甘き宿花の物語
#アリスラビリンス
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●返り咲き
「アリスが! アリスたちが帰って来たよ!」
美しく花々が咲き乱れる花園の中、一際高い声がそう告げた。
ざわざわと伝播するように美しい花々が身を揺らし、あちこちで喜びの声が上がる。
それは本当なのと、女王様好みの赤薔薇が問う。
夢で見た事ではないのと、そよ風に揺れていたひな菊が問う。
本当に本当なのと、蝶々にキスされたチューリップが念を押して問う。
「本当さ! 丘で昼寝をしていたら見えたんだ。もうすぐアリスが帰ってくるよ!」
喜色満面のスイセンに、花々は疑う余地がないことを知る。本当に、本当に、アリスたちが帰ってくる。ああなんて嬉しいことかしらとユリとタンポポが葉を取り合い、くるりと踊りだした。
「歓迎しましょう。私たちのアリスを!」
スミレが甘く歌うように告げれば、花々は花弁を揺らして頷き合う。
おかえり、僕らのアリス!
おかえりなさい、私たちのアリス!
●猫の語り
「そのアリスたちは、『元アリス』なのさ」
花の姿をした愉快な仲間たち――花人が住まう『生きている花園の国』。そこがオウガに襲われると予知をしたグィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)は髭をへにょっと落とし、軽く耳も伏せてそう告げた。花人たちがとても楽しみにしている姿を視たんだ……と。
けれど彼らの元に現れるのは、アリスであってアリスではない。かつてはアリスだった、成れの果て。オウガに喰われ、失意と絶望からオブリビオンとなってしまった『墜ちたアリス』。アリス、だったもの。
「花人たちはとても優しくて、元アリスたちを疑いもせず歓迎してしまう。……だから、君たちの手で元アリスたちを倒してほしいのさ」
それは、花人たちには出来ないことなのだ。きっと花人たちは元アリスを攻撃するよりも、元アリスの手によって齎される死を選ぶ。
元アリスに無防備に近寄るし、もしかしたら猟兵が攻撃すると護ろうとするかもしれない。ぽろぽろと蜜の涙を零してアリスの助命を懇願するかもしれない。
それでも彼らのために。そしてアリスだった元の少女たちのために。倒して欲しいとグィーは静かに口にした。
「気分の良いことでは無いだろう? けど、怒りの向け先はちゃんとある。――『ジャバウォック』って知っている?」
アリスに纏わる本をUDCアース等で読んだことがある人は文字で目にしたことがあるかもしれない。『ジャバウォックの詩』に語られるだけで実際には登場しない伝説の生物、ジャバウォック。様々な姿で描写されている其れだが、竜の姿をしたジャバウォックを予知で見たのだと猫人が言う。
「どうやらソレがね、裏で糸を引いているみたいなんだ。元アリスたちで混沌を招き、花人たちを国ごと焼き払ってしまおうとしているようだよ」
愉快な仲間たちが――花人たちが『元』であろうとアリスを倒せないことを知っているんだよ。
彼らの気持ちを思えば、少し悲しくなってしまう。倒すにしても、倒さないにしても。
けれど押し寄せる元アリスたちの数はとても多く、本当は花人たちの手も借りないと一掃するのは難しい。そんな状況だから、猟兵たちが倒さないという選択は出来無い。
「どうか、齎される混沌を整え、再びの秩序を花人たちの国へ――」
花人たちをお願いするよ。
グィーの掌の上に手紙が踊る。封が開いてパッと飛び出た便箋に、何事か文字を書き込む仕草をすれば道は開かれる。
行き先はアリスラビリンス。
アリスの零した涙池と美しい花園の、不思議な国。
壱花
アリスラビリンスからごきげんよう、壱花です。
愉快なグリモア猟兵仲間たちでおくる合同シナリオです。
マスターページとTwitterに受付や締切が書かれます。章が変わるごとに参照頂けますと幸いです。
◇◆◇
こちらは、複数のMSで物語背景と童話系の宿敵フラグメントで合わせたシナリオです。
事件が起きている国や日時はそれぞれ別という扱いなので、各シナリオご自由にご参加頂けます。
各MSの個性溢れるシナリオをお楽しみください。
◇◆◇
●愉快な仲間達『花人』
頭がお花、手は葉っぱ。逆さまにした頭と同じ花がドレスのように腰に咲いている生ける花。
基本的には優しく、お喋りで、猟兵たちにも友好的。そしてアリスのことが大好きです。
彼らは【鼓舞】【かばう】【花の嵐(鈴蘭の嵐/花は花人が咲かせてる花)】を行えます。
●第1章:集団戦『墜ちたアリス』
花人たちを護り、元アリスたちを倒してください。
花人たちは、元アリスが悪いアリスだなんて思いません。花人たちへ戦いを促す説得はかなり難しいかもしれません。「危ないアリス!」とかばう事はあっても、「アリスがんばれ」と鼓舞することはありません。また、猟兵たちを攻撃することもありません。状況によっては、泣きながら猟兵たちを鼓舞することでしょう。
【第1章のプレイング受付は、1/20(月)朝8:31~でお願いします】
●第2章:ボス戦『魔炎竜ジャバウォック』
わるーいドラゴンがガオーするので、撃破してください。純戦です。
●第3章:日常『お伽噺の世界』
日常が戻った『生きている花園の国』で過ごします。この国には様々な花々が咲く花園と、かつてのアリスたちが零した涙で出来たと言われる涙池があります。
木に咲く花でなければ大抵ありますので、咲いている好きな花を摘んで、花冠や花束を作ることが出来ます。誰かに贈るための気持ちを篭めた花束、結婚式のブーケ、頭を飾る花冠。それから、弔いの花。
花人たちも花冠や花束を作ります。そして、アリスたちを弔うために涙池へと捧げます。
お声掛けがあればグィーがひょこひょこ近寄って来ますが、彼はしんみりムード時に気の利いた事が言えない残念な猫です……。
どの章からでも、気軽にご参加いただけるとうれしいです。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『墜ちたアリス』
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POW : アリスラビリンス
戦場全体に、【過去のアリス達の「自分の扉」】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD : 永遠のお茶会
【アリス達が手づから注いだ紅茶】を給仕している間、戦場にいるアリス達が手づから注いだ紅茶を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ : 地獄の国のアリス
自身の【記憶と身体】を代償に、【自身を喰べたオウガ】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【鋭い爪や牙】で戦う。
イラスト:ゆりちかお
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エドガー・ブライトマン
やれやれ……どこの国にも悪党はいるんだね
花人君らの、アリス君への気持ちを利用しようという企み
国を守る王子様として許してやれないな
花人君が元アリス君を歓迎する前に
彼らの間に割って入ろう
やあ、ご機嫌ようキミたち
私の名はエドガー。通りすがりの王子様さ!
悪いけど、感動の再開はさせてやれない
もうキミらの知るアリス君はいないんだよ、花人君
…信じがたいだろうけど
さて、元アリス君
骸の海に帰りたまえ
“Sの御諚”
すこしでも動きを止めたなら十分
《早業》《捨て身の一撃》
花人君が攻撃を受けそうな際は《かばう》
花人君らのために剣を振るっているつもりだけど
彼らに恨まれたって別にいいぜ。仕方ないし
上に立つ者ってそういうモノさ
メアリー・ベスレム
♢♡
もしメアリが獣じゃなかったら
アリスがただのアリスだったら
ああなってたかも知れない、そう思うとゾッとする
戦う相手がオウガになれば花人達にも状況がわかるかしら
あれはアリス達じゃないわ、元アリス
食べられてしまったなれの果て
だから殺すわ
殺してあげる
メアリはただのアリスじゃなくて、獣のメアリだもの
オウガの食欲を誘うように、戦いながら肉感的なお尻を振って【誘惑】
もしまだ花人達がオウガを庇うようなら、誘惑で惹きつけたまま【逃げ足】でオウガと花人達を引き離す
捕まりそうになった瞬間【復讐の一撃】で反撃
その子達にもこうやって食いついたの?
さぞ愉しかったでしょう?
さぞ恐ろしかったでしょう?
けど、これでお終いよ
●王子と獣
花弁を整えて、幸せそうに。
白い花弁を薄紅に染めて、楽しげに。
喪われた少女たちを待つ花人たちの姿を横目に確かめて、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は一人、颯爽と花園を駆けていく。アリスが戻ってくるよと囁き合う花人たちが幸せそうだからこそ、彼らと会わせる訳にはいかない。花人たちのアリスを想う気持ちを利用させてはいけない。アリスであり、そして国を護る王子でもあるエドガーは覚悟を胸に抱いて、疾く駆けた。
丘になった場所に立ち、鮮やかな水色のワンピースが視界に入ると、エドガーはすらりと剣を抜く。
「悪いけど、これ以上先には行かせてあげないよ」
君たちのような悪党の手下にはね。
王子然とした姿で爽やかに告げ、剣を手にきょとんと不思議そうにしている少女へと駆ける。振り下ろした剣の前に白兎が飛び出て斬られた、その時――。
「アリス!」
エドガーの背後で甲高い声が上がった。
アリスとどんな話をしようかと期待で胸を膨らませていた花人たちの視界には、可愛らしい少女のアリスたちと、金髪の青年のアリス〈王子様〉。
アリスがアリスを攻撃している! どうして!?
どうすればいいのか解らず狼狽える花人へ、エドガーは少しだけ視線を送り、そして背を向けたまま声を掛ける。
「やあ、ご機嫌ようキミたち。私の名はエドガー。通りすがりの王子様さ!」
「アリス、アリス、どうして?」
「喧嘩はやめて、アリス」
「来ては駄目だ!」
哀しげに花弁を揺らし、スイセンとスミレがエドガーへと近づこうとするが、エドガーの鋭い静止の声に花人たちはビクリと小さく跳ねて足を止めた。
「残念だけれど……もうキミらの知るアリス君はいないんだよ、花人君。……信じがたいだろうけど」
元アリスを倒すことで花人たちに恨まれたって構わないと、エドガーは剣を振るう。上に立つ者として、その覚悟をエドガーは既に持ち合わせている。護るべき者たちのために慈愛の心を分け与えた幸福な王子のように。
けれど花人たちは、エドガーの言葉に、ただ花弁を揺らす。
アリス〈エドガー〉を信じたい。
アリス〈少女〉も守りたい。
どうすればいいのと悩む花人たちの前に、もう一人、アリスが現れる。
兎耳の修道女のヴェールを揺らした少女――メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は人狼病に罹患した状態でこの世界へと喚ばれた少女〈アリス〉だ。
メアリーは花園を駆けながら、前方の『元アリス』たちを視界に収める。
――もしメアリが獣じゃなかったら。
――アリスがただのアリスだったら。
(ああなってたかも知れない)
喰われた事も忘れて、言いなりになって。けれど訳も分からず楽しげな姿で居る元アリスたち。あんな姿になっていたかもしれないと、背中が悪寒を駆け上り、ふるりと肩を震わせた。
「あれはアリス達じゃないわ、元アリス」
「アリス?」
駆けていくメアリーに不思議そうに花人が声を掛ける。
食べられてしまったなれの果てだと告げても、それでもアリスはアリスだと花人たちは言うのだろう。
(――だったら、見せてあげる。オウガだってことを教えてあげるわ)
年齢にしては肉感的な尻を振り、ピョコンっと立った兎の尾をフリフリとして元アリスたちのオウガとしての本能を刺激する。
(ほら、食べたいのでしょう?)
