オートクチュール・ゴシックランド
●女王陛下の仰せのままに
「――勅令である!」
如何にも不思議の国に居そうなハートの“トランプ兵”が聲高らかに、其の手に持った令状を読み上げる。ハートの意匠を刻んだ其れには、彼らが女王から賜った有難いお言葉の数々が綴られているのだ。
「これより、我らがこの国を徴収する!」
「此処は女王陛下の領地となるのだ!」
彼らの我儘な主が命ずるままに、無数のトランプ兵たちは此の国へ布陣を展開していく。格調高い黒に染まった街が無神経な赤と白の彩で埋め尽くされようとする様を、愉快な仲間達はおろおろしながら見つめていた。
「困ったわ、困ったわ」
上品な“トルソー”の婦人達がふるふると震えている。彼女らが纏うドレスといえば、どれもこれも艶めく漆黒の彩。レースとフリルを幾重も重ねて、シルエットこそ豪奢だけれど――。思い思いに其の身を飾りたてるのは銀鎖の蜘蛛の巣や、真鍮の髑髏ブローチなのだから、何処か仄暗い印象を感じさせる。
「これはこれは、どうしたものだろう」
一方で瀟洒な“ボビン頭”の紳士たちは難しそうに腕を組み、侵入者にどう対処すべきか考えあぐねていた。彼らが纏うスーツや燕尾服もまた、艶めく漆黒の彩ばかり。されど、その趣と来たら古風かつ華やかなもの。フリルやリボンを重ねた豪奢なシャツを纏う者がいれば、大輪に咲く布薔薇を胸元に飾る者や、レースを重ねたハットを被る者まで居る。
彼らは其の見目の通り落ち着いた気性の、たいへん品が良い住人たちである。戦う術――愉快なユーベルコードこそ持っているものの、肝心の荒事は得意では無かった。
「争いは嫌いだわ。ドレスが汚れてしまうもの」
「でも、私達の国が……」
「むむむ、やるしかないだろうね」
声を潜めてひそひそ、相談し合う愉快な仲間達。どうやら侵略者に立ち向かう方針で固まりそうだが――。そうこうしている間にも、トランプ兵たちは勝手気ままに進軍して行く。
「しかし……なんと黒い国だ、ここは」
トランプ兵の嘆息も無理はない。この国と来たら、目に映るもの総てが黒い彩で包まれているのだ。
天の帳は勿論、宵闇の黒。彼らがいま進軍する石畳も、あちらこちらに咲き誇る花々も、並び立つお屋敷も、どれもひとつ残らず艶やかな漆黒の彩を纏っていた。
「もし女王陛下がご覧になったら、どれほどお怒りになるかッ……」
なにせ彼らが纏うスート――“ハート”のイメージカラーは“赤”なのだ。黒塗れの世界を目にした主の反応を想えば、トランプ兵たちの間には戦慄が走る。
「徴収せよ、徴収せよ!」
彼らの間に伝染した恐怖は、軈て暴力へと変化する。ハートを刻んだスピアを掲げながら、兵隊たちは声を揃えて進軍して征った。
「この国を我らの槍で――赤色に染め上げるのだ!」
●ゴシック・ワンダーランド
「オウガに襲われている国がある」
グリモアベースに集った面々を見回しながら、機械仕掛けの男――ジャック・スペード(J♠️・f16475)は徐に口を開いた。
「アンタ達の力が必要だ。助けに行ってやってくれ」
適切な言葉を探すように双眸をカチカチと明滅させて、男は事件の仔細を語る。
曰く――。アリスラビリンスの或る平和な国に、『トランプ兵』たちが侵略して来たらしい。彼らは凄まじい大群なので、戦い慣れていない住人たちは苦戦している。此の侭だと、不思議の国はオウガ達に滅茶苦茶にされて仕舞うだろう。とはいえ、猟兵達だけで立ち向かった所で、キリがないのだ。
「愉快な仲間達と共闘して、路を拓く必要があるだろうな」
なにせ、侵略者はトランプ兵だけでは無い。彼らの後には、強大なオウガが控えているのだ。愉快な仲間達に強大なオウガの相手は荷が重い。
ゆえに、ある程度トランプ兵の数を減らしたら、猟兵たちは戦場を離脱して強大なオウガの討伐に出向いて欲しい。
残りの兵隊たちへの対処は、愉快な仲間達に任せておけば大丈夫。戦いに不慣れな住人達だけれど、猟兵たちの活躍を見ればきっと勇気を振り絞り、全力を尽くしてくれる筈だ。
「アンタ達に出向いて貰う国を一言で表すと……“ゴシック”だ」
黒いハットの縁を鋼鐵の指先でなぞりながら、男は淡々と説明を続ける。洒落者の多い猟兵達だ。ゴシック――“ゴス”とも呼ばれる其の趣に、親しみを感じる者も居るだろう。
「国の有様は勿論。愉快な仲間達の見目や、ファッションも」
目に映るもの総てが壮麗で仄暗い――ゴシックの趣を纏っているのだと、男は淡々と語った。建物はゴシック様式、住人たちの見目はほんの少しファンタジー・ホラー風味。
街の至る所に咲く花も、住人たちが纏う服も、彼らが住まうお屋敷も、総てが黒い彩に染まっているのだ。
「因みに此処の愉快な仲間達は、裁縫が得意なようだ」
住人が纏うゴスな衣装は、総て彼らの手作りだと云うのだから驚きだ。見た目は少し怖い仲間達だけれど、繊細な感性と穏やかなこころを持って居るのだと男は語る。
「オウガを無事に退治したあと、彼らに礼服でも作って貰うと良い」
住人達もきっと、快くお礼をしてくれるだろう。矢張り淡々と戦闘後の楽しみを示した男は、ステッキで床をかつかつと叩く。すると展開されたグリモアが、くるくる、くるくる回り始めた。
「それでは、武運を」
向かう先は奇妙で愉快な世界――アリスラビリンス。
華房圓
OPをご覧くださり、ありがとうございます。
こんにちは、華房園です。
今回はアリスラビリンスで、冒険譚をお届けします。
●一章 <集団戦>
トランプ兵たちとの戦闘です。
彼らは凄まじい大軍なので、猟兵たちだけでは倒しきれません。
したがって愉快な仲間達と共闘すれば、ボスへと至る路が拓けるでしょう。
●二章 <ボス戦>
この地へ攻めて来たオウガとの戦闘です。
●三章 <日常>
この国を守ってくれたお礼として、愉快な仲間達が皆さんに、
『ゴシック風のドレスorスーツ』を仕立ててくれるようです。
おまけに靴やアクセサリーなども作ってくれます。
お好みのデザインやモチーフなどを是非、彼らにお申し付けください。
彼らを手伝って、一緒にお洋服やアクセを作ったり。
完成したお洋服を纏って、ゴシックな世界で記念撮影を楽しんだり。
ファッションショー気分で、お気軽にご自由にお楽しみください。
お声掛けいただいた場合のみ、グリモア猟兵のジャックが登場します。
●愉快な仲間達
見た目はちょっと怖いけれど、気性は穏やかな住人達。
戦いには不慣れですが、猟兵達には好意的で従順です。
『トルソー婦人』
上品なゴシックドレスを纏った、お喋りなトルソーたち。
固いボディで体当たりされると痛い。礼服作りとアクセ作りが得意。
『ボビン卿』
頭がボビン(糸巻)の形をした、異形頭の紳士たち。
奇麗な絲で敵をぐるぐる巻きに出来る。礼服作りと靴作りが得意。
●<お知らせ>
どの章からでもお気軽にご参加いただけますと幸いです。
単章のみの参加もどうぞお気軽に。
各章のプレイングは断章追加後から、それぞれ受付いたします。
またアドリブや連携の可否について、記号表記を導入しています。
宜しければMS個人ページをご確認のうえ、字数削減にお役立てください。
それでは、宜しくお願いします。
第1章 集団戦
『トランプ兵』
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POW : 『女王直々の召集令状である!』
【ハートの女王】から【の令状を読み上げ怒号】を放ち、【令状に従い組み付くトランプ兵】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : 『赤く赤く、染めねばなるまい!』
【ハートのスピア】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ : 『――このままでは首を刎ねられてしまうッ!』
自身が【ハートの女王に対する恐怖】を感じると、レベル×1体の【ハートのトランプ兵たち】が召喚される。ハートのトランプ兵たちはハートの女王に対する恐怖を与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:あなQ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●黒き世界の攻防戦
黒く艶めく石畳の上を、荘厳たる黒の世界を、幾つもの“赤”が塗り潰して行く。
ハートのトランプ兵達はいま、彼らの主――“ハートの女王”が命ずるままに、このゴシックランドを丸ごと徴収しようとして居た。
鋭角の屋根が並ぶ街並みを埋め尽くしたハートの大群は、手始めに彼らの女王が『最も嫌う物』を排斥する。
「黒い花などもっての外だ! 誰ぞ赤いペンキを持てッ!」
「ペンキが無ければ、我らで轢き潰してしまえ!」
女王様は赤がお好き。黒い花など見つかろうものなら、彼らの首は――すぽんっ。クロッケー・ボールの如く、余りにも軽やかに刎ねられて仕舞うに違いなかった。
トランプ兵の細い脚に踏みつけられた花々は、くたりと萎れて地に伏せる。花の命は短くて、女王の命令は兵隊達の命より重いのだ。
「まあ、花を苛めるなんて酷いわ!」
「綺麗に咲いていたのに……」
刎ねられる首を持たないトルソーの婦人達は、滑らかな布で造られた躰を震わせて哀しみを表現している。その細い肩を撫でて宥めているのは、糸巻頭の紳士達だ。
「このままでは、我々の国が奪われてしまうぞ」
「気は進まないが。諸君、立ち上がるとしよう」
表情の無い彼らは愛する国の為にと一念発起。彼らの貌である“ボビン”から――しゅるり。色鮮やかな絲を引き出し、好き勝手に振舞うトランプ兵へと嗾けた。
「徴収の邪魔をするとは――無礼者め!」
されど、敵の数は多いのだ。美しい絲は確かに兵隊のスピアを捉えたが、それに気づいた別の兵隊がボビン卿に向かって鋭く突進して来る。
「危ないわ……ああっ!」
一人の婦人が兵隊へ体当たりして、どうにか事なきを得たけれど。その衝撃で黒いドレスに飾った銀鎖の蜘蛛の巣が地面に墜落して、見事ばらばらに砕けてしまった。嘆く婦人の傍らで、紳士のうちの一人はほっと息を吐く。
「やれやれ、我らもどうにか戦えそうだ」
敢えて楽観的な科白を紡いでみたものの、形勢は圧倒的にトランプ兵達の有利。この戦況を覆せるような、そんな奇跡の訪れを――住人達はみな心密かに望んでいる。
タリアルド・キャバルステッド
なんと素晴らしい国でしょう。
黒を基調とした服は、ともすれば野暮ったくなってしまいがちですが、この国の皆さんは自らの装いを確立し、調和が取れた美しい黒の世界を築いています。
こんな良い場所を荒らすなど到底許せませんね。
数には数で対抗しましょう。
UC「SILVER GHOST」で複製したスーツ達をトランプ兵に絡めて動きを封じ、技能「ダッシュ」「ジャンプ」からの「踏みつけ」で攻撃します。
その間に住人の皆様に避難を、戦う意志のある方達には反撃をしてもらいましょう。
御洒落な住人の皆様の前に出て恥ずかしくないよう、私も戦いながらもスーツの埃や靴の汚れにより気を付けねばなりませんね。
●濃紺彩のロンド
月に照らされた黒い世界を、赤の大群が蹂躙する。金のスピアが鈍く煌めき、トランプの兵隊は聲高らかに彼らの正義を叫ぶのだ。
「勅令である! 此の地を女王陛下に捧げよ!」
されど、頸を縦に振る者など一人も居ない。何せ半数は振る為の頸が無いし、もう半数は国の為に戦う覚悟を決めていたから。
業を煮やした兵隊達は鋭いスピアを愉快な仲間達に向けて、いざ突撃――。
「そうはさせません」
凛と響いた聲と共に、兵隊達の元へ飛来するのは数多の“紳士服”。それらがまるで、意志を持って居るかの如く彼らの躰に絡みついたものだから、トランプ兵達は身動きを取る事すら能わない。
「な、なんだ、これは……!」
「動けんッ……!」
狼狽するトランプ兵達の前に、かつり。石畳を悠然と踏みしめて現れるのは、右袖の無いスーツに身を包んだ女性――タリアルド・キャバルステッド(紳士服のヤドリガミ・f25640)だ。
「なんと素晴らしい国でしょう」
漆黒の空に、黒き花、壮麗たる黒に包まれたお屋敷たち。眼前に広がる黒い世界を見回した彼女は、ほうと温かな溜息をひとつ。
彼女が零した感嘆の理由はゴシックの趣が色濃く刻まれた建物の類では無く――。愉快な仲間達の洗練された着こなしに在った。
黒を基調としたファッションは、スタイリッシュな印象を与える事も多いけれど。だからといって、黒を多用すれば良いという物でも無いのだ。
暗色は人の眼に暗い印象や、地味な印象を与えやすい。ともすれば、野暮ったくなってしまいがちな彩でもある。
「この国の皆さんは自らの装いを確立し、調和が取れた美しい黒の世界を築いています」
しかし、愉快な仲間達の装いは所謂“ゴス”ファッション。全体的に黒で統一しながらも、其処には“ゴシック”という確固たるテーマが有る。
それが品位すら感じさせる調和に繋がっているのだと、タリアルドは考察した。何を隠そう、彼女は紳士服のヤドリガミ。ゆえに人が纏う礼服については、一家言を有して居るのだ。
「おや、お褒めの言葉を有難う」
「そういう貴女の礼服は、アシンメトリなのね?」
「とってもお洒落で素敵だわ!」
お洒落を愛する者にとって、装いを誉める科白は聞き流せない物である。住人達はすかさず彼女に向き直り、嬉しそうに話しかけて来る。彼らが戦いに向かないのは、どうやら本当らしい。
タリアルドは整った貌に、微かな微笑を浮かべて目礼ひとつ。されど彼女のほうは戦いに慣れた猟兵だから、其の双眸は直ぐ此の世界を荒らす不届き者――飛来したスーツに包まれながら藻掻いている、トランプ兵達の方へ向いた。
「だからこそ、こんな良い場所を荒らすなど到底許せませんね」
敵が身動き取れないうちにと、タリアルドは石畳を蹴り戦場を駆ける。助走の儘に天高く飛び上がれば、よく磨かれた靴でトランプ兵の儚い躰を踏みつけてやった。
聲も無く崩れ落ちた兵隊は、もう二度と動き出すことは無い。敵の無力化を確認した彼女は、再び地を蹴って飛び上がり――次は両足で藻掻く兵隊を踏みつける。
「さあ、避難される方は今のうちに」
その傍らで、礼服を愛する者達に気遣いを見せるタリアルド。しかし、戦場から逃げ出そうとする者など、唯の一人も居なかった。
「いいえ、私達も戦うわ!」
「お洒落を愛する人を置いて逃げるなんて、そんなこと出来ないもの」
彼女の雄姿、何より装いへの拘りに、こころを動かされたトルソーの婦人達。彼女達は装飾が崩れることも忘れて、トランプ兵達へと躍り掛かる。戦場のあちこちから、どんっ――なんて鈍い音が響き渡れば、タリアルドもそっと頰を綻ばせた。
「では、共に戦いましょう。素晴らしいこの国を護る為に」
仲間達をそう鼓舞した彼女は、ちらりと己の着こなしを見遣る。皴は無い、けれども砂埃がズボンの裾にほんの少し。
いまは戦闘中だけれど、お洒落な仲間達の前に出ても、恥ずかしくない着こなしで居なければ――と。紳士服のヤドリガミたる彼女はそう思う。
自身の本体であるスーツを丁寧に着こなすのは、大好きな主人の想い出をそれだけ大切に抱きしめて居る所以。
タリアルドは黒い指先で埃を払い、再び地を蹴って空高く跳ね上がった。その胸に、ヤドリガミの矜持を抱きながら――。
成功
🔵🔵🔴
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
ゴシック、というものは良くはわからないが、裁縫が得意と聞いたらぜひその工程を見せて貰いたいな。ものづくりは好きなんだ。
住人達には下がっていてもらおう。
基本【存在感】を消し【目立たない】様に立ち回る。そして遠距離からの【奇襲】をかけ、【暗殺】【マヒ攻撃】を乗せたUC五月雨で攻撃。同時に投げられるだけの飛刀も投擲、なるべく多数へダメージを与えるようにする。
敵の攻撃は【第六感】で感知し【見切り】で回避。
回避しきれないものは黒鵺で【武器受け】して受け流し【カウンター】を叩き込む。
それでも喰らってしまうものは【激痛耐性】【オーラ防御】で耐える。
仇死原・アンナ
◎☆
鮮やかな漆黒の国だ…
赤と黒…色鮮やかな戦場だなぁ…
早くこの国の人々を守らないとね…
女王に首を刎ねられるのは嫌か…
そうか…ならば私が代わりに首を刎ねてやろう…
住人達の背後から【とても怖いな仲間達】と共に現れて
[存在感、殺気、威厳]を放ちながら敵群に立ち向かい
[恐怖を与えて蹂躙]しよう
鉄塊剣を振るい[なぎ払い、範囲攻撃]で敵群を[吹き飛ばし]
妖刀を抜いて[早業、部位破壊]で敵の首を斬り落としてゆき
[拠点防御]しよう
さて…女王の癇癪で首を刎ねられた愚人として死ぬか?
それとも女王の為に戦い首を刎ねられた武人として死ぬか?
私のお勧めは…処刑人に首を刎ねられた罪人として死ぬことだ…!
●黒い世界に紙吹雪
壮麗たる漆黒に染まった世界に、どすり、どすり。まるで五月雨の如く、黒きナイフの雨が降る。それはヤドリガミたる青年――黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)が編んだ術だ。
右手に黒鞘の日本刀『胡』こを、左手に己の本体である黒きナイフ『黒鵺』を持つ彼は、正しく二刀流。彼は暗殺者たる主人から受け継いだ技術を存分に活かし、戦場を密かに駆け回って居た。
「くッ……何だこの雨は!」
「誰の仕業だ!? 何処に居る!?」
紙で造られた躰を貫かれて行く同胞たちを前にして、右往左往するトランプ兵達。彼らへ返す言葉は勿論、何も無い。
木陰に隠れた瑞樹は極限までその気配を消しながら、懐から投擲用のナイフ『柳葉飛刀』を取り出して。両の指先に八本程それを挟めば、未だ健在の敵へ向かって放り投げた。
ひゅんっ。風を切る音と共に、勢いよく飛んで行くナイフ達。今宵の的は大きく当て易い。何より、彼には暗殺の心得が有る。ゆえに、飛刀が外れることなど無かった。
儚い躰を凶刃に貫かれ、ぱたぱたと倒れて往くトランプ兵達。その様はトランプを用いたドミノ倒しのようで、何処までも不思議の国らしくコミカルだ。
周囲の敵を一掃したところで、漸く瑞樹は一息をつく。遠目に眺めるは、この国に生きる愉快な仲間達の姿。
華美な装飾に包まれた彼らの衣装は、国が纏う雰囲気と同じく壮麗で。黒尽くめだと云うのに地味過ぎず、上品な華やかさを演出して居る。これこそが“ゴシック”という趣なのだと人は言う。瑞樹にとって、その趣は良く分からないものであるけれど――。
「裁縫の工程は是非、見せて貰いたいな」
聴けば此処の住人達は、その華やかな装いを手作りしていると聞く。あの黒き纏いの数々が、彼らの手で如何に形作られていくのか。脳裏にそれを思い描けば、戦場に立つ彼のこころも僅かに跳ねる。
人が残した物を愛する彼は、“ものづくり”そのものが好きなのだ。勝利の後に控える楽しみに思いを馳せながら、青年はひと時の休息に別れを告げて再び戦場を駆ける。一刻も早く、侵略者達を此の地から退ける為に。
「鮮やかな漆黒の国だ……」
空も大地も、花や建物すらも。その目に映るもの総てが、黒き彩を纏って居る。仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)にとって、この世界は何処となく故郷たる宵闇の世界を思わせるもの。
されど行進して来る鮮やかな“赤”の大群は、彼女を育んだ世界には無いものだ。金色に輝くスピアを掲げたトランプ兵は、立ちはだかる愉快な仲間達を貫かんと戦場を駆けまわる。
一方、華美な黒い纏いに身を包んだ愉快な仲間達といえば、自分たちの国を護ろうと絲で敵の動きを封じたり、硬い躰で体当たりしたりして、それはもう一生懸命に戦っていた。
「赤と黒……色鮮やかな戦場だなぁ……」
トランプ兵も愉快な仲間達も、お互いに何処かファンタジーの馨が漂うシルエット。ゆえに、戦場とはいえ血生臭さには聊か欠ける。ただ、“黒”と“赤”が賑やかに陣取りゲームを繰り広げて居る様な趣だ。アンナの口からは思わず、そんな感想が零れて仕舞う。
「我らの手で、この国を赤く染め上げるのだ!」
「首の無い女は布製だ! 赤いペンキが欲しいなら、あの糸巻頭を狙え!」
とはいえ、愉快な仲間達は押されている。兵隊達の物騒な科白から察するに、彼らの云う“赤いペンキ”はボビン卿が零す血を意味するようだ。
――早くこの国の人々を守らないとね……。
彼女は炎獄の執行人、罪人の咎を濯ぐ者。ゆえに、此の地を荒らすオウガ達を殲滅することが使命。アンナは白い指先で錆色の乙女を握り締め、ゆるりと一歩を踏み出した。
「早く赤に染めなければ、陛下に首を刎ねられてしまうッ……!」
決め手に欠ける戦況を前に、トランプ兵達は焦って居た。彼らの我儘な主は喩えその場に居なくとも、彼らのこころを縛り付けて離さないのだ。
「女王に首を刎ねられるのは嫌か……そうか……」
ゆらり。頑張る愉快な仲間達の背後から、幽鬼の如く現れる影がある。ぎょっとした兵隊達が目にしたのは、長い黒髪を揺らした女処刑人――アンナと、彼女が率いる刑吏達の威厳溢れる姿だった。
「ならば、私が代わりに首を刎ねてやろう……」
黒い眸でぎろり。殺気と共に睨めつければ、それだけでトランプ兵達は震えあがる。命乞いすら待たず、アンナは鉄の処女を模した鉄塊剣を振り上げて。敵の元へと一目散に駆けだした――。
「まあ! 貴女の纏いも黒なのね、格好いいわ!」
「とっても怖いお友達も、私達とお揃いの格好ね」
自分達の背後から出て来たアンナと、彼女の先祖たる刑吏達に、最初こそ驚いた様子の仲間達だったが。どうやら彼女達が纏う黒い装いが気に入ったらしい。刑吏達が持つ物騒な拷問具すら頼もしいと、ご婦人達はきゃあきゃあと燥いで居る。
「な、なんだ彼奴らは……!」
「くっ、まずはあの女から狙え!」
一方のトランプ兵と云えば、突然現れた黒き執行人の攻勢にすっかり気勢を削がれてしまった。刑吏達が放つプレッシャーや、アンナが放つ殺気は彼らが恐れる女王陛下のそれにも匹敵するらしい。
アンナがひとたび剣を振えば、トランプ兵達の躰は軽々と吹き飛んで。彼女の妖刀が物騒に煌めけば、クロッケー・ボールの如く、すぽんっ、すぽんっ――なんて具合に軽快極まりなく、兵隊達の頸が空を飛ぶ。最早彼らにとっての死神は、ハートの女王陛下ではない。仇死原・アンナこそ、彼らに死を運ぶ者である。
それでも勇気ある兵隊はスピアを掲げて、彼女に突撃して行くが――。突然現れた白い影に、その勇猛なる突撃も阻まれてしまった。
「必要ないかも知れないが、助太刀しに来た」
戦場を次から次へと駆け回っていたヤドリガミ――瑞樹の黒い刃が金の切っ先を受け止めたのだ。ぐっと力を籠めて、彼の凶刃を受け流す。返す刀で黒き一閃を煌めかせれば、トランプ兵の儚い躰は見事ばらばらに。
おまけに黒き刃の五月雨を降らせれば、それらはトランプ兵の躰を強かに切り裂き、戦場に数多の紙吹雪を舞わせるのだった。黒い世界に降るそれらは、まるで白雪の様。
「おやおや、これは奇麗だねえ」
「うむ、次のスーツはモノクロにしてみよう」
糸巻頭の紳士たちは、そんな珍しい光景を何処か嬉し気に眺めて居た。此処の住人達は、本当におっとりした性格のようだ。或いは芸術家肌と呼称するべきか。
「ああ、ありがとう……助かる……」
舞い散る紙吹雪の中、アンナはちらり。同胞に視線を向けて、ほんの僅かに会釈して見せる。一人よりも、二人の方が、大群に挑むには効率が良いのだ。
「さて……」
数を減らしたトランプ兵達を前にして、アンナは妖刀を撫ぜる。白い指先が煌めく刀身を這って往く様には、何とも言えない迫力が有った。彼女は執行人らしく、彼らにひとつの選択を示してやる。
「女王の癇癪で首を刎ねられた愚人として死ぬか?」
ひぃっ、と兵隊達から悲鳴が上がったのは、処刑された同僚の事を想い出した所以か。
「それとも、――女王の為に戦い首を刎ねられた武人として死ぬか?」
或いは、彼女の妖刀がまたひとつ、儚い頸を刎ね飛ばした所為か。もしかしたら、その両方かも知れぬ。震えながら貌を見合わせるトランプ兵達に、アンナは容赦なく咆える。
「私のお勧めは……処刑人に首を刎ねられた罪人として死ぬことだ……!」
斯くして妖刀は再び煌めき、兵士達の頸は宙を舞う。我儘な女王陛下の膝元ですら、ここまで多くの頸が飛んだことは無いだろう。
されどオウガ達への処刑執行は、まだまだ終わりそうに無い。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
メリー・アールイー
◎☆
白黒が美しい世界に、派手な衣装でお邪魔して悪いね
いつもの手作りリメイク着物を着用、『Re』もお揃い
ちょいとそこのジェントルマン、あたし達とひと踊りしてくれないかい?
ボビン卿をお誘いして【指定UC】
『Reとの絆』は決して切れない魔法の操糸
ダンスをしながらトランプ兵の動きを封じてしまえ
ボビン卿も自由に絲を巻くといい、サポートは任せておくれ
危ない時は『針山クッション』でかばって盾受け
ハートのスピアはReと連携フェイントで避けて
しつけ針でカウンターの一撃をおみまいしよう
偏見を押し付けるのはよくないよ
黒い薔薇も綺麗じゃないか
あたしも普段はカラフルなのを好むんだが
たまにはこういう世界も悪くないね
城野・いばら
◎☆
ほんとうに、困った欲ばりなオニさん達!
この国の皆をかなしませるなら、いばら怒っちゃうのよ
クロがお気に召さないなら、シロはいかが?
【ローズパーティー】でシロバラを咲かせるわ
たくさん咲かせて(範囲攻撃)、
オニさん達の視線を惹き付けて、おびき寄せるの
アカじゃないと怒られるのでしょう?
さあ、たいへん!
踏んだり、ペンキで染めようとしたら
咲かせた茨の棘で串刺しちゃうんだから
倒せなくても茨で手足を捕縛し足止めしたり、
武器受け、かばうで攻撃が皆に向かないようにして
頑張るクロの皆や、一緒に来たアリス達への時間稼ぎを
いばら、通せんぼは得意なのよ
アカも魅力的だけれど
この国はもう十分素敵だわ
だから、お引き取りをっ
●黒薔薇、白薔薇、ピンクピース
漆黒に染まった世界を“赤”の大群が往く。最初は意気揚々と、されど今は戦々恐々と。此方は多勢で彼方は無勢、本来ならば簡単な徴収任務の筈だったのだ。
しかし、猟兵と云うイレギュラーの登場によって、戦況はじわじわと覆されている。慈悲無き女王陛下が此の体たらくを見れば、果たして如何な怒り方をするか。兵隊達はそれを知って居るからこそ、みな一様に怯えて居た。
「このままでは主命が果せん!」
「女王陛下のご威光を思い出せッ!」
――ゴシックランドを徴収せよ!
震える聲で同胞たちを鼓舞しながら、赤き大群は進軍を続けて居る。そんな彼らの一方的な言い分に、愛らしい頰を膨らませる娘がひとり。
「ほんとうに、困った欲ばりなオニさん達!」
嘗て、さる城に咲いて居た美しき薔薇――城野・いばら(茨姫・f20406)である。”オニさん”即ち“オウガ”の支配から逃れて来た彼女にとって、彼らの強欲は今に始まったことでは無いけれど。
「この国の皆をかなしませるなら、いばら怒っちゃうのよ」
それでも、この国の住人達は嘗ての自分と同じように、オウガに困らされているのだ。愉快な仲間達の気持ちを想えば、彼らの狼藉を許すことなど出来なかった。
「私達の為に怒ってくれるのかね、白薔薇のお嬢さん」
「嗚呼、黒い彩でしか持成せないのが心苦しい限りだ」
自分達とは違う趣の少女が零した科白に、ボビン頭の紳士達はいたく感動した様子。ゆえに彼らは、彼女と対照的な彩しか持たぬ我が身を思い返し、申し訳なさそうに肩を落とす。
「ううん、クロの皆もお洒落だわ」
「寧ろ白黒が美しい世界に、派手な衣装でお邪魔して悪いね」
いばらが首をふるふると横に振れば、此の地を訪れたもう一人の猟兵――メリー・アールイー(リメイクドール・f00481)が、自身の装いを見下ろしながら肩を竦めて見せた。
メリーはリメイクを重ねた布団のヤドリガミ。ゆえに、彼女が纏うくるみボタンが愛らしい着物も、彼女が手ずからリメイクを重ねた物。何処となく和洋折衷を感じさせるそれは、人形めいた少女によく似合いの装いだった。
「そんな事は無いとも。赤のグラデーションが奇麗だねえ」
「そのドレスは、ジャポニズムの趣かな。洒落た組み合わせじゃないか」
「人形とお揃いとは、拘りを感じるなあ」
洋装ばかり身に纏って来たボビン卿達にとって、メリーの装いは興味深い物らしい。彼らは口々に褒めながら、彼女と彼女が抱く人形『Re』が纏うリメイク着物を観察している。
アーティスティックな彼らはどうやら、眼前の脅威よりも服飾の異文化交流に惹かれてしまうようだ。
「ふふ、ありがと。――そうだ、ちょいとそこのジェントルマンたち」
「ジェントルマン……私達のことかね?」
「そう。あたし達とひと踊りしてくれないかい?」
自身を指さしながらボビン頭を傾ける紳士達に頷いて、メリーは少女人形の手を取り、――くるり。軽やかにターンを披露して見せる。それは他ならぬ、共闘への誘い。
「おやおや。それは勿論、喜んで」
「じゃあ、いばらは皆の舞台に、シロを添えてみせるの」
ふたつ返事の同意に、白薔薇乙女の悪戯な響きも重なって。来歴も装いも、纏う彩も異なる彼らは、ひと時のあいだ共同戦線を組むことと成った。
「また黒薔薇を見つけたぞ!」
「急いで轢き潰せ!」
此の地を攻めて来たトランプ兵達は進軍の傍らで、黒薔薇を見つけては踏み潰している。恐らく彼らには、花に関する嫌な思い出でもあるのだろう。
黒き庭園でどすり、どすりと飛び跳ねる兵隊達。そんな彼らの背中から、鈴を転がす如き聲が響き渡る。
「ねぇ、オニさん達」
なんだなんだと振り返ったトランプ兵達は、彼らの後方に広がる光景に思わず固まった。なにせ其処に咲いていたのは――。
「クロがお気に召さないなら、シロはいかが?」
いばらが咲かせた、麗しき数多の白薔薇だったのだから。かくりと小首を傾げた娘は“不思議な薔薇の挿し木”から、兵隊達に向かって種を飛ばす。
種子が命中したトランプ兵は、その儚げな胴体に風穴を開け、どうっと倒れ伏していくけれど――。凶弾から免れた兵隊達に、同胞を気遣う余裕などは無かった。
「し、白い薔薇だ……」
「庭師の、あのクローバーのように、我らも……」
女王様は白がお嫌い。もしも白薔薇が咲いたなら、早く赤に染めなければ。運悪く見つかったら最後。
――首を刎ねられてしまうッ!
ハートの女王への恐怖に支配された兵隊達は、更なる同胞たちを戦場へと招き、恐怖を与えた相手――すなわち、白薔薇へと一目散に駆けて往く。
「アカじゃないと怒られるのでしょう? さあ、たいへん!」
いばらが不安を煽るように囁けば、兵隊達は迷うこと無く白薔薇を踏み潰そうとする。されど、綺麗な薔薇には棘があるものだ。
兵隊の脚が花に触れようとした、その瞬間。茨の棘は花弁を護る騎士の如く、勇猛に兵隊の躰を串刺しにした。
薄い躰に穴を開けて崩れ落ちる同胞に慄けども、薔薇へと走り寄った時点で兵隊達の運命は既に決まって居た。
崩れ落ちたオニの姿を見下ろしながら、いばらが此れより招くのは愛らしい同胞と、とてもお洒落な仲間達。
「さあ、みんなのダンスを披露してあげましょう」
――"Re" mode...... "Repeat" !!
果たして何処からか躍り出て来たのは、幼げな少女メリーと、彼女によく似た絡繰り人形の『Re』、そしてボビン頭の紳士達。
決して切れない『Reとの絆』を手繰りながら、メリーはくるり、くるりと踊る。彼女が可憐なターンを披露するたびに、絡繰り人形との絆たる絲はトランプ兵へと強かに巻き付いて行くものだから、紳士達からは「おお」なんて感心したような聲が零れる。
「ボビン卿も自由に絲を巻くといい」
サポートは任せておくれと少女が笑えば、紳士達もくるり、くるり。綺麗なターンを披露しながら、頭に巻き付けた絲をしゅるり、しゅるりと自由に伸ばして行く。それは運良くトランプ兵の儚い躰を戒めて、其の胴体に消えない破れ目を刻んだのだった。
「くっ、薔薇は後回しだ!」
此処まで来ると、兵隊達も薔薇にばかり固執しては居られない。スピアを掲げながら仲間達の元へ駆けようとする彼らの前に、――するり。新たな茨がまたひとつ、伸びて来る。
「頑張るクロの皆や、アリスの邪魔はさせないわ」
棘を纏ったそれはトランプ兵達を貫き、或いは彼らの手足を戒めて、黒き世界を蹂躙する凶刃を無力化して行く。
通せんぼは得意なのよ、なんて。微笑を咲かせた娘に向けて、せめて一矢報いようと再びスピアが襲って来るけれど――。
「偏見を押し付けるのはよくないよ」
娘の繊細な躰に代わって金色の先端を受け止めるのは、もっふりとした弾力を持つ“針山クッション”。
幼い躰で凶刃を止めたメリーは、針山から一本“しつけ針”を抜き出して、まるで剣の如く振う。するとトランプ兵の儚い躰は切り裂かれ、ばらばらに成ってしまった。
「黒い薔薇も綺麗じゃないか。勿論、白い薔薇もね」
緑色の双眸に白い彩を映した少女は、いばらに向けて片目を閉じて見せる。好きな色はきっと人それぞれ。それなら偏見を押し付けるより、互いの好きな彩を受け入れた方が、世界はカラフルな彩に溢れてもっと楽しくなる筈。
「あたしも普段はカラフルなのを好むんだが――。たまにはこういう世界も悪くないね」
「ええ、アカも魅力的だけれど――この国はもう十分素敵だわ」
メリーの言葉に頷いたいばらは、再び挿し木に魔力を注ぐ。するりと伸び往く茨が向かう先は勿論、トランプ兵達の元だ。
「だから、お引き取りをっ」
乙女の想いに応えるかの如く、茨の棘はスピアのように煌めいて。ハートを抱く兵達の躰を、幾度も幾度も貫いて行く。
「さあ、あたし達のダンスをもっと堪能して行っておくれ」
彼女が操る茨の雄姿に釣られるように、メリーも再びくるりとターン。まるで絡繰り人形との絆を見せつけるかの如く、白薔薇が添えられた舞台上で只管に、少女は絲を操り続けて居た。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジュジュ・ブランロジエ
【紫翠】◎
そこまでだよ!
無理矢理赤く塗り替えるなんて狼藉は許さない!
貴婦人と紳士とゴシックな黒……素敵な世界だよね
一緒に守ろう!と仲間達を鼓舞
仲間達が敵の攻撃範囲内に入るようならオーラ防御+範囲攻撃で守る
誰も傷付けさせない!
ボビン卿に糸を出してもらって敵を足止め
その隙に白薔薇舞刃の二回攻撃
私の白薔薇も赤く塗ってみる?
なんてね。お前達の血でも染められないよ
ふふん、トランプ兵なんて私達の敵じゃないね
ね、コノさん!
華麗に倒しちゃおう
コノさんの声に合わせてUC
トルソー婦人、そのドレス素敵だね
『メボンゴも黒いドレス欲しい~』
うんうん、後で作ってもらおうね
婦人の攻撃直後にUCを放ち敵の意識を私に向けさせる
コノハ・ライゼ
【紫翠】◎#
オレはどんな色も好きダケド、無理矢理はイケないねぇ
*オーラ防御を展開、住人達の盾となって*かばうヨ
この国にゃこの国の美学があんデショ
ナンだって踏み躙る理由にゃなりやしない
向かい来る兵へ*マヒ攻撃乗せた【黒影】を放ち、卿の足止めを手助けしよう
止め損ねた敵は*2回攻撃で狙い嗾け近付けさせないようにしたいネ
敵が増えたらその動き*見切り影狐で*追跡し返して*捕食させるわ
そうそ、オレらの敵じゃナイ……ケド油断は禁物
死角から狙う敵に気をつけて、ご婦人方
抜けてくる敵を*第六感で察知したら声掛け庇って反撃の機を作るわ
踏ん張りマショ
ドレスが汚れるのは悲しいケド、命を落としゃ仕立て直しもできねぇもの
●白薔薇と黒影
黒い石畳の上を行進して行くトランプ・ハートの大群は、まるで黒い世界を赤く塗り替えているよう。
「女王陛下の領地に黒い色など不要!」
「我らが陛下には、赤色のみが相応しい!」
――ゆえに赤く赤く、この世界を染め上げるのだ!
高らかに蹂躙を叫ぶ彼らの行軍に、黒い花々は無残にも踏み潰され、黒き彩を纏った仲間達も隅へ隅へと追いやられて行く。
そして今、容赦のない侵略に立ちはだかる影が、――みっつ。
「そこまでだよ!」
黒い世界に白い彩を齎した少女――ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)が、兵隊達の狼藉に凛と制止を叫ぶ。
「無理矢理赤く塗り替えるなんて狼藉は許さない!」
『ムリヤリは、ダメッ!』
十指に嵌めた絲の先、兎頭の淑女人形『メボンゴ』がくるくると踊る。ジュジュの裏声に合わせて兎人形が、その腕をクロスさせたものだから。傍らのコノハ・ライゼ(空々・f03130)は和んだように双眸を弛めて、くすりと笑った。
「オレはどんな色も好きダケド――無理矢理はイケないねぇ」
ふたりの淑女に同意を示した彼は、住人達を庇うようにオーラの盾をぐるりと展開。ジュジュもまた彼に重ねる如くオーラの盾を展開すれば、不安げな住人達にも漸く元気が戻って来たようで。英雄たちの登場に、わっと歓声が上がった。
「この国にゃこの国の美学があんデショ」
そうじゃなくて? ――なんて。ちらりと薄氷の視線を向ければ、その通りだと紳士に淑女は同意を示す。
「まあ、分かって下さるのね。お客様がた、どうも有難う」
「お礼にこの国の見所などご紹介したいのだが、見ての通りの有様でねえ……」
お喋りなトルソーの貴婦人に、貌こそ異形だけれど心遣いは優しいボビン頭の紳士。そして、この国全体を包み込むゴシックな黒彩。
ジュジュが生まれた世界も黒に塗れていたけれど、此処はまた違った趣で。ジュジュはこの国を好きに成れそうな気がした。
「ここ、素敵な世界だよね。一緒に守ろう!」
ゆえにこそ、彼女は明るい笑顔を咲かせて、仲間達を鼓舞してみせる。少女の好意と優しさが、きっと伝わったのだろう。愉快な仲間達は頷いたり飛び跳ねたりして、ふたりにやる気を見せてくれる。
「嗚呼、もちろん。私達も共に戦おう」
「ふふふ、そして私達の国を好きに成って貰えたら嬉しいわ」
「うん、誰も傷付けさせないから!」
ね、コノさん――。揺るぎない信頼を滲ませてくる妹分に口許だけで笑み返し、コノハは黒き管狐を招く。
動機が何にせよ、人々の生活を踏み躙って良い理由など有りはしない。彼にとってトランプ兵は、紛うことなく“敵”である。
「おいで、くーちゃん」
やっちゃって、――なんて。軽い調子で嗾ければ、トランプ兵と同じ数だけ増えた管狐が宙を駆ける。その黒き大群はこの世界に御誂え向きで、仲間達の目をよく惹いた。
「くっ、なんだこの獣は!」
「動けんッ……!」
黒き爪は兵隊達の脚を切り裂き、鋭い牙は兵隊達へと強かに噛みついて見せる。身動きとれぬ様子の敵を眺めながら、糸巻頭の紳士達へ行動を促すコノハ。
「さあ、卿。手伝って頂戴」
「彼らに絲を巻けば良いのかな」
「ああ、ぐるぐる巻きにしてしまおう」
しゅるり、しゅるり。紳士達の頭から色鮮やかな絲が伸びる。戦いに不慣れな彼らと云えど、動かぬ的を捕まえる位なら朝飯前。管狐はと云うと、細い絲できつく戒められた兵隊達からするりと離れ、次の獲物を求めて戦場を駆けて往く。
「私の白薔薇も赤く塗ってみる?」
動けぬ彼らの隙を突くように、ひらり、ひらり。白雪の如く降って来るのは、白薔薇の花弁たち。銀のナイフが転じたそれは、鮮烈な切れ味でトランプ兵達の躰を切り裂いて行く。ただの無残な紙吹雪と化した彼らからは、赤の一滴すら流れずに。白薔薇を染める事すら能わない。
「ふふん、トランプ兵なんて私達の敵じゃないね。――ね、コノさん!」
「そうそ、オレらの敵じゃナイ……ケド油断は禁物」
満足気に胸を張るジュジュは、兄のように慕う青年へと同意を求め。コノハも片目を閉じ、彼女に応えて見せた。
「し、白薔薇だ……」
「あれは赤く染めなければ……!」
「あの庭師のように、首を刎ねられてしまうッ!」
――されど、彼らは恐怖を糧に何処までも増えるのだ。わらわらと湧いて出て来る兵隊達を前に、コノハは薄氷の眸をつぅと細めて笑う。
「くーちゃん、――お食べ」
彼らが数を増やすならば、此方も影を増やすのみ。新たに生まれた黒き狐は主の命ずるままに兵達の元へ駆け、鋭い牙でがぶりと彼らの胴体に噛みついて。バリバリと紙で出来た儚い躰を喰らって往く。
「我らが女王陛下の為に!」
影狐から運良く逃れた兵隊は、頸の無いご婦人が纏うドレスを鋭いスピアで貫こうとするが――。
「死角から狙う敵に気をつけて、ご婦人方」
金色に煌めく切っ先は、コノハが掌でぐいっと掴んで受け止めた。彼らのお望み通り黒い石畳に――ぽたり、ぽたり、赤い鮮血が細やかな水溜まりを為す。
されど、この世界を塗り替えるには至らない。ジュジュが放った白薔薇の吹雪が、赤く染まった石畳を隠し、トランプ兵達の躰をバラバラに切り裂いてしまった故に。
「庇ってくれて有難う。異国の紳士様」
「でもでも、お怪我は大丈夫かしら?」
「へーきへーき。ここは踏ん張りマショ」
赤く染まった掌を無事な掌で覆いながら、青年は明るく片目を閉じて見せる。彼も傷ついてしまったけれど、文字通り躰を張っている婦人たちのドレスも傷や汚れが目立っている。
「ドレスが汚れるのは悲しいケド、命を落としゃ仕立て直しもできねぇもの」
「この国を守り抜いたあとで、もっと素敵に仕立て直しちゃおう!」
その為にも、彼らを華麗に倒してしまおう。ジュジュも彼の科白に頷いて、愉快な仲間達へと再び励ましの言葉を送る。
「ええ、次は薔薇のコサージュを飾りましょう」
「私はフェイクファーなんて素敵だと思うの」
彼女の明るさに背中を押されて、トルソーの婦人達もお喋りしながら敵陣に突っ込んで行く。
どんっと体当たりすれば、バランスを崩して倒れ込む兵隊達。彼らが立ち上がる前、白薔薇の刃が紙の躰をバラバラに切り裂けば、婦人達の退路を塞ぐ者はもう居ない。
「トルソー婦人、そのドレス素敵だね」
「まあ、有難う。貴女達の白いお洋服も可憐だわ」
「清楚でとても素敵ね」
元気づけるように装いを褒めれば、ご婦人方も満更ではない様子。彼女達は嬉しそうにドレスの裾を揺らしながら、同じような賛辞を返してくれた。
『メボンゴも黒いドレス欲しい~』
「うんうん、後で作ってもらおうね」
ちゃっかり自己主張するメボンゴに、戦場の張りつめた空気が暫し和む。トルソーの婦人達が零した笑い声が、ふふり、とても楽し気に空気を震わせた。
「まあ、可愛い兎さん」
「これが終わったら、二人分のドレスを作ってあげましょうね」
「わーい、やった!」
遠からず訪れるであろう平和に思いを馳せながら、猟兵達は愉快な仲間達と共に戦い続けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
清川・シャル
△華麗に登場猟兵ですよ、なーんて
お困りのようですね?お手伝い致します
私が先導しますので、取り逃した敵を、ボビン卿が足止め、トルソー婦人が体当たりで如何でしょうか?大丈夫です、私強いんですよ!などと鼓舞しておきますね
では参ります
無駄に一体二体とカウントしながら、そーちゃんで呪詛を帯びたなぎ払い攻撃を行います
腕力なら負けませんからね
後ろの彼らにも気を配り、危なければ氷盾展開して防御します
敵攻撃には激痛耐性で備えて武器受け、カウンターで対応
ゴスかぁ、シャルもゴス服欲しいな
●黒と桜の華麗なる共演
「我らが女王様に、この地を捧げよ!」
「邪魔する者は容赦せぬぞ!」
威張り散らしたハートの兵隊達が、我が物顔で黒き道を往く。愉快な仲間達は戦い慣れて居ないなりに、如何にか足止めしようと足搔いていたけれど。
「うう、また躱されてしまったわ……」
「むむ……絲もなかなか当たらないな」
マイペースな彼らは上手く戦えずに、すっかり困ってしまって居た。隅の方へと追いやられた彼らに今、金色の凶刃がじりじりと迫り来る。
「これは女王直々の徴収である!」
先頭を往く兵隊が、ハートの意匠を刻んだ令状を高らかに読み上げる。するとハートの兵隊達は、愉快な仲間達を組み伏せんと束になって彼らへ飛び掛かり――。
ふと降り掛かって来た重い衝撃に、遥か彼方へ吹っ飛んだ。
「華麗に登場、猟兵ですよ」
羅刹の少女――清川・シャル(f01440)が渾身の力を籠めて振り回した桜色の金棒が、白と赤の紙束を思い切り殴りつけたのだ。
幼げな少女が見せた怪力に驚いた様子の住人達へ、シャルはくるりと向き直り。にっこり、其のかんばせに笑顔を咲かせた。
「お困りのようですね? お手伝い致します」
天の助けとは正にこのこと。断る者など、誰も居はしなかった。幸い周囲の敵は一掃出来たので、此処で作戦会議に取り掛かる事にする。
「私が先導しますので……取り逃した敵は、ボビン卿が足止めを」
「ふむ、この絲で彼らをぐるぐる巻きにしよう」
「その隙に、トルソー婦人が体当たりで如何でしょうか?」
「思い切りぶつかれば良いのね。頑張るわ……!」
早くに両親を亡くし、UDCアースで寮を運営している彼女はしっかり者なのだ。人を引っ張り、誰かに役目を割り振るのは得意であった。あっという間に話は纏まり、連携への礎が完成する。――あとは、其々のこころの問題だ。
「でもでも、上手に戦えるかしら」
「戦った経験なんて殆ど無いからねえ……」
「大丈夫です、何とかなります。それに私、強いんですよ!」
フォローは任せてと仲間達を明るく鼓舞すれば、彼らの不安も随分と和らいで行くようだった。彼らがシャルへ寄せる信頼は、それ程までに篤いらしい。
「では、参ります」
皆の想いが一つに成ったことを確かめて、シャルは桜色の金棒をぎゅっと握りしめる。何処までも続く石畳の先、此方へ押し寄せて来る白と赤の大群が見えた。
戦闘は即席の作戦会議通り、極めてスムーズに進んだ。シャルが斬り込み敵が怯んだ隙に、ボビン卿がしゅるりと絲を巻きつけて、トルソー婦人がどんっと身動き取れぬ敵を跳ね飛ばす。
彼らの連係プレーは見事なもので、襲い来るトランプ兵達は面白い程に宙を飛んで行く。されど、最も目を瞠るべきはシャルの戦いぶりだろう。
「いち、にぃ――」
呪詛を帯びた桜色の金棒『そーちゃん』を横薙ぎに振う度、兵隊達の躰は破れ白い紙が辺りを舞う。その様に慄いた兵隊達は、思わず足を止めてしまうのだ。
「――さん」
邪気なく倒した兵を数えながら、ぶんっと金棒を振う様はいっそ鬼神じみている。そんな彼女が先陣を切ってくれるのだから、愉快な仲間達にとってはこれ以上に頼もしいことは無い。
更にマジックナイトたるシャルには、魔法の心得もあるのだ。愉快な仲間達に凶刃が向けば、彼女が生み出した氷の盾がそれを見事に弾き飛ばす。
「腕力なら負けませんからね」
そう零して片目を閉じた少女は、只管に金棒を振い続けていた。恐るるに足りぬ彼らを相手取りながら、思いを馳せるは先頭の後に控えたお楽しみについて。
「ゴスかぁ、シャルもゴス服欲しいな」
シャルだって年頃の女の子、お洒落なお洋服には心惹かれてしまうのだ。戦場をくるくると舞うトルソー婦人達は、そんな彼女の様子にふふりと笑う。
「じゃあ、後でお礼に作ってあげましょう」
「どんなのが良いか、考えていてね」
仲間達の申し出に笑顔で頷いて、シャルは再び得物をぎゅっと握りしめた。ぶんっと風を切った金棒は、少女のやる気が赴くままに数多の紙吹雪を戦場に降らせて行く――。
大成功
🔵🔵🔵
寧宮・澪
◎☆
はーい、お手伝い、しましょねー……。
希望を、遍く全てに伝えられるかは、わかりませんがー……今、この場のみでも、届けられるよう、頑張りましょー……。
【謳函】、使用ー……。
ゴシックも、いいものですよー……ダークで神秘的ー……不気味さもいい感じ……。無理矢理、赤や白を強要しないで、くださいなー……。
頑張って、この国を守りましょー……。
そんな気持ちで、歌いましょね……。鼓舞や、慰めになれば幸い……。
こっちが攻撃されたら、できるだけ残像で避けたりー……オーラ防御で軽減、狙いましょー……。
トランプ兵さん、こちらー……歌のする方へー……。
気を引いたら、他の方が攻撃しやすい、でしょか……。
ルベル・ノウフィル
ふうむ、ゴス?ゴースト?ゴーストブラック…
良い色でございます
死霊騎士もそう思うでしょう?思うとおっしゃい(強制)
蛇竜に跨り、僕は後方で応援するのでございます
愉快な仲間たちを全力ヨイショしましょう
素晴らしい!もっと黒を!もっとドス黒く!
