●雨露と霧の向こうで
「此処へ来て……でも、来ないで」
「早く去って……でも、いかないで」
「こないで……でも、滅び去ってほしいの」
●些細な火種
「雨露と霧ばかりの、閉ざされた辺境の地があるらしいが……」
フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)が短い蝋燭に焔を灯して、君たちに語りかける。何の意味か、豪奢な燭台を持っていた。
「ヴァンパイアの支配領域ではないよ。かつて、支配地域拡大の名目で辺境制圧に"神"と名のつく連中も屠りに屠ッた歴史があるらしいけどな」
ダークセイヴァーの辺境にて蠢く驚異であり。
支配者の庭の中で存在を主張したという存在、"神"。
昏き世界で"神"は元々"異端の神々"と呼ばれていたらしい。
「結果として、ヴァンパイアは神々の怒りを買ッたんだ。オブリビオンに憑依する形で神々は魂と身体を奪い取って、侵略者共を追い払ッたんだと」
ひとつ、吹き消すと燻る煙がゆるりと上がる。
「……ヴァンパイアに支配を諦めさせる程の異端者さ。今も尚、脅威のままだ」
ふたつ、吹き消してフィッダが笑う。
「選べる時間がなかッたんだとしてもオブリビオンに憑依してんだぞ?相手に理性なんてあるもんかね」
誰が呼んだか異端の神々に憑依された存在を称し――『狂えるオブリビオン』。
「神ではあるだろう。でも、……辺境を支配する者、でもあるわけさ。狂ッた者に支配させて置くのは脅威だぞ?見境なんて無いかもしれんしィ?今から解放を謳ッて立ち上がッてみるのも案外悪くないかもだ」
みっつ、吹き消してこれで全ての焔が消えた。
「憑依されたオブリビオンッて奴は、元はヒト……"異端の神"の血肉で肉体改造された奴だッたという噂だ」
力を使うのに適した選択だっただろう。
過去確かに人間であったのに神々の血肉は傷つけられる度にヒトから徐々に化け物に書き換えていった。身体を奪われる前はひっそりと地下水道にて身を潜めていたモノであるらしいが――今でもは魔女にふさわしい風貌へと変化していったそうだ。
「じャあ改めて問題の辺境の情報を伝えよう」
燭台を置いて、用意していた紙を叩く。
「今は誰も居ない地だ。しかし、いつか昔は誰かが居た場所でも在る」
大きな大きな、上質とは言えない煉瓦の通り。
水気の在る橋の上。そう例えるのがいいだろうか。
周辺に家々などはない。それらは全て、超常存在である異端の神々によって破壊と蹂躙がされており瓦礫ばかりが山を作る。
「雨露と霧の立ち込める視界の悪い場所のようなんだがな。破壊され付くされた中に唯一、おかしなものがあると情報を掴んだ」
点在する古ぼけた"外灯"の行列。
霧の中でも闇と神々に惑わされずに通り抜けられるようにと誰かを導く、道標。
「不思議と之は破壊されておらず、毎夜灯している奴がいるそうだが……」
最近では灯すものが少なくなっているらしい。
「灯すと誰かの気配と声を感じるッてんで、怯えきッてんだッてさ。ヒトならぬ気配なんだッてよ?」
"異端の神々"の領域で感じるモノ、気配。
それの答えは指し示すところ一つしかないだろう。
「狂気を誘う声だ。対策を立てなければ狂気に呑まれるぞ、アンタも。狂気に染める神を神と崇めたいなら好きにすればいいがね」
狂気は狂気に連鎖する。
神々の狂気に当てられて理性を失ッたオブリビオンの群れがどこからともなく現れる。
「こんなに周囲を環境を狂わせてんだ」
――誰かの手で"終わり"を申し渡しても良いんじゃないか?
タテガミ
こんにちは、タテガミです。
辺境の橋の上で遭う狂気の洗礼。
今回の戦場は、煉瓦づくりの橋の上。
どこまで行っても橋の上。橋の下は瓦礫だらけ。
NPCとして名もない中年くらいの男が火を灯しに訪れています。
彼以外、誰もいません。彼は超心配性な一般人代表の異端者なのです。
火種に関する事は彼に借りれば難なく入手できることでしょう。
一章の冒険に関しては、OP内に記載があると思います。
そんな感じなので、よろしくおねがいします。
※男は一章以降、死ぬ気で走って逃走離脱するので気にしなくて大丈夫です。
二章は狂気に惹かれ、理性を失ったオブリビオンの群れとの戦闘。
三章は理性を失った神様と領土争いが起こります。
ボスの説得は……どうでしょうね。
状況によるので現時点では何も言うことが出来ません。
事件はずっと橋の上で起こってるんだ。
第1章 冒険
『灯りの影に潜むもの』
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POW : 自分が代わりに外灯に火を入れてみる。
SPD : すぐに助けられる位置に身を隠し、探る。
WIZ : 日の高いうちに手がかりはないか探る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●今日も外灯を灯す為に
鉄錆て作りの古ぼけた灯りを唯一持つ男がひとり。
灯りの火種を利用して、視界より少し高い外灯に炎を灯す。
「はあ。これでぇみっつめぇ……」
全部で幾つあるか。それは覚えていない。
辺境の、此の地にたどり着くまでそこそこに小さな街から半日。
橋の始まりから終わり近くまで、灯して帰る。そんな毎日だ。
それを日課とするようにとヴァンパイアの領主に言い渡された身内は既に亡い。
飢餓が続き、男の家族は病死した。
故に、日課を引き継いで中年くらいの男が灯し続けている。
領主の終了通達は来ていない。続ければ、殺される――。
――またきたの?
――だめよ、引き返して。
深い霧の向こう。
灯す度に、聞こえる雨音が声に聞こえる、と認識したのは最近だ。
「ひぇえ……だめでさぁ。仕事なんで、やりきらねぇと…………」
こわごわ火種を灯して、次の外灯へ急ぐ。
まだ在るはずだ。この橋の端は、息を止めて走っても到達できない。
男は知っている。毎日此処へ、来ているから。
――まだ夜じゃないわ。微かな陽の光はあるの。
――だめよ。はやく……。
囁く雨が体に当たる。在るハズの陽の光は暖かみを昏き世界にもたらさない。
完全な闇が支配する夜ではない。そう、今はまだ、夕刻より早いくらいだ。
「夜に恐ろしい帰り道を歩くほど、こえぇモンはねぇでしょうよぉ……」
誰とも知れない声に言葉を返しながら、男は灯りを灯し続ける。
霧と雨露のなかで、ぼんやり灯る炎の色はあまりに儚い――。
急ぎ灯して帰らなければ、今日こそ男は街に帰れないかもしれない。
狂気は、正気のものを堕とす為に、ジリジリとにじり寄るものだから――。
ドゥアン・ドゥマン
■心情
辺境の神か…以前まみえた姿を思いだす
斃すべくして釘を打つは、此度も変わらぬが、
…あの神も。何かを求めていたよう、見えた故
■行動
狂う心もまた、命の響き
恐れと嘆きの傍にあるべくは、この身の習いにて
橋の御仁に、火種を借りよう
…今夜は真直ぐに帰った方が、良いぞ
晶燈も掲げ、囁骨釘を打つ
その気配を吸収するよう、宥めるよう、声に耳を傾けよう
周囲へ悪影響が出ないようには致しつだ
魂擦れる痛みがおありなら、一ふるいを捧ごう
くゆるよう、緩やかに。己の内の狂気もまた、溢れぬように
…二律背反の願いは、
両者の魂が交ざっているからだろうか
…死の寝屋は、冷たくも、温かくもある、静かな場所だ
苦しんでいるなら、柔く手招こう
●その声を聞いて
しと、しと。
降り続くものが真に雨ならば古き獣の頭蓋の下で露を払うだけで済む。
しかし、降るものは特になくドゥアン・ドゥマン(煙る猟葬・f27051)の毛並みがじわじわと湿り気を帯びるだけ。
「此処もまた辺境。辺境の神か……」
ドゥアンが以前まみえたものは、別の神。
その時もまた、斃すべくして釘打つ事を選んだ。
その選択は、正しく在ったハズだ。
――それは此度も変わらぬだろうな。
暫定的に得た、"此度の神"の話もまた簡単な話ではないだろう。
――どうにも。何かを求めているように、思えた故。
「そこな御仁。一人仕事に勤しむ所に、失礼」
「……ひぇ!?」
橋の上で灯す仕事を恐る恐る進めていた男の肩が盛大に跳ねる。
誰も居ないはずの橋の上、聞こえていた声とはまた別種の声が聞こえたのだ。
湿った霧の中で頭を振って、視界の中に誰も居ないとガタガタ震えだす始末。
「……此方だ。やや視線を落として欲しい」
体格差を指摘し、視線を向けて貰えば小柄ながら迫力のある人影。
男は漸く、青い瞳と視線が交わった。
生者だ。見えぬものではない。
ケットシーたる青年に声を掛けられたのだと、安堵した様子をみせる。
「声に過剰に驚いちまってすまねぇ……旅の方かい?」
「ああ。狂う心もまた、命の響き。此処には恐れと嘆きがあるように思えて」
傍にあるべきは、無垢で対策を講じられないヒトではない。
この身の習いに従い、訪れたドゥアンは外灯を示す。
そんな姿に、男は軽く首を傾げる。
「……急ぐ仕事のように見受けた故。吾輩にも火種を借りられまいか」
ヴァンパイア領主に言付けられた仕事なら、自前の火で灯すのは妨害行為になるかもしれない。
そんなドゥアンの気遣いを感じて男はやや笑って、やや困った表情を浮かべた。
「ええけども、旅の方は勇ましいなあ……」
「声を掛ける前から怯えている様にみえた。ならば、仕事は早く終わらせるべきだ」
共同作業、と銘打って火を借り受け、男より先の外灯へドゥアンは足を向ける。
「……そうそう。今夜は真っ直ぐ帰った方が、良いぞ」
男の返答は短く控えめに。
"そうさな"と同意を示すものだったのを、ドゥアンの耳は拾った。
鉱石を核とした晶燈を掲げ、囁骨釘を打ち橋を歩く。
借り受けた火の他の、ドゥアンに馴染む仕事道具。
「どれ。灯す者にすり寄るなら吾輩でも変わらぬだろう」
――そうね。誰でもいいわ?