「ああ……」
元アリスの唇から喘ぎとも呻きとも付かぬ声が溢れれば、元アリスたちは頭を押さえ……そして、ぞろりとドラゴンにも似たオウガが現れる。
「ほら、おいで。アリスはこっちよ」
メアリはただのアリスじゃなくて、獣のメアリだけれど。
誘われるままに追いかけて来たオウガをメアリーは花人たちから引き離す。残る元アリスはきっと金髪の王子様が何とかしてくれる、はずだから。
浚うように振るわれる大きな爪を避けて。
バクリとひと呑みにしそうな大きな牙を向けられたなら、メアリーは立ち止まりくるりと振り返る。
「あの子達にもこうやって食いついたの? さぞ愉しかったでしょう?」
そしてあの子達は、さぞ恐ろしかったでしょう。
ヨダレを垂らす大きな口に微笑んで。
「けど、これでお終いよ」
ウサギの皮を被った獣は、ひと呑みにされる振りをして――そのまま喉を貫いた。
「さて、元アリス君。骸の海に帰りたまえ」
元アリスの、大切なモノ〈記憶〉がまた欠けた。何が欠けてしまったのかすら解らずに頭を押さえる元アリスへ、エドガーは白手袋に包まれた右手の指先を向け、静かに威令を告げる。
高貴な碧に貫かれ、元アリスは小さく息を飲み。
そして――。
花園の花が静かに揺れた時、エドガーの姿は元アリスの向こう。さらりと光の粒になって消えていく元アリスの姿に花人たちが息を飲むのを、エドガーはマントの向こうに感じていた。
「ごめんね、アリス」
「ありがとう、アリス」
アリスにアリスを斬らせるだなんて。自分たちのせいでアリスに辛い事をさせてしまったと、優しい花人たちはエドガーを想って蜜の涙を零すのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
深榊・楓
♢千尋君(f22633)と共に臨む心算じゃ
愛する者が帰って来る。其れは何と甘美で、夢に溢るる事じゃろうな。
無垢な花の子等の心を傷つけるのは……真に苦しく思う。
それでもきっと嬢ちゃん達、アリスは…自らの手で大切なものを壊したくないと。願っている筈。
此度の戦いは愛しき子等、そして只一人の主──千尋の為に。
悲しみ、憾みを受け止める覚悟など。疾うに出来ているのだから。
千尋君と協力して、先ずはアリスを花人達から離れさせようかの
彼等の心身へ及ぶ傷が、少しでも軽くなればと祈り
アリス達へ距離を詰めた時を見計らい、千尋を巻き込まぬ様注意しながら【徒桜ノ舞】を放つ
せめて最期には、優しい花々の景色で送り出せる様に。
大路・千尋
♢花人たちもアリスもすげぇ悲しいよな
大切な人が傷つくのすげぇ辛いよな
でも立ち止まったらそこで終わりなのオレはもう知ってるから…爺ちゃんに教えてもらったから…
皆の幸せのためにオレは爺ちゃん…
いや楓(f22646)とアリスを倒す
一人前の王子となるためにもこれは乗り越えなくてはいけないし
楓というオレを守ってくれる騎士もいるんだ…やるしかない
花人たちにとってアリスが傷つくのを見るのは辛いことだろうから
楓と協力して【スクワッド・パレヱド】を使ってアリスを後退させ、花人たちから離そうと思う
花人に庇われたりしたら戦えないしな
その後は楓とアリスを倒す
アリスは倒した方がよいと思うからオレはなにがなんでもやるよ
●優しき心
アリスが帰ってくるよと嬉しげに囁き合う花人たちを見れば、つきりと針で刺されたように胸が痛んだ。
「大丈夫かの、千尋君」
「ああ、爺ちゃん。オレは、大丈夫……」
胸の痛みが表情に出てしまった大路・千尋(未熟な王子・f22633)に深榊・楓(譚食み・f22646)が声を掛ければ、千尋はかぶりを振って応える。本当に胸が痛くて、悲しくて報われないのは、アリスと花人たちだ。大切なアリスたちに傷つけられるのも、大切なアリスたちが傷つくのも花人たちには辛いことだし、元アリスたちの魂も本当はそれを望んでは居ないことだろう。
(きっと嬢ちゃん達、アリスは……自らの手で大切なものを壊したくないと。願っている筈)
楓も千尋と同じ思いを胸に、アリスと花人を見遣る。嬉しげな花人の表情を崩すことになるのは忍びない。けれど――誰かが遣らねばならぬことだ。
(立ち止まったらそこで終わりなのオレはもう知ってるから……爺ちゃんに教えてもらったから……)
一人前の王子となるためにも、乗り越えねばならないことだ。こういった機会には猟兵として、王子として生きていく上では何度も遭遇していくことになるだろう。ここで足を止めてしまったら、その先はない。だから、オレは――。
瞳に強い光を宿して前を見て、そして傍らの楓へと視線を向ければ、暖かな弁柄色が千尋を見守っていた。その瞳は彼の成長を喜ぶように細められ、そしてしっかりと強い頷きが返ってくる。
――皆の幸せのためにオレは爺ちゃん……いや楓とアリスを倒す。
――此度の戦いは愛しき子等、そして只一人の主──千尋の為に。
「行こう、楓!」
花人とアリスたちの間に割り込むべく駆け出した少年の背中を、楓は追いかける。
少女の姿のまま、にこにこと微笑みながら振り下ろされる凶器を革命剣で弾く。僅かに出来た隙間に身を滑り込ませた楓は両手を広げ、それ以上近付かないようにと花人たちに勧告する。
「どうして?」
「アリスとお話がしたいよ」
「……すまんの。それはできんのじゃ」
悲しみも、憾みも。全て受け止める。その覚悟が疾うに出来ている楓が柔らかな笑みで、花人と元アリスたちを分け隔つ。
その僅かな隙きに千尋は闘気を纏うと元アリスへと肉薄し、可愛らしい水色のワンピースへと突撃して花人たちから引き離しにかかった。アリスが傷つくのを見る事はきっと辛いことだからと、少しでも遠くへと押しやった。
どうしてと背中に聞こえる声が胸に痛い。
アリスと哀しげに名を呼ぶ声が胸に痛い。
けれど千尋はやると決めたから、小さく唇を噛んで耐え、後ろを振り返ることはない。
千尋の気持ちを後押しするように、ぶわりと八重の桜花が辺りに舞う。
(爺ちゃん……)
千尋は、ひとりじゃない。家族が居なくても、楓が居てくれる。
誰も解ってくれなくても、楓だけは理解して側に居てくれる。
楓はせめて最期は優しい花々の景色でと願いながら桜を吹雪かせ、桜で元アリスを包み、そして花人たちの視界からも元アリスの最期を見せないようにして――。
剣の煌めきが花弁の隙間で輝くのを見届けるまで、桜花を舞わせ続けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・ゆず
お花さんたちの前に立ち塞がって、元アリスと戦おう
お花さんたちに非難されても、抗議されても、構わない
腰後ろのホルスターからFN Five-seveNというハンドガンを抜いて、撃つ
ああ、駄目だ
あなた達を撃ちたいんじゃないの
右袖中からプッシュダガーを滑り出させて、握り、肉薄
この距離なら、庇わさせない
…ねぇ
あなた達が大好きだってことは、
アリスもあなた達を好きだったんでしょう?
そんなアリスが、あなた達を傷つけるかな?
もしかして、偽者のアリスなんじゃない?
だったら、だったらさ
ゆっくり眠らせてあげるのがいいと思うんだ
辛いかもしれない
苦しいと思う
でも、手伝って欲しいの
きっと、救いになるからさ
わたしも、すきだよ
●きれいな花
この世には二種類のものがある。きれいなものとみにくいもの。
きれいなものは、尊くて。みにくいものは、 。
御園・ゆず(群像劇・f19168)の日常ではないこの世界は、きれいで可愛くて。きれいな心を持ったお花さんたちも居る、世界。
「アリス、帰ってきてくれたんだね!」
「……ごめんね」
水色のワンピースの少女へと駆け寄ろうとするミズバショウの花人の行く手を遮るように、ゆずは立った。花人が僅かに右にずれれば右にずれ、左にずれれば左にずれ、先へ行かせないようにとすれば、花人は白い花弁へ微かに朱を混ぜて。
「もうっ、意地悪しないで」
――意地悪、なんて。
そんなこと、しているつもりはゆずにはない。けれどきっと花人たちにはそう見えてしまうことも理解っている。ゆずは静かに腰後ろのホルスターの留め具をパチンと外すと、収まっていたハンドガン『FN Five-seveN』を引き抜くと同時にトリガーの真上の安全装置を解除し、流れるような動作で元アリスへと銃口を向け引鉄を引いた。
ガウンッ!
花園に響く、銃声と少女の悲鳴。
「アリスっ」
悲鳴を上げるのは、元アリスだけではない。花人が飛び出してきて両腕を広げて庇おうとするから、連射して止めをさそうとしていたゆずは両腕を下ろしそのままハンドガンを手放し――ホッとした表情になった花人の横を駆けて抜ける。右袖中から滑り出させたプッシュダガーを指の間に握り、元アリスへと肉薄し、斬りつけた。
背後から、小さく悲鳴が上がる。愛しい子の名を呼び、悲しむ声。大事に大事にされていた、少女を表す名。
「……ねぇ」
よたよたと避けようとする少女へダガーを振るいながら、花人へと口を開く。
「あなた達が大好きだってことは、アリスもあなた達を好きだったんでしょう?」
「ええ、ええ。アリスは大好きって言ってくれた!」
「そんなアリスが、あなた達を傷つけるかな? もしかして、偽者のアリスなんじゃない?」
花人が、小さく息を飲む。愉快な仲間たちが、アリスを間違えるはずがない。全身が、心が、あの子はアリスだと告げている。どこか、何かがおかしい。そう感じていても、あの子はアリスなのだ、と。
「眠らせてあげよう?」
言葉を紡げないでいる花人へ、声を掛ける。
その選択は花人たちにとっては辛いだろうし、苦しいことだ。けれど、当のアリスたちもそうなのではないだろうか。アリスもきっと花人たちを愛していた筈だから、苦しんじゃないかな? だから、終わりにする手伝いを。きっとそれが、花人たちの愛したアリスにとっても救いになるから。
「アリス、アリス。アリス、大好き」
花が震えて、ごめんねとさよならが聞こえる。
「わたしも、すきだよ」
ダガーを深く差し込み、ゆずもさよならを告げた。
大成功
🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
♢♡
俺も一応「現役アリス」なんだけど、言っても信じて貰えなそうだよなァ
――はァ、やりづれェ
ナイフで己を裂き流れた血で【イーコールの匣】
頑丈な鎖を作って花人達を捕縛する
奴らが元アリスを【かばう】事は阻止できるだろ
【花の嵐】迄は防げねえかも知れねえがそっちは構わねえ
只のご褒美ってやつさ
これ以上アリスが「ああなる」のが厭だったら
大人しくしておけ、目障りだ
恨むならお好きにどーぞ
無数のナイフを投擲する中距離戦を仕掛ける
俺の得意な間合いは近接だが
紅茶の給仕を即座に阻害出来るように目を向けるべく
それからアリスの攻撃が花人に向かうのを【かばえる】様に
ある程度距離を保っておく
多少の負傷は【激痛耐性】でスルー
セラエ・プレイアデス
これはまた後味の悪そうな話だなァ……
一応花人たちにここでアリス達を止めないと
殺されるのはキミらだけじゃないんだって事は伝えてから戦闘に臨むよ。
初っ端からUC使用、全力で高速戦闘を挑むね。
簡単には目で追いきれないくらいのスピードで、何が起きてるのか花人にわからないように。
その方がヤな気分にならずに済むだろうし。
UCによる動きは中断出来ないから、敵アリスの迎撃に対しては【念動力】で逸らすなり【激痛耐性】で耐えるなりで対応するよ。
アリス達も可愛そうだけど、せめて殺すからには美味しくいただいてあげないと。
中断出来ないから、もしも花人が庇おうとしても咄嗟に止めるのってかなり難しいんだよねェ……
●キョウチクトウ
「ここでアリス達を止めないと殺されるのはキミらだけじゃないんだ」
元アリスの元へと向かおうとする花人の肩に手を置き押し留め、セラエ・プレイアデス(腹ペコヴォーパルブリンガー・f24425)は花人たちよりも前へ出た。ゆっくりとした仕草で、ゆっくりとした足取りで、花園を楽しむかのように歩み出たセラエだったが、その姿は突然花人の視界から消える。
「え」
思わず声を上げた花人だったが、その視線の先にセラエは居ない。けれど、何かが、何者かが、元アリスに攻撃を仕掛けているのだけは解った。
《斬リ喰ラウ爪牙ノ舞(エクスターミネート・ステップ)》による超高速連続攻撃によって、元アリスはふらりゆらりとダンスをしているようにも見えるが、実際にはいくつも傷が増えていっていた。
「アリス!」
やめて、と花人が叫ぼうとした、その時――。
全てがゆっくりとなる。叫ぼうとした口の動きも、駆け寄ろうとした手足の動きも、何もかも。紅茶の給仕を始めた元アリス以外の全て、が。
「――!」
それは、セラエも違わずに。
元アリスが、紅茶のカップを花人へと向ける。すると、弾かれたように花人の動きが元の速度に戻った。紅茶を貰いにくるように駆ける花人は、攻撃を中断出来ないセラエと元アリスの間に割って入り――。
別の身体のように、身体が動く。
止められない腕が、爪を振りかぶって。
噛みつこうとする牙が、大きく開かれて。
柔らかな花人へと凶器が襲いかかる。
――アルス・マグナ。
爪と牙が襲う、その瞬間。
血色の鎖が、花人を攫っていった。
「あ、ぶねェ」
間一髪。そうとしか言えないようなタイミングで花人を攫い守ったジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)は大きく息を吐いた。肝が冷えるとはこのことだ。花園へ辿り着いてすぐに見えた景色に、咄嗟に自身を斬り裂いたのだ。流れ出た血で《イーコールの匣》を用いて作った鎖は頑丈で、間に合わず掻っ攫えずとも爪と牙が当たって弾けるようにと瞬時に調整を加えたのは流石と言えよう。
「アリス」
突然鎖で引っ張られる形となった花人は、驚いた顔のままジャスパーを見る。角が生えて、羽根が生えて、不健康そう。けれど、彼はアリス〈オウガブラッド〉だ。
新しいアリスが来てくれた! そう喜色を浮かばせて。けれどすぐに元アリスへと視線を向け、戸惑いの表情を浮かべた。
「これ以上アリスが『ああなる』のが厭だったら大人しくしておけ」
アリス〈悪魔〉はそう言うけれど、直様ジャスパーが庇える位置で血の鎖に縛られたまま、花人は煙を吐く芋虫のようにもぞもぞと動く。
「アリス、アリス。喧嘩はしないで」
(喧嘩じゃねェんだけど、なッ――)
花人の声を振り払うように、指の間に挟んだ幾つものナイフを元アリスへと投擲。その行動は既に元アリスの術中故、遅く緩慢。けれど、元アリスは何かに驚いたような顔でジャスパーを見つめ、回避することもなくただ紅茶の給仕を続けていた。
元アリスの表情が、驚きから怯えに変わる。ポットを抱えたまま、身を翻して逃げ出そう……そんな素振りを少女が見せる。
しかし、その瞬間。
ポットにナイフが。少女の首元に鋭い牙が。ふたつの鋭い得物が元アリスへと届いた。
給仕が止めば、全てが元の速さで動き出す。
水色のワンピースにはナイフが刺さり、爪と牙とが少女を襲う。
喰らわれるアリス〈少女〉の姿がせめて見えぬようにと、ジャスパーは花人の視界をその身で塞ぐのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
旭・まどか
♢♡
見て解らない?
あれはお前たちが望む“アリス”であって“アリス”で無い
――お前たちが帰還を望んだ、其では無いんだよ
……解らないだろうね
解らなくて、良いよ
だからその代わり、僕の邪魔はしないで
既にこの世の物で無かったとしても
本来の姿を失くした侭逝きたくは無いだろう?
