みをつくしても 逢わんとぞ思ふ
●ある晴れた春のサクラミラージュにて
その日、帝都の新聞記者である木村・鈴彦は新聞社の支部で仮眠を取っていた。既に今日の仕事である影朧の新聞記事は徹夜仕上げで完成済。まぁ記事が刷り上がるまでは不測の事態に備えて待機しているのだが、今日のメインイベントは夜だ。そう、今晩は万がひとつにも欠伸などするわけにはいかない。そのために十二分に英気を養っている最中なのだ。
その時。
ドォォオオン!!
不意に、支部を豪快に揺らす激しい衝撃が爆発音とともに伝わってくる。
「な、なんだ!?」
その衝撃に飛び起きる鈴彦。爆発音がした方を見ると、支部の壁が派手にぶち抜かれている。壁に空いた穴の向こう、そこに居たのは……『黒い鉄の首輪』を付けた人々。
「我ら『幻朧戦線』!!」
「戦乱こそが人を進化させる!」
「大正の世を終わらせる礎となれ!」
口々に叫ぶのは、今の平和な大正の世に対する否定の形をしたまるで共感できない主張。
(こいつらが噂の……!)
幻朧戦線。それは新聞記者のように情報の最前線にいればおのずと入ってくる情報であった。
この集団に襲われた重要施設は跡形も無く破壊され、場合によってはその場にいる関係者も彼らの手にした銃弾の餌食になるという。
現に、血気盛んで暴力的な者たちが今も、建物を、人をめちゃくちゃにしていっている。
(勘弁してくれ! 今日はりん狐さんとの初デエトの日なんだぞ!)
咄嗟に帽子と原稿と手帳をかっさらって駆け出す鈴彦。りん狐を口説き続けて3か月、ようやく食事の約束を取り付けたのだ。
(こんなところで死んでたまるか!)
支部の裏口から脱出しようと全力疾走する鈴彦であったが……裏口を出たところに居たのはひとりの影朧。その姿はまるで女性記者のようであったが、振るわれる力は紛れも無く強力な影朧のソレであった。
「さようなら」
赤く染まる視界の中で鈴彦に聞こえてきたのは女の声。
「スクープは私が書いておくわ! 安心して次の世の礎になりなさい!」
●グリモア猟兵パニクる
「大変、大変っす! サクミラが大変っすよ!」
その叫びはグリモア猟兵の鈴木・レミ(ハイカラインフォメーション・f22429)のもの。どうやら予知を見たらしく、グリモアベースにいた猟兵たちに声をかけまくる。
集まってくれた猟兵たちを前に、レミが詳細を話し出す。
「『幻朧戦線』。既に存在を知っている人も多いと思うっすけど、こいつらがテロ起こすっす!」
比較的いつもの、相変わらず相容れようもない思想を叫びながら。
「狙われるのは、帝都のとある新聞社支部っす。どうやら今回、幻朧戦線は『重要施設の破壊』を目的に活動してるみたいっすよ」
言い換えるなら、幻朧戦線が考えるところの『大正の世を支えている基礎』を壊し尽くす作戦らしい。世論を動けば人が動く。新聞という手段は伝達手段でありながら、一種の指向性を持った『武器』になりうる。
「戦乱を巻き起こすには正確な情報は邪魔っすからね。敵ながらイイトコ突いてるっすよ」
ならばこそ、その作戦は阻止しなければならない。戦乱や混乱は今のサクラミラージュには必要ないのだから。
●今回の影朧兵器
「幻朧戦線の面々が以前から『影朧兵器』を使っていたのは知ってるっすか?」
影朧兵器とは、サクラミラージュにおける過去の大戦の際に開発された非人道的兵器のことだ。それゆえに戦いが終わった後に破棄され、あったとしても使用を禁止されている。その内のひとつ、『グラッジ弾』を使って騒動を起こしていたのが幻朧戦線だったのだが。
「今回、新兵器登場っす。いや、全然嬉しくない、というより最悪なんすけど」
その名は『影朧甲冑』。影朧兵器の中でも『最も非人道的』と言われてる代物である。この影朧甲冑を中核として、グラッジ弾で武装した一般兵たち。これが今回の幻朧戦線のメンバー構成だ。なお、一般兵は銃以外にも鉄の棒とお手製の爆弾も所持している。
「テロっていうか、カチコミっていうか。とにかく迷惑千万ってやつっすよ」
なので、全力でこの横暴な破壊活動を止めてほしいのだ。
●ストップ・ザ・カチコミ
今からグリモアの転送でサクラミラージュに赴けば、幻朧戦線が支部に攻撃を仕掛ける直前に割り込むことができる。
「皆さんにやってほしいことは大きく2つっす」
まずは、幻朧戦線の足止め。具体的には、支部への破壊行為が行われる前に、彼らの前に立ち塞がり、破壊行為を妨害しつつ、一般兵を無力化してぼしい。
そして新聞社支部の安全の確保だ。具体的には、幻朧戦線の足止めをしている間に、支部の中にいる一般人を避難させてほしい。
「幻朧戦線の攻撃が始まる前から始まった直後なら、裏口もまだ敵の手が回っていないっすよ」
そのため、素早く中の人々を裏口まで避難誘導すれば、安全な地帯まで逃がすことが可能だ。その間、建物が壊れることには目を瞑ろう。建物が壊れた分だけ敵の注意を引き付けてくれているのだから。
「で、幻朧戦線の一般兵っすけど」
手にした手製の爆弾や鉄の棒で攻撃を仕掛けてくる。持っている銃に装填されているのはグラッジ弾。そのため、攻撃目的では使おうとしない。猟兵以外の一般人がいれば躊躇いも無く撃つだろうから、回収できるなら回収して欲しい。なお、不良品は含まれていないようだ。
「相手も変な主張しているとはいえ、一般人なのでなるべくなら殺さないように捕まえてほしいっすけど」
とは言っても、最優先すべきは背に背負っている一般人の安全だ。一般兵の無力化と一般人の安全。天秤にかけることになったなら、迷わず一般人の安全を選んでほしい。
「それと、影朧甲冑。カチコミの最初は後方で待機しているのか、このタイミングでは姿を現わさないっす」
そのため、一般兵の無力化と一般人の避難誘導に全力を注いでほしい。
「ああっ、ヤバいもう時間が! 影朧甲冑については用意したメモを見ておいてほしいっす!」
そういって素早く『レミちゃんメモ』を手渡していくレミ。
「では皆さん、サクミラの未来の平和をよろしくお願いするっすよ!」
そう言ってレミはグリモアで猟兵たちを転送するのであった。
るちる
はじめまして、あるいはこんにちは、るちるです。
やっと影朧甲冑のシナリオまで手が回ったぁ! そんなわけでサクミラ依頼をお届けします。
シナリオの補足をします。
まず、1章から3章まで序幕の文章を入れます。いずれの章もそこからプレイング受付スタートです。
1章については冒険となっています。POW、SPD、WIZの選択肢は『実行できる行動の一例』と捉えてください。指定されたUCや能力値での判定をしつつ、プレイングに書かれた行動を描写します。無力化と避難誘導、人数のバランスを考える必要はありません。好きな方をチョイスして好きな行動にプレイングをかけましょう。
支部の建物は、2階建てのビルの様相です。爆弾の集中砲火で壁に穴が空く耐久度。正面玄関側から幻朧戦線が攻めてきます。玄関の前は広い道路になっていますので、何をするにも支障はない状況です。
幻朧戦線の一般兵は超テンションが高くなっています。ユーベルコードといえど、正面から一発では眠らせるのは難しいかもしれません。緊張の糸を切る、注意を逸らす、他の手段との合わせ技を行う等、工夫をするといいでしょう(プレイングボーナス)
2章、3章は戦闘となっています。状況の詳細は序文にて記載します。
オープニングはシリアス風味ですが、ギャグは歓迎です。目的についてやることやったら、どんなネタ振りだろうとウェルカムです。例えば、オープニングにいるモブにちょっかい出すとか。あ、公序良俗は守ってね。
それでは皆さんのプレイング、お待ちしておりまーす。
第1章 冒険
『幻朧戦線の襲撃』
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POW : 襲い来る幻朧戦線の一般兵を肉壁となって阻止し、重要施設や一般人の安全を守ります
SPD : 混乱する戦場を駆けまわり、幻朧戦線の一般兵を各個撃破して無力化していきます
WIZ : 敵の襲撃計画を看破し、適切な避難計画をたてて一般人を誘導し安全を確保します
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
それは日が昇り、街が活気を見せ始めた午前8時頃。
街に不釣り合いな物々しさで広い通りを駆けていく一団は幻朧戦線の者たち。その異様さに、巻き込まれたくないと周囲の人々は蜘蛛の子を散らすがごとく逃げ去っていく。
「見えた! あれが標的だ!」
幻朧戦線の誰かが叫ぶ。最初のターゲットである新聞社を視野に収めた一団が進軍速度をあげ……ることは出来なかった。
何故ならば、新聞社との間に割り込んできた者がいたからだ。
彼らは不意に、あるいは空中から。幻朧戦線の行く手を阻むように現れた。
「おのれ、邪魔立てするのか!」
敵意のこもった言葉に、肯定を返すかのように。あるいはその行為は許さないと言わんがばかりに。
猟兵たちが幻朧戦線の凶行を阻止すべく、サクラミラージュに降り立ったのだ!
