帝竜戦役⑬~喰らう狂理
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「おあつまりいただき、ありがとうございまーす」
ぺこり、と恭しく頭を下げたのは。
帝竜戦役にてせわしなく猟兵たちが行き交うグリモアベースにて、ヘンリエッタ・モリアーティ(円還竜・f07026)の四つある人格が一人、「ヘイゼル」――「ゼロ」と名乗る彼がまずは猟兵たちに挨拶をした。
「つーワケで、帝竜ベルセルクドラゴンの発見だ。今ンところ順調に戦っていけてるが、油断しちゃァいけねェ」
手のひらに乗せた薄型のタブレットを手際よくタップした。
フリックの音が二度ほど続いた後、液晶からホログラムが精製される。
青白い光を浴びながら現れたのは――かのヴァルギリオスの「最強の腹心」と呼ばれる暴力の象徴。
かの竜は『ベルセルク』の名にふさわしい力を持つ。
強靭肉体と高い戦略眼、熱き意思と異常な学習能力を持つこの竜は――かつて、群竜大陸を支配していた「古竜」を単身で絶滅させた。
「やべーよな。ゼツメツ、だぜ? 根絶やしにしたってことだ。たった一匹で」
血走るような眼が再現されている。
手のひらに収まるサイズで浮かび上がった彼は今か今かと、戦いの時を待ちわびているような姿勢だった。三つの爪をわきわきと動かして、呼吸に合わせて翼はなびく。
「賢くて、強い。シンプルに恐ろしい生き物だな。――無策で挑んだら痛い目に合うぜ。まあ、お前らならンなヘマはしねェと思ってるケドなァ」
猟兵たちを見る目は信頼だ。
ゼロが己の顎を右手で撫ぜてから、にやりと笑っていた。
「必ず向こうは先制で仕掛けてくる。だから、いかにガードからうまくカウンターすっかだな。見てりゃァわかるが、コードもなかなか厄介だ」
攻撃の幅は腕の数ほど利くのだろう。
異常なる学習能力はその体が担っている。戦いながら覚え、強化し、爆発させれば――暴虐そのものに至るのだ。
ふつ、とタブレットの灯りを消せば、尾を威嚇代わりにしならせていた凶悪の姿は失せた。腋で板を挟んで、ゼロは仲間たちを銀色に宿す。
「なァに、勝つさ。お前達なら」
猟兵たちは、世界を切り開く力を持っている。
このベルセルクドラゴンは、その力にすら好奇心を抱いていた。
殺し殺されつくし、己の命を賭けてまでそれを解明したいのだと言い出す始末はまさに狂える竜である。しかし、故に、――全力での戦いをお互いにぶつけ合うことになるだろう。
赤い蜘蛛の巣に似たグリモアを、猟兵たちの前まで浮遊させる。
徐々に広がるそれが、猟兵たちを終焉の地へと導くのだ――。
「――そンじゃァ、グッドラック。猟兵(Jaeger)!」
善い戦いを、と。
ゼロが固く己の手を握りこめば、転送は始まる。
●終焉竜
手にした力は暴力だった。
「おお――非常に興味深い」
学びたい。
己の力の振るい方を知れば、いにしえの竜を屠ることさえできた。
竜は、己の欲求のままに戦い、己の強靭な鱗に覆われた血肉を唸らせ蹂躙をしたのである。
眼はいのちを奪うためにぎょろぎょろとせわしなく動き、ひとつひとつを嘗め回すように見たあとで、脳はぐるぐると戦うためにだけ動く。
その竜、異常であり――最強。
「吾が興味深くてたまらない猟兵たちよ何らかの予知能力の担い手が掲げるその結晶の本質と秘密を解き明かしお前たちの解剖をせずとも殺し殺され戦いを経て解明をしようではないかお前たちの能力を読み解けばヴァルギリオス様にとっても吾にとってもこれほど有益な情報もあるまいさあ戦だ戦! 血があふれ肉が舞いお前たちの叫びと命を散らし吾の命も同等に躍らせようではないか吾の今生の目的その一つのために!! 」
――歓喜!!
吠えた竜の音波は、その圧だけで地面を割った。吹き上がるマグマに鱗を浴びても、ぎらぎらとしたつやが失われていない。
ぐるぐると喉を興奮させ、熱に空気を焼きながらベルセルクドラゴンは猟兵たちへ対峙したのだ。
「さあいざ、いざいざいざ!! 殺し殺され学びつくそうではないかお前たちをそしてそのつくりを構造を理論をこころを全て総て統べてッッッッッ!!!」
未だ知らぬ可能性。未だ触れたことのない脅威である猟兵たちにぎらぎらとした殺意を隠さぬままに、竜は笑っていた。
さあ、猟兵たちよ。未来のために武器を持て。
使える知恵を使い、護るべき心をかけ、その命を剣としてこの暴力の化身へと挑むが良い!
――狂竜顕現。終焉の地にて君を灼く。
さもえど
さもえどです。
帝竜の皆さんのなかで一番好きです。ベルセルクドラゴンかっこいい!
プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』。
敵は必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります!
プレイング募集は5/14 8:31~同日20時まで。
戦争中ですのでかなりタイトな期間ではございますが、できる限りご案内させていただければと存じます。
それでは、皆様のかっこよくて熱いプレイングを心よりお待ちしております!
第1章 ボス戦
『帝竜ベルセルクドラゴン』
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POW : ベルセルク・プレデター
【特定の1体に対する『殺意』】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD : ベルセルク・グラップラー
【翼を巨大な腕として使う】事で【四腕格闘形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : ベルセルク・レイジ
全身を【狂える竜のオーラ】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
イラスト:爪尾
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ジーク・エヴァン
背筋がザワザワしてくる
奴が最強の腹心の帝竜
裏を返せばこいつを殺せればヴァルギリオスに近付ける
奴らを、倒せる!
負けられない…
こいつにだけは絶対に!
覚悟を決めろ、俺
奴は絶対に先制してくるし体格も力も、全てが上だ
なら俺に出来るのはカウンターだ
恐らく相手は巨大化してくるはず
逆にいえば身体的な死角も増えるはず
ダッシュで相手の懐に飛び込み、相手の一撃は盾と腕を犠牲にする覚悟で盾の表面で滑らすようにシールドバッシュで反らす
痛みは激痛耐性で耐える
そのまま相手の身体の下を掻い潜りながら力を溜めた怪力で角砕きを振るって鱗を鎧砕き、下から【巨竜退ける砦盾】を召喚・結集して相手の傷を突き上げる!
(アドリブ・連携歓迎)
ガンドル・ドルバ
はっはっはっ!
なんという殺気と闘気よ!
こいつは間違いなく最狂の化物じゃ!
良いぞ…
この一戦はそれがし、いや俺の命をかけるだけの価値はある!
今回は相手の方が圧倒的に速い
なれば後の先に全てをかけるのみ
全力のオーラ防御で相手の攻撃に耐えてみせようぞ
無論こいつがいつまでも続く筈がないのは承知の上よ
こちらからも重量を乗せた攻撃を怪力に任せて振るうぞ
相手が狂気に飲まれたままこちらに近付いてきた時こそ好機
捨て身の覚悟でくれてやろうぞ、【闇女神の旋風】を
オーラ防御で致命傷は避けるつもりだが無事ではすまんだろう
だがそれでも、後の者のため、傷も付けずに貰ってゆくぞ
貴様自慢の拳の血肉と神経を!
(アドリブ・連携歓迎)
●
二人の猟兵たちがまず、脈打つ大地に足を踏み入れた。
狂竜はぎろりときらめかせた己の眼で、彼らを熟視せんとする。
明らかに「ひと」ではない。一人は体がずんぐりとしていて、小さい。しかし、内なる心は闘志に燃えた益荒男であった。
「はァ―――ッはっはっ! なんという、殺気と闘気よッッ!」
死を間近に感じられるほどの殺意を燃やして、竜は地面にようやっと足をつけた。
六つの手足があり、翼を抱えた二つの手だけは後方にやられる。損失させたくないからだ。スタートの準備を猟兵たちを観察しながら行うさまに一寸の隙すら見当たらぬ。
己の額があせばむのを感じながら、ガンドル・ドルバ(死に場所を求める老兵・f27129)は手のひらでそれをぬぐった。
六十になる。
とある国で、傭兵として戦ってきた歴戦の男だ。
命を賭ける舞台はいくつもあった。数多の死体で出来た山を越え、勝利を掴み、時に敗北にうちのめされることもあっただろう。
傭兵を引退して、やはり闘争にしか己の墓標を見つけられなかった男である。人生のほとんどをと戦うことで埋めた先にあった自由でなお、過酷な道のりを選んでいた。
悠々自適に死に場所を探すある種破れかぶれな生活をしていた彼ですら――この竜の恐ろしさには思わず、笑いもあふれる。
「こいつは間違いなく最狂の化物じゃ! のう、狂竜よ! この一戦はそれがし、――いいや! 俺の命をかけるだけの価値はある!」
吠えたガンドルに、竜はぐるぐると喉を興奮させていた。
その様だけでもおぞましい。ガンドルの隣で、一つも瞬きをできなかったのはジーク・エヴァン(竜に故郷を滅ぼされた少年・f27128)だ。
まだ育ち切らない手足をしながら、戦地に赴く少年には理由がある。
かつて、故郷の隠れ里が竜によって滅ぼされた。唯一の生き残りである彼は、すべての命を代償に得た責任と使命感、そして「猟兵」という目覚めに燃える、まだ若い命である。
ガンドルとは、行き倒れたところを拾われ、育てられた仲であった。
――本当の家族ではない。
しかし、そこには絆がある。ゆえに、己の隣で彼が昂るのならば、この竜には「その価値」があるということは信頼できる。
背筋がざわざわとして、ジークはうなじを焼かれたような気分だった。
燃えた周囲の空気が触れているからかもしれないのに、呼吸はどうしてもいつもどおりにいかない。恐怖を殺せないのだ。しかし、立ち向かうための勇気が彼をこの場に縫い留めている。
逃げろと警告する脳に対して、少年の心は反発した。
――最強の腹心、狂える帝竜。
ジークを舐めまわすように見つめるこの瞬間こそ、この竜の恐ろしいところであった。学んでいるのだ。
一分、一秒、一つも無駄にせず。
――ジークという命を、隣にいるガンドルという可能性を、学んでいる。
今すぐにでも斬りかかりたいところであるが、強敵相手と知ってなお無謀に挑む青さを心の中に縛り付けている。ジークは、逸る呼吸を落ち着けるために深呼吸を繰り返していた。
肺が燃えるような感覚がする。
――それは、恐怖だけのせいではない。
この狂竜を倒せば、ヴァルギリオスへ近づける。大いなる悪までもう一歩といったところだ。
――覚悟を決めろ、俺。
負けられない。
何度もあまたの猟兵たちがこの「過去」と対峙した。しかし、「勝てる」という実例がある。それは、ジークにとっては可能性だ。
「ガンドル」
命を賭ける価値があると、となりの男は言った。
「応」
その通りだと、――若い視線が闘争に燃えている。
恐怖と、勝利への期待と、挑戦に渦巻く正義の野心が瞳に宿っていたのだ。
「肚をくくれよ、ジーク」
ガンドルが斧を構えて、腰を落とす。ざりりと靴裏で地面を踏みしめながら、老兵は唸った。
「お前たちは親子なのだな大変良い素晴らしい親子というのは血縁関係が在らずともそこに絆を感じさせる絆というのは脳の作用が誇張に表現されたものだ依存と自立のふさわしい関係でありお前たちは互いに寄生され寄生することによって互いの承認と存在を求めあうことにより生きている実感というものを高めている極めて合理的な状態と言えるだろう美しい可能性だしかし無意味だなぜならば破壊、そうだとも破壊だこの吾を相手に絆など無意味すべて破壊するしかしそれまで楽しませてもらうとしようか貴様らを殺しつくして」
まるで医者の診断を一方的に聞いているような心地でもある。
まるで頭を抱えるようにしてベルセルクドラゴンは二人に向かっての解析結果を口からあふれさせていた。異常な観察力は二人の行動、そして関係性を見抜くのに長けている。
――どちらかから狙うか、ぎょろぎょろと黒い鱗の向こうで思考の間、瞳が揺れていた。
「解体に至るまで」
●
狙われたのは――。
「いッ」
「ジーク、来るぞォッ!!」
明らかに戦闘経験の浅いジークからだ!
【ベルセルク・グラップラー】。強大な翼をまず、腕として使う。四腕での格闘を可能にする爆発的な威力を含んだ質量で、ベルセルクドラゴンは襲撃に出た!!
「解析したのだ」
低く唸る声がやけに理性的で、ぞっとする。
目の前まで接近するのに僅か一秒。腕を四つの手で加速したぶん狂竜がまとう空気の圧にジークが意識を取り戻すのと、ほぼ同時の時間であった。
「吾はお前を学ぶことにしたお前から殺せば残るは老兵のみである若い芽は早くに摘まねばならない体力もお前の方がある為だ効率的に戦場を掌握するには未来の象徴である子供から殺戮するのが一番恐怖を与えやすく戦況を変えるのにちょうどいい」
まるで呼吸のように――まくしたてる竜の声を聞き取るよりも早くに、拳がおろされる。
ジークの居た場所に破砕が起きて、飛びのいたガンドルが叫んだ。
「ジィイイイイクッッッ!!!」
「生きてるッッ!!」
狂竜のこぶしに、違和感がある。
赤い血しぶきすら上がらないほどの威力なのは確かだ。
人間の、それも成人に至らぬ少年の体を「根こそぎ」殺すことなど、造作もないはずである。しかし、――竜のこぶしは明らかに別のものをとらえていたのだ!
「お前の方が、――体格も、力も、確かに、全部上だ」
人間だ。
巨大化しつつあるベルセルクドラゴンよりも、ずっとジークは小さい命である。ゆえに、必然的な優劣にはどうしても抗えない。
だからこそ、知恵を使った。
「だから。俺にできることは、なんでも手を尽くす」
たった一匹をしとめ損ねてしまった。竜の腕は地面を穿ち、熱量を吹き上がらせている。ジークは――竜の上をとっていた!!
ガンドルは理解する。
【巨竜退ける砦盾】だ! 五十の盾をひとつに統括した大きな板の上に、ジークがいる!
――ベルセルクドラゴンの放った拳を防いだのではなく、その拳が砕いた地面から吹き出すマグマを防いだのだ。押し上げられて、必然的にジークは竜の死角に至る!
「ようやった!」
竜が、己の予測できなかったものを視線で追いかけている。完全にガンドルから注意がそれていた!!
一瞬の空白だ。すでに何本かの腕はガンドルへと向かっている。
しかし、踏み込みは早いほうが良い。己の闘志をオーラに変えて熱を防ぎ、突撃が始まった。
ぎょろりと、竜が顎を持ち上げたまま視線だけガンドルへと向かう。宙に浮いた少年への注視をやめた! まず、迫る歴戦の戦士への対処を繰り出す。
「愚かなことだ老兵貴様の突撃は興奮からくるものでもあるまい策略の上でのはずだならば吾はそれを見越してかつ貴様を殺すことにする」
体の鱗、その隙間からエネルギー源の光を輝かせながらベルセルクドラゴンは唸る。嗤っているような――凶悪な顎が口を開いた。
【ベルセルク・プレデター】は、発動する!
全身凶器、まさに、破壊の化身!!
「うわっ」
咆哮だけでジークは吹き飛ばされた!!盾で体を護って、逆らわずに地面に落ちて滑っていく。途中で岩に跳ね上がり、背中を打ち付けながら転がった。
「ぅお――」
ガンドルの突進も勢いを殺される。
ふしゅう、と口の端から息を吐きながらベルセルクドラゴンが殺意を昂らせていた。踏み込み、――まさに悪辣なまでの速度!!
地面が隆起し、不安定になる。ガンドルの足場が竜の踏み込みだけで盛り上がった。しかし、この戦士はけして動じない!
「面白い奴よ。おお、ますます、――面白くなってきよったッッッ!!」
戦いながら学んでいる。
ベルセルクドラゴンは、己の知識欲と戦闘への熱意で動いているのだ。
ジークが噎せながら、衝撃で揺れる脳からなんとか意識を手繰って滲む視界で戦況を把握した。遠くにあった音がどんどん近くなってきて――目の前で戦うガンドルを見る。
血まみれだった。
はっきりいって、ガンドルがすっかり劣勢だ。思わず、跳び起きる。
「ガンドルッッ!!」
「ジーク!! お前は、――とことんやるがいいッッッ!!」
傷だらけの体をなおも、暴力が攻め立てる。
全力の防御はコードを使わない。闘志を視覚化させたもので耐えきるつもりなのだ。しかし、ガンドルとて戦士である。小さな体で飛びはね、時に暴威を受け止めて弾かれる。着地を受け身で行って擦り傷を作り、もろに尻尾の一撃を食らってもなお、口から血を吐きながら立ち上がった。
――けして、逃げない。
重量に任せた怪力の斧に、その意思を見た。
ベルセルクドラゴンは、この老兵の命に可能性を知る。学ぶことを喜ぶように、闘争を楽しんでいたのだ。
「吾はどうやらお前を見誤っていたらしい訂正しよう老兵よ貴様はその齢にして十分動けているし動きすぎている命を失うことへの恐怖よりも戦いへの興奮が勝っているのだな」
「その通り――貴様と、俺は、同類よッッッ!!」
捨て身の覚悟だった。
【闇女神の旋風】だ!!
女神への信仰を糧にした渾身の一撃を、狂竜の拳一本に食らわせてやるための大振りは、隙だらけに違いない。
――無傷で済むなど、最初から思っていない。
しかし、ガンドルにはジークがいる。彼のためにも、道は拓かねばならない。
「傷も付けずに貰ってゆくぞ――貴様自慢の拳の血肉と神経をなァッッッ!」
「ああくれてやろう老兵よッッッ!!!お前の雄姿と実力とその経験から生み出される姿に報いてその程度であれば吾がくれてやるッッッ!!」
拳と、斧がぶつかり合う。
空気が圧縮されて、膨張して衝撃が起きた。
ジークは叫ぶよりも早く、盾で風圧を防ぎながら呼吸を保ち、飛び出す。
呼吸は浅い。肋骨が折れているのだ。肺には刺さっていないが、それでも息をするたびに胸が痛い。折れやすい胸骨にもダメージは及んでいた。
しかし、それでもこの少年は――前に出る。
ガンドルが奪った竜の拳は、だらりと垂れさがっている。握る力を失ったそれを視認して――老兵は吹き飛ばされた。小さな戦士を、まず盾一枚で受け止める。
「何?」
ベルセルクドラゴンは、己の拳に痛みを感じた。
強靭な鱗だ。古龍たちを殺しつくした腕の一つが、破られている。
「まず一本だ。それで、充分なんだよ――俺たちは、負けられない」
視線をやれば、そこにはジークが盾で傷をえぐっていた。
小さなひび割れだ。ガンドルが作った斧での一撃である。それを、ジークが体で盾を切れ目に押し込んだのだ。
盾に体を受け止められたガンドルが、成長ぶりに笑っている。「よくぞやった」と膝を叩きながらもたれかかっていた。
げふ、げふと何度か咳き込みながらも、少年は勝利を確信する。
「お前にだけは、絶対にッッッッ!!」
――狂竜が、『若い命』に驚くこととなった!
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
右腕の無効化、損傷。
――老兵と若い戦士が命を賭けた闘争の末、狂える竜から一つ武器を奪うに至る!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
オクタ・ゴート
◎△
……面白い。実に、その暴虐と知識を兼ね備える姿。実に、欲しい。
殺意を爆発させるならば此方も同等の欲によって抗いましょう。攻撃を、受けましょう。【激痛耐性】はありますが、それでも瀕死になるのは想像に難くない。それでも、意識だけは、命だけは【覚悟】で繋ぎます。
千々になるだろう、砕けるだろう。嗚呼困った。「私」が、足りなくなってしまった。
ならば、寄越せ。お前が寄越せ!
【八本足の山羊】で――喰い殺す。
肉も骨も喰らい、鱗も爪も貪り、翼も眼も、その脳も啜る! お前が奪い、絶やした命を贖え! 知性も忠誠も自我も何もかも、俺に寄越せ!
今度は貴様が、絶える番だ。次は、お前が奪われる番だ、狂戦士ィッ!
曾場八野・熊五郎
最強……いい響きでごわ
勝てば我輩が明日から最強の野生王でごわす
pow ◎△連係歓迎
体がデカくなるなら、我輩との体格差的に足元に入れば腕は攻撃に使いにくくなるでごわ
攻撃を『野生の勘・ダッシュ・ジャンプ』で何とか躱して、足元に滑り込むでごわす
我輩知ってる。デカいのは足元から崩すとよい
【犬ドリる】で足の間接や鱗の隙間から抉りこむでごわ『怪力・トンネル掘り・部位破壊』
体勢を崩したら、他の猟兵との戦闘でできた傷口をブチ抜いて敵の致命傷になる部分を狙うでごわす
『血の匂いを追跡』
狙うは喉か心臓、食いちぎって息の根を止めてやるでごわ『捕食・傷口をえぐる』
殺意に身を任せちゃ駄目、真の獣はそれを牙に乗せるでごわす
ロニ・グィー
【pow】
暑っ苦しいなあ
理屈っぽいのか騒がしいのか、せめてどっちかにしてよね!
【存在感】を薄めて【目立たないよう】にしたら殺意が薄れないかな?
もちろんそれに追加して巨大球体群をけしかけて【捕縛】をしかけるよ
やっちゃえー!サイズなら負けないよ!
振りほどかれるまでの【時間稼ぎ】が出来れば十分!
その間に殺意自体を餓鬼球くんにパクパク食べてもらおう
それで弱らせることができたらそのままUCでドーンッ!
こんにちは!ねえ何してるの?
ほら、笑って笑って?
はい、チーズ!!(グーパン)
後はピンポンパンチ【ダッシュ】!
反撃に対して【残像】を残して、【逃げ足】を発揮して逃げやーいやーい!と【挑発】して味方を助けよう
●
暴虐でありながら、あくまで理知的だ。
ベルセルクドラゴンは己の壊された右手をじいっと眺めていた。
「――痛みかこの吾が痛みを知ったというのか殴るときに生じるそれではなく猟兵たちによる亀裂ということだおおなんとふさわしき勲章よ」
世界に仇なすことに興奮しているのではないのだ。
下あごから燃え広がるような鱗を震わせて、竜は感心している。
「これが可能性これが未来の力これが吾すら幾度と屠る力かこの出所はどれだこの吾が殺されるほどの可能性を秘めた技を振るうのはなぜだどうしてその力が小さな体から生まれてくるのだ世界の干渉かいいや違うな生存への本能か」
「ねえ、黙って考えられないわけ? あれ」
「言葉にすることで思考を整理しているのだと見受けられますが。――仕掛けますか?」
「ごわ。善は急げと申す、思考にふけるいまこそ絶好の機会でごわす」
ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は、ぶつぶつと唸りながら学習を進める竜を見ていた。
最強の存在である、彼を倒せば己こそ最強の野生だとする曾場八野・熊五郎(ロードオブ首輪・f24420)はふりふりと尻尾を振っている。興奮を表すらしい動きには、恭しくオクタ・ゴート(八本足の黒山羊・f05708)が提案を繰り出すことで慎重なものに変わった。
狂える竜は、三人を認識している。
ロニにはそれが理解できる。彼はけして猟兵を侮る存在ではないのだ。
「どっちかにしてほしいよね、まったく」
暑苦しい。 ・・・
汗ばむ体もそうだが、かの竜の真面目度合いにだ。
怒り狂ったり、己の欲がままに暴れるだけなら殺すのに手間取らない。しかし、かの竜は――闘争というものへの情熱があるのだ。
「生存への本能は確かにおそろしく時に戦局をひっくり返すこともあるしかしそれは吾にも適用されるはずだおおこの命を今生のために使えることのなんと嬉しい事か」
竜が眺めている右手は、六つのうち真ん中のものである。強靭な腕はあと三本も残っているし、全身が武器といって差支えがない。
ううう、とうなりを上げる熊五郎が全身で殺気を感じていた。
「来ますぞ。――構えるでごわ」
「りょーかい、っと」
消えた。
ロニが瞬きをした間である。隻眼の死角に回られたのは――風圧だ!
爆速ともいえる移動と共に【ベルセルク・プレデター】襲来ッッ!!満ちた殺意と闘争への衝動を爆発させながら、暴力の化身は暴威に襲い掛かるッ!!
「はっや」
「お前は、神だな? 猟兵」
詰め寄られるのは一瞬だ。
巨大化した竜の姿はもはや、ロニの何倍かわからぬ。山のような姿になって口を開け、今にも三人ごと食い殺しかねぬ大きさの化生が嘲笑う。
「解体させよさすれば吾は神をも超えるッッッッ!!!!!!」
まるで大きな城塞のようだ。
手のひらがロニを、まるで蚊を仕留めるようにして重なりあおうとする――それを、黒が止めた!!
「黒油か聞いたこともない怪物よ貴様のことは触れるだけでも知れることは多い炎熱を孕んでいるなこの吾には無意味ぞこの吾こそ地獄の焔より激しい存在である」
竜が、不思議そうにしている。
「ッ――そうでしょう、ともッ」
ロニの前に飛び出して、文字通り体を破裂させたのはオクタだ。
オクタの潔癖めいた手袋に押し出されるようにして、ロニは後方へ回避ができている。いつのまにやら次の行動に出たらしい暴威は消えて、息をひそめているようだった。――それでいい!
