●始まりは鰹から――何故なら初鰹
そこには、光が流れていた。
光り輝くエネルギーが、光の粒子となって銀河の中心の様に渦を巻いている。
あるのはただ光だけ。光の届かぬところは深い深い蒼に満ちている。
それは地球上でならば、陽の光が届かぬ深い海で見える蒼だ。
ザパァンッ! ザパァンッ!
ザパァンッ! ザパァンッ!
そんな空間で、まるで波を掻き分けた様な音が断続的に響いている。
蒼と光の渦の中から次々と飛び出して来る、銀色に輝く流線形のボディ。
その腹部には、横縞がくっきりと浮かび上がっている。
それらは――鰹にしか見えなかった。
●超次元の渦
「とまあ、そんな感じになってる超次元の渦への鍵が見つかってね」
ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)が集まった猟兵達に伝えたのは、UDCアースの地球上のどこにもない超空間――の話の筈であった。
UDCアースに現れんとするUDC――数々の邪神達。
猟兵達はこれまでに何度も、その完全な復活を防いできた。だが、中にはいるのだ。グリモアの予知が及ばず完全な復活を果たしてしまった邪神が。
しかし完全復活した邪神は、UDCアースのどこにもいない。
邪神よりも遥かにおぞましき『何か』が、いつか始まる『大いなる戦い』に備えて、己の領域である超空間に隠してしまったから。
猟兵達の儀式魔術【Q】が、その超空間へ至る『鍵』が存在する事を暴きだした。
『鍵』があれば、グリモア猟兵はその『鍵』が対応する空間に他の猟兵達を転送する事が出来るのだ。
「これから行って貰う超空間では、邪神は最初は無数の個体――大量の鰹の群れに分裂した状態でいると言うわけさ」
勿論、ただの鰹ではない。『勝利を司る青き雄武士』と言う二つ名を持つ、雄々しき魚邪神である。その強さは眷属とはわけが違う。
「複数の鰹と一度に戦う事にならないように、気を付けて欲しい」
鰹との戦場となる超次元の渦は『深海の様な空間』になっている。
深い海の様な蒼と渦を巻く光。
それは水ではなく、そこは海ではない。
呼吸は出来るが重力はなく、浮力が保たれ水中を漂う様な感覚と、深海の海底に立っているような感覚とを、同時に感じる不思議な空間。
「鰹の嗜好が反映されたものだろうけれど、特に有利不利はない。感覚に戸惑うかもしれないけれど、いつも通りに戦える筈だよ」
問題は、鰹を倒して終わりではないと言う事だ。
「鰹の後の形態については、断片的しか予知出来てなくてね」
そう前置きし、ルシルは話を続ける。
「まず第二形態。これは見えたのは赤一色。血とかそう言う感じの赤ではなくて……何と言うかこう、すごく『瑞々しい』感じの赤だった」
この赤、以前にも見たような気がしないでもないのだけれど、と軽く首を捻りながら、ルシルはさらに話を進める。
「最後の第三形態については、姿が何も見えなかった。湯気の様なもので覆われてしまったような感じでね」
判っているのは、先制攻撃してくる強敵だと言う事だけである。
「まずは鰹との戦いを頑張って来て欲しい。鰹を多く倒せれば、その後の形態の弱体化に繋がるからさ」
そう言いながら、ルシルは何故か足元に置いてあった大きな鍋を持ち上げた。
どこのご家庭にもありそうな、ステンレス製の大鍋である。
「ん? ああ、これかい。『鍵』だよ」
猟兵達の疑問の視線にあっさりと返して、ルシルが掌から出したグリモアをお鍋に放り込んで蓋をすれば、お鍋がゴトゴト揺れだした。
何だろう。これまでの話の緊張感が台無しになりそうな光景は。
「ああ――もしかしたら、『鍵』がこんな道具なのも、見えなかった最終形態に何か関わりがあるのかもしれないね」
そう言いながら、ルシルはお鍋の上に現れた転移の光をそっと手で示していた。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
こちらは【Q】UDCアースにて『完全』に復活した邪神討伐、のシナリオです。
所謂、ボスラッシュシナリオとなっております。
冒険、日常の章は一切ありません。
戦闘三昧となっております。
まず1章は、『勝利を司る青き雄武士・鰹』。
集団戦の様に、鰹が大量にいます。一度に複数を相手にするとまず勝てませんので、そうならない様に頑張ってください。
2、3章は1体のみのボス戦です。3章は先制攻撃ありとなります。
どんなボスかはまだ秘密ですが、人型の邪神は今回いません。
後はOPとタイトルでお察しくださいな感じです。
ボスラッシュと言いつつ、ネタ戦闘よりかもしれません。
プレイングは公開後からの受付です。締め切りは、ツイッター、マスターページ等で告知の形となります。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 ボス戦
『勝利を司る青き雄武士・鰹』
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POW : カツオヌスロケット
【回遊によって鍛えた】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【呼びだしたジンベエザメ】の協力があれば威力が倍増する。
SPD : ムゲンセビレカッター
【興奮で横縞を浮き上がらせること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【無数に生み出した鋭い背びれカッター】で攻撃する。
WIZ : ブロックジラコール
自身が【食べられそうな恐怖】を感じると、レベル×1体の【共生するジンベエザメ】が召喚される。共生するジンベエザメは食べられそうな恐怖を与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:井渡
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠蓮賀・蓮也」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
クロムウィル・ラグストーン
鰹だ!!目が澄んでて生きがいいピチピチの鰹だ!!
しかも沢山いる!これは…調理するしかないね!!
一度に複数調理はちょっと難しいから1匹づつ相手だね!
日本食の文化はいいよねー。ボクこっちに来て生魚とか大好きになったんだぁ。やっぱり鰹だと…タタキかな?
という訳で高火力バーナー、スイッチ・オーン!炙るよ炙るよ(燃焼)!
包丁もブンブン振り回して鰹狩りだ!
ジンベイザメ?…フカヒレ取れるかな?まあいいや、ついでに倒そう!
(料理)好きとして食材に負けられない!
頭にむかって肉断ち包丁を振り下ろす!!そーれ解体しちゃうよ〜!!
…お塩はあるけど醤油持ってきて無いのは失敗だったかなぁ。
黒木・摩那
初鰹とは、もうそんな時期なんですね。
鰹はたたきでしょう。
今回の邪神退治では一度に複数の相手は困難な上に、
場所は海で開けていると来ています。
これは大変に厳しい戦いになりそうです。
ここはあえて相手の『懐』に飛び込みましょう。
ヨーヨー『エクリプス』で戦います。
重さは軽く、反応性重視。
UCの【風の魔力】を付与して、攻撃範囲を広げます【属性攻撃】。
敵のジンベエザメを利用します。
ワイヤーを絡ませて、ジンベエザメに取り付きます。
そして、【敵を盾にする】ことで、周りを囲まれないようにしつつ、近づく鰹を【なぎ払い】ます。
相手攻撃は【第六感】とスマートグラスのAIで対応しつつ、【念動力】で軌道を逸らします。
フィーナ・ステラガーデン
来たわね!ご飯の時間が!!(カッ!)
え?オブリビオン?完全な邪神?
・・来たわね!ご飯の時間がっ!!(カッ!)
まずは鰹ね!大量じゃない!んふーーーっ!
でも数がやっかいね!杖に乗りながら遠巻きに【属性攻撃】で牽制しつつ
突撃するより少数で突撃してくるのを向かえ打つわ!
やっぱり鰹は火で表面を炙るのが良いと思うのよ!
突進してきたのを回避して
【高速詠唱】UCでそこまで剣を伸ばさずにズパンと焼ききるわ!
やっぱり鰹はタタキよね!!
(アレンジ、アドリブ、連携大歓迎!)
鵜飼・章
完全復活した邪神との戦い…
これはふざけてはいけない仕事だよ
でも何かの記念祭というか
魚類フェスティバルって空気なの何でかな?
元気な鰹だらけだ
千葉育ちの華麗な【水泳】スキルで鰹を【挑発】してうまく1匹誘い出そう
こんにちは鰹さん
僕は見ての通り海の仲間…
食べたりするわけないじゃないか
【優しさ】と【恐怖】を同時に発しジンベエザメを呼び出させる
だってジンベエザメ可愛いじゃないか
遊びたいよね
ジンベエザメさんたちも一緒に泳ごうよ
【動物と話す】で敵意がないことをアピールして
サメをもふもふ…鮫肌だ…サメサメするよ
…そういう依頼じゃない?
そうなの?
UCで闇の賭博王になり唐突に鰹を攻撃
もはやトランプで刺身が作れるな…
司・千尋
連携、アドリブ可
鰹が分裂するとは知らなかったぜ
流石は邪神だな
常に周囲に気を配り何かあっても対応出来るようにする
敵味方の動きを観察し少しでも有利に進められるように意識
敵の数が多いので囲まれないように注意する
近接武器での攻撃も混ぜつつ
『怪誕不経』を使用し敵を分解する
片っ端から分解してやるぜ
…いや、分解というか解体、かな?
足元や背後等の死角、攻撃の隙をついたりフェイント等を駆使
周囲の地形も使い確実に当てられるよう工夫する
攻撃時は数を減らす事を最優先
仲間が攻撃した敵やダメージが大きい敵を狙う
敵の攻撃は可能なら回避
無理ならシールド防御で防ぐ
見た目が鰹だからって
敵を喰おうとは思わないだろ
食あたりしそうだぜ
●食材とは
深い深い蒼色。そこに混ざるのは渦巻く輝き。
宇宙とも深海ともつかない不思議な空間に飛び込んだ猟兵達の目の前を、ザパァンッ!と音を立てて銀色の魚影が幾つも飛び出しては泳いでいく。
「確かに鰹ですね……脂質は少な目の様です」
鰹の群れに視線を向けた黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)がくいっと直した眼鏡はただの眼鏡に非ず。
熱センサなどを搭載したスマートグラス『ガリレオ』である。
「初鰹ですか。もうそんな時期なんですね」
レンズに表示された分析結果で春の訪れを感じて、摩那がほぅと息を吐く。
邪神に春とかあるのだろうか。
だが、季節感よりも、もっと直接的なものを感じている人たちがいた。
「目が澄んでて生きがいいピチピチの鰹だ!!」しかも沢山いる!」
目の当たりにした魚群の勢いに、クロムウィル・ラグストーン(屍人の料理人・f25220)の包帯で覆われていない左目が輝いている。
「そうね、大漁じゃない!」
赤い宝石をはめた杖に足をかけふわりと浮き上がながら、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)も瞳を輝かせている。
2人の目には、鰹は鰹にしか映っていなかった。
「これは……調理するしかないね!!」
「これは――来たわね! ご飯の時間が!!」
大きな包丁を抜きながらクロムウィルが上げた声と、カッ!と瞳を見開いたフィーナの声が重なる。調理したい人と食べたい人が揃った瞬間である。
「……え? 喰う気なのか?」
そんな2人の言葉を聞いて、司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)が思わず目を丸くしていた。
あまり物事に正対しない千尋であるが、あまりに予想外だったのだ。
見た目が鰹だからって敵を喰おうとは思わないだろ――そんな風に思っていたから。
「あれ邪神だぞ? 見た目が鰹なだけのオブリビオンだぞ?」
千尋はこの場では、常識的だった。
あの鰹は全て、正体不明の邪神が分裂した姿だ。ご家庭の食卓に並ぶ鰹とは違う。
「え? オブリビオン?」
しかしフィーナは、さも初めて聞いたと言う風に千尋の方を振り向いていた。
「いや、完全な邪神だって言ってただろ」
「完全な邪神?」
千尋の言葉に、フィーナはさらに首をカクンと傾げる。
「そう。これは完全復活した邪神との戦い……ふざけてはいけない仕事だよ」
そんな2人の間で、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)が表情を変えずに淡々と口を開いた。
「でも――僕も魚類から始まるフェスティバル的なものを感じるんだよね」
何を言い出すんだ、と千尋が向けてきた視線に気づくと、章は何やら自信あり気な薄い笑みを浮かべて言葉を続けた。
「それに、食べられるかどうかで言えば、邪神であれども魚類なら食べられるよ。美味しい奴は美味しいよ。それは僕が身体で証明してきた」
「やっぱり――来たわね! ご飯の時間がっ!!」
淡々と告げた章の言葉が火を付けたか、フィーナはもう一度カッ!と瞳を見開いて声高に告げた。
「ははは、君も中々に我が道を行く人間だね」
そんなフィーナの様子に、章は薄く乾いた笑いを浮かべる。
「……本気か?」
そんな2人の様子に、いつもの皮肉めいた物言いも出てこない千尋の肩を、摩那の手がぽんと叩いて――。
「呪詛耐性があれば行けますよ」
さらっと告げた。
章、フィーナ、摩那。3人とも、これまで何度か食えそうなオブリビオン連中を口にしてきた経験がある。そういう意味では、剛の者と言っていいかもしれない。そしてクロムウィルも――とりあえず今回は、そっち側のようだ。
「……俺はいい。食あたりしそうだぜ」
なお、野菜だったり魚介類だったりなオブリビオンはたまにいるが、そんな連中を食材と見れない猟兵もちゃんといるので、千尋は安心していい。
●生物学の概念も崩れる
「う~ん、一度に複数調理は難しいから1匹づつにしたいよね」
泳ぎ回る鰹の群れを前に、クロムウィルがうむむと唸る。
勇んで包丁を抜いては見たものの、このまま斬りかかったら、よしんば1匹はさばけても他の群れに一斉に襲われてしまうだろう。
そうなれば――いかに猟兵でも、ひとたまりもない。
「そうね。あの数はやっかいね!」
フィーナの得意の炎の魔術でも、一度に蹴散らせる数ではない。ましてや眷属ならまだしも、あれは分裂した邪神なのだから。
鰹を食材としか見てなさそうでいて、2人ともちゃんと状況を認識していた。
到底――倒しきれる数ではない。
「囲まれないようにしたいところだが……流石は邪神だな」
故に攻め込むタイミングを掴めずに、千尋も呻く。
「ここは千葉育ちの僕が、何匹か誘い出してみるよ」
そんな中、章はそこが海底であるかの様に足元を蹴って跳び出すと、何ひとつ躊躇わずに鰹の群れに向かって泳ぎ出した。
「あえて相手の『懐』に飛び込む。良い手だと思います」
離れていく姿を見送って、摩那が成程と一つ頷く。
敵の懐。それは摩那も考えている場所であったから。
だが、章がこの後に取った行動は誰にも――恐らく邪神にも――予想外であった。
「こんにちは鰹さん」
『!?』
「僕は見ての通り海の仲間……」
まさかの挨拶に驚いて大きくエラを開く鰹を他所に、章は千葉の海で鍛えた華麗なドルフィンキックで泳ぎ続けながら、優しいつもりで言い放つ。
『お前は何を言っているんだ?』
「何かおかしいかな? 図鑑にも生命の原点は海と書いてある。つまり人間も、人間になりたいだけの僕も、皆、海の仲間なんだよ」
困惑しつつ群れから出てくる鰹の声――というより思念の類であろうが――を聞いても章は表情一つ変えずに、淡々と言ってのけた。
『――何が言いたい』
「海の仲間同士。食べたりするわけないじゃないか」
困惑を深める鰹に、章は両手を広げて優し気なつもりの笑顔を向ける。
『食 わ れ て た ま る か』
その言葉と表情に恐怖を感じた鰹の周囲に、ジンベエザメが現れた。
●ジンベエも鮫肌
「待っていたよ、ジンベエザメさん」
ジンベエザメの巨体にも、章はするりと寄っていく。
何故なら、章はこれを――鰹がジンベエザメを呼ぶのを待っていたのだ。
「僕は敵じゃない。一緒に泳ごうよ」
そう話かけながら、章の手がジンベエザメの身体に伸びる。撫でてみれば、フリース生地の様な滑らかな手触りと、紙ヤスリの様なザラッとした手触りが交互に返ってきた。
「鮫肌だ……サメサメしてる」
ジンベエザメと遊びたい。もふもふしたい。もふもふじゃなかったけど。
そんな願望を叶えた章は、ジンベエザメの大きな尻尾に、ぺち飛ばされていった。
もう1人、鰹がジンベエザメを喚ぶのを待っていた猟兵がいる。
「それを待っていました!」
ジンベエザメの大きな魚体を確認したその瞬間に動いた、摩那だ。
「っ!」
袖から飛び出したヨーヨーを掴むや否や、短い呼気を吐いてそれを投げ放つ。
『エクリプス』――摩那が投じたそのヨーヨーは、使い手の意思で質量を自在に変えられると言う特性を持つ。
反応性を重視して軽くした『エクリプス』が目にも止まらぬ速さで飛んでいく。
『エクリプス』がジンベエザメの背中を越えた所で、摩那の念動力が『エクリプス』の軌道を変えた。
カクンと曲がった『エクリプス』のワイヤーがジンベエザメに巻き付きついていく。
「乗せて貰いますよ」
そして摩那は足元を蹴って飛び出すと、『エクリプス』のワイヤーを手繰ってジンベエザメの大きな背中に取りついた。
場所が開けた空間で、一度に複数の相手が難しい敵。
まともに戦えば大変に厳しい戦いなる。
だから摩那は待っていたのだ。懐に入り易く鰹の攻撃からの盾と利用するに十分な巨体を持つであろう、ジンベエザメを。
「さて、まずは群れの塊を崩しましょう」
摩那は質量を重くした『エクリプス』に風の魔力を纏わせる。
大きく腕を振るうように投げれば、風を纏った『エクリプス』が、鰹を次々と薙ぎ払って吹き飛ばし、群れの形を崩していった。
●カイタンフケイ
鰹の群れが崩れた。
その好機に最も早く動いたのは、千尋だ。
利用できるような地形もないこの空間で、群れが崩れると言う鰹たちの隙は攻撃を確実に当てられる好機。
「――怪誕不経」
その言葉を口にした千尋の上に、300を超える細長い光がずらりと並ぶ。
『おのれ! よくも折角喚んだジンベエザメを』
「悪いな」
ジンベエザメの上から摩那を落とそうと、鰹が飛び出す――より早く。
千尋の頭上で光が瞬いて、次の瞬間。
鰹の身体から背びれがポロリと落ちた。
『な、なんだその光は』
千尋に伝わる、鰹の驚いたような思念。落ちた背びれが付いていた鰹の背中は、あったはずの身が何かに削り取られたようにごっそりと消えて骨が露出していた。
怪誕不経。
怪しく信用できない――そんな意味合いの四文字の言葉を名とした千尋の業が生み出すは、触れたモノを分解する光の槍。
「片っ端から分解してやるぜ」
身体の半分を抉られたように失った鰹に、千尋はさらに光槍を放つ。
光が瞬く度に、光の尾すら残さず槍が飛んで、鰹の身体を貫き分解する。鰹が頭と中骨と尻尾だけを残した姿へなるまで、ほんの数秒。
「……いや、分解というか解体、かな?」
からかう様な物言いで、千尋が他の鰹に告げる。
まるで食べられたかのように頭と尾を残したのは、わざとであろうか。
『喰われすらしないとか、怖い』
新たに喚んだジンベエザメの陰に隠れようと鰹たちに光槍を放ち、ジンベエザメごと分解していく千尋の表情からは、何とも読み取れなかった。
●刺身か、タタキか
「よ~し解体しちゃうよ~!」
クロムウィルが振り下ろした大きな『肉断ち包丁』が、鰹を胴体の中心で頭と尾との真っ二つにぶった斬る。
「よし! まず一匹!」
クロムウィルは斬り落とした頭側に駆け寄ると、エラを掴んでぐっと開いて、『肉断ち包丁』をぶっ刺して締める。
『そんな包丁、回遊で鍛えた身体で折ってくれる!』
そこに、思念と共にロケットの様な勢いで突っ込んでくる鰹が一匹。
「料理好きとして食材に負けられない!」
クロムウィルは振り上げた包丁を、突っ込んできた鰹の頭に振り下ろした。
絶対・解体斬。
それは料理人としての矜持の一撃。直撃すれば地形すら砕く『肉断ち包丁』の斬撃が、今度は鰹を縦に真っ二つにする。
「ふぅ」
衝撃で痺れた腕で汗を拭って、クロムウィルは斬った鰹に視線を向ける。
切り口を見てみれば、初鰹っぽい綺麗な赤が覗いていた。
「うんうん。これだけ綺麗な身なら、そのままお刺身でも行けそう。それとも、やっぱり鰹だと……タタキかな?」
「鰹はたたきでしょう」
「鰹はタタキよね!!」
調理法を考えるクロムウィルの頭上に、ジンベエザメの上の摩那と杖に乗って飛んでいるフィーナの声が降ってくる。
「オッケー、タタキにするよ!」
「こっちも一緒に頼めるかな」
頭上の2人に手を振るクロムウィルの背後にかかる声。
振り向けば、いつの間にか鴉を思わせるロングコート姿になった章が立っていた。
「闇の賭博王ブラックレイヴンとなった僕なら、トランプで刺身を作れる。だけど、闇の賭博王は炎を出せないんだ」
寂しげに言って、章が腕を軽く振るう。
スパンッ!
鳴り響いたのは、空を裂く音。闇のオーラを纏ったトランプが新幹線以上の速さで放たれ、空中の鰹を真っ二つに。
「うんうん、まとめてタタキにしちゃおう! スイッチ・オーン!」
トランプで鰹を斬った章にも動じず、クロムウィルは超高火力バーナーをぶった切られた鰹たちに向ける。
「日本食の文化はいいよねー。ボクこっちに来て生魚とか大好きになったんだぁ」
ゴォォォォッ!
