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しあわせ探しの自殺うさぎ

#UDCアース

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#UDCアース


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 男は言った。ボクがみんなを救ってあげよう。
 しあわせな死を運ぶため、白衣の男は闇を歩く。

 その者は嘆いた。俺は私は何故救われない?
 ただひたすら救いを求め、塊は闇を進む。

 女は願った。あそこへ行けばボクは救われるんだ!
 願いを叶えるべく、兎の乙女は闇を駆ける。

 三者三様、集まったのはただの偶然。
 けれどそこに何かがあるはず。
 だって、みんな救われたいのだから。


「集合お疲れ様。今回はなかなかハードな仕事を頼むことになりそうだ」
 手にした資料を確認しつつ、レン・デイドリーム(白昼夢の影法師・f13030)は猟兵達へと声をかける。その顔はどこか険しかった。
「皆にはUDCアースのとある廃屋へと向かってもらう。そこにUDC怪物が出現するから、それを討伐してきて欲しいんだ」
 廃屋では若者達が集まり、見よう見まねで何かの呪いをするようだ。「みんなでやれば幸福になれる」という怪しい代物だが、偶然にも呪いは成功してしまう。そしてそれに合わせてオブリビオンも姿を現すとの事だ。
 廃屋の内部には戦闘の支障になるものもない。思う存分戦っても大丈夫だろうとレンは付け足す。
「出てくるのは『ハピネスドクター』。他者に幸せな死を齎すオブリビオン。放っておけば彼の薬で若者達は殺される。必ず討伐してきてね」
 オブリビオンは猟兵の対処を優先するため、若者の事は気にしなくていい。あとでUDC組織が保護して然るべき対処も行うようだ。

「……でも、今回お願いしたいのはそれだけじゃない。ハピネスドクターの出現に合わせて別のオブリビオンもやってくるみたいだ。それらの討伐もお願いするよ」
 別のオブリビオンがハピネスドクターの出現を察知し、彼に何かを求めてやってくる。それらも討伐しきれば一件落着のようだ。
「やって来るオブリビオンはあまりハッキリは見えなかったけど、妙な気配があったというか……何だか生き急いでる雰囲気があったよ。どんな敵が出てくるか分からないけれど、用心していってね」

 説明を終え、レンは改めて猟兵達を見た。今度は落ち着いた笑顔を浮かべている。
「みんななら何が来ても大丈夫だよ。オブリビオンの討伐、よろしくお願いするね。それじゃあ気をつけて」


ささかまかまだ

 こんにちは、ささかまかまだです。
 今回はUDCアースでのお話です。
 連戦シナリオになります。がっつり戦う感じでも、心の内を吐き出す感じでも。

 一章は『ハピネスドクターとのボス戦』です。
 使用するユーベルコードに合わせ、見る幻覚の内容を教えて頂ければと思います。

 二章は集団戦、三章はボス戦です。
 敵の詳細は章の更新時に。
 一章に比べると純戦寄りですが、心情に寄せていただくのも面白いかなと思います。

 どの章からでも参加していただいて大丈夫ですし、特定の章だけ参加していただくのも歓迎です。
 進行状況や募集状況はマスターページに適宜記載していく予定です。

 それでは今回もよろしくお願いします。
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第1章 ボス戦 『ハピネスドクター』

POW   :    「苦しまなくていい、もう楽になっていいんだよ」
【しあわせな幻覚を伴う劇薬】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    「ボクと一緒に、みんな幸せになろう」
【幸せなまま自死に至る『幸福薬』】を給仕している間、戦場にいる幸せなまま自死に至る『幸福薬』を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    「だからキミ達には誰も救えないのだよ」
戦闘用の、自身と同じ強さの【かつて相手が救えなかった誰かの幻】と【かつて相手が諦めた過去の幻】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。

イラスト:乙川

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は冴木・蜜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 転送先の廃屋から悲鳴が聞こえる。儀式は既に完了しているようだ。
 廃屋内では震える若者達と白衣を着た男が向かい合っていた。白衣の方がオブリビオンだ。

「せっかく呼ばれたんだから、彼らを幸福にしようと思ったんだけど……」
 ゆっくりと、白衣の男は猟兵達の方を見る。
「先にキミ達を幸せにしよう」
 その表情に悪意はない。そこにあったのは穏やかな微笑みだった。
 しかし、その手に握っているフラスコからはやけに甘ったるい香りが漂っている。中身は幸福と死を齎す劇薬だ。

 彼は「幸福であること」を押し付け、そのための甘き死を振り撒く過去の存在。狂ってしまった救済者。
 その名は『ハピネスドクター』。
 まずは彼を倒し、押し付けられる幸福をはね除けなければ。
セプリオギナ・ユーラス
嗚呼、知っている。知っているとも。
誰も彼もを救うことなどできない。この手の届く範囲は限られている。この目の届く範囲は限られている。

──其れは手の姿をしている。無数の手。たすけてくれとこちらへ伸びてくる。すくえなかったものたちの手。

──其れは眼の姿をしている。二人を救うために見殺した一人。他の五人の治療のために見捨てた二人。あと十人を助けたくて診なかった五人。彼らの眼。どうして、と問いかける眼。

嗚呼、鬱陶しい。
「きえろ」「消えろ」
俺は、医者で、だから、
「死者に用はない」
過去め。まぼろしどもめ。

姿を変じ◆正六面体へ
狙いを定め、本体を見極めろ。死を生み出す過去を、消し去らねばならない。




「キミ達も若者達を救いに来たのだろう? けれど、彼らを救うのはボクだ。キミ達には誰も救えないのだよ」
「――嗚呼、知っている。知っているとも」
 堂々と言葉を紡ぐドクターに対し、同じく白衣を纏った猟兵が静かに答えた。
 彼の名前はセプリオギナ・ユーラス(賽は投げられた・f25430)。
 セプリオギナは人を救い、人を殺す。だからこそ見えるものがある。
「誰も彼もを救うことなどできない。この手の届く範囲は限られている。この目の届く範囲は限られている」
「思う所があるみたいだね。それじゃあ……キミの意見を聞かせてもらおうか」
 ドクターは小さな容器を手に取ると、それを思い切り床へと叩きつけた。飛び散った薬品は霧となり、ゆっくりとセプリオギナを包んでいく。
 霧の中から現れたのは――無数の手と眼。
 セプリオギナはこれが何かを知っている。これは、彼がすくえなかったもの達だ。

 小さな手は縋るように白衣を引っ張る。大きな手は力なくセプリオギナの肩を握った。
 先生、たすけて。この手を握って、引っ張って。

 ――嗚呼、鬱陶しい。きえろ、消えてしまえ。

 一対の眼がぽろぽろと涙を零す。どうして私じゃなくて、そっちの人を助けたの。
 四つの瞳が恨めしそうに視線を向ける。なんで私達を見殺しにしたの。
 十の視線がセプリオギナを突き刺す。せめて、少しでも先生が診てくれたのなら。どうして、なんで?

 これは確かに存在した過去。すくえなかった、諦めてきた人達のまぼろし。
 彼らの手を握り返さなかったのは俺だ。彼らを見捨てたのも俺だ。
 けれど、セプリオギナは医者なのだ。彼が目を向けるべきは過去ではない。

「死者に用はない」
 このまぼろしは、既に死んでしまった人達だ。
 医者が救うのは死者ではない。医者が救うのは今を生きている人達だ。
 いのちは平等なんかじゃない、そんな事はよく知っている。やるべき事を見失うな。賽は既に投げられているのだから。
 幻の霧を振り払いつつ、セプリオギナも黒い霧を纏っていく。
 そこから転がり落ちたのは人型の男ではなく――正六面体の黒い塊だった。
「わたくしは己の意志で“処置”させていただきます」
 先程までと違い、セプリオギナの口調は丁寧だ。けれどその本質に変わりはない。
 無数の手術道具を従えて、セプリオギナは廃墟の中を転がり回る。目指す先にいるのは倒すべき敵、偽りの幸福を施す医者だ。
 死を生み出す過去に用はない。ハピネスドクターこそがこの場における最大の癌。
 それなら、切除してしまえ。
「消え去るのは貴殿の方です」
 大小様々な鋏やメスがふわりと浮かんで、ドクター目掛けて飛んでいく。
 深々と突き刺さった刃は容易く彼の身体を切り裂いて、その度に鮮血が床を汚した。
「救いたがりも結構でしょうが……貴殿の治療法は見過ごせません」
 正六面体の姿のまま、セプリオギナはドクターを見る。この姿に瞳はないが、けれど視線を感じる事は出来るだろう。
 セプリオギナは同じ医者としてまっすぐと、過去の存在を見つめていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

トスカ・ベリル
しあわせに、なりたかったの
ばかみたいなこと、一緒にしてくれるともだち
隣に居るのは、しあわせじゃないの
(若者達を見送って)

ねえドクター、きみはこの質問に答えられる?
――ううん
それじゃ納得できない
喚んだ誰かさんに光を放ってもらうよ

しあわせなまま死ぬ薬?
うぅん、別に、飲んでもいいけど
じゃあ次の質問
わたしのしあわせを、きみが知ってるの?
――その答えで、満足すると思う?
わたしのしあわせを知らないきみの『幸福薬』なんて、要らない

わたし速さが5分の1になっても
誰かさんは動けるでしょ
誰かさんが動かなくても
光を5分の1にしたって
きみには届くでしょ

答え合わせ
わたしはもう、しあわせなの
わたしとして、ここに居るだけで




 トスカ・ベリル(潮彩カランド・f20443)はゆっくりと廃墟へ足を踏み入れる。
 彼女の視線の先には怯える若者達の姿があった。
 彼らがここで呪いをして、オブリビオンがやってきた。
 『みんなでやれば幸福になれる』という呪いは災いを呼び寄せてしまったけれど。
 トスカは思う。あの人達はしあわせだと思っていないのだろうかと。
 ばかみたいなおまじないでも一緒にできて笑い合える。
「そんな友達が隣に居るのは、しあわせじゃないの」
 ぽつりと呟きを零しつつ、トスカが次に見たのはドクターの方だ。

「ねえドクター、きみはこの質問に答えられる?」
「答えは簡単だよ。彼らには幸福が足りなかった。だからボクは彼らを救いに来たんだ」
 おかしなくらい真っ直ぐな答え。でもそれは望んでいたものじゃない。
 トスカの背後で、何かがゆらりと姿を現す。影から這い出てきたのは首のない男の英霊だった。
 英霊は手にした鍵を握りしめ、その先端をドクターへと向ける。そこから溢れた昏い光は放たれる時を待っていた。
「――ううん。それじゃ納得できない。別の答えを教えて、ドクター」
「それならこれはどうかな。ボク特製の『幸福薬』だよ。これならただの友情よりも確実にみんなを幸せに出来る」
 差し出されたのはカラフルな錠剤だった。
 飲めば幸せなまま死ねる薬。どうしようもない劇薬だけれど、これが彼にとっての救いなのだろう。

 薬を眺めつつ、小さく唸り声をあげるトスカ。その表情はどこかぼんやりとしつつ、瞳には静かな光が浮かんでいた。
「別に、飲んでもいいけど……じゃあ次の質問」
「ふむ。何かな?」
 トスカの言葉を待つドクターの表情は優しげだ。医師というのは皆こういう表情をするのだろうか。
 そんな彼へ、トスカは真っ直ぐ視線を向ける。
「わたしのしあわせを、きみが知ってるの?」
「知っているとも。キミもこの薬を飲めば分かるさ」
 薬を更に前へと突き出しつつ、ドクターがトスカへと迫った。
 動きは彼の方が速い。このままでは無理やり薬を飲まされてしまうだろう。
 けれどあの薬を飲む訳にはいかない。だって彼の答えに納得なんて出来ないのだから。
「――その答えで、満足すると思う? わたしのしあわせ、知らないんでしょ」
 トスカの動きが制限されても、呼び出された英霊には関係ない。
 更に英霊の動きが制限されたとしても、ここには何よりも速いものがある。
「わたしのしあわせを知らないきみの『幸福薬』なんて、要らない」
 否定の言葉と共に、英霊の鍵が光を放つ。
 何よりも速い流星が室内を駆け巡り、一気にドクターの身体を穿った。
 その衝撃に思わずドクターは蹲る。彼の顔にあったのは確かな戸惑いだ。
「……どうしてボクの救いを断るんだい? キミだって幸せを望んでいるんじゃ――」
「答え合わせ」
 ドクターの答えを遮る静かな声。けれど、そのトスカの声は今までで一番はっきりとしていた。
「わたしはもう、しあわせなの。わたしとして、ここに居るだけで」
 その答えが導き出せない相手からの救いなんていらない。
 彼女の答えを補強するように、英霊の鍵が再び輝く。二度目の流星は、より強く救いたがりの身体を貫いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

緋神・美麗
アドリブ・絡み歓迎

これまた厄介なのが出てきたわねぇ。無茶苦茶質悪いわ。こういうのは問答無用で即効型を着けなきゃね。
「あんたがやってることは薬で錯覚させたまま殺してるだけで誰も幸せに出来てないから。」

