが凄惨なものにならぬよう、尽力をいたします」)
 この鼻持ちならない男が、それでもカフェーを愛する心を持っているというのならば。
 まっとうな立場で、美味しい珈琲を堂々と楽しんで欲しいと願うのは自然なこと。
 冬花は、そっとシキと北大路青年を見守っていた。

「知人からの質問は終わった。これはあくまで、俺からの質問だ」
『成程、そう言われると弱いね――それで?』
 小気味良く言葉を交わしたその勢いで、シキは本心からの興味で、問うた。
「――危険を承知で、貴方が戦う理由は何だ」
『……』
 北大路青年の長い前髪が風で揺れる。覗いた焦茶色の瞳は鋭く、シキは一瞬息を呑む。

『……志半ばで斃れた者の遺志を継いだが故に、とでも言えば満足かな?』

 一歩踏み込んだ問いには、一歩踏み込んだ返しが。
 これ以上は無粋と踏んだか、シキは一礼して今度こそ背中を向けた。
(「万が一にも猟兵だと知れたなら、どんな手を使ってでも逃げるつもりだったが」)
 幸いにも、最後まで猟兵であることを気取られることなくやり過ごせたのは僥倖だ。
 目立つのは好まない、そういう性質のシキではあったのだが。
 気付いていただろうか、北大路青年の目線がしきりにシキの狼耳に行っていたことに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木常野・都月


うっ……。

俺は、この手の話術とか、会話とかの任務は苦手なんだ。
なんというか、そもそも自信がない。

でも任務は任務だ。
出来る事を頑張ろう。

目的は北大路って人の出入りする場所を聞き出せればいいんだろう?

「どこにいけば、北大路さんのユーベルコヲドを見る事が出来ますか?」

って聞けばいいかな。

是非、貴方のユーベルコヲドを見てみたいって頼み込んでみよう。

後はこの北大路さんの匂いを覚えておきたい。
もしかしたら、何かに役立つかもしれない。
風の精霊様にお願いすればいいかな。

本人には言えないけれど。

ユーベルコードが使える事より、大勢の人から取材されて、ちゃんと受け答え出来る方が、俺は凄いと思うんだけどなぁ。


玉ノ井・狐狛


あいにくとこの街じゃそこそこ出歩いてるからな
記者やらコヲド使いサマやらに、顔が割れてる可能性がある

どうせ小細工しなきゃならねぇなら――派手にやってみようかねぃ?

アタシがトークに参加しなくなって、話を聞き出すのは本職の記者連中がやってくれるだろう
だから担当するのは裏方……“話題の提供”さ

遠方から、◈UCで取材の現場全体を覆うように幻術を展開

内容は単純、「影朧があらわれて市民を襲おうとする」
もちろん実際に手を出すワケじゃねぇが、恐怖を覚えれば、目の前の“新星ユーベルコヲド使い”を頼るだろ

あとは適当なところで術を解除
攻撃を受けて霧散した、って演出にしとこう

さ、ヒーローインタビューの時間だぜ?



●こんな取材もまた一興
 猟兵たちが次々と、様々な方向から質問をぶつけて切り込んでいく最中、少し輪を外れたところで二人の猟兵がこそこそと何かを話し合っていた。
「うっ……」
「何怖じ気づいてんだ、仕事引き受けてここまで来たんだろ?」
「俺は、この手の話術とか、会話とかの任務は苦手なんだ……」
 黒い狐耳と尻尾をしゅんとさせ、木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)が項垂れれば、同じく妖狐ながらこちらは金毛の乙女たる玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)がそれを何とか奮い立たせようとしているではないか。

「なんというか、そもそも自信がない……」
「それじゃアタシが困るぜ、策はあれどもそもそも正面切って取材してくれるヤツがいないと成立しないんだ」

 しっかりしてくれよ、『話題の提供』ならとっておきのをくれてやるからさ――。
 そう狐狛が裏方仕事を引き受けてみせれば、それを頼もしく感じた都月も徐々に勇気を奮い立たせるのだ。垂れていた耳と尻尾が、徐々に元気を取り戻していく。
「そうだな……任務は任務だ、俺に出来る事を頑張ろう」
「その意気だ、頼んだぜ? あいにくとアタシはこの街じゃそこそこ出歩いてるからな、記者やらコヲド使いサマやらに――顔が割れてる可能性があってさ」
 狐狛がぽつりと漏らした事情に、都月がなるほどという顔で返す。
「そうか、狐狛さんが顔を出したら……超弩級戦力だって大騒ぎになる」
「そういうこった、だからアンタに託すのさ。貸し借りナシの、共同戦線ってな」
 勝負師は――いや、それに限らず誰だって、好んで借りを作りたがる者は居ない。
 だが、都月ほどのお人好しになると、その常識は当て嵌まらないようであり――。
「ありがとうございます!!」
「な、何だい急に!?」
 おもむろに最敬礼の角度で頭を下げられて、狐狛が思わず声を上げてしまう。
 ちらと顔を上げて都月が言うには、こうだ。
「俺、一人じゃきっとまともに取材も質問も出来なかった。でも、狐狛さんが援護してくれるなら、きっと上手く行くと思うんだ。だから」
「あああああ、分かった分かった! いいから始めるぞ、ホラちょうど空いたぜ!?」
 あまりにも直球な都月の謝意に、むず痒さが頂点に達した狐狛がその背を押した。向かう先には、猟兵たちの取材を終えてひと段落した北大路青年の姿があった。

 ややつんのめるようにしながらも、北大路青年の前にその身を現した都月。それを見た北大路青年は一瞬何事かという顔をしたものの、気が付いた時には都月の腕を掴んで、その身を支えてやっていた。
『……気をつけ給えよ、君』
「あ、す、すみません……」
 苦々しい顔ではあったし、言葉も嫌みったらしい。なのに、不思議と不快にはならず。
 都月は詫びながらも、その鋭い嗅覚で仕立てたばかりのスーツから漂う、柑橘系の香りを確かに嗅ぎ取った。香を撒いたのだろうか、嫌みではない程度の、微かな香だ。
(「……この北大路さんの匂いを覚えておけば、何かの役に立つかも知れない」)
 既に追跡の超常を放った猟兵もいるけれど、追跡の手段は多岐にわたる方が良い。
 いざとなれば精霊様たちの力を借りて、この香を辿ることも出来るだろう。
『君は……記者のようには見えないね。どちらかと言えば』
「……っ」
 しまった、いきなり正体がバレたか? 都月が冷や汗を浮かべたその時だった。
『分かったぞ、さしずめ君は僕のファンと言った所だろう!』
「えっ」
 北大路という男は、頭が大概お花畑なのだろうかと都月は思ってしまい、人に対して何て失礼をと思い、でもやっぱり困惑は隠せず変な声を上げる。
 否定とも肯定とも取れぬ声なのが幸いした、まだ会話を続けるチャンスは続いている。
「あっ、その! そうなんです!!」
 ものすごい大声で肯定したものだから、北大路青年が思わず口を押さえて笑った。
『ふふ、ははは! 半ば冗談のつもりで言ったのだが、本当だとは嬉しいね』
「本当です、期待の新星ユーベルコヲド使い……すごいと思います」
 都月の演技が迫真のものなのか、それとも本心なのかは分からない。
 ただ、北大路の好感を得たのは間違いなかったのだから、首尾は上々である。

(「そろそろ、か」)
 大きな街灯に身を隠すようにして様子を伺っていた狐狛が、都月と北大路青年とのやり取りに注視する。裏方が仕掛けを発動させるタイミングを、見計らわねばならない。

「ええと――『どこにいけば、北大路さんのユーベルコヲドを見る事が出来ますか?』」

 一つだけ言えるのは、都月のこの台詞こそが舞台装置の発動条件だということ。
 それを聞いた北大路青年は、勿体ぶってはぐらかそうとしただろうけれど。
「どうせ小細工しなきゃならねぇなら――派手にやってみようかねぃ?」
 ニィ、と。狐狛が悪戯っぽい笑顔を浮かべると同時に、大通り一帯を不穏なる気配が包み込んだ。それは北大路青年や都月のみならず、遠巻きに眺めていた一般人をも等しく巻き込んで行く。

 ――その幻術の名は、【千夜一夜の夢騙り(スクラップ・アリアドネ)】。
 今、取材現場一帯を覆った幻術は、突如として現れた影朧に一般人が襲われるという禍つ夢を見せているのだ。
 果たしてその効果は絶大にて、狐狛からすれば何もいないところで勝手に恐慌状態に陥る一般人が次々と現れるのが見えるばかりである。
 もちろん、狐狛とて戯れに斯様な仕掛けを施したのではない。幻術の内側に居る都月に、演者としての立ち回りを託したのだ。

 ――ひぃ、ひいぃ! か、影朧が!!
 ――助けて下さい、北大路先生ッ!!
 幻術によって生み出された影朧は、絶妙な匙加減で襲い掛かるか掛からないかのギリギリを攻めて一般人たちに恐怖を覚えさせるのだ。
 そうして縋る先は当然、眼前の新星ユーベルコヲド使いとなる。
 青年もこれは何事かと周囲を見回す中、舞台裏をただ一人知る都月がそれを裡に秘めたまま、北大路青年に縋りついて、あの言葉を繰り返した。
「今こそ、貴方のユーベルコヲドを見せて下さい! 助けて下さい、お願いします!」
『クッ……!』
 やむを得ない、そんな風に。歯をギリッとひとつ食いしばり、北大路青年が肩掛け鞄に手を触れた、その時だった。

(「ハイ、そこまで」)

 狐狛が軽く手を打ち合わせて、幻術を解除したのだ。
 悪い夢から醒めたがごとく、人々は脂汗を拭いて周囲を見回す。まるで何事もなかったかのように、帝都の大通りには幻朧桜が舞い散って、影朧の姿はどこにもない。
(「さ、ヒーローインタビューの時間だぜ?」)
 狐狛は目敏い者に見咎められないようにと、一足先に踵を返す。
 そして一体何が、という声が上がりそうになった時、都月がおもむろに声を上げた。
「き、北大路さん! ありがとうございます、助かりました!!」
『な、待ってくれ、僕は――』

 ――流石は北大路先生だ! 攻撃する姿さえ見えなかったぞ!
 ――これで帝都はますます安泰だな、有難いことだ!

『……なあ、君』
 北大路とてただの傀儡ではない、むしろ怪異の道具で影朧を手懐けている男だ。察するところがあったのか、都月を訝しげな目で見るが。
「ああ、残念です。本当に、どこに行けば貴方の力を見られるんでしょう」
 あくまでも今の己は、純粋に力ある者に憧れる一人の青年。
『……拘るねえ、逢魔が辻でも見つけたら教えておくれ。存分に披露しよう』
 そう答えた北大路青年は、苦笑いを浮かべていた。

(「本人には、言えないけれど」)
 都月は爽やかな香を漂わせる青年を見て、思う。
(「ユーベルコードが使える事より、大勢の人から取材されて、ちゃんと受け答え出来る方が、俺は凄いとおもうんだけどなぁ」)
 かの饒舌さは、仮初の力による自信からなのか。
 力を失えば、それさえ失われてしまうのか。それとも、生来の気質なのか。
 北大路青年という存在そのものに、関心を向ける都月であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
転生の是非は、人其々考えがあるだろうから置いておくにしても。
力も思想も何もかもが借り物のクセに、ああも大口を叩くのは滑稽ですらあるわね。

事前に北大路青年の生い立ちや来歴は調べて頭に入れておく
その上で記者になりすまし、幾つか質問をぶつけていく
・超弩級戦力に肩を並べる程の力をどのように得たのか
・この世界で一般的と言える『影朧の転生』を否定するに至った経験や切欠は何なのか
・昨今、影朧の力を持ち主に宿らせ悪さをするラムプが出回っているとの噂がある、何か知らないか
どれも答えに詰まるか嫌がりそうな質問だけれど、【不撓不屈】発動させて諦めずに訊く
まあ、本当の事は言えないでしょうけれどね


ティオレンシア・シーディア


なぁんかいっそわかりやすく調子に乗ってるわねぇ…
まあ、影朧に対する態度云々に関してはあたし自身「努力はするけど無理ならゴメン」ってスタンスだし。正直人にどうこう言えるわけじゃないのよねぇ。

あたしは「どんな訓練をしてきたか」を聞いてみようかしらぁ?
生まれつき使えた、技能を昇華させた、「特別な道具の力を借りる」…ユーベルコヲド使いにも色々いるけれど。十全に使いこなすためには訓練が必要でしょぉ?
訓練するには相応の場所が必要だし。そっちから情報引っ張れないかしらねぇ。

…にしても、「願いを叶える道具」かぁ。あたしも地味に他人事じゃないのよねぇ。
ま、ゴールドシーンならちゃんと「やだ」って言ってくれるか。



●風雲、急を告げよ
 北大路・勇(きたおおじ・いさむ)。大正×××年生(満二十歳)。男性。
 帝都の下町に生まれ、幼少時は心技体共に優れ将来を期待されていた。
 しかし帝都の中学校に進学した頃から、勇少年の世界は突如塗り変わった。

 ――影朧、ユーベルコヲド使い、そして帝都桜學府。

 持て囃されるのは、もっぱら超常の力を宿した學徒兵たちばかり。ちょっとばかり運動が出来たり勉強が出来たりした程度では、到底太刀打ち出来ない世界。
 もちろん、世界は広いもの。ユーベルコヲド使いではなくても、例えば政治経済の世界で名を馳せる者は数多いが、勇少年は『そちらの世界』に魅せられてしまったのだ。

 以後、何時かは己にもその能力が開花するやも知れぬと適性検査を受けては現実を突き付けられ。鍛錬が足りぬのかと思い詰めれば、日々我流の稽古に励み。
 そうして、何者にもなれぬまま。食っていくための新聞配達を職となしながらも、夢を捨て切れずに今に至る。

「……なぁんか、いっそわかりやすく調子に乗ってるわねぇ……」
 蕩ける甘い声の端に、薄く呆れた色を乗せ。ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)が荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)の持参品である『北大路青年の調査票』に一通り目を通して嘆息した。
 そうして返された紙束を受け取りながら、つかさもまた息を吐いて軽く首を振る。
「転生の是非は、人其々考えがあるだろうから置いておくにしても」
 赤茶の瞳が鋭く見据えるその先には、件の北大路青年がいた。
「力も思想も何もかもが借り物のクセに、ああも大口を叩くのは滑稽ですらあるわね」
 影朧に対する姿勢について言及され、ティオレンシアもまた持論を述べる。
「まあ、影朧に対する態度云々に関しては……あたし自身『努力はするけど無理ならゴメン』ってスタンスだし」
 片頬に手を当てて小首を傾げ、何ともはやという顔をする。
「――正直、人にどうこう言えるわけじゃないのよねぇ」
 先陣切って、北大路青年に啖呵を切りに行った威勢の良い猟兵の少女を思い出す。
 少女をはじめとして、幾多の猟兵たちが徐々に切り崩しつつある青年の謎に、いよいよ切り込んでいく時が来たのだ。
 二人は顔を見合わせて、同時に靴音も高らかに、北大路青年の下へと歩き出した。

(『……先程の影朧は、一体』)
 まさか己がこんな衆人環視の中でユーベルコヲドに巻き込まれて幻術を見せられるだなんて、露にも思うまい。北大路青年は自身の疲労さえ疑ったが――取材は続く。
「初めまして、北大路さん。私たちにも少し時間を割いてもらえるかしら」
「そうそう、期待の新星ユーベルコヲド使いを前にタダでは帰れないわぁ」
 額に軽く当てた手で汗を拭い、北大路青年がつかさとティオレンシアの方に向き直る。
『……そろそろ行かないと、行きつけの店がラストオーダーの時間になってしまう』
「取材は手短に、でしょぉ? 分かってるわ、サクサク行きましょ」
「そうね、許可を取る時間さえ惜しいわ――『超弩級戦力に肩を並べる程の力を、どのように得たのか』、これがまず一つ」

 遠回しの『取材拒否』を、これまたやんわりと受け流しつつティオレンシアは内心思う。
(「あたしの声を聞いて平然としてるなんてねぇ。慣れたクチなのか、余裕がないのか」)
 さあ、どっちなのかしらと興味を見せつつ、つかさへも大したものだと視線を送る。
(「こっちのお嬢さんも随分と直球だけど――どこか『作為的』なのよねぇ」)
 これは援護すべきかしらとひとつ笑んで、今は記者を名乗る女もまた質問を投げ掛けた。
「『生まれつき使えた』、『技能を昇華させた』、『特別な道具の力を借りる』……ユーベルコヲド使いにも色々いるけれど」
『……ッ』
 ただでさえ悪かった北大路青年の顔色が、さらに蒼白くなったような気がした。

 ――特別な道具の力を借りる。特にこの一言が強い揺さぶりをかけたように見えた。

「十全に使いこなすためには訓練が必要でしょぉ? そのためには相応の場所も必要だし」
『取材というよりはまるで尋問だね……それを君たちが知る必要があるのかな?』
 伸びた前髪から覗く焦茶の瞳に、鈍い光が宿る。今まで猟兵たちが演じてきた記者たちと接するときの柔らかな色合いとは明らかに異なる、警戒の色だ。
 だが、つかさはお構いなしに質問を続けた。警戒された程度で、怯む女ではない。
「この世界で一般的と言える『影朧の転生』を否定するに至った経験や切欠は何ですか?」
『随分と不躾な女性だ、それともそういう取材の手口なのか?』
 満足する答えは得られず、ただ反駁を受けるばかり。
 だが――それで良い。つかさは内心でほくそ笑み、更なるカードを切った。

「昨今、影朧の力を持ち主に宿らせ悪さをするラムプが出回っているとの噂があります」

 ティオレンシアがほんの少しだけ薄目を開き、北大路青年はいよいよ剣呑な眼差しでこちらを睨めつける。つかさは、動じることなく問いをぶつけた。
「何か、ご存じではありませんか?」

『何なんだ、君たちは! 僕がそのラムプと関係あるとでも言いたいのか!?』

 柔和な雰囲気を纏った青年だと思っていた。それが、明らかに激高した。
(「あーあ、その態度こそが答えだっていうのにねぇ」)
 ま、若いから仕方ないか。自分もトリガーを引いた身としては、見届けなければ。
「ごめんなさいねぇ、この子まだ経験が浅くて。ここはひとつ『自分にもそんな時代があった』ってコトで、手を打ってくれないかしらぁ?」
『……今後一切の取材を断るところだったよ、しっかり教育しておいてくれ』
 ティオレンシアがあくまでも素っ気ない顔のつかさを庇うように声を掛ければ。
 吐き捨てるようにそう言うと、北大路青年は遠巻きにしていた一般人たちを押しのけていよいよその場を後にしてしまった。
「まあ、本当の事は言えないでしょうけれど」
 つかさが敢えて『上手く行かないだろう言動』を取ったのは、密かに発動させていた超常【不撓不屈(ネバー・ギブアップ)】の効果を増すためだ。
 行動に失敗すればするほど、いよいよの時に取った行動の成功率が増すが故に。
 つかさは敢えて、嫌がられたり答えに詰まるような質問ばかりを投げ掛けたのだ。
「カフェーに行くって言ってたわよねぇ? これだけの人数で当たれば誰かしらが情報持ってそうだし、あたしたちはあたしたちで上出来よぉ」
 かく言うティオレンシアの舌鋒が鋭かったのも、超弩級のユーベルコヲド使いたる所以を駆使したからである。
 その名を【絞殺(インクウェリィ)】、質問という名の拷問は、確実に見えない鉄の輪でかの青年の首を絞めてみせたのだから。

 そんなティオレンシアがふと、黄金色の宝石が嵌まったペンを取り出す。
「……にしても、『願いを叶える道具』かぁ」
 ペンに擬態したそれは、鉱物生命体。持ち主の祈りに応え、願いを叶える存在。
(「あたしも、地味に他人事じゃないのよねぇ」)
 例えば、己が我欲に走りその力を振るわんとしたら――どうするか?

「ねぇ、『ゴールドシーン』」
 冗談めかして問い掛けた途端、聡い鉱物生命体は女の手から逃れようとするではないか。
「……良かったぁ、ちゃんと『やだ』って言ってくれるか」
 試した訳ではないけれど、それでも安堵する。
 この良き友が居る限り、己は道を踏み外すことはないと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吉野・嘉月

他の猟兵さんと違って俺はこの世界生まれのこの世界育ち。おまけに地味だからな。俺が件の『超弩級戦力』だなんて思わないだろうさ。
ま、俺自身自覚はないしな。
警戒されずに近付くことも出来そうだしな。
俺はただの記者の一人。
馴染みの記者さんなんかに便乗するのもありだな【団体行動】

なぁにあの俺はただ噂のユーベルコヲド使いの話が聞きたいだけさ。

ユーベルコヲド使いになりたいって思うのは悪い事じゃなあないとは思うんだが。
思想が少々過激だねぇ。
そういう人間のところに例のラムプが渡ったのは果たして偶然か。それとも必然か。
それも、探ってみるか【情報収集】


氏家・禄郎
事件記者と偽って接触しよう

なに『思考』の時間は十分にあるからね

「どうも、北大路さん。ご活躍は耳に入っておりますよ」
「私が知りたいのはですね、貴方がどのようなユーベルコヲドで戦っているかなんですよ?」
「學徒兵は刀を使いますが、貴方はお持ちではないようだ?」
「なのに逢魔が辻さえ壊滅させてしまった……一般市民たる我々としては気になるのですよ?」
「お秘密……お話願います?」

っと、ここまで切り込んでから
本番と行こう

「今後の予定は? いえ、追いかけるわけではありませんが、このような世の中です。何かを追っているのかと思いまして」

かけらでも話してくれれば上々といったところかな?



●探偵二人、事件記者となりて
 ずんずんと、明らかに不機嫌な気配を纏い北大路青年が大通りを大股で進む。
 途中、通行人に肩がぶつかっても詫びることすらしない横柄さは憤りから来る。
 せっかく気分良く持て囃されていたというのに、まるで人を罪人みたいに何だ!

 ――そう、このラムプは僕を『正義の使者』にしてくれたんだ。何も、何も悪くない!

「どうも、北大路さん。ご活躍は耳に入っておりますよ」
『……今日は、取材の時間は終わりです』
「まあまあ、そう言わず。立ち話が何でしたら、そこのカフェーででも」
 二人の男に声を掛けられ、無視をすればいいのに思わず足を止めてしまったのは、その声音や仕草が堂に入った『事件記者の演技』をしていたから。
 向かって右から氏家・禄郎(探偵屋・f22632)、左から吉野・嘉月(人間の猟奇探偵・f22939)。奇しくも共に本業は猟奇探偵にして、こういった場面はある意味慣れたものだ。
 さらに言えば禄郎も嘉月も、このサクラミラージュで生まれ育った身。おまけにどちらかと言えば華美ではなく落ち着いた雰囲気を纏う大人の男二人、二十そこらの若造からしてみれば、存在だけで圧を感じるのも無理からぬことだったろう。

『……カフェーはお目当てがあるから結構です、それに時間が惜しい』
 多少冷静さを取り戻したは良いものの、いまだ鋭い眼差しは変わらず。
 だが、いっそそうであってくれた方が『取材』がしやすい。にこやかにしている相手にこれから禄郎と嘉月が掛ける言葉は、あまりにも酷なものだったから。
「なぁに、俺たちはただ噂のユーベルコヲド使いの話が聞きたいだけさ」
 本当だった。嘉月は何一つ嘘は吐いていない。ふぅん、という風にあからさまな値踏みの目線にも動じないのは年長者たる者の貫禄か。それとも、誰より己が自覚していないように『超弩級戦力』であるとは思われまいという自信からか。

『それだったら、あらかた他の記者に話したよ。等価交換でもして聞き出せばいいさ』
「いえ、私が知りたいのはですね――『貴方がどんなユーベルコヲドで戦っているか』なんですよ?」

 前髪で隠れがちな焦茶の瞳が、禄郎を鋭く射抜く。だが、年若い方の探偵屋は動じない。
 多少心得がある者ならばすぐに見抜けるその反応は、心当たりがあると言っているも同然であり、哀れなまでに分かりやすい。
「學徒兵は基本的に軍刀を使いますが、貴方はお持ちではないようだ?」
『……今日は元々囲み取材を受ける予定だったからね』
 帯刀していないのは偶々だと言いたげに、北大路青年は言い捨てる。今の君たちがしていることはぶら下がりに近い、だから僕はもう行くぞという顔で。
「なのに逢魔が辻さえ壊滅させてしまった……一般市民たる我々としては気になるのですよ」
 禄郎のロイド眼鏡の奥の瞳もまた焦茶色をしていて、それがいやらしいまでに己を深く覗き込もうとしてくるものだから。
 元来記者というものは、聞かれたくないことほど深掘りしてくるものだ。そう言った点では禄郎と嘉月の言葉は的確すぎる程に北大路青年を追い詰めていく。
 実際、逢魔が辻をひとつ壊滅させるというのは超弩級戦力たちにとってもひと仕事だ。
 北大路青年としてはあくまで『桜學府に対して』力の誇示をしたかったのだろうが、いささか派手にやり過ぎたと言わざるを得ない。
 現にこうして、超弩級戦力とも比肩する存在として良くも悪くも『目立って』しまったのだから。

「お秘密……お話願います?」
『秘密など……ッ』

 禄郎の言葉に反駁した北大路青年が、無意識だろうか、肩掛け鞄に手を添えたのを嘉月は見逃さなかった。
 影朧の力を己がものとして扱う秘術を行使するのに、それを身につけている必要はあるのだろうか? それとも、一度効力を発揮すればどこかに隠し持っていても良いのだろうか?

