アルダワ魔王戦争2-A〜妄執の果てに
●憑かれたのか憑いたのか
「これハ世キの発見ダ!」
アルダワのダンジョンの一角、地下墳墓で男の金切り声が響き渡っていた。声というにはあまりに不快なその音は、彼がすでに死者であることを聞いた者に伝えることだろう。誰かに話しかけるでもなく、しかし、彼は虚空へ叫び続ける。
「魔法ヲ得たノだ!」「シッ敗などデはなイ!」「ワたしは果タしたノだ!」「コれは天恵ダ!」
その言葉はどうも、ひとりだけのものではないようだ。男―――かつて蒸気機械による魔法の完全再現という夢を抱え、ひとり果てた技術者ニュート―――を依代に、あまたの怨霊たちがこの地下墳墓に集っている。怨霊たちの共通点はひとつ。皆、夢半ばに倒れ、そしてそれを認められないでいること。
「わタし“たち”ハ、挫折者ナどでハない!!」
夢を叶えられなかったことを悔やむあまり、現世にとどまってしまった怨霊たち。その虚勢の声は地下墳墓に反響し続けている……。
●妄執に捕らわれた怨霊たち
「さて、引き続きアルダワ魔王戦争、気を引き締めていこうじゃないか」
パラパラとページをめくりモノクルを直しながら、アメーラ・ソロモンは集った猟兵たちの前で微笑んだ。
今回、彼女が予知したのは広大なファーストダンジョンの中でも比較的浅瀬の場所、2-A『怨霊の地下墳墓』だ。敵は『狂喜の技師『ニュート』』。夢半ばに亡くなった技術者が己の命を奪った罠たちの力を得て蘇った災魔だ。
「場所柄ゆえか、厄介なことにこの災魔には怨霊が憑りついているようでねぇ。しかも皆、己の夢を叶えられず失意のまま死んでいった者たちだ。彼らは全員、自分が何も成さずに死んだとは頑なに認めない。まぁそんな強い怨念があったからこそオブリビオンにさえ憑りつけたのだろうけど」
飲み込まれないでくれよ? と冗談めかしてアメーラは笑う。
虚勢を張り続け、それを否定する者に襲い掛かる強力な災魔。ならばその強化の源となる怨霊を浄化してやればいい。強制的に浄化する力を持つ者ならばその力で無理やり浄化してやっても構わないし、力を持たないなら彼らの妄執を鎮めてそっと天に返してやってもいい。その方法は猟兵たち次第だ。
「もちろん、ニュートを倒すことも忘れずにね」
アメーラの予言書が輝き、転送を開始する。その眩い光の向こうから、妄執に捕らわれた者たちの狂喜の声が聞こえてくることだろう。
夜団子
●今回の概要
このシナリオは「戦争シナリオ」です。判定も普段と異なる戦争仕様となります。(下記を参照)
●プレイングボーナス
このシナリオには特別な「プレイングボーナス」があります。これに基づく行動をすると有利になります。
今回の条件は「怨霊を浄化したり、鎮めたりする行動」です。
怨霊を浄化しなくても攻撃は通りますが、怨霊が憑いたままのオブリビオンは強力なため手こずらせられることでしょう。(プレイングボーナスを満たさない=大成功にならない)
●判定について
夜団子の基準になりますが、上記「プレイングボーナス」を満たしたものを大成功判定とし、そうでないものを苦戦といたします。そしてその合間(悩んだもの)が成功になります。
基本的に「大成功」判定になるものだけをリプレイ化し、シナリオのクリアが難しいようであれば他のものもリプレイ化します。シナリオクリア地点で成功以下のプレイングは素早く流しますので、他のシナリオでその☆を活かしていただけたらと思います。
それでは、皆さまのプレイングをお待ちしております!
第1章 ボス戦
『狂喜の技師『ニュート』』
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POW : 私ノ炎でキ様らをクロ焦げにしてヤろウ!!!
自身に【己すら焼き尽くさんとする炎】をまとい、高速移動と【炎による焼却攻撃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : コの雷を躱スなど不カ能ダ!!!
【自身の寿命を削るレベルでの凄まじい充電】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【身体から放つ雷の一撃】で攻撃する。
WIZ : 何モかも凍リ付いテしまエぇ!!!