※転送先はプレイングにて指定できます。奇襲を放つために背後から、とか、避難誘導をするために支部の建物付近で、とか。行動の一助にしてください。
牧杜・詞
今回はひとり、か。
ま、いままでの戦い方も忘れないようにしないとね。
転送先はもちろん幻朧の背後。
暗殺は、騙り、欺き、眩まして、相手の命を刈り取るもの。
正面からなんて似合わないわ。
殺すことを否定はしないけれど、無抵抗な相手を、無差別に殺してもね。
狙った獲物を、全力で、的確に、が楽しいのでしょう?
なんてね。そんなの大義名分。
気兼ねなく、めいっぱい殺していいなんて、猟兵って素敵な立場ね。
この時間はわたしの時間。
自分を抑える必要がない、ほんとのわたしの時間。
動ける間は、つきあってもらうわよ。
【命根裁截】で命を刈り取りっていくわ。
一撃で死なない? なら何度でも刈り取ってあげる。
「長く苦しむだけなのに、ね」
黒木・摩那
幻朧戦線も凝りませんね。
本当に戦闘が大好きなんですかね。
でも、そんな考えは後悔させてあげます。
待ちなさい、幻朧戦線。
襲撃はそこまでです。
幻朧戦線の前に登場します。
幻朧戦線の一般兵に対して、ヨーヨー『エクリプス』で戦います。
ヨーヨーでグラッジ弾を【武器落とし】して、【念動力】で回収します。
武装解除したら、ヨーヨーのワイヤーを一般兵に絡ませて、
こちらに引っ張ったり、飛び込んだりして【敵を盾にする】しつつ、
ワイヤーからのUC【サイキックブラスト】で落としていきます。
防御は【第六感】とスマートグラスのセンサーで対応します。
飛び道具は【念動力】で軌道を逸らして回避します。
●
あまりにも独善的な目的のために突き進む幻朧戦線。
「待ちなさい、幻朧戦線」
彼らの進路上に突如として現れたのは黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)であった。
「襲撃はそこまでです」
と明確に敵対の意志を示しながら、左手に愛用のヨーヨー『エクリプス』を構える。
摩那の気配に『ただ者ではない』雰囲気を感じ取った幻朧戦線の一般兵たちは足を留める。
結果、じりじりとお互いに間合いを測る両者。油断せず、幻朧戦線を見据えながら摩那は話しかける。
「幻朧戦線も凝りませんね。本当に戦闘が大好きなんですかね」
「違う! 戦闘狂などと一緒にするな!」
摩那の言葉に激昂する一般兵。しかし、その反応とは裏腹に、身を隠している周囲の住民の反応は摩那に賛同しているようにみえる。
であるならば。
(そんな考えは後悔させてあげます。)
摩那の、エクリプスを握る手に力が入る。
戦い慣れているとはいえ、一般人。幾多の戦いをくぐり抜けてきた猟兵たる摩那と相対しているプレッシャーに長く耐えられるはずもなく。
「くっ」
緊張感に耐え切れなかった一般兵が銃を構える。それに釣られるようにして、他の一般兵たちも動く……!
「あまいっ」
しかしそれは摩那の想定の範囲内であった。ただ睨み合っていたわけではない。彼女の眼鏡『スマートグラス『ガリレオ』』のセンサーは既に周辺の情報、例えば相手との距離などを把握している。
攻撃の兆しを第六感で捉えた摩那は迷わず動いた。摩那の左手から素早く放たれたエクリプスが空中を走る。一般兵が引き金を引くより早く、その手に直撃したエクリプスが銃を叩き落とす。そして『そこで終わりではない』。
(一気にいきますよ!)
すかさず念動力を放つ摩那。エクリプスと摩那を繋ぐワイヤーの操作を念動力で補助しながら、手元でワイヤーを繰り、エクリプスの軌道を変えていく。狙いは『銃を構えた一般兵全員』。連鎖的に、攻撃の隙すら与えず。エクリプスが一般兵たちの手を渡り歩いて、銃を叩き落としていく。
「ちっ」
エクリプスに打ち付けられた手を押さえながら、それでも慌てて拾おうとする一般兵。
「そうはさせませんよ」
その一般兵が拾い上げるよりも早く、再度摩那が念動力を放ち、銃を回収していく。そして、エクリプスを手元に戻した摩那が、クスリ、と笑う。とても楽しそうに、小悪魔的に。
「おのれっ」
摩那の大立ち回りに、幻朧戦線はたたらを踏むのであった。
●
摩那と一線を繰り広げる一般兵。しかし、ひとりの猟兵に足止めされ続ける訳にもいかない。摩那を見据えたまま、後退しようとした一般兵……の背後に衝撃が走る。
「がっ……?!」
それは焼けた棒で殴られたかのような熱さ……否、これは『斬られた』跡だ。
崩れ落ちる一般兵が肩越しに見たのは、牧杜・詞(身魂乖離・f25693)の顔。その顔は無表情で。たった今斬り捨てた一般兵を見下ろす。
(暗殺は、騙り、欺き、眩まして、相手の命を刈り取るもの)
空を切るように鉄和泉を振るって、血を振り落とす。
詞が転送先として選んだ位置は幻朧戦線の背後。そこへ転送された詞は音も無く、打刀『鉄和泉』を抜き放ち、そのまま振り下ろしたのだ。
「今回はひとり、か。……ま、いままでの戦い方も忘れないようにしないとね」
などとひとりごちながら。
倒れた仲間に騒然とする幻朧戦線。その原因である詞に攻撃を仕掛けようと向き直る一般兵をよそに、詞は次の行動へ移る。
――正面からなんて似合わないわ。
と。一般兵の視界から消えるように、ゆらりと体が揺れて。高速で一般兵の背後へ忍び寄る詞は、次の瞬間、ざんっ、とまた一人斬り捨てる。一切の躊躇なく、一撃で。
その手応えに詞は小さく嘆息ひとつ。
(殺すことを否定はしないけれど、無抵抗な相手を、無差別に殺してもね)
それは故郷の森で生きていた時とは全く違う手応え。ゆえに、詞は幻朧戦線に向き直る。
「狙った獲物を、全力で、的確に、が楽しいのでしょう?」
鉄和泉の切先を突きつけて、挑発する詞。獲物と称されたことに激怒した一般兵たちはが銃を構える。一斉に引き金を引こうとして。
「なっ……!?」
あがるのは驚愕の声。次の瞬間、引き金を引くより早く踏み込んできた詞に纏めて腕を斬り落とされたからだ。
「……なんてね」
そんなのは大義名分だ。だって、何故なら。ここに来たのはそんな理由じゃないのだから。
「ふ、ふふ……気兼ねなく、めいっぱい殺していいなんて、猟兵って素敵な立場ね」
詞の顔が愉悦に染まる。あるいは快楽なのかもしれない。
――この時間はわたしの時間。
――自分を抑える必要がない、ほんとのわたしの時間。
だから。
「動ける間は、つきあってもらうわよ」
声とともにユーベルコード【命根裁截】が一般兵の命を刈り取っていく。
●
図らずも摩那と詞による挟撃となった幻朧戦線に対する攻撃。あっという間にその場が制圧されていく。
「ハッ!」
摩那がエクリプスを操り、一般兵を一ヶ所に追い込む。その瞬間、ワイヤーを引いて、一般兵たちを絡め取る。
「ここで、こうです!」
ユーベルコード【サイキックブラスト】をワイヤー伝いに放ち、感電させて無力させていく摩那。
詞の側は制圧速度が速い。それは一般兵に対する行動が『単純だから』なのだが。
絶望的な状況に、それでも抵抗する一般兵がいる。詞の一撃に耐える者が。
「長く苦しむだけなのに、ね」
それを見て詞は小さく呟いて。しかし感慨などなくただ鉄和泉を振るう。【命根裁截】によって今度こそ命が刈り取られる。
「ひっ……」
その戦闘の様に、詞に背を向けて逃げ出そうとする一般兵。詞にすれば逃がす理由など無く、音も無く背後まで迫り、鉄和泉を振り下ろす。
ガギィン。
鉄和泉と何かがぶつかり、弾けた音がする。
「おっと、失礼」
声の主は摩那であった。どうやら前方からと後方からと、制圧が進んで真ん中でぶつかったらしい。摩那が一般兵を拘束すべく放ったエクリプスのワイヤーと鉄和泉がぶつかったのだ。
「てい」
ワイヤー伝いに【サイキックブラスト】を放ち、感電によって一般兵の意識を刈り取る摩那。ワイヤーから解放された一般兵の体が崩れ落ちる。
「……」
自分以外の猟兵に遭遇したこと。そして見渡せば、彼女らの周辺に立っている幻朧戦線の姿は無く。詞は鉄和泉を鞘に納め、嘆息ひとつ。
楽しい時間はひとまず終わりを告げたようだ。
こうして、摩那と詞の活躍で、まずは幻朧戦線の一角を制圧することに成功したのである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
文月・統哉
幻朧戦線か
悪の組織を止めるなら着ぐるみヒーローの出番だぜ
クロネコレッド、見参!