「痛みを感じているのかほぼ液体のお前にも痛覚があるというのはいい生きている実感もあるだろうそれこそ吾の知りたい貴様らの可能性だお前はどうやら結晶ももっているようだからそれを解体するのにもちょうどいい創造とはいつも破壊の向こうにあるのだからな――!!」
「あ、あぁ、ア゛ッ――」
タールだ。
ブラックタールのオクタは、その体をあますことなく粘液で作られている。
どろどろ、ぐちゃぐちゃ――竜の両手で押し潰されたスーツはもはや原型どころもとどめてはいまい。どろりと山羊の頭蓋から彼の本体があふれてしまうほどの圧縮には、組織の破壊と分離の痛みが伴っていた。
「はァ、ッ――実に、欲し、い゛」
激痛の耐性はある。なにせ液体だ。
ゆえに、オクタは己自信を手放すことはなかった。
汚泥の女神から生み出された怪物だ。奇形の己は常に飢えていた。
「――欲しい゛ッッ。その゛強さが」
押し潰される。
びちゃびちゃとオクタの油分が飛び散った。
「まだ、――まだいかんのでごわすか、吾輩、もう我慢の限界でごわッッ!!」
吠え声は明らかに怒りに満ちている。
しかし、熊五郎は「よし」なしに噛みつくほど愚かな獣ではない。
「もうちょっとだ。もう少し――我慢して」
ロニの姿は見えない。どこかに潜んでいるらしい神からのお告げはまだ降りぬ。
犬歯をむき出しにして気を逆立つ熊五郎が見上げる先で、黒山羊は己の感情を手繰っていた。
「その゛暴威がッ、そッ、の――知識、がァ、ッふゥぐ、ぅう゛、ォ――理性ッがッッ」
欲望だ。
――この竜ほど戦いには狂っていない。しかし、これはいわば「ないものねだり」の駄々っ子に近いのだ。
黒山羊は、何も持てなかった。少なくとも彼よりできのよかったきょうだいたちと比較して明らかに劣していた。だからこそ、飢える。
飢えて、飢えて、求めて、欲して、ならば。
ク イ コ ロ ス
「 実 に 、 ――欲 し い ッ ッ ッ ! ! ! 」
持 て る 者 か ら 奪 え ば い い ッ ッ ッ ! ! !
【八本足の山羊】が悲鳴をあげた。
狂える竜は、それに感情の発露を見たのである。異形の怪物が飛び散った体から伸びるようにして中心を作り、大きな奇形の山羊に変貌する。八本足のそれは、強大な竜を粘液の体で縛り上げた!!
「――おお、これが哀しみ嫉妬憤怒そして欲望と渇望吾にも覚えがあるぞああお前の感情は理解しやすいお前の痛みは想像も容易いともなぜなら吾もまた奪うもの故なァッッッ!!!!」
「オ前ガ奪イ、絶ヤシタ命ヲ贖エッッ! 知性モ忠誠モ自我モ何モカモ、俺ニ寄越セェッッッ!!! 今度ハ貴様ガ、絶エ奪ワレル番ダ、狂戦士ィイイイイイイイイイイイイ――――ッ!!!」
縛り上げた山羊は、竜のすべてを求めていた。
端々を周囲の熱に引火されながらもなお、竜の翼を、骨を、肉を、鱗も爪もはぎ取ろうとし、その翼も眼も脳も奪いたがる欲張りな黒を、竜は己の体を旋回させ、地面を掘り進むドリルのようにしてこそげ落としていく!!
「オオオオオオオオオオッッッ―――!!」
しかし、オクタもそれで離れられるほど満たされてはいない!!
体を文字通りに削られながら、飛び散る泥の体に痛みを感じながらも火山に体を燃やされ、必死の抵抗を続ける!!
「いいぞいいぞ我慢比べと行こうではないか黒山羊よ貴様の欲望と吾の情動どちらが優れているかを比較してお前の心を砕きひとつひとつ分析したうえで吾の糧としてやろうではないか――」
「こーんにーちはっ」
まるで黒い竜巻のようにもみ合う巨大な塊を、二体同時に球体軍が捕縛する。
「うーん、ちょっとおっきすぎるなぁ。トリミングしたげるね、餓鬼球くんおねがい」
眼球だけで、ロニの体ほどある。
竜の殺意はそれほど猟兵たちに「真面目」なほど向けられていたのだ。
細い指をまるで指揮棒のように優しく空を泳がせれば、ロニの前で彼の使いたちが竜を圧迫し、殺意を食らう――!!
「おお、おおなにごとだこれは吾のこころを捕食しているというのか実に面白いなこれは食えるのかいいや食らってみよう吾の知らぬものは知る必要があるそれはすなわち食らい破壊することッッッ!!!」
「つらつらしゃべってぜーんぜんわかんない。それよりさあ、ほら、笑って、笑ってー?」
ロニの想定よりも、この竜はどうやら殺意というものにあふれているらしい。
内心舌打ちをした。生命としては価値が高いが、過去である時点で要らないものだ。それでもロニの球体を山羊と共に圧迫してもまだ振りほどこうと腕力で黒油をちぎり、球体をかみ砕いている。人間の臼歯に近いつくりをした白いあぎとに、ロニも笑顔で返した。
自分のほほを両手の指で釣り上げさせて、笑顔を作る。
――すべては、ブラフだ。
「はいっ、チーズ♡」
熊五郎は知っていた。
自然の法則だ。デカい生き物は小さい生き物に弱い。
犬同士の争いでもそうである。犬は己の上をとられると負けを認めざるを得ないが、小さい犬種は大きな犬種に立ち向かうとき、その顔を狙うのではなく、足に噛みついて転ばせた後でのどや腹を狙いやすい。逆に、大きな体をしているとちょこまかした動きに追いつけないのだ。
――足元から崩す。
それは、『犬ならでは』の喧嘩殺法と言える。
【犬ドリる】で狙うのは、先ほど血のつながらぬ絆を持った彼らが作った傷が刻まれる右手だ。すでに手のひらにひびが入っていて、熊五郎の起動で貫くのにちょうどいい。
「 い く で ご わ ッ ッ ッ ! ! 」
体を旋回させての突撃は、高所にある腕を狙うために――吹き上がる火山を使ったものだ。
体毛が焼ける。皮膚がただれた。愛らしい肉球は水膨れ、爪は割れている。
しかし、飛び出した真の獣は、己の牙で右手を貫くために集中する――!!
「討ち取ったり――でごわッッ!!」
右手が飛んだ。
オクタで締め付けられ、ロニに右ほほ精一杯に【神撃】を叩き込まれた巨体が衝撃で鋭く揺れる。その衝撃と共に貫いた熊五郎の牙と体が――狂竜の腕を一本、肘からもぎ取った――!!
追撃だ! 宙を舞った腕に乗った熊五郎が、やや小さくなった喉に牙を立てる! 深々と刺さって数秒、絶叫!!
「ウゥ、う、ォオオオ゛オオ゛オォ゛オおぉオオオぉおおオ―――――――――ッッッッ!!!!!」
「ぐあッ」爆音に耳をやられた熊五郎が、音波で振り落とされる。それを、ロニがキャッチした。
「っと、逃げるよ――やーいやーい! 痛みに哭いちゃって、かわいそー!」
両脇に山羊頭と少しばかりの黒油が残ったオクタと、未だ戦意のさめやらぬ熊五郎を抱いて暴風の神が戦場からの離脱に成功する!
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
右腕を肘から消失。首に小さく損傷。
――奪うもの、戦うもの、欲するものが暴力の象徴を削ってみせた!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
加里生・煙
◎△
◼️狂気の沙汰へ
サァ――ヤろうとも。
【鏡の中の貴方】で攻撃を返すつもりだが……奴はスピード、反応速度共に速い。鏡を避けられちゃぁ意味がない。
鏡にしたアジュアのスピードも生かせば勝率は上がるが、あと一押し。欲しい。
だから、俺は真っ向から殺されにかかる事にする。
不意打ちに合わせるには厳しいが、来るタイミングがわかってりゃ少しはマシだろう。
あんた。殺し殺されに来たんだろう?俺もなんだ。ひとつ、俺のこころも見てってくれよ。
いつだって覚悟は出来てる。あんたの痛みで哭かせてくれ。
俺の狂気が奴を喰らうか、奴の痛みが殺しきるか。
……やろうぜ。あんたが殺しを理解の手段として使うところ。嫌いじゃァ、ないんだ。
春乃・結希
◎
…大丈夫
私なら大丈夫
『with』と共に在る私は最強だから【勇気】
猟兵として旅をすると決めた時から
骸の海に還る【覚悟】は出来ている
どんな相手でも、絶対に引かない
私はあなたみたいに賢くないから
正面から受け止める事しか出来ない【武器受け】【怪力】
ダメージは炎で補完し、痛みは無視【激痛耐性】
でも、殴り合いなら…絶対に負けない!
UC発動
信仰の域へと達する強さへの自己暗示に呼応し、背負う焔は燃え盛る
身体にかかる負荷さえ勝利への意志で押さえ込み
全身全霊を掛けて『with』を振るう【重量攻撃】
あなたみたいな強い相手と戦えて私いま、凄く楽しいです
『結晶』は渡さない
猟兵がいる限り、あなたの目的は絶対に果たせない
ゼイル・パックルード
気が合いそうな相手なこった
相手は強敵、色々語る前に、補足されて攻撃される前に動き始める
高速で移動してスピードで撹乱
ま、形態変化されれば補足されて追い付かれるだろうが、それでいい。そうして相手の飛行能力は封じることを狙う
俺の能力では避けることも完全に防ぐことも難しい、だから刀でのガード狙い
思い切り跳び、空で攻撃を受けて吹き飛ばされることで、一撃を受けた後の追撃を防ぐ。
防御したところでダメージは受けるだろうが、何とかして身体は動かす
動かなきゃ炎で無理にでも動かしてやる
いかに反応速度が上がろうが、腕として特化させたその翼で、空でこの一撃を避けられるか?
最初に話してたら狙いがバレてたろ、同類
●
自己暗示こそ彼女の骨頂だった。
「――大丈夫」
繰り返す。口の中で、何度も発生して舌の上で転がして心を整える。
黒い剣を両手で握った。『with』と呼ばれ、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)のそばでともに世界を視てきた黒は、鈍く光った。熱に照らされていて、いつもより輪郭が赤い。そうっと撫でて、目を閉じる。
「どんな相手でも、絶対に引かない」
きっと。
彼女のことは、はた目から見た人間であれば病人のように見えるだろうか。
恋人ができたとて、剣を優先するのがこの結希だ。どこにいくにも剣を連れ、そばで戦ってきたつるぎを手放せない。
「――絶対に、負けない」
見上げた竜は、腕を一本喪っていた。
狂竜である。
肘のみが残った腕をじいっと眺め、その興奮と共にあふれ出る血を懸命に舌で舐めていた。血走る瞳はすっかり、夜に浮かび上がる赤い月のように輝きを増す。
「ふゥ――ッ……ふゥウウ―――ッッッ……」
動物らしい動きだ。しかし、やはり『学習』の気配がする。
おそらく次の攻撃は腕を狙えないだろう。失敗を繰り返すのならばこの竜の知能を最強とはいいがたいのだ。
ずっと結希よりも知能は高く、また、体力もあれば攻撃力も勝るだろう。
だからこそ、この竜を得意分野で相対してやるしか、結希には戦う方法が残されてはいなかった。剣を掲げ、構える。
――その横を、群青色の火炎と、真っ赤な紅蓮を連れた男らが過ぎ去っていった。
●
「サァ――やろうとも」
四の五の言わずに飛びかかったのは加里生・煙(だれそかれ・f18298)とゼイル・パックルード(囚焔・f02162)!!
ゼイルはまず、煙のスタートの合図とともに足元に爆炎を生じさせた。地面からの噴火タイミングと合わせてのサマーソルト・キックを竜にめがけて放つ。
あいさつ代わりの一撃だ。うまく入るとは思っていないが――「やっぱ早ェか」
強敵相手に言葉は必要あるまい。尻尾をしならせた竜種が彼の体を弾いて、空中にとどまらせる。
「猟兵よお前は闘争に何を見出す? 吾と同じことを求めているのだろうそうだろうそうに違いないお前だけだこの吾を見てただ飛びかかるのはお前だけだこの吾を見て恐れよりも悦びを感じているのは――!!」
「そうか? 猟兵も、アンタみてェに『真面目』ちゃんが多いぜ」
注意を引く。
ゼイルが空中でのジャンプを、己の爆炎で可能にしていた。手のひらから、足の裏から、胸から爆ぜさせれば体は縦横無尽に動くのだ。しかし、竜を必ず削るための攻防ともいえる。
「吾を縫い留めることが目的かそうだろう小さき狂戦士(バーサク)よそうに違いないお前の動きは実に豪快だが繊細だ」
「おいおい、解析が早いぜ」
「戦うことにのみ今生の意味があるそうだろう猟兵お前の命もそうだったのだろうッッッ!!」
振るわれる豪速の手を刀で受け止めたものの、ゼイルは地面に叩きつけられる。
「ぅ、が――ッッ、この、馬鹿力が」
背中の骨がきしんだ。
肩甲骨が震え、肩が脱臼する。剣を握った腕はいいが、縫い留めてある左は壊れやすい。手の感覚が不自然で、バランスを崩しながらまた背より爆炎を上げる!
二足の歩行で最初からかく乱しようとは思っていないし、この竜からの攻撃を避けきれるとも思っていない。追撃を防ぐために先ほどから空を跳んでいる。
『猟兵』に対する関心を寄せさせるのが目的だ。
「ィッ――てェッなこの野郎ッッッ!!」
爆炎を上げながら空を跳び、逃げ続けるゼイルを追う腕に抵抗する。豪速で動く竜を、――その有様を見て、煙は鏡を構えていた。
「おうい、時間だ。次は、俺の番だろう」
竜は、ゼイルのみを見ていたわけではない。
今の戦場に煙がいることも、剣を構える少女がいることも視界の端で見て覚えている。煙が声を上げてゼイルを呼べば、赤色が鏡を飛び越える。必然的にゼイルを追ったベルセルクドラゴンは、煙の――【鏡の中の貴方】を見ることになる。
「――やろうぜ。あんたが殺しを理解の手段として使うところ。嫌いじゃァ、ないんだ」
「また同類かお前もそうかお前も殺し殺されることで物事を理解しお前も戦いに昂りを感じお前も破滅に己の意義を乞うのか」
「そうさ、『真面目ちゃん』なんでな」
「ならば往こうとも猟兵よこの吾の衝動と欲望と知恵と殺意その身で受けて刻み込め学んで見せろ吾をも吸収するというのならばやってみるがいいッッッッ!!!!」
不意打ちよりも、マシだ。
五つの足で地面を蹴った竜が、煙の呼んだ鏡に追突する。
舌なめずりをして、歯を食いしばっていた煙が思わず風圧で呼吸を殺される。鏡に変形してある群青色の狂気の狼が、豪速で突っ込んでくる竜の衝撃に震えた。
「ぅう、う、お」
声を出す必要があった。息を吐けないほどの圧力なのだ。
平時であっても竜は煙より大きく強い。しかし、――闘志に燃える眼が、煙の戦意をそそるのだ。殺し、愛し、いつしか正義の殻を脱いで己の理解のために人を殺すようになる。葛藤ののち怪物へと至った男は――もう、「ふつう」ではあれなかった。
「おおおおお、ぉ、おおおお――――ッッッ!!!」
発動、群青色の獣が竜を押し戻す!!
「ぬううううううおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!?おもしろい面白いな猟兵この吾の力を完全に模倣した獣をその心でそして狂気で生み出したというのか実に実に面白いお前のことがもっと知りたくなってきたこの獣を解体することにする破壊だ破壊を繰り返そうお前の心をすべて砕いてやるッッッ!!!!」
額同士がぶつかり合うことになった狼の化生と、竜の均衡は、炎で覆われた首を竜が掴み、丸太のように振り回すことで決着がついた。
燃えながら空中で四肢をもがかせ、きゃんきゃんと哭く獣の痛みは直に煙に伝わる――しかし、煙の苦悶の表情は笑みがますます深まるばかりだ。
「ううううおおおおおおおッッッ!!!!」
ベルセルクドラゴンが振り回すたびに、狼はその牙を頭に突き立てんと首を動かしている。地面に叩きつけられて、下半身が動かなくなる。しかし、上半身の力だけで体をひねり、もがき、確実に鱗へ傷をつけていくのだ――。
「はは、はは――うつくしい」
地獄の様相を見て、汗ばむ煙が膝をつく。
「うつくしい、な」
煙の在りたかった姿が、そこにあるような気がした。視界は霞む。アジュアの体力に比例して煙の消耗も著しい。
そこを――結希が愛する相棒と共に斬りこむッッ!!
「ぁああああああああああああ――――ッッッ!!!!」
「来たか、猟兵――ッッッ!!お前も待っていたのだ己で己を狂わせ続ける少女よお前のことは見ただけで理解できるお前の脳はお前をだまし続けているのだろうどこまでお前はお前を強くする吾はその可能性も知りたいのだッッッ!!!!」
殴り合いになれば、絶対に負けない。
【焔の力、少し借りますね!】と心の中で念じれば、結希の背負った焔は吹き上がり、彼女を黒から灰色の存在へと塗り替える。
まるで対の羽をもつ天使のよう!
紅炎をまき散らしながらの突撃に、豪速で振り下ろした獣で対峙する!!
アジュアの身を切り裂かせながら、ベルセルクドラゴンは結希の『自己暗示』を見抜いていた――。
「ッく」
仲間の武器を執られて、――ましてや獣の姿をしている。
結希だからこそてきめんだったといえた。己の剣を愛している彼女には、仲間の「武器」を無闇に切りつけることに迷いがあった。その一瞬を竜は逃さない!!
「お前の弱さお前の弱点お前の空白まさにお前自身で産んだ呪いお前の思考お前の強さそのものであろうッ!」
「ぁ――ッぐぁ!!」
アジュアを大きく振って牽制し、結希の思考に空白を生んだ。竜はその隙に、鋭い爪で拳を作り、結希の体を容赦なく殴りつけるッ!!
頭から血を吹き出しながら、ぐらつく体から意識は離さない! 結希が地面に落ちながらも転がり、立ち上がるまでに――空を見た。
ゼイルが、竜に気づかれないまま宙を駆けている。
気づかれないよう、呼吸を止めてまた剣を構える。
「ッは、――」
「立ち上がるか猟兵お前の体はすでに損壊も激しい頭蓋からの出血は人間の体でもひときわ血管の数が多いのだあっというまに血が足らなくなるぞ」
「ご親切にどうも。あなたみたいな強い相手と戦えて私いま、凄く楽しんでるので」
「お前もか吾も楽しんでいるお前たちの様な生命体とはもっと早くに出会って戦い学びつくす必要があったのだそうすればヴァルギリオス様にも良い貢献ができたに違いない」
がるがると笑いながらベルセルクドラゴンが追撃の羽を広げている。
――猛突進が来る。きっと、次に直撃をしたら結希の体は爆ぜてしまうやもしれない。
ちらりと煙の方を見れば、不敵に笑んだまま気を失っているようだった。無理もない――アジュアの損壊も著しい。竜の手から獸が消えれば、あとは結希が時間を稼ぐのみである。
「『結晶』は渡さない。猟兵がいる限り、あなたの目的は絶対に果たせない」
「そうかそうかならば越えようお前の屍で吾の目的をひとつ前に進める証明とするぞ猟兵ッッッッ!!!!」
「いざ、尋常に――!!」
斬りあう。
背負った焔をまき散らしながら、甲高い金属の音が無数に響いた。
愛剣は刃こぼれ一つせず、己の体を守ってくれている。突き出された爪を剣で滑るようにして防ぎ、代わりに体を前に進ませる。弾いて、右に体をひねることで指の関節に剣をねじ込んだ。折られる危険性を考慮して、浅く傷をえぐるまでに済ませる。
さらに、追撃の翼からの拳には剣で応じた。平たいところを盾にして、吹っ飛ぶ。地面に転がり、炎熱に体を焼かれながら背より加速――衝突を幾度となく繰り返す!!
「はぁあああああああッッッ!!!!」
勝利への意志で、体への負荷はごまかしていた。
竜の意志と結希の意志がぶつかり、混ざり合う。黒と赤がぐるぐると渦巻く中で――上空から、男が剣を振り下ろした。
「よう、――忘れてくれるなよ、同類」
「何?」
忘れていたわけではない。
飛び出したゼイルがどこに行ったかを追いかけられないくらいに、煙と結希が意志をぶつけたのだ。己らの欲求、そして勝利への想いだけで――!!
狙うは、アジュアが――煙が先ほどからダメージを与え続けていた脳天の斬りこみ。
「消え失せな」
【鬼殺し】、魔裂が鱗に突き刺さる――!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオッッッ!!!」
「これが――私たちの意志ですッッッ!!」
驚愕と痛み、歓喜にあふれた雄たけびにゼイルが鼓膜を振るわされながら苦悶の表情と、闘争への凶悪な笑みを浮かべた。追撃――結希がその顎を大きく剣で殴るッッ!!
まさに、ノックアウト。豪速の剣が繰り出す衝撃に地面に背中から落ちた竜が、ひときわ大きく跳ねることとなった。
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
頭部位に損傷、顎部位の損傷
――それでも君たちは、狂っていることを誇って戦い続けるのだろう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
氏家・禄郎
君の別個体に僕の女が世話になった
礼をしに来たよ
さて、ここに君が欲しいグリモアがある
差し上げよう(手榴弾を着けて放り投げて、爆破に見せかけて手元に)
あら、壊れたね?
私?
とりあえずは全力で逃げるさ、一撃食らわないこと、食らっても立てることが重要だ
要は【覚悟】だね
ダメージがあれば煙管から煙を吸って自分に【マヒ攻撃】で痛覚をマヒ
本番といこう
さて、大きくなった気分はどうだい?
僕に殺意は十分、そして『大きすぎるほど大きくなっただろう』
【闇に隠れる】隙間は沢山
拳銃を抜き【クイックドロウ】で『戦術』の開始だ
【武器落とし】も絡めて、爪と牙と腕を潰して攻める
後悔しろ、俺の女を傷つけたことを
それが今、僕が立つ理由だ
リア・ファル
SPD
アドリブ共闘歓迎(おまかせ)
他の猟兵が来るまで耐え続ける
互いの学習力で勝負
(情報収集、学習力、偵察)
高速機動で受け、避け、捌く――
(操縦、武器受け、盾受け、時間稼ぎ)
「堪えてくれ、ヌァザ、イルダーナ……!」
顕現も危うい状態になっても、
流星のように墜ちるその時まで粘る
攻撃はしない、祈るのみ(祈り)
ボクは信じている
ボクの力も技も、戦艦としての全てでさえ
今のボクではかの暴威に遠く及ばぬとしても
理不尽に抗い、可能性の光をもたらすのは
機械でも、竜でもなく
神でも、悪魔でもなく
いつだって、ただのヒトだということを!
「暴威の嵐へ漕ぎ出す者へ星光(ステラ)よ、可能性を照らせ!」
【三界の加護・導きの星光】!
鹿忍・由紀
嫌に賢いやつもいるんだね
戦いたくて仕方なさそうなとこは本能で生きてる感すごいけど
まず敵の動きを見切って観察
動作の癖を学習して予測立てる
崩れる足場にもすぐ対応出来るように
可能な限り敵の攻撃範囲から外れるように動く
軽傷までならまあ御の字
痛みに怯む間も勿体ないし
激痛耐性で誤魔化して即座に距離を取る
話しながら頭の中整理するタイプ?
口閉じとかないと舌噛むよ
敵の攻撃が済んだらやり返さなくちゃね
見切った動作の隙へ一気に飛び込む
反応速度の早さに注意して
こちらも反応出来るように駆け抜ける
鱗の薄い、刃が通りやすい位置を狙って思いっきり斬り裂いてやる
随分楽しそうで何よりだけど
付き合わされる方はたまったもんじゃないよ
●
「――あああッ、くそっ、クソッ、くそォ――ッッ!!」
耐え続ける、というのがリア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)の選んだ状況だ。
ほかの猟兵たちの到着まで、刀によって頭を割られた竜の興奮をある程度納めなくてはならない。己が傷つくたびにかの狂竜は呼び起こされたことに歓喜し、その業を喜んで『極めて前向きな』攻撃に出た!
