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愛と死の、桜の木の下で

#サクラミラージュ #桜シリーズ

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#サクラミラージュ
#桜シリーズ


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 ――帝都、某所。
 数多くの配線に繋がれた一本の試験管の様な物の中で、膝に顔を埋めて、眠る様にしている少女。
 時折試験管の中で吹き出す泡の中に揺蕩っている少女を、男が見つめている。
 その男の後ろには、女がいる。
「……本当なのだな? もう直ぐこの子が黄泉がえり、そして私の前にその笑顔を見せてくれると言うのは」
 男の問いかけに、女は、淑女の様に静かに頷いた。
『新たな光が転生してこの世界に生まれ落ち、それとバランスを取るための闇である天秤は崩れ、その魂もまた転生の道を歩み始めました。更に、彼女が黄泉がえる為に必要な魂の器は解き放たれたのです。……この娘が黄泉がえるのも、時間の問題でございます』
「そうか……。それならば良い」
 女のその言葉に、男が静かに頷き、低く呻く。
「であれば、私も事を急がねば、な。お前の言う光――そして、ユーベルコヲド使いも動きが本格化している。この子が無事生まれてくれれば、超弩級戦力と同等か、其れを上回る戦力を揃えることも出来る。この子は私の……いや、私達の新たな希望なのだ」
『その通りでございますわ。貴方様のそれは、全てこの世界の為に、必要な事なのでございます』
 優しく耳元で囁きかけてくる女の言葉に男が頷き、試験管の様な物の中にいる少女を愛おしげに見て、小さく呟いた。
「もう少し。もう少しだよ――鈴蘭。私の愛しい、可愛い娘よ」

 ――と。

 そんな男を、女は口元に愉快そうな笑みを浮かべて、じっくりと見つめていた。


「――成程。随分と回りくどい手を使ってくるものだ」
 グリモアベースの片隅で。
 その手に握りしめられた一枚のメモを見つめながら、北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が険しい表情で溜息を一つ。
 そんな優希斗の姿が気になったのか。
 猟兵達が姿を現したのに気がつき、皆、と優希斗が呼びかけた。
「……帝都桜學府の諜報部の雅人とその上司の竜胆さんから新しい情報が入ったよ。どうやら、帝都桜學府の中に、とある影朧と手を組んで、影朧達に利する行動をしている人物が一人いるらしい。その男の名は、柊。対影朧対策装備の研究を帝都桜學府内で行なっている人物の一人だ」
 その柊に近付き、帝都桜學府を内側から破壊しようとしている影朧がいる。
 その理由は、はっきりはしていないが。
 そこまで告げたところで、優希斗が溜息を一つ。
「諜報部から聞いた情報をグリモアを通して解析した結果なんだけれどね。今、グリモアベースから皆が帝都に向かえば、柊についてとそれに協力する影朧についての両方の情報を得ることが出来る筈だ」
 その情報を集めて柊を見つける。
 或いは……柊の居場所を突き止め、そこで待ち受けている影朧達と戦い、可能であれば影朧達を転生させる。
 それが、今回の戦いの骨子だろう。
「戦闘能力は勿論だが、この戦いでは皆の想いが問われる可能性も高い。少なくとも、柊が何を思い、どうしてこう言った行動を起こしたか……その理由を知らなければ、最善の選択を選ぶことも難しいからだ」
 ――だから。
「情報収集のやり方は皆に任せる。いずれにせよ、柊と影朧の企みを放置しておく訳にはいかないんだ。そして、雅人達諜報部も表だって動けない。内部抗争になるのは諜報部も避けたいのは間違いないからね」
 そう言う意味では、外注とも言うべき猟兵達に任せるというのは、恐らく理に適っている事だろう。
「どうか皆、宜しく頼む」
 優希斗の言葉とほぼ同時に。
 蒼穹の光が満ち……気がつけば、猟兵達はグリモアベースから姿を消していた。


長野聖夜
 ――決して叶わぬ願いが、もしも、叶うのだとしたら。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 帝竜戦役皆様お疲れ様でした。
 と言う訳で、サクラミラージュシナリオをお送り致します。
 心情・純戦どちらかは、皆様のプレイング次第となります。
 このシナリオは、下記4シナリオと設定を若干共有していますが、新規の方もご参加頂いて全く問題ございません。歓迎致します。
 1.あの桜の木の下で誓約を
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=14914
 2.この、幻朧桜咲く『都忘れ』のその場所で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=15730
 3.その、桜の闇の中で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=17026
 4.情と知の、桜の木の下で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=17027d
 第1章は帝都で『柊』と彼と手を組む『影朧』について調査して頂くことになります。
 或いは、状況によっては柊と出会える可能性もあるかも知れません。
 それ以外に、情報収集のために出会える可能性が高い人物は以下の2人です。
 1.雅人。
 2.竜胆。
 尚、柊は帝都桜學府所属ではありますが、ユーベルコヲド使いではありません。
 第2章以降の柊の扱いについては、第1章の判定結果次第となります。
 プレイング受付期間及び、リプレイ執筆期間は下記の予定です。
 プレイング受付期間:6月4日(木)8時31分~6月6日(土)10時頃迄。
 リプレイ執筆期間:6月6日(土)11時頃~6月7日(日)一杯迄。
 何かあれば、マスターページにてお知らせ致します。

 ――それでは、良き桜の物語を。
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第1章 日常 『あなたのことを教えて』

POW   :    積極的に話しかける。

SPD   :    関心を持たれそうな話題を提供する。

WIZ   :    場を和ませるように、笑顔で接する。

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

彩瑠・姫桜
POW
柊さんが帝都桜學府内に居るのなら、できれば本人と話をしてみたいのよね
竜胆さんに、私達を柊さんと対面できるように取り計らってほしいと頼んでみるわ

柊さんに会えたら、影朧に関係ない雑談を中心に話をするわね

知りたいのは柊さんの人柄
話し方とか、相手への接し方とかを観察しながら、
自分なりに情報を集めるわね

なぜ話をしてみたいか、って?
影朧と手を組んでいるというけれど、
それはあくまでも帝都桜學府と外部から見ての柊さんの情報でしょう?
そこには、柊さんの視点の情報は入っていないわ
敵に加担する者を敵とみなすのは簡単だけど
まずは自分の目で、柊さんがどんな人物なのかを知って、
その上で柊さんへの対応を考えたいのよ


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

やれやれ、
帝都桜學府の内部抗争を避けるためとはいえ
表立って諜報部が動けないのは世知辛いところよ

というわけで人目を忍んで諜報部の竜胆さんに会いに行くか
居場所は以前会った時と同じかな?
また、今回は手土産持参だ
帝都の名店で売っている和菓子と緑茶はいかがかな?

竜胆さんに聞きたいことは2つ
ひとつは柊の具体的な研究内容
もうひとつは…柊と研究を共にしている人物の名
「礼儀作法、優しさ」を尽くし、機嫌を損ねぬよう聞き出すよ

保険として、指定UCでもふもふさんの影を召喚
竜胆さんから話を聞いている間、周囲を警戒させる
会話を盗み聞きする怪しい輩がいたら
鋼鉄製ハリセン片手に迫るかな(にっこり)




 ――帝都桜學府の裏通りにある古ぼけた建物。
「懐かしいわね、此処も」
「ああ、そうだな」
 微かに目を細める様に古ぼけた建物を見上げながら、少し強い日差しを遮る様に手を翳す彩瑠・姫桜の呟きに、藤崎・美雪が静かに頷き掛ける。
「あの時も、姫桜さん達と一緒に此処に来たな。そう言えば、姫桜さんも竜胆さんに用事が?」
「ええ。ちょっと竜胆さんにお願いしたいことがあるからね。まあ、聞いてみなければ分からないのだけれども」
「そうか」
 何かを思う様に呟いている姫桜に、美雪が頷く。
 程なくして一人の女性が、古ぼけた建物の入口を開ける音と共に姿を現した。
 その女性の顔には、美雪も、姫桜も見覚えがある。
 確か、竜胆の秘書と思しき女性だ。
「ようこそいらっしゃいました、『超弩級戦力』の皆様。竜胆様とのご面会を希望の方々ですわね?」
「ああ、その通りだ」
 女性の確認に美雪が首肯を返すと、優雅に微笑み、秘書と思しき女性が以前にも通された地下の小さな部屋へと案内する。
 そのまま中に入ると、それまでソファーに腰掛けていた30代位の男が立ち上がり、見る者を安心させる穏やかな微笑を浮かべて、折り目正しく一礼した。
「美雪様に、姫桜様ですね。ご無沙汰しております」
 そう告げてソファーへの着席を促す竜胆に頷き、美雪と姫桜が竜胆と向かい合う様にソファーに腰を沈める。
「久しぶりだな、竜胆さん。宜しければこれを。帝都の名店で売っている和菓子と緑茶だが」
「ああ、お気遣い、誠にありがとうございます」
 呟きながら、菓子折と緑茶を差し入れする美雪に深々と一礼して竜胆は其れを受け取り、そのまま先程美雪達を案内してきた秘書を呼びつけて其れを渡す。
 秘書がそれに一礼したところで、しかし……と小さく美雪が一つ息を吐いた。
「帝都桜學府の内部抗争を避けるためとはいえ、貴方方諜報部が表立って動けない、と言うのは世知辛いところだな」
「お恥ずかしい限りです。ですが、それも私達の役割でございますから。府内の調停と無用な争いを避けること。これは、私達に課せられた使命の一つでもございます」
 竜胆が恐縮しつつも苦笑を零して呟くのに、思わず美雪も微苦笑をホロリ。
 そこに秘書と思しき女性がお茶とお菓子を携えて姿を現し、其々に給仕していく。
 給仕されたお茶に一口口を付けながら、姫桜がそれで、と話題を切り出した。
「私達が此処に来た理由なのだけれど……」
 姫桜の言葉に気を引き締め直した表情になる竜胆。
 その目が鋭く細められている様に思えるのは、美雪の気のせいではあるまい。
「……柊のことですね」
「その通りだ」
 竜胆の確認に美雪が静かに頷き返すと、竜胆が軽く溜息を一つ漏らした。
「彼が正直そんな事を考えているとは思いたくなかったのですが……状況証拠が限りなく黒でして」
「もしかして、あの時貴方が口を噤んでいたのは……」
 美雪の問いに、竜胆が微かに頷く。
 其れで何となく事情を察しつつ、姫桜がそれで、と小さく問いかけた。
「柊さんは、帝都桜學府に来ているのかしら?」
「ええ、其れは勿論。研究も今まで通りです」
 竜胆の呟きにそれだ、と美雪が軽く呟いた。
「私が聞きたかったのは、正にそれなんだ。柊さんの具体的な研究内容とは、一体……対影朧対策装備の研究を行なっている、とは聞いているが」
 美雪の問いかけに、微かに目を瞑る竜胆。
 それから程なくして目を開き、それは、と囁きかける様に言の葉を紡ぐ。
「柊が対影朧対策装備として研究していたものは……簡単に言えば、人体に影響を及ぼさない、一般人でもある程度扱える対影朧兵器です。皆さんは影朧兵器の一つ、『影朧甲冑』はご存知でしょうか?」
「……!? 話には聞いたことがあるが……!?」
 竜胆の発言に美雪も姫桜も思わず、と言った様に顔を見合わせて息を呑んだ。
 そんな美雪達の反応に、竜胆が沈痛な表情を浮かべて静かに頷く。
「あれは人を人と扱わない、禁忌の兵器です。ただ、あれが抱える2つの問題点……影朧の力を使い、且つあれに乗った者は二度と下りることが出来ないと言う点……この問題が無くなり、ユーベルコヲド使いでなくとも、擬似的にユーベルコヲドが使える様になれば、人々も多少は自衛が出来る様になります。その結果として……帝都桜學府の年若い少年少女達のユーベルコヲド使いの犠牲も減る事でしょう。軍事利用は論外ですが、対影朧の護身用として小型化されたそれが作れないか。これが、帝都桜學府で、彼が研究している兵器についての概要です」
「……途方も無い話、だな」
 美雪が思わず、と言った様子で息を一つ吐くと、竜胆が微苦笑を一つ零した。
「信じる、信じないは皆様にお任せ致しますが。いずれにせよ、影朧による悲劇を止めたい、人命を優先したい、という想いは、私達の中では本物なのですよ」
 竜胆のその眼差しに宿した光には真摯な想いが籠められている。
 故に美雪はそれ以上の追求はせず、それから、と言の葉を紡いだ。
「もう一つ伺いたいのは、柊と共に研究をしている人物についてなのだが……」
 美雪の問いかけに成程、と竜胆が一つ頷き、思案する様な表情を浮かべるが、程なくして扉の向こうに声を掛けると、先程お茶を運んできてくれた秘書と思しき女が姿を現し、一枚の紙を、美雪と姫桜に手渡した。
「菊と、蘭?」
 菊は、30代前半くらいの男性であり、ベテランの域に達している研究員。
 もう一人の蘭という人物は、20代前半の女性の様だ。
「この2人が柊とチームとして組んでいる者達となります。合計3人と、メンバーとしては少ないですが、いずれも優れた研究者です。或いは、彼等から話を聞く事が出来る事もあるかも分かりませんね」
「……ねぇ、一つ、良いかしら?」
 竜胆の言葉に、美雪が頷くその間に。
 軽く首を傾げながらの姫桜の呼びかけに、どうかしましたか? と竜胆が話の続きを促した。
「出来れば竜胆さんの力で、私達が柊さんと対面できる様に取り計らって貰えないかしら?」
 姫桜の要請に、微かに怪訝そうな表情を浮かべ、竜胆が静かに問いかけた。
「恐らく私が働きかければ柊と話が出来るとは思いますが……念のために何故話をしてみたいのか? をお伺いしても宜しいですか?」
 何処か懸念を孕んだ竜胆のそれに姫桜が軽く頷く。
 その手が、無意識に自らの腕に嵌められた銀の腕輪、桜鏡に触れられていた。
 腕輪に嵌め込まれた玻璃色の鏡の表面は、静まり返った澄んだ水面の様。
「簡単な話よ。私は、あくまでも自分の目で、見て柊さんがどんな人物かを知ってみたい。その上でどう柊さんに接すれば良いのかを考えたいのよ」
 軽く胸を不安に掻き立てられながらも尚キッパリとそう告げる姫桜に、微苦笑を刻んで竜胆が頷いた。
「やはり、超弩級戦力の方々は公正な方が多い様ですね。そう言う事でしたら、謹んでお受け致しましょう」
 そう告げて。
 竜胆が机の上に置かれていた電話を取り、素早くダイヤルを回す。
 それから2、3軽くやり取りをした後、ありがとう、と小さく礼を述べて受話器を置きながら、竜胆が姫桜を真っ直ぐに見つめて告げた。
「柊は今休憩室の様です。今向かえば、貴女達ならば、柊との話も出来るでしょう」
「そう……ありがとう」
 礼を述べる姫桜に、但し、と微かに厳しい口調で、竜胆が続けた。
「帝都桜學府内に彼がいる間、密かに彼を監視はさせ続けています。貴女方が接触することを邪魔するつもりはありませんが、そこでの話の内容は私達の耳に入ること、それとどんな結末であれ、私達の対応は現状では変えられない、と言う事だけは忘れないで下さい」
 竜胆の何処か冷徹とも言える眼差しに、美雪が軽く息を吐く。
(「まあ、当然と言えば、当然か」)
 現に自分も、密かに周囲にもふもふ猫さん達を警戒の為に配置しているのだ。
 幸い盗み聞きする怪しい輩はいなさそうだが、もし、自分が竜胆の立場だったら同じ事をしていただろうな、と美雪は考える。
(「が……態々其れを口に出した、と言う事は信頼……少なくとも信用はしてくれていると見ても良いのだろうな」)
 そう思いながら、何処か厳しい口調の竜胆に姫桜が眉を顰めて食ってかかろうとするのを、美雪が優しく押しとどめた。
「姫桜さん。竜胆さんの立場からすれば、ある意味其れは当然だ。竜胆さんを責めるべきではない」
「……分かったわ」
 美雪の一定の理解の籠められたそれに、姫桜が渋々という様に頷く。
 そのまま一礼し、その場を辞する美雪と姫桜を見送る様に竜胆は席を立ち、45°の背筋の角度で一礼した。


 ――帝都桜學府、休憩室。
 美雪が他の猟兵達へと先程の研究者の情報を流した後。
 姫桜は美雪と共に、竜胆が教えてくれた柊がいるという休憩室を訪れていた。
 その休憩室の片隅で。
 酷く思い詰めた表情の男の姿を、姫桜達は認める。
 眼鏡を掛け白衣に身を包み、珈琲を飲むその男の顔の特徴は、竜胆が教えてくれた柊と一致していた。
 その柊に、姫桜が声を掛ける。
「柊さん、かしら?」
 姫桜が呼びかけるその間に、美雪が再びもふもふ猫さん達にお願いして、周囲の監視を始めていた。
 部屋の中には柊と自分達以外に人が一人居るが、恐らくその人物が諜報員だろう。
 鋼鉄製ハリセンで叩いてやるかどうかを考えている美雪の思惑など知らぬままに、柊は、姫桜を眼鏡の奥で光る、やや生気に欠けた眼差しで見つめていた。
 痩せぎすで、顔色も決して良くない神経質そうなその男は、果たして元々彼がそう言う人物だったのか。
 それとも……。
「……君は?」
 呼びかけられたから、であろう。
 怪訝そうなその表情と声音には、恐らく年頃の少女が自分へと急に話しかけてきたことに対する戸惑いや疑惑が含まれている。
「初めまして。私は姫桜」
 姫桜が、窓から外を眺めた。
 雲一つ無い青空の中で咲き乱れる幻朧桜の様子を見て、姫桜が眩しいものを見る様に目を細める。
「……良い天気ね」
「ああ、そうだね」
 何気ない姫桜の水向けに、柊が軽く首肯を返す。
 それから程なくして、微かに目を細める様にして、柊が聞いた。
「君は、もしかしてユーベルコヲド使いなのかな? それとも、噂の超弩級戦力?」
「……どうしてそう思うの?」
 軽く姫桜が問いかけると、柊は苦笑を一つ零した。
「いや……君みたいな、年頃の娘さんが、私に声を掛けてくるのが少し不思議でね」
「あっ……」
 柊の苦笑と指摘に、軽く目を瞬かせる姫桜。
 そんな姫桜の反応に微笑を零しながら、でも、と柊が話を続けた。
「君がユーベルコヲド使いや超弩級戦力なら、分からなくもない。これでも、私も対影朧対策装備の研究者だ。私の研究について興味を持つユーベルコヲド使いだと言うなら、納得も出来る」
 柊にそう言われ、決まり悪げに軽く髪を掻く姫桜。
 そんな姫桜を見つめながら、柊は優しく微笑んでいる。
「ま、まあ、確かに私は超弩級戦力ではあるけれど……ちょっと色々教えて貰いたかっただけよ。例えば……貴方のオススメのお店、とか」
「お店?」
 何気なく紡がれた姫桜のそれに軽く首を傾げる柊。
「えっ、ええ、そうよ! ほら、仕事が終わった後に寄れる様な店……とか」
「私は、お酒が好きでね。所謂行きつけの飲み屋とかそういう所ならば紹介できるが……まだ未成年に見える君には少し早いかな? ああ、もし君が和菓子が好きなら帝都桜學府を出て、突き当たりを左に曲がった所に美味しい和菓子の店があるから、もし気が向いたら友達などと一緒に行って見ると良い。名は確か、『福寿』だった筈だ」
「そ……そう。あ、ありがと!」
 何となく照れくさくなってプイッ、とそっぽを向く姫桜に穏やかな微笑を称える柊。
 美雪が姫桜に苦笑を零しつつ、柊へと問いかけた。
「柊さん。どうして、そう言う女性が好きそうな店を知っているんだ? それとも、貴方も甘い物好きなのか?」
「ああそれは……」
 そこで微かに顔を俯かせ、重苦しく息を吐く柊。
 その様子に美雪が微かに目を細めて柊を見つめ、姫桜も気を取り直して柊を見ているその間に、柊が顔を上げ、笑みを口元に浮かべた。
 ――何処か、透き通る様な哀しみを抱いた、そんな笑みを。
「妻や娘が、好きだったんでね」
「そ……そう……」
 思わぬそれに姫桜が俯き、美雪も静かに頭を振る。
 ――天使が静かに通り過ぎていく。
 このまま会話を続けるべきか、否か。
 そんな姫桜の迷いを反映する様に、桜鏡に嵌め込まれた玻璃鏡の表面が波打っている事には気が付かず、柊は胸元にまるでペンダントの様に身に付けられている懐中時計へと目を落とし、おっと、と静かに呟いた。
「休憩時間も終わりか。申し訳ないが、私はそろそろ失礼させて貰うよ」
「えっ……ええ、分かったわ」
 そう呟き。
 軽く美雪と姫桜に会釈をして研究室の方へと戻っていくのであろう、彼の足取りをもふもふ猫さん達に追わせつつ美雪が小さく息をついた。
「柊さんのこと、どう思う、姫桜さん? 言われていなければ、私には影朧と通じている人間には見えなかったが」
「そうね。悪い人には見えなかったわ」
 ――それこそ影朧と手を組んでいる、と知らされていなければそうではない、と思える程に。
(「でも……」)
 妻と娘、と口にした時の彼の表情は、何処までも悲しそうだった。
(「彼は……」)
 ただ、『敵』として見るべき相手なのであろうか?
 それとも……一人の人として、見るべきな相手のだろうか?
 気付けば姫桜の胸に、そんな迷いが、茨の様に突き刺さっていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

亞東・霧亥
【SPD】

空の器を満たす霊魂は目に見えないだけで、実は其処ら中に漂っている。
有象無象の中から特定の霊魂を器に引き寄せるには、それに紐付いた品・・・おそらくは遺品が必要になるはずだ。

【UC】+目立たない
なるべく人目に付かないように行動する。

持っているのは柊か影朧か。
諜報部が情報を握っているのか確める必要がある。
学舎を無用な血で染めたくはないからな。


文月・統哉
雅人、仕事頑張ってるんだって?
…で、紫蘭とはその後どう?
なんて挨拶を

雅人と情報共有
調査必要な内容を整理する

柊の人柄や研究内容の変遷
柊の娘や妻、家族について
鈴蘭が死別した娘なら死因や時期も

研究所見学の名目で柊の同僚に接触
対影朧対策装備にはガジェッティアとしても興味あるしね
【メカニック・コミュ力・視力・読心術】
『ガジェットショータイム』の【パフォーマンス】も活用
研究員達と意気投合し【情報収集】

柊さんにも話を聞きたいと
自宅や立ち寄り場所も聞く

可能なら娘さんのお墓参りを
彼が望むのは転生ではなく黄泉がえり
大切だからこそ家族でなくなる事は受け入れ難いのかもしれない
過去に囚われてしまうのは人も影朧も同じだね




 ――帝都桜學府。
「よう、雅人久しぶり!」
 入口のロビーから帝都桜學府へと堂々と入った文月・統哉は、ロビーの椅子に腰掛けていた片頬の切り傷が特徴的な、腰に退魔刀を納めている青年に気さくに軽く手を振った。
 統哉に手を振られた青年の名は、雅人。
 現在は、帝都桜學府の諜報部に所属するユーベルコヲド使いである。
「久しぶりだね、統哉さん」
 和やかに統哉に会釈をする雅人に、統哉がにんまりと笑顔を浮かべ、そう言えば、と冗談めかして軽く眉を上げてみせた。
「仕事、頑張っているんだって?」
「うん、まずまずって所かな。他の超弩級戦力の皆にも、情報を送っておいた」 
 そう言って、少し照れくさそうに頬を掻く雅人に、ニャハハ、と統哉が笑いかけ……少し戯けた様に肘で雅人を小突いた。
「……で、紫蘭とは、その後どう?」
 何気ない問いかけのつもりだったのだが、雅人はそんな統哉に酢でも飲んだ様な顔付きになる。
 その胸にある羽根が、まるで何か囁きかけるかの様にふわり、と奇妙に風に揺り動いた。
(「……なんだ?」)
 その微かな気配の変化を、ロビーの端の方で風景に溶け込む様に隠密に捜査を続けていた亞東・霧亥は感じ取り、僅かにその整った眉を顰める。
 そんな霧亥の気配には気がつかなかったが、それでも、雅人の表情の変化には何か思うところがあったのだろう。
 統哉が、緩めていた頬を僅かに引き締めて問いかけた。
「紫蘭に、何かあったのか?」
 統哉の質問には、直接答えず。
「場所を変えよう。統哉さんには、話しておいた方が良さそうだ」
 小声でそう提案してきた雅人の様子に違和感を覚えた統哉が頷き、帝都桜學府を一度出る。
(「此処で調査を続けるよりも、あちらから情報を収集した方が良さそうか。……学舎を、無用な血で染めたくも無いからな」)
 その統哉達の後を密かに追って、霧亥もまた、帝都桜學府を後にした。


