8
お砂糖を毒に変えて

#サクラミラージュ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ


0





 きにいらないの。
 おいしそうなスイーツが、楽しそうな談笑が、フリルを靡かせて働くメイドたちが。
 ああ、目障り耳障り。
 私は死んでしまったのに、どうしてみんなみんな、楽しそうにしているの?
「お待たせ致しました、ティースカッシュとケーキのセットです」
 けれど、そんな思いはおくびにも出さずに、彼女は今日もどこかのカフェーで笑うのだ。
 凍るような冷たいまなざしを、花のような笑顔で隠して。


「街で噂の面白いお店を見つけたんです、みなさんもご一緒に如何です?」
 まあ、仕事もお願いすることになるんですけれど、と告げた九十九里・トヲル(救済パレヱド・f22911)は困ったように笑った。
 トヲルが掲げたチラシには、様々な色が注がれたグラスの上にちょこんとまあるい何かが乗っている。
 どうやら上に乗ったそれはアイスクリームで、描かれているものは『クリームソーダ』のようだ。
「好みの色と味のクリームソーダを作ってくれるカフェーらしいです、面白いでしょう?」
 売れ筋はメロンにスミレ、それからイチゴ。今は春らしくサクラなんてのもある。
 また、最近は果物だけでなく紅茶を使った紅茶フロートも売り始めたのだとか。
 ソーダだけでなくアイスクリームの味も変えれば、その組み合わせは無限大。自分好みの味を堪能できることだろう。

 楽しい話ばかりなら良かったんですけれど、ここからは仕事の話になりますよと、トヲルが申し訳なさそうに頬を掻く。
「もうお分かりかと思いますが、影朧がそのカフェーに現れます。お客様を毒殺しに」
 トヲルが見たメイド姿の影朧。
 彼女はカフェーで楽しむひとすべてが憎くて憎くて仕方ないようだ。そして、何故か毒殺に拘っている。
「……理由までは分からなかったんですが、もし理由が分かったら彼女を癒すことも出来るかもしれませんね」
 過去にどこかのカフェーで起きた事件について、他のお客様やメイドたちに聞いてみてもいいかもしれない。
 どうやらメイドたちのなかにも彼女の手下が潜んでいるようだ。
 影朧から聞いた話なんて信憑性を疑いたくもなるが、猟兵たちの不利になることは言わないだろう。彼女の手下たちは噂話がとてもとても好きらしいから。
「楽しんでいれば彼女は皆さんを狙って現れるでしょう。限られた時間ですけれど、楽しんできてくださいね」
 気付けば例のカフェーの前。
 影朧は放っておけないけれど、色とりどりのクリームソーダのことを考えれば、ちょっとだけ胸が弾んだ。


あまのいろは
 あまのいろはです。炭酸は三本の矢のアレが好きです。

 ちょっとだけカフェーを楽しみつつ、影朧退治のお仕事です。
 1章では影朧が現れるまで話題のクリームソーダやカフェーの軽食を楽しんでください。
 過去に起きたであろう事件の噂など、情報を探しても構いません。思い思いにお過ごしください。
 2章はボスの手下との集団戦、3章でボスである影朧との戦闘になります。
 影朧が何を強く恨んでいるのかが分かれば、その心を慰めることも出来るかもしれません。


 1章のプレイング受付は、4月20日の月曜日、8:31からになります。
 1章以降は受付は、その都度マスターページでお知らせさせて頂きます。

 それでは、皆様のプレイングを楽しみにしております。
44




第1章 日常 『彩る泡の傍らに』

POW   :    甘味も頼む

SPD   :    軽食も頼む

WIZ   :    今日のお勧めも頼む

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ミリィ・マルガリテス
まあ、まあ、まあ…!
きらきら輝く素敵なカフェー
可愛らしいメイドさん達と揺れるフリル
硝子の瞳を思わず煌めかせて

依頼という事を差し置いても
思い切り楽しんでしまうわね

案内していただいたら
夢のようなソーダを頼みましょう
そうね、スミレのソーダをくださる?
アイスは苺で
それから甘いお勧めのお菓子をおひとつくださいな

それから、運んでくださったメイドさんに話しかけてみるわ
メルシー、マドモアゼル
こんなに素敵な色のソーダ、初めて見ましたわ

わたし、このカフェーのファンになってしまったの
お店の歴史もきっと素敵な事ばかりなのでしょうね
夢のように甘やかで、月影の如く翳りもない…
宜しければ、少しお話を聞かせてくださらない?




 トレイの上には、彩り鮮やかなクリームソーダ。給仕をするメイドたちのフリルも楽しそうに揺れる。
「まあ、まあ、まあ……!」
 きらきら輝く素敵なカフェー、とミリィ・マルガリテス(静謐の籠・f05912)はほうと息を吐く。彼女の春のようないろの硝子の瞳もきらきら煌めいていた。
 依頼ということを差し置いても思い切り楽しんでしまいそう、なんて思ってひとり微笑む。
 案内された席で開いたメニューには、ずらりと並ぶフレーバー。
 これとこれを組み合わせたらどんな味になるかしら。メニューを眺めてそんなことを考えるだけでも楽しい。
 ちりりん。ミリィがベルを鳴らせば、気付いたメイドがすぐに彼女のもとへ。
「ご注文は何になさいますか?」
「そうね、スミレのソーダをくださる?」
 アイスは苺で、それから甘いお勧めのお菓子をおひとつくださいな。
 かしこまりましたと下がるメイドを見送ってからクリームソーダが届くまで、そんなに時間は掛からなかった。
「メルシー、マドモアゼル」
 ミリィの前にそっと置かれた木製トレイの上には、クリームソーダとシフォンケーキ。
 ぱちぱち弾けるスミレのソーダ。苺のアイスクリームにも、スミレの花が添えられている。
「こんなに素敵な色のソーダ、初めて見ましたわ」
 もちろん、その言葉に嘘偽りはない。ちいさな春を閉じ込めたようなクリームソーダを前にして、ミリィの瞳がうっとりと瞬く。
「わたし、このカフェーのファンになってしまったの」
 ――嘘偽りはない。けれど、それだけがすべてでもなかった。
「お店の歴史もきっと素敵な事ばかりなのでしょうね。夢のように甘やかで、月影の如く翳りもない――……」
 ストローでくるりとソーダをかき混ぜながら、ミリィがちらりとメイドに視線を向ける。
 メイドが恥ずかしそうにそろりと視線を逸らしたのは、彼女の瞳がただただ美しかったからだろう。
「佇まいは古いですけれど、このカフェー自体はそう古くもないんですよ。その、」
「あら、そうなの? きっと長いこと愛されてきたのだと思ったわ」
 言い淀んだ言葉の先を促すような視線を受けて、メイドはすこしだけ居心地が悪そうにレースのエプロンをきゅ、と握る。
「なにか、あったのかしら。宜しければ、少しお話を聞かせてくださらない?」
「……あんまり大きな声では言えないんですけれど、その、昔ちょっとした事件があったんです。お客様も従業員も、たくさん亡くなって――……」
 すこしだけミリィに顔を寄せたメイドが小声で告げる。まあ、と驚いた顔をしたミリィに、当店は大丈夫ですよ、とぱっと笑顔を浮かべて。
「どんな事件だったか、聞いてもいいかしら?」
「あんまり立ち話してると怒られちゃうんですけど……」
 メイドはちら、と厨房に目を向けて。誰もこちらを見ていないことを確認すると、ミリィに小声で囁いた。――――大量毒殺事件です、と。
「…………毒……」
 厨房から物言いたげな視線を感じたのだろうか。ひみつですよと悪戯っぽくメイドは笑うと、ぱたぱたと厨房へと戻っていった。
 くるり。ミリィがもう一度ソーダをかき混ぜると、グラスのなかの氷がかろんと鳴って。
 ひとくち味わえば、甘くて爽やかなスミレの風味がソーダと一緒にぱちぱち弾けた。メイドの残した不穏な言葉を掻き消すようだわ、なんて。そんなことを考えたりもする。
「悪いことなんて、このソーダみたいに夢ならいいのに」
 分からないことはまだまだ多いけれど。今はこの夢のような時間を楽しむとしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
あーららぁ、たーいへん。たいへん? たぶんね
何をしたんだろう。何をされたんだろう。恋かな? やつあたり? 通り魔?
まあ何でもいっかぁーやること変わらないし
というかまだなんもわかんねーし。ね

だから楽しもう! そうしよう!
さくらのソーダってどんな味すんの? やっぱ薄いピンク色なのかな
塩漬けのサクラが乗ってたり?
ってことで、さくらのクリームソーダを頼もう。あとサンドイッチとかほしいな。ある?
あんまり食べっと、あとで吐くことになるかもしれないしなぁ
そうだ情報収集。持ってきてくれた人に記者だって嘘ついて、なんか面白い噂ないかって聞けば話してくれっかな
人の不幸話なんてクリームソーダよりずーっと甘いだろう?




