𢚇瀾怒濤レヰルウヱイ
●サクラミラージュ:大阪-神戸間鉄道路線上、汽罐車内
幻朧桜ひそめく色鮮やかな帝都の町並みが、帯のように流れ行く。
普段ならば旅情に浸る平和なひと時……されど響き渡るのは絹を裂くが如き悲鳴!
「いやっ、離して!!」
身悶えするうら若き乙女、その名はスタァ「門倉・チエ」と云う。
なんとか危機を脱しようと孤軍奮闘するチエだが、そうは問屋がおろさない。
なにせ彼女を捕らえたる怪人こそ影朧――すなわち、過去より蘇りし魔人なのだから!
「あまり暴れるのはおすすめしないよお嬢さん。私もその美貌を傷つけたくはない」
黒衣の軍服を纏う魔人は、銃剣の刃先をチエの頬にひたひたと当ててうっそり呟いた。
……脅しではない。抵抗すればこの男は、躊躇なく人質である自分を殺す。
声音と表情からそれを察し、チエは顔面蒼白のまま震え、押し黙った。
「女性の沈黙は美徳だな。ご協力感謝する」
慇懃な言葉と裏腹に、声音はどこまでも冷ややかで表情は死人めいて抜け落ちている。
黒衣の魔人はちらりと部下を――対照的に白衣の軍人らを一瞥し、言った。
「残りの乗客はすべて殺せ。任務に差し支える」
かくして、殺戮が始まった。
●グリモアベース:ムルヘルベル・アーキロギアの陳述
「……と、これがサクラミラージュで発生するテロ事件の内容だ」
予知の内容を語り終え、ムルヘルベルはようやく一息ついた。
「凶事の舞台となるのは、今現在も阪神間を運行中の蒸気機関車である。
連中は車内を乗っ取り、何らかの目的のために門倉・チエなる女性を拉致するらしい」
ムルヘルベルが呟いたその名に、幾人かの猟兵が反応した。
「……どうやらその名を知る者もいるようだな。ワガハイが予知した事件ではないゆえ、
かつてその女性がどのような事件に関わっていたかはわからぬ。しかし……」
影朧によるテロ行為を看過は出来ぬ。學府にはすでに話が通っているようだ。
「残念だが、いまからの転移ではテロの発生そのものを未然に防ぐことは出来ぬ。
が、虐殺を止めることは出来る――ゆえにまずは、転移後件の車両に乗り込んでくれ」
ムルヘルベルによれば、転移先は汽罐車内部ではなく、その路線上。
かといって汽罐車そのものを停止させてしまえば、おそらく敵はさらなる凶行に走る。
つまり敵の不意を突くためには、転移直後に汽罐車に乗り込む必要があるのだ。
「高台から飛びつくなり、乗り物で並走し窓から乗り込むなり、方法は任せよう。
とにかくあちらが追い詰められて凶行に走る前に、電撃的に突入し敵を鎮圧してくれ」
走行中の汽罐車に飛び乗るなど無茶な話だ――しかし猟兵は無茶をやらかすもの。
ことそういった面に関して、ムルヘルベルは猟兵らを信頼していた。
「オヌシらが交戦することになるであろう影朧の戦力についても説明しておこう。
まず敵の首魁……「門倉・チエ」を拘束しているのは、『殺人者』と呼ばれる魔人。
どうやら過去に殉死した軍人か何かが影朧となり、現代に蘇った存在のようである。
さらに彼奴の身辺を守る、白い軍服の軍人――こちらも旧帝都軍の成れの果てだろう。
加えて車両の内外に、戦闘力は低いが異形化した戦闘員が大量に乗り込んでおる」
ムルヘルベルは一息置いてから、言葉を続けた。
「汽罐車内に突入する過程で、この異形化した戦闘員と交戦することになるであろう。
ユーベルコードを使わずとも蹴散らせる相手だが……手をこまねくとあとが怖いぞ」
加えてグリモアの示すところでは、白い詰め襟の親衛隊も異形化能力を持つという。
こちらは先の戦闘員群と異なり、影朧として相応の戦力を持った集団敵である。
「相手にとって門倉・チエは大事な人質が、そう簡単に手出しはすまい。
……しかし、戦に取り憑かれた亡霊の考えることはわからぬ。油断はするでないぞ」
ムルヘルベルはそう言って、本を閉じた。
走行する汽罐車での戦い……不安定な戦場だが、敵にも逃げ場はないということ。
迅速な行動と状況判断が、猟兵たちはもとより人質らの無事を左右するだろう。
「ある詩人に曰く、"武力で敵を制する者は、その半ばを制するに過ぎない"と云う。
敵を叩きのめし、囚われた人々と乙女を無事に助け出してこその完全勝利だ」
グリモアによる転移が始まる。ムルヘルベルはにやりと笑った。
「――戦争の亡霊に、今を生きる戦士の強さを見せてやれ」
その言葉は、転移の合図となった。
唐揚げ
釜飯です。
今回はとてもわかりやすい冒険アドベンチャーの時間ですよ!
●各章概要
1章:阪神間蒸気機関車に飛び乗り、下級戦闘員を蹴散らす(冒険)
2章:敵親衛隊『旧帝都軍突撃隊・旭日組隊員』を倒す(集団戦)
3章:敵首魁『『殺人者』退役軍人』を撃破する(ボス戦)
●1章の備考
皆さんは汽罐車内ではなく路線上の各所に転移し直接飛び乗ることになります。
高いところから飛び降りるなり汽罐車に並走して飛び乗るなりご自由にどうぞ。
下級戦闘員の妨害(フレーバー存在です)も襲いかかりますので、
車内(もしくは屋根上)に飛び乗ったところから始めることで、
並み居る敵を蹴散らす感じのプレイングでもいけます!
なお、プレイングは頃合いを見て早めに採用していくつもりです。
量によっては全員採用は難しいかもしれません。ご参加はお早めに、お気軽に。
それでは、桜咲き誇る帝都にて皆さんをお待ちしております!
第1章 冒険
『列車上の追走劇』
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POW : 狙いを定め、全力疾走で追跡する
SPD : 進路上の建物や逆方向へ向かう列車の上で待ち伏せ、すれ違いざまに飛び移る
WIZ : トンネルやカーブなど、相手が動きにくそうな瞬間を狙う
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
グリモアの光を抜けた先――猟兵たちの視界に広がるのは、桜色の海。
常世めいて咲き誇る幻朧桜は、この緊急事態にあってもくすまない。
そして見よ。古びた路線上をひた走る汽罐車を。
明らかに暴走状態とわかる速度、そして内外にひしめく異形の戦闘員!
「――きゃあああああっ!!」
汽笛に混じり、絹を裂くような悲鳴が響き渡った。
囚われの乙女と人々を救うため、いまこそ暴走汽罐車に飛び込め!
ミロ・バンドール(サポート)
口調はステシの基本通り
強がって一匹狼を気取った態度ですが、連携にはきちんと応え
最善の結果のために努力します
いわゆるツンデレ
技能の各種耐性や改造を活かし、状況に合わせたスタイルを模索します
対人の基本行動は恐怖を与える等で脳筋的なゴリ押し
深く考えずに行動しがちですが
明らかな弱者に対しては「胸糞悪いから」という理由で虐めません
*備考
・精神攻撃にはとても弱い(ヘタレると寝言時の口調)
・ギャグ展開にはよく巻き込まれる(弄られOKです)
といった弱点がいっぱいあります
※キャラぶれても気にしないので、お気軽に弄って下さい
――プァアアアアアン……!
高らかな汽笛が鳴り響き、汽罐車の煙突から黒煙が噴き出す。
この阪神間路線を走る汽罐車『C88号』は、非常に頑強な作りで知られる。
見た目はサクラミラージュらしいレトロでモダンな佇まいだが、
その内部や材質には、非常に発展したテクノロジーが用いられているのだ。
ゆえに、多少の攻撃ではびくともしない――とはいえ、そこには大量の乗客がいる。
いたずらに汽罐車を停止させてしまえば、影朧は凶行に走るだろう。
「……まるでアクション映画だな。いや、もっと古い活劇映画か?」
路線をまたぐ陸橋の上、しゃがみこんだミロ・バンドールが呟いた。
囚われのヒロインを救うため、暴走する汽罐車に勇ましく飛び乗る。
そして悪逆非道の影朧を倒す――なるほどまさしく活劇映画めいていた。
そんな状況が起こりうるのが、このサクラミラージュというもの。
ミロは彼方――汽笛を鳴らし近づく汽罐車を睨んだ。
「まあいいさ。俺ひとりでも、悪党なんて片付けてやるよ」
一匹狼を気取る少年はうっそりとした声音でいい、スカーフで口元を覆う。
鮫のようなギザギザの歯型は、まるで少年を一匹の肉食獣めかした。
――プァアアアアアン……!
汽罐車が近づいてくる。速度は明らかに尋常の走行速度を超えている。
常人どころか鍛え上げた達人であろうと、飛び乗るなど不可能であろう。
されど彼は常人ではない。吸血鬼の血を引くダンピールであり……。
「……ふっ!」
歴戦の猟兵! ミロは鋭く呼気を放ち、陸橋の縁から飛び降りた!
「……ん?」
「どうした」
一方、汽罐車内部。乗客を拘束中の戦闘員が顔を上げた。
人型の肉食獣とでもいうべき、けむくじゃらの異形である。
「いや、今天井から物音がしたような……」
「まさか誰かが飛び乗ってきたって? 映画じゃあるまいに――ぐほぉっ!?」
KRAAAAAASH!! 呑気していた戦闘員は窓から飛び込んだミロに蹴り飛ばされた!
少年は窓の縁を掴んで振り子運動を行い、勢いよくダイレクトエントリーしたのだ!
「て、てめ――」
「邪魔くさいんだよ。消えろッ!」
ヒュカッ、とギロチンの刃が煌めき、一瞬あと異形は頭部を切断された。
どしゃり、と倒れた死体を一瞥し、ミロは怯える乗客を見渡す。
――無事だ。まだ被害は出ていない。急いで車内を制圧せねば。
「そのままじっとしててくれよ。邪魔なヤツは真っ二つにしちまうかもしれない」
脅しめいた言葉だが、声音は不思議と優しげだった。
ミロは次の車両に続く扉を睨みつける。そして――次の戦闘員が、飛び出してきた!
「かかってこいよ。全員片付けてやる」
まさしく狂瀾怒濤の勢いで、少年の戦いが始まったのだ!
成功
🔵🔵🔴
リック・ランドルフ
……目的は知らんが、拉致、そして虐殺か。……そりゃ、見過ごせねぇな。……それじゃ、行くか、お姫様救出によ。
……何度やっても飛び乗り乗車ってのは、したくねえもんだな。……だが、仕方ねえ。今までも何とか上手く言ったし……何とかなるだろう。
というわけで、鉄塔辺りから飛び降りて屋根上に乗るぞ(激痛耐性)
何とか乗れたら、直ぐ様、拳銃を抜いて、向かってくる奴等を撃つ(クイックドロウ、スナイパー)
そして蹴散らしたら電車の側面を縄でくくりつけて移動して姫様の方まで向かうとしよう。
しかし、任務ね。……解放前線だったか?あいつらが関わってんのか……?……いや、考えるのは後だな。今は目の前の事に集中するか。
まるでドラマか映画のような大活劇。
大抵の人にとって――ともすれば猟兵ですら――それはまさに絵空事だ。
暴走した列車に飛び乗るだの、
ハイジャックされた飛行機で大立ち回りだの、
爆発寸前の時限爆弾を解除するためにひた走るだの……。
そんなハードボイルド探偵小説のような出来事に、普通は巻き込まれない。
当事者となるのはもってのほか。だからこそ空想は空想足り得るのだ。
しかし。
ことリック・ランドルフという男にとって、それは日常だった。
「何度やっても飛び乗り乗車ってのはしたくねえもんだな……!」
高く聳え立つ鉄塔、リックは迫りくる汽罐車を睨んで頭を振った。
お気に入りのタバコに火を点け、マインドセット。忌々しくも慣れてしまった戦いの儀式。
「オーケー、オーケー。それじゃ、行くか。お姫様救出によ!」
カウントは三つ。
スリー、深呼吸して重たい煙を肺一杯に吸い込んだ。
ツー、懐のホルスターから銃を引き抜き、スライドを引く。
ワン。過去のもっとくそったれな事件を思い返し、クソ度胸を決める!
「ゼロ――!!」
跳んだ。リックは鉄塔から身一つで跳んだ!
パラシュートだのワイヤーだの、特殊工作員めいた装備は彼にはない。
外せば轢殺即死は免れ得ない致命的紐なしバンジー――ガンッ!!
「っ!? なんだこいつは!?」
「まさか生身で飛び乗ってきたのか……!?」
運悪く、屋根上に展開していた異形の戦闘員がふたり、振り返った。
しかし身構えたときにはもう遅い。前転着地したリックはトリガを引いている!
BLAMBLAMBLAMBLAM!! 胸部と脳天を狙った、手慣れたキリング・ショット。
異形の戦闘員は左胸と額に大きな穴を開け、そのまま仰向けに倒れた。
スピードが血の匂いもろとも死体をさらっていく。リックは呼吸を整えた。
「悪いな、こっちは場数を踏んでるのさ」
リックはカウボーイめいてガンスピンすると、口の端を歪めて笑みを作った。
そして手慣れた様子で車内に飛び込み……怒号、銃声、乗客の悲鳴!
かくして荒事ばかりくぐり抜けてきたタフガイが、悪漢どもの喉元へと迫る!
成功
🔵🔵🔴
六代目・松座衛門(サポート)
ヤドリガミの人形遣い×UDCメカニック。人形を用いて異形(オブリビオン)を狩る人形操術「鬼猟流」の使い手です。
ヤドリガミの特徴として、本体は腰に付けている十字形の人形操作板です。
普段は「自分、~君、~さん、だ、だろう、なのか?)」と砕けた口調で、戦闘中は言い捨てを多用します。
UCはほぼ人形を介した物で、非常に多数の敵を相手にする場合以外は、人形「暁闇」か、その場にある生物を模った石像等を操り戦います。
人形「暁闇」:「鬼猟流」に最適化された人形で、自律しません。ワイヤーガンやフレイルのように使いつつ、UCを発動させます。
機械的な仕掛け(からくり等)に興味を持っています。
汽罐車の内部は狭く、銃火器で大立ち回りをするには向いていない。
超一流のガンナーであれば、そんな不利すらもたやすくクリアするだろう。
が、基本的な地の利は敵にあると言えた。なにせ車内には乗客もいるのだから。
しかし、六代目・松座衛門が修めた「鬼猟流」はまさしく無双の業。
閉所であろうが人質がいようが、十全に立ち回れてこその人形遣いである。
獣めいて異形化した戦闘員どもは、見くびった代償を痛みと苦しみで支払うこととなった!
「こ、こいつ、なんて強さだ……!?」
「くそっ、俺たちじゃ止められない! 撤退だ、後ろの車両で合流するぞ!」
「させるか――暁闇!」
次の車両へと移動しようと背中を見せた戦闘員に、人形が襲いかかる。
フレイルを弾丸めいて振るい、まず手前の戦闘員の頭部を一撃破壊。
その勢いを殺さずわざと振り抜くことで、鎖を伸ばし後ろの敵を絡め取った!
「ぐおっ!?」
「汽罐車の中なら分があると思ったか? 残念だったな!」
松座衛門がぐいと腕を引けば、つられて「暁闇」もフレイル持つ手を引く。
首元に鎖が絡みついた戦闘員は、イヌめいて床に叩きつけられた!
立ち上がろうと藻掻く戦闘員――だが、その表情は恐怖に染まった。
「ま、待――」
……ぐしゃんっ!!
視界一杯を覆った「暁闇」の拳が、無慈悲に頭部を叩き潰したのだ。
「これぞ鬼猟流一ノ型「角砕き」の変形。……これでこの車両は片付いたか」
松座衛門は残心し、囚われた乗客らに被害はないか素早く確かめる。
人々は怯えた様子で震えているが、幸い負傷した人はいないようだ。
「あ、あなたは一体……?」
「いわゆる「超弩級戦力」というやつです。ご安心を」
松座衛門はおずおずと問いかけてきた紳士に一礼し、軽く微笑んだ。
顔を上げ次の車両へ続く扉を睨む彼の顔は、すでに戦士のそれに変わっている。
「汽罐車をジャックしたあげく、国民的スタァを人質扱い……か。
影朧だろうと容赦はしないぞ。「暁闇」、扉を叩き破ってくれ!」
きゅう、と糸が張り、からくり人形はラガーマンめいて深く腰を落とした。
そして――KRAAAAASH!! 速度を乗せ、扉を叩き破る!
「「「ぐわあっ!!」」」
松座衛門の読みどおり、次の車両では敵が待ち伏せしていたのである。
バラバラと散らばる扉の残骸を踏みしめ、青年は勇ましく車両に踏み込んだ!
「次は誰が相手だ? 鬼猟流の真髄をその身に味わわせてやる!」
刃めいて射竦めるその双眸に、異形の悪党どもは震え上がった――!
成功
🔵🔵🔴
千桜・エリシャ
か弱い乙女を人質にとるなんて
なんて卑劣なのかしら!
囚われの美しきスタァは絵になりますけれど…
それは舞台の上で十分ね
私は弱者の味方よ
だって弱い者いじめはつまらないですもの
花時雨を開いて高台からふわり飛んで
風に乗りながら列車の屋根上に飛び乗りましょう
ごめん遊ばせ
はしたない、だなんて仰らないでくださいまし
先を急いでいますの!
この身を桜花に変えたならば
周囲の桜を目くらましに
異形の隙間を縫い背後へ現れて
首があるなら首を
無いならその背を斬り裂いて差し上げましょう
か弱い乙女に背後を取られるだなんてだらしのないこと
手応えのない首ね…
そのまま列車の隙間から車内へ侵入して
中の敵も同じように蹴散らして行きましょう!
ひらり、ひらりと舞い踊る、幻朧桜こそはこの大正の象徴であり勲章。
いと高き帝の、地平を照らす太陽の如き御威光を知らしめる。
はらり、はらりと――その桜に混じり、舞い散るは幽玄の鬼桜。
それは同じように色彩鮮やかでありながら、どこか不安を掻き立てられる。
さもあらん――かの羅刹の纏う桜は、死霊の魂であり命の残滓。
……曰く、桜の樹の根本には屍体が眠るという。
ならば嫣然と咲き誇るその微笑みは、どれほどの命を啜ってきたというのか。
見上げるような高台に、これっぽっちもそぐわぬ瀟洒な乙女がひとり。
誰であろう、千桜・エリシャ――桜吹雪を後に引く戦上手である。
「か弱い乙女を人質にとるなんて、なんと卑劣なのかしら!
嗚呼、可哀想に――きっとスタァの方も、心細いでしょうね」
まるで舞台で悲劇を謳う役者めいて、エリシャは誰に云うともなくひとりごちた。
「けれど、そんな悲劇は舞台の上で十分。だって私、弱者の味方ですもの」
もしもきゅうと釣り上がった少女の笑みを見たものがいれば、震えたことだろう。
言葉と裏腹に、浮かべた笑みはおよそ少女のそれではなかったからだ。
「さて、さて――それでは少々はしたないですけれど」
ふわりと。風船が舞い上げられるように、エリシャは高台から飛び出した。
ばさりと和傘が花開き、重力を感じさせぬ軽やかさで少女を空にさらう。
遅まきの春一番めいた突風ひとつ、すると少女の体は桜の花びらへ解けていく。
風は渦巻き、黒煙噴き出す汽罐車を追った――淑やかな女の指先めいて。
「な……なんだ!?」
屋根上に展開する戦闘員は見た。目の前にうずまく桜のつむじ風を。
たちまちそれは細く艶やかな少女の肢体に変わり、エリシャは瞳を細める。
「あら、ごめんあそばせ――そして、さようなら?」
「な」
言葉は続かぬ。すでに少女の身は、戦闘員の背後にあったからだ。
桜の花びらは変わらず舞い続ける。されど後ろで、男の首がずるりと"ずれた"。
倒れ伏す男の亡骸は屋根から転げ落ち、車輪の下でぐしゃりと音がした。
「まあ、まあ。か弱い乙女に背後を取られるだなんてだらしのないこと」
血の一滴も纏わぬ剣を振り、エリシャは刃紋を指でなぞってため息をついた。
「手応えのない首ですわ。頭目は少しは"やる"かしら?」
まるで恋煩った男のもとへ通う、うぶな生娘のような足取りで。
ひとつ、ふたつ、歩みだすエリシャの前にはさらなる敵が群れてくる。
風がまたひとつ吹く――ほどなくして、悲鳴と断末魔が花吹雪にさんざめいた。
成功
🔵🔵🔴
フェルト・フィルファーデン
偶然、なの?あんな事があったばかりだというのに……!
……いえ、私情を挟んでいる場合ではないわね。
そうよ、やるべき事は変わらない。全ての民を救い、全ての敵を討ち倒すのみよ。……絶対、死なせないから。
「時間が惜しいわね。二手に分かれましょう。わたしは襲いかかる敵を片っ端から片付ける事に専念するわ。騎士人形による【2回攻撃の【早業で首を跳ね胸を貫き、一撃で仕留めるの。」
『ワタシは乗客を守りつつ列車の最後尾へ避難させるわね。【盾受けで庇い【カウンターで敵を【薙ぎ払って車外に放り出し蹴散らすの。最後尾に敵がいないのを確認したら列車の接合部を切り離し敵の追撃から逃すわ。ちょっと荒っぽいけど、我慢してね?』
「時間が惜しいわね……わたし、二手に分かれましょう」
フェルト・フィルファーデンの言葉に、"フェルト・フィルファーデン"が頷いた。
双子? 否。ユーベルコードで生み出された鏡像である。
もうひとりのフェルトであり、同じように思考し活動可能なドッペルゲンガー。
『わかったわ。ならワタシは、乗客を守りつつ最後尾へ避難させましょう』
「お願いね、"わたし"。わたしは、とにかく敵を片付ける……!」
ふたりのフェルトはこくりと頷き、そして前後真逆に飛び出した。
がしゃがしゃと音を立て、電脳体から再構成された妖精騎士人形が跪く。
「侵入者だ! 先頭車両へは通すな、迎撃しろ!」
「そこにチエ様はいらっしゃるのね? なら――押し通らせてもらうわ!」
フェルトは命を燃やすことも惜しまず、人形たちを駆る。
立ちはだかる異形の戦闘員を次々に斬り捨て、ひたすら前を目指すのだ!
『……勇み足が過ぎるわね、"ワタシ"。まあ、いつものことだけれど』
前の車両から響く戦音に顔を顰め、人形の方のフェルトは呟いた。
彼女はユーベルコードで一時的に生を得る分身であるとはいえ、
もうひとりのフェルト――つまり、自分を客観視出来る存在だ。
ゆえに"フェルト"にはわかっていた。"自分"が、どうしてあそこまで勇むのか。
『……チエ様』
門倉・チエ。囚われたスタァの名を――もっと言えばその人となりを、
フェルトたちは知っている。そうとも、忘れられるはずがない。
先の横濱歌謡大劇場を襲った、「幻朧戦線」による突発的テロ行動。
そこで命を狙われたのが、他ならぬ公演予定だったチエであり……。
幻朧戦線実行部隊の中核を担っていたのが、彼女の幼馴染だったのである。
……幻朧戦線は作戦のため、忌まわしき「影朧甲冑」を持ち出した。
影朧の呪いを以て駆動するその装甲は、乗れば最期……死ぬまで降りられない。
幼馴染に凶刃を向けていることも知らぬまま、理想のために戦った男は、
最期は己の愚かしさを自嘲し、未来の反面教師となるため命を散らしたのだ。
フェルトは覚えている。その最期を見届けるチエの涙を……叫びを。
『偶然、なの? あんなことがあったばかりなのに――いいえ、やめましょう』
"フェルト"は頭を振り、解放された乗客らを先導し後部車両へ移動する。
前方車両からは断続的な戦音。もうひとりのフェルトが奮戦しているのがわかった。
『……もしそうだとしたら、絶対に許さないわよ、幻朧戦線……!』
人形の少女はその裡に怒りと決意を燃やす。
おそらくそれは、もうひとりのフェルトも同じだっただろう――。
成功
🔵🔵🔴
露木・鬼燈
こーゆー場面では気づかれずに敵を減らす。
ってのが常套手段だろうけど…
まぁ、すでに派手にやっているみたいだからね。
その辺は気にせず僕も派手に行こうか。
秘伝忍法<海皇>
シャチの女王様に騎乗して並走。
窓をぶち破ってダイナミックお邪魔しますっ!
突入後は無手で敵へ歩いて近づく。
無防備に見えるけど服の下に生体装甲を展開済み。
纏ったオーラと合わせれば下級戦闘員如きでは貫けないのですよ。
僕が注意を引き付けている間に配下のシャチたち襲い掛かる。
これでイケルイケル!
物質をすり抜ける霊体の特性を利用した必勝法なのです。
シリアスなアクション映画がB級モンスターパニック映画に、ね。
まぁ、大事なのは結果だから。
「おい、見ろ」
「ん? どうし――なあっ!?」
車両内を警備していた戦闘員は、窓の外を見て腰を抜かした。
本来の走行速度をはるかにオーバーして暴走し、路線をひた走る汽罐車。
それと並走する男が、窓の向こう側からこちらを見ていたからだ!
なんだ、あれは? 鮫……いや、シャチ――?
「ダイナミックぅ、お邪魔しますっ!!」
KRAAAAAASH!!
「「うおおおおおっ!?」」
「どうした、敵襲」
「はい車内ではお静かにー」
「ごはっ!?」
窓をぶち破って飛び込んだ男……露木・鬼燈は風の如き速度で動き、
まず車両内の戦闘員二名を一撃で昏倒、続けざまに増援の一名を仕留めた。
突然のことに、捕らえられていた乗客らは悲鳴をあげる。
「あ、お構いなくー? そのままじっとしててくれると嬉しいっぽい!」
鬼燈はにこりと笑ってこともなげに言うと、開けっ放しの扉から次の車両へ。
「敵襲だ! 迎撃しろ!」
「この先の車両には絶対に通すな!!」
騒ぎを聞きつけ、前方車両から大量の戦闘員が殺到してきた。
車両内は前後にしか空間がなく、必然的に可動範囲は大きく狭められる。
そこを異形の戦闘力で上下から襲いかかる――それが敵の必勝戦術だ。
しかし! 鬼燈の胸部を貫くと見えた爪は……がきんと、弾かれた!
「馬鹿な!? 生身……いや、隠し鎧か!」
「気付けるなんてすごいですね? けどもう手遅れ~」
鬼燈がいたずらっぽく言った瞬間、横合いから襲いくる大量の牙。
列車の装甲を透過し、並走するシャチの群れが戦闘員を食らったのである。
「ああああああっ!?」
悲鳴も、その血肉すらも、獰猛なる海の狩人どもは喰らい尽くす。
「シリアスなアクション映画がB級モンスターパニックに、なーんてね?」
くすりと笑いつつ、鬼燈は飛び散る血痕を踏み越えさらに先へ。
スピードが、血の匂いを洗い流していく――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
【エロ本同盟】
どんな世界でだって、
テロなんてさせるわけにはいかないよね。
アイさんの作ってくれた竜巻に乗って列車に飛び乗るよ。
「おっけーアイさん、あとは任せて!」
わたしたちを列車に乗せてくれたアイさんには、
下がって休んでもらって、戦闘員はいちごさんとわたしで蹴散らすよ!
列車内に入ったら【E.C.O.M.S】で【Octagonal Pyramid】を召喚。
むこうも数で来るなら、こっちも数で対抗するね。
いちごさんの援護と突撃部隊に分けて、
突撃隊は戦闘員ひとりに3機くらいぶつけて、確殺していこう。
テロをするような人たちに手加減はいらないよね。
全力でいかせてもらっちゃうよー!
アイ・リスパー
【エロ本同盟】
「蒸気機関車でのテロ事件……
そんなこと許すわけにはいきません!
理緒さん、いちごさん、列車に飛び乗るところは任せてください!」
【チューリングの神託機械】で電脳空間の万能コンピュータに接続して【ラプラスの悪魔】と【マックスウェルの悪魔】を並列起動!
空気分子の運動をシミュレーションで予測し、空気分子の運動を制御。
【バタフライ効果】で竜巻を発生させ、風にのって列車に飛び乗りましょう。
「理緒さん、いちごさん、ちょっと荒っぽく行きますので、スカートに気をつけてくださいねっ!」
三人で巻き上がる竜巻に乗って列車への着地を試みます。
「ちょっと電脳魔術を使いすぎたので戦闘員の相手はお願いしますね!」
彩波・いちご
【恋華……【エロ本同盟】
「ええ、テロは防がないと」
「…わかりました、乗り込む方法はアイさんにお任せします」
私は【異界の顕現】で三尾の邪神の依代体に変化してその後に備え
アイさんの巻き起こした竜巻に乗って列車に飛んでいきます
飛ぶ前に運動音痴なアイさんの手を掴み、空中でお姫様抱っこして着地
「アイさん、お疲れさま。あとは任せてください。理緒さん、援護お願いします!」
徒手空拳で戦闘員に立ち向かいます
「列車を壊すわけにはいきませんからね、素手で相手してあげますよ?」
邪神の加護を得たこの状態の私は、無手でも戦闘員ごときには負けません
殴る蹴るの無双大立ち回り
理緒さんの援護もあるのです、負ける気はしませんね!
「あれが問題の蒸気機関車ですね……!」
汽笛も高らかに噴煙をあげ、明らかな暴走速度で走行する汽罐車。
遥か彼方から近づく車影を望み、アイ・リスパーは顔を顰めた。
「非戦闘員の一般人を人質にしたテロ事件……許すわけにはいきません!
理緒さん、いちごさん、準備はいいですか? 突入は私に任せてください!」
「おっけーアイさん、いつでも大丈夫だよ!」
「こ、こちらも大丈夫です! テロはなんとしても防がないと」
万全の体勢でサムズ・アップする菫宮・理緒と、強張った表情の彩波・いちご。
なにせ走行中の汽罐車に飛び乗るというのだから、いちごの反応は自然だろう。
しかし、アイが「任せろ」と言ったからには、算段があるはず。
ならば自分は自分の役目を果たすべし――彼は心に決め、祝詞を口ずさんだ。
「いあ……いあ……」
呪わしき呪文の一節。それ自体が空気を穢し時空を歪めるかのようだ。
……そして、そんな印象は間違っていない。いちごの背後空間を見るがいい。
陽炎めいて揺らめく"歪み"は、やがて三つの尾となって現実化する。
異界の邪神の力を引き出し、寿命を引き換えに力を借り受ける冒涜の業。
周囲の空気がたしかに淀み、幻朧桜がおののくように花びらを散らした。
その間にも、汽罐車は急速で三人のいる陸橋に近づきつつある――!
「ローレンツ・アトラクタ・プログラム起動――荒っぽくいきますよ!」
アイは電脳空間を経由し万能コンピュータに意識接続。
分子運動をも掌握せしめる気まぐれな双悪魔を掌握し、大気を識った。
一秒の間に数千億以上のシミュレートを可能とする超・演算能力は、
以てバタフライ・エフェクトの人工的・意識的な発動を可能とする。
――早い話が、アイは魔力ではなく思考によって風を支配出来るのだ。
「来た来た、さあ跳ぶよいちごさん!」
「了解です、スカートに気をつけないと……っ!」
三人の足元に小さなつむじ風がわだかまる。それが風の兆しだ。
理緒といちごは一足早く腰を落とし跳躍、アイは制御のためやや遅れた。
といっても彼女の場合、電脳分野に秀でているぶん、運動神経はいまひとつ。
いちごはアイがなにか言う前に彼女の手を取り、体をさらっていた。
――直後、つむじ風は急速に成長し、三人の体を軽々と持ち上げる!
