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土蜘蛛散華譚

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #影朧甲冑

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●まつろわぬ鬼

 いつの世にも、その常識に馴染めぬ者は一定数存在する。
 その常識こそが間違っているのだからと、壊さんとする者がいる。
 統一された平和を惰弱と断じ、崩さんとする者。
 桜の世界における彼らを、影朧戦線という。

「……しかし、本当にいいのですか。同士矢田」
「何を今更。やかましい」
「しかし……」
「くどい」

 それは、もう壮年から老年へと足を踏み入れた男だ。
 白いものの混ざる顎鬚を撫でながら落ち窪んだ目を歪める。
 妙な熱の籠る視線の先にあるのは、今この世界にあってはならない兵器。
 装飾も外連味もない鉄色の装甲が曇天の下で鈍く光る。

「なァ、同士。この世界は詰まらなかったろう」
「え?」
「少なくとも、儂はそうだった。戦争の世に生まれたいと何度夢に見たことか」

 いくら身体を鍛えても植えていた。
 どんな影朧と争っても乾いていた。
 血で血を洗う闘争にこがれるならば平和の世界に居場所はない。
 社会不適合者? まったくその通り。一分の否定も浮かばない。

「一花咲かせる代償が命? まったく安い買い物よ」

 戦場の英雄の素質は、平時における奸臣のそれだ。
 生まれる時代を間違え、鉄の首輪を填めた男に迷いがあるはずもない。

「矢田は死ぬ。これは、地獄より迷いでた鬼が一匹よ」

 操縦席へと姿を消す同士の背を見送って。
 影朧戦線の若者たちはそれぞれに敬礼した。

「……畏まりました。これより貴殿を作戦符丁に則り“土蜘蛛”と呼称します」
「応」
「“土蜘蛛”。……号令を」
「ああ。……いいな。儂は、こういうことをしてみたかったのだ」

 奇妙なまでに清々しい笑みの欠片を乗せて。
 矢田――影朧甲冑“土蜘蛛”は手にした太刀で建物を示す。

「目標、帝都桜學府・関東第伍支部。さぁ、戦争を始めようぜ! クカカカカ!」


●騒がしき娑婆

「いつの世にも、暴力の性を持つものは出ます。それ自体は否定しませんが……」

 困ったように眉を下げて、穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)は予知を映したスクリーンを示す。
 その視線が辿るのは影朧戦線の若者達……ではなく、その先頭に立つ鈍色の甲冑だ。

「この兵器が問題です」

 なぜそれらが今使われているのかという疑問はいったん脇に置く。
 戦時下ですら「最も非人道的な兵器」と称された影朧甲冑に、死など物ともしない操縦者が乗っている。

「一般のユーベルコヲド使いでは、まず為す術がありません」

 故に蹂躙、当然の壊滅。
 予知の光景を簡潔に語り、神楽耶は焔色の視線を猟兵達に向けた。

「まずは學徒兵の救助をお願いします。連携することができれば、被害はぐっと抑えられるかと」

 そして、影朧甲冑の相手は超弩級戦力たる猟兵にしかできない。
 強力な影朧の姿をはぎ取り、その中身を壊し、どうあがいても降りられぬ操縦者を殺す。
 それは、猟兵にしかできないことだ。

「……皆様、躊躇うことなきよう」

 告げた刀の表情を隠して、折紙の小鳥が宙を舞う。
 猟兵達の背を押すのは柔らかな鈴の音色。

「どうぞご無事で、勝利をお願いいたします」

 転送光たる幻焔が花弁めいてひらめけば。
 懐かしき桜の舞う地で、新たな戦乱の音がする。


只野花壇
 十度目まして! 授業中にテロリストが襲ってくる妄想が好きだった花壇です。
 大航海時代の最中ではありますが、今回はサクラミラージュより、戦争に魅せられた鬼との闘争へご案内いたします。
 尚、シナリオ名は「つちぐもさんげたん」と読みます。

●章構成
 一章/冒険『幻朧戦線の襲撃』
 二章/ボス戦『魔人シックス』
 三章/ボス戦『影朧甲冑』

 各章の詳細につきましては断章の投稿という形でご案内させて頂きます。

●プレイングについて
 アドリブ・連携がデフォルトです。
 ですのでプレイングに「アドリブ歓迎」等の文言は必要ありません。
 単独描写を希望の方は「×」を、負傷歓迎の方は「※」をプレイング冒頭にどうぞ。

 合わせプレイングの場合は【合わせ相手の呼び方】及び【目印となる合言葉】を入れて頂けるとありがたいです。
 詳しくはMSページをご覧下さい。

●受付期間
 各章の断章でご案内。
 その他、MSページやTwitterなどでの案内をご確認いただけると確実です。

 それでは、ようこそ意志の最前線へ。
 皆様のプレイング、心よりお待ちしております。
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第1章 冒険 『幻朧戦線の襲撃』

POW   :    襲い来る幻朧戦線の一般兵を肉壁となって阻止し、重要施設や一般人の安全を守ります

SPD   :    混乱する戦場を駆けまわり、幻朧戦線の一般兵を各個撃破して無力化していきます

WIZ   :    敵の襲撃計画を看破し、適切な避難計画をたてて一般人を誘導し安全を確保します

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●騒乱、絢爛

「お、おい……なんだあれは!」
「知るか! とにかく逃げ、っあああ゛あ゛あ゛あ゛!!?」
「なっ……撃ってきやがったのか!? 人間が!?」

 帝都桜學府・関東第伍支部は蜂の巣をつついた騒ぎに陥っていた。
 いくらそこに勤める學徒兵達が手練れといえ、支部のひとつを急襲されるなど予期せぬ事態だろう。
 そしてそれが影朧ならまだしも、襲い掛かってきているのはごく普通の人間だ。

「グラッジ弾、命中。通常弾にて追撃します」
「気を付けろ、生かしておいた方が敵の手筋を縛れる」
「分かってるが……俺たちもシロウトだからなァ」
「ははっ、違いねぇ」

 學徒兵の混乱をよそに影朧戦線の若者達に躊躇いはない。
 恨みを凝縮した弾丸は、負傷せしめた敵を影朧の誘導灯と化す。
 一息に放たれた散弾は近づこうという意識からまず奪い去り。
 双方より起動するユーベルコヲドが戦場に超常の彩を添える。

「射撃隊は前へ。撃ち方、始め!」
「今何人やられた!? 何人動ける!?」
「おいおい、削りすぎると“土蜘蛛”の出番がなくなるぞ!」
「桜の精を先に逃がせ! ここは俺が……うわぁあああああああ!?」

 人間が、人間とぶつかって血を流す。
 時に味方が倒れ、敵も斃れ。
 その悲鳴が、鼓舞が、指示が、新たな熱気と昇っていく。

「あァ、いい。……これが、戦争の光景か」

 焦がれるように囁く、甲冑の男の声は未だに遠く。
 戦場にこだまするのは誰ぞが夢見た狂乱だ。

 影朧戦線の襲撃は始まったばかり。
 まだ大きな犠牲は出ていない──ならば。
 どれだけを掬えるかは、これよりの働きにかかっている。





◆第一章プレイング受付期間
【3月26日(木) 08:31 ~ 3月28日(土) 18:00】
 ※状況により再送の可能性がござます。悪しからずご了承ください。


.
朱酉・逢真
ひっ、ひひっ。おうおう、こういうまとまりのねえ感じ。実に人間らしいってなもんだ。本当に、単純な人間同士の殺し合いだったら俺も止めねえンだけどなァ……。影朧が関わっちまってるとなりゃあ、話は別だ。腰が重いなんて言ってられねえや。

でかい《虫》に乗って空へ。影朧によく効く【特効厄】を載せた《鳥》や《獣》たちを放つ。唯の動物だ、ンな強かねえからすぐやられっちまうだろォが、構いやしねえさ。飛び散った血肉が空気に混ざって広がり、媒介する【特効厄】が影朧に感染して殺すだろうよ。
こいつは人間には無害だ。グラッジ弾で呼ばれる影朧の処理をするだけさ。人間同士の喧嘩にゃ俺は手を出さん。止めたいやつが止めりゃいいさ。



●朱色がわらう

「ひひっ」

 不気味な声が嗤うのが、果たして誰に聞こえたろう。
 何故なら朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)がいるのは空だ。目の前に危難が迫っているのに、果たして誰がそれ以外に視線を向けられるだろう。
 知っている逢真は空の上、虫を尻に敷いて胡坐のまま下界を見下ろし煙管を吐き出す。
 それすら猛毒であっても、誰にもかからないなら斟酌せずともいいだろう。
 最高の肴が眼下にあるのだから。

「イイねェ、このまとまりのない感じ。実に人間らしい」

 神は静かに唇を吊り上げる。
 剥き出しの欲望をぶつけ合う鉄火場は、味わうに相応しい感情の坩堝だ。
 いつまで眺めていたって飽きの来ない、素晴らしきかな此の戦場。
 ……だが。

「……『アレ』ばっかしは頂けねェな」

 細めた血色の瞳が、撃ち抜く弾丸より溢れる黒靄を見遣る。
 グラッジ弾。命中した人間を影朧の誘導灯へと仕立て上げる、存在しない、してはいけないはずの兵器。
 影朧が関わるからこそ、これはただの人間同士のぶつかり合いではなく猟兵が招聘される事件となっている。
 そうでなければ逢真がわざわざ来るはずがない。

「よいしょ、っと」

 ぐぢゃり、と。
 眩暈がするような赤霧に浸されて、獣が虫が鳥が毒々しい色に染まる。
 特異はそれだけ。身体能力も耐久性も普通のそれと何ら変わらぬ動物たちが戦場に落ちていく。 
 銃弾に撃たれる。
 剣戟に刻まれる。
 ユーベルコヲドに巻き込まれる。
 ごく普通の動物たちはあえなく命を散らし、同時に真っ赤な厄を撒き散らす。
 空気に、風に、朱色が混ざる。
 病毒に戯ぶ凶ッ神が、その権能を発揮する。

「薬にならねえ毒もある。嗅がせる相手は選ぶがね」

 朱色に捲かれた黒が染め上げられていく。
 黒が赤を呼んで、朧として産み落とされる前に赤に挿げ替えられていく。
 それは、影朧にのみ覿面に効く【特攻厄】だ。
 ひと同士の戦乱に影響を及ぼすことなく、赤霧は黒靄だけを排除する。
 厄毒は人を侵さない。
 影朧戦線の者達も、學徒兵達も、赤霧に妨害されることなく銃弾を、剣戟を、ユーベルコヲドを交わしている。

「人間同士、好きなだけ喧嘩すりゃあいい」

 煙管の煙をいっぱいに吸い込みながら、逢真はそれだけを生み出し落とす。
 神は人の諍いに関わることなく、ただわらうだけ。

成功 🔵​🔵​🔴​

リック・ランドルフ
いつの世の中も、どの世界でも…いるんだな、こういう奴等は。…影朧戦線ね。…いい事教えてやるよ、俺の世界じゃお前達のような連中を…テロリストって言うんだぜ?そしてテロリストは…警察に捕まえられるのが決まりだ。そして俺はその警察だ。

【スーパーカー】で支部に突っ込む。そして突っ込むとスーパーカーを自動操縦モードにして俺は飛び降りる。そして影朧戦線の奴等がスーパーカーに注意を引かれてる間に俺は學徒兵のいる方に周りの物に隠れながら移動する。(運転、早業、おびき寄せ、地形利用)


學徒兵達の所に着いたら…反撃の時間だ。俺はUCを発動して縄で奴等の…銃を縛って撃てないようにする。そしたら…拘束は學徒兵達に任せる


仇死原・アンナ
…忌々しい悪鬼共め

…それにしても酷い光景だね
早く學徒兵達を助けないと…

【シュバルツァ・リッター】で亡霊馬に[騎乗]して
[オーラ防御]を纏いつつ戦場を[切り込み]ながら駆け巡ろう
[存在感]で敵を惹き付けて[挑発しおびき寄せ]て
負傷した學徒兵達を逃がそう

妖刀で敵を切りつけ死ねない程度に[部位破壊]
鎖の鞭を振るい[捕縛、気絶攻撃]
亡霊馬の突進で[蹂躙、吹き飛ばし]

敵群を次々に蹴散らして[殺気と威厳を放ち恐怖を与えて]ゆこう…!

逃がすまいぞテロリストめ…!
ワタシは…処刑人だ!!!



●因果に応報を

 ぎゃるっ、と石畳を擦るゴムの音。
 カッカッカッ、と駆ける騎馬の蹄音は次第に速度を増し、ついに並走していた車を追い越した。
 たかだか自動操縦で、人馬一体となった彼女の上をいくことは不可能だ。
 
「忌々しい悪鬼共め……!」

 亡霊馬コシュタバァに騎乗した仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)の視線はまさに悪を憎む処刑人のそれ。
 學徒兵たちに襲い掛かる影朧戦線の若者達に切り込んでいく、流麗な動作は獰猛な肉食獣を思わせた。

「ぐおっ!?」
「同士!」
「くそ……やはり出てきたな、超弩級戦力……!」
「撃て撃て撃て! 近づけさせるな!」
「斯様な豆鉄砲が効くものかッ!」

 アンナの絶叫は真理だ。彼女の全身から噴き出す地獄の炎は、通常の銃弾程度瞬く間に蒸発させてしまう。
 返礼とばかりに鎖の鞭が戦列を薙ぎ払う。足元を掬われ影朧戦線の若者が転倒するのを彼女は冷めた目で睨み据えた。
 鎖の先についた鉄球を打ち下ろす。十分踏み締められ硬くなった筈の地面に罅が走った。
 無慈悲で圧倒的な力量差。それが分かるから、影朧戦線の者達は思わず後ずさる。

「ひッ……」
「ワタシは処刑人だ。テロリスト共」

 その言葉がハッタリでも何でもないと、馬上から放たれる威厳が如実に示す。
 戦争を夢見る平和ボケした世界の人間には分からない、死と闘争を日常とする世界に生まれ落ちたが故の油断なき殺気が、何よりの圧として影朧戦線に対する壁となる。

「死から逃れようなどと愚かにも考えているなら、まずその甘い考えから粉砕してくれる」

 馬が地を蹴る。人を撥ね飛ばす衝撃に備えて、手綱を握る手に力を込めた。


「こっちだ!」

 半ば崩れた支部の壁のすぐ脇、遮蔽と化したスーパーカーの影へとリック・ランドルフ(刑事で猟兵・f00168)は學徒兵を手招く。
 彼女が前線を引き受けてくれているから、彼が無理を押す必要はあまりない。
 対人戦闘はともかく、鉄火場自体は経験している學徒兵達はリックの指示に素直に従った。
 超弩級戦力、猟兵とは。この世界においてそれだけ厚い看板だ。

「あ、ありがとうございます……」
「怪我は平気か?」
「ここにいる人員は無事です」
「なら動けるな?」
「はい!」
「いい返事だ」

 けれど臆さぬ、若者の強さが眩しい。
 本業の警察としても部下を持つ側であるリックは頷きと共に立ち上がった。
 ここはサクラミラージュ。UDCアースの刑事であるリックにとっては別世界。
 ならばこの世界の警察のようなものである學徒兵達に捕縛は彼らに任せた方がいいだろう。

「武器はこっちで封じてやる。お前たちは拘束を頼む」
「了解しました! 猟兵様もご武運を」
「……心配ねぇよ」

 ばらりと、空中に投擲した縄が踊る。
 ただ落ちるばかりのそれが突如分裂。五十を超える数と化した縄はひとりでに蠢いて影朧戦線へと飛び掛かった。

  オマエラヲニガサナイ
「【 I will arrest you 】……!」
「なっ……縄!?」
「余所見をする暇があるのか?」

 落とそうにも銃弾では縄に対処できない。
 その隙に切りかかってくるアンナがいるならなおさらのことだ。処刑人を器用に避けた縄がテロリストの銃器に絡み付く。

「お前らのようなテロリストを捕まえるのは警察の仕事なんでな」

 聞こえぬ距離で嘯いて、操る縄を拘束の形に回す。
 意志の力で操られたそれに人の体では抗しきれず。アンナに殴り倒された彼らに學徒兵達を押し退ける力は残っていない。
 次々と捕縛されていく影朧戦線達を視界に、リックは亡霊馬を還すアンナを見やる。

「捕まえてよかったのか? 処刑人さんよ」
「警察の前で処刑人がはしゃぎすぎるのも格好がつかないだろう」
「……はは、そりゃあ悪かったな」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シャーロット・クリームアイス
お世話になっております、サメール🦈📩です!
安全を届けにまいりました……あ、代金は依頼人から頂戴しますので、ご心配なく。

さーて、お仕事しましょうか。
先方の攻撃はー、剣戟? 銃弾? ユーベルコヲド?
いえ、何であれ関係ありません。一切合切、あらゆる危険を排除しますので!

🐬を召喚、ひとびとの盾とします!
◈ Dolphinvulnerable ◈
グラッジだか弾幕(barrage)だかしりませんが、わたしの🐬を突破できるなどとは思わぬことです! 學府(college)のみなさんに、とどけわたしの勇気(courage)‼︎

もちろん、避難経路については▻情報収集済みですよ。配送屋のたしなみですね。


冴木・蜜
嗚呼
何故こうなってしまうのでしょうね

學徒兵達の保護を最優先に行動します

体内毒を弱毒化
扉の隙間や天井等を這い進み
可能な限り最短ルートで移動

幻朧戦線の攻撃が及びそうな學徒兵が居れば
身体を捻じ込んででも庇います

攻撃を受ける直前に体を液状化
上手く衝撃を殺します
痛みはありますが問題ない
私の前では誰も傷付けさせない

攻撃を上手く庇ったら
すかさず『酔蜜』の入った試験管を投擲
叩き割って内容物をぶちまけましょう

貴方達のために
調合した気化性の睡眠薬です
少し深い眠りに就いて頭を冷やすと宜しい
どうぞ良い眠りを

――、何故
こんな平和な世に生きていながら
戦争を求めるのか
傷付け合うのか

私には分かりません
……、分からないのです



●You got a safety!

「っ、」

 水飛沫の音を聞いた。
 それは己の体が飛散する音だと、冴木・蜜(天賦の薬・f15222)は知っている。
 地面に張り付いた黒泥の量は、予想していたよりずっと少ない。
 そこに赤がないことに安堵する。
 守れたことの証明だからだ。
 代償の痛みは、問題視する程ではない。
 体が傷つくのは、救えぬ疵よりマシな痛みだ。

「り、猟兵様……!」
「……お気遣い、なく。それより……はやく、退避を」
「ど……どこに……!?」

 零れたタールを回収しながら横目に見た學徒兵は、まだ幼いと言っていい年頃の少年だ。もしかしたらまだ新人なのかもしれない。
 しまった、そう思う。
 影朧戦線の銃弾に狙われていた學徒兵を守るべく無理矢理捻じ込んだそこは、瓦礫に埋め尽くされた悪路だ。
 蜜にとっては大した障害になり得ないそこも、少年には厳しい道でしかない。
 数瞬、迷う。
 けれど微かな撃鉄の上がる音を聞いて、覚悟を決めた。

   Dolphinvulnerable
「《 難 攻 不 落 》!!」

 ───今度聞こえたのは、真実水が飛沫く音。
 蜜の身体に痛みがなければ、少年にも傷はない。
 銃弾を防いだそれ、は。

「……イルカ?」
「はい!」

 肯定を返したのは場違いに明るい少女の声。
 シャーロット・クリームアイス(Gleam Eyes・f26268)は瓦礫から顔を覗かせてにっこりと笑う。
 イルカの形をとってこそいるが、それは消す方法の存在しない概念の結晶。あらゆる攻撃を棄却する絶対防御の理。
 たかだか銃弾程度、弾けなければ【消す術のないイルカ】の名折れだ。

「防がれ………………は?」
「なんだこれは!?」
「む、『なんだこれ』とは失礼な。立派なイルカですよ。グラッジだか弾幕(barrage)だかしりませんが、わたしのイルカを突破できるなどとは思わぬことです!」
「どう考えてもいきなりイルカが出てきたら驚くと思うんですよね……」

 少しだけ影朧戦線の若者達に同情しながら、蜜は生まれた隙へと試験管を投げつける。
 【酔蜜(アムリタ)】。
 とろりとした金色の液体は空気に触れた瞬間蒸発、薬効だけを影朧戦線へもたらす。
 毒対策はさすがにしてこなかったのだろう、若者達はばたばたと倒れ伏していく。

「こ、殺……」
「いえ、気化性の睡眠薬です。少し深い眠りに就いて頭を冷やすと宜しいかと思いまして」
「なるほど、いいですね。わたしが何かするより、よっぽど學府(college)の方に勇気(courage)が届きます」
「……あなたは?」

 いつの間にやら隣にやってきて頷く少女に、蜜は視線を向ける。
 受けた彼女は藍色の瞳を瞬かせて、場違いに明るく笑った。 

「お世話になっております! サメール・ネットワーキングです!」
「いえ、存じ上げませんけど……?」
「海の底から空の中までどこでも即日配達! 今回は安全をお届けにまいりました! あ、料金は依頼人から頂きますのでご心配なく」
「は、あ……」

 セールストークかくやの勢いに押されて思わず半眼になる蜜である。
 心なしか學徒兵の少年の方も蜜を壁にするように下がっている。
 そんな二人の視線を意に介することなく、シャーロットは瓦礫へイルカを差し向けた。
 轟音と共に瓦礫が砕け、道が開ける音に少年が目を丸くした。

「避難経路でしたらこちらに」
「す、ごい……」
「えっへん。配送屋のたしなみです!」

 イルカが先導する道を學徒兵の少年が進んでいく。
 殿を引き受けた蜜は、瓦礫を乗り越える前に眠りこける影朧戦線の者共を振り返った。

「──、何故」
「はい?」
「こんな平和な世に生きていながら、戦争を求めるのでしょうか」

 答えを欲さない、霧散するだけの問いかけに。
 独自の流通経路を握る少女は軽く肩をすくめた。

「彼らに聞かないと分からないんじゃないですか? 商売だってそこから始まるものですし」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ミネルバ・レストー
禄郎(f22632)と

幻朧戦線異状なし、だなんて言わせるわけないでしょう?
いいわよ禄郎、後方支援は柄じゃないけど、特別に引き受けてあげる

雪の結晶のオーラ「アブソリュート・ウィッチ」に
「禄郎の行動を支援する」という意志を通して
「念動力」による物質移動でオーダー通りの支援をするわ
禄郎の背後や隙を狙う敵をわたしが撃墜して阻止するとか
機を見て【意思ある氷雪の舞】を発動して
収集したデータで攻撃の精度を上げていくわ
みんなお揃いの首輪なんかしちゃって
おんなじ思想の下に集って、同一個体とみなすからね

やだもう、服がタバコくさくなるじゃない…別にいいけど
そっちこそ最前線で大暴れして、ちょっと見せてごらんなさい


氏家・禄郎
ネリー君(f23814)と同行

「ここまで戦争ごっこをされるとあまりいい気分はしないな」
「とりあえずネリー君、ちょっと働いてくる。そうだね……君には援護を御願いするよ」

トレンチガン片手に【闇に紛れる】ように突入
【クイックドロウ】で【気絶攻撃】に持ち込みつつ乱戦へ
そこから『嗜み』で立ち回りだ
武器があると投げられないと思ったかい?
銃床を相手の後頭部や脇に引っ掛けて、足を払えば、技は成立するんだ
寝てる相手は【マヒ攻撃】
技が間に合わない?
じゃあ銃床を顔面に叩きつけよう【咄嗟の一撃】って奴さ
銃弾?
ゴム弾だよ痛いだけ

一段落したら、煙草に火をつけるよ
「ネリー君、怪我は? なら良し?」 
「お、おい……参ったね」



●いくさ場に咲ふ

「ここまで戦争ごっこをされるとあまりいい気分はしないな」

 氏家・禄郎(探偵屋・f22632)は、ここサクラミラージュの民には数少ない「本物の戦争」の経験者だ。
 異世界の存亡をかけたものもそう。この世界で散発的に発生しているのもそう。
 だから禄郎にとって、『仕事』である以上に彼らは嫌いだ。
 息を吐く。それだけで感傷を振り切って、同行を依頼した少女へと振り向く。

「とりあえずネリー君、ちょっと働いてくるよ」

 ミネルバ・レストー(こおりのむすめ・f23814)に声を掛ければ、少女の硬質な表情がわずかに緩められるのが分かる。
 幻朧桜と、冬用のふわふわとしたよそおいのちぐはぐさがなんともいとおしい。

「わたしは?」
「そうだね……君には援護を御願いするよ」
「ふん、わたしに後方支援を頼むのなんてあなたくらいよ」
「嫌かい?」
「柄じゃないってだけ。けど、特別に引き受けてあげる」
「恩に着るよ」

 軽口のような言葉と共に、周囲の気温が落ちるのが分かる。
 彼女がそれこそ手足のように操る氷の術は、己の予知した事件の中で幾度も目にしてきた。
 だから不安なく、禄郎は影朧戦線へと突っ込んでいく。

「っ、来たぞ! 猟兵だ!」
「戦場で叫ぶものじゃあないよ」

 射撃。
 禄郎の持つトレンチガンがゴムの散弾を放つ。
 勢いと衝撃だけは本物と寸分違わぬ銃弾が一瞬テロリストたちの足を止める。
 なるほど、桜學府に仕掛けるだけあってそこそこには鍛えているらしい。
 掠める感心をさて置いて、きっちりとした隊列を崩さんと飛び込んでいく。

「失礼」

 【嗜み】。
 英吉利仕込みのジュージュツは武器を持っていようと色褪せず。
 銃床を引っ掛け、殴りつけ、意識が逸れた瞬間を見計らって足払い。巻き込みを恐れず撃ってくるなら容赦なく彼らにとっての味方を盾に用いる。
 とはいえ多勢に無勢。ひとりを転がしている間に他の面々が禄郎へと狙いをつけている。
 今度は振り返らない。

「生憎、君達とは練度が違う」

 ───ひらり、風なく踊る氷の花。
 それが雛芥子であると、風流を解さぬ若者たちは気付いたろうか。

「情報解析は勝利への第一歩よね。そんなことも分からない奴らに負けてあげる理由もないわ」

 後方、【意思ある氷雪の舞(ブリザード・ダンス)】を繰るミネルバは鼻を鳴らす。
 普通の銃弾だかグラッジ弾だか知らないが、通常の銃撃で彼女の氷を抜くことなど出来ない。
 それに守られる禄郎を傷つけることも、また然り。

「まったく、お揃いの首輪なんかしちゃって。トループと見なして撃ってやろうかしら」

 同じ思想を繋ぐ同じ装身具──という概念は理解できるミネルバだ。
 かつて過ごしたゲームの中にも、エンブレムを統一武装に掲げるギルドは存在した。同じであるというのは確かに結束を高めるファクターだ。
 斟酌するかは、また別の話だが。

「アブソリュート・ウィッチ。やりなさい」

 前で戦う禄郎を支援するよう、指示を出していた結晶を呼ぶ。
 応えは静かに、ただ周囲の気温が下がるだけ。
 異様な気温の急落が齎したのは、弾丸が発射されない異常事態。

「弾詰まり!?」
「どうやら、君達に勝利の女神はついていなかったようだね」

 温度を落とした空気が火薬への着火を許さない──などと、支援に気付けたのは禄郎一人。
 だから、銃床を用いた鮮やかな薙ぎ払いは若者の意識を綺麗に刈り取った。


「ネリー君、怪我は?」

 静まり返った戦場に紫煙が一筋昇っていく。
 臭いの強い煙草の煙を振り払うジェスチャーをしながら、ミネルバは禄郎へと近づいていく。
 影朧戦線の若者達はものの見事に気絶していた。
 こんなに手酷くされて、ミネルバへ近づく余裕などあったはずない。
 わざと怒った顔を作って、禄郎の煙草を持たない方の腕を引いた。

「そっちこそ最前線で大暴れして、ちょっと見せてごらんなさい」 
「お、おい……参ったね」

 弱り果てた声が決して拒絶ではないから、ミネルバは気付かれないよう笑みを作る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マルガリタ・トンプソン


お、戦争のお仕事だね
一応本業だから任せてよ

思う所あって、俺は影朧戦線側に付かせてもらうよ
飛び入りも歓迎してくれるかい?駄目でもお手伝いするけど
猟兵がこっち側だと怪しまれるかなぁ。【目立たない】よう淡々とお仕事しようね
仕留め損ねた學徒兵や猟兵がいたら追撃しとくよ