敵は広範囲型の毒ガス散布系、雷天使降臨で全身を覆い毒ガスを滅却、オーラ防御も重ねての防御膜とする
攻撃は超巨大電磁砲で行い周囲の毒ガスごと吹き飛ばす

「さて、予想だとまだほかにも来るっぽいけど、そっちはどんなのが来るのかしらねぇ。どうせろくなのじゃないんでしょうけど。」




「これまた厄介なのが出てきたわねぇ」
 セーラー服の裾を揺らし、緋神・美麗(白翼極光砲・f01866)もまた廃墟へと足を踏み入れていた。
 呼び出された邪神はなんとも質が悪いのだろう。
 対話は不可能、話を聞けば聞くほど泥沼に嵌ってしまう。この手の輩は速攻でカタをつけるに限るのだ。
「あんたがやってることは薬で錯覚させたまま殺してるだけ。誰も幸せに出来てないから」
 きっぱりと言い放つ美麗に対し、ドクターは穏やかな笑みを返す。
 彼の身体は傷つき始めているけれど、その表情には未だ余裕があった。
「それこそキミの思い込みだ。ボクはみんなを幸せにするよ。そしてキミには誰も救えない」
 ドクターは手にしたフラスコを傾け、入っていた薬品を散布していく。
 溢れた液体はあっという間に気体へと姿を変えて、美麗の方へと流れ始めていた。
「広範囲型の毒ガス散布……あれを吸い込む訳にもいかないわね。それなら……!」
 美麗が咄嗟に触れたのは指に嵌めていた超小型極光砲増幅器だ。
 装置がサイキックエナジーを雷へと変換すれば、その輝きが美麗を包んでいく。
「完全開放、天魔滅雷!」
 物質化した雷は更に姿を変えて、美麗を守る衣装と翼になっていた。
 雷天使降臨。これが彼女の戦闘スタイルだ。

 弾ける雷が火花をあげて、美麗へと迫る毒ガスを消し去っていく。
 どんなに危険な気体だろうと吸い込まなければ問題ない。更にサイキックエナジーを展開し、より強固な鎧を作り上げれば準備も万端だ。
「誰も救えないなんて、やってみないと分からない。それに、死ぬ事が幸せだなんて私は思えないわ」
「キミも救われてみたら分かるよ。さあ、拒まないで」
 美麗からの強い否定の言葉を聞いてもドクターの行動に変わりはない。
 彼は『幸福な死による救い』を本心から信じている。だから、しあわせな毒で皆を殺そうとする。
「ああ、やっぱり質が悪いわねぇ。押し付けられた幸せなんていらないのよ」
 美麗は周囲を見回し、廃墟の中を確認していく。
 ここは元々家屋だったのだろうか、いくつかの家具がそのまま放置されていた。あれはきっと使えるはずだ。
「だから、あなたには骸の海へ還ってもらうわ」
 雷の力で家具を自身へと引きつけつつ、美麗はドクターをキッと睨む。
 言葉で話しても分からない相手には行動で示すしかないのだ。
「チャージ、セット、いっせーのっ!!」
 美麗の雷は電磁誘導を引き起こし、その力が家具を凄まじい勢いで射出する。
 超巨大電磁砲による一撃はドクターが散布した薬品を、そして彼自身を思い切り吹き飛ばす!
 壁に叩きつけられたドクターは蹲り、呻き声と疑問の声を発している。

 そんな敵の様子を見つつ、美麗は事前に聞いていた話を思い出していた。
 この敵を倒しても、すぐに別のオブリビオンがやってくるとの事だが……。
「そっちはどんなのが来るのかしらねぇ。どうせろくなのじゃないんでしょうけど」
 どんな相手が来ようともやるべき事は変わらない。
 自身に宿った正義感を滾らせつつ、美麗は再び戦闘に没頭していった。

成功 🔵​🔵​🔴​

岩永・勘十郎
「もう、どうでも良い」

と敵の劇薬を吸った勘十郎に薬の効果が現れ、膝をついてぐったり。戦意喪失してしまう。敵もそれを見て勘十郎に近づき甘い言葉をかける。もう楽になれと。……だが

「なんてな」

その瞬間、だまし討ちと早業を駆使し居合斬りを繰り出す。この距離ならモロに直撃だ。敵はきっと「なぜ?」と思うはず。勘十郎は完璧に薬を吸ったのに。

「ワシの幸せって何だと思う? お前さんみたいな奴を叩き斬る事だ!」

そう、敵はしてはいけない事をした。彼の中に存在する“人斬りの鬼(しあわせ)”を呼び起こすという事を。

「人生ってのは不都合な事ばかりだ。でも、そんな負け戦を楽しまないとな?」

居合斬りで倒れた相手にそう語り掛け




「……まだここには幸せになっていない人がいる。ボクが救わないと」
 猟兵から受けた傷を押さえつつ、ドクターが薬を散布し始める。
 室内を覆っていくのは劇薬の霧。吸ってしまえば幸せな幻覚と共に死を齎す危険な薬だ。
「む、いかんな」
 その時ドクターの側に立っていたのは岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)だった。
 咄嗟に外套で口や鼻を覆ってみるも、霧が広がるのは予想よりも遥かに早い。薬は勘十郎の身体を侵し、彼から力を奪っていく。
 その結果――勘十郎は思わず膝をつき、ぐったりと頭を垂れてしまう。
「もう、どうでも良い」
 弱々しく呟かれる言葉。それを聞いてドクターは優しげな笑みを浮かべていた。
「そうだね。もう何もしなくていい。キミはこのまま幸せになればいい」
 まるで患者を慈しむようにドクターが歩み寄る。その度に霧が更に濃くなっていった。

 一歩、また一歩。気がつけばドクターは勘十郎の目の前に立っている。
「もう、楽になっていいんだよ」
 ドクターが手を伸ばし、そっと勘十郎の肩を叩こうとしてきた。
 これで彼は救われる。そう信じたドクターだったが――彼の予想は見事に裏切られる事となる。
「なんてな」
 ドクターの手が勘十郎の肩に触れるより速く、眩い一閃が暗い室内に煌めいた。
 勘十郎が軍刀『小銃兼正』を鞘から抜き放ち、居合斬りによってドクターを切り裂いたのだ。
 相手は完全に油断しており、距離も速度も十分。見事な一撃が相手の胴に叩き込まれ、鮮血が互いの身体を汚した。
「な……何故だ? キミは十分幸せに……」
「ワシの幸せって何だと思う? こうして膝をつき、全てを諦める事? いいや――」
 立ち上がりつつ、刀についた血を振り払う勘十郎。彼の顔に浮かんでいるのは明るいけれど、どこか獰猛な笑みだ。
「――お前さんみたいな奴を叩き斬る事だ!」
「そんな……そんな幸せがあるのか……?」
 かなりの量の血を失ったドクターは思わず倒れ伏す。先程までとは立場が逆転したような状態だ。

 ドクターは勘十郎の性質を見誤っていた。
 彼にとっての幸福は一般的な幸福とは異なっている。彼にとっての幸福は、内に眠る才を呼び起こす事だ。
 勘十郎の内にある幸福――それは『人斬りの鬼』としての幸せを呼び起こす事。
 全ての人がドクターの思うような幸福だけを抱いている訳ではない。たったそれだけ、答えは単純明快だ。
「そういう事もあるだろうよ。人生ってのは不都合な事ばかりだ。幸せも簡単には定義できん」
 刀を鞘に再び収めつつ、勘十郎はドクターを見下ろした。
 倒れ伏したこの男は何と悔しそうな顔をしているのだろう。そんな顔をしていては、そしてそんな気持ちではきっと誰も救えない。
 なら、どうすればいいか。勘十郎はそれをよく知っていた。
「でも、そんな負け戦を楽しまないとな?」
 再び笑みを浮かべる勘十郎だが、その表情は先程までとはまた違っている。
 そこにあったのは明るく眩しく――豪放磊落な彼の気質を現した、快活ば笑顔だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

影山・弘美
幸せ、幸せかぁ……
えーと、そうですね……

甘い匂いに誘われて、思い浮かべるのは甘いお菓子
好きなだけ食べていい、あれもこれも、全部
ダークセイヴァーの片田舎の生まれで、そういう食べ物とあまり接していなかった私にはそれだけで幸せです
あ、でも……一気に食べすぎちゃダメですね、鼻血が出ちゃった……

……いや、出してもらわなきゃ困るのよ
まったく、表の私はそういうところが弱いのよね
人の生命の雫である血こそがご馳走よ、私のような吸血鬼にはね
ふふん……よく見れば、美味しそうじゃない?
力で敵うと思わないことね、吸血鬼の私は強いのよ?
捕まえたら、拷問具で絞り取って吸いつくしてあげる
幸せにしたいなら血を捧げなさい?




「こんなはずでは、ボクはみんなを幸せにしなくては……」
 猟兵達から傷を受けつつもドクターは諦めない。
 彼にとっては身体的な傷よりも、皆が幸福を受け入れない事の方が苦痛なのだろう。
 そんなドクターの様子を見つつ、影山・弘美(吸血鬼恐怖症・f13961)は考え込んでいた。
「幸せ、幸せかぁ……」
 劇薬の霧はまだ室内を漂っている。
 甘い香りが鼻孔を擽り、思わず弘美の表情もとろんとし始めていた。

「えーと、そうですね……」
 自分にとっての幸福とは何だろう。
 考えて、考えて、頭に浮かんできたのは甘いお菓子だ。
 弘美の思考に合わせ、様々なお菓子が周囲を舞い踊った。
 クッキーにチョコレート、キャンディにケーキ。どれもが弘美の手に収まる時を待っている。
「わ……もしかして、これ全部食べていいんですか……?」
 夢のような光景に対し、幼い子どものように瞳を輝かせる弘美。
 彼女が生まれたのはダークセイヴァーの片田舎だ。
 自身に流れる血のせいで村人達からは疎まれ、村を出てからも生活に余裕があった訳ではない。
 だから、今目の前に広がる光景はとても幸せだ。
 小さなクッキーを手にとって、まずは一口。サクサクした食感と甘い香りが口の中に広がっていく。
「今度はこっち……選び放題なんて、素敵です」
 甘いものを次々手に取り、どんどん食べ進めていく弘美。
 その表情はとても幸せそうだけれど――結局これは幻だ。劇薬は既に彼女に負担を与えてしまっている。
「……あ、一気に食べ過ぎちゃった……」
 気がつくと鼻から血が溢れ、同時に頭がクラクラしだす。後悔しても、もう遅い。
「美味しいけど、これじゃあ……」
 甘い余韻を残しつつ、弘美の意識は深い闇へと落ちていく。

 現実の世界では、ドクターが倒れ伏した弘美を見守っていた。
「……よし、彼女は幸福に出来たね」
 ようやく一人救うことが出来た。その成果に満足しつつ、ドクターは次の患者へと目を向ける――はずだった。
 ぞくりと、冷たい何かが背中へと張り付くような感触がドクターを襲う。おかしい。そこには倒れ伏した少女しかいないはず。
「まったく、表の私はそういうところが弱いのよね」
 先程の少女の声。だけど明らかに何かが違う。
 思わずドクターが振り向けば、弘美は確かに倒れたままだ。しかし――その隣に、もう一人弘美が立っている。
「表の私が甘いものを好むように、私のような吸血鬼にとっては生命の雫である血こそがご馳走よ。その点……あなたも美味しそうじゃない?」
 もう一人の、吸血鬼としての弘美が笑う。彼女の赤い瞳は真っ直ぐにドクターを捉えていた。
「一体、これは……?」
「私も幸せにしてくれるのでしょう?」
 驚くドクターに対し、弘美は思い切り拷問具を投げ飛ばす。その刃がドクターの身体を切り刻み、溢れる血は拷問具へと吸い込まれていった。
 更にその血を啜りつつ、弘美は満面の笑みを浮かべている。
「幸せにしたいなら血を捧げなさい?」
 凄まじい勢いで血を奪われるドクターにその言葉は聞こえていないだろう。
 血を搾り取りきれば、ドクターの身体を床へと放り投げて。幻ではない確かな食事が彼女へ活力を取り戻させていた。
「あなた自身の身体で私を幸せに出来たのよ。満足しなさいな」
 くすくすと笑みを零しつつ、弘美はドクターを見下ろしている。
 押し付けられた幸福はいらない。欲しいものは自分で手に取る。血の宿命を宿した少女には、それが出来るだけの力があった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鬼桐・相馬
俺は押し付けられた幸福はいらないよ。

【POW】
幻覚で何が見えるかは分かっている、研究施設の皆と共に過ごす光景だろう。
穏やかだが怒ると怖かった両親、歳が近くよく一緒に行動した羅刹の娘、様々な生物を合成して生まれたキメラ達、それぞれ個性があり面白かった研究員の皆。俺が力を制御できず暴走した時、彼らは自分の怪我など気にも留めず俺を助けてくれた。
何故施設だけ残し突然いなくなったのか、今も分からないんだ。

だからこそ幸せな幻想などいらない、俺は真実が知りたい。
正面から幻覚達を[冥府の槍]で[なぎ払い]そのまま[ダッシュ]、油断している敵にUC発動。

劇薬の毒性は[激痛耐性]で耐える。
この痛みだけが、現実だ。




「皆が幸福ではないのに、まだ足りないのか……?」
 再びドクターが薬を撒く。甘い霧は未だに猟兵達を蝕んで、彼らを幻の世界へと沈めていく。
 鬼桐・相馬(一角鬼の黒騎士・f23529)もまた霧の中に立ち、過ぎ去った幻を眺めていた。

 懐かしい声がする。
 相馬の眼に映ったのは彼にとって大切な人達だ。
 周囲の景色も生まれ育った研究施設へと様変わりしている。そして、相馬をよく知る人達は笑顔で彼を招いていた。
「この光景は……そうか」
 ゆっくりと彼らを見れば、少しだけ感傷的な気分にもなってしまう。
 時に優しく時に厳しく、自分を大切にしてくれた両親。彼らはあの時と変わらず相馬の事を待っている。
 よく遊んだ羅刹の娘は早くこっちにおいで、と手招きしている。彼女ときょうだいのように遊んだ事は忘れられない。
 周りには様々な生物の特徴を持ったキメラ達も待っていた。姿かたちは様々だけれど、皆とても良い人だったのはしっかりと覚えている。
 更に周囲には施設の研究員達が立っていた。彼らも自分にとても良くしてくれた。
 兄のように面倒を見てくれる人もいれば、教師のように様々な事を教えてくれた人もいる。
 そして彼らの誰しもが、命がけで相馬の事を支えてくれていた。
 相馬がまだ力の制御を出来なかった時に、怪我をする事を省みずに皆が助けてくれた事だって覚えてる。
 その時の皆の暖かさが、優しさが、今も自分を支えてくれているのだ。
 しかし――彼らは突然相馬の前から姿を消した。
 気がつくと施設の中には相馬だけが残っていた。両親や研究員達の消息は未だに分かっていない。