恣意的な大気運動制御によって生み出された人工の竜巻。
さながらトランポリンめいて三人の体をさらった風の渦は、
そのまましぼんでいき、これが着地の勢いを緩やかに殺す結果となるのだ。
「おい、ガキどもが飛び込んでくるぞ!」
「生身でか!? むちゃくちゃしやがる!」
列車の屋根上に展開していた戦闘員どもは、三人を落下の瞬間蹴落とそうとした。
「そうはいきません……っ!」
アイはしぼみゆく竜巻に最後の指向性をもたらし、無秩序に拡散させた。
消えかけの蝋燭が最後の瞬間に強く明るく燃え上がるかのように、
爆裂した竜巻は急激な圧力を放射状に撒き散らし、戦闘員を吹き飛ばす!
「「「うわあああああっ!?」」」
哀れ、走行中の列車から落ちるハメになったのはあちらのほうというわけだ。
かくして三人は、傷ひとつ負わずに列車の屋根上に着地した。
いちごはアイを淑やかに下ろしてやり、にこりとゆるく微笑む。
「アイさんは少しお休みしていてください。あとは私と理緒さんが」
こうしてともに戦うのは、一度や二度の話ではない。
彼は、アイの電脳魔術の負担が相応のものであることを知っているのだ。
「は、はい……お願いしますね、ふたりとも」
「わたしももう少し運動音痴ならよかったなあ。そしたらいちごさんに抱っこしてもらえ」
「理緒さん、いまはいいですから! 行きますよっ!!」
「はいはい」
理緒はいたずらな笑みを浮かべたまま肩をすくめ、片手をさっと振った。
空気を撫でるような動きに応じ、彼女の周囲にいくつもの電影が浮かぶ。
「第一から第五部隊はいちごさんの援護、残りは三機編成で突撃だ。作戦行動、開始!」
正八角形の電脳ユニットは、鍛え上げられた軍隊の如き幾何学的統率で飛翔。
突撃部隊は左右両翼に分かれ、窓から車両に飛び込み中の戦闘員を倒す。
残る援護部隊は走り出したいちごに追従し、彼を支援する。
いちごは徒手空拳。対して新たに屋根上に昇ってくる戦闘員は異形のそれ。
獣の爪や牙は、生半可な武器よりも危険で強靭だ……が!
「たかがガキひとり、何が出来るっ!」
「超弩級戦力だかなんだか知らないが、嘗めるなよ!」
「それはこちらの台詞です。列車を壊すわけにはいきませんからね。
今回は素手で相手してあげますよ? 速攻で片付けさせてもらいます!」
邪神の力の片鱗を得たいちごならば、この程度の相手に武器など必要ない。
襲いかかる戦闘員の攻撃をいなし、躱し、間合いに踏み込んでの掌底!
あるいは体を駆け上がり、背後に飛び降りながらの襲撃で路線に突き落とす!
「こ、こいつら、強い……!」
誰かが言って、そして顔面にいちごの蹴りを受けて吹き飛ばされた。
「理緒さんの援護もあるんです、あなたたちごときに負ける気はしませんよ!」
「テロを起こすような連中に加減はいらないしね。全力でいこう!」
「はい……そろそろ私も、おふたりの援護に加わります!」
かくして、スリーマンセルによる快進撃が始まった!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
李・桃花
おっ来た来た誘拐暴走特急!ルート間違ってたらどうしようかと心配だったけど待った甲斐があったわ!
天狼拳、李・桃花!参る!のりこめー!
青燐功を発して橋の上から列車の屋根に飛び移るわ!
屋根の上の敵は【衝撃波】でガンガン【吹き飛ばし】て列車から落とすわね。
ある程度落としたら扉から車内に飛び込み【早業】と【覇気】で敵を倒しながら進んで行くわ!
はいはいごめんね、お客さんは伏せててね!危ないわよ!
さぁ、退きなさい!主役が通るわよ!ヒロインを助けてハッピーエンド。これしか結末は認めないわ!
「おっ、来た来た!」
鳥も止まらぬ電線の頂点に、つま先立ちで佇む女あり。
李・桃花は手でひさしを作り、暴走汽罐車を認めて莞爾と笑った。
「ルート間違ってたらどうしようかと心配だったけど、待った甲斐があったわね。
時間よし、天候よし。悪党どもをぶちのめすには最適のタイミングだわ!」
桃花は体操をしながら天を指差し、うんうんと頷いた。
これから敵陣の真っ只中に飛び込もうというには、いささか呑気が過ぎる。
いや、彼女が油断しているわけではない。むしろ桃花は常在戦場の心意気だ。
彼女がリラックスしている理由――それは、
「さーて、のりこめー!!」
桃花にとって、悪党退治が日常茶飯事だということ!
調息で練り上げた内気功がほのかな燐光となって彼女の四肢を包む。
たんっ、とかろやかに電線から飛び出せば、その軌跡はまるで虹のよう。
一方、生身で跳躍着地してきた女の姿を認めた屋根上の戦闘員どもは、
この大胆不敵かつ自信満々の乱入者にたいし、さすがに唖然としていた!
「な、なんだこの女!?」
「気功使いか!? 生身で敵おうだなんて――ぐわっ!?」
身構える戦闘員ども、しかし無慈悲な衝撃波が花開き悪鬼凶漢を吹き飛ばす!
衝撃の残滓が、つま先から着地した桃花の髪をふわりと靡かせた。
「あーらら、このぐらいの踏ん張りも聞かないの? 名乗る価値もないわねえ」
などと呑気に言い、桃花は頭を振った。
拳も繰り出さずに倒される相手など、立ち合う資格もないということだ。
……一方、車両内!
「くそっ、次から次へと猟兵が来やがる!」
「どこから計画が知れたんだ? 指揮官の指示は?」
「適宜迎撃しろ、だとさ。軽く言ってくれるぜ」
愚痴愚痴と不平不満をこぼす戦闘員ども、傍らには震える乗客たち。
その時、車両同士を繋げる連結扉が、襖のように勢いよく開かれた。
「「「!!」」」
「はいはいごめんね、お客さんは伏せててね! 危ないわよっ!」
「「「な――ぐおわっ!?」」」
早業だ。乗客のだれひとりとして、桃花の攻撃は見えなかっただろう。
一撃でのされた戦闘員どもを米俵めいて窓の外に投げ飛ばす桃花。
「さて、次は――」
「てめえ、好き勝手しやがって!!」
がらり! 今度は前方車両の連結扉が開き、敵が仕掛けてくる番だ!
桃花は一瞬早くこの奇襲を察知し、低空ジャンプで爪の一撃を避けていた。
「へえ、少しはやるのもいそうじゃない? そうじゃないと歯ごたえないわね」
「女がァ……所詮は奇襲が頼りの人間風情、バラバラに引き裂いてやる」
その言葉に桃花はくすりと笑い、内勁を漲らせて深く身を沈めた。
「いいでしょう――天狼拳、李・桃花。参るわ」
「武侠なんぞ片腹痛い! 所詮は時代遅れの遺物よォ!!」
爪が迫る! 桃花は弾丸めいて間合いに飛び込み、重い拳を腹部に叩き込んだ!
「がはあっ!!」
戦闘員は毬めいて吹き飛び、前方車両に待機していた仲間を吹き飛ばす!
「さぁ主役が通るわよ! ヒロインを助けてハッピーエンドにするためにね!」
活劇映画よろしく、威風堂々たる女丈夫ここにあり!
成功
🔵🔵🔴
リル・ルリ
🐟櫻沫
汽車に飛び乗るのが夢だなんて
それはお転婆な乙女だな
櫻宵らしいか
むう、人質なんて卑怯だよ
それも大切な舞台の要たる花形をさ
嗚呼、わるい子を何とかするの?
それはいい子のする事――なんて免罪符
君に与えていいのだろうか
問いかける間もなく抱き上げられて、そのまま汽車の上へまっしぐら
ほら僕は飛び乗れないからね
水泡のオーラで櫻宵を包み守ったら、荒ぶる櫻嵐が敵溶かすのを見守って
どんな騒音にだって勝る歌唱で歌う「魅惑の歌」
桜の海に溺れてしまえ
僕の櫻が腹ぺこなんだ
どんな悪も美しい桜になれるんだ
感謝して
こんな花見も悪くない
君の為だけに歌ってあげる
ふふ
僕の舞台の演者は君で
花形もまた君
きっと素敵な舞台になるはずさ
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
うふふ
走行中の汽車に飛び乗るなんて
乙女なら一度は夢見ることね
なんだかわくわくしちゃうわ
人質をとるなんていけない子
悪い子ならば――いくら殺したって構わないでしょう?
そうよリル
私はよいことをするの
飛び乗れないと甘える人魚を抱えて、枝垂れ桜を広げ飛び立つわ
吹雪かせるは呪殺の桜
着地点に邪魔なのがいるのよう
穿ち貫き、ならしたら
舞い降り人魚の歌に耳すます
両手が塞がっていて刀を握れないの
リルが飛ばされたら大変よ
うっそり微笑み
ただ、敵をこの瞳で見初めればいい
「喰華」
運動前のお弁当よ?
私を綺麗に咲かせてよ!
呪殺桜花でなぎ払い殺して咲かせて桜花絢爛
全部たべさせて
今日はどんな舞台になるかしら
ねぇ、座長さん?
枝垂れ桜の翼がばさりと広がり、桜吹雪のなかを舞う。
幾千幾万の花びらが重なり合って、前後不覚に落ちそうな風景を描き出す。
息を呑むほどの、暴力的なまでの桜色の嵐。
その只中で、誘名・櫻宵は両腕の中のリル・ルリに微笑みかけた。
「人質を取るなんて、いけない子。悪い子でしょう?
だから――いくら殺したって構わないのよ。リル、そう思わない?」
からかうような声音で言われ、抱きかかえられたリルはむう、と唇を尖らせた。
卑怯卑劣な悪党どもへの軽蔑・嫌悪もあるが……。
「わるい子を、なんとかするの? それは、いい子のすること――なのかな」
言葉尻はしぼむよう。実際、リルは言い切っていいのか迷っていた。
大義名分を得た人間は残酷になる。ことに、櫻宵は龍の中の龍だ。
殺さなくてもいい敵まで、ひとり残らず平らげてしまうのではないか。
そうしてまた、"やりすぎて"しまうのではないか――微かな不安があった。
「ほうら、リル。おしゃべりの時間は終わり。もうすぐよ」
ばさりばさりと桜翼が二度三度はためいて、落下速度を軽減する。
――ごうっ!! と、すぐ真下を猛スピードで通過する鉄の塊……汽罐車だ。
「わっ」
リルはとっさに自分たちを水泡のオーラで包み、向かい風を遮った。
着地はゆるやかに。周囲に敵はいない。正しく言うなら、"もういない"。
……吹きすさぶ桜嵐が、何もかもを呪い殺して散らしてしまった。
心身の精髄を腐らされた異形の悪漢どもは、ミイラめいて萎んで散る。
彼奴らもまたオブリビオン。そして櫻宵の桜は生者のいのちを喰らう桜色――。
「新手か!?」
「あそこだ!」
窓枠から身を乗り出し、新たな悪漢どもが屋根上に這い上がってきた。
櫻宵はちらりとそちらを一瞥し、ぞっとするような色気をたたえて微笑む。
「けだものくさくて厭になっちゃうわ――どうせなら、もっと綺麗に"咲き"なさい」
「何を言っ、て……!?」
戦闘員は己の体の異常に気付いた。胸郭が、恐ろしく痛む。
脂汗をにじませ己の胸を掻き抱く。ぱきぱきと何かが裡で育っていた。
「がぼっ」
吐血。そして肋骨がばくりと肉を突き破って花開いた。
心臓を苗床に育ったねじくれた幹は、たちまちいくつもの枝を生やす。
桜が咲いた。とっくに悪党は事切れ、屍も「わっ」と花びらに変じて散った。
「こ、こいつ……なんて呪術を!」
「騒がないでよ。せっかく櫻がお腹を空かせているんだから」
リルは新手をきっと睨みつけ、この風の中でもよく通る歌声を紡いだ。
音色は娼婦の指先めいて悪漢の耳朶から脳髄へ沁み込み、こころを酔わす。
「あ、あああ……!」
恐怖があった。自分もあの桜のように呪い殺されるのだという恐怖が。
なにより恐ろしいのは、"己がそれを嬉しいと感じている"ことだった。
知らない自分が正気を侵していくのを感じる。そして恐怖も鈍磨していく。
虜にされた男は大きく両手を広げる。凝視がその身を包み込んだ。
ああーーと蕩けたため息を漏らした口から、うっとりとした眼窩から、
意志を持つかのように桜の枝が萌え出て、そしてまた桜の華を咲かせた。
たちまち桜花の樹へと変じたそれらは、ぼろぼろとささくれて崩れていく。
まるで、植物の一生をタイムラプス映像で見ているかのような急速変化。
すべては無数の桜の花びらに変わり、風に乗って吹きすさぶ。
ぐるぐると桜の花吹雪は渦を巻き、櫻宵の背の枝垂れ桜を賑わわせた。
「うふふ。殺して、咲かせて、運動前のお弁当には悪くないわ」
「まだ足りないの? まったく、櫻は食いしん坊だなあ」
やれやれとため息をつくリル。ようやく腕から降ろされた。
「今日はどんな舞台になるかしら、ねぇ――座長さん?」
伺うような櫻宵の言葉に、リルはくすりと笑う。
「きっと素敵な舞台になるはずさ。だって、花形は君だもの」
幻朧桜が吹きすさぶ。美しくもおぞましい逢瀬を覆い隠すかのように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
機罐車なぞ占拠して何を目的としているのか……
まあ、凡そ禄でも無い事を目論んでいるには違いあるまい
しかし……星廻りの悪いものだ
だが元より無辜の命は護らねばならん――遣るべき事に変わりは無い
先ずはあれに乗り移る手段――極實衝天。来い、騰蛇
お前なら、あれと速度を合わせ飛ぶなぞ容易かろう
出来るだけ接近し易い様に形は小型に呼び出す
近くを並走させて戦闘員の多い車両を選び
其の窓を叩き割って乗り移る
狭い車内では刀の振りは小さく、速さを重視
戦闘知識と第六感に因る観察から刃の通し易い位置を見極め
怪力乗せた斬撃で以って、1体も遺さず蹂躙してくれよう
邪魔するものに容赦はせん
多少の傷など激痛耐性で無視し先頭車両へ向かう
門倉・チエ。
その名に反応を示した猟兵のひとりが、鷲生・嵯泉だった。
彼は思った――「星廻りの悪い女もいたものだ」と。
あるいはまたしても幻朧戦線が、このただならぬテロに関わっているのか?
答えはわからない。悪党どもの腹を裂けば出てくるだろうか。
「……くだらんな」
嵯泉は思考を打ち切り、剣指を口元に近づけ、小さく真言を唱えた。
「――来い、炎纏いて空舞うもの。騰蛇よ、我がもとへ来い」
嵯泉の目の前にぼう、と火球が生まれ、急速に膨れ上がった。
たちまち数メートル規模にまで膨れ上がったそれはひび割れ砕け、爆ぜた。
熱波が彼の金髪を揺らす。しゅるるる、と舌を覗かせ術師を見下ろす異形の式神。
「往くぞ、騰蛇。私をあそこまで運べ」
式神はとぐろを巻くように跪き、嵯泉をその背に乗せた。
人が触れれば肌と言わず骨まで灼かれる炎、しかし嵯泉を脅かすことはない。
隻眼が見据える先、汽笛も高らかに走る汽罐車めがけ、式神は翔ぶ。
人の生み出した科学の結晶に、人ならざる神の似姿が追いつく。
たやすいことだ。この強大なる蛇神の翼をもってすれば。
向かい風が嵯泉の頬を叩く。男は刃めいて鋭い瞳で汽罐車を睨んだ。
――がしゃああんっ!!
「なんだ!?」
「敵襲……ぐわっ!?」
「こ、こいつ――疾い!」
然り。窓の外から飛び込みと同時、嵯泉はすでに二度太刀を振るっていた。
神速である。あまりの切れ味に、断面は血のしずくを一滴たりとこぼさない。
「ひいっ」
囚われていた乗客が、真っ二つになった戦闘員"ども"を見て悲鳴を漏らした。
嵯泉は一瞥するに止め、前方車両に続く扉を睨む。どたどたと複数の足音。
「邪魔するものに容赦はせんぞ。命が惜しければ床にでも伏せていろ」
怯える乗客は、はじめ、それが自分に向けた言葉だと思った。
だが違う――嵯泉は敵に向かって言ったのだ。"お前では私に敵わない"と。
一瞬の間があった。……がらりと連結扉が開かれ、敵が殺到する。
「嘗めやがってぇ!!」
「――言わんことない」
狼じみた異形の横をすり抜け、嵯泉は振り返ることなく駆け抜ける。
戦闘員の体は"ずるり"と四等分され、どしゃりと床に倒れ込む。
「……す、すごい……」
恐怖すらも忘れ、乗客は呟いた。そして我に返り、座席から顔を覗かせる。
開けっ放しの連結扉の向こう、膾斬りにされた敵の残骸がいくつも。
男の姿はすでにない――風のように素早く、霞のようにしめやかに、その剣はひたすら前を目指すのだから。
成功
🔵🔵🔴
閖神・宵帝
まず汽罐車に行くところからか
足が長いといっても飛び乗れるかな。
自分の体の限界は知ってるつもりなんだが。
いや、冗談言ってる暇もないか、やるしかないね。
顔に当たる風はいつもよりも強い。
それはそうだ線路沿いの建物の屋根の上、風を遮るものがない。
…線路の向かいのパン屋、美味そうだな。終わったら行ってみたいが、時間はないようだ。
遠くから汽罐車の音が聞こえてくる
ああ、丁度いい場所に戦闘員もいるじゃないか、彼を足掛かりにしよう。
愛用の刀を抜く。
助走をつけて戦闘員に飛び掛かる
刃を交え、敵の武器を飛ばす
戦闘員を踏みつけて汽罐車へ
すまんな。
さてスタァのお嬢さんをお迎えに行くか。
――風が強い。今日はいささか空模様が怪しいらしい。
もしかするとこのあと、一雨来るかもしれない。
見上げた空は晴れ渡っていたが、天気雨とは気まぐれなものだ。
地上の諍い、騒乱、悲劇も気にせず燦々輝く太陽は、気楽なように思えた。
「……あそこのパン屋、美味そうだな。終わったら行ってみようか」
空から視線を正面に戻し、閖神・宵帝は顎をさすりながら呟いた。
鉄火場にこれから飛び込もうという者の言葉とは思えない、呑気な思索。
しかし、その暇はあるまい。いや、あるいはたちどころに解決してしまえば?
せっかくのサクラミラージュだ、色々見て回るのも悪くない。
「――来たな」
"これから"に思いを巡らせる宵帝の耳に、高らかな汽笛の音が聞こえてきた。
なるほど、一見すると普通の汽罐車となんら変わらないように見える。
しかし線路上を走るスピードは、平時の運行速度よりも倍近く早い。
明らかに暴走している。あれでは飛び乗るのも骨だろう。
「転げ落ちたらひき肉の仲間入りか。ぞっとしないな」
表情を変えぬまま呟いて、宵帝は機会を伺った。
――彼が立つのは線路沿いの高いビルの上。風がごうごう吹いている。
真っ逆さまに屋根に乗る? 翼があるわけでもなし、転げ落ちて死ぬだろう。
では止めるか。己ひとりでそんなことが出来るとも思えなかった。
思案する宵帝が認めたのは、路線上に飛び出してきた戦闘員の姿。
なるほど、汽罐車をジャックしたのとは別働隊がいたのか。
おそらくこれ以上猟兵が乗り込まないよう、路線を警備するつもりなのだろう。
あるいは奴らも増援として乗り込んで、内部を制圧するつもりか。
「ああ、ちょうどいいな」
宵帝はなんでもないように呟いて、助走をつけてひらりと飛び出した。
風が長身をさらう。ぐんぐんと地面が近づく――敵と視線が交錯した。
「な、」
と、相手は言ったかもしれない。刀が煌めき、喉元を串刺しにした。
「すまんな」
言ったところで届いているか。聞こえているか。考えても詮無いことだ。
刀を引き抜き、力なく崩折れる戦闘員の体を踏み台に、跳躍。
――ごうっ!! と、突風を巻き上げて列車が通過した。
「さて」
開けっ放しの窓から車両に転がり込んだ宵帝は、膝立ち姿勢から立ち上がる。
ぱっぱっと裾を払い、血のまとわりつく刀を振るった。
「スタァのお嬢さんを、お迎えに行くか」
かくて、また一陣。
狂える汽罐車の最中にて、刃と血風舞い散らん。
大成功
🔵🔵🔵
佐々・夕辺
女性の沈黙は美徳?
さすがオブリビオン、考え方も昔よろしくね!
手近な建造物から飛び移って列車に乗り込むわ
私、ジャンプは得意なの
宙を蹴ってくるり宙返り、列車の上で戦闘員と対峙
「生憎、乗車券は持ってないのだけれど」
基本的に相手の攻撃にカウンターで蹴りを仕掛ける
中空さえも私のステージ、狐の狩りを見せてあげるわ
更に管狐で氷の属性攻撃、蹴り砕いてバラバラにしてあげる
弾丸の如く飛びなさい、管狐!
粗方上が片付いたら換気口を蹴り開けて列車内へ
行きましょう、急がなきゃ
両手に余る程の命だって、掴み取って取りこぼさないで守り抜いてみせる!
汽罐車内は騒然としていた。
謎めいた影朧の軍勢による制圧。そして、「超弩級戦力」の襲来。
すでにいくつかの車両は奪取され、じりじりと追い詰められつつある。
怯えていた乗客らにも、希望の色が見え始めていた。
「……ねえ、見てあれ」
夫婦と思しき乗客、妻が窓の外を指差し声をあげた。
「しっ。静かにしてないとあいつらが――え?」
夫は人差し指を立て、彼女を注意して……指し示す先を見て、やはり声をあげた。
線路に面した建造物の上に、人が立っていなかったか?
どうしてあんなところに? 見間違いかと思って目を凝らしてみるが、
当然のように建造物は過ぎ去ってしまっており、正体がわからない。
「誰だったのかしら、あれ」
――もしかして、猟兵だったのでは?
疑問を口に出した妻も、夫もそう思っていたが、口にはしなかった。
威張り散らすテロリストどもに、わざわざ教えてやる意味はない。
なにより……。
「う、うわあああああっ!!」
屋根上から落ちてきた戦闘員の悲鳴が、あの人影の正体を示しているからだ!
――夫婦が乗る車両、屋根上!
「まったく、いきなり襲いかかってくることはないじゃない」
ぱっぱっと両手を払い、佐々・夕辺はふんっと鼻を鳴らした。
然り。彼らが見た「建造物の上の人影」とはまさしく彼女のことであり、
猛スピードで走る汽罐車の真上に、彼女は飛び移ってきたのだ!
「猟兵だ! 殺せーっ!!」
「あいにく乗車券は持ってないのだけれど……殺せとはご挨拶ね。
まるでここは自分たちのものでございますって感じの態度じゃない」
ごうごうと風が吹き抜けるなか、けだものが爪を光らせ襲いかかる。
夕辺は……跳んだ! だが彼女が風にさらわれることはない!
「殺せるものなら殺してみなさいっ!」
あざ笑うようにけたものの頭上を宙返りで飛び越え、背後に着地。
振り返ろうとする戦闘員だが……出来ない。足元が凍っている!
「これは!」
「――遅いわよ」
鋭い回し蹴りが敵を襲った。凍りついた足ごと、けだものは地面に落ちていく。
どうなったかなど確かめる必要はない。このスピードだ、即死だろう。
「弾丸の如く飛びなさい、管狐!」
そして夕辺が手をかざせば、氷をまとった管狐が新手めがけて飛翔する。
先の足元を凍らせた搦め手はこれが正体か。胸部を撃たれ落下していく悪漢!
「まったく次から次へと、こっちは急いでいるっていうのに」
次なる敵の気配を感じて身構えながら、夕辺は眉根を顰めた。
このまま敵を放置しておけば、スタァと言わず多くの命が奪われる。
そんな悲劇を看過するつもりはない――たとえ両手では余るほどの命でも。
「守りぬいてみせるわ、みんなを……!」
落ちていく手を掴んで救うことが、彼女の使命なのだから。
成功
🔵🔵🔴
橙樹・千織
あら、桜の海…綺麗ですねぇ
と、景色を楽しんでいる場合ではないのでしたね
線路沿いの高台から飛び移りましょう
何なら滑空でもしてみましょうか?
さて、こんな狭いところに引き籠もっていないで外で花見でもしてきては?
それとも…ここで花見がしたいというのならお手伝いしますよ
【歌唱】による【マヒ攻撃】で敵を怯ませ、
ユーベルコードと藍焔華で【なぎ払い】ながら進みましょう
はてさて、テロだなんて…何が目的なのやら
その女性が過去に何をしたのかは知りませんが…
力無き者に仇なす悪しきモノは、その魂ごと散ってもらう
とこしえの桜が咲き誇る泰平の世界、サクラミラージュ。
この世界に来るたびに、橙樹・千織は思う――なんと綺麗な世界だろう、と。
やってくるたびにうっとりと見とれ、使命を忘れかけてしまうものだ。
特に今日この地域は、いつもより幻朧桜が咲き誇っていた。
ごうごうと強い風に煽られて、永遠に絶えない桜吹雪が青空を覆う。
「まるで桜の海、ですね――と、いけません」
千織はくすりと笑い、頭を振った。残念だが今日は見惚れる暇はない。
見よ。線路の向こうから煙噴き上げ走る大きな汽罐車を。
千織はそのフォルムを認めるとこくりとひとつ頷き、一歩前に踏み出した。
その先にはなにもない。無だ。そして彼女は桜吹雪を見下ろす高みにある!
「本当に、綺麗な景色――」
ばさりと背中から翼をはためかせ、千織は桜の海に飛び込んだ。
猛スピードで走る汽罐車と、滑空する彼女の影が交錯する――。
――がしゃああんっ!!
「「「!?」」」
窓からまっすぐに飛び込んできた女の姿に、異形の戦闘員どもは瞠目した。
立ち上がった千織はにこりと微笑み、すぐに表情を引き締める。
「こんな狭いところに引きこもっていないで、外で花見でもしてきては?」
「こいつ――」
「それとも」
敵が動くよりも先に、千織は能を舞うようにすり足で間合いを詰めた。
薙刀を手早く左右に振るい、まず足を刈る。崩れ落ちたところへ下からの突き1
「ここで花見がしたいというなら、お手伝いしますよっ!」
顎をしたたかに撃たれてのけぞった先頭の獣人が、後続を巻き込み吹き飛ぶ。
そんな奴らに降り注いだのは、視界を覆うほどに吹きすさぶ八重桜。
「な、何も見えない! くそっ!」
「ユーベルコヲドか――はっ!?」
断末魔は短く、喉元を一閃された獣は事切れた。
千織の手には、藍色の装飾を施された美しい日本刀が一振り。
「力なき者に仇なす悪しきモノには、櫻雨は鮮烈に過ぎたでしょうか?
――散りゆくその魂への手向けです。末期の花見、どうぞお楽しみくださいね」
二閃、三刃、四斬。八重桜が収束し、もとの薙刀の姿を取り戻す。
あとに残るのは、急所を一撃で斬られ絶命したけだものどもの屍体だ。
千織は眦を決し駆け出した。いちいち足を止めている暇はない。
敵の目的がなんであれ、市井の人々を苦しめ怯えさせる外道などもってのほか。
討つべき悪を露と散らすため、刃は煌めき血の徒花を咲かせ舞う!
成功
🔵🔵🔴
ロク・ザイオン
(聞こえた。
その声を、己は決して聞き逃さない)
(【ダッシュ、ジャンプ】車体の揺れすら【地形利用】)
起きろ――"LAIKA"!
(車体に滑り込み、病葉どもは銃に変えた"ライカ"で【なぎ払い】
乗客への被害を食い止めながら、最速で病の元を目指そう)
(高速で走る狭い箱、どこにも逃がせる場が無いのなら)
…大丈夫だ。
猟兵が、きたから。
(追い立てる叫びではなく。
せめて、この声でも、キミたちへの【鼓舞】となるように)
たすけて、と誰かが言った。
こわいよ、と誰かが言った。
皆が、「誰か」と呼んだ。
特定の誰かを指したわけではない。
その声が届くとも、思っていない。
神を信じていない人間が、最期に誰とも知らぬ神に祈りを捧げるような、
そういう、"どうしようもない人間"が抱く、諦観めいた祈りだった。
……祈りは何も為せない。
祈りでは何も変えられはしない。
何かを得ることも、
何かを奪うことも、
何かを失うことも、
なにもない。力なき者に許された最後の悪あがき――悪あがき以下の無為。
祈りが届くことなど、ありはしないのだ。
しかしそれは、尋常の世界でのことだ。
猟兵とは世界の寵愛を享けたもの、奇跡を以て世界を変えるもの。
届かぬはずの祈りを聞き届けるものがいた。
祈りそのものが何も得られず、変えられず、奪えず、失わないとしても。
祈りは時として、神の如き救いをもたらす者へと届くのだ!
「起きろ――"LAIKA"!!」
燃える風が汽罐車に併走し、猫科動物めいて車内に滑り込んだ。
そして銃声。雷撃がつかの間閃光をもたらし、光芒が敵を貫いた。
「がッ」
苦悶の断末魔。倒れ伏した敵を越え、赫き炎が車内を駆け抜けた。
「じゃまだ」
戦闘員は底冷えするような声と、突き刺すような凝視に射竦められた。
あるいはそれは、彼奴らが異形とて獣の一側面を持つからか。
来たりしものは森の番人。獣を狩り、追い立て、そして殺すもの。
剣戟形態に変形したLAIKAが一閃され、立ち尽くす敵の喉元を横に裂いた。
屍が倒れ伏す。屍を……病葉だけを灼く神の炎が、屍を包み込む。
炎が……ロク・ザイオンが、怯える人々を見やった。
ひ、と息を呑む人々に、ロクは静かに、とぎれとぎれに言った。
「大丈夫だ」
言葉を選ぶのではなく、幼子に言い聞かせるように、ゆっくりと。
「猟兵(おれたち)が、きたから」
ひび割れた声は恐ろしく、けれどもどこか穏やかだった。
そしてロクは再び風となる。扉を越え、次の箱を目指す。
祈りを、声を聞いたから。
病を滅ぼす理由など、彼女にとってはそれで十分なのだから。
成功
🔵🔵🔴
氏家・禄郎
何というか、アレだね
あのスタア、とことん影朧に縁があると見えた
さて……この丘から自転車でジャンプすれば上手く行くかな
行くよね
いや……行くんだよぉ!!
(シャカシャカシャカシャカ!)
考えろ『思考』しろ、何とかうまく行くタイミングを!
取れぇええええええええっ!
(ガラスまみれになりながら)
――やあ、お邪魔だったかい。
大丈夫、切符は持っているんだ……ほらおいで雪花
(呼び寄せたドラゴンランスで【咄嗟の一撃】)
まあ、そういうわけで今日はスタアのサイン会に参加希望だ
通るよ
(ステッキ状にしたランスを振り回し)
ところで君達、この車内で【武器を落とされ、目を潰され、動きを止められる】
そういう技術を体験してみるかい?