転送は建物内部へ
仲間が敵を足止めしてる間に避難誘導を行うぞ
助けに来たと伝え落ち着かせ
裏口から避難するよう呼びかける
ガジェットショータイムで
かわいい着ぐるみロボット警備隊を召喚!
一部を先行させて周囲の状況を確認しつつ
一部は自力移動が困難な人達を背中に乗せて
安全かつ迅速に誘導する
鈴彦さんを見つけたら
「鈴彦さん、良かったらこの花要りませんか?
彼女さんにあげたら喜びますよ、きっと」
着ぐるみの手で百日草を一輪渡してウインク
さあ、急いで!
女性記者の影朧か
油断は禁物、不意の襲撃に備えよう
遭遇した一般兵は気絶させ
一般人は庇い必ず護る
●
摩那と詞が幻朧戦線の一般兵を押し留める最中。
ひとりの猟兵が新聞社支部の建物の中、無人のエントランスへ転送されてきた。その姿、クロネコ着ぐるみを纏いし文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)である。
(幻朧戦線か)
思うところは色々あるが、まずは、だ。
「悪の組織を止めるなら着ぐるみヒーローの出番だぜ」
立ち上がって統哉は、襲撃を受けるはずの記者たちがいる部屋へと向かう。もちろん、仲間が敵を足止めしてる間に避難誘導をするために。
緊急事態ゆえ、ばんっ、と部屋の扉を開けて乗り込む統哉。
「クロネコレッド、見参!」
名乗りを上げて、避難誘導を……。
「え、着ぐるみ? 不審者?」
「ちっがーう!!」
あまりにもきょとんとした視線に、わたわたするクロネコ着ぐるみ。
そう、仲間たちが足止めしてくれているがゆえに、まだこの支部は破壊はもちろん襲撃すら受けていない。なので統哉が現れた意味を解りかねたのだ。
ならば、と得意のコミュ力をフル活用して、状況を伝える統哉。何よりも命の方が大事だから。
「とにかく、ここは危ない! だから助けに来たんだ!」
そして、真摯な言葉は必ず伝わる。統哉の言葉に外を確認した記者の顔に、焦りと危機感が浮かぶ。
「こっちだ!」
統哉の言葉に従って避難を始める記者たち。
「ガジェット・ショーターイムっ!!」
統哉が声高らかに宣言する【ガジェットショータイム】で召喚されるのは、かわいい着ぐるみロボット警備隊。その一部に先導と護衛の役割を与える統哉。
「裏口から避難するんだ!」
統哉の指示で走り出した着ぐるみロボットを先頭に、記者たちが避難を始める。
記者たちがいる部屋はここだけではない。そして記者だけが新聞社の中にいるわけではない。
「ここ、任せたぞ!」
着ぐるみ警備隊の一部を部屋に残し、統哉は急ぎ、2階まで駆け上がる。そして部屋に突撃して説得をして。残った着ぐるみ警備隊を小分けにしながら、先導させる。何度か同じことを繰り返せば避難誘導は完了だ。
(自力移動が困難な人達もいないようだな)
危惧していた怪我人はまだ出ていない。ならば、と統哉もまた裏口へと向かう。
裏口からこっそり顔を出すのは着ぐるみロボット警備隊。安全確認のため、顔だけ覗かせて周囲の状況を確認する。今のところ安全のようだ。そのまま外に出て、着ぐるみロボット警備隊は、あらかじめ統哉に設定されていた安全な地帯を迅速に目指す。もちろん後に続く記者や新聞社の人々を引き連れ、護衛しながら。
順調に避難が行われている中、統哉が裏口まで駆けつける。
その時見かけたのは……鈴彦であった。
「鈴彦さん!」
不意に呼ばれた声に、鈴彦が振り向く。
「あ、んたは、確か……」
記憶を辿る、いや、フラッシュバックのように思い浮かぶ『かの事件』のこと。色んな想いや言葉が溢れそうになるが、今は緊急事態だ。統哉が素早く駆け寄り、鈴彦の言葉を遮る。
「良かったらこの花要りませんか? 彼女さんにあげたら喜びますよ、きっと」
と。着ぐるみの手で百日草を一輪渡してウインクする統哉。
今度こそ。『彼女』に。
「さあ、急いで!」
「あ、ああ。ありがとう!」
統哉に促されるまま、外へ飛び出す鈴彦。
避難の最後のひとりが支部から出たことを確認して、統哉もまた裏口から外へ出る。大鎌『宵』を構えながら。
支部の『中』が騒がしくなってきた。おそらく乗り込んできた一般兵と着ぐるみロボット警備隊が戦闘に入っているはずだ。
この裏口まで一般兵は辿り着いていない。おそらくここまで攻勢の手を伸ばせるほど兵の数は残らないだろう。
ゆえに統哉が警戒するのは。
(……女性記者の影朧か)
油断は禁物、不意の襲撃に備える統哉は油断なく周囲の気配を探る。ピリピリとした空気が辺りを支配し始めた。
大成功
🔵🔵🔵
羽生・乃々(サポート)
●設定
UDCアース出身の極普通の女子高生
バイト感覚で仕事を安請け合いしては散々な目に遭い
涙目で切り抜けています
●口調補足
狐化の影響で「きゃあ!」「いやぁ!」等の悲鳴の類が
何故か「こゃ!」「こゃぁ!」になってしまいます
●冒険・日常
「えへへ、これ位ならお安い御用ですよっ」
「さあ管狐さん、お願いしますね!」
頭脳、知識、運動能力
どれも一般人レベル&&平均点な普通の子ですが
自分にできる事を精一杯、他人に優しくをモットーに頑張ります
荒事の際は涙目でばたばた逃げ隠れ
可能なら他の猟兵に助けを求めます
人手が要る時は使役UDCの管狐にお願いして人海戦術です
探し物や偵察にも
他は全てお任せです
交流や連携等も歓迎です!
●
幻朧戦線、その先遣たる一般兵たちが猟兵の活躍で数を減らしていく。事、ここに至っては戦力を温存など。後方待機させていた一般兵たちも前線へ送り込む幻朧戦線。
「なんとしても、この作戦を成功させるのだ!」
号令とともに目標である新聞社支部へ駆け出す一般兵たち。
その前に現れたのは、やはり猟兵であった。
「こゃぁ!」
独特の悲鳴は、猟兵でもあり女子高生でもある羽生・乃々(管使い・f23961)のもの。グリモア猟兵の転送が荒かったのか、着地に失敗したみたいで。
「うう……」
お尻を打った痛みで、目に涙を浮かべる乃々。頭の上の白い狐耳がぴこぴこ動く。そう、乃々は狐の霊に憑かれているのだ。先の悲鳴もその影響を受けているらしい。
とはいえ、ここには『お仕事』で来たのだから。お尻をさすりながら周囲を見渡してみる乃々。
「……あ、あれ?」
グリモア猟兵からは『簡単なお仕事っす!』と言われて、その言葉を信じて転送されて来たのだけれども。そういえば、詳細はメモに書いてあるからと話は詳しく聞かなかった。
で、今の現状である。
乃々を取り囲む一般兵たちは銃で武装し、爆弾を手に、鉄の棒を振りかぶっている。めちゃくちゃ物々しい雰囲気。どう考えても『荒事の真っただ中』である。
「こゃっ! またぁぁぁぁ!?」
実は、バイト感覚で仕事を安請け合いしては散々な目に遭っている乃々でした。
少し気弱で少し不運な乃々は、涙目になりながらもこの場を切り抜けようと立ち上がる。もちろん逃げ足に頼った逃げの一手だけれども。
「追え!」
「追わないでぇ!」
先ほどから猟兵に邪魔されているからか、その仲間だと勝手に認定した一般兵たちが乃々に殺到する。叫びながら走る速度を上げる乃々。そんな彼女の目の前に不意に現れる路地裏。咄嗟にそこへ入ってしまったのは……幸運だった。
乃々のような少女なら2人並んでぎりぎり通れるかどうかの路地。逆に言えば、大人の体格なら『追手が何人いようと、乃々に迫れるのは2名が限界』だ。
「これなら……!」
走りながら振り向き、その事実に気付いた乃々は肩からかけつつも大事に抱えていたカバンの中に話しかける。
「管狐さん、お願いします!」
乃々の声に、カバンの中のタンブラーから細長いもふもふたちが現れる。『管狐』、筒状の物に住みつくという動物霊型UDC。彼女に懐いている管狐たちは常に彼女のタンブラーの中にぎっしり詰まって、違う、住んでいるのだ。
ふわりするりと空を走り、一般兵たちの進路を妨害する管狐たち。不意を突いて、巻きつき、体当たりして、ついでにべしべし頬を殴打して。一般兵を気絶させていく。
その間にも乃々は立ち止まることなく、走り続ける。乃々を逃がすまい、と考えている一般兵の視線はどうしても彼女を追う。その隙を管狐たちに狙われて、一般兵たちは全然思うように動けないまま、行動不能な状態へ追い込まれていく。
乃々が路地を抜けて振り返る。路地から出てくる一般兵……はいない。代わりにお仕事を終えた管狐たちが全匹戻ってきて、乃々のタンブラーの中へ帰っていく。
「管狐さん、ありがとうございます」
ぽふぽふとタンブラーのふたを撫でながら、乃々は管狐たちに感謝を伝えるのであった。
●
どうやら乃々を追いかけ回していたのが最後の部隊であったようだ。
幻朧戦線の一般兵たちを無力化した猟兵たちは、この後現れるであろう『影朧甲冑』への警戒へと行動をシフトさせるのであった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『梅代』
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POW : ペンは何者より強し
自身に【帝都で起きた殺人事件の怨念】をまとい、高速移動と【手にした万年筆の斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 鮮血紅梅の予告状
【血のインキで文章を書くこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【刃の様に鋭く硬い予告状】で攻撃する。
WIZ : !プークス大すが騒都帝
対象への質問と共に、【自身が綴った文章】から【帝都を騒がせた殺人鬼】を召喚する。満足な答えを得るまで、帝都を騒がせた殺人鬼は対象を【サクラミラージュにある武器】で攻撃する。
イラスト:静谷
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠氷長・霰」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
幻朧戦線の第一波を防ぎ切った猟兵たち。周辺の住民はもちろん、新聞社支部の人々まで皆、被害の受けない場所まで避難完了である。
猟兵たちが新聞社支部の裏口に集まってくる。何故なら、グリモア猟兵の予知ではこの後、ここに『女性記者の姿をした影朧』が現れたからだ。
――そういえば。
『影朧甲冑』については説明が中途半端であった。出掛けにグリモア猟兵から渡されたメモを手に取る。書いてあったのは、影朧甲冑の在り方であった。
曰く。
これは影朧を燃料として動くという甲冑型の機動兵器。しかし、動力はあっても、自律行動できる代物ではない。そのため、この兵器は『人が身に纏うことで使うことが出来る』のだ。
そして、特徴的なのはその能力。影朧甲冑は起動した当初、『取り込んだ影朧の姿を纏う』。単なる擬態では無く、その『影朧の姿と力』を持つ存在と化しているのだ。
「何これ。全然、礎となる供物がいないじゃない」
不意に聞こえてきたのは女性の声。猟兵たちが身構える。
目の前にいるのは女性記者の様相だが、その存在感は紛れも無く強力な影朧であった。
「我ら、幻朧戦線。次の世の礎となる供物が必要なのに……お前たちのせいね?」
幻朧戦線の影朧……ということはメモの通りなら、この影朧が影朧甲冑なのか?