一見何の変哲もない弾丸だけど
“味方”に撃つ時は俺の愛を込めてるのさ
そう、とどめを刺すと見せかけて傷を治してやれるってわけ

グリモアが救えと告げたなら、俺は君たちの味方だ
愛すべき君たちが生き延びるために力を貸そう

さて、俺の仕業だってバレたら短機関銃で【制圧射撃】しつつ撤退しよっかな
學徒兵さんたちは傷を治したお礼に援護してくれてもいいよ


榎本・英
人と人が争う。
ありがちの光景だね。
考え方が違えば衝突もするものだ。
しかし、今回は衝突なんて言葉で考える問題でも無さそうだ。

私はこの汚れた世界が好きだよ。
嫌いな部分も勿論ある。
人間らしくて良いではないか。
それがつまらないと云う人もいるのだと理解はしているが。
刺激が欲しいのなら他人を巻き込まないでいただきたい。

先制攻撃で一体ずつ狙おう。
君たちは、私の本に登場させるまでもない。
名誉も誇りもない実に下らない戦だ。

動ける者は動けない者を抱えて彼らの手当を。
ここは私が担おう。
他にも仲間はいる。
足手まといはいらないよ。

授かった命を捨てるなんて馬鹿なことは止め給え。私は平気さ。
君たちとは違って、死なないからね



●ひとと、武器と、その赤と

「私は、この汚れた世界が好きだよ」

 糸切り鋏──筆を握って、榎本・英(人である・f22898)は呟いた。
 銃を構え、放ち、赤を散らしていく──いくさを欲す者共には分からないだろう、ここサクラミラージュに生まれ育った英だからこそ持つ感慨だ。

「つまらないと云うのも理解はできるが、他人を巻き込むのだけはよしてもらおう」

 などと言っても、戦の猛りに呑まれた者共に英の声は届かない。
 知っているとも頑迷の輩め。
 考え方が違えば衝突するのは人間の性と言っていいが、その領域をとうに超えているなら。
 やることはひとつしかない。

「死んで呉れ」

 あかく、赤く───硝子越しの瞳が輝いて。
 銀閃は一瞬。
 倒れ伏す、兵士だったモノが地面に赤を拡げていくから。
 態と、踏んでいく。
 刻まれていく赤い足跡に、影朧戦線の若者が息を呑むのが聞こえる。

「ひ……っ」
「名誉も誇りもない実に下らない戦だ。──本にするまでもない」

 殺人鬼が、わらった。

「う、撃てェ!!」

 火薬が弾ける。
 鉄錆のにおいが焼けていく。
 劈く銃声が喧しい。
 殺す技量はあっても、避ける技量のない英は甘んじて撃たれる他ない。
 撃たれながら、殺していく。

「……ふむ?」

 それにしたって痛みが薄い。
 否、痛み自体はあるのだが拭われるようにすぐに消えていく。
 好都合とばかりに切り裂いていく。
 酔いしれるほどに鮮やかな血霧。
 斃れていく兵士達。
 それでもまだ立っている、英へと向けられる銃口の向こう。
 いっとう小柄な、グラデーションを描く鮮やかな瞳と。
 目が合った。
 撃たれる。

「……猟兵、かい?」
「ありゃ。バレちゃったか」

 片目を閉じる彼女からもう一度放たれた弾丸は、やはり英を傷つけることはない。
 【花守る指先(イン・ザ・ネーム・オブ・ラヴ)】──傷と痛みを殺すための弾丸が英の負傷を拭い去っていく。
 影朧戦線側に立っていたマルガリタ・トンプソン(イン・ユア・ハンド・f06257)は、最初からそれが目的だ。
 超弩級戦力たる猟兵が影朧戦線側に着くなんて、騒がれるかと思っていたのだが……むしろ歓迎されたので目立たぬよう協力していた訳で。
 単身突っ込んでくる英のような猟兵がいたから、愛を込めた回復の弾丸を撃つのには都合がよかった。
 だが、もう影朧戦線側に立っている必要はない。置き土産がてら周囲に通常の弾丸をばらまけば、味方に撃たれると思っていなかった若者たちがばたばたと倒れ伏していく。

「戦争は本業だけど、グリモアが救えと告げたからにはこっちの味方だよ」
「それはそれは。大いに助かるよ」
「ふざけるな! オレ達を騙したのか!」
「昨日の友だって今日の敵になるんだよ。ああ、『本物』を経験してなきゃ分からないか」

 影朧戦線の怒声を軽く受け流し、マルガリタは英の隣へ。
 その間に放たれた敵の弾丸は“愛”を込めない通常の弾が撃ち落とす。
 目立たぬよう追撃──正確にはそのふりをしていた回復の弾丸を続けていた『武器』がその性能を解放すれば、実際の戦場を知らぬ若者たちとは隔絶した技量を誇る。
 もう随分と人数を減らした前線。それでも戦意にぎらつく眼差しに、マルガリタは息を整えていた英を見上げる。

「撤退援護、手伝ってくれる?」
「無論。そこまでで多くを片付けることになるがね」
「あはは。──それこそ、“戦争”みたいだ」

 短機関銃クリムヒルトの砲声が戦場を埋める。
 多くを殺し、地を満たす……ひととひとの衝突は、世界を超えても変わることなく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カイム・クローバー
…酷いモンだ。桜の街は見る影もねぇ。視線を戦場に向けりゃ、人間同士の争いを目の当たり。醜いモンだと思うぜ。ホントによ。

UCを使って學徒兵達の元に援護に向かう。二丁銃を用いて、【二回攻撃】と【クイックドロウ】、【範囲攻撃】(紫雷の銃弾は使わず、銀の銃弾のみ)で相手側の銃器や武器を叩き壊しながら、殴りつけて、蹴り飛ばして気絶させる。勿論、殺さない。…猟兵は超級戦力だ。だが、俺は殺戮兵器になるつもりはねぇ。
無力化後は學徒兵に任せて、UCで戦場を移動。少しでも移動の時間を省いて極力多く戦場を回る。…その分だけ無駄に血を流すのを避けられるハズだ。
面倒な話なのは承知の上。けどよ、俺は俺のやり方を貫くぜ?


ヨシュカ・グナイゼナウ
血の匂い
嫌な匂いだ。ひとが死ぬ前の匂いがする

負傷兵に降らすは【天泣】
これで、足は動きましょう。さあ立って。走って、走って逃げるのです
決して振り返らずに。死ななければどうとでもなります
殿は此方が勤めましょう。ね、大丈夫ですからとニッと笑って

【覚悟】を持って戦場に響かせる声は、指向性を与え彼らの耳に届く様に【存在感】を
さあ、さあ!此方でございます。皆皆さま方、子供も殺せぬ腑抜け共ではありますまい
【おびき寄せ】るよう挑発的な笑みを浮かべ
血煙香るいくさばを駆る

手袋から走る【鋼糸】をきりりと噛んで、点より面での攻勢を
狙うは【武器落とし】に【部位破壊】四肢を【串刺し】命は取らず
あくまで退避の時間稼ぎを



●その名に恥じぬ働きを

 桜の薫る街は見るも無残な人間同士のぶつかり合い。
 流れる血は、ひとが死ぬ前のいやな匂い。
 どうしてだろう、そう思うけれど……止まって感傷に耽る余裕もない。
 
「どけッ!!」

 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)の怒声と共にオルトロスが嘶く。
 銀の銃弾は過たず、影朧戦線の若者達が握る武器へと食らいつく。
 銃口へと突進してきたが故に銃が暴発するより早くそれをカイムへと投げつける、なるほど影朧戦線の若者の判断力は悪くない。
 が。

「失礼」

 横合いから放たれた苦無がそれを弾く。
 中空で爆発、噴煙が双方の視界を遮るから足を止めるのは悪い選択ではない。
 だが、それも暗器使いがいるのを考慮しなければの話だ。

「上方、不注意です!」
「な───っ」

 それはヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)が繰る鋼糸だ。
 視界不良など関係ないとばかりに引き抜かれた糸が容赦なく影朧戦線側の足を刈る。
 当然細い糸、攻撃人数を重視したそれは切断まで至らないが……爆炎の晴れた先、白い髪をたなびかせながら糸をわざとらしく見せつけてやれば、それは挑発として成立する。

「さあ、さあ!此方でございます。皆皆さま方、子供も殺せぬ腑抜け共ではありますまい!」
「子供が……言ってくれる!」

 当然、侮られることを良しとするテロリスト達ではない。
 ヨシュカとてそれを想定しているから糸を引きながら地面を蹴る。
 走っていく白い星に、まだたっぷりと弾を残した銃が向けられて。

「おおっと、そっちにばっか気を取られてんじゃねぇよ」

 横っ面を殴り飛ばしたのは銃床だ。
 近接白兵戦闘距離まで踏み込んだカイムには鋼糸の行方が見えている。
 そうでなくても戦友たるヨシュカの糸がカイムを傷つけるなど万が一にもあり得ない。
 だから躊躇わない。
 殴り飛ばし、武器を壊し、それでも向かってくるようならば飛び出す手裏剣が四肢を地面に縫い留める。
 殺すつもりの敵を殺さず無力化するのは、容易く見えて難しい。
 殺してしまった方が後腐れもなく、楽だということは分かり切っている。

「よろしいのですか?」
「超弩級戦力でも、殺戮兵器になるつもりはねぇからな」
「……はい。カイム様の言う通りです」

 僅かな笑みを交わし合う。
 いつの間にか戦場は遠方からの微かな剣戟だけを残して静まり返っていた。
 そっと踏み出せば、影朧戦線に立ち向かったのだろう學徒兵達が倒れ伏している。
 誰も彼もが酷い状態で、負傷には慣れているカイムもヨシュカも思わず表情をしかめてしまった。
 
「ひっでぇな……ヨシュカ、いけるか?」
「はい、勿論です。お任せください」
「りょ、う、へい……さま……ここ、には、構、わず……」
「ご心配なく。すこしだけ、我慢してくださいね」

 【天泣】。
 振りぬかれた千本が學徒兵たちの経絡を突き刺し、傷と痛みを和らげていく。
 突然の暗器に困惑していた彼らも、少しずつ立ち上がって己の身体の調子を確かめた。

「す、すごい……」
「ありがとうございます、猟兵様! これで動けるようになります」
「んじゃ、あいつらの捕縛を頼む。俺らはまだ行かなきゃならねぇからな」
「お任せ下さい!」

 三々五々影朧戦線の捕縛に取り掛かる學徒兵達はすっかり調子を取り戻している。
 これなら大丈夫そうだとひとつ頷いて、カイムとヨシュカは目線を合わせて頷く。
 なんせ、影朧戦線はまだ暴れているからして。

「捕まれ、ヨシュカ。───跳ぶぜ!」
「はい!」

 【空間跳躍(エア・トリック)】。
 移動時間すらショートカット。転移後即座に【天泣】を使えるよう、千本を構えるのも忘れない。

 面倒など重々承知。
 それでも、無駄に流される血を少しでも減らすべく。
 命を奪わぬやり方を貫いてこその己らだとも思うのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

麻海・リィフ
…少女は 戦争嫌いにて候…

鎧姿で飛来
先制クイックドロウUC発動

拠点防御知識に従い要所と一般人を優先的にかばう

空中浮遊残像ダッシュにて無尽に戦場を飛び回り
剣を回転させ念動衝撃波を乗せ範囲ごと一気に串刺しチャージ

敵の攻撃は三種の盾や武器と念動衝撃波オーラ防御を駆使して受け
カウンター念動衝撃波シールドバッシュで薙ぎ払い吹き飛ばす

學徒に勇気と気合を込めて一喝
何を狼狽えている?
それが今までの学びの成果か!?
答えろ!汝等何ぞや!?
何が為学んだ!
誰が為鍛えた!
今為さずしていつ為すのだ!?
関東第伍の桜學府!ここが力の見せ所ぞ!

地形を利用し拠点防御の知識とUCを併せ
団体行動で小部隊の指揮を執る

嗚呼、腹立たしい…


アルトリウス・セレスタイト
気遣うには身勝手が過ぎる輩だが
殺して甲冑の燃料に焚べられても面倒だ

現着次第即行動開始
魔眼・封絶で拘束
『天光』で戦域を逃さず把握し、その時点で行動中の幻朧戦線構成員を全て同時に縛る

行動と能力発露を封じる魔眼故、捕らえればユーベルコードも霧散する
拘束の時点で學徒兵の危険も排除完了
必要魔力は『超克』で“外”から汲み上げ供給

捕らえたら拘束を維持しつつ學府の者に捕縛してもらう
影朧甲冑の餌になる懸念を伝え殺さぬよう申し添えておく


恨み言を言える者がいるなら聞いても良い
聞くだけだが
戦乱は理不尽に未来を奪い取っていくものだ
今お前達が俺に出会ったようにな



●起こす者、煽る者、止める者

「何を狼狽えている!? それが貴様らの今までの学びの成果か!?」

 一喝は戦乱に戸惑う學徒兵達の間を鮮やかに満たす。
 同時、飛来した円盤状の盾が影朧戦線側から放たれたユーベルコヲドを弾き散らした。
 疑問、回答を待つ間もなく衝撃が穿つ。
 それが回転剣の勢いを余さず利用したチャージであると一体どれほどの兵が見切ることが出来ただろう。
 不可能であるが故に打倒は当然と、生まれた間隙に少女は鼻を鳴らす。
 多機能全身鎧「蒼穹」の力も借りて、麻海・リィフ(晴嵐騎士・f23910)は學徒兵達の前に浮く。

「超弩級戦力のお出ましか……!」
「よ、よかった。これで何とか……」
「馬鹿者!」

 それでは駄目なのだ。
 今回は予知があったから猟兵の介入する余地があった。影朧という敵が控えているから、猟兵が手を差し伸べることができた。
 だが、すべての事件に猟兵が介入できるわけではない。
 サクラミラージュ本来の守護者たちに、猟兵を頼り続けてもらっては困るのだ。
 だからこその一喝に、束の間沈黙が漂う。
 だからリィフは声を張り上げた。

「答えろ! 汝等何ぞや!? 何が為学んだ! 誰が為鍛えた!」
「俺、たちは……」
「関東を守る、學徒兵です!」
「もうすぐ幼馴染と結婚するんだ」
「それ言うなら俺だって娘が生まれたばっかりでなあ」
「それを……今為さずしていつ為すと心得る!」

 三々五々、結束しているとは言い難い……けれど確かに等身大の、彼らの戦う理由。
 受け取ったリィフは頷きひとつ。回転剣ストヲムルゥラァが示すのは、回復したのか少しずつ立ち上がろうとする影朧戦線の若者達だ。

「関東第伍の桜學府! ここが力の見せ所ぞ!」
「「「「応ッ!!」」」」
「その意気や良し」

 ───過る、蒼天色の光が。

「淀め」

 見間違いかと思った時にはもう遅い。
 【魔眼・封絶】は、彼が捉えた一切の行動を封じる原理だ。
 立ち上がりかけた者も、倒れたままコヲドを練っていた者も、等しく全てを禁じられ硬直する。

「な……」

 あまりに鮮やかな手際に言葉を失う學徒兵に、振り返る視線の色もまた蒼天色。
 アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)に、人の絆は分からない。
 それを戦う理由にする學徒兵達のこころを理解することはできない。
 だが、だからこそ。 
 その絆を目映く思う彼にとって、彼らの手助けができるというのは眩しい行為だ。
 紡ぐ言葉に、表情に、その色が出ることはないが……それで尊いと思うこころが変わる訳もなく。
 驚くほど白い指先が、動けずいる影朧戦線の若者を示した。

「拘束も永劫ではない。今のうちに捕縛を」
「は……はいっ」
「何が仕掛けられているか分からない。出来るだけ殺さず、死なさぬように」
「分かりました! それが學徒兵の本懐です!」
「……そうか」

 取り出される縄や手錠。果ては己のマントを破いてロープ代わりに。
 次々施されていく拘束はなるほど手際がいい。サクラミラージュでは蘇ってきた影朧を匿う事件が絶えないから……そういう行動の方が、戦うよりずっと慣れているのだろう。
 だが、影朧戦線の方はそうは思わなかったらしい。
 眦を吊り上げ唾を散らしてアルトリウスを睨みつける。

「勝手に我々の戦争にしゃしゃり出てきやがって……!」
「貴様、猟兵様になんて口を!」
「言わせておけ」

 反駁しかけた學徒兵をジェスチャーひとつで抑えて。
 いっそ無機質なまでの蒼天色が発言した男を捉える。

「戦乱を知らぬと見える」
「……何?」
「戦乱は理不尽に未来を奪い取っていくものだ。今お前達が俺に出会ったようにな」

 その表情も、視線も、僅かたりとも揺らぐことなく。
 直接に言われたわけでないリィフの方がむしろ表情を歪めた。

「嗚呼、腹立たしい……」

 勇ましく學徒兵を鼓舞した、けれど戦争を嫌う少女の呟きを。
 アルトリウスは、そっと聞かなかったことにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
戦う事を好む性質迄もは否定せんが
他者の命を脅かす行為が赦されん事位は知っていよう
況してや戦争を称するなぞ……全く以て腹立たしい

先ずは學徒兵を下がらせるとしよう……「人間」の相手はさせられん
此方で時間を稼ぐ事を告げ、早急に撤退する様に促す
振り返るな、其方へは何もさせん

或る程度訓練された兵の動きなぞ見切るに易い
戦闘知識からの先読みにて動きを計り、起点を潰してくれる
攻撃は武器受けにて叩き落し、決して後ろには通さない
愚か者揃いと云えども唯の人間、命までは取らん
但し……相応の報いは受けて貰うぞ
――破群猟域
フェイント絡めた攻撃加え、手足の腱を断って動きを封じる

まだ掛かって来るのなら、死ぬより痛い目を見るぞ


篁・綾
SPD分野で。

…愚かな事ね。
…得る物よりも失う物が多いということに、どうして気付かないのかしら。
まず、【空中戦】を駆使して高所に駆け上がり、周囲の状況を【情報収集】し確認するわ。
次いで、そのまま屋根の上を【空中戦】で飛びながら、【第六感】を頼りに
一般兵を探して襲撃。
刀から舞い散る桜と、剣戟の【衝撃波】による土埃で【目潰し】をした上で、
【マヒ攻撃】を打ち込んで無力化するわ。
加減は適当に。

同時に指定UCを使用。桜吹雪と共に忍び達の幽霊を呼び、影朧戦線の掃討と
、一般人の救助、
それに敵本陣の偵察を命じるわ。

…この状況、一人ではとても手が足りないでしょう。
でも、手が足りないのならば増やせばいいわよね。



●刃の見据える景色

「愚かな事ね。……得る物よりも失う物が多いということに、どうして気付かないのかしら」
「それだけ短慮ということだろう。他者の命を脅かす行為が赦されん事も忘れるとはな」
「まったく、その通りね」
「戦争を称するなど……腹立たしいことこの上ない」

 篁・綾(幽世の門に咲く桜・f02755)の嘆息を鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は端的に切って捨てる。
 綾の方にも異論なく、静かに肩をすくめてみせた。
 二人の猟兵に共通する感情は怒り。それから、この場を早く収めようという使命感だ。
 手練れの猟兵が二人並べば、打ち合わせすら秒の単位で済まされる。

「私は上にいくわ」
「なら正面は引き受けよう」
「ぼ、僕たちは……?」

 声を上げた學徒兵の声はしかし中途で萎んでいく。
 当然だろう、己らより明らかに鍛えこまれ、圧倒的に高い位置から見下ろす隻眼にはそれだけの威圧が込められている。
 問えただけ大したものだ。そして芳しい回答が返るはずもない。

「下がっていろ」
「で、でも……!」
「……なら、救助の方を手伝ってくれる?」

 取りなすように割り込んだのは甘やかな声。
 同時に幻朧桜とは明らかに質が異なる桜が踊る。
 嵯泉が目を瞠ったのは、その隙間に影を認めたからだ。
 桜より出で、風より疾く影を渡り、悪鬼を屠るがその使命。
 綾の配下たる【幻桜忍群】は、ただ主の指示を待っている。
 
「これだけ人手は増やせても、地の利はないの。あった方が有利だってことは分かるでしょう?」
「は、はい。そういうことなら引き受けます」
「ん、お願いね」

 言葉は學徒兵と忍軍の双方へ。
 止まない喧噪へと散っていく彼らへ、學徒兵を戦力外と見なしていた訳ではない嵯泉も声をかける。

「こちらに戻ってくる必要はない。振り返らず、己の使命を果たせ」
「……は、はい!」

 駆け去っていく學徒兵の背中を束の間嵯泉は見遣った。
 ああいう直向きな新兵を教導した日が、彼にもあった。
 感傷は瞬きの間。
 それでも彼女の方が早かったのは、ひとえに位置取りだろう。

「来るわよ」
「……ああ」

 落下、剣戟と共に土埃が舞う。花弁もまた。
 いくさ場にも関わりなくひらはらと踊る幻朧桜に似たそれ。正体は綾の刀から散る彼岸桜だ。
 惑わしの煙幕は数秒の迷いを生んで、けれど振り切るような射撃音が耳をつく。
 人数差があるから弾幕で動きを制限しようという判断か。なるほど訓練されているなと思う。
 だから、元よりそうした軍学に沿う側であった嵯泉にとっては読みやすいことこの上ない。

「───叩き潰させて貰う」

 展開、【破群猟域】!
 鞭状に伸びた刃は煙幕から飛び出す弾丸のうち、致命になるものを見切って撃ち落とす。
 瞠目すべき達人の技量はそれだけで終わらない。
 突き抜けてきた弾丸は、即ち敵の位置を知らせる意味を持つ。手首を返して鞭を操作、放たれるのは容赦のない乱打、乱打、ひたすら乱打!
 武器を落とされ壊されただけならまだ運があった方だ。
 手首が裂ける。肘が壊される。酷い時には地面に跳ねた刃が腿を穿った。
 当然の計算を、同じ研鑽を積んでいない影朧戦線が見切れるはずがない。

「くっ……!」
「ええ、コヲド使いもいると思ったわ」

 佳人は鮮やかに。
 味方を盾に、ユーベルコヲドを練っていた青年の脇に降り立つ。
 慌てた掌が綾に向けられるも、当然反撃は許さない。
 青年の首を打撃したのは伸びやかな鞘。
 鞘と柄に刻印された美しい彼岸桜を認めさせる間もなく意識を刈り取る。
 
「この世界を勝手に戦場しないで頂戴」

 土煙が晴れたとき。
 そこには二人の猟兵しか立っていない。
 僅かな生き残り、息を呑む影朧戦線の者達に、琥珀と黒曜の剣豪二人は刀を握り直して見せる。

「まだ掛かって来るのなら、死ぬより痛い目を見るぞ」
「どうぞ、いらっしゃい?」 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
この手合いの連中は愚かよなァ
争いの齎す進化なぞ、滅びに向かうだけの代物に過ぎんというに
殺すために生きてどうする。生きるために殺せ。全く効率の悪い……

と、愚痴ったところで仕方がない
天罰招来、【永伴】
行けるな蛇竜
誰も殺すな。一般人らをお前の鱗で守ってやれ
「人間と戦う覚悟」があったとて、お前の姿に怯まん者なぞそういるまい

その隙に私が連中へ呪詛をばら撒いて無力化しよう
少々悪夢を見てもらうだけだよ
それ以上の惨禍を齎そうとした奴らだ
その後の人生を悪夢に魘されて生きるくらいは、何ということもなかろう

この程度の呪詛で折れる悲願なら、最初から通さん方が良いぞ
願いの代償――精々苦しんで、じっくり考えるが良い



●悪竜問答

「この手合いの連中は愚かよなァ」

 心底侮蔑の息を吐くニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)を、不思議そうに見るのは彼の肩に乗った蛇竜だ。
 その頭を軽く撫でてやり、彼は前線へと目を向ける。

「争いの齎す進化なぞ、滅びに向かうだけの代物に過ぎんというに。まったく効率の悪い……」

 そう漏らしたところで、影朧戦線の動きが止まる訳でもなし。
 そうなる可能性を選んだ人間たちをどうこうしようと、「妹」のようには思えない彼だ。
 だがここまで転送されておいて背を向ける訳にもいかない。

「手伝ってくれ、相棒」

 天罰招来、【永伴(シンモラ)】。
 肩から地面へ。降りた蛇竜に力を通せば、みるみるうちに大きくなっていく。
 最終的なサイズは約六メートル。鎌首をもたげれば、二階建ての建物と同じ高さから唾液が滴り落ちる。
 地面に落とす影も、ひどく大きい。

「ひ……っ」
「誰も殺すなよ」

 果たして。
 怪獣映画めいたスケールの角持つ蛇竜は、戦場に驚愕と動揺を齎した。

「うわああああああああああ!!?」
「逃げ、いや、倒せ!」
「出来るのか!? あんな化け物を!?」

 悲鳴は、男に何の痛痒も齎さない。
 戦場全ての敵愾心が蛇竜に向けられたのをいいことに、ニルズヘッグは次の術式を展開すべく愛すべき白銀の悪魔に視線を向ける。

「姉さん、どうだ?」

 弟のリクエストがお気に召したらしい、成長しない少女の甘やかな笑い声。
 直後、しろがねが戦場を染め上げた。
 火の形をとって、しかし燃焼は齎さない。
 その正体は純粋な呪詛の塊。精神を直接傷つける為の猛毒だ。
 故に上がる絶叫は先までと質を変える。
 幻覚、幻聴、幻痛──そのどれもが、死に至る無念より生まれた呪い。
 いくさの齎す、それを知らぬ世界の民が受け止められるはずがなく。

「多くを殺すつもりだったのだろう? その後の人生を悪夢に魘されて生きるくらい、何ということもなかろう」

 分かっていて、ニルズヘッグは笑みを作る。
 擬音にするなら「にやり」だろうか。公園で子供達に向けるなら喜ばれる表情も、今この状況では恐慌しか呼ばない。

「この程度で折れる悲願なら、最初から通さん方が良いぞ」

 じっくり考えるがいい──告げる男は、悪徳の血族の顔をして。

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸宵戯

噫、素敵!
素敵ねロキ
ときめいてしまうわ
あまやかな戦の香りがする
血と涙と絶叫の歌がきこえるの
遊んでもいいでしょう?
わるいひとを殺すのは
良いこと

あらロキ
撃たれちゃうわよ?

戀したみたいに胸の奥が熱くて
滾るわ
欲しいわ欲しいの
愛しあいましょう!

満開の桜を吹雪かせて―呪殺の桜と共に衝撃波を放ちなぎ払う
戯れ踊るように駆けて
抱擁かわすように首をはねとばす
四肢を抉り割いて咲いたあかが綺麗
銃弾をオーラ防御の桜花弁でいなし躱してカウンター
楽しいわ!

私の贄?
うふふ
私のかみさまがそういうなら
私のものね
「喰華」
いただきます
綺麗な桜になって?

この方がずっと素敵
褒められたの
嬉しいわ
私はよいことをした

次はどの子かしら!


ロキ・バロックヒート
宵戯



いいね
戦いを求めての戦争かぁ
たまにあるんだよね
でも丁度いいじゃない
ね、宵ちゃん
そう!今から善いことをするの

一般人の前に出る
え?撃たれたいんだよ
撃つならこっち
撃つの?ほら撃たないの?
笑いながら誘惑で矛先をこちらへ向けて
避難の時間稼ぎ?そのつもりはなかったけどいっか
【甘言】で敵の精神を壊す
一時の夢は楽しかったでしょ?

あぁ龍がそちらに行ったよ
うんいいよ
そいつらは『食べて』しまっても
君の贄だから

狂い咲いた龍をうんと褒めてあげる
どちらともつかない血に染まった様は見蕩れるほど綺麗
まだまだ暴れ足りないよね
お楽しみはこれから
さぁ死のパレエドをしようよ
―あぁ違った、戦争、ね
ふふ
破滅の行く末を見届けてあげる



●よゐざくら

「うふふ、あはは」
「愉しそうだね、宵ちゃん」

 幼子が鬼事に勤しむに似た、一切邪気無い笑い声。
 神に問われた誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は、桜と称するには赤の強い瞳を細めて向ける。

「だって、戦の香りよ? 血と涙と絶叫の歌がきこえるの。ロキはときめかない?」
「戦のための戦なんて、たまにあることだからね」

 肩をすくめて返すロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)も、しかし愉悦は隠さない。
 歪んだ笑みを貼り付けたまま、影の死霊も動かさぬまま、ふらふらと上体を揺らす。
 有体に言って、隙だらけの。

「? 撃たれるわよ?」
「うん、撃たれたいからね」
「まぁ」

 櫻宵が胸の前で手を合わせて見守る前、いくつもの銃声が弾ける。
 夢見心地の表情でいた影朧戦線の者達の表情が一斉に強張った。

「痛いなあ」
「あ……あぁ……」

 櫻宵には分かる。
 ロキの所作、漂わせる香り、蜂蜜色の視線ひとつひとつが人間にとって致命の誘惑だ。
 『かみさま』を撃ってしまった彼らの罪悪感は凄まじいモノだろう。
 
「あーあー。いっけないんだ、いけないんだぁ」

 だから道化を装う神は、見当違いの罪悪感を指してわらう。
 甘い甘い毒華の薫りに、桜の龍も恍惚にわらう。

「         」

 【甘言】は、ヒトならざるコトバにて。
 揺れに揺れた精神の、脆くなった部分をちょんとつつく。
 こころを砕かれた若者はごろりと地面に転がった。

「ひとときの夢は楽しかった?」
「ええ、とっても」

 その死に様に、櫻宵は己の右手で頬を押さえた。
 鼓動が早い。
 頬が熱い。
 嗚呼──まるで戀でもしているみたい!