「あーららぁ、たーいへん。たいへん? たぶんね。何をしたんだろう。何をされたんだろう。恋かな? やつあたり? 通り魔?」
 夢でもみているかのようにふわふわと紡がれる、誰に言うでもないひとりごと。茜崎・トヲル(白雉・f18631)の言葉は、誰かに向けられたものではない。
「まあ何でもいっかぁーやること変わらないし。というかまだなんもわかんねーし。ね」
 かろんかろんと鳴るベルとともに響く、いらっしゃいませという声がトヲルを迎え入れる。
 トヲルが視線だけをきょろりと動かしてカフェーを見渡した後、にぃと笑みを浮かべたことはマスクに隠れて誰にも分からなかったけれど。
「だから楽しもう! そうしよう!」
 やっぱり誰に言ったわけではないその声は、心なしか弾んで聞えたのだった。

 席に案内されたトヲルはすぐに、さくらのクリームソーダを頼む。
「あとサンドイッチとかほしいな。ある?」
 もちろんです、と100点満点の笑顔を見せたメイドにそれも頼むとひらひらと手を振って見送る。
 オムライスも、ケーキも、パフェーも美味しそうではあったけれど。
「あんまり食べっと、あとで吐くことになるかもしれないしなぁ」
 これから影朧と相対することを考えると、腹八分目くらいが丁度いいのかもしれない。
 けれど、今はまだ姿形もない影朧のことを考えても仕方がない。なにより楽しくない。待ち時間だって楽しいほうがいいに決まっている。
 嗚呼、そうだ。窓から見える景色でも眺めながら、これから運ばれてくるクリームソーダのことを考えよう。
 さくらのソーダってどんな味すんの? やっぱ薄いピンク色なのかな。塩漬けのサクラが乗ってたり?
「お待たせいたしました」
 トヲルは窓の外にやっていた視線を戻す。目の前に置かれたそれはカフェーの窓から見える風景に似ていた。
 さくらのソーダは桜で霞む帝都に似て。アイスクリームは遠くに咲く桜の木のようだ。そして、トヲルの思ったとおり塩漬けのサクラがちょこんと乗っている。
 マスクをずらしてさくらのソーダをひとくち。くちのなかで春のかおりがぱちぱち弾ける。思い出したように、戻ろうとしているメイドを引き留めた。
「これも甘いけどさぁ、もっと甘い話をしらない? おれ、記者なんだけど、面白いネタのひとつでも掴んで来いって放り出されて。ひどいよな」
 引き留められたメイドは、大変ですね、とくすくす笑う。
「甘い話……。スタアがお忍びで、なんていうのは教えられませんよ?」
 それはお忍びで来ていると言っているようなものでは? なんて思いながら、ストローを咥えたままんー、と曖昧な返事を返す。
「恋の話もいいけどさ。それよりもっと、刺激的であまーいやつ。例えば」
 ――――人の不幸話なんてクリームソーダよりずーっと甘いだろう?
 に、と笑ってストローを噛む。噛まれて意図しない方向へ持ち上がったストローの先からソーダがぽとりと垂れて、くしゅくしゅになっていたストローの紙袋をじんわり広げていく。
 人の不幸だなんてひどいですね、なんて言いながらも笑顔を崩さないメイドが教えてくれたのは、近所のカフェーであった毒殺事件の話。
 怖いですよね、おかげでうちも売り上げがちょっぴり落ちてるんですよ。犯人は見当もつかないんですって。
 犯人が捕まったら記事にしてくださいね、と言い残して去っていったメイドを見送りながら、サンドイッチをぱくり。
「だいじょうぶ、記事にもならずに犯人は見つかるし、解決するよ。たぶんね」
 へらりと笑いながら呟いたそんなトヲルの声は、話してくれたメイドに届きはしなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リドリー・ジーン
クリームソーダ…そういえば飲んだ事がないのよね
サクラミラージュの食べ物はどれも味は美味しいし見た目は可愛いし、給仕の制服は可愛くて度々訪れたくなるわ

メニューを見ても中々決められないから"オススメ"でお願いしようかしら。一緒に軽いデザートなんかも頼んで
運んできてくれた店員さんにメニューの事を褒めながら、常連客の方とか、気になる方はいないか話を聞いてみましょう
目星がつけばそちらの方を気にしながら…だけど、暫く動きがないようだからクリームソーダを堪能させて頂くわ

お酒ばかり飲んでるけど、甘い物やスイーツも大好きだわ
仕事が終わったらまた来たいわね、ふふ、サクラミラージュに仕事で来るといつも思うのよ。




 メニューを開いたまま固まるリドリー・ジーン(不変の影・f22332)。けれど彼女の瞳だけはきょろきょろとメニューの上を行ったり来たり。
 クリームソーダ。そういえば飲んだことがない。お酒には強いからよく飲むけれど、お酒ばかり飲んでいるわけでもない。甘いものやスイーツもやっぱり欠かせないのだ。
 サクラミラージュの食べ物はどれも美味しくて見た目も可愛い。給仕の制服もお店によって違い、可愛らしいものばかりだ。だから、お仕事以外でも訪れたくなる。
 でも、やっぱり来るのは仕事のついでになってしまうのだけれど。猟兵なのだから仕方ないのかもしれない。
 あれもこれも美味しそう、と悩みに悩んで今日のオススメを頼んだリドリーの前には、トリプルベリーのクリームソーダ。それから、甘さ控えめのカステイラ。
「素敵なお店ね、常連になっちゃいそう」
「褒めて頂き光栄です、ファンの方も結構多いんですよ」
 ふふ、と嬉しそうに笑うメイドに、リドリーは世間話の体で常連客についてや何か気になったひとはいないかと聞いてみることにした。
「……ああ、近所で毒殺事件がありましたものね。常連のお客様はいますけれど、気になる、というと……」
 それ以上のことは分からないとでも言うように、メイドがうーんと首を傾げる。
 ありがとう、と彼女を見送ったリドリーだったが、収穫がゼロだった訳ではなかった。
 今カフェーにいる常連客について聞くことが出来たのだ。幸い、席も近い。ちょっと声を掛ければ気付いてくれそうだ。
「あの、すこしよろしいですか?」
 勇気を出して、リドリーが声を掛ける。声を掛けられた客は顔を上げてリドリーを見た。真っ赤な紅を引いた、この世界で生きているであろう女性。彼女は嫌な顔せず笑顔でリドリーを受け入れた。
「どうなさったの?」
「このお店が初めてでして……」
 メニューも色々あって迷ってしまって。よく来ている方にちょっとお話を聞きたいなあ、なんて。ここはどんなお店なんですか?
 リドリーの質問を、彼女はひとつひとつ丁寧に答えてくれた。そのなかでリドリーが気になったのは、最近お店に来たメイドの話だった。

 会話を終えたリドリーは、例のメイドを視線で追う。
 ミルクティのようないろの髪をした、笑顔の愛らしいメイドだった。
 後ろ髪はさっぱりと短く、前髪は目の上で切り揃えられていて活発な印象を与える。けれど、レースの手袋や桜の花の髪飾りなど細かな装飾で愛らしさも醸し出していた。
 はきはきとした受け答えは見ていて気持ちがよかったし、視線に気付けば声を掛けられる前に動いている。食器の音を立てずに給仕する姿は見事なものだ。
 看板娘、というのに相応しい女の子。けれど、なんだろう。なんだか引っ掛かる――――。
 そんな彼女とぱちり、視線がぶつかる。薄い青色の氷のような、つめたい色の瞳。
「どうかなさいましたか?」
「ああ、ええ。なんでもないわ。あなたの接客がとても素晴らしかったから、つい」
「あら! ありがとうございます、お上手ですね」
 ぱっと花のような笑顔が咲く。リドリーも思わず見惚れてしまいそうな愛らしい笑顔だった。
 きっと彼女は常連客の言うように、気立てのいいメイドなのだろう。けれど、それでも。第六感、とでもいうのだろうか。なんだか胸がざわざわする。
「御用がありましたらベルで呼んでくださいね。ごゆっくり」
「ええ、ありがとう」
 ――――もしかしたら。そんな疑念が浮かぶけれど、まだ確証には至らない。
 もっと彼女から話を聞きたい気もするけれど、時が来れば彼女たちは動き出すだろう。焦ることはないとリドリーは思い直して。
「……外れてるといいのだけれど」
 リドリーはぽつり呟くと、ストローに口を付ける。言葉に出来ない他の想いは、クリームソーダと一緒に飲み込むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
成程、本場のクリームソーダとはこういう…
メロンだけかと思っていたが
こうも種類があると目移りするものだ
とは言え此方は、香りを楽しむだけなんだがね

スミレのクリームソーダを注文
大事だからね、糖分
頭脳労働にも荒事にも必要だ
ぱちぱち弾ける泡に、仄かに香る春を楽しんだら
さて、仕事を始めようか

コミュ力で情報収集
給仕さん、新聞あるかい?
メイドを呼付け、声を潜めて

前にカフェーで物騒な事があったろう
今度雑誌に記事を書くんだ…少しお嬢さんの話を聞きたいんだよ
例の事件、まだ犯人捕まってないらしいが
君達は怖い目にあってはいないかい?
噂を辿っても、男だ女だ痴話だ怨恨だとはっきりしなくてね…
何か知ってたら、教えて貰えるかな