それを問い質そうとして、しかしそれは阻まれる。
「猟兵! 邪魔をするなら、お前たちから礎に! そして哀れな犠牲者として記事にしてあげるわ!」
女性記者――『梅代』がペンを手に構える。
何をするにもまずはこの影朧を制圧するしかない。
猟兵たちが戦闘態勢を取って、この裏口前の広場にて戦闘が開始されようとしていた!
※制圧、とありますが、手加減や捕縛等を考える必要はありません。戦闘によって撃破することで力を削げると考えてください。
また、広場には邪魔になるような障害物はありません。
黒木・摩那
出ましたね、影朧。
幻朧戦線をたぶらかして、今回の襲撃を起こした張本人です。
もしかして、自分でスクープをモノにするために襲撃を計画したのではないですよね?
だとしたら、まさに自作自演。
記者の風上にも置いてはおけません。
退治します。
確実にダメージを与えるために、魔法剣『緋月絢爛』で戦います。
UC【偃月招雷】で帯電して【属性攻撃】、攻撃力を高めます。
【ジャンプ】や【ダッシュ】を組み合わせながら、剣で斬っていきます【先制攻撃】【衝撃波】。
殺人鬼達はは【第六感】とスマートグラスのセンサーで対応します。
飛び道具は【念動力】で軌道を逸らして回避します。
●
幻朧戦線の襲撃。それを阻止した猟兵たちへ激昂する『梅代』。
「出ましたね、影朧」
それに対して、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は悠然と魔法剣『緋月絢爛』を構える。この梅代が黒幕なら、『幻朧戦線をたぶらかして、今回の襲撃を起こした張本人』ということになる。ということは、だ。
「もしかして、自分でスクープをモノにするために襲撃を計画したのではないですよね?」
もしそうであるなら、まさに自作自演。
(記者の風上にも置いてはおけません)
そう思う摩那であったが。
「はあ……?! それじゃヤラセでしょうが」
その言葉は心外だと梅代が言葉を荒げる。これはそう、いうなれば神聖な儀式。やることに意味があるのだ、と。
「もちろん、後で『記録』として記事にはするけれども。ああ、もしかして……」
そう言いながら、梅代の手にあるペンが空中を走る。
「お前は、猟奇殺人事件の記事がお好みかしら?」
そして、その文章から生み出される『帝都を騒がせた殺人鬼』。手にしているのは軽機関銃。その銃口が摩那を向く。
襲撃が記事のためではないとしても、記事のために事件を起こすのであれば。それは、およそ記者とは思えぬ行動。ならば。
「退治します」
ひとこと、呟いて。摩那もまた駆け出した。
走り出しながらユーベルコード【偃月招雷】発動。小さく振るった緋月絢爛の刀身がサイキックエナジーを纏い、帯電した雷が威力を増強する。
「ちっ、お呼びじゃない!」
その様子に悪態をつきながら、殺人鬼に指示を出す梅代。殺人鬼の軽機関銃が火を噴くが、しかし摩那はその攻撃、その兆しを第六感と『スマートグラス』のセンサーで捉えていた。
「こうですっ!」
銃弾が放たれる直前。摩那が不意に跳び上がり、上空から緋月絢爛を振るう。その斬撃は衝撃波となって、殺人鬼と梅代を斬り裂く。その攻撃に態勢を崩しながらも、軽機関銃を撃って来る殺人鬼。
「……っ」
着地しながら突き出した手から、念動力を叩き付ける摩那。自身に当たりそうな弾丸の軌道を逸らし、回避しつつ。
息をつく間も与えぬ、と素早くダッシュして殺人鬼の後ろに回り込む。
「ハッ!」
今度の一閃は直接、殺人鬼を斬り捨てて。摩那が素早く体を翻す。
「逃がしません!」
返す刀で梅代を斬りつけるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
牧杜・詞
強さ』の意味が違ってる感じね。
でも、わたしにはそっちのほうがわかりやすいし、やりやすいわ。
速さはわたしより上みたいだし、単純な力もありそうね。
正面から戦ったら、押し負ける、かな?
でも、どんなに速くても、どんなに力を持っていても、関係ない。
最後はわたしを殺しに傍まで来てくれるのでしょう?
それで、それだけでいいの。
わたしを『殺せる』と相手が確信した、その隙をついて、
【新月小鴨】を使って、【命根裁截】で殺し返してあげる。
「あなたまだ、だれも殺したことがないでしょう?」
だから、最後の最後で隙ができる。
相手を殺す瞬間は、いちばん危ない瞬間なのよ。
だからこそ、いちばん甘い瞬間でもあるのだけどね。
●
摩那の一閃を受け、傷を押さえながら後退する『梅代』。撤退するつもりなどないが、態勢を立て直さねば。
「『強さ』の意味が違ってる感じね」
横合いから気配も無く。言葉とともに斬りつけるその斬撃は、牧杜・詞(身魂乖離・f25693)のもの。咄嗟に距離を取られたのか、その傷は浅く、仕留めるには至らない。
「『勝てば官軍、負ければ賊軍』、強さが歴史を作るのはいつでも勝者よ!」
詞に向き直り、万年筆を手に取る梅代。その身に帝都で起きた殺人事件の怨念を纏い、自身を強化する。
「でも、わたしにはそっちのほうがわかりやすいし、やりやすいわ」
詞もまた打刀『鉄和泉』を構える。梅代に向けられた刀身が濡れたような深い緑に輝いた。
梅代が動く。
「……っ!」
接近してきた梅代を迎撃すべく、素早く振るった一撃は空を斬る。詞の死角に回り込んだ梅代が万年筆による斬撃を衝撃波として放つ。その殺気を捉えた詞は振り返りもせず、横薙ぎの一閃で衝撃波を蹴散らす。
再度、間合いを取って相対する両者。
(速さはわたしより上みたいだし、単純な力もありそうね)
考えながら、隙を窺いながら、詞がわずかに構えを変えれば、その隙間すらも梅代には攻撃の隙となるほどに。
(正面から戦ったら、押し負ける、かな?)
と、詞は表情には出さず、思考を巡らせる。傷は浅い。まだ動ける。このままいけば……でも。
どんなに速くても、どんなに力を持っていても、関係ない。だって。
――最後はわたしを殺しに傍まで来てくれるのでしょう?
