面白可笑しき大作小説を巡る殺人の戯
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読者様より大好評! 文壇は絶賛の嵐! 掲載誌は末永く発行部数が潤い他社を合併吸収――なる、小説を必ず書き出す文豪がいた。名は『不・可思議(ふ・かしぎ)』という、勿論筆名(ペンネーム)
その原稿を得る為に、各雑誌の編集はあの手この手で他を出し抜きしのぎを削る。
自分の館でのみ邂逅叶うこの文豪の素性を誰も知らない。それどころか年齢は愚か性別すらわからない。何しろ全て筆談、顔は目鼻口のみあいた覆面姿という徹底ぶり。
そんなミステリアスな文豪は、原稿の仕上がりが近づいたなら、各編集に『招待状』を発行し呼び寄せる。
で、だ。
今回の『招待状』だが、実は影朧の手からのものらしい。はてさて、元からこの文豪が影朧だったのかそれともなにか“間違い”があったのか。
どちらにしてもさぁさぁ大変! これでは呼ばれた全員皆殺し!
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「……皆殺しは困ると、なぁ? 仕方ないので被害者候補の奴らめから回収してきたのが此方である」
ちぃと舌打ちして、赤の炎を模った蜜蝋で封じた『招待状』をカードの如く扇に開いて扇ぐのは、稿・綴子(奇譚蒐集・f13141)である。
「折角の事実は小説より奇なりたる譚が台無しであるぞ……! 館にて、原稿を巡って殺し合ったかはたまた文豪が殺人鬼に魅入られ皆殺しか、それとも……」
べらべら喋らせとくとこの原稿用紙はネタを潰すので、そろそろ黙ってもらうことにする。
「まぁよ、影朧が殺人事件を起こしたくて待機しておるのだからして、猟兵としては哀れなる被害者として殺されてやり、相手がいい気になって殺人動機やらを語ってる所をぶっ殺してやるのが筋であろう?」
筋ってなんの筋だ?
ほらあれだ、面白い推理奇譚の筋って奴だ。
「諸君は、此の招待状を受け取った者として、文豪に扮した影朧が潜む館に向ってもらう。そこで、死ね」
身も蓋もないが、如何にも殺されそうな言動振る舞いをこれでもかとやらかした後、影朧の殺人トリックに掛かって死んで頂かないと影朧めは出てきやがらないのだよ。
そんなわけで――!
猟兵の皆さんは『招待客』に扮して館に赴き、原稿を巡ったドロドロの醜い争いをやって欲しい。拗れた人間関係が露呈して読者大喜びみたいなノリでひとつお願いする。
配役についてだが、
なにも編集者だけでなくてもよい。
文豪を籠絡し骨抜きにする為に連れてこられたお色気おねーさん(実は裏あり)とか、
文豪に尽くす自称家族(やっぱり裏あり)とか、
いっそ覆面被ってるんだし文豪を名乗ってくれても構わないぞ!
他にもこのシチュエーションに馴染みそうな配役なら、自由に投げ込んで演じきってくれるのは歓迎である。
殺す役は影朧であるが『招待状』を持ってる人が殺人鬼の素振りで踏み込んだっていいのだ。勿論仲間を殺してはいけない、まぁ猟兵はそう簡単に死なないよねー? 死なない死なない。
なぁに、この影朧はとにかく面白可笑しくなりゃいい奴なので、それしきの羽目外しは余裕なのであるよ。
「以上! 是非是非、読み手を喜ばせる芝居を打ってきてくれ給え! 読み手? 吾輩に決まっておろう!」
グリモア猟兵の役得満喫! 月色の瞳を爛々と輝かせて、綴子は大正館への路を開く。
――あ、そうそう、ラストの章で物理と共に『犯人追い詰め推理ショウ』もお忘れなく!
一縷野望
――さぁ“役になりきって”死んでいただきます。
皆様からいただいたプレイングを元にハチャメチャ殺人劇を構築します。
整合性より勢い重視、絡みまくりのアドリブめっちゃ入りでお送り致します!
●プレイング受付開始時刻
1月7日(火)午後12時~
※今回の採用はいつもと違って【8名様までの早い者勝ち】です
※ただし『役になりきっていない方(ナレーションはOK)』『募集期間前の挑戦』『4名以上のグループ参加』『文字数が控えめの方』は採用を見送りますので、繰り上げもあり得ます
●シナリオ通してのお知らせ
【採用人数、文字数】
8名までを目安に、まとめて書いてお返しします。
またテンポ重視の為、1人当たりの文字数は今までの当方作より控えめです。
【同行プレイングについてお願い】
・迷子防止の為にプレイングの一番頭に【チーム名】
・チーム人数は【3名様まで】(採用人数の上限がある為です)
>プレイングについて
●1章目
イメージ:推理系漫画の1話でキャラクター紹介編。こいつらが死ぬんだろうなーな読者ワクワクシーン。
館に呼ばれて如何にヒット作の原稿を得るかに心血を注ぐ登場人物。思う存分被害者候補になりきって演じてください。
・【設定】は必ずお願いします(例:今回を逃すと潰れる出版社の編集長、など)
・【性格】【台詞】があると膨らませやすいです
・【被害者フラグ】【怪しげな行動】【隠してること】などなどもお好きにどうぞ!
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●2章目
イメージ:殺人シーン&徐々に殺されていくのに怯えたり推理を巡らせたり。漫画なら中盤~謎解き手前までのシーン。
●3章目
イメージ:クライマックスの「犯人はお前だ!」をやりつつ影朧をぼっこぼこにする。
(上記は、章開始時に詳細を付け足して記載しますので憶えてなくても大丈夫です)
それでは、良き殺人劇を。
第1章 日常
『〆切から逃げた文豪』
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POW : 「君の作品を待つフアンはどうするのかね!」 熱血に説得する。
SPD : 「待ちたまゑ!」 一直線に追いかけて捕まえようとする。
WIZ : 「簡單な事だよ我が友よ……」罠を張ったり、痕跡から潜伏場所を突き止める。
👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
クロード・キノフロニカ
【設定】舌先三寸の綱渡りで日々を生きる詐欺師
何処からか招待状を掠め取り、この場に集まった面々から金を騙し取ろうと目論見て参加
ついでに本物の原稿も手に入れて高く売り飛ばそう
やぁ、お集まりいただきありがとう
実は僕が本物の不・可思議なのさ
僕は所謂ゴーストライター
(適当にヒット作の名前を挙げ)聞いたことがあるだろう?全部僕が書いたんだ
原稿が欲しければ……僕と取引をしないかい?
顔と権威に騙されやすそうな相手にこっそり声をかけて、「君だけに秘密を明かすから」と交渉
ま、こんなことを続けていれば誰かの恨みは当然買うよねぇ?
勘の良い人には気付かれるようなギリギリのラインを演出して被害者フラグを立てるよ
森宮・陽太
皆殺しはまずいだろうから、乗ってやる
…面白そうだしな(ぼそり
【設定】
執筆しかしない文豪を支える実の弟
実は原稿独占を目論む出版社に雇われた暗殺者
最後には文豪を永遠の存在とすべく文豪本人も殺めんとする
【性格】
人付き合いのいい軽薄な兄ちゃん
好奇心の塊で、如何なるトラブルにも首を突っ込もうとする
「おいおい、何喧嘩してるんだよ」
【行動】
懐にナイフ(模造品)隠し持ち、ずっと文豪(影朧?)に付き従って行動
「兄ちゃんor姉ちゃん(文豪の性別で変化)、作品、完成しているんだろ?」
「そろそろどの出版社に渡すか決めちまえよ」
「決められないなら俺が勝手に渡しちまうぜ?」
事あるごとに原稿渡せと執拗に勧めて死亡フラグ構築
浮島・いねす
姫ちゃんは少女歌劇のスタア候補生!
文豪せんせえの原稿をゲットして
少女雑誌の巻頭特集を組んでもらうことを
出版社と約束して館に訪れるという設定
あわよくば本当に原稿を手に入れて
出版社に売り込んでサクミラデビューいける!
大正700年以上とかよくわからないけど
姫ちゃんの衣装和風だし
サクラミラージュでもイケると思うんだよね〜
銀幕スタアやってみちゃう?
え、今回の依頼って影朧の殺人トリックに掛からないといけないってマ?
ちょちょっと姫ちゃん聞いてないんですけど!?
それ絶対痛いやつだよね?
やだやだ姫ちゃん帰る!
こんな危ないところにいられるか
姫ちゃんは部屋から絶対に出ないんだからな!
ふ、振りじゃないぞ!!
森永・吟路
【娯楽雑誌パピヨン】
お嬢様(森永蝶子f22947)と参加
◆設定
表向きは原稿を貰いに来た雑誌パピヨンの編集者
実は先生の覆面を剥ぎ正体をスッ羽抜く目的で来た
他雑誌の編集には裏取引(原稿は渡すから協力して欲しい)を持ち掛ける
【性格】
目的の為に邁進するも、すぐドジってボロが出る……が気にしないし、指摘されても気がつかれてないと思って突き進む
他人の話を聞かない
【行動】
招待客たちに自己紹介を促す
招待状を二つ手に入れたので、お世話になっているお屋敷のお嬢様(不可思議先生のファン)を連れてきた
他の皆にはフレンドリーにチョコレートを配って回る
他人が怪しい行動をとったら内密だと言いつつ周りに吹聴しフラグの下地作り
南雲・海莉
配役
倒産寸前の弱小出版社の社長の娘
起死回生の一冊を出す為、父親に代わって原稿を取りに来た
「南雲出版の者です」
「社長からの委任状はしかとここに。権利を主張するには十分ですよね?」
裏の顔:
「……そちらから出版された○○、盗作という噂もありますが?」
かつて南雲出版の金庫から盗み出された原稿は、海莉の亡き母が密かに綴っていたミステリーだ
最近になり、酷似した小説が有名作家の新作としてヒットしている
登場人物の設定だけを改悪したそれを赦せない
盗作に絡む全員を殺したいほど憎んでいる
癖:
香水瓶をポーチに隠し持つ
中身は毒々しい緑の液体
『もしあいつを見つけたなら……』
良く取り出し、うっすらと口元に笑みを浮かべる
アルモニカ・エテルニタ
まあ、猟兵にはお芝居の仕事もありますのね
あたくし張り切ってしまいますわ
あたくしは弱小出版社から遣わされた編集者
どうにも気が弱く他の招待客に気圧された様子
けれどしがない編集者は仮の姿
その正体は事件の匂いを嗅ぎつけた名(?)探偵だったのです
不穏な空気が漂い始めた辺りで正体を明かし、何か分かったような顔をしておきます
ええ、特に何が分かったわけでもないのだけれど
訳知り顔で終盤まで核心を語らないのが探偵のお約束
此度に関しては被害者役でもありますもの
死人に口なし。真相を語ることなく死んでおけば問題ありませんわ
「あたくしに見通せぬ事件などございません。けれど今は未だ全てを語る時ではないのです」
ファン・ティンタン
【SPD】病気と狂気は類似項
〇役柄
可思議先生の偏執的なフアン
既刊『破願一生』の舞台化、その女主役を貰おうと躍起になっている駆け出し役者
嗚呼、先生、此度は何処に居られますか?
彼此五十できかぬ訪問にも応えて下さらないのは如何な理由に御座いますか?
この身若輩なれど、作品への愛はヒト一倍強う御座いますれば、必ずや先生の求むる物語の形を成すと確信致しまする!
嗚呼、先生、先生ッ!
(感極まったか、屋敷の戸を軍刀にて斬り刻み侵入)
……はっ、よもや、これは作中の一場面
何一つ願い叶わぬ、彼の者の胸中の如し
―――ふっ、あははッ
そう言うことなのですね、先生ッ!
この場にて、我が役を魅せろと仰るのですね!
凡て、承りました
アウグスト・アルトナー
▼設定
小説家の卵、筆名は『葉月』
招待状を受け取った編集が風邪のため、代理で来た
▼性格
物腰丁寧、常に敬語を崩さない
基本無表情だが、原稿を入手するチャンスには食いつく
▼服装
袴にインバネスコート、ロイド眼鏡
▼隠していること
文豪の原稿を、作者名だけ自分の筆名に変えて発表し
一躍人気者になることを目論んでいる
編集が風邪というのも嘘。殺して招待状を奪った
▼被害者フラグ
一見すれば真人間、優しくて良い人
裏ではかなり恨みを買っている
▼台詞
「皆さん、落ち着きましょう。こういう時こそ冷静にならないといけません」
「お怪我はございませんか?」
「原稿は必ずぼくが持ち帰らないといけませんので。これだけはお譲りできませんよ」
鵜飼・章
やあ皆さん、今日もお集まりですね
僕…?
この館に居候している学生の鵜飼章です
僕はいつも通り部屋に引っ込みますから
どうぞ気にせずご歓談ください
(部屋の中から密かに様子を窺い)
やれやれ、誰も思っちゃいないだろうな
まさか僕が不先生のゴーストライターだなんて…
学費欲しさに交わした契約だったけれど
そろそろこの立場に甘んじているのも飽きてきた
今回の原稿は特に自信作なんだ
このまま『不・可思議』の名で世に出していいのか?
そんな事が許される筈がない
丁度いい…夕食会の後にでも全てを暴露してやろう
先生の名声は地に堕ち鵜飼章の本が書店に並ぶ
その光景を想像しただけで…
(不・可思議の小説に標本針を突き刺す)
あぁ…胸が踊るよ
森永・蝶子
【娯楽雑誌パピヨン】
キョロ(森永吟路・f22948)と
◆設定
熱狂的なファンの振りをした雇われ探偵
(と見せかけた本当のファンで本当の探偵
自分の役割をよくわかってない
◆性格
黙っていればおっとりしたお嬢様
しかし、一言発すれば騒がしくハイテンション
マイペース
人の話は聞かないし覚えてない
空気が読めない
◆行動
勝手にウロウロしてベタベタ触りまくる
あぁ…わたくし、今、先生と同じ空気を吸っているのですのね!(感動
怒られても気にしない
は?
わたくしが欲しいものはただ一つ!
先生のサインですわ!
自己紹介を促されたら正直に答える
内緒?
キョロ、そういう大切なことは先に言いなさいといつも言っているでしょう!
アドリブ、絡み歓迎
萩埜・澪
アドリブ・絡み大大歓迎
【役】次作探偵小説のモデルになる桜の精探偵
【設定】
巷で評判!うら若き女性探偵……ではなく、デビューしたての新人探偵
仕事はもっぱら飼い猫捜索である、楽しい
わたしの目に掛かれば、こんな事件、朝飯前だよ……先にご飯ください
実は依頼人たる雑誌社の編集長から、大金ぶら下げられた貧乏
わたしに来るのはそもそも事件じゃないから依頼料少なくて食べられない
不・可思議先生の素性と原稿目当て
人のプライベートを探るなんて…と渋るが、性別くらいはいいよね…?
上手くモデルとなる探偵を演じきって先生に近づく
【性格】
発言が残念
生粋の猫好き
優しい
……!吃驚した…
猫さんの目って暗闇で光るよね……待って…
セシリア・フェッチ
【台詞】
あっ…あの、すみません。ここがあの不・可思議さんのお屋敷ですか
私は回帰社のセシリアという者です…もしかして皆さんも私と同じご用件で?
