●雪と桜と薄月夜
その日、とある桜の名所に雪が舞い降りた。
美しく整えられた広い庭園。
其処に並び咲くのは寒緋桜。俯くように咲く、はっきりとした紅色の花だ。
宵から降りはじめた雪は少しずつ桜の樹に積もり、花の色に薄化粧を施していく。
満開の夜桜。その景色を覆い隠すように雪が降る。
咲き誇る桜。ふわりと揺れる薄紅の花弁。
降り積る雪。ひらりと落ちる真白の欠片。
淡い桜の彩に重なる白い雪のひとひら。それは、桜隠しと呼ばれる光景。
肌寒い春の夜ではあるが、雪雲は徐々に晴れてきている。
雲の合間から朧月夜も見え隠れしており、夜が深くなれば月明かりが桜と雪を照らすことになるだろう。
美しい桜の樹々が並ぶ静かな庭園。舗装された石畳の道や小さな池。石灯籠のほのかな灯りと、空から降りそそぐ月のひかりに照らされた夜の光景。
俯き咲く寒緋桜を見上げれば、花が此方に目を合わせてくれているようにも思える。
その景色に何を懐うのかは人次第。
綺麗な景色だと感じて穏やかさを覚えるのか。寒さを感じて誰かと寄り添いたいと思うのか。それとも、物寂しいと感じて感傷に浸るのか。
その光景に惹かれた人々は其々に眺める為に夜の庭園に集いはじめる。
しかし、其処には普通では気付くことの出来ぬ或るものが出現しており――その夜、幾つもの命が散る花のように消えた。
●匣と花と猫睛の誘い
淡く光る、異空間へといざなう魔方陣。
それが今回、夜桜の景色の中に紛れ込んだ異様なものの正体だ。
有り得そうで有り得ない事柄が起こる日には少し特別な空気が満ちるという。滅多に見られない桜隠しという光景の中、それらは邪神復活のために用意された。
「……呪炎の魔女、エーリカ。そいつが今回の敵だ」
そう語ったディイ・ディー(Six Sides・f21861)は僅かに瞳を伏せる。あいつは俺が昔に斬った魔女だと簡潔に告げた彼はすぐに顔を上げ、事件について語っていく。
「満開の桜の中に雪が降って、春と冬の魔力が満ちた。その機を狙った邪神の眷属が桜の影や庭園の様々なところに邪神復活の魔方陣を施したみたいでな」
このままでは夜桜と雪を見に来た人々が餌食となり、完全な邪神が現れてしまう。それを阻止して欲しいと願い、ディイは詳しい状況を語っていく。
「まずお前らには件の庭園で花見をして貰う」
既にUDC組織が手を回しており、現場への立ち入りを一時的に禁じた。一般人は内部に入ってこないので自由に雪景色の桜を眺めることが出来る。そして、その間に邪神の眷属が用意したという魔方陣を突き止めて欲しい、ということだ。
「ただ、血眼になって探すと敵も警戒して陣を隠しちまうからな。めずらしい光景を見に来たり撮りに来たって体で良い。真夜中になるまで普通に楽しんでくれれば良いぜ」
薄く雪が積もった桜を眺め、季節の境界の光景を楽しむのも一興。
警戒しすぎてさえいなければ敵の眷属も次々と魔方陣をつくる。ゆっくり過ごしていれば、その際に魔方陣も見つかるだろう。
魔方陣は特殊空間に続く扉の代わりとなっている。
頃合いを見てその中に入って欲しいと告げ、ディイはその後について語った。
「陣から転送される空間の先には妙な箱がある。それがまず倒すべき敵――にゃんドラボックスだ。名前は可愛いが、そいつらは箱に入っている限り無敵だ」
力自体は強くないのだが防御力だけはある。
それゆえに何とかして箱を開けたり、箱から顔を覗かせた瞬間に攻撃しなければならない。箱猫を倒せなければ特殊空間に囚われたままになり、奥に控える邪神に生命力を吸収され続けるので注意が必要だ。
「にゃんドラボックスを倒せば邪神は不完全な状態で現れるしかなくなる。そのまま特殊空間であいつと戦って倒してきてくれ」
呪炎のエーリカはその身に纏った呪いの宝石や、炎と化した紅玉の輝石の力を用いる。彼女は此方の生命力を奪うことや甚振って殺すことが目的なので十分に気をつけて欲しいと願い、ディイは説明を終えた。
「頼んだぜ。美しい景色を利用して人の命を奪うなんてことは許せねえ」
真っ直ぐに仲間達を見つめたディイは強く願う。
そして彼は静かに頷いて見せ、普段よりも何処か神妙な表情で皆を見送った。
犬塚ひなこ
今回の世界は『UDCアース』
花見を楽しみ、邪神の企みを阻止することが目的となります。
こちらのシナリオは🌸【4月1日の朝8時30分】🌸から受付致します。
●第一章
冒険『儀式の魔方陣』
時刻は宵~夜。
ちらほらと降る雪の中、寒緋桜が見事に咲く庭園でお花見をお楽しみください。
桜に雪が重なることを桜隠しと呼ぶそうです。地面に雪は積もっておらず、花や樹に薄く雪が見える程度。寒緋桜は花弁ごとではなく花首からぽとりと落ちるように散るらしいです。
冒険章ですが日常章としてもお過ごし頂けます。
探索メインにして頂いても問題はありませんが、血眼になって儀式の魔方陣を探すと敵に悟られてしまい、逆に失敗します。
温かい飲み物などを持ち込んでのお花見や、ゆったりとした散歩、誰かと語らうなどご自由にどうぞ。儀式や探索についてプレイングで触れていない場合は特にそれについて描写することはなく、日常の一幕として扱います。
●第ニ章
集団戦『にゃんドラボックス』
時刻は真夜中になった後。魔方陣を潜った先、特殊空間内での戦いとなります。
箱に引き篭もる謎な猫のUDC。箱は全耐性完備。物理、魔法、精神異常等全て防御するおそろしい存在。ですが、箱から出してさえしまえば一撃で倒れるくらいの強さです。
●第三章
ボス戦『呪炎のエーリカ』
引き続き特殊空間での戦いとなります。
女性の姿をしており、生命力を求める魔女として振る舞いますが中身は残虐非道の邪神です。皆様の力を奪い、惨たらしく焼き殺そうとして来るので遠慮なく倒してください。
第1章 冒険
『儀式の魔方陣』
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POW : 真正面から突入する
SPD : ひっそり潜入する
WIZ : 情報を整理してから入り込む
イラスト:葎
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ミフェット・マザーグース
お花見にいこう!って誘われたけど
まさかの夜桜、それに雪!
前に見た本に書いてあった、月雪花ってこれのことかな?
WIZで判定
ティエル(f01244)と一緒に、ゆっくり桜を見ながら庭園を見るね
月雪花は一度に眺められない、だっけ
ありえないこと、だったはず……きっと、ありえない眺め、なんだろうね
せっかくだから、即興で歌おう!
「歌唱」と「楽器演奏」で庭園を舞台に、ティエルも一緒に歌って踊ろう!
♪
さくら、さくら、夜でも咲いて 月の明かりで輝いて
雲からぽかりと浮かぶ月 闇夜を白く照らしだし
はらはら舞うのは雪のしろ 花びらみたいなふわりと舞って
今宵の空は つき・ゆき・はな
ティエル・ティエリエル
友達のミフェット(f09867)と一緒だよ♪
お花見の依頼があるって聞いて友達を誘ってやってきたよ!
雪も桜も故郷の森では見れないものなのでテンションアップ!
ミフェットがこういうのを月雪花って言うだよって教えてくれてミフェット物知りだって感心するよ!
ゆっくりと庭園を見て回った後、ミフェットが歌って踊ろうって誘ってくれたら
【スカイステッパー】も使って空中で「ダンス」だよ♪
月のひかりに照らされて羽から舞い散る鱗粉がキラキラしてるよ♪
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●月雪花に緋の桜
――お花見にいこう!
そういって誘われた先、連れて来て貰ったのはまさかの夜桜と雪景色。
「わあ、きれい」
「雪も桜も、こんな風になるんだね!」
ミフェットとティエルは、寒緋桜が咲く庭園を眺めていた。それぞれの思いを言葉にする中で見つめる花は綺麗な緋色をしている。
特にティエルにとってはどちらも故郷の森では見られなかったものなので、両方を一度に見たことで気分もあがっていた。
「前に見た本に書いてあった、月雪花ってこれのことかな?」
「月雪花?」
「雪と月と花があってね、四季折々に楽しむすてきな眺めってことだよ」
「すごいねミフェット、物知りだね!」
彼女が語った言葉に感心したティエルは桜の枝の傍に寄ってみる。ミフェットもその後を追って花を見上げてみた。
そうしてふたりは、ゆっくりと桜を見ながら庭園を巡っていく。
「月雪花は一度に眺められない、だっけ」
その中でぽつりとミフェットが呟く。それはありえないことだったはず。つまりはそう、今だってきっとありえない眺めなのだろう。
だからこそこんなに不思議なのだと思い、ミフェットは双眸を細めた。
舗装された道をミフェットが歩き、その先をふわふわとティエルが飛んでいく。同じ桜の花を目にしながら、ときおり視線を交わす。その度に互いに自然に笑みが浮かび、楽しい気持ちが満ちてきた。
やがて庭園を一周し終わった後、ミフェットはティエルを呼ぶ。
「せっかくだから、歌おう!」
「うん、じゃあボクは合わせて踊るね♪」
ティエルはミフェットのまわりをくるくると舞った。いくよ、と視線で合図をしたミフェットは庭園を舞台に見立てて演奏をはじめる。
♪
さくら、さくら、夜でも咲いて 月の明かりで輝いて
雲からぽかりと浮かぶ月 闇夜を白く照らしだし
ミフェットの歌が聴こえはじめれば、ティエルがそれに合わせて翅を広げる。
空中を蹴って自由に舞うティエルは空中でダンスを踊った。ティエルの翅から舞い散る鱗粉はきらきらと、月のひかりに照らされて光っている。
ミフェットとティエルの笑顔も輝いており、ふたりは実に楽しげだ。
♪
はらはら舞うのは雪のしろ 花びらみたいなふわりと舞って
今宵の空は つき・ゆき・はな
少女の歌は続いていく。
途中からミフェットの声に合わせてティエルも歌い、少女達の声が重なった。
その様子を美しく静かな寒緋桜がそっと見守っているかのようにも思えて――暫し、穏やかながらも楽しい時間がミフェットとティエルの間に巡っていった。
そうして、ふたりの歌声は桜の庭園に響き渡っていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
樹神・桜雪
事前にUCで相棒を呼び出しておくよ。
一緒に夜桜を楽しもうよ。
夜は冷えるから暖かい格好をして、温かいお茶を水筒に入れて持ち込もう。
座れる場所を探して、のんびりとお花見。
雪が積もる桜は幻想的ですごく綺麗。怖いくらいに。
だってほら、桜は暖かい時期に咲くものじゃない?雪と一緒に見れるとは思わなかったな。
あ、相棒の頭に桜の花が乗っちゃってる。
帽子みたいで可愛い。
こんな風にのんびり桜を見て、ゆったりお茶飲んでると何しに来たか忘れちゃいそうだね。
久しぶりにのんびり出来るのだから、それはそれで良いのかもね。
もう少しだけ雪と桜を愛でていてもバチは当たらないよ。
こんなに綺麗なんだもの。
もっとゆっくり見ていたいな。
●桜に白雪
肩に相棒を乗せて桜雪は庭園を進む。
頭上には寒緋桜の花が見えており、とても美しい景色だと思える。桜雪は双眸を緩く細め、シマエナガの相棒に花を示して見せた。
「一緒に夜桜を楽しもうよ」
そう呼びかければ相棒も花の方に目を向ける。
春とはいえど、桜隠しと呼ばれる現象が起こった夜。冷えるだろうと想像してきた桜雪はあたたかい格好をして、お茶を水筒に入れて持ち込んでいた。
庭園の片隅にあったベンチを見つけ、桜雪は腰を下ろす。
其処は隣に一本の寒緋桜の樹が立っている場所だ。桜雪は水筒を取り出し、カップに温かいお茶を注ぐ。
ほのかな湯気が立つ様を見つめ、桜雪はのんびりとしたお花見をはじめた。
緋色の花が此方を見下ろしている。
そのように感じながら、桜雪は花に積もる雪を見遣った。
「この桜は幻想的ですごく綺麗だね」
怖いくらいに、という呟きを零した桜雪に対して相棒が首を傾げる仕草をする。どうして、と聞かれているのだと察した彼は肩に視線を落とした。
「だってほら、桜は暖かい時期に咲くものじゃない?」
冬と春が重なる季節。
ありえない景色が此処にあるということが少し怖い。けれどもそれはほんの僅かな感情であり、今は相棒と共にこの光景を見られることが嬉しい。
「桜を雪と一緒に見れるとは思わなかったな」
同じ響きを持つ自分の名前を思い、不思議な感覚をおぼえる。そのとき相棒が桜雪の腕をぴょんぴょんと伝って、水筒のカップを持つ手に乗ってきた。
その理由は自分の頭に落ちてきた桜の花を見せるためだ。
「あ、相棒の頭に桜の花が乗っちゃってる」
帽子のようで可愛いと桜雪が感想を零すとシマエナガはふりふりと尾羽根を揺らした。その姿もまた愛らしく、穏やかな気持が巡る。
「こんな風にのんびり桜を見て、ゆったりお茶飲んでると何をしに来たか忘れちゃいそうだね。でも、久しぶりにこんな風に過ごせるんだから、それはそれで良いのかもね」
きっともう少しだけ雪と桜を愛でていてもバチは当たらない。
綺麗だね、ともう一度口にした桜雪は花を振り仰ぐ。
もっとゆっくりとこの景色を見ていたい。今このときだけはこうしていたいと思え、桜雪は暫し、相棒と共に桜隠しの光景を瞳に映していた。
大成功
🔵🔵🔵
ニィエン・バハムート
桜はグリードオーシャンでも見たことがありますが、桜が雪で隠れてる光景は一度も見たことがありませんわね。メガリスもコンキスタドールも絡まない仕事には普段ならあまり興味もないのですが…珍しいものは好きですし、花見のついでに邪神退治というのもフーリューというやつだと思うことにしますの。
そして花見の前にUC発動。花見をしながら庭園の各所で適当に金貨をばら撒きますわ。本当なら金貨を取引材料に交渉等を成功させるのが真骨頂のUCですが、金貨を代償にしてすらいれば行動(探索)の成功率は100%になるはず…だといいのですが。
まあ、願掛けみたいなものですの。
特に気負うことなくぶらぶらと花見を続けます。
……綺麗。
●金貨と魔方陣
寒緋桜という名が示す通り、かの花は緋色に染まっている。
冬が一時的に少しだけ戻ってきたかのような肌寒さの中、ニィエンは庭園内に咲き誇る桜の樹々を見渡してみた。
夜桜に雪。この光景はとても珍しい。
「桜はグリードオーシャンでも見たことがありますが、桜が雪で隠れている光景は一度も見たことがありませんわね」
ニィエンは舗装された庭の道を進んでいく。
メガリスもコンキスタドールも絡まない仕事には普段ならあまり興味もないのだが、今回はどうしてか足が向いた。
「珍しいものは好きですし、花見のついでに邪神退治というのもフーリューというやつだと思うことにしますの」
そっと語って首肯したニィエンは花を眺めながら、己の力を発動する。
――ゴーイング・マイウェイ・アロガント。
花見をしながら庭園の各所で適当に金貨をばら撒いていく。
本当ならば金貨を取引材料に交渉を成功させるのが真骨頂のユーベルコードではあると認識しているが、こうしてばら撒くだけでも効果が出るのだろうか。
それを確かめるための行動だ。
「金貨を代償にしてすらいれば……大丈夫でしょうか?」
目的の物――即ち、儀式の魔方陣を見つけるために動くニィエン。されどそれは気負ったものではなく、出来るならばという軽いものだ。
「まあ、願掛けみたいなものですの」
ぶらぶらと花見を続けていく中、ニィエンは絶えずバハムート・コインを至る所に散らしていく。すると、或る箇所に妙なものを見つけた。
それは淡く光る魔方陣だった。
見つけましたわ、と口にしたニィエンは気付く。これは金貨を撒いた結果ではなく、様々な所を回ったことによる過程で見つけたものだ。
何にせよ、目的のものを確かめられたことは間違いない。
未だ突入のときではないと察したニィエンはもう少し花見を楽しむことにした。
「……綺麗」
そうして、ニィエンは寒緋桜を振り仰ぐ。
色濃い紅の花が地上を見下ろす様は美しく、ニィエンは暫し空を見上げ続けた。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
えーっとつまり…
遊んでたらなんやかやあってうまく事が運ぶってことだね!
へー
これが花冷えの寒さってやつかな
ボクは気にならないけど……君たちには災難だったかな?
垂れた枝をトンと叩いて雪を落としてみたら……おっと。なるほどこうやって頭が落ちるんだ
一応
拾った花からぷちぷちむしった花びらに仮初めの命と知性を与えてぱらぱらと風に乗せて探し物をしといてもらおうかな
見つけたら後で教えてね
あー!しまったな…お菓子はあるけど飲み物がないや
よーしお菓子ならいくらでもポンと出せるからここは物々交換で!
フフン、ボクはこう見えて渋いお茶や苦いコーヒーだって飲めるんだからね!
ああでもやっぱり口直しにとっても甘いものがほしい
エリアス・アッヘンバッハ
いやーお花見してるとさ、春ー!って気分になるよね。ん?雪が降ってるから冬?冬ー!
サクラミラージュほどたくさん咲いている訳じゃないけどその分雰囲気が出ていいね、豪勢なだけが楽しみでもないし。散る夜桜わびさび!
そうだ焼きたてのパンでもよかったらどうぞ。パンアレルギーの人は食べないでください。それ以外の人は自己責任でお願いしまーす。
忘れてた写真!誰か写真もってない?違うカメラ!カメラ持ってない?
持ってる人がいたら後でアルバム送って下さいお願いします。いなかったら悲しいので後で泣きます。
うーんしかし頑張って調査してる人に申し訳ない気もする。気がしただけで何もしないけど。いや応援はしよう、頑張れ!
●お菓子とパンと記憶の写真
「えーっとつまり……」
桜の花に薄く雪が降り積もる景色の最中。
ロニは軽く首を傾げ、今の状況を整理してみる。庭園の中を歩きながらこの光景を楽しめばいいと聞いていた。
「遊んでたらなんやかやあってうまく事が運ぶってことだね!」
なるほどね、と頷いたロニはそのまま先へ進む。どうやら件の魔方陣はそこかしこに作られているらしい。
庭園を巡って花を見ていれば敵は警戒せず、歩いている間に見つかる可能性もある。
「へー、これが花冷えの寒さってやつかな」
ロニは肌寒さを確かめながら寒緋桜が立ち並ぶ道をゆく。
下を向いて咲く花は此方を見下ろしているかようだ。頭上を振り仰いだロニは何故だか花と目があった気がした。
「ボクは気にならないけど………君たちには災難だったかな?」
そういってロニは垂れた枝をトンと叩いてみる。
すると雪がさらさらと落ち、同時に花首ごと桜がぽとりと落下した。
「……おっと。なるほどこうやって頭が落ちるんだ」
これも風流なのかな、と納得したロニは落ちた花を拾いあげてみる。そして、一応の策として拾った花びらに力を与えていく。
掌を軽く掲げたロニは、花を風に乗せてそっと願う。
「探し物をしといてもらおうかな。見つけたら後で教えてね……って、あれ?」
花が舞う際、ロニは直ぐ側の樹の影に何かがあることに気が付いた。其処には魔方陣らしきものが光っている。警戒さえしなければあっさりと見つかるのだと感じ、ロニはおかしくなって口元を緩めた。
そして、同じ頃。
「いやーお花見してるとさ、春ー! って気分になるよね」
エリアスも庭園に訪れ、桜と雪が織り成す景色を楽しんでいた。
「ん? 雪が降ってるから冬? 冬ー!」
明るい声を響かせたエリアスは気の向くままに庭園内を進んでいく。季節が混ざりあった光景は実に不思議だったが見ているだけで面白くもあった。
それに桜の光景はいつだって美しい。
サクラミラージュほどたくさん咲いているわけじゃないけど、と辺りを見渡したエリアスは歩を進めていった。
「ちらほら咲いてるのもいいよね。その分雰囲気が出てる!」
豪勢なだけが楽しみでもないのだと考えたエリアスは一本ずつの寒緋桜を眺めて、彼なりに楽しんでいった。
「散る夜桜、わびさび!」
笑みを浮かべたエリアスは周囲にいる人々にも目を向ける。
「そうだ、焼きたてのパンでもよかったらどうぞ。パンアレルギーの人は食べないでください。それ以外の人は自己責任でお願いしまーす」
出会う人に勧めながらエリアスは自分なりに夜桜を満喫していく。そして、その中でふと思い立つ。
「うーん、しかし頑張って調査してる人に申し訳ない気もする。気がしただけで何もしないけど。いや応援はしよう、頑張れ! ……あれ?」
そのとき、エリアスは樹の影で誰かが光る何かを見ている光景に気付く。
それは――。
「これって魔方陣?」
「そうだよ、偶然見つけちゃったんだ」
淡く輝く魔方陣の元、エリアスとロニが顔を見合わせた。これで調査は問題なく終わり、ひとまずの安堵が巡る。
されど今は未だ内部に突入する時間ではない。
他の人々がそうであるように、もう少しこのひとときを楽しんでいればいいのだと感じたロニは近くのベンチに腰掛けようと考えた。
しかし、その思いは別の考えによって消されてしまう。
「あー! しまったな……お菓子はあるけど飲み物がないや」
「こっちもパンならあるよ!」
此処から始まるのは更に楽しいお花見だったはずなのだが、肝心の飲み物がない。ロニとエリアスがはっとする。
「よーしお菓子ならいくらでもポンと出せるからここは物々交換で!」
「飲み物を貰いにいく流れだね」
「フフン、ボクはこう見えて渋いお茶や苦いコーヒーだって飲めるんだからね!」
エリアスは胸を張ったロニに大きく頷いてみせる。
だが、ふと自分もすっかり忘れていたことがあったのだと気付いた。
「忘れてた写真! 誰か写真もってない? 違うカメラ! カメラ持ってない?」
「ああでもやっぱり口直しにとっても甘いものがほしい」
カメラと甘い飲料。
それぞれに欲しいものを求める二人。
「持ってる人がいたら後でアルバム送って下さいお願いします。いなかったら悲しいので後で泣……あっ、向こうに水筒とカメラを持ってる人がいる!」
破茶滅茶に忙しない状況の中、エリアスが前方を指差した。パンとお菓子を交渉材料にしようと決め、ロニはエリアスを呼ぶ。
「行こう!」
「うん、良いお花見のために!」
此処から賑わしくも楽しい花見の時間が巡ることは想像に難くない。
そして、二人は庭園の奥へ駆け出していった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
宵雛花・十雉
綾華(f01194)と
くぅー、夜の寒さが身に染みるぜ
お、さすが気が利くねェ
んじゃあ緑茶もらうわ
礼を言いつつ、放られた缶を片手でキャッチする
いや、オレも初めて見た
降った雪が火傷しちまいそうな紅じゃあねェか
綾華の呟きを横で拾いながら、吐き出した白い息越しに花を眺めていれば、ちょうど一つがぽとりと落ちた
…さァな
オレは花じゃねぇから分かんねェや
だがよ、お天道様とお月様に見守られて思う存分咲けたなら
どんな散り様でも悔いはねぇんじゃねェかい?
言って緑茶を一口飲む
…ん、あったかくて美味ぇや
だな、もう少し花見を楽しむか
お坊ちゃんが風邪引いちまわない程度にな
なんて、からかうように言って笑って見せる
浮世・綾華
十雉(f23050)と
缶珈琲と緑茶手に――どっちがお好み?
示された方を軽く放る
ふわり揺れることはあれど花弁欠けぬ鮮やか紅
随分とあかい桜もあったもんだ
――十雉は知ってた?
舞い降る薄紅より真白を頬に受け衣を纏い直す
はらと散るのと
頭ごと落ちるのと
どっちが幸せなんだろうか
花の気なんて知れないがお前ならどう思う
悴む手を温めていた缶を一口
――そう。そうか
お前も、そっち側?
随分と眩しいことを言う
目細めた理由はそれではないけれど
それにしても
暖かくなったと思ったのにまだ雪が降るとは、油断してた
魔方陣。探すのもいいが、そうだなぁ
も少しのんびり、花見てたい
は。言ってろ
でもまぁ、そうネ
お前と一緒なら、寒さも紛れそうだ
●花の眩さ
折り重なる花弁に宿る色は紅。
夜風は冷たく、桜に降り積もった雪は季節が戻ってきたような感覚を齎す。
「くぅー、夜の寒さが身に染みるぜ」
十雉は庭園の花を振り仰ぎ、吐く息が僅かに白く染まった様を見遣った。綾華は缶珈琲と緑茶を片手に、どっちがお好み? と、彼に問う。
「お、さすが気が利くねェ。んじゃあ緑茶もらうわ」
「それじゃこっちで」
綾華が示された方を軽く放りなげれば、十雉は礼を告げつつ、放られた緑茶缶を片手でキャッチした。
その様子を確かめた綾華もまた、寒緋桜を見上げてみる。
ふわり揺れることはあれど、花弁が欠けることはない鮮やかな紅。随分とあかい桜もあったもんだ、と口にした綾華は彼にもうひとつ問いを投げかけた。
「十雉は知ってた?」
「いや、オレも初めて見た。降った雪が火傷しちまいそうな紅じゃあねェか」
色濃い紅は白い雪越しにも透けて見えている。
下向きに咲く花はまるで天地を逆にして燃え盛る炎の一片にも思えた。不意に舞い降る薄紅から真白の雪が落ちる。
その白を頬に受けた綾華はそっと衣を纏い直した。
「はらと散るのと、頭ごと落ちるのと、どっちが幸せなんだろうか」
独り言めいた言葉が綾華から零れ落ちる。
十雉はその呟きを横で拾いながら、吐き出した白い息越しに花を眺める。そうすれば丁度、またひとつ花がぽとりと落ちた。
「……さァな。オレは花じゃねぇから分かんねェや」
軽く首を振って答えた十雉はひらいた掌の上に寒緋桜の花を受け止める。地に落ちるはずだった花の行方を一瞥した綾華はそっと肩を竦めた。
物言わぬ花の気なんて元から知れない。けれど、と綾華は十雉自身に目を向けた。
「お前ならどう思う」
悴む手を温めていた缶を傾け、一口だけ珈琲を飲む。すると十雉は少しだけ考えた後、双眸を緩めた。
「だがよ、お天道様とお月様に見守られて思う存分咲けたなら、どんな散り様でも悔いはねぇんじゃねェかい?」
そういって十雉も綾華に倣って緑茶を一口飲む。
「……ん、あったかくて美味ぇや」
思わず零れたであろう彼の声を聞き、綾華は地面を見下ろした。其処には雪を纏ったまま落ちた別の桜が見える。
「――そう。そうか。お前も、そっち側?」
随分と眩しいことを言う、と細めた目。そうした理由はそれではないけれど、綾華は顔をあげて十雉をもう一度見た。
手も頬も冷たい。しかし、掌の中にある缶と彼の言葉が少しだけ温めてくれている。
それにしても、と告げて話を其処で区切った綾華は桜隠しの花を見上げた。
「暖かくなったと思ったのにまだ雪が降るとは、油断してたな」
「季節の境界まで薄れちまって、まァ」
違いない、と答えた十雉もこれまでの会話をそれ以上言及することはなかった。綾華は不思議な居心地の良さを感じながら、庭園を軽く見渡す。
「魔方陣。探すのもいいが、そうだなぁ。も少しのんびり、花見てたい」
「だな、もう少し花見を楽しむか」
「この景色も朝になれば見えなくなるだろうし」
二人の意見は一致し、寒緋桜の樹の下で暫しの時間が過ぎていく。その中でふと、十雉はからかうように笑った。
「けど、お坊ちゃんが風邪引いちまわない程度にな」
「は。言ってろ」
十雉が言ったことに対して、綾華も不敵な態度で返す。彼は手の中にあった桜の花を戯れに綾華へと渡した。
「心配してるのは本気でもあるんだけどねェ」
思わず花を受け取った綾華は頷く。風邪への心配の気持ちも一緒に受け取ったようで少し照れくさくもあった。しかしそれを顔には出さない。
「でもまぁ、そうネ」
――お前と一緒なら、寒さも紛れそうだ。
そっと、十雉にだけ聞こえる声で綾華の礼が紡がれる。扇で口許を隠した十雉もまた、快い感慨を覚えていた。
そうして、冬と春が重なりあう世界で時は巡る。
寒緋桜の紅は何処までも鮮烈に、桜隠しの夜の狭間を彩っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
砂羽風・きよ
はぁ、さみーな
たまには1人で花見も悪くはない
桜隠しと呼べれるその光景を見たいと思った
温かい珈琲を片手に
ゆったりと散歩でもするか
へぇ、寒緋桜ってほんとにピンク色じゃねーんだ
桜っつっても色々な種類があるんだなぁ
なんて思いつつ、珈琲をひとくち
確か、早咲き桜とも言われてたな
冬が終わり春が訪れる瞬間にいるような
…なんか、不思議な感覚
下向きに咲いてんのも面白いな
普通の桜と違ってこれはこれで綺麗だ
思わずじっと見つめてしまう
ほんと、スゲー綺麗だな
ぽつりと呟いた言葉に苦笑い
い、いや、別に寂しいとかじゃねーし!
首を左右に振り、珈琲を飲んで一息
白い雪が赤い桜に降り積もり
花首からぽとりと落ちるのを見て
やっぱ、さみーな
●寒桜の下で
「はぁ、さみーな」
きよは上着のポケットに両手を突っ込み、ゆっくりと息を吐く。見渡す庭園の先には寒緋桜が咲く光景が見えた。
誰かといればいつもは騒がしい彼も、今日はひとり。たまには静かな花見も悪くはないと考え、こうして桜の庭園に訪れていた。
桜隠し。そう呼ばれる光景をひとめ見たいと思ったからだ。
片手をポケットから出したきよの手には温かい缶珈琲が握られていた。寒いとはいっても花冷えの空気が満ちているだけであり、この缶があれば或る程度は凌げるはず。
今宵は始まったばかり。
ゆったり過ごせばいいと感じたきよは庭園を散歩がてら巡っていく。
(へぇ、寒緋桜ってほんとにピンク色じゃねーんだ)
通り掛かった桜の樹の傍。
折り重なり、下を向いて咲く花を見上げたきよは感心する。薄紅の桜が馴染み深いが、白に近い種や、こういった紅色の花まである桜は趣深い。
(桜っつっても色々な種類があるんだなぁ)
そんなことを思いながら、きよは珈琲をひとくちだけ飲んだ。喉を通って体の芯まで届いたぬくもりが今は心地良い。
きよは空いている方の手を戯れに樹の枝に伸ばす。触れたのは花ではなく、桜の上に薄く積もっていた雪の方。
確か、早咲き桜とも言われていたか。
指先の冷たさを確かめながら寒緋桜を見遣る。春を告げる花だというのに冬の象徴でもある雪が見えるのはなんとも不思議だ。
冬が終わり、春が訪れる。まさしくその瞬間にいるような感覚がした。
それに地面を見つめているような花も面白い。人が見上げれば視線を返してくれているような桜の花を、きよはじっと眺めていた。
「ほんと、スゲー綺麗だな」
普通の桜と違ってこれはこれで綺麗で、思わずぽつりと呟く。その言葉に苦笑いを浮かべたきよは首を左右に振った。
「い、いや、別に寂しいとかじゃねーし! さみーからさみしー気分に……って、なんで俺は駄洒落で言い訳してんだよ!」
はっとしたきよはひとりで騒いでしまったことに気付き、再び珈琲を飲むことで気持ちを落ち着けた。
そのとき、白い雪を纏った赤い桜にぽとりと落ちる。
花首そのままに地面に落下していった花を目で追い、きよはちいさく呟いた。
「やっぱ、さみーな」
その言葉は誰にも聞かれず夜風に攫われていく。
そうして暫し、きよは静謐な桜の庭園で紅色の桜を見つめていた。
大成功
🔵🔵🔵
鏡島・嵐
【星杯】で参加
ルベルが団子を持ってきてくれるので、こっちは茶を用意する。
塩漬けにした桜の花を湯で煎じた桜茶ってやつ。
湯の中で花が開いて綺麗だし、こういうとこでは似合いだよな。
雪降ってるし寒ぃけど、やっぱ桜は綺麗なモンだよな。
いつもの癖で、夜空を見上げる。
雪空だけど、少しくらいは星が視えねえかな。
……なんだよルベル、緊張することは無ぇだろ。
何か訊きてぇことでもあるんか。
……え、おれの祖母ちゃんのこと?
おれもそうだけど、祖母ちゃんも春が好きでさ、星を視る傍ら、実家の庭じゃいろいろ花を育ててた。
ここのほど立派じゃねえけど桜の樹もあったしさ。
今頃ウチの庭は、いろいろ綺麗に咲き揃ってんだろうなあ。
ルベル・ノウフィル
【星杯】嵐殿(f03812)と
三色の花見団子を手に
「このお団子のいろには、理由があるのだそうですよ」
桜あんこのお団子も、僕好み
星は視えますか?
桜と雪の間に夜を覗いて
「ん、お月さまが星より自己主張してくるのです」
星は好きですが、月は少し苦手で
こっそり目を逸らして
静かな庭園に声が響く気がして、ちょっぴり小声がちに
ご一緒するのは初めてなので、少し緊張もありますよ
「おばあさまのことを」
小さな池にちらちらと桜の花弁が降りて浮かぶのを背景に、お茶を啜り
あったかい湯気を感じながら聞く「祖母ちゃん」のお話が不思議と安心する感じです
「素敵なおばあさまなのですね」
きっとお庭は、あったかい感じがするんだろうな
●花の庭
ほのかな石灯籠のあかりに照らされた一角。
頭上に咲く寒緋桜を眺め、まずはほっと一息をつく。ルベルは三色の花見団子を手にしており、その隣に座る嵐は温かいお茶を注いでいった。
「ほら、桜茶」
「ありがとうございます」
塩漬けにした桜の花を湯で煎じたお茶は、まさにこの花見にぴったりのもの。
お湯の中で花がひらいていく様を見つめたルベルは、嵐にも花見団子を手渡した。綺麗です、と桜茶の感想を伝えたルベルに、そうだろ、と嵐が答える。
「このお団子のいろには、理由があるのだそうですよ」
桜餡も僕好みだと話したルベルは嵐に色の理由を語っていった。諸説あるが、桜色は春の訪れを、白は酒を、そして緑は芽吹く緑を表しているという。
また別の説では縁起物の色を集めたものだと言われている。めでたい季節の訪れを祝うように、好ましく明るい色が選ばれたのだという。
これは三月の桃の節句も同じ。其処で用意される菱餅も同じ色合いをしており、縁起を担いでいるそうだ。
へえ、と頷いた嵐は団子を食べながら、もう一度桜に目を向ける。
「雪降ってたし寒ぃけど、やっぱ桜は綺麗なモンだよな」
いつもの癖で夜空を見上げる。
雪空ではあったが、今はもう雪も降っておらず少しずつ雲も晴れてきている。少しくらいは星が視えねえかな、と口にした嵐に倣い、ルベルも桜と雪の間にある夜を覗く。
其処には煌々と光る月があった。
「ん、お月さまが星より自己主張してくるのです」
星は好きだが、月は少し苦手だ。
こっそり目を逸らしたルベルは花の方に視線を向けた。重なるように咲く下を向いた桜の花。それは樹が衣装を着飾っているかのようで愛らしくもある。
「見事だよな」
「……はい」
嵐は双眸を細め、ルベルもこくりと頷く。静かな庭園に声が響く気がして、ちょっぴり小声がちな彼の様子に気付いた嵐はふと問いかけた。
「なんだよルベル」
「ご一緒するのは初めてなので、少し緊張を……」
「緊張することは無ぇだろ。何か訊きてぇことでもあるんか」
遠慮はするなと告げる嵐だが、対するルベルは尻尾をくるんと丸める。しかし、せっかく嵐がそういってくれているのだからと意を決した。
「おばあさまのことを」
ちいさな池にちらちらと桜の花が落ちていく。花首ごと落ちるという寒緋桜がそのままの形で浮かんでいくのを背景に、ルベルはそっとお茶を啜った。
「……え、おれの祖母ちゃんのこと?」
ルベルが落ち着いてくれたことを感じながら、嵐は幾度か瞼を瞬く。
少し意外だったが話せないことではない。そうだな、と答えてから嵐は祖母についての話を言葉にしていく。
「おれもそうだけど、祖母ちゃんも春が好きでさ、星を視る傍ら、実家の庭じゃいろいろ花を育ててた。ここのほど立派じゃねえけど桜の樹もあったしさ」
「なるほど……」
「今頃ウチの庭は、いろいろ綺麗に咲き揃ってんだろうなあ」
お茶もそうだが、祖母について語ってくれる嵐の言葉があたたかい。湯気を感じながら聞く祖母ちゃんの話は不思議と安心する。
聞けたエピソードはそう多くはないが、それだけでもよく分かることがあった。
「素敵なおばあさまなのですね」
「まあな。ルベルがそう感じてくれて嬉しい」
嵐は彼の言葉を聞き、団子を頬張った。ほんのりと甘い味が広がったことで嬉しさも少しずつ増していくかのようだ。
きっと嵐が語った庭は、話以上にあったかい感じがするのだろう。
いつしか緩やかに尻尾を振っていたルベルは、花を見上げた。夜風に揺れる花までもが自分達の話をそっと聞いてくれている。
そんな気がして、嵐とルベルは穏やかな気持ちを覚えた。
そして――彼らが共に過ごす桜隠しのひとときは、ゆったりと流れてゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
波狼・拓哉
春と冬の魔力…んーまあ確かに幻想的ですしねぇ。春と夏、春と秋何て言ったら違和感凄いけど。…さくらがくしなんてこの目で見ることが出来るとは思わなかったなぁ。
さて…あんまり探し過ぎたらダメなんですっけ……じゃあ探さないでおこう。第六感でそのうち見つけちゃうだろうしー?何よりこのめずらしい光景を楽しまないという選択肢があるだろうか。いやない。
一般人居ないんでしたっけ…つってもミミック出したら敵も警戒しちゃうかな。まあ、適当に缶コーヒー(ホット)飲みながらぶらぶらしますかねぇ。
●桜の夜に
ありえない、とされたことが起こった日。
それは冬の象徴である雪と春の訪れを報せる桜が重なったとき。
「春と冬の魔力……んーまあ確かに幻想的ですしねぇ」
拓哉は異次元へと繋がる魔方陣が作られているという庭園に訪れ、寒緋桜が咲く景色を見てまわっていた。
下を向いて咲く花に降り積もった薄い雪。
「春と夏、春と秋なんて言ったら違和感凄いけど、これは分かるなぁ」
花冷えの季節に雪が降ることもなくはない。桜隠しという言葉があるように、ありえる事象でもあると思うと不思議な感覚が巡った。
「こんな景色をこの目で見ることが出来るとは思わなかったな」
拓哉はゆっくりと庭園を巡り、寒緋桜と雪が織り成す光景を目に焼き付けていく。その際に件の魔方陣が気になったが、事前に聞いていたことを思い出した。
「さて……あんまり探し過ぎたらダメなんですっけ」
じゃあ探さないでおこう、と決めた拓哉は気に留めないことにした。
そうすればきっと敵は此方が気付いていないと感じてどんどん魔方陣の儀式を進めていくのだろう。それに、と拓哉は頭の上で両腕を組む。
「第六感でそのうち見つけちゃうだろうしー?」
何より、この珍しい光景を楽しまないという選択肢があるだろうか。いや、ない。そう思えば心は簡単に決まった。
「一般人は居ないんでしたっけ……」
ミミックを出そうとした拓哉だが、それでは敵も警戒してしまうと思い至る。
それならばもう何もしないまま。
「まあ、適当にこれでも飲みながらぶらぶらしますかねぇ」
拓哉は手にしているホットの缶コーヒーを軽く掲げ、頭上の桜を振り仰いだ。
ゆっくりとした夜の時間が流れていく。
周囲に巡る気配は徐々に変わっている。きっと間もなく例の魔方陣も見つかるのだろうという予感を覚えながら、拓哉は缶を傾けた。
大成功
🔵🔵🔵
彩波・いちご
理緒さん(f06437)と
一応はお仕事ですが、それにしても見事な桜ですね
桜と雪を同時に楽しめるのは贅沢です
とりあえずは理緒さんとお散歩気分で歩いていきましょうか
…理緒さん、どうしました?
さっきから顔色が赤くなったり百面相しているような?
もしかして、雪で身体冷えてきました?
なら、腕でも組めば少しは温かいかもですよ
そういって組みやすいように腕を差し出します
躊躇うようなら、
私も少し冷えてきたので、くっついて温めてくれると嬉しいです
…なんて言って促しましょうかね?
そのまま腕を組みながらお散歩
どこかベンチでもあったら、一応水筒に温かい飲み物入れてきたので
腰掛けて桜見ながら少し休んでもいいかもですね?
菫宮・理緒
【彩波・いちご(f00301)】と参加。
桜隠しに月。そしてとなりにいちごさん。
2人で歩いている、けど、なんだろこれ? 夢かな?
それともわたし、渡っちゃいけない川とか渡った?
え? なに、うで? 現実!?
「さ、寒いなら、あったまらないと、だよね」
めいっぱい緊張しながらを絡めると
一気に真っ赤になって、寒緋桜みたいに俯いちゃいます。
それでも、腕は離したくなくて、そのままいっしょに歩きます。
わたしには雪、積もりそうにないね。理緒隠しにはならないかな。
お散歩中に見つけたベンチで飲み物を受け取ったけど、
景色に映えるいちごさんにに、やっぱりぼしゅんとなってしまいます。
飲み物こぼさないように気をつけないと……!
●紅く染まった桜のように
桜隠しに月。
そして――となりにいちごさん。
理緒は今、とても不思議な気持ちを覚えていた。二人で桜の庭園を歩いていく夜のひととき。これが果たして現実なのか夢なのかもわからない状態だ。
「一応はお仕事ですが、それにしても見事な桜ですね」
「う、うん」
「桜と雪を同時に楽しめるのは贅沢です。とりあえずは理緒さん、お散歩気分で歩いていきましょうか」
(なんだろこれ? 夢かな? それともわたし、渡っちゃいけない川とか渡った?)
いちごからの言葉に対しても上の空で、理緒は両手で頬を押さえる。
その様子がおかしいと気付いたいちごは首を傾げた。
「理緒さん、どうしました?」
「え?」
「さっきから顔色が赤くなったり百面相しているような?」
「ええっと」
「もしかして、雪で身体冷えてきました?」
「そうじゃなくて……」
「なら、腕でも組めば少しは温かいかもですよ」
(なに、うで? 現実!?)
しどろもどろになってしまう理緒に向け、いちごが腕を差し出した。はっとした理緒は自分がどうにかなってしまいそうな感覚に陥ったが、なんとか答える。
「さ、寒いなら、あったまらないと、だよね」
めいっぱい緊張しながら自分からもそっと腕を絡める。すると理緒は一気に真っ赤になってしまい、寒緋桜みたいに俯いてしまった。
「私も少し冷えてきたので、くっついて温めてくれると嬉しいです」
いちごは触れ合う腕と腕のぬくもりを感じながら穏やかに微笑む。ついでに俯いてしまった理緒を覗き込み、あったかいですね、と告げた。
理緒はこくこくと頷くのが精一杯。
それでも腕は離したくなくて、そのままいちごと一緒に歩き出す。今は桜隠しという現象が起きていて花を雪が覆っている。
その光景に自分達を重ねようとした理緒は思ったことを言葉にしてみた。
「わたしには雪、積もりそうにないね。理緒隠しにはならないかな」
「どうでしょう。綺麗にはなりそうです」
ふふ、と口許を緩めたいちごは行く先にベンチを見つける。あそこで休みましょう、とベンチを指差したいちごは持参した水筒を示す。
「腰掛けて桜を見るのもいいかもですね?」
「それがいいね。少し、寒いから」
そうして、二人は並んでベンチに座った。いちごから飲み物を受け取った理緒だが、ふと思ってしまう。
いちごの姿は実に景色に映えている。その様子にやっぱりぼしゅんとなってしまい、理緒はまた緊張してきてしまった。
(飲み物こぼさないように気をつけないと……!)
「理緒さん?」
「な、なんでもない、よ」
赤くなる理緒に再び首を傾げるいちご。
そんなこんなで、ちょっぴり大変な花見のひとときが過ぎていったとか――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
篝・倫太郎
【華禱】
夜彦と手を繋いで庭園を散策
そろそろ灯りが無いと足元の段差とか見落としそう……
大丈夫ですよ、って言わんばかりに
しっかり手を握り直されるのも
周囲の慎ましやかな桜隠しの風景も……
凄く嬉しい気持ちばかりを俺に寄越す
ん?何がそんなに嬉しいんだ、って?
だってさ、あんたがこないだ
スマホで帰るメールに添付してくれた桜隠し
すげぇ綺麗だったし……
いつか、直に見てぇなァって思ったんだ
出来ればあんたと一緒に、って……
で、それが思いの外早く叶ったのが嬉しいから?
だから、嬉しいって顔してンの……
おかしいか?
一応、儀式の気配がないか気を付けつつ
そんな話を静かにしながら、ゆっくり散策
あ、ついでだし写真撮ってこうぜ?
月舘・夜彦
【華禱】
倫太郎殿と庭園を散策します
私は仕事柄、暗視で暗い所の移動も慣れておりますから
彼の手を引いて少し先を歩きます
雪が降る中での花見も美しいものです
この景色のせいでしょうか、倫太郎殿も何処か嬉しそうで
尋ねてみれば、その答えに私も嬉しくなる
そうでしたね
貴方の家に帰る頃に雪が降っていて、今と同じように雪が桜にかかっていて
その様子を見せたくて文章と一緒にその写真を送ったのでしたね
もう春ですから、仮に見られるのは来年かと思っていただけに
こんなに早く一緒に見られて嬉しく思います
時折立ち止まって桜を楽しみながら、その合間に周囲を警戒
魔法陣がないか探しておきましょう
写真、ですか
それならば一緒に撮りましょうか
●二人で写真を
倫太郎と夜彦は手を繋ぎ、庭園を散策していく。
「そろそろ灯りが無いと足元の段差とか見落としそう……」
ぼんやりとした灯籠の明りのもと、倫太郎がふとした呟きを落とす。すると夜彦が何も言わぬままその手を引き、先導していった。
夜彦は仕事柄、暗視で暗い所の移動も慣れている。それゆえにこれが自分の役目だと思い、自然に彼をエスコートしていた。
大丈夫ですよ。
そう言わんばかりに、しっかりと手を握り直されること。倫太郎はそれが嬉しくなって口許を綻ばせた。
周囲の慎ましやかな桜隠しの風景。そして、少し前を行く夜彦。
凄く嬉しい気持ちばかりを寄越してくれる彼を思えば、倫太郎の気持ちも浮き立つ。
「雪が降る中での花見も美しいものですね」
夜彦は静かに感想を口にした。もう夜になっているので雪は止んでおり、静けさが庭園に満ちている。この景色のせいだろうか、夜彦にも倫太郎が何処か嬉しそうに見えた。
「どうかしたのですか、倫太郎殿」
「ん? 何がそんなに嬉しいんだ、って?」
「ええ、嬉しいことがあったように見えます」
「だってさ、あんたがこないだスマホで帰るメールに添付してくれた桜隠し、すげぇ綺麗だったし……いつか、直に見てぇなァって思ったんだ」
「そうでしたか、それは……」
話を聞いた夜彦も穏やかな気持ちを覚えた。
そのまま庭園を散策していく二人はしかと手を繋ぎ続けている。
「出来ればあんたと一緒に、って……で、それが思いの外早く叶ったのが嬉しいから? だから、嬉しいって顔してンの……」
もう気持ちはわかっているが、最後まで説明してくれる倫太郎。彼の声をじっと聞いている夜彦に対し、倫太郎は首を傾げた。
「おかしいか?」
「いいえ、そうでしたね」
私も嬉しいです、と告げ返した夜彦は思い返す。
彼の家に帰る頃に雪が降っていて、今と同じように雪が桜にかかっていた。その様子を見せたくて文章と一緒にその写真を送っただった。
「もう春ですから、仮に見られるのは来年かと思っていただけに、こんなに早く一緒に見られて嬉しく思います」
つまり抱いている気持ちは同じ。
微笑みを交わしあった二人はそっと、桜の庭園の奥に進んでいった。
その際に倫太郎は一応、儀式の気配がないか気を付けている。夜彦も時折立ち止まって桜を楽しみながら、その合間に周囲を警戒していた。
様々な話を静かにしながら、倫太郎達はゆっくりと散策を続ける。
「あ、ついでだし写真撮ってこうぜ?」
「写真、ですか」
「今度は一緒に写りたいって思って。駄目か?」
「それならば一緒に撮りましょうか」
静寂が広がっていた花の庭に、ぱしゃりとカメラのシャッター音が響く。
そうして、其処に写った桜隠しの景色は――彼らだけが知る、ふたりきりで過ごした時間の確かな証明となった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
七々澤・麒麟
ティーシャ(f02332)と夜桜デート!
庭園に出てきて第一声
「寒ィ…もうちょい厚着してくりゃ良かったか…
おっでもイイ景観じゃねーの」
花弁にふわり雪片積り
ロマンチックだなーと感心しつつ歩き出す
途中東屋にて腰掛ければ
彼女が手提げから小さな酒瓶を取り出すのを見て
「ああ、さっきこっそり用意してたのはそれか。どれ、オレも一口…」
頂こうとすれば窘められ
「ちぇー。言ってもあと数か月なんだけどなァ。
あ、ならオレが二十歳になりゃティーシャがお酌してくれよな★」
ちゃっかり約束を取り付ける
再び歩き出した所でスマホを手に、ぱしゃり
自分と彼女が並び、背景には桜が程よく映り込み
どーよ、上手く撮れてるだろ!
と大はしゃぎ
ティーシャ・アノーヴン
麒麟(f09772)さんと一緒にお出かけです。
確かに少し冷えますわね。
私、お花見と言うものは初めてです。
サクラミラージュとはまた少し違った感じですね。
雪と桜の組み合わせは珍しいものなのですか?
あ、そうそう。お花見と言えばお酒と聞きましたので、持参してみました。
何が良いのか解りませんでしたので、近くに売っていた清酒と言うお酒ですね。
残念ながら、麒麟さんはまだいけません。これは大人の嗜みです。
ふふ、麒麟さんがお酒を飲めるようになったら、
その時は勿論、ご一緒させていただきますわね。
・・・?
ああ、今のが写真と言うものですね。
見たことはございますが、撮られるのは初めてです。
保存の出来る鏡のようですわね。
●清酒と写真と花見の夜
「寒ィ……」
それが庭園に訪れた麒麟の第一声だった。
春だというのに雪が降る。そんな珍しい光景を前にしても、やはり寒いものは寒い。
「もうちょい厚着してくりゃ良かったか」
「確かに少し冷えますわね」
ティーシャも同意を示しながら周囲の温度を確かめてみる。花冷えとも呼ばれる春の最中の寒さは肌をさすような感覚だ。
「おっでもイイ景観じゃねーの」
花弁にふわりと雪片が積る様はロマンチックだ。感心しつつ歩き出した麒麟に続き、ティーシャもその後についていく。
「私、お花見と言うものは初めてです」
「そうなのか。じゃあ楽しまねぇとな」
ティーシャがそう語ると、軽く振り返った麒麟が明るく笑む。
折角の夜桜デートなのだから綺麗な場所はないだろうか。そう思って舗装された道を歩いて探していく麒麟。
きょろきょろと辺りを見渡したティーシャは好奇心のままに問いかける。
「サクラミラージュとはまた少し違った感じですね。雪と桜の組み合わせは珍しいものなのですか?」
「そうだな、季節が全然違うだろ?」
冬と春。それぞれの象徴である季節の形を示し、麒麟は頷いた。
そうして麒麟は道の途中に休憩しやすそうな東屋を見つける。行こう、と誘う彼に付いていったティーシャは其処に腰掛けた。
「あ、そうそう。お花見と言えばお酒と聞きましたので、持参してみました」
彼女が手提げから小さな酒瓶を取り出すのを見て、麒麟は更に笑みを深める。ティーシャ曰く、何を持ってくるのが良いか解らなかったので近くに売っていた清酒というものを選んだのだという。
「ああ、さっきこっそり用意してたのはそれか。どれ、オレも一口……」
「駄目ですよ。残念ながら、麒麟さんはまだいけません」
さっと頂こうとすれば窘められてしまう。
軽く肩を竦めた麒麟は少しだけわざとらしく、残念そうにしてみせる。
「ちぇー。言ってもあと数か月なんだけどなァ」
「これは大人の嗜みです」
「あ、ならオレが二十歳になりゃティーシャがお酌してくれよな★」
ちゃっかり約束を取り付けた麒麟に対し、ティーシャは穏やかに微笑む。それなら大丈夫だという許しが得られたようだ。
「ふふ、勿論です。麒麟さんがお酒を飲めるようになったら、その時は勿論、ご一緒させていただきますわね」
そうしてティーシャは清酒を楽しみ、麒麟はその光景を暫し眺めた。
東屋から見える寒緋桜は美しく、其処に雪が被さっている姿もまた風流だ。やがてティーシャ達は東屋を出て再び歩き出す。
「お、ここなんかいい感じ」
「……?」
不意に麒麟がスマートフォンを手に取り、ぱしゃりと一枚。
画面には自分と彼女が並び、背景には桜が程よく映り込んでいる。不思議そうに首を傾げた彼女にそれを見せた麒麟は得意げに笑む。
「どーよ、上手く撮れてるだろ!」
「ああ、今のが写真と言うものですね」
「あれ、ちゃんと撮ったことなかったんだ」
「見たことはございますが、撮られるのは初めてです。保存の出来る鏡のようですわね」
「鏡? そうそう、面白いだろ」
ティーシャの物言いが面白かったらしく、麒麟は大はしゃぎ。
それから暫し、ぱしゃぱしゃと撮影の音が辺りに響いていた。それは麒麟による、ティーシャの為の最強のベストショットを探す講座だったとかなんとか――。
こうして、二人の時間は和やかに過ぎていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
芙蓉・藍
【わだつみ】で参加
WIZ:情報を整理してから入り込む
桜と雪……こんな光景を見るのは初めてで……幻想的、という言葉がピッタリだね
誘ってくれた有珠に感謝をしないとだ
防寒をしっかりとしていく
特に首元
寒いのは苦手だな
温かい飲み物……ほうじ茶あたりを持参したいところ
写真は写せれば、というところかな?