【自身の身体】から【自身すら凍りつかせ寿命を削る威力の冷凍波】を放ち、【凍結】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:柴一子
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「釘塚・機人」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
水鏡・怜悧
詠唱改変省略可
人格:ロキ
私も人格をプログラム化しましたが魂を移植したわけではありませんので…"かつての私"も、今頃どこかで怨霊化して何か研究しているかもしれません。可能性の話ですけどね。
さて、浄化能力はありませんが彼らの研究には興味があります
「人の身で魔法を得たのですか?素晴らしい成果ですね。私は魔銃とUDC頼りですから」
「では『次は』完全な制御、『その次は』威力強化、『さらに』他人への移植ですね」
研究に終わりなどないと理解してくれるでしょう。鎮まるかはともかく、呪縛は嫌うはずです
「こんな何もないところでは研究も出来ませんよ、私が次の場所へ案内しましょう」
呪と炎の触手で、葬送しましょう
「これは素晴らしい」
ぱち、ぱちと小さな拍手の音が響く。ニュートたちの哄笑に掻き消えてしまいそうなそれは不思議と存在感を放ち、狂った魂たちの目を引き付けた。ゆらり、とヒトらしからぬ動きでこちらを向いたニュートに、恐れることなく水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)―――否、ロキは、微笑みかけた。
「みなさんと私はどこか似たものを感じます。私も人格をプログラム化こそしましたが、魂を移植したわけではありませんので……"かつての私"も、今頃どこかで怨霊化して何か研究しているかもしれません。可能性の話ですけどね」
肉体を越えた執念とも呼べるもの。それは欲望なのか好奇心なのか、はたまた後悔の産物か。それもなかなか興味深いが、ロキにとってはむしろニュートたちの成した研究の方が心惹かれるものであった。
「すば、ラしいダろう!? そうデあろウ!?」
「人の身で魔法を得たのですか? ええ、素晴らしい成果ですね。私は魔銃とUDC頼りですから……」
「ふフ、見るメがあルな! トく別に、ワたしの魔法ヲ、見せテやろウ!」
ロキの言葉にとびきりの笑顔を浮かべたニュートは、その両の腕を振り上げた。そこに生まれるは氷塊。それはまごうことなき魔法であった。
しかし、その制御は十分とはいえない。
「くっ……!」
ニュートから放たれた冷凍波がロキの体を蝕む。ぴきぴきと音を立てて、足元が凍り付いた。吐かれる息は白く、指先が凍えるように震える。
「ははハはハ! 声モ、出なイだろウ!」
凍り付くのはロキだけじゃない。狂喜するニュートの体もだ。しかし彼にそれを気にするそぶりはなく、ただただ己のその『素晴らしい成果』を誇示し続ける。まるで、親に見つけたものを自慢する子どものように。
「……では次は?」
「……つ、ギ?」
ロキは震える唇で言葉を紡ぐ。その言葉にニュートは耳を傾け哄笑を止めた。不思議そうに首を傾け、前髪の奥の瞳がじぃとロキを見つめている。
「ええ……研究に終わりなどありません。『次は』完全な制御、『その次は』威力強化、『さらに』他人への移植ですね」
懐からハンドガンサイズの銃型魔導兵器、オムニバスを取り出す。寒さに凍えながら、その銃口を足元に向け引き金を引いた。
「私の成果もお見せしましょう。―――触手ちゃんはこういうことも出来るんですよ?」
撃ち出された銃弾は触手へと変わり、その足元から自由に蠢き始める。込められた属性は呪と炎。炎の触手が冷凍波を打ち消し、凍り付いたロキの足元を溶かした。
「こんな何もないところでは研究も出来ませんよ、私が次の場所へ案内しましょう」
「ツ、ぎ…………ウッ!!」
うわごとのように繰り返したニュートが突然苦しみ始める。悶えるその体から仄暗い煙のようなものが浮き上がり、ぶわりと抜け出でた。
「どうやら、私の言葉に共感した者がいたようですね。呪縛は嫌でしょう?」
ぶわりぶわりといくつかの魂がニュートの体から飛び出し、天を目指して昇っていった。鎮められたかはともかくとしても、『次』を意識できたのならもう問題ないだろう。願わくば、来世で偉大な研究者となってほしい。
「さて……流石にまだまだのようですね」