「早い速いな猟兵貴様のその力はテクノロジーだ宇宙の遥か彼方から機械を集めて作ったものだなその乗り物で一体いくつの星を駆けてきたそしてこれからもいくつの世界を駆けるのだああ知りたいッ知りたいぞッッッ!!!!」
「早いな、キミもさ――!!」
この竜め、と切り捨てなかったのは。
けして、ベルセルクドラゴンが猟兵を侮ることのない『学習し続ける』存在だからである。
リアはイルダーナに跨って、多元干渉デバイスヌァザの加減を見ながら操縦席にしがみついている状態だった。
リアの速さの分だけ、ベルセルクドラゴンもまた速度を上げる。
並走に至れば確実に危害が及ぶ。だから、リアは常に速度の限界を越えねばならなかった――ジグザグに走り時折旋回する。急なカーブを前に五足歩行の獣は動じず、『読んだ』動きをする始末だ。
しかし、これこそリアの戦場――『学習力』での戦いである。
「この戦いもまた趣深いそうだろう猟兵お前もこの争いを楽しんでいるだろう己の命を削り己の武器がいつ潰えるかわからないこの状況で高めあう喜びを知っているだろう!!」
「ああ――くやしいけどッ楽しいね!!」いよいよ『ヌァザ』では追いつかない。
熱暴走が始まっていた。
竜とイルダーナ、早さで言えばイルダーナのほうが勝る。しかし、イルダーナの唯一の欠点は『機械』であることだ。
環境は、機械にとって最悪の状況である。
二輪の形をしてなお空を制宙高速戦闘機で翔けているリアの体感温度だけでも目を疑うほどの熱量がある。外気は、すっかり蒸されて――かつ、活火山の熱気でイルダーナの冷却時間が取れない状況が続いていた。
「ヌァザ、自動操縦をオフだッ!! ここからは」
熱されて脳もやられたかもしれない。
汗ばむ額をぬぐう暇もないまま、リアはAIが学んだとおりの手順でリアに主導権を譲る工程を見た。
「――ボクが、やる」
ハンドルを、握る。
「なるほど操縦士を交代したのか正真正銘お前と吾は死合うことができるのか猟兵ッッッッ!!!!」
「ああそうさ!!この――ッボクと競争だベルセルクドラゴンッッッ!!」
リアは、己の操縦だけで勝負に出た。
AIの予測演算ではいずれ追いつかれてしまう。余計な負荷をイルダーナにかけるよりも、己の優れた脳と直感を頼りに竜と速さの勝負に出たのである!
胸元にぐうっと車体を寄せて威嚇させながら、地面に急降下――!!
「サーチ、ヌァザ! 猟兵(なかま)の反応は!」
「――あれ。お届けだったり、する?」
熱量にげんなりとした声が響く。
ヌァザの検出した反応は二名。うち、けだるげな一人の男からだった。
「頼んでないんだけどな」
「御礼は弾むよ――よろしくね!!」
●
彗星のような輝度である。
鹿忍・由紀(余計者・f05760)は、リアがベルセルクドラゴンを宙に連れて行ってからずっとその挙動を見ていた。
「冷静だね」
「まあ、何事も観察からやらないと効率悪いっていうか」
「その通りだ」
「時間ももったいないし」
付き合わされる方はたまったものではないし。
淡い色の髪の毛をくしゃりと掻いて、べっとりとした熱気に不機嫌な顔をする由紀である。
――尤も、彼の隣で迎撃の準備をとる氏家・禄郎(探偵屋・f22632)の不機嫌は、この熱気のせいではなかった。
由紀は、その理由を聞こうとして――止める。
リアが滑空してくるのを見たからだ。低空飛行に至れば、バトンタッチになる。
「始めようか」
「うん。お手柔らかに」
禄郎が、叡智を掲げる。わかりやすい動きに――意図が読めぬ竜がとまった。代わりに、二人の上をイルダーナが駆けて行く。
「ここに君が欲しいグリモアがある」
「おおそれは確かに吾が求める猟兵たちの予知能力の叡智である」
「差し上げよう」
嘘だ。
由紀からしても聞けばわかることである。しかし、探偵は当然のようにそれを放った。――ベルセルクドラゴンも、そこまで『愚か』ではない。
行為にまず警戒。そして、『結論』を待っている。
禄郎の叡智――グリモアの結晶が、『ブービートラップ』に等しい手りゅう弾の爆発で消えた。
「あら、壊れたね?」
「猟兵よこれは吾への侮辱か?」
「わかってしまった? 実は、君の別個体――まあ、結論は君だが、私、いいや、――僕は猛烈に腹を立てていてね」
冷静にあろうとするのに、声は怒りに震えている。
「僕の女が世話になった。礼をしに来たんだよ」
「そうかそうか愛する女はどのものか覚えているとも桜色の髪をした幼い風貌の女だ氷の竜で別の吾ともみ合いになりお前のように我に叡智を与えることはなかったこの茶番は宣戦布告だなお前の闘争は私情であるという証明をしたいがための時間だったということだそうであろう猟兵よだが赦そうそれこそ闘争の原理である雌を護るために雄が戦うのは当然の事よ」
「――うるさいな」
わかっている。
使命感よりも、きわめて私的な怒りが湧いていることなど。
だから、禄郎は――此処に立ってしまっている。
一度愛した人と別離した経験のある男だ、ようやく手に入れた二度目の花を、どこぞと知れぬ竜にいたぶられて黙っていられるほど肝が据わっているわけでもなければ、冷酷になれるはずもない。
「ならば闘争といこうではないか雄よ貴様のつがいの分まで吾と戦うがいい歓迎するぞ」
「おしゃべり大好きだなぁ、ねぇ――話しながら頭の中整理するタイプ? 口閉じとかないと舌噛むよ」
竜が不思議そうに禄郎を眺める間に――由紀が、ナイフを構える!!
さっさと終わらせてしまいたいのが本音だ。由紀からすれば、どこを見ても暑苦しい。本能で生きているこの竜などもってのほかだ、『賢い』という点もまた面倒くさいに違いない。
「早いな猟兵まるで蜥蜴の様だお前はなかなか捕まえるのに苦労する――」
「やだな、そのたとえ」
突き出される豪速の四肢に手をついて、ひらりと由紀は飛び越える。爪をいなせば手のひらにたどり着いた。場所の確認をしながら足は止めず――翔ける。
振りほどこうとした竜が暴れだす前に飛び出す。空中で浮かんだ由紀の体を、別の腕が狙った。
ナイフを掲げて、その勢いを少しばかり殺す。
――ずきりと右肩が痛んだ。しかし、顔には出さない。
「ごまかすのか叫んだ方が体にもいいぞもっと楽しむこともできようとも闘争とは常に前へ往くものだ」
「お気遣い、どうも――でも、いいよ。時間がもったいない」
そのまま、爪で弾かれる。
腹から血があふれた。内臓の損傷がないことを祈りながら地面を滑っていく由紀の体である。しかし、猫のように身軽な動きで左手のみで手を突き体操のように美しいフォームで立ち上がって見せた。
手のひらは剥けて、顔は煤まみれだ。面倒くさいことがどんどん増えて、不機嫌は加速する。しかし、――終われば、どれも手早く済むことだ。
「本番といこう」
「やっと?」待ちわびたような温度を少しだけ孕んだ由紀だ。心の整理がつく前に動かしたほうが、損が大きいゆえに急かしていない。
「すまない――ちょっと、頭を冷やしたよ」
空気を読んだ仲間に詫びて、煙管を咥えた禄郎が煙を吐きつつ感情を麻痺させる。
拳銃を手にした禄郎が、竜の視線から隠れるようにして岩場に転がった。
「逃げるのか猟兵お前の雌を痛めつけた吾に復讐の戦いを挑め雄として吾と戦うがいいそして貴様の可能性を見せろその叡智を輝かせて吾にもう一度その素晴らしさを教えてみろッ!!!」
「――冷却完了、お待たせ」
禄郎がリボルバーの弾を確認したところで、『勝利の女神』にふさわしい声が通る。ベルセルクドラゴンが、空へと視線を向けた。その隙に、由紀も動く。
「お届けに来たよ、みんな!」
由紀が、血まみれの腹を抱えながら走る。口に咥えたナイフが彼の戦意だった。
禄郎が――己の銃を構える。一撃で済むとは思っていない。だから、じっくり怨敵の観察をしていたのだ。
そして、リアが。
「見せてあげるよ、終焉竜!! 理不尽に抗い、可能性の光をもたらすのは! 機械でも、竜でもなく、神でも、悪魔でもなくましてや、叡智でもなく!」
起動。
――暴威の嵐へ漕ぎ出す者へ星光(ステラ)よ、可能性を照らせ!
煌めくリアの体は光の粒子が護る、そして、禄郎と由紀を包んだ。痛みが不自然なまでに消えた由紀が、口に咥えたナイフを右手で握り――飛び出す。
「いつだって、ただのヒトだということを!」
これぞ、【三界の加護・導きの星光】!!
仲間たちの強化のためにリアが施した光は、由紀の体を守り、禄郎に十分な狙いを定めさせるに至る!!
異常なまでに視界が晴れて、禄郎は照準を合わせるのに手間取ることはない。情動を押し殺して、押し殺した末に出た言葉は――かみ殺した怒りだった。
「後悔しろ、“俺”の女を傷つけたことを」
【戦術】。
リアの輝きに目を奪われた狂竜の関節に鉛玉が撃ち込まれる。――観察するのをやめられないはずだと踏んだための命中だった。
それから、ぐらりとバランスを崩したところを由紀の刃が襲う!
「ああ、やっと――ちょっとはすっきりするかな」
【絶影】が、黒の体に無数に走った。
破魔のまじないが施された刃で、身軽なまま繰り出す斬撃がベルセルクドラゴンの鱗に亀裂を生じさせる!!
「ぐぉ、お――」
四つん這いになった竜は、唸りながら地面に手をつき頭を垂れる。
その様が土下座のように見えて禄郎は――少しだけ、笑っただろうか。
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
鱗に損傷、各関節部にダメージ。
――人間の中で一番恐れるべきは、叡智ではなく、それを操る心である。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルテネス・エストレア
◎
あの思考力、思考しながら最適解へと導く高速演算力
どれを取っても純粋な恐怖心しか抱かないわ
けれど臆してばかりはいられない
全力を以てあなたの物語を終焉へと導きましょう
わたしの【全力魔法】を魔導書へと注ぎ防御の結界を施すわ
聖なる星の加護を此処に
幾重にも張り巡らせた白き星光の結界がなにものからも護り、そして攻撃手の生命力をも奪い取りましょう
攻撃の隙を見計い、魔導書に込めた防御用の【全力魔法】を攻撃用へと転換
招くはすべてを焼き尽くす炎の嵐
この炎でオーラごとあなたを焼き尽くす
これはあなたの世界を焼き尽くす炎
神話の時代の災厄を此処に
終焉無きものなどありはしない
あなたも、わたしも
さあ、存分に殺し合いましょう
七瀬・麗治
こいつか、たった一匹で古竜を滅ぼしたってのは。目がイッてるぜ、絶対ヤバイ奴だな。
敵はまず自分を強化して殴りかかってくるだろう。
警戒すべきは拳での打撃のほか、尾のなぎ払い、踏みつけなど。〈見切り〉で動作を見極めて対処したい。
サイボーグホースに騎乗し、奴の注意を引くよう周りを走る。黒剣を構え、鎧から混沌の炎を噴出して〈武器受け〉〈オーラ防御〉の2段ガードの構え。〈気合い〉〈激痛耐性〉で意識が飛ばないよう持ちこたえ、【地獄への扉】を発動。馬の上から空へ飛び上がり、記憶消去銃で顔を狙う。光線を目眩ましに使い、本命のロケットランチャーを鼻っ面にぶちこんでやるぜ。
アルトリウス・セレスタイト
お前には無為に終わって貰う
先制含め自身へ及ぶ攻撃は『絶理』『無現』で干渉を否定し影響を回避
戦況は『天光』で常時把握
全行程必要魔力は『超克』で“外”から汲み上げる
破界で掃討
対象はその経験や能力を含む帝竜の全構成要素
それ以外は「障害」故に無視され影響は与えない
高速詠唱を『刻真』で無限加速
多重詠唱を『再帰』で無限循環
『解放』で全力の魔力を注ぎ、展開すれば天を覆う無数の魔弾を瞬刻で生成
更に『天冥』で因果を歪め過程を省略
生成と同時に着弾させ即時討滅を図る
消えずとも経験、知識、それに支えられたユーベルコードは剥がれ落ちていくぞ
精々急いで俺を殺してみるが良い
※アドリブ歓迎
玉ノ井・狐狛
◎
ガタイがよくて動きが速くて身体は頑丈
しかも最初から狂っているんじゃ、煽ってもしょうがねぇ
🛡️
付け入る隙があるとすれば三点
ひとつ、高い知能ゆえに、動作の背景に意思があるコト
ふたつ、戦闘経験の大半が対古竜で、対人は乏しいだろうコト
帝竜サマの気性と行動理念を念頭に置いて先読み
腕力じゃ勝てねぇからな、使うなら技術だ
障壁としてではなく、自身の表面を覆うように▻オーラ防御
ダメージを抑えつつ合気の技で打撃を捌く
⚔
――みっつ、学習能力が高いコト
未知の技術を学習し、アタシの裏を掻こうとする……そこが最後の隙さ
本来より確実に動きが粗くなるだろ。その一瞬が勝機
◈心中はノーサンキューだ、ひとりで殺されといてくれよ
●
全身が刃で切り付けられ、関節への損傷も著しい。
しかし、竜はやはり己の傷を確かめるように――それを眺めていた。時折爪で触れて自ら傷をえぐる。あふれる血色こそこの竜にとっては新たな発見で在り、確かめるたびに学びがあったのだ。
「――こころかこれがこの吾に傷をつけるほどの猟兵のこころであるそれは何処にあるかなどまだ学術ですら証明ができないものだ目視できぬ強さとは恐ろしくも激しいものでありこれこそ吾が求めるにふさわしいやはり猟兵は解体のためにも殺しつくさねば」
常に思考。そして、最適解を探るための高速の演算力。
――純粋な脅威そのものを前に、固唾をのんだのはルテネス・エストレア(Estrellita・f16335)だ。
ブックマーカーのヤドリガミであるゆえに、「知識」の恐ろしさは知っている。愛らしい鳥の子色の柔らかな長い髪を、熱された空気に焦がされながらも感じるのは焦燥だった。
臆してばかりはいられない。――終焉には終焉を与えてやるべきだ。
「災厄そのものだわ、あなた」ルテネスが息を呑む。それだけでも、人の体は喉から焼けてしまいそうだった。
「災厄などとは程遠かろうこの吾など所詮腹心猟兵たちの持つ叡智を奪ってそれを知った時こそこの吾の命から学んだヴァルギリオス様こそ其れで在るべきであるそうだろうそうに違いないともさァ殺しあおう殺し殺しつくされお前達からもっともっと学ばねば」
「やめときな、煽ってもしょうがねぇどころか火に油だ、いいや。ガソリンか?」
玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)は、目を細める。
対峙した竜は確かに頭脳明晰だ。ゆえに狂っている。
己の知りたいことのために全力を尽くし、暴威そのものの体を振るうことにためらいがない。殺されることにすら、それを糧にするためならば喜んで受け入れてみせようと嘶くのだ。
「――気狂いにつける薬もねぇよ。そうだろ?」
「ほうよく解っているではないかそこな狐よ吾が破綻していることなどはこの身が潰えた時より理解しているしかしそれゆえに吾は死んで尚学び続けることができるのだ故 に 最 強 故 に 完 全 故 に 吾 が 覇 道 に 獄 炎 在 り ッッッ!!――ヴァルギリオス様への道を拓こう貴様らの屍でなァアアアアア――――ッ!!!」
発動、【ベルセルク・レイジ】!!
傷を得たヴァルギリオスは、己のオーラを身にまとう。炎熱を表す黄色のポイントから真黒な煙を吹き出し、狂える竜はさらに狂いだす!!
「ぐぅうううおおおおォオオオオオオオああぁあァアあアアアアアアぁあああああア―――――ッッッ!!!!!」
吠えた。
それだけで、狐狛とルテネスの小さな体が吹き飛ばされる!
「うぉい、マジかよッ!?嬢ちゃん捕まれッ」
「きゃ――」
小細工なしの純粋な威力増強ッッ!!
吹き飛ばされながら狐狛が己より少し小さなルテネスの腕を引く。握られた腕から、ルテネスが魔道を起動した。
プロテクト・オープン
「防御魔法を発動します!」
「任せるぜ、――大物だ、どでかい、アタリだ!」
星光の結界で二人の体を包み、球体のように張り巡らせれば二人は毬のように転がりあうことになる。炎熱をうねらせる地面に体を焼かれるよりはずっといい――思考の時間も与えられた!!
「『みっつ』揃えりゃ『鳴ける』――頼むぜ、鬼より虎より怖ぁい兄さんたち」
「任された。報いよう」
「――目がイッてるぜ。よう、ヤバイ奴」
黒が、二つ――翔ける!!
転がっていった少女二人を飛び越えて、サイボーグホースに跨る七瀬・麗治(悪魔騎士・f12192)は手綱を握りながら低く唸った。屈むようにして体勢を引くくし、加速する愛馬に合わせて空気抵抗を避ける。
そして、速度と音波、その衝撃波を無視『しつづける』のがアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)だ。
「お前には無為に終わってもらうぞ」
「ほうお前はただの猟兵ではないようだな猟兵はどれも風変わりで一般的なものが見当たらず平均が定めにくいのが面白くてたまらない学び買いがあり殺しがいもあるということだッッ!!」
麗治に向かっては、ベルセルクドラゴンが尻尾をしならせる。
空気に悲鳴をあげさせ、衝撃波を生み続けるほどの速度だ!機械馬の横腹を蹴って麗治が飛び越えた!!
「マジで、どういう、ッ、脳の構造してんだよォッッ!!!」
鎧から混沌の焔を吹き上がらせ、【地獄への扉】に至る!!
黒い鎧に身を包みながら赤目はひたすらにかけ続け、眼光を残しながら攻撃の気を伺う。飛び散る火の粉や地面の隆起を体にぶつけながら、痛みにこらえてひた走る!!
本命は、わかりやすく背負ったロケットランチャーだ。
――しかし、もう一つある。アルトリウスが魔力を“外”からくみ上げだしていた。
灰色の体が青白く光り、息をゆっくりと吐きだす。
空中にぼんやりと浮かんだアルトリウスが――目を閉じて、次に開くとき!!
「何? おのれ猟兵お前この埒外より力を汲み上げこの吾の干渉を全て無効化しているなお前はこの世界の理すら触れてみせるのか」
麗治を追いかける尻尾とは別に、アルトリウスをまるで虫を手で殺すように挟んでみせようとした手が空で固まっている。
ベルセルクドラゴンの推察と理性的な考察に――灰色の男が眉をひそめた。
【破界】はもはや呼吸だ。
無限加速のことわりと、多重詠唱の無限循環を体の中で行い続けるアルトリウスが違和感を感じた。
「帝竜――」
無限の砲弾が注がれる。
見上げたルテネスが「わ」と声を上げたのも無理はない。ベルセルクドラゴンはどんどん蒼い光に押し込まれていくのだ。どう見てもアルトリウスのほうが優勢であるのに、緊迫は取れない。
ずりずりと足のつめあとで地面を掘らせる――しかし、ダメージの数だけ体は復元と崩壊を繰り返している!!
「そうだとも気づいたか猟兵吾は貴様を討滅するに一番良い方法を考えついたのだそう貴様が操るのが世界の理だというのなら吾は――」
ぞわり、と。
己の背がなぜ泡立つのかは、アルトリウスにはわからぬ。
「世界を壊すその理を殺すその式を否定しお前がそうするように吾もそうしようッッッッ!!嗚呼いい学びだ感謝するぞ猟兵――!!」
「面白い。精々急いで俺を殺してみるがいい――!!」
経験や知識が剥がれ落ちて行っても、この竜は「未来」を食らう「過去」である!!アルトリウスの無限砲弾を体で受けながらもなお、竜が前に出た!!
「ォオオオオオオオオオぉおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」
もはや、咆哮で起きるのは大地震に等しい。
舌打ちをした狐狛が、「花火の準備だ、頼むぜ」とルテネスの背に触れる。茫然とした少女の体を軽く揺らされ、はっと意識を現実に戻すことになった。
――終焉そのものだ。
何度見ても、その巨躯に抱く恐れは変わらない。
まるで神話の終わりのように。まるで、『物語の終わりのように』。
「――終焉竜。わたしも、あなたも」
足を一歩踏み出す。
小さな歩幅だった。しかし、竜はそれを見逃さない。狂える眼は青白い弾に弾かれながらその『破界』との殺し合いを続けるかの暴威が、ちいさなルテネスを見ていた。
息が詰まりそうになる。
それでも、――手を掲げた。
「存分に、殺しあいましょう」
それが、ルテネスの考える『終わりの始まり』である!!
クロニクル
発動、【時結】!!
暴走しやすい大技だ、無理もない――神話の焔を渦巻かせる術式は暴竜そのものを締め付けるようにして襲うのだ!!
「ぐぉォ、お」
「させねぇよ、あんたに三度目はねぇって」
渦巻く焔が相手だ。
もちろん吹き飛ばそうとするだろう。暴走する炎熱はどう見ても統制は取れていない。それは、狐狛からでも理解できていた。
「あんたの弱点は、三つある。素人考えで恐縮だが、まァ聞いてみてくれよ。好きだろ、こういうのさ」
三つ、指を立てた。
――殺意のこもった瞳が、狐拍を炎と青の隙間から見つめる。
「おっと。お口にはチャックさせてもらったぜ。いや、ギャグボールかもな」
【復讐するは彼らにあり】。
視線を感じた瞬間には、すでに手札が「表」になっているのだ。
狐狛は、竜を見上げる。――あぎとが黒い呪詛で巻かれていた。
「ひとつ、高い知能ゆえに、動作の背景に意思があるコト。だから、頭のよさそーな兄さんとしゃべってもらったのさ。夢中になる」
アルトリウスが、体の軋みを憶えている。
人間の器が彼の弱点だ。完全無欠の体は、帝竜との力比べに悲鳴を上げ始めていた。
「ふたつ、戦闘経験の大半が対古竜で、対人は乏しいだろうコト。小さい女の子から殺しとくべきだった。あの嬢ちゃんは、――意志が強いぜ」
ルテネスが、竜の暴威を縛り上げるための炎熱で器を焼かれている。
目を細めて、ほほに水膨れを作り――それでも、逃げていなかった。悲鳴をかみ殺した表情で竜を見据える。
「腕力じゃ勝てねぇからな、使うなら技術だ。そんで、悪いがアタシはあんたと直接やりあう気はねェよ。このあとも仕事がある、腕でも抜けてみな。治す時間が惜しい」
首を振りながら、――大きな耳が音のありかを探っている。
「お前何かを隠しているな」
ぎ、ぎ、と呪詛を顎の力で引きちぎりながらも呻き、しかし声が笑っていた。
やはりこの竜は狂っている。――この状況を楽しめる戦狂いだ。
「さてね。そして、それがアンタの弱点だ。――みっつ、学習能力が高いコト」
「何故だ吾は学ぶ止まらぬゆえにこそ最強吾こそ古龍を全て殺した唯一の終焉である吾が強いのは学ぶ故だ常に学び続けている貴様の術もな」
「そりゃァすごい。――だが、だからこそ気づかないかい?」
体中に砲弾を受けても生命力は活火山より吸い上げることができる。ゆえに常に崩壊と復元を繰り返す状態に陥って尚ベルセルクドラゴンはアルトリウスの術式と、ルテネスの焔を食らいだしていた――!!
「 解 ら ぬ と も ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! 」
「――じゃあ、アタシたちには勝てねぇよ」
馬から、飛び出した。
眼を光で焼かれる。それが何かを視認しないうちに、ヴァルギリオスの視界は一瞬奪われたのだ。
砲弾と炎熱が止んだのは、コンマ単位の空白。その間に――麗治が繰り出す!!!
「 ぶ ち こ ん で や る ぜ ッ ッ ッ ! ! ! 」
「役満だ。痛い目見やがれ」
爆炎。
麗治のロケットランチャーが見事ヴァルギリオスの咢に命中!!!
「う゛ぅうううううぉおお、おおおおおおッッ!!!」
牙でロケットランチャーを受け止めたしぶとさに麗治が舌打ちをして――それを、アルトリウスが蒼光で『もう一押し』した。
「爆ぜろ、終焉竜」
「そして、覚えていてください。終焉無きものなどありはしないと――!」
逃げようとした体を炎熱で焼く。ルテネスの焔が蛇のように巻き付いてしまえば――かみ殺せなかった勢いで人間の兵器は暴竜の顔面、その右を炸裂させた!!
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
全身への損傷、顔面右の巨大な負傷。
――大きいものを知ることが悪いのではない。小さきものを知らぬのが悪いのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アース・ゼノビア
【庭】WIZ
噂違わぬ狂竜か…話は通じそうにない、な
お引き取り願おう
あの力、まともに受けたら堪らない。ならば流し凌ぎきるまで
楯の名に恥じぬよう、俺も覚悟を見せようか
オズ、ルゥーとも協力し
全力魔法で紡ぐは拠点防御の風結界
地形の利用で陽光を背に、多重詠唱で光撃を放ち
敵竜の力を受け流しざまの目潰しを狙う
初手を凌いだ後も生命力吸収を警戒し
オズが急所を攻め易いよう、気を引いて時間稼ぎを
常に距離を取って風魔法を纏い、オーラ防御で守りを固め
衝撃はカウンターによる衝撃波でなぎ払い去なす
UC発動はルゥーとタイミングを合わせ
水竜の凍てる激流で頭部を狙う
力を貸してくれ水竜
あの暴虐の魂には
常世で頭を冷やして貰わないとな
オズウェルド・ソルクラヴィス
【庭】WIZ
その咆哮に血が沸き立つのは
確かに己も『竜』なのだろう―
けれども
―手にしたモンが違ぇんだよ
共に居る二人を感じ取りながら
真向から嗤う終焉を見つめ
紡ぐ竜言語にて己の魔力も注ぎ二人の魔防を強化し
迫りくる初手を共に対処
奴が体制を整える前に
UCと共に火炎の槍を生成し
カウンターにて頭部に撃ち放つ
四腕、能力増大、生命吸収には
野生の感、向上した身体と共に見切りにて全力回避
捌けぬ時は、魔力を込めた武器受けとオーラ防御で弾くor防御
援護に合わせ
体制崩しも狙い
地に槍を突き刺し
最大級の魔炎を地脈に沿って竜の足へと叩き込む
合図は二人のUC
同時に紛れつつ上空へ
―終焉だ
強化した己の全てを込め
その首に槍を振り下ろす
ルゥー・ブランシュ
【庭】WIZ
―すごく怖いけど
アナタに、この世界を壊させたりしないのっ!