暗がりでの写真撮影はあまり得意ではないけれど
庭園内で迷わないようスマホで地図を確認しながら歩きます
スマホが使えない場合は紙の地図を使用
花も雪も好きなので、そちらをメインで楽しみます
楽しんでいる最中に魔法陣を見つけた場合は、地図に印をつけておきます
一通り庭園を見て回り、情報を共有できる猟兵がいるのなら共有します
尭海・有珠
【わだつみ】
藍とお花見だ
ふふ、実は私も初めてなんだ
珍しくも美しい光景が見られるというのに
一人では勿体ない気もしてね
む…しかし、思った以上に寒いなと首を竦め
タンブラーに入れたホットココアをちびちびと飲みつつ
ゆっくり散策をしようじゃないか
ついでに魔方陣も見つけていこうか
ほら、行っておいで≪潜影の供≫
魔力の濃度だけを共有するよう調整した黒蝶を広範囲に散らし
満遍なく周囲に横たわる魔力とは異なるものを探させよう
お、藍はスマホ使いこなしてるんだなと覗き込む
便利そうだから私も覚えるか…
地図を見ながら此処と此処…と魔方陣らしき場所の印をつけて貰う
まあ、目的地迄はまだゆっくりできるだろ
ゆっくり眺めていこう
●花より陣
幽かに白く染まる空気。
冬と春。桜と雪。隣り合いながらも交わることのない二つの象徴。桜隠しの景色を前にして、藍と有珠は美しい光景を瞳に映していた。
「こんな光景を見るのは初めてだ」
「ふふ、実は私も初めてなんだ」
隣に立ち、庭園に咲く寒緋桜を見つめる二人はそっと言葉を交わした。
「……幻想的、という言葉がピッタリだね。誘ってくれた有珠に感謝をしないとだ」
「いいや、来てくれた藍にもお礼を言わないと。ありがとう」
藍に首を振り、有珠は語る。
珍しくも美しい光景が見られると聞いたが、それを一人で楽しむには勿体ない気がした。だから丁度良かったのだと話す有珠はちいさく頷いた。
そうして、散策を初めようと決めた二人は庭園を歩いていく。
散歩のついでに魔方陣を見つけていくのが彼女達の目的だ。
「む……しかし、思った以上に寒いな」
首を竦めた有珠はタンブラーに入れたホットココアをちびちびと飲みながら、周囲を見渡す。防寒具に身を包んだ藍も温かいほうじ茶を用意していた。
「暗いな……」
ふと藍が呟く。その手にはスマートフォンが握られている。
暗がりでの写真撮影はあまり得意ではない藍は、これでは写真が上手く撮れないだろうと感じていた。それゆえにかわりに庭園内で迷わないよう、スマートフォンで地図を確認しながら歩いていく。
「お、藍はスマホ使いこなしてるんだな」
「これでこの周辺の位置は拾えるからね」
「便利そうだから私も覚えるか……」
感心した有珠が画面を覗き込んだとき、スマートフォンに異変が起きた。詳しく言うならば何も起こらなかったと表す方が正しい。
位置を示すはずのマーカーが動かず、操作してみても地図が反応しない。
「電波妨害、というやつかな」
「確かにそういったこともよく聞く気がするね」
藍がそう判断すると、有珠も静かに納得した。近くに邪神の魔力が満ちているからだろう。電波を介するものが阻害されているようだ。
探索でスマートフォンに頼るとこういったことが起こる場合が多い。しかし、写真機能などの電波が関係ないものは普通に使えるようだ。
「藍、紙は持ってる?」
「この区域周辺の紙の地図なら」
「じゃあそれに見つけた魔方陣を記していこう」
どのような場合であっても信じられるのは自分自身が持つ感覚や力、行動だ。今回はこうすることが一番良いとして、有珠は藍にマッピングを願う。そして、有珠は自分の力を発動していく。
「――ほら、行っておいで」
呼び出したのは潜影の供。魔力の濃度だけを共有するよう調整した黒蝶を広範囲に散らした有珠は、満遍なく周囲に横たわる魔力とは異なるものを探させていく。
そして、すぐに樹の影にあった魔方陣を見つけた。
「あれが……?」
「どうやらまた見つかったようだ」
藍は花も雪も好きなので、散策をメインに楽しみたかった。だが、潜影の供が次々と魔方陣を見つけている状況では地図に集中するほかなくなった。
地図に印をつけた藍は更に庭園を見て回ることを決め、情報を共有できる猟兵がいないかも探していく。
魔方陣は淡く光っており、まるで此方を誘っているかのようだ。
だが、二人だけで突入するには未だ早い。他に魔方陣を見つけた猟兵を発見してからでも遅くはないとして、有珠達は頷きを交わした。
「花もまだ見れていないのにな……」
「まあ、まだゆっくりできるだろ。後はゆっくり眺めていこう」
藍が少し残念そうに呟くと、有珠は大丈夫だと告げてそっと歩き出した。そうして暫し、彼らにとっての花見の時間が流れていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アメリア・イアハッター
【FH】(4名)
さっむい!
でも綺麗!
こんな素敵な光景を利用する連中は許せないけど、これも作戦の内
まずは楽しみましょ!
しょーじゅんが持ってきてくれた甘酒で乾杯!
私さくらのやつがいいなー
んー寒い中に暖かい甘酒は、ぽかぽかしていいね
まだ本当のお酒って飲んだことないんだけど、本物もこんなに美味しいの?
皆で持ち寄った物でワイワイ
私はしょっぱめのみたらし団子!
それにしても、桜と雪と夜の組み合わせのお花見って初めて!
桜隠しって言うんでしょ?
風流な言葉よね
花首ごと落ちた綺麗な桜を拾って、皆の頭に乗っけてみる
それならこれで……猟兵隠し!
ふふ、皆可愛くて、風流だよ!
最後にホットミルクを飲めば眠くなり
誰か肩貸してー
ヘスティア・イクテュス
【FH】
赤と白…桜と雪…混ざって本当綺麗ね…
えぇ、これを利用するのはちょっと許せないわね
まぁ、今は楽しませてもらいましょうか…
正純の持ってきた甘酒で乾杯ね。わたしもお花見ってことでさくらのフレーバーでお願いするわ
つまむ物として桜を使ったスコーン焼いてみたんだけどついでにどうぞ…
サンドイッチと軽食もあっていいわね…お重で他にもおかず持ってくるべきだったかしら?
ふぅ…甘くて美味しいわね…(ノンアルコールだけどプラシーボで少し赤く)
桜の白と雪が混じって桜隠し…昔の人は面白い言葉を思いつくものね~
(桜を頭に乗せられ)…狸?あっ、アメリアの頭に乗せるのはわたしがやってあげるわね?
メンカル・プルモーサ
【FH】
んー……桜隠し……なかなか見れないらしいね……
桜の咲く季節で雪がふるってこなかなか無いしね……
(コートにマフラーのもこもことした格好)
まだ肌寒いから……ホットミルクとサンドイッチもってきた……
ん、甘酒もあるのか……どっちかと言えば林檎かな……
スコーンも美味しそう……
…このサンドイッチは…うちのシェフに作って貰った奴だね…
こっちはローストビーフ…こっちは確かBLTサンドだったかな…他二も色々あるよー…
…ささ、どうぞどうぞ……
…(アメリアの「肩貸してー」に)んー仕方ないなー…と肩を貸す
なお、一応【不思議な追跡者】による鳥を旋回はさせて軽く見張りはさせておく
納・正純
【FH】
冬と春、雪に花をいっぺんに楽しめる月夜とは豪勢だね
桜隠しを見るのは初めてだが、中々どうして奇麗じゃないか
・全体方針
団長企画の花見に参加して皆で楽しもう
聞けば何やら自慢の一品を持ち込んでいる人もいるとか
丁度良いからそれらと風情を肴にして、話に花を咲かせるとしよう
俺は季節のフレーバー甘酒を持っていく
・台詞
そうなのかい? それじゃ、来年は酒も持ってくるとしようか。そこで確かめてみるのが良いと思うぜ、アメリア
……お、コイツは桜のスコーンか。ヘスティアも気が利くねえ。甘酒と合う風味で実に良い。もう一つお替りを頂いても?
それで、こっちのサンドイッチは誰の力作かな。シェフ殿、具は何かお聞きしても?
●猟兵隠しの夜
桜が咲き、春が訪れた矢先の雪。
寒緋桜の紅色をほんのりと覆い隠す白い雪は季節の境界を彩っているかのようだ。
「赤と白……桜と雪……混ざって本当に綺麗ね……」
「んー……桜隠し……なかなか見れないらしいね……」
皆で庭園に訪れたヘスティアが桜の樹を見上げ、メンカルも頭上に目を向ける。春とはいえど時刻は夜であり、雪が降ったばかりの気温。
メンカルはコートにマフラーというもこもこの出で立ちだ。その近くには正純とアメリアも立っており、それぞれに花を眺めていた。
「冬と春、雪に花をいっぺんに楽しめる月夜とは豪勢だね」
「それにしても、さっむい!」
「桜の咲く季節で雪がふるってこなかなか無いしね……」
アメリアが身体を震わせると、メンカルもこくこくと頷く。大丈夫かと正純が問いかけるとアメリアは何とか平気だと答えた。
「でも綺麗! まずは楽しみましょ!」
「えぇ。まぁ、今は楽しませてもらいましょうか…」
こんなにも素敵な光景を利用する連中は許せないという気持ちもあるが、これも作戦のうち。アメリアの呼び掛けにヘスティアも同意を示す。
誰もが桜隠しの光景を見るのは初めてであるが、綺麗だと思う気持ちは同じ。
そうして一行は桜がよく見える場所を探すべく共に歩き出した。
「かんぱーい!」
「乾杯!」
寒緋桜が見事に咲く大きな樹の下。
アメリアの声と共に四つ分の盃が軽く合わさった。真っ白な雪を思わせるそれは正純が用意してきた甘酒だ。
白い甘酒がほんのりと色付いているのは桜や林檎のフレーバーが混ざっているからだ。季節の味を感じられる気がして、一行はあたたかな視線を交わす。
「桜を使ったスコーン焼いてみたんだけどついでにどうぞ」
「……お、コイツは桜のスコーンか。ヘスティアも気が利くねえ」
「まだ肌寒いから……ホットミルクとサンドイッチもってきた……」
「ありがとう、頂くわ!」
それぞれに持ち寄った軽食と飲み物を交換していく四人。まずヘスティアのスコーンを味わった正純は彼女に視線を向ける。
「甘酒と合う風味で実に良い。もう一つお替りを頂いても?」
「えぇ、構わないわ」
たくさんあるから、と新しいスコーンを差し出すヘスティア。
その隣ではメンカルが持ってきたサンドイッチがアメリアに渡されている。ほっとする甘酒の味を楽しみながら、アメリアはゆったりとした気持ちを覚えた。
「んー寒い中に暖かい甘酒は、ぽかぽかしていいね」
「お重で他にもおかず持ってくるべきだったかしら?」
これならもっと美味しいものが必要だったと感じ、ヘスティアはしまったと考える。しかし花見の席は十分に盛り上がっているようだ。
正純もメンカルのご相伴に与ろうとして、サンドイッチの皿を覗き込む。
「それで、こっちのサンドイッチは誰の力作かな。シェフ殿、具は何かお聞きしても?」
「このサンドイッチは……うちのシェフに作って貰った奴だね……。こっちはローストビーフ……こっちは確かBLTサンドだったかな……他にも色々あるよー……」
どうぞどうぞ、と差し出される軽食。
アメリアは絶品のサンドイッチを口にしながら、ふと息を吐く。桜の下で桜の風味がする甘酒を飲めるのがとても心地良かった。
「まだ本当のお酒って飲んだことないんだけど、本物もこんなに美味しいの?」
「そうなのかい? それじゃ、来年は酒も持ってくるとしようか。そこで確かめてみるのが良いと思うぜ、アメリア」
「それがいいかも。じゃあ来年もどこかでお花見しないと!」
賑わう会話の中、アメリアはこっちもどうぞとみたらし団子を皆に勧める。
少ししょっぱめなので甘いものともあう口直しの一品だ。
「ふぅ……美味しいわね……」
「甘味に軽食に、それから桜か」
「改めて見ても……綺麗だね……」
ヘスティアも皆での花見を大いに楽しみ、正純とメンカルも甘酒を片手に花を見る。
桜と雪と夜。この組み合わせの下で行うお花見はやはり不思議な感覚がした。
「桜隠しって風流な言葉よね」
「桜の白と雪が混じって桜隠し……昔の人は面白い言葉を思いつくものね~」
アメリアがそっと微笑み、ヘスティアも頬を染めて淡く笑う。そんな中で不意にぽとりと寒緋桜が花首ごと落ちてきた。
「それならこれで……」
「何するんだ、アメリア」
花を拾った彼女が腕を伸ばしてきたので軽く首を傾げる正純。するとアメリアはヘスティアとメンカルにも同様に手を伸ばしていった。
「じゃーん、猟兵隠し! ふふ、皆可愛くて、風流だよ!」
得意げに披露されたのは三人の頭に寒緋桜が乗せられた姿だ。
きょとんとしたメンカルに対し、ヘスティアは「狸?」とおかしそうに口にした。
「アメリアの頭に乗せるのはわたしがやってあげるわね?」
「これでお揃い……?」
「コイツは良いな。猟兵隠しか」
メンカルは皆の頭の上に乗った桜を見つめ、正純も洒落が効いていると感じて頭上の桜と自分達を見比べた。
やがて時は刻々と進み、ゆっくりとしたひとときが巡っていく。
「誰か肩貸してー」
「んー仕方ないなー……」
最後にホットミルクを飲んだアメリアは眠くなり、うつらうつらと舟を漕ぐ。メンカルはそっと頷いて肩を貸してやった。
その光景を正純とヘスティアが見守り、辺りには穏やかな空気が満ちる。
そうして、四人で過ごす花見の時間は平穏に過ぎていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
楠樹・誠司
緋之彩
ひとへ、ふたへに覆ふ真白
落つる花首を掌に受け止め乍ら
其れは何処か懐かしく
針を刺すやうに胸を苛んだ
外套の下に太刀を隠し
一歩、一歩と緋を辿り
懐で鼓動を刻む秒針を胸に友を想ふ
炎は。焔は。
自戒の為に纏うた其れは
自責の為に手繰り寄せた其れは
あゝ、其れは
『此れだけは忘るる事勿れ』と刻み付けたもの
鎮魂、痛哭、久遠の、
彼の口から多くは聞かぬ侭
唯、為すべき事を果たす為に赴いた
止められたくはなかつたのだと
自嘲気味に目を眇めて
陣は、恐らく
春と冬が重なり合う花のもとに多く潜ませてゐるのでせう
八咫よ、陽の申し仔よ
日暮れに還る鴉に紛れ、魔を辿り給へ
其の先にはきつと
我等が断つべきものが在る
……決して、惑わされる事勿れ
●桜の影へ
緋色の彩を振り仰ぎ、其処に宿る白を観る。
ひとへ、ふたへ。桜を覆う真白の雪は俯く花を隠していた。
樹の傍らに歩み寄る誠司はふと、ひとつの花が夜風に揺れた様を見る。刹那、落つる花首。其処に手を伸ばせば、掌の上で花が受け止められた。
其れは何処か懐かしい。
如何してか、針を刺すように胸を苛んだ。
緋色の花。その色彩を隠していた雪は手袋の上で融けて雫となり、地面に落ちた。
誠司は外套の下に隠した太刀を確かめ乍ら、一歩、また一歩と緋の彩を辿っていく。懐で鼓動を刻む秒針を胸に、そっと友を想う。
炎は。焔は。
自戒の為に纏うた其れは、自責の為に手繰り寄せた其れは。
あゝ、其れは――。
誠司は胸元に片手を添えた。
そうだ、『此れだけは忘るる事勿れ』と刻み付けたものが此処に在る。
鎮魂。痛哭。久遠の、記憶と邂。
友の口から多くは聞けぬ侭ではあった。語るべきではないと判断していることも誠司にはよく解っていた。
然れど誠司は唯、為すべき事を果たす為に赴いた。
告げてから向かおうとしたならば止められたやもしれない。友を信じていない訳ではない。もし話せば、仕方ねえなと肩を竦められるのだろう。或いは複雑そうな顔をして送り出されたのかもしれない。
どのような形であれ、こうして訪れたかったのだとして自嘲気味に目を眇め、誠司は桜の庭園内を巡っていく。
石畳の道の左右には仄かな光を灯す灯籠が見えた。
淡い光が樹々を照らす様は幻想的だ。其処へ更に季節の象徴たる二つの彩が有る故に、不可思議と云える。
櫻幻想の世界ならば兎も角、此方の世界では滅多に有り得ない事とされている現象。
石畳の道を越えた誠司は思う。
陣は、恐らく――春と冬が重なり合う花のもとに多く潜ませてゐるのでせう、と。
「八咫よ、陽の申し仔よ」
日暮れに還る鴉に紛れ、魔を辿り給へ。
誠司が三足烏を呼べば宵の最中に黒い影が現れた。その翼が向かう先を追い、誠司は眼鏡の奥の双眸を鋭く細める。
其の先には屹度、我等猟兵が断つべきものが在る。
「……決して、惑わされる事勿れ」
そして、誠司は淡く光る陣をその眸に捉えた。
ゆめゆめ、忘るる事勿れ。かの向こう側に待つ者は過去から滲み出たもの。
一片の容赦すら要らぬ存在だということを。
桜の樹の下。
その影で妖しく光る陣の上に、寒緋桜が落ちる。其の花が陣の中に吸い込まれていく様を見つめ乍ら、誠司は突入すべき時を静かに待ち続けた。
大成功
🔵🔵🔵
鹿忍・由紀
ユルグ/f09129と
桜と聞いたが赤が強くて
自分の知ってる桜とは違うなと
ぼんやり考えながら偵察ついでの散策
花に近寄り観察してみれば
雪を被った桜が寒そうで
難儀だな、なんて見上げていると
崩れた雪が顔に落ちてきて冷たい
桜を見てたと告げて雪を払い
茶番じみて緩く手を振り返し朧げな名を呼ぶ
ええと、…ユルグ
この前出会ったばかりの
ちょっと付き合いが良いことと名前くらいしか知らない男
よく出来た茶番だと、変わらぬ表情のまま感心し
予定を聞かれたから
ざっくり伝えてはいたのだけれど
まさか本当に来るとはね
お人好しとか言われない?
溜息も気にする事なく差し出されるまま受け取れば
ご一緒させてくれるの
たまにはこんな茶番も悪くない
ユルグ・オルド
f05760/ヨシノリと
月雪花と揃ってまァ
さて、想う君は何所にいるやら
雪の落ちる音に振り返れば
あっさり見つかる今夜限定思い人
いや案外うっかりしてんのな
噛み殺しきれなかった笑いと名を呼んで
ヨシノリ、何してんの
約束通りに手を振って
んふふ、覚えてて良かった
これで忘れられてたら泣くとこだったわ
名前と猟兵サンてコトだけで叶う逢瀬の茶番ときたら
益々珍しい夜だと笑みにのぼる機嫌好さはそのままに
え、なに、信じてなかったの
傷つくなァと大袈裟な溜息一つ
花見しに来ただけ、て適当な理由を返しながら
ここまで揃ってんならと小振りな酒瓶差し出して
一人でやるよか楽しくて良いでしょ
元よりその心算だから茶番なんだけども
●邂逅の夜
桜の花に雪の影。
紅色の寒緋桜を仄かに覆う白い雪を振り仰げば、感嘆の溜息が零れる。
それはまさに月雪花の風景。
「なんとも揃ってまァ」
ユルグは幽かに白く染まった息を目で追い、夜空に光る月にも視線を向けた。されど月見はそこそこに、さて、と呟いて歩き出す。
想う君は何所にいるやら――。
辺りを見渡すユルグは歩みはじめ、庭園の奥へと進んでいく。
同じ頃。
庭園を歩く由紀は下を向いて咲く花を眺めていた。桜と聞いていたが、普段観るような淡い色ではなく赤が強い。
自分の知ってる桜とは違うな、と感慨を抱きつつ彼は進んでいった。
偵察ついでの散策。ぼんやりと歩いていると此処が戦いの場に続いているとは思えなくなってくる。それほどに庭園には静謐な場所だった。
「寒そうだな」
由紀はふと、通り掛かった桜の樹の傍で立ち止まる。
枝が頭のすぐそばまで下りてきていて、目の前に雪を被った花が見えたからだ。
難儀だな、とちいさく口にして暫し見上げ続けた。其処へ不意に夜風が吹き抜ける。はたとしたときにはもう、由紀の顔に花から滑り落ちた雪が落ちてきていた。
崩れた雪は見事に瞼の上へ。
冷たい、と彼が声にしたことで、近くに訪れていたユルグがその様子に気付く。
夜風に誘われるように振り返れば、何ともあっさりと見つかった今夜限定の思い人。噛み殺しきれなかった笑みを浮かべ、ユルグは由紀へと歩み寄る。
「いや案外うっかりしてんのな」
「……誰」
由紀は自分の元へ歩み寄る影に気が付き、其方に視線を向けた。手を振っている相手が誰か、一瞬は分からなかったが距離が縮まれば朧げに見えてきた。
「ヨシノリ、何してんの」
「ええと、……ユルグ。桜を見てた」
答えながら雪を払ってから緩く手を振り返す。そうして、その名を呼び返した由紀は思い出した。彼は由紀にとって、この前出会ったばかりの、ちょっと付き合いが良いことと名前くらいしか知らない男だ。
本当に茶番めいている、と変わらぬ表情のまま感心した由紀は幾度か瞼を瞬いた。まだ少し雪の冷たさが肌に残っているようだ。
「んふふ、覚えてて良かった」
これで忘れられていたら泣くとこだったわ、と冗談めかしたユルグは傍らに立つ。
由紀が見ていた桜の上からは雪がなくなっていた。これで寒くはなさそうだと呟いたユルグは叶った逢瀬に思いを馳せる。
偶然か、それとも必然だったのか。
益々珍しい夜だ。笑みにのぼる機嫌の好さはそのままに、ユルグは桜隠しの景色をそっと眺めていった。
「まさか本当に来るとはね」
「え、なに、信じてなかったの」
由紀からそう言われれば、ユルグは傷つくなァと大袈裟な溜息を零してみせる。
「お人好しとか言われない?」
「コッチも花見しに来ただけ」
適当な理由を返したユルグは片手を差し出す。其処には小振りな酒瓶があった。更にもう少し進んだところには腰を下ろすのに丁度いい東屋がみえる。
「ここまで揃ってんなら、さ」
「ご一緒させてくれるの」
その一言を交わしただけで二人の今後は決まった。桜の樹に覆われるように立っている東屋に向かい、彼らは酒を酌み交わす。
雪は少しずつ地に落ち、或いは融けていくことで消えていっている。
色濃い紅の花を振り仰ぎそれぞれに眺めながら、酌も進む。
「たまにはこんな茶番も悪くない」
「一人でやるよか楽しくて良いでしょ」
由紀がぽつりと呟くと、ユルグは口許を緩めてもう一杯を彼の盃に注いだ。
元よりその心算だから茶番なんだけども、と聞こえた彼の声には反応を示さず、由紀はそっと盃を傾けた。其処には夜空に浮かぶ月の光が映っている。
いいねェ、と薄く笑うユルグは自分の盃にも月を宿し、一気に酒をあおった。
桜隠しに月の姿。
静かに巡る時間の中、二人はちいさなひとときを共に過ごしていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蘭・七結
つめたい冬とあたたかな春の共存、ね
なんて不思議な光景でしょう
雪はサクラのぬくもりに溶けずに
サクラは雪のつめたさに凍えずに
互いに寄り添う姿は、なんてうつくしい
ぬくもりを得たゆびさき
凍えないようにと、あたたかな紅茶を持つ
こうして気軽にいただけるだなんてステキね
紙パックの飲み物だって興味深いわ
ひと口運ぶと身体中があたたかくなる
纏わう熱には未だに慣れないけれど
温度を宿した身体は、とても心地がよい
今だって、そう
雪の冷気がつめたいのに、凍えはしない
身体の奥底はあたたかいの
嗚呼、お月さまもみえ始めて幻想的ね
雪も月も。さくらも、きれいだわ
うつくしい景色を眺めながら紅茶をひと口
飲み終えたなら、散策をしようかしら
榎本・英
嗚呼。なんと美しい景色なのだろう。
桜の世界に住む身、様々な桜を見て来たが
この世界の雪と桜はとても珍しい景色だ。
けれども慣れない雪は重いだろう
手の届く君、少し重そうにする君に
うっすらと降り積もる雪を払い除けてやろう
触れただけで溶けてしまうが、またすぐに降り積もる
そんな光景を眺めるのも面白い。
嗚呼。そうだ。
次の舞台はこんな景色にするのも悪くない。
椿のようにぽとりと落ちる桜か。
それになぞらえた事件も良い。
今日は息抜きに来たのだが……。
ついついそんな事を考えてしまうね。
雪の重さに落ちた子を持ち帰りたくもなる。
春なのに冬の景色を見せたくもある。
しかし、それは止めにしよう。
そこに綴らない話をこの口で紡ごう
●春のいろ
季節の境界が目に見える処。
つめたい冬とあたたかな春。ふたつが共存する庭園を眺め、七結は歩を進める。
とても不思議な光景だと思えた。
雪はサクラのぬくもりに溶けず、サクラは雪のつめたさに凍えずにいる。
互いに寄り添う姿は、なんて――。
「うつくしいのかしら」
言の葉に感嘆をのせた七結は気儘に歩いてゆく。石畳の路の傍には灯籠があり、足元を仄かに照らしてくれている。
夜風は冷たくて、頬を撫でていく。
けれども七結の指先はぬくもりを得ている。その理由は凍えないようにと持ってきた、あたたかな紅茶が握られているから。
「こうして気軽にいただけるだなんてステキね」
紙パックの飲み物ひとつだって、世界を渡ってきた七結にとっては興味深いもの。
行く先に見えた東屋。
其処に腰を下ろした七結はひとくち、紅茶を口にする。そうすれば身体中があたたかくなっていき、穏やかな気持ちが巡った。
少し前まではゆびさきが冷えていることなど気にも止めなかった。
それゆえに纏わう熱には未だに慣れない。けれども、この心地は悪くない。温度を宿した身体が好いものだと思えるのはきっと、春を迎えたから。
今だって、そう。
雪の冷気がつめたいのに花はそれを受け止めて咲いている。
身体の奥底があたたかいのはこの紅茶のお陰でもあるけれど、もうひとつの理由もあった。それを言葉にすることは敢えてしないが、七結にはちゃんと解っている。
そうして、七結は空を見上げた。
「嗚呼、お月さまもみえ始めて幻想的ね」
雪も月も。それからサクラも。
きれいだわ、と言葉にした七結はうつくしい景色を堪能していく。そうして紅茶をもうひとくち。ほんのりと桜の味がした気がするのはこの景色のおかげだろうか。
そして、七結は紅茶を飲み終える。
ふたたび散策をはじめようとして歩き出した、そのとき――。
或る桜の樹の下に人影を見つけ、七結は双眸を緩く細めた。
●冬のさき
まるで其処は、物語に綴られた幻想の世界。
「嗚呼。なんと美しい景色なのだろう」
感嘆の声を落とし、英は桜の咲く庭園をぐるりと見渡した。彼は元より桜の世界に住む身。それゆえに様々な桜を見て来たが、この世界で観られる稀有な光景を前にして、深い感慨を覚えていた。
俯いて咲く寒緋桜に白い雪が積もっている。
それは実に絵になる光景だと思えた。けれども、と英は垂れ下がった桜の枝へと緩やかに歩んでいく。
「慣れない雪は重いだろう」
手の届く君へ、そして少し重そうにする君に手を伸ばした。
指先で白を払い除け、紅色をあらわにする。そうすれば夜の景色にあかが映えた。
背の高い樹の枝の花にはうっすらと雪が掛かったままだが、きっと陽が射す頃には白い彩も消えているのだろう。その儚さを思うと、更に尊さが満ちる。
嗚呼。そうだ。
ふと彼は或ることを思い立つ。
次の舞台はこんな景色にするのも悪くない。椿のようにぽとりと落ちる桜。その花首をひとの首に見立てて――それになぞらえた事件も良いだろう。其処まで考え、はたとした英は軽く首を振った。
「いけないね、今日は息抜きに来たのだが……」
ついついそんな事を考えてしまうのは職業柄か。それでもこうした景色を見て物語が浮かぶのもまた、悪くない感覚だ。
緩く歩きはじめた英は地に落ちている花を見つけた。おそらく雪の重さに落ちたのだろう。その子を持ち帰りたくなってしまう。春なのに冬の景色を見せたくもある。
しかし、そうすることは止めにした。
そこに綴らない話をこの口で紡ごうと決め、英はふたたび桜の樹を振り仰いだ。
そして、そのとき。
英が佇んでいた樹の傍に、もうひとりの影がさした。
●季節が出逢うとき
「みいつけた、なんて」
「おや、見つけられてしまったね」
英の耳に届いたのは聞き慣れた少女の声。戯れに淡く笑み、ゆっくりと歩んできた七結は口元を綻ばせる。
声を聞いただけで誰か解った英は、その笑みに咲いた花を重ね見ていた。
鬼さんこちら、なんていう隠れ鬼はしていなかったけれど、二人はこうして桜隠しの夜の最中で偶然に――否、きっと出逢うべくして出逢った。
「花を見ていたの」
「嗚呼、うつくしい花だ」
言葉を交わす二人の間に多くの言葉は要らない。並び立ち、雪を纏う寒緋桜を見上げて眺める。冬と春の境界線までもが混ざりあったようで好い心地が巡った。
そんな中で不意に夜風が吹き抜ける。
桜花が大きく揺れ、そのうちのひとつが風に乗って花首ごと落ちる。
「花が――」
「おっと、」
二人は同時に手を差し伸べ、寒緋桜を受け止めようとした。その手と手が触れ合い、七結の掌の上に花がぽとりと乗る。代わりに雪の欠片が英の掌に乗ってふわりと溶けた。
冬の名残と春の証。
ふたつが重なりあった気がして彼らは淡い眼差しを交わしあう。
その様子を静寂の空に浮かぶ月と、雪に咲く桜花がそっと見下ろしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
陽向・理玖
…寒
マフラー押さえ
俺が覚えている中で
今年で5回目の桜
何だかんだ師匠は忙しい中桜見に連れてってくれたけど
…雪の中は行ったことなかったな
桜見上げ
面倒臭ぇ
花見るより食い物の方がいい
俺はいつもそう言ってたけど
決まって最後にまた来年も来ようなって師匠は言って
面倒臭ぇな、と思いながら
多分俺は…その約束が嬉しかった
胸を押さえて
余程桜が好きなんだと思ってたけど
本当はきっと…
ぽとりと落ちる桜を見て首を左右に振って
さってと探すか
休憩終わりと伸び一つ
しっかし変な天気だよなぁ
桜に重なる雪を探るように目を細め
でもやっぱ…
仕事だけど誰かと来りゃよかったかな
懐からペットボトルのお茶取り出して口に含み
ぬる…
歩き出そうと
●桜の季節に
「……寒」
思わず零れ落ちた言葉と同時に理玖はマフラーを押さえる。
夜風は冷たい。風によって揺れた桜の花から白い雪が落ち、地面の上で散った。無意識に雪を目で追っていた理玖は顔をあげ、頭上に咲いている寒緋桜の花を振り仰ぐ。
「確か――」
マフラーに顔を埋めながら理玖は思う。
自分が覚えている中で、今年で五回目の桜だ。俯いて咲く寒緋桜を見上げながら思い返していくのは師匠と過ごした日々。
あの頃、師匠は幾度も花見に連れていってくれていた。満開の桜が咲いている道を二人で歩く。その中にまだひらいていないちいさな蕾を見つけて、理玖と花を見比べていた師匠の眼差しが思い起こされる。
「……流石にこんな雪の中の桜は見に行ったことなかったな」
花弁が散る様は春の雪のようだと思ったこともあるが、今日は本当の雪がほんのりと積もっていた。雪化粧を纏う桜を仰ぎ続ける理玖は、あの頃の自分を思い出す。
面倒臭ぇ、花見るより食い物の方がいい。
そんな風に理玖はいつも言っていた。花より団子だな、と笑った師匠の笑顔が花に映えて眩しかった気がする。当時は何も思っていなかったというのに、失ってから思い出す記憶はとても遠い。
そして師匠は決まって最後に「また来年も来ような」と言っていた。
相変わらず面倒臭いと思いながらも、理玖はその約束が嬉しかった。多分、と胸を押さえた彼はゆっくりと息を吐く。
空気が僅かに白く染まった。あの頃はただ漠然と師匠が桜好きなのだと思っていた。けれど会えなくなった今なら思える。
「本当はきっと……」
言葉の続きが紡がれる前に、目の前に咲いていた寒緋桜がぽとりと花首ごと落ちた。その様子を見た理玖は首を左右に振り、考えを巡らせるのをやめる。
花見も良いが、これは任務だ。
意識をそちらに向けた理玖は桜の樹から離れ、大きく伸びをした。
「さってと探すか」
休憩終わり、と軽く呟いた理玖は周囲を見渡す。桜隠しと呼ばれる現象が起こっているゆえに春と冬の境界線が曖昧になっているかのようだ。
桜に重なる雪を探るように目を細め、理玖は軽く肩を竦めた。
寒いからだろうか。妙に心寂しい気がする。
仕事だけど誰かと来りゃよかったかな、なんてことを口にした少年は、懐からペットボトルのお茶を取り出す。寒さを凌ぐために一口飲んでみるが、いつの間にかその温度はかすかなものになっていた。
ぬるいな、ともう一度肩を落とした理玖は歩き出す。
少し先の未来で少年は気付く。その先に、淡く光る魔方陣があることを――。
大成功
🔵🔵🔵
荻原・志桜
⭐🌸
雪が月明かりで光を帯び
桜に灯りを宿す世界を小さなあの子と楽しみたい
桜と雪が同時に楽しめるって得した気分だなぁ
そうだ写真――祈里ちゃんこっち向いて……よし、おっけー!
スマホで景色を写真に収め、彼女も一緒にパシャリ
あははっ、ごめんごめん。でも可愛く撮れてるよ!
見せたら絶対に羨ましがるなぁと脳裏に浮かぶ人に笑み深める
次はふたりでもう一度パシャリ
あ、そういえば祈里ちゃんは寒くない?
そっと小さな手を包み込めば温かな熱にほっこり緩む頬
祈里ちゃんあたたかーい!うらやましい
ねぇ、しばらく繋いでてほしいなぁ…だめ?
やさしく。だけど離す気は更々なくギュッと握りしめ
向こうの桜も見に行ってみようと手を引いていく
朝日奈・祈里
⭐🌸
桜の魔女に誘われてお花見
前に見た桜と違うやつだ
色が濃いな
空知らぬ雪と、本物の雪が逢瀬を楽しんでる
ぽけーっと見上げていたら、桜髪の少女の呼ぶ声
なぁに?と間の抜けた声と共に振り返ると、シャッター音
……ちょ、今のは無しだろっ!
むくれながら画面をのぞき込む
むぅ。まぁ被写体がいいからな…!
ちゃんと顔作るからインカメで一緒に撮ろうぜ!
魔法繊維で作られた白衣だからな。寒いのも暑いのも大体適応できるぞ
桜髪の少女は寒いの?
包まれるぼくの手よりも少しだけ冷えた手
まぁ、子供体温だからな
存分に湯たんぽ代わりにしていいぞ
引かれるままに歩みを進める
居心地の良さに、寒気がした
そういえば魔法陣って何色なんだろう?
●写真と花と掌の温度
雪と桜と月と星。
庭園から見える季節の彩と空模様を眺め、少女達は頭上を振り仰ぐ。
隣同士で並んで歩く石畳の道。雪化粧を纏った花に届いている月明かりは淡く、幽かな光によって桜がライトアップされているかのようだ。
まるで、そう――桜に灯りを宿す世界。
「前に見た桜と違うやつだ」
「寒緋桜っていうんだって」
下を向いて咲く花々を見上げた祈里。記憶にあるものとは違う桜の形を見つめる彼女の傍ら、志桜は柔らかく笑む。
「色が濃いな。空知らぬ雪と、本物の雪が逢瀬を楽しんでるみたいだ」
「にひひ、桜と雪が同時に楽しめるって得した気分だなぁ」
詩的な表現をした祈里に感心を覚え、志桜も同じ桜に視線を移す。そして、ふと思い立った志桜は花を眺め続ける祈里に、取り出したスマートフォンを向けた。
「祈里ちゃんこっち向いて」
「なぁに?」
パシャリ、と響くカメラのシャッター音。
ぼんやりと花を見ていたままの表情で振り返った祈里の姿が画面にしっかりと収められる。はたとした祈里は随分と間の抜けた声を出してしまったものだと思い、志桜に歩み寄っていく。その間に志桜は写真を確認し、口元を緩めた。
「よし、おっけー!」
「……ちょ、今のは無しだろっ!」
「あははっ、ごめんごめん。でも可愛く撮れてるよ!」
抗議の声は笑って誤魔化し、志桜は画面を祈里に差し出す。それを覗き込んだ祈里は、自分と桜と夜空が映っている写真を目にした。
むくれながらも、志桜が言う通りの良い写りだと感じた祈里は両腕を組む。
「むぅ。まぁ被写体がいいからな……!」
「そうそう、祈里ちゃんは可愛い!」
祈里の仕草が可愛らしく思え、志桜は笑みを深めた。
この写真を見せたら絶対に羨ましがるなぁ、と思い浮かべたのは或る人のこと。祈里は嬉しげな志桜を軽く見上げ、手招きをする。
「ちゃんと顔作るからインカメで一緒に撮ろうぜ!」
「うん!」
次はふたりで、もう一度。
祈里と志桜は桜を背にして並び、雪月花の景色と自分達を写真に収めた。とびきりの笑顔で写った写真を見たふたりは互いに視線を交わして頷きあう。
そのとき、冷たい夜風が吹き抜けた。
わ、と思わず声をあげた志桜は隣の祈里に問いかける。
「祈里ちゃんは寒くない?」
「大丈夫。桜髪の少女は寒いの?」
すると祈里は白衣を示し、魔法繊維で作られたものだから寒さにも暑さにも適応できるのだと語った。代わりに問い返された言葉に対し、志桜は軽く首を振る。
「わたしも平気。でも、ね」
こうするともっと良いかも、と手を伸ばした。包み込んだちいさな手は温かな熱を宿していた。緩む頬を抑えられず、志桜はぎゅっと祈里の手を握り続ける。
「祈里ちゃんあたたかーい!」
「まぁ、子供体温だからな」
「ねぇ、しばらく繋いでてほしいなぁ……だめ?」
「存分に湯たんぽ代わりにしていいぞ」
そんなやりとりが交わされ、祈里と志桜は手を重ねあう。祈里は自分よりも少し冷えた手の感触を確かめながら、彼女の掌を温める役目も悪くないと感じる。
志桜もやさしく、けれども離す気はないと示すようにその手を引いていく。
「向こうの桜も見に行ってみよう!」
「あの石灯籠の方が明るそうだ」
祈里は手を引かれるままに歩みを進め、穏やかな気持ちを覚えた。しかしふと、この居心地の良さに寒気を感じる。
あたたかいと思えば思うほどに、熱が遠くなるような感覚。
――きっと、この先も。
そう考えた刹那、志桜の声が思考を掻き消した。
「祈里ちゃん?」
「……いや。そういえば魔法陣って何色なんだろう?」
僅かに俯いた祈里の様子に気付いた志桜は、どうしたの、と問う。祈里はすぐに顔を上げて何でもないと告げ、さりげなく話題を逸らした。志桜は彼女が抱いた感覚にまでは気付けぬまま、うーん、と考え出す。
「色かぁ……桜の色とか、月の色に似てるかも……って、あれ!」
「ん? 魔方陣だ!」
不意にはっとした志桜が指差した先。其処には淡い月の彩を思わせるような光を纏う魔方陣があった。その向こうから、にゃーん、という猫の鳴き声が聞こえたことでふたりは顔を見合わせた。
寒緋桜の樹の影、揺らめく光。
地上から雪と花を照らす月めいた灯。それが妙に綺麗だと感じながら、少女達は桜と陣が織り成す不思議な光景を暫し見つめる。
そして――俯き咲く寒緋桜の花もまた、ふたりを静かに見下ろしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雅楽代・真珠
【エレル】
もう酔ってるの?
花見だからと言って羽目を外し過ぎないようにね
風呂敷包を如月が開けば
重箱には酒の肴と桜餅に花見団子
甘酒と良い酒を用意させたよ
ぶらざぁではないけれど、まあそうだね
すごいねと口にすれば
如月が空いた者の盃に酒を満たす
僕は甘酒と酒を交互に頂くよ
じゃぁきぃは硬い肉…
柔らかくて甘いものが良いよ
桜餅なんてその最たるものだよ
もちもち
将来?
…僕をいくつだと思っているの
僕は既に完成形だよ
ヨシュカが海賊王になった暁には宝物庫を寝床に貰ってあげる
ロカジは欲張りだから嫁が来ないんだよ
不変を願うのもまた人だね
雪と桜を見上げ
酒の入った盃を掲げよう
桜に
雪に
このひと時は良いものだと思うから
お前たちに
乾杯
エンジ・カラカ
【エレル】
花見ー、酒ー、オハナキレイ。
賢い君、賢い君、花ダヨー。
コレは酒とジャーキーを食べる食べる。
桜を見ながら食べてどうする?
何する?ジャーキー食べる?イイヨー。
桜餅もジャーキーも
どっちも偉い!
酒は水。水は酒。
賢い君もそう言っている。
そうだろ賢い君?
うんうん、そうだよなァ。
雪とサクラのキレイな景色。
景色キレイ、美味い。美味い。
花もイイケド、キレイなモノより美味しいモノ
五人?五匹?
海賊王にそれから完璧
コレはこのままでイイや
うんうん、イイコトイイコト
今が楽しい。桜もキレイ
皆笑顔。
アァ……とーってもイイコトだ。
乾杯ー。
ロカジ・ミナイ
【エレル】
今宵のお花ちゃんはいっそうキレイだこと
一輪一輪のうつくしさに名をつけて、愛でて回りたいくらいだ
まだ酔ってない
大人らしく控えめに、ほどほどのいい場所に陣取ってさ
どこから見たってうつくしいものはうつくしいんだから
そう思うだろう?ブラザー達
酒と美味い肴で友情を育もうじゃないか
今夜も準備がいいねぇ、如月
笑い声は朗らかながら哀愁を纏う
議題は大人の男らしく将来の夢なんてどう?
なるほど、完成形に夢は不要か
海賊王になったら船医で雇ってよ
僕はねぇ、嫁五人
そして桜チップで燻した桜肉ジャーキーを食むんだ
桜を燃やした結果を桜の下に晒す罪悪感はあれど
馬の干し肉と酒に罪はない
しっかり噛み締めて浸るだけよ
乾杯
ヨシュカ・グナイゼナウ
【エレル】
雪も桜もあるなんて、春と冬の良いとこどりみたい
少し寒いけど、用意していただいた甘酒の温かさが心地よく
桜餅とジャーキーを交互に食べると止まりませんね……あまあま、しょっぱい、美味しいです
ジャーキー、ジャーキーは美味しいですし、日持ちもするので偉いです。桜餅も可愛いので偉い
御夫人が五人。五人?それは甲斐性が沢山必要ですねえ
雅楽代さまは大きくならない??
わたしはですね、海賊王になります。ですので、先ずは大きな船を買うのです。大きいの
お酒の香りはなんだか気分がふわふわします、ふふふ
桜のお肉??馬の!
こんな風に、ただ何となく皆でゆるりと過ごす時間というのも素敵だなあ、と思う人形なのでした
乾杯!
●季節に乾杯
寒緋桜の花の下、宴の席は和やかに巡りゆく。
少しばかり夜風が冷たくとも、春の兆しが見える景色を感じれば心も温まる。
一行は大人らしく控えめに、ほどほどのいい場所に陣取っていた。共に腰を下ろしたのは或る一本の寒緋桜の樹の傍。
「花見ー、酒ー、オハナキレイ。賢い君、賢い君、花ダヨー」
「今宵のお花ちゃんはいっそうキレイだこと」
エンジが頭上を振り仰ぎ、ロカジも視線の先の花を見上げた。一輪一輪のうつくしさに名をつけて愛でて回りたいくらいだと語る彼の傍ら、真珠は軽く首を傾げる。
「もう酔ってるの?」
「まだ酔ってない」
「ということは、これから?」
花見だからと言って羽目を外し過ぎないようにね、と告げた真珠は風呂敷包を如月にひらかせる。其処には重箱があり、酒の肴として桜餅と花見団子が入っていた。
「わあ、豪華ですね」
「それと甘酒と良い酒を用意させたよ」
「コレはジャーキーを酒と一緒に食べる食べる」
餅と団子を覗き込むヨシュカに頷き、真珠が飲み物を示す。エンジもつまみを片手に掲げ、如月から酒を受け取った。
ヨシュカも甘酒を注いで貰い、改めて花を見上げる。薄く白い雪が積もった緋色の花は不思議な様相だ。
「雪も桜もあるなんて、春と冬の良いとこどりみたいですね」
季節をふたつ一緒に楽しめることに贅沢さを感じながら、ヨシュカは桜餅に手を伸ばした。ついでにジャーキーも、と願えばエンジが快く答える。
「桜を見ながら食べてどうする? 何する? ジャーキー食べる? イイヨー」
その間に如月がロカジにお酌をしていった。
「今夜も準備がいいねぇ、如月」
どうも、と絡繰人形に礼を告げたロカジは片手に持った盃に月を映す。僅かに揺らぐ水面を見遣ったロカジは軽く酒をあおった。
彼の言葉に恭しく一礼した如月が後方に下がる中、ロカジは皆に語りかける。
「どこから見たってうつくしいものはうつくしいね。そう思うだろう? ブラザー達」
「ぶらざぁではないけれど、まあそうだね」
すごいね、と言葉にした真珠もロカジが見ていた花を見つめた。
花と酒と美味い肴。それで友情を育もうじゃないか、と話すロカジは、真珠には既に酔っているようにしか見えなかった。
けれどもこれだけの花と雪と月があるのならば、景色に酔うのも悪くない。
ヨシュカはふたりの遣り取りを見てから、そっと甘酒を口にした。肌を撫でる風は相変わらず冷たくて寒いけれど、その分だけ甘酒の温かさが心地よく感じられる。
そして、ヨシュカは桜餅を頬張った。それから更にジャーキーを口にすれば、何とも食が進む味わいになる。
「……あまあま、しょっぱい、美味しいです」
交互にひとつずつ食べて甘酒を味わう。こんなに味わい深いものだなんて、と感心しながら甘酒を飲み干したヨシュカ。
其処へ如月がすかさず、空いた盃にお代わりを満たす。
ありがとうございますと丁寧に礼を告げたヨシュカは、真珠にも目を向けた。
「ジャーキー、ジャーキーは美味しいですし、日持ちもするので偉いです。桜餅も可愛いので偉いです。それからお団子も、まるまるもちもちです」
「団子も桜餅もジャーキーも、どれも偉い!」
するとエンジもヨシュカに倣って、交互に肴を味わう戦法を使い出した。真珠はというと甘酒と酒を一杯ずつ味わっていた。
「じゃぁきぃは硬いね……柔らかくて甘いものが良いよ」
これが最たるものだと語り、真珠はもちもちと控えめに桜餅を口にしていく。ロカジはその間に如月に酒を注いで貰い、エンジに笑いかけた。
「良い飲みっぷりだねぇ」
「酒は水。水は酒。賢い君もそう言っている。そうだろ賢い君?」
するとエンジはそんなことを語って盃を空ける。
雪と桜の美しい景色。それは綺麗だが、美味しいものの方が彼を惹きつけて止まない。即ち花より団子というわけだ。
「賢い君、本当に言ってるんですか?」
「言ってなさそうな気もするね」
「うんうん、賢い君。そうだよなァ」
真珠とヨシュカが不思議そうにする中、エンジは賢い君に頷く形で次の酒をどんどん飲んでいく。違いないと同意したロカジは更におかしげに笑った。
その笑い声は朗らかながら哀愁を纏うもので――。ふと思い立ったロカジは皆に大人らしい話題を語ろうと呼び掛けた。
「そうだ、皆。将来の夢ってのはあるのかい?」
「将来?」
「そう、未来にどうなりたいかって浪漫を聞ける機会だと思ってね」
真珠が問い返すとロカジは何度か頷いてみせる。しかし真珠はそのまま頭を振り、語るものはないと話した。
「……僕をいくつだと思っているの。僕は既に完成形だよ」
「雅楽代さまは大きくならない??」
「なるほど、完成形に夢は不要か」
ヨシュカが疑問を抱いて真珠を見つめる最中、ロカジはその言葉に納得する。すると続いてヨシュカが自分の夢を語っていった。
「わたしはですね、海賊王になります。ですので、先ずは大きな船を買うのです」
大きいの、と両手を広げて宣言したヨシュカは本気だ。
そいつはいいと答えたロカジは海賊王になったら船医で雇って欲しいと願った。そんな中、エンジが彼に将来の夢を訪ねる。
「夢、夢、ロカジンは?」
「僕はねぇ、嫁五人」
「五人? 五匹?」
「御夫人が五人。五人? それは甲斐性が沢山必要ですねえ」
ふぅん、と頷くエンジの横で、ヨシュカはすごい夢だと感じているようだ。真珠は其々の話を聞き、感想を言葉にする。
「ヨシュカが海賊王になった暁には宝物庫を寝床に貰ってあげる。けれどロカジは欲張りだから嫁が来ないんだよ、きっとね」
そして、エンジはどうなのだと問うような視線を向けた。
「コレはこのままでイイや」
「不変を願うのもまた人だね」
エンジと真珠の在り方は似ているようで、また違ったものだ。こくこくと首を縦に振るエンジは更にジャーキーを齧り、機嫌よく酒を飲む。
「うんうん、イイコトイイコト」
「十人十色ってのはこのことだね」
ロカジも各自の夢や思いを聞き、酒の肴を食んでいく。
それは桜チップで燻した桜肉ジャーキー。桜の下で桜と名のつくものを味わう心地は随分と良い。僅かな罪悪感はあれど、馬の干し肉と酒に罪はないのだ。
しっかり噛み締めて浸るのは味だけではなく、此処に満ちる空気も一緒に。
いつしか時間は更に巡り、夜が深くなる。
今が楽しい。桜もキレイ。
そして、皆が笑顔でいる。エンジは今という時間を確かめ、心からの言葉を落とす。
「アァ……とーってもイイコトだ」
「そうですね、とても良い時間です」
ヨシュカもこんな風に何となく皆でゆるりと過ごす時が素敵なのだと感じた。ロカジと真珠も静かに視線を交わす。
そうして、彼らは改めて盃を掲げた。
冬と春の彩を見上げて想うのは、ゆっくりと過ぎていくこのひととき。
桜に。
雪に。
そして――。
「お前たちに、乾杯」
「乾杯ー」
「ああ、乾杯しよう」
「はい、乾杯です!」
真珠の声の後にそれぞれの言葉が続けられ、盃が重ねられる。
心地良い音が庭園に響く。
緋色の桜と白い雪は、そんな彼らの楽しげな姿をやさしく穏やかに見守っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と
ここのも見事な桜じゃねぇ
そうそう、そうじゃったね。一年前に夜桜を楽しんで…いろんなとこ一緒にいったり、遊んだり
楽しい一年じゃったよ、きっと今年も色んなことができるじゃろ
友と、ちゃんと呼べる相手はせーちゃんが初めてじゃよ
一番最初の、一番の友じゃね
ふわふわ、おちてきたものを手に捕まえて
桜隠しいうとったね、雪がかぶるの
冬なんか、春なんか……その間、いや両方楽しめるというのはええことかな
……さむ
あったかい飲み物とは、せーちゃんは気がきくの!