ニュートの体を触手で打ち付けながら呟く。まだまだ毒抜きは必要らしい。次の一手を考えながら、ロキはひとり微笑んでいた。
大成功
🔵🔵🔵
ラリー・マーレイ
剣を構えて対峙する。
敵の能力も強力だけど、怨霊達がついてたら勝ち目が無いよ。何とかしないと。
夢が叶わず終わる恐さは僕にも想像出来るよ。何も成し遂げられなくても後悔しないつもりではいるけど、それを人に説くには僕は若くて未熟すぎる。
だから術を使う。
【氷風の呪文】を【高速詠唱】。戦場を冷気が舞う。
時間の川に流れる不純物を凍結し浄化する氷風。
肉体を持たない狂気の魂は凍り付いて過去に取り残され消滅する。
同時に、世界法則を無視した異能も凍結、浄化。敵の纏う炎を消滅させる。
物理ダメージを与えるUCじゃない。だけどこれで条件は同じだ。
未熟な自分を【勇気】で鼓舞し、長剣に【気合い】を込めて全力で切り裂くよ。
(敵の能力も強力だけど、怨霊達がついてたら勝ち目が無い……何とかしないと)
油断なく剣を構え、ラリー・マーレイ(少年冒険者・f15107)はニュートたちへジリジリと距離を詰めていく。
夢が叶わずに一度きりの人生が終わってしまう恐ろしさは、ラリーにも想像ができる。それは、ラリーにも勇者になるという夢があるからだ。夢を指針に生きている者にとって、道半ばで力尽きることはどれだけ虚しいことだろう。どれだけ悔しいことだろう。
(何も成し遂げられなくても後悔しないつもりではいるけど……)
それを彼らに説くには、ラリーはまだ若く未熟で的確な言葉を持たなかった。だからこそ、剣で、術で、片をつける。
「おマえも、わたシたちヲ否定スるのか?」
前髪の間から覗く瞳が、ジィとラリーを見据える。それはラリーの言葉を心待ちにしているようにも、敵を見定めようとしているようにも見える。そしてきっと、ニュートだけじゃない、たくさんの視線を感じるのも、ラリーの気のせいではないだろう。
「否定は、しない。ただ肯定する気もないよ」
ニュートはその言葉を敵意と捉えたようだ。突き刺さるような憎悪、それもニュートひとりではなく彼が宿すたくさんの怨霊たちから放たれるそれが、ラリーへと一斉に向けられる。その重く苦しい強圧に、ラリーは息を飲みながらも後ずさることはなかった。
「認メなイのなラ……そノ身に刻んデ教エてやろウ!! 私たチは、確カに! 成しタのだ!」
慟哭のようなその金切り声と共に、紅蓮の炎がニュートの全身へ纏わりつく。ニュートのその身さえ焼きながら燃え上がるその炎は、轟々と音を立てて一直線にラリーへと襲い掛かった!
「ダールアリフラー・ターザンメ!」
対するラリーは恐れず慌てず、素早く氷風の呪文を詠唱した。呪文に呼応しラリーの剣先より冷気の嵐が吹き荒れる。
戦場を舞うその冷気は、時間の川に流れる不純物を凍結し浄化する氷風。正常な時間から逸脱した狂気の魂は、過去に取り残される浄化の対象だ。
ニュートの肉体にしがみつく魂にはその効果を及ぼすことができないが、ニュート一人の肉体には限界がある。はみ出、こぼれた魂が、世界法則を無視する炎と共に浄化され消滅させられていき、その力は大きく減退した。
「ッわた、シの炎、がァッ!?」
「これで条件は同じだ。悪いけど、斬らせてもらうよ!」
完全な除霊化とまではいかないが、怨霊の数は大きく減らすことができた。ならばとラリーは己の中の勇気を掻き立て、自らを鼓舞して強く地面を蹴った。手に馴染む長剣に気合をこめて、振りかぶる。炎を失ったニュートにそれを阻む力はない。
「が、ァッ!!」
長剣を薙ぎ払い、それをもろに食らったニュートが大きく後ずさった。すかさず剣を返しもう一撃振るうも、それはぎりぎりで躱され距離を取られる。ラリーは油断なく剣を構えなおしながらニュートとまた向かい合い、踏み込む次のタイミングを見計らっていた。
大成功
🔵🔵🔵
神楽・鈴音
※他猟兵との共闘可
「怨霊を浄化?そういうのは、神職に任せておけばいいのよ
即席の神棚を用意し、怨霊の無念を汲んだ上で『努力と才能の神』として祀り上げる
こういうのを御霊信仰っていうの
悪霊のパワーは封じ込めるんじゃなくて、おだてて利用するものよ
【祈り】を捧げることに集中している間はUCの効果で無敵のはず
攻撃されたところで、相手の寿命が減るだけだしね
怨霊が浄化されたら反撃開始
相手のユーベルコードの発動に合わせて、賽銭箱ハンマーを【怪力】で【投擲】
雷をハンマーに引き付けて、攻防一体のハンマー投げよ!