 ――もしかしたら、あの鞄の中に?

「北大路さん、その鞄の中に――何か大事なものでも入ってるのか?」
『うるさいッ!!』

 周囲の人々が、思わず振り向くほどの大音声。触れられたくないことに触れられた人間の、分かりやすいにも程がある言動。
 まあまあ、と両手を軽く上げながら嘉月は思う。
(「ユーベルコヲド使いになりたいって思うのは悪い事じゃあないとは思うんだが」)
 この青年は相当に感情の振り幅が大きいらしい、しかも思想が少々過激と来た。
(「そういう人間のところに例のラムプが渡ったのは果たして偶然か、それとも必然か」)
 同道の『同業者』はどう見るだろうかと、嘉月はふとキャスケット帽をかぶり直す探偵屋を見た。ハーフグローブに包まれた手を顎に添えて、何やら考えているように見えた。

 考えれば考えるほどに、次の手が有利になる――【思考(コーヒーブレイク)】。
 ならばこいつが本命だと、禄郎は踵を返そうとする北大路青年に喰らい付くのだ。

「北大路さん、今後の予定は?」
『……』
「いえ、追いかけるわけではありませんが。このような世の中です、何かを追っているのかと思いまして」

 ――欠片でも、話してくれれば上々だ。そう願いながら、青年の背中を見つめる。
『……新しい逢魔が辻の情報を得ている。事件記者のくせに、知らないのか?』
 視線だけを二人に向けて、北大路青年が低い声でそう言った。
『明日の夜、そこへ行く。だがその前に、僕は美味しい水出し珈琲を飲むよ』

 ――万が一君たちが影朧の事件に巻き込まれても、助ける気はしないがね。

 そう言い残して、今度こそ北大路青年は雑踏に紛れて消えていった。

「明日の夜までは待てないか、となればカフェーだな」
「そうだね、この辺りの水出し珈琲が美味い店まで分かれば、話は早い」
 聞き込みをするまでもなく、二人の探偵は自然と答えを導き出す。幻朧桜舞うこの世界で生きてきた身、勝手知ったるというものだ。
「まだ日も高いのにラストオーダーが近いというのも、苦しい言い訳だったなぁ」
「言ってやるのは酷というもの、あの歳ならば仕方がないさ――ところで」

 ――我々も少しだけ、一服していこうか?

 仕草ひとつでそう提案する禄郎に、嘉月はシャツの胸ポケットにそっと手を伸ばす。

 ――全席喫煙の店が良いな、君も嗜むんだろう?

 トントンと煙草の箱を突いて、希望条件を提示してみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花筏・十織
【謎の通行人もしくは偶然の同席者】
鬼灯のラムプ(アイテム)とともに
「――なかなかに、不穏な気を纏っておられます」

「正義とは、何でございましょうね」
強き技で力ずくねじ伏せ霧散させること、それが正義でございましょうや
殊に桜舞うこの世界の影朧には、世に未練ある者も数多い
ユーベルコヲドを使う者なら、ご存じであるかと
それら全てが『悪』ならば……成る程、貴方は確かに『正義』為す者
「貴方は、確かにお強いようです」

ラムプの炎に悪魔を忍ばせ
壁に地に落ちる影は力を嘲笑う悪魔の姿
「……どうか、なさいましたか?」
悪戯は、ここまでに

過ぎた力は手に余り、やがて身を滅ぼしましょう
努々、お忘れなさいませんように



●それは幕間のような
 花筏・十織(爛漫・f22723)が肩を怒らせて大通りからやや薄暗い路地に入ってきた北大路青年と鉢合わせたのは、果たして偶然か必然か。
 何故なら、十織がここに居たのは無自覚に道に迷った結果だったから。仕事を請け負ったは良いものの、このまま標的に接触出来ぬまま終わってしまったら――?
 そんな不安がなかったと言えば嘘になるが、はて此処は何処だろうと思っていたところに肝心の北大路青年が向かってきてくれたものだから、十織はこれ幸いと鬼灯形のラムプにそっと火を灯して雰囲気もたっぷり、青年にこう語り掛けた。

「――なかなかに、不穏な気を纏っておられます」

 端正な顔立ちの、己と然程歳が変わらぬように見える不思議な青年の言は、怒りで我を忘れかけていた北大路青年の心の色を激高から不安へと一気に塗り替える。
『不穏、とは。聞き捨てならないな、君は占い師か何かか?』
 もちろん、それは違うとは知っている。出自は幻朧桜にして、手にした大仰な杖から推測するに恐らくは悪魔召喚士を生業としている者だろう。
 桜色を宿した瞳が、橙のラムプに照らされて揺らぐ。だが、その言葉に迷いはない。
「『正義』とは、何でございましょうね」
『……今度は禅問答でもする気かい? 僕は急いでるんだ』
 だが、ここは大通りとはちがってやや道幅が狭い。十織を押しのけてでもしなければ、先へは進めない。十織はあくまでも己のペースで、言葉を綴っていく。
「強き技で力ずくねじ伏せ霧散させること、それが『正義』でございましょうや」
『……答えが出ているじゃないか』
 いいえ、と。十織はゆるりとかぶりを振った。成程確かに、禅問答やも知れぬと。
「殊に桜舞うこの世界の影朧には、世に未練ある者も数多い」
 ユーベルコヲドを使う者ならば、ご存じであるかと。そう、言外に含ませて。
『だが、影朧は人々に害を為す』
「ええ、それら全てが『悪』ならば……成る程、貴方は確かに『正義』為す者」
 北大路青年の言は、確かに間違ってはいない。故に、十織も否定はしなかった。
 ただ、鬼灯のラムプを顔のあたりにまで掲げて、こう告げたのだ。

「貴方は、確かにお強いようです」

 北大路青年は、気付いただろうか。十織が、ラムプの炎にそっと獄炎の悪魔を喚んで忍ばせたことに。いいや、気付くまい。なればこそ、路地裏の壁に、そして照らされた地面に落ちて伸びる影が力を嘲笑う悪魔の姿をしていたことに、引き攣れた声を上げて驚いたのだから。

『ひ……ッ』
「……どうか、なさいましたか?」

 ――悪戯は、ここまでに。
 十織はそっとラムプの火を落として、路地裏に再び穏やかな日中の陰りを呼び戻す。
 北大路青年に道を譲るように、すっとその横をすれ違いざま、十織は最後にと囁いた。

「過ぎた力は手に余り、やがて身を滅ぼしましょう」
『……何、を』
「努々、お忘れなさいませんように」

 大通りへと出て行く桜の精の男の背中を、青年は見遣ることすら出来なかった。
 その言動が、あまりにも。
 あまりにも、己を戒めるかのように全てを見抜いていたものだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

満月・双葉

英雄に憧れ英雄を偽る
ふむ、英雄が背負う責任もその大変さも知らぬ若造がと言われそうな案件ですねぇ…

取材を受けている真っ最中だったりするのですかね?
人混みを探して見ましょうか
【野生の勘】でそれらしい人混みを見つけたら遠くから観察し、先ずは人となりを捉えてみます
そして、カフェなりで人心地つくなどの良いタイミングがあれば、相席を求めて見たいですね

おや、これは今をときめく方では?
こんなところで会えて嬉しいです!
等とファンを装って表情は変えられずとも抑揚をもってにこやかに
アホ毛がそよとも動かぬのはまぁ、この人には判らぬことでしょう
(邪魔されぬようポケットの中のカエルのマスコットを握りつぶすのを忘れずに)


インディゴ・クロワッサン
◎●
オフの格好(私服)で【目立たない】様にしよーっと
「取材かぁ… 受けるのもするのも苦手なんだよねぇ…」
取材は【忍び足/闇に紛れる/世界知識/地形の利用/ジャンプ】等々を活用して逃げる気満々で立ち回るよー
「でも…転生させずに滅ぼすとか、中々趣味が合うねぇ?」
僕の本音としては、転生しよーが還ろーが、影朧の血を啜れればどーでもいいんだけどね☆
「情けはヒトの為ならず、とか言うし、そんな厳しいヒトが居ても良いんじゃないかなー」
本当にそう思ってるのかどうかは兎も角として、ね。

UC:集め集う藍薔薇の根 で彼の立ち寄りそうな場所に目星をつけつつ、猫の置物が増えるって噂のお蕎麦屋さんに行ってみよーっと!



●嵐の前の静けさと水出し珈琲
 とある裏路地のカフェーでは、点滴式のウォータードリップがカウンターに据え付けられており、それで時間を掛けて抽出される水出し珈琲が特に絶品だとされている。
 北大路青年が最近贔屓にしているカフェーでもあるこの場所には、二人の猟兵が先んじて思い思いに珈琲を楽しんでいた。
 インディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)は、当初はこの店に来る予定はなかったのだが、念の為にと目立たぬ私服で登場してなお取材に巻き込まれるのを警戒した結果と、本人曰く『取材はするのもされるのも苦手』ということから、遠巻きに様子を見続けた結果が合わさって、今こうして北大路青年の目的地に先回りしていた。
 実に不思議なことのように思えるやも知れないが、実は仕掛けがきちんとあった。

 ――【集め集う藍薔薇の根(ラマセ・アオスクンフト)】。何やかやと情報収集に徹したことによる、これは必然であったのだ。

「でも……『転生させずに滅ぼす』とか、中々趣味が合うねぇ?」
 初夏の帝都であっても幻朧桜は舞い続けるのだなと、インディゴはぼんやりそう思いながら窓の外を見遣る。上着を脱ぎたくなるくらいの陽気に、水出し珈琲が染み入る。
 向かいの席には、同じく評判の水出し珈琲を楽しむ満月・双葉(時に紡がれた星の欠片・f01681)の姿があった。
「まあ、僕も転生に積極的かと問われれば少々答えに迷いますが」
 同意とも否定ともせず敢えて曖昧に返せば、インディゴが平然と告げる。
「僕の本音としては、転生しよーが還ろーが、影朧の血を啜れればどーでもいいんだけどね☆」
「……成程、欲望に忠実なのは良いことです」
 そう言いながら二人が今ストローで啜るのは、すっきりした味わいの珈琲で。
「『情けはヒトの為ならず、とか言うし? そんな厳しいヒトが居ても良いんじゃないかなー」
 珈琲を飲み終えたインディゴが、来客を告げる鐘の音に合わせて立ち上がる。
(「本当にそう思ってるのかどうかは兎も角として、ね」)
 入口に向けた視線の先には、真新しいスーツ姿の北大路青年が立っていた。

『……やあマスター、席は空いているかい?』
「相席でも良ければ、ひとつ」
 台拭きを持って双葉の向かい、今しがたまでインディゴが腰掛けていた席を片付けながら店主が言う。準備が整うと、北大路青年はどっかとソファーの席に身体を沈めた。
『失礼するよ、少し……疲れていてね』
「いえ、構いませんよ。今をときめく貴方です、余程色々とおありだったんでしょう」
 双葉は敢えて『素性は知っているが、詮索はしない』ことを選んだ。これならば、過度に演技を求められたりもせず、無表情を貫いたまま話が進められる。
(「英雄に憧れ、英雄を偽る」)
 双葉は北大路青年を『英雄が背負う責任もその大変さも知らぬ若造めが』と言われてもおかしくない、のぼせ上がった男だろうと思っていたが――実際、大通りで密かに遠目から観察していて人となりを把握した限りではそう見えた――眼前にいる青年は、今日一日で少なくとも後者は痛感したのではなかろうかと考えを改めるに至った。

『はは、お心遣い痛み入るよ。僕は此処の水出し珈琲が大好きでね』
 昔一度飲んで、ずっと憧れていた。それ以来、中々来られなかったけれど。
「……それで最近、ようやく来られるようになったと?」
『ああ、少しばかり贅沢も出来るようになったから――自分へのご褒美さ』
 それとなく探りを入れてみる双葉に、北大路青年が返す言葉はどこか違和感を覚えさせるものだから、双葉はポケットの中のカエルのマスコットさんをぎゅうと握って邪魔をさせぬように思案する。

 ――ああ、『ご褒美』というのがおかしいんだ。

 そもそも北大路青年が、己の力で何を為したというのか。
 借り物の力で有頂天になっているに過ぎないのに、与えられるご褒美などあるまい。

 怒りなど感じない、哀れには思うけれど。
 故に双葉のアホ毛はそよとも動かず、ただ心底美味しそうに水出し珈琲を飲む青年を冷ややかに見据えていた。
 じきにこの青年は、再び大通りに出たところを今度こそ正体を隠さぬ猟兵たちに囲まれる。事実を暴かれたその時に、そして全てを失った時に、どんなことになるのか。
 今はまだ分からないけれど、その水出し珈琲を味わって飲むが良いですと、そう思って。

「やー、ここが噂の『猫の置物が増える』って噂のお蕎麦屋さん!」
 一方のインディゴは、敢えての接触を徹底的に避けて、とあるカフェーの向かいにある由緒正しい蕎麦屋の前に立っていた。
 通りに面した窓には、猫の置物が確かに六つ、ちょんちょんと等間隔に置かれていた。
 何しろインディゴは元々何個あったかを知らないので『多いなー』以上の感想を持てなかったが、元々はもっと少なかったのだろうと想像するだけで何だかワクワクする。
 そしてもっと言うなら、かけそば一枚くらいなら食べる余裕もあるだろうと。インディゴは、意気揚々とのれんを潜っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アラン・サリュドュロワ
 ◎
マリクロ(f19286)と
喫茶テラス席で張り込み兼情報収集兼ティータイム
目立たないようこの世界の衣服で

青年が囲まれる様子を眺めつつ
活躍を報じる記事も目を通し、経歴や思想を予測に役立てる
へえ、彼はとても豪胆な性格のようだな
自ら救済を否定するとは
元々そういう思想だったのか、それとも力の影響か…どちらかな

すまない、マドモアゼル
彼女は噂の英雄殿に夢中でね
この店にも来たことが?
と、評判や普段の様子伺う

…英雄殿の次は甘い物か
苦笑気味に珈琲をすすり
それはどれぐらい?その匙で掬ってくれないか

青年が動くのを見て然り気無く席を立つ
さあどうぞ、と顔を寄せるも手を取られやや残念そう
机にはチップ含む代金置いていく


マリークロード・バトルゥール

アラン(f19285)と

どちらにせよ特別に為れたのが嬉しかったのでしょう
危険や恐れを忘れてきてしまったみたい

女給に注文と共に聞き込みを
恋する乙女の様に演技して話したくなるよう誘いましょ
ねぇ、彼方の彼について教えてほしいの
どこに行けば彼と御知り合いになれるかしら?

情報収集を終え、届いたあんみつに舌鼓を
美味しい。力よりも甘味に溺れたいわ
アラン、あなたもひと口いかが?
慎みあるひと口ならば――と、そうね。これ位なら
わたくしの騎士の為、匙上に小さなあんみつを

移動する様子を見、尾行の為に身支度を整える
寄った顔に微笑み返してから掌に口付ければ忽ち透明に
頬はまた今度ね
卓に一輪、季節外れの紅椿を遺して往く



●もう一つの幕間を
 これは、北大路青年がご機嫌ななめで大通りを行き、ある猟兵たちとすったもんだの末に路地裏へと消えていった頃合いの物語。
 アラン・サリュドュロワ(王国の鍵・f19285)とマリークロード・バトルゥール(夜啼き鶯・f19286)の二人は、さながら華族の子息と令嬢が連れ立って花の帝都に舞い降りたかのごとく。
 衣装も大正の世に相応しいものを互いに見つくろっては身に纏い、事前に予約を入れて確保した大通り沿いのカフェーのテラス席は、張り込みに打って付けの特等席だ。
 悪目立ちして記者の注目を集めてしまわぬようにとやや遠目から青年が囲まれる様子を眺めていた二人は、どっと笑いが起きたり、かと思えばどよめきが起こったりと終始目が離せぬ青年の人物像を自分たちなりに探って行く。
 アランはここ最近の新聞記事や雑誌を資料として集めたものをテーブルの上に広げ、ひとつひとつ目を通しては北大路青年たる人物の経歴や思想を読み取らんとしていた。

 ――丑三つ時の怪異、若きユーベルコヲド使いにより成敗されり!
 ――影朧による誑かしを颯爽解決! その名は北大路・勇青年なり
 ――快挙! 北大路青年、逢魔が辻を壊滅せしめり

(「新聞や雑誌の論調は、世界が異なれど変わらぬものか」)
 己の生まれ育った世界とは異なるが、界を渡り得た知識で論ずれば、それはまるで『大衆娯楽雑誌』や『スポーツ新聞』という類のものによく似ていた。
 報道が目指す事実の伝達を粛々と行うものとは異なった、この世のあらゆる事象を『娯楽』として『消費』する、俗世を賑やかすものだ。
 アランがとある雑誌に目を通せば、逢魔が辻を壊滅させた直後の北大路青年のロングインタビューが掲載されていたので、珈琲を片手に黙読に入る。
 内容は、今まさに囲み取材でぶち上げられた持論をほぼなぞるもの。中身が半分ほどになったカップをソーサーの上に置き、アランは軽く目を押さえて言った。
「へえ、彼はとても豪胆な性格のようだな。自ら『救済』を否定するとは」
 向かいの席で北大路青年の動向を見守るマリークロードの姿は、一見北大路青年に興味津々という風に見えただろう。最初に注文した紅茶にもろくに手をつけていないのだから。
 だが、それこそがマリークロードの狙いでもあった。今の自分は『北大路青年に心ときめかせる一人の乙女』なればこそ。連れ合いが居る身では? それはそれである。
「元々そういう思想だったのか、それとも力の影響か……」
 どちらかな? と。活字疲れも徐々に癒えてきたと軽く頭を振ってアランが続ければ、マリークロードが微笑ましいものを思うようにくすくす笑う。
「どちらにせよ、『特別』に為れたのが嬉しかったのでしょう」
 危険や恐れを忘れてきてしまったみたい。良きにつけ、悪しきにつけ。
 今でこそ笑っていられるが、じきに取り返しがつかなくなるのは明白。
 マリークロードは、軽く目線を送って手近な女給を呼び寄せた。

「承ります、お客様」
「あんみつをひとつ追加で――ねぇ、彼方の彼について教えてほしいの」
 伝票が挟まった小さなバインダーに『あんみつ』と器用に記しながら、女給は突然の乙女の問い掛けに一瞬目を丸くした。すかさずアランが援護に入る。
「すまない、マドモアゼル。彼女は噂の英雄殿に夢中でね」
「は、はい……あまり、私も詳しくは存じ上げないのですが」
 それは女給としての立場で、客のプライベートを守ろうとしているのか。はたまた、本当に知らないのか。二人は女給を困らせぬ程度に、あくまで世間話のていを貫く。
「この店にも来たことが?」
「一度、ご来店なさいました……当店自慢の珈琲と、ケエキのセットを召し上がって」
 アランの問いには、当たり障りのない答えが。
「じゃあ、常連さんなのかしら!」
「ふふ、残念ながら――北大路様には他に意中のお店がおありのようです」
 マリークロードが問えば、残念そうに肩をすくめる。ならば、追撃だ。
「ああ、本当に残念! こんな素敵なカフェーを差し置いて、どこに行けば彼と御知り合いになれるかしら?」
 ちら、と。菫色の瞳で女給を見るマリークロードは恋に恋する乙女そのもの。
 それを誰が無碍に出来よう。女給は身を屈めて、そっと囁いた。
「水出し珈琲ならば『カフェー・緑の星』、この通りをひとつ入った裏路地にございます」
 あんみつ、すぐにお持ちしますね――そう言って一礼すると、女給はパタパタと厨房へと駆けていった。

 ざわざわと、喧騒が大きくなった気がした。ユーベルコードが発動した気配もしたが、術者にも思惑あってのことだろうと敢えて関わらずに張り込み兼情報収集兼ティータイムを続ける二人。
 得るべき情報はあらかた手に入れたと、コトリと音を立ててテーブルに置かれたあんみつにマリークロードが目を輝かせる。
「食べても?」
「勿論」
 銀のスプーンを手に取って、礼儀として尋ねれば心地良い返事。ならと遠慮なくあんみつを掬って口に運んで、その上品な甘さに舌鼓を打つマリークロード。
「――美味しい。力よりも甘味に溺れたいわ」
「……英雄殿の次は甘い物か」
 頬に手を当てて口いっぱいに広がる幸福を堪能する姫君を見て、騎士は苦笑気味に半分残っていた珈琲をすする。冷めても美味いのは、大したものだ。
「アラン、あなたもひと口いかが? 慎みあるひと口ならば――」
 ひと口と言っても人それぞれ定義がある。相手に匙を委ねて想像以上に抉り取られては地味に心のダメージが大きい。故に、マリークロードは予防線を張ったのだが。
「それはどれくらい? その匙で掬ってくれないか」
 意図を汲んだのか、アランが返す声音はやや意地悪めいて。
「……と、そうね。これ位なら」
 日頃の感謝や、その他色々を込めて。
 ――わたくしの騎士の為、匙上に小さなあんみつを乗せてあげましょう。

 青年のものらしき怒号がひとつ、それが合図だった。
「動きます、此方も」
「ええ、心得ているわ」
 二人の所作は、一見すれば一通り注文の品を堪能し終えて席を立つ客でしかない。
 向かい合って座っていたアランがおもむろに距離を詰め、マリークロードにそっと顔を寄せたのはいかなることか。
「頬はまた、今度ね」
 そう言って微笑み返し、騎士の頼もしい手を取って口づけひとつ。するとたちまち二人の姿はあたりの景色に溶け込み消えたではないか。
 尾行にはうってつけの超常、【le baiser de la fée(タイセツナモノニハミエナイシルシヲ)】。マリークロードの口づけを賜った者が共に歩むことを許される。

 行く先はあらかた把握した。後は適度に追って、機を見て姿を見せるばかり。
 テーブルの上にはチップを含めた数枚の札と、季節外れの紅椿が残されていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『阿傍學徒兵』

POW   :    サクラ散ル
【軍刀が転生を拒む意思が具現化した桜の魔性】に変形し、自身の【使命感と転生を拒む意思以外のすべて】を代償に、自身の【攻撃範囲と射程距離、高速再生能力】を強化する。
SPD   :    サクラ咲ク
【日々の訓練で鍛え抜かれた四式軍刀の斬撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【軍刀から伸びる桜の枝々による拘束と刺突】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    サクラ舞ウ
【帝都桜學府式光線銃乙号の銃口】を向けた対象に、【目にも止まらぬ早撃ちから放つ高出力の霊力】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は煙草・火花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●籠絡するもの、されるもの
 カフェー『緑の星』という、水出し珈琲が評判ながら路地裏に店を構えているということから、知る人ぞ知る存在として密やかに愛されてきた店がある。
 北大路青年がまだ『籠絡ラムプ』を手にする前、新聞配達のアルバイトをしている時にたまたま配達先としてその名を知ったのが初めてのこと。
 己の賃金では、日々を生きていくのが精一杯で。とても、帝都の一等地のカフェーを楽しむ余裕などあろう訳もなく。
 それがどうだ、このラムプを――かの少女の力を己がものとしてからは、影朧退治の褒賞金やパトロンの援助に恵まれて、こうして珈琲を嗜むことも叶った。
 身なりも整えた。髪だけまだ伸ばしたままだが、思い切ってバックにしてしまおうか。
 そうだ、床屋へ行こう。もう、おどおどと表情を隠す必要なんてないのだから。

 席を立つ。大きな額の紙幣しか持ち合わせず済まないと店主に詫びて、釣りを受け取り店を後にする。
 せっかく仕立てたスーツだけれど、今日の陽気にはちと暑かったかな?
 そう思いながら、北大路青年が再び大通りへ出たその時だった。

 前方に。
 振り向けど、後方にも。
 明らかに異質な気配を纏った者ども――超弩級戦力が、己を包囲していたのだ。

『……記者にしては、妙に鋭い連中ばかりだと思っていたよ』
 猟兵たちを前にして、北大路青年はいよいよ鞄を下ろして中から厳重に包まれた何かを取り出す。
 異国情緒溢れる形をしたラムプが姿を見せれば、懐から燐寸を取り出し手早く擦って火を灯す。コトリと地面に置いて、青年は吼えた。
『學徒の娘よ、僕の――僕たちの力を見せてやろう!』
『志ある青年よ、私はこの力を振るいます――今度こそ、任務を果たすために!』
 ラムプの先で揺らぐ火が、陽炎を――影朧を呼び起こす。
 志半ばで影朧との戦いで落命した少女は、死してなおそのことを悔やんで、転生すら拒み。その結果、己が最も激しく憎む影朧そのものに成り果ててしまった。

 今や、青年と娘を突き動かすのは『影朧を滅ぼし正義を為す』という使命感のみ。
 娘のそれは紛れもなく本心だろう、だが青年はどうか。
 本心なのか、それとも娘の情念に影響されたのか。
 今はまず、影朧の娘を撃破しなければならない。その上で、青年からラムプを奪うのだ。

 衆人環視の中、正義の在処を問う、大立ち回りが始まろうとしていた。

●補足
 今回のプレイングで、北大路青年への説得および『籠絡ラムプ』を取り上げる旨のプレイングは不要です。基本的には戦闘に専念して頂いて大丈夫です。
 人通りの多い表通りが戦場となりますが、こちらも一般人への配慮は不要です。あればあったで考慮した描写を心掛けますが、ないから不利になる訳ではありません。
 戦闘をメインに、余力あれば青年に声を掛ける程度のバランスが丁度良いかも知れません。強力な影朧です、油断なきよう思い切り戦って下さいませ!
吉野・嘉月

果たして籠絡されているのは影朧か北大路青年か…なんてな。

他の猟兵さんが大立ち回りをするのなら俺はそれに紛れて攻撃するかねぇ。
UC【一発必中】
外さないのが大事ってね。弾には【呪殺弾】と【麻痺攻撃】も影朧の持つ軍刀を持つ手を狙おう。
麻痺か呪殺のどちらかが効けば動きは鈍るかもな。

さてさて北大路青年。君は気づいているのかねぇ。君が転生など生温いと滅ぼす対象だと言った『影朧』の力を借りてるってことだ。
随分と矛盾している。他の影朧を滅ぼすためなんて答えはただの詭弁だよ?