クロムウィルは焦がしすぎないよう注意し、バーナーから勢い良く噴き出る炎で鰹の皮を慎重に炙っていった。
●タタキなら、完結後でもきっと大丈夫
深海の様な蒼を、炎の赤が照らす。
花の様な杖に乗って飛びまわりながら、フィーナは鰹が再び群れを作らないよう、掌から散発的に炎を放って鰹たちを牽制して回っていた。
(「んふーーーっ!」)
まあその表情を見れば『早く鰹食べたい』と書いてあるので、炎属性の魔術を使っているのは得意だからとか牽制の為だけではないようだ。
『おのれ、じわじわと熱いだろうが!』
『だがその程度の炎、回遊で鍛えた鰹のボディなら!』
業を煮やした思念と共に、数体の鰹がジンベエザメの尻尾にバシッと叩かれた勢いに乗って、ロケットの様な勢いで飛び出した。
「おっと」
気づいたフィーナは飛行を解除し、杖を両手で構える。
杖先端の檻の様な部分がカシャッと開いて――黒い光が溢れた。さっきまで散発的に放っていた炎とはまるで違う。
凝縮された、魔の黒炎。自然界ではあり得ない炎のイロ。
「詠唱省略――焼き払えぇぇえええ!!」
突っ込んでくる鰹に対し、フィーナは身をかがめながら杖を振るった。
鰹が通り過ぎた衝撃でフィーナの頭からとんがり帽子が飛んでいき――全身を焦んがりと焼かれた鰹がポテリと落ちる。
斬リ払ウ黒炎ノ剣。
最大出力で放てば戦艦も斬れそうなほどの長大な黒炎の刃を放てる術だが、フィーナは鰹たちを飲み込める程度に留めていた。
「やっぱり鰹は、火で表面を炙るのが良いと思うのよ!」
焼き加減に満足気なフィーナの上に、飛ばされた帽子がふわりと落ちて来る。
「タタキにしとけば、すぐ食べられなくても少し持つしね!」
帽子を被り直しながら、フィーナの視線は次に炙り焼きにする鰹を探していた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
波狼・拓哉
鰹…鰹?邪…神…???まあ、いいか。考えるだけ無駄ですし。所で鰹のたたきなら炙るより燻る方が…あ、そういう話じゃない?
まあ、燻るようのチップとか持ってきてないから仕方なし。炙りましょう。敵の密集してる所にミミックを投擲。化け焦が……まあ、表面ぱりっとするくらいでも焦げに入るでしょう。化け焦がしなー。…あ、無差別なんで味方は気を付けてね!
自分は衝撃波込めた弾でたたき…ゲフン撃ちつつ、目立たない・闇にまぎれるで相手の視界から消えておこう。近い奴から横縞狙って撃って部位破壊しつつ、ミミックの方に吹き飛ばして一気に焼きましょうか。…匂いがなー良すぎるよなー。
(アドリブ絡み歓迎)
●タタキをさらに燻製にしても美味しい
「鰹……鰹?」
波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)の目の前を、数えきれないほどの魚影が泳いでいく。
青い背中と銀の胴体。腹部に走る横縞。
うん。どう見ても鰹だ。
「邪……神……???」
超常現象――UDCを含む――を専門とする探偵一家の生まれである拓哉をしても、これが邪神と言われては首を傾げざるを得なかった。
とは言え、どれだけ考えても、目の前の事実は変わらない。
「まあ、いいか」
考えるだけ無駄だと、拓哉は傾いていた首をあっさりと戻した。
やるべき事はいつも通りだ。上手く立ち回る為に現状を把握する。そして、把握すると言う事は、視る事だ。
見えてくるのは、ぶった切られてからだったり丸ごとだったりと様々だが、鰹のタタキが先行していた猟兵達の手でモリモリ作られている状況。
「鰹のたたきなら、炙るより燻る方が……」
拓哉がぽつりと呟いた通り、鰹のタタキは燻して作る方法もある。
鰹のタタキと言えば、皮を炙って作られる事が多いだろうが、燻すことで炙りとはまた違う味わいのタタキになるのだ。
なるのだが――。
「まあ燻るの時間かかりますし、燻り用のチップとか持ってきてないんですけどね」
軽く肩を竦めて、拓哉は自分で呟いた案を脳裏の奥へとしまい込んだ。
燻煙を発するための燻煙財。燻煙を閉じ込めるための燻製窯。
そして何より時間。熱燻と呼ばれる高温で燻す手法をとっても、あの鰹のサイズであれば、それなりに時間を要するだろう。
「仕方なし。炙りましょう」
燻製を諦めると、拓哉は召喚しておいた箱型生命体『ミミック』を掴んだ。
「……まあ、表面ぱりっとするくらいでも焦げに入るでしょう。化け焦がしなー」
そう言いながら、拓哉は『ミミック』を放り投げた。
「これから無差別に焼くんで、気を付けて下さいね!」
鰹よりも速く群れに飛び込む猟兵がいるのを見て、拓哉はそう告げる。
声が聞こえたか、その猟兵は連なった珠で鰹を殴り飛ばすと、自らも群れから飛び出して行った。
そして鰹の群れの中にできた1匹分の空隙に、ぼんやりと薄青く輝く箱型生命体が放物線を描いて、落ちて――。
「陽炎が全てを焼き尽くす時だ!」
拓哉が声を上げた刹那、箱が開いて炎が広がった。
偽正・炎精陽炎――フォーマルハウト・ミラージュ。
『く、このままでは焼かれる――っ!』
突如襲い来る熱波と炎に、鰹たちが横縞を濃く浮かび上がらせる。
青い背びれの刃が炎を斬り裂いて――それだけだった。斬られても炎は消えず意思を持つように再び繋がって、鰹たちを焼いていく。
鰹を焼くその炎は、『ミミック』自身が化けたものだ。
『術者だ、術者をさが――!?』
パァンッと乾いた銃声と、横手から撃ち込まれた銃弾の衝撃が鰹の思念を遮って、炎の中へと押し戻す。
(「焼ける匂いがなー。良すぎるよなー」)
そう胸中で呟きながら、拓哉は炎を利用し鰹たちの死角から、その腹部に浮かんだ横縞へと『バレッフ』の銃口を向けていた。
成功
🔵🔵🔴
鈴丸・ちょこ
【花守】
ほう、随分活きの良い魚だな
こいつは狩り甲斐があるってもんだ
感覚は妙だが、水を被る訳じゃねぇなら問題無い――行くぞ生臭坊主!
野生の勘で魚と爺の動きを読み以下早業で対処
吹き飛ばす先に回り込みがぶりとUC
横縞乱すように胴を抉ってやる
――中々良い味してやがるな、覚えたぜ
からの2回攻撃で目潰し狙う覇気ぱんちも見舞い視認も阻害
以降も他敵と引き離すよう、爺と追い込みを
時折魚のぬめりを落とすよう毛繕いの演技もし、敢えて隙見せるフリして誘き寄せ――騙し討ちで更に傷口抉るUC
邪神だかゲテモノだか知らねぇが、アポカリプスを生き抜いてきた俺の爪牙に捌けねぇ魚はない――活作りに仕上げて華々しく終わらせてやらぁ!
重松・八雲
【花守】
ふむ、かつ雄武士か!
腹が、いや腕が鳴るのう!
ちょこにゃんの為――御猫様に勝利と肴を捧ぐ為ならば、火の中水の中渦の中!
見事漁獲してみせよう!
断じて生臭ではないが!
いや破戒僧ではあるがー!
野生の勘で戦友や魚の動作読みつつ行動
先の意志をUCの力に変え攻守や速度強化
勢いよく敵に突っ込み金剛でぶん殴り、他敵影無い方向へ吹き飛ばす
以降も追込意識
鮫が出たら金剛で再度吹き飛ばして協力阻むよう散らし、突進は勘と見切りで動き読み直撃回避
あとなる戦友の毛並を守るべく、危険時はオーラ防御も重ね庇いに!
腐っても武士ならば最期は嶮浪ですぱりと捌いて締めようか!
見事な活きじゃった――そして見事なお造りになったのう!
●花守
――チリン。
小さく響いたその音は、首元に巻かれた赤いリボンに結ばれた鈴の音。
リボンの下は、絹の如き艶やかな黒い体毛に覆われている。同じ黒毛に覆われた耳がピクリ、尾もゆらり。まあるい顔の口元からは、おひげがピンと前を向いている。
そう。鈴の持ち主は人間ではない。
猫だ。
何ともあいらしい黒猫である。何故この邪神の潜む空間に? もしや、迷い込んでしまったと――。
「ほう、随分活きの良い魚だな」
黒猫の口から、すごい渋い声が発せられた。
猟兵だった。
鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)は確かに猫であるが、数多の苦難を乗り越え、とっても立派に成長した41さいの『おす』である。
「こいつは狩り甲斐があるってもんだ」
鰹と言う獲物を前に、ちょこはぺろりと舌なめずり。
「うむ。確かに腹が――いや腕が鳴るのう!」
そんなちょこの言葉を、隣に立つ重松・八雲(児爺・f14006)が首肯する。
還暦過ぎてなおこうして前線に立つ、御年69歳の老剣士である。
「確かに感覚は変な感じだが。水じゃねぇなら、水を被る事もねぇ。なら問題無い」
「わしも問題ない。ちょこにゃんの為――御猫様に勝利と肴を捧ぐ為ならば、火の中水の中渦の中! 見事漁獲してみせよう!」
うずうずした様子で尾を左右に揺らすちょこを見下ろしながら、八雲は手で顎鬚を撫でつけながらいつでも行けると告げる。
「なら――行くぞ生臭坊主!」
「断じて生臭ではない! いや破戒僧ではあるがー!」
言うなり駆け出したちょこの後に、八雲が返しながらついていく。2人合わせて110歳の猫と妖狐のコンビが、鰹の群れに向かっていった。
●猫と狐流・お造りの作り方
「爺、追い込んでいくぜ」
「応とも」
ちょこの渋い声に一つ頷いて、八雲はすぅと深く息を吸い込んだ。
空気と共に、腹腔に気を満たす。
「刮目せよ!」
八雲の口から気合の籠った声が発せられた瞬間、その全身をオーラが覆った。
衝天――ガッツ。
天を衝く炎が如きその輝きは、覚悟や気合と言った八雲の意志と、それを支える堅固たる根性の表れ。
「ぬんっ!」
オーラを纏った八雲が強く足元を踏み込めば、残像すら残さず姿が掻き消える。
「追いついた」
『!?』
あっという間に鰹を追い越し前に回り込んで見せた八雲は、ニィっと笑って連珠を振りかぶっていた。
「かつ雄武士よ。おぬしは確かに速い。じゃがのう――読み易いわい」
告げる言葉は、八雲が身体に刻んだ場数の証。
厳つい顔つきに反し、けだまや甘味をこよなく愛する好々爺――今でこそ平時の八雲はそんな人物であるが、その半生は決して穏やかだったわけではない。
幼い頃に故郷が滅んでから、八雲は形見の刀と己の拳のみを頼りに生きてきた。我武者羅に武者修行に明け暮れた頃もある。
速度の差が埋まれば、鰹の前に出るなど造作もない。
――これから無差別に焼くんで、気を付けて下さいね!
そこに聞こえる、第三者の声。
見上げれば、青年がなにか青いものを放り投げていた。
「焼く、か――わしらはお造りにしたいんじゃ!」
タタキも悪くはないが、折角新鮮なのだ。生がいい。八雲は腕に力を込めて、連珠『金剛』で鰹を殴り飛ばすと、吹っ飛ばした鰹を追って自身も魚群から飛び出した。
群れから強引に引き離された鰹に飛び掛かる、黒い影。
そこに鰹が来るのが判っていたかのようなタイミングで、ちょこが動いていた。宝石の様な金眼をギラリと輝かせ、両手の爪をにゅっと伸ばして鰹の腹に突き立てる。
『ぬ!? 何をする気だ!』
腹に取り付かれた事に気づいた鰹が振り払おうと身を捩るが、ちょこはしっかりと爪を食い込ませ、鰹にしがみ付いて離れない。
そして――ちょこは鰹の腹に容赦なく噛みつき、肉を食い千切った。
これぞまさに踊り食い。
『!?』
「――中々良い味してやがるな、覚えたぜ」
驚く鰹にちょこは覚えた味を覚えた事を告げると、その体を一気に駆け上がった。
ガブリと突き立てたのは、智慧ある獣の牙。噛みつく事で敵を識る業。
動きの癖を覚えた鰹の身体は、ちょこにとっては揺れる足場。駆け抜け、覇気を乗せた肉球猫ぱんちを、ぎょろっとした目に叩き込んだ。
「これで片眼はしばらく見えんだろう」
『ならば――こうだ!』
片目の視界を潰された鰹は、ちょこの声を頼りに背びれカッターを放った。幾つもの青い刃が、殆ど当てずっぽうに四方八方へと放たれる。
「ほう。この刃の数、見事な活きじゃ」
青い背びれの刃が飛び交う中を、八雲がちょこの前に出た。
かすめた青い刃が、八雲が纏うオーラを裂いて頬に浅い傷をつける。
「危ないのう。ちょこにゃんの黒毛は、毛先じゃろうが刈らせん!」
八雲の手が、嶮浪の柄に伸びる。鞘走るは豪快な濤乱刃の刃紋。大振りの居合が、ちょこに届きそうな鰹の青い刃を悉く弾き飛ばす。
「さて。すぱりと捌いて締めようかの!」
振り抜いた居合から上段の構えに変えて、八雲は刃を鰹のエラの辺りへ振り下ろす。
「ああ。邪神だかゲテモノだか知らねぇが、アポカリプスを生き抜いてきた俺の爪牙に捌けねぇ魚はない――活作りに仕上げて華々しく終わらせてやらぁ!」
鰹の腹の下に回り込んだちょこが、鋭い爪を全開に伸ばして腹を斬り裂く。
八雲の刃が頭を落とし、ちょこの爪が裂いた腹から腸が零れ落ちた。
「うむ! 見事なお造りになったのう!」
「新鮮な魚は生に限る」
後は鱗と骨を落とせばそのままお刺身にできそうに仕上がった鰹を前に、八雲とちょこは満足気に顔を見合わせた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ガーネット・グレイローズ
【かんさつにっき】
今度は鰹!?…前にもいわしの邪神を見たような気がするんだが、
さて、勝利を司るという軍神の力をみせてみろ!(誤解)
なんだか不思議な空間だな。
浮力があるから水の中のようだが、呼吸もできるし。
ここは宇宙での戦い方を応用してみよう。
ブラッドエーテルの光を全身に流し、体を身軽な状態に。
そして<空中戦>と<空中浮遊>の技術を駆使して、
超空間を泳ぐように動き回ろう。
「みんな気をつけろ、あのヒレはカッターのように鋭いぞ」
無限に生まれるカッターは脅威だが、落ち着いて
<戦闘知識>を元に攻撃の軌道を読み取り、偽翼刃の<武器受け>で
ガード。反撃に【烈紅閃】の宇宙カラテを鼻っ面にぶち込んでやる!
シリン・カービン
【かんさつにっき】
魚はあまり詳しくないのですが、
確かに以前戦った鰯とは違うようですね。
で、やはり美味しいのですか?(杏を見て)
今日は猟ではなく漁の日です。
精霊猟銃を構え【スピリット・バインド】を発動。
祭莉が誘導してきた鰹、小太刀が一本釣りした鰹、
ガーネットが一撃喰らわせた鰹を投網弾で捕らえます。
食欲あふれる子供たちを前に、
脅えた鰹はジンベエザメを呼ぶでしょう。
鰹に近寄って目隠しを。
横縞が浮かんできたらジンベエザメの方に向け、
目隠しを外します。
群らがるサメには無数のカッターで対抗。
解体が済んだらフカヒレを回収します。
鰹に止めを刺すのも忘れずに。
新鮮なうちにシメておきましょう。
(精霊猟刀をスラリ)
木元・杏
【かんさつにっき】5人
耳を澄ますと
ほら、聞こえる。生命のさざ波の音
ざっっぱぁんっ!
初鰹、とても美味(こくんと頷き)
強敵だけど大丈夫。玉ねぎスライスにぽん酢は持参済
召し上がる
円遊をしてる鰹…楽しそう
ん、まつりんがロデオする代わりにうさみん☆ごー
突進し、鰹に足蹴り
飛び乗って円遊に混ざって?
ふふ、メリー鰹ゴーランド
おいしそう(こくん)(じゅる)
む、よだれは垂らしてない(ふきふき)
背びれカッターはうさみみメイドさんズがお相手
ん、ジンベイザメいる?
なら盾にしてカッターの直撃回避
ジンベイザメはふかひれになる…(じゅる
本体は特大刺身包丁(灯る陽光)で捌いて
美味しくいただく
木元・祭莉
【かんさつにっき】で!
そろそろ、鰹の季節なんだってね。
青魚は傷みやすいから、手早く片付けろって。
うん、おいら鰹節の匂い大好き!(猫の血筋?)
かいゆうぎょ?
ふーん、群れで突撃してくるんだ。
乗ってみたいなって思ったケド、ロデオはうさみん☆にお任せしよっと!
一度に対処するのは、一匹だけ。
ん、陽動。疾走発動!
鰹好みの小エビぶら下げ、高速飛行ダッシュ!
ホラホラ、捕まえてごらんなさーい♪(お尻ぺんぺーん)
みんなのいる方に誘導し、直前で90度の方向転換!
側を駆け抜け、投網タイミングに合わせ。
みんなに一匹ずつ捌いてもらう間、ダッシュ&ジャンプ絡め、回遊ガイド続けまっす。
最後の一匹焼くときは、おいらも参加ね!
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
成程、囲まれると厄介だし
ここは一本釣り?
祭莉んが誘導した鰹を引き受けて
糸雨を繋いだ白雨の矢で狙い
一本釣りの要領でシリンの前に飛ばす
(スナイパー・釣り・おびき寄せ)
ガーネット人魚みたいでカッコいい!
杏に頷き
鰹といえば刺身に叩きよね
生姜醤油も大事大事
ふふふ、情報収集も準備万端よ
ジンベエザメも美味しいらしい
フカヒレは最高級品だって
鮫肉も新鮮なら臭みも少ないし
刺身は勿論すり潰して蒲鉾にするんだってさ
糸雨で網を張りオーラ防御展開しつつ食欲で挑発
向かい来る鮫群の動き見切り
糸雨で武器受け
カウンダ―でヒレを獲る
鮫を一掃したらいよいよ鰹ね
突進の勢いも利用して剣刃一閃!
節おろしにするよ
大漁大漁♪
●かんさつにっき
「耳を澄ますの」
そう言って瞳を閉じた木元・杏(杏どら焼き・f16565)に倣って、【かんさつにっき】の4人も目を閉じ耳を澄ませてみた。
「ほら、聞こえる。あれは生命のさざ波の音――」
杏がそう呟いた直後――。
ざっっぱぁんっ!