「いいよ、宵ちゃん」
「ロキ?」
「まだまだ悪いひとはたくさんいる。たくさん遊べそうだよ」
「うふふ、そうね、その通り。わるいひとを殺すのは」

 ──良いことだわ。

 櫻宵が駆けた。
 先んじて横薙ぎの一閃。生まれた桜の波が空間を薙ぎ払う。
 呑まれたたらを踏んだ若者へ、接吻を乞うように顔を寄せて抱擁。
 首が舞う。
 すれ違いざまもう一閃。舞い飛ぶ首がもうひとつ。
 ぽつんと残されて可哀想な体も行きがけの駄賃と刻んで、断たれた四肢が枝に喰われる。
 花弁を濡らすあかに、自然と唇の端が吊り上がった。

「楽しい」
「そうだろうね」
「滾るわ」
「うんうん」
「でも、でももっと欲しいの、ねえねえもっともっと愛し合いましょう!」

 蠱惑の龍眼が煌いて叫べば、辺り一面桜獄と化す。
 【喰華(アクジキオロチ)】。
 桜の龍が喰わうは死体のみにあらず。
 生きたヒトもそのまま、桜の檻へと閉じ込めて喰らう。

「だって、あたしを綺麗に咲かせてくれるのは『良いこと』でしょう?」

 咲き誇る、絢爛なるや宵櫻。
 間隙を縫う、凄まじい腕の銃弾すら受け止め返し射手を貫いてみせる。
 華と呼ぶには血生臭い、それすら悦と受け取る道化はただただ静かに龍を褒めてやる。

「綺麗だよ、宵ちゃん」
「ほんとう?」
「だからもっと見せておくれ」
「……もっと食べてもいいの?」
「もちろん! 君に捧げられた君の贄だ。最期まで美味しく食べてあげよう」
「そうね、私のかみさまがいうなら私のものね。綺麗な桜にしてあげましょう」

 あはははは───

 弾けたわらい声はやはり童めいたそれ。
 子供が戯れるように、けれど確かな暴威を以て踊るのは破滅。
 道化の見守るその先で、桜に非ざる華が咲く。
 地を濡らすそれは、果たしてひとのものか、はたまた龍のものか。
 ロキには分からない。誰のものかもわからない。
 けれど、ひどく美しいことだけは分かるから。

「嗚呼──ほんとうに、綺麗だ」

 舞えや踊れや酔ゐ櫻。
 戦はまだまだ終わらない。
 暴れ足りずに不貞腐れてくるだろう君も、満足する舞台がきっと来る。

「愉しみだなあ」

 だって死のパレエドは、まだ始まったばかりだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リア・ファル
戦いに生きる、か
ソレはまあ、戦艦であるボクも同じだけれど

「広域、音紋および動体、熱センサスキャン完了。
要救助者に対する脱出経路策定、こちらも完了。
行こうか、イルダーナ!」

上空から周辺を演算把握後、『イルダーナ』で戦場を駆け回り
脱出方向を提示、負傷者などはUC【森羅万象へと導け、常若の国】で収容
まとめて後方へ避難させる
(情報収集、操縦、空中浮遊、偵察、救助活動)

邪魔する兵士は『セブンカラーズ』からの麻痺弾で腕を撃ったり
(武器落とし、スナイパー、マヒ攻撃)
『グラヴィティアンカー』で絡めたり
(捕縛、ロープワーク)

影朧を討っても満たされず、
挙げ句、他人を脅かすのなら、
止めよう
今を生きる誰かの明日の為に


花剣・耀子

ゆきましょう。

目的は學徒兵への加勢。
負傷したヒトは撤退なさい。
其れまでの間を稼ぐわ。

どう間を稼ぐかなんて、知れたこと。
――此方に来るものを全部斬るわ。
弾丸も刀剣も等しく散らしましょう。
派手に目立つように、學徒兵へ余所見はさせないわ。

相手がヒトであるのなら、いのちまでは取らないように。
……、情ではないわ。ヒトが始末を付けるべきだからよ。
おまえたち、戦場で死ぬのが本望だと思っているのでしょう。
お生憎様。せいぜい生き恥を晒しなさい。


力を振るう場があるか。
命を懸けられる場があるか。
戦う場が在るか、否か。
それは存在意義に関わること。
……――ええ。ようく知っている。

だから腹立たしいのだわ。
八つ当たりよ。



●いくさのためにうまれたものたち

 その戦場に花は咲かない。
 サクラミラージュのどこにでも咲いて散る幻朧桜すら、彼女の前では存在を許されない。
 なぜならその剣の意は、花を散らす嵐の具現。
 【《花剣》(テンペスト)】。
 花剣・耀子(Tempest・f12822)という猟兵の、その代名詞たる業は立ち塞がる全てを等しく薙ぎ払う。
 弾丸も、刀剣も、ユーベルコヲドですら。
 すべてを平らげて魅せるのが、彼女の在り方だ。

「邪魔よ」

 長い髪をわざとらしく揺らして。
 たおやめのなりで振り下ろす刃は苛烈に、飛び交う銃弾を正確に両断する。
 年齢と見目にそぐわない、高すぎる技量は超弩級のそれ。
 特異な機械剣《クサナギ》も合まって、彼女の姿はよく目を惹く。
 その上、少しでも意識を逸らせば──

「そうね、あなたから先に散りなさい」
「──ッ!」

 斬られる。
 嵐の剣は距離を選ばない。むしろ遠方だからと気を抜いた者から刻んでいく。
 武器を壊し、足を裂き、でも殺すまではしてやらない。
 戦場で死ぬのが本望だと、死にたいと言っていた。ならば当然こうすべきだと思うだけ。

「せいぜい生き恥を晒しなさい」

 感情の色がどうにも薄い、怒っているような声を落としても聞く者はない。
 影朧戦線の襲撃にも波がある。
 それが途切れている今のうちに、と──。
 黒いセーラー服の背中だけを、學徒兵とその傍に浮くバイクに見せる。

「撤退支援をお願い」
「勿論、引き受けるよ」

 音紋、動体、熱センサ、その他もろもろのサーチ機能を広域展開。要救助者を拾い上げる役目はまだ健在な學徒兵達に振る。。
 同時にルート検索開始……戦艦内を経由するのが最も安全という結論の下、電影扉の設置場所を策定──完了。
 今に生きる誰かの明日を繋ぐため、リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)は任を果たす。
 『戦艦』という、それこそ戦いのために生まれた兵器の一部がリアで、ティル・ナ・ノーグという戦艦だ。
 だがそれは、ひとを助けられないことを意味しない。

「運搬は重傷者を優先に! 歩ける奴は」
「おい、こっちもう一人いないか? 担架担ぐぞ!」
「止血布ない? さすがに猟兵様の領域を汚すのは申し訳なくって」
「あはは、気にしなくても大丈夫だよ」

 【森羅万象へと導け、常若の国(ディメンジョン・ゲート)】。
 ある意味彼女自身といえる船の中へと案内するユーベルコードだ。戦場に怪我人を放置するよりよっぽど安全だと断言できる。
 とはいえ治療のための設備や物資を無尽蔵に抱え込んではいない。ならば頼るべきは人の知識。

「ねぇ、この辺りで一番安全な病院は?」
「で……したら、北街の方に。大きな総合病院があります」
「ん……ここか、了解。なら出口はそこに設定しよう。動けない人がいたら運搬してもらえるかな」
「勿論です!」

 電影扉を潜って、學徒兵が戦艦内へと消えていく。
 病院という何より安全な避難場所に直結した通路は、これまで収容した人数も相まって大盛況だろう。
 己の内部をモニタリングしながら、リアの目はチェーンソー片手に立ち尽くす耀子にも向けられる。

「耀子さんも、運搬の手伝いお願いできるかな?」
「……悪いけど、そうしている余裕はなさそうだわ」
「! ……そうみたいだね」

 ヨロシク、と言い置くリアに頷いてから、視線を前に戻して嘆息する。
 耀子は、ああいう風にはなれない。
 命を懸け、力を揮い、戦うことこそが存在意義であるから。
 ここでしか生きられない。
 ここにしか在れない。
 そうであることに、ほんの少し苛立ちめいたものがある。

「どうして邪魔をする!?」
「……そうね」

 冷えた碧玉が硝子越しに兵士を見据える。
 だから、きっと、予知があった──それ以上に胸を塞ぐ暗いモノは。

「八つ当たりよ」

 泣き叫ぶようなエンジン音が、いっそう高く戦場を満たす。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クロト・ラトキエ


戦争?
あは、ご冗談を♪
…その“遊戯”、付き合ってあげますよ。

學徒兵より前に出。
動ける者は自力で、動けぬ者へは複数手を貸し退避、
そして決して戻って来ぬ様、指示。
超弩級戦力なんてご大層…
なっておきます。今だけは。

敵兵の布陣、使用武器…各々知識に照らし。
視線、姿勢、武器の向き…見切り得た挙動を回避に繋げ。
刃で逸らし、鋼糸で往なし、
全て捌けずとも機動低下と致命傷だけは避たく。

害する者は害される。
敵へ躊躇など有り得ない。
苦痛と憎悪と怨嗟と死――
振り撒き、塗れ、生きている。

周囲に鋼糸掛け、UC展開。
一人一人、丁寧に、丹念に、
攻め手を壊し、
機動を潰し、
殺した儘に生かしましょう。

識りたかったのでしょう?戦場


鳴宮・匡
死ぬのに躊躇いがない、って頭は理解できないが
戦いの中でなきゃ生きられないってのは、わからないわけじゃない

……もっとも、俺は
そのままでいたくはなかったから、今、こうしているわけだけど

避難や救助にはどうにも向いてない
敵兵の排除を担当するよ

出来るだけ殺害は避け、腕や足を射抜いて無力化
特にグラッジ弾とやらを持ってるやつを優先的に排除
余り被害を広げられても困るからな
【無貌の輩】――俺の影は“過去”によく反応する
多分、探知はできるだろう

別に、同情なんてしていない
ただ、こんな行為が“正しい”と思われたまま
死なれるのは据わりが悪いってだけだ
生かしておいたほうが致命的な事態を起こすようなら躊躇いなく殺すよ



●『本物』

「あはは、ご冗談を」

 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)の人畜無害が、ほんの少し剥がれている。
 ゆったりしたようで、その実隙の無い立ち姿。
 硝子越しの視線は柔和な風を装った冷徹の色。
 それにすら気付かぬ若者達の金切り声は、数々の戦場から生還を果たしてきた彼らにとって愚弄という他なく。
 故に当然、手加減の要は無し。
 
「その“遊戯”、付き合ってあげますよ。さあどうぞ、何なりと」

 いっそ芝居がかった挙措で一礼する兄貴分の姿に、やや後方に位置した鳴宮・匡(凪の海・f01612)は僅かに嘆息した。

「……兄さん」
「分かってますよ。手早く済ませます」

 學徒兵を撤退させた戦域に向けて鋼糸が引き抜かれる。
 暗器というものは往々にしてあることにすら気付かせぬ。だが匡の知覚能力にかかれば配置は丸裸同然。
 故に「味方を巻き込む」などという愚は成立せず。
 銃弾は、展開し始めた糸の隙間を巧みにすり抜ける。
 そして、“影”もまた。

「仕事は分かってるな?」

 影人形──【無貌の輩(ストレンジネイバー)】は、何より過去に反応する。
 それがいつかの時に切り捨てたモノの集積だから?
 あるいは戦争が、戦いが、それを欲する者が××だから?
 深く考えている間はないから、思考の隅に留め置いてBR-646Cの引き金を引く。
 弾丸は過たず。グラッジ弾を内蔵する拳銃を構えていた男の腕を撃ち抜き落とせば、探知の役を果たした影人形がそれをキャッチする。
 綺麗な小石でも見つけたかのように武器を抱え込む影達に、「おやまぁ」とクロトの方が相好を崩した。

「随分と可愛らしいじゃあないですか」
「どーも。兄さんにも懐くんじゃないかな」
「あっはは。それは光栄です」

 笑う声、交わす軽口、それは慢心ではなく余裕。
 影朧戦線から放たれる銃弾は銃口の向きから判別して回避、足元を薙ぐような射撃で接近は許さず。
 それでも踏み込もうとする者には鋼糸が斬撃の洗礼を下す。
 縦横無尽、天衣無縫と見せた精緻の殺戮技巧。
 幻朧桜に、建物に、果ては敵の持つ武器にまで──掛けられた鋼糸はその本領を果たす。

「断截、【拾式】」

 害する者は害される。
 殺意に返されるのは殺意だけ。
 どちらが生き残れるかか、それさえ運命の女神の采配に委ねられ──けれど、強大すぎる敵を前にすれば奇跡など起きようはずがない。
 ましてや彼らは、生存と生還を何より得手とする暗器使いと、どれだけ殺しても表情一つ動かさずと畏怖された“凪の海”。
 その生涯の大半を、本物の戦争に費やしてきた戦場傭兵だ。

「だって識りたかったのでしょう? 戦場」

 一人一人、丁寧に、丹念に。
 武器を壊せば撃てなくなる。
 足を潰せば動けなくなる。
 指を飛ばせば握れなくなる。
 どう鋼糸を繰ればそうなるか、クロトはよくよく知っている。
 殺害などしてやらない。その自由すら許さない。
 許されるのは苦痛に、恐怖に、怯えに、あらゆる負の感情を混ぜ合わせた悲鳴。
 大きなものもか細いものも、声が出ないものですら彼は意に介さず笑う。

「これが、そうですよ」

 死んでいないだけの人の群れ。生み出した相手と生み出されたもの、双方に匡は嘆息する。
 死ぬことに躊躇いはなくとも、ここまで弄ばれるとは思わなかっただろう。
 そう事実として認識するだけで、惨状それ自体にはやはり心は動かない。
 ルーティンめいた再認識と共に銃を収めれば、糸をしまい始めたクロトがにまりと首を傾げる。

「殺す必要、あると思います?」
「動けないくらい叩きのめしたんだから、弾の無駄になるだろ」
「あっはは、そりゃあ違いありませんね」

 事実として告げた言葉の何が面白かったのか、笑う兄貴分にもう一度嘆息を。
 回収のための連絡を飛ばしながら、もう一度惨状を振り返った。

 戦争がしたいと彼らは言う。
 匡にも、そこでしか生きられないと思っていた過去がある。
 そのままではいたくないと今ここに居る、匡と彼らの違いは何だったろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
ハッ、理解できねえな
闘いたい、暴力を振るいたい、壊したい殺したい──イカれてやがる
そういう異常者がこうして力を持つ…厭だ厭だ
こんな奴らに負けるのは癪だな。ぶっ潰してやる

學徒兵ども、俺が前に出る
重傷者は下がれ、そうでないなら援護しとけ
ん?何をするかだって?
『踊り』に行くのさ──道化がな

ハロー、ウォーモンガー
お前らだけ愉しそうにしてんなよ…混ぜな!
アイ・アム──『BlessDancer』
獲物が来たぞ、嬉しいだろ?俺だけ見てろよクソ野郎
攻撃を回避しながら近接戦闘で一人ずつ無力化
合間に強化と治癒のパルスを學徒兵に配り、援護を厚くする

切り札を出しな
闘いたいんだろう?その傲慢な望みをぶっ壊してやるよ


ティオレンシア・シーディア
ごくごく偶ァにだけど、居るのよねぇ。文字通り「世界」に馴染めない人間、って。
大体は穏当に世界を変えようとするなり、なんとか折り合いつけて生きてくなりするんだけど。
最悪の方向で鬱憤が炸裂すると「こう」なるのよねぇ…

桜學府に殴りこみかけてきたんだもの。容赦する必要はなさそうねぇ。
ミッドナイトレースに○騎乗してグレネードの〇投擲と●轢殺で一気に○切り込みかけるわぁ。
ルーンの拘束・催涙・○毒・マヒ・目潰し・足止め・武器落とし、鎧砕きに精神攻撃。手札はいくらでもあるもの、片っ端から〇先制攻撃で○蹂躙してやりましょ。
できれば何人かふん縛って〇情報収集もしておきたいわねぇ。



●終焉と待ち合わせ

「……いるのよねぇ。ごくごくたまーに、だけど」
「何がだ?」
「文字通り、『世界』に馴染めないって人間」

 ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)の無感情な視線を意に介さず、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は常と変わらぬ甘やかな声で答えた。
 だからといって言葉の厳しさが減じる訳でもないのだが。

「大体は穏当に世界を変えようとするなり、なんとか折り合いつけて生きてくなりするんだけど」
「ああ、読めたぜ。……馴染めないハコはバラしちまおうって腹か」
「それにしたって桜學府に殴り込むのは極端すぎると思うけどねぇ」

 だって、『壊す』だけならもっと効率よく出来る場所がある。
 病院、駅舎、オペラハウス、商店街に百貨店。戦争など意識の端にも上らせない一般人のいるところはいくらでもあるだろう。
 なのに彼らが選んだのは、よりにもよって帝都桜學府が支部。
 戦える人間が──少なくとも一般人よりは戦うことを知っている學徒兵達の支部を選んだ時点で、目的は明白だ。
 闘いたい、暴力を振るいたい、壊したい、殺したい──。
 あまりに原始的な欲望を剥きだした影朧戦線の兵士達の姿は、酷く醜い。

  ワックド
「糞ったれ」

 舌打ちひとつ、悪態に隠して指先でプログラムを弾く。
 同時に一歩前へ。地面に積もった花弁が舞うのに、ティオレンシアは少しだけ目を瞠った。

「何するのぉ?」
「『踊り』にさ──道化がな」
「そう。楽しみにしてるわぁ」

 【Extend Code『BlessDancer』】、Activate。
 これより彼の役割は前座の道化。
 本命たる英雄の為、舞台を整えてやろうじゃあないか。

「そら、獲物が来たぜ。嬉しいだろ? さあ、さあさあ! 俺を見ろよ」

 足音を立てるたびに視線が、銃口が、笑う少年へと向けられる。
 サクラミラージュにはまだプログラムの概念が薄い。故にヴィクティムが纏うヘイトプログラムを防ぐ手段が存在しない。
 そもそも、敵に攻撃することの何を躊躇うというのだろう?

「撃てェ!」
「遅ェんだよ──」

 だから見えている。
 銃器の形状と向きから銃弾の方向を計算。秒などという生温い速度域、回避は容易い。
 掻い潜り接近。自動で最適の長さを取るナイフを振るえば、敵の急所を穿つ。その頽れる身体に合わせて身を屈めれば。

「通るわよぉ」

 落とされたグレネードが轟音と共に閃光を放つ!
 バイク型UFO「ミッドナイトレース」に騎乗したティオレンシアが飛翔ざまに置いていったものだ。
 閃光に目が眩むのは影朧戦線側だけ。数秒の停滞を生体機械ナイフが裂き、黒曜のリボルバーは拘束のルーンを刻んだ弾丸で捕縛を為す。
 攻撃は終わらない。
 空中でターンしたバイク上、滞空の一瞬にハンドルから手を離す。
 袖口から引き抜いたルーン紙片を同じくルーンを刻んだ銃弾で射撃。複数の意を重ね、多種多様の攻勢弾雨を降らせる。

「特別サービスよぉ」
「ハハッ! 派手でいいじゃねぇか!」

 それは上空から戦場を蹂躙する【轢殺(ガンパレード)】。
 ただでさえ多彩さという点で利を持つティオレンシアだ。それが機動力と制空権まで手に入れてしまえば、手の付けられない遊撃砲兵と化す。
 空の彼方を狙おうにも、目の前で踊る道化から目を離すことがまず危険なのだ。
 故に撃たれ、切られ、拘束され、倒れ伏して──。

「口ほどにもないわねぇ」

 ティオレンシアが地面に帰ってきた時に、立っていたのはヴィクティム一人だけ。
 その結末をごく当然と受け止めて、けれど前座だと気を抜くことなく。
 いつの間にか漂い始めた、影朧そのものたる黒霧の水源へと視線を向ける。

「出てこいよ、切り札──その傲慢ごと、ぶっ壊してやる」
「クカカカカカ! 猟兵に誘われてしまったら応えぬわけにもいかンなァ!」

 応えた声は、ここまで交戦した若者達とは一線を画す覇気に満ちて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『魔人シックス』

POW   :    破ッ!!
対象のユーベルコードに対し【戦場にレベル×5体の一撃で破壊可能な式神】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
SPD   :    急急如律令
【レベル×1体の、道術で縛りつけられ、】【呪詛へと貶められ、激痛に泣き叫び、】【命乞いをし、生者を呪う老若男女の死霊】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    怪蟲招来
【自身が直接対象に接触している瞬間に限り】【レベル×1体の醜悪有害な異界の怪蟲を】【直接、対象の体内へと召喚する能力】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。

イラスト:すねいる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はロニ・グィーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●六番目の悪鬼

「手ぬるい同士が失礼を。だが、もう退屈はさせんよ」

 石畳に積もる花弁を踏み躙るように、靴音は地面を叩いて進み出る。
 影朧そのものたる黒霧を纏って現れたのは目算四メートルほどの人影だ。

「甲冑に見えぬと? 当然よ。猟兵に失礼があってはならんからな。僭越ながら『上着』を着込んでおる」

 老いにしわがれて、しかし未だ衰えぬ覇気を含んで男は告げた。
 人にしか見えぬその姿。しかし挙措に微か混ざる機械音が、純正の影朧でないことを証明する。
 影朧甲冑は強力な影朧の姿を纏い、そのユーベルコヲドを行使する力を持っている。
 帝都を騒がす怪人の影を纏ったそれもまた、式や死霊使役、怪虫召喚といった能力を行使するだろう。
 そしてその乗り手は、戦乱を是とし闘争を由とした影朧戦線の鬼が一匹。

「儂と戦え、超弩級戦力。もし言いたいことがあるならば、」

 渦巻く呪詛に真なる姿を隠して、男は鋭く腕を振る。
 印を汲んだ指先から舞った真白い式神が援軍の到着を阻害、戦舞台を作り出す。

「まずは仮初の仮面程度、剥がしてから聞かせてもらおう!」






◆第二章プレイング受付期間
【4月2日(木) 08:31 ~ 4月4日(土) 13:00】


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シャーロット・クリームアイス
シックス? そのナリで六番目ってコトは、地獄道か何かでしょうかね。それなら現世に湧いてこないでほしいものです、Go To Hell!
しかもドレスコードをガン無視だなんて、まったく不届きな。いいでしょう、このわたしが礼法というものを再教育して、

ってちょっとちょっと、いきなり攻撃とか舐めてるんですか。わたしが喋ってるじゃないですか。おわかりでない?

しかし暖簾にラリアット、糠にパイルバンカー。そしてセイレーンにユーベルコード。
残像です! いや残像じゃないですけど、攻撃を透過するからだいたい同じです。

無礼の罰です。燃え尽きろー!
鮫魔術を水とサメのみとは思わぬことですね! サメは、すべての可能性を含む!



●Guide to Hell !

「そのナリで六番目……ってコトは、地獄道か何かでしょうか」

 シャーロット・クリームアイス(Gleam Eyes・f26268)の穏やかな問いかけに、むしろ魔人の方が驚いたらしい。かすかな感嘆の息が漏れる。
 その年齢と見目に反して、彼女はとうに独立した流通の担い手だ。商人として動くのにひつような知識は、男が思っているよりずっとずっと深い。

「ほう、博識だな。だとしたら何だ、お嬢さん」
「お呼びでないです! 現世に湧いてこないでください、いざGo To Hell!」
「カッカッカ、勇ましくていいな」

 しっしっと手で払うようなジェスチャーをされても男は全く動じず笑う。
 むしろわずかに足の間を開いて対応の構えを取るのに、シャーロットは僅かに眉を跳ね上げた。

「だが生まれも育ちもこの世界。すでに影朧へと魂を売り渡した悪鬼なれど、果たすまで地獄へ行くわけにはいかんのだよ」
「人のお願いを無下に却下するだけならいざ知らず、ドレスコードまでガン無視とはまったく不届きな……」

 ため息と共にセイレーンクロスの裾を捌く。
 胸に手を当てる。待機させた電脳鮫魔術のいくつかを脳内で取捨選択。

「いいでしょう、このわたしが礼法というものを再教育して、」
「【怪蟲招来】───身の内側から喰われ朽ちるといい」
「ってちょっとちょっと!?」

 しかし発動より魔人の踏み込みが早い。
 接触面を大きくするためか、広げられた掌はそのまま壁を撃ち抜きそうな力感だ。
 辛うじて身を捻る。だというのに掠める衝撃波に冷や汗が伝う。
 当たればそれだけで四散してしまいそうだ。

「いきなり攻撃とか舐めてるんですか。わたしが喋ってるじゃないですか。おわかりでない?」
「喋ったまま死にたいと見えていたが違うのかね?」
「違いますけど!?」
「そうか、なら死ぬといい」
「お断りです!」

 今度の掌底は回避しなかった。
 肉体のひしゃげる音の代わりに響くのは水が地面に落ちる音。そして血とは異なる濡れた感触だ。

「……水?」
「暖簾にラリアット、糠にパイルバンカー。そしてセイレーンにユーベルコード──」
「最後だけ毛色が違いすぎる気がするが」
「そう、残像です!」
「どこにも残った像など見当たらないが」
「攻撃を透過するからだいたい同じです」

 そしてそうなった以上、もう空間改変は終わっている。
 季節としては在り得ないほどの熱量が忽然と出現していることに魔人も遅ればせながら気付くだろう。

「そして、鮫魔術がこれだけと思ったら大間違い」
「……待て、何だそれは」
「客でもない方に説明する義理はありません!」

 鮫魔術とはグリードオーシャン世界最古の魔術体系。
 それが操るのが鮫と水に限るわけがない。
 むしろ「鮫」を名乗っておいてそれしか扱えないなど、あらゆる可能性を内包するサメの名折れ!

「無礼の罰です。燃え尽きろー!」

 故にその術式の名は【天の火(レッド・デッド・トルネード)】!
 内にたっぷりの古代鮫を含んだ熔岩竜巻には、さしもの魔人も度肝を抜かれたらしい。

「いやさすがにおかし、」
「問答無用ッ!!」

 なぜなら怪物とは、理不尽であるものである故に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リック・ランドルフ
仮面を剥がして聞けね…本当に剥がしていいのか?剥がしたら、アンタの情けない面が…全世界に知れ渡ることになるんだぜ?…ま、アンタがお望みならいいんだけどよ。…それじゃ、剥がさせて貰うぜ。でも、剥がした後…怒るなよ?