木常野・都月


万が一、攻撃が外れてもいいように、周辺の建物や一般人に[オーラ防御]を付与しておきたい。

俺は確かに猟兵でユーベルコードが使える。

でも、北大路さんは、そんな俺より、大勢の人に囲まれても、会話の受け答えは上手いし、多分俺より字も読める。
充分凄くて、俺羨ましいのに、自分の良さに気付けないのか?

とはいえ、まずはこの影朧を何とかしないと。

UC【精霊の瞬き】を氷の精霊様の助力で撃ちたい。

敵の攻撃は[野生の勘、第六感]で避けつつ、[高速詠唱、属性攻撃、カウンター]で対処、逆に周辺の桜の木の精霊様に頼んで、影朧を拘束したい。

必要があれば、[属性攻撃(2回攻撃)]で追撃したい。


雪華・風月
◎●
影朧、彼女もまたいつか命を落としたわたしの末路になりえるのかもしれませんね


銃は…苦手です…
故に黒塗を『投擲』し、動きの阻害し距離を詰めさせて頂きます!

影朧の動きを『見切り』攻撃を切り払い前へ【切り込み】

力を隠し振る舞う…それは自身の正義の心が借り物の力を振るうことを糾弾する故ではないですか北大路さん?
貴方はこんな力では無く本当は自身の力にて正義をなしたいはずです

中距離で隙を見出し
相手の斬撃より早く『縮地』にて一刀を!


転生で救済するのではなく滅ぼす…貴女の正義とはそこは相容れられません
ですが、その強い使命感帝都桜學府の後輩として尊敬します

散った桜が時を巡って咲くように…
今は安らかな眠りを



●望んで、望まれて
 大通り沿いの建物からは窓を開け放ち人々が見下ろし、道行く人々もまた足を止めて野次馬へと化していく。
 今をときめく、超弩級戦力にも比肩するとされるユーベルコヲド使いの青年が、まるで悪魔召喚士が契約せしものを喚んだが如くに少女を連れている。
 その姿、一見凜々しき學徒兵。しかし、その在りようは明らかに異質。
 北大路青年をその背にかばうように顕現した少女は紛れもなく影朧にして、その名も『阿傍學徒兵』とされ、数度猟兵たちと刃を交えたものであった。

『北大路青年、私は貴方を見込んで今まで力を貸してきました』
『……ああ、君には感謝しているよ』
『そして、それはこれからも続きます――いいえ、続けてくれなくては』

 桜の枝が絡み付く軍刀を構え、今や影朧となりて中身を失った空虚な使命感ひとつで戦い続ける學徒兵だった少女が、そのためにと猟兵たちを見据える。
「果たして籠絡されているのは影朧か北大路青年か……なんてな」
 鋭い視線を受けて肩をすくめる吉野・嘉月がそう独りごちれば、その傍らで木常野・都月が不可避の戦闘に備えて、せめて一般人への被害を抑えようと周囲に防御障壁を展開する。
「影朧、彼女もまた『いつか命を落としたわたし』の『末路』になりえるのかもしれませんね……」
 他ならぬ帝都桜學府に籍を置き日々精進する雪華・風月が、脳裏をよぎる万が一の可能性を思わず口にした時、北大路青年から声が飛んだ。
『君はそう思うのかい、桜學府のお嬢さん? ならば是非とも、彼女の仲間になってやってくれ!』
「――ッ」
 風月は一瞬、影朧の左手にある銃口が向けられるかと思い、とっさに短刀「黒塗」を懐から取り出して投げつけたが、動いたのは右手の軍刀であった。
 きぃん、と。鋭い音と共に黒い短刀が弾かれる。だが、その動作のためにひとつ手数を失ったのもまた事実。そして、それこそが風月の狙いでもあり。
「氷の精霊様、最速で! 【精霊の瞬き】!!」
 そこへ、まるで氷柱のような――氷で出来た矢が数本飛来して、影朧の足元に鋭く突き刺さった。
『……ッ!?』
 あまりにも、あまりにも速い攻撃だったものだから。そう、術者たる都月は超弩級戦力の中でも無類の強さを誇る存在だったから。
 その気になればあっという間に串刺しだったろう、何故そうしなかったのか?
 答えは単純、都月は北大路青年に話があったからだ。
「俺は確かに猟兵で、ユーベルコードが使える」
『ああ、ああ! 最初から持っている者には分かるまいよ! 僕が――』
「でも、北大路さんは。そんな俺より、大勢の人に囲まれても会話の受け答えは上手いし」
『……は?』
 口を開いた都月がおもむろに己の話術について言及したものだから、北大路青年は完全に不意を突かれて変な声を上げてしまう。
 だが、どう思われようがこれこそが都月の素直な気持ちだ。
「それに、多分、俺より字も読める」
 新聞配達をしていたくらいなのだから、きっと活字にも慣れ親しんでいるに違いないと。
 ついぞ最近まで己の本性は狐であると思っていて、それを根底から覆され、人としての己を意識するようになった都月は。
 ある意味誰よりも『人』らしい北大路青年を、憧憬の眼差しで見ていたのだ。
「十分凄くて、俺羨ましいのに。自分の良さに気付けないのか?」
『う……煩いな! そんな、出来て当然のことで褒められても嬉しいものか!』
 まるで、己が力を振るうように。青年が腕を振るえば、影朧が意を汲んで動く。
 狐耳を少ししゅんと垂らした都月は、それでも幻朧桜を舞わせる木々に宿る精霊様へと願いを込めた。
(「――お願い、します」)
『何を、した……!?』
 都月目掛けて軍刀を振るおうとした影朧の少女が、その腕をぎちりと桜の木の枝で拘束されていた。いかなる仕掛けか、地中からぞわりと生え出ているではないか。
『そういうことだよ、超弩級戦力……僕ら凡人には、そんな離れ業とは無縁なんだ!』
 影朧の姿を見た北大路青年が、まるで血反吐を吐くような声で叫んだ。
 都月の狐耳は垂れたままで、しかししっかりとその叫びを受け止めていた。

 影朧の少女は、ぴくりとも動かぬ腕に顔をしかめ、振り返らずに詫びる。
『申し訳ありません……不覚を取りました』
『いいさ――『大丈夫』なんだろう?』
 意味ありげな青年の言葉に、しかし影朧はその通りとばかりに頷いて、左手の光線銃で枝が生える根元を撃ち抜いた。桜の木の枝が、役目を終えたという風に消えていく。
(「完全に意識が二人に向いているな、これなら」)
 ――行ける。時は来たと、嘉月が密かにリボルバー式拳銃の撃鉄を上げた。
 銃での一撃は、外さないことこそが大事。故に、超常にて底上げをするのだ。
(「【一発必中】、弾には呪殺と麻痺を込めた。さあ、どうだ――!」)
 嘉月が狙うは影朧の少女が軍刀を握る右手、特定の部位への狙撃は非常に困難だが。
「力を隠し振る舞う……それは、自身の正義の心が借り物の力を振るうことを糾弾する故ではないですか、北大路さん?」
 まるで嘉月の意図を察したかのように――あるいは猟兵同士自然と感じ取るところがあったのか。風月が声を上げて、より強く影朧と青年の気を惹く。
『な、何を言うんだ! 僕は』
「貴方はこんな力では無く、本当は自身の力にて正義をなしたいはずです」
『さっきから、知ったようなことを……!』
 風月に言葉に、明確な答えを返せずにいる北大路青年は間違いなく痛いところを突かれている。このやり取りで、嘉月は確信を得た。そして――今こそ好機だと!

 ――ぱぁん。

 乾いた音が響き、超常により狙い違わず影朧の右手が撃ち抜かれた。
 弾丸はあらかじめ都月が張った不可視の障壁によって止められ、二次被害を防ぐ。
『あ、ぐ……ッ』
 軍刀を取り落として、右手を押さえ呻き声を上げる影朧の少女。北大路青年が駆け寄ってそれを支えると、いよいよ嘉月の存在に気付き睨めつけた。
『……やって、くれたな』
 えらく恨まれてしまったなと内心面倒に思いながら、それでも嘉月は影朧と青年とに向き合った。どうやら呪殺と麻痺は良い感じに効いているらしい、これなら反撃の心配なく言葉も交わせよう。
「……さてさて北大路青年、君は気づいているのかねぇ」
『何がだ! さっきから寄ってたかって!』
 戒めによりしばし動けぬ影朧の少女を甲斐甲斐しくも支える青年に、嘉月は告げる。
「君が転生など生温いと、滅ぼす対象だと言った『影朧』の力を借りてるってことだ」
『それ、は』
「――随分と矛盾している」
 気だるげな佇まいは変わらないはずなのに、北大路青年を見据える嘉月の瞳ばかりが鋭い。同じ焦茶の瞳でも、片方は射抜く側で、もう片方は射抜かれる側だ。
『ちが、う』
「どう違う? 『他の影朧を滅ぼすため』なんて答えは、ただの詭弁だよ?」
『……ッ!』
 青年が、影朧の肩を支える手にぎゅうと力を込めた。
 言い返せない。何と悔しいことか。しかし、その時だった。
『青年は……矛盾などしていません』
「――へぇ」
 時間切れか、そう思いながら嘉月は軽く髪をかき上げる。影朧の少女に施した戒めが解けようとしているのだ。
『私が青年に力を貸し与え、青年は私の力で正義を為す。私は失った戦う理由を再び得て、青年は生まれ持たなかった超常を得たのですから』
「お互いに都合の良い関係ってことか、だが――」
 影朧が驚くべき回復力で右手を修復しながら軍刀を拾い上げるのと、嘉月が後方へとコヲトをなびかせながら飛んだのがほぼ同時。
 次いで、入れ替わるように風月が前へと踏み込んだ。
(「後は任せた、お嬢さん」)
 果敢に斬り込んでいく風月の背を、嘉月は静かに見送った。

「お覚悟を――【縮地】!!」

 大地には、霊脈と呼ばれる力の流れがあるという。
 それを巧みに把握して、流れに乗るように地を駆ければ――ほら、この通り。
『速い……!?』
 影朧の斬撃よりも速く、速く。風月が瞬く間にその間合いに達すれば、迷わず「雪解雫」の一刀をくれてやる!
 さすがに致命傷とまでは行かないものの、上段から思い切り振るった刃は肩口から胸元にかけて刀傷を残す。立派な學徒兵の制服が切り裂かれ、血がにじみ出る。
 まるで人間のようだとぼんやり思いながら、風月は間合いを取った。刀を振るって血を払い落とすと、鞘に収めて口を開く。
「転生で救済するのではなく滅ぼす……貴女の正義とは、そこは相容れられません」
『そうでしょうとも、理解も求めてはいません』
「ですが、その強い使命感。帝都桜學府の後輩として、尊敬します」
 真っ直ぐに、黒曜石を思わせる瞳が影朧に身を落としたかつての學徒兵を見る。
 言葉を受けて、殴られるような心地がするとはこのことかと。影朧の少女は傷の痛みよりもぐらぐらする頭の方に意識を持って行かれそうになる。
「――散った桜が時を巡って咲くように」
 風月は、願う言葉が真になればと目を閉じた。
「今は、安らかな眠りを」

 それは、静かなる宣戦布告。
 骸の海に還すか、転生に賭けるか。
 どちらにせよ、猟兵たちは北大路青年と影朧とを『引き離す』と。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

満月・双葉
借り物で戦うことは否定しない
でもそれ、『制御できる』のかい?
出来ないもんを抱えるなら、自らに灼熱を抱えて焼き殺される覚悟は在るんだろうな?

【闇に紛れる】事で気配を消しつつ
相手も手練れなので油断なく【オーラ防御】も展開し死角に周り
唐突に話しかけ、振り返させることで『視線を合わせる』

この手法は一回しか使えないだろうから、後は【野生の勘】で敵の攻撃を見切る
ダメージは【激痛耐性】で無視

闘うことを選んだなら、殺される覚悟はあったろ?
光の矢を無差別に放ち撹乱

他の人達の攻撃が当たりやすくする
爆破の【属性攻撃】をもつ大根は巻き込みが発生しないように使用
【虹瞳】も活性化し【鎧無視攻撃】で叩き込み確実に弱らせる


インディゴ・クロワッサン
◎●
「お蕎麦美味しかったー♪」
ご主人が気を利かせてざるそばにしてくれたのもあって、ついつい2枚目も頼んじゃったけど…間に合って何よりだよー
【早着替え】でささっと何時もの格好に着替えたら、愛用の黒剣を構えて参戦だー!
【SPD】
敵の攻撃は【見切り/残像/第六感】で回避しつつ、使えそうな技能で攻撃するけど
「滅ぼすのはお好きにどーぞって感じなんだけど」
平行しての【精神攻撃】も欠かさないよ~
「影朧が影朧を狩るなんて…矛盾してないかなぁ?」
勿論、クスクスと嘲笑うのも忘れずにね!(笑)
敵が体勢でも崩したら、UC:絶える事無き血の渇望 で血を啜らせて貰うよー!
「ん~ 若い子の血は格別だねぇ」



●力を振るうことの意味
 どよめく野次馬の声が遠い。己に絶大なる力を与えてくれた影朧の少女に傷を負わせたのを見て、なるほど超弩級戦力とは良く言ったものだと苦々しい顔になる。
 そんな北大路青年の様子に不興を買ったと思ったか、影朧の少女はわざとらしいまでに大通りの地面を踏みしめて再び軍刀と光線銃を構えて立った。
『青年、案じることはありません。この程度の傷なら、幾度となく受けて来ました』
『……油断するなよ、君の身の上話が本当なら』
 そうして影朧退治の任を受けた最中に落命し、そのことを悔やんで悔やんで――阿傍羅刹と恐れられる、地獄の獄卒もかくやという苛烈な使命感ひとつでここに居る。
 さあ、私たちを阻むというのならば、超弩級戦力であろうと斬り捨ててみせると、そう前を見据えた時のことだった。

「お蕎麦美味しかったー♪」

 緊張感の欠片もない声と共に、インディゴ・クロワッサンがおもむろに躍り出たのだ。
『な……何? 蕎麦?』
 これには思わず影朧の後ろに控える北大路青年も反応してしまう。そう、蕎麦だよと指を二本立ててインディゴが続けた。
「ご主人が気を利かせてざるそばにしてくれたのもあって、ついつい二枚目も頼んじゃったけど……」
『僕たちと戦う前に、蕎麦を、二枚も』
 半ば呆然とした様子になる北大路青年に、インディゴはにっこりと笑んだ。
「間に合って何よりだよー」
『間に合っていません! もう戦いは始まっているのですよ!』
 緩みかけた場の雰囲気を一気に引き締めるように、影朧の少女の怒号が飛ぶ。北大路青年がハッと我に返り、インディゴは小さく舌を出して羽織っていたジャケットに手を掛けた。
 ばさり、と。一気にジャケットを脱ぎ捨てれば、その姿は幻朧桜舞うこの世界とは異なるどこかで通りが良さそうな出で立ちへと早変わり。
「そっか、じゃあ今から参戦だー!」
 屈託のない笑顔で愛用の黒剣「Vergessen」の切っ先を影朧へと向けて、今度こそインディゴは戦場へと身を投じた。

 恐らくあれは欧羅巴を中心に用いられた西洋剣、影朧の少女の得物たる四式軍刀で渡り合うにはいささか不利やも知れず。
(『だが、それが何だというのです。今まで鍛え上げてきた己の腕を信じなくては』)
 そう己を鼓舞し、影朧『阿傍學徒兵』は軍刀の柄を握りしめて、飄々とした藍色の青年目掛けて斬りかかる――はずだった。

「借り物で戦うことは否定しない」

 不意に、耳元で声がした。ハッと振り返れば、いつの間にかすぐ傍に立つ者あり。
『な……ッ!?』
 そうして影朧の少女が見たものは、眼鏡を外して魔眼を晒した満月・双葉の姿だった。
 一拍置いて状況を呑み込むのとほぼ同時、勇敢なる學徒兵の成れ果てたる影朧は突如湧き起こった『恐怖』に思わず膝を突いてしまう。

 何を見たのか。何を見せられたのか。
 ただ、己の今の在りようを鏡映しのように見せられただけと言えばそれまでなのに。
 死ぬことを許さないのか、死ぬことが許されないのか。
 こうして妄執に囚われて存在し続けることこそが、死よりもなお恐ろしいことではないかと。己を突き動かす唯一の理由をも否定されては到底立ってなど居られない。

『どうした!!』
『……いけませんッ』
 一見何をされたでもないのに姿勢を崩した少女を案じて北大路青年が己を注視するのを見て、それこそが敵の狙いだと制止する影朧。だが、遅い。
「でもそれ、『制御できる』のかい?」
『何を、言っ』
 次に北大路青年の焦茶の瞳を魔眼が貫いた。その視線に名を付けるならば、【冥界の女王の怒り(アンガーオブペルセポネ)】。
 射抜いた者の裡に『死んだ方がまし』と思わせる苛烈な恐怖を呼び起こす超常なれば、かくして青年は筆舌に尽くしがたいざわつきを覚えてぎゅうと胸を押さえた。

 力を得た時の万能感たるや、今でも忘れることはない。
 渇望していたものを得た時、まるで翼を得て存分に空を飛ぶかのごとくに振る舞った。
 帝都桜學府が持て余していた逢魔が辻に巣くう影朧どもをも蹴散らして、向かうところ敵なしとさえ思っていた。
 野次馬たちを見遣った。嗚呼――その気になれば、あるいは意図せずとも。
 己が今手にしている力は、『人を殺すのも容易い』ものなのだと。

『ち、が……う! 僕は、僕たち、は……ッ』
「出来ないもんを抱えるなら、自らに灼熱を抱えて焼き殺される覚悟は在るんだろうな?」
 青年が、制御出来ぬ己の力が遠からぬ未来にもたらすであろう『恐るべきこと』を視たと確信した双葉が、淡々と問い掛ける。
『揺らがないで、青年!』
 まるで自らをもその言葉で支えるように影朧が叫び、光線銃を双葉目掛けて放つ。
 最早未来予知の域にまで達した勘に任せて双葉が身をよじれば、ついぞ今しがたまで己が居た場所を光線が駆け抜けていった。
(「今の手法は一回しか使えないだろうから、後は勘任せしかない」)
 手強い相手だとは聞いていたが、確かに光線銃の狙いは正確であった。ただ、偶然双葉の野生の勘が尋常ならざるものであったが故に回避が叶ったのだ。
 ダンスのステップを踏むようにそのまま一回転、双葉は改めて影朧と青年に向き直りながら味方であるインディゴと距離を詰める。
「これからは援護に回ります、隙を見て攻撃をお願いします」
「それはありがたいねー、ひとつ乗らせてもらうよ」
 光の矢を無尽蔵に放つ首飾りに触れながら双葉が提案し、渡りに船とインディゴが乗り。
 銃から軍刀へと得物を変えた影朧へと、藍薔薇のダンピールは地を滑るように駆ける!
「滅ぼすのはお好きにどーぞって感じなんだけど」
『ならば、邪魔立ては無用ッ!』
 同じく影朧の少女も地を蹴って軍刀を一閃しようとするが、後方から放たれる双葉の光の矢に狙われて思うように動けない。そこを見逃さず、インディゴが間合いを詰めた。

「影朧が影朧を狩るなんて……矛盾してないかなぁ?」
『くどい……ッ!!』

 投げ掛けられた言葉のみならず、インディゴという存在そのものを斬り払うように一閃。
 別の猟兵に既に指摘され、一度は青年の存在を以て否定したはずのことだ。
 ――それでもなお、足元がぐらついてしまったのは何故だろう?

「揺らいだね」
 くすくす、と。嘲笑うような声と共に発動するのは【絶える事無き血の渇望(モード・ヴリコラカス)】。
 影朧の肩を掴むや、インディゴが本能のままに少女の白い首筋にその牙を突き立てた。
『――!!』
 生きたまま、いや、影朧の存在に生を当てはめて良いものか迷うが。まるで生者のように赤き血潮を巡らせる者から、インディゴは確かにその甘美なるものを啜る。
 いっそ己ごと軍刀で背中からこのとんでもない男を貫いてやろうかと影朧の少女がその腕を振り上げた時、頃合いかとインディゴの方から口を離してとんと少女を突き放した。
「ん~、若い子の血は格別だねぇ」
『この……ッ』
『な、な、何てことをするんだ! 相手は妙齢の女性だぞ!!』
 被害に遭った当事者の影朧のみならず、北大路青年までが非難の声を上げた。真っ当な抗議ではあったが、ちょっぴり彼氏面が入っているようにも思えるのが不思議だ。
 そんな声もどこ吹く風でインディゴが口元を手の甲で拭い、双葉は虹の瞳で再び影朧を見据えれば魔眼が今度は生命力を削り取る。
 首筋を押さえて必死に地を踏みしめる影朧に、双葉は容赦なく斬り込んでいく。
 手にした大根ではなく、言葉ひとつで。

「闘うことを選んだなら、殺される覚悟はあったろ?」

 ――覚悟。

 あったのだろうか、己に。既に一度殺された身である己がこうして影朧となってまで存在するのは、それが足りなかったからか。
 嫌、いや。今度こそ成し遂げるその日まで、死にたくない。
 だからこうしてこの人に手を差し伸べたの、だからどうか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

桜枝・冬花
……影朧となった少女も、嘗ては純粋に
帝都の平和を願っていたのでしょう

その願いがいつしか歪んでしまったとするのなら
それを正すがわたくしの役目と心得ます
必ず、お止めいたしましょう

集った超弩級戦力の皆さまが
憂いなく戦えますよう援護をいたします

通りの至る所へ鋼糸を張り巡らせ
相手にとっては身を縛る檻であり枷ですが
位置と数をお教えしておけば、皆さまにとっては足場になりえます

もちろん、その程度の小細工で完全に足を留められるとは思いません
一瞬、僅かの逡巡の間さえあれば構わない
本命はこちら
――寒花壱式・氷蔦
わたくしの足をついた場所が、氷獄の始端
壁でも床でも、或いは鋼糸を伝っても
必ずやその身を捕らえてみせます


ミカエル・アレクセイ

過去に軍を率いていた経験からくる無駄なカリスマで同じ戦場にいる猟兵を【鼓舞】して戦闘能力を向上させる事で戦闘に貢献する

その他の立ち回りは
素手の場合は合気道、武器使用の場合はドラゴンランスで敵の攻撃を捌き受け流していく
攻撃してくれて有り難いねぇ、俺は受けしか出来ないんだ
相手が自分に対して攻撃を放つ瞬間を【野生の勘】で感じ取り、スキルマスターを発動し盗み攻撃を働き、相手の攻撃によって相手を自滅させる手法を取る
悪ぃな若造、俺自身笑っちゃうしかない程の雑魚だったもんで強いやつを利用する手法しかないんだ。
だからなにかに頼るのはお勧めするが、頼るもんは全力で選べよ
袋叩きじゃねぇか可愛そうに(棒)


クロノ・ライム

「油断すると死ぬ、と彼は言いました。確かにそうです」
実戦では初めての戦闘ですが、油断しないように気をつけましょう。

影朧の光線銃は危険そうです。
「エレメンタル・ファンタジア」で味方の周りに「暗闇」の「霧」を発生させます。
味方に敵の攻撃が当たりにくくするのに使えますし、もしかしたら光線銃の威力を弱められるかもしれません。
ただ自分たちも視界が悪くなってしまいますから、必要に応じて使うという感じです。
「こんないい天気の日に使うのは気が引けるけど……仕方ありません!」
(杖を構えて霧を発生させる)



●進む者、阻む者
 ――どうなってるんだ、北大路青年が影朧と一緒にいるなんて。
 ――力を借りているとかどうのと、超弩級戦力殿は言っているが……?

