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化猫

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●この恨み晴らさずでおくべきか
 銀幕のスタア、未来・トワ。
 このサクラミラージュでは知らぬ者のいない女優だ。
 その美貌と演技で、数々の舞台を演じてきた。
 その邸宅も広大な敷地と使用人に囲まれ、世間とは隔絶した暮らしをしていると世の人々に知らしめていた。
 その屋敷では日夜素敵なパアティが行われているのであろう。
 下々がそんな幻想を当然のように思い浮かべる豪奢な屋敷。
 その中で惨劇が始まっていた。
「ヒィッ!」
 トワは逃げていた。演技では無く、恐怖に引きつった表情を振りまいて。
 屋敷の中は朱に染まっている。
 死体、鮮血、臓物のあと。
 使用人達は乱入してきた狼藉者に襲われ、殺されたのだ。
 あの時の悲鳴、、それを思い出すだけで身が竦む。
 そしてあの、鳴き声。
「ナァァァァァゴォォォ……」
「ヒィッ!」
 その鳴き声が近づいてくる。
 老猫の喉をひねり潰したかのような鳴き声。
 それが迫ってくるのだ。
 あれに、みんな殺されてしまったのだ。
 あの化け物に、私も殺されてしまうだ。
 広大な屋敷は、今や複雑な迷宮と化していた。
 壊された調度品や覆い被さる死体の後が障害となって、逃げるのを阻む。
 そして段々と、襲撃者が近づいてくる声がするのだ。
 いやそもそも、あれは人なのであろうか。
 追いすがる姿を確かめようと、トワは振り返った。
 いない。
 一抹の安堵を糧に、トワは前に向き直って逃げようとした。
 しかし、その足が止まる。
 目の前には襲撃者の姿。二足で立つ獣の姿。
「た、たすけ……」
 命乞いするトワ。それを化物が遮った。
「サキノウラミ、オモイシレ」
 喉を鳴らしながら襲撃者が吠える。
「先の恨み……? さき、ひょっとして……咲のこと? あれ――」
 その先は続かない、トワの首がはね飛ばされたからだ。
 動かなくなった彼女の死体を、飽き足らずに化物はズタズタに引き裂いた。
 ナァァァァァゴォォォ……。
 赤いボロぞうきんを踏みつけながら、襲撃者は満足そうに鳴くのであった。

●グリモアベースにて
「これが、私の見た予知でございます」
 ここはグリモアベース。
 ライラ・カフラマーンは居並ぶ猟兵たちに深々と頭を下げていた。
 その背後に生じている霧には、さきほどの光景が幻となって現れている。
 頭を上げると幻は雲散霧消していき、周りの霧と溶け込んでいった。
「舞台女優 未来・トワ、彼女が襲われる予知でございます」
 先ほどの光景は、いずれ起こる未来。
 そして、これから防げる未来。
 そうライラは言いたいのであろう。
 ライラは続ける。
 影朧によってトワが襲われる未来、それによって彼女のみならず、類する縁者の多くが命を奪われようと言うのであった。
「我々は、これを見過ごす訳にはいきません。皆さんは現地に赴いてこの惨劇を防ぐようお願いします」
 猟兵という身分は都合が良い。
 影朧の襲撃に備えるという名目があれば、易々と彼女の身辺警護などにつけるでろう。
 しかし、とライラは続ける。
「この一件、トワさんと影朧には何やら並ならぬものがありそうです。彼女の周りでそれを調査すれば、影朧に辿りつくことが出来るやもしれません」
 ライラが杖の先で地面を軽く叩くと、霧が変化し姿を形どる。
 それは銀幕の舞台。
 大勢の観衆に見守られながら演じる、舞台俳優たちの姿であった。
「輝くスポットライトの外では、人の貌はわからぬもの。皆さん、真偽に欺かれず、依頼を果たせるよう願っています」
 そう言ってライラは、猟兵達に深々と頭を下げたのであった。


妄想筆
 こんにちは、妄想筆です。
 今回はターゲットを狙う影朧の所在を突き止め、討伐する依頼となっています。
 一章は対象者の近辺で警護などしながら、なぜ襲われるのかを調査してください。
 未来 トワは二十代後半の女優です。
 その美貌の舞台負けしない演技力で数々の役名を勝ち取ってきました。
 本人も実力があることは承知しており、そのため高慢な処があります。
 彼女は猟兵を侍らすことをステヱタスと感じており、近辺にいること事態は迷惑とは感じません。使用人扱いされることは事実ですが。
 直接関係を尋ねても、演技力ある彼女がそのまま話してくれるとは思えません。
 彼女をおだてるなりなだめすかしながら、うまく情報を集めてください。
 舞台や邸宅、街でのショッピング。
 どこで彼女と一緒にいるかはプレイヤーの自由です。
 舞台演劇なら俳優が、邸宅なら使用人たちが、街中では遠巻きに見つめるファンがいるかもしれません。
 余裕があれば彼らからでも話が聞けるでしょう。
 その情報を集め、二章では容疑者の元へと赴く流れになっています。

 オープニングを読んで興味が出た方、参加してくださると嬉しいです。
 よろしくお願いします。
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第1章 日常 『我儘なスタア』

POW   :    これを向こうに持っていって下さる?(山のように届いた差し入れを運ぶ)

SPD   :    ああ、あれとあれとあれが欲しい……。(大量に頼まれたものを買ってくる)

WIZ   :    ――何か面白い話はありますか?(滑らない話)

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「お疲れ様でした、お預かりします」
 へりくだる付き人に衣服を投げつけ、未来・トワは控え室と入った。
 髪結いや指圧師が即座に動き、彼女を満足させようと仕事する。
 それらの者を侍らせながら、トワは週刊誌に目を通した。
 三面記事のゴシップは、自分にまつわる下らぬことばかり。
 さっと目を通して、屑籠へと放り投げる。
 全く、つまらない。
 うんざりとしたため息をついて飲む珈琲の味は、まるで自分の気持ちを代弁しているかのようだった。
 気もそぞろな彼女の後ろで、マネージャーが何事かを呟いている。
 その単語単語を反芻し、トワは思い出した。
「ああ、そういえば猟兵が付くんでしたっけ」
 気が抜けた返事でトワは一口嚥下する。
 何やら知らないが、自分が狙われているということらしい。
 それを危惧した事務所連中が手を回し、猟兵を護衛につけたらしかった。
 スタアという物は全くもって不自由だ。
 妬みや誹謗、中傷や逆恨み。
 華々しい舞台から引きずり落とそうと、誰かが狙っている。
 でも、まあ良い。
 猟兵を演じた事は、何度かある。
 退屈がてら、演劇の足しに、彼らの話を聞けるかもしれない。
 その点でいえば、自分は幸運なのかもしれない。
 鏡にむかって彼女は微笑んだ。
「まったく、人気者は辛いわね」
祝聖嬢・ティファーナ
SPDで判定を
※アドリブ歓迎

『フェアリーランド』の壺の中から風の精霊を呼び出して、言われた頼まれものを次々と運んでもらいフェアリーランドの壺の中で聖霊に整頓してもらいます☆彡
時々“七色こんぺいとう”を精霊・聖霊に配りながら、他の猟兵の疲労を『祝聖嬢なる光輝精』で治して『シンフォニック・メディカルヒール』で状態異常を癒やします♪
言われた先が距離があれば精霊・聖霊を連れて『月世界の英霊』で空間飛翔して急いで移動したりします☆彡

「猟兵の皆様にはボクにお手伝いができましたら、遠慮無く申し付けてください♪」

疲れている猟兵にも“七色こんぺいとう”を配り、治して癒やして回ります☆彡
「面白い話…苦手だなぁ…」


ジーク・エヴァン
今回の予知でみた影朧のこと、放っておけない
俺も竜への憎しみから猟兵になったから分かるんだ
あの憎悪と恨みは自分を含めた全て滅ぼしても止まらない
取り返しがつかなくなる前に止めよう

俺は邸宅で護衛をしよう
力仕事には自信があるし、荷物運びや片付けなら任せて
そのついでにこの邸宅の間取りを覚えよう

それにしても凄い豪邸だ
きっとトワさん自身の実力は勿論、たゆまぬ努力の賜物なんだろう
だからこそ彼女を支えた人がいた筈だ
彼女だって最初からスタアではなかった筈
その時から彼女の側にいたかつての誰かがあの影朧に繋がってるのかも
あの憎悪は簡単な繋がりからできるものじゃない
本人や使用人さん達に聞いてみよう

連携・アドリブ ○



「ここですね♪」
 ジーク・エヴァンの傍によりそっていた祝聖嬢・ティファーナが壺を取り出すと、そこから精霊が現れ、まるで部屋に最初から荷物があったかのように、キチンと整頓されて置かれた。
「凄いね」
 ジーク・エヴァンはその光景に舌を巻いた。
 腕力にはそれなりの自信はあったが、こういう人手作業では彼女の方が適任だったのかもしれない。
「ボクにお手伝いができましたら、遠慮無く申し付けてください♪」
「いや、あまり頼るのも良くないしね。俺が出来ることはやるよ」
 無邪気に笑う彼女の申し出を、エヴァンはやんわりと断り廊下を戻る。
 二人は護衛の名目で未来・トワの邸宅へと来ていた。
 あえて付き人の真似事をして屋敷内のあちこちを歩き回る。
 図面ではわかりにくい間取りの配置を、足で掴むのだ。
 いつ何時襲撃が来るかは、まだわからない。
 だがこうやって経路を叩き込めば、備えることもできるであろう。
 広い邸宅を廻ってわかったことだが、ここには多くの使用人がいた。
 あちこち振り回されている二人に対し、彼らはある種の同情をむけてくる。
 トワの性格は、彼らにも理解されるほどなのであろう。
 しかし、だからと言って殺される道理はない。
 ジークはそう感じていた。
「なんだか難しい顔をしているね」
 ひょいとこんぺいとうが目の前に出される。
 ありがとうと礼を言い、彼はティファーナから差し出されたそれを囓った。
 口の中で甘さが広がる。
 それを舌先に残してエヴァンが語る。
「凄い豪邸だと思わないか? きっとトワさん自身の実力は勿論、たゆまぬ努力の賜物なんだろう」
 その言葉にティファーナは周りを振り返る。
 豪奢な敷物に高価そうな調度品。
 部屋のみならず、廊下にまで目についてくる。
 自分には堅苦しいことはよくわからないが、彼が言うならそうなのだろう。
「だからこそ、放っておけないんだよ。惨劇が始まるまえに止めたいんだ」
 憎しみが全てを台無しにするまえにね、とエヴァンは小さく呟き扉をノックした。