「避けるのが不可能な雷なら、金属に誘導すればいいのよ!自分の雷と私の賽銭箱、両方纏めて持って行くといいわ!
イリーツァ・ウーツェ
怨霊か
私は何故か、霊の類が見えない
触れもしない
オブリビオン化すれば見えるのだが
とは云え、
此度はオブリビオンに憑いて居る様子
為らば、奴を狙えば良い
UCを使い、破魔属性で攻撃
浄化の炎で灼く
暫く炙れば、"毒抜き"も終わるだろう
纏う炎には、杖で水を生成
全力魔法で大水球をぶつける
矢鱈と暴れられても困る
手足を砕き、蟲の餌にしようか
「……怨霊か」
敵を視認したイリーツァ・ウーツェ(虚儀の竜・f14324)はその眉をギュッと寄せた。常に無表情なイリーツァが眉を寄せると、その表情は怒りを表すように見えるがイリーツァに敵に対する怒りも敵意も大してありはしない。敵はただ殺す―――それが敵であるという事実だけが重要なことであり、そこに意味も感情も無用だ。
「あら、視えるの?」
ニュートを薄目で凝視するイリーツァの隣に小柄な巫女服の少女がやってきた。賽銭箱に棒を突き刺して作った賽銭箱ハンマーを肩に、神楽・鈴音(歩く賽銭箱ハンマー・f11259)はしゃんしゃんと鈴の音を鳴らしてイリーツァへ並ぶ。どっこいしょ、とそれを下ろしてなにやら作り始めた彼女を、イリーツァはちらりと横目で見、問いに答えた。
「……いえ。私は何故か、霊の類が見えません。触れもしない」
オブリビオン化すれば見えるのですが、とこぼしつつイリーツァは懐の杖を抜いた。竜宮の柩杖と呼ばれる、水を操る鋼杖。その先から水が生成され、イリーツァの膨大な魔素を喰らって大水球へと成長した。
放たれる大水球、それが受け止めたのは轟々と燃える炎だった。
「うわっ、あっついわね! 煙い煙い!」
炎を大水球が受け止めたことで水蒸気が周囲に生じる。怨霊の溜まり場と化したニュートがこちらに気が付き、先制攻撃とばかりに炎を放ってきたのだ。遠くから値踏みされる視線が気に障ったのか、イリーツァと鈴音から明らかな敵意を感じたからか、ニュートたちは既にイリーツァたちを敵視しているようだ。
広がった水蒸気をぱたぱたと仰ぎながら、鈴音は作っていた即席の神棚を完成させた。その前に座り、巫女らしく祈りの体勢に入りつつ口を開く。
「ま、そういうのは神職に任せておけばいいのよ。悪霊のパワーは封じ込めるんじゃなくて、おだてて利用するものよ」
怨霊の無念を汲んだ上で『努力と才能の神』として祀り上げる。ものはいいようだが、確かに妄執にしがみついている怨霊たちは『努力する力と才能に溢れていた者の魂』と言い換えられなくもない。悪霊として暴れられるくらいなら、神様として祀り上げて祟りを起こさせない、という御霊信仰は、UDCアースの日本においても、サムライエンパイアにおいても根強い。
「私が祀り上げておくから、あなたはニュート本人を叩いておいて。視えなくたって、オブリビオンはぶちのめせるでしょ?」
「解りました、そちらはお任せします」
神棚に祈りを捧げ集中し始めた鈴音を背に、イリーツァは竜の翼を広げて飛び立った。向かう先はもちろんニュートのもと。
(……肉体がオブリビオンなら奴を狙えば良い、か。暫く炙れば、"毒抜き"も早く終わるだろう)
考えを巡らし、イリーツァはすぅ、と息を吸い込む。炎を纏うニュートが反応するより前に、口腔内の波動を思う存分打ち放った。
――――――――――――ッッッ!!!!!