暴君の異常さを肌で感じながら
だからこそ使うは、自分たちを守る魔法の防御を!
全力で光のバリアをアースに合わせて張り巡らせる
一撃を防ぎ、オズ、アース、自分へと祈りを込めたバリアを付与
距離を取り、直接攻撃が来ない位置取り心がけて
二人に攻撃が集中しないように
範囲魔法の光の矢で増えた手や頭を狙う
自分にも攻撃がきたら
バリアの上にオーラを重ねて防御を全力で固めるの!
そう簡単に、るぅーだってやられないもんっ!
アースと共に息を合わせて最大魔力で詠唱を!
もうこれ以上あばれるの禁止なんだからっ!!
本を花びら変え
全力で頭に一発おみまいする!(UC
●
「噂違わぬ狂竜か――話は通じそうにない、な」
友が唸った。
怯えと勇気が混じる。それでも迎え撃つのだと彼の意志が語り、臆する心を完全に律していた。得た冷静を先延ばしながら、呼吸を整えている。
「すごく、怖いけど」
また、隣では女の友がいた。
連れ添う竜の腕に手を添えている。恐怖で冷たい汗をにじませていた。
周りの熱気があるというのに――つめたくてふるえた細い指だ。
「戦うの、そうでしょっオズ!」それなのに、健気に微笑む。いつも通りの笑顔を忘れない純真な『かぞく』を見た。
「――ああ」
オズウェルド・ソルクラヴィス(明宵の槍・f26755)は、背負いし相より衰滅した、暁星たる古代種の末子である。
夜空を見て育った竜の仔だ。星の巡りを見ながら、世界の始まりより放浪の旅に出ている。いつのまにやら家族になった白桜のルゥー・ブランシュ(白寵櫻・f26800)を連れて、アース・ゼノビア(蒼翼の楯・f14634)の緩やかに世界と付き合っていくために作られる庭で――めぐり合わせがあった運命であった。
目の前の竜は、口から煙を噴き上げながら痛みを吸収している。
「活火山から命を奪ってる。回復するね」
オズウェルドの耳には、アースの観察が聞こえているようで、どこか遠いものになっていた。
『竜』として生まれた己の宿命だ。
「オズ?」
「――悪ぃ」
全身から泡立つような興奮があった。体中が目の前の『終焉』との闘争を求めている。それが恐怖ではなくほとんどが呼応の様な悦びであったことが、ことさら自覚させるのだ。
オズウェルドは、竜種である。
いにしえの血が目覚めて、まだ幼い仔の体を駆け巡る。瞳孔が丸くなって、平時をポーカーフェイスで過ごす彼の心を彩ってしまっていた。
「オズ」
「大丈夫だ」
「違うだろう。落ち着いて、オズ」
アースを安心させたいがための反射的な言葉にまだ理性があったのに、意味がないことだと後で思考が追いつく。極度の興奮状態だった。
「おお次なる猟兵は竜をつれているのかお前そう小さなお前だお前はなぜ竜でありながら猟兵たちの味方になってやるのだ吾は否定しない吾はその理由を知りたいのだ竜種の世界を再び作り上げる帝竜様に下らないのは理由が在ろう」
「オズ、まともに聞かなくていい」
「オズ――」
アースの呼びかけと、小さなルゥーのぬくもりで、竜の仔は「オズ」の意識を掴む。
「しっかりして、オズ!しっかりしなきゃ! るぅーがたおしちゃうんだから!」
己らを見つめる暴君は、狂えどもその身をまだ放たない。
ルゥーがすかさず己のコードを編んだ。【嵐桜】はまず、真っ白な桜の花びらを薄く敷き詰めて空間に張り巡らせる。それは、オズと狂竜を明確に「線引く」ような壁だった。
はかなく、脆い壁だ。竜は首をかしげている。
「――風よ、そして、水竜よ」
オズの前には、【神竜の啓示】が満ちる。
美しい鱗の青い体は、友たる人間の守るべきものを護るためにともに在った。
「お前たちの情動は吾にわからぬ家族かお前たちは見えぬ絆でつながっているそうか群れか群れならば竜が護りたくなるのも仕方ないいやしかし竜は人と群れる必要はないだろう違うか稚児よ違うか小さな竜よお前は飼いならされているのではないか」
「――違ぇ」
『竜』の問答を拒否する。
首を振ってから、オズはしかりと己の武器を手にした。
「『アンタは偉大だ。オレよりずっと長生きで、強いんだろう。だが――手にしたモンが違ぇんだよ』」
【焔竜の緋氣】が、若い竜の体を焼いた。
眼を見張って、殺戮の象徴は駆けだすッッ!!!
「小さい手からも体からもあふれるほどの大きなものを手に入れてずいぶん傲慢に育ったと見えるぞ雛よそう怖がらずとも直人間たちと共に葬ってやるさあ牙を見せろいいや待てないな吾からだ吾がお前たちを襲う吾が殺すのだッッッ!!!!!!」
「来るぞ――ッッ!!」
アースが雄々しく叫ぶ。
現役の聖騎士がとどろく開戦ののろしだ。まず、長けた彼が前に出る!
「ほう余程腕に自信があるとみえるぞ花の種族め刈り取ってくれよう」
「――どうかな、そう簡単に手折られはしない!!!」
踏み込み、そして一閃。しかし腋を占めて、腰をひねるようにした一撃はまず狂竜の腹にぶち当たる。
アンロックだ。氷に似た魔石をはめた剣は、ぎちりと竜の腹筋に食い止められる。
抜けない――ならば、胸を蹴って抜く!!血を吹き出した腹を抱えることなく、竜は追撃をかける!!
「さあ次はどうするお前の竜かそれともあの小さな竜かいいやお前の風かあの桜の稚児か」
「読まれてるな。さすが、最強だ」
冷静だった。
「アース!!!!」
悲鳴である。
ルゥーのものだった。竜の腹から剣を抜いたアースの体を、狂竜の腕が突き上げる。みぞおちに入った鋭い拳に、アースが一瞬気を失い――しかし、痛みに引き戻される!!
「ッは」
吐き戻す唾液と胃液、そして血――を確認するよりも早く、『軽く突き上げただけ』の拳を防げなかった風が遅れてやって来て『決定打』の膝を食い止めた!!
「ほう気を失わないか大した度胸よ大した経験よそして大した心だお前のことも何度も殺して解体して学びにしたいものだお前は一体何度死ぬ?」
「――っが、ァ、ッ、ふふ、ッ、いっかい、かな゛ッ」そして、そのまま風の魔術で体を飛ばして距離をとる。二人には背中を見せるようにして、ベルセルクドラゴンは完全にアースに夢中だった。
宙を浮いたアースからは、戦慄く二人の視線が見える。それでいい、と薄く目を細めた。
二人を護るようにして水竜がとぐろを巻いていた。きらきらと光る鱗で――太陽の位置を確認する。アースの体が、太陽を隠すようになれば水流は蒼さを暗くさせた。
「ぐゥ、おッ」
光撃だ!!
アースの体に受けた衝撃の分だけ、それは放たれる!!
どう、どう、どう、と地面をえぐり、大地を隆起させながら――張り付けるように狂暴を食い止める!!!
「水竜!!」
そして、合図とともに氷の津波が襲った!!
凍てつく大地の勢いに飲まれて、太ももまで凍り付かされたベルセルクドラゴンが体をこわばらせる。――動きが鈍った!
「やぁあああ―――っっ!!」
生まれた隙に、桜の花びらが奇襲をかけた!!
はかなくも小さく、そして美しすぎる白い桜が勢いを増して光の矢となり――アースの風に乗って竜を突き刺していく!!
鱗の間に滑り込み、弱った関節をまた壊れやすくさせて、爪を割り、切り取り線の入った体をより刻む刻む刻む刻む――!!
「るぅーだってやられないもんっ!」
「おのれ」
「ひぇ」
冷えた声だった。
ぎょろりと、狂う目がルゥーを見る。
「怯むなルゥー!! 続けてッッ!!!」叫んだアースが意味するのは、この狂暴竜の再生だ。傷を負った分だけ力を増し、狂い続ける竜である。常に、学習をするのだ――ルゥーの桜に対する抵抗力をつけた鱗が再生すれば、桜はただただ再生の炎熱に焼かれて消えていく!!
「お前から殺すかそうだお前から見せしめにしてやろう幼い命を散らせてやれば人間はどこまで狂うそして竜は何処まで堕ちる?お前たちの弱点がわかったぞその娘だお前だ 桜 色 の お 前 だ と も ッ ッ ッ ! ! ! ! 」
「――っあばれるの、禁止なんだからぁっっっ!!!!!!!」
氷を砕き、竜が暴れた。
走る動きはあまりに早い。アースの風と水流の氷で動きを衰えさせているはずなのに、どんどん強化される。ルゥーのもとにたどり着くまでそう時間はかからない。
恐怖だった。
そこにあるのは、ただ、――猛烈な。
「ルゥ―――――ッッッ!!!!!!」
叫ぶアースの声が合図となる。
竜は、目覚めの時が来ていた。
ルゥーめがけて振り下ろされた腕が、受け止められている。
オズウェルドの二又槍だった。ちょうど、穂先で挟むようにして竜の腕を押し上げている。
「おお竜よ――」
「俺は」
押し上げる。まだ、押し上げる――!!
ぎちぎちと竜の左腕を持ち上げて、幼い竜が息吹を吐いた!!!
「俺は、オズだ」
――爆炎!!!
オズの焔が溜まった証だった。
仲間との絆を感じ、それを脅かされる怒りが彼を目覚めさせる。
ひとと共にある竜へと――守る焔竜へと姿を変えさせるのだ!!!
低く唸る竜は、終焉竜の体を崩させる。持ち上げた体に、足の踏み込みを合わせた。地面からの炎熱を手繰り、氷を割らせて風の魔術に勢いを増させる。
アースの計らいだった。
「いけ、オズ」
焔が燃えるために、桜をくべる。
それは、ルゥーの気持ちだった。
「やっちゃえ、オズ!」
「終焉だ――」
槍の尻を、地面に突き立ててれば竜が二匹、爆炎と共に空に討ちあがる。予想をはるかに超える成長、そして目覚めに暴威は目を白黒させていた。
これが未来、これが、可能性。これが、――猟兵ッッ!!!
全力の一撃。竜の首めがけて確かに、槍が振り落とされた!!
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
頸部への大きな損傷。氷に弱体化。鱗の軟化。
――次世代は、旧世代を超える。それは、どんな生き物であっても。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジュジュ・ブランロジエ
◎△
私も探究心はあるほうだし未知の可能性にわくわくする気持ちはわかるけどちょっと極端すぎるね
私達の力は読み解けないと思うよ
力を合わせれば無限大になるから
オーラ防御を展開しつつ早業+フェイント+足場習熟で大きくなった竜の体を駆け上がる
手足が大きくなった分攻撃を見切りやすくなるかも
動き続けて攻撃回避
星の幻想劇で攻撃力を高め竜の眼を狙って光属性衝撃波(メボンゴから出る)を二回攻撃
一瞬でも目潰しになれば
他の猟兵がいる方と逆側or背中側に飛び下りて傘で空中浮遊
怪我しないくらいの高さになったら手を離して早めに落下
再び星の幻想劇(攻撃力重視)の後、竜の足にナイフ投擲
風属性付与し勢いをつけて深く抉るように
七那原・望
スケルツァンドに【騎乗】し【空中戦】、最高速度を保ったまま接敵、戦闘を開始します。
常に低空を飛行し、【第六感】と【野生の勘】で敵の動きを【見切り】、特に足と尻尾の動きに気を付けながら敵の股下周辺で戦います。
相手はこちらに対する殺意で凄まじく大きくなるはず。
だから足と尻尾の動きに気を付けて最高速度を落とさず戦えるなら股下の方が却って安全なはずです。
【Laminas pro vobis】に愛する人の元へ帰るという強い願いを込め、【多重詠唱】した【全力魔法】をセプテット、オラトリオと共に【一斉発射】の【乱れ撃ち】、短期決戦を狙います。
その狂気と呼ぶべき殺意、それ自体があなたの弱点なのです。
アルナスル・アミューレンス
◎
おー。
凄い熱意だねぇ、関心関心。
確かに、グリモアが何なのか、僕も気になるねぇ。
でも、
君の抱えた力も、知識も、気になるねぇ。
――食べさせてよ。
さて、元々でかいのに、どれだけでかくなるんだか。
その間に動ければよし。
動けなきゃ、第六感と戦闘知識をフルに働かせて動きを見切り、逃げ足撒いて攻撃範囲から退避しましょうかねぇ。
さぁ、動きはある程度見えた。
君の一切合切、『枯渇(ウバウ)』よ。
我が身より溢れ出すは黒き不定形の異形。
それは「死」の奔流であり、大嵐である。
全てを喰らい、飲み込み、消し去る。
時には壁であり、槍でもある。
迫る脅威を防ぎ、貫き墜とし、捕食し尽くし、飲み干す。
是は戦いではなく、蹂躙である
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
あーあー良い良い
もう喋るんじゃない
貴様の口上は頭が痛くなって来る……
純粋な殴り合いは得意だ
搦手の相手をするより楽で良い
起動術式、【怒りに燃えて蹲る者】
呪詛で竜鱗を強化
まずは飛行能力で上を取ろうか
攻撃は第六感で見切り、間に合えば氷の障壁で防御する
不可能であらば鱗で受け止めてやろう
生憎と守りは硬くてなァ!
ではお返しだ
体重を乗せた重量攻撃に氷の属性攻撃を加え、思い切り爪を叩きつけてやろう
一撃離脱を心掛け、翻弄するように動こうか
私の愛する世界を
私の大切な奴らが愛するものを
守る意志に敵うと思うなよ!
さァ覚悟しろよ
こちとら純粋な竜じゃあないが、故に貴様よりも小回りが利く
ご自慢の脳をカチ割ってやろう!
●
探究心はある方だ。
未知の可能性に心も踊るものである。
「でも、ちょっと極端すぎない?」
まず、肩をすくめたのはジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)だ。
確かにジュジュは、この破壊の化身の考えも理解できないではない。
気になるものは触ってみたいし、注視をしてしまうのが人間だ。ジュジュは人間の好奇心を刺激する仕事をする奇術師であるからこそ習慣づいている。
『タネ』も『しかけ』も、アイデアも。
日頃からのものを見る観察度合いでひらめく力に差はつくものだ。だからこそ、この竜が生命そのものが未知数の猟兵に惹かれてしまうのもわからないでない。しかし、暴力的だ。
「何故だ吾は何故お前たちに勝てないのだそれを知らねばならない今生を使ってヴァルギリオス様に届けねばお前たちの強さお前たちの知恵お前たちの力お前たちという命をどうして読み解くことができるのだなぜ吾の攻撃を知るそうかやはり貴様らの叡智のせいかあの結晶を吾が飲めば変わるかこの戦局を揺るがすことになろうかそうだなそうに違いないやはりお前たちだお前達から殺して殺しつくしあわねばいけない――」
「あー、あー。良い。良い。もう喋るんじゃない。貴様の口上は頭が痛くなってくる」
そして、その言葉を切ったのがニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)である。
同じ竜種として気恥ずかしいところはあった。所詮、この竜も竜だ。恐ろしい存在でありながら、未知なる小さな命にすっかり夢中でせわしない。己の使命と欲求が釣り合っているからの行動にニルズヘッグは幼い子供を見るような気分になっている。
「頭のいいヤツはみんなお前のように一方的で困る。会話が苦手なのに話すのは好きなのだからなァ」思い浮かぶのは、己の妹のうちだれかであったろうか。
「すごい熱意だねぇ、関心関心」
その隣で、気前のいいバリトンが響く。
ガスマスクの男、アルナスル・アミューレンス(ナイトシーカー・f24596)は太い首から愛想のいい声色で笑ってはいたが――こころはすっかり冷えていた。
「確かに、グリモアが何なのか、僕も気になるねぇ」
「あー、私にはただの転送装置にしか思えんが。こういうあやふやなものを『そういうものだ』で片づけられん性分は、苦労するだろうなァ」
くつくつとニルズヘッグが低く笑い、違いないとアルナスルも陽気に笑う。
――彼らは、暴威を前におびえてはいない。
竜はそれが不思議であったらしい。首をかしげる仕草がやけに素直なものだった。
「私達の力も、心も、読み解けないと思うよ。――だって、合わせれば無限大になるから!」
ジュジュが教えてやる。
通る声で呼びかければ、ベルセルクドラゴンはけして己が成り代わることのできない神秘たちに目を輝かせていた。
「噫、噫、そうか――」
「ツケルツァンド、準備を。戦闘を開始します」
合点がいったらしい竜である。
戦闘の気配を感じた。七那原・望(封印されし果実・f04836)は、アネモネの花を揺らしながら二輪に跨る。ごうううと大きく息を吐いた鉄の輪はふわりと宙に浮かんで見せた。
「そうかこの吾は理解したぞお前たちの叡智はお前たちのためにありけして吾の手に下ることはない吾が食らっても吾の中に染み渡ることはないのだろうならばこそやはり吾が実戦を何度も摘まねばこの命と引き換えにお前達から情報を得ねばならぬ何度も何度もかみ砕き何度も何度も戦いを歓迎しよう猟兵教えてくれお前たちの可能性も心も解けないというのなら吾に教示してくれまいか猟兵!!」
「いやあ、やけに礼儀正しい。素直でいい仔だ」まるであやすようにアルナスルがマスクの向こうで笑った。
飛び出す黒である!!どうッと地を蹴った体はぐんぐんと大きくなって――空を詰めつくすほどの力を孕んだッッ!!!
「よォし任せろ。盾は得意だ――御覧じろ終焉竜、生憎と守りは硬くてなァッッッッ!」
チ ェ ン ジ ・ ニ ー ズ ヘ ッ グ
【 怒 り に 燃 え て 蹲 る 者 】 、 顕 現 ! !
美しい鍛えられた男の体が呪詛の冷気に包まれ――みるみる黒い獣の姿となりぶつかり合う!!
「うわわ、怪獣映画みたい」思わずジュジュが感嘆して、それを見上げていた。
ニルズヘッグの長い首がしなり、衝突、巨大化する狂竜の体を胴体で絡めて締め上げる!! 大きな羽をはばたかせて、空へと飛びあがった!!
キャアアアアアア―――――――――……ンと開戦の雄たけびが上がり、ニルズヘッグが上空より弧を描いてから急降下!!
「おおォオオオオオオ氷獄竜――!! 吾を地面で壊すかその程度で壊れると思うかッッッ!!!!」
あわや墜落――地球投げの要領だ。ギリギリのところでニルズヘッグが体を離そうとすれば、その角を翼の腕でつかまれる。痛みに悲鳴を上げながらも抵抗したニルズヘッグともみ合い、二体とも活火山が湧く大地に転がり出た。
まだ、体は離さない!取っ組み合う。氷の障壁を呼んで直接の打撃を防ぐニルズヘッグと、氷のつぶてを受けながら体を鈍らせるものの、攻撃の手を緩ませない竜だ。もみくちゃになって何度も転がり、首に噛みつき鱗を切り裂く!!先に悲鳴を上げたのは――狂暴竜!!
「ぐぬゥウウウウあああああッッ!!! なんとも固いさすがの竜種よ世界を護るための鱗であると見た貴様のそれは人の思いで作られているなッ!?」
「喧しい――貴様には無いものだろうよォッ!!!」
咢を爪で大きく殴り、突き上げる。
喧しい口を閉じさせることが目的だ。体重を乗せた一撃は鋭く、ベルセルクドラゴンに血煙を上げなさせながら喉を露わにさせる!!
純粋な竜種ではない。ニルズヘッグが竜化した姿のほうがまだ多少小さい――いいや、ダメージを与えるたびにベルセルクドラゴンのほうが巨大化しているのだ。
「幾らデカくなろうと変わらんッッ!! 私の愛する世界を、私の大切な奴らが愛するものを、――守る意志に敵うと思うなよ!」
「よかろう其の心意気こそ吾が求める闘争の原点よッ!! 殺しあおうぞ氷獄竜心往くまで血に濡れ肉を食らいあおうではないか――ッッ」
ゴアアアッと勢いよく息を吐き、反撃に出る!!
突き出す攻撃は先ほどよりもずっと早さを増したのだ!!ニルズヘッグが離れないのなら、体を回転させる!
「うぉ、オ――ッッッ!!!」
絡みついたニルズヘッグの全身は、低く地上を這いながら旋回する狂竜に少しずつ振りほどかれていく。気圧と風圧で耳を壊された。キィイイイと耳鳴りが響き目が回る。しかし、まだ食らいつく!!
「ご自慢のッ――脳を、壊してヤゥ、うる゛ッ!!!」
牙を突き立てたッッ!!
ベルセルクドラゴンの頭蓋を突き破る牙だ!たまらず悲鳴を上げた巨体がもんどりうち、ニルズヘッグごと地面に衝突、バウンドを繰り返した!!
たまらずニルズヘッグも牙を離し、転がる。滑っていく巨体を――無駄にはしない!!
「君は、とても勤勉で知りたがりだ。だけれど、それは僕もだよ。君の抱えた力も、知識も、気になるねぇ」
――一切合切、食べさせてよ。
発動、【枯渇】。
ニルズヘッグの巨体を飛び越えたアルナスルの体は、狂暴竜の鼻先までたどりついて――ぼこぼこと作りを変えて見せた。
「おおなんと禍々しいなんと汚らわしくなんと不完全で不気味でおぞましい怪物かッ!!」
「光栄だ。君に言われるなんてね」
「死」の奔流であり、大嵐である。
――蹂躙そのものだ。
ニルズヘッグと暴れた際に隆起した足場すら浚う。偽神細胞の移植手術、その負の遺産というべきありさまだ。
不定形の異形は男の顔の身を残し無数の戦意に生まれ変わり、まるで樹木のように広がる。文字通りに「食らう」ための浸食だった!!アルナスルの組織が、飛び散る。
「ぐぬぅうううう、ううううううッッッ!!!」
竜の体を縛った。
怪力だ。アルナスルのすべてをもってしても「引きちぎられる」ことは必至である。
「そうだ、そうだ。もっと食わせてくれ、もっと。まだまだできるでしょ?」
冷淡ながらに、結果を求める声である。
捕食者だ。まるで竜に寄生して咲く花が如く、アルナスルはその命を吸い上げる!!脆い鱗がぼろぼろと剥がれ落ちて、竜がでたらめに暴れだした。
「吾を食らうか、人間めぇえええええええええええええええッッッ!!!!なれば吾も貴様を食らおう喰って喰われてが闘争であるッッッッ!!!!」
食いちぎる。
己の体をむさぼる不定形をかみ砕き、すすり、アルナスルの一部は破壊される!!!
「はは、いいぞいいぞ、その調子。そのまま、お兄さんに夢中であってくれ」
――それを楽しいと思ってしまうのだから。
やはり、アルナスルは「人にして人に非ず、化物にして化物に非ず」のままである。
「レディの登場だ」
指のサインは、人差し指だけだった。
【Laminas pro vobis】。
愛する褐色色の彼女のところへ帰るための祈りである。
望には、ただ使命感があった。この戦闘に勝利し、必ず期間を果たす。己に課したオーダーは実にシンプルで、単純である。しかし、最難関の命題だ。
ハンドルを握る。
ひねれば、速度は簡単に上がった。常に低空を維持していた車体と共に――光線の速度で走る!!
巨大化した尻尾をくぐり、しなりの動きが己を追尾している。望は、まずこの竜種の器用さに驚いた。目隠しをしているが、耳はある。風の切る音と反射する音波を敏感に聞き分けて、己の視覚を代償に感覚を研ぎ澄ます!!
「やはり、すさまじく――」
大きくなった感覚は、周囲の地形が変わったこととニルズヘッグが放り出されたことで理解した。振動が先ほどよりも激しい。そして、新たな音が加わる。
――アルナスルの声が聞こえて、確信があった。
今が攻撃の機会であり、短期決戦の時である。時間をかければかけるほどもっとこの竜は巨大になる!!
「貴様には少し、華が多すぎるかァッ!!?」
追突!!
望の耳に、新たな音が加わる。
ニルズヘッグだ!! 竜の体でアルナスルと二人がかりでベルセルクドラゴンを締め上げている!! 地団太を踏む大きな足に踏まれないように望はハンドルを切った。右、左、上、時に急上昇を挟んで尾を超える。そして、足の状態を見た――やはり先ほどの戦いから劣化が激しい。関節のきしむ音が多いのだ。
「攻撃箇所を見つけました、乗せます」
「了解、お願いするねっ!」
それから――己の狙うべき場所を定めた望が、体をオーラで守るジュジュを腕の力だけで引っ張り上げる!アルナスルのスケルツァンドに乗せられ、尾てい骨あたりで降ろされたジュジュが躊躇いなく走った。
恐ろしい体だ。
数多の猟兵たちに挑まれて尚、死への恐怖もなければ闘争の事のみを考え続けて戦う背を上る。ニルズヘッグの鱗と体を越えて、「おっとと」とよろける足をアルナスルの不定形が持ち上げる。転がり落ちることのなかったジュジュがすばやく――竜の肩まで上り詰めた。
「やっほー。こんにちは、勤勉なドラゴンさん」
ベルセルクドラゴンが、耳の近くで穏やかな音を拾う。
ばっと顎を引いてにらむ姿に、ジュジュが小さく手を振っていた。愛想のいい顔は、無邪気なものだ。――しかし、碧の視線には戦意を宿したままである。
「星は知ってる?」
【星の幻想劇】!!