助けて、何でお前は生きてるか…性格悪いな爺さん…いや、この場合纏ってる影朧の力か?…どっちにしろ、そんな風に仕掛けてくるなら……いいだろ、正面からだ。


死霊を正面から…受け止める。それが今俺に出来るこいつらへの謝罪だ。…いや、自己満足か。(おびき寄せ

……だが受け止める前に、爺さんに一発お見舞いする。死霊が俺に触れる直前にUCを発動!その仮面…撃ち抜いてやるよ(クイックドロウ、スナイパー)


榎本・英


困ったね、私は戦う事が得意では無いのだよ。
それに、そう。とても強そうな見た目をしている。
できれば今すぐにでもこの場から逃げ去りたいね。

どうしても争わなければならないのか。
あまり気乗りはしないが、さて問おう。
「お前の強さの源とは何か。」

そこから何か弱点になる物が見つかれば
そのままこの筆で部位破壊
見つからなければ、飢えた獣が満ちる為に手を伸ばすだけだ
身を護る術は持ち合わせていなくてね。
知識と第六感で感じて、考えて避けるしかない。

嗚呼。やる気に満ち溢れているのもとても良い
まだまだ争う意思があるのも好ましい
しかし、私は気が進まないね。
作り物の争いなど美しくも無いのだから。
人らしさを魅せてくれよ。



●踏み締めた道の名前

 どうしてお前ばかりが助けて私は何もしていないのに苦しい苦しい殺してうるさいアンタが死ぬべきだからどうした殺す死ね苦しめ消えろ────

 揺らぐ黒霧は、無理矢理に現世へ縛りつけられた、とうに終わった命の残滓。
 今を生きる者を呪うだけの、個人としては判別の出来ない声が耳を劈く。

「『仮面を剥がして聞け』、ね」 

 聞くに堪えぬ死霊の絶叫にしかし耳を抑えず、リック・ランドルフ(刑事で猟兵・f00168)は魔人に向き直った。
 ここは彼が本来生きる世界ではない。
 たとえこの世界で刑事をやっていたとして、この死霊たちのどれだけを救えただろう。
 警察機構に身を置き、UDC組織の一員として働き、猟兵として過去の怪物と戦ったところで……すべてを掬えるわけではない。
 当然の摂理は身に染みて、ひどく苦い味を噛み締めることだってある。

 ・・・
 だから。
 彼らに背を向けるなど、刑事としてあってはならないと思うのだ。
 それが自己満足でしかないことなど百も承知で、リックはそれを繰る術者に向き直る。

「ソイツを剥がしたら、アンタの情けない面が全世界に知れ渡ることになるぜ。いいのか?」
「フン。その引けた腰で出来るものならな」

 対する魔人……その仮面を被った影朧甲冑は、せせら笑うような気配と共に白手袋の手を翳す。
 刻まれた赤い六芒星には毒々しい朧が纏わりついている。
 指揮でもするように腕を振るえば、一斉にリックへと雪崩込んでくるだろう。
 脅しめいた、容赦のないレスポンスにいっそ笑えて来てしまう。

「……言ってくれる。性格悪いだろ爺さん」
「さてな。『イイ性格』だとはよく言われたよ」
「知ってるか? そういうの、皮肉っていうんだぜ」
「知っておるよ。聞くかどうかは別の話よな」
「そうかい。……それじゃ、剥がさせてもらうぜ!」

 引き抜いたのは熱線銃。
 相棒たる銃口を向けた先に泣き叫ぶ怨霊が割り込んで。
 さらに突如出現した獣の手がしがみ付く。

「ぬおっ!?」
「『お前の強さの源とは何か』──気乗りはしないが、問わせてもらおう」

 榎本・英(人である・f22898)は。
 リックのように雄々しく、強くは在れない。
 巨大な魔人を恐ろしく思うし、今すぐにでも逃げ出してしまいたい。
 結んだあかのためには戦えても、見知らぬ誰かの為の義憤には駆られない。
 ひとであっても、榎本・英という人間はそういうものでしかあれない。

「私は戦うことは得意ではないんだ。だが、ここで逃げ去るのも寝覚めが悪い」

 故に男は本を開く。
 人が遺した情念であり、殺人鬼の軌跡であり、その骨子に「本物」を置いた物語。
 “ひとでなし”の証で以て、ひとの道を開く。

「クカカカカ! 強さの源かァ──考えたこともなかったな」

 怨霊事ごと飢えた獣の手に纏わりつかれ、しかし男の声には戸惑いも躊躇いもない。
 縛った死霊が盾の役を果たすから、仮面の魔人にまで獣の手が及んでいないのだ。
 獣の手が無数なら死霊も無尽。
 悍ましく爪を立てる手に引き裂かれる悲鳴も、甲冑の主にとっては環境音に過ぎぬというのか。
 だがいくら離れようとも喰らい付くそれがさすがに鬱陶しかったか。

「応、そうさな。『そう在りたいと思い続けること』なんてどうだ?」
「やる気に満ち溢れているのはとても良いだろうね」

 だが、引き千切る。
 その場での思いつきをカラの手は満足な答えと認めない。
 餓えた獣がそうするように追いすがっては肉ならぬ影を削ぐ。増幅する激痛に上がる悲鳴は絶え間なく、しかし今更その程度のことで表情を変える理由も双方なく。

「しかし、獣はそれでは満足しないようだ」
「……何が不満なのか。貴様とて、戦嫌いという訳ではなかろうに」
「選り好みくらいはさせてもらうとも」

 腕が呪詛を掻き分ける。
 ユーベルコヲドそのものである腕も、死霊の影響でか普段より動きが鈍い。
 だが、それで十分だ。

「作り物では美しくない。人らしさを魅せてくれよ、影朧戦線」
「──そうかい。アンタも大概だな」
「ほう───」

 なぜなら、彼は被害者でもあった怨霊達を撃てなかった。
 だが、獣の手が抉じ開けたから。
 射線が出来たなら、彼にはそれが可能だ。

「撃ち抜いてやるよ!」

 【クイックドロウ】。
 熟練の銃口が秒の壁を突破して、魔人の仮面を穿ちに掛かる。
 代わりに雪崩た死霊を受け止める逞しい腕を、英だけが静かに見ていた、

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アルトリウス・セレスタイト
そうか。では遠慮なく退場願おう

絢爛で戦域全ての空間を支配
起点は目の前の空気
拒絶の原理を以てオブリビオンの存在と行動を残らず拒み否定する

即消滅とはいかずとも、存在するだけで己を削られユーベルコードも残らず消えるぞ
急いで俺を倒すが良い。可能かどうかはともかく

俺を狙ってくれば相対的に他の者は安全になろう
万全な状態で目標に仕掛ける態勢も作れるはず
『絶理』『刻真』で己を異なる時間に置いて攻撃の影響を回避し引きずり回して時間を稼ぐ
攻撃分含め必要魔力は『超克』で“外”から汲み上げ供給

十分とみれば解除し残る猟兵に委ねる


篁・綾
アドリブ連携歓迎よ。

…どこかで見た仮面ね。
まぁいいわ、やることはそう変わらないし。
弩級の意味はよくわからないけれど。

とりあえず、舞い散る桜と【衝撃波】で【目潰し】しつつ、
【破魔】の力を込めた斬撃で死霊をいなしながら戦いましょう。
本体へは【マヒ攻撃、鎧無視攻撃、2回攻撃、鎧砕き】を駆使して【衝撃波】を飛ばしておくわ。
敵の攻撃は【見切り】で回避し【残像】で撹乱を。
無理なら【オーラ防御、武器受け、呪詛耐性】で防御を。
また、タイミングを見計らい指定UCを使用。
作り出した自分の分身で敵の攻撃を受け、そっくり同じUCを返しましょう。
…どうぞ。恨みを晴らして構わないのよ。貴方達にはその資格があるのだから。



●本日、間もなく晴れ模様

「そうか。では遠慮なく退場願おう」
「ふん、出来るものならな」

 アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)に感慨はない。
 己の願望しか考えぬ悪鬼に対して怒りを燃やすことはない。
 ただ、排除すべきであるそれに対いて必要だと判断した行動をするまで。
 視線を巡らす、ただそれだけの挙動にセレスタイトの光が追随する。
 それはこの世界に非ざる法則。
 このヒトガタにのみ触れることを許された原理が幻朧桜の花弁と共に舞い踊る。

「煌めけ」

 改変の権能が、【絢爛】に咲く。
 
「ぐうっ!?」

 空気が粘つく。
 動きが縛られる。
 その存在から否定される。
 だがアルトリウスは淡青色の光を舞わせたまま、僅かなりとも表情を変えずに佇む儘。
 それもそうだろう。【絢爛】の改変は拒絶の理。
 オブリビオンだけを否定する支配の原理が魔人の動きを縛り付ける。
 僅かなりとも動けているのは、それが純正の影朧ではないからだろうか。
 「クカカ」、と確かな笑い声が魔人の……その中にいる男から聞こえる。

「存在しているだけで己を削られるというのに、よく持つ」
「いやはや、さすがに重い。だが猟兵よ──斯様な大魔術、貴様の魔力の方が持つまい!」
「試してみるか?」
「それも一興!」
「──そうね。でも、付き合ってあげる訳がないでしょう?」

 無情の声が呟いて。
 篁・綾(幽世の門に咲く桜・f02755)が踏み込んだ。
 彼岸桜の尾を引いて、刀を振った勢いで幻朧桜を散らしながら。
 真っ直ぐに迫る黒曜の狐に、魔人は白い指先をどうにか向ける。

「【急急如律令】──それこそ、真っ向からは対抗せぬよなァ!」

 淡青の支配する世界に黒霧の朧が立つ。
 否定の原理の中であるから数こそ少ないが、それでも確かに質量を得た死霊が悲鳴を上げる。
 助けてほしいと嘆く声が、そのまま綾とアルトリウスを責め立てる呪詛だ。
 表情の変わらぬアルトリウス。綾の形のいい眉はわずかに歪む。
 彼岸桜の刀から思わず手を離したくなる。

「けれど、」

 軌跡に桜の花弁を残しながらいなしていく。
 彼岸桜に転生の力はないし、綾も桜の精でもない。死んだ後も縛られ働かされる彼らを救える訳ではない。
 だが、斬り祓うのも違う気がして。

「少し待て」
「ええ。持たせるわ」

 原理を改変し直す数秒だけ、魔人も死霊もフリーにならざるを得ない。
 その数秒を持たせられる実力があると、アルトリウスは認識したから前を預ける。

「持たせるものかよ!」

 魔人が吠える。
 黒霧が沸き上がる。
 召喚された死霊達は、その衝動のまま命を持つ者──即ち綾へと殺到して。
 喰らい付く。

「映せ、映せ、水面が如く」

 小柄の姿が、桜吹雪と散った。
 否。綾と見えていたそれは、ユーベルコヲドで形作られた彼女の分身。
 【鏡月桜花】。
 はらはらと舞った鏡桜は内に呪詛塊を貯め込んで綾の刀に揺蕩う。

「成ったぞ」

 そしてまた、【絢爛】の世界が起動する。
 蒼天色が黒霧の悲鳴を駆逐する。
 齎された静寂は、桜の散る音ですら聞こえるようで。

「命燃やして咲き誇れ───」

 そんな桜吹雪の内側から黒霧が噴出する。
 魔人のユーベルコヲドであるそれも、綾の力によって行使されるのであれば原理が拒絶する対象にはならない。
 青い光はむしろ、それらの戸惑いを肯定するように世界を満たす。

「どうぞ、恨みを晴らして構わないのよ。貴方達にはその資格があるのだから」

 彼岸桜の刀の切っ先が魔人の姿を指し示した、からだろうか。
 少しの間を置いて、死霊達はゆるりと動き出す。
 その行うだろうことを理解して、アルトリウスは腕を組む。

「形勢逆転、とでも言うべきか?」
「好きにするがいい。いやはや、まったく──これだから超弩級の輩は」

 呟きは羨望めいて、返された黒靄の裡に呑まれゆく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
ふはは――呪詛の武装とは
全く笑える話だなァ
そいつを使う発想そのものは、まァ悪かないのであろうが
――相手が悪かったな

起動術式、【嘲笑する虐殺者】
放たれる死霊どもの情念を餌とし、死霊どもごと全てなぎ倒してくれる
命中する前に全て呪詛に変えてしまえば良いだけのこと
当たったところで、この力の源は死者と生者の全てだ
貴様がそこで息をしている限り、減衰した威力も賄えるというものよ

貴様が死者を丁重に扱うガワを被っていれば、私の力も増すことはなかっただろうに
ふはは、全く、何事も礼を尽くすに越したことはない
……おっと、要らん説教だったかな
何しろ貴様は、戦が齎した死者の祈りを愚弄するために、ここにいるのだものなァ!


朱酉・逢真
呪霊と化した死者どもかィ。なるほど、こいつぁ生き物にゃ荷が勝つなァ。よぅし、相手してやっから来な。
おうおう、やんちゃな奴らだ。痛いか。苦しいかィ。そうかぁ。何がどう痛ぇんだ、見せてみな。おうおう、叫べ叫べ、暴れてろ。俺を叩いて胸がすくンならそうしてな。この体は仮の《宿》、死にゃしねえ。その間に呪縛の具合を見せてもらわぁ。

《毒》ってな、つまっとこ生命を害するもんの総称よ。呪詛も立派な《毒》の内、俺の専門だ。神様に任せな。
解放してやっからって離れてもらって、ユーベルコードを使う。“呪いを殺す”霊的な“弾”を高速多重詠唱でどっさり作り、一斉発射で呪縛だけを破壊する。影朧の仕業なら遠慮もいるめぇよ。



●呪い、詛うこと

 生命の埒外、猟兵という存在はひとの思うよりずっと多種多様な生態を持つ。
 生まれ育ちが違えば発想も異なり、彼らの操る術理──ユーベルコヲドだって、それこそ無限大だ。
 そういうモノであればこそ、そういう相手に覿面に嵌る場面が存在しうる。
 詰まる所、これはそのような光景だ。


「おうおう、やんちゃな奴らだ。ちっと神様に見せてみな」

 朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は神である。
 その本質は凶星。軛に縛られているから拡散しないだけで、その身は毒と病で出来ている。
 肉体すら仮初の器であるのだから、損傷を意に介する理由がまずない。
 赤い視線は丹念に、己を襲う死霊達を透かし見るだけ。

「おうおう、こりゃあ酷ぇなぁ。根っこから括り付けられてやがる」
「ほう、分かるのか」
「呪詛も立派な《毒》のうち。俺の専門よ」
「なるほどなァ。それは心強いこった」

 殴られようが爪を立てられようが、逢真はお構いなしにそれへと触れる。
 その体へと憑りつこうとしても、《毒》で編まれた身体は死霊達にとっても毒に等しい。
 そうでなくても位階の違う存在には十全に通らず。
 故に怨霊たちの恨みの矛先は、もう一人の悪竜へと向けられて。
 
「そいつを使う発想そのものは、まァ悪かないがな」

 黒手袋に包まれた手が受け止める。
 呵々と笑うニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)の手に生まれたしろがねが死霊を呑んだ。
 ニルズヘッグの力の源泉は死者と生者の全て。
 囚われた悪霊の情念とて例外なく、しろがねの呪炎の一部と化す。

「──相手が悪かったという他ないな」
「クカカカカカ! 『未来を守る』とかいうお題目を掲げる中に呪詛使いが二人もいるとは想定外よ!」

 己の放った死霊が手玉に取られる様を、魔人の仮面の下で男が笑う。
 想定外すら面白い。
 予定調和でないからこそ愉快なのだと、魔人の手の中で更なる黒霧が形を結ばんと滲み出す。

「して、どうする」
「応、こうしてやるよ」

 応えた凶星はもう詠唱を終えている。
 いつの間にか火を灯して燻る烟管の先を優雅な動作で向けた。

「お前さんにゃ、傘の用意はいらねぇだろ」

 【禍星の沛雨(ティシュタリヤ)】
 夜明けの空に天狼の星がかかったら雨季が始まる。故に信仰された星と慈雨の神を冠して、呪いの弾丸が打ち付ける。
 対する魔人は僅かに鼻を鳴らして手を翳す。煙る黒靄はその動きに追随、呪弾を防ぐ傘となり、死霊達の絶叫が戦場を突き抜けた。

「悪いな、今出来たよ。して?」
「ああ、予定通りだ」
「……ほう?」

 男の方も気付いたらしい。
 雨に打たれた死霊達が男の周囲から離れていく。試しに力を通してみても、応えるそれはずっと少ない。
 沛雨の標的は、最初から縛られた死霊達だ。
 呪いをこそ殺す弾が、死霊の軛を取り払ってみせたのだと遅れて気付く。

「ほう、ほうほう! そういうことか! 愉快なことを考える!」
「そして、そいつらは貴様がそこで息をしているのも不愉快らしい」

 呪縛を破壊したところで、それが熟成させてしまった怨念が減衰する訳ではない。
 故に軛から解き放たれたそれらの怒りは、一斉に魔人の仮面へと向けられる。
 消え逝くそれらから情念を受け取った悪霊が嗤う。
 魔人の操っていた力は、ニルズヘッグのそれとして収束した。

「貴様が死者を丁重に扱うガワを被っていれば、私の力も増すことはなかっただろうになァ」
「自らの血族なら兎も角、誰とも知れぬ死者を丁重に扱う理由があるとでも?」
「ははははは。鉄の首輪を嵌めると頭まで固くなるのか。知らなかったなァ」
「戦をしたいなんて吠える奴は手遅れだ。ほっとけほっとけ」
「戦いを生業としている猟兵が言えたことか!」

 笑うニルズヘッグと肩をすくめる逢真へ、わずかに残された死霊が差し向けられる。
 雨は止んでいる。代わりに呪詛は悍ましいまでの気配を湛えてそこにあったから。

「ならば、自らの愚弄した死者の祈りに喰われるが良い」

 起動術式、【嘲笑する虐殺者(ニドヘグ)】。
 死者の情念を呪詛と変ずる灰燼色の呪いが、一切の区別なく呪詛炎を炸裂させた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミネルバ・レストー
禄郎(f22632)と

旧人類の道楽で、仮想空間で『戦争』をするために生み出されたわたし
今のわたしはひとりの猟兵だけど
昔マスターと一緒に道楽の戦争に興じた過去は消えない
…だから禄郎、あなたが教えてやって

【伝説の竜を従えしもの】で強化するのは攻撃力、全振りよ
「高速詠唱」で氷属性の「全力魔法」を発動させて
群がる式神に対抗するため無数の氷柱を生み出して
「範囲攻撃」でいっせいに破壊したいわね
初撃で間に合わなければ「多重詠唱」を解禁して
もう一度氷柱を生み出してぶつけてやるわ

道を作るのよ、禄郎があの影朧へと至る道を
取りこぼしは自分で何とかなさい
わたしにいい所を見せたいでしょう?
なんとしても一撃喰らわせて頂戴


氏家・禄郎
ネリー(f23814)と

退屈……戦い……か

ネリー、知ってると思うが僕は昔、軍にいた
平和じゃなかったよ、小さな内乱や彼らのような組織との戦い
まあ末端ではあるが、戦争を知っているんだ
だからね……私はそれを愉しむ彼らを許さない

戦いたがっているね
君が望むのは戦記物に謳う勇壮な戦いかい?
良いだろう、私は教えてあげるよ
そんなものはなかったと

『誇り』を見せてやる
武器を捨て、拳を握り、女神が作り上げた道を一直線
邪魔するやつは拳骨でぶん殴る

「その影朧の技は手勢で押し切るのが目的、ならば道を作り、そこへ切り込めば」

結果はこの通り、影朧を一撃さ
力量?
体格差?
不利は承知
それがどうした
「立て、ぼんくら。教育の時間だ」



●過去の戦争、今の闘争

 ミネルバ・レストー(こおりのむすめ・f23814)のピンク色の髪が桜を散らす風に揺れている。
 目に見える春風のようだと思う。
 束の間目を細めて、けれど氏家・禄郎(探偵屋・f22632)は全く違う言葉を口に出す。

「ネリー」
「何、禄郎」
「僕は昔、軍にいた」
「知ってるわよ。それで?」
「小さな内乱。戦争を望む組織。僕の見ていた世界は、平和の方が少なかった」
「視点の違いよね。だって戦場にいたなら、それしか知ることはできないでしょう」
「手厳しいがその通りだよ」

 思わず苦笑してしまう。
 その通りだ。そこに居ることが面白くて、有意義で……妻子を放って戦争に明け暮れた。
 今に繋がる過去を、忘れたことなど一度もなく。

「だから僕は戦争を知っている。それで失われたものも、よく知っている」
「回りくどいわ。一言で言って」
「戦争を愉しむ彼らを許さない」

 振り返る、ミネルバの黄金色が禄郎を捉えた。
 ほんの少しの、呼吸のような間を置いて僅かに伏せられたのを見逃す禄郎ではない。

「ネリー……?」
「わたしは、『兵器』よ」

 言い放つ言葉の強さに弾みが着いたのか、ミネルバの瞳はどこまでも真っ直ぐ禄郎を見据える。
 吸い込まれるよう、という形容はきっとこういう時の為にあるのだろう。
 ひどく鮮やかな、彼女の持つ意志の色だ。

「旧人類の道楽で、仮想空間で『戦争』をするために生み出された。それが『ミネルバ・レストー』のはじまり」
「そういえば、君はバーチャルキャラクターだったね」
「ええ。だからたくさん殺したわ。それを称賛されたし、わたしも嬉しかった」
「…………」
「わたしは『戦争』を楽しんでいたわ。仮想空間の道楽とはいえ、殺戮に興じた過去は消えない」

 それを否定したところで何の慰めになるだろう。
 過去の事実は厳然と、彼と彼女の手の届かない位置にある。

「だから、禄郎」

 桜の中に雪が舞う。
 今杖を握るミネルバ・レストーは、猟兵として過去と戦う者なのだから。

「わたしの力を貸してあげる。あなたが教えてやって」
「……ああ。僕はいいパートナーを持ったみたいだ」
「当然でしょ? わたしはネリー。あなたの『常勝の女神』よ!」

 術式起動、【伝説の竜を従えしもの(ドラゴニック・トライアングル)】。
 かつて従えた三頭の竜を象徴する力が彼女に更なる力を与える。
 当然生み出すのは得意とする氷柱。範囲ごと蹂躙する無数が魔人へと放たれる!

「破ッ!!」

 当然黙っている魔人ではない。
 白いヒトガタの式神が雲霞の如く放たれる。
 一撃で消滅するとはいその量は視界をいっぱいに埋めるほど。けれど全ての魔力を攻撃へと回したミネルバだって負けていない。

「クカカカカカ! 愉快だなァ猟兵よ!」
「そう? わたしの方は全然だけど! 自分の理想ばかり見て、あまたモテないでしょう!?」
「モテたいと思ったこともないなァ!」

 氷が砕け、ヒトガタは崩れゆく。
 壊れた端から新たなそれが生み出されて戦線に投入されて、また新たな破壊を生み出す。
 それこそ物語のような光景に、禄郎は小さく口の端を歪めた。
 戦記物の物語に出てくる、何も知らない人間が夢見る戦争とはこういうものかもしれない。
 優先的に式神が排除された、影朧への最短距離。
 女神の術が開いた花道に、なんとなくそんなことを思う。

「行ってくるよ」

 猟兵になったところで、禄郎に超常の力は宿らなかった。
 だから拳骨を握り込むのだ。
 そんなものしか残らなかったけど、それくらいなら今でも出来るから。

「───貴様が本命か! だがその程度で何ができる!」
「その程度? 違うさ」

 差し向けられる式神は女神の氷に遮られて僅かしかいない。
 だから拳を掠めるだけで無力化できる。
 一撃でも喰らったら死にかねない戦場など、禄郎にとっては今更でしかない。
 それを生き残ってきたから、今ここにいることが出来ている。

「お前にはこれだけで十分だ」

 【誇り】とはそういうものだ。
 たとえ不利でも、力量差や体格差があっても、意志を支えに立ち続けること。
 そうと決めたことを果たすこと。
 馬鹿な男の意地に、ミネルバは小さく笑った。

「なんとしても、一撃喰らわせなさい!」
「──ああ!」

 女にそこまで言わせて果たせなければ男じゃない。
 故に握る力はどこまでも強く、狙い澄ませた拳骨は一片の容赦なく魔人を殴りつける。
 
「ぐおうぉっ!?」

 吹っ飛んでいく魔人を禄郎は追いかける。
 その表情に胡散臭い笑みは乗らない。
 ただ真っ直ぐ、仮面の奥の男を睨み据えた。

「立てるだろう、ぼんくら。教育の時間だ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
主張をしたければ
まずは力を示せ、と
……、野蛮ですね

触れられると不味いとなると
やりにくい猟兵の方々も居るでしょう
敢えて正面から仕掛け
彼の注意を惹きましょうか

体内毒を濃縮
人型を維持したまま
医療器具を投擲しつつ

頃合いを見計らって
敢えて正面から突っ込みます

彼が私に触れる瞬間
『無辜』で身体を気化
目の前で姿を消し
気化した体のままその腕に触れ
融かし落としましょう

残念
貴方では私に触れられませんよ
触れたところで
私の体では蟲は生き残れまい

さて
怪物の殺し方は御存知ですか?
私を放っておいたら腕が融け落ちますよ

まぁ私ばかり構ってる暇は無いでしょうが


リア・ファル
対象の行動と能力を演算把握
(情報収集、偵察、学習力)

まずは『イルダーナ』で近づけさせないよう
空中で立ち回り(破魔)弾で『セブンカラーズ』から牽制
(時間稼ぎ、逃げ足、空中戦、制圧射撃)

充分に相手を把握できたら、敢えて近接攻撃を受け……
と見せかけて、UC【凪の潮騒】の共鳴波で受ける

「触れた? いいや。既にボクとキミの間には、既に時空間の絶対的な断絶が在る
……ヌァザ!」

動きの止まった対象へ、『ヌァザ』で次元干渉、「上着」の中を直接斬る
(鎧無視攻撃、切り込み)

ヒトは生き方を自分で決められるはず
もし本当に己が闘争にしか生きられぬとしても
他人まで巻き込む道理はない

「今を生きる市井の民の為に、悪鬼討つべし」



●その願いは通せない

「……、野蛮ですね」

 ぽつ、と独り言ちる声は意外なほどによく響く。
 冴木・蜜(天賦の薬・f15222)の周りに、珍しく黒泥が落ちていなかった。
 次の段階の準備だと、初対面の魔人には分かるまい。
 精神を平衡に、準備を崩さぬよう意識を集中しながら、硝子の向こうに個性のない仮面を透かし見る。

「主張をしたければまずは力を示せ、と。ここはそれが不要とされる世界ではなかったのですか」
「隣の芝生は青く見えるというだろう。儂はそれを夢見たというだけよ」
「それにしたって派手すぎやしませんか」

 返答に乗せたのは錆び着いたメス。
 投擲に応じたのは黒靄だ。どこからともなく沸き上がった呪詛が物理的な防壁となって刃を弾く。
 とはいえ蜜の方もユーベルコヲドでもない攻撃が弾かれるのは織り込み済み。
 だからそこへ撃ち込まれるのは破魔を宿した弾丸。魔人もそれは分が悪いと察したか、三歩下がって回避する。

「おっと。勘がいいね」
 
 声は、幻朧桜の花弁が舞うよりさらに上空から。
 大気圏内も飛行圏内にする宇宙バイク『イルダーナ』に騎乗したリア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)は、『セブンカラーズ』の銃口を魔人へ向けながら問う。

「自分の夢のためなら他人を巻き込んでもいいっていうのかい?」
「なら、巻き込まれないよう殴り返せばいい。それが猛獣だと分かれば手を出す輩も減るだろうよ」
「そうすれば殴ってきた相手を殴り返せるって? そんなの、キミが得するだけじゃあないか」
「もう拳を振り上げているのだ。今更だろう?」
 
 笑み含んだ声はそれが事実だと肯定する。
 そうでなければ桜學府の支部など襲うまい。ただ無抵抗の人々を殺し、混乱を巻き起こすだけなら適した場所はもっとあるだろう。

「それは……」
「おっと、サァビスの問答はここまでだ。あとは力で語ってもらおう」

 術式起動、【怪蟲招来】。
 魔人の背後で蠢く黒靄が幼虫めいて生理的な不快感を齎す。
 黒血で出来た蜜も、電子生命体であるリアも、気色の悪さで背筋を冷たくなるのは……その悍ましさが本能的に伝わるからで。

「だからといって、私達が引く理由にはなりません」

 蜜はメスを片手に、あえて滑るように踏み込んだ。
 愚直なまでの直線に、微かな笑みが声に混ざる。
 応えた踏み込みで石畳に亀裂が走った。

「ほう、面白い──ならば容赦なくいかせてもらう!」

 倍近く違う間合いを突き抜ける、衝撃波を纏った掌底。
 人体にぶつかれば肉を潰し骨を砕く力を受けて、蜜の身体が四散した。

「残念。貴方では私に触れられませんよ」
「……何」

 【無辜(ポワゾン)】。
 その体が蜜毒である彼の肉体は、意を通したならば気化毒と化す。
 何の対策もない魔人では触れられず、しかし蜜からはどこからでも接触することが出来るあまりに埒外の性質。
 その有様を、言ってしまうなら───

「あなたは、『怪物』と戦う覚悟はおありですか」
「超弩級戦力など須らく『怪物』だろう。その有様、羨ましいくらいだとも」
「……そうですか」

 だから容赦なく、黒血が触れる。
 影朧の力なのだろう黒靄が防ごうと凝縮するも、蜜の毒の方がずっとずっと強い。
 遍くを蕩かしてしまう死毒の蜜は、影朧とて例外ではないから。

「ならその腕、融かし落として差し上げましょう」
「仮初の上着の腕、落としたところで痛痒にはならんが?」
「そうだろうね。でも、その間キミは動けない」

 囁く声に嫌な予感を覚えて、咄嗟に振り回した腕に触れたのは柔らかな掌。
 しかしそこから放たれた共鳴波──【凪の潮騒(ステイシス・ウェーブ)】が蟲の召喚を拒絶する。
 リアと魔人の間には、すでに絶対的な断絶がある。

「ヌァザ!」

 その境界を超えるデバイスを呼ぶ。
 銀虎猫が本来の魔剣の形を取り戻してリアの手の中に収まれば、それは眩しい光を纏った。

「もし本当に己が闘争にしか生きられぬとしても、他人まで巻き込む道理はあってはならない」
「夢を見るのは結構です。しかし、叶えるためには身の振り方を考えた方が良いかと」
「……フン。参考として受け取っておこう」

 ぐちゃりと厭な音を立てて毒の染みた腕が落ちる。
 断面から黒霧と化していくそれごと、清らかな銀の光が薙ぎ払う!

