アルダワ魔王戦争8-E~虚空に希う
●万能宝石エリクシル
『この世界』は『知りません』。
『この世界』は『知りません』。
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
されど、『わたしたち』は『宝石を歪める』ために『造られ』ました。
迷宮内に響く妖精の声は無感情に、ただ何も知らぬのだと告げていた。
されど、それら――エリクシルの妖精はすべてを叶える力を持っている。迷宮の奥に顕現した彼女達は、翅を虚空に揺蕩わせながら更に語る。
『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』。
『この世界』は『知りません』。
『この世界』は『知りません』。
●その、願いは
「奴らはエリクシルの妖精っていうらしい」
地下迷宮アルダワ、ファーストダンジョンの奥。
其処に突如として現れた者達の存在について語り、ディイ・ディー(Six Sides・f21861)は肩を竦めた。
確か願いに纏わる似たような怪奇小説があったよな、と零した彼は妖精達が大魔王への道を塞いでいるのだと伝える。
「奴らは妖精といってもかなり大きい。十メートルはあるんだったか」
だが、問題は大きさではない。
妖精はとても厄介な力を宿している。それは代償を支払えば、何でも願いを叶えてしまうという能力だ。
「代価を受け取って願望を叶えるってのは謂わば、呪いの品めいてるよな。相応の覚悟があるなら代償を払う選択も悪くはないと俺個人は思う。だが――」
妖精は告げられた願いをその通りに叶えることはない。
何かしら歪曲し、違った形で成されてしまう。たとえば、亡くなった誰かに会いたいと願えば死んだ状態のその人が現れる、といった具合だ。
「願いを歪曲されるのは厄介すぎるよな。そんな存在、お断りだ」
また、妖精と対峙している間にエリクシルに願いが伝わってしまうと、その代償として瞬く間に生命力が奪われる。
おそらく戦えなくなるほどの痛みや苦しみを伴うだろう。
それゆえに戦闘中は『自分の願望を口に出したり思い浮かべない』ように、精神と己を律する必要がある。
「戦い難い相手だが、立ち塞がるなら倒すしかないよな」
願望を叶える存在。
それを前にして願いを抱くなという方が難しいだろう。それゆえに思いを言葉にしたり、抱き続けたとしても軽蔑はしない。それがひとというものだから、と仲間達に伝えたディイは転送の準備を整えていく。
「……頼んだぜ、皆。さて、それじゃあ行ってこい!」
蒼く光る転送陣の向こう側――其処はもう、妖精達が巣食う迷宮の最中だ。そして、敢えて明るく笑ったディイは猟兵達を送り出した。
犬塚ひなこ
こちらは『アルダワ魔王戦争』のシナリオです。
対する敵は『エリクシルの妖精』で少し特殊な戦場となります。
今回は出来る限り多くの方の採用・描写を行う予定です。
プレイングの受け付け締め切りをマスターページに記載しておりますので、お手数とは存じますがご確認頂けると幸いです。
●プレイングボーナス
『エリクシルの妖精に願いを伝えない』
戦闘中にエリクシルに願いを伝えたり、願望を強く思ったりしてしまうと、それだけで大ダメージを受けてしまい、戦闘不能になってしまいます。
プレイングに『願いの言葉や思いを一切書かないこと』で大成功になります。
この場合は心情などの描写はほぼなく、完全なる戦闘のみのリプレイとなります。
●特殊状況!
ですが、今回はなんと『敗北』描写ができます!
敢えてエリクシルの妖精に願いを伝えると判定は苦戦となりますが、圧倒的な力に耐えきれず倒れる描写や、願いに対する心情や思いをメインにした描写を行うことができます。
また、3月1日時点で大魔王が生存していた場合、このシナリオで願ったことを、エリクシルの妖精が叶えてくれます。ただし、『悪意をもって捻じ曲げた願いの叶え方』をする為、望んだ結果を得る事は出来ません。
それでも叶えたい願いがあるという方はぜひ願いを伝えてみてください。
願いを伝えたり、考えたりという行動自体は悪いことではありません。
精神波に心を揺らがされてしまったり、思わず願いが口をついて出てしまった、という形でも誰も責めません。
死亡などのペナルティはなく、その前にグリモア猟兵が強制帰還転送を行うので大怪我程度で済みます。この期にあなたの思いを伝えてください。
完全戦闘か、願いを伝えるか。
どちらも尊い選択です。どうか、あなたのお気持ちのままに。
※特殊状況なので、滅多なことがない限りシナリオ失敗判定にはならないように調整致します。
第1章 集団戦
『エリクシルの妖精』
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POW : 力翼
【魔力を纏った翼を震わせながらの】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【残っている他の妖精達】の協力があれば威力が倍増する。
SPD : 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう
対象への質問と共に、【虚空】から【新たなエリクシルの妖精】を召喚する。満足な答えを得るまで、新たなエリクシルの妖精は対象を【秘めたる真の欲望を暴く精神波】で攻撃する。
WIZ : ドッペルゲンガー
戦闘用の、自身と同じ強さの【交戦中の猟兵と同じ姿を持ち、同じ武器】と【同じユーベルコードを使う『鏡像存在』1体】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
イラスト:高芭タカヨシ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
セレナリア・アーチボルト
願いを歪め、叶える存在……いえこの妖精の本質はもっと別にあるように感じます。
女の勘といいますかもっと恐ろしい別のなにかの気配を……。
いいえ、臆してはいられませんね! 今は目前のことに集中です!
幻惑の蝶をまとわりつかせて視界を奪います
僅かでもこちらを見失ったなら雷の槍を投擲して力を削ぎましょう!
時間をかけて妖精が増えると厄介ですね、質問には耳を貸さずにトドメとばかりに斬り込みます。
神の火により妖を斬る。これ即ち神火斬妖剣です!
全て当たればひとまず増えるのは止められますね。
まとめて機関銃の制圧射撃でなぎ払いましょう。
あなたからは何も受け取れません
あるべき所へお帰りくださいな
●ただ、臆さずに
薄く蒼い光が反射している。
水晶めいた石が四方八方から生えている迷宮内の一角。其処に現れたのは、何体もの巨大な妖精。異様な雰囲気を放つ妖精達は口々に何かを語っている。
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
セレナリア・アーチボルト(ストレンジジャーニー・f19515)はその声を聞き、軽機関銃を構えた。聳えると表す方が相応しい妖精の存在。その姿を振り仰ぐセレナリアは何だか妙な予感を覚えていた。
「願いを歪め、叶える存在……いえ、この妖精の本質はもっと別に――」
それは女の勘。
願いを叶えるだけではない、もっと恐ろしい別の何かの気配がしてならない。
だが、今はそれを探ることは出来ないだろう。
巨大な影に対して緊張感が走ったがそれすら無視して挑まねばいけない。セレナリアは、メイドの嗜み――もとい機関銃を強く握った。
「いいえ、臆してはいられませんね! 今は目前のことに集中です!」
意気込みを言葉にしたセレナリアは力を紡ぐ。
――心に翼を持つ者よ。
強大な敵に立ち向かう心を抱いた彼女は、偽りを照らす幻惑の蝶を顕現させる。たとえちいさな力であっても、集えば標的を貫く一手になるはず。
セレナリアは蝶が舞う軌跡を目で追い、妖精の動きを見据えた。
蝶々はというとセレナリア自身を相手の視界から隠すようにひらひらと舞っていく。だが、その際にエリクシルの妖精はセレナリアに問う。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
その言葉にセレナリアは答えを返さない。されど、願いを言わない間にも新たなエリクシルの妖精が出現してしまう。
欲望を暴く精神波が周囲に広がり、セレナリアの心を侵食していく。
「……、これ、は――」
痛みはないというのに苦しい。
望みは告げないと決めているがゆえに心が揺らがされているのだろうか。しかしセレナリアは首を横に振って耐えた。
惑わされてはいけない。ただ、自分は次の一手を放つのみ。
「駄目、です……!」
震えながらも放ったのは不義を討つ雷の槍。
投擲された一閃はエリクシルの妖精の身を鋭く穿った。僅かでも力を削げたと察したセレナリアは、これ以上は妖精の問に耳を貸さずにいようと誓う。
「参ります!」
振り上げたのは悪を断つ炎の剣。
――神の火により妖を斬る。これ即ち、神火斬妖剣なり。
それによって一体の妖精が斬り伏せられ、ゆっくりと沈んでいく。だが、倒せたのは増えた妖精だ。まだすべてを倒しきれたわけではなく、きっとこの後も願いを問う妖精は次々と増殖していくだろう。
「まだまだ行きます。倒しきるまで終わりません」
されどセレナリアはこの程度で折れたりはしない。願いは告げず、ただひたすらに機関銃を撃ち放ち、制圧していくだけ。
「あなたからは何も受け取れません。あるべき所へお帰りくださいな」
そして、凛とした声が戦場に響いた。
大成功
🔵🔵🔵
雅楽代・真珠
ふぅん
心は僕の本性のように硬く、凪いで
妖精を跳ね除ける
僕は物だから
願われるものであって
願うものではない
僕の願いが『あったとして』
それをお前如きに願うと思う?
僕の願いを叶えるのは僕自身
僕の望みを叶えるのは――
如月、皐月
お前たちに『主命』を与える
高い位置から見下ろす或れを、殺せ
ひとつひとつ部位を破壊して力を奪い
鋼糸で八つ裂きにして
翅も全てもいでしまえ
ぎりぎりで生かす必要もない
簡単でしょ
出来るね、お前たち
頭が高い羽虫の首級を僕の為に取ってくるんだ
妖精、お前の願いは何?
答えられないでしょう
だってお前の本質は如月たちと同じ
お前は妖精じゃない
ただの道具だ
如月たちと違うのは
お前が使い手に愛されていない事だよ
●愛されし道具
迷宮内、周囲に満ちる数々の水晶。
其処に映っているのは巨大な妖精達の姿。蒼き妖精が翅を羽ばたかせる様を軽く振り仰ぎ、雅楽代・真珠(水中花・f12752)は、ふぅん、と口にする。
――汝の『望み』を『伝える』と『よい』でしょう。
願いを問い、求めるエリクシルの妖精。
その声は無機質で機械的にも思える。みずから自動なる者と称するだけあって、妖精達はそれを繰り返すばかり。
既に戦いは始まっており、妖精が呼んだ新たな妖精が放った精神波が真珠にまで迫ってきていた。だが、その心は彼の本性のように硬く凪いでいる。
「無駄だよ」
真珠は首を横に振り、尾鰭を揺らして宙を泳いだ。
妖精の精神波が全く効いていないわけではない。ただそれを跳ね除けただけだ。
自分は物。
だから願われるものであって、願うものではない。
けれどもしも、万が一にも、ヒトの形で顕現した真珠の裡に願いの形が『あったとして』も――。
「お前如きに願うと思う?」
知らぬ相手に伝えるほど莫迦ではないのだとして、真珠はその願いの片鱗すら思い浮かべぬよう努めていた。
己の願いを叶えるのは僕自身。
僕の望みを叶えるのは――。
其処まで考えてしまったのはおそらく精神波の残滓のせいだろう。されど、もう真珠の裡に願いなど浮かんでいない。
「如月、皐月」
真珠は淡々とした声で絡繰人形達を呼ぶ。
彼の左右に控えていた如月と皐月はその声に応えるように動いてゆく。絡繰人形達を見遣った真珠はそれらに命じた。
「お前たちに『主命』を与える。高い位置から見下ろす或れを、殺せ」
真珠がそう告げるや否や、鬼となった人形達が地を蹴る。
その目は赤く染まっていた。如月は黒服の裾を靡かせ、皐月はスカートを翻し、瞬く間に水晶を伝って巨大な妖精に迫った。
彼らの姿を見つめる真珠。その瞳は次々と刃を投げ放つ如月と、鋼糸で妖精の翅を穿つ皐月の姿を追っている。
一撃は僅かで構わない。ひとつひとつ部位を破壊して力を奪い、鋼糸で八つ裂きにして、翅も全てもいでしまえばいい。あんなもの、ぎりぎりで生かす必要すらない。
「簡単でしょ。出来るね、お前たち」
頭が高い羽虫の首級を僕の為に取っておいで。
人形の主として振る舞う真珠は徐々に妖精の身体が傷ついていく様を見つめる。だが、妖精は如月と皐月を弾き飛ばしながら真珠に突進してきた。
避けることは出来ない。
それでも受け切ることくらいは可能だ。真珠は痛みを覚悟しながら妖精を迎え撃つ。その際、真珠は間近でエリクシルの妖精に問いかけた。
「妖精、お前の願いは何?」
対する妖精は返す言葉を持っていないようだ。
「答えられないでしょう。だって――」
お前の本質は如月たちと同じだ、と真珠は断じる。
それはそう、命じられた儘に動く自動人形でしかないもの。
「お前は妖精じゃない。ただの道具だ」
尾鰭を閃かせた真珠は妖精の軌道から逃れるように泳ぐ。すると体勢を立て直した二体の絡繰人形が追撃を放ちに向かった。
同じ道具。けれども、両者には決定的な違いがある。
「如月たちと違うのは、お前が使い手に愛されていない事だよ」
きっと、ね。
そう告げた真珠の目の前で如月の刃が妖精の瞳に突き刺さり、皐月が張り巡らせた鋼糸が水晶の光を映して煌めく。
そして――増殖した妖精の一体が力尽き、消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
青霧・ノゾミ
僕の心は凍っている。
ただ氷の刃の切っ先を研ぎ澄ますのみ。
雪渡りによる飛翔で妖精の眼をひきつけ混乱を引き起こす。
こっち、こっち!
連携なんてさせやしない。
妖精さんから見たら僕は小さな羽虫だと思うけど。
甘く見ないほうがいいよ。
死角から入り込んで翼の付け根へ一撃をくれてやる。
地へ落とすための麻痺の力をのせて修復不可能な破壊を。
鏡像の如き僕は、どう動くかな。
僕が妖精を狙ったら守ろうとするのかな?