眠って貰おう
既にアリスでなくなったアリスを、“アリス”に戻す為に
庇い立てする者へも、夜を伸ばす
憎めば良いよ
その感情は、僕に向けられて然るべきものだから
傷つく姿を見たくないのなら、お前も眠れば良い
目が醒めた時、目の前には何も残っていない筈だから
それが嫌ならば、目をあけていて
望まぬ者へ夜は訪れない
お前が愛した者の最期を、目に焼き付けていて
ライラック・エアルオウルズ
貴方達の想いは、解るとも
友人に刃向ける位ならば、
僕とて歓んで自死を選ぶからね
でも、アリスの想いはどうなる?
彼女は小さな花々を踏み躙る、
残酷な事を好む子かい?
彼女を想うのなら散るでなく、
静かに眠る彼女に添うて欲しい
真先に花人へ説得をし
叶わずとも、其れも解ると微苦く
両の想い守るべく、庇い続ける
魔導書の頁を花弁と変え、
範囲的な視界阻害に加えて
《属性攻撃:氷》で爪と牙狙い、
相手の戦う術を確と奪いゆき
至らぬ物は《オーラ防御》で凌ぐ
奪い凌げば、花弁で柔く包み
君が痛まぬ様、花が痛まぬ様
──ああ。直ぐ、終えよう
嘗て君を喰んだ害悪を、
屠る事が救いとなる事を祈るよ
揺蕩い沈む寝台で、どうか良い夢を
おやすみ、アリス
●花の褥
沢山の彩りに満ちる花園に、花を冠した花人と空色のワンピース。そしてその再会を遮るように立つ、猟兵たち。
(貴方達の想いは、解るとも)
ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は物語のような深い感情が見え隠れする笑みを浮かべる。
もし、もしも。知人が、友人が、死したはずの彼らが、命も記憶も失ったのに現れたら? 親しい大好きな皮に、虚ろを抱えて後ろ手にナイフを握っていたら? ライラックは喜んで『チェリーパイ』となることだろう。
「でも、アリスの想いはどうなる?」
ライラックの声に、白いアネモネの花人は花弁を揺らす。
「見て解らない? あれはお前たちが望む“アリス”であって“アリス”で無い」
「そうだよ、よく見てご覧。彼女は小さな花々を踏み躙る、残酷な事を好む子かい?」
「アリスは……」
「――お前たちが帰還を望んだ、其では無いんだよ」
旭・まどか(MementoMori・f18469)の言葉にアネモネにスイートピーが寄り添って、ふたりの花人はまどかとライラック越しに空色のワンピースを纏う少女〈アリス〉をみつめる。その瞳は不安げに揺れ、溜まった蜜は今にも零れそうに震えていた。
「……解らないだろうね」
きっと、解りたくないのだろう。愛した少女〈アリス〉が喪われ、中身をオウガに変容して現れただなんて。何処かで幸せに生きている、そう信じて居たいのだろう。
解らないなら、解らなくていい。真実から目を背けていたければ、そうすればいい。
「僕の邪魔はしないで」
まどかは花人たちに背を向けて元アリスをまっすぐに見つめるが、ライラックは花人たちへと言葉を重ね続ける。彼女を思うのなら散るのではなく、静かに眠る彼女に添うて欲しい、と。痛そうに頭を抱えた元アリスが赤いドラゴンめいたオウガを呼び、その牙を向けようとしても。
「ああ! アリス、アリス、危ないよう」
「アリス、痛いの? 大丈夫?」
オウガの姿に、痛がるアリスに、花人たちは悲痛な声を上げる。
元アリスの元からアリス〈少女の記憶〉が溢れていく。なけなしの、僅かに残ったほんの少しの大切なものが。お砂糖よりもスパイスよりも、僅かな残滓が消費されていく。
「眠って貰おう」
「そうだね、それがいい」
既にアリスではなくなったアリスを、“アリス”に戻す為に。
「アリスを助けて」
「お願い、僕らのアリスを助けて」
オウガの牙から庇うライラックへと花人たちが蜜をポロポロ零しながら請うてくる。アリスが痛そうで、けれど自分たちには助けられなくて。されど彼らはアリスを眠らせてくれると言ってくれたから。
「傷つく姿を見たくないのなら、お前たちも眠れば良い」
目が醒めた時、目の前には何も残っていない筈だからと夜を伸ばしながら背後へと声を掛ければ、花人たちはふるりと花弁を震わせる。
「ううん、わたしは」
「僕は」
言葉は最後まで続かない。嗚咽を零して猟兵たちの妨げにならぬようにと、花人たちは必死に花唇を噛みしめる。
「そう。それなら目を開けて、お前が愛した者の最期を、目に焼き付けていて」
オウガもアリスも飲み込むように暗い夜が広がって、そこにふわりと花弁が混ざる。眠りを齎す夜闇にリラの花弁が淡く光るように舞って、元アリスを花弁で柔く包んでいく。
(――君が痛まぬ様、花が痛まぬ様)
アリスを喰んだ害悪の写し身には氷塊を杭のようにくれてやれば、夜花の寝台に沈む少女は痛みから開放されたかのように安らいだ表情で眠り逝く。
おやすみ、アリス。
さよなら、アリス。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
♢♡
効果的なやり方だコト
けれど悪戯に踏みにじるその代償、安くつくと思わねぇでヨ
状況の把握はできてそうね
辛い、悲しい、苦しい?
ならソレを耐えなくてイイ、全部ぶつけな
それでもオレはオウガを狩るし、踏みつけてでも見捨てたくねぇの
花人達を巻き込まないよう『オーラ防御』展開し『かばう』立ち位置は維持
負傷は『激痛耐性』で凌ぐヨ
【月焔】喚んで焔の壁を作り近付けさせないと共に
数発を別個で撃ち込んでくねぇ
いい加減見た目も本性出しなさいな、旨そうじゃねぇのよ
オウガが出たら『2回攻撃』
右目の「氷泪」から雷を奔らせ『傷口をえぐる』よう『生命力吸収』
ああ喰ったのはソイツね、ようく覚えといてあげる
花人ちゃん達の涙と一緒に
ジャック・スペード
♢♡
アリスたちの成れの果て、か
彼女たちは未だ、此の世界を彷徨っているんだな
堕ちたアリスと花人たちの間に割り入り
花人たちを庇うような位置取りを
オウガからの攻撃は動きを見切り
怪力で其の身をグラップルして防御
腕に捕えた儘、零距離射撃でカウンターを試みよう
激痛耐性も意識し此の身を盾として
花人たちを守りながら語りかける
アンタたちの大事な存在を、傷つけることになって済まない
――だが、どうか力を貸して欲しい
アンタたちを傷つけると、“アリスだった”彼女もきっと傷つく
それは、嫌なことだろう?
そうなる前に、帰るべき場所へ戻してやろう
愉快な仲間達の前だ
せめて余り痛くないように、花送葬で躯の海へと送り届けよう
冴島・類
♢♡
おかえりなさいを、言いたかった
その気持ちを、利用するとは
酷い話だ…本当に
待ち望んだありすを疑うぐらいなら、と言う花達の涙を見ると余計
花の子らに向かう攻撃は舞でかばい
ありすへ向かおうとするのを、遮る
地に柊で結界張って
ごめんね、行かせてあげられない
彼女達は、君らの待つ子じゃ、ないんだ、もう
かつての身体を、奪って
操られてる
…そんなの、嫌ではないかい
彼女達が、彼女達で在れない
君達と、国を奪う為に使われて
手を上げることは、悔しいが
でも…ずっと操られて
どこにも還れず、眠れないのはもっと
だから、なるべく苦しまぬようにと狙う
手繰る瓜江に爪や牙引き付け
フェイントで翻弄させ
懐に飛び込み、破魔込めた刃でなぎ払う
●宿花の別れ
お茶会をしましょう? 楽しくお話をするの。
花園に座って、花飾りを作って遊びましょう? こんなに沢山あるのだもの。きっととっても綺麗に出来るわ。そうして頭に飾ったのなら、わたしもお花の仲間入りね。
それからそれから、何をしましょう?
何だって出来るよ、アリス。これからはずっとずうっと一緒なのだから!
はしゃぐ花人たちの頭に、水色のワンピースの少女の手が伸びる。無垢な指先は、撫でることしか知らない。愛することしか知らない。遊ぶことしか知らない。――そう、花人たちは信じて疑わない。
「――危ない!」
けれどその指先が無垢ではないことを知るジャック・スペード(J♠️・f16475)は花人を庇うように抱き、アリスとの間に割り込んだ。不思議そうな表情をジャックへと向ける花人は知らないのだ。「花飾りを作って遊ぼう」と謳うように口にする少女の言葉は、『花人たちで』だということを。
(効果的なやり方だコト)
何が“危なかった”かも解らない顔で、ジャックの身体の下から元アリスへと手を伸ばそうとする花人を見て、コノハ・ライゼ(空々・f03130)は眉にぐっと力が籠もってしまうことを感じながら、元アリスを見遣る。これは、元アリスの意思ではない。忘れさせられ、捻じ曲げられ、そうして哀れな花人たちの心とアリスの心を悪戯に踏みにじる。裏で糸引く悪竜は、物語を自在に操る著者になったつもりかと悪態をつきたくもなる。
花人を離して立ち上がったジャックとともに、コノハはふらりゆらりと手を伸ばしたり近付いてくる元アリスたちと対峙する。その手に握ったお茶会用のナイフやフォークが、アリスアリスと名を呼びながら手を伸ばそうとする花人たちに触れぬようにとオーラ防御を展開する。
「どうして意地悪をするの?」
「アリスとの時間の邪魔をしないで」
意地悪をされて哀しいと白百合と黒百合が蜜の涙を零す。その姿を横目で見えているのに、コノハは冷たき月白の炎を喚ぶ。凍えそうになる心を溶かすように、《月焔》で涙も消してしまえればいいのに。
(ああ、でもそれは、)
同じなのかも知れない。
月白の炎で焔の壁を作れば、手を伸ばし花人が小さく悲鳴を上げる。触れれば葉の手が焼かれることを悟りどうしたものかと向ける視線の先、元アリスへと焔が撃ち込まれた。
「アリス!」
「やめて、アリスをいじめないで!」
「……いじめてるわけじゃないんだけど、ネ」
小さく悲鳴を上げる少女の姿に、花人たちは高い悲鳴をあげる。辛いのだろう、哀しいのだろう、苦しいのだろう。その気持を耐えなくていいのだとコノハは思う。感情のままに、花の嵐を荒れさせれば良いとすら思う。けれど優しい花人たちはそれでも、攻撃はしないのだろう。だから――。
(全部ぶつけな。それでもオレはオウガを狩るし、踏みつけてでも見捨てたくねぇの)
気持ちを、すべて。どんな罵声をぶつけられようと、詰られようと、それでも見捨てないと決めているから。
焔を受け、悲鳴を上げた元アリスは、突然頭を抱えて蹲る。
元アリスの苦しみ。
花人たちの悲鳴に泣き声。
「ああ喰ったのはソイツね、ようく覚えといてあげる」
そうして、『地獄』が黒炎とともに溢れ出す。
(酷い話だ……本当に)
花人たちはただ、おかえりなさいを言いたかった。また一緒に過ごせると喜びを分かち合いたかった。その気持を利用する者がいる。そのせいで零される涙がある。そうしてそこに、元凶の本体ではないものの、害為す者の片鱗が姿を顕した。
黒い炎を纏い、鋭い爪が生えた足を振り下ろさんとするドラゴンめいたオウガの前に、神霊体に変身した冴島・類(公孫樹・f13398)が風とともに舞った。攻撃を軽減させ、短刀で振り下ろされた爪を受け、弾く。そのまま衝撃波を放てば、オウガは幻のように消えた。
頭を押さえた元アリスが、花園に膝をつくのと同時に、他のアリスたちからもオウガが生まれる。美しい花園は、一瞬で地獄と貸した。
「結界を張ります!」
オウガを押さえつけに掛かるジャックと、一歩前に出て応戦するコノハのその後ろ。焔の壁の後ろへ白花咲かせた柊の枝を地に挿し、結界を。
「ごめんね、行かせてあげられない。彼女達は、君らの待つ子じゃ、ないんだ、もう」
「アリス、アリス。苦しんでる……」
震える花人たちの視線の先には、本体よりも小さいと思われるオウガの角を抑え込み、敵の勢いを活かして角をへし折らんとするジャックの姿。
「アンタたちの大事な存在を、傷つけることになって済まない。――だが、どうか力を貸して欲しい」
花人たちが傷つけば、きっと『元』のアリスも傷つくだろう。花人たちはアリスが傷つくことは望まないはずだ。そうだろうと尋ねれば、花人たちは蜜の涙を零しながら大きく頷く。
「そうだよ、僕らのアリスは優しいんだ」
「だったらコイツらを、アリスを、ちゃんと見てあげてヨ」
凶悪な牙で、爪で、花人たちを傷つけようとしている。そんなものを生むのが、アリスなのだろうか。問いながら、コノハは右目の『氷泪』から雷を奔らせ、生命力を奪いながら次々とオウガを屠っていく。
「彼女達はかつての身体を奪われ、操られている。君達の愛したアリスが、君達を害し、君達の国を奪う為に使われているんだ。……そんなの、嫌ではないかい」
「アリスが……アリスが、可哀想」
「嫌だよ、アリス」
オウガを生み出しては、元アリスたちが苦しんで膝をつく。次に顔を上げた時には虚ろな目に、ただ笑顔だけを張り付けた顔。花人たちが愛した姿は、そこにはなかった。
こうしてこれまでも大切な記憶をひとつひとつ消されてきたのだろう。苦しんできたのだろう。
「ああ、アリス……」
諦めにも似た声が落とされる。アリスを助けて、と。
それは、意地悪をやめてとあげる悲鳴じみた声ではない。目の前の少女たちの終わりを、眠りを望む声。
「帰るべき場所へ戻してやろう」
「終わりにしてあげる」
「眠らせてあげよう」
待宵草の花弁が舞う中に雷が奔り、少女の空色のワンピースが花園に沈む。
十指の赤糸で類と踊った瓜江が残るオウガの爪を引きつけ、その脇を滑るように駆けて頭を抱える少女の元へ。
「おやすみ」
破魔を篭めた刃とともに落とされた声は、とても静かなものだった。
花園に、蜜の涙雨が降る。
さよなら。ありがとう。そしておやすみ、僕らのアリス。
◆◇◆
――I can't go back to yesterday because I was a different person then.