ありがたくもらおう
ココアはそんなに飲まんから偶には美味……やっぱ甘いの
このせーちゃん好みのこの甘さには、この先も慣れんじゃろうけどな
筧・清史郎
らんらん(f05366)と
雪を抱いた濃い桜色は珍しくも美しいな
らんらんとは、1年前も共に夜桜を愛でたな
その時は雪は降っておらず、色々と飲み食いしつつの
今と趣きは随分違う花見であったが、とても楽しかったな
そしてあの日以来、沢山の時間を共有してきたからこそ
再び桜咲く季節が巡ってきた今
らんらんとは、良き友人で在れているのだと思う
ああ、俺も最初で一番だ(微笑み
桜は俺には縁深い花だが、桜隠しの雪とは珍しい
そうだな、冬と春を同時に堪能できるのは贅沢かもしれないな
また良い思い出がひとつ増えたと、指先で雪と桜を追いつつ微笑みを
そういえば、温かい飲物を持参したのだが…
らんらんの口に合うだろうか(激甘ホットココア
●甘き春花
桜を覆い隠す雪の色は淡い。
緋色の花を咲かせた寒桜を眺め、嵐吾と清史郎はゆるりと庭園を歩いていく。
「ここのも見事な桜じゃねぇ」
「雪を抱いた濃い桜色は珍しくも美しいな」
桜の庭園の美しさに感心を抱きながら、ふたりは進む。そういえば、と清史郎は丁度一年ほど前を思い起こす。
「らんらんとは、一年前も共に夜桜を愛でたな」
「そうそう、そうじゃったね。一年前に夜桜を楽しんで……」
「今と趣きは随分違う花見であったが、とても楽しかったな」
そのときは今のように雪は降っていなかったが、色々と飲み食いしつつ過ごしたあの時間はとても思い出深い。
「それから、いろんなとこ一緒にいったり、遊んだりしたの」
あの日から続く日々を思いながら、嵐吾はこれまでを懐かしんでいく。数多の場所に共に向かい、その土地々々の景色を眺め、様々な経験をした。
たとえば、学園に教師として潜入したとき。夜の学校をふたりで歩いた時の不思議体験は実に奇妙だった。
のんびりとジェラートを楽しんだ日や、皆で鍋を囲んだ日もあった。
それ以外にも積み重ねた軌跡はたくさんあり、ひとつずつ数えていくのも楽しい。
「思えばもうひととせが巡ったのだな」
「楽しい一年じゃったよ、きっと今年も色んなことができるじゃろ」
清史郎が感慨深そうな言葉を口にすると、嵐吾は片目を緩く細めて微笑む。清史郎も笑みを返し、順繰りに記憶を思い返していく。
あの日以来、共に時間を共有してきた。だからこそ、こうして再び桜咲く季節が巡ってきた今、このように想えるのだろう。
「この一年があったからこそ、らんらんとは、良き友人で在れているのだと思う」
「そうじゃの。友と、ちゃんと呼べる相手はせーちゃんが初めてじゃよ」
一番最初の、一番の友。
嵐吾が迷いなく告げてくれた言葉に双眸を細め、清史郎はそっと頷く。
「ああ、俺も最初で一番だ」
交わす視線と共にふたりの笑みが重なった。
そうして、彼らは桜の樹々が立ち並ぶ庭園の奥に進んでいく。其処では下を向いて咲く寒緋桜がふたりを迎え入れてくれていた。
そのとき、嵐吾の目の前に寒緋桜の花がふわりと落ちてきた。
それを手で捕まえた彼は掌の上で雪がとけていく仄かな感覚を楽しむ。
「おお。桜隠しいうとったね、雪がかぶるの」
桜隠し。
そう呼ばれる、雪を纏う花の光景。縁深い花が冬の象徴にほんのりと隠されている光景を眺め、清史郎は珍しいなと言葉にする。
頷く嵐吾は手の上にある桜花を清史郎に差し出してみる。
「冬なんか、春なんか……その間、いや両方楽しめるというのはええことかな」
「そうだな、冬と春を同時に堪能できるのは贅沢かもしれないな」
また良い思い出がひとつ増えた。
そういって笑んだ清史郎は、嵐吾から寒緋桜の花を受け取った。花首ごと落ちてきた花はまるで逆さに咲く炎のようにも見えた。
指先で僅かに残っていた雪に触れ、清史郎は樹々に咲く桜を見上げる。嵐吾も笑みを深め、彼と同じ樹を眺めていく。
其処へ冷たい夜風が吹き抜け、嵐吾達の頬を撫でていった。
「……さむ」
思わず嵐吾の口から零れ落ちた言葉を聞き、清史郎は飲み物を取り出す。
「そういえば、温かい物を持参したのだが……」
「あったかい飲み物とは、せーちゃんは気がきくの!」
「温いのは温いのだが、これはらんらんの口に合うだろうか」
「む?」
差し出されたのは清史郎好みの激甘ホットココア。少しばかり驚いた嵐吾だが、寒さを温めてくれるものは欲しい。
ありがたくもらおう、と告げて手にしたそれは程よい熱を保っていた。
「ココアはそんなに飲まんから偶には美味……やっぱ甘いの」
「そうだろう。砂糖をたっぷりと入れて――」
これくらい、と示す清史郎の表情は楽しげだ。嵐吾はその砂糖の量に驚きを隠せなかったが、これも彼らしいと感じて緩く笑む。
(このせーちゃん好みの甘さには、この先も慣れんじゃろうけどな)
それでも彼が一番の友だ。
改めて感じた嵐吾はココアをゆっくりと飲み、清史郎を見つめた。その視線に気付いた彼が首を傾げてみせる。
「らんらん?」
「いや、何でもないのじゃよ。ただ楽しいと思っただけじゃ」
「そうか。俺もらんらんといると嬉しくなる」
再び笑みを交わしたふたりは、見事に咲く桜に目を向けていく。此処からまた巡るひととせ。それがどんな日々になるのだろうかと想像しながら――。
きっと去年以上に深く巡るのだと感じて、彼らは花の景色を楽しんだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふわぁ、雪に桜
あれ?もしかして、お月さまが出ていたら雪月花じゃないでしょうか。
ふわぁ、すごいですよ、アヒルさん。
アヒルさん、聞いているんですか?
ふぇ、そうでした。
アヒルさんは儀式の魔方陣を探してくれているんですね。
帽子の上にいるから全然見えなくて、アヒルさん、頑張ってくださいね。
私はアヒルさんが探し物をしているのをバレないように夜桜を楽しんでいます。
そういえば、ときどき帽子の上から聞こえる何かを食べるような音は気のせいでしょうか?
●桜花と帽子とアヒルさん
「ふわぁ、雪に桜です」
桜が咲く庭園の中、フリルは頭上を見上げてみる。
緋色の花が連なる枝の間からは夜空が見えた。其処に浮かんでいる月を見て、フリルは或る言葉を思い出す。
「あれ? もしかして、お月さまが出ているから雪月花じゃないでしょうか」
四季の自然美と呼ばれる代表的なものを集めた綺麗な景色。その光景が今、目の前にあることはとても良いと感じた。
「ふわぁ、すごいですよ、アヒルさん」
フリルは連れているガジェットを呼ぶ。しかし其処から反応はなかった。こてりと首を傾げたフリルは帽子の上にいるアヒルさんをもう一度呼んだ。
「アヒルさん、聞いているんですか?」
其処でフリルははっとする。
どうしてアヒルさんが帽子に乗っているかの理由がちゃんとあった。
「ふぇ、そうでした」
アヒルさんは現在、儀式の魔方陣を探してくれている。帽子の上にいるから全然見えなくて景色に意識を移していたフリルはすっかり忘れていたのだ。
その間もアヒルさんは変わらぬ様子で周囲を警戒してくれていた。
「アヒルさん、頑張ってくださいね」
そっとエールを送ったフリルは密かに拳をぐっと握る。今のフリルの役目は敵に怪しまれないよう、夜桜を楽しむ人として振る舞うことだ。
アヒルさんが探し物をしているのがバレないように、と静かに意気込んだフリルは石畳で舗装された散策路を進んでいく。
だが、ふと気付いた。
「アヒルさん? なにか食べている音が聞こえませんか?」
そう、ときどき帽子の上から聞こえる何かを食べるような音が響いているのだ。されど答えはなく、さくさくという音が聞こえているだけ。
「ふえぇ、もしかして……」
帽子の上でお菓子パーティーが開かれている想像をしながら――おそらく現実にも起こっていることなのだが――フリルはわたわたと慌てた。
こうして実に彼女達らしい、ひとりと一体の花見のひとときが巡っていく。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・カンタレッラ
雪に鮮やかな桜とは、風流だねぇ
なあ、クヴェレ、ゼーヴィント
のんびり花見も悪くない
……ま、それはそれとして目当ても探すんだけどさ
売店で買ったホットコーヒーを飲みながら、竜たちを連れてのんびり散歩でもしようかな
雪でも動物たちは居るからさ、その声でも聴きつつ、ね
野生動物は異質なものには敏感だし、何か情報持ってないかなー
ま、声掛けたらあからさまに探してるみたいで怪しいし、単なる盗み聞きするしかないんだけど
私じゃ入り込みづらい場所は、竜たちの気紛れ装って自由に飛んでって貰うとしよう
【第六感】の導くままに歩くとするよ
でも、景色も綺麗だよな
綺麗に落ちてる桜なんか拾えたら、持って帰って栞にしても良いかも
●行く先の花
「雪に鮮やかな桜とは、風流だねぇ」
なあ、クヴェレ、ゼーヴィント。そういって海竜と翼竜に語りかけたルクスは、のんびりとした花見も悪くないと感じた。
目の前には折り重なって咲く寒緋桜の樹が立ち並ぶ光景が有る。
「……ま、それはそれとして目当ても探すんだけどさ」
ルクスは売店で買ったホットコーヒーを飲みながら、クヴェレとゼーヴィントを連れてのんびりと歩いていく。
「動物たちは居るかもしれないからさ、その声でも聴きつつ、ね」
野生動物は異質なものには敏感だ。
かれらが何かの情報を持っていないかと考えたルクスだが、特にめぼしい情報は手に入らなかった。それもそのはずだ。舗装された石畳や、幾つもの石灯籠があることでルクスは理解する。
人の手が入った庭園で話を聞ける動物を探すのは魔方陣を探すよりも難しい。夜であり雪だということで、昼間に多くいるはずの小鳥も見当たらない。
ちいさな虫などはいるのだろうが、おそらくかれらは異変や寒さを察して身を隠し、見える場所には出てこない。盗み聞きでもしようと思っていたが声も聞こえぬ状態だ。どちらにしろ動物から決定的な情報を得られることはないだろう。
「……自分の力で探していくしかないか」
どんな場合でも他を頼るよりも自分の足や目で確かめることが何よりも確実だ。されど、情報の当てがないからといって何もできなくなったわけではない。
「私じゃ入り込みづらい場所は……そうだね、クヴェレ、ゼーヴィント」
竜達に呼び掛けたルクスは、気紛れを装って自由に飛んでいって欲しいと願う。異変があれば知らせて欲しいと告げ、ルクスは彼らを見送る。
そして、ルクス自身は第六感の導くままに歩いていった。
「でも、景色も綺麗だよな」
ふと行く先の景色を見遣ったルクスは感嘆の息を零す。
雪が薄く積もった緋色の花は美しい。数歩進むと、花首ごと地面に落ちた桜の花が見えた。其処に手を伸ばして拾い上げたルクスは掌の上に花を乗せた。
「持って帰って栞にしても良いかも」
花弁が散っていない様を確かめ、そうしようと決めたルクスはそっと花を見下ろす。
そうしているうちにゼーヴィントがルクスの元に戻ってきた。どうやら何か不思議な場所を見つけたらしい。それが魔方陣であるかは共に確認しに行く必要があるが、ルクスはクヴェレを呼び戻す。
そして、彼女達は庭園の奥へと進んでいった。
大成功
🔵🔵🔵
ユヴェン・ポシェット
自身の仲間の獅子、ロワと共に桜隠しを見て楽しむ。のんびりしっとり。
ロワと2人きりというのは、久しぶりな気がする。
初めは俺達2人だけだったが、ミヌレにタイヴァス、テュットと今では随分賑やかになったよな。
夜桜を見ると不思議な気分になる。陽に透ける花とは違い、繊細で
少し寂しさも感じるが、決して弱々しくなど無い。芯の強さがある気がするな。
しかし…桜隠し、か。初めて目にするが綺麗だな。お前と一緒に見たいと思ったんだ。美しい景色は、誰よりもロワと共有したくなるからな。
ロワ、お前だけは…俺が縛ってしまった。お前に生きて欲しいと俺の勝手な想いで。
それでも、今でも、ずっと俺の側に居続けてくれてありがとう。
●これまでも、これからも
薄く降り積もった雪が花を隠している。
ユヴェンは春の中に冬の様相が入り交じる景色を眺め、獅子のロワと共に庭園を歩いていく。その中でユヴェンはのんびりとした気持ちを覚えていた。
傍らを歩くロワは時折、主を見上げては歩幅を合わせてくれている。
「ロワと二人きりというのは、久しぶりな気がするな」
すぐそばに寄り添ってくれているロワ。その姿を見つめたユヴェンは穏やかな笑みを湛え、語りかけていく。
思い返せばこれまで様々な旅と戦いの軌跡を刻んできた。
「初めは俺達二人だけだったが、ミヌレにタイヴァス、テュットと今では随分賑やかになったよな」
ユヴェンの言葉に答えるようにロワが尾を緩やかに立てる。
まるでその通りだと応えてくれているようだ。ユヴェンは頷き、続けて通り掛かった桜の樹を見上げる。
このような夜桜の景色を見ると不思議な気分になる。
陽に透ける花とは違い、繊細で嫋やかだ。桜という存在は儚さを感じさせるゆえに少しの寂しさもある。だが、決して弱々しくなどない。
「この花には芯の強さがある気がするな」
そうだろう、と話しかけたユヴェンに対してロワはじっと樹を振り仰いでいた。
ロワもまた花を美しいと感じているのだろうか。ふっと笑み、双眸を細めたユヴェンは枝先に手を伸ばす。垂れ下がっていた桜から少しだけ雪を払ってやったのは、花が少しばかり寒そうだったからだ。
「しかし……桜隠し、か」
初めて目にするが花の姿を改めて見つめ、綺麗だと呟く。
美しい景色は誰よりもロワと共有したくなる。お前と一緒に見たいと思ったのだとロワに話すユヴェンは、僅かに遠い目をした。
思い浮かぶのは過去のこと。
「――ロワ」
改めてその名を呼んだユヴェンの声に反応し、獅子が振り返る。
その足元には花首ごと落ちた寒緋桜が落ちていた。それを拾い上げたユヴェンは形を保ったままの花を見つめながら、次の言葉を口にする。
「お前だけは……俺が縛ってしまった。お前に生きて欲しいと俺の勝手な想いで」
敢えて謝罪の言葉は紡がない。
こうして共に居てくれるロワに対して、謝るのは違う気がしたからだ。それゆえにユヴェンは違う言葉を贈る。
「それでも、今でも、ずっと俺の側に居続けてくれてありがとう」
告げたのは感謝。
その声を聴いたロワはユヴェンを見つめて幾度かゆっくりと瞼を瞬かせた。その意思表示を嬉しく思い、ユヴェンは更に笑みを深める。
そんなふたりの様子を、頭上に咲く寒緋桜の花がやさしく見下ろしていた。
大成功
🔵🔵🔵
花剣・耀子
雪の果てが春とはよく言ったものだけれど。
ほんとうに雪が降ることもあるのね。
思考の端に捜し物は置いているけれど、
それよりもそらから降るものに目が向いてしまう。
……まあ、見つかるでしょう。たぶん。
折角なのでお花見を楽しみましょう。
だって滅多に見られないものだもの。
あたたかいカフェオレでゆびさきをあたためながら、
桜隠しの不香の花をながめて、のんびりと。
花はすきよ。
いつか散るとしても、散らすとしても、すき。
同じ花はなくて、見ているあたしも同じではなくとも。
それでもうつくしいと想うこころは、ちょっとだけ永遠なのよ。
ちょっとだけをかさねて、昨日も今日も此処に立っている。
明日も明後日も、よい日だといいわ。
●落つる花
雪の果てには春が咲く。
よくそうは言ったものだけれど――そんなことを考えながら、耀子は桜を見上げた。
「ほんとうに雪が降ることもあるのね」
その視線の先には白い雪化粧をした寒緋桜の花がある。
思考の端に本来の目的である捜し物のことも置いているが、今は目の前の桜が気になっていた。夜風が吹き抜け、花を隠していた雪がふわりと地に落ちる。
それを目で追った耀子はゆっくりと息を吐いた。
空気が僅かに白く染まる。まさに花冷えね、と口にした耀子は暫し雪と花が重なりあう季節の境界を眺めていた。
「……まあ、見つかるでしょう。たぶん」
件の魔方陣は歩いていれば察知できるはず。そのように考えながら耀子はお花見へと意識を向けた。
だって、と呟いた耀子は手にしていたカフェオレの缶を握り締める。
「滅多に見られないものだもの」
缶のあたたかさはゆびさきをあたためてくれた。ひとくち、カフェオレを飲めば身体にも仄かな熱が宿る。
流れていくのは、桜隠しの不香の花をながめて、のんびりと過ごすひととき。
――花は、すき。
耀子はぽつりと心の中で思いを零す。
いつか風に花弁が散るとしても、この剣で散らすとしても、すき。
似ている花々であるけれど、よくみればひとつも同じ花はなくて。見ている自分も同じではなくとも。
「それでもうつくしいと想うこころは、ちょっとだけ永遠なのよ」
そのはずだから、と耀子は歩を進めていく。
石畳の道をゆけばちいさな足音が響いた。夜の空気は冷ややかではあるが静かで、此処が平穏の中にあると錯覚するほどだ。
歩む度に先に進める。
それはこれまでに耀子が刻んできた軌跡と同じ。ずっと前からちょっとだけをかさねて、昨日も今日も此処に立っている。言葉にすればただそれだけのことを、改めて想う。
やがて、耀子は一本の大きな樹の傍に辿り着いた。
そのまま頭上の花に目を向ける。
風を受けて雪と共にぽとり散りゆく花に思うことはあれど、今はこの美しさに浸っていたいとも感じた。花首ごと命を終える寒緋桜は潔い気がする。
落ちた過去に思いを馳せることはせず、耀子はこの先を思った。
「明日も明後日も、よい日だといいわ」
花を散らす嵐はまだ鳴りを潜めている。そうして、少女は暫し花を振り仰ぎ続けた。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
雪と一緒に桜が降る、不思議な光景
まるで冬と春が寄り添う様
僕と櫻が戯れてるようにも思えて嬉しくなった
櫻宵!お誕生日おめでと!
お誕生日はおめでとをするんだ
今日はお祝いの舞台だよ!
僕の春は君と歌と共に
星の番傘の下で
あたたかな、ほとちょこれえとを片手に夜桜のお花見をする
宵に笑う櫻はとても綺麗
僕の作った春色のおににりに、甘い玉子焼き…ぐしゃっとなったけど味は美味しいよ…多分
ういんな、もある
からあげ、も
ヨル、桜雪を食べすぎないで
僕とヨルでつくった、けぇきもあるんだ
ふふ
ちょこのかぷけぇきなんだから!
もっと食べて
食べさせてあげる!
美味しい?
嬉しいな、喜んでくれてる
心に桜が咲いて
満開になる
当たり前だよ!
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
宵の桜が雪隠れ、ロマンチックねぇ
春と冬が出逢って、噫
私達のよう
ころりと落ちる桜は首のようだなんて密やかに笑う
それより魅力的なのは
嬉しげにご機嫌に歌い笑い游ぐ新米座長さんかしら
お誕生日の舞台、素敵ね
ありがとう
生誕の日を祝われるなんて
…私もここにいていいのだと思えるわ
あら!リルがお弁当作ってくれてたの!
朝早くから台所から出てこないから心配してたの
少し不格好な春色おにぎりも焦げた甘い玉子焼きも…どれもとても美味しいわ!
可愛い子が作ってくれたんだもの
ヨルと一緒にケーキまで?
食べるのが勿体ないくらい
じゃあ
あーんしてもらおうかしら?
この幸せがとっても美味しい
生まれてきてよかった
なんて
思ってしまった
●言祝ぐ舞台に咲く櫻
雪と桜。白と紅。
ふたつの季節の彩を重ねた景色が目の前に広がっている。
雪と一緒に桜が降る不思議な光景。それはまるで冬と春が寄り添っているかのようで、リルは自分と彼が戯れている景色みたいだと思った。
「宵の桜が雪隠れ、ロマンチックねぇ」
「僕たちのよう、って言ったらへんかな?」
「噫、私もそう思っていたわ」
別々のものだったふたつが出逢って寄り添う様はまさしくリルと櫻宵そのもの。リルと笑みを交わした櫻宵は、ころりと落ちる桜は首のようだと密やかに思う。
そして、ふたりは或る寒緋桜の下に向かう。
其処で今宵、行うのはお祝い。
「櫻宵! お誕生日おめでと!」
「まぁ、ありがとう」
お誕生日はおめでとをする日。以前に自分の誕生日を祝って貰ったことを思い出し、リルはこのひとときのためにたくさんの用意をしてきた。
「今日はお祝いの舞台だよ!」
――僕の春は君と歌と共に。
そうじゃなきゃ有り得ない。そう言って、リルは普通では有り得ないとされる桜隠しの景色の中で明るく笑った。
星の番傘の下。
あたたかなホットチョコレートを片手に夜桜のお花見がはじまる。
宵に笑う櫻はとても綺麗で、何度眺めても見惚れてしまうほど。リルの気持ちは花より団子ならぬ、花より櫻宵になってしまいそうだ。
櫻宵もリルを見つめ返し、花よりも魅力的な人魚を想う。
「お誕生日の舞台、素敵ね」
嬉しげに、ご機嫌に歌って游ぐ新米座長の姿が麗しい。櫻宵は花の舞台を紡いでくれるリルに淡い視線を向けてもう一度、礼を告げた。
生誕の日を祝われるなんて、と口にした櫻宵は桜を振り仰ぎ、一度だけ眼を閉じる。
「……私もここにいていいのだと思えるわ」
その呟きをリルが拾うことは出来なかった。何故なら、ヨルと一緒に自分達の前にせっせとお弁当を並べていたからだ。
「櫻、これ! 僕の作った春色のおににりと、甘い玉子焼き!」
「あら! リルがお弁当作ってくれてたの!」
広げられたお重にはリル特性の料理が並んでいる。朝早くから台所から出てこない理由を考えて心配していたが、全部がこのためだと解って櫻宵にも笑みが咲く。
「ぐしゃっとなったけど味は美味しいよ」
多分、と付け加えたリルの特製弁当は見た目こそ良くはないが、見るだけでも一生懸命さが伝わってくる。
「他には何があるのかしら」
「ういんな、とね、からあげ、も。頑張ったんだよ!」
ヨルが持ち上げたお重の二段目を覗き込む櫻宵に対し、胸を張って見せたリルは得意げだ。櫻宵はくすりと口元を緩め、春色のおにぎりを手に取った。
三角になっていなくとも可愛いおにぎりに、焦げていても甘い玉子焼き。少しずつ味わうようにひとつずつを口にした櫻宵は、えらかったわね、とリルを褒める。
「うふふ。どれもとても美味しいわ!」
その間にヨルは落ちてきた桜花の雪を啄んでいた。桜雪を食べすぎちゃだめだよ、と告げたリルもおにぎりを食む。
そうして、ふたりと一羽は和やかに過ぎていく時間を楽しんでいく。
「それからね、僕とヨルでつくった、けぇきもあるんだ」
「ヨルと一緒にケーキまで? 噫、食べるのが勿体ないくらいね」
「ふふ、ちょこのかぷけぇきなんだから!」
とっておきのデザートを取り出したリル。全て、自分に喜んで欲しいから用意してくれたものだと知った櫻宵は、頬が更に緩んでいくことを感じていた。
「こんなに準備するの、大変だったでしょう?」
「そんなことないよ。櫻を思ってたらあっという間で……そうだ、食べさせてあげる!」
「じゃあ、あーんしてもらおうかしら?」
「はい、どうぞ」
「きゅ!」
そっと口をあけた櫻宵に向け、リルとヨルがチョコケーキを差し出す。リルは一口ずつ食べやすいように。ヨルはぐいぐいと一個まるごと。
「待って、ヨル。リルも……!」
「きゅきゅ!」
「わあ、ヨル。次は僕にあーんして」
櫻宵は少し困りながらも甘い幸せを受け取り、リルはさっと助け船を出す。おかしそうに笑う声と共に穏やかなひとときが満ちてゆく。
嬉しそうに笑ってくれている櫻宵を見つめ、リルも幸福を感じた。
喜んでくれていることも、一緒に歳をひとつずつ重ねていけることも嬉しい。
心に桜が咲いて満開になる。
あの頃から変わらない。満ちる胸に咲く花だって、さくらだ。
自分だけに向けてくれるリルのとびきりの笑顔を見つめ、櫻宵は美味しい幸せを噛み締めた。ふと零れ落ちたのは心から舞うひとひらの言葉。
「――生まれてきてよかった」
「当たり前だよ!」
自分で紡いだ言の葉にはたとした櫻宵。しかし何かを考える前にリルが真っ直ぐに告げてくれた。産まれてきてくれて、これまで咲いてくれていてありがとう。
そして――これからも共に生きてくれる君に、おめでとうを。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
呉羽・伊織
【白】
コレが浪漫ちっくってヤツだな
あ~…こんな夜にしっとりひっそり逢瀬とか逍遙とかって良いよネ、正に浪漫だよネ
嗚呼、ソレなのに――雪も霞みそーなこの白一色の面子は何
何が悲しくてまたこの天敵狐と…!
余計なお世話は要らないって言ってるだろ!
くっ…心が寒すぎて凍えそう…感傷に浸りたくもなるだろこんなの…
いや、そーだ、オレにはあったかかわいいぴよこがい…つの間に、そんなー!
何だかんだ言いつつも桜隠しを見上げれば、不思議と穏やかな気分になるよーで
――きっと、嗚呼、何かと縁深まる切欠となる花だからだろーか
なんて、口にはしないケド――悔しいケド、顔に出てるんだろう
まぁこんな時間も、悪かない
緩やかに盃交わして
吉城・道明
【白】(ふらりと散策の末、適当に腰を落ち着けて一息)
ああ、何とも穏静で趣深い光景だな
偶には心静かに、こういった風情に浸るのも好いものだ(妙な気配は気になれど――英気を養う為にも、今暫くは)
――と思うのだが、伊織は、そうか
何れ叶うと良いな(いつもの調子の戯れ言に、何とも言えぬ眼差しで)
まぁ今は潔く諦めると良い――これはこれで気楽に過ごせて良かろう
……ぴよこならば、先程から清宵の尻尾に埋まっているようだが
(そんなやりとりを微笑ましく?見守りつつ――月に照る雪と桜を眺めれば、各々の表情を目にすれば、自然とつられるようにして、普段は硬い雰囲気も一層穏やかな色に染まり)
ああ、悪くはない――実に良い一時だ
佳月・清宵
【白】気儘に漫ろ歩き、ゆるりと花見に耽るに良い場所へ――仕事も忘れちゃいねぇが、こういった楽しみを忘れぬ余裕も重要だろう
花見に雪見に月見――これだけ一辺に楽しめるたぁ、実に贅沢で良い
夢現の一夜、報酬としちゃ最高だろう
で?
また独りで暇そうにしてたから
構ってやろうってのに、何だ?
これ程見事な雪化粧纏った別嬪達に囲まれときながら、てめぇこそ白けた面してんじゃねぇよ
この佳景を前に浮かぶ感傷がそれとはどうしようもねぇなぁ?
(くつくつ笑いつつぴよこを撫で)
(適当に戯れつつも、一旦酌み交わし始めれば静かに雪月花の饗宴に耽り――全く分かりやすい事だと、言葉にはせぬも一層笑み深めて)
良い、好い
嗚呼、酒が進むな
●寒空に盃を
緋色を宿す桜の樹の下。
気儘に漫ろ歩き、ゆるりと花見に耽るに良い場所へ――。
ふらりと庭園を散策した末、一行は適当に腰を落ち着けて一息をついていた。
「コレが浪漫ちっくってヤツだな」
「ああ、何とも穏静で趣深い光景だな」
伊織が花を見上げると、道明が静かに頷く。確かに、と答えた清宵も彼らと同様に寒緋桜の景色を見つめた。
寒緋桜は俯いて咲く花だ。
それだけを聞くと昏く儚いものにも思えるが、実際に眺めてみると見上げる人と視線を合わせてくれているようにも感じられる。
「仕事も忘れちゃいねぇが、こういった楽しみを忘れぬ余裕も重要だろう」
「偶には心静かに、こういった風情に浸るのも好いものだな」
清宵は色濃い紅の花に意識を向け、今はこれを楽しもうと呼びかける。道明もそれが良いと同意を示してみせた。
妙な気配は気になれど、英気を養う為にも今暫くはこのままで構わないだろう。清宵は雪月花の景色に双眸を細め、感嘆の息を吐く。
「花見に雪見に月見――これだけ一辺に楽しめるたぁ、実に贅沢で良い」
夢現の一夜、これ報酬とすれば最高だ。
感慨に耽る二人の傍ら、不意に伊織がぽつりと呟いた。
「あ~……こんな夜にしっとりひっそり逢瀬とか逍遙とかって良いよネ」
正に浪漫だと口にした彼は更に言葉を続ける。道明と清宵を横目で見遣った伊織は少しばかり大袈裟に溜息をついた。
「嗚呼、ソレなのに。雪も霞みそーなこの白一色の面子は何。何が悲しくてまたこの天敵狐と……!」
不服そうに喚くのは彼の性か。
道明は首を傾げたが、戯れ言もいつものことだと察して何とも言えぬ眼差しを向けた。
「伊織は、そうか。何れ誰かとの逢瀬が叶うと良いな」
「余計なお世話は要らないって言ってるだろ!」
思春期の少年のように反抗する伊織。すると肩を竦めた清宵が目を向けた。何の文句があるんだと言いたげな視線だ。
「で? また独りで暇そうにしてたから構ってやろうってのに、何だ? てめぇこそ白けた面してんじゃねぇよ」
これ程に見事な雪化粧を纏った別嬪達。それに囲まれときながら、と周囲と自分達を示した清宵は伊織を嗜める。
対する伊織は未だ心寂しいらしく、わなわなと震えていた。
「くっ……心が寒すぎて凍えそう……感傷に浸りたくもなるだろこんなの……」
「この佳景を前に浮かぶ感傷がそれとはどうしようもねぇなぁ?」
清宵はそう感じるならばしょうがないと言わんばかりだ。道明も此処にないものは強請れないと告げ、伊織を見遣った。
「まぁ今は潔く諦めると良い。これはこれで気楽に過ごせて良かろう」
ひとまずは花でも、と勧める道明の傍らで伊織がはっとする。ふと思い至ったのはこの寂しい心を埋めてくれる存在だ。
「いや、そーだ、オレにはあったかかわいいぴよこが……」
「……ぴよこならば、先程から清宵の尻尾に埋まっているようだが」
「い……つの間に、そんなー!」
ぴよこを探そうとした伊織だが、すかさず道明が清宵を指差す。其処には言葉通り、ふんわりとした黒い尻尾に埋まって眠っているぴよこがいた。
清宵はくつくつ笑いつつぴよこを撫でる。
悔しげに肩を落とす伊織。
そんなやりとりを微笑ましく見守りつつ、道明は月に照る雪と桜を眺めていった。
清宵も伊織とぴよこと適当に戯れつつも、酒に手を伸ばす。そうして一旦酌み交わし始めれば、静かな雪月花の饗宴に耽ることが出来た。
伊織も何だかんだ言いつつも桜隠しの光景を見上げる。そうすれば不思議と穏やかな気分になっていった。
(きっと、嗚呼、何かと縁深まる切欠となる花だからだろーか)
(――全く分かりやすい事だ)
二人とも特に言葉にはしなかったが、伊織を見て笑みを深めた清宵は月を見上げた。
道明も各々の表情を目にして、自然とつられるようにして笑む。普段は硬い雰囲気も穏やかな色に染まっていった。
伊織も月と花をじっと見つめ、思う言葉を口にする。
「まぁこんな時間も、悪かない」
「ああ、悪くはない――実に良い一時だ」
「良い、好い」
嗚呼、酒が進む。道明と清宵も伊織の言葉に頷き、緩やかに盃を交わした。
こうして、桜の夜は静かなひとときとなって巡ってゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
冬と春が
桜の濃いピンクと雪の白が混じるお庭
なんてきれい
ララ、いっしょにお花見しましょう
あったかいココアを用意して
庭石かベンチがあればそこにすわって
ララの席はここよ、
とハンカチをしいて水色ウサギのぬいぐるみを置くの
ちゃあんとあなたにも
はい、ココア
今日はサンドイッチも作ってみたわ
イチゴと生クリーム入りのサンドイッチ
うん、おいしい
生クリームは泡立てすぎだし
イチゴの大きさはバラバラだけど……
なかなか自分では作ってもらったようにはいかないわね
そろそろ歩いてみましょうか、ララ
月明かりの雪、桜のピンク
色味はようくおぼえたから
のんびりと
でも違う色を見逃さないように
こんなキレイな所
何がいてもおかしくないわね
●白と緋の境界線
此処はきっと冬と春が出逢った場所。
朝になれば別れることになる季節の境界の景色。それを思えば少し寂しくも思えるが、今はこうして美しい光景が見られる。
緋色の桜のと白い雪が重なる庭園内。ルーシーは咲き誇る花々を見上げた。
「なんてきれい」
零れ落ちた言葉は自然にあふれた思い。
ルーシーは、ララ、と水色ウサギのぬいぐるみに呼び掛ける。いっしょにお花見しましょう、と静かに告げた彼女はゆっくりと歩を進めていく。
腰を下ろしたのはちいさな庭石の上。
途中に座るのにちょうど良いベンチもあったが、ルーシーが敢えてこの場所を選んだのは其処に一本だけ桜の樹がぽつんと立っていたからだ。
他の桜は並び立っているというのにこの樹だけが少し外れている。
「あなたはひとりきりなの? でも、今夜はルーシーとララがいてあげるわ」
だから寂しくないわ、と樹に伝えたルーシーはお花見の準備を整えていく。ララの席はここよ、と言葉にしてハンカチを敷く。
用意していた温かいココアを注いだ少女はララの前にもカップを置いていった。
「ちゃあんとあなたにも」
はい、と告げて片目を細めたルーシーは自分のココアを手に取る。花冷えの寒さが満ちる夜の最中、飲み物の熱が掌を温めてくれた。
ひとくち、ココアを飲めば身体の中もほんのりと温まってくる。
「今日はサンドイッチも作ってみたわ」
イチゴと生クリーム入りのサンドイッチを取り出したルーシーは、自分とララと――そして、桜の樹の前にもそれを置いた。ちょっとしたおすそわけ気分だ。
それから、そのうちのひとつを頬張ってみる。
「うん、おいしい」
生クリームは泡立てすぎでイチゴの大きさはバラバラ。なかなか作ってもらったようにはいかない。それでも、口の中に広がった甘酸っぱさは悪くなかった。
もくもくとサンドイッチを食べていくルーシーを、ぬいぐるみと桜の樹が見守ってくれている。こんな夜も良いものだと感じた少女はちいさく頷く。
ココアを飲み終えたルーシーはもう一枚のハンカチで上品に口元を拭いた。これでお花見は終わり、と言葉にした彼女はそっと立ち上がる。
「そろそろ歩いてみましょうか、ララ。あなたも、またね」
片付けを終えてララを抱き上げたルーシーは、寒緋桜の樹に手を振った。
月明かりの雪、見送ってくれた桜の緋色。
色味はようくおぼえたから、この後はのんびりと庭園を巡っていくだけ。記憶にはない違う色を見逃さないように進む。
「こんなキレイな所。何がいてもおかしくないわね」
美しさの裏に潜む恐ろしさ。
そんな存在を識っているルーシーは行く先に広がっている闇の奥を見て、目を凝らす。そして、其処には――妖しく揺らぐ光があった。
●儀式の魔方陣
庭園に咲く寒緋桜。その花が見下ろす先で異質な光が明滅する。
散策の最中に、探索の先に、或いは偶然に、猟兵達が見つけた呪術的な陣。それこそがこの庭園に作られた儀式の軌跡だ。
不意に花首ごと落ちた桜花が魔方陣の上に落ち、異空間に吸い込まれていった。
そうして、いよいよ戦いの時が訪れる。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『にゃんドラボックス』
|
POW : しゅぱっ(スイッチが奥に引っ込む)
非戦闘行為に没頭している間、自身の【箱の中に引き篭もり、トグル式スイッチ】が【OFFになる。スイッチを引っ込めて】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
SPD : しゅぱっ(音速を超えるスイッチOFF)
レベル分の1秒で【スイッチを瞬時にOFFにする神速の行動】を発射できる。
WIZ : しゅぱっ(しかし箱から伸びてきた手でOFFに)
【スイッチON以外絶対に開かない箱】を披露した指定の全対象に【トグル式スイッチをONにしたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
イラスト:あおくら
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●猫と箱とスイッチと
桜の庭園の至る所に描かれた奇妙な魔方陣。
此処に集った者達は皆各々に儀式の印を見つけた。
夜風によって地に落ちた寒緋桜の花が陣に触れる。その花が瞬く間に何処かに消えてしまったように、陣に入った者は異空間に送られるという。
それぞれに戦いへの思いを抱いた猟兵たちは、魔方陣の中に足を踏み入れる。
刹那、視界が暗転した。
転送された先はそれぞれの特殊空間。
それまで庭園だったはずの周囲の景色は薄暗い闇の空間に変貌した。
ひとりで陣に入ったならば単体で、同行者と一緒に入ったならばそのひとと共に同じ空間に飛ばされているだろう。
周囲が暗闇であっても視界が確保できているのは、足元に広がる巨大な魔方陣が絶えず光っているからだ。
逆さの五芒星の周囲に刻まれた呪術文字。
それらは燃え盛る炎のように赤く、揺らめくような光を放っていた。
そして、その中央には奇妙なオーラを纏う箱がある。
にゃあ。
中から猫の鳴き声が聞こえ、一瞬だけ箱が僅かにひらいた。その隙間から覗いたのは闇に光る猫の目だ。
しかし、箱はすぐに閉まってしまう。おそらく本体は中の猫魔獣だが、箱自体が強靭な耐久力を持っているので力押しだけでは倒せないだろう。
そのうえ、足元の陣上に立っているだけでじわじわと生命力が奪われていく。
戦場である陣の外に出ることは出来ない。
無理に出ようとしても箱――にゃんドラボックスの近くに転送されてしまう。つまり、猟兵達は生命力が奪われきる前に素早く敵を倒さなければならない。
幸いにも猫本体の力は強くない。
箱に付いているトグル式のスイッチをどうにかすれば開くらしいが――?
しかし、にゃんドラボックスも猟兵達を惑わせるような対応を取るだろう。
この状況の中でどのような戦いを挑むのか。如何にして素早く本体を捉え、一撃を叩き込むかが勝利の鍵だ。
そのとき、猫の鳴き声がふたたび異空間内に響き渡った。
――にゃーん。
鏡島・嵐
【星杯】ルベルと
確かにおれも多少は召喚の術は使えるけど、こういう本格的なんは流石に手に負えねえなぁ。
それにしても、じわじわ生きる力を削るとか怖ぇし、趣味悪ィな。
こりゃ確かに、ちんたら攻略してる暇は無さそうだ。
そう言や、ルベルは最近鮫を呼ぶ術を覚えたんだってな。
こんな時に不謹慎かもだけど、すげえ見てえ。
速ぇ! 強ぇ! あと面白ぇ!(目を輝かせて歓喜)
おっと、ちゃんと戦わねえとな。
《幻想虚構・星霊顕現》で吹雪を呼び起こして、ルベルが刀を突っ込んで閉まらねえようにした箱を氷漬けにしてさらに閉じにくくする。勿論刀は凍らせねえよう、細心の注意を払っておく。
猫をいじめるんは気ィ引けるけど、しょうがねえ!
ルベル・ノウフィル
【星杯】嵐殿と
魔術を嗜む者としては呪術文字は興味深いです
そういえば嵐殿も召喚系の能力をお持ちでしたね
猫さんは愛らしい気がしますが仕掛けは意外と殺意が高いっ?
これはのんびり遊んでいる場合ではなさそうです
UC鮫牙をお見せしましょう
依頼にお誘いしたのも、この新技をお見せするためでした
僕の想像する鮫は猫さんより速いのでございます
強化した墨染を素早く蓋の隙間に突っ込んで閉まらないようにしちゃいます
わあ、吹雪でございますね
そんな場合ではないと思いつつ、見惚れてしまいそうになります
墨染、ガブリとやっておしまいなさい
可愛い猫さんでしたが、敵は敵ですし
速く倒さないとこちらが危険ですから
恨みっこなしでございます
●鮫と猫と召喚儀式
踏み入った空間には不可思議な魔力が蠢いていた。
じわじわと体力が吸い取られていくような感覚の中、嵐は口元を押さえる。
「これは……」
「あまり気分の良いものではないですね」
ルベルも生命力が何処かに変換されていると察し、妖しく光る魔方陣を見渡した。中央には箱があり、奇妙にガタゴトと動いている。その間にもじわじわと生きる力が削られていくことが分かり、嵐は身構える。
「こりゃ確かに、ちんたら攻略してる暇は無さそうだ」
「呪術文字は興味深いですが、解読している時間は貰えそうにありません」
嵐もルベルも魔術を扱う者。
それゆえに多少は覚えもあるが、これほどに精巧で呪力に満ちた陣をすぐにどうにかすることは難しい。
「こういう本格的なんは流石に手に負えねえなぁ。それに趣味も悪ィ」
おそらくこの陣はあの箱の魔物を配下としている邪神が施したものだろう。嵐はルベルと頷きあい、ひとまずは自分達が飛ばされた陣の敵を倒そうと決めた。
――にゃーん。
箱の中からは猫の鳴き声が聞こえた。
その瞬間、嵐は無性に箱のトグル式スイッチをONにしたいという衝動に駆られる。
「何だ……?」
「嵐殿?」
「何だか急にあのスイッチを押したくなったんだ」
ルベルがはっとする中、嵐はすぐに正気を取り戻した。どうやら敵の能力に掛かりそうになっていたらしい。今は一瞬だけで済んだが、この空間に長居すると思考が取り憑かれてしまいそうだ。
ルベルに対しても、微かに空いた箱の隙間から敵の眼差しが向けられた。闇に光る猫の目は予想以上に鋭い。
「猫さんは愛らしい気がしますが仕掛けは意外と殺意が高いっ?」
「やっちまおう、ルベル!」
油断ものんびりもしていられないと感じたルベルに嵐が呼び掛ける。そして、二人はそれぞれの力を紡いでいった。
先んじて動いたのはルベルだ。
妖気を纏った黒刀を鞘から抜き放つと同時に、想像された鮫が姿を現した。
「元気いっぱい噛み殺しちゃってください!」
ルベルの呼びかけと共に素早く宙を駆ける最強ノコギリザメ。ルベルがあの箱を貫き、斬り刻むにはそれがいいと想像したゆえのかたちだ。
「速ぇ! 強ぇ! あと面白ぇ!」
箱に襲いかかるノコギリザメを見た嵐は瞳を輝かせていた。歓喜の声をあげながらも、嵐とて攻撃を忘れてはいない。
ふふん、と軽く胸を張ったルベルはこの新技を披露できて少し得意気だ。
嵐も敵から与えられるスイッチへの誘導に耐えながら、幻想虚構の術を紡いでいく。
「頼みました、嵐殿」
「ああ、ちゃんと戦わねえとな!」
ルベルの声を受けて嵐が紡いだのは激しい吹雪。
されど、閉まった箱は吹雪も鮫の一撃も通さない。これではどうやってもダメージが与えられないだろう。一度、何とかして蓋を開かなければならない。
「……そうか!」
嵐は敵から齎される衝動に敢えて逆らわないことを決めた。
自分だけならば蓋はすぐさま閉められてしまうだろう。だが、今は共に戦うルベルがいる。視線で合図を告げた嵐は一気に、にゃんドラボックスとの距離を詰める。
にゃん。
どうせすぐ閉まるよ、とでも嘲笑うような鳴き声が箱の中から聞こえたが、嵐は動じずにスイッチに手を伸ばす。
刹那、カチリという音と共に箱が一瞬だけひらいた。
普通ならばそのまま閉じてしまう箱だが、瞬時に鮫が其処へ突撃する。
「僕の想像する鮫は猫さんより速いのでございます」
鋸が箱の間を貫いた瞬間、ルベルが墨染を素早く蓋の隙間に突っ込んだ。嵐は其処へもう一度吹雪を叩き込み、蓋を氷漬けにした。
「僕の墨染と……」
「おれの星霊の力で!」
二人の声が重なり、そして――更なる言の葉が落とされる。
「ガブリとやっておしまいなさい」
「二度と動けなくしてやる!」
次の瞬間、鮫の力と刃の閃き、更に凍てつく魔力が内部のにゃんこを一気に貫いた。にゃああん、という断末魔が響いたかと思うとボックスが真っ二つに割れる。
それによって嵐とルベルの周囲に満ちていた魔力が弱まった。生命を吸い取る力も先程よりは収まっているようだ。
「猫をいじめるんは気ィ進まなかったけど、しょうがねえよな!」
「可愛い猫さんでしたが、敵は敵ですからね」
ふっと息を吐いた嵐に頷きを返したルベルは消えていく猫と箱を見下ろす。陣の中には他の敵の気配はなく、二人はこの場での勝利を確信する。
「恨みっこなしでございます」
口元に人差し指を当て、消滅したにゃんドラボックスを見送ったルベル。
それに倣って嵐も敵の最期を見遣り、ひとまずの安堵を覚えた。魔方陣の外には未だ出られないらしいが、あちこちで戦いの気配がする。
おそらくは他の仲間達が勝利を収めれば次の展開に進むだろう。
それまでは周囲の警戒を怠らないでおこうと決め、二人は背中合わせに立った。
「この調子で首魁だってやつも倒せればいいな」
「はい、気を引き締めて参りましょう」
今も明滅する魔方陣は妖しい。何が起こるかも未知数だ。
互いの背を守りあう嵐とルベル。二人は互いに信頼を寄せあい、邪神との次なる戦いへの思いを強めてゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニィエン・バハムート
※アドリブ・連携歓迎
魔法陣での転送が終わったと思った瞬間に【先制攻撃】【属性攻撃】【マヒ攻撃】の電撃を周囲一帯に【範囲攻撃】ですの!
そしてその電撃を最初の瞬間から途切れさせることなく自分を【鼓舞】して放電し続けますの!生命力を削られながら放電し続けるのは荒業もいいところでしょうけど、そこは【限界突破】してみせますわ!
敵は力を使う瞬間には例え一瞬だろうともスイッチを押すために出てこなくてはならないはず…最初の瞬間から周囲一帯を覆う電撃を出し続けていればスイッチを押すスピードがどれだけ速かろうと必ず捉えられますわ!
根比べですの!
●雷撃と刹那の刻
陣に入れば敵がいると解っている。
それゆえにニィエンは魔法陣での転送が終わったと思った瞬間に力を紡いでいた。
「雷霆万鈞! 先手必勝ですの!」
突入した時点では中にどんな仕掛けや空間が待ち受けているか分からなかったが、敵に妙なことを行われるよりは先制攻撃をした方が良い。
そう考えたニィエンが放ったのは麻痺の力を込めた電撃魔法。周囲一帯にその力を解き放った彼女は敵影すら確認していない。暗闇に無軌道な雷撃が疾走る。
だが、ニィエンにとってはそれで構わなかった。
敵がどの位置に居ようが関係ない。我武者羅に思える行動も、この場では最善手。
「どこにいようとも逃しませんわ」
ニィエンは電撃を途切れさせることなく放っていく。
にゃんドラボックスには放電攻撃が効いていなかった。敵は箱から出ない限りは無敵であり、何の衝撃も受けない。されど、それも把握済みのことだ。
決して電撃攻撃をやめない。
連続で力を放ち続ければいずれ疲弊してしまうと理解しているが、己を鼓舞してひたすらに放電し続けた。生命力を削られながら放電し続けるのは苦しい。しかし、ニィエンの此度の戦い方はこれだ。
「これしき、限界突破してみせますわ!」
限界を超えた彼女は耐え忍ぶ。本来ならば余力もあるだろう。しかし、陣の中ではじわじわと生命力が削られていた。
それゆえにかなりの疲労感を味わっているが、まだ膝を付くほどではない。
敵は力を使う瞬間に、たとえ一瞬だろうともスイッチを押すために出てこなくてはならないはずだ。つまり、この膨大な連続攻撃はその瞬間だけを狙うためのもの。
一瞬がいつであるのかニィエンには計りきれないからこそ絶えず続ける。
それが彼女の完璧な作戦だ。
最初の瞬間から周囲一帯を覆う電撃を出し続けていればスイッチを押すスピードがどれだけ速かろうと、必ず捉えられる。
「根比べですの!」
激しい電撃が迸る中、ニィエンは覚悟を決めていた。
そして、その十数秒後。
「ぎにゃあッ!」
激しい鳴き声が響き、箱がぱたりと音を立てて倒れる。中の猫が出てきた瞬間に電撃に当たり、見事に焼き焦がされたようだ。
「……はぁ、はっ……私の勝ち……ですわね……」
ニィエンは其処ではじめて力の放出を止めた。
息を整えながら顔を上げた彼女は、消滅していくにゃんドラボックスを見つめる。
かなりの荒業ではあった。されど敵は倒れている。此処に存在している揺るぎない勝利を確かめ、ニィエンはそっと口元を緩めた。
成功
🔵🔵🔴
メンカル・プルモーサ
……なるほど、箱に付いてるスイッチをどうにかしないといけないけど猫が邪魔をする…しかもその猫が素早いと来たか…
…それならば……【開けてはならぬ玩具箱】により開けた手を捕獲する罠付きの箱をにゃんどらボックスの目の前に設置…
…そしてONにしたい感情に耐えて箱の前でじりじりと待機…
…猫が好奇心に撒けて箱を開けた瞬間にカウンターの勢いでスイッチをONにするよ…
…箱を開けたら手を捕獲されてる猫に氷の術式で一撃を見舞ってしまおう…
……なかなか手強い猫だったけど…猫だけに好奇心には勝てなかったみたいだね…
●匣と箱
「……なるほど」
魔方陣が妖しく光る特殊空間の中、メンカルは頷いた。
この状況は一目でよく分かる。箱に付いているスイッチをどうにかしないといけないのだが、中に入っている猫が邪魔をするらしい。箱にさえ入っていれば無敵だというのに、相手は此方を嘲笑うような行動で煽ってくる。
「……しかもその猫が素早いと来たか……」
ぱかぱかと箱の蓋自体は空いているが、速すぎて目で捉えるのがやっとだ。
其処に通常の攻撃を仕掛けることは難度が高いと分析できた。
「……それならば……」
メンカルは敵を見つめ、己の力を発動させる。
開けてはならぬ玩具箱――パンドラズ・トイボックス。
「戯れの箱よ、誘え、導け、汝は悪戯、汝は欺瞞。魔女が望むは開けて魂消る玉手箱」
其処に『危険! 開けるな!』と書かれた罠付きの箱が現れる。その罠とは、開けた手を捕獲するものだ。
実によく似た名を持つ箱がにゃんドラボックスの目の前に設置される。
メンカル自身は敵の箱を開けたい感情に耐え、ふたつの箱の前で待機した。じりじりとした緊張感が走る。
沈黙。双方とも暫し動かない。
その間にも蠢く魔方陣がメンカルの生命力をじわじわと吸い取っていくが、動じてはいけないと理解している。
(……猫が好奇心に負けて箱を開けた瞬間――)
それが好機だと踏んでいるメンカルはじっと耐えた。そして、次の瞬間。
しゅぱっと猫の手が箱から飛び出す。
刹那、メンカルがカウンターの勢いでスイッチに触れた。
一瞬だけあらわになる箱の中身。其処にいる猫の手が捕獲されたことを確かめ、メンカルは氷の術式を一気に叩き込んだ。一撃を見舞われた猫は断末魔を残して倒れる。
「……なかなか手強い猫だったけど」
気付けば随分と生命力を吸われてしまっていたが、メンカルは体勢を立て直した。
眼鏡を軽く掛け直し、消えていくボックスを見遣った彼女は幾度か瞼を瞬かせる。そして、静かな勝利の言葉を落とした。
「猫だけに好奇心には勝てなかったみたいだね……」
成功
🔵🔵🔴
ロニ・グィー
んもー
せっかく楽しんでたのになにするさー
あれ?ああ、そうだったそうだった今日はこっちが本題だったね
わん!