容赦なんてしない。
翼の付け根へ誘い込んで妖精ごと砕き潰すよ。
残像を残す速さで移動して凍刃でカウンターをとり、
氷の刃で捨て身の一撃だ。
意識の全てを刃に集中。
妖精さんには僕の願いは叶えられない。
……邪魔なものは凍れ。
●凍れる思い
戦場には数多の妖精が居た。
妖精によって新たな妖精が呼ばれ、圧倒的な存在となって立ち塞がる。
『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』。
そんなことを宣う妖精達は、集った猟兵に願いを告げろと言っている。
青霧・ノゾミ(氷嵐の王子・f19439)は首を横に振り、そのような甘言は聞くまいと自分を律する。それに――。
(僕の心は凍っている)
自ら思うのは冷え切った己の心のこと。
ノゾミという名であるというのに、この場で告げる望みは持っていない。それゆえにただ今は氷の刃の切っ先を研ぎ澄ませるのみ。
氷刃と凍刃。
両の手にそれぞれの短剣を携えたノゾミは地を蹴った。
エリクシルの妖精は巨大だが、其処に至るまでには迷宮のそこかしこに生えた水晶がある。跳躍して飛翔したノゾミは水晶を渡って妖精との距離を詰めていった。
そして、敵に肉薄した彼の瞳が更に輝く。
雪渡りの力は刻印を伝い、ノゾミの身体に力を巡らせていった。
「こっち、こっち!」
ひらりと飛翔することで増殖した一体の妖精の眼をひきつけて撹乱する。決して連携なんてさせやしないと決め、この相手を倒すと決めたノゾミ。
彼に対し、エリクシルの妖精は問う。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
だが、ノゾミは応じない。
「妖精さんから見たら僕は小さな羽虫だと思うけど、甘く見ないほうがいいよ」
言わない、と宣言した彼は更に宙を翔ける。
相手が大きいがゆえに死角に回り込むのは容易だ。水晶の影に身を隠し、一気に入り込んで翼の付け根へと刃を振るう。
「願いの代わりに、一撃をくれてやるよ」
妖精を地へ落とせれば僥倖だが、おそらく敵もそう簡単には倒れてはくれない。それでもその布石になるための麻痺の力を乗せ、翅を抉るように穿っていく。
しかし、其処に妖精の力である鏡像が現れた。
ノゾミと同じ姿をして、同じ動きをする存在。それを見据えたノゾミは水晶の上に着地して出方を窺う。
「鏡像か。そっちの僕はどう動くかな。僕が妖精を狙ったら守ろうとするのかな?」
もしそうであっても容赦などしない。
此方に向かってくる鏡像を誘い込むように飛ぶノゾミ。妖精ごと砕き潰すと決め、残像を残す速さで移動した彼は凍刃を振るい上げた。
其処からすかさず氷刃を振り下ろす。それは身体への反動を考えぬ捨て身の一撃。
それでもノゾミは意識の全てを刃に集中する。そして――更に放った一閃が、己の偽物ごとエリクシルの妖精を穿った。
「妖精さんには僕の願いは叶えられない。だから……」
――邪魔なものは凍れ。
冷たく告げた言の葉と共に、一体の妖精が地に落ちた。
大成功
🔵🔵🔵
西条・霧華
「願い…ですか。」
願わくば…そんな想いが無いとは言えません
ですが、それは想っても叶えちゃ駄目なんです
確かに私は、故郷も両親も親友も…全て失いました
でも、『だからこそ』この道を選び、その中で助けられた方もいます
その事実を否定して、自分だけの願いを口にする…
それは『今』を生きる方々、今に繋がる何かを成した方々に対する裏切りで…
喪った私の大切な人達をも侮辱する行為です
私は守護者になると誓った/呪った時に【覚悟】を決めています
【残像】を纏って眩惑し、【破魔】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
無自覚に悲劇の種を撒くあなた方を斬り、これからも悲劇を砕き続ける…
それが私の守護者としての【覚悟】です
●願わない望み
『わたしたち』は『自動なる者』。
『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
水晶が煌めく美しい迷宮のフロアに、エリクシルの妖精達の声が幾重にも響く。
「願い……ですか」
西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は彼女達の声を聞き、心が揺らぎそうになることを感じていた。既に始まっている戦いの中、新たな妖精が呼びよせられることによって秘めたる真の欲望を暴く精神波が解き放たれているのだ。
「願わくは……そんな想いが無いとは言えません」
霧華とて人の子。
何も願いがないわけではなかった。寧ろ、願いが存在しない人などいるのだろうか。大なり小なり、叶えたい望みがあるものだ。
「ですが、それは想っても叶えちゃ駄目なんです」
制約なしにすべてが実現する。
妖精が語るのは魅惑的にも思える誘い。だが、それは甘言でしかない。
確かに霧華には思うものがある。
故郷も両親も親友も、全てを失ってしまった。だが、それをどうしたいという思いは今は封じ込めている。
でも、と霧華は惑わされそうになる心を押し込める。
願わない。願いなど、告げない。
「失ったから……『だからこそ』この道を選んだんです」
その中で助けられた人もいる。それはつまり、今の自分が居なければ助けられなかった者がいるということだ。
「事実を否定して、自分だけの願いを口にする……それは『今』を生きる方々、今に繋がる何かを成した方々に対する裏切りです」
即ち、喪った自分の大切な人達をも侮辱する行為になる。
守護者となる誓い。
そして、其処に宿る呪い。
ふたつでひとつの思いを抱いた日。既にあのとき、霧華は覚悟を決めていた。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
エリクシルの妖精がふたたび霧華に問う。
だが、彼女は答えない。
籠釣瓶妙法村正の柄を握り、残像を纏って駆ける。周囲に生えた水晶の上から上へと跳躍し、敵を眩惑しながら破魔の力を紡いでいく。
刹那、瞬時に抜き放たれた幻想華の一閃が妖精を斬り裂いた。
「無自覚に悲劇の種を撒くあなた方を斬り、これからも悲劇を砕き続ける……」
刃が巨大な妖精の身に傷をつける。
この一閃で足りぬならば何度でも切り刻むだけだと決め、霧華は敵を見据えた。
そして、強い思いを宣言する。
「――それが私の守護者としての、覚悟です」
成功
🔵🔵🔴
レイラ・ツェレンスカヤ
叶えられるのは歪んだ願い!
うふふ、なんて楽しそうなのかしら!
レイラ、そういうのってとっても大好きなのだわ!
だからレイラは願うの!
『世界が欲しい』って!
もし叶うのなら、どんなふうに歪んで叶えられるのか、楽しみでしょうがないのだわ!
大魔王が倒されてしまったら残念だけれど、そのときは大魔王を指差して笑うことにするかしら
代償として生命力を奪われるのでしょう?
他人に頼って、望んだものは手に入らず、しかも死にかける!
なんて……なんて無様で可愛らしいのかしら!
レイラに待つのは死?
それとも破滅?
期待で頭がどうにかなってしまいそうだわ!
……いひっ
●孤毒
退屈も、平和も、調和も。
それらすべてが嫌い。だから破滅を導くものや、崩壊を起こすものが好き。
少女が抱く思いは、裏返して見れば実に単純なことでもある。
『わたしたち』は『宝石を歪める』ために『造られ』た『自動なる者』。
さあ、『わたしたち』に『汝の望み』を『言う』が『よい』でしょう。
煌めく水晶が連なる迷宮の底。
レイラ・ツェレンスカヤ(スラートキーカンタレラ・f00758)は目の前に聳え立つ、巨大な妖精達を見上げていた。
それらは願いを叶える者。だが、望みを歪めてしまう者でもある。
しかし、だからこそレイラの胸は躍っていた。
「素敵、素敵ね。本当に素敵だわ! うふふ、なんて楽しそうなのかしら!」
叶えられるのは歪んだ願い。
望んだものはすべて捻じ曲げられ、願わないかたちで実現する。
だが、それでも一縷の望みに縋ってしまう者がいる。歪曲されても構わないと思い詰める程に切実で、滑稽な願いを抱く者もいるのだ。
「ああ、面白い! レイラ、そういうのってとっても大好きなのだわ!」
願う人。祈る想い。
それが綺麗事で済むようなものばかりではないと、レイラは識っている。
他人の惨めさも、無様さや無残さも、酷薄さや不憫さも、残酷な現実を突き付けられる光景だって好ましい。けれど――。
今、此処で願えるのは己の事のみ。
深く考えなくとも分かる。これは妖精の力を試してみる好機だということが。
「ええ! 望みはあるの。だからレイラはお願いするわ!」
――『世界が欲しい』!
両手を広げ、高らかに宣言する願ったレイラは嘲笑う。
もしこの望みが聞き届けられるのなら、きっと自分が想像する以上の酷くて非道なかたちで実現してしまうのだろう。それとも、心の奥底で残酷な世界を願っているのだから、逆に平和な世界が齎されるのか。
だが、そんな不条理こそレイラの望んだもの。
「どんなふうに歪んで叶えられるのか、楽しみでしょうがないのだわ!」
レイラは哂う。
愉悦の限りに笑う。
されどこの願いが敵うのは大魔王が君臨する時。もし叶わずとも、そのときは大魔王を指差して笑うことにしようか。
「ふふ、ふふふ……いひっ」
思わず零れた笑い声には喜悦が混じっていた。そして――。
願いを告げた代償として、レイラに妖精の絶対的な力が発動する。瞬時にその身体に鋭い痛みが走り、心の臓が貫かれたような衝撃が巡った。
「……っ!!」
レイラのちいさな身体が傾ぎ、其処から血が溢れ始める。刺されたわけではないのに、内側から噴き出す血、血、血。
先触れの代償。他人に頼って、望んだものは手に入らず、死すら垣間見える。
それが今、己の身に起こっていることだ。
(なんて……なんて無様で可愛らしいのかしら!)
耐えきれずにとうとう倒れ伏し、血溜まりに濡れるレイラ。それでも、その心の奥は破滅への愉悦に満ちていた。
待つのは死か。
それとも破滅よりも酷い結末か。
(ああ、期待で頭がどうにかなってしまいそうだわ!)
意識が沈む、沈む。
深い闇の底に引き摺り込まれていくかのように。血の熱さだけが脳裏に焼き付く。
こうしてレイラの願いは聞き届けられた。
叶うのは、果たして――。
苦戦
🔵🔴🔴
メノン・メルヴォルド
ワタシは機械じゃないもの…何かを願わない、考えないなんてできないかも
でも、極力冷静でいられるように頑張るのよ
大きい…
間近で対峙すれば妖精と言われるものに圧倒される
声をあげてしまいそうになるけど
怯んでなんか、いられない
意識するという事は、考えるのとイコールだと思うから…
思考が深く沈まないように切り替えて
近くに仲間がいて可能なら協力するね
《フェイント》でかわし《高速詠唱》
《全力魔法》と《属性攻撃》を使ってみるの
炎の竜巻を生み出して
届く?
届かない?
ピンチに陥ってしまったら想わずにはいられない
『お兄ちゃん!』
自分の支えである人
会いたくて、ずっと探し続けている人
ああ、想っちゃ、ダメ…!
ダメなのに
ワタシは
樹神・桜雪
※絡み、アドリブ歓迎
願いを叶えてくれる妖精…。
…余計な事を考えちゃダメだね。無心でいこう。
またボクのそっくりさん。自分が相手ならやりやすい部類かな。
『先制攻撃』を仕掛けにいくよ。思いきり『凪ぎ払い』にいく。返す刃て2回攻撃するね。
積極的にUCでカウンターを狙いにいく。
願いを叶えてくれると聞いてから、どうしてか心が揺れる。いつもなら無理にでも振り切れるはずなのに、振りきれない。
もし、もしも本当に「なんでも」叶えてくれると言うなら…
会いたい。顔も名前も覚えていない、ずっと待っていた親友に会いたい…。
会ってちゃんと君の事を思い出したい。
なんで忘れてるのかを知りたいんだ。…助けて、相棒…。
●願われてしまった思い
機械的な妖精達の声が水晶の迷宮に響き渡る。
願いを。
望みを、告げなさい。
そんな風に語るエリクシルの妖精を前にしたメノン・メルヴォルド(wander and wander・f12134)は首を横に振った。
「ワタシは機械じゃないもの……何かを願わない、考えないなんて……」
きっと、できない。
弱気になりそうな心を抑えたメノンは巨大な妖精の姿を振り仰いだ。恐くないと言えば嘘になり、あの圧倒的な威圧感だけで怖気付きそうになる。
それでもこうして此処に訪れたのは妖精を斃すため。
メノンは極力冷静でいられるように努め、頑張るのよ、と自分を律する。
そして、樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)も同様に願いを叶えてくれるというエリクシルの妖精を見上げていた。しかし、桜雪はすぐにはっとする。
「余計な事を考えちゃダメだね。無心でいこう」
「うん……」
桜雪の呟く声が聞こえたのか、メノンもしかと頷いた。すると、エリクシルの妖精が更に言葉を紡ぎはじめた。
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
「言わないよ」
桜雪は淡々と答え、妖精への攻撃を放ちに向かう。それに合わせてメノンが属性魔法を解き放っていく。
だが、相手の力によって生み出されたドッペルゲンガー達が彼の行く手を阻んだ。
「またボクのそっくりさんだね」
「怯んでなんか、いられないね」
鏡像は桜雪と同じ薙刀を持ち、メノンとそっくりな姿で目の前に立ち塞がっている。だが、大きな妖精よりも自分が相手ならやりやすい。
刃を振るい、鏡像を薙ぎ払う桜雪。
薙刀同士が衝突することで甲高い音が響き渡る中、メノンも更なるエレメンタルの力を紡いでいった。
自分で自分を穿つ。その背後には巨大なエリクシルの妖精。
声を上げてしまいそうになるが、メノンは自分を律していた。何かを意識するということは、即ち考えることイコールになるはず。
だから、思考が深く沈まないように立ち塞がるものにだけ目を向ける。
そう考えているのは桜雪も同じ。
鏡像は桜雪とメノン、二人の動きを完璧にトレースするように動いていた。切り返す刃も、巻き起こす炎の竜巻も容赦なく彼らを斬り裂き、迸っていく。
「届く? 届かない?」
「駄目だ、押されてる……」
エリクシルの妖精は無感情にその様子を見つめているだけ。本体さえ攻撃すればこのドッペルゲンガーは消える。
だが、鏡像達はメノン達を決して通そうとはしなかった。
果敢に相対する桜雪の心は揺れている。
願いを叶えてくれる。制約なしに無限の望みを聞き届けられる。そう聞いてから、どうしてか胸がざわつくような感覚に陥っていた。
いつもなら無理にでも振り切れるはずなのに、振りきれない。
「もし、もしも本当に『なんでも』叶えてくれると言うなら……」
「……ダメ、考えちゃ――」
ふと桜雪から零れ落ちた言葉を聞き、メノンは首を振る。その間にも鏡像のメノンが放った炎が迸り、桜雪との距離が遠くなった。
分断からの敵の連撃。
桜雪もはっとしたが、そのときにはもう敵の薙刀が迫ってきていた。
避けきれずに腕が斬り裂かれながら、桜雪は思う。
――会いたい。
顔も名前も覚えていない、ずっと待っていた親友に会いたい。
会ってちゃんと君の事を思い出したい。なんで忘れているのかを知りたかった。
次の瞬間。
その『願い』を『叶え』ましょう。
妖精が桜雪を見下ろし、無感情に言葉を紡いだ。
刹那、彼の身体が崩れ落ちた。願いが裡にあることを妖精に察されてしまい、生命力を奪われたのだ。内側から食い破られるような痛みと感覚。
「……助けて、相棒……」
意識を失う最中に桜雪は手を伸ばした。しかし、あの鳴き声は聞こえない。
そのまま倒れ伏した彼は薙刀を取り落し、思考を手放した。もし大魔王を倒すことが出来なかったら、この願いは叶うのだろうか。
それが桜雪が最後に考えた、たったひとつのことだった。
仲間が倒れる様を見つめ、メノンは震えていた。自分の鏡像だけではなく、桜雪のドッペルゲンガーもまだ戦場に残っている。
未熟な自分では到底、勝ち目はない。そう感じてしまった。
「ああ、こんなの……いけない……」
これは紛れもない危機だ。だからこそ、想わずにはいられない。
――『お兄ちゃん!』
自分の支えである人。会いたくて、ずっと探し続けている人。
助けて。
(ああ、想っちゃ、ダメ……!)
分かっているというのに、メノンは会いたいと願ってしまった。するとエリクシルの妖精がメノンに視線を向ける。
『切なる願い』は『叶え』られます。
そして、メノンの身体からたちまちに生命力が奪われていく。
耐えきれずに膝をついたメノンの身から血が溢れていった。刺されても切られてもいないというのに、願いを聞いた妖精の絶対力がその身体から命を奪っていく。
血の中に倒れたメノンは暫し杖を握り締めていたが、やがてその手の力も抜けた。
――お兄ちゃん。ああ、お兄ちゃん。
助けは来ない。
血に濡れた灰色の髪が赤く染まり、メノンの意識は闇に沈んでいった。
彼女達の鏡像を消したエリクシルの妖精は暫し、桜雪とメノンの姿を見下ろしていた。されど、その表情は変わらぬまま。
やがて二人の身体は光に包まれ、迷宮から緊急転送された。
願いを抱かずにはいられなかった二人。
彼らの想いが叶うときは――きっと未だ、訪れない。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
旭・まどか
強く禁止されればされる程、それを行いたいと思ってしまう
“願って”しまう
どうせなら
最初から何も言わずに居てくれたら良かったのに
想わずにはいられない
願わずにはいられない
叶えられるのだと、知って、しまったのなら
自問と自責は常に付き纏い
付かず離れず共に在る
――嗚呼やめろそんな目で見ないでくれ
虚像と知りつつも目の前に現れる“僕”と“お前”
お前の本当の姿は其では無いと識って、いるから
僕が其処に居て良い存在では無いと、識って、いるから
お前の聲無き慟哭に耳を塞ぐ事など出来ない
お前の振り下ろす刃を避ける事など出来ない
吹き出すものは穢れた血
このまま流れ続け浄化され
お前に戻り、還れば――、どんなに、佳いのだろうね
●風の仔
願いを願わない。
望みを望まない。
それがこの戦場での勝利を得ることだと識っている。
だが、強く禁止されればされる程、それを行いたいと思ってしまうのは――。
「熟、嫌になるね」
旭・まどか(MementoMori・f18469)は己の天の邪鬼さを自覚している。事前にそう言われているのならば尚更だ。
――“願って”しまう。
どうせなら最初から何も言わずに居てくれたら良かったのに。
そんな風に思っていても、まどかを惑わせるように妖精達は口々に語っていく。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう
『わたしたち』は『願い』を『叶える』ためのもの。
遥かな高みから見下ろすかのようなエリクシルの妖精は、願いを告げよと云う。
想わずにはいられない。
――どうして。
願わずにはいられない。
――何故?