 部屋に入ると、気だるそうな女性が二人を一瞥した。
「あら、ご苦労様」
 私宅であろうと身嗜みは怠らず、トワは猟兵にむかって労を値切った。
 そして新たな御用を申しつける。
「駅前のカフェーで特製甘味が販売しているらしいわね。それを一つ、買って来てくださらない?」
 爪の手入れから目を離さないトワ。
 ならば、とエヴァンが足を動かす前に、ティファーナが跳ぶ。
「一つでいいの?」
「種類があるならそれを全部。こちらにツケを廻してくれれば良いわ」
 了解! とティファーナが扉から出ようとする。
「俺が残れと?」
「だって離れる訳にはいかないし、面白い話とか出来ないしね♪」
 じゃあ後はヨロシクと出て行くティファーナ。
 あとにはトワとエヴァンが残された。
 退屈な時間は嫌いなのか、向こうから話しかけてくる。
 これは好都合だ、とエヴァンは思った。
 何か影朧に繋がる情報を掴めるかもしれない。
 彼女の機嫌を損ねないように、やんわりとエヴァンは話を合わせるのだ。
「運ばせて貰いましたが、凄い荷物でしたね。人気女優というのはこういうものなのかと」
「まあ、私ほどにもなるとひっきりなしに来るからね。だからファンの皆様には悪いけど、一度に処理しきれないから、ああやってまとめるしかないのよ」
 そっけない口調ではあったが、ファンを気遣う感情があった。
 すくなくとも邪険には扱ってはなさそうだ。
「ちょっと失礼な言い方なのですけど、トワさんも最初から大物女優ではなかったのですよね。その、その時ファンから貰った物ってなんでしたか?」
 何気ないエヴァンの質問。
 その言葉は、トワの表情を変わらせた。
 その横顔。
 それは大物女優のそれではなく、恋を語るような少女の素振りを思わせた。
「聞きたい? ええ……まあ、いいわ。当時は今と変わらぬ実力はあったけど、それを認められない先輩の嫉妬とかもあったりしてね。今の方が清々するくらいよ」
 でもね、とトワは化粧品から便箋を取り出した。
 古ぼけてはあったが、それは綺麗にしまわれていた。
「初めての舞台で貰った賞賛の手紙。手弱女にはそれはそれは嬉しかったものよ」
「良いですね。その方は今も?」
 何気ないエヴァンの質問。
 その言葉は、またもトワの表情を変わらせた。
 複雑な表情を浮かべながら、彼女は答える。
「もう、手紙は貰えないわ。まったく、甘味はまだかしらね」
 言外に質問を打ち切り、トワは窓を見やった。
 エヴァンを背に、その表情が見えないように。

「お待たせ!」
 明るい声とともにティファーナが姿を現した。
 彼女と、それに伴う精霊達が手提げ袋を抱えている。
 どうやら売られている甘味をほとんど買い占めてきたようであった。
「女優って凄いね、名前を出したら一発だよ。チケット使うまでもないね♪」
 運んでいった荷物に勝ると劣らぬ甘味の数々が、今度は部屋に敷き詰められる。
「さすがに一度には無理ね」残りは厨房に運んで頂戴」
 はーい、と精霊に後を運ばせティファーナはトワに一箱渡す。
 そして、エヴァンにも。
「俺にもか」
「仲間はずれは無しだよ☆彡」
 そういう彼女の元にも一皿ケェキが残っている。
 躊躇う素振りもみせずにティファーナはそれを口へと運んだ。
 トワも咎める様子もない。
 とりあえず、腹に納めてから先ほどのことを彼女にも語るとしよう。
「ありがとう」
 エヴァンはそう言って、自分も口をつけたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音羽・浄雲
※アドリブ、連携歓迎です。
 方針はSPD、言われるがままにどんなお使いでも迅速にこなします。

 忍者――それは仕える者。
 主の良し悪しを問わず、忠節を尽くす事はお手の物だった。
「この音羽浄雲が貴方様のお望みを叶えましょう。さあ、なんなりとお申し付けくださいませ」
 表向きはただの愚直な従者のように、浄雲はどんな申し付けにも応えんとする。頓に働くその姿はまさに主君の影。
 そんな彼女の狙いは二つ。一つは気に入られて口の滑りをよくし、直接情報を聞き出すこと。二つ目は一つ目が頓挫した際に、より一層の滅私奉公によって己を人ではなく道具のように認識させ、口が緩むことを狙っていた。



「お疲れ様でございました」
 控え室へと入ってきたトワに対し、音羽・浄雲は恭しく頭を下げて荷物を受け取った。
 堂に入った、嫌みのない動作。
 彼女の邪魔にならず、かといって傍を離れるでもない。
 浄雲の所作は見事という他なかった。
 主に仕えるが忍び。
 この程度のことは、彼女にとって造作もないことであったのだ。
「この音羽浄雲が貴方様のお望みを叶えましょう。さあ、なんなりとお申し付けくださいませ」
「そうねえ。それじゃあその荷物を片付けておいて。それから飲み物を持ってきて頂戴」
「御意」
 下知をうけて浄雲は走る。
 昔ながらに仕える従者のように自然にして。
 彼女の護衛をして何となくわかってきたことだが、同業のものに対して厳しい。
 険がある、といえばわかりやすいであろうか。
 もちろん、人使いは荒いのではあるが、浄雲に対するそれと、彼らに対する態度は違う。
 同じ業界の人間に対して、壁を作っている。
 浄雲はそう判断した。
 言付けの物を運んだ浄雲の次なる命は奇妙なものであった。
 数多く届くファンレター。
 その内容を選別して欲しいのだという。
 何故そのようなことをするのだろうか。
 本人にあてられた手紙。読むのに不足はないはずだ。
 内心訝しがる浄雲であったが、そのこと事態は不満を漏らさずに、作業に没頭する。
 賞賛。羨望。慕情。
 そんな数々の文に混じって、眉を顰める手紙が混じっている。
 中傷、誹謗、妬み。
 中にはご丁寧に刃物を忍ばせているものまである。
 なるほど、こういう訳か。
 合点がいった浄雲は、そういった危険な物をより分けはじめる。
 そんな作業中の彼女に、トワが声をかけてくる。
「驚いたかしら。人って知らない人にこれだけ醜くなれるのよ」
 トワの言葉は、この黒い手紙たちのことを言っているのであろう。
 黙々と続ける浄雲に対して問いかけてくる。
「猟兵というのも、人の恨みを買ったりするのかしら?」
 浄雲は静かに答える。
「わかりません。しかし恨みを買うような真似、己はしておらぬと存じています」
 浄雲の問いに、彼女は笑った。
 自嘲するような、過去を悔やむような、そんな顔。
 彼女の変化を、浄雲は見逃さなかった。
「そう。でも覚えておいて。貴方の行動を、そうじゃないと判断する人もいるのよ」
「左様でございますか」
 できるだけ言葉を選んで浄雲は返す。
 彼女の刺々しい態度は、過去に関係する何かであろうか。
 もう少し情報が欲しい。
 しかし今の自分は一介の従者である。
 あまり突っ込んだ問答をしては、任務にも触りがあるというもの。
(彼女の近辺を更に深く調べる必要があるようですね)
 出来れば過去に詳しい者。
 それを知る何者か。
 他の猟兵が見つけた古い便箋。
 アレも関係しているのであろうか。
「この山、いかが致しましょうか」
 山のような手紙の束を仕分け終わり、浄雲は尋ねる。
「その中に『咲』さんという方からの手紙はあった?」
「いえ、ございません」
 その応えにトワは俄然興味を失い、そう、とだけ呟いた。
「じゃあ、いいわ。それも運んで頂戴な」
「御意」
 恭しくお辞儀をし、浄雲は手紙の束を運ぶ。
 この手紙の多さこと、トワの人気を物語るもの。
 しかし彼女にとっては、さほど重要なものではないらしい。
 咲。
 彼女の口から出た、一人の人物。
 その人物はいったい何者であろうか。
「これは、調べてみる必要がありそうですね」
 浄雲の眼は、付きしたがう従者ではなく、諜報を任務とする忍びのそれであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎

さて、なかなかに怨みは深そうじゃがトワ殿と襲撃者の間に何があったのかのう?
まあ、正当な怨みであろうと逆恨みであろうとやる事は変わらぬのじゃが、とりあえず襲撃に備える為にも情報収集からじゃな。

わしはトワ殿の移動中の護衛につきながら情報を集めるとするか。
狼達を呼び出して周囲に配置しそれっぽく見せながら噂話を収集し、【巨狼マニトゥ】に【騎乗】してトワ殿の傍に侍って世間話でもしておくかの。

うむ、なかなかの存在感じゃ。やはり一廉の役者は輝いておるのう。
見るものによっては自負も傲慢に見え、競争を勝ち取れば怨み嫉みを持たれる事もあるじゃろう。
わしも芸を嗜むでな、その有り様嫌いではないぞ。



 舞台会場の周りの人通りは多かった。
 今日は公演日。
 ファンの人々が演者たちの舞台を愉しみにやってくるのだ。
 しかし本日は、演目とは別に気になる物が耳目を集めていた。
 会場の周りを警護するかのように、所々に鎮座すましている狼たち。
 別段人を襲う様子はなく、時折人々の声に耳をそばだてていた。
 会場の中も同等である。
 狼たちに周囲を警戒させ、エウトティア・ナトゥアはトワの演目を眺めていた。
「うむ、なかなかの存在感じゃ。やはり一廉の役者は輝いておるのう」
 己も芸を嗜むぶん、彼女の技量が並々ならぬ物とエウトティアはすぐわかった。
 共演者の動きにも目をくれるが、やはりトワの方が上のようだった。
 俳優たちにも、そして見晴らせた狼たちの報せからも、今のところ怪しい動きは見受けられない。
 今の所、襲撃の予感はなさそうであった。
 拍手が響き、緞帳が下りる。
 どうやら演目が終わったようだ。
 エウトティアは控え室へと動くために、席を立つのであった。

「見事であったぞ、トワ殿」
 ぱちぱちと拍手をしながらエウトティアが賞賛を送る。
「私は貴女の方が素敵と思うけどね。その殿方をどうやって侍らしているのかしら、そのほうが興味があるわ」
「マニトゥのことか? いやいや殿方ではないぞ、立派な淑女なのじゃ」
 エウトティアが跨る巨狼マニトゥをまじまじと見つめ、ごめんなさいとトワが謝る。まあ仕方があるまい、とエウトティアが誇った。
「わしとマニトゥは数々の戦場を連れ添った歴戦の戦士であるからな。精悍に見えるのも無理はなかろうて」
 ふんすふんすと得意顔のエウトティア。
 姉妹をあらためてまじまじとみつめ、トワが零す。
「そんな風には見えないけど、やはり貴女も猟兵なのね。よかったら、何か面白い話でもしてくれるかしら」
「おう、よいぞ。あれはじゃな……」
 身振り手振り、時には誇張を交えてトワにこれまでの逸話を語るエウトティア。
 退屈そうだったトワの顔に、明るい色がつく。
 どうやら興味を持ってくれたようだった。
 空気が和らぐのを感じたエウトティアは、更に話を深めていく。
「しかしいやはや、先ほどの演技は見事であったのう。流石一流と評されるだけはある。やっかみなども受けたことがあるのじゃろうな」
「ええ、勿論よ」
 深くため息をつくトワ。
 嫉妬の対象となったのは幾度となくあったようだ。
 だから親しい友人は作らないと、彼女は語る。
「最初からいなければ、失うものもないでしょう?」
 どこか諦めのついた、哀しげな笑顔。
 孤高を造って魅せるのも、頂上の象徴であるが故か。
「ふむ? しかし、トワ殿は最初から大女優であった訳ではあるまい。下積み時代の頃は同期とかと一緒であったのであろう?」
 エウトティアの言葉に、露骨に顔をしかめるトワ。
 どうやら過去はあまり知られたくないらしい。
「何を持って友人とするかは、解釈の違いね。話していたら喉が渇いたわ、飲み物を持ってきてくださらない?」
 その口調に会話打ち切りへの圧を感じ、エウトティアは素直に控え室から退室する。
 その足下へ一匹の狼がやってくる。
 屈み、何事かを申す言葉を聞き入るエウトティア。
 狼たちにはただ警戒させていたわけではない。
 周囲の立ち話噂話に気をつけるよう、頼んでいたのだった。
 未来・トワ。
 人気スタアである彼女には、当然ファンがついている。
 そしてそれは無名の頃から応援を続けている熱狂者が当然いるということも。
 それらの者から聞こえてくる、過去の軋轢。
 どうやらトワには、その昔切磋琢磨していた同期がいたようだ。
 その中の一人と親しく、時には帝都を一緒に歩く姿も目撃されたらしい。
 しかしその者の名は今は無く、舞台に立つのはトワの姿だけ。
 大女優の過去、親友であった人物。
 その彼女の名は、咲といった。
 彼女が今はどうしているか、それはわからない。
「ふむ」
 狼の頭を撫でながら、労を労るエウトティア。
 この一件、まだまだ闇は深そうだ。
 しかし、足がかりは見えてきたのかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔴​

花澤・まゆ
トワさん、うん、あたしも知ってるほどのスタア!
色々お話が聞けると嬉しいです、と丁寧にお辞儀を
まずは印象良くしないと駄目だもんね

色々用事をこなしながら、舞台裏でトワさんの機嫌をとってみよう
まずは美味しい珈琲をお淹れしてっと
気に入らない俳優さんとかいらっしゃるのですか?とか
あたしくらい使えない使用人さんはいらっしゃいますか?とか

トワさんが舞台に上がってるときは
ご一緒している俳優さんにそれとなく色々聞きます
最近、トワさんが迷惑をかけている俳優さんとかっていますか?とか
トワさんが嫌いな俳優さんっていますか?とか

できるだけ穏便に済ませたいんだけどどうかな?
トワさん、肩、お揉みしますね!