◆◇◆
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『魔炎竜ジャバウォック』
|
POW : Manxome
【混沌の呪詛】を籠めた【咆哮】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【正気】のみを攻撃する。
SPD : slithy
【全身から無意識に噴出し続ける混沌の炎】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を焼き尽くして】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ : mimsy
レベル×1体の、【掌】に1と刻印された戦闘用【複製ジャバウォック】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
イラスト:山庫
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ジャスパー・ドゥルジー」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Once upon a time
かつてそこは、生ける花たちとアリスが暮らす平和な花園でした。
アリスも花人たちもとても仲が良く、互いに慈しみあって暮らしていました。
可愛いカトラリーを並べて、紅茶に花を浮かべてお茶会をしたり、花咲くケーキやクッキーを食べながら楽しいおしゃべりもたくさん。毎日がとても楽しく、アリスと花人はとても幸せに暮らしていました。
けれどそんな日々にも、終わりが来ます。
アリスが家に帰れる扉を見つけたのだと、幸せそうな笑顔で告げてきたのです。すぐにでも扉を抜ける事が出来たのに、アリスはちゃんとお別れがしたいからと花人たちへ挨拶に来ました。それが悲劇を生むことになるなんて、アリスはちっとも知りませんでした。
花人たちは、とても喜びました。アリスが家に帰れて家族と暮らせる日々に戻れることはとても嬉しいことです。アリスと過ごせなくなる……と、少しだけ悲しんでしまう気持ちはそっと隠し、花人たちはアリスの幸せを願って見送りました。
そうしてアリスは家へ帰れて、幸せに暮らしましたとさ。
――めでたし、めでたし。
アリスは帰れたはずなのです。
アリスは帰れて、幸せに暮らしていたはずなのです。
けれど帰ってきた。どうしてかは解らないけれど、帰ってきた。
きっとアリスも自分たちに会いたかったのだと花人たちは思いました。
おかえりを告げて、大好きを告げて、これからまたずっと一緒だと喜びました。
しかし、そんなことはありませんでした。
花人たちと別れて扉に向かったアリスが、その扉の前で命を落としてしまっていたことを、花人たちは今の今まで知らなかったのです。
◆◇◆
Who killed Alice?
I, said the Jabberwock, with my claws and fang,
――I killed Alice.
◆◇◆
●混沌の母
美しく花々が咲く花園の一角で、突如、ごうと黒炎が上がった。
立派な角を頂いた赤き鱗の黒炎纏いしドラゴンが降り立ったのだ。その姿は、元アリスが喚び出した偽物よりも何倍もの大きさ。故に、離れていてもその姿を認識できた。
「あのオウガは……」
「まさか、そんな」
花人たちの間に、動揺が広がっていく。
――その黒炎は触れたものを『混沌』と化す。
――その咆哮は聞いたものを『混沌』と化す。
――その心眼は数の概念をも『混沌』と化す。
伝承に謳われる『魔炎竜ジャバウォック』。
耳をつんざくような咆哮が轟く。耳を塞いでもビリビリと鼓膜を震わす咆哮に、近くに居た花人は膝を折り、虚ろな視線を何処かへと向けブツブツと譫言を繰り返す。
『我が子等の邪魔をした者が居るようだ。愚か、愚かなことよの。この地は既に我が混沌で覆い尽くすと決めておる。一切合切を我が黒炎にて焼き尽くし、花の代わりに炎を咲かせる。その混沌たる地が如何に美しいか、愚鈍な貴様等には解り得ぬことであろう』
凛と響く声音は、腹に響く低音ながら女性の声。
混沌を生みし母たる魔竜は、厳かに睥睨する。
『さあ、小さき子等よ。母たる我が貴様等も喰ろうてやる。頭(こうべ)を垂れよ、愛(ころ)してやろうぞ』
等しく愛してやると、混沌を生む母が嗤った。
旭・まどか
♢♡
混沌たる地が美しい、だって?
お前の方こそ妄信的で愚かしい
お前の価値観は、随分と歪んでいるようだね
焔が盛る地で、生きられる者は居やしない
妄言を呈し、虚ろな眸で天を臨む者は果たして
“生きて”いると、言えるかな?
突き刺す剣はヒトにのみ操る事を許されたことのはという刃
掻き乱れ、狂い混じる無秩序な戯論を、ひとつずつ、論破していこう
瞳に宿すは焔の色
此の口から産まれた化け物と同じ、忌むべき彩
異形の力で以って持ち得る識を全て披いて
侃侃たれ
諤諤たれ
と、呪われし血が、僕を囃す
――…嗚呼、愉しい
お前のその貌が歪むのが、酷く愉快で堪らない
整えた論の果て
剣と成り得るものを手にするのは、僕じゃない
最後は、譲ってあげる
エドガー・ブライトマン
♢♡
花人君、下がっていなさい
私はキミらを守るために在る。信じていて
魔竜君
この国は花人君らの優しさで出来ているんだ
アリスをはじめ、自分以外を想う気持ち
この美しい国にキミの炎は必要ないし
キミの愛は求めていない。骸の海に帰りたまえ
――と、注意をこちらに引き付けられれば
花人君に攻撃は向かないかな
花人君が危険な際は身を挺して《かばう》
多少の傷は気にしないし、気づけない《激痛耐性》
呪詛とか狂気とか、少し耐性がある体質らしい
いつも左腕に連れてるからかな《狂気/呪詛耐性》
キミの咆哮に怯まず間合いを詰め
我儘な女性には我儘な女性をぶつけてやる
左の手袋を外し、“Eの献身”
この花はとっておき
キミ程度の炎では枯れないぜ
ライラック・エアルオウルズ
ああ、愚鈍な僕には解らないよ
貴方の戯言、ひとつだって解らない
アリスを、花人を、『親愛』を
灰燼として得るだけの価値が、
そんなものに有る訳も無いのだから
僕に癒す術は、無いから
混沌に陥る子は無事な子に頼み、
《オーラ防御》で庇いつ避難誘導
詩の諳誦が好きで、良かった
貫く物をと廻る想像へ、
《全力魔法》を編み剣を創造
想像故に“現実”とは異なれども、
“御誂え向き”に疑念感じる余地も無い
複製が更に増える前に《先制攻撃》
《属性攻撃:石》で脚や翼狙い、
礫放ち《部位破壊》し行動妨害
鈍くなれば、切り裂く
竜に間与えぬ様、
複製屠る後の隙を《見切り》
駆けて踏み込み、
その首を狙いへ往こう
僕らに首斬られて、
頭垂れるのは貴方の方だ
深榊・楓
♦前回に引き続き、千尋君(f22633)と共に行くぞい。
……愚かであるのは果たして何方か、ジャバウォックよ。
母と謳い、地を屠るその行いの。何と傲慢な愛。
花人達の悲しき声を聞き、そう易々とお主の願いを叶えさせる訳が無かろうて。
……咆哮の所為じゃろうか。胸が、微かに痛む
またあの時の様に、独りになったのかと錯覚しそうな程に。
…否。今の儂には、大切な主様がいる
この手の温もりが途絶えぬ限り、儂は決して──守り戦う事を諦めたりなどせぬ。
さて、お主に問いの【獣】を科して進ぜよう
焼き尽くされた地よりも、色鮮やかな花で埋め尽くされた世界の方が美しいと思わぬか?
果てさて、儂が満足する答えを導き出す事は出来るかな?
大路・千尋
♢
優しい花人たちを傷つけたんだ許せない
この悲しい戦いを終わらせるためにオレが出来ることをする
爺ちゃん(f22646)も同じ気持ちだろう?
でもさ、元アリスと戦って思ったんだ。やっぱり戦うって辛いんだなって。
戦いって誰かは傷つくことになるんだよな。
オレはみんなを守れる王子になりたいのに…
けど爺ちゃんがいるからなにがあっても進むよ。
爺ちゃん、戦う前に手をつないで?オレのこと支えて?(技能:手をつなぐ)
爺ちゃんがいるならきっとオレは大丈夫
絶対にジャバウォックを倒す
咆哮を聞くと正気を攻撃されるんだな…
オレの騎士ならその程度で倒れるわけねぇよな…ほら、ちゃんとオレを守れよ(技能:鼓舞)
楓の力みせてくれよ!
コノハ・ライゼ
♢♡
ああ、アレだね
寄せ集めみたいなこの身なら混沌なんて今更ダケド
でも、オレを愛してイイモノは、オレが決める
『かばう』よう『オーラ防御』展開してから一気に距離詰めるねぇ
そも近付けさせないよう押してきたいモノ
「柘榴」振るい斬り込んだら続けて『2回攻撃』
踏み込む足元、握る手中、到る所の己の影から【黒嵐】を喚んで
『スナイパー』で避け難そうな下半身狙い旋風を暴れさせるネ
あんま増えちゃゆっくり楽しめないデショ
既に増えた個体へも同様に攻めて封じてくヨ
増えぬ隙に柘榴で深く『傷口をえぐって』『生命力吸収』し削ってくわ
混沌謳うならてめぇも一緒に呑まれなヨ
きっと気持ち良く溺れさせてくれる
焼かれても消えない涙の雨がネ
ジャック・スペード
♢♡
花人たちのこころだけではなく
此処に咲く花々も傷つけるつもりか
其の所業、許すわけにはいかないな
勇気を胸に前へ出て仲間や花人たちの盾と成る
飛んできた攻撃はビームシールドを展開したり
この身を盾とすることで庇おう
――もう、誰も傷付けさせはしない
激痛耐性や火炎耐性を活用しつつ
トランプ兵達に故障個所を修理させながら
なるべく長く壁役として前線に立とう
今こそ頑丈な体の活かし時だ――大破の覚悟は出来ている
仲間が敵本体を叩けるよう露払いも行おう
複製された竜へマヒの弾丸を広範囲に乱れ撃ち
足止めして合体阻止できれば幸いだ
向かって来る者は怪力で捕まえ、零距離射撃で氷の弾丸を打ち込もう
お前の愛など、花人たちには不要だ
メアリー・ベスレム
♢♡
お母さんだなんて、お生憎
アリスの事を愛しても殺してもくれなかった
ただ閉じ込めて忘れ去った、それだけの人よ
【ヴォーパルの獣】を使って変身
【野生の勘】で危険を察知しながら【逃げ足】で炎に巻かれないように立ち回る
【傷口をえぐる】ように何度も同じところを攻撃して【部位破壊】を狙っていく
どこでも良いけれど、そうね
その耳障りな声を止めるなら、獣らしく喉を食い破るのが良いかしら
メアリはあなたみたいなオウガが大嫌いで、だから大好きよ
だってあなた、自分が殺されるだなんてちっとも思ってない
そういう相手を殺すのが一番愉しいの
ええ、だからメアリもあなたを愛(ころ)してあげる
セラエ・プレイアデス
ボクの偽神兵器の名前、こいつが元ネタらしいんだけどなんかロクでもないなァ……
っていうか混沌がどーとか興味ないんだよね!
デカいトカゲはどんな味がするのかってほうがよっぽど大事!
んでもってボク、敵がやたらに増えたり全身から炎が噴き出てるとなるとちょっとやり辛いんだよねェ……
だから、まずは【先制攻撃】気味にUCの竜巻でダメージ与えたり動きを封じつつ、炎を剥がしたり数を減らしてみるよ。
なんとかなったら敵の身体を【グラップル】でよじ登りつつ喉元カッ捌きに行くんだけど、
物理的な迎撃は【見切り】や【武器受け】でカバー、
正気を失わされても……多分今よりさらに食欲に忠実になるだろうからやる事変わんないと思う。
冴島・類
♢♡
貴女に下げる頭の持ち合わせが、無くて
不要な愛の代わりに、その頭
彼らとありすにお下げになればよいのでは?
まあ…したところで、戻らない
混沌の火で産めないものの美しさを、知らぬのだろうけど
纏う炎を避けると花君達や
他の方、この世界を焼くようだ
なら、避けない
瓜江をフェイント交えながら向かわすとみせジャバウォックの背後側に駆けさせ
その実わざと隙見せ誘う
放たれたら、避けず受け
糸車で背後から返し、強襲を
元々の持ち主だからと
もし火が効かずとも、周りの方や
次手への隙を作れたらよい
以降、味方へ火が向かえばかばいや
耐性活かし受けながら薙ぎ払いでの反撃狙う
誰かを思って咲く花が如何に美しいか知らぬなど
虚しいね、ほんと
御園・ゆず
貴方がアリスを殺したの?
その鋭い爪と牙で
貴方がアリスを操ったの?