 ――帝都桜學府から、少し離れた裏寂れた喫茶店。
 人のつかなそうなその場所に、雅人が統哉を案内し、それに霧亥がついていく。
 雅人は霧亥に気がついているのかいないのか判然としないが、そのまま統哉を連れて、その喫茶店へと足を踏み入れた。
 客足もほぼ無いのであろうその喫茶店で、マスターが一人黙然としている。
 そのマスターに軽く会釈を雅人がすると、マスターが心得た、と言う様に一つ頷き、すっ、と奥の部屋を指差した。
「其方の方も、一緒にどうぞ」
「……!」
 何気なく奥の部屋に入ろうとする間際、雅人にそう呼びかけられ、霧亥がそれに僅かに驚いた表情になりつつも、気配を殺すのを止め、統哉と共に、その奥の部屋へと足を踏み入れた。
「どうして此処に移動したんだよ、雅人?」
 統哉の当然と言えば、当然の問い。
「雅人、と言ったか? お前は、俺が何を探っていたのかについて、気がついているのか?」
 同じく怪訝そうに呟く霧亥に、雅人は何も答えない。
 程なくして、3人の前に先程のマスターが現れてそっと淹れたての珈琲を置き、彼は静かにその場を去って行った。
 その立ち居振る舞いが、何となく普通のマスターとは違う様に思えて、統哉がもしかして、と呟いている。
「彼も……?」
「諜報員の一人だよ。此処は特殊な情報を共有するために僕達諜報部に用意されている場所でもある。君達に此方に来て貰ったのは、柊さんの事と合わせて、紫蘭と、其方の人が探っている様に思える事について話をしておきたかったからだ」
 そこまで告げたところで、小さく息を吐く雅人。
「紫蘭については僕と竜胆さん、それ以外には皆位しか知らない話だからね」
「そうだったのか……」
 思わぬ雅人の発言に、統哉が軽く息を吐き、一つ頷く。
 霧亥が出された珈琲に軽く口を付けてから、俺は、とポツリと呟いた。
「元々、空の器を満たす霊魂は目に見えないだけで、実は其処ら中に漂っている、と知っている。だから其れを器に引き寄せるのに紐付いた品……遺品か何かを探しに来ていた」
 霧亥のそれにそうか、と雅人が納得した様に頷きを一つ。
「だから、僕の羽根が動いた時に霧亥さんは違和感を感じたんだね。其れで目立たない様に行動していた空気が動いたのか」
「ああ、そうか。……そうだな。確かにその羽根は……」
 ――紫苑……今は転生した、紫蘭の前世の記憶の残滓だから。
「では、其れが遺品なのか?」
「紫苑のね。もう一枚の羽根は紫蘭が持っているけれど」
「そうか」
 霧亥が雅人の説明に頷いたところで、コホン、と軽く統哉が咳払いを一つ。
「それで雅人。今回は柊についてを追うために、お前と情報を共有したかったんだが……この事件、やはり紫蘭も関わりが?」
 その統哉の問いかけに、雅人が微かに首肯を一つ。
 それから束の間考える様にしていたが、程なくして淡々と話をし始めた。
「柊さんと繋がりのある影朧達を転生させるためには、桜の精達の力を借りる必要があるし、因縁も無いわけじゃ無い。多分紫蘭も、その内何処かに姿を現す、と僕は思っている」
「……因縁が無いわけじゃ無い、か……」
 考え込む様な表情になる統哉。
 一方で霧亥はそれで、と小さく雅人に問う。
「有象無象の中から特定の霊魂を器に引き寄せるための遺品は、お前達、諜報部が持っているのか?」
 霧亥の問いかけに、雅人は軽く頭を横に振った。
 雅人のその様子を見ながら、改めてそれで、と呟く統哉。
「紫蘭の事は俺の方でも気にしておくけれど、一先ず俺は、柊についての情報が欲しい。雅人が知っている範囲で構わないから、教えて貰えないか?」
 統哉の問いに、勿論、と首を縦に振る雅人。
「その為に統哉さん……それから霧亥さんか? 君達に此処に来て貰ったんだ。勿論僕が知ることであれば、答えるよ」
「ならば、雅人から見た柊はどんな人だったんだ? 後、どんな研究を?」
 統哉の問いかけに、軽く両手を挙げて其れを制止ながら雅人が訥々と語り始める。
「まず僕から見た柊さんだけれど。温厚で紳士的、でも研究熱心な方だったよ。ずっと対影朧対策装備についての研究を続けていた。少なくとも、帝都桜學府内ではね」
「……帝都桜學府内では?」
 霧亥が怪訝そうに首を傾げると、雅人がそれに静かに頷いた。
「そう。柊さんは確かに対影朧対策装備について研究を続けていた。でもプライベートな時間では、1年程前からある事柄に深い関心を持つようになり、その研究に没していたんだ。それは……」
 そこまで告げたところで、不意に言葉を区切る雅人。
 何処か表情に痛々しい物が走り、其れを見た統哉が、はっ、と心得た様な表情で雅人に問いかけた。
「転生について、か?」
 統哉の問いかけに対して、無言の儘に、目前に置かれたコーヒーカップを手に取り、そっと何かを慈しむ様に大切そうに飲む雅人。
 けれどもその行動が、何よりも雄弁に語っている。
 霧亥がじっとそんな雅人の様子を見つめる中、雅人はコーヒーカップを机に置き、軽く息を吐いていた。
「その通りだよ、統哉さん。あの人は転生しても尚、如何にしてその転生者に記憶が残せるのかどうか、そんな方法を探していた。僕と同じで娘さん……大切な人を、亡くしていたからね」
「死因と時期は?」
 統哉の問いかけに、雅人が軽く息を吐いた。
「統哉さん達『超弩級戦力』と呼ばれる皆が、頻繁に此処を訪れる様になるよりも前。大体1年位前に娘さん……鈴蘭さんを事故で失っている。その頃から転生について興味を持って、柊さんは調べていたらしい」
「……そうか」
 統哉が俯き加減になりながらそう呟くと、霧亥がところで、と軽く呼びかけた。
「雅人、何故お前が柊のその情報を持っている? 俺が調べた限りでは、其れを知る者はいない様に見えたが」
「それは……」
 霧亥の質問に、統哉がそうか、と納得の息を一つ漏らした。
「紫蘭の件、だな?」
 確認する統哉に雅人が小さく首肯し、愛おしそうに自分の胸に飾られた羽根をそっとなぞる。
「うん。柊さんが転生について調べているって知って。丁度、統哉さんから貰った手紙を読んでそんな事があるのかなって柊さんに聞いて。それで……」
 少し遠くを見るような眼差しになる雅人に頷いた所で、ふと、何かに気がついたかの様な表情になった統哉が言葉を紡いだ。
「そう言えば、柊の奥さんは……?」
「奥さんは、鈴蘭さんを産んで直ぐに亡くなっている。これは調べれば直ぐに分かる。だからこそ……鈴蘭さんを溺愛していたんだろうな、と思うけれど、僕はそれ以上の事は知らない。多分……菊さんと蘭さんの方が詳しいと思う」
「菊に、蘭?」
 霧亥の鸚鵡返しの問いかけに統哉がもしかして、と呟いた。
「柊の同僚かな?」
「そう。多分、僕が紹介した、と言えば会えると思う」
 雅人の呟きに統哉が礼を述べ、最後に柊の自宅や立ち寄り場所についても聞き、そのまま席を立ち、雅人と分かれて、喫茶店を後にする。

 ――心にずっしりとのし掛かってくる其れを、ヒシヒシと感じながら。


 ――帝都、共同墓地。
 その墓碑の一つに、統哉と霧亥は訪れていた。
「雅人の言うとおり、とても鈴蘭を大切にしていたんだな……柊は」
「その様だな」
 雅人と別れた後。
 統哉と霧亥は帝都桜學府の柊の研究室を訪れ、そこにいた菊と蘭という柊の同僚と親しくなり、対影朧対策装備についての詳しい話と、菊と蘭から見た、柊の印象や話を聞いていた。
 ガジェッティアとして対影朧対策装備について興味を持ち、また自身のガジェットからクロネコ刺繍入りの対影朧装備などを統哉がパフォーマンスで出して見せた結果、あっという間に統哉と霧亥は菊達と打ち解け、柊についても聞き出せていた。
 結果、1年以上前……鈴蘭の死から目に見えて柊の元気が無くなっていったと言う情報を得ることに成功している。
 その後、念のためにと柊の家も訪れたが……柊は留守だった。
 何処に行っているのか、どうか。
 恐らく他の猟兵達も調べているのであろう。
 その一環として、統哉と霧亥は、鈴蘭とその母の眠るこの墓地を訪れていた。
「……柊が望んでいるのは転生では無くて、黄泉がえり、か」
「死者が生き返る、か。だが、仮に生き返ったとしても、それは……」
 ――嘗ての生者……鈴蘭では無い、別の何か。
 そう言うものだろう、と霧亥は思う。
「……大切だからこそ、家族で無くなることは、受け入れがたいのかも知れないな」
 ――パシャリ。
 桶に汲み取った水を墓石に掛けながら、統哉が呟く。
 霧亥はそれに静かに頷き、何も言わずに統哉による墓参りを見つめていた。
「過去に囚われてしまうのは、人も、影朧も同じ、なんだよな」
「そうだな。だが、過去に囚われ、其れによって不幸になるものが生まれることを見逃すわけには行かない。……そう言うことだろう」
 何処か切なさと哀しみの綯い交ぜになった統哉の呟きに、霧亥がそう告げる。
 統哉が霧亥を振り向き、そうだな、と軽く頷いた、丁度その時。
 霧亥が、骨壺が納められているであろうその場所が、最近になって一度開かれた様な痕跡を見つけた。
「霧亥?」
 その様子を見て考え込む表情になる霧亥に、統哉が問いかけた、その時。
 霧亥が、そうか、と一人納得した様に呟いた。
「霊魂と器を結びつけるための遺品を、柊……否、影朧が持ち出したか」
 直感的にその回答に霧亥が辿り着いた、正にその時。
 一通のメールが、統哉の黒にゃんこ携帯に届いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ウィリアム・バークリー
柊さんか。知らない人だし、とにかく情報を集めよう。
まずは諜報部で把握してる情報を、雅人さんから受け取り精査。
これで少なくとも、自宅なんかは分かる。

「コミュ力」「礼儀作法」で、帝都桜學府内外の人に聞き込みしよう。
桜學府内部の人は装備研究部署の上司や同僚からだね。
一般人が影朧と渡り合うための装備に興味があるというふうを装って訪問し、話題を徐々に柊さんの評判や最近あった出来事、研究姿勢などにスライドさせていく。

柊さんの自宅近辺でも聞き込みをして、最近変わった様子がないか確認。
最後は、柊さんが出勤するところを見張って、こっそり尾行だね。
桜學府内に影朧を呼び込みはしないはず。ならどこで会ってるんだろう?


天星・暁音
ふむ…まあ、とりあえずはその柊さん本人を探して中ってみるとして…話しかける前に尾行なりなんなりで少し様子を伺いたいとこだね…
先ずは柊さんの容姿を雅人さんにでも聞いて、人海戦術と行こうか、見つたら暫くは追跡だね
ある程度相手の行動や思いが掴めてからなら有効な声かけも分かりはする筈…心情的には、相手を調べて合わせるってのはつけ込むようで余りいい気分はしないけどね



柊の容姿や特徴などを予め聞いておいて草の陰に隠れられるような小さな人形たちを呼び出して捜索して相手を観察して相手の様子を探ります
得られた情報を元に声をかけます
情報が得られない場合は唯の子供を装いながら話しかけてみます

スキルUCアイテムご自由に


森宮・陽太
【POW】
アドリブ連携大歓迎

やれやれ
影朧に利する奴が、桜學府の中にいるとはな
…とはいえ、悪意から利しているとは思えねえ
善意や願いを影朧に利用されている…と考える方が筋は通りそうだ

柊は研究者だな
研究者となると、めったに外には出てこないだろう
対影朧対策装備の研究となると、外出すら許されないかもな

事前に柊の上司や部下の名前は調べておきたい
他の猟兵が調べていたら、その情報を回してほしい

その上で、俺は桜學府に関連する施設に定期的に食事や生活用品を届けている店はないか、調べるか
見つけたら「礼儀作法、言いくるめ」で、注文者の名と具体的な施設の場所を教えてもらおうか
注文者の名は、柊の関係者の名と一致するか?


灯璃・ファルシュピーゲル
SIRD一員で参加し連携

使命感に漬け込まれた感じでしょうか
…獲得工作で先手は許しましたが、
ここからは此方の番ですね

監視体制を掻い潜って自分で一から設備の準備をする
のはリスクが高いので縁のある既存の設備を利用すると予想

諜報部に協力を願い現在使用されてない廃施設等の有無や
柊の同僚等へ聞き込みし彼が研究関係で個人的に付き合いのあった
生化学系の企業や団体が無かったかを調査します

該当する所があったら
その周辺住民へ地元警察の巡回連絡活動を装い追跡調査
人の出入りや異音・柊に似た人物の有無を確認。
同時に局の仲間へ情報共有

連絡後は近くの茂み・廃屋等に密かに監視所を設置し
UCも使い狙撃監視体制を敷く

※アドリブ歓迎


ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に参加

敵の内部へ侵食し、そこから破壊工作を行う・・・諜報戦の基本ですね。
となると、こちらが打てる手は自ずと限られてきます。

私は、資金及び資材の流れから足取りを追います。
何かしらの研究を行っている以上、それに必要な資金や資材が流れている筈ですから、その辺りのルートに関して【情報収集】【コミュ力】等を使用して聞き込みを行い、その流れを辿っていけば絞り込める筈です。

途中で万が一柊を発見した場合、そのまま泳がせて尾行、必要に応じてUCの夜鬼を召喚して足取りを追って行き、拠点となる場所を突き止めます。
また、常にSIRDメンバーと連絡を取り合って状況把握に努めます。

※アドリブ歓迎


寺内・美月
SIRD共同参加・通信網構築
アドリブ・連携歓迎
・対象の身辺調査を行う。学府情報部の力を借りて血縁者及び関係者から夭逝及び行方不明等をリストアップ。今回の件と関係すると思われる人物を抽出し診療録や死亡診断書等を、事件・事故に巻き込まれたならば官憲より調書や検死報告等を取り寄せてもらう。
・対象の活動に『対影朧対策装備』の研究が応用されている可能性も考慮し、学府の正規ルートにて開発室及び研究内容の見学を申し込む。対象と会話する機会があるならば、相手が何か言わない限りは研究内容の事のみを話す(猟兵側の行動が曝露する恐れがある場合は、研究資料を請求する程度に留める)。
・移動手段は馬(ブロズ)を使う。




「敵の内部へ侵食し、そこから破壊工作を行なう……諜報戦の基本ですね」
「まっ……確かにそうだな、金髪のねーちゃん。正直、桜學府の中に影朧に利する奴がいるとは、普通は思わねーけどな」
 ネリッサ・ハーディの呟きに、森宮・陽太が飄々と戯けた様に肩を竦める。
「……使命感に漬け込まれた、と考える方が妥当でしょうね。桜學府の研究者である、と言う事ならば尚更です」
 そう陽太に、灯璃・ファルシュピーゲルが淡々と首肯を一つ返したところで、そう言えば、と寺内・美月が陽太達に問いかけた。
「これから対象の身辺調査を行ないますが、陽太様達は、この対象人物の事を知っているのですか?」
「いいえ。情報提供者である雅人さんについては知ってはいますが、この柊って人については、ぼくは知りませんね」
 美月の問いかけにそう答えたのは、ウィリアム・バークリー。
「俺もだね。まあ、雅人さんとは面識があるから、諜報部からの情報は幾分、入手し易い立場ではあるけれど」
 同様に天星・暁音がそう頷き返すと、そうですか、と美月が頷いた。
「ただ、ぼく達は内部から情報を得ることは出来ますが、外堀を埋めるのは、実はあまり得意ではありません。なので、外堀については、お願いします」
 ウィリアムのそれに、ネリッサが勿論、と言う様に頷きを一つ。
「では、ウィリアムさん達には雅人さん達から情報を、私達は、学府『諜報部』の方から情報を得る様にしましょう。幾つかの情報を統合し、一つの真実を突き詰めるのは、今回の様な情報戦では重要です」
「……そうだね。確かに幾つかの情報の痕跡を当たった方が、正確な情報には辿り着きやすいものだからね」
 ネリッサの呟きに対して、暁音がそう軽く頷きを返した。
「それでは、私は設備面から当たってみますね。情報の共有は、各自の連絡手段で適宜行ないましょう」
「……だな。灰色髪のねーちゃん達、宜しく頼むぜ」
 灯璃の提案に陽太が頼りにしているという様に軽く頷くと、灯璃がそれに小さく首肯を返した。
「それでは皆さん、一度解散です。各自の最善と、検討を祈ります」
 灯璃のそれに、ネリッサ・美月等SIRD――Specialservice Information Research Departmentが応じて頷き、協力者として傘下に入った陽太達も、其々に散開する。
 その様子を見ながら、灯璃がポツリ、と呟いた。
「……獲得工作で先手は許してしまいましたが。ここからは、此方の番ですよ」

 ――と。


「……意外ですね。資金・資材の横領を、柊がしていなかった、とは」
 小型情報端末MPDA・MkⅢを起動させ、ウィリアム達のコネにより、諜報部から貰った帝都桜學府の決算の書類の写しを、同機に読み込ませ、その情報の精度について、詳細な検討を行ないながら。
 驚いた様にネリッサが眉を上げるのに、陽太が確かにな、と軽く息を吐いた。
「寧ろ此処まで巧妙に隠匿していたからこそ、帝都桜學府の方でもこの情報を掴みきれなかった、って事なのかも知れねぇな」
「そうですね。ですが……如何なる事であったとしても、これ程大がかりな研究である以上、資金は必ず必要になる筈です。となると……」
 呟きながら、資金と資材の流れを、洗いざらいネリッサが確認していると。
「ネリッサさん、応答願います」
 MPDA・MkⅢに灯璃からの通信が入り、それに気がついたネリッサが灯璃の画像をONにする。
 何処か古ぼけた屋敷の様に見える建物の一室の様な場所にいる灯璃の様子に、ネリッサが、灯璃さん、と呟いた。
「其方は今、どちらにいるのですか?」
「諜報部で使っていると言う、機密性の保たれたセーフハウスです。此処からなら、相手に悟られることも無いだろう、と諜報部の雅人さんから情報を頂きまして」
 灯璃のその言葉に、成程、とネリッサが軽く頷く。
 一方で、陽太は思わず天を仰いでいた。
「……いや、まあ、情報は最大の武器って言うが……どの位予算を割かれているんだろうな、桜學府の諜報部は……」
 そんな陽太の様子等何処吹く風と言った様子で、画面越しに灯璃が告げる。
「まだウィリアムさん・暁音さん・美月さんが残って、柊さん個人についての情報は収集している最中ですが。一先ず、柊さんが研究関係で個人的に付き合いのあった生化学系の団体については判明しましたので、報告を、と思いました。恐らく、其方から資金提供や、施設の設備の支援も受けていたのでしょう」
 通信機越しの灯璃のそれに、ネリッサが静かに首肯を一つ。
「分かりました、灯璃さん。それではそのデータを私宛に送って下さい。此方でもデータ照合を行なってみます」
「お願いします。それと、私はこれからこの団体の名義が登録されている現場に向かいますが、他に来られる方はおりますか?」
「だったら俺が手を貸すぜ。……元々、俺の方も調べておきたいことがあったんだ」
 灯璃のそれに陽太がそう呼びかけると、それでは、と灯璃が一つ頷く。
「陽太さん、協力の程、宜しくお願いします。ネリッサさんは、資金と資材に関する調査を引き続き」
「了解しました、灯璃さん」
 灯璃の指示にネリッサが素早く頷き、そのまま通信が一度途切れる。
 程なくして、MPDA・MkⅢに灯璃が入手したデータが転送され、ネリッサがそれに目を通す。
 陽太も一緒に其れを眺めながら、その企業名を口にした。
「彼岸花……不吉な名前だな、おい」
「そうですね」
 陽太の呟きに、ネリッサが軽く頷く。
 陽太がガシガシと誤魔化す様に頭を掻いてからはぁ、と溜息を一つついた。
「まあ、良い。取り敢えず俺は灰色髪のねーちゃんに合流するから、そっちの裏取りは任せたぜ、金髪のねーちゃん」
「はい。分かりました」
 言葉と共に、その場を立ち去る陽太に一つ頷き。
 ネリッサが収集した情報を、MPDA・MkⅢを使って、解析し始めた。


 ――帝都桜學府の、休憩室の一角で。
「柊様。帝都桜學府所属の研究者。10年前に菫様と言う女性と結婚。その2年後に一女を授かるが、難産が原因で菫様が夭逝。一人娘に鈴蘭様と名付け、大切に育てていたが……1年程前に、鈴蘭様は事故死……更に半年前、姪の紫苑様が戦死……」
 帝都桜學府の諜報部から取り寄せた柊の人間関係に関する死亡診断書や検死報告書、調書の移しを、美月が淡々と読み上げる様に目を通していく。
 けれども、ウィリアムと暁音は思わず顔を見合わせていた。
 美月が取り寄せた様々な証明書、そして柊の身辺関係の中に見聞きしたことのある名前が入っていたから。
「……紫苑さん、柊さんの、縁者だったんですね……」
「知っているのですか?」
 呆然としたウィリアムの呟きに、美月が微かな興味の混ざった声音で問いかけると、周囲に71体の鳥のぬいぐるみや人形を送り込み、柊について探っていた暁音が、そうだね、と軽く頷く。
 共苦の痛みが突き刺す様な痛みを与えてくる。
 その痛みは、いつもの世界の嘆きだろうか。
 それとも……柊の悲哀への痛みであろうか。
「まあね。俺達がずっと追ってきた事件の全ての始まりとも言える人だから」
 溜息交じりに呟く暁音のそれに、そうですか、と美月が軽く頷きかけた。
「しかも、灯璃さんが調査してくれた情報が正しければ、柊さんに資金提供を行なっていたのは、彼岸花と言う名の組織だそうですからね。……因縁めいたものを感じざるを得ません」
 ウィリアムが溜息交じりにそう呟く。
 人の口に戸は立てられぬ。
 関係者達に緻密に話を聞き込めば、自ずとそう言った真実は知れるものなのだ。
「取り敢えず、他の人が柊さんに今は関わっている様にも見えるし。今度は、菊さんと蘭さんから話を聞き出した方が良さそうだね」
「そうですね。柊さんに手を貸していた組織というか団体……資金源などははっきりしましたが、肝心の柊さんの人柄などについては、判然としませんし……」
 暁音の提案に、ウィリアムがそう頷くと、そうですね、と美月もまた頷きを一つし、それからごそごそと3枚の紙を懐から取り出した。
 懐から取り出された其れには、『帝都桜學府対影朧対策兵器研究室装備課見学許可証』と書かれている。
「用意周到だね、美月さん」
「これならば、ぼく達が影朧と渡り合う装備に興味があると言っても問題ありませんね。ぼく達が超弩級戦力である事を、研究者の同僚達に話す必要も無くなりますし」
 感心した、と言う様に息を吐き美月から其れを受け取るウィリアムにそうですね、と美月が小さく頷きを一つ。
「あらゆる状況を想定し、情報を確認し、統合すること。その為に使える手段は幾らでも使う。其れが私達SIRDの戦い方ですから、ウィリアム様」
「よし、それじゃあ行ってみようか。運が良ければ、柊さんにも直接会えるも知れないしね」
 柊は菊と蘭と交代して、少し遅めの昼食を休憩室で摂っている。
 ファンシーな小さな人形が暁音に齎した柊の動向は、菊や蘭から情報を得るには丁度良い機会で在る事を示していた。
 暁音からの知らせに美月が頷き、椅子を立つ。
 ウィリアムと暁音もまた同様に席を立ち、『許可証』を携えて、研究室へと向かっていった。


 ――帝都桜學府、研究室。
「初めまして。ウィリアム・バークリーと言います。今回はぼく達の我儘を聞いて下さってありがとうございます」
「いやいや、寧ろ私達としては大歓迎ですよ! この兵器に興味を持ってくれている、一般人の見学者が来てくれるなんて!」
 許可証を見せて一礼するウィリアムのその言葉に、菊という30代前半の男が相好を崩して一礼する。
 蘭という女性研究者もまた、口にこそ出しはしないが、何処か嬉しそうにそっと胸を撫で下ろしていた。
「漸く、私達の研究について積極的に知りたいと言ってくれる一般人の方々が来るなんて……本当に良かったわ。どうしても、私達の研究は研究内容故か、軍事産業関係者ばかりが、見学しに来るんですもの」
(「まあ、人体に影響を及ぼさない一般人でもある程度扱える対影朧兵器、ですからね……。これが一般化され、量産された時に予めコネを作っておけば、その企業に莫大な利益が入る手段になり得ますから、当然と言えば当然ですか」)
 蘭の呟きに、美月がそう、内心で息を吐いた。
「私達としては、対影朧のみを想定しているのですが……多くの企業は、大概軍事転用も視野に入れている様ですから、皆様の様な方々が話を聞きたいと言って下さるのは、心から嬉しい申し出なのです」
 蘭の言葉に同意する様に呟き、何処か疲れた様な溜息を一つ漏らす菊。
 30代前半なりの風格は漂っているが、極めて善人的な印象を与える菊のそれに、チクチクと心を突かれる様な痛みを覚えつつ、ウィリアムが其れで、と話を続けた。
「見た感じ、手に取るには少々大きな物ですが……もっとコンパクト化する等の方法は、考えていないのですか?」
 ウィリアムの問いかけに、蘭がそうですね、と軽く頷き返した。
「元々この研究自体、禁忌とされる兵器の禁忌の部分を取り除き、平和的に利用できないか……と言うところから発想が来ておりますので、まだ小型化までは話を煮詰めきる事が出来ていないのですよ」
「影朧エンジンを搭載すれば或いは……と言う意見もありますが、あれを搭載してしまった段階で、影朧の力を利用することになります。そうなると、使い手が影朧にその魂を乗っ取られてしまう可能性も低くない。となると、それ以外にユーベルコヲド使いと同じ力を使うことの出来るエネルギー……動力源が必要なのですが、如何せん、まだその実用化の目処が立っていない、と言う状況なのです」
 そう言って、まるでロボットの様に立つその兵器を見つめ、菊が溜息を一つ。
「これではまだ、一般人が使うことが出来る兵器とは到底言えない、と私達は思うのですが、ウィリアムさん、貴方はどう思いますか?」
「そうですね……」
 水を向けられ、ウィリアムが少し考えこむ様な表情になるが、程なくして例えば、と呟いた。
「水鉄砲や包丁位のサイズにまで縮小することが出来れば、ぼく達一般人も、護身用として持ちやすくなるので、とても助かるのですが」
「やはり小型化は必須ですよね。その上で、人命に配慮する必要もありますし……」
 ウィリアムの要望に、さてどうするか、と言う様に顔を見合わせる蘭と菊。
「小型化、とかその動力部に関して、最も専門になるのは誰なんですか?」
 そこにすかさず、と言った様に。
 暁音が軽くそう水を向けると、蘭が暁音の方へ向き直り、それはと小さく呟いた。
「その辺りの専門は、やはり柊先輩ですね。先輩の持っている知識や技術があるからこそ、何とか研究を進めることが出来ている感じですから。まだ、精査と実験は続けないと行けませんが」
「柊様と言う方が動力関係に最も詳しい、と言う訳ですか」
 美月が何気なく呟くと、はい、と今度は菊がそれに頷きを一つ。
「その柊さんと言う方は、どんな方なんです?」
 菊の頷きに、此処だ、と言う様にウィリアムが畳みかけると、それには菊が彼は、と軽く答えた。
「娘さんや姪っ子さんを失っても、それでも尚、この一般人のための対影朧対策兵器の研究に情熱を傾けてくれています。特に最近は人一倍……いや、二倍位かな。まるで何かに取り憑かれたかの様に熱心に夜遅くまで研究にのめり込んで……時には、此処に泊まり込んでいる事も有りましたね」
 菊の言葉にそうなんですね、と相槌を打ちつつウィリアムが内心で思考を進める。
(「研究に没頭していた、ですか……。立つ鳥跡を濁さず、とでも言うつもりだったのでしょうか?」)
 そんなウィリアムの思いに気がついたのだろうか。
 蘭が実は、と、何処か思い詰めた表情になってポツリ、と言葉を紡ぎだした。
「柊先輩は、元々生真面目で優しい方だったのですが。最近は何処か鬼気迫ると言う所がありまして。それで……偶に怖い、と思うこともありました。何というか……決定的な何かを漸く掴んだというか……」
 やや言葉を濁す蘭の様子に美月が軽く頷いた、丁度その時。
 トトトトト……と小走りにリスの姿をしたぬいぐるみが暁音の足下に姿を現し、その前足で、ツンツン、と暁音を突く。
 そのぬいぐるみの突き方から、暁音が在る事を察し、そっと美月とウィリアムの袖を引っ張った。
(「……どうしましたか?」)
 ヒソヒソと声を潜めて問いかける美月に、暁音がどうやら、と小さく囁き返す。
(「柊さんがそろそろこっちに戻ってくるみたいだ。……どうしようか?」)
 その暁音の呟きに、では、と美月が囁き返した。
(「彼からも直接話を聞いてみましょう。情報は多いに越したことはありません」)
 一方でウィリアムはそれならば、と小さく別の言の葉を紡ぐ。
(「ぼくはこの辺りで一度出ます。まだ当たってみたい場所がありますから。灯璃さん達には、ぼくの方から情報交換をしておきます」)
 ひそひそと囁くウィリアム達の様子に、菊と蘭が軽く首を傾げるが、そこでウィリアムはそうでした、と手を打った。
「すみません。もっとお話を聞きたかったのですが。この後に、友達と会う約束をしておりまして。そろそろお暇させて頂いて宜しいですか?」
 ウィリアムの問いを、特に疑う様子も無く。
 分かりました、と蘭が頷き、菊が微かに名残惜しそうな表情を浮かべながら、ウィリアムに別れの握手を求めた。
 それに応じてウィリアムが握手を交わし、そっと席を外して、研究室を後にする。