今此処で告げれば、叶えられるのだと知ってしまったのだから。
抗おうとする気持ちが自問自答となって裡に巡っていく。
違う。
あの妖精に惑わされているのではない。ただ、この想いは常に胸の中にあるというだけだ。まどかは自分を律しようとしながらも、本当にそうすべきなのか迷っていた。
だが、そんな彼を灰狼が見つめている。
「やめろ」
風の仔の視線が突き刺さるかのようだ。されど、彼は何も言わない。語らず、常に付き添うのが今の灰狼だ。
「嗚呼、そんな目で見ないでくれ」
自責の念が胸を刺す。
付かず離れず共に在るからこそ、解ることがある。
そんなまどか達の前にエリクシルの妖精が生み出した鏡像が現れた。偽物だと知りつつも、まどかは目の前に立ち塞がった存在にちいさく目を見開く。
「僕とお前は、こんな風に見えているのか」
自分と灰狼。
その後ろに少年の姿が見えた気がした。違う、そうじゃない、と頭を振ったまどかは、これが自分が幻視したものだと察する。
“お前”の本当の姿は其では無いと識っている。
「――返せ」
自然と言葉が口を衝いて出た。
自分が其処に居て良い存在では無いとも、識っているから。
聲無き慟哭。
それに耳を塞ぐ事など出来ない。振り下ろす刃を避けることなど、もっと出来るはずがなかった。
殆ど無抵抗のまどかを灰狼が守っていたが、その身も鏡像の一閃によって穿たれる。
叶えたい。叶えられない。
願わずにはいられない。それでも。
穢れた血が地面を濡らし、周囲に生えた迷宮水晶を赤く汚していく。
この血が、この生命が。
このまま流れ続けて、浄化されてお前に――彼の少年に戻り還れば、それはどんなに、どんなに佳いことなのだろう。
膝をついたまどかは自分の手が血で穢れている様を見下ろす。そして、まどかはその場で意識を失った。
そんな彼を、エリクシルの妖精はただ無感情に見つめていた。
苦戦
🔵🔴🔴
神元・眞白
【SPD/割と自由に】
願い事。誰しも持っていて、内に秘めているモノ。
誰かに叶えてもらうものでなく自分で叶えるものが願い。
それでも、叶えたい人はいるというもの。私はそれを助けよう。
相手が大きいし、死角も多いなら別方向・時間差をかけて攻めよう。
飛威、符雨、私が囮になるからそっちはツーマンセルを。お願いね。
こっちは単純に狙われても面白くもないし、願いを言う演技を混ぜて。
誰かが危ないならこちらから助太刀を。……そうね、願いを言うことも視野に。
今なら「妖精の情報が知りたい」等にしてみましょう。どこまで情報を出してくれるか?
魅医、反応で私が動けなくなる様ならお願いね。先に準備はさせるから
●誰かを助けるために
願い事。
星に願いをかけるように、短冊や絵馬などに願いを記すように。それはきっと、ひとであるならば誰しもが裡に秘めているモノ。
神元・眞白(真白のキャンパス・f00949)はエリクシルの妖精を振り仰ぎ、願いを伝えよと語るそれらを見つめた。
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
「願いは、誰かに叶えてもらうものでなく自分で叶えるもの」
妖精達の声を聞き、眞白は首を横に振った。
自らの願いはない。
詳しく云うならば、こんな場所であんな相手に伝えるような願いは、という意味だ。
それでも、と眞白は自分ではない人々を思う。
「どんなことをしても、叶えたい願いを持つ人はいるというもの。……ならば、私はそれを助けよう」
それは眞白なりの決意だ。
彼女はゆっくりと翅を羽ばたかせるエリクシルの妖精を見上げ、左右に控えていた戦闘人形達に呼びかける。
「飛威、符雨」
自分が囮になるからそっちはツーマンセルを。
お願いね、と告げると同時に人形達がそれぞれの配置についた。不幸中の幸いであるのは、相手が巨大であること。
こちらは相手からすれば取るに足らぬサイズかもしれない。だが、その分だけ死角から回り込むこともできる。
周囲の水晶の上を駆けていく眞白は敢えて敵の目を引く。その間に飛威が黒髪を揺らして死角に回り込み、符雨が銃を構えて狙い撃つ。
(こっちは単純に狙われても面白くもないし、願いを言う演技でも混ぜようか)
眞白は攻撃を引き付けながらふと考える。
そして、別の場所で倒れ伏している猟兵を見かけた。圧倒的な妖精の絶対力によって生命力を奪われてしまったのだろう。
このままでは、強制転送が間に合わずに妖精の攻撃を受けてしまう。
そう感じた眞白は妖精に敢えて願った。
「待ちなさい。願いがある。――妖精、あなたの情報が知りたい」
眞白がそう願った瞬間、エリクシルの妖精が振り向く。
その『願い』を『叶え』ましょう。
声が響いたと思った瞬間、眞白の身体に抗えぬ痛みが走った。それだけではなく、飛威と符雨までもが行動不能となり、眞白と同様にその場に崩れ落ちた。
(しまった――)
願いは口に出してはいけない。たとえ、演技でも。
説なる願いであろうが、単に言葉にしただけであっても、妖精は細かな分類などしない。ただ皆一様に生命力を奪い取り、代償を払わせるだけ。
そして、情報を開示せよという願いは捻じ曲げられ――大魔王がこの世界に君臨したときにだけ伝えられることになる。
(でも、いいわ。倒れているあの猟兵は、緊急退避が間に合ったようだから……)
薄れゆく意識の中、眞白は目を閉じる。
そうして彼女の身体もまた、強制帰還転送の光に包まれていった。
苦戦
🔵🔴🔴
イア・エエングラ
おや、まあ大きな妖精さん
願いごとを叶えてくださる?
そうな、それなら、それならば
――うん、言わないよう
僕はお前を倒しに、来たのだもの
ユールの火をとき硝皚を招こう
あの子らを花弁で咲いて散らそう
散り行く星の花は、叶わぬ約束の、
もしもと手伸べて視線を伏せて
目蓋の裏に灯る、さいごの星の夢を視る
今でも立ち竦んだまま、きみを待つ僕は
噤み塞げど零れてしまいそ
落ちた滴は宝飾の一欠片
滲んだ視界は水底のよう
あのね、ほんとは、叶わないって知っているの
きちんとわかって、居たはずなのに
きみに逢うのが、叶わぬならば
どうして僕を連れていっては、くれないの
もう立ち上る泡の音で何にも、聴こえない
●伸ばさぬ手
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
水晶の煌めきに満ちた迷宮。
其処に響く妖精達の声は淡々と、されど常に願いを語るようにいざなう。
イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)はエリクシルの妖精達が集まる迷宮を見渡し、肩を軽く竦めた。
「おや、まあ大きな妖精さんたち。願いごとを叶えてくださる?」
彼の妖精達は自動的なもの。
問いかけても答えてはくれず、ただ望みを伝えろと繰り返す。
「そうな、それなら、それならば」
イアは考える素振りを見せながら妖精達を見上げてみる。
汝の『願い』を『口にする』が『よい』でしょう。
もう一度、確かめるようにエリクシルの妖精が言葉にした。しかし、其処から願いが紡がれることはなかった。
イアは頭を振ってみせ、水底の彩を思わせる眸を細める。
「――うん、言わないよう」
だって、僕はお前を倒しに来たのだもの。
そう告げたイアはユールの火の力を解放し、敵を捉える。
涯てに咲く星の花が水晶の空間に散らされ、妖精を取り囲むように舞っていった。凍てる風が導くが如く、花は舞い上がり続ける。
硝皚の巡りが招くのは、エリクシルの妖精が地に伏す未来。
あの子らを花弁で咲いて、散らして。
星の花は、叶わぬ約束の証。
決して願いなど告げぬと決めていたイアだが、裡に宿る思いは消えてくれなかった。
もしも。
そんな風に手を伸べてから、視線を伏せる。
目蓋の裏に灯る、さいごの星。
その夢を視られたならば、譬え願いが歪んでしまっても、佳い。
嗚呼、今でも立ち竦んだまま、きみを待つ僕は――。
「駄目ね、こんな、こんなにも」
イアは意味をなさぬ声を落とし、星の花を散らせ続けていく。
噤み、塞げども零れてしまいそうな言の葉。其処から落ちた滴は宝飾の一欠片で、滲んだ視界は水底のように揺らぐ。
あのね、ほんとは、叶わないって知っているの。
きちんとわかって、居たはずなのに。
きみに逢うのが、叶わぬならば――この場での願いなんて、捨て去れる。
イアは声に出さぬ思いを胸に秘め、妖精が求むる望みなど押し潰そうと決めた。
けれども、本当に?
泡沫のように浮かんでは消える思いには蓋をする。
――どうして僕を連れていっては、くれないの。
溢れる雫は地に沈む。立ち上る泡の音が煩くて、もう何にも聴こえない。それでもイアは戦い続ける。
この先に進まねば、願いも望みも無為に消えるだけの泡と帰すのだから。
大成功
🔵🔵🔵
華折・黒羽
願いなら、ある
褪せぬ願い
けれど、誰かの手によって叶えられたんじゃ意味が無いんだ
此れは俺だけのものだから
誰の手にも委ねはしない
願うな、なんて難しい注文だから
…来い
幾たび刃波が襲おうとこの口は割らない
一波、肌が裂けたとて何だと言うのだ
二波、慾を暴きたければ暴けばいい
三、四、五…夥しい朱が流れてゆこうと
絶対に、絶対に、
──この願いは、俺だけのものだ!!
渡さない
強く唇を噛み締めて初めて己で流した朱が血を貪る屠へ一滴
肥大化し飢えた影が喰らうべき敵への道を教えてくれる
視界が霞もうと委ねればいい
己自身の慾を写し取ったかの様な屠の姿に
知らず唇の端を引き上げながら
嗚呼
存外俺は、慾深いんだな
希うは、あの日々の──
●慾望
願いなら、ある。
いつからか胸の裡にあるのか、今でも褪せぬ願いが此処に。
煌めく水晶が美しい光を反射している迷宮の最中。
其処には今、聳えると表してもいいほどの大きな妖精が君臨していた。華折・黒羽(掬折・f10471)はエリクシルの妖精達を見据え、尾を左右に振る。
嫌悪めいた感情が尻尾の動きに現れているのは、それらが悪しき存在だからだ。
願いを叶える妖精。
それは言葉だけを聞くならば魅力的なものだ。しかし、黒羽の願いはそもそも誰かの手によって叶えられたのでは意味がないことだ。
「此れは俺だけのものだから、誰の手にも委ねはしない」
凛と宣言した黒羽は地を蹴る。
すると、エリクシルの妖精達が更なる声を重ねていった。
汝の『願い』を『口にする』が『よい』でしょう。
そんなことを誰にでも、どんなときにでも繰り返す妖精達は機械的だ。
その声に応えた途端、自分の力が奪われることも分かっている。それでも、黒羽は内に抱く思いがどういうものなのかよく理解していた。
願うな、なんて――心を持つ者にとっては難しい注文だ。
「……来い」
黒羽は自分に向かってくるエリクシルの妖精を鋭く見据えた。
どれほど願いを求められようと、幾たび攻撃の波が襲おうとも、この口は割らないと心から誓っていた。
身構えた黒羽に妖精の大群が襲いかかる。
一波。
巨躯の突進。爪先が肌を裂いたが、それが何だと言うのだろうか。
二波。
願いを、慾を暴きたければ暴けばいいとすら思えた。
そして三波、四波、五波と妖精の突撃がその身を貫く。夥しい血が黒羽の毛並みを濡らし、朱が地面に落ち、水晶の上を伝って流れていった。
されど、絶対。絶対に、この思いだけは奪わせたりなどしない。
何故なら。
「――この願いは、俺だけのものだ!!」
渡さない。
渡すものか、と強く唇を噛み締めた黒羽。それは初めて己で流した朱の彩。その雫を、血を貪る屠へと一滴そそぐ。
その瞬間、飢えた影が肥大化していく。
荒れ狂うような刃は喰らうべき敵への道をしかと教えてくれた。
これまでに流れ出した血は多く、視界が霞んだ。しかし今は屠にすべてを委ねて駆け出せばいい。
屠の姿はまるで己自身の慾を写し取ったかのような影だ。
無意識に口端が上がる。
妖精には願ってなどやらないが、言葉にも感情にもならぬ深い慾が此処にある。
嗚呼、と吐息を零した黒羽は刃を振り下ろす。
翅を穿ち、斬り裂いた一閃は敵の身を深く抉った。妖精から血は出ない。だが、代わりにその部位が砂のようにさらさらと崩れていった。
更に刃を斬り上げ、妖精の一体を屠りながら黒羽は想う。
「存外俺は、慾深いんだな」
希うは、あの日々の――と、其処まで考えた黒羽は考えることを止めた。
後に残るのは敵を屠る影。
全てを喰らうが如き黒き刃が宝石の妖精を次々と貫いてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
御宮司・幸村
【POW】
精神操作系の敵かー、悪意を持った曲解の願いとか怖いよねー
んじゃま、小手先が得意なおじさんらしく願いを叶えて貰おうかなー?
その為には…多少の代償(いたみ)も辞さないよ
さて、手始めにアドバンテージは取りたいね
おじさん、こう見えて一般人みたいなもんだしぃ?
使える手札は全部使う!
【先制攻撃】からの【クイックドロウ】でマウスをぶん投げる!