 派手な喧嘩かと思いきや、事態は想像を超えて深刻であると徐々に察し始めた群衆がいよいよ事の成り行きを見守る姿勢になる。
 一度は取材を終えて帰社するつもりでいた記者たちも、踵を返したり一服していたカフェーから出てきたりとその中に紛れているものだから都合が良いのか悪いのか。
 そんな中で初陣を飾ることとなったクロノ・ライムが優雅な意匠の杖を握る手はやや汗が滲み、まずはそれを取り落とさぬようにするのが急務であった。
『大丈夫か、なあ――』
 傷も痛々しいが、何より心が揺らいではいないかと。北大路青年が影朧の少女に問えば、軍刀を杖代わりにして再び立ち上がる姿は間違いなく凜々しくあった。
『大丈夫です、少々驚いただけで……』
 そりゃあ誰だっておもむろに首元に喰らい付かれて血を吸われては驚くだろう、そっと噛み痕に触れながら影朧の少女は気を取り直して凜と前を向いた。

『覚悟なら、出来ています。今度こそ任務を果たすべく、邪魔立てする者は全て斬ると』

 明確な敵意――いや、最早殺意の域である。それを軍刀の切っ先と共に向けられ、クロノが息を呑む。
 それを力強く支えるように、二人の猟兵たちが若き聖職者の両隣に並び立った。
「……影朧となった少女も、嘗ては純粋に帝都の平和を願っていたのでしょう」
 桜枝・冬花は舞い散る幻朧桜と同じ色の瞳を影朧に向けてそう呟く。そもそも何故死と隣り合わせの戦場に身を投じたのかと言えば、ひとえにその一心からであろうに。
 でも、と。冬花が一度可憐な瞳を彩る睫毛を合わせて首を振った。
「その願いがいつしか歪んでしまったとするのなら――それを正すのがわたくしの役目と心得ます」
 猟兵として、そして生まれた地こそ違えどこの大正の世に生まれ育った者として。冬花はこの影朧と、青年と、それらが引き起こしたこの事件を――。
「必ず、お止めいたしましょう」
 そう誓って、パーラーメイド姿を戦装束として、今この場に舞い降りたのだ。

 神とは元来気まぐれなもの、という印象があるやも知れず。力を持ちながらそれを振るうことを厭ってみせたり、かと思えばふらりと現れて助力をしてくれたり。
 ミカエル・アレクセイ(山猿・f21199)も、そんな神々の一柱であった。青年の姿を取った神は、実は特にこれといった権能を持たない。
 ただ、口では面倒臭いと言いながらも何やかやでそれを捨て置けぬという気性から、今こうしてこの戦場に立っていた。
「……ま、三人集まりゃ立派な『軍隊』も同じだ。負けるこたぁない、楽に行こうぜ」
 その一言で十分だった。クロノの緊張と冬花の力みを程良く解いて、戦意を向上させたのはミカエルが一軍の将であった名残であろう。
「『油断すると死ぬ』、と彼は言いました。確かにそうです」
 初陣を前に、敵から大事なことを教えられるとは。だが、否めない事実であったから。
 クロノは翠玉を抱く杖をもう一度握り直して、いよいよ影朧を見据えた。

(「集った超弩級戦力の皆さまが、憂いなく戦えますよう援護をいたします」)
 可憐なメイド服の袖口に隠れた白魚の指が、密やかに繰る糸の名は「久遠雪」。予備動作の一切を悟らせることもなく冬花がバッと鋼糸を展開すれば、それはたちどころに大通りの街灯という街灯に絡み付く張り巡らされていく。
『な、何が起きた』
『不用意に動かないで下さい――これは、罠を張られました』
 不可視に等しい鋼糸の包囲網に、迂闊に触れればあっという間に切り裂かれよう。
 元を正せば一般男性である北大路青年には当然見えず、歴戦の影朧からしても気配のみ辛うじて察することができる程度の危険な包囲網。
 それは冬花の思惑通り相手の身を縛る檻となり、ことごとくその動きを封じるのだ。
 鋼糸を繰り続けながら、冬花がクロノとミカエルに囁く。
「……わたくしの真横の柱から数えて五本目までの、両側の街灯へと互い違いに」
 言われてみれば、晴天の日差しに溶け込むようになっていた鋼糸も何となく浮かび上がってくるような心地である。そこにあるのだ、と教えられるだけでも、こうも違うとは。
「足場としてもお使いいただけます――どうぞ、ご存分に」
 枝に咲いた寒緋桜をふんわり揺らして、冬花が笑んだ。最前線で戦働きを為してこそのパーラーメイドというもの、その本領を存分に発揮する桜隠しの乙女であった。
(「あとは、幻朧桜の加護を祈りましょう」)
 はらはらと舞う桜の花弁は、もしかすると冬花の鋼糸に引っ掛かり位置を知らせてしまうやも知れぬ。だが、気ままに舞う花弁たちは気を利かせてくれるやも知れぬと。
 この幻朧桜が、かつて誓いを立てたであろう少女の成れの果てと超弩級戦力のどちらに味方するか。今はただ、場に立つ者たちの動向と共に、見守るばかりであった。

 下手をすればあっという間にバラバラになる、そんな事態に本当に巻き込まれるなど。
 北大路青年がガチガチに固まって動けずにいる一方で、影朧の少女は軍刀を持つ右手を引いて左手の光線銃を握りしめた。
(『動けぬなら、此処から狙うまでです』)
 目を凝らして、不自然な空間の歪みを見極めようとする影朧。徐々に違和感を覚える箇所を見出し始めて、銃口を冬花に向けるに至る。
 だが、それ以上を許さぬ者が居た。凜とした表情で杖を向けたクロノだ。
「くらくもよ、霧となりて――【エレメンタル・ファンタジア】!!」
 属性は『暗闇』、現象は『霧』。生み出されるのは、晴天の日差しを遮る闇の世界。
(「こんないい天気の日に使うのは気が引けるけど……仕方ありません」)
 誰だって、鬱々とした暗がりよりは陽が差す陽気の方が好きだろうに。猟兵たちが駆ける世界の中には、実際に夜と闇に支配されて生気を失った人々もいるのだから。
 それだけではない、この術式の展開によって敵だけでなく味方の攻撃にも支障が出てしまってはいけないと、若き聖職者は内心で様々な懸念を抱えていたのだ。

『くっ……視界が』
『もういい、適当に撃ってしまえよ!』
『そうは行きません、北大路青年。私の在りよう次第では、貴方までが』

 影朧を滅ぼすために影朧の力を借りている、その時点で既に群衆の間には動揺が走っているというのに。だが、影朧の少女には自分なりの矜持があるが故に。
 己の力を欲して、空虚だった使命感に再び意味を与えてくれたこの青年のために。
 邪魔をするものを許しはしないが無法だけはすまいと、影朧は心に決めていたのだ。
 なればこそ、無闇に光線銃を放って群衆への被害が及ぶことを恐れたのだ。

(「あの危険な光線銃は封じることができましたが……」)
 それからの攻め手をどうするか、クロノはすぐ傍に立つミカエルをそっと見遣った。
「……攻撃してくれれば有難いんだがねぇ、俺は受けしか出来ないんだ」
「「えっ」」
 クロノと、そして冬花の声が重なった。もしかしなくても、ここには支援型の戦法を取る者たちしかいないというのか――!?
「い、今なら攻撃し放題ですよ!」
 見えてないし、動けないし。そうクロノが影朧の方を指させば。
「え、ええ、そうですとも! 後顧の憂いは断ってみせますので!」
 冬花も手を動かせない分、言葉ひとつでミカエルの背中を押そうとする。
「ええ……面倒臭ぇ」
 本音を隠そうともせず、しかしミカエルは一歩踏み出し影朧の方へと歩み出す。
 冬花が生み出した鋼糸を足場にして軽やかに進む姿は、やはり埒外の存在であり。
 クロノが生み出した闇の中でも、不思議と最低限の視界は保たれていた。
 そうして対峙した影朧の少女は、いつ仕掛けられても良いように軍刀を構えて迎える。
『……こうなったら、腕の一本くらいくれてやります』
「まあ、そう言うなよ。試しに動いてみろ、今ならやれるかもだぜ」
 着物の合わせに片手を突っ込んだ姿でまるで戦う様子がない男の言葉に、影朧は訝しみながらも軍刀を最低限の動きで刺突できるように構えた。
 後方ではミカエルの意図を汲んだ冬花が、一本だけ鋼糸の包囲をそっと解いたことに果たして影朧は気付いただろうか。
『ならば――!!』
 突進するかのように思えただろうか、しかし影朧の少女は右腕を最低限の動きで振るい軍刀を鋭くミカエル目掛けて投げつけたのだ。
 哀れ串刺しかと思われたその時、ミカエルが懐から抜いた手の上には黒い竜の姿。
 それはたちまち黒い槍と化しミカエルの掌中に収まると、鋭い金属音と共に軍刀を影朧の方へと弾き返した。
『ぐ……ッ!?』
 ただ弾いただけでは、こうはなるまい。そう思った時には、戻ってきた軍刀が深々と肩口に突き刺さっていた。
 それはミカエルが影朧の攻撃の力を『盗み取り』、意のままに操って返したからだ。
 暗闇の世界の中で確かな手応えを感じたミカエルは、槍を竜に戻しながら低い声で言う。
「悪ぃな若造、俺自身笑っちゃうしかない程の雑魚だったもんで」
『ほざけ、超弩級戦力のくせに何を言う!』
 猟兵であることが既に羨望の対象である、そんな北大路青年が反駁するも。
「――強いやつを利用する手法しかないんだ」
 力あるものどもの間にも色々あるのだが、この青年には到底理解できまいと思いながら。
「だからなにかに頼るのはお勧めするが、頼るもんは全力で選べよ」
 ミカエルの蒼眼が鋭く北大路青年を射抜いた。一瞬、言葉を失う青年。
 だが、頼られた側の影朧としては当然面白くない。
『私を――頼るに値しない存在と申しますか!』
 手痛いしっぺ返しを受けながらもなお闘志を失わない影朧が、軍刀を引き抜いて叫ぶ。

「ああ、さっきから袋叩きじゃねぇか可愛そうに」

 言葉にはまるで気持ちが籠もっていない、それこそが合図であった。
 クロノの暗闇の霧も相まって今は影朧を封じ込められているが、長くは保つまいと。
 そして一瞬、僅かの逡巡の間さえあれば構わないと。
 冬花が真に狙っていた『攻撃』が遂に発動しようとしていた。

「絡め、鎖すは闇をこそ……参ります、【寒花壱式・氷蔦(カンカイチシキ・ヒョウチョウ)】」

 かつん、と。路地に響くブーツの音を追うように、びきびきと氷が生まれる音がした。
 寒緋桜の娘の足元から生え出ずる氷の蔦花が、六花を散らし、先んじて張り巡らせた鋼糸を伝って猛然と影朧に迫り――絡み付きその身を凍らせる!
『學徒兵殿!!』
「わたくしの足をついた場所こそが、氷獄の始端にございますれば」
 メイド服の裾をつまんで恭しく一礼する冬花は、しかし強い意志の籠もった瞳で徐々に晴れゆく黒い霧の向こうにいる影朧と青年を見た。
「申し上げたはずです、『必ずお止めいたします』と」
 これ以上、影朧と青年の思い通りにはさせぬと。
 猟兵たち全員の意思を、まるで代弁するように冬花は繰り返した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

マリークロード・バトルゥール

アラン(f19285)と

透明化したまま二人で近づき奇襲を仕掛けましょ
一撃の直前、ふらり眼前に姿を見せる
學徒兵さん、注意散漫ね
微笑と共にナイフを奮い光線銃持つ手を狙う
そんな柔い持ち方だと取り落としてしまうわよ
銃も、漸く見つけた操り人形も……ね?

嫌だわ、アラン。わたくしはいつでも上品よ
従者の攻防を横目にいつもと違う外套を抱き留め景色融け込むよう再び透明に
敵死角に潜み物音と気配を消し好機を待つ

すべての注意がアランに注がれた一瞬
瞬時に透明化解いたマントを派手に投げて銃撃の囮に
早撃ちも撃ち倒す対象を見誤ったなら隙と一緒
同時に透明のまま敵懐に掛け跳び込んで急所を討つ
北大路青年との練度が足りなくてよ


アラン・サリュドュロワ

マリー(f19286)と

透明化解除からの不意打ち
姿を見せるのは喧伝の為でもあるが
元は勇敢な戦士だったのだろう?
ならばそれなりの敬意を払うべきだ

…マリー様、今少しお淑やかになされませんか
嘆息交えて外套取り、主を隠すよう覆う
学徒の娘、今救われるべきはそなたの方だ
その志しを初めて胸に刻んだ日を忘れたか!
斧刃の竜槍構え、正面から向かい
なるべく近距離で立ち回り注意を引く
もはや狂戦士か…!
だが心を無くすほど、眼に見えぬものも忘れるものだ

禍々しい刀の攻撃を【武器受け】し、反動で大きく後退
だがこれが本来の間合い
刀身目掛け【力溜め】た【串刺し】見舞う
─忠告はしていたぞ、忘れるなと
主の刃と同時に竜を咆哮させる



●忘れてはならなかったこと
 カフェーのテラス席に代金にしてはやや多めの紙幣と一輪の紅椿を残して去ったアラン・サリュドュロワとマリークロード・バトルゥールは、超常に身を委ねてその姿を景色に溶け込ませたままそっと影朧と青年の様子を窺っていた。
 まだ両の手で悠に数えられる程の猟兵と刃を交えただけだろうに、既に幾つもの傷を負っている影朧は、やはり超弩級戦力の前では無力なのか、それとも。

『どうしたんだ、學徒兵殿……僕に貸してくれていた力は、もっと』
『……すみません、決して手抜かりはないのですが』

 今やその仮初の力を影朧本人に返した北大路青年はただその身を案じるより他はなく、かつて所属した帝都桜學府からは今や『阿傍學徒兵』の個体名でのみ呼ばれる影朧の少女は己を圧倒する超弩級戦力の波状攻撃の前にただ致命傷を免れるのが精一杯。
 しかしそれでも、影朧は己の空虚を埋めてくれた存在のためにと立ち上がる。
 青年もまた、ラムプの炎が消えぬようにと真新しいスラックスが汚れるのも厭わずに膝をつき、ラムプを守るように屈み込む。
 そんな二人を、群衆は密やかに交わす言葉をさざ波にして囲んでいた。
 誰一人として正面切って声を掛けなかったのは、そう――勝敗が決していないから。
 群衆は今や超弩級戦力と影朧との決戦を見届ける観客となっていたのだから。

(「ならば、魅せて差し上げますわ」)
(「御意に、殿下」)

 まず先に、影朧が弾かれたように虚空を見た。それにつられるように青年も顔を上げて、そして二人は突如として『現れた』騎士と姫君の姿を瞳に映す。
 アランに背中を守られるように立ったマリークロードが逆手に構えた、装飾短剣の刃が光る。
「――學徒兵さん、注意散漫ね」
『姿隠し……!!』
 気配には気付いた、だが正確な位置までは掴めなかった。そこを突かれた。
 左手の光線銃を向けようとして、しかし銃を握る手を短剣の柄でしたたかに打ち据えられたものだから、痛みに思わず銃を手放してしまう。
「そんな柔い持ち方だと取り落としてしまうわよ」
 マリークロードが短刀を持った手を口元に添えてくすくす笑んで、しかし視線は油断なく影朧の少女を見た。
「銃も、漸く見つけた操り人形も……ね?」
『クソっ……!』
 己の下まで転がってきた光線銃と影朧とを交互に見て、後方に控える北大路青年が忌々しげな声を上げる。
『様々な手で容赦なく攻めて来る……流石は超弩級戦力です』
 いまだ痺れる左手を軽く振って、影朧の少女が騎士と姫君とを睨み返した。

 二人が透明化を敢えて解除してからの不意討ちを選んだのは、喧伝が主目的。
 だが、影朧も元は勇敢な戦士だったと言うではないかと、それなりの敬意を払うことを騎士たるアランが望んだのだ。
「學徒の娘、今救われるべきはそなたの方だ」
『救い、ですって』
 ざわ、と。アランの言葉に肌が粟立つような心地を覚えた影朧がぼそりと返す。
 右手に握った軍刀の淡い桜色の輝きが妖しく強まり、まるで花弁を散らすように燐光が舞い始めた。
「――その志しを初めて胸に刻んだ日を忘れたか!」
『煩い、煩いうるさいうるさい……!!』
 サクラが、散る。そこにあるのは『救い』を、『転生』を拒む意思の具現。
 桜の魔性と化した軍刀はまるで果たせなかった使命を今度こそと願う意思となり、それ以外の一切合切を代償として影朧の戦闘能力を強化するのだ。
 抵抗は承知の上と、アランもまた正面切って斧刃の竜槍を構えて立ち向かう。
 軍刀を魔性に変えて操る影朧は、先程お転婆な姫君が打ち据えた左手で顔を覆っていてその表情が窺えない。ただ、隠すということは――見られたくないということなのだろう。
「アラン・サリュドゥロワ――いざ参る!」
 正々堂々と名乗りを上げて、斧槍を大きく振るって影朧と桜の魔性に迫る。
 実体があるのかどうかも怪しい魔性が、確かな手応えをもって刃を受ける。
 そのすぐ後ろには、影朧の少女が表情を隠したまま立っていた。
「……遠き国の騎士よ、名乗る名を持たない私を許して下さい」
 がきィん! 剣戟の音さえ響かせて、魔性と一度距離を取ったアランは、構わないとばかりにゆるりとひとつかぶりを振った。

 アランは敢えて愚直に正面から挑みかかっては、一進一退の攻防を繰り返す。
 それはひとえに、影朧と青年の意識を自身へと集中させるためであった。
 故に、外套をおもむろに取り払ったのも『立ち回りの邪魔になる』風に見えたろう。
(「……それにしてもマリー様、今少しお淑やかになされませんか」)
 互いにしか聞こえぬ程度の囁き声と共に、脱いだ外套をバッと広げる。
 手を離せば、するりと滑り込んだマリークロードが包み込まれるよう。
(「嫌だわ、アラン。わたくしはいつでも上品よ」)
 目線を向けぬのは刃を交えている最中のこと、決して無礼には当たらない。優雅に、かつごく自然な所作で、外套もろとも再びマリークロードがその姿を景色に融け込ませた。
 ここまでの流れに、影朧も青年も何一つ気付いていない。首尾は上々とばかりに、マリークロードは密やかに従者の奮戦の合間に影朧の死角へと潜むのだ。

 ガツン! と、ひときわ強烈な衝撃が斧槍の柄を伝って響く。
「もはや狂戦士か……!」
 アランが漏らした言葉は無意識か、それともこれさえ気を惹くための台詞か。
『私は成し遂げる、邪魔はさせない……!!』
 指と指の間から一瞬覗いた影朧の瞳は、魔性と同じ禍々しいまでの桜色をしていた。
「だが心を無くすほど、眼に見えぬものも忘れるものだ」
『忘れてもいい! 私にはもう要らないものだから!!』
 慟哭にも近い影朧の叫びと共に、これまでで一番重い一撃がアランを襲った。咄嗟に斧槍を構えて受け身の体勢を取るも、互いがぶつかり合った瞬間に反動で大きく後退させられてしまう。
 だが。それで良かった。
 己が有利を感じた影朧の意識が、いよいよアランにのみ向けられるその時を待っていた。
 マリークロードが瞬時に透明化を『一部だけ』解いて、常とは異なる外套をここぞと見せつけるように派手に放る。
『學徒兵殿!!』
『はいッ!!』
 北大路青年が足元に転がってきていた光線銃を影朧に向けて投げて渡せば、それを見もせずに左手で受け取って再び浮上した気配目掛けて引鉄を引く。
 だが――光線が撃ち抜いたのは仕立ての良い外套。折角の早撃ちも、撃ち倒す対象を見誤ったなら隙も同然。
「北大路青年との練度が足りなくてよ」
『な……!?』
 可憐な乙女の声だけがくすくすと響く。姿見せぬ暗殺者のごとく、マリークロードが今度こそ短剣の柄ではなく刃をかざして影朧の胸元を狙っていた。
 ほぼ同時に、アランもまた斧槍を鋭く構えて魔性と化した刀身を見据えていた。
「――忠告はしていたぞ、『忘れるな』と」
『しまっ……!』
 半ば己が招いてしまった事態かと、北大路青年が悲痛な声を上げる中。
 アランの全力が込められた一撃が、桜色の魔性を刺し貫いた。

 桜色よりなお赤い鮮血が飛び散ったのと、桜色をした魔性が竜の咆哮で霧散したのはほぼ同時。
 アランとマリークロードの連携は完璧としか言いようがなく。
 それに対する影朧と青年の結び付きは、どう足掻いても及ばない。

 初心、志、それらをもしも思い出したならば。
 きっと己は、今の己を決して許せないだろう。
 だが、最早影朧と化した少女は、そのことにさえ思い至ることが出来なくて――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

玉ノ井・狐狛


◈UC使用――相手の放つ霊力を防御、吸収させてもらう
そして、その攻撃を真似るように返す


……さて
お兄サンよう、お望みのシチュエーションを用意してやったぜ?

“影朧を滅ぼす”、結構じゃァねぇか
ほかの猟兵連中なら、言葉を尽くして道理を説くのかもしれないけどよ
アタシはむしろしたいようにさせてやらァ
ほら――奪ったばかりの急拵えではあるにせよ、影朧のチカラを使うやつが目の前にいるぜ?
▻挑発


戦意が萎えるにしろキレるにしろ、操る影朧に伝われば動きも鈍るかもしれない

しばらく▻時間稼ぎをしてるうちに、お兄サンも落ち着いてくるかもな?
なにせ、借りモンで調子に乗ってる……自分と同じようなやつを相手にするんだからなァ



●外套を取り払うものは
 じわじわと、着実に。最初こそ驚異的な生命力で修復させることが出来ていた影朧の、癒えぬ傷が増えていく。
 このままではと北大路青年が焦りの色を見せる中、影朧の少女はうっすらと脂汗を浮かべながらも笑んで光線銃を握り直した。
『何を言われようと、気にしないで下さい』

 貴方は自分を、私なくしては無力な存在だと思っているかも知れませんが。
 貴方は確かに、私に戦う意味を与えてくれました――それで、十分ですと。

 なればこそ、この窮地を乗り越えなければ。
 戦って戦って、今度こそ叶えられなかった悲願を果たさなければ。
「はい、ちょっとごめんよ」
 その不屈の意志で、観客という名の群衆を掻き分けて姿を見せた玉ノ井・狐狛を目視すると同時に、影朧は光線銃の狙いを定めて引鉄を引いた。
「……って、いきなりかい!」
 まるで見敵必殺だと驚く間も与えられない即射に、しかし狐狛は信じられない反応で返す。全身を不可視のオーラで覆い、光線を吸収してみせたのだ。
 その超常の名は、【ぼったくる貯金箱(スティーリング・ドネイション)】。一見不可思議にも思えるが、その名に恥じぬ活躍をこれから披露することとなる。
 吸収した光線から攻撃手段そのものをそっくりそのまま我が物とした狐狛は、光線銃を持たぬ代わりに指鉄砲を形取り、その指先を影朧の頭上高くに向けて――ばぁん!
『な……ッ』
 誰をも傷付けない軌道で飛んでいく光線を見遣って、影朧が驚愕の声を上げた。
『どういうことだ、何をした!?』
 北大路青年もまた、妖狐の娘に食ってかかる。
 だが、狐狛はそれに答えることなく、逆に北大路青年に語り掛けてみせた。

「……さて、お兄サンよう。お望みのシチュエーションを用意してやったぜ?」
『……は?』

 唐突に切り出されて、青年は変な声を上げることしか出来ず。それもやむなしと狐狛が苦笑いめいた表情で肩を竦めた。
(「ほかの猟兵連中なら、言葉を尽くして道理を説くのかもしれないけどよ」)
 実際、その通りであった。刃を交えることを避けようとしたり、あるいは真っ向から立ち向かい力で圧倒しようとしたり。
 少なくとも――『影朧と青年の思惑を阻む者』がほとんどであった。
(「アタシはむしろ、したいようにさせてやらァ」)
 どこかの世界に『北風と太陽』という物語があるのを、ご存じだろうか。
 それになぞらえる訳ではないが、狐狛は敢えて好きにさせてやることにしたのだ。

「ほら」
 ――奪ったばかりの急拵えではあるにせよ。
「影朧のチカラを使うやつが、目の前にいるぜ?」

 指鉄砲の人差し指を振り振り、狐狛が挑発するように空いた掌を胸元に当てる。狙いは此処だぞ、そう言わんばかりに。
『こいつ……ッ! 學徒兵殿、いっそ望み通りに』
『いえ……これは明らかな挑発です、それに……』
 そう。今の狐狛には、己が持ち合わせるいかなる攻撃も通じない。
 先程の面妖なオーラが持つ効果を、そして狐狛の真意をも理解してしまった影朧は、激高する北大路青年の感情を受けたが故に冷静さを保つことが出来たというのだから、何とも皮肉な話である。
『……分かった、君がそう言うなら』
 超弩級戦力のいいようにされるのは業腹だが、戦うのは己ではなく影朧の少女だ。
 その少女が今は矛を収めるというのだからどうしようもなく、青年は顔を背けた。
(「おや、お兄サンも落ち着いて来たかい?」)
 狐狛はその言葉を敢えて口にせず、間合いを保ったまま様子を窺っていた。
 こちらを直視しないのは、悔しさからだけではないだろう。

(「なにせ、借りモンで調子に乗ってる……『自分と同じようなやつ』を相手にするんだからなァ」)

 後ろめたいことがある者ほど、己が映った鏡を見たがらないのと同じこと。
 顔を背けたままの北大路青年は、爪が掌に食い込むほどに拳を握っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

荒谷・つかさ
・POW対抗

気付くのが遅いわね。
ともあれここからは、お説教の時間と行きましょうか。

敵の武装は軍刀と光線銃で遠近バランスよく対応
しかし、至近距離……即ち拳の距離に有効打がない
なのでフェイントをかけつつ一気に距離を詰め肉弾戦に持ち込む
この際光線銃を持つ方の腕の方に常時回り込むことでまともに武装を使わせない
後は持ち前の「怪力」と技量のみで腕を捻り上げ、武器を取り落とさせそのまま関節技に持ち込み肉体の破壊と捕縛を狙う

借り物の力で良い気になってる、甘ったれのお前に教えてあげるわ。
正しき鍛錬を真の地獄を見る程積めば、この通りユーベルコヲドなんて使わなくても戦えるの。
お前は鍛錬の方法を間違えた、それだけよ。


柊・はとり


奴に現実を叩きつけるには
俺の身体はそう『都合がいい』
見せてやるよ
あんたの羨む超弩級戦力ってのをな

影朧の説得は行わないが邪魔もしない
俺個人としては望み通り終わらせてやりたい

イカロスの苗床を発現
…この時点でクソ痛えが
【空中浮遊】して間合いを計りつつUC【第一の殺人】を発動
見てんじゃねえよ
野次馬は【殺気】で追い払い巻き込まない配慮を

空中から【氷属性】の【全力魔法】を放ち
桜を凍らせ敵に付与された強化を鈍らせる
頭が無事な限りは何発でも
動きが鈍れば距離をつめ凍った箇所を【鎧砕き】

なあ北大路
選ばれるってコレだぜ
なんとか言ってみろよ
なあ
なあ
なあ!!