不幸の星のもとに生まれたというべきか、数奇な運命というべきか。
先の影朧甲冑事件で渦中となったスタァ、門倉・チエ。
まだ親しきひとを亡くした悲しみも癒えていないころに、この事件である。
偶然であれば実に嘆かわしい。
必然だったならば――より、問題である。
「なんというか、アレだな……まったくご愁傷さまって感じだ」
氏家・禄郎はひとりごち、ぴしゃりと頬を張った。
「よし、僕も行くか。……うん、行ける。行くしかない。行くぞ!!」
禄郎は気合を入れ、しゃかしゃかと自転車のペダルを漕ぐ。
必死に漕ぐ。
ひたすら漕ぐ!
「大丈夫だいけるいける僕ならやれる行ける行ける行ける!!」
ほとんど祈るようであった。まあ無理もない。
自転車であの丘からおもいっきりジャンプして汽罐車に飛び乗るなど、
それこそ幻朧戦線のような頭が変な連中でもなければ思いつくまい。
(考えろ"思考"しろ、うまくいく方法を! タイミングを!! 見出せ!!!)
脳がかっかと熱を発する。視界が茹だってぐるぐると渦巻いた。
正気の沙汰ではない。誰がどう見ても、自殺行為以外の何者でもない。
そして禄郎は――ついに最高速度に達し、丘から飛び出した!
はたして探偵は、自転車ごと放物線を描いてまっさかさま。
どこかの骨が折れてのたうち回ってるうちに、轢き潰されてお陀仏。
そうなるはずだ――しかし現実は違った。そうならなかった。
「……は?」
あっけにとられた戦闘員が、間抜けな声を漏らした。
当然だろう。ガラス窓を突き破って、自転車に乗った怪人が飛び込んできたのだ。
「やあ、お邪魔だったかい」
「――て、敵襲だぁあああっ!!」
禄郎はやれやれと頭を振り、ガラスを払うと同時に立ち上がった。
下からすくい上げるようなタックルで、異形の戦闘員を吹き飛ばす!
「ぐおっ!」
「おいで、雪花!」
ぱきぱきと大気を凍らせながら、一匹の龍がその手の中に舞い降りる。
たちまちそれはドラゴンランスへと変じ、倒れた敵めがけ斜め下に刺突。
ぐ、とうめき声を漏らし、戦闘員は事切れた。
「さすがに槍では取り回しがしづらいな……よし」
龍槍は手の中でステッキ状に変じる。直後、連結扉が開き新手がなだれ込んだ。
「あー、切符は持ってるんだ。拝見する?」
おどけたように言って、禄郎は帽子を被り直しつつステッキを構えた。
「――それでダメなら、ひとつ探偵の戦い方をお見せしようか」
不敵な笑み。わっと殺到する敵を、突き、薙ぎ、打ち倒して前へ前へ。
閉所かつ多数相手とは思えぬ立ち回り。まさしく活劇フィルムの如し!
「お釣りはいらないよ。今日は気前よくいこうと思うからね」
折り重なって倒れる敵を振り返り、探偵はきざったらしく言ってみせた。
大成功
🔵🔵🔵
ミザール・クローヴン
赦せるか
赦せるものか!!
貴様らには何一つ奪わせんぞ!!
まだ人の乗り込んでいない車輌
があるならば、其処に行く
機械爪の手首から先を射出して車輌を掴み、ワイヤーを巻き取って無理矢理乗車
戦闘員がいたならそのまま交戦に突入する
狭い車輌内での戦闘になるなら外装をパージし軽量型にシフト
接近し、武術を以て制圧する
おれ様の武器はひとつではない!磨いた技全てが貴様らを還す凶器なのだ!!
乗客達は無事か?他車輌に逃がせるなら逃がすぞ
一人の犠牲も出してたまるものか
何より、あのチエという人には義理がある
例えおれ様が関わったうちの一人だとしても、
あの不器用で愚かな男の為に怒り、あの人を救わねば
だから、其処を、どけぇ!!
機械爪ががっきと窓枠を掴んだ。ミザール・クローヴンは勢いに身を任せる。
ぎゅるぎゅるとワイヤーが巻き取られる――風が少年の体を揺らす。
もしも爪を離してしまったら。
あるいは、窓枠が耐えきれず破砕してしまったら。
すぐ下の地面に衝突した自分の姿を幻視して、ミザールは頭を振る。
(弱い思考に囚われるな。なすべきことを考えろ!)
猛スピードで列車の外装が近づく――ミザールは息を止め衝撃にそなえた。
KRAAAAAASH!! 勢いそのまま、砲弾めいてガラスをぶち破る!
「ちぃ、この車両にまで来やがったか! しかもガキだと!!」
どうやらこの車両には、まだ猟兵の手が回っていないようだ。
敵は爪を、あるいは武器を構え、ミザールに襲いかかった。
「おれ様をガキと見くびったか? ふざけるな!!」
ミザールは怒りに目を見開き、腰を深く落として大振りな爪撃を回避。
そのまま立ち上がりながら、重い掌底を腹部に叩き込む。
「ぐはぁっ!!」
「貴様らごときが! おれ様を止められると思うな……!!」
意識を喪った敵の体を横にどけ、ミザールは次の敵を回し蹴りで一蹴。
倒れ込むその肩を踏み台に飛び上がり、次の敵の頭部を爪で抉った!
「こ、こいつ……強い!!」
「応援を呼んでこい! 相手はひとりだ、怯むな!」
ぞろぞろと現れる敵を睨みつけ、ミザールは喉を唸らせた。
怒りが湧き上がってくる。悪漢への、その首謀者への怒りが。
赦せるものか。
赦せるものか!!
理由もわからぬ悪意に突然さらされ、逃げることすら許されず、
ただ恐怖と絶望に支配され、抵抗も出来ずに殺されてしまうなど。
そんな未来は認めない。こんな奴らには何も奪わせはしない。
命も、希望も。平穏も。あるべきものは、すべて守りぬいてみせよう。
「貴様らのような輩に、理不尽に、奪わせてなるものか!」
鉄拳が唸る。爪がけだものの皮を斬り裂き、ミザールの顔を血に染めた。
「乗客よ、この先には誰も通さん! 後部車両へ逃げろ、そちらは安全のはずだ!」
ミザールは振り返らぬままに言い、連結扉からなだれ込む敵を叩きのめす。
一歩も退かぬ。動くとすれば前へ。たとえこの身が傷つくとしても。
怯え震える人々を――そして囚われたあの女性を、救わねばならぬ。
「不器用で愚かな男がいたのだ。愚直に命を散らした男が、いたのだ!!
あの男のためにも、おれ様は進ませてもらうぞ。何があろうともな……!」
鬼気迫る少年の双眸に、悪漢どもは息を呑み、怯んだ。
「だから、そこを、退け」
少年は繰り返した。威力を振るいながら、声の限りに叫ぶ!
「だから、そこを、どけェ!!」
暴風の如きミザールひとり。悪党どもには、足を止めさせることは出来ない!
成功
🔵🔵🔴
アルナスル・アミューレンス
なんだかねぇ……。
あのお嬢さんも、運が無いというか、そういう星の流れなのか……。
将又、何か「持って」いたりとか?
まぁ、それはさておいて。
先ずは乗り込まない事には始まらないかぁ。
じゃあ、お邪魔蟲は全部『轢殺(ツブス)』としましょうか。
拘束制御術式、限定解除
偽神兵器、同調開始
肉体を強化し、線路沿いの建物から飛び乗りましょうか。
忍び足の要領で着地音を消して降り立ち、即座にダッシュ。
そのまま、車両の上の雑兵を蹂躙しましょうか
第六感を働かせて動きの先を見切り、怪力で致死性の部位を破壊していきますよー。
その様で恐怖を与えることが出来たら僥倖。
恐怖で動きが鈍る一瞬を突いて、片っ端から殺していきますよーっと。
外側から汽罐車に乗り込む際、もっとも選ばれるのは屋根上だ。
窓からダイレクトに飛び込む方法もなくはない――がタイミングが難しい。
そのため汽罐車の屋根上には大量の戦闘員が配備されていた。
着地する者がいたとしても、その隙に殺してしまえるように、と。
(あっちもぴりぴりしてるみたいだねぇ。数が多いや)
アルナスル・アミューレンスは線路沿いの建物屋上から列車を見下ろす。
眼下を通り過ぎるまであと十秒。予測着地点は敵のど真ん中だ。
(けどまあ――)
じわりと、アルナスルの体内で偽神細胞が励起した。
傍目には何も変わらない。だが、どくんどくんという鼓動が高く強く響く。
……拘束制御術式、限定解除。
偽神兵器、同調開始。
全神経賦活、身体能力強化――!
どうっ!! と屋上の床を砕き、アルナスルは跳躍した。
列車が眼下に到達する。屋根上の敵が彼の存在に気づき、何か叫んでいる。
このまま飛び込むのは自殺行為だ。一瞬でずたずたにされるだろう。
――ただしそれが、ただの人間ならば。
「お邪魔蟲は全部、"轢殺(ツブ)"させてもらうよ」
ガスマスクの下、ぞっとするように冷たい声で呟いた。
……アルナスルは落下衝撃を両足の筋肉で吸収し、膝立ちで着地した。
周囲の敵は怒号をあげて、爪や牙、あるいは武器を振り上げて襲いかかる。
「死ねェエエエエ――え?」
ある戦闘員が間抜けな声を漏らした。なぜなら、アルナスルの姿が消えたからだ。
一体どこへ? ステルス機構か何かか。あるいはそういうユーベルコヲドか?
怪訝が隙を生んだ。しかし、それを愚かと謗ることは出来まい。
アルナスルはすでに、けだものの背後に回っていたからだ。
「襲ってきたのはそちらが先なんだ、恨まないでね」
軽く言い、アルナスルはけだものの頭部をぐしゃりと握りつぶした。
紙くずのように、簡単に。周りの戦闘員はその怪力に慄いた。
「さて」
赤いバイザーが次の敵を捉えた。アルナスルの姿が再び消え、眼前に。
おそらく、拳を無造作に振った。それだけで敵は真っ二つになった。
「ば、化け物だ!!」
誰かが言った。自分こそ獣の姿に異形化しているというのに。
「ははは。そうだよ、化け物だ。怖いなら身投げでもしたらどう?」
感情を覚えさせない声音でへらへら笑い、アルナスルはまた一体敵をクズ肉に変える。
まさしく轢殺。あるいは蹂躙。戦力差は圧倒的。
「どちらにせよ殺すからね。自分で死んでくれるなら、手間が省けて助かるよ」
アルナスルの声は、どこまでも作業的だった。
成功
🔵🔵🔴
アナスタシア・ムスハルト
門倉・チエさん、ねぇ
彼女と直接の面識はないけれど……
彼――利鷹さんを斬った者の一人として、彼女を殺させるわけにはいかないわ
連結部に飛び乗って、こっそり車内に侵入するわぁ(目立たない)
ここは……食堂車? 机がたくさんで隠れるところには困らないわねぇ
ドワーフの中でも更に小柄な体躯を活かして、身を隠しながら敵に接近
机の上にあった果物ナイフを「怪力」で投げつけて殺して、
他の敵が動揺したりそっちに意識が向いたら「致命斬殺剣」でスパッと「早業」の「暗殺」よぉ
こんな手に引っかかるから下級扱いなのよ、あなたたちは
さて――あとは真っ向勝負よぉ
まとめて来なさいな、片っ端から叩き斬ってあげるわぁ(切り込み)
門倉・チエを巡る影朧甲冑事件において、ひとりの男が死んだ。
彼女の名を知る猟兵たちは、つまり"彼"の生き様も覚えている。
愚かな反面教師として、ただ愚直に振る舞い散っていった男の名を。
そしてアナスタシア・ムスハルトは、人を斬ることを躊躇せぬ女だ。
だからといって、アナスタシアは斬った者のことを忘れはしない。
ゆえに……たとえ、スタァである彼女と直接合ったことがないとしても。
殺されるかもしれないとわかっていて、見過ごすことは出来ないのだ。
「……ふうん、ここは食堂車かしらねぇ」
音もなくひそやかに汽車に飛び乗ったアナスタシア。
彼女が滑り込んだのは、どうやら一等客室の食堂車両だったようだ。
敵戦闘員は数名。いずれも牙あるいは爪、強靭な毛皮や鱗を持っている。
アナスタシアの剣をもってすれば両断は容易いだろう、が……。
「ん? おい、今なにか物音、がッ」
アナスタシアの気配に気付いた戦闘員が、机の下を覗き込もうとした。
しかしその瞬間に死ぬ。仰向けに倒れた同胞を見て、別の戦闘員が驚愕した。
「な、なんだ!? これは……く、果物ナイフ?」
然り。一撃で絶命した戦闘員の喉には、一本の果物ナイフが刺さっている。
鱗を貫き、刃の根本までがぐっさりと深く突き刺さっていた。
明らかに大男か何かが両手で握りしめ、力一杯ねじ込まねばこうはなるまい。
だが、そんな身の丈の男はどこにもいない。
いくら机の下に身を縮こませたとしても、どこかに痕跡があるはず……。
「――鈍いのね」
「!?」
耳元でした女の声に、戦闘員はとっさに振り向こうとした。
背後に女がいた。……そして視界は、女を通り過ぎて180度回転する。
……180度回転? どういうことだ?
男はすぐに違和感の理由を理解した。
ごとりという物音。視界が落下し、『首無しの体』を見上げる。
「こんな手に引っかかる下級扱いなのよ、あなたたちは」
女が言った。男は言葉を発そうとしたが、敵わない。
すでに男は首を断たれ、そしていま息絶えたからだ――。
「他愛ないわねえ。これなら身を隠す必要もなかったかしらぁ?」
アナスタシアは剣を払って言い、そして連結扉の方を見やった。
いくつもの足音が近づいてくる。数は五、六……いや、もっとか。
「そうよねぇ、このぐらいで終わりじゃ困るものぉ。
――真っ向勝負で相手してあげるわぁ。片っ端から片付けてあげる」
アナスタシアは威圧感を増す。扉が開き新たな敵が――現れた!
敵の数は十、しかし戦いが終わるのには十秒もかからなかった。
致命の剣を前にして、雑魚どもでは壁にすら成り得ないのである。
大成功
🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
え、列車に飛び乗れ?
影人間に難題吹っ掛けてますね……
まぁこの身をすべて影にすればいける――いけるのか?
確証は無いですが適当な場所から飛び降ります
まぁ万一に備えて一部分だけ呪瘡包帯を括り付けながらで
列車に乗れたらさっさと行動しましょうか
残念ながら怪奇に容赦はありませんのでね
異形の躰だけを蝕む呪詛を振り撒いて動きを鈍らせて
呪瘡包帯で捕らえて圧し折ったり
この腕で首を締め砕き折っていきます
異形の攻撃は躰を変異させながら隙間を縫って躱す
……怪奇を一般人に晒すことになりますが、仕方ない
目を瞑っててください
見てはいけないモノです
怪物だとか化物だとかは言われ慣れてる
でも異形のあなた達にそれを言う資格ないですよ
「まったく、列車に飛び乗れとは……影人間に難題吹っかけてきますよね」
スキアファール・イリャルギは高台から線路を見下ろし、頭をかいた。
怪奇人間である彼の能力は『影』に変じること。
間違っても翼を生やしたり、風よりも早く動けるわけではない。
こんなアクションスターじみた仕事は、スキアファールの不得手のひとつだ。
「まぁ、やれるだけやってみましょうか……」
ぞわり、と。スキアファールの"像"がゆらぎ、そして変質した。
人型の……いや、その形すらも喪った……"影"が、高台から飛び降りる。
より正確に言えば、スライムがこぼれ落ちるような、水が滲み出すような。
形容しがたい動きで蠢き、落下速度に自らの身を任せる。
風に呪瘡包帯がなびき――かろうじて、列車の連結部分に絡まった。
音もなく、影が隙間から"滲み込む"。まさしく怪奇のもたらす不気味な光景。
人気のない貨物室に忍び込んだ影が、再び長身痩躯の男の姿に戻る……。
がらり、とだしぬけに連結扉が開かれた瞬間、戦闘員どもは警戒した。
猟兵による襲撃は散発的に繰り返されており、全車両が警戒態勢にある。
次はどんなやつが乗り込んできた。無双の剣豪か、はたまた炎を操る魔術士か。
どうあれ爪で引き裂き牙で抉ってやろう……と、息巻いていたのだろう。
「……なんだこいつは。ただのうらなり野郎じゃねえか」
戦闘者としてのプレッシャーを感じさせないスキアファールを見て、
呆れた様子で誰かが言った。他の連中も彼を嘗めきって、へらへら笑っていた。
「……異形をひけらかして、一般人を脅かす。挙げ句に敵を見下す。
やっぱりろくなもんじゃないですね、影朧の怪奇は。……容赦しませんよ」
「「「!!」」」
余裕綽々の笑みを浮かべていた戦闘員どもは、即座に顔を強張らせた。
再びスキアファールの体がじわりとゆらぎ、その身が"影"に変じていく。
「ひい!」
怯える乗客が悲鳴をあげ、口元を手で抑えてがたがたと震えた。
影の中に、目と口がある。それらが一斉に乗客を見つめたのである。
『目を、瞑っててくださゐ』
男のものと思しき声がした。無数の口が同時に喋っていた。
『"此れ"は、見てはゐけなヰモノです』
「か、怪奇人間か! しかもその姿……ははっ、俺らよりよほど化け物じゃねえか!」
戦闘員の言葉に、"目"がぎょろりと一斉に奴を見た。
しかし嘲るような笑みも、己の体が動かないとわかると強張った。
『もう一度ヰっておきます』
口が言った。
『容赦はしません』
腕と思しき部分が、非現実的な速度でほとばしり、戦闘員どもの首に絡みついた。
ぎりぎりと圧力が増し、影の腕はばき、ぼきりと次々に首をへし折る。
異形には異形の殺し方がある。目には目を、というやつだ。
ただそれは効率的なぶん、傍目にはあまりにおぞましい景色として映る。
「……!!」
乗客は目をつむり必死に震えていた。かちかち歯を鳴らし、何かを呟き続ける。
……異形を殺し続けながら、スキアファールである"影"は呻いた。
見るな、と言われた乗客は、ずっと「ごめんなさい」と謝っていたからだ。
自分だけは見逃してくれ、という恐怖からの意味のない謝罪なのか、
助けに来てくれたのに、異形の身を見て怯えてしまったことへの謝罪なのか。
影は問わない。ゆえに、答えが得られることもなかった。
大成功
🔵🔵🔵
狭筵・桜人
SL飛び乗りチャレンジですか?
誰か手伝ってくれないかなー!
くれませんよね!!
骨とか折らないようにUDCをクッションにしながら屋根に飛び乗ります。ヤワなので。
バカスピード出してる列車の側面にある
窓から入るとか無理なので貫通扉がないか探して……
コレ屋根破って入った方が早かったりします?
移動中は居合わせた猟兵を盾にしながら慎重に進みます。
中に入ったらちゃんと仕事しますから!
火室は他の猟兵があたるでしょうし
私は後部車両に向かう事にします。
人質のチエさんはー……まあしばらくは大丈夫でしょう。
美人って得ですねえ、ンッフフ。
彼女には随分と嫌われてしまいましたから
なるべく顔合わせないようにしときますよ。
矢来・夕立
線路上に転移、《闇に紛れて》上から行きます。
ええ。
地上から、屋根の上へ。
戦闘員のいるあたりを狙って【夜雲】で飛び乗る。
中に入ってもいいんですけど、見張りも消しとくに越したことはありませんから。
剣を使うなり、式紙を使うなり、列車から蹴落とすなり……やりようは色々ありますね。
列車内には極力入らず屋根の上の殲滅を優先します。
理由は三つ。
いち。まず間違いなく増援が来るでしょう。
影からだまし討ちは得意分野です。
に。足場の不安定な場所で戦える人員は限られます。
オレは弾き飛ばされても【夜雲】で復帰できます。
さん。作戦の初期段階でうっかり女優さん本人に出くわしたくありません。
よん。忍者のカンです。
茜崎・トヲル
さらわれた? 女の子。女の人。ふぅん、ヘンタイってやつ? ちがう?
まーいいや乗り込めー。ツバメに変身して併走からのぉー突入。あはは。
どーせ窓のひとつも割れてるでしょう。割れてなかったらおれが割るよ。
じゃあ下級戦闘員をやっつけよう! そうしよう!
アレ、おれの武器って室内戦むかないね。どうしよう?
あー待ってまって攻撃してこられると頭まわらない、痛くもないし死なないけどポンコロポンコロ撃つなよウゼェー。
あ! それならおれは、あぶないお客さんの盾になろう。肉の盾だよ。いくら削っても再生するよ。猟兵も暴れ回っているから、巻き添えが危ないだろ?
わー赤ちゃんいる。かわいー。いくつ? 元気に育てなぁー。
鳴宮・匡
一人を執拗に狙うのには意味があるんだろうか
彼女個人の性質によるものなのか
或いは、スタアっていう立場に付加価値があるのか
……いや、考えても仕方ないな
思惑がどうあれ、止めてしまえば関係ない
周辺の敵を掃討しつつフック付きワイヤーを引っ掛け
カーブなど僅かでも速度が落ちるタイミングを見計らって取り付く
位置は車両の上部、内部への突入はまだ行わない
――何故って、後顧の憂いはないに限るだろう
突入するやつらの殿を務めるよ
殲滅速度重視の射撃で味方に追い縋る敵を仕留めていく
車体上にいるやつは蹴り落として轢かせてもいい
とにかく味方の仕事を妨げられないようにするよ
殲滅戦なんて慣れた仕事だ
下手は打たないさ
サフィール・ロワイヤル
門倉・チエ嬢…
尊敬するあのスタァの彼女が何故?
わからない…でも僕は戦おう
戦闘にも舞台にも乏しい僕でも戦いたい
…う、うう
車両を乗り越えることも恐いなんて、僕はなんて臆病なんだ
い、嫌だ!こんなところで負けへん!
初めてのユーベルコードを発動
剣を振るいながら、想いを歌う
妨げるな
僕は歌い戦う
この世界の為
阻むものは総て斬り落とす
新参たる僕が歌って現れようと、笑いの種になるかもしれない
それでも僕は戦いたい
そんな、羞恥も何もかも棄てたこの歌が――惹きつける盾となるように
そう歌いながら、僕は剣を振るって相手の隙を狙って峰打ちで眠らせよう
こんなにか細い手でも、彼らを助けたいからこそ……
門倉・チエ。
この作戦に参加した猟兵の中で、その名を知る者は二種類いた。
ひとつは、とある影朧甲冑に関わる事件の被害者として。
もうひとつは――スタァとしての彼女を知る者。
サフィール・ロワイヤルは後者であった。
彼女自身もまた、芸能サラブレッド的血統のもとに生まれた麒麟児だ。
舞台脚本家の父と、トップスタアの母。
サフィール自身もなるべくしてスタアの道を選び、今も目指し続けている。
だからこそ彼女は、チエというスタアの名を先駆者として知っていた。
たぐいまれな歌声を持ち、多くの慈善活動で人々から親しまれる心優しきひと。
ついこの間発生した横濱歌謡大劇場におけるテロ事件でも、
彼女は逃げることなく多くの関係者や観客の避難を誘導したという。
サフィールは彼女を尊敬していた。そして最初に浮かんだ言葉は「なぜ?」だ。
影朧に狙われる理由がない。本当に偶然で巻き込まれただけなのか?
答えはわからない。いまは戦い、彼女と乗客を救い出すしかないのだ!
「……う、うう」
しかし。それがわかっていても、サフィールは高台で尻込みしていた。
当然だろう。彼女はスタアとしてはサラブレッドでも、猟兵としては新米。
驚くべきことに、サフィールはこの戦いが初陣なのである。
それでも飛び出してきたのは、尊敬の念の証左でもあるのかもしれない。
だが、この突風の中、あんなスピードで近づいてくる列車に飛び乗るなど……!
(い、厭だ。こんなところで、負けられへん……!)
心のなかで自分を叱咤激励する。"私"ではなく"僕"であろうとする。
「僕はやれる。僕ならやれる――臆病なんかじゃない。戦える!」
マインドセットで己を激励(だます)。サフィールは眦を決した。
「――ふっ!」
呼気をひとつ。そして金の宝髪を持つ少女は高く高く跳躍した――!
「あのですねえ! たしかに私、手伝ってくださいと言いましたけどねえ!」
一方、同じ頃。猛スピードで迫る汽罐車の前――つまり、線路上。
ぎゃあぎゃあと喚く狭筵・桜人は、矢来・夕立に襟首を掴まれていた。
「こんなとこで待つのは必要なんですか!? 私ビビらせる作戦じゃないんです!?」
「やかましいですね。補助具なしでやりますか?」
「…………………頼みますよ本当。落としたりしたら恨みますからね」
夕立は桜人の言葉をスルーし、正面を見た。数百メートル先に汽罐車の姿。
ぐんぐんと近づいてくる。このままでは轢殺は必至! 血迷ったか!?
「あの、矢来さ――うおおおおおおっ!?」
桜人はぐい、と上に引っ張られる感覚を得て、直後飛んでいる自分に気付いた。
夕立である。彼は空中を蹴って多段跳躍、ついでに桜人を引っ張っていた。
もちろん両者の間には、彼の式"紙"によって一応の命綱が巻きつけられている。
「じゃあ囮お願いしますね」
「え」
桜人は間抜けな声を漏らした。そしてすぐに悲鳴に変わる。
「ええええええええっ!!」
投げられたのである。夕立の意外な怪力で、列車の屋根上めがけて!
「ちょちょちょ! なんでもいいからUDC、役に立ってくださいよ!!」
桜人はユーベルコードによって慌てて粘体型UDCを召喚、己を包ませる。
スライムじみたUDCは衝撃を受け止め、そのままざりざり擦り切れて消えた。
勢いは殺しきれず、粘体から飛び出した桜人はごろごろと屋根上を転がる。
「痛っっった!! マジであのファッキン忍私のことをなんだ、と――」
顔を上げた桜人が見たのは、己を見下ろす強面の戦闘員どもであった。
……囲まれている。屋根上に兵力を展開して待ち構えていたのか。
当然、あのふざけた忍はそれもわかったうえで投げつけたというわけだ!
「私ヤワなんでこういうの本当勘弁なんですけど!!!!」
爪が振り下ろされた。桜人はごろごろ無様に転がって致命的攻撃を回避。
しかし囲まれているから逃げ場がない。狼型の戦闘員が桜人をストンプ!
「ぐえっ! だ、だから私はそういう荒事タイプではないと……!」
「ごちゃごちゃうるせえな。首を引き裂いちまえ」
桜人を足で踏みつけ逃げられないよう押さえつけた戦闘員が、隣の男に言った。
爬虫類めいた男は片腕の爪を三倍以上に伸ばし、にたりと笑う。
まずい、死ぬ。あの忍マジで未来永劫恨み続ける。
桜人が顔面蒼白で口の端を笑みめいて引くつかせた――その時。
BLAMN!!
か細い銃声が鳴り響き、爪を振り上げた戦闘員は仰向けに倒れた。
そしてバウンドして屋根上から転がり落ち、見えなくなる。鈍い落下音。
「銃かッ!?」
気付いたとしても遅い。銃声は二度、三度、次々に戦闘員は倒れる。
「……た、助かった」
「俺、殿になるつもりでここに来たんだけどな」
呆れた様子で銃をリロードしているのは、鳴宮・匡であった。
彼は普段の戦闘装備の上からハーネスを装備し、ワイヤーを引っ掛けていた。
おそらくついさきほどのカーブの瞬間、フックを伝って乗り込んだのだろう。
敵はおろか味方すらも気づかない一瞬の早業。さすがは歴戦の傭兵か。
「さっさと立てよ。窓でも連結部でも、どこでもいいから早く降りな」
「わかってますけど矢来さんに文句言わないと気がすまないですねえ!」
「……そこにいるけど」
「えっ」
桜人は振り返る。相変わらず鉄面皮の夕立がなんてことのない様子で立っていた。
足元に転がる戦闘員を蹴り飛ばし、粗大ごみめいて線路に落とす。落下音。
「鳴宮さんが乗り込むのが見えたので、まあ大丈夫かなあと」
「……余計な手間増やすなよ。そっちが仕事してたのはわかってたけどな」
桜人はふたりの顔を交互に見やる。そして足元、倒れ伏した戦闘員……。
桜人が敵の目を惹きつけているうちに、別の戦闘員を片付けていたということか。
匡も夕立も、互いに互いが乗り込もうとしていたのをどこかで把握していたのだ。
どうやって? わからない。おそらく説明されてもわからないだろう。
桜人は文句を言うべきか感謝すべきか迷い、ようやく口を開いた……が、
「行けよ。俺はお前らが突入できるようサポートする。時間を無駄にしないでくれ」
匡は一方的に話を打ち切り、自動小銃を取り出してトリガを引いた。
BRATATATATATATA!! 屋根上に現れた新たな敵戦闘員が蜂の巣になる!
「じゃあオレはこれで」
「ちょちょちょ! あの、私弾除けとか無理なんで。中でもお手伝いを……」
媚びへつらいの笑みを浮かべて並走する桜人の顔を一瞥し、夕立は言った。
「……この組み合わせで、あの女優さんに会ったら面倒だと思いますが」
「ンッフフ。それを避けたいから屋根(ここ)に来たんでしょ?」
「じゃあオレはこれで」
「すぐそれですもんねえ! いいじゃないですか嫌われ者同士!」
夕立はそれ以上何も言わなかった。匡の弾丸が前方の敵を倒した瞬間、
連結扉の上部からスライディングめいて滑り込……まない。
桜人は一転意地の悪い笑みを浮かべていたが、屋根上を走る夕立と眼下を二度見。
あの男、徹底的に上でやるつもりか。……業腹だが付き合うのはゴメンだ。
「本当ずるいですよねえ、矢来さんって!」
口惜しげに吐き捨てて、桜人は開けかけの連結扉を足で開け車内へ。
……そう、ふたりは門倉・チエとどうしても顔を合わせたくなかった。
彼らが嫌っているわけではない。問題はむしろ、チエのほうにある……。
「……あんな露悪的な真似をするから、面倒が増えるんだ」
同じ戦いに参戦していた匡は知っている。彼は視ていたからだ。
先の影朧甲冑事件において、チエを襲ったのは彼女の幼馴染であった。
ふたりはもはや死ぬ以外にない彼の願いを汲み、あえて悪例として彼を――。
「……」
匡は思索を打ち切り、背後を見やった。ふわりと着地する金色の少女。
サフィールである。男と少女の視線が交錯し、匡は顎で前方をしゃくった。
「中に入るなら今がチャンスだぜ。支援はする、とにかく進んでくれ」
「……あ、あの」
「流れ弾なんて当てやしないよ。殲滅戦(こういうの)は慣れてる」
匡はそれだけ言って、また現れた敵戦闘員を銃撃で薙ぎ払う。
サフィールはどう答えればいいのか迷い、ぺこりと小さく会釈した。
「あ、ありがとう」
「……早く」
サフィールは駆け出した。風に髪を靡かせながら革命剣を抜く。
脳裏にイメージを育てる。いつか見たあの"王子様"のように凛々しい姿を。
「妨げるな――僕の道を、邪魔するなッ!」
勇ましく叫び、弾丸を切り抜けた敵戦闘員を斬り伏せ、車両内へ。
姿が消える直前、サフィールは匡を振り返った。匡が彼女を見ることはなかった。
……同時刻、三人が突入した車両のひとつ前!
『なんだかどんぱち騒がしいなあ。あはははは、騒がしいのはいいことだ!』
ぱたり、ぱたぱた。猛スピードで走る汽罐車に並走するツバメが一匹。
……ツバメ? あり得ない話だ。もうすさまじい時速が出ているというのに。
然り、それは人の言葉を喋り、明らかにこの状況を楽しんでいた。
茜崎・トヲルという男がその正体であり、彼の変身能力によるものだ。
『それにしても割れてる窓はないかなあ。バードストライク、しちゃう?