 ――ちらりと痩せぎすの男……研究室に入って行く、柊と擦れ違いながら。


 ――帝都桜學府から離れた、スラム街の様に寂れた場所。
「……成程な。この辺りに、彼岸花って組織があるのか」
「如何にも裏社会の巣窟、と言う雰囲気ですね」
 ネリッサが情報を処理しているその間に。
 陽太は念のためにと、帝都桜學府関連施設への定期的な食事や生活用品の搬入について探りを入れていた。
 その調査の限りでは、帝都桜學府への大量の食事や生活用品の納入の一部は、入札によって賄われていると言う事が判明している。
 その発注業務を行なっている者は、帝都桜學府の事務官の一人であったため、柊の関係者と言えば関係者だが、それ以上でも、それ以下でも無い。
 だが……例外もあった。
 柊と関わりのある帝都桜學府の関係者の一人と話をした所、柊行きつけの幾つかの店から、何度かこの辺り一帯に食料が運び込まれた、と言う情報がそれにあたる。
 これはバックアップとして灯璃から貰った情報を、ネリッサが再解析した結果とも一致している。
 故に、どうにか此処に何かがあるという決定的な証拠が見つかり、其れを踏まえてこの場所に足を踏み入れた訳だが。
「本当に随分と回りくどい手を使ってきてると思わねぇか、灰色髪のねーちゃん」
「そうですね。ですが……足取りはどうにか掴むことが出来たのです。しかし、此処まで周到に用意されたルートは中々お目に掛かることは無い気がしますが」
 灯璃の呟きに違いない、と陽太が軽く肩を竦める。
「此処までのお膳立てをしてきたのは、多分柊の裏にいる影朧、だろうな。柊自身は、その想いを利用されているだけなんだろう」
「ええ、恐らくそうでしょうね」
 陽太に返しつつ、内心で灯璃が安堵の息をそっとつく。
 ネリッサと陽太の調査の結果として、この『彼岸花』という組織が、組織単位では帝都桜學府に深く食い込んでいるわけではないと言うことが判明したのは、不幸中の幸いだと思えたから。
 と……丁度その時だ。
「灯璃さん、陽太さん」
 灯璃が耳に付けていたインカムに、ネリッサの声が入ってきたのは。
「どうしましたか、ネリッサさん」
 灯璃がインカムに呼びかけると、ネリッサが話を続けた。
「先程ウィリアムさんと合流し、対象の自宅周辺の方々からお話を伺ったのですが……どうやら、此処最近、柊は自宅に戻ってきている様子は無いそうです。柊自身の評判は決して悪くないのですが、あの人は最近あまり帰ってくる様子を見たことがないねぇ、と住民達が怪訝そうにお話をしておりました」
「そうですか、分かりました。ありがとうございます、ネリッサさん。それでしたら、ウィリアムさんと一緒に私達に合流して下さい」
「了解です」
「分かりました」
 ネリッサとウィリアムからの返事に頷き灯璃が連絡を切ったところで、陽太がそっと問いかける。
「どうやら、銀髪のにーちゃん達が向かっていた自宅は、空振りだった様だな?」
「ええ、そうですね。ですがこれでこの辺りに隠れ家があるのは、確定しました」
 陽太の問いかけに灯璃が静かに頷き、周囲の住民達へと聞き込みを開始。
 灯璃の手にあるのは、諜報部からの情報だった。
 この周辺は、今でこそスラム街の様になっているが、10年程前までは、都心の歓楽街の如く繁栄していた様だ。
 けれども帝都中央部から離れている事と、帝都桜學府で嘗て行なわれていたとある実験のための施設が殆ど機能を要さなくなったと言う事で、寂れてしまったと言う。
 だが、破棄された筈のその施設の設備自体は、まだ生きている。

 ――つまり影朧が謀略を巡らすには、最も都合が良い場所なのだ。

「さて此処まで来たら、後は地道に足で情報を稼ぐだけか」
 陽太の呟きに灯璃が頷き、提案を口に出す。
「ええ、そうですね。一先ず近隣の方々に話を聞いてみましょう」
 それに陽太も頷き、その辺りをうろついている地域住民へと話しかけた。
「おい、そこの奴」
「? 何だよ、兄ちゃん」
 偶々そこを歩いていた男に陽太が声を掛けると、男があからさまに怪訝そうな声を上げた。
 しかし、陽太の隣にいた灯璃は特に驚いた様子も見せず、懐に忍び込ませていた、諜報部によって用意された警察手帳代わりになる、帝都桜學府公認の地元警察に渡される認識票を男に見せて、淡々と問いかけている。
「少々事情がありまして、私達はこの地域一帯を捜査しております。最近、この辺りで異音や人の出入りが激しくなった場所をご存知ではありませんか?」
「い……異音?」
 見せつけられた認識票に怯んだか、微かに上擦った声を上げる男に、ああ、と陽太が頷きかけた。
「そんな話を小耳に挟んだものでな。俺達がその調査に駆り出されているんだよ」
「異音、異音ねぇ……」
 陽太のややドスの利いた声音に、男はモゴモゴと口を動かしていたが、程なくしてああ、と呟き、奥の通りの方を指差した。
「最近、あっちの方に変な奴等が住み着いたな。確か……彼岸組とか名乗っていやがったと思うぜ?」
 男が指差した、その方角。
 只でさえ人通りの少ないこの場所の中でも、一際人気を感じられない奥の通路。
 そこで灯璃がGPNVG-42 "Nachtaktivitaet.Ⅱ"を凝らして見て見ると、成程、確かに薄ら寒い気配が漂っている様に感じられる。
「どうやら当たりの様ですね。……因みにその彼岸組と名乗る者達がいる場所の傍には、空き家や廃屋がありますか?」
「ああっ? そりゃあ、あっちの方はこの地域でも特に人の住まない地域だからな。探せば、幾らでも見つかるんじゃねぇか?」
 面倒臭そうに答える男に分かりました、と灯璃が頷くと、男はこれ以上何かに関わるのは御免とばかりに、くるりと背を向けて、陽太達を置いてその場を後にする。
「あいつは流石に、柊じゃねぇな」
 その背を見送る陽太に、そうですね、と灯璃が頷いた。
「一先ず、彼が言っていた彼岸組のある事務所に向かいましょう。無論、他の方との足並みを揃える必要もありますし、監視網も組み立てておくべきでしょうが……」
「だな。金髪のねーちゃんや金髪のにーちゃん、それから、他の猟兵も来ている可能性がある。そいつらも呼び寄せる様にしないとな」
 呟く陽太に頷き、灯璃が陽太と共に、裏路地の更に奥へと足を踏み入れる。
 程なくしてネリッサとウィリアムが合流し、改めて状況を確認した後、ネリッサは『夜鬼』を召喚し、柊と美月達の状況を確認する様、夜鬼に指示を出し……そして、『彼岸組』のいると思しき研究所兼、事務所を監視するべく、簡易の監視所を作り上げたのだった。


 ――時は少し、遡り。
 帝都桜學府の研究室にて、暁音と美月は入室してきた柊を、ペコリと挨拶で出迎えていた。
「おや、今日は来客の多い日だね?」
 一礼する暁音達を見て、柊がそう微苦笑を零し、返礼を一つ。
「他にどなたかにお会いしたのですか?」
 美月がさりげなく聞くと、ああ、と特に驚いた風でもなく、柊が頷いた。
「超弩級戦力の子達と少しね。まあ、他愛も無い話だったが。……君達も、超弩級戦力の方達なのかい?」
「ううん。俺達は、只の見学だよ。あなた達が研究している、俺達一般人でも使うことが出来るかも知れないって言う対影朧対策兵器に興味があって」
「そうか。勉強熱心なのは、良いことだね」
 柊の問いに暁音がそう切り返すと、柊が優しい微笑みを浮かべて頷き返した。
(「俺達の事を、疑わないのか……?」)
 ファンシーなぬいぐるみや人形でその言動等をさりげなく見ていたが、どうやら、自身が納得のいく解答を得られれば、柊は特に此方を疑うことも無いらしい。
 少なくとも普通に過ごしている分には、とてもでは無いが影朧と手を組んで、娘を黄泉がえらせようとする……そんな人間には、とても見えない。
「菊先輩、蘭さん。この子達とは、どんな話を?」
 さりげなく柊が菊と蘭に問うと、蘭達は自分達の研究内容についての話を主にした、と簡潔に説明してくれた。
 蘭達の説明にそうか、と眼鏡をクイッ、と引き上げながら、柊が静かに頷く。
 その眼鏡の奥の眼光がやや鋭く光っている様に見えて、其れが少々居心地が悪い。
「それで、柊さんの作っているって言う人体に影響を及ぼさない一般人でもある程度扱える対影朧兵器についてなんだけれど……そのエンジンって、何を使おうと考えているの?」
 暁音がそう問いかけると、柊はそれに対しては軽く頭を横に振った。
「私達にも守秘義務と言うやつがあるものでね。悪いけれど、それについては教えてあげられないな。まだ実用化には、程遠いわけだしね」
「そうなんですね……」
 冗談めかした笑みを浮かべる柊の答えに、美月がそう呟くと、まあまあ、と柊が軽く肩を竦めた。
「大丈夫。皆を守るための良い兵器を、私達はきちんと作るから。それができるまで、待っていて欲しい」
 優しく諭すように。
 そう柊が告げながら、ふと、自らの胸の懐中時計を見て、おや、と呟く。
「そろそろ、仕事に戻る時間じゃないかな? 菊先輩、蘭さん」
 時間を確認して柊が問うと菊と蘭も其々の時計を確認して確かに、と頷いている。
 暁音も美月もこの辺りが潮時だろう、とは判断していた。
 今は、残念ながらこれ以上の情報を得ることは出来そうに無い。
「それじゃあ、僕達はこれで」
「色々と教えて頂き、誠にありがとうございました」
「いや……とんでもない。大した持てなしも出来ずに。おおっと、そうだ」
 暁音と美月のその言葉に。
 穏やかな口調で柊が答え、ふと何かを思いついたかの様に軽く、ポン、と手を一つ打った。
「態々来てくれたせめてもの御礼だ。君達を帝都桜學府の入口まで送らせて欲しい」
 柊の提案に、暁音と美月は一瞬顔を見合わせたが、程なくしてアイコンタクトで確認し、その提案を受けることにする。
 此処で柊の提案を断る理由は、特に見当たらなかったからだ。
 そのまま先行して暁音と美月を案内する柊の白衣姿を、暁音が、後ろからまじまじと観察していた。
 ――共苦の痛みが、鋭く突き刺す様な痛みを、柊に視線を向ける度に、伝えてくるのを感じながら。
(「この人は、元々温厚な人、なんだろう」)
 中には二面性を持つ人もいるだろうが、柊はどう見てもそう言うタイプではない。
 恐らく元来、心優しい性格なのだろう。
 その優しさが、影朧に漬け込まれた理由なのかも知れないが。
 程なくして、帝都桜學府入口に暁音と美月が辿り着く。
「今回はあまり話も出来ずに申し訳なかったけれど、何かあれば、またいつでも来て貰って構わないからね」
「はい……分かりました」
 美月がそう頷くと、柊が穏やかな笑みのままに頷きを一つ。
 けれどもその微笑みに、何処か翳りの様なものも見えるし、よく見れば目の下にクマができていたりもする。
 恐らく色々な事を一人で抱え込んでしまう人間なのだろうな、と暁音は思う。
 だから暁音は、一つだけ言っておくことにした。
「もし、あなたに何かあれば。力になってくれる人は沢山いると、俺は思うよ」
 その何気ない暁音の言葉に。
 微かに驚きの表情を見せつつ、柊がそうかも知れないね、と穏やかに笑った。
「それじゃあ……またね」
 そう告げて。
 暁音達を柊が見送り、柊が研究室へと帰っていく。
 日は、大分くれていた。
 恐らく、16時頃だろう。
 そんな事を徒然無く暁音が考えていた丁度その時……。
「……ネリッサ様の夜鬼ですか」
 偶々周囲を見回していた美月が、周囲の人影に紛れ込む様にしていた『夜鬼』の姿を確認し、それに思わず問いかけていた。
 美月に呼びかけられたネリッサの呼び出した夜鬼は、不思議と人目を引かぬ仕草の儘に美月に接近、一枚の紙を手渡す。
 それはネリッサや灯璃達がウィリアムや陽太達の協力を得て手に入れた、詳細な情報だ。
「どうかした?」
 暁音がその報告書に目を通す美月に声を掛けると、美月が静かに頷きを一つ。
「どうやら、柊様と共にいる影朧の居場所が分かった様です、暁音様。今は灯璃様達が監視しています」
「……そうか。そうしたら、俺達も一度其方に合流した方が良さそうだね」
 暁音の呟きに、美月がそうですね、と同意を示す。
 そのままネリッサの夜鬼と、暁音の呼び出した様々な種類のファンシーなぬいぐりみや人形達に柊の監視を任せ、暁音達は、ウィリアム達と合流するべく美月の霊兵統帥旗に封じられていた龍ブロズを馬化させ、素早くそれに跨がりその場を後にした。


 ――深夜、人々が寝静まった頃……。
「……あれは……?」
 他にこの場にいるであろう猟兵達へも連絡を送ったネリッサが、灯璃と交替で見張りに立っていた、その時。
 不自然な少女らしき人影が、向かいの建物に向かって歩いて行くのを見つけた。
「影朧、でしょうか」
 交代しようとした灯璃が、近くを歩く猫達の目を借りてその少女の姿を認めて、微かに目を瞬く。
 その頭部に小さな愛らしい桜の花と、紫の長髪を認めたからだ。
「……頭部に桜の花、と言う事は、桜の精……?」
 怪訝そうにそう、灯璃が呟いた時。
 それにはっ、とした表情になり、がばり、とウィリアムと暁音、そして陽太が身を起こした。
「灯璃さん、その子は、多分……」
「……紫蘭さん、だね」
 ウィリアムの呟きに、暁音が静かに首肯するのに、美月が怪訝そうな声を上げた。
「紫蘭様……? あの、どなたかご存知なのですか?」
「まあ、俺達はな。つうか……そうか。紫髪のねーちゃんが入っていくって事は間違いねぇな」
 苦虫を噛み潰した表情になって呟く陽太に、暁音もそうだね、と静かに頷いた。
 陽太達のただならぬ気配に、何かを察したのだろう。
「分かりました。それでは直ぐに突入しましょう」
 灯璃がそう呟くのに、美月達が頷いた、その時だった。
「……来ましたね、柊さんも」
 外見について知らされていたネリッサが、夜鬼に尾行させていた柊が裏口から、目前の建物に入っていくのを確認して、そう注意を促したのは。
 この場所については可能な限りの手段を使って伝達しているから、恐らく他の猟兵達も近いうちに姿を現すだろう。
「役者は揃った、と言う訳ですか。其れでは行きましょう、皆さん」
 ウィリアムの、その言葉に。
 灯璃達もまた頷き……そして、『彼岸組』と書かれた看板の立てられた、そのアジトへと侵入するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『旧帝都軍突撃隊・桜花組隊員』

POW   :    疑似幻朧桜の鉄刃
自身の装備武器を無数の【自分の寿命を代償に起動する鋼鉄の桜】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    疑似幻朧桜の霊縛
【舞い散る桜の花びら】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    疑似幻朧桜の癒やし
【自分の生命力を分け与える桜吹雪】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。

イラスト:さいばし

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回更新予定は6月12日(金)13時~6月14日(日)一杯の予定です。そのため、プレイングは6月11日(木)8時31分以降~6月12日(金)12:00頃迄に頂けますと幸甚です。何卒、宜しくお願い申し上げます*

「……いるのね、此処にも」
 紫髪の桜の精……紫蘭がそう呟くと、ほぼ同時に。
 その場に姿を現したのは、無数のその手に桜の花を持った少女達。
『どうして?』
『どうして貴女は、私達を否定するの?』
『貴女だって、元々は、私達と同じ存在だった……そうなのでは無くて?』
 少女達の問いかけに、娘は微かに悲しげに眉を顰め、そして小さく頭を横に振る。
 その手が、そっと胸に差された、小さな羽根に触れていた。
「私は、私が昔どんな存在だったのかは、知らないわ」
 ――あの人を見ると、胸が焼け焦げる様なそんな想いには満たされるけれど。
 でも……それでも私は、紫蘭と言う名の、桜の精。
 その事は、『あの人』も認めてくれている。
「でもね……知っていることは、あるの」
 ――貴女達がどれ程の哀しみを抱いて、この地に生み落とされたのか。
 ――その無念の思いも、哀しみにも共感できる。
 ――でも……だからこそ。
「私は、貴女達を癒してあげたい。そして貴女達の主が望む黄泉がえりなんて行為は間違っていると分かって欲しいの」
 それは……輪廻を曲げてしまう行為だから。
 その輪廻がねじ曲がった先の哀しみと苦しみを、私達は知っているから。
「……どうしても、そこは変わらないのかい? 君が死ねば、雅人は悲しむと分かっている筈なのに」
 ――と、そこで。
 少女達を掻き分ける様に。
 一人の白衣姿の男……柊が姿を現し、紫蘭を見つめている。
 ――その眼鏡の奥底に底知れぬ哀しみと……ある希望を抱きながら。
「貴方こそ、もう、解放してあげて下さい。この子達を生み出している……その、哀れな魂を。其れは輪廻転生だけじゃない。死者を冒涜する悲しい行為よ」
「……そうだね。そうなのかも知れない。でも……」
 紫蘭の呼びかけに軽く頷きかけながら。
 柊がそう、軽く頭を振った。
「それでも私は、見えてしまった希望を簡単に捨てることが出来るほど、出来ている人間では無いよ。ましてや……君の様な例さえも、私は知っている。だから私は、此処にいる。あの影朧に協力させて貰っている。……この子達も、想いは同じだ」
 柊の、その言の葉に。
 周囲を漂う少女達もまた、静かにそれに首を縦に振った。
「紫蘭……それでも君は、彼女達を転生させるべき、と言うのかい? 影朧としてでも生を望む。そんな彼女達の思いを、君に踏み躙る権利があるのかな?」
 柊のその問いかけに。
 紫蘭は何も言わず……静かに祈る様に両手を胸の前で重ね合わせた。

 *今回のルールです。
 1.紫蘭、と言うNPCが猟兵側に参加します。彼女の扱いは下記となります。尚、彼女に対して何のケアもしなかった場合、紫蘭は死亡します。
 *戦場からの離脱は不可(少女達を転生させたい為)。
 *猟兵達の指示には従う(違う意見があれば基本的に多数派に従います)。
 *使用可能UC:『桜の癒し』or『桜花の舞(鈴蘭の嵐相当UC)』
(プレイングで指定がある方を優先します。基本UCは『桜花の舞』です)
 2.1章の判定の結果、柊は少女達と共に姿を現し、問いかけを行なうと言う形になりました。現状、彼を捕らえたり、殺すことは出来ません。
 3.戦場は広いですが、やや薄暗いです。その為、暗視対策などはあった方が良いでしょう。

 ――それでは、良き戦いを。
ウィリアム・バークリー
紫蘭さん、一人で無茶しないで! また同じ哀しみを彼に与えるつもり?
影朧たちはぼくらが対処するから、討滅した影朧の転生をよろしく。

「全力魔法」のActive Ice Wallに「オーラ防御」を施して展開。
皆も好きに使ってね。
氷塊を密集させれば、桜の花びらも届かないはず。
更に、風の「属性攻撃」でつむじ風を生み出し、影朧たちの桜の花びらが遠くへ飛ばないよう制約をかける。

柊さん、あなたは間違ってる。
影朧である続けることは、そのまま世界を傷つけ続けること。
輪廻転生の理に則って、次の性に送り出してあげるのがここの流儀でしょう!
帝都桜學府の研究者であるあなたが、それを分からないはずがない。
正気を取り戻して!


亞東・霧亥
SIRDの別働隊として行動
紫蘭の守護と敵の牽制を主体にする。

【POW】

【UC】
古い建物の脆い壁では話しにならない。
なるべく頑丈な壁と合体しないと。
ぬりかべになったら紫蘭と敵の間に割り込み、守護する。

・怪力、砲撃
瓦礫や鉄屑などを拾い、力任せに投げ付ける。
命中させるかは、紫蘭の意思に添う。

・暗闇対策
SIRDのメンバーが照明を用意するので便乗。


森宮・陽太
【POW】
アドリブ連携大歓迎

紫髪のねーちゃん(紫蘭)まで来たのは、果たして偶然か?
偶然とは思えねえが、今はこの影朧を転生させるのが先か!

指定UC起動
他猟兵と協力し、紫蘭の護衛優先で行動
紫蘭への攻撃は全て身を挺して「かばう」ことで無敵鎧で受ける
隙あらばアリスランスを伸長させての「暗殺、騙し討ち、ランスチャージ」で1体ずつ確実に撃破

紫蘭
思う様に行動してもらう
なあ紫髪のねーちゃん、後で事情は聞かせろよ


希望が見えればそれに縋りたくなるだろうよ
だがな、てめえが見出した希望は死者にとっては絶望かもしれねえぞ
もし本当に黄泉がえりを望むなら、残酷な事実と向き合う覚悟を決めろ
事の結末までしっかり見届けやがれ!


ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に参加

柊の身柄を確保、と言いたいところですが・・・その前に片づけないといけない事がある様ですね。
今回の最優先事項はふたつ。敵の殲滅及び鈴蘭さんの安全の確保です。

場所が薄暗い様ですが・・・こちらはUCの炎の精を召喚します。これらを使って、いわゆる照明弾替わりにします。可能だったら、敵一体一体に最低一体の炎の精を貼り付かせて敵を常に照らし出し、味方の攻撃の援護を行います。
後は装備しているハンドガン(G19 Gen.4)で、照らし出されている敵に対して射撃。
また、戦闘の混乱に乗じて柊が逃亡等の行動を取る可能性があるので、常に警戒しておきます。

※アドリブ・他者との絡み歓迎


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

局長からの増援要請受けて来てみれば、随分と楽しそうなコトになってるじゃねぇか。んじゃま、パーティーをおっ始めようぜ。

とりあえず、紫蘭とやらの安全を確保しなきゃならねぇらしいから、紫蘭お直接ガードできるポジションにつき、そこからUKM-2000Pを使用しての援護射撃を展開。それに何か紫蘭が万が一無茶する可能性もなくはねぇだろうから、その辺りを警戒。ま、念の為だな。

(紫蘭に向かって)
アンタが何者かは知らねぇが、アンタを守れっていうウチのボスのオーダーだからな。しっかり守ってやる。それに、アンタみたいな別嬪に死なれたりしたら、こちらとしても寝覚めが悪いからな。

・アドリブ歓迎


天星・暁音
ごめんね。只の見学者は嘘だ
踏み躙る権利とのことだけど権利はないね
生きるモノが生きたいと願うのは当たり前だし記憶を失くして生まれ変わればそれは別人だ
だから拒むのも分かるよ
でも、俺は君たちを踏みにじるよ
ただ俺の意志でもってね
理を乱せば何処に歪が現れるか分からない、まして影朧に存在を変質させたものの価値観が何時までも人のものである保証もない
存在が変わるということは当然、価値観だって変わるものだから、何より死者は還らない
例外が蔓延ればやがて死そのものを軽視してい事になり得るからね


基本的にアルマには紫蘭を護らせ後方から援護させつつ、自身は護衛が足りない護衛、攻撃手が足りないなら攻撃に回ります

アドリブ歓迎


灯璃・ファルシュピーゲル
SIRD一員で参加し連携

信念があるのは立派ですが…
敵に取り込まれる事への危機意識の無さは
話をきくにも値しないですよ?

局長の炎の精展開と同時にUC:オーバーウォッチを発動
炎に敵の意識が逸れた隙を突き、疑似幻朧桜を持つ腕と頭部を
精密狙撃(スナイパー・先制攻撃)し敵の出鼻を挫き
その後も(援護射撃)で敵の動きを妨害し味方を支援

同時に敵全体と紫蘭の動きを監視(情報収集)し
仲間の防護が間に合わない時は即時に牽制射撃で紫蘭を防御する

敵が態勢を整え反撃し始めたら
指定UCで黒霧と狼達を密かに召喚
態と炎の精の明るさから身を隠しやすい暗所を
黒霧で作り出し。
身を守ろうと入った処を中に潜ませた狼達で襲撃する

アドリブ歓迎


寺内・美月
SIRD共同参加・通信網構築
アドリブ・連携歓迎
・暗視装置は局長の【火の精】の発光を頼りとするため使わない。
・主任務として【白鞘レーザー】で味方猟兵や紫蘭をケア(定義を救護や治療と認識)しつつ立ち回る。ただし使用した後は、疲労等の観点から移動は最小限に留める。
・自衛用には『繊月』及び『OTs-33拳銃』を以て対応。拳銃射撃においては基本単発とするも、200ミル以内に味方がいなければ連発とする。
・状況によっては【完全管制制圧射撃】を発動し、9㎜・5.56㎜・7.62㎜特殊火器をそれぞれ十丁ずつ複製。味方主力の火力支援を行う。


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

(他人に聞こえぬように)
まさか、柊さんの姪が紫苑さんとは
これは偶然なのだろうか、それとも…?