ルール発動
「悪意を持った曲解を含む攻撃や抵抗など御宮司幸村に対しての一切の理不尽と不利益行為を禁ずる」
からの願いは
「エリクシルの妖精の即時自滅、または即時消滅を願う」
曲解しても無駄だし、今すぐ願い叶えなかったらどうなるんだろうねー
●ルールとゲーム
「なるほどねー」
水晶がひしめく迷宮の中、御宮司・幸村(いいかげんサマナー・f02948)は其処に現れているエリクシルの妖精達を見渡す。
大体わかったよ、と口にした彼は妖精達を分析する。
「精神操作系の敵かー、悪意を持った曲解の願いとか怖いよねー」
頷いた幸村はヘッドマウントディスプレイの奥の瞳に敵の姿を映した。そして、今回の出方を決める。
「んじゃま、小手先が得意なおじさんらしく願いを叶えて貰おうかなー?」
その為には多少の代償――痛みも辞さない。
幸村は水晶の上へと跳躍し、妖精がよく見える場所へ移動していく。
手始めにアドバンテージは取りたい。
そう考えた彼は他の猟兵が相手取るエリクシルの妖精の背後に回った。
「さて、おじさん、こう見えて一般人みたいなもんだしぃ? 使える手札は全部使う! これが必勝法だよね!」
そういって幸村が取り出したのはキラッと光る気がするワイヤレスマウス。
それを妖精の背後から思いっきり投げつける。
投擲されたマウスは見事にエリクシルの妖精の翅に命中した。ギリギリではあったがこれでルールを宣告する隙は見出せただろう。
――ルール、発動。
『悪意を持った曲解を含む攻撃や抵抗など、御宮司幸村に対しての一切の理不尽と不利益行為を禁ずる』
その言葉を伝え終わった後、幸村はすかさず妖精に願いを告げていった。
「エリクシルの妖精の即時自滅、または即時消滅を願う」
すると妖精が幸村に振り向く。
その『願い』を『叶え』ましょう。
巨躯の妖精からそんな言葉が落とされ、幸村は掛かったと感じた。
「曲解しても無駄だよ」
これで幸村の考え通りならば妖精が消滅するはずだ。胸を張った幸村はこんなものは簡単なゲームだと思っていた。
「それに、今すぐ願いを叶えなかったらどうなるんだろ、……――!?」
だが、すべて違った。
彼の言葉が途中で遮られ、その身体から夥しい血が流れ出す。まるで内部から破壊されたかのような痛みと傷は、妖精に願ったことで付けられた代償だ。
「なんで――」
崩れ落ちた幸村は震える腕を伸ばす。だが、生命力を奪われていったことでその手も力なく落ちていった。
そもそも願いの認識が間違っていたのだ。
ひとつ。エリクシルの妖精に宣言した幸村のルールは、戦いの中においては『簡単に破れる』ものだということ。強制力はなく、妖精にとっては破っても小ダメージを負うものでしかない。
ふたつ。願いを告げたものは多少程度ではなく、戦闘不能になるほどの痛みと苦しみを負うこと。
みっつ。願いは大魔王がこの世界に君臨した時に叶えられるということ。
即ち、幸村の願いは大魔王が勝利した時に消費されるということになる。そして、その願いも歪曲され、たった一体の妖精が消滅するだけ。これがこのエリクシルの妖精の恐ろしい所だ。
おそらく、残った妖精は変わらず願いを叶え続ける媒体となり続けることだろう。
(しくじったな……)
暗転する視界。薄れゆく意識の中で幸村は完全なる敗北を覚えていた。
血溜まりの中で彼は静かに目を閉じる。
そして――瀕死の身体はグリモアによる強制転送の光で包み込まれていった。
失敗
🔴🔴🔴
ワン・シャウレン
鞍馬(f02972)と
願いを叶えようとは図体ばかりでなく主張もでかいことよ
万一があってもつまらぬ
戦闘終了まで自身の望みには蓋をさせて貰おう
人で言う所の暗示かの
鞍馬にも何の事かの、と素知らぬ顔
さておき鞍馬、これは叩き甲斐あるのう
この手の輩は殴り蹴り倒すに限る
鞍馬と補い合い格闘主体、回避優先で懐に入り、連ね流星で大当て狙い
察するに妖精を呼んで増やし突進をかける等か
精神波も鬱陶しかろうから召喚された妖精はさっさと落としに行く
鏡像を呼ぼうが同じこと
その技はそれを見聞きし、いなし続けて修得したもの
わし自身に通じるものか
かわし、戦えぬ本体に叩き込んでくれる
ぽっと出の願いなどでは得られぬものを見せてやろう
鞍馬・景正
ワン嬢(f00710)と。
願いを叶えるとは――都合が良過ぎて悍ましい。
私もまったく無欲ではありませぬが、降ったとも湧いたとも知れぬ牡丹餅を喰らうほど零落れても無し。
ワン嬢は――後日機会があれば尋ねましょう。
げに、存分に打ちのめしてくれましょう。
◆戦闘
願いなど抱かず、無念無想にて。
突進の軌道を【見切り】、【水月移写】にて二刀による守りの構えを。
突進を【怪力】で押し留め、斬撃の【衝撃波】による後の先でその巨体を一閃させて頂く。
敵を此方に引き付けてワン嬢の攻勢を補佐し、妖精がワン嬢に向かうなら此方が逆に切り崩していきます。
言葉は封じ、目線や手振りで意思疎通。
連携しながら素早く撃滅してしまいましょう。
●律する心
妖精達の声が迷宮内に木霊する。
迷宮内に宿る水晶の光は煌めいているが、今はその美しさに見惚れる暇はない。
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
されど、『わたしたち』は『宝石を歪める』ために『造られ』ました。
『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』。
「何度も何度も、煩い程じゃ。図体ばかりでなく主張もでかいことよ」
妖精達が幾度も繰り返す声。
それを聞いていたワン・シャウレン(潰夢遺夢・f00710)は肩を竦める。鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)も頷きを返し、巨躯の妖精達を見上げた。
「願いを叶えるとは――都合が良過ぎて悍ましい」
「代償もまた大きいのだろう。さて、万一があってもつまらぬ」
ワンは願いなど伝えぬと決め、一瞬だけ瞼を閉じる。自身の望みには蓋をして、思いも願いもしないよう暗示をかけた。
その傍ら、景正も感情を押し込めてゆく。
「ええ。私もまったく無欲ではありませぬが、降ったとも湧いたとも知れぬ牡丹餅を喰らうほど零落れても無し。今暫し、心を沈めましょう」
「うむ、これで佳い」
景正もワンも戦いだけに意識を集中させる。その中で景正は彼女がひとときだけ忘れ去ったことに興味が湧いたが、頭を振って静かに呟いた。
「ワン嬢は――後日機会があれば尋ねましょう」
「はて、何のことかの」
素知らぬ顔をしたワンは景正から視線を外す。誤魔化しなどではなく、エリクシルの妖精に狙いを定めたのだ。
「さておき鞍馬、これは叩き甲斐あるのう」
「げに、存分に打ちのめしてくれましょう」
ワンの呼び掛けに答えた景正は濤景一文字を抜き放つ。無感情な瞳を虚空に向ける妖精は強大だ。しかし、願いさえ思わず、告げなければ佳い。
無念、無想にてただ斬り込むのみ。
景正は地を蹴り、巨大な妖精へと近付くために水晶の上へと跳躍した。
其処に続いたワンもまた、幾つもの水晶を足場にすることで移動していく。反射する光の中を駆け抜ける二人は付かず離れず、素早く妖精の胸元辺りまで到達した。
「この手の輩は殴り蹴り倒すに限るの」
拳を握り、巨躯の妖精に渾身の一撃を放つワン。
その後に振るわれたのは景正の斬撃。二人の連携攻撃が重なった直後、妖精がゆっくりと景正達の方に振り向いた。
大きな水晶の上に着地した彼らはエリクシルの妖精が突進してくるのだと察する。
即座に景正がワンの前に立ち、迫る脅威に即応する構えを取った。
妖精の爪先が迫ったが、その防御は何者をも通さない。ワンは景正に視線でのみ礼を告げ、反撃に入った。
連ね流星。その名の通り、星が落ちるが如き連撃が妖精に叩き込まれていく。
拳で胸元を。蹴り上げた勢いで顔まで跳躍し、更に髪を巻き込んでの大打撃。周囲には別の妖精が放つ精神波が広がっていたが、ワンも景正も怯みはしない。
掻き立てるような焦燥。
己の思いを吐露してしまいたいような感覚が巡ったが、二人は果敢に耐えた。
二刀による守りの構えを解かぬ景正は鋭く双眸を細める。
この状態の自身は全く動けない。
だが、守りに徹することによってワンが自由に動ける隙を作り出せている。二人の戦い方は、併せれば攻防一体。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
対するエリクシルの妖精は尚も此方に願いを告げるよう、言葉を繰り返す。そして別のエリクシルの妖精が二人の鏡像を作り出していった。
ワンの前に、そして景正の眼前に、自分達と同じ姿をした偽物が現れる。だが、ワンは鏡像の敵が振るった拳を瞬く間に避けた。
「そんなものがわしに通じるものか」
「見切りました。自分の動きなど予想するに容易いものです」
繰り出す技はワンが見聞きし、いなし続けて修得したものだ。そして景正もまた、己の動きなど熟知している。
構えを解いた景正はワンと共に駆け出し、自らの鏡像を擦り抜けてゆく。
そして、ワンは右へ。景正は左へと分かれ、それぞれに違う妖精を狙い撃った。
「くらうがよい。ぽっと出の願いなどでは得られぬものを見せてやろう」
動けぬ妖精を秘奥の連撃で穿てば、鏡像が消える。同時に別のエリクシルの妖精を狙った景正は二刀を振るった斬撃から衝撃波を解き放った。
途端に妖精の巨体が揺らぎ、翅が斬り裂かれる。飛べなくなり、落ちた妖精は砂のように崩れて消え去っていった。
願わず、思わず、ただ己の力だけを揮い続ける。
そうやって戦う景正とワンは次々とエリクシルの妖精を屠り、地に落としていった。
甘言には惑わされない。
歪んだ願いが叶う未来など、必要ない。
しかと己を律した彼女達は凛と立ち回っていく。願いを抱かずとも、力は示すことが出来る。そう表すかのような華麗な戦いが巡っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
薬袋・桜夜
何か願うにもな…
我には願う程の記憶が無い
過去には“あった”のかもしれん
だが、我は今を生きると決めた身
幼子とて猟兵、己で願いを掴まなくてどうする
「濡れ桜」で渇く身を覆う
余分な傷はオーラの花弁で防ぎ払い落とす
指先を宙に滑らせるとぽろぽろ溢れる光の泡
春風に乗せ運ばれた泡と共に思いの強さが襲う
生き汚く、踠き、足掻かせい
折角の二度目の人生を楽しませろ
そう簡単に我から奪うてくれるな、妖精
少しばかり早い春一番を届けよう
桜の花吹雪が翅を裂く程に吹き荒れ
軽やかに身を浮かせ、中央から突き進み
念じ作られた花弁の刀で穿つ
我はもう待ち続けるしか脳の無い女ではないんでな
迎えに来ぬなら出向くまでのこと
そぉら、逢いに来たぞ
●願わねど
水晶に満ちた迷宮の奥。
木霊するのはエリクシルの妖精達が願いを求める声。
薬袋・桜夜(花明かり・f24338)はその声を耳にしながら、小首を傾げる。
「何か願うにもな……」
桜夜の今の身は幼女だ。自分には強く何かを願う程の記憶も経験も無い。
だが――。
過去には“あった”のかもしれない。
己が転生を経て生まれた命だということは知っている。それゆえにそんな想いもあったのだろうと予想できるが、桜夜は首を振る。
「我は今を生きると決めた身。幼子とて猟兵、己で願いを掴まなくてどうするのだ」
幼き容姿に見合わぬ、それでいて凛と強い声で桜夜は自分を律した。
汝の『望み』を『何で』も『言う』が『よい』でしょう。
しかしそのとき、エリクシルの妖精が更なる声を紡いだ。
その声色は秘めたる真の欲望を暴く精神波となって桜夜を襲う。裡なる思いが――それも、忘れたはずの記憶すら破って湧き上がる願いが過ぎった気がした。
桜夜はちいさな掌を握り締めて耐える。
痛いほどに握った手。其処から水塊が広がり、渇く身を覆った。
だが、次の瞬間。
エリクシルの妖精がその能力を用い、桜夜とそっくりな存在を作り出す。鏡像は彼女とまったく同じように動き、水塊をその身に纏った。
「鏡写しの我か」
成程、今の自分を見つめ直すのに丁度良い。
そんなことを感じながら桜夜は指先を宙に滑らせる。ぽろぽろ溢れる光の泡が春風に乗ったかのように戦場に舞い、敵を穿っていった。
されど偽の桜夜が動くことで妖精を守り、あまつさえ力を吸収してしまう。
「あの戀心は我のものでありながら、我のものではない」
ゆえに今は願わない。
迷宮で感じさせられた人魚の想いは押し込め、桜夜は戦い続ける。
それが己の姿をしている者であっても自分は自分だけだ。他の誰でもない、今は薬袋・桜夜という存在。
「生き汚く、踠き、足掻かせい」
それがヒトというものだ。
綺麗であるばかりではない。されど折角の二度目の人生、楽しまなくて何だ。
「そう簡単に我から奪うてくれるな、妖精」
巡る攻防。
そして、桜夜は更なる力を解き放ってゆく。少しばかり早い春一番を届けよう、と告げた途端、桜の花吹雪が鏡像を裂く程に吹き荒れていった。
それによって偽物は動く前に散らされ、跡形もなく消え去る。
すかさず軽やかに身を浮かせ、妖精の元へ突き進んだ桜夜は花弁の刀で翅を穿った。揺らいだ妖精を見据え、少女は宣言する。
「我はもう待ち続けるしか脳の無い女ではないんでな」
そう、迎えに来ぬなら出向くまでのこと。
今だって、こうして――。
「そぉら、逢いに来たぞ」
妖精の眼前。其処に迫った桜夜は双眸を細め、ひといきに一閃を見舞った。
大成功
🔵🔵🔵
斬断・彩萌
ウワーでかっ!妖精ってフェアリーみたいなの想像してたけど全然違うわね!?
――願望。欲を言うなら、叶って欲しい事はある
でもそれは、誰かに叶えてもらっても意味がない
私自身の手で、つかみ取らなきゃいけないんだ!
だから私はあんたの存在は認めない。願いは――ない!
【陰楼】で状態異常を狙いつつ、瞳や首などの急所を狙って攻撃!
的が大きいと当てやすいわね
憂鬱状態になってくれたらしめたもの、一気に畳みかける!
ドッペルゲンガーに対してはほとんど無視!
狙うはボス一点。雑魚に興味は無いわ、妖精を攻撃すれば消えるっぽいし
見切りと継戦能力を駆使して攻撃は避ける!
夢を叶える為にもね、こんなとこで立ち止まってらんないのよ!
●願うのは自分に
「ウワーでかっ!」
エリクシルの妖精を前にして、斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)は思わず心からの声を零してしまう。
いくら何でも十メートル級のそれは妖精と呼べるのだろうか。
否、妖精というのだから妖精なのだろう。
「妖精ってフェアリーみたいなの想像してたけど全然違うわね!?」
驚きながらも彩萌は巨大なエリクシルの妖精を振り仰いだ。圧倒的な存在感を持つ彼女達は口々に願いを求め、猟兵達をいざなう。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
『叶え』られる『願い』は『無限』です。
彩萌はその声と共に精神波が周囲に揺らいでいくことを感じ取っていた。ただでさえ無限の願いが叶うと知っているのに、心を揺さぶる力までもが満ちている。
――願望。
欲を言うならば、叶って欲しいことはある。
でも、と彩萌は耐える。耐えて耐えて、首を振った。あのキノコの迷宮で爆発した感情だって叶うならば叶えたいことのひとつだ。
それを思い出しそうになりながらも彩萌は首を横に振る。
「願いなんてないわ!」
そう、妖精なんかに伝える願いはひとつだってない。それは誰かに叶えてもらっては意味がないことだからだ。
「これは私自身の手で、つかみ取らなきゃいけないんだ!」
彩萌は自らに宿る超能力を発現していく。オーラを纏った弾丸が鋭く解き放たれ、妖精に向かって飛んでいった。
だが、エリクシルの妖精はふたたび問う。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
それと同時に相手は彩萌の鏡像を生み出し、弾丸を防ぐように動かした。
されど彩萌は焦りなどしない。
「だから私はあんたの存在は認めない。何度でも言うわ。願いは――ない!」
宣言と同時に彩萌は自分の鏡像を擦り抜け、全力で妖精に向かった。自分の偽者が炸裂する弾丸を放ってきたがそれすら眼中に入れない。
周囲の水晶を駆けのぼるように跳躍し、彩萌が目指すのはただ一点。
陰楼の力を放ち続け、首を穿ち、目を貫く。それによって妖精の力が解除され、彩萌を追いかけてきていた鏡像が消えた。
「的が大きいと当てやすいわね。一気に畳みかけるわ!」
自分の偽者になど興味はない。
もしもう一度作り出されようとしてもすぐに解除してやるだけ。彩萌は妖精を倒せるまでこの力を振るい続けようと決め、敵を睨み付けた。
願いは何かと迷う暇などない。
そして、彩萌は全力の一撃を放つと同時に強く宣言した。
「――夢を叶える為にもね、こんなとこで立ち止まってらんないのよ!」
大成功
🔵🔵🔵
イデア・ファンタジア
私の望みなんて言うほどの物じゃないわ、毎日楽しければそれで……あれ?
ほんとうに、そうだったっけ?
●過去
薄汚い孤児は誰からも見向きもされなかった。
だから呪った。世界を呪って、その結果生きる力を得た。
暖かい『生命賛火』。安全な『聖域』。邪魔者を排除する『片手の拳銃』。
そうやって生き抜いて、そして見た。
沢山の人達に囲まれる絵描きを、その輝きを見た。
嫉妬した。だから奪った。この『空想喰らい』で。
●望み
ああ……思い出した。そうよ、この気持ちがあたしの始まり。
あたしの心に空いた穴は、まだ全然満たされてなんかいない。
あたしを見て!あたしを無視しないで!