そうですか…それは大変ですね。私も上司にどやされて困っているんです…
あ、美味しそうなお茶が
皆さん、どうですか?お疲れでしょうし一杯…
【行動】
飲み物が振る舞われた際自分以外の飲み物に睡眠薬を入れて眠らせようとしてくる
【設定】
怪奇小説と探偵小説を中心に出している出版社の新人編集。とにかく原稿を回収しないと信用を得られないため必死。無害なふりをしているが他の出版社を出し抜くためならなんでもしろと言われている
●登場人物
不・可思議?:クロード・キノフロニカ(物語嗜好症・f09789)
小説家の卵『葉月』:アウグスト・アルトナー(永久凍土・f23918)
文豪の弟:森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)
内弟子:鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)
南雲出版社社長令嬢:南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)
弱小出版社編集者:アルモニカ・エテルニタ(Colchicum・f22504)
回帰社新人編集者:セシリア・フェッチ(美しき死神・f12625)
雑紙パピヨン編集者:森永・吟路(愉快な仲間のフードファイター・f22948)
探偵令嬢:森永・蝶子(ハイカラさんの猟奇探偵・f22947)
貧乏探偵:萩埜・澪(慈愛の魔女・f22505)
駆け出し役者:ファン・ティンタン(天津華・f07547)
少女歌劇のスタア候補生:浮島・いねす(自称ゆめかわ系バーチャルアイドル・f19414)
●恩讐の彼方
鈍色の細い標本針は、不・可思議と言う名の“可”の文字を刺し貫いていた。より正確に現わすならば可の口の中央である。まるで「貴様はそれ以上は囀るな」とでも言いたげに。
「赦されるものか。今回の原稿は特に自信作なんだ」
僕の脳裏から生まれた文字逹を弱みにつけ込み買い叩く卑劣漢、それが不可思議の正体である。
針をよりねじ込む鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)の唇が僅かに震えた。だが髪に隠れた瞳は窺い知れない。
「まぁいい」
今宵は巨匠の原稿を求めた亡者どもがうじゃうじゃと蟻のように集う。其奴らの夕餉にセンセーショナルに真実を暴露してやろうではないか!
不可思議の名が墨塗りになり上書きされる鵜飼章の名。新たに世に出る鵜飼章の作品は文壇を絶賛の嵐で席巻するのである!
興奮に乾いた喉を整えるべく唾を飲み下す青年はまだ知らない――その小説が“何に”よって書かされているのかを。幼い頃に垣間見た“何か”は章の心に巣くい章の発想の泉の水底を虫食いのように染め上げているである。
●被害者候補の序奏曲
「重たい……っ」
推定体重2貫6両(約10kg)そんな大柄猫の長毛猫を抱え込んだ萩埜・澪(慈愛の魔女・f22505)は、どてっと見事に尻餅をつく。
そのまま肉球をていっと持ち上げてお色を確認。残念、左足だけ小豆色だという頼まれ猫とは違ったようだ。
「うーん……この猫さんじゃないのか。ああでもお前、ちゃんとお家はあるの? ……帰れる?」
養ってあげようと言えない懐の寂しさが世知辛いところ。澪は何しろ貧乏探偵だからして。しかし今日からは違う。有名出版社より不・可思議先生の調査と原稿をとってくる依頼、その前金で懐ホカホカ。
「…………は、そうだ。お屋敷にいかなきゃ! でも、ここ……どこ?」
迷った。
「にぃあん?」
とてん。
土埃する岩肌に降りた猫がしっぽをたてて歩き出す。
「? ついてこいって?」
猫を追い、澪はとことこと歩き出す。
「あの子に着いていけば姫ちゃんもヨユーで館に辿り着けるって思ったのに、こんなに迷うなんて聞いてないよ~」
でもそれは、編集からもらった地図をなくした浮島・いねす(自称ゆめかわ系バーチャルアイドル・f19414)が全部ザコいからだ。
文豪せんせえの原稿をゲットすれば少女雑誌の巻頭特集お約束ぅ! なんて、スタア候補生つまりまだ箸にも棒にも引っ掛からない別の世界で言うところの地下アイドルにも達してないこの身には美味しすぎる持ちかけ、出だしから壮大にこけけている。
「大丈夫! 姫ちゃんの衣装和風だし、大正700年のサクミラでも大人気でいける!」
かつて、浮島いねすが大人気だったことがあったであろうか? あ、あったよ! 炎上コンテンツとしてはサイコーのエンタメ人気爆発だったよ!
胸が痛い、燃えて痛い。
痛いけど、死なない。だって地獄の業火にくべられたプリンセスハートなんだからね!
「なんてことやってたら見失っちゃう~」
――波の音がする。
海辺のちょろっとした出島に建てられた館は、外部とつながっているのはひとつの橋だけだという。
『新屋敷(あらやしき)』
高名な設計士を外國より招いてふんだんな資金をつぎ込み建てられたこの館は、ホテルに類する規模の大きさを有していた。
なんでもあるお華族様が迎賓の用向きで建てたらしい館内は、美辞麗句なら先進的で洒落たセンス、口が悪い者に言わせれば西洋かぶれ、そんな調度品で徹底して固められている。
客用のベッドには豪奢な天蓋、広大な中風呂の他に個人主義なるお客様のプライベートに気遣ってシャワー室のついた部屋もある。
交流深める大きなホールには、この館の顔である大人数名を優に呑み込める強大な暖炉が鎮座ましましている。チロチロと火の舌を揺らめかせているのだ。
籐で編んだロッキングチェア、身を沈めるにすこぶる向いた赤革のソファ。軽食が並べられているテーブルは多人数が寛ぎ歓談するに相応しい。
普段は少数の人間しか存在しない空間が招待客に寄り埋められている。赤い炎の蜜蝋で封じられた招待状を手にした彼らは、主に出版関係の者逹である。
――さて、また1人、登場人物(キャスト)が館を訪れたようだ。ちなみに、猫と迷っている2人では、ない。
「南雲出版の者です」
「こりゃまた随分とお若いね」
出迎えた不・可思議の実弟である森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)は、招待状を差し出す娘がいいところ女学校の学生であるのを面白がるように見下ろした。
「社長からの委任状はしかとここに。権利を主張するには十分ですよね?」
招待状に添えた一筆に「勿論」と口元を緩める陽太に南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)は拍子抜けしたように瞬いた。
「最近は本当に職業婦人が大流行だな。既に先客に2名女性編集者様がいるぜ。まぁ南雲のお嬢さんも寛いでくれよ」
不作法な物言いで案内された暖炉を囲み、確かに2名の女性が向き合い会話に興じていた。
「あら、これはまたセシリアさんに続いて愛らしいお嬢さんね。はじめまして、あたくしはアルモニカ・エテルニタ」
しっとり艶ある黒髪をアップに纏め扇情的な胸元のイブニングドレスを身に纏ったアルモニカ・エテルニタ(Colchicum・f22504)は、傍らに腰掛けるセシリア・フェッチ(美しき死神・f12625)を視線で促した。
「あっ……あの、すみません。私は回帰社のセシリアという者です……」
アルモニカの堂々たる美麗に呑まれ会話もままならなかったセシリアは海莉の登場にほっと頬を緩める。
「そのー、不・可思議先生の原稿を取ってくるように言われまして……あ、あの、すみません。うちみたいな弱小がこんな所に図々しくやってくるなんて……」
挙動不審一歩手前のギクシャクさのセシリアであるが、内心は2人のライバルを冷静に値踏みしていた。
(「南雲出版って老舗だけれど経営の危うさはうちと同類のところですよね。社長のお嬢さんとのことだけれども、お遊びじゃないみたいですし……アルモニカさんは得体が知れないです」)
セシリアは袖に隠した睡眠薬とかその他の小瓶の硬さを確かめるようになぞる。
社長は言った“他の出版社を出し抜くためならなんでもしろ”と。新入社員の自分にとって社長の言明は絶対だ。
「あらあら、あたくしの所だって弱小ですのよ? そういえば、まだ申し上げておりませんでしたわね……」
倫理観余裕で逸脱の企みを知ってか知らずか、アルモニカの手元でカチリと涼やかな音が鳴った。すんなりとした指がフォーマルバックにしまった名刺を探る。
しかし名刺が取り出される前に、場は驚愕に弾ける歓声にて奪われた。
「おやおや、まさかこのような場に今をときめく新鋭葉月先生がいらっしゃるとは!」
驚愕は甘ったるい香りとともに。
ぱちぱちという拍手の音は妙に湿っていて、更に甘い。あとつやつやしている。チョコの中にピーナッツとか考えた人は神である、キャラメルは歯にひっつくよね。
……あ。
そこで拍手をしているのは、森永・吟路(愉快な仲間のフードファイター・f22948)その人(ペンギン)である。
「よしてください。ぼくなんてまだ小説家の卵ですよ」
その作家葉月ことアウグスト・アルトナー(永久凍土・f23918)は、ロイド眼鏡の瞳をすっと細め吟路が浮き足立たせた場を冷静へと下げた。
「不・可思議先生に比べると駆けだしということですわね! 道理でわたくしが知らないわけですわ!」
それはあたかも役者が大見得を切ったところでぽっかり開いた奈落に誤って落ちるが如く、冷静なる場が寒々と冷え切ったものへとヅガンと落ちる。
「おっ、お嬢様! 葉月先生に失礼ですぞ?!」
「は? だってキョロ、わたくしは葉月……」
「先生」
「……なんて作家は知りませんわ」
ド失礼にもほどがある。
「そりゃあ葉月先生は、ある出版社の秘蔵ッ子ですから。我輩もたまたま“これからの出版不況を渡っていく為に弱小で手を取り合ってなんとかせんといかんの会”という愚痴飲み会に無理矢理引きずり出されてですな、その場で編集が『学生作家は安いからいいよチミィ』って言っておった内の1人でして……」
……輪を掛けてド無礼だった。
しかし新鋭葉月先生は余裕の微笑みで受け流すと、壁に掛けたインバネスコートより取り出した招待状を気障に翻しすのだ、ひらり。
「はは、そんな風に編集の方々に憶えて頂かねばならぬ若輩の身でして。実はここに来たのも才家出版の編集長より頼まれての代理です」
「あら」
ぬ。
いつの間にやら至近距離。アルモニカは息が掛かる距離の葉月を舐めるように見据えると、パチンとバックの留め金を鳴らした。続けてひたりとテーブルに置かれた名刺には“才家出版編集 アルモニカ・エテルニタ”と書かれている。
「うちの編集長から頼まれましたの、随分と奇妙なお話もあるものですわ。才家出版からはあたくしが来ておりますのにね」
前部分が疑問系ではないことに、葉月の内心は尖ったひりつきで満たされる。
(「彼女は、ぼくが編集長を手に掛けたことを知っているようですね」)
そして異常性は“編集長の他殺を知りながらこの場に来ていること”に現れている。犯人捜しか編集長の弔い合戦での原稿確保か、それとも……?
どちらにしても一番に始末した方がよさそうだと結論づけた葉月は、何も言い返しはせずに温順なる仮面を被った。
「……」
海莉は手元に置かれた紅茶を味わう素振りで集まる面々を品定めしていた。
――さぁ果たして、この中に亡き母が密かに書きためていた原稿を盗み出した輩がいるのか否か。
不・可思議の作品は押し並べて海莉の母が綴ったものに似ていた。ストーリーもトリックも、登場人物の名前や身分などだけが今風に……海莉からすれば改悪でしかないのだが、差し替えられているものばかりだ。
「……へぇ」
そんな剣呑としたやりとりを陽太は面白そうに眺める。
葉月とアルモニカだけじゃない。
南雲の娘の切り結んだ口元と撃ち抜くような眼差しが誰に一番似ているかと問われれば手段を選ばぬ葉月だ。そして手段を選ばぬと言うならば、ふわふわ覚束ない顔つきの癖に常にティセットに鋭く見据えるセシリアも、唯の弱小編集者の娘ではないだろう。
「身内ながら大した人気は頭が下がる思いだぜ、なぁ」
頭上の彼方には、彼の肉親たる不・可思議先生が閉じこもり、今も筆を走らせている筈だ――。
「もう! そんなことはどうでもよろしいですわ! 先生はどこにいらっしゃるの?」
テーブルに袖すり身を乗り出した蝶子、あっさりと怪しい伏線やらをうっちゃった。
「キョロ、話が違いましてよ?! ここに来たら不・可思議先生にお会いして幻の初版本をいただいてサインをしていただけるという話しではなかったじゃない!」
「いやいやいや、類い希なるお嬢様の探偵力にてどなたが不・可思議先生がどなたか見抜いて下さるというお話じゃったはずですぞ…………は」
ヤバい、空気が戻った。
「こちらは森永家のお嬢様」
「森永蝶子と申しますの、探偵ですわ!」
キョロさんナイス言い逃れ。自分がバラしたという事実を見事にお嬢様になすりつけたぞ! なすりつけたはいいが全く状況は好転していないのはさておき。
探偵というキーワードに咳払いしたのはアルモニカ。他も穏やかじゃないとざわつきはじめた。
――舞台は場を掌握する存在(キャスト)を求めている。
「「やぁ」」
「お集まりいただきありがとう!」
出だしだけ二重奏(デュエット)舞台の中央に躍り出たのは独奏者(ソリスト)
本物は下がり、偽物は進む。
……誰も、2階の吹き抜けより二文字だけ零した章を見向きもしない。
「挨拶が遅れ申し訳ない。僕がこの館の主の不・可思議なのさ」
伊達に着こなした上着の裾を翻し、クロード・キノフロニカ(物語嗜好症・f09789)が堂々と騙るものだから。
「まぁ、本当に本当の不・可思議先生ですか?」
セシリアは掌で口元を覆い、スカートを押さえてクロードの前へと駆け込んできた。
「これは愛らしいご婦人。あなたも僕の原稿を求めて招待に応じてくださったのですね?」
仰々しいお辞儀に慌ててぺこりと頭を下げるセシリアは、緊張を解く素振りで懐に手をふれる。
(「この方には自白剤ですよね。原稿のありかを教えて頂くまでは死なれては困ります」)
どこまで盛る気だ。
「あの、お茶を……淹れてもよろしいですか?」
クロードの登場を興味津々に見守っていた陽太は、セシリアの問いかけに顎でティセットを示した。
(「兄貴があんな顔をしてやがったとはね」)
と、些か肉親とは思えぬことを内心で呟きつつ。
「不・可思議先生がこんなに素敵な殿方だったなんて! 蝶子さん江と名入りでサインを下さいませ! キョロ! 本はどこですの?」
「ああ、先生。折角ですから、原稿にお願いできませんかね。新作の」
クェッと興が乗る吟路のまるい胴体に黒い長手袋を纏った腕がぬるりと絡みついた。
「まぁパピヨンさんったら、抜け駆けは卑怯ですわよ? そうそう、葉月先生もこちらにいらしたら?」
アルモニカの皮肉たっぷりの呼びかけにも葉月は冷涼なる眼差しで歩み寄る。
「お逢いできて光栄です、不・可思議先生」
「こちらこそ、葉月先生といえば……そう、お話はかねがね。大層才能豊かな筆致をしてらっしゃると」
出自も内容もあやふやな褒めそやしにて、詐欺師クロードは本物の作家たる葉月との握手を無難にこなす。
「光栄です」
柔和な笑顔の殺人者葉月はクロードの全身をさりげなく値踏みする。
(「さて、色男腕力なしの通りであればやりやすいのですが」)
やるの漢字は勿論“殺”
ばたーん!