「今を生きる市井の民の為に───悪鬼、討つべし!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カイム・クローバー
言いたい事は色々あるが…まずは一つ。UCの趣味が最悪だ。敵で良かった。遠慮なくぶちのめせる。

魔剣を顕現させ、【二回攻撃】と黒銀の炎の【属性攻撃】を刀身に纏わせて炎を周囲に放つ【範囲攻撃】。敵のUCに眉を潜めつつ。
クソッタレなUCだ。アンタだってその上着が無ければ人間だろ?何とも思わねぇのか?
尋ねる事自体が間違ってるって言うなら…ああ、俺もホントにそう思うぜ。答えが聞けりゃ俺もUC発動だ。
呪縛、流血、毒。どれでも甘んじて受けるぜ。目の前の死霊の痛みはこんなモンじゃねぇだろうさ。痛みと苦しみを僅かでも共感して。
その汚ぇ足をどけろ。その花弁はアイツのお気に入りだ。お前が気安く踏んで良いモンじゃねぇよ


鷲生・嵯泉
今更云いたい事なぞ然して無いが、成すべき事は在る
戦乱の狂を世に撒き散らそうという愚行の後始末
先ずは遠慮無く其の仮面、引き剥がしてくれよう

――烈戒怒涛、縛を解く
攻撃は第六感に拠る先読みにて起点と向きを見極め見切り躱す
戦闘知識を以って、破魔を乗せたなぎ払いと斬撃を飛ばし
死霊の行動を制限誘導し叩き斬る
力が多少目減りした処で構いはせん
速度――手数を増やす事で補ってくれよう
……呪詛の力も死霊の扱いも、私が知るものの足元にも及ばんな
所詮借り物紛い物と云う所か

戦う事で“変えたい”という意志でも在るならばまだしも
単に戦争ごっこがしたいだけにしか見えん
そもそも戦いに意味なぞ無いが……腐った遊びに他者を巻き込むな



●背負い掲げる理由の名は

「ユーベルコヲドの趣味が最悪だな」
「お褒めの言葉、恐悦至極」
「褒めてねぇよバカ野郎」

 肩に魔剣を担いで、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は魔人を睨み据える。
 その周囲に漂う黒靄から聞こえるのは絶え間ない絶叫。
 死して尚現世に縛り付けられ、苦痛を強いられる声はどこまでも苦し気だ。倒さねばならないと分かっていても握る手が緩みそうになるほど。

「アンタだって影朧甲冑に乗ってなきゃ人間なんだろ。何とも思わねぇのか?」
「生憎、そのような感性はこれに乗る前に捨ててきたものでな」
「……ああ、そうかよ!」

 気合と共に魔剣を握り直して薙ぎ払う。軌跡に生まれた黒銀の炎はとぐろを巻いて死霊達へと襲い掛かる。
 空気の焼ける臭いにさらなる絶叫が乗る。
 死した後にも更なる苦痛を強いなければならない不条理にカイムが唇を噛み締める。
 もうもうと立ち昇る煙の中。視界不良の戦域へ琥珀色の剣鬼が踏み込む。

「この手の連中の話なぞ理解出来ん」

 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は端から対話など考えていない。
 禍断の刃を手の中に、為すべきと見据えたことを実行するだけ。
 ここではない世界とはいえ戦乱の狂を知る嵯泉は、それを解き放つことを許せない。

「腐った遊びに他者を巻き込む輩だ、死者を踏みつけにすることなど厭わんだろうよ」
「ほう。ならばどうする、猟兵よ」
「――縛を解く。いざ、約を成せ」

 唱えたのは【烈戒怒涛】。
 剣精を纏った剣鬼の挙動はこれまで以上に高速化。
 破魔を乗せた斬り祓いは速やかに、泣き叫ぶ死霊を一太刀で還していく。
 斬るべき場所が分かっているから、必要以上に苦しめることもない。
 流麗な剣筋に反して視線は苛烈に。大仰に拍手する魔人へと向けられる。

「……呪詛の力も死霊の扱いも、私が知る者の足元にも及ばんな」

 嵯泉は、呪詛と死霊術の専門家を知っている。
 ならば素人考えで放たれる愚直な死霊が彼を傷つけることなど不可能。
 睨み据える柘榴の隻眼に、魔人は大仰に両腕を広げることで返答とした。

「それはすまないな。この『上着』は借り物である故」
「紛い物の力で増長するとは、始末に負えん愚鈍さだな」
「何。もてなしの趣向としては悪くないだろう?」
「だったら、」

 割り込んだ、ぞっとするほど静かな声。
 貯め込んでいるが故の静けさは、血の雫の落下と共に爆発する。

「テメェも俺にぶちのめされる覚悟はあるんだろうなァ!!」

 信念、矜持、覚悟──それらを束ねた【反逆の意志(リベリオン)】をここに!
 強大すぎる力の反動がカイムの毛細血管を引き千切って血の雫を落とし、けれど意に介さぬとばかりに魔人へと突っ込んでいく。

「いい感情だ! ここに挑んだ甲斐があったというものよ!」
「うるっせぇな! その汚ねぇ足をとっととどけろ!」

 死霊達の痛みは、苦しみは、こんな程度ではないだろう。
 命を顧みず、花にも目をくれず、苦しみを嘲笑う影朧戦線になんざ。

「お前が気安く踏んでいいモンなんざ、この世界にねぇんだよ!」

 黒銀の炎尾を引く殺神の魔剣が切り込んでいく。
 受け止めたのは黒靄──物理的な障壁と化すほど凝縮した呪詛が剣とぶつかり甲高い音を奏でる。

「戦う事で“変えたい”という意志でも在るならばまだしも、」

 その隙をもう一人の剣豪が見逃すはずがなく。
 放たれるは剣精により飛距離を伸ばした鎌鼬。
 達人の技は距離を選ばず、破魔の剣閃は呪詛防壁では弾けない。
 回避するしかないそれに距離を置こうにも、血を流しながら肉薄するカイムにまで対応できない。

「単に戦争ごっこがしたいだけなら、修羅道で好きなだけ暴れるがいい」
「今ここで、ぶっ飛ばしてやるよ!」
「クカカ───愉しいなァ、超弩級!」

 二重の剣が振り下ろされて、上がるのは血飛沫ではなく黒い靄。
 斬られたというのに笑い続ける魔人は、それこそが本懐というように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マルガリタ・トンプソン


実際そんな面白くもないんだけどね、戦争って
……わかるわかる。どんなにつまんなくても“本物”がいいんだろ
俺でよければ教えたげるよ、本場の味ってやつ

式神は数が多くて面倒だな
全部丁寧に撃ち墜とすのも避けるのも効率悪いし
弾ばら撒いて墜とせるだけ墜とす
多少の負傷は仕方ない
あわよくば彼まで届いてくれよ

ほら、つまんないだろ
こうやって殺される前に殺すだけさ

いよいよやばそうだったら、そうだな
君の愉しみのために殺される前に
拳銃で頭ぶち抜いておさらばするよ

弾に込めるのは自己愛
俺が望むのは死なないことだけ
それ以外の欲も、矜持も、愉しみも
捨てなきゃ生き残れなかった凡人さ

だから堪らなく可愛いんだ
君みたいな我儘な生き物は


クロト・ラトキエ


退屈、ね。
…つくづく勘違い甚だしいですこと。

相対距離より肉薄に要する秒を算出。
UC起動。
纏うは風の魔力、換えるは攻撃力。
相殺か…
只の強化に大した痛手も無いですが。
拡げ、舞わせ、鋼糸は範囲攻撃の構えで。
進路上の式神は、当てるだけで良い。
道を拓き、駆け、死角を取るを狙い。

高さ、凡そ十三尺二寸――
足場に不足無し。
掛けるはワイヤーフック。空中もまた…此方の領域。
跳び駆け登り、等高、或いは頭上を取り。

人様の地に土足で踏み入って、上着も脱がぬ方が失礼では?

先ずは顔ぐらい見せなさいな、なんて。
鋼糸を巻いて引き斬り、断つ2回攻撃。


言いたい事など、特に何も。
足を止めても死なずに済んだ、と…
全く、平和でよい事で



●知らぬ者へと告ぐ事

「退屈、ね。……つくづく勘違い甚だしいですこと」
「でも、どんなにつまんなくても“本物”がいいんだろう? 可愛いな」

 憤懣遣る方無しとばかりに鼻を鳴らすクロト・ラトキエ(TTX・f00472)に対して、マルガリタ・トンプソン(イン・ユア・ハンド・f06257)は笑みの表情を崩さない。
 同じ戦場傭兵といえど、そこに焦がれる“一般人”に対する感情までは同じにはならない。
 だからだろうか。表情のない魔人の声にもわずかながら困惑が滲む。

「ふむ。まさかこの年になって『可愛い』と称されるなど思わなんだ」
「可愛いじゃないか。幾つなのか知らないけど、そんな年になってまで子供みたいな我儘を振りかざしてる」

 普通の欲望も矜持も愉しみも、落として切り離して分けてしまわなければ生き残れなかった『銃』がくつくつと笑う。
 構えた短機関銃は武骨な機能美で、桜舞う平和な世界の風景にはそぐわない。

「だから、俺でよければ教えたげるよ。本場の味ってやつ」
「……クカカカカカ! お優しい猟兵もいたものだな!」

 雲霞めいて、放たれるのは白いヒトガタの群れ。
 一撃で消滅するのと引き換えに数だけは膨大な式神たちが一斉に戦場傭兵達へと押し寄せる。

「……君は何も言わなくていいの?」
「特に思いつきませんので。ですので、こちらは任せましたよ」
「ああ。上手い具合に使ってくれてていいよ」

 交わした言葉はそれだけ。
 鋼糸を伸ばして死角へと消えていく男に気付かせぬよう、少女のカタチをした銃は引き金を引いた。
 連続する射撃音が空気を裂く。撃ち落とされた式神が黒い靄となって消えて、後続のそれが空いた空域を埋める。
 だからマルガリタもマガジンを入れ替えてまた撃つ。
 堕ちる。埋める。また撃つ。
 その単調な繰り返し。

「こうやって殺される前に殺すだけさ。ほら、つまんないだろ?」
「いやはや、そんなことはない。これしきのことすらこの世界にはなかった!」

 笑う声が意志と通され、式の数が倍増する。
 撃ち落とせなかった式神が直接マルガリタを殴りつける。体勢が崩れて引き金を引く手が緩めば、次に襲う白を落としきれない。

「そっか。愉しそうでいいね」

 そこに宿った感情は何と呼ぶべきだったか。
 魔人にも分からず、本人すら自覚せず、小さな聖母を手の中に。

「じゃあ、ばいばい」

 ──【花守る指先(イン・ザ・ネーム・オブ・ラヴ)】。
 自己愛込めた銃弾でこめかみを撃ち抜いて、いざさらば。

「何……?」

 そこに込められていたのが傷と痛みを破壊する弾丸だと見ているだけでは分からない。
 自殺にしか見えないその光景に、魔人の手が戸惑いに揺れる。

「出血していないことなど、一目瞭然でしょうに」

 ───声は、上から。

 仕込む時間は存分にあった。それだけの時間は稼いでもらった。
 行きずりの共闘関係、すれ違うだけのものであろうと意思を同じくするならば。
 果たさぬ道理はどこにもない。
 故に、クロトは幻朧桜に引っ掛けたワイヤーの上で魔人を睥睨する。

「だから戯れだと言うんですよ。その程度も知らずして戦争を語るなど片腹痛い」
「……知らぬから欲すのだよ。戦を知る異邦人よ」
「お花畑でよいことです」

 嘯く口の方へ、式神達は進路を変える。
 クロトは躊躇いなく地面代わりにしていたワイヤーを踏んだ。見えぬほどに細い糸は男にしか居場所を悟らせず、空中遊歩の妙を見せる。

「人様の地に土足で踏み入って、上着も脱がぬ方が失礼では?」
「言えた義理か? 人様の世界事情に踏み込むを性とする者共よ」
「それを羨望する方に言われましてもね」

 誘導したのは敷設したワイヤー陣。鋭いそれに引っ掛けられて、散りゆく破片は幻朧桜の桜に混ざる。
 瞠目の気配に、わずか唇を歪めて。
 
「そして、撃ち合うばかりが戦争でなし。ご満足いただけましたか?」

 風が吹く。
 クロトの支配下にある風の魔力がワイヤー刃を後押しして、ひゅるりと魔人へ絡み付く。
 逃がすものかと薄くわらって。

「では、まずお顔を拝見と行きましょう」

 引き絞るは鋼糸の断頭刃。
 人面獣心の傭兵は、一切の手心を加えない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヨシュカ・グナイゼナウ


倒れ臥す影朧戦線の兵隊の中に【目立たない】よう紛れ込み
鼓動もなく体温もない、人形は死体と少し似ている

手袋は既にはずしている
ゆらゆらと黄金を纏い

それが甲冑なら、隙間があるということで。少しの間夢を見てもらい
少しだけ、それを見逃す猟兵はいないでしょう

歩む鋼の足が止まったならば、わたし二人分よりもおおきな体躯を
登る様に【ジャンプ】【傷口をえぐる】ようにして【早業】で
その面を拝見させていただきましょう


もし、怪蟲がからだのなかに召喚されたなら
わたしのなかみは惑の雨、黄金に揺蕩う毒の大海。蟲共も、きっと今頃は夢の中に
そのあとは、ゆっくりと溶けていって


ああ、気分が悪い


仇死原・アンナ
ふざけた仮面だな…
どこまでも忌々しい鬼だ…その仮面を砕いてやる!!

[呪詛耐性、オーラ防御、殺気]を施し身に纏い
鉄塊剣を振るい[怪力、なぎ払い、重量攻撃]で敵を攻撃する

[武器受け]で[かばい]ながら[力溜め]してゆこう

[限界突破]するまで力を蓄えたら
[範囲攻撃、衝撃波、吹き飛ばし]を用いた【火車八つ裂きの刑】を振り放ち、放った式もろとも敵を地獄の炎で焼き尽くし斬り刻んでやろう…!

さぁ…そのふざけた仮面をさっさと脱ぎ捨てろ…
その身に纏う真の姿を曝け出せ!



●いずれ堕ちゆく黄金の

 鼓動も体温もない人形は、死体に少し似ている。
 横倒しの視界の中にいる人だったモノを見て、ヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)なんとなくそんなことを考える。
 自分の担当した範囲で死んだ人は、影朧戦線にも學徒兵にもいなかった。
 全ての戦場がそうではなかったという事実は、若い少年の心に雲をかける。

 どんなひとだったのだろう。
 どんな夢があったのだろう。
 どうして、こんなことをしたのだろう?

 目立たないようにじいっとしながら、巡らせる思考だけは自由に。
 なぜなら、彼の攻撃はもう始まっている。
 両手を貫通する亀裂を覆う手袋は既に外されている。
 【惑雨】。
 少年の器の中に揺蕩う黄金の大海が、ある意味で彼そのものである毒が、広い世界を夢見て揮発していく。


「どこまでもふざけた面を……!」

 仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)の表情は怒りに満ちる。
 女性としては高い身長。作り込まれた身体で庇うように立つのは、そこに倒れ伏す人々がいるからだ。
 あるいは影朧戦線の。もしくは學徒兵も。
 大半が死んでいるとて、もしかしたら彼女が生まれたときのように生きようとする命があるかもしれなくて。
 だから、アンナの一挙手一投足を見逃さぬと見据える仮面が煩わしい。

「こういう上着なのだから仕方ないだろう?」
「ならばさっさとその仮面を脱ぎ捨てろ!」

 ノータイムで振り抜いたのは錆色の乙女。鋼鉄の処女をモチーフにした鉄塊剣は見目相応の重さで、アンナにとっては丁度いい打撃と斬撃を為す武器だ。
 だが怒りに満ちたその攻撃は、愚直な真っ直ぐさだったから。

「剥がしてみてから言ってくれ、と言ったはずだがな」

 応じたのは白いヒトガタ。雲霞の如き無数の式神がアンナと魔人の距離を埋める。
 構わずと剣を進めるも、消えては生まれ消えては生まれる式神のせいで魔人は剣の届かぬ距離まで下がっていってしまう。

「くっ……卑怯だぞ!」
「『人の嫌がることを進んでやるべき』と兵法書に書いてあるものでね」

 さあどうする、と魔人が嗤う。
 ならばと握り直した鉄塊剣に紅蓮の炎が点される。
 炎獄の執行人、その真骨頂は全身の地獄より生まれる炎があってこそ。

「ならばその式神ごと、燃やして切り刻んでくれる……!」
「クカカカカカ! 最初からその威勢でくれば良いものを!」

 燃え盛る鉄塊剣を車輪が如く振り回し、炎と斬撃を振りまくユーベルコヲド。その威力は絶大だが、大振りな攻撃である故に式神を捌き切るのは難しい。
 魔人ですら理解していることを、彼も分からぬはずがない。

「───よいゆめを」

 だから、黄金色の夢が忍び込む。
 がく、と魔人の膝が崩れ落ちる。
 男の意志に統制されていた白の群れがゆめまぼろしの如くに失せて。

「今です!」
「っ、ああ!」

 執行、【火車八つ裂きの刑】!
 罪人を追いかける地獄の炎は焼くだけに非ず。追尾し切り裂く炎が魔人へと一斉に襲い掛かる。
 【惑雨】に、黄金の夢に魅せられて、動くことのできない男に抗う術はない。
 刻まれ焼かれる痛みに目覚め、叫ぶのが精一杯だ。 

「っ……小癪な真似を!」
「『人の嫌がることを進んでやるべき』、でしょう?」

 白い髪を引いて、小柄の少年が跳ねた。
 少年に倍する体躯は懐に潜り込み、剣戟を叩き込むのには丁度いい。
 とはいえ黙って魔人の方もされるがままではない。

「ああ……その通りだとも!」

 だから、散った色は二色。
 ヨシュカの身から滴る黄金と、魔人の身体から生み出される黒靄。
 開闢は魔人の仮面を浅く裂いたが、代償にヨシュカの身体は魔人に触れられた。
 【怪蟲招来】。
 体内に直接召喚される怪蟲は、そのままなら肉を食い荒らすだろうけれど。
 生憎ヨシュカにはそんなものはない。
 蟲達は罅割れた器の中、黄金の海で泳ぐばかりだ。

「きっと、みんな夢の中で溶けていくことでしょう」
「……フン、化け物め」
「────」

 ───嗚呼、気分が悪い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア


別に退屈なんてしてないし、なんならそのまんま大人しくブッ潰れてくれたほうが面倒無くて楽なんだけど…
ま、言って聞くわけないわよねぇ。
…ホント面倒ねぇ、こういう手合いの相手は。

随分とまぁ、根性悪い攻撃揃えたもんねぇ。
焼け石に水程度でも、多少はマシかしらぁ?ソーン(退魔)とエオロー(結界)で○呪詛耐性の○オーラ防御を展開。グレネードの〇投擲と●射殺の○鎧無視攻撃で死霊諸共吹っ飛ばすわぁ。
刻むルーンはシゲル・アンサズ・ラグ。
「陽光」の「聖言」による「浄化」…あたしこっち方面はあんまり得意じゃないけれど。
これでも呪詛だの死霊だのの相手は飽きるほどしてきてるもの、対処の一つや二つはできるのよぉ?


ヴィクティム・ウィンターミュート
きっちりめかしこんで来たのは褒めてやる
その行いに敬意を表して、完膚なきまでに潰してやる
華奢な童子にでも見えるかい?あまり舐めない方がいいぜ
──何せ俺は、勝利に狂った愚か者だ

オイオイ、舞台に素人エキストラを呼んだのか?
無粋だ無粋。演技指導も碌に出来ねえのかよ
──『Reverse』
全てはひっくり返る
道術で縛り付けられることも無く、呪詛へと貶められることも無く、激痛に泣き叫ぶことも、命乞いや生者への呪いも無い
お前が呼び出したそれは、俺達を祝福する存在となる
ズルいだの卑怯だの言うのはナシだぜ?
テメェが相手してるのはトリックスターだ
下手な札の切り方してみろ──もれなくイカサマの材料に使われちまうぜ?



●光によって鐘を鳴らせ

「ホント面倒ねぇ、こういう手合いの相手って」

 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は。
 それが退屈など考えたこともない。そもそも、影朧甲冑には大人しくぶっ潰れてくれていてほしかったくらいだ。
 細められた視線はその向きを読ませない。だが、そこに込められた殺意だけはありありと滲むだろう。

「ねぇ、とっとと尻尾巻いて帰るつもりってない?」
「愚問よな。ここまで期待させておいて帰る訳なかろう」
「言うと思ったわぁ」

 ティオレンシアこそ、その方が面倒がなくていいと本気で思っているが……それで撤退するようではそもそも予知など出るまい。
 彼女のやや後方、機械腕を組みながら控えるヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)もそこは同感と頷いた。

「ハッハー! だが、きっちりめかし込んできたのは褒めてやる。こっちだと『馬子にも衣裳』っても言うんだろ?」
「借り物で恐縮だがな。せいぜい不足なきように努めさせてもらおうとも」
「ハッ、良いだろう。その行いに敬意を表して、完膚なきまでに潰してやる」
「出来るものなら、な」
「はー、ヤダわぁ。男って連中はどうしてこんなに血気盛んなのかしらぁ」

 ヴィクティムが腕組みを解く。
 破綻の見えていた会話を見ていたティオレンシアがリボルバーを引き抜く。
 魔人は緩やかに、五芒星を刻んだ手袋を二人へ向けた。

「【急急如律令】、来たれ縛られし者どもよ!」
「───なんて、素直に出来ると思ってんのかよ。足りてねぇスクィッシーが」

 魔人の選んだユーベルコヲドは本来、術により縛り付けられた死霊を召喚するモノだ。
 生を恨み死を乞い、身を苛む激痛に呪いの叫びを上げるはずのそれらは。
 しかし、今だけはその声を上げない。
 猟兵達を祝福する破魔の光を纏い、微笑みのような空気を湛えて、浄化の歌を口ずさむ。

「ほう! これはこれは……」
「上手く踊りてぇならエキストラなんか呼んでんじゃねぇよ。こうやってイカサマに利用されるのが関の山だからなァ」

 それがヴィクティムが齎した電脳の御業。
 運命をひっくり返すスペードのエース、【Attack Program『Reverse』】。
 いつ起動したのか、それすら悟らせぬのがデータシーフ『Arsene』の技巧だ。

「ズルいだの卑怯だの言うのはナシだぜ? 手段を選ばねぇのが戦争ってモンだろ」
「ああ、言うものか。全く、これだから面白い……!」
「だから当然、潰させてもらうわぁ」

 それが分かっていたから、続くティオレンシアの動きも迅速に。
 落としたのは退魔と結界の意を刻むルーン紙片。一滴の血を触媒に起動したそれを盾に、続けてグレネードを転がした。

 sigel  ansuz  lagu
「 陽光 ・ 聖言 ・浄化 ───疑似でも、影朧なら覿面でしょお?」

 炸裂。
 聖なる意を三重にも刻んだスタングレネードは、本来備わった機能よりずっと眩い光を放つ。
 大抵の死霊であるならそれだけで浄化させる輝きに、『反転』した死霊達の浄化まで乗っている。
 従って、それは仮初の仮面であろうと関わりなく貫き通す破魔と目潰しの光となる。

「ぐ、ぅ───!?」
「呪詛だの死霊だの、そういうのを扱う術者だの……そういう相手は一通り、それこそ飽きるほどしてきたのよぉ」

        coup de grace
 なればこそ、【  射  殺  】は成立する!
 何の変哲もないリボルバー。されどティオレンシアが最も命を預けた相棒こそ、何より神速の狙撃を成す。
 その速度を知っているから、ヴィクティムも腕を組みなおして笑うだけ。

「夢見るだけの奴が、現実戦ってきた奴に敵うかよ」
「あたしの前から逃げなかったんだもの。大人しく撃たれなさいな」
「成程──覚えておくとしよう」

 答えを待たずに響く銃声は、穏やかな慈悲の鐘にも似て。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸宵戯

うふふ
次はあなたが遊んでくださるの!
そうねロキ
どちらもすきよ

私のかみさま
どうやってあいしたら
愉しいかしら
蕾のままの花を剥くように?
花を千切り戀の行方を占うように?
あかに染めながら
一欠片ずつ抉り裂いていくのにときめくわ


愉しい
呪詛が渦巻いて美味だわ

うたって
あまやかに

私は破魔の龍なの
邪を祓うのが務めなの
善い事なら尚更ね
破魔の桜に斬撃編み込み吹雪かせ思い切りなぎ払い
刀に破魔宿らせて
苛烈に甘く
撫で愛でるように斬って裂いて抉って砕いて

「浄華」

ロキったら
蟲が湧いてる
躊躇いなく彼の腹に手を突っ込み
蟲を抉り潰す
私以外に食べられないで頂戴
だとしたら?なんて

おどって
軽やかに

仮面
素顔
どっちでもいい
もっと
頂戴


ロキ・バロックヒート
🌸宵戯


仮面を剥がすんだって
どんな風に剥がしてあげよう
皮を剥ぐように?肉ごと削ぐように?
あぁ戀占いはいいね
ロマンチックかも

出番だよ破魔の龍
呪詛を祓って善い龍だと示してやって
戦いに酔えば酔うほど君は美しくなるの

こっちを試すばかりじゃつまんないでしょ
面白いことしてみせてよ
UCはわざと食らう

あぁ宵ちゃん、この虫取ってよ
思ったより悍ましくて痛くて笑っちゃう
もしかして妬いてるの?なんて
でもさっきの鉛玉よりずっといいよ
なんて言ったらまた怒られそう

その様はきっと狂気の沙汰
ねぇ楽しいでしょ?
君(敵)が望んだ戦だよ

愉しませてくれたお礼に【ラメント】
さぁ仮面を存分に抉り取ってあげてよ
神と龍
どっちに剥がされたい?



●狂気に酔ふ

 ───もしかすると。
 この二人が、もっとも真摯に魔人と向き合ったのかもしれない。


「仮面を剥がすんだって、宵ちゃん。どんな風が似合うだろう」
「そうね、ロキ。どんな風が素敵かしら。きっと赤が似合うと思うの」

 わらう神様──ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)が問えば、微笑む櫻龍──誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)が柔く応じる。
 頬を舞い散る桜よりなお赤く染めて、恋する少女めいた仕草で両の指を触れ合わす。
 自分より頭一つ大きい櫻宵の仕草を見慣れたロキが首を傾げれば、外れない首輪がぢゃらりと耳障りな音を立てた。

「それは……皮を剥ぐように? 肉ごと削ぐみたいに?」
「どちらも素敵。だけども今は春だから、もっと愉しくしたいわね」

 例えば、蕾のままの花を剥くように?
 或いは、戀の行方を占うために千切るように?
 若くは、葉を筋に沿ってばらばらにしていくみたいに?

