雨に唄うは曝れ頭
#サクラミラージュ
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●されこうべの噂
ねえ、知ってる? あの噂。
噂ってあれでしょ。髑髏(しゃれこうべ)の。
そう、裏山で見つかるっていう髑髏の噂。また、見た人が出たんだって。
昔からある噂だけれど、最近少し違ってきているみたいなんだってね。
そうなの? 誰とも知れぬ髑髏が、雨の日に見つかるってだけではないの?
ううん、私が聞いた噂ではね――大切な人の死に顔が見えるのですって――。
しとしとと哀しげに雨が降る誰そ彼時に、そこへ行ってはいけないよ。
雨が唄う音を、聞いてはいけないよ。
しとしと鳴く音が、たんたんと唄うようになったら、きっと貴方は見てしまう。
誰のものとも知らぬ、されこうべを。
そこに、大切な誰かの死に顔を――。
●尾鰭のいざない
噂話というものは、変じていくもの。人の間を漂う間に、尾鰭がついたりして。
執事人形の腕のなかに収まった雅楽代・真珠(水中花・f12752)は、自身の尾鰭を揺らして見せてから、集った猟兵たちへと視線を向ける。
「お前たちは、噂話は信じる方?」
そうして人魚が口にするのは、とある温泉街で流れている噂話。旅館のある裏山で、雨の誰そ彼時に髑髏が見つかるという、そんなどこにでもありそうな噂話。その温泉宿の裏山は、昔は山賊が居ただの、大きな戦に敗れた者たちが隠れ住んでいたなどの謂れがあり、嘗てそこに居た者たちの髑髏が今でも見つかる――というものだった。そうした噂を耳にして、肝試しをしようと気になるあの子を誘ったり、真相を暴いてやろうと裏山へ入る者たちは、どれだけ時が移ろうと絶えることはない。
けれど暫く前から、その噂が変化した。
ただ髑髏が見つかる、というだけのもだったはずが、その髑髏が大切な人の死に顔に見える、というものに変わったのだ。気付いた者は少ない。大抵は前からそうではなかったかと首を傾げる。噂話とはそういうものだ。
「これには、理由がある。元々そこにあった怪異が変化したんだ」
雨の誰そ彼時に現れる髑髏。それに惹かれた何かが、来た。
気付いた猟兵が小さく息を飲み、「影朧だ」と口にする。察しの良い猟兵に、真珠は満足気に淡く笑みを浮かべて首肯する。
「影朧は不安定なオブリビオンだから、すぐに危害を及ぼしたりしない者も居る。この影朧も、今はただそこに居るだけなのだろうね」
けれど、オブリビオンはただそこに居るだけで『世界の崩壊』へと繋がるのだ。
死に顔が見える噂のある温泉宿など、噂が広がれば経営も厳しくなることだろう。温泉街に住む者たちは、職も失うこととなる。職を失っても、他所で働けるならまだいい。何らかの理由があって他所では働けぬ者は、一家心中を図るかも知れない。
「倒しておいで、お前たち。その影朧が居なくなれば、怪異も元の可愛いものに戻るからね」
そこに住まう人々のためにも、行っておいで。
「ああ、そうそう。怪異が起こるのは誰そ彼時。それまでは温泉をのんびりと楽しむといいよ。――僕が案内する温泉だよ? 効能は期待してくれていい」
人魚の掌の上に蓮がふわりと浮かび上がり、蓮の上に金魚が泳げば、大正浪漫の世界への”門”が開かれる。
じゃぁね。サクラミラージュ風の着物の袖が、ひらり、振られた。
壱花
猫の日には猫シナリオを!と温めていたのですがアルダワがあんなことになるなんて……あんまりなのダワ。ということで違うのを出すことにしました、壱花です。
マスターページとTwitterに受付や締切が書かれます。また、ご連絡等があることもありますので、プレイング送信前に参照頂けますと幸いです。
●第一章:日常『桜舞う温泉街でのひととき』
時間帯は朝~昼間。天気は晴天。
詳細は導入部を参照ください。
【第一章のプレイング受付は、2/24(月)朝8:31~でお願いします】
●第二章:冒険『誰そ彼の骨』
同行【2名】まで。第一章でそれ以上の人数で来て頂いていた場合はグループ分けをお願いします。
時間帯は誰そ彼時。青が広がっていた空は曇天に覆われ、誰そ彼と尋ねねば山の中で人の顔の確認は難しいです。
温泉宿の裏山を調査に来た猟兵達は髑髏を見つけます。誰そ彼と問うても物言わぬ髑髏。それは誰のものなのかと近付けば、髑髏だと思っていた物に肉が付き――貴方はその顔を知っている。そう、それは、『貴方の大切な人の生首』だったのです。
それは、誰の首でしょうか? 家族? 友人? 愛する人?
その首はどんな状態で事切れているのでしょう。傷だらけ? 苦しんで? 安らかに?
その首を見て、貴方は何を想うのでしょう。どうするのでしょう。
けれどそれは貴方の記憶や想いが呼び起こしたもの。未来を映すような真実ではありません。過去の幻想、もしくは思い描いた結末です。
全ては、ただの怪異。時が経てば生首は虚ろな穴が空いた髑髏へ戻り、そして跡形もなく消えることでしょう。
※同行者以外の方の名前描写はされません。
●第三章:ボス戦『花時雨の菖蒲鬼』
純戦です。
彼もまた、怪異に喚ばれた一人にすぎません。
●お願い
同行者さんがいる場合は【迷子除けのお呪い】等をお願いします。詳しくはマスターページを参照ください。
受付期間外のプレイングは全て流れますが、受付期間中の再送はして頂いて大丈夫です。
どの章からでも、気軽にご参加いただけるとうれしいです。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
第1章 日常
『桜舞う温泉街でのひととき』
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POW : 飲食店や、お土産屋がある通りを散策する。
SPD : 湯畑を見たり、屋形船に乗る。
WIZ : 温泉に入ったり、手湯や足湯を楽しむ。
イラスト:菱伊
👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ななつ花の湯
ひととせずうっと咲き続ける幻朧桜の花弁に混ざる、紅と白の梅の花。
甘い香りを放つ木々があっても、温泉地は特有の香りが尽きぬもの。けれどこの地の温泉街は、どうやらそれよりも甘い花の香りが色濃く目立っていた。
ノスタルジックな情緒に溢れる温泉街のあちこちに見える足湯。どの温泉街でも見られるものだが、この温泉街では、そこに花が浮かんでいた。温かな湯の上にぷかぷかと浮かび、そして少しずつほろりと崩れて消えていく。
あれは何かと尋ねれば、気の好い湯治客が「湯の花だよ」と教えてくれることだろう。
一般的に湯の花と言われるものは、温泉の不溶性成分が析出・沈殿したものである。乾燥させ、入浴剤として土産物屋で扱っているところもあるが、この温泉街では異なる様子。
湯の花はそれぞれ花の形をしていて、色は七色。普通の湯の花とは違う、甘い花々の香りを漂わせている。意味を気にせず使用する客も多いが、それぞれの花言葉通りの意味があり、一緒に浸かる人への思いとともに浮かべれば縁や絆が深まると言われている。
赤のガザニアは『あなたを誇りに思う』。
橙のカランコエは『いつまでも続く喜び』。
黄のオウバイは『期待』。
緑のピンポンマムは『君を愛す』。
青のネモフィラは『あなたを許す』。
藍の睡蓮は『信頼』。
紫の乙女桔梗は『感謝』。
温泉街にはところどころに足湯があり、近所の売店で売られている『七花あいすくりん』を食べながら足を休めることが出来る。アイスクリームも矢張り全部で七色。湯の花と同じ花に似た色のクリームに、花の形のチョコレートを纏わせた、花束のようなアイスクリームだ。
肩まで浸かれる温泉は、『七花温泉旅館』にて。大浴場は当然男女別ではあるが、幻朧桜と梅の樹を楽しめる露天風呂や一名~二名で入れる瓶風呂等がある。また旅館内には、湯浴み着の着用が義務付けられてはいるが、異性とも入れる家族風呂もある。仕事後に冷えた身体を温めても良いだろう。
足湯も温泉も、浮かべられる『湯の花』はニ種類まで。それ以上は香りや色が混ざりすぎ、のんびりと楽しめなくなるようだ。
ななつ花咲く、七花温泉郷。
想いを湯に浮かべ、穏やかなひとときを。
カイム・クローバー
悟郎(f19225)と共に。
戦争の疲れを癒す為に温泉街へと。所謂、『お疲れ様でした会』ってやつだな。
足湯に浸りながら日本酒と甘味で一息付くぜ。噂の七花あいすくりんってのを頼む。色は紫色を。
湯にも湯の花を入れたいモンだ。二種類だから俺と悟郎で一種類ずつイケるな。
俺が選ぶのは藍色の花。『信頼』。悟郎のサポートのお陰で非常にラクに戦えた。背中を預けた感想としては月並みかも知れねーが…サンキューな。
日本酒を持って悟郎に注ごう。入れ終わったら猟兵の勝利と仕事の成功、美しきこの場所に、乾杯だ!
悟郎は甘党か?…とりあえず、甘味を片端から注文するぜ。
甘味全制覇を目指す、手伝ってくれ!日本酒も多めに頼む。
薬師神・悟郎
カイム(f08018)と
戦争の疲れを癒す為、足湯でのんびり寛ぐ
七花あいすくりんと日本酒を頼み、贅沢な時間を過ごす
湯の花のことを聞けば、折角だし入れようと大賛成
俺がカイムを思って選んだのは赤のガザニア
意味は『あなたを誇りに思う』だったか
頼りになる俺の自慢の友人にぴったりの言葉だ
強敵を相手に立ち向かう勇ましいカイムの姿、それにどれだけ勇気付けられたことか
礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう
勝利を祝って乾杯!
カイムの杯が空になればこちらからも積極的に注ぐ
まだまだ飲めるだろう?
甘味は好きだ。カイムも一緒にどうだ?沢山頼もう
どんどんもって来てくれ!
カイムには遠慮なくとことん付き合ってもらうからな
●
万年桜が咲く世界ではない蒸気と魔法の世界で大きな戦いがあったのは、つい先日のこと。世界のためにとダンジョン攻略に勤しんだ多くの猟兵たちは疲れを癒やすべく、また一時羽根を伸ばすためにもこの温泉街へと訪れていた。
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)と薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)の二人も例外ではなく、所謂『お疲れさまでした会』をしに温泉街へと訪れ、そして足湯へと素足を下ろしていた。
日々身体を支えるだけではなく、戦場を駆けに駆けた足には披露が蓄積されている。温かな湯へと浸せば、じんわりと筋肉が解されていく。
二人が足を浸す足湯があるのは、茶屋の前。『七花あいすくりん』ののぼりに惹かれて近寄れば、店の前にある足湯に目が行って。そこならば注文しながら足湯に浸かれると二人は腰を落ち着けたのだった。
「俺は紫のにする。悟郎は?」
「俺は赤のにしよう。湯の花も同じものを」
赤のカザニアの『あなたを誇りに思う』。傍らの友人への気持ちにぴったりの言葉だ。悟郎にとってのカイムは頼りになる自慢の友人。強敵を相手にしても怯むこと無く、勇ましく立ち向かうカイムの姿に悟郎は幾度も勇気付けられてきた。そんな彼の傍らに居られることも、誇らしいと思える。
「湯の花か……俺は藍色の花にしよう。それから――」
「熱燗二つ、だろう?」
カイムが店員に注文する前に言葉を攫った悟郎に、よくわかっているなと笑みを向ける。そんなカイムが選んだ藍色の花――睡蓮は『信頼』だ。
「悟郎のサポートのお陰で非常にラクに戦えた」
「俺だってカイムの姿にどれだけ勇気付けられたことか」
「背中を預けた感想としては月並みかも知れねーが……サンキューな」
「礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう」
二人で言葉を交わし、笑みを交わし、足湯に湯の花を浮かべる。
ぷかりと浮かんだ花はゆっくりと溶け、二人が篭めた気持ちも穏やかにお湯へと溶けていく。
熱燗もあいすくりんもすぐに二人の元へと届けられ、早速二人は互いのお猪口へ酒を注ぎ合う。温かな足湯に、涼し気な風。そして傍らには気心の知れた友と、甘味と酒。互いにお猪口を手にした二人はニッと笑みを交わして――。
「猟兵の勝利と仕事の成功、美しきこの場所に、乾杯!」
「乾杯!」
軽く持ち上げて、それからぐいっと一気に酒を喉へと流し込めが、熱さが喉を流れ落ちて肚に溜まる。
「は~、極楽だ」
思わず幸せそうに言葉を零したカイムの手には、日本酒と紫色の七花あいすくりん。可愛らしく乙女桔梗のチョコレートが咲くアイスをひとくち食べ、そして悟郎が「まだまだ飲めるだろう?」と継ぎ足してくれた日本酒をちびりとやる。
「悟郎は甘党か?」
「甘味は好きだ」
ゆっくりとカイムがあいすくりんを味わっている間にぱくぱくと早々に食べきってしまった悟郎が次は何を食べようかと品書きを見るのを見て、カイムは首を傾げた。
「カイムも一緒にどうだ?」
「そうだな、甘味全制覇を目指そうぜ! 手伝ってくれよな」
「こちらこそ、遠慮なくとことん付き合ってもらうからな」
「――お姉さん、片っ端から全部持ってきてくれ!」
「どんどん持ってきてくれ!」
「はいはい、ただいまっ」
調子よく店員の女性へと声を掛ければ、明るい声が返ってくる。
青空の下、二人の青年は甘味と酒と足湯を存分に堪能するのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フォーリー・セビキウス
噂には興味ない。とはいえ情報としては一応聞いておく。
非現実的な伝説も真実から始まると、某女史が言っていたしな。
裏山の骸骨か。人気の無さそうな山だし、遺体の1つや2つ埋まっててもおかしくはないだろうが…然し、誰かの死顔に見えるとはな。怪異にしては趣味が良い。
尤も、そんな相手など居ないが。
売店で焼鳥なんかの肴と酒を買い、のんびりと呑みながら通りを散策
土産屋にふらりと入れば知り合いの女共には良さげな髪飾りや簪、装飾品なんかを
男共には食べ物を適当に買っていく
ついでにまぁ、話でもして情報を集める等しよう。
これ以上何かあるかはわからんが…なに、慰安旅行とでも思って楽しむとするさ。
●
茶屋へとふらりと顔を見せたフォーリー・セビキウス(過日に哭く・f02471)は、焼き鳥や牛串などの食べ歩きが可能な軽食が書かれた品書きを見ながら、そういえばと店員に声を掛けた。
噂には興味はない。とはいえ、情報として得ていても損はない。それに、
(非現実的な伝説も真実から始まると、某女史が言っていたしな)
「噂、ですか? 裏山の髑髏の噂、お客さんの耳にも入っちゃいましたか?」
愛嬌のある笑顔を浮かべていた茶屋の娘がぱちぱちと目を瞬いて、話していいのかなぁなんて逡巡する。
「人気の無さそうな山にはそういった話はどこにでもありそうだがな」
「ですよね! ここで流れている噂も、似たようなものですよ」
誰かの死に顔が見えるという噂を、娘はただの噂ですけどと前置いて、ひっそりと声を顰めて口にした。内容は案内をしたグリモア猟兵が話していたことと変わらない。
けれど。
「でも、見た人が結構居るみたいなんですよね。髑髏だと思ったら生首だったーっとか。――あ、焼き鳥とお酒ですね」
そんな怖い所、わざわざ見に行こうとする人の気が知れない。実際に見に行ってはいないらしい娘は代金と引き換えに焼き鳥と酒をフォーリーへと手渡し、良い一日をと見送った。
酒と、肴の焼き鳥を手に、漫ろ歩く。
誰かの死に顔が見える噂は確かに流れていた。怪異にしては趣味が良いと喉奥で浮かんだ笑みを酒で流し込む。
(大切な相手、か――)
そんな相手、思い浮かびはしなかった。
春にはまだ早いこの時期は、温泉街とは言え少し肌寒い。けれど酒が喉を通り過ぎれば胃は熱を覚え、青空が広がる下の散策は心地好い。
通りの土産物屋を冷やかして廻り、ちりめんの髪飾りや和小物を見つければ幾つか女性の顔を思い浮かべて購入し、女性だけへのお土産では男どもがうるさかろうと適当に食べ物も見繕う。日持ちしそうな、花の焼印が押された温泉饅頭くらいだが。
「好い人への贈り物ですか?」
「――そんなようなものだ」
そんな相手など居ないけれど。
「でしたら湯の花もおすすめですよ」
確か効能も良いと聞いていた気がする。折角だからと装飾品のついでに七色の湯の花を購入し、店を後にする。
(稀には悪くもないだろう)
慰安旅行とでも思って楽しむとするさ。
酒と肴を買い足して、フォーリーはひとり、ぶらりと温泉街を堪能した。
大成功
🔵🔵🔵
榛名・深冬
♢♡
ドラゴンランスの燈とまったり
思い出全て電脳眼鏡型ゴーグルで写真いっぱい撮る
お湯に浮いてる花…とても綺麗でしょうね
浮かべて一緒にアイス、食べましょう
嬉しそうにキュイっと鳴く燈と一緒にアイスと花を選ぶ
わたしは紫の乙女桔梗、燈は藍の睡蓮を選び足湯を楽しむ
燈を蹴飛ばしたら困るので
桶をお借りして足湯のお湯を掬い燈を入れられれば嬉しいなと
駄目なら蹴飛ばさない様気をつけます
アイスは赤いガザニアに
本当に花束みたいで食べるの勿体無いですね…
躊躇っていると溶けちゃうよと言わんばかりに燈がひと鳴き
燈の口に運びおいしそうでなにより、とわたしもぱくり
温かい温泉と冷たく甘いアイス
燈とのんびり堪能できる幸せを噛み締める
佐東・彦治
♢♡
噂話って大半は本当じゃないと思うんだ。
たまに、本当のが混ざってて……今回みたいなことになるのかなって。
『一心二体』を使って、からころ下駄を鳴らしながら、手をつないで温泉街をふらふら。
途中でアイスクリームも買って行こうか。アキ、何色がいい?赤?じゃあ、僕は黄色にしようかな。
零さないようにね。
あまり人の居なさそうな足湯があれば、そこで休憩。
アキが好きなの浮べていいよ。(緑のピンポンマム)
……なんでこれ?確かに浮べて面白そうには思うけれど。花言葉は気にしてないんだよね。
秘密、って…。ああ、人いないけどバシャバシャしない。アイスクリーム、零れるよ!
●
春になりきるにはまだ早いけれど、他所の世界よりも年中春が近く感じられる世界。そこにふわりと梅の香りが漂えば、一層春を近くに感じて。
薄紅の桜が舞う、温泉街。立ち込める湯気の中に、雪のように花を散らす梅の花。
風情溢れる町並みを、榛名・深冬(冬眠る隠者・f14238)はのんびりとドラゴンランスの『燈』とともに歩む。
「お湯に浮いてる花……とても綺麗でしょうね」
美しい景色に目を細め、眼鏡型の電脳ゴーグルでまた一枚、景色を切り取った。
あちこちに見える足湯の看板。色んな場所に設置しているからこれだけ湯気もあるのだろうが、事前に曇り止めシートで電脳ゴーグルを拭いてきた深冬の視界の邪魔にはならない。
「あ、これが湯の花ね」
「キュッ」
「浮かべて一緒にアイス、食べましょう」
「キュイッ」
灯火の小竜が嬉しそうに鳴くから、深冬も嬉しくなって笑みを零す。
二人揃って覗いた売店で、湯の花と『七花あいすくりん』を購入した深冬は、足湯の看板に倣って歩き、広いけれどひっそりと静かな足湯へとたどり着く。
靴と靴下を脱いだら木の桶を取り、お湯を掬う。それだけで、燈用の小さな温泉の完成だ。キュッキュと鳴いて催促する燈の桶に、燈が選んだ藍の睡蓮を入れようとして――。
「キューッ」
「どうしたの、燈」
「キュイ」
「逆?」
「キュキュッ」
相手への気持ちなら、相手が浸かる湯に入れるべきだ。
ああそうか、と。紫の乙女桔梗を燈の桶へと入れれば、ご機嫌にキュイッと鳴いた小竜がぽちゃんと桶に浮かんだ。
――噂話って大半は本当じゃないと思うんだ。
誰かの気を引きたくて、ちょっと怖い話をして驚かせたくて、子供への教訓やその地に近付けないようにしたくて。そうして広められた話が大半だろう。けれどそれは、全てがそうではない。本当のものもあって、そして混ざって。そうして今回のような状態になったのだろう。
からりころり、下駄が鳴る。響くのは二人分の下駄の音。
管狐のアキの手を引いた佐東・彦治(人間の學徒兵・f22439)は、学生服に褞袍を羽織った普段通りの姿で温泉街を見て回っていた。
「アキ、あれが気になる? 後から着ようか」
揃いの浴衣姿で歩む人を見れば、幼子が気にして。
「ああ、アイスクリームも美味しそうだね」
浴衣姿の客が手にした甘味にも心惹かれた様子に、彦治は慣れた様子で笑みを零す。
売っている場所はと見渡せば、『七花あいすくりん』と書かれたのぼりを見つけ、ぐいぐいと手を引く幼子とともに足をもつれさせようになりながら売店へと向かった。
「アキ、何色がいい? 赤? じゃあ、僕は黄色にしようかな」
赤い花のチョコレートを咲かせたアイスクリームを零さないようにねと注意しながら手渡せば、早速がぶりとアキがかぶり付き、ぽろりと落ちそうになった花のチョコレートを咄嗟に手で受け止めた。
アイスクリームを片手に、あまり人の居なさそうな足湯を……と中心部から外れた方へと足を向ける。段差があれば危ないよと声を掛けながらアイスに夢中になっているアキの手を引いて、からりころりと下駄を鳴らして向かう先には人影ひとつ。
「お邪魔してもよろしいですか?」
「あ、はい。……どうぞ」
先客の眼鏡の少女へと声を掛ければ、浅く頷きが返ってくる。距離を空けて腰を下ろし、アキにもここに座って足を湯に入れるのだよと教えてあげた。
その足湯には、大人二人分ずつの仕切りがあった。浮かべた湯の花が他所へいかないように、そして混ざりすぎないようにとの配慮なのだろう。
アイスクリームと一緒に売店でアキに選ばせた緑のピンポンマムを浮かばせると、楽しげにアキが足を湯の中でバタバタと動かして、湯を揺らして湯の花を泳がせ始める。
「ああ、バシャバシャしない。アイスクリーム、零れるよ!」
(――兄弟、なのかな)
チラリと横目で楽しげな雰囲気の二人を見ていた深冬は、そっと手元の赤いアイスクリームへと視線を戻す。
ガザニアの形のチョコレートがたくさんついたアイスクリームは、花束みたいで可愛い。食べてしまうのが勿体無いと躊躇ってしまう。
「キュイ」
溶けちゃうよとも、頂戴とも聞こえる声に、またいくつも写真を撮って。
「はい、燈。おいしい?」
「キュッ」
近付けたアイスクリームを小さな口でおいしそうに食んだ燈が可愛くて、またパシャリ。嬉しくて幸せで、温かな気持ちを抱いたまま、深冬もぱくりと口にして。
温かな温泉と、冷たく甘いアイス。
それぞれにのんびりとした時間を堪能して、温泉街でのひと時が穏やかに過ぎていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
陽向・理玖
浴衣に羽織
下駄履いて
いい天気だなぁ
空眺め
温泉街って風流なのな
いや…この桜のせいなのか?