「びっくりだよ。猫さん見失ったけど館にはついたよ、しかも不・可思議先生が、いる……」
突然ドアを開け放ち現れた澪は、取り込み真っ最中にも関わらず足音なしの猫のようにすっとクロードのそばに立つ。
「不・可思議先生、次の小説の主人公は桜の精だと聞いたよ」
なんという押し売り。
しかしクロードは詐欺師、澪の台詞を売り込みと捕らえて優雅にその手を取った。
「確かに。抱きしめると儚く消えてしまいそうなほどに華奢なキミは、散り急ぐ桜の花が本当によくお似合いだ……大いに創作意欲を擽ってくれるね」
さーすが詐欺師クロード。息をするように口説き文句が溢れて止まらないぞ。
「「待って」」
女性の二重奏。奏者は室内からは海莉、ドアから駆け込んできたのは姫ちゃんこといねす。
「どうして次回作が桜の精霊だとご存じなんですか」
「次回作の主役は姫ちゃんだってイイ線いってると思うんだよね~」
……お前ら譲り合いの精神はないんか。
1つ目は海莉、2つ目はいねす。以後も同じく、つまりいねす出遅れまくり。だが、澪はそのたゆんとした主張あるお胸を前にして、ぎゅうと下唇を噛みしめている。それに気づけばいねすもさぞや倖せだろうになー。
「……いいもん。サンドウィッチおいしいから。朝飯前だったから、いただきます」
誰も手をつけず渇きはじめていたサンドウィッチのピックをつまみあげると、澪はあぐあぐと卵やハムやらの挟まったそれ頬張りはじめる。美味しい、けど、何を食べればあんなに育つんだろう。
「お嬢さん、チョコレートを差し上げましょう。森永吟路謹製で御座いますぞ」
「わーい」
まぁるいチョコをぽこぽことお口に放り込み澪さんご機嫌。
えー、閑話休題。
「不・可思議先生、あなたの作品は盗作という噂もありますが?」
「心臓刺したら炎で倍返しの新機軸ヒロインな……」
「盗作だって? そんなわけないだろう?」
あ、またかぶせられて潰されたー。
しょんぼりぽってり倒れるいねすの傍にしゃがみ込み、澪はぽふぽふと慰めの肩たたき。そんな光景は無視して海莉をはじめ皆の視線は2階から響く姿なき章の声に惹きつけられている。
しかしその注目すら分断する鈍色の煌めきが、一閃! 続けて、ずんっと、重く低い響きがホール全体を揺らした。
ごとり。
「嗚呼、先生」
袈裟に斬られて無理矢理開いた重厚なるドアを背に、両手をもじもじと合わせる乙女がひとり。
「此度は此処にいらっしゃったのですね」
文豪不可思議の大フアンにして駆けだし女優、ファン・ティンタン(天津華・f07547)その人である。
「彼此五十できかぬ訪問にも応えて下さらないのは如何な理由に御座いますか?」
ちなみに超ストーカーな。
●あれ、待って? まだ1章目だよね?
天井のシャンデリアの傍を宙返り、白に一筋の黒が綺羅を融かして華やかに咲いた。
否、
咲いたのはテーブル、斬り落とされたシャンデリア。ジャンジャラ硝子を散らし、周囲にいた面々は喫驚に瞳をまんまるにして這々の体で難を逃れた。
「ちょっと?! どっかの芝居になぞらえての殺人とか、姫ちゃん聞いてないんですけど!?」
下敷き(だいいちのさつじんひがいしゃ)に危うくなりかけたいねす、いや、自爆に他爆慣れているいねすじゃなければ死んでいた。
「先生の『破願一生』は隅々まで黙読音読脚本下読み、一言一句違えぬまで記憶しております!」
しかしこのフアンのファンは聞いてない。
今漸く相まみえた不・可思議先生ことクロードに軍刀の刃と滾る気持ちを突きつけて、売り込みに必死だ。
「この身若輩なれど、作品への愛はヒト一倍強う御座いますれば、必ずや先生の求むる物語の形を成すと確信致しまする!」
感極まって震える指に握られた刃が、クロードの銀髪をはらりと僅かに斬った。
「……はっ、よもや、これは作中の一場面。何一つ願い叶わぬ、彼の者の胸中の如し」
「いや、いいから待ち給え」
えー、やばいよこれ、すごい修羅場だ。
この窮地を切り抜けようとクロードの詐欺脳細胞がフル回転。その有様を見守るアルモニカは今更探偵とか秘密を知っているとか打ち明けても収拾つかないわねぇなんて、どこか長閑な眼差しで見守っている。
……なにしろこの女探偵、全てをわかった顔をしてその実全くわかっちゃいないのだ。
葉月は葉月で、ここで彼女が手を下してくれたなら目的も果たせる、なァんて本音はおくびにも出さず恐怖に呑まれた素振りで硬直している。
そう「皆さん、落ち着きましょう。こういう時こそ冷静にならないといけません」なんて台詞はまだはやい。ことここに及んでは取り返しが付かなくなってから吐けば良いのだ。
ところで、
この状況でも懐中時計片手に極上の蒸らし加減で紅茶を入れるセシリアは、恐ろしく肝が据わっていると言えよう。
どれぐらいかというと、紅茶を淹れる為にサイドテーブルに離れていたのでむしろ安全でしたと思っているぐらいにはだ。
これぐらいで肝を冷やしていてはあの鬼編集長の下で生き残れないとは後のセシリア談。
(「みなさんが一斉に眠ってしまうと、さすがに怪しいでしょうか……」)
とりあえず一杯にだけお薬を盛ってロシアンルーレット? いや、1人が飲んだ直後に倒れる方が却って怪しい。
こくりと頷いた新米編集者は、ティポットに直接3つ分の小瓶の中身を注ぎ蓋を閉じた。
「はは! 威勢のいいお嬢さんだ」
陽太はファンの脇からクロードへと腕を伸ばす。とりあえず助けは有り難くと手を握ろうとしたクロードはその先にギラつくナイフに目を見張る。
「…………弟よ、なんのつもりだい?」
こいつの名前をクロードは知らない。
(「いや、恐らく彼もまた偽物だな」)
詐欺で成り代わる相手への下調べは怠らない。それら情報は数多の状況下を舌先三寸で切り抜ける為の強い切り札となるからだ。
「兄さん、いいじゃねえか。こいつに原稿を渡しちまえよ」
なぁ、そう唇を歪める様はいっぱしの悪党であり、突きつけたナイフを僅かに動かせばクロードの喉を掻ききること余裕な辺り殺し慣れてもいる。
「嗚呼、先生、先生ッ! ――猫のやうに音立てず、掲げられた其れは月を吸って金と銀の合間の色で私を酩酊に誘うのです。血の気を佚した……不・可思議先生」
血走った目で軍刀で頬を撫でるファンは、興奮を過ぎて平静へと至りはじめている。ところでそれが吉兆かと言うとまるで逆だ。つまりはこの女は平常時から狂っている、それが紐解かれた真実だ。
(「『破願一生』のラストは、ヒロインに滅多刺しにされた挙げ句に火をつけて無理心中だったかな。全くなんて物騒な話を書くんだ、不・可思議は……」)
つまりは前門の虎後門の狼のクロード絶体絶命の巻である。
「あああ、どういたしましょう?! このままですと、不・可思議先生からサインをいただく前に亡くなられてしまいますわ! キョロ、なんとかして頂戴な……て、あら?! キョロ、どこにいますの?」
焦る蝶子が辺りを見回すも、いつも甘い香りを漂わせているまるくてやたらと存在感のある鳥は姿形もなくなっていた。更には海莉もまた姿を消している。
「どいつもこいつも……」
ふつり。
階下の喧噪どこ吹く風で、章は昆虫スケッチの如く緻密に描かれたクロードの額に標本針が突き立てる。
「……盗っ人猛々しいって、こういうことを言うのね」
母の形見のポーチを握りしめ海莉は部屋の中へと踏み込む。
「あなたの出している作品は母が綴って読ませてくれたお話ばかり!」
「違う! 不・可思議の名で世に出た全ては、僕の内側から溢れ出たものを原稿用紙に著わした僕の作品だ」
糾弾に章の頬が怒気で爆ぜ、普段は決して見せぬ荒々しい物言いで海莉へとつかみかかる。
(「そんな、彼が嘘を吐いてるようには思えない……」)
カシャリ!
しかし何かを見いだしかけた邂逅は、眩く無粋なフラッシュにて遮られた。
「クエッ! クエッ! クエッ! これはこれは、想像を遙かに凌駕した特ダネですぞ~」
リボンタイの留め飾りとまぁるいチョコレートの光沢を持つ瞳を光らせて、吟路は菱形の唇を歪に吊り上げる。
「他の出版社への根回しも不要でしたな。謎の大人気作家! 不・可思議先生の招待見たり、清貧なる男子学生。思いあまって女性を絞殺……と、言ったところですかな」
クエッーーーっと怪鳥めいた叫びをあげて、吟路はふたりへと躙り寄る。
「どおれ、我輩も鬼ではありませんぞ、チョコレートどうぞ」
「あ、どうも」
「ありがとうございます」
ころころと丸いチョコを舌で転がすふたりへ、再び瞳を吊り上げた吟路は宣言する。
「不・可思議先生、招待をバラされたくなければ、パピヨンとの専属契約で今後書き続けると契約していただきましょうか」
「僕は、もう不可思議じゃない」
「いいえ、あなたは不可思議先生ですぞ。無名の作家なんぞ、だぁれも見向きもしませぬからな」
このチョコレートペンギン、まさに下衆!
「――ふっ、あははッ」
ファンの肩が震えた。
直後、陽太のナイフが叩き上げられて虚空を舞う。
「そう言うことなのですね、先生ッ! この場にて、我が役を魅せろと仰るのですね! 凡て、承りました」
すらりと抜いた軍刀を翳し、まずは陽太へ斬り掛かる。
『嗚呼、……様、あてえの気持ち、受け取ってくださらぬ?』
「……ッと、アブねえ」
横倒しの椅子を掲げ受け止めれば、青銅作りのそれががきりと力任せにかち割られた。
そんな収拾が付かぬ剣戟を前に、澪が「あ」と声をあげる。
「……! 吃驚した……猫さんの目みたい、暗闇で光ったから……」
「……ッ」
台詞をまくし立てて陽太やクロードに襲いかかっていた狂乱のファンだが“猫”の一言に縛られて、カクリと動きを止めた。
そこへすかさず、銀のトレイにあたたかな紅茶をのせたセシリアが進み出た。
「皆さん、どうですか? お疲れでしょうし一杯……」
香気溢れる薔薇のフレーバーティ、選んだ理由は薬の違和感を誤魔化す為である。
「! この飛んでも炎上の場に舞い降りたマジ天使か~! 姫ちゃん一番乗り、いただきまーす」
速攻でとったいねすがかぱりとあけた口に注ぎ込もうとした刹那。
「は、今がチャンスですわね! 先生、お助けしますわ!!!」
火事場の馬鹿力かテーブルを振り上げた蝶子お嬢様(物理)が、ふりあげたのは倒れたテーブル一台。
どんがらがっしゃああああん!!!!!
不・可思議先生を騙ったクロードとか熱狂的フアンのファンとか炎上ゆめかわアイドルとかがいた辺りに、思いっきり! そう、思いっきりなッ、10名が食事を楽しめるぐらいのテーブルが叩きつけられた。
ちなみに、澪は難を逃れて三角座りでペンギンの形をしたチョコをもぐもぐしている。
――よし、いまだ。
「皆さん、落ち着きましょう。こういう時こそ冷静にならないといけません」
周囲の騒動を沈静させるよう腕を広げて大仰に、葉月はアンニュイな容を左右に配した。
まぁこりゃあもう大惨事である。不・可思議先生と熱に狂って浮かされたフアンとやらがテーブルの下から手足をはみ出させているのだからして。
(「姫ちゃんは無視ですか~、そうですか~」)
地の文章にすら突っ込むいねす、さすがは幾たびの炎上にも潰れず生き残った……生き残って、いるのかコンテンツ的に、まぁいいや、とにかく姫ちゃん生きてるよ!
「先生、お怪我はございませんか?」
葉月は迷うことなくゴマをする選択をとった。取るのは女性の手の方がいいのだがそれはさておき。
「ああ、打ち所が良かったようだ。その……お嬢さんも窮地を救ってくれて感謝するよ」
そしてクロードは、しゅんと俯く蝶子へ愛想を振りまくことも忘れない。そう、この場で一番金を持っていそうなのは間違いなくこのお嬢様だ。丁度面倒そうなペンギンもいないことだし、
「まぁ! 先生、ご無事でしたのね! 良かったですわ! 心配しましたのよ」
森永のお嬢様でやったわけだが、この有様は。
「…………まぁ、そういうことでしたのね」
アルモニカは腕を組み、ふっと憂いと感歎と歓喜をない交ぜにした笑みで唇で三日月を形作る。
「どういうことなのでしょうか?」
睡眠薬とかなんかそういうのが吹っ飛ぶ勢いの状況よりも、アルモニカの謎めいた台詞につきあう辺り、セシリアの順応性は素晴らしいと言えよう。さすがあの鬼編集長の下に仕える精鋭新人である。
「あたくしに見通せぬ事件などございません」
――よし、いまだ。
「けれど今は未だ全てを語る時ではないのです」
バチン!
その台詞を待ちかねたように、館の中の電灯が一斉に消え失せた。
●舞台裏――随遊院茫子、曰く
『ふ、ふ、ふ……まぁ見事な乱痴気騒ぎですわね。さぞや大衆は大喜びすることでしょう』
全館の灯りを司る装置から、白い手袋に包まれた指が離れる。
『此処で仕切り直しに暗転を挟ませていただきますわ』
懐中時計に煉獄焔の眼を注ぎ、彼らの移動に必要なだけの暗闇与え、
『さぁみなさん、どうぞお好きなところに移動して、さらなる物語を精一杯に演じてくださいませ!』
――お好みの場所でお望みの状況設定にて、丹念にわたくしが命の焔を消してさしあげましょう。
●裏は真なり、ただし裏のない人もいる
偽者不・可思議演ずる詐欺師:クロード・キノフロニカ(物語嗜好症・f09789)
編集者殺しの新人作家:アウグスト・アルトナー(永久凍土・f23918)
暗殺者:森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)
ゴーストライター:鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)
南雲家第二子:南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)
真相を知ったかぶり探偵:アルモニカ・エテルニタ(Colchicum・f22504)
薬使い編集者:セシリア・フェッチ(美しき死神・f12625)
やり口は暴露誌:森永・吟路(愉快な仲間のフードファイター・f22948)
熱狂的フアン:森永・蝶子(ハイカラさんの猟奇探偵・f22947)
モデル志願の猫好き探偵:萩埜・澪(慈愛の魔女・f22505)
盲愛殺人鬼:ファン・ティンタン(天津華・f07547)
憐れな仔羊:浮島・いねす(自称ゆめかわ系バーチャルアイドル・f19414)
とまぁ、裏表と顔が出そろった所でこれより中盤見せ場の殺害シーン。
はてさて、皆様はどのようにお亡くなりになりますかな?
大成功
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第2章 冒険
『血塗られた「宝」の言い伝え』
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POW : 鍛えた肉体を頼りに、村中を徹底調査。
SPD : 効率よく、さまざまな文献や噂を蒐集する。
WIZ : 資料調査はもとより、時には勘やひらめきも必要だ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
============================
【マスターより補足】
>プレイング受付、採用について
・1/16(木)8:31以降 より受付けます(執筆は17日~の予定)
16日以前にいただいたのものは、タイミングが悪いと失効で採用し損なう場合もあります、ご注意ください
・1章目の12名様は、プレイングをいただきましたら引き続き採用させていただきます
>2章目について
イメージ:殺人シーン&徐々に殺されていくのに怯えたり推理を巡らせたり。漫画なら中盤~謎解き手前までのシーン。
※登場人物は全員死にますが、プレイングでは下記をお知らせください。
・殺され方の希望があれば承ります
・はやく死にたいか遅く死にたいか
(冒頭に『先or後』と記載願います。無記入はお任せと判断します)
・はやく死にたい方は、自分の心情や殺された時の演出、ダイイングメッセージを残す、仲間に知らせるなど……をいただけると嬉しいです
(不・可思議先生こと影朧に抵抗して殺しにかかってもいいですが、必ず返り討ちに遭います)
・遅く死にたい人は、連続殺人にハラハラオロオロする、目撃しちゃう、推理する、などその辺りをいだたけると嬉しいです。
(文字数のバランスをとるため、殺されシーンは後になるほどあっさりです)
※はやい遅いが極端に偏った場合はくじ引きで決めるので恨みっこなしです!