「あ、あアあアアア゛ッッ!?」
己の炎に焼かれながら竜吼の炎にも焼かれ、ニュートは濁った悲鳴を上げていた。その体からはぽこぽこと霊魂が飛び出し、鈴音の神棚へと吸い込まれていく。怨霊を失えば失うほどその力は弱まり、イリーツァの破魔の炎に焼かれていくのみ。
「……矢鱈と暴れられても困る。手足を砕き、蟲の餌にしようか」
竜の猛攻を受け、金切り声を上げながら悶えるニュートに蟲型の偽神兵器が襲い掛かる。悪食なそれはニュートの体を食い散らかさんとまとわりついた。
「う、あアああアああ!! 寄ルな! やめロ! この……ッわたシの雷を喰ラえッ!!」
苦悶の声をあげながら超充電を始めたニュートに、蜘蛛の子を散らすように蟲が散る。体を削るその電撃を、ニュートは迷いなくイリーツァへ向けた。
「コの雷を躱スなど不カ能ダ!!!」
一直線に放たれる雷。それは一瞬の迷いもなくイリーツァへ、彼を黒焦げにせんと迫っていく―――!
「!」
しかしその直前で、雷の向きが横へと歪んだ。後ろから飛来した金属体に、それが引きつけられたのだ。
「避けるのが不可能な雷なら、金属に誘導すればいいのよ!」
ぶん投げられたのは鈴の飾られた賽銭箱ハンマー。祈りと浄化を終えた鈴音は、ふふんと胸を張って宙を舞うそれを指さした。雷があたり電撃を纏った賽銭箱ハンマーは、雷を撃ち放った当人へと回転しながら迫りゆく。
「自分の雷と私の賽銭箱、両方纏めて持って行くといいわ!」
ドゴォンッ!! バチィッ!!
重いものがぶつかる音に、弾ける炸裂音。並大抵の人間であれば潰された上に黒焦げになったであろう一撃だ。怨霊もできうる限り祓い、依り代であるニュートは再起不能なまでに叩き潰した。
流石に倒されただろう。イリーツァも鈴音もそう思った瞬間。
「…………ま、ダだ……わ、タし、たち、は……」
「……嘘でしょ? その体でまだ動くわけ?」
手足が砕け、焼け焦げた体。重いそれをズルズルと引きずりながらニュートは笑う。狂喜の技師は、痛みも忘れてまだ笑い続けていた。
その異常な様に鈴音は顔を引きつらせ高級霊符を数枚取り出し、その場で構える。
(……これが妄執、か)
己にないその感情を、それでもなお無感動に見下ろしながらイリーツァは杖を握りなおした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リオ・ウィンディア
そう、道半ばだったのね…
それはさぞ悔しかろうに
だからこそ、怨霊も共感するのね
生まれ変われるから、私には関係ない
とは思わないわ
一つの体、一つの人生、一体どれだけのことができようか
いったいどれだけのことを成せるだろうか
いつだって全力よ
だからこそ、それが叶わなかった人生は悔しい思いが残るわね
特に愛する家族を残してしまった者の想いは…
はぁ、感傷に浸っている場合ではないわね
言葉では表現できない
だから私はこれを使う【楽器演奏】そして【歌唱】
あなたの【呪詛】を汲み取ってそれを音楽にて昇華させましょう
認められなかったという思いを認めて歌にしましょう
心の隙間を埋めるべく
癒しの音楽を届けましょう
どうか安らかに
西条・霧華
「私達は想いを繋いで生きているんです。」
声に【破魔】の力を宿しつつ【優しさ】を籠めて怨念やニュートに話しかけます
そうですね
あなた方は挫折者なんかじゃありません
死して尚、諦めないその想い…
『先駆者』たるあなた方が抱いたその強い信念が、今を生きる私達にも受け継がれています
想いを受け継ぎ積み重ねる事で何時か叶えられる
私はそう信じます
だから安心して、私達に託して下さい
そして私は守護者の【覚悟】を以て、彼らの想いを護ります
【残像】を纏って眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『君影之華』
相手の攻撃は【見切り】、【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止め【カウンター】
「そう、道半ばだったのね……」
黒焦げた体に、先のない四肢。それでもなお立ち上がり猟兵たちへ向かおうとするニュートを、リオ・ウィンディア(Cementerio Cantante・f24250)は悲し気に見下ろしていた。
「それはさぞ悔しかろうに……だからこそ、怨霊も共感するのね」
その体を動かしているのはニュート自身か、未だこの世にしがみつく怨霊たちか。どちらにせよその常軌を逸した執念が彼の体を動かしていることに変わりはない。そしてその心境に、その痛みに、少しの共感を覚えてしまう。