内心のわくわく隠せず下駄鳴らしつつ散策
折角来たんだし土産でも買ってくか
旅団の兄さん姉さんらの顔思い浮かべ土産物屋覗いて
饅頭とか?
ありきたりか?
ってここの湯の花買えばいいのか
藍と紫の湯の花手にし
これ…俺の髪の色に似てる…か?
橙の湯の花自分用に
アイスも七色か…頑張ってんなぁ…
一つ貰えるか?
ってコレ何味?
藍のアイス手に
わりと歩いたし入ってくか
足湯に入ろうと
あっつ
ゆっくりと足入れ
おー
意外と暖まるんだな
橙の湯の花入れ
アイス食べながら空から降ってくる花びらに気づき
のどかだなぁ
空見上げ
こんなのんきにしてて…いいんかな
ぽつり
●
頭上をひらりと舞う花弁の気配に、陽向・理玖(夏疾風・f22773)は自然と顔を空へと向けた。青い空に、桜と梅の花弁が混ざり合って飛んでいけば、「いい天気だなぁ」と思わず声が零れた。
(温泉街って風流なのな)
ただ、桜のせいなのかもしれないけれど。
からりころりと鳴る下駄は、理玖の内心を表すように軽く鳴る。
温泉宿の浴衣に羽織姿の理玖は、温泉街の風景に溶け込むように、風情ある町並みを気ままに歩いていく。同じ姿の客を方方に見つけては、何だか勝手に仲間意識を抱いたりなんかして。
様々な土産物を道から見やすいように並べられた土産物屋へとひょいと覗き込む。温泉地では定番の温泉饅頭に、テナント。提灯にキーホルダー。誰がどれが好きだろうかと思い浮かべながら、手に取ってみるのも楽しい。きっと皆で来ていたらもっと楽しかったのかもしれないなんて思うのは、理玖が世話になる兄さん姉さんらとの過ごす時が楽しいからだろう。
「――饅頭とか?」
ひょいと手に取った温泉饅頭は、花の焼印がされている。
「いや、ありきたりか?」
首を傾げながら元に戻し、ぐるりと店内を見渡して。
視界に入るのは、ななつの色の湯の花。
惹かれるように手にしたのは、藍と紫。
自分の髪色にも似ているように思えるそれをお土産として渡すのは少し気恥ずかしい気もするが、世話になっている彼らに抱く気持ちは――信頼と感謝。
「ん、まあ、これでいいか……」
自分用に橙のカランコエも手に取って、会計を済ませようとしたところでアイスクリームの張り紙も目に入り、温泉街の営業努力が伺えた。
「一つ貰えるか?」
「何色にいたしましょう?」
「藍色のを頼む。……ってコレ何味?」
「藍色ですね、これは藍苺味になります」
「らいめい……」
聞いてもよく解らなかった。しかし、一口齧ればピンとくる。ブルーベリー味だ。
「うま」
アイスを漫ろ歩きの友とすれば、気付けば沢山歩いていた。見掛けた足湯に惹かれるには十分すぎる足の倦怠感を覚え、ふらりと立ち寄り下駄を脱ぎ、そろりと爪先を湯につければ――思ったよりも熱かった。
「……おー」
じんわりと、冷えた足が温まっていく。湯は熱めだが、外気温との差が心地よい。
橙の湯の花を入れアイスクリームを噛り、心地好い風に吹かれれば、また空を見上げて。
「こんなのんきにしてて……いいんかな」
小さな呟きは、見上げた空に消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
ルフトゥ・カメリア
♢
【ソウカ】
……怒涛に押し切られたけど俺なんで此処に居るんだ……
はしゃいでんの見てたらちょっとムカついたから、頭に手を置いてぐいっと押し潰してから風呂に向かう
温泉なんて行ったことねぇよ
翼と花を消してさっさと脱いできちんと洗って湯船に
前衛らしい筋肉質の細身には普段から目立つ古傷以外にも無数の古傷や焼印の痕があるが、当人は一切気にしていない
……髪?とりあえず纏めて上げとく
賑やかな声をBGMに口数は多くないが、悪い気はしていない
連れられてきただけだから、湯の花の話なんて知りもしない
何だコレ、とつつくのは淡い藍の睡蓮
淡さは、芽生えに無自覚で未だ不確かな気持ちの表れ
あいすくりん。……行く
甘い物に釣られた
セラ・ネヴィーリオ
♢【ソウカ】WIZ
来たー!温泉!
桜の花もいいけれど温泉も格別だよねえ
ルフくんもそう思わない?と街を行く
ひゃー!重っ、重いってー!
突然の圧も久し振りなら楽しさが勝り
目指すは大浴場!朝のピークを過ぎた頃に
積もる話も沢山あるし?
翼と羽は消して
身体洗ったら並んでお湯に浸かりお喋り!
また一人で無茶してない?大丈夫?とは、心配3割からかい7割
きみの話も聴きたいなあ
団地から引越した後の事は知らないから
僕には無い力強さを持つきみの、その戦いを
(それはそうと筋肉すごい)
僕は腹筋に少し影が付くかどうか…!
やがて浮かぶ湯の花は、赤
…えへへ、綺麗だよねえこれ
あっ、あいすくりん食べに行こ!喉も渇いたし絶対美味しいよー!
●
「来たー! 温泉!」
ルフトゥ・カメリア(月哭カルヴァリー・f12649)の視線の先で、白い綿毛のような頭がぴょこんと跳ねた。ふわふわの綿毛頭は本当に綿毛なのかと思えそうなほど、ふわふわとご機嫌な様子。
「桜の花もいいけれど温泉も格別だよねえ。ルフくんもそう思わない?」
ステップでも踏めそうなくらいの足運びのセラ・ネヴィーリオ(トーチ・f02012)が振り返り、ルフトゥに同意を求めるが――ルフトゥの視線は諦めにも呆れにも似た色で、セラの向こうに見える大浴場の暖簾へと注がれていた。
(俺なんで此処に居るんだ……)
行こうよ行こうよ温泉行こー! なんて怒涛な勢いに押し切られた訳だけれど。現地についたって、目の前に温泉マークに『男』と書かれた暖簾が見えたって、幾度となくその想いが浮かんでくる。
ふわふわと綿毛が揺れる。はしゃいでいるのが解りすぎて、ちょっとムカついた。
「ひゃー! 重っ、重いってー!」
綿毛ことセラの頭に手を置いて、ぐいっと押し潰したのは、そんな気持ちからだ。ひゃーっと悲鳴を上げてから髪を手櫛で整えるセラを置いて先に暖簾を潜っても、セラは楽しげな足取りでついていった。
時刻は、朝のピークを過ぎた頃。具体的に言うと、早朝の温泉客が捌け、早めの朝食後に温泉を楽しんだ客も捌けた頃。
翼と花を消してさっさと脱いでいくルフトゥの隣に並び、セラも彼に遅れを取らぬようにと同じように翼と花を消して後に続いた。
がらり。
大浴場の戸を開ければ、もわりと厚みのある湯気がルフトゥの顔を襲う。街のそこかしこにあった気配がダイレクトに肌に触れ、温泉初体験のルフトゥは僅かに目を瞬たたかせた。
「ほらほらルフくん、いこー」
幾つもの古傷や焼印の痕が残る肌を遠慮なく押して、二人は大浴場へと足を踏み入れる。
他に客は、一人か二人。濃い湯気の中では人影が朧げで、正確な人数が掴めない。
「あ~、あったか~い」
身体も綺麗に洗い、『ご自由に』と書かれていたゴムで髪を縛り上げ、一番大きな湯船に二人揃って浸かれば、最初は熱いと感じた熱がじんわりと染み込むように広がって――それが気持ち良い。幸せそうに頬を緩めるセラに対し、ルフトゥは穏やかに瞼を閉じただけだが、悪い気はしていない。
「ねえルフくん、また一人で無茶してない? 大丈夫?」
心配3割からかい7割。
君が団地に居た頃は、一人で無茶をしていたよね。けれど、引っ越した後の子とは知らないから、教えてよ。
お湯を揺らし、幾つもの言葉を重ねれば、ルフトゥからも言葉が変える。きっと言葉よりも彼の生活を雄弁に語っているのは、その筋肉質の身体だろう。古傷がいくつもあっても、決してそれが醜いと思わせない。どちらかと言うと、いいいなとセラに思わせるものだ。憧れてしまう。ルフトゥの力強い戦い方にも、彼の筋肉にも。――セラは腹筋に少し影が付くかどうかの自分の腹を、そっとなでおろした。
「『湯の花あります』ってなんだろう」
『足元注意』とか書かれている注意書きのその隣に見つけた張り紙にセラが首を傾げれば、あがるところだった他の客が簡単に教えてくれる。浮かべられるのだよ、と籠に入った湯の花を指差して。
ななつの色の花から、セラは赤、ルフトゥは藍の花を選び、そっと湯船に浮かばせる。そこに篭められた想いの詳細は知らないが、無自覚で不確かながらも、自然とその指が選び取った花は『あなたを誇りに思う』『信頼』。
ぷかりと浮かんだ花が、ほろりと溶け崩れていくのを見守ってから、二人は大浴場を後にする。
「あっ、あいすくりん食べに行こ!」
「あいすくりん」
「そ、あいすくりん。売店で売ってるんだって。喉も渇いたし絶対美味しいよー!」
「……行く」
甘いものに釣られたルフトゥの新たな目的地は、売店となった。
売店にはあいすくりんだけでなく甘いものが他にも売られていたし、あいすくりんはあいすくりんで七色全て味が違うため、ルフトゥは悩みに悩んだ。また、コーヒー牛乳かフルーツ牛乳かでもルフトゥ悩むこととなる。
そんな今日の彼を知っているのは、セラだけだ。
離れていた空白は今から埋められはしないけれど、こうしていくつも、二人は新しい思い出を紡いでいく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リリア・オルトラン
♢
結都殿(f01056)と共に
いいなぁ温泉!しかも湯の花というものを浮かべられるのだろう!んんん、わくわくするぞ!
普段は肩まで湯に浸かることはあまりなくてな。さっと汗を流して終わらせてしまうから、今日はとても楽しみにしていたんだ。
いざゆかん!温泉街!
家族風呂というものは一緒に入れるらしいぞ、結都殿!
だ、だめか?そうか…(しょぼん)ならば足湯で我慢しよう!
花言葉か。花に意味を重ねるのは誰がやり始めた事なのだろうなぁ。この色と形に想いを籠められるというのは良いものだよな。
浮かべられるのは二種類らしい。一つずつ選ぼう!
私は藍の睡蓮を選ぶよ。だが他に思うこともある!それは追々言葉で伝えていこう。
桜・結都
♢
リリアさん/f01253 と
ゆったりと休息出来そうですね
湯の花はこの温泉街独特の物のようなので、私も楽しみです
浸かり過ぎてのぼせてしまわないよう、気を付けてくださいね
家族風呂は……その、私には敷居が高いので……、
またいずれにしましょう。ね
……私が気にし過ぎなのでしょうか。些か心配になるのですが……
ほっと、しながら、足湯に向かいます
そうですね……花に限らず、石や日にも意味がありますね
籠められた想いと共に受け取ると、心に花咲く心地がします
すこし、特別に感じられるのですよね
それでは、私からは紫の乙女桔梗を
足りない想いは音にして、
これから少しずつお届けしますね
●
「温泉に行けるのか!?」
パアッと辺りに花が浮きそうな程、底抜けに明るい声を少女が上げた。普段は肩まで湯に浸かることも少ないという少女にとって、のんびりと温まれて、広くて効能までついている温泉と聞けば興味を惹かれないはずがなかった。しかも、変わった湯の花を浮かべられるのだとか!
「いざゆかん! 温泉街!」
そうしてリリア・オルトラン(金月・f01253)は桜・結都(桜舞・f01056)の腕を引っ張るようにして、ゲートをくぐり抜けて七花温泉郷へと足を踏み入れた。
一歩足を踏み入れれば、そこは温泉特有の香りに満ち満ちている。すんと鼻を鳴らして吸い込めば、厭な香りとは感じず、ただ胸が弾むような気持ちでいっぱいになる。温泉街にきたのだ! と笑みを浮かべ、此度もまたズンズンズンとリリアは温泉街を歩いていく。
「湯の花はこの温泉街独特の物のようですよ」
「んん、わくわくするぞ!」
「私も楽しみです」
どんな形をしているのだろうか。大きさは? 香りは? どんなものなのだろう。
「あ!」
「! どうされました?」
「結都殿、のぼりがあるぞ!」
ビシィッと指差すその先に、確かにのぼりが立っている。
『ななつ花色 湯の花あり〼』
「うむ、どうやら店のようだな」
「そうですね、寄ってみましょう」
気になる場所は覗いていくのが一番。探険は旅の醍醐味だ。
早速湯の花が見られますねと、結都も軽い足取りでリリアを追いかけた。
よっつの瞳が、興味深げに覗いた店先。解りやすい位置に、その花はあった。
違う形の花がななつ。色もななつ。
虹の色に並んだ花を見てなるほどと頷けば、二人に気付いた店員が軽く説明をしてくれる。お土産として購入しても、すぐに足湯や宿の湯船に入れても良いそうだ。
「私はこれにするよ」
「それでは、私はこれを」
リリアは藍の睡蓮、結都は紫の乙女桔梗を手にすれば、店員の女性が微笑ましげにまあと笑った。
「お二人は足湯に行かれるの? それとも家族風呂……かしら」
恋人同士なのかしら、なんて。店員の瞳がキラリと光って、家族風呂は異性とも一緒に入れるのだと教えてくれる。
「一緒に入れるらしいぞ、結都殿!」
折角の温泉なのだから、一緒に入りたい!
パアッと少女はキラキラの瞳を結都へと向けるが――。
「家族風呂は……その、私には敷居が高いので……、またいずれにしましょう。ね」
「だ、だめか? そうか……」
しょんぼりとリリアは項垂れるが、『またいずれ』という事は『いつか』は一緒に入ってくれると言うことだ。心の内を結都が知ったなら、ビックリするくらいのポジティブに考えて。リリアの気持ちは2秒で復活した。
「ならば足湯で我慢しよう!」
一緒に入れるしな!
明るく笑ってリリアはご機嫌に足湯へと向かい、その姿に結都はホッと息を吐く。
(……私が気にし過ぎなのでしょうか。些か心配になるのですが……)
恥じらい等は、育った環境でも大きく左右されるものだから仕方がない。
看板を追いかけ足湯へと辿り着けば、二人は早速湯へ足を浸し、それぞれの手で花を浮かべる。
リリアの睡蓮は『信頼』。
結都の乙女桔梗は『感謝』。
互いに、花だけでは足りない想いはいくつも抱えている。けれど今は、花だけで想いを伝え合う。
花に意味を重ねるのは誰がやり始めた事なのだろうかと、ほろりと崩れて溶けていく湯の花を見つめながらリリアが零せば、花に限らず石や日にも意味があるのだと結都が口にする。
「何かに想いを籠められるというのは良いものだよな」
「そうですね。籠められた想いと共に受け取ると、すこし特別に感じられます」
目に見えない想いを、形にして。
意味さえ知っていれば、真っ直ぐに伝わることだろう。
それでも足りない想いは音にして、少しずつ届け合えばいい。
これから先も、二人の間には沢山の時間があるのだから。
「私はな、結都殿。貴殿に伝えたい気持ちはたくさん、たっくさーんあるぞ!」
「奇遇ですね、リリアさん。私にも沢山ありますよ」
「むむっ、私の方がたくさんだぞ!」
心にたくさんの花を咲かせ、穏やかな時間を楽しむふたり。
湯気の中にも、笑顔の花を咲かせるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
斬崎・霞架
♢♡
【POW】
散策をしつつ、噂に関して話を聞いてみましょうか。
大まかな情報は既に教えて頂いてますが、新たな情報があるかも知れませんし。
場所や状況、髑髏以外に何かなかったか…
実際にそれを見た人がいればいいのですが、厳しいでしょうか。
地元の人、店の店員さんなどに聞くのが良いですね。
何か聞いてるかも知れません。
…理由は、単純にオカルト好きだから、がいいでしょうか。
『七花あいすくりん』を売ってる店に行きましょう。
いえ、話も聞きますよ。ええ。
ですが名物のスイーツがあるのなら、是非とも頂かなければ。
情報が得られれば皆にも共有しておきたいですが、
…お邪魔になる可能性もありますし、後にしましょうか。ふふ。
●
情緒あふれる町並みは、ふらりと歩くだけでも目に楽しい。そこに、そこでしか売っていない物があれば尚の事。
あちらこちらで見かけるのは、やはり名物なのだろう、『湯の花あり〼』と『七花あいすくりんあり〼』ののぼり。旅館の浴衣を来た女性客の集団が明るい声をあげながら土産物屋を覗き込んでいる姿も見られた。
明るく賑わう温泉街。そんな温泉街に、少し恐ろしい噂が広がったら――。眼鏡の位置を指先で直し、斬崎・霞架(ブランクウィード・f08226)は七花あいすくりんののぼりが立つ茶店へと足を向けた。何か話が聞けるかも知れないし、名物のスイーツは矢張り気になって。
茶店の前には毛氈の掛けられた床几台があり、食べ歩かず座って食べていくことも出来る様子。
「あちらで頂いても良いですか?」
茶店の女将に確認を取れば、笑顔とともにどうぞと首肯が返ってくる。短く礼を告げて腰を下ろし、一息つく。そのタイミングで温かなお茶が横から差し出された。
「ご注文は、何にいたします?」
「七花あいすくりんを頂きたいのですが……」
茶屋の娘なのだろう。接客に出てきた若い娘が手にする品書きには、七花あいすくりんの色が書かれていた。虹を表すななつの色の名前しか書いておらず、どれがどの味なのか一見判断がつかない。
「どの味がお薦めですか?」
「あたしは、紫のラベンダー味とか……あっ、お兄さんは金の目だから、黄色の檸檬味なんてどうです?」
「では、それでお願いします」
「はい、少々お待ち下さいね」
品書きを畳み、娘は店奥の女将へ「黄色ひとつー」と伝えた。
「そういえば、この温泉街で流れている噂は本当なのですか?」
店奥へ戻ろうと、お茶を載せてきたお盆と品書きを抱えた娘が振り返る。その顔は少し驚いたように目を開いて、それから何とも微妙な表情になる。チラリと店奥へと視線を送るのは、女将に口止めされているのかもしれない。
「……お兄さん、聞いちゃったんですね。もしかしてお兄さん、そういうお話が好きなんですか?」
「はい。オカルトが好きだったりします」
恥ずかしながら、と眉を少し落として伺えば、娘はパッと嬉しそうな顔をする。噂話が好きなのは女性の方が多い。本当は話したくて堪らないと言いたげな顔で店奥へと再度視線を送って。
「あたしは怖いから行ったことないんですけど――」
ひそり、声音を落とす。
「あたしの友達は、傘を挿した男の子を見たって言っていたんです。暗いし見間違えたんじゃない? って言ったんですけど、鈴の音がして――此処らに住んでる子じゃない子が居たって……」
もしかして、髑髏の主だったりして。幽霊だったりして。きゃー。
怖いのは嫌。けれど噂話は気になる。年頃の娘はついはしゃいだ声を上げかけ――そこへ店奥から女将に声を掛けられ、「はーい」と店へと戻っていく。どうやらあいすくりんの用意が出来たらしく、娘はすぐに霞架に黄色の花束のようなあいすくりんを差し出した。
「ご注文のあいすくりんです」
「ありがとうございます」
「さっきの話、他の人には内緒にしてくださいね。悪い噂だーって大人たちが怒るんです」
「ええ、解りました」
花のチョコが落ちやすいので気をつけてくださいねと告げて娘が離れるのを待ってから、霞架はあいすくりんへと唇を落とすのだった。
大成功
🔵🔵🔵
照宮・茉莉
【蝶番】梨花(f22629)と
広いお風呂…すごい、すごい!
梨花!早く来なよ!!
二人で入ってもまだまだ広い…すごい…
(しばらく感動。やがて悪戯を思い付き)
…梨ー花っ(お湯かけ)えへへっ
景色も綺麗だね…砦のお風呂しか知らなかったから、すごく新鮮
ママとパパの花と、あの人の色……
花をすくって、香りを嗅いでみる
……すごく、好きだな
お土産……貰えるのかな?
好きな景色と、気持ちいい温度で、目を閉じて
好きなものの事を考えてたら、いつの間にか寝てたみたい
溺れちゃうところだった!
あいすくりんだって待ってるのに!
砦にも大きなお花のお湯が作れないか、パパに聞いてみようかなぁ?
照宮・梨花
【蝶番】茉莉(f22621)と
梨花達の住む砦にもお風呂はあるけれどドラム缶
せっかくだから大きなお風呂へ入らない?
茉莉と露天風呂に浸かってのんびり……と思ったらお湯かけないで!
もう茉莉ってば、はしゃいで子供みたいなんだから
(と言いつつ不意打ちで反撃)
ここは梅が咲いているのね
ママの匂いなのだわ
砦のお風呂にはない不思議な湯の花を浮かべてみましょう
赤と紫はママとパパの瞳の色
ガサニアと桔梗もママとパパのアクセサリーの花なのだわ
紫色をずっと見ている茉莉
カガリ様を思い出しているのね
お土産にしてみたらどう?
すっかり暖まったら
寝落ちしかけてる茉莉を起こすのだわ
だってこれからあいすくりんも食べなきゃなんだもの!
●
ガラリと音が鳴る横開きの戸を開ければ、ぶわりと湯気の塊に包まれて。
その湯気の向こうに広がるのは――。
「広いお風呂……すごい、すごい!」
照宮・茉莉(楽園の螺旋槍・f22621)はワッと歓声をあげて大浴場へと駆け込んだ。その背に照宮・梨花(楽園のハウスメイド・f22629)が「走らないの!」なんて声を駆けたけれど、聞こえてはいない。
「梨花! 早く来なよ!!」
「大丈夫よ、茉莉。お風呂は逃げないのだわ」
梨花ものんびりと後を追い、二人並んで洗い場で身体を清めると、どのお風呂に入ろうかと茉莉は首を傾げる。二人が暮らす砦にも風呂は在る。けれど、ドラム缶だ。この旅館内には、目の前に在るたっぷりとお湯を湛えた大浴場の一番大きなお風呂や水風呂、いつものドラム缶にも似た瓶風呂、ボコボコと泡をたてる風呂など様々な風呂がある。
「せっかくだから風に当りながら入れる大きなお風呂へ入らない?」
どれに入ろうかと悩む茉莉に梨花が微笑みかけ、二人は外の露天風呂へと向かった。
外気にさらされる露天風呂の温度は熱い。けれど肌に触れる風は心地よく、火照った身体も冷ましてくれる。
そして何より。
「二人で入ってもまだまだ広い……すごい……」
並んで入っても十分広くて、ふんわりと檜の香りまでする。
空を見上げれば、雨除けの大きな番傘と青空。そして、梅と桜の花びらがひらりと舞う。外からは見えない簾の向こうに広がる景色には、温泉街の町並みと幻朧桜の淡桃が広がっていた。
ほう。温かなお湯と落ち着いた雰囲気に梨花はため息をつき、気持ちよさげに目を伏せた。
「……梨ー花っ」
えいっ! ばしゃんっ!