プレイング受付までお時間をいただきますが、2章目もおつきあいのほどよろしくお願いします!
============================
アルモニカ・エテルニタ
(先)
我ながら見事な決め台詞でしたわね
ですが状況は決して良いとは言えません
そう、探偵が三人も
しかもその、何というか……色々と濃い方ばかり
早急に対策を講じなくては
ですので死にます
手っ取り早く見せ場を作り、尚且つ名探偵らしい雰囲気のまま退場できる。完璧ですわ
犯人を明かすための証拠となる物を手に入れるべく単独行動
如何にも殺したくなるような状況を作りましょう
それらしい証拠品が手に入らなければ【悪戯な道具方】で捏造します
どうか皆様、あたくしの残した証拠に気付いてくださいませ
出来れば派手な死体がいいわ。首が飛んだりだとか
ふふ、何かと自由の利く身体ならではの芸当でしょう
――嗚呼、貴方を殺すのが待ち遠しい!
森宮・陽太
※殺される順番お任せ
※1章で飛ばされたナイフはこっそり拾ったということで
何、しつこく原稿渡せと勧める弟が憎いと?
俺だってほしいことに変わりはないんだが、なあ?
まさか、作品を書くために殺しに手を染めていたとはな
身内の不始末が表に出るとまずいんでな、ここで罪を償って死ね
なあに、不・可思議という名は死ねば永遠になるだろうよ、ハハッ!
そう言いながら影朧にナイフで斬りつけるぞ
…模造品だから傷ひとつつかねえが、それも影朧を引っかけるためさ
もちろん返り討ちに遭うが、問題ねえ
ナイフで斬りつけても傷ひとつつかないことに怯えて逃げて
最後には背後から一撃食らって
館中に響くように断末魔の叫びをあげて殺されてやらあ
森永・蝶子
後?(いつでも可)
先生はどちらにいらっしゃるのかしら?
わたくし、まだ先生からサインを戴いていませんのよ
キョロもどこかへ行ってしまうし
後でよく言っておかねばいけませんね
あてもなくフラフラと勝手に歩き回る
殺人に遭遇すれば一般人らしくキャー!と悲鳴をあげる
わたくし、見ましたわ!
…あら、なんだったかしら?
ちゃんと見ているはずなのに大事なところは何もみていない
キョロが残した手掛かりはスルー
他の人に指摘されてもなるほどと素直に感心する(まだ気づかない
そんな、キョロが犯人だなんて…!
森永家末代までの恥!
わたくしの手で決着をつけましょう!(キリッ
机とか本棚とかその辺の物を投げれば息の根もとまりますわ!
…多分
アウグスト・アルトナー
先
▼行動
シャワーを浴びて落ち着きましょうか
服を脱いで、下半身はタオルを巻いて
無駄に色っぽくお湯を浴びます
(耽美な描写を希望)
▼心情
あいつもこいつも殺さないといけない……
ですが、殺すのはいつでもできます
そして最後に原稿を持ち帰るのは、ぼくです
……ふふ、笑えてきますね
▼殺され方
シャワー室に影朧が入ってきて
ぼくは胸を滅多刺しにされます(【オーラ防御】で致命傷は防いでおきます)
影朧がぼくから離れたところで
ぼくは立ち上がり、着替えの上に置いた十字架を取り
影朧に向け、【神の奇跡】を起こします
服の裾を焦がすぐらいはできるでしょう
……滅多刺しに、炎で倍返し
あのラストシインのようですね?
ねえ、――(笑って絶命)
南雲・海莉
【後】
(動揺しつつ
顔立ちは父に似ている……まさか
『実の兄』の死を目撃し
動揺のあまり、ポーチを取り落とす
中から香水瓶が
ち、違う
私じゃない
彼は、彼だけは殺さないっ!
身柄を抑えられそうになったら逃げる
原稿も本物もどうでもいい
でもあの人の仇だけは、絶対に取る
母の考えたトリックは未発表作の分も全て頭に入ってる、殺れるわ
でも、どいつがっ!?
考える程に疑わしい奴らばかり
(疑心暗鬼からの皆殺しへと思考が傾き)
容疑者のまま逃げ回り(時に殺り?)
ラスト間際で死体で発見される
(実際の中身はアルダワの薬膳茶
色も匂いも酷く、粘るが体に良い)
(薄れる意識で)男装のロリ探偵なんて設定は、ダメ
衆道こそ、至上……(パタリ
鵜飼・章
【先】
僕は天涯孤独
幼い頃の記憶がない
でも朧気に思い出した
夜毎様々な物語を聞かせてくれた…母の姿を
嗚呼何てことだ
僕は南雲夫妻に捨てられたのか…!
今しがた存在を知ったばかりの実妹は
貧しいながらも愛を注がれ育った様子だ
それに引きかえ僕は…
もういい!全てぶち壊してやる!
幸か不幸か僕は『本物』の不先生を知っている
偽・不可思議も自称弟もとんだ法螺吹き野郎だ
全員が集まる晩餐の席で僕こそ『不・可思議』と知らしめる
手元にある未完成原稿が動かぬ証拠
ああ…主人公は桜の精さ
さてどのタイミングで切り出すか
…ぐっ!?(血を吐く)
まさか…食事に毒が?
犯人は妹…それとも、先生…?
ま、待て
僕が…
僕が不・可…
告発は果たせずに死亡
クロード・キノフロニカ
先希望
真っ先に死んで、「不・可思議先生が殺された!」という場面を演出するよ
凶器は刀にクスリに針にテーブル、炎……うん、誰が犯人でもおかしくない状態だ
何が死因かよく分からない状態で倒れて、推理パートを盛り上げるよ
そして床にダイイングメッセージのようなもの
それっぽくサラサラっと書けば、アルファベットか何かに見えるだろうか?
実は文字ですらないんだけどね
死ぬ前に時間があれば、怪しいフラグを立てられるだけ立てておこうか
何せ僕は嘘ばかりつく詐欺師だからね
その場しのぎのハッタリを適当に言ったら、後々の皆の証言が矛盾だらけになってしまうだろうか
うん、それも面白いんじゃないかな
萩埜・澪
後
洋館に閉じ込められ、不穏な参加者
死亡フラグ立ってますね分かりますペンギンチョコおいしい
灯りが点いたとき現れた遺体に駆け寄って脈を確かめる
……!?死んでいる…
そんな、一体誰が!?誰もかも怪しすぎる!
いねすは安全そうかな…?
不・可思議先生はうら若き男性で紳士風…弟がいる
しかも盗作…だと…!?
よし、報酬ゲット…と、盗作は良くないんだよ…
とりあえず本当に盗作か確かめるから、原稿を預からせてもらうよ…
専属契約とかさせないんだから…!
……残されたダイイングメッセージ……、密室と見せかけてトリックあり…
点々と残された猫の肉球…
そうか、犯人は…!
忍び寄る影、舞う血…
いきなりの事に抵抗も出来ずに息絶える
ファン・ティンタン
【WIZ】優雅たれ、“先”陣の誉れ
先生、先生……
“人の身に”この食台は重過ぎまする
もう、我が瞳は霞み、その麗しき御尊顔も写せぬのです
嗚呼、せめて、最期に願わくば
その甘き香の薫る貴方様の御手の内に逝きとう御座いまする
何卒、なにとぞ……共に死出の旅路をッ!
影朧が釣れるのなら、【怪力】で引っ掴み既刊をなぞりて【演技】続行
器物さえ無事なら、返り討ちも上等、影朧が望みそうな流れを演じきる
それ以外の場合は、無茶の無い範囲で大胆かつ柔軟に対応
(えーと、破願一生の最後は……あぁ、)
嗚呼、口惜しや
この身、願い破れたる一生
然らばこれまで、
地 獄 の 焔 に 抱 か れ 逢 い ま し ょ う ぞ !
【精霊使役術】
浮島・いねす
後
猟兵のお仕事なんて知らない!
1章目から2回も死にそうになってるんですけど?!
猟兵だってシャンデリアやテーブルに潰されたら痛いんだぞ!
姫ちゃんか弱いので痛いのとか無理無理の無理だし
いのちだいじにでいかせてもらうからな!
あ、せんせえの原稿はゲットできそうならする方向で
うわぁ……
どんどん人が殺されていってマジ引く……
原稿のありかを知ったかぶったりしておけば
原稿がほしい人が守ったりしてくれないかな?
全然知らないけど
館の離れの回りにガソリンを撒いて中に立てこもる
くっくっく、誰かが近づいて来ても静電気ひとつでドカンだ
あれ?
これって姫ちゃん閉じ込められてない!?
早く逃げないと!
(勢いよくドアを開ける)
セシリア・フェッチ
『遅』(死に方お任せ)
スムーズにことを終わらせるはずが、こんなことになってしまいました…そろそろ別の手段を考えなくてはなりませんね
作家本人を名乗る人も現れましたが怪しすぎますし、弟さんに色仕掛けでもなんでもして催促して…きゃっ!
し、死体!?これは…皆さんに知らせなくては!い、一応…発見時の現場の状況をカメラで撮影します…
どうしてこんなことに…
一番安全そうな人と行動を共にしましょう…探偵さんなら大丈夫ですかね…探偵小説の定石です
もうこれ原稿どころではないですし…最後の一人になったら逃げちゃいましょうか…あら?
まさか貴方が犯人だったなんて…ね、組みませんか?このことは黙っておきますから…命だけは…
森永・吟路
先→後
の二回死希望
不可思議先生の正体をさっそくバラす為に電話
もしもし! ついに不可思議先生の正体を突き止めたですぞ! なんとそれは……ん? 通じてない?(電話線を手繰り寄せ)なっ!?
と、殺される(撲殺か刺殺で)
死体を発見された後、皆が居なくなったタイミングで
ああ、そう言えば我輩、チョコなのでアレでは死なないのでしたぞ
と起き上がる
その後、我が命惜しさに自分を殺した犯人に協力する
いろいろチョコの痕跡がつくが気にしない
思い出したようにお嬢様に手掛かりを残す
犯人としてキョロが名指しされたら、氷漬けになって殺されてる死体として発見されたい
◆その他
クエっクエっクエっ♪ ほほほーほほふー♪
と鼻歌歌いつつ歩く
●
「先生、先生……」
滑らかなる闇が染みこむホールの中、ファン・ティンタン(天津華・f07547)の陶然とした声だけが色めき絶え間なく響く。
「“人の身に”この食台は重過ぎまする……」
暗幕が落ちているのはなにも背景だけではなくて、ファンの瞼も震え閉じかかっている。だがそれが如何ほどの障害か。
「嗚呼、せめて……」
床をまさぐり這いずれば周囲から悲鳴を堪えた荒い息づかいが複数。だが画然とひとつ匂い立つは彼の香り。香しく甘露――憶えた、忘れない。あ な た の に お い 。
その香りが急速に遠ざかるのに焦燥が喚起され床への爪たてと到る。
ほわり。
『……こちらですわ』
手首を包む掌は闇の中でも白い手袋のせいで煌々と輝いて見えた。一息に食台から引きずり出された体を支えられた所に耳元ササヤキゴエ。
『まぁ大変、泥棒猫が奪ってしまいましたわね』
ファンの瞳に映り込んだのは淡いフワフワの髪がホールの外へと靡き遠ざかる有様。声が示す通りに愛しい臭いは更にその先方にあり駆け足の早さで離れていく。
「…………」
闇の中、片側の瞳だけ光らせるファンは息を詰めて白い手袋を追った。刹那、耳元を「ふ、ふ、ふ」と木の葉がすれな笑み声が翻る。
「さぁここまでくれば大丈夫。どこかで灯りを調達してこよう」
暗闇に乗じて萩埜・澪(慈愛の魔女・f22505)の手を引きホールから連れ出したのは、勿論クロード・キノフロニカ(物語嗜好症・f09789)である。
昏迷をきたしだした状況の中、綺麗どころでチョコレイトをあげればなんとでもなる残念な……こほん! まぁそうだ、一番舞台映えしそうな娘を連れ出したのである。
……の筈が、目につくのは闇にひらりと遊ぶ白色の手袋の指。
「ん?」
――待て待て、澪の手袋は黒かった筈だ。じゃあこれは……。
『まぁ、その必要はございませんわ、不・可思議先生』
鈴転がしのソプラノは澪の抑えた口ぶりなのによく通る不思議な声とは全く違う。
目を剥くクロードの眼前、黒紅の焔が虚空に墨流しの如く燃えはじめ、チラチラ瞬く焔光の中に女の半面が浮かびあがった。
「ッ……キミは、誰だ?」
無論クロードにはわかっている、此奴が招待状を送りつけた影朧だ。
さて、それではどのように命尽きようか。この部屋にもクロード自身にも予め様々な細工がしてある。例えば――、
青酸カリの基本アーモンドの香りのする薬の小瓶!
口中には血袋完備! 血文字のダイイングメッセージも自由自在!
首筋を擦れば注射針を刺されたような痕跡も浮かび上がる!
更には影朧はファイヤーエンターテイメントで終の旅路を飾ってくれるらしい、至れり尽くせり死因自由自在、やったね!
あ、駄目だ、嬉しそうにしちゃ。
惜しむらくは、怪しげな言動を聞いてくれる証人がいないことであるが……。
「先生、燭台を見つけたよ……というか、わたし、持ってた」
いつから←要出典。
掲げる三本蝋燭の仄かな灯りの下、演じられる阿鼻叫喚に澪はびくりと足を引き攣らせた。
無駄に燃えて焦げるテーブル、見知らぬ女――あ、これが影朧かーなんて内心頷きつつそれはないない――まぁ見知らぬ女に、たまたま落ちていた猫じゃらしの紐で締め上げられる不・可思議先生の図。
「……澪、逃げ…………さんぜんさくら……そこへ……」
息も絶え絶えになりながらもクロード、更に変換次第で色々思わせぶりな証言を追加。
「猫じゃらし……猫さん? やっぱりこのお屋敷にいるんだね」
自分にも死亡フラグが立っているなーとか、いや、ここはちゃんと逃げて証言を持ち帰り盛り上げるところかなーとか……そんなのがぐるぐる。
『あらあら、見られてしまいましたわね』
くぅるりと振り返る影朧の頬が、突如すっぱりと一文字に斬り抜かれた。続けてクロードと影朧に澪を分かつようにのたくる焔が床を焦がす。
「嗚呼、先生、先生……やはり此方にいらっしゃる。然様で御座います、この座敷牢は貴方様と初めて邂逅果たす思い出の場所」
す、と刀を惹きつけ垂れる赤を伸ばした舌で舐め取るファンの目には、確かに牢屋の格子が見えている。
「はじまりの場所にて共に終焉を迎える、其れが最期の物語なのですね。至極光栄! 心ゆくまで演じきる所存!」
しゅ、しゅ、しゅ、しゅ。
鋭く翻らせる切っ先を、聖書を盾にしたりガラスのコップを投げつけたりで辛うじて躱す影朧。様々な物が砕け散り現場がますます謎めくのには、クロードやりきった男の顔で双眸を閉ざす。
「嗚呼、先生! 否、否、決して一人には致しませぬぞ」
地 獄 の 焔 に 抱 か れ 逢 い ま し ょ う ぞ !