 けれど、今の相馬の目の前には懐かしい彼らが立っている。
 あの時にようにまた話そう。今度は何をしようか。誰もが昔と同じように笑顔を浮かべ、相馬の事を手招きしている。
 ――分かってる。これは偽物だ。
 頭は幸福に溺れそうだが、身体の方はどうだ。そちらへ意識を向ければ、毒が内臓を侵しているのが伝わってくる。
 痛い。けれどこの痛みこそが現実。相馬は歯を食いしばり、目の前の幻へと言葉をかけた。
「俺は、押し付けられた幸福はいらないよ」
 昔のように皆と過ごす。その光景は何度だって夢に見た。
 けれど、研究所で起きた真実を知らないままではいられない。それを知らずに偽物の幸せに溺れてなるものか。
 痛みを強く意識して、相馬はしっかりと身体の感覚を取り戻す。
「偽物とはいえ済まないが……退いてもらう!」
 しっかりと冥府の槍を握りしめ、そこに宿すのは悪意の炎。
 槍を目の前で大きく振るえば、炎と共に幻は淡く消え去った。
「何で……」
「油断したな。俺が欲しいのは真実の、本物の答えだけだ」
 真実を知れば傷つくかもしれない。後悔だってするかもしれない。けれど自分で掴んだものならば、いつかは納得出来るはずだ。
 そう信じ、幻を振り払いつつ相馬は走る。そして一気にドクターへと接近し――突き刺すのは青黒の炎を纏った刺突。
 ドクターは胴に大きな傷を負い、炎の衝撃で大きく吹き飛ぶ。揺らめく炎は蜃気楼のように曖昧だ。
 けれど、その一撃に籠められていたのは現実へと立ち向かう確かな力だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御手洗・暖悟
なんだ、此処は…此処は屋内じゃなかったのかよ?

逢魔が時の下俺は立っている。目前に湖、背後にキャンプ、鬱蒼とした森…この光景は
目の前に2人の男女がいる、湖面に立って俺を見つめている

2人の顔を見て絶叫した。2人とも知る顔だった
男の首は無造作に掻き切られ
女は胴を無数の刃物で滅多刺しにされていて
どう見ても生きていられる訳ない風体で
あの森に潜んでいたあのクソッタレが2人をこんな風にした、俺の眼前で!!こんな所に2人を誘ってしまった俺の!!
「違う!悪気があった訳じゃ…許してくれぇぇぇ!!」
2人は俺の首に向かって腕を伸ばし
『影の追跡者』があの優男の首元に小さな引っ掻き傷を付けたのはそれとほぼ同時だった




 遠くで烏の鳴く声がした。
 涼しい風が頬を撫で、土や水の香りが鼻孔を擽る。
 そんな光景の中に御手洗・暖悟(仮面のマッドメカニック・f27021)は立っていた。
「なんだ、此処は……此処って屋内だっただろ……?」
 おかしい。先程まで自分は廃墟に立っていて、UDC怪物と対峙していたはずだ。
 しかし、彼が妙な薬を散布した瞬間。暖悟の意識は遠のいて、気がつけば別の場所へと立っていたのだ。

 暖悟はきょろきょろと周囲を見回し、状況を確認していく。
 時刻は逢魔が時。目の前には大きな湖。
 後ろを見ればキャンプ場と森が広がっている。それだけ見れば別段おかしな所はない。
 けれど、一つ気になる点がある。自分の目の前に人影が2つ見えるのだ。
 彼らは湖面に立っており、じぃっとこちらを見つめている。
 あれは誰だ?
 暖悟も彼らを見ようと目を凝らし――気づいた時には口から絶叫が溢れ出した。
 俺は、あの人達を知っている。
 目の前に立っていたのは暖悟のよく知る男女だった。
 男の方は首元を無造作に切り刻まれ、そこから真っ赤な何かがドクドクと滴り落ちている。
 女の方は胴体に何本もの切り傷を刻み込まれ、そこから鮮やかな色をした何かがこぼれ落ちていた。
 どう見ても生きていない。二人の表情は虚ろで、だけどどこか恨めしそうに暖悟を眺めている。

「ああ、そうだ。どこかのクソッタレが二人を、俺の目の前で、あぁ、あああ……」
 一度思い出してしまえば後は簡単。あの時の記憶が鮮明に蘇る。
 まるで映画のような光景。大切な人達が玩具のように壊れていき、最後には物言わぬ塊へと変わっていったあの光景。
 その状況を作ったのは、俺だ。
「違う! 悪気があった訳じゃ……」
 俺が二人を誘ったから。ちょっとした気晴らしのつもりだったんだ。ただ俺は二人に仲直りしてほしくて。なのに、なのに。
 友人達が、ゆっくりとこちらへと手を伸ばす。当然だ。俺があいつらを殺したんだ。恨まれて当然だ。
 思わず暖悟はその場にへたり込んだ。その時自分の影が揺れた事にも気付いていない。
 彼の意識は目の前の友人達へと向かっている。ゆっくりと、自分へと手を伸ばす友人達に。
「ゆるし、許して、許してくれぇぇぇ!!」
 暖悟の絶叫を物ともせずに、友人達の手は近づき続けた。
 そして二人の手は暖悟の首へと届き、ゆっくりと力が籠められていく。
 次第に呼吸が弱くなっていくのが分かる。そうだ、俺が彼らを殺したんだ。だから今度は俺の番――。

 しかし、暖悟の呼吸が止められる事はなかった。
 キャンプ場の幻は消え去り、廃墟の埃っぽい香りが現実を教えてくれる。
「はっ……俺、一体……?」
 後ろを振り向けば、ハピネスドクターが腕を押さえている。そして彼の傍らには――暖悟の影が立っていた。
 暖悟は無意識のうちに『影の追跡者』を召喚し、ドクターへ向けて攻撃を仕掛けていたのだ。
「無意識とはいえ、後悔に抗うか……」
 ドクターの言葉が耳に入る。どこまでが自分の意識で、どこまでが本能なのかは曖昧だ。
 首に残った感触は忘れられないが、今この場にいるなら現実には立ち向かうしかない。
 暖悟は呼吸を整えつつ、静かに決意を固めていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ナギ・ヌドゥー
中々お優しいドクターじゃないか。
安楽なる死はこの上ない幸せだ。
……だが生憎と己は安易な幸福を選んでいい人間ではない。
業深き者程、苦しみの中で死なねばならん。

オレの身体はそんな薬くらいじゃ幸福にはなれん
強化人間にはソレ専用の薬がある
【ドーピング】藥を大量投与
そしてユーベルコード発動
敵の能力で行動速度を落とされるなら、それ以上の超加速をするまでだ!
超スピードでドクターを斬りつける【先制攻撃・早業】
毒を塗った刃の斬撃だ【毒使い】
アンタが幸せになるまで何度も毒を抉りこんでやろう【傷口をえぐる】
毒が回り切るまでじっくりと幸福を噛み締めてくれ【恐怖を与える】




「猟兵の考えは分からないな。ボクはただ、皆一緒に幸せになって欲しいだけなのに」
 どれだけ傷が増えてもドクターに諦める気配はない。彼の内にあるのは只管な善意と狂気だけなのだろう。
 そんな彼の思想を感じ、ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)はどこか皮肉めいた笑みを浮かべていた。
「中々お優しいドクターじゃないか」
 安らかな死は誰しもが求めるものだ。
 この世に死に勝る祝福はなく、それが穏やかなものであるように誰も彼もが祈っている。ナギ自身だってそうだ。
 けれど、それが許されるかどうかは別の話だろう。
 自分の手は血によって散々汚れてきた。殺す人間に制約はかけているけれど、人を殺してきた事に変わりはない。
「……生憎と己は安易な幸福を選んでいい人間ではない。業深き者程、苦しみの中で死なねばならん」
「そんな事はないさ。キミだって幸せに死ぬ権利はある。ボクが導いてあげよう」
 ニコニコと笑みを浮かべ、ドクターが薬を差し出す。あの薬を飲めば、確かに幸せに死ねるのだろう。
 でも、オレが飲むべきはあの薬じゃない。自分がこれまでに、これからも飲んでいく薬はあんなものじゃないはずだ。
 ドクターから差し出された薬を払い除け、ナギは懐から小さなケースを取り出した。
 中に籠められているのは強化人間専用の薬剤。それを一気に口へと掻き込み、勢いよく飲み込んで。
 薬剤はすぐに身体の中へと溶け込んで、ナギの感覚を研ぎ澄ましていく。

「医師からもらった薬は素直に受け取るべきだ。予備はまだあるよ。さあ、飲んで」
 ナギが立ち向かう様子を見せれば、ドクターも強硬手段に出たようだ。
 手にした試験管を傾けて毒薬を散布していけば、生み出される霧がナギの周囲を取り囲んでいく。
 この霧自体に直接命を蝕む力はない。けれど緩やかな毒が身体を侵し、その動きを制限してしまうようだ。
「この薬を飲めば楽になれる。抵抗するなら無理矢理にでも飲んでもらうよ」
 霧の中をドクターが進んでいくのが見える。このままでは相手がこちらへ接近しきって、無理やり薬を飲まされてしまうだろう。
 それなら相手より速く動けばいい。そのために先程の薬を飲んだのだ。
「動きを制限すれば勝てるとでも? それなら――オレの方が速く動く!」
 過剰なまでのドーピングはナギの身体を大きく刺激していた。
 命を削るような薬効は凄まじい力を与え、毒霧の中でも普段以上の速度で動く事が出来ている。
 ドクターが接近するより速く、ナギが彼の方へと駆けた。
 驚くドクターの眼に映ったのは――赤黒く汚れた鉈の刃だ。
 ナギは一気に鉈を振り、ドクターの胴を切り刻む。鈍く輝く刃は更に血によって彩られていった。
「そんな……!?」
「アンタ好みにしておいた。存分に楽しめよ」
 ドクターが驚いているのはナギの接近が速かったからだけではない。刃に塗られた毒が自分を蝕んでいるのが分かったからだ。
 驚く相手へ向けて更に一閃。乾いた笑みと共に振るわれる斬撃が、何度もドクターの身を刻む。
「毒によって幸福に死んでいく。そういうのが好みなんだろ。じっくりと噛み締めてくれ」
 トドメとばかりに振るわれた一撃により、ドクターの身体は霧の中へと飛んでいく。
 ドクターが味わったのは確かな恐怖。毒により、じわじわと命が消えていく感触。それを身を以て知る事になるのだ。
 結局彼も他者を傷つける事を厭わない存在。それなら好きなだけ刃を振るえる。
 逃げる獲物を追うように、ナギも再び霧の中へと潜っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リゥ・ズゥ
アドリブ歓迎

リゥ・ズゥは、幸福など、知らない。不幸も、わからない。
幸せとは、なんだ。
飢えが満ちる、ことか。
渇きが潤う、ことか。
敵(オマエ)を、喰らうこと、か。
リゥ・ズゥに、ソレを教えられる、のか。

彼は怪物である。
彼は悪魔である。
彼は異形である。
彼は、無垢であった。
だから、幸せという概念は彼にはわからない。故に、知らぬものの幻覚など見ることは出来ない。

怪物は、幸福を求めない。
悪魔は、幸福を解さない。

ただ目の前の獲物に襲い掛かり、喰らいつき、奪い尽くすのみ。




 ハピネスドクターは気付いていなかった。
 彼は「全ての人が幸福を求め、そのためにボクが導く」という思想の元に動いている。
 けれど、その前提が覆されたのなら。
 幸福を理解せず、求めず、ただ只管にこちらへ向かう存在がいるのなら。
 そんな可能性の存在を、ドクターは身を以て知る事となる。

 傷を押さえるドクターの前に、黒い異形が姿を現す。
 影のようなその存在は少しずつ人の形を取りながら、ドクターの事を見下ろしていた。
「キミも猟兵かい? それならボクが幸せに――」
「リゥ・ズゥは、幸福など、知らない」
 震えるような声が響く。声の主は黒い異形、リゥ・ズゥ(惣昏色・f00303)だ。
「幸せとは、なんだ」
「……まさかキミみたいな子がいるとは。大丈夫。ボクが教えてあげよう。幸せな気分のまま全てを終わらせよう」
 男からの返答を聞いてもリゥ・ズゥの中では納得がいかない。
 そもそも幸せな気分というのが分からないのだ。
 飢えが満ちる。渇きが潤う。その際に身体を巡る感触が幸福なのだろうか。
 それとも目の前に立つ敵を、この男を喰らう事が幸福なのか。
「その終わりで、リゥ・ズゥに、ソレを教えられる、のか」
「ああ。だから――さあ、この霧を吸って」
 ドクターは劇薬を散布して『幸福薬』の霧を作り出す。それがゆっくりとリゥ・ズゥの身体に染み込んでいくが――それでも何も変わらない。

 リゥ・ズゥの真っ赤な瞳に映るのはぼんやりとした霧と白衣の男だけ。
 リゥ・ズゥの様子を見てドクターも何か感じているようだ。
「キミは……何を見ているんだい?」
「リゥ・ズゥには、霧が見える。そして、お前が、見える」
 ドクターが感じた異変の正体。リゥ・ズゥは幸福に抗うどころか、幸福な幻覚すら見ていないのだ。
 何故なら彼は怪物であり、悪魔であり、異形だから。
 そして何より――リゥ・ズゥは『幸せ』という概念すら知らないくらい、無垢だから。
 分からないものは見えない。それに浸る必要もない。少しだけピリピリとした感覚が身体を蝕むだけだ。