「茉莉!」
突然顔面に掛かったお湯に目を白黒させ、傍らの茉莉を睨み付ければえへへっと笑う悪戯顔。
「もう茉莉ってば、はしゃいで子供みたいなんだから」
「えへへー……わっ」
プイッとそっぽを向いて見せてからの、不意打ちで反撃。同様に顔面からお湯を被った梨花は、より楽しげ笑った。
幾度か続いた攻防の後、二人は『ご自由にどうぞ』と書かれた籠から湯の花を手にする。梨花が手にしたのは、赤のガザニアと紫の乙女桔梗。二人が両親と慕う人たちの色。そして――。
(あの人の色……)
湯にぷかりと浮かんだ紫の花を大切そうに両手で掬い、茉莉は香りを楽しむ。
(あの方を思い出しているのね)
敏く梨花は気付くが、声はかけない。慈愛の籠もった瞳で、穏やかに茉莉を見守った。
「茉莉、気に入ったのなら、お土産にしてみたらどう?」
「お土産……貰えるのかな?」
「受付近くの売店で売っていたのを見掛けたのだわ」
あいすくりんも売っていたのはチェック済み。
笑顔の花を咲かせ、湯に身を預け。
温かなお湯と、頬に触れる爽やかな風。
好きな香りと、好きな人たちのこと。
ゆっくりと過ぎていく時間に身と心を任せていたら、いつの間にか茉莉は気持ちの良い夢の中。茉莉が溺れてしまわないようにとそっとその身を支えていた梨花は、湯あたりしないように時刻を確かめて。
「茉莉、起きるのだわ。あいすくりん、食べに行くのでしょう?」
「あいすくりん!」
その響きの効果は抜群だ。元気にパチっと目を開いた茉莉に、梨花は小さく笑う。
湯から上がり、身なりを整えたら、二人は売店へと足を向ける。目当てはあいすくりんと湯の花。
「砦にも大きなお花のお湯が作れないか、パパに聞いてみようかなぁ?」
湯の花をお土産に持ち帰ったら、大好きな人たちに温泉の話をしようと心に決めて。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
東雲・咲夜
【藤桜】
まだ少し、肌を撫ぜる風が冷たい
冬の名残に揺らめく湯気にはときめきが見え隠れ
温泉はそないにぎょうさんは来れへんけど大好きよ
冷え切った真雪の肌は泉水に包まれ解れ癒える
纏わる潤いの流れを眸で愉しみつつ
ちゃぷん、とぷん――湯音が震えば心躍る
陽より出づる水鏡の上
くるり踊らせたうちの花
夜明け空にも似た、桔梗の舞
率直なまでの彼への想い
甘ぁい花花は乙女心を容易に掴み
そうくんから受け取る七華氷菓
あいすくりん…ふふ、かいらしお名前
一匙掬い、彼の紅唇へ
彼の指先に導かれるまま花雫滴る足趾を掲げる
屈む貌に滲む多幸感へ、うちの中にもまた、心奥に拡がる満悦の花
悦びと、束縛と、感謝と、
嗚呼…此の儘ずっと、繋いでいたい
朧・蒼夜
【藤桜】
花の馨がする。
沢山の馨に癒させる
温泉は普段は来ない咲夜はどうだろうか?
足湯でも入ってみるかい?
『七花あいすくりん』を買い、彼女へと
隣で一緒に足をそっとつける
熱くないだろうか?
湯の花…それぞれ浮かぶ事を提案し
少し悩んで『橙のカランコエ』浮かべた。
彼女を愛する事も一番だが今は君の傍でこれからも続く事が嬉しい
咲夜は何を浮かべたのだろうか?
紫の花がぷかりと浮いて
あぁ、とても嬉しくて微笑んでしまう
その顔に気づいたのか
冷たいアイスが口元へ
迷う事無くぱくりと
美味しい、ありがとう。
そっと彼女を抱き上げて椅子に座らせ足を拭く
ん、とても花の良い馨がするね
これからもずっと君の傍に居られる事を願って大切な人
●
まだ春は遠く。けれど、遠いと言い切るには近い。
春の近さを感ぜさせる梅の花と、この世界では久遠に咲き続ける幻朧桜の花弁が混ざりながら飛び、ひんやりと冷たい風とともに春の香りが二人へと届いた。
「ええ香り」
寒くはないかと華奢な彼女を案じ、朧・蒼夜(藤鬼の騎士・f01798)藤の羽織を東雲・咲夜(詠沫の桜巫女・f00865)の細い肩へと掛けてやる。
「大丈夫やよ、そうくん。おおきにね」
肌は少し冷えるが、春の気配は傍らにもある。彼がさり気なく風が吹く方へと身を置き、冷たい気配から少しでも咲夜を守ろうとしてくれていることも知っているから。嬉しげに目を細め、藤の羽織を抑えるように抱けば、蒼夜もまた同じような表情を大切な幼馴染へと返した。
「足湯でも入ってみるかい?」
普段咲夜は温泉へあまりいけないから、楽しめているだろうか。楽しめるようにしようと気を遣う。そんな優しさも好きで、温泉街の町並みにも、傍らの彼へもときめきを抱いてしまう。
「ああ、咲夜。あいすくりんも売っているね。買ってくるから先に入っておくと良い」
「あいすくりん……ふふ、かいらしお名前」
蒼夜の言葉を素直に受け取って、浅く頷きを返してからほこほこと温かな湯気をたたせる湯へと足を沈めれば、温かな熱に包まれ筋肉が弛緩していく。じんわりと感ぜられる熱が心地よく、川で戯れるように足を緩やかに動かせば、ちゃぷん、とぷん――湯が唄う。
「お待たせ、咲夜」
手にしたあいすくりんはひとつだけ。ふたつ買って、ひとつを一人で食べきっては、きっと彼女の身体が芯から冷えてしまうから。
あいすくりんを彼女へと手渡し、一緒に購入してきた湯の花を椅子の上に並べてみせる。
選ばなかったものはお土産として持ち帰ればいい。ななつの花を並べ、どれがいいかと彼女へ問えば、細い指が触れたのは紫の乙女桔梗。咲夜があいすくりんを持っていない方の手で湯の花を持ち上げ、そっと湯へと浮かばせるのを見届けてから、蒼夜も湯の花を選ぶ。迷う指先は緑から橙へと彷徨い、カランコエを選び取ると、彼女の湯の花の横へ添うように浮かばせた。愛しい気持ちはきっといつまでも褪せない。だから、君の傍らでこれからも続く事が嬉しくて。
咲夜が選んだ花もまた、蒼夜への真っ直ぐで素直な想い。それが伝わるからこそ、橙と紫の花が寄り添い浮かぶのを見つめる蒼夜の瞳は優しく、嬉しげな笑みが口元を綻ばせる。
「そうくん、はい」
愛おしげにふたつの湯の花を見つめる蒼夜の口元に、匙が差し出される。一口分のあいすくりんを掬った咲夜が、口を開けてと見つめてきていた。
迷いは、しない。
想いも、行動も。
薄く口を開けて匙を招き入れれば、あいすくりんがひやりと広がり、甘く、溶けた。
「美味しい、ありがとう」
そうして二人でひとつを分かち合い、温かな湯を存分に堪能して。
頃合いを見計らい、蒼夜は咲夜を抱き上げ椅子に座らせると、彼女の足元に屈んで足を手に取った。濡れていない手巾を懐から取り出して包めば、ふわりと香る、花の馨。
「ん、とても花の良い馨がするね」
咲夜の世話を焼けることが嬉しいと、その顔が告げている。
その顔を見て咲夜の胸奥に花弁を広げる花は、満悦の花。悦びと、束縛と、感謝と。――湧き上がる想いを悟られぬよう、淑女の笑みで隠し、ただ愛おしげに世話を焼いてくれる彼を見つめる。
(嗚呼……此の儘ずっと、繋いでいたい)
(これからもずっと君の傍に居られる事を願っている)
二人の気持ちは似ていて。
けれど違っていて――。
嗚呼、想いは止められない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クラウン・メリー
長閑(f01437)と
わぁ、長閑見て!
七花あいすくりんだって!食べよ!
二つ買って長閑に一つ手渡す
はい、長閑!落とさないように気を付けてね!
虹色でとっても綺麗だな!ふふ、美味しそう!
そうだ!足湯に浸かりながら食べよ!
こっちこっち!
ふぅ、いい湯ですなぁ!
ぱしゃりと周りに迷惑を掛けない程度に足を動かして
わぁ!お花がぷかぷか沢山咲いてるよ!
なんて名前かな?ふふ、アイスと同じ色だ!
とっても綺麗だな!
わわ、そうだ!早く食べないとアイス溶けちゃうね!
頂きます!はむっ
口の端にクリームをつけながら
んんー!美味しいっ!
……二個買えば良かったかなぁ
ううん、大丈夫!後で買うから!
温かくて美味しくて楽しくて
俺、幸せだな
憂世・長閑
♢クラウン(f03642)と
あいすくりん……?
あいすなのかな?うん、食べるっ
わ、とっても綺麗。花束みたいだね
うん、気を付けるよ
クラウン、ありがとう
そういえば、足湯に入れるんだよな
うんうん、行こうっ
ふふ、クラウンも落とさないようにな?
面白い言葉遣いのクラウンに目を細めて
あったかくて、気持ちいいね
ほんとだ、みんなが浮かべたのかな?
俺たちも何か選んできたらよかったね
わ、うん、早く食べなきゃ
此方も慌てて垂れそうになったアイスを食べてから
美味しそうに食べるクラウンをみて笑う
ふふ、そうしたら、オレのも食べる?と差し出し
クラウンが美味しそうに食べるの、オレ、好きなんだ
そう?じゃああとで、一緒に買いにいこう
●
「わあ、七花あいすくりんだって!」
食べよ! と誘うクラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)に憂世・長閑(愛し秉燭・f01437)はゆるく首を傾げた。
此処は、ななつの湯の花が湯に咲く七花温泉郷。訪れた二人は温泉街の町並みを楽しみながら散策し、そして『七花あいすくりんあり〼』ののぼりを見つけたのだった。
「あいすくりん……? あいすなのかな?」
「うんうん、長閑。きっとそうだよ!」
だってどこか響きが似ているし、きっとそうだ!
「おねえさーん、ふたつくださーい!」
「あいよ、何色にするかい?」
「色、選べるの?」
店主らしき妙齢の女性が明るく笑って注文を受け、ななつの色から選んでねと見本を見せてくれた。クラウンは少し悩んだ末に、違う色のあいすくりんをふたつ注文した。
「はい、長閑! 落とさないように気を付けてね!」
「うん、気を付けるよ。クラウン、ありがとう」
長閑に赤いチョコが咲く花束を渡してクラウンは自分の黄色のチョコの花束を早速ぱくり。甘くて可愛くて冷たくて、とってもおいしい!
「そうだ! 足湯に浸かりながら食べよ!」
近くにある足湯への案内看板を見て、フリチラリアがポンと咲きそうな勢いでクラウンが思いつく。「ほら、あれ」と指差したクラウンの指先を辿り、長閑もそういえばと目を瞬かせ。
「うんうん、行こうっ」
「うん、行こうっ! 長閑、こっちこっち!」
「ふふ、クラウンも落とさないようにな?」
そうと決まれば、と。パタパタと駆けて先へ進んだクラウンが手招いて。
待って待ってと追いかけながら、長閑が柔く微笑う。
売店の裏に回って、石の垣根を飛び越えて、屋根の上の猫にご挨拶。
あいすの花が落ちちゃうと慌てながらも、湯気を追いかけ向かえば、人気のない足湯を見つけた。
「ふぅ、いい湯ですなぁ!」
「うん、あったかくて、気持ちいいね」
早速足を浸したクラウンの言葉遣いがなんだかおかしくて、長閑は目を細めて微笑う。足を動かせばぱしゃりと湯が跳ねて、服が濡れないようにと気をつけながらあいすくりんをぱくり。
「わぁ! お花がぷかぷか沢山咲いてるよ!」
「ほんとだ、みんなが浮かべたのかな?」
足湯に湯の花が浮かんでいるのは、きっと前に居た人が入れたのだろう。ほろほろと溶けていく花を、ついついじっと見てしまう。
ほろりと溶ける湯の花は、二人の手にするあいすくりんと同じ色で――。
「あ! アイスが溶けちゃう!」
「わ、うん、早く食べなきゃ」
肌に触れる風は春がまだ先なためか少しひんやりとしている。けれど、足湯の温かな湯気にさらされればとろりと溶け出していく。慌てて食べれば柔らかくなったクリームが口元を汚すけれど、二人で食べればそれさえも楽しくて、二人は美味しいを繰り返し口にする。
「……二個買えば良かったかなぁ」
ぱくぱく食べればあっという間に無くなって。残念がるクラウンに長閑が「オレのも食べる?」と差し出すけれど、クラウンはふるりと頭を振る。
「ううん、大丈夫」
「クラウンが美味しそうに食べるの、オレ、好きなんだ」
「俺も長閑が美味しそうに食べるの好き! だから長閑が食べて」
食べ終えたらまた、一緒に買いに行こうね!
クラウンが、おひさまのように明るく笑う。
眩しさにぱちりと目を瞬かせ、そうしてゆっくりと長閑も笑って頷いて。あいすくりんに唇を落とせば、また一段と美味しくなったように感じた。
次は何色の花束を食べようか。
いっそのこと全種制覇しちゃう?
幸せだと感じるひとときを二人で共有し、湯気の中に笑顔の花を咲かせるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『誰そ彼の骨』
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POW : 物証から、真相を見つけだす
SPD : 周辺の状況から、真相を見つけだす
WIZ : 想像から、真相を見つけだす
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●生首の噂
ある日、噂を聞いたとある男が、噂を確かめようと考えた。しかし、その男には一人で薄暗い山に行く勇気など無く、飲み仲間を誘っていったのだと言う。
そうして男は、裏山で見つけた髑髏に悲鳴を上げるのだが――。
「ど、どうしたんだい、末吉さん。何か、見つけたのかい?」
「そ、そこに、そこに、骨……っ」
「骨? そんなものどこにもないよ」
一緒に裏山へと行った飲み仲間は不思議そうに首を傾げ、何かと見間違えたのだろうと口にした。こんなにも暗いのだから、それも仕方がない。皆きっとそういう風に見間違えて、噂が広がったのだろうと笑って。
けれど。
「なっ――何言ってんだ、おまえッ、ほら、そこに――ヒッ、お、おおおお、おみつさん!?」
「おみつさん? お前の幼馴染がこんな所に居るわけ……」
髑髏に怯えていたはずの男は、慌てて髑髏へ――否、大切な人の首へと駆け寄る。
どうして、おみつさん。ああ、そんな、誰がこんな惨い事を。
涙を零し、虚空を抱きしめる男の姿は尋常ではなく、同行していた飲み仲間は慌てて男を連れて帰ったのだという。もっと奥へ進んでいたら、自分も何かを見ていたのかも知れない。そう思うと、それはとても恐ろしかったのだ。
何度通っても、見えない者には見えないそうだ。
決まってその者には、大切な者が居ないのだと言う。
●雨
――ぽつん。
あんなにも青が広がっていた空から、雫が落ちた。
「あら、やぁね」
雨粒に気付いた茶店の女将が、外に出していたのぼりを畳み、店の中へとしまいこむ。店の前で温泉饅頭を頬張っていた客は空を覆う雲を見上げ、本降りになる前にと宿へと引き返していく。
しとしと、しと。静かに雨が、降りだした。
穏やかな温泉街で過ごしていれば、いつの間にか噂の刻限が迫ってきている。
宿の裏山は、1時間も歩かずに山頂に着いてしまうような小さな山である。宿や温泉街で商いをしている者たちが言うには、山頂に小さなお社があり、そこへの細い道が続いている。けれど人が歩けるようにと整備したそこには髑髏の噂は流れていない。
草木を分け入って、道なき道や獣道を抜けていく。ぽつりぽつりと咲く幻朧桜が降らせた花弁と土の間に、背丈のある草の合間に、白く硬質な物が覗いて見えてくるのだそうだ。誰そ彼と問わねば解らぬ暗さに、その白さはぼう……っと仄かに輝くように視界に入って――。
しとしとしとしと、雨に打たれた草が唄う。
たんたんたんたん、されこうべが唄う。
死と死と、死。大切な誰かの死を浮かべて。
神埜・常盤
♢
どうせ此の身は日陰者
青空より曇天の方がお似合いだ
さあ、裏山を独り逍遥しよう
彷徨い歩けば軈て視界に入る白
おまえは誰だろう――なんて問うたところで
髑髏が口を利く筈も無い
腕に抱き上げ土を払えば
其れは亡き母の頸だった――
静かに閉じられた瞼、引き結ばれた唇
静謐な其の姿はうつくしく、死んでいるとは思えない
『お久しぶりです』
『お元気でしたか』
聲を掛けても開かぬ眼
そう――生前もこうだった
あなたが私を見てくれたことは終ぞ無かった
死後ならば如何かと、ほんの僅か期待したが
矢張り私は、あなたに好かれて居ないようだ
再び朽ちた白い頬骨を撫ぜれば、土へ還してやろう
拾い上げた桜花弁をはらはら撒いて
あなたに再び「左様なら」
●亡き母の
ぽつり、と。道化の仮面を纏う男の鼻へ、冷たい雫が触れた。
晴れやかな空が雲に覆われたことは明るさから気付いていたが、早速雨も降り出したかと探偵は片頬を上げて空を見遣る。
薄暗い空は、誰かの貌のようで。こぼれ落ちる雫は、まるで――。
――嗚呼、詮無きことだ。
探偵は飴色のインバネスコートを翻し、宿裏の山へと足を向けた。その足取りは、空の雲よりも軽い。何故なら此の身は陰鬱たる天候が似合いし日陰者。暗い山に踏み入るのも似合いと思いこそすれ、臆することなどある訳もない。
逍遥のつもりで彷徨い歩けば、軈て視界に白が入り込む。
「おまえは誰だろう――」
口利かぬ髑髏と知りながら、唄うように戯れに口遊むのは、髑髏が雨に唄っていたから。
見下ろして、見つめて。しゃがみこんで髑髏を腕に抱き上げ、そうして軽く土を払ってやれば――。
「――」
静かに閉じられた瞼は緩やかに双丘を描き、朱をさした唇は引き結ばれていても形よく美しい。今にも瞳を開け、唇に笑みを捌きそうな、顔。けれどその笑みが己には決して向けられないという事を常盤が知っている、美しい女の顔。
其れは、亡き母の、頸だった。
「お久しぶりです」
知っている。
「お元気でしたか」
無駄だと言うことを、知っている。
生前の彼女は、一度だって常盤のことを見てくれはしなかった。視線が交わる事なぞ、笑みを向けられる事なぞ、終ぞ無かった。彼女が笑みを向けるのは、彼女が求めているのは、いつだってあの人だけだったのだから。
しかし、死後ならば。
ほんの僅かな期待が、花の頬をなぞるように滴り落ちる。
(矢張り私は、あなたに好かれて居ないようだ)
幾許かの落胆とともに、再び朽ちた白い頬骨を優しく撫ぜ。
土へ還してやろうと花の褥を掻き分けて。
土と花弁に抱かれる美しい白に、化粧をするように桜花弁をはらりと落とせば、はらはら、はらり。薄紅に、白が消えていく。
「左様なら」
告げるのは、別れの言葉。
左様ならば再びのお別れです、美しい人。
大成功
🔵🔵🔵
フォーリー・セビキウス
獣道を抜けると其処は…ふむ。
何処だ此処は。
だいぶ道を逸れたが…こんな所があるとはな。
情報収集や視力で周囲を探索
暗くはなったが…特に問題ない
この眼には明暗はさして差はないからな
…ん?これは誰かの頭蓋骨か。
魔力が通っている…怪異の一端か。
…ッ肉が…何だこれは…これが噂のアレか。
肉付き、其れは黒髪に青い目をした端正な女の形を成していく
時代に変色し、傷痕が現れ始めた
この傷痕に鬱血し変色した顔は絞殺か…。
然し一体誰の…?
いや違う…そうだ…私は…オレは……アンタを…知っている…!
だが違う…!お前の死因は違うはずだ…そう、だってアンタを殺したのは…!
…悪い気に当てられたか。
こんな下らない術に嵌るとは。
●クック・ロビン
山菜を採りに来るにはまだ早い頃合い故か、獣道を逸れれば分け入る草の背丈はそれなりに高い。
適当に歩を進めていたフォーリーは、ふと足を止め、肩を濡らす雨粒を払って空を見上げる。雨足は穏やかで、木々という天蓋もあるお陰で濡れ鼠とはなってはいない。けれど確実に体温は奪われている為、吐く息は白かった。
は、と短く息を吐いて。
「何処だ、此処は」
思わず言葉を零したのだった。
幸いなことに、彼は暗闇をさして苦としない。暗い森を怖がる心も持ち合わせては居ない。けれど、どこをどう歩いてきたかはさっぱりと解っていなかった。所謂迷子と言われるような状態なような気はするが、それも気にしない。解らないのならば、打開策を考えれば良い。
辺りを見渡し、地面を確かめて。そうして彼は、緩やかではあるが確かに傾斜が在ることに気付く。此処は山で、傾斜がある。それならば、先に進むには上へと向かえばいいだけだ。
「……ん?」
こつ。何かが靴先に触れる。草の中に岩でもあったかと見下ろせば、それは――白い頬骨に伽藍堂な眼窩を覗かせる髑髏であった。
「……怪異の一端か」
既にそれが怪異だと話を聞いていたため、すぐにピンと来た。誰の仕業でもなく、ただそこに自然に発生した怪異。けれど転じてしまったせいで、怪異は『大切な者』が居ない者の前では起こらない。
大切な者。そんなものはない、そう思っていたのに。
「……ッ肉が……何だこれは……」
白い骨を覗かせていた髑髏に、肉がついていく。
瞬きひとつする間に姿を変えた其れは、黒髪に青い目をした端正な女の貌と成り――そして、美しい顔に『死』が刻まれる。
傷痕、鬱血し変色した顔、見開かれた青い目と呼吸を求めるように開かれた唇。生きていればその瞳は生気の彩を浮かべ美しかっただろうに、青黝く濁ったそれに美しさはない。
――死因は、絞殺だ。
すぐにそう、判じることが出来る。けれど、この首は一体誰の……?
いつも通り、考察して。
「ッ」
そして、何かの糸が結ばれたような心地がした。
「いや違う……そうだ……私は……、……オレは……アンタを……」
アンタを知っている……!
けれど、違う。違うはずだ。コレはアンタじゃない。
この生首は幻で、怪異で、それにお前の死因は――!