眼前での輝度に目を焼かれた!!「ぐぁ」と短い悲鳴を上げて目をくらませた巨体はよろける。
さらに――膝部でも爆炎! 望の全力魔法から放たれる一斉放射の魔術が竜を崩壊させる!!
「倒れます、ご注意を――」
「わかった――でも、もう一回!!」
ジュジュが傘を開き、空を浮遊する。スカートをはためかせながら、左腕を胸の前に掲げて星を降らせた。
「おお、綺麗だ。とても、綺麗でいいなあ」
華やかな戦場には無縁の男だ。アルナスルが竜に食われながら気の抜けた声を発せば――星は狂竜のみを貫く!!!
「貴様の記憶に灼くがいい、世界の美しさをなァッ!!」
「ぐああああああああ――――ッッッ!!!!」
ニルズヘッグが体を離せば、星の雪崩が起きた。
アルナスルがジュジュの散らした星を地面より見上げる。狂える世界に、美しい星空が作られているのだ。
ずううん、と地面を揺らして背中より頽れる竜の足は、もはやしばらく使い物にならないだろう。空を見上げる終焉竜は、損壊の激しい体を治癒させながら――。
「“きれい”とはこの輝度のことか」
奇術師に施された光に、未だ目を焼かれていた。
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
頭蓋損壊。視界異常。両足の使用不可。
――美しい世界こそ彼らの強さである。美しい未来こそ還るべく場所である。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
グィー・フォーサイス
◎△
結都(f01056)と
巨体に息を呑む
けれど僕は怯まない
傍らには結都がいる
彼にみっともない姿は見せられないから
来るよ、結都
桜の結界に風精霊の力を借りて強化
オーラを纏う狂竜の一撃を耐え抜こう
結都が麻痺で敵の動きを鈍らせてくれる
その隙に僕は『配達区分』で管轄を増やすよ
まず切手を貼るのは、竜ではない
この地だ
大物を狩るには準備は充分すぎるくらい必要だろう
動きながらこの土地の情報を集め、
切手を十分に貼ったなら、使えるものは全て使おう
友の助け、満ちる気、この地の全てを利用して
命中力を極限まで上げて、急所へと追跡する切手を届けよう
狂竜ベルセルクドラゴン
これが君の生命の値段
お代は君の生命
お届け先は、骸の海さ
桜・結都
◎△
グィーさん/f00789 と
ただただ向けられる強い殺意に、
皮膚が粟立つような心地を覚え
喉の渇きを誤魔化すように唾を飲み、
錫杖を握りしめる
……強敵の前に二人で立つのは、
今回が初めてではなかったですね
グィーさんが隣にいればこそ平静でいられます
深く呼吸をすれば、あとは前を向いて
成すべきことを成すのみ
錫杖を突き立て<破魔>と<全力魔法>で結界を作ります
狂う竜の気にあてられても、退いてはならぬと己に言い聞かせ
守るのは自分だけではない、隣に友もいるのだから
攻撃を凌ぎながら【桜色の君】に<マヒ攻撃>の願いを
私が防げばグィーさんが攻められる
攻め手の手伝いをしましょう
暴の欲に塗れた竜を許すわけにはいきません
●
巨体に、息を呑む。
みっともない姿は見せられない。グィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)は傍らの桜・結都(桜舞・f01056)に声をかけた。
「来るよ、結都」
「――ええ」
華やかで美しく、薄い桜の花びらがまるで人の姿を得たような隣人だ。
繊細なつくりの指は細く、結都は皮膚が泡立つ感覚をねじ伏せるために錫杖を強く握りしめた。
逃れようのない恐怖だ。
目の前の竜は顔の半分を奪われ、復元しつつあるとはいえど負傷は目立つ。頭蓋を割られ、全身をむさぼられてもなお勢いは未だ衰えていない。
興奮でグィーの瞳孔が広がっていた。
長いひげは燃やされてならない。平衡感覚を保つためのものだ。ふわりと広げて、目の前の脅威に威嚇をする。
「猟兵よ小さき者どもよお前たちはなぜ強大なる吾を此処まで追い詰めることができるのだそれこそ可能性かそして力かお前たちの読み解けぬ恩恵故か――? いいや、やはり叡智故かッ!!!???」
視線がグィーを貫いた。視線を遮らぬよう、帽子のつばを肉球で整える。
「大丈夫さ。僕たちなら」
――狙われている。グィーのグリモアの力を!!!
結都はやはり、竜の咆哮めいた宣誓に指先を震わされていた。
畏怖である。けして、猟兵を侮らず、また、この破壊の権化は見下すことがない。故に、ひとつも隙がないのだ。さらに、傷つくことを全く恐れない代わりに「無駄」であろうとはしない。
「はい」
つまりそうだった息を吐いて、唾を呑む。
鼓膜が押し戻されて、戦場の音がよりクリアになった。
「強敵の前に二人で立つのは、今回が初めてではなかったですね」
「そうだね。――でも、勝ってきた」
友の声は頼もしい。
「それでは、ここで一つお願いを」
「何かな。遺言は届けないよ」
「ええ。別のものを」
しゃん。
錫杖の音が鳴る。狂竜が――その身に業をまとい始めていた。
両脚は使えないらしい。低くかがんだ体は、三つの腕と復元しつつある四つ目で支えられている。獣の威嚇のように身を丸める姿がおぞましくてたまらないものだった。
「――勝利をお届け願えますか」
「お安い御用さ!」
それでも、退 い て は な ら ぬ ! ! ! !
しゃん!と鋭く錫杖が地面につきたてられた。印を組む指は片手でいい。素早く指を動かして、桜色の障壁を作り上げる。そこにグィーが指先からにゅっとはやした爪で風を操れば――激突!!!
「っわ――」
「口を開けて! 息をするんだ!」
眼前には、まず暴竜の突進があった。
狙われたのはグィーだ。彼の持つグリモア目掛けた欲望と好奇心と探求心よりの突撃である。
張り巡らせた桜の障壁に風の糸が絡んで、針金のように補強をした。それを――あっけなく砕かれる!! しかし、確実に勢いを殺した! 相殺の代償に桜が散らばる――!!
大きすぎた衝撃に間に合わない風圧が遅れて二人の体を押す! 歯を食いしばっていれば目玉が出るほどの圧力がやってくる直前に、人間の体である結都を案じた声が届く!
声にならない叫びをあげながら、――吹っ飛ばされた!
押し飛ばされた結都の体が地面へしたたかに打ち付けられ、バウンドする。しかし、痛みをかみしめて体を丸めれば受け身になった。空中で後転し、かかとを擦らせて態勢を整える!
「グィーさん!」
空には、配達員の彼が持つ仕事道具が散らばっていた。――切手だ。
「紙吹雪のようだ猟兵吾を祝福してくれるのか――?」
直撃をしていない結都でもこのありさまだった。
――直撃した箇所に近いグィーは、宙を舞っている。
整った毛並みはボロボロだった。たった一瞬の出来事で、友の体が変わり果てている。
「グィー、さ――――!!」
「大丈夫」
泣きそうな声だった。
結都の痛みと苦悶にこらえるのどが、そんな音を出すものだから。人間の隣人でありたい猫である彼はつとめて、穏やかな声を出す。
高いところから落ちるのはたやすい。くるりと体を丸めて、しなやかに着地して見せるグィーは竜の追撃から逃れるために、ぼろだけの体を無理やり動かして四つん這いになり走る、走る――!!
この間、結都は追われる友の姿を見て作戦の変更も考えた。この一瞬で、できることを変えるべきだと思う。目の前の竜はこの一瞬での出来事を解析し始めている。「切手」の意味に気づくのにそう時間はかからないだろう――。
しかし。
錫杖を、もう一度強く握る!!
「『力を、――貸してください』ッッッ!!!!」
召喚、【桜色の君】。
恐怖を打ち消すための叫びだった。懇願であり、命令である――!!
どうっと雪崩のようにあふれた桜が、麻痺の術を抱いたまま暴竜の傷口にねじ込まれていく!!
グィーを追っていた竜の関心は、桃色の吹雪で奪われる! 結都に興味を映した素直さに心の中で安堵をしながらも、次の一手に頭は興奮していた。恐怖の象徴が――少年の体に真正面からとびかかる!!
「おお、おッなんと、面白いな猟兵貴様は自然にも愛されるのかよかろうこの花弁ごと毒素も心も食らってやるお前の勇気を吾は肯定しようお前の闘争を許そう故に全力で吾は抵抗するぞッッッ!!!!!!」
「抵抗結構――暴の欲に塗れた竜を許すわけにはいきません!! ここで、還ってもらいます!!」
穏やかにいなしているばかりではいられない。
芯を決めてそれに沿い行動するのだ。薄衣一枚で心纏い、誓いは願いに近く、暗闇に迷うことはあっても、心に灯を燈せるように動き続けている。
――この無粋な暴威では、そのともしびは消せない!!
殴打、殴打、殴打殴打殴打殴打殴打!!!
ラッシュといってもいい、猛連続のこぶしは其れでも勢いを衰えさせているのだ。しかし、桜の障壁を砕き、復元させてもまた砕く!!
「―――っっ……!!」
全身を衝撃と恐怖、そして勇気に奮わせながら――結都はその時を待っていた。
視界の端に、いつかのように猫の走る姿が見えている。グィーから完全に注意をそらすことに成功していた。竜は麻痺毒で動きの鈍る体の再生を、障壁を砕くたびに壊れるこぶしの復元をもくろむ――しかし!
「ぬ――?」
「気づいたかい」
地脈からの恩恵が、その生命力が、ベルセルクドラゴンに届かない。
あたりにちりばめられた紙が、何なのか知らないだろうというのがグィーの読みだった。
【配達区分】の目印だ。
自在に操れるグィーの切手は、彼が結都と競り合う竜の目を盗んでなわばりを根こそぎ奪っている――!
「もうここは僕のテリトリーだ。君に味方をしてくれるものは、なにもない――!」
しなる凶悪な尻尾がグィーを追っても、大きすぎるそれは小さな体に追いつけない。
飛び越え、賭け、息を殺しながら戦い続けて――ようやく気配をあらわにしたグィーの居場所は、やはり結都の隣だった。
よく耐えてくれた、と友の膝に手を添える。震える足は、落ち着いたようだった。
「狂竜ベルセルクドラゴン、これが君の生命の値段だ」
宣誓。
向けた指は血まみれだった。
肉球はずるむけて、痛々しい。しかし、誇らしげにグィーは笑う――!
「お代は君の生命。そして――お届け先は、骸の海さ」
切手一枚。
されど――『適切な価格で』!
「ぉおお、お――ぐぅうううううううううううううううううッッッッ!!!!???」
貫いた。
命中率を限界まで底上げて、生きる地の力を奪ったグィーの一撃は一枚の紙で押し込まれる。
肉球と王冠印の模様を刻まれる弾丸のように飛び出たそれが――竜の胸、ちょうどど真ん中を貫いていった。
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
胸部に大きな損傷。
――戦い続ける美しき友好にこそ、勝利が届けられる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
◎△
う、っわあ…
ただでさえ頭が切れてやたら地力の高い奴がさらに強くなる「だけ」って…
メタ張れる分特殊能力のほうがまだマシじゃないのよぉ…
強化自体は防げないし…まずはなんとか躱すしかない、か。
恰好なんか気にしてられないし、無様でもなんでも動体○視力と第六感全開で回避に専念するわねぇ。
…避け続けてても隙を晒してくれるほど温い相手じゃないし。〇足止め・目潰し・吹き飛ばし、手札ひっくり返して無理矢理隙を作って●重殺をねじ込むわぁ。
刻むルーンはラド・エイワズ・シゲル・カノ・イング・ハガル。
「連鎖」する「聖言」は「エネルギー」を「火力」として「結実」させ「崩壊」を生じる――ただの人間、ナメんなっての。
ジャック・スペード
◎△
仲間の前に出て盾と成ろう
何が殺意のトリガーになるか分からないので
殺意を分散させられるよう挑発を
噺に聞く通り、お前はたいそう知的で強いらしい
だが、――話が長いな
此の身にヘイトが集まれば良し
集まらずとも仲間への攻撃は
奉仕のこころを胸に、シールドや此の体で以て庇う
疵は激痛耐性で堪えつつ接近の隙を突き
渾身の怪力でシールドバッシュ
少なくとも俺の性能に秘密なんて無いな
こんな原始的な手段でも十分に戦える
ヒトを護りたいという思いが勇気をくれる
――ただ、それだけだ
巨大になった敵は良い的だ
スナイパーの心得活かし
その足へ銀の弾丸を撃ち込んで
大輪の薔薇を咲かせて動きを封じたい
新鮮で強大な贄に我が女王も喜ぶだろう
●
「ちょっと待ってよぉ――うわぁ、もう、勘弁してぇ」
「恐れることはない。俺が盾と成ろう」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)が嘆くのも無理はない。
ジャック・スペード(J♠️・f16475)とともに、かの竜が繰り出す技の数々を観察していた。
少なくとも、先の猟兵たちはティオレンシアよりも耐久度に優れて扱えるものも多い。多彩な攻撃の数々に暴竜は確実に削られていた。しかし、彼女が嘆く理由はジャックにも理解が及ぶ。
ジャックに内蔵された視覚モニターには、敵性であるベルセルクドラゴンのダメージソースと、予測された残体力、耐久から攻撃までの大まかな値が表示されていた。
――どれも、純真なまでに企画外だ。
「ただでさえ頭が切れてやたら地力の高い奴がさらに強くなる 『だけ』って、それ、メタ張れる分特殊能力のほうがまだマシじゃないのよぉ――」
口の端から、炎熱の息吹を吐いている。
それは体が熱すぎるだけのことだ。周りの空気よりもかの竜は体内がよく熱されているらしい。
無理もあるまい、常に動き続けている体は攻撃により炎症を起こし、さらに回復まではかっている。――今は、心を落ち着ける最中のようだった。感情の起伏とともに感じられる鼓動の数は、ジャックの視界がカウントをしている。バイタルの数字は――恐ろしいほど、落ち着いているのだ。
盛り上がった地面に背を寄せ、隠れているティオレンシアよりもずっと、ベルセルクドラゴンは落ち着いている。
「なるほど、だから『狂っている』のか」
「そういうことぉ。ヤツは、『恐怖』すら『学んでる』。常に、アップグレードし続けるのよぉ。損壊の分だけ、ね」
まだそれが、術式であれば破壊もたやすい。
組まれた構造であるのならそこを崩せばもうその仕組みは使えないからだ。配線を切れば電流が通らないのに等しい。
しかし、――ティオレンシアが嘆くのは、「この生き物」が「そういう生き物」である宿命だ。
線を抜いても、切っても、作り変えてもこの竜は極めて前向きに動き続ける。
「ならばこそ、俺が行く」
「ちょっとぉ」
「――問題ない。元より壊れるはずだった宿命だ。だが、壊れてやる気もない」
「ああもう、そうよねぇ。そうだわ。うんうん、わかった――アタシも、覚悟決めた。なりふり構ってらんない」
生きるためだ。
明日の世界がなければ猟兵たちは守るものを一つ失うことになる。
ティオレンシアからすれば出身世界の危機である。動かないわけにはいかなかった。一分一秒すら、惜しい。
「頼んだぞ」
「こっちのセリフよぉ」
そも、ティオレンシアがまず前に立つことは考えられない。
「お前は意志ある猟兵だな黒き騎士のようであるしかし中身はゼンマイ仕掛けよりはるかに高等な技術で組まれた存在のようだお前の仕組みはどの世界のものだまさか魔道を通しているわけではあるまいそうだな? ああやはりお前も叡智を持つものか!!」
「なるほど、たいそう知的で強い。聞いた通りの竜だな」
だからこそ、ジャックは単騎で前に出た。
己の扱うコードに合わせて、相手は必ず先制を尽くすという。
会話を続けてやる気はない。むしろ、こちらのペースに引きずり込むなら『後出しじゃんけん』が一番強いと確信していた。
殺意のトリガーになるものを探る前に、あっという間に巨大化した狂暴竜のさまを見上げる。
足は使い物にならないらしいが、それを捥ぐようなそぶりはない。回復の機を待っている――修復率はおよそ75パーセント。熱され続けて氷の呪縛からも解けつつある。
「吾を解析しているのか面白い機械の男よ猟兵お前には心があるのか叡智を手に入れた今もその力におぼれず心を抱くというのか嗚なんと尊く気高い命を持つのか早く知り尽くしてやりたいものよッッッ!!」
「――話が長いな」
シールド、展開!!
腕を掲げればアームパーツから呼び出される電子の盾だ。
ジャックの体すら覆うほどの厚い板に体を隠し、前に進む。飛び出してきた竜のこぶしを受け止め、しかし足の方向を変えることで流れるように逸らした。
「舌を噛まないのか?」
「吾は知りたいのだだからお前に問い続けるともこの拳でも力でも口でも言葉でもお前に一番届くものでお前に届け続けようお前はなぜ動くなぜ抗うなぜ未来を愛してなぜ吾と渡り合うッッッッ!!」
――全体を守る鱗の損傷率、65パーセント。
あれほどの攻撃を受けてなお、片目を失っても竜の動きはためらいなく、そして衰えない。
ジャックの体がきしみながら、ティオレンシアに殺意を抱かせないようにヘイトを稼ぐ。サーモグラフによれば――彼女は、走り回りながら銃弾を装填していた。
複数ある手のラッシュはジャックが。そして、下半身の力を取り戻しつつあるベルセルクドラゴンの尾を体全体で飛び込むようにしてかわし、転がっていくのがティオレンシアだった。
「ヒトを護りたいという思いが勇気をくれる。俺には――ただ、それだけだ」
そんな大義を、ティオレンシアはもっていない。
人間だ。ただ脅威を恐れて走り回り、無様に転び、しなる尻尾に腰を打ち付けられながらも悲鳴をかみ殺すだけの。
小さな生き物だ。所詮、手に握っているのは人を殺すのにたけた道具でしかない。
この身に猟兵という力を授かった時から、効率のいい頭で考えていた。なんてピーキーで、面倒な生き物になったものだろうと。それでも、戦い続けている。使命に従い、仕事をこなし、救えるものを救ってきた。
――英雄にはなれない。
「だから、なんだってのよ」
無様な人間には視線もよこさないのだ。
ティオレンシアが背後にたどり着く。完全な無防備であるのに、全身凶器といって差し支えのない竜の体に勝ち筋は見えない。しかし、――それでも!
ラ ド ・ エ イ ワ ズ ・ シ ゲ ル ・ カ ノ ・ イ ン グ ・ ハ ガ ル
「連鎖」する「聖言」は「エネルギー」を「火力」として「結実」させ「崩壊」を生じる。
構えたリボルバーには、祝われし魔術が宿っていた――!!
「――ただの人間、ナメんなっての」
シールドバッシュだ。飛び出した盾を、払いのける。ベルセルクの名を冠する竜はでろりと舌をあぎとからはみ出させながらまだジャックを狙っていた!!
「竜よ。お前は、本当に――まじめで、勤勉だ。だから、教えてやる」
「おおそうか吾に教えてくれるのかお前の命を以てか――!?」
「いいや。お前の翼で」
【花開く薔薇妃】。
盾を投げ捨てた遠心力で、腰から引き抜いた大口径の拳銃だ。
構えたジャックが――ためらいなく、引き金を引く。竜の動きが鈍る下半身を貫いた銀は体内で炸裂!! 大輪の薔薇が鱗に茨を巡らせ歓喜した!!
「ぉおお、お――ッッ!!?くだらぬ吾はこの程度で止められぬぞ猟兵草木すら踏みにじり灰へと変えてくれる!!」
「ああ。そのつもりじゃない。もう一つ、紳士的なことを教えてやろう」
指を立てたジャックだ。
右の人差し指を立てた彼に、竜は果敢に突っ込もうと薔薇を踏み荒らし逃れようとめちゃくちゃに暴れまわる。それを―ー空洞のある胸の向こうから、女の姿が映っていた。
「花は、女性に贈るものだ」
エクステンド
【 重 殺 】。
五つの弾丸が、竜の大きな翼――左の翼をまた、一つとらえる。最後の六つ目の弾がティオレンシアから放たれて!
「お返しはしないとな?」ジャックが笑い声をスピーカーから流したと同時、捥がれた翼が地面に落ちる。
暴竜の悲鳴と驚愕、そして新たな発見を悦ぶ猟兵の可能性への叫びが轟いていた――!
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
左翼消失。下半身復元。
――恐るべきものはだれにでもある。必要なのは、いかに冷静な考えで克服するかだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
セリオス・アリス
【双星】
◎
時間も手数もかければかけるだけ不味そうだな
速攻で決めてやろうぜ
アレスから離れず先制を凌ぐ
…ッ、
1人で攻撃を受けるアレスの方がどう考えてもヤバいのに
こっちを心配するその姿に腹が立つ
…いやそうじゃない
八つ当たりはするなら
あの竜に、だ
【羊飼いの祈り】で失った分を
いや、それ以上に己を分け与える
俺が倒れる前に倒せばいい話だ
約1分、ごちゃごちゃ言ってる暇はねぇ
行くぜアレス
歌で身体強化
攻撃がアレスにだけ集中しないよう
挑発しながら見切り
ダッシュとジャンプを変則的に交えながら避けてやる
単純な動きは見飽きただろう?
アレスが隙を見つけたら同時攻撃だ
風を纏った一撃を
アレスの炎を後押しする様に
届かせてやるよ!
アレクシス・ミラ
【双星】
◎
先制にはかばうようにセリオスの前へ
盾を最大に、オーラも展開
後ろにいる彼には絶対に通さない
その覚悟で
衝撃も生命力吸収も激痛耐性で耐えて
盾で受け止めてみせる!
止めたら彼の安否を確認。…僕なら大丈夫だから
…ッ!?
セリオス!?また、君は…!
…確かに今は時間がない
なら、君を…守り抜いてみせる
【蒼穹眼】で敵を視ながら駆け
僕へと意識を向けさせるように剣と盾で打ち込む
…予測しろ
敵の行動を、言葉すらも
向こうよりも…速く!
セリオスに意識が向きそうになれば
シールドバッシュで僕へと引き戻してやる
隙を見抜いたら彼の名を呼ぶ
君の炎を借りるよ、セリオス!
剣に纏わせる炎を赤から白へ輝かせ
彼の風と共に
全力で叩き込む!
●
狂気の竜は、確実に崩壊を始めていた。
ぐるぐると唸る喉は窮地に追いやられていく事態であっても好奇心によるものだ。失った左の翼を復元するために、生命力の吸収をはかる――細く、そしてひときわ高く吠える。
神話の始まりで、まるで終わりを悦ぶような様にセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)は静かにつぶやいた。
「時間も手数もかければかけるだけ不味そうだな、速攻で決めてやろうぜ。アレス」
「ああ――そうだね。あの鳴き声が終わるときが、合図だ」
アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は、剣と盾を構える。
運命を切り開く金色の騎士は、まさにセリオスにとって自由の象徴であった。
耐え忍ぶことで運命をやりすごした藍色の鳥は、アレクシス――アレスにとって漸く救えた希望の象徴である。
双の星がそろわなければ、そこに夜空は在り得ない。
セリオスはまず、アレスの背に隠されていた。
――咆哮が、止む。
「来るぞ」
「わかってる」
静寂、――――そ し て 、 悪 竜 招 来 ッ ッ ! ! !
「う、ぉ」
「アレスッ!!」
片割れの背が揺れた。異常な質量での突撃だったのだ。
纏う竜のオーラは失った手足の代わりに為らんとその体を補強し、豪速の突進はアレスをめがけて体の旋回を含め突撃ッッ!!!
「ッ、大丈夫、だ!! 僕なら、大丈夫だからッ!」
――嘘だ。
「次なる猟兵は星色かそうかお前たちもまた星に愛され星である命たちかお前達の絆はなんだ呪われし宿命から彩られた依存かお前達は運命の番か吾には持たぬものだしかし吾は知っているぞその可能性を認知しようしかしもっと魅せてくれまいかもっと戦ってくれまいかもっともっともっともっとだ――!!」
「――ッのやろ」
アレスが地面に突き立てた盾を割らん勢いで、終焉竜は体の回転をやめぬまま突撃を続けている。一度緩んだと思えば、すかさず狂気の念を具現化した腕で殴る、殴る!!アレスの両肘から骨が突き出るまで時間がない――!!