あたしが今ここにいるってことを、全世界に分からせて!
●呪いと願い
汝の『望み』を。
『何で』も『告げる』が『よい』でしょう。
戦場に響き渡るエリクシルの妖精の声。
それは自動的かつ無感情でありながら、妙に心をざわつかせる声だった。
イデア・ファンタジア(空想の描き手・f04404)は強く掌を握り、巨大な妖精を振り仰ぎながら首を振る。
「私の望みなんて言うほどの物じゃないわ、毎日楽しければそれで……」
だが、其処に新たなエリクシルの妖精が召喚された。
妖精はイデアに向け、秘めたる真の欲望を暴く精神波を解き放ってくる。それまでは相手に告げる願いなどないと思っていた。だが、今は違う。
「あれ?」
浮かぶ疑問。揺らぐ心。
――ほんとうに、そうだったっけ?
イデアの裡にたくさんの思いや記憶が蘇ってきていた。浮かんでは消え、また心の中に灯される記憶と感慨。そして、願い。
「あたしは……」
熱に浮かされたような表情を浮かべたイデアは脳裏に駆け巡った過去を思い出す。
そうだ、あの頃は何もかもを呪っていた。
薄汚い孤児だった自分は誰からも見向きもされず、蔑まれたことだってあった。
負けてやるかと歯を食い縛った。
原動力はあの気持ちだ。世界を呪って、呪って。その結果、生きる力を得た。
あたたかな夢想呪法、『生命賛火』。
安全な『聖域』、邪魔者を排除する『片手の拳銃』。
それらの恩恵を受け、または扱い、生き抜いて――そして、見た。
たくさんの人達に囲まれる絵描きの姿を。
描く世界から満ちる、生の輝きをこの瞳で映すことができた。
嫉妬した。
だから奪った。この『空想喰らい』で。
それが自分の根源だ。
忘れていた。真の欲望を導く力が今まで消し去っていた過去を思い出させた。
「ああ……そうよ、この気持ちがあたしの始まり」
最初に抱いた呪いは消えたわけではない。これは未だ続く呪いの道筋。自らが得たいと願い、望んだ道の途中。
心に空いた穴は、まだ全然満たされてなんかいない。
そう感じたイデアは欲望のままにエリクシルの妖精に願いを宣言していく。
「――あたしが今ここにいるってことを、全世界に分からせて!」
イデアは高らかに望みを口にした。それが自分を縛る呪いだと分かっていたとしても、願わずにはいられない。
次の瞬間。
その『願い』を『叶え』ましょう。
エリクシルの妖精がそう答えたかと思うと、イデアの身に激痛が走った。
願いを告げた代償として妖精の絶対的な力が発動したのだ。心臓が貫かれたような痛みと、心が潰されるかのような苦しみが宿る。
生命力が奪われている。これが願いの対価だというのだろうか。膝をつき、倒れそうになりながらもイデアは願いに手を伸ばす。
あたしを見て。
あたしを無視しないで。
この存在を認めて。
そのためなら妖精や、たとえ悪魔に願うことだって――。
そして、其処でイデアの意識は途切れた。
苦戦
🔵🔴🔴
コーディリア・アレキサンダ
悪意を持って願いを叶える精霊、ね
人の欲望、願いを糧に契約しその身を亡ぼす
――まるで悪魔だ
よく知っているよ
さあ、鏡像のボク
キミは悪魔を持っているのかい?
キミも、取り憑かれたみんなを手にかけたのかい?
……その思い思いを、背負っているのかい?
……そこまで模しているというのなら、わかるはずだ
キミは、ボクの敵で。ボクはキミの敵
ボクの願い――《欲望》を誰かになんて託しはしない
悪魔《誰かの願い》を誰かになんて背負わせはしない
――だから燃やせ、アスモダイ
ボクの《欲望》を燃やして、キミたちを背負っていないボクを燃やして
焔の赤を以て、進む道を拓け
ボクの想いは、ボクだけのモノだ
●抱く想い
まるで悪魔だ。
エリクシルの妖精を見上げ、感じたのはそんな思い。
悪意を持って願いを叶える。
人の欲望、願いを糧に契約しその身を亡ぼすもの。よく知っている。そういったものを、身を以て理解しているコーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)は、水晶迷宮に顕現したエリクシルの妖精達を見渡す。
『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』。
『この世界』は『知りません』。『この世界』は『知りません』。
「……五月蝿いなあ」
何度も何度も同じ言葉を告げ続けている妖精は自動的かつ機械的だ。妖精達は無感情に、ただそう在るべきだと示されるままに猟兵達に願いを告げることを求め続けた。
だが、コーディリアは応じない。
悪魔的な誘いが何を齎すか、否、何も齎さないことを識っているからだ。
すると妖精はコーディリアの姿を映し、鏡像を生み出した。エリクシルの妖精に向かおうとしていたコーディリアの前に、偽物の自分が立ち塞がる。
「鏡像のボクか。いいだろう、蹴散らしてあげるよ」
身構え、まずは相手を返り討ちにしてやるだけだと決めたコーディリア。その眼差しは鏡写しの自分を真っ直ぐに捉えている。
「キミは悪魔を持っているのかい?」
「……」
コーディリアと鏡像は距離を取りながら互いに出方を窺った。問いかけても答えはなかったが、コーディリアは尚も言葉を投げかける。
「キミも、取り憑かれたみんなを手にかけたのかい?」
「…………」
影は決して答えない。
それでもコーディリアは問い続ける。
「キミは……その思いを、背負っているのかい?」
「――、」
「……そこまで模しているというのなら、わかるはずだ」
鏡像が何かを言い掛けたが、コーディリアは敢えてその唇がひらく前に遮る。
キミは、ボクの敵。
ボクは、キミの敵。
「退いてくれ。ボクの願い――《欲望》を誰かになんて託しはしない」
悪魔《誰かの願い》を。
それを誰かになど背負わせはしない。だからこそ。
「――燃やせ、アスモダイ」
コーディリアがそう告げた瞬間、鏡像も同じ力を紡ぎはじめた。
拘束制御術式展開。
目標の完全制圧まで能力行使を許可。限定状態での顕現を承諾。
我が怒り、剣の王よ。
コーディリアと影、両方の声が重なって響く。しかしたった一瞬だけコーディリアの方が早かった。
「ボクの《欲望》を燃やして、キミたちを背負っていないボクを燃やして」
焔の赤を以て、進む道を拓け。
顕現したアスモダイの上腕が鏡像を貫き、瞬く間に消し去る。其処から更に解き放たれた火球がエリクシルの妖精に向かって飛翔していった。
願いは告げない。
この願いだけは、誰にも。
「そうさ。ボクの想いは、ボクだけのモノだ。だから――」
消え去れ、妖精。
告げた言葉と同時に迸る炎がエリクシルの化身を燃やし尽くしていく。翅が爛れて焼け落ち、妖精の身体が地に落ちる。
砂のように崩れたそれを見送った後、コーディリアは別の敵に眼差しを向けた。
「まだ終わらないなら、終わらせるまでだ」
必ずこの戦場の妖精達はすべて消し去ってみせると決め、コーディリアは静かな思いを抱いた。望みは奥底に沈め、深く、深く――。
大成功
🔵🔵🔵
ルーチェ・ムート
ボクは歌うことしか出来ない
この声がボクの存在意味なのだから
うたう
天啓のような太陽の声
魔物のような月の声
ボクは歌を奏でる楽器
この声があったからこそ彼はボクを繋いでくれたのだと思うから
ボクの願いは彼が叶えてくれるもの
彼しか叶えられないもの
迎えに来る
その言葉を信じているから
願うことはない
お呼びじゃないよ、妖精さん
彼との時間を示すならば無の幸せ
故に紡ぐリリックで具現化するは鎖
思い出を繋ぐ紅鎖
白百合の嵐と鎖で一突き
ボクの欲望を伝える相手はキミじゃない
この歌が問いへの応えだよ
キミは知らないんだ
刺激がない変わりに苦痛のない幸せを
彼とボクだけで完結された無の世界での幸せを
識らないなら
ボクの声で、教えてあげる
●ラ・フォリアよ、花と踊れ
歌は命。
音は鼓動で、紡ぐ詩こそが生きる意味。
決してこの想いは大仰ではない。
それはルーチェ・ムート(无色透鳴のラフォリア・f10134)が自ら心に沈めている、たったひとつの存在意義。
「ボクは歌うことしか出来ない、この声がボクが存在している意味なんだ」
幾つもの水晶が重なりあい、光が煌めく迷宮。その最中に聳える透き通った水晶の上に凛と佇むルーチェ。彼女は空中に浮かんでいるエリクシルの妖精に向けて、澄んだ聲で高らかに歌いあげていく。
歌う、唄う、うたう。
太陽の如き、聴く者を魅了する声。月の如く、聴く者を堕とす声。
ルーチェは歌を奏でる楽器。
この声があったからこそ、『彼』は――自分を繋いでくれたのだと思っている。
だから、先程から響き続けているあの妖精の声になど揺らがない。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
「言わないよ、絶対に」
心を揺らがせる精神波が妖精から放たれても、ルーチェは思いを深くに押し込めた。少しでも気を緩めれば秘めたる慾が暴かれる。
しかし、ルーチェは強く信じていた。
「ボクの願いは彼が叶えてくれるものなんだ。キミなんかじゃない」
この想いは彼にしか叶えられないもの。
――迎えに来る。
僕の駒鳥。そう呼んでくれていた、彼の言葉を信じているから。
「お呼びじゃないよ、妖精さん」
願うことはしない。望むのでもない。
ただ待ち続ける。この声を歌にして、こうして――謡い、唱う。今はこの迷宮の水晶の上がルーチェの舞台だ。
彼との時間を示すならば無の幸せ。
あの頃を思い返して紡いでいくリリックで、ルーチェが具現化したのは鎖。
思い出を繋ぐ紅き鎖だ。
歌うことで巻き起こした白百合の中に鎖を隠し、花弁の嵐と共に妖精を一突きする。絡まった花と鎖は敵を貫き、翅を引き千切った。
「ボクの欲望を伝える相手はキミじゃない。この歌が問いへの応えだよ」
そして、ルーチェは更なる歌を紡ぐ。
声に、音に、エリクシルの妖精への拒絶を乗せて歌いあげる。
きっと、キミは知らない。
刺激がない代わりに苦痛のない幸せを。
彼とボクだけで完結された無の世界での幸せを。
そんなものは虚無だと誰かに言われるかもしれない。幸せだなんて認めてもらえないかもしれない。それでも、ルーチェは待ち続けると決めた。
「ねえ、妖精さん」
願いは告げないけれど。識らないなら、ボクの声で教えてあげる。
花の嵐が水晶すらも覆い、妖精を深く穿っていった。願いを叶える妖精が地に落ちていく様を真紅の瞳に映したルーチェは花唇を閉じる。
そして――エリクシルの妖精は砂のように崩れ落ち、消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
荻原・志桜
問われるより先に口早に詠唱を紡ぐ
杖を振れば陣から雷の矢を一気に降り注がせ
あれだけ大きな的だったら外さない…!!
どれだけ自分を律しようと
ずっと抱いてた願望は消えることなく
…せんせい?
自分と同じ桜色の髪
病床で息を引き取った恩師の彼
瞳に映した瞬間、ぽろぽろ零れる涙
激痛が走る身体だが視線を逸らす事はできなくて
先生、わたし…わたしね、全然成長できてない
変わりたいのに、ずっと立ち止まったままで、
周りの優しさに甘えてばかりなの…
傍に座り込み喋らない骸に手を伸ばすことも出来ず
あんなにも危険だと知らされてたのに
不甲斐なさを胸に意識は沈んでいく
――ごめんね
謝罪の言葉は誰に向けたものか
自身を嘲笑う声が響いた気がした
●こいねがう
水晶迷宮の最中に聳えるエリクシルの妖精。
それらが紡ぐ願いを求める声が紡がれ終わる前に、荻原・志桜(桜の魔女見習い・f01141)は魔術杖を掲げた。
あの言葉が口に出され、問われるより先に。早く、疾く、速く。
「――降りそそげ、天の雷!」
杖を振れば、桜色のリボンが巻き起こった雷撃の渦によって激しく揺らいだ。矢を模した雷が遥か頭上から生み出され、雷矢が次々と妖精に降り注いでいく。
「あれだけ大きな的だったら外さない……!!」
大丈夫。
自分を律すれば、あんな妖精に願いを告げることなんてしないはず。
だが、妖精は攻撃を物ともせずに口をひらく。
さあ、『願い』を『全て』、『告げる』が『よい』でしょう。
「……!」
その瞬間、精神波が志桜の身体を貫いた。
身体に痛みはないが、志桜の足はその場で止まってしまう。そして、心の奥には過去の光景が蘇っていた。あの波動は秘めたる真の欲望を暴く力だ。それによって裡に抱いていた願望があらわになってしまう。
「……せんせい。先生、先生――」
何度も、彼を呼ぶ。
それは自分と同じ桜色の髪をした人。病床で息を引き取った恩師。
そして、命の代わりにこの髪の色と魔力を与えてくれた――とても大切なひと。
浮かぶ想いが膨れ上がっていく。
望みはある。願いも消えてしまったわけではない。だからこそ涙が溢れる。止めようとしても儘ならない、止め処無い感情と一緒に落ちる雫。
「先生に、会いたい。戻りたいよ……」
気付けば志桜は願いを言の葉として落としていた。
今を捨ててしまっても良いとさえ思っていた。過去に戻って止めたい。あの日の自分を、あのときの彼の行動を。
そう願った時、エリクシルの妖精が返答を紡いだ。
『切なる想い』と『願い』は『叶え』られます。
感情のない声が響き渡った次の瞬間、志桜の身体に激痛が走った。おそらく願ったことに対する代償としての痛みなのだろう。
「……う、ぁ、あ――」
杖を取り落し、胸元を押さえる。妖精の絶対的力が身体を傷付けたのか、其処からじわりと血が溢れ出してきた。
「先生、わたし……わたしね、まだ……」
志桜は痛みを堪え、途切れ途切れの声で師を呼ぶ。
きっとあの頃から全然成長できていない。変わりたいのに、ずっと立ち止まったままで、周りの優しさに甘えてばかりで、弱いまま。
妖精は願いを叶えてくれるという。
しかし志桜は識っている。彼に会いたいと願っても亡骸のままであるかもしれないということを。過去に戻りたいと望んでも、変えられない光景を見せられるだけだと。
「……っ、ぁ……せん、せい……」
まるで内側から食い破られたように痛みが増し、志桜の身体から血が滴り落ちた。更に胸の奥の思いまでも押し潰すほどの苦痛が巡る。
其処に妖精が作り出した志桜の鏡像が現れた。
杖を構えた偽物は天雷を紡いでいる。このままでは矢に穿たれるのは自分だ。されど志桜はもう自ら動くことが出来ない。
「ごめん、なさい……」
希うことはあんなにも危険だと知らされていたのに。
謝罪の言葉は誰に向けたものかすら分からず――意識は薄れゆく。強制帰還転送の眩い光が満ちる最中、自身を嘲笑う声が響いた気がした。
そして、少女の祈望は虚空に沈んでゆく。
苦戦
🔵🔴🔴
リル・ルリ
🐟櫻沫
こんなにも愛しいのに君を望んでしまわないように封じるのはもう嫌だ
なんで望んではいけない?
この戀も愛も、本当なのに
やっと戀してもらえた
例え一時でもらなかったことにしなきゃいけない?
この想いは僕だけの
誰にも渡さない汚させない
櫻が戀をくれた
でも君はまだサクヤのことを愛してるだろう?