わんわんわん!
ばうばう!
と鳴いて匣を叩いたり持ち上げて叩き付けたりがじがじとかじったりしてみようかな
え、それじゃダメ?んもー
じゃあ文字通りの猫撫で声で猫の鳴き真似の演技をしようかな
猫っていうのはどんなにすました顔をしてても他の猫の声が気になってしょうがない生き物だからね
それで、顔を見せるか出てきたスイッチをオンにしたところで機先を制して手頃なサイズの凶暴なドリルボールを幾つかぽいぽいっと匣の中に投げ込むよ
猫が死んでるかどうかは開けてみないと分からない、だっけ
じゃあこれ、誰か開けてみる?
●シュレーディンガーの匣
陣の内部に入れば、瞬く間に暗転する視界。
美しい夜桜の景色から真っ暗な中に光る魔方陣の上に転送され、ロニは肩を落とす。
「んもー、せっかく楽しんでたのになにするさー」
折角の楽しい夜だったのに、と口にしたロニだが、すぐにはっとした。
よく思い返せば夜桜はおまけみたいなもの。
「あれ? ああ、そうだったそうだった今日はこっちが本題だったね」
気を取り直したロニは身構え、魔方陣の中央に置かれているボックスに目を向けた。その中からは猫の鳴き声が響いてきている。
それなら、と思い立ったロニは箱に向かって身構え、息を吸った。
そして――。
「わん! わんわんわん!」
「ニャアアア!」
多くは猫の天敵とされる犬のように鳴く。すると中から猫の威嚇する声が聞こえた。ロニはそのまま匣をばしばしと叩いたり持ち上げて叩き付けたり、がじがじとかじったりして何とか匣ごと猫を何とかしようと試みる。
「ばうばう!」
「フシャアア!」
激しい鳴き声合戦が空間内で繰り広げられた。
だが、このままでは埒が明かないことも解ってしまう。
「え、それじゃダメ?」
もー、と面倒そうに匣を地面におろしたロニは次の策を考える。押して駄目なら引いてみるのみ。ロニは文字通りの猫撫で声で、鳴き真似の演技をはじめた。
「にゃーあ」
「……にゃ?」
「うにゃあ」
「にゃう」
先程とは違う、そんな遣り取りが匣の外と中で続いていく。
猫というものはどんなにすました顔をしていても他の猫の声が気になって仕方がない生き物。それがロニの知っている猫というものだ。
狙うのはただ一瞬。
匣の蓋の隙間から顔を見せた時がロニの勝負所。ちらりと猫がロニを見るために箱を開けた、一瞬後。ロニは手頃なサイズの汎用球体型掘削機械――ドリルボールを幾つかぽいぽいと匣の中に投げ込んだ。
猫が慌てて引っ込もうとしたが、時既に遅し。
「これでどう?」
「――! ッ!?」
閉まった匣。それと同時に中から激しい物音に掻き消された猫の声めいた叫びと、何かを削り取る恐ろしい音が響いた。
やがてそれは徐々に収まり、ガタガタと動いていた箱が静まった。ロニはその様子を眺めながら、ふと思い立つ。
「猫が死んでるかどうかは開けてみないと分からない、だっけ」
開けてみようかと考えたロニだったが、ふるふると首を横に振った。件の思考実験とは違い、そんなことは確かめなくても分かっている。
そうしてロニは匣から興味を失い、明滅する魔方陣の外に視線を向けた。
大成功
🔵🔵🔵
樹神・桜雪
中から可愛い鳴き声が聞こえる。きっと中にいるのはもふもふさんだね。
一回薙刀で思いきり殴って見るけど、箱の硬さに思わず顔をしかめる。ついでに手も痛い。
なるほど、力押しはダメ、だね。
さてどうしようか。あのスイッチをカチっとすれば良さそうなんだけど。カチっとしちゃおうか。誘惑のままに。
スイッチをオンにすると、オフにしようとするんだね。ふむふむ。
箱から伸びる可愛い手には、UCで対処。ぺちっとお札を貼ってスイッチをオフにするの阻止してみる。
上手く行ったら、中のもふもふさんを引きずり出すね。
可愛くて全力でもふりたいんだけど、ボクの体力がキツいし相棒以外の動物をもふったら相棒に怒られちゃうんだ。ごめんね。
●ぽちっとねこのこ
――にゃーん。
転送された魔方陣の中、妖しい光の中央に箱が見えた。
その中から可愛い鳴き声が聞こえてくることに気付き、桜雪は少し表情を緩める。
「きっと中にいるのはもふもふさんだね」
しかし、中身が猫だからといって安心できるわけではない。気を引き締めた桜雪は薙刀を握り、刃を大きく掲げた。
まずは一閃。
風を切る鋭い音が響いた刹那、透き通った桃色の刃が箱を貫く――ように思えた。されど刃は強固な護りによって弾き返され、重い衝撃が跳ね返ってくる。
手の痛み以外に被害らしい被害はないが、この感覚によって箱自体に攻撃をしても無駄だということがよく分かった。顔をしかめた桜雪は刃を下ろす。
「なるほど、力押しはダメ、だね」
さて、どうしようか。
そういって箱をじっと見つめた桜雪は箱のスイッチに意識を向けた。
簡単に考えればあのトグルをどうにかすればいい。それにあの鳴き声を聞くと、無性にスイッチを動かしたくなる。
「あのスイッチをカチっとすれば良さそうなんだけど……」
カチっとしちゃおう。そうしよう。
誘惑のままに手を伸ばした桜雪はスイッチをオンにする。そのとき、しゅぱっと猫の手が出てきてあっという間にスイッチをオフにしてしまった。
「速い……。でもわかったよ、ふむふむ」
急がず焦らず、桜雪はこの状況を確かめていく。
じわじわと魔方陣の効力によって生命力が奪われているが、すぐにどうにかなってしまうものではない。猫の動きはとても速いものの、此方が気を張っていれば目で追える程度だ。それならば試行錯誤していけば起点は作れるはず。
「えいっ」
桜雪はもう一度、カチリとスイッチを動かす。次の瞬間、スイッチがオフにされる。
えい。かち。
にゃーん。ぽち。
それを何度も何度も繰り返す中、桜雪は或る一瞬を捉えた。
「――今だ」
箱から伸びる可愛い手にぺちっとお札を貼る。すると瞬く間に七縛の符が敵の動きを制し、スイッチがオフにされる行動が阻止された。
桜雪は今こそ攻勢に入るときだと感じ、一気に猫を掴んで引きずり出した。
「かわいい猫さんだ」
「にゃ、にゃああ」
「全力でもふりたいんだけどね。ボクの体力がキツいし、それに相棒以外の動物をもふったら相棒に怒られちゃうんだ。だから――」
猫が悲痛な声を出したが桜雪は容赦などしない。魔物であることで扱いは丁寧ではなくてもいいと判断した桜雪は猫を空中に思いっきり放り投げた。
そして、構えた華桜で持って鋭い一閃を宙に放つ。
刹那、猫の影が真っ二つに裂ける。そのまま地に落ちた猫は消え去り、空いたままだった箱もいつしか消滅した。
「ごめんね」
時間をかけた分だけ桜雪も消耗してしまったが、まだ立っていられる。
次は首魁だとして顔をあげた彼は、華桜の柄を強く握りしめた。
大成功
🔵🔵🔵
ミフェット・マザーグース
ティエル(f01244)、不用意にスイッチ押したら危ないよっ
……え? スイッチ戻すだけ?
あっ、でも、なんだか、からだが重くなってる、かも……
SPDで判定
ティエルがスイッチを押すより早くスイッチを戻しちゃうネコの手
UCだから追いつけないんだ!
UC【一人ぼっちの影あそびの歌】
「楽器演奏」と「歌唱」でUCを模倣して打ち消すよ
♪
にゃーん ネコさんハコの中 スイッチ押さなきゃ開かない
スイッチ押してオープンボックス
にゃーん ネコの手ハコの外 スイッチかちりと戻しちゃう
何度押してもダメだから、ネコの手だって借りたいな
にゃーん ネコの手 スイッチ押して
カチリと戻してまた押して ネコの手どうしでカチカチカチリ!
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
友達のミフェット(f09867)と一緒だよ♪
見つけた魔方陣に飛び込んだらヘンテコな空間に!
あっ、ミフェット見て見て!あんなところに変な箱が置いてあるよ!
むむむー、この中のにゃんこを倒さないとダメなんだよね?
ひらけごまーとスイッチをぽちっとな!でもにゃんこにすぐに閉じられちゃった!
ミフェットが代わりにスイッチ押してくれて、
にゃんこがミフェットとのスイッチONOFFに夢中になっている間にこっそり隠れて攻撃のチャンスを窺うよ!
にゃんにゃんにゃんにゃんとタイミングを取って、腕を伸ばしてきたところを【妖精の見えざる一刺し】で突き刺しちゃうよ♪
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●猫と歌と一閃
桜の景色の向こう側。
ふたりで見つけた魔方陣に飛び込めば、そこはとってもヘンテコな空間だった。
「あっ、ミフェット見て見て!」
「ティエル、待って」
「あんなところに変な箱が置いてあるよ!」
妖しく光る陣の中、見えた箱に向かって飛んでいくティエル。その後ろを追っていくミフェットは、危ないよ、と呼び掛けた。
しかし、そのときには既にティエルはおもいきり箱のスイッチをオンにしていた。
「ひらけごまー! ぽちっとな!」
「にゃん!」
するとものすごい速度で猫の手がしゅぱっと動いて箱を閉めた。一瞬だけびくっと身体を震わせたミフェットは驚いて口元に手を当てる。
「……え? スイッチ戻すだけ?」
「むむむー、この中のにゃんこを倒さないとダメみたいなのに! にゃんこにすぐに閉じられちゃった!」
ミフェットが拍子抜けする中、ティエルは翅をぱたぱたさせて空中で悔しげにしていた。だが、そのとき――。
「あっ、でも、なんだか、からだが重くなってる、かも……」
「本当だ。はやくしないとボクたち、邪神に力を吸われちゃうんだね」
自分達の身体から生命力がじわじわと奪われていると気付き、ミフェットとティエルはしっかりと頷きあう。
箱には魔力が纏わりついており、通常の攻撃ではびくともしないだろう。
「ティエル、スイッチはまかせて」
「わかったよ!」
ミフェットは考えがあるといって箱に近付き、スイッチをカチリと押す。しかし中の猫はすぐに手を出してスイッチをオフにする。
更にミフェットがもう一度スイッチに触れるが、またまた高速で閉められた。
だが、それもふたりの作戦のうち。スイッチオンオフ攻防に敵が気を取られている間にティエルはさっと身を翻し、気配を消す。
彼女の動きを確かめながら、ミフェットは自らに宿る力を顕現させていく。
スイッチを押すより早くスイッチを戻してしまうようになっているのは猫がユーベルコードを用いているからだ。
それならば、こっちも同じ力で対抗していくのみ。
(ミフェット、お願い!)
そっと心の中で呼び掛けたティエルはミフェットの歌が始まっていく様を見守る。そして、口をひらいた彼女は影あそびの歌を紡いでいく。
♪
にゃーん ネコさんハコの中 スイッチ押さなきゃ開かない
スイッチ押してオープンボックス
にゃーん ネコの手ハコの外 スイッチかちりと戻しちゃう
「にゃーん!」
ミフェットがにゃんにゃか歌うと、箱の中から猫の声が響いた。一緒に歌っているのだろうか。それが妙におかしくて可愛らしいと思ってしまったティエルだが、今はぐっと笑うのを堪えて機会を窺う。
その間も、ミフェットは更なる歌を奏でていった。
♪
何度押してもダメだから、ネコの手だって借りたいな
にゃーん ネコの手 スイッチ押して
カチリと戻してまた押して――
「にゃんにゃあーん」
ミフェットの声と共に、にゃんドラボックスが声を上げている。その瞬間を狙い、ミフェットはスイッチをオンにした。
♪
ネコの手どうしでカチカチカチリ!
「今だ! 狙った場所は外さないぞー☆」
刹那、風鳴りのレイピアを構えたティエルが一気ににゃんドラボックスに突撃する。はっとした猫は蓋を閉めようとするが、ミフェットの歌はユーベルコードだ。動きを封じられてしまったにゃんドラボックスは蓋を閉められず――。
「この一撃で決めるよ!」
狙い澄ましたティエルの一撃が猫を串刺しにした。にゃぁん、という悲痛な鳴き声があがったかと思うと猫がぱたりと倒れる。
「やったね、ティエル」
「ミフェットのおかげだよ☆」
見事に敵を倒したふたりは、自分ひとりでは出来なかったのだと違いを称えた。
少しばかり生命力は吸われているが、このまま首魁との戦いに向かうのもふたり一緒ならば大丈夫だと思えた。
やがてボックスは消え去り、魔方陣の向こうが妖しく揺らめいた。
その奥に潜む何かの気配をひしひしと感じ取りながら、ミフェットとティエルは更なる戦いへの思いを抱いていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
波狼・拓哉
おや…この幻想的な光景に魅かれたのですかね
まあ、それにしては結構殺意高い仕掛けですけど。…理には適ってますけどねぇ。正直面倒ってのが居の先にきます
まあ、ぼやいても始まりませんので…えーっと、このタイプはスイッチ押したら開くんでしたっけ、それじゃ第六感で適当にONに入れて(O、OFF)…予想の三倍くらい早いのですが?
やっぱり面倒です。がまあ、幻想的なさくらがくしを見ちゃいましたし…頑張りましょう。ONにしたらすぐOFFになるということはどっかで見てるんでしょう。化け咲きなー
最悪スイッチ前に置いとけばOFFにしに来る時は嫌でも目に入るでしょう
五感奪ったらこっちのもんです。後は適当に処理しましょう
●桜の先の猫
「おや……この幻想的な光景に魅かれたのですかね」
魔方陣を仕掛けたという邪神の配下を見遣り、拓哉は特殊空間を見渡す。
暗闇の中にぼんやりと浮かびあがる光。それは妖しく、いかにもな雰囲気だ。その感覚が正しいと示すように、空間の中には生命力を吸い取る仕掛けが施されている。
「まあ、それにしては結構殺意高い仕掛けですけど。……理には適ってますけどねぇ。正直、面倒ってのが先にきます」
拓哉は魔方陣の中央に置かれている箱に目を向けた。
――にゃーん。
中からは猫の鳴き声がする。そして、箱の表面にはスイッチらしきトグルと『スイッチ押すな』という張り紙があった。
「まあ、ぼやいても始まりませんので……えーっと、このタイプはスイッチ押したら開くんでしたっけ」
それじゃあ、と拓哉は第六感で適当にスイッチをオンに入れる。
だが、オンのオの字が入ったであろう物凄い瞬間にオフにされた。え、という声が思わず零れ落ちる。
「……予想の三倍くらい速いのですが?」
しゅぱっと手を出した猫は恐ろしく素早い。これでは普通にスイッチをオンにして引き摺り出すというのは難しいだろう。
その間も、にゃん、という鳴き声が箱内から響いていた。
「やっぱり面倒ですが……まあ、幻想的な桜隠しを見ちゃいましたからね」
頑張りましょう、と自分に言い聞かせた拓哉。それでも彼がにゃんドラボックスと向かい合う視線は真剣だ。そうして拓哉は周囲の様子を窺う。
「オンにしたらすぐオフになるということはどっかで見てるんでしょうか? ……いえ、違いますね。中で感知してるだけですか」
箱と自分と魔方陣。
それを見比べて確かめた拓哉はそう判断する。しかし、箱が開く瞬間にふたつの瞳が見えた。それならば此方のものだ。そして、拓哉は花見のときには出せなかったミミックを傍に召喚した。
「さあ、化け咲きなミミック」
その声と共に小さな花群に化けたミミックが箱の猫の五感を奪い取る。同時に拓哉がスイッチをオンにしたことにより、箱の猫はまんまと策に掛かった。
「さて、後は適当に処理しましょう」
動けなくなった猫をどうにかするのは簡単だ。これで完了です、と口にした拓哉は勝利を確信した。
そうして、猫を葬った拓哉は魔方陣の外に視線を向ける。
其処に別の存在が待ち受けていることを感じ取り、彼は静かに身構え直した。
大成功
🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
にゃんどらぼっくす……?
普通の箱では無いのは分かりますが、中に居るのは猫型の魔獣ですか
それにこの魔法陣……少しずつですが体力を奪われています
一筋縄ではいかないようですね
倫太郎殿、お気をつけて
魔法陣に通用するか分からずとも体力の消耗を抑える為、呪詛耐性
隙さえあれば、隠れる暇もなく仕掛けられるのですが
相手が猫で性質も同じであれば気を引くものを使うのも手ですね
倫太郎殿、我が家の猫達が好きな玩具と言えば何でしょうか……
私の髪、確かに以前ねこかふぇにてじゃれる猫が居りました
では倫太郎殿、私の髪を思う存分お使いください
猫が出てきた瞬間に早業の抜刀術『静風』
間合いの関係ない斬撃ならば、届くはず
篝・倫太郎
【華禱】
ねこ……
ねこだったけど、引き籠もった……
うーん?やっぱ気のせいじゃ無く
生命力吸われてるよなぁ……
この魔方陣に生命力吸収とか逆にしたら補えないかな?
ムリだと思う?
俺自身もダメ元だけど呪詛耐性で消耗抑えながら
箱の周囲をぐるぐる観察して回る
ウチの猫共の好きな玩具……
猫じゃらし的なのとか鼠のぬいぐるみ辺りじゃないか?
猫じゃらしもぬいぐるみもないけど
代わりになるもんならあるじゃん
猫の宿に居たハチワレを思い出しつつ
夜彦の髪を指で示して
箱にちょっかい掛ける役目は俺
ちょっかい掛けられた猫がしゅぱ!っと動く時に
夜彦の髪で気を引く
箱に隙間が出来たら華焔刀の刃先を突っ込んで
隙間に拘束術の鎖も捻じ込む
にゃーん
●髪にじゃれ猫
――にゃーん。
その鳴き声と共に一度だけ箱の蓋がひらき、双眼がきらりと光った。
「これが、にゃんどらぼっくす……?」
「ねこ……ねこだったけど、引き籠もった……」
夜彦と倫太郎は瞼を瞬かせ、不思議な空間と光景にちいさな驚きを見せる。
確かに普通の箱ではないいのは分かる。内部に潜んでいるのが猫型の魔獣であることも確認できた。それ以外には何もなく、ただ陣が明滅しているだけだ。
夜彦は周囲を見渡し、己と倫太郎の周りに渦巻いている妙な気配を示す。
「この魔法陣……少しずつですが体力を奪われていますね」
「うーん? やっぱ気のせいじゃ無く生命力吸われてるよなぁ。この魔方陣に生命力吸収とか逆にしたら補えないかな?」
ムリだと思うか、と倫太郎が夜彦に問いかける。
すると彼は首を横に振った。
「一筋縄ではいかないようですね。倫太郎殿、お気をつけて」
陣に生命力が溜められているわけではないので、吸い取り返すことは難しいようだ。おそらく力はこの奥に控えているであろう邪神に注がれている。現時点で邪神に接触することは叶わないので、吸収できる相手といえばにゃんドラボックスだけだ。
されど猫も箱に引き籠もっている。
倫太郎の身を案じながら、夜彦は呪詛耐性の力を巡らせた。
魔法陣に通用するか分からずとも、少しでも体力の消耗を抑える為だ。同様に倫太郎もダメ元で、と己の耐性に意識を向ける。
「こういうときってダメ元よりも真剣にやりゃいいのか?」
「どうでしょう。隙さえあれば、隠れる暇もなく仕掛けられるのですが……」
倫太郎が問う中、夜彦はにゃんドラボックスを見つめる。倫太郎も箱の周囲をぐるぐる観察して回り、解決策を探す。
相手は物理的な攻撃はしてこない。それゆえに急な命の危険に晒されることはないのだが、生命力が奪われている現状は時間との勝負だ。
そして、夜彦はふと思い立った。相手が猫の形であるのならば性質も似ているかもしれない。猫の気を引くものを使うのも手だと告げ、夜彦は提案する。
「倫太郎殿、我が家の猫達が好きな玩具と言えば何でしょうか」
「ウチの猫共の好きな玩具……猫じゃらしとか鼠のぬいぐるみ辺りじゃないか?」
「いけませんね、どちらも持ってきていません」
倫太郎が答えてくれたが、生憎と夜彦達にその用意はない。肩を落とした夜彦に対して倫太郎はニッと笑ってみせる。
「いや、代わりになるもんならあるじゃん」
猫の宿に居たハチワレを思い出しつつ、倫太郎は夜彦の髪を指で示した。はたとした夜彦も以前に猫カフェでじゃれる猫のことに思い至った。
そうして、夜彦は髪を彼に向ける。
「では倫太郎殿、私の髪を思う存分お使いください」
「わかった! 箱にちょっかい掛ける役目は俺!」
快く頷いた倫太郎はにゃんドラボックスと夜彦を交互に見遣った。そして、髪にじゃれつかせる作戦が幕をあける。
ちょっかいを掛けられた猫が、しゅぱっと動いた刹那。
倫太郎は夜彦の髪で気を引く。
その瞬間、倫太郎が箱の隙間に華焔刀の刃先を突っ込もうとして――。
「痛っ、痛いです倫太郎殿!」
「え!?」
触れていた指先や猫の爪に髪が絡まっていたらしい。ごめん、と告げた彼が何とか髪から手を離そうとする。しかしどうやらにゃんドラボックスも目の前の光景と爪が引っかかったことに驚いたらしく目を見開いていた。
夜彦はそれが好機だと感じ、早業の抜刀術で以て敵を切り裂く。
間合いの関係ない斬撃ならば届くはずだ。そう考えた刹那、倫太郎は拘束術の鎖を捩じ込む。両方の行動は難しかったが二手目は成功した。
にゃーん。
切り裂かれて拘束された猫は断末魔をあげながら、その場に倒れ伏した。
「終わったな」
「ええ、少し予想外ではありましたが……」
「あんた、髪は大丈夫だったか?」
「問題ありません。それよりも倫太郎殿、力は……?」
互いを心配しあう二人は、先程よりも生命力の吸われ方が緩やかになっていることに気が付いた。きっとにゃんドラボックスを倒したことで陣の力が弱まったのだろう。
しかし、まだ戦いは終わっていない。
それぞれに得物を構え直した彼らは魔方陣の外に意識を向ける。
その先に倒すべき敵がいるのだと感じ、夜彦と倫太郎は次の戦いを思った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルクス・カンタレッラ
え、何コレめっちゃ猫
……何かこういう感じの玩具あるよな、あれはこんなに異様に俊敏じゃないけど
どうすっかな、あれ開けなきゃいけないんだろ?
猫ならラファルとカルムで興味引いて誘き出せないかなー、あの子ら魚型悪魔だし
生態まで猫とは限らないけど、まあやるだけやるくらいのノリで試してみるか
ついでに、箱の周辺でクヴェレとゼーヴィントは待機
箱が開いたら隙間に爪でも何でも挟んで鍵が閉まらないようにしてくれ、蓋押さえるでも良いからさ
私は【第六感】で敵の動きを読んで、【先制攻撃】でスイッチでも狙ってみるとするか
体力がヤバそうなら、クヴェレに乗せて貰って空中に一時避難も考えるか
空中が対象外かは試してみないとだが
●猫と深海
「え、何コレめっちゃ猫」
魔方陣に転送された先、聞こえた鳴き声。
ルクスは思わずそんな感想を言葉にしてしまい、妙に可笑しくなってしまった。
「……何かこういう感じの玩具あるよな」
確か機械仕掛けの貯金箱だか何かだったか。あれはこんなに異様に俊敏じゃないけど、と呟いたルクスは暫し考え込む。
「どうすっかな、あれ開けなきゃいけないんだろ?」
猫は本当に素早い。スイッチを普通に開けるだけではすぐに閉められて終わりだ。ならば、と思い立ったルクスは傍に双子の悪魔を呼ぶ。
「猫なら魚が隙かな。ラファル、カルム。興味引いて誘き出せないかな」
加速と停滞を司る悪魔達。
気高き海の娘らは自分達を餌にでもするのかという態度を見せた。猫の好物は魚だと考えた主の思考を感じ取ったらしい。
だが、いつまでも此処にいれば魔方陣の力でルクスの生命力が奪い取られてしまう。背に腹は代えられないとして、魚型悪魔達は箱のまわりをくるくると泳いだ。
「生態まで猫とは限らないけどね、まあやるだけやるくらいのノリで」
その間にルクスは次の手に出る。
箱の周辺にクヴェレとゼーヴィントを待機させたルクス。彼女の狙いは、箱が開いたら隙間に爪などを挟んで鍵が閉まらないようにすることだ。
「頼むよ、蓋を押さえるくらいでも良いからさ」
だが、待てど暮らせど猫は出てこない。
じわじわとルクスにトグル式スイッチをONにしたいという感情が与えられている程度だ。魚達は猫の気を引くような明確な行動を指示されておらず、そのうえで竜達が箱の横で待ち構えているとなれば敵は出て来たくなくなるだろう。
つまりは時間だけが流れていく。
其処でルクスは気付いた。敵が物理的な攻撃をしてこないのは、この魔方陣に此方を長く留まらせるためだ。スイッチを押したいという感情を与えることで使命を忘れさせ、その間に生命力を奪うという戦法なのだろう。
「これじゃいけないね。クヴェレ、背に乗せて貰えるかな」
ルクスが願うと海竜が応えた。
更に彼女はソーダ水の雨を降らせることで、戦場を深海領域へと変えていく。されどその間もじわじわと力が削られていっている。
「駄目か……? ん?」
しかしそのとき、箱がぱかりと空いた。おそらく深海状態にしたことで水が苦手な猫が驚き、箱から飛び出してきたのだろう。偶然ではあるがこれは好機だ。
はっとしたルクスはゼーヴィントに呼びかけ、攻撃を願った。猫は慌てて箱に戻ろうとしたが翼竜の一閃によって貫かれる。
「何とか倒せたか。こう見ると可愛いんだけどね」
ルクスはクヴェレから下り、消えていくにゃんドラボックスを見下ろした。
随分と力が削られてしまったが、未だ戦えるだろう。魔方陣の力が僅かに弱まったことを確かめながら、ルクスは周囲を警戒していった。
成功
🔵🔵🔴
榎本・英
【春嵐】
にゃー?
嗚呼。その箱の奥で光る目はまさしく、猫だ。
猫は狭い所が好きらしい
住処にするには丁度良い場所なのだろうね
さて、このスイッチを押せば良いのだね
あれ?
確かにスイッチは押したのだが
もう一度押し、猫?
今、猫が。
気を取り直してもう一度押してみよう。
猫?君は邪魔をするのが好きなのかい?
……なゆ?
嗚呼。君もやってくれ。
女性の方が猫も――引っ込んだね
此処は協力をしよう
私がこの猫じゃらしで引きつけておく
その間に押してくれるかい
猫は動く物に反応すると聞く
猫、猫、猫じゃらしさ。
欲しいかい。ほら、動く尾だよ。
この尾はネズミかもしれないね。
さあ、おいで。ネズミの尾だよ。
蘭・七結
【春嵐】
にゃあ。……にゃあ、?
生きものの声がする
にゃあと鳴く声は、確か
嗚呼、ネコ
この中にいるのかしら
ふたつの硝子玉が見える
キレイな瞳をしているのね
狭い場所がお好きなのかしら
普段はあまり触れ合うことのない生きもの
かわいらしい姿に頬が緩むよう
眼前にて繰り返される行為
あなたが押して、押されて
もう一度押して、押されて
…………ふっ
ふ、ふふ。……嗚呼、つい
微笑ましい光景に笑み止まず
なゆも押してみようかしら
手を伸ばすと奥へと入ってしまう
これは随分と手強いでしょうね
なゆは催眠の香を添えましょう
“あなたはネコじゃらしに夢中になる”、わ
ほら。ゆらめく尾が見えるでしょう
存分に遊んでいてちょうだい
その間に終いとするわ
●硝子玉の瞳
昏い世界に明滅する光。
静まり返った空間は夜と呼ぶには深すぎて、ひとつ以外は何の気配もしない。
「にゃー?」
「にゃあ。……にゃあ、?」
英と七結は殆ど同時に猫めいた声を言葉にする。その理由は、妖しい魔方陣の中央に置かれている匣から聞こえた声を真似たからだ。
そのとき、僅かに空いた匣の隙間から一対の赤い光が見えた。
「その箱の奥で光る目はまさしく、」
「にゃあと鳴くこんな声は、確か、」
――嗚呼、ネコ。
互いの声が重なり、英と七結はそっと顔を見合わせる。その通りだね、と答えた英に七結は頷きを返した。
「この中にいるのかしら」
「猫は狭い所が好きらしい。住処にするには丁度良い場所なのだろうね」
七結が覗き込もうとするとふたつの硝子玉はすごい速さで匣に引っ込んだ。キレイな瞳をしているのね、なんて声をかける暇もなく閉じこもってしまったようだ。
同時に、カチリと中から鍵が閉じられたような音がした。
しかし匣の外にもスイッチらしきトグルがある。英はボックスに纏わりつく魔力めいたものを感じ取っていたが、それそのものは危害がないと判断する。
七結も本当に厄介なのは足元の陣に宿る力だと感じていた。徐々にではあるが、ゆっくりと自分達の力が吸い取られている。
微々たるものとはいえ、いつまでもこのまま此処に留まっていれば何れは戦う力まで奪い去られてしまうだろう。
英は匣に手を伸ばし、トグルを静かに下ろす。
「さて、このスイッチを押せば良いのだね。……あれ?」
確かにスイッチは押したというのに、カチカチという変な音がした。力が弱かっただろうかと首を傾げた英は屈み込んだまま、再びそれを押す。
「もう一度押し――」
「にゃん」
「おや、猫?」
スイッチはどうしてもオンにならない。物凄い速さで捉えきれなかったが、一瞬だけ匣がひらいて黒い毛並みが見えた気がする。
「ネコ?」
「今、猫が……」
七結が英の後ろから匣を覗き込んだ。しかし蓋は閉じきったまま。気を取り直して、英は更にもう一度ボタンを押してみた。
カチカチ、カチリ。ひらいて閉じる。カチリ、カチカチ。閉じてはひらく。
其処に響く猫の鳴き声。
「にゃん!」
「猫? 君は邪魔をするのが好きなのかい?」
たとえるならば堂々巡りの押し問答。
眼前で繰り返される行為を眺めていた七結の双眸が次第に緩んでいく。
あなたが押して、押されて。もう一度押して、押されて。それを見ていた七結は思わず、声をあげて笑っていた。
「…………ふっ」
「……なゆ?」
「ふ、ふふ。……嗚呼、つい」
此処が戦場であることを忘れてしまうほど微笑ましい光景だった。少しばかり怪訝な視線が英から向けられたが、七結の笑みは止まない。
英は肩を落とし、匣の前を彼女に譲った。
「君もやってくれ」
「ええ。……ネコ、こんにちは」
七結は先程に英がそうしていたように匣の傍に屈む。まずは匣を指先で何度か軽く叩いて反応を見てみる。にゃ、と小さな声が聞こえただけで何も起こらなかった。
そして、ボタンに触れる。すると一瞬だけ蓋が空いた。
「ほら、女性の方が猫も――」
英が七結に任せてよかった、と語ろうとする前に匣はまた閉じる。
「引っ込んだね」
「引っ込んでしまったのね」
また声が揃い、七結の口元にふたたび笑みが宿った。英は頬を掻き、どうしたものかと項垂れる。そんな彼の様子も猫に負けずにかわいらしい気がした。
しかし、このままでは埒が明かない。
「これは随分と手強いでしょうね」
「よし、此処は協力をしよう。私がこの猫じゃらしで引きつけておく」
「わかったわ。ふたりで一緒に、ね」
名付けて、英が惹きつける間に七結がボタンを押す作戦。そのままだが、きっとひとりずつよりは成果も出るはず。
猫は動く物に反応すると聞くのだと告げ、英は匣の前でぱたぱたと玩具を揺らす。
「猫、猫、猫じゃらしさ。欲しいかい。ほら、動く尾だよ」
この尾はネズミかもしれないね。
そんな風に語る彼の傍、七結はふわりと笑む。其処に添えたのは催眠の香。
――あなたはネコじゃらしに夢中になる。
そう、匣を閉めるのも忘れてしまうほどに。ゆらり、揺らめく英の手と猫じゃらし。惑わせる香がボックスを満たし、そして――。
「にゃーん」
「さあ、おいで」
「いらっしゃい、存分に遊んでいてちょうだい」
猫が顔を出し、猫じゃらしに手を伸ばした刹那。七結によって夢現の傾慕の猛毒が齎され、英が左手に構えていた鋏が敵であるそれを斬り裂いた。
勝敗は一瞬。
断末魔すら残さずに倒れた猫はゆっくりと目を閉じる。硝子玉のようだと思った瞳をじっくり見ることは叶わなかった。
七結は普段はあまり触れ合うことのない生きものに手を伸ばす。やっと触れられたというのに。生きるものとしての熱を失った姿にはもう、頬は緩まない。
「儚いのね」
「生きものとはそんなものなのだよ」
尤も、それはただの魔物であり獣だったのだけれど。七結が静かに言葉にした声にそう答え、英は刃を仕舞い込んだ。
魔方陣の向こう側には邪神が待っているのだろう。
その先に待つ別の気配に意識を向けながらも、彼らは消えゆく匣と猫を見送った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エンジ・カラカ
【エレル】
猫、ライバル。
ヨシュカは猫得意。
ロカジンは猫苦手。
ココはヨシュカにやってもらおうそうしよう。
箱の中カラこっちを見下す猫。
アイツ、鼻で笑ってる笑ってる。ライバル……。
拷問器具の賢い君。
賢い君、賢い君、あいつを糸でぐるぐるに……ダメ???
アァ……小さい生き物には優しく……。ウン。
箱の中を覗いて猫を取り出すのもダメ?
アァ……ウン……。
普通にボタン押す。押す。押せない。
コレは、何も出来ない……。
ロカジンもヨシュカもボタン、はい。
コレは猫より賢い。
こっそり箱の中に賢い君の毒を入れて、動きを鈍くさせよう。
コレならボタンも押せる押せる。
ロカジ・ミナイ
【エレル】
ヒッ
…ねこがいるのかい!?ヒィィ
(箱に入ってりゃいないも同然)と呪いみたいに唱えるけど
あぁ!ねぇ今見えた!?小馬鹿にしてたよ!
僕らは小さい生き物に優しくしなきゃなんねぇが
アイツらは大きい生き物にこれっぽっちも優しくないんだから
絶対引っ掻かれるよぉ!気を付けてエンジくん!
二人がボタンと格闘する様子をちょっと離れたところで
指の隙間からチラ見して見守る
ヨシュカ、そっとだよ
こっち飛んで来ないようにしておくれよ
そうそう、毒で動きを鈍らせてね、いいね、いいよ賢い君
エレル製薬特製高級マタタビ、使うかい?
ああ、そんなことしたら、出てきて、
イヤァァァこっち来るな!シッシ!
妖刀をぶんぶん振り回して撃退
ヨシュカ・グナイゼナウ
【エレル】
ううん、変な空間ですね。体が怠くなるような、皆さま大丈夫ですか?
猫?猫がいる?あの箱が……あ!今ちらっと見えました!
成る程箱入り猫
そういえば以前伺いましたね、猫が苦手と
大丈夫です、これは箱に入っているので。いないも同然です!……駄目?
うんうん、そうですね。小さい生き物に優しくすべきです。流石賢い君は優しいです。えらい
ああ、でも倒さないといけませんね
ボタンを押してもすぐ閉まる……困りました
ボタンを押して、隙間から入ったエンジさまの毒で鈍くなったなら
【動物と話す】と【彗啓】を発動。全力で【おびき寄せ】を成功させて
ほらー特製マタタビですよー
あ!出てきました!今です!ロカジさま!頑張れ!
●スイッチにゃんこ大作戦
暗闇に満ちた空間の最中、聞こえた猫の鳴き声。
其処に重なるように、ヒッという声が魔方陣の上に響いた。
「ねこがいるのかい!?」
慄いているのはロカジだ。辺りを見渡し、中央の箱から鳴き声が聞こえたと察する。対するヨシュカは箱に猫がいると分かったことで、そわそわとしはじめた。
「猫? 猫がいる? あの箱が……あ! 今ちらっと見えました!」
「ヒィィ! あぁ! ねぇ今見えた!? 小馬鹿にしてたよ!」
ヨシュカの声と同時にひらいた箱の隙間から猫の眼がきらりと光る。
箱入り猫に妙に怯えるロカジの様子に気付き、ヨシュカは成程と軽く手を打つ。そういえば以前に猫が苦手だと聞いていた。
「大丈夫です、これは箱に入っているので。いないも同然です! ……駄目?」
「……ねこはいない、いない」
ロカジはヨシュカの提案に頷き、箱に入ってりゃいないも同然、と呪いのように唱えていく。エンジはそんな二人を見比べながら、にゃんドラボックスへの印象を口にした。
「猫、ライバル」
ヨシュカは猫が得意でロカジは猫が苦手。此処はヨシュカにやって貰うのが道理ではないだろうか。そのように決めたエンジは軽く身構える。その間にも一行の生命力は足元の魔方陣によってじわじわと吸い取られていた。
「それにしても変な空間ですね。体が怠くなるような、皆さま大丈夫ですか?」
「何とかね。それよりねこだよ、ねこ」
「コレ、平気。猫をなんとかしよう、そうしよう」
魔方陣による違和感は拭い去れないが、今は何よりも敵を倒すべきだ。ロカジンのためにも、と呟いたエンジはぐっと気合を入れている様子。
此処から彼らの対猫合戦がはじまっていく。
そのとき、再び箱から声が響いた。
にゃーん。
声は可愛らしくも恐ろしい。何だか箱の中からこちらを見下しているようだ。
「アイツ、鼻で笑ってる笑ってる。ライバル……」
「僕らは小さい生き物に優しくしなきゃなんねぇが、アイツらは大きい生き物にこれっぽっちも優しくないんだからね」
「うんうん、そうですね。小さい生き物に優しくすべきです。でも……」
あれは紛れもない魔物。
それぞれの猫に対する思いを言葉にした三人は、あの強固な箱から猫を取り出す方法を試してゆく。ひとまず猫が苦手ではないヨシュカがボックスについているトグル式のスイッチをえいっと押してみる。
カチリ。カチカチ。
「あっ、ボタンを押してもすぐ閉まる……困りました」
なんと高速で飛び出した猫の手がしゅぱっとスイッチをオフにしてしまった。ヨシュカの心にスイッチをなんとしてでもオンにしたいという気持ちが巡ったが、これも敵による誘惑の力なのだろう。
カチ、カチカチ。カチッと何度か攻防が繰り広げられた。
されどこれでは堂々巡りだ。猫の手があまりにも高速なので隙も見つけ辛い。それならば、とエンジは拷問器具の賢い君に願う。
「賢い君、賢い君、あいつを糸でぐるぐるに……」
「絶対引っ掻かれるよぉ! 気を付けてエンジくん!」
構えたエンジの後ろ、ヨシュカの影に隠れている(隠れられていない)ロカジが注意と応援が入り混じった声を出す。
「あれ、ダメ???」
しかし、賢い君は動かなかった。先程の生き物への配慮を重んじているようだ。
「流石賢い君は優しいです。えらい」
「アァ……小さい生き物には優しく……。ウン」
「でも倒さないといけませんね」
これはどうしたものか。悩み出すエンジとヨシュカの後ろで、ロカジはいつ猫が顔を出すかと戦慄している。ついには掌で顔を覆い、見たくはないと現実逃避をはじめている始末だが指の間からちらちらと箱を見てしまっている。二律背反だ。
エンジは自分でもカチカチとスイッチを押す。
「箱の中を覗いて猫を取り出すのもダメ?」
「こうなったらひたすらスイッチ攻撃です」
「ヨシュカ、エンジ、そっとだよ、こっち飛んで来ないようにしておくれよ」
「アァ……ウン……。戻る……コレは、何も出来ない……」
だが、結果は著しくなかった。怯えるロカジ。奮闘するヨシュカとエンジ。それを嘲笑うように、にゃんにゃんと鳴いている猫。
箱と猫と三人の姿は傍から見ればとても和やかだ。
されどこれも戦い。
ひとりだけ緊張感を抱き続けていたロカジは恐る恐る、或る提案をする。
「エレル製薬特製高級マタタビ、使うかい?」
「それはいい案です!」
「ロカジン、気前良い良い。コレもこうして、ああする」
ヨシュカが頷いて賛同する。そして、エンジもこっそり箱の中に賢い君の毒を入れて動きを鈍くさせる案を二人に告げた。
ロカジはマタタビをヨシュカに渡し、箱から数歩離れる。
「そうそう、毒で動きを鈍らせてね、いいね、いいよ賢い君」
「ではボタン押しはお任せください。ほらー特製マタタビですよー」
ヨシュカの瞳に刻まれた十字が煌めき、誘う声が紡がれた。そして、再びひらいた箱の隙間――其処にエンジの賢い君による毒が注がれる。
それはたった一瞬のこと。
箱はまた閉まったが、内部に入り込んだ毒が猫を苦しめた。ギニャアという声と共に箱の中でどたばたと猫が暴れ、蓋が大きく開く。
「あ! 出てきました!」
「ロカジンの方に飛んだ、飛んだ」
飛び出した猫は箱の前にいるヨシュカとエンジを避けるようにジャンプした。その先にいるのは猫と接触したくない筆頭のロカジだ。何という運命の皮肉だろうか。
「イヤァァァこっち来るな! シッシ!」
ロカジは普段よりも数倍のスピードで妖刀を抜き放ち、毒に苦しんで暴れる猫に刃を向けた。その太刀筋は無軌道かつ混乱が混じったものだったが、猫もロカジも必死だ。
「今です! ロカジさま! 頑張れ!」
「フレー、フレー」
ヨシュカはロカジが決着を付けてくれると信じ、エンジも星マークの旗をぱたぱたと振って応援に回る。
「助け、待ってよ、ねえ! ニヤアァァァァ!」
「フシャアア!! マーオ! マーーーオ!!」
爪と妖刀で斬りあうひとりと一匹。その攻防は激しく、後に箱猫の乱と呼ばれたとか呼ばれなかったとかで――。
暫し後、猫を見事に斬ったロカジはその場に膝をついていた。
「ロカジン、お見事。コレも感動した」
「真っ白に……燃え尽きてしまいましたね」
敵を倒したロカジを見守るエンジとヨシュカはその健闘を称える。当のロカジはというと疲労と達成感と後なんだかよくわからない感情を抱えていた。
しかし、これは皆で掴んだ勝利だ。
敵を倒したことで魔方陣の力も弱まっており、この外に出ることも可能になった。
「猫が終わったら、次は?」
「どうやら向こうに誰かいるようだね」
「気を引き締めて行きましょう」
エンジが軽く首を傾げ、気を取り直したロカジが立ち上がる。そして、ヨシュカが陣の外をじっと見つめる。
この先に進むも戻るも仲間と一緒に。
淡く明滅する魔方陣の上、一行はそれぞれに頷きを交わした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユルグ・オルド
f05760/ヨシノリと
一緒に届けてくれんのは親切ネ
あんまり楽しい場所でもなさそうだ
ははァ、猫。ねこ?
なンで箱が好きなの
んふふ、分かんねェの
可笑しな話と矯めつ眇めつ傾げつつ
押すなッつったら押すだろ
押しかけるも飛び出る猫に
思わず手ェ引っ込めて
次ぐ無言の応酬見遣ったなら
……遊んでんの?
まァ猫好きならイイけどさあ
いや好きかどうかは知らないケドも
真綿が首絞めるよと陣の縁をなぞって
いっそ箱ごと壊せないかななンて
面倒になって考え始めるころに
お。作戦立ててくれたの
勿論、いらえて別れは済んだかい
問うが早いがシャシュカ振り抜いて
やらせてから聞く?
酷いこと言うな、なんて笑って
やっぱりそう思ったのかはしらないケドさ
鹿忍・由紀
ユルグ/f09129と
今度はつまんない殺風景だ
二人なら仕事も早く終わるかな
…猫、に見えるよね
箱に入るのが好きなとこまで猫みたい
そういえば、なんで好きなんだろう
姿は猫でもはっきり割り切って
情に引かれるなどしないけど
罠ではないのかな
警戒しつつ反応を見ながら続いて押す
伸びてくる猫の手を見て
無言のままに何度かの応酬
なに、遊んでほしいの?
好きか否かは、さあ、どうかな、なんて
ああ、これゆっくりしてちゃダメなやつか
身体の怠さに溜息ひとつ
動きを大体把握して予想立て
一発で仕留めてくれる?
言葉を投げかけ、開く瞬間を磔で固定
猫を射抜く瞳に哀れみは無く
もう充分遊んだでしょ、と見届ければ
嫌な役だった?
問うのも悪びれなく
●刹那の閃
夜桜の景色は一変した。
二人が立っているのは妖しい魔方陣が光るだけの暗い空間。由紀は自分達が陣の中に囚われているのだと察し、ユルグは中央に置かれた箱の存在を気取る。
「今度はつまんない殺風景だ」
「あんまり楽しい場所でもなさそうだ」
二人なら仕事も早く終わるかな、と口にした由紀にユルグは頷いてみせた。
そのとき、箱から鳴き声が響く。
にゃーん。
「ははァ、猫。ねこ?」
「……猫、に見えるよね。箱に入るのが好きなとこまで猫みたい」
そちらに目を向けた二人が見たのは僅かにひらいた箱の隙間から見えた猫の眼。どうやらあれが倒すべき存在だと理解した彼らは軽く身構えた。
「なンで箱が好きなの」
「そういえば、なんで好きなんだろう」
「んふふ、分かんねェの」
その際にユルグが問うと由紀は首を傾げる。可笑しな話だと矯めつ眇めつ、ユルグは敵の出方を窺った。
相手は物理的な攻撃は行ってこない。
だが、その代わりに足元の魔方陣が二人の生命力をゆっくりと吸い取っていく。対する箱に苦戦させておいて力を奪う魂胆の仕掛けなのだろう。
敵の姿は猫。
それでもはっきりと割り切って、情に引かれなどしないと由紀は心に決める。
見据える箱には『スイッチ押すな』という張り紙があった。ユルグはふっと薄く笑い、動かぬ箱に手を伸ばす。
「押すなッつったら押すだろ……っと」
そういって押しかけるも飛び出る猫。思わず手を引っ込めたユルグの傍ら、由紀は警戒を緩めぬままスイッチに触れた。
「罠ではないのかな。あれ?」
しゅぱっと飛び出す猫の手。オンにしたはずのボタンが一瞬でオフになる。
由紀はさほど表情を変えぬまま、もう一度トグルに触れた。しかしまた同じことが起こった。だが、彼はまたスイッチを押す。
「……」
「にゃ」
「…………」
「にゃん」
そんな応酬が何度も繰り返される様をユルグは可笑しそうに見守っていた。
「……遊んでんの?」
「なに、遊んでほしいの?」
顔をあげた由紀はユルグを見上げる。いいや、と首を振ったユルグには由紀が猫と戯れているように見えていた。これもまた一興かと考えたユルグは緩く息を吐く。
「まァ猫好きならイイけどさあ」
「さあ、どうかな」
軽い遣り取りが交わされる中、二人は自分達の身体に巡る違和を覚えた。じわじわとではあるが力が奪い取られている。
「ああ、これゆっくりしてちゃダメなやつか」
「真綿で首を絞められるってのはこういうことネ」
由紀が身体の怠さに溜息をひとつ零せば、ユルグも納得する。今は平気でも、いずれは立てなくなる程に疲弊してしまうだろう。
ユルグは陣の縁をなぞり、いっそ箱ごと壊せないかと考える。そうして面倒になって考え始めるころ、由紀が或る提案を投げかけた。
「戯れるのも終わりにしよう」
「お。作戦立ててくれたの」
それは自分が箱を開けて固定するから、ユルグに猫を狙って欲しいという作戦だ。
「一発で仕留めてくれる?」
勿論、といらえたユルグは由紀を見遣る。
「別れは済んだかい」
そして、問うが早いがユルグはシャシュカを振り抜いた。そして、次の瞬間――スイッチを押した由紀が猫が出てきた瞬間に力を発動させる。
それは視線の先の空間を固定する磔の能力だ。
「にゃあ!?」
猫が自分の手が引っ込められないことに驚きの声をあげる。そんな猫を射抜く由紀の瞳に哀れみや同情は映っていない。
「もう充分遊んだでしょ」
そういって由紀が告げた刹那、ユルグの剣閃が猫を貫いた。斬り裂かれた毛並みが暗い空間に散り、断末魔めいた鳴き声が二人の耳に届く。
その一撃によって戦いは終わった。
由紀は呆気ない猫の最期を見届け、ユルグはシャシュカを鞘に収める。
「嫌な役だった?」
彼を見遣った由紀はふと問いかけた。対するユルグは悪びれていない様子の由紀へと逆に問いを投げ掛ける。
「やらせてから聞く?」
酷いこと言うな、と笑ったユルグは猫を始末したことへの思いは告げなかった。やっぱりそう思ったのかはしらないけれど、なんてことも言葉にはしない。
そう、と告げて視線を返した由紀は立ち上がる。見れば、足元の魔方陣の力は少しばかり弱まったようだ。陣の外にも出られるようになっているらしい。
「行こう」
「そうネ、後は首魁だけかな」
そうして二人は並び立ち、歩を進めていく。
暗闇の先。其処には綺麗な景色はなんて無いだろうけれど――現実世界で咲く美しい花のもとに帰るために、彼らは次なる戦いの場を目指す。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
彩波・いちご
【恋華荘】
猫箱……シュレディンガーの猫、空けないと生きてる家臣得るかわからないってやつですかねー?
いえまぁ、これは生きてて、しかもけっこう嫌な事してくるわけですけど…
とりあえず、閉じこもっていられなくしてやれば、顔を出して戦えるでしょうかね?
具体的には、蒸し焼きになるくらい温めてあげれば!
理緒さんとも合わせて、私は【異界の深焔】の炎であぶってやりましょう
生きた炎は箱に纏わりついて燃え続けますよ
少しでも顔を出したら、そのまま中に入り込んで燃やしちゃいますっ
好奇心猫を焦がす、ですかね?
って、理緒さん、どういう意味ですかそれー?!
責めたりとかしませんよぅ?!