女も俺も酷い有様だろうな
否定も肯定もしない
奴の答えが聞きたい



●はらわたをぶちまけるときがきた
「……どうする」
「……考えがあると言えば、あるわ」
「なら、俺も好きにさせて貰うさ」
「ええ、お互い好きにしましょ」

 羅刹の角持つ女と、首に継ぎ目を持つ男が言葉を交わす。
 これより始まるは、圧倒的な暴力による『蹂躙』である。

『借り物の、力』
 北大路青年が握り拳を開いて掌を見る。爪が食い込み赤くなった掌を。
「気付くのが遅いわね」
 抑揚のない声で荒谷・つかさが言い放てば、そこに並び立つ柊・はとりもまた淡々と言葉を投げた。
「見せてやるよ、あんたの羨む『超弩級戦力』ってのをな」
 見れば、首だけではない。はとりの露出した肌のそこかしこには明らかに不自然な継ぎ目が見えるし、服だってどす黒くなった血が滲みそこかしこが痛んでいるではないか。
(「奴に『現実』を『叩きつける』には、俺の身体は、そう『都合がいい』」)
 皮肉なものだと思わなくもないが、今はそれこそが事件解決への最適解。だからはとりは唇をうっすらと開いて、不敵に笑んでみせたのだ。

『北大路青年』
『……分かっているよ、揺らいではいけないと君は言った』
 今や互いの存在こそが己を定義づけている、どちらかが欠けた時点で破綻する。
 最早退くことは許されない、退いてしまったら――嗚呼、想像もしたくないと。
 そう、悲壮なまでの決意でつかさとはとりに対峙する影朧を、まずはつかさが冷静に分析する。
(「敵の武装は軍刀と光線銃で遠近バランスよく対応。しかし、至近距離……即ち拳の距離に有効打がない」)
 要するに、ステゴロに持ち込めばこちらのものだという結論である。
 そこへ、はとりが視線を影朧に向けたままぼそりと告げた。
「影朧の説得は行わないが邪魔もしない、俺個人としては――」
「きっとあなたと同意見だわ、ともあれここからは、お説教の時間と行きましょうか」
 つかさの返しに、はとりは無言を以て答えと為す。
 転生したくないのならばここで死ねよ、誰かが救おうとするなら勝手にしろよ。
 ――どのみち、北大路青年には『分からせなければならない』のだから。

 ばきばきばきばきッ!!!
 およそ人体から発せられるものではない凄絶な音が響き渡るや、苦痛に顔を歪めたはとりが氷の双翼を背負って宙を舞った。陽の光を浴びてきらきらと、氷翼が煌めく。
(「あああ、この時点でクソ痛え」)
 意思持つ氷の大剣が強制的に生じさせる氷の翼は、発現時に拷問かと思う程の苦痛をはとりに強いるのだから厄介なものである。
 だが、優秀なるAI「コキュートス」が必要だと判断しただけあって、宙を舞うことで十分な間合いを得ることが出来たはとりはユーベルコードを発動させようとして――。

「見てんじゃねえよ」

 本音半分、被害の軽減半分でたっぷりの殺気を込めた声と視線で群衆を射抜いた。
 これにより、一部の野次馬根性が強いものどもを除いたほとんどの一般人が退いていく。ここから先の命の保証はないが、自己責任とも言えよう。
『撃ち落としてみせましょう――私の、私たちの邪魔はさせません!!』
 影朧が軍刀をかざせば、桜色の輝きが満ちて魔性が顕現する。意識が中空のはとりへと向いた隙を突いて、つかさがおもむろに地を蹴った。
「私のことを、お忘れではないかしら?」
『學徒兵殿、女が!』
 北大路青年が先の失敗を反省し、必要最低限の声出しのみに留める。戦の素人が余計な口を挟めばどうなるかは、ついぞ先程思い知ったから。
『この……ッ』
 軍刀を魔性に変えて操る右手ではなく、執拗につかさが狙うのは側面――特に、光線銃を持つ左手の方だ。
 右手の魔性をこちらに向ければはとりが迫るし、左手の銃はこの間合いに入られては撃てないも同然というもの。

「つ か ま え た」

 そうして遂に、宣言通り、つかさが光線銃を持つ左の腕をがっしと掴み上げた。
『痛ッ!?』
 訓練を積み、場数を踏んで来た影朧の少女が思わず声を上げてしまう。それほどに、つかさの掴みからの捻り上げは強烈なものであった。
 ぎりぎり、ぎりぎり。まるで本当に音がするかのように、見るからに有り得ない方向へと腕が曲がっていく。手にしていた光線銃は、とうの昔に取り落とした。
『止めろ、それ以上は!』
 北大路青年の懇願するような声を遠くに聞きながら、影朧は痛みに耐えながら思う。

 ――ユーベルコヲドを、使っていない!?

 そう。つかさは、どんな超常にも頼ることなく。
 己が腕ひとつで、影朧を相手取りその腕をへし折らんとしているのだ!
「このまま、極めさせてもらうわね」
 つかさが自身の左上腕と前腕を用いて、影朧の肘関節を宣言通り極めた――肘巻込。
 これはユーベルコヲドではない、紛れもない『人間の所業』である。
『……ッ!!』
 折れたか、あるいはそう錯覚したか。激痛が影朧の左腕を駆け抜け、両脚から力が抜けてその場に頽れる。
 頃合いかと、つかさが影朧を放り出すように腕を放す。最早影朧には興味が失せたとばかりに、次に視線を向けた北大路青年の肩が跳ねた。
『な、な……』
「借り物の力で良い気になってる、甘ったれのお前に教えてあげるわ」
 羅刹の女の赤茶の瞳が、尋常ならざる気迫で以て青年を射抜いた。

 声を張り上げるつかさの上空で、はとりがいよいよ超常を発動させる時が来た。
 純度の高い氷を思わせる蒼の瞳が映したのは己が左手、そこにおもむろに喰らいつく。
(「ああ痛え、本当に痛え――こんなのがいいってのかよ、なあ、おい」)
 喰いちぎられた左腕を代償として、【第一の殺人『人形山荘』(ニンギョウサンソウノサツジン)】は成立する!
『吹雪……!?』
 左腕をだらりと垂らし、両膝をついた影朧が天を仰ぐ。桜吹雪をも呑み込むように、白い雪が猛然と渦巻いていた。

「正しき鍛錬を、真の地獄を見る程積めば、この通りユーベルコヲドなんて使わなくても戦えるの」
『地獄……』
 呆然と呟く北大路青年が見たものは、正しく『地獄を見た』人間の姿だった。
 愛するものを失って、取り戻す為に死に物狂いで足掻いたものが至った極致。

「避けんじゃねえぞ!!」
 氷の力を全身にみなぎらせて、はとりが叫ぶ。呼応するように、舞い散る桜が次々と凍って氷片と化し、膝をつき呆然とするばかりの影朧を、そして右手の魔性を痛めつける。
『ぐぅ……!』
 反撃を試みるも、左腕の激痛があまりにも酷くて狙いが定まらない。
 そうして徐々に身体が冷えて、凍てついて、立ち上がることさえままならない。

「お前は『鍛錬の方法を間違えた』、それだけよ」
『――無茶苦茶だ!』

 ごうッ!!!
 吹雪は遂に、影朧のみならず北大路青年の元にまで届く。
 つかさをも巻き込まん勢いではあったが、敢えて留まる。
 青年が見上げれば、天高く舞い上がり氷の翼を得た少年と目が合った。

「なあ北大路、選ばれるって『コレ』だぜ」
『……ッ』
 息を呑む。身体中継ぎ接ぎだらけで、左腕は喰いちぎられ、服もボロボロで。
 凍てついた影朧の左腕を、地上に舞い降りたついでのように無造作に砕いて。

「なんとか言ってみろよ」
『……ぁ』

「なあ」
『ぁあ……』

「なあ」
『……や』

「なあ!!!」
『止めろ……!』

 ああ、頼りの影朧も、恐るべき猟兵たちも、どちらも『酷い有様』なものだから。
 その全てから目を背けたくて、耳を塞ぎたくて、北大路青年は頭を抱えて叫んだ。

 ――これが、あなたがゆめみたものの、ほんとうのすがた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ティオレンシア・シーディア
予想はしてたけど、「中身」はやっぱりそっちの類かぁ。
七生報国ってんならちゃんと生まれなおしてほしかったんだけどなぁ…

多分に勘とか経験の領分になるんだけど。正式な流派のほうが、体系化されてる分起こりも掛かりも〇見切りやすいのよねぇ。むしろ我流とか崩しの入ったほうが癖があって面倒かしら。
手元・足元・柄頭に鍔元、●的殺で〇先制攻撃して徹底的に邪魔してやりましょ。

孫子に曰く。「彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず」…これは流石に知ってるかしらぁ?これ、続きがあるのよぉ。
「彼を知らず己を知らざれば、戦うごとに必ず殆うし」――良かったわねぇ?今まで運よくなんとかなっていて。


氏家・禄郎
いけないなあ、女をかどわかしては?

さて、私の仕事をしよう
お嬢さん、君のUCは軍刀にリソースを割く方法だね、つまりはね……君自身がおろそかになる
『戦術』による一撃から【闇に紛れる】よ
人々の影、ラムプの光が作る影、心の闇、隙間は沢山ある
そこから【狙撃】を繰り返すよ
どんなに軍刀が遠くを狙う魔性だとしても本人を狙い続ければ、余裕はなるくなる。

おっとギムレットが必要だったね
「安心したまえ、君は転生させない、その使命を以って戦いを全うしてくれ」
肯定され、転生を拒む必要が薄れた場合、君は力を発揮できるか?

そして、北大路君
例え兵士でも、例え女でも
もう充分に生き、尚も迷う人間だぞ
君が諭さなくてどうする?



●銃と孫子とカクテルと
 影朧は左腕を砕かれ、最早再生も叶わない。
 北大路青年はあまりにも衝撃的な出来事から、未だ立ち直れずにいる。
 それでも、超弩級戦力の攻め手が緩むことはないのだ。

(「予想はしてたけど、『中身』はやっぱりそっちの類かぁ」)
 かつんと靴音を立てて、ティオレンシア・シーディアが糸目はそのままに眉根を寄せて思案する。
(「『七生報国』ってんなら、ちゃんと生まれなおしてほしかったんだけどなぁ……」)
 それは、言葉通りの意味。七度『人として』生まれ変わり国に報いるべきならば、今の影朧という在りようは歪にも程があろう。

「いけないなあ、女をかどわかしては?」
 冗談めかした男の声が続く。ロングコヲトを翻して、声の主――氏家・禄郎が姿を見せた。
『違う、僕は』
『青年、どうか落ち着いて』
 左腕を失ってなお、影朧の少女は震える青年を宥める側に回っていた。
 伊達に戦士であった訳ではないという所だろうか、二人の銃使いは互いに顔を見合わせてひとつ肩を竦めた。
「さて、私の仕事をしよう」
 そうして先に一歩前に踏み出したのは禄郎の方だった。ティオレンシアは敢えてそれを見送りながら愛用の六連装リボルバー「オブシディアン」に手を添える。
「お嬢さん、君のユーベルコヲドは『軍刀にリソースを割く』方法だね」
『……そういう貴方は、随分と戦慣れしているようにお見受けしますが』
 挨拶代わりの腹の探り合いは、互いに鋭い。
「つまりはね……『君自身がおろそかになる』」
 律儀に答える必要などないのだから、遠慮なく己の言いたいことを言えばいい。
 禄郎に必要なものは『様子を見る』こと。そうして発動する【戦術(タクティクス)】が一撃くれてさえやれば、あとは覚えた癖や戦術を頼りに何度でも弾丸は命中する。

 禄郎が左手でコヲトを軽くめくって胴に括ったリボルバー「エ式回転拳銃」を抜き放つのと、影朧が看破されながらもなお果敢に軍刀で斬り掛かるのが、ほぼ同時。
 それをこの場の誰よりも速く見抜き見切ったティオレンシアが、絶妙な位置取りから禄郎の後方より精密なる連射を放った――それこそが【的殺(インターフィア)】!
『あぐ……ッ』
 右の手に、左の足に、軍刀の柄頭に、鍔元へと。
 狙われてはただでは済まぬ箇所ばかりを徹底的に狙い、攻撃の起点を潰すのだ。
 たまらず姿勢を崩した影朧へと、禄郎は振り返らずにその右肩を狙って一撃。
 辛うじて軍刀を取り落とさずにいるのが奇跡としか言いようがない状態で、しかし片膝をつく影朧の前に立つのは――ティオレンシアただ一人。
(「人々の影、ラムプの光が作る影、心の闇――『隙間』は沢山ある」)
 果たして探偵屋の姿は闇に紛れてかき消える。日中だろうがお構いなしだ。
 リボルバーの銃口を向けながら、靴音を立ててゆっくりとフィクサーの顔をした女が影朧へと近付いていく。
「これは多分に勘とか経験の領分になるんだけど」
『……聞きましょう、狙撃手』
「正式な流派のほうが、体系化されてる分起こりも掛かりも見切りやすいのよねぇ」
『私が、桜學府で学んだということが徒になったということですか』
 そこまでは言わないけどねぇ、と。ティオレンシアが息を吐きつつも続ける。
「むしろ我流とか、崩しの入ったほうが癖があって面倒かしら」
『……なるほど、今後の参考にします』
 キッと顔を上げて女を見据えた影朧の桜色の瞳は、いまだ闘志を失わず。
 一閃された軍刀を、飛び退ることでかろうじて回避するティオレンシア。
 入れ替わるように、どこからともなく銃弾が影朧の脇腹付近を狙うのを察して、こちらもすんでの所で軍刀をかざして弾き返す。
 まばらながらに残る人々の影から、次は灯り続ける『籠絡ラムプ』が落とす影へと。
 禄郎が誰にも気付かれずに移動して射角を変え、今度は右の腿を狙い薬莢を飛ばす。
『どこ、から……!?』
「あらまぁ、これはこれで随分とエグいわねぇ」
 味方で良かったわぁ、そう言いながらティオレンシアは片手を頬に当てて見守る。
 驚くべきことに影朧はギリギリで軍刀での回避を成功させ続けていたが、六発目――リボルバーの最後の一撃が本気で頭部を狙った時に、脳漿をぶちまけることだけは免れたが、軍帽が派手に飛ばされた。

 中折れ式の拳銃に銃弾を込め直し、禄郎が最後に潜んでいた影――北大路青年の真横からすいと姿を見せて、よくぞ凌いだとばかりに軽く手を打ち合わせた。
「おっと、ギムレットが必要だったね」
『まだ、だ……』
 絞り出すような声で、北大路青年が呻いた。
『まだ、その時じゃない』
「元気そうじゃない、それじゃあ一つ聞いてもらおうかしら」
 禄郎の言わんとすることを察した青年が抵抗を見せると、ティオレンシアが語り出す。
 ――まるで、冥土の土産にでもさせるがごとく。
「孫子に曰く。『彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず』……これは流石に知ってるかしらぁ?」
『敵と味方を良く知るなら、どんな戦にもほとんど敗れない……か』
 それなりの学はあるようだとティオレンシアがひとつ頷き、本題に入る。
「これ、続きがあるのよぉ。『彼を知らず己を知らざれば、戦うごとに必ず殆うし』」
『敵のことも味方のことも知らない……なら……』

「――良かったわねぇ? 今まで運よくなんとかなっていて」

 甘い甘い声に、ぐわんぐわんと脳を揺らされるような心地がした。
 知らなかった。確かに、知らなかった。超弩級戦力のことも、影朧のことも。
 それを、嫌というほど思い知らされた。こうして生かされているのは、温情だろうか。
 糸目の女からは、何も読み取ることが出来ない。嗚呼――僕は、何も知らないのだ。

『北大路青年……!』
 短めに切りそろえた黒髪を揺らして、影朧の少女が叫ぶ。
 そんな少女に向けて、禄郎が無慈悲に銃口を向けて言う。
「安心したまえ、君は転生させない。その使命を以て戦いを全うしてくれ」
『! 元より、そのつもりです……!』
 そちらが飛び道具なら、何度でも、弾が尽きるまで凌いでみせる。
 気概はあれど、身体に力が入らないのは何故か。見上げた男の表情は、眼鏡と帽子で巧みに隠されていた。
「肯定され、転生を拒む必要が薄れた場合――君はその力を発揮できるか?」
『それ、は』
 今度こそ軍刀を取り落とした少女から、北大路青年の方へと。
「そして、北大路君」
『……』
 禄郎の声が遠い。聞きたくないと耳を塞ごうにも、その気力さえ失われた。
「例え兵士でも、例え女でも。もう充分に生き、尚も迷う人間だぞ」
 声が、ひときわ低くなった気がした。まるで、思う所があるかのように。

「――君が、諭さなくてどうする?」
『……!』

 己のどこにその力が残っていたのか、青年が弾かれたように顔を上げて目を見開く。
 焦茶の瞳が映すのは、傷付き膝をつく少女の姿。
 ああ、己は。その力にばかり溺れて、この少女そのものと向き合ったことがあったか?
 思えば、名乗る名などないと言う言葉を真に受けて、ろくに知ろうとしなかったが。

『學徒兵、殿』
 震える声で、今呼べる唯一の名を呼ぶ。互いに、最早満身創痍。
 ラムプの灯火もいつかは尽きるように、終の時が迫ろうとしていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御桜・八重
【POW】

悲しいね。
志半ばで斃れて、悔やむあまり転生も否定して。
正義を為す一念でずっと戦ってきたんだね。
真正面で二刀を抜き放ち、二人に向かって宣言する。
「もう、こんな悲しいことは、おしまいにしよう!」

とは言ったものの、さすが歴戦の學徒兵。
桜色のオーラで護っても、気合いで攻撃を見切っても、
猛攻を凌ぐのが精一杯。
でも、きっとチャンスは来る…!

「!」
『サクラ散る』の発動を見切って懐に飛び込み、
変形した軍刀の一撃を闇刀で受けながら、
神速の八連撃を桜の魔性に叩き込む!
変形した軍刀を破壊して呪縛を破り、
強化の代償にされていた、あの人の意思を取り戻すんだ!
「わたしは、あなたをあきらめない!」
あなたの転生を!


文月・統哉
仲間と連携して戦いに臨むよ
【オーラ防御】展開
【視力・読心術・第六感】も駆使して【情報収集】
影朧の戦いの癖を読み取って
攻撃の瞬間を【見切り】
軍刀の変化に注意しながら間合いを詰めて【武器受け】
【カウンター】に炎の【属性攻撃】乗せて大鎌で斬る

死しても尚使命を果たす
そんな彼女を相手に油断なんてするものか
全力で戦って戦って戦って言葉を想いを届けたい

君は彼と共に多くの影朧を倒した
逢魔が辻すら壊滅させた
これは紛れもない事実だよ
學徒兵である君の任務は果たされたんだ
だからもう無理する必要なんてない
大丈夫、後は俺達と彼に任せて
君は君の新たな道を歩むといい

未練を『祈りの刃』で絶ち切って
転生を願い送り出す

……お疲れ様


シキ・ジルモント
◎●
北大路は俺の耳を気にしていたようだが…
…まずは影朧だ、考え事に気を取られて逃すわけにはいかない
“志半ばで斃れた者の遺志”は、俺も継いでいるのだから
恩人の遺志と共に継いだ銃を、影朧の少女へ向ける

ユーベルコードを発動
斬撃は増大したスピードで回避を試みる
回避のタイミングを掴む為、影朧の動き全てに注意を払い、間合いや攻撃の型の把握に努める

避ける事で一般人へ被害が出るなら動かず正面から迎え撃つ
軍刀へ発砲、刀を射撃で弾いて斬撃を防ぎ、体勢を崩した影朧を蹴り飛ばす
好機を逃さず、立て直す前に射撃で追撃する

力を見せ、影朧と戦える者がここにいると彼女に示す
後は任せてもらえないかと伝える為
今度こそ、転生を願って



●さくらのちかいはだれがために
(「北大路は俺の耳を気にしていたようだが……」)
 シキ・ジルモントは、記者たちの囲み取材に紛れて情報収集をしていた時のことを思い出す。しかし、恐らく今の北大路青年はそれどころではないだろう。
 どのみち、考え事に気を取られて影朧を取り逃すことがあってはならない――とも思っていたが、これまた見れば既にボロボロではないか。

(「死しても尚使命を果たす、そんな彼女を相手に油断なんてするものか」)
 だからと言って気を緩めたりはしまい、そんな猟兵たちの意思を代弁するかのように文月・統哉は思う。
 手負いの獣ほど恐ろしいものはないし、そうでなくても『全力で戦って戦って、戦って言葉を、想いを届けたい』と元より統哉は願っていたのだから。

「……悲しいね」
 この惨状に至るまで何があったかは問わずに、御桜・八重が囁くように声を掛ける。
「志半ばで斃れて、悔やむあまり転生も否定して。正義を為す一念で、ずっと戦ってきたんだね」
 影朧も、青年も、最早言葉を返さない。返せない。
 今こうして、二人揃っているのが既に奇跡なのだ。
 互いの存在を以て志を得たもの同士の行く末を決めるのは、自分たち。
 八重は二人の真正面で陽刀と闇刀とを同時に抜き放ち、凜然と告げた。

「もう、こんな悲しいことは、おしまいにしよう!」

 北大路青年が、遂に腹を括ったように地面で灯火を宿していたラムプを抱え上げる。
 左腕を失い、右肩を撃ち抜かれ、なおも軍刀を握り直す影朧の少女が立ち上がる。
『行こう――奴らを、二人でやっつけよう』
『はい――この命ある限り、私は戦います』
 灯火が揺らぎ、軍刀が煌めき、猟兵たちが銃を、大鎌を、二刀を構え。
 ――ここに、最後の戦いの幕が上がる。

『お覚悟を!!』
「ああ――出来ている」
 右腕ひとつで軍刀を振りかざして迫る影朧の動きを、シキは色素の薄い蒼の瞳で鋭く観察する。間合いや攻撃の型まで把握するには、超常の助けが不可欠だ。
 故に発動するのは、【イクシードリミット】。秘めた獣性を解き放ち、肉体の枷を外して高速戦闘に己を特化させるが――文字通り、生命を燃やす切り札でもある。
(「『志半ばで斃れた者の遺志』は、俺も継いでいるのだから」)
 影朧負傷の影響か、シキの尋常ならざる反応力のおかげか、軍刀の軌跡は容易く読めた。
『くッ……!』
 半身を引くだけで回避が可能な一撃を見送って、シキは恩人の遺志と共に継いだ「ハンドガン・シロガネ」の銃口を影朧の少女へと向けた。
 そのまま軍刀へ向けて一発、返す刀でもう一撃を狙った影朧の思惑を阻止してみせる。
 元より足元がおぼつかなかった影朧が姿勢を崩した所を見逃さず、シキが鋭い蹴りで影朧を吹き飛ばした。数度路地をバウンドして、ようやくその身体が止まる。
『學徒兵殿……!』
 ラムプを抱える北大路青年の声に応じて起き上がろうとする影朧を、そうはさせじと牽制射撃。シキの銃撃は影朧の足元に派手な弾痕を残した。

 そこへ、畳みかけるように桜色のオーラを纏った八重が二刀を構えて攻め込んだ。
『まだ、です……ッ』
 軍刀に桜色の輝きを宿らせて、顕現するのは意志を貫く魔性の姿。
 鉤爪のようなものが振るわれるのを気合いで見切るも、身体を掠めていく攻撃をオーラで防いでも、最後に残された『意志の力』の猛攻は凌ぐのが精一杯。
 それでも、八重は諦めない。好機はきっと訪れると信じて。
 ――そうして、その時は訪れた。
「!!」
 魔性の攻撃の動作を見切ることに成功した八重が、思い切って影朧の懐に飛び込んだ。
 ぐわっと迫る魔性の一撃を闇刀で受けながら、陽刀を振りかざして一撃を叩き込む!
『くッ……』
 影朧がぎり、と歯を食いしばって耐える。気力ひとつで戦う少女に、もう一人の猟兵が迫る――その動きや癖を見切るべく敢えて後手に回っていた統哉だ。
「君は彼と共に多くの影朧を倒した、逢魔が辻さえ壊滅させた――これは紛れもない『事実』だよ」
『知れたことを!』
 魔性の鉤爪が振るわれるが、それはきっと本来の切れ味ではないのだろう。統哉の黒い大鎌「宵」ががきりと受け止めて、言葉を途切れさせない。
「學徒兵である君の任務は果たされたんだ、だからもう無理する必要なんてない」
 魔性の一部を、炎を宿した大鎌の刃で思い切り切り捨てる!
 それに乗じて、八重もまた二刀で桜色を禍々しいとさえ思わせる魔性へと斬り掛かる。
「はあぁぁぁぁぁッ!!!」
 二撃、三撃――四、五、六、七、八連撃。遂には神速の域に達した斬撃が、魔性を一刀両断した勢いで軍刀にまで達し、とうとうその刃をへし折ってみせたのだ。
 ユーベルコヲド、【花嵐】。初撃さえ当たれば、あとは確実に八重桜を咲かせてみせる。

『――う、そ』
 呆然と呟く影朧に、強化の代償として失われていたものが戻っていく。
 それこそが、八重の狙いであった――転生を拒む意思と使命感以外に、秘められた思い。
 失われていた影朧の意思を、取り戻す。
 そして。

「わたしは、あなたをあきらめない!」

 ――あなたの、転生を!