「そんな馬鹿な、キミだって幸福を求めているはずなのに」
 唖然とするドクターに向けて、少し不思議そうな視線を向けるリゥ・ズゥ。
 二人の断絶はあまりにも大きくて、あまりにも平行線だった。
「何も、分からない。答えは、教えられない、のか」
 一歩、リゥ・ズゥが前に出る。それに合わせてドクターも後退するが、逃げ切る事は不可能だろう。
「出来ない、なら、お前は、いらない」
 最後の抵抗とばかりにドクターは後ろを振り向き、どこかへ逃げ去ろうとするが――動きはリゥ・ズゥの方が速い。
 黒い怪物は勢いよく床を蹴り、相手を喰らい殺す姿へと変身していく。
 そしてそのまま大きく口を開け、リゥ・ズゥは逃げる男の背に食らいついた。そのまま背中の肉を噛みちぎれば、哀れな悲鳴が室内に響き渡る。
 血肉の味がすぐに身体を満たしてくれるけれど、これが幸福かは分からなかった。
 リゥ・ズゥは捕食者だ。目の前に獲物がいるのなら、襲って奪って喰らうのが当たり前なのだから。
 そこにあるのは幸福ではなく、より原初的な本能だ。
 リゥ・ズゥは、そこから先をまだ知らない。

成功 🔵​🔵​🔴​

陽向・理玖
それは
もう戻らない…帰って来ない師と
その後に得た大切に思う仲間達の姿
大切な物が全て揃った幸せな幻

そう、師匠に
仲間を得た事
自分が師匠といた頃よりも
ずっと楽しいや嬉しいが分かるようになった事
見てほしいと
聞いてほしいと
もう1度会いたい、と
ずっと願っていた

けれど、もう
俺はそれが叶わない幻だと知っている

もう惑わされないと心に決めた

それを受け止めると覚悟した

だから
苦しくなんか…
いや
苦しくても俺は全部抱えて生きていくんだ

あんたになんか
俺の大事なもんを
穢されてたまるか

龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波撒き散らし残像纏いダッシュで一気に距離詰めグラップル
拳で殴る

その甘ったるい匂い
…胸くそ悪ぃ
UC




 ハピネスドクターの負った傷は相当のもので、戦いの終わりもいよいよ近付いている。
 けれど彼は最後まで諦めず――猟兵達を幸福な死へと導こうとしているようだ。
 ドクターの散布した劇薬がさらなる霧を生み出して、部屋の中に充満していく。
 その場に立っていた陽向・理玖(夏疾風・f22773)もまた、しあわせな幻覚に包まれていく事となる。

「……嘘、だろ」
 理玖の目の前に現れたのは、手に入らないはずの光景だった。
 自分を救い導いてくれた師匠が立っている。その周りには大切な仲間達の姿もあった。
 頭の中では分かってる。師匠はもういない。大切なものが全部揃う事はない。
 けれど、目の前には願っていた光景があった。
「俺、師匠にもう一度……もう一度会って話したい事があったんだ」
 師匠は笑顔で待ってくれている。無意識のうちに、足は前へと進んでいた。
 あの人に助け出された頃はまだ心が十分に動いてなくて。
 『楽しい』も『嬉しい』も曖昧な感触しかなかったけれど。今なら沢山の楽しいや嬉しいが胸の中に脈打っている。
 それを教えてくれたのは大切な仲間達だ。
 こんなに素敵な仲間と一緒に、正の感情を実感出来ている。
「あの時よりもずっとずっと、楽しいとか嬉しいとか思えてるって……そんな光景、師匠に見せたかったんだぜ」
 理玖の言葉に対し、師匠はうんうんと頷いている。その姿は記憶の中の師匠と全く変わりはない。
 だからこそ分かる。分かってしまう。これはもう叶わない夢なのだ。

「……でも、もう大丈夫だ。こんな所で惑わされてちゃ師匠に顔向け出来ないよな」
 微かに滲んだ涙を拭い、理玖はしっかりと幻の師匠を見た。
 苦しくなんかない、と思おうとした。でもやっぱりそれも無理だ。師匠の顔を見てしまえば、どうしても胸が苦しくなる。
 だからこそ全部受け止めよう。全部抱えて、もっともっと笑えるようになって。
 いつか師匠にもう一度会った時、思いの丈を吐けばいい。
 そのためにも――まずはこの思いを穢す存在を倒さなくては。
 だって理玖はヒーローだから。彼は大事なものを守り抜き、そして先へ進むべき存在なのだ。

「……いくぜ」
 霧の中で虹色が煌めく。片手に龍珠、片手に龍のバックル。
 二つの道具をしっかりセットし、あとは覚悟を決めるだけ!
「――変身ッ!」
 輝く装甲を纏いつつ、理玖はオブリビオンの姿を視認する。幻はもう見えないけれど、本物の師匠はきっとどこかで見守ってくれているはずだ。
 そのまま勢いよく加速し、拳を構えて前へと走る。
「その甘ったるい匂い……胸くそ悪ぃ」
 怒りの呟きと共に振るうは必殺の灰燼拳。
 突き出された拳はドクターの胴を貫き、そこから彼は霧のように解けていく。
 偽物の幸せはいらない。理不尽に齎される死は許せない。これが理玖の何よりの答えだ。
「(だから……俺は、もっと前に進まねぇと)」
 静かな決意と共に、偽りの救いを導く男との戦いは終わる。

 けれど戦いはまだ続く。
 次に現れるのは、救いを求めるモノ達だ。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『嘆き続けるモノ』

POW   :    何故俺は救われなかった?
質問と共に【多数の視線】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
SPD   :    誰も私を助けてくれない
自身と自身の装備、【自身と同じ感情を抱く】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
WIZ   :    僕を傷つけないで!
【悲しみに満ちた声】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。

イラスト:透人

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ハピネスドクターは消え去ったが、すぐにこの場には別のオブリビオンが姿を現す。
 ぺた、ぺた、と足音が響けば――そこに立っていたのは不気味な異形の存在だった。

「あいつが俺を救ってくれるんじゃなかったのか」
「結局私は救われない」
「どうして僕達ばかりが」

 異形達は悲しみ、嘆く。
 彼らは感情の塊。何かしらの事件に巻き込まれ、救われなかった存在達。
 その名は『嘆き続けるモノ』。彼らは救いを求め、ただ彷徨う。

 嘆き続けるモノ達はハピネスドクターの救いを求めてここへ来た。
 しかしドクターが殺されたと知れば、嘆き続けるモノ達の怒りや悲しみは猟兵達へと向くだろう。
 この場を乗り切るためにも、次は彼らを倒さなくては。
緋神・美麗
うわ、これはまた質の悪そうなのが…。こういうのは苦手なのよね…。悪いけど私じゃ浄化とかはしてあげられないからせめてこれ以上苦しまないように全力全霊で消し飛ばしてあげるわ。

一撃で苦しみから開放するべく、全身全霊乾坤一擲で持ちうる全ての技能を駆使して強化した出力可変式極光砲を威力重視で撃ち放つ
「ごめんなさいね。せめてこれ以上苦しまないよう今救ってあげるわね。」

全く、こういう手合は後味悪いから本当に苦手なのよねぇ。




 ぺたぺたと這う怪物の姿を見て、緋神・美麗は仮面の下で顔を顰めた。
 あのドクターとは別方向に質が悪い。こういうのはやっぱり苦手だ。
 この手の相手とは、どう戦っても後味が良くならないと分かっているから。
 聖職者であれば浄化の術もあったかもしれないが、美麗は猟兵で戦士である。
 そんな自分が彼らに出来る事と言えば――。
「せめてこれ以上苦しまないように、全力全霊で消し飛ばしてあげるわ」
 少しでも早く彼らを骸の海に送り返す。それしか方法はないだろう。
 自らに宿ったサイキックエナジーを全力で高めつつ、美麗は迫りくる怪物に立ち向かう。

 美麗が床を蹴ったと同時に、無数の赤い瞳が彼女を見つめた。
 これはただの視線。分かっていてもその重圧は重くのしかかってくるようだ。
 怪物達は複数の声を発しつつ、美麗へ言葉を投げかける。
「何故俺は救われなかった?」
「間が悪かった、運が悪かった。原因はきっと、そういう些細な事よ」
 怪物の質問に答えても何も支障は起きていない。
 これも彼らにとっての一つの真実。あの人達だって好きで苦しんでいる訳ではないのだろう。
 やはり心が苦しい。相手からネガティブな感情は感じられるが、強い殺意や悪意は感じられない。
 そんな怪物に向かってでも、今は全力で立ち向かわなければ。
「ごめんなさいね。せめてこれ以上苦しまないよう今救ってあげるわね」
 指に嵌めた超小型極光砲増幅器を起動しつつ、美麗は自分の内側へと意識を集中していく。
 自分の身体を駆け巡るエネルギーをどんどん掌へ収束させて、雷の球を形成すれば準備は万端。
 放つのは必殺の一撃だ。
「行くわ、出力可変式極光砲――これがっ、私のっ、全力だーっ!!」
 美麗の放った極光砲は凄まじい勢いで室内を駆け巡り、次々に怪物を撃ち抜いていく。
 最大限までに高めたその雷は触れた対象をあっという間にかき消していくだろう。
 そのお陰で、怪物達は苦しむ事なくその生命を終わらせていく。
 同時に彼らの無念もこの世界からは消え失せる事だろう。

 放った電撃が消え去った事を確認し、安堵の息を吐く美麗。
 しかし、その表情にはどこか影が差している。
「全く、こういう手合は後味悪いから本当に苦手なのよねぇ」
 美麗は正義感が強い。だから悪い奴には堂々と立ち向かうし、困っている人には積極的に手を差し伸べる。
 けれど、今回のように悪意のない相手と戦うのは心苦しかった。
 室内に立ち上る煙を見つめつつ、少しだけ目を伏せて――そして再び前を見て。
「けれど、敵はまだ来るのよね。頑張らなくっちゃ」
 再び気合を入れた美麗の表情は、優しく勇ましい戦士のそれになっていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

岩永・勘十郎
「またか」

勘十郎に向かい文句を言う敵にため息を付き、顔も見ず刀を抜く。

「この際お前さんに何があったのか。それは問わん。問うた所で不幸自慢が始まるだけだ。久々の闘いで“無益な時間だった”とは言いたくないんだよ」

と全て他人任せで、全てを周囲のせいにする相手に同情する気は無い。すぐに刀で斬りつけようとするが寸前で敵は透明になり、それを避ける。そして反撃と勘十郎に攻撃。これは当たった

「……とでも思ったか? なら教えてやる。不幸に底は無いって事を」

と不幸を嘆く敵の攻撃を戦闘知識やサバイバルの経験で見切り、刀で受け止める。それと同時で早業のカウンターを繰り出し、敵の身体を斬り刻むと苛烈に斬りかかった。




 何故、どうして救われない。
 そう嘆く怪物達へ向け、岩永・勘十郎が向けた言葉は短かった。
「またか」
 目を伏せながら溜め息を吐きつつ勘十郎の表情は静かだが、そこには呆れの色も滲んでいる。
 相手の姿をしっかりと視認するまでもない。小銃兼正を抜刀しつつ、更に勘十郎は言葉を紡ぐ。
「この際お前さんに何があったのか。それは問わん。問うた所で不幸自慢が始まるだけだ」
 例えきっかけが何だったとしても、今の怪物は自分から救われようとはしていない。
 ただひたすら嘆き、悲しみ、それを他者へとぶつけている。
 そんな相手に同情など出来るものか。そして、そんな相手との戦いに胸が踊ることは決してない。
「久々の闘いで“無益な時間だった”とは言いたくないんだよ」
 出来る事といえば、この闘いを手短に終わらせる事だろう。

 勘十郎は真っ直ぐに前へと踏み込み、目の前の怪物達へと刀を振るう。
 けれど――鈍く輝く刃が怪物を切り裂く事はなかった。
「誰も私を助けてくれない」
 刃が到達するより早く、怪物達の身体が溶けるように消えていく。
 いいや、違う。粘りつくような恨みの気配は消えていない。相手はただ透明になっただけだろう。
「鬱陶しい……! 一体どこに……」
 敵の気配を探るべく、勘十郎は急いで周囲を見回すが――その間の彼は少しだけ無防備だった。

 この男はきっと俺達を救ってくれない。それならせめて道連れだ。
 そう考えた怪物達は呼吸を合わせ、一斉に勘十郎へと飛びかかる。
 直撃する直前に姿を晒せば相手の動きも鈍るはず。そしてそのままこの男を殺せるはず。そう確信する怪物達だったが――。
「……とでも思ったか? なら教えてやる。不幸に底は無いって事を」
 勘十郎は敢えて隙を晒していた。相手は怪物だけれど素人で、考えだって浅いはず。
 それなら少しチャンスを作れば真っ直ぐに飛び込んでくるだろう。勘十郎の読みは見事に当たっていた。
 飛び込んでくる怪物達を最小限の動きで回避し、勘十郎は再び小銃兼正を構えた。
「行動した事は褒めてやるが――結局そこまでだったな。これで終いだ」
 相手が地に着くより早く振るわれるのは苛烈なまでの斬撃だ。
 翻る刃はあっという間に闇のような身体を切り裂いて、怪物達を骸の海へと還していく。
 最後の最後まで怪物達は嘆き続けた。その声は勘十郎の耳にも届いている。
「やれやれ……次の相手はもう少し骨のある奴だと嬉しいんだがな」
 消え去る瞬間まで恨み言を呟く彼らへ向けて、勘十郎は再び溜め息を吐いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リゥ・ズゥ
アドリブ歓迎
お前たちが、救われなかった、理由。
恐らくは、救うものが、遅かったか、弱かったか、だろう。
そうでなければ、お前達が、弱かった、から、だ。
これが、真実でない、ならば。
リゥ・ズゥは、そんなもの、知らない。嘆きも、救いも、知らない。