それで、それだけでいいの。その時こそが。
構えながら思考を巡らせる詞に対して、梅代は攻撃の手を休めない。削れる寿命など影朧には関係のないことだ。
「最初の威勢はどうしたのかしら!」
梅代の放った衝撃波が詞に直撃する。肩、腰、脚……徐々に着物が裂けていき、露出した肌に血筋が走る。反撃を繰り出してこない詞に、梅代が猛る。
「お前が、最初の礎になるといいわ!」
『ペンは何者より強し』。梅代の万年筆の直の一撃によるトドメが詞に放たれ……『その時』が訪れる。
「……か、ふっ」
小さな悲鳴とともに血が零れた。それは梅代の口から。万年筆の一撃は空を切り、代わりに懐に潜り込んだ詞の手には白鞘の短刀『新月小鴨』があった。
「これで、終わり」
梅代の耳元で囁く詞の声。先まで無かった高揚とともに、新月小鴨が押し込まれる。ユーベルコード【命根裁截】は、肉体を傷つけずに対象の命のみを貫く業。
「わたしを『殺せる』と思った?」
新月小鴨に籠める思念を強めながら、詞が呟く。
「あなたまだ、だれも殺したことがないでしょう?」
それは影朧の梅代にではなく、その中にいる『誰か』に対して。
「だから、最後の最後で隙ができる」
告げながら、詞が新月小鴨を引き抜く。立ち上がる詞に崩れ落ちる梅代。先ほどまでの攻防とはまるで逆の構図。
梅代がトドメと確信したその瞬間。相手を殺す瞬間こそが『いちばん危ない瞬間』だと、詞は『知っている』。だからこそ、その隙をついての、必殺の一撃。
誘いと知らず、殺しを知らず、梅代――影朧甲冑はその瞬間に身を乗り出してしまったのだ。
「だからこそ……いちばん甘い瞬間でもあるのだけどね?」
意味深な言葉を放ちつつ、詞が放った一閃が梅代を斬り裂いた。
大成功
🔵🔵🔵
百地・モユル(サポート)
熱血で好奇心旺盛
本が好きな小学生
正義感が強く困っている人は見過ごせない
UCは業火の一撃、灼熱の束縛に加えて
自分たちが押し切られそうになったらオーバーヒートバッシュ
🔴の数が多い場合はバーニングリベンジャーだ
攻撃には怪力、属性攻撃、2回攻撃、グラップルなどの技能をのせる
逆に敵の攻撃をからみんなをかばう、耐えるために
武器受け、挑発、おびき寄せ、時間稼ぎ、激痛耐性なども使用
敵に一撃入れられそうなら咄嗟の一撃や捨て身の一撃、カウンター
こいつがボスか…
みんな大丈夫?助けにきたよ!
そんなの許せない、ボクの炎で焼き払ってやる!
技能の勇気、覚悟、気合いは常に発動状態
アドリブ絡み歓迎
影朧などの場合は説得もしたい
●
大きく斬り裂かれた『梅代』が後ずさる。
(これ以上は……!)
戦況が不利になる、その前に新聞社支部を……!
梅代の視線が支部へ向く。影朧の力があれば、外部から破壊することも可能だ……! 素早く手にしたメモ紙へ記事を綴る。直後、手にしたメモが刃の様に鋭く硬い予告状へと変化した。
「革命の狼煙を、今……!」
数枚の鉄すら斬り裂く予告状が建物を切断せんと梅代の手から飛ぶ。複雑な軌道を描きながら飛翔するそれらが建物に突き刺さる……前に、その射線に割り込んだ影。
「はっ!」
短い呼気とともに赤い軌道が予告状をすべて弾き飛ばす。
「みんな大丈夫? 助けにきたよ!」
両手に備える力は、炎の魔力を宿した手甲。彼の闘志に呼応するように手の甲にある宝玉が紅く輝く『エレメントガントレット』を構えて。建物を守るようにして、百地・モユル(ももも・f03218)が立つ。
『困っている人は見過ごせない』と後から駆けつけてくれたモユルが、視線を一瞬戦場へ走らせる。
(こいつがボスか……)
自身に敵意を向ける影朧・梅代。しかし、その正体が影朧甲冑であることは把握している。
「新手……! こうまでも!」
モユルの登場に、梅代が怒りを募らせる。その怒りのままに、メモへ再びペンを走らせる。綴られた記事より生まれ出でる帝都を騒がせた殺人鬼たち。
「いけっ!」
梅代の声に、武器を構えてモユルへ迫る。軽機関銃、クロックウェポン。標的はモユルなのだが、回避すれば背後の建物を破壊せんとする殺人鬼たちへ。
「ボクに触れたら、火傷どころじゃすまないぜ!」
臆することなく、モユルが両手を突き出す。ユーベルコード【灼熱の束縛】。その両掌より迸る灼熱の炎が殺人鬼たちを包み込み、その高熱で動きを封じる。
「なっ……!」
モユルの放った炎は殺人鬼たちのみならず、梅代の動きすらも押し留める。
「……!」
梅代の動きを封じたモユルが次の行動へ移る。
相対しているのが本来の影朧であれば。説得を行い、転生に導きたいと思う。しかし、目の前の相手は影朧甲冑……中身は『人』だ。ならば、話をするにも聞くにしても、まずは『この仮初めの影朧』を剥がさねば。
「ボクの炎で焼き払ってやる!」
エレメントガントレットの宝玉が輝きを増す。突き出した両手を引き戻し、取るのは突撃の構え。エレメントガントレットが炎を纏う。
放つのは、勇気、覚悟、気合いを乗せた【業火の一撃】の一撃……!
「燃ゆる命の炎、見せてやるぜ!」
素早く距離を詰めたモユルの捨て身の一撃が梅代を捉える。拳が突き刺さり、紅蓮に輝く炎が梅代を包み込んだ。
成功
🔵🔵🔴
文月・統哉
帝都で起きた殺人事件の怨念を纏った
女性記者梅代の影朧の姿と力を纏った
影朧甲冑を纏った人間か
何ともややこしい話だな
オーラ防御を展開しつつ
相手の動きを観察し情報収集
斬撃や衝撃波の放射を見切り
大鎌とワイヤーで武器受けして応戦する
幻朧戦線
人々に犠牲を強いて
自らの命も渦中に投じ戦って
巻き起こす戦乱の先に
『お前』は何を望むってんだ
搭乗すれば引き返せない
それを知った上での覚悟
そこに至るまでに何があったのか
何が彼女を追い詰めたのか知りたくて
聞かぬままには出来なくて
相手の動きに慣れてきたら
残像のフェイントを残し攻撃回避
カウンターで懐に飛び込み体当たり
万年筆を弾き飛ばしつつ
体勢を崩した隙を狙って
宵月夜で影朧を斬る
●
炎に焼かれた『梅代』。徐々にその『力』が削がれていく。それは中にいる『者』にとっても看過できない事態であった。
――まだ、何も為していない……!
それだけは、避けなければいけない。それは自分が『いまここにいる意味』を失ってしまう。
「お、のれぇぇぇぇぇ!!」
炎を振り払い、殺人事件の怨念を纏う梅代。
「私の! 邪魔をするなーっ!!」
万年筆の斬撃が衝撃波となって放たれる。新聞社支部を破壊せんと放たれたその一撃は、またもや弾かれた。阻んだのは衝撃波の射線上に投げ込まれた『クロネコワイヤー』。
「っと、間に合ったみたいだな」
その声は、記者などの一般人、その避難誘導を最後まで付き添っていた文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)のもの。
「……っ! 何なの、お前たち!!」
怒りをあらわに統哉と相対する梅代。攻撃を仕掛けようとする梅代に。
「幻朧戦線」
統哉が声で制止する。
「人々に犠牲を強いて、自らの命も渦中に投じ戦って……巻き起こす戦乱の先に、『お前』は何を望むってんだ?」
「……っ!」
『お前』と名指しされた梅代……『中の者』が息を飲む。その様子を統哉は冷静に観察し続ける。そう、目の前にいるのは、『帝都で起きた殺人事件の怨念』を纏う女性記者梅代の、『影朧の姿と力』を纏う『影朧甲冑』を纏った人間、なのだから。
(何ともややこしい話だな)
そう思いながらも嘆息すらつかず、統哉は漆黒の刃持つ大鎌『宵』を油断なく構える。ここで梅代を止めなければ。しかし、それは容易ではない。油断すれば怨念を燃料とした高速移動と衝撃波にやられる。
「……お前に、何が分かる!」
「……っ!」
今度は統哉が息を飲む番であった。連続で、そしてでたらめに放たれる衝撃波。無軌道な攻撃を統哉は宵で払いのけ、オーラ防御で弾いていく。怒り任せな分、軌道が単調だ。激しい攻撃とはいえ、この調子ならすぐ見切れる。
その余力が統哉の想いを言葉にする。
「搭乗すれば引き返せない、それを知った上での覚悟なのか!」
統哉の叫びに答えは無く、返されるのは万年筆の斬撃。それを宵で受け止める統哉。
もし、そうであるならば。
そこに至るまでに何があったのか。何が彼女を追い詰めたのか。
知りたくて……聞かぬままには出来なくて。
だが……激昂している『今』はその時ではないようだ。
であるならば。まずはひとつ、戦況を進めるとしよう。
「止める」
小さく呟いて。統哉が動く。それは梅代の目に残像を残す形で。
「……?!」
今まで受け止められていた万年筆が空を切る。それが統哉のフェイントと気付いた梅代はすぐに視線を巡らせる。統哉を捉えた。
「逃がすか!」
「……逆だぜ?」
「……!?」
高速移動で接近してきた梅代に対して、統哉が懐へ飛び込む。逆……梅代が統哉を逃さないのではない。統哉が梅代を捉えたのだ。梅代懐へ統哉が飛び込み、その勢いを乗せた体当たりが万年筆を弾き飛ばす。その衝撃に梅代が態勢を崩し。
統哉が流れるような動きで振り上げた大鎌に宿る力はユーベルコード【宵月夜】。
「まずは……その『ガワ』を剥がさせてもらうよ」
統哉の覚悟を乗せた、闇すら斬り裂く刹那の輝きによる一閃が梅代の体を大きく斬り裂いた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『影朧甲冑』
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POW : 無影兜割
【刀による大上段からの振り下ろし】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 影朧飛翔弾
【甲冑の指先から、小型ミサイルの連射】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 影朧蒸気
全身を【燃料とされた影朧の呪いが宿るドス黒い蒸気】で覆い、自身が敵から受けた【影朧甲冑への攻撃回数】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
イラスト:雲間陽子
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
影朧『梅代』の体が崩れていく……否、纏っていた影朧の力が剥がれ落ちていく、といった方が正しいのかもしれない。
猟兵たちの前に現れたのは『影朧甲冑』。影朧を燃料とする禁断の兵器。
この兵器は甲冑だ。つまり、使うには『人が纏わなければいけない』。この機動兵器を中から操縦する人間が必要なのだ。
しかし。
影朧甲冑の呪いは操縦者を逃さない。肉体を蝕まれ、結果として、操縦者は『二度と甲冑から降りることができない』状態になる。正確に言えば『甲冑から降りない限り死なないが、降りると死ぬ』状態であるが。影朧甲冑に乗った時点で、戦いも命すらも不退転という状況に対して、その差にどれだけの違いがあるというのだろう?