アドリブ歓迎です



「トワさん? うん、あたしも知ってるほどのスタア!」
 花も恥じらう乙女學徒兵、花澤・まゆは見事潜入に成功した。
 サクラミラージュの有名人である未来・トワ、その護衛の任務につけるとは自分はついている。
 そしてそんな大物を狙う人物とは何者であろうか。
 それもまた興味をひかれるが、まずは彼女の信頼を勝ち取るのが先決だ。
「色々お話が聞けると嬉しいです、よろしくお願いします」
 はきはきと、丁寧にお辞儀をしてかいがいしく世話をする花澤の姿は、まるで昔からの奉公人のようであった。
 トワも別段邪険に扱う様子も無く、花澤のやりたいようにやらせていた。
 いまをときめく大女優、その姿は近寄りがたいものにみえる。
 だが花澤が煎れた珈琲を気だるそうにいただくその姿は、高慢などとは無縁のようすであった。
「あたしくらい使えない使用人さんはいらっしゃいますか?」
「そういう輩は首にするわ。貴女はよくやっているほうよ」
 質問に対して苦笑しながらトワは答える。
 つき従ってわかるのだが、彼女は優しい。
 勿論ミスなどは注意されるのだが、業界の人に対する態度とは雲泥の差だ。
 彼女は同じ役者連中には厳しい。
 演技のミスや台詞の間違い、それらには容赦はせず、棘を刺す。
 こういう態度を振りまけば、恨む輩は出てくるのかもしれない。
 さりげなく、彼らにも聞いてみよう。
 そう思った花澤は、休憩中に近づくのであった。
「トワさんが嫌いな俳優さんっていますか?」
 その言葉に、苦笑する面々。
 彼女は演技に対して人一倍厳しい。
 そしてそれは舞台の上でも同じ。
 演技に打ち込めない者に対しては、酷い叱責を飛ばすのだ。
 しかしそれは、嫌うとは別の感情であろう。
「だから嫌いな奴ってのはいないんじゃないかなぁ」
 台本を見ながら答える役者達。
 誰彼に聞いても同じ言葉だ。
 悔しいが、トワの演技力は一歩抜きん出ている。
 それを超えない限りは、何を言っても嫉妬になろう。
「なるほど、じゃあ……トワさんが迷惑をかけている俳優さんとかっていますか?」
 首を傾げる役者達。
 迷惑をかけているという点なら、それは他の面々になるであろう。
 なにしろ台詞を覚えるのにも彼女のようにはいかないのだから。
「雲の上のかただからねえ……迷惑をかける、というよりは命令して当然の立場だからな」
「だからアンタも気をつけなよ。付き人も色々たいへんだろうよ」
 あちこち聞き込んでまわるが、少なくともトワが誰かになにかした、というのは聞けなかった。
 舞台上に関して彼女が厳しいのは業界の常識であるからだ。
 あとは彼女から直接聞いてみよう。
 そう思い、花澤は控え室へと足をむけるのであった。

「お疲れ様でした。トワさん、肩、お揉みしますね!」
 控え室で休む彼女の肩に、花澤は誠意をこめて奉仕する。
 トワはそのままさせたいようにくつろいでいた。
 やはり舞台者とそれ以外では態度が違うようだ。
 肩もみにも注文をつける様子も無い。
 ときおり気だるげに、珈琲や甘味を持ってくるように言いつけるだけだ。
 大分打ち解けてきたのか、トワが微笑むようになってくる。
 花澤の笑顔につられるように、彼女は笑うのだ。
「貴女も大変ね。こんな仕事、嫌と思ったことはないの?」
「いえ、これが仕事ですから!」
 屈託なく笑う顔。
 トワは羨ましそうにそれを見つめるのだ。
「若いって素敵ね」
「トワさんも素敵ですよ?」
「素敵……か。そう見えるのね。私は仮面を被っているだけよ。大女優という仮面をね。昔は私にも、貴女のように笑う友人がいたわ」
 過去を懐かしむ、トワの顔。
 その横顔を見ながら花澤は考える。
 彼女の過去、これが事件の遠因であろうと。
 そう確信するのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

四王天・燦
狐も盗賊も女優も。
騙してナンボの世界だね

襲いくるチンピラを撃退して信用できる人をアピールしよう。
前金〇〇圓で雇ったチンピラだけどね。
しっかり演技しなきゃ後金はないぜ?

はいはいスタア様。
パシリですね。
はい、焼蕎麦麺麭…毒使いで睡眠薬入りだけどね。
トワさんお疲れ、睡眠足りてないんじゃね?

ソファに寝かせて耳元で囁くぜ。
怨み買ってませんか、蹴落とし踏み台にしてませんか、借りたゲエムソフト返しましたか…などなど催眠術で暗示だ。
そんでダメージカットした読符で心を、夢を覗き見しよう

起きたら覗いた夢からキーワードを呟いて揺さ振る。
スタアの寝言は気になって仕方ない…猟兵として聞き逃せない言葉もあったら尚の事、ね



 四王天・燦は護衛をするにあたって搦め手を使った。
 あえて人を雇い、彼女を襲わせたのだ。
 もちろん相手は大女優、本当に襲わせる訳はない。
 あくまで振り、なのだ。
 しかし相手は女優。生半可な演技だとバレるかもしれない。
 だから燦は雇われ者に念を押す。
「いいか、本気でやりなよ。でも傷つけるんじゃないぜ!」
「無茶いうなよ、姐さん……」
 依頼人は全く難題を申しつける。
 ともあれ金を頂いたからにはやらねばならぬ。
 労働者の辛いところだ。
 帝都を移動する彼女を尾行し、人気の無いところで計画を実行に移す。
「へっへっへ、別嬪さんよぉ……」
「男女平等キーーーック!」
 演技がバレるならその前に防いでしまえと、燦が蹴撃をかまして偽悪党を蹴散らす。
 哀れ男共は星となる。
 ちょっと力が入ってしまったが仕方が無い。
 あとで報酬をはずむとしよう。
「何かよくわからないけど、助けてくれたのかしら? では礼を言わなければね」
 礼を述べるトワ。
 落ち着いた大人の女性。第一印象はそう感じた。
 しかし内面を調べるのはこれからだ。
「アタシの名前は四王天・燦。大女優の護衛を任されたのさ」
 自らも名乗り彼女へと近づく。
 任務は、これからなのだ。

 スタアの周りで燦は疾風のように動く。
「焼蕎麦麺麭、お待たせしました!」
 注文の品をトワへと渡し、自分はそばへと控える。
 護衛のためもあるが、それ以外の理由もあるからだ。
 彼女が箸を動かす様を横目で眺め、一挙一動を注視する。
 カラン。
 やがて、トワが箸を落とした。
 さすがに丼に顔を落とさせるのは忍びないので、そのまま介抱して横に寝かす。
 手を顔の前で動かして、完全に寝入ったことを確認した。
「トワさんお疲れ、睡眠足りてないんじゃね?」
 ニッと笑う燦の懐から、薬瓶が顔を覗かせる。
 トワの食べ物に睡眠薬を盛り込んだのだ。
 このまま家捜ししても良いのだが、直接彼女に聞いた方が早い。
「一般人にユーベルコヲドを使うのは忍びないが、アンタの命がかかってるんだ。悪く思わないでくれよ」
 符を彼女の額へと、そして自分も同じように額へと貼り付ける。
 思念を揺さぶり、同調させ、心を読み取るのだ。
 とはいっても記憶は膨大だ。
 そこから読み取るには、波を立てる必要がある。
「怨み買ってませんか、蹴落とし踏み台にしてませんか、借りたゲエムソフト返しましたか……」
 子守唄のように囁きかけ、反応を確かめる。
 それは聴診器を当てて患者の病をみる医者のように。
 そして、燦の頭の中で、走馬灯が動き出すのであった。

 舞台に立つ未来・トワ。
 その姿は若い。
 演技は荒削りだが、その姿には確かに片鱗を窺わせるものがあった。
 その横に立つ女性の姿も。
 女性はトワと同じように舞台を動き回り、彼女と共に笑い哀しみ、歩んでいた。
 咲。
 どうやら他の猟兵たちが言っていた女性はこの人なのであろう。
 やがてスポットライトがトワへと当たる。
 咲はそれに弾かれるように照明の外へと。
 暗がりへとトワは手を伸ばす。
 しかし咲はその手を振り払い、闇へと消えていく。
 ライトの輝きは増し、トワを浮かび上がらせるように照らしていく。
 拍手は増し、トワは壇上の頂点で輝いていた。
 しかし、その顔はずっと晴れないでいたのであった。

 トワが目を覚ます。
「どうやら居眠りしていたようね」
 辺りを見回し、自分が寝入ったことに気づく。
 気遣いの声をかける燦。
「どうやらお疲れのようだったみたいだぜ。ところでうなされていたみたいだけど、咲ってのは誰だい?」
 カマをかけるその言葉に、トワはため息をついた。
「古い友人よ、今はもういないけどね」
「へえ、その人は今どこに?」
 トワは微笑む。
「私にもわからないわ。もう連絡もつかないのよ」
 嘘を言っているようには見えない。
 が、本当かどうかもわからない。
(その咲って人を調べてみてみるか……)
 トワの友人である咲の行方。
 それが影朧に繋がるのは、間違いないであろう。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『帝都の闇を往く』

POW   :    犯罪者から情報を引き出す

SPD   :    貧民窟で情報を集める

WIZ   :    娼婦から情報を聞き出す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 大女優、未来・トワの親友であった咲。
 彼女は同じ演劇の道を目指していたそうだ。
 だが名が売れる前に、業界から姿を消してしまった。
 そしてその行方、今は様として知れない。
 帝都貧民街。
 あぶれ者、はぐれ者、社会から外れてしまった者。
 この吹きだまりの場所でなら、音沙汰を知っている者がいるかもしれない。
 通りを歩く猟兵達に、値踏みするかのような視線があちこちから感じる。
 路地裏、二階の割れた窓ガラス、隙間戸。
 電柱と塵袋の間からは、野良猫たちが見つめている。
 ここでは我々が異分子だ。
 しかし陽光を避ける影の中にこそ、知りたい輝きが埋もれているのかもしれない。
 元親友の女性、咲。
 その情報を辿るために、猟兵達は行動を開始した。
四王天・燦
SPD

元親友か。
親友がいる身としちゃあ絆が切れる話は嫌だな

覗き見した咲の像を早業で人相書きにし他猟兵と共有

帯刀したまま物怖じせずにスラムを往く。
値踏みする視線の主に歩み寄るぜ。
人探しをしている、見つかればさっさと出て行くと素直に言って人相書きの咲について問おう。
葡萄酒でも手土産に持っておくさ

直接知らなくとも、住民情報に詳しい人や噂話好きのおばちゃん等を教えてもらう。
所で気になるんだが…野良猫多いね。前から?誰か餌をあげているの?