知ってるんだから
一華の母だから
わかってる
そんな一途な君もすき
でも、一番は僕がいい
僕だけがいい
サクヤさえ、存在していなければと望まずにはいられない
歌う、「花籠の歌」
僕が本当に、水槽に閉じ込めたいものは―
ごめんね、櫻宵
僕は純粋じゃない
僕はこんなにも慾張りだ
戀してからずっと求めてばかり
こんな願いは叶わない方が、いいのにな
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
愛されることは心地いい
求められるのは気持ちがいい
歪んだひとでなしの私が存在してもいいと
赦される気がして
だから求めてしまうの
もっと愛をたべさせて
私はリルに「戀」してしまった
もう二度としないと決めていたのに
愛を示して、おとしたのはあなた
飢える
満たされて飢える
強慾に果てはなく
私に願いがあるとしたら
リルがずっと生きて私のそばにいてくれること
死なずに
ずっと
私をみたして
リルがサクヤの事を気にしてるのはしっていた
そんなに思い詰めてたなんて
…ごめんね。リル
多分一生忘れられない
リルは純粋よ
純粋でまっすぐよ
私達揃いも揃って慾張りね?
衝撃からせめてとリルを抱きしめ庇い守るわ
あなたを殺す(愛する)のは私だもの
●戀ひ綴る相愛
煌めいた水晶の光が妖精を淡く照らす。
迷宮の一区画、其処に現れたエリクシルの妖精。それらは聳え立つと表すに相応しいほど巨大で、圧倒的な存在感を覚えさせるほどだ。
「行くわよリル!」
「うん、櫻宵!」
幾重にも連なる水晶の上を駆けた誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)の後を追い、リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)が宙を泳いでいく。
妖精の胸元まで駆けあがった櫻宵の周囲に水泡の防御陣を巡らせ、リルは妖精を見据える。櫻宵は桜花の呪を巡らせ、エリクシルの化身を睨み付けた。
その途端、妖精の髪が桜獄に囚われて花と散った。
されど、その力が巡ったのはたった一部。
それでも櫻宵は水晶を蹴り、華麗に立ち回りながら巨大な敵に対抗していく。リルも戦場に歌を響かせていくことで櫻宵を鼓舞していく。
だが――。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
エリクシルの妖精がそう語ると同時に、新たな妖精がその場に姿を現した。見る間に周囲に精神波が溢れ出し、リルと櫻宵を穿つ。
それは身体に痛みなどは齎さないが、水泡すら擦り抜けて作用する力だ。
波動は心を揺らがせる。
願ってはいけない、秘めておくべきだと云われていた思いが溢れ出してくる。
リルは水晶の上に立つリルを見つめ、其方に游ぎ寄った。
「なんで望んではいけないの?」
こんなにも愛しいのに。
君を望んでしまわないように封じるのは、もう嫌だ。
愛しい。
その心を示すようにリルが櫻宵へ手を伸ばす。妖精はその様子を感情のない瞳に映していた。まるで、願いが言葉にされるのを待つように――。
「……リル」
櫻宵は人魚を呼ぶ。戦わなければいけないというのに身体が動いてくれない。
あの力は秘めたる慾望を暴くもの。
だからこそ今は、目の前にある求めるものに視線が向いてしまう。
愛されることは心地いい。求められるのは気持ちがいい。
歪んだひとでなしの自分が、此処に存在してもいいと赦される気がしてしまうから。
「櫻、ねえ、櫻」
この戀も愛も、本当なのに。やっと戀してもらえたのに。
どうして。たとえ一時でも、なかったことにしなければいけないのだろう。
この想いは僕だけのもの。
誰にも渡さない。汚させない、櫻宵がくれた戀。
「どうしたの、リル」
暴かれた慾の儘に二人は互いの手を取る。
求めてしまう。もっと愛をたべさせて、その身に触れさせて欲しい、と。
リルに戀をしてしまった。
もう二度としないと決めていたのに、愛を示して、おとしたのは――あなた。
飢える。
満たされているのに、これまで以上に飢えてしまう。
強慾に果てはなく、何処までもおちていく。海の底よりも深くて昏い深淵に辿り着いたとしてもきっと求め続ける。
自分に願いがあるとしたら、そう考えた櫻宵は思いを言葉にする。
「リル、ずっと生きて私のそばにいて」
死なずに、ずうっと。
私を満たし続けて。枯れぬように、果てぬように。
愛おしさと戀しき慾のままに櫻宵はリルを抱き寄せる。しかし、リルは嬉しさと同時に切なさも抱いていた。
「僕は、櫻が好きだよ。戀をしているよ。でも……君はまだ、あのひとをサクヤのことを愛してるだろう?」
知ってるんだから、と口にするリルはその理由も分かっている。
それは、彼女が一華の母であるから。
弟という体裁でいるが、櫻宵は息子のことを深く愛している。それは戀と繋がる愛ではなく、もっと別の感情だ。
それはリルには触れられない愛だ。けれどその想いを抱く櫻宵まで、欲しくなる。
リルがサクヤのことを気にしているのは知っていた。だが、リルがはっきりと口にしたのは初めてかもしれない。
「そんなに思い詰めてたなんて……ごめんね、リル」
「わかってる。そんな一途な君もすきだ。でも、それでもね……」
一番は、僕がいい。
僕だけがいい。
心の奥底から思いと慾望が溢れて止まらない。
――サクヤさえ、存在していなければ。
言の葉には乗せずとも、リルはそう望まずにはいられなかった。
しかし、櫻宵はリルが抱いた思いを理解している。これほどまでに自分を愛し、苦しい程の戀をしてくれる人魚。
願いを曲げない。そんな彼の瞳は多分、櫻宵にとって一生忘れられないもの。
「リルは純粋ね」
純粋でまっすぐだからこそ、自分と櫻宵だけのことを希う。それが愛おしい。けれど、純粋であることは時に残酷でもある。
そのとき、二人の願いと想いを聞き届けたエリクシルの妖精が動く。
『希い』は『成就』するでしょう。
その『望み』を『叶え』ましょう。
妖精の声が響き渡ったかと思うと、リルと櫻宵の身体に激痛が巡った。
「櫻……!」
「……っ、リル」
互いの名を呼びあった二人は痛みに耐えるように身を寄せあった。おそらく此れが願いの代償なのだろう。妖精に触れていないというのに、まるで斬り刻まれたような傷が二人の身体に浮かびあがる。
其処から流れ出した血が水晶に滴った。
血が混じりあい、透き通った石の上に広がってゆく。心まで侵食するような苦痛までもがリルを穢し、櫻宵の想いを無遠慮に塗り潰していった。
それでもリルは何とか花唇をひらき、彼を護るための歌を紡いでいく。
――ラ・カージュ 花を飾って。
――ラ・カージュ 閉じ込めて。
――ラ・カージュ ……。
途切れ途切れの聲で唄いあげられる花籠の歌が作り出すのは、櫻宵を包む水槽。
でも、違う。
「僕が本当に、水槽に閉じ込めたいものは……ごめんね、櫻宵」
リルは先程の言葉を思い出して首を振る。自分は純粋なんかじゃない、と。
「いいのよ、リル」
「僕はこんなにも慾張りだ。戀してからずっと求めてばかりだもの」
「私もよ。私達、揃いも揃って慾張りね?」
これ以上の苦痛を防ぐ水槽の中で櫻宵はリルを抱き締める。されど水に紅の色がにじみ続けた。願いの代償は未だ、理不尽な程に痛みを齎している。
「……櫻」
――こんな願いは叶わない方が、いいのにな。
リルはただ彼に抱かれていることしか出来ずに瞼を閉じた。けれど願いから生まれたこの痛みも、傷も、奪わせない。
櫻宵の願いを叶え、想いを受け止めるのは自分だけだから。
痛みを堪えながら縋るように抱き締め返してくれるリルを強く抱いたまま、櫻宵は耳元でそっと囁いた。
「心配しないで。あなたを殺すのは――」
愛するのは、私だけ。
そして、妖精によって生命力の一部を奪われ、今は戦えぬ身体となった二人の身体を帰還転送の光が包み込んでいく。
その最中、リルと櫻宵は互いを精一杯抱き続けた。
生きて。
愛して。
満たして。
たとえこの身が苦痛に苛まれようとも、絶対にこの想いは手放さない。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
蘭・七結
求めるのはいっとうだけ
溢れるのは幾つもの慾望
願いならあるわ
望みならあるわ
けれどこれはナユだけのもの
ナユが叶えると、決めたもの
あげない、あげない
奪わせないわ
カミサマにだって渡さない
これが、妖精のあなたに捧ぐ願いよ
嗚呼、いたい
重い一撃で『あなた』を染めた色に塗れる
“あか”に魅せられそう
全身から溢れてとまらない
目眩み痺れてうごけない
あたたかい心地がした
霞む視界に眞白がみえる
『あなた』の聲がわたしをよぶ
嗚呼、きこえているわ。戀しひと
――さま
おねがい
ナユに、ちからを、かして
眸に宿るのは金糸雀
双刀を傍らに天へと飛翔する
身体が重いのに、とても軽い
たとえ敵わない大きな壁でも
『あなた』とならば、いのちさえ賭する
●夢幻の彩
水晶が犇めき、光が反射する迷宮内。
妖精が問いかける声は重く響き、心を揺らがせる波動が戦場に揺らいだ。
眼差しは天高く、遥か聳えるエリクシルの妖精へ。
「あれが、妖精ね」
蘭・七結(こひくれなゐ・f00421)は響き続ける声から意識を逸らす。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
自動的に繰り返す妖精は望みを求めている。だが、七結は首を横に振った。
確かに此の裡には望みがある。願うことがないわけではない。
然れど。
求めるのはいっとうだけ。
溢れるのは幾つもの慾望。
「だけどね、これはナユだけのもの。ナユが叶えると、決めたものなの」
願いと呼ばれる感情に触れぬよう七結は瞳を閉じた。そしてゆっくりと瞼をひらき、妖精に向けて眦を決する。
願いも、望みも、夢も。
「あげない、あげない。奪わせないわ」
エリクシルの妖精が万能の力を持っていたとしても、望む儘の世界を実現させる能力を宿していたとしても。そう、たとえ神のような存在であっても。
「――カミサマにだって渡さない」
七結は敢えて妖精に己の決意めいた思いを伝えた。
これが妖精に捧ぐ願い。どんな相手にだって歪められて堪るものか。そんな思いを願いとして、七結は妖精に宣戦布告めいた感情を差し向けた。
そして、一瞬の間。
その『願い』は『叶え』られます。
機械的にも思える妖精の声が七結の耳に届いた。おそらく妖精達は七結の願いがどういった意味合いであるかすら理解せず、エリクシルの力を行使する。
刹那、七結の身に痛みが走った。
どのような願いであっても妖精達は聞き届けて代償を求める。それは理不尽と呼ぶしかない、苦痛を与える対価だ。
命が吸い取られていく感覚をおぼえながら、膝をついた七結は掌を見下ろす。
血が肌から滴り落ちていた。まるで糸で斬りつけられたような傷が幾重も七結の身体に刻まれている。その度に“あか”が滴った。
「嗚呼、いたい。けれど――」
これは、『あなた』を染めた色。
同じ色に塗れるなら、それは七結にとっての魅惑的なことでもある。
全身から溢れてとまらない、あか。
眩むような感覚と痺れはきっと、妖精が与えた代償の苦痛の所為ばかりではない。
そのとき、不意にあたたかい心地がした。あかに染まる七結の前、今にも意識が暗転思想になる七結の霞む視界に眞白のいろがみえる。
『――、』
嗚呼、『あなた』の聲。わたしをよぶ、聲。顔をあげた七結は光にも似た白に手を伸ばした。その声を聴き逃がすはずなどない。
「……きこえて、いるわ。……戀し、ひと」
震えそうになる幽かな声を紡ぎ、七結は彼のひとを呼び返す。
――さま。おねがい。
ナユに、ちからを、かして。
願うのは妖精などではなく、七結にとってたったひとりの『かみさま』。
そして、金糸雀の彩がその眸に宿る。
残華の刀を傍らに携えた七結はあかに濡れたまま、天へと飛翔していく。身体が重いのに、彼のひとの包まれているかのようにとても軽い。
痛みも、戀しき想いも、全て抱えて往こう。七結は眞白の双翼を羽撃かせながら妖精へ翔ける。たとえ敵わない大きな壁であっても。
『あなた』とならば――。
いのちさえ賭して、共に。
揺蕩う羽衣が揺らいだ刹那、白刃が妖精の翅を深く貫いた。
成功
🔵🔵🔴
御園・ゆず
圧倒的な存在に、膝が笑う
怖い、怖い。
なんで、わたしが、こんな目に
パーカーホールM85で、狙って、撃つ
狙って、撃つ
撃ったら手動装填
撃ったら装填
全部、『埒外のチカラ』に覚醒してからUDC組織のヒトに教えてもらったこと
普通の女の子なら纏うことのない硝煙の香り
普通の女の子ならすることがない戦闘行為
いらなかった。こんなチカラ
欲しくなかった。こんなもの
どうしてこんなことをしなきゃいけないのか分からない
だれか、おしえてよ
だれか、たすけてよ
嗚呼、叶うのなら
この忌々しい『埒外のチカラ』を代償に
『埒外のチカラ』から解放されますように
息が苦しい
前が見えない
くらくらする
…このまま、死ぬ?
嗚呼、それもいいかもね
●ただの少女で在りたくて
水晶が幾重にも重なり、光を反射する空間。
エリクシルの妖精達は自動的に、感情のない声で願いを言えと繰り返す。
不穏な声が木霊する中で妖精の巨体と翅が揺らめく。その度に御園・ゆず(群像劇・f19168)の心も妙に揺らいだ。
相手は圧倒的な存在。
あの巨躯が動けば自分など潰されてしまうとすら思える威圧感。
ゆずの膝が笑う。あんなもの、今まで戦ってきたものとはまったく違う。突如現れた異質な存在でしかない。
――怖い、怖い。
なんで、わたしが、こんな目に。
浮かんだ思いを言葉にすることすら出来なかった。ただ、身体は自然に動く。銃を構えて、狙って、遥か頭上のエリクシルの妖精を狙って、撃つ。
敵が此方を捉える前に水晶の上に駆けのぼり、狙って、撃つ。
撃ったら手動で装填をして、また撃っては装填。
怖い。
それなのに銃弾を撃つのは止まらない。
恐怖が滲む意思とは関係なく動く。これは『埒外のチカラ』に覚醒してから組織の人に教えてもらい、これまでずっと使ってきた力だ。
だからもう身体は覚えてしまっている。
普通の女の子なら纏うことのない硝煙の香りがゆずの身を包む。
普通の女の子ならすることがない戦闘行為を、行い続けるという現状。
(いらなかった。こんなチカラ)
願う。
(欲しくなかった。こんなもの)
望む。
(どうして――)
こんなことをしなきゃいけないのか、分からない。ただチカラがあったから、戦う。戦えるから戦場に赴く。こんなの、普通の女の子は絶対にしない。
「だれか、」
幽かに零れ落ちた言葉は銃声に掻き消された。
装填して、撃つ。また装填しては狙いを定め、撃ち続ける。
おしえてよ。
だれか、たすけてよ。
奥底で叫ぶゆずの心は疲弊していた。恐怖に押し潰されそうになりながらも、その表情は変えぬまま。彼女が放つ銀の弾丸は戦場を翔け、妖精を次々と穿つ。
そして、そのとき。
エリクシルの妖精がゆずの方にゆっくりと振り向き、言の葉を紡いだ。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
其処から戦場に巡り、ゆずを貫いたのは秘めたる真の欲望を暴く精神波。
「……!」
痛みはないが、これまで以上に気持ちが揺らがされた。願ってはいけないと聞いていたのに、今は願わずにはいられない。
「嗚呼、叶うのなら、」
銃を握る手を緩め、ゆずは望みを言葉にした。
「この忌々しい『埒外のチカラ』を代償に、『埒外のチカラ』から解放されますように」
その『願い』は『叶え』られます。
妖精達がゆずの望みを聞き届けた瞬間、その身に鋭い痛みが駆け巡った。声を上げることすら出来ない、まるで同時に全身の血管を斬り刻まれたような激痛だ。
息を吐くのすら苦しくて痛い。
「……ぁ、く……ぅ――」
そんな感覚に耐えることは出来ず、ゆずはその場に膝をついた。
願ったから。その代償がこの痛みだ。
「……っは、あ、ぁ……」
息が苦しい。前が見えなくて、くらくらする。ああ、何も見えない。
――このまま、死ぬ?