 シキの銃口はいまだ少女を狙い続ける。だが、それは決して殺意からではない。
 己らの力量を示し、影朧と戦える者がここに居るのだと知らしめるためである。
「――後は、任せてもらえないか」
『……う、ぅ』
 銃を握る左腕を失い、振るうべき軍刀も失った。今の己に、何が出来よう。
 そんな事実を理解してしまった影朧の少女からは、自然と嗚咽が漏れ出た。
 やはりこの少女には、救いが必要だと。シキもまた、心から転生を願った。

「大丈夫、後は俺達と――彼に任せて」
『……!』
 事の成り行きをただ見守るばかりであった北大路青年が息を呑んだ。
 影朧の少女は、ぽろぽろと涙をこぼして統哉を、シキを、八重を見た。
「君は、君の新たな道を歩むといい」
 振り上げられた統哉の大鎌の一閃は、【祈りの刃】の名を持つ超常を宿す。
 祈り、願い、斬りつけた相手の邪心のみを消し去る、とうときもの。

「……お疲れ様」
『あ、……ぁあ』

 影朧の少女を縛っていた未練という名の忌まわしきものは断ち斬られ。
 ――三人の猟兵たちに心から転生を願われ、影朧の少女は送り出され。
 その魂の行方は、きっといつの日にか明らかになるのだろう。

 影朧の少女は、遂に最期までその名を明かすことはなかったが。
 だが、間違いなく、最期にその目に焼き付けたのは北大路青年の姿であった。
 桜色の瞳が寂しげに、しかし柔らかく笑んだ気がして、青年はくしゃりと笑んだ。
 灯火が尽きた『籠絡ラムプ』を取り落とし、路地に落として割ったのがほぼ同時。

 ――かくして騒動の原因であった影朧と、危険な兵器は舞台より降りた。
 ――さあ、後始末をしよう。北大路青年や群衆は、まだ舞台の上に居る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『籠絡ラムプの後始末』

POW   :    本物のユベルコヲド使いの矜持を見せつけ、目指すべき正しい道を力強く指し示す

SPD   :    事件の関係者や目撃者、残された証拠品などを上手く利用して、相応しい罰を与える(与えなくても良い)

WIZ   :    偽ユーベルコヲド使いを説得したり、問題を解決するなどして、同じ過ちを繰り返さないように教育する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●遺されたもの
 影朧が幻朧桜に溶け込むようにかき消えたのを見た人々が、再び野次馬として戻ってくるのが見て取れた。
 中には囲み取材をしていた記者たちも残っているあたり、隙あらば根掘り葉掘り聞き出そうとする腹積もりなのだろう。
 だが、一度叶えた夢を失ったばかりの北大路青年へ一般人が下手に踏み込めば、再び同じ過ちを犯すか、それ以上に取り返しのつかないことになるかも知れない。

 故に、超弩級戦力たちは影朧を還したあともこの大通りに残り続けていた。
 力ある者として、北大路青年を今度こそまっとうな道へと引き戻すために。

 力なき者と己を定義し、力を欲した青年。
 実際に得てみればそれに溺れて道を踏み外しそうになった。
 だが、ラムプの力で操っていたはずの影朧に心を寄せている節もあった。

 ――悪人じゃないのよ、誰も。

 グリモアベースで聞いた声が、思考の杖となりますよう。
インディゴ・クロワッサン
◎●
はいお疲れ~(【早着替え】で軍服に)
僕は影朧の血を啜りに来ただけだから、彼がどうなろうが知った事じゃないんだよね!(紛う事無き本音)
「んじゃ、僕はこれで~」
お説教とかは他の猟兵がしてくれるだろーし、僕はUC:馥郁たる藍薔薇の香 で野次馬の気でも引いとこうかなー
ま、ぶっちゃけ僕に出来る【時間稼ぎ】の類はこれぐらいしか無いからね!
取材が嫌いとか苦手とか言ってられないでしょー(笑)
「いやー、取材とか初めてだから、質問責めとか止めてよー? 」
「名前?…うーん、藍薔薇の君とかでいいよ、有名人気取るつもりないし」
「あ、これ?何とオーダーメイドなんだよ~ いやー、良い仕立て屋さんがあって良かったよ~」



●君を正すための無関心
 ユーベルコヲド使いに、なりたかった。
 人々から称賛を得て、己の存在意義を確固たるものにしたかった。
 影朧の少女と手を取り合いその願いは叶ったかに思えたが、現実はどうか。
 力にのみ溺れて傲慢に振る舞い、結果超弩級戦力のお出ましとなり。
 影朧の少女も在るべき場所へと還され今はなく、己一人が残された。

 超弩級戦力たちが己を見る目は様々だ。
 さらに遠巻きに見る人々の目もまた、複雑な色を帯びていた。
 疑念、軽蔑、落胆――きっといずれにせよ良いものではない。

 当然か、と北大路青年は自嘲する。
 どんな大義名分を得ようとも、嘘を吐いていたことに変わりはないのだから。
 こんな愚かな己だが、流石にこれより辿る末路くらいは分かる。
 そう思って、奥歯を強く食いしばった、その時だった。

「はい、お疲れ~」

 場の雰囲気を敢えて読まない陽気な声の主はインディゴ・クロワッサン。
 ぱん、ぱんと、軽やかに打ち鳴らされた手の音に、誰もが注目する。
 その姿は帝都の守護者を思わせる軍服にいつの間にか早変わりしていた。
 そうしてインディゴは他でもない北大路青年にのみ視線を向けて、笑顔で言い放つ。
「僕は影朧の血を啜りに来ただけだから、君がどうなろうが知った事じゃないんだよね!」
 ざわ、と。野次馬がどよめいた。偽りの英雄を『懲らしめた』と思われていた超弩級戦力からは、大嘘吐きへのお説教が『期待されていた』のだから。
『……そう、か』
 北大路青年自身も、心のどこかでいっそ完膚なきまでに打ちのめされたかったのやも知れない。しかし、そう都合良く事は運ばない。
 インディゴが、そんな北大路青年の意図を汲んだかと言われれば決してそんなことはなく、ただ自分に正直に、紛うことなき本音を告げたのみであったから。
「んじゃ、僕はこれで~」
 北大路青年にくるりと背を向けて、片手をひらひら。

(「お説教とかは他の猟兵がしてくれるだろーし、僕は野次馬の気でも惹いとこうかなー」)

 そうしてインディゴが向かったのは、いまだざわめく群衆の目の前。
「ちょ、超弩級戦力殿! 良いのですか、彼を捨て置いても!?」
「そうですよ、北大路めは我々を騙して」
 インディゴに声が届くと認識した者たちから、徐々に声が上がり始める。
「いやー、取材とか初めてだから、質問責めとか止めてよー?」
 あくまでも飄々とした姿勢を崩さずに、インディゴがたははと笑う。
(「ま、ぶっちゃけ僕に出来る『時間稼ぎ』の類はこれぐらいしか無いからね!」)
 そう、北大路青年を真の意味で更生させるには、まず無責任な野次より守ってやらなければならなかった。ならば、インディゴとて取材が嫌いとか苦手とか言っていられない。
 そっと発動させた【馥郁たる藍薔薇の香(オム・ファタル)】で、意図して群衆の気を己に惹き付けているのもあるが、今や完全にインディゴの独壇場だ。
「い……いやあ、お見事でした! 是非、貴方のお名前を教えて下さい」
「名前? ……うーん、『藍薔薇の君』とかでいいよ、有名人気取るつもりないし」
 サラリと適当に告げた偽名のセンスはさておき、律儀にメモを取る記者らしき人々。
「いやあ、良いお召し物でいらっしゃる! 流石ですなあ、どちらでお求めに?」
 影朧退治の褒賞金でスーツを新調した北大路に対する揶揄だろうか、それとも無理矢理にでも話題を捻り出そうという魂胆か。
 そんな問いにも、インディゴは不思議と上機嫌で答えてみせた。
「あ、これ? 何とオーダーメイドなんだよ~」
「おお! 値が張りましたでしょうに、流石は超弩級戦力殿だ!」
「いやー、良い仕立て屋さんがあって良かったよ~」
 インディゴが若い娘の影朧から甘美なる血を啜れていなければ、今頃すごい塩対応をされていたかも知れないこの記者らしき男は、運が良かったとしか言いようがなく。

(『僕なんかに、どうして』)
 そんなインディゴの背中を、北大路青年は呆然と見守るばかりであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アラン・サリュドュロワ
 ◎
マリー(f19286)と

青年へ向かう記者らを留める
こちらにおわすは、とある地の貴き方
是非この機に皆様とお言葉を交わしたいと仰せです
─どうぞ、殿下

ええ、殿下…姫は彼等のお力になりたいと願われました
神妙な顔しつつ、主に近づきすぎる輩はそっと牽制
殿下もいたく感銘を受けておいでです
この素晴らしき話は、きっと我等の故郷にも広まりましょう

さて、皆様も色々と伺いたいことがおありでしょう
殿下は寛容でらっしゃいます、何なりどうぞ
ちなみに殿下はこの都であんみつをお召しになりました


─美談か、物は言い様だな
記者に話題を提供した後、青年を横目に苦笑
全く、純粋すぎるのも問題だ
俺ぐらいがちょうど良いと思わないか?


マリークロード・バトルゥール

アラン(f19285)と

記者を見渡し魅了する微笑を
わたくしたちは哀しき行末を察知しこの地に参りました

でもね予感は杞憂でしたわ。皆様も立ち会えた事をお喜びになって
崇高な使命を胸に影堕ちた少女は先刻をもって道を正されましたわ
今を生きたるあの青年が手を取り、心通わせた故の最良の結末
大変感動いたしましたわ!

笑顔振り撒き質問に応えてから念押す
ねえ皆さん、これを奇跡と言わずして何と呼びまして?

――せめて美談のように
事実は覆らずとも彼を貶め見世物に消費されるのは好きではないわ
少しは驕る事にも懲りた事でしょう
アランはもう少し純朴でも良いのよ。でも、
爪先立って頬に不意打ち
頑張った褒美は差し上げますわ



●君を守るための一芝居
 アラン・サリュドュロワを伴ったマリークロード・バトルゥールがそっと発動させた【charme irresistible(ナイショノオハナシ)】の誘惑に抗えず、北大路青年になおも話を聞こうとする記者たちが思わず振り返る。
 それに応えるようにマリークロードが魅惑の笑みで記者たちを見渡せば、すっかり高貴なるものの虜となったものどもへと、アランが良く通る声で告げた。

「こちらにおわすは、とある地の貴き方。是非この機に皆様とお言葉を交わしたいと仰せです」
 ――どうぞ、殿下。そう送り出されて、マリークロードも気高きものの姿を誇る。
「わたくしたちは、哀しき行末を察知しこの地に参りました」

 下世話なネタを集めに来たはずの輩の背筋を、揃ってしゃんと伸ばさせて。
 神妙な面持ちで言葉の続きを待つところへ、夜啼き鶯は美しくさえずった。
「でもね、予感は杞憂でしたわ。皆様も立ち会えた事をお喜びになって!」
 敢えて大仰な身振り手振りで菫色の外套をひるがえすマリークロード。
「崇高な使命を胸に影堕ちた少女は、先刻をもって道を正されましたわ」
 傍らの騎士が相槌を打てば、ちらと北大路青年の方を見遣る。
 青年はただ、圧倒されるばかり。騎士はもちろんのこと、朗々と語るこの姫君からあふれ出る貫禄たるや――ああ、これが。これこそが、『違い』か。
 だが、アランもマリークロードも、北大路青年を打ちのめすためにここに来た訳ではない。くるりとマリークロードが青年の方を向き、掌で指し示す。

「――今を生きたるあの青年が手を取り、心通わせた故の、最良の結末」
『な……ッ!?』
 ふふ、と。マリークロードが極上の笑みで青年へと笑いかけた。
「大変、感動いたしましたわ!」

 ――わあっ。

 拍手、喝采。
 投げかけられるべきは石礫と罵倒であろうに、何たることか。
 呆然とする北大路青年から視線をマリークロードへと向けて、アランが口を開く。
「ええ、殿下……姫は彼等のお力になりたいと願われました」
 身を固めた夜空を思わせる鎧の音も重厚に、仕える主へと迫ろうとする輩あればそれをやんわりと窘めるように軽く篭手を当ててやった。
「殿下もいたく感銘を受けておいでです。この素晴らしき話は、きっと我等の故郷にも広まりましょう」
「そ、それは光栄なことです! 他にも遠き地より来たという少年もおりましたし」
「この帝都がまこと素晴らしき地であると世に広まること、誇りに思いますぞ!」
 すっかりその気になった群衆の声にやれやれと苦笑い、しかし思惑通りだとマリークロードの傍らに立ったアランは追い打ちの一手を繰り出す。
「さて、皆様も色々と伺いたいことがおありでしょう。殿下は寛容でいらっしゃいます、何なりとどうぞ」
 ちなみに殿下はこの都であんみつをお召しになりました、と付け加えれば、姫君がもう、と余計なことを言うなとばかりに騎士を小突く演技までしてみせて。
 故に、次々と飛んできた質問のことごとくは遠方よりの賓客への帝都への印象を問うものに終始し、とうとう北大路青年については弾劾どころか言及すらされなかった。
 その一つ一つに丁寧に、かつ簡潔に。笑顔を振りまいて応えながらマリークロードは己らが最も感銘を受けたものへの言及と『念押し』を忘れない。

「ねえ皆さん、今回の一件――これを『奇跡』と言わずして何と呼びまして?」

 ――せめて『美談』のように。それこそがマリークロードとアランの狙いであった。
 果たして二人の意図通りに、群衆の大半が再びわっと沸き立つ。
 満場一致とは行かなくとも、少なくとも今この場で北大路青年を声高に糾弾しようというものは見受けられなかった。

(「『美談』か、物は言い様だな」)
 アランが囁き、マリークロードが返す。
(「事実は覆らずとも、彼を貶め見世物に消費されるのは好きではないわ」)
 厄介な記者どもには代わりになる話題を提供してやった。アランは北大路青年を横目に苦笑する。
「全く、純粋すぎるのも問題だ。俺くらいがちょうど良いと思わないか?」
「アランはもう少し純朴でも良いのよ。……でも」
 密やかな軽口の応酬が心地良い、だからマリークロードはそれに任せて爪先立ちをした。

「……ッ」

 アランがその頬にほんのり柔らかい感触を覚えて、薄青の瞳を見開く。
「頑張った褒美は、差し上げますわ」
 影朧との戦いの折、己が不意打ちの好機を生むべく奮戦したことは記憶に新しい。
 カフェーのテラス席で、残念がった姿も良く覚えている。
 だから、今。口付けを、今度こそ頬に。

 ――北大路青年は、いまだその場を動かない。
 この隙に、それじゃあ僕はこの辺でとどさくさに紛れて立ち去ってしまっても良かったろうに。
 割れたラムプの破片の傍でただ立ち尽くすばかりだったのは、猟兵たちがまだその視界に入っていたから。

(『……なあ、僕は』)

 超弩級戦力の心遣いに、応えなければならないのだろう?
 今はもうここにはいない少女へと、君ならきっとそうしただろうと思いながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クロノ・ライム

とりあえず記者や周りの一般人の好奇の目から、北大路青年を逃したいです。
人目から離れたところへ連れていき、彼や影朧の今までの経緯を聞きながら状況を整理して彼に落ち着いてもらいたいです。
僕からは「なぜ…?」と問いかけることはあっても、罪を責めるようなことはなるべくしたくないです。
誰にでも心の弱い部分はありますから。
それがちょっと暴走しただけなんです……
彼本人がそれを自覚しなければ、責め立てても意味がないでしょう。
まずは、話をしてお互いに状況を把握しましょう。


桜枝・冬花
一介のパーラーメイドに過ぎないわたくしにも
出来ることがあるとするのなら
“主役”の為の道を整えることこそが、それと心得ます

一般人の方々をようく観察いたします
北大路青年へ遣る方のない思いを抱く方もいるでしょう
それを言葉に出してしまいかねない方とておられるはず
そうした人々にお声を掛け、話術(コミュ力)で慰めてゆきます

影朧となってしまったかの少女も、共に歩んだ青年も
純粋で、真直ぐでありすぎただけ
だからたった一人で、踏み外した道を戻るすべも知らず
前へ歩くしかなかったのでしょう

だけれどきっと、これからは正しき道を歩めるはず
幻朧桜が、それを赦したのだから
だから、今暫し
どうか彼を見守って差し上げてほしいのです



●君を知らしめる説得を
(「一介のパーラーメイドに過ぎないわたくしにも出来ることがあるとするのなら」)
 先の戦闘で存分にその超常を振るいながらも、なお己を慎ましやかに定義する桜枝・冬花。その行動理念は見事に徹底していた。
(「――『主役』の為の道を整えることこそが、それと心得ます」)
 いまだその場に残る北大路青年を囲む野次馬の数は先んじて行動を起こした猟兵たちの働きによってだいぶ減ったが、冬花の予想通りにその全てが散った訳ではなかった。

 冬花はようく観察する、北大路青年になおも視線を送るものたちを。誰もが容易く新鮮な別の話題に乗れるとは限らないのだから。
 すると、ほら――裡に遣る方のない思いを抱いているらしきものの姿がちらほらと。
 影朧への強硬なる姿勢に共感していたもの。
 影朧の力を借りていたという事実をどうしても許せないもの。
 他にも、色々とあるだろう。ひとたび名が売れれば、色々とついて回るのだ。
 冬花はそうした人々にこそ先んじて声を掛け、常より培った巧みな話術でその心を癒やし慰めんとする。

 そうして、そのやり取りにおいて決して北大路青年が同席を強いられる必然性はない。
 故にクロノ・ライムは厄介な記者や一般人から青年を逃すべく、冬花が敢えてそちらへと向かっていくのとは逆に青年へと手を差し伸べた。
「ここは冬花さんに任せて、僕たちはここを離れましょう」
『し、しかし』
 逡巡する北大路青年に対してクロノは柔らかく弧を描いた口元にそっと人差し指を当て、いいからと促す。
「北大路さんがここに居続けても、事態は良くなりません。それより……」
 話を、聞かせてくれませんか。
 無粋な好奇心ではなく、事件のあらましを知るために。
『……分かった。今の僕が、君たちに逆らえる訳もないしね』
 ラムプの欠片を名残惜しそうに一度見遣ると、北大路青年はようやく立ち上がった。

「北大路が逃げるぞ!」
 クロノに付き従ってそっと大通りを離れようとした北大路青年を目敏く見つけた人々から声が上がる。
 一度誰かが声を上げれば、それが火種となって連鎖的に感情が爆発する。
 だから、その前に。そう冬花はいつでも声を上げられるようにしていた。
「彼は、決して逃げたりはいたしません!」
 バッとメイド服の袖をひるがえしてそう力強く告げれば、人々は驚き言葉を失った。
 色の濃い桃色を宿した瞳でそんな人々をしっかりと見据えながら、冬花はなお語る。
「皆様がご覧になった通りでございます――影朧となってしまったかの少女も、共に歩んだ青年も。純粋で、真直ぐでありすぎただけ」
 その言葉に人々が、声高にこそ叫ばぬもののさざめくように言葉を交わし合う。
 言われてみればそうなのだろうが、しかし。思いは複雑だ。
 力を得て居丈高だった頃の北大路青年のみを知るものであればあるほど、そう簡単に現実を受け入れて許容することは難しいのだろう。
 ――だからこそ、それを慰撫するために、冬花はここに立っている。
「そう、あまりにも真直ぐで。だからこそたった一人で、踏み外した道を戻るすべも知らず、前へ歩くしかなかったのでしょう」

 かの影朧の少女も、北大路青年も、きっと。
 それが出来る『力』を持ってしまえば、退くことなど考えもしなかったのだ。
 直接対峙した冬花だからこそ、そう言えた。

「だけれどきっと、これからは正しき道を歩めるはず」
 桜の精たる冬花がこう言うのだ。
「――幻朧桜が、それを赦したのだから」
 だからその場の誰もが、舞い散る桜の中で押し黙った。
 それが渋々の沈黙ではなく納得した上でのものだと把握して、冬花は深々と一礼する。
「だから、今暫し。どうか、彼を見守って差し上げてほしいのです」
 残された北大路青年には、これからの人生がある。
 一度道を踏み外したからといって、故に決して赦されぬなどという道理はない。
 そのための道を、そう、『整える』。冬花はその務めを、見事果たして見せたのだ。

 一方のクロノは、ひときわ野次馬が群れていた場所からそっと離れた場所で北大路青年と向かい合っていた。
 多少の人目はあるが、最早北大路青年や事件からは興味を失ったのか、一向にこちらを気にする気配がないのが救いであった。
『大体、君たちが知っての通りさ。あのラムプに火を灯したら彼女が現れて――力を貸してくれると言うものだから、最初は言う通りにして戦い方を教わってね』
 まだクロノの顔をまっすぐ見る勇気までは出ないのか、青年はやや遠くに視線を向けながらぽつりと呟く。
「……」
 クロノは時折頷くのみで、北大路青年の言葉を遮ることはしなかった。
 ただ、一度問い掛けをしただけだった。
「なぜ、影朧の転生を否定するようになったのでしょう……?」
『僕の意思だよ。彼女の来歴を聞いて、許せないと思ったのさ』
 今にして思えば、君たちが言うように矛盾ばかりだけれど。そう自嘲気味に笑って、青年はようやくクロノの方に向き直った。
『……君も、先程の女給も、誰も――僕を、責めないんだね』
 それどころか、積極的にかばい立てているようにさえ思える。お陰で、妙な覚悟をしていた心が今では正しい意味で落ち着いていた。
「誰にでも、心の弱い部分はありますから」
 柔らかな黒い瞳で、クロノが笑んだ。それが、ちょっと暴走しただけなのだと。

(「彼本人がそれを自覚しなければ、責め立てても意味がないでしょう」)

 ――そう、そこに行き着くのだ。
 今まさに人々に向けて冬花がそれを説いているように、北大路青年にはこれからの人生がある。一時の感情で責めたとて何になるというのか。
『僕は』
 ひとたび言葉を切ったのは、口にするのが躊躇われたからだろう。
『……赦されるのか?』
 聖職者の少年は、その問いに静かに首肯で応えた。
「まずは話をしましょう。お互いに状況を整理すれば、きっと」

 北大路青年と話がしたいという猟兵たちは、まだまだ控えているのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シキ・ジルモント
◎●
北大路が悪人とは思わない
その歩く道と方法を見直せるよう、対話を試みる
あの時聞いた戦う理由は今も疑ってはいないと北大路へ告げて

俺は武器をとって戦う事しか出来ない、ずっとそうして来たからそれしか方法を知らない
だが、あんたは違うんじゃないのか?
誰もが同じ方法を取る必要は無いだろう
自分に出来る事で、あの學徒兵の遺志を継ぐ方法を考えてみる気はないか

人狼の耳を気にしていた理由がただの興味ならそれでいいが、この姿に違和感を覚えたのだとしたら…
…今後もし力を手に入れても再び溺れないように、蟠りや迷いを晴らしておきたい