しとしとしとしと、雨が降る。
いつの間にか生首は消え、雨が身体を濡らしていく。その冷えが心も鎮めてくれたのか、それ以上の戸惑いの言葉は溢れ出なかった。けれど。
頬に張り付く髪がその表情は隠していたが、僅かに唇だけが言葉を刻んでいた。
――だって、アンタを殺したのは……。
大成功
🔵🔵🔵
榛名・深冬
♢
生首とは悪趣味ですね
燈はひとで無く、バイト先の皆さんは特定の誰かでは無く皆さん大切
ひょっとしてわたしには見えないのでは…?
見えたのは涙の後が残る、悲しみに表情を歪めた女性
髪と同じく閉じた瞳が黒いことを知っている
絶望する姿がとても自然に見えた
だから、わかる
これはわたしの願望だ
このひとは最期まで
裏切られたのに優しげな面影を崩す事無く
信じて待ち続けたのだから
嫌になる程覚えてる
お母さん、どうして
わたし達を置いて帰ってこなかった父を
最期まで愛せたの
死人に口無し
聞いたって意味なんて無い
濡れない様上着に隠す様抱えている燈をぎゅっと抱きしめて
わたしはまだ、平気
まだ立っていられると強がり
目の前の幻想を拒絶する
●願望
しとしと降る雨が、肌から体温を奪っていく。濡れてしまわないようにと燈を上着に隠すように抱えれば、上着の中から小さく「キュ」と言う声が聞こえて、もぞもぞと上着の表面が蠢いた。
(生首……悪趣味ですね)
噂を聞いて、まずそう思った。
けれど『大切な誰か』が居ないとそれは見えないのだと言う。
大切――と思い浮かべて最初に胸に浮かんだのは、バイト先の人たち。明るい笑顔で笑いながらフォローしてくれたり、何かと深冬を気にかけてくれる優しい人たち。特定の、という訳ではなく、『バイト先の皆さん』と言う括りで大切だと思える人たちだ。『誰か』と個人を思い浮かべて出てくる訳ではないから、もしかしてわたしには見えないのでは?
深冬は首を傾げながらも山を歩き、そして、見つけた。
草の中に見えた、白い骨。
一歩足を踏み出す度にその骨は肉付き、『誰か』になっていく。
「――ッ」
思わず、呼吸を止める。
深冬は、その顔を知っていた。
白い頬には涙の跡が残り、悲しみに表情を歪めた黒髪の女性。悪夢を見ているような表情に見えるのは、瞼を閉ざしているからだ。
苦しくて、悲しくて、絶望して。
そんな表情で息絶えているその女性は――。
「――お母さん」
詰めていた息を、吐く。
――これは、わたしの願望だ。
そう、すぐに解る。このひとは最期まで優しげな面影を崩す事無く、信じて待ち続けていたのだから。こんな哀しげな顔をする事もなく、妻子を顧みずに宇宙を駆け抜けていた父をただひたむきに信じていたのだから。その姿をわたしはずっと見てきていた。嫌になるほど、覚えている。
「お母さん、どうしてわたし達を置いて帰ってこなかった父を最期まで愛せたの」
願望を映した死に顔に問うてみても、言葉は返らない。死んだ者は言葉は返さない。母も――もしかしたら、父も。生きているのかさえ知らないし、興味もないけれど。
「キュイ?」
縋るようにぎゅっと抱きしめた燈が案じるような声を上げる。
「わたしはまだ、平気。まだ立っていられる」
強がりを口にしたのは、言葉にしないと先に進めなくなってしまいそうだったから。
「キュッ」
「うん、いこう。燈」
目の前の幻想を拒絶して、深冬は歩き出す。生首が消えるのを待つこともしない。だって、意味なんて無い事なのだから。
身体を冷やす雨の中、ただ腕の中の燈だけが暖かかった。
大成功
🔵🔵🔵
クラウン・メリー
長閑(f01437)と
涙と血でぐちゃくちゃな表情
肩まである白髪は真っ赤に染まり
星空のように蒼い瞳は酷く濁っていた
お……かあ……
紡ぎそうになる言葉
けれど最後まで言えなくて
ドクン、ドクン
心臓の音が大きく聴こえる
呼吸するのを忘れてしまう
どうして、優しい表情じゃないの?
なんで、そんな苦しそうなの
例えこれが幻想だったとしても
俺の中のあの人は
今でも苦しそうに生きていることが
どうしようもなく悲しかった
長閑の声を聞いて
はっと我に返る
ううん、なんでもないよ!
精一杯の笑顔で彼に笑いかけて
ありがとう
髑髏を大事に抱えてる彼は誰が見えてるのだろう
顔は少しずつ髑髏へ
貴方が憎い。最後にそう聞こえた気がして
ごめんなさいと呟く
憂世・長閑
クラウン(f03642)と
艶やかな黒髪が、土に落ちた
知っている。それが元来髑髏でしかないということ
それでもその形を宿すなら
地面に転がらせた儘ではいれないの
――あるじさま
大切に手にして、掲げる
嗚呼、穏やかな表情をしている
『――お前だけを、信じているよ』
うん、オレも――主様の言うことが
それだけが、オレのすべて
服が汚れるのも気にせず汚れを取り払う
主の顔をした髑髏を、大切に抱いて
クラウン?
貼り付けたような笑みだと分かった
(誰が、見えたの?)
詮索はしない
その笑顔が彼の強さなら
でも
大丈夫だよ、クラウン
この髑髏は、本物じゃないもの
だから君がどんなに嫌なものをみたとしても
それが真実とは、限らないのだと――
●M
艷やかな黒髪が、土に落ちた。
土と花弁の上に転がる頭は、いつも長閑が見てきた表情で雨に濡れていた。
それが元来髑髏でしか無いということを知りながらも、長閑は屈んで腕を伸ばす。地面に転がらせた儘ではいられない。雨風に曝された頭にしてはおけない。例えそれが全く関係の無いものだとしても、その形を宿すなら。長閑は大切にしなくてはいけないのだ。
――あるじさま。
オレのすべて。オレの大切な人。
大切な頸を恭しく掲げれば、穏やかな表情へと笑みを向ける。
『――お前だけを、信じているよ』
主様の、声が聞こえる。主様が声を聞かせてくれる。
――うん、オレも。
長閑だけをと信じてくれると言ってくれる事が嬉しくて、その言葉を疑う事を知らない長閑は彼の人に好まれる笑みを向けて、心で返す。
主様の言うこと。それだけが、長閑のすべてなのだから。
手にした主の顔に、土や花弁が着いていることに気付いて、長閑は服が汚れるのも気にせず取り払う。大切な主に、傷一つ、汚れ一つあってはいけない。
「お……かあ……」
大切な頸を抱いて懸命に奉仕する長閑は、その一時、傍らに友人が居ることを忘れていた。蚊の鳴くような声が聞こえたような気がしたけれど、まずは主様を綺麗にしてあげることの方が大事だったから。
クラウンの眼前には、赤が広がっていた。
涙と血を絵筆で混ぜたような、ぐちゃぐちゃな表情。肩まであるクラウンとお揃いの白髪は血を吸って真っ赤に染まり、わたしに似なかったのねと少し残念そうに目を細めていた星空のような蒼い瞳は酷く濁っていた。
生者の気配はそこにはひとつもなく、クラウンの震える唇はそれ以上の言葉を紡げもしない。
指先が酷く冷えて、ドクン、ドクン、心臓の音がやけに大きく聞こえる。視界も明滅しているような気がするのに、その死に顔に視線が縫い付けられたように離れてはくれない。
(――どうして)
どうして、優しい表情じゃないの? なんで、そんな苦しそうなの?
笑顔を向けてほしいのに、幸せで居てほしいのに。どうして?
例えこれが幻想だとしても、幸せでいてほしかった。けれどそれさえも今でも苦しそうなことが酷く辛く、そして、どうしようもなく悲しかった。
「クラウン?」
掛けられた静かな声は「大丈夫?」と言うよりは「どうしたの?」と言う状況確認に近いもの。
その声にハッと我に返ったクラウンは、やっと呼吸をすることを思い出して。
「ううん、なんでもないよ!」
クラウンは今出来る精一杯の笑みを作って長閑に笑いかけるけど、長閑にはその笑みが仮面であることが解っていた。
(誰が、見えたの?)
けれど、聞かない。暴かない。
彼が纏う笑顔の仮面が彼の強さなら、気付かない振りをしよう。
でも。
「大丈夫だよ、クラウン。この髑髏は、本物じゃないもの」
彼の心が少しでも軽くなればいいと思う。
どんなに嫌なものを見たとしても、それが真実とは限らない。長閑が見たいと思っている表情を見ているように、クラウンはただ暗い気持ちに引き摺られただけかもしれないのだから。
ありがとうと小さく返して、クラウンは長閑の腕を見る。ぽかりと空いた、不自然な空白。きっと誰かの頭を抱いているのだろう。あんなに大切そうに抱く其れに、彼は何が見えたのだろう。
そう思いこそすれど、クラウンも長閑に問わない。聞けばきっと、彼は明るく返してくれるだろう。けれど「クラウンは?」と返されたてしまったら? 返事に困るのはクラウンだ。
視線を雨に曝されたままの死に顔へと戻せば、少しずつ髑髏へと戻っていく。そうしてそのまま、何も無かったかのように消えてしまうのだろう。
『――貴方が憎い』
消える寸前、そう聞こえた気がして。ごめんなさいと小さく呟けば、その細い声は雨音に消えた。
しとしとと降り続ける雨が、右頬の涙メイクを溶かしていく。人々を笑わせるピエロは、今だけは『クラウン』になるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルフトゥ・カメリア
【ソウカ】
湯冷めしろってか……風邪引くなよお前
?……ッ!
三十代程の見知らぬ男の首
柔らかそうな薄茶の髪はべっとりと血に塗れ、自分と同じ瑠璃唐草の花が潰れて散っていた
きっと、閉じられた瞼の向こうには琥珀の瞳
優しく何処か満足そうに微笑んだ、血に汚れた口許
血に染った、生首
あのひとの、……父さん、の
……あの人が死ぬ訳ねぇだろ!!
腹の底から己に喝を入れるように怒鳴る
そうだ、あの人が、父さんがそう簡単に死ぬ訳ない
憧れた大きな背、人を護る翼
忘れたはずの幼い記憶が刺激される
見知らぬはずのその生首を父だと怒鳴ってから、ふと我に返った
…………いや待て、俺、今、
くそ、キツいより腹立つ……!
さっさと元凶ぶん殴りに行くぞ
セラ・ネヴィーリオ
♢【ソウカ】WIZ
浴衣と上着、和傘を借りて裏山へ
故郷もよく冷たい雨が降ってたっけ
(大切な誰か、かあ)
浮かぶのは今は帰る術のない世界のお母さんのこと
玄関で迎えてくれた軽いウェーブの長い白髪
優しげに下がる眦
(まあ会いたいよねえ)
そんな顔が、ふと目を遣った草間に恐怖を浮かべて打ち捨てられていて
「あ、」
不意打ち。目を奪われ崩れ落ちる
真っ白な頭にかろんと何処かから鐘の音
ざわりと心を撫でられ、震え
ああ
死に攫われたなら
僕が連れていかなきゃ
手を伸ばしかけて怒鳴り声に引き戻された
ルフくんにも見えたんだ
お父さん?…そっか、何か思い出した、のかな
「…行こう。ここには居たくないし」
一人だったら、とは考えないようにして
●父母
しとしとしとしと、雨が降る。
宿で借りた和傘から手を出して、上向けた掌に雨を受け止めたセラは、故郷にもよく冷たい雨が降っていたことを思い出す。墓場へ続く長い葬列のある日は、悲しむように空も涙を零していた。
しとしとしとしと、死を連れて。
「湯冷めしろってか……風邪引くなよお前」
宿の浴衣に身を包んだルフトゥは「寒……っ」と小さな身震いとともに傍らへと声を掛ける。言葉遣いは荒い彼だが、その言葉には気遣いが滲んでいて、セラは短く「ん」と微笑んだ。
「? ……ッ!」
山の中。道なき道を歩んでいたルフトゥの足が、縫い付けられたかのようにピタリと止まる。大きく目を見開き、一点を見つめ、息を飲み込んで。
草陰の中に、ころりと転がるは見知らぬ男の首。年の頃は三十代程だろうか。柔らかそうな薄茶の髪はべっとりと血に塗れ、ルフトゥと同じ瑠璃唐草の花が潰れて散っていた。閉じられた瞼の向こうの瞳は、きっと琥珀色。血に塗れて陰惨だと言うのに、その表情は優しく何処か満足気でさえある。柔らかく微笑みを浮かべる口元には血で汚れているというのに、幸せそうで、満ち足りていて、酷く何かがおかしい。
こんな場所に、こんなものがある訳がない。
だってあの血に染まった生首は――あのひとの、……父さん、の――。
噛み締めた奥歯が、ギリッと不快な音を立てた気がした。
(大切な誰か、かあ)
大切な人。そう考えて思い浮かぶ顔はいくつか。藪椿の猫目石、住まう場所で世話になっている面々、そして傍らの彼。
けれどやっぱし、また会いたいなと思える人は、今は帰る術のない世界の母のこと。夕飯の香りが漏れ出す扉を開ければ、ウェーブ掛かった白の長髪を揺らしながら出迎えてくれる、母。見つめてくれる眸はいつだって優しくて。優しげに下がる眦が大好きだった。
「あ、」
優しい記憶に笑みを浮かべた、はずだった。
それなのに、どうして。どうして、あんなところに。会いたい人が、逢いたい人の頸が、あんなところに転がっているのだろう。
優しい表情ばかりだった母の顔が恐怖に染まり、草間に打ち捨てられている。見開かれた目は何も映しはしないのに、何かをセラに訴え掛けるように見開かれ――目が、離せない。
足からはとうに力が抜け、崩れ落ちたまま立ち上がることは出来ない。踵を返すことも顔を背けることすらままならなくて、ただただ真っ白な頭で凝視する。
何処かから、かろん、と鐘の音が聞こえて。
ざわり、撫でられた心が震えた。
(――ああ)
死に攫われたなら、セラは役目を果たさねばならない。
――連れていかなきゃ。
地面に膝をついたまま、手を伸ばし――。
「……あの人が死ぬ訳ねぇだろ!!」
ルフトゥの怒声が響き、囚われていた意識が引き戻される。伸ばしかけていた手は、そのまま緩やかに落ちていった。
(お父さん? ……そっか、何か思い出した、のかな)
低く力強い怒声は、ルフトゥ自身にも喝を与えるもの。目の前の死に顔を信じてなるものかと、己に言い聞かせるものだ。だって、あの人は、父さんはそう簡単に死ぬような人じゃない。
幼い頃、大きな背中に憧れた。人を護る翼に、自分もいつかは……と心を震わせた。
「…………いや待て、俺、今、」
見知らぬ顔だと思ったその生首を父だと認識し、記憶の蓋が開かれた。
「……行こう。ここには居たくないし」
「そうだな、さっさと行くぞ」
視線を戻せば、死に顔は既に消えている。まるで夢でも見ていたかのように。
元凶、なんてものはない。これはただの怪異。夢に近いもの。
けれど、ざわついた心を鎮める為に力をぶつけるには丁度良いのだろう。ルフトゥはセラより一歩先に歩みだし、セラはその後に続いた。――一人だったら、なんてことは考えないようにして。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
陽向・理玖
よく、見えねぇ…
足元に注意し慎重に歩を進め
あれは…
何かに気づき顔色を変え
そんな…
なっ…んでっ…
何で、こんな、ところに
手を伸ばし
あっ
あああああッ…
師匠ッ!!
生首かき抱きくずおれ慟哭
やがて感触がなくなり
跡形なく消えた事に気づく
あ…
噂の…か…
やっぱ師匠は
…死んじまったのか?
それとも…未だ
あれから一度たりとも口にしたことのなかったことを虚空に呟き
苦しみも
恨めしい顔でもなく
唯唯静かな表情だった
それが幻だったとしても
あまりにも的をつきすぎていて
師匠…
俺仲間が出来たんだ
師匠といた時より楽しさも嬉しさも分かるようになった
だから、
心配しねぇでくれ
そう言おうとして口をつぐみ俯く
だけど…何でだ
今…ひどく、
くるしい
●シ
雨が降らずとも、誰そ彼時の山の中は暗い。しとしとと、葉に、地に唄う雨も加われば、それは尚更のこと。理玖は泥濘んだ地面や濡れた葉に足を滑らせないように注意して、慎重に歩を進めていく。
「あれは……」
最初に見えたのは、白。
暗い木々と草の合間に、ぼう……と白が浮かんで見えた。噂の髑髏だろうかと近付けば、その間に其れは白一色ではなくなって――。
「ッ」
下駄を履いた爪先に、ぐっと力が籠もる。
「そんな……なっ……んでっ……」
何で、こんな、ところに。
それは、こんな場所にあるはずがないもので、見たくもないものだった。
それは、静かに眠っているようだった。苦しさも恨めしさも無く、ただ眠っているように目を閉じている。頸の下に身体さえあれば、そうとしか思えない安らいだ顔だった。
それは――、
「あっ、あああああッ……」
言葉にならない哀しげな声が木々を震わせる。
膝をついて震える手を伸ばし、触れるそれは冷たくて。
全身がガクガクと震え、取り落しそうになりながらもなんとか腕に抱えた。大切なものだ、大切なひとだ。転がしておく訳にはいかない。
「あああッ――師匠ッ!!」
それは、師匠の頸だった。
心の底が、腸が、脳が。全てが全てを乱暴にぐちゃぐちゃにかき混ぜて、ぶちまけたような心地がした。頭はまともに働かず、ただ体内で生まれた悲鳴を外に排出することしか理玖には出来なかった。
どれだけの間、慟哭していたことだろう。いつの間にか腕の中の感触が跡形もなく消え去って居ることに気付き、理玖は小さく声を零して腕の中を見て確認する。土に塗れた頸を抱いたというのに、浴衣には汚れひとつついてはいなかった。
「やっぱ師匠は……死んじまったのか? それとも……未だ」
師匠と別れたあの日から一度たりとも口にしなかった言葉。思い浮かんでも、噛み殺してきた言葉。過ぎった不安が、虚空に響いた。
助けてくれた、恩人。
一緒に暮らしてくれた、掛け替えのない人。
多くを教えてくれた、憧れの人。
――師匠。
「俺、仲間が出来たんだ。師匠といた時より楽しさも嬉しさも分かるようになった。だから、」
心配しねぇでくれ。――そう言おうとして、口を噤む。
押し寄せる虚しさに俯いて、胸元の浴衣をぎゅっと握りしめる。
あんたが居ないのは、苦しいよ……師匠。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
悟郎(f19225)と行動
生首の噂、ね。大切な人の死に顔が見える――か。
影朧絡みじゃなけりゃ、タチの悪い噂だと笑ってるトコなんだが。
傘と水の入った水筒を二つくれ。悟郎の分と俺の分。壊しても弁償費が要らない使い捨ての傘がいい。
雨の降る中を悟郎と共に談笑しながら。噂の生首を見付けてからが本番さ。
俺の見る生首は過去に俺が殺した親友のそれだ。苦しげに俺を見てるが、銃弾をぶち込んで黙らせる。
悪趣味な怪異は見慣れてる。…あいつの顔を真似されてたまるかよ。
悟郎の苦しみには肩をゆすって名前を呼びかける。
気付くまで何度でも呼びかけるぜ。瞳に正気が戻れば、一息。
水を手渡して、落ち着いたか?と声を掛けるぜ
薬師神・悟郎
カイム(f08018)と
酔い覚ましの散歩も兼ねて、噂を確かめにいこう
…念の為に狂気耐性も備えておくか
他愛ない話をしている時にカイムの様子が変われば嫌でも気付く
現れたのは昔、迷い込んだ世界で世話になった恩人の女性の生首
「違う」と分かっているのに、その姿に否定することができない
あの時と同じ声でからかうような口調で、だがその言葉は呪いに満ちていて
目を背け耳を塞ぐこともできない
カイムが声をかけてくれなければ危なかった
深呼吸した後は水を受け取り大丈夫だと伝え
「カイムは…無事か?」
彼も何かを見たはずだが、どこか支障をきたしたりしていないだろうか?
影朧のお陰で気分は最悪だ
これが終われば飲み直しに行くぞ
絶対だ
●呪
実しやかに囁かれる、生首の、噂。
そんな噂は何処にでもあって、与太話だと笑って聞き流してしまう。噂を聞いた殆どの人がそうであろう。カイムとてタチの悪い噂と笑うところだが、今日は違う。何せ、影朧絡みの噂だ。『起こる』とも聞いている。ならば、そうなるのだろう。
「酔い覚ましの散歩も兼ねて、噂を確かめにいこう」
「覚めなかったらどうする?」
「また呑み直せばいいさ」
宿で傘と水の入った水筒をふたつずつ貰い、二人は裏山へと足を向けた。こんな襤褸傘でいいのかい? と宿の者は案じていたが、壊れても良い物をと求めた為、朱色の和傘はところどころ穴が空いていた。
穴から時折垂れてくる雨水がピンポイントに首に触れ、悟郎がビクリと身体を跳ねさせるのをカイムが笑い、仕方がないだろうと悟郎がムッとして。
そうして談笑を交えながら歩む二人であったが――。
ピタリ。カイムの足が地に縫い付けられたかのように止まった。
「カイム……?」
どうしたのかと悟郎が声を掛けるが、カイムの視線は何かに吸い寄せられたかのように一点を見つめ、いらえは無い。
カイムの視線の先、そこには生首が転がっていた。
苦しげな表情で、瞳孔が広がった濁った眸が、虚ろにカイムを見つめて来ている。
それは――、
「チッ」
舌打ちとともに『オルトロス』を引き抜き、素早く『親友』の額へ鉛玉をお見舞いしてやる。二丁でひとつの銃だが、今日は片手が傘で塞がっている為、一丁だけ。けれど苛立ちからか、何発も銃弾をぶち込んでやった。
(……あいつの顔を真似されてたまるかよ)
ガウン、ガウン、ガウン――ッ。
猟犬が吠える度、暗い山の木々の合間に紅く閃光が
カイムの視線を追って悟郎が見た先、そこには何も無かった。
けれどカイムの様子が急に変わった為、怪異を見たのだろうということは嫌でも気付く。動かなくなったカイムの為にも辺りを警戒しようとして、そして――悟郎もまた、見つけてしまったのだ。
草陰に転がる、恩人の女性、の生首を。
迷い込んだ世界で世話になった、女性。昔と言っていいくらいの懐かしさを覚えるが、今でも恩人として忘れたことがない女性。困っていた悟郎に手を差し伸べ、けれど気を負い過ぎさせぬようにといつもからかうような口調で声を掛けてくれていて――。
あの時と同じ声、同じ口調。そんな、声が聞こえる。死に顔は死に顔で、唇が動いているわけではなくて、これは幻聴。そして本当の彼女ではない。そう、解っているのに。解っているのに、呪いに満ちた言葉を悟郎の心が吐き出すのだった。
見開いた瞳は縫い付けられ、逸らせない。聞きたくないと耳を塞ぐことも出来ない。
傍らで幾度も銃声が響いたというのに、悟郎にはまるで聞こえていなかった。
「悟郎ッ!」
幾ら銃弾を撃ち込んでも消えない生首は放置して、カイムは傍らの友の双肩を掴む。傘を放り投げた為、身体が濡れてしまうが気にはしない。
幾度もその名を呼んで、揺すって。そうして緩やかに向けられた瞳の中に確かな光が見えるまで、友を案じた。
「落ち着いたか?」
確りと視線が結ばれ、心底安堵した表情とともに、ホッと息が溢れる。
腰に括り付けていた竹筒の水筒を手渡すと、悟郎は深呼吸をしてから受け取って。一口二口、冷たい水を流し込めば心が落ち着いた様子で。「大丈夫だ」と返す余裕も生まれた。
「カイムは……無事か?」
傘を拾いに行ったカイムの背に、声を掛ける。
カイムとて、見たのだろう? どこか支障をきたしたりしていないか?