(質問への回答によるダメージが発生しないならば、『ダッシュ』で敵を追い詰め、全力で叩き潰す。
ダメージが発生する場合は、『激痛耐性』で耐え、『力溜め』及び『カウンター』で叩き潰す。
透明化していても『野生の勘』『聞き耳』を駆使し追い詰め、叩き潰す。)

リゥ・ズゥは、他者を知りたい。だが、お前達から、得るものは、ないよう、だ。




 怪物達は、自分よりも暗い黒を見た。
 彼らの視線の先に佇んでいるのはリゥ・ズゥだ。
 黒い身体に真っ赤な瞳。同じ特徴を持ちながらも、そこに宿す光は別物だった。
 けれど、怪物達は思う。彼なら自分達の問いかけに答えてくれるのではないかと。
「何故俺は救われなかった?」
 視線と共に投げかけられる言葉。それに対し――リゥ・ズゥは少しだけ考えるような仕草を見せた。
「お前たちが、救われなかった、理由、か」
 思考を巡らせ、返す言葉を吟味して。
 声帯のような器官を震わせつつ、リゥ・ズゥが返す答えはシンプルだった。
「恐らくは、救うものが、遅かったか、弱かったか、だろう。そうでなければ、お前達が、弱かった、から、だ」
 彼らの不幸のきっかけはたったそれだけ。
 相手が悪かった。タイミングが悪かった。そもそも自分達が弱かった。
 不幸の始まりなんてそんな些細な事だろう。事実として、怪物達は視線以上のものをリゥ・ズゥへと向けられていない。

「そんな答えじゃ――」
「だが、これが、真実だ。これが、真実でない、ならば。リゥ・ズゥは、そんなもの、知らない」
 怪物達の否定の言葉を遮りつつ、リゥ・ズゥは怪物達をじっと見つめる。
 人の営みというものについては少しずつ理解を深めている。ここにいる怪物達だって嘗てはどこにでもいる一般人だったのだろう。
 ならば、彼らを襲った不幸だってきっとありふれたものだったのだ。
 真実はそれ以上でもそれ以下でもない。
 これ以上言葉を交わす事も無駄だろう。彼らはどうせ嘆いて悲しむだけで、こちらの言葉を真摯に受け止めてくれたりもしない。
 それならばさっさと蹂躙してしまえばいい。
 獣のように姿勢を低くして、リゥ・ズゥは床を蹴った。
 相手に飛びかかる瞬間に身体を素早く変形させて、両腕に巨大な鈍器を作り上げたのならばそれで十分。
「リゥ・ズゥは、他者を知りたい。それで、何かを、得られるならば、良かったんだ、が」
 リゥ・ズゥの赤い瞳と、怪物達の赤い瞳が向かい合う。
 悪魔へと向けられた視線は最後まで縋るようなものだった。
 ああ、やっぱり彼らでは駄目だ。彼らから『人間』は学べない。
「お前達から、得るものは、ないよう、だ」
 彼らの嘆きへの最後の返答――単純に重い破壊の一撃が、ただ静かに振り下ろされた。
 ぐしゃりと潰れる肉の感触を感じつつ、リゥ・ズゥは身体を元の形へと戻していく。
 人間ならば、こういう時は溜め息を吐くのだろうか。そんな考えが頭の中を過ぎっていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御手洗・暖悟
●SPD 絡みアドリブ歓迎
コイツは、胸糞わりぃな
救われなかった怨霊とかUDC怪物の中でも質が悪い
「狂気を持って狂気に抗う」本当に無茶振りが過ぎるぜオイ
だがこちとら闇に立った時から覚悟はしてんだよぉ!
光しか知らない奴が居るなら、そのまま何も知らないまま生きて、死んで欲しいって…だからてめぇは消えてくれ、光の世界に踏み入ってくるなぁ!!
「ディメンション・フック」で奴を傷付けずに縛り上げる
アンカーを俺が持ってるなら「俺の装備」だ 透明にはならないはずだ
パワー負けして引き釣り回されるだろうが死んでもアンカーは離すもんかよ
位置を知らせる目印は付けてやれる筈
俺は良いから、今のうちにコイツを殺れぇお前らぁ!


影山・弘美
えへへ~おかし……はっ!
あ、次の相手、ですね

自分の不幸を嘆く気持ちは、解らなくはないです
私だって、そんなに幸せな生まれじゃなかったし
でも……それでも、生きてこれたんです
他の人の助けがあったのは、確かだけど
嘆くだけじゃ、何も変わらないんです

傷つけるな、って命令なら……容赦しません
天の光に貫かれて、消え去ってください
……この身が苦しめられ斬り刻まれても、耐えます
これでも、身体は頑丈なんです
吸血鬼の血が流れてる、忌まわしい身体だけど……こういう時は、便利なんです

……そんなこと言ってたら、内側の私が怒るかな
嫌われたくないけど、わかってくれるはず……それがあなたでしょ?って皮肉っぽく笑いながら、だけど




「コイツは、胸糞わりぃな」
 吐き捨てるように呟きつつ、御手洗・暖悟は怪物達の姿を見た。
 UDC組織に所属している以上は様々な怪物を見る事になるが――救われなかった怨霊とか、UDC怪物の中でも質が悪い。
 誰かが『狂気を持って狂気に抗う』なんて言っていたけれど、それってどう考えても無茶振りだろ。思わず怒りの声が脳裏に響く。
 けれど、暖悟は覚悟しながらこの世界へと足を踏み入れた。
 狂気が彩る闇の世界へと辿り着いたきっかけは、自分が選んだものではない。それこそ偶然、不幸な事故が暖悟をここまで導いた。
 この怪物達も――きっとそうだったのだろう。
 眩い光の中で楽しく暮らして、そのまま年を取って死んでいく。自分達にはそういう未来はあったはず。
 しかし、現実はどうだ。ごく普通の青年は狂気を抱えて闘い続け、どこにでもいる人達は救われない怪物へ。
「あんた達だって、何も知らないまま生きて、死んで欲しかったぜ。でも……そのまま光の世界へ足を踏み入れようとするんだったら」
 腕へと備え付けた射出機を叩き、暖悟は怪物を睨みつける。そこに宿すのは狂気と覚悟の光だ。
「これ以上踏み込ませねぇぞ!!」
 勇ましく声をあげながら、暖悟は怪物へと腕を向けた。

 一方、少し離れた地点にて。
 幻影から解放された影山・弘美が、少しうとうととしながら周囲を確認していた。
「えへへ、おかし……おいしかったなぁ……はっ!」
 楽しかった夢はおしまい。次なる怪物がこの廃墟へとやってきている。
 ぺたぺたと歩く怪物達はすぐにこちらを襲う気配はなさそうだ。彼らは嘆きの言葉を呟きつつ、じぃっと弘美を見つめていた。
 その恨みがましい視線を受けて、ふと思う事がある。
「あなた達の気持ち、解らなくはないです」
 たまたま不幸な境遇で生まれ、その事に嘆いたことは何度もある。この怪物達の不幸も『たまたま』だったのだろう。
 けれど、弘美と怪物の間には大きな隔たりがあった。
「不幸な生まれだったとしても……それでも、生きてこれたんです。他の人の力は、確かに借りたけれど」
 でも、差し出された手を取ったのは弘美自身。そしてその相手と出会うまで、過酷な境遇と戦ったのも弘美自身だ。
「嘆くだけじゃ、何も変わらないんです」
 小さく首を振り、怪物達を見つめ返す弘美。彼女の赤い瞳には、はっきりとした決意の色が宿っていた。

 猟兵は自分達を救ってくれないと判断した怪物達は、嘆きの声と共にゆっくりとその身を震わせはじめた。
「誰も私を助けてくれない」
「せめて僕を傷つけないで!」
 少しずつ、彼らの身体が周囲の景色に溶け込んでいく。このままでは姿を見失ってしまうだろう。
「させるかよ!」
 先に動いたのは暖悟だ。怪物達が消え去るより早く、手早く射出機を起動すれば――飛び出したフック付きのワイヤーが怪物達を締め付けていく。
 フック部分は薄暗い屋内でもよく輝いた。あの部分を狙えば敵にだって攻撃可能だ。
 しかし相手は怪物だ。根本的に筋力や体力が違う、長時間拘束する事は難しいだろう。
 でも、絶対にこの手は離さない。こいつらを闇の世界に仕舞い込んでおかなければ、自分のように不幸になる人が出てしまうから。
「そっちの嬢ちゃん、攻撃は頼めるか!?」
「分かりました。やってみます……!」
 暖悟が怪物を拘束している間に、弘美はしっかりとワイヤーの先を観察していく。
 相手は『傷つけるな』と命令してきた。それを破れば恐らくこちらが不利益を被るだろう。
 でも、それでも構わない。
「苦しいのは、大丈夫です。斬り刻まれても、耐えます。だって身体は頑丈だから」
 弘美の見た目はか細くか弱い。けれどそれは彼女に吸血鬼の血が流れているから。
 彼女を不幸な境遇へと叩き込んだのもこの血だけれど――こういう時は、遠慮なくその力を貸してもらおう。
 こんな風に無茶をすると分かれば、内側(吸血鬼)の私が怒るかな。ううん、あの子ならきっと分かってくれるはず。
 それがあなたでしょ、って皮肉っぽく笑いながらも背中を支えてくれるはずだ。だからきっと大丈夫。
「いいか嬢ちゃん。俺の事は構うなよ、容赦なくコイツを殺れ!」
「ありがとうございます。でも、痛いのは私だけで大丈夫ですから」
 暖悟がしっかりと敵を抑えているのを確認し、弘美は人差し指を敵へと向ける。
「天の光に貫かれて、消え去ってください」
 祈りによって落ちた眩い光は、透明になった怪物達を穿っていき――その身を骸の海へと叩き落とす!

 けれど、同時に呪いが弘美の身体を蝕んだ。心の臓がきゅっと締め付けられるような感触に、弘美は思わずしゃがみ込む。
「けほっ、けほっ……こういう、衝撃が来るんですね……」
 彼女の様子を確認し、暖悟も慌ててそちらへと駆け込んだ。その表情には明らかな不安が浮かんでいる。
「結構なダメージだったみたいだな。大丈夫か?」
「はい……あなたが敵を抑えてくれていたから、すぐに済ませる事が出来ました」
「こちらこそ。攻撃をぶちこんでくれる人がいて安心したぜ」
 暖悟の言葉に頷く弘美は、力なく笑みを浮かべていた。けれどその様子がどこか晴れ晴れとしているのは気の所為ではないだろう。
 そんな彼女の様子を見つつ、暖悟も笑みを返している。
 それと同時に胸も痛んだ。年下の少女だって闇の世界で戦っているのだ。その実感が胸を駆け巡った。
「まだまだ敵は来るみたいだしな。もう少し頑張ろうぜ」
「そうですね、あと少し……頑張りましょう」
 思う所はあったとしても、二人が猟兵である事に変わりはない。
 次なる闘いへ意識を向けつつ、暖悟と弘美は頷きあうのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

陽向・理玖
変身状態維持

逆に聞きてぇ
…何でそんなに救われたい?
何をそんなに救われたがってる?

…そっか
苦しいよな
そんな理不尽
自分ばっかり何でって

視線一瞥し
与えるダメージは激痛耐性で耐える

それがあんたらの怒りか?
それがあんたらの悲しみか?
いいぜ
その痛み受け止める

UC起動
残像纏いダッシュで懐に飛び込み
フェイントで足払いしなぎ払い
体勢崩させグラップル
拳の乱れ撃ち
戦闘力上げ一気に叩く
暗殺も用い弱いところ探り出来るだけ苦しませないように
異形でも数当たれば弱点位分かる
これ以上…苦しませねぇ

俺も理不尽は嫌いだし許せねぇ
終わりにしてやるよ
俺が
さぁいくらでもかかって来い
全部吐き出して還れ

間に合わなくて…悪ぃ
理不尽な奴は…もう




 装甲姿に変身したまま、陽向・理玖は怪物達へと声をかける。
「なぁ、逆に聞きてぇ。……何でそんなに救われたい?」
 何故そんなに救われたがっているか、と言い換えてもいい。
 怪物達の嘆きの声へと耳を傾けてやりたい。理玖の胸にはそんな気持ちも渦巻いていた。
「誰も私達を救ってくれなかったから」「何も悪い事をしていないのに」
 ひたすら響く嘆きの声。その中身はありふれていて――けれど、だからこそ救われない。
「……そっか。苦しいよな」
 理玖が導き出した答えは共感だった。
 彼も嘗ては悪党に拐われて、理不尽なまま苦しみ続ける羽目になった。
 自分が選ばれたのだって偶然だろう。自らの不運を嘆いた事はたくさんある。
 理玖と怪物達の違いもきっと些細なものだ。自分は救われ、彼らは救われなかった。
 だからこそ、あの人達の気持ちは痛いほどよく分かる。

 怪物達の赤い瞳が理玖を射抜き、それと同時に心の臓が痛みだす。
 これこそが彼らの抱く怒りや悲しみ。ああ、でもこのくらい耐えられる。耐えてみせる。
「いいぜ、その痛み受け止める。だから――」
 龍珠を再びバックルに装填しなおし、理玖は眩く輝く七色のオーラを纏っていく。
「フォームチェンジ! ライジングドラグーン!!」
 覚悟と共にさらなる変身をしたのなら、同時に真っ直ぐ前へと駆けて。
 走れば走るほどに胸の痛みは大きくなっていく。けれど、自分が受け止める事で彼らの心が救われるなら。
 誰かの悲しみを受け止める事だってヒーローの仕事だろう。そして、それを終わらせる事だって!
「少しだけ我慢してくれよ……!」
 怪物達に肉薄したのなら、まずは姿勢を低くし足を払う。
 彼らの身体を支えているのは手のような小さな足だ。体勢を崩す事は難しくない。
 そしてそのまま左手で相手の身体を受け止めて、右手は全力で振りかぶる!
 見た目以上に人間らしい感触が伝わってくるが躊躇はしない。躊躇すれば苦しむのは彼らの方だ。
「大丈夫だ、すぐに終わらせる」
 何度か拳を撃ち込んで、把握したのなら――全力で拳を振るい、貫く。すると怪物の身体は霧のように溶けていき、骸の海へと還っていった。

 まずは一体。けれどこの場にはまだまだ怪物が残っている。
 装甲越しに彼らを見つめる理玖だが、その瞳には決意と悔悟の色が滲んでいた。
「間に合わなくて……悪ぃ。だけど、俺が終わりにしてやるから」
 理不尽に怒るヒーローだからこそ、最後まで彼らの苦しみに向き合いたい。
 あんた達が全部吐ききるまで、とことん付き合ってやるから。
 恨みの視線が与える苦痛を堪えつつ、理玖はひたすらに許せない現実へと立ち向かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

トスカ・ベリル
かわいそう、かわいそう
……それで、満足?