え、僕?僕は死霊を出してる間戦えぬのです
とても残念なのですが応援専でございます
でも、そうですね
敵の士気も下げてみましょう
やーい、ぺらぺらー
僕のふわふわ尻尾をご覧なさい
厚みで大勝利でございますぅー
あとは、そうですね
他の猟兵さんがいたら身を盾にして庇いましょう
庇って負傷すると下僕は消えますが
貴方を守れて本望でございます
とか言って
ガクッと力尽きたフリをして
すぐ起きる
●Encore of the Ghost Black
黒い石畳の上では黒を纏う住人達と、赤きシンボルを抱く兵隊達が果てしない攻防を繰り広げていた。紳士は淑女をエスコートしながらも鮮やかな絲を華麗に操り、淑女は彼の人の手を離れてくるくると踊り狂う。
されど、ハートの兵隊達も負けてはいない。彼らはハートの女王への恐怖を糧に、その数を増やして行く性質を持つ。形勢が押される程に、彼らの攻勢は激しくなるのだ。
懸命に戦う愉快な仲間達の間にも段々と、不安げな空気が立ち込め始める。このまま消耗戦を続けていたら、遅かれ早かれこの国は本当に徴収されてしまう――。
「はーい、お手伝い、しましょねー……」
そんな昏い空気を打ち破ったのは、オラトリオの娘――寧宮・澪(澪標・f04690)が零した鷹揚な聲。希望を遍く全てに伝えられるかどうか、分からないけれど。ほんのひと時、絶望を打ち払うことは出来るから。
――今、この場のみでも、希望を届けられるよう、頑張りましょー……。
「ゴシックも、いいものですよー……」
「ふうむ、……ゴス?」
一方のルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)は、不思議そうに首を捻っていた。ゴスって一体なんだろう。
彼は紅の双眸で、ちらりと愉快な仲間達を一瞥する。黒いドレスを纏った首の無い貴婦人と、黒いスーツを纏ったボビン頭の紳士達。何とも形容しがたい彼らは、少なくともこの世の住人では無いように思える。
もしや、ゴスとはゴーストのことなのだろうか。ゴーストが纏うブラック、即ちゴーストブラックから転じて、――ゴス?
「良い色でございます」
成る程、死霊術士である彼にとって馴染み深い彩だ。ひとり納得したルベルは、澪の言葉に同意を示すように頷いて居る。
「死霊騎士もそう思うでしょう?」
思うとおっしゃい――なんて。少年はにこりと笑いながら、傍らに控える騎士へ半ば強制的に同意を促す。銀甲冑の騎士は主の命ずる儘に、ガシャガシャとヘルムを縦に振り首肯するのだった。
ルベルは自立行動する死霊を可愛がっているけれど、決して彼らは友人関係などでは無く。矢張りそこには明確な主従関係が存在するらしい。
「ダークで神秘的ー……不気味さもいい感じ……」
騎士に釣られるかの如く、澪もまたかくりと頸を縦に振る。ゴシックは“可愛い”とは対極的な概念だけれど、静かで壮麗な魅力を放つ趣なのだ。
「無理矢理、赤や白を強要しないで、くださいなー……」
芒とした表情の澪がぎゅうっと抱きしめるのは、金色のシンフォニックデバイス“謳匣”。オルゴールめいた造形のそれは、彼女の歌声を世界へ広げる“謳函”。娘はそうっと息を吸い込んだ後、大きく息を吐きだした。温かな調べに可憐な聲を乗せながら。
――頑張って、この国を守りましょー……。
そんな想いを込めて、澪は伸びやかに歌う。戦場に響き渡る歌声は、きっと彼女なりのエール。その想いは愉快な仲間達のこころを、大きく揺さぶった。
「まあ、素敵なお歌だわ。なんだか元気が出て来るの」
「嗚呼、まるで応援されているみたいだ」
澪が黒き世界に繋いだ詩は、この国の住人のこころも繋ぐ。澪に鼓舞された仲間達は戦う勇気や希望を取り戻し、再び元気に戦場を駆けまわり始めるのだった。
歌の加護を得たのは彼らだけではない。ルベルの死霊騎士もまた、彼女の歌に背中を押されて剣を振う。鋭い刀身がきらり、一閃。すると次の瞬間には、トランプ兵達の躰はバラバラに切り裂かれて、戦場に無数の紙吹雪がひらひらと舞う。
当のルベルはと云うと――。もう一体の死霊である“巨大な蛇竜”に跨って、後方から愉快な仲間達を応援していた。
「素晴らしい! もっと黒を! もっとドス黒く!」
「ふふ、応援ありがとう。ふわふわ毛並みのあなた」
彼の声援に呼応するように、白い狼尻尾がひょこひょこ跳ねる。その様に微笑ましさを感じた婦人は、嬉しそうにドレスを震わせお返事ひとつ。
「そうだね、私達の黒を取り戻そう。ところで、君とその蛇君は?」
戦わないのかねと謂わんばかりに、ボビン頭を傾ける紳士。ルベルはその台詞に、きょとんと瞬いて――彼とは逆の方向に頸を傾けた。
「僕は死霊を出してる間、戦えぬのです」
自立行動が出来る優秀な死霊達には、欠点がひとつ。術者であるルベルが傷付いてしまうと、彼らは消滅してしまうのだ。ゆえに、今日の彼は応援に専念していた。
成る程と頷いて、ボビン卿は戦闘へと再び意識を傾ける。トランプ兵達の数は相変わらず多い。けれど、澪の歌で奮い立ったこころの儘に、ボビン卿は鮮やかな絲をしゅるりと兵隊達に巻き付けて往く。
「くっ、邪魔をするな!」
戒めの絲を吐き出すボビンを屠ろうと、未だ自由に動ける兵隊達がボビン卿へと襲い掛かる。その様を眠たげな双眸で見ていた澪はすかさず歌を止め、花唇からぽやぽやと聲を落とした。
「トランプ兵さん、こちらー……歌のする方へー……」
「むっ、我らを呼ぶのは誰だ!」
彼女に気を取られて、一瞬だけ動きを鈍らせるトランプ兵。その隙にトルソーの婦人が思いきり体当たりを喰らわせれば、彼らの白い躰はふわりと吹き飛んで行く。
どうやら彼らには、挑発も効果的のようだ。ルベルも澪に倣って、トランプ兵達に聲を掛けてみる。
「やーい、ぺらぺらー」
「なにっ」
少年の口から放たれたストレートな煽り文句に、つい気色ばむトランプ兵達。思いのほか、彼の挑発は効いているらしい。
「僕のふわふわ尻尾をご覧なさい。厚みで大勝利でございますぅー」
自身の柔らかな狼尻尾をもふもふと撫でながら、少年は更に兵隊達を煽る。実際、彼の尻尾は見るからにもっふりとしていた。まるで縫い包みのような、魅惑の愛らしい尻尾である。
「ふかふかのお布団と、もふもふ尻尾は正義ですよー……」
「くっ、なんだこの敗北感は……!」
澪は猫派であるけれど、狼の尻尾もまた可愛い物なので同意を示しておいた。さしものトランプ兵達も、彼女の反応には思わず肩を落とす。ルベルの狙い通り、敵の士気は順調に削れているようだ。
「わ、我らとて束に成れば、それ位の厚みッ……!」
されど、トランプ兵は主に似てプライドが高かった。短気を起こしたひとりの兵隊が、澪を狙って突っ込んで来る。すかさず庇いに入るのは、――ルベルだ。
彼はその身を盾として、放たれるスピアの一撃を受け止めた。そうっと澪を振り返り、儚げな貌で少年は笑う。
「貴女を守れて、本望でございます……」
「えっ……」
金色に煌めく凶刃の前に、ガクッと倒れ伏すルベル。彼に庇われた澪といえば、予想外の展開に眠たげな瞳をほんの僅か円くしている。
「まあっ、お客様になんてこと……!」
「敵は討ってみせるとも、もふもふ毛並みの君」
ルベルの尊い犠牲に愉快な仲間達はわっと奮起して、キリなく増え往く兵隊達の元へ果敢に向かって行く。ボビン卿が絲でぎゅうぎゅう敵を戒めている隙に、トルソー婦人は固い躰で的へアタック。実に頼もしい奮闘ぶりだ。
一方で澪は首を傾げながら、倒れ伏したルベルを見守っていた。あたかも今際の別れめいた科白を遺して行った彼だけれど、決して致命傷では無かったような……。
「うん、頑張ってらっしゃいますね」
「あ、起きましたー……?」
そんな事を考えて居たら、少年はすくっと起きあがった。思わず眠たげな双眸を瞬かせる澪。先ほど力尽きて見せたのは、やっぱり芝居だったらしい。
ルベルはぐいぐいと背伸びをしながら、娘の問いにこくりと頷いて。それから、にっこりと笑みを咲かせて見せる。
「それにしても、澪殿の歌声は綺麗でございますな」
「そうでしょうかー……有難うございます……?」
ルベルの素直な賛辞に、芒と首を傾ける澪。お利口に正座をした少年は其の貌に笑みを浮かべた侭、彼女のぼんやりとした貌を見上げている。
「僕、もっと聞いていたいのでございます」
「じゃあ、アンコールと行きましょー……」
オルゴールめいた金色のシンフォニックデバイスを腕に抱き、澪は再び息を吸い込んだ。伸びやかな詩は電子の海を越えて世界に響き渡り、彼女の傍らに座るルベルのふんわりとした尻尾も、その歌声に合わせてもふもふと楽し気に揺れる。
彼女のアンコールはもう暫し続く。謳匣から届いたその歌声は、オウガとの戦いに挑む愉快な仲間達を温かく支え続けたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
◎
ほんとうに黒い国だねえ……故郷とは真逆のよう
私の国では、ひかりを受けて草木も水面も輝いていたから
この白い衣装だって、ここでは目立ちすぎるかも
ねえ、ボビン頭のキミ
キミの服はなかなかステキだねえ
私は着るものを自分で選んだことがほとんど無くって
服装のことはよくわからないけど、それカッコいいとおもうよ
――あっ!キミ今襲われてるんだったね
こんなコト話してる場合じゃないや
ボビン君と協力して戦う
キミのその絲で足止めしてくれるかい。数秒だってかまわないさ
止まっている敵を刺すことほど簡単なコトはない
ボビン君に攻撃が及びそうであれば《かばう》
攻撃を受ければすかさず反撃
ボビン君らの大事な衣装
誰にも汚させやしないさ
●白き纏いの王子様
エドガー・ブライトマン(f21503)は、世界を旅する王子様だ。アリスラビリンスに存在する様々な国は勿論のこと、文明の発達した世界から荒廃した世界まで、彼は本当に多種多様な世界へと足を運んで来た。
そして今日、旅する王子様が偶々通りすがったのは、漆黒に包まれた洒落者達の国――“ゴシックランド”である。
「ほんとうに黒い国だねえ……」
青い瞳で空を仰げば、其処には暗闇が只管広がって居る。それなら下はどうだろう。試しに視線を落としてみれば、黒き石畳が何処までも続いていた。
故郷とは真逆だと、エドガーは想う。彼の国では人々の頭上に青い空が広がっていたし、太陽だって眩く輝いていた。温かな陽光に照らされた草木や水面の煌めきは、到底忘れられるものでは無い。
されど、この世界は彩に欠けていた。空がこんなに黒いから、噴水に溜まった水は煌めかない。石畳の隙間やら、立ち並ぶ屋敷の庭に咲く花々は、外の世界では珍しい漆黒の彩。
――この白い衣装だって、ここでは目立ちすぎるかも。
幾ら周囲を見回してみても、白い彩なんて殆ど無いのだ。常ならば自信に溢れている王子様も、自身が纏う白い衣装がこの国では浮いて居ないかと少しだけ不安に成ってしまう。
そういえば、ここの住人はどんな装いをしているのだろう。きょろきょろ、更に周囲を見回せば、黒いスーツに身を包んだボビン頭の紳士を見つけた。
エドガーは観察する様に彼のことを、じぃっと眺めて視る。ボビン卿が纏う黒いスーツは、何処か貴族趣味だ。フロントが短くバックが長い燕尾服。袖には繊細なレース、胸元には上品な布薔薇を飾っている。ボビン頭にちょこんと乗せた、シルクハットも大変お洒落。自己主張する髑髏飾りが、この国の風変わりな文化をよく物語っていた。
「ねえ、ボビン頭のキミ」
「おやおや、御機嫌よう」
エドガーが気さくに話しかければ、ボビン頭の紳士はハットを僅かに持ち上げて挨拶を返してくれる。見た目は少し怖いけれど、気性は随分と穏やからしい。
「キミの服はなかなかステキだねえ」
「君の装いだって素晴らしいよ。煌びやかで、王子様のようだ」
個性的な装いをこころから褒めれば、紳士はどうもと首を傾けて。趣も彩も異なるエドガーの衣装へ、逆に興味を向けて来る。
「そう、私は王子様なんだ。だから、着るものを自分で選んだことがほとんど無くって」
だから正直な話、彼には服装のことなんてよく分らない。けれども、ボビン卿の着こなしは洗練されているように思えた。なにより、その装いからは衣装に注いだ情熱が伝わって来るのだ。
「それ、カッコいいとおもうよ」
王子様らしく、煌めく笑顔を咲かせるエドガー。紳士は照れたように、糸巻頭を白い指先で掻く。何せ貌全体がボビンだから表情は分からないけれど、彼の目には紳士が歓んでくれているように見えた。
「ふふ、ありがとう。とても光栄だ……おっと」
「――あっ!」
歓談に興じていた紳士の元へふと、金のスピアが飛んで来て。漸く王子様は、この国に来た理由を思いだす。間一髪の所で凶刃をひらりと躱した為、ボビン卿に怪我は無いのが幸いか。
「キミ、今襲われてるんだったね」
こんなコト話してる場合じゃないや。そう独り言ちて、エドガーはするりとレイピアを抜く。白き蔦薔薇が絡まる壮麗な造形のそれに、何処にあるのかも分からないボビン卿の視線が注がれる。
「ねえ、キミのその絲で足止めしてくれるかい」
それでも注目されていることだけは分かったから、エドガーは彼に共闘を持ちかける。見るからにインドア派で芸術家肌な彼だけれど、ボビン頭に巻き付く絲は敵の隙を作るのに役立ちそうだ。
「構わないけれど、きっとスピアに切られてしまうよ?」
「大丈夫、数秒だってかまわないさ」
王子様はボビン卿の懸念に頸を振り、きらりと星が零れるようなウインクをひとつ。止まっている敵を刺すこと程、簡単なことは無い。僅かなチャンスを最大限に生かしきる剣の術――嘗てさる国の第二王子ジョージが誇った剣戟を、エドガーは持ち合わせて居るのだから。
エドガーの提案に頷いたボビン頭の紳士は、しゅるりと鮮やかな絲を伸ばす。それは意志を持って居るかのように、トランプ兵の躰に巻き付いて行き彼らの動きを戒めた。
「そう、そんな感じ」
はらり――。白いマントを翻して、王子様は黒き石畳を駆けて往く。銀のレイピアが煌めけば、次の瞬間にはもう、戒めの美しい絲ごと兵隊達の白い躰はばらばらに切り裂かれていた。見事なその剣筋に、ボビン卿はパチパチと万感の拍手を降らせている。
「ボビン君らの大事な衣装、誰にも汚させやしないさ」
「君の白い衣装だって、汚れて仕舞ったら大変だ。私も全力を尽くすとしよう」
エドガーの雄姿に触発されたらしく、ボビン卿は鮮やかな絲をしゅるり、しゅるり。随分と景気よく、敵に向かって伸ばして行く。
「それは頼もしいなあ。暫くの間、よろしくね」
そんな紳士を庇う様に立ちながら、王子様は再び鮮やかにレイピアを振う。翻った白マントの裏地に潜む、青色の鮮やかさを脳裏に焼き付けて。数多のトランプ兵達は黒き世界を彩る紙吹雪へと、其の身を窶して行くのだった。
大成功
🔵🔵🔵
オブシダン・ソード
【狐剣】
赤か黒かで言うなら、僕は黒かなぁ
趣味の合う国だし守ってあげたいところだね
UCを使用してずらっと剣の列を
どうだい君達、良く斬れる黒い剣は如何かな?
…あ、もしかして糸巻きの邪魔? そちらのお嬢さん方は持つ手がない?
ううん……まあ仕方がない、全部僕が操作しよう。それでも僕は君達の剣になるからね!
君達の戦いには決め手が足りない
ということで糸での足止めや、体当たりでの体制崩しに合わせて剣達を叩き込んでいくよ
僕自身も器物を手に前へ
剣術の腕はそんなでもないけど、相手が兵隊達くらいなら遅れは取らないはず
いすゞの援護も加えて斬れる敵をばっさばっさと…
ねえこれ多くない?
信じてくれるのは嬉しいけども
わー
小日向・いすゞ
【狐剣】
はい、どうもっス〜
へぇへぇ
うちの旦那がこう言ってるのであっしは三歩下がって着いてくだけっスよ
前にも出るっスけれどね
剣の押し売りはあっしものーせんきゅー
今日は得意なこちらで行くっス
符を構えて
身軽に飛んで跳ねて蹴って
尾で、杖で叩いて
防御に、攻撃にと符を撒いて
随分と女王様は偏狭なようっスが、居眠りに対する罰は何っスかね?
眠らずとも、動きが鈍れば十全
攻撃手は沢山有るっスからね
さぁさ、センセ出番ですよ
全部全部
黒に染めてやってくださいな
たくさん増えてしまったなら、それ以上に符を撒くっス
大盤振る舞いっス、あとはセンセがやってくれるっス!
ねぇセンセ!
信じてるっスよ!
わー
が、頑張ればいけるっスよ!
多分
●護符と黒曜の雨霰
「女王陛下以上に恐れる者など無し!」
「全軍、怯まず進むのだ!」
黒い世界を赤に染めんと、只管に行進を続けるトランプの大群。愉快な仲間達は彼らに絲を巻いたり、固い躰で体当たりしたりと善戦はしているけれど。如何せん敵の数が多くキリが無いのだ。
「どうしましょう。倒しても倒しても、終わらないわ」
「全て終わる頃には、私達の纏いも襤褸布に成ってそうだねえ」
この国の住人たる紳士淑女は、のんびりと困っていた。無限に湧いて出て来るトランプ兵達を潰すことに、彼らもそろそろ徒労を感じ始めて居る。
「徴収せよ! 徴収せよ!」
気勢溢れるトランプの行軍に、あわや押し潰されそうになる愉快な仲間達だが――。
「はい、どうもっス〜」
軽快な聲と共に飛来した稲荷の霊符に意識を刈り取られ、トランプ兵達がパタパタとドミノの如く倒れ伏して行ったものだから、間一髪どうにか事なきを得た。
「――赤か黒かで言うなら、僕は黒かなぁ」
霊符を追い掛けるように去来するのは、数多の黒曜剣たち。鈍く煌めいたそれらは自由自在に宙を駆け、眠りこける兵隊達を切り裂いて往く。
如何したことかと驚く仲間達の前に姿を現すのは、小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)とオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)のふたり。
「趣味の合う国だし守ってあげたいところだね」
「うちの旦那がこう言ってるので、あっしは三歩下がって着いてくだけっスよ」
この国の住人と同じく黒を纏う青年の言葉に「へぇへぇ」と頷きながら、狐らしくコンと眸を細めて笑ういすゞ。必要とあらば前にも出るのだけれど、心意気はあくまで良妻らしく。
「まあ、助けて下さって有難う!」
「ご夫婦で観光かな。折角来てくれたのに済まないが、我が国はこんな有様でね」
肩を落とす紳士達に首を振りながら、オブシダンは黒き剣を念力でくるり、くるりと操ってみせる。愉快な仲間達の前にそれらをずらり並べれば、壮麗たる黒曜刃の列が出来上がり。
「観光はあとで楽しませて貰うとして。どうだい君達、良く斬れる黒い剣は如何かな?」
「ほう、なんと立派な……」
人懐こく口許を緩めて見せれば、紳士の一人が興味深げに黒剣を手に取った。試し切りとばかりに、ぶんっと振り回したなら――。
「おっと」
ボビン頭からしゅるりと伸びた絲がぷつり、風の代わりに切られてしまう。一連の動作を見守っていたオブシダンは、想定外の光景に思わず沈黙した。
「……あ、もしかして糸巻きの邪魔?」
「糸巻のセンセ向きじゃないかもっスねぇ」
じゃあ、トルソーのご婦人方は如何だろうか。そう想って彼女達を見れば、何ということか。彼女達には頸もなければ、物を持つ為の腕も無い。序に言うと脚すらない。
「剣の押し売りはあっしものーせんきゅー」
それならばと視線を向ける前、奥さんからも先手を打って断られてしまった。こうなったらもう、選択肢はただひとつ。
「ううん……まあ仕方がない。全部僕が操作しよう」
オブシダンはずらりと並んだ自身の写し身から一本を、その手の中に収めて思い切り風を切る。ぶぉん――と、勇ましい音が響けば如何にか成りそうな気がした。
「それでも僕は、君達の剣になるからね!」
黒い大地を蹴り駆け出して行く伴侶を見送り、いすゞは霊符を扇子の如く五指にはらりと広げてみせる。三歩下がるが良妻ゆえに、後方支援はお手の物。
「あっしは得意なこちらで行くっス。――さ、センセ達もご一緒に」
「ええ、私達もやれることをしましょう」
「客人ばかりに任せては、我らの名誉に傷が付いてしまうね」
コンと笑ったいすゞの誘いに、剣を振うオブシダンの姿に、住人達のこころも自ずと奮起する。
色鮮やかな絲がトランプ兵の躰を戒めれば、トルソー婦人が透かさずアタック。紙で造られた兵隊達の儚い躰は、あらぬ方向へと飛んで行く。されど、彼らの戦い方には決め手が足りない。――そこで、オブシダンの出番である。
「君達に遅れは取らないよ」
オブシダンは“ただ一振りの剣”だけれど、振われる方は兎も角として、振う方――剣術に自信が有る訳では無いのだ。それでも、幾つもの戦場を駆け抜けて来た猟兵として、ただの兵隊達に負ける筈が無かった。何より、彼には支えて呉れるひとが居るのだ。
「邪魔をするなら貴様から――赤く赤く、染めてやろう!」
金に煌めくスピアを掲げた兵士が、攻撃の要たるオブシダン目掛けて突っ込んで来る。されど如何に勇猛なる突撃も、何処からかひらり――飛んで来た霊符に阻まれたら最後。カランとスピアは地に堕ちて、トランプの兵隊はうとうと眠りこけててしまう。
「随分と女王様は偏狭なようっスが、居眠りに対する罰は何っスかね?」
「やっぱり首、刎ねられちゃうんじゃない?」
列なす黒剣のひとつを青年は手繰り寄せ、こんな風にと黒い切っ先で騎士めいた頭を薙ぐ。クロッケー・ボールよろしく、すぽんっ――なんて頸が飛べば、トランプの大群は処刑の恐怖に騒めいた。
「このままでは、我らの頸が女王陛下のボールにされて仕舞うッ!」
「冗談じゃない! フラミンゴの槌で殴られるなんて御免だ!」
兵隊達に伝わった恐怖は、新たなトランプ兵達を生む。その赤き大群は恐怖を与えた存在――いすゞとオブシダンの元へ押し寄せて来るけれど。ふたり共に有れば恐るるに足りぬ。
コーンコン。ぽっくり下駄で地を蹴ったいすゞは、身軽に飛び跳ねて彼らの凶刃を受け流す。着地の序に兵隊達を蹴り飛ばせば、儚い其の躰は遥か遠くに吹っ飛んだ。
取り零しは柔らかな尾でもふんと叩き、白狐を形どる杖笛でぷつりと突いて無力化する。大立ち回りを演じながらも、彼女は伴侶の側へと霊符をばら撒いて。彼を護る白壁を作る傍らで、眠りを齎す符も周囲にばさばさと撒く。
大盤振る舞いされた霊符を受け止めた兵隊達は、うつらうつらと夢のなか。彼らの動きが鈍った今こそ、攻めの好機――!
「さぁさ、センセ出番ですよ」
全部全部、黒に染めてやってくださいな――なあんて。いすゞが紅を引いた瞳を細めれば、彼女の期待に応えるかの如く黒曜の剣がばっさばっさと兵隊達を薙ぎ倒して行く。
「ねぇセンセ! 信じてるっスよ!」
鼓舞するように掛けられる聲は、オブシダンに力を与えてくれる。とはいえ、トランプの紙吹雪を延々と生み出し続ける彼は、思わず我に返らずには居られなかった。
「――ねえ、これ多くない?」
「が、頑張ればいけるっスよ!」
信じてくれるのは嬉しいけれど、確かにこれはキリが無い。多分、と小さく付け加えたいすゞだって、それは薄々感じていた。されど、愉快な仲間達も戦力として如何にか頑張っている。うっかり徒労を感じてしまいそうになるけれど――きっと、何とかなる。
もう少しで突破口が開ける筈だと信じて、わーわーと賑やかな聲に溢れる戦場を、ふたりは駆け回るのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メアリー・ベスレム
◎☆
黒くて陰気な国ね
けど、あの世界(ダークセイヴァー)とはちょっと違うみたい
メアリも赤は好きよ?
だって、血の色だもの
ペンキなんかじゃ駄目よ、もっとずっと鮮やかな赤でなきゃ
染め方はよく知ってるでしょう?
そう【誘惑】して惹きつけて、住人達から引き離して
【獣の嗅覚】【逃げ足】を活かして捕まらないように
捕まりそうになったら【咄嗟の一撃】で反撃
インクの臭いに金属の臭い
そういうあなた達は血を流しそうにないかしら
もし流すのなら、楽しんで
流さないなら、つまらなそうに
ハートのお腹を引き裂いたり、手足をバラバラにする【部位破壊】
それに【ジャンプ】から体重と肉切り包丁の重さを乗せた【重量攻撃】で頭をかち割ってあげる
●Werewolf In Gothicland
黒き石畳を高い踵でコツコツと踏みしめながら、メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は、ゴシックの趣纏う国を往く。
初めて訪れるこの国の空は宵闇の如き黒彩に染まり、道端に咲く花々もまた宵彩に染められていた。
「黒くて陰気な国ね」
紅の双眸を巡らせた少女は、思った儘の感想を零す。この陰気さはあの世界――ダークセイヴァーとよく似ている。しかし、よくよく観察してみると細部が異なるようだ。
住み易く整えられた街並みからは、この国がそれなりに栄えていることが見て取れる。それに、立ち並ぶ家々はお屋敷と表現しても差し支えない程に大きなもの。
ゴシックランドはヴァンパイア達が支配する常闇の世界に比べて、随分と長閑な世界らしい。
――されど、その平和を掻き乱す者達がここに居る。
「女王様の領地に黒など不要!」
「赤く赤く、総てを染め上げてしまえ!」
白い腹にハートのスートを飾った、如何にも不思議の国の悪党らしいトランプ兵達だ。彼らは抵抗する愉快な仲間達を隅の方に追い込んで、逆賊の血をペンキとして世界を赤く染め上げようとしていた。
見兼ねた少女は薄蒼のおさげを揺らし、ゆっくりと兵隊達の後ろへ歩み寄って行く。態と踵の音を響かせながら。
「ねえ、メアリも赤は好きよ?」
だって、血の色だもの――なんて。紙で造られた背中越しに幼げな聲を零したならば、もしやアリスの来訪かと兵隊達が一斉に後ろを向く。
「ペンキなんかじゃ駄目よ、もっとずっと鮮やかな赤でなきゃ」
トランプ兵達がその視界に捉えたのは、余りにも武骨な肉切り包丁をぎらりと光らせたメアリーの可憐な姿。
「この娘……アリスか?」
「アリスならば、女王陛下の元へ連れて行かねば……」
「しかし、この国を赤く染めるのも急務……」
女王様はアリスに執着を注いでいる。ゆえに、彼らはアリスの奪取も任されているのだ。葛藤を抱きながらも兵隊達はゆっくりと一歩ずつ、メアリーの方へ歩んで行く。
「そう。メアリはアリスで、アリスはメアリ」
トランプの兵隊達が歩み寄る度に、少女は後ろへ一歩ずつ下がる。付かず離れずの距離はまるで、彼らを誘い焦らすよう。
「赤を求めるあなた達なら、染め方もよく知ってるでしょう?」
薄く笑みながらそんな科白を零して、メアリ―はくるりと踵を返し――石畳を大きく蹴って、ひといきに駆けだした。
「そうだ、アリスの血で赤く染めよう!」
「ついでにアリスも赤く染めてしまえ!」
「アリスを逃がすな! アリスを追え!」
功を求め少女の後を追い掛け始める、トランプ兵の大群。一方、自慢の脚で駆け抜けるメアリーは、後ろを振り返る様子など無い。彼女には優れた嗅覚があるのだ。
インクのツンとした匂いに、金属の無機質な匂い。ふわりと香るそれらの匂いは未だ遠く、ゆえに追いつかれては居ないと知る。
「逃がすものか! お前を赤く赤く、染めてやろう!」
彼女の遥か後ろで、ハートを彫り込んだ金色のスピアがぎらりと光った。一体のトランプ兵がいま、猛スピードで少女の背中へ迫り来る――!
「そういうあなた達は、血を流しそうにないかしら」
兵隊が振るった凶刃は彼女の白肌へ届くことは無く――カランと、無残に地へ堕ちた。ぴたり、不意に立ち止まった少女の手に煌めく包丁が、彼の刃よりも早くその白い躰を引き裂いたのだ。
「――ほら、やっぱり」
赤いハートを引き裂くように、真っ二つにしてみたけれど。この兵隊と来たら血はおろか、赤インクすら零さないものだから。メアリーは至極つまらなそうに、此方へと向かって来る兵隊達へと向き直る。
「怯むな、突撃せよ!」
兵隊達の威勢だけは素晴らしく、次々に少女へと飛び掛かって来るけれど。すっかり興を削がれてしまった少女は、軽口すら返さずに無骨な包丁をただ振う。
金色の手足をストンと切り落とせば、騎士めいた頸を乗せた只のトランプだけが残るなかった。それでも容赦なく得物を真横に薙ぎ払い、彼らのアイデンティティたるハートの意匠を真っ二つにしてやった。
軽い音を立てながら地べたに這い蹲る兵士達の上に、いま小さな影が差す。コツリと地を蹴った少女が、高らかに宙を舞ったのだ。重力に導かれる侭に堕ちて来る少女を見上げながら、ハートの兵士が虚ろに問う。
「貴様は……アリスなのか……?」
「言ったでしょ。――アリスはメアリだって」
メアリーは確かに、ダークセイヴァーからアリスラビリンスへと召喚された“アリス”である。しかし、彼女は決して哀れなる仔羊では無い。
メアリー・ベスレムは人狼の殺人鬼である。無力な獲物として招かれた筈のメアリーは、怪物をも喰らって見せる――獰猛な狼だったのだ。
少女の本質を見誤った兵達の頭上に、重たく無慈悲な一撃が降って来る。ぐしゃり――騎士のヘルムめいた頭が潰れても、彼らの躰が零す物は何ひとつ無かった。
大成功
🔵🔵🔵
彩波・いちご
【恋華荘】
ゴシックファッションは割りと好きなんですよね
ゴシックロリータの方が着る機会は多いですけど、純粋なゴシックもたまには試してみたい
なので!ハートの女王にはお帰りいただきましょう
…赤は赤で好きですけど
赤黒でゴスもありでしょうにねえ?
【護法の天使】で赤黒ゴスロリ風味な魔法少女に変身っ
理緒さんが足止めしてくれたトランプ兵を、1体ずつ確実に仕留めていきましょう
徒手空拳の殴る蹴るで!
格闘系魔法少女ですので!
強化された身体能力を駆使して、高速で近付いてのヒットアンドアウェイ
飛び蹴りからの空中蹴り連打
スカートの中は鉄壁です♪
一撃必殺で次々やっちゃいます!
理緒さん、愉快な仲間の皆さん、援護よろしくです!
菫宮・理緒
【恋華荘】
兵が怯えるとか……。
ハートの女王って短気で我儘じゃないとなれないのかな?
トランプにだって、スペードっていう黒のスートがあるんだから、
共存できるとよかったんだけど、そこはしかたない。
数が多いみたいだから、行動制限していきたいな。
進撃ルートを予測して、
トランプ兵のいる地面に【虚実置換】で穴を開けて、
進軍を止めるか、速度を鈍らせよう。
トランプ兵が動きを止めたら、そこを狙って攻撃してもらっちゃうよ。
久しぶりのマジカルストロベリー、かぁいい。
けどこれ、あぶない技なんだよね。
虚実でしっかり援護して、さくっと終わらせるよ!
愉快な仲間達にはできれば遠距離から、
無理なら3人1組くらいで戦ってもらおう。
●可憐なる護法天使
黒い花々を踏み潰しながら、白と赤の大群は進んで行く。彼らは一様に、聲高らかに、女王陛下への忠誠と恐怖を謳う。
「頸を刎ねられる前に、この国を攻め落とせ!」
「女王陛下の勅令を果たすのだ!」
ハートのトランプの兵隊達は金色の槍を掲げて、ずんずんと此の地を踏み荒らして行く。ふたりの猟兵と愉快な仲間達は彼らの横暴な進軍を、路地裏に潜みじっと観察していた。
「兵が怯えるとか……」
ハートの女王への恐怖を糧に奮起するトランプ兵達を眺めながら、菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)は呆れたような溜息ひとつ。
「ハートの女王って、短気で我儘じゃないとなれないのかな?」
恐怖政治にも限度と云うものがある。寧ろその恐怖を糧に、彼らの結束が強まっているのだから。ある意味彼女の統治は成功しているのかも知れない。
そもそも、何故赤色に拘るのだろうかと理緒はひとり頸を傾ける。トランプにだってスペードやクローバーのような、黒いスートが有るというのに。
「共存できるとよかったんだけど、そこはしかたない」
「赤黒でゴスもありでしょうにねえ?」
彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)もまた、不思議そうに首を傾げていた。彼はゴシックファッションもそれなりに好きだし、ゴシックロリータには特に馴染みが深い。
赤と黒のゴスロリドレスなど、文明の発展した世界ではよく見る組み合わせ。ハートとゴスも、何となく親和性が高い気がするのに――。
女王様の拘りは正直よく分らないけれど、純粋なゴシックもたまには試してみたいと彼は思う。
「ハートの兵隊達には、お帰りいただきましょう!」
戦闘後のお楽しみに思いを馳せながら、少年はくるりとスカートを翻す。電脳天使のプログラムをその身にダウンロードしたならば、護法天使『ミラクル☆ストロベリー』が黒い大地へ華麗に降臨するのだった。
「理緒さん、愉快な仲間の皆さん、援護よろしくです!」
「久しぶりのマジカルストロベリー、かぁいい」
ぱちんっ。青い瞳から星が煌めくようなウインクを零せば、理緒がふわりと頬を弛める。魔法少女めいた赤と黒のゴスロリドレスは、華奢で可憐な少年によく似合っていた。
「おや、これはまた愛らしい装いだねえ」
「メルヘンファンタジー風味かな、実に興味深い」
ボビン頭の紳士達はいちごの華麗なる変身に、大層感心している様子。彼が纏うゴシックロリータな衣装にも、アーティストとして興味深げな眼差しを送っていた。
――けどこれ、あぶない技なんだよね。
されど、理緒だけは知っている。護法天使へと変身するこの術が、彼の寿命を削るものであることを。
「さあ、しっかり援護して、さくっと終わらせるよ!」
理緒がゴーグルタイプのデバイス『Oracle Link』を弄れば、彼女の視界いっぱいに大きな陥没穴の画像が広がった。
琥珀の瞳は抜け目なく、トランプ兵達の進軍ルートを追い駆けて。軈て先頭を歩く兵隊より少し前に広がる『路』へと意識を向ける。
「よし、ここにしよう」
Retouch and Paste !!
じっと視線を集中させれば、兵隊達の進軍先にぽっかりと穴が開く。いきなり道が消えたのだから、兵隊達は大慌て。穴に落ちるギリギリのところで、金属の足を止める。
「今のうちです!」
「絲で縛れば良いのだろう。任せてくれたまえ」
ボビン卿に行動を促しながら、いちごは地を蹴り路地裏から飛び出して行く。紳士の頭から伸びる鮮やかな絲は、しゅるりと兵隊達の躰を戒めてその身動きを封じてしまった。
「さあ、覚悟してください!」
理緒が足止めしてくれて、愉快な仲間が捕まえたトランプ兵を、護法少女は思い切り殴りつける。ぷつりと切れた絲と共に、空の彼方へ飛んで行く兵隊に目もくれず――いちごは近くで槍を振っていた兵隊を、華奢な脚でえいっと蹴り飛ばした。
衝撃を受けた個所からびりりと裂け、力なく崩れ落ちて往くトランプの兵隊。愉快な仲間達は華奢な少年の健闘ぶりを目の当たりにして、純粋に驚いているようだった。
「いやはや、君は凄いね」
「これが噂の徒手空拳か」
「ええ、格闘系魔法少女ですので!」
降り注ぐ賛辞の聲へ得意げに胸を張ったいちごは、戒められた兵隊達を一体ずつ撃破して行く。高速で近付けば兵隊の白い躰を思い切り蹴り飛ばし、念のためにと距離を取る。
スピアを振り乱すしぶとい兵を視界に捉えれば、地を蹴って宙を舞い――勢いよく飛び蹴りを喰らわせる。
彼の敵も衝撃で宙に舞い上がれば、まるでサッカーボールを蹴り飛ばすかの如く、空中蹴りを何度もお見舞いしてやった。
「この国は私達が守ってみせます!」
ヒーローショーのような決め科白を放ち、いちごはシュッと着地する。ボビン頭の紳士達は、この国の危機に駈け付けてくれた護法少女――ミラクル☆ストロベリーの勇ましさに、心から喝采を降らせるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
五条・巴
亮(f26138)と
黒は黒の、赤は赤の魅力がある。
その色やデザインをよく見せるのが、僕らの仕事。
どんなイロだって着こなして、引き立てて、そして僕色に染める─
君達の女王様は、無理やり染めてしまうような人なの?
本物なら、自ら染められたくなるよう御仁でないと。
ああ、亮の言う通り、漆黒の中に一花赤き女王様はとても映えるだろうね。
ふふ、大口叩いてみたけれど、聞く耳持ってくれなそうだね。
でも妬いちゃうな。
女王様、女王様って、僕の事見てくれない。
もっと僕も見てよ。
ふふ、ばれちゃったか。負けるのは嫌なんだ。
亮の音楽に合わせて牝鹿も踊るよ。
僕達の舞台の幕開けだね。
天音・亮
巴(f02927)と
さすが巴
プロは言うことが一味違うね
神秘的で静かで
それでいて何色にも染まらない黒
情熱的で艶やかで
一瞬で視線を捉え惹き付ける赤
私はどっちも好き
それぞれがそれぞれの色を纏うから良いの
それに考えても見て?
例えばこの黒をぜーんぶ赤と白に変えちゃったら
せっかくの女王様の存在感も
風景に紛れてしまうような気がするんだけどなぁ…
あ、巴が女王様に対抗心燃やしてる
ふふ、意外と負けず嫌い?
でもまあ、そうだよね
私もそっぽ向かれるのは嫌だな
だって私達は魅せる事を生業としているんだから
それじゃあそろそろON STAGEと行きますか
アドくんが響かせるミュージック
言葉を乗せて歌にしよう
魅せて、きみだけの色
●その彩はきみがため
「女王陛下の領地には赤色こそが相応しい!」
「黒い世界を、我らの色に染め上げるのだ!」
壮麗な黒に溢れた世界にいま、侵略者達の怒号にも似た聲が高らかに響き渡る。この国の理を歪めようとする兵隊達を前に、五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)はその端正な眉を顰めた。
「黒は黒の、赤は赤の魅力がある」
それぞれの彩や、纏う衣装のデザインをより良いものに見せるのが、彼が生業とする“モデル”の仕事なのだ。
「どんなイロだって着こなして、引き立てて、そして僕色に染める――」
人々の視線を集めるトップモデルとは、どんな彩も自分の彩にしてしまえる者のこと。彼は自分の仕事に、そしてモデルの仕事に携わる自分自身に、誇りと確かな自信を持って居た。
彼の傍らに立つ娘――天音・亮(手をのばそう・f26138)は、彼の唇から零れた堂々とした科白に、ふふりと微笑んで見せる。
「さすが巴。プロは言うことが一味違うね」
そう零す彼女もまた、ヒーローズアースでモデルを務めているのだけれど。ヒーロー兼イェーガーでもあるので、彼と異なる視点で此の世界を眺めて居た。
ふと青い瞳で周囲を見回せば、空も大地も建物も、花々すらも黒塗れ。ゴシックの趣は神秘的で静謐で、それでいて何色にも染まらない――孤高の黒に溢れていた。
一方で赤色は彼女にとって、情熱的で艶やかな彩である。一瞬で人々の視線を捉え、惹き付けるその彩もまた、魅力的に思えてしまう。
「黒と赤、私はどっちも好き。それぞれがそれぞれの色を纏うから良いの」
誰しも好きな色はあるものだけれど、世界を一色だけにしてしまうなんて勿体ない。纏いたい時に纏いたい彩を選ぶ自由があってこそ、人はお洒落をこころから楽しむことが出来るのだ。
「君達の女王様は、嫌いな色を無理やり染めてしまうような人なの?」
勇ましくスピアを掲げるトランプ兵達へ向けて、巴はかくりと頸を傾ける。彼は遍く色を着こなす存在である。ゆえにこそ、“赤”以外を好まぬ女王陛下の拘りに理解を示せない。
「本物の女王様なら、自ら染められたくなるよう御仁でないと」
誰もが傅きたくなるような――偉大な女王として君臨することを彼らの主が望むなら、塗潰されることを望まれるような、魅力あふれる存在に成らなければ。端正な貌に穏やかな微笑を湛えた青年が、そんな持論を悠々と語ってみせた。
「ねえ、それに考えても見て?」
金の髪を揺らした娘もまた、諭すように兵隊達へと努めて優しく話しかける。彼女の青い瞳に映って居るのは、壮麗たる黒の景観。
「この黒をぜーんぶ赤と白に変えちゃったら、せっかくの女王様の存在感も、風景に紛れてしまうような気がするんだけどなぁ……」
ハートの女王なんて絵本でしか見たことが無いし、そもそもこの世界に実在するのか如何かも定かでは無いけれど。ハートの女王と云う位なのだから、トランプの兵隊達と同じように、白と赤の衣装を纏っているのだろう。
「漆黒の中一花赤き女王様は、とても映えるだろうね」
脳裏に未だ見ぬ彼女の姿を思い描きながら、亮の言う通りだと巴もゆるりと首肯する。されど、主譲りの頑固さを持つトランプ兵達は決して首を縦には振らなかった。
「陛下が他の彩を愛されるわけが無い!」
「世界の方こそが女王陛下に彩を寄せるべきだ!」
「ふふ、大口叩いてみたけれど、聞く耳持ってくれなそうだね」
今にも襲い掛かって来そうな勢いで、トランプ兵達が気色ばむ。その意固地な様がいっそ清々しくて、美貌の青年は愉快気に頬を弛ませた。
「――でも、妬いちゃうな」
かと想えば、物憂げに藍色の眸を伏せて見せる。人々の視線を集めることこそ、彼の仕事の意義であると云うのに。
「女王様、女王様って、僕の事見てくれない」
――もっと、僕も見てよ。
甘い聲色でそうっと囁けば、雷気を帯びた数多の牝鹿が現れる。彼の周囲を警戒に跳ね回る彼女達の視線は、彼から意識を逸らしたトランプ兵達へと集中していた。
「ふふ、意外と負けず嫌い?」
青年が抱く女王への対抗心を悟り、くすくすと鈴音の笑みを響かせる亮。巴は片目を閉じて、戯れる様に笑み返す。
「ふふ、ばれちゃったか。負けるのは嫌なんだ」
「……まあ、そうだよね。私もそっぽ向かれるのは嫌だな」
何せふたりとも、“魅せること”を生業としているのだから。視線を絡め合わせたふたりは、一度だけ深く頷き合い前を見据えた。
「それじゃあ、そろそろON STAGEと行きますか」
「うん、僕達の舞台の幕開けだね」
球体音響増幅器AI『amplifier doll』――通称『アドくん』から、明るいメロディが響き始める。亮はすぅと息を吸い込み、零した言葉を旋律に乗せて行く。
――魅せて、きみだけの色。
彩に溢れる彼女の歌声に合わせるように、牝鹿達も戦場を舞い踊る。彼女達の楽し気な舞踏は赤と白の兵隊達を巻き込んで、ゴシックランドの調和を確かに守って往くのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
泡沫・うらら
◎☆
お花はいろんな色を持っとるから綺麗なんよ
赤いお花も勿論
せやけど毒々しいその色だけやと寂しいとは思いません?
赤いお花には赤いお花の
黒いお花には黒いお花の魅力があるもんよ
黒の世界を己が好む赤に染めてまう彼女には
情緒を感じる心は無さそうね
貴方たちだけでもうちらだけでも足りひんのなら
力を合わせるより他あらへんね
ご協力、して頂けますか?
喉震い奏でるはあの子が好んだ勇気の歌
背中を押されている気分になるとあの子が謳たから
うちはその旋律を、この戦場に響かせましょう
心穏やかで優しい貴方たち
貴方たちの勇気の一助になれますように
うちへのご配慮は結構よ
ふよりふよりと宙游ぎ、雑兵の槍先が届かん高さまで逃れられるから
スキアファール・イリャルギ
◎☆
良いですよね、黒
影人間なので服は黒を選びがちです
でも自分を着飾るのは興味無くて……
艶やかな中ヨレた服ですいません
あ、包帯は別にファッションではなく……
(褒められ慣れてない人)
えぇ、と、どうも……?