「大事だからね、糖分。頭脳労働にも荒事にも必要だ」
 目の前でぱちりぱちりと泡が弾ければ、ふわりと仄かに春のかおり。
 高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)は、いくつも弾ける香りを楽しんでいた。
 彼が頼んだのはスミレのクリームソーダだったけれど、様々な種類のクリームソーダがカフェーに溢れているものだから、やっぱり目を奪われる。
 成程、これが本場のクリームソーダ、と感心した梟示だったが、彼が楽しむのは香りだけ。
 ここには仕事として来たのだし、それに、味覚の欠けた身では酸いも甘いも分からない。
 春の香りをもう一度胸いっぱいに吸い込むと、梟示はがりりと頭を掻いた。
「さて、仕事を始めようか」
 赤茶色の瞳がぎょろりと動く。覇気のない気怠げな瞳が、ほんのすこし輝きを取り戻した、気がした。

「給仕さん、新聞あるかい? ああ、それでいい。どうも」
 梟示はメイドのひとりを呼びつけて新聞紙を受け取ると、見出しのひとつをとんとん、と細い指で叩く。内容はもちろん、カフェーの連続毒殺事件。
「カフェーで物騒な事があったろう」
 すこし怯えたような目でこくんと頷くメイドをちょいちょいと人差し指で手招きする。素直に梟示に近づいた彼女にしか聞こえないように、ひっそりと声を落として。
「今度雑誌に記事を書くんだ……、少しお嬢さんの話を聞きたいんだよ」
 大丈夫かい、と聞けばメイドは記者の方ですか、と呟いてからやっぱりこくりと頷いた。
「例の事件、まだ犯人捕まってないらしいが、君達は怖い目にあってはいないかい?」
「……変なお客様は来ていない、と思います。お店の外で待ち伏せされた、なんて話もないです」
 そういうひともたまにいるようですけどね、と少し困り顔で。ふむ、と軽く顎を擦ると僅かに首を傾げる。
 と、なると。毒殺に拘るという話の通り、気付いた時にはもう事件が起こっているのだろう。
 ――――恨むべき相手も、そうでないひとたちも、無差別に巻き込んで。
 がりり。梟示が頭を掻く。そんな彼を不安そうに覗き込むメイドと視線がぶつかった。
「すまない、考え込んでしまった。噂を辿っても、男だ女だ痴話だ怨恨だとはっきりしなくてね……」
 何か知ってたら、教えて貰えるかな。そう問われたメイドは頬に手を当てて視線をふらふらと彷徨わせて。
「怪談のようなものなら知ってるんですが……。全然お役には立たないと思うんですけれど……」
「なんでも構わない。聞かせてくれるかな」
「あ、はい。ええと――……」
 梟示に先を促されてメイドが語ったのは、とあるカフェーで毒殺された看板娘のメイドの話。
 いつも笑顔で素敵な接客。彼女はカフェーで人気の看板娘。そんな彼女に想いを寄せていた男がひとり。けれど、どんなに足繁く通っても彼女が振り向いてくれることはありません。
 だって、彼女がいちばん大切だったのは、自分が働くカフェーでありお客様だったのですから。
 ああ、それでも彼女が欲しい。彼女が振り向いてくれないのなら、そうだ。このカフェーをなくしてしまおう。そうして男は毒を盛り――――。
「……恋慕していた彼女まで殺してしまったというわけか」
「ええ、それで彼女はその男を探してカフェーを渡り歩いているそうですよ」
 オバケが相手じゃ捕まえられないですよね、とメイドが呟く。
 影朧とは傷つき虐げられた者達の「過去」から生まれるオブリビオンだ。今回の事件を起こしているのがその彼女だったとしても、何もおかしくはないだろう。
「…………それにしても、ままならない話だ」
 またがりりと頭を掻きながら、梟示は溜息を落とす。溜息と一緒に溶けたアイスクリームが机に垂れていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バジル・サラザール
甘味は脳のエネルギー、戦いの前に英気を養いましょう

メロンのクリームソーダを頼もうかしら
少し派手な原色の緑に炭酸の泡が映えてとっても綺麗だわ
こういうのって実際には果物の果汁は使われてないっていうけれど、そういうのは野暮かしら、実際メロンっぽい味するし、何より美味しいし
それともこのお店では普通に使われてるのかしら?

クリームソーダを食べながら、メイドさんやお客さんと雑談がてら情報収集
過去の事件の噂に加え、メイドさんがどれくらい勤めてるかとか聞きながら、潜んでいる手下の情報も集めましょう

素敵なお店と素敵なクリームソーダ。そんなところで毒殺事件だなんて、なんとしても防がないとね

アドリブ、連携歓迎




「甘味は脳のエネルギー、戦いの前に英気を養いましょう」
 バジル・サラザール(猛毒系女史・f01544)がくるぅり、ストローでクリームソーダをかき混ぜれば、泡が弾けてしゅわしゅわと鳴った。バジルが頼んだのはメロンのクリームソーダ。
「少し派手な原色の緑に炭酸の泡が映えてとっても綺麗だわ」
 こういうのって実際には果物の果汁は使われてないっていうけれど、そういうのは野暮かしら。実際メロンっぽい味するし、何より美味しいし。それともこのお店では普通にメロンが使われてるのかしら?
 楽しみながらもついつい考察してしまうのは、UDCエージェントとしての性かもしれない。
 クリームソーダを味わいながらも、バジルはメイドやお客さんたちと雑談を交えながら情報収集をしていく。
 過去にこのカフェーで起きた事件の話に、最近毒殺事件が起きたカフェーの話。毒殺されたというメイドの怪談話。それから、このお店の常連客や売れ筋のメニューについて。
 バジルはアイスクリームをひと掬い。つめたい甘さを堪能しながら、ふぅ、と一息入れる。
 すべてが影朧に繋がる話ではなかったが、人の口にとは立てられない、とはよく言ったもので。話を聞けば聞くだけ新しい噂話がぽんぽん飛び出てくる。
「それだけいろんなひとが集まる、素敵なお店ということかしらね」
 だからこそ。こんなところで痛ましい毒殺事件を起こすわけにはいかない。なんとしても防がないとね、と心のなかで呟いた、そのとき。
「お呼びですか?」
 声を掛けられてふと視線を上げれば、バジルの座るテーブルの横にメイドが立っていた。
「あら、呼んだ覚えはないのだけれど……」
 バジルが怪訝に思い、僅かに首を傾げる。あら、と驚いた顔をしてから、すぐに笑顔に戻ったメイドは、すこし砕けた口調でこう言った。
「あれ、おかしいなあ。私たちのことを探していたんじゃないですか?」
 ―――それは、つまり。
「今日はなんだか騒がしいお客様が多いなあって、困ってたところなんです。それで、ねえ。本当にお呼びじゃないですか?」
 それなら構いませんけれど、とメイドが笑う。その言葉に含まれた意味を、分からぬバジルではない。
「……無粋であることに変わりはないけれど、正面から来るその心意気だけは褒めてあげるわ」
 お褒めに預かり光栄です!そう言ってメイドは微笑む。
 そんな彼女の背後から聞える、くすくす可笑しそうなメイドたちの笑い声。冷たい視線が、――――バジルを、猟兵たちを、見ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『噂話桜前線・メイドガアル』

POW   :    そうですね…こんな話がありますが…
自身の【話のネタや噂話や秘密事項】を代償に、【その内容に準じた又は捻じ曲げた怪異を召喚】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【その怪異に合わせた攻撃手段】で戦う。
SPD   :    ご注文は…はい!おすすめですね!
【カフェーで提供してるメニュー(美味しい)】を給仕している間、戦場にいるカフェーで提供してるメニュー(美味しい)を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    えっ皆さん…来てくれたんですね!
【レベル×1のカフェーの常連客やファン】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「今日はなんだか騒がしいお客様が多いなあって、みんなみーんな、困ってまして」
 とあるメイドのひとりは、そう言いながら愛らしい仕草で小首を傾げる。
「こちらも手荒な真似はしたくありませんし、今お帰り頂けるようならこのまま見逃しちゃいます!」
 とあるメイドのひとりは、そう言いながら花のような笑顔を浮かべた。
「”お仕事”が終わったら、明日にはいなくなりますよ。それでどうですか?」
 とあるメイドのひとりは、そう言いながらトレイをくるりと回して見せる。
 彼女たちの言うお仕事が、ただの給仕のことを指しているわけはないのは明らかだった。
 それに、例えそれがただの給仕なのだとしても、影朧を見逃せばそのぶんだけこの世界が歪んでいく。見逃すわけにはいかない。
 ――――だから、猟兵たちの答えは聞かれずとも決まっている。メイドは鬱陶しそうに、笑顔を歪めてみせた。
「ほーんと、噂通り厄介なひとたちですね!!」
ミリィ・マルガリテス
あら、かしましかったかしら
ごめんなさい、カフェーの雰囲気を乱してしまって
でもね、帰る訳にはいかないのよ