何故救われなかったか、なんて
自分がいちばん知ってるんじゃないの
『なにもしなかった』んじゃないの
それが正解だって間違いだって構わない

往くよ、鎧さん
わたしの鎧さんは無敵なの
道を切り開いて帰る力があるの
きみ達とは違う
さあ、蹂躙しよう

かわいそうなひと達、こう言って欲しいんでしょ
『救ってあげる』って

他のひとに言ってもらうといい
わたしは言わない
かわいそうにね

なにかしたの
助けてって声を上げたの
ちゃんと逃げ出したの
違う『世界』まで

知ってる『世界』が狭いと苦しいね
いつかきみ達にもやさしい『世界』が見つかるといいね
自分で探しておいで
足も手も目も、あるでしょう




 何故、どうして俺達は救われなかった。嘆きの声が廃墟の中に響き渡る。
 その声に対し、トスカ・ベリルが返したのは――。
「かわいそう、かわいそう」
 乾いた声で囁かれる同情の言葉。
 少し間を置いて、怪物達はトスカを睨む。その瞳には嘆きだけではなく怒りの色が滲んでいた。
「……それで、満足? 違うでしょう。本当は、自分が一番知っているんじゃないの。何故救われなかったか、なんて」
 彼らの視線を意に介さず、トスカは更に言葉を紡ぐ。
 この返答が自分に不利益を与えるとしても構わない。トスカにとってはこの答えが一番相応しいと思ったのだから。
「どうしてって、『なにもしなかった』んじゃないの」
 静かに言葉が響いたが、それ以上は何も起こらなかった。
 誰も彼もが分かってる。彼らが救われなかったのは、その手を伸ばさなかったから。

 真っ直ぐな答えをぶつけたトスカに対し、怪物達は恨みの声をあげている。ああやっぱり、文句を言うだけなんだね。
 私はあの人達とは違う。トスカには道を切り拓く勇気も、帰りたい場所に帰る力もあるのだ。
 淡い緑の石が嵌められた杖を握り、トスカは自分の想像力へと働きかける。あの人が来てくれればきっと大丈夫。
「往くよ、鎧さん」
 彼女の呼びかけに答え、首のない鎧が姿を現した。さあ、共に凱旋しよう。そして全てを蹴散らそう。
 鎧さんは前へと駆け出し、次々に怪物へと剣を振るう。
 ぐしゃりと潰れる感触はあまりにも呆気ない。怪物になったとしても彼らは弱いままだ。
 怪物達は消えゆく瞬間までトスカを睨む。恨み、嘆き、そして微かに縋るようなその視線。そんな風にしていても意味なんてないのに。
「かわいそうなひと達、こう言って欲しいんでしょ。『救ってあげる』って」
 でも、わたしは言わない。
 そういうのは他の人に言ってもらえばいいんだ。ああ、なんてかわいそう。

「――なにかしたの。助けてって声を上げたの」
 続く言葉には少しずつ熱が籠められていく。
 トスカが彼らへ向けて鋭い言葉を投げかけるのは、ただ哀れだと思っているからではない。
 彼らが他の『世界』を、逃げる場所を知らなかったから。そして本当は、彼らには逃げる力だってあったはずだから。
 トスカはそれを不幸だと思う。せめてこの人達に次があるのなら、その時はやさしい『世界』が見つかりますように。
「きみ達にもやさしい『世界』、自分で探しておいで。足も手も目も、あるでしょう」
 その時まではさようなら。またいつか。
 見送りの言葉と共に、鎧さんの剣が静かに振り下ろされた。

成功 🔵​🔵​🔴​

鬼桐・相馬
ああ、この感覚は知っている。

【POW】
[冥府の槍]を手に思い出す。そうだ、真の姿になった時に微かに響く冥府の異形達の声に似ている。

何故救われなかった……そうだな、「運が悪かった」んじゃないか?
誰のせいでもない。お前のせいでも、神や運命のせいでもない。

そしてそれを俺に問うたのもついていなかったな。
肩を軽く竦め言う。きっと彼らの願う答えではないだろう、それで負傷しようが冥府の炎が補うに任せる。

彼らは憐れな妄執に囚われたオブリビオン――俺が彼らを救うとしたら、その存在を安寧の地へ送るのみ。
UC発動し、全てを燃やし尽くしてやろう。

炎の奥に研究施設の誰かが手を振っているような幻覚が一瞬過ぎた気がする。




 廃墟の中で嘆きの声が響いている。それを聞く鬼桐・相馬の表情は静かなものだった。
 怒りや哀れみといった感情よりも妙な既視感が先に頭を過ぎったからだ。
「――ああ、この感覚は知っている」
 手にした冥府の槍を握り、相馬は感覚の正体を探り出す。
 それはこの槍の内に眠るなにか。真の姿になった時に通じ合う冥府の異形の声に似ていた。
 それなら返す言葉も決まっている。相馬は怪物達を見つめ、そっと口を開く。
「何故救われなかった……そうだな、『運が悪かった』んじゃないか?」
 その答えはシンプルで、だからこそ真っ直ぐで。
 彼らが救われなかったのは誰のせいでもない。本人達が悪かったからでも、神様が見放したからでもない。
 ただ彼らの運が悪かった。それが巡り巡ってここにあるだけだ。

 言葉を受けて黙りこくった怪物達に、相馬は肩を軽く竦めていた。
「それを俺に問うたのもついていなかったな。こういう時に優しい言葉を返すのも正しいとは思えないんだ」
 あの怪物達が求めているのは真実ではないだろう。
 辛かったね、苦しかったね。そんな言葉を求めていたのだろうが――それは俺の役割ではない。
 この答えで自分が傷ついたとしても構わなかった。それで傷つく事より、言いたくない言葉を紡ぐ方が耐えられない。
 けれど、相馬が出した答えは一つの真実だった。だから、怪物の返答はただの沈黙だ。

「俺がお前達を救うとしたら――これしかないだろうな」
 相馬は改めて冥府の槍を握りしめ、怪物達の方へと穂先を向けた。
 怪物達は既に妄執に囚われた過去と化している。このままこの世界で嘆き苦しみ続けるよりも、静かな場所へ還してやった方がいいだろう。
「出来る限り苦しめないように努力する。安寧の地で眠るんだ」
 槍が青黒い炎を噴き上げた。彼らが行く先も冥府なのだろうか、それとも天獄なのだろうか。
 どちらにしても、行く先が彼らにとって安らかなものであるように。少しだけそういう気持ちも籠めつつ、相馬は炎を広げていく。
 怪物達の黒い身体もゆっくりと炎に沈み、どんどん見えなくなっていった。
 ふと、炎の中を見る。揺らめく影の向こう側、誰かが手を振っているように見えて。
 その姿が懐かしい誰かの気がして、思わず相馬は目を疑った。
 しかしその揺らめきも一瞬で消え去り――残ったのは微かな灰だけ。
 炎が消え去ったその跡を、相馬は少しだけ見つめていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

セプリオギナ・ユーラス
醜悪だな。
腹立たしくも見慣れた幻影。
救いを求めて伸びる手。助けを求める声。

嗚呼、嫌いだ。大嫌いだ。
そうやって助けを求めるくせに、実際にはただのひとりも救えやしない。
所詮はまぼろし。嬲って殺そうが優しく諭そうが、最後には骸の海に叩き戻すしかない、醜悪な“いのちだったもの”の塊め。

──俺には、貴様を救うすべはない。

(だから)
分かっている。
これは自己満足だ、と。

医術の限りを尽くしてやる。
今の俺の持つ技術で可能な限りの、安らかな眠りを。




「醜悪だな」
 吐き捨てるようにセプリオギナ・ユーラスが呟く。彼の姿は白衣の男のものへと戻っていた。
 この怪物達だってさっきの幻と変わりはない。
 ただひたすらに救いを求めて手を伸ばし、震える声で助けを呼んで。
 彼らがするのはそれだけだ。それだけなのに――。
「嗚呼、嫌いだ。大嫌いだ」
 彼らに対して自分が出来る事はなんだ?
 結局彼らを救う事なんて出来やしない。『助けて』と伸ばされる手を優しく握り返したとして、そこでおしまいだ。

 彼らは怪物なのだから、そのままあっさりと殺してしまえばいい。
 もしくは人間に対して行うように、優しい言葉で慰めてやってもいい。
 最後に彼らは骸の海へと還されるのだ。それまでの過程は好きにしたって構わないけれど。
 でも、セプリオギナはそれを選ばない。
 彼らがゆめまぼろしだったとしても。たとえ醜い“いのちだったもの”だったとしても。
 そして何より、俺に貴様を救う術はなかったとしても。だからこそ。
 結局俺は医者なのだ。この選択をしてしまうのも、ある意味当然の事だろうか。

 セプリオギナは医療道具を握りしめ、怪物の方へ歩み寄る。
 彼の険しい表情に怯えてか、一体の怪物が身体を透けさせていく。
 救ってくれと言っておいてその態度か。呆れたように溜め息を吐きつつ、セプリオギナは怪物の小さな手を取った。
「逃げるな。俺は医者だ――医術の限りを尽くしてやる」
 セプリオギナが選んだのは、目の前の存在に全力で向き合う事だった。
 自己満足なのは分かっている。結果は最初から決まっているのだ。何故なら彼らは過去だから。
 けれど、安らかな眠りくらいは導いてやれるだろう。
 彼の言葉を受けてか、怪物の身体は少しずつ元の色へと戻っていく。もう怯えてもいないようだ。
 医者としての覚悟を抱き、持てる技術の全てを活かしてセプリオギナは怪物の身体を調べていく。
 どの部分が重要な臓器にあたり、どの部分をどう触れば苦痛を軽減出来るか。
 見た目こそ醜悪な怪物だけれど、彼らは元々が人間だ。怪物達に触れれば触れるほど、身体の造りへの理解は深まっていく。
 そして一通りの診察が終われば――彼らを眠らせる時がやってきた。
「これが貴様らの救いかどうかは……俺が決めるべきではないか。それでも、安らかに眠れ」
 医療ノコギリを振るい、彼らに最後の一刀を。
 治療を終えた怪物達は静かに骸の海へと還っていく。

 ――そして、廃墟から嘆き悲しむ声が消えた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『『スーサイダル・ブラック』諭鶴羽・明滅』

POW   :    ロマンチック・スーサイド
【猟兵は世界を守る存在であると信じる】事で【UDCと細胞単位で完全融合した本気モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    ブラスト・ビート
レベル分の1秒で【魔導拳銃を構え、狙いを定め、呪殺弾】を発射できる。
WIZ   :    ブラック・ゲイズ 
【邪視】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:黒江モノ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は伊美砂・アクアノートです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 怪物達は全て消え去り、廃墟には静けさが訪れる――はずだった。
「ああ、やっぱり来てくれた。猟兵さんはヒーローだもんね」
 次に聞こえてきたのは嬉しそうな声だった。
 同時に軽やかなヒールの音が鳴り響き、バニースーツの女性が姿を現す。
 猟兵達なら一目見れば分かるはずだ。この女性はオブリビオンだと。

「他のオブリビオンが派手に動けば、絶対に猟兵さんが来るって思ったから。そうすればボクの望みは叶うからね」
 女性は嬉しそうな笑みを浮かべているが、手元では拳銃の安全装置を外している。
 そして何より、彼女からは強い殺気が放たれていた。
「ボクの名前は諭鶴羽・明滅。UDCエージェントだったけど……UDC怪物に負けちゃって、そいつに融合されちゃった」
 がちゃり、銃を構える音が聞こえる。
 明滅が構えた銃口はもちろん猟兵へと向けられていた。
「こんな身体になっちゃったから、ボクは自殺が出来ないんだよね。そして怪物にも抵抗できない。つまりボクはオブリビオンって事で……」
 世界のルールは変えられない。
 ここまで来たら互いにやるべきは一つだろう。

「猟兵さんはオブリビオンを殺さなきゃ。早く、ボクを救って(殺して)?」
緋神・美麗
最後の相手がこれかぁ。殺してって言う割にはこっちに対する殺意が半端ないけどもう抵抗する気自体無いでしょ。まぁ、完全に同化してようと実は抵抗してようと、こっちはあなたを完全に潰すだけだからそこだけは安心してね。