い、今は戦いに集中しましょう、ハイ
――ほおら、女王陛下がお怒りだ
【掉挙の聲】でハートの女王とやらの聲を真似て
"もたもたしてるなら今すぐ首を撥ねてやる"とでも言ってみますか
同時に呪瘡包帯で首を締めつつ
脚を束縛して引き倒し恐怖を与えて――
さぁ紳士淑女の皆様、今のうちに反撃を
私も彼らをケガさせないように援護しましょう
包帯に雷(属性攻撃)を伝わせて攻撃
槍の勢いは包帯で殺しますが、いざとなれば彼らを庇います
●影の聲と海の唄
黒い世界の彼方此方で、ちいさな命が無残にも散っている。金属の脚で轢き潰され、くたりと萎れた黒花は、落っこちて割れた卵男よろしく二度と元には戻らない。
静謐な深海の彩を纏う人魚――泡沫・うらら(夢幻トロイカ・f11361)は、その光景を目の当たりにして、哀し気にそうっと翠の眸を伏せた。
「お花はいろんな色を持っとるから綺麗なんよ」
この世界には、艶めく黒い花しかないけれど。花というものは、色々な彩を纏うものだ。生命力に溢れた黄色に、愛らしいピンク色に、奇跡みたいな青色に――。様々な彩を持つからこそ、花は世界を豊かにしてくれる。
「せやけど、毒々しいその色だけやと、寂しいとは思いません?」
彼らが求める赤い花だって、勿論うつくしいけれど。世界がそれ一色に染まったら、毒々しくて目にも優しくないし、きっと物足りなく成ってしまう。
「赤いお花には赤いお花の、黒いお花には黒いお花の魅力があるもんよ」
淡い水色の尾鰭を揺らして宙を泳ぎ、大地へ其の身を寄せた人魚は、白い指先で萎れた花弁を優しく撫ぜる。
――黒の世界を己が好む赤に染めてまう女王には、情緒を感じる心は無さそうね。
諦めにも似た彩をその端麗な貌に浮かべて、溜息と共に人魚は再び宙をくるり。地上に佇む痩身の青年――スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は、揺蕩う彼女が零した科白へ靜に首肯して、僅か楽し気に周囲の景観を見回した。
「良いですよね、黒」
怪奇をその身に宿す彼は、通称“影人間”。ゆえに、服の類は黒い彩を選びがち。宵闇によく馴染むその彩は、ともすれば影たる彼に安らぎを齎してくれるのかも知れない。
「でも自分を着飾るのは興味無くて……」
艶やかな中ヨレた服ですいませんと、スキアファールは申し訳なさそうに頭を下げる。黒で統一した彼の装いは、着飾った愉快な仲間達とは対照的にシンプルなもの。
おまけに彼の服は新品ばかりが術の犠牲になりがちで、結果としてヨレた服を纏わざるを得ないのだ。この華美な国において、こういう格好は浮いて仕舞うのではないかと、スキアファールは密かに心配していたけれど――。
「とんでもないわ。モノトーンで素敵ね」
「黒い包帯とはお洒落だね。ゴシックパンクな趣だろうか」
「あ、包帯は別にファッションではなく……えぇ、と、どうも……?」
布を幾重も重ねたドレスに身を包んだトルソー婦人も、レースを随所に飾ったスーツを身に纏うボビン卿も、近代風な彼の衣装に感心を抱き賛辞をくれた。
思いのほか歓迎されてしまったので、戸惑ったように黒い双眸を彷徨わせるスキアファール。彼は普段、あまり褒められ慣れて居ないのだ。
「い、今は戦いに集中しましょう、ハイ」
折角褒めて貰えたので包帯を纏う理由は伏せた侭、彼は眼前に迫り来るトランプ兵達に意識を向ける。そんな彼らの遣り取りに微笑ましさを感じて、――くつり。うららは嫋やかな笑みを零す。
「ええ、けれど数が多いみたいやねぇ」
透き通る翠の眸が見据える先には、石畳を埋め尽くす程の赤き大群が居た。愉快な仲間達だけでは勿論、彼らを撃退することは叶わないだろう。猟兵達だけで相手取っても、恐らく結果は同じこと。ならば――道はひとつ。
「力を合わせるより他あらへんね」
彼女は愉快な紳士淑女に視線を向けて、かくりと小頸を傾けた。艶やかな蒼い髪が、ふわりと揺れる。
「ご協力、して頂けますか?」
「ええ、私達の国だもの。頑張って戦うわ!」
「我々の絲が役に立つなら幸いだ」
マイペースで穏やかな彼らだけれど、矢張りこの国を愛しているのだ。快く共闘の申し出を受け入れた住人達に微笑んで、うららは静かに頷いた。波を蹴る様に尾鰭で空気を蹴れば、繊細な躰がふわりと宙を揺蕩う。
「それなら、うちはその背を押しましょう」
翠の眸を瞼に閉ざし、すぅ――と冷えた空気を吸い込んで、人魚は高らかに喉を震わせる。透き通った聲が奏でるのは、“あの子”が好んだ勇気の歌。聴く度に背中を押されている気分になるのだと、何時かそう“あの子”が謳った想い出の歌。
――貴方たちの勇気の一助になれますように。
うららは今、大切なその歌を――あなたの為にと望んだその嫋やかな聲を――心優しく穏やかな住人達の為に響かせている。温かな願いを込めたその旋律は、戦場を共にする仲間達に溢れんばかりの勇気を与えてくれた。
「歌、良いですね。しかも人魚が紡ぐ旋律を、最前列で聴けるとは……」
伝承通りの美しい歌聲に、スキアファールは指先を組み合わせて耳を澄ます。彼もまた密かに歌い手として活動しているので、彼女が歌に込めた想いにはよく共感出来た。音楽、特に歌というものは、裡に秘めてしまいがちな感情を表現できて好もしい。
「私もこの『聲』を活かしてみましょう」
静粛に――なんて。黒い指先で自らの唇を封じて見せれば、頸のある紳士達は頷いて、頸のない婦人達はぴたりとお喋りを止める。青年もまた手の甲に巻いた包帯をしゅるりと弛めて、そのまま口を閉ざした。
『もたもたしてるなら、今すぐ首を撥ねてやる』
軍靴の音と澄んだ歌聲、対照的なふたつの音色が響き渡る戦場に、歪で異質な聲が響く。それは、厳かで冷酷で甲高い――彼の有名な『ハートの女王』の聲。
スキアファールがその身に宿した怪奇の唇が兵隊達の主の聲を真似て、彼らに幻聴を齎したのだ。突如として降って来た女王陛下の怒りの聲は、意気揚々と行進を続けるトランプ兵達にとっては青天の霹靂。彼らは白い躰をぶるぶると震わせて、その場に立ち尽くしてしまった。
「――ほおら、女王陛下がお怒りだ」
深く隈が刻まれた眸を細め、スキアファールは薄らと笑う。影人間たる彼は、人を怖がらせるのもお手の物。駄目押しにその躰から解いた黒い包帯を、しゅるしゅると兵隊達へ嗾けて往く。
「ぐッ……女王陛下……ッ」
「お、お許しをッ……」
ぎりぎり、ぎりぎり。黒包帯に頸を締め付けられて尚、トランプ兵達の耳にははっきりと、怒りを謳う女王陛下の恐ろしい聲が聴こえている。恐慌状態の彼らには、その聲が本物か如何か疑うことすら出来ないのだ。念のために脚まで束縛すれば、ドミノ倒しの如く兵隊達はパタパタと倒れて往く。
「さぁ紳士淑女の皆様、今のうちに反撃を」
両手を大きく広げた青年が仲間達をそう促せば、彼らは一斉に身動き取れない兵隊達の元へと向かって行った。
しゅるりと伸びたボビンの絲が行き着く先は、黒い大地の上で震える数多の白い躰。何も抵抗が出来ぬように、鮮やかな絲を固結び。そこに、どすん、どすん――。重たい体当たりの音が響けば、兵隊達は次々とぺちゃんこに。
「貴様、騙したな……!」
運よく幻聴から立ち直った兵隊が立ち上がり、奮闘する仲間達へとスピアで突撃しようとするけれど――。
「演者への手出しは厳禁ですよ」
しゅるしゅると伸びて来た雷を纏う包帯に阻まれて、びりり。見事に感電した兵隊は、白い躰を黒焦げにしてしまった。
役目を果たした雷帯を愉快な仲間達の近くへと張り巡らせながら、スキアファールはふと空を仰ぐ。兵隊達の槍先が届かぬ宙を、ふよりふよりと泳ぐ人魚の姿が其処に在った。
「其方への援護は……大丈夫そうですね」
「ええ、うちへのご配慮は結構よ」
翠の眸をつぅ――と細めたうららは歌を止め、相変わらず美しく微笑んでみせる。黒の世界を揺蕩う其の姿は軽やかで、何処までも泳いで行けそうだ。
「では引き続き、貴女の歌を特等席で聴かせていただきましょう」
白い貌に穏やかな笑みを滲ませた青年は、天から澄んだ歌声が降り注ぐ其の時を待つ。海の乙女は微笑んだ侭そうっと頷いて、勇気を齎す歌を再び戦場に響かせるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
旭・まどか
エール/f01626と◎
おやおやこれは
夜でも無いのに随分と暗いね
――嗚呼、夜は好ましい
お前が僕を導いた擬似星瞬く青空も悪くは無いけれど
矢張り馴染みが深いのは此方だから
折角落ち着く彩で満たされているんだ
目に痛い色で邪魔をして欲しくは無いね
気丈に振舞い勇気を振り絞る君たちへ
僕から少しだけ、お手伝いをしてあげよう
夜の雫を受け取ると良い
君の絲をより太く、千切れない物とし
君の身をより硬く、罅割れない物としてくれる筈だ
――お前にも、施しを授けてあげる
僕の代わりに沢山働いてくれるでしょう?
世辞を顔色変えず受け取り
僕が凄いのは当然だ
お前の友人とやらも中々悪く無いね
勿論、お前自身も
確とその盾で僕を護っておくれ
エール・ホーン
まどかくん(f18469)と◎
まっくろくろだっ
星の灯らない夜を仰いでくるくる
まどかくんは、夜が好き?
そっかあ、そうしたら
今度は一緒に夜を迎えに行きたいね
でもこの世界の色は黒なんだよね
それを自分勝手に塗り替えちゃうのはダメ
彼の言葉に頷き与える姿に瞬く
自分も雫を受け取って
トルソー婦人さんっ
ボビン卿さんっ
ね、ね、まどかくんすごいねっ
糸がぐるぐる動けなくなった敵をみて
ありがとうっ、これで絶対、外さないよ!
ボクの友達も、すっごく強いんだ!
放つ流星群、敵目掛け数で圧倒
令状を見た瞬間盾を構え
攻撃からみんなをしっかり守る!
まどかくんのおかげで防御力も増しているはずだもの
えへへ、どう?ボク、ちゃあんと働くからね
●黒き世界で煌めくもの
此の世界に導かれて最初に目に入ったものが、宵よりも昏い空の彩だったものだから。旭・まどか(MementoMori・f18469)は長い睫をひとつ、ふたつ、瞬かせた。
「おやおや、これは」
「わあ、まっくろくろだっ」
彼の隣に並び立つキマイラの少女――エール・ホーン(ドリームキャスト・f01626)は、初めて訪れる国が魅せてくれた新鮮な彩に、ピンク色の眸をきらきらと輝かせて。星ひとつ灯らぬ夜色を仰ぎ、くるくると回る。彼女の背で愉し気にぱたぱたと揺れる翼はペガススの、そして薄闇に煌めく角はユニコーンのそれ。
「夜でも無いのに随分と暗いね」
整った貌に不思議そうな彩を滲ませながら、まどかも空を仰ぐ。少年の記憶が正しければ、今は未だ真昼の筈。だというのに、この世界には太陽が無い。その代わりに、蒼い空にも浮かんでいるような白い月が、黒い天の帳に薄らと浮かんでいた。
「まどかくんは、夜が好き?」
「――嗚呼、夜は好ましい」
かくり、頸を傾ける少女から紡がれた問いに、少年は静かに首肯する。いつか彼女に導かれた不思議の国――擬似星がきらきら瞬く青空も、決して悪くは無いのだけれど。矢張り彼にとって馴染みが深いのは、他ならぬ宵闇だから。
「そっかあ。そうしたら、今度は一緒に夜を迎えに行きたいね」
其のかんばせに人懐こい笑顔を咲かせたエールは、無邪気に“次”の逍遥の機会を願う。気が向いたらね――なんて。戯れる様に返した少年の双眸はいま、この国を蹂躙しようとする赤と白のトランプ兵達へと向いていた。
「折角落ち着く彩で満たされているのに。目に痛い色で邪魔をして欲しくは無いね」
「この世界の色は黒なんだよね。それを自分勝手に塗り替えちゃうのはダメ」
孤高の黒に溢れた世界に、彼らの鮮やかな彩は聊か派手過ぎだ。少年が疎まし気に眉間を抑えて見せれば、少女もぐっと掌を握りしめて頬を膨らませて見せる。
この世界にはエールが憧れているような、絵本めいた鮮やかな彩に欠けるけれど。それでも、愉快な仲間達が平和に暮らす大事な世界なのだ。彼らの趣を力尽くで捻じ曲げようなんて、そんな横暴は赦せない。
ふたりの前ではボビン頭の紳士やトルソーのご婦人達が、次から次へと湧いて出て来る兵隊達への対処に苦戦していた。少年と少女は視線だけで互いの意図を確かめ合い、そっと彼らの元へ歩み寄る――。
「気丈に振舞い勇気を振り絞る、黒衣の君たち」
「おやおや、それは我々のことかね?」
「そう、君たちへ。僕から少しだけ、お手伝いをしてあげよう」
口許だけであえかに微笑んで、まどかは天から至った雫を彼らへ零してやる。
――ぽとり。
紳士達の黒い纏いに、或いは淑女達の白い肌に、ゆるりと染み込みゆくそれは、彼らに確かな力を与えてくれる“月の雫”。
「さあ、夜の雫を受け取ると良い」
鼓舞と共に彼が賜す儚げな雫は、ボビン卿の絲をより太く、千切れない物に。そしてトルソー婦人の躰をより硬く、罅割れない物へと変えてくれた。
「まあ、なんだか元気が湧いて来たわ」
「これはこれは、優しい夜から落ちて来た恵みのようだ」
自分達の躰に起こった変化に気付き、驚き歓ぶ愉快な仲間達。その様をにこにこと見守っていたエールだったけれど、彼女の元にも夜の雫が――ぽつり。そうっと落ちて来たものだから、思わず大きな瞳をぱちぱちと瞬かせる。
「お前にも、施しを授けてあげる」
彼女を僅かに見降ろしながら、少年はふっと口端だけで笑った。ダンピールらしく整った貌に、いつも通りの傲慢な彩を滲ませながら。
「僕の代わりに沢山働いてくれるでしょう?」
「うんっ、ありがとう!」
満開の笑顔を咲かせた少女は施しの雫を受け取りながら、そんな彼の高飛車な科白にこくこく。嬉しそうに何度も頷いて見せた後、くるりと仲間達を振り返る。
「トルソー婦人さんっ、ボビン卿さんっ」
嬉しさに跳ねるこころの侭に、きらきら煌めくピンクの眸。彼の鼓舞はエールにも良く利いたようだ。
「ね、ね、まどかくんすごいねっ」
「ええ、凄いわ。まるで魔法使いみたい」
「とても優しい力だねえ」
燥ぐ彼女に釣られた愉快な仲間達も、まどかへ賛辞を降らす。すごいすごい――なんて。口々に放たれる言葉は、きっと本心から零れたもの。
「僕が凄いのは当然だ」
当のまどかといえば、降り注ぐ数多の賛辞を顔色ひとつ変えずに受け取っていた。威勢ばかりが良い兵隊達の行列を横目に、少年はささやかな号令を零す。
「さあ、行っておいで」
夜の雫の加護を受けた仲間達は、ひといきに敵の前へと躍り出た――。
「これは勅令である! 徴収の邪魔をするな!」
「この国はみんなのものだよっ。独り占めしちゃうのは、ダメ!」
トランプ兵が高らかに、女王陛下から賜った有難い令状を読み上げる。それを見て真先に動いたのはエールだ。
攻撃の予兆をいち早く察知した彼女は、一角獣座の光を宿した盾を構えて仲間達の前に立つ。すると兵隊達が次々に、徴収の邪魔をする彼女達へと飛び掛かり始めたでは無いか。
「みんなのことは、絶対守るからね!」
煌めく盾を凛と構えて、少女は組みつく兵隊達をその細腕で堰き止めた。まどかが齎してくれた雫のお蔭で、どんなに重たい衝撃にも今の彼女はきっと耐えられる。
「大勢で組み付くなんて無礼な方々ね!」
「全くだ。我々のお客様を苛めないでくれたまえ」
そしてエールが敵の攻撃を一身に受け止めてくれたお蔭で、愉快な仲間達はその能力を存分に発揮することが出来るのだ。
エールへと更に組み付こうとするトランプ兵を、トルソー婦人の固い躰が跳ね飛ばし。少女の盾に組み付いた兵隊達には、ボビン卿が太く丈夫な絲をぐるぐると巻き付ける。
「ありがとうっ、これで絶対、外さないよ!」
見事な連係プレーに明るい聲を零して、エールはえいっと思い切り兵隊達を押し退けた。どすりと尻餅をつく彼らの元へ嗾けるのは、――白き毛並みの流星群!
「ボクの友達も、すっごく強いんだ!」
それは、彼女が招いた美しく巨大な一角獣の群れ。高貴な踵でトランプ兵達を踏みつける一角獣たちの雄姿を確認したエールは、背中に庇う少年へと振り向いて。ふわり、はにかむように頬を弛める。
「えへへ、どう?」
「お前の友人とやらも、中々悪く無いね」
白い鬣を揺らして戦場を駆けまわる一角獣達は、神秘的な美しさを惜しみなく此の世界に振り撒いている。
遠回しな賛辞を降らせたまどかは、つぅ――と薔薇色の双眸を靜に細めて見せた。少女の煌めく眸と、穏やかに視線が絡む。
「……勿論、お前自身も」
皆を護ろうと盾を握る彼女の背中は、不思議と大きく見えて頼もしい。傲慢に腕を組んだ少年は、常の通りに胸を張り背筋を伸ばして言葉を紡ぐ。
「さあ、確りとその盾で僕を護っておくれ」
「うんっ。ボク、ちゃあんと働くからね」
ふふり、お日さまみたいに明るく笑ったのち、エールは真っ直ぐに前を見据えた。トランプ兵達が何人飛び掛かって来ようと、きっと大丈夫。
月の加護が、そして大事な友達が紡いでくれた鼓舞が、彼女を護ってくれる筈だから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティル・レーヴェ
七結殿(f00421)と
重厚で有りながら華麗な黒を彩った
何とも麗しき世界ではないか
のぅ七結殿
この国にはこの国の彩があると言うのに
身勝手に染め上げるとは何と無粋なる事か
この国に添うよな宵闇と
並び咲く白き花の迷い路を創り上げ
通れる道は狭く、狭く
誘う出口はひとつきり
騒がしき哉トランプ兵殿
一堂に会すれば目が廻る
どうぞ散り散りとおなりあれ
出口にてお迎え致そう
トルソー婦人にボビン卿
どうぞお力添えを賜いたく
其方らが麗しき国
共にと護らせてたもぅ
迷宮の維持に努め乍らも
第六感で隙を見出し
2回攻撃で手数増を試みて
戦況に応じ
範囲攻撃乗せた歌唱魔法での攻撃や
聖痕での癒しには全力魔法と
頼もしくも麗しき面々をサポート致そう
蘭・七結
ティルさん/f07995
なゆの住まう常夜とは異なった色
壮麗なる黒に満ちた不思議の国
うつくしいわね、ティルさん
嗚呼、どうやら国の一大事
あの軍勢を捌くのは目が回りそう
皆さんのお力を得たいところね
ティルさんが呼び出す白き花の迷宮
大いなる軍勢を散らしましょう
なゆたちは出口にて待機を
ステキな紳士のボビンさん
あなたのご協力を願えるかしら
うつくしい糸がトランプの兵隊を結わう
その間になゆがちょきんとしましょう
重点を置くのは攻撃回数
とっておきの猛毒をひそめ
一気に薙ぎ払うわ
トルソーさんもどうぞご無理のない範囲で、ね
繊細な装飾たちに華やかな衣装
こわれてしまうのは、かなしいもの
全てが終わった時には、見せてちょうだいね
●白花迷宮に散る
ゴシックランドに足を踏み入れた、幼げなオラトリオの少女――ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)を迎えるのは、重厚で有りながら華麗な黒を彩ったゴシックの趣を纏う街並み。
白いドレスをふわふわと揺らしながら、ゆるりと脚を進めるティルは、彩の無い世界に咲く一輪の花のよう。
「何とも麗しき世界ではないか。――のぅ七結殿」
「うつくしいわね、ティルさん」
ほう、と甘い溜息を零したティルは、その傍らを歩む少女を、ちらり見上げる。牡丹一華を灰の髪に結わう少女――蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は小さく頷いて、彼女の言葉に同意を示した。
七結の住まう常夜の世界とは異なった“黒”が此処には在る。その彩は悪鬼の姿を覆い隠す為の闇色では無く、人々の暮らしを瀟洒に彩るための艶やかな宵彩だった。
されど――壮麗なる黒に満ちた不思議の国はいま、上品で静謐な景観に似付かわしく無い騒々しさに溢れている。
「女王陛下の勅命を果たせ!」
「この国を赤く染め上げ、女王陛下に献上するのだ!」
赤いハートを胸に抱いた数多のトランプ兵達が、金のスピアを振り乱しながら、意気揚々と黒い石畳の上を行進して行く。
愉快な仲間達といえば――侵略者の大群にすっかり押されているようで、哀れ隅の方へ追いやられてしまって居た。
「嗚呼、どうやら国の一大事」
彼らがこの国の理を捻じ曲げようとしていることを知り、七結は紫水晶の眸をひとつ、ふたつ、瞬かせる。この国はいま、存続の危機に瀕しているようだ。
「この国にはこの国の彩があると言うのに……」
威張り散らした兵隊達の行進を菫色の双眸に写したティルは、呆れたように腕を組んで深い溜息をひとつ。
「それを身勝手に染め上げるとは、何と無粋なる事か」
何色を愛そうと個人の自由だけれど、それを押し付けるのは宜しくない。この国が纏う艶やかな彩は、この国の住人達が愛する彩。それを無理やり染め上げるなんて、無粋で無礼な行いだ。
彼女の憤慨など意に介さずに、トランプの兵隊達は高らかに聲を張り上げながら、黒い世界を赤と白の彩で汚していく。
「命が惜しくば急ぎ徴収せよ!」
「我らの槍で赤く染めたてよ!」
――女王陛下に頸を刎ねられる前に!
「騒がしき哉トランプ兵殿。一堂に会すれば目が廻る」
ハートの女王を恐れる彼らの合唱は、目にも耳にも騒がしくて。ティルは耐えるように眸を閉ざした。すると賑やかな戦場に――ふわり。彼岸花の匂やかな馨が漂い始める。
「どうぞ散り散りとおなりあれ」
みるみるうちに周囲は宵闇に包まれて、その至る所に白き彼岸花が咲く。何処までも伸び往く闇と白花が形作る“道”は狭く、入り組んでいて、まるで迷路のよう。
「皆さん、こちらよ」
彼らが白花迷宮に惑わされては大変と、出口に控える自分たちの元へ愉快な仲間達を手招く七結。黒い瀟洒な礼服に身を包んだ彼らは、ぱたぱたと彼女達の元へと駆けて来る。一方でトランプ兵達は隊列を分断されて、右往左往の大騒ぎ。
「な、なんだこれは!」
「黒が増したうえに、白い花があるぞ!」
「こ、これも赤く染めなければ……!」
先ほどまでの威勢は、いったい何処へ行ったのやら。兵隊達は白い花に慄き、予想外の出来事に騒めいて、思わず進軍の足を止めてしまう。
「やれやれ。騒がしいのに変わりはないようじゃな」
「でも、お蔭で一息つけたのよ。ありがとう、お客様たち」
「あのままだと、折角の衣装をボロボロにされていたよ。いやはや、助かった」
如何にか安全な場所に辿り着けた紳士淑女は、口々にティルへと礼を告げる。気にすることは無いと首を振る彼女の傍らで、七結は彼らが無事で良かったと花唇を弛ませた。
「よろしければ、皆さんのお力を得たいところね」
「うむ、どうぞお力添えを賜いたく。トルソー婦人にボビン卿」
あの軍勢を捌くのは、ティルが言う通り目が回りそう。ゆえに、牡丹一華を馨らせる少女は、仲間達に共闘を申し出る。白い翼を揺らした少女も、恭しく頭を垂れた。
「其方らが麗しき国、共にと護らせてたもぅ」
「嗚呼、それは願っても無い話さ」
「私達の国だもの、頑張るわ!」
その場にいた愉快な仲間達の面々は、ぜひ一緒に戦わせて欲しいと共闘を快く受け入れる。少女達は色好い返事に可憐な頰を綻ばせ、其々の眸に喜色を滲ませるのだった。
「では、ステキな紳士のボビンさん。あなたのご協力を願えるかしら」
嫋やかに微笑む少女の耳朶には、此方へと駆けて来る兵隊達の微かな脚音が聴こえている。ご指名を受けたボビン卿は、指先でハットを軽く上げて腰を折る。
「勿論、仰せのままに」
しゅるり、ボビン頭から鮮やかな紅色の絲が伸びる。美しく艶めくそれは、パタパタと駆け込んで来た兵隊達を一纏めに結わい。
「ありがとう、後はなゆに任せて」
――ちょきん。
牡丹一華を咲かせた黒鍵から放たれた刃が、その赤い絲を切り裂いて、赤と白の兵隊達をひといきに薙ぎ払った。彼らの躰は軽々と宙を舞い、白花の壁へと強かに衝突する。
猛毒に侵されたその躰は脆く、咲き誇る白花にささやかな命を吸われただけで、哀れな兵隊達は事切れてしまった。
「おお、見事な連携ぶり」
楽し気に賛辞を零しながら、ティルは再び伸び往く艶やかな紅絲を視線で追う。彼女もまた、敵に隙が生じる瞬間を探していた。戦況を支える彼女だって、戦う術を持って居るのだ。
新たに向かって来た兵隊達の躰を、ボビンの絲がぎりぎりと戒める。それを菫の眸で確認したのち、雛鳥はあえかに息を吸い込んで、――愛らしき囀りを披露する。
それは歌声に乗せた魔法。彼女の囀りはオウガ達の平衡感覚を狂わせて、白き彼岸花に突進させて往く。儚い命を吸われて弱り行く兵隊達と対照的に、彼らの命を取り込んだ白花はきらきらと美しい光を放つ。
弱りきった兵隊達へトドメを刺すのは、硬い躰を誇るトルソーの御婦人だ。華やかなドレスを震わせた彼女は、兵隊達へ――どすんっ。勢いよく彼らを蹴散らして往く。
「あっ、身体に罅が入ってしまったわ」
「心配ご無用、妾にお任せあれ」
衝撃で婦人の固い躰に疵が入れば、ティルが空かさず――翼の付け根に咲く華を煌めかせる。優しき聖華の輝きは、トルソーの白肌を新品同様滑らかな物へと変えて行った。
「まあ、お肌が艶やかに成ったわ。ありがとう!」
「トルソーさんも。どうぞご無理のない範囲で、ね」
ふと気遣わし気な表情を浮かべた七結が、疵の癒えた婦人へと聲を掛ける。その紫水晶の双眸は、婦人が胸元に飾った黒薔薇のコサージュへ向いていた。少し歪んだそれを整えてやりながら、少女は切なげに眸を伏せる。
「こわれてしまうのは、かなしいもの」
彼女達が纏う華やかな衣装に、繊細な装飾品の数々は、拘りと好きという気持ちが籠った素敵な物だから――。
「アネモネの貴女もありがとう。ええ、装飾を傷つけないよう気を付けるわ」
「全てが終わった時には、きっと見せてちょうだいね」
頸の無い淑女とささやかに笑い合って、七結は黒鍵を握る指先に力を籠める。壮麗なる黒彩の纏いを愉しむ為にも、赤と白の兵隊達には退場願わねばなるまい。
白花が咲き誇る迷宮のなか、漆黒の鍵杖が艶やかに煌めいた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
◎
わぁ!黒い国
ふふ、まるで黒耀だ
何だか僕の故郷のようで、嬉しくなるな
ふうわりひらり、白を翻して笑う
綺麗な黒が、赤に侵略されていく
それもまた美しいけれど――僕はこの黒を守るよ
ごしく、というのも僕
気になるもの
櫻宵のごしく、絶対綺麗だ
ふふ
僕の櫻は首をはねるのが得意なんだよ
だから、安心して
水泡のオーラ防御で愛しき龍をつつみ守るよ
黒と赤の世界に薄紅の桜吹雪けば見蕩れてしまう
本当に綺麗
磨いた歌唱活かして響かせる
桜と踊る櫻宵を助け背を押す為に歌うは「月の歌」
咲き誇れ、月のように
君の踊る舞台を整えよう
美しい君の助けとなるよう歌声に鼓舞をとかし
どこまでも響かせる
傷つけさせはしないよ
僕の櫻の、桜になりなよ
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
◎
美しき黒だわ!
ゴシックも私、とても好きなの
ミステリアスで耽美で素敵よね
うふふ
可愛らしい、あかだこと
沢山いるわ、たくさん愛(殺)せるわ!
胸が踊る、あかが咲く
黒を塗り替えるほどの赤の絵の具を撒き散らしたら、きっと楽しいわ
ええ、ええ
リル
私の歌姫
舞台を整えて頂戴な
あなたの舞台で踊らせて
「赫華」―小さな女王陛下の号令と共に刀を抜き放ち
笑みと同時になぎ払うのは、生命力吸収の呪を込めた衝撃波
舞い散るあかが、噫きれい!
桜花を変えるは呪殺弾、一つずつなんて面倒よ
雨あられと降らせて散らせ
可愛い首をはねてはねて斬りとばして蹂躙するわ
噫、たのしい!
可愛い人魚の歌が私を守って、咲かせてくれる
もっと遊びましょ!
●赤き女王と蒼き歌姫
天も地も、右も左も黒塗れ。ゴシックランドに足を踏み入れた蒼き人魚――リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)と、枝垂れ櫻の羽を揺らした龍――誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は、その壮麗な彩に揃って歓声を漏らした。
「――わぁ!」
「美しき黒だわ!」
尾鰭めいた白き纏いを靡かせながら、リルは宙を揺蕩う。傍らを歩む麗人が高い踵を石畳に打ち付ける度に、コツリ、コツリ――。耳に心地良い音が響き渡って、彼はそうっと蒼い双眸を緩めた。
「ふふ、まるで黒耀だ」
嘗て黒薔薇の領主が治めた都――カナン・ルー。黒薔薇が咲き乱れる黒曜の街、其処がリルの故郷だった。
未だ記憶に新しい帰郷時の光景を思い起こしながら、ふうわりひらり。リルは白い纏いを翻し、大層嬉しそうに笑う。水面で燥ぐように揺蕩う人魚の姿を横目で捉えて、櫻宵もまた愛おしげに微笑んだ。
逢引きに相応しい、静かなひと時。――けれども、遠くから聴こえる無粋な怒鳴り聲が、その静寂の邪魔をする。
「女王陛下に此の地を捧げよ!」
「勅令に異議を唱える者は、朱く染めてしまえ!」
何事かと其方を見れば、赤と白の彩纏うトランプの兵隊達が黒い石畳の上を我が物貌で行軍していた。
美しい黒色が、鮮やかな赤色に容赦なく侵略されていく。そのコントラストもまた、美しいけれど。
「――僕はこの黒を守るよ」
零した声に決意を滲ませて、リルは傍らの櫻宵へと視線を向ける。オウガに好き放題させる訳にはいかないし、何よりも――。
「ごしく、というのも僕、気になるもの」
「ええ、ゴシックも私、とても好きなの」
ミステリアスで耽美で素敵よね、なんて。櫻宵は紅を引いた双眸を細めて艶やかに笑っう。彼らの意識は既に、仕事の後に控えているお楽しみへと向いていた。
「櫻宵のごしく、絶対綺麗だ」
艶やかな櫻龍が神秘的な黒の纏いに其の身を包む様を脳裏に思い描き、きらきらと煌めくリルの蒼い瞳。其の美しい姿を現実のものとする為にも、兵隊達は退けねばならない。
いこうと頷き合って、ふたりは聲が聴こえる方へと急ぐ。進軍する兵隊達の前へと滑り込めば、目の前にずらりと鮮やかな“あか”が整然と並んでいたものだから――櫻宵は其のかんばせに恍惚を滲ませて、うっそりと笑った。
「うふふ。可愛らしい、あかだこと」
するり――血桜に染まった太刀の刀身を引き抜けば、黒い世界に櫻吹雪が舞う。宵闇に生える薄紅はぞっとする程に美しいけれど、兵隊達の冷たいこころは動かない。
「我らが徴収の邪魔をするな!」
「無礼者は我らの槍で赤く染めてやれ!」
金のスピアを掲げて気色ばむトランプの兵隊達は、小さい躰と裏腹に大層元気が宜しくて、其処が本当に可愛らしい。ゆえにこそ、櫻龍は櫻色の眸に喜色を浮かべて太刀を振った。ぶぉん――と風を切る音が響き、はらはらと艶やかに薄紅の花弁が舞う。
「沢山いるわ、たくさん愛せるわ!」
だから、たくさん殺せるわ――。言外にそう麗しく咆えて、櫻龍は戦場を駆ける。白いかんばせに、残酷なほど美しい笑みを咲かせながら。
かくして、まっかな“あか”の女王様が命じます。明るく元気に健やかに――。
「さぁ! 首をはねておしまい!!」
号令と共に艶やかな刀身を横薙ぎに払ったならば、麗人の太刀『屠桜』は恐ろしい程の切れ味で、先頭に佇む兵隊達の躰を細切れにした。胸が踊る、あかが咲く――。
そうして数多の白に混じって、“あか”が散る。それは鮮血では無く、唯の絵の具だけれど。その分とても鮮やかな彩で、黒い大地を染め往く様など壮観だ。
――舞い散る“あか”が、噫きれい!
宙を揺蕩う蒼い人魚は、赤と白の紙吹雪が降る中うっそりと嗤う櫻龍を、ただ愛し気に見守って居た。
宵闇を艶やかに舞う麗人の姿は美しい。けれど、此の舞台には足りないものが在る。
「櫻宵、君の踊る舞台を整えよう」
「ええ、ええ、リル――私の歌姫」
舞台を整えて頂戴な。うっそりと響いた聲に頷いて、リルはそうっと喉を震わせる。響かせるのは泡沫の、玲瓏たる銀細工の歌聲。父の元で磨いた歌唱を、戀しい君へと響かせて。其の背を押す為にこそ『月の歌』を唄うのだ。
――咲き誇れ、月のように。
お月様がきらきら笑えば、何処かで誰かが狂うから。だから、狂気はルナティック。其の幽玄の歌聲は、櫻宵の精神を研澄まし才能を覚醒させてくれる。そう、此の舞台に欠けていた物は、――他ならぬ蒼き歌姫が響かせる“唄”なのだ。
「ふふ。私が踊る舞台には、やっぱりあなたの聲がないと」
華やかな着物の袖で口元を隠した麗人が、くつりと笑う。その鼓膜を震わせる歌聲は、まさに至上。愛しいひとが自分の為だけに紡ぐ歌は、“あか”が降る舞台に何よりも相応しい。
それにしても、可愛い赤色の大群を一つずつ屠るなんて、あまりにも面倒だ。はらり、はらり、宵色の世界に舞う桜花を一瞥した櫻宵は徒労を疎い、薄紅の花弁を呪殺弾へと転じさせて往く。
ぽつぽつ、雨あられと降り散る櫻色の弾丸。それは兵隊達の躰に幾つもの風穴を遺し、彼らの命を散らして行く。嗚呼、けれど――これだけでは足りぬ。
今宵、櫻宵は麗しき“あか”の女王様。ならば矢張り、兵隊達の頸を刎ねて、刎ねて、飛ばさなければ。クロッケー・ボールのように!
降り注ぐ呪殺の雨を避けながら、櫻龍は闇を駆けて兵隊達へと肉薄。血色に染まった刀身を、ぶんっと横薙ぎに払ったならば、騎士めいた彼らの可愛い頸が飛んで行く。
――噫、たのしい!
蹂躙する程に降り注ぐ赤と白の紙吹雪は、艶やかな麗人を華やかに彩って。ぽとり、堕ちて来る数多の頸は、黒き石畳の上で無残に転がされる。
「こ、このままでは我らの頸が……!」
「刎ねられてしまうッ……!」
トランプの兵隊達が最も恐れる最期は、頸を無残にも刎ねられてしまうこと。ゆえにこそ、櫻宵が振るう刃は身動きとれぬ程の恐怖を、其の躰に刻みつけて往く。
勇気を振り絞った兵隊達が金の槍を掲げて突っ込んで来るけれど、――ふわり。何処からか漂って来た水泡に、その凶刃は弾かれてしまった。
「傷つけさせはしないよ」
櫻宵はリルにとって、愛しき龍なのだ。指一本触れさせないと柔らかに笑んだ彼は、麗人の無事を確認して嬉しそうに月光ヴェールの尾鰭を跳ねさせた。
「ふふ、僕の櫻は首をはねるのが得意なんだよ」
透き通る頬を染めながら、リルの蒼い眸はただ愛しいひとを追う。黒と赤の世界、そこに舞う薄紅の桜吹雪も、呪殺の雨も美しくて見蕩れてしまうけれど。
「だから、安心して。僕の櫻の、――桜になりなよ」
矢張り一番うつくしいのは、彼の“春”たる櫻宵。
麗人が振るう刃はきっと、彼の女王陛下よりも幾分か優しく、彼女が決して注がぬ狂おしい愛で以て、彼らの頸を刎ねてくれる筈。
――本当に、綺麗。
櫻宵の艶やかな大立ち回りを見つめながら、蒼き歌姫は再び喉を震わせる。美しい君の助けとなるようにと温かな願いを込めて、リルは何処までも聲を響かせるのだった。
「ねえ、もっと遊びましょ!」
あかの女王様は只管に、兵隊達の頸を刎ね続ける。彼らが散らしたインクの紙吹雪は軈て、黒き石畳を鮮やかな赤で埋め尽くして仕舞うだろう――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ライラック・エアルオウルズ
やれやれ、全くナンセンス
何より、実に不毛な事だな
黒を移しゆくに至る色と云えば、
君らの軽んじる白くらいなのに
寧ろ、黒に変わるのは其方さ
洋墨満たした万年筆を手に、
《アート》でスートを塗り潰し
怒りで“足下不注意”となる様、
挑発して誘き寄せるとしようか
御機嫌よう、ボビン卿たち
素敵な糸を良うく見たいから、
ぴんと伸ばしてくれるかい?
それで兵が転んだならば、
トルソー婦人にも声掛けて
偶には御転婆は如何かな?
例えば、その身で――
“Tramp(踏み潰す)”だとか
ふふ、ジャックポット
伏した兵は侭に縛って貰えば、
残兵を散らすべく《範囲攻撃》
空に線引く様に切り裂いて
ほら、黒も中々御似合いだ
スペードに転職するのは如何?
●Drawing ? Drawling !
ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)――《L.E》は、作家である。夢の世界を紀行として筆を執る彼は、ファンタジーを愛していた。
なかでも童話をより好み、されど結末を選り好むライラックにとって、この世界が迎えようとしている結末は余りにも――好もしくない。
「やれやれ、全くナンセンス」
黒い石畳の上で固い靴音を響かせながら、幻想作家はゆるりと騒乱のなかへ歩み寄る。金のスピアを振り回す、正しく童話の登場人物のようなトランプ兵達。貌も腕も脚も無い、トルソーのご婦人達。そして、頭が丸ごとボビンの容をした紳士達。
彼らが織りなす騒乱は一見するとコミカルだけれど、それが下手をしたら世界の理を変容させるものだということを、ライラックは知っていた。
「女王陛下に此の地を捧げるために!」
「まずは赤く赤く、この世界を染め上げるのだ!」
何より、トランプ兵達の主張は実に不毛なものだ。呆れたように頸を振れば、幻想作家は愉快な仲間達と兵隊達の間に立ちはだかって見せる。
「黒を移しゆくに至る色と云えば、君らの軽んじる白くらいなのに」
壮麗なる黒を纏った紳士淑女を背に庇う彼が、丁重に取り出すのは瀟洒なインク瓶。金の蓋にそろりと指を掛けてキュッと捻れば、よく馴染んだ独特の――されど、決して厭ではない馨が彼の鼻腔を擽った。慣れた手つきで其の中へ漆黒の万年筆をとぷりと浸し、ライラックは穏やかな頰笑ひとつ。
「寧ろ、――黒に変わるのは其方さ」
洋墨満たした万年筆は、まるで黒曜の剣のよう。されど此れは剣より容易く操れて、剣より危うい得物なのだ。文豪たる彼にとっては、その“才能”こそが武器。
軽やかに走る筆先から滴る洋墨は、兵隊達が胸に抱いた赤いスートをべったり染めて、漆黒のハートへと塗り変えてしまった。
「なっ、女王陛下から賜ったハートが……!」
「き、貴様よくもッ……!」
女王陛下と同じハートを抱くことが赦されている彼らにとって、その意匠を汚されることは何よりも赦し難く、何よりも恐ろしいこと。
ゆえに、ライラックの筆に染められた兵隊達は、一斉に色めきだった。冷静さを欠いた槍から、ひらり。軽やかに距離を取った彼は、紳士淑女の傍らに並び立ち。ひょい、とハンチング帽を指先で僅かに上げてご挨拶。
「御機嫌よう、ボビン卿たち」
「おやおや、御機嫌よう。異国の紳士殿」
ボビン頭の紳士達も彼の動作に応える形で、シルクハットの鍔を持ち上げて礼儀正しく挨拶を返してくれた。
ライラックの双眸には、ボビンにぐるぐると巻き付けられた――黒く艶めく絲が印象的に映ったので。彼は耳打ちでもするかの如く、そうっとボビン卿に囁きかける。
「その素敵な糸を良うく見たいから、ぴんと伸ばしてくれるかい?」
「勿論、構わないとも!」
「我らが自慢の絲をご覧あれ」
嬉しそうに頷いた紳士達の頭から、しゅるり。黒い絲が何処までも伸びて往く。それらは軈て、怒りに燃えて此方へ襲い掛かって来る兵隊達の脚元まで辿り着き――思い思いにピンと張り詰めた。気色ばむ彼らはまるで“足下不注意”。嗚呼、どうかご用心を。
――だって不思議の国には、愉快な罠が潜んでいるのだから!
先頭を往く兵隊達が絲に躓けば最後。わあああ、なんて哀しい悲鳴をあげながら、ドミノ倒しのように折り重なって往く兵隊達。
その様を満足気に見守っていたライラックは、傍らでドレスを震わせる頸の無い御婦人へと悪戯に片目を閉じて見せた。
「トルソー婦人、偶には御転婆は如何かな?」
「まあ、まあ……!」
例えば、その身で――。そう、こそりと囁かれた科白に、愉しげに跳ねて同意を示したのち。御婦人は華やかなフリルを揺らしながら、トランプの雪崩へと向かって行く。
―― “Tramp” !!
支え棒で軽やかに地を蹴って、高らかに宙へと跳ねたトルソー婦人は、兵隊達の上へと思い切り落下して――トランプ兵を、踏み潰す!
「ふふ、ジャックポット」
少年めいた笑みを浮かべた作家は、万年筆片手にボビン頭の紳士へと視線を向ける。彼にはもう少しだけ、頼みたい仕事が有るのだ。
「見事な糸だね、ボビン卿。彼らをその侭……ぐるぐるに巻けるかな」
「任せてくれたまえ」
張りつめた黒い絲はふわりと緩み、その代わりに伏した兵隊達をぐるぐると戒めて往く。これで露払いは完了だ。あとの残兵狩りは、猟兵たるライラックの仕事。
藻掻く兵隊達の前へと立ちふさがった彼は、黒に染まった彼らのスートを見て悪戯に笑い掛けた。
「ほら、黒も中々御似合いだ」
もっと彩ってあげよう、なんて。宵色の空へと腕を伸ばした幻想作家は、万年筆でつぅ――と一本の長い線を引く。
まるで白紙に世界を紡いで往くような動作だけれど、彼のそれは空には届かないから。滴るインクは兵隊達を黒く染めて行き――兵隊達の躰をバッサリ、真っ二つにしてしまった。
「いっそ、スペードに転職するのは如何?」
人差し指で己の唇を塞ぎながら、作家は甘く戯れるように笑う。その科白は今際の兵隊達の耳にも届いたようで、騎士めいた頸が微かに震えた。
「我々は、愚か者のスペードになど、決してッ……」
言い切ることなく事切れた兵隊を見下ろして、ライラックは再びインク瓶の蓋を捻る。この国を行進する兵隊達の数は多い。彼の万年筆が乾く暇など、未だ無いのだ。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『赤の女王ユリーシャ』
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POW : ショットガン・シャッフル
自身が装備する【トランプ型の刃物 】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
SPD : ブラック・ジャック
レベル×1体の、【胴体 】に1と刻印された戦闘用【トランプの騎士】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : ハイ・アンド・ロー
質問と共に【伏せられたトランプ 】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
イラスト:祥竹
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠渡月・遊姫」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●The Garden of Black Church
黒い世界を侵食して行く赤と白の大群は、徐々にその数を減らしていた。愉快な仲間達と猟兵達の共闘が、終わりの見えない戦場に確かな突破口を齎したのだ。
「私たちはもう大丈夫!」
「君達のお蔭で、戦い方も理解したよ」
「我らの絲でぐるぐるにして……」
「その隙に私たちが、どすんっ」
猟兵達に助言された通りの戦い方を実践してみせる仲間達は、最初の頃と比べ物にならない程に頼もしい。これなら、トランプ兵の対処も彼等に安心して任せられるだろう。
応援の言葉を口々に届けてくれる仲間達に背中を押されて、猟兵達は赤と白の紙吹雪が舞い散る戦場を後にする。
黒い石畳の上を駆け抜けて、屋根の尖った昏い屋敷が並ぶ通りを幾つも通り過ぎる。黒石を積み上げた噴水が印象的な円形広場を横切って、辿り着いたその先は――。
天にも届きそうな勢いで聳え立つ、黒壁の大きな教会だった。例に漏れず鋭利なシルエットに、流麗なアーチを描く窓。これもまたバロック建築の賜物か。
猟兵達は気配のする方、すなわち黒薔薇が咲き誇る広い庭へと脚を向ける。果たして其処に坐したのは――。
「あら、お早い到着ですわね」
気品に溢れる物腰の、可憐なる女王陛下。
柔らかな紅色の玉座に其の身を預けた彼女は、紙製白馬に跨ったトランプの騎士たちに守られていた。
ゆえに、招かれざる客の来訪に顔色ひとつ変えることは無く。彼女はピンクのツインテールを揺らして、ただ悠然と笑う。
「トランプ兵達が騒いでいる隙に、私が此処を徴収する予定でしたのに」
お前達の所為でそれも台無しだ、なんて言いたげに。女王はおみ足を組み替えながら、淡々と言葉を紡ぐ。
「ですが――かの悪名高いクイーンオブハートと違って、私は寛容です」
冷たい金の双眸が、猟兵達を静かに射抜く。彼女はワンダーランドの暴君、ハートの女王に在らず。ゆえに、計画を妨げた者達にすら寛大なこころで以て、貴き其の名を報せてやるのだ。
「私は“赤の女王”ユリーシャ」
そう、彼女はアリスを導く者であり、――アリスを奇妙なゲームに誘う者。すなわち、かのグラスランドで高名な『赤の女王』である。
そして、この奇妙な世界において“ゲーム”といえば、ただひとつ。
「デスゲームの舞台に御誂え向きなゴシックランド。この国は私にこそ相応しい」
思慮深い金の眸に仄暗い狂気を滲ませながら、アリスが血の海に沈みゆくさまを脳裏に思い描き、うっそりと赤の女王は笑う。
「私の邪魔をするなら、お前たちの血でこの舞台を染め上げましょう」
数多の猟兵達を前にしても、彼女の余裕が崩れることは無い。赤の女王は世界の理を識っている。
一所に留まる為には、全力で走り続けなければならないし。玉座に座り続ける為には、全力で足搔き続けなければならないのだ――。
スキアファール・イリャルギ
◎☆♯
あぁ、"赤の女王仮説"ですね?
『絶えず進化し続けることで生存競争に生き残り続ける』
興味深い言葉ではありますが……
愉快な仲間達を虐げアリスを喰らう片利片害――
進化的軍拡競走という名を被った
オウガの一方的なデスゲームは到底赦せるものではない
『アリス』としての記憶は殆ど無いけど
寛容と言いつつも傲慢な態度のオウガはなんとなくムカつく
ましてや"色を染める"という行為は――
……いや、やめようか
行こう、コローロ――あの赤を撃て
"黒色"を弾丸の様に放ち
騎士を迎撃してもらいます
私は引き続き雷帯で攻撃
"赤の女王"はチェスで言えば"黒"のクイーンだ
何処までも赤に執着しようが黒からは逃れられませんよ、女王陛下
泡沫・うらら
◎☆#
こんにちは。赤がお好きな女王陛下
貴女がそんなにも“あか”へ傾倒する理由を、お伺いしても?
ええ、ええ
確かにあかいろは素敵な色ですとも
あかが持つエネルギーをうちは持ってへんから
それに焦がれる気持ちも好む気持ちもわかりますよ
けれど
貴女が赤を好むように
この世界の方々は、黒を好んでらっしゃるの
そこに寄り添う気持ちは、あらへんやろか?