――でも帰ってよ。同じだもの。
地に宿る念、その気配を吸収するように、宥めるように。
断片的に拾う"此処に在る誰か"の声に耳を傾けて。
――私は此処で独りなの。今も昔もこの先もずっと。
――ああでも、……滅びてくれるなら話は別よ。
外灯に火を焚べて頭を軽く振るが――周囲への悪影響は、なさそうだ。
ドゥアンの周囲に濃いめの霧が密度を上げて集まってきている気がした。
湿った空気がべたべたと無作為に触ってくるような気色悪い気配。
誰かの"縋るような狂気"と形容するべきものに、囲まれている。
誰でもいいから無差別に殺したくなるような気分。
誰かをひたすら遠ざけたくなる気分。
しかし暴かれる事を嫌がるゴチャ混ぜな拒絶――否、狂気。
「乱されるようで複雑だが、……魂擦れる痛みがおありとみた。ならばひとふるい、捧ごう」
何処と形容しがたい何者かに向けて前足を伸ばし、ドゥアンはくゆるように、穏やかに霧を"撫でる"ようにする。
「骨のごとく。呱呱のごとく。……己の内の狂気もまた、溢れぬように」
干渉する霧との抵抗を極限まで減らし、ただ自然の在り方を巡らせる。
「聞くにどうも……二律背反の願いだ。一種の魂から来る願いではあるまい」
――両者の魂が、混ざっているからだろうか。
「……死の寝屋は、冷たくも、温かくもある、静かな場所だ」
周囲に差し伸べられたい者は居るのか。
まるで雲を掴むような、視界の悪さだ。
「そんなにも苦しんでいるなら、柔く手招こう」
此処に留まり続けるべきではない。
そんなドゥアンの語りに、誰かの声は――。
――神殺しの予告かしら?いいわね、それも。素敵。
――でも其れより先に、私の姿を目視するだろう存在を消すわ。
――誰の目にも触れるべきではないの。……だから、来ないで。
灯す灯りが増えるほど、拒絶の色が深まるような。
思考の隅に置きながら、ひとつ、またひとつと橋の彩りを灯して歩く。
大成功
🔵🔵🔵
アトシュ・スカーレット
むむ?
……なーんか妙な親近感のようなものを感じる……??
オレも火種貰ってつけてこよっと!
おじさんには帰ってほしいけど……万が一の事があるからね、仕方ないね
早めにすませようかな
むむ、なんとも真逆な願いだねー
『……貴方の願い、どちらが本物なのでしょうね?
どちらも本物なんでしょうけれど』
…ん?オレ、なんか言ってた?
リク・ネヴァーランド(サポート)
「大丈夫、“僕たち”が来た!」
うさぎ人の住む不思議の国、ラパンドール王国の元王子様です。
魔法の本の中に王宮を封じ込めることにより、王国と国民を携帯している状態にあります。
本の中から国民や過去助けた愉快な仲間達を召喚したり、剣を用いたりして戦います。
利発そうな少年といった口調で話し(僕、~さん、だね、だよ、~かい?)、年上の人や偉い人には敬語を使います。戦闘中は凛々しく台詞を言い放つことも多いです。
ユーベルコードは設定したものを何でも使いますが、命よりも大切な魔法の本に危害が加えられる可能性がある場合は本を用いず、自分自身の力で何とかしようとします(他の猟兵と連携が取れそうなら取りに行きます)。
●狂気の手が伸びる霧の中で
ぼんやりと霧の中で灯る、点々と起立する外灯たち。
それらに"夜を告げる色"を灯す男の背中を、見つけた。
――それ以上灯しては駄目よ。でも、……いかないで。
――取り返しのつかないことになるから。
「そ、そんなこといってぇ……どっちを望んでるんだよぉ…………」
急ぐ手先は震えて全く定まらない。
ああ独りだと心がどんどんと雨露のようにじんわりと何かに侵食されるようでこわい。振り向いたら最期、後ろになにかいそうで怖い――早く早く灯し続けなければ。
怯えきって疑心暗鬼な背中。中年の男が感じた雨露は本当に雨露だったのか。
それは恐怖に凍えきったただの汗だったりしないか。
「むむ……?」
アトシュ・スカーレット(銀目の放浪者・f00811)が橋へ訪れた時感じたものは、不思議と未知への敵意などではなかった。
「……なーんか、妙な親近感のようなものを感じる……??」
霧に紛れた気配に、何故そんなモノを感じるのだろう。
狂気に灯る声が?いや、特に何も感じることはなかったが。
浮かび上がる疑問に首を傾げてみるが、誰かが答えを教えてくれるわけでもなく。
――……ま、いっか。オレも火種貰ってつけてこよっと。
とと、と軽い足取りで、男の元へやってきた。
「おじさん?オレも手伝うからさ、火種貰える?」
「お、おう。構わねぇが、今日はあ……旅人さんが多く此処を通るんだなぁ」
驚いた呟く男はアトシュに簡単に火種を貸し出してくる。
先の猟兵が借りて手伝ってくれたのだ。
こんな橋から早く帰れるなら誰の手でも借りたいというのが本音だろう。
「大丈夫大丈夫!"僕たち"が来ました!」
弱気な表情が見え隠れする男に、小柄ながらリク・ネヴァーランド(悠久ノ物語・f19483)が自身の胸を叩いてアピールする。
心強い言葉と共に、垂れた耳がふわりと揺れた。
「……"たち"?」
「ええ"僕たち"、で合っていますよ。この場合"彼と"いう意味にもなりますが……ふふふ」
少し違うと言いたげにリクは朗らかに笑う。
所持する魔法の本はこの手の中に。
――王宮も、国民も。
――僕が在る場所に、いつもあるからね。
その意味を伝える場ではないと分かっていたので言葉を選んだ。
「お任せ下さい。何かあればすぐどちらも助けられる場にいますから」
火種を貰ったアトシュ、そして男にそう告げてリクは周囲への警戒を強める。
物音一つ落さぬように、狂気の色に染まらぬように。
「……強いんだなぁ、"ココ"が」
とんとん、と胸を叩いて返す男。
聞こえ続ける狂気の強い恐怖から、多少は気持ちを引き剥がせたか。
"ひとりではなくなった"。それは男にとってとても、気が紛れることだろう。
「オレとしてはおじさんには素直に帰ってほしいけど……」
リクを横目で見れば、リクは視線を敏感に感じ取って淡く首を横に振った。
――中途半端にしていくことも、危ない気がします。
そんな考えからか、リクの視線が伏せられる。
「……万が一の事があるからね、仕方ないね。さぁ、早めにすませようかな」
――増えた人の気配。
――どうして?どうしてなの……ねえ、帰って。
まとわり付いてくるような気配を連れて、話しかけてくる"誰か"。
外灯に灯された火の数は、現在幾つだろう。
男が独り灯した数、先を歩いていった猟兵が灯し続ける数。
相当の数が、既に雨露に負けず灯されているはずだ。"火種"を持つモノ全てにそうして絡んでくるのなら、誰が相手でも同じように"撫でて"来るのだろう。
「むむ、"どうして"かあ。返事が難しいねぇ」
アトシュは未だ灯っていない外灯に、火種を近づけて――灯りを確保する。
ぼんやりと灯した明るさの分、霧が濃くなってアトシュの周囲に増殖していく。
「一応聞くけど、どうして帰って欲しいのさ」
近場の外灯を見つけて灯りを、またひとつ。
――見られたくなんて無いの。ね、全て灯さないなら悪いことはシないわ。
――帰ってよ。折角誰も来ない場所だから、此処に居たのに。
――私の場所よ。私は初めから此処にいたの。
――……どうして来たの、どうして来るの?