波もないのに波音みたいな音を立てて、鰹の群れが飛び出して来た。
「本当に、今度は鰹か……」
目を開いたガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)は、そこにいる横縞の入った青と銀の魚体に何とも言えない視線を送っていた。
(「……前にもいわしの邪神を見たような気がするんだが」)
胸中で独りごちるガーネットの耳に、すぐ近くの会話が入って来る。
「魚はあまり詳しくないのですが、確かに以前戦った鰯とは違うようですね」
「鰹はサバ科の魚で、鰯はニシン科よ。どちらも青魚で回遊魚だし近い種類ではあるけれど、違う種類ね」
森育ち故に魚はあまり詳しくないシリン・カービン(緑の狩り人・f04146)に、下調べをバッチリしてきた鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)がイワシとカツオの違いを説明していた。
「そうだよな……あれはいわしだったよな」
そんなシリンと小太刀の会話は、ガーネットに『いわしの邪神を見た』のが『気がする』ではないと思い知らせていた。
あなた、南極でサメも見てるじゃないですか。
閑話休題。
「コダちゃん。青魚はわかるけど、かいゆうぎょって?」
「群れで泳ぎ続ける魚の事よ。餌とか水温とか色々あるけれど、鰹も鰯も、泳ぎ続けることで鰓から呼吸してるのよ」
首を傾げた木元・祭莉(どらまつりん・f16554)の問いに、小太刀は調べておいた魚の生態を告げる。
「ふーん……群れで突撃してくるんだ」
それを聞いた祭莉は、鰹の群れを見やり――にんまりと笑みを浮かべていた。
(「祭莉ん、何か思いついたみたいね?」)
その表情で察して、小太刀は胸中で呟く。何をする気かはまだ判らないけれど。
一方――。
「で、やはり美味しいのですか?」
「初鰹、とても美味」
とても真面目な顔で訊ねるシリンに、杏もきりりとした顔でこくんと頷いていた。
「わたしのおすすめは、玉ねぎスライスにぽん酢。持参した」
きっと涙目になって作って来たんであろう玉ねぎスライスのタッパーを、杏が誇らしげに掲げる。
なお、玉ねぎはレンチンしてからだと涙出にくくなるそうです。
「鰹といえば刺身に叩きよね。生姜醤油も大事大事」
「青魚は傷みやすいから、手早く片付けろってね。あとは鰹節! おいら、鰹節の匂い大好き!」
うんうんと首を縦に振る小太刀の隣で、祭莉のもふもふの狼尾が揺れる。一般的に鰹節を好むのは猫と言われるが――祭莉にそんな血筋でも入っているのだろうか。
「成程、判りました」
仲間たちの鰹評を一通り聞いたシリンが、頷き背中の猟銃を取る。
「今日は猟ではなく漁の日ですね」
そういう事だ。
●友釣りからの一本釣り
「ほいっと!」
ボッと小さな音を立て、白炎が燃え上がる。
「おいらの準備はおっけーだよ!」
「私もいつでも行けるぞ」
白炎を纏った祭莉に、ガーネットが頷く。
「うさみん☆はいつでも」
頷く杏の傍らに佇むは、いつものうさ耳付きメイドさん人形。
そして2人と1体が、鰹の群れの方へと飛び出した。
ガーネットは途中で足を止め、祭莉とうさみん☆が鰹の群れにさらに接近していく。
そして――作戦開始。
「うさみん☆ごー」
まず口火を切ったのは、杏が離れた所で操る人形の蹴り。
「泳いでるだけ? ホラホラ、捕まえてごらんなさーい♪」
蹴られて動きが止まった鰹に、祭莉がもふもふ尻尾のあるお尻を向けて、ぺしぺし叩いて挑発してみせる。
『そんな見え透いた挑発に乗るとでも――』
「小エビもあるよ?」
ならばと鰹の思念を遮って、祭莉は短い棒にぶら下げた海老を鰹の鼻先に持って行ってぷらーんと振ってみせた。
『……』
一瞬、周りの鰹たちまでもが固まった。
その隙に、うさみん☆が蹴った鰹の背中によじ登る。
『そんな餌にくいつくぁぁぁぁぁ!!』
それに気づいた様子もなく、鰹はなんだか奇声じみた思念を上げて祭莉――の持つ小エビ――目掛けて、まっしぐらに突っ込んできた。
「疾走発動!」
刹那、祭莉の足裏で爆ぜる白炎。
風輪の疾走――ホワイトラッシュ・オブ・ウインド。
『!?』
白炎の齎す加速と飛翔能力で逃げる祭莉を、鰹が追う。
『エビィィィィィイ!』
(「うわ、すっごい揺れてる」)
ちらりと祭莉が振り向けば、先頭の鰹の上でうさみん☆のうさ耳がガクンガクンと揺れていた。鰹ロデオの揺れは、すごそうだ。
(「乗ってみたいなって思ったケド、うさみん☆にお任せで良かったかも」)
間近で見る祭莉は、そんな風に思っていたけれど。
「ふふ、メリー鰹ゴーランド……おいしそう」
離れてうさみん☆を見守る杏は割と余裕と言うか、口元がじゅるりと緩んでいた。
「杏、よだれ出そうです」
「む」
シリンに諭され、杏は口元ふきふき。
そんな様子が、遠目にも祭莉に見えていた。それはつまり、背中に硬そうな翼を広げたガーネットのすぐ近くまで来たと言う事だ。
「よろしく!」
ガーネットにぶつかる寸前でそれだけ短く告げると、祭莉は翔ける速度を落とさず直角に曲がっていった。
「さて、勝利を司るという軍神の力をみせてみろ!」
若干の誤解を含んだ言葉を口に出しながら、鰹を待ち受けるガーネットには、どこか余裕があった。
身体に感じる、水の中の浮力の様なもの。
だが水の中ではない。
ガーネットは、これと似た感覚を良く知っている。
無重力。
重力のない宇宙と似た感覚の空間ならば、宇宙での戦い方も応用できる筈だ。
ブラッドエーテル――全身を駆け巡るサイキックエナジーで自身の身体を軽くしつつ意識的に操ると、ガーネットは鰹の群れの中へ、泳ぐ様に飛び込んだ。
鰹の速度からすれば、砲弾の中に飛び込むようなものだが、ガーネットは祭莉(の持っている海老)を追っていく鰹を、最小限の動きで躱してみせる。
「ガーネット、人魚みたいでカッコいい!」
「はは、ありがとう。それじゃあ、行くぞ!」
鰹の壁の向こうから聞こえた小太刀の声に返して、ガーネットは鮮血のように紅いエーテルを足に纏わせる。
「多少手荒にいかせてもらうぞ!」
烈紅閃。
紅い輝きを纏ったガーネットの素早い蹴りが鰹の腹を叩いて、蹴られた鰹が群れの外まで大きく蹴り飛ばされていった。
ガキンッ!
そこに響く鈍い金属音。
ガーネットの背中から広がる液体金属の翼が、鰹の背びれカッターが弾いた音だ。
「みんな気をつけろ、このヒレはカッターのように鋭いぞ」
体感した背びれカッターの勢いと鋭さを声に出して伝えながら、ガーネットはブレイドウイングで青い刃を弾き続けた。
祭莉が群れごと誘き寄せ、ガーネットが群れから個体を外す。
次は、黒漆塗の和弓を構えた小太刀の出番だ。
蹴り飛ばされてぐるぐる回っている鰹の背びれを、真っ白な矢が射抜いた。その矢筈には、細く丈夫な鋼糸が括り付けられている。
『白雨』から放つ矢と鋼糸の『糸雨』の組み合わせ。
これは、そう――鰹とくれば、一本釣りだ。
「よし、かかった! いくわよ、シリン!」
小太刀が『糸雨』をくんっと引けば、鰹がぐいっと引き寄せられる。
「森の精霊よ、彼奴を縛れ」
最も馴染んでいるであろう精霊に呼びかけながら、シリンは精霊の力を宿した猟銃を向け、引き金を引く。
放たれた弾丸はスピリット・バインド。
精霊の力で作られる捕獲の弾丸は、爆ぜると蔦と枝が混ざったような投網となって鰹に絡みついていった。
鰹、捕獲完了。もう、びたんびたんとすら動けない。
「ん。釣りたてを召し上がる」
その手から刺身包丁型の白銀の光を輝かせ、杏がうきうきと鰹に近寄る。
「新鮮なうちにシメておくのは、獣も魚も同じですね」
シリンも小振りの猟刀をスラリと抜き放つ。
『食 わ れ る !!!!!!!』
まな板の上にいるのも同じとなった鰹の恐怖が、ジンベエザメを呼んだ。
「やはりそう来ましたね。食欲あふれる子供たちを前に、脅えると思いましたよ」
自分も脅しておきながら、シリンはジンベエザメを見上げてさらりと告げる。
「ふふふ、来たわね。ジンベエザメの情報収集もばっちりよ!」
そして小太刀にも、この状況は予想済みであった。
「ジンベエザメのフカヒレ、最高級品なんだって。鮫肉も新鮮なら臭みも少ないし、刺身は勿論、すり潰して蒲鉾にしても美味しいんだってさ」
ちょっと誇らしげに、小太刀はジンベエザメ情報を告げる。
これはとても大事な情報だ。
何故なら――。
「ジンベイザメはおいしい……ふかひれになる……美味しくいただく!」
杏がじゅるりと、その気になったから。
●
増えたジンベエザメ。
「精霊よ、視界を奪え」
その数を見たシリンは、精霊に呼びかけた。シリンに応えた精霊が、投網を変化させて捕らえた鰹の視界を塞ぐ。
動けず、視界も奪われ。ジンベエザメは既に喚んでいる。
鰹に残されたのは、あとは背びれカッターのみ。
だが――見えないのに放つ闇雲、敵味方の区別がある筈もない。
それこそがシリンの狙い。
「うさみみメイドさんズ、おねがい」
杏が『うさみみメイドさんΩ』で増やしたうさみみメイドさんで壁を作れば、背びれカッターの被害が出るのはジンベエザメのみとなる。
『!!』
背びれカッターを浴び続ける内に、1体のジンベエザメは意を決した様に3人に突っ込んで来る。
最大の魚類と言われるだけあって、ジンベエザメの巨体はそれだけで武器だ。
当たれば、の話だが。
「調べた通りね。大きいけど、鰹ほど速くはない。これなら!」
動き出したジンベエザメの前に、小太刀が『糸雨』を張り巡らせて鋼の網を作る。
『――?』
ほぼ不可視の極細の糸がジンベエザメの巨体の勢いを殺していた。
「ふかひれ……!」
小太刀が勢いを殺したジンベエザメの背中に、杏が飛び乗った。
杏が振り下ろした光の特大刺身包丁――もとい『灯る陽光』の光剣が、光の花弁を散らしてジンベエザメのヒレをスパッと斬り落とす。
「これがフカヒレですか」
「ふふ、これなら大漁ね♪」
珍しそうにフカヒレを見やるシリンの横で、小太刀が満足気に笑みを浮かべる。
ここにいる3人は、料理も得意な(そして食欲もある)年頃の女子達だ。
ジンベエザメが増えた所で――食材が増えたようなものである。
だが、ちょっと待って欲しい。
何か――と言うか誰かを――お忘れではないだろうか。
「おおーい、ジンベエザメを捌くのもいいけど、鰹もまだまだいるぞ!」
そこに響くガーネットの声。
「こっちも減らさないと、多分、私よりも祭莉がしんどい」
「「「あ」」」
ガーネットの続けた言葉に、シリンと杏と小太刀の声が重なった。
そう。3人がジンベエザメに対処している間も、祭莉は頑張って白炎纏って鰹の群れの前を翔け続けているのだ。
疲れ果てるのが先か、メリー鰹ゴーランドのぐるぐるで目を回すのが先か――。
「おとうさんと、おかあさんがいたら。きっとこう言う」
やがて、光輝く刺身包丁を構えたまま、杏が口を開いた。
「まつりん、がんばれ――って」
わあ、スパルタ。
「あ……うん、そうね」
小太刀が、思わず杏から目を背けて呻く。幼馴染であるが故に、木本家が、獅子は我が子を千尋の谷へ――の例えを、時ににこやかにやる方針だと知っているから。
「大丈夫。まつりんが倒れたら、うさみん☆で拾うから」
「もしかして、ロデオはその為ですか……?」
真顔で告げた杏に、シリンも流石に目を丸くしていた。
「と、とにかくだ! そろそろ祭莉が戻って来るから、次行くぞ!」
「了解です、いつでもどうぞ!」
ガーネットの声に応えて、シリンが精霊猟銃を構え直す。
「シリン、投網は任せていい? 私も捌く方に回るわ」
「そうですね。まず鰹を減らさないと」
一本釣り仕様にした『白雨』を背中に戻し、『片時雨』の柄に手をかけた小太刀に、シリンも頷き返す。
今はとにかく、鰹を減らすのが優先だろう。鰹が健在な限り、ジンベエザメが増える可能性があるのだから。
「ん。サメ肉ももっと欲しいけど、まずは初鰹」
杏もきりりと刺身包丁を構え直す。
「そういうわけだから、どんどん蹴っ飛ばして! 節おろしにしてあげる!」
小太刀の声に応えて、ガーネットが2体の鰹を蹴り飛ばしてきた。
【かんさつにっき】の5人の連携は見事であった。
1人が鰹の群れを誘き寄せ、1人が鰹を群れから引き離し、残るメンバーで引き離した鰹を仕留める。1匹ずつ倒すのも悪くない。他の猟兵達も考えていた事だ。
ただちょっと――食欲が旺盛な若人もいたので、大変になっただけである。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
第2章 ボス戦
『正気を奪う赤い果実』
|
POW : 硬化する赤い果実
全身を【硬質の物質】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : 振動する赤い果実
【高速で振動することで衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 空腹を満たす赤い果実
【空腹】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【無数のトマトの塊】から、高命中力の【トマト弾】を飛ばす。
イラスト:井渡
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠赤城・傀」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●邪神・第二形態
『やるではないか、猟兵ども……!』
超空間全体に、鰹だった邪神の思念が響く。
『第一の姿、青き雄武士で十分だと思っていたが。逆に力を削がれるとはな。これ以上力を削がれては流石に後に響く――と言うわけで、見せてやろう。第二の姿を!』
そんな思念が空間に響いた直後、ザパァンッと水音の様な音が響いた。
残る鰹が一斉に飛び出して、集まって、その場で回遊し始めた。
『フハハハハ! 慄け! 震えるが良い!』
集まった鰹が作る、青と銀色の混ざった巨大な球体。
次第に、その中に別の色が混ざる。
――赤。
良く見れば、鰹が次々と裏返るようにして形を崩していく。魚の塊は、魚ではない何か巨大な赤い塊へと変貌していく。
赤色も、変化していた。
鰹の身の様な赤から、もっと鮮やかな赤へ。
――すごく『瑞々しい』感じの赤だった。
転移前に聞いた言葉がさしていたのは、このことか。
気が付けば、周囲の超空間の色も変わっていた。
蒼は蒼だが、もっと鮮やかで明るい。
そう。夏の青空の様な明るく濃い青。
深海の様な蒼に混ざっていた渦巻く光は、青空を思わせる空間の中心で――まるで太陽の様に輝いていた。
その光の下には、新たな姿となった邪神がいる。
朝露の様な雫が舌たる、鮮やかな赤い球体。
その頂点には、わずかに緑のヘタがある。
太陽の様な光に照らされたその姿は――赤い果実。
『これこそが、第二の姿! 正気を奪う赤い果実! トメィトゥ!』
とりあえずあれだ。規格外にバカでかいトマトだが、忠実にトマトだ。手足が生えたりしてないので、鰹の時と比べると動きは鈍そうだ。
==================================
2章になりました。邪神第二形態は――トマト!
特に捕捉する点はありません。1章は鰹の群れでしたが、今回は、トマト1体のみとなりますので、多数戦闘の対策は要りません、と言うくらいでしょうか。
あと、めちゃくちゃデカいです。
お好きにどうぞ。
プレイングは、送れる間どうぞ。受付締め切りは、2章もツイッター、マスターページ等で告知の形となります。
==================================
波狼・拓哉
トマト…トマト。トマトと鰹…フィッシュサンド…?カルパッチョ。…よし色々出来るな!うるせぇ正気なんて過去に置いてきたわ。てめぇは食材!罪とかは特に無いけど食物連鎖の糧になれ!
とは言ったもののトマトってデカすぎると皮は固いわ、水分多いから大味になるわであれ使うのしんどそうなんだよなぁ…ちょっとミミック味見て来て?化け喰らいなっと。
んーどうにかして食えんもんか…っと。何だこれトマト…?……これなら使えるかもしれん集めるか。戦闘知識、第六感、視力でトマト弾を見切り、衝撃波加えて減速させつつ回収しよう。ある程度たまったら用なしで。衝撃波込めた弾でトマト塊撃って消滅させよう。
(アドリブ絡み歓迎)
鵜飼・章
クィーンレッドサーモンじゃない…
残念ながら僕はトマトが好きな方の猟兵だ
調理×調理×調理……。
魚類×トマト×アクアパッツァ……。
それしかない
鰹はアクアパッツァにはしないんだっけ
カットしてから考えよう
より多くの食材を獲得するならここはWIZ一択の場面だ
でも僕は…巨大トマトと巨大カブトムシを戦わせたい…
…(早業逃げ足見切りを使いながら悩む)
いやこの際カブトムシだ
こんなに太陽が眩しいんだから…
でもしまった
僕のカブトムシは無敵なのでほぼ無敵のトマトを食べてしまう
トマトの悲鳴が聞こえる
可哀想に…皆の食べる分も残しておいてよ
カブトムシにパスしてもらったトマトを【早業】で薔薇の飾り切りにする
うん、綺麗にできた
黒木・摩那
次はトマトですね。
瑞々しいですね。
フレッシュですね。
次はどうやって味わうか、これは難問です。
今の時期ならば、まだトマト鍋はありだし、
潰して、トマトジュースも良いし。
これだけ新鮮ならば、そのまま食べてもいけそう。
これは迷いますね。食欲を刺激してお腹が鳴ります。
飛んできたトマト弾はスマートグラスのセンサーと【第六感】で対応しつつ、【念動力】で軌道を逸らします。
狙いが正確だと、避けやすいですね。
やはりジュースにしましょう。
ルーンソードにUCで【水の魔力】を付与【属性攻撃】。
刀身を冷却し突き刺すことで、冷え冷えをいただきます【鎧無視攻撃】。
クロムウィル・ラグストーン
トマト!ツヤツヤで張りがあって旨味をたっぷり蓄えてそう!!
カプレーゼ?コンポート?潰してトマトジャムも良いなぁ!!
皮が硬くて刃が通らないの?じゃあ何とかして通るようにしないと。
そうときたら皮剥きだ!オーソドックスなのは湯むき、でも大きいしお湯が無いじゃないかって?
いやいや、トマトの皮剥き方法は湯剥き以外にもあるんだ!
それは直火剥き!火があればお湯を用意する必要もない方法!
再び登場、高火力バーナー!!火の通り悪そうだし出力最大で行ってみよー☆
…無敵でも熱かったりするのかな?まあいいか。
皮がはじけたらそこから包丁で切るよ!
ところでさっき解体した鰹と一緒に料理しても美味しくなりそうじゃない?
フィーナ・ステラガーデン
トマトね。まごうことなきトマトだわ!
メインディッシュの横っちょとかにサラダとして気持ちとばかりの野菜成分として添えられたりするあのトマトね!
うーん・・チェンジよ!チェンジ!
私のお腹は今はお肉が食べたいモードなのよ!出直してきなさい!
だいたいトマトだけどーんって出されても困るのよね!
んー・・そうね!こうしましょ!(ピコーン!)
私聞いたことがあるわ!
なんか風の噂によると豆腐とドジョウを一緒に煮込むと
豆腐の中にドジョウが入って一緒に煮えるらしいわね!
そんな感じにして食べたら美味しいんじゃないかしら!
というわけで(UC発動)
つっこめーーーー!!!
(アレンジアドリブ連携大歓迎!)
司・千尋
連携、アドリブ可
何で鰹からトマトになるんだよ!?
共通点食物ってとこしかねぇだろうがッ!
…これも食うの?本気で?
呪詛耐性があれば大丈夫なんだろうか…俺は食わないけど
近接武器での攻撃も混ぜつつ
基本的には攻防に『怪誕不経』を使用
分解と斬擊を使い分けて効率良く切り刻んでやるぜ
綺麗にカットしてトマトサラダにしてやるから安心しろよ
面倒になったら打撃で叩き潰す
敵の攻撃は細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
割れてもすぐ次を展開
手数が足りなければ『怪誕不経』で分解
トマト弾って当たると地味に痛いな…
空腹のヤツにトマトくれるとか邪神も優しいとこあるじゃん
…まぁ食えとは言ってないし、トマトまみれになるんだけどな!