――まぁ、残念
交渉は決裂ね
下々は、うちが引きつけましょう
此方よ、とはためく裾が傀儡の視界に入る様
目の前をふより、ふよりと宙游ぎ
向かい来る槍の一撃を、躱しましょう
不意撃ちに驚く様装い
此の身を挿し貫く一撃は、ひっくり返って貴方の許へ
嗚呼、痛い、痛い
もっと、優しくして下さいな
●Le Rouge et le Noir
モノトーンの庭にて艶やかに咲き誇る黒薔薇と、白きトランプの騎士たちに囲まれて、玉座で悠々と寛いでいる赤の女王陛下。
彼女へと最初に謁見したのは、宙を泳ぐ蒼き人魚と、黒き包帯に肌を隠した影男のふたりだった。
「こんにちは。赤がお好きな女王陛下」
嫋やかな微笑をかんばせに乗せた侭、泡沫・うららは蒼き尾鰭で宙を蹴って――くるり。そんな優雅な舞を披露して、恭し気にご挨拶。
「貴女がそんなにも“あか”へ傾倒する理由を、お伺いしても?」
招かれざる客からの問いかけに、赤の女王は眉一つ動かさぬ。人魚の柔らかな物腰と、その美しさに免じて寛大に傲慢に賜す、たったひとつの答えとは――。
「“赤”は何れ、黒に染まり行くものですわ」
例えば、ひとの躰から流れ出る鮮血。零れた瞬間はとても美しいけれど、酸素に触れると黒く成ってしまう。
彼女が其の名に関する鮮やかで一等好きな彩は、いとも容易く黒に支配されてしまうのだ。何よりそれが赦せないのだと、赤の女王はつらつらと語った。
「私が赤の女王で居る為には、全力で黒を塗り替え続けなければならないのです」
いつかこの赤が色褪せてしまうのなら、その前に遍く黒を血の赤で染めてしまおう。
自身が冠する赤色は、可憐なアリス達が今際に流す美しい赤色が、黒に負けるなんて認められる訳がないのだから。
「あぁ、"赤の女王仮説"ですね?」
ふたりのご婦人の会話に黙って耳を傾けていた影人間――スキアファール・イリャルギは、聞き覚えのあるフレーズを耳にしたものだから、思わず色の無い唇を開いた。
『ひとところに留まる為には、全力で走り続けなければならない』
嘗てグラスランドの女王様が嘯いたそんな格言は、後世でも大層有名だ。そしてその台詞は、進化生物学にも少なからず影響を与えている。
『絶えず進化し続けることで、生存競争に生き残り続ける』
どこの誰がそんな比喩を思いついたのかは知らないけれど、旨いことを言ったものだと彼は想う。
「興味深い言葉ではありますが……」
スキアファールの漆黒の双眸が、残酷なる女王の貌じっと見つめる。生物学的観点でいえば、彼女はこの国と片害共生しようとしているのだ。
愉快な仲間達を虐げ、アリスを喰らう其の暴虐を、片利片害と呼ばずして何と謂う――。『進化的軍拡競走』なんて大層な名を被ったオウガのデスゲームは、“ひと”として到底赦せるものではなかった。
「……ええ、ええ」
自然と険しく成る彼の眼差しとは対照的に、うららは碧の双眸に穏やかな彩を湛えたまま、女王の言い分へ静かに相槌を打っていた。
「確かにあかいろは素敵な色ですとも」
“赤”は太陽の彩だ。海に生きる為に在る彼女の躰は、太陽の熱には耐えきれぬ繊細なもの。ゆえに彼女が纏う彩は対照的な蒼彩で、赤というものには殆ど縁が無い。
彼女が其の身に抱く赤といえば、ふわりと流れる髪から除く珊瑚礁めいた角。それから、花唇に引いた紅の彩くらいか。
とはいえ、うららは赤色を疎んでいる訳では無い。寧ろ焔の如き情熱も、ぎらぎらと燃焼するエネルギーも、持ち合わせて居ないからこそ――。
「それに焦がれる気持ちも、好む気持ちもわかりますよ」
けれど――と。ゆるり紡いでいた科白を、途中でぷつりと切るうらら。胸の裡に思い描くのは、黒の纏いを誇らしげに着こなしていた住人達の姿。
「貴女が赤を好むように。この世界の方々は、黒を好んでらっしゃるの」
愉快な仲間達は彼らが築いた文化の下で、ただ平穏に生活している。それに気の好い彼らは、他の彩や着こなしを決して否定したりはしないのだ。
「そこに寄り添う気持ちは、あらへんやろか?」
赤の女王さえ望むなら片利共生もきっと叶う筈だと、うららは穏やかにそう諭す。されど、寛容にして不遜な女王陛下が耳を貸すことは無い。
「いいえ、だって私は赤の女王。黒を塗り続けなければ、玉座には居られませんの」
女王は脚を組み替えながら、氷のこころで以て彼女の申し出を一蹴する。幾ら言葉を尽くしても敵の気が変わらぬことを悟り、人魚の少女はつぅ――と双眸を細めた。
「――まぁ、残念」
交渉は決裂ねと、傍らに佇む不健康な貌色の青年へと視線をくれる。スキアファールもまた彼女と視線を絡ませて、重たい頷きをひとつ。
スキアファールは嘗て“アリス”として、この世界に招かれたことがある。その時の記憶は殆ど無いけれど、アリスをデスゲームに誘おうとする女王のことは赦せない。なにより、寛容と言いつつ傲慢なオウガの態度は腹に据えかねた。
――ましてや"色を染める"という行為は……。
苛立ちの儘に加速する思考に、やめようかと歯止めをかけて。影人間は“光”を戦場へと招く。宵闇の中でチカチカと瞬く其れは、まるで火花のよう。
「行こう、コローロ」
姿が見えずとも、“それ”は側にいる。声が無くとも存在さえ信じて居れば、心を通わすことは出来るのだ。火花めいた朋を伴って、スキアファールはひといきに駆ける。あのクイーンを、玉座から引き摺り下ろす為に。
「騎士たちよ、私を護りなさい」
「はっ、仰せのままに」
トランプ兵達よりも静謐な彼らは、女王陛下が命ずるままに紙製白馬で戦場を駆ける。彼らの胸で誇らしげに煌めくハートの意匠には「1」という数が確かに刻まれていた。
「――あの赤を撃て」
スキアファールが命ずれば、返事をするかの如くコロ―ロは火花を散らす。光が暗闇に溶け込んだ、と思った刹那――弾丸のように放たれた“黒色”が騎士のハートを、そして数字を塗潰す。
黒く染められた騎士は明らかにスピードを落とし、遂には馬から転がり落ちてしまった。そんな同朋を蹄で轢き潰しながら、トランプの騎士たちは怒りに咆える。
「我らが忠誠の証を塗潰そうとは……!」
幾つもの白馬が大地を蹴って、高らかに飛躍する。向かうは“黒”を操るスキアファールの元。
戦場を駆ける彼と並走する騎士たちが金の槍をひとたび振えば、影人間の黒き纏いは無残に裂けて。その隙間から怪奇の目と口と――序に彼の白肌も痛々し気な赤を撒き散らす。
「嗚呼、――可哀そうに」
感慨籠らぬ男の聲が、まるで他人事のように堕ちる。ぽたり、ぽたり――滴る血潮が黒い石畳を赤々と染めて往くさまを、赤の女王は恍惚と見つめて居た。
「下々は、うちが引きつけましょう」
ゆらゆらと蒼き尾を、長い髪を揺らしながら、人魚が空を泳いで来る。白き纏いの裾が騎士たちの眼前で波の如くはためけば、彼らの意識は一気に其方へと向いた。
何せ蒼き人魚は彼らの視界を邪魔するように、ひらりひらりと泳いでいるのだ。あの影人間を追うならば、先ずは此方を始末しなければなるまい。
「有難い、此処はお任せしても?」
「ええ、お気になさらず。鬼事は得意やから」
互いにうまく切り抜けられると信じて居たから、たったそれだけの言葉を交わして。ひとりは留まり、ひとりは玉座へ駆けて往く。
「さぁさ、此方よ」
波打ち際に誘うように、うららは騎士たちの目の前で――ふより、ふよりと宙游ぎ。スキアファールの後を追い掛けんとする者の前へ、その姿を現して彼等を惑わして行く。
「我らを愚弄するな……!」
苛立たし気に振われる槍は少女の長い髪を掠め、時には白い纏いを切り裂き、彼女を追い払おうとする。されど、うららは何処までも静謐に、トランプの騎士たちとの鬼事に興じていた。
「……随分と乱暴ですこと」
とはいえ、彼女とて決して無傷では無いのだ。
彼らの凶刃はうららの白き尾に少なくない数の赤を刻んでいた。更に宝石の如き鱗すら剥がしているのだから、無粋にも程があるというもの。
「一つになれ、あの人魚を追い詰めろ!」
業を煮やした騎士たちと来たら、個を棄ててひとつの巨大な騎士へと姿を変えてしまった。彼らが振るう金の槍も、騎士の巨体に見劣りせぬ大きさ。あれに穿たれたら恐らくは、一溜りも在るまい。ゆえにこそ――蒼き人魚は、出来得る限り力を抜いた。
「あっ……」
金の槍を突き出した騎士の突進に、まるで戸惑い怯えたような貌をして、うららは其の場に立ち尽くす。凶刃は動かぬ獲物を逃しはしない。神秘を纏う儚げな躰へと金の槍が喰い込んでいき、きわめて苦し気に白き尾が硬直する。
そうして、騎士が槍先をぐいと引き抜けば、痛々し気に尾鰭が跳ねて――くるり。因果はいとも容易く引っ繰り返った。
「なッ……!?」
騎士の巨体に、かっぽりと大きな穴が開く。されど、うららの白肌には疵ひとつ無い。彼女は其の身に受けた傷を、人形から排出して其のまま騎士たちに返して遣ったのだ。
「嗚呼、――痛い、痛い」
碧の眸を物憂げに伏せた蒼き人魚の花唇が、ゆるりと嫋やかに弧を描く。確かに疵は受けないけれど、決して痛くない訳でも無いのだ。
「もっと、優しくして下さいな」
穴が開いた所から、ぱらぱらとシルエットを崩壊させて往く騎士たちには、きっと何も聴こえて居ない。
「――チェック」
漸く玉座へ辿り着いた影人間は、病的に白い其の肌を覆う黒包帯をしゅるりと解き、不遜なる女王へ其れを嗾けていた。
「こんなもの――……ッ!?」
恐れるに足りずと一笑に付し、女王はそれを払いのけようとして――。触れた個所から流れた電流が、びりり。華奢な身体中に、ひどく重たい衝撃を齎す。
「"赤の女王"はチェスで言えば"黒"のクイーンだ」
玉座に其の身を預けながらあえかに震える赤の女王を見下ろしながら、スキアファールは指をパチン。よく躾けられた包帯はそれだけの合図で、再び女王へ痺れるような電撃を伴って襲い掛かった。
彼女は“赤”の力を信じすぎていて、“黒”の力を軽んじすぎていると、影人間たる青年はそう思う。その短慮がおかしくて、隈を刻んだ双眸を細めてくつくつと嗤ったならば、其の胸に湧き上がった苛立ちも少しは晴れた気がした。
「何処までも赤に執着しようが。黒からは逃れられませんよ、女王陛下」
光の裏側に必ず闇がある様に、繁栄には斜陽が付き物だ。暴君はいつか玉座を追われるものだと、数多の歴史が証明している。
すなわち、赤を喰らうは影こそが相応しい――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
ゴシックってのはバロック建築も含むのか?
これが終わったら見学もしてみたいがそのためにもさっさと終わらせよう。
真の姿に。
UC炎陽の炎を周囲に纏うようにし、飛んできたトランプカードは炎で燃やす。またその隙をつき【目立たず】【存在感】を消し一気に距離を詰め【奇襲】攻撃をかける。
質問には真実を言うように努める。真実を言うという制限がある以上知らん事は聞かれないだろう。
敵の攻撃は【第六感】で感知し【見切り】で回避。
回避しきれないものは黒鵺で【武器受け】して受け流し【カウンター】を叩き込む。
それでも喰らってしまうものは【激痛耐性】【オーラ防御】で耐える。
メアリー・ベスレム
◎☆#
ご機嫌いかが、女王様?
メアリはとっても退屈よ
トランプ兵ったら薄っぺらいばかりで
殺してもちっとも楽しくないんだもの
あなたはメアリを楽しませてくれる?
【血塗れメアリ】使用
返り血狙いで積極的に切り込んで
敵の攻撃は【激痛耐性】とUCの生命力吸収能力で耐える
痛くて苦しくて、ええだからこそ
あなたを殺せるのがとっても楽しいの
そんな答えなんて「わからない」わ
敵がトランプをめくるのに合わせて
返り血を飛ばして図柄を隠してしまうわ【物を隠す】
足りなければ【傷口をえぐる】でさらに血を流して
アリスの傷口、敵の傷口、どちらでも良いわ
だってどちらの血も、とっても鮮やかな赤だもの
けど大変
これじゃ答えが「わからない」わ
●真実を染める赤
黒鵺・瑞樹は聳え立つ黒き教会を、興味深げに見上げていた。人が遺した物を愛する彼にとって、初めて訪れる場所の建築物には何処か惹かれるものがあるのだ。
――ゴシックってのは、こういう建築も含むのか?
右手に黒鞘の刀を、左手に自身の本体を、それぞれ抜け目なく握りしめながら。瑞樹は中近世の趣溢れる建物へ想いを馳せる。
歴史学的な観点における『ゴシック』とは、アース系世界でいう所の中世欧羅巴の文化であるけれど。ファッションやデザインの観点における『ゴシック』は、中世から近世の貴族文化にダークホラーを混ぜ合わせた、耽美と退廃の文化なのだ。
ゴシックのことはよく分からない瑞樹だけれど、何やら見応えの在りそうな文化だと思う。オウガを退けた後は、のんびりと散策して見学してみるのも良いかも知れない。
「さっさと終わらせよう」
斯くして、瑞樹は真の姿を開放する。碧い眸は夕陽にも似た金色に染まり、風に揺れる銀絲の髪は高い位置で留めて。東洋の剣士めいた装束にその身を包めば、幼げなその貌も――端正な青年の貌と成った。
そんな彼の傍らに佇むメアリー・ベスレムといえば、聳え立つ教会に眼もくれず――。その腕に握りしめた肉切り包丁をぎらつかせ、今宵の獲物たる赤き女王をただ見据えていた。
「ご機嫌いかが、女王様?」
滲ませた殺意を隠さずに、それでも少女は愛らしく小頸を傾けて見せる。不機嫌そうな女王陛下は不遜に脚を組み替えながら、整った貌に冷笑を浮かべて幼げな少女へご挨拶。
「そうね、お前たちのお蔭で聊か興が削がれていますわ」
「あら、奇遇。メアリもとっても退屈よ」
先ほど相手取ったトランプ兵ときたら、元気の良さと裏腹に薄っぺらいばかり。その白い躰を裂こうと鮮血なんて滴らず、ただ詰まらない紙吹雪とインクの馨をばら撒くだけだ。そんな紙切れ達なんて、殺したところでちっとも楽しくない。
「あなたはメアリを楽しませてくれる?」
「ええ、私が直々に遊んであげますわ」
少女が肉切り包丁を撫ぜながら淡々と問を編んだなら、女王はうっそりと双眸を細めて笑う。血の海に沈むさまを眺めるならば、アリスの方が好みだけれど――可憐な猟兵の白肌が赤く染まるのも、きっと見応えがあって良い。
女王の五指に挟まれたトランプが、勢い良く風を切ってふたりの元へと飛んでくる。各々の反応は極めて対照的だ。瑞樹は自身の身を護る事を優先し、メアリーは敵に肉薄することを優先した。
「お先に失礼するわ」
「……そう突出すると、消耗するんじゃないか」
まるで盾でも展開するかの如く――清めの焔を周辺に侍らせた瑞樹の隣を、血の匂いを色濃く馨らせた少女が駆けて往く。
瑞樹の方はふたつの神より加護を賜った炎が、飛んでくるトランプを自ずと燃やしてくれるから問題ない。
仮にその凶刃が炎を通り抜けてきたとしても。左手の黒鵺が受け流せば、大抵の刃物は叩き落せるのだ。けれど、メアリーの方は極めて無防備である。――まるで自ら、消耗を望んでいるかのように。
先ほどの遣り取りから、この少女が争いを好み、血を愛する性分だという事は瑞樹とて察している。されど、嘗て暗殺者に使われていた彼には、血を流すことの喜びなど分からないし、積極的に血を流しに行こうとも思わない。暗殺者と云うものは、ただ淡々と人を殺められる者こそが向いている故に――。
「トランプの相手はもう飽きたって言ったでしょ」
“血塗れメアリ”は、其の白肌に幾つもの疵を刻みながら戦場を駆ける。飛んでくるトランプを避けるのも忘れて――或いは致命傷に成りそうなものだけを、包丁で一刀両断しながら――女王が坐す玉座へと肉薄したならば、鮮やかな赤を求めて少女は得物を振り上げた。
「……ッ!」
ストン――なんて、如何にも軽やかに。肉切り包丁は女王の柔肌を裂き、玉座に大輪の赤が咲く。苦し気に柳眉を歪めた女王がお返しとばかりにトランプを投げつければ、碌に避けもしなかった少女の白い頰に鮮やかな赤絲が垂れた。
「まあ、痛々しくて可哀そう」
「……ええ、だからこそ。あなたを殺せるのがとっても楽しいの」
恍惚と微笑むメアリーの細腕には、未だ凶暴な得物がぎらついていた。肉切り包丁が赤の飛沫をばら撒きながら、再びドスン――。
すると貌を庇うように伸ばされた女王の腕を、容赦なくその凶刃が切り裂いて。玉座に大輪の赤花が咲き、少女の貌にも返り血の赤が咲く。
最早どちらの血で、どちらが汚れているのやら。血まみれの少女と鮮血の赤に染まった女王が、混じり合うふたつの赤に嗤い合う。
ふたりとも、赤が好きなのだ。ユリーシャは己が冠する“赤の女王”という称号を愛していて。メアリーは鮮血と云う名の麗しき赤彩を愛している。
それでも、戦況はメアリーの方に傾いていた。なにせ彼女は返り血を浴びた分、獲物から生命力を奪い、誰よりも強くなるのだから。
「――遊びの時間はそろそろ終わりだ」
延々と続きそうな退廃の赤き宴を止めるのは、瑞樹が飛ばした清めの焔。焔に巻かれたところで鮮やかな血は見れないから、メアリーは言われるがままに大人しく後退した。
すかさず赤の女王が切れ味鋭いトランプを投げるけれど、彼が飛ばした炎陽に焼き尽くされて、軈ては無残な灰と化す。
「無粋ですわね。遊びは寧ろ此処からですのに」
苦し気な呼吸を必死で整える女王様が取り出したるは、一枚の何の変哲も無いトランプ。その裏側をふたりに見せながら、彼女は相変わらず不遜に笑う。
「さて、表に刻まれた数字はいくつかしら?」
彼女の膝上に伏せられたトランプに、ふたり分の視線が注がれた。果たして何と答えたものかと、顎に手を当てそう思考する瑞樹の横顔に、メアリーの静かな視線が集中する。
「メアリに考えがあるわ」
「……分かった」
金の眸と紅の眸が視線を交わし、静かに頷き合う。滴る肉切り包丁をだらりと握りしめて、メアリーは一歩、二歩、ゆっくりと前に歩み出た。
「そんな答えなんて『わからない』わ」
「まあ、最初から勝負を棄てるなんて……」
冷笑を浮かべた女王が、そっとトランプを捲ろうとした――その刹那。メアリーは肉切り包丁を思い切り振り被り、滴る赤を女王の手元へ向けて思い切り撒き散らす。
「なっ……」
敵に何の損傷も与えぬその動きは、彼女が捲ったトランプを赤々と染めてしまった。図柄も数字も、何もかもが赤く染められていて、これでは――。
「まあ、大変。――答えが『わからない』わ」
「成る程、これじゃ何が描いてあるか『わからない』な」
愉しげにくすくと笑みを零すメアリーの隣で、瑞樹は納得したように首肯する。ふたりの回答は真実と成り、女王が投げかけた意地悪な問いは意味を為さなかった。ならば最も厄介な技を封じた今こそ、畳みかける好機。
勇ましく地を蹴った瑞樹は長い銀絲の髪と金の髪帯を揺らしながら、呆然とする女王の元へ駆ける。敢えて木陰を縫うように進んだならば、トランプひとつ相手取ることなく、あっという間に玉座の後ろまで辿り着いてしまった。
「今度こそ、終わりだ」
黒を纏う二つの得物が、青年の腕の中で鈍く煌めいたのは一瞬。金の眸を見開く女王へと、背後から勢いよくそれらを振り下ろしたならば。紅の玉座は更に赤く赤く、染まり行く――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ルベル・ノウフィル
麗しの女王陛下、僕を染めてくださいな
問いかけを蜜のように真実も嘘も気紛れに
血色に染まる僕もいとをかし
殺し切れないなら爪立てて甘く抗議を致しませんとね
早業の念動力でトンネル掘りして、痛悼の共鳴鏡刃をトンネルの中へ遊ばせて
花焔乱舞を陛下に向け
貴女だけを対象に、最も純粋で鮮やかな赤色を献上致します
炎が届くのに合わせて地中から鏡刃もお披露目致しますね
何故一緒に投げないか?だって、あまりシンプルですと、つまらないでしょう?
僕なりに趣向を凝らしてみたのです、陛下に歓んで頂きたくて
そうそう、この姿もね
見た目だけですが、陛下のために着飾ってみたのです
陛下に気に入って…頂きたくてちょっとした背伸びでございます
●ただ、貴女の為に
黒薔薇が咲き誇る庭には、微かな血の馨が漂い始めて居た。ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)は双眸をそっと細めて、庭の奥に在る玉座に坐す女王陛下へ折り目正しくお辞儀をひとつ。
「麗しの女王陛下、僕を染めてくださいな」
蜜のように甘く紡いだ科白は、果たして本気か戯れか。こころの裡は少年本人しか分から無いけれど、殊勝な少年の態度に女王が幾分か機嫌を直したのは事実。
「私はアリスにしか興味が無いのですけれど。どうしたものかしら」
そう冷たく笑う女王陛下の気を惹くかの如く、少年は艶やかな黒きローブを旗めかせて――くるり、くるり。その幼げな貌に邪気の無い笑みを張り付けながら、微笑ましく回って見せた。張力に導かれて赤いイヤリングも、ゆらゆらと揺れる。
「この姿もね、陛下のために着飾ってみたのです」
その身に纏う黒きローブも、耳に飾ったイヤリングも、本来ならば真の姿を開放したルベルを飾り立てるもの。
――けれども、その姿を解放する為の制約は乗り越えて居ない故に。あくまで見た目だけ「似た装いをしてみた」のだと、少年は恥じらうように語ってみせた。
流れる髪は宵色の侭だし、耳も尖っていないのがその証左。それでも柔らかな狼の尻尾と耳を今ばかりは隠したならば、ルベルの姿は心なしか大人びて見える。
「陛下に気に入って……頂きたくて。ちょっとした背伸びでございます」
そう、これは唯の背伸びなのだ。少年期によくあるような、眩く煌めくクイーンの気を惹きたいが為の、そんな子どもみたいな背伸び。
「ふふ、健気なこと。良いでしょう、その殊勝さに免じて、慈悲をさしあげますわ」
玉座に背を預けた女王がパチンと指を鳴らせば、紙の白馬に跨ったトランプの騎士たちが現れる。軽やかな蹄の音を聴きながら、女王はちらり――その思慮深い金の眸を彼等へ向けた。
「お前たちの槍で、あの子を赤く染めてやりなさい」
「はっ、仰せのままに」
一斉に嘶いた白馬たちが、ルベルの元へと土埃を巻き上げながら駆けて来る。少年はその様を、微笑みながらじいっと見つめて――そうして其の儘、騎士たちの凶刃に貫かれた。
血色に染まる儚く美しい少年は、いとをかし。けれども、もっと可笑しいのは無抵抗の少年ひとり血の海に沈められぬ、彼らの詰めの甘さである。
「だめではありませんか、女王陛下」
赤に染まりながら、ルベルはまるで諭すかの如く極めて優しく笑う。どんなに儚げでも、彼は歴戦の猟兵である。その事実はつまり、――彼は線香花火の如くあえかに散る事など、決して能わないということを意味していた。
「僕に慈悲を下さると仰いましたのに」
拗ねるように双眸を伏せて、人狼の少年は地面に爪を立てる。それは狼の爪ではない、懐に忍ばせた短刀がグサリと地面に突き刺さったのだ。念動力で動かされた其れは、トンネルを掘り進めるかの如く、地面へと遊ぶように潜んでいく。
ルベル本人も、ただ赤に耽溺しているだけではない。彼がその身に纏うは火の精霊。金糸の髪を揺らす同僚が、彼を案じて授けて呉れた『花火の如き生き様を尊ぶ』精霊だ。
この少年はいつか一等星の如き鮮烈な煌めきを世界に遺して、燃え尽きて往くことを夢見ている節がある。ゆえに、彼女が授けて呉れた火の精霊とは相性が非常に良かった。
「ああ、女王陛下」
甘い甘い呼び聲が響いた刹那、少年のシルエットにノイズが走り――。気づいた時にはもう、騎士たちの輪の中にルベルは居ない。
火の精の加護を受けた少年は神速だ。騎士たちが騒めく頃には既に、彼は玉座の前へと忍び寄っていた。
「貴女だけを対象に、最も純粋で鮮やかな赤色を献上致します」
余りのことに目を見開く女王陛下へ恭し気に頭を垂れて、少年は燃え盛る炎を玉座へ嗾ける。炎というものは決して黒には染まらない、もっとも純粋で鮮やかな赤色だ。
玉座から身を投げて火炎を避けようとした女王だったが、それは決して叶わない。なぜなら――。
「がッ……」
まるで彼女を玉座へ縫い付けるように、地中から現れた黒き短刀がその細い背を貫いたのだ。持ち主の損傷で力を増したその短刀は、幾ら足搔けども女王を離してはくれぬ。
そうしている間にも、口端から赤を散らす痛々し気な其の身へと、容赦なく火炎は辿り着く。
「何故一緒に投げなかったか、気になりますか?」
なによりも焦がれた彩に包まれながら悲鳴を上げる女王に向けて、ルベルは静かに首を傾けて見せる。眸を伏せて微笑む様は矢張り、いとをかし。
「だって、あまりシンプルですと――つまらないでしょう?」
彼女は確かデスゲームを求めていた筈だ。そんなに刺激に飢えているのなら、彼女を散らす舞台を一等鮮やかで刺激的に彩って遣ろう――なんて。彼はそんなことを考えていた。
「陛下に歓んで頂きたくて、僕なりに趣向を凝らしてみたのです」
あわれ、玉座に縫い付けられた女王様。大好きな赤色越しにその眸が捉えたのは、はにかむように微笑む少年の可憐な姿。せめて彼を憎々し気に見つめてみるけれど、思慮深い金の彩は、あっという間に燃え盛る赤色に包まれてしまった。
さて――彼の試みは、女王陛下のお気に召しただろうか。
成功
🔵🔵🔴
仇死原・アンナ
◎☆
会えて光栄だ、赤の女王…
ここは貴様を屠るに相応しい…
その首を刎ね心の臓を教会に捧げてやろう!
[覇気纏うパフォーマンス]で騎士達を[挑発しおびき寄せ]よう
【シュバルツァ・リッター】で馬に[騎乗]し戦闘に移ろう
騎士達の攻撃を[オーラ防御、見切り、武器受け]で防御しつつ
妖刀での[早業、2回攻撃、串刺し]で騎士の首を刎ね胴を貫ぬき
鉄塊剣を振るい[鎧無視攻撃、なぎ払い、怪力]で馬ごと切り裂こう
そして玉座に座る女王目掛け[ダッシュ、力溜め、重量攻撃]による突進で玉座ごと[吹き飛ばし、恐怖を与えて]やろう…!
逃げるなよ…!
零落した王の首を刎ね…民衆に晒すのが処刑人の仕事だ!
●Raven Knight
暴君の類を玉座から引き摺り下ろすのは、処刑人たる仇死原・アンナが最も得意とすることである。彼の有名な鉄の処女を模した鉄塊剣を肩に担いだ彼女は、威厳にも似た殺気を全身に纏わせながら、踏ん反り返る女王へと鋭い視線を向ける。
「会えて光栄だ、赤の女王……」
「まあ、教会の御前でそんな剣を振うなんて。物騒なお客様ですわね」
肘掛に頬杖をつきながら、ちらり。女王が金の双眸を向ける先には、荘厳たる黒き教会が聳え立っている。零す科白に何処か非難の彩が滲むのは、神を信じる敬虔さが彼女のこころにも僅かに残って居るからか。或いは保身の為なのか。
彼女の目線を横目で追い掛けたアンナは、それでも躊躇うこと無く。担いだ剣を思い切り振り降ろし、其の切っ先を此度の獲物へと向けた。
「神の前だからこそ……ここは貴様を屠るに相応しい……」
その王権が神から授けられたものだと云うのなら、神の御前でそれを奉還すべきであろう。そして、玉座から引き摺り下ろされた暴君が辿る道と云えば――ただひとつ。
「その首を刎ね、心の臓を教会に捧げてやろう!」
「まあ、怖い」
お前ひとりで何が出来る、とでも言いたげに。女王は口端を歪めて処刑人を嘲う。パチンと指を鳴らしたならば、彼女の壁になるように何騎ものトランプ騎士が現れた。
「お前たち、あの凶刃から私を護りなさい」
「御意!」
高らかに嘶いた紙製の白馬たちが、軽やかな蹄を大地に打ち付けながら、処刑人を地に伏せようとやって来る。されど、馬で駆けるのは騎士だけでは無いのだ。
「――コシュタバァ」
気高き其の名を一度呼べば、戦場に猛き馬の嘶きが響き渡る。深い闇を切り裂いて天から現れしは、蒼白き炎を其の身に纏わせた漆黒の亡霊馬。
自身が認めた者以外の騎乗を許さぬ彼に素早く跨ったアンナは、騎士たちを挑発するように――ぐるん、ぐるんと、大きく鉄塊剣を振り回す。
「来い……まとめて切り伏せてやる!」
わあっと鬨の聲を上げながら、亡霊馬の騎士へと襲い掛かる赤と白の騎士達。金色の槍は勝手気儘に振われて。モノトーンの庭に、落ち着きのない金属音の応酬が響き渡る――。
「その程度で、私を止められると思ったのか……」
彼女の巨大な剣の前では、金の槍など余りに無力。襲い来る凶刃は、鉄の塊の如き剣が強かに跳ね返して仕舞うのだ。騎士達がその衝撃に体勢を崩している間に、アンナの片腕は素早く妖刀を引き抜いて。
「暴君に殉じた忠臣として、散って行くが良い……」
横薙ぎに振ったならば、――すぽんっ。またしてもクロッケー・ボールのように、ヘルムめいた騎士の頸が幾つも刎ね飛んだ。
極めて勇敢な騎士達は、ころりと地面に転がる数多の頸にも怖気付くことは無い。ラグビーのように馬ごと衝突してくる厄介な彼等には、錆色の乙女が強かにぶつかってお返しを。紙の白馬ごと力任せに切り払ったならば、同じく紙で造られた騎士の躰も耐えられず、其の躰をただの紙屑へと変えて往く。
「さあ、逃げるなよ……!」
邪魔者を振り払ったならば、いよいよ女王へと肉薄する時。
コシュタバァは再び猛き嘶きを響かせて、蒼白い炎の軌跡を宙へと撒き散らしながら、玉座目掛けてひといきに突進して行く――!
「きゃあっ!」
漆黒の馬が強かに衝突すれば紅の玉座は転覆し、女王の躰は無残にも黒き大地へ投げ出される。其処で待ち兼ねているのは、慈悲の無い錆色の剣と妖刀の怪しげな煌めき。
「零落した王の首を刎ね……民衆に晒すのが処刑人の仕事だ!」
数多の暴君がそうだったように。赤の女王ユリーシャもまた、斯くして己の横暴の報いを受けることと成ったのだ。
大成功
🔵🔵🔵
清川・シャル
△赤の女王…シャルはエンパイア出身なので疎くて申し訳ありません
けれど悪い人っていうのは分かるのでお覚悟を
デスゲームの勝者は此方です、等と挑発して何かしら感情を抱かせましょう
UC起動、結界を張ります
Amanecerを召喚して、ぐーちゃん零をスタンバイ
熱光線と、毒使い、麻痺攻撃、呪殺弾を込めたぐーちゃん零のトリガーをひいて攻撃
念動力で確実に当てに行きます
ぐーちゃんを撃ち終わったら、桜花乱舞から氷柱を飛ばしての攻撃
何かあれば第六感が働いてくれるはずです
●可憐なる少女の世界
ぽっくり、ぽっくり。石畳を踏みしめて、羅刹の少女――清川・シャルは女王の御前に現れる。歪んだような疵が入った玉座に坐すその様は、消耗を滲ませながらも気品と威厳に溢れていて、まさしく――。
「赤の女王……」
オウガが冠する其の称号をぽつりと口中で反芻して、少女は小首を傾ける。彼女はその筋では随分と有名らしいけれど、シャルには馴染みが薄い名前だ。
「シャルはエンパイア出身なので、疎くて申し訳ありません」
けれどもゴシックランドを蹂躙し、猟兵たちの前に立ちはだかるということは――紛れもなく、彼女がシャルの敵であるということを意味している。
「貴女が悪い人っていうのは分かるので、どうぞお覚悟を」
「それは此方の科白ですわ。私のゲームで血の海に沈むのは、貴女の方よ」
女王の冷え切った双眸が、つぅ――と細くなる。手袋に包まれた其の指先が手繰るのは、トランプの山札だ。慣れた手つきでそれをシャッフルする様は、如何にもゲームマスターらしい貫録を保っているけれど。
「いいえ、デスゲームの勝者は此方です」
少女はその大きな碧眼で確りと敵を見据えて、凛と胸を張ったまま啖呵を切った。女王は其の様を見て、仄暗い笑みを咲かせる。美しいアリスの奮闘を眺めることを何よりも楽しみとする彼女にとって、シャルの気丈さは“好もしい”もの故に――。
「ふふ、では試して差し上げますわ。伏せたカードの数字は幾ら?」
膝の上に伏せた一枚のカードを指さして、女王は楽し気に微笑んで見せる。されど、シャルは遊びに来た訳では無いのだ。彼女はただ目を閉じて、意識を集中させていた。
「あら……遊ぶ前からギブアップかしら」
心底詰まら無さそうな響きがぽつりと落ち、女王の指先がカードを捲ろうとした……まさに、その時。
「いいえ、シャルのターンはこれからです」
世界は少女のものへと塗り替わる――。
素早く展開された結界が、捲られたカードから齎されるダメージをぱちんと弾いた。そうしている間にも、結界の様相は目まぐるしく移り変わる。
少女が背負うように召喚するのは、桜色のスピーカーと桜を模したアンプたち。そして彼女が腕に抱くのは、『ぐーちゃん零』と言う名を冠するアサルトライフルだ。
その引鉄にあえかな指を掛けるのと、狙いを玉座に坐す敵へと定めるのは殆ど同時。指先に力を込めて引鉄を引けば、モノトーンの庭に鈍い音が連続で響き渡った。
「ッ……!」
少女の念動力で操られた弾丸は、女王の四肢へと辿り着き白肌を抉って行く。されど、シャルの攻勢はこれだけに留まらぬ。
五指に確りと嵌めたメリケンサックで羅刹の少女が虚空を殴れば、飾った石から氷柱が降り注ぐ。それは己の鮮血で其の身を赤く染めた女王へと、容赦なく飛んで行き――。
「いっ、いやッ……!」
紅に染まった玉座に幾つもの穴を穿ち、女王の纏いを更に赤く赤く塗潰したのだった。
成功
🔵🔵🔴
エール・ホーン
まどかくん(f18469)と◎
ボクには難しいことは分からないけれど
ボクが好きな絵本に出てくる王様や女王様は
どの人も国民のみんなの笑顔を大切にしていたよ
まどかくんの言葉に頷いて前を向く
異彩を放つことも、悪くないと思うよ
ちゃんと手を取り合えるなら
でもあなたは、違うでしょう
まどかくんの隷
UCで友達のところへ、翔けていく
なんでだろう、一緒に戦いたい
そう思ったんだ
共に翔けよう
――行こう、一緒に
こっちだよ
テレポートすれば、ボクの存在を瞬時に認識するのは難しいはず
咥えたペガススの剣で不意打ち
兵が召喚されても手数と範囲攻撃で払い除けよう
次々と質問に答える頼もしい姿に
ボクはボクにできることをやろうと思える
旭・まどか
エール(f01626)と◎
寛容?
世界の在り方に干渉し
己が好むものへと塗り替えるお前の何処が、寛容なんだろうか
この盤上に立つが相応しいのはこの世界に馴染む彼らだ
異彩を放つ、お前では無いよ
降板して――、なんて、お願いしてもきいてはくれないだろうから
退場して貰おうか
お前が本来在るべき処へと
おいで
彼女の余裕綽々な態度を、覆しておやり
直接の攻撃は隸に任せ
合間に投げかけられる問いには、正確に応じよう
そんな簡単な質問で、僕の不正解を得られると思ったの?
問う相手を間違ったね
●Unicorn Waltz
「今日は招かれざるお客様が多いこと」
紅にその身を染めた女王陛下は新たに訪れたふたりの猟兵を見下ろして、思慮深い金の双眸をつぅ――と細めて見せる。不遜に組んだ脚から、気怠げについた頬杖から、不機嫌さを滲ませて。
「けれど、私は寛容です。お前達の血を、此の国を彩るペンキにして差し上げますわ」
とても栄誉なことでしょう、なんて。冷笑を零す女王の貌を見つめながら、旭・まどかは怪訝そうに柳の眉を顰めた。
「……寛容?」
世界の在り方に干渉し、己が好むものへと塗り替える――それが眼前に坐す“赤の女王”の遣り口だ。その暴虐ぶりからは他者への思い遣りなど、微塵も感じられぬ。
「お前の何処が、寛容なんだろうか」
「ボクには難しいことは分からないけれど……」
ぽつり、零す科白へ滲ませた嫌悪すら隠さずに、まどかは溜息をひとつ。傍らに並び立つキマイラの少女――エール・ホーンもまた、戸惑ったように言葉を紡いで往く。
「ボクが好きな絵本に出てくる王様や女王様は、どの人も国民みんなの笑顔を大切にしていたよ」
眼前の女王陛下は彼女が憧れた物語の女王様と、余りにも掛け離れ過ぎていて――。少女は煌めく双眸を、そうっと悲し気に伏せた。
女王様にとって国民は、大切な存在の筈なのに。どうして彼女は、みんなを悲しませるようなことをするのだろう。大事に抱いた夢を壊すような現実に、思わず胸が痛くなるけれど。けれども、幸いエールの隣には頼もしい友達が居る。
「この盤上に立つが相応しいのは、この世界に馴染む彼らだ」
薔薇色の双眸で敵を確りと見据えながら、まどかは凛と拒絶を紡ぐ。きっと誰が相手だろうと、彼の強固なる信念がぶれる事など決して無いのだ。
「――異彩を放つ、お前では無いよ」
「ちゃんと手を取り合えるなら。異彩を放つことも、悪くないと思うよ」
まどかの科白に頷いて、エールもまた伏せた視線を前へと向ける。眼前には彼女の憧れとは違う、意地悪な女王様がいた。
――ゆえに勇気を振り絞って、少女も控えめに、されど確りと拒絶を紡ぐのだ。
「でも……あなたは、違うでしょう」
「だから、退場して貰おうか」
降板して――なんて。そんなお願いを聴いて呉れるほど、彼女が優しい女王陛下では無い事は分かって居た。ゆえにこそ、ふたりは強硬手段に打って出る。
本来在るべき処、すなわち躯の海へと“赤の女王ユリーシャ”を還す為に。
「――おいで」
まどかが静かに戦場へ招くのは、忠実なる四つ足の隷。灰色の毛並みを揺らした彼は、少年の脚元に粛々と伏して主の号令を待つ。
「彼女の余裕綽々な態度を、覆しておやり」
賢い隷へと月光の魔力を注いでやれば、灰の毛並みを震わせた彼は高らかに咆哮を紡いで、黒い大地を思い切り駆けて往く。
「ボクもっ……!」
自由に大地を駆ける四つ足の彼の姿に、果たして触発されたのか。可憐な少女もまた、其の姿を翼の生えた一角獣へと転じさせた。たちまち少女のシルエットがブレる。
そして次の瞬間に少女はその白き翼を羽搏かせながら、まどかが向かわせた隷の隣を、並走するように翔けていた。
――なんでだろう。
自由に戦場を駆けまわる彼の姿を見ていると、一緒に戦いたいという思いが心の底から湧き上がって来る。
「――行こう、一緒に」
灰色の毛並みを誇る隷は少女を一瞬だけ見つめた後、ただ前を見据えて駆け続けた。彼女と足並みを合わせながら。
「お前たち、私を護りなさいな」
「仰せのままに」
赤の女王とて、自身の頸が狩られる時を黙って待って居る訳では無い。指を鳴らしてトランプの騎士たちを招けば、それを向かって来る二騎へと嗾ける。
蹄を鳴らして駆けて来る騎士達の元へ、まどかの隷が果敢にも飛び掛かり――彼らの隊列を乱した後、エールがその口に咥えた剣で、紙の白馬ごと強かに薙ぎ払っていく。
「ああ、情けないですわ。頼りないお前たちを支援してあげましょう」
そう冷笑する女王が徐に取り出したるは、トランプの山札だ。ディーラー宛らの手つきで彼女がそれをシャッフルする様を、少年の薔薇色の双眸がじっと見つめて居た。
「ゲームの相手が欲しいなら、僕が務めてあげよう」
「まあ、それも楽しそうね」
気位の高い少年が赤に沈む様を見るのも悪くないと、赤の女王はそう思ったに違いない。くつりと冷たく嗤った彼女は、山札からカードを一枚抜き取って――それを自らの膝上へ伏せた。
「このカードに刻まれた数字、それを当ててご覧なさい」
「そんなの分かる訳が無い。僕は勿論……お前もね」
女王が紡いだ意地悪な問い掛けに、まどかは動じることなく淡々と答えを紡ぐ。伏せられたカードの中身など、まどかはおろか出題者の女王すら知らぬこと。そんな猫箱の中身など、誰にも答えられぬのだから、真実は『分らない』のだ。
「……詭弁ですわね」
「正解みたいだけど?」
女王がカードを捲ったならば、其処にはハートの「5」が刻まれていた。けれども、まどかの躰には幽かな痛みすら与えられぬ。彼の論説が正しかったことを知り、女王は苦々し気に眉を顰めてみせた。
「じゃあ、問答をしましょう。頸と口はあるけれど、頭が無い者は?」
「答えは瓶。“頸(neck)”と注ぎ“口(mouth)”だけあって、頭は無いから」
意地悪な問いを紡ぐ女王がカードを伏せれば、まどかが空かさず答えを紡ぐ。捲れば矢張り正解で、女王は詰まら無さそうにカードをはらりと投げ捨てる。
「そんな簡単な質問で、僕の不正解を得られると思ったの?」
問う相手を間違ったね、なんて。薄く微笑む少年に次の問いを編もうとして、女王は自身の真上から、猛き羽搏きが聞こえることに気付く。それはワタリガラスの羽搏きなどでは無く――。
「ねえ、こっちだよ」
テレポートしてきたエールが、白き羽搏きを伴って玉座へと肉薄したのだ。彼女の姿が其処に在るということは、当然その味方――四つ足の隷の姿も玉座の膝元に在る。
――ボクは、ボクにできることをやろう。
意地悪な質問にも動じず正解を導き出して見せる、そんな友人の頼もしい姿に背中を押されたエールは玉座に向かって急降下。
女王のおみ足にはまどかの隷が強かに噛み付いて居るものだから、彼女が玉座から逃れることは能わない。
騎士達の凶刃を乗り越えて此処まで来たエールの白い毛並みには、僅かに赤が刻まれていたし。四つ足の隷の毛並みにも、痛々し気な赤がこびり付いて居たけれど。互いに力を合わせて此処まで遣って来たのだ。
赤の女王に一太刀浴びせずに、このまま帰れる訳が無い。友人の薔薇色の双眸に見守られて、エールが咥えるペガススの剣が、きらりと光って――。
黒い石畳に鮮やかな赤が散る。女王が零した命の雫が、モノトーンの庭に無粋な彩をまたひとつ、刻み付けて行った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
◎☆#
やあ、ご機嫌よう。ユリーシャ君
私の名はエドガー。通りすがりの王子様さ!
国と民の平和を守ること。それが私の王子としての責務
キミの言うゲームとやらにも興味がないし
だからね、ユリーシャ君
……帰ってもらっていいかい?
“Hの叡智” 攻撃力を重視
飛んでくる刃物は剣で落とそう
《激痛耐性》があるし、当たっても多分気づきやしないさ
私の剣の届く距離まで間合いを詰める
《捨て身の一撃》だって厭わないさ
女王を名乗るキミに教えてあげよう
まず脚を組んで話すのは良くないぜ
真剣に話を聞いてほしいのならね
そしてトランプ兵や騎士にばかり戦わせるのもダメ
下々は上に立つ者の背中を見て動くモノだよ
“王”を名乗りたいのなら、常識さ!
寧宮・澪
◎☆♯
台無しでしたかー……すみませんねー……?
赤が、お好きですかー……うん、悪いことではないんでしょうがー。やー、個人のことでしたら、構わないんですが、それを押し付けられるのはー……。
とっても、いやなので。
邪魔させてもらいますねー……あ、血は、使わせない、ですがー。
染まりやすい、白を贈りましょうか……霞草の舞風……。
ぐるりぐるり、トランプも女王も巻き込んでー……白を彼らの赤で染めましょか……。
風は歌で補強しましょー……そうそう簡単に、逃げられないですよー……大人しくしててくださいなー……。
トランプのハイローですか。7以下ならロー、8以上ならハイ。間違ったってちょっとくらいは我慢、我慢ー……。
●黒を染める白、白を染める赤
手酷い疵を幾つも刻んだ玉座に腰かける女王様は、見るからにお冠。されど、このモノトーンの庭を訪れる客足が途絶えることは、決して無いのだ。
新たにやって来た招かれざる客は、ふたり。
「やあ、ご機嫌よう。ユリーシャ君」
白いマントを華麗にはためかせた王子様――エドガー・ブライトマンは、胸に手を当て貴人らしく腰を折ってご挨拶。
「私の名はエドガー。通りすがりの王子様さ!」
「まあ、異国の王子様がこんな所に何の御用かしら」
爽やかな笑みを整った貌に湛えたエドガーとは対照的に、赤の女王は冷たい眼差しを玉座の上から呉れるのみ。女王のそんな態度など気にも留めずに、彼は悠々と言葉を紡ぐ。
「国と民の平和を守ること。それが私の――王子としての責務」
彼のこころの中には、いつだってノブレスオブリージュの精神が刻まれている。それは時として痛みを伴うものだけれど、紛れもなく彼を構成するもののひとつだ。
それにエドガーは、女王が催すゲームになど関心が無い。オウガが思い付きで行う遊戯に、碌なものが無いことは分かりきっている。
「だからね、ユリーシャ君。……帰ってもらっていいかい?」
あくまで優し気に、しかし科白の隅々に確固とした拒絶を滲ませて。美貌の王子様は碧眼をつぅ――と細めて笑う。
「お断りしますわ。だって、徴収を台無しにしてくれたお礼が未だですもの」
対峙する女王も冷たい拒絶で、エドガーの申し出を跳ね付けた。彼女の言葉に眠たげな眼差しの娘――寧宮・澪はかくりと頸を傾ける。
「台無しでしたかー……すみませんねー……?」
のんびりと謝罪を紡いだ澪は、眼前の冷たき女王を緩やかに見つめている。彼女が坐す玉座も、その身に纏う彩も、総てが鮮やかで麗しい赤色に染められていた。
「赤が、お好きですかー……」
「あら……何か問題でも?」
まさしく“赤の女王”の名に相応しい趣味嗜好。別にこのオウガが何色を愛そうと自由ではあるけれど、見逃せない点がひとつだけ在る。
「やー、個人のことでしたら、構わないんですが、それを押し付けられるのはー……」
とっても、いやなので――なんて。澪が珍しく拒絶を露わにしたのは、束縛を嫌う性質ゆえか。オラトリオの娘は金色のオルゴールを胸に抱き、玉座から此方を見下ろす女王を静かに見据えるのだった。
「邪魔させてもらいますねー……」
「ふふ、私のゲームから無事に逃れられるかしら?」
トランプの山札を徐に取り出した女王は、慣れた手つきでそれをシャッフルして見せる。一体何が行われるのかと、彼女の鮮やかな指捌きに猟兵達の視線も自然と集う。
「さあ、この数字をよくご覧なさい」
手早くシャッフルを終えた女王は山札から一枚カードを抜いて、猟兵達へトランプの表を見せる。其処に刻まれているのはハートの「7」。覚えやすい数字だが、此処からが本題だ。
女王は再び山札からカードを一枚引き抜いて、次は猟兵達に表を見せることなく、自身の膝の上へとカードを伏せた。そうして、整ったかんばせに冷笑を咲かせる。
「このカードは、“ハイ”かしら。それとも“ロー”かしら?」
「なるほど、ハイローですかー……」
素早く事態を飲み込んだ澪は、考え込むように暫し視線を伏せる。傍らのエドガーもまた、思案する様に顎に手を当てながらカードを見つめて居た。
確率論的にいえばきっと、「7」以下が出る可能性が高いのだけれど。勝負と云うのは不思議なもので、何故か「可能性が低いこと」の方が起きることが多いのだ。
「うーん、難しいなあ……」
「分かりましたー……。ここは、ローにしましょー……」
熟考するエドガーの隣で、澪がのんびりと回答を紡ぐ。それでも彼女は、可能性が高い方に賭けることにしたようだ。
「では、裏返してみましょう」
くつくつと笑った女王が其の指先で、そうっとカードを捲る。果たして其処に刻まれて居たのは――ハートの「2」、ハートの「7」よりも低い数字だ。
「おお、キミすごいね!」
「わあ……勝っちゃいましたー……」
見事な敵中に眸を煌めかせるエドガーと、ほんの少し驚いたように瞳を瞬かせる澪。女王はそんな二人を面白くなさそうに見降ろしていた。
「まあ、運がよろしいこと。じゃあ、こういうのは如何かしら?」
彼女の五指に挟まれたトランプの如き刃物が、ヒュン――と風を切って飛んで来る。エドガーはすかさずレイピアを抜き放ち、その凶刃を強かに叩き落した。地面にぶつかり硬質な音を立てるそれらを後目に、彼は白銀の剣先を玉座へ向ける。
「女王を名乗るキミに教えてあげよう」
「あら、貴方がたに教わる事なんてあるかしら」
不遜に脚を組み変えながら、女王は再び五指に挟んだトランプを投擲。エドガーは動じることなくレイピアを動かして、宙に銀の軌跡を遺しながらそれらを再び叩き落す。
「まず脚を組んで話すのは良くないぜ」
真剣に話を聞いてほしいのならね――なんて。片目を閉じて見せる彼は、何処までも育ちが良かった。正論で諭された女王陛下と云えば、詰まら無さそうな貌にますます深い険を刻んでいる。
「下々の常識なんて知りませんわ。ここでは私がルールなのですから」
「分って貰えないなら、仕方ないね」
玉座に坐す自身が最も偉いのだと嘯いて、女王は次々に切れ味の鋭いカードを投げつけて来る。防御だけでは埒が明かないと悟った彼は、息を大きく吸って深呼吸。瞬きをひとつ、ふたつ零しながら、胸中で三度――故郷の名前を唱えたならば。こころの底から沸々と、この国を護る為の力が漲って来た。
「悪いけど、実力行使といかせて貰うよ」
王子様は白き衣をはためかせて、ひといきに玉座へと駆けて往く。向かって来るトランプはレイピアで弾き落として、靴底で轢き潰していたけれど。幾つかの刃物は剣技の隙間を抜けて、彼の纏いに赤い花を咲かせて往く。
されど痛みに鈍いエドガーは、刃物が当たったことにも気付か無い。彼はただ、玉座に向かって一直線に走っていた。
「危ないですよー……」
おっとりと聲を上げた澪は、敵陣へと捨身の覚悟で突っ込んで行く彼を支援するために術を編む。彼女が胸に抱いたオルゴールがそのシルエットを、はらはらと崩して行く。
角の方からゆっくりと、“かすみ草”の花弁へと転じて行っているのだ。女王が赤の彩を望むのなら、染まりやすい「白」を贈ってあげよう。
清らかな白色の花弁はゆるりと膨らみ、軈ては花嵐へと姿を変えて、ぐるりぐるり。飛んで来るトランプの刃を巻き込んで、地面へと叩き落していく。
「大人しくしててくださいなー……」
ぽつりと科白を零した澪は、喉を震わせて伸びやかに歌を紡ぐ。すると、戦場に吹き抜ける風が更に勢いを増して――清純なる花嵐は軈て玉座にまで辿り着いた。
「――ッ」
白い花弁がいま、女王が零した鮮血で、赤く赤く染められてゆく――。あれほど焦がれた彩なのに、女王にはそれを喜ぶ余裕など有りはしない。
「そうそう、トランプ兵や騎士にばかり戦わせるのもダメ」
諭すような科白と共に、玉座にふと長い影が差す。迫る影を見上げた女王の双眸に映ったのは、儚げな躰に迫り来るレイピアの先端と――。
「下々は上に立つ者の背中を見て動くモノだよ」
金絲の髪を揺らして笑う、美しき王子様の姿。
レイピアに絡まる白薔薇が、鮮血で赤く赤く染まれども。口端から垂れた赤が、その唇を濡らせども。奪われ行く命の温度に震える女王はもう、それを綺麗だなんて笑えない。
「“王”を名乗りたいのなら、常識さ!」
女王を名乗る彼女には、王族にとって最も大切なもの――“国民への奉仕のこころ”が欠けているのだ。ゆえにユリーシャは、エドガーには絶対に勝利できない。
その事実を思い知らされた女王が出来る事といえば、気品に溢れる王子の貌をただ悔し気に見上げることのみ――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
小日向・いすゞ
◎☆#
【狐剣】
どうも女王様、革命のお届けっスよォ
センセの腕を引いて
君が私の剣になる
器物となった彼の柄を握る
あっしは前に出るのが得意じゃァ無いンスが
相棒がコレなモンで
直接お相手を仕るっス
王様とか訳解んない事言ってるっスけれど
まあこれでも相棒っスから
行くっスよォ、相棒!
攻撃は剣で受けて、流して
ま、ま、ま
あっしは武器受けの良い女っスからねェ
はぁいはい
全く頼もしい限りっスね
逃げる訳じゃァ無いっスが駆けるのは得意
斬って跳ねて避けて
自らの一撃に重さが足りない事位理解している
その分手数と取り回しと頑張りでかばーっス
ええ、ええ
この国は赤く染まる事は無いでしょう
あっし達がいる限り
お命頂戴ってやつっス!
オブシダン・ソード
【狐剣】◎☆#
赤の女王かぁ、じゃあ僕は黒の王様がいいなぁ
何か冷たくあしらわれているけど僕は気にしない
軽口は変わらず、ただ今は君の剣として戦おう
さあ、行こうか相棒
敵の攻撃に対してUCを発動
君を守る、と言いたいけれど武器受けは君の手でやんないと駄目だからね
さあ相棒、こんなトランプ刃物に負けるわけには行かないよ
死角から来そうなやつは教えてあげるからがんばれがんばれ(鼓舞)
ついで手薄なところを見極めて、切り込む箇所をアドバイス
身軽な君ならいけるでしょう?
突撃かけるならオーラ防御で補ってみせよう
なあに、重さが無くても触れれば斬れるのが僕の良い所さ
それじゃ、君のお望み通り、革命と行こう
その首貰った、ってね
●黒曜と踊る
「赤の女王かぁ、じゃあ僕は黒の王様がいいなぁ」
「王様とか訳解んない事言ってるっスけれど――」
昏き戦場に並び立つオブシダン・ソードが玉座を仰ぎ見て、まず最初にそんな感想を漏らしたものだから。彼の伴侶――小日向・いすゞは、涼しい貌で本気か否か分かり兼ねる其の科白を一蹴した。
「どうも女王様、革命のお届けっスよォ」
「まあ、怖い。私の頸は誰にも差し上げませんわ」
彼女がいま意識を傾けるべき相手は、紅の玉座に坐す女王様。彼女を其処から引き摺り下ろすことこそが、ふたりに託された使命ゆえに。
「さあ、行こうか相棒」
「行くっスよォ、相棒!」
戯れを冷たくあしらわれても、オブシダンは気にしない。ふたりにとって、軽口を叩き合うのはいつものこと。いすゞは促される侭、ぐいっと“相棒”の腕を引く。
Interlock ⇒ Release !!