でもなあ、痛いのはちょっとなあ。ああ、まあ痛くないか、おれ』
リラックスしているような、痴れているような、他人事めいた口調。
トヲルは死を克服し、その代償として痛みを喪った男である。
……いや、そもそも"克服した"などと前向きな言い方をすべきか。
少なくとも彼にとって、死のない生は退屈で腐るようなものだった。
長いときが彼をこうした。大河に弄ばれた岩が石ころになるように。
自我は摩耗し非可逆的に歪み、どんなときでもへらへら笑う。
たとえ誰かの命がかかっていようと。なにせ彼は、死なないのだから。
『おっと』
いっそ体当たりで窓を割ってしまおうとしたツバメは、慌てて窓から離れた。
KRAAAAASH!! 直後、彼に近い窓が内側から割れ砕ける。
ラッキー、と気の抜けたことを言いながら、滑るように車内へ。
まさしくその時、車両内ではサフィールが大立ち回りを繰り広げていた!
「くっ、敵の数が……えっ!?」
サフィールは驚愕した。突然横合いからツバメが飛んできたばかりか、
それは一瞬にして銀髪の男に変じ(正しくは戻り)、にこりと笑ったからだ。
「やあ、お邪魔するよ。ああ、でもあんたの家じゃねえか」
「ま、前っ!!」
トヲルはサフィールの声に振り返り、爪でぞぶりと胸部をえぐられた。
ぞっとするような血が噴き出す。……トヲルはへらへら笑っていた。
「あーあ、攻撃してこられると頭まわらないんだよなあウゼー!」
無造作な踏み込みと拳の一撃。哀れな戦闘員は土手っ腹を貫かれ扉の向こうへ。
「え、新しい猟兵さんです? ちょっと盾になってほしいんですけど……」
「お? いいよー。おれ、別に死なないからさ」
サフィールの後ろからおずおず言った桜人は、意外な快諾にきょとんとした。
トヲルの傷は急速に再生し、そして彼は言葉通りに前に出る。
爪。牙。あるいは剣・銃・はたまた槍や槌、多種多様な武器。
「ひいいっ! こ、この子だけは!!」
「あー、安心しなよ。おれいい人。ほら、守ってるじゃん?」
赤子を抱きかかえ、壁際で震える母親をかばい、トヲルは笑った。
母親は血まみれの男を見て畏れを抱く。いっぽう、赤子はきゃっきゃと笑った。
「わー赤ちゃんいる、かわいー。いくつ?」
「ひ、ひとつと二ヶ月です」
「そっかあ。よーし、元気に育てなぁー」
にこにこと好々爺めいて笑う。背中はずたずたに引き裂かれているのに。
「……っ、だめだ、たとえ死なないのだとしても……!」
サフィールは見るも無惨な光景に唇を噛み(後ろで桜人は乗客を後部車両へ避難させている)、すうっと息を吸い込む。
「――妨げるな。僕は歌い戦う、この世界のため。人々のため!!」
「……へえ」
こともなげに傷を受け止めていたトヲルが、意外そうに顔をあげた。
サフィールの歌。それは、歌声で心を震わせ掴み取るユーベルコヲドだ。
無防備なトヲルを狙っていたけだものどもの狙いは、少女へと移った。
「別にいいのに。無茶したいお年頃なんかね」
トヲルは呟いて、自分の横を通り抜けようとする戦闘員の頭を拳で砕いた。
一方サフィールもまた、歌声によって敵を惹きつけながら前へと進む。
前へ進まなければならない。憧れのあのひとを救うために。
"王子様"は退きはしない――悪党どもは正義の剣で裁きを下すものだ!
「僕は――僕は、諦めない。後ろを向いたりもしない、弱音も吐かない。
歌声を響かせよう。世界のよきものが、美しいものが健やかにあれるように」
斬撃。毛皮や鱗といった天然の防具の隙間を狙った的確な刺突。
サフィールはひたすらに前に進む。それは歴戦の猟兵から見れば愚直そのもの。
……だからこそ、少女の背中には、ただならぬ力が感じられた。
屋根上。
「……これで敵は全部だな」
「こっちもおおよそ片付いたかと。中は……まあ、大丈夫そうですね」
すっかり共同戦線となった夕立と匡は、互いに顔を見やった。
「俺ひとりでも十分だったと思うけど?」
「手間は省けたほうがいいでしょう? 共同作業でウィンウィンですよ」
それに、と夕立は言葉を続けた。
「なんとなく忍者のカンで、こっちに居たほうがいい気がしまして」
「……それ、当たらないほうが嬉しいんだけどな」
匡は言ってからため息をついた。なにせ無駄なのだから。
――この少年のカンは、悪いときほどよく当たるのである。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
第2章 集団戦
『旧帝都軍突撃隊・旭日組隊員』
|
POW : 怪奇「豹人間」の力
【怪奇「豹人間」の力】に覚醒して【豹の如き外見と俊敏性を持った姿】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 怪奇「猛毒人間」三重奏
【怪奇「ヘドロ人間」の力】【怪奇「疫病人間」の力】【怪奇「硫酸人間」の力】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 怪奇「砂塵人間」の力
対象の攻撃を軽減する【砂状の肉体】に変身しつつ、【猛烈な砂嵐を伴う衝撃波】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:i-mixs
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「ほう、猟兵か」
汽罐車先頭車両。報告を受けた黒衣の指揮官はうっそりと言った。
「まあそういうこともあるだろう。作戦は想定外の出来事がつきものだ。
それにどう対応できるかで手腕が問われる……いや、無駄話だな。忘れろ」
「……どうしてそんなに、平然としていられるの?」
傍ら、拘束を受けたチエが気丈にも男を睨み、皮肉めいて言った。
「あの人たちの力量は、私もよく知っているわ。あなたたちでは勝ち目は」
「"今の我々の戦力では"、たしかにない」
黒衣の指揮官は謎めいて言った……そしてチエは、言葉の意味を理解した。
ごう――と、両隣の路線に同じような汽罐車が二台、飛び出してきたのだ!
通常の運行ではこのようなスピードでの走行は許されない。つまり!
「想定外の出来事にどう対応できるか。それが、指揮官としての手腕を問う」
黒衣の指揮官は新しいタバコを銜え、にたりと笑った。
両翼に現れた汽罐車の窓、そして屋根上に、何体もの白い軍服の男たち。
その時男のいる先頭車両の連結扉が開かれ、車両伝いにやってきた猟兵たちが相まみえた。
「我々としては"どれか"が残っていればそれでいい。さて、どうする猟兵?」
黒衣の指揮官を守るように、車両内に配備していた白軍服が異形化する!
敵はあらかじめ他の列車を鹵獲し、潜ませていたのだ……!
両翼からは増援の攻撃、敵は窓から屋根上から意趣返しめいて乗り込んでくる!
走行中の汽車から乗客を下ろすわけにはいかない。戦いの趨勢は逆転した。
今度は猟兵が列車と乗客を守り、襲いかかる敵を迎撃せねばならないのだ!
「あ、あなたたちの目的は、なんなの……!?」
傍らで震えるチエの言葉に、黒い男は含み笑いで応えた。
●二章特殊ルール
この章では、『旧帝都軍突撃隊・旭日組隊員』が攻撃を仕掛けてきます。
戦場としては大きく分けて三つ存在しており、
『屋根上(両翼から飛び乗ってくる敵隊員との戦い)』
『後部車両(乗客を守りながら、窓や扉から乗り込む敵と戦う)』
『先頭車両(チエは指揮官に拘束されている。ここにも敵多数)』
といったところです。
並走する汽罐車には敵以外誰も乗っていないので、
敵ではなく汽罐車そのものを攻撃して停止させるという手もありかもしれません。
(もちろん、逆に並走車両に飛び移って立ち回るというのもアリです)
列車の外で屋根から屋根を飛び渡りながら異形の敵と戦うもよし、
変わらず列車内で襲いかかる大量の敵を捌き、防戦に徹してもよし。
(ただし先頭車両での戦いを選んでも、現時点でチエは救出出来ません)
ご自由にプレイングしてみてください。
なお、特に戦場を宣言する必要はなく、プレイングから読み取ってファッと配置します。
あんまり戦略とか難しく考えず、かっこいいアクション最優先でどうぞ!
●プレイング受付期間
2020年05月05日08:30前後まで。
ジャガーノート・ジャック
【後部車両】
(ザザッ)
ーーさて、遅刻してしまったらしい。
駆け込み乗車はマナー違反かもしれないが――多少の無軌道には目を瞑って貰うとしよう。
突入を開始する、オーヴァ。
(ザザッ)
――では、同じく駆け込み乗車を目論む連中には
申し訳ないが道を譲って貰うとしようか。
"Tempest".
部位雷電化で空中を駆けつつ拙速に機関車へと駆け込み(空中戦×ダッシュ)する。
邪魔な敵は雷撃で撃ち落とす(属性攻撃×スナイパー×一斉発射)としよう。
吶喊完了。
敵ではない、安心して貰いたい。
――此方に突き進んでくる敵の処理に目処がついたら、前方の車両に移るとする。
本機の作戦概要は以上、行動に移る。
(ザザッ)
ロク・ザイオン
(真の姿を解き放つ)
自分で獣になるのなら、
猛獣を狩るのは、森番の仕事だ。
(豹。
……個人的には、とても、気に入らない相手だ)
お前たち。皆、邪魔だ。
(【地形利用】し飛び回るのは森番の得手
乱戦に紛れ【ダッシュ、ジャンプ】
【目立たない】よう肉薄し【早業】の「燹咬」で静かに、確実に刈り取ろう)
(内部でも、外でも、できる限り早く病の源に近付ける路を選ぶ
この速度をどうにかしなければ、きっと誰も救えない)
●撃殺/燃焼/双影
自らの真の姿を解き放ったロク・ザイオンは、ふと頭を巡らせた。
見つめる先は先頭車両――ではなく、はるか後方の車両である。
彼女はいま屋根上に立ち、両翼から迫る敵をすさまじい勢いで滅していた。
そんな最中に、戦いを忘れたような表情で振り返ったのだ。
「――きた」
何が来たというのか。敵の増援が到着したのだろうか。
否である。やってきたのは、敵にとってはもっと恐るべき存在。
そして彼女にとっては――いかなる猟兵よりも頼りになる増援だった。
《――さて、遅刻してしまったらしい》
彼女が呟いてからきっかり2秒後。バチリ、と電光が瞬いた。
目の前で閃いたそれは、たちまち漆黒の豹めいた姿へと形を取る。
すなわち、ジャガーノート・ジャック。獅子星の片割れにして稲妻の子。
「おそかったな、ジャック」
ロクは驚きもせず言った。相棒がこうして駆けつけるのは一度や二度ではない。
オブリビオンあるところに、そして苦しみ嘆く人々の祈りに応えるのは、
彼女だけではない――だからこそ彼らは、獅子星の双影足り得るのである。
《――状況を訊こう。敵首領は再前衛の車両に存在するものと見ていいのか》
「ああ。――こいつらは、すべて灼く」
ふたりは足を止めずに駆け出し、両翼の敵を焼き払いながら進んだ。
左から来る敵は、稲妻じみた速度のジャガーノートの攻撃が撃ち落とす。
右翼の敵は、白熱した剣鉈が空気ごと抉りちぎって炭化させた。
ごうごうと向かい風がふたりの貌を叩く。赤いたてがみと電光をなびかせる。
なにより敵は、そう……豹の異形に変じて、ふたりに襲いかかった。
「こいつらは、気に入らない」
《――本機も同意見だ。我らの前で、人の姿を棄てるとは》
そしてなにより、相棒たるジャガーノートと同じ意匠を形作るとは。
ロクの機嫌が悪そうな様子を、ジャガーノートは一目で看破した。
それをからかうような時間は皆無。今も、人々の嘆きが鉄の箱から聞こえる。
突然の事態に翻弄され、生きて日常に帰りたいと嘆く人々の声が。
汽罐車は加速する。車輪は火花を散らし、悲鳴のような金切り音をあげていた。
よって、ロクにとってそれは、鉄の箱でありながら心地よい音を出していた。
それも、気に入らぬ。三重の輪唱はなおさら彼女をイラつかせる。
ばちばち、ばちり。隣を駆ける漆黒の雷電は、いくらかロクを軟化させた。
《――ロク》
そんな相棒が言った。
《――本機は内部に入り込んだ敵を叩く。君はこのまま上を頼む》
わかった。
左右に並走していた獅子星は、今度は上下に並んでまっすぐに前を目指す。
雷電化したジャガーノートは開けっ放しの連結扉から滑り込み、
窓から飛び込んで人々を襲おうとしていた外道の輩をたちまち焼き払った。
《――敵ではない。安心して頂きたい。そのまま座席から動かぬように》
バチバチバチバチッ!!
怯える人々の頭上すれすれを稲妻がつんざき、窓の外の異形を焼き払う。
敵は物量で勝るが、その不利を質と連携で勝るのがふたりの常套戦術だ。
ごう、ごうと、向かい風の唸り声とは違う風切り音が断続的に上から響く。
屋根上で鬼神のごとく荒ぶるロクの刃が、敵を焼殺しているのだろう。
《――目標、敵首魁。最前車両への最速・最短での到達任務を開始する》
バチバチ、バチリ――ザリザリザリザリ。
ジャガーノートの身を電子の砂嵐が覆う。
外敵による攻撃の防御と同時に、電光化した彼自身が生み出す超速度の、
余波を外部に漏らさぬためのバリアでもある。乗客および車両への配慮だ。
そして屋根上。
「ここが何処だろうが、病が自ら獣になるなら、おれが狩る」
ロクの瞳が、淀みなき森の朝露めいて煌めいた。
しかしその双眸に、慈悲と容赦はなかった。
「――お前たち。皆、邪魔だ」
その言葉が、殺戮じみた病魔根絶の旅路の始まりを告げた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
櫻
どうやらおかわりが来たよう
随分と計画的
かなり打合せをして自身の役目や目的を記憶してきているんだね
攻撃はオーラを水壁に変えて凌いで櫻を守る
ダメだよ
そんな砂嵐で僕の櫻を穢そうなんて
そう
かあさんの歌ってた歌
忘れてしまえ
大切な大義も目的も作戦も肉体の変じ方も己自身さえ白にとかして
甘く儚く蕩かせて忘れさせてあげる
誘惑のせた歌唱で精神を侵すだけ
歌うは『忘却の歌』
櫻宵の放つ桜吹雪と共に
記憶を剥ぎ取る桜花と歌を響かせ
一滴のこらず白に染める
君はもう何もする必要ない
君は誰?知らないよ
君はただ、この櫻龍を一目みればいい
汽車の上での花魁道中なんて滅多に見られない
剣舞の場面はもう少し後
君にしてはよく我慢してる
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
うふふ美味しそう
汽車の上吹き荒ぶ風を桜嵐のオーラでいなし呪殺咲かせ衝撃波と共に叩きつけ
それだけではつまらない
桜花と人魚の歌が彩る汽上での花魁道中
まあ!
その歌はリルの母上から教わった忘歌
素敵だわ
全て忘れさせてしまいなさい
それでも憶えてた強い子は全部私が喰らってあげる
強い子はすき
穢れごと美しく咲かせてあげる
『穢華』
深紅の刀でなぎ払い、衝撃波で衝撃波相殺してカウンター
砂を切り裂き―噫、私がみえているわね?
それで十分
蠱惑微笑み蹂躙し
ほらあなたは私のものよ
私をみて
私を感じて
まだ満ちないのもっと頂戴食べさせて
最期の一滴まで全部頂戴!
赫桜を咲かせ歩む
満ちる桜にとろり笑む
噫はやく
斬り咲き穿ちて遊びたい
砂嵐が、猛然たるスピードにも洗い流されずに吹き荒れていた。
もしも走行中の汽罐車群を外から観測している者がいたのであれば、
並走する三両すべてが膨大な量の砂嵐に飲まれているのが見えただろう。
さながら火山雷じみた、しかし明らかに反自然の現象であった。
砂嵐は、それ自体が怪奇人間の特性によって変じた敵の肉体である。
気体でも液体でも、ましてや個体でもない、常に流動し変化する肉体。
およそ物理的な攻撃では、それこそ空を斬るばかりで意味がない。
つまり対抗しうるのは、精神的な攻撃、あるいは砂嵐を超える面制圧攻撃。
複数の隊員同士が合体することで生まれた巨大砂嵐は、後者を潰す。
仮にも軍隊として鍛え上げられた精神は、生半可な前者攻撃を否定する。
必要なのは、単一の手段ではなく二点を潰す淀みなき連携攻撃であると言えた。
そして荒ぶる砂嵐は、いわばかみそりのミキサーのようなものだ。
飲まれればもちろん、"外周"に触れるだけでも致命的なダメージをもたらす。
これを水泡のオーラによって否定し、防いだのは、リル・ルリである。
その内側で、誘名・櫻宵の起こす呪殺の桜花がぐるぐると渦巻いていた。
「ダメだよ。そんな砂嵐で、僕の櫻を穢そうだなんて。
わるい子には、"おしおき"をしないとだ。櫻、準備はいいよね?」
「ふふっ。もちろんよ、リル。全部、全部飲み込んでしまいましょう」
桜吹雪が勢いを増す。砂嵐がうごめく灰色だとすれば、こちらは鮮烈な赤だ。
文字通りの桜色というよりは、いささか赤みが強く思える。
……たとえるなら、えぐり出したばかりの新鮮なはらわたとでもいうべきか、
美しいがざわざわと心騒がされる、そういう鮮烈な色合いをしていた。
「ルリラ・ルリラ・ルルラ――」
リルが、ぽつりぽつりと歌を紡ぐ。
彼の声音は鈴が鳴るようにか弱く高くなりもするし、硝子を指で弾いたように澄み渡りもすれば、粘つくタールめいて重く黒くなりもする。
此度の歌声は、色にするならば「白」であった。ただし清らなものではない。
逆巻く波濤の飛沫のような、あるいは視界をも覆うほどの雨の色のような、
けして穏やかではなく、むしろ荒々しく、そして抗いようのない白である。
「心の枢を解き放つ・こころ・白に塗り替えて――無垢の白昼夢、更地の心に花咲かす……」
「まあ! その歌は……ああ、素敵だわ。私もすべて忘れてしまいそう」
"忘歌"。
蠱惑的な歌声は、獲物がとろける暇すら与えずにすべてを奪う。
喜・怒・哀・楽も、欲望も何もかも。奪い去り、白で塗り潰してしまう。
かりそめと言えど選択権を与える悪魔のほうが、幾分かマシ。
リルの歌は、"何を忘れてしまったのか"という困惑すらも許さない。
砂嵐は徐々に人型を取り戻し、そして"塗り潰された"者は白痴となった。
阿呆のような面で涎を垂らしてふらつき、そして線路の狭間に堕ちていく。
しかし少なからぬ敵は、歌が脳を「塗り潰す」前にふたりに襲いかかった。
「へえ、抗うんだ。せっかく、甘く儚く蕩かせて忘れさせてあげるのに。
一滴残らず白に染まってしまえば、何をする必要も気にする必要もないのに。
――特等席でとっておきの舞台を見られる、幸せな観客でいられるのにね」
リルの声音には、失望とわずかな憐憫があった。
そう、ユーベルコードに抵抗できたことは、被害者にとって不幸だった。
なにせ櫻宵は、とてもとても楽しそうな笑みを浮かべていたからだ。
「私が、みえているわね」
それで十分だった。いとおしさが、男の胎に満ちてきた。
「私を見て。私を感じて。私を満たして――もっと頂戴。もっと、もっと!」
桜吹雪が解き放たれる。精神汚染によって揺らいだ異形を包み込む。
赤子を抱く母親のように慈悲深く、
獲物を丸呑みする大蛇のように容赦なく。
「最期の一滴まで、全部頂戴――」
そして櫻吹雪は、何もかもを融かし、己のものとしてしまう――。
悲鳴すらなく、舞台上でもっとも哀れな役者は死に絶えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
彩波・いちご
【エロ本同…【恋華荘】
「どれかが残っていればいい、なんてわざわざ教えてくれてありがとうございます。それなら、全て残さなければいいのでしょう?」
引き続き【異界の顕現】にて邪神の依代体の三尾の姿に変化
「アイさん、全力で暴れますので、指揮をお願いします。理緒さんは援護を!」
私達3人の絆と結束の前には、敵なんていませんよ!
私は屋根の上で徒手空拳の大立ち回り
飛び乗ってくる敵隊員をそのまま蹴り落とし
理緒さんが逃げ道塞いだ敵は拳で粉砕
アイさんの指示があれば即座に反応して回避
返す刀の手刀一閃でカウンターです
最後は2人の火力に期待して敵を1ヵ所に密集させるよう狙って吹き飛ばします
「アイさん理緒さん、トドメを!」
アイ・リスパー
【恋華荘】
「敵の策略にはめられましたか……
ですが、その程度の策で私たちを止められると思わないことです!」
【チューリングの神託機械】で電脳空間の万能コンピュータに接続。
情報処理能力を向上させます。
「あなた方の行動はシミュレーション済みです!」
【ラプラスの悪魔】で敵の行動をシミュレート。
敵の攻撃を回避します。
さらに、シミュレート結果から神託機械で最適な作戦を計算し、いちごさんと理緒さんに伝えます。
「いちごさん、3秒後に後方に跳躍、理緒さん、5秒後に全力攻撃を!」
さらにその先の敵の動きも予測し……
「ここですっ!」
【マックスウェルの悪魔】による氷の矢を、敵が密集すると予測された場所に撃ち込みます。
菫宮・理緒
【恋華荘】
"どれか"が残っていればそれでいい?
なら、ぜんぶ消してあげるね。
「この車両は通行禁止だよ」
いちごさんの攻撃力、アイさんの頭脳、そしてわたしの……。
わたしの……わたしの……。
と、とにかくわたしたちにそんな策は通用しないよ!
アイさんの指示通りに、行動するよ。
【E.C.O.M.S】を発動して【Octagonal Pyramid】を展開したら、
最初はいちごさんとアイさんを守るように、
2人の両サイドに防御壁をつくってディフェンス。
「横からは飛び移らせないよ?」
相手の初手を乗り切ったら、
アイさんのタイミングに合わせて攻撃モードで、
三部隊にわけて時間差で突撃させるよ。
「斉射三連! なんてね」
列車中枢、屋根上。
両翼に暴走汽罐車を並べた猛スピードの地獄の中で、奮闘する少年あり。
彩波・いちごは、いのちを削る邪神の力を三尾の形に変えて、
次々に飛びかかってくる異形の豹人間を殴り、蹴り、あるいは吹き飛ばした。
「アイさん、次の敵はどちらから!?」
「すぐに来ます! 3秒後に後方に跳躍を、理緒さんはさらに2秒後に全力攻撃を!」
「了解、ここはアイさんの言うとおりに動いておくとするよ!」
アイ・リスパーが神託機械によって一瞬で演算した最適戦術をもとに、
徒手空拳で大立ち回りするいちごを援護するのが、菫宮・理緒の仕事だ。
そしてちょうど3秒後、いちごが後ろに跳躍した瞬間、左翼から新手!
「さあ一斉攻撃開始だ! そして……これ以上は、横入りはさせないよ?」
理緒が召喚したOctagonal Pyramid編隊は三手に分かれ、
いちごを攻撃しようとして隙を晒した敵に痛烈な反撃を仕掛けつつ、
残る二部隊が左右両翼に防御壁を形成、さらなる敵の追撃を防いでいた。
「ちぃ……小賢しい真似を!」
「怪奇タイプ参で攻撃しろ! あの邪魔な編隊を取り除く!」
「「「了解!」」」
敵は別の怪奇人間パターンを読み出し、ざりざりと渦巻く砂嵐に変じた。
そしてパニック映画で壁からせり出す超巨大バズソーめいて、
飛び移りを防ごうと奮戦する電子防御壁を削り、強引に圧殺しようとするのだ!
「おっと、そういう方法もあるのか! けど、予測済みさ。……アイさんがだけど」
「でもでも、打ち破るのは私と理緒さんですよ! 頑張りましょうっ」
いちごは邪神の力を四肢に集中させる。ぼんやりと拳が光を纏った。
これ以上無理に壁となれば、召喚した部隊は壊滅してしまう。
理緒はいちごと目配せし――あえて、電子防御隊を後退・集結させた!
「「今だ(です)っ!!」」
そして、熟練の剣豪が鍔迫り合いを一瞬の力ではねのけるように、反撃!
左翼の敵をいちごが、右翼の敵を理緒が、それぞれの攻撃が貫いたのである!
「た、たった三人で我らを上回るほどの連携能力だと……!?」
いちごの手刀、そして理緒の召喚部隊による攻撃で怪奇能力を封じられた敵は、
たかが子供と侮っていた三人のコンビネーションに、いまさら脅威を感じた。
しかしもう遅い。ここまでの流れは、すべてアイが分析した通り。
敵は反撃によって防御手段を喪い、精神的な動揺が大きな隙を生み出す。
いちごと理緒の視線が、交錯するように同時にアイに向けられた。
「さあ、ここですっ! 氷の矢によって貫かれてしまいなさい!」
アイの周囲の大気がパキパキと凍りつき、巨大な氷の塊に変じた。
人間よりも巨大な氷塊はさらにひび割れ、無数の鋭利な氷の矢となる。
そして放物線を描きながら、ホーミングミサイルのように敵に飛来したのだ!
「か、怪奇能力で防御を……ああああああっ!?」
出来ない。大規模な砂嵐化の代償は、即座の対応が出来ないことだ。
列車ごと三人を飲み込もうとしていた敵は、まんまとその隙を突かれた。
浮足立つ敵の全身を矢が貫き――そして凍りついて、バキンと四散!
「やった! わたしたちの絆の勝利、ですね!」
「そう言われると照れくさい……けど、まだ安心できないね」
「はい。あと7秒で新手が来ます。理緒さん、部隊の再編成を!」
理緒は新たな手勢を召喚しながら、ふっと不敵に笑った。
自分には、いちごのような圧倒的な攻撃力も、アイのような明晰な頭脳もない。
しかしそれでいい。自分の立ち回りは、そんなふたりの隙間を埋めること。
三人一緒だからこそ、お互いの死角を補いあうことが出来るのだ。
「コンビネーションで、オブリビオンなんかに負けるわけにはいかないね」
新たな敵が襲いかかる――ふたたび、戦いの火蓋が切って落とされた!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
あらあら、あのスタァさん?
またこの手の事に巻き込まれるなんて、よくよく巡りの悪い人ねぇ…
疾走する列車に飛び込む、かぁ。…だいぶ前だけど、UDC世界で似たようなことしたわねぇ、そういえば。
あの時より、手札も小技も増えてるもの。徹底的に○蹂躙してやりましょうか。
ミッドナイトレースに○騎乗して並走しつつ、窓めがけてアンダラでスタングレネードを〇投擲。○目潰しと足止めで反撃を封じたら〇覚悟決めて飛び移って、〇クイックドロウから制圧射撃で潰しちゃいましょ。
まともに当たっても負ける気なんてないけれど、無闇な反撃で乗客に流れ弾が向かっても困るもの。
余計な事をさせないのは定石よぉ?
露木・鬼燈
守りながらとか性に合わない。
屋根上で戦うっぽい!
飛び乗って制圧ってのも悪くない。
だけど2台同時にってのはムリ。
車内への増援を許すことになるからね。
ここで迎撃させてもらうのですよ。
魔剣技<三千世界之剣弾>
剣弾は飛び乗ってくるやつらを撃ち落とすことを優先。
乗車してきたのは僕が直に斬る。
とゆーか殴り飛ばす?
仕留めなくても列車から叩き落せば十分だしね。
魔剣を戦槌形態に変え、横殴りの一撃で吹っ飛ばす。
飛距離が足りなくても地面から足が離れればよし。
浮いたところに剣弾を撃ち込めば車体の外までイケルイケル!
砂状に変化?
剣弾は単純な物理攻撃ではないからへーきへーき。
纏う魔力を炸裂させた衝撃波で吹っ飛ばすっぽい!
李・桃花
武侠が時代遅れだなんて失礼しちゃうわ。生き様に時代なんて関係ないじゃない!まったく……
ちょっと頭目に文句言ってやらないと気が済まないわね!
というわけでガンガン進むわよ!数も多いし【天狼吼掌】の一撃で決めていくわ。
まずは覇気と一緒に殺気もぶち当ててつつ向かってくる相手をコントロールしましょう。これで大体2~3人位かしら、同時に向かってくるのは。
そういえば豹とは言っても人間なんでしょ?なら内臓の位置は変わらないわよね。うまいこと見切って効果的な場所に当てていきましょう。
狼と豹、どちらが強いか勝負よ!
アルナスル・アミューレンス
いやぁ、数で押して来たねぇ。
列車二つ分かぁ。
用意も用意したもんだぁねぇ。
しかし、今度は逆だ。
僕が屋根で待ち受けて、君達が乗り込む番だ。
でも――
――拘束制御術式、開放
――君達が飛び込むのは死の底無し沼だ。
その一切合切、全て『枯渇(ウバウ)』とするよ。
真の姿を解放した体から、黒い異形が溢れ出す。
それは多くの車両の屋根一面へ広がり、ぞわりぞわりと波を打つ。
待ち構えるは「死」そのものの様な、天災の如き異形の塊(むれ)
触れようものなら捉えて捕食し、
窓に飛びこもうとするのなら、動きを見切り、捉えて捕食する。
逃れようとも、怪力を以て捻じ伏せ、捕食する。
あー、怖くて来ないなら、こっちから列車に手を伸ばすよー。
風が死臭と血風を洗い流し、露木・鬼燈の着流しをばさばさとはためかせる。
――列車屋根上、左右から飛び乗ってくる敵を前にして、
鬼燈は、まさしく羅刹鬼神の如く凄絶な立ち回りで敵を殲滅していた。
「剣我一体――魔剣技、三千世界之剣弾ッ!!」
およそ380本の魔剣オルトリンデ複製体が顕現し、刃の嵐となった。
砂嵐に変じて列車そのものを飲み込もうとする敵の攻撃に対し、これを相殺。
さらに無理やり飛び乗ろうとする敵を、ミキサーめいて惨殺するのだ。
あるいは材木を木屑に変える製材機か……まあいずれにせよ粉微塵である。
鬼燈の力量をもってすれば、並走する列車そのものに飛び乗ることは容易。
しかしいかな忍びといえど、ふたつの列車を同時に殲滅することは不可能である。
ならば、ここにいればよい。幸い、敵はあちらから乗り込んでくれるのだ。
しかし懸念もある。――そもそも敵の包囲戦術が妙なのである。
もしも猟兵を誘い込んで返り討ちにするのが目的だったというのなら、
列車そのものを爆破するなり、直接攻撃して脱線させてしまえばいい。
それで生き残る者もいようが、少なくとも飛び乗るよりずっと効率的だ。
鬼燈は考える。直接乗り込んできた敵を殴り飛ばして叩き落としながら、
並列思考めいて考え続けた。敵の狙い、目的、この戦術の奇妙な違和感を。
(つまり奴らにとって、僕らがきたこと自体は想定外のことのはず)
でなくば、もっと盤石な布陣を整えているだろう。
そもそもグリモアの予知をさらに上回るような能力が敵方になるならば、
それは間違いなく大問題だ。自分たちはこんな無事に戦えていない。
ではなんだ――どうして、敵は"列車そのものをなるべく攻撃しない"ようにする?
「……こいつらの目的……もしかして、僕らじゃなくて列車そのものっぽい?」
鬼燈の思考は、ひとつの結論に到達しつつあった。
しかしその間にも、並走する列車に乗り込んだ敵は痛烈な攻勢を続けている!