「ああ、戀占いはロマンティックかもね」
「そうね。一欠片ずつ抉り裂いて、あかに染まっていくのはときめいてしまう」
「いいねぇ」
「いいわ」

 くすくす、神と龍が笑い合う。
 そこに在るのが影朧を被っただけの人であるなど、彼らは一切顧みない。

「カッカッカ。よもや斯様な者共と手合わせ願えるとはのう」

 だから魔人も矍鑠と笑う。
 戦の狂気、破滅の淵、それそのものが目の前にあるのだから背筋が粟立って堪らない。

「───行っておいで、破魔の龍。呪詛を祓う、善い龍の姿を魅せておやり」
「ええ、私は破魔の龍。一切衆生の罪穢れ、祓い清むる善き事が務め」

 咲き誇る。
 突如櫻宵の手元から放たれた花嵐は、内に斬撃を含む破魔の太刀。
 見惚れる程の凄絶を、しかし初手で喰らう無様は犯さない。
 一筋だけを掠め受け、あとは後方へと流してしまえば。
 ぱしゃんと跳ねる花筏。

「……これはまた、見事よな」
「取って置きの【浄華(イワイノコトノハ)】よ。あなたのような方に用意したの」

だから踊りましょう? 悪しき方。
良いとも、超弩級の名の下に放埓する暴虐の輩よ。

 言葉とするならそのような。たったひとつの意志の交歓。
 刀と掌底がぶつかり合い、桜と蟲と光を散らす。
 如何なる言葉よりも雄弁に火花を散らす二つの命。

「ああ、いいね。すごく綺麗だよ宵ちゃん」

 酔えば酔うほど美しい──いざや狂い咲けよ屠殺櫻。
 君の戦う何もかも、きみのかみさまが肯定しよう。
 ああ、でもこれだとさっきと変わらないから、少しだけ遊ぼうか。

「もっともっと、愉しくなきゃあ……ね?」

 ふらり、と。
 傾ぐ身体が二人の間に割り込んで。
 抜き打たれた掌底が容赦なく、ロキの身体を穿ち貫く。

「い゛、っはァ……!」 
「……ロキ?」

 溢れる血と肉、臓物と、それらを食む醜悪な虫、蟲、蟲。
 異界より直接招かれた怪蟲が神の胎の中で蠢きまわる。
 腹腔を浸す血の中を這い回り、痛みを与えることに特化した牙で食い千切る。
 
「あは、あはははははは! 痛い、これは苦しいなァ! 面白いよ君!」
「それはどうも。蟲が喰うということは、神も肉は人と同じか。参考になったとも」
「ふざけないで頂戴」

 櫻宵が、身を翻した。
 あれだけ愉し気に交歓していた魔人になど意に介さず、繊手をロキの傷へと突き入れる。
 ぐちゃり。
 鈍い音がして、内臓ごと蟲が抉り潰される。

「っ……はぁ、宵ちゃ、んは……熱烈、だなあ」
「止めて。私以外に食べられないで頂戴」
「あははは……一丁前に、嫉妬かい?」
「だとしたら?」

 素敵だよ、という言葉は空気を震わせなかった。
 代わりに一際大きな血塊が喉の奥からあふれ出す。
 咳き込む。苦しい。呼吸が覚束ない……そんなもの必要だったっけ?
 まあいいか。

「だれが×××ころしたの?」

 代わりに口をついたのは哀歌。
 伴の居ない旋律を口ずさめば、蟲を啄む黒い鳥がロキの影から分かれて出づる。

「私の爪で、私の嘴で、私がころした、×××を――」

 【Who killed ×××?】。
 だってほら、可愛い龍を怒らせてくれたお礼をしなくちゃあいけないから。
 鳥の羽ばたきに押されたようによろよろと立ち上がった櫻宵は、指先についたロキの血で紅を引いた。

「……狂っているな」
「それが戦というののだもの」
「だから儂はそれが欲しい」
「だったら私がするのはひとつ」
「もっと」
「もっと」
「もっともっと!」
「もっともっともっと!!」

 流血と闘争を欲して吼えたのは、果たしてどちらだったのか。
 答えを識る神は、影を従えて微笑むばかり。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鳴宮・匡
使えるものはなんだって使う
戦場の鉄則だ、そんなことはわかってる

……だけど、お前のやり方は気に入らない

術の封殺に注力するよ
本体を相手する猟兵への援護にもなるだろう
道術――要するに、何らかの超常的な力で縛られてるんだろ
ならその力の起点や、術の要となるものを射抜けば解けるはず
【抑止の楔】で、その一点を狙い撃つ
数が多かろうが関係ない、全て封じてみせる

――あいつみたいに、うまくはできないし
あいつみたいに、思いやってはやれないけど
終わらせることくらいなら、できるから

どこにも行けないままただ誰かを呪い続けるだけなんて
きっと、望んじゃいなかっただろ

……もうこれ以上、縛られなくていいんだ
迷わず還りなよ


花剣・耀子

――そう。
それが前提というのなら、仮面程度、剥ぎ取ってあげる。

真っ直ぐ、最短距離で詰めましょう。
此方に来る死霊には捕まらないように避けて、
避けきれないものは咄嗟に斬って祓ってゆくわ。
……、取りこぼして他に被害が出るくらいなら、此方でぜんぶ引き受けるように。
これはもう呪詛なのでしょう。
だったら、今更幾ら積まれようと大差ないもの。
泣き声も呪いも全部呑んであげる。
アレに辿り着く前に、足が止まらなければ其れで良いわ。

あたしひとりを封じたところで、だからどうしたというのかしら。
おまえに辿り着くひとは幾らでも居るし、
……――ねえ、“ユーベルコヲド”に頼らなくたって、死ぬ迄斬ればだいたい死ぬのよ。
斬るわ。



●鬼に逢うては明けの道

「そう」

 それが前提だというなら、斬り果たすだけ。
 花剣・耀子(Tempest・f12822)の思考回路はいつだってシンプルに出来ている。
 だから彼女が取るのは一直線の最短距離。
 立ち塞がるものがあるならば、塞がれてから考えればいい。
 石畳を蹴り飛ばす足が落ちた花弁を巻き上げて、小さな花の嵐を生む。

「それで本当に届くと思うたか!」

 一喝、五芒星に黒靄が集う。
 【急急如律令】──途端に耳を突き刺す絶叫は、怨嗟と悲嘆に満ちていて。
 耀子は一度だけ瞬くだけで、表情を変えはしない。
 この程度なら慣れている。
 もっと大きなモノを背負っているのだから、今更この程度の呪詛が増えたところで大差ない。

「言ったでしょう。邪魔をするなら何であれ斬り祓うだけ」

 だってそれが最短距離だ。
 立ち塞がり腕を伸ばす死霊達が何をしようと、突き進まねば斬れないというなら。
 飲み干し喰らって、傷つこうが進むだけ。

「───確かに、それが最短だろうな」

 だから黒曜の影を追い越して、銃弾は死霊へと突き刺さる。
 ある者は右肩、ある者は左膝。ある者は崩れてどこの部位だったかも分からない漂う靄へ。
 そこを貫通しただけで、死霊の姿が薄れていく。

「ほう……?」
「悪いな。そういうの、視えてるんだ」

 一見すれば急所には程遠い箇所は、その実彼らを縛る術の起点だ。
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)が、視えている弱点をわざわざ放置する理由がない。
 【抑止の楔】はつつがなく、捻れた死を縛る術を噛み砕く。
 
「助かるわ」
「そりゃどーも」

 故に耀子の速度は緩まない。
 彼女自身も神速の剣士であるから、【《黒耀》】の斬り祓いは立ち塞がるものを食い破る。
 剣の間合いの外側、安全圏から足引くように伸びる黒靄。触手に似て顕現した怨念は術の弱い部分を見定めた銃弾がやはり撃ち壊す。

「ふん、余程この術が嫌いと見える」
「……そうだな。お前のやり方は気に入らない」

 己すら殺し続けてきた匡には、
 嘆きと恨みを斬り祓う銀閃を持てはしないし。
 死者に寄り添い受け容れる紫焔は灯せない。
 そもそもこの術が、戦場の鉄則にのっとった有用なモノですらあると理性では分かっているくらいだ。

 それでも引き金を引く。
 撃ち抜かれる最期の一瞬、悲鳴は聞こえなかったから。
 ……やっぱり、どこにもいけないまま呪い続けるなんて、望んでいなかったのだろうと。
 銃口はぶれない。
 手は震えない。
 視線は直と定めたまま、見据えた敵への道を開く。

 だからどうか、迷わずに。

「いってくれ」
「──……ええ」

 散り逝く黒靄を背後に、耀子は魔人の目前へと滑り込む。
 悪霊は全て還っていった。
 彼女の視界にあるのは敵の姿。手にした機械剣の感触だけがいつも通りの冷たさを伝える。

「大仰な武器よな」
「そうね。あたしにはこれが丁度いいの」
「ほう?」

 スターターを引き抜いてエンジンを駆動、回転鋸が甲高い悲鳴を上げる。
 触れれば最後、引き裂き千切り斬り捨てる断裂の刃を。

「“ユーベルコヲド”に頼らなくてもね。死ぬほど斬ればだいたい死ぬの」

 振り抜く。
 チェーンソーを扱い慣れた耀子が振るう刃は重くも鋭い。
 魔人はバックステップで間合いを取りながら、手元に残った黒靄を閃かす。
 そこから生まれるのはすでに絶えた死霊達ではない。
 物理的な実体を伴う呪詛の防壁、そう見切ったから耀子は手を止めない。
 なぜならその程度で《花剣》を阻める訳がない。
 それすら斬れずして、この名を継ぐことは許されない。

「死ぬまで斬るわ。剥がして欲しいんでしょう?」

 UDC『オロチ』を核とする機械剣は、それ自体が呪詛の塊にも等しい。
 だから己よりも弱い盾など気にも留めない。
 一片の躊躇いすらなく、腕ごと胴を両断する。

「ク────カカカカカカカカカカカカカ!!! 痛い、痛い、嗚呼痛いなァ!!!!!!!!!」

 幾多の負傷が重なって、魔人の仮面が剥がれてゆく。
 黒靄がぼろぼろと剥がれ落ちてオロチに喰われ、隠れていた甲冑が姿を見せる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『影朧甲冑』

POW   :    無影兜割
【刀による大上段からの振り下ろし】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    影朧飛翔弾
【甲冑の指先から、小型ミサイルの連射】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    影朧蒸気
全身を【燃料とされた影朧の呪いが宿るドス黒い蒸気】で覆い、自身が敵から受けた【影朧甲冑への攻撃回数】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。

イラスト:雲間陽子

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 
 散華とは。
 花を散らす意から転じる、戦死を美化する言葉である。


●土蜘蛛散華譚


 罅割れ砕けた魔人の下は、鉄色の甲冑。
 煤けた蒸気を吹き出しながら踏み出す音は魔人と同一と思えないほど重く響く。
 高さはほとんど同じでも部品が多く横幅があるせいだろうか。

「カッカッカ! いやまったく、ここまで手酷くやられるとは思わんかったとも」

 空気を震わせる大音声に混じるのは紛れもない愉悦、そして歓喜。
 数多の猟兵の絶え間ない攻撃を受けて、受けて、受け続けて、なお男の戦意は煮え滾っている。
 それこそ待ち焦がれた地獄だと。
 悪鬼の居るべき世界だと、存在すべてが主張する。

「嗚呼、いいなあ。貴様らは斯様な世界に生きているのか。儂もそんな世界に生きたかった」

 影朧甲冑“土蜘蛛”。
 平和な世界になど交われない、まつろわぬ存在を冠した平穏の破壊者は。
 命を代価にする兵器の操縦席に座った、かつて矢田と呼ばれた男は。

「ようやく、“生きる”ことが出来る」

 奇妙なまでの清々しさをその身に纏い。
 長尺の大太刀を猟兵達へと向けた。

「───儂と戦争をしよう、猟兵よ。ゆめ、退屈させるでないぞ」

 土蜘蛛には。
 老年へと足を踏み入れるまで重ねた経験がある。
 魔人として術理を交わし、その身で思い知った観察がある。
 そして超常の術より、拳と刃を交わす領域が本領であると圧のすべてが主張する。
 先の技をなぞるだけでは容易く弾かれてしまうだろう。

「いざ、尋常に」

 その思想を、理由を許せぬというのなら。
 その刃に何であれ向き合うというのなら。
 いざ。
 最終幕を上げようではないか。






◆第三章プレイング受付期間
【4月9日(木) 08:31 ~ 4月11日(土) 18:00】
 ※状況により再送の可能性がござます。悪しからずご了承ください。




.
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
……笑わせるなよ
御大層な機械に乗らねば革命を起こすことさえ出来ない
易々懸けられる程度の命で――理想を語るな、下郎

望みとあらば戦争をしよう
人間の望みを叶えるのが私の在り様だ
起動術式、【灰燼色の呪い】
先に言っておくがその蒸気とやらは無駄だぞ
呪詛が蝕むのは甲冑ではない。操縦者たる貴様の心だ
恐慌で少しは手元が狂えば、後続の猟兵の役にも立つであろうし
命なんぞを懸ける態度が気に入らん
戦とは、自らの心と意志を賭けるものであろう?

足掻くならば本物の地獄で足掻くが良い
己の意志の全てを叩き折られて尚立ち上がってみろ
出来ないのなら、貴様に革命の権利はない
死ぬためだけに戦う愚者を、真っ向相手にしている時間はないんだよ


鷲生・嵯泉
……鬱陶しい
結局は“生きる”事が出来なかったが故の無いもの強請りか
其の年に成ってからの其れは唯々始末が悪い
更生の余地が在るだけ子供の方がマシと云うものか

戦闘知識にて方向を計り、極限まで集中した第六感を以って
当たらない限界位置で攻撃を躱し
怪力乗せた刃に鎧砕きと無視攻撃をも加え、カウンターで叩き込む
多少の傷なぞ耐性と覚悟で捻じ伏せ構いはしない
――穿裂蛮創、躱せるとは思わん事だ
其の継ぎ目、如何に微かであろうとも抉じ開け刃を通して呉れよう

戦争の何が“良い”ものか
いっそ退屈な程の生の中にこそ幸い在る事が理解出来ない頭では
其れが理解出来ずとも仕方が無いか
――奪われる痛苦を知らずに生きて来た訳でもあるまいに



 人に仇為す影朧を退治し、桜の精に引き渡せば感謝された。
 その雄姿を人々は称賛し、若い學徒兵は教えを乞うた。
 第一線に身を置きに続けたため伴侶こそついぞ得られることはなかったが、多くに慕われる人生であった。

 だと、いうのに。
 心のどこかはいつも渇いていた。

 季節が巡る。
 時期を追うごとに、思うようにコヲドが繰れなくなっていく。
 戦いたいと願う心と裏腹に、日々腕が上がらなくなっていく。
 緩やかな戦力外通告。
 後輩の背中を見送る日々。
 勝てていたはずの相手に勝てなくなる焦り。

 気が付けば病院にいた。
 他に何もない静かな部屋に閉じ込められていた。

 多くの知人が見舞いに来た。
 多くの弟子が祈りを捧げた。
 けれど、そこに求めていた血沸き肉躍る戦場はなかった。
 白い病室は、ただ静寂ばかり。
 そのままひっそりと朽ちていく『現実』が疎ましかった。

 ────だから。


●煉獄の沙汰


 真っ向唐竹割り。
 振り下ろされた太刀は誰でもなく石畳を砕いた。
 砕ける破片は散弾代わりに猟兵の方へと向かい、後追って突っ込んでくる巨体は歩幅もあってかなり素早い。

「ぐっ……!?」

 風圧にすら刃を感じてニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は僅かに呻く。
 彼本人に傷はない。だが視界の端には白い灰めいたモノが混ざる。
 【灰燼色の呪い】を活性化していた名残である、物質化した呪詛が一筋断ち切られたのだ。
 返す刀が放たれる前に地面を蹴ってバックステップ。さらに距離を置く。
 刃風が薙ぎ払う空間に割り込んだのは琥珀色。
 薙ぎ払いが怒涛なら、いなす方も卓越。
 当たり前のように絶技を為したにも関わらず鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の表情は険しい。元より硬質な容貌が更なる凄味を湛えて在る。

「っ、悪い嵯泉!」
「気にするな。しかし……」
「まだまだァ!」

 一喝、踏み込みが地を割るから嵯泉は前に、ニルズヘッグは後方に。
 達人の剣は読み合いと見切りの交錯でもある。
 言うまでもなくその域にある嵯泉だからこそ読み、躱すことの出来る間合いにニルズヘッグでは踏み込めない。
 竜の男が踏み込んだのは、化外の内側。

「嵯泉」
「何だ」
「あいつの地獄は、平穏だ」
「…………」

 【灰燼色の呪い(ムスペルヘイム)】。
 害し、壊し、殺す為に生まれた男の別名。あるいはその力そのものを意味する名を冠したコードは、対象の心の奥底にある最も厭う地獄を見せる。
 術者たるニルズヘッグは、土蜘蛛の見た光景を共有した。
 あまりに軽く扱われた命を。
 機械のスペックに頼った、心を賭けずに行われる革命に思うところがない訳ではない。
 それでも戦争をするのなら、叶えるのがひとに添う竜の役目だと。

「……成程。所詮、無いもの強請りか」

 だからこそ、禍を断つ刃は違えない。
 冴え冴えとした銀は体格差など意に介さず急所へと切っ先を突き付ける。

「鬱陶しい。童子の方がまだ聞き分けが良いぞ」

 土蜘蛛にとっての地獄は、いつか嵯泉の掌から零れ落ちたモノだ。
 だからその思想を理解できない。しようとも思わない。
 退屈な生の中にこそある輝かしいモノを踏み躙ることを厭わぬ輩になど負ける訳にはいかないのだ。

「そこに手を伸ばせる力があって、そうすることの何が悪い!」

 それこそ地獄だったのだから、土蜘蛛は鋭く踏み込んだ。
 纏う影朧を加速装置に、軌道を読ませぬ霧と共に放たれるのは鋭い突きだ。
 腕と刀身とが合わさったそれは非常識な距離を貫いてくる。まともに喰らえば悶絶は必至。

「死ぬためだけに戦う愚者を、真っ向相手にしている時間はない」

 だからしろがねは弾ける。 
 ありきたりの、家族と一緒に食事をとるという幸福すら。
 今だって己自身の幸福を許せない竜と、彼と契約を交わした悪魔が冷えた目で甲冑を睨み据えれば。
 足引く呪詛は差し向けられる。
 しろがねの炎は視界を灼いて距離感を狂わせ、地獄の冷却が握力を緩める。
 精確な技だからこそ僅かにでも狂えば当たらない。
 そういうことは知っている。

「手癖の悪い!」
「嵯泉!」

 土蜘蛛の咆哮と共にどす黒い蒸気が吹き上がる。あらゆる欺瞞をキャンセルし太刀を握り直す──稼げた時間はほんの数秒。
 だが。
 数秒あれば、彼の剣なら釣りが来る。

「ああ──容易く抜けると思うな」

 がら空きになった胴へ、嵯泉が踏み込んだ。
 狙いは右の股関節。
 しろがねと氷獄が脆くした関節の継ぎ目を撫ぜるように。
 一閃、切り裂いた。

「がああああああああっっっ!!?」

 【穿裂蛮創】。
 甲冑の隙間から潜り込んだ斬撃は内側を巡り、突き刺さり、操縦者を蹂躙する。
 割れ砕けた甲冑の隙間から零れ落ちる血は、ひとのものとは思えないほどどす黒い。
 そこにいるのは鬼でしかないと示すように粘度を持ってゆっくりと滴る。
 それでも、土蜘蛛の視線は直と二人の男に向けられて。

「礼を、せねばならんなぁ!」
「まったく、威勢のいいことだな!」
「止むを得ん。もう少し切り刻むぞ。ニルズヘッグ」
「ああ!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
───ようやく達人の領域を出しやがったか
あぁ、分かるぜ。ファイターじゃない俺でも、こんだけ戦いを積めばな
アンタは強い、とても
強いが故に渇いてる。力の向かう先が無いからだ

来いよ──出し抜いてやるぜ、土蜘蛛
指先を向けた?ならミサイルが来るか
初動はまず、避ける
【見切り】でミサイルの軌道を洗い出し、【早業】で転身
そしてこのミサイルは、回避しても撃ち切るまでは止まらない
だからこそ、『当たりに行く』
『Fragarch』起動
ニューロン【ハッキング】、意識をシャットダウン
効果発動後に瞬時に再起動設定

俺にはアンタの気持ちは分らん
戦いは勝つ為の作業でしかないからだ
持って行けよ
──これが、アンタを殺す報復の剣だ


リア・ファル
貴方だってヒトだったろうに
他の命と共にその生があったろうに

世を憂う理想もなく
ヒトを襲う理不尽と成り果てるなら
「ボクは戦う、今を生きる誰かの明日の為に!」

これまでの演算結果を以て、対象を阻む!
(情報収集、学習力)
『イルダーナ』で突撃し、『ヌァザ』で斬り結ぶ
(操縦、追跡、切り込み)

「虚無の黒星(アンサラー)――」

UC【吸い阻むは虚無の黒星・転じ返すは白光の報復剣】発動、
ボクの周囲に黒星を展開
黒星は、相手の攻撃を防御、その運動エネルギーを吸収し、光剣を精製
全方位から降り注ぐ!

「戦いは戦艦(ボク)の領域にして、超常は託された想いの具現。
改めて言おう。悪鬼――討つべし! 白光の報復剣(フラガラッハ)!」



●因果に応報を、切望に回答を

 斬り結ぶのは銀と鉄。
 宇宙の彼方で製造された多元干渉デバイスと、大戦後に失われたはずの兵器の一部たる太刀。
 世界が違えば時代も違う。
 けれどどちらも同じ、人を害し傷つけることが出来る武器だ。
 その剛力に、迷いない技量に。リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)は唇を噛み締める。

「何が楽しいものか」

 純粋な白兵戦闘技能なら、リアより土蜘蛛の方が上だ。
 彼女が追随出来ているのはひとえにこれまでの情報の積み重ねがあってこそ。
 どんなに甲冑を着ていようと、動きの基本は人のそれでしかない。

「貴方だって、ヒトとして他の命と過ごした生があったろう?」
「ああ。だが、」
「っ!」
 
 巻き落とし。
 剣先に引っ掛けられた鍔元が回転の力で無理矢理に下げられる。
 重力を味方につけた剣技へ抗うには分が悪い。だから手を放す。距離を取る。

「それは死んだよ。こうして心行くまで楽しむためにな!」

 デバイスが地に落ちる前に銀猫が転身、もう一度リアの手の中へ。
 再形成──しかし、甲冑の指先にある機構が動き出す方が早い。
 そこに準備されているのは超高速で発射される追尾飛翔弾。
 ミサイルだ。

「───っ、いや!」

 踏み止まる。
 それが齎す破壊を知っている。それによって嘆くひとがいることを知っている。
 だからリアは回避など考えない。
 必要なコードは己の中に。
 演算が間に合わずに体が砕けたとて構わない。
 そんな理不尽と戦うことこそ、彼女の製造理由なのだから。

「吹き飛べ!」
『いいや、させねーよ』

 人造のニューロンへ叩き込まれたのは演算補助のストレージ。
 馴染んだアドレスの主を、彼女はよくよく知っている。

「ヴィクティムさん!」

 コード起動、同時に差し出された回避軌道のデータをアクティベート。
 連続で放たれるミサイルを受け止めるべく現れた黒星の隙間から、小柄の少年が鋼の手を振る姿が映る。

「よう、リア。こんな端役の手は必要か?」
「もちろん! キミの手があれば百人力さ」

 ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)は、リアの声に得たりと笑う。
 “主役”が舞台に招いている。ならば端役は、彼女のために演出を施す。

「そうかい、ならリクエストにお答えしようかね」
「何をするつもりだ……!?」

 足取り軽く踊り出て、身を翻したそこにミサイルが突っ込んできた。
 超高速の連撃は阻まれようと突き進むだけ。
 そこに少年が居ようと関わりなく爆炎を撒き散らす。

「エネルギー変換、終了。準備はいいか?」
「当然、いつでもいいよ!」

 だが。
 渦中にいたはずのヴィクティムにダメージは皆無。
 それどころか先までよりも生き生きと機械の五指を広げて見せる。
 元より、ヴィクティム程の演算能力があればミサイルが描く軌道など丸裸同然。
 だからこそ『当たりに行った』。
 必要だったからだ。
 少年にとって、闘争は勝利のための過程でしかない。
 飽いて渇いた悪鬼の、その飢えを理解することなぞ出来はしないが。
 戦火という共通言語で語ることだけはできる。

「持っていけよ」

 彼の脚本の上で、正統派の戦いなぞ通用するはずがない。
 勝利の奴隷が、闘争の悪鬼に笑いかけた。

「Install OK? Ready Go!」

 開いた掌から──正確には、その形に作られたサイバーデッキがウィルスを射出する。
 彼の機械腕は骸の海を強奪し変質強化されたもの。
 それが機械と無縁の甲冑であっても、影朧という同質のモノを動力源にしているなら汚染することは可能だ。
 甲冑の纏う影朧が色を増し、揺らめき、その重さに耐えかねたように土蜘蛛は膝を着く。

「ぐ、う──弱体化か!」
「御名答。アンタみてぇな達人と正面切って戦おうなんて思えないからな」

 狡かろうが何だろうが、勝った者こそ正義だと。
 悪辣に笑った端役の背後に白い光が瞬いた。

    ボク
「戦いは戦艦の領域。超常は託された想いの具現」

 祈るように銀剣型のデバイスを胸の前で携えたリアの、桜の視線が土蜘蛛を捉える。
 ミサイルを受けたのは虚数の星。
 地上に在り得ざるブラックホールがねじ曲がり、白い光を生み出していく。
 脆くされた装甲で受け止められるはずないと、退こうとする速度も先までよりずっと遅い。
 いくら速かろうと、光に勝てる速さはないが。

「『今を生きる誰かの明日の為に』───」
「ク──カカカカカ! まったく、ままならぬよなあ!」

 他者のコヲドを弱体化ウィルスに変換するヴィクティムのコヲド。
 黒星で吸収した攻撃から光剣を精製するリアのコヲド。
 二人のそれは、奇しくも同じ名を冠していた。

「【『Fragarach』】──それが、アンタを殺す剣の名前だ」
「明日を蝕む悪鬼、討つべし!【白光の報復剣】!!」

 銀剣を振り下ろす。
 打倒の祈りを乗せて、白光の流星群が土蜘蛛へと注がれた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リック・ランドルフ


さて、ようやく仮面も剥がせたし素顔を見させて……まだ仮面? マトリョーシカかよ爺さん。…ならもう一度剥がして…今度こそ素顔――拝ませて貰うぞ?

真の姿、解放。そして【スーパーカー】を自動操縦、そしてホバーモードにして、車体を横にした状態で俺の前を移動させ、盾にして、そしてダメージ覚悟で突っ込む

こうして敵に突っ込んでると学生の頃やってたアメフトの事思い出すな

そして、ある程度距離を詰められたら…車の影から飛び出てダメージ覚悟して一気に敵の懐まで行って(激痛耐性)

懐からとっておきの……出来れば使いたくないが…Monkey's Pawを構えてUCを喰らわせてやる(零距離射撃、早業、クイックドロウ)


仇死原・アンナ


…くだらない
心底愚かで馬鹿な奴…
本当に…忌々しい悪鬼だ…!

真の姿の[封印を解き]、[殺気、存在感]を放ち立ち向かおう
鉄塊剣を振るい[怪力、武器受け]で敵の攻撃を[かばい]ながら受け止め
[重量攻撃、衝撃波、カウンター]で敵を[吹き飛ばし]てやろう

[力溜め、ダッシュ]で突っ走り
[鎧砕き、串刺し、継続ダメージ]を用いた【聖処女殺し】で
鉄塊剣を操縦席目掛けて深く突き刺し、内部の男共々影朧甲冑を破壊しながら地獄の炎で焼き尽くし[焼却]してやろう…!

…どこまでも救いようのない奴…地獄で頭を冷やすがいい…!
……忌々しい悪鬼め!