――斯くして、“君が私の剣になる”。
「あっしは前に出るのが得意じゃァ無いンスが……相棒がコレなモンで」
安全装置が発動すれば、黒衣の青年はたちまち其の姿を器物――黒曜石の剣へと転じさせる。武骨な彼の柄をぎゅっと握り締めたいすゞは、ただ剣だけを其の身に帯びて、黒い石畳を強かに蹴り玉座へと駆けだした。
「直接お相手を仕るっス」
「ふふ、良いでしょう。少し遊んであげますわ」
女王の五指から次々と、まるでショットガンのような勢いでトランプが放たれる。それらがヒュンッと風を切り、庭に咲く薔薇の頸を刎ねながら向かって来る様と来たら、正しく凶悪極まりない。
「君を守る、と言いたいけれど――」
オブシダンは其の身を剣に変えて居るので、自立行動は殆ど不可能だ。ゆえに武器受けは、いすゞの手で行う必要がある。
「ま、ま、ま――。あっしは武器受けの良い女っスからねェ」
それはきっと、ふたつの意味で。気遣う彼に問題ないと双眸を細めて見せた彼女は、黒曜の剣を横薙ぎに振うことで飛来したトランプを斬り落とす。
「あ、次は上から降って来るみたいだね」
死角から降り注ぐ刃にオブシダンが注意を促せば、コンコーンと身軽に跳ねることでいすゞは凶刃を躱して――着地と同時に再び駆け抜けた。
「さあ相棒、こんなトランプ刃物に負けるわけには行かないよ」
「まあ、センセの方が何倍も切れ味良いっスからねェ」
いすゞは戦場を駆けることが得意で、オブシダンは斬ることが得意。適材適所とは、正しく彼らのことを言うのだろう。
「がんばれがんばれ」
「はぁいはい、全く頼もしい限りっスね」
剣から放たれる緩やかな応援に、肩を竦めて見せるいすゞ。合間にそんな遣り取りを挟みつつ、少女は抜け目なく飛んでくる刃を黒曜の剣で弾き落として。不意の攻撃は軽やかに避けながら、決して立ち止まらずに駆け続け――何時しかふたりは玉座の側へと辿り着く。
「不敬ですわ、下がりなさい!」
拒絶と共に飛ばされたトランプの凶刃を、黒曜剣を盾にして往なしたいすゞ。一方で彼女の剣として戦況を見極めていたオブシダンは、女王が無防備になる瞬間にふと気づく。
「相棒、彼女がまたトランプを飛ばした瞬間を狙うんだ」
それは――降り注ぐ凶刃のなか、捨て身で突撃することを意味していた。言外に告げられた彼の意図を理解して、いすゞはコンと愉しげに笑う。
「ちょーっと厳しいっスねェ……」
「身軽な君ならいけるでしょう?」
オブシダンが確かな信頼を滲ませれば、いすゞは剣を構えて真っ直ぐに敵を見据えた。女王が再び五指に挟んだトランプを放った刹那――突撃!
物騒なトランプが降り注ぐなか、オブシダンが紡いだオーラの壁に守られて、いすゞは玉座へひといきに駆け抜ける。オーラに阻まれた凶刃が鈍い音を立てようと、彼女の意識は玉座から微塵も逸れることは無い。
「さあ、辿り着いたっスよ!」
「このっ……下がれと言っているでしょう!」
激昂する女王が次の手を放つよりも早く、いすゞは大きく黒曜の剣を振りかぶり――振り下ろす。少女が振るう剣は重さこそ欠けているけれど、切れ味は素晴らしいものだ。
切り裂かれた女王の肩から赤い飛沫が飛び散って、指に挟んだトランプたちのスートを鮮やかに塗潰して行く。
「それじゃ、君のお望み通り、革命と行こう」
「ええ、ええ、お命頂戴ってやつっス!」
その頸貰った――なんて。いつもの調子で戯れるオブシダンに釣られて、いすゞもくつりと笑みを零す。革命の剣は漸く、暴君の元へ届いたのだった。
「本当に無礼な方々ですわね……!」
最期の抵抗とばかりに放たれたトランプは、いすゞの白い頰へと不意に赤絲を刻んだけれど。結局はただの掠り傷。その程度で彼女の腕が、そして彼の切れ味が、鈍る筈も無い。
唇を噛み締める女王の姿を鈍く写した黒曜剣は、容赦なく振るわれて――その艶やかな刀身を、再び鮮やかな赤彩で濡らして行った。
ふたりが居る限り、ゴシックランドが赤く染まる事はきっと無いだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
【紫翠】◎#
予想に違わず悪趣味な女王サマだコト
どんなにお気に入りでも、ウチのお姫サマがダメって言うしオレも同意見
タイミング合わせオレからもおもてなし
邪魔なトランプ兵の動き*見切り避け*スナイパーで女王を狙い【彩雨】を降らせるヨ
煌めくアメだって素敵デショ?アンタにゃ似合わねぇケド
反撃の質問には正直に答えるさ
取り繕うコトも無いケド、そも女王が困るよな問いを出せるとも思えない
伏せたカードが何かと問うなら
「そんなコトは分からない」ソレが真実
あっはナイス質問
うさちゃんの攻撃に合わせまたアメ降らせ*傷口をえぐり*生命力吸収しマショ
ねぇ女王サマ、寛容だと仰るなら
少ぅしのイノチくらい、恵んで下さるでしょう?
ジュジュ・ブランロジエ
【紫翠】◎#
御機嫌よう、無粋な赤の女王様
この素敵な国を悪趣味なデスゲームの舞台になんかさせるものか
お前はこの国に相応しくないよ
ワンダートリート二回攻撃で女王様をおもてなし
お気に召しまして?
この隙にやっちゃえ、コノさん!
あはは、素敵なおもてなしだね
増えたトランプ兵には炎属性付与したナイフで攻撃
メボンゴファイアで一掃したいけど黒薔薇に燃え移ったらいけないから一枚(?)ずつ丁寧に撃破
女王様の質問、私は何でも話せるけどコノさんはどうなのかな
気になっちゃう……!
『メボンゴも女王様に質問したーい!なんで赤の女王なのに赤い髪じゃないの?』
どんな答えでもダメージを与えるよ!
範囲を絞った氷属性メボンゴ波でね!
●きらきらレイニィドロップ
「嗚呼、本当に不敬な方々……」
其の玉座と躰に無数の傷を刻まれて、白肌を赤く染めた女王陛下はお冠。新たに訪れたふたりの猟兵を見据える双眸にも、自然と険が刻まれる。
「貴方達の血で此の庭を赤く染めなければ、私の気も晴れませんわ」
「予想に違わず悪趣味な女王サマだコト」
その高慢な言動を前にして、コノハ・ライゼは呆れたように肩を竦めて見せる。傍らのジュジュ・ブランロジエといえば、パフォーマーらしく腰を追って女王陛下へご挨拶。
「御機嫌よう、無粋な赤の女王様」
そう頭を垂れて見せる内心、ジュジュのこころには既に闘志が宿っていた。この素敵な国を悪趣味なデスゲームの舞台にするなんて――そんなこと、絶対に許せない。
「お前はこの国に相応しくないよ」
「ウチのお姫サマがダメって言うし、オレも同意見」
コノハは薄氷の髪を揺らして、少女の言葉にゆるりと首肯する。幾ら“赤”がお気に入りと言えども、縁もゆかりもない国まで染め上げるのは戴けない。
この国は確かに仄暗くてホラーの馨に溢れているけれど。おどろおどろしい血の赤なんて似合わない、穏やかで上品な国なのだ。
「貴方達が私を選ぶのではありませんわ。私が此の国を選ぶのです」
ですから、従いなさい――。そう冷笑する女王には、此方の話を聞き入れる耳などきっと無い。彼女が指をパチンと鳴らせば、何処からかトランプの騎士たちが現れた。
軽やかな蹄の音を響かせて二人の元へ駆け抜ける彼らを持成すのは、少女が投げ放ったナイフ。炎に包まれたそれは紙製白馬に見事突き刺さり、騎乗するトランプ兵ごと燃やして行く。
先ずは一騎を無効化して、ジュジュは人知れず安堵の吐息を零す。彼女が腕に抱く兎の淑女――『メボンゴ』から放つ炎で一掃出来れば、もっと容易に敵を減らせるけれど。彼女はこの庭に咲き誇る黒薔薇を、万が一にも巻き込まないようにと気に掛けていた。
ゆえに、此度は一騎ずつ丁寧に相手取ることを決めたのだ。
「まあ、綺麗な炎。けれど……私は鮮血の方が好みかしら」
「そんな物より、もっと良いものをあげる!」
ジュジュの指先が再び華麗に投げ放つのは、薔薇の意匠を刻んだ銀のナイフ。直線軌道を描いた其の刃は、女王の脚へと浅く刺さり石畳に赤を散らせる。
「ッ、こんなもの……!」
ナイフを引き抜こうと身を屈めた女王の頭上に、ふと鮮やかな紙吹雪が舞った。それは彼女の視界を奪う目晦ましと化し、彼女の動きを鈍らせる罠。その隙に、――整った貌目掛けて飛んでくるのは、あまくて美味しい夢のようなお菓子。
「な、なんですの……んぐっ!」
それは女王陛下の口にすっぽりと入り込み、彼女を無理やりティータイムに誘って往く。ジュジュのお菓子は美味しい魔法のお菓子。しっかり租借しなければ、喋ることすら能わない。
「お気に召しまして、女王様?」
「あはは、素敵なおもてなしだね」
戯れるように胸に手を当て首を垂れる少女の隣で、コノハはくつくつと喉を鳴らして笑った。ジュジュの“ワンダートリート”は鮮やかに功を奏し、女王が招いた数多の騎士達が戦場から消えて往く。
「さあ、今のうちに。やっちゃえ、コノさん!」
「はぁい。オレからのおもてなしも、受け取ってネ」
コノハがにぃと口角を上げたなら、天の帳から数多の水晶針が降る。プリズムめいた其の煌めきは、黒い世界を鮮やかに照らし出し――女王の頭上へと強かに降り注ぐ!
「煌めくアメだって素敵デショ?」
アンタにゃ似合わねぇケド――なんて。菓子に頬を膨らませた女王は、悪戯に片目を閉ざす青年へ反論を紡ぐことはおろか、彩の雨に打たれて悲鳴すら上げる事すら許されぬ。
女王が漸く菓子を飲み込んだ頃には、其の白肌は更に痛々しい赤へと染まっていた。恨めし気にふたりを見下ろしながら、彼女は一枚のカードを取り出し膝上へと伏せる。
「勝負は未だ着いて居ないわ。さあ、カードに刻まれた数字を答えなさい」
突然の問いかけに、思わず顔を見合わせるジュジュとコノハ。ここは任せて、と軽やかに片目を閉じた青年は女王に向き合い、涼し気な貌で答えを紡ぐ。
「『そんなコトは分からない』――ソレが真実」
「……ええ、詭弁だけれど正解ですわ」
コノハの読みは当たったらしく、女王がカードを捲った所で何も起こらない。彼女が次に向き合ったのは――ジュジュだ。もう一枚カードを取り出して、先ほどと同じように己の膝上へと伏せる。
「次は問答をしましょう。そうね……」
――いくら貴女が呼び止めようと。“私”は止まることも、戻ることも出来ない。
「さあ、『私』はだあれ?」
「えっ、えっとー……」
思いがけない謎々が降って来て、ジュジュは顎に手を当て思案する。彼女の傍らに立つコノハも、脳内で問題文を反芻して答えを導き出そうとしていた。
「つまり答えは、進み続けるモノかしら……」
「止まらず戻らず……進み続ける……あっ、分かった!」
何気なく零れ落ちたコノハの呟きが、どうやらヒントになったらしい。ジュジュは翠の眸を煌めかせて、元気よく手をあげる。
「正解は――『時間』だね!」
「……不覚ですわ、簡単すぎました」
女王が再びカードを捲ってみたものの、矢張り何も起こらない。悔し気にカードを放り投げる女王へ向けて、今度は此方が問いを編む番。
『メボンゴも女王様に質問したーい!』
兎頭の淑女人形メボンゴが、ジュジュが手繰る絲に導かれて元気よく挙手をする。否も応も待たぬうちに、彼女は極めて無邪気に首を傾けて見せた。
『ねえねえ、なんで赤の女王なのに赤い髪じゃないの?』
「あっは、ナイス質問」
問いを耳に捉えたコノハが、可笑しそうに笑う。答えすら曖昧な問いで此方を翻弄したのだから、女王も少しくらいは翻弄されても文句など言えまい。
「理由なんて……綺麗だから良いでしょう?」
困惑したように答えを紡ぐ赤の女王だが、メボンゴは其の答えに納得して居ないらしい。愛らしく組み合わせた両手から氷の礫を放てば、それは女王の元へ勢いよく飛んで行く。
「ねぇ――女王サマ」
コノハもまた、数多の水晶針を再び天へと招いて居た。プリズムの彩に照らされた彼は、如何にも愉し気に蒼い眸を細めて見せる。
「寛容だと仰るなら。少ぅしのイノチくらい、恵んで下さるでしょう?」
強請るように甘く恋しく囁けば、女王の頭上に万色の雨が降る。機関銃にでも撃ち抜かれたかの如く跳ね続ける彼女の躰から、ゆるりと力が抜けて行く。
赤の女王の高貴なる命の残滓は、斯くして彼の糧と成ったのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天音・亮
◎
巴(f02927)と一緒に!
足掻き続けなければ、進み続けなければ、かあ…
私達も進み続けなきゃすぐに置いて行かれちゃう世界の中で勝負してる
色んなものを見て、聴いて、感じて
自分の中で育んだ輝くものを今度はみんなに見て聴いて感じてもらうの
そしてその輝きが今度はみんなに伝染する
それぞれが違う輝きを放つから、だから綺麗だと思える
私には私の
巴には巴の
女王様には女王様の輝きが在る
替えの利かない輝きで勝負をしたいとは、思わない?
巴、騎士さん達は私に任せて!
女王様に魅せてやってよ、巴の輝き
ウィンクの合図ひとつ
増した速度と戦闘力で騎士を蹴り倒していく
行儀が悪いだなんて言わないでね
脚だってモデルの武器なんだから
五条・巴
◎
亮(f26138)と共に
赤の女王、いいね。僕らも同じだよ。
君がその場に留まるよう足掻くなら、僕らは引き摺り落とすよう足掻いてみようか。
わかってるだろう?ここもそういう世界だ。
ひとつとして代替品は無いと世に知らしめる。
あの服を1番かっこよく見せることが出来るのは僕で、あのヒールを1番綺麗に見せることができるのは亮だと。
女王様は何が出来る?独りで、どこまで出来る?
嗚呼、余所見はいけないよ。こちらを見て。
トランプ兵なんでどうでもいいだろう?捨て置いて、僕と遊ぼうよ。
ふふ、飛ばされたウインクに同じくウインクで返し牝鹿と共に謁見と言う名の囲い込み
さあ、女王様、僕という存在を”見て”?
●スポットライトは彼らが為に
満身創痍の女王陛下は、其れでも玉座に君臨し続けて居る。『赤の女王』であることを止めたら最後、彼女に遺される物は「ユリーシャ」という名前だけに成ってしまう故に。
「私は女王で在り続ける為に、貴方達を退け続けましょう」
思慮深い金の双眸を細めながら、そう凛と云い放つ赤の女王。其の様を仰ぎ見た天音・亮は、神妙な表情で彼女の科白に耳を傾けていた。
「足掻き続けなければ、進み続けなければ、かあ……」
「いいね、僕らも同じだよ」
亮と同じく玉座を仰いだ五条・巴はくつり、愉し気な微笑をひとつ。モデルである彼等も、進み続けなければ直ぐに置いて行かれてしまう――そんな移り変わりの激しい世界で勝負をしている。
そして、玉座に坐す者がその場に留まれるよう足掻き続けているというのなら、スマートに其の見苦しい努力へ引導を渡すのも、彼らが身を置く世界の理である。
「僕らは君を、玉座から引き摺り落とすよう足掻いてみようか」
「玉座は誰にも渡しませんわ。『赤の女王』の称号は、私こそが相応しい!」
柔らかな背凭れに踏ん反り返った彼女は、この椅子は渡さぬと咆える。されど巴はその整った貌にゆるりと微笑を浮かべた侭、静かに頸を左右へ振って見せた。
「わかってるだろう?」
苛烈なる生存競争が行われているのは、芸能界だけではない。オウガとアリスの生存競争が行われている此処――アリスラビリンスもまた“そういう世界”なのだ。
「ならば、お前たちを血の海に沈めましょう。そうして世界を、赤に塗り変えるの」
「色んなものを見て、聴いて、感じて……」
凄まじい我の強さで『赤』を推し続ける女王。そんな彼女の有様を間近で見て、亮はぽつり、ぽつりと言葉を紡ぎ始める。
「自分の中で育んだ『輝くもの』を、今度はみんなに見て、聴いて、感じてもらうの」
それは、数多の彩に溢れた世界に触れたからこそ得ることが出来る輝き。ひとつの彩に染まった世界では、決して手に入らないモノ。
そして、その輝きは其処から何かを感じてくれた『みんな』へと伝染して行く。夫々のこころの中に色付いた輝きは、ひとつとして同じ彩など無い。ゆえにこそ、綺麗なのだと亮は語った。
「私には私の、巴には巴の、――女王様には女王様の輝きが在る」
女王にとっての輝きが“血のように赤い彩”だと云うのなら、それはそれで構わない。けれども、世界を自分の彩で染めてしまおうなんて。そんなことは、余りにも寂しい。
「ねえ、替えの利かない輝きで勝負をしたいとは、思わない?」
巴と亮の仕事は、ファッションモデルだ。誰もが憧れるあのブランドの服を、一等かっこよく見せることが出来るのは巴で。乙女が見惚れるあのヒールを、一等綺麗に見せることができるのは亮なのだと。そして、彼らという存在はひとつとして代替品など無いのだと、そう世に知らしめること。
――それが、モデルとして活躍するふたりの“存在意義”。
「女王様は何が出来る? 独りで、どこまで出来る?」
「私は……」
巴と亮の武器は、磨き上げたその感性と美しさ。芸能の世界で勝負する彼らにとって、信じられるのは自分だけ。いつでも信じられる自分で居る為に、ふたりは自分磨きを怠らない。されど、赤の女王が誇れるものは――。
「私は孤高の女王。されど、遍くトランプ達はこの身に跪くのです!」
彼らの忠心さえ在れば充分と、巴の問いを跳ね除けて、女王陛下は指を鳴らす。すると彼女を護るように、トランプの騎士たちがずらりと玉座の周囲へ現れた。
高らかな嘶きを響かせながら、彼等はふたりへ襲い来る。巴を庇うように亮が一歩前へ歩みを進めれば、彼女の踵が機械仕掛けの蹄音を鈍く鳴らし始めた。
「巴、騎士さん達は私に任せて!」
少女の勇ましい聲が、並び立つ青年の背中を押した。碧い眸から星の如きウインクを零して、彼女は電子武装ブーツで地を滑る。
「女王様に魅せてやってよ、巴の輝き」
巴もまた軽やかにウインクを返して、少女の側を走り抜けて往く。それを横目で確認した亮は軽やかに石畳の上を滑り、――トランプの騎士達に強かな飛び蹴りを喰らわせた。
「行儀が悪いだなんて言わないでね」
脚だってモデルの武器なんだから――なんて。悪戯にくすり、笑って見せる亮の姿は何処までも可憐。
彼女が大地を滑ったならば、戦場全体がまるでスケートリンクのよう。華麗な蹴り技で騎士達を相手取る彼女の姿に、女王の視線もすっかり釘付けだ。
「たった一人に翻弄されるとは、嘆かわしい……!」
「嗚呼、余所見はいけないよ」
女王陛下が余りにも騎士達の不甲斐無さに夢中なものだから、巴は拗ねたような科白を零す。
――こちらを見て。
其の聲に気付いた女王が、はっと其方を向いたなら。思慮深き金の双眸が捉えたのは、巴の麗しき微笑。
赤色を何よりも愛する女王は、彼の貌にすっかり見惚れてしまった。どういう訳だろうか。その整った貌からは、一瞬たりとも眼を逸らすこと能わない。
「トランプ兵なんでどうでもいいだろう?」
甘い毒のように、そうっと優しく、巴は囁きかける。女王が坐す玉座はいま、招いた牝鹿達に囲まれていた。だと云うのに、矢張り女王は彼の貌から視線を外せない。
――もっと彼の貌を、その姿を、見て居たいと思うのだ。
「あんなの捨て置いて、僕と遊ぼうよ」
至近距離で女王へと謁見叶った彼の科白に誘われるように、じわり、じわり。少しずつ玉座へ距離を詰めて来る牝鹿たち。女王はもう、彼の魅力から逃れることは出来ぬ。
「さあ、女王様」
――僕という存在を“見て”?
強請る様に囁いたそんな科白を合図として、牝鹿達は一斉に玉座へと飛び掛かった。視界を彼らに埋め尽くされる迄、赤の女王はただ巴だけを見つめて居た。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
メリー・アールイー
◎☆
事前に自分とReに【百光潤色】の飾糸をハート結び
やあやあ女王様、ご機嫌うるわしゅー
あたしともゲームで遊ぼうじゃないか
運試しのハイアンドロー
常に上を向いて生きていたいからね、答えは「HiGH」だ!
はっは、大当たりだねっ
それじゃあ罰ゲームだ、いきなRe!
背後に潜んでいたReがしつけ針を大きくして
女王様を鎧無視の串刺しだ!
or
あれまあ、はずれかい
ダメージは飾糸が吸収
念の為ライフを増やしておいてよかったねぇ
ずるい?生き残る為に最善の手を尽くしたまでさ
Reを思いっきり空へ放り投げる
さあ、武器を持ってるのはどーっちだ!
アタリならしつけ針でカウンター
ハズレなら針山クッションで弾いて、もう片方がグサリさ
●Alternative
鮮やかな布を幾重も花弁の如く重ねたリメイク着物を揺らし、継ぎ接ぎの少女――メリー・アールイーがモノトーンの庭へと足を踏み入れる。彼女の細腕には、メリーそっくりの人形『Re』が確りと抱かれていた。
固い絆で結ばれたふたりを繋ぐ光の絲は、愛らしいハート結び。メリーが軽やかに跳ねる度に、其れはゆらりと揺れて黒い世界に眩い光を散らして行く。
「やあやあ女王様、ご機嫌うるわしゅー」
「いいえ。お前たちイェーガーの所為で、興も醒めてしまいましたわ」
メリーは玉座の前で愉し気に腰を折って見せるけれど、当の女王様と云えば酷くご機嫌斜め。よくよく見れば、彼女が坐す玉座には幾つもの疵が刻まれているし、彼女自身も其の身体中に疵を負っているようだった。
「まあまあ、そう言わずに。あたしともゲームで遊ぼうじゃないか」
「……良いでしょう。では、運試しなんていかが?」
ハイアンドローでも既に一敗を喫している女王だが、眼前の猟兵を幼い少女と見て油断したのだろう。メリーが明るく笑って見せたなら、彼女は徐にカードの山札を取り出して手慣れた手つきで其れをシャッフルして行く。
軈て女王の指先は、山札の中から一枚のみを靜に抜き取った。その表を確かめて、メリーへと掲げて見せる。其処に刻まれているのは、ハートの「8」だ。
「ふんふん、成る程ね」
「これを確りと覚えておきなさい」
それだけ付け加えて、女王は再び山札の中から新たなカードを一枚抜き取った。次は其の数字を検めることなく、自身の膝上へと伏せて少女へ向き直る。
「さあ、このカードは先ほどの数字より大きいでしょうか。それとも小さいかしら」
メリーが挑むことと成った運試しとは、すなわちハイアンドロー。確率論的にいえば「8」よりも小さい数字が出る可能性の方が高いけれど――。
「あたしは常に上を向いて生きていたいからね」
継ぎ接ぎの少女は胸を張り、堂々と女王へ向き合った。見かけは幼気な少女だけれど、彼女だって立派なヤドリガミ。伊達に100年は生きて居ないのだ。
「答えは――『HiGH』だ!」
冷笑した女王が、ゆっくりとカードを捲る。漸く表を現した其れに刻まれていた数字とは、――ハートの『12』。いわばハートの王様である。
「はっは、大当たりだねっ」
「撚りによって、ハートのキングを引き当てるなんて……!」
悔し気に地面へとカードを投げつける女王陛下と裏腹に、快活に笑ったメリーは嬉しそうにくるくると回って見せる。彼女の動きに釣られて着物の裾もはらはら踊り、黒き世界に鮮やかな彩を添えて行った。
「それじゃあ罰ゲームだ、いきな“Re”!」
勝負の合間に隙を塗って女王の背後へと潜んでいたReが、勇ましい号令に導かれて勢いよく飛び出した。
メリーと瓜二つの姿をした彼女の手には今、大きなしつけ針が握られている。
「か、はッ……!」
しつけ針は柔らかな玉座を突き抜けて、女王の胴を強かに――どすりと貫き串刺しに。女王の口から赤が散り、石畳をお望みの色へと変えて往く。
その様を「Re」の文字が綴られた貌で見下ろしていた人形は、するりと針を引き抜いて光の絲を頼りに主の元へと戻って行った。
「不意打ちなんて……!」
「ずるいと思うかい? 生き残る為に最善の手を尽くしたまでさ」
悪戯に片目を閉じてメリーは笑い、それから腕に戻って来た人形を思い切り空へと放り投げた。
「さあ、今度はこっちが質問する番だよ。武器を持ってるのはどーっちだ!」
あんなに大きかった“しつけ針”は何時の間にやら常の大きさへと戻り、今と成っては何方が持って居るのやら。女王は目を凝らしてみるけれど、全く見当もつかぬ。
「どうせ、あの人形が持って居るのでしょう!」
「そう、――アタリだよ!」
高らかに宙を舞った人形と自身を繋いだ絲を引き、メリーはReを女王の元へエスコート。彼女の腕で鋭く煌めく“しつけ針”は、玉座で踏ん反り返る暴君を聊か手荒に躾けて往く――。
大成功
🔵🔵🔵
ティル・レーヴェ
◎#
七結殿(f00421)と
嗚呼、鮮やかな色彩も
楽しき遊戯も良きものじゃろう
然し何れも
他者へ強要せしものであってはならぬ
命を賭けよというならば尚更に
どうしてもと云うならば
妾らがお相手差し上げよう
其方も良く知る理の下
『遊戯』を始めようではないか?
任せて、と紡ぐ彼女は艶やかでいて頼もしい
ならば妾は支え足るべく、と
纏う光に花々にと力得て
彼女へ癒し施し己の手数を増して
絵札の騎士が増えようと
この地で刃交える者が多い程
この身に力が湧き行くよ
増した力に範囲攻撃や2回攻撃を重ねつつ
魔力を帯びた歌響かせて
舞い飛ぶ刃物を巻き込み弾きながら
赤の女王へと放つとしよう
足掻きてしがみつくその玉座
そろそろ降りては如何かえ?
蘭・七結
◎#
ティルさん/f07995
ご機嫌よう、あかをあいする女王さま
嗚呼。あかいろはステキね
いっとうすきよ
染めてゆく愉しさも否定しない
けれど、ね
それぞれの彩にうつくしさがあるわ
この漆黒の国はいのちに溢れている
いきている色を塗り潰しては、ダメよ
なゆたちの“あか”はあげない
遊戯の幕をおろしましょう
彼女の騎士たちはお任せあれ
嗚呼。あなたのちからに満たされる
とても心地のよいひかりだわ
数字は重なれどおんなじ姿かたち
ならば甘やかに蕩かしましょう
全てを攫うことはむつかしくても
暴力の要となる四肢を、連れてゆくわ
逃れた御方は毒を乗せた刃で薙ぎ払い
絶ち斬ってみせましょう
ひずむ心地はいかがかしら
存分に味わってちょうだいね
●癒しの光と戀の毒
モノトーンな彩の庭に足を踏み入れれば、紅の玉座に踏ん反り返った女の姿が目に入る。彼女こそが『赤の女王』、その名も“ユリーシャ”。
玉座をそうっと仰ぎ見る少女――蘭・七結は、牡丹一華を飾った髪を揺らし、あえかに頸を傾けて見せた。
「ご機嫌よう、“あか”をあいする女王さま」
「ええ、御機嫌よう。貴女達も私の遊戯で赤く染まりに来たのかしら」
黒い指先でトランプの山をシャッフルしながら、冷たい眸で見降ろしてくる女王陛下。不機嫌そうな彼女の聲を聴けば、七結はおっとりと頬を弛ませた。
「嗚呼。あかいろはステキね」
いっとうすきよ――なんて。少女がうっそりと微笑めば、傍らのティル・レーヴェも深く首肯し彼女の意見に同意する。
「嗚呼、鮮やかな色彩も、楽しき遊戯も良きものじゃろう」
ティルが豊かな其の淡翠の髪に揺らす彩は、鈴蘭の清廉な白。けれども、花を愛する彼女は、鮮やかな彩だって嫌いではない。
薔薇に椿に、それから友人の髪に揺れるようなアネモネに……。遍く赤い花というものは、鮮烈なる美しさに溢れている。――問題は、女王陛下の性格だ。
「然し何れも、他者へ強要せしものであってはならぬ」
眼前の彼女は『黒』を愛する者達に、自身の好みを押し付けている。更にアリスを遊戯へ招いて、苛烈なる生存競争を強制的に課しているのだ。
ひとに命を賭けよと云うのなら、互いの同意があって然るべき。されど、暴君たる彼女にとって、アリスは命令に従って当たり前の存在らしい。
そんな彼女の横暴ぶりは、聊か目に余るというもの。ゆえにティルは、幼げな貌に険しい彩を浮かべて、諭すように女王へと言葉を紡いで往く。
「染めてゆく愉しさも否定しない。けれど、ね――」
七結も長い睫を伏せながら、ゆるりと言葉を探す。世界を一等好きな彩に染められたら、きっと愉しいだろうけれど。世界に存在しているのは、彼女ひとりでは無いのだ。
「それぞれの彩にうつくしさがあるわ」
瞼の裏に先ほど共に戦った仲間達の姿を描きながら、少女は静かに頭を振った。この漆黒の国はダークファンタジーの趣で、仄暗さに満ち溢れているけれど。同時に“いのち”にも溢れていると彼女は想う。
ボビン頭の紳士も、頸と腕のないトルソーの淑女も、七結達とは違う存在。すなわち異形であるけれど、ヒトと同じように生き生きとしていた。
「いきている色を塗り潰しては、ダメよ」
「それは出来ない相談ですわね。私が収める国は、私の彩に染まるべきですもの」
ふたりの少女に諭されようと、赤の女王の在り方は変わらない。彼女は世界が自分の為に在ると、如何にも暴君らしく信じて居た。
「諫言を聴いて下さらぬと云うならば、妾らがお相手差し上げよう」
女王へ向き直ったティルが、凛と宣戦布告を告げる。此処に住まう愉快な仲間達の為に、そして戯れの犠牲と成るアリスを増やさない為に。赤の女王は此処で倒さなければなるまい。
「其方も良く知る理の下――『遊戯』を始めようではないか?」
「そして――なゆたちの手で、遊戯の幕をおろしましょう」
臨戦態勢のふたりを見下ろして、女王は整った貌に冷笑を咲かせた。彼女達はアリスでは無いけれど、其の白肌が赤く染まる様はきっと見物に違いない。
「いらっしゃい、我が騎士達」
パチンと鳴らされた指の音を合図に、戦場へと紙製白馬に跨った騎士たちが現れる。勇ましい嘶きを響かせた彼らは、恭しく女王へ向き直り命令が下されるその時を待って居た。
「あの娘達を血の海に沈めなさい」
「御意!」
残酷なる号令に聲を揃えた騎士たちは、まるでトランプを積み上げる様に重なり合って良き――やがて一騎の巨大な騎士と成る。
金色の槍を振り乱し、ふたりの少女の元へと迫り来る彼の騎士。されど、ティルも七結も歴戦の猟兵なのだ。この程度のことでは怯みもしない。
「彼女の騎士たちはお任せあれ」
嫋やかに友人へと微笑み掛けた七結は、香水瓶を大切に抱きしめながら敵陣へ。胸を張って背筋を伸ばし、ただ前を見据えて駆けて行く彼女の姿は、艶やかでいて頼もしい。
「ならば妾は支えとなろう」
ティルは藤の双眸をそうっと瞼に隠し、只管に意識を集中させる。刹那、彼女の全身がみるみる内に、淡い光と花々で包まれて行くではないか。
神秘的な煌めきと彩が幾重にも折り重なれば、それは軈て彼女の躰を覆う聖なる纏いと化して往く。
――嗚呼、とても心地のよいひかりだわ。
彼女が放つ光を横目に捉えた七結は、清浄なそのちからに満たされる心持ち。穏やかに紫水晶の眸を弛めながら、艶やかな香水瓶の蓋をそうっと捻ったならば。瞬く間に戦場へと立ち込める、陶酔を齎す如き甘い馨。
「なゆたちの“あか”はあげない」
それは、七結が騎士の為にこころを籠めて注ぐ毒。まるで戀の病の如き其れは、甘やかにトランプの騎士を蕩けさせる。
巨体の両腕が、両足が、ぐずぐずに溶けて往けば――軈て残るは只の胴体と、ヘルムを被った金色の頭のみ。
これでは十分に戦えないと、騎士たちは合体を解いた。わらわら、雪崩れ込むように現れた騎士達を前に、七結はアネモネを絡ませた黒鍵をぎゅっと握りしめて――思い切り其れを横薙ぎに振う。
余りにも軽やかに投げ飛ばされるトランプ騎士達。一見すると、その傷は浅く見える。けれども、彼らの白い躰は黒鍵の切っ先が触れた個所から、どす黒く染まっていた。
「ひずむ心地はいかがかしら」
「我らを黒く染めるとは……!」
毒を塗られ、白い躰を黒く染められ、激昂した騎士達は七結へと次々に飛び掛かる。その度に彼女は黒き鍵を振い、釣られて鮮やかなアネモネが揺れる。
少女の華麗な立ち回りに騎士達は翻弄され、毒の効果も相まって力尽きて往くけれど。それでも、多勢をひとりで相手取るのは骨が折れる。いま七結の白肌には、幾つもの赤き線が刻まれていた。
「七結殿、そろそろ妾にも手伝わせてたもぅ」
「ええ、ティルさん。お待ちしていたわ」
後ろから掛けられた聲と共に、七結の全身を癒しの光が包み込む。疵が癒えて行くのを感じて、彼女は声の主――ティルへと柔らかに微笑みかけた。煌めく聖衣を靡かせたティルは、彼女の傍らに並び立ち高らかに喉を震わせた。
少女の囀りは戦場全体に響き渡り、歌に秘めた魔力で以てトランプの騎士達を無力化していく。彼女が纏う聖衣は戦場に交戦するひとが増える程、術者に加護を与えるもの。
つまり数多の騎士たちをここに招いた時点で、赤の女王は既に手詰まりを迎えて居たのだ。
ティルの歌声を脅威に感じた騎士が、彼女を黄金の槍で貫こうとするけれど――。それすらも、空気を震わせて奏でるティルの聲が、何処かへと浚ってしまう。代わりに飛んでくるのは、七結が振るう黒鍵の強かな一撃だ。
「さあ、存分に味わってちょうだいね」
七結にはティルの癒しが在り、ティルには七結の刃が在る。ふたりが共にいる限り、どんな敵が相手だろうと大丈夫。支え合って補い合って、きっと勝利を掴むはずだ。
「嗚呼、本当に情けないこと……」
儚げなふたりの娘に翻弄され続ける騎士たちの体たらくに、玉座に坐す女王は深い溜息を吐いていた。
ティルが歌に込めた魔力で以て騎士達の得物を弾き、その隙を突いて七結の黒鍵が彼らの躰を切り伏せる。その繰り返しによって、彼女の手駒は着実に数を減らしていた。
――そして。凶刃は突如、彼女の頭上に降り注ぐ。
「なっ、なんですか、これは……!」
ティルが弾いた刃が纏めて、女王の方へと飛来したのだ。気づけば少女の囀りは途絶え、ただ鋭い槍が儚げな躰を貫く音ばかりが、昏い庭へと響き渡っていた。
「足掻きてしがみつくその玉座――そろそろ降りては如何かえ?」
自身に突き刺さった槍へと手を掛けながら、それでも女王は頸を振る。彼女が玉座から降りる迄、ふたりの戦いはもう暫く続くことに成るだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
◎
君が赤の女王かい?
櫻にならって礼をして
僕の櫻はこの通り、あかが好きなのだけど
僕は櫻が好きだから、面白くないんだよ
真っ赤に染った嫉妬じゃないよ?
ただ、気に入らないだけ
どうやらその赤の玉座はこの国には必要ないようだよ
走り続ける君をここで真っ赤に縫とめようか
それをこの龍が望んでいるのだもの
僕にとっては櫻宵が、愛(はぁと)の女王のように見えるけれどね
ゆるり鼓舞を込めて歌紡ぐ
歌唱活かして心まっかに融かして縫い止める
『魅惑の歌』
響かせて
櫻舞い踊る赤の舞台を彩ろう
僕の櫻をあかには染めさせやしないさ
水泡のオーラで君守る
ふふ
桜散らせるようにあえやかに―
1度言って見たかったんだ
さぁ、首をはねておしまい!
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
◎
ご機嫌麗しゅう、女王陛下
恭しく礼をするのは礼儀よね
あかは大好きよ!
あえやかな愛の色
もえるような戀の色
いのちの色
熱い血潮
あなたのあかはおいしいかしら?
走り続けなければいけない
私の往く道に座るあなたはお邪魔なのよう
私の道をあなたであかく染め上げて
真っ赤な絨毯の上、愛し人魚と踊りたい
私の美しいうつくしい、白の女王様(人魚)が歌うわ
なれば私は舞い踊る
蕩ける蠱惑に生命力喰らう斬撃を添わせ斬り裂いて
咲いて舞い散る桜花は呪殺の桜嵐
見切り躱したら礼代わりのカウンター
千々に衝撃波放ち真っ赤に蹂躙してあげる
あいしてあげる
まっかな愛を咲かせたい
飛び込み怪力込めて愛込めてなぎ払う
「絶華」
あなたのあかを頂戴な
●愛謳う女王、白泡の女王
黒き教会の庭は矢張りモノトーンの仄暗い彩。されど今、この庭には鮮やかな彩ばかりが集っていた。ひとつは、赤の女王ユリーシャ。
「ご機嫌麗しゅう、女王陛下」
ふたつめは、薄紅の枝垂れ櫻――誘名・櫻宵。女王の御前と云うことで、櫻の龍は如何にも恭しく、玉座に向かって艶やかに飾り立てた頭を垂れる。
「君が赤の女王かい?」
最後のひとつは、月光ヴェールの人魚――リル・ルリ。彼もまた櫻宵に倣って腰を折り、悠然と礼をして見せる。
「ええ、私こそが赤の女王。この世界を血染めの赤に塗り変える者ですわ」
「それは奇遇ね。私も“あか”は大好きよ!」
櫻宵は櫻霞の眸をうっそりと蕩かせて、謡うように言葉を紡ぐ。
“あか”――あえやかな愛の色、燃えるような戀の色、滾るいのちの色、熱い血潮……。嗚呼、なんと美味しそうな彩!
「僕の櫻はこの通り、あかが好きなのだけど……」
愛を食む櫻龍の陶酔を横目に捉えたリルは、蒼い双眸で玉座に坐す女王の姿を捉える。名が表わす通りに赤を纏う女、櫻宵の眸に彼女は果たして、ご馳走に視えているだろうか。
「僕は櫻が好きだから、面白くないんだよ」
ごくごく素直に心情を吐露した人魚は、胸中に立ち込めた靄を払うように、宙を蹴ってくるりと回る。リルが抱いているのは、真っ赤に染った嫉妬ではなく――。
「ただ、気に入らないだけ」
リルは櫻宵の『特別』だけれど、彼の麗人が愛する色は持ち合わせて居ない故に。何処か余所見されて居る様な――そんな面白く無い感情が沸々と込み上げて来るのだ。
「そもそも……その赤の玉座、この国には必要ないようだよ」
数多の住人がオウガの支配に抵抗していたことを思い出し、そんな事実も付け足して見せる。尤も眼前の女王は、そんな正論を聞き入れるような存在では無いだろうが。
「ええ、それに――。私の往く道に座るあなたは、お邪魔なのよう」
幸福な未来に向かって、或いは幸福ないまを留め置く為に、走り続けなければならないのは、ふたりだって同じこと。ゆえに、ふたりの道を遮ると云うのなら――。
「私の道を、あなたであかく染め上げて……」
そうして真っ赤に塗られた絨毯の上、愛し人魚と踊りたい。其れこそが、櫻宵の願い。そして、愛しき櫻龍の願いはリルの望みでもある。
「だから、走り続ける君をここで真っ赤に縫とめようか」
「標本箱に綴じられた蝶などに、私は決して成らないわ!」
人魚の言葉を耳に捉えた女王は咆え、彼らに向かって勢いよくトランプを投げつけた。風をひゅんっと切り薔薇の頸を刎ねながら、次々と向かって来るそれらはまるで、ショットガンから放たれた弾丸の様。
「まあ、赤の女王様らしい歓迎ね」
「僕にとっては櫻宵が、はぁとの女王のように見えるけれどね」
リルにとって彼の麗人は、愛を冠する女王でもある故に。そんな軽口を紡ぎながら息をすぅ――と吸い込んだ人魚の歌姫は、ただひとりの為だけに鼓舞を籠めて喉を震わせる。
まっかに蕩けたこころが紡ぐ調べは、“ Sirena Bel Canto ”。――すなわち、『魅惑の歌』。
リルの澄み切った歌聲が響き渡れば、女王は恍惚と表情を蕩かして。彼の宣言通り、玉座へと縫い付けられてしまう。されど――彼の目的は其方では無いのだ。
「嗚呼……私の美しい、うつくしい、白の女王様」
特等席で其の透徹の歌聲に耳を傾けている櫻宵が、これより興ずる舞台を彩る為にこそ、リルは喉を震わせ続けていた。
「あなたが歌うなら、私は舞い踊りましょう」
ふわり、ふたりの周囲に浮かんだ水泡が盾と成り、トランプの凶刃を弾くさまを見つめながら、櫻宵はするり――血櫻の太刀『屠桜』を引き抜いた。
世界まるごと蕩かすような歌聲に寄り添うかの如く、桜の花弁がひらひらと降り注ぐ。櫻龍は細腕で其れを思い切り振り被り、――空間を両断する。
「あなたの“あか”は、おいしいかしら?」
太刀から放たれた衝撃波は櫻花を巻き込んで、細やかな櫻嵐を伴いながら女王へと襲い掛かった。
リルが奏でる至上の調べに魅入られた彼女と云えば、身じろぎ一つせずに玉座に縫い付けられていて――赤く蹂躙されるその時を、ただ待って居た。
「……ッ!」
呪詛を纏った櫻嵐に刻まれて、千々に放たれた衝撃波に切り裂かれて。女王の躰から赤き飛沫がいま、鮮やかに艶やかに舞う。衝撃に漸く正気を取り戻した女王は、苦悶の聲をあげるけれど――。
玉座の御前には既に、愛の女王と白の女王のうつくしき姿が在った。
「あいしてあげる」
まっかな愛を咲かせたい――なんて。艶やかに双眸を細めた櫻宵は、黒い石畳を強かに蹴り上げて宙を舞う。
「ふふ、桜散らせるようにあえやかに――」
ふよりふよりと軽やかに宙を舞うリルは、そんな麗人の背中を見つめながら高らかに叫ぶ。一度でいいから、此の科白を言ってみたかったのだ。
「さぁ、首をはねておしまい!」
「仰せの侭に、私の女王陛下」
白き女王の号令に導かれるまま、愛の女王は有りっ丈の力を籠めて、屠桜を思い切り横薙ぎに払う。
「さあ、あなたの“あか”を頂戴な」
切り裂かれた女王の胴から噴き出した鮮血が、はらはらと舞い散る桜の花弁を、赤く赤く染めて往く。いのちの残滓を吸い込んでいく花弁を眺めながら、櫻龍はうっそりと微笑むのだった。
――嗚呼、おいしい。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ライラック・エアルオウルズ
僕も『作家』に留まる為に、
必死に筆走らせては居るけれど
王座に縋り付くばかりでは、
追い詰められてしまうよ
こんな風にと、ふたつ踏み込む
愚かで無防備な歩兵の様に、
女王陛下の油断を誘う様に
トランプの刃が放たれたなら、
《見切り/オーラ防御》で回避
おっと、危ない
チェスかと思えばトランプ遊び?
魔導書を手に《属性攻撃:氷》、
真白の刃放ち応戦する体で
凌ぎ乍らに隙を狙い、
書に挟む栞を紛れて《投擲》
忌々しげと紡ぐルールは、
『猫の様に笑っていないで、
“王座から立って”くれないか』
王座を捨てれば容易いが、
貴方は守れやしないだろう
そんなの解り切った事、だけれど
デスゲームには理不尽なルール、
――そう決まっているだろう?
●入城せしは白のポーン
玉座にぐったり、背中を預ける女王陛下の傷は深い。白肌には幾つもの痛々しい赤が咲き、黒き石畳も玉座の周辺のみ、鮮やかな赤色に染められていた。
それでも、彼女のこころは折れて居ない。曲がりなりにも赤の女王を名乗るなら、いのち燃え尽きるまで走り続けなければならないのだから。
「未だ、未だ終われませんわ。此処に留まる為に、私は足搔き続けなければ……」
「僕も『作家』に留まる為に、必死に筆走らせては居るけれど――」
黒き庭に足を踏み入れたライラック・エアルオウルズは、奥に坐す満身創痍な女王陛下を眺めながら、冗談めかすように肩を竦めて苦笑い。
「王座に縋り付くばかりでは、追い詰められてしまうよ」
こんな風にと、幻想作家は白き歩兵を気取って女王の元へと、ひとつ、ふたつ。愚かなほど無防備に、子猫の如く軽やかに、歩みを進めて見せる。
幻想作家なら「白の騎士」として振舞うべきかもしれないが、歩兵の方が女王陛下の不況を買い易いだろうから、此処はその役割に甘んじることにする。
「満身創痍とはいえ、私は未だ女王でしてよ?」
無礼者め、下がりなさい――。厳かにそんな科白を零しながら、女王陛下は切れ味鋭いトランプをライラックへと投げつける。彼女を突き動かすのは大きなプライドと、眼前の幻想作家へ抱いた油断だ。
「――おっと、危ない」
勢いよく去来する凶刃を、ライラックはひょいと軽やかに躱す。避け切れない分は、其の身に纏わせたオーラの壁で弾き飛ばして事なきを得た。
「チェスかと思えばトランプ遊び?」
「ええ。チェスボードを歩くに相応しいのは、“アリス”だけですもの」
チェス盤を往くことが出来るのは、ただアリスのみ。白の女王や赤の女王と共に入城が赦されるのも、戴冠が赦されるのも、赤の女王を討ち取るのも――総てアリスの特権だ。
彼女が語るデスゲームがチェスに沿ったものであると云うならば、その道理は理解できる。けれども、女王陛下曰く此処はチェスボードでは無いらしい。
ならばアリスへの遠慮など不要と、ライラックは三日月を描いた蒼き表紙の魔導書へと手を伸ばす。その指先がぱらぱらと頁を捲れば、魔導書全体が輝く星の如き光に包まれて――開いた頁からまるで手品のように、真白の刃が放たれた。
ひんやりとした冷気を纏ったそれは、再び飛んでくるトランプを凍り付かせて、次々に叩き落として行く。
自身の安全を一瞬でも確保できたなら、ライラックは真白の刃を女王の玉座へと向かわせる。女王はそれらに鋭利なトランプを差し向けて相殺し――凶刃の中に混ぜられた異物だけを、パシリと掴み取る。
それは魔導書に挟まれていたらしき、一枚の“ただの栞”だった。
「こんな物で、私を引き摺り下ろせるとでも?」
「思っているさ。だってそれは、――君への“判決文”だからね」
悪戯に片目を閉じたライラックは、ポーンの役目を投げ捨てて。代わりに不思議の国の判事を演じて見せるのだ。
――これより、“理不尽な裁判”を開廷する!
被告『赤の女王ユリーシャ』は平和なゴシックランドを侵略し、勝手な理由で赤く染めようとした。そのような暴挙は到底許し難い。
しかし何よりも赦し難いのは、デスゲームと云う名目で、無垢なるアリス達の命を弄んだことである。ゆえにこそ、理不尽な法廷の名において、被告を有罪としよう。
肝心の量刑は――、
『猫の様に笑っていないで、“王座から立って”くれないか』
「……っ!」
ズキリ――。忌々しいルールに縛られた女王の躰に、鈍くて重い痛みが走る。ライラックは言外に、物理的でも一時的でも、王座を捨てろと彼女に告げているのだ。
「容易いことだけれど、貴方は守れやしないだろう」
「出来るわけが無いでしょう、そんなこと……!」
ユリーシャにとって、女王の玉座は彼女を彼女たらしめるもの。其れを放棄することは、女王たる彼女のアイデンティティを棄てることと同義なのだ。
赤の女王に初めてお目に掛かるライラックにだって、そんなことは分かりきっていた。けれども、これは他ならぬ彼女が始めたこと。
「デスゲームには理不尽なルール、――そう決まっているだろう?」
彼女自身にとって不幸なことに、赤の女王は暴君であるが聡明だった。彼の科白は事実上の死刑宣告であり――そして彼女は、彼が語る理に己が反論出来ないことを知っている。
悔し気に唇を噛み締める女王陛下は其れでも尚、玉座から腰を上げようとはしない。彼女のプライドが折れる迄、其の躰は鈍い痛みに蝕まれ続けて居た――。
大成功
🔵🔵🔵
城野・いばら
◎☆♯
ご機嫌よう、アカの女王さん
そうね、留まり続けるには変化が、進化が必要ね
だけど今じゃないわ
アナタじゃないの
この国は、これからも
クロの皆の手でもっともっと素敵になるのよ
【茨のくちづけ】で視界いっぱいに咲かせたシロ
アカが良いのならいばらを染めてみせて、と
クロのチェス盤をふわひらり
引きつけて、伸ばした蔓でお邪魔虫
アリス達の役に立てたら嬉しいの
痛みには疎く
…傷付いても、アリスのイロは出ないけどね?
オニさんこちら
でも気を付けて
シロにつられて茨に捕まってしまえば、チェックよ
ぎゅっと抱きしめて、生命力吸収
アリスのかわりに、いばらが子守歌を歌ってあげる
よく眠れますように
そして
アナタの居るべき場所へおかえり
●Hush-a-by queen....