紫蘭さんもまた、無茶をする
積もる話は後にして成すべきことを成そう

他猟兵と協力し、支援回復と紫蘭さんの護衛に専念
指定UCを発動しもふもふさん達召喚
もふもふさん、皆を励ましてくれ(祈り、鼓舞、勇気、パフォーマンス)
それこそが皆の癒やしになる…はず?

柊さん
奥様と娘さんを失った悲嘆は察して余りある
だが、今のあなたが手を出そうとしている術は、世界の理を侵す邪法
そもそも、黄泉還った人が生前と変わりないとどうやって証明するのだ?

念のため、この場に菊と蘭の姿はないか確認
姿がないことを祈るが


真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

連絡があってきたが・・・成程ね。そこにいる男。柊っていうのか。大事に育てた娘さんを突然失う悲しみは親だから良くわかる。でも娘さんは良い研究者としてのアンタの背を見て育った訳だ。研究者の道をはずれたアンタに生き返らせて貰ってどう思うかね?

それに、影朧は悲しみや苦しみが寄り集まって出来た存在だ。そこの娘さん達はそれを背負って生きることに耐えられるかい?

娘さん達は正しい輪廻に還るべきだ。だから攻撃を躊躇わない。【ダッシュ】で敵の群れに飛び込み、【オーラ防御】【見切り】【残像】で桜の花びらの攻撃に耐え、【二回攻撃】【範囲攻撃】を併せた竜牙で攻撃する。


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

ああっ!!明らかに紫蘭さんが危険な目に!!(紫蘭さんに駆け寄って)【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】を使って紫蘭さんを【かばう】します。更にトリニティエンハンスで防御力を高めますよ。紫蘭さんに絶対攻撃は届かせません!!

柊さん、ですか?人生って、一度しか生きれないからこそ命は大切だと思うのです。黄泉がえりは命を軽視する行為であり、精一杯生きた娘さんの人生を冒涜する行為です。

そこにいる影朧の娘さん達もそうですが、このままだと黄泉がえりを許さない學府や猟兵に追われる日々が待っています。・・・耐えられますか?


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

・・・暗いですね。まず光の精霊で灯りを。(ぱちん、と指を鳴らし、灯りを灯す)柊さんですね。言いたいことは母さんや奏が言ってくれてますが、黄泉がえりは記憶が残るそうで。もし黄泉がえりがなったらご自身が死ぬことになった事故の瞬間を娘さんが覚えてる可能性がありますね。

後、そこにいる影朧のお嬢さん達。このまま影朧として存在し続けると苦しみを伴うし、僕らのような猟兵に追われ続ける事になりますね。耐えれますか?

僕はお嬢さん達を輪廻の輪に還す方を選びます。お許しを。【高速詠唱】【全力魔法】【多重詠唱】【二回攻撃】【範囲攻撃】を併せた氷晶の槍で攻撃します。


文月・統哉
紫蘭、やっぱりいた
彼女達を助けたい、その想いは俺も同じ
一緒に戦うよ、大切な仲間として

紫蘭を庇い前に出てオーラ防御展開
暗視で少女達の攻撃見切り武器受け
カウンターに祈りの刃
読心術で心の動きを確かめながら
転生への説得を続ける

大切だからこそ失いたくない
それは誰もが思う事
過去に囚われるのは俺も同じだ

それでも過去は過去としなければ
未来へは進めない
それがこの世界の理

柊さん
貴方も知っている筈だ
新たな出会いが救いとなる事を

奥さんを亡くした悲しみの中で
貴方は娘さんに名を付けた
鈴蘭の花言葉は『再び幸せが訪れる』
それは輪廻の中でこそ生まれた出会い

彼女達の未来にもきっと待ってる人がいる
一緒に見送ろう

紫蘭に桜の癒しを頼む


彩瑠・姫桜
紫蘭さんの守りを中心に
[かばう・武器受け]で対応

敵への攻撃は[範囲攻撃]と併用し【サイキックブラスト】使用
仲間の攻撃が届きやすいように動きを止めていくわ

私は影朧として生きることではなく、
転生して生き直して欲しいと思う

私は、紫蘭さん…かつての紫苑さんの時にも同じことを言った

大切だと思うものがあるなら
尚更転生して生き直して欲しいって

記憶を留めるために影朧になっても、そのままではいられない
その記憶を留めたいと思っていたはずの大切なものを壊して、
結局異形に成り果ててしまうのよ

彼女達や柊さんが
それを望んでも私はそんなの嫌

彼女達の大切なものへの想いが、
彼女達を想う大切な誰かの想いが壊されていくのは嫌だから




「……まさか、柊さんの姪が、紫苑さんとは……」
 薄暗い、闇の帳に包み込まれる様に顎を開ける、『彼岸組』の入口で。
 寺内・美月やウィリアム・バークリー、天星・暁音達から受け取った情報を咀嚼する様に、誰にも聞こえぬ声音で、藤崎・美雪が低く呻いていた。
(「これは偶然か? それとも……」)
「美雪」
「美雪さん!」
「美雪さん」
 不意に、美雪の背に全てを吸い込んでしまいそうな蒼穹の光と共に、3人の人影が姿を現す。
 1人は、茶髪に勝ち気そうな紫目の女性、真宮・響。
 1人は、響と同じ、髪と瞳の色をした生真面目そうな娘、真宮・奏。
 そして最後の1人は、濡れる様な金髪の赤い瞳の穏やかそうな青年、神城・瞬。
 美雪の個人経営するカフェの常連客である、真宮家の一族。
「局長。増員要請とは、随分と豪勢な話じゃねぇか」
 響達と共に。
 ネリッサ・ハーディが小型情報端末MPDA・MkⅢを使って送信した増員要請を受けて、同じ蒼穹の光から1人のロシア人の男が姿を現し、口元に何処か肉食獣を思わせる笑みを浮かべている。
「ミハイルさん。今回は増援要請に応じて貰い、ありがとうございます」
 現れたミハイル・グレヴィッチにネリッサが問いかけると、何、とミハイルが軽く手を横に振った。
「俺が来たくて来たってだけだ。気にする必要なんてねぇぜ」
 ――と、その時。
「局長。灯璃。美月。ミハイル」
 まるで、影の様にふわふわと。
 姿を現した亞東・霧亥の呼びかけに気がついたネリッサが霧亥さん、と呼び返していた。
「連絡は、どうやら届いた様ですね」
「傍に携帯電話を持っていた猟兵がいたのでな。彼から情報を貰った」
 霧亥が告げながら、隣を見やる。
 見やられた文月・統哉は、手に握りしめていた黒にゃんこ携帯のカバーを閉じてポケットに収めつつ一つ頷きながら、灯璃・ファルシュピーゲル、美月、ミハイル、ネリッサの1人、1人と目線を合わせて挨拶しながら、軽く首を傾げた。
「霧亥。知り合いだったのか」
「ああ、――Specialservice Information Research Department、通称SIRDの団員だ。俺も、SIRDに所属していてな」
 霧亥のそれに統哉が頷き、周りを見回していると、よく見知った顔を見つけ、其方にも軽く頷きを一つ。
「姫桜と陽太も来てたんだな」
「ええ。私は美雪さんと一緒に、雅人さんの上司の竜胆さん、と言う人から此処を教えて貰ってね」
「俺の方は、ウィリアムや暁音と一緒に、灯璃達SIRDに協力して、だよ」
 軽く金髪を弄りながら、ちょっと目を逸らしつつ呟く、彩瑠・姫桜と、飄々と肩を竦めて答える森宮・陽太に、そうだったか、と統哉が頷きながら、そっと其れを言の葉に乗せる。
「それで……紫蘭はやっぱり此処に来ているんだって?」
「紫蘭? ……ああ、あの紫髪のねーちゃんの事か。ああ、間違いねぇぜ。この建物の中に入っていく様子を、俺とウィリアムと暁音は目撃している」
「はい、そうですね。あの特徴的な紫髪と桜の枝は、紫蘭さんに間違いないです」
「そうだね。灯璃さん達からも既に連絡が行っていると思うけれど。……紫苑さんが、柊さんと血縁関係があったなら、尚更だろうね」
 陽太から向けられた水に、ウィリアムと暁音が次々に同意を述べると、そうだな、と統哉が静かに首肯した。
「皆さん、そろそろ行きましょう」
 灯璃がさりげなくそう呼びかけそれに同意を示した、ネリッサ等、計14名の猟兵達は、そのまま、何処か薄暗い闇の顎を開いている、『彼岸組』へと足を踏み入れた。


「……暗いですね、この闇は。此処は……」
 呟きながら、パチン! と瞬が一つ左指を鳴らす。
 それに応じてその右手に持たれていた月虹の杖から光が発され、ポウ、ポウ、ポウ……と周囲に灯が灯り、戦闘にはさておき、移動するには申し分無い程度の光が、猟兵達の周囲を照らし出した。
「それでは、私も……」
 呟きネリッサが炎の精を呼び起こそうとしたのに気がつき、瞬が軽く頭を振る。
「その力は、今は取っておいて下さい、ネリッサさん。移動だけなら、この灯で十分だと思います。戦いとなったら、光の精霊達に協力を維持し続けるのは、少々難しいので」
「分かりました」
 ネリッサが瞬の言葉に軽く頷きを一つ。
 戦いのための手札を、わざわざ戦いの前から曝け出す必要は無い。
 ましてや……連携手段としても極めて重大な役割を持つ、この力であれば尚更だ。
 ――と、その時。
「貴方こそ、もう、解放してあげて下さい。この子達を生み出している……その、哀れな魂を。其れは輪廻転生だけじゃない。死者を冒涜する悲しい行為よ」
「……そうだね。そうなのかも知れない。でも……」
 静かに諭す様な、そんな声が通路の奥から漏れ聞こえてくる。
 その声に、統哉がはっ、と目を大きく見開いた。
「……紫蘭」
 統哉の言葉に、ウィリアムが静かに頷くと、深い情感の籠められた、何処か哀しみを抱いた声が聞こえてきた。
「それでも私は、見えてしまった希望を簡単に捨てることが出来るほど、出来ている人間では無いよ」
「この声は……柊さんね」
「ああ、そうだな。……だが、あの時よりも……」
 ――ずっと、その哀しみが深い。
 姫桜の溜息と共に告げられたそれに美雪が頷くその間にも、柊の話は続く。
「ましてや……君の様な例さえも、私は知っている。だから私は、此処にいる。あの影朧に協力させて貰っている。……この子達も、想いは同じだ」
 柊の言葉に、ウィリアムと美月が一瞬だが息を呑み、『共苦の痛み』の刻まれた場所を、そっとなぞる様に暁音が触れる。
 ――柊と儚き少女達の願いと哀しみを、それは、胸に突き刺さる鋭い痛みへと変えて、暁音の体を貫いていた。
 と、此処でふと、美月がそう言えば、と呟いた。
「柊様周りは全て調査しましたが、協力している影朧については、調べておりませんでしたね。彼女達のことをウィリアム様達は、何か知っておりますか?」
「いえ……調べていませんでしたね」
「……そう言えばにーちゃん、言っていたな。調査をすれば柊と協力する影朧……『両方』の情報を得ることが出来るって」
 美月の呟きに、ウィリアムがはたと呟き、陽太も軽く舌打ちを一つ。
 何故、柊に彼女達が協力することを柊が疑わず、少女達も柊の存在を当然の様に受け入れているのか。
 その背景の調査には、完全に気が回っていなかった。
 ――だから……。
「紫蘭……それでも君は、彼女達を転生させるべき、と言うのかい? 影朧としてでも生を望む。そんな彼女達の思いを、君に踏み躙る権利があるのかな?」
「――確かにその権利は、俺達には無いね」
 柊のその呟きに合わせる様に。
 やや薄暗い中で暁音が共苦の痛みに耐えながら前に出て、そう呼びかけざるをえなかったのは、致し方ないことであろう。
 暁音の、その問いかけに。
 明らかな敵意を持って、疑似幻朧桜の枝を持つ少女達がジリジリと紫蘭に向かって近づき、その少女達に守られる様に立つ柊が、おや、と思わず目を瞬いていた。
「君は今日、私達の所に見学に来ていた子か。君達が只の見学者、と言うのは……」
「ごめんね。それは嘘だ」
 呟く暁音の隣に。
 美月が、OTs-33Pernach(ОЦ-33Пернач)Custom……通称『OTs-33拳銃』のグリップを握り、多知『繊月』白鞘拵え――通称『繊月』を逆手に構えながら、そうですね、と静かに頷きながら立っている。
「私達は貴様達の企みを阻止する、超弩級戦力。そして私は――『SIRD』のメンバーが一人、寺内・美月」
「……そうかい。まあ、姫桜さんや、其方の女性と一緒だから、そうだろうな、とは思っていたけれど」
 特に驚いた風でもなく、姫桜と美雪を見やりながら頷く柊。
 一方、驚きに目を白黒させている紫蘭へと、ウィリアムが軽く手を振って見せた。
「紫蘭さん、一人で無茶をしないで! また、同じ哀しみを、彼に与えるつもり?」
「……同じ哀しみ?」
 ウィリアムの呼びかけに、紫蘭が微かに首を傾げる。
 けれどもウィリアムは其れには答えず、統哉が紫蘭に、ニャハハッ、と笑った。
「雅人が気に掛けていたんだよ。紫蘭が、この事件に関わる可能性があるってな」
「……雅人が……」
 統哉の、その言の葉に。
 紫蘭がその胸の羽根をそっと包み込む様に握りしめるその前に、霧亥が立ちはだかり、建造物の周囲の特に頑丈そうな壁と融合し、『塗壁』……伝承に伝わる宵闇の中で人々の行く手を遮る妖怪へと姿を変貌させていく。
 吸収した第4の壁から手足を生やし、自身の身長の3倍と化したその姿は……一言で言えば、『原初の奇人』
「そう言うことだ、紫蘭」
「紫蘭さんに攻撃は、絶対に届かせませんから……!」
 霧亥と共に、エレメンタル・シールドを掲げ、全身に風と水の精霊の力を帯び、風の妖精、シルフィードの如き身軽さと、水の精霊ウンディーネの如く柔軟な守りの力を得た奏が意気込みながら頷いている。
 そこに、柊を庇う様に前に出た少女達が、自らの手に持つ桜の枝を、無数の鋼鉄の桜の花弁へと変え、驟雨の如く降り注がせた。


「始まりましたか。……SIRD。ミッション開始です」
 驟雨の如く降り注ぐ、鋼鉄の桜の花弁達。
 その無数の驟雨の猛攻から、霧亥が仁王立ちで、奏がエレメンタル・シールドを掲げて紫蘭を守るその間に、ネリッサが自らの周囲へと合計72体の炎の精達を呼び寄せる。
(『フォーマルハウトに住みし荒れ狂う火炎の王、その使いたる炎の精を我に与えよ』)
 恒星に向けてのネリッサの胸中での呼びかけに応じる様に。
 その1体1体が、まるで星粒の様な球体状と化し、そのまま無数の少女達を煌々と照らし出した。
『サー、局長!』
 ネリッサの意を受けたSIRDの者達が一斉に唱和して、その1番手として、攻撃へと移ったのは、灯璃。
「柊さん。信念があるのは立派ですが……そうして、敵に取り込まれる事への危機意識の無さは、話を聞くにも値しないですよ?」
 戦意を滾らせ先手を打ってきた少女達と彼女達に守られる様にしている柊へと告げながら、灯璃が生物である柊や周囲をチロチロと走るネズミ等の生物の視界と自らの視覚を強制的に共有化し、少女達の後背から、少女達の動きと人数を確認、MK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"とHk477K-SOPMOD3"Schutzhund"のスコープを通して狙いを定めて、静かにその引金を引く。
 引金を引くと同時にスナイパーライフル『"Failnaught"』と、セミ・オートライフル『"Schutzhund"』の銃口が火を噴いて弾幕を張り、ネリッサによって照らし出された少女達の桜の枝……疑似幻朧桜とその頭部を正確に撃ち抜いている。
「へへっ、随分と楽しめそうじゃねぇか。んじゃまぁ、パーティーをおっ始めようぜぇっ!」
 正面からの防御は霧亥と奏に任せ、背後から紫蘭を庇う様に背合わせになって、背後からの奇襲を警戒する美月とは別に、紫蘭の右側面に立ち、其方からの紫蘭への攻撃に備えたミハイルが、UKM-2000Pの引金を引く。
 灯璃とミハイルの無数の射撃による銃弾が、既に鋼鉄の桜と化した疑似幻朧桜を撃ち落とすが、それでも、ミハイルの弾幕をすり抜けて、頭上から紫蘭を撃ち抜こうとする鋼鉄製の桜の花弁達。
 ――けれども。
「アルマ、頼むよ」
「紫蘭さんは、やらせないわよ!」
 暁音が呼び出した一体の銀髪・銀瞳の天使が上空に姿を現して鋼鉄製の桜の花弁を受け止め、更に正面から鋼鉄製の桜の花弁を出した前衛の脇を駆け抜け、側面から同じく鋼鉄製の桜の花弁を発射した少女達からの攻撃を、姫桜が、漆黒の輝きを伴うschwarzと、白き輝きを伴うWeißを風車の様に振るい、風を起こして絡め取る様にその桜の花弁を叩き落としている。
 一方後衛……柊の直営としてであろう守護者足る少女達……それは柊の目からであればはっきりと認識できる……ネリッサの炎の精達によってその姿を煌々と照らし出されていたその少女達の疑似幻朧桜とその頭部の一部が、灯璃の弾丸によって吹き飛ばされていた。
 頭部を撃ち抜かれた少女達の脳漿が飛び散り、グラリとその場に頽れそうになるが動揺する様子も見せずに、撃ち抜かれた疑似幻朧桜を、自らの生命力を代償にして、修復し撃ち抜かれた頭部さえも再生していく少女達。
 そこで……。
『もふもふさんもふもふさん、存分に励ましてあげてくれ』
 美雪がそう呟くと同時に姿を現した66体の小動物……仔猫や子犬、子羊の様な……見ているだけでもモフモフしたくなる愛らしい生き物達の激励を受けた響がブレイズブルーに自らの気高き魂の如き、蒼白い炎を纏わせて灯璃の銃撃によって傷ついた少女達を、弧を描いて薙ぎ払って止めを刺しながら、漸く姿を見せた柊へと告げた。
「柊っていったっけか。大事に育てた娘さんを突然失う悲しみは、アタシも奏達の親だからね。よく分かる」
「そうか。……紫蘭を守るあの少女は、貴方の娘か」
 自分の思いを理解してくれるであろう響の言葉に、微かに安堵の息を漏らしながら、柊が何処か親としての共感を携えた双眸で、響を見つめる。
 その柊の双眸を正面から受け止めながら、再び現れた少女達からの鋼鉄製の桜の花弁による牽制を、残像を曳いた蒼き結界で防御して後退しつつ、でもね、と響が溜息を漏らした。
「その娘さん……鈴蘭さんは、良い研究者としてのアンタの背を見て育った訳だ。研究者の道を外れている、今のアンタに生き返らせて貰ったら、どう思うかね?」
「……っ!」
 響の声に微かに柊の表情が歪む。
 その柊の反応に過剰に反応したのは、柊の前に盾になる様に姿を現した少女達。
『あの方の声を聞いてはダメ』
『大丈夫。私は貴方のお陰で今まで失っていた希望を取り戻せた』
『だからお願い……私達を、見捨てないで』
 懇願とも取れる、少女達の呟き。
 ついで少女達は……はっきりとした憎しみを瞳に浮かべて、黒猫の刺繍入りの緋色の結界を張って鋼鉄製の桜をやり過ごしていた統哉と、白銀の鎧に身を包み込んだ陽太へと怨嗟を籠めてあらんばかりの声で叫んだ。
『私達から……父親代わりのこの人を奪わないで!』
『私達のこと……何も、何も知らないくせに!』
「……ちっ! 確かに俺達は、柊の事や紫蘭の事は知っているが、アンタ達がどうしてこうまでして協力しているのかまでは知らねぇ……!」
 自分達の情報収集の至らなさに、舌打ちを一つする陽太。
 それが動揺と化して自らを信じる心への揺らぎになり、白銀鎧の無敵の防御力を、明らかに減じさせていた。
「そうだな、君達の言うとおり。俺達は、君達のことは知らない。けれども……紫蘭と同じだ。少なくとも俺は……君達を助け出したい」
 憎悪を叩き付けられながらも尚、少女達の言の葉に籠められた真実と想いを読心術で読み取ろうと、必死に呼びかける統哉。
 けれども……まだ、彼女達の心の真意を読み取るには至れていない。
(「この子達が求めるもの……それは……なんだ?」)
 何かへの引っ掛かりが統哉の脳裏を掠めていくが、その答えを掴み取るよりも前に、影朧……不安定なる影の少女達が、今にも泣きそうな表情を柊に向け続けざまに邪魔をしないで、とばかりに疑似幻朧桜を上空へと放り投げた。
 ネリッサの炎の精に照らし出されながら上空へと放り投げられた疑似幻朧桜達が、ハラハラ……と舞い散る桜の花弁と化して、統哉達を捕らえようとする。
 そこに……。
「……Active Ice Wall!」
 その舞い散る桜の花弁が何かに気がついたウィリアムが、ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣し、周囲に描き出していた青と幻朧桜と同じ、桜色の混ざり合った複数の魔法陣を明滅させる。
 同時にそこから放出されたのは、無数の氷塊。
 氷盾とも、足場ともなるそれを展開しながら、ウィリアムが叫んだ。
「皆さん、好きに使って下さい! それから、あの桜の花弁には、くれぐれも注意の程を!」
「ええ、分かっているわ!」
 舞い散る桜の花弁に囚われれば、ユーベルコードが封じられる。
 直感的にそれに気がついたウィリアムの叫びに姫桜が頷きながら、その両掌にバチ、バチと高圧電流を纏わせ、霧亥と奏を打ち倒さんと立ち向かってくる少女達が駆け抜ける大地に叩き付ける。
 凄まじい高圧電流が大地を駆け抜け、少女達の体を捕らえてビリビリと感電させる間に、姫桜が、私は、と何処か震えながらも決意を感じさせる声音で囁きかけた。
 その腕の玻璃鏡が、そんな姫桜の心の動きを……動揺と、彼女達への労りを示すかの様に、漣を立てている。
「……私もね。統哉さんと同じで、貴女達には影朧としてではなく、1つの命として、転生して欲しいと思っているの。だって……もし大切だと思う物があるのなら、尚更転生して、生き直して欲しいから」
 ――それは紫蘭――否、嘗て影朧と化してしまった、紫苑に対しても向けた言葉。
 あの戦いの後、紫苑は紫蘭へと転生し、また雅人と巡り会い新しい絆を育み、そうして……彼女達の思いに共感して、此処に姿を現している。
 その意味は――きっと。
「貴女達の中に、現世への大切な想いが残っている。その記憶を留める為に、貴女達は影朧になった。……でも、そのままではいられない……その内に、記憶を留めたいと思っていた筈の、大切な者をも壊して、結局異形に成り果ててしまう……そんなの、貴女達や柊さんが望んだとしても、私は絶対に嫌だから」
 姫桜の高圧電流によって絡め取られた少女達。
 その少女達へと六花の杖を突きつけながら、瞬が訥々と問い質した。
「影朧のお嬢さん達。姫桜さんの言う通り、貴女達が影朧として存在する限り、貴女達は苦しみ続ける事になりますし、更に僕達の様な猟兵……いや、超弩級戦力に追われ続ける事になりますね。それに貴女達は、耐えきれるのですか?」
「瞬兄さんの言うとおりです!」
 六花の杖に、『氷』属性の魔力を集約させながら。
 瞬がそう問いかけたのに、ミハイルが機関銃からばらまいた弾丸で鋼鉄製の桜の花弁を撃ち落とし、霧亥と共に、その弾幕を掻い潜ってきたそれらを受け止め、体の彼方此方に傷を負い、その痛みに顔を顰めながらも、奏が叫ぶ。
「このままですと、貴女達も、貴女達が父親代わりと慕う柊さんも、黄泉がえりを許さない帝都桜學府や私達に追われる日々が待っているだけです……! 貴女達は、耐えられるのですか!? また貴女達が耐えられるとしても、柊さんが、生身の人間であるその人までが貴女達と同じ様に耐えられると……本当に思っているのですか!?」
 傷つき脂汗を流しながらも、声を張り上げる奏。
 そんな奏へと美月が、逆手に握りしめた『繊月』用に拵えらえれた、腰に帯びた『白鞘』の装飾からホーミングレーザーを放ち、奏と無敵鎧の弱体化により負傷を受けていた陽太の傷を癒す。
 美月のその肩に、ズシリ、と疲労がのし掛かってくるのを感じながら。
(「まだ先が控えています。無理は必要最小限に留める必要がありますね」)
 胸中で独り言ちながら、紫蘭へと迫り来る鋼鉄製の桜の花弁を、『OTs-33』で撃ち落とす美月。
 鋼鉄製の桜の花弁を撃ち落とされ、隙が出来た少女を、魔力を収束させた瞬の氷の矢が貫いて止めを刺すが、少女達は決して臆せず、後衛の少女達がその傷を癒し、前衛の者達が牽制に桜花弁を解き放とうとした、刹那。
「霧亥さん、ミハイルさん、灯璃さん」
 すかさず撃ち返しながら冷静に指示を出すネリッサに頷き、霧亥が周囲に散らばった瓦礫を拾い上げて投げつけて前衛の少女達を牽制、そこにミハイルがUKM-2000Pの引金を引いて機関銃を乱射して後方の少女達を撃ち抜き、灯璃が、「"Schutzhund"」の引金を引いて弾幕を張って紫蘭への少女達の攻撃を牽制してくれている。
(「そろそろ、陣容が整い始めてきましたね」)
 灯璃が内心で呟き、ネリッサに素早くアイコンタクトを走らせ、ネリッサがアイコンタクトでそれにGOサインを出したのに頷き、密かに仕込みを始める灯璃。
 そうやって自分のために命を賭して戦ってくれているSIRDの面々に、微かに紫蘭が目を瞬かせた。
「……どうして、貴方達は私を守ってくれるの? 姫桜達はともかく、貴方達は私とは初めて会う筈なのに」
「ハハッ、そうだな。確かに俺達は、アンタが何者なのかは知らねぇよ」
 そんな紫蘭の懸念を吹き飛ばす様に。
 UKM-2000Pで無数の銃弾をばらまき、姫桜によって足止めされている少女達を撃ち抜きながら、ミハイルが愉快そうに笑って、グラサンをクイ、と引き上げた。
 そのミハイルの瞳は、懸命に指揮を執りながら愛銃、『G19C Gen.4』を構えて、ウィリアムの用意した氷塊を足場に利用して、後衛の少女達に肉薄する陽太達を援護射撃する、頼もしき局長、ネリッサへと向けられている。
「でもよぉ、これがウチのボスのオーダーだからな。傭兵ってのは、ボスの命令に従って戦えれば良いんだよ。そこには善も悪もねぇ」
 まっ……と、口元にキザな笑みを浮かべながらミハイルが軽く肩を竦め、隣に立つ紫蘭を見やって言った。
「ついでに言えば、アンタみたいな別嬪に死なれたりしたら、こちらとしても寝覚めがわりぃ。さしあたりアンタを俺達が守ってやる理由なんて、そんだけで十分なんじゃねぇの? 柊や影朧共の説得は、他の連中が何とかしてくれそうだしな」
「……ミハイルさんと言ったか? あまり、私達だけに過剰な期待を抱きすぎるのもどうだろうな、と思うぞ?」
 ミハイルの、その言の葉に。
 微かに呆れた様にヤレヤレと溜息を漏らしながら、もふもふさん達を召喚した上で、後方から戦場を監視していた美雪が呟いていた。
 尚、菊と蘭の姿はない。
 菊と蘭の姿があると、今度は彼等が敵か味方かさえも考えねばならず、対応しきれなくなる可能性が高いので、正直安堵すべき事ではあるが。
(「柊さんについてはさておき、少女達については情報収集が既に後手に回っている訳だからな」)
 瞬と奏の呼びかけに、憎悪の中に微かな動揺の表情を見せた少女達の姿を認めながら美雪が胸中で独りごち、それから少女達に守られる、柊に向けて声を張り上げた。
「柊さん。貴方が奥様と娘さんを失った悲嘆は察して余りある。それは、響さんが誰よりも分かっていることだが……私も似た様な境遇ではあるからな」
 この力に目覚めた時から、自分の意思で家族と離れると決めたのだ。
 其れが例え、永遠の離別となるやも知れぬと思ったその時の事は、あの自分にとっての幸福な光景を見せつけられた時から、ずっと心の中に残っている。
 ――けれども。
「だが、今のあなたが手を出そうとしているその術は、世界の理を侵す邪法だ。それに気づけぬ貴方ではあるまい?」
「……そうだね。確かに私が行おうとしている事は、この世の理を離れた邪法だろう。だが……それでも尚、その邪法の中に見えた希望を、私はこの娘達の想いも、哀しみも、痛みも知るからこそ……それに縋ると決めているんだよ。今は影朧であるこの娘達もまた、いずれ人として黄泉がえる事が出来るかも知れないのだから」
「もし貴方の娘さんが黄泉還ってその先の研究を更に進めたとしても。その先で今此処に居る子達も、影朧としてではなく、人として黄泉還る事が出来るなんて……そんな事は有り得ないわ」
 世界によって転生し、桜の精としてこの世に新たな生を受けた桜の精たる紫蘭だからこそ、この事は誰よりもよく分かっている。
 その為に人々は影送りの儀を生み出し、そして桜學府は……否、雅人は。
 影朧を救済するために、その対策を講じているのだから。
 紫蘭の言葉にそうだよな、と同意した陽太が灯璃の狙撃によって隙の出来た少女達の1人に向けて、濃紺のアリスランスを伸長して貫きながら静かに頷きその続きを紡いだ。
「誰だって希望が見えれば、それに縋りたくなるだろうよ。其れが人の性ってもんだ。だがな、てめぇが見出した希望は、死者にとっては絶望かも知れねぇんだ! もし本当に黄泉還りを望むなら、残酷な事実と……テメェの娘も、この子達も、このままだと二度と人として戻ることができねぇって事実と向き合う覚悟を決めやがれ!」
 鋼鉄製の桜の花弁が突き刺さり、半ば銀屑と化している白銀鎧の奥から、ダラダラと滴り落ちる血を、美雪のモフモフ動物さん達と美月から放たれた白きレーザーに癒されながら。
 必死の形相で叫ぶ陽太の叫びに、柊が一瞬息を飲む。
 一方、少女達の方は、そんな陽太に対して、憤怒の表情も露わに叫び返した。
『元々、私達を見捨てた貴方達超弩級戦力が……帝都桜學府の協力者が、巫山戯たことを言わないで! 対影朧対策兵器としてこの木を作り出して使おうとしながらも、利用価値を認められずに廃棄処分された私達の気持ちも……何も知らない貴方達が……よくもまあ、ヌケヌケとそんな口を……!』
「……!!」
 疑似幻朧桜を鋼鉄製の桜花弁へと切り替えて、猛吹雪の如く、叩き付けながら。
 悲痛の表情で叫ぶ少女達のその言葉に、統哉が、姫桜が、ウィリアムが息を呑む。
(「……対影朧対策兵器……?! この子達が……?」)
 ――有り得ない話では無い、とウィリアムは思う。
 同時に、柊が何故彼女達を……その悲しい記憶を維持した儘に生きたいという願いを果たしたいと願ったその理由も、また。
「それも……柊さん。貴方なりの兵器に対する思いやり……愛情か……!」
 ――ただ柊は、娘に蘇って欲しいと願っている、と思っていた。
 けれども彼が望んでいるのは……それだけじゃない。
 見捨てられた兵器……当時であれば超弩級戦力として扱われたであろう、この少女達の様な悲しい存在を、二度と生み出したくない……救いたい、と言う願い。
 きっとそれは、多くのことに愛情を注ぐ事の出来る、心優しき人だからこそ生まれた、歪みながらも存在している想いなのだろう。
 そしてそんな自分の思いが如何に歪んでいるのかも……きっと柊は分かっている。
「……君達も」
 カラカラに喉が渇く事と、ゾワリと肌が粟立つ様な感覚を覚えながら。
 辛うじて、と言う様子で統哉が呟いた。
「柊さんと同じで、君達もきっと……自分達の過去を愛し、それを大切に思っているんだね……」
 それは、誰もが思うこと。
 統哉の周りにも、統哉自身も含めて、過去に囚われ続けている人々は多くいる。
 ――それでも。
「……そうだね」
 アルマの絶対防御壁で、天空より降り注ぐ鋼鉄製の桜の驟雨が紫蘭に天から飛来するのを防ぎながら。
 暁音が、漸く得心がいったと言う様に小さく息を吐きながら、エトワール&ノワール……星と闇の魔力を籠めた二丁拳銃を構え、ウィリアムの用意した氷塊の塊を渡り歩いて肉薄、ガン・カタで少女達を封殺しながら淡々と告げた。
「そんな痛い記憶が……でも、それが決して忘れたくない記憶ならば、尚更、その記憶を失くして、別人に生まれ変わりたいとは……思わないよね」
 ――生きるモノが、生きたいと願う事。
 ――そして……記憶をなくして生まれ変われば、正しく紫蘭の様に別人になってしまうこと。
 今でこそ紫蘭を受け入れているが、最初に紫蘭に出会った時の雅人の様子を思い起こせば……理性的にはさておき、感情的には如何に受け入れるのが難しく、戸惑ってしまうのかは、この目で見ているからよく分かる。
 ――だから。
「君達が、其れを拒むのも、俺達には分かるよ」
 ――でも。
「柊さん、貴方は忘れてしまったんですか!? 彼女達をどんなに救いたいと願っても……彼女達が影朧で在り続けることは、そのまま世界を傷つけてしまうことを! よしんば、貴方の願いが最終的に叶えられたとしても……其れまでに今生きている人々に、この世界の理に、どれ程の犠牲が……被害が出てしまうのか……その事さえも!」
 暁音のそれに応じる様に柊に必死に言い募るウィリアム。
 少女達に守られた柊が、その言葉に微かに目を見開く姿が、ネリッサによって少女達に貼りついていた照明弾代わりの煌々と輝く炎の精達によってはっきりと照らし出されてよく見える。
(「Sammeln! Praesentiert das Gewehr!(集え! 黒い森に潜む狼の砦!)」)
 少女達を、暁音達が説得する傍らで。
 灯璃はこの説得の結果がどう転がろうとも、彼女達を喰らい尽くすべく漆黒の森の様な濃霧を、ネリッサの炎の精の影に潜ませる様に呼び出している。
(「もし、この説得が通じたのだとしたら」)
 柊を捕らえるのも容易であろうし、少女達を転生させるという紫蘭の願いを叶えるために、一度倒すことも容易であろう。
(「備えは、常にしておくべき、ですからね」)
 そう内心で呟き、ネリッサとアイコンタクトを灯璃が交わすその間にも、暁音は訥々と説得を続けていた。
「それでも、俺は……俺達は、君達の想いを踏み躙るよ。ただ、俺達の意思を持ってね」
 切り口上で告げられたそれに少女達が憎悪の塊と化して、暁音を狙おうとした、その刹那。
「灯璃さん」
「了解です、ネリッサさん。『……仕事の時間だ、狼達≪Kamerad≫!』」
 ネリッサの合図に灯璃が頷きと同時にパチン、と指を鳴らす。
 刹那、現れた光すらも喰らい尽くす狼の様な群れが姿を現し、話を聞かずに暁音の不意を打とうとした少女達へと喰らいついた。
 同時にミハイルがそこにUKM-2000Pの引金を引いて機銃を掃射し、更に霧亥が鉄屑を投げつけて、灯璃の狼に喰らわれている少女達に叩き付けている。
 思わず息を呑む紫蘭に、霧亥が冷静に呟いた。
「話を聞かない相手は、今は力尽くで押さえて、お前や統哉達を守る。それが、今の俺達の役割だ。……紫蘭、お前もそれは、分かっているんだろう?」
 霧亥のその言葉に、紫蘭は微かに俯き加減になりながらも、静かに首肯。
「確かに戦闘不能に出来なければ、彼女達が望むと望まないと、私の力では、転生させることは出来ない」
「そう言うことです。その転生に納得して貰えるかどうかの道筋を作ることが出来るのは……暁音様達でしょうけれども」
 狼に喰らわれながらも、尚、紫蘭に刃を向けてきた少女から、紫蘭を庇った姫桜の傷を、『白鞘』のホーミングレーザーで癒しながら美月が呟いている。
「そっちの別嬪さん達も、もっと何か言ってやった方が良いんじゃねぇの?」
 ミハイルのからかう様なそれに、姫桜が頬を赤らめつつ、ぷいっ、とそっぽを向き、美雪が軽く頭を横に振り、奏がそうですね、と生真面目に頷く。
「ですが、今は暁音さんや統哉さんにその言葉を最後まで届けて欲しいのです」
「僕達や母さんの声はきっと、既に、ある程度彼女達と柊さんに届いています。ならば次は、他の皆さんの言葉でしょう」
 エトワール&ノワールで少女達を撃ち抜く暁音の背を守る様に、響がブレイズブルーを横薙ぎに振るって少女達を牽制する様子を見ながら、氷の魔力を収束させて、氷の槍を降り注がせる瞬にそうかい、とミハイルが軽く肩を竦めた。
「其々に信じるものがありますからね。それが、このミッションをより良き成功に導けるのであれば、私達SIRDが今できるのは、その為の援護でしょう」
 ネリッサの締めくくる様なその言葉と、G19C Gen.4の銃口を少女達に向け、苦戦する響と陽太の援護射撃をするその様子に、そうですね、と狼達を解き放った灯璃が、静かに頷いた。