足で情報を稼ぐよ。
取引の基本として金を要求してくる輩には小銭を握らせて情報を得てから札を渡す。
微かな殺気でガセ情報や咲への密告は牽制しておくよ。謝礼は口止め料込みだしね



 陰鬱な気分で覆われる貧民街の中を、四王天・燦はうろつく。
 心を暴いた時に見た情景。
 その中の人物、咲の人相書きを他の猟兵たちに配っておいた。
 勿論それから年月は経っているだろうが、探すときの役には立つであろう。
「元親友か。親友がいる身としちゃあ絆が切れる話は嫌だな」
 夢でトワは彼女に手を伸ばしていた。
 それは思うに、何か離れる原因があったのだろう。
 それがどちらかだったのかにせよ、不本意なものだったのは確かだ。
 ならば何故トワが襲われなければならないのか。
 それを掴むために、燦は徘徊していたのであった。
 こうやって歩くたびに、自分に向けられる視線を感じる。
 だがそれが逆に良い。
 わざわざ探さずとも、向こうから気配を教えてくれるからだ。
 視線の主へと堂々とすすみ、開口一番に人相書きを突きつける。
「人探しをしている、見つかればさっさと出て行く」
 刺すような視線に、突き刺すような言葉で返す。
 ポケットに手を入れる相手に対し、燦もすかさず懐に手を入れた。
 黒光り紅く染まるその品を見て、男が少したじろぐのがわかった。
「葡萄酒は嫌いかい? ならあとで辛口もってくるよ。ドラゴンブレスって銘柄、知ってるかい?」
「いいや、横文字には教養がなくてね。葡萄酒でいいや」
 ひったくるようにそれらを奪い、人相書きをまじまじと睨む。
 やがて飽きるようにへと返し、首を振る。
「知らんね、こういう別嬪さんなら目に焼きついているはずだ」
 困ったなじゃあ他に知っていそうな人物はと問うと、男は更に路地の奥を指さした。
 独りでいっても警戒されるだろうと、男が先導してくれる。
 身なりは汚いが、根は良い輩なのかもしれない。
 案内されるがままについていくと、一人の老婆と出会う。
 やはり彼女も警戒している様子であったが、男の言葉で若干その態度を和らげたようであった。
「この人を探してどうしようって気だい」
「官憲とか、そんな回し者じゃないさ。ただ、あのトワの友人と聞いてね。お近づきになりたくてね」
「そんなこたぁ知ってるよ」
 その言葉は何にかかっているのか。
 友人か、居場所なのか。
「悪いけど人の命がかかっている。出来れば咲本人には報せないで欲しい」
 水気を含んで黴びた木机の上に、財貨袋を投げつけ、殺気を込めた手で二人を見据える。
 幾分の小銭を掴んで懐に入れると、老婆はうんざりした声で言った。
「そんなことしないし、出来やしないよ」
 男と一緒に目配せをしながら、老婆は席を立つ。
 そのまま戸口へと出て行き、燦を振り返る。
 ついてこい、ということなのであろう。
 そのまま後にしたがって行くと、老婆は独り言のように呟いた。
「それにしても、なんで今頃かねえ。あんた、役者には見えないが知り合いかい」
「まあそこら辺は聞いてくれないと助かるかな」
 あまり踏み込んだ内容を話して、逆に警戒されるのもまずい。
 視線を逸らして横町をよく見れば、そこかしこに猫がいる。
「……野良猫多いね。前から? 誰か餌をあげているの?」
 話題を変えるために言った燦の言葉に、老婆は答えた。
「食い扶持にも困るような暮らしだけどね、餌をあげる物好きはいるらしい。アンタの探してる咲ちゃんもそんな、気立てのいい子だったよ」
 うんざりした声。
 どうやら老婆も何かしらの縁はあるようだった。
 道すがら、それも聞けるかもしれない。
 貧民街を進む二人の背を、野良猫たちがひっそりと見つめていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎

かつて切磋琢磨し合った友人と予知されたサキ、偶然とは思えぬのう。
まだ手がかりは乏しいが少し探ってみるか。

さて、情報を探しにきたのはよいがあまりガラのよくない所に行き着いたようじゃな。
じゃが、情報というものはこのような場所にこそ落ちているものじゃ。
古書(西暦時代の漫画)で読んだから間違いないな!
まあ、わしのような歳の者に取り合ってくれるか分からぬがのう。
ここは【コミュ力】おばけのご先祖様にお越し頂いてご助力願うとするかの。
と言う事で、ご先祖様。元手は故郷でコンコンコンして入手した宝石があるでな、情報収集をよろしくお願いしますぞ。
わしはその辺の【野良猫と話して】おくかのう。


ジーク・エヴァン
この世界にもこういう影のある場所があるんだな
そして消息不明の親友か…
トワさんにとって掛け替えのない人だったんだろうな
…もしかしてあの便箋の?
…兎に角今は少しでも情報を集めよう

貧民窟で情報を探ろう
用心のため財布や貴重品は幾つかに分けて靴底や隠しポケットに隠しとこう

咲さんはあのトワさんと切磋琢磨した友人なんだ
何か芸をして生計を立ててる可能性が高い
そういうことが出来そうな酒場や広場を中心に聞き込みをしよう
酒はまだ飲めないから、食事を奢ったりチップを渡して(大金は出来るだけ使わない。悪目立ちするから)、トワさんの名前は絶対に出さないよう注意しながら情報を集めよう
情報屋とか居たら良いな

連携・アドリブ ○



 昏い昏い路地を猟兵は歩く。
「この世界にもこういう影のある場所があるんだな」
「探しにきたのはよいがあまりガラのよくない所に行き着いたようじゃな」
 ジーク・エヴァンとエウトティア・ナトゥアは手がかりを求めて貧民街へとやってきた。
 少年少女には場違いな場所と言えよう。
 だが自分たちは猟兵なのだ。
 惨劇を回避すべく動かなければなるまい。
「……兎に角今は少しでも情報を集めよう」
「そうじゃな、情報というものはこのような場所にこそ落ちているものじゃ。古書で読んだから間違いないな!」
 かんらからからと笑うエウトティアに、ジークは不安そうな顔を浮かべる。
 別段情報を入手できるかどうかを危惧している訳では無い。
 先ほどから、あちこちより訝しげな視線を感じている
 自分より年下の女性を、こんな所を独り歩きさせるのを、真面目な彼が見過ごせるはずがなかったのだ。
「その、大丈夫かい? やはり一緒に行く方が良いのかもしれない」
「なあに、こういう所は足で、手分けして探すのが基本じゃ。それにわしは独りでないしのう」
 パチンと指をならして、彼女が何者かを召喚した。
 それはエウトティアにと良く似た、大人の女性であったのだ。
「小娘程度には取り合ってくれぬかもしれぬが、大人であれば話は別であろう。ささ、ご先祖様よろしくお願いしますぞ」
 キラキラ光る宝石を袖の下へとしまい込むと、心得たとばかりにご先祖は頷く。
 では後ほどと、エウトティアもそれに従い路地裏へと消えて行った。
 独り残されたジークはぶるりと震えた。
 全くもって危なっかしい場所だ。
 あらかじめ金銭を分けて隠すようにして良かったと、本当に思う。
 ともあれ、命までは取られまい。
 もしそうなったとしても、逃げるまでだ。
 うろつきながらジークは考える。
 咲はトワと一緒に切磋琢磨した友人だった。
 ならば今はその芸を使って生計をたてているのかもしれない。
 まずは人が集まる場所を目指して、ジークもまた貧民街の奥へと入っていったのであった。

 場末の酒場のドアをからんと開けて、ジークは中へと入った。
 入って感じる、自分をなめ回すような視線の数々。
 それらを受け流してカウンターへと座り、とりあえず飲み物を注文する。
 こういう時、アルコールを頼めば決まるのであろうが、あいにく自分は未成年だ。
 運ばれてきたジュースを一口あおり、マスターへと尋ねる。
「あの、ここら辺で俳優というか、舞台慣れしている人を探しているんですけど知りませんか」
「知らんね」
 静かに否定するマスター。ちらりと一瞥される。
「第一、名前もわからんのに答えられる訳がない。一応ここは帝都、人が多すぎるんでな」
 会話を盗み聞く周りから、失笑が起こる。
 さて弱った。
 名前を出しては関係者であった場合、逆に遠ざけられる可能性がある。
 だからジークはあえて、懐の人相書きは出さずに尋ねた。
「弱ったな、ここら辺は不慣れなもので。誰か詳しい人を知ってはいませんか」
 カウンターから離した手の跡には、幾ばくかの銭が有る。
 それを飲み干されたグラスと一緒に片付けると、マスターは聞いてきた。
「詳しい奴と言ってもな。坊主、他に何か教えてくれや」
 幾分態度が和らぐ。
 金というのはやはり、どこに行っても大切なようだ。
 靴底に隠しておいて本当に良かった。
「なんでも、ね。相手は女性、歌や舞踊で生計を立てているかもしれません」
 ふうむ、とマスターは首を捻る。
「ここには流しのギター弾きすら来ねえよ。俺が言うのもなんだが、治安が悪すぎるからな」
 演劇にしても同様、ここには見せる舞台もないらしい。
「では、そういう人はどこへ?」
「さあねえ、春をひさぐ淫売なら紹介できるぜ。坊主、色を知ってるか」
 結構です、とチップを置いてジークは席を立つ。
 ここではあまり情報を掴めなかった。
 しかし、諦めるわけにはいかない。
 足で、手分けをして探すのが基本。
 そう彼女は言っていた。
「向こうはうまくやっているだろうか」
 酒場の扉を開け、別の場所へとジークは急ぐのだ。

 路地裏の一角でキマイラの女性が何事かを尋ねている。
 それに群がる男達は、自分の知っている事柄を、逆さにした砂袋のように吐き出していた。
 いずれも柄の悪そうな男たちではあったが、緩んだ顔ぶれは締まり無く、彼女の興味を引いて貰おうと、滑らかに口を動かしていた。
「ううむ、ご先祖様は見事であるのう。流石というほかあるまいて」
 自らは話の邪魔をしないようにと、離れて様子をみるエウトティアは、ご先祖の交渉術に舌を巻いていた。
 あれならここ一帯の情報は、先祖独りで集めてしまうに違いない。
 しかしそれだけに甘えるエウトティアではなかった。
 自分も手がかりを得ようと、路地裏の一画を歩き出す。
 子供風情にまともに取り合ってはくれぬと承知している。
 彼女が探しているのは、この場所に住んでいるものでもまた別種。
 先ほどからあちこちに見かけられる野良猫たちであった。
「のう、お主ら。かような人物を見かけなかったかのう」
 そういって人相書きを見せつける。
 猫は一鳴きしてエウトティアにそっぽをむいた。
 余所者が気軽に口を聞くな、そういった態度である。
「これは失礼、礼儀を知らぬ粗忽者であったな」
 横へと座り、非礼を詫びて動物用のお菓子を置くエウトティア。
 スンスンと鼻を嗅ぎ、カリカリと口に運んでようやく猫はエウトティアの顔を見てくれた。
 彼が話してくれるには、その人間は見たことがあるという。
「ほう、ならば教えてくれまいか」
 食い下がるエウトティア。
 彼は馳走を兄弟にも振る舞ってくれと顎をむく。
 そこには手の数にあまる猫の姿。
 ならば仕方があるまいなと、袋から獣用の食物を取り出してやる。
 群がる野良猫たち。
 少女と婦人。
 囲む野郎は違えども、彼らは自らの知っていることを話してくれるのであった。