●赤いけどトマトは緑黄色野菜
「クィーンレッドサーモンじゃない……」
「トマトね」
言葉は残念そうなのに、何故か残念そうにあまり見えない鵜飼・章の呟きを引き継ぐ形で、フィーナ・ステラガーデンの口から、赤い果実の名前が紡がれる。
「まごうことなきトマトだわ!」
そう。フィーナの言う通り、トマトだ。
石油王クラスの食卓でも乗り切るか怪しいレベルにバカでかい事を除けば、ごく普通の真っ赤に熟したトマトである。
「どこがだよ!? 何で鰹からトマトになるんだよ!?」
鰹が集まったら巨大トマトになった――なんて、正気を疑われそうな事象の末に爆誕した邪神トマトを指さして、司・千尋が溜まらずツッコミの声を上げた。
何と言うか、至極――真っ当なツッコミである。
「共通点、食物ってとこしかねぇだろうがッ!」
『ふ……完全なる邪神だぞ。人間の尺度で測れるものか』
ツッコミが自分だけ、と言う現実にか、いつものからかう様な調子もなく全力で声を上げる千尋に、邪神トマトが何処かドヤってるような思念を向ける。
だが――邪神トマトが余裕でドヤっていられたのは、僅かな時間だった。
「ツヤツヤで張りがあって旨味をたっぷり蓄えてそうなトマト!!」
その瑞々しさに料理好きの心を刺激され、邪神トマトに向いたクロムウィル・ラグストーンの左目がキラキラと輝いていた。
「確かに瑞々しいですね。フレッシュです」
スマートグラス『ガリレオ』でその鮮度を確かめ、黒木・摩那が頷く。
しかしその表情は、やや曇っていた。
「ですが、どうやって味わうか。これは難問です」
摩那の口から続いた言葉がその理由。
邪神トマトが大きすぎる――と言う話ではない。
「今の時期ならば、まだトマト鍋はありですね」
摩那がまず挙げたのは、トマトの水煮を潰して出汁で伸ばしたりして作られる、見た目にも鮮やかなトマトベースのお鍋。
「潰すと言えば、トマトジュースも良いですね」
トマトジュースはそのまま飲んでも良し、味を調えればトマトベースのスープやソースにするのも簡単だ。
「これだけ新鮮ならば、そのまま食べてもいけそうです」
要するに、選択肢がありすぎて摩那は迷っているのだ。
「生トマトかぁ。カプレーゼも良さそう。トマトをスライスしてモッツァレラチーズと交互に並べて、オリーブオイルとバジルをかけて!」
調理方法に迷っているのは、クロムウィルも同じだ。
まず浮かんでいたのは、主に前菜として食べられるトマト料理。
「あとは――砂糖水にレモン果汁を加えて、コンポート。もっと甘く煮込んで潰してジャムも良いなぁ!」
続けてクロムウィルが上げたのは、少し趣向を変えてデザート方面。
「それも良いですね」
食欲が刺激されて、摩那のお腹がきゅぅと小さく音を立てる。
(「トマト……」)
ひとり黙して邪神トマトを見上げている波狼・拓哉だが、その頭の中では思考がフル回転していた。
(「トマトと鰹……フィッシュサンド?」)
鰹は厚めに切って下味をつけてからフライにして、スライスしたトマトと一緒にバンズに挟んだものが、拓哉の脳裏に思い描かれる。
そう。拓哉が沈黙の中で考えていたのは、目の前の邪神トマトと、さっき炙った鰹を合わせたメニューについてであった。
(「もう少し手軽に行くなら……カルパッチョ」)
拓哉の頭の中で、今度は鰹を薄めに切って、やはりスライスしたトマトと合わせてオリーブオイルがかけられる。香草やチーズを合わせてもいい。
そしてもう一人。
(「調理×調理×調理……」)
鰹とトマトを合わせた調理を黙々と考えていたのは、章も同じだ。
サーモンじゃない、と呟いたのに残念そうに見えなかった理由である。あの時既に、章の頭の中ではトマトと魚類を合わせる方向にシフトしていたのだ。
(「魚類×トマト=アクアパッツァ……」)
章が思い浮かべたのは、魚をトマトとオリーブオイルで煮込んだ料理。
サメや鰹のような赤身ではなく白身魚を使う事の方が多かった気がするが、そんなことはカットしてから考えればいい事だ。
「……よし色々出来るな!」
「うん、これしかない」
沈思黙考の末に料理を思いついた拓哉と章の声が重なる。
『鍋だのジュースだのジャムだのフィッシュサンドだのアクアパッツァだの……このサイズのトメィトゥを見ていきなり食う気とか、正気か』
「うるせぇ! 正気なんて過去に置いてきたわ。てめぇは食材! 罪とかは特に無いけど食物連鎖の糧になれ! あと人の心を読むんじゃねえ!」
声に出してないとこにもツッコミ入る邪神トマトの思念に、拓哉が言い返す。
『奪う正気もないとか……』
「トマト。君は知らないだろうけど、猟兵には2種類の猟兵がいる――トマトが好きな猟兵と、トマトが嫌いな猟兵だ」
拓哉の反応に困惑する邪神トマトに、淡々と章が告げた。
『……?』
いきなり何を言い出すの、みたいな思念が邪神トマトから飛んでくる。
「残念ながら、僕はトマトが好きな方の猟兵だ」
『……』
つまり今から食べると言う章の宣言に、邪神トマトも思わず沈黙。
「チェンジよ!」
そんな邪神トマトに、フィーナがきっぱりと告げた。
『――は?』
「チェンジつってんのよ!」
ますます困惑した思念を零す邪神トマトをびしっと指さして、フィーナは強い口調で告げた。
「トマトって、メインディッシュの横っちょとかに『サラダだよ』って気持ちとばかりの野菜成分として添えられたりするじゃない? そんなトマトだけどーんって出されても困るのよね!」
フィーナの頭の中には、ファミレスのハンバーグプレート的なものの隅に、1/6カットのトマトが1,2切れ乗っている図が浮かんでいるのだろう。
『いやまあ……人間どもの食卓にそういう形で上がる事があるのは知っているが、このサイズのトメィトゥを見てその感想どうなんだ?』
邪神トマトから、ツッコミめいた思念がフィーナに向けられる。
「私のお腹は今はお肉が食べたいモードなのよ! 出直してきなさい!」
『ええい、肉を食いたいなら、さっき散々炙った鰹食ってろ!』
まあ確かに、ステーキ食べに行ってトマトだけが出てきたら、チェンジの1つも言いたくなるだろう。
邪神トマトだろうが臆せず自分の欲望を告げるフィーナに、邪神トマトから零れてくるのはますます困惑しきった思念だった。
「……食う気なんだ、これも」
他の猟兵達の口から次々とトマトを使った料理のメニューが出てくる状況に、千尋の眉根は自然と寄せられていた。
(「……俺は食わないけど」)
そんな強い意志が、千尋の中に生まれている。
だが、他の猟兵達に本気なのかとは、千尋は問おうとしなかった。
問うまでもない。
(「呪詛耐性があれば大丈夫なんだろうか」)
食べて平気かと言う疑いはあれど、彼らが本気であることは千尋も確信していた。
そう。明らかなのだ。誰の目から見ても。
――邪神トマトから見ても。
邪神トマトに、目はなさそうだけど。
『それだけ食う気だと言う事は――お前達、空腹だな!』
空腹の感情を与えた――そう邪神トマトが認識した事で、条件は整った。
『トメィトゥの力、今こそ見せてやろう!』
邪神トマトのボディから、南瓜かと言うくらいのサイズのトマト塊が、数えきれないほどに飛び出して来た。
●増えるトマト
「ん? っと。何だこれ」
突如現れたトマト塊。そこから飛んできた拳大の物体を咄嗟に避けながら、拓哉はそれを目で追いかける。
赤い物体は、後ろで土色の空間にぶつかって潰れていた。
「トマト……?」
『それこそがトマト弾!』
首を傾げた拓哉に届く、邪神トマトの思念。
『まだまだ行くぞ。トマト弾を喰らって、トマトまみれになるがいい!』
次々と放たれるトマト弾。
猟兵達に、トマトの雨が降る。
「空腹のヤツにトマトくれるとか、邪神も優しいとこあるじゃん」
そんな中、笑みを浮かべて言いながら、千尋は細かく分割した光盾――『鳥威』を展開してトマト弾を防いでいた。
(「……まぁ食えとは言ってないし、食う前にトマトまみれになりそうだけど」)
『食えるものなら食ってみろ!』
千尋が胸中で呟いたのを読んだかの様な思念を飛ばしながら、邪神トマトが更にトマト弾を撃って来る。
「俺は食わないし、トマトまみれになるのも御免だ。当たると地味に痛そうだしな」
邪神トマトに返しながら、千尋は小太刀『月烏』の柄を掴む。
抜き放たれる青白く光る美しい刃。
食わない、と言う千尋の意思を表すかの様な鋭い斬撃が、トマト塗れの『鳥威』の隙間を縫って飛んできたトマト弾を斬り裂いた。
「ふふ……ふふふ!」
トマト弾が雨と降る中、摩那が笑みを浮かべていた。
「丁度いいサイズのトマトじゃないですか!」
そう。トマト弾は、ここにきてやっと出てきた常識的なサイズのトマトなのだ。
トマト弾だって、摩那にとっては食材である。
『トマトまみになってもその余裕が続くかな』
邪神トマトの思念と共に、数発のトマト弾が放たれる。
しかし全トマト弾は、摩那の顔のすぐ横を通り過ぎただけだった。
『???』
邪神トマトから、不思議そうな思念が漏れる。
「狙いが正確ですが――かえって、避けやすいですね」
悠然と微笑を浮かべて、『緋月絢爛』を抜きながら摩那は言い放つ。
摩那がやった事は僅かに首を傾けた事と――トマト弾の軌道を念動力で僅かに逸らしただけの事だ。
摩那くらいの念動力があれば、トマト弾の軌道を少しだけ逸らすくらいは可能。
スマートグラス『ガリレオ』のセンサーと自身の第六感で当たりそうなトマト弾だけに絞れば、負担も少ない。
そうしていなければ、摩那の顔は今頃トマト塗れになっていただろう。
「やはりジュースにしましょう。冷え冷えにしてから」
トマト弾をかいくぐりながら、摩那は水の魔力で冷却した『緋月絢爛』の刃で、次々とトマト弾を串刺しにしていった。
●増える巨大
(「これなら使えるかもしれん。集めておくか」)
胸中で呟きながら、拓哉はスレスレでトマト弾を躱しつつ、掌から放つ衝撃波で勢いを殺して足元に叩き落していく。
問題なのは、トマト弾よりも――邪神トマト本体。
「ああは言ったものの……どう食ったもんですかね、あれ?」
食材扱いしては見たが、良く考えるとあのサイズのトマトを使うのはしんどそうだと拓哉は内心で首を捻る。
「トマトってデカすぎると皮は固いわ、水分多いから大味になるわですからねぇ」
「あ、そうか。あれだけ大きいと、皮が厚くて固いはありそうだね。包丁の刃が通らないかもしれないか」
拓哉の呟きを聞いて、クロムウィルがポンと手を打った。
味はともかく、通常のトマトよりも大きいのは事実。その分、皮も厚く固くであろうと言うのは想像に難くない。
「成程。皮が厚く固いとなると……潰してジュースは無理でしょうか」
トマト弾の串刺しを手に、摩那が残念そうに呟く。
『ふっ……このトメィトゥのすごさが、やっと判ったようだな』
攻めあぐねる猟兵達の様子に、邪神トマトが少し自信を取り戻し――。
「よし、決めた。この際カブトムシだ」
『――はい?』
トマト弾を避けつつ、偶にピンで止めて薔薇の飾り切りにしたりしていた章の唐突な一言に、邪神トマトから首を傾げてそうな思念が飛んできた。
「こんなに太陽が眩しいんだから……僕は巨大トマトと巨大カブトムシを戦わせたい」
章が仰ぎ見る頭上には、確かに夏空の様な青い空間と太陽の様な輝きがある。
あるのだが――そこでどうしてカブトムシ。
『何故カブトムシ……?』
「何故? カブトムシは強くてかっこいいから」
邪神トマトの思念のみならず、他の猟兵からも不思議そうな視線が向けられるが、章はさらりと返していた。
『ただの自慢!?』
「この前提は揺るがない。≪確証バイアス≫」
邪神トマトのツッコミを軽くスルーして、章の脳裏に描かれた『すごくかっこいい巨大カブトムシ』が頭上に具現化する。
「さあ、強くてかっこいい突進だ。カブトムシ」
淡々とした章の言葉に似合わない勢いで、巨大なカブトムシは羽根を広げて邪神トマトに一直線に突っ込んで行く。
『ちょ待――』
邪神トマトが咄嗟にトマト塊で作った壁を蹴散らして、カブトムシの頭角が邪神トマトに突き刺さる。
ぐにゃりと歪む赤い果実――少し遅れて形が戻ると同時に、吹っ飛ぶ邪神トマト。
『あああああぶぶぶなぁぁぁ! 穴が開くかと思ったぞ』
邪神トマトは耐えたと思っていたようだが――カブトムシの頭角が刺さった跡は、穴が開いて中のゼラチン質が流れ出ていた。
「あ!」
トマトに穴。それを見たフィーナの電球がピコーンと輝いた。
以前何処かで聞いた、とある料理の事を思い出したのだ。
「風の噂によると豆腐とドジョウを一緒に煮込むと、豆腐の中にドジョウが入って一緒に煮えるらしいわね!」
『――はい?』
フィーナの口から出た突然の豆腐とドジョウの話に、邪神トマトが本日何度目かの間の抜けた思念を漏らす。
「もしかして、泥鰌地獄鍋、とか呼ばれる料理か? 戒律で泥鰌を食べられない僧侶が、泥鰌を見えないように食べる為に編み出したとか言われてるが……」
器物の頃を含めれば長く生きているヤドリガミが故か。
フィーナの挙げた料理に心当たりがあった千尋は、記憶を探りながら言葉を続ける。
「実際には中々豆腐の中に泥鰌が入る事はないらしいぞ」
「そうなの? でも、そんな感じにして食べたらトマトも美味しいんじゃないかしら! そうしましょ!」
フィーナの言う『そんな感じ』が、どんなものなのか――それはすぐに判明した。
「と言うわけで――出番よ!」
フィーナの頭上に現れたのは、久々登場の燃え盛る巨大なマグロ。
ドジョウの話の後で、マグロ召喚。
つまり――。
『お、おい待て。まさかそのマグロをドジョウ代わりに、このトマトを豆腐に見立てるとでも言うのか……!?』
「言うまでもないでしょ!」
慌てた様な思念を漏らす邪神トマトを、フィーナがびしりと指さして。
「つっこめーーーー!!!」
『グロォッ!!』
フィーナの合図で雄叫び(?)上げて、マグロが飛び出す。
『マグロがドジョウの代わりになるわけないだろうがぁぁぁぁぁ』
マグロの突進の衝撃で吹っ飛ばされた邪神トマトが、ゴロゴロ転がって中身をさらに零しながらそんな思念を漏らしていた。
「ああ、そうか。自分で食う必要ないですね」
立て続けに現れたカブトムシとマグロを見て――。
「ちょっとミミック味見て来て? 化け喰らいなっと」
拓哉が足元の『ミミック』に告げれば、その姿が巨大な狼に変わる。
この様々な形態を持ち合わせる『ミミック』は、拓哉にとってカブトムシやマグロに代わる存在と言える。
『次は狼か。こうなれば――硬質化!』
それに気づいた邪神トマトの全身が赤い輝きに包まれる。赤い色はそのままに、トマトの皮の外側は金属の様な光沢を放つ硬質の何かへと変化していた。穴も塞がっている。
『ふはははっ! この状態になったトメィトゥは、ほぼ無敵――!』
「”カミ”殺せ」
そんな邪神トマトの思念を軽くスルーして、拓哉が短く告げる。
『噛み』であり『咬み』でもあり『神』すら殺せとの呪詛めいたものでもあり。いくつかの意味と音が重なった拓哉の声で、『ミミック』から影が放たれた。
偽正・神滅迫撃――スコル・プレデター。
神話にある陽喰らいの狼の名を取った、影の顎がトマトに噛みつき動きを封じる。
『――あれ?』
がっちり食われえられた邪神トマトから漏れる、意外そうな思念。
「もっかい、つっこめーーーー!!!」
動けない邪神トマトに、フィーナが再びマグロを突進される。
だが、今度はゴンッと鈍く固い音が響いて、マグロが止められる。
『ふ、ふふふ。やはり硬質化したトメィトゥは、ほぼ無敵!』
「ほぼ、なんだよね」
次第に思念に焦りの色が見えてきた邪神トマトに、章が告げる。
「僕のカブトムシは無敵なので、ほぼ無敵のトマトもきっと食べてしまえる」
『む、無駄な事を――!』
無駄と思念を飛ばす邪神トマトだが、再び飛んできた章のカブトムシの頭角が、その硬質化した皮にヒビを入れていた。
●直火剥きの後は氷水で締めるといいらしい
『ええい、この! 離れろ!』
硬質化した邪神トマトを加えて離さない影の顎。
しつこくゴンゴン行く巨大マグロに巨大カブトムシ。離れろと、トマト塊からトマト弾をぶつける邪神トマト。
「うん。皮が厚いのが問題なら――皮剥きだ!」
そんな状況の中、クロムウィルが声を上げた。
クロムウィルは諦めていなかった。例え邪神トマトの皮が分厚かろうが、硬質化しようが――調理出来ない食材など、料理好きとして許せるものか。
そして思い付いたのが、皮剥きである。
『ふ――このトメィトゥの皮を剥くことが出来るとでも? どうやってこのサイズを湯剥きすると言うのだ!』
クロムウィルの出した結論を聞いて、やれるものならやってみろと、邪神トマトが思念を飛ばして来る。
『あと湯剥きついでのこのカブトムシも剥がしてもらえると――』
「いやいや、トマトの皮剥き方法は湯剥き以外にもあるんだ!」
邪神トマトの思念をさらりと無視して告げるクロムウィルの手には、さっき鰹も焦んがり炙ったバーナーが。
『……おい待て、何をする気だ』
「直火剥きだけど?」
ちょっと引いた感のあるトマトの思念に、クロムウィルがさらりと返す。
邪神トマトが硬質化する前、フィーナのマグロの突進を受けて皮が少し剥がれていたのを、クロムウィルは見逃していなかった。
「これは火があればお湯を用意する必要もない方法だからね!」
水道代の点でもお得ですね。
「無敵でも熱かったりするのかな? まあ大きいし火の通り悪そうだし、出力最大で行ってみよー☆」
ゴォォォォッと炎吹き出すバーナーを、クロムウィルは笑顔で邪神トマトに向けた。
「ありゃ?」
しかし炎を当ててすぐに、クロムウィルが目を丸くする。
硬質化した邪神トマトの皮は、ヒビが入っていてもまだ、高火力バーナーの炎に耐えていた。直火剥きでも、邪神トマトの皮は簡単には剥けなさそうだ。
「無敵と無敵。まるで矛盾だな」
そこに千尋の声がして、飛来した光の槍が邪神トマトに突き刺さる。
『む?』
邪神トマトが訝しんだ直後、槍が触れた所から金属質な輝きが消え失せた。
『分解だと!?』
邪神トマトから伝わる、驚愕の思念。
突き刺さった光は、千尋の放った怪誕不経。
鰹も頭と尾と骨だけにしてみせた、触れたモノを分解する光の槍。
それは邪神トマトの硬質化を分解し、元の分厚い皮の邪神トマトへと戻していた。
「綺麗にカットしてトマトサラダにしてやるから、安心しろよ――俺以外が」
「うんうん。今度こそ直火剥きにして、皮がはじけたとこから包丁で切るよ!」
離れて光槍を放つ千尋の言葉に頷きながら、クロムウィルは硬質化が解けた所に炎を当てる。ぷくっと膨らんだ邪神トマトの皮が弾けて――少しだが、ぺろんと剥けた。
「カブトムシ、皆の食べる分も残しておいてよ」
「マグロも、中で食い尽くすんじゃ無いわよ!」
それを見たカブトムシとマグロ――もとい、章とフィーナが虎視眈々と邪神トマトの硬質化が大きく剥がれる瞬間を待っている。
『く――喰われてたまるかぁぁぁぁぁ』
邪神トマトの赤い全身が高速で震え出す。放たれた振動がクロムウィルも、拓哉の『ミミック』の影の顎も吹き飛ばし、カブトムシとマグロも押しやっていく。
猟兵達の猛攻を一先ず凌いだ邪神トマト。安堵する暇は――ある筈もない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鈴丸・ちょこ
【花守】
なんだ、次は大玉転がしか?
おれは球体を見るとついつい手が出ちまってなぁ――さてどう遊んでやろうか!
爺の加速に乗じつつ、己の早業も駆使し硬化される前に先制攻撃
覇気猫ぱんちによる気絶攻撃を2回叩き込み、硬化速度を鈍らせつつ傷口を抉る
硬化された場合は、爺が砕いた箇所に上記重ね、ぶち抜くまでびしばし打つべし打つべしってヤツだ
一猫岩をも通すってな!(?)
反撃の気配は野生の勘で警戒しておき、危険察せば早業で距離取り回避
爺のスライスが上手く決まれば、すかさずぐしゃりと一撃必殺
つーかトマトの癖に硬いとは何事だ
おいそんな堂々とトマトを名乗るならもっとトマトらしい食感に戻れ――そして盛大に弾け飛べ!
重松・八雲
【花守】
妙ちくりんな姿を好む奴じゃのう!
ありゃSANなんとかというより酸味ちぇっくが必要じゃな(?)
青臭いのとか酸っぱいのは御免じゃで!
――いや勿論転がして遊びたいならばその様に!
ちょこにゃんに肩を貸し、やられる前にやる気概で瞬時にUCで強化と加速しつつ敵に突撃
特に柔そうな部分を野生の勘で嗅ぎ分けつつ、勢いに乗せて金剛叩き込み鎧砕きの一撃
硬化されてもめげずに、砕きぶち抜くまでちょこにゃんとガンガン殴りまくろうぞ!
ああ震えてならんわい――これぞ武者震いというものよ!
強固であればある程に、挑み甲斐があるというもの!
敵攻撃はオーラ防御と耐性で凌ぎ
隙見て蔕か下部をすぱりとすらいす!
さぁ仕上げを喰らえ!
●本能じゃ、仕方がない
ドーンッ!
重たい音が響いて、巨大な赤いものがゴロゴロと転がって行く。
「なんだ、次は大玉転がしか?」
カブトムシやマグロに吹っ飛ばされて転がって行く邪神トマトを、鈴丸・ちょこは目を丸くして眺めていた。
「妙ちくりんな姿を好む奴じゃのう!」
手足もなければ能動的に動けもしないトマト形態の邪神に、重松・八雲も不思議そうに目を丸くしている。
(「鰹より弱くなっとらんかのう?」)
そんな疑問が八雲の中に浮かぶが、だがあの形態になる前の邪神の思念からしてあれで強くなっている部分はあるのだろう。ある筈だ。
例えば、噂に聞くUDCアースで言うSANなんとか値とか。
「ありゃSANなんとかと言うより、酸味ちぇっくが必要じゃな。青臭いのとか酸っぱいのは御免じゃで!」
「何だ、爺――アレ、食う気なのか?」
邪神トマトの味を気にする八雲を、ちょこが少し意外そうに見上げる。
「ちょこにゃんは、トマト嫌いかのう?」
「好きか嫌いかってよりもなぁ……」
屈んで訊ねる八雲に返しながら、ちょこは視線を邪神トマトに戻す。
その宝石の様な金の瞳は黒目が爛々と丸くなっていて、耳もおひげもくぃっと邪神トマトの方に向いていた。
「おれは球体を見るとついつい手が出ちまってなぁ!」
(「あ、猫じゃのう」)
猫の本能が刺激されまくっている様子のちょこを微笑ましく思いながら、八雲は屈んだまま軽く肩を下げる。
「転がして遊びたいならば、その様に!」
「さて――どう遊んでやろうか! 何か手はあるか、生臭坊主?」
肩に飛び乗ったちょこの問いに、八雲は立ち上がりながらしばし思案する。
「そうじゃのう……わしは彼らの様に巨大な虫だの魚だのは呼べぬし。やられる前にやる気概で、突っ込もうぞ!」
「乗った!」
単純極まりない八雲の提案に、ちょこの肉球がその肩をぺちぺち叩く。
「ではちょこにゃん――しっかり掴まっておいてくれい。刮目せよ!」
再び天を衝く炎が如き輝きを纏った八雲は、肩にちょこを乗せたまま、邪神トマトへ向かって猛然と飛び出した。
●重ねて、砕く
『やはり、新手が来るか――!』
全身を震わせ猟兵達とそのマグロやカブトムシを引き剥がした邪神トマトが、近づく気配に気づいて(気持ちだけ)身構える。
「あの辺、柔らかそうな気ぃせんかのう?」
「ああ、いいんじゃねえか!」
そんな邪神トマトの中の、皮が弱い点に八雲とちょこは気づいていた。
それは、カブトムシの頭角によって一度穴が空いた箇所。その後、マグロの突進で中身が結構漏れ出した箇所でもある。
今は塞がったとは言え、2人の――狐と猫の野生の勘と嗅覚はそこを見抜いていた。
「ぬぅん!」
八雲が振るった『金剛』の堅い数珠が邪神トマトの皮を打つ。
「ほらよ!」
衝撃でくぼんだそこに、ちょこが覇気を纏った肉球の一撃を左右重ねて叩き込んだ。
『おぅふ!』
三連ねに突き抜けた衝撃に、邪神トマトが思わず思念を零す。
『こ、これはたまらん!』
邪神トマトの赤い皮が見る見る内に硬化して、金属の様な光沢を放ち出す。
巨大カブトムシの角にやられたり、巨大マグロに突進された時に比べて、猟兵自身が叩き込む攻撃は、邪神トマトにとってより鋭い痛みとなって突き抜けていた。
同じ勢いで当たっても、ボールと針では痛みの質が違うのと同じ事だ。
『これなら砕け――』
「もう一度だ、生臭坊主」
「おうよ!」
邪神トマトの思念を遮って、再び叩き込まれるちょこの肉球と八雲の連珠。
『痛っぁ!?』
何故か突き抜ける衝撃に、邪神トマトの思念が飛び出る。
最初の一撃の際、ちょこは気絶させるつもりで肉球を叩きこんでいた。邪神トマトの巨大さゆえか、気絶には至らなかったが――邪神トマトが思うよりも僅かに、硬化の速度が遅くなっていたのだ。
ガキンッ!