――誰にも会いたくないわ。来ないでよ。……でも少しだけ、嬉しいわ。
「むむ、なんとも間逆な願いだねー」
――……でもなんだろう。どこか、混ざった感じのするこの……。
頭の中に霧が入り込むようなどれとも言えない安定しない思考。
狂気の霧がアトシュを包んでいる。
『……貴方の願い、どちらが本物なのでしょうね?』
『どちらも本物。全部本物、なんでしょうけれど』
考えていた事とは別の"言葉"が溢れる程に混ざっていて。
――どちらだと思う?結局は、どちらでも同じ。
――どちらも"そう"と思うもの。滅び去ってくれれば、同じよ。
「……ん?オレ、なんか言ってた?」
「やや先程までと違う声色を聞いたような気もしましたが……今はそこを動いてはなりません!」
うさぎ人の王族、ラパンドール家に代々伝わる聖剣を抜き、リクは勇ましい声を上げて剣を携える。
その声と共に胸に勢いよく灯るものは"勇気"だ。
探っていた気配。その集まり。リクはそれを見定めた。
「霧自体が思惑を誘うのでしょう。いえ、そうはいきません。その素っ首……」
外灯の前。
アトシュがいる場所を見据え黄金色に煌々と輝くオーラを剣に馴染ませて。
「――刎ね飛ばさせて貰うっ!」
リクが霧を貫き、……煌めきの燐光を残して切り裂いて、文字通り払い退ける。霧向こうの脅威の弱点が輝きであるなら、文字通り焼かれるような一撃だっただろう。
暗闇の世界に、眩い光源に驚くように。
切り裂かれた霧は散り散りと離れて軽く霧散した。
「臓腑まで見据えられないのは些か苦いものですが、いえ」
近寄るモノである事に変わりない。斬れるものなら、刈り獲るだけだ。
忍び寄り同じような矛盾を抱く狂気に染められては堪らない。
「僕が許しません!引き込む事など言語道断です!」
「……ああ成程。助けて貰った感じ、だよね?」
無言でニコリと笑ったリク。狂気ごと切り裂いたその剣があれば、"誰か"の狂気に染まることはあり得ないだろう。
嫌がる声が、嫌がる限り――さあ、作業を続けよう――――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
クリスティアーネ・ツヴァイク(サポート)
愛称:クリス
常に「ママ」と呼ぶからくり人形「クリスティン」と共に行動します。
まだ幼くひらがなで喋ります。
普段は甘えたがりな子供ですが敵を殺すことに罪悪感は感じておらず、特に悪人は死んで当然と容赦はしません。
クリスティンをバカにしたり人形扱いする者を嫌います。
戦いでは大鎌を持ったクリスティンを操りつつ自身もナイフで戦い、味方のサポートよりは戦いの方が得意です。
日常ではクリスティンと楽しく過ごします。
NG:クリスティアーネが泣くこと、クリスティンの修復不可能なまでの破壊
百地・モユル(サポート)
熱血で好奇心旺盛
本が好きな小学生
正義感が強く困っている人は見過ごせない
UDCアース出身
技能の世界知識でほかの世界のこともわかるかも
あとボクが持ってる技能で
使えるのは…
情報収集、コミュ力、時間稼ぎ、救助活動、学習力、暗視、聞き耳あたりかな?
それに勇気と覚悟と気合い!
このあたりの技能を使って調べられることは調べたいし
もし力仕事とかで必要ならトリニティエンハンスやストロンゲストモードなどのパワーアップ系UCも使うよ
今日はここの世界か…どの世界も、ボクたちがちょっとずつ良くしていければいいね
アドリブ絡み歓迎
●全て灯して"見えるもの"
橋は全体的に仄かな灯りが灯されて。
ぼんやりながら少し明るく存在を主張していた。
仕事は順調に進んでいる。狂気の声が、仕事の達成を、全て灯す事をやめるよう諭してくるが真意は知れない。
二言目にはこちらにきて、と誘惑してくるのだから。
狂えるものは標的を惑わせる。そう、この橋の何処かに居る"神"が――。
そんな中、男の足元、衣服を引くものがある。
「ひぇ……!?」
ついに迎えが来たと怯える中年の男は腰を抜かすギリギリで、小柄なオッドアイと視線がぶつかった。
「……お嬢ちゃん、どうしたのかい」
「クリスにも、それ、できる?」
指差すものは、男の"灯す"仕事。
クリスティアーネ・ツヴァイク(復讐を誓う殺人鬼・f19327)の大きな目が、キラキラと灯りを照らし返していた。
「クリスがするのにふあんなら、ママにまかせて。ママならだいじょうぶ」
ママと呼ばれたからくり人形が火種を借り受けて。
クリスティアーネはとと、と橋を歩いて進む。
「とおくのぴかぴかは、ほかのひとがやっているみたい?」
順番に歩きながら灯していては、帰りには全て灯る事になる。
それでは男は逃げ切れないだろう。
「なら、クリスはちょっとだけさきを、じゅんばんにね」
ママと散歩。まるでそのような雰囲気があった。
橋は大きく、ママより大きく広く、遠い。霧が立ち込めていなければ、より遠くまで全景を眺められただろうがそれは叶わない。
「これでまだ日が高いと言うんだよね?」
百地・モユル(ももも・f03218)が自身より小柄な人影をみつけて人懐っこく話しかけてくる。上を見上げても、周囲を注意深く見渡しても見通す色は、色の灯された外灯だけだ。
「うん。ここはくらーいけれど、まだねむるじかんじゃないとおもうよ」
ヒゲをゆらゆらと揺らして、警戒を怠らないクリスティアーネがそう応える。
雨が降り注ぐような事もない。しかし、晴れているわけでもない。
夜はもう少ししたらくるだろう。でも、また完全な夜の帳が落ちるわけでもない。
本当に微妙な天候と、微妙な時間帯だ。
これが少し過ぎていたら、クリスティアーネは大きな瞳を擦っていただろう。
「見通せないからって、何も見つからないって訳じゃないよな」
ピンクの瞳を一度伏せて、集中する。
モユルの目が、暗闇を見据えて――。
「ここ確か橋の上、って話だったよな?外灯より外側、つまり"橋の下"……」
橋の端、外灯の外側に立ち、モユルが"橋の下"に見えるモノを口に出す。
「橋ってことは……水があったんだよ、なあ?」
「うん?なにがみえる?」
「情報に聞いた通り、瓦礫の山ばかりだけど"川"はない。けど、耳を澄ましてみると分かる……どことなく水の流れる音はあるかもだ」
「……え?」
暗視で見据えた先に、水源らしいものはなにもなかった。
この場所が湿った空気の中に呑まれているのは雨露と霧のせいだろう。
橋の下、そして周囲は瓦礫に埋もれているだけ。
では水音は、瓦礫より更に下であるということだ。
橋の上には、――光の灯らない外灯の行列だけ。それ以外はなにもない。
「"来て欲しい"というのは……寂しかったとか?いや"誰"が?」
声の主。
そうだ、聞こえるおかしなものはそれが唯一の答えだろう。
「……"滅びを願う"のは誰だ?」
オブリビオンに憑依した狂える神か。
それとも、憑依されたオブリビオンの方か。
「かみさまなら、かみさまらしく。ころしをねがうんじゃないかなあ」
クリスティアーネが外灯に一つ、火種を投じた。
ざわりざわり、ずるずると身体を触られるような感触。
声を返さない代わりに、合っているという返答代わりの撫で回しのよう。
「ここはかみさまの……おうち、みたいなもの、だよね?」
「……いや。意外と逆かもしれない」
相手が"神"に属するものであることは、間違いない。
敵対する、住処から追い出すともなれば、此方は敵となる。容赦のない言葉がクリスティアーネから零れた事に、モユルはやや驚いたが、同時に頼もしいと思った。
「成り行きで同居人となった間柄で、意見の相違とかありそうだよな?」
"神"の支配する領域に、初めから、そのオブリビオンは居た。
身体を神に奪われる前から、ひっそりと地下水道にて――。
「……拒絶の言葉は、オブリビオンのものじゃないか?」
「じゃあまぎゃくなことをいってるのが、かみさまかな」
狂えるオブリビオンに理性はないと、情報を得ていたが……。
そうだ。狂える"神には"、理性がないのだ。ヴァンパイアと交えた戦いからというもの、訪れるもの全てを殺したくて堪らない筈である。
「……ひっそり過ごしていたいだけの化け物からしたら、全て灯されると"姿が見えるから"嫌なのか!」
「くるったこえにあてられる、というのはそういうことね」
疑心暗鬼の二律背反の、神による洗脳のような植え付け行為。
それが狂気の正体だ。
同居する魂が各々違う事を主張する。
来て欲しいが来ないで欲しい。
神とオブリビオンの主張を目の当たりにする鍵はただひとつ。
――すべての外灯を燈すことだけだ――――。
「まかせて。ママ、お散歩を続けよう」
クリスティンを繰りながら、クリスティアーネは目をわずかに光らせて、ナイフをモユルの頭上に投擲する。
「だいじょうぶ。"ぺたぺたするみょうなかんじ"は、クリスがさよならするからね」
「ボクも得意だ、そういうのは。白い小瓶に触れるこれは……"抵抗しない"!」
霧の狂気を物理的に切り裂き、霧を"白い病室"に閉じ込めて。
狂気に付け入る隙を見せないように、仕事を進めて歩く――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 集団戦
『もく』
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POW : じめじめ、うつうつ
【闇】【湿気】【周囲の幸福】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : もくー
全身を【ふわふわとした雲】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
WIZ : おいしいー
【不安】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【自身の分体】から、高命中力の【幸福を喰らう雲】を飛ばす。
イラスト:lore
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●もくもくあつまるかたまり
程なくして、全ての外灯が暖色に染まる。
橋の上が温かみのある色の点在で、少しだけ光量を上げた。
橋の下も、霧さえなければ見えるのに――。
――だめだめだめよ、ほんとうに。
――……いいわ、さいこうね。私をほら、"みて"。滅びる時間よ。
狂気に墜ちる声が四方八方、至る方向から聞こえてくる。
「……きょ、今日の仕事はこれで終わったから…………!」
中年の男が恐怖に負けて、とうとう走って逃げ出した。
猟兵が男が急いで走り去る足音とともに感じたこと――霧が徐々に晴れていくような感覚を覚えたものもあっただろう。
――もうすぐ夜よ。すぐに手を伸ばすように闇が来る。
――灯りを灯して、それで幸福かしら。
――幸福とは生きていることよ。いいわね、恰好の餌よ?