それでも、耐えていた。
「ッ、ふ、ゥ、う゛」
唇をかみしめて、陽光色の男が耐え忍んでいる。
形のいい唇には血が滲み、何度と繰り返される衝撃波の圧力で皮膚が割れる。額から血があふれ、すっかり細かい血管が切れたのか体中にあざが滲み始めてきた。
――失った十年があった。巡り合うための二年があった。
――もうごめんだ。
蒼い瞳は青空の色だ。セリオスのいっとう好きな色は、一つとして揺らがない。
強敵だ。どう見ても二人だけでは殺しきれない。しかし――それでも、アレスは引かない。
「ばかやろ」
何が大丈夫だ、何が――。
言いたい言葉はいっぱいあった。風圧で消えた愚痴は、彼の耳に届いていないらしい。
心配されるほどかよわい命ではない。むしろ、アレスと共に走り始めた時からずっと強くなった。しかし、彼はそれでも守り続けようと戦う。美しい命だ、美しいひとだ。強くて、誰よりも真面目で、懸命な生き方だ。
――否定しない。否定するのなら、『八つ当たり』にするのなら、竜にだ!
止まることのない攻撃だ。一度止んだと思えば拳ではなく、今度は尾の一撃を食らわせてくる。アレスの盾と体が浮くのを、――地面をえぐりながら両足で踏ん張った。
「こォ、ッの――」
いうことを聞け、と体にアレスが命令をする。
アレスの心に体がついてこれていないのだ。護ると誓った後ろの黒の盾である。しかし、前には最強の竜が矛としてある。
これは、論証だ。
「猟兵よそろそろ終わりが近いか? お前の腕がそう長くは持つまいさあ砕くぞさあ寄越せお前の後ろにいる黒は吾の求めるものを持っているな気配がする吾の知らぬ結晶だ吾が調べなくてはならない叡智だ吾のものにするための闘争だ戦え闘え闘ってみせろ猟兵ィイイイイイイイイイッッッ!!!!!」
大きく両手が降りあがる。
真っ黒の両手と、鱗が整った両手だった。
拳を組むようにして振り上げて、降ろされる。『鉄槌』とはもはやこのことだった。絶望の状況である。アレスの盾はひび割れ始めて、とてもではないがそれを受けきることは難しい。きっと、盾ごと二人は押し潰されて死ぬだろう。
それでも、見上げていた。
――戦いをあきらめない。
「ッ、!? セリオス!?」
セリオスは、半魔だ。
アレスの血を呑んだこともある。これは、その布石に過ぎない。
【羊飼いの祈り】が届く。疲弊したアレスの体を癒す歌が、背から聞こえた。
「俺が倒れる前に倒せばいい話だ。――いいか。約1分、ごちゃごちゃ言ってる暇はねぇ」
行けよ、アレス。
背を押す手は、汗ばんでいる。セリオスの生命力を強化する祈りの歌だ。
痛んだ肘は強化され、浮き出た血管がわかりやすく脈動する――アレスは、振り向くことなく強く目を閉じた。
「なら、僕は」
――目を見開く。
後ろからでもその色が理解できたとも。終焉の鉄槌に抗う瞳は、何より美しい蒼穹!!
「 君 を 、 守 り 抜 い て み せ る ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! 」
【蒼穹眼】、発動!!
アレスの力が、セリオスの歌声に合わせての呼応で爆発する。振り下ろされた拳に盾が耐えられないのなら、剣で立ち向かうのだ!!
「ぬ――」視界異常が起きている。終焉竜が隻眼を細めた。輝度に弱いらしいのを確認すれば、アレスはより果敢に攻めるッッ!!
「はああ、ぁあ、アあああああああああああああああああッッッ!!!!」
緩んだ拳の間を貫く。突き上げた剣がその結束をほどいた! ぼとぼとと爪が落ち、黒色の血があふれる!!
攻撃の手は緩めない。悲鳴を上げることも許さない追撃だった。飛び出したアレスが、青色の眼光を連れながら盾を前に突き出す! 迎え撃つ竜の拳を受け止め、いよいよ盾が――割れるところで剣を両手で握った!
砕ける盾は何度でもよみがえらせればいい。加護すら破壊するこの終焉を、己の星に近づけないッ!!
「うぉ、おおお、ぉおおおおおお―――――ッッッ!!!」
「なんという進化なんという強化なんという苛烈かッッ!! そうだそう来なくてはなッッ!!!」
剣は打撃の武器だ。
振り下ろせば鱗が砕け、アレスの埒外である怪力で竜の腕はみるみる壊れていく! しかし、同時に周囲から吸い上げている生命力で回復し――やはり時間がないッ!
「おい、デカブツ!!」
そこに――歌をやめたセリオスの吠える声が通った。
アレスと殴りあう形になっていた瞳が、ぎょろりと向く。
セリオスは、生命力を吸われていた。昏睡の時間が間もなく近い。傷こそ一つも負ってないものの、終焉竜に食われる力は隠せなかった。汗ばむほほに黒い髪の毛がまとわりついている。
「俺とも戦えよ、それとも――直接やりあうのが怖いのか? この、トカゲ野郎ッッ!!」
挑発だ。
わかりやすい冒涜に、『生真面目な』竜は煽られる。
セリオスの視界を影が覆った。――それが竜の手のひらだと気づくのは眼前に迫ってからである!!
「うぉっ、と」
わざと足を滑らせて、地面に背中から落ちることで回避! じんじんと背骨と背筋の痛みを感じながら横に転がり、追撃の腕は翼としても使えるらしい。翼膜に足を乗せ、体を丸めながら衝突は避ける!!
――息も絶え絶えだ。
しかし、動きは止めない。この盛大な『時間稼ぎ』は少しの間だけでいい!
信じているのだ。セリオスは足をもつれさせながら、ただ攻撃をかわし続ける。黒い服を翻しながら寸でのところで爪の暴威をいなし、滑り込むようにして竜の股下をくぐる。迎え撃つ尾先にはあえて捕まるようにして、そのまま空に放り出された。
口を開けた竜が、下にいる。
「食らってやるぞ貴様の叡智ごと!」
「――やめとけって」
勝ち誇ったような笑みを。
――黒い鳥は、誰よりも我慢強い男だ。
間もなく瞼が落ちる。霞む視界に合わせてどんどん体の力が抜けた。間もなく丸呑みになるところで、それでもなぜその黒が諦めていないのかが竜にはわからない。
「届け」
指先の動きだった。
くるり、と右手がまるで空気を『ひねる』ように動かされる。
それだけで、暴風が巻き起こった――!!
「何だ超常の干渉か!? 何が起きているッ、これは」
「君の焔を借りるよ、――セリオス」
竜の体がぐらつくほどの暴威には、熱が乗せられる。まるで炎の渦だった。意識を失ったセリオスの微笑みを見上げて――アレスが、剣を振り下ろすッッ!!!
竜の翼が、跳んだ。
頑丈な鱗で覆われた右翼が飛び散って、炎に巻き込まれて消える。
「うぉお、おおおお、おおおおおおおのれェエエエエエエエッッッ!!!!双星やってくれるッッッ!!! 見事、噫、見事也ッッッッ!!!!!! はァ゛――っっははは、はははッッッッ!!!!」
直に、死に至るだろう。
アレスが竜の翼を突き破り、切り離した。空に浮かんだ星を腕に抱いて地に戻る。
守り抜いた星が、双つ。
地平にて、――竜を灼く!
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
右翼消失。狂えるオーラでの再生増強。
――二つの星が勝利に瞬く。終わりを燃やし、永遠に向かって戦い続けるのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
話が長ェよ、ばーか
▼先制対策
負傷で強化されるなら対策しようがねェ、お手上げだ
そうだなァ、敢えて言うなら
その力を俺の力にするまで
受けた傷を【激痛耐性】でカバーして立ち続けるぜ
奴が狂える竜のオーラなら、俺のこれは地獄の焔
滾らせたが最後、疵と痛みは俺の力になる
斃れるギリギリまでは苦戦しているフリを
技量不足で奴に一撃を浴びせられねえフリをする
奴に半端な疵を負わせても生命吸収能力で回復されちまう
なら、俺に出来る最大火力を浴びせるまでだ
――ガマン比べは俺の勝ちィ♪
痛みじゃ、俺は止まらねェぜ
あとは吸収の餌食にならねえように
身を引き他の奴に任せる
俺らは独りじゃねェんでね
どーだい?知識欲は満たされたかい?
百鳥・円
……はい?今、なんて?
まどかちゃん難しー言葉わっかんないです
なんてお馬鹿なこと言ってらんねーですね
相手は強敵
ならば相応のものでお相手しましょ
オーラには怯みません
空中へと飛び、左右へと翻弄
風属性を付与して飛び回りましょ
回避は野生の勘ってヤツです
長ったらしい言葉を聞くのは癪ですが
その心を読んで役に立つなら僥倖
逃げてばっかはつまらないです
そろそろ攻撃してもオッケー?
ほーら、久々の仕事ですよ
対価はわたしのコレクション
その全部をくれてやります
さあ、本当の“わたし”
わたしにありったけの力を寄越してくださいな
アレ、仕留めましょーか
魅せるのは幻惑
その狂わしい殺意を弄って喰らいましょ
あなたの感情、どんなお味?
陽向・理玖
さすがにすげぇ迫力
でも何でだ
わくわくする
龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波撒き散らしダッシュで間合い詰めUC起動し
残像纏いグラップル
フェイントで拳で殴ると見せかけ
動き見切り攻撃かいくぐり
足払いでなぎ払い
つーか何だよッ!腕四本って
…マジやべぇ
でも負けらんねぇ
覚悟決め
腕四本って事は
それだけ腕に頼ってるって事だろ
ましてや翼を腕にしてるなら飛べねぇはず
癖見切りダッシュやジャンプでヒット&アウェイ
高低差つけ攻撃
そう簡単にやられるか
また暗殺用い背後から翼の付け根狙い
蹴りの乱れ撃ちで部位破壊
まずは…1本
限界突破し
見切りと武器受け
傷は激痛耐性で耐えカウンター
爪も折る
あんたをやるまで終われねぇ
●
左の翼を失い、右の翼を失った。
在り得ぬ損傷である。無数の古竜を絶滅させた己の力がここまで嘗て追い込まれたことはあっただろうか。終焉竜は、傷つくたびに強化される体を見ながら――次は、真黒な羽を復元する。失う分だけ強くなり、与えられたダメージの分だけ可能性は高まった。痛みを思い出し、猟兵の顔を思い浮かべる。
「噫猟兵たちよ吾の力を刺激し呼び起こして尚それを乗り越えるお前達をもっと知りたい知り尽くしたいお前達という命を作る時間は一体どのような内容だったのだ吾の現世にはないほどの美しい輝きだった吾が何度壊されても齎されないその強さは一体何ゆえだお前たちの結晶だけではあるまいお前たちが作り出す可能性はお前たちの何からできている――?」
「話が長ェよ、ばーか。わかるように話せって」
「はい? 今、なんて? はいはーい、まどかちゃん難しー言葉わっかんないです」
壊しても壊しても、敵は強大になるのに。
どうして足を止められないのだろう。どうして、明日を手に入れたいのだろう。
ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)は悪魔と呼ばれた男だ。その見目故である。痛みに愛を見出す倒錯者は、痛みを愛しつくしている。愛する男にすら痛みを持つことを許さない独占欲は、彼の明日にある痛みを癒すために、前に出た。
「まーそうだな。お前にないものっつったら俺が思うに――そりゃあ、愛よ」
からかうように指でハートマークを作れば、その真ん中に遠くでたたずむ終焉竜を収めた。
「愛ねぇ。まどかちゃんには、どっちかってゆーとぉ。自制って感じはしますね」
「マジレスかよぉ」
「んふふ。いじめてるわけじゃないですけどねっ」
百鳥・円(華回帰・f10932)は、ジャスパーの隣であどけなく微笑む。
馬鹿のふりをするのが得意だ。利口な頭は相手を油断させるための術として、愛らしい少女の仮面をまだ脱がない。
――どうして、冷静で在れるのだろう。
二人を後ろから見て、熱風に夕焼け色の髪の毛をかき混ぜられるのは陽向・理玖(夏疾風・f22773)だ。
ジャスパーも、円も、興奮を前に出さない。
快楽主義者である彼らは興奮を常に味わっているからである。慣れているのだ。ゆえに、己を御することの大事さを弁えている。
理玖は――高鳴る鼓動を隠せなかった。興奮しているのは、己の呼吸でわかる。体は恐怖でこわばっているのに、体は闘争を求めているのだ。
喪った師は、――救い手の彼は、いつも巨悪と戦うときこんな気持ちだったのだろうか。
明日には世界が滅んでいるかもしれない。今から挑む戦いは、最後の戦いになるかもしれない。なのに、『そんなはずがない』という根拠無縁の確信が三人の中にはあった。
――いつも通り、明日は愛しい彼の顔を見れると思っている。
――いつも通り、明日はからかい甲斐のある隣人と言葉が交わせると思っている。
――いつも通り、明日は。
「変身ッッ!!」
龍珠を弾き、理玖のバックルに球体が放り込まれる。バックルを装着しなおせば、かちりと歯車がかみ合ったような音がして――全身を装甲が包んだ!!
夏 色 の 英 雄 、 画 竜 点 睛 ! ! !
「わぁお。スーパーヒーローですねぇ」
「いーねぇ。目立つぜ。あと、これが『勝ち確』演出ってやつだ」
楽し気に笑う二人が、頼もしい。
こくりと頷いた理玖が――改めて、スーツの向こうから竜を見た。
「あれ? おい、ベルセルクドラゴンは」
瞬きを二度した。理玖の目の前からは、まず一度目でジャスパーが消える。二度目に、赤い血がマスクを濡らした!!
「変身の間だけ待ってくれた感じですねぇ、悪役らし――ッ!!?」
あっという間の暴威である。円の腰を狙った尻尾を、のけぞって躱せば言葉は途切れた。逃げ遅れた髪の数本が、不揃いに斬られる。
終焉竜は、その手にジャスパーを握って二人から文字通り連れ去ってみせたのである!
「竜種だな猟兵お前は竜種だ竜種からまず蹂躙をしてやらねば人間たちに力を与えてしまうと吾は学んだ」
「っづ、ぎぃい、いィ、ッ!!?」
絞め殺そうと、両手でジャスパーを握っている。
喪った右手は、真黒な狂気のオーラで彩られていた。まぎれもなく死期が近いというのに追い詰められて尚のこと力に目覚めるのだから、さすがの最強竜である!
ジャスパーは、全身の骨がきしむのを感じ取っていた。
「――ギッ、ひ、ヒッ、ぐ」
笑っているような喘ぎが聞こえる。
ぞわりとうなじが鳥肌を立てる感覚がして、気づいたころには理玖が駆けだしていた!!
「やァ゛、め、ッろぉおおおおおおおおおおお――――ッッッッ!!!!!」
「お前もまた『竜』か人の仔よいいや英雄の仔よッッッ!!!!!吾はッ余程古竜の恨みを買っているらしいなァッッッ!!!!!」
衝撃波をまき散らしたダッシュに、理玖が光線めいた軌跡を作る!!
ジャスパーを握る腕を胸元に寄せ、代わりに残り二本の偽造翼と両足で終焉竜は英雄と殴りあうことになった!!
ずっと理玖より大きな竜だ。なまじ、人の形によく似たもので助かったと思う。飛び出した体を丸め、まず速度を上げる。残像を作り出しながら、相手との読みあいが始まった。
理玖が右にそれれば、竜の腕が待ち構えている。大きな死神の鎌だった。それを拳で迎え撃つふりをしながら、遠心力で下をかいくぐる。ざりりとスーツの足裏を滑らせれば大きな空振りの出来上がりだ。さらに、それが空気を斬り割けば衝撃が生まれるが――その圧を生かして理玖は翼の上に乗る! 関節にしがみついて、肘からの切断を試みた。しかし、深追いはしないで――次は、サマーソルトで鱗を無数にはがしてやった!!
「そうだよなぁ、腕にそれだけ頼ってたら、飛べねェはずだッ!!」
こ れ ぞ 、 【 明 鏡 止 水 】 ! !
相手の観察を踏まえた行動は、理玖の守る力故の結果である!!
「猪口才なァッ!!」
しかし、相手も――高速の反撃を始める。『進化を続ける』のだ。
なまじ頭が良い。懐に理玖が入ってくるなら、彼の目の前に握りしめたジャスパーを見せた。勢いよくかかとを振り下ろして翼を砕こうとした足がびたりと止まるッ!!
「くっそ――」
仲間は蹴り殺せない。これは、ベルセルクドラゴンによる理玖への観察だ。
――しかし。
理玖は見たのだ。
握られてぐったりとしたジャスパーは、体中から血を吹き出していた。
無理もない、強大な力に握りつぶされているのである。むしろ、まだ体を保っているのが不思議なくらいだ。改造をほどこしてあるピアスの穴から今にもピンクの肉が見えそうになっていた。
――笑っている。
その顔が、ぐたりとしながらも笑っているのが理玖にはどうも、ひっかかる。
――勝ち確演出だって、言ってたよな?
「がァッ!!!?」
動きを止めた一瞬で、理玖は鋭く爪で薙ぎ払われる!!
地面に背中から打ち付けられ、遅れて後頭部もしたたかに打った。ぐわんぐわんと揺れる視界に吐きそうになりながら、意識だけは痛みを頼りに取り戻す!
「いやぁ、あつくるしーですね。まー、男の子ってみんなそういうのが好きだとは思いますが」
理玖に深追いをせず、次は円を狙う。
判断は素早かった。終焉竜はよく見ている――他人への奉仕を根底に置きながら人をたすける姿にあこがれる少年には、仲間の死体を見せつけるほうが確実だからだ。
胸の前でジャスパーを握りながら襲い掛かる竜の拳は、最低限の動きでかわし続けていた。すれすれのところでほほをかすめたり、手のひらの皮をべろりと持っていかれたりして――やはり、赤色に彩られていく。
汗は滲んだ。しかし、みじんも恐怖を表情に浮かべない。
「お前は何故吾を恐れない痛みを感じていないのかいいや我慢ではないのか解離のようなものか」
「いーえ。痛いですよ。もう、やんなっちゃう、くらい」
飛びはねるように。
大縄跳びの要領だ。空でしなった尾を聴覚で聞き取って、円は観察通りの動きに従い――直感で回避をしている。一歩足を前に出せば、やはりミリ単位の差で尾は地面に打ち付けられる。
「あなたと一緒です。まじめなので」
――学んでいるんですよ。
ジャスパーを、色違いの瞳でも観察していた。熱源を感じる――周囲の大気からのものではない。確実に、血ダルマになった彼からのものだった。
「そろそろ攻撃してもオッケー? 気になってたんですよ、あなたのこと。わたしたちの事を学ぶのなら、お代はいただかないと」
【獄灼華】が、咲く。
夢魔たる円が集めた夢のすべてを食らって、――『悪魔』たる円を顕現させた。
ありったけの力を寄越してくださいな、と口を動かせば円の体に『本来あるべきはずの』力が取り戻される。
竜が、動きを止めた。
「あなたの感情、どんなお味?」
――暴れ狂う。
竜は、『思考を奪われて』暴れ狂っていた。
悶絶と言っていい。優秀な脳は使い物にならないのだ!奪われた思考を取り戻そうとする抵抗で地面に頭を打ち付け、不規則に転がり背中より滑っていく。
「すっげぇ」
思わず、理玖は息を呑んだ。
体を治癒させないよう、円が膨大な狂気を食い続けている。黒いもやが彼女に吸われていくが――やはり、終わりは見えないのだ。
「お腹いっぱい、助かりますねぇ。ふふ、ベツバラ級ですよ、これは」
苦悶の汗が、ようやくほほに滲んだところでぱんぱんと手を叩く。
「さあ、もう起きたらどうです? 満足でしょ?」
円の意味するところが――終焉竜に握られたままのジャスパーであることには、竜が気づけない。
狂わされた彼の胸で、ジャスパーはずっと考えていたのだ。
痛みは心地いい。生きている気がする。
誰しもに与えられる平等な幸福だ。痛みがあるから人は強くなれるし、痛みがあるから善きものに導かれる。当然だ、死ぬときだって神様に連れて行かれるのだから――そんなものはジャスパーに不要だが。
「は、はァ」
血の匂いがする吐息が、いとおしい。
ぐちゃぐちゃに折れた両手が、みるみる力を取り戻す。体中の傷口から炎をあふれさせて、飛び出た骨すら火になった。
「カワイソウなドラゴン、アイする人もできずに一人きり――ガマン比べは俺の勝ちィ♪」
鼻歌が聞こえて。
【 ゲ ヘ ナ の 紅 】 は 、 竜 の 胸 を 焼 く ! ! !
「がぁああああああああああァアアアアッッッ――――!!!???」
火だるまになった終焉竜が、予測できなかったジャスパーの焔にもだえ苦しむ! 放り投げられたジャスパーの体は、最初こそ火の塊だったが――終焉竜を燃やす己の焔から復元がはじまった。
「あー、アー、アッアー、マジで、サイコーだったなァ――」
ジャスパーの狙いは最初から、『出来上がっていた』のだ。
竜種を殺す宿命からは逃れられまい。ならば、体に竜の因子を持つ己が狙われるのが当然だとした。しかし、ジャスパーは真正面から『純粋な強さ』に抗える力は持たない。
ならば、この切り札だった。
火の粉花びらのように散れば、彼の腕を作り、傷からあふれた炎がきめ細やかな肌を作る。
火球から生まれ直すような所業を竜は『学べた』だろうか?
「どーだい? 知識欲は満たされたかい?」
独りよがりは、つまんねェよなァ。
微笑んだ彼の艶やかな笑みを収めた半分の顔に――理玖のかかとが突き刺さる!!
「俺達は、あんたをやるまで終われねぇッッ!!」
後続の猟兵たちのために、蹴破る。
体の鱗をはがされながら、もはや原型をとどめぬ勢いで――狂竜の体は、狂気に侵されていった!
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
全身損傷。大部分の鱗破損済。
――欲望を抱くことが悪いのではない。使いどころこそ肝心なのである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
【明星】
好奇心、大いに結構!
学ぶ意欲があるのは素晴らしいことです、が。
このグリモア─瓦緋羽は大事な友人からの頂き物ですので。
あなたに渡すわけにはいきません!
力をお貸しください、水衛様。
あれなるが終焉を齎すのであれば、
夜明けの光で抗するのみ。
覚悟と血肉、髪を供物に─いざ。
【我が祈りに応えて来たれ、名も無き川の主】─!
龍神の御稜威と体躯、地形変化も重ねて狂える帝竜の暴威を抑え込み。
攻撃と殺意をこちらに向けさせます。
こちらに集中すればするほど、本命の炎に隙を晒すのですから。
ええ、甲斐があるというものです。
好奇心、竜をも殺す。焼かれて思い知りました?
初体験の感想もお代も結構、骸の海へと還りなさい!
水衛・巽
【明星】
穂結さん(f15297)
好奇心は好ましい特性かもしれませんが
いくらか他にも興味を割いていだければ嬉しかったですね…
句読点とか読点とか
お暇あけでよければ、如何様にも
狂える竜の目を醒ますに足りるかどうかは、さて わかりませんが
焼却作業に遠慮が不要なのは久々ですよ
龍神に注意を向けさせるため常に目立たぬよう行動
死角を取り複数方向からの最大火力で焼き尽くす
見るからに固そうな鱗ですが【鎧砕き】で割り
そこへ【鎧無視】も乗せて効率的に狙いたい所です
様々なものに興味を抱き希求する事は悪いことではありません
ですが手を出せば火傷を負うようなこともあるでしょう
もっとも、その教訓を活かす未来はもうありませんが
●
「好奇心、竜をも殺すといいますか」
「好ましい特性かもしれませんが、いくらか他にも興味を割いていだければ嬉しかったですね……」
暴れ狂う竜の姿を見ている。
狂気を吸われてもなお暴走しているらしい。いいや、むしろ今まであふれていた狂気はまだ押さえていた方だったのだろうか。いっそ苦しんでいるようにも思える姿はおぞましいものだった。
「――叡智だ」
赤い着物に身を包む男女が、たたずんでいる。
うち、一人には美しい折り紙の結晶があった。
「む。このグリモア─―瓦緋羽は大事な友人からの頂き物です。あなたに渡すわけにはいきません」
穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)の手にするそれを見た時、もはや竜は竜よりもずっと恐ろしい怪物へと成り果てていた。
「必要なのだ噫吾にはそれが必要なのだヴァルギリオス様にささげねばならないかの御方が未来永劫竜であるために竜の国を作り世界を堕とすためにそれが必要なのだ吾にはそれがどうしても噫寄越せ寄越してくれ吾に寄越せ奪わせろ殺せ殺させろ吾に吾が吾で」
巨大化していく。
想いの肥大だった。忠誠、好奇心、使命、そして――欲望。
戦いたい、強くなりたい、純真な身であれば神楽耶も感動したであろうその因果が生むのは災厄の姿――。
「 吾 に 寄 越 せ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! ! 」
「嫌ですって。ということで、力をお貸しください、水衛様」
吠えた声がやかましい。早速鼓膜がやられた。右耳を抑えながら、左の耳から血を流した神楽耶が水衛・巽(鬼祓・f01428)に乞う。
「お暇あけでよければ、如何様にも。狂える竜の目を醒ますに足りるかどうかは、さて、わかりませんが」ため息交じりな声だった。
ぱちぱちと瞬きを繰り返す美しい貌は、困り眉を作っている。
「おや。ずいぶんと弱気ですね?」発音の違和感を感じながら、山一つほど大きくなった暴力の権化を見た神楽耶だ。
城竜の役割を一人で行てしまえそうだ。なるほど、最強の存在と見て間違いあるまい。――己らとの交戦もその命に記録され、主にささげるつもりであろう。
ぶうんと振り上げた腕が下りてくるまで、遅い。大きくさせてよかったのだと確信して巽は、指で印を作った。
「ええ。まあ、――遠慮が不要なのは、久々なので」
「ッッが――!!!?」
まず、神楽耶が呼びだしたものがある。
先ほど鼓膜を片側だけ破られた。人間の器を借りている今は、内耳が崩壊したのをいいことに血を手に取る。それから、己の整った髪をざっぱりと鋼で斬った。
躊躇いなく、予定通りの所作である。無論ここに来るまですでに、久々に見た巽とは打ち合わせを念入りにしてきた。
「あれなるが終焉を齎すのであれば、夜明けの光で抗するのみ。さあ、おいでませ」
――いざ、【我が祈りに応えて来たれ、名も無き川の主】!!