案じる視線に、ひらりと手だけが振り返された。
「これが終われば呑み直しに行くぞ」
「酔いも覚めてしまったしな」
行こうぜと促して、カイムが歩き始める。
既に生首は消えていることだろうが、二人は振り返り確かめようともしなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マレーク・グランシャール
【神竜】篝(f20484)と
足下に洪水のように金色の髪が広がっている
ああ、これは愛する女の首だ
篝の首に驚くものの、悲しんだのはわずか
髪の毛が無事であることに安堵する
髪は霊力の源だとヤドリガミの友が言っていた
女神たる篝ならばいずれ身体は甦りもしよう
だが夜毎抱きしめた身がないのは淋しいものだな
俺が生きている間にもう一度その口唇で愛を囁いてくれ
お前を甦らせる為ならば、俺の命の灯火を捧げよう
微笑んだまま事切れた篝の首を持ち上げ、生気を分け与えるため口付ける
喰み返す口唇と触れ合う吐息に、甦ったと錯覚さえしてしまうだろう
抱きついてくる篝を抱き返して初めて幻惑に気づく
悲しい思いをさせたな、俺は此処に居るぞ
照宮・篝
【神竜】まる(f09171)と
雨が降る誰そ彼時、と聞いていたから
そろそろだろうか…
まる、もし何か見ても私ではないからな、信じてはいけな、
……まる
どうして、まる、冷たい、まる
泥と血で、こんなにも汚れて
無表情なのは、たった今までと同じなのに
どうして、篝を置いて…
…首から下を、作ってやらなければ
私は割りと何でもできるのだぞ?
死んで間もないなら、魂もきっと呼び戻せる
何も心配はない
もう、寒くないぞ……
……寒かったな、まる……
慈しむように、惜しむように、口付けて
ふと、温かく返す唇に気付いて
まだ作っていないのに、まるに身体がある
……生きて、いた……今の首は、幻……
抱きついて泣きつくぞ
死んでいたのはどちらだ!
●最愛
「そろそろだろうか……」
暗い木々に囲まれた山の中。時刻はとうに誰そ彼時。
山の中を歩む照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)はぽつりと零して傍らの長身の黒衣の男――マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)へと声を掛けた。
「まる、もし何か見ても私ではないからな、信じてはいけな、」
けれどその声は、途中で絶える。
何故だか立ち止まった傍らを見ようと視線を巡らせたその先に、在るべきのない場所を見つけ――そして、囚われた。
「……まる」
女神の花唇が、愛しい男の名を呼ぶ。
美しい衣が土に汚れるのも気にせず膝を着けば、梅の香りがふわりと舞った。
静謐さを湛えるそれは、顔だけとなっても無表情で。
震える指先を伸ばして触れるそれは、ああ、泥と血でこんなにも汚れて、冷たい。
今さっきまで傍らに居たはずの最愛が、死んでいる。
「どうして、篝を置いて……」
震える手で抱きしめる。頸だけとなっても、こんなにも愛おしい。
――ああ、そうだ。
女神の花唇が薄ら開く。
「……首から下を、作ってやらなければ」
神たる権能を行使すれば、割と何でも出来る。死んで間もないのなら、きっと魂も呼び戻せることだろう。呼びかけて応えなかったらどうしようかと頭の隅に暗雲が掛かるが、出来る、と己に言い聞かせた。何も、心配はない。
「もう寒くないぞ……」
雨に打たれて冷え、泥と血に塗れた両頬を愛しげに手で包んで。女神はそっと、慈しむように、惜しむように口付ける。
唇に触れる冷たさに心がぎゅうと握られる心地がしたが、構わない。熱を分け与えるように、篝は愛しい生首へと口付けを続けた。
足元に、金の髪が洪水のように広がっていた。
――ああ、これは愛する女の頸だ。
篝が声を掛けた時。その時には既に、マレークは生首を見つけてしまっていた。驚きに足を止め、揺らがぬアメジストが悲しみに揺らし、息を詰めて見つめていた。
愛しい女の頸は、死して尚美しかった。美しい絹糸のような金糸の髪はそのままで、形の良い唇は艷やかな紅を刷いたまま。夜毎抱きしめた身が無いのは淋しいとは、彼女の髪が無事であることに男は心底安堵した。髪を保ったまま首を斬るなど、髪を鷲掴みにして引っ張った証でもあるが――それよりも、マレークは彼女の髪の無事に安堵した。それは、彼の友たるヤドリガミが「髪は霊力の源だ」と言っていたから。女神たる彼女ならば、いずれ身体は甦りもしよう。
――俺が生きている間にもう一度その口唇で愛を囁いてくれ。
地に膝を付き、微笑んだまま事切れている最愛の女神の首を持ち上げる。
恭しく、神からの賜り物の如く掲げて。
そっとその唇に、口付けを。
贈るは命。彼女が甦るのならば、命の灯火を捧げることなど厭わない。相手は神なため、足りずに吸い尽くされる可能性の方が高いが、マレークはそれさえも本望だと思う。
(けれど、お前を独りにしたくなはい)
恭しく口付けて、気付く。
すぐ近くにも、彼女の顔が、もうひとつ。
見えない何かを手に掴み、少し哀しげに顔を寄せているではないか。
――篝。
彼女の手の間へと手を伸ばし、頬に触れる。
その頬の暖かさに誘われるように口付けて――。
「――!」
赤を宿す瞳が開かれる。
冷たい、死した男へと口付けていた女神の唇が、熱を感じた。驚いた表情で見開いたその先に、愛した男が居た。まだ身体を作っていないというのに、首から下を生やして。
「……生きて、いた」
今の首は幻か。そう気付けば、手の中に首がないことにも気付いて――。
「まるっ!」
愛する男の首へと手を伸ばす。強く抱きしめて、強く唇を押し付けて。
そして、女神は涙雨をぱたぱたと男の頬に落とす。
冷たい雨の中に、温かな雨。
緩やかに男の視線は結ばれて、そして理解する。
「悲しい思いをさせたな、俺は此処に居るぞ」
「死んでいたのはどちらだ!」
温かな肢体を強く抱きしめれば、腕の中で妹背の君が涙声で可愛く怒鳴るのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
東雲・咲夜
【藤桜】
仄かな熱に指惹かれ獣道を往く
水気を吸い上げた大地は滑りやすい
そうくんも気ぃつけて
うちの大切なひと…
心に熟した実は貳つ
ひとつは『戀』
ひとつは『㤅』
月と陽
大切と云うならば、きっと其の何方かでしょう
軈て碧に佇むまあるい"誰"か
未だ、血肉は視えへん
白磁の噐を胸に抱けば深心を僅かに拓く
うちの大切な誰かなら、恐くなど――
さらり、
指間を抜ける細い絲束の感触
女性的な馥郁を孕んだ白檀と花蜜の芳香
視界の翳にちらついた淡い銀桜
綯交ぜな感情に与する名
其はきっと厭うべきもの
粟立つ腕から墜ち逝く肉塊
或いは撥ね除けたか
千草に転がる首は降り注ぐ天涙の中
唯、茫然と佇立した『躰』を、嗤っている
何処迄も醜い、『私』のように
朧・蒼夜
【藤桜】
獣道
彼女が怪我しないように手を繋ぎ導く
大丈夫かい?足元を気をつけて
ありがとう
そこに見えるは髑髏
これが噂の
近くに寄れば肉付く
誰かなど見なくてもわかっている
隣にいる彼女
俺の大切な人
彼女の顔は何処か切なくでも哀れんでいた
殺した相手を?それとも自分を?
他人を思い遣る彼女らしい
俺はきっとソイツを殺すだろう
こんな顔をさせたくないさせない
それが俺の生きる意味だから
隣の彼女の顔を見る
何を見ているだろうか?
彼女の大切な人
彼女の顔が絶望へと変わり哀しみ、涙を流す
あぁ、例えそれが俺では無くとも彼女の笑顔を護りたい
彼女の手を優しくでも強く握る
咲夜と名を呼ぶ
君が嘘偽りの場から戻って来れるように
●恋と愛と、
暗い山の中を、こっちだ、と蒼夜が咲夜の手を引き、一歩前を歩く。雨で、しかも誰は彼時。ただでさえ歩き難い獣道は、土は泥濘足を取り、草は雨水で滑らせてくる。幼馴染を転ばさぬようにと、蒼夜は安全な足場を確かめながら慎重に歩を進めていた。
しとしとと降り続ける雨から護るようにと頭から藤羽織を被らされた咲夜は、指先に伝わる熱を信じ、彼が導くままについていく。
「大丈夫かい?」
時折、蒼夜はそう声を掛ける。
足元に気をつけて。ここに岩があるよ。寒くはないか。
「そうくんも気ぃつけて」
「ありがとう」
案じてくれる彼の優しさに咲夜が微笑めば、振り返る視線が柔らかく綻んだ。
(うちの大切なひと……)
心に熟した実はふたつ。
ひとつは『戀』、ひとつは『愛』。月と陽。
大切と言うならば、きっと其の何方かだろう。すぐ傍らの彼と、それから――。
広い背から逸した眸に、何かが入り込む。
白い頬骨がぼんやりと暗い草陰に浮かんで見えた。
「咲夜……?」
蒼夜の手の中から、白魚が雨の中へと抜けていく。一歩ニ歩、離れた彼女はしゃがみ込み何かを拾い上げて胸に抱いたようだが、蒼夜の眸には何も映ってはいない。
どうしたのかと問いとともに手を伸ばしかけ……そして、蒼夜も髑髏を見つけた。
誰かなど見なくても解っているそれは、近くに寄れば肉づいて。
愛しい想い人が、可憐な幼馴染が、切なく哀れんだ表情で虚空を見つめていた。
自分を殺した相手を思っているのだろうか。
それとも、俺の事を想って――彼女が最期に想ってくれるのが俺ならば、なんて。ぞくりと湧いた欲を、頭を振って払い除ける。
彼女はきっと誰か、他人を最期の時まで思い遣っているのだろう。それはとても彼女らしいと思う。
(けれど――俺はきっとソイツを殺すだろう)
こんな顔をさせたくない。否、させはしない。最期に想って欲しいなど、もう、思いもしない。咲夜の身と心を護る騎士、それが朧・蒼夜の生きる意味なのだから。
胸に抱いた白骨は肉付き、硬い感触は糸束の感触へと変わった。
白檀と花蜜の馥郁たる香りが漂って、さらりと指間から零れ落ちる、淡い銀桜。
視線を落とした腕の中に落とした瞳が拾ったのは――。
――嗚呼。
大切な誰かなら、恐くなど――なんて。どうして一寸前の自分は思えたのだろう。
一寸先は、闇。光明射さぬ山の中、唇を震わせた咲夜は『其れ』を取り落とす。腕がぶわりと泡立つ不快感とともに跳ね除けたのか、それともぐちゃりとかき混ぜられたような気持ちから落としただけなのか。咲夜には判断をつけることも、考えることも、できやしない。
てんてん、てん。
手鞠のように転がった其れが、『躰』を見上げて嗤っている。
何処迄も醜い、其れは――。
(嗚呼、うちの大切な人は――)
嗚呼、嗚呼。何処迄も醜いのだろう。
愛していると、恋していると、人々の幸せをと願っていても、結局一番に大切だと思っているのは――『私』。醜い現実が、醜い心が、醜い『私』を突きつけてくる。
「――咲夜」
絶望、悲哀――そして落涙。
声を掛けても、咲夜は振り返らない。身体を震わせ、表情を歪め、涙を零す。解かれた手を握り直しても、彼女は動きを止めたまま心囚われただ震えて。
「咲夜、見なくていいよ」
君が見たくないものなら。
藤羽織毎抱き締めて熱を分け、伸ばした手で其の目を覆ってしまう。
藤の香りだけを感じて、君がそれを標として戻ってこれるように包み込んで。
――嗚呼、このまま腕に閉じ込めてしまえたらどんなに幸せなことだろう。
心を隠し、騎士は幼馴染の名前を口にする。
「咲夜、戻っておいで」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リリア・オルトラン
♢
【桜月】
夜の雨は好きになれんなぁ。月も星も曇に隠れ、足取りも重くなる。
こんな時こそ発奮しなければならんな!怪異を見付け蹴散らしてやろう、結都殿!
それにしても道が進みにくい…むっ!今あちらに何か見えなかったか?
!なるほど、これが噂の髑髏か…!
苦し気な表情が心を抉る。7つ上の兄様のお顔だ。
違う!あの人はこのような顔をする人ではない!……いや、これは苦しむ顔をして欲しくないという私の心の表れか…。
誰にもいずれ死は訪れる。しかしあの人の最期は穏やかなものであって欲しい。
くだらぬ幻想を見せられたものだ。許さんぞ。
立ってくれ、結都殿。下を向いていては気も沈む。月が隠れていようとも、上を向こうではないか!
桜・結都
♢
【桜月】
雨夜は独特な香りがしますね
手元の明かりのみでは心細い、
そんな心に噂が入り込んでくるのでしょう
道の先に見えた白光に、足を止める
彼女の進む背を追うものの、見る方向は少し違っているようで
……ああ。そう。よかった。……現実とは違うと分かっているのに、
それでも僕は、君にもう一度会えた事がうれしい
合わせ鏡のようだと言われていた双子の兄が
静かな表情で、其処にいるかのようで
このまま動き出してくれたら、どんなにか良かっただろう
膝をつき手を伸ばしてみようとするけれど、
触れられない
掛けられた声にはっとして見上げれば、月よりも明るい金の髪
……そうですね。幻だとわかっている、のだから
立たなければ、ならないんだ
●兄
夜の雨は好きになれない。月も星もみんな雲に隠れて、空はイロを失って。更に山の中に入れば木々の天蓋が更に視界を奪い、足取りも重くなるというもの。
空を見上げ、地を見下ろして、足を濡らす葉を蹴って。そうして小さな嘆息を零した少女は、むんっと気合を篭め直して正面を睨むように見つめる。
「こんな時こそ発奮しなければならんな! 怪異を見付け蹴散らしてやろう、結都殿!」
「そうですね、リリアさん」
雨の香りに誘われるように視線を木々の闇の中へと向けていた結都は、気合十分なりリアへと視線を戻し、柔く笑む。彼の動きに合わせ、手にした灯りがゆうらりと付いてはくるけれど、遠くを見渡すための灯りにはならない。精々滑りやすい足元と手が届く範囲くらいは照らそうとリリアの方へと灯りを寄せた。
「……むっ! 今あちらに何か見えなかったか?」
「あっ、走ると危ないですよ……っ」
仄明かりで何かが見えたとリリアが小走りに向かっていき、慌てて結都も追い掛ける。結都にも、確かに白い何かが見えた。けれど、瞳が捉えた其れが僅かに彼女が向かう先とは違う事に気付き――足を止めたのは、心の隙間に噂が入り込んできたせいだろうか。
「なるほど、これが噂の髑髏か……!」
足を止めた結都に気付かずに、見えた白骨へと躊躇無く近寄り覗き込む。
其れは瞬く間に肉付き、顔を作り、リリアはアッと息を飲んだ。
――七つ上の、兄様。
病弱だがとても優しい兄。彼に代わって強く在ろうとするリリアをベッドから見上げる時の表情は、優しいのに何処か寂しげで――きっと、お前に背負わせて済まないとか、リリアのことを沢山想っていてくれたのだろう。けれどリリアがその言葉を欲していない事を知っている兄は、ただ柔らかく微笑んで――……そう、こんな、苦しげな表情はしていなかった。苦しんで死んでいい人なはずがない。
病弱な兄にはきっといつか死が訪れる。しかし死は、誰にだって等しく訪れる。少しだけ早いか、少しだけ遅いか。違いはそれだけだ。
「こんな死は、間違いだ」
あの人の死は、あの人の最期は穏やかなものであって欲しい。
それは切なる願いで、彼がそうあれるのならリリアはいつだって努力は惜しまない。今までも、これからも。
「くだらぬ幻想だ」
誰かが見せたわけではない、ただの怪異。けれどふつりと胸に覚えたのは、確かな怒り。
吐き捨てるように呟いた少女は、偽物なぞに興味はないと言わんばかりに兄の死に顔から顔を背けた。
結都の前には、双子の兄が居た。
――否、双子の兄の首が、転がっていた。
最初に覚えたのは、喜色。思わず、よかったと心よりの声が零れた。
鏡や水に映る姿で毎日見ている、同じ顔。けれどそれは実体ではないと解るものだし、見つめているととても虚しくなってきてしまう。
目の前にある頸とて、現実のものではないと理解っているのに、けれどそれでも、結都は兄にもう一度会えた事が嬉しかった。鏡のように同じ表情を取らず、ただ静かな表情で『其処に居る』。
このまま動き出してくれたら、どんなにか良かっただろう。
笑みを向けてくれたら、どんなにか心が震えただろう。
結都と名を呼んでくれた、どんなにか――。
「――」
兄の名を口にする。けれど、いらえはない。
せめて触れようと膝を付き、手を伸ばし――其の指は、兄の眼前で止まってしまう。
触れなかったら、どうしよう? 兄が居ないことを心が認めてしまう。
触れたら、どうしよう? また、別れることとなる。
伸ばした腕は、視線とともに落ちていく。
「立ってくれ、結都殿」
「……リリア、さん」
「うむっ」
掛けられた声にハッとして見上げれば、月よりも明るい金の髪。空も木々も暗いからこそ、其の色が世界を彩っているように思えて目を細めた。
「月が隠れていようとも、上を向こうではないか!」
地上の月が、からりと笑う。
そうですねと口にした結都も、弱々しくもつられて笑みを浮かべて。
「さあ、行くぞ。結都殿」
差し出された手に、少しだけ躊躇して。
それでも結都はその手を掴む。
立たなければ、ならないんだ。――前に進むために。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジン・エラー
♢
なんでだろうね
なんとなく、本当に、なんとなく
僕が行きたいと思ったんだ
勘だなんて、彼じゃあるまいし
──嘘だろう、冗談はよしてくれ
嗚呼、嗚呼、
まさか、君の"寝顔"が見れるなんて。
あれほど欲しがっていたものに、君がなってしまうなんて。
なんて皮肉めいていて。なんて艶やかなのだろう。
彼のお気に入りである桜の君のことを、僕は愛していないけれど。
この寝顔は、とてもとても愛おしくて。
その白膚に頬擦りをしよう。
薄紅の唇に口付けだってしてしまおう。
親友より。恋人より。番より。
誰よりもこの顔を愛そう。君を愛そう。
ああ、こんな顔、
誰にも見せられないね。
───あハ、
●彼のお気に入り
――なんでだろうね。
雨に濡れた草を踏み、ジン・エラー(我済和泥・f08098)はレザーマスクの下の口の端を僅かに上げた。
此処へ来たのは、何となく。ただ本当に、何となく。聖職者の『彼』じゃなくて『僕』が行きたいと思ったのだ。何となく、勘みたいなものがあった。
(勘だなんて、彼じゃあるまいし)
マスクの下で、笑みを刻む。
陰鬱そうな雨の中でも気分は良い。晴れの日なんかよりずっと良い。
だってこんな日はさ、ほら――ね、みぃつけた。
「――嘘だろう、冗談はよしてくれ」
”愉しいもの”が見られると思っていた。愉しいものに出会える気がしていた。
けれど、嗚呼、嗚呼。想像よりもずっといい。
――まさか、君の”寝顔”が見れるなんて。
丈のある草陰に、頸が転がっている。褥のような黒髪の上にころんと転がる顔は、穏やかに瞳を閉じて”眠って”いる。彼女があれほど欲していたものに、彼女自身がなっている。それはなんて皮肉めいていて、なんて艷やかで、なんて愉快なのだろう。
ジン――『僕』は『彼』みたいな下卑た嗤いは浮かべないけれど、肚の底に感じるのは、確かな愉悦。彼のお気に入りである桜の君のことを愛してはいないけれど、この寝顔はとてもとても愛おしく思った。
白い肌に、ツ、と指を滑らせて。
掌で愛おしむように撫でて。
恋人みたいに頬を寄せて。
そうして、薄紅の唇に口付けだってしてしまおう。
レザーマスク越しに眠り姫に口付けて、少しだけ考える。親友より、恋人より、番より。誰よりもこの顔を愛するにはどうすればいい?
答えの決まった自問自答。
マスクのチャックを横に引けば、ニイと悪戯猫のように上がった唇が覗いて――そうして、君を愛した。この顔は、この頸は、今は『僕』だけのもの。消えてしまうその時まで『僕』のものだ。
唇を、直に触れさせる。桜のそれは、甘くはない。
ああ、笑みが溢れる。歪んだ歪んだ、心を映す笑み。
こんな顔誰にもみせられない、なんて思うけれど。今この暗闇には君〈頸〉とジン〈僕〉しかいないから、構わない。
「───あハ、」
君が今どう思っているか聞けないことだけが、残念だ。
大成功
🔵🔵🔵
斬崎・霞架
♢
さて、では行ってみましょうか。
噂の裏山とやらに。
聞いた話を元に探索してみましょう。
特に目印となる物がある訳ではなさそうですが…
…いえ、“傘をさした男の子”と言う手がかりはありましたね。
それまでに聞いて居たのは“髑髏”と“大切な人の顔”。
ならば件の男の子は、変化した噂の原因か、或いは別の…?
…ありましたね、頭蓋骨。
しかし“大切な人”ですか。定義が曖昧ですが…
(例えば、と。黒髪紫目の美人と黒髪赤目の紳士の、
育ての両親を皮切りに、関わった人たちを思い浮かべる)
何の意味があるのか、優先されるのは意識か無意識か。
…大切な人の死に目、恐怖はありますよ。
ですが、そうさせない為に、今の僕は戦っているのです。
●意識か無意識か
ぽつり、と。
上向けた掌に落ちた雫を追うように霞架は天を見上げる。
しとしとと降り出した雨は暫く止みそうも無く、時が来たのかと、そう思わせた。
「さて、では行ってみましょうか」
噂の裏山とやらに。
眼鏡に付着する雫を気に留めず、霞架は身ひとつで宿の裏山へと向かうのだった。
小さな山の傾斜はそれ程急な訳ではない。この土地に住まう者たちが作った道を通れば、歩くのは容易だ。しかし、霞架は道なき道へと爪先を向ける。
特に目印も無く、適当に山の中を彷徨わねばならない。規則正しい怪異などある訳もなく、ただ山の中と時間と雨、その3つが重なること。それから、『大切な人』。全てが揃って、”運が良ければ”髑髏に相まみえる。
(……いえ、“傘をさした男の子”と言う手がかりはありましたね)
しかしその話が、髑髏と関係しているかどうかは解らない。他の人の口からは聞いていない話である。
(件の男の子は、変化した噂の原因か、或いは別の……?)