それでも、三度の攻撃は硬化した皮に阻まれる。
「トマトの癖にこんなに硬くなるとか、何事だ」
邪神トマトのトマトにあるまじき硬い手応えに、ちょこが苛立たし気に尾を揺らす。
「ああ、震えてならんわい――」
一方の八雲は、口から笑みが零れていた。
連珠『金剛』を持つ手には、最初の二撃とは明らかに違う手応えが残っている。その衝撃を感じた瞬間、肌にブルリと震えが走った。
(「これほどの硬さを持つ敵……そうは出会えんのう」)
色々と無茶をした若い頃を思い出しても、どれほどいただろうか。
「爺。臆したとか、言わねぇよな?」
「まさか――これぞ武者震いというものよ! 敵が強固であればある程に、挑み甲斐があるというもの!」
からかう様なちょこの言葉に、八雲は笑みを深めて連珠を確りと握り直す。
「砕けぬなら、砕きぶち抜くまで殴りまくろうぞ!」
「おお。一猫岩をも通すってな!」
八雲の連珠とちょこの覇気を纏った肉球が、ほぼ無敵となった邪神トマトの皮を何度も何度も叩いていく。
『ぬ、ぬ……む、無駄なことを!』
いつしか、邪神トマトの思念が震える。叩いて砕くと言う八雲とちょこの信念は揺らがず、揺らいでいるのは邪神トマトの自信の方だ。
ビシィッと、邪神トマトの硬い皮にヒビが入った。
『バ、バカな。ただの物理で――あ』
邪神トマトが驚愕の思念を漏らした瞬間、そこに叩き込まれた2人の打撃の衝撃が赤いトマトボディを横へと倒す。
「今じゃ!」
それを見た八雲の手が『金剛』から離れて、『嶮浪』の柄に伸びた。
「さぁ――仕上げを喰らえ!」
すらりと抜き放った豪快な濤乱刃を大上段に構える。
その八雲の背中を蹴って跳ぶ、ちょこの黒い影。
「憤っ!」
八雲の振り下ろしが、邪神トマトの中の唯一の緑――蔕をハラリと斬り落とす。
「そんな堂々とトマトを名乗るなら、もっとトマトらしい食感に戻れ――そして盛大に弾け飛べ!」
そこに落下してきたちょこの両前足を揃えた一撃必殺の肉球攻撃が、邪神トマトを押し潰し――斬られた蔕の跡から、ぴゅるっとトマトの中身が飛び出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木元・祭莉
【かんさつにっき】で!
あ、真琴もお手伝いヨロシクー!(えがお)
瑞々しいって、美味しそうって意味だったんだ!(初めて知った顔)
神様からの御下がりだね、有難くいただきまっす♪
うわ、近くで見ると、やっぱでっかーい。
湯剥きは難しそうだし、はじっこからスライスするのがいいかな?
周囲ぐるぐる回りながら、牛若印で舞扇を乱舞!
ダメージは出ないケド、タタキ(爆発)で表皮柔らかくしてっと♪
中身飛び散ると、この辺一帯がトマト臭くなるから。
ぐるぐる絆で、バラけないよう縛っとくね♪
真琴、嫌いなら食べなくてもいいよ?(よしよし)
コダちゃんが、真琴のためにトマト味じゃない特別料理作ってくれるよ♪
すっごく、攻撃力の高いヤツ!
木元・杏
【かんさつにっき】6人
雲一つない青空
思い出す、家族で行ったひまわり畑
おばさんちで見た紫の桜
そして、ぐつぐつ煮込んで美味しく頂いたトマトとフカヒレのスープ…(じゅる)
はっ!
大丈夫、正気奪われてない
鰹にふかひれ、トマトと煮込んで美味しくいただく
(大きな包丁にした灯る陽光をしゃきんと構え)
ん、甘くみないで
わたしがはらぺこなのはいつもの事
でも少し空腹与えられた気もするからトマト増やして?
飛ぶトマトは包丁ですぱぱぱっと半月切り
これはふかひれ用
そして【華灯の舞】
内側から爆発させて煮込み用に
(楽しそうに料理)
む?真琴どうしたの?
鰹にトマト
どちらも強力な邪神
最後はどれだけ美味し…強敵か
気が引き締まる(じゅる)
琶咲・真琴
【かんさつにっき】
お手伝い要員で呼ばれて来ま……って、ギャァーーっ!?
トマトぉー?!(天敵レベルで大嫌い
え、鰹?フカヒレ?トマト入りスープっ?!
話が見えねぇんだけどっ?!(トマトのショックが大きくて素に戻っている
トマトは震えるな
トマトを飛ばして来るなぁぁぁっ?!(UC使って避けながら逃げ一択
そして杏姉ちゃんはスープにトマト入れるな
ミネストローネにしないでくれぇぇ!!
トマト丸ごと沢山ぶち込まれた上に肝心の具がトマトの味しかしないだろっ?!
小ちゃい時の記憶でそれが強烈に残ってんだよー!
うぅ……まつりん兄ちゃん、ガーネットさ〜ん……(ここで実姉に行かない奴
姉ちゃんの料理も勘弁してくれ!
アドリブ大歓迎
ガーネット・グレイローズ
【かんさつにっき】
トマトの邪神…?今まで聞いたことのないタイプだ
UDCアースには、トマトを崇拝する邪教があるのか?(不思議な顔)
それにしても…なんて大きいトマトなんだ
太陽の光をたっぷり浴びて、真っ赤になって。
それに皮もツヤツヤじゃないか。
私はあまり陽光に当たれないから羨ましい…。
どれ、さっそく切って味を確かめてみよう
妖刀アカツキと躯丸による二刀流でトマトをカットしていこう
シリンが衝撃波を相殺してくれたら、【妖刀の導き】で
攻撃力を上げて、<2回攻撃>
トマト弾をブレイドウイングで<武器受け>したら、素早くキャッチ。
これも食べられるかな? 味付けは杏にお任せ、鰹がベースになるのかな
※アドリブ歓迎
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
これまた立派なトマトが…あ、真琴だ
何というか、運命?
(ピーマンじゃなくて良かったと、心の底から思う姉)
邪教…栄養価は高いらしいしね(ガーネットの声に頷き
スープ…(杏につられてじゅるり
早速スマホを取り出してレシピを検索情報収集
ええと、トマトを煮込んだりスープに入れたりするなら
予め皮を湯剥きしとくといいらしいよ
刀の2回攻撃で皮に十字の切れ目を入れて
スチームエンジンのスチームで炙るという
鎧砕き攻撃で皮を剥く
トマト弾の攻撃は
弾道を見切り刀で武器受けして
くし形切りにして皿に並べるよ
かけるのは塩か砂糖かマヨネーズか、そこが問題ね
いっそのこと全部…
そこ、攻撃力高い言うなー!
※アドリブ歓迎!
シリン・カービン
【かんさつにっき】
「…こんな世界でも邪神は存在できるのですね」
燦燦と降り注ぐ陽光の下、立派に実ったトマト。
非の打ち所が無い健全さです。
大きさ以外は。
大きいだけなら中身が薄い可能性もありますが、
子供たちの食欲センサーを見れば問題は無さそうです。
【ピクシー・シューター・ギガント】を発動。
複製精霊猟刀を召喚し自分達を守るように周囲に展開。
トマトが衝撃波を放つ気配を察知したら、
一斉にその場で素早く振り抜いて衝撃波を発生、相殺します。
続いて巨大精霊猟刀へと合体を指示。
「あなたは私の収穫(えもの)」
大きく振りかぶりトマトを一刀両断します。
その先の加工は皆にお任せしましょう。
料理の出来が楽しみです… 真琴?
●正気を奪う赤い果実
「うわ、近くで見ると、やっぱでっかーい」
「思い出さない? まつりん?」
邪神トマトを目を輝かせて見上げる木元・祭莉の隣で、木元・杏が何処か懐かしそうに口を開く。
その視線を祭莉が追ってみれば、杏が見ていたのは邪神トマト――の上に広がる、夏空の様な青の方だった。
「――ひまわり畑?」
「ん。あと、おばさんちで見た紫の桜」
同じ青を見上げて祭莉が口にした答えに、杏はこくりと頷くと、もう一つ思い浮かべてた思い出を口にした。
青空の下にずらりと並んだ黄色い大輪の花。
南国はサバンナの大地の大樹に咲いていた青紫。
どちらも家族で出かけた先の、木元家の大切な思い出。
「……こんな世界でも邪神は存在できるのですね」
2人にそんな記憶を思い出させた、晴れやかな青から陽光の様な光が降り注ぐ光景。
邪神が作ったとは思えない光景に、シリン・カービンも眩しそうに目を細める。
だが、そこで逆さに転がっているトマトは、邪神なのである。
「そして、ぐつぐつ煮込んで美味しく頂いたトマトとフカヒレのスープ……」
頭上の青からトマトの赤に視線を移した杏の中に、何かが混ざり込んだ。
「トマトとフカヒレのスープ……」
何故か鈍・小太刀まで、杏の言葉とトマトの赤に釣られている。
『ふ……どうやら、このトメィトゥの瑞々しい赤に正気を奪われ――』
「瑞々しいって、美味しそうって意味だったんだね? でもアンちゃん、コダちゃん。戻っておいで!」
邪神トマトの思念で初めて知ったような顔をしながら、祭莉は杏と小太刀を現実へと引き戻そうと、肩をゆさゆさと揺さぶり始めた。
「さすがは邪神、か。まあ、食欲が刺激されてしまうのも判る気がするな」
邪神トマトに視線を向けて、ガーネット・グレイローズが口を開く。
「あの皮、真っ赤でツヤツヤじゃないか。太陽の光をたっぷり浴びて、あんなに大きいトマトになったんだろうな」
私はあまり陽光に当たれないから羨ましい――と、ガーネットもどこか眩しそうに邪神トマトを見上げていた。正気は、大丈夫だろうか。
「ええ、そうですね」
シリンもひとつ頷いて、邪神トマトに視線を向ける。
「燦燦と降り注ぐ陽光の下、立派に実ったトマト。非の打ち所が無い健全さです――大きさ以外は」
だが、シリンの向ける視線は他のメンバーよりも厳しい。
「あの大きさ、問題か? 邪神と言う事を除いて」
「大きいだけなら中身が薄い可能性もありますから」
気にしたガーネットの問いに、シリンは迷わず返した。
シリンは元々、森で糧を得ていた猟師だ。
野菜や果実に対する目も、一般人よりは養われているのだろう。
「「はっ!?」」
丁度その時、緩んでいた口元をじゅるりと引き締め、杏と小太刀が戻ってきた。
「大丈夫、正気奪われてない」
「わ、わたしも、つ、つられてないわよ!?」
キリッと表情を引き締める杏の隣で、小太刀は慌てた様子でスマホを取り出すと何やら画面を忙しくタップし始める。
「ええと、トマトを煮込んだりスープに入れたりするなら、予め皮を湯剥きしとくといいらしいわよ」
ものの十数秒で、小太刀は目的の情報――トマトスープの調理法を見つけていた。
何を調べていたのかと思えば、トマト絡みである。
「湯剥きは難しそうだし、はじっこからスライスするのがいいかな?」
「さっき、直火で焼いて剥けるって聞こえた」
「熱を加えればいいみたいね」
それを聞いた祭莉と杏が加わり、湯剥きに代わる方法の相談を始める。
「まあ、子供たちの食欲センサーを見れば、大きくても問題は無さそうです」
3人の様子に、シリンが小さく微笑を浮かべる
「ん? 何かおかしくないか? 何でスマホが使えて――」
『小太刀がスマホで検索できていた』と言う事実の違和感にガーネットが首を傾げた――その時だった。
――ギャァーーっ!? トマトぉー?!
そんな悲鳴が聞こえたのは。
●かんさつにっき、6人目
時は少し遡る。
「あれ? ……何の匂いでしょう?」
夏の青空の様な空間を降下していた琶咲・真琴(今は幼き力の継承者・f08611)は、鼻についたその匂いに、首を傾げていた。
覚えがある気はするのだが――。
それが何の匂いであるか思い出せぬ真琴の視界に、次第に見えてくる赤色。
「……アレに良く似ている赤の様な……いえ、きっと違いますね」
そう信じていた。信じたかった。
けれども、その赤は真琴にとっては天敵の色だった。
「え……」
散々どつかれたり転がされたり、ヘタも斬り落とされたりしていなければ――真琴もそれが自分の大嫌いな野菜だと気づけたかもしれない。
まあ気づいたところで、ここに来てしまった以上、手遅れと言うものである。
「……って、ギャァーーっ!? トマトぉー?!」
こうして――お手伝いに参じた筈の真琴は、【かんさつにっき】に合流するなり悲鳴を上げる事となったのであった。合掌。
●トマトの策略
「あ、真琴だ」
その悲鳴が弟のものだと最初に気づいたのは、やはり実姉の小太刀だった。
「真琴、ナイスタイミング」
大きな包丁型にした『灯る陽光』を手に、杏も振り向き告げる。
「これから鰹にふかひれ、トマトと煮込んで美味しくいただくところ」
「お手伝いヨロシクー!」
「え、鰹? フカヒレ? トマト入りスープっ?!」
きりりとした表情続ける杏に続いて、祭莉も笑顔で告げてくるけれど。邪神トマトにショックを受けたばかりの真琴には何がなんだかである。
「話が見えねぇんだけどっ?!」
「真琴、落ち着いて。素に戻っちゃってるわよ」
トマトショックのあまり、口調が元々の少年らしいものに戻っている真琴を落ち着かせようと、小太刀が肩に両手を置いて宥める。
『そう――我こそは、トメィトゥ! 邪神である!』
そこに、邪神トマトの思念が響いた。
「トマト喋ったぁー!?」
「喋ったって言うか思念ね。あいつ、鰹の頃から喋るから」
邪神トマトの声代わりと言える思念にまた驚く真琴を、小太刀が宥める。
『成程。確かにいるようだな、トマト嫌いの猟兵と言うものも! 慄くがいい!』
「今の、さてはわざとですね……やはり邪神」
真琴の反応を見て思念を発している邪神トマトに、シリンが目を細める。
「トマトの邪神なんて、今まで聞いたことがなかったけどな。UDCアースには、トマトを崇拝する邪教があるのか?」
「邪教があってもおかしくないかも。栄養価は高いらしいしね」
不思議そうなガーネットに、小太刀は再びスマホの画面に視線を向けて告げる。
「姉ちゃん……」
その画面を覗き込んだ真琴が、ぢぃっと小太刀を見上げた。
「な・ん・で! トマトの調理方法なんか! 調べてるんだ!」
「えっと、それは――何と言うか、運命?」
『まあ、別に電波遮断してないからな』
真琴の抗議に小太刀が答えるより早く、邪神トマトからしれっと念が飛んで来る。
『この瑞々しいトメィトゥに空腹感を感じて、レシピを検索したら、さらに空腹感が高まったのであろう?』
「あ、だから検索出来ていたのか」
感じた違和感の正体を知って、ガーネットがぽんと手を打つ。
「ん、甘くみないで」
空腹感を与えたとドヤったっぽい邪神トマトに、杏が見上げて告げる。
「わたしがはらぺこなのはいつもの事」
くーるびゅーてぃ杏はどこ行った。
「でも少し空腹与えられた気もするから、トマト増やして?」
『――よかろう』
食欲に素直な杏の言葉に鷹揚な思念を返す邪神トマトのトマトボディから、無数のトマト塊が放出される。
「トマトも増えなくていい!!」
真琴の叫びはスルーされていた。
●弾とついていようが食材
「羽根妖精よ、私に集え」
――ピクシー・シューター・ギガント。
シリンの周囲に、柄に『1』と刻まれた幾つもの『精霊猟刀』が現れる。
「斬り裂け」
増えたトマト――トマト塊から放たれるトマト弾を、シリンは60本を超える『精霊猟刀』をバラバラに操って斬り落としていく。
それでも、トマト弾の全てを斬るには刃は足りていない。
だが、例えシリンが1人で全てを防げたとしても、そうはしなかっただろう。
後ろには、トマト弾を調理する気満々の子供たちがいるのだから。若干一名除く。
「トマトはくし切りでいい?」
「ん。おっけー。ふかひれ用は半月切りで」
花弁の光が舞う度に、杏の包丁型の『灯る陽光』がトマト弾をすぱぱっと輪切りにし、小太刀は愛用の『片時雨』でトマト弾を巧みに受け流しては斬っていく。
「端からカットトマトにしてやる」
ガーネットも、2人に合わせてまずはトマト弾を斬っていた。振るうは『妖刀・アカツキ』と屍骨呪剣「躯丸」の二刀。
朱と白の刃がガーネットの手元で閃く度に、トマト弾が2つに切られて落ちていく。
「このトマト、丸ごとでも食べられそうなのか?」
ガーネットは二刀を振るうだけではない。敢えて硬質化せずに背中に広げたブレイドウイングの液体金属で、幾つかのトマト弾を丸ごと受け止めてみせる。
「神様からの御下がりだね。有難くいただきまっす♪」
「まあ、任せるよ」
杏と小太刀の元へトマト弾を運んでいく祭莉を見送って、ガーネットは手元の躯丸に視線を落とす。
「躯丸は……後で洗った方がいいかもしれんな」
とあるUDCの骨で造られた真っ白な刃がすっかりトマトに染まっているのを見て、ガーネットはぽつりと呟いた。
一方その頃。
『何故だ――何故、当たらん』
「トマトを飛ばして来るなぁぁぁっ?!」
真琴は必死に、トマト弾を避け続けていた。
トマト嫌いを見抜かれ、邪神トマトに最も狙われている真琴は、トマト弾の悉くを必死に避け続けていた。
――神羅畏楼・往古来今。
真琴が纏う白炎が持つのは畏れの力。畏れは相手にとっては蜃気楼のように惑わすものであり、真琴には自身の周囲をスローモーションに映し変える。
今の真琴には、トマト弾の動きもゆっくりに見えていた。
しっかりと見れば、見てからでも十分に躱せるほどに。
『ええい、何故避ける。美味しそうなトマト弾だろう!』
「だから避けるんだぁぁぁぁぁっ!」
とは言え、大嫌いなトマトに追われ撃たれ続けて、それをじっくり見続ける羽目にはなっている真琴の心中たるや、穏やかである筈もない。
「射て」
そこに杏が短く告げる声がして、白銀の光が花弁の様に舞い散った。
華灯の舞――杏の指先で白銀が瞬き、迸った光がトマト弾を撃ち抜いて、その内側に小さな爆発を起こした。
ポテリと落ちたトマト弾から、立ち昇る香ばしさに酸味が合わさった香り。
「よし。ちゃんと焼けた」
焼きトマトを1つ、満足気に拾い上げた杏は伸ばした指先をトマト弾に向けて、焼きトマトに返る白銀の光を次々と放っていく。
「ふふ、煮込み用のトマトもたくさん作れる」
「杏姉ちゃん。トマトを煮込むって……」
楽しそうに焼きトマトを増やしていく杏に、真琴が恐る恐る声をかけた。
「ん。トマトとフカヒレをぐつぐつ煮込んで――」
「ミネストローネにしないでくれぇぇ!!」
杏が言い終わるのを待たず、真琴が悲壮な声を上げる。
「ミネストローネはトマト丸ごと沢山ぶち込まれた上に肝心の具がトマトの味しかしないだろっ?! 小ちゃい時の記憶でそれが強烈に残ってんだよー!」
必死の懇願に、する真琴もされる杏も足が止まる。
『今だ、全トマト塊からトマト弾――発射!』
一斉に放たれるトマト弾。
「させるか」
だがその大半を、ガーネットが大きく広げた液体金属の翼『ブレイドウィング』で弾き飛ばしてみせる。
(「ピーマンじゃなくて良かった」)
小太刀は心の底からそんなことを思いながら、ガーネットの翼をすり抜けたトマト弾を斬り落とす。
「集めたのは失敗でしたね」
そして邪神トマトが集めたトマト塊は、シリンの精霊猟刀がまとめて両断した。
「うぅ……まつりん兄ちゃん、ガーネットさ~ん、シリンさ~ん」
トマト弾に追われる恐怖からの解放に安堵したか、真琴がほっとした様子で――全然ほっとしてない様子で、何故か小太刀を除く3人に縋っていた。
「杏姉ちゃんを止めてくれ!!!」
「ん。大きいトマトも使えそう」
真琴が指さしたそこには、楽しそうにトマト回収に勤しむ杏の姿。
さもありなん。
「嫌いなら食べなくてもいいよ?」
落ち着かせるように真琴の頭をなでながら、祭莉が告げる。
だが――。
「コダちゃんが、真琴のためにトマト味じゃない特別料理作ってくれるよ♪」
「姉ちゃんの料理も勘弁してくれ!?」
祭莉が続けた言葉を聞いた瞬間、真琴の表情が豹変する。
「きっとすっごく、攻撃力の高いヤツ!」
「そこ、攻撃力高い言うなー!」
にぱっと笑って続ける祭莉に、小太刀がすかさず言い返した。
「わたしだって、トマトを美味しくしてあげるくらい出来るんだからね!」
そう言い放つと小太刀は、トマト弾だったものが輪切りになって乗っている紙皿を手に取った。そもそも、トマト味じゃない料理の話ではなかったのだろうか。
「もう切ってあるから、あとは味付けね。かけるのは塩か砂糖かマヨネーズか、そこが問題ね」
――ん?