霧と思っていたものが、一箇所にもくもくと集まっていく。
消え去ってなどいなかった。形を持って漸くそれら全てが"オブリビオン"であったと認識したのは既に囲まれた後だった。霧が立ち込める、いいや、霧自体がそれだったのだ。理性無く狂気に集まっていた『もく』が"誰か"の声に反応して姿を表す。
――此処には上質な湿気が沢山よ。
――実体を顕したそれらに塗れて、眠るようにお眠りなさい。
――そうしたら誰も死なないままに朝がくるわ?
――……きっと、ね。
雛里・かすみ(サポート)
バーチャルキャラクターの戦巫女×UDCメカニック、22歳の女です。
普段の口調は「明るく朗らか(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」
寝起きは「元気ない時もある(私、あなた、~さん、ね、わ、~よ、~の?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
明るく朗らかな性格の為、
男女分け隔てなくフレンドリーに会話を楽しみます。
どんな状況でも、真面目に取り組み
逆境にも屈しない前向きな性格です。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
アリス・フォーサイス(サポート)
『そのお話、おいしそうだね。ぼくにちょうだい。』
お話を食べる情報妖精です。依頼に参加する目的はそのためであり、お話が美味しくなるよう行動します。
また、好奇心旺盛であり、上記の目的に反しない範囲で興味本位の行動をとることがあります。
魔法や機械操作などの行動をとることが多いですが、そのときの気分でそれ以外の行動をとることもあります。
1人称:ぼく
2人称:キミ
3人称:~くん、~ちゃん
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●もくもくおいしい
「えっ幸福?ぼくが?」
アリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)が言葉を返すように問う。しかし、『もく』の群れは応えない。
ふわふわもこもこ、質量を持った身体でアリスの周囲を囲むようにゆらゆらしているだけだ。群れが一気にもくーっとしているせいで、泡の中に突き落とされたような感覚がある。
あくまで例え。
元々の、やや冷えた寒々しい環境のせいで『もく』がジワリと湿気を吸っていて実に気持ち悪い手触りだ。ちょっと凍りついてる部分でもあるのかぎゅうぎゅうと押し付けられる身体が痛い――気がした。
「でもまあそうだね。少し荒っぽくて廃れた感じもあるけれど、此処には"お話"があるようだし……?」
勿論自分を取り囲むこの雲の群れにも相応の美味しさがある。
「こんなに歓迎されたら幸福と言えば、幸福だね。ねえ、キミはどう?」
「うーん、私は始めから幸福なほう、……なのよね!」
尋ねられた返答に、雛里・かすみ(幻想の案内人・f24096)は元気いっぱい、爽やかに笑って応えた。
「例えば此処でもくもくされている事とか!大きい犬がたくさんいるみたいで!」
『もく』がふわふわと体積を増していくさまが、アトラクションのようで楽しいと、かすみは言う。
理性が無いもくが狂気の主の示すままに、あらゆる攻撃に対して無敵を主張している。ふわふわとしているが、全く動く気配がなかった。
質量があり、雲の間を通り抜けるには至難の業。
猟兵二人を取り囲む円陣の壁となりふかふかしている。
「見る限り隙間がないね、わあ大変だ。……なんちゃって」
アリスが周囲を流し見て、思っても居ないことを口にする。
べ、と舌を出すのは当たり障りない挑発か。
アリスと、かすみ。二人は特徴的には一致しないが、一致する点がひとつある。
すなわち――。
「……残像を囲っているだけだったなんて、気付いてなかったの?」
雲の壁の外、アリスの声は突然現れた。
「ぼくは此処。それはね、――残像だよ」
額の電脳ゴーグルを触り、手を翳すように示す背後から現れるのは、かすみ。
電子の妖精たちは包囲網を始めから抜け出していた。
『もく』に理性があれば、すぐに気がつけたかもしれない。
「キミたちの攻撃、……囲んだまま鎮座するだろう事は予想できていたんだよね」
雲が座るのか、という点は敢えて追求しない。
閉じ込める行動を、敵の行動を制限する目的を持って立ちはだかろうとするのを、予測していたアリス。
身体を量子化し、当たり障りなく『もく』を構成する身体から直接分析(ハッキング)し、導き出していたのだ。
「もう一度聞くよ。キミは、幸福?」
「うんとっても!最高!」
集団で与えようとしていた不安の欠片はアリスが既に払い除けている。
全く動けず、不安の感情を押し付けるのにも失敗した『もく』がうごうごと蠢き始める。失敗したのは理性がなくとも、わかるのだ。
「美味しい思いをしようっていうなら、そうはいかないのよ」
大きな刃が先端に取り付けられた巨大な薙刀を、稼がれた事案の間に神霊体したかすみはゆるりゆるりと振るう。
「ああでも、任せて?散るお手伝いなら私、――得意なの!」
ブォンと振るわれる薙刀が生み出す衝撃波。
質量を得た雲が、風圧で吹き飛ばされていく。狂気に集まってきた雲が、霧となって消し飛ばされていくが、しぶとく残るものもある。
「残って居てもいいけれど、此処に居ても良いこと無いよ?」
「そうだよ?不安も幸福も、"感情"として理性で感じないとねぇ」
――だって、受け取り手がないと勿体ない。
散り散りにされる『もく』の紡ぐ話しはアリスの求める物となったのか。
ぺろり、と口元をなめるアリスは何も言わない。
「ついつい従っちゃいたくなった子たちが先に夢を見ることになったのよ!ねえ、あなたはこの子たちのこと……実はなんとも思っていなんじゃない?」
かすみが何処に居るかもわからない、狂気の元凶へと言葉を弾ませた。
集まってきた雲を橋の上に常に居させたのは、おそらく思惑が在るはず。
「神は常にひとりきり。多くを従える力量さえあるのに、どこかで単独を選んでるんじゃないか?」
例えば、誰も信用できないか。
例えば、信じることが出来ても踏み込まれたくないのか。
――だって、私は此処にひとり。
――勝手に身を寄せだした雲に、現実を突きつけられても。
――私も幸福よ。
――此処に……誰にも見られず居る限りは。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ドゥアン・ドゥマン
(…事情があると察しつ。無事なら見送り)
灯火が強敵たる神を起すなら、吸血鬼は何故申し付けたのか
気に掛かるが…今は、目前の事だな
在るだけで環境を狂わせるとは…成程。こういう事か
戦いが埋葬品となるなら、誠心にて奉じよう
元より、その為に来た身だ
…しかし此処が、もう一つの魂の安寧の場所ならば
打ち壊さず、暴かずに済むように
雨にけぶる夜の如く、
オブリビオンの貴女が望む場所を、此処に
変化といえど、猟兵方は常の通り動ける筈だ
あの雲の如くも狂気に惹かれ来たなら、
狂気を和らげれば、弱るだろうかな
我輩には。灯は、命の寓意のひとつ
幸も不幸も、揺らめきの中にある
声に耳を澄ませ、其々の名を尋ねよう
名は、個を別つまじない故
アトシュ・スカーレット
そんなので眠れるわけないし、その予定もないんだよなぁ
不安なんてねぇよ、それを叩き壊すのがオレたちの役目だ!
【暴走術式・天災】で湿気を全て吹き飛ばす!
炎の嵐で蒸発できなかった水気ごと吹っ飛ばす!
霧も発生できないくらいの温度に跳ね上がるから……その、気をつけてね?