可憐なメイドさん達と戦うのは気が引けるのだけれどーー救うためなら仕方がないわね
お許しあそばせ
ご一緒にレビュウを綴りましょう

Despair umbrellaで攻撃を
お相手からの攻撃は、カウンターと見切り、激痛耐性で備えて

ーーその御心はどんなに苦しかったか
大量毒殺事件、という重い響に機械仕掛けの心が軋んで
突然命を奪われて、それでもセカイは巡っていて
悔しい、悲しい、そんな想いにも共感するわ

……それでも、無関係のヒトを毒殺したら
あなた達も同じになってしまう
それだけは、止めなくては
さあ、悲劇に終幕をーー




 ずらりと現れたメイドガアル。胸のうちには深い憎悪の感情が燃えているのかもしれないが、彼女たちの顔から朗らかな笑顔は外れないまま。
 ――――騒がしい、邪魔モノ、厄介な。はやく帰ってくれればいいのに。
 もちろんそんな言葉は影朧であるメイドガアルたちの言葉は感情のままに吐き捨てられたものではあるのだが、ミリィはそれすらも微笑みで受け止めて。
「あら、かしましかったかしら。ごめんなさい、カフェーの雰囲気を乱してしまって」
 僅かに小首を傾げて。ふふふと笑う彼女の微笑みは、春の日差しのようにやわらかい。思わず影朧たちもたじろぐほどだった。けれど、続く言葉には凛とした意志が込められていた。
「――――でもね、帰る訳にはいかないのよ」
 だって。ミリィの瞳がメイドガアルたちを捉える。ひとり、ふたり、さんにん。嗚呼、皆どんな悲劇に巻き込まれて亡くなったのかしら。彼女たちのことを想えば、なんだかきしりと胸が軋む。
 でもね。救うためなら仕方がないわね。――可憐なメイドさん達と戦うのは気が引けるのだけれど。
「お許しあそばせ、ご一緒にレビュウを綴りましょう」
 ミリィはついとスカートを摘まんで一礼。視線を戻せば、メイドガアルたちがこちらへ向かってくる姿が見えた。
 きっと、彼女たちはもう誰かを憎むことしか分からないのね。それは、なんてなんて、悲しいことだろう。

 メイドガアルの攻撃を、ミリィは見極めて避ける。けれど。――どろり。触れられてもいない、スカートが溶けて落ちた。
「………あら」
 床に落ちたスカートがぶしゅうと音を立て、どろりどろりと溶けていく。スカートだったものは、すっかりどろどろした謎の液体と化してしまった。
『びっくりしました? 触れたら爛れるくらいじゃ済みませんよ!』
 メイドガアルは自らが巻き込まれた毒殺事件を代償に、毒を扱う能力を得ていた。彼女たちの強すぎる憎悪の感情が、その毒を更に強くしたのだろう。
 ミリィの胸が、ぎしりと、先ほどよりも強く軋む。機械仕掛けの身体でも、誰かを痛む心は持っている。
「その御心はどんなに苦しかったのでしょう」
『…………は?』
 慈しむ言葉に、メイドガアルがぽかんと口を開ける。
 同情だろうか、憐憫だろうか。それでも蔑んでいるのだろうか。見下されるならそれでいい。毒で以って黙らせればいい。今までだってそうしてきた。なのに、それなのに。
 目の前の彼女は、ほんとうにほんとうに、悲しそうに自分を見るものだから。
『――……ッ、そんな、そんな顔するな!!! 私は!!!』
「突然命を奪われて、それでもセカイは巡っていて。悔しい、悲しい、そんな想いにも共感するわ」
『同情するな! 生きている奴に分かるわけがない!!』
 そう叫ぶと同時に、メイドガアルの身体のまわりにぶわりと煙が立ち上る。
 ミリィの機械の身体でも、あれに触れたら床で溶けているスカートのようになってしまうだろう。
『バカにしないで!!』
 メイドガアルはそう叫ぶと、毒を纏ったフォークを片手にミリィへ突進する。
 毒によって殺され、その毒を使って、自分を殺そうとしている彼女。
 けれど、ミリィの目には、世界に置いて行かれた、迷子のようにしかうつらなかった。
「……ねえ。それでも、無関係のヒトを毒殺したら、あなた達も同じになってしまう」
 それだけは、止めなくては。――――さあ、悲劇に終幕を。
 閉じたままのましろの日傘。ミリィがそれでメイドガアルが持つフォークを弾いて見せれば、メイドガアルはぱちくり瞬きをして。
『えっ!?』
「ええ、ええ、ただの傘ではありませんの」
 瞳にやさしいいろを乗せて。黙っていてごめんなさいね、そう言ってミリィは微笑む。――――そして。
 次の瞬間には、ミリィの日傘が影朧の身体を貫いていた。
 桜の花びらのように散っていく姿を見送りながら。ミリィは彼女たちが、今度はあまい夢をみてくれますようにと願わずにはいられなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

バジル・サラザール
確かに手荒な真似は極力したくないわね。できる限りスマートに迅速に済ませましょう

ウィザードロッドやバジリスク・ポーション等で戦うわ
極力毒をばら撒くような戦い方は避けたいわね
敵の攻撃は『野生の勘』も用いつつ、回避や防御、相殺をしていくわ
っと、ファンの人達かしら。庇われたり攻撃されたりすると面倒ね。『睡魔を誘う蛇の果実』で一旦眠っててもらいましょう
有害なものではないわ、誰かさん達と違ってね

お仕事なんてやめて、ゆっくり休んでなさい

アドリブ、連携歓迎


高塔・梟示
いやいや無銭飲食をする気はないんだ
ちゃんとお代を払わねばね
無論支払うのは君達も…それが代償だ

戦闘範囲に一般人がいれば人払いを先に
食事時に愉快な眺めじゃないからね


メイド達と対話は継続、解決の糸口を探る
騒がしくて結構、もう少し話がしたい
聞いた噂が本当なら
大切なものを何故自分と同じ目に合わせるのか
まだ真実に手が掛かっていない

さて鬼が出るか蛇が出るか…
怪異はドロップテーブル、吊るしてしまおう
マヒしてくれれば御の字だが
如何にせよ鎧砕く怪力を以て、標識で殴打する

攻撃は喰らっても耐性はあるが
可能な限り残像で切抜けたい

他の猟兵とも連携
必要ならば技能、UCを使い援護する

君達は此処で行止りだ。次の職場を紹介するよ




「確かに手荒な真似は極力したくないわね」
『お優しいんですね、その優しさでお帰り頂いたほうが嬉しいのですが!』
「手荒な真似はしたくないってだけよ、できる限りスマートに迅速に済ませるわ」
『それはそれは、お心遣い、ありがとうございます!!』
 にこり。メイドガアルはやっぱり笑顔だったけれど、それが心からの笑顔でないことくらいは分かる。
「そんな怖い顔しないでよ。毒の扱い、私にも教えてくれる?」
 どうどうと宥めるようにバジルが告げたその言葉は、毒を扱う戦闘を得意とする彼女の本心だったのだけれど。メイドガアルには挑発にしか聞こえなかったようだ。
『お客様のお望みならそのように!』
「……どうして怒っているのかしら」
 バジルは怒りを孕んだその言葉を、不思議そうに首を傾げながら聞く。どんな毒を使うのか、後学のために教えて欲しかっただけなんだけどなあ。

 一般人の人払いを終えた梟示が、メイドガアルへ向き直る。
『あら、そのままお帰り頂いても構わなかったんですよ?』
「いやいや無銭飲食をする気はないんだ。ちゃんとお代を払わねばね」
 そう気怠そうに告げながら、梟示はがりりと頭を掻く。肩には行き止まりの標識が担がれていた。
「無論支払うのは君達も……、それが代償だ」
『何を支払うというのでしょう? 私たちは働いているだけですよ?』
 にこにこ笑顔で返すだけ。言葉での対話は難しいかもしれないけれど、会話を止めるつもりはなかった。だってまだ、解決のための糸口はなんにも掴めちゃいない。
 聞いた噂が本当なら、大切なものを何故自分と同じ目に合わせるのか。真実に手が掛かったとすら、まだ言えない。
「お仕事ついでに、もう少し教えてはくれないかい」
『騒がしいのはキライです』
「騒がしくて結構、もう少し話がしたい」
 有無を言わさない梟示の態度に、メイドガアルがぷくう、と頬を膨らます。影朧なんかにならなければ、きっと、人気の可愛らしいメイドであっただろうに。
 けれど、梟示はそんな感傷は持ってはいない。ただ淡々と”仕事”をこなすだけ。
「どうして大切なものを、自分と同じ目に合わせるんだい」
『あの怪談の話ですか? 本人に聞いてみたらどうです? 会えたら、ですけど!』
 くすくすくす。バカにしたように笑うメイドガアルだったが、彼女は嘘だとは言わなかった。それどころか、本人に聞いたら、と言った。ならば、彼女たちを払えば、その本人と会える、ということだ。
「……やれやれ。まだ会わせてくれない、と言うわけかい」
 さて、出てくるのは、鬼だろうか、蛇だろうか。