 ネリッサ達の後方からの援護射撃を受けながら。
 共苦の痛みの突き刺す様な痛みに苛まれつつも、暁音は訥々と語り続けている。
「理を乱せば、何処に歪が現れるか分からない。ましてや……影朧に存在を変質させたものの価値観が、何時までも人のものである保証もない。そして……仮に貴方の影朧を人間に戻す法……本当の意味での黄泉還りが完成できたとしても、その間に、彼女達が何時までもその思いを抱き続けていられる可能性は0に近い」
 ――何故なら、影朧は本来不安定な存在だから。
 何時、何が原因で、どの様に変質してしまうかなんて事は、どれ程長く生きようとも、所詮は人の身である自分達が知れる可能性は、未知数どころかほぼ無いだろう。
「暁音さんの言う通りです、柊さん! 貴方は帝都桜學府の研究者でしょう! そんな貴方が、彼女達が輪廻転生の理に則って、次の生に送り出してあげるのが流儀であることが分からない筈が無い! どうか正気を取り戻して下さい!」
 淡々と推測を述べる暁音と、聊か強い語調で必死に呼びかけるウィリアムの言葉に、激しい動悸を抱いていた統哉がはっとした表情になる。
 ――そう……今、柊が行なおうとしている過ちは、正しく、輪廻転生の理から離れようとしている事なのだ。
 それはつまり、世界の理と向き合えない……向き合わない、と言う事。
 即ちそれは……過去を過去と出来ないと言う事だ。
「でも……過去は、過去としなければ、君達も未来へは進めない。その世界の理を、元々旧帝都軍の突撃隊であった君達が忘れているとは、俺には思えない」
「そうだね。正直その辛い思いを影朧として抱き続けた儘、柊の研究が実を結ぶその時まで娘さん達影朧が正気を保っていられるとは、アタシも思わないね。そもそもさっきの言葉も……柊個人に対してはさておき、アンタ達を切捨てた奴等に対する、憎悪に塗れていたとアタシには思えたよ」
(「あの子が……瞬がオブリビオンに抱いている憎悪と同じ様にね」)
 統哉の呼びかけに同意しながら、響が後方から氷の槍で援護してくる瞬と出会った時の事を思い起こし、小さく頭を振っている。
「だからこそ、娘さん達……アンタ達はもう、正しい輪廻に還るべきなんだ。その心の闇に囚われないその内にね」
 響の呼び掛けを聞いた少女達は、鋭い眼差しで響を睥睨し、柊も厳しい眼差しを浮かべている。
 そんな柊に対して、暁音が更に語り掛けた。
「……存在が変わると言う事は当然、価値観だって変わるものだ。たとえどんな邪法があったとしても、死者は決して黄泉還らない」
「……そもそもだ、柊さん」
 暁音が刃の様に突きつけた冷厳なる宣告に。
 遂に美雪が静かに同意する様に首肯し口を開いたのに、ミハイルが思わずひゅぅ、と口笛を一つ吹く。
「仮に鈴蘭さんが黄泉還ったとしよう。けれども……黄泉還った鈴蘭さんが、生前と変わりないと、貴方はどうやって証明するのだ?」
「……っ!」
 美雪のその言の葉に。
 柊が思わず身じろぎするのに合わせて、姫桜がそうね、と小さく頷いている。
「あの時、私と話した貴方はとても優しかったわ。あれが偽りの貴方だったとは私には思えない。だから、娘さんを黄泉還らせ、その上で影朧であるこの子達にも、今の姿のままで新しい命を与えて黄泉還らせたいと言う願いは、正しくやり方は違うけれど、『影朧を救済する』と言う帝都桜學府の理念に基づいたものだと、私は思うわ」 ――けれども。
「でも……本当にそれが出来るのかどうか、そもそもやるまでに彼女達がどうなってしまうのか……その想いが壊されてしまうのは、彼女達を思う大切な誰かの想いが壊されていくのは、私は嫌。そんな事……貴方から見たら子供にしか過ぎないかもしれないけれども、私には、決して認められないわ」
 姫桜の想いに、応じる様に。
 桜鏡に嵌め込まれた玻璃鏡が、静かに水面を波立たせる。
 直接話を交えたからこそ分かるその想いを叩きつけられ、柊が目に見えてたじろぐ様子を見て、柊さん、と統哉が呼び掛けた。
「彼女達の想いを残したい、その想いもわかるけれど。貴方も知っている筈だ。例えその魂が失われ、転生によってこの子達も、そして鈴蘭さんも消えてしまったとしても。その先の未来に新たな出会いがあって……それが救いとなる事を。そう、紫蘭の……」
「……それはっ……!」
 統哉が告げようとしたそれに、悲鳴の様な声を上げる柊。
 ――柊の全身の皮膚が粟立ち……それ以上を言わないでくれ、と言う声にならない願いが、彼の胸中を恐慌となって塞いでいく。
「……それだけじゃない。奥さんを亡くした悲しみの中で、貴方は娘さんに『鈴蘭』と名を付けた。鈴蘭の花言葉を、貴方は知っているんじゃないのか?」
「そうだな……姪である紫苑……『君を忘れない』、『追憶』って花言葉がある様に。アンタが娘に名付けた鈴蘭って言葉にも、意味があるんじゃねぇのか?」
 陽太に紡がれたその言の葉に、柊が凍り付いた表情でその動きを止める。
 それに統哉がそう……と頷き、その花言葉を、きっぱりと告げた。
「鈴蘭の花言葉は……『再び、幸せが訪れる』。正しく、輪廻の中でこそ生まれた出会いを意味する花言葉だ」
「……っ!」
「ついでに言えば、アンタに手を貸そうとその手を差し伸べた組織の名は……彼岸花、だったな」
 陽太の呟きに、少女達が怯んだ姿を見せる。
 それは、SIRDであるネリッサ達がこの一日で調べ上げた、柊の黄泉還りの研究に、手を差し伸べた企業の名だ。
 その彼岸花の名を陽太が出した時、統哉が思わず、と言った様子で軽く頭を一つ振った。
「彼岸花の花言葉は、『転生』、だったな。……この企業名を付けたのは誰なんだ、柊さん?」
「やめろ……やめろ……っ!」
 統哉の問いかけに苦し気に呻く柊。
 その柊の様子を見て、ネリッサがそう言う事ですか、と小さく頷いた。
「企業を作ったのは別の方なのでしょうけれども。その名を企業に送ったのは、あなたなのですね、柊さん」
「……っ!!」
 くしゃくしゃに顔を歪める柊に、奏が柊さん! と叫び声を上げる。
「貴方はもう、よく分かっているんじゃないですか!? 人生って、一度しか生きれないから、その命は大切なのだと言う事を。黄泉還りはそれを軽視する行為であり、精いっぱい生きた娘さんの人生を冒涜する行為なのだと!」
「分かっている、気が付いているんだ、貴方は。だから……貴方の想いは、こんなに痛いんだ。例外が蔓延れば、やがて死そのものを軽視して良いことになってしまう事を。その、本当は間違っている希望に、自分が縋り付いてしまっている、その事実に。ならば、貴方は……」
『――それ以上、この人を傷つけないで!』
 暁音の呟きに耐えきれなくなったか、少女の一人が悲鳴にも近い叫びをあげて、暁音に突進するが、奏が咄嗟に暁音の前に出て、少女の攻撃を受け止め、そして統哉が漆黒の刃を持つ大鎌……『宵』を振るう。
 宵闇に咲く月光花の如き煌めきを伴った大鎌の刃が、たまらず飛び出してきた少女の体を薙ぎ払い、その暁闇を払う様に斬り裂くのとほぼ同時に。
『もふもふさんもふもふさん、存分に励ましてあげてくれ』
 美雪の再びの呼びかけに応じた、66体のもふられ上手な愛らしい仔猫やらリスやらが姿を現し、『もふもふパワー』なる謎の激励を大合唱。
「あ……あうう……か、可愛い、可愛いわ、もう……!」
 愛らしい仔猫たちの大合唱に、姫桜の頬がだらしなく緩みきる。
 気のせいであろうか。
 そんな中で、両掌の高圧電流がモフモフした小動物達の応援によって、何だか一回りも、二回りも大きくなった様に感じられた。
 そこまで来たところではっ、と姫桜が思わず我に返り、顔を赤らめながら叫ぶ。
「お眠り、影朧、今宵は安らかな眠りの時よ!」
 その叫びと共に、大地を再び殴りつける姫桜。
 高圧電流が双頭の竜の如き姿と化して大地を駆け抜け、残された少女達の全身を再び痺れさせ、動揺に完全に浮き足立っていた少女達の身動きを完全に止める。
 ――その瞬間を、状況の変化を観察していた灯璃が見逃す筈も無い。
「ネリッサさん」
「今です、皆さん」
 灯璃の呼びかけに頷いたネリッサの号令が飛び、少女達を照らし出していた炎の精達が太陽の如き輝きを発して少女達の姿を燦然と照らし出し。
『了解、局長!』
 ネリッサの号令に応じて。
 伝説の妖怪と化していた霧亥が周囲の瓦礫や鉄屑を拾い上げ、紫蘭の祈りを受け。
 灯璃が、セミ・オートライフル『"Schutzhund"』と、スナイパーライフル『"Failnaught"』を。
 ミハイルがUKM-2000Pの引金を。
 更に美月が疲労した体に鞭打ちながら……。
『前方の敵に火力集中、敵の行動を封じ込め!』
 叫び、『繊月』を逆手に構えていた手を空中で翻すと同時に、愛銃『OTs-33Pernach』、自衛用火器『9㎜特殊火器』、突撃用火器『5.56㎜特殊火器』、支援用火器『7.62㎜特殊火器』……用途別に使い分けられるそれらを含めた74の火器の複製品を周囲に展開。
 そして……。
「一斉射撃、開始します」
『了解!』
 ネリッサの指示に応じた、霧亥、灯璃、ミハイル、美月……其々の遠距離射撃武器、瓦礫や鉄屑や、幾種類もの銃の銃口が一斉に火を噴き、統哉達の言葉を聞いて、既に身も心も切り刻まれていた無数の少女達を撃ち抜いていく。
 散り散りになって討ち取られていく少女達の姿を確認した、ウィリアムが氷塊の盾を作り出した魔法陣を一点に集約させ、『スプラッシュ』の先端で青と桜色に激しく明滅する魔法陣に新たな文字を書き加え始め。
「瞬さん!」
「はい、分かっています、ウィリアムさん」
 すかさず瞬に呼び掛けたウィリアムに応じて瞬もまた、その手の月虹の杖と、六花の杖の先端を少女達に突きつけた。
『Icicle Gáe Bolg!!』
 2人の氷の魔術師の叫びと共に空中へと飛び出した370本の氷柱の槍と、2本の巨大な氷の槍が重なり合い、それが分裂して無限の氷柱の槍の豪雨と化し、銃弾によって散り散りにされていた少女達の華奢な体を次々に貫いていく。
 周囲の少女達が大地から撃ち出された無数の銃弾の嵐、上空から降り注ぐ無限の氷柱の槍に貫かれて次々に串刺しにされていくその中で、暁音が後衛で紫蘭の護衛のために天空に留めていたアルマへと目配せを送る。
 銀髪、銀瞳……自らと正反対の姿を持つ、白銀の翼を背負った天使の様な少年、アルマがその背の白銀の翼を星光の如き輝きに包み込み、翼から無数の羽根を掃射。
 矢の様に放たれた星光を纏った羽根の矢が、無限の氷柱の槍の豪雨に串刺しにされた少女達を浄化せんと少女達を貫き、その体を消失させていく。
「さあ……アンタ達、輪廻転生の輪に還る時だよ!」
 猛々しき雄叫びと共に響が蒼白い炎を帯びたブレイズブルーで生き残りの少女達を纏めて薙ぎ払い、返す刃で少女達の疑似幻朧桜を焼き払って。
「終わりだぜ!」
 ネリッサ達の一斉射撃と、ウィリアムと瞬の放った氷の槍の一撃を辛うじて免れた少女の懐に潜り込み、その脇腹から、背骨までを貫通させる勢いで、深紅のアリスランスを陽太が伸長させて、その心臓を貫き。
「もう、安らかに輪廻転生の輪に戻って下さい!」
 嘆く様な叫びと共に、風の精霊達の力を纏ったエレメンタル・シールドによる猛打を奏が少女達に浴びせて身動きを止めさせた。
 散り散りに撃たれ、貫かれ、切り裂かれ、殴られ、傷だらけになりもがき嘆く少女達を何処か痛ましい者を見る瞳で統哉が映し出しながら、静かに祈る様に目を瞑り……。
 漆黒の大鎌『宵』を握りしめ、その魂に蝕む闇を払う祈りを籠め直した。
「……一緒に見送るそのためにも。紫蘭……桜の癒しを、頼む」
「統哉……ありがとう」
 そう呼びかけた統哉に、何処か安堵の混ざった息を一つ漏らす紫蘭。
 その安堵の息を背で受け止めた統哉が瀕死の少女達に向けて、『宵』を振るった。
 ――その刃に……宵闇を駆け抜ける一条の流星の如き、白き輝きを伴いながら。
「安らかに」
 統哉が放った一閃に合わせる様に、紫蘭がゆっくりと胸の前で両手を組み、そして、シャン、シャンと静かに舞いながら、祈りの言の葉を紡ぐ。
「今は、静かな眠りの時を」
 その紫蘭の呟きと共に。
 本物の幻朧桜の花を思わせる桜吹雪が周囲を舞い、肉体を激しく欠損し、存在を辛うじて留めさせていた復讐心……『邪心』を断ち切られた少女達の肉体を強制的に桜吹雪の中に飲み込ませ……そして静かな眠り……輪廻転生の輪の中へと戻していく。