その禍々しい力で
そう
それを聞けて満足です
この悲劇に幕を引きましょう
わたしの手で
わたし達の手で
地面を舐めるように身を低くして肉薄します
近づいたら、左袖中から鋼糸を繰り出し、ジャバウォックの角に引っ掛けて登りましょう
降り落とされないように、ジャバウォックに取り付き、鋼糸でわたしとジャバウォックを固定
うっ血?知るもんか
ヴォーパルの剣ではないけれど、これを貴方の首にさしあげましょう
どうぞご堪能下さい
右袖中からシュっと出したプッシュダガーを握りしめ、その首に叩き込みます
チェックメイトです
御伽噺ならここで退場のはずですよ
これにて、終幕
●黒焔
そのドラゴンが口を開くたびに、黒炎が吐息とともに口周りに舞う。
そのドラゴンが視線を向けるたびに、花人たちが震え上がり、絶望に膝をつく。
混沌を前に、絶望と混乱のヴェールが舞台の幕のように降りていく。美しかった花園の物語はここで終えてしまうのだ、けれどアリスを護ることが出来なかった自分たちにはその結末がお似合いだろう――と、心も身体も縮こまらせる花人たちの前に、立つ者たちが居た。
「花人君、下がっていなさい」
マントを揺らして花人たちの前に立ったエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は、碧の瞳で真っ直ぐにドラゴンを見る。向けられる瞳にも決して負けはしないと、花人たちに背中で示して。
「私はキミらを守るために在る。信じていて」
「其の所業、許すわけにはいかないな」
白に並ぶは黒壁。黒く強固な機械の躰は、花人たちを悪竜の視線から護る壁。そして無機物の躰に宿った鋼の意思は、全てを守り抜く盾。黒き鋼のヒーロー――ジャック・スペード(J♠️・f16475)は、その巨きな躰を以て、花人たちの心も咲く花々も護る砦として立ち塞がった。
その彼の後ろから、先程までともに戦っていたコノハ・ライゼ(空々・f03130)がひょこりと顔を覗かせると「ああ、アレだね」と『混沌』を認める。随分とまあ大きいこと、なんて笑って。寄せ集めみたいなこの身は混沌、あの大きなトカゲも混沌の寄せ集め。――でも。
「オレを愛してイイモノは、オレが決める」
「そうよ。お母さんだなんて、お生憎」
メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)の“お母さん”は愛しても殺してもくれなかった。ただ閉じ込めて忘れ去った、それだけの人。愛(ころ)してくれるですって? 両方、くれなかったのに。今更“お母さん”なんて、メアリには必要ない。
「ああ、愚鈍な僕には解らないよ」
ハンティング帽子を深く被り、鋭い目で睨みながらライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は告げる。清らかな涙の泉に黒いインクが滲み出すような、深く、物語の頁の色を持つ彼にしては黒い声。
貴方の吐く戯言は、ひとつだって解らない。解りたくもない。アリスを、花人を、『親愛』を、その全てを灰燼として得るだけの価値が、解らない。そんなものに価値など有る訳も無い。
「魔竜君、この国は花人君らの優しさで出来ているんだ。アリスをはじめ、自分以外を想う気持ち」
愚鈍な僕らが君の言葉を理解しないように、君にも理解できないだろうけど。
そうだよとエドガーの言葉を継ぐのは、月の夜を共にする少年の声。
「混沌たる地が美しい、だって?」
少年らしい潔癖さの残る声を響かせて、旭・まどか(MementoMori・f18469)がそれこそ妄信的で愚かしいと嘲笑う。花々の鮮やかさを目にして尚、己が黒炎を美しいと思いこんでいる悪竜など妄信していると言わず何と言えようか。随分と歪んで――ああ、なんて醜いのだろう。
「混沌の火で産めないものの美しさを、知らないのでしょう」
花の美しさも目に入らない、哀れな悪竜。
「すみません。貴女に下げる頭の持ち合わせが、無くて」
すみませんと頭も垂れずに平坦な声で口にした冴島・類(公孫樹・f13398)は、瓜江を伴いながら花園を歩いていく。ジャバウォックが炎を放ったとしても花人たちを庇えるように、仲間たちの立ち位置と敵の位置。そして自らが身を置くべき場所を頭の中で書き描いて。
「不要な愛の代わりに、その頭……彼らとありすにお下げになればよいのでは?」
したところで、喪われたアリスたちも花人たちの涙も、物語の頁も、前へと戻すことはできない。ならば物語の終わりへと導くのみだ。十指に絡めた糸に力篭め、類は仲間とのタイミングを図った。
「……愚かであるのは果たして何方か、ジャバウォックよ」
いつも大路・千尋(未熟な王子・f22633)を柔らかく見つめてくれる弁柄の瞳が鋭く眇められる。母と謳い、地を屠る、傲慢な愛。花人たちの哀しみと嘆きの声は、深榊・楓(譚食み・f22646)の胸に針を刺すもの。この声を聞いて、易易とジャバウォックの願いを叶えさせる猟兵など居ない。
「……爺ちゃん、オレのこと支えて?」
戦いは辛くて、怖くて、大変なことだ。誰かが傷ついて、涙を流して、その感情が戦場に渦巻いて、辛くて恐ろしい。けれど怖気づいてはいられない。
(みんなを守る王子になるって決めたんだ。爺ちゃんと一緒に戦うって)
――この悲しい戦いを終わらせるためにオレが出来ることをするんだ。爺ちゃんと一緒に。
だから勇気を分けてと千尋が願えば、悪竜へと向けていた鋭い眼差しを和らげて楓はその手を取る。一人になってしまう子を、増やしはしない。悲しみを、増やしはしない。
「爺ちゃん――いや、楓。絶対にジャバウォックを倒そう」
「ああ、千尋君」
その成長が、嬉しく思う。微かに胸に花咲いた思いに、戦場に似つかぬ笑みを浮かべ、二人は再びジャバウォックへと視線を向けた。
『――フフッ、ハ』
猟兵たちを見下ろしていたジャバウォックが、吐息と共に黒炎を零す。長いまつ毛を揺らして一度目を閉じ、身体を揺らして空気を震わせて高らかに笑い出した。それだけでビリビリとした衝撃に花人たちは息を飲んで目を瞑り、花人たちを守るべく前に出た猟兵たちはジリと僅かに靴底を滑らせた。
『子等よと優しく接してやれば、付け上がりおって。虫けらどもがよくぞここまで吼えたものよ。――良い、良い。小さな其方等の視点では解らぬのであろう。其方等の間違いも全て、母が正(ころ)してやろうぞ』
(ボクの偽神兵器の名前、こいつが元ネタらしいんだけどなんかロクでもないなァ……)
呵呵と高く笑うその姿に、セラエ・プレイアデス(腹ペコヴォーパルブリンガー・f24425)は思わずワイヤー付き鉤爪の偽神兵器『ジャバウォッキー』を撫ぜた。なんかちょっと嫌だな、なんてつい思ってしまった。便利な武器なんだけれど。
「っていうか混沌がどーとか興味ないんだよね! デカいトカゲはどんな味がするのかってほうがよっぽど大事!」
『ほう? 我を喰らうと言うのか?』
「そうよ、食べちゃう」
「愚かなお前にはその末路がお似合いだろうね」
「この美しい国にキミの炎は必要ないし、キミの愛は求めていない。骸の海に帰りたまえ」
「そうだね、君に終焉〈fin.〉を贈ろう」
ライラックが鴉羽根のペンを奔らせ、文字を紡ぐ。文字がふわりと踊って、想像から創造し、その幻想が彼の描く“現実”と結ばれる。その想像は、ライラックが好しと思う詩から為るもの。諳誦が好きで、良かった。少女の物語は、心躍る楽しみをくれるものだった。そしてその物語に綴られる、悪しき怪物と剣の詩。
その詩に綴られる悪しき怪物と剣は、想像に過ぎない。数多の人々が想像し、空想しただけの形なきもの。しかし、形なきものであるが故に、ライラックの胸の内の想像は確かなものだ。幾度となく想像し、空想し、夢想した、“御誂え向き”の悪しき怪物を殺す剣。
「焔が盛る地で、生きられる者は居やしない」
『母が生かしてやろう。少女〈アリス〉のように』
鋭い爪が振り下ろされるのを見てまどかは避け、エドガーは花人たちを守るべく前へと出た。巨体からくだされる爪は重く、剣と腕とで支えてもエドガーの身が花園へと沈み込む。しかしそんな傷、エドガーは気にしないし、気付けない。アリスたちが受けた仕打ち、死して尚操られる無念さ、そして花人たちの心の痛み。それに比べたら何のこともないと自身への痛みは切り捨てる。
「アリス――!」
黒壁の後ろから、悲鳴が飛ぶ。けれど同時に、ふわりと暖かなものがエドガーを包み込んだ。
――負けないで、頑張って。傷つかないで、僕らのアリス。
(暖かい)
ふわりと周りに舞った花弁が、心を、思いを伝えてくれる。エドガーが守る命たちが、エドガーの無事を祈っている。その力は勇気をくれ、背中を支えてくれるもの。ぐっと奥歯を食いしばり、増す重みにエドガーは耐えた。
「少女たちは、そんなものではなかっただろう。お前は何も見えてはいないね。妄言を呈し、虚ろな眸で天を臨む者は果たして“生きて”いると、言えるかな?」
ライラックがエドガーへ振り下ろされた脚へと礫を放ち剣で切りつけ、コノハが『柘榴』で切り込みエドガーを重荷から解放せんとするなか、ヒトにのみ操る事を許されたことのはという刃を振るいながらまどかは花園を駆ける。
『――小賢しい!!』
ジャバウォックの咆哮が、花園に響き渡った。それは、正気を削る『混沌』。ことのはの刃を寄せ付けず、対策をとっていなかった者たち全てを跪かせる母の一喝。耐性と心とを確りと構えていた者たちの身も、ぐらりと傾いだ。
「――っく」
「――ッ」
「爺ちゃん!」
轟いた咆哮に楓が息を飲み、胸に爪を立てるように苦しんだ。傍らに居た千尋は、頓に慌てた年相応の少年らしい声を上げる。
離れていてもビリビリと空気を震わせて響く咆哮。対策をとっていなかった千尋もまた、等しくその咆哮に飲まれ掛けていた。ぐらりと世界が暗転し、珈琲に垂らされたミルクのようにグルグルと回って解らなくなる足場。けれど千尋には、何よりも信じられる存在がすぐ傍らに居た。どんな状況であっても、逆境であっても、絶対に自分の側には爺ちゃんが――楓がいてくれる。大丈夫、大丈夫だと言う気持ちで耐え抜き、楓を見る。
「オレの騎士ならその程度で倒れるわけねぇよな……」
楓のことを、信じている。何よりも信じている楓が、オレの騎士が倒れはしないと、信じている。
精一杯の思いを込めて、楓の手をぎゅっと握る。いつもは頼ってばかりだけれど、今は千尋が支える番だ。
「ほら、ちゃんとオレを守れよ」
楓の胸には、絶望が押し寄せていた。大丈夫だと、ずっと一緒だとあの子と誓った。けれど、独りになってしまったかのような喪失感が心を削る。そんな筈はない、彼は傍らにいる。そう思っても、押し寄せる波のように心が削られていく。
絶望の中に意識落ちていく。しかし、暗闇の中でもがく楓の手に、何か暖かなものが触れた。包み込んでくれるこれは、彼へ勇気や心を分ける時にしてきて、その実己の支えにもなっていた、熱。
――オレはここに居る。側にいるよ、爺ちゃん。
(……否。今の儂には、大切な主様がいる)
この手の温もりが途絶えぬ限り、儂は決して──守り戦う事を諦めたりなどせぬ。
もう大丈夫だと強く手を握り返し笑みを向ければ、流石オレの騎士だと千尋は笑みを浮かべる。
「楓の力みせてくれよ!」
「焼き尽くされた地よりも、色鮮やかな花で埋め尽くされた世界の方が美しいと思わぬか?」
深い頷きを返し立ち上がり、楓は書物をはらりと開けば現れる情念の獣。楓が満足する答えを導き出すまで消えぬ獣が、黒炎のドラゴンへと駆けた。
「そんな声、メアリには効かないわ」
だってお母さんは、アリス〈メアリー〉を叱りもしなかったんだから。
メアリーの身体が、一回り膨らんだ――ように、見えた。人狼病の罹患者に満月と同じ狂気をもたらす『狂月の徴』を用いたメアリーの滑らかな肌は、半分以上が毛に覆われ、《ヴォーパルの獣》へと変じたのだ。
獣が、剣を取り落したライラックの傍らを駆ける。耳障りなその声を止めてやろうと喉元を狙い駆ければ、大きく息を吸い込むのが見えて――すぐさま吐き出す黒炎を素早く回避した。
花園が、黒炎に覆われる――。
そう思った時、パチンと類の中で何かが爆ぜ、類を正気へと戻した。嘗て見た光景と、それが重なって見えて。
(――いけない)
慌てて駆け出そうとする。
けれど間に合わない。
花が焼かれる様が、広がってしまう。
「――もう、誰も傷付けさせはしない」
黒炎が花へと届く寸前、黒い風の如く掛けたジャックが、花も花人も傷つけはさせぬと炎と花の間にその巨躯を滑り込ませた。
焔が身を焼き、外装を溶かす。けれどジャックに喚び出された薇仕掛けのトランプ兵――《パレードオブキティー》たちが、彼の機械仕掛けの身体の修復に当たっていく。仲間たちが正気を取り戻すまで、全ての攻撃を受ける覚悟がジャックにはあった。
「貴方がアリスを殺したの?」
その鋭い爪と牙で。
「貴方がアリスを操ったの?」
その禍々しい力で。
童謡〈マザーグース〉を謳うように口にして駆けるのは、御園・ゆず(群像劇・f19168)。狂気には、慣れている。振りかざされる言葉の刃にも、慣れている。
『そうだ。我が殺し、そして生んだ』
この爪で、この牙で。そしてこの焔で。
混沌に変えて新たな生を祝いだ。人間の母もそうするように、生まれた子を導いた。