「いっそのこと全部……」
『おいやめろ。混ぜるな。流石にマヨ砂糖はやめろ』
不穏なことを言い出した小太刀に、邪神トマトからもツッコミの思念が入る。
小太刀の太刀捌きは見事なものだ。鰹だっておろしてみせた。
だが。
料理の中でも、特に重要な工程の一つ。味付けの部分に於いて――小太刀は何かこう致命的に向いていないようだった。
●トマトの先へ
『ええい、トマト弾で倒せぬなら――このトメィトゥボディの力を見せてやる!』
トマト弾が悉く料理されたと言う現実に、邪神トマトが震え出す。
『どいつもこいつも、トマト弾を普通のトマト扱いしよって』
トマト弾を悉く料理された邪神トマトが、怨念じみた思念を響かせる。
『ならばこのトメィトゥボディの力を見せてやる! トマト弾でトマト塗れになっていた方が良かったと後悔するが良い!』
「そうはさせません。羽根妖精よ!」
震え出す邪神トマトの真っ赤なトマトボディの前に、シリンが全ての精霊猟刀を等間隔で並べた。
「皆、私の後ろに――精霊猟刀、回りなさい」
シリンが告げると精霊猟刀が回り出す。
ヒュンッと刃が風を切る音が幾つも重なっていき、次第に不思議な音色が響き出す。
『そんなもの――!』
邪神トマトの思念と共に、振動の衝撃が放たれる。
――――!!!
耳を劈く轟音と共に、トマトボディから放たれた衝撃が千々に斬られて霧散した。
『なんだと!?』
驚く邪神トマト。
邪神トマトは気づいていなかった。トマトボディを震わせて衝撃を放つ攻撃も、既に一度見られていると言う意味を。
「半分ほどやられましたか……」
シリンの精霊猟刀も数を減らされたが、6人は無傷だ。
「集え、精霊猟刀」
残る精霊猟刀を、シリンは一つに合わせていく。
「今宵のアカツキは血に飢えているぞ」
ガーネットが切っ先を足元に向けるように構えたアカツキの刃が、『朱月』の銘に違わぬ朱色に染まっていく。
「要は熱を加えればいいのよね?」
味付け禁止を言い渡された小太刀は、白雨の矢にスチームエンジンを取り付けた。
「ちょっと待ってね!」
邪神トマトに斬りかかる気満々な3人の様子を見て、祭莉が飛び出す。
「この後どんな料理になっても――鰹とトマトは覚えとく!」
告げた祭莉が手を振れば、幻影の舞扇がくるくる回って飛んでいく。
舞扇は、邪神トマトの表皮に当たるとボンッと爆ぜた。
「まずは、タタキで表皮を柔らかくしてっと♪」
当たれば爆ぜる舞扇を次々と放ちながら、祭莉は駆ける。邪神トマトの周りをぐるぐると何度も回る様に。
「祭莉……さっき鰹でも頑張ってたのに、また走ってるな」
「子供は元気ですね」
ガーネットとシリンはいつでも邪神トマトに飛び掛かれるように構えながら、駆け回る祭莉を見守る。
「祭莉ん? 湯剥きなら蒸気で――」
「タタキはおまけだよー!」
小太刀の疑問に返して、祭莉は足を止めると手元に残した舞扇をパチンと閉じる。
『ぬぉっ!? 何だ!?』
直後、扇が爆ぜた場所を結ぶ見えない何かが、邪神トマトを縛った。
「あのまま斬って中身が飛び散ると、この辺一帯がトマト臭くなりそうだから――弾け飛んだりしない様に、縛っといたよ♪」
祭莉が縛ったと言うそれは、オトナには見えない夢色の絆――遮那王の刻印。
『な、なにをした!?』
見えないと言う事はオトナらしい邪神トマトの上を、こちらも大人組のガーネットとシリンが駆け上がる。
妖刀と猟刀が同時に、十字の軌跡を描く。
2人が切り込みを入れたそこに、放物線を描いて飛んできた矢が突き刺さった。
「最大出力!」
黒塗りの和弓を構えた小太刀が声を上げれば、矢から熱い蒸気が噴き出す。
『熱っ!? また湯剥きかぁぁぁぁぁぁ』
「あなたは私の収穫(えもの)」
「そろそろ、本体も切って味を確かめてみよう」
蒸気の熱さに思念を零す邪神トマトに、シリンとガーネットが刃を振り下ろす。
柄の数が34となり刃も長大になった精霊猟刀と、地に満ちた邪気を纏った妖刀・アカツキが、深々と邪神トマトに突き刺さった。
「そろそろ、最後の姿が来るかな」
見守っていた杏が、ぽつりと呟く。
「鰹にトマト。どちらも強力な邪神だった。最後はどれだけ美味し……強敵か」
「トマトじゃなければ何でも良い……」
気を引き締める杏に、真琴が疲れた声でぽつりと返していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『オ・デーン』
|
POW : どれを食いたいんだい?
【取り箸】が命中した対象を切断する。
SPD : おかわりだ
【銃からおでんの汁や具を飛ばすこと】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : たーんと食べな
【おでん】を給仕している間、戦場にいるおでんを楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
イラスト:笹にゃ うらら
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ルエリラ・ルエラ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●完全なる邪神――パーフェクト・オ・デーン
『ここまで追いつめられるとはな……良いだろう!』
邪神トマトの思念が、超空間に響き渡る。
『見せてやろう――パーフェクトな最終形態を!』
猟兵達があの手この手で剥こうとしていた邪神トマトの皮が開いていく。湯剥きで剥ける薄皮ではなく、トマトの果皮が脱皮の様に剥けていた。
そんなことをすれば、通常のトマトだったら中身が漏れてしまう。
だがトマトの皮の中から広がったのは、もうもうとした白い煙だった。
煙に異臭はなく、触れても刺激もない。むしろしっとりとした肌触り。
それが湯気だと猟兵達が気付くと同時に、周囲の空間がまた変わっていた。薄く雪が積もった様に白い、どこか寒々しい空間へと。
そして――湯気の中から邪神が姿を現した。
手足が生えている真鍮色のボディはお鍋。
手に持っているのは槍の様に長い二対の菜箸。
『これこそ、我が最終形態――パーフェクト・オ・デーン!』
そう。そこにいるのは、意思を持って動いている――おでん鍋。勿論中身入り。
『ただのおでんではないぞ! 鰹の出汁、トマトの水分。前の2つの形態を存分に活かした、洋風イタリアンおでんだーーーーー!!!!!』
これまでの様な思念ではなく、お鍋ボディの口で邪神が叫ぶ。
『和洋折衷なこのおでんこそ、完璧なおでん……』
鍋の中のおでんつゆは、確かに真っ赤だった。どう見てもトマトの赤だ。
『おでんの具? お前達も言っていただろう。ジンベエザメは、蒲鉾に出来ると。蒲鉾が作れるなら、おでんの具だって出来ると言うもの!』
どうやら具も作りたてらしい。
『鰹とトマトでやられて、おでんの量が70%程度になっているが……これだけあれば、よもや食い尽くされる事もあるまい! 猟兵どもよ! 熱々のおでんを食わずに、帰れると思うなよ!』
邪神よ、フラグって知ってるか?
==================================
3章になりました。
完全なる邪神。その名は、パーフェクト・オ・デーン。
捕捉としては、このオ・デーンは、必ず『ユーベルコードによる先制攻撃』を行ってくると言う事です。
何らかの対処がプレイングにないと、失敗になってしまいます……。
ですが、オ・デーンのユーベルコードは御覧の通りなので、おでん食べるつもりで来てもらえれば大体何とかなるんじゃないかと!
と言うわけで、プレイングには好きなおでんの具を、是非書いておいて下さい。
鰹とトマト以外も、おでんにあるものは邪神パワーで色々入ってます。こんにゃくとなべ底大根は欠かせないと思うんです。異論は認める。
なお洋風イタリアンおでんなので、通常のおでんには入らない具でも、邪神パワーで入っています。リクエストしてみればいいんじゃないでしょうか。
プレイングですが、当方の都合で3/17(火)8:30~とさせて下さい。
期間前でも受付ますが、再送をお願いする可能性大です。
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波狼・拓哉
馬鹿な…イタリアンおでん…だと…!?その発想はなかった…(膝から崩れ落ちる)あ、まて餅巾着はあるんだろうな。なかったらおでんと認めんぞてめー。ある?ならよし。
じゃあいただきますか。とりあえず全種類1個ずつください。こういうのって全種コンプしたくなるんですよねぇ。洋風つうのも珍しくて箸が進みますますわ。大根も味染みてるし…うわ蛸もある。珍しいのでいくと…スパムもあるじゃん。塩味がいい感じ。
…まあさすがに7割になってるとはいえねぇ量は多いし…ミミックー喰っていいぞ。鍋ごと。…ミミックさんの胃容量とか知らないけど2割ぐらいはいけるんじゃないですかね。…最悪再召喚すりゃ無限だし。
(アドリブ絡み歓迎)
黒木・摩那
先のトマト狩りでは一度はあきらめたトマト鍋が、西洋おでん鍋になって登場とか素晴らしすぎます。
今度は具を選ぶのに迷ってしまいますね。
やわらかくなったほくほく大根、
汁が沁みたゆで卵も外せません。
もちもちキンチャクも良いですね。
給仕してくれる間は正座で待機。
邪神と言えど、給仕してくれるのであれば静かに待ちましょう。
唐辛子を掛けて、ピリ辛おでんもよいですね。
【呪詛耐性】あるし、食べ放題ですよ。
これだけ楽しめば邪神のユーベルコードも対処済みです。
正座して足しびれた……
邪神退治はヨーヨー『エクリプス』。
【念動力】でワイヤーを操りながら、たまに具も絡めての【武器落とし】。
トドメはUCでこんがり焼きましょう。
●いきなりそうきたか
「馬鹿な……イタリアンおでん……だと……!?」
マトの中から出てきた完全なる邪神、オ・デーンを前にして、波狼・拓哉は愕然とした表情を浮かべていた。
探偵として様々なUDCを見てきた拓哉をして、である。
『ふ……驚いたか』
「ああ、その発想はなかった……」
ドヤるオ・デーンの前で、拓哉の膝ががくりと崩れ落ちる。
「……」
その隣で、黒木・摩那も一言も発さずに膝が崩れ――あ、いや、これは違う。
『そ、それは……正座、だと!?』
摩那の取った姿勢に気づいて、驚いたのはオ・デーンの方だ。
何故ならそれは、綺麗な正座だったのだから。
「だって、先のトマト狩りでは一度はあきらめたトマト鍋が、西洋おでん鍋になって登場とか素晴らしすぎます」
スマートグラス『ガリレオ』外しながら、摩那は淡々と告げる。
ガリレオを外した理由? 曇るから。
「例え邪神と言えど、給仕してくれるのであれば静かに待ちましょう」
裸眼でオ・デーンを見据える摩那の顔には『早く食べたい』と書いてある。
「ま、それもそうですね」
そんな摩那の様子に、拓哉も崩れてついた膝をそのままに居住まいを正していた。
「ここは素直にいただきますか」
意表を突かれたとはいえ、また食べられるのは僥倖だろう。
『ふ、殊勝なことだ。ならば何でも好きなおでんの具を食わせてやろう!』
これまでの戦いで少し慣れたのか、オ・デーンも2人の食い気に気圧される事無く、菜箸を自分の鍋へと突っ込む。
「選ぶのに迷ってしまいますね。鍋底でやわらかくなったほくほく大根、汁が沁みたゆで卵も外せません」
摩那の脳裏に、色んなおでんの具が浮かんでは消えていく。
「あ、まて。餅巾着はあるんだろうな。なかったらおでんと認めんぞてめー」
『ふ……この鍋は完全なるおでんだぞ! 入っていないおでんの具などあるものか』
拓哉にとっておでんにマストな具も、ちゃんと入っているようだ。
「ならよし」
自信たっぷりのオ・デーンの言葉に、拓哉は一つ頷いて――。
「じゃあとりあえず全種類1個ずつください」
遠慮の欠片もない注文を飛ばした。
『貴様、遠慮ってもんを知らんのか!』
「知らん! 正気なんぞ捨ててきたとトマトに言っただろうが!」
オ・デーンの抗議に、拓哉が間髪入れずに言い返す。
「もちもちキンチャクも良――あ、食べ放題良いですね。私も全部1つずつで」
『お、おう。マジか……』
摩那もそれに乗っかれば、オ・デーンが気圧された様に一歩後退る。
『いいだろう――腹がはち切れるまで、たーんと食べな!』
だがオ・デーンがすぐに気を取り直すと、2人の前に何処からともなく、餅巾着が入った呑水が飛んでくる。
噛み締めれば、口に広がる鰹とトマトの旨味。油揚げの甘みがアクセント。中の餅はほんりとトマトの赤に染まっている。
「全種類とは考えましたね」
「こういうのって全種コンプしたくなるんですよねぇ」
なんて和やかな会話を交わしながら、摩那と拓哉はちくわ、つみれ、がんもどき、と呑水に入って来るおでんを次々と平らげていく。
「大根も、しっかり味染みてるし……」
「これはちゃんと下茹でして、隠し包丁も入ってますね」
これまたほんのり赤く煮込まれた、ほくほくの大根。
「うわ蛸もある。珍しいのでいくと……スパムもあるじゃん。塩味がいい感じ」
次々入って来る中には、海鮮の具や日本の沖縄では定番だと言うスパムなんて変わり種もあり、拓哉はそれらにも舌つづみを打つ。
「ああ、やはりです。トマトスープなので、唐辛子を掛けてピリ辛おでんもいけます」
呑水の中で崩したゆで卵にさらにマイ唐辛子を加えて、ご満悦。
だが――次第に2人の食べる勢いは、落ちてきていた。
『それ見た事か! それが人間の胃袋の限界よ!』
満腹が近いとみて、オ・デーンが勢いを取り戻す。
「……まあさすがに7割になってるとはいえねぇ量は多いし……」
実際、拓哉はまだ食べられるけれど余裕と言う程でもなくなっていた。
だから。
「ミミックー喰っていいぞ。鍋ごと」
『え?』
拓哉はいつもの様に、箱型生命体をけしかける。
偽正・神滅迫撃――スコル・プレデター。
再び狼型になった『ミミック』から伸びた影の顎が、遠慮なんぞ微塵もなくオ・デーンの鍋の中に顔を突っ込んで、ガツガツとおでんを食い始めた。
『あ、こら! 鍋ごとなんて――』
「ミミックさんの胃容量とか知らないけど2割ぐらいはいけるんじゃないですかね」
なんて投げやりな拓哉の言い様だが、上からオ・デーンを見ていたら、自分達が食べているよりも遥かに早いペースでオ・デーンの中身が減っているのが見えただろう。
『ええい、獣風情が! これ以上は他の猟兵を満腹にさせる分がなくなるだろう』
文字通り食い下がる影の顎を、オ・デーンは取り箸で必死に振り払う。
そんな取り箸の間を、何かがするりと通り抜けた。
摩那が正座したまま投げ放ったヨーヨー『エクリプス』だ。
『む、何のつもりだ――』
摩那の念動力で鍋ボディに巻き付いた『エクリプス』を、オ・デーンが訝しむ。
「ウロボロス起動……励起」
構わず、摩那は何故か正座を崩さずに、ワイヤーを通じて『エクリプス』に己のサイキックエナジーを集めて始める。
「昇圧、集束を確認……帯電完了」
偃月招雷――エペ・ド・エクラ。
『エクリプス』に集束したサイキックエナジーが、バチバチと爆ぜる月光を思わせる白い雷電へと変わる。
「具材が減って、冷めてきた所ではないですか? こんがり焼きましょう!」
『あばばばばっ!?』
ぐるぐるっと巻き付いた『エクリプス』全体が激しく帯電し、白い雷電がオ・デーンを全方位から襲う。
『ふ、ふぅ……こ、こんなの電子レンジくらいだな! だが折角温まったのだ! 他の猟兵の腹をはち切れさせてやろう』
雷電が収まると、オ・デーンは明らかなやせ我慢しながら2人の前から離れていく。
「どうする? ミミックなら再召喚すれば行けるが……」
追うか、と問う拓哉に、摩那は静かに首を横に振った。
「その……正座して足しびれた……」
摩那が正座を崩さずに攻撃していたのは、崩さなかったのではなく、崩せなかっただけだったようである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フィーナ・ステラガーデン
ん!!いい感じに茹ってるわね!
さっそく頂くわ!そうねえ!
あらびきウインナーと牛すじ串がいいわね!
ちょっとあんた鍋が動くんじゃないわよ!大人しくしてなさいよ!
んー。量が減ってるなら追加しましょ!私こんなこともあろうかとお肉持ってきたのよ!投下よ投下!
トマト風味ならチーズとか入れてもいいんじゃないかしら!宴の始まりね!
あ、お酒もあるわよ!
動くなっつってんでしょ!(ゲシッ!)
(出来上がり邪神相手にクダを巻き始め)
だいたい猟兵っていっても正義のヒーローじゃないってのよ!
さも格好良く人助けしないとダメーみたいな風潮おかしいと思うのよ!あんた聞いてんの!?
(繰り返しUC発動)
(アレンジアドリブ連携大歓迎)
司・千尋
連携、アドリブ可
いやもうトマトから鍋…というか
おでんが出てくるとか
どこからつっこめばいいのか
わからない……が
数少ないツッコミ担当で
俺とお前は最早好敵手と言えるだろう
その好敵手が奨めるおでんなら
食べない訳にはいかないな
まずはマイ箸持参で全力でおでんを楽しもう
俺はこんにゃくと大根が好きなんだけどあるかな?
あとちくわぶ
結構マイナーだけど美味いよな
あ、邪神のオススメって何?
おぉソレも美味そうだな
一頻りおでんを楽しんだら
宴もたけなわだが
そろそろお別れの時間だな
戦闘は近接攻撃も混ぜつつ
基本的には攻防に『怪誕不経』を使用
鍋だから鈍器の方が効率良いかもしれない
さらば邪神…
おでん美味かったぜ
御馳走様でした!
鵜飼・章
僕は鵜飼章…人間だ
何かの縁でここにやってきて
状況は大体解っている(だろうね)
だからさりげなくその場に溶けこみ(最初からいるけど)
依頼をいい感じに進める行動言動をするよ
シリアスでもギャグでも皆に合わせます(ギャグだよね)
可能さ…そう
UC【空気を読む】があればね
(読めない時もあるよ)
僕にできる事は技能一覧を見てほしいな
これ以外の事は大体できないと思ってくれて構わない
特に苦手なのは労働と力仕事だよ
できないからやらないとは言ってない
装備アイテムを使えば割とどうにかなる
泰月MS僕をなんとかするんだ…して下さい
好きなおでんの具ははんぺんだよ…
あと静岡おでん派だ
つまり全部お任せだよ
アドリブアレンジ大歓迎です
クロムウィル・ラグストーン
O・DE・Nだって!?
日本の伝統的煮込み料理…に、トマトの旨味が+されて…!
く…悔しいけど完璧に調理されてる!手を加える場所がない!
だったらもう食べるしかないね!いただきます!
切断?もうね、バンバンやっちゃっていいよ!
片足持ってかれようが何だろうがその程度で止まる僕じゃないから!
それじゃ、いざ実食!
食べながらUCの効果で切られたとこを回復!
食べれば食べるほど回復するし食べれば食べるだけ料理への耐性もつくから実質無限に食べれるね!
大根しみしみ!ハンペンふかふか!こんにゃくプルプル!おーいしー!
〆にご飯入れていいかな!?この場合リゾット?おじや?どっちだろ?
最後の一滴まで完食しちゃうぞー!
●そして誰もつっこまなくなった
どこにあるかも知れない、超空間。
邪神の為の空間である筈のそこには、かつお出汁と煮込んだトマトの合わさった食欲をそそる香りが漂っていた。
『いきなり全種制覇なんかされて想定以上に減ったが、まだまだおでんはある! 次は貴様らにおでんを食わせてやろう!』
ちょっぴりお鍋が焦げてるオ・デーンから漂う、おでんの香りである。
「完璧だ……」
その香りが、クロムウィル・ラグストーンに膝をつかせていた。
あれ、こんな光景さっきも書いたな?