赤の女王は尊大で、厳かで、恐るべき暴君だ。彼女を知る者達は、皆そう嘯くだろう。されど、モノトーンの庭に坐す女王陛下から、そんな威厳はもう消え去っている。
白い肌と石畳を鮮やかな赤で染めて、紅の玉座で苦し気に息を整えるその姿は、哀れで痛々しいものだ。彼女にはもう、後がない。
いや――彼女は最初から、玉座しか持ちあわせて居ないのだ。城野・いばらは、そんな女王陛下へと最後に謁見する猟兵である。
「ご機嫌よう、アカの女王さん」
「貴女も私を玉座から引き摺り下ろしに来たのね。けれど……私は足搔き続けますわ」
愛らしく小首を傾けて挨拶を交わす可憐な娘を、女王は冷めたような眼差しで見降ろしている。
彼女はまだ、諦めて居ない。この苦難を乗り越えた暁にはきっと、赤の女王の名は遍く天下に知らしめられる筈だと。赤の女王はそう信じて居るのだ。
「そうね、留まり続けるには変化が、進化が必要ね」
いばらはミルク色の髪をふわりと揺らし、彼女の噺にこくりと頷いて見せる。いばらだって、この世界に留まり続ける為に棘の生垣からヒトへと変化したのだ。ゆえに女王が語る言葉の総てが、間違っているとは思えない。
「だけどそれは、今じゃないわ」
そして、それを齎すのもアナタじゃないの――。翠の双眸で真っ直ぐに女王を見つめながら、いばらは女王を諭すかの如く言葉を紡いで往く。
「この国は、これからも、クロの皆の手でもっともっと素敵になるのよ」
「いいえ、いいえ……!」
赤の女王は、そんなこと認められないと激しく頭を振った。彼女は暴君ではあるけれど、統治者でもあるのだ。彼女の固いプライドが、住人達の自治を許さない。
「私が一番、この国を素敵に染め上げられますわ!」
苛立たし気に女王が取り出したるは、トランプの山札だ。荒い手つきでそれをシャッフルした彼女は、山札の中から一枚だけ指先で抜き出して――それを己の膝上に伏せた。
「貴女とも遊んであげるわ。さあ、カードに掛かれた数字はなあに?」
「……クロの『7』かしら」
かくりと頸を傾けながら、当てずっぽうに答えを紡ぐいばら。そんな大雑把な問題、分かる訳が無いのだけれど、乗ってあげることにした。だって、最期の遊戯だもの――。
「正解は――嗚呼、残念」
女王の指先がカードを捲れば、其処にはハートの『12』が刻まれていた。ご満悦な表情で女王陛下はいばらへと、そのカードを投げ放った。
ハートのクイーンは娘の腕を裂き――彼女の躰には、ほんの僅かな痛みが走る。されど、ヒトではない彼女の痛覚が鈍いことを差し引いても、そのダメージはごく軽微なものだ。
そして、裂かれたいばらの腕からはアリスが零すような“アカ”の代わりに、ほろほろと、白い花弁が零れ落ちていた。あれは、そう――。
「……白い、薔薇?」
愉し気な女王の表情が、瞬く間に凍り付く。赤を侵食していく黒も忌まわしいけれど、永遠の敵である白もまた憎らしい。
「そう、シロよ。アカが良いのなら、いばらを染めてみせて」
まるで誘惑するように儚げに、そう囁いて。娘は白薔薇の手袋に包まれた指先を、女王が坐す玉座へと向ける。すると、導かれるようにひらり、ひらり。数多の白薔薇花弁が女王陛下の視界一杯に咲き誇り、彼女の躰を包み込んでいく。
「ああ、嗚呼。あの、白薔薇を……赤く染めなくては!」
細腕で白薔薇の嵐を払い除けて、女王はガタガタと玉座を立つ。ペンキを塗ってくれる兵隊達はもう居ない。ゆえに、白薔薇を染めたいと願うなら、彼女が手ずからペンキを塗るしか無いのだ。
「ええ、オニさんこちら」
いばらは黒い石畳――彼女にとってはクロのチェス盤の上を、ふわひらり。蒼いスカートの裾を愉し気に揺らし、タクトのように指先を振りながら、女王を甘く甘く誘って行く。
彼女が軽やかに舞う度に、白薔薇の花弁が黒い世界にはらりと舞い散り。それを捕まえようと、女王はふらりふらり。幽鬼の如き足取りで花弁の群れを、そして此の世界にシロを生み出す“いばら”を追って来る。
「でも、気を付けて。いばらにはトゲがあるのだから」
赤の女王が伸ばした指先が、彼女が揺らすリボンに触れそうに成った――まさに其の時。まるで娘を護るかの如く、薔薇の挿し木から伸びた茨が女王の掌へと強かに絡みついた。ぎりぎり、ぎりぎり――そんな鈍い音を立てながら伸び往く茨に囚われた女王を振り返り、いばらは柔らかに微笑みかける。
「チェックよ、アカの女王さん」
斯くして、“シロ”は“アカ”の駒へと辿り着いた。そうっと腕を伸ばしたいばらは棘の生えた蔓越しに、女王の躰をぎゅっと優しく抱きしめる。
「アリスのかわりに、いばらが子守歌を歌ってあげる」
よく眠れますように――なんて。母親みたいに優しく娘が囁いたなら、ユリーシャはゆっくりと金の双眸を閉ざすのだった。そうして、茨の棘といばらの腕に包まれながら、彼女の躰は爪先から急速に赤き光の粒子と化して行く。
「アナタの居るべき場所へおかえり」
そうっと腕を離してやれば、ふわりふわりと粒子たちは舞い上がる。それは瞬く間に天の帳へ辿り着き、宵色の空に星のような赤き光を刻み付けた。しかし軈ては其の彩も、ゆっくりと宵色に溶けて行く――。
赤の女王は星海ではなく、躯の海に還ったのだ。煌めきの失せた夜空を、いばらは暫くの間ただ靜に見上げていた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『ワーク・ワーク・ニードルワーク』
|
POW : 気合でやればどうにかなる、とりあえず針を手にしよう。
SPD : こういう物は機械を使えば早くできるものだ、手早く縫う。
WIZ : こういう事は知識が物を言う、情報を仕入れてから作り始めよう。
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●愛すべき黒の世界
赤の女王を倒した猟兵達は黒き教会を後にして、愉快な仲間達が暮らす黒き街へと戻って往く。
石畳を埋め尽くす勢いで散らばっていた、あの白と赤の紙吹雪はきれいさっぱり無くなっていて――猟兵達はオウガの脅威が此の地から去ったことを知る。
肝心の愉快な仲間達と云えば、黒曜を積み上げて造られた噴水が印象的な、街の中心に在る円形広場へと集っていた。
瀟洒な衣装を纏うボビン頭の紳士たちと、トルソーの御婦人達がぞろぞろと立ち並ぶ様は壮観で、ほんの少しだけ恐ろしい。けれど、これも彼らの大事な個性。
「やあやあ、皆さん有難う」
「あなた方のお蔭で、我らはこの国を守ることが出来たよ」
ボビン卿達はハットを脱いで、深々と頭を下げる。見た目は異形だけれど、彼等は実に紳士的だ。
「ねえ、皆さん。良ければお礼をさせて下さいな」
「私たちが腕によりをかけて、とっておきの礼服を作りましょう」
トルソー婦人達は華美なドレスを振り振りと揺らしながら、喜びと感謝を精一杯表現している。首も腕も足も無い彼女達は見た目こそ怖いけれど、内面はたいへん素直で善良らしい。
「帽子や靴も、我らにお任せあれ」
「アクセサリーだって、きっと似合う物を作って見せるわ」
滅多に来ない外からの客を持成そうと、気合十分な愉快な仲間達。折角の申し出だ、世界に一着しかない“あなただけの衣装”を作って貰うのも良いだろう。
「お時間が有るなら、完成した衣装を纏って観光など如何かな」
ボビン卿が猟兵達へふと、そんな提案を投げかける。住人達の特性上、此の国には飲食店や服屋の類は無いけれど――。中世から近世のヨーロッパを思わせるゴシックな街並みは、散策しているだけでもきっと楽しめるだろう。
また先ほど赤の女王と一戦交えた、あの大きな黒い教会は出入り自由。庭に咲き誇る薔薇の彩を愉しむことは勿論、教会の中を見学することもできる。
教会の中を照らすのは、黒鉄で造られたシャンデリアの仄かな灯。礼拝堂の壁に嵌められた黒と銀のステンドグラスは、味わい深いモノトーンの彩。
或いは此の地――円形広場でのんびり過ごすのも良いだろう。黒曜を積み上げた噴水は壮麗で、噴き出した透明な水がアーチを描くさまは見応え充分。噴水の側に腰を下ろして、行きかう紳士淑女をぼんやり眺めるひと時もきっと悪くはない。
広場を囲むように丸く植えられた艶やかな黒彩の花々も、猟兵達の眸には珍しく映るだろうか。
「教会や街並みを背景に、記念撮影するのもきっと愉しいわ」
聴けばゴシックランドの住人達は、着飾った姿をカメラに遺すのが何よりの楽しみなのだという。ゆえに、この国では至る所に、アンティークなフィールドカメラが設置されている。記念撮影をしたい時はその辺りを散歩しているボビン卿に頼めば、快くシャッターを押してくれる筈だ。
因みに撮った写真はどういう原理か、インスタントカメラよろしく直ぐに現像されるらしい。だから、どうぞお気軽に楽しんでと、トルソー婦人は愉し気にドレスを揺らすのだった。
此処は退廃と耽美の黒き世界『ゴシックランド』。住人達は心を籠めて、猟兵達をめいっぱいお持て成し致します。
あなたの為だけにつくられた“オートクチュール”な一着を、心の侭にお楽しみあれ――。
† ご案内 †
<衣装について>
・お好みのデザインやモチーフなどありましたら、是非プレイングにご記載ください。
・和ゴスや華ゴス、ゴスパンクなど、ジャンルはなんでもOKです。洋装の要素が少しでもあると、住人達は喜びます。
・あくまで「礼服」ですので、露出度が高過ぎるものはご遠慮ください。
・思いつかない時など、MSに丸投げも可能です。気に入って頂けるよう、頑張って見繕います。
<過ごし方について>
・本章のPOW、SPD、WIZはあくまで一例です。
・観光したり、記念写真を撮ったり、衣装作りを手伝ったり……。お好きな場所で、ご自由にお過ごしください。
・愉快な仲間達は戴いたプレイングに応じて、登場したりしなかったりします。
・お着替えの場面は描写いたしません。ご了承ください。
<受付>
マスコメには断章投稿後から受付と、記載させていただいているのですが。
複数人で参加して下さっている方もいらっしゃるので、少し相談期間が在った方が良いかなと思い、募集開始日を設定させていただくことにしました。
急なスケジュール変更となり、まことに申し訳ありません。
プレイングは4月28日(火)8時31分から、募集させて頂きます。
タリアルド・キャバルステッド
この美しい世界に平穏が戻って本当に良かった。
皆さん、戦いの後でも身嗜みが乱れていないのは流石ですね。
折角ですので、フォーマルに相応しい深い黒のチェスターコートを仕立てて頂きたいです。
染織や縫製に高度な技術が必要だと思いますが、この世界の皆様なら「黒」の扱いを誰よりも心得ているので安心してお任せできます。
あ、それと私のスーツに合わせて右腕のない状態で作って頂けますか。
完成した後の観光も良いですが、私や他の方々の服を作る光景を見学させて貰えないでしょうか?
こんな機会に恵まれることは滅多にありません。服のヤドリガミとして、服を愛する者として、皆様のこだわりや技術を間近で是非とも見せて頂きたいのです!
メアリー・ベスレム
◎☆
返り血塗れの真っ赤っ赤
服もあちこち切り裂かれ
見かねた仲間達はこういうの
お礼の服を、代わりの服をって
別に良いのに
お洒落なんてアリスにはわからないわ
扇情的なこの服か
院で着せられた修道服(こうそくい)
それぐらいしか着た事ないもの
そう言ったのに
そう言ったから?
俄然やる気を出した仲間達
デザインはまったくのお任せで
促されるまま着替えてみせて
ああ、お願い。元の服も捨てないで
そんな服でも、殺し続けるには必要だから
繕ってくれるのならありがたいけど
出来あがった服は窮屈で、殺すのには向かないし
やっぱり黒くて陰気な服ね、とそう思ったけれど
不思議と赤く染めたいとは思えなかったから
……ありがとう
大事にするわ。きっとね
●彼女達の様式美
がやがやと賑やかなオウガの軍勢も、景観を損ねる白と赤の紙吹雪も、今やすっかり消え失せて。紳士淑女が住まうゴシックランドには、品の良い静寂が戻っていた。
片腕の無いスーツに身を包んだ少女、タリアルド・キャバルステッドは街を行き交う黒衣の紳士淑女を眺めながら、ひとり安堵の息をひとつ。
――この美しい世界に平穏が戻って、本当に良かった。
しかし見れば見る程、この国の住人たちは洒落ている。戦争の後だと云うのに彼等の衣装はまるで、今から夜会にでも赴くように美しく整えられていた。
「皆さん、戦いの後でも身嗜みが乱れていないのは流石ですね」
少女がこころからの賞賛と感嘆を零したならば、異形の紳士淑女は誇らしげに胸を張る。彼らにとってお洒落とは、まさに人生そのものである。
「ああ、お客様の前でもあるからね」
「アシンメトリのお嬢さん。あなたも一着、礼服はいかが?」
「では……折角ですので」
異形ゆえにその表情は分かり兼ねるけれど、雰囲気をそわつかせながら彼等が問いかけて来たものだから――タリアルドは仲間達の厚意に甘えることにした。
「そうですね、フォーマルに相応しいチェスターコートを仕立てて頂きたいです」
「フォーマルか。では、装飾は控えめで行こう」
「その代わりに奇麗な刺繍を入れましょうね」
少女からリクエストを受けて、和気藹々と相談し始める愉快な仲間達。外の世界のひとへ衣装を作るのは、彼等も初めてなのだろう。会話の端々から並々ならぬ気合が感じ取られる。
――染織や縫製に高度な技術が必要だと思いますが……。
この世界の住人達は、「黒」の扱いを誰よりも心得ているようだ。ゆえに「服」への愛着が強いタリアルドも、彼らなら大丈夫と安心して仕事を任せることが出来た。
「ああ、私のスーツに合わせて、右腕のない状態で作って頂けますか」
「コートもアシンメトリなのね、とてもお洒落!」
「勿論、その素敵なスーツに合う一着を仕立てて見せよう」
少し難易度が高いお願いをしてみても、仲間達は心強く頷いてくれて大変心強い。どんなコートが出来るか楽しみだ。しかし、もっと楽しみなこともある。
「よろしければ、皆さんが服を作る光景を見学させて貰えないでしょうか?」
「おや、私達の仕事風景をかね?」
少女の思わぬ申し出に、きょとんと首を傾げるボビン卿。完成した衣装を纏って街を巡るのも良いけれど――。
礼服を仕立てる光景というものにも中々、お目に掛かれないのだ。こんな機会に恵まれる事なんて、恐らく滅多にないゆえに。服のヤドリガミ――いや、服を愛する者として見過ごすことなど許されぬ。
「皆様のこだわりや技術を、間近で是非とも見せて頂きたいのです!」
「おお、それは光栄だね。楽しんで貰えると良いのだが」
「私達の針仕事ぶり、張り切って披露しちゃうわ!」
さあさあ此方へ――なんて。紳士淑女に誘われるまま、タリアルドは黒き屋敷の中へと入って往く。
屋敷の中は全体的にアンティークな趣で、矢張り見目と違わず黒い彩に包まれていた。壁も床も家具すらも、総てが暗色で彩られているのだ。
長い廊下を暫く歩き続けて、やがて応接間へと通されたタリアルド。果たして其処に居たのは、彼女よりも幼い猟兵の少女――メアリー・ベスレムだった。
「おや……怪我をされたのですか?」
その姿を灰色の双眸に捉えたタリアルドの口から、そんな科白が零れたのも無理はない。何せメアリーの白肌を包む装いは所々無残に切り裂かれ、上から下まで真っ赤っ赤に染まって居たのだから。
「いいえ、返り血よ」
黒皮の安楽椅子に腰を下ろしたメアリーは、釣れない返事と共に視線を逸らしたものの。タリアルドの方は視線を逸らさない。服を愛する者として、彼女の見るからに痛々しい装いは看過できないのだ。そしてそれは、愉快な仲間達も同じらしい。
「まあ! すぐに代わりの衣装を作って差し上げなきゃ」
「彼女も我らの恩人だ、お礼に素晴らしい一着を見繕おう」
「でもね……此方のお嬢さん、余り乗り気じゃないみたいなの」
タリアルドと共に屋敷へ入って来た紳士淑女が、大変と慌てふためいて見せたならば。メアリーを此処へ案内して来たらしい婦人が、困ったようにドレスを揺らす。
「……別に良いのに」
ぽつり――。少女が零した科白が、昏い部屋の中に響き渡る。それは拒絶と云うよりも、何処か困惑の彩を孕んでいて。応接間に居る面々は、思わず彼女に視線を集中させた。
「お洒落なんてアリスにはわからないわ」
メアリーは年頃の少女であるけれど、ファッションには縁が遠い。彼女が纏う衣装と云えば、今まさに血で塗れて居る扇情的な服が主。あとは修道院と云う名の「牢獄」で着せられた修道服――もとい、「拘束衣」くらいだろうか。
「それぐらいしか着た事ないもの」
そもそも、メアリーには彼らを助けた実感が薄い。彼女は衝動のまま、ただ狩りを愉しんだだけなのだ。
だから、自分にはドレスなんて不要なのだと――そう言ったつもりだった。
「それはいけません。良い服は生涯の友に成るのです」
重い沈黙を破ったのは、他ならぬタリアルドだった。彼女は持ち主に“一生をかけて”大事にされたスーツのヤドリガミ。ゆえに、眼前の少女もまた「生涯の友」と出逢えたら良いと、そう思わずには居られないのだ。
「ええ、ええ。お洒落はいつから始めても良いのよ」
「お嬢さんにはとびきりの一着を仕立ててあげよう!」
今までを取り返す程の、おもちゃ箱みたいな一着を――。愉快な仲間達は俄然やる気を出した様子で、ばたばたと作業机へ向かい始めた。
そもそも針仕事を見学しに来たタリアルドは、そうっと彼らの作業を覗き込んでみる。最初に設計図――すなわち型紙を描くのは「腕」があるボビン卿だ。
すらすら、羊皮紙に羽ペンを走らせて。ドレスとコートの大まかなデザインを描いた紳士は、黒や灰色の布を設計図通りにチョキチョキ――鋏で切り取って行く。
それからトルソー婦人にバトンタッチ。腕の無い彼女達は衣装に飾ったリボンを、しゅるりと伸ばして器用に作業を始めた。
ボビン卿が切り取った布をパーツのように組み立てながら、物言わぬ本物の「トルソー」へと巻き付けて、衣装のシルエットを確りチェック。
特に問題が無ければ、またボビン卿の出番。異形の頭――ボビンから絲を伸ばした彼は、トルソーへ器用に巻き付けられた布たちを其れで綺麗に縫い合わせて行く。
「成る程、皆さんはこんな風に衣装を造られているのですね」
ここはアリスラビリンス。ゆえに、仕立ての段取りも他の世界とは異なるらしい。タリアルドが興味深げにそう呟けば、ボビン卿は照れたように頭を掻いた。
「自己流だから恥ずかしいね。君達に気に入って貰えると良いんだが……」
大丈夫だと少女が優しく頷けば、紳士は安心したように頭を軽く下げて、再び針仕事へ戻るのだった。
そうして、彼らを待つこと暫し。ふたりの為の衣装がようやく完成した。タリアルドがオーダーしたコートは、深い闇の如き黒色が印象的。
シルエットはシングル仕立てのチェスターで、宵色ベルベットのピーク・ラペルが細やかな遊び心を演出している。ポケットは胸と腰に、合わせて3つ。
古式ゆかしい、けれども今の世でも充分に通用する、上品なフォーマルスタイルだ。スーツに合わせて右腕はノースリーブだけれど、そのアシンメトリな趣が前衛的な美しさを醸し出していた。
ゴシック要素も忘れてはいない。あまり華美な物は彼女のスーツと合わないので、主に刺繍で個性を出した。コートの裾に銀絲で十字を刻んだり、袖口に薔薇を金糸の薔薇を咲かせたりと、細部の工夫が光る一着である。
「君のそのスーツは年代物のようだから、コートもアンティークにしてみたよ」
「とても大事にされて、そのスーツも幸せでしょうね」
「……ええ。有難うございます、此方は大切に着せて頂きましょう」
コートを羽織った自身の姿を鏡で確認した少女は、仲間達へ静かに微笑んで見せる。本体であるスーツとの相性も問題ない。矢張り、彼らを信じて良かった。
一方でメアリーが纏うのは、メルヘン趣味なゴシックドレス。可憐さを強調するようなミニラインは、黒布をふんだんに重ねることで大人びた雰囲気も演出している。
これは俗に云う、ゴシックロリィタという趣の衣装だろうか。黒薔薇のフリルスタンドがあえかな少女の頸を華やかに彩り、司教の如く絞った袖はフェミニンな印象を見る人に与えてくれる。
チュチュのように幾重にも広がるスカートには、銀絲で幾つもの逆十字が綴られている。腰を飾るコルセットは灰の彩で、黒いリボンが揺れる様が何とも愛らしいけれど――。
スカートとコルセットを繋ぐ鎖に飾られた、銀製髑髏がきらきら笑う度に退廃的な趣が見え隠れ。
アリスみたいな黒と白の二―ソックスはおみ足を品良く包み込み、オズ国の迷い仔めいたエナメルのお靴には鐵で造られた蝶が羽を休めている。
「ああ、お願い――」
自身の晴れ姿を鏡で確認する前に、もともと着ていた血塗れのお洋服が片付けられそうになったものだから。メアリーは思わず、聊か彼女らしからぬ感情を聲に滲ませた。
「元の服も捨てないで」
切り刻まれていて、血まみれで、バニーガールの衣装にも似ている。――そんな服でも、彼女が獲物を殺し続けるには必要なもの。だから、手放す訳にはいかないのだ。
「……では、繕って貰ったらどうでしょう」
「ええ、大事な物なのよね。そうしましょう」
「その“赤”も、ようく洗って落とさないといけないね」
服のヤドリガミである少女の提案に紳士淑女も共感して、次はメアリーの普段着を修繕する為に机へと向かって往く。
おめかしをした自身の姿を鏡で確認しながら、メアリーはひとり物想う。出来あがった服はシルエットを絞って可憐に見せるようなデザインだ。
だから、見た目通りとても窮屈で、殺す時に纏う服には向いていない。
――やっぱり、黒くて陰気な服ね。
この国を訪れた当初と同じ感想を、少女は密やかに抱く。けれども、この衣装を赤く染めたいなんて、不思議と思えなかった。
「……ありがとう」
ぽつり、少女の唇がそうっと礼の言葉を零す。紳士淑女は作業を止めて彼女を振り返り、どういたしましてと、身体や手を振りながら返事を紡いでくれたのだった。
「大事にするわ。きっとね」
スカートの裾をぎゅっと握りしめながら、ほんの少しだけ微笑むメアリー。
気持ちが籠っているものは温かくて、とても美しいのだ。喩えそれが、何色であろうとも――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
オブシダン・ソード
【狐剣】
仕立ててもらったものを早速着てみて
どうだい、この新しいマント。ちゃんとフードもつけてもらったんだよ
格調高くてミステリアスで良いでしょう?
…あれ、不評?
やっぱりこう、フード被ってた方が落ち着くんだよねぇ
君のは普段と印象違うね
良いじゃない、その手のお化粧もしてみるかい?
いやいや、あんまり美人になられても目がつぶれちゃうからお手柔らかにねぇ
でも、あれだね…せっかくの礼服だけど、君の実家はそういうの苦手そうだねぇ
ははあ、やっぱり?
じゃあこの後、この服着たまま帰ってみようか
今回の武勇伝と一緒なら無下にもできないでしょ
いやあ、君に言われるとは光栄だね
この衣装のおかげかなぁ、ふふふ
小日向・いすゞ
【狐剣】
任せて拵えて貰った衣装を纏い
何とかと煙の何とかなので、皆から離れた高い場所に腰掛けて街を見下ろす
いやぁ、実に格調高くてみすてりあすっス〜
代わり映えが無くて最高っスね!
いーえいえ
でもまァた
その良くお似合いのふーどを付けてるンスねェ
喉を鳴らして笑って
おやおや、美人になっちゃうっスよ
潰れても隠れてるっスし、そんなに困らなさそうっスけどね
へぇ、へぇ
あっしは好きっスけれど
無駄に固い家っスし、いつもの服と同じく嫌がりそうっスねェ
こんなに似合いっスのに、ねえ?
良いっスね〜
ヤな顔されるのが想像できるっス
しっかしセンセ
悪い肝座ってきたっスね
服も相まってワル感あるっス〜
あっしも今日は悪いオンナっスからね
●時にはフィルム・ノワールのように
仕立て上げられたばかりの“黒”を纏い、聳え立つ鐘塔の縁にのんびり腰掛けているのは、オブシダン・ソードと小日向・いすゞのふたり。
煙のように掴み処の無いふたりは、格言に倣って高い所から黒き街並みを見下ろすことにしたのだ。彼らが纏っている黒は勿論、愉快な仲間達に仕立てて貰った礼服である。
「どうだい、この新しいマント」
艶やかに煌めく黒きベルドットのクロークをはためかせながら、得意げにオブシダンが笑う。彼のトレードマークでもある「フード」だって、ちゃんと付いているのだ。
一見すると、ミサにでも参加して居そうな黒魔術師のようだけれど、この纏いは其れ程までにオブシダンのことを神秘的に見せていた。
「格調高くてミステリアスで、良いでしょう?」
「いやぁ、実に格調高くてみすてりあすっス〜。代わり映えが無くて最高っスね!」
同意を求めるように首を傾けた彼へ、鸚鵡のように紡がれた科白を其のまま返すいすゞ。確かに怪しげでミステリアスだけれど、――それは普段の彼から受ける印象と、何処が違うと云うのだろう。
「……あれ、不評?」
クロークに秘められた内側も、ちゃんと洒落こんでいるのだ。トップスはビクトリア蝶の香り漂う、全面に装飾を施したブラウス。襟から胸にかけて大きく綴られた西洋剣のモチーフは、まるで彼を象徴するようなデザイン。そのほかの面積には流麗に伸び往く蔦が、灰の絲で編みこまれていた。
ボトムスもトップスと同じく黒彩の、腰のラインを整える瀟洒なハイウェストのズボンを履いているけれど。矢張りこちらも、クロークに覆い隠されて外からは見えないのだった。
マント脱いだ方が良かったかな、なんて。不思議そうに自分の羽織を掴む彼へと、いすゞは緩く首を振る。別に、着こなしや衣装が悪い訳では無い。
「いーえいえ。でもまァた、その良くお似合いのふーどを付けてるンスねェ」
「やっぱりこう、フード被ってた方が落ち着くんだよねぇ」
滑らかな手触りのフードをぎゅっと引き目許を更に隠しながら、オブシダンは視線をいすゞへ集中させた。ゴシックなドレスを纏う彼女と云えば、普段とまるで印象が違う。
彼女が纏う衣装は、ほんの少しだけ窮屈なフープドレス。ドームのようにふわりと膨らんだスカートは艶やかな宵の色。裾の方には金色狐のシンボルがぐるりと居座っていて、そのどれもがコンコンと笑っていた。
トップスはハビット・シャツめいた趣。幾重もフリルを重ねた胸元に、ミッドナイトブルーのリボンがひらりと揺れたなら、まるで異国のお姫様気分。
ゆえにこそ、履物も下駄から変えてみた。重たげな厚底靴も勿論、夜色に染まっている。エナメル製だからか、脚元を覗く自身の貌すら映して仕舞いそうなほど艶やかな彩だ。
それから――薄桃の柔らかな髪に咲く、黒鳥の羽とフェイクファーを飾ったファシネーターも印象的。惜しむらくは、其処から垂れる黒レースのヴェールが、愛らしい彼女の貌を悪戯に隠してしまうことだけれど。
「良いじゃない、その手のお化粧もしてみるかい?」
「おやおや、美人になっちゃうっスよ」
軽口を叩くように常とは違う彼女を褒めれば、いすゞはくつくつと喉を鳴らして可笑しげに笑う。例えば黒いルージュだとか、夜色のアイシャドウだとか。そういう少し影を感じさせる彩も、今の彼女にはよく似合いそうだ。見たい気持ちも当然、在るけれど――。
「いやいや。あんまり美人になられても目がつぶれちゃうから、お手柔らかにねぇ」
「潰れても隠れてるっスし、そんなに困らなさそうっスけどね」
悪友同士で交わし合うような軽口を叩きながら笑い合い、暫し眼下に広がる景色を眺める。他の猟兵達へのお礼造りに勤しんでいるのだろうか、行きかう紳士淑女はみな何処か忙しない。
けれども、とても楽しそうで――これが彼らの守った平和なのだと、ふたりは知る。
「でも、あれだね……」
ぽつり。ひと時の静寂を破るかの如く、口を開いたのはオブシダンだった。ヴェール越しに見つめて来る彼女の双眸と、フード越し密やかに見つめ合う。
「せっかくの礼服だけど、君の実家はそういうの苦手そうだねぇ」
「へぇ、へぇ。あっしは好きっスけれど――」
しみじみと私見を告げる彼に、こくこくと頷きながら少女は苦笑を滲ませる。彼女の実家は遠い異国――サムライエンパイア。しかも由緒正しき陰陽師の家系なのだ。
「無駄に固い家っスし、いつもの服と同じく嫌がりそうっスねェ」
いすゞはそんな堅苦しい家が、あまり得意ではない。彼女の伴侶たるオブシダンだって、それは矢張り承知のこと。想像通りの返答に、彼も釣られてほんの僅か苦笑い。
「ははあ、やっぱり?」
「こんなに似合いっスのに、ねえ?」
オートクチュールと云うだけ在って、ふたりの装いは確かによく似合っている。自分たちの為に造られた一着を、外の誰にも見せないなんて――余りにも勿体ない。
「じゃあこの後、この服着たまま帰ってみようか」
ゆえに、青年は悪戯に頸を傾けて見せる。折角のお洒落は、誰かに見せびらかしてこそ。このうつくしい彩を、この華美な装いを――独り占めするなんて惜しい。
「良いっスね〜、ヤな顔されるのが想像できるっス」
「今回の武勇伝と一緒なら無下にもできないでしょ」
なにせ今日彼らは、ひとつの国を華麗に救って見せたのだ。いすゞの出身世界において、そういう「義」の在る噺と云うものは、中々どうして受けが良いのだ。貌を見せてすぐに追い返されることも無いだろう。
「しっかしセンセ――」
いすゞはお狐さまらしく、眸を細めてくつりと嗤う。其の表情は正しく、悪巧みしている時の貌。
「悪い肝座ってきたっスね」
「いやあ、君に言われるとは光栄だね」
或いはこの衣装のお蔭かも知れない。こういう退廃的な黒衣を纏っていると、何となく悪役にでも成った気分。或いは夫婦、似て来たのやも――。
「あっしも今日は、悪いオンナっスからね」
何方にせよ、今日のふたりは共犯者。
さあ、艶やかな“黒”と共に、とびきりのサプライズを届けに行こう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジュジュ・ブランロジエ
【紫翠】◎
『』は裏声でメボンゴの台詞
わーい、ドレスを仕立ててもらえるの嬉しいな
お手伝いする?
あはは、じゃあ仕立ては全部お任せしちゃおう
あっ、それ楽しそう!
薔薇モチーフ大好き~!
『メボンゴはプリンセスラインのドレス!』
流石コノさん、センス良いね!
コノさんには……シルクハット!
モチーフを伝えてドレスをオーダー
デザインお任せ
楽しみだね!
出来上がったら早速着替えてお披露目
『コノちゃカッコいい!』
コノさんは紳士な装いも素敵だね!
メボンゴを抱っこしてもらってからレディのように手を重ね
折角だから写真を撮ってもらおうよ
わー、素敵!紳士と淑女の兄妹みたい!
『コノちゃお兄さま!メボンゴ、街を散策したいですわ!』
コノハ・ライゼ
【紫翠】◎
フルオーダーメイドね、素敵!
しかしお手伝いの言葉にはそっと目を逸らし
アタシが手伝うと袖が通らない服とか出来ちゃうから……
ん、でもコーディネイトは得意ヨ
そうねぇ、お互いに着せてみたいイメージを提案してみない?
ジュジュちゃんにはやっぱり薔薇!
立体的なあしらいだと可憐カシラ
うさちゃんはお姫様がお好み?じゃあ帽子も付けて貰いマショ
へぇ、シルクハット!
挑戦したコトないしイイね、大人っぽい奴でお任せしちゃお
黒を纏えばすっかりこの国の住人の仲間入りの気分
ふふ、二人ともとってもキレイ
漆黒のレディ達、お手をドウゾと
うさちゃんは腕の中に、ジュジュちゃんには手を支え
散策も写真撮影も、エスコートはお任せを
●華麗なる兄妹と兎淑女
――皆さんにオートクチュールな彩を!
そんな愉快な仲間達からの申し出に、ジュジュ・ブランロジエは翠の眸をきらきらと輝かせた。ジュジュだって年頃の女の子、「世界に一つだけの衣装」なんて響き、乙女心をくすぐられて仕方がない。
「わーい、ドレスだってコノさん!」
「フルオーダーメイドね、素敵!」
同じく薄氷の眸を煌めかせながら相槌を打つのは、コノハ・ライゼ。彼が拠点とする世界でも、フルオーダーメイドの衣装なんてなかなか頼めるものではない。
それに、この青年は奇麗なものに惹かれる性質なのだ。此の国の紳士淑女が纏う華美な装いで、其の身を飾り立てることにささやかな楽しみを覚えてしまう。
愉快な仲間達に案内された屋敷の中では、紳士淑女が忙しなく作業机に向かっていた。まさに仕立て屋の仕事場という雰囲気で、ふたりの視線は自然と彼らへ注目してしまう。
「あ、そうだ。みんなのお手伝いする?」
跳ねる心のままに、わくわくと兄貴分へそう提案するジュジュだけれど――。彼にしては珍しく、そっと目を逸らされてしまった。
「アタシが手伝うと袖が通らない服とか出来ちゃうから……」
「あはは、じゃあ仕立ては全部お任せしちゃおう」
ご馳走なら何でもさらりと作り上げてしまうコノハなのに、意外なところが不器用で微笑ましい。ジュジュはくすくすと笑いながら、何をお願いしようかと頸を傾けて見せる。
「ん、でもコーディネイトは得意ヨ。そうねぇ――」
口許に手を当て、思考を巡らせるコノハ。どうせ仕立てて貰うなら、今日の日の記念と成るような、想い出深い一着にしたい。
「お互いに着せてみたいイメージを提案してみない?」
「あっ、それ楽しそう!」
そんな青年の提案に少女は明るい笑みを咲かせて、元気よく首肯するのだった。彼女の視線が自身に集中するのを感じながら、コノハはジュジュに相応しいイメージを伝える。
「ジュジュちゃんには、やっぱり薔薇!」
「やった、薔薇モチーフ大好き~!」
好きなモチーフが似合うと言われた喜びに、歓声を上げる少女。彼女の腕に抱かれた兎の淑女も、嬉しそうに頭を揺らしながら自己主張を忘れない。
『メボンゴはプリンセスラインのドレス!』
「うさちゃんはお姫様がお好み? じゃあ帽子も付けて貰いマショ」
「わあ、流石コノさん、センス良いね!」
想えば兎の淑女――メボンゴも、彼女と同様に黒い纏いに身を包む機会なんて滅多に無いのだ。ボンネットも似合うかな、などと楽しく悩んで居ればふと、彼に似合いの洋装を思いつく。
「うん……シルクハット!」
「へぇ、シルクハット?」
唐突な提案に思わず、ぱちぱちと瞬くコノハ。確かに今まで被ったことは無いし、ゴスらしい装いで良いかも知れない。イイね――なんてコノハが笑えば、互いの方針は決定。
早速ふたりは紳士淑女の元へ、それぞれの礼服をオーダーしに行くのだった。
そうして待つこと暫し――。ようやく出来上がった衣装をお披露目する時が遣って来た。
まずコノハが纏うのは、紫黒のキャバリアブラウス。同じ彩のジャボが紳士の頸を優美に飾り立てている。袖口や肩にかけて黒絲で縫い付けた、黒薔薇の意匠は品の良い華やかさ。
けれども、華美なシルエットのブラウスを漆黒革のコルセットベストで留めたならば、留め具に飾り付けた髑髏飾りも相まって、ほんの少しロックな趣。
更にアウターとして艶やかな宵色のクロークを羽織れば、紛うこと無き紳士の出来上がり。ふわりと翻す度に、金絲で綴った蜘蛛の巣と蝶がきらきら煌めいて退廃的な馨が漂う。
ジュジュが見繕ったシルクハットも、艶やかな黒色。ぐるりと結んだ黒と白のレガッタストライプのリボンは、時に幼げな彼らしい趣だった。
『コノちゃカッコいい!』
「うんうん、コノさんは紳士な装いも素敵だね!」
彼の装いを見るなり、ジュジュは眸を煌めかせて賛辞を送り、兎の淑女は彼女の腕の中ぴょんと跳ねる。黒を纏えばすっかり、この国の住人たちに仲間入りした気分。
気取ってモデルのように歩いて見せながら、コノハは淑女たちの晴れ姿を確りと捉え、同じように賛辞を零していく。
「二人だって、とってもキレイ」
ジュジュとメボンゴが纏うのは、黒を基調とした揃いのプリンセスドレス。その主なモチーフは「薔薇」だ。
ふわり、膨らんだスカートには銀絲の白薔薇が幾つも咲き、淑女たちの胸元には白薔薇を重ねた大輪のコサージュが花開く。コノハのオーダー通り、何処か可憐な印象のデザインだ。
銀十字のネックレスが揺れる襟元には、漆黒のリボンがふわりと飾られて愛らしく。袖口はリボンカフスで、矢張り何処までも愛らしい趣だ。
少女のおみ足を包む白タイツには黒い教会のシルエットが刷られており、何処かメルヘン調。何処までも歩いて行けるお靴は、黒リボンのロッキンホース。これを履いてバレリーナのようにくるくる回れば、さぞ様に成る事だろう。
帽子はお姫様が被るようなボンネット。此方にも白薔薇を飾れば、メボンゴは勿論のこと。ジュジュまでフランス製のお人形のよう。
「ふふ、ありがとう。折角だから写真を撮って貰おうよ」
「ではお手をドウゾ、漆黒のレディ達」
紳士的にメボンゴを腕に抱き、丁重にジュジュの手を引いたコノハはゴシックの趣溢れる屋敷の一角――応接間の安楽椅子へと淑女たちをエスコート。
ふたり腰を下ろしたならば、ボビン卿に聲を掛けて記念写真を撮ってもらう。紳士と淑女のように手を重ねれば、貴族の仲良し兄妹の如き一幕が画面の中に納まった。
「わー、素敵! 紳士と淑女の兄妹みたい!」
「ホント、綺麗に撮れて良かったわ」
現像された写真を早速、わくわくと覗き込むふたり。其処に広がる光景と来たら、まるで中世の肖像画のよう。きっと他では撮ることが出来ない特別な一枚に、華麗なる兄妹は貌を見合わせ笑い合う。
『コノちゃお兄さま! メボンゴ、街を散策したいですわ!』
「はいはい、エスコートはお任せを」
ジュジュの裏聲で語られたメボンゴの科白に、くすくすと笑って。コノハは安楽椅子から立ち上がり、そうっと優しくジュジュの腕を引く。
ゴシックランドはきっと、三人に素敵な思い出を遺してくれるだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルベル・ノウフィル
ジャック殿、僕とお揃い衣装を楽しみましょう
衣装詳細お任せ
素敵な衣装ですね、写真も撮って頂きましょう
教会の中が気になりますね
なんとなく教会には苦手意識があるのですが、何故でしょう
理由は思い出せませんが、きっと大したことではないのでしょうね
ジャック殿は教会をどう思われますか
形や表面をなぞる信仰は果たして信仰と呼ぶに値するのでしょうか
僕は、人という生き物が神聖を謳いながら穢れを振り撒くのを愛すべき性質だと思うのですが
それも自分の身に火の粉が降りかからぬ時の対岸の火事なのかも知れませんね
そうそう
転移してくださりありがとうございました
僕はお礼を申し上げたくて
でも、貴方に差し上げられるものが無いな… ◎
●神が住まう場所
オートクチュールの衣装を仕立てて貰うため、紳士淑女の屋敷へ案内されたルベル・ノウフィル。彼が其処で鋼鐵の男――ジャック・スペード(J♠・f16475)の姿を、其の視界に捉えたのは偶然だった。
「ジャック殿、僕とお揃い衣装を楽しみましょう」
別に知らぬ間柄でも無いゆえに。人懐っこい笑みを咲かせながら、少年は静かに男の元へと歩み寄る。
然し――さらりと紡いでみせた誘いは、鋼鐵の男にとって意外な物だったらしい。ジャックは驚いたように、金の双眸をカチカチと明滅させている。
「俺と“お揃い”を?」
「はい、折角ですから記念に」
暫くの沈黙の後、男が静かに頷けば「決まりですね」と少年が笑う。とはいえ、ふたりは身長は勿論、体型も年齢も、造形だって違うのだ。ゆえに、礼服のデザインは紳士淑女に一任することにした。
そうして待つこと暫し、漸く出来上がったのはシンプルな趣の一着だ。
滑らかな灰色のシャツに揺れるは、宝石を飾った漆黒のクラバット。少年の其れには赤石が、男の其れには金石が、それぞれ煌びやかな輝きを放っている。
濃灰のウェストコートが上品なシルエットを演出し、同系色のモーニングコートが紳士らしいシルエットを完成させる。
黒薔薇が咲き誇るシルクハットを頭に乗せれば、まるで何処ぞの公爵のよう。銀の三日月がしゃらりと揺れるハーネスブーツの踵は高く、歩く度に蹄のような凛々しい音を響かせる。
完成した衣装に身を包んだ彼等は、互いの姿を確認し合ってそれぞれに賞賛を零す。何処に出しても可笑しくない立派な紳士がふたり、其処に居た。
「素敵な衣装ですね。そうだ、写真も撮って頂きましょう」
「ああ、この光景はずっと残しておきたいな」
誰かと揃いの衣装を纏うのなんて初めてだから――なんて。鋼鐵の男が低い聲に喜色を滲ませれば、ルベルもにっこりと楽し気な笑みを咲かせるのだった。
そうして写真を撮って貰えば、アンティークなフィールドカメラの下部から――するり。紳士のツーショットが、インスタントカメラよろしく速やかに現像される。
他に気になる場所は無いか、と。記念すべき一枚に視線を落としながら、ジャックがそう尋ねたならば、ルベルは顎に手を当てて思考する素振り。
「教会の中が気になりますね」
「では、後で行ってみようか」
「あ、いえ……」
男の口から零れた提案に、少年は左右へゆるりと頸を振った。“気になる”と云うのは、そういう意味では無いのだ。少年の赤い双眸が男の長躯を、そうっと仰ぐ。
「なんとなく教会には苦手意識があるのです。何故でしょう」
「苦手意識、か。何か嫌な思い出でも?」
「理由は思い出せないのですが……」
つまりは、きっと大したことではないのでしょうね――。そう静かに微笑むルベルは、服装も相まって何処か大人びている。人狼たる彼は短命だからこそ、敵を倒す為の切り札を惜しまないのだ。喩えそれが、掛け替えのない自身の記憶であったとしても……。
鋼鐵ゆえに察しの悪い男は、「そうか」と靜に相槌を打つのみ。或いは深入りしないことこそが、男なりの気遣いなのかも知れない。
「ジャック殿は、教会をどう思われますか」
少年の双眸が再び、黒き男の貌を見上げる。男の方も金色の双眸を光らせて、儚げな少年の貌をじっと見つめて居た。少年のこころは分からねど、せめて真摯に返そうと鋼鐵の男はゆるく首を傾ける。
「神聖で美しい場所だと思う。なにより、祈るヒトたちの姿は綺麗だ」
教会特有の荘厳なフォルムも、中を飾るステンドグラスも、立ち込める静謐な空気も、人々が此処には居ない存在に直向きに祈りを捧げる様も――。
機械仕掛けの男にとっては、其の総てが美しいのだと云う。
「では、形や表面をなぞる信仰は果たして、信仰と呼ぶに値するのでしょうか」
「……難しいな。頼る気持ちが少しでも有るなら、そう呼んでも良いんじゃないか」
ジャック・スペードという“機械”は神が造り給うた存在ではない故に、神の加護も信仰も自分には関係ないモノだと思っている。だからこそ、彼の返した答えは聊か信心に欠けるものだった。
「僕は――」
男の言葉に耳を傾けた少年は、感傷に浸るかの如く――そうっと赤い眸を閉ざす。ジャックとは対照的に、ルベル・ノウフィルは“ヒト”なのだ。神が造り給うた存在ゆえに、“信仰”には思う所が無い訳でもない。
「人という生き物が神聖を謳いながら穢れを振り撒くのを、愛すべき性質だと思うのです」
けれども、――そう思えるのはきっと、己の身に未だ火の粉が降りかかって居ないから。もし「穢れ」が少年の身に害を及ぼしたとして、彼はそれでも変わらずに人を愛せるだろうか。
「結局は、対岸の火事なのかも知れませんね」
至極冷静に紡がれた言葉と裏腹に、少年の貌は穏やかな微笑みを湛えている。ジャックは暫く、そんなルベルを無言で見下ろしていた。瞬きのように金の眸をゆっくりと明滅させて、漸く重たい鋼鐵の口を開く。
「……いや。俺もヒトのそういう所、好きだな」
人という存在は機械と違って、『矛盾』を其の身に孕んでいる。その矛盾は不合理で、愚かで、救いようの無いものだけれど。それでも完璧に調和の取れた存在なんて、きっと神でも無い限り愛せないのだ。そして眼前の少年も、――男にとっては“ヒト”である。
ゆえにこそ、ジャックは寄り添う如く頷くのだった。彼は彼で、兎角ヒトが好きなのだ。其れがなんとも“らしい”反応なので、ルベルはにっこりと笑う。
「そうそう、転移してくださりありがとうございました」
お礼を申し上げたくて、と礼儀正しく頭を下げるルベル。対するジャックは、礼を云うのは此方だと、緩やかに頭を振って見せた。彼の仕事に手を貸してくれたのは、あくまで少年の方なのだ。
「でも、貴方に差し上げられるものが無いな……」
「いや……そうだな」
それにも拘わらず、――視線を伏せて悩むような素振りを見せるルベル。そんな彼を眺めて居た鋼鐵の男は、ふと願いをひとつ思いつく。
「また話し相手に成ってくれたら、それで良い」
如何だろうかと男が真面目に頸を傾ければ、少年は一度だけ瞬いて。直ぐにまた、いつもの笑顔を浮かべたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
◎
私にも衣装を仕立ててくれるのかい?
ありがとう、でもすこし緊張する
私、生まれてから一度も黒い服を着たことがないとおもう
ウン、きっとそうだ
私はねえ、いつだって白と青の衣装を着ていたよ
この色が一番似合うからって、みんなが
衣装を自分で選んだこともほとんどなくて
特別な好みなんてものもない
似合いそうなものを選んでくれたらうれしいな
ねえ、ジャック君!キミはどんな衣装を着ているの?