「そう。それを聞けて満足です」
地面を舐めるように身を低くして、ゆずは駆ける。仲間たちの援護がまだ来ないことは知っている。けれどゆずは、いつだって自分が出来ることをやるだけだ。それはどこに身を置いていようとも変わらない。その眼前に、いくつものジャバウォックが現れようとも――。
「キミは我儘な女性だけれど、私はもっと我儘な女性を知っているよ」
その女性は、エドガーが他のものに苛まれるのを良しとしない。呪詛を与えるのも、彼を縛るのも自分だけだと左腕に憑依して、食い込み縛って手を繋ぎ、彼を“愛して”いる。
「さあ、花人君たち。元気を出して。皆のこと、頼めるかな?」
「アリス……」
その声に、恐怖に打ち勝とうと花人たちが目を開ける。アリスが頑張ってくれている、その姿を瞳に焼き付け身を震わせ花弁を飛ばし、倒れた猟兵たちを鼓舞していく。
後ろを振り向かなくとも解る。舞う花弁に、色濃く香る花の香に。自然と上がる口の端を押さえる必要もない。けれど“Ready ”を嫉妬させない程度に押さえ、甘やかに彼女の名を呼んだ。
「ありがとう、花人君たち。――さあ、“Ready ”。お手をどうぞ」
左の手袋を外して、《Eの献身(マイ・フェア・レディ)》と我儘な淑女を呼び起こす。目が覚めるような鮮烈な赤を宿すその花は気高く、炎では枯れやしない。エドガーの記憶の断片を喰らって茨を伸ばし、花弁で分身体を斬り裂いた。
正気を削られた猟兵たちが、花人たちの鼓舞によって体勢を立て直し、攻勢へと移る。
自身を修理しつつ花人たちを庇うジャックへと分身体が爪を向ければ、オーラ防御を纏ったコノハが前に出て『柘榴』を二度振るって切り倒した。戦場ではお互い様だと言うのに律儀に礼を言うジャックに笑い、コノハはいたる所の己の影から《黒嵐》を喚んだ。踏み込む足元、握る手中、肩や腕からさえも生えた旋風で分身体たちの足元を攫っていく。
いくつもの分身体がどうっと倒れればその身に柘榴を深く埋め込み、また、戦場を駆ける少女の獣が獲物を見つけては噛み付き止めを刺していく。
『――羽虫のように、』
グルと喉を鳴らした悪竜が、再び炎を吐こうと息を吸えば、
「させません」
ジャバウォックの眼前に、類が旋風のように飛び込み、瓜江が足でその横面を払う。分身体の数を減らしていく仲間の邪魔はさせぬよう、その視線を独り占めすべく眼前へと躍り出たのだ。
苛立ち故か悪竜が足踏みをすれば、花が散り、地面が大きく上下に揺れる。
「うわっ、と」
身を低くして耐えたセラエは、仲間が悪竜の気を引いている隙きに分身体へと《猛リ狂ウ死ノ旋風(マッド・デスゲイル)》を当てる。それは、偽神兵器から擬似オブリビオン・ストームを放ち、対象の動きを一時的に封じるもの。そうしてまた動けずにいる分身体へと剣を握り直したライラックやまどかが止めを刺し、確実に数を減らしていった。
忌まわしき化け物の彩を身に宿し、異形の力で持ち得る識を全て披いていく。
――侃侃たれ、諤諤たれ。
呪われし血が、忌まわしき身体を巡り、まどかを囃す。
(――……嗚呼、愉しい)
血が求めるままに獣のように爪を振るって裂き、傷口を抉って止めを刺す。感触も視界を染める色も、発せられる感情も、何もかも酷く愉快で堪らない。いつまでもこの波に浸っていたいと、まどかの心の奥底が疼いていた。
鋭い槍のような尾が、ブンと風を切って振り払われる。まどかの身体が吹き飛び、その身を受け止めたジャックがすかさずマヒの弾丸を広範囲に乱れ撃つ。
ジャバウォックの眼前を何度も類が掠めれば、鬱陶しそうに悪竜が黒炎垂れる顎門を開き――それを躱すと見せかけ瓜江を悪竜の背中側へと掛けさせ、背を見せる隙を見せることで攻撃を誘った。
ごうと放たれる。黒炎。
人形はなすすべもなく焼かれる。――はずだった。
『――ナッ!?』
受けた炎をそっくりそのまま排出し、ジャバウォックの眼前で爆ぜさせた。
炎はあまり効果がないのだろう。けれど、意表を突き、視界を僅かに奪うことは成功した。類にとって、それで充分。あとは、頼もしい仲間たちがやってくれる。
類が作った隙を活かし、ジャバウォックの角へと左袖から出した鋼糸を引っ掛け手繰って、ジャバウォックの頭部へと登ったゆずは、その身を鋼糸で固定する。鋼糸がゆずの身体を締め付け、うっ血――ジャバウォックが頭を振れば擦れて身を斬られ赤い花が咲く。けれど、そんなものは些事だと気に留めず、右袖からシュッと出したプッシュダガーを指に挟んで握りしめる。
「ヴォーパルの剣ではないけれど、これを貴方の首にさしあげましょう。どうぞご堪能下さい」
叩き込む。カンッと硬い音がする。
「剣と成り得るものを手にするのは、僕じゃない」
けれど、と。爪が振るわれて。
「混沌謳うならてめぇも一緒に呑まれなヨ」
混沌には既に飲まれていることだろうが、焼かれても消えない涙の雨が気持ちよく溺れさせてくれることだろう。
首を狙う猟兵たちを炭と貸すべく炎を吐こうとする悪竜へ、黒き管狐を纏わせ阻害してコノハが柔い声で口にする。
「メアリはあなたみたいなオウガが大嫌いで、だから大好きよ」
同じ場所を狙い、獣も跳躍する。
自分が殺されるだなんてちっとも思っていない獲物を殺すのが一番楽しいのだと、野生めいた瞳を愉悦に輝かせ、獣が微笑う。だってだって、自分を絶対だと思っている者の顔が歪むのってとっても素敵でしょう? 楽しいでしょう?
「ええ、だからメアリもあなたを愛(ころ)してあげる」
獣らしく喉へと歯をたてるが、硬い鱗は美味しくはない。
情念の獣、ヴォーパルの獣、偽神兵器の獣に忌まわしき化け物が爪に牙で喉を狙い。
悪しき怪物の前に立つのは、いつだって剣を携えた人間だ。
「僕らに首斬られて、頭垂れるのは貴方の方だ」
「そろそろチェックメイトです、御伽噺ならここで退場のはずですよ」
ライラックが剣を振るい、ゆずがプッシュダガーをその首に叩き込む。鋼のように硬い鱗が弾こうとも、仲間たちが攻撃を繋ぎ合いその首を切り落とさんとする。
『おのれおのれおのれおのれおのれ! 羽虫ごときが――!』
子等よと愛することは既に出来ない。
呪詛放つ咆哮が轟いて、花園の花々が散る。
けれど、猟兵たちの心は枯れやしない。
「もういいでしょ? 食べさせて」
いただきますと唇だけを動かした女が、舌なめずりをして唇を濡らして。
いくつもの傷が刻まれたその首へと同じ鉤爪を差し込んだ――。
「デカいとやっぱし大味なのかなァ」
ごちそうさまと口にすると、最期に耳をつんざく声を上げた悪竜の首は消滅して。トンっとセラエが地に降り立つ頃には、その身もふわりと光の粒子になってかき消えた。
こうして、花園に混沌を齎した悪竜と、全ての混沌はただ悪夢を見ていただけかのように姿を消したのであった。
ジャバウォックの訪れとともに混沌に閉ざされていた花園に、光が満ちていく。
(誰かを思って咲く花が如何に美しいか知らぬなど虚しいね、ほんと)
美しいその光景に、類は目を細めるのだった。
悲しい物語は、これにて終幕。
大成功
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第3章 日常
『お伽噺の世界』
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POW : 元気よく楽しむ
SPD : 知的に楽しむ
WIZ : 優雅に楽しむ
イラスト:nemi
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
◆◇◆
'And hast thou slain the Jabberwock?'
◆◇◆
●LaLaLa
ねえアリス、今日は何をしようか?
お茶会? おしゃべり? それともダンス?
アリスは僕らよりすこぅし大きいから、かくれんぼは不向きだよね。
え、アリス。アリスは花冠を作りたいの?
そっか。君は花が、僕たちが、大好きなんだね。
花冠を作れば、君が微笑う。
頭にちょんっと花冠を乗せて、「これでわたし、あなたとおそろいね」って幸せそうに、君が微笑う。僕はそれが嬉しくて嬉しくて、君のために毎日花冠を作ったんだ。
途中で皆が真似をして、花束も作っていたっけ。でも君は、どれも嬉しそうに受け取ってくれて、頭に飾るのは僕のがいつだっていちばん。
ねえアリス、君に花冠を贈りたいんだ。
●生きている花園の国
混沌を生む黒い炎の被害を猟兵たちが最小限に抑えてくれたお陰で、花園にも『いつも』が戻ってくる。鮮やかな花たちが咲き風に揺れる美しい光景。けれど、完璧な『いつも』ではない。悪竜が残した爪痕が、花園に、花人たちの心に、しっかりと刻みつけられていた。
花園は美しい。けれど今の花園は、それだけだ。
けれど、蜜の涙をぽろぽろ零す花人たちの一人がこう口にした。
「花冠を作ろう」
どうしてと誰かが呟いた。どうしてどうしてと花々の間に波紋のように広がった。
「忘れたの? アリスは花が、僕たちが、大好きだった」
「そうだわ、アリスは私たちを愛していた」
「花冠や花束を貰うのは嬉しいって言っていた」
「わたしたちに贈るのも好きって言っていたわ」
「言っていた、言っていたね。何より、僕たちといっしょの作る時間が好きって!」
そうだ、そうよと明るい気配が伝播すれば、少女が手にするレースの日傘のように閉じていた頭の花がパッと開花する。
「作りましょう、花束を」
「贈りましょう、花冠を」
女王様好みの赤薔薇が香りを風に載せれば、スミレが甘く歌ってスイセンが楽しげにくるりと回る。
「旅人さん、旅人さん。僕らといっしょに作ってくれる?」
「私たちの花をもらってくれる?」
ある花人は、猟兵たちといっしょに作ることを望んで。
ある花人は、猟兵たちにお礼に贈りたいと願って。
ある花人は、アリスを弔いたいと涙池に祈って。
さあ、花を摘もう。
自分たちのために。誰かのために。思いをたっぷりと篭めて。
御園・ゆず
ぺたん
座り込んで、花冠を作りましょう
小さな冠をたくさん作ります
はい、貴方に
わたしは貴方たちのアリスではないし、なり得ませんけれど
わたしは貴方たちのこと、すきだから
元気をだして、なんて言えない代わりに
気持ちを込めて、作って渡して
カタクリのさびしさに耐える
キランソウの追憶の日々
センニチコウの変わらぬ愛情
ハハコグサの忘れない
タンポポのまた逢う日まで、楽しい思い出
選ぶ花とその言葉は陳腐なものだけど、その分まっすぐに伝わるかな?
わたしに、と差し出される花々を、似合わないから、と断るのは難しくて
頭に戴いたり、三つ編みに挿したり
貴方たちは優しいね
アリスが貴方たちを愛した理由が、とってもよくわかるよ
ありがとう
●あなたに、わたしに
「はい、お花さん。どうぞ」
「わあ、ありがとう!」
花園にぺたんと座り込んで編んだ小さな花冠を手渡せば、嬉しげに受け取った天竺牡丹の花人が早速頭にちょこんと乗せてみせた。たくさんの小さな冠を作ろうと次の花を摘み出したゆずに、どう? と言わんばかりにくるんと回って見せてればゆずもその意を汲んで柔く笑む。
ゆずの笑みに満足したのだろう、ふくふくとした笑みを返した天竺牡丹の花人はゆずと並んで花を摘み始める。その手はとても慣れた様子で、アリスとこうして過ごしていたのだろうとかつての時を思わせた。
ゆずは花人たちのアリスではないし、そうはなり得ない。心が迷子のようになることはあるけれどここに召喚された迷人ではないし、ましてや彼らと過ごしたアリスでもない。
(わたしは貴方たちのこと、すきだから)
愛される少女と、愛された花。その関係は綺麗で、きっと尊くてとても大切。
守ってあげたくて、壊してはいけなくて、だから――。
(元気をだして、なんて言えない代わりに)
たくさんの気持ちを籠めよう。
「はい、貴方に」
カタクリの『さびしさに耐える』。
キランソウの『追憶の日々』。
センニチコウの『変わらぬ愛情』。
ハハコグサの『忘れない』。
タンポポの『また逢う日まで、楽しい思い出』。
思いつく花言葉の花を摘んでたくさん作って渡せば、花人たちはその度にはにかむような笑みを浮かべる。
伝わるだろうか。伝わらなくてもいい。これは言葉に出来ないゆずの自己満足。けれど、伝わればいいなと、花言葉に、思いを添えて。
「あの、あのね、これ」
ゆずが贈った花冠を頭に乗せたヒポエステスが、おずおずと花冠を差し出す。
貰ってくれるかしらと窺うような顔を見れば似合わないからと断るのは難しくて。斑点を浮かばせた薄紫の花へと頭を下げれば、そっとハハコグサとトルコキキョウの花冠を戴いた。
「おそろい」
「そうだね」
「ふふ、うれしいな」
ゆずに花冠を贈って微笑むヒポエステスに続いて、天竺牡丹がホワイトレースフラワーをゆずの三編みへとさしていく。
「きれい」
偽りのない言葉、偽りのない行動。
「すてき、すてきね」
――ああ、なんて優しいのだろう。
アリスが愛した理由が、とてもよくわかる。
「ありがとう」
自然と微笑むその顔に、ヒポエステスがまた「おそろいね」と微笑んだ。
――別名、そばかす草。
ゆずに似たその花の花言葉は――。
大成功
🔵🔵🔵
旭・まどか
♢♡
一時はどうなる事かと思ったけれど
何とかなって良かったね?