「ねえ、何か勘違いしてるわ。ちょっとお話をしたかっただけなの。私も使うのよ、毒」
『手の内を明かすなんて余裕ですね!』
 ああ、どうしてだろう。本当に興味があったから聞いてみただけなのに。ちょっと誤解をされたようだから、弁解したかっただけなのに。
 メイドガアルの攻撃をかわしながら、バジルは薬瓶をひとつ取り出すとフタを開ける。彼女が薬瓶からばら撒いた液体は、メイドガアルが放った毒とぶつかると、じゅう、とおとを立てて消えた。
「あら。なるほど、この毒ならば相殺できるのね……」
 それならきっと毒殺に使われた毒は――……。自分の世界へと沈んでいこうとするバジルを見て、メイドガアルはふるりと震えた。
『どこまで私たちのことをバカにするんですか!?』
「……あっ。ごめんなさい、バカにしたわけじゃないの。ただちょっと気になって――」
『言い訳しないでください! 聞いて! あのひとが私たちをバカにします!!』
 やや癇癪気味にメイドガアルが叫べば、彼女のまわりにずらりと老若男女、様々なひとたちが現れる。
 それは、メイドガアルが呼び出した彼女たちのファンであり、彼女を害するものを振り払う協力者だった。
 メイドガアルのユーベルコヲドで呼び出されたとは言え、一般人を巻き込むのは後味が悪い。それならば。バジルはひとつの薬瓶を取り出す。
「ねえ! 大丈夫だと思うけれど、貴方も離れたほうがいいわよ。ちょっと視界が悪くなるから」
 バジルは近くに立っていた梟示に声を掛ける。返事こそなかったが、彼が数歩後ろに下がったことを確認すると、バジルは薬瓶をぽいとメイドガアルたちへ向かって放った。
「お仕事なんてやめて、ゆっくり休んでなさい」
 バジルが放った薬瓶は、くるりくるりと宙を回りながら落下して、地面にぶつかり、派手なおとを立てて割れる。ガラスが砕けるおとが響いた次の瞬間、ぶわりと煙が立ち上った。
『……な、に。これ、は!!』
 メイドガアルは咄嗟に自分の口を覆いながら、苦い顔をしてバジルを睨む。
 バジルは微笑むばかりで答えはしなかったけれど。答えの代わりに、ばたりばたりと何かが倒れるおとが聞こえて。
 慌てて辺りを見回せば、メイドガアルを取り囲んでいたファンたちがひとりふたりと倒れていく姿が視界に映った。
 殺したの、とでも言いたそうな視線に、バジルは眠ってもらっただけよ、と涼しい顔して微笑む。
「有害なものではないわ、誰かさん達と違ってね」
 毒も上手に扱えば薬になるように。本当に使える毒は、殺すためだけに使うものではないのだ。
「これはいい」
 邪魔になりそうなファンたちが倒れ伏していく光景を見て梟示が呟く。
「怪異はドロップテーブル、吊るしてしまおう」
 メイドガアルたちがその言葉の意味に気付くよりはやく、空から垂れてきた絞縄が彼女たちの細い首に掛かった。もちろん、彼女たちは反応することすら出来ない。
『――え、』
 次の瞬間には、彼女たちの足はすっかり地面から離れていた。ぶらり、ぶらり。宙に吊るされた彼女たちの身体が揺れる、揺れる。
「わぁお」
 そんな声が聞えてちらりとバジルを見た梟示だったが、すぐにぶらりと揺れているメイドガアルたちに視線を戻して。バジルを見ずに告げる。
「……もう遅いかもしれないが、見ないほうがいい」
 どうして? と興味深げに梟示を眺めるバジルに、はあ、と重たい溜息をひとつ落としてから。梟示は気怠そうに、担いでいた行き止まりの標識を握り直した。
 よれたスーツに身を包み、不眠不休のワーカーホリック。どこまでも草臥れたその姿からは想像も出来ないが、これでも彼は神である。――そう、死神と呼ばれる、神様だ。
「君達は此処で行止りだ。次の職場を紹介するよ」
 ひとつ、ふたつ、みっつ。鎧すら砕く怪力で、梟示はメイドガアルたちを殴打していく。鈍いおとが響いたあとは、絞縄に吊るされるメイドガアルたちの姿は消えていた。
 背後からひゅぅ、と口笛が聞えたけれど、梟示は聞えないフリをして、ひとつ、またひとつと吊るされた彼女たちを消していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クリスティアーネ・ツヴァイク(サポート)
愛称:クリス

常に「ママ」と呼ぶからくり人形「クリスティン」と共に行動します。
まだ幼くひらがなで喋ります。
普段は甘えたがりな子供ですが敵を殺すことに罪悪感は感じておらず、特に悪人は死んで当然と容赦はしません。
クリスティンをバカにしたり人形扱いする者を嫌います。
戦いでは大鎌を持ったクリスティンを操りつつ自身もナイフで戦い、味方のサポートよりは戦いの方が得意です。
日常ではクリスティンと楽しく過ごします。

NG:クリスティアーネが泣くこと、クリスティンの修復不可能なまでの破壊




「ねえ、ママ。おねえさんたち、ふわふわ、ふりふり。きれいだね」
 ちいさくまるいてのひらから伸びる、白く細い糸。
 クリスティアーネ・ツヴァイク(復讐を誓う殺人鬼・f19327)が、その指から伸びる糸をくいと操れば、糸と繋がるからくり人形――クリスティンがふわりと動いた。
「でもね、ママ。きれいだけど、とってもとーっても、わるいひとたちなんだって」
 色違いのひとみをぱちぱち瞬かせて、クリスティアーネはメイドガアルたちをしっかり見据えていた。
 ――わるいひとたちとは、みんなみーんな、さよならしなくちゃ。おしごとがんばろうね、ママ。
 クリスティアーネのその言葉に答えるように、クリスティンの首がこっくりと揺れる。

 
 ひとり、ふたり、さんにん、よにん。クリスティアーネがくいと糸を操るたびに、クリスティンが手に持つ鎌が振り上げられ、メイドガアルたちが姿を消していく。
「やっぱり、ママのゼンゼはつよいのね」
 クリスティンに抱えられたクリスティアーネは、彼女を見上げてふわりと嬉しそうな顔を見せる。
 その顔は、あどけない子供の表情だったけれど。その指先は、そんな表情と相反して一切の躊躇いはなかった。
 つぎはあのひとね、クリスティアーネがくいと糸を操ったタイミングで、先ほど切り捨てたハズのメイドガアルがふらりと立ち上がる。
『お紅茶も楽しまず、こんなに暴れるなんて! 無粋です!!』
「あれ?」
 ぐ、と力を込めるがうまく指先を操れない。毒かとも思ったが、――――違う。クリスティアーネの動きが遅くなっているのだ。
『退場願います!!』
 メイドガアルの手にはバターナイフ。狙いは、クリスティアーネが操る糸のようだ。それを断ち切ってさえしまえば、あの厄介な人形の動きも止まる。
 糸を断ち切られたら勿論戦い辛くなるだろう。けれど、クリスティアーネは顔色ひとつ変えず、ただメイドガアルをじいと見詰めて。
「――――ねえ、なにをしようとしたの?」
 クリスティアーネの瞳がくりくりと不穏に揺れる。
「でもだめだよ。クリスにはわかるんだから」
『………は?』
 メイドガアルの動きが、クリスティアーネの目の前で止まる。その胸には、クリスティアーネの手に握られていたナイフが、ずっぷりと刺さっていた。
「わかるの」
 クリスティアーネの身体に染み込んでいるいる殺人鬼の本能。それは、あまりに素直すぎるメイドガアルの攻撃を予測することなんて容易かった。
 ぐい、とナイフを押し込んでから引き抜く。クリスティアーネはどさりと崩れていくメイドガアルの姿を、なんの感情も持たぬ瞳で見下ろして。
「クリスはだいじょうぶ。ありがとう、ママ」
 ふわりとクリスティンに微笑むと、彼女の腕のなかでまたくいと糸を操るのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

茜崎・トヲル
へんなのに捕まっちゃったかー。メイドさん、運が悪かったんだなあ。
うんうん復讐したいって気持ちはわかるよ。それはむかつく。
でもごめんなあ、おれら猟兵だから止めないといけないんだ。
だからさ、ここはさくっと成仏して転生して、来世で殺してやろうぜ。
最速でいけば男がおっさんになるころには十代になれんじゃん?

ってなかんじで説得しつつ攻撃を食らうよ。
食らった攻撃は攻撃してきた怪異にまるっとお返しする。
人間が人間を殺すなら猟兵は手を出さないしさー。どう? いい案じゃない?