記者達も牽制
影朧救済を良しとしながら人の過ちは興味本位で弄ぶのでは筋が通らない
詮索は不要だ


柊・はとり


誰も悪くない…ね
そこに例外が居るな
間違えた奴を吊し上げんのが正義か?
人の一生ぶっ壊す覚悟あんのかって聞いてんだよ
帰れ屑
UCを使い殺気と恫喝で腐った記者共を追い払う

後1分で何が出来る…
考えろ

北大路、このポンコツ兵器持ってみろ
色んな意味で重いぞ
俺だって元々はただの…
ああ、ただの『高校生探偵』だった
こんなもん扱うには当然単純な鍛練もいったぜ
それでも戦う理由がある

年上に説教できる程偉くないし
天才と凡人の不幸比べも意味ねえよ
唯一つ確かな真実
今持ってるソレがあんたの吹いた大法螺の重さだ
解ったら返せ

世間様に謝んなら早くしとけ
だが嘘もつき通せば真実になる


俺も強くなんかないだろ
眠い…疲れた…少し休ませてくれ



●君を知るための牽制を
「……俺は、北大路が悪人とは思わない」
 現場に赴く直前、偶然柊・はとりと鉢合わせたまま同道することとなったシキ・ジルモントが、偽らざる本音を口にした。
「……へぇ」
 それに対して、敢えて己の立場は返さずに。そんなはとりが影朧との決着がついた今なお物騒な氷の大剣を携えていることに、逆にシキも敢えて触れずにおいた。
 お互い、思う所があるのだろう。
 そして、共通する思いも確かにあった。

 事前にあらかたの野次馬やら何やらからは引き離され対処もされ、落ち着いて話が出来るかと思いきや。
 その程度で特ダネとなり得る案件をみすみす逃していては、事件記者など務まらないと言うことなのだろうか。
 数名の男性が、猟兵たちが入れ替わる一瞬の隙を突いて北大路青年へと肉薄していた。「北大路さん! 影朧の力で戦っていただなんて……説明を求めます!」
「まあまあ、ご事情あってのことなんでしょう? お伺いしますよぉ?」
 口々に迫る記者たちに、ついぞ先刻とは打って変わって苦々しい顔をする青年。

「『誰も悪くない』……ね、そこに例外が居るな」
「ああ、俺もそう思っていた」

 ざしゃり、と。二人の男の靴音が響く。
 その音に気付いておけば良かったのに、取材という名のはらわた暴きに夢中な記者たちは、はとりにおもむろに肩を掴まれるまで二人の接近に気付かなかった。
「ああ? 何だ――」
「詮索は不要だ、影朧救済を良しとしながら人の過ちは興味本位で弄ぶのでは筋が通らない」
 まずはシキが低い声音で牽制をすれば、その隙にはとりが酷く不機嫌そうな顔で――【第二の殺人『眠れる森』(ネムレルモリノサツジン)】を発動させながら言葉を継いだ。
「間違えた奴を吊し上げんのが正義か?」
「な、何を言って」
 シキとはとり、二人の追求に気圧された記者たちが声を震わせる。
 だが、それでも立ち去ろうとしないものだから、はとりがやや声を荒げた。
「人の一生ぶっ壊す覚悟あんのかって聞いてんだよ」
 それは罰せられることこそなくとも、紛れもない『罪』。
 それを告発する勇気と覚悟を宿したはとりの言葉は、力強く記者たちを揺さぶった。

「――帰れ、屑」

 殺気を伴った恫喝は、果たして今度こそ腐った記者どもを散り散りに追い払ってみせた。

(「ユーベルコードか、しかも代償を伴う類の」)
 シキが鋭い洞察力ではとりの様子から状況を察する。
 その通り、はとりが動けるのはあと一分。それを過ぎれば、暫しの昏睡が待っている。
(「あと一分で何が出来る……考えろ」)
 眼鏡のブリッジに指を掛けて位置を直しつつ、はとりは無造作に北大路青年に向けて氷の大剣――正式名称「コキュートスの水槽」を突き出した。
『え……』
「北大路、このポンコツ兵器持ってみろ。色んな意味で重いぞ」
 早くしろと言わんばかりに更に押し付けられた大剣を、青年はおずおずと受け取り――。
『なっ!?』
 ずしん! と、はとりが浮かせて持っていた大剣の切っ先が、青年が持った途端に支えきれず地面に突き刺さる。
 本来対話能力を保有する「コキュートス」だったが、はとりの現状を察して敢えて沈黙を守る。残された稼働時間で、はとりが北大路青年へと声を掛けた。
「俺だって元々はただの……ああ、ただの『高校生探偵』だった」
『その君が、何だってこんなものを、軽々と』
「こんなもん扱うには当然単純な鍛錬もいったぜ――それでも、戦う理由がある」
 北大路青年がもう一度大剣を持ち上げようと試みて、それでもピクリとも動かせないのを見て、はとりは思う。
(「年上に説教できる程偉くないし、天才と凡人の不幸比べも意味ねえよ」)
 だから、今言える唯一つの確かな真実をくれてやるのだ。

「今持ってる『ソレ』が、あんたの吹いた大法螺の重さだ」
『ッ……!』

 解ったら返せ、そう言ってはとりが手を突き出す。
「世間様に謝んなら早くしとけ、だが嘘もつき通せば真実になる」
 何度見ても、継ぎ接ぎが気になる腕だなと思った。
「な、俺も強くなんかないだろ」
 青年の視線に気付いたか、襲い来る眠気に抗いながらうっすらと笑うはとり。
『……ああ』
「眠い……疲れた……少し、休ませてくれ」
 そう言うなり糸が切れたように頽れたはとりを、見守っていたシキが抱きとめた。
 そのまま氷の大剣と共にそっと横たえると、今度は人狼の青年が対話を試みる番だ。
 ――その歩く道と方法を、見直せるように。

 なあ青年、と声を掛けたシキは、いつだって真摯な眼差しで。
「あの時聞いた『戦う理由』は、今も疑ってはいない――覚えているか」
『! あ、ああ……済まない、偉そうなことを言った』
 当時の己の言動を振り返るのは、傷を抉るも同義なのか。眉間に皺を寄せて、北大路青年がシキに詫びる。
 だが、シキは責めることなく穏やかに続けた。
「俺は、武器をとって戦う事しか出来ない」
 戦いたくとも力持たぬものがいる一方で、力持つが故に戦うしかないものもいると。
「ずっとそうして来たからそれしか方法を知らない――だが、あんたは違うんじゃないのか?」
『僕が、違う……?』
 シキがひとつ頷いて、堅い表情をほんの少しだけ和らげた。
「誰もが同じ方法を取る必要は無いだろう。自分に出来る事で、あの學徒兵の遺志を継ぐ方法を考えてみる気はないか」
『遺志を、継ぐ……』
 彼女の、と。確かに青年はかの影朧の少女を思い出す。
 嘘から出た実とは良く言ったもので、昏々と眠る少年も、眼前の耳が気になる青年も、きっとそれを告げに来たのだろうと思うと――胸が締めつけられる思いがした。

 ところで、とシキが少し声のトーンを落として北大路青年に問い掛ける。
「俺の耳が気になるか?」
『いや、ああ、それも済まない! 難しい顔をしている割に、可愛い耳だなと』
「……そう、か」
 異能への憧れやら違和感やらで、もしもまた『力』を手にした時に同じ過ちを繰り返してはいけないと懸念して問うたのだが。
 心配して損をしたとまでは言わぬが、しかし――どこか呑気な男だなと、そう思った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

玉ノ井・狐狛

UC非使用

お疲れさん、っと
なんだいお兄サンや、浮かない顔じゃねぇか
これァ妙だな。何せアンタは、やりたいようにやったんだ――アタシらに邪魔されて志半ば、ってのはあるかもだけどよ

そうさな、アタシぁ他の連中がインタビューしてるときに裏方だったからな。今、聞かせてもらおうか
何を? 感想を、さ
現状はどうあれ、「力を手にして、それでユーベルコヲド使いとして振る舞って、人々から期待を向けられる」体験をしたのは事実だろ? その感想を聞かせてくれよ

ふぅん、なるほどなるほど

(意図:本人の所見を聞き出して展望を探る)

いいじゃねぇか、やりたいようにやれよ
ユーベルコード使いってのァ、無理を通すヤツらのコトらしいぜ?



●君が思い出すための問い
 いよいよもって北大路青年を追求する野暮は追い払われて、しかし今度はそうなると一人きりでは心細くもあり。
 途方に暮れてしまうのだ、これから己はどうすれば良いのかと。
 ほんのりと、道を示してはもらったが――。

「お疲れさん、っと」
『君は……』

 豊かな金の髪を二つに緩く結った、玉ノ井・狐狛の姿があった。
「なんだいお兄サンや、浮かない顔じゃねぇか」
『君は……はは、さっきはどうも』
 影朧の少女共々、狐狛の術に翻弄されたことを思い出して青年は苦笑いを浮かべる。
「これァ妙だな。何せアンタは、やりたいようにやったんだ」
 ――アタシらに邪魔されて志半ば、ってのはあるかもだけどよ。
 そう、内心で言い添えつつ。狐狛は、悪戯っぽい笑みでこう問うた。

「そうさな、アタシぁ他の連中がインタビューしてるときに裏方だったからな」
『裏方……? あ……ああ!?』
「今、聞かせてもらおうか」
『え、な、何を!?』
「あはは、そう取り乱しなさんな――『感想』を、さ」

 取材を受けている時のことだ。不可思議な現象が起きたのは記憶に新しい。
 まさかそれもこの狐耳の娘がと言おうとして、上手いことはぐらかされた。

「現状はどうあれ、『力を手にして、それでユーベルコヲド使いとして振る舞って、人々から期待を向けられる』体験をしたのは事実だろ? その感想を聞かせてくれよ」
 そう言って、狐狛は道端にあった適当な木箱の上にひょいと腰掛ける。
『……とことん意地の悪いお嬢さんだ』
 北大路青年は、今度は泣きそうな笑い顔でそう返した。

 そうだなあ、と。青空に幻朧桜舞う姿を見上げながら、青年が呟くように切り出す。
『君たちには鼻持ちならない印象しか与えられなかっただろうけれど、力を手にしたばかりの頃は、こう見えて真面目にやっていたんだよ』
 不慣れだったからその分謙虚だったのかも知れないね、そう言って目を閉じる。
『影朧だって、元々は転生させないんじゃなくて、そこまで気を回す余裕がなかったんだ。何せ、油断したらこちらが殺される相手だし』
 どんな強力な武器を手に入れたとしても、その振るい方を知らなければ意味がない。影朧の少女の導きと共に実戦経験を積んでいったのだろう。
『でもね、言われてみれば、僕は自分が影朧と戦う事で人から感謝されるのが素直に嬉しかったよ。本当は、それだけで十分だったんだ』
 周囲から持て囃されて、調子に乗ってしまったけれど。
 思想も歪んで、取り返しのつかないことになる所だったけれど。

『……悪く、なかったよ』

 怒るかい? と、眉をハの字にして青年が狐狛に問えば。
「ふぅん、……なるほど、なるほど」
 答えの代わりに、何かを思案しながら両脚を揺らす狐狛。
『超弩級戦力殿には散々迷惑を掛けておいて何だけれど』
 そこで北大路青年が、狐狛を見据えてハッキリと告げた。
『なれるなら、今からでも――本物の英雄を目指したい』

 ――ぱぁん!

 狐狛の両の掌が打ち合わされ、小気味良い音が響き渡った。
『な……!?』
「いいじゃねぇか、やりたいようにやれよ」
 よっ、と。狐狛が腰掛けていた木箱から飛び降りると、スカートをはたいて笑った。

「ユーベルコヲド使いってのァ、無理を通すヤツらのコトらしいぜ?」

 ――例え異能超常に恵まれずとも。その意志さえあれば、手が届くかも知れないから。

成功 🔵​🔵​🔴​

満月・双葉
◎【ミカエルf21199】
僕だって憧れて仕方の無い相手が居ますよ
あんな風に強かったらどんなに良かったかと
確かに僕は君にない力を持っているでしょう
が、
それにはそれなりの犠牲が伴っています
その覚悟もなしに、手を伸ばすものではない
必ず、その力からの手痛すぎるしっぺ返しが来るものだから


所で師匠、来てたんですね(アホ毛ぶんぶん)
この手の話は師匠が得意な気もしますし
僕はこの辺で引っ込んでおきましょうか(期待のアホ毛)


ぁぁそうだ、あと一つ言うなら

此れだけ、いろんな形で声をかけてくれる人がいるのだから、君は全てを失った訳じゃない

師匠、カフェオレ飲んでいきましょう
オレンジ…ぇー…じゃあリンゴジュース…


ミカエル・アレクセイ

【双葉f01681】
期待すんなクソガキ…そのアホ毛止めろ
面倒くせぇの嫌いなの知ってんだろ…
(双葉の頭ポンポン)

俺は兄貴が強くてな
餓鬼の頃は憧れて仕方なかったさ
だがな、
どう頑張っても手に入らない力ってのはある
努力すれば報われるなんてのは保証のない綺麗事だ
間違った方向の努力なんざ尚更だ…それこそ結果は幻だぞ
でも、それならそれなりの立ち回りってのはある
どうしても戦いてぇなら弱いなりの戦い方ってのを見付けるしかねぇよ
強いもんに憧れて真似しようなんざ弱いもんには無理なのさ
光に目が繰らんで光に焼き付くされるなんてのは辞めといた方がいい
そしてさっきも言ったが、頼るもんは慎重に選べよ

オレンジジュースなら奢る



●君に伝えたい英雄譚
 衆人環視の元、こてんぱんにされて。虎の威を借る狐であることを暴かれて。
 欲しかった全てを手に入れたと思ったら、その全てを失うのは一瞬で。
 しかしどうだろう、犯した罪への罰を覚悟していたら、次々と手が差し伸べられて。
 今では胸に、今度こそまっとうに生きようという志さえ芽生え始めている。

 仕立てたばかりのスーツはすっかり皺だらけの埃まみれになってしまったけれど、構うまいと連れ立って現れた満月・双葉とミカエル・アレクセイを迎えた。
『君たちも、お説教かい?』
 冗談めかして問い掛ける北大路青年に、双葉がゆるりと首を振る。
「僕だって憧れて仕方の無い相手が居ますよ、あんな風に強かったらどんなに良かったかと」
『超弩級戦力殿にも、そのような存在が』
 双葉の言葉に、心底意外だという風に青年が返す。こと『生命あるものの死を視る魔眼』などというとんでもないものを持つ双葉の言だから、実際驚くべきことである。
 でも、だからこそ。双葉は『力あるもの』として、青年に伝えなければならないのだ。
「確かに、僕は君にない力を持っているでしょうが。それには、それなりの『犠牲』が伴っています」
 双葉の瞳は、不思議な色をしていた。眼鏡越しだからとか、そういう訳ではない。角度によって色が変わる虹色――それが亡き姉から受け継がれたものだと、青年は知らない。
 銀縁の眼鏡に軽く手を添えて、双葉は続ける。

「その『覚悟』もなしに、手を伸ばすものではない」
『……』
「必ず、その力からの手痛すぎるしっぺ返しが来るものだから」
『……ああ、その前に止めてくれたこと、感謝しているよ』

 力に溺れて、覚悟などまるでなかった。超弩級戦力たちが言うように、こうして止めてもらわなければ、いずれ己は――それだけではない、あらゆるものを巻き込んで。
 だから、北大路青年は素直に謝意を伝える。双葉もひとつ頷いて応えると、アホ毛をぴこぴこぶんぶん元気良く揺らしてミカエルの方を見た。
「所で師匠、来てたんですね」
「悪ぃか」
「この手の話は師匠が得意な気もしますし、僕はこの辺で引っ込んでおきましょうか」
「期待すんなクソガキ……あとそのアホ毛止めろ」
 そう悪態を吐きながらも、ミカエルは双葉の頭をポンポンと軽く撫でた。
「面倒くせぇの嫌いなの、知ってんだろ……」
 何やかやで、ミカエルもまた北大路青年の方を見た。

『……先程は、どうも』
「……俺は兄貴が強くてな、餓鬼の頃は憧れて仕方なかったさ」
 いくら超弩級戦力だ埒外の存在だと持ち上げられようが、蓋を開ければ感情を持った人間だ。一部人ならざるものも居るには居るが、基本的な心の在りようは変わらない。
「だがな、どう頑張っても手に入らない力ってのはある。努力すれば報われるなんてのは保証のない綺麗事だ」
『そう……だね』
 金髪碧眼、容姿端麗、おまけに何だか神々しい。そんな眼前の男から、世の無常を知らしめる言葉が飛び出そうとは、正直に言うとこれまた意外であった。
 そんな北大路青年の思いはさて置き、ミカエルの言葉は続く。
「間違った方向の努力なんざ尚更だ……それこそ結果は幻だぞ」
『ああ、耳が痛いよ』
「でも、それならそれなりの『立ち回り』ってのはある。どうしても戦いてぇなら、弱いなりの戦い方ってのを見付けるしかねぇよ」

 ――強いもんに憧れて真似しようなんざ、弱いもんには無理なのさ。

 それは、先刻まさに北大路青年が思い知り、それよりもずっと昔に、ミカエルが痛感したこと。弱さを認め、しかし腐らず、弱いなりの在りようを模索することが肝要だと。
『弱いものなりの、戦い方……』
「光に目が眩んで光に焼き尽くされるなんてのは、辞めといた方がいい」
 今一度、同じ過ちを繰り返さないようにと。ミカエルは念を押すのだ。
「――そしてさっきも言ったが、頼るもんは慎重に選べよ」
 いいな、と。最後にミカエルは青年の額に指を突き付けて言い含めた。
 青年は困ったような顔で、しかし確かに笑顔で返す。
『ああ、心しておくよ――有難う、二人とも』
「あぁそうだ、あと一つ言うなら」
 ひょこりと双葉がミカエルの陰から姿を見せると、こう言い添えた。

「此れだけ、いろんな形で声をかけてくれる人がいるのだから、君は全てを失った訳じゃない」

 北大路青年が息を呑む。そして双葉に言葉を返そうとするも、人間嫌いと面倒臭がりの師弟は既に踵を返していた。
「師匠、カフェオレ飲んでいきましょう。良いお店を知ってるんです」
「……オレンジジュースなら奢る」
「オレンジ……ぇー……」
 カフェオレなんて高級品飲めるか、というつもりでミカエルは言ったのかも知れないが、オレンジジュースだってそのお値段は侮れない。
「じゃあ、リンゴジュース……」
 どうにかこうにか、飲みたいものを奢ってもらおうと奮闘する双葉であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雪華・風月
◎●
影朧の影響を受けていたとはいえ先の戦闘で影朧の彼女に寄り添う姿
はい、本来の彼は優しく正義感に強い人だと思います
ただ、正義を為すには力なく…それ故に魔が刺してしまったのでしょう

彼ならば自身の非を受け止め正しく立ち上がるとわたしは信じています!
ですから、わたしが行うことはただ視界を広げること


・帝都桜學府で戦えずとも出来る事を行いユーベルコヲド使いを後方支援する道
・無能力であってもその技量をユーベルコヲド使いレベルまで鍛えた猛者(ウィジランテ)のように鍛え上げる道

この2つを提案してみます
どちらも大変ではあると思いますが彼ならば出来ると信じて!(純真な目)
なんでしたら鍛錬に付き合いますよ!(追撃)



●君を導くための方法・壱
 ここまで、驚くほどに北大路青年は猟兵たちの心尽くしによって守られてきた。
 心を打ちのめすような悪意から遠ざけられ、何がいけなかったのかを諭され、己を省みる機会まで与えられた。
 ――そしてここからは、青年がどう在るべきかの具体的な話をする番である。

(「影朧の影響を受けていたとはいえ、先の戦闘で影朧の彼女に寄り添う姿」)
 雪華・風月は刃を交えた時に見た青年と影朧のことを思い出す。
(「はい、本来の彼は優しく正義感の強い人だと思います」)

 ただ、正義を為すには力なく。
 ……それ故に、魔が差してしまったのでしょう。

 そう判断して、風月は北大路青年にそっと近付いた。
『君は、桜學府の……今更で申し訳ないが、非礼を詫びよう』
 風月の姿を認めた青年が、黒髪を揺らして深々と頭を下げる。そんな青年の様子に、風月は確信めいたものを感じた。
(「小娘がと侮ることなく礼節を重んじる……彼ならば自身の非を受け止め、正しく立ち上がると、わたしは信じることができます!」)
 ならば、風月が為すべきことはただ一つ。青年の『視界を広げること』である!

 ぐぐっと拳を握りしめ、風月が熱の籠もった声で北大路青年に向けて言った。
「北大路さん、貴方には複数の道を示すことが出来ます!」
『み、道……?』
 突然すごい話になったぞと思わずどもる青年に、はい! と元気良く答える風月。
「ひとつ。帝都桜學府で戦えずとも出来る事を行い、ユーベルコヲド使いを後方支援する道」
『……なるほど、裏方あっての役者だからね。そういう道も、確かにあるか』
 帝都桜學府とて、実際に最前線で戦う學徒兵だけで構成されている訳ではない。
 確かに華はないかも知れないが、帝都を守護し共に戦うものには違いないから。
「ふたつ。無能力であってもその技量をユーベルコヲド使いレベルまで鍛えた――そう、猛者のように鍛え上げる道」
 武力に於いてはヴィジランテ、知力に於いては猟奇探偵。
 彼らは共に正確には『特別な能力を持っている訳ではない』、ただ己が身ひとつで超常の域にまでその持てる力を押し上げたのだ。
『そ……それはまた、やり甲斐はありそうだけれど、大変そうだね……?』
 北大路青年が、少しばかり後ずさった気がした。
「いいえ、どちらも大変ではあると思います!」
 きぱっと風月が純真な瞳で言い切った。何故ハードルを上げてしまうのか。
「でも、北大路さんなら出来ると信じています!!」
 その上圧までかけて行くのだから、背中を押したいのか何なのかいよいよ分からない。

「なんでしたら、わたしで良ければいつでも鍛錬に付き合いますよ!!」
『ああ、その、それは――気持ちだけ有難く受け取っておくよ、うん!』

 ずずいと迫る風月をどうどうと両手で制しながら、丁重に辞退する北大路青年。
 だが、提案自体には悪い気はしていないのか、長い前髪越しに焦茶の瞳を細めて笑んだ。
『學徒兵殿、本当に有難う。僕ならば出来ると信じてくれる、その言葉が嬉しいよ』
 僕には勿体ないくらいだ、そう言って。そっと自分のこれからについて考えてみた。

成功 🔵​🔵​🔴​

荒谷・つかさ
さて……北大路さん、だったかしら。
貴方、私の事を無茶苦茶って言ったけれど。
その程度の認識と覚悟で戦いに身を置こうとしていたなんて、それこそ「甘え」よ。
今一度、その甘ったれた根性鍛え直しなさい。
……そうね、これをあげるわ。

(【頒布版・超★筋肉黙示録】を差し出す)

それには私の研究した基礎鍛錬……要は筋トレの手法と、初心者向けのトレーニングメニューを纏めてあるわ。
私のやってる鍛錬と比べれば「さわり」もいいところだけれど、甘えを取る段階ならまずはコレよ。
正しく鍛錬を積み、心と体を鍛えてきちんと筋肉を付ければ、あんなものに惑わされることもなくなるわ。
何故なら……筋肉は己を裏切らないのだから!



●君を導くための方法・弐
 北大路青年が荒谷・つかさの姿を見た時、思わず逃げ出しそうになってしまったのはここだけの話。今や敵意はないのだから、逃げる必要などないというのに。
 そんな青年の挙動から諸々を察したか、つかさはわざと指を鳴らしながら近付いた。

「さて……北大路さん、だったかしら」
『……はい』
 まるでお説教でも始まるかのような雰囲気だが、仕方がない。
 事実、多少はお説教をされて当然のことをしでかしたのだから。
「貴方、私の事を『無茶苦茶』って言ったけれど」
『……その節は本当に』
「その程度の認識と覚悟で戦いに身を置こうとしていたなんて、それこそ『甘え』よ」
『……返す言葉もございません』

 犬であったならば耳がしゅーんと垂れていたであろう勢いで、北大路青年がしょげる。
 そしてそれを見るにつけ、つかさは『そういうとこやぞ』と肩を竦めるのだ。
「今一度、その甘ったれた根性、鍛え直しなさい……そうね、これをあげるわ」
『これ、は……?』
 つかさがどこからともなく取り出したのは、一冊の書籍。そこそこの厚みがあるそれを青年が手に取った瞬間――なんかすごい圧を感じる!