とか言いながら抱きつかないでっ?!(真っ赤
菫宮・理緒
【恋華荘】
名前は可愛いけどやってることはなかなかだね。
絶対防御しながら、じわじわ養分にしていくとか、けっこうエグい。
でも向こうがそんな感じなら、
こっちもそれなりにいっちゃってもいいよね。
いちごさんの【異界の深焔】にあわせて、わたしも【Nimrud lens】を使って、
箱の周囲を熱して、できれば蒸し焼き。
そこまでできなくても、温度変化と炎の音とかを気にして、
猫が顔を出してくれればおっけーかな。
蓋があいたら、すかさず焼き猫にしてあげちゃうよ。
『好奇心は猫を殺す』っていうし、その通りにしてあげちゃおう。
ゆっくり責められるのは。いちごさんにだけで十分だしっ。
っていいながら、抱きついちゃおうかなっ。
●炎と猫
箱の中に入った猫。
其処から連想されるのは、かの有名な思考実験の話。
「猫と箱って……シュレディンガーの猫、開けないと生きてるか死んでるかわからないってやつですかねー?」
いちごはにゃんドラボックスを見つめながら、周囲にも意識を向ける。
理緒と共に飛ばされたこの空間には闇が広がっている。辺りが認識できるのは足元の魔方陣が光を放っているからだ。
「いえまぁ、これは生きてて、しかもけっこう嫌な事してくるわけですけど……」
いちごは肩を落とし、確実に死んでいない猫とこのフィールドについて思う。
足元に広がる陣は上に立つ者の生命力を少しずつ奪っている。絶対的な防御を誇る箱に閉じこもりながら、こちらの力をじわじわと養分にしていく。
けっこうエグいね、と理緒は頭を振った。
「名前は可愛いけどやってることはなかなかだね」
「そうですね。とりあえず、閉じこもっていられなくしてやれば、顔を出して戦えるでしょうかね?」
「でも向こうがそんな感じなら、こっちもそれなりにいっちゃってもいいよね」
理緒の言葉にいちごが答え、二人はそれぞれに決意する。
にゃんドラボックスは物理的な痛みを与える攻撃はしてこないが、時間をかければかけるほどにこちらが不利になる。
生命力が奪われきってしまう前に片を付けると決めた理緒はしっかりと頷く。
そして、いちごは詠唱を始めた。
「ふんぐるいふんぐるい……、遠き星海にて燃え盛る神の炎よ!」
放たれたのは激しい炎。いちごが開いた異界の門から見える凶つ星が輝く間、敵対者を滅する焔が燃えあがる。
そこに合わせて動いた理緒も自らの炎を解き放つ。
「屈折率、固定……収斂」
それはいちごとは違い、大気を屈折さたレンズから収束させた光からなる焔だ。熱線がにゃんドラボックスを貫き、周囲には深焔が絶えず揺らめいている。
いちご達の力は強いが無敵の箱自体に外傷は与えられていない。だが、二人の狙いは別のところにあった。
「具体的には、蒸し焼きになるくらい温めてあげれば!」
「うん、焼き猫だね」
生きた炎は箱に纏わりついて燃え続ける。そして、理緒も箱があぶられている様をしっかりと見据えた。
中からは、にゃあ、という猫の鳴き声が聞こえている。
しかし相手も耐えているらしくなかなか出てこようとしない。これでは根比べになってしまう。猫はただ箱に入っていれば良いだけだが、いちごと理緒の生命力は魔方陣が存在する限り吸われ続けてしまう。
「く、ぅ……」
「理緒さん、大丈夫ですか?」
「何とか……いちごさんは?」
身体の力が抜けていく感覚に耐えながら、二人はそっと支えあった。そして、理緒はそっと決意する。
「わたしがスイッチを押しに行くね。いちごさんはその間に炎を中に」
注ぎ込んでください、と告げた理緒はにゃんドラボックスへと駆け出した。頷いて応えたいちごは意識を集中させる。
スイッチがオンになっても開くのは一瞬にも満たない時間だろう。
しかし猫が自ら手を出してスイッチをオフにした瞬間が狙い目だ。理緒の動きをしかと見つめたいちごはその刹那を狙う。
「――今だよ」
「行きますっ!」
理緒がスイッチに触れた時、いちごが異界の深焔を更に解き放った。
手でも顔でも良い。少しでも相手が身体を出したらそれで良い。燃やしちゃいますっ、と強く言い放ったいちごの神炎が箱の中に入り込んでいく。
次の瞬間。
猫は箱を閉めてしまった。だが、同時に激しい断末魔が箱の中から響いてくる。
おそらくは神の炎が内部で猫を焼き焦がしたのだ。中身をわざわざ見ないでも、猫が死んでいることは明白だ。
「好奇心は猫を殺すっていうし、その通りにしてあげられたね」
「この場合は、好奇心は猫を焦がす、ですかね?」
理緒は安堵を覚え、いちごも勝利を確信する。そして二人は周囲に満ちていた魔力が弱まったことを感じた。おそらくこの魔方陣の外に出ることも出来るだろう。
ひとまずは肩の力を抜けると感じ、理緒は淡く笑む。
「ゆっくり責められるのは。いちごさんにだけで十分だしっ」
「って、理緒さん、どういう意味ですかそれー?! 責めたりとかしませんよぅ?!」
「どうかな?」
そういって理緒はいちごにぎゅっと抱きつく。対するいちごは慌てている。
「とか言いながら抱きつかないでっ?!」
真っ赤になったいちごもまた可愛らしくて素敵だ。
そんなことを感じながら、理緒はいちごと二人で一緒に得た勝利を喜んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティーシャ・アノーヴン
さて、ここからは私一人ですか。
つまり、あのスイッチをなんとかすれば良いのですね。
なるほどなーですわね。
とは言うものの、さて。
考えていても体力がなくなるばかりですか。
でしたら、先ずは・・・大鰐霊様を召喚しましょう。
先ずは普通に私がスイッチをONにして、その間に大鰐霊様に攻撃をして貰います。
ダメでしたら、次は大鰐霊様の尻尾でスイッチを叩いて貰いまして、その間に私が。
それでもダメでしたら、杖や大鰐様の顎を使ってどうにか箱の隙間に挟み込むとか・・・?
猫、猫ですか。
スイッチを入れると同時に大きな音を立ててびっくりさせてみましょうか。
一瞬、動きが止まると言う話を聞きました。
やれることはやってみましょう。
●大鰐霊様とにゃんこボックス
儀式の魔方陣から転送されたのは薄暗い空間。
ティーシャは気を引き締め、ここからは己の力が試されるときだと感じる。辺りを見渡してみて、目に入ったのは陣の中央に置かれた箱。
そこから猫の声がしたことで、説明されていた魔物だと分かった。そしてその箱にはトグル式のスイッチがついている。
「つまり、あのスイッチをなんとかすれば良いのですね」
箱自体には攻撃する機能はなく、中の猫もこちらの体力が魔方陣の力によって吸い取られるのを待っているだけだ。
即ち、どう対処すれば良いか考えているだけでもティーシャの力は削られてしまう。
「なるほどなーですわね」
危機を感じたティーシャだが、慌てすぎることなく次の行動に移る。
――お出でなさい、獰猛にして気高き大鰐霊。
古代の大鰐を召喚したティーシャはスイッチの前に陣取る。そして、大鰐に箱が開いた瞬間に攻撃を行うことを願った。
「いきますね、大鰐霊様」
えいっとスイッチを押すティーシャ。
しゅぱっと出てくる猫の手。箱に噛み付く大鰐。
全てが一瞬のことだった。
「まあ、とても素早いのですわね……」
猫の手が引っ込む速度は眼で捉えきれないほどだ。ならば次は大鰐がスイッチ係になり、ティーシャが攻撃をする番。
「大鰐霊様、お願いします」
掛け声と共に大鰐が尻尾でスイッチを叩く。その間にティーシャが猫を攻撃する――と思ったのだが、またもやしゅぱっと動く猫の方が速かった。
こんなに素早いなんて、と少し慄いたティーシャだが諦めはしない。
「こうなったら……!」
杖や大鰐様の顎を使ってどうにか箱の隙間に挟み込む作戦だ。それに何度も挑戦すればタイミングも読めてくるだろう。
カチリ。パタン。カチカチ。ガタッ。
そんな遣り取りが幾度か行われる。このままでは埒が明かないと気付いたティーシャは最後の一手に賭けることにした。
「猫、猫ですか」
相手が猫ならば、スイッチを入れると同時に大きな音を立てて驚かせてみよう。一瞬だけでも動きが止まれば、後は大鰐霊様がやってくれるはずだ。
「やれることはやってみましょう」
行きます、と合図を送ったティーシャがボタンを押した瞬間、大鰐が尻尾で地面を叩いた。大きな音に驚いた猫はたった一瞬だけびくっとする。
そうして、その瞬間。
鋭い大鰐の牙が猫に喰らいつき――勝負は一瞬で決した。
「何とか乗り切りましたね」
コンビネーションの勝利だと思ったティーシャは大鰐霊様に礼を告げ、そっと辺りを見渡す。これまで体力を奪っていた魔方陣の力は弱まっている。
次はいよいよ邪神との戦いだと感じ取り、更に気を引き締めた。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふぇ、あの箱の中から猫さんを出さないといかないんですか?
難しいですね。
こういう時はガジェットショータイムです。
えっと、これはスイッチですね。
とりあえず、スイッチをオンにしてみましょう。
何も起きませんね?
ふえぇ、猫さんがすごいスピードでスイッチのガジェットさんをオフにしました。
もしかして、ガジェットさんでもスイッチだからオフにするということでしょうか。
ということはこのスイッチを箱から遠くに離してからスイッチをオンにすると、猫さんは箱から出ないといけないということですね。
●スイッチがふたつ
気付けば暗い異空間に飛ばされていたフリル。
きょろきょろと辺りを見渡して、状況を確かめたフリルはぐっと掌を握る。
辺りが薄暗い上に足元の魔方陣が妖しく光っているので実は少し怖い。しかし、陣の中央にある箱から猫の鳴き声がしたことでフリルは気を取り直した。あの鳴き声だけはちょっと可愛いからだ。
「ふぇ、あの箱の中から猫さんを出さないといかないんですか?」
一瞬だけ開いた箱の隙間からふたつの眼が光った様子が見える。だが、あの箱は無敵だと言うし猫が出てくるのも一瞬なので捉えることが困難だ。
攻略は難しいと感じたフリルだが、ただじっとしているわけにもいかない。こうしている間にも魔方陣の力が生命力を吸い取っていっているからだ。
「こういう時はガジェットショータイムです」
身構えたフリルは己の力を顕現させる。
そして、掲げた手の中に現れたのは――。
「えっと、これはスイッチですね」
何かのボタンめいたものを見つめたフリルは首を傾げた。とりあえずスイッチをオンにしてみようと決めた彼女は、ぽちっとそれを押してみる。
「何も起きませんね?」
と、思いきや。フリルから少し離れたにゃんドラボックスが開いた。
そして、中の猫がしゅぱっと手を出す。
「ふえぇ、猫さんがすごいスピードでスイッチをオフにしました」
自分は箱ではなく、この手の中の物を押したというのに。
つまりはこのスイッチとにゃんドラボックスが連動するということだ。
「もしかして、ガジェットさんでもスイッチだからオフにするということでしょうか。……ということはこのスイッチを箱から遠くに離してからスイッチをオンにすると――」
猫は箱から出ないといけないということだ。
そのように合点したフリルは再びスイッチを押す。すると猫は箱とフリルのスイッチ、どちらを押してオフにすれば良いのか混乱しはじめた。
その間にフリルは駆け出し、構えた光の剣でえいっと猫を叩く。ぺちっという音が響いたかと思うと、その一撃によってにゃんドラボックスの中身は倒れた。
「ふえぇ、勝利です」
あまりにも呆気ない勝ちに逆に驚いてしまったフリルだが、今回はこれで良かったのだろう。安堵を覚えたフリルは光の剣を下ろし、消えゆく猫とボックスを見送った。
成功
🔵🔵🔴
浮世・綾華
十雉(f23050)と
(暗いとこは不得手
ぼんやり光る陣がある分平気だが
早いとこ抜け出したい思いで)
猫の声、した
好きなんだよねえ
案外って酷くネ?フツーに可愛いでしょなんて冗談めかし
出といで…ってもこねーよなぁ
嗚呼、あれ?
鍵穴とかがありゃ一発で開ける自身あんだケドな
試しにレバー引いて叩こうにも難しく…
――とりあえず、俺の鍵でも使ってみる?
手のひらにふわりと浮かんだのは…
マタタビ
っし、じゃあこれは十雉にパース
出てく猫は任せ早業使って流水文ノ鎖で箱をがっちり閉じちまおう
わりーな、これでもう戻れねーだろ
姿が猫ちゃんでも手加減はしてやれねえ
言葉には得意げにふふり
そいじゃあ十雉さん
猫叩き、お願いしまぁす
宵雛花・十雉
綾華(f01194)と
綾華の様子がなぁんかおかしいな
だが気付いても気付かないフリ
心配になんねぇって言ったら嘘になっけど
…って、猫好きって案外可愛いとこもあんのな
やっぱあのスイッチを何とかしねぇとなんねぇんじゃねぇか?
どうにか隙を作ってよ
…お、いいモン持ってんじゃん
マタタビを見てしたり顔
そいつがありゃあ、お前の大好きなにゃんこも夢中になっちまうよ
オレにもくれと強請って貰ったマタタビを振りかざす
ほぉら、マタタビだぞー
欲しけりゃこっち来な
寄ってきたところでスイッチを切り替えてやる
ははっ、箱を閉じるたぁ綾華もやるじゃねぇか
モグラ叩きならぬネコ叩きってかァ
なら炎纏った薙刀でトドメだ
●猫に木天蓼
昏く深い闇の中。
足元で淡く、妖しく揺らめく光。
此処が本当の暗闇ではないことが唯一の救いだと感じながら、綾華は頭を振る。
その仕草が妙だと感じながらも十雉は気付かぬフリをしていた。押し隠しているようではあるが落ち着かない様子の綾華。それが心配にならないと言ったら嘘になるが、十雉は問いかけるようなことはしない。
そのとき、鳴き声がふたりの耳に届いた。
――にゃあ。
「猫の声、した」
「したよなぁ、はっきりと」
あの箱の中から、と十雉は魔方陣の中央にある箱を示す。
「好きなんだよねえ、猫」
「へぇ、案外可愛いとこもあんのな」
「案外って酷くネ? フツーに可愛いでしょ」
可愛いとは猫か、自分のことか。そんな風に冗談めかした綾華はにゃんドラボックスに意識を向ける。その方が闇から目を逸らせるからだ。
「さて、どうするかねぇ」
「出といで……ってもこねーよなぁ」
十雉と綾華は箱の中の猫への対処を考え始める。猫自体は物理的な危害は加えてこないが、この陣の上に立っている間は常に自分達の力が奪われていく。
少しずつではあるが、これが蓄積すれば立っているのもやっとになってしまうだろう。
「やっぱあのスイッチを何とかしねぇとなんねぇんじゃねぇか?」
「嗚呼、あれ?」
ふたりは箱の表面についているトグルを見遣った。
綾華としては鍵穴式であれば一発で開ける自信があるが、あの方式となると専門外となってしまう。それに、試しにスイッチを押してみても目にも留まらぬ速さで猫自身が箱の鍵を閉めてしまう。
派手な攻防は無いが、これは或る種の戦いだ。
「どうにか隙を作ってよ」
「とりあえず、俺の鍵でも使ってみる?」
「お、いいモン持ってんじゃん」
十雉からの願いに答えた綾華。その手のひらにふわりと浮かんだのはマタタビ。
実にお誂え向きだとして十雉はしたり顔。だろ、と薄く笑みを浮かべた綾華はひょいっとマタタビを渡す。
「っし、じゃあこれは十雉にパース」
「こいつがありゃあ、お前の大好きなにゃんこも夢中になっちまうよ」
猫にマタタビという言葉があるように、これさえあればきっとイチコロだ。まるで猫と戯れに訪れているようだが、やはりこれは真剣な戦いだ。
頼んだ、と伝えた綾華は軽く身構える。
そして、十雉は貰ったマタタビを箱の前に振りかざした。そのとき、早くも箱の中で猫が動いた気配がした。
「ほぉら、マタタビだぞー。欲しけりゃこっち来な」
「……にゃあ?」
「お、反応してる」
十雉が呼びかけると猫が声をあげる。綾華は機を窺い、猫がそっと顔を出すであろう瞬間を狙っていく。そして――。
「にゃーん!」
十雉が持っているマタタビに釣られて猫が飛び出した。
頂き、と口にした綾華は猫ではなく箱を狙って鎖を解き放つ。流水文の一閃が瞬く間に箱をがっちりと閉じ、猫を中に戻れなくさせた。はっとした様子の猫が戸惑う仕草を見せたが、後の祭りだ。
「わりーな、これでもう戻れねーだろ」
「ははっ、箱を閉じるたぁ綾華もやるじゃねぇか」
「まーね。姿が猫ちゃんでも手加減はしてやれねえからな」
十雉からの称賛に対し、綾華は得意げに口元を緩めた。そして、ふたりは慌てている猫へと意識を向けた。
鎖で雁字搦めにされた箱へ手を伸ばした十雉はスイッチを切り替える。
これで何があっても猫がボックス内に戻ることはないだろう。猫はマタタビに惹かれながらも危機を察しているらしく、毛を逆立てて威嚇している。
尻尾に巻き付いた包帯がしゅるりと動いて十雉達を絡め取ろうとしてくる。
その動きで彼らは察した。あの猫は紛れもない魔物の類だ、と。迫りくる包帯の一閃を避け、後方に下がった綾華は十雉に視線を向け、合図を送った。
「そいじゃあ十雉さん。猫叩き、お願いしまぁす」
「モグラ叩きならぬネコ叩きってかァ」
応えた十雉は竜胆の名を抱く薙刀を振り翳す。其処に炎を宿せば、凛と歌舞く花を思わせる一閃が振るわれた。迫ってきた包帯は綾華が抜いた黒鍵刀によって斬り裂かれ、十雉が終わりを刻む道がつくられる。
「――トドメだ」
十雉は刃で敵を斬り上げ、その身体を宙に吹き飛ばす。為す術なく斬り裂かれた猫は悲鳴をあげながら落下に身を任せるしかなかった。
綾華と十雉は視線を重ねる。
黒と凛。ふたつの刃が描く軌跡が空中で交差した、刹那。
にゃあ、というちいさな断末魔が響き、猫は魔方陣の上に倒れ込んだ。それと同時に箱が消え去り、魔物は瞬く間に消えていった。
「これで終わり、っと」
「さぁて、後はこの奥か?」
敵を倒したことで生命力を吸い取る魔方陣の力も弱まったらしい。陣の外にも出られるようになったことを確かめ、ふたりは妙な気配がする方向を見据えた。
きっとこの次の戦いは今のように楽にはいかないだろう。行こう、という意思を込めてどちらともなく先へ踏み出す。
そして――十雉と綾華は、その向こう側に揺らめく紅の炎を視た。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
砂羽風・きよ
【菊】
おいおい、見にくいな
もっとこう、全体的に明るくなんねーの?
人影を見て思わず叫びそうになるが
見知った顔を見れば笑みが零れる
うお、理玖じゃん!!どうした?
――っと、話し込んでる場合じゃねーよな
そうだ、理玖。いい案がある
多分成功するはずだ
屋台を組み立て帽子を被る
最高のお好み焼き作ってやるよ!
理玖の分もちゃんと作ってあるからな
寒かったのは俺も一緒だ
…けど、今はなんか寒くねぇ
これで猫の動きが遅くなりゃ成功だ
高速なスイッチオフも無駄だぜ
理玖!
理玖の動きに合わせて
モップで猫を巻き付け箱から出す
お前を召喚させた魔女は何処にいる
…そうだった!コイツら猫だったわ!
くそ、にゃあしか言わなねぇ!
のぼり旗で叩いた
陽向・理玖
【菊】
ん…あれは
魔方陣に入る前に人影に気づき
転送され箱と青年の位置を確認しつつ
きよ兄さん!
どうもこうも…仕事だ
油断なく箱睨み
いい案?
…えっ?
屋台組み立てるの見て目丸くし
…なるほど
確かにあの猫の動き
今んとこ見切れそうにねぇ
軽くスイッチに手伸ばし敢無く払われ
それに…
きよ兄さんのお好み食べたら力沸く
何だか…寒かったしな
敵に注意払いつつ作るの眺め
やっぱ…美味ぇわ
これなら多少生命力奪られてもどうって事ねぇ
…見える
さすがきよ兄さん
声掛けられUC起動
甘いな
俺の方が早いぜ
猫の動き見切りダッシュで距離詰め
スイッチ入れ箱こじ開け
生け捕りか
きよ兄さんナイス
猫と話せたんだ?
…だよな
倒して探した方が早そうだぜ
猫殴り倒す
●ふたりで進む先
灯りと花があった夜桜の景色は一転する。
転送された空間は暗く、ぼんやりと光る足元の魔方陣だけが光源だ。きよは片手で頭を掻きながら妙な肌寒さを感じていた。
「おいおい、見にくいな。もっとこう、全体的に明るくなんねーの?」
参ったな、ときよが口にしたとき。
「きよ兄さん!」
背後から自分を呼ぶ声が聞こえ、きよは思わず飛び退きそうになる。しかし、その声は聞き慣れたものだった。
「うお、理玖じゃん!! どうした?」
「どうもこうも……仕事だ」
「そっかそっか、よく来たな!」
理玖は桜の庭園できよの後ろ姿を見つけ、同じ魔方陣に踏み入ることでこの空間に辿り着いたらしい。自分を追ってきてくれたのだと感じれば自然に笑みが零れ、きよは安堵と頼もしさを覚えた。
「敵の所に踏み込むなら一緒がいいと思って」
「良かった。――っと、話し込んでる場合じゃねーよな」
理玖の言葉に頷きを返したきよは自分達が立つ魔方陣の中央にある箱に目を向けた。理玖も油断することなく箱を睨みつけ、様子を窺う。
入った瞬間から感じていることだが、足元の光が明滅する度に生命力が少しずつ奪われている。一度に吸い取られるのは微々たるものではあるが、だからといってこの場所に長居は出来ない。
だが、箱は開かず猫は中に閉じ籠もったままだ。おそらく此方が箱に対応する間に消耗するのを待つ作戦らしい。
理玖が軽くスイッチに手を伸ばしたが、猫は素早い。敢え無く払われてしまった上に目で捉えるのやっとの速さだ。
どうしたものかと考えたきよは、ふと名案を思い立つ。
「そうだ、理玖。いい案がある」
「いい案? ……えっ?」
多分成功するはずだと告げたきよは帽子を被り、屋台を組み立て始める。彼の様子に一度は目を丸くした理玖だが、すぐに「なるほど」と納得した。
「最高のお好み焼き作ってやるよ!」
これこそがきよの戦い方だ。手際よく作業を始めたきよは、理玖の分もちゃんと作ってやると告げて明るく笑った。
件の猫の動きは今のところは見切れそうにない。そして、箱から出てくる気もないのならば――きよの屋台を楽しめないということでもある。
つまり引き籠もれば籠もるほど、相手の動きは遅くなってしまう。
「ほら、理玖も遠慮なく食え」
成長期だろうと明るく笑んだきよはてきぱきと給仕していく。良い焼き目が付いたお好み焼きの上に飾られるソース。それらがじゅうじゅうと焦げる心地よい音。鰹節と青海苔が織り成す見事な調和。
そんなお好み焼きを一口、しっかりと味わえば――。
「……ん、やっぱ美味ぇわ」
「だろ!」
魔方陣の上でお好み焼きを食べる。それは不思議な光景ではあったが、食べることで力が湧いてくる気がした。
「何だか寒かったしな。きよ兄さんってすげぇな」
「そうか? 寒かったのは俺も一緒だ……けど、今はなんか寒くねぇ」
理玖ときよは、先程まで互いに寒さを感じていたことが嘘であるかのようなあたたかな心地を覚えていた。それはきっと気温のせいだけではない。ひとりきりから、ふたりに変わったからだ。
「これなら少しくらい力奪われてもどうって事ねぇ」
「猫にはお好み焼きは食べられないもんな。これで行けるはずだ」
きよは箱の中でじっとしているらしき猫の動きが遅くなっていると察する。こうなれば高速でスイッチをオフにされたとしても対応できる。
理玖は再びにゃんドラボックスのトグルに触れた。カチリという音が響いた次の瞬間、猫の手がひょこっと飛び出る。
「……見える」
さすがきよ兄さん、と理玖が口にすればきよがその名を呼んだ。
「理玖!」
きよの掛け声と共に理玖が指を鳴らす。それと同時に変身した理玖が箱を蹴り上げ、にゃんドラボックスを空中に飛ばした。その狙いは敵を動揺させるためだ。
「甘いな、俺の方が早いぜ」
理玖の動きは猫が腕を引っ込めるよりも疾かった。宙に舞った箱の隙間から猫が落ちてくる。その落下地点に駆けたきよはモップを振り上げた。
猫は必死に足掻いて箱に戻ろうとするが、モップで猫を巻き付けたきよの方が一枚上手だ。きよはそのまま猫を絡め取り、自分の腕に引き寄せた。首根っこを掴んで猫を押さえたきよは猫に問いかける。
「お前を召喚させた魔女は何処にいる」
「にゃー」
首を掴まれた猫はきよの手の中でぶらぶらしながら応えた。
「生け捕りか。きよ兄さんナイス」
猫と話せたのかと感心する理玖だったが、きよはとても微妙な顔をしていた。猫はにゃーにゃーと鳴いているが、何もわからない。にゃー。
「なんて言ってるんだ、きよ兄さん」
「くそ、にゃあしか言わねぇ! ……そうだった! コイツら猫だったわ!」
「……だよな」
きよが猫語を理解していないと察した理玖は少し可笑しげに肩を竦め、身構える。相手は猫の姿をしているが魔物だ。こうなれば引導を渡すしかない。
理玖ときよは視線を交わしあい、一気に攻勢に出た。
悪いな、と告げて猫を放り投げたきよはのぼり旗を構える。拳を握り締めた理玖は地を蹴り、そして――猫はふたりの一閃に穿たれ、殴り倒された。
「やったか……?」
「ああ、少し身体も楽になったな」
にゃんドラボックスは箱と共に消え去り、魔方陣に満ちていた力も弱まったようだ。
きよと理玖は陣の外を見遣り、その奥に潜む何かに意識を向ける。敢えてそれ以上の言葉は交わさず、頷きあったふたりは魔方陣から踏み出す。
もう寒さなど感じていない。
奇妙な炎の気配を感じ取りながら、彼らは共に歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朝日奈・祈里
⭐🌸
手を繋いだまま、特殊空間へ参ろうか
へぇ、デビルスターとか、いい趣味してるじゃん
ふわわ、あくびをかみ殺して
目じりに滲んだ涙をピっと飛ばす
さて、分析を始めようか
指先に魔力をためて、空中に魔方陣を描き
中から長杖を引っ張り出す
べしべしと箱を叩いてみるけど
……意味ないな?
箱の中を観測するためには、そうだな
時間でも止めてみるか
桜髪の少女、攻撃の方は任せたぞ
ねこの姿を捕えたら、鋭くコール
クロノスを喚ぶ
両の手から零れ落ちるのは、UDCアースでしたお花見
3人で繋いだ手
特別なスイーツ
…嗚呼、なんだったかなぁ。
まあいい……今だ!桜髪の少女!猫を叩け!
荻原・志桜
⭐🌸
暗転する視界
隣に彼女がいるのを確認して安堵する
眠そうな幼子は微笑ましく思い
ふふっ、良い子は寝る時間だもんね
呪術の気配。猫の鳴き声…あの箱だ
それにこの魔法陣、あまり長居はできないみたいだね
揺らめく赤に炎のようだと浮かぶ思考
んー…これだけ頑丈だと方法は限られるね
わかった、でも無茶しないでね
手元に魔力を集束させて杖を顕現
時間を止めると簡単に言うが代償は必ずある
対価は解らないけど軽くはないはず
気付かれないよう唇を噛みしめる
スイッチに手を伸ばし
箱が開いた瞬間に幼子の名を呼び魔力を練り上げる
あの子の鋭い声が耳に届くと同時に炎を纏う矢を創り
祈里ちゃんがくれた好機、絶対に逃さない!
――これで終わりッ!!
●代償と呪力
逆さの五芒星と呪術文字。
桜の庭園の魔方陣を潜った先に見えたのは妖しい空間の様相だ。
「へぇ、デビルスターとか、いい趣味してるじゃん」
「何だかすごい呪力だね」
祈里と志桜は繋いだままの手を離さぬまま、周囲の様子を確かめていく。
立っているだけで感じる魔力。
それは少女達にじわりと絡みつくように蠢き、生命力を吸い取っている。気をつけて、と呼びかけた志桜は陣を見渡した。
にゃーん。
猫の声が響き、魔法陣が赤く揺らめく。まるで炎のようだ。
色も形も違うが、どうしてか志桜にはよく知っている呪術体系のように思えた。命を吸い取る呪い。それはきっと――。
其処まで考えた志桜は首を振り、意識を目の前に戻す。
あまり長居はできないみたいだと志桜が判断する中、祈里がふと口元を押さえる。ふわわ、と欠伸が出そうになったのはご愛嬌。既に真夜中を過ぎているので幼女が眠くなってしまうのも仕方がない。
目の端に滲んだ涙を拭う祈里を見下ろし、志桜はちいさく笑む。
「今の、見てた?」
「ふふっ、良い子は寝る時間だもんね」
欠伸と涙のことを問い、見上げ返してきた祈里に、大丈夫だと告げた志桜。少し恥ずかしいような妙に嬉しいような気分になりながら祈里は気を取り直す。
「さて、分析を始めようか」
祈里は指先に魔力を溜め、空中に魔方陣を描いていく。すると其処からいつも使っている長杖が現れた。それをよいしょっと引っ張り出した祈里はひとまず、陣の中央に置かれている箱に注視する。
志桜も手元に魔力を集束させて杖を顕現させる。そして、桜のリボンが巻かれた魔術杖を握り締めた。
べしべし。祈里はとりあえず箱を叩いてみる。
「……意味ないな?」
「にゃーん」
「わ、また猫の声だね。んー……出てこない?」
箱に攻撃しても何の意味もないことは分かっている。これだけ頑丈だと方法は限られてくるので悩みどころだ。
スイッチを押して箱を開けてみても、すぐに猫の手がしゅぱっと出てきて蓋を閉じてしまう。その速さは恐ろしい。
激しい戦闘にならないことは助かるが、このままじっともしていられない。
「箱の中を観測するためには、そうだな」
「祈里ちゃん、何か方法があるの?」
「ああ、時間でも止めてみるか。桜髪の少女、攻撃の方は任せたぞ」
初級の魔術でも使うかのように簡単に時を止めると言ってのけた祈里。だが、そんなことを行うには必ず何らかの軽くはない代償や代価が必要なはずだ。魔女である志桜にそれが分からないはずもなく、心配な気持ちが巡る。
「わかった、でも無茶しないでね」
志桜は祈里に気付かれないように唇を噛む。代償をどうにかすることは自分には出来ないが、願われたことを行使する力くらいは持っている。
それゆえに全力を揮うだけだと決め、志桜は祈里の前に立つ。
そして、祈里は魔力を集中させる。烏の濡羽色のメッシュがふわりと浮かんでいく中、志桜がスイッチに手を伸ばす。
すると先程と同じように、にゃんドラボックスの蓋が僅かに開いた。
そして、次の瞬間。
「祈里ちゃん!」
「――コード:クロノス。かの者の時を凍り付かせろ!」
猫の姿を目で捉えた志桜が呼びかけた刹那、祈里が詠唱を紡ぐ。それによって喚ばれたクロノスが力を解き放ち、猫の時を瞬く間に止めた。
一瞬にも満たない時の中。
祈里の裡で代償が零れ落ちていった。両の手から離れていくように失われていくのは、止めたいと願った時間の記憶。
煌めきを纏った枝垂れ咲きの桜。花を見て、屋台に目を奪われて、気付けば人混みの中ではぐれてしまったときの気持ち。
その中で自分を見つけてくれた志桜達の顔。それを見たときの安堵めいた思い。
そして、三人で繋いだ手。
迷子にならないように。ずっと一緒に歩いていけるようにと思った瞬間。
皆で食べた特別なスイーツの味も、忘れて消えていってしまう。
「……嗚呼、なんだったかなぁ」
「祈里ちゃん……?」
何処か哀しげに呟いた声を聞き、志桜は少し不安気に問いかける。しかしそれを問いかけている時間はない。猫の時は止められているが、いずれは動き出すだろう。
「まあいい。今だ! 桜髪の少女! 猫を叩け!」
「うん!」
呼びかけられた祈里の声に頷き、志桜は紡いでいた魔力を一気に解放した。狙いはただ一点。開いた隙間から見える猫の身体。
創りあげた炎を纏う矢が幾重にも重なり、にゃんドラボックスに放出される。
祈里が何かを代償としてまで作ってくれた好機は絶対に逃さない。
「――これで終わりッ!!」
鋭く響いた志桜の声と共に炎がひといきに収束した。その軌跡は箱の中へと吸い込まれるように描かれ、少女の言葉通りの終焉を齎す。
にゃあ、という短い断末魔が響いたかと思うと戦いは終息を迎えていた。
箱は消え去り、周囲に満ちていた呪力も弱まる。生命力を奪う魔力と共に陣を囲っていた結界めいた力もなくなったと察し、ふたりは頷きあった。
「さてと、向こうの方に何かいるな」
「そうだね。きっとあれが……エーリカ、さん……」
祈里が炎の魔女の気配を察知する中で志桜は少しだけ俯いた。複雑な気持ちはあるが彼女との戦いはもうすぐだ。
祈里は手を伸ばし、もう一度志桜と手を繋ぐ。
はっとした志桜はその手を自分からも握り直し、静かに笑ってみせる。
行こう。
言葉にしないでも伝わる思いを胸に、少女達は魔方陣の向こう側に踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
にゃんこさん、にゃんこさん……
ううん、どうしたら顔をだしてもらえるかしら
じわじわと眠くなるような、そんな感じ
あまり時間をかけるわけにもいかないのね
【妖精花の舞】を使いましょう
あらかじめ咲き、舞わせておくわね
スイッチはルーシーが押す
気持に逆らわず
ぎゅーって、押しっぱなしにしましょう
ララも手伝ってね
猫さんにジャマをされてしまわない様に
スイッチを押す手の周りにたくさんの花びらを
一部は箱が開く目の前に
チラチラ
ヒラヒラ
にゃんこさんが見たらねこじゃらし代わりに気を引いたり
目くらましになる様に動いて
残りのわずか数枚を
口のすぐそばに張り付かせて
箱が開いた時に中にすべりこませるわ
ごめんね
お顔、もっと見たかったな
●猫に花を
魔方陣が光る暗い空間に響く鳴き声。
それは聞いただけだと普通の猫に思えた。ルーシーは声の主が潜んでいるであろう箱の前に屈み込み、ひとまずその子を呼んでみる。
「にゃんこさん、にゃんこさん……」
しかし、鳴き声が返ってきただけで箱は動きすらしない。聞くところによるとこのボックスは無敵であり、外からは何をしてもびくともしないらしい。
「ううん、どうしたら顔をだしてもらえるかしら」
猫を倒さなければ魔方陣から出ることはできない。相手が攻撃をしてくることはないが、この陣に転送された時から不思議な感覚がしている。
生命力が奪われているのだろう。じわじわと眠くなるような感じは、まるで緩やかな死に向かっているようだ。
「あまり時間をかけるわけにもいかないのね」
そして、ルーシーは周囲に釣鐘水仙の花を咲かせてゆく。
妖精花を陣の上に広げた彼女は箱に手を伸ばした。齎される気持ちには逆らわず、ルーシーは素直にスイッチを押す。
「ぎゅーって、するのよ。ララも手伝ってね」
しかし、強く押す前にしゅぱっと出てきた猫の手がルーシーの指先を引っ掻いた。痛、と思わず声が出てしまう。
指先には引っ掻き傷が出来て血がじんわりと滲んでいた。
一瞬だけ開いた蓋は閉まってしまう。それでもルーシーは諦めず、次は負けないとして意識を集中させた。
次は猫に邪魔されぬようスイッチを押す手の周りに花を咲かせる。
先程もそうしていたが今度はもっとたくさん。いくわ、とタイミングを計ったルーシーはララと共にスイッチに再び触れた。
カチリと音がした刹那、もう一度わずかに箱の蓋が開く。また猫は素早くスイッチを押し返して引っ込むと思いきや、次は違った。
箱の目の前には花が舞っていた。
ちらちらと誘うようにひらひらと花が揺れ動く。それは猫じゃらしの如く猫の気を引いており、すぐに蓋は閉められなかった。
「もっと遊ばせてあげる」
ルーシーはその瞬間を狙って数枚の花を箱の隙間から滑り込ませた。猫は慌ててスイッチをオフにして箱内に逃げ込んだが、既にルーシーの策は巡っている。
――にゃああん!
内部に入った花弁が猫を襲っている。箱の中で猫が暴れる音が暫し響いたかと思うと、やがて中からは何も聞こえなくなった。
「ごめんね」
先ほどに引っかかれた手を押さえながら、ルーシーはちいさく呟いた。
もう中の猫は生きてはいないだろう。結局、見ることが出来たのは前足と箱の中で光るふたつの瞳だけ。
「お顔、もっと見たかったな」
出来たら少しだけでも戯れてみたかった。
そんな思いを言葉の裏に潜めたルーシーはそっと立ち上がる。猫を屠ったことで魔方陣の力は弱まり、眠くなるような感覚も遠くなった。
此処から先に本当の戦いが待っているとして、ルーシーは歩き出す。
この向こうにはどんな敵がいるのだろうか。
ぬいぐるみを抱いた腕に籠もる力。それは少女が押し隠した緊張を示していた。
大成功
🔵🔵🔵
花剣・耀子
にゃんこ。
……いえ。流石にオブリビオンに惑わされはしないけれど。
ねこなの。そう。そう……。
惑わされはしないわよ。
此方を直接害するでもないのは、どうにもやりづらいわね……。
それも含めて罠なのでしょう。惑わされません。
あたしもねこの分霊を呼びましょう。
ひとりだと手が足りないのよ。箱の中のねこの行動を阻害して頂戴。
霊体化すれば気付かれずに近付いて、閉じる直前まで邪魔できるでしょう。がんばって。
……要求が細かいって?
あとで煮干しをお供えするから。宜しくね。
決まった行動はイレギュラーに弱いものよ。
位置関係は判っているもの。分霊が動くと同時に刀を抜き打ちましょう。
長居する訳にはいかないの。惑わされないわ。
●少女の惑いと対猫戦法
「……にゃんこ」
耳に届いた声を聞き、耀子は思わず双眸を細めた。
しかし、すぐに気を取り直した彼女は緩く首を振る。あの声は可愛らしかったが、その正体が魔物であることは知っていた。
いえ、と呟いた耀子は、惑わされているわけではないと自分に言い聞かせる。
「ねこなの。そう。そう……」
「にゃーん」
「可愛い声ね。でも、それも気を引くためなんでしょう」
耀子は猫が入っている箱を見据えた。そして、その周囲を囲むようにぼんやりと光る足元の魔方陣にも意識を向ける。
少しずつ力を奪われている奇妙な感覚がしていた。
それはこの魔方陣の空間に入ったときからずっと感じているものだ。箱自体は此方に危害を加えてくるものではないが、このまま何もせずにいれば耀子は力を喰らい尽くされてしまうだろう。
「此方を直接害するでもないのは、どうにもやりづらいわね……」
猫はほぼ無害。
されど、それも含めて罠なのだということも分かる。惑わされないと更に念じて、自分をしっかりと律する。
耀子は機械剣を構えた。目には目を、ねこにはねこだ。
「――いらっしゃい」
そして、呼んだのは猫の分霊。
分霊は機械剣と耀子にするりと纏わりつくように、すりすりと擦り寄った。
「ひとりだと手が足りないのよ。箱の中のねこの行動を阻害して頂戴」
猫霊に願った耀子はスイッチに手を伸ばす。
自分が箱を開ける前に霊体化して気付かれずに居て欲しい。そして、閉じる直前まで邪魔をして貰えないか。そんな風に耀子は猫霊に願った。
「できるでしょう。がんばって」
「……にゃ」
「要求が細かいって?」
「……にゃあ」
しかし、分霊は少しばかり不服そうだった。その様子に気付いた耀子は視線を彷徨わせ、暫し考える。
「あとで煮干しをお供えするから。宜しくね」
「にゃ」
どうやら交渉成立のようだ。分霊は言われた通りに箱の猫に気付かれぬよう身を潜め、耀子はスイッチを押す準備を整える。
箱猫はオンにされたら必ずオフにする行動をする。だが、決まった行動は往々にしてイレギュラーに弱いものだ。
行くわ、と告げた耀子は一気にスイッチをオンにする。
その瞬間、分霊が動いた。飛び出した箱猫がスイッチに触れる前に猫霊がそれを阻止する。それと同時に刀を抜いた耀子はひといきに刃を振るった。
それは一瞬のこと。
分霊は刃を避けたが箱猫は見事に貫かれる。にゃああ、という断末魔があがったことと、確かな手応えを感じたことで耀子は作戦成功だと感じた。
「長居する訳にはいかないの」
倒れ伏した猫が箱から出てくる。倒れた姿は痛々しく、心が締め付けられるようだ。しかし、耀子は剣の柄を強く握り締めることで平静を保つ。
「惑わされないわ。……おやすみなさい」
もう何度、自分に言い聞かせただろうか。心を殺すが如く淡々とした声を紡いだ耀子は別れの言葉を落とした。
そして周囲に満ちていた生命吸収の力が弱まる。
次に進めるのだと察した耀子は分霊を呼び、共に先に進むことを決めた。
大成功
🔵🔵🔵
ユヴェン・ポシェット
試しに箱をコンコンと軽くノックしてみる
ロワも試しにカリカリ爪を立ててみる
…ロワ。
そっと目配せし、ロワに合図を送る。
するとロワは緊張を解いてリラックスモード。
出てこないものは出てこないし、
開かないものは開かない。
ロワが威嚇すると逆効果の気がするしな。
しかしこの状況で気長に待ってはいられない。なら、俺がするのは…
一曲、いこうか。
じっとしていられなくなる様なハイテンポの曲をハーモニカで演奏。
ロワはじっとしているが、尻尾でリズムをとる。ゆるやかに尻尾を動かしたり急に不規則な動きも入れて、ネコジャラシ的な誘惑をする。
相手が少しでも姿を出せば、すかさずロワが仕留めにかかるだろう。信頼できる奴だからな。
●音色と獅子
魔方陣と箱と猫の声。
陣の力によって自分達の生命力が徐々に奪い取られていく。そんな感覚をおぼえながらも、ユヴェンとロワは決して慌てることはなかった。
「……猫?」
軽く首を傾げたユヴェンは手始めに、中の猫を呼んでみる。返事はなかったが、試しに箱をコンコンと軽くノックした。これがマナーだ。
続けてロワも箱に爪を立て、弱く引っ掻いてみる。しかし、どちらにも何の反応も返ってこなかった。ロワの爪で多少は削れるはずの箱も無傷だ。
それが示すことは、にゃんドラボックスは外からの影響を何も受けないということ。
ユヴェンは一歩下がり、ロワも少しだけ箱から離れる。
「……ロワ」
そして、ユヴェンはそっと目配せを送った。
その際に、にゃーん、という声が箱の中から響く。ロワに合図を送ったユヴェンは過剰に反応を返さぬように願った。
するとロワはそれまでの緊張を解いて、その場に腰を下ろす。おすわりめいた形で座ったロワはもう敵意を滲ませてはいない。
それでいい、と頷いたユヴェンは改めて猫箱を見下ろした。
出てこないものは出てこないし、開かないものは開かないと割り切っている。躍起になってロワが威嚇すれば逆効果であることをユヴェンは知っていた。
しかし、とユヴェンは顔を上げる。
「この状況で気長に待ってはいられない。なら、俺がするのは……」
生命力が今も尚、じわじわと吸い取られている。このまま悠長にしている時間などないことも分かっていた。
ハーモニカを取り出したユヴェンはロワと視線を交わす。
「一曲、いこうか」
演奏を始めたユヴェンは音楽を奏でていく。
いつだったか、北風と太陽という寓話を聞いたことがある。それは強い風で煽るよりも優しい陽射しで包み込む方が良い結果を出せるというものだった。
ならば、自分がやるべきは太陽の役割。
ユヴェンは、じっとしていられなくなるような賑やかな曲を奏でた。
ロワはそれに合わせて尻尾を動かし、リズムをとっている。ゆるやかに振られたり、急に不規則になったりする動きはまるで猫じゃらしの誘惑だ。
そして――。
「にゃ?」
「ロワ、今だ」
外の様子が気になった猫が顔を出した瞬間、ユヴェンはロワに呼びかける。
すかさず地を蹴った獅子が猫を鋭い爪で引き裂き、一瞬で仕留めた。ユヴェンがハーモニカを下ろしたときには戦いは決しており、にゃんドラボックスが消えると同時に足元の魔方陣の力も弱まっていった。
「さすがはロワだな」
信頼できる奴だと静かに笑んだユヴェンはロワの頭と鼻先を優しく撫でてやる。
そうして、彼らは魔方陣の外へ向かっていった。この先に待ち受けるものこそが本当の戦いだと感じながら真剣に、凛とした心持ちで進んでいく。
大成功
🔵🔵🔵
芙蓉・藍
【わだつみ】で参加
猫は嫌いではないんだけどね
倒さなくてはならないから、すまないね
ここの空気も、いいとは言い難いし
UC、リザレクト・オブリビオンを使用し、死霊騎士や死霊蛇竜にトグル式スイッチを操作させる
それが無理なら自分自身でスイッチを操作する
OFFにされるのなら幾度でもONにすればいい
根比べみたいだね?
開けた後はレンに任せ、攻撃に加わる
攻撃は狐火をメインに
殴った方が早いなら直接殴る
もしレンの力だけで維持できない場合は、自分も箱を開けるのを手伝う
出来る限り周りを見つつ、他所からの攻撃に注意する
上手く連携し、なるべく素早く倒していきたい
ハイタッチはぜひ
口元だけ笑みを浮かべて応える
尭海・有珠
【わだつみ】藍とレンと一緒に。
花見気分だったのに、呑気に構えてはいられないということか
生命力が吸われると、眠気が増すな…とたたらを踏む
余計にここに長くは居られんなと実感する
藍が開けて、レンが押さえて
私が攻撃といこうか
「開けるにも、開けた後も気をつけてな」
開けるときより術の準備は済ませておき
箱が開いたら、氷の剥片の戯を滑り込ませ攻撃
仲間は勿論避けては放つが、「射線上に割り込んでくれるなよ?」
押さえて貰っている間に、高速詠唱・多重詠唱にて幾重にも放ち、
箱の蓋の留め金付近にも数本回して、凍らせ閉めようとするのを妨害しよう
成功した暁には、手が掲げられたのを見て、ひとつ瞬きし
口許だけで笑って、ハイタッチ
飛砂・煉月
【わだつみ】有珠と藍と一緒に!
魔術を使う猫、かあ
それは面白いけどここの感じは…本能的に厭だ
――皆でさっさと出よっか?
有珠と藍、ふたりと目配せして
アイツをこじ開けるのは藍の召喚にお任せ
オレはそれを確認と同時にダッシュで近づいたら
蓋を開けたままにする形を取る
力比べってヤツ?
ハクも手伝えるなら手伝って
慢心せずに味方の射線上には立たない
再度閉まりそうなら
だまし討ちやフェイントで何度でも開けるの試みるぞー
第六感で感じた隙は逃さないよーに
攻撃は任せたからなー!
タイミング合えばハクをランスに戻してダッシュからの
全力の槍投げ込みでのUC
可能なら皆と一緒に、確実に
あ、ねえねえ
成功した時はハイタッチしよ!
いえーい
●三者三様、対猫箱
転送されたのは花も夜空も見えない空間。
淡く光る魔方陣と中央に置かれた箱。その中から聞こえる猫の鳴き声。
「花見気分だったのに、呑気に構えてはいられないということか」
有珠は此処に立っているだけで生命力が吸われていく感覚を確かめる。眠気が増すようだと感じた有珠はたたらを踏む。
藍も周囲を見渡し、軽く肩を落とした。
「猫は嫌いではないんだけどね。倒さなくてはならないから、すまないね」
この場の空気も良いとは言い難い。
煉月も箱の中の猫の存在を感じ取りながら、なるほどね、とそっと頷いた。
「魔術を使う猫、かあ。それは面白いけどここの感じは……本能的に厭だ。――皆でさっさと出よっか?」
「ああ、ここに長くは居られんな」
「終わらせて次に行こうか」
煉月からの呼びかけに有珠と藍が答え、三人は件の箱の傍へと歩み寄った。
そして、藍は死霊騎士と蛇竜を呼び出す。彼らに箱についているトグル式スイッチを操作させ、その間に自分達が猫を捉えるという作戦だ。
「頼んだよ」
「開けるにも、開けた後も気をつけてな」
「任せといて」
藍が死霊達に願う中、有珠が注意を促す。煉月は自分達がそれぞれに担う役割を確かめるようにしっかりと箱を見つめた。
藍が箱を開けて、煉月が押さえ、有珠が攻撃をする。
きっとひとりでは成し得ないことも三人で協力すればなんとかなるはずだ。この間にもじわじわと生命力が吸われており、時間をかけている暇はない。
いくよ、と告げた藍が死霊に合図をした瞬間。
カチリという小さな音が響く。しかし、しゅぱっと出てきた猫の手が一瞬にも満たない間にトグル式スイッチをオフにしてしまった。
「速いな」
「確かにこれはすごいね」
有珠が幾度か瞼を瞬く中、藍も感心する。しかし一度きりで終わりにするつもりは誰にもない。煉月も有珠と藍と目配せを交わし、次の機会を狙う。
オフにされるのならば何度でもオンすればいい。
カチ。しゅぱっ。
カチリ。しゅばっ。
そんな調子で藍と猫のスイッチの攻防戦が続いた。
「根比べみたいだね?」
「もう少しで見切れそうだ。藍、あと何回か頼める?」
藍が試行錯誤する最中、煉月は双眸を鋭く細めていく。猫は一定の動きをしているようで、何度も見ればタイミングも読めてきた。
そして――。
カチリ、とスイッチをオンにする音がした瞬間に煉月が駆ける。
「力比べってヤツ? ハクも手伝って!」
白き槍を蓋の隙間に素早く差し込んだ彼は穿白に呼びかけた。飛び出した槍竜が蓋を掴み、そのまま開けた状態で持ち堪える。
その際も煉月は油断などはせず、味方の射線上には立たぬよう身体をずらした。
其処へ有珠が剥片の戯を解き放つ。
彼らが箱と攻防を繰り広げていた間に術の準備は整えていた。ならば後は氷の力を箱に滑り込ませるだけ。
「射線上に割り込んでくれるなよ?」
「もちろん!」
「大丈夫、死霊達も退いてくれている」
有珠の言葉に二人が返事をすれば、更なる詠唱が紡がれる。箱の蓋の留め金付近にも数本の氷を回した有珠は箱ごと猫を凍らせていった。
そうして、藍も攻撃に加わる。箱から猫を引き摺り出すにはきっと殴った方が早い。藍が拳で猫を殴り抜けば、箱と猫が引き剥がされた。
「ハク、一気に仕留めよう!」
「私も最期の一撃を――」
煉月は槍竜をランスに戻し、藍が箱から取り出してくれた猫を狙う。有珠も更なる氷の剥片の戯を紡ぎ、止めを刺しに掛かった。
全力で投げ放たれる槍撃。追撃に走る死霊。そして、氷の薄刃。
すべての力がひとつになり、にゃんドラボックスが其々の方向から貫かれる。
――にゃあ。
そんな声が聞こえたかと思うと、戦いは終わっていた。足元の魔方陣の力は弱まり、箱も猫も消滅していく。
視線を交わしあった三人は勝利を確信した。
そんな中で煉月は片手を上げ、明るい笑みを浮かべた。どうやらハイタッチをしたいようだと察した二人は彼に倣って腕を上げる。
「いえーい」
「ああ……いえーい?」
「俺達の勝ちだね」
有珠はひとつだけ瞬いた後に彼の声を真似、藍は口許に笑みを作った。
そうして重なる手と手。
快く軽い音が響いたことで、勝利の証であるハイタッチがしかと交わされた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
呉羽・伊織
【花守】
…相変わらずこの面子で囲うにゃちょっとアレな雰囲気だが、コレも仕事…!(寄って集って猫の隙伺うシュールな絵面に何とも言えない顔で)
そんな可愛い鳴き声あげたって騙されないし負けないからな!
くっ、にゃ…(噛んだ)…難敵め
…て事で、俺は兎に角スイッチ切替に専念
UCで最大限技高め猫速度に対抗
早業と2回攻撃でオン→オフにされても再度即オンにしたり、フェイントで敢えてオフにして猫自らうっかりオンにするよう仕向けたり、あの手この手で隙を作る――ホント何この絵面
序でにスイッチに呪詛も込め、猫が触れる度に動きが鈍るよう図る
一撃で楽にしてやれる隙を掴めば、合わせて一太刀
笑えない悪戯は止めて大人しく眠りな!