「へんなのに捕まっちゃったかー。メイドさん、運が悪かったんだなあ」
 ずらりと並ぶメイドガアルたちの前に立つトヲルは、彼女たちの話に耳を傾ける。
 時折うんうんと相槌を打ち、その心に寄り添おうすとするその姿は、あっという間に彼女たちを虜にした。
 メイドガアルたちはトヲルを取り囲みきゃあきゃあ騒いでいる。その姿は、影朧とは言え、噂好きのただの女の子でしかない。
「うんうん復讐したいって気持ちはわかるよ。それはむかつく」
 けれど、メイドガアルたちはもはや過去の存在の影朧で。トヲルは猟兵だったから。
 大変だったね、可哀想だったね。そんな綺麗な言葉だけで終わりにすることは出来ないのだった。
「でもごめんなあ、おれら猟兵だから止めないといけないんだ」
 ぴたり。メイドガアルたちが一斉に口を噤む。あれだけかしましかったのに、揃いも揃って口を噤むものだから突然訪れた静寂がなんだか不穏だった。
『トヲルさんなら分かってくれると思ったのに!!』
『女の子の気持ちを弄んだんですか!?』
 けれど、静かだったのは一瞬で。きゃあきゃあきゃあ。口々にトヲルを責め立てる声は、先ほどよりも騒がしい。
「ごめんってば。でもおれら救いに来たんだって。信じてくれない?」
 変わらぬ優しい声色でそう告げて。ちゃらりと数珠を鳴らしながら、トヲルはメイドガアルたちに笑ってみせるのだった。

「まあまあ落ち着いて。ここはさくっと成仏して転生して、来世で殺してやろうぜ」
『どうして私たちがここで我慢しなきゃいけないんですか! 復讐するための力もあるのに!』
「おれたちが猟兵で、あんたたちが影朧だからだよ。こればっかりはなあ」
『そんなので納得できません! 見逃したら勝手に死ぬかもしれないじゃないですか!』
「最速でいけば男がおっさんになるころには十代になれんじゃん?」
 トヲルの言葉がどこまで本気なのかは分からない。トヲルは彼女たちの攻撃を避けることなく、すべてその身で受け止めながら、彼女たちの話を聞いていた。
 カトラリーによる刺突は身体を抉り、ティフロートに混ぜてばら撒かれる毒はトヲルの服や肌を溶かした。
「……ってて。……そろそろかなあ」
 じゅう、と肌が溶けるおと。爛れた腹を軽く抑えたトヲルが歯を食い縛る。メイドガアルたちの攻撃を受け止め続けたトヲルはすっかりボロボロになっていた。
 傍から見れば、好ましい状況でないことは明らかだった。けれど、なんてことないとでも言うように、トヲルの顔が妖しく歪む。
「………ごめんな、これ返すな。あんたたちの恨みは、あんたたちのものだ」
『え? ……っ、あ!! 痛い、痛い痛い痛い!!!』
 とあるメイドガアルは毒で肌を爛れさせて。とあるメイドガアルは腹を抑えて。痛い苦しいともがき始める。
 ――トヲルのユーベルコード、不浄なる犠牲。それは、彼が受けるはずだった傷を、すべてまるっと返す荒業。
「人間が人間を殺すなら猟兵は手を出さないしさー。どう? いい案じゃない?」
 すっかり元通りになった身体をぽんぽんっと叩きながら。へらりと笑ってメイドガアルたちに向き直れば、そこにはカフェーが霞むほどの花びらがぶわりと舞っているだけだった。
「あー……」
 最後までトヲルの言葉が聞えていたかは分からない。けれど、すこしでも彼女たちの心を救うことは出来たのだろう。
 風に煽られた桜の花びらがふわりと舞い上がり、頬を撫でて消えてく。トヲルはその光景を、ただ静かに見詰めていた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『毒殺ノ冥土』

POW   :    危険なティータイム
【猛毒入り紅茶】を給仕している間、戦場にいる猛毒入り紅茶を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
SPD   :    毒を食らわば体内まで
【ティーカップ】を向けた対象に、【対して、その体内に猛毒を発生させる事】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    アフタヌーン・ポイズン
戦闘中に食べた【毒】の量と質に応じて【、より強力な猛毒を精製する事で】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 かろんと下駄がなる。
 立っていたのはひとりのメイド。食器のおとすら響かせず片手で支えるトレイの上には、ティーセットとケーキのお皿。
 猟兵しかいないカフェーを見て、こてりと首を傾げた。
『……あれ?』
 メイドガアルを従えていたのは、カフェーで明るく給仕をしていたメイドのひとり。彼女の働く姿を見た者も居ただろう。
『どうして皆さんいないんでしょう?』
 心から不思議そうな顔をして、影朧『毒殺ノ冥土』はきょろきょろとカフェーを見回した。
 猟兵たちが口を開こうとすると、彼女は人差し指を口の前へ。しぃっと猟兵たちを制する。
『分かってますよ。どうして、って聞きたいんですよね?』
 薄暗い影なんてひとつも見せず、にこりと、花のような笑顔でメイドは笑う。
『私が聞きたいです、どうして私が死ななければいけなかったの?』
 カフェーが大好きだっただけなのに。皆の笑顔が見たかっただけなのに。
 カフェーに来るひとたちだって、皆同じようにカフェーを好きでしょう?
 じゃあ、皆も私と同じ思いをすればいい。
 だって、どうして。私が。私だけが。ねえ、どうして。おしえてよ。
『楽しく生きているひとたちに、私の気持ちなんか分かるもんか。分かる、もんか』
 メイドは視線を落とすと、ぎゅう、とフリルのエプロンを握る。けれどもすぐにぱっと顔を上げると、猟兵たちに微笑んだ。
『……私とのティータイムも、一緒に楽しんでくれますよね?』
リドリー・ジーン
やっぱり、とても可愛らしい方、綺麗な笑顔
きっと生前は…沢山の方に愛されたんでしょうね

UCを使って私の力を増強させましょう
…使うからには、あまり長引かせる訳にはいかないわね…
お祖母様から頂いた指輪を使って私の影から呼び出す【影の手】今の私ならお祖母様と同等の力が出せるはず
影の手を私の盾に使って攻撃を避ける。庇って貰う。…貴方達は毒は平気よね? そのまま視線を引きつけて、彼女のふいを突くわ
貴方の足元からも【影の手】は現れるのよ、身動きがとれないようにするのは攻撃するためじゃない、話を聞いてもらいたいだけ

ねぇ、終わらない永遠の憎しみに身を委ねては駄目
愛している場所が貴方を待ってるわ


バジル・サラザール
理屈としては理解できる動機ね
あなたの言う通り、同情はできないし、まして看過なんてできないけれど

素敵なカフェを汚したくはないけれど…そういうことを言ってられる相手ではなさそうね
毒を以て毒を制す、毒を盛って毒で制す、主に『毒使い』『属性攻撃』を生かした『ポイズン・スピア』で攻撃するわ
相手も毒使い、耐えられたり逆に利用されたりしたいように多彩な毒で絶え間なく攻撃しましょう
敵の攻撃は『野生の勘』も用いつつ回避や相殺、『毒耐性』で耐えたりするわ
加えて『毒使い』『医術』の知識、『ヒュギエイアの薬箱』を使って自分や仲間を治療もしましょう

まあでも、毒を、人を嫌いになってしまったのは悲しいかな

アドリブ、連携歓迎




 現れた影朧『毒殺ノ冥土』は、リドリーがカフェーで見掛けていたあの子だった。
「やっぱり、とても可愛らしい方、綺麗な笑顔。きっと生前は……沢山の方に愛されたんでしょうね」
 運悪く悲劇に巻き込まれた彼女は、こうして影朧になってしまったけれど。生きていたら、きっともっと多くのひとたちを笑顔に出来たに違いない。
「理屈としては理解できる動機ね」
 彼女の様子を伺っていたバジルは組んでいた腕を解いて。理解は出来るけれどそれだけよ、とかぶりを振った。
 生前、どんな悲劇が彼女を襲ったのだとしても。同情はできないし、まして看過なんて出来ない。自分が大切にしていたものを、その手で汚そうとしているのなら、尚更に。
「まあでも、毒を、人を嫌いになってしまったのは悲しいかな」
 バジルはなんとも毒の扱いに長けた彼女らしい言葉をぽつりと零して、頬を掻いた。
 メイドは、そんなふたりの話を聞きながらティーポットから紅茶を注ぐと、くいと煽ってみせる。
『……一緒に楽しんでくれないんですか?』
 にこり。猛毒入りの紅茶を飲み干して、花の咲くように微笑む。
 一般人を死に至らしめる紅茶だとしても、彼女にとっては自身を強くしてくれる大切な一杯。
『要らないのならもっと飲んじゃいますし……。貴女たちにも勝手に振る舞いますね?』
 愛らしい姿から一変、きゃははと狂気めいた笑い声をあげてメイドがふたりに迫る。紅茶を飲んでくれないのなら、自らの手で無理矢理にでも飲ませるだけ。
「素敵なカフェを汚したくはないけれど……、そういうことを言ってられる相手ではなさそうね」
 猛毒入りの紅茶は気になるけれど。さっきも十分堪能したし、毒の解析は後でも出来る。
 バジルが放り投げられた猛毒入りのカップをかわせば、蛇の身体がしゅらりとおとを立てた。
 やられているばかりではない。バジルは毒を染み込ませた魔法の槍のひとつを、すれ違いざまに彼女の身体に突き刺す。
『……さっきも見てましたから、これくらいの毒……!』
「あら、それは残念。でも私の毒はひとつだけじゃないのよ、たっぷりと味わいなさい」
 形のいい唇がゆるりと弧を描く。じゃらりとおとを立てて現れた毒の槍は、ゆうに三百を超えていた。
 カフェーを埋め尽くすほどの毒の槍には、メイドも思わず笑顔を引き攣らせる。そんな彼女を見て、バジルは満足そうに微笑んだ。――私が扱う毒はまだまだあるわよ、と。