 元女優、咲。
 いや、女優候補生と言うべきであろうか。
 同じ候補生であったトワとは同期。
 華やかな舞台の世界を目指して、二人は努力した。
 だがヲーデションが近づいたある日、不幸が起こる。
 事故によって怪我をした咲は審査に出場することが適わなくなってしまったのだ。
 そして、合格通知がトワの元へと届く。
 その時、二人の間で何が起こったのかはわからない。
 ただ、トワが華やかな世界に身を置いた横で、咲が姿を消したことは事実であった。

「消息不明の親友か……もしかして、あの便箋も彼女からの差し出しだったのかもな」
「さあ、それはわからぬのう」
 合流し、情報をすりあわせる二人。
 その時なにがあったのかは、現時点ではわからない。
 自分を差し置いて晴れ舞台を見送るのは、恨みを抱くのに理由はつく。
 しかし、他の猟兵たちの話も聞いてみる必要があるだろう。
 まだ、早い。
「では他の区画も行って尋ねるとしようかのう?」
「ああ、そうするか」
 ジークとエウトティアは事件の本質に迫るべく、貧民街をまた進むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音羽・浄雲
※アドリブ、連携歓迎です。

 装いを小袖へと変え、人気のない路地裏へ足を運ぶ。
 その胸中を巡るのは咲とトワ。
 予知では怨恨から襲われていた。しかし実際のトワの反応、咲という存在は彼女にとって眩い思い出に見える――そう、影の差すほどに。
「蛇の道は蛇、ですか。さてはて、得るものがあればいいのですが」
 迷い込んだ手弱女を演じて誘い込んだのは追剥や人攫いといったならず者達。その身が路地の闇に溶けたかと思えば、何条もの影の帯となってならず者たちを縛り上げんと延びていく。
「洗い浚い話してくださいね。“尋問”は好みではありませんので」
 犯罪者とはいえ一般人。傷つける気はないが、脅す様に冷たく言い放つのだった。



 独りの女性が路地の通りを歩いていた。
 洒落た衣服に袖を通し、しゃなりと歩くその姿は、帝都の表通りならば粋な光景に映ったであろう。
 だがここは薄暗い貧民街の路地。
 その一目を惹く格好は、良くない者も呼び寄せてしまう。
 前に二人、後ろに一人。
 女性の進路をふさぐのは、ガラの悪い男達。
 その顔には、下卑た笑みとともにこれからの行動が予測できる。
「よう、ねえちゃん。一人歩きとは感心しねえな」
「そうそう、危ねえから俺たちが守ってやるよ」
 口とは裏腹に、女性を襲う気を隠そうともしない。
 女性、音羽・浄雲は表情を変えずに彼らを見据えた。
「結構です。己の身は、自分で守れます故に」
 弾かれたように飛び、頭上を追い越して路地裏へと消える。
 慌てて追いかける男達。
 影が三つの影に追われ、絡み合った時、それは分かち離れた。
「ぐ、ぎぎぎぎ」
「ががが……」
 苦悶の声をあげるのは男達。
 四方から伸びる影の糸が彼らを縛り巻き付け、宙にへと吊り上げていた。
 そしてその糸を操るのは浄雲、両手を動かして糸を操り、彼らの捕縛を強めていく。
 加減はしている。
 だがその力はならず者に悲鳴を上げさせるに十分であった。
 つかと歩み寄り、彼らに咲についての情報を尋ねる。
「洗い浚い話してくださいね。“尋問”は好みではありませんので」
「わかった、話す話す! 話すから緩めてくれ!」
 浄雲に素直に従うチンピラ共。
 しかして、彼らが本当のことを全て話してくれる保証もない。
 洗いざらい、満足のいく答えが聞けるまで、しばし男達は無重力を愉しませてもらうのだった。

 人相書きに男達は覚えがあった。
 その女性は確かに、この貧民街に居を構えていた。
 すねに傷をもつ者が集まるこの街では、過去は問われない。
 しかし人が袖すり合う以上、どこかしこかいわれは伝わってくるものだ。
 咲がヲーデションに落ちた原因。
 それはトワを庇って負傷した事故による後遺症によるものだった。
 身体に刻み残る傷痕は、役者にとって致命的。
 そして何よりも、不具では演技を表すに乏しいのだ。
 障害を得ては糊口をしのぐ手立ては限られる。
 流れ流れ着き、咲はここまでやってきたという訳であった。

「なるほど。トワ殿は咲殿を止めなかったのでしょうか」
「そこまでは知らねえよ。ただ、独りで暮らしていたのは間違いないぜ」
「ではその者は今、どちらに?」
「すまねえ知らねえ、本当に知らねえんだ!」
 大体のことを掴み、浄雲はようやく解放した。
 地べたに這いつくばって咳き込む彼らには既に興味を失い、浄雲は貧民街に吹く風にあたりながら思案する。
 事故によって夢を絶たれ、もう一方は夢を叶えた。
 恨むには十分な動機ではあるが、まだまだ欠片は埋まらない。
 グリモアベースで見た光景が、頭をよぎる。
 トワは獣に襲われていた。
 そして恨みを確かに露わにしていた。
 では、あれは咲なのであろうか。
 違う。
 サキノウラミオモイシレ。
 あの化物は、そう言っていた。
 トワと咲の恨み、これは繋がる。
 では咲と化物の繋がりは何なのか。
 もう少し、調べる必要があるだろう。
「蛇の道は蛇、ですか。さてはて、得るものがあればいいのですが」
 着付け直し、浄雲は再び路地へと進み消えて行く。
 その姿を、男達は狐につままれたような顔で見送っていた。
 次に蜘蛛の糸に絡まるは、いったいどのような輩であろうか。
 影にとけ込んだ浄雲が、その正体を暴くであろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

花澤・まゆ
グリモア猟兵さんの見た予知…
化け物の声は猫のように聞こえたの
ここにも沢山の野良猫がいるんだね

野良猫を相手にしているような人に声をかけてみようかな
あまり得意じゃないんだけど、ちょっとお金を握らせて
咲さんという人を知らないかと
知っていればどういう人なのか、今はどうしているのか

あまり沢山の人に声をかければ
それだけあたしが悪目立ちしてしまう
声をかけるとしても二、三人
いやな視線がまとわりついてきたらなるべく早くここを去ります

絡み、アドリブ歓迎です



 自分が立てる足音から逃げるように、影や排水溝へと逃げる野良猫たち。
 人に捨てられたから自分を避けるのだろうか、そう花澤・まゆは感じていた。
 グリモアベースで見たあの化け物。
 あの声は猫の鳴き声に似ていた。
 トワと咲とは、何らかの関係がある。
 そして、咲と猫には何らかの関係があるのではないか。
 そう思った花澤は、猫方面から事件を追いかけることにしたのだった。
 とはいえ相手は野生児。地の利をさらに知られているのであれば勝ち目はない。
 後ろ尾を見るのはこれで何度目であろうか。
 ふう、と花澤はため息をついた。
 疲れが少々溜まってはいるが、これで諦めてはいけない。
 トワの付き人をして思ったのだが、彼女は意外と良い人物だった。
 あんな人が恨まれる道理があるのだろうか。
 何か逆恨み、見当違いに違いない。
 数日ばかりの付き合いで、彼女を救いたい思いが色を濃くしていった。
 花澤は、心優しき乙女なのである。

 思案を悲鳴が切り裂いた。
 それは猫の鳴き声。
 急ぎ駆けつける花澤が見た者は、野良猫をいたぶるならず者であった。
 ここは貧民街。
 帝都の輝きからあぶれた者が住まう場所。
 しかしなんということであろうか。そんな輩が更に弱い者を叩く。
 そのようなことは學徒兵である花澤には見過ごせなかった。
 第一、猫を虐める奴は許してはおけぬ。
 刀を抜かず、まずは言葉で相手を静止した。
「止めなさい!」
 きつい口調に、ならず者たち二人が振り返る。
 だがそれが可憐な娘であることがわかると、露骨に態度を変える。
「ああん? 誰だテメエ」
「へっへっへっ、こりゃあお仕置きが必要だな」
 猫から矛先を変え、こちらへとやってくる。
 掴もうとしてくる勢いを逆に利用し、花澤は逆に相手を倒した。
 虚をつかれ狼狽えるもう一人に踏み込み、同じように投げ飛ばす。
 叩きつけられ目が覚めたならず者は、起き上がると同時に逃げ去った。
「お、おい待ってくれよ!」
 あとを追いかけるように、もう一人も逃げ出す。
 残った花澤は猫へと歩み寄り、手を伸ばした。
 フーーーッ!
 威嚇の声をあげる猫。
 無理も無い。あんなことをされたあとだ。
 去って行く後ろ姿を見ながら、花澤はため息をついた。
「物好きな者もいるんだねぇ」
 女性の声。振り返れば、近所に住んでいる人であろう。
 一人の婦人が花澤を見つめていた。
「自分で手一杯な連中が大勢なのに、猫を助けるなんてね」
「性分ですので。猫を虐めるような人が許せなかっただけです」
 そう、真っ直ぐ答える顔を見ながら、婦人はフッと笑った。
「若いねえ、眩しいよ。私も何年か若かったらアンタみたいに怒鳴りつけていたのかもね」
 路地へと歩きながら、婦人はチッチと口をならしながら食器を置いた。
 すると先ほどとは別の猫が、餌を求めてやってくる。
 婦人は食餌を邪魔しないように、その躯を撫でていた。
「あの、いきなりなんですけど、咲さんという人物を知っていますか?」
 その仕草を邪魔しないように、花澤が声をかける。
「そいつを知ってどうするんだい?」
 問いかける婦人。しかしすぐに声を続ける。
「ま、アタシには関係ないし、どうでもいいさね」
 猫を抱きかかえ、こちらを振り向く。
 おおヨシヨシと頭を撫でながら、花澤に微笑んだ。
「知ってるんですか!?」
「ま、多少はね。アタシで良ければ教えてあげるよ。猫好きに悪い奴はいないしね」
 思わぬ情報源に喜ぶ花澤。
「あの、彼女はどういう人なんですか? 今はどうしているんですか?」
 しかし、すぐにその喜びは落胆に変わった。
「死んだよ。今は墓のなかさ」
「え……」
「ついてきな。道すがら彼女の身の上を語ってやろうじゃないか」
 そういって、つかつかと路地を歩く婦人。
 花澤は意を決し、あとを追いかけるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『拾われた野良猫』

POW   :    引っかきラッシュ
【両手の爪】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    仲間の猫を呼ぶ
戦闘力のない、レベル×1体の【猫仲間】を召喚する。応援や助言、技能「【動物と話す】」を使った支援をしてくれる。
WIZ   :    怪奇・巨大猫
肉体の一部もしくは全部を【巨大な猫】に変異させ、巨大な猫の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ロスティスラーフ・ブーニンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