暗い山の中、考えを巡らせながら歩み行く。
「……ありましたね、頭蓋骨」
草陰に覗く、白骨。丈の長い草を分けて進み、すぐ近くへと近寄りしゃがみ込む。
大切な人。そう考えて思い浮かぶのは――。
例えば、育ての親の黒髪紫目の美人と黒髪赤目の紳士。
他にも、関わったことのある人達。
どの人たちとの繋がりも大切で、掛け替えのないもの。
優先されるのは、意識か無意識か。さて、どちらだろうと霞架は眼鏡の奥で沢山の顔を思い浮かべた。
勿論、霞架にとて大切な人の死に目を見るのは怖い。けれど、大切な人たちをそうさせない為に霞架は戦っているのだ。
そうして、霞架の目の前に現れた顔は――。
成功
🔵🔵🔴
佐東・彦治
♢♡
気は進まないけれど…行かないと影朧にたどり着けないんだよね。
行こう、アキ。
足元に気を付けながら山道を歩いていく。そうして見つけた骨に、思わず足がすくんだ。
小さな頭蓋骨…?とっさにアキの方を見て、抱きかかえる。アキはここにいる。だから、これはアキじゃない。
頭蓋骨は黒髪の衰弱した子供の生首に。これは、誰…?
姉兄の中に、小さい頃に亡くなった人はいないはず。甥っ子や姪っ子でもない。知らない子。
でも、見たことがある気がする。姉兄とどこか似ている気もする。
ボッと目の前で、アキの狐火がはじけた。その間に生首は消えてしまって。
ねぇ、アキはあれが誰だか知ってる…?
しらない、と答えるけれど、目を合わせない。
●知らない子
目の前の広がる暗闇を見つめ、彦治は小さくため息を零す。
気が進まない様子の彦治の横顔を見つめたアキが、袖を引いて先を促した。
「うん。行こう、アキ」
影朧の元にたどり着くためにも、この先へと行かねばならない。
浮かべるアキは気にしなくても良いが、彦治は人の身。二本の足を動かして雨で滑りやすくなった山を歩まねばならないため、足元に気を配りながら進んでいく。
そうしてどれだけ歩んだことだろう。草陰に何かがあることに気付いたアキが袖を引いた。
「あれは……小さな頭蓋骨……?」
小さな其れは子供の頭蓋骨に見えて、白い其れに真っ直ぐに視線を向けるアキへと振り向き、抱きかかえる。
(アキはここにいる。だから、これはアキじゃない)
悪い予感を、頭を振って追い出して。
そしてまた、そろりと髑髏へと視線を向ける頃には――髑髏は黒髪の子供の生首へと変じていた。
「これは、誰……?」
明らかに衰弱していると思われる子供の頬は痩け、彦治の胸を痛ませる。けれど、その顔は知らない顔。姉兄の中に幼くして亡くなった子が居るという話は聞いていないし、何よりこの怪異は『大事な人』の死に顔が見えてしまうはずだ。知らない子を大事だと思えるはずなど無くて――。
ボッ。
「わっ」
目の前で、アキの狐火が爆ぜた。
何をするのかと非難を篭めた視線を向けるが、アキはプイッと顔を逸してしまう。仕方無しに生首へと視線を戻すが。
「あれ……」
その僅かな間に生首は跡形もなく消えてしまっていたのだった。
「ねぇ、アキはあれが誰だか知ってる……?」
『……しらない』
アキは小さく返事はするけれど、顔は背けたままで。暫く見ていても、アキから視線を合わせようとすることはなかった。
(アキも、僕も、知らない子。でも、見たことがある気がする。姉兄とどこか似ている気もする)
それは――。
「……なぁに、アキ」
目を合わせぬままアキが袖を引く。
先を急ごうと言っているのか、ここに居たくないと言っているのか。それともどちらも、なのか。
「行こうか、アキ」
アキは答えない。言いたくないのなら、追求はしない。
くしゃりととアキの頭をひと撫でし、彦治はその場から離れたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『花時雨の菖蒲鬼』
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POW : 桜散らしの雨
【呪詛の雨】と【己の剣技を補助する大鬼の手】の霊を召喚する。これは【戦場全体に降る生命力を奪い己へ還元する雨】や【対象の攻撃を予測し弾き返す引っ掻き】で攻撃する能力を持つ。
SPD : 遣らずの雨
自身に【攻撃した対象に狂気が伝播する妖刀の呪詛】をまとい、高速移動と【対象の攻撃よりも先に繰り出す無数の斬撃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 身を知る雨
【周囲を漂う死霊の怨念】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【対象の悲しみを想起させる雨降る花菖蒲の沼】に変化させ、殺傷力を増す。
イラスト:ゆきえなぎ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「千桜・エリシャ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ななつ花のおひめさま
街にガス灯がつくよりも、ずっと、ずぅっと昔の話。
小さなお山に、屋敷と言っていい程の小さなお城。そこに住まうは、角が生えた可愛いお姫様。
――鬼のようだ、恐ろしい。
両親から恐れられ山へと追いやられたお姫様は、隠れるように暮らしていたそうな。
お山のふもとには、小さな家が、いくつかありました。それは、お姫様の監視と世話にとこの地について来た者と、その家族が住まう家。
しとしと、雨が降ります。
その度守り人たちは、山を見上げました。
「今日もひめさまが泣いておられる」
「ひめさまが泣かないように、花をお届けしよう」
そうして守り人たちは、掘り当てた温泉から『湯の花』を作りました。
お姫様の心が、少しでも安らぐように。
頭や部屋には生花を飾り、風呂でも湯に花を浮かべて楽しんで。
それが、はじまりの湯の花。
今日も、しとしとしとしと、雨が降ります。
ああ、ひめさまが、泣いているよ。
お姫様は、小さな幸せを感じながら、慎ましく暮らしていました。
けれどその暮らしも、無防備に住まう姫が住まうと聞いてやって来た山賊たちの手によって、あっけなく終わりを迎えてしまいます。
恐れさせぬようにと顔を隠していたお姫様の顔は暴かれて。
最期に耳にした言葉は――化け物が、と。それは酷い言葉だったのです。
桜の花のように涙を散らし、お姫様の頸は落ちました。
椿の花のように、ころりと花の褥に落ちました。
お姫様は思いました。
『わたくしのことを、おちちうえとおははうえはおもいだしてくださるのでしょうか』
お姫様は想いました。
『わたくしとしらぬしにがおに、わたくしをおもいだしてくださればいい』
たいせつなものと、認められたかった。
いとしいものと、愛してもらいたかった。
この頸は、このまま野晒しの曝れ頭となりましょう。
けれど誰とも知れぬ曝れ頭を父母が見つけ、悲しんでくれたら――。
何とか生き延びた守り人が、一人。お姫様と死した仲間のために、お社を立てました。お姫様が寂しくないように、長い長い時をかけ温泉街を作りました。
そうして、この地には温泉と湯の花と、髑髏の怪異だけが残ったのでした。
●変異
『――護る力が欲しかった』
声が、聞こえた。
羅刹の少年は、その思念に喚ばれたのだ。
『もっと力があれば』
雨の中、声が聞こえる。
住まう人々には聞こえていない、かつての守り人たちの声が。
『もっと力があれば、ひめさまを護れたのに』
悲しみからも、苦しみからも、そして御身を。
少年は、その苦しさを知っていた。
護る力を欲して妖刀に手を出し呪詛に呑まれた羅刹の少年は、その想いを痛いほどに知っていた。
雨の中、少年は想いに触れる。幾粒もの想いの雨が、白い頬を涙のように濡らす。まるで、少年自身が泣いているかのように――。
けれど少年が崩壊や惨劇を望まなくとも、影朧がただそこに居るだけで『世界の崩壊』へと繋がる。
そうして少年がこの地に留まる内に、髑髏は曝れ頭へと変じたのだった。
●花菖蒲の雨
道なき道を進み、山の斜面を登っていく。
そろそろ山頂かと思う頃、木々が無くなり、急に視界が開けた。
鈍色の空は相変わらずしとしとと雨を降らせ草木を歌わせているが、その中に、とつとつと違う音が混ざる。
音がする方へと視線を向ければ、紫の傘と、そこから覗く紫の袴姿。
花菖蒲のようなその後ろ姿は、大人と言うよりは、少女か――線の細い少年。
きっとその視線の先には、小さな社が在るのだろう。
「あら、お客様でしょうか」
柔らかな声とともに、紫の傘が振り返る。
りぃん。鈴の音が、鳴り――そして、すらり。妖刀が抜かれた。
その途端、少年が纏う気配が一変する。
穏やかに。けれど穏やかさに隠された妖しげな、それ。
「私と、死合ってくれるのでしょう?」
さあ、死合おうか。
雨の中、少年が微笑んだ。
カイム・クローバー
悟郎(f19225)と共闘。
華奢な容姿と可愛らしい声の割に、随分物騒な得物を持ってるじゃねぇか。
オーケー。頼みは断れないタチでね。剣技の比べ合いと行こうか。
魔剣を顕現。
UCを解放し、死角からの悟郎に悟られないように俺が囮として動く。
高速移動には高速移動で対処し、【二回攻撃】と【フェイント】、紫雷の【属性攻撃】を多用した斬撃を放つぜ。
無数の斬撃ってやつには【見切り】と【第六感】で対処。倒されねぇ事を最優先。
悪くねぇが、まだまだだな。剣技ってモンをレクチャーしてやろうか?【挑発】で更に注意を向ける。
注意は逸らす。そうすりゃ、仕事人の悟郎は必ずやってくれる。
今回は俺一人じゃないのさ。悪ぃな。
薬師神・悟郎
カイム(f08018)と
少年の姿をしたそれを見て厄介そうな相手だと思う
嫌なものを見せられた苛立ちをぶつけてやるつもりだったが、その余裕はないかもしれない
危険な敵だが打ち合わせ通りに、頼むぞカイム
カイムが暴れて敵の注意を引いてくれる間、俺は闇に紛れ隠密
忍び足、地形の利用、目立たないよう敵に近づくとUCで暗器を複製
成功率の高いタイミングを見計らい暗殺、投擲
破魔を付与した暗器で敵の体全体に雨の如く属性攻撃を降らせる
部位破壊できれば上出来だ
その後はカイムと合流し彼の援護を行う
第六感、野生の勘で遣らずの雨を見切り、カウンターで相殺
俺を信頼してくれる友人の為に全力を尽くす
後は俺の相棒が上手くやってくれるさ
佐東・彦治
♢♡
…きみだけがしらないの。
やっぱり、影朧の相手は何度目でも怖い…。
他の人もいるなら、動きを止めるのが良いかな。アキ、狐火で……嫌だ?そんな、嫌だってそれは困る…わかったよ…。
アキを背中にぶら下げたまま、『舶来童話集』をつかって、呼び出すのはマザァグゥスの、駒鳥を撃ち殺した雀。
こうして、何がしたかったの?
その答えを得るまでは、雀は破魔属性攻撃の弓矢で影朧を射ち続ける。多分、答えを貰っても僕には納得も理解もできないだろうけれどね。
なるべく距離をとって近づかれないようにはしたいけれど…。近づかれたならオーラ防御で守りつつ、退魔刀で迎撃。
フォーリー・セビキウス
ん?お前は…いや、似ているが…違うな。人間では無い、堕ちた鬼か。
殺し合いに興味は無い。ただ一方的に死ね。
鬼の手も借りたいというわけか。
ハッ、面白い。
なるほど、攻撃を先読みしているな…だが、攻撃が単調だ。
それを読んだ上で攻撃すれば良いだけだ。
雨がうざったいな…濡れるのは余り好きじゃないんだよ。
呪詛の雨は各種耐性で防ぎ、攻撃は見切りや残像で回避
弾かれることを織り込んで計画的且つ臨機応変に武器を投擲、隙が出来たところを必殺の一撃で仕留める
どうやら、手も頭も足りなかった様だな。
どうだ?死ぬ気分は。
楽しいか?結構、上出来だ。
フン、予行演習…か。
これが現実になら無いことを祈るばかりだ。実に下らない。
斬崎・霞架
♢♡
その姿を見て驚いた。
世話になっている旅館の女将に、よく似ている。
…そして先程も思い浮かべた、自分を育ててくれた黒髪紫目の、とても大切なあの人に…怖いくらいに似ていた。
【SPD】
個人的にはゆっくりと話をしたい所なのですが。
(『梅花』を抜き構える)
…それに、刀使い、呪詛使いとしてその技に興味がないと言えば、嘘になります。
刀を扱う心得(【戦闘知識】)と相手の動きから予測して攻撃を【見切り】ましょう。
【呪詛耐性】はあるが、不用意に受けるのは好ましくない。
隙を見て【カウンター】を狙いましょう。
相手がUCを使うなら、こちらも。
似た系統のようですし、鎬を削るには丁度良い。
――さぁ、死合いましょうか。
東雲・咲夜
♢【藤桜】
泥(こいじ)塗れの穢れた『わたし』
強欲で、高慢で、…解っていたのに
せやかて此れ迄も此れからも
そうくんは唯うちを護ってくれはる
応えられへんと知っとって
如何様な心構えで在っても其は変わらへん
《神籠》の華開き
常世の婿神を喚ぶ舞に靡く藤羽織
呪詛を此身に刻んでも
痛打に屈せず、敬い奉る
醜いと云うのなら醜いなりに遣り遂げてみせまひょ
そうくんの想い、解く事だけはしぃひんから
…ううん、うちが嫌なの
水の結界に揺らぐ華菖蒲
そうくんの斬撃に委ねては
強靭な太刀筋の終幕を此身に迎えようと
腕を伸ばす…けれど
嗚呼…あんさんはそうやった、ね
意図を察しては機会を併せ雷撃と成す援護射撃
どうか、護らせて…
うちだけの傀士さま
朧・蒼夜
【藤桜】
しとしと降る雨
彼女を濡らさないようにと着物を覆う
死合を求む少年
姫を護りたかった者と護る力を欲した彼
あぁ、気持ちは良くわかる
俺ももし護る事が出来ずにいたら同じ道に進んでいたかもしれない
咲夜の前に立つ、彼女を傷つける事は許さない
君も誰か護りたい人が居たのかい?
その死合受けてたとう
日本刀二本抜き瞳を紅く染める
藤蓮斬
連続で彼の攻撃を受け止め攻撃
妖刀の力をえて護るだけが守護ではないはず
大事な人の傍にいるだけでも
彼女を斬るふりをして少年を斬る
命を削ろうとも護ると誓った
彼女の声が暖かい腕が俺へと伸ばすもやめてくれた
俺の事を何よりも知ってくれているから
俺は彼女の騎士
どんな時でも動きは止める事は無い
リリア・オルトラン
結都殿(f01056)と共に
ふん。殺し合いが望みか?分かり易くてよいな!
人に害成す存在は屠らなければならん。貴様を首斬り噂ごと沈めてくれよう!
どのような背景があろうとも関係ない。罪は罪として罰すべし。罪がこれから犯そうというものなら、止めるべし、だ!
気合を入れていくぞ、結都殿!
魔法剣に全力魔法で風を纏わせよう。自身の身にも風を纏い、加速し駆けるぞ!
呪詛の雨は風を操り障壁を作って避けよう。攻撃が予測されようと、手の数にも限りがあろう。弾き返されようと、【風嵐】でそれ以上の風刃を喰らわせてくれる!
狙いは敵の隙を作り出すことだ。後は任せたぞ、結都殿!
桜・結都
♢
リリアさん/f01253 と
この雨は、どこか寂しい匂いがしますね
……怪異に心を寄せることは出来ません
予測される悲しい未来を現実としないため、
あなたにはいなくなっていただきます
真っすぐと立つ彼女の言葉は心強い
確りと頷いて、錫杖と札を構えます
霊符を飛ばし彼女の障壁の強化を行いましょう
少しでも呪詛の雨を凌ぐため、破魔の力を籠めます
後ろに控える分、戦場を見渡して
彼女に向かう攻撃は未然に防げるよう、
雷を喚び寄せ敵へと穿ちます
任されれば、応えぬ訳にはいきませんよね
全力魔法と破魔による雷を敵へ
涙雨のような、この雨は
降り止ませる方がよいでしょう
ゆっくりとおやすみなさい
ジン・エラー
♢
──ああ、もうお終い?
なら、もう僕はいいよ。
十分堪能したからね
ばいばい。
不愉快だ
アイツは勝手に愉しンで
後のことはオレ任せ
あンなモン、何がいいンだか
ああ、
クソがよ
唇にも舌にも、はっきりと、
あの忌まわしい感覚が残っているのが、一番不快だ
反吐が出る
ハヒャク、死合うね、死合う。
イ~ィねェ、オレも存分に殴り合いたいと思ってたとこだ
得物なンかいらねェよ
ステゴロで十分だ
呪詛が今更なンだって?
そンなモン元から抱えてるよ。腐る程な。【高慢知己】
オレのよく知る女の方がよっぽど鋭いぜ
だから当たらねェ、当然だ【天意無法】
お前がどンなヤツであれ、何を遺して来たのであれ、
【オレの救い】で救ってやるよ
榛名・深冬
♢♡
あの首が、単なる嫌がらせで無いのだとしたら
この雨が、誰かの涙なのだとしたら
拭い去ることなんて、わたしには不可能で
どうか、かなしみよ終われと
願いながら戦うことしか、できない
WIZ
悲しみに襲われても先程首を見た時の強がりでどうにか踏み止まる
電脳眼鏡型ゴーグルを起動し空中にモニターや電子キーボードを出し【早業】で操作
殺傷力の増す攻撃をUCの機械兵器達を操り
攻撃を掻い潜り敵を【追跡】し攻撃
致命傷を狙うより敵の邪魔をして
共に戦う猟兵が動きやすくなればと
敵の動きはこの目と機械鳥で【情報収集】
変な動作があれば即猟兵に情報共有
後は隙を見計らって
燈、任せましたよ
炎のブレスの【属性攻撃】で涙を焼き尽くして
神埜・常盤
♢♡
僕も陰陽師の端くれだからねェ
悪気がなくとも、影朧を在るべき場所に還し
怪異の歪みを直すとしようか
前に出て、毒を塗った影縫を振おう
腕に覚えが有る訳じゃないが肉壁に成るとも
破魔の護符を投擲して、力を削れたら僥倖
大鬼の手は動きを見切って躱したい
呪詛の雨は防ぐ術を持たないので浴びておく
だって、ほぅら――彼岸に片足突っ込まないと
我が縫姫には逢えないので
漸く彼女が出て来たら、此処からが死合いの本番だ
さァさァ、愉しい闘争を始めよう
縫、奴を抑えておけ
其の隙に暗殺の心得活かして忍び寄り捨身の一撃
影縫にて串刺しにして呉れよう
己が無力を嘆く聲、母に似た縫の姿に
何時か抱いた嘆きを想いだす
あァ、嫌だ、早く終わらせよう
マレーク・グランシャール
【神竜】篝(f20484)と
念呪の如く絶え間なく降る雨は人の心を狂わせるけれど、木々を育てる糧となろう
篝の使役する美樹が延ばす枝の下で雨を凌ぐぞ
大鬼の手が迫ろうとも篝の身に傷一つ付けられまい
俺を狙うなら即座にカウンターを返す
剣撃は白檀手套の武器落としで剣を奪う
大鬼の手か来るなら【真紅血鎖】の鎖を巻き付けて手を封じる
手の内を読めば読むだけ攻撃しにくかろう
そっちが来ないなら俺が推して参る
碧血竜槍を投げてフェイントを仕掛け、山祇神槍を手に向かいダッシュしてランスチャージ
捨て身の一撃、ランスチャージを食らうがいい
穿つは怨念となった想い
篝に見送られて姫の元へ行くがいい
照宮・篝
【神竜】まる(f09171)と
呪詛に穢れた雨か…美樹、その枝を伸ばしておくれ(『美樹』)
呪詛を糧に根と枝を張り、大きくなるといい
大鬼の手と少年の剣は、『水門』に守って貰おう
私自身は【遍泉照】でまると少年を照らし出すぞ
それから…この地に怨霊として残ってしまったものの声を聞きたい
彼らに光を示し、浄化へ導きたいのだ(『標の焔』)
ここに残っていてはいけない、姫はとうに行ったのだろう?
死した後まで、寂しい思いをさせてはいけない
ああ…口惜しかったな
親からも恐れられた姫を守れず、あまつさえ心ないものの手にかかって
だからこそ、守りに行かねば
今度こそ姫の生涯が、幸せであるように
陽向・理玖
忘れられるのは寂しいし悲しい
記憶がねぇからそんな簡単な事も知らなかった
けど誰だって…大事なもんの生首なんか見たくねぇんだよ
あんたの存在ははた迷惑だ
悪ぃが…討たせて貰う
龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波撒き散らし残像纏いダッシュで間合い詰めグラップル
拳で殴る
大切な人の首が見えるとか
放っておけないと思って来たけど
本当は首だけでも会いたかったのか
…よく分かんねぇ
けど俺には多分覚悟が足りなかった
受け止める、覚悟が!
UC起動
狂気は覚悟で乗り越え
斬撃は意識集中し見切り
避け切れぬ分は激痛耐性で耐えカウンター
フェイントで足払いと見せかけ
上段蹴りからの拳の乱れ撃ち
俺はもう迷わねぇ
…忘れねぇよ絶対
ルフトゥ・カメリア
【ソウカ】
声が聞こえる
死者の声
護りたかったと嘆く声
無力を嘆く声
酷く、自分にも覚えがある感情だ
……テメェか、あの胸糞悪ぃ幻影の原因は
死者は全て還すものだ
それが何を想おうとも
何を嘆こうとも
死者を力の代償にする奴なら遠慮は要らねぇ
……一度しか言わねぇ
足手纏いとなんざ何度も戦場に来ねぇよ、ばぁか
手首の古傷を裂いて溢れる炎は雨でも衰え知らず火勢高く煌々と
炎に声に【破魔、祈り】を載せ、【カウンター、オーラ防御】
敵の呪詛ごと薙ぎ払ってやるさ
バスターソードに【怪力、武器受け、おびき寄せ、挑発】、何だろうが競り合ってやるよ
……そう簡単に一緒に逝けると思うなよ
セラを【かばう】分だけ傷が増えようと揺らぐ気なんかない
クラウン・メリー
長閑(f01437)と
護る力が欲しくて
闇に呑まれてしまった寂しい人
けど、今更力を手に入れても過去は消えない、変えられない
お姫様だって、きっとこんな結末は望んでない
未来を、この先のことを考えてほしいから
俺は君を倒す悪役となろう
彼に笑顔を向けて
長閑、雨で土がぬかるんでるから、足元気を付けてね
敵が刀なら俺も黒剣で戦おう
両手に剣を持ち
もう二本はフリチラリアへと変化させ敵の周りにひらりと舞う
目を遮らせた隙に二回攻撃
長閑に守ってもらえば、お礼を言いつつ敵を見据える
悲しい過去に囚われてしまった君に
もう眠る時間だよ、と言葉を掛けた
――社だ
長閑少しお参りしていこっか
お姫様と守り人に幸せが沢山訪れますようにと願う
憂世・長閑
クラウン(f03642)と
「しあい…?」
嗚呼、なんて無意味
望まれずとも、オレは君を殺すのだ
「――いいよ、しあおう」
無邪気ささえ宿し
――何故嘆くんだろう
『お前のそういうところが、嫌いだ』
何度向けられたか分からない言葉を思い出す
そっか…でも仕方ないな
オレは主にだけは、好かれていたかったんだもの
「うん、気を付ける」
クラウンは優しい
クラウンはあっち側の人なんだろうな
じゃあ、オレが守ってあげたほうがいいかな
UCで錠を複製
友に向かう斬撃を受け止め放とう
狂気に身を委ねるのは心地良い
主はそういうオレを愛してくれた
「お参り?――うん、じゃあ一緒に行くっ」
共に歩いて、彼の隣
でも…死後の世界なんて、あるのかなあ
セラ・ネヴィーリオ
♢【ソウカ】WIZ
守人さん達の声が聞こえた
悔しさを偲ぶ中、僕以上に『しらたま』さんが共鳴し無念を感じ
鬼さんの微笑は助けを乞う様に映った
「君の望みがそうであるなら」
向き合おう。命をかける《覚悟》で
【死出の導】で鬼さんと守人さんを鎮める
ルフくん。僕はきみと違って飛ぶのも苦手、翼も小さいけれど
今はこんな翼も持ってるんだ
隣にも立てる?背中を任せて、くれるかい?