「O・DE・N。それは日本の伝統的煮込み料理……そこににトマトの旨味がプラスされているなんて、完璧な調理だ。悔しいけれど、手を加える場所がない!」
これまでの食材とは違う完成された料理となった邪神の姿に、クロムウィルは料理好きであるが故の敗北感の様なものを感じていた。
「そんな事ないんじゃない?」
そこに、フィーナ・ステラガーデンがあっけらかんと口を開く。
「トマト風味ならチーズとか入れてもいいんじゃないかしら!」
「チーズ!!!」
フィーナの一言が、クロムウィルの敗北感を半分くらい吹っ飛ばした。
「そうだ……トマトとチーズなんて鉄板じゃないか……!」
チーズと聞いて、鱗が落ちていきそうに左目を見開いているクロムウィルの肩を、屈んだ鵜飼・章がポンと叩く。
「僕は静岡おでん派だ」
「「「???」」」
『???』
唐突な章の一言に、猟兵達もオ・デーンも揃って首と鍋を傾げた。
「静岡おでんと言うのは、取り皿にとってから好きなように味を調えるんだ」
味噌や削り粉、青のり等が良く使われるそうです。
「そうか、味変……!」
空気を読んだ(つもり)の章の言葉で、クロムウィルの敗北感は完全に消えていた。
『味変前提で話しないで、そのまま食おうや?』
「いや、手を加えるとか味変とか、それ以前だろ!」
オ・デーンと司・千尋が、その流れに思わずツッコミを入れたのは、ほぼ同時。
「トマトから鍋……というか、おでんが出てきたことに対して、俺はもう、どこからつっこめばいいのかわからない……」
ツッコミどころが多すぎて、千尋の中でそろそろ追いつかなくなっていた。
『どこからつっこめばいいのか判らないなら、口におでんをつっこんでやろう。何でも好きな具を言うが良い! 喰わず帰れると思うなよ』
少し前までの――トマトと戦っていた時の千尋だったら、このオ・デーンの言葉に「つっこみの意味が違う」とか返していただろう。
だが――。
「そうだな。数少ないツッコミ担当だった、俺とお前は最早好敵手と言えるだろう。その好敵手が奨めるおでんなら、食べない訳にはいかないな」
他の3人よりも早く、千尋が食べると言いだしていた。
『き、貴様……どうした。ずっと食わないと言っていたのに……』
胸中の変化を推し量れずに、只々驚くオ・デーンの様子に、千尋は無言で揶揄う様な微笑みを浮かべている。
(「別にいいじゃないか。俺がつっこまなくても……」)
物事に正対しない、いつもの自分を取り戻した千尋が、なし崩しに収まっていたツッコミ担当を諦めた瞬間だった。
●味の好みは人それぞれ
「あらびきウインナーと牛すじ串がいいわ!」
『まあ、うん……あるけどさ』
どちらかと言えば変わり種に分類される具をいきなりオーダーするフィーナに、オ・デーンは少しテンション落としながら具を取り分ける。
ちなみに、とあるアンケートで、ウインナーは『正直おでんに要らないと思う具』の第2位にランクインしたことがあるらしい。
「僕の好きなおでんの具は、はんぺんだよ……あるかい?」
次に章が告げれば、オ・デーンの顔がぱっと明るくなった。
「はんぺんか! 勿論あるぞ! ジンベエザメで作った――」
「違う」
オ・デーンがウキウキと鍋ボディから取った『白い』はんぺんを見た章は、冷たい視線を向けながら短くきっぱりと告げた。
「言っただろう? 僕は静岡おでん派だと」
『……はい?』
章の言わんとする事が判らず、オ・デーンが鍋を傾げる。
「静岡おでん派としては、はんぺんと言ったら黒はんぺんだよ。中でも鯖の身で作った黒はんぺんだよ」
馴染みのない方のために説明しておくと、黒はんぺんとは主にサバやイワシと言った青魚を骨ごとすり潰して作るはんぺんだ。
白いふわふわしたはんぺんよりも、蒲鉾やつみれに近い。
静岡の郷土料理である。
「あと静岡おでんには削り粉も欠かせない。最初が鰹だったんだから、あるよね?」
ついでに削り粉とは、鰹節を削った時に出る粉末の事だ。
『静岡静岡と、貴様、千葉がどうとか言ってたよなぁ!?』
静岡おでん派が強い章にツッコミながら、オ・デーンは灰色の蒲鉾の様な黒はんぺんを器に入れて、削り粉の小皿を添える。
『おかしい。何でこんなに疲れる……』
妙な気疲れを覚えながら、オ・デーンは次に千尋の方を向いて――。
「俺はこんにゃくと大根が好きなんだけどあるかな?」
『あるけど、貴様は本当にどういう心境の変化だ……!』
すごく普通のオーダーなのに千尋がしれっと持ってるマイ箸が気になって、オ・デーンはこんにゃくと大根を入れつつ、ツッコミを入れてしまっていた。
「さあな? もしかしたら正気を失ってるのかもしれないぜ――あ、大根うまい」
オ・デーンの反応を面白がるように言いながら、千尋は味が良く染みてトマトの仄かな酸味も合わさった大根に舌鼓を打つ。
『ふ……そうか。このイタリアンおでんの香りには抗えなかったようだな!』
いい気になって、オ・デーンは辺りを見回し――。
『ん? もう一人何処に行った?』
クロムウィルを探してきょろきょろするオ・デーンの背後を、3人が黙って示した。
「大根しみしみ! おーいしー!」
クロムウィルの声が聞こえたのは、オ・デーンのすぐ傍。具体的には、鍋ボディによじ登って取り付いて、勝手に中身食べていた。
『あ、こら、勝手に食べるな。どれを食べたいんだ!』
「こんにゃくもプルプルだ!」
クロムウィル、聞いちゃいねえ。
『ええ、離れ――』
「ちょっとあんた鍋が動くんじゃないわよ! 大人しくしてなさいよ!」
クロムウィルを振り払おうとオ・デーンが取り箸を振るうのと同時に、フィーナが動くなとオ・デーンにげしっと蹴りを入れた。
仮にも邪神。ただの蹴り程度で、ダメージになる筈もない。ないが――オ・デーンの体勢は崩れた。つまりどういう事かと言うと、手元が狂った。
『あ』
「――っ!?」
いい感じにズバシャーッと入ったオ・デーンの箸の一撃が、クロムウィルを振り払うどころか、その足を斬り飛ばしていた。
『やっちまったっ! もっとおでんを喰わせるつもりだったのに――え?』
思わぬダメージを与えてしまったと舌打ちしたオ・デーンだったが、すぐにその表情が変わった。驚きに目を見開く事になったのだ。
「はんぺんもふかふか!」
何故なら、足ぶった切られても構わず、クロムウィルは食い続けていたからである。
『――は?』
「ああ、これ? 腕以外ならバンバンやってもいいよ? 片足持ってかれた程度で止まる僕じゃないから! 腕は食べるのに不便だから困るけど!」
驚くオ・デーンに、しれっと告げるクロムウィル。ぶった切られた足を気にしないどころか、おでん食べてる内に足がくっつきかけていた。
この世の物は大体食える――ハングリー・イーター。
オブリビオンだろうが食べられるものを食べている限り、クロムウィルの自己回復力は高まっていく。
『何だこいつら……猟兵ってなんだ……』
「だから動くなっつってんでしょ!」
思わず後退ったオ・デーンに、フィーナが視線を向けて言い放つ。
その赤い瞳がギュピンッと輝きを放った瞬間、オ・デーンの動きが止まった。
『なっ……う、動けない!?』
邪眼ノ開放――フィーナの持つ闇の眷属の血の力を使った業に動きを封じられ、オ・デーンがその場で硬直する。
「んー。量が減ってるかしら? 追加しましょ! 私こんなこともあろうかとお肉持ってきたのよ!」
動けないオ・デーンに、どさどさと肉を追加していくフィーナ。
「宴の始まりね! 飲むわよー!」
一体どこに持っていたのか。フィーナは赤ワインの瓶を取り出すと、グラスもなしにそのまま飲み始めた。
●酒は呑んでも呑まれるな
――それから、どれくらい経っただろうか。
「だいたいねえ? 猟兵っていってもせいぎのヒーローじゃないってのよ!」
すっかり出来上がったフィーナは、オ・デーン相手に管巻いていた。
周囲に散らばるワインの空き瓶。絡み酒だったのか。
「ちょっとあんた聞いてんの!?」
『き、聞いてはいるぞ』
絡んでくるフィーナをオ・デーンが引き剥がしきれずにいるのは、フィーナが管を巻きながら繰り返し動きを封じる邪眼の力をぶっ放しているからである。
一応、邪神相手と言うのが残っているのだろうか。
「正義のヒーロー……僕は違うな」
歯切れの悪いオ・デーンの代わりに、章がフィーナに返す。
「そう? さも格好良く人助けしないとダメーみたいな風潮、おかしいと思うのよ!」
「そんなことは無い筈だよ。僕は以前、邪神の被害を調べる為にラーメン屋で善意のクレーマーとなった事がある。あれ多分、格好良くはない」
そして章の口から、善意のクレーマー作戦の詳細が滔々と語られる。
手に持っているのはジャスミン茶なので、酔ってはいない筈なのだが。
『……うわぁ』
「邪神のオススメって何?」
善意のクレーマー作戦の顛末を聞いてしまって引いているオ・デーンに、話を聞き流しながら千尋が鍋ボディを突いている。
『オススメは全てだが、トマトを練り込んだ薩摩揚げなどはこのオ・デーンくらいしかおそらくないものだぞ』
「オリジナルか。ソレも美味そう――あ、ちくわぶ。結構マイナーだけど美味いよな」
「次は何食おうかな。あと〆にご飯入れたらリゾット? おじや? どっちだろ?」
千尋がオススメの薩摩揚げとちくわぶを取り、最後まで食い尽くす気満々のクロムウィルも横から箸を伸ばした――その時だった。
フィーナに酔いが回りすぎたか、オ・デーンの背中のガスボンベが復活したのだ。
『貴様らは、もう十分喰っただろう!』
ガスボンベをロケットの様に噴射して、離脱を測るオ・デーン。
「そうだな。おでん美味かったぜ。御馳走様でした!」
その背中に、千尋が怪誕不経の光の槍を放つ。
『あ』
オ・デーンの背中のガスボンベが分解され――ちゅどんっ!
所謂ガス漏れ的なガス爆発で、オ・デーンは温められながら飛んでいった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
琶咲・真琴
【かんさつにっき】
イタリアンおでんって
ミネストローネの親戚かよ……(死んだ目
応援されても食わねぇよっ?!
姉ちゃんの嫌いなピーマンがたくさん入ってりゃいいんだ!(トマトの脅威去らずで素の口調続行
うぅ……トマトが絡んでなけりゃ、食べられたのにぃぃぃ!(半泣き
(相変わらずUC使って避けながら逃げる
トマト汁飛ばして来るなぁぁぁ!(カウンターなどの技能で飛んで来る攻撃を迎撃
祖父ちゃん、祖母ちゃんは
いつの間にかオジサンと一緒に鍋奉行してるしっ?!
オレの分は杏姉ちゃんたちが全部食べていいよ
オレは後で何か食べる……
って、オレ以外なら普通に食えるソレにトマトを入れるなよ?!
(トマトの味しかしない
アドリブ大歓迎
木元・杏
【かんさつにっき】6人
ん、弱くなって…
いただきやすくなった(お箸すちゃ)
あなたの本気、(食べて)確かめてあげる
まずは大根にじゃがいも、ソーセージ
ピーマンは小太刀にあげる(はい
ん…、トマト味が口中に染み渡り、噛むとわかる鰹出汁
流石ね
これはわたしもイタリアンびゅーてぃにならざるを得ない(UC)
さあ、ここからが本番
サメのはんぺん、エリンギ
どんどんおかわり(うさみん☆と手分けしてキャッチ
もぐもぐタイム中も第六感働せぬかりなく受け止める
〆はこんにゃく、そして…たまご
出汁の染み具合、素材の新鮮さ
全てをぱーふぇくとにせねばならぬ
キング・オブ・おでん
わたしの好物(こく)
さあ、かもん、鍋
ん、ごちそうさま
またね?
木元・祭莉
【かんさつにっき】のいたりあん!
鰹が。トマトになって。おでん。
ねぇ、かみさま。
だんだん弱くなってない?(すなお)
まいっか。真琴はすっごく怖がって(嫌がって)るしね!
わわ、先制で餅巾着ミサイル!?
うっわ、あっつあつだー♪(器用にお皿とお箸ではっしと受け止め)←武器受け
かみさま、味には自信ある?(もぐ)
あー。
この味付けなら、トマトと鰹入っててもいけそー♪
流石だね、かみさま!(ぐっ)
イタリアンおでん、バンザイ!
別の具も入れていい?(浮遊してふよふよと)
トマト櫛切りと、叩き鰹をざぱーん♪
ついでに、ピーマンの細切りとメカたまこ、ざぱーん♪
たまこ、鍋の中身よーく混ぜといてね♪
(コケコケ暴れるメカたまたち)
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
頑張るのよ真琴
お姉ちゃんはいつでも応援してるから!
励ましつつも箸構え
食べる気満々の臨戦態勢
まさかジンベエザメが伏線だったなんて
おでんと言えばはんぺん
しかもサメ入りは高級品
侮れない相手ね(ゴクリ
こちらも奥の手を
鍋奉行、召喚!
いつもの鎧武者のオジサンが
エプロンとお玉と
杏が怖がらない様にウサミミも付けて
おでんの給仕を手伝う
油断させてから鍋底に槍で穴を開ける高度な作戦
という事でおでんを堪能♪
はんぺん、大根、すじ肉、卵、蒟蒻、ごぼ天
手羽先も皮がとろとろで美味しいんだ♪
あとちくわぶ!
油断してたらピーマンが!?
恐るべしイタリアンおでん(涙
…後は任せた(パタリ
『〆はパスタで』(床にトマト文字
ガーネット・グレイローズ
【かんさつにっき】
なるほど、それがお前の真の姿か。
なら、こちらも全力でお相手(食事)しよう。
「よし、来い……!」
箸と紙皿を構えて準備は万全
【イデア覚醒】で熱い汁を躱し、具材を箸でキャッチしてやる
イタリアンおでんとは、ミネストローネのようなものか
まずはよく味の染みた野菜からだな。大根を貰おう。
「はふ。あふい(熱い)」
杏、たまこのたまごをくれないか?
サメのかまぼこは独特の味わい。これがニホンの練り物か。
魚介もいいが、肉も欲しいな。
イタリアンといえば鴨だろう。鴨肉のハムを頼む。
これはピーマンと一緒にいただこうか…。
色んな具材の味が溶け込んだスープは絶品だな。
シリン・カービン
【かんさつにっき】
あれが奴の真の姿。
おでんなるものをいただくのは初めての体験ですが、
まあ、見よう見まねで何とかなるでしょう。(箸と椀装備)
【シャドウ・ステップ】を発動。
時の精霊の加護を得て加速、具も汁も余さずキャッチ。
皆の取りこぼしもフォローします。
ふ、オ・デーンが本気になったようですね。
具材の数が各段に増えました。
私も本気を出しましょう…!
褐色の肌と額に第三の目が開く真の姿になり、
精霊護衣(ビキニアーマー)にチェンジ。
(給仕のためエプロン着用)
残像を生む加速で具材をキャッチ、
自分+皆の器に放り込んで行きます。
「よい味ですね。真琴、小太刀、次行きますよ」
(他意無く各々にトマト、ピーマン投入)
●お待ちどう
『……知ってた!』
そこにいる猟兵達の姿を見た瞬間、オ・デーンは思わずそんな声を上げていた。
「あれが奴の真の姿」
「なるほど、あれだけ食われてもまだ底が見えないか。さすがに真の姿だな」
やっと――もとい、ついにここまで来たオ・デーンを油断なく見据えて、シリン・カービンとガーネット・グレイローズが、ゴクリと喉を鳴らす。
鍋ごと食われかけたり電子レンジよろしく電熱あびたり、酔っ払いに絡まれたり背中のボンベを失ったりしても、オ・デーンの目から情熱の炎は消えていなかった。
「かみさま、味には自信ある?」
『ある!』
木元・祭莉の問いにきっぱりと返すだけの自信も、まだ失っていない。
この空間に入った全ての猟兵におでんを食わせるまでは、オ・デーンの中で燃えている炎は消えないのだろう。
その炎のお陰か、ガス爆発のお陰か。
オ・デーンの鍋は未だに冷え切らずに、湯気すら立っていた。
「侮れない相手ね」
煮込まれるトマトの匂いに、鈍・小太刀もゴクリと唾を呑んで箸を構える。
その隣で、木元・杏が静かに白銀の光を構える。
『灯る陽光』の光の刃は、これまでの包丁型ではない。先が3つに分かれてやや湾曲していた。三叉槍――と言うよりも、もっと相応しい形がある。
「あなたの本気、(食べて)確かめてあげる」
おでん食べたい。
その一心で杏が出した最適解――フォーク型だった。
オ・デーンが何かを言う前に、臨戦態勢――もとい、食事の準備ばっちりな【かんさつにっき】の5人の。
その後ろで。
「どうなってんだ、この世界……」
琶咲・真琴がひとり、虚ろな目で膝を抱えていた。
紫の瞳は、どんよりとしている。
まあ無理もない。
「何でまだトマト……」
トマトが消えたと思ったのに、トマトが終わっていないのだ。むしろ、目の前のオ・デーンからは濃縮されたトマトの香りすら漂っている。
トマト嫌いの真琴にとっては、地獄が続いているようなものだろう。
「オレの分は杏姉ちゃんたちが全部食べていいよ。オレは後で何か食べるから……」
「……真琴、これ食べて?」
見かねた杏が、真琴の前に皿を置く。
皿の上にあるのは、鰹とジンベエザメのお刺身。真琴が来る前に仕留めた、第一形態の成れの果てである。
●ランダムおでん
『ついにこの秘密兵器の封印を解く時が来たようだな……』
何だかんだで使い所がなかった銃を、オ・デーンが構える。左腕そのものと繋がっている銃の元は、オ・デーンの鍋ボディだ。
『自分でも何が出るか判らないおでん銃! 食らえ!』
「よし、来い……! こちらも全力でお食事――お相手しよう」
つい口をついて出てしまった本音をキリッとした表情で隠して、ガーネットはオ・デーンが向ける銃口を見据える。
「なるほど。最初は餅巾着ミサイルか」
そして、ガーネットが予言する様に告げた直後、その銃口から一度開いて中に何かを詰めてきゅっと昆布で縛った油揚げが、ミサイルの様な勢いで撃ち出された。
『なにぃっ!?』
「餅巾着ミサイル!?」
オ・デーンは、自分すら判らないおでん種を言い当てられて。
祭莉は意外なものが撃ち出されて。
それぞれ驚いた声を上げながら、祭莉は器用にお皿と箸を使って受け止めていた。
「うっわ、あっつあつだー♪」
顔にでも当たっていたらすごい熱かったであろう餅巾着を、祭莉が早速頂く。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
餅巾着、ちょっと食べるの時間かかる。
「あー。この味付けなら、トマトと鰹入っててもいけるー♪」
落ち着いてごっくんした祭莉は、にぱっと笑顔になっていた。
普通のおでんにはないトマトの仄かな酸味が口に広がるが、けれどそれが、餅巾着の油揚げをむしろさっぱりとした味わいになっている。
『そうであろう。合うであろう、鰹とトマトとおでん』
「うん、流石だね、かみさま! イタリアンおでん、バンザイ!」
片手を挙げた祭莉の言葉と仕草に、オ・デーンは満足そうにゆっくりと頷く。
「次は大根――2連射か」
「ん、わたしが。さあ、かもん、大根」
その様子を眺めるガーネットが再び予言するように告げ、それに杏が挙手をする。
『ふん、一度まぐれ当たりしたくらいでいい気になるなよ』
だが――ガーネットの言葉通り、オ・デーンの銃から放たれたのは大根2発。
杏は光のフォークで、ガーネットはお箸とお皿でそれぞれキャッチする。
「はふ。あふい(熱い)」
少し冷ましただけの熱々大根を頬張るガーネット。
杏も無言で大根を味わって――。
「ん……まずトマト味が口中に染み渡り、噛むとわかる鰹出汁」
トマト独特の酸味が和らいで仄かになった味わいの後にしみ出す出汁は、きっと鰹節で取った一番出汁。
(「成程。おでんなるものは、飛んでくる煮込み料理を熱々で頂くものですか」)
出身世界の違い故に、シリンにとっておでんと言う料理は未知のものだった。
オ・デーンがシリンの初めて見るおでんだったのである。
(「まあ、見よう見まねで何とかなるでしょう」)
シリンはちょっと誤解したまま、おでんの理解を深めてしまっていた。
「ガーネット、次は?」
「んぐ……ちくわ、はんぺんと続くぞ」
「やった! おでんと言えばはんぺんよね」
シリンの問いに返したガーネットの言葉で、小太刀が待ってましたと目を輝かせる。
そして撃ち出される、ちくわとはんぺん。
「……この穴には何の意味が? あ、でも美味しい」
「このはんぺん、サメ入り? 高級品じゃない」
シリンは穴の開いたちくわをしげしげと見てから口に運び、小太刀はジンベエザメはこの伏線だったのだろうかとか思いながら、ふわふわのはんぺんの舌触りを楽しむ。
『な、何故だ……』
愕然としたオ・デーンの声は、ガーネットに向けられていた。
何故、判るのだと。
「今の私には、この戦場のすべてが視える!」
訝しむオ・デーンに言い放つガーネットの瞳は、仄かに赤く輝いている。
イデア覚醒。
イデア――心の目とか呼ばれる物事の本質と先行きを瞬時に知る力を解放したガーネットには、オ・デーンすらわからないランダムな攻撃が予想出来ていた。
一方、その頃。
「……刺身、うまいし……」
真琴は虚ろな目のまま、刺身を突いていた。まあ折角だし。
「ふむ。どの具にもトマトの味が染み込んでいる。イタリアンおでんとは、ミネストローネのようなものか」
背中に聞こえた、味を分析するガーネットの言葉に、真琴の目が更に虚ろになった。
「だよな……イタリアンおでんって、ミネストローネの親戚だよな……」
トマト味の具しかないスープの強烈な記憶が、再び真琴の脳裏にフラッシュバック。
「うぅ……トマトが絡んでなけりゃ、他のも食べられたのにぃぃぃ」
「頑張るのよ真琴。お姉ちゃんはいつでも応援してるから!」
半泣きで恨み節が口を突いて出ている真琴に、小太刀が元気づける様に告げる。
応援はすると言ってはいるけれどけど、その両手がお皿と蒟蒻が刺さってる箸で埋まっている辺り、どう応援するつもりなのか。
「応援されても食わねぇよっ?!」
食べさせられるのを警戒してか、真琴が力強く小太刀に返す。
「あの鍋の底に、姉ちゃんの嫌いなピーマンがたくさん入ってりゃいいんだ!」
「不吉な事言わないで!?」
真琴が続けた言葉に、小太刀が目を白黒させる。
『ほほう……』
それを聞いたオ・デーンの瞳が、キラーンッと邪悪に輝いた。
●増えるおでん、増える属性
何となく、祭莉は思い出していた。
(「鰹は速かったなぁ」)
あのメリー鰹ゴーランドを。風輪の疾走の白炎の飛翔速度がなければ、祭莉は鰹の群れに呑まれていたかもしれない。
続いて思い浮かべるのは、赤い果実。
(「トマトは、すごく大きかったなぁ」)
周囲を走ってみたら、結構大変だった。
鰹。トマト。そして――おでん。
「ねぇ、かみさま――だんだん弱くなってない?」
『ぐっはぁぁっ!?』
祭莉の素直で無邪気な一言が、オ・デーンの心にクリティカルに突き刺さった。
「――ちがうよ、まつりん」
充分に味が染みていながら煮崩れていない、絶妙な煮込み加減のじゃがいもを頬張った杏が、ふるふると首を横に振る。
「……」
じゃがいもをもぐもぐごっくんしてから、杏はゆっくりと口を開いた。
「弱くなったんじゃない……いただきやすくなった」
『ふっ……頂きやすいはむしろ誉め言葉! それはおでんの正義だ!』
杏の言葉で、オ・デーン復活。
『こうなったら――出せる限りの食材をおでんに追加するしかないな!』
この期に及んで、オ・デーンの鍋ボディの中身が増えていく。
「これは……弾数、具材を増やして予想しにくくしてきたか」
イデアの予想に出る選択肢が急に増えて、ガーネットが眉を顰める。
「具材の数が各段に増えましたね」
それに気づいたシリンが、狩猟用のマントとチュニックの襟に手をかける。
「オ・デーンが本当に本気になったようですね。私も本気を出しましょう……!」
マントとチュニックを脱ぎ捨て、最低限の部位のみを保護する防具『精霊護衣』のみの姿となったシリン。露わになった肌は――色が変わりつつあった。
色の変化は、胴体から手足、指先から顔へと広がっていく。
そして――全身の肌が褐色となったシリンの額に、第三の目が開いた。
この姿こそが、シリンの真の姿。
「さてと」
どこからともなく取り出したエプロンを、シリンは精霊護衣の上からつけた。
『貴様、エプロンつけるなら、さっき上に着てたの脱いだのはなんなんだ!!』
いわゆるビキニアーマーとエプロンを合わせた状態になったシリンの姿に、オ・デーンから上がるツッコミの声。
シリンがそうした理由は勿論あるのだが、それは後で明らかになろう。
「シリン」
そこにかかる小太刀の声。
振り向けば、小太刀が笑顔で何故かうさみみ持っていた。
「着けろと? ……流石に属性過多ではないでしょうか」
「大丈夫よ」
流石に躊躇うシリンに笑顔で告げて、小太刀はオ・デーンに視線を向けた。
「鍋奉行、召喚!」
サモニング・ガイスト――古代の霊を喚ぶ業で、小太刀の背後に現れる鎧武者。
いつものオジサン。
だがその姿は――いつも通りではなかった。いつも通りじゃないよね?