随分とヒトゴトだなぁ、って?
そりゃあそうでしょ。だって他人事、だもの
――けれどまぁ
お前たちが僕の手を望むなら貸してあげない事も無いよ
急いで帰らなければならない理由も無いからね
花で冠か
生憎と僕は細かい作業は不得手だ
本当ならば見て居たいのだけれど
解っているよ
手伝うとも
けれど、不格好だからといって笑ったらどうなるかわかっているよね?
お前たちの中にもひとり位いたって良いだろうに
“アリス”を想い編まれた花冠はどれもこれも美しくて
煌びやかな半冠にだって、負けないだろう
さよなら、アリス
おやすみ、アリス
どうか次目覚めるときは、幸せな世界でありますよう
エドガー・ブライトマン
♢♡
――ここは?
どうやらまた私は記憶を失ったらしい
気づいたら知らない場所にいるのももう慣れた
花がきれいな国だね
どこか優しさも感じられる
痛々しい爪痕も見られるけど
爪の持ち主はもう居ないんだろう
泣いているひともいるけれど、私には理由がわからない
残念だけど、きっと忘れてしまった
そこの花人君!私に花冠の作り方を教えてよ
不器用なんだ
明るくなるような花冠を作りたいな
赤やオレンジ、黄の花を選んで
ナスタチウムの花を中央に
――出来た!
出来た花冠は花人君にあげる
もし悲しいことがあってもね
キミたちがそれを忘れない限り、ずっと生きてるんだよ
心の中で一緒に生き続けるんだ
大切なものが眠るこの国を、これからも愛してやってね
●冠を戴く者
ざあと風が吹き、花弁を攫ってゆく。どこにもかしこにも花が咲き、視界に映るのは鮮やかな花々のみの花園。
「――ここは?」
その花園を見渡して、ポツンとエドガーが不思議そうに言葉を零した。
どうやら記憶を失ったらしいとすぐにそう現状把握が出来てしまうのは、幾度も記憶を失ってきているからだ。
どこまでも花が咲き、美しい。こんなに綺麗に花を咲かせられるのだ、きっとこの国の人々は心優しい善良な民。けれど痛々しい爪痕も、そこかしこに見受けられ、エドガーはそっと左手首に触れた。左腕の『彼女』が我儘と独占欲の痕を残した名残も感ぜられ、爪の持ち主がもう居ないことも解る。
花の香りに混ざる、蜜の香り。穏やかな風の音に混ざる、泣き声。泣いているひとの姿を見れば、可哀想にと王子としての心が痛みを覚えるけれど、残念なことにエドガーにはその理由も解らない。
「ねえ、お前」
「私かい?」
「そう、お前。暇なら手伝ってよ」
花園にぼんやりと佇むエドガーに、花人たちにワラワラとひっつかれたまどかが声をかける。どう見ても暇だと決めつけての言葉だったが、実際エドガーは暇だったので何の問題もなく、明るく爽やかな笑みを返すのだった。
一時はどうなることかと思ったまどかだったが、巨大な悪竜を倒し、この国にも無事に再びの平和が訪れた。良かったね、とは思う。所詮他人事だ。まどかの大切なもののために戦ったわけではないのだから。
そうして特に感慨深くなる訳でもなく、急いで帰らなければならない理由もなかったまどかは、花園をぶらりと歩いてまわろうと思った。その時、ぐいっと彼の服が引かれたのだ。まどかよりも一回り小さな花人たちの手によって。
曰く、「お願い、いっしょに花冠を作って」とのことだ。蜜でうるりと滲む瞳で見上げてお願いされたら、「手を貸してあげない事も無いよ」と答えてしまっていた。頼られるのは悪くない。望まれるのも悪くない。けれど。
(――本当ならば見て居たいのだけれど)
生憎とまどかは細かい作業は不得手だった。
ならばと暇そうにしている男へと声を掛けてみたのだが――。
「花冠を作ればいいのかい? いいよ、作ろう」
そうにこやかに答えたエドガーもまた、まどかに負けず劣らず不器用であった。
「そこの花人君! 私に花冠の作り方を教えてよ」
花人たちに教わりながら、明るくなるような花冠にしたいなとエドガーが選ぶのは、赤やオレンジに黄色の、元気が出るビタミンカラー。
まどかも一緒に教わって、ちらりとエドガーや花人たちの手元を見ながら穏やかな色合いの花を選んで編んでいく。
(お前たちの中にもひとり位いたって良いだろうに)
花人たちの手元の花冠がどれもこれも美しいのは、きっと“アリス”への想いも編まれているから。それは煌びやかな半冠にも負けない、美しい花冠。
かつて此処に居た少女にとってもそうだったのだろう。彼らが作ってくれる花冠は、どんな王子様やお姫様の頭に戴かれるそれよりも、綺麗で美しくて価値があったもの。
「――出来た!」
ナスタチウムの花を中央に飾って編み上げたエドガーは誇らしげな顔で。
「はい、どうぞ」
傍らの、未だ涙で目が潤んでいるスイートピーの花人の頭に、そっと花冠を載せてやる。
「もし悲しいことがあってもね、キミたちがそれを忘れない限り、ずっと生きてるんだよ。心の中で一緒に生き続けるんだ」
大切なものが眠るこの国を、これからも愛してやってね。
風に花弁を揺らす花人たちの前で、王子然としてエドガーが微笑めば、ありがとうの言葉とともにツユクサの揺れる花冠をエドガーの頭へと載せて。
そんなやり取りを眺めながら、まどかも手を動かす。不器用でも不格好でも、この場にはそれを笑うものなんていやしないから、まどかも心を篭めて花冠を編んでいく。
――さよなら、アリス。
――おやすみ、アリス。
どうか次に目覚めるときは、幸せな世界でありますよう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
冴島・類
残された者が、向き合う為にできるのは
…忘れないこと、沢山想うこと
大事な人を、何度も思い出して、話して
胸に宝物のようにしまって…
やり方はそれぞれだろうけど
辛いことを認めさせて、すまなかった
彼女が帰ってきたと思った分、辛かったろう
君達の、君達とありすの楽しかった日々を
彼女の好きな色を教えてほしいな
共に、弔いの花束を作り涙池にと
泣いてる子らの涙は拭ってあげたい
彼女が、せめて安らかに眠れるよう
香りの良い薫衣草と
好んだ色に近い大飛燕草があれば摘み、花束に
燕は幸せを運んでくれると言う
彼女は、君達といた時笑っていたんなら
その時は…きっと互いに幸せだったと思う
こんなにも想われていた優しい子
魂が巡れば良いと願い
●忘れないで、忘れないよ
「ひどいことを、言ったね」
逢いたくてたまらなかった人が帰ってきて、それで喜ぶ花人たちに辛い現実を認めさせた。それは彼らにとっては辛いことで、辛いことだと理解っていて、口にした。
ともすれば聞き逃してしまいそうな、あえかな声。不思議そうに見上げた花人は、そこに眉を下げた類の顔を見つけた。
「すまなかった」
「どうして、謝るの?」
「どこか痛い?」
「痛くはないよ、大丈夫。ただ――」
「ただ?」
心配したピンクと白のマツバボタンの花人たちが、類の手をそっと握って見上げてくる。その目には、まだ乾ききっていない涙。こうして皆で花を摘んでいても、ようやく止まったと思っても、ふとした拍子で溢れ出てきてしまうのだろう。
その涙を指先でそっと拭った類は、子供にしてみせるような柔らかさで微笑んで。
「彼女の好きな色を教えてほしいな」
「うん! アリスはね、アリスはね」
「空色が好きだったの」
いっしょに寝転んで、空を見たの。アリスの服の色でもあるんだよ。
少女の楽しい話を口にする時、花人たちの口調は明るいものとなる。これも聞いて、あの話も聞いてと類と花を摘みながら話すマツバボタンたちはとてもおしゃべりだ。
(こんなにも想われていた優しい子)
そして、その子が喪われた、大きな穴。
残された者が向き合う為に出来ることは、忘れないこととたくさん想うことだと思うから。類は二人の花人の大事な人の話に耳を傾けながら薫衣草を手に取る。
「あ、ラベンダー」
「いい香りの花だよね。これも彼女は好きだった?」
「うん、好き」
「ぐっすり眠れるって言ってたの。あ、わたしも摘もうっと」
「大きいのも入れる?」
「うん、燕は幸せを運んでくれると言うからね」
空色の大飛燕草を手に取れば、白のマツバボタンが首を傾げて。続いた声に、「アリスの好きな色」と愛おしそうな声を零す。
「そのお花、燕でもあるし、イルカでもあるんだよ」
「やあ、よく知っているね」
ふふっと花人たちが笑い合う。
大事な人の事を思い出して、話して、そうして胸に宝物のようにしまって。きっと今日の類とのやり取りも、二人は胸にしまうことだろう。
「行こうか」
アリスへ贈る花束を手に類が立ち上がれば、類を挟んで白とピンクのマツバボタンも並んで歩みだす。
大好きだったあの子へ、花を贈るために。
魂が巡れば良いと願い、類も喪われた少女へと花を手向けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
深榊・楓
♦ふふ、花冠作りとは……懐かしいのう。
随分昔じゃったか…幼い人の子に作ってもらった事があってなぁ。その時に手解きを受けたのじゃよ。
思いを篭めて編む。大切な教えを胸に、彩っていく事にしようか。
儂は花冠を、二つ分作っていく心算じゃ
一つは千尋君(f22633)に。そしてもう一つは、アリスに。
千尋君の花冠には、青の菫と風鈴草を
独りであった儂に「家族」という居場所を、「騎士」という役割を与えてくれた彼に。深い感謝の想いを
この先もどうか…成長を見守らせておくれ、主様
アリスには、紫苑と霞草の花を
おやすみなさい。無垢な花人を想った、心優しかった子達。
いつの日かこの空の下でまた会える。そんな未来に思いを馳せて。
大路・千尋
♢
花冠…オレに作れるかな
初めて作るし細かい作業ってあまりやらないんだよな…
でもみんなでやるのってきっと楽しいよな!頑張る
とりあえず爺ちゃん(f22646)に作ってやりたい
オレと家族になってくれたこと、オレを守る騎士になってくれたこと、感謝しかないから
綺麗な花をいっぱいつめたもの
爺ちゃんに似合う優しい花冠を作りたい
時間があればアリスにも作ってあげたい
みんなに幸せになってほしいから
爺ちゃんも同じ考えなら手伝ってもらうのもありか…
水色とか白とかが似合うと思うんだよな
で、オレも思い出に花をひとつ持ち帰ろう
前に爺ちゃんから教えて貰った押し花ってやつをして
今回の件を忘れないようにするんだ…前に進むために
●想うは誓いの花冠
ふわり。
千尋の柔らかな金の髪の上に、花冠が置かれた。
「えっ、爺ちゃんもう出来たのか!?」
頭に載せられた花冠に手を添えて、まどかは驚きながら若草を宿した瞳で楓を見た。
「随分昔じゃったか……幼い人の子に作ってもらった事があってなぁ。その時に手解きを受けたのじゃよ」
懐かしいと思いながら、贈る相手への思いを篭めて編めば、それは随分とするりと作れた。変わりに言葉が少なくなってしまい黙々と編んでしまったが、真剣なその横顔は花冠を上手に作れないかも……と不安を抱いた千尋の背を押したのだった。つたないながらも懸命に、けれど楓のように細かい作業に向いていない千尋の手の中の花冠は不格好で頼りない形だ。けれどこれは、家族であり守護者たる騎士である楓に贈るための花冠。たくさん篭めた気持ちさえあれば、楓が微笑んで受け取ってくれることを千尋は知っていた。
「似合う?」
「ようく似合っておるよ」
金の髪に映える、青の菫と風鈴草。青い星と鐘が、感謝と愛情を抱いて咲いている。
柔和に目を細め、花冠を戴いた『主』を見る。独りだった楓に『家族』という居場所と『騎士』という役割を与えてくれた彼に、深い感謝と愛情を胸に。
「爺ちゃん、もう一個作るのか?」
「ああ、アリスにと思ってのう」
「オレも作ってあげたい! ……けど」
ちらりと視線が手元に向かう。楓用の花冠がまだ作りかけだ。こちらをどうにか作り上げてから時間があれば……とは思うが、大切な楓に贈るもの。急いで手抜きなどという妥協もしたくはない。
「紫苑と露草を入れようと思っておるのじゃが、もう少し色を加えたくてのう。……千尋君、入れる花の色を選んでくれるとたすかるのじゃが……」
ちら、ちら。
「! それなら、水色と白とかが似合うと思う!」
「おお、流石は千尋君じゃ。千尋君が選んでくれた好い色も添えて……っと」
スッスッと編んで行き、アリスも喜んでくれるじゃろうと微笑んだ。
その隣で千尋も花冠作りを頑張り、完成した時は思わず「できた!」と口に出して周りの花人たちの視線を集めてしまった。僅かに恥ずかしさが顔に浮かぶも、けれどそこには誇らしげな色。少し歪な花冠を手に、千尋は深呼吸してから真面目な表情で口を開く。
「爺ちゃん、屈んで」
「――はい、主様」
「――いつもオレを守ってくれてありがとう、楓。ありがとう、オレの騎士」
「この先もどうか……成長を見守らせておくれ、主様」
主から賜る特別な冠は、手作りのこの世にひとつだけの花冠。大切な人が不慣れながらも懸命に作った愛しい花冠。
そっと指に触れてありがとうと礼を返せば、小さな主は「ん」と短く頷いて。
「儂も完成じゃ。さ、アリスへと手向けに行こうかのう」
「あ、待って」
手を引き歩もうとした楓の手を、千尋が引き返す。
「うん? どうしたんじゃ、千尋君」
「オレも思い出に花をひとつ持ち帰ろうと思うんだ」
前に爺ちゃんに教えて貰った押し花ってやつにするんだと花を探せば、楓は頷いて千尋が気に入る花を見つけるのを待つ。
(今回の件を忘れないようにするんだ……前に進むために)
真剣な表情で『この花』と思える花を探して摘むと、再び手を繋ぎ、二人は涙池へと向かった。
静かにぽろぽろと涙を零して花束を池へと入れる花人たちを真似て、花冠を喪われた少女へと贈る。同時に目を閉じて想うのは、少女のこと。
(おやすみなさい。無垢な花人を想った、心優しかった子達)
いつの日かこの空の下でまた会える。
そんな未来に思いを馳せ、二人は静かに少女の安らかな眠りへ祈りを捧げるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
♢♡
花にはとんと疎いケド、こんだけ咲いてンのは壮観だねぇ
綺麗な花はそりゃあ好き、でも上手く扱えるかってのとは話が別で
だから花人サンらが作るの眺めさせてねぇ
……死んでしまったら届きはしないのに、どうして花を捧げるの?