 ――脱力した様に、がっくりと両手を地面について頽れた、柊を残して。


「……一先ず、状況終了ですね」
 肉体も魂も消え去っていった少女達の事を見送り、軽く汗ばんだ額をそっと拭いながらのネリッサの呟きに、そうですね、と灯璃が頷いた。
「ですが……まだ終わりではありませんね。私達の方も、無傷、と言うわけにもいきませんでしたし」
「……柊さんの行方を追うのに手一杯で彼女達についてまで、情報を集めていなかったからな」
 美月が軽く息を吐きながら小さく呟き、『白鞘』からのホーミングレーザーで前線に立ち負傷した響や暁音、統哉の傷を癒し、顔を青褪めさせるのに美雪が頷き、続いて聊か気づかわし気な眼差しを紫蘭に向けた。
「……紫蘭さん。この戦いが終わったら、積もる話と今回の事情を、包み隠さず教えて貰えるな?」
「……ええ」
 その美雪の呼び掛けに自分の両手を見つめながら、紫蘭がそっと息を吐いている。
 その息は……まるで自分の行いが最後まで正しかったのかどうか、悩んでいる様にも見えて、それがより一層憐れみを誘った。
「まあ、そいつが無事だったし、一先ずはあいつらも輪廻転生つったか? この世界の理に戻れる筈だし、取り敢えずは良かったんじゃねぇの?」
「そうだな」
 ミハイルがわざとらしく肩を竦めて周囲の空気を少しでも和らげようとしたか、そう呟いたのに、霧亥が同意を示し、ネリッサもそうですね、と軽く息を一つ吐く。
 そうこうしている間に、陽太がその場で膝と両手をつき、崩れ落ちている柊を無理矢理引っ張り起こした。
「おい! まだ全てが終わったわけじゃねぇぞ! ちゃんと、全ての事の結末までアンタにはしっかり見届ける義務がある!」
 陽太が柊を叱咤しつつ無理矢理柊を担ぎ上げるのを確認しながら。
 月虹の杖を掲げて、最奥部に向かう通路を光の精霊を呼び出して照らし出した瞬が、皆さん、と静かに呟いた。
「鈴蘭さんと、今回の黒幕はこの先です。急ぎましょう」
「ああ。そうだね、瞬」
「そうですね、瞬兄さん」
 瞬の呼び掛けに響が重苦しく息を吐きながら頷き、奏もまたそれに同意する様に静かに首肯。
「……これだけの大掛かりなことが出来る影朧、か。一体何者なんだろうね?」
 誰にともなく呟く暁音に統哉が軽く頭を横に振った。
「分からない。分からないが……俺達にはもう、前に進む事しか出来ないんだ」
「ええ、そうね」
 統哉の呟きに姫桜が桜鏡を無意識に撫でながら意を決して頷くのに息を吐いて。
「それでは皆さん、行きましょう。……全ての元凶の所へ」
 ウィリアムがそう促し、猟兵達は、瞬の呼び出した光の精霊達の明かりを頼りに、最奥部へと足を踏み入れた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『『姉桜』紅桜華』

POW   :    紅桜抽出
【対象一人の罪や後悔を抽出した桜茶】を給仕している間、戦場にいる対象一人の罪や後悔を抽出した桜茶を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
SPD   :    紅桜手鞠
小さな【紅桜でできた球体】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【罪と記憶を浄化する揺り篭】で、いつでも外に出られる。
WIZ   :    相枝相遭
【対象の罪を吸い開花する紅桜の枝】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【罪の意識】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。

イラスト:慧那

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠幻武・極です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回プレイング受付期間及び、リプレイ執筆期間は下記となります。
プレイング受付期間:6月18日(木)8時31分以降~6月20日(土)12時30頃迄。リプレイ執筆期間:6月20日(土)13時30分頃~6月21日(日)一杯迄。プレイングはこちらの期間でお送り頂けます様、お願い申し上げます。また、断章は遅くとも、6月15日(月)中迄には挿入させて頂きます。何卒、宜しくお願い申し上げます*

 ――ゴボゴボゴボゴボゴボ……。
 数多くの配線に繋がれた一本の試験管の様な物の中で、膝に顔を埋めて、眠る様にしていた少女。
 その少女の入っている試験管の中に水が満たされ、その目前で艶然と、桃色の髪の女が微笑み、その手の懐中時計を、水に満たされた試験管の少女に突きつけている。
 ――チクタク、チクタク。
 少女の目前で、懐中時計が動く。
 その動きに合わせてゆっくりと目を開けた少女は白い涙を滴らせるのを存分に味わう様に、紅桜の枝を少女に突き立てる女。
 そこから流れ込んでくる罪の意識を喰らい得ることの出来た力に、女が悠然と頷いた、正にその時。
 ――ドタドタドタドタドタドタ!
 階下からけたたましい音と共に、姿を現した猟兵達。
 その背に気力を失う様にして背負われている柊を認めて、クスリ、と女は笑った。
「こんばんは、猟兵の皆様。それと、無様な姿を晒しておりますね、柊様」
 ヒラリ、と靡くスカートを翻しながら一礼する女。
 その全身に漲る力を感じ取ったか、ビクリ、と先の戦いで迷いながらも、力任せにあの少女達を輪廻転生の輪の中に組み込んだ紫蘭が震えた。
「あ……貴女……!」
 そんな紫蘭の怯えを、まるでいたぶる様に楽しそうに見つめながら、女はですが、と猟兵達の背にいる柊へと語りかけている。
「貴方様が時間稼ぎをしてくれたお陰で、私は、強大な力を得ることが出来ました。そう……この子の転生を拒んだ、そして死んだ筈なのに黄泉還ってしまらせてくれた……大好きなお父さんに迷惑を掛けてしまった……そんなこの娘の罪の意識を力にして、ね」
 そこまで告げたところで。
 クスクスクスと、女は笑う。
「その上、闇の天秤を崩せるだけの力を持った光の少女……桜の精の一人たる紫蘭の心に、あの子達を強引に転生させたと言う罪の意識と、本当にこのまま桜の精として私達影朧を転生させても良いのか、と言う迷いを生じさせる事も出来ました。後は……そう。柊様か紫蘭。どちらかの罪の意識を喰らいさえすれば、例え、超弩級戦力の皆様と言えども、私を倒すことも、転生させることも出来なくなります。どちらかの罪の意識さえ喰らう事が出来れば、私は嘗て闇の天秤として存在していたあの御方の力を遙かに上回る力を得ることが出来ますから」
 ――これは、私の復讐。
 私からあの子……『妹』を奪った、あなた方人間……生きとし生けるものへの、私からの裁き。
「さて、踊りましょう、超弩級戦力の皆様。紫蘭と柊様……その2人を守りながら、あなた方は、私を倒すことが出来ますでしょうか?」
 艶然とした微笑みを絶やさぬままに。
 嘗ての記憶を基に、自らの目的を果たすべく最善手を取りし影朧と化した娘……闇に堕ちた桜の精が光球と共に紫蘭と柊の罪を喰らうべく、ステップを刻み始めた。

*今回のルールは下記です。
1.紫蘭がNPCとして参加しています。今回は下記の状況で始まります。
a.前回の判定の結果、紫蘭は自分の行なった転生に、深い葛藤を抱いております。
 その為戦力としては数えられず、守るべき対象としてのみ扱われます。
b.紫蘭が何らかの手段で敵の手に落ちるか死亡した場合、この章は失敗となります。
c.現在、紫蘭はUCを使用できません(精神的な迷い故です)
また、迷いから戻っても使用できるUCは『桜の癒し』のみとなります。

2.柊もNPCとして登場します。条件は下記です。
a.第2章の判定の結果、柊は現在、深い罪の意識に苛まれています。
b.現状、その罪の意識故に全く身動きが取れません。
c.柊は、戦場外に置くことは出来ません。
d.柊が敵の手に落ちた、或いは死亡した場合、この作戦は失敗となります。

3.ボス敵『姉桜』紅桜華について。
a. 『姉桜』紅桜華には先制攻撃のルールが適用されます。この時の使用UCは『紅桜手鞠』であり、このUCは必ず紫蘭か柊を狙います。
 対抗手段はどのUCでも構いませんが、この先制UCは、『一度使われたUC』としては扱われることはありませんし、このUCは反射系のUCで対応も不可能です。
b. 『姉桜』紅桜華はある事情を持ち、それ故に世界と今のシステムに深い憎悪を抱いています。この憎悪を何とかしない限り、転生に同意することはありません。ヒントはボスの名前と断章、そして『双子』です。
d.このシナリオの『姉桜』紅桜華はやや難相当ボス敵の強さを誇ります。そのため、判定も厳しめに行ないます。

4.配管の少女『鈴蘭』
a.現状では、彼女を救済することは出来ません。
b.彼女を転生によって救済することは出来ますが、流れ弾等が彼女に当たってしまったりして、彼女が使っている試験管の様な物が破壊されてしまえば、彼女は新たな影朧となり、この世界に何らかの災厄を別の機会に齎す事になるでしょう。
c.彼女を罪の意識から解放することで、『姉桜』紅桜華を弱体化させる事は出来るかも知れません。但し彼女を死亡させた場合、『姉桜』紅桜華が弱体化することはありません。

 ――それでは、最善の結末を。
ウィリアム・バークリー
まずは考えるより先に動かないと。
柊さんに『手鞠』が飛んできたら、「武器受け」で防ぎます。

紅桜華とは戦いながら「コミュ力」で情報を引き出しにかかります。
この世界は、『死ねば終わり』じゃない。幻朧桜が次なる生に送り出してくれる。この理を否定してどうしようと言うんです!
今のあなたは、生前のことを覚えていますか? 愛した人、好きだったもの、大切な何か。存在が不安定な影朧としてあるということは、既にかつての自分自身を喪う危険と直面し続けている。
影朧である時点で、半ば転生したも同じです。

紅桜の枝を『スプラッシュ』で撥ね除けながら、紅桜華の隙を突いてStone Hand。
皆さん、動きを封じているうちに早く!


亞東・霧亥
SIRDの一員として参加し、柊・紫蘭のサポートに回る。

真の姿に覚醒する。
【UC】
柊・紫蘭の心の呪縛を解き、意識の解放を試みる。
弥勒菩薩の真言を唱え、咒力弾に救済の力を籠める。

・クイックドロウ、早業、破魔
1人につき3発ずつ。
スポット・バースト・ショットで全く同じ場所(心臓)に命中させる。
「後悔も葛藤も生き残ってからの話だ。そういうのは後でやれ。まずは目前の死に向き合い抵抗しろ!」

・かばう
意識の解放に失敗したならば、全力で柊をかばう。


灯璃・ファルシュピーゲル
SIRD一員で参加

先ずは仲間と連携し保護対象を防護
敵視認次第間髪入れず、紫蘭さんの自身への疑問の感情を利用し
UC:謎を喰らう触手の群れ使用
(先制攻撃・見切り)で触手をぶつけない様注意し
素早く包んで盾にしつつ説得を試みます

以前、死後までも敵に利用され続けた兵士達を
撃ったことがありますが‥今もした事に後悔はありません。
もし躊躇するなら、それは信念を持って守る為に働いた彼らの生き様まで
汚す事になりますから…彼女達もそうでは無いですか?

味方の防護体制が整ったら
指定UCで敵の腕関節・桜の枝・手鞠を集中狙撃
(スナイパー・援護射撃・鎧砕き)して徹底して敵の攻撃を
妨害し仲間の戦闘を支援するよう戦う

アドリブ歓迎


ネリッサ・ハーディ
SIRDのメンバーと共に行動

なるほど、この度の一件には、その様な事情がありましたか。
とはいえ、いくら復讐の為とはいえ、この様な行為を看過する訳にはいきません。全力で阻止させて貰います。

UCの炎の精を召喚し、73の炎の精を姉桜の全周に展開させ、一斉に飽和攻撃を仕掛け、同時に自らもハンドガンで射撃。
正直、どちらも然程ダメージは期待していません。味方の援護、敵が何か仕掛けるのを妨害する、そして味方が攻撃のチャンスを作る時間稼ぎですね。これで姉桜に対して隙を作る、そして柊さんと紫蘭さんを間接的に可能な限り守る。
とはいえ、常に上手く行くとは限らないでしょうね。所詮、世の中は確率論ですから。

※アドリブ歓迎


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

ふん、復讐ね。過去に散々見てきたが、ありゃ大抵、加害者、被害者の双方に不幸になるだけだ。復讐は連鎖する、ってな。まぁ今更聞く耳持たないだろうがな。

基本的にUKM-2000Pを使用しての援護射撃を展開。
その際、柊・紫蘭と姉桜との射線の間に割って入る様に立ち回る。いわゆる盾役、ってな。どこまで効果があるか未知数だが、まぁ給料分の働きはするさ。それと鈴蘭とやらの試験官に流れ弾が出ない様に気を配る必要があるな。やれやれ。
当然、盾役やるからには自分も無事じゃすまねぇから、その際にはUCを発動。肉を切らせて骨を断つ、ってな。まぁ切らせる肉がちいっとばかり薄いのが玉に瑕だがね。


寺内・美月
SIRD共同参加・通信網構築
アドリブ・連携歓迎
・引き続き【白鞘レーザー】と〖OTs-33拳銃〗を使用。ただし、試験管や器機類の被害を考慮し〖繊月〗を用いた接近戦も準備。
・基本は妨害に徹する。400ミル以内に試験管がない場合は射撃。危険な場合、援護射撃の元に接近して近接戦闘。
・催涙ガス(非引火性)を室内に散布。猟兵には散布直後から【白鞘レーザー】を照射し効果を相殺。二人が茫然自失の場合、十数秒の間は二人を強制的に覚醒(受け答えができる状況に)させてから照射開始。
・状況が逼迫した場合の最終手段として、二人を気絶させた後に【統帥杖レーザー】によって異界の拠点に搬送し戦闘終了まで隔離。


彩瑠・姫桜
鈴蘭さんを守るわ
他の守りは仲間に託す

できることなら皆を守りたい
でも、私にできるのは一つだけ

なら
柊さんの心を救うために
鈴蘭さんを守り、その心を救いたい

【血統覚醒】使用・真の姿開放(外見変化無
[かばう・武器受け]併用
配管前陣取り
流れ弾などの攻撃から可能な限り防御

鈴蘭さん、貴女の選択は
柊さん…大好きなお父さんを想ってだったんでしょう?
確かにそれは世界の法則に抗うという意味では誤りだった
でも、その想いそのものが罪であるはずないわ

お父さん、大好きなんでしょう?
柊さんの心を救えるのは貴女だけ
間違っていたのなら今から全力で最善を尽くせばいいじゃない
罪に囚われてる暇があったら
今できること、足掻いてみなさいよ!


天星・暁音
皆の事も柊さんも鈴蘭さんも紫蘭さんも攻撃からは護るけど…
俺はそれ以外に何も出来なくなるから皆、後の事は任せるよ
柊さんに鈴蘭さんに伝えといて手段は間違ってたかもしれないけどお互いを想う気持ちを罪に何かしないでって
娘を想うのは当たり前でそのことを鈴蘭さんが罪に思う必要ないしお父さんの気持ちを罪になんてしないでって
紫蘭さん優しいだけじゃダメ、時には強硬な手段も必要なの
心を何時でも届けられる訳じゃないんだ
その痛みに立ち向かうんだよ


誰かに伝言として伝えるようにお願いして先制攻撃の対処は他の人に任せて自分は空中歩行を用いての舞いに入ります
後は周りに一切目を配らずに舞いその場の敵意外全員をUCで護り続けます


真宮・響
って、危ないね!!(柊の前に立って)赫灼の矢で敵の先制攻撃の球体を迎撃。迎撃しきれなくても【武器受け】【拠点防御】【オーラ防御】で柊を【かばう】 。

柊、そんな顔するんじゃないよ。さっきはあんな事いったが、アタシも親だからね、苦労して愛情かけて育てた娘が突然なくなって、どうしても生き返らせたい気持ちは分かる。方法が間違ってたにせよ、アンタは娘を愛してた。アタシはそれを認めるよ。鈴蘭、アンタの父さんはただアンタと一緒にいたかった。分かってやってくれないかね?



アタシは状況が沈静化するまで、【オーラ防御】【拠点防御】【武器受け】で柊を【かばう】。。それが柊と鈴蘭にしたやれる、精一杯の事だ。


真宮・奏
すぐに紫蘭さんの傍に駆け寄って流星の剣で先制攻撃の球体を迎撃すると同時に迎撃しきれなかった場合に備えて、【オーラ防御】【拠点防御】【武器受け】【盾受け】【武器受け】で紫蘭さんを【かばう】以後、この態勢を維持し、紫蘭さんの護衛に徹します。

紫蘭さん、暁音さんの言う通り、優しいだけではこの世の影朧に対抗できません。時には人の心を侵し、壊すような凶悪な影朧が現れます。その時には強き心を持って相対し、強硬な毅然な態度で影朧を輪廻の輪に戻さなければ。それぐらいの覚悟は必要です。

鈴蘭さん、でしたか?方法が間違ってたにせよ、お父様は貴方と一緒にいたかった。貴女もお父様、大好きですよね?


神城・瞬
僕は紅桜華への対応に行きましょう。【誘導弾】【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】で飛んでくる球体を迎撃し、【オーラ防御】【第六感】で防御を徹底することで攻撃に全力で抵抗。

裂帛の束縛で敵を動きを止めながら、敵に話しかけます。

転生はこのままでは世界に生きれない存在を救済するシステムと思ってます。僕達家族は多くの影朧の転生を見届けてきました。このままでは退治されるだけの存在を、ちゃんと生きれるようにする為に。

紅桜華、歪んだ桜の精である貴女が何故転生を拒むのか。転生したとて、覚えてる人がいる限り、その人の存在は消えないと思うのです。・・・紫蘭さんのように。


文月・統哉
鈴蘭の試験管が壊れぬ様オーラ防御展開
柊と紫蘭を庇い
紅桜手鞠に抵抗するよう声かけ

柊さん、紫蘭
二人には成すべき事がある筈だ
救いたいと願うなら
苦くともその想い手放すな
目を逸らさず前へ進む覚悟を持て
送り出した彼らの為に
鈴蘭の為に
姉桜の為に

攻撃見切り応戦
読心術で情報収集
UC使い推理し説得

代償強いる影朧兵器
疑似幻朧桜は妹桜を元に作られた?
死なせてしまった悲しみに影朧となり復讐を?
転生は救いと知りつつ自らも闇に落として

元凶が人の過ちなら尚の事
罪を背負うべきは影朧でなく生きる者の役割だ
生きる者なら未来を変えていけるから
だからもう苦しまないで
姉桜も鈴蘭も

二人の転生を願う
大切な人と再び出会い
未来へと幸せを繋ぐ為に


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

今はあらゆる手札を投じつつ
可能な限りの情報を

先制対策と今後の回復を兼ね「祈り、鼓舞、優しさ」+指定UC発動
皆の心を鼓舞し、球体への抵抗心を増幅させよう
以後、グリモア・ムジカに演奏を肩代わりさせる

紫蘭さんの横に並び声かけ
柊さんと鈴蘭さんにも届くよう大声で
例え今、辛かろうが苦しかろうが
今まで紡いだ記憶は決してあなた方を裏切らない
喰らい奪おうとする影朧に渡してくれるな!

紅桜華は紫苑さんの双子の姉か?
紫苑さんが双子と聞いた覚えはないので賭けだが
一応紫蘭さんにも紅桜華との関係は聞いてみる

転生で絆や縁が奪われるとでも思うのであれば
それは明らかな思い違いだ
簡単には消えやしないよ


森宮・陽太
【POW】
アドリブ連携大歓迎

けっ、簡単に他人の罪や記憶を喰らうとかほざくんじゃねえ
罪と記憶は自分だけのものだ
てめえに渡しはしねえよ!

柊の護衛に専念
柊は「怪力、継戦能力」で背負ったまま「かばう」
柊をかばう奴がいたら俺の死角を埋めるよう頼む
俺と柊への攻撃は「オーラ防御」+指定UCで阻止

先制対策は抵抗できればいい
柊に一喝し、抵抗心を呼び覚ます
あんた、娘さんに謝らずに終わる気か

鈴蘭にも声をかけるぞ
道を外したとしても、父親の愛情は本物だ
父親を、柊を信じてやれ

紅桜抽出で抽出される罪と後悔は暗殺者たる過去の所業
桜茶を飲んだとしても動じねえ
俺はその罪と後悔すら乗り越え糧にする
たとえてめえに嘲笑われようとな




 軽いステップを刻みながら、その手にある光球をそっと胸元に掲げる。
 掲げられた光球が瞬く間に弾けて8つの散弾の光の球の様に姿を変えるのを見て、ウィリアム・バークリーが咄嗟にルーンソード『スプラッシュ』を抜剣しながら顔色を変えた。
(「確かにこの影朧に関する情報をぼく達は持っていない。けれども……!」)
 ――此処で、負けるわけにはいかない。
 そうウィリアムが内心で呟いているその間に、亞東・霧亥もまた、左目に何処か鋭意な刃物の様にも見える紫の光を宿し、真の姿へと化していく。
 霧亥と同様、バサリ、と軽く腰まで届く金髪を軽く梳かして真の姿を解放し、何処か悲痛とも、哀しみとも取れる眼差しを、紅桜華の奥……試験管の中で絶望に目を見開き白い涙を滴らせている、紅桜の枝を突き立てられた少女に向けるは彩瑠・姫桜。
「けっ、簡単に他人の罪や、記憶を喰らうとかほざくんじゃねぇよ!」
 その背に柊を背負ったまま、紅桜華に鋭くガンを飛ばし、唾を吐き捨てる様に告げたのは、森宮・陽太だ。
「まあ、光の少女、桜の精である紫蘭の心をあれ程までに掻き乱し、更に柊様の心をも蝕み、絶望的な状況下にある貴方方が言えることではございませんわね」
 優雅にステップを刻みながらそう告げて。
 紅桜華がその胸から解き放った8つの光球が瞬く間に、紫蘭と柊……双方に向けて射出されるその様子をネリッサ・ハーディが微かに眉間に眉を寄せて鋭く目を細めて見ていた。
「復讐ですか、なるほど。この度の一件には、その様な事情がありましたのね……」
「ふん、復讐ね」
 そう、軽く鼻を鳴らしながら。
 今、正に放たれた柊と紫蘭の双方に向けて放たれた8つの光球……四方に散らばろうとするその光球と紫蘭と柊の射線の間に割って入る様に素早く駆け抜け、陽太の背に背負われた柊の右脇であり、紫蘭の正面にぴったりとついた真宮・奏の左脇という中間点に立ちUKM-2000Pの引金に手を掛けてポツリと呟くのは、ミハイル・グレヴィッチ。
(「さて、何処まで効果があるかは未知数だが……」)
「まあ、給料分の働きはしてやるぜ」
「そうですね。……そう言えば、奴のユーベルコードは、触れた抵抗しない対象にのみ、効果があるのですよね。ならば……柊様と紫蘭様を守るには……」
 体を張ってその攻撃を受け止めようとするミハイルの後方で、寺内・美月が小さく頷き掛けながら、左手に『繊月』を、右手に愛銃『OTs-33Pernach(ОЦ-33Пернач)Custom』を構え、『OTs-33』を地上に向けて、その引金を引く。
 その愛銃の銃口から撃ち出された一発の弾丸が地表にぶつかって爆ぜると同時に、もくもくと非引火性の催涙ガスが周囲一帯へと満ち満ちていった。
「……っ!? ゲホッ、ゴホッ……!」
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、催涙ガス……?」
 美月によって放たれたそれらを思いっきり吸い込み、止まらない涙を零し、咳こむ紫蘭と柊。
「って、催涙ガスとは、また無茶しやがるぜ……!」
「とにかくあの紅桜で出来た球体に数十秒でも構わないので、抵抗する必要があると思いましたから」
 背で咳き込む柊に陽太もまた、思わず涙を零しながら答えるのに素早く『白鞘』の装飾から『月光』を思わせる光を放とうとする美月。
 その間に、柊の右から迫り掛かる紅桜色の球体をミハイルが受け止めている、その一方で。
「って、いきなり!? 全く、危険ったらありゃしないね!」
 同じく咳き込み涙を零しつつ真宮・響が叫びながら、その光球を振り払う様に柊の左脇に飛び出す様に立ち、ブレイズランスを赤熱させて炎弾を解き放ってそれを迎撃しようとする。
 しかし、光球は尚顕在。
 響はそれに、思わず舌打ちを一つした。
(「ちっ……! 流石に簡単には撃ち落とさせてくれないって訳だね……!」)
 そう、内心で呟きながら。
 ブレイズランスから発した竜を象った炎の矢でその勢いが減じられた柊の左翼から襲いかかってきていた光球に対して、青白い結界を構築して、辛うじてそれを受け止める響。
 けれども、柊の危機はまだ終わっていない。
 分離して上空を飛び越える様にして柊の背後の壁に着弾、そこからまるで毬の様に撥ねて柊の背から光球が迫っていたから。
「ちっ……ウィリアム、頼むぜ!」
「考えている場合じゃないですね……!」
 背後から迫り来る脅威に、ぞくり、と背筋を震わせながら叫ぶ陽太にウィリアムが頷き、抜き放った『スプラッシュ』に氷の精霊達を咄嗟に這わせてその光球をしかと受け止める。
(「無抵抗の対象を吸い込むユーベルコヲドとは言え、これ程の勢いとは……」)
 涙を流しながらも脱力する様な衝撃に、難しい顔をするウィリアム。
(「くそっ! 最初の一発は、白銀鎧を展開する余裕すらねぇのか……だがよ!」)
「寝ぼけているんじゃねぇぞ、柊! あんたにはやらなきゃならないことがあるって事、絶対に忘れるんじゃねぇ!」
 叫び、漆黒の結界を真正面に展開し、紅桜色の光球を受け止める陽太。
 一方、紫蘭に迫っている弾丸に向けても、また。
「ダメッ! 紫蘭さんはやらせません!」
 紫蘭の正面に立ちはだかる様に立った奏が気合いと共に、星の様な輝きをブレイズセイバーに齎し、それを今にも四方を取り囲もうと動き出す光球に突きつけていた。
 放たれた自らの意志を宿した星々の瞬きを思わせる弾丸が光球を破壊するが、落とせたのは一つのみ。
 紫蘭の右方から迫ってきていた光弾をミハイルが体を張って受け止めるその間に、素早く白銀の結界を構築し、紫蘭を守るべくミハイルをサポートし、加えて自らと紫蘭の身を守る奏。
 だが左翼からも、咳き込む紫蘭に向けて、光球が毬の様に弾けて飛んでいる。
 其れを受け止めたのは、クロネコ刺繍入りの緋色の結界。
 即ち、文月・統哉が作り出した結界だ。
「紫蘭。君にはまだ成すべき事がある筈だ。あの子……柊さんの娘さんの魂と、彼女を救いたいと願うなら」
 美月の催涙弾で咽せている状態の紫蘭と柊に現状、その言葉が届いているかどうかは分からないけれども。
 それでも、その声が届いて欲しいと心底願いつつ、辛うじて光球の勢いを減じさせる統哉。
(「くっ……不意打ちに近いこの状況は……流石に厳しいか……!」)
 光球の勢いに少しずつ体を押し流されそうに統哉がなりかけていた、その時。
(「目標視認確認。少し遅くなってしまいましたが……ミハイルさん達の体を張った守りに助けられましたか」)
「紫蘭さん。すみませんが、その感情、貴女を守るために利用させて貰います」
「えっ……?」
 灯璃・ファルシュピーゲルが呟きと共にその手から蜘蛛の糸の様に、誰かに絡みつく紫の触手の塊を撃ちだしていた。
 謎を喰らうその触手の塊が、紫蘭の回りに渦巻き状に紫蘭を庇う盾の様に展開し、統哉と奏、ミハイルが体を張って受け止めていた光球の危機から紫蘭を覆う様に包み込んでいる。
 だが……鈴蘭の『罪の意識』を喰らい、その力を大きく蓄えていた紅桜華の球体を完全に抑えきれそうには無い事に気がつき、灯璃が鋭く目を細めているその間に。
「紅桜華。貴女は一体何者なのですか? 紫蘭さんとの面識はさておき、これ程までに、紫蘭さん……桜の精と、この世界のシステムに通じている者にしか出来ない戦い方をしている……僕には、その様に見えてなりません」
 そう、問いかけながら。
 灯璃の呼び出した紫の触手の盾を割ろうとしている光球に、氷の弾丸を横合いから叩き付けたのは、『真宮家』の1人、神城・瞬だ。
 氷の結晶の様に透き通った、六花の杖……その杖の先端から放った弾丸で光球を撃ち抜き、その威力を減じさせた瞬に、紅桜華はただ、艶やかな笑みの中に、微かな憎悪を募らせている。
(「まずいですね。このままでは、力任せに押し切られそうです」)
 辛うじて分散した光球を灯璃達が抑え込んでいる状況を見て取りながら、ネリッサが、更にその表情を厳しくする。
 先の戦いの消耗故か、炎の精達を呼び出すのにも、少々時間が掛かっている上に、美月も疲労が濃いのか、『白鞘』の装飾から放たれる癒しの光を召喚するのに、少々時間が掛かっていた。
(「万事休す、ですか……?」)
 ネリッサの脳裏にそんな言葉が過ぎった、その刹那。
 統哉達の心を奮い立たせ鼓舞する、澄みながらも、何処か力強さを感じさせるメソソプラノの声音が響き渡った。

 ――鼓舞と癒しの詠嘆曲(アリア)

(「今はあらゆる手札を投じつつ、可能な限りの情報を……!」)
 高らかなその歌声は、藤崎・美雪によるものだ。
 美雪が歌い、奏でるアリアが、其々に光球に対応していた統哉達、猟兵の心を癒し、その体を鼓舞し、光球を押しのけさせた。
「……何とかギリギリ、間に合ったか」
 微かに息を漏らし、見る見る内に顔色を青くさせながらも、尚、美雪はグリモア・ムジカにその歌を奏でさせ続けている。
 その透き通る様な旋律を耳にした霧亥が、今か、と小さく呟き、紫色の光を左目から放ちながら叫んだ。
「後悔も葛藤も生き残ってからの話だ。そういうのは後でやれ。まずは目前の死に向き合い抵抗しろ!」
 同時にQuick silverを素早く構え、その弾倉に咒力を籠めた弾丸を素早くセット、Quick silverの引金を躊躇なく引く霧亥。
「おん まいたれいや そわか! おん まいたれいや そわか! おん まいたれいや そわか!」
 弥勒菩薩の真言を唱えながら、その咒力弾へと救済の力を籠めて。

 ――パパパン! パパパン! パパパン!