鬼の攻撃はUCで相殺
霊達も眠らせ還すけど花菖蒲の沼にも贄とされ
想起する悲しみは故郷で霊達を喪った記憶
ああ
みんな
一緒に行けなくて、ごめんね…!
狂いそうな涙の海でも彼の炎は見据え続け
辛かったよね
誰しもに安らぎをと《祈り》迸る想いを《全力魔法》に載せて
●鬼さん、こちら
たんたん、たん。傘に雨粒が跳ね、歌を奏でる。振り向いた羅刹の少年は、もとよりそこが居場所であるかのように佇み、そして笑んだ。
その顔に、僅かに息を飲んだ者達がいる。
(――世話になっている旅館の女将に、よく似ている。そして、育ててくれた……)
とても大切なあの人に似ていると、斬崎・霞架(ブランクウィード・f08226)は硝子の奥の瞳を見開いた。
(……いや、似ているが……違うな。人間では無い、堕ちた鬼か)
霞架から少し離れた場所で、フォーリー・セビキウス(過日に哭く・f02471)も僅かに瞠目し、そして瞳を細める。知人に似ている、そうは思ったが相手は影朧――オブリビオンだ。お前に似た姿の鬼が居たと土産話でもすれば、知人はころりと鈴を転がすのが容易に想像できて、口の端を上げて前方の少年を見据えた。
禍々しい妖気を放つ妖刀のせいなのだろう。草葉を唄わせていた雨はいつしか呪念の籠もった呪詛の雨となり、猟兵たちの上に降り注ぐ。そこには爽やかさ等微塵もなく、ただ鬱々とした気配が漂った。
「……美樹、その枝を伸ばしておくれ」
呪詛に穢れた雨か、と。穢れを厭うように眉を顰めた照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)は、魔法の豆の樹を足元へと突き刺した。呪詛を糧に育つ『美樹』は、主の声に応えるようににょきりと身を伸ばしていく。それはゆっくりとだが枝を伸ばし、後方から動かずに攻撃をする猟兵たちの良き傘となることだろう。
「あら。そういうことも出来るのですか」
不思議な樹があるものだと興味を示した鬼の目が、篝を視界に入れた――刹那。
篝ごと美樹をへし折らんと、紫の和傘を離して音もなく飛んできた大鬼の手を、素早く身体をねじ込ませたマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)が長槍で押し留めようとする。
「――ッ」
「まる……!」
大鬼の手の力は、強い。マレークの全力で拮抗し、少しでも力を入れ間違えれば武器が破壊されかねない。そして、マレークは後ろに引くことは――美しい妻を護るためにも、出来はしない。大鬼は、そうなるであろうことを見抜いていたのだろう。
大鬼が手放した傘がふわりと地に着かんとする頃、羅刹の少年――『花時雨の菖蒲鬼』が、雨粒を跳ねさせることもなく地を蹴る。その後ろにふわりと落ちる傘のような軽さで――結ぶ。
雨粒を切り裂いて。
嫋やかな乙女のような笑みを載せて。
息を一つ吐くよりも、疾く。
篝の眼前に浮かんだ白壁を打ち砕き、――切り伏せるその瞬間。横合いから飛んできたフォーリーが投擲した刃を弾き、力を籠めた様子も見せずに地を蹴れば、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)と薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)が合わせて放った暗器と紫電が、一瞬前まで菖蒲鬼が踏んでいた草を穿つ。
そのまま攻撃をすることも叶ったのに、柔らかな笑みを浮かべたまま宙をひらりと舞うように飛んで。音もなく降り立つのは、元居た場所。何事も無かったかのように落ちた傘を拾って肩に掛け、くるりと半転して向ける笑みは甘い。
「ひい、ふう、みい……ああ、沢山いらっしゃるのですね」
一瞬の攻防に動けずに居た者、まだこちらに駆けてきている者、そしてすぐに攻撃を仕掛けてきた者――十九名の猟兵を前にしてもまだ、菖蒲鬼は柔らかく――否、とても楽しげに微笑んでみせるのだ。
「折角の楽しみをすぐに終えたくはありません。丁度良いとも言えますが――」
一斉に来られては、流石に『手』が足りない。
マレークに爪を向けていた大鬼の手を呼び戻して傘を預け、新たな児戯を思いついたと言わんばかりに緩く手を重ねれば――。
轟、轟、轟、轟、轟――。
雨をものともせぬ大きな鬼火が灯り、そうして九つの大鬼の手が新たに現れた。
「鬼の手も借りたいというわけか」
「ええ。ひとつひとつの力は少々落ちますが、手はこれくらいで足りることでしょう」
「ハッ、面白い」
フォーリーの皮肉にも、変わらぬ笑みで応えて。
「叶うことなら、対等な死合いをしたく思います。一方的では、つまらないでしょう?」
「しあい……?」
聞こえた言葉に、憂世・長閑(愛し秉燭・f01437)は首を傾げた。その言葉は、ただひたすらに無意味。望まれずとも、長閑は『敵』を排除する。護りたいと思った相手でさえも、そうしなければいけないのならそう出来てしまうのが長閑だから。力任せにぶつけて、排除して、殺す。ただそれだけだ。
「――いいよ、しあおう」
無邪気ささえ宿して、こてんと首を傾げながら口にすれば、似たような仕草で鬼が笑う。けれど、長閑の傍らの友は――クラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)は、少しだけ眉を顰めて鬼を見て、ぎゅっと掌を握っていた。
長閑には、彼が何かを嘆いているのが解る。けれど、何故嘆くのかは解らない。
『お前のそういうところが、嫌いだ』
幾度か向けられたか解らない言葉をふと思い出す。苦しげに絞り出すように、苦虫を噛み潰すように――そして最期は冷ややかな別れとして。けれどその度、仕方がないとは思いはしても、自身が変わろうとは長閑は思わなかった。あの人は、そんなことをは望んでいないだろうから。
(護る力が欲しくて、闇に呑まれてしまった寂しい人)
愛らしさを感じさせる笑みを浮かべるのは、彼が狂気に落ちてしまったからなのだろうか。
「――俺は君を倒す悪役となろう」
「……勘違いを、されているようですが。私を倒したとしても悪役にはなりませんよ」
「え、そうなの?」
「ええ。私は彼等とは何の関係もありませんからね」
漂う何かが見えるのか。囁く声が聞こえるのか。一度視線を外してなにもない空間を見た菖蒲鬼が再度猟兵たち再度見つめ直し、「呼ばれたのです」と言葉を返した。
――かろん。セラ・ネヴィーリオ(トーチ・f02012)の杖の、鐘が鳴る。
声が、聞こえた。それは、守り人たちの声。セラの耳にも、ルフトゥ・カメリア(月哭カルヴァリー・f12649)の耳にも、死者の嘆く声が聞こえていた。セラの側に浮かぶネクロオーブ『しらたま』が共鳴して、霞がかった灯りを大きく小さく明滅させる。
護りたかったと無力を嘆く声は、ルフトゥ自身にも覚えのある感情(もの)。力が無くて、無いからこそ禁忌に身を堕とし――それなのに、何も掴めずにいる。嘆く声は耳に痛く、身に傷く、心は悼む。
「……テメェか、あの胸糞悪ぃ幻影の原因は」
噛み締めた奥歯の奥から絞り出したような声は、微かに揺れていた。幻影の原因は、彼ではない。そう幾度も示唆されてきていたが、ルフトゥにはどうやら関係ないようだ。無力の嘆きを怒りで塗り替えて、鬼の少年を見据えていた。
対する菖蒲鬼は、微かに困ったように眉を寄せて肩を竦め、かぶりを振る。
その淡い笑みを、助けを乞う様だとセラは思った。実際には菖蒲鬼は助けなど求めてはいないし、ただ死合うことのみを求めているのだが――セラは決意を胸に彼へ向き合う。ぎゅっと強く杖を握りしめ、命を掛ける覚悟とともに。
「君の望みがそうであるなら」
「貴方から、死合ってくださるのでしょうか」
それならば。
妖刀が嗤うように鳴れば、周囲を漂う怨念がひとつ消える。それは守り人ではなく、かつて菖蒲鬼が関わってきたものであり、菖蒲鬼自身の念ではあるが、セラとルフトゥは眉を顰めた。
その、一瞬。
菖蒲鬼の姿が二人の前から消える。
「あ……ッ」
身を地面スレスレにした鋭い踏み込みで飛び込んだ鬼が、すぐ目の前。
「させるかよ」
咄嗟に手首の古傷を裂いて《瑠璃唐草の熾火(ネモフィラ・フランメ)》を発動させたルフトゥが、オーラ防御を載せた炎を纏い、セラを突き飛ばすようにしてその攻撃を肩代わりする。
怪我を負うのは、気にしない。気にならない。
大事なものが護れるのなら、そうする。
護る力があるのなら。嘆かないので済むのなら。
(俺は――!)
「ルフくん……ッ」
ネモフィラ色の、青を揺らして。炎を振りまけば、軽い動作で菖蒲鬼が退く。同時に横合いから迫る大鬼の手をバスターソードで受け、競り合う。セラに爪を届かせはしないと押し留めた。
黒い大きな翼を広げた背が、セラを護るように立ちはだかる。小さな翼しか持たず、空を飛ぶのが苦手なセラとは全然違う、大きくて力強くて――実際に強い、君。
そんな彼の隣に立つ事を望んでもいいのだろうか。彼は背中を任せてくれるのだろうか。憧れと、寂しさを覚えながらも、セラは立ち上がり杖を構える。
「……一度しか言わねぇ」
「ルフくん……?」
「足手纏いとなんざ何度も戦場に来ねぇよ、ばぁか」
想っただけのつもりだった。けれど小さく、その声が零れていたようだ。
そうだねと自然に溢れた笑みとともに口にすれば、杖はかろんと一度鳴るのを最期にほろりと綻ぶように花びらへと変じて。
「合わせろ、セラ」
「うん、ルフくん」
ぐっと押し返して大鬼の手が離れたその瞬間を狙い、炎に破魔を載せて纏わせたバスターソードで薙ぎ払い、更にぶわりと白花が舞えば――大鬼の手のひとつが消滅した。
「まる」
愛しい女神が名を呼んだ。真っ直ぐに見つめてくるその目が語る意味を、マレークは正しく理解する。
――案ずるな、其方は成すべきことをせよ。
愛しく、気高き女神の信を受けて、誰がその意に背けようか。
再度迫る大鬼の手。しかし、先程まみえた手よりも力が無いことが見て取れる。
鬼の手は、マレークの動きを予測して行動を取るだろう。だからこそマレークが選ぶ手は――!
槍を構え、大鬼の手へと突き出せば、それを弾かんと鬼の手が動く。槍に触れた。それだけでいい。
「隷属せよ、汝が身を縛りしは我が血の鎖!」
触れた箇所を爆ぜると同時に、マレークの腕が自然に切り裂かれ、滴る鮮血が鎖となって大鬼の手に纏わり付き動きを封じる。
「篝を傷つけさせはせぬ」
女神の照らす加護の元、腕を引いて血鎖で絡めた大鬼の手を引き寄せ――そして、槍で貫いた。
「殺し合いが望みか? 分かり易くてよいな!」
風を纏わせた魔法剣を上段から振りかぶったリリア・オルトラン(金月・f01253)の攻撃を、容易く菖蒲鬼が受け止め、柳のように流すように払い除ける。美しい所作でありながらその力は歴然たるもので、眉を顰めてリリアは飛び退き、桜・結都(桜舞・f01056)の傍らへと戻った。剣の切っ先は下げず、変わらず菖蒲鬼と向けたまま。力の差にも、その闘志を欠くこともなく。
人に害成す存在である以上、屠らねばならない。雨に寂しい気配を感じながらも静かな瞳で見つめる結都も同じ考えだ。どのような背景があろうとも関係はない。罪は罪。例え罪をまだ犯していなくとも、例え今すぐに害を為さずとも、影朧はじわりと世界に溶け込むように世界を破綻させていく。そこに当人の意思があろうがなかろうが関係なく、そこに居ると言うだけで破壊を招くのだ。それを止められぬのなら足掻いて良い方へと導くのみだが、今はまだ止められる段階だ。なればこそ、リリアも結都も、やることは決まっていた。
「気合を入れていくぞ、結都殿!」
「はい、リリアさん」
滑り込むように向かってくる大鬼の手に、リリアが真っ直ぐに駆けていく。金の髪を風に遊ばせ、黒衣を靡かせる小さな背。その背中と彼女の言葉を心強く思いながら、結都は錫杖と札を構えた。
「随分物騒な得物を持ってるじゃねぇか」
リリアを払い除けた菖蒲鬼へ、カイムが迫る。その口元には笑みを浮かべてはいるが、目は真剣にその動きを追っている。
「あら。貴方も……とても素敵なものをお持ちのよう、ですね」
そんな気配がしますと嫋やかな女性のようにころりと鈴を転がしながら、半歩退く。たったそれだけの動きでカイムの攻撃を慌てた様子もなく避けた菖蒲鬼の姿に、見目通りではなく随分と厄介な相手だと悟郎は思うが――悟郎の姿はそこにはない。
(嫌なものを見せられた苛立ちをぶつけてやるつもりだったが……)
けれど、一目見て油断をしてはいけない相手だと判断した悟郎は、闇へと姿を隠していた。危険な敵と遭遇した際に各々がどう動くか。その打ち合わせは既に済ませてあり、それに従って悟郎は闇へと身を潜ませたのだった。
この場は開けた場所で、潜める場所はない。だからこそ素早く悟郎は行動に移った。菖蒲鬼に認識されるよりも早く、彼の姿を目視してすぐに踵を返して木々の中に身を潜め、暗闇を友として迂回して。なるべく近くへ。どう足掻こうと開けた場所に身を踊らせねばならないが、それが少なく済むようにとカイムも相手の気を引きつけるように行動する。
「死合いがお望みだったか? オーケー。頼みは断れないタチでね」
「ええ、ええ。話の通じる方が居てくださって、とても嬉しいです」
にこやかに、穏やかに。狂気をにじませて。
さあさ、会話〈剣技のぶつけ合い〉をいたしましょう。
殺し合いましょう、死合いましょう。
ともに命を削り合いましょう。
「剣技の比べ合いと行こうか」
《魔剣解放(ディア・ボルス)》――!
「ああ、矢張り思った通り、素敵な……」
顕現した魔剣を手に、カイムが動く。高速移動したカイムを追いかけるように、少年が微笑みを浮かべたまま、動く。
高速移動には高速移動をと俊足でカイムは動き、魔剣を繰り出す。切り込み、軌道を変えてフェイント。紫雷を纏った斬撃を放ち、息もつかぬような速さで、己の寿命を刻々と削りながらも技を繰り出していく。
「剣技ってモンをレクチャーしてやろうか?」
「ふふ、御冗談を」
一見、カイムの方が優勢――そう、思えていた。しかし、その言葉とともに菖蒲鬼の瞳がきらりと光りを返せば――ちりん。鈴の音が聞こえたと同時に、目にも止まらぬ速さで斬撃が飛び、カイムの頬に赤い線を奔らせた。
戦闘を開始してから、今の今まで。一度も鈴の音が鳴らなかったことに、猟兵たちが気付いた瞬間であった。
「あら、首を狙ったのに」
「……やるじゃねぇか」
一手、二手、三手。来ると思った瞬間に、最小限の動きで頭を僅かにずらす。致命傷を避けるべく身を引く。カイムの攻撃よりも菖蒲鬼が繰り出す技の方が疾く、その身には傷が刻まれていく。
そして――カイムは気付いてはいないが、既に狂気に蝕まれている。菖蒲鬼が先にカイムに攻撃をさせたのは、そのためだ。彼の手を読むためでもあるが――《遣らずの雨》。菖蒲鬼を攻撃する者は菖蒲鬼の狂気に当てられる。誰かと組んだことなど忘れ、ただただ目の前の敵と切り結びたい。この生命を削り、命を賭けた戯れを、より長く楽しみたい。注意を、逸らす。惹きつける。そのつもりだったが、今は眼前の楽しみしか見えない。けれど――結果としてそれは、功を奏していた。カイムが楽しめば楽しむほど、菖蒲鬼を楽しませ惹きつける。
暗闇から悟郎によって放たれる、暗器。
剣と刀を打ち付け合う相手に投げればどうなるか――当然、対象は二名だ。命を削りながら高速で移動し打ち合う彼等を誰が正確に追えようか。正確に、敵だけに投擲出来ようか。敵だけを狙うのであれば、合図とともにカイムが退かねばならなかった。けれど、カイムは悟郎に信を置いていた。いかなる状況であろうとも、仕事人の彼ならば必ず作戦通りに行ってくれる、と。
暗器の雨が、二人を刻む。血の花を咲かせながら、妖刀と魔剣に取り憑かれた男たちが愉しげに嗤う。
そうして、暗器の雨を菖蒲鬼へと向ければ向けるほど、悟郎もまた狂気へと飲まれていくのだった。
●中
「足元気を付けてね」
「うん、気を付ける」
前に出る、その一瞬。その時でさえ振り返り、笑顔とともに長閑を案じてくれるクラウン。優しい彼は『あっち側』の人。だから、オレが守ってあげないと。
二本の黒剣を投げつけ、両の手に黒剣を握ってクラウンが駆ける。真っ直ぐに投擲した黒剣が菖蒲鬼へと迫る。けれどそれは、容易に妖刀で叩き落され――る寸前、
(ワン、ツー、スリー……いまだっ)
《道化師手品(クラウンマジック)》! ひらりとフリチラリアの花びらへと変じて、宙に舞う。手首を捻って刀が戻るその前に、ワン、ツー! 手にした黒剣を打ち込めば、楽しげに菖蒲鬼が笑みを佩く。
笑みとともに返す刃の斬撃は鋭いが、
「どーん!」
「長閑、ありがとう!」
大きくさせた錠を複製して放ち、斬撃を受け止めた。
頼りになる友が、居てくれる。
それだけで、クラウンの心は強くなる。前を見据えて、敵を見据え、そして――。
「かあ、さん……?」
ぐらり、世界が揺れた。胸を押さえ、自然と落ちた視線に映るのは、花菖蒲の沼に浸かる足。つい先程抱いた悲しみが、勇気を、決意を、黒く塗り潰していく。
「クラウン――?」
クラウンの異変に勘付いた長閑は、そのまま錠を操り彼を庇い、そうして隙きがあれば錠を叩きつけて攻撃をする。攻撃をすればするほど、クラウンのことが気にならなくなっていくことに気付いていても、止められない。
(ああ、)
――楽しい。
狂気に身を委ねるのは心地よくて、楽しくて。主もそんな長閑を愛してくれた。咎めるものもいない。力のままに戦っていいよと狂気が呼んでいた。
「嗚呼……」
悲しみを想起させる雨の下、東雲・咲夜(詠沫の桜巫女・f00865)は吐息のように儚い声を零し、顔を覆って膝を折った。花菖蒲の沼に足を浸した咲夜が崩折れれば、傍らの朧・蒼夜(藤鬼の騎士・f01798)が彼女を護るように藤羽織で覆う。
――泥(こいじ)塗れの穢れた『わたし』。
――強欲で、高慢で……本当は誰からも愛されるような存在ではない。護ってもらえるような存在ではない。
解っている。解っていたのに。
それなのに、そんな咲夜を蒼夜は愛してくれて、護ってくれる。咲夜が応えられないことを理解した上で、蒼夜はただひたすら献身的に。
それが悲しくて、――嬉しい。歪んだ歓喜に震える心は、ああ、なんて醜くて……。
「咲夜、大丈夫だ」
俺は。俺だけは。どんな事になろうと、君がどうあろうと、側に居る。
咲夜の手を両手で掬って握れば、涙に沒んだ瞳が蒼夜を見上げてくる。蒼穹を宿す眸は、濡れていても尚美しい。
「そうくん……」
咲夜が醜いと嘆く全てを、蒼夜は愛し、美しいと思ってくれている。愛しい幼馴染の眸が慈しむように向けられて、そう伝えてくれている。
それなら、
(醜いと云うのなら醜いなりに遣り遂げてみせまひょ)
彼が側にと望む限り、咲夜は彼の手を解くことだけはしない。――出来ない。
蒼夜の手をしっかりと握り返した咲夜は、立ち上がる。悲しみの雨はしとどに身を濡らすが、彼の羽織を胸前で握りしめて己が心を奮い立たせて。
「そうくん、うちを護って」
「ああ」
彼を護るための舞を舞うために。その時間を作ってと希えば、言われなくともと咲夜の前に蒼夜は立つ。他の猟兵と刀を合わせている死合を求める少年を真っ直ぐに見つめ、いつこちらに刀を向けても良いようにと刀に手を掛けた。
「ッ」
花菖蒲の沼は、ルフトゥとともに前へ出ようとしたセラの足元にも広がっていた。故郷で霊たちを喪った記憶が胸を占め、胸の内で悲しみが大きく悲しみが膨らむ。
――ああ、みんな。
思い起こされる、みんなのこと。
(一緒に行けなくて、ごめんね……!)