●
彼女は。『立花・暁(たちばな・あき)』はそれを選んだ。影朧甲冑の操縦席で彼女はゆっくりと瞳を開く。
脳裏によぎるのは、姉のこと。いつも、いつだって、共にいて、共にいきて、共に幻朧戦線に身を投じた、血が繋がらなくとも姉と呼べる存在が。
その姉がいたから、私はここまで生きて来れたのだ。昔から『不出来な人間』と言われ続け、何をしても失敗して、人の迷惑にしかなっていなかった、私は命を救われたのだから。
まだ、この幻朧戦線が最後に何を成そうとしているのかはわからない。しかし、姉が望むモノならば。
しかしその姉は今、投獄の身だ。数か月前に実行された幻朧戦線のグラッジ弾作戦。それに失敗し、捕まったから。もしかしたら戻ってきたとしても、戦線の中に立場は無いかもしれない。
ならば、姉の居場所を守るのが私の役目。そのためなら……命すら惜しくない。そう、私は、まだ姉に何も返せていない。これは絶好の機会なのだ。
それを邪魔する者がいる。猟兵。そういえば、姉の作戦を邪魔したのも猟兵だという。
どこまでも、どこまでも。邪魔しかしない、大正の世に寄生する虫……! 虫は……潰すしかない!
●
「……我ら、幻朧戦線」
影朧甲冑から声が響く。それは先ほどまでの怒りを感じさせない、冷静で、しかしながら確たる自信を込めた声で。
「大正の世を終わらせる……戦乱こそが人を進化させる!!」
立花・暁が叫び。ゆっくりと、影朧甲冑が動き出す。猟兵たちを排除するために。
――もしかしたら、影朧甲冑を止めることができるかもしれない。
それはグリモア猟兵のメモにあった言葉。物理的に破壊すれば止まるのは確実。しかし、影朧甲冑の乗り手たる立花・暁を改心させることができれば。彼女の信念を、行動理念を大きく揺さぶることができれば。
操縦者が操作をやめれば影朧甲冑が止まるのもまた道理だろう。……改心したとても、もう彼女はそこから降りることはできないけれども。
決死の覚悟で攻撃を仕掛けてくる影朧甲冑と立花・暁。
いずれにしても、影朧甲冑は止めなければいけない。この非人道的な兵器を稼働させたままにしておくことは、できないのだ。
この戦況に対してどのように対処するかは……猟兵たちに委ねられた。
黒木・摩那
やっと影朧甲冑を出すことができました。
あとはこれを倒すだけです。
影朧甲冑は一度着てしまったら脱ぐことはできないとのこと。
ならば、甲冑を止めるには中の人間を何とかしないといけません。
ここは揺さぶってみましょう。
ヨーヨー『エクリプス』で戦います。
ヨーヨーのワイヤーを【念動力】で操作して回避困難にしつつ、
相手の刀を【武器落とし】します。
さらに甲冑をヨーヨーで捕縛し、UC【獅子剛力】を使って、
甲冑をぶんぶん振り回します。
これで操縦者が気絶してしまえば良いのですがね。
●
影朧甲冑――立花・暁が猟兵たちへ迫る。上段から振り下ろした刀の一撃。鋭いその一撃を黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は素早く後方へ飛び退って回避する。勢いよく、ざざっと両足で地面を滑りながら、右手にヨーヨー『エクリプス』を構える摩那。
(やっと影朧甲冑を出すことができました)
あとはこれを倒すだけ。しかし、問題はその『倒し方』だ。
(影朧甲冑は一度着てしまったら脱ぐことはできないとのこと……)
ならば、中の人間を何とかするしかない。
油断せず、視線も逸らさず、影朧甲冑を注視しながら、思考を巡らせる摩那。
(では、ここは揺さぶってみましょう)
作戦を思いついた摩那が勢いよく地面を蹴った。
素早くダッシュして影朧甲冑の右手側に回り込む摩那。影朧甲冑も反応して、刀で横薙ぎの一撃を放つ。それをジャンプでかわして、背後に回り込もうとする摩那。
その摩那を追いかけるようにして刀が戻ってくる、そのタイミング。
「そこです!」
摩那が体ごと振り向き、体の回転の勢いすらも乗せたエクリプスの一撃を放つ。風を切って飛ぶエクリプスを、しかし影朧甲冑は刀で叩き落とそうとする。
だが、それは摩那の想定内。
「甘いです!」
声とともに摩那が放つのは念動力。エクリプスの操作に干渉して、通常ではありえない回避困難な軌道を作り出す。およそ人の目では捕捉しきれない速度と角度で急上昇と急降下を繰り返すエクリプス。エクリプスのワイヤーが刀身に巻きつき、動きを封じる。
そして、巻きついた勢いをそのままに影朧甲冑の頭上へあがったエクリプスは。一瞬の溜めを作った後、刀の持ち手の甲へ急降下した。
「……!!」
直撃したその衝撃に手から刀を落とす影朧甲冑。直後、動きが乱れる。
「隙だらけですよ……!」
叩き落とした刀をエクリプスとワイヤーから素早く振り落とし。エクリプスを念動力で大きく旋回させる摩那。飛翔するエクリプスのワイヤーが今度は影朧甲冑の腕に絡みつく。
「接地、反転。アンカー作動……力場解放!」
ユーベルコード【獅子剛力】発動。靴に取り付けた『呪力型加速エンジン『ジュピター』』の全力フル回転から生み出される超パワーで影朧甲冑を地面から引き離す。
「てぇぇぇいっ!」
両手でワイヤーを掴んで、それごと影朧甲冑をぶんぶん振り回す。そのまま最高速まで回転をあげていく摩那。
狙いは、操縦者の気絶。加速Gと衝撃で操縦者が気絶してしまえば、影朧甲冑の動きが止まるはずだ。
「これで……!」
直後、念動力でエクリプスの拘束を解き放ち、回転の勢いのまま、影朧甲冑を投げ飛ばして叩き付ける。隣にあった倉庫に激突する影朧甲冑。しかし、影朧甲冑は瓦礫の中から立ち上がってくる。
その様子に小さく舌うちする摩那。だが、ふらふらと足元すら定まらない影朧甲冑の状況に『動きを止める』という目的を果たしたのである。
大成功
🔵🔵🔵
牧杜・詞
戦いは人を進化なんてさせないわ。
せいぜい殺しの技術が個人的に向上するくらいね。
わたしはそれでもいいけれど、
世界のことを考える人たちにはあまり意味はないと思うわ。
それにね
あなたがお姉さんを慕っていることは、とてもよくわかったわ。
なら、あなたのしたかったことは何?
あなたは、お姉さんの役に立ちたかったのであって、
幻朧戦線でテロをしたかったわけではないのでしょう?