佳月・清宵
【花守】
ったく、そもそも不穏な陣に囲まれてんのはこっちだろうが
何が相手だろうが抜かりなくやるまで――またこんなのに惑って、ぴよこに愛想尽かされても知らねぇぞ
(肩竦めて笑いつつ――絵面なぞ気にも留めず軽く箱を小突き)
なぁ、おい、そう隠れられるとつい暴いて引きずり出してやりたくなるだろ――覚悟しとけよ、猫擬き
一瞬一度でどうにもならねぇなら、手を重ねて機を作り上げるのみ
伊織がスイッチ切り替える瞬間に合わせ、早業で箱の隙間へマタタビ――の様な香の毒を投じ続けて猫の麻痺狙い、時間稼ぎを
呪詛と合わさりゃ直に鈍るだろう――その隙を見逃さず、まぁなるべく一撃で楽になるよう、合わせて一閃
箱ごと骸の海に引っ込みな
吉城・道明
【花守】
確かに若干心苦しい気もするが――如何なる姿形であれ、敵であるならば手も気も抜けぬ
心を鬼にしてかかろうか
……然し、愛らしさとは時にこのような武器にもなるのだな(此方も此方で何とも言えぬ顔をして、伊織と箱と――ジト目で伊織を見上げているぴよこを眺め)
搦手の類は其を得手とする二人に任せ、己はただ箱の蓋を切り飛ばす瞬間を探り集中するのみ
猫の動作を見切れるよう観察を続け、確実に動きが鈍った瞬間に早業で刀振り抜き蓋を断ち、閉めるに閉まらぬように――これでスイッチをオフにしたとて最早変わるまい
後は一息に、皆と合わせて一瞬で送り還すのみ
無邪気な猫ならば未だしも、悪戯に命を奪う化生の相手は御免だ――眠れ
●重なる一閃
まるで命が奪われていくかのような感覚が巡る。
足元で光る魔方陣と中央に置かれた箱。その中から聞こえる猫の声に耳を澄ませながら、伊織はこの空間の居心地の悪さを思う。
「……相変わらずこの面子で囲うにゃちょっとアレな雰囲気だよな」
「ったく、そもそも不穏な陣に囲まれてんのはこっちだろうが」
清宵は伊織の声に頭を振り、なぁ、と道明を見遣った。確かに、と答えた彼の言葉を聞き、伊織は気を取り直す。
寄って集って猫の隙を窺う絵面はシュールだが、文句も言っていられない。
「コレも仕事……! そんな可愛い鳴き声あげたって騙されないし負けないからな!」
「何が相手だろうが抜かりなくやるまでだ」
「確かに若干心苦しい気もするが――如何なる姿形であれ、敵であるならば手も気も抜けぬ。心を鬼にしてかかろうか」
清宵と道明は既に覚悟を決めており、鳴き声にも動きにも惑わされぬ心算でいる。
伊織も心を揺らがされぬようにと心掛け、箱を見据えた。
「くっ、にゃ……難敵め」
噛んだ彼にふっと笑みを向け、清宵は軽く揶揄う。
「またこんなのに惑って、ぴよこに愛想尽かされても知らねぇぞ」
肩竦めて笑いつつも、清宵は絵面なんて気にも留めぬまま箱を軽く小突いた。
――にゃーん。
再び鳴き声が聞こえ、薄く開いた蓋の隙間から妖しく光る眼が見えた。されどそれもたった一瞬であり、目で捉えるのもやっとだ。
だが、あの声は可愛い。
清宵はこれもまた此方を罠にかけるためのものなのだと察する。
猫の可愛さに手を抜けば魔方陣の上に留まり続けることになる。つまりその間はずっと陣の力によって生命が吸われ続けるのだ。
「なぁ、おい、そう隠れられるとつい暴いて引きずり出してやりたくなるだろ。覚悟しとけよ、猫擬き」
「……然し、愛らしさとは時にこのような武器にもなるのだな」
道明は軽く首を傾げ、猫に惑わされかけている伊織と箱を見比べた。彼もまた何とも言えぬ顔をしているのは、ジト目で伊織を見上げているぴよこの存在があるからだ。後でどうなるだろうかと考えたことは口にせず、道明は伊織に猫の対応を託す。
「可愛い……が、俺は兎に角スイッチ切替に専念するな」
「抜かるなよ。手を引っかかれないようにな」
伊織が平静を保とうと努める中、清宵は軽く注意を促した。当たり前だろ、と答えた伊織はとりあえず一度、スイッチを押して見る。
カチッ。にゃーん。
カチカチ。にゃーん。
スイッチを押すと猫の手が出てくる。すぐに蓋が閉じられる速度は恐ろしく素早い。
「はや!?」
カチカチカチカチ。
しかし伊織は早業を駆使し、オンからオフにされても再度、即時オンにする。フェイントを入れるように敢えてオフにして、猫がうっかりオンにするよう仕向けたりもしたが、引っ掛からない猫は手強い。
「苦戦しているな」
「猫の方が上手じゃねぇか?」
あの手この手で隙を作ろうと奮闘する伊織。その様子を見守る二人。彼らはしかと隙を捉えられるように身構えていた。
「――ホント何この絵面」
少し嫌になりかけた伊織だが、手は止めない。序でにスイッチに呪詛も込めることで猫が触れる度に動きが鈍るよう狙ってゆく。
そして、その狙いは上手く巡った。
清宵は僅かに猫の動きが緩やかになったことを察し、自分も箱開封にまわる。
「一瞬一度でどうにもならねぇなら、手を重ねて機を作り上げるのみだ」
伊織がスイッチ切り替える瞬間に合わせて動いた清宵は、箱の隙間へマタタビ――のような香の毒を投じた。
猫の麻痺を狙ったそれは伊織の呪詛と合わさることで効果を更に強める。
道明は彼らの見事な手際に双眸を細め、刀の柄に手を掛け続けていた。搦手の類はそれを得手とする二人に任せればいい。己はただ、一瞬を見切って斬るだけ。
「よし、これでどうだ!」
次の瞬間、伊織が思いきりスイッチを押した。
かなり動きの鈍っている猫を捉えるならば今しかない。そう察した道明が刀を振り抜き、僅かに開いた箱の隙間に刃を滑り込ませた。
「これでスイッチをオフにしたとて最早変わるまい」
「後は任せとけ。引き摺りだしてやる」
続けて刃を抜き放った清宵が猫を箱から弾き出すように一閃する。隙は決して見逃さす、瞬く間に重ねられた刃閃は猫の身体を斬り裂いた。
堪らず飛び出した猫を目で捉えた伊織がすぐにボックスを踏み、相手が中に戻れないように押さえ込んだ。
「笑えない悪戯は止めて大人しく眠りな!」
伊織が更に一太刀を食らわせれば、道明と清宵も引導を渡す一撃を与えに掛かる。
「無邪気な猫ならば未だしも、悪戯に命を奪う化生の相手は御免だ――眠れ」
「箱ごと骸の海に引っ込みな」
彼らなりの別れの言葉が紡がれた刹那、猫の断末魔が辺りに響き渡った。息のあった刃の連撃で送り還された猫は消え去り、箱も消滅した。
同時に、それまで彼らの力を吸い取っていた魔方陣の力も弱まる。
陣の外にも出られるようになったことを感じ取り、三人は頷きを交わした。後は此処から出て首魁と戦うのみだろう。
薄暗い空間の奥、其処に待つ何かを思い――彼らはそっと歩み出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
猫がいる
なかなか箱から出てこないな…櫻に何かある前に何とかしなきゃ
かくれんぼ、にているね
ヨル……!気をつけて
(猫をペチしようとするヨル)
あっ遅かった
猫がすごく速いよ!
すいち、押せない
ヨルが、弱ってきた…急がなきゃ
むう…どうしよう
外で美味しいご飯を食べて騒いだら食べたくなって出てこないかな?
まだあまってるよ、くきー!
櫻、あーん
食べさせてあげる
ふふ、美味しい?(チラッ
箱を開けてくれたら分けてあげられる
じゃあ今度は歌うね
とうさんが教えてくれた、「蜜の歌」
かくれんぼ、もういいかい?
まぁだだよは聞いてない
蕩けて誘われて――少しでも開けばおしまい
櫻龍の瞳に猫が映れば、それでいい
綺麗な桜に変わるから
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
猫がいるわね
箱の中に
厄介な魔法陣ねぇ…
箱ごと潰せれば楽なのに
さぁどうしましょうか
困った隠れんぼだこと
鬼が目の前で見張ってるのだから、なかなか出てこないかしら
……ヨル
………全然遅いわ
残念ね
うふふ
天岩戸のようね
はぁい、あーん
リルのクッキー、歯応えがあって美味しいわ!
バリバリしちゃう!おーいしー!!
…猫ってクッキー食べたっけ?
そうね、リル
次はあなたの得意の歌を披露してあげたらいかが?
少しでも聴けば水底に引き込まれる魔性の歌を
ええ、猫ちゃん
そろそろかくれんぼはお終いよ
もういいかい?
可愛いお顔をみせて頂戴
ほらはやく
一目、見初めたならば――『喰華』
綺麗な桜に、してあげるから!
つかまえたわ
私のものよ
●天戸の匣と桜蜜の歌
夜桜の景色から一転した不思議な空間。
其処で聞こえた鳴き声にはたとして、ふたりは同時に声をあげた。
「猫がいる」
「猫がいるわね」
見事に揃った声に少しおかしさを感じながら、リルと櫻宵は魔方陣の中央に置かれた奇妙な箱を見つめた。確かに猫は箱の中にいるが出てくる様子はない。
その間にも、陣に入った瞬間から感じている違和が巡る。
「厄介な陣ねぇ……箱ごと潰せれば楽なのに」
「なかなか箱から出てこないな」
「さぁどうしましょうか。箱は無敵だって聞いているし……」
「かくれんぼ、にているね」
「困った隠れんぼだこと」
魔方陣は自分達の生命力を少しずつ奪い取っている。櫻に何かある前に何とかしなきゃ、と決意したリルは掌を握った。
するとそのとき、リルの腕の中にいたヨルが地面に飛び降りる。
「きゅ!」
じぶんがおすよ! と告げるようにトグル式スイッチに手を伸ばすヨル。
「ヨル……! 気をつけて」
「きゅきゅ、きゅっ!」
開けた蓋の隙間から猫をペチっとしようとするヨルはやる気満々だ。しかし、猫はヨルの百億万倍くらい速かった。
「……ヨル。…………全然遅いわ」
「あっ遅かった。猫がすごく速いんだよ!」
すいち押せない、としゅんとしたリルだがヨルは闘志を燃やしている。されどその差は例えるならば雲泥の差。提灯に釣鐘。鯨と鰯。雪と墨。月と鼈。その他諸々。
「きゅ、きゅ! きゅう!!」
ペチ。しゅぱっ。
ペチペチ。しゅしゅっ。ペチ……。
そんな遣り取りが幾度も巡ったが、猫の方が余裕だ。やがて陣の力によって生命力が吸われていき、ペンギン式神の息もあがってきてしまう。
「ヨルが、弱ってきた……急がなきゃ」
「ヨル、その意気込みは素晴らしいわ。後は下がっていて」
リルと櫻宵はヨルを後ろに守る形で後退させ、次は自分達がやってみせると示す。
きっと躍起になるからいけない。そう感じた櫻宵は別の作戦に出ることにした。
「鬼が目の前で見張ってるのだから、なかなか出てこないかしら」
「外で美味しいご飯を食べて騒いだら食べたくなって出てこないかな?」
「うふふ、天岩戸のようね」
「まだあまってるよ、くきー!」
リルが思いついた案に笑みを浮かべた櫻宵は、賛成だと答えた。岩戸隠れの伝説を思い起こさせる策は良さそうだ。
それにまたあのリル特製クッキーが味わえるならば一石二鳥。
リルは花見の席でそうしたように、箱の前に準備を整えていく。
「櫻、あーん」
「はぁい、あーん」
「きゅ、きゅーう」
クッキーを差し出すリルに花唇をそっとひらく櫻宵。ついでに嘴をあけるヨル。
食べさせてあげる、とふたりに告げたリルは淡い笑みを浮かべた。
「ふふ、美味しい?」
「リルのクッキー、歯応えがあって美味しいわ!」
バリバリするが味は良い。おいしー、と幸せそうに微笑む櫻宵。すると箱の中で猫が動いた気配がした。
ちらりと箱を見たリルは、ふふ、と悪戯っぽく双眸を細めてみせる。
「箱を開けてくれたら分けてあげられるのにな」
「にゃあ?」
(……猫ってクッキー食べたっけ?)
どうやら猫は此方の様子が大いに気になっているようだ。その際に櫻宵はふと疑問を浮かべたが、口にはしないでおいた。
僅かに箱の蓋が開く。しかし、まだ櫻宵達は無理に猫を引き摺り出すことはしない。
「そうね、リル。次はあなたの得意の歌を披露してあげたらいかが?」
「うん! じゃあ今度は歌うね」
――とうさんが教えてくれた、蜜の歌を。
櫻宵の声に頷いたリルは静かに目を閉じて詩を紡ぎはじめる。
かくれんぼ、もういいかい?
まぁだだよは聞いてない。
蕩けて誘われて、少しでも開けばおしまい。
甘く蕩ける歌声は、聴けば自ずから水底に引き込まれるほどの魔性の歌。響くリルの聲に耳を澄ませた櫻宵は薄く笑み、自分もそっと声を猫に呼びかける。
「ええ、猫ちゃん。そろそろかくれんぼはお終いよ」
――もういいかい?
再び、歌が紡がれてリルと櫻宵の声が重なった。
「おいで、猫」
「可愛いお顔をみせて頂戴。ほらはやく」
その瞬間、箱が大きくひらいて猫が顔出す。そうすれば後はもう櫻宵に任せておけば良い。櫻龍の瞳に猫が映れば、それで本当に終わりが来る。
一目、見初めたならば――喰華の力で猫の姿が美しい桜に変わった。
「綺麗な桜になったね」
「つかまえたわ、私のものよ」
リルがひらりと舞う花弁を手に取れば、櫻宵の背に咲く花がひらく。眼差しを交わしあったふたりはこの場に満ちる魔力が弱まったと察し、勝利を確かめた。
きゅ、と鳴いて得意げに胸を張ったヨルの口元。そこについたクッキーを払ってやるリルの傍ら、櫻宵は魔方陣の向こう側を見据えた。
「次はあちらね」
「この魔方陣に呪いを込めたひとが、いるのかな?」
次なる敵を思ったふたりは暗闇の奥に目を向ける。何があったとしても共に進めば大丈夫だと感じながら、彼らは先を目指していく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
楠樹・誠司
『――斯くて。主神の御心からは逃れ難し』
嗚呼
けれど、其れを成す事こそが、ヒトと云ふ尊い生命なのでせう
与えられる感情を甘受は致しませぬ
けれど、私は。否、我々は
『開けたい』のではありませぬ
『開ける』のです
術中に掛かった体で接近し
刃に依る薙ぎ払いで箱に入った本体ごと地に叩き落としませう
如何なる攻撃が届かぬとも、そう
スイッチを切ろうと伸びた僅かな隙間、其れを待ち望んで居たのですから
出でませ、出でませ
迅雷よ、閃雷よ、天翔る蒼き獣よ!
――我が身は殷雷と共に在らん!
僅かに露出した本体目掛け感電を狙い
私もまた雷奔し、開き掛けた箱に刃を捩じ込み一思いに両断致しませう
まだ此れは序章に過ぎぬ
あゝ……炎の、気配がする
●焔の先へ
暗闇が広がる異空間。
其処は寂しく、何もない世界だということが解った。足元で光る魔方陣からは纏わりつくような呪力が蠢いている。
己の力が呪術によって奪われているのだと察し、誠司は陣の中央を見遣った。
『――斯くて。主神の御心からは逃れ難し』
誠司の裡にそのような言葉が浮かぶ。されど視線と意識は匣に向けられていた。
嗚呼、と一言だけ言葉を落とした彼は思う。
(けれど、其れを成す事こそが、ヒトと云ふ尊い生命なのでせう)
刄を抜く手筈はしかと整えたまま、誠司は匣に近付いていった。内部に潜んでいる猫は誠司に匣を開けたいと願う心境を与えてくる。
実に奇妙な力だと感じながら、誠司は与えられる感情を甘受しまいと決めた。
其れに心を捉えられれば敵の思う壺。まんまと策に嵌りにいくようなものだ。幾ら猫が此方に痛みを与えてこないとはいえ、気を取られていれば魔方陣が生命力をすべて奪い去ってしまうだろう。
「然れど、私は。否、我々は――」
匣を『開けたい』のではない。『開ける』のだと断じて、誠司は踏み出した。
その狙いは術に掛かった体で向かうこと。ひといきに距離を詰めて接近した誠司は澄清の刄を振り上げる。
先ずは一閃。薙ぎ払った勢いで容れ物ごと猫を地に叩き伏せるように刄を振るう。
無論、匣にはどのような攻撃も通じぬことは解っていた。それゆえに攻撃と同時にトグル式のスイッチを刄で押し、猫が出てくる瞬間を捉える。
入れられたスイッチを切ろうと伸びた手。その僅かな隙間を狙い、誠司は刃を切り返した。未だ笛を奏でる時間は与えられていない。
それならばこの刃で以て隙間を抉じ開け、蓋を大きく開くだけ。
刄を隙間に滑り込ませるように、斬る。さすれば自然に猫の頭が飛び出し、本体が顕になる。そう、其れこそ待ち望んでいた瞬間だ。
「出でませ、出でませ」
迅雷よ、閃雷よ、天翔る蒼き獣よ。
残月を奏で召喚した雷獣が誠司と匣の間に顕現する。
「――我が身は殷雷と共に在らん!」
誠司が獣に一閃を願った刹那、雷が轟いた。蒼き雷火が迸り、僅かに露出した本体を貫いていく。急いで匣を閉めようとした猫だが、雷轟はその身を縛った。
身動きが取れぬ隙を確りと捉えた誠司もまた、匣目掛けて駆ける。雷を奔し、開き掛けた箱に澄清の刄を深く突き立てた誠司はそのまま一気に敵を両断した。
鋭い断末魔が辺りに響く。
匣は陣の上に落ち、猫と一緒に消滅する。一時だけ太刀を下ろした誠司は其れを静かに見送った後、力が弱まった魔方陣の外に眸を向けた。
まだ此れは序章に過ぎないと理解している。
「あゝ……炎の、気配がする」
誠司は遠くで揺らめく紅い焔の彩を見咎めた。
燃え盛る炎。其れが齎す厄災も、呪いも身を以て識っている。其れ故に鎮めに向かうのだとして、誠司は歩み出した。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『呪炎のエーリカ』
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POW : 全てを焼き尽くす炎の魔女の力、思い知るといいわ!
【紅玉の輝石から巻き起こした呪いの炎】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【性質や戦法】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD : スフェーンの魔石よ、呪いの楔を齎しなさい!
【呪われたスフェーンの宝石飾り】から【目映い光を放つ炎】を放ち、【楔の魔力】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : キャッツアイの石に秘められた力、見せてあげる!
【呪いの猫睛石に宿る未来視の力を使って】対象の攻撃を予想し、回避する。
イラスト:kae
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ディイ・ディー」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●呪炎の魔女
匣猫と生命力を奪う魔方陣の仕掛けを抜けた猟兵達。
暗い闇が続く異空間にはいつしか、紅い炎が幾つも浮かんでいった。空中には呪術文字で構成された不可思議な魔方陣があり、怪しげに明滅している。
そして、炎に導かれるように辿り着いた最奥にはひとりの魔女が立っていた。
「あなた達ね、あたしの邪魔をしたのは」
よく通る声で語りかけてきたのは炎の魔女、呪炎のエーリカだ。
ラピスラズリやターコイズを思わせる蒼翠の長い髪。紅玉の輝石めいた赤い眸は暗闇の中でも爛々と輝いている。手にした杖や衣装には様々な宝石があしらわれている。きっとあれらを媒介として魔力を放つのだろう。
彼女は語る。猟兵達が魔方陣の仕掛けを突破しなければ、今頃は自分がこの空間の外に出る力を得られていたはずだ、と。
おそらく彼女はこの空間で力を溜め、現実世界に出る計画を企てていたようだ。
「生命力はまあまあ頂けたけど、どうにも中途半端なのよね。まったく……」
それもそのはずだ。
猟兵達は見事に配下を倒し、生命力を殆ど奪われないまま魔女の元まで辿り着いた。邪神自体の復活は阻止できなかったが、完全な力を与えることなく此処まで来たのだ。
対するエーリカは手にしていた杖を握り締め、小さく溜息をつく。
「仕方ないわね。足りない分は此処で直接、奪わせてもらうわ。何せあなた達の力はとっても美味しそうだもの」
ふふ、と笑んだエーリカは身に付けた呪いの宝石に魔力を注ぎはじめる。
相手は負けることなど微塵も考えていない。猟兵をすべて倒してから残った生命力を奪い、完全なる力を得ようとしている。
「おいでなさい。誰も彼も等しく燃やし尽くして、あたしの糧にしてあげる!」
魔女はくすくすと笑った。
姿形こそエーリカとして振る舞っているが、敵の中身はただの邪神でしかない。女の身体を操り、同化している邪神は他者の生命を奪うことしか考えていないようだ。
呪炎をその手に宿した魔女は、此方を嘲うように周囲に激しい焔を巻き起こした。
紅々と迸る炎は戦場に熱を宿す。
そして――魔女を偽る邪神との戦いが、此処から始まっていく。
ロニ・グィー
わんわんわん!
…ってこれはもういいんだった
邪魔をしたのはって言われたら
君だね、ボクの邪魔をしたのはと返そう
んもー、人(?)がせっかくお花見を楽しんでたのにー!
いや本題はこっちだってのはちゃんと覚えてるよ?ほんとだよ?
気分の問題
無粋な君には無味乾燥な骸の海の方がお似合いだよ
第六感や勘で攻撃のタイミングを読んで、残像を目くらましにしつつUCで作った分身と入れ替わるよ
相手のUCをコピーしたら、まず一回使用
これに抵抗されたらUCを発動させる分身の数を増やしてさらにもう一回
これで相手の動きを封じるまで多重発動させていくよ
動きを封じたらおーっきな球で……グシャッ
あーはやく終わらないかな
花見の続きがしたいよ
●花を想う
呪力を纏った魔女を前にして猟兵達は其々に身構える。
魔方陣を抜けて空間の最奥に辿り着いたロニは、揺らぐ炎を瞳に映しながら敵――呪炎のエーリカを強く見据えた。
「わんわんわん! ……ってこれはもういいんだった」
威嚇混じりに思わず吠えてしまったロニは、はっとする。もう猫はおらず、目の前にいるのはくすくすと笑う魔女のみ。エーリカが語った、邪魔をしたという言葉を思い出したロニは軽く頬を膨らませて言い返す。
「邪魔をしたのは君の方だ。んもー、人がせっかくお花見を楽しんでたのにー!」
やはりあの夜桜は名残惜しかった。
先程の対猫戦でも思ったように、本題が魔女と戦うことだとも分かっている。ちゃんと覚えている。ほんとだよ、と自分に言い聞かせるように頭を振った。
そう、これは気分の問題だ。
本来ならば桜隠しの夜は穏やかに過ぎていくはずだったというのに。相手がこんな場所で邪神としての復活を目論んでいるのだから許してはおけない。
「あらあら、お互いが邪魔なわけね」
「無粋な君には無味乾燥な骸の海の方がお似合いだよ」
「骸の海も悪いところじゃないわよ。だって、何度でも甦れるのだもの」
エーリカとロニの視線が重なり、戦いは始まりを迎える。先ずロニが敵の出方を窺ったことで魔女が先に動いた。
「スフェーンの魔石よ、呪いの楔を齎しなさい!」
手首の宝石飾りを掲げた相手は目映い光を放つ炎を解き放つ。其処から巡ったのは楔を齎す魔力だ。光がロニを縛ろうとした刹那、鏡像の力が発動していく。
ロニの分身が代わりに攻撃を受け止め、楔の魔力を写し取っていった。
「同じ力を倍返しされる気分、味わわせてあげる!」
今のロニならば六十九倍返しだ。
彼本人も残像を目晦ましにしながら自分が楔に囚われぬよう立ち回る。一瞬だけ敵の力がロニ自身を捉えたが、分身が庇う形で立ち塞がってくれた。
「ドーンとお返しだ!」
そして、ロニはひといきに分身をエーリカに向かわせる。
複製した力を一気に放ったロニは球体群を周囲に舞わせ、敵へ迸らせた。浮遊する球は不思議な動きをしながら標的を追って動き回る。
だが、エーリカはまだ余裕の様子。
「ふふ、そのくらいであたしを倒せると思ってるのかしら」
「当たり前だよ。終わるまでやるからね」
魔女とロニの視線が交差したが、どちらも負ける気などないようだ。ロニは此処から巡る戦いを思いながら、夜桜に思いを馳せる。
はやく終わらないかな、と考えるロニは金の眸を軽く細めた。
この戦いに勝ったら、またあの桜を見ようと決めて――。
そして、戦いは続いてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
榎本・英
【春嵐】
やはり先程の力は君の物か。
力が抜けて行くような感覚だったよ。
もう大丈夫だろうが
君をこのままにはしておけない。
その炎で外の桜が燃えてしまっては堪らない。
私からは著書の獣を君に。
この力は私の物
いくら真似しようとも彼らの気持ちは分かるまいよ。
燃えたらもう二度と生き返る事はない
私のこの力が君の糧になるなんて事は
ただ破壊をするだけの魔女が口にしてはいけないよ。
獣が怒り狂って暴れてしまう
生憎、この身を守る術は持ち合わせていなくてね。
けれども隣には君がいる
嗚呼。そうだね。
君がいるからこその春と嵐だ。
なゆ、行こうか。
悪い魔女は絵本の中へ
恐ろしい呪いの炎は二人で払おう
蘭・七結
【春嵐】
いのちと熱を掠めて奪われる
またゆびさきが凍えてしまうわ
嗚呼。それはいやね
サクラが焼かれてゆくのも、いやよ
わたしは、この春がすきだもの
なゆに灯った熱も想いも
その全てはなゆだけのもの
たとえ、大人しく喰われたとしても
あなたの一部として解けて交わらないでしょう
それに、ね。なゆの味は少々刺激的よ
糧としてではなく、内側から侵してゆくわ
ええ、英さん。隣にいるわ
この身とあなたへと降り掛かる厄の炎
破魔を宿した黒鍵で薙ぎ払う
言ったでしょう
すべてを攫う嵐となる、と
蕩ける毒を乗せて一閃を描くわ
悪い魔女をちょきんと絶って
めでたし、と物語のおわりを迎えるの
燃ゆる炎でも呪いでもなくて
結ぶのは、いっとうのさくらがいい
●花に嵐
紅く燃ゆる焔が暗闇の中で揺らめいていた。
空中に浮かぶ陣が明滅する様に、先程の魔方陣での攻防を思い返す。生命を奪い取られる感覚は今はもう遠いものだが、あの陣を見ていると再び惑わされそうにもなった。
「やはり先程の力は君の物か」
英は杖を構えている魔女、呪炎のエーリカに語りかけた。
力が抜けて行くような感覚だったよ、と陣の居心地の悪さを示した英は一歩だけそっと前に踏み出す。
同時に七結も英と共にエーリカを見つめ、緩く首を振った。
「あなたは、いのちが欲しいのね」
「ええ、その生命力をあたしに頂戴。そんなに有り余ってるんだもの、良いでしょう?」
対する魔女は七結と英を見定めるような視線を向けてくる。
いのちと熱を掠めて奪われる。そうなればまた、このゆびさきが凍えてしまう。七結は拒絶の意思を示して身構えた。
「嗚呼。それはいやね」
「お断りだよ。私も彼女も、君に差し出すものなどない」
命を奪う魔女をこのままにはしておけない。
英は己の著書を取り出して頁を捲っていく。もし邪神を宿した魔女が外の世界に出たら、先ずはきっと呪炎で桜が燃やされるだろう。
落ちた桜は逆さの焔を思わせたが、本当に焼き尽くされてしまうなど言語道断だ。
「サクラが焼かれてゆくのも、いやよ。わたしは――、」
この春がすき。
ひとりとひとりが出逢った桜の光景を思い返し、七結は敵として立ちはだかる者を屠ろうと決める。相容れない者同士、遠慮などは要らない。
ふたりで桜のもとに帰る為、此処から巡っていく戦いに全力を賭すだけ。
「やろうか、なゆ」
英の声を聞き、七結は頷きを返した。
「なゆに灯った熱も想いも、その全てはなゆだけのもの。あげないわ」
差し出すことだってしない。したくない。
七結達がはっきりとした意志を見せると、エーリカは肩を落としてみせる。
「そう、ならば力尽くで奪うだけよ」
――全てを焼き尽くす炎の魔女の力、思い知るといいわ。
そんな宣言が成された瞬間、敵が宿した紅玉の輝石から呪いの炎が巻き起こった。紅色の炎は寒緋桜の彩に似ている。
迸る炎を受け止めながら、地を蹴ったふたりはそれぞれの力を紡いでいく。
「成程、それが君の力か。私からは著書の獣を君に見せよう」
英は己の著書から溢れる情念の獣を顕現させ、お返しに放ち返した。その指先が魔女に触れんとして迫る中、七結も黒鍵の刃を握る。
「たとえ、大人しく喰われたとしてもあなたの一部として解けて交わらないでしょう」
ひとになったとて七結の力はただひとつのもの。
英もその通りだと応え、縁絶の刃が振るわれていく様をしかと見つめた。其処に獣の一撃が放たれ、ふたつの力が重なって巡る。
「あら、なかなかやるわね」
「この力は私の物。いくら真似しようとも彼らの気持ちは分かるまいよ」
「どうかしら。それにしても………」
対するエーリカは称賛と嘲笑が入り混じった言葉をふたりに送る。激しい攻防が繰り広げられたが、殆どの攻撃は呪力の炎によって弾かれてしまっていた。それでも七結は刃を振りあげ、次の一手を振るおうと狙っていく。
「なあに?」
その最中、魔女が此方に興味を持っていると気付いた七結は問いかけた。
するとエーリカは可笑しそうに笑う。
「あなた達、とても面白い魂の形と色をしているわね。絡まったあかい糸と纏わりつく灰色の煙のような……呪縛めいたものが視えるわ」
「それは――」
意味深な言葉を紡いだ魔女に対し、英がどういう意味だと語りかけようとした。しかし、その言葉は再び放たれた紅い焔によって遮られてしまう。
それによって英の袖口が炎によって焼かれたが、何とか避けられた。敵の戯言など問うことでもないかと考えた英は更に力を振るっていく。
「たましいが、視えるのね」
「ふふ、少しだけね。あなた達の力、ますます欲しくなったわ」
「なゆの味は少々刺激的よ」
そして、七結とエーリカの眼差しが交錯する。この力は糧としてではなく内側から侵してゆくのだと告げた七結は黒鍵の一閃で呪いの炎を斬り裂いた。
英も頷きを返し、魔女を見据える。
燃えたらもう二度と生き返ることはない。
「そうだね。私のこの力が君の糧になるなんて事は、ただ破壊をするだけの魔女が口にしてはいけないよ」
獣が怒り狂って暴れてしまうから、と話した英は七結の補助を行う形で情念の獣を疾走らせてゆく。
魔女は未だ余裕の表情で此方を嘲笑っている。
強敵であると感じているふたりだが、不安も迷いも覚えることなどなかった。生憎、英は自らの身を守る術は持ち合わせていないが問題などない。
隣には君がいる。
「――なゆ」
「ええ、英さん。隣にいるわ」
「嗚呼。そうだね、他でもない、君がいてくれる」
静かにその名を呼べば、七結は確かに応えて寄り添ってくれる。
七結は己と彼へと降り掛かる災いと厄の炎を刃で受け止め、其処に宿した破魔の力で薙ぎ払って打ち消していった。
「言ったでしょう。すべてを攫う嵐となる、と」
「君がいるからこその春と嵐だ」
差し向けた指先。蕩ける毒を乗せて描いた一閃。
更に重なりあった力は、春の花を散らしてしまう呪いの焔を消すために迸る。
桜花に冬嵐。
まさにそう呼ぶに相応しいふたつのいろは、昏い戦場を彩るが如く巡っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルベル・ノウフィル
【星杯】嵐殿と
貴女がエーリカ殿ですね
佳景に心を和ませ、癒されている人々を餌食にしようなど、僕は許さないのでございます
それに、にゃんドラボックスさんも可愛らしかったのですが魔法陣のせいでゆっくり遊べなかっ、……こほん。今のは、なしです
前に出て炎に向かっていきましょう
僕は普段から火精霊を扱う者、炎なんて怖くありませんとも!
オーラを纏い火を凌ぎながら一息に敵の懐へ飛び込みます
負傷は怖くないのです
痛みに耐性はありませんが、僕は痛みを怖れません
だって、痛みは僕のちからとなるのですからね!
念動力で痛悼の共鳴鏡刃を操り、敵の背を狙いながら
それに、嵐殿のご支援も頼もしいです――、
サポートを受けて、UC墨染です
鏡島・嵐
【星杯】ルベルと
……ッ、真打のお出ましか……!
さっきの猫の時はそうでもなかったけど、今はすげぇ怖くて堪らねえ。
けど、ルベルの足を引っ張るわけにもいかねーし、踏ん張らねえと……!
前に出るルベルを〈援護射撃〉でもって後ろから支援。
ルベルが必要以上にダメージを受けねえよう、与えるダメージは逆にデカくなるよう《笛吹き男の凱歌》で能力も底上げして、二重に支援する。
支援の傍ら〈スナイパー〉で精度を上げた射撃を適度に撃ち込んで、攻撃の的を絞らせねえように。幾らかは躱されるだろうけど、ルベルがその分動きやすくなるなら問題無ぇ。
あとは〈目潰し〉とか〈武器落とし〉とか仕掛けてやれば、被害はだいぶ減らせるはずだ。
●焔と意志
暗闇に炎が揺らいでいた。
道標としての灯などではない、悪意と敵意に満ちた炎を見つめるルベルと嵐は呪力を纏う魔女の姿を捉えた。
「あら、活きの良い少年達ね」
「……ッ、真打のお出ましか……!」
「貴女がエーリカ殿ですね」
此方を見定めるような視線を向けてくる相手に対して嵐は強く身構える。警戒を強める嵐の傍ら、ルベルは冷静に相手の様子を確かめた。
余裕の笑みを浮かべている魔女は二人を狙っている。もとより戦いに畏怖を抱く嵐にとって、殺意が感じられる視線は恐ろしいものだ。
(さっきの猫の時はそうでもなかったけど、今はすげぇ怖くて堪らねえ)
嵐は言葉には出さない思いを抱く。
その気持ちの全ては分からない。だが、嵐の心が揺らいでいると感じたルベルは一歩、しっかりと前に出た。
嵐を守る形で立ったルベルはエーリカへと言い放つ。
「貴女がしようとしていること、僕は許さないのでございます」
佳景に心を和ませ、癒されている人々を餌食にしようなど見過ごせない。自分達が訪れなければ何も知らぬ一般人が命を奪われていたはずだ。
それに、とちいさく言葉にしてから、にゃんドラボックスを思い出したルベルは魔方陣の主であるエーリカを見据える。
「猫さんとも魔法陣のせいでゆっくり遊べなかっ、……こほん。今のは、なしです」
「ルベル……。よし!」
ふと彼から零れ落ちた可愛らしい咳払いと思いを聞き、嵐は気を取り直す。
恐怖は消えない。しかし、こうして自分と共に居てくれるルベルの足を引っ張るわけにもいかない。此処が踏ん張り時だと拳を握った嵐は覚悟を抱いた。
その瞬間、エーリカが杖を振りあげる。
「全てを焼き尽くす炎の魔女の力、思い知るといいわ!」
紅玉の輝石から巻き起こした呪炎が二人に迫った。されどルベルはその炎をしかと捉え、敢えて其方に向かっていく。
それは嵐を守り、庇っていくためだ。
「僕は普段から火精霊を扱う者、炎なんて怖くありませんとも!」
「ふふっ、その威勢がいつまで続くかしら?」
戦場に広がる炎はルベルを穿ち、嵐にまで及ぶ勢いで巡っていく。ルベルはそれすら受け止めて痛みに耐え、勢いを止めることなく敵との距離を詰める。
無論、対抗されることも理解していた。
地を蹴ったエーリカが後方に跳躍したが、ルベルも追い縋って駆けていく。
その背を見つめる嵐はスリングショットを構え、援護する形で次々と弾丸を放っていった。彼が己の分まで前に出てくれるならば、こうして後ろから支援するのが今の自分の役割だと思える。
更に下がろうと動いたエーリカの道を防ぐように、嵐が放った弾が打たれていく。
「逃がすか!」
「……ッ!」
弾に退路を断たれたと察したエーリカは一瞬だけ動揺を見せる。その間にルベルが炎を凌ぎ、ひといきに敵の懐へ飛び込んだ。
「あなた、死にたいの?」
対する魔女は零距離で炎を放とうとしている。しかしルベルはそんなことなど気にしていなかった。負傷も痛みも怖くはない。
怖れることなどないと示すように、ルベルは赤い瞳を差し向けた。
「死ぬ気はありませんし問題はありません。だって――」
痛みは僕のちからとなる。
そのように宣言したルベルはエーリカを瞳に映した。其処に響いていくのは嵐が召喚した道化師の演奏だ。
放った弾丸による援護だけではなく、凱歌による力の増強でルベルを支える。果敢に戦う彼が必要以上に痛みを受けないように、そして攻撃は更に強く――。そうしていくこそが嵐が出来る精一杯のことだ。
「ルベル、今だ!」
「はい!」
嵐から呼びかけられた声に応えたルベルは痛みを堪えた。それからすかさず、懐に忍ばせた短刀を念動力で以て動かす。前にいる自分に気を取られている間に共鳴鏡刃を敵の背に回らせたのだ。
そして、呪炎がルベルを穿った瞬間。
「きゃ、何……!?」
同時にエーリカの背に鏡刃が突き刺さった。すぐに横に逸れて刃から逃れた魔女だが、其処へ更に嵐の射撃とルベルの墨染による一閃が見舞われる。
猫睛石に宿る未来視の力で何とかそれを回避したエーリカだが、僅かな消耗が見て取れた。それを確かめた嵐は魔女に対して凛と告げる。
「どうだ、これが俺達の戦い方だ」
「これは見事ね。でも、足が震えているわよ?」
痛みを受けた動揺を悟られぬよう振る舞うエーリカは嵐を揶揄った。戦いに関する思いを読み取られたと察した嵐は、そんなことはないと反論する。
「嵐殿、まだいけますか?」
「勿論だ。引き下がる気なんてねぇ」
ルベルが嵐に呼びかければ、決意の籠もった言葉が返ってきた。
敵は未だ余裕を残している。それでもこのまま、二人で――そして皆で戦い続ければ勝機も見えるはずだ。
頷きを交わしたルベルと嵐は身構え直す。
揺らめく炎と呪いの力を乗り越える為の道。それはきっと、二人が真っ直ぐに見つめる視線の先にこそ続いている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティーシャ・アノーヴン
ここからは他の方々もご一緒なのですね。
少し安心しますが、それだけに油断は禁物ですわね。
この空間が彼女のものとすると、地の利はあちらにあります。
周囲には常に気を付けておきましょう。
相手の攻撃能力は一対一でしたら非常に厄介ですが、こちらは複数。
なるべく攻撃は他の方と同時に行いましょう。
強力な攻撃を持つ方を庇う、守るような戦い方もいいかもしれません。
私の攻撃は決して強力ではありませんが、
複数回、要所要所で邪魔をするように当てていけば、焦れるはず。
冷静さを失わせれば、他の方も攻撃をし易くなるかと思います。
相手を怒らせるとなれば、多少の傷は覚悟の上です。
オーラ防御で少しでもダメージを減らしましょう。
メンカル・プルモーサ
……ふむ、なるほどね…身につけた宝石を軸に魔術を行使する、と…なかなか興味深い…
…それはそれとして…未来視、ねえ……それなら…
遅発連動術式【クロノス】により周囲の空間に【空より降りたる静謐の魔剣】を発動待機の状態で多数仕込んでおこう…
…魔女が近づくことをトリガーに氷の魔剣を発射…それでもある程度は予測回避されることを前提に軌道を操作して追い詰め…
…氷の魔剣の密集地点まで誘導したら全周囲から一気に斉射…回避する隙間も無い量の魔剣を降らせるよ…
…炎の壁か何かで魔剣を防御されそうだけど…ここまで布石…
…斉射を防ぎきった、と思わせた所に透明度の高い本命の氷の魔剣を超高速で発射…痛打を与えるよしよう…
●炎と氷と光の軌跡
周囲を見渡したティーシャは共に戦う猟兵達の姿を確かめる。
先程までの魔方陣上ではひとりで戦っていたが、此処からは皆で協力してあの魔女を倒すことになるだろう。
「皆さんがいるので安心しますが、それだけに油断は禁物ですわね」
彼女の近くに布陣したメンカルも呪炎のエーリカを見つめ、なるほど、と口にする。既に魔女は他の猟兵へと攻撃を放っている。
威力の高い炎に、動きを封じる楔の魔法。そして、未来視で回避する力。
それらを使う度に敵が纏う宝石が反応していることが分かったのだ。
「……身につけた宝石を軸に魔術を行使する、と……なかなか興味深い……」
「気を付けてください、来ます」
メンカルが興味を持って敵を見つめる最中、ティーシャが呼びかけた。他の者に放たれた炎が二人のところにも迫ってきたのだ。
咄嗟に地を蹴って跳躍したティーシャに続き、メンカルは身を低くして炎の軌道を避ける。回避は出来たが、これが続くとなるといつかは押し負けてしまうだろう。
「この空間が彼女のものとすると、地の利はあちらにありますね」
「しかも未来視、ねえ……それなら……」
ティーシャが警戒を強める中、メンカルは己の力を使っていく。
遅発連動術式クロノスによって周囲の空間に、空より降りたる静謐の魔剣を発動待機の状態で仕込む。
その様子に気付いたティーシャは、メンカルの攻撃に合わせて動こうと決めた。
またいつ炎が飛んでくるか分からない。術式を刻むメンカルの補助となるように、ティーシャは周囲に常に気を配る。
相手の攻撃能力は一対一であれば非常に厄介ではあるが、此方は複数。
「いくら未来が視えるといっても全てではないはずです」
「……そうだね」
メンカルはティーシャの声に頷き、魔女の動きをしかと見つめた。
魔女が近付く。そのことをトリガーにしてメンカルは氷の魔剣を発射していく。されど、ある程度は予測して回避されることも前提にしている。
軌道を操作して魔女を追い詰められれば僥倖。
「行きます。――裁きの光よ」
それに加えてティーシャが敵に指先を差し向ける。天からの光が暗闇を照らしながら巡り、魔女を貫いた。
其処へ更にメンカルによる氷の魔剣が襲いかかる。
ティーシャの協力によって剣の密集地点まで魔女を誘導できたのだ。全周囲から一気に発射された回避する隙間すらない魔剣。それはまるで氷雨のように降り注ぐ。
「あらあら、甘いわね。こんなものであたしを倒せると思ったの?」
だが、それも魔女にとっては予測済みのこと。
剣を炎で薙ぎ払って相殺したエーリカはメンカル達を嘲笑うように口許を緩めた。それでも、ティーシャもメンカルも攻撃の手は止めない。
剣は直接身体に傷を与えるだけではなく魔力を削いでいた。これを続ければきっといつか勝機を掴むことも出来るはずだ。
「甘いと仰るなら更に力を強めるだけです。この数に勝てますか?」
ティーシャは仲間の援護を行う形で立ち回りつつ、魔女に問いかける。
自分の攻撃は決して強力ではないとティーシャは知っていた。しかし複数回、要所で敵の動きを邪魔するように当てていけば、相手だって焦れるはず。
それにメンカルの攻撃は強力だ。ならば自分はその発動を助け、守るような戦い方をしようとティーシャは決めた。
彼女の意思を感じ取ったメンカルは更に力を紡いでいく。
「やっぱり……炎の壁か何かで魔剣を防御されたね……でも、ここまで布石……」
此方の攻撃を防ぎきったと思わせたならば其処からが本番。メンカルは透明度の高い本命の氷の魔剣を超高速で発射し、エーリカを貫いた。
「なっ……!?」
痛打を受けた魔女は冷静さを失いはじめている。此処で相手を怒らせられれば引き付けられるだろう。ティーシャは多少の傷は覚悟の上で挑んだが、魔女は後方に下がることで此方から距離を取った。
おそらくメンカルの能力が厄介だと察したのだろう。
「行きましょう」
「……逃がさないよ……」
視線を交わした二人は魔女を追おうと決める。まだ倒しきるには至らないが、自分達には仲間がいる。
巡る戦いはまだまだ続くと感じながら、彼女達は駆け出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
先程の戦いで体力を消耗しなかったのが幸いでしたね
魔女とは言え所詮はこの程度だったという事でしょう
狩る力無くして、糧得られず
残念ながら貴女が狩られる側です
倫太郎殿の拘束術を合図に接近
拘束で僅かに隙があれば重畳
破魔の力を宿した二刀による2回攻撃
なぎ払いにて広範囲に刃を振って逃がさず追撃
攻撃は視力にて輝石や魔石を確認、攻撃手段を判断して行動
回避可能なものは残像・見切りより回避
不可であれば衝撃波にて相殺
炎による攻撃は倫太郎殿に前に出て貰い
私は水霊『紫水』にて水の壁を作り援護
凌いだ後、壁はそのまま毒の飛沫でカウンターで連携
戦う術は刃だけに在らず、我が盾は時に刃と化す
……盾は貴方もですよ、倫太郎殿
篝・倫太郎
【華禱】
奪われたりはしねぇし奪わせたりしねぇって話だ
拘束術使用
範囲内なのを確認して鎖の攻撃と同時に拘束
鎖を放つように手を動かして使用
その動きが拘束術の発動条件と思わせる
同時に華焔刀でなぎ払い
刃先返しての2回攻撃
敵の攻撃に関しては見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御で防ぐ
また、呪いの炎に関しては呪詛耐性と火炎耐性で耐え凌ぐ
夜彦には絶対に攻撃を通さない
必要なら突き飛ばしてでも確実に回避させてかばう
夜彦は炎が弱点なのもあるけど
夜彦の攻撃を『読まれる』事を避ける為
二回目に拘束術を放つ場合
鎖を放つような動作はせず
詠唱のみで発動させる事でフェイント
夜彦の攻撃を通り易くする
夜彦、帰ったらお話がアリマス
●盾と刃
命を奪うという魔女。
彼女と対峙する倫太郎と夜彦はそれぞれに得物を構える。
「狩る力無くして、糧得られず。残念ながら貴女が狩られる側です」
夜彦は強く宣言しながら、先程の戦いで体力を消耗しなかったのが幸いだったと感じていた。確かに奪われてはいたが戦うには十分だ。
魔女とはいえ所詮はこの程度。そのように挑発した夜彦を魔女が見据える。
「ふぅん、随分と余裕なのね」
「奪われたりはしねぇし奪わせたりしねぇって話だ」
対する倫太郎は凛と言い放った。
そして、敵が動く前に拘束術で打って出ようと決めた。敵が攻撃範囲内にいるのを確認したと同時に鎖を放つ。
鎖を放つように手を動かし、その動きが拘束術の発動条件と思わせていく。
夜彦も倫太郎の拘束術を合図に敵へと接近した。
相手は炎で不可視の鎖を焼き払ったが、僅かな隙も生まれていた。其処へ破魔の力を宿した二刀による攻撃を放った夜彦は敵を薙ぎ払う。
杖が刃を受け止め、一瞬だけ刀と拮抗する。しかしすぐに魔女が身を翻したことで刃はいなされてしまった。
だが、倫太郎が華焔刀で切り込んでいく。
刃先返してから連続で打ち込む斬撃が魔女を捉えようと迫った。されど、対する魔女も黙ってはいない。
「全てを焼き尽くす炎の魔女の力、思い知るといいわ!」
言葉と同時に紅玉の輝石から巻き起こした呪いの炎が戦場に巡った。
その攻撃に関して、見切りと残像で回避しようと考えた倫太郎は炎の軌跡を見つめる。流石に一度目の攻撃で見切るのは不可能だったか。
そのままオーラで受け止めようとしたが、夜彦が危険を呼びかけた。
「倫太郎殿、受けてはなりません!」
「いや、こうするしかねぇ」
だが、既に炎は倫太郎を包み込んでいる。夜彦はあの焔を受ければ何か拙いことが起こるだろうと察したのだ。その予想通り魔女は妖しく笑った。
「あなたの癖、面白いわね」
刃を切り返すことが次の攻撃の合図であるということ。拘束術の後に薙刀を振るうという隠しきれない癖があること。魔女はそれらを読み取ったらしい。
呪炎を呪詛耐性と火炎耐性で耐え凌いだ倫太郎は、夜彦からの心配に首を振った。
「俺が受けていれば夜彦は無事なはずだろ」
「ですが、倫太郎殿……」
「いいから俺の傍で戦ってくれ。頼む」
夜彦には絶対に攻撃を通さない。必要なら突き飛ばしてでも確実に回避させて庇うのだと決意していた倫太郎は有無を言わず願う。
自分の動きなど読まれたって構わない。夜彦は炎が弱点だという理由もあるが、夜彦の攻撃を読まれることを避ける為だ。
夜彦は渋々と、けれども強い意思を持って頷く。
そして、敵が使う輝石や魔石を確認しつつ攻撃手段を判断して行動しようと狙った。
再び放たれた炎は衝撃波で散らし、少しでも倫太郎が攻撃を受けぬよう努める夜彦。その動きを頼もしく、嬉しく思いながら倫太郎は立ち回る。
巡る攻防の中。
倫太郎は更に拘束術を放った。先程の鎖を放つような動作はせず、詠唱のみで発動させることでフェイントを入れる。
「これならどうだ!」
「なかなか、考えているようね」
読まれたとて、読ませてばかりではいない意思の現れだ。
そして、その行動は夜彦の攻撃を通り易くする為でもあった。夜彦は倫太郎が全面的に炎を受けてくれている間に、水霊の紫水の力で壁を作りだした。
壁はそのまま、毒の飛沫で以て炎を散らす。
「――戦う術は刃だけに在らず、我が盾は時に刃と化す」
夜彦は負ける気はないのだと告げ、前で戦い続ける倫太郎に揺るぎない信頼を寄せた。
「……盾は貴方もですよ、倫太郎殿」
「夜彦、帰ったらお話がアリマス」
「分かりました。では、先ずはこの戦いを切り抜けることからですね」
そんな言葉を交わしあった二人。彼らは未だ続いていくであろう魔女との戦いに意識を向けていく。此処から巡っていく攻防に対しても全力で挑む。
誓いにも似た思いを抱く二人は互いを護り、守られあいながら戦ってゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
芙蓉・藍
【わだつみ】で参加
お目覚めのところ悪いが、再び眠っていてもらおうかな
女性には基本紳士だが敵には容赦しない
UC狐火を使って攻撃をする
基本的に合体はさせずバラバラに動かして相手の目を眩ませる
仲間に当てないよう、最新の注意を払うよ
基本は撹乱や目眩しだが、隙を見つければ狐火で攻撃を仕掛けていくよ
……個別の場合の威力は当たったとしてもそう高くはないだろうけど
個数が多い分、煩わしさはあるかな
相手の攻撃は、狐火をぶつけて相殺できればいいんだがどうだろうか
相殺するときは狐火を合体させて1つにしておくよ
炎の魔術が得意なようだけど……俺の仲間をそう簡単に傷つけさせないよ
レンとハクの怪我が酷いようなら役割を交代する
尭海・有珠
【わだつみ】
自分に回して尚足りていない生命力を他者にやる余裕なんかないんだ
宝石に注いだ魔力をその侭くれるというなら、手加減してやっても
するわけないだろ
炎で寧ろ暖か…熱っ
意識が覚醒できて良いから構わないがな
私の役割は攻撃手
藍の狐火を、藍とレンの動きさえも目眩ましに利用させて貰う
大丈夫、味方を避けるのは造作もない
高濃縮の水の≪剥片の戯≫を敵の視界外に展開
動きは二人のお陰で多少なりとも絞られている筈だから
ある程度密集させ一撃が重くなるよう調整
避けた先でも剥片が取り囲んでるよう、狙いを定め即時出現
邪神というなら神の一端でもあるだろう、殺るのに躊躇う要素はないな
どこに出るでもなくその侭死んでくれ
じゃあな
飛砂・煉月
【わだつみ】
倒すか、斃れるか
難しい仕掛けより単純に好きだよ
オレの方針は盾と壁
藍が撹乱してくれるならオレは積極的に煽ったり
だまし討ち、フェイント、ダッシュ使えるものは使いつつ
ランス状態のハクを槍投げしたりで意識をこっちに向けさせたい
痛みと火に対して少しは強いつもり
血を流し過ぎたら吸血で奪い返したいトコだなー
んで盾の役目に専念する時はUC使ってく
メイン攻撃は有珠、頼んだ!
相手の攻撃は絶対に届かせないかんな
どんなに痛くても
どんなに熱くても
其処に立って居られるなら膝は折らない
でも限界の時は藍と役割をスイッチしてオレは撹乱役へ
今だって感じた時は皆で同時攻撃!