『きゃ!』
足元より燃え上がる焔に影朧はたまらず下がった。
『まぁお強い! 物語り映えしますからあなたにはもう少し生きて頂く算段だったのですけれど!』
ファンの切っ先がクロードへ向うようにくるり、猪突猛進に勢いづいたファンは全身を必死に石になれと念じ停止した。
『ふ、ふ、ふ、お借りしますわね』
影朧は立ち尽くすファンの手首を捻ると、握りしめられた刀で持ち主を串刺した。続けて無造作に刺さった体を掴むと、クロードをも斬り刻む。
「嗚呼、口惜しや。この身、願い破れたる一生……」
「いや……おいで……■■……」
さりげなく刃を逸らしたのを気づかれぬよう大量の血のりを吐いたクロードは、ファンの体を抱き留める。
嗚呼、此にてお終い――しかしながら死して二人は永遠なれ。
「そんな……」
ワナワナと口元を振るわせる澪は壁に背中を打ち付けて、悠然と出て行く影朧をこのように咎めるのだ。
「…………いねす、なんで」
そうなんですよ、影朧は空色のカツラを被っていたんですよー。まぁ暗がりだし騙されておく。
(「影朧、変装しょぼいよ」)
だって胸のサイズがわたしど一緒だし。
●
暗幕はがされシャンデリアが点灯した迎賓ホールは、先程の狂乱とは打って変わって水を打ったように静まりかえっている。
何しろテーブルに押しつぶされた数名及びもう一名が忽然と姿を消していたからだ。ああ、これは後に非常に重要になるかもしれないから、具体的に挙げておくとしよう。
消えたのは――、
不・可思議を騙った詐欺師クロード。
殺人鬼一歩手前の不・可思議盲愛者ファン。
そして、不・可思議の脚本にて有名スタアを夢見る二人、澪と浮島・いねす(自称ゆめかわ系バーチャルアイドル・f19414)
以上4名、誠に邪推が捗る面々だ。
「まぁ、皆さんどこへ行かれたのでしょう? 不・可思議先生とお綺麗どころの女優さんのみがいなくなられるなんて……」
セシリア・フェッチ(美しき死神・f12625)は菫の瞳を不安げに震わせつつも心のそろばんパチパチ。
(「あの作家を名乗るのは大方綺麗どころと美味しい思いをしたい、あわよくば原稿を手にしたいだけの詐欺師でしょう」)
原稿に近しいのはやはり肉親と、不・可思議の弟を名乗る森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)がセシリアの狙い目だ。
じりりりりりーん、じりりりりりーん!
その陽太は、けたたましく鳴り響く電話機へ駆け寄ると受話器を耳にあてがった。
「はい、ホールですが」
『クエっクエっケケケケケェーーー!』
「あんたにだ」
眉間の皺をもみほぐす陽太より受話器を受け取った森永・蝶子(ハイカラさんの猟奇探偵・f22947)は、ため息と共に文句を吐き出した。
「もう! キョロ、どこにいますの?!」
『もしもし! ついに不可思議先生の正体を突き止めたですぞ!』
「先生も消えてしまわれてサインがもらえませんのよ。なんとかしなさいっ!」
すげーぞお嬢様、森永・吟路(愉快な仲間のフードファイター・f22948)世紀の大発見の早口を押し返す勢いのまくしたてだ!
『なんとそれは…………ん? 通じてない?』
ガチャン! ……つーっつーっ…………。
「ちょっと……キョロ! キョロー?! どうしましたの? 返事をなさいっ!」
つーっつーっつーっつーっ…………。
不通音が居たたまれずアルモニカ・エテルニタ(Colchicum・f22504)がそっと手を添え電話を切らせた。
「蝶子さん、森永編集長はなにか仰っていて?」
「ええっと……ついに不可思議先生の正体を突き止めたですぞ!」
ホールに電流走る。
「……ですっ、て」
蝶子も口にしてから事の重大さに気づき京紫の双眸を見開き頬に手を宛がった。
「不・可思議先生の正体、ですか。それは先程の彼ではなく?」
空々しい確認をわざとらしく口にした後、葉月ことアウグスト・アルトナー(永久凍土・f23918)は切れ長の瞳を陽太へ向けた。
「電話は二階の歓談スペースと兄の自室、あとはゲストルームの一部にあるぜ。ついて来いよ」
果たして、駆けつけた歓談スペースに足を踏み入れたならば、一同の嗅覚は甘ったるい香りに塗りつぶされた。
――!!
受話器を握りしめた状態で後ろから殴られたのであろう、頭上に斧を叩きつけられた吟路が電話機の前でうつぶせに倒れている。
「?! キョロ!!!!」
わぁと駆け寄る蝶子へ向く傷ましげな眼差しの中、呑気な声がどこからともなく響いてきた。
「ふー……綺麗な夜空を見てようやく心のリセット完了。二回も死にそうになってるけど死ななければ正義! よーし姫ちゃんがんばる……ぞ?」
ぞ?
ぞ。
「ぞ」
くいっと自分を指さすいねす。
うん。
一斉に疑いの眼差しがキミに向けられてるね。
「いや、いやいやいやいや、姫ちゃんはか弱いので斧をぶうんって振りかぶっておろすなんて無理無理の無理だし。電話中の無防備な所を狙ってこうっ、ならいけるかもだけど? そんなの誰だってできるじゃないですかー」
「キョロさんは、通話中に急に黙られてしまって……まさに電話中の無防備な所を殴られたようなんです……」
申し訳なさそうに呟くセシリアは、いねすを速攻墓穴にIN!
「そもそもいねすさんは何故2階にいらっしゃったのかしら?」
アルモニカからはすかさずの問いかけ。
「そ、それは……二回も殺されそうになったら誰だって怖くなるっしょ……」
「ひとりなら、ますます怖いですよね」
「!!」
いいねが欲しいゆめかわバーチャルアイドルだって、時にはぼっちが落ち着く。でもそれを言ったらアイドルとして敗北を意味するから唇はへの字に曲がったまんま。
「あら、そういうことなのですね」
アルモニカは「あなたが犯人ですよね」と暗に断言だ。
こんな時はどうすればいいんだろう?
そうだ。
「こんなところにいられるかぁ!/いられませんね」
かぶった。
しかし関心は大仰に肩を竦めた後者のアウグストに向いたぞ、疑いからその場しのぎで逃れた、やったね。だが注目から外れるとそれはそれで寂しい。
「皆さんも自室で頭を冷やした方がいいですよ」
アウグストは一同から背を向け三歩、そうして首だけで振り返る。
「所詮我々は一般人。どうすることもできやしないんです」
「…………そうですよ、姫ちゃんはやってないです」
だからそこで何故目を逸らすのか。
そんなざわつきの中、やはり同じく2階の自室より姿を現わしたのは南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)である。
「あら、南雲出版のお嬢さん」
セシリアが呼び寄せる前に海莉はポーチを握りしめて逃げるように駆けだした。その顔色は酷く青褪めまるで幽霊のようであったという。
●
――時間は少し戻り停電があけた直後。
「クエっクエっクエっー、これは帝都揺るがすスクープですぞー!」
「待って下さい」
叫び飛び出す吟路か背後の兄か、追わぬことで海莉は後者を選んだ。
「…………」
振り返った視界を占める鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は、見れば見るほど目元が父によく似ている。
「あの……」
にいさん、と呼んでいいのだろうか? 戸惑いにしぼむ語尾へ、
「出て行ってくれ」
章の重い声で告げられた拒絶が重なる。
「……ッ、ごめんなさい」
もたれたドアを押して海莉は廊下へ逃れた。頭はブリキのバケツを被せられて叩かれるかの如く痛くてグチャグチャだ、一度自室に戻ろう。
一方、部屋に残された章は不・可思議の口に刺した針をまんじりとして見据えるも心ここにあらず。
天涯孤独でなんの庇護も持たぬ自分を護る為に生やした棘、それを精神的苦悩覚悟の上で内側に向けて創作へと昇華した。
「……嗚呼何てことだ」
先程まで目の前にいた娘の輪郭が解けてベッドに横たわる穏やかな女性へ変じた。彼女――母は、娯楽なき貧しさの中で退屈を和らげようと様々な謎を孕む話を章へ聞かせてくれた。
「嗚呼……」
父と母の為と得体の知れぬ館に乗り込んできた妹に比べ自分はどうだ? 母からもらえた唯一を嘘の片棒担ぎで汚している自分は!!
「だが、捨てたのは父さんと母さんじゃないか……!」
――嗚呼誰か、止むに止まれぬ事情が在ったと云ってくれ。
こんこん。
『鵜飼さん、食事会の準備を手伝ってくださる?』
「そうだ、晩餐」
そこで全てを暴露する当初の計画を下げる必要が何処にある? 全ての化けの皮をはがす、話はそれからだ。
「わかったよ」
青い髪のカツラを被った小間使いの女へ承諾を伝え、章は折り曲げた原稿を懐に部屋を出る。
●
シャワーを浴びる為、アウグストは身につけた衣も嘘も脱ぎ捨てて陶器めいた肌を惜しげもなく晒した。
彼の絶佳の肢体見ることの出来る果報者はいない、この部屋にいるのは唯ひとりだ。硝子戸の向こうが水化粧で霞み、もうもうと渦巻く湯気が白磁の肌へ朱熱を注ぎ込む。
「あいつもこいつも殺さないといけない……」
湿った頬は邪なる笑みに歪むもミューズを惹きつけて止まぬ容は美麗さを欠片も減じやしない。
「本物の不可思議先生とやらがいらっしゃると……つまりあいつは偽物。そして弟もどうやら無法者で原稿狙い……ふふ、欲深い亡者だらけで笑えてきますね」
美にも才能にも知略にも全てにおいて恵まれし者は、左右より流れ落ちる熱を指でなぞりあげて髪でしとる黒百合を愛でるように洗った。溢れ出る雫が紅を引いたように蒸気する口元へ至り、雫はちろりと赤い舌にて舐め取られる。
「最後に全てを手に入れるのはこのぼくで……」
石鹸の香りを味わうように目を閉じたなら濃密な甘さで満たされる。
やけに、甘い。
そして、痛い。
「?」
胸元で弾ける香しき虹色の小さな珠たちが吹き出る赤色を吸い濁っている?
「な……何故…………」
血化粧をした鏡には、喫驚で目と口をあいたアウグストとチョコレイトの巨体が映っている。
「仕方ないのですよ。我輩も命が惜しいですからな」
吟路の腹を貫いて差し出されたカミソリは、クロードとファンを葬り去った白い手袋が握りしめる。チョコレイトだから殴られたり割られたりしても死なないのだ、すごい。
『あなたは序盤に殺される花形ですわよ』
影朧の声はとろり陶然、しかし手つきは滅多差しのそれだ。
「あ、あ……」
アウグストは血まみれの両手を開いて鏡に押しつけ“パピヨン”と独りごちた。
「ラストシインのようですね? ねえ、――」
辛うじて求め握れた十字架にて招いた焔、あがる悲鳴が届いた刹那、アウグストの瞳が色を完全に失った。
……蝶のような血のしるしだけを、遺し。
●
夕餉の支度で台所へ下がる陽太の提案で、蝶子、アルモニカ、セシリア、挙動不審のいねすの四名はホールへと場所を移した。
「哀しんでばかりはいられませんわっ! キョロを殺した犯人を突き止めてみせますわ!」
ぐっ。
拳を握りしめて奮起する蝶子を前にアルモニカは優しげな眼差しをしてみせる。
探偵三人、キャラも濃厚風味。これはゆゆしき自体だ、早急に対策を講じなくては。
「あたくし、気になることがあるので少し調べて参りますわ」
――それが生きたアルモニカを見た最後となる。
ところで、セシリアも忽然と姿を消しているのだ、これが。
「むぅ……他を疑おうにもこの場所にいない方が多すぎですわー!!」
ドンッ!
テーブルを叩く蝶子にひぃってなるいねす。
「調査は足で稼ぐが鉄則ですわっ! 行きますわよ!」
要は蝶子は退屈しているのだ。
……その退屈は数分後、二階の自室で斃れるアウグストの死体により破られたわけだが。
「きゃあ、いやぁあああああ! 破廉恥ですわーーーッ!」
「やだ、無理無理の無理無理無理の三乗!」
タオルを腰に纏った美しきオラトリオの遺体は、乙女が目にするには色々と危険が過ぎる。故にキラキラ輝くフィルター実装済み。しかし滅多刺しの上絶命の陰惨たる流血シーンはバッチリ、青少年保護の為の表現の規制とは一体。
こんな状態で調査もへったくれもない……と言いたいところだが、いねすは目ざとく鏡の蝶をチェックする。これはつきつけて揺さぶれる重要な証拠だ、きっと。
「キョロ? キョロはどこですのー?! こんなに甘い香りをさせておいて、でてらっしゃい!」
一見すると死体を前にした錯乱に思えるが、実は蝶子の嗅覚は正確であったと後ほど判明するのだ。
●
ありとあらゆる殺害方法を試されたようなクロードと、寄り添うように斃れる自らの刃で串刺しにされたファンを前にしても、アルモニカは眉ひとつ曇らせることがなかった。
不幸だったのは一部始終を目撃していた澪と行き違いになってしまったことである。
「一番怪しい方が亡くなってしまわれたのですね。しかし解せないこと……」
アルモニカは満足下なファンにお義理程度にではあるが手をあわせてぽつり。
「罪を被せるには恰好の物騒な彼女がこんなにもはやく殺されているなんて。愛しの先生と心中……」
まさか、と自身の考えを苦笑にて打ち消した女探偵はクロードの手元に“ろくぶて”との血文字があるのを発見した。“ろ”の下側にクロードの人差し指は添えられている。
「ろくぶて」
ぽく、ぽく、ぽく、ぽく、ぽく、ぽく。
クロードとファンをそれぞれ交互に叩いてみたが何も変化はない。首を捻るアルモニカだが、
――ぶづり。
捻る首が、なくなった。
暗い室内で一瞬光が遮られた刹那の不意打ち。ごろりと転がる瞳は疑問の形に見開かれ、ビュウビュウと血を吹き出す自分の躰をうつしこんでいる。
「……このようなことは、これっきりにしていただきたいものですな」
遮蔽となる黒い塊――吟路は呻くようにぼやいた。
影朧が差し向ける亡霊に付き従う悪のペンギンは、もはや自分(と、お嬢様)だけが助かれば良いと考えているのである。
●
陽太を追うセシリアの足音は、現場に近づくにつれて行きがかり上潜めざるを得なくなった。
(「……これは、なんということでしょう」)
クロードとファンの死体の前に首なしの死体が膝をつき未だに黒い血を溢れさせ続けている。服装と体型からアルモニカであることは一目瞭然だ。
現場記録の撮影は一旦控える、そもそもの目的は陽太へ取り入り原稿を持ち替えることなのだから。覗き見がバレるのは不味い。
「……まさか、作品を書くために殺しに手を染めていたとはな」
「何を言ってるんだ」
陽太が弄ぶナイフの銀色が妙に目につく。一方の相手側は顔も声もセシリアには憶えが殆どない。
「そもそも不・可思議先生には弟などいない」
章の糾弾に対しても陽太は不貞不貞しく笑う。
「ああそうさ。あいつの原稿が手に入れば一生遊んで暮らせるんでな」
(「陽太さんは関係者じゃない……よかった、この身を無駄に安売りせずに済んで何よりです」)
そうしてセシリアの関心は章へ向くわけだ。はてさて、一体彼は何者なのか?
「身内の不始末が表に出るとまずいんでな、ここで罪を償って死ね」
「罪……」
世間を欺く幽霊作家(ゴーストライター)そんな罪の意識が章に躰を硬直させる。
模造品のナイフを振り回す陽太は、さぁ影朧は何処から現れるのやらと周囲へ意識を広げるのは忘れていない。
小説映えするシーンを演出してやっているのだ、どこかでこのやりとりを虎視眈々とみているであろう。
うん、いる。
(『ふ、ふ、ふ……不・可思議の物語の四作目『西洋甲冑殺人事件』に見立てて片付けてさし上げますわ!』)
西洋甲冑を着込み全てを殺す時を今か今かと待ち構えているのだ!