 次から次へと毒の槍が現れては、メイドを襲って消える。止まらぬ多種多様な毒を見てリドリーはすごい、と呟いた。
 近付かなくとも攻撃する手段はあったけれど、リドリーはメイドと話もしたかった。そのためなら雨のように降り注ぐ、あの槍のなかに飛び込むことすら怖くない。
 操る影は盾となってくれるし、今ならお祖母様と同等の力が引き出せるはず。すこし危険な賭けだとしても、彼女に言葉を届けたい。
「……使うからには、あまり長引かせる訳にはいかないわね……」
 するり。左手の薬指に嵌められたベニトアイトの指輪を撫ぜて。呼吸をひとつ。力を貸して、お祖母様。
「…………私はあの人の影になる」
 ――理想とする誇り高き者。リドリーが一時的に引き出したのは、ヴァンパイアの力。纏う雰囲気の変わったリドリーにバジルが気付いた。
「あら、貴女……」
「すこし彼女と話がしたいの、いいかしら?」
「ええ、構わないわ」
 メイドを襲う毒の槍がその勢いを緩める。リドリーはありがとう、と微笑むと、その視界にメイドを収める。
「……貴方達は毒は平気よね?」
 影の者へ問う。答えはない。けれど、リドリーの足元からぞるりと影の者が動き出した。影の者たちはメイドへ向かって一直線。猛毒入りの紅茶を浴びても怯むことはない。
 その様子を見守りながら、リドリーが、影の者にしか聞こえないこえで呟く。
「そのまま視線を引きつけて、彼女のふいを突くわ」
 きっとチャンスは一度きり。けれど、きっと大丈夫。だって、今の私には。お祖母様もついているんだから。
 飛び交う毒の槍の間を縫って、振る舞われる猛毒入りの紅茶を防いで、リドリーがメイドに迫る。
 真横から飛び出してきた影の者に、メイドが視線を奪われた、その時だった。くん、とメイドの動きが鈍る。何かが足に纏わりついている。
『……なにこれ……!!』
 メイドが視線を落とせば、彼女の足元からもぞるりと影が蠢いていて。それを払おうともがくが、影の者たちは一度捕まえた標的からその手を緩めない。それどころか、どんどんきつくなっていく。
「驚いた? 貴方の足元からも、影の手は現れるのよ」
 動けない彼女の近くから、リドリーのこえが聞える。もはや動かせるところは腕くらいしかない。メイドはなんとか腕を振り上げ、すこしでも衝撃を減らそうと構える。
 けれど、メイドが思っていたような衝撃に襲われることはなかった。そろりと様子を伺えば、リドリーが微笑んでいた。

「身動きがとれないようにするのは攻撃するためじゃない、話を聞いてもらいたいだけ」
『笑わせないで。こんな状態でお話? 責めたいの、間違ってるっていいたいの、もうそんなの、聞き飽きた!!』
 身動きが取れなくなっても、メイドは強気でぎろりとリドリーを睨む。けれど、その視線をまっすぐに受け止めて。リドリーは悲しそうに微笑んだ。
「……違うわ、そんなんじゃない」
『じゃあ、なんだっていうの』
「ねぇ、終わらない永遠の憎しみに身を委ねては駄目」
 人生のひとつは終わってしまったかもしれないけれど。この世界には巡り巡ってもういちど、新しい命を得ることもこともあると聞く。
 影朧になってまで悲しみに暮れた貴女だからこそ、次こそはきっと、もっとずっと素敵な人生に違いない。
「愛している場所が貴方を待ってるわ」
『なにを、言っているの……?』
 だからこれ以上、貴方も苦しまないで。リドリーがそろりと、白い頬に手を伸ばす。――けれど。
 その手は彼女に触れることはなく、リドリーの身体がかくんとその場に倒れ込んだ。
「リドリーちゃん!?」
 慌ててバジルがリドリーを抱きかかえてると、メイドから距離を取る。
 知らず知らずのうちにメイドの毒に侵されていたのだろうかと、バジルが彼女を診るが、脈も呼吸もしっかりしている、肌の色も悪くない。
 どうやら彼女の言っていた、時間切れのようだった。リドリーの身の安全を確認すると、バジルはそっと彼女を寝かせた。
「……ごめんなさいね、大丈夫そうだからすこし待っていて」
 解毒のためにと取り出した薬箱をぱたんと閉じて。バジルはもう一度、メイドへと向き直る。先ほど使ったものとは違う、また新しい毒をその手に持って。
「毒を以て毒を制す、毒を”盛って”毒で制す。このままじゃ終わらせないわ」
 ――貴女の糧に出来るものなら、どうぞしてごらんなさい。
 じゃら、じゃら、じゃらり。騒々しいおとを響かせて、まだ自由が戻らないメイドへ向かって、絶えずに毒は降り注ぐ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
いっぱいため込んでんねえ。愚痴とかさ。
いいよ、付き合うよぉ。話したいこと聞いてあげる。
猛毒の紅茶なんて、何倍だって飲み干してあげるからさ。お話しましょ。

おれね、死なないんだ。なにやっても。痛みも感じない。あ、それがつらいとかそーゆー話じゃなくってさ。
だから、ティータイム一緒に楽しめるよって話。
満足するまで付き合うよ、影朧さん。腹に毒抱えてるとすっきりしないもんねえ。
笑顔で聞いてあげる。つらい話もイヤだった話も、同じことを何度言われたって平気。
なんにも否定しない。いっしょに落ち込んで泣いてあげる。
あんたが次の人生で、幸せになれたら、おれはそれでいいんだ。


ミリィ・マルガリテス
そう
あなたが件のメイドさんなのね
そっと眦を伏せて
思い描くのは凄惨な事件と
死を迎えた彼女の恐怖と絶望、そして怒り

ただの人形たるわたしに
語れる事など無いかもしれない
ただ、貴女には毒殺犯と同じになって欲しくない
これ以上、痛ましい姿は見たくない
可憐な貴女が昏い瞳で笑っているのは悲しいわ

先程のメイドガアルとの戦いの時と同じ
わたしの我儘で来たのよ

彼女の攻撃には、ミレナリオ・リフレクションで応戦
なるべく見切り、カウンターでの相殺を行う
影朧なら救いたい
彼女に語り掛けたい
もし叶わなくても、せめて苦しみのない最期を迎えてほしい

我儘をもう一つだけ
言ってみてもいいかしら
…また、どこかで会えたら
お友達になってくださる?


高塔・梟示
影朧になれば歪むのか
或いは、その前からか

彼女が提供した楽しい時間で
救われた者だっていただろうが…
やれやれ…他者の気持ちが分る者など何処にもいやしないさ

切欠は不幸かもしれないが
立止ることを選んだのは君自身だ
此処から先に道はない、別の場所へ歩いて往きたまえ


他の猟兵とも連携
技能、UCを使い援護する

距離を詰める隙が無ければ、念動力で食器をぶつけて
一瞬でも注意が逸れれば上出来だ
接近して破砕する怪力を籠め、一撃必殺を叩き込む
マヒすればもう動けない…逃しはしないさ

攻撃は残像で回避したいが
避けられなければ、どうせ味など分らない
毒でも飲み干そうとも

これで仕事はお終いだ
一服して帰ろう…カフェーは禁煙だったかな…




 影朧になれば歪むのか。或いは、その前からか。
 彼女にとっては思い出したくもない、凄惨な事件だったのだろう。
 きっときっと、怖かった。悲しかった。悔しかった。恨むことは仕方がないことかもしれない。――けれど。
「彼女が提供した楽しい時間で、救われた者だっていただろうが……」
「そうね、わたしも彼女が毒殺犯と同じになって欲しくないわ」
 難しい顔をしたままの梟示の隣で、ミリィが困ったように微笑んだ。
『…………何が分かるの、生きているあんたたちに』
 なんとか影から逃げ出し自由を取り戻したメイドは、そう言いながらふたりを睨んだ。
 その言葉に、ミリィは悲しそうに瞳を伏せる。分かるわけがない、そう言われてしまうと困ってしまう。ただの人形たるわたしには、語れることすらないかもしれないのに。
「分からないかも、しれないけれど……。これ以上、痛ましい姿は見たくない。可憐な貴女が昏い瞳で笑っているのは悲しいわ」 
 じゃあお望み通り怒りを顕わにすればいいの? とミリィを睨んだメイドを見て、梟示は、はあ、と重い溜息をひとつ。
「やれやれ……他者の気持ちが分る者など何処にもいやしないさ」
 彼女の言い分は、子供の癇癪と似ている。けれど、ある日突然大切なものがすべて奪われたのだから、それも仕方がないのかもしれない。影朧というのは、きっと、そんな悲しい存在だ。
「切欠は不幸かもしれないが、立止ることを選んだのは君自身だ」
 強すぎる想いで雁字搦めになって動けないのだとしても。それを許すわけにはいかない。これから起こる不幸を止めるために、梟示たちはここへ来たのだから。
「此処から先に道はない、別の場所へ歩いて往きたまえ」
 行き止まりの標識に巻き付けられた立ち入り禁止の黄色いテープが、ゆらりと不気味に揺れた。