「武侠を時代遅れだなんて評しておいて、ずいぶんを前時代的なことするじゃない。
西部劇の列車強盗にでもなったつもりかしら? 頭目の程度も知れるわね!」
ぶちぶちと愚痴をこぼしつつ、車両内でおお立ち回るする李・桃花。
彼女が屋根上に向かわない理由は、言わずもがな窓の向こうに時折見える影。
つまり――屋根上で戦う鬼燈が叩き落とした、哀れな敵の姿にあった。
彼女はそれだけで、すぐ上で戦う誰かが居ることを察していたのだ。
屋根上に飛び乗ろうとする敵は魔剣の嵐によって斬殺されていたが、
窓から窓へ飛び込もうとする敵はそうもいかない。高さの問題がある。
さらに一部の敵は俊敏な豹の怪奇人間に変貌し、パウンスを仕掛けてくる!
「GRRRRRッ!!」
「邪魔くさいわね! ――魂まで慄(ふる)えろ! 天狼吼掌ッ!!」
鋼の分厚い板をも引き裂くだろう豹人間の爪を低く伏せることで躱し、
敵の懐に飛び込む桃花。そして斜め前に立ち上がりながらの、掌底!
バネじみた膝の瞬発力を乗せた突き上げは、さながらダンプカーの衝突だ。
小柄な女とは思えぬほどの質量をもたらすのは、言わずもがな気の力。
たとえ一筋の気は糸のように細く薄くとも、撚り合わせれば一枚の布となる。
それを幾重にも折り重ねれば、鋼の刃すらも通さぬ硬さを得るのだ!
「がは……ッ!!」
腹部に痛烈な掌底を受けた敵は、まずその衝撃で吐血した。
そして気の炸裂! 内臓と肋骨が爆ぜ、敵は吹き飛びながら微塵と消える!
清浄な気は影朧の歪んだ残滓をこの世から消し去り、浄化するのである。
「怪奇人間になっても人は人ね。内臓の位置は変わらないし血だって流れてる。
そちらが豹ならこちらは狼。さあ、天狼の恐ろしさ、思い知らせてあげるわ!」
桃花はさらに闘気を練り上げる。目指すべきは前のみだ!
一方、そんなふたりの戦場に、どろりどろりとタールめいた黒がはびこる。
すわ敵の攻撃かと警戒するふたり……だが、それは味方だ。
"それは味方だ"と表現した。つまり、これは攻撃の一部や残滓ではない。
つまり真の姿を表した、アルナスル・アミューレンスの異形の一部なのである。
『いやぁ、用意も用意したもんだぁねぇ。まったく頭が下がる思いだよ』
アルナスルの声がどこかからした。あるいは、その全てからだろうか?
タールめいた異形の海は、屋根上の表面と窓枠をのっぺりと覆ってしまう。
まるでひと時夜が訪れたかのように、列車内は闇に閉ざされた。
猟兵によるものだとわかっていながら、少なからぬ乗客は悲鳴を漏らした。
無理もない。なぜならばこれは、あえて形容するならば"死"そのもの。
ありとあらゆるものを"枯渇"させ、残骸そのものを食らう偽神細胞の塊。
つまり、只人が触れてはならぬ、見てもならぬたぐいのものであった。
「わお、ずいぶん大胆なことする人もいるのねぇ。まるでホラー映画だわぁ」
そんな"黒"一色に染まった列車に並走するティオレンシア・シーディアは、
まるで他人事めいて――事実彼女にとってはそうなのだが――呟いた。
彼女はUFO型宇宙バイク『ミッドナイトレース』でこの地獄の戦場に飛び込み、
スタングレネード、および愛銃という近代兵装によって敵を殲滅していた。
「それに一番可哀想なのはあのスタァさんだけどぉ、大丈夫かしらぁ?」
"黒"の侵蝕を恐れ、並走する汽罐車上でたたらを踏んだ敵を、狙撃。
神速のクイックドロウによって、頭部か脊椎を撃ち抜いて即死させる。
豹になろうがヘドロのなろうが、砂嵐になろうが、すべて同じこと。
オブリビオンであり、大本が人型に依存した存在である以上、
そこには必ず『核』となる――あるいは心臓――部分があるはずなのだ。
ならば、そこを穿けばいい。出来ぬならば、面制圧の弾雨で削り殺す。
どちらも彼女には容易だ。まさしくその手際は、人外じみていた。
『おや? 襲撃が途絶えたね。もう誰かに迎撃尽くされたかな?
それとも――枯渇(ウバ)われるのが怖くて、来るのが嫌になった?』
異形から、ごぼごぼと煮え立つようにアルナスルの声がした。
『なら、こっちから反撃するとしようか』
そして触手(て)が伸びる。これが敵にとっては地獄の始まりとなった。
敵は万全の布陣を整えていたのだろう。しかし誤算がひとつあった。
超弩級戦力は、オブリビオンをしてその想像を軽く越えていたのである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
矢来・夕立
傭兵さん/f01612
①屋根の上の残党を始末
②片側の車両へ潜入
③制圧
思いがけずロマンチックな出逢いになりましたね。
①目の前のヤツを片しましょう。
《闇に紛れて》支援します。
テキトーなとこで【真奇廊】に入ってください。この箱。
②箱を持ったまま、『朽縄』で横の車輛へ侵入。
暫くは単身で乗り込んで来たフリをしていましょう。
③投射する式紙の中に傭兵さん入りの【真奇廊】を紛れ込ませておきます。
敵の背後、死角に落とせたらベストですね。
…砂になっても無駄ですよ。真打ちはオレではありません。
場を整えるまで30秒。
ジャストで出てきてください。
あとはいつも通りに。
請求書は後日お送りします。
るみちゃんの方がいいですか?
鳴宮・匡
◆夕立(f14904)と
投身自殺よろしく線路上に突っ立ってんのはさすがに驚いたけどな
で、プランは?
……オーケー、それじゃあオーダー通りに
飛び移って来るやつをまずは射撃で排除
通常弾では面倒そうな変化が多いな
左手に【無形の影】で模った拳銃
【黒き海の深影】を纏わせた弾丸で相手の変化を打ち消して
右手のいつもの拳銃で止めを刺すよ
粗方片付いた頃合いで【真奇廊】とやらに入る
あとは向こうの指示通りのタイミングで背後から奇襲
基本プランは外での戦闘と変わらないが
座席やら遮蔽物を盾に出来る分立ち回りやすいかな
了解、諸々終わったら振り込んでおく
……ところで、呼び方結局それでいいんだ
いやその呼び方もよくはないけど……?
BLAMN!!
精密な弾丸が硫酸人間の頭部を貫き、滅殺せしめた。
全身を絶えず流動化させ、かつ触れるものを瞬時に溶解させる怪奇能力。
それすらも、鳴宮・匡が弾丸に纏わせた"黒き海の深影"には通用しない。
彼の影は、己を人でなしと自称する彼の中のその虚無と同じように、
ありとあらゆる異能を否定し、貪り、無為にしてしまう。
異能を手段ではなく現象として扱う敵には、ことさらに役に立つ鬼札だ。
もしも弾丸そのものに反応できるような速度を持つ敵が居ても、
匡がもう片方の手に携えた弾丸が、回避した先を予測して撃ち貫く。
二挺拳銃を手にした彼の手さばきは、まるでアクション映画めいていた。
もっとも匡の内心は、怒りに燃えるスーパーヒーローというよりも、
ベルトコンベアで流れてきた品物を加工する作業員めいていたが。
「あそこだ、あの銃手だ! やつに警戒……かはっ」
目ざとく匡の存在を認め、味方に指示を出そうとする個体もいる。
そういう敵は、背後に忍び寄った矢来・夕立が淡々と処理した。
苦無で喉を刳り、あるいは怪奇能力による隙を捉えて一撃で仕留める。
いかに全身を異形化させたとしても、それ自体が現象というわけではない。
人型を持つ敵であり、異形化が怪奇能力によるものでしかないのならば、
貫くべき急所は必ずある。なければ、動揺させて作り出せば良い。
熟練の忍びは、人外の魔物の殺し方も心得ているものだ。
人殺しにも退魔にも長けた暗殺者にとって、これほどやりやすいこともなかった。
「頃合いでしょう。傭兵さん、こちらへ」
「……オーケー。オーダー通りだな」
夕立が差し出した千代紙の立方体に、匡は躊躇なく触れた。
すると彼の体は一瞬だけ光のヴェールに包まれ、ぱっと消えてしまう。
"紙技・真奇廊"。匡は、千代紙の中の異空間に入り込んだのだ。
「さて」
夕立は立方体を懐にしまい込み、メガネの位置を直した。
「埒が明かないので、巣穴退治をするとしましょう」
そして彼は躊躇なく、並走する別車両に飛び乗った。
夕立の"巣穴"という表現は、実際的を得ていた。
よもや猟兵が、それもひとり――表向きは、だが――で来るとは思っていなかったのか、
わざと気配を丸出しにして飛び乗ってきた夕立に、敵は多少動揺を見せた。
次いで浮かべたのは――嗜虐。そして憐憫、嘲弄、何よりも見下しの視線。
(わかりやすいですね。こいつら、本当に元軍人だったんでしょうか)
オブリビオンとなった白詰襟のかつての在りようを、夕立は顧みない。
哀れむこともない。その侮蔑すらも、彼にとっては利用すべき手管のひとつ。
「相手はひとりだ。包囲して圧殺する!」
指揮官役と思しき個体の号令に応じ、兵隊は一気に砂嵐化した。
車両内を合体した砂嵐が満たし、夕立は一瞬で連結扉に背を叩かされる。
逃れる隙はない。もう、窓はすべて砂嵐によって塞がれてしまった。
「困りましたね、根を断つつもりだったんですが」
夕立は淡々と言いながら、式紙を投擲。当然、砂嵐を虚しく貫通する。
『馬鹿な真似を。ひとりで乗り込んできた報いをその身で味わえ!』
「ここで命乞いでもしたら、見逃してくれるんですか?」
『何をほざいている! 貴様は――』
「ええ。"真打ちでもなんでもない、ただの学生"ですよ」
その言い回しに違和感を覚えた兵隊は、砂嵐状態を解除しようとした。
一瞬にしてばらまかれた影の弾丸が、その油断を咎め、そして代償を支払わせた。
「……ま、ウソなんですが」
眼鏡の位置を直しながら、思い出したように夕立が言った。
倒れ伏すいくつもの屍体。匡はわざわざ追い打ちをかけたりはしない。
彼がトリガを引くときは、もうすでに敵を殺せると確信した時だからだ。
「請求書はあとで振り込んでおきますよ、猟兵さん」
「了解。諸々終わったら振り込んでおくよ。……ところで」
ビジネスライクな会話をしながら、匡は言った。
「呼び方、結局"それ"でいいんだ」
わずかな沈黙。
「るみちゃん、のほうがいいですか?」
「いやその呼び方もよくはないけど……?」
夕立の鉄面皮は、相変わらずだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
茜崎・トヲル
いいひとだったね。いいひとだったよ。いいひとはかぷかぷ笑うのがお似合いなのにね。賛美歌を歌おうか。もう歌ってたなあ。ふふ。すてきな歌だった。
生きているひとはいつか死ぬまで生きるべきだよ。傷つくのは死なないやつにまかせればいい。いいひとはもっと堕落しないと、初発で死んじゃうぜ。
生きてくれよ。
痛いとか苦しいとか、そういうのは痛くないおれが全部代わるから。
電車を守る。けがをしてる乗客がいたら、ぜんぶおれが引き取って治す。
こんなことがあったら電車が怖くなるだろう。いつか笑って話せるようにしたい。持病とか前に負ったけがとかも、残したいの以外治す。
無差別に治しながら、体を武器に変えて守るよ。笑顔で!
スキアファール・イリャルギ
(謝罪の意味も理由も訊かない
どうせ拒絶だってわかってる
この怪奇は愛されないんだから)
……謝らなくていいんですよ
全部、私が悪いんですから
……ごめんなさい
――切り替えよう
大量に雪崩れ込まれるのは厄介だ
その前にある程度は処理しときたい
と、なれば影らしく行きましょうか
存在感をがっつり消して気付かれない内に
範囲内の敵を全て喰らう
喰らい損ねた奴は炎(属性攻撃)で
跡形も無く焼却を
猛毒を喰らえばどうなるか?
――さあ? わかりませんよそんなの
味も得るものも無いし
何処へ溶けて行くのかもわからない
それでも少しは苦しくなるんでしょうか
……あぁイラつく
怪奇を戦争の兵器として
人間を殺す為の道具として
軽々しく使わないでくれ
――怪奇人間。
それは、歪められたひと。
意図の有無を問わずして、永遠に人間としての在り方を喪ったひと。
前向きに受け止めていようが絶望していようが、関係ない。
怪奇人間はもとには戻れない。永遠に"そう在らねば"ならない。
ゆえに彼らは人間とあだ名されていながら、人間ではない。
多くの場合、その存在は恐れをもって拒絶される。
……あのとき、背中に浴びせられた謝罪の意味はなんだったのだろう。
その理由は? 拒絶か。あるいは――いや、そんなはずはない。
もしかすると、働きや人柄によって受け入れられている怪奇もいるだろう。
猟兵は「超弩級戦力」だ。大抵の人は、好意を以て迎え入れる。
だが……己は、いや己のこの異形は――。
「……謝らなくていいのに」
全部、私が悪いんだから。だから、ごめんなさいを言うとしたら、それは。
「……切り替えよう」
スキアファール・イリャルギは頭を振り、靄がかった頭をはっきりさせた。
そんな懊悩を、あいにく影朧どもは許してはくれない。
窓から飛び込んでくる異形。ヘドロ、硫酸、それにあれは、疫病か。
『あゝ、ヰラつく』
影そのものに成ったスキアファールの、無数の口が同時に苛立ちを発した。
疫病が乗客を襲おうとする。そのまえに影が飲み込み、殺す。
硫酸が車体をじわじわと融かそうとする。影が守り、引き裂く。
ヘドロが己に襲いかかる。瞳が一斉に邪視をもたらし、狂わせた。
『怪奇を戦争の兵器として、人間を殺すための道具として、軽々しく使うな』
それが己を苦しめる。なにより、人々を怖がらせ、悲しませる。
しかし影朧に道理は通用しない。なにせ奴らはとっくに狂っている。
かつての戦争の残骸の内側に燃えるもの、それは灯火だ。
戦争の灯火。
人間の狂気を薪に燃え上がった、殺し合いという狂気の残滓。
永遠にその存在を魂を焼き焦がし、不可逆的に変えてしまうもの。
だから奴らは笑っていた。笑いながら怪奇の力を振るい、人を殺そうとした。
『あゝ、ヰラつく』
同じ言葉を、無数の口が、同じように吐き出した。
影が沸騰する。人々は畏れた。見ないようにまぶたを閉じた。
それでいい、と影人間は思った。
呪われた己の体など、この醜く無様で残虐な殺戮など。
人々が見る必要はない。だから自分はただ、ただ怒りのままに――。
「いけないなあ」
次の車両、茜崎・トヲルという男が、笑顔で影人間を出迎えた。
笑顔である。相貌に恐れはなく、ましてや憫笑でも侮蔑でも嘲りでもなかった。
「そんな怖い顔をして殺したりするなよ。よけいに怖がっちまうだろう」
『…………』
「生きているひとはいつか死ぬまで生きるべきだ。傷つくのは死なないやつだけでいい。
あんた、"死なない"わけじゃないんだろ? "目"にそう書いてあるよ、ふふ」
トヲルの言葉は夢見がちな乙女のようにおぼつかない。
気が触れている。あるいはそれを装っている、スキアファールはそう考えた。
事実トヲルは正気を喪っていると言っていい――彼は不死身だ。
あらゆる傷も病も、呪いも恨みも嫉みも刃も弾丸も焔も氷も雷も闇も光も、
何も彼を殺すことは出来ない。出来なかった。それ自体が祝福で、呪いだ。
「いいひとはもっと堕落しないと。かぷかぷ笑って、賛美歌でも謳うのがいい。
ああ、でももう謳ってたかなあ。ふふ、すてきな歌だった――」
トヲルはスキアファールに言っているようでも、ひとりごちているようでもあった。
そして彼は怯えて震える子供にしゃがみ込み、その頭に触れてやる。
擦り傷が消える。怯えている子供は、すう、と安らかに寝入った。
トヲルの体の表面に同じ擦り傷が浮かんで、そしてすう、と消えてしまった。
「ようし、よし。おれが全部代わってやるよ。どうせおれは痛くない。
なああんた、影のあんた。あんたもどこか痛いなら、おれが――」
『……必要ありません。すみません』
「はは、謝らなくていいよ。そういうことだってあるだろうからさ」
慣れているのか、トヲルは呆けたような笑みを浮かべて言って、前を見た。
連結扉が開き、前車両から乗り込んできた敵がなだれ込む。
それは砂嵐に代わり、膨れ上がろうとした。影の口が飲み込もうとする。
それより一瞬速く、トヲルは嵐の中心に飛び込み、体を使って嵐を抑え込んだ。
……スキアファールは瞠目した。一瞬で我に返り、すべてを食らう。
「ああ、気にすんなよ。痛くないんだ。だからどうでもいい」
砂の嵐でずたずたに引き裂かれたトヲルの肉は、瞬時に再生する。
笑顔だった。ただそこに、人間の陽の力というべきものはなかった。
『……わかりました。ただ、迅速に敵は殺します。無茶はしないでください』
「わかったよ。無茶って言葉、だいぶ昔に忘れちまったけど」
人として大事なものを喪ってしまった男たちが並び立った。
人間ではないものが、人間たちを守るために、並び立った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佐々・夕辺
敵の増援……!?
管狐、総員出撃よ! 攻めは他に任せて、乗客を守り通します!
「突然失礼! 皆さん、動かないで!」
管狐玉壁を展開、砂塵を相殺する
手足に仕込んだ管狐を惜しみなく使い、氷の属性を付与してカウンター
敵を凍り付かせる
凍ってしまえば砂にもヒトにもなれないでしょう?
ご迷惑なお客様には退席頂きます! 一思いに蹴り落とすわ
敵が人質を取ったって無駄よ
私の管狐は精霊が形を取ったもの――貴方は風の輪郭を見たことがあるとでも?
接近させた管狐――精霊をつむじ風に変えて、ナイフを弾き飛ばすわ
そうしたらもうこっちのもの 蹴り倒す!
万が一ヤケに走った敵がいたら乗客を何がなんでもかばうわ
猟兵の傷は勲章なのよ!
アナスタシア・ムスハルト
先頭車両に行くわぁ
あら、綺麗な金髪に端正なお顔
でも……そうなっちゃあ台無しねぇ
増援を用意してたのは周到だと思うけど、普通の地上戦と違って動員できる数は限られてる筈よぉ
なら、打ち止めになるまで片っ端から斬り倒すわぁ
サーベルを「見切って」斬り返し(切り込み)、死体を蹴っ飛ばして他の敵の邪魔をするわぁ
豹はたしかに強い動物だけど……群れずに単独で狩りをする動物よぉ?
強力な個ではあっても、強力な集団にはなれないわぁ
まぁ、その個としての能力も――未熟ね
剣刃一閃で斬り捨てる
どうも、チエさん
一方的にだけど貴女を知ってるわぁ
色々因果な宿命みたいだけど、あとで必ず助けるから、待っててね
千桜・エリシャ
この列車、どこかに突っ込むつもりかしら
敵の目的も気になりますが
人質の安否が先
私は真っ直ぐ先頭車両へ乗り込みますわ
ごきげんよう
あなたがスタァの…嗚呼、おいたわしい
もう少しの辛抱よ
そこで私の活躍をご覧になっていて
いくら束になろうと私は負けませんわ
――だって黒幕の御首を楽しみにここまで来たのですもの
さぁさ、余興の始まりよ
パンパンと手を叩けば
ふわり、桜の花弁が吹雪いて
ねぇ、あなたたち
私のために“踊ってちょうだい”
地獄へのステップを
魅了した軍人さんたちを同士討ちするように仕向けて
そうそう、お上手
ショーのエンディングは決まっておりますの
さぁ、その御首を刎ねなさい
これにて終劇
ふふ、楽しんでいただけたかしら?
――ばん!!
と、勢いよく先頭車両の連結扉が開かれた。
黒衣の軍人と、彼を守る白詰襟の親衛隊が一斉に振り返る。
そして一瞬にして豹人間の異形に変じ、猟兵たちに襲いかかった!
「突然失礼! 皆さん、動かないで――動くなら、ご退席いただくわっ!!」
最初に反応したのは、佐々・夕辺であった。
彼女は手足に仕込んだ管狐の力を解き放ち、降りかかる爪を弾く。
そして盾に触れた爪は先端からパキパキと凍りつき、氷像と化した。
「挨拶もなしに不意打ちだなんて、無粋な方々ですこと」
しゃこん――と、千桜・エリシャの斬撃が氷像と化した敵を斬り裂く。
斬撃が閃光めいて奔ったあと、切断されたそれらはがらがらと崩れるのだ。
そして残骸は彼女の纏う胡蝶と桜の花びらに変じ、吸い込まれた。
「ここまで片っ端から斬り倒してきたけどぉ、まだこれだけいたのねぇ」
やや遅れて顔を覗かせたのは、アナスタシア・ムスハルトである。
彼女はあえて進む速度を遅れさせ、来る敵をひたすら斬殺したのだ。
事実彼女の持つ剣は、もはや鋼が見えぬほどに血にまみれていた。
にこやかに微笑みながら刃を振るう。ぴぴっ、と血が壁に飛び散った。
「ほお。真っ先にここへ来るとは、女だてらに血の気の多いお三方だ」
黒衣の男は、タバコを銜えた口を皮肉げに歪めた。
「い、猟兵の皆さん……! 危険です、下がって!」
「「「!!」」」
三人は同時に上を見上げた。――天井に張り付くヘドロ人間!
しかしただの戦士であれば通用した不意打ちも、双剣が一蹴した。
アナスタシアの怪力は、ドワーフとしてみても異常なほど。
そして御首に焦がれるエリシャの剣は、一切の容赦を持ち合わせていない。
なによりもふたりの剣は恐ろしいほど疾く鋭く、そして目ざとい。
飛びかかろうとした敵はまず首を斬られ、それも胴体ごと真っ二つに。
神速の居合によって、バラバラに斬り刻まれて足元に転がるのだ。
「ひっ」
囚われのチエは、味方だとわかっていても恐怖の声を漏らさざるをえなかった。
異形化しているとはいえ、人の形を、片鱗を保つモノをこうも容赦なく。
頼もしい強さだ――だが同時に、その技の冴えは不気味ですらあった。
なによりふたりとも、にこりと微笑を浮かべたままだったのである……。
「……この列車、ひょっとしてどこかへ突っ込むおつもりかしら?」
「ほう」
エリシャが何気なく言ったつぶやきに、黒衣の男が目ざとく反応した。
「まあ、これだけ派手に別車両を動かせばわかるか。特段隠すつもりもない。
……ご明察の通り、我々の目的は一種の自爆テロだ。まあ、"どれでもいい"がな」
「そこのスタアさんを狙ったわけじゃなく、偶然だったのねえ」
アナスタシアは言って、ふう、とため息をついた。
彼女は、門倉・チエが巻き込まれた不幸な事件に参戦していたのだ。
「私は一方的にあなたのことを知ってるのよぉ、チエさん。
……前は狙われ、今度は偶然。あなた、相当因果な宿命みたいねぇ」
けれど、と彼女は言葉を切った。
「ここでさっさと切り払って助けてあげるから、待っててね」
「猟兵さん……!」
チエは明るく笑った。だがすぐに表情を翳らせ、敵を睨む。
「……けど、列車そのものを突っ込ませるつもりなら、乗客のみなさんが……!」
「ご心配ありません。いまも後部車両では、多くの猟兵が戦っているわ」
「そうですわね。なのに相手ときたら、誰も彼も"役不足"な御首ばかり。
ねえ、黒い外套の方。あなたなら、少しはマシな御首をくださるのでしょう?」
夕辺の言葉に対し、エリシャはあくまでも敵との死合が目当てらしい。
黒衣の男は目深にかぶった帽子を直しながら、こきこきと首を鳴らした。
「まったく勇ましくおっかない。が、あいにく俺はまだ相手をしてやれない。
"どれか残ればいい"と思って戦力を突っ込んだが、ここまでやられるとはな」
「どれだけ増援を出しても無駄よ。この体を盾にしてでも乗客は守るわ。
もちろん列車を突っ込ませたりもしない。猟兵の傷は、勲章なのよ!」
夕辺の熱気あふれる言葉に、黒衣の男はうんざりした様子で頭を振った。
「作戦失敗と考えざるを得ない。――だから、俺は逃げるとしよう」
アナスタシアとエリシャは同時に踏み出した。黒衣の男の狙いを察知したのだ。
しかしふたりの行く手を阻むように、上から新手が降ってくる!
然り、上! ――先頭車両の屋根が、一瞬で切断されがら空きとなったのだ!
そして吹き抜けになった上空には、巨大な蒸気飛行船……!
「せっかくの拾い物だ、この女は有効活用しなければな! ハハハハハハ!」
「この、離して……っ!」
抱え上げられたチエは身悶えして逃れようとするがうまくいかない。
黒衣の男は、猟兵の相手を白詰襟に任せて蒸気飛行船から降りてきたタラップに捕まり、上空へ……!
「ああもう、いちいち準備のいい敵ね! 邪魔よ、どきなさいっ!!」
夕辺は砂嵐に変じて視界を覆おうとする敵を凍りつかせ、蹴り砕いた。
豹となり飛びかかってくる敵には、アナスタシアが相対する。
「豹は群れずに個で狩りをする動物よぉ? あなたたち、どちらとしても未熟ね」
斬撃は一撃で敵を仕留める。だが命を賭けて壁となる奴らは苛烈だ。
一方エリシャは――刀を納め、ぽんぽん、と手を叩いた。
すると見よ。彼女の纏う桜の花弁が吹雪き、倒れた死体に重なる。
「斬っても捨ててもらちがあきませんわ。ねえ、私たちのために"踊ってちょうだい"。
そして道を拓いて、あなたたちはどうぞ――地獄へステップ踏んで堕ちなさい」
見よ。首を喪った屍体が起き上がり、さらに落ちてくる敵に襲いかかった。
蕩けて、溺れて、夢の涯(はて)――死をも桜は魅了し、傀儡とする。
傾世の桜花は同士討ちによって敵の人垣を除外し、エリシャは言った。
「業腹な展開ですけれど、こういうショウがあれば楽しめませんかしら?」
「……の、ノーコメントにしておくわ。とにかく、あいつを!」
困惑した様子の夕辺。エリシャはそんな彼女を見て、くすりと笑う。
見下ろす黒衣の男の口元から、余裕の笑みは消えていた。
三者三様、凄絶なる彼女らの技と、己の絶体絶命を――今更、奴は悟ったからだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
用意周到……否、小賢しいだけだな此れは
此の程度で対応し切れるなぞと思われるのは心外だ
其の理由を教えてやろう
――烈戒怒涛、縛を解く
此方へ移り来る前に出来るだけ敵を落とすとしよう
速度、視点や向き、タイミング――戦闘知識にて行動様式を計り
集中した第六感で以って動きの起点を潰す様に、衝撃波で足元を払い落とす
移り来た処で中へは通さん
凹凸に底を掛ける様にして脚場を確保しながら移動し
怪力乗せた斬撃加えて叩き落す
攻撃は見切り躱し、激痛・毒の耐性を賦活し凌ぐとしよう
必要とあらば、機罐車其の物だろうが如何な手段を以てでも止めてくれる
人々の脅威と成る物なんぞ、どれ1つだろうと残しはせん
私の刃は其の為に在る
氏家・禄郎
さて、複数の列車を乗っ取ってまで門倉君を殺そうとするのは命の値段としては不足かもしれない
素直に車両から投げ捨てればいいのだから、だとすると今回の目的は――男の終わり方というところかな?
では真実にたどり着くために動くとしよう
「何かと引き換えに人としての姿を失うのはどうだい?」
『嗜み』で相手の行く先を変えて客席の角に頭を打たせ、窓へダイブさせる
グラップルは攻撃技ではないが戦闘を優位に進めるために、君たちの行動をコントロールさせるための方法なのさ
「故に嗜みが君達には足りない」
勿論、とどめは必要だ
ステッキで突き刺し、他の車両に乗り込んだら拳銃も使って確実に仕留めていこう
スタアと歪な男に会いに行く時間だ
橙樹・千織
へぇ…増援、ですか
やはり、このまま野放しにすると碌なことをしないですね
念のため、付近にいる乗客にも【オーラ防御】を施す
花見日和だというのに
こう、狭いところにわらわらと…邪魔くさい
表へ、そちらで相手をしましょう
此処にいては臭いで鼻がおかしくなりそうだ
出て行かぬなら、追い出すまで
【なぎ払い・衝撃波】で車両外へはじき出してしまいましょう
どんな姿形に変わろうとも…容赦はしない
ユーベルコードで機動力そのものを阻害
敵の攻撃も【武器受け】で受け流しすぐさま【カウンター】攻撃
多数で来るなら【範囲攻撃】も交えて戦闘
乗車したが最後、無事に下車出来ると思わないことです
…さぁ、狩りを始めましょうか
狭筵・桜人
外が騒がしいですね。
私は引き続き『後部車両』で民間人の護衛に努めます。
さぁさ窓と扉から離れて一ヶ所に固まって。
天井にも注意しとこう。
いくらでも泣き喚いて貰って構いませんから身は低くしていてくださいね。
エレクトロレギオンを展開。
今度はエントリーされる側となると不意打ちがおっかないですね。
窓と扉。敵の侵入経路へ【先制攻撃】を狙いレギオンによる砲撃セット、【一斉発射】。
牽制と数減らしです。
迎撃はしますが私は防衛を優先するのでドンパチは居合わせた猟兵に任せますね。
流れ弾だとか衝撃波だとか色々飛んできそうだし
レギオン全機を民間人の盾として消費します。
機械の盾が薄ければ身を以て庇いますよ。仕事なので。
フェルト・フィルファーデン
増援!?……列車まで用意して……そう、準備万端ってことね。
後ろの乗客は任せたわよ、ワタシ。今は乗客の皆を、チエ様を救うため、ひたすら前へ突き進む!
でもこのままじゃどうしたって手が足りない……だから、今来たアナタ達を利用させてもらうわ。
さあ、わたしの傀儡となりなさい?敵を屠る剣として。乗客を守る盾として。その身を散らし尽くしなさい。
残りの敵はわたしが片付けるわ。流石に先程までの敵ほど甘くないでしょうし、1人ずつ確実に仕留めましょう。
騎士人形の剣撃を【フェイントに弓矢で急所を狙い撃つ。(スナイパー】
異形化していようと元は人。ならば殺せない道理は無いわ。
ここまでの大規模な作戦、一体何が目的なの……!
ミザール・クローヴン
【屋根上】
数が多いな……厄介な連中め
これなら屋根の上から攻撃した方が早そうだ
車輌から出て、屋根の上へと素早く登り
登ってくる敵も飛び移る敵も、隣を走る車輌の敵も纏めて相手にしてやる!
天の瞳起動、右目で敵生体の行動、変化を予測しつつ
星の秤を変形させながら迎撃する
貴様らが何になろうがおれ様には変わりがない
貴様らは、ただおれ様の敵だ
貴様らにひとつとして奪わせないことが、おれ様の勤めだ
全員纏めて消し飛び、砕け散れ!!
……敵の奔流が落ち着いたら、おれ様は先頭車両に向かう
敵の首領に、何がなんでも一撃見舞わねばならぬのだ!!