 放たれた咒力弾が3発ずつ、正確に柊と、紫蘭の心を撃ち抜く。
 其々の内に抱えられた迷い、悩み、苦しみ……其々の想いの全て……その『呪縛』の全てを解放することは出来なかったけれども。
 それでも、美月によって強制的に意識を持たされていた数十秒、と言う時間が霧亥によって伸びたのは間違いないだろう。
「姫桜さん、鈴蘭さんに、俺が言ったことも、忘れずに伝えてね。紫蘭さんの事は……美雪さん、奏さんに、柊さんは、陽太さん達に……任せたよ」
 ――鋭い刺し貫く様な痛みを、共苦の痛みで感じながら。
 最初の紅桜手毬による砲撃を潜り抜けた陽太達にそう告げて、ふわり、と神気戦闘服に籠められた神気を纏った天星・暁音が宙へ飛ぶ。
 そのまま右手で星麗扇をばさりと広げ、左手に握りしめた星杖シュテルシアに取り付けられた神楽鈴を、シャン、シャン、と鳴らしつつ。
 暁音が空中で舞を舞った。
『星月夜の夢に、舞い踊りましょう……』
 その暁音の囁きと、共に。
 空中を浮遊する暁音の神気戦闘服の裾や、星麗扇に描かれ、瞬く夜空に浮かぶ星空の光が。
 祭具代わりに振るう、星杖シュテルシアの神楽鈴から零れ落ちるシャン、シャン、と言う音が。
 暁音の舞の動作の一つ、一つが。
 星の輝きの羽と化して、はらはらと舞って落ちてくる。

 ――まるで、星屑の如き羽根の雨の様に。

 かくて統哉達の戦いは、本当の意味で始まりの鐘を鳴らす。

 ――紫蘭を。

 ――柊を。

 ――鈴蘭を。

 そして……紅桜華を。

 ――それらの全ての魂や想い……その全てを救済するための、苦難の戦いが。


 ――タン。
 その瞳を真紅に変え、その背に吸血鬼と思しき血色の翼を生やしながら。
 誰よりも早く、真っ直ぐに姫桜が戦場を疾駆する。
「皆……紅桜華さんや、紫蘭さん、柊さんの事は頼むわ!」
 流れる様なその姿は、まるで紅桜華に向かって駆け抜けていく様にも見えたが、程なくして彼女の目的地を察したネリッサが一つ頷き、美月達に素早く指示を出した。
「皆さん、あの試験管への流れ弾は、極力避けて下さい」
 ネリッサが自らの周囲にグルグルと円を描く73体の炎の精達を呼び出し、SIRDの面々に軽く合図を出す。
 その右手に黒光りする愛銃、『G19C Gen.4』を構えながら。
「了解です、局長」
 そのネリッサの指示に応じる様に。
 霧亥が先程紫蘭達に叩き込んだ咒力弾の弾倉を新しいものに素早く入れ替えて紅桜華へと突きつけて引金を引き、美月が、『白鞘』の装飾から、白い光を纏った光線を発射し、灯璃が、紅桜華の背で涙を零す鈴蘭達の視覚を強制的に共有化。
 ゴボゴボ、と試験管の中で泡立つ水の先に見えた紅桜華の背から、紅桜華の腕関節や、その手に新たに生み出された手毬に狙いを澄ませていた。
「攻撃開始します。『フォーマルハウトに住みし荒れ狂う火炎の王、その使いたる炎の精を我に与えよ』」
 ネリッサが左人差し指を突き出し、73の炎の精が紅桜華の全周囲を取り囲む様に宙を舞うのに合わせて『G19C Gen.4』の引金を引く。
 それと、ほぼ同時に。
 美月の『白鞘』の装飾から放たれた光線によって涙と咳と共に、先の紅桜手毬を受け止めた時の衝撃と傷を癒されたミハイルと霧亥、そして、MK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"のスコープから自らの視線と、鈴蘭の視覚共有化による2つの目を得た灯璃が同時に其々の得物の引金を引いた。
 73の炎の精達に全周囲を取り囲まれ、その迎撃は不可能と判断したか、紅桜色の結界を周囲へと展開した紅桜華へと、ミハイルのけたたましい音、霧亥の静かでありながら必中を狙った弾丸、音のない狙い澄ました灯璃の弾丸が一斉に吐き出される。
 73の炎の精達もまた、咆哮の如き叫びと共に紅桜華に襲いかかり、そこに、ミハイルの弾幕の嵐を抜けたネリッサの一発の銃弾が突き刺さった。
「流石に全てを抑えきることは出来ませんわね」
 身をたわめて軽やかな足取りで無数の銃弾の嵐と炎の精達の猛攻を見切りつつ、霧亥の銃弾を紅桜色の結界で受け止めていた紅桜華が呟きながら、その結界を貫いてきた灯璃の銃弾に左腕関節を撃たれつつ、ネリッサに胸甲に撃ち込まれた銃弾を念力で無理矢理引きずり出し、口元にたおやかな笑みを浮かべて宙を舞う。
 その間にもミハイルの放った弾幕の嵐の一部が、後方の試験管へと流れ弾として向かおうとした、正にその時。
「この子は……絶対にやらせないわよ!」
 暁音が舞う度にハラハラと落ちてくる星の輝きを伴った羽根を受けて、星色の輝きを伴った漆黒の槍schwarzと純白の槍Weißを十文字に構え、それらの流れ弾の全てを叩き落とす姫桜。
「流れ弾には気をつけてるんだがなぁ。別嬪の嬢ちゃんがいなかったらとんでもないことになっていたぜ」
 飄々と肩を竦めるミハイルをきっ、とした真紅の瞳で見つめる姫桜。
 その瞳から、血涙を零しながら。
「……鈴蘭さんへの攻撃は、全部私が引き受ける。だから皆は……他の人達と紅桜華をお願い……!」
 誓いの様に姫桜の口の端から告げられたそれに、分かりました、と軽く頷き、ネリッサが紅桜華への攻撃態勢を整え直した。
 その、SIRDの者達の攻撃を目眩ましにして。
 美月の『白鞘』の装飾から放たれたホーミングレーザーによって涙と咳が止まった統哉が考え事をするかの様に目を閉じ、深淵を貫く一条の淡い輝きを刃先から発している『宵』を、ウィリアムが青眼に『スプラッシュ』を其々に構えて紅桜華に向けて肉薄する。
 その背後では、月虹の杖で魔法陣を描き出した瞬が、トン、とその先端で大地を突いていた。
 一方、紅桜華はネリッサの飽和攻撃及び、灯璃達の一斉攻撃にその身を傷つけられながらも、悪戯を思いついた子供……と言うには、あまりにも妖艶すぎるが……の様に目を輝かせ、同時に口元に笑窪を刻んで、一瞬だが、試験管の中で涙を零す少女を見やる。
 見やられた少女、鈴蘭に突き立っていた紅桜の枝が、突然ひゅっ、と抜けて、灯璃に撃ち抜かれながらも尚、動く左手で其れを掴み取り同時に鋭く目を細めて、無数の『紅桜の枝』を、紅桜色の矢と共に解き放った。
「紅桜華さん! 貴女は生前のことを覚えていますか? 愛した人や、好きだった者、或いは大切な何かを……!」
 自らや陽太に向かって放たれた紅桜の枝を『スプラッシュ』で切り落としながら必死に言い募るウィリアム。
「大切な何か、愛した人、でございますか? ええ、覚えておりますとも。其れを理不尽に奪った者達の事も当然ですが」
「こんな矢……俺の白銀鎧の前には通用しねぇよ!」
 紅桜色の矢を漸く自らに纏わせることが出来た白銀鎧で受け止めながら、訝しげに紅桜華を見やりつつ陽太が叫んだ。
(「何だ……? あの枝は、確か……」)
 そこまで考えたところで。
 陽太がはっ、とした表情になった。
「マズイ! 灯璃! あの枝を撃ち落とせ!」
「了解です……!」
 陽太の叫びに灯璃が素早く応じて、見る見るうちに枝から紅茶へと姿を変貌させていく左手の紅桜の枝に狙点を定めて躊躇いなく引金を引く。
 その間にもその背の柊を貫こうとしている、紅桜の枝に向かって敢えて真正面から立ち向かって紅桜の枝を白銀鎧で受け止め、怒号を叩き付ける陽太。
「舐めるんじゃねぇ! 俺のこの鎧が、俺や柊の罪を何一つてめぇに奪わせるものかよ!」
 陽太の雄叫びとほぼ同時に。
 灯璃の放った乾坤一擲のスナイパーライフルからの一撃が、その手の桜の枝を正確に撃ち落としていた。
「ちっ……!」
 これには流石に紅桜華も舌打ちを一つ。
 そのまま咄嗟にバックステップで後ろに飛び退けながら、その手に新たに生み出された紅桜手毬を持った右手を後ろへと向けながら、ウィリアムの『スプラッシュ』の斬撃を瞬間的に左腕に固めた盾状の紅桜色の結界で受け止め、お返しとばかりに、着物によって隠れていた右足でウィリアムを蹴り上げようとする。
 が……そこに舞い降りたのは、暁音から零れ落ちる星の輝きを伴う羽根。
 羽根が鮮やかな星色の結界となってその攻撃を防御するその間に、瞬がすかさず放ったアイヴィーの蔓でその足を絡め取って動きを阻害。
 更にヤドリギの枝が、後ろの姫桜……否、恐らくその背後の鈴蘭に対してであろう放たれた紅桜で出来た球体を貫こうとするが、その枝は気付かれていたのであろう、右手に紅桜色のオーラを纏って光弾を放って撃ち落とされている。
 その時姫桜は、自らの心を激しく揺り動かした、ある媛宮との戦いの記憶を掘り返して微かに表情を青ざめさせていた。
 同時にその腕に嵌め込まれた桜鏡の玻璃鏡が、彼女の動揺を露わにするかの様に漣だっている。
(「そう言えば……あの時も、こんな感じだったわね」)
 ぐっ、と自らの唇を噛み締め、伸びた犬歯が頬に突き刺さり、ポタ、ポタ、と血が滴り落ちる様を見て、姫桜が思わず目を細めて微苦笑を零す。
 そんな姫桜の耳に不意に入ったのは、こんな声。
(「……し……て?」)
「えっ?」
 掠れたその声は、恐らく姫桜にしか届いていない。
 姫桜が思わず問いかけると、今度はもう少し明瞭になった声が聞こえてきた。
(「どう……して……?」)
 その声の主が誰なのかを探り、姫桜が思わずはっ、とした表情に。
 それがこの戦場にいる、全員の声……その全てと異なる、幼い少女……即ち、鈴蘭のものなのだと気がついたから。
 ――では、何に対する疑問なのか?
 恐らく、其れは……。
「簡単よ。私に出来る事は、一つだけだから」
 鈴蘭に向かって放たれたその紅桜手毬を吸血鬼と化した自らの鈴蘭を守り抜く覚悟と、schwarzとWeiß……双頭の竜の抱く意志で受け流しながら。
 迷いも、悩みも、苦しみも持ちながらも……尚、キッパリと姫桜は告げる。
「柊さんの貴女の大好きなお父さんの心を救うためにも……貴女の心を救いたいから」
 姫桜の、その言の葉に。
 配管の中で涙を零し続けていた鈴蘭の目が、大きく、大きく見開かれた。


(「……記憶はある、か。だとしたら、紅桜華が影朧と化したその理由の根源は……必ずそこに在る筈……」)
 じっ、と目を瞑りつつ。
『OTs-33Pernach』の引金を引きながら、自らも白兵戦に加勢するべきと判断したか、目の下にクマが出来るほどの疲労を持った美月が『繊月』を逆手に構えて、ネリッサの73の炎の精達と、ミハイルのマシンガンの援護を受けて、何とか接近してくるのを気配だけで感じ取った統哉が胸中で独りごちながら、『宵』を横薙ぎに振るって紅桜華の体を横一文字に薙ぎ払う。
 統哉の『宵』の一閃を軽く身を引いて躱す紅桜華だったが、その動きが、最初に比べて僅かに鈍くなった様に思えたのは、気のせいだろうか。
「灰と化して下さいませ、超弩級戦力の皆様。貴方方が其々に抱くその罪の全てを喰らい、我が復讐の糧とするために……!」
 叫びながら、上空へと右手を掲げる紅桜華。
「何故、それ程までに転生を拒むのです? 転生は、このままでは世界に生きれない存在を救済するシステムだと、僕は思っていますのに。そしてそのシステムに、僕達家族は多くの影朧を戻しました。このままでは退治されるだけの存在を……きちんと、生きることが出来る様にするために……」
 そう呟きながら、微かに目を細める瞬に、同意する様に頷くミハイル。
「それに、アンタがどんなに復讐を望もうが……ありゃ大抵、加害者・被害者の双方が不幸になるってもんだぜ?」
 そう告げた時、ミハイルの視線に何が移っていたのか。
 それは、身に着けたサングラスが覆い隠してはいたけれども。
「ですが……先に私から奪い取ったのは、理不尽な貴方方人々のエゴによって生み出されたあの戦争でございます……! その罪に目を背け、影朧を救うなどと宣う者達に唯々諾々と従うことなど、誰に出来ると言うのですか……!」
 怒気を孕んだ声を上げながら、紅桜色の光球を天へと紅桜華が放出する。
 暁音よりも更に上空の高見に上がった光球が爆ぜて、無数の紅桜色の雨と化して大地に叩き付けられた。
 瞬が怒濤のその雨の勢いを、藤の蔓を練り上げて蜘蛛の巣状の蔓の群れを作り出して弱め、奏が叩き付けられる雨から紫蘭を守る様に、エレメンタル・シールドに水の精霊達を張り巡らして受け止めて、更に紫の触手の盾の維持を一度切っていた灯璃の代わりに、暁音の舞と共に放たれた星の羽根が奏の結界を強化してそれらの雨を余さず受け止め切っていた。
「……!」
 自らの身を張って庇ってくれた奏の姿と暁音の星の結界にそれまで虚ろな表情で黙し、恐怖に顔を引き攣らせていた紫蘭が目を見開き、息を飲む。
 その目が上空で舞い続ける暁音を見つめていたのを、その視覚を強制的に共有していた灯璃が捕らえた。
 ――トクン、トクン、トクン……。
 霧亥に先程心臓に撃ち込まれた3発の咒力弾が、そんな紫蘭の心の動きに気がついたか、その心臓の中で小さな鼓動を立て始める。
「……霧亥さんの力が効いてきましたか? それとも、守ってくれている奏さんや、美雪さんの歌が、心に響いてきましたか?」
 美雪の反対側に、ミハイルと体を入れ替えて立ちながら。
 微かに口元に笑みを刻み、チラリと流し目で紫蘭をみる灯璃に、紫蘭の瞳が、灯璃を捕らえた。
「自由になどさせはしませんわ!」
 ネリッサとミハイルの援護射撃を受けながら肉薄した美月と統哉とウィリアムの連携攻撃を右に左に錐揉みして躱しながら、その右手に紅桜手毬を用意する紅桜華。
 その紅桜華の手毬を無音で無造作に、けれども極めて正確に撃ち出された『"Failnaught"』の弾丸で撃ち抜きながら、灯璃がポツリ、と呟いた。
「……以前、死後までも敵に利用され続けた兵士達を撃ったことがあります」
「えっ?」
 無表情にも思えるその様子で。
 淡々と語る灯璃のそれに、微かに驚きの光を瞳に宿す紫蘭。
「ですが……私は、今も尚、その時にしたことを後悔はしておりません」
「……どうして?」
 灯璃から淡々と紡がれたその言の葉が、先程強制的に輪廻の輪へと還した少女達の姿と重なったのだろう。
 疑問符を浮かべて問いかける紫蘭に、灯璃がもし、と息を一つ漏らした。
「私達が彼等を撃ち、骸の海に還さなければ。それは、信念を持って守るために働いた彼等の生き様まで汚すことになりますから。……彼女達についても、そうなのでは無いですか? 私は影朧と化した彼女達しか知りませんが……彼女達は、自らの意志で、柊さんを守るためにその命を散らしたのですから。其れを転生させてしまったと、貴女が迷うこと、それは……」
「……」
 灯璃の問いかけに、紫蘭がきゅっ、と唇を噛み締めている、その一方で。
「響、すまねぇ、フォロー頼む!」
 両手でしっかりと背負った柊を抱え直した陽太が叫び。
「ああ、分かっているよ!」
 それに応じた響が素早く赤熱したブレイズランスを横一閃に振るった。
 振るわれたブレイズランスから灼熱した炎の礫の如き竜のブレスが飛び、それらが今にも叩き付けられそうになっていた紅桜色の雨とぶつかり合って蒸発させていく。
「ううっ……」
 陽太の背に担がれていた柊が低く呻き、微かに目を開いた。
 美月の放った催涙ガスで数十秒は無理矢理意識を覚醒させられていた時と違い、呻く柊の瞳には、僅かに意志の光が戻ってきている。
 恐らく霧亥の放った弾丸により、柊自身を縛っていた呪縛が和らいだからだろう。
 その呪縛が、自らの強迫観念によるものなのか、それとも、目前の影朧に利用された結果なのか。
 その理由は、まだはっきりとしないけれども。
「目が覚めたかい、柊?」
「君は、確か……響さん、か」
 憔悴した表情の儘に問う柊に、そんな顔するんじゃないよ、と軽く笑う響。
「さっきはあんな事を言ったけれどね」
 そう告げる響に向けて、解き放たれる紅桜の枝。
 その紅桜の枝をブレイズランスを横薙ぎに振るって叩き落とし、赤熱した灼熱を思わせる炎の結界を張り巡らしながら、でもね、と響が続けた。
「やっぱりアタシも親だからね。苦労して愛情かけて育てた娘が突然いなくなって、どうしても生き返らせたいって気持ちは、分かるんだよ」
 そう呟きながら響は、懸命に紫蘭を守る奏へと気遣わしげな視線を向ける。
「紫蘭さん、先程、暁音さんが言っていました。優しいだけでは、この世の全ての影朧に対抗することは出来ません……と」
「奏……」
 エレメンタル・シールドを掲げ、SIRDの援護射撃を受けた統哉達の攻撃の合間、合間を縫って解き放ってくる紅桜手毬や、紅桜の枝を受け止めながら、呟く奏。
 もし、彼女が柊の娘である鈴蘭の様に突然いなくなってしまったら……と思えば、青白く輝く程、白熱する前に進む意志を持つ響を以てしても、胸が張り裂けそうになる。
「……」
 その響の言葉を受けながら、何も答えぬ柊。
「あんたは、娘さんにも謝らずに終わる気か。そんな事、俺は絶対に許さねぇぞ」
 鋭い怒気の籠った陽太のその声を受けながらも、尚、柊の逡巡は止まらない。
 紫蘭と柊……2人の揺れ動く心を気配で察した統哉が、姉桜に向けて、宵を袈裟に振り下ろしながら小さく告げた。
「……2人には、成すべき事がある筈だ。誰かを救いたいと願うなら……苦くともその想いを手放さないで、目を逸らさず前へと進む覚悟を持つんだ」
「そうだな。統哉さんの言うとおりだ」
 灯璃と反対の位置に美雪が立ちながら。
 美雪がグリモア・ムジカに鼓舞と癒しの詠嘆曲を奏でさせ続け、その全身に気怠い疲労感を覚えながら、言の葉を紡ぎ続ける。
「例え今が、辛かろうが、苦しかろうが。今まで紡いだ記憶は、決してあなた方を裏切らない! だから……それを喰らい奪おうとする影朧になんぞ其れを渡してやるな!」
「……」
 紡がれた美雪の叱咤を受けながらも、尚。
 紫蘭と柊……其々の表情にある迷いは、まだ完全に晴れた様には見えなかった。


「この世界は、『死ねば終わり』ではありません! 幻朧桜が次なる生に送り出してくれる、そんな世界です! その理を否定し、ねじ曲げてまで……何故、生前の記憶に固執し続けるんです!? 先程、貴女は復讐と言いました! ですが其れをすることで誰が癒され、誰が救われるのですか!? その理由さえも分からぬままに、ぼく達はやられるわけにも、貴女の意志を押し通させるわけにもいきません!」
 叫びながら、ウィリアムが下段に構えた『スプラッシュ』を撥ね上げる。
 撥ね上げた凍てついた刃が紅桜華の右脇腹から左肩に掛けてを斬り裂くが、紅桜華は止まらずに、勢いの儘に着物に隠れた左足で足払いを掛けんとウィリアムを狙う。
「そうはさせませんよ」
 暁音から降り注ぐ星の羽根が結界となってウィリアムを守る間に、ネリッサが愛銃『G19C Gen.4』の引金を引き、牽制の射撃を行い、美月が逆手の『繊月』をその足に突き立ててそれなりの失血を負わせるが、紅桜華はその怪我は気にも留めずに、煩わしげに両手に紅桜色の波動を纏って周辺一帯を大地事、薙ぎ払った。
 薙ぎ払われた大地の瓦礫や崩れた其れが礫の様に統哉達と後方の鈴蘭に迫る。
 鈴蘭の眠る配管に飛んだそれらは、姫桜が二槍を風車の様に振り回して起こした風を、ヴァンパイア化して手に入れた膂力で暴風と化させて一気に弾いたが、それでも尚、姫桜の体に破片が突き刺さり、ポタ、ポタ、と血が滴り落ちていた。
 美雪のグリモア・ムジカが奏でるアリアがその傷を塞ぐが、その度に美雪の疲労が濃くなり、彼女の顔から血の気が失われていく事に申し訳なさを感じながらも、姫桜は鈴蘭の眠る配管に飛んでくるそれらの攻撃の全てを巧みに受け流し続けている。
(「お父さん……わたし……わたし、は……」)
 嗚咽の様にそう、言葉を漏らす鈴蘭。
 外の世界で起きている其れから頑なに自らを守る様に蹲る様に水の中に浮かび、その膝を抱く様に抱えている鈴蘭の姿に、姫桜がきっ、とした表情になった。
「ねぇ、鈴蘭さん。貴女は確かにお父さんの願いによって黄泉還らせられたのかも知れない。そして黄泉還りが、世界の法則に抗うという意味では誤りである事にも気がついている。その事実が、大好きなお父さんに迷惑を掛けている……そういう罪の意識があるのよね?」
 ちらりと姫桜が配管を見れば。
 そこに嵌め込まれた懐中時計が、チクタク、チクタクと動いている様に鳴り続けている。
 けれども……その懐中時計の針の動きは止まっている……或いは逆に動いている様に、姫桜には見えた。
「統哉さんと一緒に合流した、霧亥さんって人からの受け売りなんだけれど。魂ってのは、其処ら中に漂っているらしいわね」
「ああ、その通りだ」
 その姫桜の、鈴蘭に対する呟きを耳にしたのだろう。
 咒力弾を籠め直したQuick silverでネリッサに続けて牽制射撃を行ないながら、『懐中時計』のヤドリガミである霧亥がそれに頷く。
「元々、魂とは有象無象に存在している。それに適合する霊魂を、一つの器に引き寄せるためには、其れを引き寄せるための鍵……遺品が必要な事は、よく知られている理の一つだ。そして……その霊魂もまた、黄泉還る意志を持たなければ、その魂が肉体と融合するとは考えにくい」
 霧亥のそれに、膝を抱えて蹲り、目を見開きながら涙を零していた鈴蘭が、びくり、と背筋を震わせる。
 ――霧亥のその言葉が、姫桜の予測を的中させたからだろう。
「つまり、貴女は柊さん……貴女の大好きなお父さんの想いを……願いを知り、それに答える事を望んだから、この配管の中で黄泉還った。そう言う事になるわね。その黄泉還りこそが、理から外れていると言う意味では、確かに『罪』でしょうね」
「……っ」
 配管の中で、見る見る内に両目を涙で満たしていく鈴蘭。
 その罪悪感を更に喰らわんと、ひゅん、と羽織を振るい、鈴蘭の罪や後悔を喰らう紅桜の枝を射出しようとする紅桜華だったが……。
「おっと、アンタの好きにはさせないぜ。これも仕事だからな」
「作戦成功の為の障害となる行為を、行なわせるわけには行きません」
 ミハイルが両手で構えた機関銃の引金を引いて弾丸をばらまいて紅桜華の裾を撃ち抜き、ネリッサの放った73の炎の精達が紅桜華へと着弾し、その動きを牽制する。
(「……そうか。鈴蘭の黄泉還りの背景には、紅桜華の野望、柊の意志……そして、鈴蘭自身も死後、心の何処かに残っていた鈴蘭としてのこの世への未練……そう言ったものが絡んできている、と言う事か」)
 それは紫苑……紫蘭が転生する以前の少女の在り方と酷似している。
 幾つかの点が少しずつ、少しずつ繋がっていく。
 けれども、まだその全てが明かされているわけではない、と言う事も統哉には理解出来た。
 故に統哉は『宵』を逆袈裟に振るい、傷を負っている紅桜華の足止めに専念する。
 先程よりも鋭い統哉の一閃を、紅桜華が微かに強張った表情を浮かべて灯璃に撃ち抜かれ、動きを鈍らせていた左腕を何とか上げて辛うじて受け止めていた。
 その手応えの重さに、統哉は思う。
(「紅桜華は、弱ってきているな……」)
 その理由は、きっと……。
「――でもね。私はこう思うの。貴女の『想い』そのものは、全く罪で在る筈が無いってね」
 ――この、姫桜の鈴蘭に対する呼びかけであろう。
 一心不乱に舞に集中する暁音には、姫桜のその言の葉を聞くことも、ましてや自分の力で届けることも出来なかったけれど。
 その鼓膜を微かに打った姫桜の言葉を受けて、共苦の痛みの刺し貫く様な痛みが和らぐのを肌で感じとっていた。
 ちらり、と上空で舞い続ける暁音へと一瞬の目配せを送り、ほんの少しだけ恥ずかしそうに軽く自らの髪を指に絡めて弄ぶ姫桜。
「お父さん、大好きなんでしょう?」
 そう、問いかけつつも姫桜は何となく気恥ずかしくなってしまい、頬を少しだけ熱くしてしまう。
 それは、過保護な父親に対する反発心と、そんな父に対する親愛の情の板挟み。
 姫桜の、その問いかけに。
 鈴蘭が見開き涙に潤ませていた瞳孔を、愈々大きく見開きながら、無意識にコクリ、と頭を垂らす。
 その頭を垂らす様を背中で感じ取り、だったら、と姫桜が熱を持って話し続けた。
「柊さんの心を最後に救うことが出来るのは、きっと貴女だけよ。黄泉還りが間違っている……間違っていたのだと分かっているのなら……今からでも遅くないから、全力で最善を尽くしなさい! 罪に囚われて自責の念に打ちひしがれている暇があったら、今できることをして、足掻いてみなさいよ!」
 魂の慟哭の如き、姫桜の咆哮を耳にして。
 配管の中の鈴蘭がかっ、と輝きを発する。
 懐中時計を通して外に飛び出したその輝きは、まるで、紅桜華に吸い込まれる様に、その体を、背中から撃ち抜いていた。
「ちっ……! 柊様を思う心で、罪の意識だけでなく贖罪の思いをその胸に抱きましたか……! おのれ超弩級戦力達……よくも、彼女の心の中に『罪の意識』に抗い、贖う心を植え付けて下さいましたね……!」
 苦々しげに呻く紅桜華。
 その動きは、目に見えて鈍り……その勢いも、大きく減じられていた。