命をかける覚悟があったのなら、
あなたがお姉さんの居場所になれば、よかったのにね。
かけかたを間違えたわね。
残念ではあるけれど、わたしにはこんな助け方しかできないわ。
綺麗に『殺して』あげるから、安心なさい。
と、【鉄和泉】で【命根裁截】を使います。
●
仲間の攻撃で空き家に激突、瓦礫に埋もれていた影朧甲冑――立花・暁がどうにか立ち上がってくる。甲冑そのものは表面が削れている程度でほぼほぼノーダメージだが、中の暁は激突の際に受けた衝撃で、平衡感覚を失っているらしい。もしくは三半規管を完全にやられているのだろうか。
まともに足を踏み出すことすらできない影朧甲冑に向けて、歩を進める牧杜・詞(身魂乖離・f25693)。
殺気を殺し/むしろ内側へ溜めに溜めて、気取られぬように/忍びながらも悠然と、ゆっくりと歩み寄る。
(戦いは人を進化なんてさせないわ……せいぜい殺しの技術が個人的に向上するくらいね)
それは詞の考えでもあり……おそらく実感。思考も歩みも止めず、しかし脳裏に一瞬だけよぎる、昔の話。
住んでいた森を守る戦い。そこで得たものと失われたもの。それは進化と呼ぶにはあまりにも……。
(……わたしはそれでもいいけれど)
詞自身は後悔していない。詞のように、小さな/決して大きな世界に引けを取らない、そんな世界に生きるなら問題ないのかもしれない。
しかし、相手は曲がりなりにも幻朧戦線だ。世界を改革しようとしているのだ。であるならば。
「世界のことを考える人たちにはあまり意味はないと思うわ」
自身の考えを声に出す詞。それは存在を敵に気付かせると同時に、詞が必殺の間合いに入ったことを意味する。手にした『鉄和泉』を一閃、影朧甲冑に気付かれるより先に、脚関節を破壊する詞。
「……っ?!」
脚が動力を失い、がくんと影朧甲冑が膝をつくまでのわずかな間に。返す刀で右腕の関節も破壊する。
「それに、ね」
しかし、詞の声は柔らかく、まるで同い年の友人を諭すかのように。そう、暁が姉を慕っていることはとてもよくわかったから。
ならばこそ、声に出して問う。
「あなたのしたかったことは何?」
「……っ!」
詞の言葉に影朧甲冑の動きが止まる。
「あなたは、お姉さんの役に立ちたかったのであって、幻朧戦線でテロをしたかったわけではないのでしょう?」
それは暁の気持ちを代弁した、この事件の核心。
ただ……悲しいことに。暁にとって、世界とは姉であり、その姉が幻朧戦線に身を置くことを善しとしたのだ。そこからの『この帰結』は避けられない道であったともいえる。
しかし、だからこそ。詞はもう一度問いかける。
「命をかける覚悟があったのなら……あなたがお姉さんの居場所になれば、よかったのにね」
それは有り得た可能性のひとつ。影朧戦線を離れ、辛くとも小さな幸せを守る戦いに身を置く……だが、暁は戻れない道を選んでしまった。
「命の、かけかたを間違えたわね。」
詞が鉄和泉を振り上げる。ユーベルコード【命根裁截】。そこに籠められた『思念』が目に見えるほどに強く揺らめいて。それは間違いなく暁――影朧甲冑に向けられた。
「残念ではあるけれど、わたしにはこんな助け方しかできないわ」
一瞬の間。二人の視線が絡み合った気がするが、影朧甲冑の中にいる暁の表情は分からない。それでも。
「綺麗に『殺して』あげるから、安心なさい」
詞の無慈悲な/想いを籠めた、影朧甲冑の『命』のみを斬り裂く必殺の斬撃が放たれた。
大成功
🔵🔵🔵
クレア・フォースフェンサー
自分の身を捨ててでも守りたい、助けたい人がいる――。
おぬしのその想いは美しく尊い、わしはそう思う。
じゃが、同じように想い、想われる者達があのビルの中にもおるじゃろう。
おぬし達はその者達の生を一方的に終わらせようとした。
それは決して許されるものではない。
罪は償ってもらわねばならぬな。
もっともわしは、死が必ずしも正しき償い方とは思っておらぬでな。
どうじゃ、一つ賭けをしてみぬか?
降りると死ぬ――それがその甲冑の呪いと聞く。
ならば、詞殿の続きじゃ。
もし、降りる前に呪いの源たる影朧が消滅したならば、おぬしはどうなるのであろうな?
目術をもって影朧甲冑の核を見切り、選択UCの力を込めた光弓で射貫く。
●
詞の一撃で大きな音を立てて影朧甲冑が倒れ伏す。命を、テロ活動を刈り取るならば、あと一撃。しかし、トドメの一撃を振り上げる仲間の手を留めたのは――。
「ぐっ……!」
影朧甲冑の中で、立花・暁が呻く。平衡感覚はすでに回復している。甲冑が受けているダメージもほぼ無い。影朧甲冑の戦力として低下した数値はほぼゼロに近い。
しかし……操縦者の、立花・暁は別であった。命のみを斬り裂く斬撃。掛けられた言葉。それらは暁の心に揺らぎを生み出していた。それは、月並みな言葉で言うなら迷い。
それでもこの影朧甲冑に乗った以上、後に戻ることは許されない。不退転、それこそがこの影朧兵器の代名詞なのだから。
「まだ、まだ立ち止まるわけには……」
立ち上がろうとする影朧甲冑。
「自分の身を捨ててでも守りたい、助けたい人がいる――」
聞こえてきた声はこれまで相対した猟兵の、いずれとも違う声。
「おぬしのその想いは美しく尊い、わしはそう思う」
暁の視線が捉えた新たな姿は。仲間の手を留め、影朧甲冑の前に立ったクレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)であった。
●
ゆっくりと歩み寄るクレア。その手には『光剣』の柄が握られている。いまだ顕現していない刃。それでも暁の意識をこちらに惹きつけるには十分であった。
慌てて態勢を整える影朧甲冑。
「じゃが……」
その動作は邪魔せず、されど。クレアが光剣の柄で指差すのは新聞支部支社。
「同じように想い、想われる者達があのビルの中にもおるじゃろう」
その中にいた人々は無事に避難はしたけれども。その者たちの生を幻朧戦線が一方的に終わらせようとしたことは事実。
「それは決して許されるものではない。罪は償ってもらわねばならぬな」
ゆっくりと歩みを止めず。クレアが光の刃を発現する。
「うる……さいっ!」
迷いを、全てを無理やり振り払うかのごとき、刀による大上段からの振り下ろしの一撃。無影兜割の一撃を、クレアはふわりとした身のこなしでかわす。美しい外見と裏腹に、その身は身体、衣装、装備の全てをもって一つの美しい武具と認識している彼女は戦場に在ってこそ映える。
追撃の横薙ぎを光剣で弾くクレア。
「もっとも……わしは、死が必ずしも正しき償い方とは思っておらぬでな」
「な……にを……」
大きな刀を弾き飛ばされ、しかし出来た隙に踏み込んで来ないクレアに暁も思わず声をあげる。
「どうじゃ、一つ賭けをしてみぬか?」
「そんな遊びをしている暇はない!」
返事は刀による一撃。それを後方へのバク転で回避、片手で地を突いた後、さらに後方へ着地。武器を光剣から『光弓』に持ち替えるクレア。
もちろん、その程度でやめるつもりもない。
(降りると死ぬ――それがその甲冑の呪いと聞く)
ならば……先の猟兵の続きだ。
かの猟兵の意図とは違うかもしれないが、その一撃にみた光明の光。すなわち。
「もし、降りる前に呪いの源たる影朧が消滅したならば、おぬしはどうなるのであろうな?」
「……!?」
今まで聞いたことのない言葉、理論に暁が息を飲む。それは二つの意味で。思わず次の攻撃を躊躇する暁。
(……見えた!)
『目術』――敵の骨肉のみならず、空間や魔法、霊魂や概念すらも見切る術で以て。
クレアが射抜いた影朧甲冑の核の在り処。それを貫くものは。
「その躊躇、この世への名残とみなした。賭けは成立じゃ!」
ユーベルコード【対抗能力Ⅱ】。すべての遮断するモノを無視してユーベルコードの源となる核を撃ち抜く術。
光の一撃が、影朧甲冑の核――暁の体の後ろにあった蠢く機関を貫いたのである。
大成功
🔵🔵🔵
文月・統哉
ネコ吉(f04756)と
状況観察
連射見切り残像のフェイントで回避
或は暁で武器受けしつつ説得する
君が殺そうとした誰かもまた
誰かの大切な人なんだ
君とお姉さんの様に
大切な人と別れる悲しみを
君だって知ってるのに
進化の名の下に弱者を殺す
そんな世界を望むのかい?
支え合ってきたなら尚の事
自分の為に君が死んで
お姉さんが喜べるとは思えないよ
戦乱による進化なんていらないと
ただ姉と一緒に生きたいと
君が心から願うなら
まだ終わりじゃないよ
影朧甲冑はあくまでも道具だ
降りる事は出来ずとも
使い方は乗る者次第
世界を壊す為じゃなく護る為にも使えるから
お姉さんに会いに行こう
そして探そう
一緒に生きる未来を
着ぐるみガジェットで包み捕縛
文月・ネコ吉
統哉(f08510)と
連携して行動
連撃見切り回避
素早く死角に回り込み
咎力封じで甲冑の動き止めつつ
説得する
立花って女記者の報告書なら読んだぞ
失敗しての投獄
成程、戦乱による弱肉強食が組織の是なら
戻っても立場が無いのは道理か
だが獄中だろうが何だろうが
彼女は今も生きている
一方でな
妹が自分の為に死んだと知ればどうだろう
背負わされる方は苦しいぞ
恩を仇で返して、お前はそれで満足か?