 ――【頒布版・超★筋肉黙示録(ハイパー・マッスル・アポカリプス・マイルド)】。

 何がマイルドだよと言いたくなるのは堪えよう、本家にして元祖はもっと凄いのだから。
『あの、こ、これは』
「それには私の研究した基礎鍛錬……要は筋トレの手法と、初心者向けのトレーニングメニューを纏めてあるわ」
 私のやってる鍛錬と比べれば『さわり』もいいところだけれど――そう言ってつかさは筋肉書籍を手に何故か打ち震える青年の姿に、確かな手応えを感じていた。
「甘えを取る段階ならまずはコレよ、貴方筋トレの経験は?」
『い、いえ……』
「なら良い機会だわ。正しく鍛錬を積み、心と体を鍛えてきちんと筋肉を付ければ、あんなものに惑わされることもなくなるわ」

『筋肉で……解決する……?』
「そうよ、何故なら……筋肉は己を裏切らないのだから!!」

 どーん。つかさがどこかで見たような曇りなき眼で北大路青年を見据えて言い切った。
 これはもしかしなくても洗脳では、と思わなくもなかったが。
 確かに身体は鍛えておくに越したことはないからと、パラパラ書籍をめくったが最後。
「どうかしら?」
『――やります』
 明日からと言わず、今日から。帰って着替えて、ついでに髪も切って。

 まずは筋肉に願いを込めよう、そんな脳筋精神を宿した瞬間であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティオレンシア・シーディア


実際のとこ、特殊能力は道具頼りで本人が誇れるのは「ド根性」くらい、って知り合いもいるし。そこらへんは別にいいのよねぇ。
今回は持ちだしたモノがモノだったからあたしたちが出張ってきたけれど、もう少しマシな呪具の類だったら「わーいユーベルコヲド使いが増えた」で済んでた可能性も十分あったワケだし。…まぁ、その場合早晩破滅してたかもだけど。
今回の事で「力だけあってもダメ」ってのは、文字通り身に沁みたんじゃないかしらぁ?
これからどうするにしろ、しっかり「彼と己を知り」なさいな。

…ああ、でも。あたしたちの手が回らなかったとこをを潰してくれたことについては、感謝しなくちゃねぇ。――ありがとう。助かったわぁ。



●君を導くための方法・参
 ちょっと危険なブツを手に入れてしまい、別の意味で道を踏み外しそうになっていた所にやってきたティオレンシア・シーディアの姿を認め、北大路青年がいそいそとブツを物陰に隠す。
 それを咎めることなく敢えて見逃すのは大人の貫禄か、ティオレンシアはかつんと靴音ひとつ、青年に近付いた。

「――実際のとこ、特殊能力は道具頼りで本人が誇れるのは『ド根性』くらい、って知り合いもいるし」
 そこらへんは別にいいのよねぇ、と頬に片手を当てるティオレンシアの言葉に、北大路青年が反応する。
『その『知り合い』も、超弩級戦力……?』
「そうよぉ、今回は持ち出したモノがモノだったからあたしたちが出張ってきたけれど」
 北大路青年が影朧の力を我が物にすべく用いた『籠絡ラムプ』は、骨董品屋で偶然見付けたというけれど、その実帝都で暗躍する『幻朧戦線』が意図的に市井にばら撒いた危険な『影朧兵器』のひとつだ。
「もう少しマシな呪具の類だったら『わーいユーベルコヲド使いが増えた』で済んでた可能性も十分あったワケだし」
『そう、か……』
 そう言われると、やはりほんのりと残った未練が顔を出しそうになる。
 目敏く察したか、ティオレンシアがすぐさま言い添えるには、こうだ。

「……まぁ、その場合。早晩破滅してたかもだけど」
『……はは、有り得そうなのが痛いなぁ』

 どのみち、ここまでに散々言われたように。今の己を性根から変えねばならないらしい。
「今回のことで『力だけあってもダメ』ってのは、文字通り身に沁みたんじゃないかしらぁ?」
『それはもう、おかげさまで――嫌というほど思い知ったよ』
 この、蕩けるような甘い声のバーテンダーは。読めぬ表情の向こうで、存外自分を案じてくれているのではないかと。
 そう思えばこそ、言葉のひとつひとつもまた身に沁みていくようで。
「これからどうするにしろ、しっかり『彼と己を知り』なさいな」

 ――知彼知己、百戰不殆。不知彼而知己、一勝一負。不知彼不知己、毎戰必殆。

 身体を動かすよりは、どちらかと言うと勉学の方が得意だと自負していた。
 だが、知っていてもそれを活かせねば意味がないと教えられた。
 眼前のティオレンシアはもちろん、今回関わってくれた全ての超弩級戦力へと感謝をせねばなるまいと、青年が口を開こうとした時だった。

「……ああ、でも」
『?』
「あたしたちの手が回らなかったとこを潰してくれたことについては、感謝しなくちゃねぇ」

 余計なことをしてしまったとばかり思っていた、逢魔が辻の単騎駆け。

「――ありがとう。助かったわぁ」

 それを、初めて面と向かって、本当の意味で、感謝された。
 甘い甘い声に、北大路青年は確かに救われたのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

木常野・都月


俺は良くも悪くも猟兵だ。
影朧との縁が切れてれば貴方の自由だと思う。

…その、超弩級戦力の俺が言うのも何だけど……帝都を守らないか?

俺も、死んだじいさんに勧められて、去年の夏、猟兵になったんだ。
人と世界を守る仕事らしい。

貴方はユーベルコヲドは使えないけど、人と帝都を守る…やる事は同じだと思うんだ。

勿論、訓練とか、地獄見える程度に辛いけど、出来て当然の事ではないし、きっと、丁度いいと思うんだ。

何より、貴方は道を踏み外した事があるから、もう踏み外さないだろう?
他に夢があるならそれでもいいと思うけど、どうかな?

どの道を進むにしても、この人が、前向きに歩き出せるように。
UC【妖狐の通し道】を使いたい。


御桜・八重

そもそも悪いことしてないんだよね、あの二人。
悪い影朧を倒して救われた人もいるはず。
始まりは、決して悪くなかったんだ。

だから、さも当然の様に手を差し伸べる。
「いっしょに行こう!」
あ、不思議そうな顔。

あの人が転生出来たかはわからない。
転生していなければ、
骸の海から還った彼女はまた同じ戦いを繰り返す。
それでいいの?

次はあなたが止める番。
「て言うか、あのヒトに逢いたいんでしょ?」
ズバッと直球。
それでも自分が許せないとかゴネるなら。
「…しょーがない」
嘆息一つ、決め台詞と共に二刀を一閃!
「祓って清めて邪気退散☆ めーっ!」

峰打ちでおしおきだよ♪

集まる記者を尻目に現場から脱兎。
「桜學府で待ってるよー!」


文月・統哉
最期の笑顔
それが答えなのだと俺は思う
北大路さん
彼女は貴方に想いを託し
彼女の心は救いを得たと

影朧は世界を滅ぼす存在だ
そして籠絡ラムプは彼らを籠絡し意のままに扱う兵器
悪事に使えば甚大な被害が出るだろう

それでも彼女は影朧を倒し人々を護った
學徒兵としての道を違えず使命を全う出来たのは
彼女の遺志に貴方が応え
同じ志持つ者として共に戦ってくれたから
だから
ありがとう

ユーベルコヲド使いも万能じゃない
失敗すれば死を招く
それでも戦う者の覚悟を貴方は知った
単なる憧れではなく共に戦う同志として

だからこそ
今もその胸に志あるのなら
學徒兵の俺達の協力者になって欲しい
戦いは前線だけじゃない
君は君の戦いを
彼女に託された想いと共に



●君が進むべき道を
(「そもそも悪いことしてないんだよね、あの二人」)
 そう、先に別の猟兵が指摘したように。今回問題だったのは『籠絡ラムプ』が危険な『影朧兵器』だったことに尽きるのであり、北大路青年と元學徒兵の影朧の行動自体に問題があったかと問われれば、決してそんなことはなく。
 故に御桜・八重は思うし、信じるし、迷わない。
(「悪い影朧を倒して救われた人もいるはず。始まりは、決して悪くなかったんだ」)

 だから――北大路青年に向かってその手を差し伸べたのは、当然のことだった。
「いっしょに行こう!」
『な……!?』
 あ、不思議そうな顔だなというのも、織り込み済みで。

 ふさふさの黒い尻尾を揺らして、木常野・都月もまた進み出る。
「俺は良くも悪くも猟兵だ」
『……不思議な言い回しをするのだな、超弩級戦力殿』
「貴方と、影朧との縁が切れてれば。貴方の自由だと思う」
 そこで初めて都月の前置きの意図を知り、青年は目を伏せる。
 最早ラムプは失われ、己が手出しをする理由はなくなった――そういうことだと。
「……その、超弩級戦力の俺が言うのも何だけど……」
『構わないよ、何なりと』
 そうして言葉を続けようとするも躊躇する都月を敢えて促せば、驚くべき言葉が聞こえてきた。

「帝都を、守らないか?」
『さ、さっきから……君たちは』
 身の振り方はこれまでにも色々と提示されて来たけれど、ここまで直球の提案は初めてなものだから、北大路青年も動揺してしまうのだ。

「――最期の笑顔、それが答えなのだと俺は思う」
『君は……彼女を送ってくれた』
 青年の言葉通り、先の戦いで影朧の少女の未練を見事断ち切ってみせた文月・統哉の姿もあった。統哉は真摯に、言葉を続ける。
「北大路さん。彼女は貴方に想いを託し、彼女の心は救いを得たと」
『……そう、だろうか』
 そうであれば、どんなに良いか。だが、託された己はこんなにも頼りなく。
 青年の迷いを感じ取ったか、統哉は敢えて現実を示すことにした。
「影朧は世界を滅ぼす存在だ、そして『籠絡ラムプ』は彼らを文字通り籠絡し、意のままに扱う『兵器』――悪事に使えば甚大な被害が出るだろう」
『兵器……』

 己が無邪気に扱ったものが、そんなに危険なものだったとは。
 ならば、こうして超弩級戦力たちに止められなかったら、今頃――?

「それでも」
 嫌な思考に持っていかせるつもりなどないと、統哉が告げる。
「彼女は、影朧を倒し人々を護った」
 八重も言う通り、その事実に変わりはないのだ。
「學徒兵としての道を違えず使命を全う出来たのは、彼女の遺志に貴方が応え、同じ志持つ者として共に戦ってくれたから」

 統哉は、今でも良く覚えている。この目で、確かに見届けたから。
 その最期の瞬間まで、青年と影朧とが手を取り合って、心を合わせて戦い抜いたことを。
 だから。

「――ありがとう」

 深々と、頭を垂れた。
『止めてくれ、そんな』
 頼むから頭を上げてくれと懇願する北大路青年に、都月がそっと妖気を捧げながら力在る言葉を紡ぐ。どうか、この人が前向きに歩き出せるようにと、願いを込めて。
「俺も、死んだじいさんに勧められて、去年の夏、猟兵になったんだ」
 人と世界を守る仕事らしい。決して、悪い話ではないと。
『……君も、誰かの遺志を』
 こくりと頷いた都月は、より具体的な道筋を示す。
「貴方はユーベルコヲドは使えないけど、人と帝都を守る……やる事は同じだと思うんだ」
『人と、帝都を……僕が、守る』
 復唱してみると、そもそもの憧れの原点に帰ってくるではないか。
「勿論、訓練とか、地獄が見える程度に辛いけど」
『そ……そうだね』
 その辺りの話は、先程別の猟兵たちから散々聞かされたなあと思う青年に。
 都月は、一番言いたかったことをいよいよ切り出した。

「出来て当然の事ではないし、きっと、丁度いいと思うんだ」
『……!』

 ああ、自分は――この青年に心ないことを言ってしまったのだと痛感する。
 もっと、自分を褒めてやってもいいのだと。
 そして、自分はもっとやれると前を向いてもいいのだと。

「何より、貴方は道を踏み外した事があるから、もう踏み外さないだろう?」
『……信じて、くれるのか』
 都月は、笑顔で以て返事と為す。
「他に夢があるならそれでもいいと思うけど、どうかな?」
『夢、か……』
 ここまで、本当に様々な道を示してもらったけれど。
 ――ああ、自分は、まだ明確にそれを選んでいない。

 天を仰いで幻朧桜を見遣る北大路青年に、再び統哉が語り掛けた。
「ユーベルコヲド使いも万能じゃない、失敗すれば死を招く」
『……ああ』
「それでも戦う者の覚悟を貴方は知った、単なる憧れではなく――共に戦う同志として」
 同志。ああ――そうか。彼女と僕とは、そういう結び付きであったのか。
 利害の一致を見ただけでは説明がつかぬあの居心地の良さに、ようやく名前が付いた。
「だからこそ、今もその胸に志あるのなら。學徒兵の俺達の協力者になって欲しい」
『……』
 舞い散る桜をひとひら、そっと握りこむ青年。
「戦いは前線だけじゃない。君は君の戦いを、彼女に託された想いと共に」
 どうかな? そう問い掛ける統哉と青年の目が合う。若き着ぐるみ探偵は笑んで――その笑顔があまりにも人懐こいものだから、北大路青年もつられて笑むが。

『けれど、僕が今更桜學府にだなんて』
 いまだ躊躇う北大路青年に、いよいよ八重が切り出した。
「あの人が転生出来たかはわからない」
 彼女の話題を出されると弱い、青年が八重の方を見れば。
「転生していなければ、骸の海から還った彼女はまた同じ戦いを繰り返す」

 ――それでいいの?

『駄目だ!』
 自分でも驚くほど大きな声が出た。それを受けて、八重はいよいよ深く踏み込む。
「なら、次はあなたが止める番――て言うか、あのヒトに逢いたいんでしょ?」
『ば……ッ!』
 馬鹿な、と言おうとして、しかし言えなかった。あまりにも、直球だったから。
 けれども、例え桜學府に籍を置いたとして、万が一の時どんな顔で彼女に会えばいい?
『僕は……』
 北大路青年の様子を見て、八重は溜め息ひとつ。これまた織り込み済みだったけれど。
「……しょーがない」
 佩いた二刀にその手を掛けた八重を見て、都月と統哉がぎょっとするも、すぐにその意図を察して静観する。

「祓って清めて邪気退散☆ めーっ!」
『……ッ!!?』

 とすん、と。身体に何か固いものが当たる軽い感触があった。
 八重が対象の肉体を傷付けず、心を蝕む邪気のみを斬る【魔導神道流・二刀繚乱】を峰打ちで繰り出したのだ。
「あんまりゴネると、おしおきだよ♪」
『……あ』
 その台詞、その格好、どこかで。
 青年が遂に思い至ったその時、また話がややこしくなるといけないと感じた八重がまず地を蹴ってその場を立ち去る。
「桜學府で待ってるよー!」
 途中で立ち止まり、振り返って手を振って。

「ほら、現役の學徒兵が直々に待っていることだし」
 統哉が八重を見送りながら、北大路青年の隣に立って背中を押せば。
「……悪い話じゃないと思うんだけどな」
 都月もまた、駄目押しの一言を囁くのだ。

『と、取り敢えず――少し、考えを整理させてくれ!』
 一度、道を踏み外した。
 二度は、ない。
 慎重にならなければ――ああ、心は最早決まったようなものだけれど。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

氏家・禄郎
……往ってしまったね
大体、世の中はこんなものさ

先に行かれて、私達は置いてきぼり
元居た場所で、その後を引き継がなければならない
まあ……ままならないものさ

で、君はどうする?
偽物のユーベルコヲド使いとしての罰を受けるかい?
それとも、他の皆が求めるように動くかい?

それとも……彼女の足跡を追いかけ、そして転生した彼女を迎えに行くかい?

彼女の願いを少しでもかなえてやったんだ
もう君は英雄だろう
なら、最後の仕事をすべきじゃないのか?
女を一人にするもんじゃないよ

まあ、私の人生経験から言えるのはそんな程度さ
それじゃ、役者は退場と行きますか
(踵を返し、その場を去る)


花筏・十織
青年へ
先ほどは悪戯を、失礼いたしました

『彼女』は、影朧は、悪いものでしたか?
あなたの望みは、叶いましたか?
『手に余る力は、やがて身を滅ぼす』と先にお伝えしました
「吾々も、同じ宿命を持っております」

影朧には、確かに邪悪でおぞましく
霧散させることでしか倒せぬものが多い
「それでも僕は救済を、魂の転生を否定したくはないのです」
宿命として持って生まれた力です

強力な悪魔を召喚し従えても、一瞬の油断で喰われて死にます
ユーベルコヲド使いの体は、人と変わりはありません
心はもしかすると、人より弱いやも知れません
だからこそ、信念を持って往くのです

『彼女』には転生を祈りました
いつか、違うかたちで会えるとよいですね



●君が再び巡り会うために
 好奇の目から守られ、道を示され。一度は道を踏み外した北大路青年は、最早答えを得たも同然であったけれど。
 それ故に、即断即決を避けたのだ。二度と過ちを繰り返すわけには行かないから。
 頭を冷やそう、そうしよう。
 そうだ、あのカフェーに今度こそ行かせてもらおう。美味しい水出し珈琲を飲んで――そう思って足を向けた先に、どこかで見た人影を青年は見出した。

「先ほどは悪戯を、失礼いたしました」
 帽子を脱いで一礼する花筏・十織とは、間違いなくこの裏路地で出会った。
『――君は』
「『彼女』は、影朧は――悪いものでしたか?」
 桜の精の青年は、舞い散る幻朧桜と同じ色の瞳で――ああ、彼女も、同じ色の瞳だった。
『……』
「あなたの望みは、叶いましたか?」
『……叶ったような、そうでないような』
 曖昧な返事しか出来ずに、北大路青年は表情まで曖昧な笑みになる。
「『手に余る力は、やがて身を滅ぼす』と先にお伝えしました――吾々も、同じ宿命を持っております」
 そう言うと十織は、少しその身をずらす。すると現れたのは、探偵屋――氏家・禄郎の姿だった。
 北大路青年がやや苦い顔をしたのは気のせいか、しかし禄郎はお構いなしに言った。

「……往ってしまったね」
『……ああ、君にはしてやられたものだ』
「大体、世の中はこんなものさ」

 影朧の少女を、相当えげつない戦法で追い詰めたのが余程印象に残っているのか。北大路青年から軽い恨み節をぶつけられながらも、禄郎は一向に動じない。
「先に行かれて、私達は置いてきぼり。元居た場所で、その後を引き継がなければならない」
 青年の言葉にこそ動じはせぬものの、置かれた境遇には思う所があると言えばある。
 故に禄郎の言葉にこそ、逆に青年が瞠目した。
『君は……いや、君も』
「まあ……ままならないものさ」
 帽子に眼鏡にステンのコヲト、とことん己を覆い隠した男からは容易く答えは引き出せない。曖昧に返されて、それでおしまい。

「で、君はどうする? 偽物のユーベルコヲド使いとしての罰を受けるかい?」
『……』
「それとも、他の皆が求めるように動くかい?」
 考えれば、すぐに分かる。ここに至るまで、様々な道を示されたのだろう。
 こうしてお気に入りの場所を目指して戻ってきたのは、様々な整理をつけるため。
 そして、これもきっと、間違いない。

「それとも……『彼女』の足跡を追いかけ、そして転生した彼女を迎えに行くかい?」
『!』
 そこまで言うと禄郎は、すいと一歩退いて十織と入れ替わるように。
 転生の話とあらば、桜の精たる十織の出番というものだ。
「影朧には、確かに邪悪でおぞましく、霧散させることでしか倒せぬものが多い」
 力に溺れ、苛烈さを隠そうともしなかった己を思い出し、北大路青年が顔を背ける。
 そんな青年の様子に、今こそどうか伝わりますようと願いを込めて、十織は言うのだ。

「それでも僕は救済を、魂の転生を否定したくはないのです」

 ――桜の精として、傷付いた影朧を癒やし、転生させる。
「宿命として、持って生まれた力です」
『ちから、か……』
 北大路青年が両の掌に視線を落とす。そんな姿に向けて、十織は続ける。
「強力な悪魔を召喚し従えても、一瞬の油断で喰われて死にます」
『悪魔召喚士……そんなに、危険なのか』
 青年の言葉に、ええ、と返し。十織はそっと己が胸に手を添えて。
「ユーベルコヲド使いの体は、人と変わりはありません。心はもしかすると、人より弱いやも知れません」
 だからこそ、信念を持って往くのですと。北大路青年のこれまでの言動をそっと諭した後。
 十織は、そっと瞳を閉じて穏やかな声で告げた。

「『彼女』には、転生を祈りました」
『……!!』

 桜の精が、自ら癒やしを施したと言う。
 流石の北大路青年も理解する――否定しようがない、救いがそこには在るのだと。
「彼女の願いを少しでもかなえてやったんだ、もう君は『英雄』だろう」
 禄郎の声音もまた、今はまさしく真剣そのもの。
「なら、最後の仕事をすべきじゃないのか?」
『最後の、仕事……?』
 北大路青年が本気で分からないという声音で繰り返したものだから、禄郎はひときわ大事なことを教えるように告げるのだ。
「そう、女を一人にするもんじゃないよ」
 今度は、禄郎の方がやや苦い顔をする番だった。

「――まあ、私の人生経験から言えるのはそんな程度さ」
 最後はかなり捨て身の発言をした気もするが、それで人ひとりの今後が少しでも救われるならば安いもの。禄郎は踵を返し、路地裏を後にすべく青年に背中を向けた。
「それじゃ、役者は退場と行きますか」
「ええ――いつか『彼女』と、違うかたちで会えるとよいですね」
 その背を追うように、十織もまた北大路青年に一礼をして去っていく。

『……あの!』
 去り行く二人の猟兵たちへと、青年が叫ぶ。
『本当に済まなかった、それと……』

 ――ありがとう!

 十織と禄郎は、振り返らずに。
 一度顔を見合わせて、少しだけ笑ってみせた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

吉野・嘉月

他の猟兵さんからも説教は食らってるとは思うが…猟兵って言ってもさまざまだったろう?
圧倒的な力でなんでも解決なんてできるならわざわざ地道に事件の解決なんかしないさ。

華やかな舞台も意外と泥臭いもんだったりするんだ。手に入らない力に癇癪を起こしてる暇があるなら今ある力を鍛えればいい。
体を鍛えるのもいいし勉学に励むのもいい。
それはお前さん次第だよ。

影朧や猟兵に対する考えも変わっただろうし。
いろいろあったが成長できたんじゃないか?
嫌味でもなんでもないただ純粋にそれは良かったと俺は思う。



●君が新たな道へ進むために
 吉野・嘉月は、北大路青年がこよなく愛するカフェーで看板メニューの水出し珈琲を飲みながら、その時を待っていた。
 決して、自ら出向くのが面倒臭かった訳ではない。
 ただ、ここに居れば全ての決着が付くような――予感がしたのだ。

 ――からんからん。

 かくして、待ち人は来たれり。
 最初に会った時はパリッとした小綺麗なスーツだったのに、今ではすっかり汚れてしまっていたけれど。
 ドアを押し開けて姿を見せたのは、間違いなく北大路青年その人であった。

『……ここ、相席しても?』
「ああ――勿論」

 初夏の陽気に幻朧桜が舞う光景を、世界を渡った人々は一様に不思議がる。
 だが、嘉月も北大路青年もこの世界で生まれ育った身だ。当然のものとして、窓際の席で幻朧桜を横目に揃って水出し珈琲を堪能していた。
「他の猟兵さんからも説教は食らってるとは思うが……」
『……ああ、叱咤激励っていうのはこういうのを言うんだなって思ったよ』
 嘉月の問い掛けに素直に答える青年は、穏やかな顔つきをしていた。
「猟兵って言っても、さまざまだったろう?」
 ああ、これはあらかたの猟兵から話を聞いた後だなと。
 そう察したものだから、嘉月は己の役割を自然と理解する。
『そうだね、本当に……さまざまだった』
 えぐみがまるで感じられない、爽やかな珈琲を一口。
「圧倒的な力でなんでも解決なんてできるなら、わざわざ地道に事件の解決なんかしないさ」
『思えば、記者のフリをして僕に近付いたのも』
 苦笑いをする青年に、そういうことと嘉月も笑う。

 いいかい、と。諭すような声音で。
「華やかな舞台も、意外と泥臭かったりするんだ。手に入らない力に癇癪を起こしてる暇があるなら、今ある力を鍛えればいい」
『……』
 今度は真剣な表情で、じっと嘉月を見つめながら話を聞く北大路青年が居た。
 紡がれる言葉は、まるで今までの猟兵たちからの言葉の総決算みたいで。
「体を鍛えるのもいいし、勉学に励むのもいい――それはお前さん次第だよ」
 からん、と。グラスの中の氷が軽やかな音を立てた。

 少しの沈黙が降りて、それからややあって北大路青年が口を開く。
『……駄目元だけれど、もう一度帝都桜學府に入れてもらえないか頼んでみようと思う』
「……へえ、それはまた」
『君の、君たち超弩級戦力の言う通りだ。僕は僕なりに、もう一度やり直したい』

 ――いつの日にかまた、胸を張って『彼女』と巡り会えるように。

「……影朧や猟兵に対する考えも変わっただろうし、いろいろあったが成長できたんじゃないか?」
 いやはや、まさかここまでとは。嘉月は内心で舌を巻く。
「嫌味でもなんでもない。ただ、純粋にそれは良かったと俺は思う」
『嫌味だなんて、そんな風には思いやしないさ。ただ――感謝してる』

 あっという間に水出し珈琲を飲み終えて、後から来たはずの北大路青年が席を立つ。
「もう行くのか?」
『ああ、着替えて髪を切るんだ』
 伸びて目を隠しがちな前髪を軽くつまんで、青年が笑った。
「それがいい、お代は俺が持とう」
『いや、それは――』
「新たな門出のお祝いとでも思って、さあ行った行った」
 手をひらひらとさせて、嘉月が伝票を持ったまま北大路青年を送り出す。
 そうして青年の背中を見送った後で、伝票に目を落として――。

「……これ、経費で落ちないもんかね」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月18日


挿絵イラスト