●𢚇瀾怒濤レヰルウヱイ
「――つまり連中の狙いは、この列車そのものを使った自爆テロ。
おそらく終点の駅そのものか、あるいは路線上にある施設が狙いだろう。
乗客ごと列車を突っ込ませ、自分たちはあの蒸気飛行船で脱出するつもりだった、と」
「……つまり、それは今まさに相手の想定通りに作戦が進んでいるということではないかしら!?」
「そうとも言うね」
真面目くさって頷く探偵……氏家・禄郎の言葉に、
妖精である少女、フェルト・フィルファーデンはもどかしそうに顔を顰めた。
「だったら、すぐに先頭車両に向かわなきゃ、チエ様が……!」
「君の気持ちはわかる。私も、彼女のあの事件に関わっていた身だからね。
……けれど先頭車両は問題ないだろう。この列車は、必ず停まる」
「ずいぶんな断言ですね? それも、探偵なりの推理なのでしょうか」
橙樹・千織が冗談めかして言えば、禄郎はふふんとわざとらしく鼻を鳴らした。
「これだけの猟兵がいるんだ、推理というよりはむしろ妥当な戦術的判断だね。
むしろ私たちが考えることは、この状況に対して両隣の列車がどうするか、だ」
「あの頭目の"どれでもいい"という言葉を臆面通りに捉えるならば――」
千織は言いかけ、眦を決して左右をそれぞれ睨んだ。……速度が上がっている。
「私の記憶通りなら、ここで路線は交錯する。そこが"終着点"だ!」
「まったく、花見日和だというのに、狭苦しいところでわらわらと……。
そればかりか、無辜の人々を皆殺しにしようだなんて。愚かなものね」
千織はため息混じりに言って、窓から飛び込んできた敵を薙刀で吹き飛ばす。
そして翼をはためかせながら、軽やかに屋根上に乗り上がった!
「死をも恐れぬ兵隊か、潔いとはあまり褒めたくないものだね。
大義に殉じるという"男の終わり方"に付き合えるほど、私たちは暇じゃない」
禄郎はステッキ状態の竜槍を振るい、乗り込んでくる敵を打ちのめした。
俯いていたフェルトもまた、妖精騎士人形を構えさせ眦を決する!
「すべて片付けてあげるわ。誰も死なせないし、何も壊させない……!」
破滅的極点に向け加速を続ける鉄箱の中、猟兵たちの死闘が再び始まる……!
一方、屋根上!
「くそ、数が多いな……! 厄介な連中め、死をも厭わないとは!
おれ様を相手に、ふざけた真似をしてくれる。許さんぞ、貴様らは!!」
ミザール・クローヴンは黄金爪を振るいながら怒りを撒き散らした。
窓枠だけでなく、屋根伝いに飛び込んでくる敵が一番多い。
しかも数はいや増している。明らかに消滅を恐れない、それが業腹だ。
厄介ではあるが、それ以上に命を粗末にするのがミザールの逆鱗に触れる。
影朧であろうと存在するものならば、己の現存を最優先するのが当然。
過去の残骸は事実上の不滅ゆえに、己の命を顧みないことが多い。
だからこそ、ミザールはオブリビオンを許すことが出来ないのだ……!
「貴様らには何も奪わせないぞ! ふざけた企みも成就させるものか!!
さあ、かかってこい! 貴様らすべて、おれ様が相手をしてやる……!!」
「――こんなに綺麗な桜の海で、それはいささか血気盛んすぎるのでは?」
憤るミザールの周囲の敵が、ふわりと消えるようにして薙ぎ払われた。
翼をひとつはためかせ降り立った千織の姿に、少年は束の間呆けたような表情。
いくつもの獣の相を持つ大和撫子の相貌は、桜とぞっとするほどよく合っていた。
「っ……関係ない! 全員まとめて消し飛ばし、砕け散らすのみだ!!」
「そこについては同意しましょう。このまま好き放題されては気に食わないもの」
立ち並ぶふたりの前後を、飛び移ってきた豹人間が包囲した。
ミザールは前を、千織は後ろを警戒する。極限の緊張が大気を張り詰めさせた。
ごうごうとスピードの風が頬を叩く。一瞬の静寂――仕掛けたのは敵である!
「貴様らの動きなど、すべておれ様の目には見えているっ!!」
「どんな姿形に変わろうとも、容赦はしませんし――動きは、わかります」
薙刀が爪を弾き、返す刀で喉を、あるいは腹部を割いて絶命せしめた。
対する前では、ミザールの黄金爪が自在に変形し敵の毛皮ごと肉を裂く。
彼ら彼女らは、ともに怒っていた。それを表に出すか出さないかの違いだ。
人の命を、己の存在すらも軽んじ、ただ不幸と絶望だけを撒き散らすモノども。
彼女らはそんなものを許容しない。このままいいようにさせるつもりもない。
頭上をいくつもの蒸気飛行船が横切すのが見える。回収用の飛行船だろう。
おそらく先頭を行くひときわ巨大なものが、敵首魁の乗り込もうとしているものだ。
「……助けて……!!」
風に乗って、囚われたままのスタアの悲鳴が聞こえてきた。
「当然だ、おれ様は誰も、何も、奪わせんッ!!」
「……すべて狩ってあげましょう。獣に堕するならば、相応に」
ふたりはその言葉に意気をさらに軒昂させ、今度は反対に打って出た。
まるで反発する磁石めいて、前後に駆け出し、刃と爪が敵を斬り裂く!!
……同時刻、後部車両内部!
「外が騒がしいですねえ。ていうかこれ、どんどん速度上がってません?
こうなると、乗客を後ろに避難させても無意味ですかね……さて、困ったな」
エレクトロレギオンを展開した狭筵・桜人は、やれやれと頭を振った。
彼はスタア――つまり門倉・チエと少々厄介な因縁があるため、
彼女と顔合わせしないよう後部車両に残り、乗客を避難させていたのだ。
先の襲撃によって、後部車両は敵の総攻撃からある程度逃れていた。
桜人の先導のもとここまで逃げてきた人々は、みな不安に震えている。
「あいにくメンタリストでもないですし、不安を取り除くようなことも出来ませんし。
かといって私では、汽罐車を止めるなんて芸当も無理ですからねえ……と」
その時。後部車両につながる連結扉が、がらりと開かれた。
乗客は短く悲鳴をあげ、桜人は表情を引き締めて振り返る。
エレクトロレギオンが防御陣形を組み、雪崩込んでくる敵を迎撃――否。
「汽罐車を止めればいい、と言ったか」
姿を見せたのは、陽炎じみた剣気を纏う、隻眼の剣士であった。
刀を佩いていることよりも、その身を覆う凄絶な殺気が彼を剣豪たらしめていた。
剣豪……鷲生・嵯泉は車両内を見渡し、乗客の無事を確認し、ひとつ頷く。
「列車を止めればいい。そう言ったな」
「ええ、まあ。この襲撃度合いと、あの空を飛んでるデカブツの群れ。
どう考えても、相手は撤退を始めてますし? もう追い詰められて自爆とか、
そういう心配はないと思いますよ。というかまあ、止めないとお陀仏というか」
「……だろうな」
嵯泉はぴくりとも笑わずに頷き、ちらりと背後を睨んだ。
さらに前方の車両から、新たに敵の群れが乗り込んでくるのを感じる。
「では私が止めよう。少なくともこの車両から後ろはすべて切り離す」
「わお。そう言い切るような人相手に、いちいち茶々は入れませんよ」
「その機甲兵器群は防衛に使え。敵は私が殲滅する」
嵯泉は背中を向け駆け出した。巌のごとき、凄絶な背中であった。
同じ猟兵であり、滅多に仕事に本腰を入れることのない桜人をして、
苛烈な人生と巌の如き信念を感じさせるその背中には、わずかに息を呑んだ。
「……私、ドンパチとか苦手だからこっちに来たんですけどねえ」
やれやれとため息をつきつつ、桜人は学生帽を被り直す。
「あそこまで言われて手を抜くとあとが怖そうですし、私も乗りかかった船ですし?
いや、この場合は列車か――ま、とにかくやれるだけ、やるとしましょう」
桜人もまた、後部車両を狙う邪な敵の悪意を周囲から感じている。
前方車両からいくつもの戦音。エレクトロレギオンが編隊を組んだ!
「防衛しか出来ませんが、せいぜい耐えてみせますとも!」
桜人の言葉を試すかのように、新手が窓から飛び込む――!
「小賢しい」
背後で始まった戦いの気配を背中越しに感じながら、嵯泉は言った。
「用意周到とは言うまいお前たちのやり方は、ただただ小賢しい雑兵同然だ。
これだけの戦力を蹴散らされておきながら、まだ兵力の無駄遣いをする。
お前たちの指揮官とやらは、どうやらお前たちよりも愚かな凡骨のようだな」
「貴様! 囀るかッ!!」
怒りとともに飛びかかるヘドロ人間を、嵯泉はすさまじい斬撃で一蹴した。
ごひょう、と向かい風が斬り裂かれ、後続の兵隊もたたらを踏む。
剣豪の隻眼は、射殺さんばかりに無慈悲な敵の群れを睨んでいたからだ。
「これ以上は乗り込ません。すべて殺す。お前たちの行く先は地獄だ」
直後、剣豪は有言実行をした。斬撃は窓を抜けて外にまで波及する!
両翼の列車から飛び込もうとする敵は、真っ二つに胴を斬られて落下!
まさしく烈戒怒涛、己への攻撃は見切り躱し、防げずとも痛みを厭わぬ。
血を流そうと傷を負おうと、敵を斬ることだけを考え刃は奔り続けた!
「こいつ……! どれほどの修羅場をくぐれば、これほどの剣を!?」
「お前たちには想像もつくまい。そして識ることもない――ここで終わりだからだ」
うろたえる兵士の首を、剣豪の一撃が刎ね飛ばした。
「人々の脅威と成るものなぞ、どれひとつだろうと遺しはせん」
血溜まりの中で嵯泉は剣を振り上げ、極限の剣気を練り上げた。
「私の剣は――すべて、そのために在るッ!!」
そして、足元を薙ぎ払うような一閃。床が断たれ、斬撃はばっくりと空間を裂いた……!
――ギャギギギギギ、キィイイイイイイッ!!
「「「!!?」」」
突然、列車がぐらりと揺れた。ひとつではない、両翼のものもだ。
敵は予想外の揺れに、わずか一瞬だがたじろいだ。
その一瞬を突き、禄郎とフェルトは一気呵成の攻勢を仕掛ける!
「何かと引き換えに人の姿を失うのはどうだい――っとね!」
ステッキで側頭部を撃ち、合気の要領で窓へと投げ落とす。
「君たちには嗜みが足りない。殺し合いにも、高貴さは必要さ」
彼女のようにね、と禄郎が見やった先、フェルトは人形とともに舞い踊る。
無数の人形を操り、抗う敵があればその意志を支配してでも戦う、戦い続ける。
フェルトはその生命を燃やすことを厭わぬ。敵を倒すためならば。
――否、罪なき人々を守るならば。どれほど活力を燃やそうと!
「させないわ。全員ここで滅びなさい! アナタたちは、ここで終わりよっ!!」
最後の敵が、騎士人形の剣戟によって八つ裂きにされた!
ギャキ、ギャリリリリリ……ふたりは顔を見合わせ、頷いた。
「どうやら誰かが、三両同時に中央部の車輪を吹き飛ばしたようだ。無茶をする。
列車は三台とも停まるだろう。その前に、あの飛行船に追いつかないとね……!」
「チエ様――助けてみせるわ。もう、あなたにつらい思いはさせないもの!」
禄郎とフェルトは、渦中にある先頭車両を目指して疾走した。
列車が減速を始める前に先頭車両に到達し、あの飛行船に乗り移らねばならない。
狂乱怒涛のレイルウェイはこれにて途切れ、戦いは最終局面へと映る。
冒険の舞台は空へ。そこに、悪逆なるオブリビオンの首魁が待つ――!
大成功
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第3章 ボス戦
『『殺人者』退役軍人』
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POW : 終わらぬ戦争、終わらせぬ戦争~エターナルウォー~
【自身に【戦闘継続(戦闘不能時、異常を無効】【化して全回復する)】×800回を付与する】【。又、【戦闘継続】が消費される度に副効果】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 戦争の亡霊~我ガ大隊ハ今ダ戦争中ナリ~
自身が戦闘で瀕死になると【負傷が全回復する。又、大隊規模の戦友の霊】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ : アサルトバタリオン~大隊、突撃!突撃!突撃!~
【自身の小銃・銃剣から、自身に敵意】を向けた対象に、【攻撃回数を800回に増やした、弾丸や銃剣】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:吉原 留偉
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●因果応報スカヰロヲド
敵の目的は、汽罐車を暴走させなんらかの施設に突っ込ませるという自爆テロ。
門倉・チエは、標的とされた列車に乗っていたがゆえに人質となってしまった。
しかし彼奴らが別に鹵獲していた列車を投入してまでの迎撃作戦は、
油断ならぬ猟兵たちの超弩級の活躍により、誰一人として命を落とさせることなく、
そして暴走した三台の列車すべてを止めることで、完膚なきなまでに砕かれた!
――そして、空。
先頭車両の天井をくり抜き上に逃れた黒衣の男を出迎えたのは、
彼奴らが事前に制圧、そして脱出用に用意していた巨大蒸気飛行船であった。
「まだ追ってくるか……なるほど、超弩級戦力。噂に違わぬ執拗さだな」
飛行船から降りてきたタラップを掴み、黒衣の男は歯噛みした。
そんな彼が人質のために囚えたままのチエは、己が空中だというのに、
男をいかせまいと身悶えする! 男は舌打ちした!
「手間のかかるご令嬢だ……女性はもっと淑やかにあるべきだろう!」
「あなたみたいな卑怯者にどう言われようと、関係ないわっ!」
囚われのヒロインのままでいるほど、彼女はか弱い乙女などではない。
己のため人々のため、あるいはそれぞれの信念のためにここまで食い下がる猟兵たちの姿は、一時は萎えかけた彼女の闘志に火を点けたのだ!
「……大隊、迎撃開始! あの小賢しい猟兵どもを撃ち落とせ、退けろ!
作戦は失敗だ。しかし我らの戦争は終わらん。何度でも何度でも、な……!」
巨大飛行船に随伴するいくつかの蒸気飛行船の砲塔が火を噴いた。
かくして舞台は空へ。敵はチエを伴い必死でタラップを上ろうとしている。
砲火を退け、戦乱に取り憑かれた過去の亡霊を打ち砕け!
空を駆け、減速しつつある列車を踏み台に飛行船に飛び移り、敵を討て!
凶行と狂瀾怒濤の因果応報を、悪逆なる亡霊に支払わせる時だ――!
●三章特殊ルール
戦いの舞台は、暴走汽罐車から巨大蒸気飛行船の周囲および内部に変わります。
敵は猟兵の皆さんの攻撃を迎撃しつつ、飛行船の中に頑張って乗り込んだり、
落とされそうになったら船外に出て、飛行船の屋根上で大立ち回りしたりします。
周りにはいくつもの飛行船が追走し、迫撃砲とかをバンバン撃っています。
随伴飛行船に乗り込み、敵の大隊(ユーベルコードで召喚された敵扱いです)をこれまでと同じように蹴散らして墜落させてよし、
ひたすら敵を追って、飛行船の内外でアクロバティックに戦ってよし。
あるいは蒸気飛行船を墜落させるため、ミサイルやらなんやらで攻撃してよし。
思い思いにかっこよくプレイングしていただければと思います!
(イメージ的には、アクション映画によくある「ヘリで逃げようとする敵の親玉と空中で格闘しながら蹴り落とそうとする」とか、ああいう感じです)
なお、どんだけ派手に攻撃してもチエに被害は及びません、ご安心ください!
●プレイング受付期間
2020年05月09日 08:30前後まで。
彩波・いちご
【恋華荘】
「さすがに私には飛ぶ手段はないですしね…中に乗りこめさえすれば何とかなるんですけど……」
ここは2人の火力が頼りです…と言ったら、え、私を撃ちだす?!
本気ですかー?!
2人に説得?されて列車砲の中に砲弾としてつめられる私
い、いとおう、衝撃にも耐えられるように【異界の顕現】で邪神の依代体となって自己強化しておいて…
そして撃ちだされます
衝撃と共に飛行戦に突入して…
「あいたたた……でも、ここからは暴れさせてもらいますよっ」
そのまま敵の大隊を徒手空拳で叩きのめし蹴り飛ばし、飛行船から落としながらボスに肉薄します
最後はこの拳で、終わらせてあげますっ!!
…2人とも、あとで覚えててくださいね?(ぼそっ
アイ・リスパー
【恋華荘】
「くっ、逃しはしませんっ!
とはいえ、飛行船内での戦いには自信がないので、私は外から対空攻撃です」
【クラインの壺】で電脳空間に格納されていたマルチミサイルランチャーと多連装ロケットランチャーで蒸気飛行船を攻撃します。
敵の随伴飛行船を牽制して動きを止めることができれば十分です。
射線が開ければ、本命の出番です。
電脳空間からレールと列車砲を実体化。ボスの乗る飛行船に砲塔を向けます。
「理緒さん、観測手をお願いします!」
列車砲でいちごさんを撃ち出し、ボスの元まで届けましょう!
「さあ、あとは着実に敵を沈めていくだけですね」
理緒さんの指示に従い列車砲の大口径砲を撃ち出して、敵を砲撃です。
菫宮・理緒
【恋華荘】
さすがテロなんて考える人たちは、
やることも卑怯だし、諦めも悪いね。
とはいえ、今回は飛行船……空か!
乗り移っても良いんだけど、
身体能力にはあまり自信ないし、相手の数も多そうだし、
ならこっちは、アイさんと組んで列車から対空砲火で行かせてもらおう。
わたしは観測手を務めるよ。
【並列演算】で飛行船の動きと、砲撃の速度、角度を計算。
飛行船と相手の大隊ににダメージは与えるけど、
墜としきらないようしっかり計算して援護していこう。
あ、それと、最初の一撃目はいちごさんなので、
これはもう、細心の注意を払って計算するよ。
しっかり飛行船内に行ってもらわないとね!
「いちごさん、発進!」
頭上で爆炎がいくつも花開き、大気が銅鑼のごとくけたたましく鳴り響く。
泰平の世には失われて久しい戦争讃歌の音。列車内の乗客らは悲鳴をあげた。
戦争だ。
戦争が来る!
終わったはずの戦争が!
「いやだ!」
「助けて!!」
「どうして私たちがこんな目に!」
たとえ砲撃が自分たちを襲わずとも、恐怖というのは拭い去れぬもの。
菫宮・理緒は安全を確保したはずの乗客らの恐慌に、顔を顰めた。
「……テロっていうのは、こうやって人々の心を恐怖と不安で乱すことにある。
まったく、やることは卑怯だし諦めも悪い。最低の影朧どもだね……!」
「けど、どうしましょう? さすがに私は飛ぶ手段がないですし……」
彩波・いちごは同じように眉根を顰めながら、口惜しげに空を見上げた。
蒸気飛行船は徐々に遠ざかっていく。邪神の力を宿しながらなんという力不足。
己の生やした尾が翼であったなら――そう願わずにはいられなかった。
「いえ、逃しはしませんっ! それに、空を飛べなくとも跳べばいいんです!」
「え? あの、アイさん? なにか漢字の綴りが違うような……??」
「合ってます! 飛べなくても跳ばすことはできますから!」
なぜかアイ・リスパーは笑顔であった。いちごは一転、コミカル顔になった。
なんだか嫌な予感がする。めちゃくちゃ無茶振りをされるような……!
「――わ、私が砲弾になるぅ!?!?」
そしていちごの不安は、案の定大当たりした。
「うん。対空砲火で随伴飛行船を落とさないと取り付きようもないしね。
わたしは乗り移っても身体能力に自信がないし、ならいちごさんが適任だろう?」
「いや、まあたしかに私が一番動けるとは思いますが……」
理緒の説得にも、いちごは微妙な表情だ。まあ当然だろう。
列車砲を実体化させるからそれで蒸気飛行船向かって飛べ――などと、
普通に考えれば正気の沙汰ではない。常識はずれの猟兵としてもかなりアレだ。
が、アイも理緒も本気であった。特にアイに至っては、
「いちごさん、悩んでいる暇はありません! 早くしないと離脱されてしまいます!」
とめったに無い剣幕で彼に言い、次々に電脳空間から兵装を実体化させていた。
マルチミサイルランチャー、さらに多連装ロケットランチャー!
ドウドウドウドウ……KA-BOOOOOM!!
対空砲火が随伴飛行船に命中し、戦争交響曲をさらに加速させる!
「私のいまの装備では、あの飛行船をすべて撃墜することは絶対に不可能です。
大隊を召喚・指揮している司令官を叩かないと、この戦いは終わりません……!」
「さあいちごさん、男を見せるときだよ! パーッとひとっ飛びしちゃおう!」
「……ま、まあそうですが……」
鼓膜が破れそうな砲声のなか、いちごはふたりの表情を窺った。
どちらも真剣そのものだ。決して楽しんでいるわけはない……よね?
いつもの二人のふるまいからすると、割と不安なのがなんとも人徳であった。
「「いちごさん!!」」
「わ、わかりましたわかりました! やりますよぅ!」
いちごはついに折れた。ん? 理緒がなんか邪悪な笑み浮かべなかったか?
そんなことを疑問に思う暇もなく、レール上に実体化する巨大な列車砲!
「……本当に大丈夫かなあ」
いちごは不安な面持ちで、一応自らを防護するよう邪神の力を引き出すのだった。
……一方、蒸気飛行船を駆る飛行大隊。
「対空砲火弾幕、なおも増大中! これ以上は防戦が精一杯です!」
「ありったけの弾薬を使え! 飛行する猟兵は優先的に撃墜しろ」
「大隊長閣下の収容を急げ! それが終わり次第全力で離脱するぞ!」
蜂の巣をつついたような騒ぎの中、観測手が怪訝そうな顔をした。
「……ほ、報告! 地上地点に大規模列車砲の実体化を確認!」
「なんだと!? 飛行船を撃墜するつもりか? いや、こちらには人質が居る。
たかが女一匹だが、奴らはそれを無視できまい。所詮は虚仮威し……」
「列車砲、発射体勢に入りました! 目標は――こ、これは!?」
観測手は驚愕した。
「も、申し上げます! 列車砲に装填されているのは――人間です!!」
「「「なんだとぉ!?」」」
列車砲がガコン……と重苦しい音を立て、最終発射準備に入った……!
地上!
「アイさん、3時方向距離1200! 15秒後に敵飛行船が軌道上に入るよ!」
『了解です理緒さん。……いちごさん、準備はいいですか?』
《ものすごく嫌ですけど! こうなったらもう一か八か、です!!》
砲身内からの声に、理緒はニヤリと笑った。
「そうでなくちゃね――さあ、カウント開始だ! 5秒前!」
『4、3、2、1――列車砲、第一射撃ちます!』
「いちごさん発進だ! ヨーソロー!」
ドウ――!!
列車砲が盛大に硝煙を撒き散らし、いちごは音速で飛翔した。
ギリギリのところを弾幕がかすめる。いちごは風の圧力に悲鳴をあげた!
「あばばばばば……もう、どうにでもなれーっ!!」
KRAAAAAAASH!! いちごは理緒とアイの狙い通り、飛行船の側面に着弾!
多重装甲をぶち抜き、飛行船内にダイレクトエントリーしたのである!
「なっ、ほ、砲弾代わりに猟兵を送り込んできただと!?」
「白兵戦用意! 侵入者だ、迎撃しろ!」
ザカザカと殺到する銃剣兵を、いちごは破竹の勢いで叩き込めしていく。
息つく暇もない銃声砲火! ここが鉄火の最前線だ……!
「おふたりとも、あとで覚えておいてくださいね……っと、ともかく!」
いちごは銃剣突撃してきた敵を回し蹴りで吹き飛ばし、頭を振った。
「さあ、ここからは暴れさせてもらいますよっ!」
突撃は成った。ここからが本番だ。怒りと不満を兵士どもに叩きつけてやろう。
アイと理緒による支援砲撃が空を焦がす中、いちごの大立ち回りが始まった!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アナスタシア・ムスハルト
女は淑やかであるべしなんて化石みたいなセリフねぇ
所詮はオブリビオン、過去の遺物ってところかしらぁ
「早業」でタラップを登って追いかけるわぁ
あら、いい眺め。竜の背に乗ればこんな景色かしら?
黒衣の男を追って「切り込む」わぁ
邪魔よ、進路を阻むなら鎧袖一触、斬って捨てるわ
追いついたら「怪力」の「剣刃一閃」で斬りかかるわよぉ
あら? まるで時間を巻き戻したみたいに治っちゃったわね
なら、また斬るわ
斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬るわ
あんなに自信満々だったんだもの、こんなものじゃないでしょう?
私はまだまだ「元気」よ(継戦能力)
利鷹さんに手向けた鏖殺無尽剣は使わないわ、あなたは無造作に斬られて死ぬのよ
露木・鬼燈
更に派手なことになってきたね。
これは楽しくなってきたっぽい!
こーなったら僕も派手に行くですよ。
これが僕の切り札。
化身機装…火廣鐵っ!
他の猟兵のための道を切り開こう。
空戦で随伴飛行船を墜とすですよ。
背面大型ブースターとスラスターによる空中戦闘機動。
まぁ、騎士型の機械神なので射撃武器はないんだけどね。
基本は回避と騎士盾での防御を組み合わせて突撃。
格闘戦で墜とすのですよ。
魔剣で船体を斬り裂くのが確実かな?
まぁ、それに拘らずに船室を破壊するだけでも戦闘力は奪えるか。
斬撃だけでなくシールドバッシュや蹴りも駆使して戦うっぽい。
敵の攻撃が直撃っ!
死んでなければより強く機体を再構築すればいい。
イケルイケル!
アルナスル・アミューレンス
死にぞこないの過去の亡霊の、大願成就の泡沫の夢、って所かなぁ。
なら、派手にいこうか。
地上からは存分に君達が見えた、『排除(ネラウ)』には十全。
君達の夢はここまで。余すことなく『暴威(コワス)』よ。
列車から飛行船に、は乗らず。
地上の開けた場所を陣取る。
――拘束制御術式、開放
腕を掲げ、船を狙うは狙撃の偽神兵器。
口径128mm。9mを優に超える長大砲塔。
地には身を留める楔の様に広がる黒き異形。
広がるソレは、天へ向けて捻じれ模り、六十六門の長大砲塔に変貌する。
始めるは砲撃戦による蹂躙。
砲撃の多重奏
放たれるは焼夷徹甲榴弾の空への暴雨。
継戦能力を以って全船沈黙まで砲撃は止まない。
反撃の砲撃も撃ち落とすさ。
李・桃花
往生際が悪い!しかもなんかしぶとい!飛行船も出てきたしなんかやたらと多いし……
あぁ、もう!船ごと墜とす!
砲撃や攻撃を見切りつつ飛行船に飛び移りざまに本気の気合入れた【天狼旋体脚】よ!竜骨ごと気嚢を切り裂くわ!
力を溜めて覇気を纏い衝撃波をくらわしてやるから!
中身がヘリウムであることを祈るわ!飛び移ってどんどん墜とすわよ!
オラオラ逃げんな!人質置いて墜ちなさい!
リーオ・ヘクスマキナ
戦争、戦争って好き勝手言うけどねェ……ッ!!
というか、あんたらの頭かこの世界には戦時国際法とか交戦規定とか無いの?!
一般人の巻き添えを最低限にするような配慮も見えないし……ッ!
かなり怒ったよ!?
やっちゃおう、赤頭巾さん。アイツらブッ飛ばす!
主に随伴飛行船への攻撃
伸ばした豆の木で飛行船の機関部を思い切り叩きつけたり
ブチ抜き易いようにライフル弾で事前に攻撃した気嚢を豆の木で貫通させたり
必要とあらば他猟兵の足場としても運用
但し飛行船を地上に落下させて被害を出したり等が無いように最大限注意する
そりゃあ、確かにコラテラルダメージはどうあっても発生する
けどそれを抑える事も考えなきゃ、アイツラと同じだからね
BRATATATATATAT! BRATATATATATATATATATATAT!!
ガトリング砲と単装砲がけたたましく砲声を響かせ、暮れつつある空を斬り裂く。
狂い咲きする幻朧桜の花びらもまた、火線で灼かれて燃えて尽きる。
それはまさしく、戦争の亡霊どもが夢見る地獄の部分的顕現であった。
生も死もすべてミキサーにかけてぶちまける、キリングフィールドの具現。
ゆえにもはや退路はないとわかっていながら、兵士どもはみな哂っていた。
門倉・チエを捕らえたままの指揮官もまた、不気味な笑みを浮かべていた。
「見えるかねご令嬢。これが、これこそが我らの求める光景だ。
これこそが世界のあるべき姿。世界が沈むべき落陽の光景だよ」
「……ふざけ、ないで……っ!」
チエは知っている。それがどれほど愚かで不毛なことか。
彼女の幼馴染は、狂った戦争思想に取り憑かれて理想を見失い、
ついには彼女を手にかける寸前まで行ってしまったのだから。
「私は認めない……そうよ、それにあの人たちだって!」
「猟兵かね? ふむ、たしかにしつこく食い下がってくるが、物量は我らが上だ。
殲滅は不可能でも、逃げおおせてしまえばこちらのものなのだよ、お嬢さん」
チエはこぼれそうになる涙をこらえて、きっと男を睨みつけた。
殺されることが怖いのではない、手篭めにされた己の無力が口惜しいのだ。
おお、無情なり。乙女の涙はなにひとつ終末を変えられはしないのか?
――否、見るがいい。弾幕を潜り抜け来たるいくつもの影を見よ!
「……本当に、しつこい連中だ」
黒衣の男はばさばさと風にコートをはためかせ、軍帽の下から敵を睨みつけた。
決死の覚悟で己を討たんとする、猟兵どもの忌々しい姿を……!
BRATATATATATAT! BRATATATATATATATATATATAT!!
人間数人を撃ち落とすには過剰すぎる弾幕が、猟兵たちの道を阻む。
しかしそれすらも凌駕するのが猟兵であり、彼らの使うユーベルコードの力だ。
たとえば李・桃花は、内力によって軽気功を発揮し、弾丸から弾丸を跳ぶ!
「往生際が悪い、しかもしぶとい……おまけに数まで多いと来たか!
まるでゴキブリね! いいえ、ゴキブリのほうがまだマシだわっ!!」
桃花は不快げに眉根を顰め、第六感を駆使して砲弾の角度を見切る。
飛来する機関砲は円を描くように掌を滑らせることで気功で"そらし"、
巨大な砲弾を足場として跳ぶ。飛行船の高度までたどり着けばこっちのものだ。
しかし敵も、それを理解している。ゆえに上向くほどに弾幕は厚くなる!
「これだけの戦力を喚び出せるくせに、それでやることが国家転覆のテロ行為?
まったく見下げ果てたもんだわ! 戦争なんて誰も望んじゃないのよっ!!」
オブリビオンに説得は通じまい。だが彼女は叫ばずにいられなかった。
この世界――サクラミラージュのオブリビオン……すなわち"影朧"は、
他の世界と違い「転生」という形での魂の救済が約束されている。
死者としての彼らの慚愧、あるいは無念を晴らしてやれば、幻朧桜がそれに応える。
哀しみや怒りを抱えた死者ならば、言葉によってそれを拭い去れよう。
しかし、こいつらは「違う」。こいつらに、憎悪や憤怒は存在しない。
風が風ゆえに吹き抜け、水が水ゆえに流れこぼれ落ちるように、
"そういうもの"だから戦争を求め、世界を破壊しようとしているのだ。
これが、これが狂気か。戦争という人間の狂気が生み出した残骸か!