クロードが持ち込んだ証拠物品の数々に加えて座敷牢っぽさも醸し出しているここに、更に西洋甲冑がドンと居座るこの混沌。
「さぁ、兄さん? ははは、まぁ書いてる奴の弟だよ、俺は」
章の頬を掠めわざと外したナイフを手元でくるり、器用に弄んだ直後に胸元を狙い済まして一文字。
「なあに、不・可思議という名は死ねば永遠になるだろうよ、ハハッ!」
悪役ここに極まれり。
――今だ!
と、西洋甲冑の中の影朧と台詞を余さず手帳にメモするセシリアは、ぐっと拳を握りしめる。
「止めて、……兄さんに何をするの!」
あわや章が殺されるという寸前、無我夢中で陽太の背中を突き飛ばしたのは、気持ちを落ち着ける為に館内を彷徨っていた海莉だ。
「てめぇ、なにしやが…………ぎゃ、ッ」
甲冑が九十度に持ち上げた剣へ素早くナイフを噛ませた上で、血糊袋を爪で引っ掻き破いた。そうして、陽太は肺腑に溜め込んでいた呼気をここぞとばかりに吐き出す。
「ぎゃあああああああああぁぁぁああああああああ!」
それこそ館全体に響き渡るような叫びに変えて。
茫然自失する南雲兄妹の肩を叩いて正気付かせたのは、一部始終を見ていたセシリアである。
「こちらにいらして。はやく……!」
――数分後。
「なにが起きまし……きゃあああああああ! ここにも死体ですわー!」
「ここにいた……なにこれ、さっきのチョコレートペンギンよりえぐいよもう!」
「ああ……やっとみんなに逢えたよぅ……ここで待ってればよかったのかな……」
台詞はホール側から駆けつけた蝶子、お花摘みと称してまたまた蝶子と離れていたいねす、すんすんと鼻を鳴らして迷っていた澪、の順でお送り致します。
そんな彼女たちから二人を隠すようにセシリアはドアを閉じる。そうして自分を抱きしめ肩をふるわせる海莉へ直球で切り出す。
「不幸な事故でしたね。幸いにも目撃者は私だけです」
「……何が欲しい」
話が早いと章へ破顔。
「あなたがお持ちの『不・可思議先生の原稿』です、そうすれば今宵あったことは全て“見なかった”ことにします」
「僕は不・可思議に搾取されていた、それを事実として公表し僕に作家として生きる道を用意してくれるのなら……」
「善処します」
――綺麗に問題を先送りした。まぁそういう判断は編集長がするものですから。
「わかった」
「勝手に決めないで。あのお話は母さんが作ったもので、権利は父さんの南雲出版にあるのよ」
海莉としては、兄を家族に迎えた上で南雲として本を出したいというつもりだったが、両親に捨てられた恨み骨髄の章からするとしゃくに障る。
「うるさい! 僕の人生の邪魔しないでくれ」
「あっ……」
振り払い突き飛ばされた弾みで海莉の手からポートが落ちた。
ころり、転げ出た薬瓶にセシリアは獣めいた光を一瞬だけ瞳に宿す。何しろ自分が懐に隠す毒薬とよく似たものだったのだから。
「…………成程、わかりました」
すぐにお約束をいただけないのなら、仕方ない。
「明日朝の出立までにご兄妹で話し合っておいて下さいね」
悠然とホールへ向うセシリアを見かけ、澪はむむっと唇をへの字に曲げた。
(「専属契約とかさせないんだから……!」)
漏れ聞こえたセシリアの話しから察するに、不・可思議の作品はここで死んでいるクロードの作ではない模様。
(「盗作かどうかを調べる為に持ち替えれば、お給料アップかな……」)
おいしいご飯を猫さんたちにあげられるかなー。
●
「一度ここで話を整理した方がいいと思いますの!」
上品にナプキンで口元を拭いながら蝶子探偵さてと切り出す。
むぐむぐとおかわりパンを頬張る澪は、デザートのペンギンチョコレートアイスクリンが楽しみで仕方がない様子。
「食事時にする話じゃないと思うなー」
立ち回りを完全に失敗したいねす的には、ずっと黙っていて欲しい案件である。
――原稿のありかを知ったかぶりして、原稿を求める人たちに護ってもらうぞ計画! とか言ってられる状況じゃない。
「澪様、クロードさんとファンさんを殺めたのは確かにいねす様だったと、間違いはありませんわね?!」
澪はちらりといねすの胸元を見た後で、こくりと小さく頷いた。
「白い手袋をして青い髪の人が、クロードとファンを殺したよ。それは間違いない……」
「いや、これカフスですから。ほら、姫ちゃんの指はなんにもつけてないよ!」
勢いづいて立ち上がりぐっぱーぐっぱーしてみるが、全員何も言ってくれない。
「……ッ」
グラスに唇をつけるセシリアは、殺人事件なんぞに振り回されていつまでも真実を切り出せない章の苛つきを気取ってほくそ笑む。
(「そろそろ食後の紅茶がサーヴされる頃でしょうね」)
その通りにワゴンに乗せられきたティセットを新人編集者は受け取りに立った。
「アルモニカ様を殺したのは十中八九はいねす様の仕業ねっ!」
「待ってよ、姫ちゃんと蝶子はずっと一緒にいたよね」
「お手洗いと称して姿を消されていた時と、アルモニカ様と陽太様殺害時刻は重なりますわ!」
「ここにいない葉月先生……は?」
澪の問いかけに蝶子はふるりと首を横にふり、かいつまんで死亡状況を説明する。
「鏡に蝶みたいな模様があったよ、ほらほら姫ちゃん以外だって怪しいよ?」
なんて、そっと蝶子を流し見るも、セシリアが否定する。
「葉月先生は部屋に戻られてすぐに殺されたようです。私は蝶子さんとご一緒しておりましたが、いねすさんと違って姿を消すことはありませんでした」
そうそう、と手をあわせ。
「そういえば、キッチンで準備をされていたのもいねすさんでした。既に住み込んでいらしたんですね」
「はぁ?! それ姫ちゃんじゃないんですけどー?! 誰かが姫ちゃんを罠に嵌めようとしているんですよ!」
……あれ、ちょっとこれ悲劇のヒロインっぽくない?
絶体絶命の窮地にも関わらずいねすは現状の立場にドキが胸胸。ここでバッチリとセルフプロデュースして、一気に悲劇のサクミラスタアの座を獲得! 少女雑誌の巻頭特集席巻して役得!!
つまりはここでの最良の行動は、ヒロイン泣き崩れる!
「ひど……」
ガンッ!
いねすの泣き崩れは、思うさま殴りつけられたテーブルの揺れにて阻止された。
「もう茶番は沢山だ……」
「茶番?! 姫ちゃんの演技が下手とか言うなー!」
そこに掛かる訳じゃあないんだけど、自ら窮地に陥る失言をしていくスタイルさすがです。
一方の章は怒気にて眉を引き攣らせつつも落ち着く為に紅茶を飲み下す。
「ふー……皆さん、聞いて下さい。実は僕が……ぐっ!?」
はたり、と白いテーブルクロスに赤色の染みが、落ちた。
「…………まさ、か……紅茶に毒が?」
「兄さん!!」
顔色変えて駆け寄る海莉を冷たく手で制したのはセシリアである。
「お待ちください。海莉さん、証拠隠滅をしようとしてもそうはいきませんよ」
わざと肘をあてポーチを取り落とさせる。転がり出た瓶をまことしやかに毒薬だと説明する傍らで、章は咳き込む度に夥しい鮮血を吐き出し海莉へ絶望的な目を向けた。
「ち、違う。私じゃない……兄さん……」
それは余りに哀しい誤解だ。
「ふ、ふか……」
しかし彼は妹と言葉を交わすよりも自らが不・可思議の影にあった悲劇の作家であることを告発することを、選ぶ。
「し、がっ……」
だが、章は最後に大量の血を吐き出すと唐突にテーブルに突っ伏した。瞳から溢れた無念の涙は果たして告発ならずの悔しさか、妹に毒を盛られて殺されたと信じたからか。
「彼は、彼だけは殺さないっ!」
激しく首を揺らす海莉を後ろから黒い影が羽交い締めにする。
「クエっクエっクエっ♪」
紅茶を全てココアに変える勢いの甘ったるい香りをばらまいて、吟路ここに帰還!
「本物の不・可思議先生も亡くなられて、その犯人は実の妹、ですと!? このスクープを手に帝都に戻りますぞ、お嬢様!」
「!!!!」
蝶子の瞳が哀しみで見開かれた。
――葉月の鏡に刻まれた蝶の血模様。
――いつものことで鼻が慣れていた、否、だからこそ殺害現場に漂うチョコの香りにキョロの姿を探した。死んでいるにも関わらず、だ。
「そんな、キョロが犯人だなんて……!」
「そ、そそそそそ、そんなこと、ありませんじょ?!」
違うって言えないぐらいには殺害に協力したんだなこれが。慌てふためく吟路の腕が緩んだので海莉は脱兎の如く逃げ出す。
(「ごめんなさい、ごめんなさい、兄さん……でも、絶対に仇は取るわ。母の考えたトリックは未発表分も含めて全て頭に入っているもの」)
やはり殺したのはあの編集者だろうか? いや、チョコレートの人もここに来て怪しさが爆発している。澪だってしたり顔で重要な証言を垂れ流しているが、それが全部嘘だとしたら?
嗚呼、一体誰が兄を、そしてこの屋敷に招かれた彼らを殺めたのか……。
「?」
横目でいねすを捕らえた海莉は、こくり、と頷き笑顔を見せる。
(「多分この人は違うわね。スケープゴート、母さんがよく話してくれたわ、引っ掛けで用意されている怪しい人ほど犯人じゃないって」)
しかしその笑顔は甚くいねすのプライドを傷つけるわけで。折角悲劇のヒロインルートに持っていこうと思っていたのに!
「ていうかヒロインの役回り持ち逃げされてない? このままだと姫ちゃん散々ひどい目にあった挙げ句ザコモブ確定じゃないですかー?!」
いねすの悲痛な叫びを背にホールを駆け出す海莉。
「あ……待って」
燭台を手に心配と追いかけるのは澪である。
「執事が犯罪者など、森永家末代までの恥!」
一方背後は悲惨な状態に陥っていた。
「わたくしの手で決着をつけますわ!」
蝶子お嬢様のテーブルプレスが再び炸裂いているのだ!
がづり!
そんな大騒動に紛れ、滑らかな動きの女中が硝子の灰皿でセシリアの後頭部を打ち据える。
「……ッ」
無言で絶命するセシリアなど森永家主従のアウトオブ眼中。
「キョロ! 観念なさい!」
蝶子お嬢様がキョロへ皿やら燭台やら投げつけるのを「我輩は打撲刺し傷は無効なのですじゃよ、ほほほーほほふー♪」なんて煽る地獄絵図。
カチン!
あ、そんなキョロに影朧がイラッてした。
『そろそろ用済みですわ』
「な、なぁあああ! 氷は駄目ですぞ!」
未成年も安心お子様ワインを冷やしていた氷をしこたまぶっかけられて冷やしチョコ菓子と化する吟路。そこにお嬢様の投げつけた紙束――章の書いた本物原稿なわけだが、がクリーンヒット。
「…………く、吟路。ごめんなさい、森永家の名誉の為なのよ」
『落ち着かれますよう、どうぞ』
「あら、ありがとうございます」
差し出された水を煽った蝶子は、唇の端から一筋の血を流し倒れ込む。
「あ、ああ、お前が姫ちゃんの偽物かーーー! ねえねえ見たでしょ? 姫ちゃんの身の潔白が証明される瞬間を」
▼しかし 誰も いない
「…………………………」
▼しかも 影朧すら このどうしようもない姫ちゃんを 殺してくれやがらない
「うわーん、誰も信じられない、こんな所にいられるかーーーー!」
滝涙。
●
「くっくっく、誰かが近づいて来ても静電気ひとつでドカンだ」
離れに閉じこもり内鍵をかけた。その前に周囲には執拗にガソリンばらまき済み――もはややけくそ気味の犯人ムーブにいねすは心から酔っ払っている。
「もう、誰も姫ちゃんを罠に嵌めることはできないぞ。追い詰めたから悪いんだからなー!!」
誰もいねすを止められない。どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!
「……」
窓を振るわせる高笑いを背に座り意気消沈の海莉は、あたたかな蝋燭の光と差し出された原稿用紙の束に涙目を瞬かせる。
「専属契約とかさせないんだから……! って思ってたんだけど、海莉が持ってた方がいい……」
「うぅ……にいさん…………」
「わたし、いねすはやっぱり犯人じゃないと、思うよ……」
あれだけ疑いを煽っていたのに澪さんこれである。
「お兄さんの無念を晴らす為に、真犯人を探そうよ。なにか思い当たること、ない……?」
「母はこう言ってました……“やっぱり、男装のロリ探偵なんて設定は、ダメ。衆道こそ、至上”と」
『その台詞はどうあっても織り込めませんし、作品からは削除させていただきますわ』
!!
二人の娘の前に、甲冑が手にしていた剣を構え立つは此度の黒幕影朧――随遊院茫子である!
「逃げて……」
澪が海莉を突き飛ばすが、遅い!
からん。
二人に灯りを与えていた燭台が倒れ、立て続けに、
どさり、どさり。
血染めの体が二つ命を失い斃れこむ。
更に、人の手を離れた三本の蝋燭は、黒い水筋を求めて焔の手を伸ばした。
「ひぃ……!」
ところで、その有様を窓越しに目撃していたいねすは顔面蒼白である。
「あれ? あれあれ? これって姫ちゃん閉じ込められてない!? このままだとこんがり焼きあがっちゃうよね? 蝋燭なんて危ないもの持ち込むのヤバいよ」
さっき静電気でドカンだって言ってたの誰だ。
壁越しだろうが木が爆ぜてパチパチと音をたてているのが聞こえるにあたり、いねすは焔と反対側の窓目がけて一目散。
「早く逃げないと! やった姫ちゃんだけ生還! 奇跡で悲劇の少女スタアとして有名になって少女雑誌の巻頭特集で――」
がららら!
カッ……!
どかーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!
『…………………………』
いねすが取り入れてしまった外気によるバックドラフトで粉みじん、目の前の状況に茫然自失の影朧であるが、煤けた袖を口元にあててこほんとわざとらしく咳払い。
『ふ、ふ、ふ、これで全員死にましたわ――面白可笑しき大作小説を巡る殺人の戯、あとはわたくしが綴るだけですわ!』
殺しましたと言えなかった時点で既に負けていると指を指してはいけない。
●
氷付けにされたペンギンが融け始める頃。
――シャワー室にて。
繊細な指が蛇口に到達すると湯が溢れ出た。アウグストは赤く汚れた身を清め十字架を胸にかける。
――偽不可思議先生殺害現場にて。
串刺しにされた白き娘の遺骸がパッと花散らすように朽ちて消えた。置き去りにされた刀にしゅるりとしなやかなる指が虚空から現れて絡みつく。
目を開いたままの女の生首は、どろりとした黒に巻き取られ在るべき場所へと戻っていった。
「随分と無茶ができるものだね」
くつくつ笑いを漏らすクロードは血色豊かな肌で椅子にふんぞりかえり、傍らでは弟役の男が身を起こす。
「器物さえ無事なら、返り討ちも上等」
ファンはしっくり馴染む器物を握りしめるとぽんぽんと肩を叩き、
「ふふ、何かと自由の利く身体ならではの芸当でしょう」
アルモニカも涼しげな顔で切れ目をなぞり馴染ませる。
ヤドリガミにブラックタール、女達はそれぞれ身体を修復すると生還を確かめるように向き合いニィと笑い合うのだ。
「おやおや、ここまで現場を荒らされてしまったら、調査どころじゃなかったかな?」
なんて嘯きながらもクロードは満足一色!