●罪に下すものひとつ

「仮面の下がまた仮面? マトリョーシカかよ、爺さん」

 リック・ランドルフ(刑事で猟兵・f00168)の溜息は重い。
 愚痴混じりに軽口を叩いてみせたところでその威容が変わるはずもないからだ。
 リックの遥か頭上、表情を伺わせない筈の鉄仮面が笑み崩れたかのように錯覚する。

「クカカカカ、影朧甲冑とはそういうものよ。操縦したが最期、乗り続けるしか生きる道がなくなるのだから」
「……年寄りの冷や水もほどほどにした方がいいぜ?」
「御託はいい」

 問答無用と、斬り捨てる声は仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)。
 罪は決している。ならば処刑人の行うことは単純明快。
 今すぐにでも血を啜りたいと訴える剣を手の中へと収める。

「心底愚かで忌々しい悪鬼……貴様には地獄こそ似合いだ……!」
「今度こそ、素顔を拝ませてもらうぜ」

 急所を保護しながら攻撃にも即座に移ることを目的とした戦闘装備。
 全身の地獄から赤い炎を噴出させ、人の身に余る剣を軽々と振り回す。 
 それは生命の埒外の本領、真の姿の発露。
 溢れんばかりの力と意志に土蜘蛛は悪鬼の声で笑った。

「出来るものなら果たしてみるといい。それでこそ儂は楽しめるのだから!」

 甲冑の指先が高速展開。
 黒霧の尾を引いて飛び立つミサイルは超高速の連続攻撃。故にこそ、取り得る戦法も単純明快。

「こっちだ!」
「! ……なるほどな」
 
 宙に浮かんだスーパーカー。
 異世界の技術作られたそれは装甲板も見目以上に頑強だ。
 リックとアンナの前で立ち塞がったそれがミサイルを受け止める。
 爆発、爆発、また爆発!
 美しいフォルムは瞬く間に無残に傷つき、凹み、歪んでいく。
 だが沈まない。
 どころか、車は動き出した。指からミサイルを放つ土蜘蛛の方へ。

「突っ込むぞ!」

 それを盾にすれば愚直に進むより遥かに確実に距離を詰められる。
 遠間からでは当たらない攻撃も、近くまでいけば当てられる。
 単純明快、だからこそそれを阻まんと土蜘蛛もミサイルを放つ。

「この軌道なら防げまい!」

 車を乗り越えるような山なり。
 頭上から降り注ぐミサイルが影朧の尾を引いて襲い掛かる。

「ふんっ!」

 吹き飛ばす。
 アンナの怪力で揮われる鉄塊剣の生み出す風圧がミサイルの姿勢を崩す。
 飛び越えてやれば、背後で起きる爆発は猟兵達の推進力だ。
 爆風に煽られながら、何故だろう。リックの顔には僅かな笑みが浮かぶ。

「こうして敵に突っ込んでると」
「うん?」
「学生の頃やってたアメフトの事思い出すな」
「戦争はスポーツではない」
「ああ、分かってる。けどな!」

 リックが引き抜いた拳銃は普段使いのものではない。
 太く大きな銃身の先には水棲生物さえぶち抜く大口径。
 銘を『Monkey's Paw』。
 頑健な種族の者をこそ使用者に想定した武器は、金銭・身体両方の理由で出来れば使いたくはない。
 そうもいっていられないから、リックは覚悟を決めて安全装置を外す。

「突っ込んで一発決めるってのは同じだ」
「なら、ワタシもそうさせてもらおう」
「頼んだぜ」

 【対影朧用弾丸】、装填。
 ミサイルの切れ目と共にスーパーカーが落下。
 土蜘蛛と目が合うより早く、教本通りに銃を構える。

「整備費・銃弾・ついでに俺の治療費──しっかり味わっていけ!」

 発射。
 莫大な衝撃の反動が、真の姿と化し身体能力も強化されたリックの肩を容赦なく外す。
 激痛に表情が歪む。脂汗が吹き出す。
 だが、銃弾は過たなかった。
 堅牢を誇る影朧甲冑に着弾、貫通までは至らないが傷をつける。

「御大層に突っ込んできてそれだけか!?」
「いいや、十分だ」

 そして。
 アンナの力だけでは壊せない装甲も、リックの銃弾が貫いた箇所なら話は別。
 鉄塊剣が空気を裂く。
 生じた罅目掛けて正確に突き入れられた剣が傷口から花開く。

「【聖処女殺し】──身体を熱し貫く痛みに悶え苦しみ、頭を冷やせ……!!」
「ぐ、ああああああああああああっ!!?」

 血肉が裂ける。
 機械が壊れる。
 アンナの手にはその感触がありありと伝わる。
 吹き出す血潮は影朧に染まってとうに真っ黒なのに。
 声ばかりが、どこまでも人のそれなのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シャーロット・クリームアイス
やー、こちとら平和な商業主義者なんですが!
この場を含めて、そりゃー猟兵の中にはバトルのプロみたいなひともいっぱい居ますけど! 戦闘狂あつかいは心外です!

しかし、ナメてもらっては困ります!
運び屋にはもちろん、防衛力があるのですよ。荷物を奪(と)られちゃ話になりませんからね。
あなたが戦時のレリックを引っ張り出すなら、わたしだってオーパーツを出しましょう! とーう!(召喚)

え? そりゃそうですよ。
そんなゴッツいのと生身でバトるなんてとてもとても……。
餅は餅屋、鮫は鮫屋です。

防御は反重力バリア、攻撃は熱線!
戦争ならばお望み通り、大艦巨砲主義が相手をしますとも。

そっちが時代錯誤なら、こっちは古代魚です!


アルトリウス・セレスタイト
尋常にやってやる義理も持たん
どうせ残せんものだ。消し飛ばすぞ

破界で掃討
対象は戦域のオブリビオン及びその全行動
それ以外の全てはつまり「障害」故に無視され影響を与えない

高速詠唱を『刻真』で無限加速
多重詠唱を『再帰』で無限循環
瞬きの間もなく天を覆う無数の魔弾に『天冥』で因果改変
過程の全てを飛ばして生成・射出・着弾を「同時」とし、全方位隈無く包む包囲攻撃で討滅を図る

一連の工程は討滅まで遅滞なく連続して実行
他の猟兵の邪魔になりそうな時は待機
自身へ攻撃が届くなら『絶理』『無現』で影響を否定し回避
必要魔力は攻撃分含め『超克』で“外”から汲み上げる



●境界を超えて飛び来る

「いやいや、こちとら平和な商業主義者なんですが! 戦闘狂扱いは心外です!」

 腰に手を当て頬を膨らませ、いかにもな「怒っています」のポーズ。
 シャーロット・クリームアイス(Gleam Eyes・f26268)の本業は当人も申告する通りの商売人だ。
 そんな彼女がなぜこの場にいるのかという疑問はいったん置いておく。
 だが戦いを専門にしないとしても、選んでこの場にやってきているのならそれは土蜘蛛の標的だ。

「面白い冗句を口にする。戦えぬ訳でもないというのに手弱女ぶりおって」
「──御託はいい。それに、尋常にやってやる義理もない」
 
 無感情の声と共に、過る魔弾一発。
 アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)の伸ばした指の先から放たれたものだ。
 挨拶代わりの牽制一発などという甘い考えは彼の中に存在しない。

「どうせ残せんのだからな」

 【破界】。
 そう名付けられた煌く蒼天色は瞬く間に数を増やしていく。
 彼の術理は世界が構成される前の法則。万能にして絶対たる破壊の原理が現世の因果を捻じ曲げて消滅の光と転げ落ちる。
 『命中した』という結果が確定しているのだから、ただそれだけで圧殺可能。

「道端の石ころのように見られても詰まらんな」

 だがそれだけで勝てる程土蜘蛛とて容易くはない。
 セレスタイトの光によって喰われ、消えていくのは黒靄のみ。甲冑の巨体を覆うどす黒い蒸気が代わりに攻撃を受け、何も為せずに消滅する。
 甲冑の燃料とされた影朧の呪いは、操縦席に術者がいる限り無尽蔵。
 多重弾幕では、千日手だ。

「ふむふむ。戦時のレリックも異界の技術も興味深くはありますが、これは戦争」

 だが、ここにいる猟兵は一人ではない。
 シャーロットは戦闘を専門としていない。
 だが、荒くれが手ぐすねを引くグリードオーシャンで運送業を営む彼女に戦闘力がないはずがない。

「お望み通り、大艦巨砲主義にてお相手致しましょう! とーう!」

 気の抜ける声と共に、ぽんっと軽い音がして。
 空が翳った。

「……は?」

 さすがの土蜘蛛も疑問の声を落とす。
 操縦者の精神の揺らぎに応じてか、崩れかけた体勢をアルトリウスは見逃さない。
 即座に追加で叩き込まれる蒼い魔弾が甲冑の表面をようやっと食い破る。
 慌てて影朧を装甲と纏ったとて、『それ』が現実にいる不条理に変わりない。

「餅は餅屋に、鮫は鮫屋に。すなわち──時代錯誤の兵器には古代魚でお相手します!」

 影朧甲冑の数倍ある威容を惜しげもなく晒して 巨大な尾びれが空気を叩いた。
 リードシクティス・プロブレマティカス。
 古代世界にいたとされる史上最大の魚類の霊が悠然と戦場を見下ろしている。

「……さすがに異様だな」
「ふふん、何がおかしいものですか!」

 シャーロット・クリームアイスは鮫魔術師だ。
 かの古代魚は、ジンベイザメのようにプランクトンを食すしたという。
 つまり鮫だ。
 鮫ならば彼女の術で召喚できて何ら可笑しくはない──!

「隙を見せたな」

 そしてアルトリウスは、たかだか古代魚の一匹や二匹で揺らぐ精神の持ち主ではない。
 アレが猟兵の術理により出現したというならなおさらのこと。
 だから二秒間弾幕を消す。
 続いていた圧力の消失に、土蜘蛛の姿勢が僅かに崩れる。
 リードシクティス・プロブレマティカスはその隙を見逃さない。
 がぱ、と大きく口を開けて。

「こちらの弾は邪魔か」
「いいえ、ちっとも! むしろそのまま釘付けにしておいてください!」
「了解した」

 急激に気温が上昇した。
 それも当然だろう。シャーロットが召喚するこの古代魚は口から熱線を放射する能力を持つ。
 その温度は太陽を容易く超える五十二億℃!

「古代の魚は超古代文明の力を持つ……当然にしてシンプルなロジックです」
「さすが、訳の分からない術を用いてくれる……!」

 ……ちなみに。
 「リードシクティス」こそ発見者の名前から取られているが。
 「プロブレマティカス」は、「問題のあるもの」という意味を持つ言葉だ。

「いざ、ぶっ飛べー!」

 それが齎すものなどごくごく単純。
 徹底的な、蹂躙だ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ロキ・バロックヒート
🌸宵戯

あぁ、生きている
破れた腹を押さえているけど
ひとと同じようなこの身
ゆるやかに死が寄り添う
痛みと死を感じるのは生きているってこと
世界と繋がること
あぁそっか
やっと君も生きることができたんだね
おめでとうって笑う

生死の狭間
戦の高揚
朱が踊る愉悦
このまま『一度』死んでもきっと気分がいいけれど
櫻龍がゆるしちゃくれないよね、残念
わかってるよ
ちぁゃんと待ってるからさ

壊すのと壊れるのどちらが先?
武のぶつかり合いには入れないけど
【UC】の影槍が貫いて相手の動きを捕縛
ほら今だよ宵ちゃん
君の櫻がいっとう咲くのを
特等席で見ていてあげる

君は生きて死ねるんだね
ちょっと羨ましいな
櫻龍がその門出を彩るなんて
しあわせでしょう


誘名・櫻宵
🌸宵戯


噫、生きているわ
戦が謳い
昂りに笑む
生と死と血と肉の蕩ける混沌
命を生きて愉しんで
あいしあいましょう
お遊びは終い
強者ところしあえるなんて幸せね

血が騒ぐ
此処は楽園かしら

愉しくて楽しくて堪らない!

薙ぎ払うは命吸収する呪詛這わせた斬撃
桜花のオーラで攻撃いなし
怪力込め刀で受け止め、見切り躱して
距離とれば呪殺弾の吹雪
傷口重ね抉り斬り裂き
蹂躙の限りを尽くしましょ

駄目よ
ロキ
私のかみさま
私が殺すまで死なないで
勝手に死んだら赦さない

疵の痛みも甘美なこと
赫の上を駆け抜けて
神の影囚うその先
渾身の力込めて衝撃波と共に放つ「絶華」

踊り躍って蹂躙の漄
散らして終いましょ

首を頂戴
全部頂戴
美しく咲いた櫻をロキがまってるの



●宵に戯れ、朝に散る

 影朧甲冑に乗った者は、死なない。
 正確にはその呪いに体を蝕まれ、操縦席を下りた段階で死ぬのだが。
 ……裏返せば、甲冑から下りるか壊されるかしないと死ぬことはない。

「ク、カカカカカカカカカカカカカ!!! まったく、この地獄こそ極楽よのォ!!」

 だから土蜘蛛は笑った。
 猟兵たちの攻撃は容赦なく、甲冑を砕き罅を入れ、中にいる男すら傷つけている。
 それが愉快でたまらないと。
 平穏に揺蕩うことの出来なかった鬼の、命輝かす在り様だと。
 
「おめでとう」

 ひっそりと、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)はその様を言祝ぐ。
 先の交錯で破れた腹が治ったわけではない。
 適当に止血しただけのそこは痛みをひたすらに訴えて、ロキが動くことを許さない。
 痛みと死を感じるのは生きているから。
 ぬるま湯の中、檻の中から世界を眺めているだけなど生きているなど言えないだろう。
 そういうモノだったが故の共感か──あるいは、そうでないはずの生物がそうなってしまったことへの憐憫か。
 くすくすと哂う声を溢すロキは、動く必要がない。

「ええ、本当に。私もあなたも、この楽園で生きている!」

 櫻龍が。
 艶やかな微笑みを咲かせる誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は破壊された甲冑の傷口へ刀を突き入れる。
 そこを狙われるなど分かり切っていると、甲冑の大太刀が屠桜の抱擁を阻む。
 鍔迫り合いは三秒きっかり。
 競ってばかりでは血は散らぬ。故に詰まらないと、同類故の直観か。
 弾かれたように距離を取る。
 櫻宵が視線ひとつで桜吹雪の呪殺弾を呼び出すと、土蜘蛛は装甲の上に影朧を纏って突っ込んでくる。
 童女めいた笑い声。
 嗚呼、なんて命知らず。こんな風に命を取り合えるなんて!
 笑って掲げた刃一つ。土蜘蛛の刃もまたひとつ。

「酷いひと」
「そんなの、お互い様よな」

 金属音と、激痛が重なって。
 灰桜の髪が花弁に紛れて一房散る。
 遅れて落ちる赫は、当然のように一雫。
 べったりとした黒も、ひとしずく。
 櫻宵も、土蜘蛛も、同じように浅く負傷してそこにいる。

「化外になるものだ。でなければ、貴様のような強者とは刃を合わせられなかった」
「そんなのお互い様よ。生と死と血と肉の蕩ける混沌を、もう少し愉しみましょう」
「言われずとも」
「……でも」

 一度だけ桜の視線が逸れる。
 その隙を土蜘蛛は狙わない。そうしない方が愉しく斬り結べると知っている化外は、ある意味人よりずうっと欲望に忠実だ。
 櫻宵の視線の先で、蜂蜜色のかみさまはただただ笑っているだけ。
 笑うばかりで何もしなくて、“それでいい”。

「あなたは駄目よ、ロキ」
「宵、ちゃんったら……酷いなあ」
「私のかみさま。勝手に死んだらゆるさない」
「はは、しってるよ、まったく嫉妬深いんだから」
「分かってるなら。私が殺すまで死なないで」
「ふ、はは。それこそ分かってるよ。君の想いはちゃあんと、」

 だから、行っておいて。
 どこまでも甘やかで優しい、故に絡め取って堕落を誘う声が【私刑】を執行する。

「まだ斯様に力を残していたか!」
「ああ、けど安心して。俺様がするのは宵ちゃんのお手伝いだけ」

 土蜘蛛の足元の影から現れて、縫い留めるように貫く黒槍。
 影で編まれたソレはロキの“本来”の力。その断片の発露。
 負傷も重なり十全ではないが、甘言も囁けば十二分だと知っている。

「ほら、今だよ宵ちゃん。君の櫻を特等席で見てあげる」
「ええ。あなたが待っているなら歓んで」

 甘美な疵の痛みに恍惚し。
 赫と玄を掻き分けて。
 神の影が囚えた悪鬼の下。
 それはさながら、待ち焦がれた逢瀬に向かう少女が駆け足になるかのように。

「生きて、死ねるキミがちょっとだけ羨ましいな。宵ちゃんに斬ってもらえるなんて」

 その死出を、彩ってもらえるなんて。
 ねえ、きっとキミの命はしあわせだったでしょう?
 そんな倖せを……なんて、ないものねだりに薄く笑って。
 死んでも死ねないかみさまが、その櫻吹雪を見届ける。

「踊り猛って路の漄。首が咲かせる美しい櫻を、私のかみさまが待っているの」

 ならば【絶華】は絢爛と。
 幻朧桜ごと散らす不可視の斬撃が、神の影ごと土蜘蛛を切り裂く。
 吹き出す蒸気、ひとならざる黒い粘液めいた血液を零して。
 果たしてソレは、笑ったようだった。

「……美事」
「賛辞、有難く」

 同類には、それで十分だった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ

命を賭してまでやり遂げたい事なんて、死んでしまったらそこで終わりじゃないですか
そう、思っていたのですけれど
あなたは違うのですね。あなたは、はじめから終わっていた。死んでいた

今のあなたは生まれたばかりのややこと同じ
ならば、たくさん、たくさん遊びましょう。お爺さま
膝丸はございませんが、わたしの開闢もきっとそれに引けはとりません

小細工などは不要。全身の回路を起こせ。ただ真っ直ぐに鬼の元へ
ミサイルの雨を【見切り】掻い潜り、雨よりも空を破る【霹靂】はいっそう速く

あなたのしたことは決して赦される事はないけれど、地獄の釜の入り口までは付き添って差し上げましょう

鬼さんこちら
手のなるほうへ


カイム・クローバー
『生きる』?命を代償にする兵器を駆って『生きる』だって?
笑わせんな。平穏に馴染めなかったってのには百歩譲って同情しても構わねぇ。だがよ、自分勝手な戦争でこの街を焼き尽くそうとしたお前が、乗り込んでるその下らねぇオモチャの中で『生きる』なんて言葉を口にしてんじゃねぇよ。

飛んできたミサイルの雨を二丁銃にて迎撃。【二回攻撃】に紫雷の【属性攻撃】を混ぜて、ミサイルを撃ち落として迎撃、そのまま他のミサイルの誘爆を狙う。
この誘爆は俺の身体を隠すための【フェイント】。視界を奪い、隙を見て魔剣に切り替える。脆い部分を【第六感】で感知し、【串刺し】に紫雷を交えた【属性攻撃】でUC。

オモチャはお片付けの時間だぜ?



●生き抜き方の貫き方

「笑わせんな」

 普段快活だからこそ、その色が一切ない声は重く響く。
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は聖人ではない。だが、身勝手な理由で奪われる命を見過ごせるほどの悪人でもない。
 故にこそ、土蜘蛛の言葉はカイムにとってはそういうものとしか聞こえない。

「自分勝手な戦争で街を焼こうとしたくせに、そんなオモチャの中で『生きる』なんて口にするんじゃねぇ……!」
「カイム様」

 そっと、とりなすようにヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)は首を左右に振る。
 穏やかなようでいて、彼の手はもう短刀を抜いている。
 少年人形の凪いだ金色が、静かにカイムの目を見上げる。

「あれは、やや子です」
「……なんだ、それ」
「生まれたばかりの赤ん坊です。であるから、たくさん遊んであげなければ満足しないかと」

 命を賭してままでやりたいことがあったとして、死んでしまったらそこで終わりだと思っていた。
 けれど、彼は──土蜘蛛は、そういうものではないのだろう。
 終わっていた。死んでいた。
 ようやく、ここで息をしている。
 そういう人を、ヨシュカは初めて見た。
 だけど。

「だからたくさん遊びましょう、おじい様。生憎膝丸はございませんが」

 全身の回路を賦活する。
 小細工? それで鬼は満足しないだろう。
 少年の矮躯は【霹靂】と成りて土蜘蛛へと一直線に突き進む。

「わたしの『開闢』が、あなたという鬼を斬り捨てて御覧入れます──!」
「応、応とも! かの源氏が如く、勇ましい武者姿を見せてみるがいい!」

 吼える土蜘蛛がヨシュカに指先を向ける。そこが開いて弾頭が姿を見せる。
 発射。
 黒靄の尾を引くミサイルは真っ直ぐに進む少年を包囲する軌道を描く。
 回避は、難しい。

「ならば最短距離を、」
「──ったく! 勝手におっぱじめてんじゃねーよ!」

 紫雷が弾ける。黒が爆発する。
 ひとつが壊れれば爆発は連鎖する。
 だがそれは白を巻き込むことなく、むしろその直進を後押しする。
 その色をヨシュカは知っているから唇に笑みを灯す。

「カイム様!」
「ミサイルはこっちで撃ち落としてやる! お前はそのまま行ってこい!」 
「はい!」

 カイムが抜いた二丁拳銃オルトロスが吼えるたびに爆発が起こる。
 拳銃とミサイルでは質量が大いに異なるが、雷の魔力で貫通力を付与された魔弾なら引けは取らない。
 影朧によって変質したのだろう、爆炎は真っ黒だ。
 その只中を抜けて、白は銀を振りかぶる。

「鬼さんこちら、手のなる方へ──!」
「これはこれは、可愛らしい、なッ!」

 近距離だからか、土蜘蛛が選んだのは斬撃。
 長大な大太刀を力任せに横薙げば、生まれる豪風か少年を煽る。
 その切っ先は、少年の眼球から五センチの距離を過ぎていく。
 霹靂の色をした視線は、決して歪まない。

「あなたがしたことは許されることではありません。ですが、」

 もしかしたら同情で。
 もしかしたら憐憫で。
 もしかしたら悲哀で。
 ──……もしかしたら、もっと別の何かだったかもしれない思いを込めて。

 ヨシュカの手足の長さと、決して長いとは言えない『開闢』の刀身を振り抜く。
 同時に袖から飛び出した苦無は視覚欺瞞のための見せ札。
 甲冑の装甲を破ることのできない金属音を聞きながら。
 ヨシュカは、全力で大太刀を踏んだ。 

「せめて地獄の釜の入り口までは付き添いましょう。──今です!」
「ああ。───持っていけ!」 

 黒煙を掻き分けて、紫雷が輝きを増す。
 あったはずの距離を秒単位でゼロにして突き進む、カイムの手にあるのは魔銃でなく魔剣。
 超速の踏み込み、速度を置き去りにする目にも止まらぬ刺突───【紫雷の一撃】!

「一個だけ、アンタに同情できることがあるとすれば」

 罅の入った甲冑の隙間へ、正確に刃を突き入れる。 
 その瞬間の彼の声はひどく静かな感情に満ちて。

「平穏に馴染めなかったってことだよ」
「フン……平穏に幸福を見出した者が何を言う」

 土蜘蛛は分かっていたように返すから、カイムはもう何も言わない。
 彼女が好きだと言っていた幻朧桜の花弁に、甲冑からこぼれた黒い雫が降りかかる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

朱酉・逢真
ッヒ、ひっひ! 楽しいかィ定命。平和を享受できない《はずれもの》。戦火にまみれてようやく息ができる歪んだ魂。望まれない命! ああ、かわいいぜ、いとおしいぜ。俺はてめぇの思想を許そう。理由を許そう。死に瀕してようやく息ができる不器用を許そう。平穏を唾棄する精神を許そう。万人が許さずとも関係ねえ。土蜘蛛・矢田という命を、俺は心から祝福するぜ。

最上の敵を用意しよう。この矮小なひとがたに許される最大限の祝福をもって《凶神の寵児》を呼びつけよう。かの大英雄もてこずった大怪物だ、一太刀で終わると思わんこった。かわいい土蜘蛛、まつろわぬものよ。てめぇが望む終わりを迎えられるか、俺ァのんびり眺めてるぜ。


榎本・英


嗚呼。その感覚はとても分かるよ。
この筆が身を貫く感覚
誰かの刃がこの身を貫く感覚
痛みを知り、そして昂る感情

いけないね。
いけないよ。

人であると云うのに身の内に潜む衝動がそれを許さない。
意味のない戦を私は望まないのさ。
ただの人だからね。

しかし、それで貴方が満たされ救われるなら
私は喜んで人でなしを演じよう。

体力は無いが、一瞬を切り取る事は得意でね。
筆を置かなければ朽果てない人でなし
授けるのは部位破壊。
足を頂こう。
私はこの物語に彩りを添えるだけ。

戦に生きて戦に散る命
誰かに伝えるのも良いかもしれない
己を貫いた立派な男だと、褒めてくれる人もいるだろう。

嗚呼。愚かな人。
とても立派だよ。



●左様ならの春が告ぐ

「ッヒ、ひっひ! かわいいぜ。嗚呼まったく、いとおしいなあ」

 朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は、神だ。
 病毒に戯れ、帳尻合わせに存在し、終焉を見届ける為にある、《はずれもの》のための神。
 だが、神とは必要とされてこそ在ることが出来る。
 ひとの思想と願いが統一されていない以上、災禍と凶星の神とて役割はある。
 ……まさか、斯様な場所で出会えるとは逢真にとっても予想外だったが。

「てめぇを許そう。土蜘蛛・矢田」

 戦火に浸されてようやく息の出来る歪んだ魂を。
 平穏な世界を望まず、また望まれない命を。
 死に瀕してようやく息の出来る不器用を。

 その歪、奇形、水子の生涯───大いに結構。

 その理由を許さぬと吼えられようが。
 どれほどその意志を蔑まれようが。
 土蜘蛛・矢田というまつろわぬ魂を寿ぐ神は、うっそうと笑って欠片を落とす。


「ああ。わかるよ」

 榎本・英(人である・f22898)は、緩やかに糸切り鋏の刃を開く。
 筆が人の身を貫く感覚も。
 誰かの刃が己の身体を裂く感触も。
 痛みが昂らせる己の感情を知る英には、土蜘蛛を詰る権利は存在しなかった。
 いくら己を人であると認めても。
 意味のない戦を理性では望まなくても。
 “殺人鬼”は、その衝動を知っている。

「でも、いけないね。いけないんだよ、土蜘蛛」
「何が言いたい?」
「──殺したくなるだろう」
「──クカカカカッ」

 笑う声は殺意の産物だと、言われなくとも感じ入るから。
 咄嗟の判断で右へと跳ねた。
 しかし遅い。英の左側で爆音が生じた。
 眼鏡越しの視界が生理的な涙で滲む。
 嗚呼、熱い。

「爆発物か……、派手な演出だ」
「外つ国ではミサイルというらしい。しかし、次は避けられんと思え」

 発射管の形に開かれた指先が英へとはっきり狙いを定める。
 左腕の動きが鈍い。次は美味く避けられるかどうか。
 ならば受けるか。
 筆を置かねば朽果てることのない命、どこまでやれるか試すも一興だが。

「おおっと。お楽しみのところ悪いが、コイツも混ぜちゃあくれねぇか」

 地を、毒が染める。
 それだけで壊れる訳ではない影朧甲冑と、物語を綴り続ける限り死ぬことはない文豪とでなければ瞬く間に朽ちていたところだろう。
 それほどまでに【凶神の寵児(ヒュドラー)】の纏う毒は悍ましい。

「かわいい土蜘蛛。まつろわぬものよ」

 神の声は軽く、されどどこまでも親愛を込めて。
 毒に侵された空気の中でもなお褪せぬ煙を肺いっぱいに吸い込んだ。
 
「かの大英雄すらてこずった、最上の怪物をくれてやる。てめぇが望む終わりを迎えられるか、俺ァのんびり眺めてるぜ」
「…………ク、カカカカカ!」

 それは歓喜の哄笑だった。
 削られるはずの角を保ったまま、周りを傷つけることでしか生きられない魂が。ようやくあるべきものを見つけたというその歓喜。

「斯様な神に見初められるとは──ここまで生きた甲斐あったというものよ!」

 ミサイルは毒に負けて腐り果てる。
 ならば選ぶべきは白兵戦だと、土蜘蛛は長大の太刀を振りかぶる。
 影朧を纏う蒸気であれば多少はその形を保ち続けられる。
 一閃、首を断たれた九ツ首の一。しかしその部位はすぐさま再生して毒を撒き散らす。
 神話に語られた生命力に一切の翳りなく。

「では、僭越ながら。物語に彩りを添えようか」

 巨体と巨体の生み出す隙間をすり抜けて、英は甲冑の足元へ。
 神や怪物に比べて人は非力だ。しかし、一瞬を切り取るならばこちらの方が勝る。
 それに多くの攻撃を受けて傷つき、毒に腐食された甲冑なら。
 非力な英でも切り裂ける。
 だから英は瞳を血色に光らせて、継ぎ目を目掛けて殺戮の刃を振り下ろす。

「戦いに生きて散る命、か」

 嗚呼、本当に愚かな“人”よ。
 親愛なる定命よ。
 もしこの物語を綴ったならば。
 誰かは、この男を褒め称えるだろうか?
 あのまつろわぬ者のための神のように。

「とても立派だよ」

 かつての人でなしは囁いて。
 毒に蕩けた装甲を切り落とした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マルガリタ・トンプソン


本物を知らないにしても、本気で殺し合いがしたい奴は侮れないな
闇雲に撃っても殺せないか

クリムヒルトを使っていいよ、リコ
彼、パパにちょっと似てるね
戦争に焦がれて、自分の愉しみのために身勝手に他人を巻き込んで
君は大嫌いだろ?
弾も恨みも遠慮なくぶち撒けておいで
ひ弱で銃もろくに扱えないけど、生きたいって欲は役に立つ
俺を死なせないようになるべく足掻いてみせて

リコが引き付けて無駄撃ちさせてる間に
俺が【目立たない】よう接近しつつ隙や弱点を探して
マリアで【暗殺】を狙う

俺は君のこと嫌いじゃないし、お説教もする気ないよ
ただ少し可哀そうだと思うだけ
つまらない世界だって生きてればいつか宝物にできたかもしれないのにって


ティオレンシア・シーディア

あーもーほんっとにめんどくさい…!
そんなに戦争したいんなら手勢と逢魔が辻にでも乗り込んで勝手に斬り死にしてなさいっての!
學徒兵より斬り甲斐あったと思うわよぉ!?