覚悟など、この世界を渡り歩いている前からもう持ち合わせている。
研磨し続ける感情だ。龍神に捧げても余るほどのものである。飛び出した体躯はたくましく、美しい鱗を持った龍がまず暴れ狂うベルセルクドラゴンを縛り上げた!!狂気のオーラに包まれた腕をひねりつぶし、があああと口を大きく開けて威嚇する。
「申し訳ありませんが、あなたと刃を交わす気はありません。まあ、――かよわい身ですので」
もし、この竜に。
鋼で太刀打ちをしていたら、きっと『折れた』。
神楽耶はいくら人の体が傷つこうとも、その実、本体は刀である。
加えてこの熱気だ。足元を見れば、活火山が脈打っていた。鋼は冷えているうちは固いが、物理的に熱されてしまえば柔らかくなってしまう。
相性最悪と思われた。熱だけならまだしも、木槌よりも鋭い拳で砕かれる宿命になるであろうとも。とはいえ水を扱うすべは持ち合わせていない。それどころか、水は苦手だ。
――だが、『水を操る神に頼ることはできる』。
「申し訳ないのですが、少し『遊んで』いただけますか?無粋なお願いだとは、承知なのですが――」
それは、狂竜へのものではない。
彼を縛る龍神へだ。竜巻を起こすようにベルセルクドラゴンの体をかけずり、縛り上げ、絞る!!!
「っぎぃ、うう、ぉおおおッッおのれ猟兵竜を使うか!! 竜を使うのかっこの偉大なる我々を使うというのだな不敬者めがぁああああああああああッッッ!!!!」
「『我々』? なんのことやら。私の『龍』様はずっと格の高い御身でいらっしゃいますよ――」
攻撃の隙すら与えない。
シンプルだ。神楽耶は防戦のみを龍に願って丸めさせている。地響きはするものの、怪力は彼女まで届かなかった。
「ううう、ぉおお、おおおおお―――ッッ」
「そろそろ、いかがです? あまり無理をさせたくは無いといいますか――その、穢れてしまいそうな気がして」
ベルセルクドラゴンは、体を転がして龍をはがそうと試みている。マグマの中に飛び込んで――しばらくすると空へ打ちあがった。鱗を焼かれてもなお龍神は悪しき生き物を罰するために動き続けている!川の流れを操るのと同じであるらしい。霊力による放水は、乾いた空気からも作り出されて――洪水を作り始めていた。
「ええ、もう充分です」
巽が、掲げる。
両手だ。つけ根同士を合わせるようにして、翼をイメージする。そうっと指を開いた。
「――『 焼 き 尽 く せ 、 朱 雀 』 」
招来、【 朱 雀 凶 焔 】 ! !
指先に灯るようにして十の焔がともれば、手のひら中心に集まり――巨大なる火の鳥が現れた!!
キャァアアアアアアアアアアアアアアアア――――ンン……と甲高い鳴き声がとどろく。大きな翼を開けば、神楽耶の髪の毛を巻き上げるほどの風圧がおきていた。
「龍神様、お勤めご苦労様でございました――」
神楽耶の合図と入れ替わるようにして、朱雀がその身を燃やしながら――日輪を背負っている。狂竜の体は、その陰で黒く塗られた。
「おお何だその鳥は何を起こそうというのだ」
「――様々なものに興味を抱き希求する事は悪いことではありません」
ぼう、ぼう、と。
凶将を中心に火の玉が無数に出現する。狂竜の体を尾だけで龍神は空に放った。幾分か軽くなったらしい巨体が、二人の眼前に現れる。
「ですが手を出せば火傷を負うようなこともあるでしょう」
全身が焼けそうだった。
無理もない、媒介は巽である。
「もっとも、その教訓を活かす未来はもうありませんが」
感情が燃えるようだった。すなわち、――体のどこかに負荷がかかっている。鼓動の早まる心臓が原因だろうか。いいや、どこかで『最大火力』を更新してしまった自分の感情がきっと昂っていたのだ。
成長している。
――はやく、一人前になりたい。それが今日だとは思わない。だけれど、もし、『一人前』に近づいたのならば見てみたかった。
「初体験の感想もお代も結構、骸の海へと還りなさい!」
からりと太陽のように笑った神楽耶の声が執行の合図となる!!
三 百 六 十 度 全 方 向 か ら の ―― 熱 光 線 ! ! !
眩しすぎて、巽とて目を開けていられない。神楽耶も人の身である仮器、その網膜を焼かれないためにも瞼を閉じた。
「やっぱり、完全復活以上じゃないですか」
「――そうでしょうか」
「ええ、そうですとも」
おそらく、巽は己が噴き出した汗をぬぐっていたから困った顔をしたのだ。神楽耶からすれば、これだけのことを起こして汗をかかない人間のほうが心配である。
初手より、二人が目指したのは完全勝利だ。それが為された。二人の体には、最初の『ちょっとした』傷以上には何も損害がない。
己らの熱に焼かれて、すっかり狂竜は目が醒めていたらしい――ずいぶん、体は小さくなっていた。
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
全身大やけど。修復中、狂気の量減少、WIZコードの弱体。
――伸ばし過ぎた手は焼かれる。それは、英雄も、竜も、何もかも皆平等に。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
朱酉・逢真
おお、元気だねえ。今生における目的があるってな張り合いも出ようさ。悪かねえこったぜ。かわいいな。それはそれとして、猟兵の外にまで手を出すなら死んでもらわにゃ困るぜ、坊ちゃん。
この《宿》ァ脆くてな。一発でも食らえば壊れるンで、影に沈んで避けらぁよ。そのままの状態で懐かしい側面を喚び出す。本来の性能にゃほど遠いが、目の前に悪意と殺意のかたまりがいるし。なんなら猟兵にだって悪意はあふれてンだ、足りらぁ。
あまたの命よりあふれる悪意を、祝詞と歌い出でたり吾が異面。あれも俺。これも俺。無数のハ虫類の集合体が、それぞれ病毒もって襲ってくるぜ。バラバラになったら攻撃しづらいかろ。目玉をかじってやろうかィ。
ヴィリヤ・カヤラ
◎△
【爪痕】
学ぶのは大事だよね。
私も戦い方とか人間の事も色々知りたいし。
それにしてもやる気いっぱいって感じだね。
先制は相手の体の動きや視線に注視しながら『見切り』で避けて
『カウンター』が狙えそうなら影の月輪で
足元から何本か蔦を伸ばして絡めて捕まえられるかやってみよう。
攻撃が掠るだけでも痛そうだし『オーラ防御』でダメージ軽減と
『激痛耐性』でギリギリまで動けるようにしておくね。
ジェイさんが敵の目を狙うなら一瞬でも私の方に意識を向けたいし、
月輪で足止めを常に狙いつつ、
UCの【夜霧】を併用しながら宵闇を使って
出来るだけ動きながら遠近で攻撃を仕掛けていくね。
ジェイ・バグショット
◎△
【爪痕】
すげー早口で喋るじゃん…。
見た目厳ついし何コイツ怖……。
見た目とのギャップに引き気味
先制攻撃は『第六感』で攻撃の来る方向を予測し影のUDCテフルネプによる『カウンター』
同時に拷問具『荊棘王ワポゼ』を複数召喚し、注意を引きつつ『傷口をえぐる』やり方でダメージ蓄積
クグーミカは目元を覆う漆黒の翼を広げると、冴え渡る青い瞳が石化の呪いを発動させる
視認出来る限界高度5041mより敵へ向かって高速飛翔
上空より『見続ける』ことで石化範囲を広げ
敵の反応速度とスピードを落とす狙い
狙う場所はヤツの『目』
硬い鱗は強固でも目はどうだ?
敵の眼前へ躍り出る機を作る為、ヴィリヤと連携して敵の注意を引きつける
トリテレイア・ゼロナイン
(情報漏洩の観点でグリモアの名は出さず)
その戦闘力、そして私達を分析、学習し己が主に伝えんとする英知と忠誠に敵ながら敬意を
…『今』を生きる者にとって貴方は危険過ぎる
討たせていただきます
懐に飛び込ませてもらいます!
ワイヤーアンカーを接続した大盾を●怪力で鉄球宜しく地に叩きつけ瓦礫や砂埃で●目潰し
センサーでの●情報収集で状況を●見切り●ロープワークで回収
物資収納スペース内の手榴弾も●投擲し位置攪乱
…UCの●だまし討ちの布石なのですが
自己●ハッキングで出力●限界突破し充填速度向上
狙いが発覚しても●盾受けで防御
巨大な体躯を巨大光剣で一閃
御伽の騎士も知恵を絞るもの
私の場合は道具が些か無粋なのですが、ね!
●
削られる。
今まで狂気の力で、その生態で最強の座に君臨したのだ。
古の竜種を組み敷き、殺し、斃してきた道がある。果ててなお再誕した今がある。
「おお猟兵おお何故吾はお前たちに負けるのだこの吾は何度目の吾だなぜ吾は何度もお前たちに負けて戦い殺しあってもなお負けるのだ!?」
「すげー早口で喋るじゃん……。見た目厳ついし何コイツ怖」
「学ぶのは大事だよね。私も戦い方とか人間の事も色々知りたいし。必死になるのもわかるけど――それにしてもやる気いっぱいって感じだね」
体を焦がしながら真っ黒に変色しつつある竜を見て、半魔たちが眉をひそめた。
ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)とヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)はそもそも、この竜の在り方については否定しない。
暴れる彼の腕を避けた。頭上をぶううんと薙ぎ払う速度は、最初のものより落ちている。
ヴィリヤに対してのものと、ジェイに対するもの、そして他猟兵に反応して発現する力はやはりどれも劣化が著しい。
「このタイミングで出てきて正解だったな」
「あはー、そうだね。ジェイさんのこと看れる医者がいなくなっちゃうとこだったかも」
かの竜は、負けることを恐れているわけではない。
終焉竜はその性質故に常に学び続けられる生き物だ。猟兵たちを素直に評価し、その力と渡り合うために常時体を強化させている。
――しかし、今はそれも「追いつかない」という事実にまた興奮しているようだった。
「おお、元気だねえ。今生における目的があるってな張り合いも出ようさ。悪かねえこったぜ。――かわいいなぁ、坊ちゃん」
ヴィリヤに対して振るった腕は、崩壊が始まっている。
もとより狂気で固めただけの泥とかわらない。もはや失ったものは取り戻せないほどに消費させられているのだ。ジェイに対する攻撃も早さが伴っていない。
虚弱の彼には幸いであった。一撃でもまともに食らえばいいところで体が破裂するほどだ。ふたつの半魔が踊るように、そして伺うように飛び回るのを――影より朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)が見ていた。
「ンー、いい瘴気だァ。こりゃあ、『俺』の使いどころかねぇ」
「――神だこの場に神がいる悪神だおお神よ何処に在るッッッ!!!!貴様はこちら側の存在であるはずだ!!!!なぜ貴様は叡智に愛されるッ!!?」
「おっとぉ、――とと、おとなしくしててよ」
狂気は倍増する。
――にしても、粗雑だ。
生命の窮地に陥ってもなお知識欲は満たされないらしい。戦局を冷静に分析する中で、穴の開いた頭蓋から脳漿を垂れ流しながら竜は雄たけびを上げた。それを、ヴィリヤの茨が押さえつけようと下半身に絡みつく!
陰に潜んだ神を探し求める視線が右往左往と動き回る。――いい的を見つけたジェイもまた、『荊棘王ワポゼ』で全身にスパイクから大穴を作っていく。まるでミシン目のようだった。
「何暴れてンだ。スイッチがわかんねーよ」
「神話の話じゃない?竜って、悪の象徴だし」
「はぁ?いつの話ししてんだ、やっぱ過去はダメだな。だから負けるんじゃねーのって」
くつくつとあざ笑うジェイに、ヴィリヤもくすくすと小さく笑って返す。
確かに目の前の竜は、戦闘力、分析力を生かして学習し己が主に伝えんとする英知と忠誠などはヴィリヤが荒廃した世界で見てきた騎士よりもずっと「よくできた」ものであろう。そこは、敵ながら敬意を抱かされる。
もちろん、ジェイにとってはただの「生真面目な時代遅れの発想」だ。
時代遅れはいつだって損である――その重要度は、ファッションのセンスが巡り続けるのと同じことで。
「竜よ」
狂竜の眼前に、土が盛り上がって――噴水のようにはぜる!!
ぱっ、と散った土砂には炎熱が込められている。ぐずぐずに解け始めた鱗にじゅうと焼き付いて、たまらず小さな悲鳴をあげた。翻弄される竜の懐には、白騎士が降り立っている。
その騎士は、理想の物語でできていた。
騎士たる宿命すべてを背負い、そのすべてを再演することで世界の為に働く彼である。
彼にとっての守るべき姫は、この世界でありそして命だ――。
「――『今』を生きる者にとって貴方は危険過ぎる」
ウォーマシン・トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)!
巨大化した竜を前に、騎士は臆すこともない! いつもお伽話では、竜は騎士に殺されるからだ。
怪力で暴れる竜の腕を盾で受け止める。ずううんと響く衝撃をアーム関節部から逃がしながら、センサーであたりの情報を収集――上空に猟兵二体、『周囲』に猟兵が一体、交戦中。きわめて状況は有利!!
「うぉおお――っっ!!」
激しい咆哮で、ベルセルクドラゴンの注意を完全に引き寄せた。トリテレイアの姿を隻眼で見た暴竜は、顔の復元を行いながら騎士を手のひらで叩き潰そうとする!!
「おお騎士よ死にに来たかそうだお前たちはそうであるべきだ戦場で死ぬべき華で在れよ騎士ども我楽多にしてやるッッッ!!!!」
――閃光。
「ぉ」
空虚が生まれた。
それは、トリテレイアの投げたものだ。振り下ろされたこぶしを盾で受け止める直前に放り投げたものである――やはり竜は、解析通りに視覚へのダメージが著しい。
「目標、竜! 視覚異常を確認! 繰り返す、目標、竜――!!」
「おやおやァ、じゃあ最初から予定通りだ」
トリテレイアの情報共有には、逢真が影より響く声で応答した。
「こちら通りすがりの根無し草でさァ、了解。騎士サマ。――そんじゃァ、はじめっかィ」
それは、逢真の側面だ。
『敵対者』、『絶対悪』、『悪の父』――顕現する器を持てないほどの力を保有する、善悪二元論においての悪もまた、彼の一面である。
声は響くのに、そこには逢真の姿はない。代わりにあふれ出た黒があった。
「何だ其れはお前たちは吾に逆らうというのか!?」
――ぞわりと、竜の背筋が悪寒に震える。
【凶星の異面】。それが、逢真の別の顔であり、彼という概念の象徴だ。
あふれ出た爬虫類たちである。竜よりもずっと小さく、しかし、体の似通った彼らは溶岩からあふれ出た。サラマンダーのように熱をまとい、体には毒素をしみこませている。素早く駆け上りながら、竜の体へと張り付きだす――!!
鱗を腐らされ、骨までむしばまれる毒素に竜が悶えた。地団太を踏むたびに地面が揺れ、小さき者たちは散っていく。しかし、影から生まれる彼らの数は、この世の悪の数に比例する。目の前にいる、竜の「狂気」からも!!
「いい拷問だ、ゾクゾクするな」
見ているだけで全身が泡立つような光景に、くつくつとジェイが笑う。
全身を溶かされていく竜は絶えず復元を繰り返すが、その地獄たる苦痛はジェイにも覚えがある。まるで、病に侵される己の体のようだった。
「――もっと効きやすくしてやるよ。ホラ、『安静にしてろ』」
【メドゥーサの瞳】だった。
ジェイが、美しい女を従えて空を舞っている。
熱風に吹き上げられる流れに抗わなかったどころか、青色の呪われた瞳を持つそれは、目元を覆う漆黒の翼を広げて空から見下ろし続けている。ジェイと己に火の粉がかぶらないように、極めて高いところに飛び上がったのだ――たった、一瞬の間で!
「鎧は確かに硬いだろうな。しかも、構造は簡単だから何度でも再生できるだろ」
教えてやらねば。
体の石化が始まる。竜は、それがジェイの従えた女のせいだと理解して両手を掲げた――!
「吾を固めようというのか吾を石にしようというのか吾は何度でも蘇ってお前に抗うぞ吾は戦い続けるぞその女を止めさせろッッッ!!!!!!!!!!!!!」
「だが、目はどうだ?」
ジェイが自分の下瞼を指で引っ張れば、血の足らない白い中身が見えていて。
――竜 の 体 に 無 数 の 剣 激 ! ! ! !
ふわりと黒い霧が竜の体をなぜていった。噴き出した狂える血をなめるようにぬぐいながら、一つに集まりだすと美しい女の姿を作り出す。
「うーん、味は結構濃いめかも。でも、悪くないかなぁ」
【夜霧】は、ヴィリヤの姿を象った。
美しい女のつややかな唇には、紅い狂気のルージュが塗られている。
「体によさそうか?」ジェイが問う。「ちょっと刺激が強いかもね」とヴィリヤが笑った。
全身から蝕まれ血を吸われ、竜が崩壊の速度を速めていく――!
「ぉおお、おおおおッ、叡智、叡智が、吾は叡智を、知らねばぁァ、ッ」
「必死でかわいいねぇ」
もう、叡智の手下たちの手のひらであるというのに。
それでも暴竜はその力をまだふるい続けようとする。空にもがく両腕があまりにもむなしくて、逢真は目を細めていた――影の中で。
「寝物語にゃちょいと豪勢だが、耳障りのいい騎士物語が一番いいさね、いっちょ頼むぜぃ」
一閃が、振り上げられる。
動かぬ大きな丸太と変わらない。けれど、その騎士は石化しつつある竜をけして笑うことはなかった。だからこそ、最後まで手を抜かない。
狙うは竜の目。鱗をいくら壊しても、腕を切り落としても狂気で復元させるというのなら――確実に柔らかくて、一番構造が複雑な内臓を破壊する。
システムログがモニターに表示される。視界を幾何学が彩った。
限界を強要されたシステムが悲鳴を上げて、トリテレイアの視界を赤く染める。熱源の暴走を予期する警告文がめぐらされた。それでも、やめない。
胴体から伸びたケーブルはユニットから取り出された剣に接続される。人工的に作られた科学の騎士は、柄から白い粒子を漏らして――構えた。
「――… … 充 填 中 断 、 刀 身 解 放 ッ ッ ッ ッ ! 」
発動、【コアユニット直結式極大出力擬似フォースセイバー】。
空を割るほどの、力強い光線が立ち上る。
まるで、神話の一場面のようでありながら――ありふれた英雄譚にある終焉のようでもある。
竜の目がこんどこそ右半分を聖なる光線に焼かれて、完全に機能の一部を失った。
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
右半身に大きな切り傷、両目の失明。
――お伽話で、いつも竜は殺される。それが、彼らの役目である限り。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鎧坂・灯理
◆匡(f01612)と
よし 頼りにしてるぞ、友よ
奴の舌を引っこ抜いてステーキにしてやろうじゃないか
そうなのか?じゃあ筋を切らないとな
四本腕になってスピードと反射速度が上がる つまり考えるよりも先に手が出る状態だ
『椒図』を閃光手榴弾にして何個か投げる 奴が手で払えば爆発するだろう
腕で光を防ぎ、大鴉に音を食わせる この間に匡が奴のUCを解除している手はずだ
匡に限って失敗はありえんからな 珍しく戦場で安心できる
彼を友と呼べることは私の誇りだ
ああ任されたとも
直径150mの光熱球を、75個すべて 奴にぶつけてやる
閃光手榴弾で光に対策できたと思ったか?甘いんだよ!
太陽の光熱で骨の髄からウェルダンしてやる!
鳴宮・匡
◆鎧坂(f14037)と
こっちこそ、頼りにさせてもらうよ
……ステーキは……あんまり筋ばかりだと味がよくないんじゃなかった?
聴覚はあらかじめカットしておき
反射応答と視覚、特に動体視力を極限まで上げておく
閃光手榴弾の炸裂の瞬間を見切って
一瞬だけ視界を影で覆い直視を避ける
相手の視力が戻る前に畳みかける
――さすがに侮れる相手じゃないからな
二度目には対応してくるかもしれないと踏んで
まずは、相手の“力”を殺すよ
腕や脚の関節、翼の付け根
特に鱗や外皮の隙間から狙える限り“軟らかい”部位を狙って
【抑止の楔】で相手の力を封じていく
さて、仕上げは任せたぜ
ステーキにするんだっけ?
最大火力、遠慮なく叩き込んでやってくれ
コノハ・ライゼ
まったく嫌ンなっちゃう、なまじ分かっちゃうトコとかさ
ケドどんなに喜び猛ろうと学び足りねぇモンがあるンじゃねぇの
敵の挙動*見切り攻撃予測
ホラホラ活きがイイ方が美味そうデショ?
貪欲そうだし挑発じみた*誘惑しては*残像置いての*だまし討ち
*第六感も併せ致命傷避け*オーラ防御で弾き
躱しきれぬ分は*激痛耐性で凌いで喰らいあいといこう
攻撃途切れた隙見逃さず*カウンター狙い踏み込んで
【焔宴】で召喚したフライパンをフルスイング
硬かろうがオレに*料理出来ないモンなんざねぇのよ
殴打の勢い活かしたまま*2回攻撃で*傷口抉り*捕食
どうせ生命を啜る(生命力吸収)なら楽しまなくっちゃあ
アンタにあって?そーゆー余裕ってヤツ
花剣・耀子
◎△
思考して、感情を得て、かたちを変える。
まるでヒトのようなことをするのね、おまえ。
此方を刺す殺意は、それ自体が武装のよう。
錯覚ではないと判っているわ。止める術がないことも。
――だったら、増えた分まで斬るだけよ。
大きさがあまりにも違う。
元より受けきれるとも、無傷で済むとも思ってはいないわ。
それでも。其処にあるなら、あたしには斬れる。
致命傷になりかねないその一撃を咄嗟に機械剣で斬り飛ばして、無理矢理間合いに入り込むわ。
おまえに届くまでに、いのちと腕が一本あれば上々よ。
布を振り払った刀を逆手に、もう一閃。
過去に留まっている癖に、先へ進むことが出来るとでも思っているの。
もう一度生まれて出直しなさい。
●
殺意こそが武装のようだった。
錯覚ではないと分かっている。体を削られ、両目を奪われて尚は前に出る。体に狂化の術を施して、どうにか竜の姿を保っていた。巨大化した体はそれでも低い山ほどあって、あまりにも大きい。
「思考して、感情を得て、かたちを変える」
遠くから、手のひらをその姿に合わせた。
「まるでヒトのようなことをするのね、おまえ」
花剣・耀子(Tempest・f12822)は、その姿を握る。
飛び込むのだ、と仲間たちに宣言をしたときは驚かせたものだ。本当にいいのか? と眼帯の彼女が心配を込めてもう一度確認をした。責任を取りたくない、という顔は正直なものである。
――其処にあるなら、あたしには斬れる。
どうしてか、接近したかった。
かの竜の命が真面目なものだったからというのもある。けして、傲慢ではない。何故、何故、なぜ、――思考の迷宮を愛し、強く在り続けるために命を磨くさまは耀子から見ても明らかに『強い』竜そのものだった。
斬りあいたい。殺しあいたい。――真正面から、斃したい。
「斬るだけよ。おまえの因果と、その座標ごと」
がしゃりと、剣を構える。今日の調子もいいらしい、ぐおおんと激しくエンジンが唸って飛び出すまでの時間はそうかからなかった。
「まったく嫌ンなっちゃう。なまじ分かっちゃうトコがさ」
狂気の腕が、狐をとらえんと振るわれる。
空を跳びまわるようにして、体を伸ばして美しく器械体操の動きでコノハ・ライゼ(空々・f03130)は翻弄していた。
「ほらほら、活きがいいほうが、美味しそうデショ」
「狐めお前も猟兵か吾には届かぬ存在なのかいいや届く届かせるとも吾はまだ戦えるこの体が朽ち果てるまで貴様らと死合う運命なのだッッッ!!!!」
「そんな運命御免だけどねェ――でも、ずっと戦ってたいってェのはわかるかな」
飛び出す拳をしなやかな体で受け止める。受け身をとっていたから、腹筋を殴打されるだけで済んでいた――腰の軋みを憶え乍ら、ライゼは拳に絡みついて組んだ足だけで滑っていく!
曲芸のような動きは見えていない。しかし、その分――耳に集中しているようだった。
「でも、ノンノン。どんなに喜び猛ろうと学び足りねぇモンがあるンじゃねぇの?」
「何を言うのだ猟兵吾はお前達との闘争を心から喜んでいるッッ!!!」
「――楽しみってェのがないのよ。アンタ、必死過ぎ」
まるで腕にとまった蚊を殺すかのような直線的なビンタは素早い。ライゼが足を離せば、強かに腕を打つ。それから、竜の真黒な腕が己の腕を突き抜けて伸びた――不完全な腕を自ら突き破ったのである!!