平和な村で生まれ育った娘に、戦争がもたらす哀しみと恐怖はわからぬ。
しかし、それが何も生み出さないこと、誰も望まないことはわかりきっている。
理由なく哀しみを振りまく悪を叩き潰す、それが彼女の戦う理由なのだから!
(けど、弾幕が厚すぎるわね……これじゃあ辿り着きたくても埒が明かない!)
彼女は己の達人としての技を疑ったことはない。しかし口惜しさは感じていた。
鍛え上げた拳は弾丸を払えても、空を飛ぶ船を大地から落とすことは出来ぬ。
練り上げた気は砲弾をいなせても、砲火が撒き散らす恐怖は払えぬ。
己のみでは敵には届かない――だが、同じ猟兵の力があれば!
戦争の亡霊どもの無法に対し、怒りを燃やしているのは桃花だけではなかった。
リーオ・ヘクスマキナもまた、一般人を巻き込むような外道どもに怒っていたのだ。
「あんたらの頭には国際法とか交戦規定とかないの!? あるわけないか!!
……赤ずきんさん、俺かなり怒ったよ。あいつら全員ぶちのめしてやろう!」
リーオの言葉に『赤ずきん』はこくりと頷き、植物の種をばら撒いた。
それらは地面に植え付けられた瞬間に、すさまじい速度で生長していく。
まさしく寓話の豆の木めいた速度と、飛行船すら巻き込むほどの巨大さ!
「数に任せて空に展開したからって、追いすがる手がないと思うなよ!」
リーオはめきめきと音を立てて成長する豆の木の葉を足場に空を目指す。
無数の枝葉を伸ばす豆の木は、空に至るための足場であり急ごしらえの防壁だ。
突然戦闘空域のど真ん中に極太の樹木がいくつも生えたとあっては、
相手も枝葉に貫かれぬよう軌道を変更せざるを得ず、弾幕も一時的に薄らぐ。
「どんどん伸びろ豆の木よ、あんな奴らの飛行船よりもっと高く、大きく!
この手を届かせてもまだまだ、もっともっとだ! どこまでも伸びていけ!」
リーオは葉から葉を跳び、ひたすらに高みを目指した。
敵は豆の木をへし折ろうと攻撃していたが、その成果が薄いと見るや、
術者であるリーオ自身を叩き落とそうと狙いを変え、再び砲火を燃やす!
BRATATATATATATA!! BRATATATATATATATAT!!
「赤ずきんさんっ!!」
リーオの叫びに応じ、『赤ずきん』が剣鉈で弾丸を切り払い、散弾銃をばらまく。
しかし焼け石に水だ。やはり飛行船そのものを落とさねば……!
「どうしたもんかな……って、えええええっ!?」
「ちょっと、いきなり木が生えたら今度は――巨大ロボットぉ!?」
その時、リーオは――やや遠方で立ち往生していた桃花も、驚愕した。
突如として炎の中から鋼の騎士というべき機械の神が出現し、弾幕を相殺!
さらに輝ける魔剣を振るえば、飛行船の火砲が次々と爆散したからだ!
「これぞ僕の切り札、化身機装〈火廣鐵(ヒヒイロカネ)〉、ってね!」
それは、露木・鬼燈が招来したまさしく"無敵"の機械神であった。
彼が無敵と信じ駆る限り、いかなる弾丸も刃も盾を貫くことは出来ない。
想像より創造されし鋼の騎神が、その刃で燃え盛る空を斬り裂く!
『砲撃をあのデカブツに集中させろ! カトンボ一匹、撃ち落とせぇ!』
「ふーん、たかが一個大隊で僕の機装を堕とせるって? 甘い甘い!」
ごおうっ!! と呪いの炎をバーニア噴射し、騎神は砲撃を軽やかに回避。
そして単装砲ごと飛行船の気嚢を叩き斬り、勢いを得て次の飛行船に飛びかかった!
「機動力でこちらをかいくぐりに来たか……なるほど、小賢しい」
飛行船に乗り込んだ黒衣の男は、弾幕の中を飛翔する騎神を睨み、舌打ちした。
いかに飛行船団が物量を擁していようと、これらは所詮創造されたかりそめの兵隊。
術者である司令官こそがその中核であり、また限界でもある。
ゆえに――鬼燈のような、単一で突出した猟兵の戦力が物量を上回るのだ!
「撃ち落とされたってその瞬間に新しい機体を創造してやればいいのですよ!
そんなわけで、僕が突破口を作ってあげるから、あとはみんなにおまかせっ!」
BRATATATATATA!! ZZZZZMMMMM……KRA-TOOOOM!!
新たに召喚された飛行船を真っ二つに斬り裂き、鬼燈はにやりと笑った。
大団円をもたらすご都合主義のデウスエクスマキナは、逆境の中でこそ輝く。
圧倒的物量不利のいまこそ、ヒヒイロカネの輝きは空を照らすのだ!
「いいね、やりやすくなってきた! 俺たちも負けてられないよ、赤ずきんさん!」
リーオもまた不敵に笑い、ついに飛行船に到達した豆の木から機体に着地。
貫通弾を装填したライフル弾で、飛行船の多重装甲をぶち抜き四散させる!
爆炎を噴き上げて落下していく飛行船……しかしその残骸が、
地上の人里に堕ちるようなことはない。空中で爆散、もしくは辺境で燃え上がる。
「コラテラルダメージを抑えることも出来ない猪武者とは違うんだよねぇ!」
BLAMBLAMBLAMN!! リーオは『赤ずきん』と背中合わせに、踊るように戦う!
「……忌々しい猟兵どもめ、やはり私自ら出なければならんか……!」
「きゃっ!」
チエを手近な部下に任せて突き飛ばし、司令官は飛行船の外に出た。
敵が突出した兵力によって物量を覆すならば、同じ特記戦力として叩き潰せばよい。
ユーベルコード使い同士の戦いは、しばしば破滅的に戦場を拡げつつも、
えてしてこのように術者同士の戦いに終始するものだ。
黒衣の男は飛翔する騎神に狙いを定め――ようとして、弾かれたように振り返った。
ライフルを持つのと別の手でサーベルを引き抜き、不意打ちの剣を迎え撃つ!
ガギン――!! と、鋼同士が打ち合い、空に火花を散らした。
「あら、目ざといわねぇ。瓦礫の山の大将にしてはいいカンしてるわぁ」
「……小娘が……!!」
忌々しげな男の声に、アナスタシア・ムスハルトは華やかに笑った。
密かに戦乱の影から飛行船に忍び込んだ彼女は、指揮官の首だけを狙っていたのだ。
しかし、不意討ちはこの通り見切られた。――それも、アナスタシアの想定通り。
彼女は忍びでもなければ斥候(スカウト)でもない。あくまで剣豪だ。
いわばこれは、敵の剣の腕を確かめる小手調べのようなものである。
「このくらいで斃れるようじゃ、ここまでいいようにされた恨みも晴れないわぁ。
――指揮官らしい腕前、披露してくれるんでしょお? 楽しみねぇ!」
「ちぃ……っ!!」
アナスタシアは金色の瞳を爛々と輝かせ、凄まじい勢いで斬りつけた。
重い! 黒衣の男は瞠目した。小柄な体躯でありながらなんたる膂力!
ドワーフであることを差し引いても、この剣の腕はあまりにも……!
「――隙ありね」
「!!」
声は背後からした。そして男は、己の首を伐られたのだと理解する。
遅れてヒュカッ、と大気が斬られる音が響き、男の首は大地へと――。
『この程度で、私の狂気が払えるものか』
「!!」
今度はアナスタシアが振り返り、剣を受け止める番だった。
たしかに首を落としたはず。手応えはあった、あれは間違いなく致命傷だ。
しかし! 男は相変わらず陰気な笑みを浮かべ、サーベルを撃ち込んできたのである!
しかもその剣の意気は、いましがたの撃ち合いよりも上回っている……!
「――それがあなたのユーベルコードかしらぁ? 斬りがいがあるわねぇ」
『ほう? 私を殺し尽くせると? なるほどおしゃまなお嬢さんだ』
「女は淑やかであるべしなんてのは、化石の吐くセリフよっ!!」
ガ、ガ、ガ、ガ――ガギンッ!!
「これで、二度目」
アナスタシアの豪剣は、サーベルの刀身もろとも男の首を刎ねた。
しかし彼女は止まらず打ち込む。首なしの屍体が三度目の撃剣を受け止めた!
そして時間が巻き戻るように、再び男の頭部は再生する……!
「猟兵さんっ!!」
兵士の手を振り切って外に出てきたチエは、アナスタシアの窮地に叫んだ。
しかしドワーフの娘は、凄絶なサーベルを払い、微笑みかける。
「大丈夫よぉ、だってこの男の剣には――なんの"重さ"も感じられないもの」
チエにはもはや目視できぬほどの剣舞。撃音が鼓膜をつんざく。
「あなたの幼馴染さんのほうが、よほど鋭くて重い剣を使ったわぁ!」
「……!!」
アナスタシアは涼やかな顔だ。一方、無限の再生能力を持つはずの男は、
一向に娘ひとりを斬れないことに苛立ち、顔を顰めていた。
実に業腹だ。たかが小娘ひとりに手をこまねかされるなど……!
一方、地上。
押しては盛り返しを繰り返す戦闘空域を見上げる、ガスマスクの男がひとり。
鮮やかな桜吹雪の中で、黒一色の男の姿は際立って異様だった。
「うんうん、よく見えるねぇ。地上(ここ)からのほうが見栄えがいいや」
アルナスル・アミューレンスはわざとらしく手でひさしを作り、言った。
はたして、彼はたったひとり、それも地上から何をしようというのか。
――その疑問に応えるように、片腕がごぼごぼと泡立ち膨れ上がった。
「拘束制御術式、開放」
膨れ上がった肉と無数の機械のコードが混ざり合い、そして融合していく。
グロテスクだが、どこか無機質な変異――偽神細胞による肉体の異形化。
一瞬のうちにして、アルナスルの片腕は巨大な多重砲身狙撃形態に変貌する!
アルナスルの体躯は190cmに手が届く長身だ、しかしその砲塔はといえば、
およそ彼の5倍――すなわち、9mをゆうに超える超・長大!
「死にぞこないの過去の亡霊、大願成就の泡沫の夢、ってとこかなぁ?
ならせめて――君たちの散りざまは、派手に彩ってあげるとしよう」
ググ、ゴコン――と重たい駆動音をあげて、砲身のバレルが回転する。
偽神細胞が励起・共振し、すさまじい破滅的エネルギーを砲身内に溜め込む。
128cm口径の砲身が、何もかもを滅殺する光に照らされ鈍く輝いた。
「その耳障りな戦争交響曲は"そこまで"だ。全部、暴威(コワ)してあげる」
ゴコン―ゴリ、ゴリゴリゴリ……メキメキメキメキメキ……!
砲塔はさらに裂けてねじれて膨れ上がり、およそ六十六の砲台に変わる。
もはや豆粒ほどに見えるアルナスルは、静かに言った。
「――さあ、排除の時間だ」
その瞬間、戦争交響曲を飲み込むような砲撃の多重奏が、大地から空をつんざいた――!
……KRA-TOOOOM!! KA-BOOOOOOM!!
「ぬうっ!?」
予想だにしない対空砲火の暴雨に晒され、蒸気飛行船が傾いだ。
その隙を逃すアナスタシアではない。正中線を真っ二つに斬り上げる!
「これで50回目ねぇ。まだやるかしら?」
「小娘、が……!!」
司令官は即座に肉体を逆行再生させ、再び斬りかかろうとした。
しかし横合いから弾丸めいて飛び込んできたのは、飛行船を足場に跳躍した桃花!
「オラオラ、年貢の納め時よ! さっさと骸の海に還りなさいっ!!」
「新手か!? 徒手空拳で私に挑むなど……ぬ、うううっ!!」
落下していく飛行船の爆炎を追い風とした回し蹴りが、男の頭部を破砕した。
桃花は勢いを殺さず、さらに蹴撃! 蹴撃!! 蹴撃!!!
「こっちはねえ、あんたらの好き勝手に苛立ってんのよ! 絶対に逃さないわ!
うら若い乙女を人質に取って勝ち誇った代償、その存在で支払いなさい!!」
「……これが、我らの天敵の力、か」
じりじりと間合いを詰める桃花とアナスタシアを睨み、男は苦み走った声で言った。
空と大地で荒れ狂う砲火は、奴の手勢を徐々に削り、無へと沈めていく……!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャガーノート・ジャック
★レグルス
(ザザッ)
成る程、銃弾の飽和攻撃。
大した物量だと言っておこう。
だが敢えて言うならば――
その程度で
アサルト
突撃とは生温い。
本当のアサルトタイムがどのようなものか、見せてやろう。
(ザザッ)
"EXP-ansion".
紡いだ経験に応じた武装更新を開始する。本機の知るアサルトが何を指すか――言うまでも無い。
データリンク:Shadow-Horizon.
凪の海の視覚機能を模倣(学習力×戦闘知識×見切り)。
武装複製・銃弾装填。戦闘準備完了。
(武器改造×狙撃×一斉発射×範囲攻撃)
――さて、敵までの道を切り拓くのは任せろ、ロク。
存分に敵の間を駆け回ると良い。支援する(援護射撃)。
(ザザッ)
ロク・ザイオン
★レグルス
(箱は止まる。ひとは助かる。
あとは、あの船だ)
"戦争"は、ひとの、縄張り争いのことだろ。
……巡らないものに、この森は渡さない。
いこう、ジャック。戦争をしよう。
後ろは任せた。おーば。
(襲い来る弾幕、銃剣の嵐は
【野生の勘】に【地形利用】、加えてジャックの援護で拓かれた道を擦り抜け撃ち落とし)
(……その乱れない弾筋は、何処かの誰かを思わせると、何処か片隅で思う)
(どのみち、負ける気はしない)
――逃がすものか。
("LIGHTNING"
向けた牙は病を決して逃さない
肉薄し【早業】で【焼却】する)
砲声と銃火に燃える空を見上げていると、あの時を思い出す。
猟兵となって最初の"戦争"――すなわち、銀河帝国攻略戦。
多くの戦士、あるいは人々と共に、無限じみた艦隊に挑んだあの日々。
そうだ、特に心強かったのは、誰であろうあの――あの、誰だ?
《――……?》
ジャガーノート・ジャックは、デジタルノイズめいて定かならぬ己の記憶に、
どれほど想起しようとしても決して浮かばぬ"誰か"に、違和感を覚えた。
おそらくこれは、あの電子の悪魔によって生まれた記憶の虫食いだ。
それはわかる。だが、なぜだろう。これは、"忘れてはならなかった"気がする。
単なる協力者とかではない。何かもっと重要な……。
「……ジャック」
《――ああ》
ロク・ザイオンの声に、ジャガーノートは我を取り戻した。
まだら状になった記憶のサルベージは、命綱なしの潜水のようなものだ。
無秩序に汲み上げられた記憶の密度が意識を抑圧し、最悪破壊してしまう。
どこかで電子の嗤笑が聞こえた気がして、ジャガーノートはかぶりを振った。
「……箱のひとは、助かる。あとは、あの船を、陥とすだけだ」
ロクは噛み砕くように言った。いまの目的意識を引き出すために。
彼女にとっては単なる確認行動だったが、ジャガーノートには有り難かった。
思い出せないなにかに固執する暇など、今の彼らにはないのだから。
一方、上空――蒸気飛行船隊旗艦、直上。
「っはあ、はあ……っ!!」
黒衣の男……『退役軍人』は脂汗を拭い、忌々しげに足元を叩いた。
猟兵。これほどまでに執拗に食らいついてくるとは。
そもそも列車ジャックを気取られた時点で作戦は半ば瓦解していたが、
こうも完膚なきなまでに何もかもを上回れてしまうとは、奴も思っていなかった。
「だが、まだだ……我々の戦争は終わらん、決して……!」
幽鬼のごとく双眸を燃やし、司令官は言った。
ここを逃れればまだ目はある。さらに兵力を増して万全の布陣を整えよう。
……たとえば『幻朧戦線』と接触し、人間どもを籠絡すれば――。
『指揮官殿! ほ、報告いたします!』
「……どうした」
『現在、地上より超高速で本船に飛来する物体あり! こ、これは――』
「なんでもいい、撃ち落とせ! 何のための銃弾だ、何のための砲口だ!」
『そ、それが……飛来物は、ただの女です! それもひとりきりなのです……!』
「……!!」
司令官は瞠目し、ばっと眼下を振り仰いだ。
報告通り、弾幕の間を稲妻じみてジグザグに飛翔する閃光が一条。
地上から対空砲撃と思しき火線がパッと輝くたび、随伴船が撃墜されていく。
あまりにも精密無比。しかも突撃してくるのは生身の人間だと?
「ありえん、こんなことは……!」
呻いた男の視線と、飛来物――つまり、ロクの眼差しが交錯した。
"逃すものか"。
「っ!!」
あの女はたしかにそう言った。否、そういう目をした!!
「全艦砲撃用意! なんでもいい、あの女を撃ち落とせぇっ!!」
BRATATATATATATATATAT……ドウドウドウドウ! 砲撃が加速する……!
《――足りんな》
地上。
たったひとりでロクの飛翔を支援するジャガーノートは、静かに言った。
精神は凪いでいる。あらゆる情報が削ぎ落ちて、戦闘空域だけが視えていた。
そして何もかもがわかる。砲台の数、狙い、発射タイミング、間隙。
《――その程度では、強襲(アサルト)などとは呼べはしない》
発射(ファイア)。稲妻の砲火がまた一隻の飛行船を撃墜する。
《――本機らの知る"強襲"がなんたるか、教えてやろう》
一発、また一発。死神の鎌じみた正確な射撃が敵陣を着実に切り崩す!
(やっぱり、あの時みたいだ)
飛翔するロクは思った。
銀河帝国攻略戦。己の"森"から、相棒に擲たれて飛び立ったあの日。
天の光はすべて戦友(とも)。相棒は、その記憶を憶えているだろうか?
「……ジャック」
口にした名は、相棒のものでもあり"彼"のものでもあり。
「おれは、もうひとりでも翔べるようになった。もっと多くの森を、守れるようになった」
司令官と思しき敵に肉薄する。刃が、意思に呼応して燃えた!
「巡らないものに、この森は渡さない――!!」
そして大気を焦がす円弧の一撃が、黒き病の首を――刈り取ったのだ!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佐々・夕辺
【桜梅】
「失礼します! 跳びますよ!」
女将を姫抱きして、チャーミングステップで一気に空を駆けのぼるわ
空も私の狩り場なの
……残念だったわね
「ご武運を!」
女将を敵陣の中へ送り届けたら、また走るわ
そのまま一気にチエさんをさらいにいく
彼女を取り戻せば、一気に戦況は楽になるはず!
敵の腕を折り散らす勢いで蹴りつけて、チエさんをキャッチ
すぐに離脱して安全な場所へ
「お怪我は? …全く、無茶をするのね」
「女将! 人質は確保しました!」
他にも女将の背中を狙うような卑怯者がいたら管狐で氷の属性+援護射撃
女将が突き進む剣なら、私は周囲を殲滅する吹雪になりましょう
私の桜に傷をつける輩は許さない
氷漬けになりなさい
千桜・エリシャ
【桜梅】
自爆に他人を巻き込むなんて迷惑なお話ですこと
三文芝居も飽きてきましたし
幕引きと参りましょう
夕辺さんに連れられ頭目の乗る飛行船へ
ふふ、なんだかお姫様になった気分ね
ありがとう
あとは作戦通りに
私に意識が向くように敵を斬りつけ隙を作って
さすが夕辺さん!頼りになりますわ!
さて、これで戦いやすくなったのではないかしら?
その首が落ちるまで私と踊ってくださいまし
エンディングの始まりよ
夕辺さんの援護を信じて突き進みましょう
多少の傷もなんのその
弾丸を斬り、剣戟をいなして
でもその銃や剣は邪魔ね?
死霊の手で腕を掴み
武器を奪ってしまいましょう
ハッピーエンドでは悪は滅びるものと決まっていますの
刃を首に一閃
左様なら
ざんざんと、狂い咲きの桜が燃え盛る空を彩っていた。
砲火が爆ぜるたびに舞い散る桜は、まるで臓物血のようでも爆炎の花びらでもある。
うっとりするような景色を見上げ、千桜・エリシャはくすりと笑った。
「ふふ、なんだかお姫様になった気分ね。ありがとう、夕辺さん」
「とんでもないです! こちらこそ突然失礼を……」
佐々・夕辺は控えめに言った。彼女は今、エリシャを両手で担いでいる。
お姫様のように掻き抱いて、大気を蹴って連続跳躍しているのだ。
あいにく妖狐である夕辺に翼はない。空を自在に飛翔することは出来ない。
――だが、狩人に翼は必要ない。獲物を刈り取る瞬発力さえあればいいのだ。
「空は私の狩場ですから。……目にもの見せてやりましょう」
「ええ。三文芝居も飽きてきてしまったもの」
夕辺が力強く大気を蹴るたび、混迷の戦闘空域がぐんぐんと近づいてくる。
彼女らが駆け抜けたすぐあとを、遅れて火線が薙ぎ払い爆炎が咲いた。
足を止めず跳躍する。三十一、三十二、三十三、三十四――!
艦隊旗艦が目と鼻の先にまで近づく。暴風の中必死に船体にしがみつくチエの姿!
「見つけた! 女将、ご武運を!!」
夕辺はエリシャを手放し(エリシャは軽やかに飛行船直上に着地した)、
三角飛びめいて角度をつけると、呆然とするチエに向かって手を伸ばした。
「チエさん、手を! この手に掴まって――」
「……猟兵さん、うしろっ!」
「!?」
夕辺は弾かれたように空中で身をひねり振り返る。視線の先に敵小隊!
いつの間に? 思考する暇もあらばこそ、彼女が防御するより先に敵は引き金を引いた。
旧時代のライフルが火を吹き、弾丸の雨が夕辺を横殴りに襲う――!
……ガギギギンッ!!
「まあ、お船だけじゃなくてこんなところにまで伏兵だなんて。いやらしい人」
その間に割って入り、桜花と胡蝶、そして刃によって弾幕を弾いたのは、
一足先に着地したエリシャであった。夕辺はほっと胸をなでおろす。
彼女はさらに天地反転して大気を蹴ろうとする……が、さらなる砲火。
チエに近づけない。……夕辺は歯噛みし、身をひねって甲板上に着地する。
敵はわざとチエを放置し、近づく猟兵を手勢で狙い撃ちしようとしていたのだ!
「目ざといお嬢さんがただ。もう少しのところだったというのに」
黒衣の男はにたりと笑い、召喚した部下の群れに一斉射撃を命じた。
BLAMBLAMBLAMBLAM!! エリシャは弾丸を斬り裂き一気に間合いを詰める!
「つれない方ね。そんなに戦いが恋しいならば、私と躍ってくださりませんこと?」
「あいにく不器用なものでね、ダンスは不得手なのだよ」
砲火を潜り抜けて振るわれた魔剣を、黒衣の男はサーベルで弾いた。
エリシャは意外な手応えに眉根を顰め、さらに二度撃ち込んでから距離を取る。
彼女ほどの剣豪ともなれば、一挙一動を見るだけで手の内はわかるもの。
……しかし、先頭車両で相対した時よりも、敵の力量が向上している……?
「そう。あなた――首を落とされるたびに、力を増すのね?」
エリシャはぞっとするような笑みの形に目を細めた。それはそれで、心地よい。
何度首を落とそうとしなない強敵。これほど心躍るものはあるまい!
「女将!」
「夕辺さん、こちらはおまかせを。多少手違いはありましたが――」
今度は黒衣の男が打ち込む! サーベルと魔剣が撃ち合い火花を散らした!
「敵の頭目は私が釘付けにしますわ。あなたはチエさんを!」
「……はい!」
夕辺は頷き、じりじりと包囲を固めつつある敵を睨んだ。
人質の完全救出こそ為らなかったが、敵の手管を潰せたことは大きい。
あとはこの包囲網を突破し、頭目との戦いにケリをつけるだけだ!
「かかれえっ!!」
「管狐よ、力を貸しなさい! すべてを殲滅する吹雪をっ!!」
びょおう、と極低温の風が吹き抜け、幻朧桜の花びらを凍りつかせた。
襲いかかろうとした敵の群れも氷像と化し、夕辺によって破砕される!
「ご、ごめんなさい、私が非力なせいで……」
「いいえ、大丈夫。――私の桜は、とっても強いのよ」
夕辺は申し訳無さそうなチエを振り返り、くすりと笑った。
エリシャと司令官の攻防は一進一退、剛と柔の対照的な戦いだ。
「ハッピーエンドでは、悪は滅びるものと決まっていますのよ?」
「それならば、君も潔く散るべきだと思うがね」
「――あら」
エリシャの浮かべた笑みは、およそヒーローのようなものではなかった。
「桜のお嬢さん。君からは私と同じ血の匂いを感じる。人でなしの匂いを」
「ふふ。気が合いますわね。嬉しくて反吐が出てしまいそう」
エリシャの剣気が鋭く細まる。乙女は腰を落とした。
「――鬼にだって、大団円を求める心くらいはありましてよ?」
二体の鬼はもはや常人には手が出せぬ剣舞を繰り広げる。
ごうごうと桜が舞い踊り、血風渦巻く戦場を彩った――!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
茜崎・トヲル
800に何かこだわりでもあるの? ミスター・ラストバタリオン。
ドイツは関係ない? そっかぁ。あんたの願いもおれには関係ないよ。
本当に関係のある人ってそういないよね。おれもきっと無関係の誰かだ。
ところでおれ、いつもは占い師してるんだけど。これがめっちゃ当たるんだよーもう百発百中。まるで言ったことが現実になってるみたいに。
おかげでおいしいものも食べられる。
あの船。ボスの船ね。すぐに気嚢が破れて墜落するよ。チエさんも船から落ちるけど、絶対に助かる。
予知もしたし、大槌もって乗り込もうかな。おれは敵意なんてここ百年一度だってもってない。足が壊れるくらいに力入れてジャンプすれば、船を渡って行けるかな。
スキアファール・イリャルギ
はぁ、空ですか
命懸けで飛び降りたと思ったら今度は飛び立てと
忙しないなぁ……(思わず素)
呪瘡包帯を引っ掛けて飛び移りますか
まぁやる事は変わりませんね
掃討はお任せを
敵の攻撃は怪奇の口で受け止めたり飲み込んだり
オーラ防御でなんとか凌ぐ
本当はさっさと別の技で燃やし尽くした方が手っ取り早い
でもおまえらの為に命を削るのが嫌になったんでね
だからそれ、貸してもらいます
過去の軍人らしく鉄砲玉で散れ
小銃や銃剣? 影の躰を変異させて作る
躰中に生やして全方位に撃ちながら
銃剣をひとつ躰から引っこ抜いて刺突していく
戦争はとっくに終わってんだよ
だから終わらすんだ
……あぁ、そうだ
守る為、謳歌の為――
生きてる私が終わらせよう
「おれねえ、いつもは占い師をしているんだ」
「へっ?」
空の災厄を見上げて震える乗客に、茜崎・トヲルは囁いた。
まるで子供が他愛ないひそひそ話を交わすような、いたずらっぽい表情で。
「百発百中って評判でさあ。言ったことはなんでも現実になるんだ」
「は、はあ……?」
恐怖のあまりに気が触れたのか、と乗客は首を傾げたが、違う。
トヲルは猟兵であり――恐怖で触れるような心は、とうに狂っていた。
「あの船」
トヲルは骨ばった指先で、ひときわ大きな蒸気飛行船を指差した。
「すぐに気嚢が破れて墜落するよ。チエさんも船から堕ちるけど、絶対助かる」
「えっ」
何を唐突に、と乗客は言おうとしたが、もうそこにはトヲルはいなかった。
……そして乗客は、ドオン、という盛大な爆音に再び空を見た。
あの男の指差していた飛行船が、派手な黒煙をあげていた。
「き、気嚢部で爆発! 船体角度、維持できません!」
『何が起きている!? 猟兵の攻撃か!』
「ち、違います……原因不明! なんらかのトラブルとしか……!」
「……そんなことが、ありえてたまるか!!」
飛行船甲板上、黒衣の男は通信機を握り潰し、歯ぎしりした。
こんなタイミングでのトラブル? ユーベルコヲドによるものでなくてなんだという。
飛行船を直接堕としにくるとは、人質の命が惜しくないか……1
「おい」
「――!」
出し抜けに背後からかけられた声に、男は訝しげに振り返った。
……そして眉根を顰める。そこには、"影"が立っていたからだ。
「……なんだ? お前は」
『おまえの"それ"を、貸してもらう』
"影"は――無数の口と目を持ち、人型めいているようにも曖昧模糊にも、
煮え立つようにも揺らめくようにも見える影は、指と思しき部位で示した。
『おまえらのために命を削るなんて、いくら頼まれても厭なこった。
だから、おまえらの"それ"で、おまえらが欲しいものをくれてやる』
ごぼごぼと"影"が泡立ち、そして生まれたのは……無数の、銃剣。
男が部下どもを召喚した瞬間、銃口が――火を噴いた!
「うおおおおおおっ!?」
『戦争はとっくに終わってんだよ。だからおまえらも"終わらせてやる"』
影は――スキアファール・イリャルギは、確固たる声音で言った。
『もう誰かが理不尽に苦しむ必要も、望まぬ戦いで命を落とす必要もない。
遺された人が涙する必要も、貧困に喘ぐ必要も、化け物が生まれることもない』
「何を、言う!! 戦争は必要だ、我らが起こすのだ! 永遠に、無限に!!」
『黙れ』
影男は言った。
『戦争は何も生まない。戦いは――"こんなもの"しか、生み出せない』
影が煮え立った。男は、怒っていた。
理不尽に。
理不尽をもたらそうとする敵に。
この醜い姿を見てもなお悔い改めることなき影朧に。
『私は化け物だ。どうしようもない怪奇で、誰にも受け入れられたりはしない。
――けど、ああ、そうだ。それでも、守るために、謳歌のために戦いは出来る』
ごめんなさい、という声が脳裏によぎった。
けれども、違う。
恥知らずにも自分が、誰かに言葉をかけられることを願うなら。
己が本当に欲しい言葉は、それは――。
「ありがとうねぇ」
『……』
影男は、呆然とした。直後、立ちはだかる兵を大鎚が薙ぎ払った。
へらへら笑いながら降り立ったのは、あの白髪のキマイラだった。
「直接乗り込もうと思ったけどさあ、おれひとりじゃ穴だらけになっちゃうし?
あんたが相手してくれて助かったよ。おかげでほら、綺麗に掃除できた」
『……はい』
影男は――スキアファールは、自分が現金なものだと思った。
求めた言葉を投げかけられただけで、こんなにも活力が満ちてくるとは。
「おれさ、占った以上は当てとかないとおまんま食い上げになっちゃうから」
歯噛みする男を見返して、トヲルは言った。
「だから、堕ちてもらうよ? この船には」
そして彼に吹く追い風めいて、影の弾雨が再び吹きすさぶ――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
橙樹・千織
何と、諦めの悪いことで
まぁ私達も逃がすつもりはありませんけど
【破魔】と【オーラ防御・激痛耐性】を纏って態勢を整えましょう
あまり長く飛ぶのは不得手なのですが
そうも言っていられません
【空中戦】で飛行船を踏み台にしつつ、迎撃しましょう
弾道を【見切り】躱して
可能なら弾を【なぎ払い】弾き返してみましょうか
戦争など何度も起こすものではない
砲塔を片っ端から【鎧砕き】で破壊
【歌唱】で亡霊達をマヒさせた後に斬捨てる
ああ、もう…邪魔だ、退け!