視界を塞ぐ赤い色が自分の血であるとも認識できず、ゆずは倒れ込んだ。暗転していく意識の中、少女は最後に或る思いを浮かべる。
(嗚呼、それもいいかもね)
そして、ゆずの身体は強制帰還転送の光に包まれていった。
苦戦
🔵🔴🔴
アイリ・フラジャイル
判定お任せ
願い……ね
もう随分叶ってしまったもの
仲間と出会い、記憶を取り戻した
そして役目を果たす――これはまだ途中だけど
だからこそ、願いは自分の力で果たすわ
こういう相手との戦いの為に私は作られたのよ
思うまでも無く、機能が攻撃を遮断し反射する
如何に増えようと次元障壁が封じ込めるわ
仲間への攻撃も防ぐ。だから絶対に倒れない――絶対に
己を鼓舞して剣を両手で構えて前へ、前へ
決して一人じゃない。絶対に倒れない
火炎を纏った斬撃を飛ばし援護を続けて
敵の動きを学習する……まだよ
私自身が燃え尽きるまで、奴の羽を焼き尽くす
そう、かつては一人だった。でも今は違う――!
懐まで入り込めたら渾身の一撃で
奴を打ち砕いてみせるわ
セルマ・エンフィールド
魔王の生み出した災魔、というわけではなさそうですが……やることは変わりません。
望みを尋ねると同時に新たな妖精が召喚されたら、『早業』で狙いを付け、フィンブルヴェトで『クイックドロウ』、精神波を使用するより先に撃ち抜きます。
私は私の腕を信じています。そこに曖昧な願望など、介在する余地はありません。
この体格差ではただの殴打も脅威ですが、そのぶんこちらの方が小回りが効きます。格闘を修めているようには見えませんし、『見切り』回避します。
他者に願い、依って立ちはしません。
故に、私があなたに望むことなど何もありません。ただ撃つだけです。
自身の『スナイパー』の技量で狙い【氷の狙撃手】を撃ち込みます。
●未来に進む為に
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
汝の『願い』を『伝え』てください。
迷宮の最中、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)とアイリ・フラジャイル(イレギュラーケース・f08078)は周囲の水晶を伝って駆けながら、戦場に響くエリクシルの妖精の声を聞いていた。
「魔王の生み出した災魔、というわけではなさそうですが……」
セルマが妖精を見遣ると、アイリは神妙に頷く。
「願い……ね」
それはもう随分叶ってしまったものだと思い返す。
仲間と出会い、記憶を取り戻した。
人ではないと理解しながらも、人ではないがゆえに絶望などしなかった。これが自分の進む道だと知り、そして――役目を果たす。
これはまだ途中。
だが、だからこそ願いは自分の力で果たすのだとはっきりと思える。
アイリが思いを裡に秘める中、セルマは淡々と狙撃の準備を整えていた。
「どうであれ、普段とやることは変わりません」
巨躯の妖精に近付くため、セルマが登ったのは巨大な水晶の上。アイリが敵の目を引いてくれている間にセルマは其処から銃を撃つ狙いだ。
そして、彼女達を捉えたエリクシルの妖精がゆっくりと口をひらく。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
その質問と共に、虚空から新たなエリクシルの妖精が召喚される。
しかしセルマはその瞬間を狙い撃つ。フィンブルヴェトの銃爪を引けば、瞬時に氷の弾丸が新たな妖精を貫いた。
そして、アイリが其方に向けてひといきに駆け出していく。
「こういう相手との戦いの為に私は作られたのよ」
アイリは魔を断つ剣を強く握る。
――警告、脅威度判定極大……自動迎撃、事象遮断障壁展開。
願いや感情を思うまでも無く、発動した機能が攻撃を遮断して反射していく。精神波を掻い潜ったアイリは敵の側面に回り込んだ。
「敵が如何に増えようと、この次元障壁が封じ込めるわ!」
アイリは共に戦う仲間への攻撃も防ぐべく、素早く水晶の上を渡りながらエリクシルの妖精の周囲を駆けていった。
セルマは彼女が精神波を防いでくれたと察し、更なる銃撃で敵を撃ってゆく。弾丸が妖精に命中する度に着弾箇所が氷結した。
「護りは任せます」
「此処から道を繋いでいくの。だから絶対に倒れない――絶対に」
セルマが攻勢に出続けると示し、アイリに願う。
頷きながら己を鼓舞したアイリはただ前へ、前へと進む。
此処にはたくさんの仲間がいる。願いを伝え、望みの重さに押し潰されてしまった者もいるが、決して彼らを責めない。
その人達の分まで望みを押し込め、絶対に倒れずに皆を守り続ける。
剣は朽ちていれども、秘めた炎は衰えてなどいない。
火炎を纏ったアイリはエリクシルの妖精に向け、鋭い斬撃を飛ばすことで翅を焼き焦がす。それによって妖精の身体が傾ぐ。
セルマもまた、敵の動きをしかと見切っていた。
この体格差ではただの殴打も脅威でしかない。だが、此方が相手に対してちいさい分だけ小回りがきくというもの。
精神波は未だ襲い来るが、アイリ達にはもうそんなものは効かない。
「……まだよ」
アイリは更に剣を振り上げ、全力の炎を其処に宿していった。心を蝕んでいく感覚など無視すれば良い。
「私自身が燃え尽きるまで、焼き尽くしてあげる!」
そうなったって構わない。強い思いを抱いたアイリは自らの消耗すら飛び越えて、妖精へと力を揮っていく。
其処へ、セルマによる容赦のない銃弾が撃ち込まれていく。
「他者に願い、依って立ちはしません」
セルマには思い浮かべる望みなどない。ただ、宣言通りに敵を屠っていくだけ。
「故に、私があなたに望むことなど何もありません」
こうして撃って、撃って、撃つだけ。
淡々と、されどそれだからこそ頼もしく思えるセルマの攻撃。銃弾が齎す氷結の力がが巡っていくことを察知したアイリは拳を握る。
そう、かつては一人だった。
けれど、今は違う。一人なんかじゃない。
アイリは仲間と共に勝利を得るのだと心に決め、一気に妖精の懐に飛び込む。
焔が揺らぐ。刃を通って、アイリの思いまで映すかのような激しい火炎が周囲に巡っていく。そして――渾身の一撃が振り下ろされ、狙い澄ました銃撃が放たれた。
「これで打ち砕いてみせるわ!」
「貫きます」
凛と響き渡った二人の声。
刹那、エリクシルの妖精が崩れ落ち、何の言葉を遺すこともなく消えていった。
水晶の上に跳躍したアイリは態勢を立て直し、セルマも砂のように散った敵を見下ろす。アイリは更に剣を構え、セルマは新たな妖精に目を向けた。
「……次ね!」
「行きましょう」
未だ妖精は多く存在する。それでも自分達が全て屠る。
その思いは揺るぎなく、妖精に差し向けられた刃と銃口が全てを物語っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朝日奈・祈里
小瓶の悪魔
いや、猿の手?
こう言った類いのものは書物で読んだけど、まあ己で制御出来るものではないよな
エリクシルの妖精?なんかの文献で読んだ気がするなぁ?
しかし、どんな形であれ、願うヒトがいるのであれば
チャンスは与えられるべきだ
それをこなすのも、天才の責務だよ
しかしデカいな
空中戦と行こうか
長杖にまたがり、ルーンソードを携えて
妖精と言えど、ヒトの形を取っているんだ
弱点となりうる場所はだいたい見当がつく
感覚器を削ぎ、翅をもいで
さあ、物語を終焉させよう
お前の出番は一旦終わりだ
この後のことはわからんが、とりあえず終焉の時だ
……しかし
名前だけと言えども、錬金術師にエリクシルをぶつけてくるとはなぁ。
●妖精と錬金術師
たとえば地獄の炎で固められた小瓶。
或いは、猿の前足の形をした木乃伊。
願いの成就の為に高い代償を伴うものを思い浮かべ、朝日奈・祈里(天才魔法使い・f21545)は眼前に聳える影を見上げた。
水晶が重なり、淡い光を反射する迷宮内。其処に現れた妖精は淡々と、機械的にも思える言葉を繰り返している。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
「言わない。どうせ酷いことになるのは知ってるんだ」
望みを求め、それを叶える。
されど代償が生命力であることは祈里だって分かっている。都合の良い契約など存在しない。何かを望めば対等な、もしくは不相応な代価を支払うことになる。それは祈里も身を以て理解していた。
それに、書物や物語でも契約者は往々にして破滅を迎えるのだ。
「こう言った類いのものは、まあ己で制御出来るものではないよな。なあ、妖精?」
呼び掛けてみても返答はない。
周囲には新たな妖精が現れ、心を揺らがせる精神波が解き放たれていた。
だが、祈里は動じない。
天才であるがゆえに願いなど思い浮かべてはいない。寧ろ、そんな心はいつかのときに喰われてしまったのかもしれない。
「しかしデカいな」
長杖に跨った祈里は一気に上空に飛び上がる。空に舞う箒星の如く飛翔した祈里はルーンソードを構え、妖精をしかと瞳に映した。
精神波は痛みこそ与えないが、祈里の奥底から慾を暴き出そうとしている。
唇を噛み締めた祈里は揺らぎそうになる心に蓋をした。
「エリクシルの妖精? お前もなんかの文献で読んだ気がするなぁ?」
意識はただ目の前の敵へ。
破滅しか齎さぬ存在はこの世界に求められているものではない。それでも、と祈里は周囲を見渡した。
蹲る人々。望みの代償を受け、血を流して倒れる者。
彼や彼女達には強い思いがあるゆえ、この力に屈した――否、願ったのだろう。祈里は決してそういった者達を責めたりなどしない。
それぞれに生きてきた上で生まれた願い。それこそが尊いものだ。
「どんな形であれ、願うヒトがいるのであればチャンスは与えられるべきだよな」
誰かの為に。
自分以外の者の為に、戦う。
「それをこなすのも、天才の責務だよ」
疾く翔ける長杖を操り、祈里は妖精の周囲を素早く移動する。相手がこれほど巨大ならば自分達など羽虫のようなものだろう。だが、だからこそ翻弄できる。
回り込むのは妖精の真後ろ。
祈里は真っ直ぐに飛び、剣を振り上げた。
妖精と言えど、ヒトの形を取っているのならば弱点となりうる場所はきっと同じ。翅を斬り裂き、更に回り込んで眼を一閃。
妖精が揺らいだ瞬間を狙って更に喉元へ刃を突き刺す。
感覚器を削ぎ、翅をもいでいけばこの巨体とていつかは倒れる。その狙い通り、祈里の攻撃はエリクシルの妖精を弱らせていった。
「さあ、物語を終焉させよう」
お前の出番は一旦終わり。
この後のことは未だ視えないが――とりあえずの終焉を。
祈里が大きく刃を振り上げ、ひといきに下ろす。沈むように倒れ、砂のように消えていった妖精を見下ろしながら祈里は息を吐く。
「……しかし、名前だけと言えども、錬金術師にエリクシルをぶつけてくるとはなぁ」
複雑な思いを抱きながら、祈里は視線を巡らせた。
まだ妖精は残っている。最後の一体になるまでこの力を振るうのだと決めた祈里は、箒星の軌跡を描きながら戦場を翔けていく。
大成功
🔵🔵🔵
ミツルギ・サヤ
妖刀の覚悟。
私は願いを叶える者であり、預かる者なのでな。
刃に宿る怨念と業は、
斬り刻んできた者どもの魂とでもいおうか。
いつか果たすべき願いと誓いを渡すわけにはゆかん。
秘めた願いにも似たこの業火は、何としよう。
刀身に炎を纏わりつかせ、精神波に耐えながらも集中を。
おまえが私へ集中を向けている隙に
我が分身を舞い踊らせ、その翼を砕くとしよう。
願い叶えるだけのおまえ。
おまえが望みを知らぬように、私もまた我が真の望みを知らぬ。
俗世の望みではなく、
私を鍛え打ちぬき託した何者かの。
偽りの妖精では引き出せぬか。
この鋼に宿りし望みが何であったかを。
然り、では。
我が刃に宿りし数多の業と願いと共に!
私は妖精を砕く!