●故に雲に隠した名を
全てを灯す、その達成と同時。
青年の耳は小さい音を拾った。
唯一怯えきった者に片付けるものはない。
ただ急ぎ、靴音は遠ざかっていく。去りゆく男に振り返る様子などはなく、猟兵の忠告通りに仕事終了と共に慌てて帰路へつく事としたようだ。
――そのまま、決して振り返らぬよう。
ドゥアン・ドゥマンが音を頼りにその背を見送る事も、男には察することはできないだろう。せめて、その道中に何事も無いことを察しの彼方に願いつつ。
「しかし、……どうにも腑に落ちない」
この辺境に座する神は、外灯を全て付けられる事を拒んでいる。
誰がどう聞いても、望んでいない。
声が届くと気付いてからは注意し続けているようでもある。
「これは強敵たる神を起すに違いないことだ。……吸血鬼は何故申し付けたのか」
神と吸血鬼、その戦いがいつ勃発したものかを察する手立ては橋からは感じられないのが惜しい。
辺境を死守したのは最近、ではないだろう。
「気に掛かるが……今は、目の前の事だな」
答えるべきは、此等ではない。
答える口を持つか、考えを持つかも、怪しいモノたちだ。
もくもくと、橋の上で蠢く『もく』。此等に答えを求めるのは恐らく違う。
「在るだけで環境を狂わせるとは……。成程、こういう事か」
話をする理性すら忘れては、生者か死者かすらも思考に混じらぬかもしれない。
「此度の戦いが埋葬品となるなら、誠心にて奉じよう」
ドゥアンは動じない。
今周囲にあるのは存在、在り方。
それに対して迷わぬモノであろうとも、存在自体が惑うモノだ。
「元よりその為に来た身だ。しかし……此処が、もう一つの魂の安寧の場所ならば」
――打ち壊すは、魂が求めるものだろう。
――……然り。我輩がすることでなし。
手を下すとしたら、橋を訪れた誰かが。
ほら、聞こえる――誰かが橋の上を駆けてくる。
『もく』がもくもくと猟兵と狂気の主を遮る壁となって阻むその行動へと挑み、勇ましく駆けていく気配を、動きをドゥアンは捉えた。
質量在る壁の集団。これらが頭上より雪崩込み猟兵たちを埋め尽くしたならば。
朝まで重みに押し潰されながら夜を過ごす事は請負だ。冷えて凍えそうな気温のこの場所で、安らかな眠りなど普通の精神状態ならまず耐えられない。
「こんなので……眠れるわけないしっ!」
自身に付与術・天災式(エンチャント・カタストローフェ)による魔力武装を与え、戦闘への意志を提示しアトシュ・スカーレットが吼えた。
業火の魔剣を握り、凍りつく風の鎧の出現で誰もが感じる体感の温度は、彼が駆け抜けると少し下がる。
合わせて、紫電のグリープは激しい音とを轟かせる様に爆ぜた。
それらを――通常と違い、暴走させているのだ。
発動中に傷つき続ける身体のことを思えば、長時間この状態を続けているのは困難。故に早期決着をアトシュは目指す。
「何しろ、その予定もないんだよなぁ」
攻撃的に爆ぜて、それを纏うアトシュが全力で詠唱する。
「我が身に宿りし天災よ!この身を喰らいて蹂躙せよ!」
魔力の流れが握る魔剣に集中する。業火と氷雪の属性が刀身を巡りぐるぐると激しさを増して呼び掛けに応えて見せた。
「オレに不安なんてねぇよ、それを叩き壊すのがオレたちの役目だ!」
ずっと感じていた湿気、陰気な気配。
「……"空気を一旦全てリセット"くらいはしたほうが良いと思う!」
アトシュが炎の嵐となった斬撃を振るい、『もく』の壁をごと焼き、同時に湿気を吹き飛ばした。
そこまでの熱気、炎上。
『もく』の塊が霧散するように蒸発して消えていく。
残った水蒸気も、元々発生していた湿気も全部まとめて、アトシュの使う炎の熱量で使い潰す。橋が燃えては困るものもあるだろうが、故に後のことを考えれば"やれる"と判断した。
「狂気に寄ってきた可愛いのが無くなったら、どうするつもり?」
轟々と燃やしながら魔剣の斬撃で蒸発させていくアトシュへの返答はないようだが、『もく』が霧として存在することもこれでは叶わない。
「霧も発生できないくらいの温度に跳ね上がるから……その、気をつけてね?」
「……霧払いした後にいうことか」
ケットシーの返答は、一つのため息。
高温乾燥の環境となったが、消滅しそこなった『もく』が二律背反の感情を囲う事でじわじわと齎そうとしている様を、大きめな瞳をゆるりと閉ざすことでドゥアンは目視しない。
喋らぬモノに惑いを受けるならば、――視界から。
音からであれば別の方法の考慮が必要であっただろうが。
ドゥアンがするのは先に吸収したそれらを黒煙と揺らし、この橋の上に、涙雨が如き黒い雨を塗り染め降らせることだ。
「これ以上を暴かずに済むように。オブリビオンの貴女が望む場所を、此処に」
現在時刻は全く察せない。だがそれでいい。
灯る色を潜める黒の涙をドゥアンは喚ぶ。
高温として高まりすぎては、元の環境と異なり過ぎて安らぐ場とは成せない。
黒き雫が徐々に高温状態を鎮めて、集めた生命力の主たるモノが安らげる環境へ。
永遠闇の色と、――安らげる場所を約束できるのだから。
「変化といえど、猟兵方は常の通り動ける筈だ」
齎す変化に、猟兵はさほど気にはしないもの。雨露ほど吾輩の体毛を、人間の気分を湿らせるものでもない、とドゥアンは判断した。
「……狂気を和らげれば、弱ると睨んだが」
「オレの熱量のほうが強かったってだけだよ」
アトシュの言葉に、ドゥアンは首をゆるりと縦に振る。
「行動を待つより、正面突破の方が良いかと思ってね」
どちらも肯定、その形の解決の仕方も在るだろう。
「……我輩には。灯は、命の寓意のひとつ」
意味を持つ、表現。
その現れが、この橋で唯一破壊されていない"外灯"を睨むドゥアン。
「幸も不幸も、揺らめきの中にある。……故に問う。其々の名を」
灯の数が全て揃いし時、鉄槌を下すと言った者。
初めから此処に在りて、闇に乗じて声を聞かせる"神"たる存在の名を。
「"神"にとっての灯とは。この場所をなんとするのかと」
――不思議な事を尋ねるのね。
――道標。彷徨うものを導く灯り。迷うのはよくないもの。
――忌々しい吸血鬼とそれに隷属される人側の配慮よ。
――思い出したように隷属種がし始めたことだもの。
――吸血鬼からの、単なる嫌がらせじゃないかしら。
――橋の全てが灯ったら、見なくて良いものが見えてしまうもの。
「嘘ではない、……にしても答える気があるなら、答えたら?」
アトシュにも促され、微笑ましいモノを眺めるような気配が生まれる。それらはすぐに、真逆の、踏み込んでくる者への拒絶として睨めつける気配へと変じた。
――かつての戦いの時に亡くしたの。記憶の欠片も存在しないわ。
――だから名乗れるのは、"身体の名"。
――私は『異端の魔女ディアナイラ』。
――言いたいのはそれだけかしら。滅びるように消えてくれてもいいわ
――でも、聞かせて頂戴。名を聞いてどうするの?
「名は個を別つ、まじない故」
故に――先に行うべきこと。
ドゥアンが堂々と言い切り、アトシュがこれに頷いた。
相手の声は常に聞こえていた。この後に対面するのであろう相手に、対面直後両者が突きつけるものが唯一別れであるのなら、それは悲しいだけの戦いだろう。
故に事前に前に聞いた"名"を。
例え刹那の邂逅であろうとも――胸へ刻もうとしたのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エヴァンジェリ・マクダウェル
狂気に染まって理性を失うなど他愛の無い、とか自信満々で登場……からの自身も正気でないのであっさりもくの術中に嵌まって錯乱、一度親友を失ったトラウマを思い出し暴走
片手にノートを持ち、もう片手のその親友からもらった最極の空虚からウィザードミサイルを乱れ打ち。もくを殲滅したとて、しばらくその狂気が治まる事は無い
どこにどこにああどこに!?いないなんでなんでなんでいないなんでこわいさびしいそばにいておいていかないでどこにこわい
まわりの じゃまな 霧を けせば もどって くるかな
●絆(トラウマ)
ずる、ずる……。
橋の上を不自然に黒い染みが進んでくる。
「此処があの女の辺境(ハウス)ね?」
ずももも、と持ち上がる黒染み、エヴァンジェリ・マクダウェル(鍵を持つ者・f02663)。人が如き立ち上がり、現状の把握に努めて見回すと、頭上に何やら白いモヤが沢山。『もく』の群れだ。現れる所を見誤ったか囲まれている。
「狂気に染まって理性を失うなど他愛ない」
自信満々に言ってのけるが、内心は雲のように掴みどころがない。
「まぁあ正気でいるのも大変だろう、狂ってるくらいが丁度いいな」
同意と『もく』は言いたげにエヴァンジェリに体当りする形でぶつかっていく。
――理性のない雲がぶつかってくる……?