先制攻撃・クイックドロウ・見切りで機先を制し、出力可変式極光砲を命中重視で使用、誘導弾でさらに命中補正をかけて鎧無視攻撃・二回攻撃・衝撃波で確実にダメージを与えて敵を倒す

「倒して欲しかったんでしょう?迷わずお逝きなさいな。」




「最後の相手がこれかぁ」
 緋神・美麗は少し驚いたように明滅を見た。
 今までの相手とは違った質の悪さ。それでもドクターや怪物よりはよっぽど戦いやすそうだ。
「殺してって言う割にはこっちに対する殺意が半端ないけど、もう抵抗する気自体無いでしょ」
「これでも融合した怪物には抗おうと努力してるんだよ? でも、それ以上に猟兵さんの事を信じているんだ」
 全く悪びれないよう、笑顔を浮かべて話す明滅。
 その表情とは裏腹に、彼女から禍々しい気配が溢れてきている。自身と融合しているUDCの力を高めているようだ。
「猟兵さんならボクを殺せる。信じているから、証明してみせて」
 カツン、と鋭い音が鳴り響く。明滅は思い切り床を蹴り、美麗へと接近し始めている。
 彼女の動きは俊敏で、完全に人離れしているようだ。その様子に美麗は大きく溜め息を吐いた。
「ええ。お望み通りに。あなたが何もであろうと、何を考えていようと――こっちはあなたを完全に潰すだけだから、そこだけは安心してね」
 超小型極光砲増幅器を再起動しつつ、美麗は掌にサイキックエナジーを集めていく。

 生み出されたエネルギーを矢のように形成させつつ、まずは明滅の動きを観察。
 彼女の能力は相当のもの。それでも光には追いつけない。
「……そこっ!」
 相手の動きを制限するように、美麗は次々に弾丸を撃ち出し始めた。
 出来るだけ相手を壁際へ。獲物を狩るには逃さないのが一番だ。
「その攻撃、凄いね! でもそれだけじゃボクは殺せないよ!」
「でも、あなたはもう逃げられないわ!」
 牽制のための攻撃は終わりだ。美麗は再びサイキックエナジーを集め、今度は小さな光球を生み出していく。
 そしてそれを明滅の周囲へと設置して、彼女を更に追い込んで。どれだけ機敏に動ける相手でも、誘導されては思うように動けない。
 明滅もこれ以上の逃避は無理だと判断したのか、現在位置から拳銃を構え美麗の頭へと狙いを定めた。
 けれどそれすらも美麗の手の上。相手が動きを止めたのならば、ここが全力を叩き込むチャンスだ。
「倒して欲しかったんでしょう? 迷わずお逝きなさいな。全力で撃ってあげるから!」
 瞬時に美麗は最大級のサイキックエナジーを束ね、掌に巨大な電球を作り上げる。
 そこから放つのは――必殺の出力可変式極光砲!
 眩い光が廃墟の中を照らし出し、明滅の身体も飲み込んでいく。
 強大なエネルギーが明滅を穿ったが、その瞬間の彼女はどこか安らかな笑みを浮かべている。
「……あなたの信頼には応えたわ。これでいいんでしょう」
 反面、美麗の表情はどこか悲しげで――それでも瞳は真っ直ぐに前を向いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

影山・弘美
うう……確かに、オブリビオンを倒すのが使命だけど
そういう人とは戦いにくい、かな(パアン!

ふふ……正義の味方なら、一度倒されてもあきらめずに戦うものよね
表の私に拍子抜けしただろうけど、安心しなさい
……私は強いのよ?
拘束ロープに茨の鞭、手枷足枷も必要ね
その手の拳銃さえ封じれば、あなたにできることもないでしょう
多少撃たれても、私の動きを止めることはできないわ
その手を縛り上げて、足を絡めとって、あなたの動きを止めてあげる

……私が欲しいモノがわかるかしら?
あなたから、とても美味しそうな匂いが漂っているのよ
この牙を見れば、あなたも理解できるんじゃないかしら?

……ふふ、ご馳走様




 激しい光のエネルギーが消え去り、大火傷を負った明滅が姿を現す。
 彼女は自らの命を削りつつ身体を修復しているようだ。その様は明らかに人とのそれではなかった。
 けれど、明滅が『人間でありエージェントであった』という過去も消えていない。
 その事を思い返し、影山・弘美は思わず俯いてしまっていた。
「うう……確かに、オブリビオンを倒すのが使命だけど、ああいう人とは戦いにくい、かな」
「そんなに弱気だとボクがみんな殺しちゃうよ? ほら、こんな風に」
 乾いた音が鳴り響く。明滅が放った銃の音だ。
 放たれた弾丸は弘美の胴を貫いて、彼女の身体はどさりと床に倒れ伏す。これでこの物語は終わる――はずだった。

 弘美は広がる自らの血からゆらり、揺らめくように立ち上がる。
「ふふ……正義の味方なら、一度倒されてもあきらめずに戦うものよね」
 不敵に笑う彼女からは気弱な様子は消え去っていた。
 今の弘美が纏う気配は――まさに吸血鬼としてのもの。
「表の私に拍子抜けしただろうけど、安心しなさい。……私は強いのよ?」
「気配で分かる。キミならボクを殺してくれそう!」
 明滅も禍々しい気配を纏いつつ、跳ねるように弘美へと接近してきている。
「期待に応えてあげるわ。さあ、いらっしゃい」
 室内に拘束ロープを張り巡らせ、弘美も迎撃の姿勢を取った。
 銃を撃ち込みながら逃げる明滅に、次に投げつけるのは手枷に足枷。放たれた弾丸が弘美の肩を撃ち抜き、鮮血が部屋を汚すが構うものか。
 投げつけられた拷問具から逃れ、明滅は一気に距離を詰めてきた。
 けれど、罠にかかったのはウサギの方。
「こういう風にして欲しかったんでしょう?」
 弘美は隠し持っていた茨の鞭を振り抜き、迫る明滅を茨の中へと捕らえた。
 そしてそのまま彼女の身体をテープの方へと叩きつければ、袋のネズミと化したのは明滅だ。

 弘美はゆっくりと歩を進め、捕らえた獲物へと近付いていく。
「……私が欲しいモノがわかるかしら?」
「何となく察しはついてるけど……何かな」
「あなたから、とても美味しそうな匂いが漂っているのよ。この牙を見れば、あなたも理解できるんじゃないかしら?」
 弘美が口を開けたのなら、覗くのは鋭く輝く犬歯だ。
「なるほど。そういう風にボクを救ってくれるんだね」
 全てを察したのだろうか。明滅はそれ以上何も語らず、ただ弘美の行動を待っている。
 そちらがそのつもりなら遠慮なく。弘美は獲物の白い肩に顔を近づけ、思い切り牙を突き立てた。
 溢れ出る鮮血の味はとろけるように甘い。紛れもない、いのちの味だ。
 血を吸われ、ぐったりとする明滅だが――その様子はまんざらでもなさそうだった。
「……ふふ、ご馳走様」
 そんな彼女の様子を見つつ、吸血鬼の少女は艶やかに微笑んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

陽向・理玖
変身状態維持

…くっそ
つまりあんたは1回負けて…死んでるって事だよな
オッケー分かった
それしかないなら
…望み通り終わらせてやる
拳を強く握り覚悟決め

って早ぇ
言ってる事とやってる事が合ってねぇ!
攻撃武器受け
受けきれない分は激痛耐性で耐えUC起動
ダッシュ乗せスピード上げ間合い詰め
やっぱ…オブリビオンか
…狂ってる
残像纏いグラップル
フェイントに銃狙いつつジャブからの足払いでなぎ払いし吹き飛ばし
追い打ちに衝撃波

更にダッシュで間合い詰め
自分の間合いで攻撃し銃撃たせないようにしつつ
拳の乱れ撃ち
部位破壊で銃持つ腕を狙う
暗殺交え弱点突き
出来るだけ長引かせないように
攻撃は耐え一気に攻める

胸くそ悪ぃ
世界は理不尽に満ちてる




 猟兵からの傷を受けても明滅はまだ立ち上がる。
 そんな彼女の様子を見遣り、陽向・理玖は少し考え込んでいた。
「……くっそ。つまりあんたは1回負けて……死んでるって事だよな」
 悩む理玖へ向けて、明滅は緩く笑みを返す。
 その表情はどこにでもいる女性のそれだ。けれど身体の方は違う。
「そうだよ。だってほら、こんなの明らかに人間じゃないよね?」
 そう言いつつ明滅が指差したのは自身の肩。そこにあった大きな傷は既に修復されていた。
 生命エネルギーを消費しての治療なのだろう。彼女の命は少しずつ削れていっている。けれど、その力は明らかに人外のものだ。
「オッケー、分かった。それしかないなら……」
 相手は何者であろうとオブリビオン。やるべき事は変わらない。
 理玖はしっかりと拳を握りしめつつ、真っ直ぐに前を見る。
「……望み通り終わらせてやる」
「ありがとう。さあ、キミもボクを殺しに来て!」

 ここからはヒーローと怪物の殺し合いだ。
 明滅は異形の力で加速しつつ、理玖の方へと迫りゆく。合間に銃を構え、正確無比な射撃によって彼の命を狙う事も忘れない。
「って早ぇ……言ってる事とやってる事が合ってねぇ!」
 龍掌で銃弾を受け止めつつ、理玖も前へと駆け出し敵へと近づく。
 それに合わせて彼のバックルが虹色の光を帯び始めた。理玖が纏うのは覚悟の力、敵を倒すための龍のオーラだ。
「フォームチェンジ! ライジングドラグーン!!」
 煌めく残像を軌道に残し、理玖は更に駆けていく。
 前に立つ女性は殺しに来いと懇願しつつ、こちらを本気で殺しに来ている。
 狂ってる、と思う。この状況が、そして世界が。
 虹の軌道を描きつつ、理玖は更に前へと踏み込む。相手との距離はほんの僅かだ。理玖は全力で拳を突き出し、明滅の胴を狙った。
「いいよ、そういうの。でもごめんね」
 渾身の一撃はあっさり躱され、更に銃弾が理玖を襲う――はずだった。
「こっちだ!」
 すかさず理玖が放ったのは、先程とは違った少し弱めのジャブだ。
 けれどその一撃こそが本命で、拳は真っ直ぐに明滅の腕を撃つ。
 彼女の手から銃が離れたのを確認すれば、更に追い打ちの足払いを。そして体勢を崩した明滅へ浴びせたのは虹色の衝撃波だ。

 悲鳴もなく吹き飛んだ女へ向けて、理玖は再び接近していく。
 強く拳を握りしめ、ひたすらに拳を突き出して。凄まじいラッシュが明滅の身体を叩き、着実にダメージを与えていく。
 けれどこれはがむしゃらな攻撃ではない。
「(せめて……苦しませないように!)」
 理玖の拳は明滅の――人体の急所を狙って打たれていた。
 それが分かっているのか、明滅はどこか寂しそうに笑っている。
 ああ、そんな顔するなよ。

 最後の一撃と共に、明滅の身体は凄まじい勢いで壁へと叩きつけられた。
 理玖も自らの拳を下ろし、彼女の方をじっと見る。
「……胸くそ悪ぃ」
 やっぱり世界は理不尽に満ちてる。
 けれど、ヒーローは止まる訳にはいかないから。これ以上の理不尽を生み出さないため、俺はきっとここにいる。

成功 🔵​🔵​🔴​

トスカ・ベリル
……どういうこと?
きみが、ドクターの許へあの子(嘆き続けるモノ)を唆したの?
きみが、死ぬために?
救いを、餌に?