隙は見逃さないッ
――うん、一緒にって悪くないね
●折れぬ意志
呪力と炎が揺らめく空間。
その奥に佇む魔女からは殺気が入り混じった視線が向けられている。
「お目覚めのところ悪いが、再び眠っていてもらおうかな」
「あら、冷たいのね」
藍が呪炎のエーリカに対して鋭く告げれば、揶揄い混じりの声が返ってきた。基本的に女性には紳士敵に振る舞う藍だが、敵である以上は容赦などしない。
敵は此方の命が欲しいと語っていた。
しかし、有珠は首を横に振って拒絶の意思を示す。
「自分に回して尚足りていないというのに、他者にやる余裕なんかないんだ」
やるものかと言葉にした有珠に続き、煉月もその通りだと答えた。魔女は既に力を紡いでおり、空間内に炎が満ちはじめている。
「これはつまり倒すか、斃れるかってことか」
先程のような頭を使う小難しい仕掛けより単純で好きだ。そのように感じた煉月は身構えながら藍と有珠に目を向ける。
行けるかと眼差しで問いかければ、二人から快い視線が向け返された。
そして、戦いは始まる。
藍は敵の炎に対抗するべく狐火を顕現させていく。
其処に合わせて有珠が攻勢に出る。
「宝石に注いだ魔力をその侭くれるというなら、手加減してやっても……。なんてな、するわけないだろ」
有珠は敢えて冗談を語りながら魔女との距離を計った。その間に煉月が二人を守る盾となるために前に踏み込む。
炎は自分達にも迫ってきていた。それをすべて防ぐ壁になるのが今の煉月の役目。
受けた痛みから生み出した鮮血の盾を構えた彼は何物をも通さない。
その分だけ自分が動けなくなるが、藍が狐火で敵を撹乱してくれている。そのうえで有珠による高濃縮の水の剥片が敵を穿っていった。
「頼んだ、二人共!」
防御をしている間ならば煉月は無敵だ。
藍は彼に信頼を抱き、有珠も新たな薄刃を紡ぎながら頷く。先程に吸われた生命力の分だけ僅かな眠気めいた感覚があるが、有珠は気を確かに持った。
「炎で寧ろ暖か……熱っ」
熱の残滓が有珠に飛び火したが、意識が覚醒できたので構わない。藍の狐火も煉月の動きさえも目眩ましに利用して立ち回る有珠は全力の刃を打ち込んでいった。
藍も狐火を操ることに集中していく。
暗闇を照らし返すように揺らぎ、燃え上がる狐火は呪炎と拮抗するように巡った。
決定打はきっと有珠が放ってくれる。それまでに幾らか相手の目を眩ませられればそれでいい。藍は炎を仲間に当てないよう細心の注意を払った。
「気を付けて、そっちに炎が行くよ」
「大丈夫、これくらいは避けるのは造作もない」
「オレも平気だ。少し攻勢に出るかな」
有珠が藍に答え、煉月はそれまで仲間を守っていた防御を解く。そして、エーリカに対して挑発を行っていった。
「その炎、大したことないんだな」
「ふふ、あたしを煽ってるの? 怒らせるつもりならもっと言っていいのに」
対するエーリカは煉月に向かってくすくすと笑うのみ。
煽りは通じにくい相手なのかもしれない。白銀のランスに姿を変えた穿白を投げ放った煉月は、それでも出来る限り意識を自分に向けさせたいと考えた。
敵を煉月に任せ、藍は隙を見計らっていく。
有珠の攻撃も激しいが、敵が猫睛石に宿る未来視の力を使っている為に幾つかの刃は避けられてしまっていた。
それならば己も攻勢に加わるだけだとして、藍も狐火による連撃を仕掛けていく。
避けられるならば、一撃の威力よりも数で勝負だ。
「個数が多い分、煩わしいかな」
「ふぅん、あなたもなかなか考えているわね」
狐火を回避し、薄刃を杖で弾いて立ち回るエーリカは藍達を見遣る。其処へ更に有珠が紡ぎ出す新たな一閃が舞った。
煉月と藍が魔女を引き付けている間に敵の視界外に展開した水の刃。
それらは炎を消滅させながら巡っていく。
未来視の力は厄介だ。しかし、有珠は重い一撃を見舞うのが役目。相手が避けた先でも剥片が取り囲んでおり、水刃は次々と出現していく。
しかしそのとき、魔女の呪力が再び激しい炎を生み出した。
煉月はとっさに有珠の前に立ち塞がり、もう一度鮮血の盾を構える。
炎が痛みを齎す。
だが、煉月は火に対して少しは強いつもりでいる。血を流し過ぎたとしても耐えきれば此方の勝ちだ。
どんなに痛くても、どんなに熱くとも、其処に立って居られるなら膝は折らない。立ち続けることが己の矜持だと示した煉月は魔女を見据え、強く宣言した。
「絶対に負けないッ」
「ああ、やろうか」
炎を避ける為に有珠が駆け、藍は狐火を合体させていく。有珠を追う呪炎を打ち消す為に放たれた藍の力が焔を相殺した。
「炎の魔術が得意なようだけど……俺の仲間をそう簡単に傷つけさせないよ」
煉月の疲弊を感じ取った藍は、その隣に並び立つ。
彼もハクも大事な仲間だ。守られた分だけ守り返すのもまた大切だと感じ、藍は敵を真っ直ぐに見つめた。
そして、有珠は潜ませていた水刃を一気に解き放つ。
エーリカは拙いと感じたらしく、炎を防護壁として巡らせた。その間に魔女は藍達から離れたが、追う準備も万端だ。
「邪神というなら神の一端でもあるだろう。ならば殺るのに躊躇う要素はないな」
神殺しですら遣り遂げてみせよう。
此処から更に続いていく戦いを思い、有珠は魔女を穿つ為の力を紡いでいく。煉月と藍も確りと頷き、敵を瞳に映した。
「ここからが勝負か」
「行こう、皆で」
未だ攻防は巡るだろうが、決して諦めはしない。
此処に集った者と、そして――頼れる仲間がすぐ傍にいるのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エリアス・アッヘンバッハ
悪逆なる魔女は廃れるべし、お仕事の時間だね。
基本は近接戦闘で狙いは媒介の宝石。これ見よがしに弱点があったら破壊していくのは定石だよ。長期戦になることも覚悟して戦力を削ぐ戦いをしよう。
魔女の炎攻撃は防御よりも回避優先で動く。呪炎なんて銘打たれているものに当たったらどうなるか分かったものじゃないし、そうでなくても熱いし、第一物理でない攻撃の防御って無理じゃない?
じりじりと戦い魔女が自分の動きを止めようとしたなら素早く家を相手の上に放り投げて巨大化だ。
そこまで出来れば後は体が固まろうと何だろうとかまわない、賽は投げられているからね、家だけど。
ニィエン・バハムート
UCを発動して竜の軍勢を召喚!
そのうち1体に【騎乗】して指揮(【動物と話す】)を取り、【怪力】無双の竜たちで竜巻のごとき【範囲攻撃】!
未来視対策に、威力が殆どない電気【属性攻撃】で周囲一帯を電光で照らして【目潰し】しますわ。未来視と言えども見えなきゃどうしようもないですわよね?
仮に視力を介さない未来視だとしても周囲一帯が電光で塗りつぶされている映像が見えるだけなら私たちの動きは見えないでしょう。
我が軍勢はロレンチーニ器官のお陰で視力に関係なくあなたを補足することができますわ。鮫…いえ!ドラゴンですので!!
あなたもあの猫ちゃんたちのように箱を持参すべきでしたわね!
●鮫と家と呪法の宝石
暗闇の奥で妖しく揺れる炎。
其処に現れた呪いの魔女を見据え、エリアスは革命剣を構えた。
「悪逆なる魔女は廃れるべし、お仕事の時間だね」
「生命力が欲しい? そう簡単にあげられるものではありませんわ」
彼の近くに立っていたニィエンも魔女を捉え、思い通りにはさせないと宣言する。そして、ニィエンは竜の軍勢を戦場に召喚する。
――現れよ! バハムート・レギオン!
詠唱と共に現れたのは竜、もといほぼナマズの鮫。ナマズシャーク達だ。しかしそれらに鋭い爪が生えた手足と大きな翼が生えることで竜らしくなっている。
そのままニィエンは竜の一体に騎乗する。彼女がその背の上で他の竜を指揮してそれぞれに布陣させていく中、エリアスは敵の様子を見遣った。
魔力は魔女が身につける宝石から出ているようだ。それなら、と地を蹴ったエリアスは接近戦に持ち込もうと決めた。
狙いは媒介の宝石。
振り上げられた刃は魔女のマントにあしらわれたスフェーンの石を捉える。
「これ見よがしに弱点があったら破壊していくのは定石だよ」
「あら、これが弱点に見えるの?」
対するエーリカは不敵に笑った。次の瞬間、エリアスの刃とスフェーンの呪石が衝突した。すると宝石飾りから目映い光を伴う炎が現れる。
その様子に気付いたニィエンはエリアスに呼びかけた。
「触れても炎が発動するようですわ」
お気を付けて、と告げた彼女は竜達を援護に回す。それによってエリアスが炎の直撃を受けることは避けられたが、宝石が簡単に狙えないとなると厄介だ。
そのうえ、ニィエンの竜は呪力によって動きを止められてしまっている。
「これは長期戦になることも覚悟しないとね」
一撃で壊せぬのならば少しずつでも戦力を削ぐ戦いをするしかない。エリアスは体勢を立て直し、一気に宝石を砕く算段を立て始める。
その間にニィエンは指揮を続け、竜巻の如き激しい攻撃を敵に放っていった。
「これならどうでしょうか」
「うふふ、そんなものお見通しよ」
魔女は猫睛石に宿る未来視の力を使っており、竜の動きを読んでいる。殆どの攻撃が避けられてしまっているがニィエンにも考えがあった。
竜を指揮する中でニィエン自身は威力が殆どない電気を一気に放つ。周囲一帯を電光で照らせば、一瞬だけでも目が眩ませられる。
「未来視と言えども見えなきゃどうしようもないですわよね?」
「それはいいね。便乗させてもらうよ」
ニィエンが作った隙を感じ取り、エリアスは一気に駆けた。
魔女は対抗策として炎を周囲に展開させる。だが、エリアスはそれらを避けてひといきに距離を詰める。防御よりも回避を優先したのは、あの呪炎が此方の動きを止めると分かっていたからだ。身を低くして炎の下を潜り、強く地面を蹴り上げたエリアスは魔女の手首にあるスフェーンの宝石を狙う。
「まずはひとつめだね」
刃の一閃が宝石のひとつを打ち砕いた。同時に炎が顕現したが、エリアスは素早く後方に下がることでその軌道から逸れる。
更にニィエンが再び電撃を放ったことで辺りが眩く照らされた。
「我が軍勢はロレンチーニ器官のお陰で視力に関係なくあなたを捕捉することができますわ。鮫……いえ! ドラゴンですので!!」
思わず鮫だと言いそうになったが、ニィエンは言い直す。
魔女の能力が視力を介さない未来視だとしても構わなかった。周囲が電光で塗りつぶされているなら自分達の動きも見えないはずだからだ。
ニィエンが援護に回ってくれていることで戦いやすくなっていると感じたエリアスは更なる攻勢に出た。
取り出したのは家のミニチュア。
それを素早く放り投げたエリアスは敵の頭上で巨大化させる。
「何? 変な攻撃ね……!」
「驚いた? もう賽は投げられたんだよ。お前の敗北に向けてね」
家だけど、と小さく付け加えたエリアスは真剣な眼差しで相手を捉えていた。ニィエンも深く頷き、敵が徐々に押されていくことを確かめる。
「あなたもあの猫ちゃんたちのように箱を持参すべきでしたわね!」
竜を操るニィエンは少しの皮肉を織り交ぜ、双眸を鋭く細めた。魔女を狩るべくして、エリアスも身構え直していく。
この場に巡る戦いは未だ続くだろう。魔女の攻撃も激しくなっていくに違いない。
それでも最後まで戦い続けることを決め、猟兵達はそれぞれの力を揮ってゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
彩波・いちご
【恋華荘】
エーリカさんでしたか、残念ですが奪わせるわけには…
って、理緒さん?!
私怨というか何か色々漏れているようなっ?!
とにかく、これで決着を付けましょう!
胸部装甲とかそういう話もいいのでっ
理緒さんに合わせて私も水で対抗しましょう
【幻想よりきたる魔法の演者】
呼び出すはたくさんの水滴のオブジェクト
ひとつひとつが魔力の水の塊です
全力魔法で一斉射!いっけぇ!
ふたりがかりの全力水魔法は、ちょっと水量多すぎだったかも?
エーリカも流せましたが、私達まで流されそうに
「大丈夫です?」流されそうになった理緒さんを受け止めますが…全身ずぶぬれで抱き合う格好になったり……理緒さんの服が透けそうになってたり…(真っ赤
菫宮・理緒
【恋華荘】
魔女だかエーリカだか邪神だかしらないけど、
いちごさんから吸い取ったり奪ったりしようなんて、
百年……いや千年早いよ!
「わたしだってまだなんだからね!」
と、ちょっとぷんぷんしながら攻撃するね。
相手は『呪炎の』とか言ってるし、
ちょーっとイラっとしたし【偽装錬金】で水を作って対抗しよう。
「胸部装甲以外では負けないから、ねー!
【全力魔法】で水を作ってエーリカさんにたたきつけるよ。
「あぶない炎は消火しちゃうよっ」
あ、あれ?
おもいっきりでやっちゃったら、水の量多すぎた!?
流されそうになるわたしを、
いちごさんがうけとめてくれたけど、えっと、ね?
ずぶぬれで、その、だきあってる、とか……・。(ぼしゅん)
●水と雫と流れるもの
生命を奪い、力を欲する魔女。
彼女を前にしたいちごと理緒は身構え、向けられる敵意の感情を受け止めた。
「魔女だかエーリカだか邪神だかしらないけど駄目だよ」
「はい、残念ですが奪わせるわけには………」
理緒が敵を見据える中、いちごもふるふると首を横に振る。すると理緒は相手以上の敵意を向け返し、強く宣言した。
「いちごさんから吸い取ったり奪ったりしようなんて、百年……いや千年早いよ!」
そして、理緒は指先を魔女に突きつけながら語る。
「わたしだってまだなんだからね!」
「って、理緒さん?!」
慌てて彼女を見るいちご。ふふ、と不敵に笑う魔女。
ぷんぷんしながら攻撃に入る理緒。三者三様の出方ではあるが、戦いはここから始まっていく。何よりも相手は呪炎を扱うもの。
「何だかちょーっとイラっとしたし炎には水で対抗するのがいいよね」
「理緒さん、私怨というか何か色々漏れているようなっ?!」
「その大きな胸部装甲以外では負けないから、ねー!」
「胸部装甲とかそういう話もいいのでっ」
意気込む理緒の勢いに照れたり困ったりしながらも、いちごも攻勢に出る。理緒が偽装錬金で水を作るならば、此方もあわせた方が良いだろうと考えた。
「とにかく、これで決着を付けましょう!」
幻想よりきたる魔法の演者――マジカルイマジナリーオブジェクト。
その力によって呼び出されたのは水滴。そのひとつひとつが魔力の水の塊であり、炎に対抗するために作られていく。
対する敵は猟兵達に向け、呪いの宝石の力を解き放った。
「スフェーンの魔石よ、呪いの楔を齎しなさい!」
魔女が纏う宝石飾りから目映い光を伴う炎が次々と生み出され、いちごと理緒に襲いかかる。それは楔の魔力を宿しており、当たれば動きが封じられてしまうものだ。
「あぶない炎は消火しちゃうよっ……わ!?」
理緒は炎に水をぶつけることで相殺しようとしたが、防ぎきれなかったものが飛来してきた。纏わりついた呪炎は理緒を囚えて離さない。
「理緒さん!」
このままでは彼女が魔女の攻撃をまともに受け続けることになってしまうだろう。
いちごは理緒の前に立ち塞がり、水滴の力を一気に開放した。
「全力でお相手します! いっけぇ!」
いちごは理緒を守り、自らに迫る炎を何とか避けていく。紙一重の状況ではあったが守るべき人がいると思うと気は抜けなかった。
その間に理緒は呪縛を解き、いちごに礼を告げる。
「いちごさん、ありがとう……」
「これくらい何でもありません。理緒さん、一気に行きましょう」
「うん……!」
いちごからの呼びかけに答えた理緒は、彼と同じ全力を揮おうと決めた。再び水を作った理緒はエーリカと炎にこの力を叩きつけようと狙う。
同時にいちごも水滴を更に生み出すことで、多大な量の水が溢れ出した。
「これで――」
「決めます!」
次の瞬間、戦場に満ちる水。水。水。
ふたりがかりの全力水魔法は流石に少し、いや、かなり水の量多すぎたようだ。
「あ、あれ? おもいっきりでやっちゃったから水が……!?」
理緒達は自らの水によって流され、異空間の端っこまで押し戻されてしまった。いちごは必死に理緒に手を伸ばし、離れてしまわぬようにその身体を抱き止める。
「私達まで流されてしまうなんて……大丈夫です?」
「えっと、いちごさん……その、ね?」
気付けばふたりは全身ずぶぬれで抱き合う格好になっていた。理緒の服が透けていることに気が付いたいちごは真っ赤になってしまう。理緒も、ぼしゅんと赤くなって俯く。
暫し流れる沈黙。
それでも互いに身体を寄せ合う心地は悪いものではなかった。そうして、ふたりは暫し照れあっていたとか、いなかったとか――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ミフェット・マザーグース
予測して、封じる炎、自由にさせないのが好きな邪神なのかな?
ティエル(f01244)と一緒に戦うよ
WIZで判定
あなたが未来を見たって、ミフェットのことを止められないよ
だってミフェットは攻撃しないもん
UC【一人ぼっちの影あそびの歌】
ティエルの動きを封じるUCを打ち消して、自由に飛べるように解放するね
妨害されても「激痛耐性」で最後まで歌は止めないんだから
「歌唱」と「楽器演奏」でティエルを「鼓舞」して一緒に邪神をやっつけよう!
♪
宝石の光 光は炎 炎はめぐって光をとらえ 宝石の中にとじこめる
ぐるぐる回るかがやきは 宝石の中できらめいて
おどる光に魅せられまどわされ 未来が見えなくなるのはだれ?
ティエル・ティエリエル
WIZで判定
友達のミフェット(f09867)と一緒だよ♪
せっかくのお花見を邪魔してたのはお前だなー!ボク達がやっつけてやるぞ☆
背中の翅で羽ばたいて空中からヒット&アウェイで攻撃だー!
「フェイント」を掛けながら攻撃するけど、むむむー、なんでか攻撃が当たらないぞ!
なるほど、あの宝石の力でボクの動きを予想してるんだね!
ミフェットがお歌でその未来視の力を封じてくれたら、
ミフェットの応援を一身に受けて「捨て身の一撃」の【お姫様ペネトレイト】で貫いちゃうぞ!
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●歌は響く
暗い異空間の中で戦いの幕はあがった。
闇を照らす炎が猟兵達に襲いかかり、くすくすと笑う魔女の笑い声が木霊する。
「せっかくのお花見を邪魔してたのはお前だなー!」
「あらあら、可愛いお客さんね」
ティエルは呪炎のエーリカに風鳴りのレイピアを突き付ける。すると魔女は彼女達を見遣り、余裕の表情を浮かべた。
「ティエル、炎がくるよ」
ミフェットは友人に呼びかけ、自らも身構える。
「大丈夫! お前なんて、ボク達がやっつけてやるぞ☆」
宙を舞う炎をひらりと避け、翅を羽ばたかせたティエルは気合いを入れた。ミフェットも敵からの攻撃を受けぬように立ち回り、相手の出方を窺う。
他の猟兵とも戦っている魔女の動きは抜かりがない。
宝石の力で此方の動きを予測し、更には封じる炎を解き放つ。それはとても厄介であり、一度でも封じられたならば苦戦は必至。
「自由にさせないのが好きな邪神なのかな?」
「絶対に捕まったりしないからね!」
ミフェットがそのように判断する中で、ティエルは迫りくる炎をレイピアで斬り返しながら宣言する。素早く飛び回るのが自分の戦い方である以上、焔に囚われることだけは避けたかった。
しっかりと炎の軌道を見つめるティエルは、敵を惑わせるように飛ぶ。更にティエルは背の翅を懸命に動かし、空中からフェイントを仕掛けながら攻撃していく。
しかし魔女は剣閃を躱す。
「むむむー、なんでか攻撃が当たらないぞ!」
「それはそうよ。あたしにはこの猫睛石の力があるもの」
「なるほど、その宝石の力でボクの動きを予想してるんだね!」
エーリカは杖先と魔女帽子に飾った宝石を示す。未来を視る力を活用した彼女はティエルの攻撃を完全に見切っていた。
その間にミフェットは彼女の援護になろうと消める。魔女は此方の動きを読むが、ミフェットにはちゃんとした策がある。
「あなたが未来を見たって、ミフェットのことを止められないよ」
「ふぅん、どういうことかしら」
「だってミフェットは攻撃しないもん」
魔女と視線を交差させながら、ミフェットは言い放った。対する魔女はそれならそれでいいと薄く笑う。どうやらミフェット達を甘く見ているようだ。
だが、彼女達にとってはそれでも構わない。
変に警戒されるよりも、敢えて侮って貰った方が動きやすいからだ。ミフェットは口をひらき、歌を紡いでゆく。
♪
宝石の光 光は炎 炎はめぐって光をとらえ 宝石の中にとじこめる
それは相手の力をしかと見て、模した歌。
歌声が響き渡ればエーリカの放つ炎と同じ色をした焔が現れ、放たれるスフェーンの魔力を相殺していく。
ティエルはミフェットの歌声を聞きながら上機嫌に剣を振るう。
影あそびの歌はティエルの動きを封じようとする炎を打ち消していく。これでティエルは更に自由に飛ぶことが出来るだろう。
たとえ魔女から歌を防がれようとも、最後まで歌は止めないと誓う。
「ティエル、皆で一緒に邪神をやっつけよう!」
ミフェットは強く呼びかけ、更なる歌の続きを歌いあげていった。
♪
ぐるぐる回るかがやきは 宝石の中できらめいて
おどる光に魅せられまどわされ 未来が見えなくなるのはだれ?
愛らしい歌声は戦場に響き渡る。
其処に頼もしさを感じたティエルは風鳴りのレイピアを改めて敵に差し向けた。
「ミフェットの歌があればそんな攻撃なんて効かないもんね♪」
一時的ではあるが、魔女の力は封じられた。
歌い続けてくれるミフェットの応援を一身に受けたティエルは一気に突撃する。この身が削られようともプリンセスの力は止まらない。
この場に集った皆で。そして、ふたりでこの戦いを突破する。
そう心に決めたティエルとミフェットは力を紡ぎ、奮っていく。戦い続ける先に勝利が待っていると強く信じて――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鹿忍・由紀
ユルグ/f09129と
さてと、やっと大本命
お手並み拝見といこうかな
その刀でぶった斬るスタイル、だっけ?
まともに知らぬくせに適当な事を言いながら
ユルグの動きに合わせて左手へ
炎を掻い潜って死角を狙うナイフ
セコい手が得意なもんでね
息つく間もないよう入れ替わりつつ合間は繋ぐよ
魔術ってのは範囲が広くてずるいよね
真正面からぶつかってくるとかいう気概は無いのかな
合わせて駆け寄ってフェイントかけて切り裂いて
その分本体は狙いやすいんだけど
更に横槍、御膳立てされた軌道へ大胆に飛び込んで
思い切り砕くように蹴り飛ばす
ああ、一人よりか多少ラク
そろそろ桜が恋しくなってきた
酒ってまだ残ってる?
なんだ、じゃあ次は俺が奢る番
ユルグ・オルド
f05760/ヨシノリと
そういや花見に来たんじゃなかったわ
ちゃっちゃと終わらそ
んふふ、そ、小細工なしの正面突破
魔法てこた詰めないコトにはなァ
ッてことで右手行くわ
作戦会議もそこそこに駆けだそう
真直ぐ、駆けたら炎ごと切り裂いて
大振りな所作は合間縫ってくれるかなッて
躱す先にアンタの軌道が捉えるように
気が逸れたらお次はこちらの緩急つけて
寄っちゃえば一緒じゃない?
なんて飛び込むのは正々堂々
掛る火の粉くらいは払っとこ
判りやすく振り抜いて、迎撃の前に跳んで退こう
その一瞬を拾ってくれンだから
ほら、なかなか二人も悪かないでショ
えー、多少かあ
お、なに続きする?
無いから買い行こ
よっしゃ、じゃ次はヨシノリの好きな酒で
●花の夜を懐えば
戦場に巡る炎は、触れれば身を焼き焦がす程の熱を孕んでいた。
魔術杖を構え、紅玉の輝石の力を解放する呪炎のエーリカ。命を奪う勢いで放たれた魔女の呪炎は暗闇を照らす。
その軌道を読み、地を蹴って躱した由紀とユルグは魔女を見つめた。
「さてと、やっと大本命」
「そういや花見に来たんじゃなかったわ。ちゃっちゃと終わらそ」
お手並み拝見といこうか、と口にした由紀は隣に立つユルグを軽く見遣る。言葉を向けた相手は魔女ではなく、傍らの彼だ。
ユルグが正眼の形で構えた刃は魔女に差し向けられている。
「その刀でぶった斬るスタイル、だっけ?」
「んふふ、そ、小細工なしの正面突破」
立ち回りを要求されなかった先程の戦いとは違い、此度は激しい攻防が巡るだろう。桜の庭で出逢ったのが二度目ならば、こうして並び立って戦うのは初めて。
「どう出る?」
「魔法てこた詰めないコトにはなァ。ッてことで右手行くわ」
「分かった」
彼のことは未だ何も知らぬも同然だが、由紀には何となく分かる。適当なことを言いながらも、由紀はユルグの動きに合わせる形で左手へ駆けた。
ユルグも話し合うよりも実際に動いた方が早そうだと察し、宣言通りに右側に走る。
「あなた達、どうやらまともにあたしの炎を受けたいみたいね」
エーリカは更に紅玉の焔を放った。
由紀は直撃を避ける為、炎を掻い潜りながら回避に専念する。握ったナイフで死角を狙うべく戦場を駆け巡る由紀はユルグの動きを意識していく。
「邪魔だッての」
躱すことを重視する由紀に対してユルグは振るった刀で炎を斬り裂いて受けた。由紀はその様子を確かめながら、新たに迫ってきた呪炎を避けた。
「こっちはセコい手が得意なもんでね」
そして、息つく間もないよう入れ替わりながら合間は繋いでゆく。ユルグが大振りな分、それを埋める戦法だ。
ユルグもただ正面から向かっているだけではない。躱す先に由紀の軌道が捉えられるように敵の気を逸らそうと動いていった。
「お次はこちら、っと」
緩急をつけて刃を振るえば、多少は魔女の気も引ける。
「あなた達は無軌道に見えて……ふふ、なかなか良いコンビじゃない」
「そりゃどうも」
「別に褒められてもね」
エーリカは由紀とユルグにそんな評価を下した。それぞれに軽く適当に答える二人を見遣り、魔女は口元を緩める。
「でも、そういうものこそめちゃくちゃに壊したくなるわ」
妖しく笑ったエーリカは更なる炎を彼らの元に解き放った。次は避けさせはしないし受け止めても炎で包み込む。
そのような意思が込められた激しい焔だ。
「流石にこれは……魔術ってのは範囲が広くてずるいよね」
由紀は軽く肩を竦め、迫る炎を敢えて受けた。
身を焼く炎は熱を宿し、肌を焦がす。避けるよりも痛みを被った方が立て直しやすい。そう考えてのことだ。
真正面からぶつかってくるとかいう気概はないのだろうか。そんな風に感じた零した由紀はユルグの戦い方を思う。
ああいった戦法なら戦いやすいのに、と思った彼は身体に響く痛みに耐えた。
「確かにずるいケド、寄っちゃえば一緒じゃない?」
飄々と語ったユルグも炎を受けていた。それでも苦しげな顔などは見せず、魔女の懐に飛び込む勢いで駆けた。
掛る火の粉も、燃ゆる焔も振り払って、堪えて進んでいく。
由紀も彼に合わせて駆け寄る。ユルグは相手にも判りやすいように刀を振り抜いた。それに対して動いた魔女が迎撃体勢を取る。
されどユルグは攻撃を叩き込む心算はなかった。ヨシノリ、とちいさく彼を呼んだユルグは一気に跳んで退く。
それらはすべて由紀が一閃を放つための伏線だ。
「横槍で悪いね」
見事に御膳立てされた軌道へと大胆に、鋭く飛び込んだ由紀はナイフを振り下ろす。闇を切り裂くかのような一閃が煌めく最中、由紀は魔女が纏う宝石のひとつを思い切り砕くように蹴撃を見舞う。
「……きゃ!」
魔女は悲鳴をあげ、よろめきながら後方に下がった。
狙いを達成できたと察したユルグは薄く笑み、少し得意げに由紀に声をかける。
「ほら、なかなか二人も悪かないでショ」
「ああ、一人よりか多少ラク」
「えー、多少かあ」
返ってきた言葉に不服そうな声をあげるユルグ。しかし二人の間にある空気は不思議と柔らかく快い。
未だ魔女は力を残しているが、足元には砕かれた宝石が落ちていた。
こうしてひとつずつ封じていけばいずれは勝機も訪れるはず。静かに視線を交わしあった由紀とユルグはそれぞれにナイフと刀を構え直す。
雪と桜の夜が終わる前に。
決着を付けようと決めた意志は真っ直ぐに、呪炎の魔女を捉えていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
陽向・理玖
【菊】
きよ兄さんが話す間
魔女の様子隙無く伺い
いつでも前出れる様
同感だ
兄さんらを悲しませたり惑わせたりすんじゃねぇ
ほんっと邪神胸くそ悪ぃ
龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
ダッシュで距離詰め
兄さんらの陰から飛び出しグラップル
拳で殴る
おおやるな
炎消す様子見て口の端上げ
負けらんねぇ
UC起動
残像纏い敵の動きよく見て見切りカウンター
確かに当たらなきゃどうって事ねぇし
そもそも壊しちまえば使えねぇだろ
悟られぬ様フェイント交え宝石狙い部位破壊
拳の乱れ撃ちからの吹き飛ばし
きよ兄さん!
あんたが誰かは知らねぇ
けど
あの人にあんな顔させて
きよ兄さんを怒らせて
許せねぇ
俺は
兄さんらには笑ってて欲しい
だから
返して還れ
砂羽風・きよ
【菊】
……お前がエーリカか
帽子を深く被り相手を見据える
なぁ、俺からの質問に答えてくれるか
お前はアイツをどう見てたんだ
そもそも、お前はアイツと
関わってた時の奴じゃないのかも知れねぇが
あんまアイツを悲しませることをしないでくれ
これでもマブダチ(勝手に言っている)なんでね
理玖、さっさと倒しちまおうぜ
取り出したのはデッキブラシ
きのも頼む
「えぇー、しょうがないなぁ」
きのにはモップを渡し
二手に別れて攻撃
敵の邪魔をすれば必ず隙が出来る
その間、理玖に攻撃を仕掛けてもらう
炎?そんなもん水で消せばいい
きのはモップで水を飛ばし
勝手に人の命吸ってんじゃねーよっ
理玖の掛け声に合わせて
デッキブラシで飛んできた敵を突き刺す
●友として
「……お前がエーリカか」
異空間の奥に現れた影を目で捉え、きよは帽子を深く被り直す。
相手を見据える視線がいつになく真剣なことに気付き、理玖はきよの傍で静かに控えていた。その先に居る魔女は妖しげに笑っている。
彼らの様子を窺い、理玖はいつでも前に出られるように身構えた。
「ええ、エーリカ・トイフェルよ」
魔女はくすくすと笑い、その身体の名前を答える。名だけは知っていた彼女を見つめ続けるきよは、質問に答えてくれるかと願った。
「お前はアイツをどう見てたんだ」
「あいつ?」
「そもそも、お前はアイツと関わってた時の奴じゃないのかもしれねぇが……」
「あの子のことかしら」
エーリカは一度は首を傾げたが、きよの言葉で誰かを察したようだ。存在は邪神ではあるが、僅かに生前の記憶もあるのだろう。
「あんまアイツを悲しませることをしないでくれ」
きよは拳を握り、それだけを告げる。エーリカは質問には答えてくれそうにない。理玖は一歩前に踏み出し、同感だと頷く。
「兄さんらを悲しませたり惑わせたりすんじゃねぇ」
「ふふ、それは聞けない相談ね」
魔女は此方を嘲笑うように口許を歪めた。哀しみも苦しみも、痛みも自分が齎すべき混沌だと主張するエーリカ。
その表情を苦々しく感じた理玖は頭を振る。
「ほんっと、邪神って胸くそ悪ぃ」
理玖は虹色の珠が連なる念珠を弾いて握り締めた。龍の横顔を模した腰のバックルに龍珠を装着すれば、理玖の身体が光に包まれる。
「――変身ッ!」
「きの! 俺達も行くぞ。頼む!」
『えぇー、しょうがないなぁ』
理玖の全身が装甲に包まれる中、きよはもうひとりの自分を呼び出す。きよの隣に現れたきのは乗り気ではなかったようだが、ちゃんと渡されたモップを握り締めた。
きよ自身もデッキブラシを構え、魔女に対抗するべく構える。
刹那、エーリカが目映い光を放つ炎を顕現させた。
「活きの良い子達ね。さあ、スフェーンの魔石よ、呪いの楔を齎しなさい!」
宝石飾りから放たれた炎。
それらは駆けた理玖を阻むように迸った。しかし理玖は止まらない。このまま拳で殴り抜くと決めていた。
鋭い一閃を魔女に向け、振るう理玖。エーリカはそれを躱したが、更に其処へきよときのが続いて駆けてきた。
「理玖、さっさと倒しちまおうぜ!」
『りっくん、勇猛果敢だね。頼もしい!』
「ああ。兄さん達、あの炎に気を付けてな」
掃除用具による連続攻撃が魔女を穿つ。身を翻して二撃目を叩き込んだ理玖は確かな手応えを感じた。
だが、魔女の炎が厄介であることも理解している。注意を呼びかけられたきよ達はしかと頷き、敵の攻撃に備えてデッキブラシとモップを構え直した。
炎が舞う中、素早い立ち回りで対抗する三人。
「ところで、あなたはあの子とどんな縁があるのかしら」
「これでもマブダチなんでね」
「俺も知り合い……友人、だな」
戦いの最中に不意に魔女が問いかけてきた。きよは勝手に言ってるだけだがと付け加え、理玖も多分だと答える。
ふぅん、と笑ったエーリカはそのままスフェーンの魔力を再び放った。
理玖は高速で戦場を駆け、残像を纏いながら敵の狙いを惑わせる。そして、炎の軌道をよく見て躱していった。
対するきよは避けるのではなく打ち消す戦法を取っている。
『きよ! 炎がきてるよ!』
「炎? そんなもん水で消せばいいだろ」
『そっか、じゃあいくよー!』
きよはデッキブラシを振るい、きのはモップで水を飛ばして対抗した。きよ達が炎を消す様子見た理玖は口の端を上げる。
「おお、やるな」
俺も負けらんねぇ、と気合を入れ直した理玖は二人に頼もしさを覚えた。炎は此方の動きを止めるものだが、確かに当たらなければどうってことはない。
「そもそも壊しちまえば使えねぇだろ」
「理玖、俺達が抑えてる間に!」
『ぜーんぶ任せたよ』
きよときのがエーリカを相手取ってくれている。その間に悟られぬよう側面に回り込んだ理玖は魔女が纏う宝石を狙った。
拳の乱れ撃ちによってマントにあしらわれた魔石が砕かれていく。だが――。
「あたしの宝石を甘く見ないことね」
触れたことによって魔力が解放され、先程よりも激しい炎が此方に放たれた。
「きよ兄さん!」
「うわっ!」
『わあー!』
三人を包み込んだ炎は楔の魔力を齎した。一時的に動けなくなった三人だが、胸に宿る闘志と戦意までは止められていない。
何とか抵抗しながら、理玖は魔女に凛と言い放っていく。
「俺はあんたが誰かは知らねぇし縁はない。けど、あの人にあんな顔させて、きよ兄さんを怒らせて……許せねぇ」
「ああ、そうだな。俺だって許す気はない」
きよは理玖の言葉を聞きながら懸命に楔の力を振り払った。此処から更に戦いは巡っていくだろうが、決して諦めたりはしない。
此処で一度、引導を渡す為にも退くことは出来ない。
呪炎の魔女を強く見つめた彼らは覚悟を抱き、揺らぐ焔をしかと瞳に映した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エンジ・カラカ
【エレル】
魔女ー、炎ー
賢い君の炎の方が凄いンだ。
燃やすなら、燃やし返せ、賢い君。
うんうん、その通り。
属性攻撃は賢い君の毒
じわじわと効く毒サ
アァ……炎だけじゃない。賢い君は賢いカラなァ……。
君の糸をぐるぐる巻きつけてー
それからそれから燃やしてチクッとネ。
おびき寄せは任せろ任せろ
賢い君の炎の方が強い!
コッチコッチ、コッチダヨー
おびき寄せたら、いけー!ロカジンの雷!
賢い君もカッコイイって褒めてる褒めてる。
アァ……ヨシュカの針はヒライシン?になる?なる?
アレ。アイツかロカジンに刺して
ロカジンの雷でどーんってしたら針にどーんって。
絶対に逃げられない雷サ。
賢くなければ生きれないのサ。
ヨシュカ・グナイゼナウ
【エレル】
(違うあついってなんなのでしょう?)
ロカジさまの言う事はよくわかりませんが、わたしも熱いのは嫌いですので
成る程、避雷針ですか。承知しました、お任せ下さい!
エンジさまがおびき寄せている間に、【目立たない】様に立ち回り
隙を見てロカジさまごと千本の雨を【早業】で降らせましょう
外した訳ではございません
ロカジさまに刺さった千本は少し特別。経絡を【見切り】狙って当てた【天泣】
少々チクリと致しますが、ヤル気と力がもりもり湧いて来る代物
ついでに傷も回復致します。不思議!
貴女に刺さった方は普通の千本。つまりはただの金属針
雷をよぶ避雷針
クワバラクワバラ、です!
成る程、これが知能戦!賢い
ロカジ・ミナイ
【エレル】
おや、べっぴn
ひぇぇ、炎使いかい?やめとくれ、やめとくれ、
同じあついでも違うあついがいいよ、僕は!
炎上系は煙草と飯炊きくらいで勘弁して欲しいよ!
…なんてね
尻尾巻いてばっかの僕じゃーない
知ってるだろうけどやるときゃやるのよ
さぁ、準備は出来たかい?エンジくんにヨシュカ
エンジくんと賢い君の火加減はバッチリ
ヨシュカの針の腕が、なんだい、最高だね
魔女さんや、まだ自分が食う方だと思ってるのかい?
やれやれ…おバカさんだなぁ
これでかわいくなかったら目も当てられないよ
食らってごらんよ、僕らの一撃を
賢い君の黄色い声援とヨシュカの鍼灸パワーで
出力3万倍の雷を
カカカ!知能戦ってのはえっぐいなぁ!ガハハ!
●めくるめく知能戦
異空間の奥に現れた魔女。
彼女は先程まで戦っていた猫とは比べ物にならない程の存在感と魔力を纏っていた。
「魔女ー、炎ー」
「おや、べっぴん」
エンジとロカジが魔女を見つめると、不敵な視線が返される。
「そうでしょう。この身体はとても良いものなの」
誇るように胸を張った魔女はまるでその身が他者のものように振る舞った。その存在が邪神である以上、彼女の身体は依代に過ぎないのだろう。
掌の上に炎を宿した魔女は、訪れた猟兵達に向けて激しい焔を放った。
「来ます!」
ヨシュカが危険を呼びかけ、即座に後方に下がる。その目の前を通り抜けていった紅い炎は当たればひとたまりもない。
ロカジも何とか火を避け、やめとくれ、と繰り返す。
「ひぇぇ、炎使いかい? 同じあついでも違うあついがいいよ、僕は!」
(違うあついってなんなのでしょう?)
ヨシュカはロカジの言動を疑問に思ったが、口には出さないでおいた。もし問いかけていたならば男女の云々という答えが重ねられたかもしれないが、それはさておき。
エンジも炎の軌道を読み、身を低くして躱していた。
相手が魔女であろうともエンジは怯みもしなければ、驚きもしない。何故なら――。
「賢い君の炎の方が凄いンだ。燃やすなら、燃やし返せ、賢い君」
炎に対して燃える赤い糸を放ち返したエンジ。
賢い君が頼もしいと感じながらロカジも何とか気持ちを持ち直す。猫に炎、怯えてばかりではあるが致し方ない。苦手なものは苦手だ。
「炎上系は煙草と飯炊きくらいで勘弁して欲しいよ!」
「うんうん、その通り」
「わたしも熱いのは嫌いですので、防がせて頂きます」
頷くエンジと、同意を示すヨシュカ。相変わらずロカジの言っていたことは分からないままだがヨシュカとてやられてばかりではない。
ロカジはしっかりと身構え、賢い君に続く一閃を放とうと決めた。
「さて、尻尾巻いてばっかの僕じゃーない。知ってるだろうけどやるときゃやるのよ」
見てなよ、と告げたエンジは自らの指先を切って流れた血に力を籠める。それを代償した彼は、雷電を纏わせた。
あれをやるよ、と話したエンジは二人に呼びかける。
「さぁ、準備は出来たかい? エンジくんにヨシュカ。行くよ」
「承知しました、お任せ下さい!」
ヨシュカが応え、エンジも賢い君に毒を宿してゆく。じわじわと効く毒を魔女に与え、気を引く為にエンジは立ち回っていった。
「アァ……炎だけじゃない。賢い君は賢いカラなァ……」
どうかな、と視線を向けたエンジは魔女に毒と炎の心地を問うているようだ。対するエーリカは己の炎でそれをいなし、毒に耐えている。
「なかなか悪くはないわね」
ふん、とそっぽを向いた魔女は苦しみを隠しきれていなかった。其処こそが攻め入る好機だと察したロカジはヨシュカを隠す形で前に出る。
作戦はこうだ。
ヨシュカが魔女に針を用意し、それを避雷針にしてロカジが雷撃を放つ。その準備の間はエンジが敵を誘き寄せるという形だ。
「賢い君の炎の方が強い! コッチコッチ、コッチダヨー」
「やあやあ、エンジくんと賢い君の火加減はバッチリだね」
ロカジが仲間を褒め称えるのもすべて敵の意識をエンジに向かわせるため。その間にヨシュカは一気に力を放つ。
「すこしだけ、チクリとしますよ」
「なあに、外したのかしら」
ヨシュカが行動したことに気付いた魔女は訝しげな視線を向けた。その声を聞いた少年は首を横に振る。
「外した訳ではございません」
魔女ではなくロカジに刺さった千本は少し特別。やる気と力が湧いて来る代物だ。
そして、次に放たれた千本は魔女に突き刺さる。
一度は避けられそうになったが、エンジが放った賢い君の糸がぐるぐると巻きつけられることで見事に命中した。
ロカジに放った物は癒しの力を宿しているが、魔女への千本はただの金属。
「わかりますか? 貴女に刺さった方は普通の千本。つまりは雷をよぶ避雷針です」
「さすがはヨシュカ。なんだい、最高の立ち回りだ」
戸惑った魔女が何かをする隙も与えず、ロカジが素早く動いた。放つのは遠慮も衒いもない真っ直ぐな雷撃だ。
「このっ!」
痛みと衝撃から逃れようとした魔女は抵抗する。
だが、ロカジは決して攻撃の手を緩めようとしなかった。エンジは確実に敵に痛みを与えられていると感じてぐっと拳を握った。
「いけー! ロカジンの雷!」
「クワバラクワバラ、です!」
ヨシュカは魔女が痺れる様を見つめ、エンジも賢い君を更に遣わせてゆく。魔女も炎を撃ち返して対抗しているが、ヨシュカが用いる天泣の力があれば怖くはない。
「絶対に逃げられない炎と雷サ」
「……小癪な子達ね。でも気に入ったわ」
エンジに視線を返したエーリカは追い詰められながらも余裕を崩そうとしない。しかしそれが強がりであることをロカジは見抜いていた。
「魔女さんや、まだ自分が食う方だと思ってるのかい? やれやれ……」
「そうよ、あたしは――」
言い返そうとするエーリカの言葉を遮り、ロカジはふっと軽く笑ってみせる。
「おバカさんだなぁ。これでかわいくなかったら目も当てられないよ」
「わたし達もやられてばかりではありませんので!」
「まだまだ、終わらない。覚悟、覚悟」
ヨシュカとエンジは身構え直し、此処から更に巡っていく戦いへの思いを強めた。そして、二人は賢い君と避雷針を更に迸らせる。
ロカジは其処へ雷電を流し、再びひといきに力を放った。
「食らってごらんよ、僕らの一撃を。君が倒れるまで止めないから」
炎と雷。そして毒と針。
重なりながら巡る力は激しく、そして鋭く――彼らと魔女の戦いは続いてゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユヴェン・ポシェット
炎か…。
悪いが燃やされるつもりは無い。
ロワ、お前の爪と牙借りるぞ。
共にいこう。
俺は槍が最も扱い慣れてはいるが、何もミヌレがいないと戦えない訳ではない。
tähtinenを剣へと形を変え、構える。
ロワ、駆けろ…!
距離を詰め、彼女の持つ杖…そして石の破壊を試みる。
●獅子と宝石
炎と呪力が迸る戦いは激しく、暗闇に妖しい光が舞う。
ユヴェンは共に此処まで進んできた獅子の背に掌を添え、揺らめく焔を捉えた。
「炎か……」
ロワ、とその名を呼べば獅子が地を蹴る。跳躍したロワが先程まで立っていた場所に炎が着弾して燃えあがった。
「俺達の命を欲しているようだが、悪いが燃やされるつもりは無い」
魔女を見つめたユヴェンが魔法石の腕輪を掲げれば、繊細な星模様が輝きを宿す。見る間に刃へと変わったそれを見たエーリカは興味深そうに薄く笑んだ。
「まあ、素敵なものを持っているのね」
それも欲しいとでも言うように魔女は更なる炎を解き放った。ユヴェンは首を振り、ロワと共に打って出ようと決める。
「ロワ、お前の爪と牙借りるぞ」
この場に一緒に訪れたのだから、最後まで共に――。
行こう、と呼びかけたユヴェンの声を聞いた獅子が一気に駆け出した。
星の輝きを携えた刃を振りあげた彼は迫りくる炎を切り裂く。ロワは背に跨るユヴェンが攻撃をまともに受けぬよう素早く立ち回り、魔女を威嚇するように吼えた。
「ミヌレも頼もしいが……ロワ、お前もだ」
――駆けろ!
ユヴェンが鋭く言い放った言葉に応えたロワはそれまで以上の速度で駆けた。
狙うのは魔女が持つ宝石。
杖先で揺れる石は的としては小さいが、あれを壊せば力を削ることができるはずだ。ひといきに距離を詰めたユヴェンは星の刃を振り下ろす。妖精の加護を受けた一閃は目映い煌めきを宿した。
その一瞬後。宝石のひとつが砕け散り、地に欠片が落ちた。
「よくもやったわね……」
「やはりそれが力の源か」
睨みつけられた視線を受け止めたユヴェンは納得する。魔女が纏う魔力が僅かに減ったのだ。未だ多くある石を一個壊しただけだが、これは好機でもあった。
「容赦はしない。覚悟しろ」
魔女を睨み返したユヴェンは強く宣言する。
最後までロワと共に戦い抜く意志を抱いた彼は、手にした星の刃を構え直した。
そして、攻防は続いていく。
成功
🔵🔵🔴
フリル・インレアン
ふえぇ、あの方が邪神さん。
それにしても、おかしいです。
さっきから、私を襲う炎が正確に私を追い詰めていくんです。
さっきも屈んで避けたはずなのに周りが火の海になって炎に包まれてしまいましたし、どういうことなのでしょうか?
ふぇ?これが炎の呪いなのですか?
屈んで避けたと言いましたが、正確には縮こまって動けなかっただけ
なら、お洗濯の魔法で炎の呪いを払い落として、勇気を振り絞って、突撃です
波狼・拓哉
封印でもされてたんですかねあれ。ま、無駄に優秀なおかげで我々に捕捉されてるんです。わざわざ自分の作戦を語ってくれるくらいですしねぇ。残しておく理由もなくなりました
んじゃ、ミミック。突っ込め。炎に巻きこれまたくらいでユベコ発動。化け狂いな…?性質変えは出来ないとは言わないけど面倒なんで防御力上げて無理矢理いきましょうか。戦法もあったもんじゃないですし、暴れて相手の目を釘付けにしてやりましょう
自分は衝撃波込めた弾で…あの宝石が媒介ですね。んじゃま狙い撃ちして部位破壊と行きましょう。戦闘知識、第六感、視力で相手の動きを見切り、壊れるまで早業で連撃を撃ち込んでやりましょうか
(アドリブ絡み歓迎)
●箱とお洗濯と魔女の炎
戦場に巡る炎と呪い。
それらは肌を焦がすような熱を宿しながら猟兵達に襲いかかってくる。
「ふえぇ、あの方が邪神さんですか」
「封印でもされてたんですかねあれ」
フリルが戸惑いながら敵を見つめる中、拓哉も敵の攻撃を捉えながら身構えた。フリルは懸命に炎を避けようと動き、拓哉は軌道を読む。
「ま、無駄に優秀なおかげで我々に捕捉されてるんです。わざわざ自分の作戦を語ってくれるくらいですしねぇ」
残しておく理由もなくなりました、と語った拓哉は魔女を見据えた。
フリルは冷静な拓哉が羨ましくなりながらも、自分は自分なりに頑張るしかないと気合いを入れていく。だが、呪炎はフリルを狙ってしつこく追い縋ってくる。
「ふええぇ、おかしいです」
先程からフリルを襲う炎が正確に、そして無慈悲に迫ってきていた。
おそらく声をあげて慌てるフリルが狙いやすい思われているのだろう。追い詰められていく感覚に怖くなりつつも彼女は駆け回る。
だが、そのおかげで拓哉への攻撃が僅かに緩んでいた。
「んじゃ、ミミック。突っ込め」
魔女の炎に巻き込まれる寸前、拓哉は命無月光の力を発動させる。
召喚されたミミックは顔の無い二足歩行の獣へと変化していく。化け狂いな、という拓哉の声と共に箱型生命体は防御力を強化した。
敵が放つ炎の威力は強いが、これならば無理矢理にでも突破できる。
「戦法もあったもんじゃないですし、暴れて相手の目を釘付けにしてやりましょうか」
「よろしくお願いします」
それまで敵の炎を引き付けていたフリルは拓哉の方に振り返りながら願った。
さきほども屈んで避けたはずだというのに周りは火の海。今にも炎に包まれてしまいそうになったフリルは疑問を浮かべる。
「どういうことなのでしょうか? ふぇ? これが炎の呪いなのですか?」
「……いえ、あなたが鈍くさいだけね」
「ふぇえ!?」
フリルの言葉に対し、魔女エーリカは思わず突っ込んだ。
そんな、と涙目になったフリルはふるふると首を振る。そもそも屈んで避けたつもりだったが、正確には縮こまって動けなかっただけだ。
しかし今は拓哉のミミックがフリルの代わりに立ち回ってくれている。少し凸凹な組み合わせではあるが連携は上手くいっているようだ。
拓哉は衝撃波を込めた弾を放ち、魔女の力の根源を探る。
「あの宝石が媒介ですね」
「それなら勇気を振り絞って、突撃です」
フリルは拓哉の言葉に頷き、お洗濯の魔法を巡らせていく。それによって炎の呪いを払い落とした彼女は自らの力を強めていった。
「んじゃま狙い撃ちして部位破壊と行きましょう」
拓哉もフリルの動きに合わせて己の持てる限りの力を駆使して戦っていく。
壊れるまでただひたすらに力を振るうだけだと決め、フリルと拓哉はそれぞれの思いを込めた連撃を打ち込んだ。
お洗濯の魔法に衝撃波、ミミックの突撃。
対するエーリカの宝石が妖しく光る最中、彼らは僅かな勝機を見た。
魔女との戦いは暫し続くだろう。されど自分達は終わりを導く力を持っている。勝利という望んだ未来を掴み取るまではこの手を止めない。
猟兵達は魔女を強く見つめながら、決意にも似た思いを抱いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
呉羽・伊織
【花守】
邪魔したのはソッチだろーに――平和に桜隠しの光景を楽しみたかっただろうヒトらの、貴重な一夜を
…邪神と火遊びなんて趣味はねーっての!
UC使い早業で先制攻撃
目潰し狙い風切放ち
続けて宝石(特に楔か猫睛)破壊狙い烏羽で2回攻撃
得物には身を縛る呪詛と毒も仕込み、何処に当たっても何かしらの阻害となるよう多重に工作
未来が視えても、動きが鈍ってりゃ回避も難しいだろ――ちゃんと当てろよ!
以降もフェイント交え攪乱攻撃しつつ、隙あらば上記狙う
守りは耐性でカバー
呪詛の類にゃ慣れてる
更に敵の様子探り情報収集
残像で目眩ましや見切りで回避も
この地も依代も解放して、失せな
火花も血花も御免
静かな雪花の光景を、もう一度
佳月・清宵
【花守】
ああ、とんだ邪魔者だな
こんな炎であの雪月花を覆われちゃ敵わねぇ
折角の夜に無粋な篝火なんぞ無用――燃え尽きるのはてめぇだ、邪神
ところで伊織はまた見惚れて大火傷なんてすんなよ?
冗談めかして笑いつつもUC
先制に乗じ、同じく呪縛の※呪詛纏う炎乱舞
頭上や足元も含め全方位から敵を囲い込み狙う
其の一部をフェイントにも利用
早業で麻痺毒宿す得物による2回攻撃も重ねてく
はっ、言われずとも!