自分が進む道を確保し、味方が進む道を空けるため
敵を飛行船外に弾き出しましょうか
自らの軍だけで事を為すならまだしも
人質を取るなどもっての外
地に落ちて、光届かぬ程に深い海底へ沈め
リル・ルリ
🐟櫻沫
今度は空だなんて
今日の舞台は華やかでいい
ふふ
じゃあ行こうか
僕らはきっと正義ではないけれど
悪い奴を倒して人質を救い大団円―美しい花を咲かせよう
飛行船の中
踊るように歩む櫻は美しい
赤の女王の号令が響いたならば
まっかな舞台の幕開く
桜纏う君も綺麗だけど
刀振るい駆けて笑う君は満開に咲き誇る桜のよう
傷つけさせはしない
ずっと我慢してたんだ
存分に楽しんでおいで
嗚呼、怪我が治る?櫻は楽しそうだけど
面倒だ
今宵の演目は『薇の歌』
そう
《何もなかった》
そんな戦争なんて何処にもね
僕のすることは変わらない
泡沫のベールで櫻を守り抜き
響かせる歌声に鼓舞を添え櫻を彩る
戦好きって皆こうなの?
そんなしたらまた船が壊れてしまうよ
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
噫やっと!
さぁもっと!
桜として喰らうのも良いけれど
やっぱり首はね四肢を薙ぎ腹を裂き斬り散らすはいっとう素敵
正義も悪もどうでもよいわ
良きことをするの
お姫様を助けなきゃ
『さぁ!首をはねておしまい!』
甘やかな死に誘惑し
「赫華」
あいしあいましょう!
刀に込めるは破魔
心躍るわ
胸が高鳴るわ!
駆けて衝撃波と共になぎ払い、斬り祓い殺して蹂躙するわ
呪殺の桜嵐を纏い銃弾防ぎ、穿ち
攻撃を見切り躱したらカウンター
斬り殺す度に生命力を吸い取り喰らう
噫なかなか美味しいね
でも足りない
もっと殺(愛)させて!
リルの歌が私を彩ってくれるのだもの、素敵な舞台にしなくては
うふふ!死ぬまで殺してあげる!
あら
愉しくて良いでしょう?
橙樹・千織はうんざりした様子で頭を振り、また翼を羽ばたかせた。
もともと彼女の翼は、空を自在に飛び回れるほど飛行に向いていない。
せいぜい滑空やホバリングが関の山。長時間に飛行は……出来なくはないが、
彼女にとっては非常に"しんどい"ものだ。それを要求されるだけでうんざりする。
それ以上に千織を辟易させていたのは、ひとえに敵の生き汚さである。
指揮官である"黒衣の男"だけではない、この飛行戦隊、兵士の一体一体。
無限の戦争を求める亡霊どものことごとくが、現世に醜くへばりついていた。
実に……実に、鬱陶しい。この弾幕も、次から次に出てくる飛行船も、
そもそもそのヘドロじみた薄汚い性根も何もかも、癪に障る。
奴らの目指す先には"何もない"。勝利は何も生み出さず、敗北はなおのこと。
オブリビオンとは概してそういうものだが、こいつらの悪性は、
他のオブリビオンをはるかに越えている。常軌を逸してすらいた。
「ああ、もう……邪魔だ、退けっ!!」
大和撫子めいた上品さもかなぐり捨て、千織は苛立ちまじりに叫んだ。
砲塔を片っ端から叩き潰し、顔を覗かせた兵隊は素っ首を叩き斬る。
小規模な爆炎がいくつも咲いて、邪魔な飛行船がまた一隻地へ落ちていく。
「……いい加減、汚れの根を断つ必要がありそうですね」
千織が睨んだのは艦隊の旗艦――つまり、あの司令官が逃げ込んだ飛行船。
その飛行船はいま、あちこちから黒煙と炎を噴き出し、傾ぎつつあった。
「ありえん」
燃え盛る船内を、足早に歩く黒衣の男。
奴はドサクサの中で奪い返した門倉・チエの手首を掴み、カツカツと歩いていた。
「離して! まだ足掻くつもりなの? この卑怯者……!」
「ありえん、ありえん、ありえん……! 我が大隊を上回る練度? 火力?
物量も戦略も執念も士気も何もかも、私が上だ、我らが上のはずだ……!」
「……認められないのね。現実が」
チエの言葉に、指揮官はすさまじい形相で振り返った。
その凝視に息を呑みながらも、スタアの女は眦を決する。
「もうあなたに勝ち目はないわ。猟兵さんたちの意地が、上回ったのよ。
影朧に世を変えることなんて出来ない。あなたはここで……っ!!」
ぱしん、という乾いた音。男は、チエの頬を張っていた。
「……黙れ。私は終わらぬ。必ずこの世界に、再び戦乱を起こしてみせる。
何度でも、何度でもだ。戦争は終わらぬ、この世界が破滅するまでは――!」
「――最低ねぇ、あなた?」
艶やかな声に、黒衣の男は弾かれたように振り返った。
ごうごうと燃え盛る道の向こう、誘名・櫻宵が薄笑みを浮かべて立っている。
「そんなか弱い女の頬を張って、鬼のように目を怒らせて凄むだなんて。
乙女としても同じ男としても、軽蔑するわ。あなた、いよいよ地に落ちたわよ?」
「……猟兵か」
黒衣の男は滴るような声音で言い、チエを突き飛ばすとライフルを構えた。
「我が大隊よ、来い。こいつらを……なんだ?」
そしてユーベルコヲドを発動しようとして、違和感に顔を顰める。
己の号令に応じるべき者どもが、誰一人として現れない。
その気配すら、ない。なんだこれは? 何が起きて……?
「無敵の大隊。泰平の世を脅かす黒衣の兵士。戦争を望む亡霊ども――」
謳うような声音で、櫻宵の傍らに立つリル・ルリが言った。
「そんなものは、もう"いない"。だってここは、櫻の晴れ舞台だもの」
「ユーベルコヲド封じの歌かっ!! 小僧がッ!!」
BLAMN!! ……ライフルの弾丸は、櫻宵の剣によって切り払われる。
「私の前で、リルに手を出したわね」
櫻宵は微笑んでいた。だが、その眼はまるで笑っていなかった。
「噫――なんてこと。億度斬り裂いても足りないわ」
ちろりと赤い舌で唇を湿らせ、一歩、また一歩と間合いを詰める。
「兆に届いて垓を超えるまで、斬ってもいで裂いて割いて咲かせなきゃ!!」
鬼神のごとき勢いで間合いを詰め、首元狙いの一閃!
男はとっさにサーベルを掲げる――足りぬ! 鋼ごと首を伐られた!
「まず一度」
男は倒れながら首を再生させ、四足じみて踏みとどまると蹴りを放った。
櫻宵は桜を散らせながらこれを躱し、床に這う男めがけ剣を振り下ろす。
司令官は床を転がり回避、立ち上がりざま再びリルへの射撃――BLAMN!!
「櫻、やっちゃってよ」
水泡のヴェールが弾丸を弾く。リルは最初から弾丸など見ていない。
「ここが舞台のクライマックスだよ。悪いやつをやっつけちゃうんだ!」
「ええ、ええ、もちろんよ!」
撃剣! 男は折れたサーベルで受け止め、砕けると同時に手放す。
新たな剣がその手に現れ、ガギ、ガ、ガ、ガ、ガガガガッ!! と火花を散らした。
「噫! 足りない、足りない、足りないわ! もっともっと愛(ころ)させて!
素敵な歌が聞こえるの、素敵な歌が彩ってくれているの! ああ、だから――」
「物狂いめ!!」
「死ぬまで、あなたを殺(あい)させて?」
再び剣が男の首を刎ねた。チエは悲鳴をあげて壁際に後退する。
男は立ち上がり、ライフルを構え……がごんっ!! と壁が砕けた。
「何?」
「隙ありです!!」
燃え盛る装甲を叩き割って乱入したのは、千織であった。
薙刀は再生したての首を刎ね飛ばし、そして反撃の銃弾を弾く。
「あら、あらあらあら! これは嬉しいサプライズ、ねえリル!」
「うん。舞台にはハプニングが付き物だもの――けれど」
リルは風穴を見やり、こてんと首を傾げた。
「これじゃあ船が壊れてしまうよ。いいのかい、ふたりとも?」
「気にしませんよ。どのみち、陥としますもの」
「ふふ、いい顔をするのね千織は。目移りしてしまいそう」
櫻宵はねっとりとした声音で言いながら、彼女と並んで敵を見据える。
黒衣の男は脂汗を隠すように帽子を目深に被り直し、笑った。
「さながら私は悪の親玉かね? まったくぞっとしない」
「いいえ? ――あなたは、最後の祝宴に饗されるメインディッシュよ」
櫻宵の舌が再び唇を湿らせる。それが、第二ラウンドの開始の合図となった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
矢来・夕立
傭兵さん/f01612
目的:随伴艦の制圧
1.式紙で随伴艦に跳び乗る→制圧
2.矢来:他の船に移って奇襲
鳴宮:援護射撃
式紙を引っ掛けました。コレを縮めて飛行船へ飛び乗ります。
この紙垂を身体に縛っといてください跳びますよはい跳んだ。
ともかく一隻盗らないと話になりません。
初めに引っ掛けた艦が一番大事ですよ。最初だけは前に出てあげます。
一隻制圧したあとは別行動ですね。同じことを続けるだけですが。
『朽縄』や『幸守』を使って別の艦へ移動、内部へ潜入。
《闇に紛れて》【紙技・冬幸守】
殺せればよし、デッキへ逃げても七面鳥撃ちですよ。
射線が切れるようなら傭兵さんの方へ足場を渡して一緒に進みます。
はい蝙蝠。足場。
鳴宮・匡
◆夕立(f14904)と
周辺随伴艦の掃討を担当しよう
後顧の憂いを断つにこしたことはないしな
それじゃ、行動開始といくか――お前
跳ぶのはいいけどせめて返事を
…………進路上の敵だけ排除しておくよ
まずは最初に乗り移った先でのクリアリングを
敵数も多いだろうから、速度重視で次々に処理していく
殺し尽くしておかないと後が面倒だ
目と耳でしっかり撃ち漏らしがないか確認しておく
あとは夕立が乗り移った先での戦闘を援護
デッキに出てきたやつから順に撃ち殺していく
必要に応じて足場を別の飛行船へ移しつつ
この足場大丈夫なのか? いやいいけど
…………ところで主戦場を避けるのにはなんか意味があるのか?
いや、別になんでもいいけどさ
鷲生・嵯泉
全く、次から次へと手立てだけは整えていたと見える
だが如何な悪足掻きを続けようとも無駄だ
空とてお前達の領域では無いと教えてやろう
――騰蛇、もう一仕事だ
飛行船相手なら小回りも速度もお前が上
『目障りなデカブツを落とす』。構わん、好きなだけ暴れるが良い
細かな狙撃は火勢を上げて焼き尽かせてしまえ
砲弾等の大物は軌道を見切り衝撃波を当て、届かぬ様に先んじて爆発させる
騰蛇の体当たりに怪力乗せた斬撃重ね、機関部を叩き壊してくれよう
――云ったろう、遺さず蹂躙してくれる、と
人々の脅威と成るものなぞ、どれ1つだろうが遺さん、と
誓約は決して違えん、全て叩き墜としてくれる
お前達に残されているのは、地上へと墜ちる途だけだ
狭筵・桜人
さてさて残り一名の要救助者は、と……空ですか。
飛行船に乗り込んで支援に回ります。
のでハシゴくださいハシゴ!飛び乗れるワケないでしょう!
エレクトロレギオンを再召喚。
乙女を救いに敵将の元へ向かう彼らを送り届けますよ。
レギオンを弾除けの遮蔽物として猟兵に随行させます。
足場にして貰っても構いません。ま、脆いのはご愛嬌ってことで。
襲いくるのが砲撃のみとも限りませんし
迎撃用に分隊させた機体からの【援護射撃】も付けときますよ。大サービス。
目標はチエさんの救出です。
自分の身の安全くらい自分でどうにかしておきますとも。
「守ってくれ」なんて死んだって言いませんから。
「手貸してくれ」とは言うかもしれませんけどね!
ミザール・クローヴン
っははは!いいぞ、それでこそあの男の幼馴染み殿だ!
……強い女性だ、ならば余計に心を配る必要なし!
任せろ、おれ様達がこいつらの目論見全てを壊してやる!
列車の時同様に飛行船へと飛び乗ろう
何十何百と来ようが関係ない
余すことなく!おれ様達が倒すのだからな!
戦術思考を迎撃戦より殲滅戦仕様に変更、蹂躙してやろう!
砲弾は内蔵兵器で撃ち落とし、雑兵は【切り裂く黄金】にて奴等の心も体も叩き折る
幾度となく蘇ろうと、貴様ら自身の戦う意志が消えてしまえば意味はない
腑抜けた連中の牙など何人にも届かん!
貴様の戦争など知るか
国の為でも人々を護る為でもない
我欲に満ちた戦乱など地獄の底でやっていろ!
玉と砕けよ、花と散れ!!
フェルト・フィルファーデン
逃しはしないわよ……絶対に!
【空中戦ならお手の物よ。空を駆け敵を倒しチエ様を助け出す。
追いついたらUCを使い全力で戦うわ。超弩級戦力の力、見せてあげる。
……大丈夫よ、チエ様。今度こそ、絶対に助けるから。
わたしの騎士人形よ。この血を糧にわたしの力となって……!
双剣による高速の連撃(2回行動、早業】を囮に、大剣の一閃(薙ぎ払い】と鉄鎚の一撃(力溜め】で仕留めるわ。
敵の攻撃は【盾で受け、槍で反撃し貫いてあげる。(カウンター】
再生するならその命尽きるまで何度でもお相手するわ。根比べといきましょう?
……わたしの諦めの悪さ、思い知らせてあげる。
もう2度と、諦めてなるものですか!!
【激痛耐性x鼓舞x覚悟】
氏家・禄郎
閣下、戦争は終わったよ
戦争はもうないんだ
そして兵士は戦いの終わりを決める権利は無い
終わりにしよう、これは軍服を脱ぎ、ネクタイを締めたものができる数少ないことだ
『誇り』を持ってお相手しよう
大人数だ、おそらく君の能力をもってしてもしのぎ切れない
特殊な技能は要らない
拳銃を撃ちながら接近すればあとは殴り合いといこう
軍刀はコートでからめとり、小銃は【武器落とし】で叩き落す
あとは拳骨で十分だ
貴方は歪すぎたんだ、それ故に終わり方を見いだせず、テロに走った
かつてテロから戦争が始まったように
でも、戦争は終わったんだ
貴方はもう過去の存在だ、墓地にて眠れ……認識証は墓にもっていこう
敬礼と共に見送り
「――意味、ですか」
矢来・夕立は、ちらりと傍らの男を……鳴宮・匡を見やった。
「いや、別にどうでもいいんだけどさ。"らしくない"だろ」
「何がですか」
「主戦場を避けてるのだよ」
夕立はわざとらしく舌打ちした。もちろん反射的に出たものではない。
「時々くだらないこと気にしますよね、傭兵さんって」
「どうでもいいけど、って言っただろ」
ならどうして聴くんですか、とまでは夕立は言わなかった。
彼がそう言う時は、皮肉でもなんでもないことを夕立は知っているからだ。
「……そのほうが手間がかからないからですよ。実際スムーズでしょう」
「まあな」
彼らはいま、随伴飛行船の一隻に乗り込み、中から攻撃していた。
夕立が移動を担当し、乗り込み次第別行動を取って内部を制圧。
傭兵であるふたりの手並みは鮮やかであり、戦争の亡霊など鎧袖一触。
一通り片付けたあとは、機関部を暴走、自縛工作をしてから船を離れる。
すでにこの船で三隻目。次に向かおうという最中の会話であった。
「ただ、跳ぶ時はせめて返事をしろよ。唐突すぎるだろ」
「コンビネーションとか気にする系ですか? 戦隊もの見たとか?」
「そういう話じゃなくてさ……まあ、別にいいけど」
匡は嘆息し、それ以上の会話をやめた。
べらべらと喋っている暇はないし、この感じだと聞いても無駄だろう。
――それになんとなく、夕立があの旗艦を避けている理由はわからないでもない。
かつての己ならば、察するどころか類推することさえなかったろうが。
「じゃあはい、次行きましょう。足場出したんで、どうぞ」
「……この足場さ、本当に大丈夫なのか?」
「飛行船と一緒に心中したいなら止めませんよ」
式紙を飛び石めいて渡りながら跳んでいく夕立、匡はまた嘆息した。
死神とカゲの鉤爪は、着実に敵の戦力を削りつつある。
ただその軌道は、常に旗艦に近づくことなく、むしろ遠のいていた。
「……というわけで、矢来さん……あの眼鏡の人はまんまと隠れてると思いますよ」
一方、旗艦内部!
炎燃え盛る船内で、狭筵・桜人はわざとらしくおどけてみせた。
「対して私はきちんと人質救出に駆けつけたわけです! うーん模範的ですねえ!」
「……そう」
「あれ、やっぱり手要りませんでした? なら帰りますけど」
「帰れるならそうしてもいいわ。でもどうせ無理でしょう!?」
門倉・チエはうんざりした様子で言い、ひたすらに走る。
……然り、ふたりは走っていた。炎上する飛行船の内部を。
桜人は勇んで乗り込んできたのはいいものの、脱出に失敗。
落下しつつある飛行船内で、人質と逃げ回るハメになっていたのである!
「仕方ないじゃないですか、ていうかここまで来ただけでも十分すぎるでしょう!
私こういうアクションスターみたいな仕事苦手なんですから! 努力賞をですねえ!」
「ああもう、本当に猟兵さんなのあなた!?」
「自分でも割と疑問ですよ! 本当カッコつかないな私!!」
チエはぎゃんぎゃん騒ぐピンク頭を横目に睨んで、はあとため息をついた。
……彼女は以前、幼馴染に殺されかかるという目に遭った。
その折、桜人は私費で雇った夕立と共謀し、幼馴染・利鷹を"殺した"のである。
影朧甲冑のコクピットからわざわざ引きずり出し、衆目に晒すという行為。
チエにとっては、死者に鞭打ち冒涜するがごとき行為に見えた。
もちろんそれは、利鷹の『命を以て己の愚かさを反面教師としたい』という遺志あらばこそだと、彼女もわかっていたのだが――。
「……私、あなたを好きになれないわ」
「ンッフフ。そりゃそうでしょうね。なにせ」
「違うわ。利鷹さんを殺……いえ、ああしたことではなくて」
チエは息を切らせて立ち止まる。目の前には炎の壁。……桜人を見た。
「そうやって無理に剽げようとする、あなたのそのずる賢さが。気に入らないの」
「……そうですか」
桜人の笑みは変わらない。その意図は、チエには判じかねた。
「まあ私のことはいいでしょう。それよりさっさと船から降りないと――」
「「「いたぞ、あそこだ!」」」
「こういう状況だと、追いつかれるものなんですよねえ」
桜人とチエが振り返れば、そこには最後の大隊と黒衣の男がいた。
兵士の中には皮膚が焼け焦げ、骨や肉を顕にしている者も居る。
まさしく、亡霊。指揮官である男もまた、死人じみた土気色の表情で哂った。
「大したものだよ猟兵諸君。おかげで私が集めてきた戦力もすべてパァ、だ。
……しかし私は諦めない。私たちは諦められない! 戦争は必ず起こす!
そのためには、いくらか"手柄"が必要だろう。やや前時代的ではあるが」
サーベルがひゅん、と大気を斬り裂いた。
「身代金。それと、猟兵の首。……両方を狙うのは当然のことだろう?」
「私の首って大した値段になりませんよ? どうせならもっと強い人狙いましょう!」
「戯言を――!?」
黒衣の男が踏み込もうとした瞬間、側面の装甲が外側から爆ぜた!
右翼から飛び込んできたのは、翼を持つ巨大な蛇の魔物!
左翼から襲いかかったのは、電子の糸で操られるからくりの騎士達であった!
「騰蛇、薙ぎ払え。雑魚はお前に任せる」
「逃しはしないわ……! これ以上、好きにもさせないっ!!」
右翼から仕掛けたのは鷲生・嵯泉、蛇の魔物は彼が召喚した"騰蛇"である。
嵯泉は周囲を守る雑魚の相手を魔物に任せ、自らは背を蹴って跳躍。
愛剣を抜き放ち、兜割りめいて落下しながらの斬撃を指揮官に繰り出した!
指揮官はこの迅雷じみた一撃に対応し、サーベルで刃をいなして身を翻す。
そして距離を取りながらライフルを抜く……が、そこに騎士人形たちが割り込む!
「八つ裂きにしなさい、わたしの騎士たちよ!!」
フェルト・フィルファーデンは叫び、自らのいのちを燃やした。
いのちを燃やして輝く糸を通じ、妖精少女の魔力が騎士人形を賦活させる。
立て続けの弾丸を盾で弾き、槍兵による突撃! 黒衣の男は槍衾となる……が!
「足りんか。しぶとい男だ――だが、首を貰うぞ」
黒衣の男は即座に再生を行い、そしてその首を嵯泉が刎ね飛ばした。
ふたりを背後から襲おうとする親衛隊は、蛇の炎が焼き尽くしてしまう。
首を断たれた男はごろごろと地面を転がり……よろめきながら立ち上がる。
「もはや随伴船では足止めにもならんか。まったく、将が働かねばならんとは」
「減らず口はそこまでよ。アナタは絶対に、生かして返さない」
「ご挨拶だね妖精のお嬢さん。影朧には慈悲を見せるのが君たちの、ッ!!」
ガギンッ!! 嵯泉の油断ならぬ斬撃! サーベルで撃ち合い抗体
「……慈悲を以て転生させるのが、猟兵の基本方針と聞いたが」
「お前のような戦豚に、未練を捨てて転生する殊勝さは期待しておらん」
嵯泉は隻眼で敵を睨みつけ、陽炎をどよもすほどの剣気を放った。
「亡霊は亡霊としてここで死ね。お前の手勢は遺さず蹂躙してくれる。
人々の脅威となるものなどどれひとつ、なにひとつ、思想まで遺さん」
凄絶なる殺気が黒衣の男の全身を叩き、男は息を呑んで構えた。
「そうよ……わたしはもう、絶対に諦めない。誰かを救うことを、守ることを!
……アナタは知らないでしょう。けれども関係ないわ、今度こそ……!」
フェルトは決意を込めた表情で振り返り、チエを見て頷いた。
桜人は肩をすくめ、行きましょう、とスタアを急かす。
「……ありがとうございます!」
チエは微笑んで、フェルトと男の背中に感謝を投げかけた。
嵯泉は振り返らない。ただ、その殺気は敵にのみ向けられている。
「手勢もろとも、その生命を殺し尽くしてやる。覚悟するがいい」
「ありきたりな物語らしく、悪党は滅ぼしてあげるわ!」
「……小賢しい、猟兵どもが……!!」
黒衣の男は吐き捨て、さらなる手勢を召喚し、号令をかけた。
駆け出したチエと桜人の背後で、無数の銃声と剣戟音が響き渡る――!
そして桜人とチエはいきあたりばったりに脱出経路を選び、走った。
やがて彼らが出たのは……残念ながら、燃え盛る飛行船の甲板上であった。
「うーん、さすがは戦争狂。脱出用の気球とか都合のいいものはありませんでしたね」
「……いいえ。けど、代わりにもっと頼りになる人たちがいるわ」
チエの言葉に応えるように、すぐ近くの飛行船が爆炎を上げて堕ちていく。
そして炎の中から跳躍し降り立ったのは、ミザール・クローヴンであった。
「っははは! その表情、覚悟、いいな! ああ、実にいい、胸がすく気持ちだ!
こんな状況で諦めることなくここまで辿り着いた。貴様は強い女性だ、まったく」
「私のエスコートもあったと思うんですけど!?」
「ん? そうなのか?」
ミザールはきょとんとした顔で桜人を見て首をかしげた。
どうも、彼からすると、あまり桜人が護衛しているように見えなかったらしい。
「まあ、だとしてもだ。生き残ろうとあがいたのは彼女自身の意思がためだろう。
ならば問題はない。おれ様がやつらの目論見すべてを叩き潰せば済む話だ!」
それに、とミザールは彼方を見やる。己が飛び出した飛行船の残骸を。
……ちょうどその船体から、ばさばさといくつものコウモリが羽ばたき出た。
正しく言えば、コウモリを模した式紙が――言わずもがな、匡と夕立のものだ。
「帰りの足は他の猟兵が用意してくれている。つまりあとは、片付けだけだ」
ミザールは言い、チエと桜人の肩越しに背後を睨んだ。湧き出てくる敵!
彼は黄金爪をぎらりと輝かせ、疾風のごとき勢いで二人を飛び越える!
「さあ退け、亡霊ども! ここに貴様らの居場所は一寸とてありはしない!!
とっくに終わった戦争に取り憑かれた貴様らと、未来を求める我らの意思!
どちらが上かなど、一目でわかるだろうに。物分りの悪い連中だッ!!」
ミザールは笑っていた。怒りでもなく悲しみでもなく、喜びが彼を満たす。
なんと気持ちのいい戦場だ。こうも爽快な戦いはなかなかない。
あの男の無念は今もここにある。背中に重く、強く、のしかかっている。
だが見ろ! 己の戦いを見守り声援を飛ばすあの女の姿、その眼差し!
彼女は猟兵ではない。戦う力などかけらもなく、何の役にも立つまい。
……ああ! だがこれこそが、門倉・チエをスタアたらしめるものか!
幻朧戦線の阿呆どもが彼女を狙い、殺そうとした理由がよくわかる。
彼女はただそこにいて歌い、叫び、見届けるだけで、人々を鼓舞するのだ。
たとえ戦う力がなくとも――いいや、戦う力がないからこそ!
「誰かを背中の後ろに置いて戦うというのは、これほどに力が湧くものなのだな!!」
ミザールは初めて感じる満たされた気持ちに、笑わずにはいられなかった。
心臓が拍動するごとに力が湧く。燃えるような怒りではなく、
太陽の光のように眩しいほどの、どうしようもなく体を動かす力が!
「はあ、はあっ……!!」
そしてミザールが雑兵をあらかた蹴散らしたところで、そいつは出てきた。
立派な軍服はあちこちが切り裂かれ、土気色の表情はいよいよ死人じみて。
亡霊らしい威風と自信はどこへやら、蜘蛛糸にすがりつく亡者の如し。
……怒れる剣豪と少女の刃に寸刻みに刻まれ刻まれ尽くして、
無敵無敗であるはずの己の命を数百度と散らし、衰弱しきった指揮官であった。
「な、なぜだ。なぜ……一体何が、こうまで趨勢を分けた……!」
「――閣下。まだわからないか」
「……!!」
身構えるミザールたちの前に降り立ったのは、ひとりの探偵だった。
氏家・禄郎はミザールと桜人……そしてチエを振り返り、また男を見た。
「戦争は終わった。戦争はもうないんだ。あるのは平和だけだよ」
「……ならば、また起こせばいい。戦争を! 我らが生きるべき場所を!」
「"そう"なってしまったのは哀れに思うよ。けれどあえて言わせてもらおう」
探偵は言った。
「兵士は"戦うもの"だ。戦いを始めるものでもなければ、終わらせるものでもない。
兵士に、戦いの終わりを決める権利はない――終わったものは、特にね」
「……貴様、その目。その佇まい……戦場帰りだろう」
探偵は何も言わない。それが肯定を示していた。
「軍服を脱いだすくたれ者が! 分かったような口を叩くなッ!!」
「貴様……!」
怒り踏み出そうとしたミザールを、禄郎は手で制した。
「ごもっともだ、閣下。"僕"は軍服を脱ぎ、代わりにネクタイを締めた。
……だから今の"私"は、もう軍人じゃない。ただのしがない、探偵さ」
拳銃を取り出し、弾丸を込める。祈るように目を閉じた。
「探偵とは"真実を突きつけるもの"だ。良きにつけ、悪しきにつけ。
"Nothing hurts like the truth."(真実ほど傷つくほどはない)という言葉の通りさ」
だからこそ、と探偵は言い、銃口を突きつけた。
「あなたに真実を突きつけることは、私の――僕の役目だ」
「……真実、か。ならば、おれ様はあえて見届けようとも」
ミザールは言い、機械爪を下ろした。
探偵の背中に、猟兵とは別の――探偵としての信念を感じたからだ。
黒衣の男を追って船の外に出てきたフェルトも剣豪も、息を呑んだ。
誰も、ふたりの戦いに口を挟むことはしなかった――出来なかった。
「やめておいたほうがいいですよ」
一方、最後の随伴飛行船。
式紙を展開していた夕立は、銃を構えかけた匡に言った。
「あれはオレらの仕事の範囲外です。ああいう"こだわり"は」
「……わかってるよ。俺だって、昔とは違うからさ」
代わりに匡は、構えかけた銃弾で黒衣の男ではなく飛行船そのものを貫いた。
数百メートル以上の距離があり、かつ装甲の内部だというのに、
弾丸は精密に機関部を貫く。じきに、あの飛行船は爆発四散するだろう。
「俺にはあんなふうに、何かを貫いたり意地を張ることは出来ないけどさ」
「……それ、本気で言ってます?」
忍びの言葉に、傭兵は意外そうに見やった。
「むしろあなたほど、意地を張りそうな男はいませんと思いますけどね」
「……お前には、そう見えるのかもな」
匡は笑みめいた形に口を歪めて肩をすくめた。
もしそう見えるのならば、きっと"そう"なのだろう。
忍びは、口癖を――「ウソですよ」とは、言わなかったからだ。
かつての己ならば、どう思ったかわからないが……今の自分は。
「それならそれでいいさ」
なんとなく、胸がすくような気持ちを覚えた。
探偵と亡霊の戦いは、西部劇の決闘めいて一瞬で着いた。
拳銃の弾丸がサーベルを弾き、隠されていた小銃もステッキに弾かれる。
始まったのは殴り合いだ。互いの拳が顔面に叩き込まれ、しかし。
「がは……っ!!」
たたらを踏み膝を突いたのは、黒衣の男のほうだった。
「あなたは歪みすぎたんだ。……だから終わり方を見出せず、テロに走った」
探偵は弾かれた銃を拾い上げ、男に歩み寄った。
チエはその背中を見つめている。逃げることなく、まっすぐに。
「でも、戦争は終わったんだ。それが真実であり、今の世界だ、閣下」
「……私が為したことには、何一つ意味がなかったか」
「いいや」
かちゃり、と撃鉄を起こす。
「――あなたの意思は僕ら生きる者が受け継ぐ。"彼"のように」
脳裏によぎる男の姿。それは、探偵だけでなく誰もの脳裏に蘇った。
己の愚かさを認め、命を以て世にそれを示そうとしたどうしようもない男を。
戦いを近くで見守っていた男たちも、少女も、女も。
遠くの船を飛び立ち、避難のために足場を展開していた男たちも。
「さようなら、大佐。どうか安らかに」
BLAMN。
薬莢が、堕ちていく飛行船の装甲に跳ね……転がって、堕ちていった。
「……ところでさ」
式紙を足場にこちらへ来る猟兵たちを見ていた夕立は、匡の声に振り返った。
「俺達の仕事の範囲外って意味じゃ、"これ"こそまさに、じゃないか?」
匡はちらりと見やる。夕立が自ら展開したコウモリたちを。
落ち行く飛行船から、猟兵と人質を救い出すための手を。
「何言ってるんですか」
カゲはいつもどおりの鉄面皮で答え、そしてまた空を見た。
彼らが来るのが見える。見知った桃色頭と、あの乙女も。
「これはただの、うそつきの気まぐれですよ」
匡は何も言わず、ただ肩をすくめるのだった。
大成功
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