ゴメンね、意地悪を言ったり巫山戯てる訳じゃぁナイんだけどネ
ただ、オレは知らないから。知ってるなら教えてほしいと思ったんだ
こう見えて意外とオレ、子供でネ
死んだらナニも届けられない、届かない
けれど生きてれば、伝えたい事は次から次へと湧いてくるソレらを
……どうしたら、届けられるの
理解できても出来なくても、そこにある花はキレイだから
最後に一つ
オレに渡すならどんな花がイイか、選んでもらえる?
●意味
作ろう作ろう、花束を。
僕らのアリスに花冠を贈ろう。
花を摘んでは少女のことを思い出してはぽろりと蜜の涙を零す花人たち。けれど彼らがその行為をやめることはない。
壮観だ、と。そう感じられる花園の中で、コノハはそんな花人たちを眺めていた。綺麗な花は好きだけれど、花の扱いに慣れている訳でもないし、詳しくもない。色や形、香りの違いは解るし、有名所の花は「ああ、バラだねぇ」とは解るけれど花言葉はと問われると「色や本数で違ったよネ?」と首を傾げてしまう程度には疎くて。
眺めさせてねぇと断りを入れたコノハの傍らで、花人たちはせっせと花を編む。アリスに届けるんだ、と。
「……死んでしまったら届きはしないのに、どうして花を捧げるの?」
ポツリと零された声に、花人が花へと落としていた視線をあげる。
キョトンとした表情は、きっとどういう意味での発言か解りかねている。それに察しよく気付いた男は、「ああ」っと誤解しないでと手を振って。
「ゴメンね、意地悪を言ったり巫山戯てる訳じゃぁナイんだけどネ。ただ、オレは知らないから。知ってるなら教えてほしいと思ったんだ」
意外とオレ、子供でネ。
花人たちよりも一回りは大きい身体なのに、子供なんだと人懐っこい笑みを浮かべてみせるコノハに、花人たちは言葉を探すように首を傾げる。花を揺らし、ひとつ、ふたつ。視線をぐうるり空へと回してから、口を開いた。
「確かに、花束自体は届かないの」
「ん、だよね。死んだらナニも届けられない、届かない」
「けれど僕たちは花束や花冠にアリスへの想いを篭めて、アリスへと、贈るよ」
「どうして?」
「僕たちが、そうしたいから」
「そ」
花人たちの答えは、矢張りコノハには解らない。
コノハは花人たちといっしょだ。『あの人』が居なくなっても生き続けている。けれど生きていれば、あの人へ伝えたいことは次から次へといくつも湧いてくる。溜まる一方の其れ等を、昇華する術をコノハは知らない。
(……どうしたら、届けられるの)
届けたい。届けたいのに。手ですらも届かないのに、どうして彼らは花を捧げるのだろう。――無駄なのに。
「旅人さんは、遠くのお友達の幸せや無事を祈ったりしない?」
「遠くの遠く、声が届かない所」
「僕たちは、届かなくてもアリスの幸せを祈ってる」
「二度と会えなくても、願ってるの」
僕たちがそうしたいから、だよ。
花が咲う。鮮やかに。
「そう。じゃあ、オレにも花を選んでもらえる?」
「旅人さんの幸せを祈って選ぶよ」
「うん、また会えますようにも願うの」
白と黄色のオシロイバナの花人は、花を選ぶ。
どうぞと差し出されたそれは、薄紫のネリネだった。
大成功
🔵🔵🔵
ジャック・スペード
♢♡
花は奇麗で好きだが、今日ばかりは
何処か悲し気に咲き誇っているように見える
それが弔いになるのなら、俺も花を摘もう
此の手では冠など作れないので
アリスの元にも馨が届くような花束を作ろう
グィー、グィー
良ければどんな花が良いか一緒に選んでくれないか
グィーはどんな花が好きなんだ
俺は……一番を決めきれないが
アリスの為の花なら、ピンクがカワイイと思う
大輪のアルメリアとクレマチスを摘もう
そういえば、ピンクの花はあんたに少し似ているな
小さなアルメリアを一輪、グィーへ
似合うと思った、良ければドウゾ
――ああ、大きな花束が出来上がったな
涙池の側に供えてアリスの冥福を祈ろう
次は違う形で愛する者たちと巡り合えるように
●一抱えの花束を
美しい花園は、美しいはずなのに何処か悲し気で。
眸の灯りをチカチカと点滅させ、花の美しさを、そして立ち直ろうと頑張る花人たちを視界に収めた。以前の、ただの機械のジャックだったなら、悲しげだなどと感じることもなかったことだろう。
「――それが弔いになるのなら、俺も花を摘もう」
花人たちが花を摘む花園へその黒い躰を落ち着かせ、ジャックは花へと手を伸ばす。黒く無骨な指は大きく、潰さないようにと注意を払って摘むことは出来ても、花冠を編むことは叶わない。綺麗で好きだと思える花を、拉げさせることも好まない。ならばと、いくつも重ねて束にしよう。アリスの元にも馨が届くような花束を作ろう。
花園の花たちは色も形も様々で、種類も色も関係なく咲き誇っている。けれど不思議とそれが目に煩くもならず美しく調和して見えるのは、ここが『そういう国』だからなのだろう。故に、これだけ花々が咲いていては何を選べばいいか解らない。花園内では調和が取れているように見えても、花束として綺麗でなければ贈る意味がないのでは?
生真面目なジャックは、いくつか花を摘んだ所で手を止めてしまった。次は何を摘もうかと花の上で手を彷徨わせてはみるが、なかなか定まらない。
そしてふと視線を彷徨わせてみた先に、見覚えのある尾が花たちの中に生えていることに気がついて。
「グィー、グィー」
友人の猫人の名を呼べば、尾が引っ込んでぴょんっと三角耳が花園に生える。右に左に向きを変える耳に、こっちだと声を掛ければようやく出てきた顔が「あ!」と喜色を浮かべ、ざかざかと花を掻き分け近寄ってきた。
「やあジャック、君も花束を作っているのかい?」
「ああ、グィー。そうだ。あんたは尾だけ見せて何をしていたんだ?」
「僕は、これさ」
じゃーんっと口で言いながら見せるのは、シロツメグサの花冠。背丈の低いシロツメグサのために低い姿勢で摘んでは編んでを繰り返していたのだと、猫人は何故か胸を張って答えた。
「なるほど。俺はあんたの見立て通り花束を作っている……のだが、次に手に取るべき花を悩んでいる」
良ければどんな花が良いか一緒に選んでくれないかと口にすれば、猫人は快諾して。
「うーん……じゃあ、これはどう?」
きょろりと視線を巡らせてから手にしたのは、陽彩のアイスランドポピー。
「好いな。グィーはこういった花が好きなのか?」
「うん、好きだよ。ビタミンカラーの花は元気! って感じがするからね。君は?」
「俺は……一番を決めきれないが、アリスの為の花なら、ピンクがカワイイと思う」
大輪のアルメリアとクレマチスへと手を伸ばし、束ねたそこにアイスランドポピーも加えてみる。色の喧嘩はなく、明るく可愛らしい花束だ。
「そういえば、ピンクの花はあんたに少し似ているな」
「そう? 僕はもっとかっこいい花じゃないかい?」
そうだなと調子を合わせ小さなアルメリアへと手を伸ばしたジャックは、摘んだばかりのそれをそっと猫人の鼻先へと差し出す。
「似合うと思った、良ければドウゾ」
「わ、ありがとう!」
かっこよくなくても貰えるのは嬉しい。お返しに僕もと告げるやいなや、猫人はジャックの躰を駆け上り、肩でうんと背伸びをして花冠を彼の頭に飾る。
「君は黒いから、白い花がお似合いさ」
貰ってくれるかいと覗き込む顔に、勿論とジャックは答えた。
花束が出来たと立ち上がれば、まだ花冠を作るとグィーはひらりと地面に降りたため、別れを告げて。ジャックは涙池へ向かい、池の側へ大きな花束を供えた。
いくつもの悲しみの声が聞こえる中、ジャックもアリスの冥福を祈る。
次は違う形で愛する者たちと巡り合えるように。
そしてまた、佳き友たちと彼女が幸せに暮らせるように。
大成功
🔵🔵🔵
ライラック・エアルオウルズ
若しも、アリスを救えたら?
涙池へ捧げる哀悼に、
詮無き理想も混ざりゆく
けれど、花開く姿を見れば
ひとり、沈む訳もいかないか
――実はね、僕も花の名なんだ
花人さんに教えるのは面映ゆいから、
“何の花”かは秘密とするけれど
僕も彼女を弔う花のひとつとなるよ
花束とするのは、ジニア
扉の先で彼女を迎える筈だった
鮮やかな陽彩を沢山と集めて
他世界で花へ結われた『言葉』、
『友への想い』を添えて贈ろう
ごめんね、アリス
涙池に沈みゆく花に鍔を下げる
アリスと蜜の涙に、うつくしいものに
僕の涙なぞ混ぜたくはないけれど
『友人』との別離に面するのは
どうにも辛くて、駄目なんだ
ああ、願わくば
花人と寄り添い微笑う、
何時かの君に逢いたかったな
●物語は百日よりも先へ
「――実はね、僕も花の名なんだ」
「ええ、なぁに?」
「なぁに、なぁに。僕の花?」
「ないしょ」
僕らの仲間に居る花かな、なんて首を傾げる彼らに教えるのは面映ゆくて。ライラックは人差し指を立てて、薄い唇に笑みを乗せる。この花園でのライラックは、彼らと同じ『喋る花』。アリスを弔う、ひとつの花だ。
――若しも、アリスを救えたら?
涙池へ捧げる追悼に、花をひとつ摘んでは詮無き理想も混ざりゆく。
――若しも、若しも、若しも、
いくつもの若しもを重ねているうちに、いつの間にか腕の中には扉の先で少女が迎えるはずだった鮮やかな陽彩で溢れかえっていて。
「そんなにたくさん、見つけてくれてありがとう」
夏の日差しのような暖かな花色のジニアだけをライラックが摘んでいることに気付いた花人が、涙を拭って微笑んだ。きっとアリスはその花好きだよ、と。
悲しみの雨に打たれても、蜜の涙に濡れても、花はいつか必ず太陽を見上げる。花開いて、微笑み咲いて、見るものに優しさや穏やかさを分けてくれる。眩しいものを見るように目を細め、ライラックは花人たちと涙池へと向かった。
喪われた少女の涙池に『若しも』の澱を沈殿させてはいけない。沈んでいいのは追悼の花と、花人たちの美しい蜜の涙のみだ。
君に、花を贈るよ。花の詩を添えて贈るのは、鮮やかな陽彩、ジニアの花。
この世界では花が言葉を話すけれど、他所の世界では人が花に言葉を持たせた。ジニアの花詞は『友への想い』。今この場に居ない君を想う、花言葉。
「ごめんね、アリス」
掌からふわりと離れた花束が、ぷかりと涙池に浮かんで。ゆっくり、じわりとインクが滲むように水に浸されて。ジニアの花が、別れを惜しむようにゆっくりと涙池へと沈んでいく。
「アリス」
「アリス……っ」
ぽろぽろと、甘い香りとともに蜜が溢れる。
(ああ、いけない)
ここに混ぜていいものはと再度己の心へと枷をはめる。けれど、溢れる想いは止められない。想像や幻想が、物語の中から溢れてしまうように。溢れた想いが、頁の鳥となって羽ばたくように。
胸に別離の小波が立って溢れてしまうのを止められず、ライラックはそっと帽子の鍔へと手を掛けた。
愛しい花の涙の雨音を聞きながら、口元だけに笑みを載せて。
ある者は、涙を零し。
ある者は、決意を胸に。
またある者は、前を向いた。
そうして猟兵たちは去り、花園には『いつも』が戻ってくる。
花が咲い、風が吹けば花弁が舞う。
そこに、ひらり。一枚の紙片が舞ったことに気付いた花人が、飛び上がって捕まえる。著者は、花人の知らない名前の人。けれど滑らかに書かれた文字は、花人の心を満たすもの。誰かが残した言葉を胸に、花人は頭の花をポンと咲かす。
誰が書いたか解らない言の葉。それは――きっと誰かにとっては愛しい物語。
◆◇◆
――親愛なる友へ。
願わくば、花人と寄り添い微笑う、何時かの君に逢いたかったな。
君がゆっくりと眠れることを、心から祈っているよ。
《L.E》
◆◇◆
――Fin.
大成功
🔵🔵🔵