無論、全ての猟兵死んだふり。
さァて騙されきっている影朧の運命や如何に?
大成功
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第3章 ボス戦
『七光ラズ・随遊院茫子』
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POW : 「…と、死体は何れかの部位が欠損していますのよ」
【猟奇殺人の小話 】を披露した指定の全対象に【自分も是非このように殺されたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
SPD : 「ふふふ、斬殺殴殺扼殺刺殺なんでもござれですわ」
【惨たらしい猟奇殺人を犯したわたくし 】の霊を召喚する。これは【華麗なる見立て殺人で使われた凶器】や【咄嗟の思いつきで凶器にしたその場にある物】で攻撃する能力を持つ。
WIZ : 「わたくし以外が綴った小説なんぞ燃えておしまい」
【万年筆にて綴られる禍々しき文言 】が命中した対象を燃やす。放たれた【原稿用紙と彼岸の花を火種に燃え盛る怨恨の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠稿・綴子」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
透かしレースが上品な白い手袋が万年筆を軽やかに走らせる。
ファン→クロード→アウグスト→アルモニカ
海莉→陽太
蝶子→吟路、セシリア(巻き込まれ)→章
澪→いねす
「おわかりいただけまして? 絡み合う怨恨と不幸な事故の積み重ねで非常に複雑な筋の噺となっておりますの!」
朱紅の袖を翻しはしゃぐ七光ラズ・随遊院茫子(ずいゆういんとおこ)の声は、がらんとしたホールに甚く反響した。
「…………」
ここにいるのは茫子とあとひとり、目と口と鼻だけあいたマスクを被る男だけだ。
「不・可思議先生」
びくり、と男が肩を震わせる。
殆どがひっくり返されている中、かろうじて平行を保つテーブルの端には茫子が綴った『殺人相関図』の原稿用紙が置かれている。
「ご質問はありまして?」
――当然ありますよね? と暗に圧力をかける女教師めいた見下しに、作家不可思議はゴクリと唾を飲み下した後、怯えのまぶされた震え声で答えた。
「……ファンと海莉と澪と蝶子は誰が殺したんだい?」
「ふ、ふ、ふ、そうですわねそうですわよね! ではこういたしましょう」
ファン→蝶子、澪、海莉
時系列なんぞ全て無視。
「彼女たちはそれぞれ“不・可思議先生”に近づいてますの。盲愛と嫉妬に突き動かされた熱狂的フアンからすれば、彼女らは害虫に等しいですわ!」
インクしたたる万年筆を掲げて、茫子は何処へともなく主張する。
「王道? 陳腐?? 大いに結構ですわ! 民衆が歓べば其れこそが正義!!」
この隙だらけの女を、不可思議は心の奥底より恐れ逆らうことなぞ出来ない。
何しろ、数日前に乗り込んできて有無を言わさず自分を監禁したこの女は“影朧”なのである。
幸いにも、言われるが侭に招待状をしたためたならば飲食だけは許されて生き延び今に到る。しかしながら此の奇妙にして奇矯たる対話が終われば自分の命の焔が尽きるともわかり過ぎている。
「先生」
くるり。
おさげをゆらして振り返る娘の瞳は爛々と爆ぜ盛る。
「先生にはファンを殺して自らも命を絶つ、という役柄をお願い致しますわ。だって偽物がそこに収まっているなんてお噺として美しくありませんもの」
よもやここまで! そう危ぶまれた作家不・可思議の命だが安心したまえ! 諸君ら猟兵達の手で救われるのは確定しているのだよ。
――さぁさぁさぁ、最後まで存分に遊んでくれたまえよ?
======================
【マスターより補足】
>プレイング受付期間
1月24日(金)8:31~
>3章目
イメージ:クライマックスの「犯人はお前だ!」をやりつつ影朧をぼっこぼこにする
戦闘シーンですが、
探偵っぽく犯罪や動機を曝いたり(捏造歓迎)
白日の下にさらされる衝撃の事実に戦く役を堪能していただければと
他にもお好きなようにどうぞ
>不・可思議先生
茫子と猟兵が戦闘になった時点で生存ルート確定です
画面外でスタコラサッサと逃げきりますので、プレイングでのフォローは一切不要です
>転生について
説得は不要です。2章までのノリで遊んでくださいませ
(プレイングで希望される方がいない場合は、本文中ではふれません)
それでは良き殺人劇を!
森永・吟路
記憶が混乱、死にたくないからと影朧の手下に
「ん? 違う? 少々お待ちを……」
帽子取って頭パカっと開けて脳チョコを取り出し『過去だよ』と書かれた箇所を押す
「思い出しましたぞ! 吾輩、娯楽雑誌パピヨンから参りました――
「ん? 違う?……」
再び脳チョコを取り出し『OPだよ』と書かれた箇所を
「はっ!? 影朧を倒さねば!」
「今こそ吾輩の真なる力を解き放つ時!」
超サイヤ人変身時っぽく
≪鳥の王様≫を使用……が、いつまで経っても変身できんない事に疑問。
「っ、お嬢様ソレは!?」
お嬢様が危ない時は叫んで庇う風(届かない)
戦闘はなんやかんや
◆影朧を倒したらお嬢様に今回がどんな事件だったか聞く
此度の事件、題するなら?
アルモニカ・エテルニタ
まあ、まあ!貴女が此度の脚本家ですのね
お目にかかれて幸栄ですわ
探偵らしいあれそれは共演者の皆様にお任せ致します
あたくしからは“探偵”の動機について語らせて頂きましょう
事件ある所に探偵あり。逆もまた然り
あたくしの周りで殺人が起こっても不思議ではないし、誰もあたくしが犯人だとは思わない
だって探偵ですもの
そして誰もいなくなった舞台で、勝ち誇る犯人を手にかける時の高揚感といったら!
……と、いう筋書きですわ
随遊院先生には犯人、もとい最後の憐れな犠牲者の役になって頂きます
探偵が犯人であってはならないだなんて、そのような野暮は仰いませんわよね
ね?
そうと決まればいざ尋常に。正面切っての殺し合いと参りましょう!
萩埜・澪
そこまでだよ
あなたのやったことは、全てぺたんとどこまでもお見通しだよ!
わたし達を殺したのは茫子、あなただよ
生きてるけど
最初にクロードとファンを殺したのは変装したあなた
その白い手袋とちっぱいがその証拠だよ…見てたんだから…
わたしと海莉に襲い掛かったのもあなた
だって見たし。推理よりも確かな目撃情報だよ…
他の皆を殺したのも全部あなた
UC使って、ずーーと祈りのポーズの儘
自分と皆の論理の成功率を上げるよ
捏造上等、成功率が上がれば真実
どうしてくれるの…この燭台お気に入りなのに前より黒いよ…
修理大変だよ(すんすん
攻撃されたらカウンターで返し
鋼糸で罠を巡らせ
燭台で殴る
祈りでUC成功率を上げ、攻撃成功率も上げる
森永・蝶子
えーっと…つまり、これはどういうことですの?
状況が把握できぬまま眉間に皺をよせ
影朧を見て
この方はどなた?と近くの人に聞いてみたり
一体何をなさっているのかしら?先生は?
姿を探すが偽物しか知らないので本物を見ても気づかない
少々疲れましたわ
ふぅっと溜息をつくと
キョロの脳チョコに手を伸ばしてぱくっと食べる
(チョコレヰト天国使用)
チョコを食べれば復活
そう、わたくしは探偵ですから
やらねばならないことがありますの
「犯人は…あなたですわ!」
びしっと指差す先は本物の不・可思議先生
え?違う?本物?
「影朧が犯人?では貴方ですの!」
影朧ではない?
もう!わけがわかりませんわ!
イライラしながら自棄になってテーブルを投げる
●
「そこまでだよ……あなたのやったことは、全てぺたんとどこまでもお見通しだよ!」
バンッと玄関のドアを開け放つ音と共に、まろみと芯を併せ持つ萩埜・澪(慈愛の魔女・f22505)の声が空を打つ。
生まれた隙を見逃さず。不・可思議を害せんとす茫子の指は、しっとりとした肌触りのそれにくるまれ阻まれる。
「まあ、まあ! 貴女が此度の脚本家ですのね」
阻んだのはアルモニカ・エテルニタ(Colchicum・f22504)
彼女は人の形をしている、確かに。変幻自在で首がもがれようとも生きているが、さておき。
「お目にかかれて幸栄ですわ」
すっと引き寄せられた茫子。それにより目が離れた不・可思議は、ヒィと冷たい空気の方へと走り出した。
むくり。
足音で目が醒めたか森永・蝶子(ハイカラさんの猟奇探偵・f22947)が半身を起こしたからさぁ大変。
「きぃ、やあああああああああああああ」
不・可思議先生絹を裂くような悲鳴をおあげになる。野太い声は中年男性のそれ
「……煩いですわね、もう……先生はどちらかしら?」
そこで生まれたての仔羊の足のようにぷるぷる震えている怪しい覆面中年男性が当の先生であるとは、微塵も思わぬ蝶子お嬢様である。
「さ、こちらからお逃げなさいませ」
アルモニカに促された不・可思議先生、堂々たる足取りでホールに戻る澪とすれ違い無事退場。
ふんす、と仕切り直し。
「わたし達を殺したのは茫子、あなただよ」
『生きてるじゃあありませんの!』
「む……」
びしぃ!
そんなものは矛盾の彼方へと流しきり、黒手袋のすんなりとした指は茫子を犯人と糾弾するのである。
「最初にクロードとファンを殺したのは変装したあなた、その白い手袋とちっぱいがその証拠だよ……見てたんだから……」
「ッ! あ、あなたに言われたくありませんわぁ。そもそも! 和装は胸が目立ちませんのよ」
ちっぱい同志の激しい口撃を、アルモニカは艶然なる微笑みを浮かべて見守っている。体型自由自在だが恐らく今は上品ながらもやや豊満で形良い貴婦人のお胸であることだろう。
「そう、和装は胸が控えめに見えてしまいますの! むしろ豊かな方は晒しを巻いて整える一手間が必要なんですわ!」
蝶子もここぞと加勢するが、ふっと目の前で万年筆をぴくぴくさせる見知らぬ女性に首を傾げた。
「……ところで、この方はどなた?」
「此度の脚本家、全ての黒幕ですわね」
アルモニカの紹介にもさして興味なさげにふうんと鼻を鳴らして済ます蝶子@さっきまで毒殺死体でした。
「黒幕さんが一体何をなさっているのかしら? 先生ではないのですよね?」
「不・可思議先生なら、先程ぴゃーっと逃げていったよ……」
「まぁ! 先生がいらっしゃったのですか? サインをいただくのを逃してしまいましたわ! それもこれも全てキョロが要領が悪いからですわよ」
ぺちぺちと氷を叩いていたら崩れ割れ、巨大チョコボー……森永・吟路(愉快な仲間・f22948)が投げ出されるマグロめいた重たい音をたててまろびでた。
ごんごろごん。
「ん?」
解凍OK! ペンギンも復活したよ。
「!? どういうことですの、みんな確かにわたくしが……けほん」
おおっと、危うく自分が真犯人と吐いてしまうところだった。だが隠しても無駄である、漆黒の瞳をまんまるに見開き茫子の姿にヒィッと唇を縦にあいて悲鳴をあげるチョコの鳥がいるからな!
「も、申し訳ありませんぞ! 我輩、死にたくないので手下でもなんでもやらせていただきますぞ……」
「キョロ、もうその時期はとうに過ぎましたわよ!」
蝶子の指摘に首をかくんと傾け……られないな構造的に、うん。だからシルクハットを外し、
バカン☆
蓋のようにあけた頭頂部の中から脳チョコを取り出した。
……脳を出すとか字面はグロいがそこはご安心ください、とてもファンシーでスイートな情景です、お子様も安心ですじょ♪
「××××××××!!!!!!!」
だが、
首を傾けるなんて常識的な表現に収まらぬ吟路の有様に影朧は声なき悲鳴で腰を抜かすのだ。
「はやく思い出しなさいな」
蝶子はいつものことと慣れて腕組みで頬を膨らます程度だし、
「おお……」
澪の顔には「ペンギンチョコと味は違うのかそれが問題だ」って書いてあるし、
「あら、便利ですわね」
『過去だよ』との文字を見てアルモニカはぱふりと手をあわせる。
「思い出しましたぞ! 吾輩、娯楽雑誌パピヨンから参りました――」
「更に遡りすぎていますわ!」
蓋が開いて薄くなっている部分を加減して叩く蝶子の掌、気遣い満載。
「これ、なに……?」
とうとう好奇心が抑えられずに『OPだよ』と書かれた部分を澪が横からちょんってする。
「はっ!? 影朧を倒さねば!」
ギラーン!
吟路の瞳が黄金の輝きを孕み、羽根がボコボコと肉体の根底から筋肉を張り変化していく。
「今こそ我輩の真なる力を解き放つ時!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
「ひ、ひぃ……」
その物々しい擬音と光景にぷるぷると首を振る茫子さん(年齢不詳/職業影朧)である。
「……な、なんて非常識な方逹ですの……猟奇殺人犯も真っ青、これではお話になりません。わたくし帰らせていただきますわ」
――何処にだ。
全員からの無言の圧に固まる茫子へ、アルモニカは滑らかな足取りで回り込む。その背には廊下へ出る扉がある。
「まぁ、あたくしの独白も聞いてくださいませんか? 脚本家の掌の上にて踊った探偵の“動機”でございます」
傍目に見て掌の上なのは影朧茫子の方なのだが、それでも超進化して明らかにヤバくなっているペンギンの相手をするよりはマシだ。
こくこくと頷いた茫子は、吟路から躙るように離れてアルモニカを盾にした。
「事件ある所に探偵あり。逆もまた然り」
「わたくしも探偵、森永蝶子ですわ!」
「わたしも探偵だよ、お仕事募集中……」
そう、偶然にもここには探偵三人勢揃い!
「あたくしの周りで殺人が起こっても不思議ではない」
アルモニカへスポットライトが当たったのを察知し、澪は祈りはじめる。
「これだけ集まったのならなおさら。そして、誰もあたくしが犯人だとは思わない」
するとどうだろう、これからの言葉全てすこぶる信憑性を増すではないか。
瞳をキンキンと光らせ、きなこチョコボー……状態に輝く吟路を背景に、アルモニカは未だ理解が追いつかない茫子へ人差し指をちっちっち、と揺らした。
「――だって探偵ですもの」
ふふ、と艶然たる微笑みでソファに腰掛けアルモニカは形のよい足を組んだ。その横にすらり立ち、澪は祈りの指を解く。
「つまり……あなたはこう仰りたいのね。全ての犯罪は探偵を笠に着たあたくしの仕業ですわ――と」
茫子さん、完全にアルモニカの術中である。生徒が正解を言い当てた満足さを浮かべ女探偵は頬に掌を宛がう。
「そして誰もいなくなった舞台で、勝ち誇る犯人を手にかける時の高揚感といったら!」
さて。
「随遊院先生には犯人、もとい最後の憐れな犠牲者の役になって頂きます」
「そうはいきませんことよ!」
袖翻し下がりしゃがむ茫子はテーブルから滑り落ちた燭台へ指を伸ばす。
しゅるり。
「あーれー」
嗚呼なんと言うことだ、茫子の手首に鋼糸が巻き付き吊し上げられるではないか!