「おい……姫桜の言葉を聞いたか、柊!」
 姫桜の叫びと、鈴蘭の想い。
 鈴蘭の親への『愛』を喚起させるその叫びを耳にした陽太が、そのまま力強くその背の柊を揺さぶっている。
「届いていない筈だろ、アンタにさ、柊。あの子は……鈴蘭はちゃんとアンタが自分を愛してくれていたことに気がついているんだ。そして……アンタがどうしてそこまでして鈴蘭を黄泉還らせたかったのかの理由も、分かってくれているんだ。此処で、何時までもアンタがウジウジして……その罪や後悔を紅桜華なんかに利用されたらどうなるか、アンタにはよく分かっているだろ?」
「ああ……そうだね」
 響の問いかけに、静かに頷く柊。
 そのまま陽太の背を軽く突くと、陽太が、軽く首を傾げた。
「柊?」
「響さん達。私はもう大丈夫だ。あの子との最期の対話のためにも……娘を黄泉還らせるために力を貸してくれた『彼女』のことを救ってあげてくれ。今のままでは、『彼女』も……紅桜華も救われないし、今、戦っている超弩級戦力の皆さんだけでは保たないだろう」
 息も荒く、『白鞘』に取り付けられた装飾から白く眩く光り輝くホーミングレーザーを撃ち出し、暁音の羽根でさえも守り切れずに負傷した統哉や、ウィリアムを癒す美月の姿を。
 疲労で激しく息を吐く美月を庇う様にその隣で苦しみながらも振り下ろされた紅桜華の両腕を受け止める霧亥を。
 霧亥がその攻撃を受け止めた一瞬の隙をついてネリッサと炎の精達が、畳みかける様に攻撃を仕掛ける姿を。
 そして……其れを柊との強制的な視覚共有化で認め、紅桜華の右腕を撃ち抜き、足止めを続ける灯璃の姿を認めながら。
 戦況を見て取ったか、そう告げて背を押してくる柊に、仕方ねぇな、と陽太が軽く息を吐き、柊を下ろす。
「陽太。アンタの武器は、確か……」
「ああ。こいつなら、幾らでも後ろから援護できる。だから……統哉達の加勢は頼んだぜ、響」
 陽太のその言葉に響が頷き。
 一気に肉薄する響を援護する様に、陽太が濃紺のアリスランスを伸長させて、一気に攻めかかっていく。
 その様子を……鈴蘭の意志を受け止め、自らの足で立ち、この戦いの最後を見届ける覚悟を抱いた柊の姿を、紫蘭が、何処か眩しいものを見る様な眼差しで見つめているのを、強制的に視覚を共有化している灯璃はその藍色の双眸でしかと認めていた。
「……紫蘭さん」
 そんな、紫蘭のその肩に。
 紫蘭の前に立ち、紫蘭をその背に庇い続けていた奏が言の葉を投げかける。
「奏……」
「今までになかったことを目前にして、迷い、苦しむ紫蘭さんの想いは分かります。けれど忘れてはいけません。そうして人の心を侵し、壊す様な凶悪な影朧がこの世界には現れると言う事を、貴女は忘れてはいけない……そう思います。そして……そんな理不尽な意思に人は、私達生きる者は、時に立ち向かう……いいえ、立ち向かわなければならない覚悟が必要である、と言う事も。そう言った強き心を持って相対し、時には毅然な態度でもって、影朧を輪廻の輪に戻す必要がある、とも。それが出来なければ……灯璃さんが言っていた先程の少女達の心だけではなく、傷つきそれでも尚立ち上がる覚悟を抱き、そのために紅桜華の転生……救済を望む柊さんや、その柊さんを立ち直らせた、もしかしたら影朧かも知れない鈴蘭さんの想いを踏み躙ることにもなってしまいます。……少なくとも、今は」
 毅然とした態度でそう告げる奏。
 その背に星空を舞うシルフィードを思わせる緑色の光を纏った奏の姿を、紫蘭が声もなく見つめている。
 その手は、無意識に自らの胸にある羽根を握りしめていた。
 その様子を認めた美雪が紫蘭さん、と小さく呟く。
「暁音さんの受け売りではあるが、心は、何時でも届けられるわけじゃない。だが、痛みに立ち向かう事こそが……私達生者が、影朧と本当に向かい合う上で必要なものなのではないか、そうは思う」
「……」
 美雪のその、言の葉に。
 縋る様に、祈る様にその胸の羽根を包み込む様に改めて握り直す紫蘭に、思わず美雪は微笑んだ。
「でも、貴女は大丈夫だ。今の貴女には、貴女を肯定し、共に戦う意思を持つ者がいる。そして……その上で、その様な迷いで、貴女がこれ以上傷つく事を阻止するために、紅桜華から情報を聞き出そうとしている人もいる。だが、この場で彼女を転生させることが出来るのは、貴女だけだ。その為の力を……皆の想いを、無碍にすることが出来る貴女では無いだろう?」
 美雪の、その問いかけに。
 きゅっ、ときつく唇を嚙み締めながら、そうね、と短く紫蘭が呟いた。
「……これが正しいのかどうかは分からないけれども。それでも、今の私に出来る精一杯をする事だけは、諦められないわ」
 迷いの中でも揺るがぬ芯の様な決意を口にする紫蘭に満足げに頷き、ところで、と美雪が問いかけた。
「紅桜華は、紫蘭さんと何か関係があるのか? あれ程の憎悪だ。何か理由がある筈なのだが」
(「例えば、紫苑さんの双子の姉とか……か?」)
 内心でそう呟く美雪だったが、流石にそれは違うな、と軽く頭を振る。
 もしそうであれば、美月達SIRDとウィリアム、陽太の徹底的な迄の柊身辺の調査の結果に引っ掛からない理由が無い。
(「では……?」)
 怪訝そうに美雪が首を傾げていた、その時。
「うん……聞いたことは、あるわ。あくまでも、噂だろうと思っていたのだけれども。でも……多分、それが真実なんだと思う」
「……その内容、詳しく教えて貰えないだろうか?」
 思わぬ紫蘭の反応に美雪が目を白黒させながら問いかけると、紫蘭が小さく頷き、訥々と語り始めた。
 まるで、子供の頃、親に聞かされたことのある、お伽噺の様に。


 ――昔、昔、紅桜と白桜と呼ばれる仲睦まじい双子の桜の精がいました。
 ――彼女達は、2本で向かい合う様に大地に根付いていた『幻朧桜』から生まれ落ちた、と言われています。
 ――『幻朧桜』……それ自体が同じ根に基づいた双子であったために、生まれ落ちた紅桜も、白桜もまた、双子の桜の精として、この世に生を受けたのです。
 ――彼女達は、沢山の影朧を転生させた輪廻転生の理の守護者だったと言われています。
 ――けれども、ある時。
 ――2本の『幻朧桜』の内、1本が不意に消失していました。
 ――もう1本の『幻朧桜』もまた、其れを悲しむかの様に静かに枯れ果てていきました。
 ――それと、時をほぼ同じくして。
 ――『幻朧桜』から生まれた紅桜と白桜……双子の桜の精も、消息を絶ちました。


「……多分紅桜華は、この伝説の桜の精……姉桜だった、『紅桜』の成れの果て、だと思うの。どうしてそうなったのかは、分からないけれど」
 そこまで話をした紫蘭が、重苦しい息を一つ吐く。
 美雪が、漸く事実関係が判明しつつある紅桜華の生い立ちに溜息を漏らした刹那。
 疲労から、思わずその場に膝をついてしまった。
 その美雪に向かって、紅桜の枝が降り注ぐ。
「美雪さん……!」
 思わず声をあげる奏の声よりも先に、暁音が零した星の羽根の結界が齎され、そして、それらの桜の枝を受け止めていた。
 ――この戦いが始まったら、俺はきっと皆を守る事だけしかできなくなるだろう。だから……皆、後の事は任せるよ。
 空中へと向かう束の間に、暁音と交わした話を思い出しながら、美雪が小さく首肯を一つ。
 そして全身の気怠さを無視して、グリモア・ムジカにアリアを歌わせ続けながら、目前の奏へと声をかける。
「奏さん。ご存知の通り私は戦う力を持たない。瞬さん達の援護に向かってくれないか? 紫蘭さんの守りはこの威力なら、私と暁音さんの結界だけでもなんとかなるだろう」
「……分かりました、美雪さん。それでは……お互いに、幸運を」
 美雪のその言葉に背を押され。
 ウィリアム達の加勢へと向かう奏を見送り、美雪が疲労の濃い、やや呼気の熱い息を吐いた。


(「紅桜華の足止めの為に時間を作っていくつもりでしたが……どうやら、紫蘭さん達の説得の時間さえも稼ぐことが出来たようですね。所詮、世の中は確率論。必ずしも常に上手く行くとは限らないのですが……どうやら今回は、賭けに勝ちつつある様です」)
 姫桜の説得により鈴蘭の心が動き、その意思を受け取った柊が立ち直り、その柊の姿を見て紫蘭が正気を完全に取り戻したその一連の会話を耳にしながら。
 燦然と輝く73の炎の精達に弱りつつある紅桜華を牽制させ、『G19C Gen.4』の弾倉を装填しなおしながら、ネリッサが息を吐く。
 ネリッサの隣では、美月が疲労が極限に達しているにも関わらず『繊月』を納める白鞘の装飾からホーミングレーザーを撃ち、その傷を癒していたミハイルが、機関銃を連射している。
 灯璃もまた、素早く"Failnaught"の弾倉を入れ替えながら、尚も抵抗を続ける紅桜華の様子を目を細めて見つめていたが……紫蘭と柊の目を借りてそれを確認するや否や、微かに肩の力を軽く抜いた。
「どうしましたか、灯璃さん」
 ネリッサの問いかけに灯璃がええ、と軽く一つ首を縦に振る。
「どうにか戦線を立て直すことが出来そうです」
 その灯璃の呟きと同時に。
「瞬!」
「瞬兄さん!」
「母さん、奏!」
 後方で柊と紫蘭の防衛に徹していた響と奏の叫びを受け、瞬が微かに弾んだ声を上げ、同時に六花の杖と月虹の杖を十字に構えて、念じる。
「くっ……そのまま紫蘭達の護衛につき続けていればよかったものを……!」
 統哉とウィリアムの波状攻撃に受け手一方になりつつあった紅桜華が焦った声音を上げる。
 瞬が、『アイヴィーの蔓』、『ヤドリギの枝』、『藤の蔓』の3種の枷を呼び出したのに気が付き紅桜華がそうはさせじと紅桜手毬を其方に投げようとした、刹那。
「――今なら! 『Stone Hand!』!」
 ウィリアムが咄嗟に『スプラッシュ』を大地に突き立て、短い詠唱を叫ぶ。
 同時に、不意に紅桜華の足元が揺らぎ、そこから飛び出す様に岩石で出来た大地の精霊の腕が姿を現し、紅桜華の体を掴み取ってその動きを封じた。
「……何ですって!?」
「今です、皆さん!」
 ウィリアムの叫びに応じる様に瞬の『アイヴィーの蔓』がその左腕を絡め捕り、『ヤドリギの枝』がその右腕を貫き、『藤の蔓』がその両足を締め上げていく。
 そこに後方から伸長された陽太の濃紺のアリスランスがその胸を貫き、更に響がブレイズランスを突き出し、同時に奏がブレイズセイバーを振るった。
 響の意志を反映した赤熱した炎のランスが、その胸に深々と突き刺さって内側から紅桜華を熱し、奏の星の煌めきを抱いたブレイズセイバーが統哉によって抉られたその右肩から左脇腹の傷口を抉る様に深々と切り裂いていく。
「ぐっ……ぐぅっ……!」
「紅桜華。何故、歪んでしまった桜の精である貴女が転生を拒み続けるのですか? 紫蘭さんが知っていた様に、貴女は伝承としても、桜の精達の記憶に残っている存在です。そうである限り、あなた自身が転生したとしても、貴女の存在が消えるとは僕には思えません。そう……貴女が正しく怖れている、紫蘭さんの様に」

 ――『裂帛の束縛』

 そう名付けた自らの術で紅桜華を絡め取り動きを封じながら告げる瞬を補足する様に、それに、とウィリアムが小さく頷いていた。
「嘗て桜の精だったと言う貴女であれば、影朧というものが如何に不安定な存在のか……このまま行けば、嘗ての自分自身……即ち、桜の精であった頃の自分自身を喪失してしまう危険と直面し続けているという事を、貴女は知っている筈です。そもそも影朧という段階で、半ば転生しているも同じなのではありませんか!?」
『Stone Hand』に魔力を注ぎ込み、大地の精霊達と契約を繋いだ状態で紅桜華を拘束し続けるウィリアムの問いかけに。紅桜華が益々憎々しげな表情を浮かべ始めていた。
(「失われた『幻朧桜』の双子の片割れ、そこから生まれ落ちた双子の桜の精……目前にいる『姉桜』……そして、先の戦いで戦った少女達が操っていた……代償を強いる影朧兵器、疑似幻朧桜……」)
 今までの戦いの中で、並べ立てられてきた数々のキーワード。
 そして、それらの全てに関わってくるもの……それは、『転生』と『幻朧桜』
「転生は救い。彷徨える不安定な魂が基の輪廻の輪へと還り、基の命の循環を作り出すシステム……けれども、君は……君達は其れを拒み、憎んでさえいる節が見受けられる……それはどうして、か……」
 目を瞑り、静かに思索に耽りながら。
 漸く見えつつある解決の糸口に辿り着いた統哉の脳裏に、まるで、ピン、と頭の中で豆電球が光る様な、一種の閃きを伴う電流が走った。
 そして、統哉は掴み取った其れを口に出す。
 ――統哉が辿り着いた、一つの真実を。
「……あの子達が使っていた疑似幻朧桜……あれを作るために、君の妹桜……白桜を生み落とした、『幻朧桜』と白桜本人を当時の人達が刈り取った……それが、影朧と君が化した理由なのか?」
 ――人によって、殺されてしまった妹桜である白桜と、『幻朧桜』
 その真実を知った時の、桜の精……姉桜たる紅桜の哀しみは、怒りは如何程のものであったことだろう。
 統哉の、その問いかけに。
 紅桜華の焦りを感じさせる表情が、完全に凍り付く。
 その表情が、何よりも嘗て実際に起きたことを雄弁に語っているのだと悟り、統哉は、ずっと瞑り続けていた瞳をゆっくりと開いた。
「――成程。それならば、君が自らの身を闇に堕として、俺達人の過ちを正すために復讐を望むのは当然だ。あの少女達の激しい憎悪と、その憎悪と傷をその胸に抱いたまま生き続けることを願った少女達の願いも、当然の話だな」
「人間が……知った風な口を……!」
 万力を解放し、自らを縛る瞬とウィリアムの放った戒めを解こうとする、紅桜華。
 だが……。
 ――ズキューン!
 弾倉を入れ替えた灯璃の"Failnaught"から発射された弾丸が、まだ撃ち抜いていなかった右腕の関節を撃ち抜き、続けざまにネリッサの愛銃G19C Gen.4から放たれた弾丸と、美月のOTs-33Pernachの銃声が響き渡り、それが灯璃に最初に撃ち抜かれた左腕関節と、陽太や響に貫かれた胸へと炸裂する。
 パッ、と赤い血飛沫が宙を舞い、その返り血を統哉が浴びる姿を見ながら、ミハイルが微かに苦い表情になり、UKM-2000Pの引金を引いて、紅桜華の傷を更に抉っていった。
「……なんつー話だよ。お嬢ちゃん。アンタが自らの望みの儘に動けば、月並みだが復讐が連鎖しちまうぜ……いや、ある意味ではもうしつつあるのか……ったく、胸糞わりぃ話じゃねぇか」
 ミハイルのその呟きに、そうだな、と軽く統哉が頷く。
「それに、もし、俺達の推測通りならば、輪廻の輪の中で罪を背負うべきは、君達影朧じゃない。……俺達、生きる者の役割だ。ミハイルの言った復讐の連鎖……君達のことを、俺達が忘れなければ、きっと其れを断ち切ることが出来る。いや、俺達がその連鎖を断ち切るそんな未来を切り開いていかなきゃ行けないんだ。だから……!」
「止めろ……止めろ!! それ以上、私の心に入ってくるな……!」
 統哉の懇願の交えられたそれに激しく頭を振りながら、全方位に向けて、紅桜色の矢を解き放つ紅桜華。
 放たれたその矢による全方位に大地に水平に放たれた矢が、紫蘭、柊、鈴蘭を狙うが……鈴蘭への其れは、姫桜が最後の力を振り絞って二槍を振るってその勢いを削がれた上で、暁音の舞により降り注いだ星の輝きの様に舞い降りた羽によって防がれ。
 柊を狙った其れは、陽太の無敵の白銀鎧と漆黒に張り巡らされた結界によって完全に威力を封殺され。
 そして、紫蘭を狙ったそれは……。
「まっ……これも仕事なんでね」
 ミハイルが初速を押さえるために敢えて真正面に踏み込みながら受け止め、更に疲れ切った体に鞭打って紫蘭の前に出た美雪が暁音の星の煌めきを象った羽の盾の支援を受けて、完全にそれを受け切った。
「ミハイル様……!」
 気遣う様に呟きながら、自らの疲労の極限を越えて白鞘の装飾からホーミングレーザーを放とうとする美月にミハイルが気にするんじゃねぇよ、とばかりにちっ、ちっ、ちっ、と辛うじて動く指を横に振る。
「肉を切らせて骨を断つ、ってな」
 息を切らしながらも、尚そう呟いたミハイルのそれに応じる様に。
 彼の隣に姿を現す、彼と同じ体系の黒子の様な存在。
 MPi-KMを構えて突撃しながら銃を乱射し、畳みかける様に紅桜華を撃ち抜くその姿は、ミハイルにとっての、『戦場の亡霊』。
「まぁ、切らせる肉が、ちぃっとばかり薄いのが……玉に瑕、だがね」
 そのまま、どうと倒れるミハイルが倒れる音を合図に。
「あと一押しです、皆さん、お願いします!」
『Stone Hand』の力を維持する疲労から額に脂汗を浮かべていたウィリアムが叫ぶと。
「一斉攻撃を」
 それに応じたネリッサが73の炎の霊達に口から炎のブレスを吐かせて一斉砲撃を行いながら、指示を出す。
「了解です、局長」
 それに頷いた灯璃が紅桜華の頭部を撃ち抜くべく、狙撃銃で狙いを定めて正確無比な射撃を放ち。
「ミハイル様、後で必ず」
 美月が呻く様に呟きながら、OTs-33Pernachの引金を引いて、紅桜華の両足を撃ち抜きながら、逆手に構えた『繊月』を撥ね上げる様に振り上げてミハイルの呼び出した戦場の亡霊によって穿たれた紅桜華の傷口を抉り、その心臓となる核を剥き出しにさせ。
「本当に、復讐の呪縛から逃れるべきはお前だったな……紅桜華」
 そこに霧亥が3発の咒力弾を目にもとまらぬ早業でQuick silver から撃ちだして正確に紅桜華の心臓……否、そこに凝り固まった復讐心と言う名の『呪縛』を撃ち抜き。
 ――そして。
「ごめんな。でも、もうこれ以上君を、俺達は苦しめたりしないから……だから……安らかに」
 統哉が、『宵』の漆黒の刃先に星空の煌めきを思わせる光を纏わせて一閃する。
『願いと祈り』の籠められたその一閃が、霧亥によって撃ち込まれた3発の咒力弾の威力を広げ、復讐にのみ突き動かされていた紅桜華の邪心を……その存在を形作っていた悪意の塊を、叩き切っていた。
「……紫蘭さん」
 その様子を、見つめながら。
 奏の呼び掛けに応じた紫蘭が、胸の前で両手を組んで祈りの言の葉を紡いだ。
「……道を違えばそうなっていたかも知れない、『私達』にどうか、魂の安らぎを……」
 ――ザァァァァァァァ。
 木々がざわめく様な風の音が、辺り一帯に響き渡り。
 暖かな桜吹雪が紫蘭を中心に舞い……紅桜華を包み込んで、輪廻転生の輪へと回帰させ……それを気配で感じ取ったか、ずっと空中で舞い続けていた暁音が、静かにタン、と大地に降り立った。


「……紅桜華は、終わったわね」
 その一部始終を、鈴蘭を守るために全てを注ぎ込んでいた姫桜が見届け、そっと溜息を一つ漏らす。
 結局姫桜は、一歩も動かなかった。
 彼女を……鈴蘭を守り抜くために、その力の全てを注ぎ込んでいたから。
 ヴァンパイア形態を解除しながら、姫桜が後ろを振り返る。
 抱えていた膝を広げて、まるで生まれたての赤ん坊の様な、或いは死を受け入れる覚悟をしたものがする様な……何処か透き通った表情を浮かべた鈴蘭の姿を。
「鈴蘭……」
 陽太と響に左右から両肩を貸されながら。
 よろよろと配管の中に浮かぶ鈴蘭を見つめて、絞り出すような声を、柊が上げる。
 その柊に向けて、透き通った表情に満面の笑顔を綻ばせてお父さん、と鈴蘭が呼び掛けた。
「私を生まれさせてくれて、ありがとう。私に、この言葉を言わせてくれるだけの時間をくれて、本当にありがとう。私、幸せだったよ」
「……ありがとう」
 ――陽太の言葉通りであれば、此処で告げるべきは、謝罪だったかもしれない。
 けれどもそんな悲しい姿で、二度目の……そして本当の意味での『鈴蘭』との永久の別れをするべきではないのだと、柊は理性ではなく、感性で感じ取っていた。
 地面に着地した暁音が、紫蘭と共に、静々と歩いてくる。
 ――共苦の痛みは、鋭く突き刺さる様な鈍痛を、暁音に与え続けていた。
「……紫蘭さん」
「後をどうにかできるのは、貴女だけだ」
 暁音の囁きと、奏に支えられつつ近付いてきた疲れ果てた表情の美雪の呼び掛け。
 それに紫蘭が頷き、ゆっくりと前に歩き始める。
 姫桜が鈴蘭の真正面を紫蘭に譲り、ネリッサ達は疲労の極みに達しながらも、最後が訪れるその瞬間まで、気を抜かずに周囲を警戒し続けていた。
 紫蘭が、鈴蘭に向かい合った、その時。
 鈴蘭は一瞬、紫蘭の胸にあった羽根を見やったが、すぐに全てを悟ったかの様に笑顔を柊に向けていた。
「お父さんの娘で、本当に良かった」
 その、鈴蘭のさりげない一言に。
「鈴蘭……!」
 柊が息を飲み、響がぎゅっ、と拳をきつく握りしめ。
 そして……紫蘭が祈りの言の葉を手向けた。
「失われてしまいながらも、尚、生きる事を願い、その器に宿りし魂に……本当の安寧を……」
 その、祈りと共に。
 紫蘭の額の桜が『幻朧桜』の幻を生み出し、桜吹雪と化して、鈴蘭を……配管の中の少女を覆っていく。
 それに鈴蘭がそっと目を閉じ、安らかな眠りに落ちていき……。

 ――光射す天空へとその魂と肉体を浄化させていった。

 ――転生と黄泉還りに纏わる一連の戦いは、静かに終わりの鐘を鳴らす。

 ――粛々と……安らかに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月21日


挿絵イラスト