「……なにか、覚えが?」
そんな彼女の様子を、気遣うように西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は問いかけた。優しいその声色に、リオは微笑み返して小さくうなずいた。
「私は、宿世を廻ることができる。でも、生まれ変われるから私には関係ない……とは思わないわ。一つの体、一つの人生。一体どれだけのことができようか、いったいどれだけのことを成せるだろうか……。私も、いつだって全力よ」
その小さな自分の体をそっと抱きしめ、リオは憂いの視線を揺らした。何度生まれ変わろうとも、かつて成せなかったことへの後悔は消えることがない。癒されることはあっても、なかったことになどできるはずがないのだ。
それを、リオはよく知っている。
「だからこそ、それが叶わなかった人生は悔しい思いが残るわね……。特に、愛する家族を残してしまった者の想いは……」
そこで言葉を切り、硬く唇を結ぶ。その唇が緩んだ時、漏れ出たのはため息だった。
「はぁ、感傷に浸っている場合ではないわね……」
「いえ、リオさんのその想いがなければ、彼らは倒せないと思います」
霧華の言葉にリオは弾かれたように顔を上げた。ぱちぱちと瞬くリオに霧華は変わらず微笑みかけている。
「私達は想いを繋いで生きているんです。リオさんのように転生ができなくとも、私たちは繋がって、受け継いで、生きています。だから、リオさんの共感が彼らを解放する手がかりになると思うのです」
霧華の視線がニュートたちへ向けられる。それにつられてリオも顔を上げた。
ずるずると体を引きずりながら金切り声を上げる彼ら。その姿は、ひどく『否定』を恐れているように思われた。それならば、私たちがいまするべきことは、きっと。
「……言葉では表現できないわ。だから私は、これを使う」
リオが取り出したのは手巻きオルガン。癒しの歌は、リオにとって最も得意な音楽のひとつだ。
「言葉は、あなたが伝えて」
リオの言葉にうなずき、霧華はニュートへと歩み始める。霧華が近づいていることに気が付いたか、ニュートはヒュゥヒュゥと声にならない音を漏らしながら、冷凍波を放った。
霧華の体が、パキパキと音を立てて凍っていく。しかし、リオの美しい癒しの旋律が、その氷を固まったそばから溶かしていった。リオの歌に背中を押され、霧華は進む。
「ち、ガう……チがう、ちがウ!! わたシは、ワたしたチは、成シたのダ……挫ケてなド、いない!!」
冷凍波が効いていないことに錯乱したか、黒焦げでありながらニュートはその身に炎を纏った。襲い掛かる熱気を、守護者は臆することなく刀とその身で受け止める。
「ええ、そうですね。あなた方は挫折者なんかじゃありません」
その言葉に優しさと覚悟を込めて。霧華はニュートたちへと語り掛けた。
「死して尚、諦めないその想い……『先駆者』たるあなた方が抱いたその強い信念が、今を生きる私達にも受け継がれています」
炎の勢いが少しだけ弱まる。炎の向こう側から突き刺すように投げかけられていた憎悪の視線が、和らいでいく。言葉はちゃんと届いているのだ。その確信を胸に、霧華は言葉を紡ぎ続けた。
「……想いを受け継ぎ積み重ねる事で何時か叶えられる。私はそう信じます」
フッ、と霧華の姿が立ち消える。まるで陽炎のように、残像を残して霧華はニュートへ疾走した。
霧華がニュートの目の前に現れたとき、ニュートの動きがピクリと止まった。突然現れた彼女に反応できなかったからか、それとも彼女の言葉になにかを感じたからか。それは、猟兵たちにはわかる由もない。
「……だから安心して、私達に託して下さい」
籠釣瓶妙法村正を一度収め、即座に打ち放つ。真正面からニュートを薙いだその一撃はその肉体ではなく、彼らを支配し狂わせる妄執だけを断ち斬った。
「わた、し、たち、は…………」
その声にはもう、狂喜の色は残っていなかった。表情から狂った笑顔は消え、安らぎを得たように、力が抜けていく。妄執を斬られたニュートと怨霊の心の隙間を埋めるように、リオの安らぎの歌が染みわたっていった。ぼろぼろの肉体は綻び、きらきらとした光の粒となってその形を失った。
妄執の果てに災魔となり、死してなおこの世に留まり続けた嘆きの魂たちは、何人もの猟兵たちの力で討ち取られた。その最期の表情に無念の色は存在しない。
「……どうか安らかに」
天へと昇っていく光の粒を霧華と並んで見送りながら、リオはぽつりとそう呟いた。
大成功
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