―――
 貴女の活躍を耳にするたび、自分のことのように嬉しく思います。
 直に見ることは面はゆく、こうして後光を感じるばかりです。
 此度、賞を取られたとか。
 おめでとう、いやそれは当然かもしれませんね。
 貴女が努力していたことは、なによりこの私が知っています。
 夢見た世界に飛び込んだ貴女は、前を見続けるべきです。
 未来の階段は、努力することで更に輝きを増していくでしょう。
 貴女が栄光に照らされるのを、影ながら応援しています。
 私のことは気にしないで、夢を実現させてください。
                 ―――化粧台の奥底にあった便箋

 トワと咲は同じ劇団に所属する歌劇生であった。
 二人は切磋琢磨し、文字通り同じ釜の飯を食う仲であった。
 しかし、余所見運転をしていた車の暴走から庇い、咲は片脚を失う大怪我を負ったのである。

―――
 身体が重い。体調が優れない。
 昨日は一日横になっていた。
 金があれば医者にでも罹るのであろうが、工面できるつてはない。
 きっと彼女に会えば、喜んで工面してくれるだろう。
 でもそれはきっとスキャンダルだ。
 彼女が周りに辛くあたるのは、親友を二度と失いたくないという気持ちの表れ。
 彼女は優しいから、わざと冷血な仮面を被っているのだ。
 雑誌のインタビューに答えていた好きな花。
 彼女の好きだったものに私のものが加えられていた。
 きっと彼女は今も後悔しているのだろう。
 私は彼女の邪魔をしてはいけない。
 親友の夢を邪魔したくはない。
 彼女の人生の足枷にはなりたくない。
 トワには、夢に向かって力強く歩ける足があるのだ。
                 ―――貧民街の一室にあった日記

 吾輩は猫である。名前はまだ無い。
 どこで生まれたのかもわからぬが薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。
 ニンゲンという物は吾輩達を追い詰めてボウルのように蹴飛ばす存在だと思っていた。
 しかしサキは違った。
 兄弟達に餌をくれ、安眠出来る場所を用意してくれた。
 もしサキが拾い上げてくれなかったなら吾輩はどこそこの何某崩れに良いように使われ嬲り殺しの憂き目にあったであろう。
 かくして吾輩はサキを自分の住家と極める事にしたのである。
 イヌは三日飯を食えば恩を忘れぬと云う。
 ましてや猫がそれ以上の義を成すことは当然の有様。
 なれば吾輩がサキに大恩を返すにはどうすればよいか。
 頭を撫でさせてはやるがこれでは足りぬ。
 心地よい思案に包まれながら吾輩は眠りについたのである。

―――
 咳をすれば身体の節々が痛く、それに勝る暗い感情が全身を覆う。
 彼女を助けなければ良かったと、誤った気持ちが浮かぶ。
 違う。
 彼女を助け出そうとしたのは自分。
 トワは悪くない。悪くない。悪くない。
 哀しい。
 彼女を真っ直ぐにみつめることが出来ない醜い自分が嫌だ。
 男共に身体を預け、わずかばかりの金を握らされるのに涙が出る。
 黴の生えたパンを囓る度に、口中に鉄錆臭い味が広がる。
 今、彼女は何をしているんだろうと、負の感情がふつふつと蘇る。
 華やかなパレヱド。きっと彼女は今も歩み続けているのだろう。
 もう私はそれを歩むことは出来ない。身も心も腐ってしまった。
 訳もなく叫びたくなる時がある。
 今の私は生きてはいない。
 憎しみをただただ振りまく、醜い存在だ。
 心底親友を憎む前に、愚かな人生に幕を引こうと思う。
 誰も、悪くない。
                 ―――血で染まった日記の一頁

 時折サキは叫ぶ。
 そのとき吾輩の心は非常に哀しみに包まれ氷山に閉じ込められたかのような寒々とした気持ちに陥る。
 トワ。トワ。トワ。
 トワとは一体何者か。
 サキの心をこれまでに豹変させる者は誰か。
 何とかサキの心を砕いてやりたい。
 いつも通りの柔らかい顔で頭を撫でて欲しい。
 だから吾輩は兄弟達と力を合わせることにした。
 トワの行状を調べることにしたのである。
 輩は帝都で有名であった由に住処はすぐに判別した。
 何ならすぐにでもサキを送迎致そうかと思考もした。
 しかしそれは空事と成り果ててしまった。
 嗚呼。嗚呼。何ということであるか。
 サキは自ら命を絶つ愚行を為されたのである。
 吾輩も兄弟もニンゲンを戻す術など知らぬ存ぜぬ。
 ただその周りで醜態を晒すばかりである。
 末期の声を吾輩は確かに聞いた。
 トワ。トワ。トワ。
 サキの心を掻き乱し、殺める者。
 際に置いてもサキはその者の名を呟いていた。
 吾輩達は悲憤した。
 血溜りを嘗めて共に誓った。
 恨みを譲り受けようと。
 必ずやこの仇を雪いでやろうと。
 トワなる者にこの報いを受けさせてやろうと。
 吾輩はここに復讐を宣言したのである。

 貧民街の一画にある墓地区。
 そこに咲の墓はあった。
 誰が埋めたか建てられたかも分からぬが、そこにトワの友人咲の墓があった。
 ひっそりと身を隠すように設けられた墓所。
 そこに佇む猟兵たちに、猫たちの視線が突き刺さる。
 いつの間にか猟兵は、猫に囲まれていた。
 そしてそこから、大柄の猫が前へと姿を現し、すっくと二本の足で立つ。
 身の丈は八尺はあろうかという妖猫。
 怨念を受け、影朧と化した猫である。
 見当違い、逆恨みといえばそれまでであろう。
 だが化猫は主の怒りを晴らそうと、激情をおさえられずにいた。
「ナァァァァァゴォォォ……」
 猟兵たちからトワの残り香の気配を感じ、化猫が殺気立つ。
 毛が逆立ち、今にも飛びかかろうとしている。
「ニオウ、ニオウゾ。サキノウラミ……オモイシレ!」
 ナァァァァァゴ!

 影朧『拾われた野良猫』が、恨みを果たすべく襲いかかってきた。

※説得は出来ません。キャラRPとしての説得は構いません。
※影朧は文字は読めません。人語も難しいものはわかりません
※申し訳ありませんが、プレイングはプレイングは6月12日(金)8:31~より送信してくださるようお願いします。
花澤・まゆ
…あたしには猫の言葉は話せない
それに、猫もきっとあたしの言葉はわからない

それでもどうしても伝えたい言葉があるんだ
咲さんは、トワさんが好きだったんだよ
好きだったから泣いて、好きだったから何度も呼んだんだ

きっとあなたたちの頭を撫でながら
咲さんは沢山の話をしたんだろう
でも、それは恨みじゃないんだよ

あたしがあなたを斬るのも、恨みなんかじゃないように
大好きだから……救われてほしいから斬るんだ

恨み続けるのも辛いよね
あたしたちが、終わらせてあげるから

トワさんにはできれば咲さんのことをご連絡したい
トワさんのせいじゃないと一言添えて

アドリブ、絡み歓迎です


エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎

やれやれ、やるせない事じゃな。
最期まで頼らなかったのは友情とライバルとしての誇り故かのう? じゃが精一杯生きた結果じゃ、サキ殿の生き様を愚かとは言わぬよ。
(技能:動物と話す) さて、化け猫よ、最早言葉では止まるまい。じゃがその復讐はサキ殿も望まぬじゃろう、お主の為にもわしが止めてやるわい。

まずは【巨狼マニトゥ】を巨大化した猫と対峙させ敵の行動を抑え込んで貰おう。
わしは後方で待機、【野生の勘】を研ぎ澄まし、味方を巻き込まないタイミングを見計らって(技能:属性攻撃)【聖と光属性】を持つ昇華の風を放ち化け猫を焼き清めるのじゃ。
サキ殿が待っておる、お主も精霊の下へ還るがよい


音羽・浄雲
※アドリブ、連携歓迎です。

「復讐、ですか。わたくしにそれを否定することはできませんね」
 復讐に費した時間、想いを募らせた時間。それがどれ程の年月を積み重なったのかは問題ではない。
 ただ想い患った。大切なのはそれだけだ。
「否定はしません。ですが、赦すこともできません」
 復讐は虚しいと人は言う。他人から見ればそうなのだろうか? 当事者の気持ちなど知りもしないのに。
「貴方の復讐は果たさせるわけにはいきません。ですが、貴方が安らかに逝ける様に、存分に舞いましょう」
 これよりは言葉は無用。
 九尾の力を纏い、代償に血反吐を吐き散らしながら狐は躍る。
 願わくば眼前の化け猫の、彼の想う人の想いが晴れるように。


四王天・燦
誰も要領が悪いだけさ

咲の怨みは思い知れないよ。
ンなもの無いのだから

武器は四王稲荷符のみ。
猫パンチをオーラ防御な符術で武器受け。
狭所からの不意打ちは第六感で対応だぜ

破魔と慰めの符で猫に憑いた怨霊を祓うよ。
命を繋げたなら僥倖。
最低でも怨霊を切り離してやる

退魔には被憑依者の強い意志が不可欠。
真の姿で稲荷巫女のお説教開始だ

死に際に呼ぶ名は恨み言と限らない。
お前だって咲・咲・咲…必死じゃないか。
それは咲が好きだからだろ?

理不尽に踊らされるな馬鹿猫が。
渾身の破魔符を貼り付けるぜ

トワを墓前に連れてくる。
立場が拙けりゃ神隠しを偽装

女優続けろよ。
咲が遺した生きた証だぜ

馬鹿猫。
お前がいたから二人は再会できたのかな


ジーク・エヴァン
お前も、俺と同じで大切な人の悲しみを背負たんだな
…来い
お前が引き受けた恨みも、お前と咲さんの苦しみも全てぶつけてこい
俺が受け止めてやる

相手は人間以上のスピードだ
正攻法じゃ勝てない
だが奴自身はあくまでデカイ猫
なら隙はある筈
【巨竜退ける砦盾】発動!
巨大化した一撃だろうと、十枚の盾を重ねた巨大な盾の壁を6つ作り、迫りくる全ての攻撃から仲間達や周りの猫達を守る!