「わたしはこれ以上、痛ましい姿は見たくない。可憐な貴女が昏い瞳で笑っているのは悲しいわ」
 ミリィには、自分の言葉が彼女に届くかは分からなかった。だけど、せめて、彼女に寄り添う言葉だけでも届けたい。きっとそれは、彼女の心を救うかもしれないから。
 けれど、ミリィの言葉を聞いたメイドは、鼻で笑うとティーポットから紅茶を注ぐ。カップのなかで揺れる紅茶が、じゅう、と不気味なおとを立てた。
「わたしは貴女を救いたいの」
『私はそんなの望んでいないわ』
 メイドがミリィへとカップを放る。ミリィは咄嗟に近くに置かれていたカップを掴んで同じように放り投げた。空中でカップとカップがぶつかって、落ちていく。
 がちゃんと派手なおとが響いて、砕けた破片と一緒に飛び散った猛毒入り紅茶がミリィの足に掛かった。けれど、ミリィはそれを気にする様子もなく微笑んで。
「ええ、そうだとしてもごめんなさい。わたしは、わたしの我儘で来たのよ」
『我儘に私を付き合わせないでくれます?』
 彼女の強い敵意は向けられたままだけれど。こうして話は出来るのだ。彼女を救うことを、そう簡単に諦めたくはなかった。
 それに、彼女を救うことが叶わなくても、せめて苦しみのない最期を迎えてほしい。
 自身を強くするためにと猛毒入りの紅茶を飲み下す彼女の姿は笑顔だったけれど、それが彼女の心からの笑みだとは到底思えない。
「貴女の笑顔は、とても苦しそうに見えるの」
『……余計なお世話だわ。それで、貴方は何をしているの?』
 メイドがぎっとミリィの背後を睨む。睨まれた梟示は、居心地が悪そうに頬を掻く。
「ああ、バレたなら仕方ない」
『!?』
 ふう、と梟示が吐いた溜息がまるで合図だったかのように、カフェーにあるカップやソーサー、シュガーポットなどがメイドに向かって飛んでいく。
『なにを……!!』
 梟示が念動力で飛ばした食器を鬱陶しそうに払い除けながら、メイドは梟示の姿を探す。食器は次々に飛んでくるし、ぶつかった拍子に砕けて視界を悪くする。
 ――――見つけた! そう思ったときには、梟示はもう目の前に居た。慌てて猛毒入り紅茶を浴びせようとポットを振るう。
 ばしゃり。至近距離から振る舞われた紅茶は梟示の顔半分を濡らしたけれど。彼の動きは止まらない。
「なに、どうせ味など分らない。それにマヒすればもう動けない……、逃しはしないさ」
 メイドが紅茶を振るった腕をぐいと掴む。梟示はそのまま、迷うことなく拳をメイドの身体に叩き込んだ。
『―――っ!!』
 衝撃は一瞬で。机も椅子も薙ぎ倒し、身体が宙を飛んでいく。崩れた机や椅子の山へ倒れ込んだメイドは、強烈すぎる衝撃に声すら出せない。
 動きを止めた彼女を見て、梟示はふうと一息。顔に掛かった紅茶を乱暴に拭えば、濡れた唇がぴりりと痺れた。


 いきができない。くるしい。うごけない。ああ、わたしはまた死ぬのかな。
 崩れ落ちたメイドの喉から、ひゅうひゅうと細い息が漏れる。そんな彼女のもとへ近付く、かつかつと鳴る踵のおと。
 メイドが視線を上げれば、まばゆいばかりのぎんいろ。ちかちか反射するそのいろが、なんだか痛くて目を閉じてしまったけれど。ああ、ほんとうにまた殺されてしまう。
 無様に逃げ延びてでも、生きなくちゃ。なんとか距離を取ろうとよろりと上半身を起こすと。――触れそうなほど近くで、トヲルがその顔を覗き込んでいた。
「いっぱいため込んでんねえ。愚痴とかさ」
『……っ!?』
 逃げなくちゃ。思うように動かない身体に力を込める。なんとか身体を起こしてずり、と距離を取る。
 ぎりりとトヲルを睨み付ける彼女を見て、トヲルはへらりと微笑んだ。その表情ですら、彼女には理解できなかったのに、続く言葉はもっと理解が出来なかった。
「いいよ、付き合うよぉ。話したいこと聞いてあげる」
『…………は?』
「猛毒の紅茶なんて、何倍だって飲み干してあげるからさ。お話しましょ」
 やさしい顔で、やさしい声で。トヲルはそう囁くけれど。メイドは彼の言葉を信用することが出来なかった。だって、猟兵と影朧なのだから。
 動けずにいると、トヲルはまたへらりと微笑んで、床に置かれたトレイから、ひょいとティーカップを掴んだ。――――そしてそのまま。ぐいっとカップの中身を一気に煽る。
『ちょっと、』
 その行為に驚いたのはメイドだけではなかった。その様子を見ていた猟兵たちも思わず息を呑む。
「…………正気か?」
「んー、だいじょーぶ。おれね、死なないんだ。なにやっても。痛みも感じない」
 呆れたように呟く梟示に、トヲルはやっぱり笑顔のまま、ひらりひらりと手を振って。
「あ、それがつらいとかそーゆー話じゃなくってさ。だから、ティータイム一緒に楽しめるよって話」
 トヲルはティーポットに手を伸ばして。二杯目の猛毒入り紅茶を注ぐと、それも飲み干した。
 ―――満足するまで付き合うよ、影朧さん。腹に毒抱えてるとすっきりしないもんねえ。
 笑顔で聞いてあげる。つらい話もイヤだった話も、同じことを何度言われたって平気。
 なんにも否定しない。いっしょに落ち込んで泣いてあげる。
 ゆらゆらカップのなかの紅茶が揺れる。トヲルが笑顔で紅茶を飲む姿を、メイドはただただ見詰めていた。
「あんたが次の人生で、幸せになれたら、おれはそれでいいんだ」
 何度目かのおかわりをしようとティーポットを傾けたトヲルの手に、そっとメイドの手が重ねられる。
『もういい』
「ん?」
『もういいの。ずるい、ずるい、ずるいなあ』
 ぽたり。メイドの頬を、ぽたりぽたりと大粒の涙が零れていく。

 許せなかった。死にたくなかった、生きていたかった。
 美味しいスイーツも、楽しいお喋りも、もっともっと楽しみたかった。楽しい気持ちはぜんぶなくなってしまって、どろりと汚れた思いに身を妬くばかり。
 生きているひとが羨ましい。楽しそうに笑うひとたちなんか、みんなみんな大嫌い。
 なのに、どうして。あんたたちは自分を殺そうとした相手にまで、優しくしてくれるの?
『だから、やっぱり、あんたたちみんな、だいきらい』
 そう言うと、メイドは子供のように声をあげて泣き始める。
 そんな彼女にミリィが寄り添う。背中に伸ばした手は払い除けられるかと思ったけれど、彼女の背は嗚咽に合わせて揺れるだけ。
「ねえ、わたしも我儘をもう一つだけ言ってみてもいいかしら」
 ひとのようなぬくもりのある身体じゃないけれど。母が我が子にするように、優しく背中を撫でながらミリィが言う。
「……また、どこかで会えたら、お友達になってくださる?」
 ミリィを見詰めていたメイドは、涙でくしゃくしゃになった顔を擦って困ったように笑う。
『イヤよ。――だって私は、あんたたちなんて大嫌いだもの』
 それは、今の彼女に出来る精いっぱいの強がりで。そう、とすこし悲しげに微笑むミリィにその心が伝わったかは分からなかったけれど。
『もし、私がまた誰かを殺したくて仕方がなくなったら、その時はまた、』
 すっかり毒の抜けた顔でメイドが微笑めば、その身体がいくつものいくつもの桜の花びらになって崩れていく。
 風に攫われる花びらのおとが騒がしくて、最後の言葉が聞き取れない。けれど彼女は、確かに笑っていたのだった。
「……さて、これで仕事はお終いだ」
 ざざぁと騒がしい桜の花びらを横目に見ながら、梟示がポケットから煙草を探す。カフェーは禁煙だったかな、と辺りを見回せば、テーブルの上には灰皿が置かれている。
 吸っても問題はなさそうだ、と梟示が煙草に火を点ければ煙草のにおいが辺りを満たしていった。
 消えゆく花びらを揺れる煙の向こうに見送りながら、猟兵たちが願うことは、ひとつだけ。
 ――――彼女が次の人生を得ることが出来たなら、どうか幸せでありますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年05月05日


挿絵イラスト