……。
わかった、お望みどおりわたしもきみを殺す
救うつもりはないから、勝手に救われて

おもてなしして、誰かさん
自慢の速度も、この香を楽しまないならある程度避けられるようになるかな
いっそ害意を奪うこの香りを楽しんでくれるならなにより

『標』から生命力を吸収してもう一度、骸の海へ
それを『死ねた』と言うのなら、何度でも手伝うよ

エージェント。
きみ達の在り方は称えたいと思う
明滅、
きみのやり方は理に適っていて、たぶん最適解で
だけど、どうしてだろう
わたしはきみのことが、嫌いみたい
不思議だね




「……どういうこと?」
 トスカ・ベリルは明滅の言葉を反芻していた。
 つまり、彼女があの子達――嘆き続ける怪物達をドクターの元へ行くように唆したのだ。
 自分が殺されるため、つまり自分のためだけに。
 あの子達に「救われる」という最も甘い餌を撒いて。
 無意識に杖を握る手に力が籠もる。彼女の思考が分かった。それなら次はやるべき事へと考えを巡らせよう。
「わかった、お望みどおりわたしもきみを殺す」
 しっかりと前を向き、トスカは明滅へと言葉を投げる。
 その言葉で明滅が笑ったのも何だか嫌な気分だった。どうしてきみは笑えるんだろう。
「嬉しいな。猟兵ならやっぱりボクを救ってくれるんだ」
「ううん。救うつもりはないから、勝手に救われて」

 言葉を交わす時は終わった。
 明滅はすぐに銃を構え、その銃口をトスカへ向けるが――同時に柔らかな香りが廃墟の中を包み始めた。
 気がつくとトスカの前に首のない人影が立っている。香りを発しているのはその人だろう。
「おもてなしして、誰かさん」
 香りは明滅から殺意を奪い、銃を握る手の力を緩めていく。
 なんとか発砲した弾も明後日の方へ飛んでいったようだ。乾いた音だけが二人の耳に虚しく響いた。
「素敵な香りだね」
「それはなにより」
 にこやかな明滅に対し、トスカは決して笑わない。
 けれど彼女の表情もいつものぼんやりとしたものでもなかった。何かぐるぐるとしたものがトスカの胸に渦巻いて、蠢いている。

 相手に動くつもりがないのなら、後はこちらの好きにするだけ。
 トスカが杖を握り直したのなら、嵌められた大きなプレナイトが淡い輝きを放ちだした。
 その輝きはオブリビオンの命を奪い、少しずつ骸の海へと近づけていく。
「……ありがとう、助かるよ」
 命の削れる感触を感じつつ、明滅はその場に膝をついた。
 けれどトスカは杖を握る手に力を籠め続ける。
 プレナイトの輝きと誰かさんの優しい香りが二人を包むけれど――それでも気分は落ち着かなかった。

「エージェント。きみ達の在り方は称えたいと思う」
 死にゆく女へ向けて、トスカは少しずつ言葉を紡いでいく。
「明滅、きみのやり方は理に適っていて、たぶん最適解で――」
 怪物になった以上、頼るべきは猟兵だ。死にたいのなら彼らに頼るのが一番良い。
 一般人の被害も最低限で済んでいるし、結局死ぬのはオブリビオン達だけ。
 消えるのはドクターを、明滅と、あの子達だけ。
 だけど、どうしてだろう。
「でも、わたしはきみのことが、嫌いみたい」
 不思議だね。そう言葉を締めくくるトスカに対し、明滅は何も言い返さなかった。
 それ以上に言葉が紡がれることはない。
 柔らかな死の気配だけが、ゆっくりと廃墟に満たされていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

セプリオギナ・ユーラス
ようやく患者……いや、患部に到達、というわけだな。ずいぶんと手間を取らせてくれたな。
それが救いだと言うのなら、俺は──
全力を以て貴様を殺そう。

/医師であり殺人者。白衣の男は殺すことを躊躇わない。生かすことと同じくらいに、必要であればいのちを奪う。それによってしか救われないものがあるというのであれば、救うためにこそ殺そう。

オブリビオンは過去だ。この世界にとって病巣でしかない。
故に刈り取る。これは必要な処置だ。

・・・・・・・ ・・・・・・・
世界にとっても、患者にとっても。

嗚呼、今更確認するまでもない。救えるものなど数えるほどしかない。それでも『救ってくれ』と望まれるなら、俺は──
「施療の時間だ」




「ようやく患者……いや、患部に到達、というわけだな」
 白衣を整え直しつつ、セプリオギナ・ユーラスはこの戦いの終着点――諭鶴羽・明滅をじっと見つめる。
 彼女は自身の生命力を削りながら傷を修復しているようだ。その表情はゆるく微笑んでいる。
「ずいぶんと手間を取らせてくれたな」
「そうでもしないと、キミ達が確実にボクを救ってくれるか分からなかったからね」
 救いを求めている、とこの女は言う。
 それは自主的に出来ない自殺の協力。怪物としての自身の討伐。
 これが彼女にとっての救いだと言うのなら。
「俺は――全力を以て貴様を殺そう」
「ありがとう。それじゃあよろしくね」

 互いに覚悟を決めたのならば後は殺し合うだけだ。
 明滅は壁を蹴り床を蹴り、縦横無尽に室内を駆けていく。その最中には拳銃を構え、セプリオギナを撃ち殺さんと目論んでいるようだ。
 弾丸が跳ねるタイミング、女の動き。それらをしっかりと観察しつつ、セプリオギナも少しずつ明滅の動きに対応していく。
 例え銃弾が手足を掠ったとしても構わない。やるべきことは、この女を殺す(救う)こと。
 着実に距離を詰めつつ、セプリオギナは考える。
 彼は医者であり殺人者。だから誰かを殺す事も厭わない。躊躇ったりもしない。
 誰かを生かす事と殺す事。そこに価値の違いはなく、判断基準は『必要かどうか』だ。
 そして目の前にいる女は医者に救いを求めている。彼女は殺される事によってしか救われない。
 それなら、その願いに全力で応えるのが医者/殺人者だろう。

「わざわざお医者さんが来てくれるなんて嬉しいよ。ボクは殺されなきゃ救われない」
「ああ、そうだ。今の貴様はオブリビオン。この世界にとって病巣でしかない」
 病巣は切除するしかない。
 飛び交う弾丸を躱しつつ、セプリオギナは更に前へと進む。
 これは『世界にとっても、患者にとっても必要な措置』で。
 紛れもなく患者自身が望んでいるのだから、やるしかない。

 ――そうは思っているけれど、心のどこかで思ってしまう事もある。
 諭鶴羽・明滅は人間だった。
 もし生前の彼女に出会えたのなら。彼女が融合されてすぐに出会えたのなら。
 もしくは、奇跡が起こって今の彼女からもオブリビオンが分離出来たのなら、と。
 いいや、そんな夢は見るな。これは互いに望んだ『医療行為』だ。
「……救えるものなど数えるほどしかない」
 吐き捨てるように呟きつつ、セプリオギナはメスを強く握りしめる。
 明滅との距離はあと僅かだ。あと一歩でも踏み込めば、きっと。
 彼女は『救ってくれ』と言った。それなら、俺は。
「施療の時間だ」
 踏み込むと同時に突き出したメスは、明滅の人体としての急所を抉る。
 けれど彼女は苦痛に顔を歪めたりせず、ただその結果を受け入れていた。
「ありがとう、先生」
「礼は言うな。これが俺の仕事だからな」
 ここにいるのは、猟兵とオブリビオンであり――優しい医者と哀れな患者だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鬼桐・相馬
明確な殺意で仕掛けてくる相手の方がやりやすい――それも彼女の狙いなんだろうか。

【POW】
[冥府の槍]を構え[ダッシュ]で敵に近付き接近戦を。スピードと反応速度の大幅な上昇、拳銃を駆使した戦闘をするというのなら、こちらは[怪力]で槍を振るいリーチと範囲を生かす。

[戦闘知識と視力、野性の勘]を使い攻撃を[見切り、武器受け]からの[カウンター]で応戦。スピードを生かした相手は一撃の威力は低い事が多い、無理に避けることはないと判断。そのような傷口から冥府の炎を延焼させダメージを与えよう。

反撃と炎によるダメージで体勢を崩す瞬間を狙いUC発動、致命的な箇所に攻撃を当てよう。
ヒトとして、最期を迎えさせたい。




 諭鶴羽・明滅は明確な殺意を抱いてこちらと対峙している。
 殺し合いをするのなら、そのような相手の方がやりやすい。そう考えつつ鬼桐・相馬は槍を強く握り直す。
 きっとこの仕掛け自体が彼女の狙いなのだろう。それなら思う存分乗ってやるだけだ。
「さあ、キミはどんな風にボクを救ってくれるの?」
 明滅は人ならざる力で跳躍し、銃撃と共に相馬へ迫る。
 接近戦を挑もうとしているのは怪物としての自信の現れか、それとも死を願う人の本能か。
 ともかく相馬もそれに応じるべく、一気に前へと駆け出していく。
「……その動き、完全に人間離れしているな」
「オブリビオンだからね」
 明滅の動きは軽やかで、それでいて銃の狙いは正確だ。
 向こうが強みを押し付けてくるのなら、こちらも自分の強みを押し付けなければ。
 できるだけ相手の動きを制限出来るように振るいつつ相馬は槍を振り続ける。
 相手の飛距離、銃弾の装填数、部屋の狭さ――思案すべき材料は山程あるが、それでも一つ一つ着実に対応していけば勝機は見えるはずだ。

「なかなかがむしゃらな動きだね。ボクは好きだけど……これはどうかな?」
 不意に、明滅が高く跳び上がった。
 そして彼女はそのまま天井を蹴りつけ、立体的な動作と共に銃弾を放っていく。
 予想外の角度から放たれる銃弾を避けるのは難しい。
 しかし、ここまでの戦いと今までの戦闘経験から、相馬は一つの推論を立てていた。
 明滅の戦法は重い攻撃による一撃必殺狙いではなく、スピードと手数を活かして相手を翻弄するようなものだろうと。
 確かに銃撃の狙いは正確だが、全ての攻撃が頭や胴を狙っているものではない。
 つまり――致命傷にならない攻撃なら、受け止められるはずだ。
「なるほど、やはりか……!」
 相馬は重要な臓器だけを守れるように槍を盾にし、敢えて明滅の銃弾を受け入れていく。
 肩口や四肢に鋭い痛みが走るが、この程度は地獄の炎で補ってしまえばいい。
 むしろその炎を槍へと喰わせ――リロードの隙を活かし、相馬は明滅との距離を一気に詰めた。

 相馬が激しい炎を纏いつつ突進してきた事。それは明滅のさらなる隙を作り出す好機になった。
 炎との距離を取るべく後退する明滅だが、ここまでの動きの反動か彼女の身体は大きく揺らめく。
 それに合わせて相馬は勢いよく屈み込み、下段へと向けて冥府の槍を横薙ぎに振るう。
「っ……!」
「動くなよ。せめて……ヒトとして、最期を迎えさせてやる」
 バランスを崩した明滅の胴へ向け、相馬は槍を全力で突き刺した。
 破壊衝動を慈悲へと変えて、虚の命をここで潰えさせるために。
 その一撃を受ける瞬間、明滅は安堵したように微笑んでいたようだ。
 そんな彼女の顔を見て、相馬は少しだけ寂しげに目を逸らした。

成功 🔵​🔵​🔴​

御手洗・暖悟
絡みOK

――お前かぁ エージェント諭鶴羽
邪悪なUDC怪物は腐る程見た
が これはあんま経験ねぇわ…参った

取りあえず一服 と

ナンパしてあしらわれてその後食堂で何度か顔合わせた 
知り合いでも友人じゃない
MIAって聞いた よくある事だとてめーに言い聞かせそのまま
その程度の関係 それでも

早計 じゃねぇか?お前自身が過去になってねーなら分離する手段も…
UDCの技術だって低くない 何ならソレが出来る猟兵がいるかも…穏便には 済ませられねぇのか 「コミュ力」

糞 我ながら虚しい説得だ
そんな言葉吐きながらUCで迎撃の準備は整えている自分に嫌気が差す
光を守護する為に、同胞だった奴に武器を向けている


本当に狂気の沙汰だ




「――お前かぁ、エージェント諭鶴羽」
 煙草に火をつけ一服しつつ、御手洗・暖悟は目の前の女を見た。
 彼女の事は知っている。邪悪なUDC怪物だって腐るほどに遭遇している。
 けれど、こういうパターンは滅多に遭遇するものでもない。
 知人が化け物になり、自分に武器を向けるなんて。
「……参った」
「キミは……ああ、そっか。あのメカニックさんだね」
 明滅も暖悟の顔に合点がいったのか、どこか寂しそうに笑っている。

 御手洗・暖悟はエージェントだった諭鶴羽・明滅を知っていた。
 初めて話しかけたのはナンパだったっけ。すっげー適当にあしらわれたの、覚えてるぜ。
 その後も食堂で何度か顔を合わせたけど、特にそれ以上は何もない。
 明滅は暖悟の知り合いでも友人でもなく、数多くいる同僚の一人だ。
 ある時から食堂で明滅を見かけなくなり、少し気になって調べたりもした。
 その時の彼女のステータスはMIA――「作戦行動中行方不明」だって。
 UDC組織のスタッフなんて、戦死も発狂もよくある事だ。
 彼女の事だって、そんな『よくある事』の一つだと自分に言い聞かせていた。
 けれど、今は。

 紫煙を吐き出しつつ、暖悟は改めて明滅の顔を見つめる。
 何故だろう。食堂で会った時と顔や身体は全く変わっていないのに、気配だけは全然違う。
 それでも暖悟は言葉を紡がずにいられなかった。
「……早計、じゃねぇか? お前自身が過去になってねーなら分離する手段も……」
「ううん。エージェント諭鶴羽は既に死んでいる。今ここに立っているのは紛れもないオブリビオンだよ」
「UDCの技術だって低くない。何ならソレが出来る猟兵がいるかも……」
「ありがとう。でも……過去は変えられないから」
 ああ、胸糞悪い。
 暖悟も本当は分かっているのだ。いくら言葉を重ねても、これはただの虚しい説得だと。
 だからこそ明滅も、そして暖悟も静かに武器を構えている。
「穏便には、済ませられねぇのか」
「……ごめんね」
 最後の言葉はシンプルだった。
 ここまで来たならやるしかない。
 光の世界を守るため、同胞だった奴だとしても――化物を殺すのが俺達の仕事だから。

「それじゃあ、ボクを救ってね」
 明滅が銃口を前に向け、暖悟の胴へと狙いを定める。
 相手が終わらせるつもりならこちらも乗らなければいけない。
 暖悟も『ディメンション・フック』の射出機を構え、明滅の方へと向けた。
 考えるな。プログラミングしたまま動け。ただ、やるべき事をやれ。
 自分に強く言い聞かせつつ、暖悟も己の引き金を引く。
 弾丸が暖悟の身体を貫くより速く、フックの先端がオブリビオンの身体を抉り取った。
 これで全部おしまいだ。怪物はきっと退治できた。
「……自殺、手伝ってくれてありがとう」
「こんなの自殺じゃねぇよ、全く……」
 本当に狂気の沙汰だ。でも、俺達は狂気で狂気に打ち勝つしかない。
 どさりと崩れる女の姿を見ながら、暖悟は煙草の火をかき消した。


 こうして全てのオブリビオンは討伐され、廃墟に静寂が訪れる。
 関わった一般人達は無事に保護され、適切な処理を受けて日常へと帰されるだろう。

 誰が幸せになって、誰が不幸になったかは分からない。
 ただ――廃墟から出た時は、静かな風が猟兵達を包み込んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年05月15日


挿絵イラスト