それを、眉をひそめて嗤った。
ライゼに向かう爪は足の裏で駆け上るようにしてのサマーソルトでやり過ごす。とらえきれなかった爪と交錯するようにして、体を駆けずり回ってやった。
・・・
「楽しんでるな、料理人」
「ああ。いいんじゃないか――仕事は楽しみたいって人、多いんだろ」
知らないけれど。
鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、己の銃を抜く。
隣にいる鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)は、悠然と立ちながら戦いの光景を解析していた。作戦通りに動くつもりだ、故に――巻き添えにするわけにはいかない。今から、ライゼの動きを解析してパターンを作っている。不規則なように見えて計算高い彼の動きは本能的でありながら理屈があった。
「奴の舌を引っこ抜いてステーキにしてやろうじゃないか」
「オーダー、了解」手早く、安全装置を外す。念のためにと握っておいた閃光手榴弾は出番が要らないだろう――しかし、聴覚を『切る』のだけは忘れない。余計なノイズを拾わないためにも、匡は耳栓を手際よく己の耳穴に詰める。
「よし。頼りにしてるぞ、友よ」近くの灯理の声は聞こえた。
「こっちこそ、頼りにさせてもらうよ」
「うん」
「あ、――ちょっと待って」動き出そうとする長身に、手のひらを向ける。
こて、と首をあどけなくかしげた灯理の素に、どう反応したものか考えてからこげ茶の瞳が右にずれていく。
「……ステーキは……あんまり筋ばかりだと味がよくないんじゃなかった?」
ぶは、と灯理は吹き出す。
――まずいことを言ったか?という顔をして、匡が様子を見るものだから余計に笑ってしまう。「そうか、そうだったか」とくつくつと喉をひきつらせる灯理は、気にしていないと首を横に振る。
――冗談が言えるようになったのか、なんて。きっと、彼はまじめにそう思ったのだろうけれど。
「はは、は。これは失敬、知らなかったんだよ、いい勉強になった――じゃあ、筋を切らないとな」
余裕があるのが、『強者』の証だ。
・・・・・
「フライパンもあるし?」
戦いは楽しまねば。凶悪に笑った鮫のような女の顔を、匡がどこか安心した顔で見送った。
閃光弾は必要ない。
代わりに――音に敏感であるはずだ。テレポートでライゼの近くに転移した灯理の気配に、案の定竜は体の速度を上げた。
「おっと、自壊してるぞ」
私的する灯理は冷静だ。しかし、ベルセルクドラゴンのほうは己の体をぼろぼろにしながらも猛烈な速度でテレポートを繰り返す灯理に引き寄せられる!!
「構うものかこの生命すべてを使ってお前たちを学びこの知識を献上せねばならぬ吾の今生はそのためにあるのだ吾の今生は覇道のためにあるッッッ!!!!」
「なんだ、発想がシンパそのものだな――」
生粋の竜だという割に、やはり飼いならされているようだった。
い
「下らん。さっさと去ね」
爆音。
必要なのは『癇癪玉』だ。灯理が放り投げた手榴弾は『いつもどおり』のものである。豪速の竜に少しでもかすれば、その耳元で爆ぜた!!
「――――――――ィッ!?」
動物的な反応だ。満足に唇で笑みを作れば、灯理は転移で地面に降りる。
ふわりとした着地を果たすころには――匡が、引き金を引いていた。
けして侮っていない。
匡の頭の中は整っていた。狙うべき場所を理解している。
――まずは、その力を『殺す』。
【 抑 止 の 楔 】 ! ! !
三つ重なる竜の悪しき術を強制的に停止ッ!!発動は、親友が明けた大穴――その内側の肉にて炸裂!!!
「うぉお、おおおッ!? なンだ、これは、何が起きている吾に何をした――!!!???」
見えないのだ。何が起きているのかはわからないが、己の体が縮んでいき、どんどん
力を奪われていく感覚がして狂竜はでたらめに暴れる!!
「完全に殺しきるまでタイムラグがある。耐えてくれ」
さすがに相手が大きすぎる。強大な体は匡のコードを『学習』して体の中を作り替えようとすらしているのだ。
凶暴は足で地面をけり上げ、爆炎を呼び起こしながら猟兵たちを探すッッ!!四つん這いの体でめちゃくちゃに這いずり回りながら、痕跡を探していた――。
「下準備はした。次は、卸してくれよ」
――どこからか灯理の声がした。
耳もうまく使えなくなったベルセルクドラゴンは、美しい花の香りを嗅ぎ取る。
「なんだ――お前は」
「鬼に逢ったのよ。おまえ」
手に、業を握る鬼である。
耀子の役目は『包丁』だ。飛び出した体はその小さな体より生み出されたものである!振り上げる剣の一閃を、風圧で嗅ぎ取った竜が迎え撃った!!!一回り小さくなった手のひらに、ぎちりと受け止められる。
回転する耀子の牙と食い合う形になった。しかし、――耀子はここで退かない!!
「はぁ、あ、ぁあああああああああああああ――――――ッッッ!!!!!!」
静かな吐息から、体全身での勇猛さをあふれさせる!!
機械剣で弾くようにして、手のひらを切り果たす!!作られたばかりの脆い鱗と狂気が飛び散って、それを己の剣が食らうのがわかる。
満たされた剣が――機嫌よくしゅるると哭いた。
耀子の腕は、利き手の一本が肘から骨を突き出している。
真っ赤な血を連れて、痛みを憶えた。しかし、ちょうどいい『気つけ』だと耀子は思う。
この竜に届くまでは、耀子に必要なものは腕がもう一本と、命だけだ!!!
「もう一度生まれて出直しなさい」
止まらない体は、腕から駆けあがって――布を振り払った刀を逆手に、飛び出す。
狙うのは吠える声に合わせて開かれた顎、その中にある『舌』だ。
「がぁああああああああああああああああああああああああ――――ッッッ!!!!!!!」
【 剣 刃 一 閃 】!!!
ぽぉんと出血量に応じて飛び出した舌が、どてりと地面に落ちる。大きなうちにとれてよかった、と灯理が満足げにうなずく。
「やっかましーねェ。アンタ、舌があってもなくても変わんない?」
驚きと痛みに茫然とした竜に、【焔宴】がフルスイングでぶつけられるッ!!!
ぐわぁああああんと大きな音がして、調理の銅鑼が鳴った。大きく体を横に揺らされた竜が、匡によって目視される。
・・・・・
「フライパンの準備はオーケーみたいだ。ステーキにするんだよな?」
ライゼの手には、蒸留酒で下地を整えられた強大なフライパンが握られている。
強かろうがなんだろうが、ライゼに料理できないものはない。勝てば食らってよい世界にて生きているのだ――生命を啜る楽しさを心得る狐が、もう一振りを食らわせた!!
「最大火力、遠慮なく叩き込んでやってくれ」
匡のハンドサインは、素早かった。
己の体毛、そして産毛が焦げていくのがわかる――とんでもない熱量が真上から注がれていたのだ。蒸発しそうな熱を感じて、耀子も眼を細めて地面を見た。
見上げてはいけない、網膜を焼かれてしまう。
「こっちだ。走れるか?」
代わりに、腕を壊した彼女を匡が誘導する。銃で地面を二度ほど叩いてから、居場所を教えてやった。鋭い金属のぶつかった音に引き寄せられた耀子を、射程内から退ける。
「――甘いんだよ。闘争の先にあるものを考えろ。弱肉強食は、この世のことわりだ」
【技術:日華舞陽】。
熱光球は人体に有害な核反応を起こさない程度に調整された小さな太陽たちだ。その数、およそ直径にして150メートル。数は、――75個!!
竜を囲うようにして生み出されたそれは、どんどん光を増す。光すらもう見れないベルセルクドラゴンは、あたりに発生した異常事態に戸惑っていた。
「お客サマ。焼き加減は如何様なもので?」
灯理を見上げるように、竜の鼻先でライゼがフライパンを背負って微笑む。
――少し考えてから、きわめて『大人っぽく』微笑んだ。
・・・・・
「ウェルダンだ」
フライパンが、叩き落とされる。
巨大な鉄板を振り落とした力で、ライゼは体を宙に浮かせて脱出した。『キッチン』の様相を上から見上げれば――そこには、無数の核熱に焼かれて真黒な炭になる竜の姿があった。
◆
帝竜『ベルセルクドラゴン』
舌の喪失。全身被ばく(自動で鱗を治癒してしまうため、体外に漏れない)。
――美味しくたべないと。いのちも、戦いも、なにもかも。余裕こそ、大人の嗜みゆえに。
成功
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イリーツァ・ウーツェ
一つ、訂正させて頂く
古竜は未だ、絶えていない
生残りが、此処に居る
奴を必ず殺す
復讐を行う程、情は無い
約定だから、だけでも無い
"古竜を『弱種』とされる事が、我慢ならない"
成程 此れが情動か
封印の弱まりも、関係するのだろうな
巨きく、強くなるか
其れは好都合 其の上で討ち果たす
全力魔法で身体を限界まで強化
敵の力を減衰させる負気で身を覆う
古竜の骨に宿っていた物と同じだ
私は生きているから、より強いが
奴の先制を受け止める
貴様が滅した古竜とは違う
私は、今に至るまで生き続けた
停滞していた貴様等、疾うに超えている
勝逃げは此処迄だ、ベルセルクドラゴン
さあ、"古竜"を教えよう
本気で来い。でなくば、秒と保たんぞ
ジャハル・アルムリフ
屠ったものは
いずれ別のものに屠られような
自嘲の思いと共に見据え
視線は離さず
振る舞いは不遜に
言葉は静かに
駆けるは音を殺し地を蹴って
小手調べの牽制を疾く避ける
爪牙隠した獣と見せるよう
ほんの欠片でも良い
決して猟兵を過剰に侮っては居るまい竜に
底知れぬ<恐怖を与える>べく
そして、それを制したと感じさせる様に
急所だけ逸らし
意識だけ繋げば良い
剣を、腕を盾に
耐性と研いだ感覚全て以て一片だけを残せるよう
返す刃は【叛虐】を以て
再び蹂躙される側へ墜とさんと
喰われろ、お前の業に
意識の続く限り何度でも牙を立てよう
角に鱗
翼
尾、それから
離れられぬ戦場
何故、我等は似通って居るのだろうな
気狂い竜よ
此度は、ともに狂おうぞ
ヴィクティム・ウィンターミュート
◎
──シンプルに強い手合いが一番面倒ってのは、どこも同じだな
パワーやスピードは圧倒的に格上、下手な搦め手は潰される
…なら、こっちもシンプルにいくまで
死ぬかもしれねえが、何も問題無いさ
勝てばいい…そうだろ?
プログラムは待機状態に
突入後の先制攻撃で、突っ込んでくるのは目に見えてる
間に合うように最速で起動し、攻撃の軌道を【見切り】、致命傷にならない範囲で防御する。ここで腕が飛んでも問題は無い
死なずに起動さえ済めば、俺の手番は来るさ
俺を死に近づけてみろ
そうすればするほど、俺の勝率は跳ね上がるぜ
死ぬ一歩手前のギリギリを攻めて、テメェと殴り合おう
狙いは両目、そこから脳を潰す
さぁ、ちっぽけな俺と喧嘩しようぜ
鷲生・嵯泉
古竜を滅ぼした竜だと?
……其れがどうした
何度蘇ろうとも、オブリビオンならば滅ぼすまで
眼に映る総ての情報と集中した第六感で以って攻撃の軌道を見極め
衝撃波を当て威力を削ぎ、オーラ防御を重ね
致命に至るものは見切り躱し、武器受けにて細かな攻撃は弾く
激痛耐性にて行動に支障が出ぬよう全ての痛みを捻じ伏せ前へ
――不灼真命、尽きぬ意志を以って為さん
如何に速度を上げようが、攻撃の瞬間に必ず“接する”
其の時を狙い、カウンターで怪力乗せた斬撃を首へと叩き込む
既に滅んだ身であるお前に、何の成果であろうが上げさせるものか
一片の情報だろうが渡しはしない
何をも得る事無く、早々に骸の海へと還れ
疾く潰えろ、愚かな残滓めが
●
「――口も利けなくなったか」
「いいじゃねェか。シンプルだ。あとは、殺すだけ。そうだろ?」
鷲生・嵯泉(烈志・f05845)と、ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)は並び立つ。
しなやかな男の体に秘められた強さは、痛みだ。小さな少年の背に乗せられた強さは、似たような痛みだ。
「無理をするなよ」
「あん?ナメてくれるなよ、仕事はしっかりやるのがランナーだぜ」
「――それもそうだな」
やりやすい手合いである。お互いに、仕事のやり方には口を出さない。
嵯泉の言った言葉だって、『言ったほうが社会的であるから』の言葉だ。ヴィクティムは、それを理解している。己が一番心から遠ざけたいぬくもりを少しだけ孕んだ声だったからだ。
「死ぬかもしれねえが、何も問題無いさ」
少年の身で、業を背負う。
己に言い聞かせるような、未来を否定する言葉だった。
己の未来ではなく、いつでもヴィクティムは誰かの未来のために力を尽くす。サイバーゴーグルを額から目に卸し、敵を睨み付けた。
「勝てばいい――そうだろ?」
「然様」
嵯泉は、静かにうなずく。
「だが、生きて帰れば『もっといい』」
「ハ、――アイアイ・サー」
生きてくれ、という言葉が呪いなのだ。
喪った彼らにとって、終焉の竜はまさに絶望の象徴だった。しかし、同時に越えねばならぬ強敵でもある。ヴィクティムがサイバーデッキに手を触れた時、嵯泉もまた刀に手を添えた。
「苦しいか」
竜は、もはや雄たけびとも悲鳴ともつかぬ狂った声で吠えていた。
暴れ狂い、体をただれさせ、核の焔を身に宿すことになる。体の内側から燃やされなお暴れるのだ。
・・・・・
「屠ったものは、いずれ別のものに屠られような」
――ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は、同族食いだ。呪われし凶星である。生まれたことを後悔した産声は夜空に食われて消えていった。
記憶を取り戻しながらもすべては戻らない。だけれど、自分が『屠るもの』であったのは理解している。
竜種として、竜と今まみえていてもわかってしまうのだ。
殺し方が、体中で理解できている。狂う竜が己を追いかけ、殴りつけにきた。その動きを小さな動きで避ける。音も立てないようにして、時に低く地面にはいつくばってかいくぐり、しかし、見えぬ聞こえぬのかの存在を脅かす実力を理解させるためだった。
――いずれ、こうなる運命かもしれぬ。
「苦しく在ってくれよ」
不敵に唸った。牙を見せ、輝く黒い瞳の瞳孔を広げる。
黒い瞳に青白い輪郭の月を宿しながら、ジャハルは鋭く動いた。竜が己を侮っていないのはわかる。猟兵たちを知りたがる姿は生真面目なものだった。
今は、生命を追い詰められた存在である。この『抵抗』は死に物狂いで、一番『強い』!
「ッぐ」
意識だけをつなげばいい。
鋭い動きと、巨大な爪がジャハルのわき腹を貫く。
しかし、――肝臓、一番血流の流れるところへの侵入は防いだ。臓器の間を縫うようにして侵入を赦す。串刺しになったジャハルの体を突きあげて、放り投げて見せたのだ。
――赤い血を振りまきながら、ジャハルは地面に転がっていく。
しかし、また駆けた。腕だけで飛び起きて、剣を握る。先ほどよりも踏み込みは甘いが、窮地に追いやられたジャハルもまた『今が一番強い』!
キグルイ
「終焉竜よ」
血だらけになって、泥まみれになって。
傷を焼きあって、爪を立てあう。牙を重ねあい、お互いを竜と認め合う激戦は――どうしても。
「何故、我らは似通って居るのだろうな――」
どこも、かしこも。戦場という因果から離れられないのも!
地面が割れる。ジャハルの体が空に放り投げられても、足を大股に上下に開けば美しく弧を描いて地面に降りた。ぼたぼたと血を腹からも頭からもどこからも溢しても、まだ、立っている。
「此度は、ともに狂おうぞ」
戦いを楽しいと、思ってしまうことは。
間違っていないと、信じている。
傷だらけになってもなお、悪しきに噛みつこうとする若い竜の姿を見た。
ジャハルだ。黒い尾をしならせてなお、傷だらけになっても戦いに挑む雄である。
イリーツァ・ウーツェ(竜・f14324)は、――ほとんど、『約定』通り以上の行動に出ていた。ジャハルに向けて放たれる拳を、片手で受け止めたのである。
「――、」
誰か、と問おうとして。その背中に、ジャハルは息を呑んだ。
「一つ、訂正させて頂くとするなら。古竜は未だ、絶えていない」
竜だからこそであろう。
ジャハルも、ベルセルクドラゴンも、彼の姿を見て目を見開いた。
イリーツァの出身は、どこか彼も知らない。しかし、頭にあるのは己が『古竜』と呼べる竜種であったことだった。
「生き残りが、此処に居る」
何白何千という歴史を見てきた。
生命の移り変わりと、その輪廻を動かしたこともある。いつしか、竜の己の背には森ができていたことだってあった。
自然そのものといっていい。新たな生命を悦び、雛が生まれることを尊いとし、世界の巡りを見てきたのである。
ゆえに、この終焉竜をかならず殺さねばならないとしたのだ。握りこんだ大きな手を、ぐうっと肩から押し込めば――強大な竜の体が後ろに追いやられた。
「成程。此れが情動か」
怒りだった。
「封印の弱まりも、関係するのだろうな」
――自覚できた感情は、原初からのものである。"古竜を『弱種』とされる事が、我慢ならない"というのが、この竜にとっての大きな戦う理由だった。
滅ぶものは滅んでよい。この世界に古竜がいないのは、きっと、彼らが居なくても自然が巡るようになったからだろうと思っていたのだ。だけれど、――違った。
意味もなく、殺されたのだ。
「貴様が滅した古竜とは違う。私は、今に至るまで生き続けた」
若い竜であるジャハルから、退けるためにもう一方の腕で殴るッッ!!!
鋭い一撃は、簡単にベルセルクドラゴンの復元したての腕を壊してしまった。ばらばらと鱗が飛び散って、オーラの塊である脆い腕のみが残る。
ジャハルが、息を呑む。
――強大な命が、今また、目の前にあった。
「勝逃げは此処迄だ、ベルセルクドラゴン。――さあ、"古竜"を教えよう」
心臓から燃え盛るは、殺戮の証。
走る百足の紋は、彼が大地の権化である証。
「本気で来い。でなくば、秒と保たんぞ」
イリーツァ・ウーツェ。古より来たり大地の竜が、燃える!
竜の咆哮が、とどろいた。
「ウィズ、こりゃあ――怪獣大戦争か? B級映画もびっくりだぜ。ウィズワームがウヨウヨだ」
ジャハルとイリーツァが交戦する中だ。
滑り込んだヴィクティムが大きな竜の足踏みに巻き込まれるのをかわしながら、優れた脳よりバラバラに動く腕に苦戦していた。
でたらめに振り回しているようで、解析結果からの結論で言えば――この竜は、それぞれのパターンをヴィクティムと同じくらいの速度で解析していることになる。
「生きるコンピューターってとこか――? 全く、バトルマニアめ!」
少年の体を、拳が襲う。
回避するには体力がない。腕を組み合わせるようにしてガードを固めた。ヴィクティムは何を思ったか――真正面から受け止めることになる!
ぶわりと彼の体が浮いて、少年の両腕はばらばらと散る。ああ、また――狐耳の彼女を困らせてしまうだろうか。
仕事を増やしてやったんだ、と笑っても、また、泣くだろうか。
「チェッ」
舌打ちをして、自嘲気味に笑った。
――なぜ、死にたくないと思ってしまうのだろう。ばらばらに飛び散るゼンマイやコードは、竜の追撃に耐えられなかった彼の弱さの象徴だ。
「ちっぽけな俺と喧嘩しようぜ」
たとえば、そこに浮いているボルトのような。
それがヴィクティムだ。無数の配線や秀でたパーツに守られて、実のところ彼の存在というのは核でありながら小さな命である。
替えの利くような、同じものがたくさんあるものだ。無個性で、そう在り続けて走る存在である。ああ、なのに、どうして――。
【Forbidden Code『Undead』】。
散らばったサイバネが、――紫電を纏う!!!
竜の腕に襲われた彼の体を雷が包んだ。電子の動きを可能にしたヴィクティム派、電磁の動きで緊急脱出――!!
「おいッッッ!! 脳を狙うぜ、ウィズワームズ!! 準備しろッッ!!!」
何故、人のために動いてしまうのだろう。
英雄にはなれない。悪党だ。大切だったものを殺し直して、生きるという地獄をまた歩む。
どうしてだろう。
――何故、いきいきとしてしまうのだろう。
叫んだヴィクティムの体が、素早く空を駆ける。攻撃を避け、一撃必殺の時を待つジャハルとイリーツァが低く唸った。
「既に滅んだ身であるお前に、何の成果であろうが上げさせるものか」
――其処に、剣鬼の一撃が通る!!!
腕の一本を電子で分解された狂気が、があああと鋭く吠える。大声の圧力だけで吹き飛ばされた地面があって、しかしそれすら鋼で薙ぎ払って見せる男が居た。嵯泉だ!
「一片の情報だろうが渡しはしない。何をも得る事無く、早々に骸の海へと還れ」
一方的だ。
ずん、と歩みを深めた嵯泉である。
彼の声がする方へ、超重量の拳が無数に降り注いだ。ラッシュといっていい。残る腕の二本で古龍と凶星に襲い掛かる破壊の存在は、余った三本で嵯泉を殺しにかかった。
――言葉が聞こえないだけ、ずっとましだ。
喧しいものが減っただけ集中力も上がる。降り注ぐ拳は、まず軌道を見極めた。隻眼の光を連れながら幽霊のようにつかめぬ動きで攻撃を避ける嵯泉である。
彼の居た場所で地面が割れて、溶岩が満ちる。靴の裏を焼かれないよう、前に、前に、と金色の夜叉が進んだ。細かな攻撃を弾く鋼は刃こぼれ一つない。それは、主の姿のようだった。
ほほを跳ねる熱さに肌を焼かれても、衝撃波から生まれたかまいたちに腕を切られても、静かに前へと進む。
速度を上げた拳のラッシュが、もう一巡というころに――びたりと、竜はとまった。
「疾く潰えろ」
嵯泉の刀は、確かに竜の体に触れていたのだ。
何度も、何度も。拳を振り下ろすたびに。嵯泉の体が、ヴィクティムの電磁に引かれて戦線より素早く離脱させられる。
「――愚かな残滓めが」
吐き捨てる声は、確かに怒気に満ちていて――!!
爆 炎 、 【 不 灼 真 命 】 ! ! !
嵯泉の狙いは、うちに内包させられた核の焔だ。
与えられたものを内包していられまい。鱗の間に鋼を入れて、その結合を刺激したのである。青白く燃える己の鋼を確かめて、空気を振り払ってから丁寧に鞘に納める。ちん、と鋭い音と共に――竜はいよいよ、その体を蒼い炎で彩った!!
ばう、ばう、ばう、と爆炎を上げながら燃えていく。舌を失い、喉を焼かれたそれがまだ抵抗するのをヴィクティムが眺めていた。
「もう、終われ。ダレるのはごめんだぜ」
ぱちん、とフィンガースナップが鋭く響く。
脳を破壊されたのだ。竜が今度こそもんどりうって、二匹の竜を道連れにせんと全速力の突撃を繰り出す!!
「それが本気か?」
まず、イリーツァが前に出る。
「――ならば、迎え撃つ」
背後にはジャハルだ。最後の一撃は彼に与える。若い雄に譲るのは、古龍にとっては育てる行為と似ているのだ。
【 暴 威 顕 現 ・ 大 砕 界 】 。
フォームの美しい、右の拳を突き出す格闘だった。
武器を遣えぬ代わりに全身を武器とする竜が、舌を失いもはや顎だけとなった竜のした顎をアッパーカットで貫く!!!!!
火の粉を吹き出して、終焉竜は悲鳴も上げられずに宙を浮いた。
蒼く発光する体をちょうど、逆さに垂直へとさせられる。打ち上げられた体はもはや脱力していて、――しかし、死には至っていない。
「若き雄よ」
ジャハルは、投げかけられた言葉に竜の矜持を見たのだ。
「食らうといい」
怒りをぶつけたイリーツァの、穏やかな声色だった。
蹂躙の咢を、ジャハルが開く。そう、これは――【叛虐】だ。
ジャハルが大きくその翼を開けば、地面に影を作った。青白い炎を光源とした彼が伸びて、――影成る竜が姿を現す。
痛めつけられただけ力を得た竜は、力の象徴に向かって飛び出した。
黒き咢が、空に浮かんだ竜を呑む。――いつか、彼がそうしただろう業で、食らう。核の焔ごと、飲み込んで。
ジャハルの影に戻るころには、若い竜の体は美しい男のものへと戻っていた。
◆
終焉は訪れる。
神の焔に焼かれながら、『終焉竜』の名に相応しく爪痕を残し、――そして、『あるがままに』食われて終わった。
叡智を守り抜き、戦い抜いた猟兵たちにきっと、少しだけ静かな夜があっただろうか。
熱気の晴れた夜空には、美しい星が無数に瞬いている――。
大成功
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