降りたら死ぬ?
だったら降りずに止まればいい
獄中なら考える時間は十分あるさ
じっくり考えてから
新しい道を進めばいい
お前の姉と一緒にな
結局の所お前は誰も殺してない
幻朧戦線では不出来な事だったかもしれないが
命を奪わずにいてくれてありがとな
●
「く……うぅぅぅぅ!!!」
影朧甲冑――立花・暁が苦悶の声をあげる。先のクレアの一撃。どういう原理かはわからないが、暁をすり抜け、影朧甲冑の動力部のみを撃ち抜いた。機関が停止するほどではない。しかし、確実に出力が落ちている……動力源である影朧が抜け落ちて行っている。
自分への不甲斐なさが唇を噛みしめる暁。
「私まで……失敗するわけにはいかないの!!」
叫びとともに、甲冑の指先から小型ミサイル群を放つ暁。超高速&連続で発射されるそれは、雨あられのごとく猟兵たちに降り注ぐ。
「させないぜ!」
声とともに煌めくのは漆黒の刃が煌めく。文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)の放った黒の軌跡がミサイル群を斬り裂き、誘爆させて被害を防ぐ。
「くっ……!」
暁が舌打ちする。大鎌を構えて突っ切ってくる統哉に刀の一撃を放つ暁。その一撃を統哉が受け止めた……その瞬間。背中から黒い小さな影が飛び出る。
「……?!」
視認する間もなく、影が肉薄する。それは文月・ネコ吉(ある雨の日の黒猫探偵・f04756)であった。
「そりゃ!」
ネコ吉の【咎力封じ】が完全に不意を突いて影朧甲冑に直撃、そのユーベルコードを封じる。
「ナイスだぜ!」
追撃と言わんばかりに、統哉の投げるクロネコワイヤーが影朧甲冑に巻きつき、引き倒す。
「こ、のぉぉぉ!!」
ワイヤーを引きちぎろうとする影朧甲冑。しかし、これまでに蓄積された猟兵たちの攻撃がここにきて着実に効いていた。振り回され叩き付けられた甲冑が、破壊された関節が、動力部が悲鳴を上げている。
出力が上がらない、立ち上がることができない。
「は、な、せぇぇぇぇぇ!!!」
それでもこの状況を脱出しようともがく暁。
「立花って女記者の報告書なら読んだぞ」
「……っ!」
不意に暁へ降ってきた言葉、ネコ吉の言葉に思わず影朧甲冑の動きが止まった。いや、止めざるを得なかった。
●
「失敗しての投獄。成程、戦乱による弱肉強食が組織の是なら、戻っても立場が無いのは道理か」
ネコ吉の言葉に暁が唇をかみしめる。
「だから、私は……!」
「だが……獄中だろうが何だろうが、彼女は今も生きている」
「……な」
しかし次に聞こえてきたのは予想しなかった言葉。
「妹が自分の為に死んだと知ればどうだろうな? 背負わされる方は苦しいぞ?」
「……っ!」
ネコ吉の言葉にハッとする暁。それは今だから気付けた事実。
「恩を仇で返して、お前はそれで満足か?」
「支え合ってきたなら尚の事……自分の為に君が死んでお姉さんが喜べるとは思えないよ」
ネコ吉の言葉に統哉も言葉を添える。その言葉は優しく……しかし。
「……たとえ、そうだとしても……」
しばし間があり、暁が言葉を絞り出す。姉を救うための手段ならば、それが選び取った道ならば、と。いまだ戦意を失わず。立ち上がろうとする暁。
「……大切な人と別れる悲しみを、君だって知ってるのに」
統哉が言葉を紡ぐ。
「進化の名の下に弱者を殺す。そんな世界を望むのかい?」
その弱者にも『暁にとっての姉』が、大切な誰かがいるのに。
「……っ」
それはトドメの一撃だった。統哉に返す言葉は暁は持たず。ただただ、涙するだけであった。
●
「お姉さんに会いに行こう。そして探そう。一緒に生きる未来を」
統哉が暁に話しかける。これからも未来は続くのだ、と。
だけれども。
「影朧甲冑から、降りる術は無い……のよ」
絞り出すようにして暁が告げる。そう、非人道にして不退転、崖っぷちにある人のみが乗りこなす影朧甲冑なれば。
「だったら降りずに在ればいい」
普通だろ、と間髪入れずにネコ吉が反論する。その言葉に統哉が微笑む。
「ただお姉さんと一緒に生きたいと。君が心から願うなら。まだ終わりじゃないよ」
影朧甲冑はあくまでも道具だから。その使い方は乗る者次第。
「例えば、世界を壊す為じゃなく護る為にも使える」
「それは……」
統哉の言葉はこれまでになかった考え。それに戸惑いを覚える暁に、ネコ吉が口を開く。
「ま、獄中なら考える時間は十分あるさ。じっくり考えるといい」
そう言いながらネコ吉は統哉を見る。その視線を受けて統哉が使うのはユーベルコード【ガジェットショータイム】
「それで決まったなら、新しい道を進めばいい。お前の姉と一緒にな」
ネコ吉の言葉。それと同時に統哉が呼び出した着ぐるみガジェットが影朧甲冑をまるごと包み込む。それは捕縛装置にして運搬装置。
●
大きな縫い包みのような状態になりながら、暁は立ち止まれたことに変な安堵を抱いていた。
(ああ……私は、本当は……)
「結局の所、お前は誰も殺してない」
不意に外から声だけが届いた。これはあのネコの声だ。何が言いたいのか、その言葉に暁は首を傾げて声を発しかけ。
「幻朧戦線では不出来な事だったかもしれないが……命を奪わずにいてくれてありがとな」
出てきたのは涙。不意に頬を伝った涙。
それはこの事件の、確かで静かな幕引きの、証拠。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●彼女の独白
――ありがとう。
それは誰に話しかけたわけではなく、自然と口から零れた言葉。
立花・暁は、影朧甲冑に乗ったまま目を閉じた。側には誰もおらず、しかし……決してひとりではない。
あの事件の後、身柄を確保され、輸送されてきた先は、ここ。どうやら猟兵と帝都の學徒兵のみが知る地下倉庫のような場所らしい。彼らしか立ち入る権限なく、ここならばと、猟兵たちが掛け合ってくれたそうだ。
――ここなら、待っててもいいよね。
ゆっくりと、眠りながら。そう、いつだったか、姉が話してくれた童謡の眠り姫のように。
私はもう、この影朧甲冑からは降りられない。いや、その実、降りるという表現すらおかしいのだ。何故なら、これは甲冑でありながら、『私の体』なのだから。
甲冑の呪いは私の体を蝕み、否、蝕み続けていた。その範囲の広さを考えるなら……私と甲冑はすでに同化しているに等しい。甲冑の停止と私の死は同じ意味になってしまったのだ。
それでも人の身体と鉄の甲冑は完全には一緒にならないから。別の器官として在るのだけれども。
この影朧甲冑は、先の戦闘の際、核である蠢く機関――その中にある宝玉のみを射抜かれた。そのおかげで呪いの侵食はその歩みを止めた。逆に、新しく影朧のエネルギイを得ることは出来なくなった……はずだ。
そして、現在は過去に戻らない。私は、影朧甲冑のままで在(い)るしかない。
――だけど、生きている。
生きていれば『終わりじゃない』のかもしれない。あるいは……今の気持ちで『終わることができる』なら、それは助けなのかもしれない。
正直なところ、私の影朧甲冑が今後どんな動作をするのか、全くの未知数だ。
動力源である影朧のエネルギイが切れたらどうなるのか?
あるいは、私がずっと眠ればどうなるのか?
わからない。エネルギィがいつ切れるかもわからない。
でも、生きていれば……きっと考えることができる。それは、動けずとも先に繋がる行為だ。
――私、死ぬまでに逢えるかな?
姉への恩返し。この甲冑に乗ったことには何も後悔していない。
していないけれども……作戦の成功と凱旋では無く、純然たる死を目前にして、その場で敵に諭されたのだとしても。
思ってしまったのだ。
――お姉ちゃんに会えなくなるなんて、寂しいよ。
だから、決めたんだ。
もう一度だけ。もう一度だけ、お姉ちゃんに会ってその声を聞きたい。
思いっきり怒られるかもしれないけど、それでもお姉ちゃんと会って。
そこから。きっと私はお姉ちゃんを遺して死んでいくのだろう。
でも。
もし。もし、億が一にもこの影朧甲冑から降りる方法が、その秘密が解析されたのなら。解放されることがあるのなら。
私は、もう命の使い方を間違えない。
――そんな奇跡、あるといいな。
とりあえず、今日は。
影朧甲冑の各部位を停止させ、生命維持だけにエネルギイを使うように設定を変更する。
これで通常稼動より、ずっと長く命を長らえることができるはずだ。
――眠りましょう。
誰もいない、ここで。だけど、確かにある絆を感じながら。
私はゆっくりと意識を深い微睡に手放す。
今度目が覚めるのはいつかわからないけれど。
起きた時に、誰かいてくれると、いいな。