もふもふもふもふ。
雲の群れに埋もれていくエヴァンジェリ。
『もく』が物理的に不安の感情を、与えていく。
正気ではないものに、半ば正気ではないものが捕まったならどうなるのか。
『――オイシイ――――』
他猟兵が選ばなかった事を、エヴァンジェリはあっさりと術中に陥って――。
「……ところで、聞こう。私の大親友――?」
過去、一度実験のさなかに親友を物理的に消失させた事のあるエヴァンジェリ。
過去最大の失敗、過去最大の傷跡(トラウマ)。
正気を過去のその時空に、置き去りに今此処に経っているのだが――。
「え?此処に居ない?う、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だぁ!!!!」
不安を与えることに成功し、むしろ発狂を促して、幸運を喰らう雲どもを更に大量発生させる。『もく』と幸運雲、橋の上は誰かの理想郷を幻想へとエヴァンジェリを墜としていくのだ。片手に文庫本、とは名ばかりの手書きの若干焦げた様子の在るノートを開き、叫びまくる。
なにがどうあって周囲は全て敵だ、少なくともそう彼女は認識した。
「私には此れが在る!つまりいこーる、大親友は此処に『居る』んだよぉ!?!?」
もう片手にその大親友のよく使う武器に酷似した形状の、黒い塊。
彼女の形に合わせるように、不安定な泥はガトリングガンの形状に落ち着く。
ふつ、ふつと沸き立つ不形態に働きかける。
「ほらいいかげんにしろよ。私と"かるっち"の前に……立つな!!!!!」
手にした銃の乱れ打ち。
ウィザード・ミサイルによる炎の補填が幸福を喰らう雲も、『もく』もまとめて蜂の巣に変えていく。魔法の矢だ、囲まれた数だけ有効性を増して燃やすように標的を射抜いて霧散させる。
「なぁ、どこにどこにああどこに……!?居ないじゃないか?」
散らした雲の向こう側、エヴァンジェリの求める姿が何処にもない。
――ああ、あのときの、魔術行使した部屋と同じだ――――。
「いないなんでんでいないなんでこわいさびしいそばにいておいていかないでどこにこわい」
悲鳴と同じく鳴り止まないウィザードミサイルの乱舞。
「まわりの じゃまな 霧 を 消し続けたら」
集まった雲を乱れ撃つ矢でただただ蹂躙を繰り返す。
「もどって くるかな なあ。なにか、いえよ?」
『もく』が尽く無慈悲に消し飛ばされても。
撃つことを辞めないエヴァンジェリの瞳に何が映るだろう。
「なんで なにも いわない?」
「ああ、いうくちがないもんな?」
橋が燃えるようなことにはならない。
彼女の敵は、異端の神ではなく、大親友を隠した悪戯な雲だけだからだ。
全て散らし終わっても、彼女は止まらない。
大親友ならば追撃しただろう。まるで彼女が選ぶ戦闘方法そのものだ。
実際、一緒の戦場で――駆けた事など、妄想に過ぎないのだが。
「ほらいうことは、ないの?さみしいよ?」
ブラックタールの目に、思わず涙が一筋。
持病の発狂を展開した彼女にとって、――此処はとても悲しみの橋であった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『異端の魔女ディアナイラ』
|
POW : 異端の落とし仔
【傷付けられた際に発生する猛毒の返り血】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に落ちた血肉は異端の神の眷属へと変化し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 穢された聖遺物
レベル×5本の【神聖と猛毒の二重】属性の【かつて自身を討伐に来た者達の武器や防具】を放つ。
WIZ : ハイドラの降臨
自身の【人間だった頃の記憶や人間性の喪失】を代償に、【自身の内外を侵蝕する異端の神の血肉】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【驚異的な再生力や土地を汚染する程の猛毒】で戦う。
イラスト:えな
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アイシス・リデル」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●灯る色に照らされて
霧の欠片も無くなって。
遮るものを亡くして、異端の魔女の姿は偽れなくなり、訪れていた猟兵誰もが目にする。改造された下半身にてうねる触手が、橋を叩いた。
『異端の魔女ディアナイラ』。
元の姿を全く想像に起こせぬほど異端の神であり化け物である彼女が見下げる視線に君たちはいた。
人のサイズを遥かに超えて、ディアナイラは笑いもしない。
「私を、その目で見たかったのでしょう?」
今までも傷つけられるほどに、異端の神が望む姿へと変貌を続けていった身体。
これまでのどちらの思考へと寄ったところで、彼女にもまた狂える存在だ。
「今から私を傷つけるんでしょう?……だから、会いたくなかったのに」
「だから滅ぼすわ。此処は多くの生き物が寄り付かない私だけの場所なのよ」
支配という意味で、辺境の所有を口に出す。
異端の神が対立する。その意味を、此処に証明せんが如く――。
龍統・光明(サポート)
『その業喰わせて貰う。さぁ、貴様の業を数えろ……』
ヤドリガミの電脳魔術士×竜騎士
年齢:19歳 男
外見:173.3cm・赤い瞳・銀髪・色白の肌
特徴:左胸に傷跡・知識欲が強い・由緒正しい血筋・料理が好き・創作活動が好き
口調:男性的(俺、呼び捨て、だ、だな、だろう、なのか?)
基本冷静沈着。但しノリは良い
二刀流と蹴術を織り交ぜながら羽形スレイブを操り戦う
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用
基本回避優先で防御の際は左腕を盾代わりに使う
常にクールである事に努めており、他に迷惑をかけない様に心掛けている
自由に動かして頂いて構いません。(NG:ギャグ・コミカル)
●SWEET
臆する事無く進み出る人影。
「その業、喰わせて貰う。この場に在りたい?甘えたことを……」
龍統・光明(千変万化の超越者・f02421)は支配領域を譲らない姿勢を、甘えと言った。 敵の望みは"静かに隠れていたいだけ、誰も来なければいい"。その望み自体が、"此処でなければならない"理由とするには余りに軽く思えたからだ。
「ふふふ。甘えに思う?私は、真面目に主張しているのに」
「甘えだな。全て灯されたからなんだというのか」
「……愚問ね。何度も、答えたわ?来ないでほしいのよ」
この橋の灯りを全て付けてしまわなければ神の姿を暴く結末は無く。
ディアナイラが手を出す瞬間は、ついぞ訪れなかった。
「既に逃げ出した男より前に訪れていた隷属種は、適当だったのに……」
此れまでは同じく、適当に手を抜いた仕事をしていたならば見過ごすことも出来る。故に、隷属種の侵入を不快に思いながらも適度に見過ごしてきたのだ、この神は。いつに頃か隷属種は交代しており、今の男が訪れるようになった。
超心配性で、慎重に。それでいて"必ず全てを灯して"帰る仕事ぶり。
「真面目なのはいいことよ。それでいて小心なのだもの、脅せば逃げるものね」
ある日を境に囁くように帰れと促し始めたのは、仕事を途中で放り出させるため。
適当な灯火で、終わらせるため。
しかし計画はなかなかうまく行かず、神はこの目障りな存在を殺す事に決めた。
毎夜見事な仕事ぶりを評価し、――隷属種の前に姿を顕して。
猟兵が手伝い、早々に男を逃したことで殺しの計画は見事に破綻した。
「俺も脅すか?勤勉なようだが……」
二刀流の長刀を手に、構え光明が挑んで掛かる。
駆ける足に、"神を相手にする"に臆する欠片は一つもなく。
「時間ならば多少はやろう。さあ、貴様の業を数えろ……」
構えた長刀による神速を越えた連続斬撃を繰り出すように見せかけて、霊装の羽を先んじて繰り、翻弄する。
玉のような肌を先駆けて切り裂くように飛ぶ、思考による明確な制御された『フェザーブラスター』。
舞い踊る様は、幾人も相手にしているようであり。
鳥の群れに襲われるようでもあった。
「数える?そんな必要は、まったくないわよ」
「総餓の神髄を垣間見ろ、奥義・涅槃寂静……」
神速の斬撃が触手を切断面すら美しく思えるほどに斬り捨てる。
深く傷つけられた触手から発生した鮮血が、一拍置いて光明に降りかかる――。
「近くにいれば当たると?安く見られたものだ……!」
刃ではなく、霊装の羽でもなく。光明は敵の体を蹴上げてディアナイラの鮮血の飛ぶ方向を強引に変えた。その場にて落されていた触手に鮮血は容赦なく降りかかり、返り血の猛毒を浴びてジュウジュウと溶け出して橋に染みていく。
毒の返り血にて溶けた体の一部。
その上に立ち、ディアナイラは冷たい微笑みを浮かべる。
「私は永劫にひとりよ。でも此処のことなら誰よりも詳しいわ」
異端の落とし仔、神の眷属として染み渡る黒ずみの規模はごく小規模だ。
上腕ではなく、触手を素早く奔らせて光明をそれ以上近づけまいと打ち付ける。
戦闘力があがり、猛毒が足元に広がっていく。
――此れが殺気。
これ以上は近づけないと光明は判断した。
遠距離からの攻撃を繰り返し、小さくともいつかどこかで致命的なダメージとなることを望み、戦闘を続ける――。
成功
🔵🔵🔴
六葉・結依(サポート)
『大丈夫、その内なんとかなるよ。任せて!』
人狼のアーチャー×力持ち、20歳の女です。
普段の口調は「のんびりしてる(私、~君、~さん、だ、だべ、だべさ、だべ?)」、怒った時は「はっきり(私、~君、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。言語能力に長けております。基本的には何があっても怒りません。が、顔は笑っているのにオブリビオンには慈悲すらありません
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●力説(物理)
ゆるりゆるり振るわれる触手。
ばちん、べちん、とよくしなる鞭のような音が橋の上で容赦なく響く。
あれは、当たれば痛いではすまないだろう。