キミは背が高くてかっこいいから、なんでも似合いそうだねえ
このまま一緒に散歩しようぜ
色々な国を旅してきたけれど
こんなに真っ黒な国は初めてさ
この衣装なら私も馴染めているかなあ
一緒に写真を撮ろうよ
写真は消えたりしないから、割とスキなんだ
●黒き纏いの王子様
赤の女王を退け無事凱旋を果したエドガー・ブライトマンを迎えたのは、トランプ兵の凶刃から彼が助けたボビン頭の紳士だった。恭しくハットを脱ぎ去り、首を垂れる紳士曰く――国を護ってくれたお礼に飛び切りのスーツを仕立てさせて欲しいとのこと。
「私にも衣装を仕立ててくれるのかい?」
「勿論だとも。君は私達の国を救ってくれたのだから」
碧い眸をぱちぱちと瞬かせる王子様へ、ボビン卿は優しく言葉を紡ぐ。かの紳士にとって、エドガーは紛れもない救世主なのだ。
「ありがとう、でも――」
いつもは元気いっぱいの王子様が、ほんの僅かに眸を伏せたものだから。ボビン卿は不思議そうに首を傾けた。別に、黒い彩が嫌いな訳じゃ無いのだ。ただ――ゴシックな衣装を纏うのは、すこし緊張するのだとエドガーは語る。
「私、生まれてから一度も黒い服を着たことがないと、おもう」
きっとそうだ――なんて、拙く記憶を辿りながら、彼は自身が纏う白い衣装に視線を落とす。染み一つ無い純白の彩、第一王子らしい気品あふれる彩――。
「私はねえ、いつだって白と青の衣装を着ていたよ」
けれど、衣装を自分で選んだことは無かった。この色が一番似合うからって、城の皆がそう言ってくれたから、エドガーは白を纏い続けて居たのだ。
他の人は色々な彩を纏っているけれど、彼にとって自身の衣装と云えば白。ゆえに、衣装について特別な好みなんてものは、きっと無い。
「だから、似合いそうなものを選んでくれたらうれしいな」
「ああ、きっと君に似合う“黒”を仕立てて見せよう!」
王子様がはにかむように笑い掛ければ、ボビン卿の職人魂に火が付いた。彼の屋敷に案内され、安楽椅子に腰かけながら待つこと暫し。
漸く出来上がった衣装は、彼が普段纏っているような如何にも王子様然とした衣装。しかし、上から下まで黒い彩で統一されていた。まるで魔界の王子様のような一揃えだ。
宵色のシャツに紺色のジャボをひらりと揺らし、金のブランデンブルクを飾った燕尾服はまさに貴公子の装い。
袖に飾る満月のカフスは彼の御手を品良く彩り、白い指先を護るように包むのは黒灰のショーティー。翻す闇色のマントには、銀絲で薔薇の意匠が刻まれている。
金色の髪を彩るのは、黒網レースと黒き薔薇で飾りたてたミニ・トップハット。金絲の髪とのコントラストが何とも印象的だ。漆黒のブーツで足元も確りと飾れば、いつもと違う“黒衣の王子様”の出来上がり。
「わあ――。ちょっと影がある感じで、かっこいいね!」
黒い彩に身を包んだエドガーは瞳をきらきらと煌めかせながら、鏡の前で何度もくるり、くるりと回って見せる。燥いでいるような其の素振りに、ボビン卿は微笑ましそうに笑った。
「ふふ、とても似合っているよ王子様。どうだね、少し散歩をしてきては?」
「うん……ありがとう。早速行ってくるよ!」
紳士に元気よく手を振り、ふわりとマントを翻した王子様は早速、外へ向かって駆けて行く――。
「ねえ、ジャック君!」
彼が屋敷を飛び出して最初に見かけた猟兵は、鋼鐵の男――ジャック・スペードだった。男の長躯はどの世界でも目立つのだ。
「エドガーか。今日はまた一段と華やかだな」
振り向くジャックといえば、濃灰のモーニングコートに身を包み、黒薔薇が咲くシルクハットを被っている。彼もまた住人たちから、オートクチュールな衣装を仕立てて貰ったらしい。紳士然とした装いの男を見上げながら、エドガーは楽し気に頬を弛ませる。
「キミは背が高くてかっこいいから、なんでも似合うねえ」
「それを云うなら、あんたこそ。華がある美形だから、どんな衣装でも着こなせるんだな」
羨ましいな――なんて。冗談めかして紡ぐ男の貌は機械のパーツに包まれていて、表情こそ分からないけれど。耳朶は確かに笑うようなノイズを拾ったから、王子様は明るく男に誘い掛ける。
「このまま一緒に散歩しようぜ」
「名案だ、なにせ――」
お洒落は見せびらかしてこそ。そう頷き合って、彼らはゆっくりと黒い国を歩んでいく。石畳を踏みしめる度にエドガーの踵が高らかな蹄音を鳴らして、其れがなんとも心地よい。
「色々な国を旅してきたけれど、こんなに真っ黒な国は初めてさ」
並び立つ尖ったフォルムの屋敷を横目に眺めながら、エドガーは感慨深げに息を吐く。やっぱり世界はとても広くて、見たことの無いものに溢れているのだ。新鮮な世界を新鮮な装いで歩いて往けば、自然と彼の足取りも軽くなる。
「ああ、見渡す限り黒彩で……個人的には落ち着く気がする」
「キミも真っ黒だものね。この衣装なら私も馴染めているかなあ」
控えめに主観を付け加えるジャックに頷いた後、改めて自身の装いを確かめるエドガー。白い衣装を纏っていた時は、何処か浮いているような気がしていたけれど、――いまは如何なのだろう。
「勿論、馴染んでいる。まるで此の国の王子サマみたいだ」
並んで歩いていると王族と従者に見えるな、なんて。真面目に紡がれた感想はきっと、こころから零れたもの。王子様はほんの僅かにはにかんで、ふわりとマントを翻す。涼やかな視線の先には、豪奢な屋敷の前に置かれたフィールドカメラが在った。
「ねえ、一緒に写真を撮ろうよ」
エドガーの視線を追うように、ジャックの貌もぎぃと動く。今のふたりに余りにも御誂え向きな光景に、男は一も二も無く頷いた。
「記念撮影、良いな。折角の晴れ姿だ、形に遺しておきたい」
「うん、分かるよ」
ぽつり、相槌を撃ちながら靜に頷き返す。エドガーは、『忘れてしまう』人間である。故郷のことはよく覚えているけれど――それ以外の記憶は飛んでいることも少なくない。こうして仕事を終えた後だって、今まで何をして居たか覚えて居ないことがあるのだ。
「写真は消えたりしないから、私も割とスキなんだ」
この黒い世界のことも、ボビン卿のことも、赤の女王のことも、仕立てて貰った衣装のことも。いつかは忘れて仕舞うかも知れない。
――けれど、写真の中の想い出だけは永遠だ。
今日この日の記憶が喩え消えてしまっても、写真と衣装を見れば楽しい“気持ち”位は蘇るかもしれない。
「――さあ、撮りに行こうか!」
そんな期待に少しだけ胸を弾ませながら、王子様は大きな従者を引き連れてカメラの前へ向かうのだった。
シャッターの音が軽やかに鳴り響く。いま永遠がひとつ、此処に生まれた。
大成功
🔵🔵🔵
泡沫・うらら
◎
心惹かれる素敵な申し出やけど、堪忍
黒を纏うのは特別な日だけやと決めとるの
代わりにジャックさん
良かったらうちの分まで着飾られて貰えません?
ふふ、漆黒の長躯によう映えて
素敵ですよ、ええ
どうしても言うんやったらせやねぇ
コサージュでも作って貰いましょかな
お花の種類はお任せします
うちに似合いそうなもん、繕って貰えます?
まぁ…、素敵
似合てますやろか
楽しいひとときに頬緩む
軽やかな浮足立つ気持ちを誤魔化す様
ふわ、ふわり
貴方の眼前を、游ぎましょう
いつぞやとは趣変え水路游ぐこの身体
ねぇ、ジャックさん
良かったらもう少しお付き合い願えません?
今度は歩調を合わせて貰わんでも結構よ
貴方と同じ速度で、游いで征けるから
●宵空を游ぐ
貴女にオートクチュールの贈り物を――!
愉快な仲間達のそんな申し出は有難いけれど、泡沫・うららには彼らの仕立てるドレスを纏う事が出来ない。
だって、黒は“特別な日”に纏う為の彩だと、こころに決めているから。
「心惹かれる素敵な申し出やけど、堪忍」
柳の眉を下げ申し訳なさそうに頭を下げるうらら。そういうことなら仕方ない、と愉快な仲間達もしつこく食い下がることはしなかった。
されど、住人たちが自慢の裁縫技術で持成してくれると云うのだから、その厚意総てをふいにしてしまっては勿体ない。そこで――、
「代わりに、……ジャックさん」
ことの顛末を見守っていた鋼鐵の男――ジャック・スペードへ聲を掛けることにした。当の本人といえば、行き成りのことに双眸を明滅させたあと、頸を傾けながら指先で己の貌を指し示している。
「良かったらうちの分まで着飾られて貰えません?」
「うららの分まで、俺が……?」
蒼い人魚の嫋やかな笑顔と、紳士淑女のわくわくとした雰囲気に背中を押されて。ジャックもまた、オートクチュールの衣装を仕立てて貰うことに成った。
軈て出来上がった衣装は其れなりに拘った結果、古風な貴族スタイルに落ち着いたようだった。灰色のシャツに漆黒のアスコットタイが、ゆらりと揺れる。宵色のスラックスを留めるサスペンダーと、アームに飾ったサスペンダーは艶やかな黒。
銀絲で綴られた剣の意匠が煌めく燕尾ジャケットを羽織ったならば、武骨な機械も多少は紳士に見えようか。馬の蹄じみたブーツの踵は高く、山高帽には大きな黒いリボンが咲く。
似合うだろうか、と。そう問いかける男の貌に表情は無いが、零す聲には僅かな喜色が滲んでいた。
「ふふ、漆黒の長躯によう映えて……素敵ですよ、ええ」
「ありがとう。しかし、俺ばかり楽しむのも申し訳ないな」
矢張り一緒に楽しめないだろうかと、鋼鐵の男は首を捻る。合わせて愉快な仲間達も首を捻りながら、「装飾だけでも如何だろう」なんて、話し合いを始めてしまった。
「せやねぇ……其処まで仰るなら、コサージュでも作って貰いましょかな」
「花か、あんたに似合いそうだな」
最終的には折れてくれた彼女に、愉快な仲間達は歓声を上げる。矢張り皆、お礼がしたくてうずうずしていたようだ。
「うちに似合いそうなもん、繕って貰えます?」
貴女のように優しくて、美しい花をきっと――。うららにそう誓って、彼らは作業台に向かって行く。そうして待つこと暫し、彼女の元に漸く完成したコサージュが遣って来た。
それは、濃い花紺色の――アマリリス。光の当て方によっては黒色にも見える、艶やかで優美な布造りの花弁のうえでは、幾つもの真珠が朝露の如くきらきらと輝いている。
「まぁ、……素敵」
「あんたの為に咲いた花か。深海のような彩で、綺麗だな」
感嘆の吐息をひとつ零したのち、うららはそうっとアマリリスへ指を伸ばす。壊さぬようにと丁重に其れを運べば、軈て胸元に深海の花が咲いた。
「どうです、似合てますやろか」
「ああ、とても」
綺麗だ――なんて。男が同じ言葉を重ねる様が可笑しくて、くつり。少女は口許を袖で隠しながら、静かに笑うのだった。
そうして屋敷を後にしたふたりは今、黒い世界をゆるりと逍遥している。蹄の音を鳴らすジャックの眼前を、うららは――ふわ、ふわり。
まるで深海を往くように、軽やかに嫋やかに游いで行く。浮足立つ気持ちを、少しは誤魔化せているだろうか。
世界に一つのコサージュでお洒落をして、知らない世界をただ自由に、宛ても無くふわりと游ぐ。そんなひと時が楽しくて、自然と頬も弛んで仕舞うのだ。
「今日のうららは、生き生きと游いでいるな」
彼女のこころの裡は分らねど、ヒトが楽しそうにしているのは喜ばしい。ゆえに男の足取りも自然と軽くなる。ジャックもまた、このひと時を楽しんでいた。
「ええ。いつぞやとは、また違う趣でしょう」
いつか、ふたり並んで歩いた時――宙を游ぐ彼女の歩みは緩慢なものだった。博物館と云う場所柄、自由に游ぎ回ることを控えて居たのだろう。
――けれども、いま彼女を遮るものは何もない。
「ねぇ、ジャックさん」
透き通るような尾鰭が、ふわりと軽やかに宙を蹴り、少女の美しいかんばせが男を振り返る。頬笑を湛えた侭、うららは静かに頸を傾けて見せた。
「良かったらもう少し、お付き合い願えません?」
「勿論、あんたが行きたい所に着いて行こう」
ジャックは胸に手を当て恭しく腰を折り、紳士ぶって見せた。慣れぬ動作に、ぎぎぎ――なんて、身体が軋んだのはご愛敬。うららは笑って、ふわ、ふわりと宙を舞う。
「今度は歩調を合わせて貰わんでも結構よ」
貴方と同じ速度で、游いで征けるから――。聴覚センサにそんな科白を捉えた男は、笑うようなノイズを零して、大股で一歩、前へと足を踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵
メリー・アールイー
◎☆
和の生地をドレスにリメイクして着るのが好きでねぇ
『和ゴス』ってやつを
あんた達のセンスで見繕ってもらえるかい?
出来ればReにも、お揃いのやつを頼むよ
針仕事が得意なのは戦闘でも披露しただろ
良ければ衣装づくりのお手伝いをさせとくれ
着替えたら、ご機嫌でお散歩しよう
花もこの国の色に染まっているんだね
広場の黒彩の花を覗き込んで
ビロードのように美しい花びらに目を細める
散歩中にジャックを見かけたら声をかけよう
彼は普段から黒服を着ているが、衣装はどうしたんだろうか
変わっていたら、おやまあ男前度が上がったね、なんて褒めて
折角だから写真を撮ろうよ
…でも身長差がすごいね
イイ感じの場所とポーズを考えて撮影!
●お気に召すまま
お礼のドレスを仕立てて貰う為、メリー・アールイーは紳士淑女の屋敷へと通されていた。応接間の安楽椅子に腰を下ろしながら、少女は楽し気に仲間達と語り合う。
「あたしは和の生地をドレスにリメイクして着るのが好きでねぇ」
「まあ、そのドレスも手作りなのね」
「それはリメイクなのか。お洒落で素敵だねえ」
メリーが纏う花弁が幾重にも重なったようなリメイクドレスに、愉快な仲間達は興味津々の様子。一点ものを作り続ける彼らにとっては、「リメイク」と云う発想自体が無かったのかも知れない。
ゴシックランドに新しい風が吹き込むのを感じながら、メリーはどんな着物を造って貰おうかと考える。彼女らしい装いと云えば、やはり――、
「いわゆる『和ゴス』ってやつを、あんた達のセンスで見繕ってもらえるかい?」
「ええ、私達に任せて!」
「君が纏って居るような趣のドレスを造れば良いのだね」
アーティスト気質の彼らにとって、路との出会いはいい刺激に成るのだろう。張り切った様子で、彼らは作業台へと向かって行く。
「そうそう。出来ればReにも、お揃いのやつを頼むよ」
「勿論、喜んで。貴女たちに似合いの衣装を仕立てて見せるわ」
腕に抱いた彼女と瓜二つの人形――『Re』を優しく揺らせば、仲間達はふたつ返事で了承してくれた。人形の衣装を作るのも、ひとの衣装を作るのも、彼らにとっては同じことのようだ。
「良ければ、衣装づくりのお手伝いもさせとくれ」
「まあ! 嬉しいわ、ぜひ一緒に作りましょう」
「君が手伝ってくれるなら、とても頼もしいよ」
メリーの針捌きは共に戦っていた紳士淑女も知るところ。愉快な仲間達は彼女の申し出に、それはもう大層喜んだ。
ボビン卿が製図を描き、トルソー婦人が組み立てて、メリーがちくちくとお裁縫。見事な連係プレーで、彼らの仕事も幾分早く終わったようだ。
出来上がったのは和洋折衷のゴシックドレス。トップスは漆黒無地の着物だが、袖には宵色のフリル――アンガジャンドが愛らしく揺れている。
一方ボトムスは漆黒のドレスだけれど、裾には着物生地があしらわれている。紫の牡丹に蝶が遊ぶ雅な柄は、少女の襟元も美しく飾っていた。統一感を大切にと、着物帯も紫色。網込みの黒ブーツを履いたなら、少しハイカラな馨もする――そんな一着だ。
ふたり揃いで纏うのは服だけではない。アクセサリーだって、勿論お揃い。銀絲の髪には、黒いヘッドドレスを飾ろう。黒布を彩るのは衣装と同様に紫牡丹の和柄、両端には布製の紫牡丹が咲いている。
「うんうん、大人っぽく可愛く仕上がったね。Reも可愛いじゃないか」
自身の晴れ姿を鏡に映したメリーは、にっこり笑ってご満悦。生き写しの人形にも笑い掛ければ、貌を持たない彼女も少しだけ笑ったような気がした。
「ありがとね。ボビン卿、トルソー婦人!」
愉快な仲間達に手を振った二人は、ご機嫌で黒い街へと飛び出して行った。足取り軽く少女が石畳を蹴る度に、黒い纏いがふわりと跳ねる。
いつもは色鮮やかな彩を纏っているから、視界に黒い彩が常に入って来るのは少しだけ新鮮だ。弾む足取りのままに歩身を進めて居たら、軈て少女は円形広場に辿り着く。
其処をぐるりと囲むように咲き誇るのは、様々な種類の黒い花々――。
「……花もこの国の色に染まっているんだね」
艶やかな黒い花弁に貌を寄せて、メリーは双眸を優しく細めた。他の世界の花々はもっとカラフルだけれど、黒い花だってビロードみたいでとても美しい。
他の種類も在るのかなと、視線をふと巡らせた先に、――棒立のまま花々を眺めるジャック・スペードの姿が在った。彼も衣装を仕立てて貰ったらしく、貴族の如き装いに身を包んでいる。あまり派手ではないけれど、細部からは何処となく拘りを感じさせる。
「おやまあ、ジャック。男前度が上がったね」
「ありがとう。衣装のお蔭か三割増しで見えるらしい」
傍に駆け寄ったメリーが声を掛ければ、ジャックは少し屈んで彼女を見下ろした。観察するように、金の双眸がチカチカと明滅する。
「あんたのドレスも、花が満開で愛らしいな。大輪の牡丹が奇麗だ」
「ふふ、綺麗だろう。Reもお揃いのを着てるんだ」
腕に抱いた彼女と瓜二つの人形を差し出せば、再び男の双眸が明滅する。どうやら彼女達の装いを、確りと見比べているようだ。
「成る程……お揃いか、素敵だな。メリーもReも、よく似合っている」
ふたりとも可憐な花のようだ、なんて。男がそんな誉め言葉を降らせたら、メリーは楽し気な笑顔を咲かせる。その様もまさに、大輪の花のよう――。
「ねえ、折角だから写真を撮ろうよ」
「いいな、撮ろう。屋敷の前が良いだろうか」
折角なら、ゴシックな趣たっぷりの写真をと。最寄りの屋敷の前に置かれた、フィールドカメラの前へ並んでみるけれど――。
「……身長差がすごいね」
「俺がデカいばかりに済まない……」
150㎝も身長差が在るふたりだ。何方かをフレームインさせれば、次は何方かがフレームアウト。これでは記念に成り得ない。申し訳なさそうに肩を落とす男へ頸を振り、少女は次の手を考える。
「じゃあ、ここの庭を借りようか」
彼女が指し示す先には、黒鉄で造られたガーデンチェアがぽつんと置かれていた。ボビン卿の為の椅子なのだろうか、ちょっと高めに造られている。
「あたし達があの椅子に座れば、身長差も少しはマシに成るはず」
「おお、それは名案だな」
ならば早速と、ふたりは庭へと向かう。メリーがガーデンチェアに腰かけて、彼女の比佐にはReが腰を下ろす。そしてジャックが椅子の側に跪けば、何とか無事に全員フレームイン。斯くして紳士と淑女は、記念すべき一枚を手に入れることが出来たのだった。
大成功
🔵🔵🔵
仇死原・アンナ
◎☆
終わったね…
さて…え…衣装を作ってくれるの?
えぇと…
せっかくだから…ゴシックなドレス…を作ってくれないかな?
あなた達が着ているような綺麗なドレス…一度も着たことがないから…
デザインや装飾品はお任せするよ…麗しい漆黒のドレスをお願い…
ドレスに着替えたら街を散策しよう
本当に鮮やかな漆黒だ…綺麗…くすみや濁りない黒…
私の生まれた宵闇の世界みたいだけど…違う…
こんなに色鮮やかな黒ではなかった気がする…
澱み濁った暗黒と灰の色…
ここは私の世界じゃない…彼らの住まう漆黒の国…
…あぁ、えぇと…素敵な礼装をありがとう
本当に綺麗なドレス…こういうのを着る機会って
ほとんどないからね…
寧宮・澪
ありがとうございますー……。
では……礼服、仕立てていただけますかねー……。
黒いロングドレスにコルセットー……蜘蛛の巣みたいな、レースにヴェール……シンプルな銀のアクセサリー。
いわゆる、ロマンチゴスっていうやつですねー……。甘さより、シックに退廃的にー……。
トルソー婦人と似たような感じでしょうか……。
お願い、できますかー……?
お着替えしたら、ドレスを破いたり、引っ掛けたりしないように、噴水の広場で座ってー……皆さんや、愉快な仲間達ののファッションを、のんびり眺めましょかね……。
いっそファッションショー気分で見るのも楽しそう、ですねー……。
ぼんやりのんびりー……。気だるげ、ばんざーい……。
●それぞれの黒彩
「終わったね……さて……」
此の黒き世界に平和が取り戻されたことを知り、仇死原・アンナは錆色の鉄塊剣を静かに降ろす。処刑人としての仕事は終わった、あとはただひっそりと去り行くのみ――。
「あ……皆さんから、お話があるみたいですよー……」
踵を返す彼女をのんびりと呼び止めるのは、寧宮・澪だ。アンナがゆっくりと振り返れば、其処には眠たげな眼差しの澪と、ずらりと並んだ異形の紳士淑女たちが居た。
「私達の国を守って下さって、ありがとう!」
「お礼に是非、君達に衣装を造らせておくれ」
トルソーの婦人達はドレスを揺らして喜びを表現し、ボビン頭の紳士たちはハットを脱ぎ去り何度も頭を下げている。彼等はこころから、猟兵達に感謝して居るようだった。
「え……衣装を作ってくれるの?」
「お礼ですかー……。ありがとうございますー……」
住人たちの意外な申し出にアンナは漆黒の双眸を、ぱちり。呪われし処刑人の一族として育まれた彼女にとって、華やかな装いは余り縁の無いものだ。其れをいきなり仕立てさせてくださいと言われても、どう反応すべきか困ってしまう。
一方、澪は彼らの申し出をのんびりと受け入れていた。彼女とて年頃の乙女、“オートクチュール”のドレスには多少の関心があるのだ。
「では……仕立てていただけますかねー……」
「ふふ、喜んで。どんなデザインが良いかしら?」
トルソー婦人の問いかけに、澪はゆっくりと頸を傾けた。眠たげな視線は眼前の淑女が纏う、華美な衣装へと集中している。
「いわゆる、ロマンチゴスっていうやつが良いですねー……」
ロマンチゴス――それは、正統派のゴシックファッションだ。ゴスロリのような甘さと可愛さを持たず、ただシックに退廃的に、着用者を飾り立てる妖しく美しい纏い。
「トルソー婦人と似たような感じでしょうか……」
「なるほど、ちょっとホラーな感じかね」
ボビン卿も同じく婦人のドレスに注目し、うんうんと納得したように頷いている。当の御婦人と云えば、得意げにご自慢のドレスをふりふりと揺らしていた。
「お願い、できますかー……?」
「ええ、任せて! 早速お屋敷へ向かいましょう」
とんとん拍子に話が進み、澪は紳士淑女に導かれてゴシックな趣の屋敷へと去って往く。アンナは彼女達の遣り取りを、ぼんやりと少しだけ困ったように見つめて居た。
「えぇと……」
彼女だって彼らの申し出が嬉しくない訳では無い。ただ、戸惑っているのだ。余り縁のない装いに身を包むのは、何となくむず痒い心持ち。けれども、これもいい機会かもしれない。
「せっかくだから……ゴシックなドレス……を作ってくれないかな?」
「ええ、貴女の為の一着をこころを籠めて仕立させて頂戴!」
広場に残って居た愉快な仲間達にそう声を掛けたなら、トルソー婦人は飛び跳ねて喜んだ。ボビン卿も嬉しそうに、うんうんと頷いている。
「何かリクエストなど在るかな、レディ?」
「あなた達が着ているような綺麗なドレス……一度も着たことがないから……」
自身が纏うシックでパンクな趣の衣装と、彼らが纏う華美な衣装を見比べながら。アンナは、ぽつりとオーダーを紡ぐ。
「麗しい漆黒のドレスをお願い……」
「分かったわ、じゃあ早速仕立に行きましょう!」
「ああ、とびきりの一着を用意してみせるよ」
楽し気な聲を響かせて、愉快な仲間達はアンナを彼らの屋敷へと誘って行くのだった。
そうして通された応接間で、彼らの作業を待つこと暫し。漸く完成したドレスに袖を通したアンナは、鏡を前にして双眸をゆっくりと瞬かせた。
「……あぁ、えぇと……」
出来上がったのは艶やかな漆黒のエンパイアドレス。優美なパゴダスリーブの袖口を飾るレースは、凛と咲き誇る黒百合のモチーフだ。
そして淑女の白い指先を包むのは、宵色の滑らかなオペラグローブ。脚元の彩も同じく漆黒で――長いドレスの裾から時折、アーモンドトゥが顔を覗かせている。
波打つ黒髪を彩るのは黒百合レースのヴェール。更にその上から紅石煌めく銀細工のフロントレットを飾ったら、まるで戴冠した女王の如く。
「素敵な礼装をありがとう。本当に綺麗なドレス……」
アンナが零した科白が感慨深げに響いたのは、こういうドレスを着る機会なんて殆ど無かったから。嫋やかに歩みを進める度に、レースをあしらった裾が波打つ様も心地よい。
「どういたしまして。良ければ、お散歩に行かれては如何かしら?」
「折角のドレスだからね。人に見て貰うと、もっと楽しい気分に成るかもしれないよ」
愉快な仲間達の言葉に頷いて、アンナは踵を鳴らしながらゆっくりと、屋敷の外へと歩みを進めて行く――。
「こういう衣装で歩くの、ちょっと、不思議な感じがしますー……」
仕立てて貰った衣装に身を包んだ澪はいま、黒曜の噴水が印象的な円形広場を訪れていた。彼女が纏う衣装も勿論、オートクチュールのゴシックドレス。
艶やかな漆黒のロングドレスに、胴のボタンを連ねた革のコルセットを重ねれば、華奢な娘のシルエットは更に繊細に。
可憐なかんばせと御髪に咲く花を隠すのは、蜘蛛の巣に似た網目模様のレースで編んだヴェール。胸元を彩るは品の良い銀薔薇ネックレスに、同じく銀製の十字のブローチ。
正統派のゴシックファッションは、澪を更に大人びた印象に彩っている。長いドレスの裾を引き摺らぬよう注意しながら、娘はゆっくりと噴水の縁へ歩み寄り、そうっと其処へ腰を下ろす。
ふう、と一息つく澪の双眸には、広場を行き交う紳士淑女の姿が映って居た。彼らは皆、黒い装いを纏っているけれど、ひとつとして同じデザインの衣装は無いのだ。
「なんだか、ファッションショーみたい、ですねー……」
行き交う人々の中に先ほど声を掛けた猟兵が居るのに気付いて、澪はそうっと花唇を綻ばせる。陽の当たらぬ世界だけれど、偶にはこういう場所でぼんやり寛ぐのも悪くは無い。
「ぼんやりのんびりー……。気だるげ、ばんざーい……」
同じ頃――アンナもまた、円形広場を訪れていた。慣れぬドレスを揺らす彼女を歓迎するかの如く、広場を囲むように咲く漆黒の花々がざわりと揺れる。広場の中心では、黒曜の噴水から噴き出した水が、流麗なアーチを描いていた。
「本当に鮮やかな漆黒だ……綺麗……」
くすみや濁りのない、純粋な黒が此の世界にはある。それは、アンナが生まれた宵闇の世界と似て居るけれど、――確実に何処かが違うのだ。
「こんなに色鮮やかな黒ではなかった気がする……」
彼女の故郷『ダークセイヴァー』には澱み濁った暗黒と、慈悲無く焼かれた無辜の命を象徴するかの如き灰の彩ばかりが溢れている。
――ここは私の世界じゃない……彼らの住まう漆黒の国……。
この美しい国が、これから先も平穏であるようにと願いを込めて。アンナはそうっと双眸を閉じた。いつか故郷も、くすみや濁りの無い美しい世界になると良い――なんて。そんなことを、こころ密かに想いながら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
悟郎(f19225)と
和装の礼服は持ってるし洋装のお任せで頼もう。
特にモチーフもデザインもこだわりはないしなぁ。
衣装づくりの見学も気になってたけど、教会も気になるのでそちらへ見学へ。携帯端末での撮影になるけど建物の写真をいくつか撮りたい。
ステンドグラス、モノトーンもなかなかいいな。黒白だけじゃなく銀色もあるのがまた良い。
誰かを撮る事はしなくて基本建物中心。自分が被写体になるって発想自体がないし、逆に写ることに申し訳なく思ってしまう。自分が写っていいんだろうか?って。
(悟郎のやってる事には撮影に集中してるので多分気が付かない)
って悟郎は大丈夫か?俺のやりたいことばっかりやってるけど。
薬師神・悟郎
瑞樹(f17491)
俺が着ているものは、エンパイアやサクラミラージュで着られるような礼服を和ゴスに仕立ててもらったものだ
黒の和装に赤や紫の色を入れて作られたそれは着心地も良い
瑞樹は洋装か
お任せにすると言っていたが、その髪や目の色、体型に良く合っている
まさに貴方の為の服だな
教会に瑞樹の好奇心を満たしてくれるような何かはあるだろうか?
次々と写真に納める瑞樹を見て、『目立たない』ように)シャッターを切る
知られれば怒られるだろうか?
だが、仕方ないだろう?
集中してる彼の姿はとても絵になると思ったんだ
帰宅後は瑞樹の写真を見せてもらおう
俺が撮ったものも見てみるか?
吃驚かもな
いつの間にこんなに撮ったんだってな
●シャッターが捉えるもの
オウガとの戦闘を終えた黒鵺・瑞樹と、彼の友人――薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)は今、ゴシックランドに聳え立つ大教会へ訪れていた。ふたりとも、愉快な仲間達に仕立てて貰った黒き礼服に身を包んでいる。
「瑞樹はそういう格好も似合うな」
傍らを歩く青年の纏いに、ふと視線を集中させる悟郎。瑞樹の装いは、由緒正しい紳士風のゴシックスタイルだ。
装飾の少ない滑らかな漆黒のシャツに、濃紺のジャボが揺れる。金絲で突きを刺繍した宵色のウェストコートで、洗練されたシルエットを演出する傍ら。重たげに羽織った漆黒のスモーキングコートが、男性らしい貫録を醸し出していた。
脚を彩るのは宵色のキャバリエブーツ、此方も月を模した金の意匠がゆらりと煌めいて。頭に乗せたシルクハットは、黒布の桔梗と艶やかな黒い羽根で豪奢に彩られていた。
いつもは実年齢より幼げに見える青年も、黒の彩に全身を包んでいると――何だか大人びて見えるものだ。
「その髪と眸によく映える衣装だ。……まさに“貴方の為の服”だな」
「そういう悟郎も似合ってる。男の和ゴスってそんな感じなのか」
「ハイカラというか、傾奇者って感じだな」
一方の悟郎は「和」の世界――サムライエンパイアや、サクラミラージュで礼装として着られるような『和服』を、ゴシック風味に仕立てて貰っていた。
膝まで伸びる艶やかな黒い着物には、灰色の蝙蝠が刺繍されている。鮮やかな赤色の襟には黒い菊が咲き、なんとも退廃的な雰囲気だ。腰を締める帯は艶やかな紫色、此方には黒いリボンを咲かせて和洋折衷の雰囲気を演出している。
袖は普通の着物よりも広く、まるで巫女袖のようなシルエット。されど袖口には赤いレースがあしらわれていて、此方も和洋折衷の趣だ。
一見すると袴のように見える幅の在る黒いズボンには、着物と同じく灰の蝙蝠が綴られていた。艶やかな濃灰のブーツには、銀細工の蜘蛛がゆらゆらと揺れていた。
「折角だし、写真を撮って行くか?」
「ああ……俺は建物を撮りたいから遠慮しとく」
衣装づくりの見学も気になっていた瑞樹だけれど、建築物にも関心を寄せる彼は、教会も気になっていた。懐から携帯端末を取り出した彼は、無人の境界をフレームに収めて行く。
「このステンドグラス、モノトーンもなかなかいいな……」
教会に飾られたステンドグラスと云えば、煌びやかで色鮮やかなものが多いけれど。この世界のステンドグラスは、例に漏れずモノトーンな彩だった。
しかし、これはこれで影絵のような趣があって味わい深いものだ。黒と白だけではなく、偶に銀色が煌めくのも彩にメリハリがあって好もしい。
瑞樹は真剣な表情でシャッターを切り続け、ステンドグラスを写真に収めて行く。そんな彼の姿を眺める悟郎は、不思議そうな貌をしていた。
この光景はどうやら、彼の好奇心を満たしてくれるものだったらしい。夢中になって居る様で、喜ばしくはあるけれど。――自分は映らなくても良いのだろうか。少なくとも、彼には自分が被写体に成るという発想は無さそうだが。
金の双眸で瑞樹を見つめる悟郎は、気付かれないようにそっとカメラを構え――シャッターを押してみた。撮影に集中している様子の瑞樹は、それに気づく気配も無い。
知られれば怒られるだろうか、と今更ながらぼんやり考える。けれども、集中している彼の姿はとても絵になると、――そう思ったのだから仕方がない。
瑞樹としては荘厳な建物と一緒に自分が映ってしまうと、なんだか申し訳ない気持ちに成るのだが。麗人と教会と云うものは、相性がとても良いのだ。彼が裡に秘めた遠慮など知らない悟郎は、ただ只管にシャッターを押し続けて居た。
「――って、悟郎は大丈夫か?」
ふと、瑞樹が振り向いたので、悟郎は急いでカメラを後ろ手に隠す。よほど集中して居たのだろう。細やかな悪戯は、未だ気づかれて居ないようだ。
「俺のやりたいことばっかりやってるけど」
「いや……。俺も色々と撮れたから大丈夫だ」
満足気に金の双眸を緩めて見せれば、瑞樹は不思議そうに碧眼を瞬かせた。彼が何かを撮っていることにも、気づいていなかったらしい。
「そうなのか、全然気づかなかったな」
「俺が撮ったものも見てみるか?」
悪戯にそう悟郎が誘い掛けたなら、瑞樹に断る理由など無い。携帯端末のデータを検めながら、彼はこくりと頷いて見せる。
「じゃあ、帰ったら見せあうか」
「……吃驚するかもな」
いつの間にこんなに撮ったんだ、ってな――。
瑞樹が驚く貌を脳裏に思い浮かべながら、悟郎は楽し気に頬を弛ませるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
杜鬼・クロウ
【蜜約】◎
服◎
名呼ばず
服好き故にテンション高め
わ、凄ェ!
早く俺達だけの一着作ってもらおうぜ!
…ハ?ねェわ
お前には任せておけねェ
巨乳好きだが胸見ず
下心無しで真剣に選ぶ
体のライン確認の為軽くボディタッチ
俺の女を着飾る様に
桜と紫苑柄の和ゴス
七宝模様の帯
色は黒と桃
自分は珍しく簡素な紳士服
露出少な目
モノクル
シルクハット
ンじゃ次、靴な(女の手引き
流石俺、完璧だわ(履かせ方は恭しく
綺麗だ
衣装纏い街中を走る馬車へ
先に乗り羅刹女に手伸ばし抱えて乗せ
優雅に街中観光
お手をどうぞ、お嬢サン
ちぃっとドキっとしたろ(ニヤ
馬車乗るの初か、羅刹女?俺もだが
馬車に喜ぶ女の横顔を見る
一等景色が綺麗な所で記念撮影
内緒でスマホに残す
千桜・エリシャ
【蜜約】◎
随分とはしゃいで
まるで子どもみたいね
なんて口にしない代わりに笑み浮かべ
でも悪戯心がむくむくと
わざと胸元が空いた服を着てクロウさんの前へ
どうかしら?って、えっ…?
ちょ、ちょっと…!?
なんですの!?こんな筈じゃ…!
どぎまぎしている間に
着替えと靴まで履かされて
ま、まあ…素敵ですけれども…
紳士的なのが複雑ですわ
綺麗だなんて誰に言っているのかしら
当たり前でしょう?
クロウさんの服も…ふぅん
そういう装いも新鮮ですわ
…今日はやけに気障ですこと
どきっとなんて…
まあ!これが馬車…?
エンパイアには牛車しかありませんでしたもの
ふふ、景色も素敵ね
機嫌も治ってはしゃいで
お花が沢山咲いている場所で撮りたいですわっ
●
「――わ、凄ェ!」
黒き世界に立ち並ぶお屋敷は、住人たちの工房でもあった。其処で針仕事に打ち込む彼らが、うつくしい造形の衣装を作り上げて行く様は、まるで魔法のよう。
杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は、何を隠そう服好き故に。彼の口から歓声が零れたのも、きっと無理も無いこと。
「早く俺達だけの一着作ってもらおうぜ!」
紅と蒼の瞳をきらきらと輝かせながら、青年は羅刹の少女――千桜・エリシャ(春宵・f02565)を急かすように手招いた。
――随分とはしゃいで、まるで子どもみたいね。
そんなこと、流石に口にはしなかったけれど。その代わり、エリシャは白いかんばせに柔らかな笑みを浮かべて、彼の背中を小走りで追い掛けて往く。その胸に悪戯心を秘めながら。
異形の紳士淑女はお客様の来訪をたいそう喜び、いたく歓迎してくれた。好みのデザインやモチーフなど、細かなオーダーを伝えたふたりが待つこと暫し。漸く完成の一報を受けたふたりは、別室でそれぞれの纏いに袖を通し対面を果たしたのだが――。
「……ハ?」
「は……?」
予想外の事態に、ふたりは思わず同じ科白を零す。クロウは彼女の着こなしへの違和感に、エリシャは彼が思ったよりも薄い反応を見せたことに――。
「ねぇわ……。お前には任せておけねェ」
ファッションを愛する者にとって、彼女の着こなしは看過出来ないもの。ゴシックにはゴシックの流儀があるのだ。――なにより、自分の隣を歩くべき女に、浮いた装いをさせる訳にはいかない。
はあ、なんて。深い溜息を吐いたクロウは、少女の肩に手を伸ばす。青年の想定外の反応に呆気に取られていたエリシャは、その紳士的な手つきに更に驚いた。
真剣なまなざしで細い肩の寸法を確かめるさまは、まるで“彼の女”という概念をオートクチュールするかのよう。軈て着こなしの気に入らぬ点を確かめたクロウは、近くにいた異形の淑女を呼びとめて何やら相談を始めてしまった。
「えっ、ちょ、ちょっと……!?」
常ならば淑やかに悠々と、菖蒲の花の如く凛と佇むエリシャであるけれど。めまぐるしく移り変わる展開から斯うも置き去りにされてしまっては、流石に動揺してしまう。
されどクロウは相変わらず真剣な様子で、仕立て屋の淑女と打ち合わせを続けて居るので、彼女は安楽椅子に腰かけたまま彼らの用事が終わるのを待つしかなかった――。
「おい、出来たってよ」
柔らかな椅子に背中を預けてそわそわとしていたエリシャが、降ってきた聲に貌をあげると其処には、新しい黒の纏いが在った。クロウは腕に抱いたそれを、ぶっきらぼうにエリシャへと押し付ける。
「な、なんですの……」
「いいから、早く着替えて来い」
彼の真剣な貌に圧されて、謂われるがまま別室で着替えを済ませるエリシャ。彼女の為に仕立てられたのは、今度こそ正統派な和ゴス風のドレス。
艶やかな黒き着物の襟や、膨らんだスカートの裾を彩るのは、まるで彼女をイメージしたかの如き桜と紫苑柄。七宝模様の帯を彩るように、桃色のレースが微かに揺れる。
エリシャの夜桜の如き装いを見て満足そうに頷いたクロウは、彼女の手を引き安楽椅子へとエスコート。彼の空いた手には、漆黒のブーツが握られていた。側面に揺れる黒き蝶がなんとも彼女らしい。
「――ンじゃ次、靴な」
彼女の前へと恭しく跪いたクロウは、丁重な手つきで彼女の脚に其れを履かせて往く。ペースを乱されたエリシャがどぎまぎしている間に、彼女はクロウが選んだ彩にすっかり染められてしまった。
「流石俺、完璧だわ」
「ま、まあ……素敵ですけれども……」
彼が自賛するのも無理はない。上品な黒き纏いに身を包んだエリシャは、彼女が持つ神秘的な魅力を見事に強調していて。本当に――、
「……綺麗だ」
「……綺麗だなんて、当たり前でしょう?」
誰に言っているのかしら、なんて頬を僅かに膨らませて。エリシャはふいと視線を逸らす。年相応な彼女の反応を前にして、クロウはくつりと口角を弛めるのだった。
そういう彼の装いは、簡素な紳士服。紅色のシャツに蒼石を飾ったループタイを揺らし、漆黒のスペンサージャケットに身を包む。胸元に飾られた紫苑のシンボルは、エリシャとお揃いの彩。ボトムスはジャケットに合わせたセーラーズボンで、整然と並んだ金色のボタンが凛々しく煌めいていた。
赤夕の眸に銅製のモノクルで蓋をして、指先は黒のショーティーで覆い隠す。そして青みの濃い紫苑で彩られたシルクハットを飾った彼は、何処からどう見ても完璧な紳士様。
「……ふぅん、そういう装いも新鮮ですわ」
そう、エリシャが思わず認めるほどに――。ぽつりと零された科白は、クロウの耳にも届いたらしい。彼は得意げに片頬を上げて見せたのだった。
ふたりのもう一つの目的は、街中の観光である。とはいえ、慣れぬ装いで歩くのは主に淑女のおみ足が心配だ。其処で愉快な仲間達に馬車を呼んで貰うことにした。
彼らに馬車の手配を頼まれた異形の紳士は、少し悩むそぶりを見せた後。――彼らに屋敷の前で待つようにとだけ言い残して、部屋に籠ってしまった。
ふたりが不思議に思いながら馬車を待つこと暫し、遠くから蹄の音が聴こえて来る。漸く手配されたのかと視線を其方へ向けると――。
せっせと黒き鋼鐵の馬車を引いて此方へと走って来る、黒馬のぬいぐるみの姿が見えた。因みに馬車を引いているのは、先ほど部屋に籠ってしまった紳士である。
彼曰く――撮影スポットとしての馬車は在るけれど、それを引く馬がいない。ならばいっそと、手縫いで急遽作ってくれたのだとか。
「まあ! これが馬車……?」
「馬車乗るの初か、羅刹女?」
ゴシック可愛い雰囲気だけれど、馬車には変わりはない。エリシャは初めて見る光景に、桜色の眸をきらきらと煌めかせた。その様を見て、僅かに頸を傾けるクロウ。
「ええ、エンパイアには牛車しかありませんでしたもの」
「……ま、俺もだが」
わくわくと纏う雰囲気弾ませる彼女を横目で眺めながら、クロウは馬車へと歩み寄り徐に扉を開く。そのまま中へと乗り込めば、くるりと踵を返し――エリシャへ恭しく其の手を差し出した。
「お手をどうぞ、お嬢サン」
「……今日はやけに気障ですこと」
艶やかな赤に彩られた少女の指先が掌に触れたなら、青年は不意に彼女を引き寄せた。其の儘そうっと丁重に抱え上げれば、座席へとエスコート。
「ちぃっとドキっとしたろ」
「どきっとなんて……」
ふたりのシルエットが離れる間際、青年が悪戯に蒼い眸を閉ざしながら、口端上げて笑って見せたものだから。エリシャは双眸を伏せて、ふいっと、そっぽを向いたのだった。
とはいえ、優雅な馬車の旅が始まれば、彼女の機嫌もすっかり元通り。過ぎゆく黒い建物たちの壮観さに、ただ無邪気に燥いでいる。
「ふふ、景色も素敵ね」
「……で、写真は何処で撮るんだよ?」
喜ぶ彼女の姿を横目で見ながら、ぽつり。クロウが問い掛ければ、エリシャは満面の笑みを咲かせるのだった。
「お花が沢山咲いている場所で、撮りたいですわっ」
ならば、黒い花々が咲き誇っているらしい、円形広場へと行こう。其処で花に囲まれながら撮った一枚は、きっと特別な思い出になるだろう。
そして、花に囲まれた彼女はきっと、この世界でいっとう美しい“女”に違いない。こころの裡に確信を抱きながら、青年はスマホへと視線を落とす。花に囲まれたエリシャの姿を遺したいと、そう思った。
馬車はいつの間にやら、黒き花々に囲まれた広場へと到着している。エスコートをしたあと、きっと花の元へと駆けて行く彼女の写真を撮ろう。
――勿論、彼女には秘密のままで。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
清川・シャル
漸くゴシックを身に纏えるんですね!嬉しい!
私はエンパイア出身ですからね、どうしても和の要素は入れたくなります。
和柄も入れて和ゴスにして頂けますか?
お洋服は流石に作ったことがないので、自分で小物を作りたいと思います。
和柄のおリボンのバレッタ…くらいなら!
お裁縫、ちくちく。
針を指に刺さないように…
出来たらお着替えして、丁寧にお礼を告げます
その後は一眼レフカメラで自撮りしましょう
また彼に送るんだ。えへへ。
素敵な1枚が出来上がりますように、ポーズを取って。
●少女のように、淑女のように
どうかお礼を受け取って下さいと、紳士淑女たちからそう頼まれた清川・シャルは、尖った屋根が印象的なお屋敷に招待されていた。待ちに待ったお楽しみに、丸い碧眼がきらきらとした輝きを放つ。
「漸くゴシックを身に纏えるんですね!」
嬉しい、なんて。はにかむ少女に、愉快な仲間達も嬉しそうに頷いた。彼らも客人に礼服を贈ることを、とても楽しみにして居たのだ。
「ええ、お待たせしました。どんなデザインが良いかしら?」
「好きなモチーフなどがあれば、教えておくれ」
愛らしく首を捻って、少女はうーんと思考する。シャルはサムライエンパイアの出身だ。UDCアースで暮らしているけれど、彼女の根本にはエンパイアの血脈が流れている。ゆえに、斯ういう時はどうしても――、
「和の要素は入れたくなりますね。……和ゴスにして頂けますか?」
「ええ、勿論よ。可愛く仕立てられるよう、頑張るわ」
「もし良ければ、君も何か作ってみるかね?」
やったー、と無邪気に笑う少女に釣られて、トルソー婦人も楽し気にドレスを揺らす。その傍らでボビン卿がふと控えめな提案を紡いだなら、少女の眸は更に煌めいた。
「あ、じゃあ……和柄のおリボンのバレッタを!」
嫁入り前の乙女だもの。裁縫はそれなりに出来るのだ。流石に洋服は縫った事が無いけれど小物位なら縫える信じて、シャルは紳士淑女と一緒にちくちくとお裁縫を始めるのだった。
シャルが選んだのは、闇夜にひらりと大好きな桜が舞うような――落ち着いた印象の生地。ふんわり、リボンの容に形成した其れを、少女は針と絲で縫い留めて行く。尖った先端で指をささぬようにと、慎重に慎重に――。
「……うん、なんとか形に成りました!」
リボンさえ完成して仕舞えば、あとは簡単だ。其れを黒鉄の金具へとバランスよく飾り付けて、グルーガンで強かに接着すれば、世界に一つだけのバレッタの出来上がり。
早速自身の髪に飾ってみれば、金絲の髪に黒い彩がよく映えて――なんだか大人っぽい雰囲気。
「まあ、まあ、とても奇麗ね」
「お嬢さんは器用なのだねえ。きっと良いお嫁さんになるだろう」
愉快な仲間達も彼女の手腕に感心し、口々に褒めてくれる。シャルは「えへへ」とはにかみつつも、何処か嬉しそうに胸を張って見せるのだった。
そうして和やかな時間を過ごしている間に、彼女の為のドレスも無事に完成したようだ。和の趣を感じさせるゴシックドレスは、全体的に甘めの雰囲気。
トップスは着物らしいシルエット。黒いフリルに包まれた袖を除いては、彼女がバレッタにと選んだ生地と揃いの夜桜柄で、上半身が彩られている。
ボトムスはドレスらしいシルエット。ミニ丈のスカートは、黒いフリルを花弁の如く幾重も重ねたもの。揺れる銀色猫のチャームは、少女の乙女心を存分に擽るだろう。
足元を飾るのはいつものぽっくり下駄ではなく、黒い下駄を模したピンヒール。めいっぱい背伸びしたいお年頃の乙女にとっては、魅惑のシルエットだ。
「わあ、とても素敵です。有難うございます!」
大人っぽく着飾った己の姿を鏡に映し、眸をきらきらと煌めかせながら、少女は確りと頭を下げる。紳士達は奇麗に着飾った少女に、万雷の拍手を降らせるのだった。
「えへへ……また安楽椅子、お借りしますね」
シャルは喝采に頬を染めながらも、ゴシックなお屋敷に似合いの安楽椅子へと、わくわく腰を下ろす。彼女には、やりたいことがひとつ在るのだ。
懐から一眼レフカメラを取り出せば、レンズを自分に向けてにっこりと笑う。空いた手で愛らしくピースしながら、シャッターにそうっと指を掛けた。
「また彼に送るんだ、えへへ」
素敵な一枚が仕上がりますように――。そんな願いを込めながら、カシャリ。
果たしてフレームの中に納まった黒衣の小さな淑女は、まるで人形と見紛うほどに愛らしい姿をしていた。
――きっと、彼も喜んでくれる筈。
大成功
🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
◎☆
あー……すみません
折角服をお褒めて頂いてたのに、ボロボロで……
止血は包帯でしたんですけどね
いやお礼なんて別に、と言いかけて
待てこれ断りづらいぞ……
彼らは張り切ってるし
隣には心配そうなきみが居る
えぇと……じゃあデザインはお任せで……
(場の空気に負けた)
……包帯巻いてる本当の理由は永遠に言えないな、うん
仕上がった服を纏ってみて素直に感心するけど
やっぱり普段は着飾らないから慣れない
だから私のことは褒めなくていいんですってば
皆さんが作った衣装が素晴らしいのであって
私は只の影人間……
恥ずかしくて目を逸らした、ら
キラキラと瞬くきみがいた
……笑わないでくれ、コローロ
文句を零しながら釣られて笑ってしまった
●残照と笑う
「あー……すみません。折角服をお褒め頂いてたのに……」
異形の紳士淑女が住まう屋敷に招かれたスキアファール・イリャルギは、申し訳なさそうに頭を掻いた。彼らが褒めてくれた装いも、赤の女王との激戦で襤褸に成ってしまって居る。彼にとっては何時ものことであるけれど、――今日は何故だか心地が悪い。
「いやいや、それより怪我はしていないかな?」
「お洋服、少し赤く染まっているわ。だいじょうぶ?」
「……ああ、止血は包帯でしたんですけどね」
見た目は痛々しいが大事は無いと告げたなら、愉快な仲間達はほっと安堵したようだ。トルソー婦人は嬉しそうにドレスを揺らし、人懐っこくスキアファールに話しかける。
「良ければお礼をさせて下さいな」
「そうだ、私達に君の新しい衣装を繕わせておくれ」
「いや、お礼なんて別に――」
そう言いかけて、彼はふと周囲へ視線を巡らせた。トルソー婦人だけでなく、ボビン卿も何処かそわそわした雰囲気で、彼の返事を待って居る。
――待て待て、これ断りづらいぞ……。
愉快な仲間達は、どうやら張り切っているようだ。そして何より、――彼の隣には心配そうに光を明滅させたコロ―ロが居る。
「えぇと……じゃあデザインはお任せで……」
斯くして、場の空気に負けたスキアファールは、オートクチュールな礼服を仕立てて貰うことに成ったのだった。
――……包帯巻いてる本当の理由は永遠に言えないな、うん
彼らの厚意が只管に心苦しかったから、黒包帯の下に隠した怪奇の存在は、こころに秘めておくことにしよう。
そうして出来上がった衣装は、豪奢な貴公子風の装い。ダブグレイのナポレオンコートは、金絲を優雅に連ねたギンプカフス。漆黒のシルクシャツは、チョークストライプのラバリエールで彩って。同じくダブグレイのスラックスの裾には、銅製ボタンが誇らしげに煌めいて居る。
指先は漆黒のショーティーで覆い隠し、脚先は宵色のブーツで包み込む。ハーネスに飾ったダイヤがきらきらと輝けば、黒い世界にもプリズムの彩が満ち溢れた。大きな銅製の三日月を飾ったシルクハットは、かの貴公子を瀟洒に飾り立てている。
「これは……素晴らしい仕上がりですね」
仕上がった礼服を纏ったスキアファールは素直に感心してみせる。とはいえ、普段はこんなに着飾らないから、矢張り何処か慣れず――擽ったい気持ちにも成ってしまう。
「まあ、とても素敵だわ。なんて立派な紳士様!」
「本当に、何処かの貴公子みたいだねえ」
「だから、私のことは褒めなくていいんですってば」
愉快な仲間達が手放しで褒めてくれるものだから、猶更こころが擽ったい。スキアファールの口端に、思わず苦い笑みが滲んだ。
「皆さんが作った衣装が素晴らしいのであって、私は只の影人間……」
彼はひとではなく、日陰者の怪奇である。斯ういう風に注目されるのは、柄でも無いし恥ずかしい。そっと目を逸らした、――その先には、キラキラと瞬く彼女が居た。
その様がスキアファールには、波打つ黒髪を揺らしながら笑う幼げな少女のように視えて――、彼は黒い双眸を穏やかに弛ませる。
「……笑わないでくれ、コローロ」
そんな文句を零す聲色は、存外に優しく響き渡る。彼女に釣られるようにスキアファールもまた、くすくすと楽し気な笑みを零すのだった。
大成功
🔵🔵🔵
天音・亮
巴(f02927)と
◎
纏ったのは
マーメイドラインのロングドレス
スリッドから覗く足元には太陽モチーフでデザインされたヒール
大振りのヘアアクセ
お洒落大好きな身としてこんなに嬉しいご褒美は無い
あ、巴見て見て!…って、わあ!巴かっこいい!