敵の炎飛べば※ぶつけ相殺しつつ、所作や視線を探って見切り回避
残像も重ね合わせ、此方の動作は眩ますよう連携
此処から出てぇなら叩き出してやるさ――現ではなく、骸の海にな
忌まわしい炎熱は消し止めて、静かな雪景で口直しと行こうか
吉城・道明
【花守】
左様
人々の平穏を妨げ奪わんとした以上、見過ごせる訳も無かろう
これ以上は、何もくれてやらぬ
……戯れも余所見も程々にな
(と言うも、そこはまぁ信頼しているのか――さして心配無い顔で)
先制に乗じ清宵と別方向からUCで一閃
狙うは武器落とし
他の阻害は仲間を信じ、己は紅石を重点的に断つように
余裕あれば本人も狙い、隙作るべく重い一太刀で気絶攻撃
戦法等を易々と掴まれぬように、代わる代わるに正面や死角を突き連携
――機は無論、活かしてみせるとも
身はオーラ防御や耐性で補強
皆と共に残像で目を斯く、動作観察し見切る等の対策も随時
――その身も魂も、悉く送り返そう
そして良からぬ夢は此処に断ち、佳き現へと帰るとしよう
●炎と宝石
暗闇に光る魔方陣と炎。
揺らぐ焔の奥に佇む魔女の姿を見遣り、伊織は軽く溜息をついてみせる。
「邪魔したのはソッチだろーに」
平和に桜隠しの光景を楽しみたかったであろう人達の貴重な一夜を潰した。それがあの魔女、呪炎のエーリカの所業だ。
「ああ、とんだ邪魔者だな」
「左様。人々の平穏を妨げ奪わんとした以上、見過ごせる訳も無かろう」
清宵も魔女を一瞥し、道明はこれ以上は何もくれてやらぬと告げた。すると魔女は三人を順番に見つめる。
言葉はなかったが、値踏みするような目だと感じた清宵は視線を跳ね除ける。
「折角の夜に無粋な篝火なんぞ無用――燃え尽きるのはてめぇだ、邪神」
「あら、つれないのね」
魔女は小さく笑うと杖を構えた。
油断はならない相手だと察した清宵はふと伊織に意識を向ける。
「ところで、また見惚れて大火傷なんてすんなよ?」
「……戯れも余所見も程々にな」
すると、道明も伊織へと軽く言い含めた。
「邪神と火遊びなんて趣味はねーっての!」
思わず言い返す伊織だが、道明とて本気で言っているわけではないと知っている。心配などない表情をしている彼の言葉の裏に信頼が宿っていることはよく分かった。
身構えた清宵は二人に呼びかける。
来るぞ、と短く告げたことで迫りくる炎を示した彼は、その軌道を読んで避けた。
「こんな炎であの雪月花を覆われちゃ敵わねぇ」
巡る炎は当たればひとたまりもない。この力が外の世界に及ぶとなれば大惨事が予想されるほどの威力だ。
警戒を強めながらも後手に出ぬよう、伊織は地を蹴る。
同時に投げ放ったのは陣風の力を纏う手裏剣の一閃。魔女に迫る風切は目潰しを狙ったものだが、杖と炎によって弾かれてしまった。
「流石に簡単にはやらせてくれねーか」
されどそれも予測済み。
伊織に続いた清宵が狐火を放ち、双眸を鋭く細める。目には目を、炎には炎を。そのように冗談めかした彼は、呪詛を纏った炎の乱舞で対抗していった。
更に道明が清宵とは別方向から一閃する。
杖を狙った彼は敵の武器を落とそうとしていた。三者三様にそれぞれに狙うものは違うが、その動きは見事な連携となって巡る。
「頼んだ」
道明がたったそれだけの言葉を告げるだけで、二人は的確に動いた。
阻害行動が重なればそれだけ魔女の隙が出来る。仲間を信じた道明は紅石の力から紡がれる炎を重点的に断つように立ち回った。
「宝石が見当たらないと思えば――」
「ああ、あの瞳が宝石の力なのか」
道明と伊織は魔女の瞳に注視する。目潰しと紅玉を狙うことはつまり同じ。だが、相手の主力であるそれを壊すのは困難だろう。
そう察した伊織は別の宝石――特に目に見えているスフェーンやキャッツアイの宝石飾りの破壊を狙っていく。
烏羽の黒刀に身を縛る呪詛と毒を仕込み、何処に当たっても何かしらの阻害となるように力を巡らせる伊織。
清宵も狐火や得物に麻痺と毒を宿すことで更なる妨害を狙った。
されど魔女は未来を読み、此方の攻撃を躱していく。実に厄介でしかないと感じたが、道明も清宵も、そして伊織も攻撃の手は緩めなかった。
「未来が視えても、動きが鈍ってりゃ回避も難しいだろ――ちゃんと当てろよ!」
「はっ、言われずとも!」
伊織の声に言葉を反した清宵は敵の炎に己の狐火を衝突させる。相手は此方の動きを見定めているようだが、此方とて所作や視線を探ることが出来た。
道明も自分達の戦法を易々と掴まれぬよう立ち回り、二人と共に代わる代わるに正面や死角を突くことで戦っていく。
そして、不意に好機が訪れる。他の猟兵の攻撃によって魔女の杖に宿る宝石飾りが破壊されたのだ。
「この機は無論、活かしてみせるとも」
道明はその身を防御の力で包み、清宵と共に残像で敵の目を斯いた。伊織が入れるフェイントと撹乱。そして、連続で放たれる剣刃の一閃と暗器による攻撃。更には狐火が周囲を取り巻き、敵の力を削いだ。
「悪いな、呪詛の類は慣れてるんだ」
伊織は呪いの炎を受け止めながら、痛みに耐える。
魔女は徐々にではあるが押されていた。相手からの攻撃も激しいが、このまま戦えばいずれは勝利を掴むことが出来るだろう。
「此処から出てぇなら叩き出してやるさ――現ではなく、骸の海にな」
「――その身も魂も、悉く送り返そう」
「この地も依代も解放して、失せな」
三人は邪神に対する思いを告げ、再び攻勢に出た。重なる力、共に束ねていく意志と思い。決して揺らぐことのない信頼が其処にあった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
ごきげんよう
ずうっとお外に出られないのは……そうね、つらいと思うわ
何にかえても出たくなってしまうかも
……でも、だめ
【WIZ】
ララやその他のお友だちを操りお相手しましょう
しっかり炎のパチパチいう音には気を付けながら
ルーシーに注目させるわね
お友だちが燃えてしまっては困るもの
動きの先を見るのは、ぞんぶんに
あなたのその石よりも
さっき見たにゃんこさんの目の方がキレイだった
そうして引き付ける事が出来たなら、来て
『うしろのおともだち』
狙うは猫睛石、そして魔女さん
たとえ炎がジャマをしても、その爪が生む風がおそうでしょう
あのね
ルーシーを食べていいのは、ブルーベルだけなの
他の人も食べさせないわ
花剣・耀子
趣味が悪い。
底意地が悪い。
……大方の邪神はそういうものね。
おまえが誰を装っているかは知らないけれど、
ここから出す訳にも、好き勝手にされる訳にもいかないの。
此処で還って貰うわよ。
剣を手に、前へ。
踏み込みましょう。
炎も呪いも、其処に在るなら斬れるのよ。
――恐ろしく思わないわけではないわ。
炎に対して、本能に根差した忌避感はある、けれど。
それを越えないことには、あたしたちはおまえと渡り合えない。
焼かれたところで、即死しなければ其れで良い。
憶えられたって、防げなければ無意味でしょう。
あたしは只斬るだけよ。
致命傷になり得る炎だけは咄嗟に斬って、祓って、
多少の傷はくれてやるからおまえのいのちを寄越しなさい。
●斬り裂く風と刃の閃輝
――ごきげんよう。
スカートの裾を軽く持ちあげたルーシーは現れた魔女に挨拶をした。
しかし、そのお辞儀に真っ当な挨拶が返されることはなく、戦いは幕を開ける。
「ずうっとお外に出られないのは……そうね、つらいと思うわ」
何もないこんな暗い空間に顕現した魔女を思えば、ルーシーの裡に同情めいた哀しみが巡った。もし自分が魔女と同じ状況に陥ったとしたら、何にかえても出たくなってしまうだろう。されど、だからといって彼女の所業を許すわけにはいかない。
「……でも、だめ」
「そうね。相手は邪神だもの」
ルーシーの近くには機械剣を構えた耀子が立っていた。
眼帯と眼鏡の奥。それぞれの瞳を敵に差し向けた少女達は自然と、一時的に共に戦うことを選び取っている。
趣味が悪い。底意地が悪い。大方の邪神はそういうものだと耀子は識っていた。
それがこれまでに学んできたことであり、間違いなどではないと分かっている。目の前の邪神も女性の姿をしているが、それも依り代でしかないのだろう。
「おまえが誰を装っているかは知らないけれど、ここから出す訳にも、好き勝手にされる訳にもいかないの」
だから、此処で還って貰う。
静かに宣言した耀子は手にした剣を起動させ、強く前へ踏み出した。
地を蹴りあげれば勢いが付く。ひといきに距離を詰めようと狙い、駆けた耀子と魔女の視線が交差した。
「あら、近寄らせないわよ」
「炎も呪いも、其処に在るなら斬れるのよ」
魔女は片手を掲げ、紅玉の眸から生み出される炎を解き放つ。激しい紅色の軌跡が耀子に迫ったが、其処にルーシーも打って出る。
「おねがい、守って」
魔女から敵意を受けたことで動き出したクマのぬいぐるみ。その子が耀子に迫っていた炎を受け止め、爪で衝撃を掻き消した。
ありがとう、と短く告げた耀子はそのまま一気に斬り掛かる。
別の炎が耀子を焼こうと浮遊していたが、刃を振るうことでいなす。先程の言葉通り、耀子は呪いや炎すらも斬る力を持っていた。
ルーシーもララや他のお友達を操りながら、魔女に対抗していく。
「さあ、ルーシーをみて」
一度は炎を払えたが、ぬいぐるみ達が燃えてしまっては敵わない。それゆえにルーシーは自分自身に敵の目を引きつける作戦に出た。
パチパチと爆ぜる炎の音。紅い軌跡を描きながら巡る焔。
耳と目、両方で機を窺ったルーシーは魔女の姿を瞳に映した。対する相手はクマのぬいぐるみから放たれる衝撃波を読み取り、素早く避ける。
それもまた宝石が持つ未来視の力なのだろう。耀子は敵が使う魔力の質を確かめながら、一閃を叩き込む隙を狙ってゆく。
「ふふ、みんな燃やし尽くしてあげる。恐れなさい、怖がりなさい」
「――恐ろしく思わないわけではないわ」
魔女からの言葉を聞き、耀子は頭を振ってみせる。
燃え広がる炎。それに対して本能に根差した忌避感があることは否めない。けれど、自分達は理性を持つヒトだ。
「それを越えないことには、あたしたちはおまえと渡り合えないわ。だから――」
斬る。
単純ながらも真っ直ぐな耀子の思いは何よりも強く感じられた。
「あなたが動きの先をみるなら、それでいいわ」
耀子の言葉に続けてルーシーも魔女への思いを声にする。その間にも激しい攻防が巡っていたが、少女達は決して手を止めなかった。対する魔女は不敵な笑みを浮かべる。
「ふぅん、あたしに勝てると思ってるの?」
「あなたのその石よりも、さっき見たにゃんこさんの目の方がキレイだった」
「あらあら、言うわね。この宝石達を馬鹿にしているのかしら」
敢えて挑発的な言の葉を選ぶルーシーは片目で耀子に目配せを送った。少女が魔女を引き付けていると察した耀子は更なる攻撃に移っていく。
炎は身を焼いたが、この痛みが何だというのか。
焼かれたところで即死しなければそのまま駆けられる。此方の動きを憶えられたとしても、相手が防げなければ無意味だ。
魔女の側面から回り込んだ耀子は機械剣を大きく振り上げた。
「あたしは只斬るだけよ」
自分を穿とうとする炎も、ルーシーを狙う魔力も斬って祓って消し去る。互いに支えあえていることを感じたルーシーはぬいぐるみを呼んだ。
「来て」
ルーシーも耀子も、狙うのはただひとつ。魔女が身に纏う猫睛石だ。
クマの爪撃。そして、駆動音を響かせる刃での一閃。鋭く、素早く振るわれた力は魔女帽子に飾られたキャッツアイを見事に打ち砕いた。
「……っ! よくも、あたしの宝石を!」
魔女は忌々しげな言葉を吐きながら、少女達を睨み付ける。
戦いは此処からも更に続くだろうことが分かった。それでも耀子とルーシーは怯むことなく、己の力を揮おうと決めている。
猟兵達の手によって宝石は殆どが砕けており、邪神の力も弱りはじめていた。
そして――視線を重ねたふたりはこの先に巡る魔女の結末を思い、頷きを交わした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
荻原・志桜
⭐🌸
あの人がエーリカさん、彼から聞いた…。
秘められてる呪術は強く、
色は違えどあの焔はやっぱり彼の人を思い起こさせる
隣にいる幼子を見て口元だけ笑み浮かばせる
祈里ちゃん、止めるよ。
一緒にあの魔女を追い払っちゃおう。
手に形成するのは大鎌
魔法を即座に構築し顕現させるのは数多の雷纏う矢
一斉に放ち地面に能力向上の陣を広げて距離を詰め大鎌を振るい
迫る焔は即席で威力は劣れど冷気の力を付与させた風を巻き起こし薙ぎ払う
大人しく糧になるわけにもいかないし。
何度でも邪魔をするよ。
アナタのことわたしは知らない。
知らないけど非道を重ねることを黙認なんてできない。
だって誰よりも止めたいと、強く願っている人を知ってるから。
朝日奈・祈里
⭐️🌸
呪具に魅入られたか
代償を考えないと、魔術、ましてや呪具なんぞ扱えん
まあ、ぼくさまも改めて肝に銘じておくよ
おう、行こうぜ、桜髪の少女
頼りにしてる!
バラバラと魔導水晶をばら撒いて、そこに魔法陣を敷く
撒いた魔導水晶は、魔術を増強させる効果を秘めたもの
それに闇の槍や炎の渦、氷の礫をぶつけて魔女を騙るオブリビオンにプレゼントだ
ほら、キラキラして綺麗だろ?
こういうの、好きなんじゃねーの?
おまえとぼくさまになんの因果もない
けどな、おまえと因果のある奴と『友達』になったんだ
だから、おまえには居なくなってもらうぜ
●魔女と魔法使い
炎が宿す熱が昏い空間を駆け巡っていく。
呪を纏う焔の激しさと鋭さ、魔女から向けられる敵意。それらを真正面から受け止めた少女達はそれぞれに魔術杖を構えた。
呪炎の魔女と桜の魔女、そして天才魔法使い。対峙する彼女達の視線が交錯する。
「エーリカさん……」
「あれが呪具に魅入られた者の末路か」
志桜が敵の名を口にする傍ら、祈里は魔女が身につける宝石飾りを見遣った。
おそらくあの宝石にも使用する代償があるのだろう。そういったことを理解しなければ魔術、ましてや呪具など扱えはしない。
「まあ、ぼくさまも改めて肝に銘じておくよ」
独り言めいた言葉を落とした祈里は志桜を見上げた。エーリカが纏う呪いを感じ取っているらしき志桜に、大丈夫かと問いかける。
頷きを返した志桜は、自らの魔力を練りあげながら答えた。
「本当に似てると思って。秘められてる呪力も、あの炎も――」
呪いの放出の仕方。瞳に宿った呪力。色は違えど、あの焔はやはり彼の人を思い起こさせるものだ。そう思うと身体が震えた。
「こわい?」
「ううん、違うよ。祈里ちゃん、一緒にあの魔女を止めよう」
祈里がもう一度問うと志桜は首を横に振る。口元にだけ笑みを浮かべた志桜は掌に魔力を集中させた。杖の代わりに其処に顕現させたのは月影を思わせる大鎌だ。
得物を構えた志桜が決意を抱いたことに気が付き、祈里も笑って応えた。
「おう、行こうぜ、桜髪の少女。頼りにしてる!」
その言葉に嘘はない。
祈里は周囲に魔導水晶をばら撒き、炎を巡らせていく魔女に視線を向け直す。
それらは魔術を増強させる効果を秘めたものだ。祈里に目を向けたエーリカはくすくすと笑ってみせた。
「ふふ、可愛らしい子達ね。その宝石も綺麗だわ」
生命力と一緒にそれも欲しい。そう語ったエーリカは祈里達を瞳に映し、目映い光を放つ炎を解き放っていった。楔の魔力が宿った焔に当たるわけにはいかない。
即座に魔法陣を展開した祈里は炎の渦を巻き起こす。火には火だ、と告げて炎を防いだ祈里は更に力を巡らせた。
闇の槍に氷の礫、陣から現れたものは魔女に向けて解き放たれた。
その機に合わせて魔力を構築した志桜の周囲に雷が生まれいずる。それは瞬く間に数多の矢となり、雷撃を齎すものとなって宙に舞った。
志桜が大鎌を掲げると同時に、一気に飛翔する天雷の矢。
その後を追うように駆け出した志桜はエーリカとの距離を詰めた。大鎌を振るい、撃ち返された炎を刃で斬り裂く。
威力は劣れど、冷気を宿す風を巻き起こした志桜はそのまま炎を押し切った。しかし猫睛石の力によって攻撃は回避され、呪力の残滓が志桜の身を包み込む。
「どうかしら、あたしの呪炎は」
「……っ! これくらい、何ともないよ!」
エーリカからの言葉に少しの強がりを返した志桜は大鎌を構え直した。鈍い痛みにも似た感覚をおぼえたが、此処で怯んではいられない。
祈里は志桜から敵の意識を引き剥がすため、更に魔導水晶の力を振るっていく。
「ほら、キラキラして綺麗だろ? こういうの、好きなんじゃねーの?」
「あたしの宝石達よりは劣るわね。でも、貰ってあげてもいいわ」
エーリカは嘲笑うように祈里に告げた。
そして彼女は祈里が放った闇の槍を杖で弾き返す。だが、続けて巻き起こされた炎の渦には対抗できなかったらしい。
やるわね、という声と共にエーリカが痛みを堪える様子が見えた。渦を操る祈里はすぐさま志桜に呼びかける。
「今だ、桜髪の少女! 魔女を騙るオブリビオンなんぞ穿って斬ってしまえ」
「任せて!」
志桜は今度こそ当ててみせると決め、天雷之陣を更に発動させていく。呪炎も未来視もひとりでは到底かなわない力だが、今は傍に祈里がいる。
炎に雷矢を衝突させるように放った志桜は、全力を其処に込めた。そうして、先程は叶わなかった大鎌での一閃を見舞う。
斬撃に重ねるように、祈里が氷撃を齎した。ちいさな呻き声をあげてよろめいた魔女。其の姿を見据えたふたりは思いを言葉に変えていく。
「おまえとぼくさまにはなんの因果もないが、奪われるわけにはいかなくてな」
「わたし達は大人しく糧になるわけにはいかないし、何度でもアナタを邪魔するよ」
隣同士に並び立つ少女達。
杖を支えにして体勢を立て直した魔女に目を向けた祈里は、更なる術式を組み上げていく。未だ戦いは続くと察しているがゆえに手は緩められない。
それに、と祈里は続ける。
「でもな、おまえと因果のある奴と『友達』になったんだ」
「エーリカさん。アナタのことをわたしは知らない。でも、非道を重ねることを黙認なんてできないの。だって……」
誰よりも止めたいと強く願っている人を知っているから。
志桜も刃を差し向け、祈里と共に次の一手に出ることを心に決めた。
「だから、おまえには居なくなってもらうぜ」
「今、ここでアナタを倒すことがわたし達の役目だから!」
ふたりが告げた言の葉が凛と響き渡る。
そして、魔法陣から巡る水晶の力と天雷が放つ目映い光が戦場を鋭く照らした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
楠樹・誠司
『荒野に咲く一輪の花よ』
其れは手向けの
或いは――
鐐、
其の彩を私は識つてゐる
だからこそ違うのだと理解出来た
……私たちは過去に生かされている
貴女も、私も……なればこそ
始めは互いの手の内を伺うやう
魔女が焔を紡ぎ出したならば
過るは嘗ての
肉の焦げる臭いも叫喚も、何もかも
最初の楔
我が身に宿す、其れは
――おぜうさん
根競べは御得意でせうか
呪炎ごと喰らい尽くさんと伸びる炎の縄
くくり、冥府を繋ぐもの
距離を詰める
己が燃え尽きるよりも速く
瞬くよりも、疾く
限界を超えた先
嘗て魔女であったものを薙ぎ払う
久遠よりも尊いものを
貴女は、知つてゐたのでせう
対価を彼が支払うには未だ早い
友は痛みを分かつもの
……そうでせう、叡智の魔女よ
●繋ぐ焔
遠い異国には或る歌があるのだという。
荒野に咲く一輪の花、エーリカ。花の名でもある其の響きを思い、誠司は昏い闇の先に佇む魔女を見つめた。
其れは手向けの、或いは――。
考えても答えの出せぬ思いは余所に遣り、誠司はふと呟く。
「鐐、」
よく知っている蒼の焔と魔女が纏う紅の炎を見比べた。其の彩を識っているからこそ、誠司には違うのだと理解出来る。
此処に顕現した魔女は過去から滲み出た存在だ。何処かの誰かに関わった過去であり、沈んだ記憶から生み出されたものでもあるのだろう。
骸の海を思った誠司は魔女を見据えながら、然と太刀の柄を握り締めた。
「……私たちは過去に生かされている。貴女も、私も……なればこそ」
「なあに、はっきりと言って頂戴」
誠司の声を拾ったエーリカは訝しげに問う。そして、彼女は紅玉の輝石から巻き起こした呪炎を解き放った。
燃え盛る炎が誠司に迫る。
魔女が紡ぎ出した焔が思い起こさせるのは嘗ての惨状。
過る記憶は苦痛に塗れている。肉の焦げる臭い、叫びと嘆き、縋る声。何もかもが誠司にとっての最初の楔だ。
曖昧なこともあったが己の身に宿ったあの感情だけは、はっきりとしている。
だが、惑って焔をまともに受けるなどという愚行には至らない。此の炎と彼の火は違うものだと誠司は解っていた。
其れ故に彼は強く前を向き、手にした刃で炎を斬り裂く。完全には斬り祓えなくとも直撃は避けられた。
炎が齎す鈍い痛みに耐え乍ら、誠司はエーリカに呼び掛ける。
「――おぜうさん、根競べは御得意でせうか」
「残念ながら、あまり好きではないわね」
彼に対して魔女は片目を閉じ、揶揄うような声色で返答した。誠司は言葉と同時に狗神を呼び寄せ、一息に解き放つ。
激しい衝撃と共に、呪炎ごと喰らい尽くさんと伸びたのは炎の縄。
其れはくくり。冥府を繋ぐものだ。
繋がれたことに気が付いた魔女は紅玉の呪力を更に紡ごうとした。されど誠司はそのまま距離を詰める。
「久遠よりも尊いものを貴女は、知つてゐたのでせう。然し――」
対価を彼が支払うには未だ早いだろう。
誠司は駆ける。己が燃え尽きるよりも速く。瞬くよりも、疾く。
限界を超えた捷さで刃を振り上げた彼は嘗て魔女であったものを一気に薙ぎ払う。鋭い痛みを感じた邪神は声にならぬ悲鳴をあげ、無理矢理に炎の縄を引き千切りながら誠司から距離を取った。
同時に誠司にも燃え上がる呪炎の熱が齎され、その身が激しく焼かれた。然し未だ戦える力は残っている。
「友は痛みを分かつもの。……そうでせう、叡智の魔女よ」
「…………」
誠司の言葉に邪神が答えることはなかった。其れでも構わないと感じた彼は再び太刀を構え直し、此処から更に続く戦いへの思いを強めた。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
熱いのは好きじゃないんだけれど
僕の大事な櫻を焼かせる訳にはいかないからさ
ふふ、妬くのはもう大体乗り越えたよ?
だって、僕にとって大切なのは――誰がなんと言っても、君なんだから
ヨルを安全な所まで下げて、櫻と一緒に笑い合う
この美しい桜は焼かせない
やいていいのは、そうだな
あいの炎だけ?なんて
邪神の糧になどさせないよ
水泡のオーラは愛し櫻を守るそのために
くるり尾鰭を翻し歌唱に鼓舞こめて桜龍の背中をおして舞う
歌うは「忘却の歌」
呪いの炎も、目的も術も正体も全て全て泡沫にとかす
忘れさせてあげるから
僕の持つものを舞い散る桜にかえて
破魔こめ
歌に力をこめ
櫻宵を守るよ
櫻宵を祝った大切なの日
壊させなんてしないから
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
嫌だわ、炎だなんて
私の桜が燃えてしまうし、可愛い人魚が焼き魚になったらどうしてくれるのかしら?
煤を祓ってため息ひとつ
噫でもこの焔ごと
邪神を斬り食らうのも一興かしら
私の歌姫が歌ってくれる
私の舞台を彩ってくれる
私はあなたの舞台を彩りましょう
炎よりあかい、その血をもって
刀に宿らせるは破魔
薙ぎ払う斬撃に生命力吸収の呪詛をのせて
私から奪ったものを返してもらうわ
呪殺の桜吹雪かせて、炎を穿ち祓ったならば
ひとつとんで傷抉るように斬りはらい
ふたつふみこみ衝撃波を放ち断つ
そうして、みっつ
渾身の力込めて放つは「絶華」
生命を蹂躙してあげる
あなたのお首を頂戴な
何も、あなたにはあげられないの
いいえ――あなたを頂戴
●謳う花に紅を
闇を裂くように炎が迸り、鋭い熱が巡りゆく。
魔女が紡いだ呪いの焔が戦場に舞う様を眺め、櫻宵とリルは身構えていた。
「嫌だわ、炎だなんて」
「僕も熱いのは好きじゃないんだけれど、やらなきゃね」
櫻宵は炎が生み出した煤を払って溜息を零す。リルが首を振ると鰭耳がぴるぴると揺れた。その仕草も愛らしいと思いつつ、櫻宵は迫りくる炎に刃を向ける。
「私の桜が燃えてしまうのは遠慮したいわね。それに私の可愛い人魚が焼き魚になったらどうしてくれるのかしら?」
屠桜で一閃すれば、焔が真二つに斬り裂かれて散った。
散らされた炎の残滓を見遣ったリルは、流石は櫻、と淡く笑む。魔女の力が強大であることは分かるが何も怖くはない。
魔女エーリカは不敵に笑い、お見事ね、と櫻宵の太刀筋を褒めた。
「やるわね。けれど次は斬り裂かせはしないわ」
「大事な櫻を焼かせる訳にはいかないからさ、僕も負けないよ」
リルは炎を見据え、思いを言葉にする。焔を見れば別の炎が思い起こされたが、何も心配などない。以前は何につけても妬いていたが、もう殆どを乗り越えた。リルにとって大切なひとはひとりだけ。
(――誰がなんと言っても、君なんだから)
敵の前に進み出た櫻宵の背を見つめたリルは、その姿を瞼の裏に焼き付けるように幾度か瞬く。背を支えてくれるリルの存在を感じ取りながら、櫻宵は魔女に目を向けた。
「噫、でもこの焔ごと邪神を斬り食らうのも一興かしら」
口許は薄く緩められているが櫻宵の瞳は笑っていない。真っ直ぐに向けられた眼差しが魔女を捉える最中、櫻宵は一気に地を蹴った。
桜花を舞い散らせながら走る彼。その姿は美しいと思えた。あの夜桜も、櫻宵が咲かせて背負う宵の桜も焼かせない。
「やいていいのは、そうだな……あいの炎だけ?」
なんてね、と口にしたリルは水泡のオーラを作り上げていく。それは愛し櫻を守る為に紡がれた力だ。
そして、くるりと尾鰭を翻したリルは歌う。
其処にいつもの鼓舞を込めて、桜龍の背中を押すように舞っていく。
――ルリラ ルリラ ルルラ。
歌われていく声は静謐に、暗闇の戦場を光で満たすかのように響き渡っていった。
櫻宵はその声を受け、魔女が放つ炎を次々といなしていく。
私の歌姫が歌ってくれる。私の舞台を彩ってくれる。そのように思う櫻宵は何よりも頼もしい力を得ていると感じた。
「あなたが歌うなら、私はこの舞台を彩りましょう」
炎よりあかい、その血をもって――。
この暗闇を支配する焔以上に、緋色に染まるもの。此の刃で以てそれを引き出すのが今の櫻宵の役目だと思えた。
「何も邪神の糧になどさせないよ」
凛と告げたリルは、続けて忘却の歌を謳いあげていく。
呪炎も、生命を貪るという目論見も、その術も正体すらも、すべて泡沫にとかして消していく。骸の海から現れたことも、忘れさせてあげるから。
リルの歌声は桜の花を伴いながら周囲に彩を宿す。その花弁は胸の裡に咲いた花の現れ。散っては咲く花と織り重なる聲は美しい響きを戦場に舞っていく。
「さあ、魔女さん。私から奪ったものを返してもらうわ」
魔方陣に吸われた力のことを示した櫻宵は刀に宿らせた破魔の力を振るった。炎ごと魔女を薙ぎ払う勢いで放たれた斬撃には、生命を奪い返す呪詛が乗せられている。
「あなた……只者じゃないわね」
「あら、魔女さんに褒めて貰っているのかしら」
薄く笑んだ櫻宵は軽く視線を返し、斬り裂かれた痛みに耐えるエーリカを見遣った。
リルは敵に彼が褒められたことをひっそりと誇らしく思いながら、更に歌へと破魔を込めていく。この聲が櫻宵を守るものになると識っているから、歌い続ける。
そして、歌声を背に受けた櫻宵は更に踏み込んだ。
咲かせるのは呪殺の桜吹雪。
幾度目かの斬撃で炎を穿ち、祓ったならば即座にひとつ飛ぶ。言葉すら掛けぬまま、先程の傷を抉るように斬り払う。其処からふたつ、踏み込んで衝撃波を放ち断つ。
そうして、みっつ。
「生命を蹂躙してあげる。あなたのお首を頂戴な」
「ふん、そうはさせないわ!」
櫻宵が渾身の力込めて放つは絶華。対抗する魔女は己を忘れかけながらも必死に杖を振るいあげた。紅玉の輝石から炎が散ったが、その痛みすら無視できるほどにリルの歌は櫻宵の力となっている。
しかし、呪炎の魔女は櫻宵達を相手取ると拙いと感じたらしく距離を取った。
その後を追いながら櫻宵は後方のリルに呼び掛ける。
「リル! もっと、もっと歌って頂戴」
「うん、まだまだ歌えるよ」
櫻宵に望まれたならば応えるだけ。そっと呼吸を整えたリルは歌を満ちさせていく。
こころを白に塗り替えて、闇を晴らそう。
この戦いを越えた先に、戻るべき桜の景色があるのだから――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
浮世・綾華
十雉(f23050)と
(あいつの案内だから手伝いたいってのもあったケド
エーリカ、昔斬った魔女だって言ってた
本当は自分で向き合いたかったんじゃないかと思って
代わりになんてならないだろうが
自分に何かが出来るならと)
炎の魔女ねえ
炎操る身としては俺も負けられんねーな
十雉は。あっついのはヘーキ?
その信頼はどっから来んの
まあ、任せといて
予想できたって回避出来ないくらいのもんにすりゃあいい
八方から囲うように鬼火を向かわせて
敵の炎を取り込むことはかなわなくとも
相殺するくらいはと
対処に追われる間なら隙ができるはず
十雉、どーにか一発くらわせてよ
おっけ
答えつつも構える鍵刀はお前に向く攻撃を払うことを優先に
宵雛花・十雉
綾華(f01194)と
初めましてだなぁ、炎の魔女さんよ
…ん、オレかい?
オレはあっついのは御免被るぜ
だからよ、炎の対処は綾華に任せた
アンタならちゃあんとやってくれるって信じてるからな
綾華が差し向けた炎に魔女が気を取られてる隙に射程距離に入ってやろうか
オレの霊力でコーティングした特別製の紙飛行機をいくつか飛ばして、破魔矢を身体に撃ち込んでやる
霊力が炎から紙飛行機を守ってくれるはずさ
…どうだい、痛ぇだろ?
よぉし綾華、今が攻め時だぜ
得物の薙刀を構えて声をかければ、綾華と息を合わせて攻撃を見舞う
●八千代と鬼火
鋭く迸る熱が戦場を翔けた。
魔女が放つ炎は激しく、幾重もの攻防が繰り広げられている。その中で敵の意識がやっと自分達に向いたと察した十雉は双眸を細めてみせた。
「初めましてだなぁ、炎の魔女さんよ」
「これはこれはご丁寧にどうも」
ふふ、と不敵に笑ったエーリカは十雉達を見遣った。その間にも炎が解き放たれたが、綾華は軌道をしかと読んで避ける。
そうして彼女は呪炎の魔女、エーリカ・トイフェルだと名乗った。
敢えて名を告げたのは、おそらく邪神が彼女と同化しているゆえだ。
「炎の魔女、ねえ」
これまでも感じていたが、同じ炎を操る身としては負けていられない。此処まで重ねられた呪炎に押されぬよう立ち回っていた綾華は改めて身構える。
エーリカを見て思うのは友人のこと。
昔に斬った魔女だと聞いていた。それ以上のことは知らないが、送り出された時に彼が浮かべていた表情は常とは違った。
本当は己で向き合いたかったのではないかと綾華は思う。自分では代わりにならないとは知っているが、意思を託されたことは確かだ。
それゆえに自分に何かが出来るなら――。
そんな思いを抱き、綾華は戦っていた。十雉もその隣に並び立ち、炎を掻い潜りながら果敢に立ち回っている。
魔女から齎される炎は瞬く間に広がり、此方を焼き尽くさんとして迸り続けていた。その残滓ですら鈍い痛みを齎してくる。
「今更だけど十雉は、あっついのはヘーキ?」
「ん、オレかい? あれを受け続けるのは御免被るぜ。だからよ、後は綾華に任せた」
炎の対処は頼むと告げた十雉は静かに笑む。
「別に良いケド、完全に防げるかは賭けになるかもな」
綾華は扇を構え、迫りくる炎を風で押し返していく。それでも風を擦り抜けて向かってくる炎もあり、その威力は鋭いままだ。ほらな、と戦況を示す綾華だが、十雉は何の問題もないと答えた。
「アンタならちゃあんとやってくれるって信じてるからな」
「その信頼はどっから来んの。まあ、任せといて」
向けられたのは真っ直ぐな思いだった。彼の信頼に応えるのが道理だと感じた綾華は、緋色の鬼火を周囲に顕現させていく。
扇で返すのではなく、炎と炎をぶつけていけばこれまで以上の相殺が狙える。
十雉は称賛の眼差しを綾華に送り、魔女が炎に気を取られている様子を確かめた。そして、素早く駆けていった十雉は一気に射程距離に入り込む。
其処から彼は千代紙で作られた紙飛行機を放り投げた。霊力を纏った特別製のそれらを幾つも飛ばせば、瞬時に破魔矢となって飛翔する。
それだけではない。十雉は綾華が躍らせる鬼火の影から矢を放つことで、魔女の死角を見事に突いた。
「きゃ……!」
「どうだい、オレらの火と矢の力は」
鋭い一閃が身体に撃ち込まれたことで魔女が悲鳴をあげる。十雉の問いには答えず、すぐに体勢を立て直したエーリカは綾華達を睨みつけた。
「くぅ……次は視てみせるわ」
「未来視の宝石だっけ? 予想できたって、回避出来なきゃ意味がないだろ」
綾華は口許だけを薄く緩め、更に鬼火を向かわせた。四方から放っていたものを分裂させ、八方から囲うように巡らせれば、炎は魔女を阻む檻となる。
その頃には猟兵達の攻撃を受け続けたエーリカも弱りはじめていた。
「そろそろだな」
十雉も霊力を込めた紙飛行機を次々と破魔矢に変える。綾華は魔女の視界を炎で埋め尽くしながら彼に願う。
「十雉、どーにか一発くらわせてよ」
「任された」
炎を任せた分だけ、次は自分が攻勢に出る番だ。そう察した十雉は霊力を纏わせた矢をひといきに幾つも放った。それによってエーリカの身が貫かれていく。
「ほら、どうだい。痛ぇだろ?」
「成程、流石だな」
「よぉし綾華、今が攻め時だぜ」
「おっけ」
綾華は鍵刀を構え、十雉も薙刀の切先を敵に向けた。既に戦いの終わりは見えはじめている。あと少しだとして前を駆けた綾華は魔女が放った炎を斬り裂いた。
焔を刃で祓った綾華が視線を向ければ、十雉がしかと頷きを返す。
其処から振るわれたのは歌舞く凛花の一閃。その一撃によって魔女の手首に飾られていたスフェーンの輝石が砕け散った。
「いよいよ終わりも近いか」
「後は仕上げってところか。引導を渡さねーとな」
十雉と綾華は呪炎の魔女を捉えながら、足元で光る宝石の欠片を踏み締める。すると見る間に宝石の呪力が拡散して消滅していった。
エーリカは荒い息を吐いており、言い返すことも出来ぬほどに消耗している。
そして――戦いは終幕に向かって巡ってゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルクス・カンタレッラ
おーおー、景気良く燃えてんな
そもそも、邪魔ってんならお前の方だろ
過去が現世に出張って来んじゃねぇよ、大人しく死んでろ
さぁて、と
桜が燃えちまっても困るし、さっさと鎮火しちまわないとな
私の力をお前の力に変えるなんて無理な話さ、海は炎なんぞで蒸発しやしねぇよ
ゼーヴィントの槍を手に、クヴェレの背に乗って往こう
私はセイレーン、母なる水そのものの私がお前程度に焼かれる訳があるまいさ
さあ、蹂躙の時間だ!
【先制攻撃】で突っ込んで、【恐怖を与える、恫喝】で相手の冷静さを削りながら、タイミングを図る
敵の攻撃を【第六感】で感知したら、【カウンター】でぶちかませクヴェレ!
●崩壊への序章
「おーおー、景気良く燃えてんな」
空間に巡る呪いの炎を見遣りながら、ルクスは戦況を確かめていく。
既に魔女は追い詰められており戦いもあと一歩で終わるだろう。それはルクスを含む猟兵達が上手く立ち回り、魔女自身や宝石を狙った攻撃を重ねた結果だ。
エーリカは息を吐き、忌々しげに此方を睨み付ける。
「最後まで……邪魔を……」
「そもそも、邪魔ってんならお前の方だろ」
「く、ぅ……」
「過去が現世に出張って来んじゃねぇよ、大人しく死んでろ」
ルクスは軽く言い放ち、これまでと同様に海竜クヴェレに攻撃を願った。周囲の炎を消すために放たれた水は激しく巡る。
対する魔女の炎も猟兵達を焼き尽くさんとして迸った。熱が肌を焦がすような感覚が与えられたがルクスは怯まない。
そろそろかと感じたルクスは辺りを見渡し、更にクヴェレを呼んだ。
「さっさと鎮火しちまわないとな」
「この……全てを焼き尽くす炎の魔女の力、思い知るといいわ!」
対する魔女は力を振り絞り、紅玉の輝石から巻き起こした呪いの炎を解き放った。ルクスは騎乗するクヴェレごと炎に包まれたが、水がすぐにそれらを散らす。
「甘いな、私の力をお前の力に変えるなんて無理な話さ」
痛みはあるが耐えられないほどではなかった。これを何度も受けたとしたら別ではあるが、今のルクスの周囲には別の猟兵達もいる。
「海は炎なんぞで蒸発しやしねぇよ」
ゼーヴィントの槍を手にしたルクスは鋭く双眸を細めた。
炎が何だというのか。そんなものに怯えはしないし、どれほどの攻撃が重ねられようとも竜達と共に乗り越えられるはずだ。
「母なる水そのものの私がお前程度に焼かれる訳があるまいさ」
己はセイレーンなのだから、と主張した彼女は槍を高く掲げて狙いを定めた。
クヴェレと共に魔女との距離を詰めるルクス。ぶちかませ、と海竜に告げた彼女は宙を泳ぐように勢いよく突撃していく。
そして――。
「さあ、蹂躙の時間だ!」
凛と叫んだ声と同時に鋭い槍撃が標的を貫いた。
それが崩壊の合図となり、猟兵達は近付く終わりに向けて力を紡ぎはじめる。
●炎が消えるとき
呪炎の魔女の身体が傾ぎ、砕けた宝石が周囲に散る。
猟兵達はこの異空間が揺らいでいることを感じ取り、それぞれに動き出した。
「――汝は氷雨、汝は凍刃。魔女が望むは数多の牙なる蒼の剣」
メンカルは詠唱と共に静謐の刃を再び生み出す。
氷の剣は次々と周囲に展開され、魔女の時を止めるべく迸っていった。其処に続いたロニは自分の分身達を遣わせていった。
「そんな……あなた達の力がこれほどまでなんて……」
「残念だったね! もう逃げられないよ」
怯むエーリカに向けてロニは球体を投げ放つ。ぐしゃっと潰すよ、と告げた彼は魔女の終わりが近いことを悟っていた。
ルクスもクヴェレと共に魔女に更なる一撃を見舞っていく。
「さあ征け、私の騎士よ!」
海鳴りを思わせる竜の咆哮の衝撃波が水を起こし、昏い戦場に舞う炎を包む。更にはエリアスが或る物語の一節を語るように口をひらいた。
「――そして少女と愛犬の長い旅が始まりました」
同時に展開されたミニチュアの家の攻撃はカンザスを思わせる物理の一撃。
その力が凄いと感じたティーシャは仲間達の攻撃に感心を覚えながら、自らも審判十字法で以て魔女を貫いていった。
「裁きの光を、あなたへ」
ティーシャが指先を向ければ、天からの光が舞い降りる。
光で闇を斬り裂くように力を巡らせる彼女に合わせ、倫太郎と夜彦が打って出た。
「縛めをくれてやる」
「来たれ、紫水」
倫太郎による拘束術が巡れば、夜彦が放つ紫水の一閃が放たれる。
やりますねぇ、と口にしながら彼らの動きを見た拓哉もミミックを更に暴れさせていく。狂化した箱は魔女への攻撃を止めない。
「さあ、化け狂いなミミック……! 笑い話だ。狂気ルールなんてねぇよ!」
拓哉と箱は戦い続ける。
その勢いに乗り、ロワと共に駆けたユヴェンも一気に星刃を振り下ろした。
「宝石を砕くのは正直を言えば心苦しい。お前も石が好きなんだろう……だが――」
人に仇を成す存在ならば放ってはおけない。
ユヴェンが刃を振り下ろし、ロワも鋭い爪で以て魔女を引き裂いた。ニィエンは其処に出来た隙を感じ取り、鮫竜達を突撃させていく。
「ここで一気に追い込みますわ」
「ミフェットも歌うね。みんなの力になりたいから」
「ボクだって頑張るぞ☆」
ニィエンの攻撃に続いて動いたのはミフェットとティエルのふたりだ。魔女が放つ炎を打ち消す歌を声に乗せたミフェットは懸命に歌う。
その声を背に受けながら、ティエルはオーラの尾を発しながら勢いよくレイピアを振るった。ニィエンのナマズシャーク達も勢いを増しながら鋭い爪で魔女を穿つ。
フリルもこの機を逃してはいけないと悟った。
「じっとしていてくださいね。ぽんぽんぽんっと。はい、これで大丈夫です」
お洗濯の魔法を更に使ったフリルは炎の呪いを払う。其処へ、自らの水に流されていたいちごと理緒が到着した。
次は必要以上の水を作りはしないと決め、ふたりは更なる力を振るう。
「まだびしょ濡れだけど……」
「ここからは私達の魔法のステージです!」
幻想と偽装の水流が戦場を包み込み、魔女だけを押し流していく。
その先に待ち構えていたのは藍と有珠、そして煉月の三人。藍が狐火を魔女に差し向ける中、煉月は仲間と一緒に戦うことへの感慨を覚えていた。
「同時に行こう」
「――うん、一緒にって悪くないね」
彼らの言葉に頷いてみせた有珠は、そうだな、と双眸を緩く細める。そうして彼女は魔女に鋭く言い放った。
「どこに出るでもなくその侭死んでくれ」
じゃあな、と告げて魔法の薄刃を放ったのは有珠なりの別れの作法だ。
煉月はいつ反撃が来ても構わぬように防御態勢を取り、ふたりを守る意思を見せた。
彼らの見事な連携は魔女を追い詰めている。
伊織と清宵、道明の三人も終わりに向けて最後の力を紡いでいった。
「良からぬ夢は此処に断ち、佳き現へ」
道明が剣刃一閃を放てば伊織の手裏剣が迸る。敵を狐火で囲んだ清宵も敵を見据えた。
「火花も血花も御免だからな」
「その通りだ」
それゆえに静かな雪花の光景を、もう一度。
忌まわしい炎熱は消し止めて、静かな雪景で口直しを。
風と火、刃。それぞれの力は重なりあい、穏やかな平和を目指して巡っていった。
昏い空間に宿っていた炎がひとつ、またひとつと消えていく。
由紀はその様子から魔女が本格的に弱っているのだと察した。暗闇に閉ざされていく空間を見渡した彼はふと、傍らのユルグに問う。
「そろそろ桜が恋しくなってきた。酒ってまだ残ってる?」
「お、なに続きする? 無いから買い行こ」
「なんだ。じゃあ、次は俺が奢る番」
「よっしゃ、じゃ次はヨシノリの好きな酒で」
戦いの中とは思えぬ言葉が交わされたが、それも此処で全力を振るうと互いに決めているからこそ。負けないと信じているゆえに未来を描ける。
由紀とユルグは同時に駆け、左右から魔女を挟撃した。そして、壊絶の力を宿す蹴撃と真直ぐな斬撃がエーリカを貫く。
「理玖、俺らも行こうぜ!」
ユルグ達の攻撃を見たきよは今の相棒に呼びかけた。
ああ、と答えた理玖は魔女を強く見つめる。彼女が吸い取った生命力はもう保てていないらしく、空間内に様々な色の揺らぎとなって溢れ出ていた。
「勝手に人の命吸ってんじゃねーよっ」
「俺は兄さんらには笑ってて欲しい。――だから、返して還れ」
きよはきのと一緒にエーリカとの距離を詰める。そして、理玖の掛け声に合わせてデッキブラシとモップを振りあげた。
それ以上の速さで駆けた理玖は拳の連打で以て残っている宝石を砕いた。
宝石の欠片がきらきらと光る。
ヨシュカはその光景を瞳に映しながら魔女へと更なる避雷針を放っていく。エンジは賢い君と共に赤い糸で敵を絡め取り、ロカジに合図を送った。
「賢くなければ生きれないのサ。さぁさぁ、ロカジン」
「成る程、これが知能戦!」
「カカカ! 知能戦ってのはえっぐいなぁ!」
ヨシュカが自分達のスーパー完璧作戦に胸を張る中、ロカジも豪快に笑ってみせる。双子の炎に天泣、誘雷血。賢い君の黄色い声援に重なるヨシュカの鍼灸パワーによって、雷も出力三億万倍だ。
口説いて終われりゃよかったのに。そんな風に口にしたロカジが雷撃を放てば魔女が苦しげな声を上げて片膝を付いた。
「あたしの野望は、まだ……こんなところで……」
乱れた呼吸を整えたエーリカは力を振り絞り、全周囲に紅玉の炎を展開する。
櫻宵に激しい焔が迫った。しかし、リルがそれを許すはずがない。水泡の力が炎を掻き消す中でリルは強く告げる。
「今日は櫻宵を祝った大切な日なんだ」
壊させなんてしないから。
蠱惑的な歌声を纏う桜花が戦場に舞い、櫻宵もそっと頷いた。命が欲しいと語った魔女にも何か目的があるのだろう。
されど、それも今はリルの歌によって忘却させられている。
「何も、あなたにはあげられないの。いいえ――あなたを、頂戴」
櫻宵は刃を振り上げ、この空間ごと全てを断ち斬る不可視の剣戟を振るった。花を絶つが如き一閃が魔女を斬り裂く。
誠司は再びエーリカの動きを止めようと狙い、狗神を喚んだ。
「――我が身は冥府と共に在らん。そして、貴女も」
彼女は既に死した身。
ならば在るべき場所に還すのが道理であるはずだ。放たれた炎は業火の縄となり、誠司とエーリカを繋ぐ。
「離して! やめて、離しなさいったら……!」
魔女が叫ぶ。誠司が敵を捕らえたことに気が付いたルーシーは耀子と共に、魔女へと更なる攻撃を放つことを決めた。
「あのね。ルーシーを食べていいのは、ブルーベルだけなの」
他の人も食べさせない。
命を奪い取ることなんて絶対にさせない、と告げたルーシーのぬいぐるみ達が魔女に襲いかかった。その後を追って追撃に走った耀子も機械剣を敵に差し向ける。
「多少の傷はくれてやるわ。おまえのいのちを寄越しなさい」
炎が齎した痛みはまだ響いていた。
それでも耀子は苦痛などないように振る舞い、剣刃による一閃を魔女に見舞った。
仲間達の一撃は確実に魔女を穿ち、力を削っている。その様子を確りと見つめた志桜は、受けた炎の痛みに耐えながら隣にいる幼子に呼びかけた。
「祈里ちゃん、あの魔女を追い払っちゃおう」
「ああ! ぼくさま達からの贈り物、遠慮なく受け取れ!」
降りそそげ、天の雷。
廻れ廻れ。くるくる踊れ。踊り疲れて倒れ伏せ。
紡がれたふたりの力は重なりあい、魔力がエーリカを取り巻いていった。此処で倒しても魔女は再び何処かで蘇るのだろう。
それでも今、この瞬間に斃しておかなければ未来は続かない。
綾華は少女達の声を聞き、自らも緋色の鬼火を舞わせていく。散った花のようにひらひらと宙に踊る焔は彼なりの手向けの力だ。
「十雉、行ける?」
「そりゃ勿論」
綾華から掛かった声に応え、十雉は千代紙を更に放り投げた。鋭い矢となって空間を切り裂き、飛ぶ力は綾華の炎を纏いながら魔女に突き刺さる。
「永遠を……永久に、美しく在る、いのちを――」
そのとき、エーリカは何かを呟いた。折れかけた魔術杖に縋りながら何とか立っているだけの状態だ。
もう激しい炎を紡ぐ余力は残っていないだろうが、相手は最後の力を振り絞る。
「ルベル! 来るぞ、気をつけろ」
「はい、嵐殿。あの程度なら走り抜けていけます」
嵐は此方に向かって来る炎を逸早く察知し、ルベルの名を呼んだ。戦いの終わりも迫って来ているが嵐のすべきことは変わっていない。
精度を上げた射撃を何度も打ち込んで炎を散らしてルベルの道を作ること。
彼の援護に変わらぬ信頼を抱いたルベルは火の残滓を受けながら、一気に妖刀を振り上げた。痛みに耐性はなくとも自分は痛みを怖れない。その理由は共に戦う人達が居てくれるからでもある。
「墨染、存分に哭きなさい」
ただ一振りの刃が魔女を捉え、鋭い斬撃となって痛みを与えた。
それによってエーリカはよろめき、ついには膝をついて倒れ込んだ。彼女は最早、何をすることも叶わないだろう。
なゆ、と彼女を呼んだ英は情念の獣に追撃を願った。
此処に記されるのは終幕。
「悪い魔女は絵本の中へ。恐ろしい呪いの炎は二人で払おう」
「ええ。炎の魔女をちょきんと絶って、めでたし、と物語のおわりを迎えるの」
いのちを絶つ。
燃ゆる炎でも呪いでもなくて。結ぶのは、いっとうのさくらがいい。
だから、この闇を祓う。獣の指先が体勢を崩した相手を裂き、七結が振り下ろした黒鍵の刃が呪いの炎ごと魔女を斬り伏せた。
刻んで、つないで、終わらせる。
猟兵達の力によって呪炎の魔女に最期が齎された。
だが――邪神は消滅する直前に此方を鋭く睨みつけてから、不敵に嘲笑う。
「ふふ……。あたしは……いえ、我は何度でも、この世界に蘇ってみせる。……すべての……を、……して、手に入れるまでは――」
最後の言葉は聞き取れなかったが、明らかな悪意であることは間違いなかった。
そして、魔女は骸の海へと還されてゆく。
僅かな炎の欠片は、まるで散る桜の花のようにひらひらと暗闇に舞って消えた。
●桜隠しと月の光
呪炎は消滅し、暗闇の空間にあった魔方陣がすべて打ち消される。
禍々しい魔力が消えたと思ったときには、猟兵達は元いた桜の庭園に戻されていた。周囲には静けさが満ちており、戦いがあったことなど感じさせないほどに穏やかな空気が流れている。
もう此処には何の気配もない。猟兵達は完璧な勝利を得たのだ。
ふと頭上を見上げれば空には月が浮かんでいた。淡い雪を纏う寒緋桜越しに見える夜空はとても美しく思える。
季節外れの雪も、この夜が終わって朝が巡ればとけてきえてしまうのだろう。その儚さこそが雪月花の景色を尊いものに感じさせる。
白い雪。見下ろす月に俯き咲く花。もう暫し、この景色を眺めるのも悪くはない。
これまでの景色に何を懐うのか。
これからの光景にどんな思いを抱くのか。それもまた人それぞれ。
そうして、桜隠しの夜は静かに過ぎていく。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年04月24日
宿敵
『呪炎のエーリカ』
を撃破!
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