『な……なんだ、それは!』
武者の鎧甲冑の上からエプロン! 兜の上にうさみみ! そして刀の代わりに構えている、おたま!
オ・デーンすら驚く威容である。
杏が怖がらない様にと、小太刀が付けたオプションだが、これはむしろ甲冑が邪魔ではなかろうか。甲冑が無かったら、おさんどんのオジサンなのに。
「……成程」
それを見たシリンがひとつ頷いて、うさみみを付けた。
『ええい、貴様ら、何なんだその恰好は!!!』
連射と言うよりは乱射と言う感じで、オ・デーンが左腕の銃から次々とおでんの具を撃って来る。若干、錯乱している気がしないでもないが。
「追いつけますか、真の姿となった私の影に」
シャドウ・ステップ――時の精霊の加護による加速を得たシリンは、足運びによる速度の緩急で、幾つもの残像を生じさせる。
何人もいるように見えるシリンは、オ・デーンの乱射に追いついて、放たれるおでんの具を仲間の皿へと次々リリースしていた。
はんぺん、大根、すじ肉、蒟蒻、ごぼ天、つみれ、がんもどき――etc。
「ちくわぶよろしく、鍋奉行!」
鎧武者もおたまでちくわぶを取って、リクエスト通り小太刀の器に乗せていく。
「流石ね」
トマト風味がよく合うソーセージを味わっていた杏が、ぽつりと呟く。
オ・デーンも仲間も本気になった今、おでんの供給速度が急激に上がっていた。
「これはわたしもイタリアンびゅーてぃにならざるを得ない」
杏の周囲に、桜の花びらが舞った。
忙しくなったおでんの速度が、杏に忘れかけてたくーるびゅーてぃー(当社比)を思い出させる。
「ここからが本番。どんどんおかわり」
くーるびゅーてぃーもーどで得られる飛翔能力を無駄――もとい充分に活かして、杏は飛んできたふわふわのサメ入りはんぺんをキャッチして、ぱくっ。
熱々平気そうにしてるけれど、杏のくーるびゅーてぃーって、もしかしてそっちのくーるもあるのだろうか?
(「さすがに皆も、やるなぁ」)
忙しくなったおでんの中で、ガーネットはむしろ余裕があった。
シリンと鎧武者でほとんど穴がなかったところに、くーるびゅーてぃー(もっとおかわり)杏まで加わったのだ。
予想が追いつくのが難しくなっても、何ら問題はない。
「サメのはんぺんは独特の味わいだな。これがニホンの練り物か」
むしろ今のガーネットは、食べる方を頑張る番だ。
時折、真琴に飛んでく攻撃だけ気を付けてやればいい。
「トマト汁飛ばして来るなぁぁぁ!」
そして真琴は、白炎を纏って必死の表情でオ・デーンが放つ赤い液体を避けていた。
再びの神羅畏楼・往古来今。
蜃気楼が如く揺らめく白炎は、オ・デーンの狙いを狂わせ、真琴に周囲の景色をゆっくりに映し出す。
だが――いくら周囲がゆっくりになっても、真琴はおでんを楽しめていなかった。故に真琴自身もゆっくりになっていて――余裕がなくなっていたのである。
「あ、真琴。そこは汁が飛ぶぞ」
ガーネットがイデアでフォローしてくれてなかったら、多分、厳しかった。
「祖父ちゃん、祖母ちゃん、オレどうしたら……」
真琴は思わず、祖父と祖母と呼ぶ片翼を持つ少年と少女の人形『familia pupa』に縋る様に声をかけ――られなかった。
「あれ? 祖父ちゃん、祖母ちゃん? どこだ!?」
そこにいる筈の人形達が、いなかったからだ。
慌てた真琴が辺りを見回すと、すぐに信じられない光景が目に入る。
「いつの間にかオジサンとうさみん☆と一緒に鍋奉行してるしっ?!」
真琴の祖父ちゃんと祖母ちゃん――サイキックエナジーを動力に動く人形達は勝手に動いて、小太刀の呼んだオジサンと一緒におでん鍋つついていたのだ。
いつの間にか、杏のうさみん☆まで加わっているが、真琴にそこにツッコミを入れる余裕はない。
何故なら、もっと重大な事に気づいてしまったから。
「祖父ちゃん、祖母ちゃん、帰ってきて! お願いだから跳ねたトマト汁浴びる前に帰ってきてぇぇぇぇぇ!!!」
鍋の近くは危険だという事に。
●メカたまこは食べ物じゃありません
「んー……」
響いた真琴の叫びを、祭莉はオ・デーンの頭上で聞いていた。
見下ろす鍋は、あれだけ撃ちまくれば具がやはり減っている――様に見える。
「かみさま、別の具も入れていい?」
言うが早いか、祭莉はオ・デーンの返事を待たずに持っていた食材を放り投げた。
『あ、こら! 何を入れた!』
ざぱーんっと入った食材に、オ・デーンが祭莉に気づいて声を上げる。
「だいじょうぶ。トマト櫛切りと、叩き鰹だから」
『そうか、それなら――』
安堵して視線を外したオ・デーンの鍋に、祭莉は何か細かい緑色を追加投入。
さらに――。
「毎日が修業!」
守護神降臨――発動。祭莉が呼んだニワトリ型ロボ、メカたまこが降ってきて、そのままオ・デーンの鍋にざぱーんっと飛び込んだ。
「たまこ、鍋の中身よーく混ぜといてね♪」
祭莉の指示にコケコケ応えて、メカたまこ達は鍋の中に泳ぎで流れを作り出す。
『こらこらぁぁぁっ!? 食材以外入れるんじゃあない!!』
しゅぽーんっ、コケーッ、と、オ・デーンの銃から撃ち出されて鍋の外にリリースされていくメカたまこ達。
『な、何体入れたんだ……』
「今は70くらいかなー?」
『えぇー……』
祭莉の答えにつかれた声を上げて、それでもオ・デーンはメカたまこを銃から撃ち出していく。その間、他のおでんの具を撃つ余裕が、オ・デーンにある筈もない。
コケッ!
つまり、メカたまこの声が聞こえている間は、食べたい放題タイム。
「魚介もいいが肉はないのか? お。これは鴨肉のハムじゃないか」
祭莉が入れた『とある緑の野菜』の細切りを、ガーネットが鴨ハムで巻いて食べる。
「ごぼ天はほくほくで、手羽先も皮がとろとろで美味しー♪」
それに気付かず、小太刀は鶏肉に舌鼓を打っていた。
「エリンギ、旨味がしみ込んでる……〆はこんにゃく、そして……たまご」
杏が光のフォークで、煮卵をそっと掬い上げる。
「わたしの好物」
おでんの卵は、中々難しいものだ。
だが、オ・デーンの卵は、出汁の染み具合といい、素材の新鮮さといい――。
「全てがぱーふぇくと。まさにキング・オブ・おでん」
杏も満足の一品。
『キング・オ・デーンか……それもいい響きだ』
しみじみとしてるけど、オ・デーン、まだメカたまこ排出中です。
「杏、そこのたまご、くれないか?」
「おいらも!」
それを見たガーネットがたまごを頼んだ所に、祭莉もおりてくる。
煮卵を箸で崩さずに取るのは、中々難しいものだ。
「ん、これは食べるべき」
杏が乗せた卵を、ガーネットは皿の上で軽く崩して、スープと一緒に頂く。
「色んな具材の味が溶け込んだスープは……絶品だな……」
「本当に、よい味ですね」
しみじみと呟いたガーネットに、同じように卵を崩して頂いたシリンも頷く。
「たまご、わたしも!」
「はいはい。小太刀、次行きますよ。真琴も」
そう。頼まれたから。シリンは、オ・デーンの鍋から取ったのだ。
飛んでいった二つは何故か――緑と赤で。
「ん? ピピピ、ピーマン!?」
「だからオレは要らな――何でトマト!?」
他意なくシリンがうっかり飛ばしたピーマンとトマト――それぞれの嫌いな野菜。
特にピーマンは祭莉が入れた細切りではない。丸ごとゴロっとだ。
『ふっ……』
オ・デーンがしてやったり、みたいな顔をしている。小太刀の嫌いなものを聞いた時に目が怪しく輝いたのは、これだったか。
「恐るべしイタリアンおでん……後は任せた」
「トマトもうやだ……」
精神にクリティカル喰らって、小太刀と真琴は姉弟揃ってパタリと倒れ伏す。
「コダちゃん、真琴、大丈夫ー?」
案ずる祭莉の声に、小太刀は倒れたまま真琴の前に落ちていたトマトを掴んで――何かを指で書いていく。
――〆はパスタで。
まるでダイイングメッセージみたいに、小太刀が残したトマト文字。
だが、少し遅かった。いつの間にか、オ・デーンはまだ振舞っていない猟兵達に、最後のおでんを食わせるために、そちらへ向かっていたから。
とは言え、【かんさつにっき】一行のお腹は、多分きっと、満たされた事であろう。
若干一名を除いては……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
重松・八雲
【花守】
此処はがっつりと勇んで堪能、もとい全力で受けて立つしかあるまい!
あっ、ちょこにゃんは猫舌じゃっけ
安心せい、火傷せんようふーふーしてあげるでのう!
遠慮せんでも良いぞ!
さて、儂はやはり大根に卵に竹輪、あと餅巾にがんもも欠かせんじゃろ
それから――ところでいたりあんとはなんじゃろか!
あれもこれも気になって仕方ないで、試しに全部頂こうか!
どんと来るが良い、そして盛るが良いぞ!
(ちょこにゃんに和みつつもぐもぐ頂き)
腹が減っては何とやらというが――これ程馳走してくれるとは敵ながら天晴れよ!
御馳走さん!
ところでお主、冷めてきておらんか?
お礼にこれを食らうが良いぞ!(破魔の力を込めたUCを盛大に!)
鈴丸・ちょこ
【花守】
ほう、食べ放題か?
邪神の癖に太っ腹じゃねぇか
ならたんと食い尽くしてやらねぇとな!
――おい余計な心配は要らねぇ
寒気がする真似はやめろ!
(自分で密かにふーふーしつつ)
俺は無論、魚っぽいのと鶏っぽいの全部だ――猫だからと侮るなよ
何、腹の心配も要らねぇ
あぽかりぷすじゃ好き嫌いしてちゃ生き残れなかったからな!
美味しかったらどんどんおかわりしてやるから、覚悟しやがれ!
(熱に負けないようにちみちみと、しかし着実に平らげて!)
御馳走さん――よし、覚えたぞ(いつの間にかUCでがぶがぶ)
最終形態と名乗るだけあって、てめぇも中々良い味してやがるな
すっからかんになるまで、返礼にこの牙を食らわせてやろう!
●野生の食欲
『来たぞ! たーんと食べな!』
「ううむ……あやつ、もしや底なしか?」
迫るオ・デーンの姿に、重松・八雲が思わず顎に手をやって瞠目していた。
声に疲れは滲んでいるし、足もなんだからふらついている。だと言うのに、オ・デーンの鍋ボディには、様々な具とトマトと鰹出汁のスープが並々入っているように見えた。
「色々な目にあってた筈じゃがのう」
「いいじゃねえか、底なしでも」
指で顎鬚撫でつける八雲の足元で、鈴丸・ちょこが不敵に告げる。
その宝石の如き金の瞳は爛々と輝き、黒い尻尾もゆらゆらと左右に揺れている。
「底なしなら、食べ放題だろ? 邪神の癖に太っ腹じゃねぇか」
『食べ放題――その余裕、いつまで持つかな?』
ぺろりと舌なめずりしたちょこの一言に、オ・デーンの目に炎が燃え上がる。
「食べ放題か。そう言う事なら、此処はがっつりと勇んで堪能、もとい全力で受けて立つしかあるまい!」
八雲の腹が折良く、ぐぅと虫を鳴かせた。
『さあ、何でも好きな具を言うが良い!』
いざ何でもと言われると、迷ってしまう人もいるもので。
「やはり大根に卵に竹輪、あと餅巾にがんもも欠かせんじゃろ? それから……」
八雲の脳裏にも、様々なおでんの具が浮かんでは消えていく。
その過程で、ふと気づいた。
「――ところで『いたりあん』とはなんじゃろか!」
割と肝心なその言葉、八雲には馴染みのない言葉であった事に。
出身世界故のワールドギャップ、とでも言えば良いだろうか。
さもありなん。
『何だ、知らんのか。ならば教えてやろう! イタリアンとはイタリア風と言う事だが現代ではイタリア料理そのものを指す言葉でもあり、イタリア料理とは――』
「甘いぜ、生臭坊主」
ここぞとばかりに語り始めたオ・デーンをさらりと無視して、ちょこが口を開く。
「いたりあんがなにか、なんてのはどうでもいいんだ。こういう時はなぁ、食えるだけ食えばいいんだ」
ちょこは己の本能に従って、オ・デーンを見据えて渋い声で告げた。
「魚っぽいのと鶏っぽいの全部だ――」
『つまりイタリアンおでんとは……ン!?』
本能に忠実なちょこの遠慮のないオーダーが、まだ何か話続けていたオ・デーンを思わず黙らせる。
「成程! 儂もあれもこれも気になって仕方ないで、試しに全部頂こうか!」
ぽんっと手を打った八雲も、ちょこに倣って遠慮を投げ捨てた。
『ま た か! ……どうなってんだ貴様らの食欲!』
まさかの、全部に始まり全部に終わる、になりそうなオーダーに、オ・デーンは驚愕を隠し切れずにいた。
●残さず食らえ
『まあいい、ならば全部食わせてやろう! まずは大根と手羽先だ!』
八雲には仄かにトマト色に染まった大根が、ちょこには皮がプルプルになるまで煮込まれた鶏の手羽先が給仕される。
「あっ、ちょこにゃんは猫舌じゃっけ」
湯気立つ鶏手羽を見た八雲は、ちょこの前にやおら屈み込む。
「安心せい、火傷せんようふーふーしてあげるでのう!」
「――おい余計な心配は要らねぇ」
鶏手羽に息を吹きかけようとした八雲の顎を、ちょこの肉球がぐいと押し上げた。
「遠慮せんでも良いぞ!」
「そうじゃねえ! 寒気がする真似はやめろ!」
まあ確かに、御年六十九歳の八雲がちょこの目の前でふーふーする光景は、傍から見ると初めての飼い猫にデレデレのお爺ちゃん、とかそんな感じであろう。
ちょこの側からすれば――寒気がする、となっても致し方ないか。
「猫だからと侮るなよ。この程度の熱さが何だってんだ。あぽかりぷすじゃ、冷めるまで待ってなんていられなかったぜ!」
言うなり皿ごと引き寄せると、ちょこは八雲に背を向けて鶏手羽に――密かにふーふーしてから、ちみちみと齧っていく。
(「ちょこにゃん……!」)
体格差ゆえ、丸見えなふーふーに胸中で和み相好を崩しながら、八雲は大根を二つに割って、軽く和からしをつけて口に入れる。
「ほう……こいつは」
トマトの仄かな酸味と、鰹出汁が良く沁み込んだ大根は、歯応えを残しつつも口の中でほろほろと崩れていく。
「こりゃ美味い。これ程のものを馳走してくれるとは、敵ながら天晴れよ!」
「ああ。美味ぇじゃねえか! どんどんおかわりしてやるから、覚悟しやがれ!」
最初の一つを食べ終えた八雲とちょこの声が重なる。
『当然だ、パーフェクトなおでんだからな。さあ、次を食らえ』
「どんと来るが良い、そして盛るが良いぞ!」
「何、腹の心配なら要らねぇよ。あぽかりぷすじゃ好き嫌いしてちゃ、生き残れなかったからな!」
取り箸を鍋に突っ込むオ・デーンに、八雲とちょこは同時に空いた器を向けていた。
●お鍋の秘密
そうは言っても、底なしなどありえない。
胃袋も、お鍋も。
――コツンッ。
『なに!? し、しまった』
鍋ボディに入れた取り箸が鳴らした乾いた音にオ・デーンが驚いた瞬間、ちょこが素早く駆け出していた。
獲物の隙を逃さないのは、狩りの基本。
飛び掛かるなり、ちょこはオ・デーンの鍋ボディに一噛み牙を立てる。
「――よし、覚えたぞ。最終形態だけあって、てめぇも中々良い味してやがるな」
智慧ある獣の牙は、敵の味を覚えて鋭さを増す。
「すっからかんになるまで、返礼にこの牙を食らわせてやろう!」
『ちぃっ、来るな』
迫るちょこに、オ・デーンが左腕のおでん銃を向ける。
「ちょこにゃんの毛皮は汚させぬ!」
放たれたトマト汁は、間に入った八雲が遮った。
「ふむ。なんじゃお主、冷めてきておらんか?」
それが思った程――もう熱々と言える程は熱くないと身を以て気づいた八雲が、両手を組んで印を切り、周囲に幾つもの炎を生み出した。
狐火を自在に操る、妖狐の術。
『や、やめろ――今は炎はやめろ!?』
「お礼に此れを食らうが良いぞ!」
何故か慌てた様子で顔色を変えるオ・デーンに構わず、八雲は五十九の狐火を一つに束ね、巨大な破魔の炎と変えて放った。
オ・デーンの全身が炎に包まれ――ガクリと倒れて動かなくなった。
「何だ、もう終わりか――って、こいつぁ」
近寄って様子を伺ったちょこが、目を丸くする。
「おい爺、見てみろよ」
「うむ?」
ちょこに促されて八雲が視線を向けると、オ・デーンの鍋ボディは、まるで不透明な蓋がされて塞がっているような状態になっていた。
だが、焦げ付きまくっているそれをよく見れば、蓋ではない事が判る。
それは――鍋の底。オ・デーンは二重になっている鍋の底を徐々に上げる事で、中のおでんが並々と入っているようにみせていたのだ。
それでも――ついに底が着いたところに、炎を食らった。そして焦げた。
『……強火の空焚きは……やめろ……鍋が焦げるぞ……あと、おでんは強火で煮込むな……沸騰させるんじゃない……』
それが、オ・デーンの最期の言葉だった。
底上げまでして、常におでんいっぱいであろうとしたオ・デーン。
その残骸に向ける言葉は、一つしかあるまい。八雲とちょこはそれぞれ、両手の掌と肉球を合わせて告げた。
「「御馳走さん」」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年03月25日
宿敵
『オ・デーン』
を撃破!
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