そうだ、俺を殺さなきゃお前は誰も殺せないし、俺が殺させない
お前のためにも、トワさんと咲さんのためにも

盾達の間を抜けてきたな
お陰で来る方向が限定されたぞ
攻撃を盾受け、カウンターを叩き込む!
喰らいつけ、グラム!(生命力吸収・二回攻撃)

アド・連携 ○



 化猫の凶爪。それが猟兵へと襲いかかってくる。
 そしてそれは阻まれた。
 四王天・燦の展開する府によって。
「思い知れか……咲の怨みは思い知れないよ。ンなもの無いのだから」
 いつものおちゃらけた雰囲気とは打って変わり、至極真面目な言で燦は吐き捨てる。
 その姿は魔を祓う退魔の巫女衣装へと、いつの間にか様変わりしていた。
 咲を慕う情念。それは歪み影朧へと変貌していた。
 だがそれは、咲自身が望んでいたことではないと知っている。
「誰も要領が悪いだけさ!」
 だからこそ剣を抜く気に燦はなれなかった。
 この迷う魂を解き放ってやりたい。
 その思いから燦は猟兵装束では無く自らのルーツ、四王稲荷神の巫女として影朧と相対する。
 攻めには回らずあえて受けに徹し、化猫の攻撃を凌いでいく。
 彼の怒りを静めるように。
 燦を援護しようと、ジーク・エヴァンが加勢に入った。
 重厚な鎧姿から繰り出される剛剣。
 その武を風をうける柳のように、化猫は素早い身のこなしで飛びすさり、躱す。
 ジークの視界から影朧が消える
 墓地の土饅頭を隠れ蓑に、卒塔婆を足がかりにして跳躍する。
 右。左。右。そして上へ。
「くっ!」
 燦が側面からジークを符ではじき飛ばした。
 遅れてその位置へ、釣瓶のように影朧が落下してくる。
 ナァァァァァゴ!
 獲物を退かされたことに、化猫が非難の声を上げた。
 ジークが体制を立て直し、ずれた兜を戻す。
 そこから見えるのは復讐の獣。
 仇を果たさんと吠える一匹の大妖猫であった。
「お前も、俺と同じで大切な人の悲しみを背負ったんだな」
 影朧と目があった。
 大切な者を奪われた、怒りと哀しみの眼。
 ジークは確かに、その眼に覚えがあったのだ。
 自分と同じ苦しみを持つ者に対し、ジークは剣を向ける。
 あの時、誓った。
 自分と同じような人をこれ以上増やしたくないと。
 彼が向ける眼は、トワへと向けられるべきでは無い。
「……来い」
 自ら的になるように前へと進み出て、ジークは構えた。
「お前が引き受けた恨みも、お前と咲さんの苦しみも全てぶつけてこい。俺が受け止めてやる!」
 ナァァァァァゴ!
 限界まで引き絞られた弦。それから放たれた矢の如く影朧が来る。
 狂気に満ちた眼。
 それを盾に嵌め込まれた真紅の石がねめ返した。
 盾越しからでも分かる化猫の膂力。
 つばぜり合うように、猟兵と影朧が肉薄する。
 そこへ巨獣が割って入り、二つの影は離れた。
 荒い息をつきジークが見やれば、そこにはエウトティア・ナトゥアが使役する狼マニトゥの姿。
 ガアアアアア!
 神狼の咆哮は、妖猫を後ろへと飛び跳ねさせるに十分な威を持っていた。
 ナァァァァァゴ!
 影朧も吠える。
 すると路地裏のあちこちから猫たちが顔を見せ、対峙する猟兵達を取り囲んだ。
 自分より遙かに大きい狼にも怯まず、猫たちは威嚇の大合唱をあげはじめる。
 化猫の力になるために。
 咲の敵を討たんがために。
「やれやれ、やるせない事じゃな」
 戦闘エリア外からエウトティアは嘆息した。
 自然と触れあってきた彼女だからこそ、化猫の気持ちが理解出来る。
 人と獣はわかり合える。
 事実、咲と化猫は親愛の情を結んでいた。
 だからこそ、彼はあんなにも必死になっているではないか。
 ただ、ただただ言葉が足りなかったのである。
 それは傍の花澤・まゆも同様であった。
 仲間達が戦っているあの場所へ、花澤は今一歩踏み込めずにいた。
 ここに来るまでに、多くの事を知ってしまったからだ。
 トワさんのこと。咲さんのこと。
 そして過去とそれにまつわる今までのこと。
 それを考えると胸が締め付けられる気がする。
 それが、あそこへ行くことを躊躇わせる。
「泣いているのか、花澤殿」
 エウトティアが優しく声をかけてくる。
 やるせない事と彼女は呟いた。
 その通りだ。
 あそこで戦っている仲間、そして影朧。
 誰彼も信念のために戦っている。
 誰も、悪くない。
 血染めの手紙を思い出し、視界が滲む。
「……でも、それは恨みじゃないんだよ」
 その言葉にエウトティアも頷く。
 咲が命を絶った理由。それは友を恨んでのことではない。
 自らが悪に染まりきる前に、気丈にも命を絶ったのだ。
 その高潔さ、誰が愚かと罵ろう。
 花澤が退魔刀を抜いた。
 それに呼応し、エウトティアも杖を持つ。
「花澤殿、此奴に伝えたい言葉はあるかのう」
 エウトティアの顔は敵を見据えて動かない。
 だがその言葉は花澤に静かに、そして優しく語りかける。
 目元を拭い、花澤は答える。
「……咲さんは、トワさんが好きだったんだよ。好きだったから泣いて、好きだったから何度も呼んだんだ」
「じゃろうな」
 クルクルと杖を振ってエウトティアが微笑む。
 杖の動きにあわせて風が巻き起こり、墓地に清涼たる息吹が流れてくる。
「その言葉、必ずや此奴に伝えよう。花澤殿は本分を全うせい」
「わかったよ!」
 風が桜の花と香りを残し、影朧へと走る。
 あとを見送るのはエウトティアと、いまだ動かない音羽・浄雲であった。
 多数の猟兵に阻まれながらも、己の意志を果たそうとする影朧。
 仲間がやられそうになっているという状況にありながら、浄雲は化猫に一種の共感を覚えていた。
「復讐、ですか。わたくしにそれを否定することはできませんね」
 アレは自分だ。自身の姿だ。
 迎え来る障害がどんなものであろうと、たとえ道のりが遠かろうと、確実に成し遂げてみせる。
 そんな強い覚悟を、あの化猫に感じていたのだった。
 彼が異形へと変貌を遂げた経過、亡き主を慟哭した経緯。
 仇という存在が確かに色づきはじめたのは、かのモノにとっていつの頃なのであろうか。
 復讐の焔。
 それは決して消えない、昏き情念。
 大小は関係ない。他人に恨みが測れようか。
 その存在を抹消するまで、恨みは残り続けるのだ。
 復讐は虚しいと人は言う。他人から見ればそうなのだろうか?
 当事者の気持ちなど知りもしないのに。
 仇討ちをしても故人は還ってはこない。
 それは当然だ。
 しかし、焔を消すには仇をこの世から失わせる必要があるのだ。
 哀しいかな。
 彼の仇はトワでない。果たすべき者はこの世にはいない。
 かの者の焔は、鎮まりきらずに無関係の者を襲いはじめるだろう。
 言に今猟兵達が襲われているではないか。
「否定はしません。ですが、赦すこともできません」
 口をつぐみ印を結ぶ浄雲。
 その姿が、おなじく異形の者へと変貌していく。
 九つの尾を持つ妖狐。
 そは語る術を持たぬ。ただ敵を屠るのみ。
 変化をとげた浄雲の躯から、血が滴り落ちる。
 押し隠した自らの心が、絞り垂れるように。
 一声嘶いて、また猟兵が戦場へと加わったのだった。

 一匹の影朧と多数の猟兵。
 数でみればこちらの優勢に思える。
 だが現実はそうではない。
 水田に鳴く蛙の合唱のように、周りから野良猫たちの鳴き声が響き渡る。
 戦闘力など無い。
 だが彼らは、同胞を護るために猟兵達へと飛びかかる。
 数々のオブリビオンを討ってきた者達にとって、余りに無力な波状攻撃。
 それが猟兵達に武を振るうことを躊躇わせた。
「オモイシレ!」
 その密集陣から化猫が、鋭い爪を持って襲いかかる。
 あたる反動を利用して飛びさがり、また彼方へと身を隠す。
 多数から攻めかかる猟兵達を、化猫はうまく猫たちを利用して阻み、互角の戦いへと引きずり込んでいた。
「厄介だね」
 燦が足下にすがりつく猫を優しく符のオーラで包み込み、放りやる。
 一体一の戦いならばまだやりようはあるが、地と猫たちを利用されては手を出し辛い
 それは他の者も同様だ。
 ジークと花澤の剣も切っ先が鈍い。
 攻めあぐねる猟兵達の視界を、炎がよぎった。
 浄雲の狐火。
 尾と両腕から火の粉が降り注ぎ、辺りに広がった。
 それは空へと舞い、空気を染めるだけに過ぎない火勢。
 だが獣の本能を思い起こさせるには十分な、朱い炎だった。
 化猫の動きが一旦止まる。
 そして猫たちは、大きく飛びずさった。
「なるほどな」
 それを見たジークが、周囲に大盾を発生させた。
 次々と重なり合わせ、巨大な盾の甲羅となりて地に被さる。
 甲羅盾は猫たちを隠す傘となった。
「もう一度ぶっ放してくれ!」
 こうすれば猫たちに被害が及ぶことも無い。
 急ごしらえの足場を蹴って、ジークは化猫へと斬りかかる。
 心得たとばかりに、浄雲が印を結んだ。
 九つの尾から放たれる狐火は、今度は手加減無しの威力で化猫を追尾する。
 地を蹴り、壁を蹴って逃げる影朧。
 怪焔と妖猫のショウに、花澤が加わった。
 刀身に渦巻く桜花。
 それが大気の熱気に誘われ燃え上がり、赤い花びらを舞い散らせる。
 袈裟斬りに炎撃を放った衝撃波は、間違いなく化猫を切り裂いた。
 傷口の赤とは別に、毛並みが紅く燃え上がる。
「ナアアアアア!」
 お返しとばかりに、空で躯を反転させ、花澤へと爪を立てようとする。
 だがそれは壁によって阻まれた。
「させるか!」
 大盾甲羅。
 それが花澤を覆い被さるように出現し、彼女を護る。
 ジークは更に虚空へと盾を展開し、防御膜を張る。
 それは壁となり足場となりて、化猫の退路を阻害した。
 阻まれていない方向へと逃げる影朧。
 その退路へと、ジークが立ち塞がった。
 わざと一方を開け、動きを誘導したのだ。
「ナァァァァァゴォォォ!」
 化猫は逃げない。
 ジークを討って退路を確保しようと爪を立てる。
「そうだ、俺を殺さなきゃお前は誰も殺せないし、俺が殺させない。お前のためにも、トワさんと咲さんのためにも……かかって来い!」
 受けようとしたジークの盾が吹き飛んだ。
 装甲を貫き、彼の身体に深々と化物の腕が刺さる。
 だが、これも狙い通り。
「おおおおおっ! 喰らいつけ、グラム!」
 いかな俊足の影朧でも、こうなれば避けることは出来まい。
 魔剣が今度は、化猫の身体を深々と刺し貫いた。
「ギニャアアアアアアッ!」
 悲鳴を上げ、ジークの身体から爪が抜ける。
 そこには傷一つ見えないジークの皮膚があった。
 魔剣グラム。
 その魔力によって相手の血を啜り、傷を回復させたのだ。
 手負いの影朧に、追い打ちの剣撃が更に襲いかかった。
 地へと叩きつけられた化猫。
 その周りを炎熱の壁が取り囲んだ。
 こうなっては猫たちも飛び込むことは出来ない。
 荒く息を吐く影朧の耳に、ささやきが届く。
「さて、化け猫よ、最早言葉では止まるまい。じゃがその復讐はサキ殿も望まぬじゃろう、お主の為にもわしが止めてやるわい。」
 風にのって届いてきたエウトティアの声。
 焔が揺らめき、ぱらぱらと火の粉が化猫のもとへと降り注ぐ。
「咲殿は、トワ殿を嫌ってはおらぬ。好いておったから泣き、好きだったから何度も呼んだのじゃよ」
「死に際に呼ぶ名は恨み言と限らない。お前だって咲・咲・咲…必死じゃないか。それは咲が好きだからだろ?」
 エウトティアの声に燦が続く。
 倒れる化猫の元へと近づき、符術を施す。
 それは破魔の行。
 相手を倒す業ではなく、迷える魂を導く巫女の業であった。
 ぼんやりと、影朧の身体が淡く光る。
 化猫は既に猟兵達を見てはいない。
 炎に浮かび出される、虚空を見つめていた。
 篝火のように燃え上がる炎が、自らを照らす。
 寒々とした身体が暖かく感じる。
 その温かみが懐かしさを思い出させてくれる。
 影朧ではなく、一匹の猫だった頃のあの感情を。