「……大丈夫、なんとかなるよ」
六葉・結依(ただの力持ちの農家さん・f21408)が頬をぺちぺち叩いて自身に言い聞かせる。
敵対するディアナイラの表情は笑っていたが、やっている事は微笑ましいものではない。橋を壊しかねない威力で叩き続けるそれは、強度を確認する作業のよう。
神の傍に近づけば潰す、制裁を加えるつもりなのだ。
傷つけられた分、神の狂気に侵食されて、殺す事を名目に掲げているようでもある。そう、あれは殺すためには手段を選ばない蟻地獄のような手段を取っている。
「ねえ?もう痛い思いしたんでしょう。それ以上は、いいんじゃない?」
道を譲り、此の場を渡すようにのんびりと諭すような問いかけ。
血に塗れた身体を晒す神の前で、結衣は臆する事をしらない。
「……私にこの場所からいなくなれ、というのね?」
「そう。だって、貴方が移動するだけで此処から脅威はなくなるじゃないですか」
望むものは敵対ではない、という口ぶちで徐々に近づく結衣。
ニコニコと笑っていて、裏表のなさそうな言葉にディアナイラは声に出して笑う。
「ふふふ、吸血鬼から死守した土地を、明け渡せってこと?」
「何の見返りもなく、神に貴方はそういうのね?」
徐々に凍りついていく声色。
神に対する態度について言えば不遜に過ぎるのだ。
身体を奪い取ったとはいえ、神は神。辺境を統べる者であるというのに。
「そうですよ。でもまあ……」
ぎゅ。結衣がディアナイラの触手をダイレクトに掴んだ。
しかし、掴んだ部分がしっくり来なかったのか選ぶように口元に指を当てて。
「……あ!それがいいですね!」
妙案、と言わんばかりにわざと切断された触手を選び慈悲無く掴んで。
軽々と"持ち上げた"。
「ひゃあっ!?」
未だ生々しい傷口より返り血がだばだば溢れ出てた。神の足元で神を神たらしめる毒沼の領域を広げ、黒の色濃い神域をより毒々しく染め上げる。
「明け渡してほしいのは本当ですが、生きたまま去る事を約束するとは言ってません。なので、制裁は此処で受けていっていただきますね!」
お構いなしに持ち上げて、力の限りディアナイラを振り回す。
彼女の振り回す触手よりも激しい音が渦を巻くように聞こえる。それに加えて甲高い悲鳴が頭上で聞こえるが、結衣は全く気にしない。
しかし、そうあったのは少しの時間だ。
ぽた、ぼたりと暗がりに赤黒いものが落ちてきている。雨ではない。
湿っているだけで、雨が降るような天候ではない。
上から落ちてくるものはそう、一つしか無い――鮮血だ。
猛毒の返り血の小雨降ってきて、じゅくじゅくと色んなものを解かしだした。
橋を、外灯を、結衣の衣服を。そのまま当たってもよくないことが起こるだろう。
「……なるほどです。被害拡大も、よくないです、…………ね!」
びたーん!背負い投げるようにディアナイラを戦闘力を高める領域のない場所に叩きつける。ごきりと何かが折れ砕けるような音も確かに聞こえた。
上半身に尋常じゃない自体が発生したことだろう。
「そのまま橋と一体化、とかも良いんじゃないですか?」
即座に起き上がらない神に、結衣は更に強いものはいる、と物理的な手段で分からせようとした。
いいや。相手に理性があれば、死ぬほど喧嘩して纏まる話もあっただろうが……。
「いい趣味、してるじゃない」
「――どうしましょう。ああどうしてくれましょう」
狂気に染まりきった視線を向けながら、ディアナイラはただ口にする。
答えなんて聞かない。いいや聞こえる耳も、理解する頭ももう機能を忘れ始めている。目的も理想も、願いも怪我の数だけ忘れて。
「滅ぼす為に殺さなくちゃ――貴方も私も」
成功
🔵🔵🔴
レシア・ラミリィズ(サポート)
「わたくしと楽しく殺し合いましょう?」
「まあ、(相手を褒める様でいて遠まわしに非難する言葉)ですこと」
「(味方を攻撃しかけて)うふふ、ごめんあそばせ!」
設定口調等プロフィール参照
メイン武器は『鮮血剣』カーミラ(呼び:鮮血剣)
生き血を求める魔剣を振るうダンピールの姫君です
主に愛剣に血を吸わせる為にと依頼に参加します
剣の腕は素人並、剣に操られた時は達人の如く扱います
操られてるが故の
敵味方や自分の身も顧みずに斬りかかり
血塗れにされても【生命力吸収】で回復する
バーサーカー的戦闘スタイルが基本
また剣だけでなく吸血鬼の能力や持ち物を活かした
様々なUCを使い戦います
後はお任せ
アドリブ・連携・交流も歓迎です!
●血霧に舞え
「貴方は、殺し殺されがしたいのね?」
血の色濃い臭気に充てられて。徐々に狂気へ堕ち始め、思考も朧に呑まれ始めた異端の神に、レシア・ラミリィズ(鮮血剣姫・f24125)は尋ねる。
「ああでもその様に蹲っているようでは一方的に遊ばれて終わりかしら」
既に流れた鮮血に"生"を感じるのか、レシアの魔剣から蠢くような気配がひとつ。
元々人だったその身体に流れるソレが赤である以上は、鮮血剣カーミラも喜ぶのだろう。いいや、気配どころではない。カタカタと揺れ動いている……気がした。
「ほら、早くお立ちなさいな」
「……上から見下げるような、忌々しい雰囲気の言動」
触手総出で身体を起こし、ディアナイラが睨んでくる。
嫌な気配を身体が感じたのか。それとも、魂が在り方に気付いたのか。
「誰の許可や許しを得て、神より偉ぶるの?」
「まあ、初めて出会う貴方の身分は辺境の異端の神様なのですのね。人工的に作られた上を陣取る超常存在だなんて、非常識ですこと」
上から下まで眺めて、蛇のようにくねる触手の異端な様子。
徐々に殺しに執着しだした狂気の行方。
「……"吸血鬼"」
「ええ。ごきげんよう」
睨めつけるような魔女の声に、レシアは挨拶を。
「戦いたいのでしたら存分に。――貴方の為したいように為しなさい、鮮血剣」
血を探すその魔剣が、ざわりと禍々しいオーラでレシアへと侵食し、為したい事をするための手足、自由を得た。代わりに、魔剣はレシアから一切の自由を奪う。
鮮血剣は、目標を一つに絞っている。
血が、此の橋には在る。存分に漏れ出た毒素も、元を辿れば血であるからだ。
あたたかさを保つ、熱源体は直ぐ側にある――。
剣を扱うレシアの動きが、まるで剣客が如し迷いの無さ。
突然、少女は走り出し、大きく剣を振り上げて無慈悲なまでに横に薙ぐ。
ディアナイラの肌を斬りつけて、返り血を湧き上がらせるのだ。
愛剣に血を吸わせる為に訪れた信頼が、――彼女の身体を魔剣に使わせる。
「ほうら、逃げるなり戦うなり。どちらも選ぶ権利"は"ありますのよ?」
魔剣の方に容赦はない。
敵、いいや獲物。神が如し存在。
それが"生きている"のなら、関係ないのだ。
目的達成のためにレシアを操り、魔剣は存分に浴びるように、その血を啜った。
派手に浴びて、魔剣が揺れるようだった。喜んでいる、間違いないく。
「斬りつけて切り裂いて。一方的なやり口は、何処の誰でも同じなのかしら」
吸血鬼に対する……嫌味か。
彼女と面影は被らないだろうが、狂気の瞳には同じに思えたのだろう。
しかし、ディアナイラから発生する血は、普通の血ではない。
猛毒があり、甘美な味を約束したりしない。
「ほうら好きなところを切り裂いていけばいいわ?愉しく斬って遊んでいる間に、私は貴方を毒でじわじわと確実に殺すだけよ」
手を広げ、疵だらけの上半身を無防備に晒し、レシアが近くに来たとあれば猛毒の血に念動力で働きかけてレシアへ降らせる。さながら、ブラッディ・レイン。
血による雨、猛毒の殺しの赤黒き雨。
それにより、魔剣が血を被るのは当然だ。
レシアにも、平等に毒で蝕んでやろうと、神は雨の降り注ぐ場所へ誘う。まるで、血のような赤き瞳をする白き吸血鬼に相手にかつての戦い再現でもするように。
ただ激しく。殺伐とした、超常の風貌が、戦場を彩った(汚した)。
「進んで斬られても良いとするのは狂っていると断言するしかありません」
レシアの身体に激痛が走っている。だが、毒さえ後に抜き去れば血は血だ。
そこまでされては足とも呼べる触手をひとつやふたつ、それ以上貰っていくつもりであった。貰えるものは、貰っていく。魔剣が満足するまでは。
神へと意識を呑まれるオブリビオンへの慈悲の欠片は――言葉だけにはなるが、かけてやってもいい。
「せめて、……後悔のない死に様を晒すことですわ」
痛いと一切口に出さない魔女の触手は、猛毒の血で欠けた部分を補って橋を叩く。
存在するだけで苦しみをぶち撒ける神の表情を、レシアが見上げた時。
その表情は、神とはお世辞にも言えるものではなかった。
理性無く血を吐いて嗤っている。
毒霧のなかで血塗れの身を晒すそのカオは――ただ、どうしようもなく。
異端の化け物であった。
成功
🔵🔵🔴
アトシュ・スカーレット
うわ、やっと出てきたか!
オレはみんなの援護に回ろっかな
猛毒の無効化を最優先に動くぜ
両手のJoyuseと村雨を状況に応じて【早業】で変形させて立ち回るか!
手数が必要なら【2回攻撃】も考えるか
【範囲攻撃】ができるように風の【属性攻撃】で斬撃の有効範囲を広く出来ねぇかな…
防御は【見切り】が可能なら実行
不可能と判断すれば【オーラ防御】【激痛耐性】で防ぐ!
もし猛毒を食らった味方がいるなら、そいつにも攻撃するか
肉体は傷つけないなら問題はないよな?
…まぁ、それでも謝る。なんかすまん
「お生憎様、毒の浄化はオレの十八番なんだぜ!」
「……そのあり方が嫌ってんなら、ここで終わっとくか?」
ドゥアン・ドゥマン
然り。気晴れする御仁の言う通り。
貴女方の言う通り。
説得ではなく、相対する為に此処へ来た
■戦闘
ご同行の見事な火力。この身も猟兵故、遠慮はいらぬ
その魂が求めているならば、この手で此処を打ち壊し、墓所と設えよう。
…なに領民が通行できるようには、後で直しておく故な。
地を隆起させ、貴女方を貫き、眷属を捕食する如く呑み込もう。
血を浴びるのも構わぬ。
…貴女方も、たんと痛んできたのだろう。
ディアナイラ。応えてくださり、感謝を。
神としての。人としての。貴女方を見送ろう
■心情
…感じる事を、感じるままに。それが葬送の役割。
語弊恐れず示すなら。悲しいだけでも良いのだ。
ただ葬具をしかと振るい。せめて、静かに眠れるように
●橋の上の神、橋の下の化け物
――ふふふ、今の私はとても醜いでしょう!