姿勢の良い立ち姿に衣装を纏う巴は
強い存在感ながらどこかミステリアスでいて
流石の着こなし具合
自分の衣装も褒めてもらえたなら
嬉しそうに
さて
衣装を着たなら私達がする事はひとつだよね?
カメラが向けられたら
そこからはもうモデルの顔
徐に片膝ついた巴が童話のワンシーンの様に私の足を取れば
キザだなぁなんて笑みも零れるけれど
負けないよ
フレームの中の小さい世界
私達で最高のものに創り上げる
五条・巴
◎
亮(f26138)と共に
用意してもらったのは厳かな装飾を纏ったシックなスリーピーススーツ
手袋に月モチーフの美しい意匠が映える
なるほど、このスーツは妖艶で、高潔な月のイメージなんだね
亮も綺麗なドレスだ
ヒールを主体にドレスはシンプルだけど、生地やデザインがとても繊細
美脚の亮に合っていて美しいね
ふふ、着こなし甲斐があるね?
跪いて彼女の脚を掬い
太陽と月を近づける
この服の、この世界の美しさをカメラの向こうの子達に伝える
いい写真になったね
●月と太陽が重なるとき
ゴシックな趣溢れる屋敷にて、五条・巴は仕立てて貰ったオートクチュールの衣装に身を包んでいた。上品に煌めく銀の装飾が何処か厳かな印象を与える――シックなスリーピーススーツを纏い、鏡の前でアスコットタイを整える巴。月の意匠が刺繍された宵色の手袋は、白く滑らかな肌によく映えている。
「……なるほど。このスーツは妖艶で、高潔な月のイメージなんだね」
自身の立ち姿を検めながら、彼はデザイナーの仕事ぶりに小さく頷いた。これなら、モデルとして第一線で活躍する彼が纏っても、全く遜色のない代物だ。
黒く艶めく革靴を鳴らしながら、巴は別室で待つ友人の元へと向かう。女性の身支度には時間が掛かるものだが、そろそろ彼女も用意は出来ているだろう。
レッドカーペットめいた絨毯の上を進み応接間へと辿り着けば、既に其処には天音・亮の姿が在った。
「あ、巴見て見て!」
彼女は巴の姿を見るなり、安楽椅子から立ち上がりぱたぱたと駆けて来る。お洒落が大好きな彼女にとって、オートクチュールの衣装は何よりも嬉しいご褒美だった。
燥ぐこころのままに巴へと駆けよれば、娘はぱちりと双眸を瞬かせる。
「……って、わあ、巴かっこいい!」
「ふふ、着こなし甲斐があるね?」
モデルらしく姿勢の好い立ち姿は、強い存在感を放っている。されど、彼が纏う雰囲気は何処かミステリアスで居て、――流石は人気モデル。
碧い眸を煌めかせ、僅かに頬を染めながら感嘆を零す亮に、くつりと微笑を零す巴。彼の視線は彼女が纏う衣装に集中している。亮の着こなしは、クラシックなゴシックスタイルだ。
「亮こそ、綺麗なドレスだ」
マーメイドラインのロングドレスは、宵闇の色。ネックラインはホルターストラップ、バックスタイルはベアバッグと、野暮ったくなりがちな黒い纏いに、艶やかな雰囲気を取り入れて。レースの黒薔薇が咲き誇るデタッチドスリーブは、細い腕を更に華奢に見せていた。
彼女の金絲の髪を飾るのは、大輪の黒きヘリクリサムが花開くファシネーター。あどけなさを遺す娘の貌を、大人びた雰囲気に彩ってくれている。
ドレスに刻んだスリットから覗く足元は、金色の太陽を模したストラップが揺れる、漆黒のバック・ステップ・ヒールで彩られていた。
「美脚を引き立てて、とても美しいね」
「ふふ、ありがとう。特に拘ってみたんだ」
自分の衣装や着こなしまで褒めて貰えたものだから、亮は嬉しそうにはにかんで見せる。されど、彼女達の目的は衣装を纏うことだけに留まらない。
「さて、衣装を着たなら私達がする事はひとつだよね?」
「この服の、――この世界の美しさを、カメラの向こうの子達に伝えないと」
モデルとしての矜持を胸に、ふたりはこれから撮影会を行うのだ。色々な場所を背景に撮影する心算だけれど、まずは此処、ゴシックなお屋敷の中で一枚を。
カメラマンがプロじゃ無いのが心配だけれど、彼等だってプロのモデルだ。誰がシャッターを押そうと関係ない。磨き上げた美しさで、誰よりも鮮烈に輝くことが出来る。
カメラが向けられた途端、先ほどまでの和やかな雰囲気は何処へやら、ふたりはモデルの貌になる。徐に跪いた巴はまるで王子様のように、彼女の足先を丁重に掬い――。フロントで銀色に煌めく太陽の意匠に、彼が嵌める手袋に綴られた金月を寄り添わせた。
その様があまりにも童話のワンシーンめいていたから、キザだなぁ――なんて。澄ました亮の口端から、思わず笑みが零れてしまう。
「……負けないよ」
ぽつりと、娘は密やかに闘志を燃やしながら言の葉を紡ぐ。その科白は巴の耳にも届いたらしく、藍色の眸からつぃ――と流し目が飛んで来た。もしかしたら、彼も同じ気持ちを抱いているのかもしれない。
「――良い写真に成りそうだね」
さあ、フレームの中の小さな世界を、“ふたり”の力で最高のものに創り上げよう。だって彼等は、最前線で活躍する人気モデル。彼等が魅力を伝えられないものなど、きっと有りはしないのだ。
――カシャリ。
そうして静かな空間に、シャッターの音が幾度も響き渡る。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
【邪蛸】
こォんなお洒落な場所を教えてくれるなんて流石ジャックだよな
ジャックと平和を護った猟兵達に感謝しつつ
纏うのは裾がほつれたようなデザインのロングコート
角を収納した頭にはゴーグル付きのハットを被り、黒基調の中にどこかスチームパンクな雰囲気漂うゴシックスタイル
カジュアルな印象の強いパウルのフォーマルな装いには
かっこいーじゃん、なんていつものテンションで褒め称えつつ
正直、胸が高鳴りっぱなし
目元と爪に施した黒も新鮮だし、何よりお揃いってのが嬉しい
――なあ、どこ行きたい?
熱を持った頬を隠すように景色に目を遣る
お揃いの黒を絡めるように手を繋いで街を巡る
最高の素材を最高に素敵に写真に収めなきゃな
パウル・ブラフマン
◎【邪蛸】
ココが洗練された
モノトーンで築かれた『ゴシックランド』。
流石ジャックくんのグリモアが導いた場所だね♪
折角皆が護ってくれたんだもの。
エイツアとしても名所は抑えとかないと!
今回は視察取材兼
ジャスパーとゴシックデートなのだ★
オレは黒の葬列…もとい
マーチングバンドに登場しそうな礼服をチョイス。
触手は腰からちょっと出すくらい。
普段は肌見せ多めのジャスパーが
ロングコートでキメているのがセクシーで眩暈。
アイラインと指先のノアールは
ジャスパーがお揃いで塗ってくれたんだ♪
イイね、記念撮影!
ボビン卿さんにオススメのフォトスポットを聴いてみよう。
もしオレ達の関係性を聴かれたら
最愛の伴侶です、って応えるね。
●寄り添い合うふたつの黒
漆黒の彩に包まれた街のなかを、歩調を合わせた青年達がゆるりと歩いて行く。
それは隻眼の青年――パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)と、悪魔の如き翼を生やした青年――ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)のふたり。
「ココが洗練されたモノトーンで築かれた国、『ゴシックランド』……」
パウルは蒼い眸を瞬かせ、物珍しそうにきょろきょろ。目を離すと迷子に成りそうな彼の手を、ぎゅっと握りしめながら、ジャスパーはご機嫌に片頬を上げて笑った。
「こォんなお洒落な場所を教えてくれるなんて、流石ジャックだよな」
「うんうん、流石ジャックくんのグリモアが導いた場所だね♪」
彼らが務めるツアー会社『エイリアンツアーズ』の同僚でもある鋼鐵の男に、さらりと言及するふたりだが、彼はいま此処に居ない。
なにせ名目上はツアーの視察取材ということに成っているけれど、――パウルとジャスパーは此の地へデートに来たのだから。
「折角皆が護ってくれたんだもの。エイツアとしても名所は抑えとかないと!」
「……でもバエそうな場所ばっかじゃん、タイヘンな視察になりそ」
何処で写真を撮っても様になるであろう建物の並びを横目に見て、ジャスパーはそんな感想を零す。けれども、其の表情は何処までも明るかった。――だって、バエそうなポイントが多ければ多い程、パウルといっぱい写真が撮れるのだから。
平和を護ってくれた猟兵達と導き手に感謝しつつ、彼らはのんびりとした歩調で歩みを進めて行く。景色に目が慣れて来たら、次に注視して仕舞うのは戀人の装いだ。
パウルの衣装は、“黒の葬列”をイメージしたもの。マーチングバンドが纏って居るような、軍服風の一揃えは漆黒の彩をメイン。紫の挿し色が、なんとも妖しい魅力を醸し出していた。両肩に刺繍した赤い蝙蝠羽は、特にゴシックらしく彼らしくも在るシンボルだ。
腰からちょっとだけ出した触手は、ベルトチェーンの代わり。偶に嬉しそうに揺れるのもご愛敬。
いつもはカジュアルな印象パウルが、フォーマルな装いに身を包んでいるものだから。こうして隣を歩いていると、何だか新鮮な気持ちに成って、――まるで初デートでもしているように胸が高鳴り続けてしまうのだ。
どきどき、大きく跳ね続ける鼓動は、隣を歩く彼にも聞こえているだろうか。パウルは誤魔化すように、いつもの調子で軽く彼の装いを褒めて見せる。
「かっこいーじゃん」
それでも、彼の貌を見ると頬が弛んで仕舞うのは止められない。パウルの目許に施した黒く艶めくアイラインは、ジャスパーがお揃いで施したもの。更に彼の爪へと施したノワールなネイルもお揃いなのだ。好きなひとと同じ彩を纏える喜びに、ジャスパーのこころは幸せな彩へと染まって行く――。
けれど戀人の装いにときめいているのは、彼だけではない。パウルも同じように、ジャスパーの装いにこころを撃ち抜かれていた。
ジャスパーが纏っているのは、裾がほつれたようなデザインの黒いロングコート。赤い悪魔角を収納した頭には、錆色のゴーグル付きハットを被っている。
そう、――彼が今日纏っているのは、ゴスパンクな礼服だ。黒を基調としながらも、ロングコートを締め付けるベルトだとか、踵の高いブーツに飾った歯車だとか。そういうスチームパンクな趣も取り入れた、ジャスパーらしい遊び心に満ちた装いである。
普段は肌を露出するような衣装の多い彼が、ロングコートで格好良く決めている様はたいそう艶やかに見えて、思わず眩暈を感じてしまうパウルだった。
「――なあ、どこ行きたい?」
そんな彼のときめきなど知らず、ジャスパーはちらりと視線を黒き世界へ向ける。何でも無いように振舞って見せた手前、――熱を持った頬を戀人に見られるのは、なんだか恥ずかしいのだ。
視線を逸らした代わりに、ジャスパーは繋いだ指先を更に絡めてみせる。互いの黒と黒を、重なり合わせるように……。
「最高の素材を最高に素敵に、写真に収めなきゃな」
「イイね、記念撮影!」
パウルは名案とばかりに、蒼い眸をきらきらと煌めかせた。とはいえ、観光名所のような場所ばかりなので、何処で撮るべきか悩ましい。
「そうだ、ボビン卿さんにオススメのフォトスポットを聴いてみよう」
「さっすがパウル、あそこにいるボビン卿に聞いてみよーぜ」
ふたりが視界に捉えたのは、すぐそばの屋敷の庭で花々に水をやっている糸巻頭の紳士だった。「すいませーん」と駆け寄ったふたりに、ボビン卿は気さくに対応してくれる。
「撮影スポットか。矢張り街外れに在る大教会や、円形広場の噴水がお勧めかな」
「お、噴水いーじゃん」
「じゃあ、其処に行ってみる?」
指先を絡めたまま親密そうに話し合うふたりを前に、ボビン卿ははてと首を傾けた。
「ところで、君達はどういう関係かね?」
「最愛の伴侶です」
貌色を伺う前にパウルがそう答えて呉れたのが嬉しくて、ジャスパーはそっと彼の手を握り締めた。
「そうか、そうか。楽しいデートになりますように」
細やかな祈りを紡いでくれたボビン卿に見送られて、ふたりは円形広場へ向かう。お揃いの彩に身を纏った特別な姿を、今日はカメラにたくさん捉えよう。何よりも愛しい“伴侶”とともに――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エール・ホーン
まどかくん(f18469)と◎
彼の優しさに目を細め
そうだね、みんなが楽しく過ごしてくれるだけで嬉しい
うん、でも折角だもの
いっぱい着飾って貰おう
自信に溢れた言葉がかっこいいなぁと
でもきっと言葉通りなんだって似合うのだろうと想像して
えっとね、今回は和風ゴシック?な衣装をお願いしたいんだ
まどかくんが選んでくれた光る生地を取り入れて欲しいこと
それから何かお揃いの要素をってこっそりおねだり
勿論、とってもかっこいいよ!
ほんと?と嬉しくってくるくる
へへ、褒めてくれて嬉しい
ありがとうっ
ねえねえ、まどかくん
折角素敵な衣装に着替えたんだもの
一緒にお散歩しよっ
ねっ?
手を伸ばし重なればふわり
その手を握って
旭・まどか
エール(f01626)と◎
礼なんて必要無いけれど
どうしてもと言うのなら仕方無いね
お前たちの好きな様に
着せ替え人形になってあげよう
何なら似合う――なんて、愚問
答えは“何でも似合う”だよ
具体案を乞う声には
エールには光る生地の物が似合うんじゃない?と
お前が炊きつけるものだから――嗚呼
あんなにも張り切って
瞬く間に編み上がる早業には瞠るものがあるけれど
腕の使い方は合っているのかな?
どう?
君がお望みの、僕の姿は
ふふ、当然でしょう?
お前も中々に悪くないね
きらきらしているものを背負っている姿が、佳く似合う
どうして?
――……、識らない
なんとなくそう思った
それだけだよ
嗚呼、共に手を取り、巡ろうか
黒き此の寧靜な街を
●きみに似合いの
旭・まどかとエール・ホーンのふたりは今、紳士淑女の屋敷を訪れていた。ぜひお礼をさせて欲しいと、彼らに頼み込まれて仕舞ったのだ。
「別に、礼なんて必要無いけれど……」
「そうだね、みんなが楽しく過ごしてくれるだけで嬉しい」
つれない呟きを零すまどかだけれど、彼が紡ぐその言葉は優しさから放たれたものなのだと、エールはちゃんと知っている。
ゆえに少女は双眸を細めながら、彼の科白をそれとなく補足するのだった。
「けれど、やっぱりお礼をさせて頂きたいわ」
「うむ、君達は私達にとって英雄だからね」
愉快な仲間達がこころから感謝してくれて居る事は、少年にだってよく分かって居る。だからこそ、その気持ちだけで結構なのだけれど。
「――どうしてもと言うのなら、仕方無いね」
紳士淑女があまりにも真剣に頼み込んで来るものだから、少年は溜息を吐きながら重たい頸をゆっくりと縦に振った。
その様を傍らで見ていたエールは、そういう所が優しいなあ――なんて。人知れず、そうっと微笑する。
「お前たちの好きな様に着せ替え人形になってあげよう」
「うん、折角だもの。いっぱい着飾って貰おう」
ふたりの色よい返事を聞いて、愉快な仲間達はわあっと歓声を上げる。なんで僕たちより嬉しそうなんだ、と少年の胸に疑問が湧き上がって来るけれど。傍らの少女の手前、口には出さなかった。
「ねえ、どんな衣装がいいかしら?」
「何なら似合う――なんて、愚問。答えは“何でも似合う”だよ」
堂々とそう語るまどかの言葉は自信に溢れていて、かっこいいなぁとエールは想う。きっと言葉通り、彼はなんだって似合うのだろう。夢見がちな少女が脳裏に思い描く彼の姿も、やはり格好良かった。
「えっとね、ボクは和風のゴシックな衣装をお願いしたいんだ」
「成る程、好きなモチーフや素材は在るかね?」
「うーん……」
ボビン卿の問いかけに、難しそうな貌をして考え込んでしまうエール。そこでまどかは、それとなく助け舟を出すことにした。
「エールには光る生地の物が似合うんじゃない?」
「わあ、きらきらしたお洋服ステキだねっ。それにしよう!」
まどかの提案に、エールの桃色の双眸もきらきらと。オーダーも聴いたところで、早速作業に取り掛かる紳士淑女。その後ろ姿を見て、ふと少女は何か思いついた様子。ぱたぱたと彼らに駆け寄り何やら耳打ちすれば、嬉しそうにまどかの元へと帰って来る。
「ふふ、楽しみだね、まどかくん」
「期待はしておいてあげる。けれど、お前が炊きつけるものだから――嗚呼」
あんなにも張り切って――と。まるで嘆くような口ぶりで溜息を吐く少年の視界には、せっせと針仕事に勤しむ紳士淑女たちが映って居た。
異形の紳士が型紙を造り、それを基にして婦人達が布を組み合わせて行く。最後にパーツを縫い付けるのは紳士の役目。
息の合った連携プレーと、瞬く間に編み上がる早業には目を瞠るものがあるけれど。果たしてその腕の使い方は合っているのだろうか。もっとも、婦人達はその「腕」すらも無いのだから、気にすることでも無いのかも知れないが。
安楽椅子に背中を預けながら、そんなことを考えている内に――。どうやらふたりの纏いが出来上がったらしい。それぞれ衣装を受け取って別室で着替えたあと、再びこの場所で落合うことにした。
まどかの衣装は、貴族の子息の如き装いだった。
灰色のボウタイが揺れる、艶やかなシルクの黒シャツ。リボンを留める宝石は、彼の眸にも似たチェリーピンクのルビー。
きっちりとした印象のスペンサージャケットは、宵空の彩を映している。胸元に飾るのは、星を象った銅製のエンブレム。袖には金絲で優美な抽象図を描き、何処までも上品に。
ハイウェストのボトムスは、ジャケットと同じく宵の色。星を象る銅製のボタンを整然と飾った其れは、少年らしさを遺した一着だ。
よく磨かれた漆黒の革靴は、三日月の意匠を抱くハーネス飾りに彩られている。金絲の髪に錆色の星屑を鏤めたミニハットを飾ったならば、品の良い貴公子の出来上がり。
「……どう?」
君がお望みの、僕の姿は――。戯れる様に少年が頸を傾ければ、少女は双眸をきらきらと輝かせて、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「勿論、とってもかっこいいよ!」
「ふふ、当然でしょう?」
彼女は本当に、何処までも素直な言葉をくれるのだ。ゆえに、誉められるのも悪い気はしない。紳士の嗜みとして、まどかも少女の装いに賛辞を降らせる。
「お前も中々に悪くないね」
エールの装いは、きらきらした生地で仕立てられた和ゴスである。
振袖に似たトップスは宵の色。ラメできらきらと煌めいて居るから、まるで星空のようにも見える。和の雰囲気を色濃く残した襟や袖を彩るのは、「鏡柄」を円く描いた青色の『丸紋』だ。
ボトムスはふんわりと膨らんだフープスカート、此方もトップスと同じく星空めいた宵色。スカートの裾にも矢張り、襟や袖を彩る丸紋が飾られて。サイドに揺れる黒いリボンには、まどかと揃いの星を象った銅製の小さなエンブレムが留められている。
エールはこっそりと、彼と揃いのモチーフを入れてくれるよう仲間達に頼んで居たのだった。漆黒のロングブーツに揺れる、銅製の星もまた彼とお揃いである。
柔らかな白い髪に丸紋で彩った宵色のヘッドドレスを飾れば、まるで星のお嬢さんのよう。
「きらきらしているものを背負っている姿が、佳く似合う」
「へへ、褒めてくれて嬉しい。ありがとうっ」
ほんと、なんて。ぱっちりとした眸を緩めたエールは嬉しそうに、くるくる。喜びをめいっぱい表現するかの如く、愛らしく回って見せた。彼女に釣られて楽し気に揺れる、ふわふわのスカートと、錆色星のエンブレム。
無邪気な彼女の姿を眺めながら、まどかはこころの裡で考える。――どうして、そんな風に想ったのだろうか。
聡明な彼は常ならすぐに答えを見つけられる筈なのに。今回ばかりは、何とも言えないのだ。
「――……、識らない」
なんとなくそう思った、ただそれだけなのだと。自身に言い聞かせながら、まどかはそっと眸を伏せた。
「ねえねえ、まどかくん」
彼が物憂げな貌をしようとも、エールは人懐っこく彼へと笑い掛けてくる。彼女自体がまるで、きらきらと煌めく一番星のような存在なのだ。
「折角素敵な衣装に着替えたんだもの、一緒にお散歩しよっ」
ねっ、と差し出された少女の手に、少年はそっと自身の指先を重ねる。軈てふたりの掌が重なれば、ふわり。エールは優しく、彼の手を握ってみせた。
「――嗚呼、共に巡ろうか」
黒き此の寧靜な街を、きみと何処までも。まどかの双眸が、優しく笑う。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ライラック・エアルオウルズ
ひらめく布が形を成すのは、
門外漢の眸には魔法めいて
ついと糸を手繰るように、
黒の衣装を繕う様を眺めつも
今ばかりは好奇に限らず、
注文を向けなくてはなるまい
――そう、ひとつ頼みたい
黒にも赤にも見劣る様な、
褪せた身ではあるけれども
灰被りに素敵な衣装をおくれ、
何時か舞踏会に往けるように
御洒落は不得手だから、
天辺から爪先まで御任せに
並ぶ他も気にはなれども、
背伸びはせずに洋装を
好きな題材は花と猫、
御伽の全てが大好きさ
つらり語って、仕上がるものは
恒では身纏わぬ様な華が故
感嘆のちに、溢れる面映ゆさ
――観光と往くにも、照れる
ええと、舞踏会前の御披露目は
此処で密やかとしても構わない?
紳士然と、装う自信も無いからさ
●黒絲の魔法は密やかに
愉快な仲間達からの申し出に快く首肯したライラック・エアルオウルズは、彼らの工房でもあるゴシックの趣纏った屋敷へと脚を運んでいた。
紳士淑女のオートクチュールサービスは、どうやら大盛況のようで。彼はいま安楽椅子に腰を下ろしながら、自身の順番が回って来るのを待って居た。とはいえ手持無沙汰なので、興味が赴くままに彼らの作業を眺めて視れば、これがなかなか面白い。
ボビン卿が羊皮紙へと真剣に羽ペンを走らせている様は、作家として何だか親近感がわいてしまうもの。
トルソー婦人が器用にドレスを彩るリボンを動かしながら布や針を操る様なんて、まさに不思議の国の可笑しな登場人物といった趣で、幻想を愛す彼のこころは思わずわくわくと跳ねてしまうのだった。
ひらめく布が形を成す様は、彼の眸には魔法めいて映る。つい――と、絲をひとたび手繰れば、散々だったパーツが一着の礼服へと姿を変えるのだ。これを魔法と云わずして、何と云うのだろう。
こういう機会はめったにないものゆえに。今ばかりは好奇に限らず、注文を向けなくてはなるまい。そう思考するライラックの元へ、漸くボビン頭の紳士が遣って来た。
「いや、お待たせして申し訳ないね。貴方も礼服は如何かな?」
「――そう、ひとつ頼みたい」
黒にも赤にも見劣る様な、褪せた身ではあるけれども。そう前置きしながら幻想作家はゆるりと、リラの彩にも似た双眸を細めて見せる。
「この灰被りに素敵な衣装をおくれ」
灰被りは華やかな場所に招かれるのが、定めゆえ。何時か舞踏会に往けるように――。
「ふふ、お城にも纏って行けるような、素敵な礼服を造らねばね」
好きなモチーフやデザインは在るかとボビン卿が問うたなら、ライラックは靜に頸を縦に振る。彼は如何にも作家らしく、御洒落は不得手なのだ。だから天辺から爪先まで仕立屋に一任する心算だったけれど、“好きなモチーフ”には心当たりが少しある。
「好きな題材は花と猫、御伽の全てが大好きさ」
けれど、この身に馴染んだ洋装で――なんて。つらり語った作家に頷いて、異形の紳士は作業台へと帰って往く。
ライラックは自身の衣装が魔法みたいに仕立てられていく様を、少年のような眼差しで楽し気に見守っていた。
そうして仕上がったものは、メルヘンゴシックな趣に溢れた衣装。
滑らかなシャツは灰被りらしいフレンチグレイ、漆黒のフリルスタンドカラーは高貴な印象で。頸からふわりと垂らした純白のアスコットは、ライラックスピネルの上品な煌めきで彩って。
漆黒のウェストコートの胸元には、黒布で造られたライラックのコサージュが咲き誇り。前面に刻まれた灰色猫のシルエットは、フレンチグレイのスモーキングコートに隠れん坊。
前を留めず羽織ったコートの裾には王冠の如き意匠を綴り。金絲で鍵の意匠を刻んだガントレットカフスからは、シャツの袖に縫い付けられた漆黒のアンシャンガドが優美に貌を覗かせていた。
グレイのスラックスはすらりとしたシルエット、童話に出て来る賢い猫が履いて居るような、真鍮の薔薇を揺らした黒きヘッセンブーツがよく映える。
手品師みたいなシルクハットには、4つのスートを描いたカードを飾って帽子屋気取り。黒革のショーティーには、白薔薇と赤薔薇が片方ずつ綴られていた。
出来得る限りのお伽を其の身に飾ったような、幻想作家たる彼に相応しい衣装。されど、――恒では身纏わぬような、華やかさと夢想に溢れているのが新鮮で。
彼の為に仕立てられた纏いに身を包めば、ライラックは思わず唇から感嘆の溜息をひとつ。その途端、じわじわと溢れ始めたのは、言いようもない面映ゆさ。
嗚呼、如何したものか。これでは――、観光と往くにも、照れてしまう。
「ええと、舞踏会前の御披露目は、此処で密やかとしても構わない?」
恥ずかし気に眉を下げながら、それでも、紡ぐ言葉には確かな喜色を滲ませて。ライラックはボビン卿へと、控えめに微笑みかける。
「紳士然と、装う自信も無いからさ」
頸の無い淑女や貌の無い紳士たちと秘めやかな談笑に興じている方が、矢張り気性に在っているのだ。なにせ彼は、灰被りの作家であるゆえに――。
大成功
🔵🔵🔵
城野・いばら
◎☆
皆ケガはない?
街も無事みたいで良かったわ
踏まれたお花さん達は大丈夫かしら?
破れたお洋服も繕いたいけれど、まずは庭園の様子を見に行くの
出来ることがあればね、お手伝いしたいのよ
はやく元気になって、また綺麗な花びらをみせてね
破れた所を縫う為に、
少し場所を借りれたらとおもったけれど…
出来上がるお洋服さん達が、どれも素敵で見入ってしまうわ
いばらもお裁縫は好きで、着るものは作っているから
縫い方とか、露出を抑えられるデザイン術はとっても勉強になるの
特にレース飾りがステキだわ
まっクロなお花さんのチョーカー
お邪魔じゃなければ、作り方を教えてもらいたいなぁ
礼服も持ってないから
また遊びに来た時にね、依頼させてね
●黒花と優しき雫
どうにかオウガを退けられて、黒き街は常の静寂を取り戻したようだった。広場に集った紳士淑女たちに視線を巡らせながら、城野・いばらはかくりと頸を傾ける。
「皆、ケガはない?」
「ええ、お蔭さまで私達は大丈夫よ」
「茨のお嬢さんも怪我は無いかね?」
ボビン卿もトルソー婦人も、猟兵達の手厚いサポートのお蔭で健勝のようだ。いばらはほっと息を吐き、心配そうに此方を見つめる彼等にふわりと微笑んで見せる。
「ええ、いばらも平気よ。街も無事みたいで良かったわ」
街は早くも活気を取り戻しつつある。猟兵達の尽力により、被害が最小限に抑えられたお蔭だろう。紳士淑女は踏まれた花たちに水をやり、いつもの日常に戻ろうとしていた。
緑の双眸でその様を眺めながら、何処か安堵したような表情を浮かべた彼女だが――。ふと、あることを思い出して教会の方を振り返る。
「……あ、踏まれたお花さん達は大丈夫かしら?」
彼らの工房で破れたお洋服も繕いたい気もするけれど、戦場になった庭園の被害も気になるのだ。恩人にそんな雑用をさせる訳にはいかないと、愉快な仲間達は恐縮したけれど――。
「出来ることがあればね、お手伝いをしたいの」
娘が真摯にそう語るものだから、最終的にはその厚意に有難く甘えることにした。ハットに飾った羽飾りを撫でながら、ボビン卿は静かに彼女へ助力を乞う。
「ふむ、じゃあ……」
「言われた通り、噴水のお水を汲んで来たけれど――」
それから暫くした後、鐵で造られた如雨露を両手で抱えながら、いばらは件の庭園へと歩みを進めていた。
如雨露の中でかぽかぽと揺れる水は、透き通っていてとても奇麗。これを花に注いだならば、彼らもきっと元気を取り戻す筈だ。少なくとも、ボビン卿はそう言っていた。
軈て黒い教会へと辿り着いた娘は、改めて庭園の被害を確かめる。八割ほどは無事だけれど、オウガに踏み荒らされたらしき個所が二割ほど。
もとが“いばら”である彼女にとって、花が疵付いている様を見るのは悲しいことだ。娘は僅かに眉を下げながら、言われた通りに花々へ澄んだ水を降らせていく。
黒く彩られた世界に降る細やかな恵みの雨は、不思議とキラキラ輝いていて、――まるでお花さん達に魔法をかけて居る気分。やがて如雨露が空になれば、いばらはそっとしゃがみ込み、優しく花達に語り掛けた。
「はやく元気になって、また綺麗な花びらをみせてね」
彼女の聲に応えるかの如く、恵みの露に濡れた黒き花弁がいま、艶やかに煌めいたような、――そんな気がした。
お花にも水を上げることが出来たし、これで一安心。如雨露を返すため、それと服の破れを縫うため、いばらは彼らが工房としているお屋敷へと向かい、少し場所を借りることにした。
「お洋服さん達は、こうやって造られていくのね」
ちょうど、他の猟兵達がオーダーした衣装を作成している最中なのだろう。豪奢なドレスの輪郭を為して行く礼服達はどれも素敵で、娘は思わず見入ってしまう。
裁縫が好きないばらは、自身が身に纏うものも作っている。ゆえに彼らの縫い方や、露出を出来る限り抑えたデザインには、ついつい興味を惹かれてしまうのだ。
「――特にレース飾りがステキだわ」
いばらの興味を一等惹いたのは、漆黒のレースに彩られたチョーカーだ。中央で凛と咲く黒薔薇が、なんとも上品な雰囲気で美しい。
「お邪魔じゃなければ、作り方を教えてもらいたいなぁ」
「あら、ぜひぜひ。一緒にお裁縫しましょう」
ぽつり――。細やかに零された言葉に気付いて、トルソーの婦人達が人懐っこく話しかけて来る。いばらは翠の眸を煌めかせながら礼を告げて、作業台に置かれた黒布にそっと手を伸ばす。滑らかで上質な肌障りが心地好くて、娘の頬は自然と弛んだ。
「良ければ貴女のドレスも仕立てましょうか?」
「ううん、アリス達の依頼で大変そうだから、いばらは大丈夫」
ちくちく、ちくちく。針で布を縫うひと時は、不思議と穏やかな気分に成れる。チョーカーの作り方を教えて貰う合間に、ふと持成し好きのトルソー婦人がそう申し出てくれたけれど、いばらは穏やかに頸を振った。
「また遊びに来た時にね、依頼させてね」
いばらは不思議の国の薔薇だから、遊びに行きたい時はいつでも此処に来ることが出来る。次遊びに来る時にはきっと、庭園の薔薇たちも元気な姿を見せてくれるだろう。
細やかな約束と期待を胸に抱きながら、娘は心穏やかに針仕事へ打ち込むのだった。
大成功
🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
◎
闇夜を編み込んだような美しい黒
享楽をとかしたような麗しいレェス
……私の美しい人魚が纏う
黒の衣装は決まっているの
黒孔雀の尾羽にサテンのリボン、黒薔薇を飾って上質なシルクハットを作りましょう
次に作るのは舞台に映える
艶やかな黒曜の燕尾服――首元には黒薔薇、フリル
一雫桜を飾って
腰元からふうわりひろがって、貴族のように高貴な衣装を―あなたの、お父上である座長のように
うふふ
リルは跡を継いだんだもの
座長らしい衣装があっても良いでしょう?
白が纏う黒曜はリルを包む愛のように美しく映えるわ
帽子を被せて、ほほ笑みかける
何?泣かないのよ
ほら、笑って歌ってごらん
黒耀の舞台の櫻沫の人魚
黒纏う私と一緒に踊って頂戴
リル・ルリ
🐟櫻沫
◎
わぁ!綺麗な黒だ
ふふ、どんなお洋服を作ろうかな
僕は櫻宵のを作ってもらうんだ
悩んでしまうよ
あ!そうだ!
まめいどらいんの、黒のドレスにしよう
露出は少なくみすてりあすに
春の夜の夢のように儚くも美しく、君の彩を彩る宵闇を
あくまで、メインは櫻宵なんだ
ひらひら、僕の尾鰭のように裾がたなびいたら凄く綺麗だろう
漆黒のレェスで編んだショールに、黒真珠を散りばめて
ほら……闇夜に游ぐ櫻人魚のよう
櫻宵がくれた衣装に涙が零れる
これ…とうさんの―
いつもその背をみていた
服を抱きしめる
とうさんみたいに、着こなせるかな?
いいや、着るよ
僕は座長だもの
ありがとう、櫻
くるりひらり
泡沫と桜が舞う
歌い踊る
君と僕だけの黒曜の舞台
●ふたりだけの戴冠式
誘名・櫻宵とリル・ルリのふたりもまた他の猟兵達と同じように、それぞれの纏いを仕立てて貰うために愉快な仲間達の屋敷を訪れていた。
されど、彼等がオーダーするのは自分の為の礼服ではない。誰よりも愛しいひとが纏うに相応しい、壮麗なる黒の纏い。それをオーダーする為に、ふたりは此処へ遣って来たのだった。
戀人に似合う装いは自分が一等よく分かって居ると矜持を抱きながら、希望のモチーフやデザインを伝えたのち。ふたりは長椅子の上で寄り添い合い、世界に一つだけの衣装が完成するのを待って居た。
「櫻宵が選んでくれる、ごしく、楽しみだな」
「ふふ、きっと吃驚すると想うわ」
そわそわ、そわそわ。尾鰭を揺らして待ちきれない様子のリルに、櫻宵はふふりと笑い掛ける。彼の“春”はリルにどんな衣装が似合うか、きっと誰よりも分かって居る。
期待に弾けそうなこころを何とか其の身に押し留めながら、リルは少しだけ得意げに胸を張って見せた。櫻宵に何が似合うか一等分かって居るのは、外ならぬ彼なのだ。
「僕が選んだ衣装だって、きっと気に入ると思うよ」
「どんな衣装かしら、とても楽しみね」
口許を袖で覆いながら、ふふりと嫋やかに微笑む櫻宵。彼の麗人の“冬”は、纏う清廉な彩とは裏腹に、こんなにも温かくて愛おしい。自身のこころが春の陽だまりのように温かくなるのを感じながら、櫻宵はリルと顔を合わせて笑い合う。
ながいながい待ち時間も、ふたりで居ればあっという間に過ぎて行く。先に完成したのは、リルがオーダーした衣装。すなわち、櫻宵の為に造られた衣装だ。
たくさん悩んだ末に彼が見繕ったのは、マーメイドラインの艶やかな黒いドレス。露出は最小限にとどめて、何処かミステリアスな趣を意識している。
華奢な腰を彩るのは銀色に煌めく真珠のベルト、細やかに揺れる櫻珊瑚の意匠はリルの存在を連想させた。
あくまで、主役は櫻宵だ。マーメイドラインの艶やかなドレスは、まるで春の夜の夢のように――、儚くも美しく櫻の名を冠する麗人を彩る“ただの宵闇”に過ぎない。
人魚めいたトレーンが歩みをするめる度に、ひらひら、ひらひら。リルの尾鰭と同様に靡くさまは、雅やかでたいそう美しい。
漆黒のレェスで編んだショールに黒真珠を散りばめたなら、――ほら!
闇夜に游ぐ艶やかな櫻人魚へと其の姿を転じさせた、誘名・櫻宵が其処に居る。
「まあ、とても素敵な衣装だわ。ありがとう、リル」
「やっぱり、思った通りすごく綺麗だよ」
艶やかな洋装にほう、と溜息を零す櫻宵を前に、リルは嬉しそうに宙をふわりと游ぐ。空気を蹴ってくるりと回転すれば、尾鰭が楽し気に揺れた。
「お揃いだね、櫻宵。ほら、ひらひら」
「ええ、ほんと。ひらひらして綺麗だわ」
彼の動きに釣られた櫻宵も、くるりと其の場で回って見せる。すると黒いトレーンが軽やかに其の後を追い、ひらりひらり、同じく楽し気に揺れたのだった。
そうやって、ふたり戯れ合っていると、今度は櫻宵がオーダーした礼服が完成したようだ。名残惜し気に手を振って、リルは別室へと向かう。彼のための衣装を纏うために――。されど、彼は袖を通さずに、その腕に衣装を抱えたまま櫻宵のもとへと戻って来た。
「櫻宵、これ……とうさんの――」
櫻宵がリルのために見繕った衣装は、貴族めいた紳士の纏いだった。闇夜を編み込んだような美しい黒の燕尾服は、享楽をとかしたような麗しいレェスを随所にあしらって、ふうわりと裾が広がるバスクコートめいたシルエット。
優雅に整然とそのフロントを彩るのは、優雅に整然と飾られた深赤のブランデンブルク。襟に揺れる黒彩のフリルには、漆黒の薔薇が咲き誇り。ひらりと揺れるネックレス――珊瑚で造られた桜花弁ひと雫は、闇夜の如き彩によく映えた。
櫻宵の美しい人魚が纏う黒の衣装は、最初から決まっている。
煌びやかで格調の高い、舞台に映える黒曜の燕尾服。
「貴族のように高貴な衣装をイメージしたの」
リルの反応はお見通しだったらしい。麗人は双眸を細めながら、そうっと言の葉を紡いでいく。
「――あなたの、お父上である座長のように」
其の科白は静かに、そして優しく響き渡った。リルの碧い眸から、ほろほろと、雫が零れ落ちる。真珠の何十倍もうつくしい涙、それを拭うことなく、彼は黒い纏いをぎゅうっと抱きしめた。
――いつも、いつも、其の背を見ていた。
リルに歌を教えてくれたひと。彼を確かにあいしてくれたひと。リルにとって、ただひとりの父親だったひと。
彼が生前に纏っていた、黒き纏いに似た衣装が。いま、リルの腕の中に在る。
「何? 泣かないのよ」
そう優しく宥めながら、櫻宵は俯くリルのミルク色の御髪に、そうっと帽子をかぶせてやる。漸く彼が貌をあげたなら、優しく微笑みかけた。
「リルは跡を継いだんだもの、座長らしい衣装があっても良いでしょう?」
白き歌姫が纏う黒曜は、リルを包む愛のようで。どんな彩よりも、美しく映えていた。さらりと流れる髪を撫でながら、櫻宵は穏やかに言の葉を編み続ける。
「ほら、笑って歌ってごらん」
「……とうさんみたいに、着こなせるかな?」
ぽろぽろと涙を零したまま、リルはふるふると首を横に振る。透き通った雫が雨粒の如く、黒い纏いにぽつりと堕ちた。
「いいや、着るよ、僕は座長だもの」
碧色の双眸が、ふわりと弛む。涙を懸命に堪えながら、リルはふわりとはにかんで見せる。愛しい春の優しさが、なによりも嬉しかった。
「ありがとう、櫻」
「――黒耀の舞台の、櫻沫の人魚」
櫻宵はそっとリルの頬に触れ、薄紅で彩った指先でその雫を拭い去る。もう片方の指先は、誘うように彼の白い指先にそうっと触れていた。
「黒纏う私と一緒に踊って頂戴」
リルはこくりと頷いて、ふたりは穏やかに笑い合う。
劇団『櫻沫の匣舟』の座長が正装に着替えたならば、黒き街へ出よう。くるりひらり、
泡沫と桜が舞うように、歌い踊ったならば。其処はきっと、リルと櫻宵だけの黒曜の舞台になるだろう。
大成功
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ティル・レーヴェ
【花綴】
この世界だからこその美しい景色
無粋に染め上げられず済んで良かった
あかを愛し乍らも
世界の彩りをも愛おしむ彼女へと
傍らにて笑み返し
あゝボビン卿、トルソー婦人
とても鮮やかで頼もしきお力であったよ
共にと護り戦うその姿は
この世界に相応しき壮麗さ
纏う衣装の如く見惚れる程に
何と素敵なお申し出
ならば各々方のお力で妾に合う装いをと
お願いしても良かろうか?
お任せ致すよと微笑んで
黒を纏う機会は妾もあまり
故にこそ
七結殿と纏い並ぶのが楽しみじゃ
世界に添う色へと身を包んだなら
其方らの愛する世界を教えて欲しい
さぁ、共に巡ろう
卿や婦人の愛する場所は何処じゃろう?
今日と言う日の想い出を
大好きな彼女と縁と共に残したいから
蘭・七結
【花綴】
塗り潰す“あか”は払われたよう
尊い黒を守護できてよかった
可憐な白のあなたへと微笑んで
広場へと赴けば彼らの姿を視認する
トルソーさんにボビンさん
先ほどはありがとう、と感謝告げ
まあ。とっておきの礼装
ステキなあなたたちに見繕ってほしいの
お願いをしても、よいかしら
黒に身を包む機会はそう多くないの
嗚呼。心が踊るよう
頬だって緩んでしまうわ
ティルさんのお姿も楽しみね
成したいことはたくさん
そのすべてを叶えてしまいましょう
漆黒を纏わい壮麗なる世界を歩む
彼らの愛する場所にて記念撮影を
トルソーさん、ボビンさんもご一緒に
ひとつの思い出を一枚へと描きましょう
ふふ。ステキなお写真の完成ね
大切に胸に抱いて、笑み咲かす
●縁を辿り、世界を巡る
この世界を塗り潰さんとする“あか”は無事に払われたようで。牡丹一華の少女――蘭・七結は、か細い吐息をほっと零す。
「尊い黒を、守護できてよかった」
「うむ。この世界だからこその美しい景色、無粋に染め上げられず済んで良かった」
彼女の傍らに佇む白き少女――ティル・レーヴェもまた、無事に守ることが出来た黒き世界を感慨深げに見つめて居た。
緊張がほぐれた心のままに七結が可憐な少女へ微笑みかければ、ティルもにっこりと笑み返す。“あか”を愛しながらも、世界の彩りをも愛おしむ彼女の優しさは、とても心地が良いものだ。ふたりはゆるりとした足取りで、庭園を後にする――。
そうして広場へ赴いた彼女達は、共にトランプ兵と戦った紳士淑女の姿を捉えた。ティルが手を振りながら聲を掛ければ、彼らもふたりに気付いてくれたようだ。
「あゝボビン卿、トルソー婦人」
「おやおや、さっき手を貸してくれたお嬢さん達か」
「まあ。また会えて嬉しいわ、御機嫌よう」
紳士淑女は彼女達を見るなり、嬉しそうに駆け寄って来る。七結はそんな彼らに向けて、穏やかな微笑みを湛えながら、感謝の言葉を告げた。
「トルソーさんにボビンさん、先ほどはありがとう」
「礼を云うのは此方の方さ。我らの国を護ってくれて、どうも有難う」
「お蔭でオウガたちをやっつけることが出来たの」
「其方らこそ、とても鮮やかで頼もしきお力であったよ」
ティルはふふりと笑みを零し、彼らの姿を改めて眺め見る。共にと護り戦うその姿は、この世界に相応しき立ち居振る舞いだった。
「戦うその姿ときたら、纏う衣装の如く壮麗で、見惚れる程」
「ふふ、嬉しいわ。そうだ、何かお礼をさせて下さいな」
「とっておきの礼装を、貴女たちにプレゼントさせてくれないか」
愉快な仲間達から提案された申し出に、ふたりの眸はきらきらと煌めいた。紳士淑女が纏う華美な礼装は、この国を訪れた時からひそりと気になっては居たのだ。
「――まあ。とっておきの礼装」
「おお、何と素敵なお申し出」
少女たちは彼らの厚意を有難く受け取ることにした。礼装は紳士淑女が手作りしてくれるらしい。希望のデザインやモチーフを問う彼らに、ふたりは或る提案をする。
「ならば……各々方のお力で妾に合う装いをと、お願いしても良かろうか?」
「ええ、ステキなあなたたちに見繕ってほしいの」
お願いをしてもよいかしら、と。七結が首を傾げれば、ボビン頭の紳士は大きく頷いた。それを見たティルは、お任せ致すよと微笑んで――。
斯くして一行は、住人たちの工房でもあるゴシックの趣纏う屋敷へと赴くのだった。
「黒に身を包む機会はそう多くないの」
応接間の安楽椅子に腰を下ろしながら、ぽつり。七結はそんなことを呟いた。白や赤に身を包むことが多い彼女は、何処かそわそわしている。
壮麗で華美な彩に身を包めるなんて、――嗚呼。まるで、心が踊るよう。
頬をふわふわと弛ませながら、七結は傍らの少女へと視線を向ける。
「ティルさんのお姿も楽しみね」
「黒を纏う機会は妾もあまり。故にこそ、七結殿と纏い並ぶのが楽しみじゃ」
ティルもまた、そわそわとオートクチュールな装いの完成を待って居る。黒いドレスを纏えることも楽しみだけれど、七結とお揃いの彩を纏って並び歩けるのも楽しみだ。
そんな風に他愛もない話を楽しんで居れば、すぐに時は過ぎた様で。ボビン卿がふたりを呼びに来た。頼んで居た衣装が漸く完成したのだ。
七結が身に纏うのは、大人びたスレンダーラインの宵色ゴシックドレス。黒いアネモネを編みこんだレースのラバティンカラーは豪奢に白肌を彩って。アンブレラスリーブの境目は、漆黒のリボンがフェミニンに飾り立てていた。
スカートは八重咲の花を幾つも重ねたような、フィッシュテール。覗くおみ足は黒いアネモネが咲くタイツで彩りつつ。黒いリボンが揺れる履物は、宵色のピンヒール。床を踏みしめる度に、小気味よい音が鳴り響き心地好い。
シンプルな黒レースのヴェールを留めるのは、ルビーを飾ったフェロニエール。彼女が愛する“あか”は、黒い世界によく映えた。
一方でティルが纏うのは、愛らしいプリンセスラインの闇色ゴシックドレス。金絲で鳥の翼を綴ったフォーリングカラーは純白の彩。風船の如く膨らんだパフスリーブは愛らしく、黒いフリルを飾れば更に甘さが増すと云うもの。深青のコルセットに飾られた漆黒のレースアップリボンは、少女が動き回る度に楽し気に揺れる。
スカートは花弁を幾重にも重ねたようなデザインで、少女らしい可憐さを演出して。おみ足は真っ黒タイツで彩りつつ、闇色のよく磨かれたロングブーツとの相性は抜群で。ブーツの側面に綴った鈴蘭の意匠が、黒で整えた衣装のアクセントに成っていた。
「まあ、ティルさん。とても可愛らしいわ」
「そういう七結殿は麗しいのう」
ふたり口々に褒め合って、世界に添う色へと身を包んだなら。この特別な衣装に身を包み、外の世界へ飛び出すとしよう。けれど、逍遥には目的地が必要だ。
「そうじゃ、其方らの愛する世界を教えて欲しい」
ティルがふと、彼女達のファッションショーを見守っていた紳士淑女へ聲を掛ける。お勧めの観光地を聞きたいわけではない。彼女は紳士淑女も逍遥に誘うつもりなのだ。
今日と云う日の大切な想い出は、大好きな彼女と、紡げた縁と共に残したい。過去の記憶を失った彼女にとって、それはとても大切なことだった。
「――さぁ、共に巡ろう。卿や婦人の愛する場所は何処じゃろう?」
「まあ、私達もご一緒していいのかしら」
「お言葉に甘えてしまおうか。そうだね、教会の中にはもう赴いたかな」
「いいえ、まだなの。先ずはそこに、いきましょうか」
ボビン卿の提案にゆるりと頷く七結。為したいことは沢山あるのだ。我慢なんて勿体ない。だって、華燭の街に折角遊びに来ているのだもの。その総てを叶えてしまおう。
斯くして彼女達は、漆黒を纏わい壮麗なる世界を歩んでいく。まずは彼らの愛する場所――教会の中にて、記念撮影を行うのだ。
モノトーンに煌めく教会のステンドグラスの前にて、七結とティルは可憐な笑みを咲かせる。紳士淑女は其の様を、微笑まし気に見守っていたけれど――。
「トルソーさん、ボビンさんも、どうぞご一緒に」
七結の優しい聲に誘われて、結局は一緒に写真を撮らせて貰うことになった。だって、彼らも一緒に映らなければ、ひとつの思い出を一枚へと描けないのだから。
まさか共に映らせて貰えるとは想って居なかった紳士と淑女は、いたく喜び何度も彼女達にお礼を告げる。大丈夫と頸を振りながら、七結は現像された写真に視線を落とした。
「ふふ。ステキなお写真の完成ね」
フレームの中には、華美なドレスに身を包んだトルソーの婦人に、豪奢なスーツを纏ったボビン頭の紳士が居る。そして中央に並び立ちながら笑みを咲かせるのは、可憐なティルと大人びた雰囲気の七結。まるで今日の想い出を総括するような一枚だ。
この先、ふたりはこの写真を見る度に、――ゴシックランドの壮麗なる彩を、そして大事な友人と過ごした掛け替えのない時間を、きっと思い出すのだろう。
七結は写真を大切に胸に抱き、ふわりと嬉し気に笑みを咲かせたのだった。
●それは、あなたの為の衣装
ゴシックランドは、黒い彩に包まれたダークファンタジー風味の不思議な国。
見た目はちょっとだけ怖いけれど、気持ちは優しいお洒落な住人たちが、訪れる人を温かく歓迎してくれる。
彼らが仕立ててくれる衣装は華やかで美しく、ひとたび袖を通せばきっと誰でも主役になれる。
人生を豊かに、そして素敵に彩ってくれる装いこそが、ゴシックランドの礼服なのだ。
――さあ、あなたもオートクチュールな衣装をいかが?
大成功
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