涙とともに膝を付きそうになるセラを狙った大鬼の手を、矢張り代わりにと受けるのはルフトゥ。
「……そう簡単に一緒に逝けると思うなよ」
涙の海の向こう、蒼い炎が揺れている。その向こうに立つルフトゥの心は、意思は、揺るがない。
「立てよ、セラ」
「ルフ、く……ッ」
「背中、任せてもいいんだろ……?」
ぼろぼろと溢れる涙は止まることを知らなくて。けれど彼の隣に立ちたいと、彼と対等でありたいと、セラは足に力を入れる。悲しみが胸に押し寄せようとも、彼の隣に立っていたくて。
「任せて、ルフくんっ」
かろん。再び杖を、白花へと変えて――。
「――チッ」
鬼の少年を狙いに行こうとすれば、戦場を縦横無尽に飛び回っている大鬼の手が邪魔をする。濡れるのはあまり好きではないが、邪魔をされるのはもっと嫌いだ。黒剣を逆手に握ったまま濡れそぼった白髪を掻き上げ、フォーリーは舌打ちをした。
飛び交う大鬼の手の攻撃は、臨機応変に行われる。相手の狙いを読んだ上で、弾き返せるようならそのように動き、面倒な作戦を立てていそうならば単調な動きは避けてくる。
ブォンと風を鳴らしながら手を振るわれる。直撃を喰らえば吹き飛ばされてしまうことだろう。しかし、大振りな攻撃であればあるほど、見切って避けやすくもあった。
「わりィ……っと」
「あン?」
大鬼の手を避けて後方へ跳んだ先。触れた肩に振り向けば、見知った顔。「よう」と道端ですれ違っただけのような気軽さで声を掛け合えば、そこに生まれるのは小さな遊び心。
互いの獲物を交換したらどうなるのだろう、なんて。
同時に地を蹴って、先程まで相手をしていた大鬼の手と次もこう来ると思わせるように単調に切り結び――そして、再度肩を寄せた先でクロスして。互いに相手の獲物へと止めを刺した。
掛け合う言葉は必要ない。視線を一瞬だけ合わせ、フォーリーは駆けていく。次、次、次だ。あの首をかき切るまで、樽詰の人形のように刃を刺すまで、止まる気は無かった。
競うように駆けるのは、ミルクチョコレートよりも泥を思わせる肌に青い髪。生首を見た時とは雰囲気をがらりと変えたジン・エラー(我済和泥・f08098)の姿だ。
『──ああ、もうお終い? なら、もう僕はいいよ。十分堪能したからね、ばいばい』
なんて、身勝手にも程がある『僕』と名乗る『アイツ』が引っ込んだせいで、こんな山の中に突然放り出された。アイツは勝手に愉しんで、それが終わったらいつだって全部丸投げ。
(ああ、クソがよ)
不愉快だ。ああ、何もかも、不愉快だ。アイツのことも不愉快だったが、それよりも。唇にも舌にも、はっきりと残る忌まわしい感覚が一番不快だ。アイツが、何が愉しいのだか解りはしない。解りたくもない。
反吐が出る心地だが、置かれた現状はそう悪いものではなかった。何せ、このイライラをぶつけても良い相手が居ると来た。日頃の行い故の僥倖、とも言えるだろう。――なんて口にすれば知人たちには顔を顰められるだろうが。
呪詛の雨の中、生を賭けた殴り合い。悪くない。
大きすぎる手が、神に祈るように握りしめて、昇天させてくれるそうだ。ああ、悪くない。けれど、残念。神への祈りを捧げるなら、『オレ』を通してもらわなくては。
そうして攻撃力のみを重視した光る拳で、殴り倒して乗り越えて。
「ハヒャク、死合うね、死合う」
次の獲物は鬼の少年。振り返りざまに閃く剣先を、既で躱せたのはただの運に過ぎない。首の皮一枚で済むだなんて、ああやっぱしオレの日頃の行いのおかげか、なんて。
「オレのよく知る女の方がよっぽど鋭いぜ」
「そうですか」
「お前がどンなヤツであれ、何を遺して来たのであれ、《オレの救い》で救ってやるよ」
「お生憎。押し付けられる救いになど、興味はないのですよ」
「あン? 知らねぇのか?」
――押し売りは宗教の専売特許だ。
お前も強制的に救ってやるよと問答無用で拳を打ち込めば、最低限の動きで避けると同時に斬撃が飛んでくる。
「イ~ィねェ、オレも存分に殴り合いたいと思ってたとこだ」
一撃の攻撃力で勝るのはジンの方だが、素早さで勝るのは菖蒲鬼の方だ。
これは長く楽しめそうだと、鬼と聖者は互いに笑みを交わしあう。
「あんたの存在ははた迷惑だ。悪ぃが……討たせて貰う」
聖者と戯れる菖蒲鬼へと啖呵を切る陽向・理玖(夏疾風・f22773)の傍らで、佐東・彦治(人間の學徒兵・f22439)ひそりため息をついた。傍らにいる猟兵は皆とても強そうなのに、彦治は何度目だろうと影朧の相手をするのは……怖くて。それならば、邪魔にはならぬよう敵の動きを止めてサポートをしよう。そう思って『アキ』へと声を掛けてみるが……。
「アキ、狐火で……え、嫌だ?」
ぷるっと頭を振った子供に、眉を下げる。
「そんな、嫌だってそれは困る……」
ぶんぶん。髪が乱れても気にせず子供が頭を振る。嫌なものは、嫌!
「わかったよ……」
(あの人は――)
足湯で見た人だ。電脳眼鏡型ゴーグルを起動しながら、榛名・深冬(冬眠る隠者・f14238)は項垂れる彦治を視界の端に認識して、空中に電子キーボードとホログラムのモニタを呼び出した。
あの首が、単なる嫌がらせで無いのだとしたら。この雨が、誰かの涙なのだとしたら。深冬には拭い去ることなんて出来ない。けれど、今は目の前にあるものを何とかすることくらいは出来る。ここには他の猟兵が居て、そして何よりも心強い『燈』が側に居てくれる。
三者三様に頭に浮かび上がる生首の幻影は消せずとも、今は前だけを向いて。
――パチン。
理玖が大連珠の『龍珠』を弾く。それは儀式で、覚悟の現れ。確りと握り締めたなら、龍の横顔を模したバックル――『ドラゴンドライバー』にセットし――変身ッ!
全身装甲姿に変じた理玖は勢いのままに拳と足を動かして身体をなじませると、衝撃波撒き散らしながら地を蹴った。残像を纏いながら鬼の少年へと向かうが、チラリと視線が送られたと思ったその時――グワンと風の鳴る音とともに大鬼の手が真横から振るわれる。
避けるか、負傷を躊躇わず組み付いて拳を奮うか。躊躇ったのは一瞬。
彦治が開いた童話集から現れたマザーグースに謳われる雀が、大鬼の手へと矢を射ち、動きを鈍らせた。
理玖が拳を打ち付ける。しかし、理玖の攻撃も彦治の雀の攻撃も、一撃では大鬼の手を倒すには至らない。
組み付き、組み伏せるには大きすぎる大鬼の手が飛んでいき、追い掛けるように矢を討つが、躱されて。しかし、その後ろを深冬が召喚した機械兵器が飛んでいく。小さな戦闘兵器たちがピュンピュンと攻撃を繰り出すが、一体一体にそこまで大きな力はない。けれど、三百もの小さな攻撃が合わされば?
「後は、お願いします」
「任せろ」
大鬼の手が弾くことが敵わない攻撃に追われ、誘導されたその先。腰を落とした溜めの姿勢で構えていた理玖が、真っ直ぐに拳を打ち出す。
――ド、ォン。
衝撃波を散らした一撃に、大鬼の手が消し飛んだ。
「次、来ます」
カタカタとキーボードを鳴らし、すぐに別の鬼の手の襲撃を深冬が告げる。
深冬の機械兵たちが撹乱し、迎撃し。理玖もまた迎撃すべく、腰を落として――
「危ない!」
鋭い声とともに、彦治の雀が矢を放つ。
深冬の頭の横をすり抜け、真後ろへ。
「っ!」
「あら」
間近で響いた声に振り返っても、その頃には鬼の姿は闇に紛れて消えている。
撹乱させるのは、猟兵たちだけではない。目で終えぬ高速移動を繰り返し、全ての猟兵たちを相手取りながら――隙きあらば首を刈り取りに。
ぞっと寒気とともに血が下るのは、先程の首を思い出したせい。
(私も――)
首に手を這わせた深冬の傍らで『燈』がキュイと鳴き、意識を戻させる。
「大丈夫か!」
大鬼の手をもうひとつ倒した理玖へと、深冬は浅く頷いて返すのだった。
後方で、女神が伸ばした樹の下で呪詛の雨から身を守れている結都とは違い、リリアの身体は容赦なく呪詛の雨に曝される。その呪詛を少しでも殺ぎ、彼女の負担を減らすためにも結都は霊符を飛ばし、リリアが作った風の障壁を強化する。
風を纏い、リリアが駆ける。彼女を容易く握り篭めてしまう大きな手の攻撃を受け止め、弾かれるに合わせて後ろへ飛んで威力を殺し、体勢を立て直す一瞬の隙きは結都が呼び寄せた雷が穿って作ってくれる。
「さあ、踊れ!」
《風嵐(アネモス)》を纏って切り結ぶも、避けられることも多い上に、ダメージも些か心もとない。けれど、けれども。それしきでは決してリリアの心が折れはしないことを、結都は知っている。
心に、信を。
信を、真に。
「後は任せたぞ、結都殿!」
金の軌跡が描く、大立ち回り。幾度となく切り結び、弾き返され、また切り結び。そして、大きく飛び退き場を明ければ――空気を喰らう音を轟かせ、破魔を纏った大雷が大鬼の手へと落ちて。
またひとつ大鬼の手が消えたのを見ても尚、楽しげに目を細める菖蒲鬼へとリリアは駆ける。足は、まだ止めない。まだ止まるべき時ではないのだから。
「僕も陰陽師の端くれだからねェ」
悪気がなくとも、影朧を在るべき場所に還し、怪異の歪みを直すとしようか。
呪詛の雨から護ってくれる樹の下から抜け、探偵――神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)は口の端を上げた。
「僕も、個人的にはゆっくりと話をしたい所なのですが」
ゆうらり歩みだした探偵の隣に歩を進めた霞架は『梅花』をすらりと抜いて。
向けるのは、刀の切っ先だけではない。刀使いとして、また呪詛使いとして、少年の技には興味があったから。
(それに――知人と違うと言う確信も、得たいのです)
彼が望むとおりに、刀を交え、死合えばきっとそれが叶うのだろう。
「――さぁ、死合いましょうか」
呪詛の雨の中踏み込めば、横合いから大鬼の手が飛んでくる。
躱すか否か、迷うのは一瞬。
「やァ、いってくれたまえよ」
「感謝します」
探偵が操る時計の針が、大鬼の手の時を止める。串刺して、影を地に縫い付けて――けれどすぐに脱する事は目にも明らかで。大丈夫だからと告げる代わりに、探偵は破魔の護符へと口付ける。生命吹き込むように力を分ける刹那、紅く瞳を輝かせ、常盤は霞架の背を見送った。
「君の相手は僕が務めよう。ダンスの相手が僕では不足かね?」
そういえば、君にはステップを踏む足もないようだけれど。
揶揄する笑みとともに、護符を大鬼の手へと投げつけるのだった。
道を譲ってもらった霞架は、振り返らずに駆ける。先に攻撃していた他の猟兵が退いたと同時に赤い雷を纏い、雨の中に花咲く菖蒲鬼の前へと滑り込む。出会い頭の、一閃。
雨をも断ち切る高速の一閃を、スローモーションでも掛かったかのように緩やかな動作で避け、鬼が笑う。愉しい、と。その瞳が告げている。
刀を打ち合えば打ち合うほど、相手の力量が痛いほどに、痺れる程に手に伝わってくる。妖刀から呪詛めいた怪しい気配が纏わり付かんとしていることも感ぜられては居たが、打ち合えば刀が触れる為避ける事は出来ない。けれど、霞架は呪詛使い。呪詛の扱いに長けているのはそちらだけでは無いのだと、己が手に呪詛を重ね、狂気へと導く呪詛に対抗した。
刀の刃と刃がぶつかり合い、陰鬱な雨の中に火花が散る。
パッと咲いた赤い花はすぐに消え、そしてまた咲いて。
しのぎを削り合う二人だったが、その距離を先に空けたのは菖蒲鬼だった。
「愉しい死合いです、が」
菖蒲鬼が相手取らねばならない相手は沢山居るのだ。
少し待っていてくださいと言いおいて、霞架の前から姿を消した。
姫を護りたかった者と、護る力を欲した少年。蒼夜には、その気持ちは痛いほどによく分かる。もし咲夜を護れずに居たら蒼夜は彼と同じ道にいたことだろうし、この先の未来にだってその可能性はある。そうはさせないし、そうならない努力は惜しまない。けれどそれは、彼にも言えたことなのだろう。全てを出し切った上でどうしようも出来なかったのが、目の前にいる彼だ。蒼夜も、そうなるかもしれない、未来だった。
「君も誰か護りたい人が居たのかい?」
「さあ、どうでしょう?」
清浄なる気配に気付いた菖蒲鬼が地を蹴り狙うは、蒼夜――の後ろで水流を召喚せしめんと舞う、咲夜。生命力を奪う呪詛の雨が降る中、水の巫女姫は藤羽織を靡かせて舞う。舞は奉納。舞は儀式。清らかな水源を与えし神への祈りを届けるべく巫女は舞い踊る。
妖刀が届く寸前、妖刀を掬い上げるように二本の刀が弾いて。
紅く瞳を染めた蒼夜が、休む間もなく続けざまに『白藤』と『黒藤』を打ち込んでいく。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ――最期の一撃は仲間を斬らねば命を削る剣技。彼の剣技を全て知っている咲夜は、その斬撃に身を委ねて剣技の結びとしようと手を伸ばすが……その手は緩やかに落ちて舞へと戻る。
(嗚呼……あんさんはそうやった、ね)
反転とともに咲夜を斬ろうとして見せた蒼夜は、そのまま斬らず、身を低くして円を描き、菖蒲鬼へと向けられる。
フェイントだと見抜いた菖蒲鬼は、半歩下がってその刀を避けようとするが――、
「っ」
(どうか、護らせて……うちだけの傀士さま)
咲夜の願いが、形となる。
雫の鎖がぐるり、舞うように広がって。水の結界に包まれた菖蒲鬼は、一時動きを止めた。
その一時、それだけあればいい。咲夜の前では動きを止めることを知らない騎士の刀が、届く。
美しい太刀筋を描き、菖蒲鬼を深く斬りつけた。
そうして幾度も、幾度も。猟兵たちは菖蒲鬼と切り結ぶ。
「こうして、何がしたかったの?」
彦治の問いとともに雀が矢を射つが、菖蒲鬼から答えは返らない。ひらりと矢を躱しながら僅かに首を傾げる。何がしたかったのか、なんて。既に死者である彼が出来ることなど限られている。そうだろうと告げるような瞳が彦治の背中から顔を出す子供へと向けられれば、僅かに目を見開いたアキは彦治の背に隠れてしまう。
「長閑」
「うん、クラウン」
立ち直したクラウンと長閑も、ともに。錠とフリチラリアを操って、他の猟兵へと繋げる一手を。
鬼の少年は、血を流し、体力を削られて。
――倒すならば、今しかない。
続け、続けと、猟兵たちの心が逸る。
白花とネモフィラ色の炎を纏ったバスターソードが振られ、光を纏った拳が打ち込まれる。暗器が投擲され、魔剣が隙きを狙い往く。
「私たちも続くぞ!」
「ええ、リリアさん、いってください!」
風を纏って駆ける彼女の背中を押し、結都は願う。この悲しい雨が降り止むことを、そして全ての魂が安らいだ眠りを得ることを。それには、目の前の少年だって含まれる。彼が還る先は骸の海だが、同じ怨念に呼ばれて現世に留まるよりはずっといい。そう、思って。
リリアの前に、大鬼の手が現れる。切ろうとリリアが魔法剣を構えるが、護符が眼前に階段のように並んで――リリアは護符を踏み台に、大鬼の手を飛び越える。そのまま上段から、重力と風の加速を味方につけ、菖蒲鬼へと魔法剣を撃ち込んだ。
傷は、深くはない。けれども確かに届いた感触に、リリアは笑みを浮かべて後方へと跳んだ。
(大切な人の首が見えるとか放っておけないと思って来たけど……)
本当は首だけでも会いたかったのか、理玖にはよく解らなかった。その首を見ても尚、解らずに居た。
けれど、解ったこともある。受け止める覚悟が足りなかったことだ。悪い想像にはいつも蓋をして見ないふりをして、向き合うことを避けていた。心はいつだって迷っていた。
――パチン。指を鳴らせば――フォルムチェンジ。
外装が高速移動用へと変化して。
渾身の一撃を放って退く猟兵と入れ替わりに菖蒲鬼の前へと立つ。深い傷を負っても動きが僅かにしか鈍らないのは、鬼は惜しまず生命を使い捨てているせいだ。理玖とて、ここは惜しむべき場所ではないと理解して。生命を削って相手取る。
刀と拳を打ち付けて、首を狙いに来る刀を避けて、生命と生命の削り合い。
一撃を食らわせられるなら、致命傷でさえなければ耐えて反撃を狙い合う。
(俺はもう、迷わねぇ)
足払い――と見せかけてからの上段蹴り。そして拳の乱れ撃ちを繰り出せば、ぐらり、理玖の身体が傾いだ。
「……いい顔に、なりましたね」
(……忘れねぇよ絶対)
続く猟兵が理玖の肩に手を掛け、後方へと飛ばして斬撃を回避させる。飛ばされた理玖の身体は、彦治が受け止めた。
巫女が舞い、女神が光を照らす。その光を背に、マレークは駆けてきた。
「――ハ、」
あは、
危機を察して、尚、鬼が嗤う。
『碧血竜槍』を投げれば、弾かれるのは必然。相手は手練の剣鬼、其れがフェイントであることを理解し――けれど彼は死合いを楽しむためにマレークの望み通りにそのまま対面する。全力で、駆けて、駆ける。愛しい女神の加護のお陰でその身は軽く、捨て身の一撃を喰らわせるには丁度いい。鬼が構える妖刀など、知ったことではない。ただその懐に飛び込み、貫くのみだ。
交わりは、刹那。
横腹を抉ったマレークだが、還す刃に斬られ、続く猟兵の邪魔にならぬよう退いた。
「あァ、やっと顔を見せてくれた」
常盤の式神――『縫姫』は、常盤が死に瀕さねば現れてはくれない。切っても切れぬ、縁の糸。繋がれたその先に現れた彼女の姿に、ゼェと吐息を零す青ざめた顔で常盤は笑む。愉しい闘争は、まだこれからだ。
けれど、母に似た彼女の姿は何時か抱いた嘆きを想い出す。聞こえぬはずの嘆きの声が耳に、生前の彼女の姿が目裏に。瀕死の身体の精神は、己が弱さを容赦なく突きつけてくるものだから、
(あァ、嫌だ、早く終わらせよう)
マレークが空けた穴、そこを埋めるは鴉面纏いし神楽巫女。子を慈しむ母のように少年の身体を抱きとめれば、瀕死の身体に鞭打ち忍び寄った常盤が捨て身の一撃を食らわせんとする。妖刀の怪しい煌めきを目端にいれながらも臆することはなく、串刺しにして呉れようと常盤は影縫を見舞う。
血の花を咲かせるのは、同時に。けれどここで果てては他の猟兵の邪魔となろう。薄れゆく意識の中で辛うじて思うも、既にその身はままならぬ。意識を閉ざす寸前、最後に覚えたのは懐かしき母のかいなの感触だった。
幾重にも、幾重にも、刃が並ぶ。
肚に穴を空け、山と切り刻まれ、血を吐き、血に汚れ。
囲んだ刃が放たれて――それでも血の紅を刷いた唇を笑みの形に刻む菖蒲鬼。
その鬼の前に、小さな竜が最期に訪って。
(どうか、かなしみよ終われ)
優しい竜が腹一杯に空気を吸い込んで、轟――涙雨を焼き尽くす程の熱量で、雨の中に咲く花を焼き払う。
最期に、何かを求めるように手が伸ばされて。
けれど誰にもその手を掴むことはなく、笑みとともに菖蒲鬼が消えていく。
――ああ、楽しかった。
空気を焼かれ、声は届かない。けれどその場に集った猟兵たちは、彼の最期の言葉が解っていた。
「フン、予行演習……か」
知人に似た顔の鬼が、消えた。もし知り合いが狂い果ててしまったら――などと今考えても詮無きこと。未来がそうならないことを祈るばかりだと、フォーリーは空を見上げる。
いつしか雨は、止んでいた。
●鐘の鳴る方へ
「――社だ」
菖蒲鬼が消えた後、彼が最初に立って居た場所に立ったクラウンは、小さな社を見つけた。きっと温泉街の人々は、何が祀られているかなんて知らない。けれど確りと手入れがされていると解る其れには花が飾られ、掃除も宿の者によってされているのだろう。嘗て此処に居たお姫様に守り人たちが毎日花を贈ったように、毎日欠かさずに。
「長閑、少しお参りしていこっか」
「お参り? ――うん、じゃあ一緒に行くっ」
友に続いて、長閑は社へと足を向ける。
優しいクラウンはきっと、お姫様と守り人の幸せを願うのだろう。死後の世界で幸せになりますように、と。心穏やかにあれますように、と。
(……死後の世界なんて、あるのかなあ)
けれど長閑には、解らない。あの人は死後の世界があるともないとも言っていなかった。死んでしまったら、それで終わりじゃないのかな。だって息絶えた鳥は動かないし、魂が抜けたらきっと何とも思わない。
「長閑……?」
友の声に、長閑はいつもの笑みを向けた。
――かろん。
雨が止んだ空に、鐘が鳴る。こっちにおいでと言うように。
女神が天へと手を伸ばせば、何かがするりとその手に甘えるように絡む。風の鳴くような声と、微かなざわめき。金の髪を揺らすそれらに、篝は「そうか」と小さく口を開いた。
「ああ……口惜しかったな」
無念の声と、寂しさと。
親からも恐れられた姫を守れず、あまつさえ心ないものの手にかかって。
けれど、だからこそ。
「ここに残っていてはいけない、姫はとうに行ったのだろう?」
お前たちを案じて、輪廻の輪を巡れずにいるのではないだろうか。
優しげに紡がれる女神の声に呼応するように震えた何かは、するり、離れていく。
――かろん。
鐘を鳴らしながら歩む白髪の少年を追い掛けるように泳いでいったそれを見つめ、女神は祈る。
今度こそ、姫の生涯が幸せであるように。
そして、守り人たちも幸せになれるように。
この日を境に、ななつ花の温泉郷での生首の噂は少しずつ聞こえなくなっていく。
稀に話す者も居たが、それが真か偽りか――それを知るのは当人のみである。何せ大切な者の生首は、その人にしか見えないものなのだから。
けれど、猟兵たちだけは知っている。曝れ頭の怪は消え、元の髑髏の怪へと戻ったことを。
――それすらも、いずれは起きぬようになるかもしれない。
明るく楽しい、ななつ花温泉郷。
自慢の湯に、美しい湯の花。
べべんと三味線鳴らし響くは、客を楽しませるだけとなった語りもの。
〽雨に唄うは、曝れ頭。
雨に唄うは、髑髏(されこうべ)――。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2020年03月19日
宿敵
『花時雨の菖蒲鬼』
を撃破!
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