●業火は燃ゆる
妖刀に宿りし神。
それがミツルギ・サヤ(輪廻宿業・f17342)という存在である。
水晶が犇めく迷宮内で、ミツルギは遥か頭上を振り仰ぐ。其処には無感情な妖精が何体も浮いており、それぞれに願いを告げよと語っていた。
汝の『望み』を、『願い』を。
何でも『わたしたち』に『言う』が『よい』でしょう。
響く声は精神波となり、ミツルギや他の猟兵の心に直接作用してくる。秘めたる真の欲望を暴く波動は痛みこそ齎さないものの、望みを持っている者を苦しめていた。
だが、ミツルギは揺らがない。
「私は願いを叶える者であり、預かる者なのでな」
裡に抱くのは妖刀の覚悟。
曲がりなりにも神として、誰かに――それも得体のしれない妖精に願うことなど決してない。人の心を宿し、人の身体を取っていても在り方が変わったわけではない。
刃に宿る怨念と業。
それはこれまで斬り刻んできた者どもの魂とでもいうべきか。
そう思えば余計にこのような精神波になど負けてはいられない。ミツルギは地を蹴り、水晶の上に跳躍した。
波動を掻い潜り、水晶を飛び越えて巨躯の妖精に向かうミツルギは凛と宣言する。
「いつか果たすべき願いと誓いを渡すわけにはゆかん」
ゆえに心は鎮める。
代わりに秘めた願いにも似た業火を刀身に宿らせ、炎を纏った。精神波に耐えながらも集中したミツルギは力を発現させる。
――剣嵐業火。
されど増やした妖刀は水晶の裏へ。妖精がミツルギ自身に注視している隙に、それらすべてを敵の背後へ舞い踊らせる。
「我が刃よ、嵐となれ!」
自らの分身である輪廻宿業を解き放ったミツルギは妖精の翼を砕こうと狙う。たとえ弾かれたとて新たな妖刀を差し向け、炎の熱さを敵に齎す。
乱舞する業火の刃は言葉通りに嵐となり、妖精の片翅を千切り斬った。
「願いを叶えるだけの妖精か」
戦い続けながら、ミツルギはエリクシルの妖精を見据える。
「……限りなく自動的なおまえが望みを知らぬように、私もまた我が真の望みを知らぬ。俗世の望みではなく、私を鍛え打ちぬき託した何者かの」
静かに零した言葉。
それは願いにすらならないミツルギの思いだった。それは彼女自身すら識らぬものであり、偽りの妖精にも引き出せぬもの。
「この鋼に宿りし望みが何であったかを求めるのはおまえではない」
然り、では――。
身構え直したミツルギは勝負を決する為に力を紡ぐ。
「我が刃に宿りし数多の業と願いと共に! 私は妖精を砕く!」
凛と響く宣言。
その直後、激しい焔を纏った剣の嵐が妖精の息の根を止めた。
ミツルギは崩れ落ちていく妖精を見遣り、新たな敵へと視線を向ける。
望みや願いなどは抱かず、望むものも未だ知ることは出来てない。それでも、この戦場で戦い続ける。そう、強く誓って――。
大成功
🔵🔵🔵
ユヴェン・ポシェット
万能宝石、か。
自身の力や働きによって叶う望みでなければ俺は要らない。
あのエリクシルの妖精を倒す唯それだけに集中する。
消えてくれとも思わない、倒すだけだ。
あの翅…何故か妙な気持ちになる。
落とすぞ。
主に翅を狙い攻撃。
妖精が増えるなら払うまでだ。
槍で敵を薙ぎ払い串刺しに。
妖精への攻撃が阻まれるのであれば自身の持つ槍をまっすぐ敵へと狙いを定めて投げる。
いけ…!ミヌレ。
もし僅かでも槍の方に意識がいけば隙が出来るのを見逃さず、バディペットである大鷲・タイヴァスを自身の元へ呼び、捕まり飛び上がってからの急降下。
空中からの蹴り、そして、手元に戻った槍で敵を裂き貫く。
UCドラゴニック・エンド連撃を。
●願いは告げず
水晶迷宮に響き渡る妖精の声。
木霊する彼女達の言葉を聞き、ユヴェン・ポシェット(Boulder・f01669)は妙な気持ちを覚えていた。
「万能宝石エリクシル、か」
自らもオパールの身体を持つからだろうか。宝石の力を行使する妖精には妙な感慨を覚える。だが、その存在が悪しきものであるというのならば容赦などできない。
「自身の力や働きによって叶う望みでなければ俺は要らない」
妖精は此方の望みを求めている。
しかし、願いを告げてしまえば自分に代償が齎されると知っていて、願うようなユヴェンではない。
あのエリクシルの妖精を倒す。
唯それだけに集中するのだと決めていた。消えてくれとすら思わず、己の心を沈めることで倒すだけ。
「あの翅……いや、何も考える必要はないか。落とすぞ」
妖精の姿を捉え、首を横に振ったユヴェンはミヌレの竜槍を構えた。
そして、エリクシルの妖精に立ち向かうために地を蹴る。相手は十メートルもゆうに超える巨体。そこかしこに生えた水晶を足場にして、上へ上へと上る。
まるで此処まで来る際に通ってきた歯車の迷宮での移動のようだと感じながらも、ユヴェンは更に跳躍した。
そして、彼はエリクシルの妖精の胸元辺りまで一気に駆け上る。
妖精はゆっくりと此方を振り向こうとしている。だが、敵が動く前にユヴェンは駆けた。其処から狙うのは相手の翅。
魔力を纏った翼が震わされる前にひといきに貫き、其処に穴をあける。
相手にとっては小さな傷だろう。
だが、幾度も貫かれればその翅とて使い物にならなくなるはずだ。頼むぞミヌレ、と槍に告げたユヴェンは身を翻し、水晶の上に着地する。
そのとき、振り向き終わった妖精がユヴェンに向かって突進してきた。
水晶までもを巻き込む巨躯の突撃。その衝撃は激しく、穿たれたユヴェンの身に大きな痛みを与えた。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
その間にもエリクシルの妖精は願いを求めてくる。だが、痛みを堪えたユヴェンはそんな誘いになど乗ったりなどしない。
敢えて無視をして体勢を立て直し、竜槍を握る手に力を込めた。
「行け……ミヌレ!」
そして、一気に槍を投げ放つ。
軌道を示せば、後はミヌレがやってくれる。その信頼に答えるように槍から竜の力が顕現し、妖精を真正面から貫いた。
その瞬間、敵の意識が槍の方に向く。
「タイヴァス!」
何とか立ち上がったユヴェンは鷲を呼ぶ。タイヴァスに掴まったユヴェンはその翼の力を借りて飛翔し、狙いを定めた。
急降下から繰り出されるのは鋭い蹴撃。
手元に戻ってきた竜槍を握ったユヴェンは、更に其処から滑空したタイヴァスの勢いに己とミヌレの力を乗せる。
「決めるぞ……!」
掛け声と共に解き放ったのは全力の薙ぎ払い。槍の喉元が引き裂かれ、刃を切り返したユヴェンが一気に妖精を貫く。
そして、崩れ落ちたエリクシル妖精は地に沈む。砂の如くさらさらと消えていくその姿を見下ろし、ユヴェンは静かに目を閉じた。
この願いは、自分の手で。
沈めた思いを胸に懐き、ユヴェンは槍を強く握り直した。
大成功
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グァーネッツォ・リトゥルスムィス
小柄の体躯を活かし結晶群の隙間から隠密しつつ妖精達の様子を観察
妖精達の中でも壁に近い上に他の妖精達との距離が遠く、
他の妖精達の連携が遅れると見立てた妖精に対して
『不可能殺し』で壁に生えている巨大水晶をもぎ取り武器にし不意打ち&先制攻撃
突進を巨獣との戦闘知識からギリギリのフェイントで回避
魔力と纏った震える翼もオーラ防御・激痛耐性・気合で耐え
妖精を魔力ごと掴み、水晶でギザギザの地面・壁に振り回し叩きつける
わざと殺さず気絶に留めたら気絶中の妖精で10m級の武器として
他妖精に振り回し叩きつける
他妖精も気絶に留め、振り回しに堪えられない妖精から
別の気絶中妖精を武器にし継戦し最後の一体も気絶・滅す
●望まぬ故の力
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』。
「…………」
水晶が満ちる迷宮の中で響き続ける、妖精の声。それを聞いていたグァーネッツォ・リトゥルスムィス(超極の肉弾戦竜・f05124)は敵の姿を見つめた。
願いがないわけではない。
望む世界も、理想だって彼女の中にある。
だが、その思いをあんな妖精になど伝えるはずがない。それゆえにグァーネッツォは何も考えず、ただ己の力を揮うだけだと決めていた。
妖精に語る言葉すらない。
グァーネッツォは自分がどんな者であるかをよくわかっている。何かを語り始めれば何らかの言葉が願いに繋がるかもしれないと危惧する程に。
そして、あの妖精の厄介さも識っていた。あれはどんな願いであっても歪め、望まない形で叶えるものだ。
グァーネッツォは小柄の体躯を活かして水晶郡の隙間に身を隠す。
すでに戦いは始まっており、別の猟兵が交戦している姿も見えた。普段ならばすぐにでも加勢に向かうが、今は隠密の時。
そして、グァーネッツォは妖精達の中でも壁に近い個体を見据えた。他の妖精達との距離が遠く、連携がしづらいと思われる対象だ。
静かに頷き、狙いを定めたグァーネッツォは一気に駆け出す。
自分が倒すべきはあれだ。
不可能殺し――インポッシブル・ブレイカー。
走り出すと同時にグァーネッツォが発動したのは不可能を可能にする能力。本来ならば掴めぬほどの巨大な物も今の彼女には斧や槍と同様に扱える。
壁に生えている水晶をもぎ取り、振り上げたグァーネッツォは一気に妖精に突撃した。水晶は妖精とほぼ同じ大きさ。
それを軽々と振るうグァーネッツォの攻撃は実に効果的だ。
途端に揺らぐ妖精。
されど相手も此方に突進してくる。だが、グァーネッツォは巨獣との戦闘知識から巨大なものと戦う術を心得ていた。
寸前まで引き付け、小柄さ利用して素早く身を翻す。
其処から一気に巨大水晶を振り回せば、轟音と共に妖精が壁に叩きつけられた。水晶が崩れ落ち、妖精の身体が震える。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
それでも尚、妖精はグァーネッツォに願いを伝えるように告げた。
されど彼女は答えない。その言葉を意識することすらしなかった。魔力を纏った翅を見つめ、気合で願いを引き出す精神波にも耐える。
次は妖精を魔力ごと掴み、砕けた水晶の上にその身体を何度も叩きつけた。グァーネッツォは敢えて妖精を殺さず、そのままそれを武器として持つ。
そうなれば妖精は十メートル級の武器となり――。
「これが……これこそが、オレなりのお前達への答えだ!」
咆えるように声を張り上げたグァーネッツォは全身全霊で、全力を解き放った。
振るわれる妖精。薙ぎ払われる妖精。
このまま戦い続け、全てを滅するまでこの手は止めない。
強い思いは力となり、そして――戦いは巡ってゆく。
大成功
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花剣・耀子
そう。そうね。
あたしもおまえなんか知らないけれど。
ヒトのゆめを良いように喰う、おまえみたいな輩は嫌いなの。
ねがいごとが無いとは言わないわ。
夢や希望を棄てられるほど大人じゃない。
……――それでも、おまえには教えてやらない。
絶対に。絶対に。絶対に。……捻じ曲げられたら、浮かばれないのよ。
意識を剣へ。切っ先へ。
あたしは只、おまえたちを斃すために此処に居る。
余計なことは考えない。いつもの事よ。簡単だわ。
敵を斬り果たす時に考えていることなんて、斬ることだけだもの。
視界に入る妖精を片端から斬るわ。
おまえに応える言葉は持たない。
そこに在るなら、音だって斬るのがあたしの仕事。
空っぽのまま、砕けて散りなさい。
●冷徹なる刃
――願いを。
そして、望みを告げれば叶える。
迷宮内に現れたエリクシルの妖精達は甘言を宣い、猟兵達を誘う。きっとそれは自動的なものであり、ただ機械的に語っているだけなのだろう。
「そう。そうね」
――『この世界』は『知りません』。
そんな風に語る妖精の声を聞き、花剣・耀子(Tempest・f12822)は頭を振る。
「あたしもおまえなんか知らないけれど」
あの妖精も世界を渡ってきたのだろうか。
それとも何かの含みがある言葉なのだろうか。だが、そんなことは耀子にとっては何も関係のないことだ。
今この胸にあるのは、倒すべき相手を斬るという思いだけ。
「ヒトのゆめを良いように喰う、おまえみたいな輩は嫌いなの」
地を蹴った耀子は迷宮に犇めく水晶の上に跳躍する。相手は巨大であるが、こうして行けば距離を詰めることができる。
きっと妖精からすれば自分達などちっぽけな生き物に過ぎないのだろう。
されど、耀子は押し負ける心算などない。
ねがいごとは無い。そう言い切れるほど耀子は達観できていない。夢や希望を棄てられるほど大人でもなければ、ただそれに縋るだけの子供でもない。
「ねがいは有るわ。……――それでも、おまえには教えてやらない」
歪められて堪るか。
告げなければ、今此処で思わなければ、叶えられないならそれでいい。
耀子は心をしずめ、水晶の上を駆け抜けていく。
「絶対に。絶対に。絶対に」
――捻じ曲げられたら、浮かばれないのよ。
あの子やこれまで死してきた者達の意志も、思いも、すべて自分の中に背負う。時に揺らぐことがあっても、それだけは手放さない。
言葉にしない思いを秘め、耀子は意識を剣にだけ集中させた。
その切っ先へ、全てを込める。
そして、一気に跳躍した耀子は機械剣を振り上げた。オロチを核とする刃が激しく駆動し、妖精の身を斬り裂く。
抉るように喉元を一閃し、身を翻して違う水晶へと降り立つ耀子。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
だが、エリクシルの妖精は尚も求める言葉を紡ぎ続けた。新たな妖精が現れ、秘めたる真の欲望を暴く精神波が耀子を貫く。
痛みはない。だが、心の奥底から願いが溢れ出てきそうになった。
違う。
そうじゃない。
耀子は強く唇を噛み締め、ふたたび花嵐の力を振るう。振り下ろした刃から迸る白刃でエリクシルの妖精を穿ち、耀子は宣言する。
「あたしは只、おまえたちを斃すために此処に居る」
余計なことは考えない。
いつもの事だ。それは至極簡単で、単純なこと。
何故なら、敵を斬り果たす時に考えていることなんて斬ることだけなのだから。
斬って、斬って、只々斬り続ける。
耀子は水晶上を駆け抜け、跳躍し、視界に入った妖精を片端から斬り刻んでいく。
汝の『願い』を『叶え』ましょう。
「おまえに応える言葉は持たないわ」
何度も、何度も妖精の声が響いたが、耀子はその度に思いを奥深くに仕舞い込んだ。
そう――そこに在るならば、音だって斬るのが己の仕事。
「空っぽのまま、砕けて散りなさい」
そして、耀子は妖精の翅を斬り落とす。崩れ落ちた妖精の身が砂のように散って消えていく様を見下ろし、耀子は剣柄を強く握った。
まだ妖精は多く存在している。
されど、それらが地に落ちるまでこの足は止めないと決めていた。
全てを斬り屠る、剣鬼としての心が其処にあった。
大成功
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ライラック・エアルオウルズ
生憎と、僕は他者へ託すに値する程
大それた物を抱いては居ないんだ
――不要だよ、貴方の力添え何て
甘言に縋る他の誰かを想えば、
迅速に砕かんと《高速詠唱》
眼前とした“怪物”を貫く剣を
僕の想像から、僕が創造する
《全力魔法》も込め、威力上げて
おや、震える翅は美しくもあるけれど
何より、《見切り》易くて結構な事だね
突進の前触れと見て取れば
剣に《属性攻撃:風》混ぜて、
薙ぐ様にして風の刃を放って
軌道を逸らすか暫し足止めし、
極力確実にと《回避》を試みる
突進後の隙を逃さず突くべく、
体勢整えたなら一気に斬り込み
一度で砕くに至らずとも、
翅落とさんと狙って次に繋げよう
知らないなら、知るといい
これが『この世界』の砕く者だと
●ジャバウォックの詩
水晶の光が煌めく中、妖精の声が木霊する。
連なる水晶の合間を駆けて立ち回るライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は戦い続けていた。
増えゆく妖精の数をかぞえ、立ち向かう仲間の援護を行いながら駆け巡る。
その手には剣が握られていた。
それは妖精――否、“怪物”を貫くヴォーパルの剣。
汝の『望み』を『伝え』てください。
それは『全て』、『叶え』られます。
エリクシルの妖精は何度も何度もそういった甘言を口にしていた。だが、ライラックはそんな言葉になど耳を貸さない。
「生憎と、僕は他者へ託すに値する程、大それた物を抱いては居ないんだ」
――不要だよ。
貴方の力添えなんて、と返したライラックは己の想像力を信じる。そうすれば携えた剣は無敵となり、妖精を斬り裂く有効な一手となる。
既に仲間達の何人かは切なる思いを言葉にして、妖精の代償を受けていた。
だが、ライラックは彼らを責めたりはしない。裡に抱く思いは尊い。その願いを口にすることの何が悪いのだろうか。寧ろ、それこそが護るべきものだ。
それゆえにライラックは果敢に戦い続ける。物語を飾るのは人の想いだ。それがなければ何だってただの文字になってしまう。
だからこそ、その思いを利用する悪しき妖精は屠るのみ。ライラックは敵を迅速に砕かんとして、水晶の上から跳躍する。
想像から創造した刃はひといきにエリクシルの妖精の羽を穿った。
斬り裂かれ、揺らいだ妖精。
「おや、震える翅は美しくもあるけれど」
その姿だけを見るならば麗しい。とても綺麗な彩だが――何より見切り易くて結構な事だと告げ、ライラックは薄く口許を緩めた。
対する妖精はそのまま彼に向けて突進してくる。翅の動きが突進の前触れだと見ていたライラックは即座に踵を返し、大きな水晶の裏側に飛び降りた。
衝撃を水晶に肩代わりしてもらい、ライラックはすぐさま砕け散る欠片の合間から抜け出した。そして、剣に風の力を宿す。
魔力を混ぜて薙ぐように風刃を放てば、妖精の翅が斬り裂かれていく。
ふたたび突進してこようとしていたエリクシルの妖精は傾ぎ、がくん、とその身体が偏った。その隙を見逃さず、ライラックは一気に斬り込みに掛かる。
一度で砕くには至らずとも、これまで積み重ねた剣閃が妖精を弱らせていた。
周囲を見渡せば、次々と妖精が地に落とされている。
砂のように崩れていく他の妖精は力を失い、消えていっていた。いつしか願いを求める声も聞こえなくなっている。
きっと自分が相手取る個体がこの場に居る最後の妖精だ。
彼女達はこの世界を知らないと言っていた。ならば、この一閃で以て教えてやろう。
完全に翅を斬り落とすべく、ライラックはヴォーパルソードを掲げた。
それは怪物に致命傷を与える剣。
「知らないなら、知るといい。これが『この世界』の砕く者だと」
この刃で終わらせる。
彼が振り下ろした刃は幻想の光を纏い、そして――エリクシルの妖精が地に落ちた。
●虚空に希う
水晶の迷宮から妖精達の姿が消える。
あの巨大な存在など最初から其処にいなかったかのように、辺りには静けさが満ちていた。今はただ、水晶が穏やかに煌めいているのみ。
エリクシルの妖精達が集めた望みは果たして叶えられるのだろうか。すべては大魔王との決戦次第。だが、猟兵達は確かな希望を抱いて進んでゆく。
抱き続ける思い。敢えて振り払った懐い。未だ消えない切なる想い。
希った望み。その、行方は――。
大成功
🔵🔵🔵