――血に塗れて、この体から溢れる猛毒の領域を広げ生物を害する存在だもの。
――殺すにふさわしい怪物でしょう?ええ、そうよね。
――だから……どうしても会いたくなかったの。
「うわー……」
やっと出てきたとアトシュ・スカーレットが目に止めた異端の魔女ディアナイラは、猟兵たちの攻撃をその身に受けて触手を欠損させていたり、溢れ出る猛毒の流血を垂れ流していたり壮絶な姿をしていた。
マトモな姿ではないのに、悲鳴の一つもあげやしない。
「……例えこの場所を開放しても、酷い汚れが残りそうだねぇ」
「然り。気晴れする御仁の言う通り。同意で返そう」
――そして、合わせて。貴女"方"の言う通りでもある。
ドゥアン・ドゥマンが頷いて答えた。二種にして、3人への返答。
広げた黒い雨の庭の上に毒々しい領域を広げる魔女"たち"の安らぎは"穢れて"いてこそ丁度いいのか。
「あの瞳、あの表情。どちらも説得を必要としないもの。相対する為に此処へ来た」
「オッケー。……なら、オレはまず此の場をなんとかしようかな」
進み出るアトシュに、自身から溢れ出る血を念動力で操作しドス黒い猛毒の弾丸生成。ディアナイラ周囲に展開して、一斉に、無尽蔵に、放り投げる。
斬られ続けたのは攻撃をやめるつもりがなかったからだ。
するならば、滅びを与えるまで続ける、神の気まぐれによるものだろう。
魔女に放たれた弾丸が破裂した部分は返り血の花を咲かせること無く、ディアナイラの神の振る舞いを強化するもの。
黒く染み付いてふつふつと毒の環境を広げて、自分以外が好まない空間へと支配領域を塗り替えていく。
「どうにかする?いいわ、なら私を止めてみて?」
「止めきれない時は、毒に呼吸を妨げられて呆気なく死ぬだけよ?」
避け続けることも、当たることも、異端の神は留まる事を許さない。
弾け飛ぶ汚濁の弾丸の、臭気は鮮血よりも――何処までも汚れた川の底に貯まる泥に似ていた。
「解説どうも?お生憎様、毒の浄化はオレの十八番なんだぜ!」
アトシュが両手に構えた、刀の形状の村雨と片手剣の姿を留めたJoyeuse。
銃形態にもどちらも変形を可能とするもの。
しかし、今必要なものは果たしてどちらか。
「……銃か、な!」
剣状態の二対を、早業で変形させ、腐敗の呪詛を籠めた弾丸を左右交互で撃つ。
ディアナイラの放つそれは、斬りつけて終わりを齎すのでは、間に合わない。
「蝕む黒よ、その魂の汚れを……遺す事は許さない!」
浄化術・月光式(バプティスマ・フェガロフォト)。
己が出来る最大の範囲を射程に取って。風の属性を弾丸に上乗せする。
さらに、――遠くへ飛ぶように。
左右交互、二回攻撃を加え、念能力を駆使して投擲され続ける猛毒の攻撃をアトシュの弾丸は、呪いや毒。
穢れをだけを的確に穿ち、浄化をもたらし意味のない染みへと変えていく。
べしゃり、と落ちるものが何かに活かされる事を拒絶する。
「既に残した部分も、此れから変化させていこうとしてる場所も。オレが戻すからな」
腕を振るい、銃形態から剣形態へ。
なんの強化も齎すことのないディアナイラの領域を踏みしめて、走る。
剣の二対の刃がきらりと希望を掲げるかのごとく、煌めいた。
「燃えるような戦闘。見事な火力。先程の炎も、その行動力も」
どちらもドゥアンは頼もしいと評価する。
「この身もまた、猟兵故、遠慮はいらぬ」
ケットシーたる胸をトン、と叩き。
頭上の大きな頭蓋を深々と被り、頭蓋の骨の奥で青の瞳が静かに光る。
「其の身は既に削られ、穿たれた。嘆き苦しみ喜べぬ戦いであるというのならば」
――何たる悲しい響きか。
死者として眠ることを拒絶する気配もない。
死したのちに敢えて死者の身体を奪ってまで、永らえる不遜な神。
「その魂が求めるのであると受け、この手で此処を打ち壊し、墓所と設えよう」
黒ずんだ庭、狂気が隅々染み渡る橋など不吉が過ぎる。
なにしろ、神殺しを此処に成そうというのだ。
出会った男の仕事は続くだろうが、此の橋の脅威は一旦綺麗に取り除かれる。
「………なに領民が通行できるようには、後で直しておく故な?」
ドゥアンの足元が隆起する。
「――Under the Gray――」
そうなるように、唱えるように。
静かに、深く。働きかける。ごごご、と返る反応が、じわりじわりとディアナイラの近くへ忍び寄っていく――。
「縁より降れ、淵へと至れ」
手をわずかに上げて、下げる動作。
武具が変異し、巨大で妖しく荘厳な掘具が、ディアナイラの胸を身体を、ぐさりと掘り抜き縫い止める。
同時に足元の地形、外灯もろとも巻き込んで周囲ごと破壊。
ガラガラと魔女を起点に――橋が落ちる。
橋の下、瓦礫の山に磔刑が如く女の胸を貫いたソレ以外にも、古き家の名残が各所、身体を貫いていた。
それにも関わらず、魔女は橋の上を視線で見やるだけで、苦痛を叫ばない。
こぽと吐き溢した血は赤を越えてどす黒く変色していた――。
「貴方"方"を貫いた。眷属として、未だ貴方"方"に助力する落とし仔も捕食する如く呑み込んだ」
刺さったと同時に舞い上がった流血を、ドゥアンは一切避けずに浴びた。
猛毒の返り血。今は生者である身を、眠りに誘うのであれば。
「……貴女"方"も、たんと痛んできたのだろう」
――これくらいは、とうぜんのこと。
ドゥアンはそう思っていたが、ドゥアンの近場でとん、と跳ねるアトシュ。
降り注ぐ毒を見切って回避したアトシュは、味方の様子を見て駆けてきたのだ。
両腕を交差するように、振り抜き――、橋の下の魔女へ向き直る。
「肉体は傷ついて無いはずだ。問題はないよな?」
「……突然のこと。驚きはしたが、…………」
「……まあ、それでも謝るよ。なんか、すまん」
身体を傷つけずに、毒や呪いだけを切り裂く剣技を仲間へ向けたこと。
苦しみを長引かせないようにとの配慮の事だが、斬りつけたことは、間違いない。
「いいや……感じることを、感じるままにしただけだろう」
「そうやって。受けたものを無かったことにする」
「……私への改造も、此の地への侵略も」
ディアナイラの悲しみ。いいや、神の後悔のような、物言いか。
「……そのあり方が嫌ってんなら、ここで終わっとくか?」
アトシュが問いかける。
続く苦悩は、傷が癒えても断ち切れない。
混ざりあったものが元の個々に戻ることも、不可能のことだろう。
「貴方の"名"、ディアナイラ。応えてくださり、感謝を」
ドゥアンが見上げた死の音を身近で感じている其のカオに、怯えのようなものを見た。殺すことしか考えていない神のものではないだろう。
"死から見られている"と気付いて慄く、オブリビオンの理性だろうか。
「神としての。人としての。貴方"方"を見送ろう」
此処までに落された触手の数。
切り裂かれて流した流血の量。どちらもが、存在をすり減らした極地だ。
胸に楔を穿たれて、猛毒と憩いの黒を無力化されて、身体を晒して。
魔女の居座り続けたい理性無き信念をも、砕いて囁く。
「これこそ、葬送の役割。語弊恐れず示すなら――悲しいだけでも良いのだ」
「此処に、私は居ても――良かったのかしら」
「然り。しかし、貴方"方"は狂気を忘れ安らかに眠るべきだろう」
二撃目の、葬具が返答を打ち消す。
ただ葬具をしかと振るう、ケットシーが二撃目が静寂の墓標への入居を誘うように打ち込んだ。
橋の下で自身の猛毒に彩られながら、"誰に見られる事無く"終わりを迎える"神"。
「その眠りを、妨げるものは無し……」
ぽつ、ぽつ、と二人の頭上で雨が降ってきた。
場の湿気に釣られれ、神の涙雨が空より降りてきたのだろう。
毒素も、呪いも。
悲しみも、殺意も。何も感じない。
超常存在の何気ない気まぐれが、空へ干渉したのか。
此の地へ誘われた雨露だ。
頬を濡らし、穢れた色を橋の下へ洗い流していく。
湿気の中に灯る色は、ぼんやりとしたほのかな色合い。
今も、未来も灯され続ける事を祈る――道標。
訪れた者を惑わすオブリビオンも、脅かす神も、眠りに就いた。
誰も――起こしてはならない。
ただ、橋の灯り、……全て灯すのもいけない。
神が起きたら――橋を渡りきれなくなって、しまうから。
大成功
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