正直あたし近接技能はそう高くないし。一瞬ごまかす程度ならともかく、本職相手にまともに接近戦は無理ねぇ。
〇援護射撃メインで立ち回りましょ。
指先なんてわかりやすいとこに発射装置あるんだもの、攻撃の起こりは○見切りやすいわねぇ。○先制攻撃で●的殺を撃ちこむわぁ。
刻むルーンはエオロー・ソーン・イサ。
「結界」にて「門」を閉ざし「固定」する…発射を中止できない状態で火砲の砲「門」が詰まったらどうなるか、なんて。わざわざ言わなくてもわかるでしょぉ?



●映して落として撃ち抜いて

「それじゃ。たまにはこういうところで役に立ってもらおうかな」
「……え、ちょっとリタ!?」
「君は嫌いだと思ったんだけどな。戦争に焦がれて、自分の愉しみのために身勝手に他人を巻き込むみたいな奴」
「それって、」
「気付いた? パパにちょっとだけ似てるよね」
「……けど、だからって!」
「クリムヒルトを使っていいよ、リコ。なるべく足掻いてみせて」

 マルガリタ・トンプソン(イン・ユア・ハンド・f06257)は、多重人格者だ。
 故に彼女は己の別人格、リコッタを実体化させるユーベルコードを持つ。
 【侵食する鏡界(ミラージュ・ミラー)】で呼び出された長髪の少女はいかにも不服気に短機関銃を受け取った。
 へっぴり腰で構え方はなっていない。反動で照準が思い切り逸れる。おまけに土蜘蛛が少し足を踏み出しただけで大げさに騒ぐ。
 我が別人格ながら、本当に戦争に向かない少女だ。
 けれど『生きたい』という欲は、マルガリタよりリコッタの方がずっと強い。
 それこそ、土蜘蛛の戦争欲に勝るとも劣らぬほどに。

「さて、あとはこっそり背後狙い……っと?」

 そこでマルガリタは気付く。
 土蜘蛛へ向かう銃弾が、リコッタ一人のものだけではないことに。

「あーもーほんっとにめんどくさい……! そんなに戦争したいんなら逢魔が辻にでも乗り込んで勝手に斬り死にしてなさいっての!」
「影朧相手では戦争にならんだろう。単なる討伐は飽いたのだよ」
「しかもグルメとか最悪ねぇ!」

 甘やかな声で容赦なく吐き捨てるティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の射撃は的確。
 罅の入り始めた甲冑の隙間に入った銃弾に、しかし土蜘蛛は動じた様子もない。

「それで? 貴様は戦争をしてくれるのだろうなっ!」
「きゃあっ!?」

 土蜘蛛の近接技能は、リコッタは当然ティオレンシアも遥かに上回る。
 そもそも体の質量差からして違うのだから、土蜘蛛が踏んで揺らした地面は彼女たちの直立姿勢を奪う。
 慣れているティオレンシアはその場に膝着くことが出来たが、リコッタの方はたまったものではない。
 すってんころりん。転んで隙を見せたところを放っておく訳がない。
 振りかぶられる拳に、リコッタは咄嗟に体を傾けた。

「逃げるでないわ!」
「嫌に決まっているじゃないですか!」

 立てないのなら、立たなければいい。
 石畳が痛い。土埃と落ちた花弁があちこちを汚す。全部、全部、今だけだと我慢。
 立派に囮の役を果たしている分身に、マルガリタは僅かに微笑する。

「本気で殺し合いがしたいって奴も、死んでも死にたくないって欲求も。本当に侮れないな」
「……あなたの分身だけど、ほっといていいのぉ?」
「闇雲に撃っても殺せないからね。君はその為のアイデアを持ってそうだけど」
「えぇ、一応ねぇ。あなた、あいつにミサイルを撃たせられる?」
「オーケイ、やってみよう」

 リボルバーの銃弾を入れ替え始めるティオレンシアを背後にマルガリタは駆け出した。
 右袖に隠した拳銃は暗殺には持って来いだが気を惹くには向かない。
 だから鋭く速く、投擲したのはシャルロット。そう名付けられたダガーが甲冑の表面で金属音を奏でた。

「リコにはああいったけど、俺は君のこと嫌いじゃあないよ」

 ゆっくりと振り向く土蜘蛛に向けてマルガリタは呟く。
 聴こえているのか、いないのか。
 正直に言えばどっちでもいい。 こんなものはただの感想で、感傷だ。

「可哀想だったね。つまらない世界だって生きてればいつか宝物にできたかもしれないのに」

 マルガリタと土蜘蛛の間には距離があるから、太刀では届かない。
 だからミサイルを秘めた指先が彼女の方へと向けられる。
 砲門が、開く。

「ねぇ、知ってる?」

 銃声は三連続。
 その発射を見切ったティオレンシアの、先の先に叩きつける【的殺(インターフィア)】。
 同じ箇所へと撃ち込まれた銃弾は指先の砲門へと吸い込まれて、くぐもった音を鳴らす。

「攻撃って、つまりは防御を解除した姿勢だってこと」
「その程度の銃撃で!」
「『その程度』? 違うわよぉ、もうこっちの攻撃は終わったの」

 今、ティオレンシアが撃ったのはルーンを刻んだ弾丸だ。
 種類は撃った弾数と同じ三種。内容はエオロー・ソーン・イサ。
 すなわち。

「『結界』にて、『門』を閉ざす形に『固定』……さぁて、どうなるでしょう?」

 答えは簡単。
 出口を無くしたミサイルは、土蜘蛛の指の中で暴発する。
 己の力に砕かれて、甲冑のパーツがついにばらばらに落ちていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ

匡(f01612)と

戦争の、意味…
まさか辞書もご存知無い?

蒸気に曇る眼鏡を外す
兵として、二刃を手に

駆ける身は低く
間合い、速度、可動域、一撃の範囲…
見切る全てを知識に照らし回避を
見え見えの大上段
その上バックには匡が居る
ならば、何より僕が警戒すべきは手数…返す刃
鋼糸を掛け引き、更に大きく軌道も逸らし

「思わなかった」?
「いいなあ」?
「尋常に」?
教えましょうか
…だから“遊戯”だと

戦場に正道は無い
戦争は“生きる”場所じゃ無い

短剣で受け流し作る隙へ
長剣を…UC、解放

正直
アレの主張も生死も如何でもいい

隣の芝を舐めた代価
手前の命じゃ安過ぎる

匡が謝る事なんて無いですよ
あぁいうのは…怒るものでしょうから
普通は


鳴宮・匡
◆兄さん(f00472)と


UCは攻撃の精確性に重きを置く
前を行く兄さんの血路を開くのが仕事だ
振り下ろされる斬撃を銃撃で防ぐ
威力重視か、当てに来るか、速度――回数重視か
その時々で相手が狙いとするところを見切り
応じた箇所を狙撃して封じていくよ

何を思っていようと関係ない
弱いやつからゴミみたいに死んでいく
――それが、戦争ってものだ
あんたが言うような“いいもの”じゃない

兄さんの斬撃を妨げられないよう
最後の一射は、太刀持つ腕の駆動部を破壊

だから、お前もここで死ぬんだ
何にもなれないまま、何も為せないまま

思い知って満足したろ
さっさと消えてくれ

……ごめん、兄さん
らしくないとこ見せた
案外俺、怒ってたのかも知れない



●戦争、とは

 もう、問答を行う段階ではない。
 本物の戦場の中で生き抜いてきたからこそ。
 幻想の戦場に焦がれるばかりの悪鬼に叩きつけるのは銃弾と斬撃だけでいい。
 それが、彼ら戦場傭兵の共通認識だった。


 身を低く、空気抵抗と被弾可能性面積を減らす。
 両手に握るは常の暗器でなく、二種二振りの刃。
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は珍しく、その双眸を覆う硝子……眼鏡を外していた。
 蒸気で曇るのも理由の一つだったが、それだけではない。
 「それだけ」で済まされないほどの殺気がクロトの痩身に宿っている。

「時にご老体。辞書を引いたことは?」
「生憎机仕事は苦手でな。それがどうした」
「何。道理で夢想家だと思っただけです」
「そうか、よォ!」

 揮われる、大上段からの振り下ろしは避けるに容易い。
 だから警戒すべきは返す太刀と分かっている。
 道中の幻朧桜に引っ掛けたワイヤーで軌道変更。その糸ごと断たんと迫る太刀に嘲笑う吐息を一つ。

 ───銃声。

 いくら距離があろうが、いくら素早く振るわれようが。
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)の“目”から逃れられる訳がない。
 思考と動きを一致させるためなのだろう、甲冑が人型を取っている以上どこを撃てばいいかなど分かっている。
 無銘のスナイパーライフルの引き金は、初めからそう誂えられたように馴染むから。
 大太刀を振るうその腕が、兄貴分を傷つけぬよう逸らすことなど容易かった。

「戦争なんて、いいものじゃない」

 【水鏡の雫(リフレックス)】。
 トランス状態に移行した彼の狙撃はいつも以上に精確だ。
 土蜘蛛の指先に備わったミサイル発射機構が壊されている、すなわち遠距離攻撃を気にする必要がないことも視えている。

「何を思っていようが、どんなにいい奴だろうが」

 装填、射撃。
 攻撃に移ろうとするその動きの始まりを潰していく。
 移動しようとするなら足を撃つ。
 土蜘蛛を自由にはさせない。
 
「弱い奴から、優しい奴から、……他人を気にする奴から、ゴミみたいに死んでいく」

 脳裏に過る光景はいくら時を経ようと褪せることなく。
 斬り捨てて、沈めて、殺して、そうでなければ生きていられなかった匡にとって。
 土蜘蛛の願う世界は肯定できるものではなくて。
 だからもしかしたら、それは。
 “凪の海”とまで呼ばれた人でなしの中に生まれた感情なのかもしれなかった。

「だから、お前もここで死ぬんだ」

 何にもなれないまま。
 何も為せないまま。
 ただ戦乱を起こそうとした、一体の化外として。
 だから最後の一発は土蜘蛛の右肩へ喰い込ませる。
 人間であっても腕を自由に動かすのに重要な部分だ。異物が食い込めば自由に太刀を揮うことはできないだろう。

「くっ……よくやる!」
「だから“お遊戯”なんですよ。夢見心地の理想家サン」

 不自由になってがら空きになった懐へ、クロトの身体は滑り込む。
 さすがの腕と仕事ぶりだという賞賛は内心でだけ。
 この距離まで潜り込めたなら、後はこちらで仕上げるべきだろう。

「戦争に正道はない。“生きる”場所でも何でもない」

 だから、土蜘蛛にかけた声は異様なまでの低温で。
 かけられた男が思わず息を呑み硬直するほどの殺気を孕む。
 そしてそれを見逃すクロトではない。
 未だ動きを見せる左腕へは短剣で牽制、本命の斬撃を長剣にて揮う。

「四手先すら読めるものか。今ここが終焉だ」

 クロトにとって。
 土蜘蛛の主張も感情も生死も、まったくどうでもいいモノでしかなかった。
 ただただ、平和を享受し命の危機なく暮らせる世界に生きながら隣の芝ばかりを羨み舐めたその態度。

「手前の命じゃ安すぎる。その玩具ごと置いて逝け」

   Answer
 【唯式・絶】。
 マジックナイトたるクロトの、全力の魔力を込めた斬撃が土蜘蛛の土手っ腹を食い破る。





「……ごめん、兄さん」
「? 何がですか。バックアップは完璧でしたよ」
「そっちじゃなくて……らしくないとこ見せただろ。案外俺、怒ってたのかも」
「それこそ謝ることじゃないですよ。普通は……怒るものでしょうから」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
結局のところ
どんな論を述べたとて
貴方は聞き入れはしないのでしょう

ならば止めるのみ
幕引きを致しましょう

私は他の猟兵の援護を致しましょう

身体を液状化
その上で目立たなさを活かし
物陰等に潜みつつ相手の挙動を観察

他の猟兵へ攻撃が向けば
身体を捻じ込んで庇います

攻撃を受けた際
飛び散った己の血肉を液状化
私の毒をぶちまけて差し上げましょう

まぁ先ほど手の内を明かしてしまいましたから
毒の効果は薄いかもしれませんが
…私はね
体内毒の組成を自在に弄れるんですよ

ぶちまけた有毒性の栄養剤を標的に
体内UDCを活性化
そのまま『貪食』
攻撃の起点となる腕部装甲を毟り取ってしまいましょう

さあ お嬢さん
お食事の時間です


篁・綾
アドリブ連携歓迎で。

…うちの世界でもそうだったけれど、どうして男の人はこの手の傾向が結構あるのかしら。
困ったものね。
…市井の者にとっては、戦争なんてはた迷惑なだけなのに。

敵の攻撃は【見切り、残像】で回避し、【オーラ防御、武器受け】で防御しつつ、

刀を振るって桜吹雪と【衝撃波】を飛ばして【目潰し】しつつ、
【毒使い、マヒ攻撃】も駆使して動きを封じて行きましょう。

その上で【残像、フェイント】を駆使して攻撃をかわしながら間合いを詰め、
【カウンター】で【鎧無視攻撃】を用いて指定UCを使用。
触れた物を無数の桜吹雪へ変えるわ。

…花と散るのが望みならば、文字通り花と散らせてあげましょう。
…散華せよ、土蜘蛛…!



●芽吹き、華咲き、いつか散る

「……うちの世界でもそうなんだけど」

 篁・綾(幽世の門に咲く桜・f02755)の零す溜息はひどく重い。
 でありながら、土蜘蛛を見据える視線に揺らぐ気配がない。悪意を持って「そう」しようとする輩に着ける薬はないと知っているからだ。

「どうして男の人はこの手の傾向が結構あるのかしら。困ったものね」
「……同感です。ですが」

 冴木・蜜(天賦の薬・f15222)も、登録上は一応男性として扱われる側なのだが。
 とはいえ土蜘蛛の持つような闘争心とは真逆の位置に存在するのがこのタールだ。
 とろりとろりと身を蕩けさせ、刀を構える綾の影に潜んで囁く。

「どんな論を述べたとて聞き入れはしないのですから……止めるしかありません」
「そうね。その通りだわっ!」

 桜が舞う。
 地面に積もった花弁が再び吹雪となる。
 綾の疾走は妖狐らしい肉食獣の美しさ。だが、見惚れて隙を晒す者は一人もいない。
 走りながら放つは斬撃一発。
 抜けば花散る彼岸桜、それが武器であることなどもうとっくに知られている。

「はあっ!」
「甘い!」

 ぎし、と土蜘蛛の関節は錆めいた音を鳴らしながらようやっと動く。
 それでも体格差は大きい。
 僅かに動かした腕と指、その風圧だけで惑乱の桜は散らされる。

「くっ、」
「魔人も儂だよ、お嬢さん」

 肩を動かせなければ太刀は扱えない。故にその手は柄ではなく拳を握る。
 肘から下だけを動かした打ち下ろしが接近した綾の頭蓋を捉えて。

「おっと、失礼」

 骨肉を砕く手応えはなく。
 飛び散ったのは黒い粘液だった。
 蜜はブラックタールだ。人型に擬態していたとて、その本質は天賦の毒蜜。
 故にその体の一部は影朧甲冑にさえ通じる毒と。
 薄く微笑むその表情を土蜘蛛は誤認する。

「どいつもこいつも馬鹿の一つ覚えを……」
「そう思いましたか?」
「!?」

 ・・
 違う。
 そう直観したのはその毒の効きが“薄すぎた”から。
 つまり飛沫は本命ではないと、気付いた時にはもう遅い。
 蜜の血肉はあらゆる毒と薬に変異する。
 有毒の栄養剤さえ直撃すれば、『彼女』の食欲は底なしだ。
 同時に体内毒をそっと弱める。ああ、胎で彼女が蠢いている。

「おはよう、お嬢さん。さあ、お食事の時間ですよ」

 どうぞ、残さないように。
 いっそ慈愛さえ込められた呟きと共に放たれたのは【貪食(アルビドゥス)】。
 その正体は、普段は蜜の体内に眠る植物型UDC『智慧の樹』。
 いくらあらゆる種族が混在するサクラミラージュの民でも、そんな捨て身は想定外。
 蜜にとっては捨て身でも何でもない彼女の種子と枝は容赦なく、甲冑を食い破らんと枝を伸ばす。
 罅の入った装甲がばきばきを内側から爆ぜ割れて破片をぱらぱらと零した。

「ぐ、ぎぎ……だがこの程度!」
「本当に『その程度』で終わると思ったかしら」

 いっそささやかに、されど甘やかに。
 蜜に庇われて下がったはずの綾が柔らかく地面を蹴った。
 彼女の髪に、耳に、追随するのは彼女の力が生み出す桜。
 甲冑には通じないとはいえ有毒の飛沫が漂う中を、綾は己の超常で突破する。

「戦争なんてはた迷惑なだけなのよ。特に市井の者にとってはね」
「それを望む者もいるのだ。儂と同士たちのように!」
「……そういうところが男の人の困り者よね。まあ、いいわ」

 攻撃の起点となる腕は、枝に蝕まれろくに動かない。
 見抜いた綾はけれど油断なく、一番枝の多い……最初に栄養剤が付着した部位の前で止まった。 

「花と散るのが望みならば、文字通り花と散らせてあげましょう」
 
 まるでダンスの相手を乞うように、そうっと差し出す綾の繊手。
 それは触れたもの全てを桜と散らす大技。

「いざ千々に。散華せよ、土蜘蛛…!」

 【乱桜散華】!
 桜吹雪が舞い上がる。
 土蜘蛛の腕を喰らいつくして、麗しの華が空に散る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミネルバ・レストー
禄郎(f22632)と


スマホをスピーカーモードにすれば、禄郎の声だけが響く
どうぞ存分に語らって頂戴
わたしが最期まで見届けてあげる

禄郎と土蜘蛛のやり取りには口も手も出さないけど
万が一禄郎の位置を気取られたら「高速詠唱」で
【逃れ得ぬ氷結世界】の氷柱を飛ばして牽制するわ

…そうね、禄郎
戦争なんて、どこまで行っても弱いものいじめでしかないわ
だから、土蜘蛛
あなたがそれを望むなら、哀れな犠牲者として殺してあげる
合図を受けてこの手を振り下ろせば
「全力魔法」の結果として無数の氷柱があなたを貫くわ

いくらあなたが禄郎の銃撃で力を増していても
同じくらい禄郎の言動に揺らいでいるはず
わたしたち二人が、負けると思って?


氏家・禄郎


ネリー(f23814)と

土蜘蛛……朝敵に使われた名
君は「世界に仇なす敵として戦争をして生きようとしている」ね

ネリーの携帯を通じて会話を試みる

【闇に紛れる】から拳銃で【狙撃】
時間は一分毎、狙いは見えない所から「音」を与える精神的な拷問『戦術』

君は歪な人間性を戦いで埋めることで人生の折り合いをつけてきた
けれど求める戦争を見つけ、それに乗った
ならば私は戦いで殺さない
君を満たすことになるからだ
私は君の心と君の望む戦争を殺す

ところで君は後、どれくらい、このメトロノームに耐えきれる?

「ネリー!」
後は彼女へ
結局戦争とは弱い者苛めなんだ、土蜘蛛はただ踏みにじられるのみ

そうだよネリー、君と一緒だから僕達は勝つ



●雪解けの泥濘に沈め

「……む?」

 眼前に滑り込まされた“それ”を、一瞬土蜘蛛は理解できなかった。
 手のひら大、厚さも段ボール程しかない金属らしき板。
 アース系世界では一般的なスマートフォンも、サクラミラージュには存在しないオーバーテクノロジーの産物だ。
 黒く沈んでいた表面が突然光を灯し、すぐに男の声を放った。

『土蜘蛛。それは元を辿れば朝敵に使われた名だ』
「! ……通信機器か」
『ああ、君はこれも初見か。それはすまなかったね』

 同時に銃声。
 着弾音は微かだが、衝撃はほとんどない。 
 そもそも影朧甲冑の装甲は何の変哲もない拳銃の弾丸程度で抜けはしない。
 ……とはいえもうかなり傷と罅が増えているのだから、正確には壊れそうにない部分を狙っているのだろう。
 指先の砲門が壊れている以上、見に徹するべきとは分かっているのだが。
 ……どうにも、不安が拭えない。

『今は不死の帝による全世界統一時代。察するに、土蜘蛛たる君は世界に仇なす敵として戦争を起こし』

 銃声、着弾。金属音だけが軽くも重く。

『……そして、そこで生きようと思っている』
「それがどうした」
『いや何、ただの敵対宣言だよ』

 銃声、着弾。
 こうも何発も受けていれば凡その位置は体で読める。
 だからと踏み出した、その爪先に氷柱が刺さる。

「……ツーマンセルか!」
『君は歪な人間性を戦いで埋めることで人生の折り合いをつけてきた。その点については大いに同情しよう』

 地面が凍る。足を踏み出すことすら許されなくなる。
 銃声、着弾。
 氷を砕かぬよう、隙間の鉄色に精確に当て続ける射撃の腕。
 振り上げようとした腕も氷柱に縫い留められてその場に留まる。

『けれど求める戦争を起こす手段があった。それに乗っかったのが君という“土蜘蛛”だ』
「……っ、嗚呼、その通り! 実際に来ただろう。儂という戦争を止めに!」
『だから僕は、君を戦争では殺さない。君を満たしてやるのはまっぴらごめんだ』

 銃声、着弾。
 いっそ機械の手によるものだと言っても納得できる一定間隔の狙撃が、また。
 ……また?

『ところで』

 どこから狙われている。
 敵はどこにいる。
 どうすれば倒せる。
 焦る思考を貫くように、また銃声と着弾の感覚が。

『君は後どれくらい、このメトロノームに耐えきれる?』

 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。 銃声、着弾。

 ………………
 ……………
 …………
 ………
 …… 
 …


 伝承における土蜘蛛は、時の権力者の手によって踏み潰された。
 彼がどこまで考えてその名を名乗っていたのかなど、今となっては知りようもないが。
 拳銃のマガジンを入れ替えながら、氏家・禄郎(探偵屋・f22632)は通話中の向こうへ聞こえないように声を落とす。

「君は知り得ないだろうけど。結局戦争とは弱い者苛めだ」
「そうね。それを望むひとに出来るのは、哀れな犠牲者として殺してあげることだけ」

 その声に応じたのはミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)。冷静に氷柱を土蜘蛛へ飛ばす。
 大物狩り(レイドバトル)だってお手の物だ。中に人がいることなど、それこそ今更でしかない。
 現実に、死んだ人が蘇りはしないと分かっているが。

「それに」
「?」
「わたしたち二人が、負けると思って?」
「……ああ。その通りだよ、ネリー」

 土蜘蛛と名乗った……操縦者たる矢田という男は。
 戦場に生きたが故に伴侶はついぞ持たなかったという。
 かつて、血と泥濘の戦場に浸ったが故に伴侶と別れた男は。
 今、隣にいる少女に向かって強く頷いた。

「君と一緒だから、僕達は勝つ」
「ええ。だから、もう終わりにしましょう」

 ───領域顕現・【逃れ得ぬ氷結世界】。

 それは無数の氷柱が織り成す刺殺と凍結の絶殺領域。
 本来、広範囲に散らばった敵をまとめて葬り去るためだった技が土蜘蛛たった一人に向けられる。
 防御どころか動けもしない機械に抗しきれるはずがない。
 宣言通りの弱い者苛め。
 正しく戦争の縮図めいた光景を、禄郎とネリーは二人揃って見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子

太平の世に兵器は必要ない。
そうね。まったくその通り。
必要とされなかったものが、必要となるために、必要ではなかった力を振るう。
必要ではないものが、必要とされなくなるために、必要とされる力を振るう。
終わった後か、終わる途中か、それだけの差違しかないのよ。
……だからこれは只の八つ当たりで、同族嫌悪なのだわ。

――機械剣《クサナギ》、全機能制限解除。

機械剣のトリガーを引いて加速。
ミサイルを振り切るように鋼糸を張って宙へと逃れ
釘をデコイに撒きながらアンカーを刺して巻き戻し急旋回。
踏み込むのは、甲冑の眼前まで。

おまえを楽しませるのは、心底業腹だけれども。
良いわ。生きたなら、斬り果たしましょう。

散りなさい。



●同類、いざ去らば

 革靴が、勇ましいまでの音を立てて石畳を踏んだ。

「そうね。まったくその通り」

 太平の世に兵器は必要ない。
 だから必要とされなかったものが、必要となるために、必要ではなかった力を振るう。
 いつかあの世界が平和になったら、兵器は必要なくなってしまう。
 だから必要ではないものが、必要とされなくなるために、必要とされる力を振るう。
 終わった後か、終わる途中か。
 どちらがどちらなのか、今更言うまでもない。
 今更の問答。それでもそこにいたのは、いつかの未来での自分かもしれなくて。
 だから、
             Limit・Release
「――機械剣《クサナギ》、全機能制限解除」

 花剣・耀子(Tempest・f12822)は機械剣のトリガーを一片の容赦もなく引く。
 【《八雲》】。
 相手がもう死に掛けのぼろぼろだろうと手加減の要はない。
 全力だ。

「!」

 釘が甲冑の罅の隙間に突き刺さる。
 加工を施された五寸釘の破壊力は見目通りではない。破滅の呪詛が破壊の痕を押し広げて物理的に動きを止める。
 対処だと、甲冑の隙間から黒々とした影が溢れ出す。蒸気圧で対抗する? なるほど悪くない。
 だが遅すぎる。

「おまえを楽しませるのは、心底業腹だけれども」

 巻き戻し、急旋回。
 着地点は甲冑の眼前。勢いに負けた石が足裏で砕け散る感触。
 釘に結ばれていたワイヤーが用は終わりと解かれて。
 風圧に負けた花弁と黒曜の長髪が舞い上がるまでにかかった時間はほんの三秒。
 その光景を例えるならば、やはり。

「花の、嵐」
「良いわ。生きたなら、斬り果たしましょう」

 まつろわぬ鬼と同じ名を冠した組織で育った少女は。
 まつろわぬものは平定されるのが常なのだと、分かってしまっている彼女は。
 それでもいつかのその時に、誰も諦めたくない耀子は。

「散りなさい」

 今はまだ、必要とされたその機械剣で。
 必要を証明できなかったその甲冑を両断する。
 耳障りな金属音、湿った肉を斬る手ごたえを感じながら左から右へ真っ二つ。
 最も頑強だったはずの胴がついに断ち割られた。
 その断面から飛び散るのは血ではなく、もっと黒々とした粘液。
 いかなる風の悪戯か、幻朧桜の花弁が泥の中に落ちる。

「……ああ、それに見送られるなら」

 そこが操縦席だったのだろう。僅かに覗いた皺だらけの顔は同じ色に塗れていた。
 クサナギを軽く振って粘液を払いながら、耀子はそちらに冷えた目を向ける。

「悪くない、最期だろう。……どう思う」
「分からないわ。死んだことはないもの」
「そう、か。…………残念だ」

 奇妙なほどに清々しい声を最期に。
 影朧甲冑“土蜘蛛”は、最後の操縦者の死亡と共に機能を停止した。






 化外はいつだって討伐されるが定めだ。
 多くの人々に憎まれ、嫌われ。
 僅かな誰かに認められ、肯定されて。
 己を倒した者を英雄と任ずる、戦争の敗北者。
 それが『土蜘蛛』。まつろわぬ鬼の宿命。

 英雄の……猟兵の手で土蜘蛛は散華した。
 だからこの噺は、これにておしまい。
 めでたし、めでたし。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年04月20日


挿絵イラスト