 吾輩は日向が好きであった。
 背に陽を浴びながらサキの膝元で寝るのが好きであった。
 時折サキがちょっかいをかけてはくるが嫌いでは無い。
 こうやって無駄に時間を消費するのは華族の特権であろう。
 雨風も寒さも空腹も吾輩を苦しめることは無い。
 サキが何事かを語りかけながら撫でてくる。
 おともだちがねスタアになったのよ、と。
 そう。そうであった。
 サキは嬉しそうに話しておった。
 あれはいつの頃であったろうか。
 何やらとんと思い出せぬ。これが健忘というものであろうか。
 おともだち、おともだち、ああそうだ。
 おともだち、それからトワ。
 サキは確かにそう言っていた。
 はてな様子がおかしい。吾輩はどうしたのであろうか。
 吾輩は今何をしているのであろうか。
 夢うつつとはまさにこのこと。
 いまはただこの懐かしい、サキの膝元で眠りたい。

 炎の中で化猫は身じろぎ一つしないでいた。
 うめき声の悲鳴もあげず、ただ静かに横たわっている。
 時折胸が上下することから、まだこの世に生を受けていることは確かなようであった。
「貴方の復讐は果たさせるわけにはいきません。ですが、貴方が安らかに逝ける様に、存分に舞いましょう」
 炎を見つめながら、浄雲は更に炎を焚く。
 火勢が強まる度に、彼女の口から血泡の勢いも増していく。
 ジークもすでに剣を納めていた。
 彼の眼に憎しみは無い。
 ここに居たのは倒すべきオブリビオンでは無く、哀れな猫だったのだから。
 攻撃を受けた場所を撫でながら、彼は深いため息をついた。
「お前の恨みの何分かは、確実に受け取ったぜ。だから……お前は潔白さ」

 どうも身体が動かぬ。
 眠気で何をするにも億劫になる。
 ふにゃふにゃとまどろむ吾輩を不意の浮遊感が包み込んだ。
 薄目を開けるとそこにはサキがほほえんでいた。
 サキは吾輩をみてごめんねと口を開いた。
 なにを謝るのか。
 吾輩にはとんと理由が見いだせぬ。
 身に覚えはないがまずは気にするなとニャアと鳴いた。
 吾輩の鳴き声をどう受け取ったかしらぬがサキは吾輩の頭を優しく撫でた。
 ずいぶんと気安いことだ。
 他の下賤が触れようとすれば牙を剥くのであるがまあサキであれば許してやるか。
 もっと撫でろとニャアニャア鳴くとサキは吾輩を抱えてどこぞへとむかおうとする。
 陽に包まれて周りは白い。
 吾輩の眼では何も見えぬ。
 そういえば兄弟達は何処へといったのであろうか。
 何やら重大な事柄を失陥しているような気がしているが思い出せぬ。
 記憶の欠落をまどろみが埋める。
 今はただこの心地よさに揺られていたい。
 サキの両腕のゆりかごに抱えられながら吾輩はゆく。
 いきましょう。
 サキがそう言う。
 いったいどこへと行こうというのか。
 吾輩にはわからぬがサキがそういうのならそうなのだろう。
 まあ一緒であれば退屈はせぬ。喜劇でも悲劇でもどうとなれ。
 吾輩は陽にあたりながら眠りにつくのである。

 篝火を前に、エウトティアと燦は祈る。
 かの者の魂が報われるようにと。
「サキ殿が待っておる、お主も精霊の下へ還るがよい」
 浄化の風はあらゆる魔を退ける。
 影朧として骸の海へと還るのではなく、咲のいる場所へと還ることを。
 両巫女はそう願い、祈りを捧げていた。
 花澤がその光景を見つめている。
 炎から離れてまた、猫たちが火葬を見つめていた。
 ごめんねと、花澤が誰に聞かせることもなく呟いた。
 他の猟兵達も何も語らない。
 マニトゥも猫たちと同じく、真摯に控えている。
 未来・トワが襲われる予知は回避された。
 ただそれだけの出来事であった。

●それから~

 穏やかなサクラミラージュの午後。
 窓から眺める外の景色は、ジークの心を代弁するかのように少し曇っていた。
 珈琲に口をつけるがやはり苦い。
 ミルクと砂糖を入れてはみるが、どうも口がすすまない。
 影朧にやられた箇所に自然と手が伸びる。
 魔剣の力によって傷口は塞がっている。
 しかし思い返せば、あの時やられた衝撃が蘇るのだ。
 猛りがこの身を震わせ、しばし黙祷を捧げてしまう。
 かの者は大切な者のために、恨みによって歪んでしまった。
 見当違いの恨み。それを愚かと嗤うわけはない。
 無くなってしまったものの怒りは、自分も身に染みて理解しているからだ。
「……ちょっと、受けきれなかったかな」
 自嘲し、己の未熟さを恥じる。
 前に進むには少々ダメージが大きすぎたか。
 ここで少し休んでいくことにしよう。
 追加の注文を店員に頼み、それまで景色を眺めることにした。
 先ほどは気づかなかったが、見れば紫陽花が綺麗に咲いている。
 雨にうたれればその模様も気色を変えることであろう。
 ジークは依頼が終わったしばしの休息をカフェーにて過ごすのであった。

 貧民街、墓所。
 そこにトワと燦の姿があった。
 身分を偽るために変装したトワの傍に、燦は寄り添っていた。
 二人が見つめるは咲の墓。
 今は無き親友の墓であった。
 花を手向け、独り静かにトワが語る。
「本当はね、こうじゃないかと覚悟していたの」
 ぽつりぽつりと語り出す彼女の言葉に、燦は黙って耳を傾けていた。
 事故のあと行方をくらました咲からは、それから何通か手紙が届いていたのだという。
 姿は見せなくても、そこには公演の感想がしたためられ、彼女が息災だということを報せてくれていた。
 だがいつ頃からか、その便りが途絶えてしまう。
 もちろんトワなりに手は尽くしてみた。
 だが消息は辿れず、詳細は掴めずにいた。
 だからトワは演劇に打込んだのだ。
 スポットライトに照らされて、一層輝くように。
 ライトの外の、見えない影にいる彼女の元へと、届くようにと。
 そうして、トワは大女優となったのだ。
「女優続けろよ。咲が遺した生きた証だぜ」
「貴方に言われなくてもそうするわ。私と、彼女の夢なんですもの」
 ポツポツと、小雨が降り始める。
 トワの顔にも雨だれが落ち、頬を伝って落ちた。
 燦は背を向けて、そこから去ろうとした。
 なんとなく、雨にうたれたい気分なのだ。
 ナーオと、鳴き声がした。
 ふと見れば、こちらを見る野良猫の姿。
「馬鹿猫。お前がいたから二人は再会できたのかな」
 本降りになる前に、そこから燦の姿は消えるのであった。

「振ってきましたね」
 ざあざあと降る雨を見つめながら浄雲は呟いた。
 事は終わり、すでに彼女は人の姿に戻っている。
 水に流す。
 その言葉を浄雲は思い出していた。
 化猫は討たれた。
 もうトワが殺されることはないだろう。
 しかしもしも、自分たちが手を下さずにいたら。
 あの化猫は救われたのであろうか。
 恨みを晴らした化猫は、思いを遂げて成仏したであろうか。
 それとも、生きる意味を失って、ぽっかりと心を穿ったままこの世をさすらったのであろうか。
「考えても詮無きことですね」
 事実、影朧は自分たち猟兵の手で葬られた。
 仮定をいくら考えても益無きこと。
 任務を遂げれば帰還するのが忍びの常である。
 しかし浄雲の足は、別の場所へとむかっていた。
 帝都の一画、寺社の方へと。
 あの時以来神仏には頼らぬと決めていた。
 しかしかの者が安らげるならば、藁も何かの功徳になろう。
 一陣の風が吹き、影が消えた。
 行き交う人々は、昨日も今日も変わりなく、行き交っていた。

 貧民街の一画、そこにエウトティアはいた。
 彼女から最後の野良猫が離れ、どこぞへと消えて行く。
「やれやれ、これで最後じゃな」
 大仕事を成し遂げて、彼女は自分の肩を揉んだ。
 化猫の脅威は去った。
 やるせない出来事であったが、逆恨みによって人が殺められてしまうという脅威は去った。
 そう、逆恨み。
 彼の同胞がどれほどいるかは存ぜぬが、エウトティアは独りここに残り、話のわかる猫たちに事情を説明していたのだ。
 どれほどの効果があるのかは分からない。
 しかし先日、あの場所で見知った顔もあった。
 少なくとも彼らが恨みに塗れ、化猫と化すことはないであろう。
 マニトゥに背を預け、彼女は深呼吸をする。
 背中から伝わる温かさが心地よい。
 もふもふとマニトゥにじゃれつき、エウトティアが問う。
「のうマニトゥ、もし儂がどこぞの誰かに殺されたら、お主も化けて出てくれるのかのう?」
 その問いに、マニトゥは柔らかく彼女の手を噛んだ。
 馬鹿な事を喋るなということであろう。
「ふふ、冗談冗談。意地の悪い問いをしてすまなかったのじゃ」
 ぼふりと身を沈め、エウトティアは目を瞑る。
 願わくば自分とマニトゥのように、咲と猫が安らげんことを。
 そう願わずには、いられないのであった。

 控え室の前で、花澤はガクガクと脚を震わせていた。
 彼女に伝えたい。しかし今一歩勇気が湧かない。
 逡巡する彼女は、トワがいる部屋の前でもう大分前からそうやっていたのである。
 ようし、行こう。
 何度目かの心のかけ声で、ようやく意を決して入ることが出来た。
 トワは花澤を見て微笑む。
「あら、また来たのね」
 こうして見る彼女は、やはり綺麗だ。
 しかし今日はどこか雰囲気が違うような気がする。
 笑顔で迎えるトワを前に、花澤の顔が曇る。
 何しろこれから、酷なことを伝えなければならないのだから。
「あの、言いにくいことですけど、咲さんのことなんですが」
 貧民街のこと、咲がすでに亡くなっていることを告げる。
 トワは鏡を見つめながら、そう、とだけ呟いた。
「あまり……驚かないですね」
「ええ、薄々そんな感じはしていたからね」
 その横顔は哀愁を漂わせていた。
「あの! トワさんのせいじゃないですから!」
 こういう時、うまく伝えられない自分がもどかしい。
 他の皆だったらきっと上手に説得出来るのだろう。
 トワがこちらを向き、見つめている。
 その表情は寂しくも、明るく輝いていた。
「ありがとう、優しいのね」
「いえ、そんな……」
 つかつかとトワがこちらに近づき、後ろに回って花澤に衣装を羽織わせる。
 姿見にそれは可愛らしい付き人が現れた。
「歳を取るとね、優しさを失うのが辛いの。だから人を遠ざける。最初からいなければ失う物は無いでしょうからね」
 鏡越しに、寂しく笑うトワの顔が映る。
「じゃあ、トワさんは……ずっと独りなんですか?」
 いいえ、と彼女は否定した。
「私には貴方のようなファンが大勢いるし、目標があるから」
 目標。
 それは今よりもっと、大きな女優になること。
 切磋琢磨してきた友人の分、自分は倍努力しなければならないのだ。
「下らないミスで女優の格を落としたら、彼女に笑われてしまうしね」
 演劇に人一倍厳しい未来・トワの姿。
 それはまさしく、大女優のカリスマであった。
 綺羅綺羅と輝く彼女の美しさに、花澤の視界がぼんやりと滲むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月14日


挿絵イラスト