「燭台は武器には非常に有効……拾うと罠が作動するように仕掛けておいたよ……」
くいっくいとと澪は器用に鋼糸を操りますます茫子を天井送りの刑に処す。
「まぁ、犯人は澪探偵といったところでしょうか。これはおカブを奪われましたわね」
アルモニカさん、安楽ソファ探偵モードでしたり顔。とぉっても楽しそうである。
「おろしてくださいませぇ」
床から浮いてジタバタする足から草履が抜ける。
ひゅるりら~。
「?」
「っ、お嬢様、危ないですぞ!?」
どんがらがっしゃーん!
草履が蝶子の頭に落ちるのを見て取りスーパー吟路が床に押し倒し庇う。
……ぺそり。
吟路の背に当たる草履は所詮草履だ。つまり痛くもかゆくもない。
「むぎゅう……」
むしろ床に打ち付けた頭の方が痛いよ。
「な、なんと……よくもお嬢様を……!」
きなこチョコに苺ソースが掛かったところで、にょきりと伸びた腕が頭に突っ込まれる。
「頭痛には糖分補給ですわ」
「ぷしゅりらぽぺぱ~~」
脳チョコを取り出された時点で吟路のキングモードが解除となるが、更に想像を絶する展開が?!
かぷり。
蝶子さんは、脳チョコを食べる。
「んー……! これぞ此の世の天国ですわぁ~」
ぱらりらりー♪
至福の微笑みを浮かべ、もりもりと気力体力を回復する、チョコレヰトは正義。
「え、食べられるの……?」
澪が鋼糸から手を離し駆け寄ってくる。背後で落下した茫子がサンドウィッチの盛り皿に埋もれてるがそんなことは知らない。
「ええ、おいしいですわよ」
蝶子は『OPだよ』の部分をぺきりと割って澪に手渡す。
あぐあぐあぐ……。
「……は、影朧を倒さないと。でもチョコおいしい……」
「成程。あたくしも一口よろしいかしら」
ぺきり。
敢えて何も書いてないところを割って食べるアルモニカ。
「これは……中々」
「ふ、ふ、ふ……頭に糖分がまわり、今回の事件の全貌がわかりましたわ! そう、犯人は……あなたですわ! 覆面紳士!」
▼とっくにいない
▼しかも 彼は 本物の不可思議 だ!
「もう! わけがわかりませんわ!」
恥ずかしくて顔から火が出た蝶子は、先程強化された力でもって軽やかにテーブルを持ち上げてひっくり返した。
しかし吟路は球体を活かし転がり逃れて、巻き込まれたのは茫子のみとなる。UC力が乗るので確り痛い。
「……死なば諸共ですわ。喰らいなさいませ!」
テーブルの下から震える万年筆で床をガリガリ引っ掻けば、怨念と物語籠もりし文字列は焔となりて猟兵達へ襲いかかる。
「そうは、させないよ……」
煤で汚れた燭台を掲げ轟音あげくる焔を残らず蝋燭で灯し奪うと、そのまま滑走し茫子の顔面を殴りつけた。
カウンター更に倍! どかばきどかばき☆
「……むう、お嬢様、此度の事件、題するなら?」
「そ、そうですわね。考えるから、もっとチョコレヰトを下さいませ」
「お嬢様、これ以上食べられてしまうと我輩は色々と色々ですぞ」
色々らしいので、ここはアルモニカが纏める。
「随遊院茫子先生殺人事件――でしょうか」
わぁ、殺す気満々だぁ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ファン・ティンタン
【SPD】理知の証明【グラップル】
盲愛殺人鬼とは酷い言われようだね
私はただ、舞台に忠実な一役者でしかなかったと言うのに
……そうだよね、みんな?
まあ、いいや
散々手間取らせてくれた黒幕には、相応の目に遭ってもらうよ?(バァーン)
敵の霊召喚には【無銘】と【星影の魔剣】で対応
物での攻撃は大体この二振りで対応出来るけど……
そう言えば今回、バックドラフトなんて発生してたっけ
場合により【天華】に諸々を込めて【投擲】、【念動力】も込みで修羅場を潜り抜け茫子を直接狙う
【天華】で直接触れられればこちらのモノ
【天華泰平の儀】、発動
―――さて、あなたを詐欺罪と名誉棄損罪で訴えるよ
理由はもちろん、お分かりだね?(以下略
クロード・キノフロニカ
「あれで僕を殺したつもりかい?」
何事もなかったかのように現れ、殺されたときに見たことを洗いざらい証言
君は不・可思議先生を騙る僕が許せなかった
だが僕だけ殺したのでは動機も何もかもバレバレになってしまうから、その場の全員を纏めて殺すことにした
そういう事だろう?
「今、どんな気持ちだい?答えてみなよ」
【傷口をえぐる】ように煽りながら【指定UC】発動
もちろん、僕が満足するような答えが返ってくるまで、砂糖菓子の怪物は君を逃がしはしないだろう
ほら、悔しいって素直に言えば楽になれるよ?
逆上して殴り返してくるなら【学習力】で行動パターンを読んで可能な限り回避
猫じゃらしの首絞めなんて、もう僕には効かないよ
鵜飼・章
くそ、こんな所で死ねるか…!
ぎりぎり致死量に足りなかったようだな
しかし妹の様子を見れば毒を盛った犯人とは思えず
妹よ…僕は生きているよ
聞いてないね
所詮ゴーストはゴーストらしく【闇に紛れ】てればいいんだろう
拗ねて気配を消す
母の遺書…!?
この胸の裡から溢れる闇(装備品)は
まさか不治の病の前兆…
僕はもう長くないのかもしれない
けれど此処に確かな絆を見つけたから…
この戦いが終わったら
僕は真・不可思議として作品を出すよ
『異世界転生したら兜蟲に殺された件』を…
あ、そちらが本当に本物の不先生?
とんだ災難でしたね
まあ死体消失トリックでも見ていってよ
完全犯罪【悪魔の証明】を
真犯人が誰だって
この事件の被害者は唯ひとり
南雲・海莉
そう、あなたが兄さんの仇っ!
(懐から血糊袋とマインゴーシュを取り出し)
(隣で兄さんが生きてても手を緩めず)
吹き飛んだ金庫の中から見つけたの
『盗まれた原稿と母の遺書』を
あんたが盗んだのね
(紙の束を翳し)
母は貴腐人だった
息子にうつさない為に養子に出したとある
不治の病(と書いて中二病)をっ
【演技】【おびき寄せ】【存在感】【パフォーマンス】で本人も霊も煙に巻き
更に【武器受け】からのコピーUC発動
無駄よ
母のトリックは全て頭に入ってる
これが未発表にして未完の大作『衆道寺の大蛇』よ!
(蛇に見立てた荒縄で縛りに)
(内容は決して訊いてはいけない)
(ふっと笑み)
……死人が出るのは物語まで
その先の現実では許さない
●
“――何故そこで逆さ吊りとしないのか。鋼糸を掛けるならば足首だろう。倒錯が足りぬ!”
ホールを出でて尻餅状態の不・可思議は、一連の状況を前に親指をギリリと噛みしめる。
「くそ、こんな所で死ねるか……!」
そこにがばりと、毒紅茶にて絶命していた筈の苦学生実はゴーストライターなる鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)が身を起こしたからさあ大変。
「ひ、ひぃ!」
「し」
後ろから口を塞がれ悲鳴は胃へと戻る。羽交い締めにしてから章は、はたと瞳瞬いて、
「どなたですか? ……ああ、本当に本物の不先生ですか。とんだ災難でしたね」
なんて嘯き章は外への扉を指さす。それに従い不・可思議先生、今度こそ脱兎の如く退場。
さて、喧噪さめやらぬホール中央、茫子は顔に張り付く蝋を擦り落し視界を確保し、驚愕で目を見開いた。
「嘘、あなたも生きてらしたなんて……!」
応じる代わりに南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)はマインゴーシュを構え無拍子で突きにかかった。
「兄さんの仇っ!」
「くっ……」
茫子は後ろ手にとったトレイで辛うじて受け流した。
「妹よ……僕は生きているよ」
致死量足りてないと説明しようにも、妹は疾風の歩で詰め寄り猛攻をかけているわけで。
ふむと頷いて、章はとりあえず海莉へ影のように寄り添い闇に融けた。そこは幽霊作家、うまくやれる。
「はっはっは! 随分と賑やかでいいね。これこそ、最期の舞台に相応しい」
バーンッと、無駄に派手にドアを両開きして登場したのはクロード・キノフロニカ(物語嗜好症・f09789)――そう、偽の不・可思議御大である。
「な……なんてことかしら?! あなたは確かにあの盲愛……」
「盲愛殺人鬼とは酷い言われようだね」
す、と、
シャンデリアの煌めき吸ってなお夜空色の刀身が影朧の首元を舐める。
「私はただ、舞台に忠実な一役者でしかなかったと言うのに」
九十度傾け刃で少しだけ撫でてから離すとファンは真っ赤な絨毯を踏みしめ下がった。
「……そうだよね、みんな?」
見事な沈黙。
「まあ、いいや」
いいのか。
「散々手間取らせてくれた黒幕には、相応の目に遭ってもらうよ?」
人差し指を突きつけつつも、あいた手は密かに帯びる天華の柄へ翳されている。
「本当に人を喰った方ばかりですわね」
白い足袋の足元より滲む影の膨張は棒状の物を手に三日月笑いの茫子の形を創った。
「ふ、ふ、ふ……あなたを刺したその刀、お借りしますわよ」
腰に捧げ持ち滑走する亡霊を小太刀で掬い上げ瑠璃で叩き落とす。危なげなく亡霊を捌くファンの武踊が一段落といった所で、クロードは再び口火を切る。
「忠実なる役者とはうまいね。如何にも、僕達は演じ語り……騙った」
クロードは首についた痕跡をこれ見よがしにナプキンで拭い綺麗さっぱりと消してしまう。
「君は不・可思議先生を騙る僕が許せなかった。そう、まさにイレギュラーだったのだろう? そもそも偽物はキミが名乗る筈だったのだからね」
浪々と披露する推理が的を射ているのは、茫子の唇が歪み釣り上がることでも明らかだ。
「そう、本物ですらなかったのね……」
海莉は端が煤けた紙の束を翳し眉を吊り上げる。
「吹き飛んだ金庫の中から見つけたの……母の原稿と遺書を。あなたが盗んだのね、不・可思議先生を演じる為に!」
「そう。見つけてしまわれたのですね」
そもそもが南雲家の設定全て突発的な追加であり即興(アドリブ)が必要とされる場面だ。さぁさぁ、脳みそを絞り語り騙れ。
「ふ、ふ、ふ……実はあなたのお母様のお友達でしたのよ」
物語には前振りが必要である。例えば推理小説ならば、動機の伏線が仕込まれているのが肝要なように。
「……そういうことか」
「兄さん! ああ、生きてたのね」
兄の姿に感歎し海莉は口元を覆いて蹌踉めいた。
「随遊院さん、あなたが僕を浚ったんですね」
「ひどい……」
瞳を潤ませ肩をふるわせる海莉と、何処か安堵と清福を滲ませた眼差しで彼方を見る章を前に、茫子は割り切れぬ気持ちで黙り込んだ。
(「どう見てもわたくし、そちらのお兄様と同じ年頃でしてよ」)
けれども語って聞かせねばなるまい。なにしろそういうユーベルコードであるからして。
「そうですわ。あの日、まだ幼き章様は……」
カハッ!
しかしその語りは章の喀闇の咳き込みで速攻遮られた、つまりユーベルコード発動失敗。
「兄さん……!」
「これは、まさか……そうか、僕はとっくに冒されていたのか」
胸より溢れ出る闇は青ざめた頬と見えるように纏わり付く、彼? は空気が読める章の親しき友人だからそれぐらいは朝飯前だ。
「母は貴腐人だった」
「育ちが宜しくていらっしゃるのね」
「例えば絡み合う知恵の輪すら閉じた熱愛の世界へ捏造してしまえるぐらいには」
そっちかー!!
尊く腐ったお人の遺書を解く海莉の手元を兄もそろい見据え、茫子もまた更なる展開を待ち構え息を詰めた。
「え……話が違う。こちらが真実? 息子にうつさない為に養子に出したと、あるわ。そう、不治の病(と書いて中二病)を」
「かはっ、ゲホッゲホッゲホッ……ッ! 嗚呼、冥虐の鼓動が加速する」
胸を焦がす闇が首をなぞり白き首筋に文様が沸き上がる、嗚呼それはまさに雄々しき角の兜蟲。
「そうか――僕の使命は、世に闇を綴り著わすこと。海莉、この戦いが終わったら、真・不可思議として『異世界転生したら兜蟲に殺された件』を、僕は必ずや描き上げるよ」
あれ、異世界転生して死ぬの? 転生前にカブトムシを採ろうとして道路に飛び出して異世界トラックに轢かれるのではなく?
「そ、そんな、生まれながらに骨の髄まで感染していたっていうの?! あのおぞましい……」
ところでこの妹いま“おぞましい”って言ったぞ?
「え、待ってくれ。母さんは一体何を書いていたんだい?」
知りたいような知りたくないような。
「つまり、こうだ――」
硝子越しうっそりと眇められたクロードの翡翠がややブレる。なおした眼鏡の縁から離した指は大仰な振る舞いで広げられた。
「此度、手に掛けたかったのはこの僕だ。しかし被害者がひとりだと動機も何もかもバレバレになってしまう、だからその場の全員を纏めて殺すことにした」
「――………………成程」
しばしの沈思黙考の後に溢れた単語に、茫子はハッと瞳をしばたかせる。しまった、先程の南雲兄妹といい、自分が【猟奇殺人の小話】に耳を傾ける側ではないか。
「語り部の詐欺師が納得してしまうのかい?」
「まぁ! 詐欺師とは失礼千万、わたくしは小説家ですのよ」
「はははは、紙の上で偽欺を連ねる生業が、ますます語るに落ちたね」
当然の指摘に歯がみする娘影朧を嘲うクロードは、色とりどりのキャンディが詰まる硝子瓶の蓋をきゅいと鳴らしあけた。
「今、どんな気持ちだい? 答えてみなよ」
ぽんと弾ける開いた蓋からは、質量をあからさまに無視した巨なる白き怪物が溢れ茫子へ襲いかかる。しかしクロードの問いへは悲鳴が返るのみだ。
「随分とまたえげつないことをなさるね……先生?」
最後の呼びかけだけは狂に色づき妄に染まり執に花咲くフアンのファンである。
やめてやめてとあがる悲鳴の中、残り滓めいた亡霊の凶器はもはや片手間で退けられる。
さて、と、天華の柄から手を離すファンだが、海莉の眼差しより企みを見い出し譲ることとする。
「ほら、悔しいって素直に言えば楽になれるよ?」
「絶対に、嫌、ですわ!」
血反吐吐く茫子の縁を焔が巡る。怪人の殴打を転がり避けてワゴンの影に隠れ、練り上げた焔を操る声がホールを打った。
「わたくし以外が綴った小説なぞ、燃えておしまい!」
焔が目がけくるのにも娘は一切の怯えも浮かべやしない。
「無駄よ、母のトリックは全て頭に入ってる」
焔の外縁、杭がずらりと列をなす、が……なんとそれは、原稿の束より生じた荒縄に結び潰されていくではないか!
「これが未発表にして未完の大作『衆道寺の大蛇』よ!」
「いやぁああああ!」
艶めかしい悲鳴をあげる茫子へ迫り来る荒縄。ほつれた先端があたかも蛇のよう、縄は娘の柔らかな肢体を思う様のたくり……以下、お聞かせできません。
「これは……ひどい」
つ。
そんな憐れみを口ずさみながらも章がしでかしたのは、茫子の額に杭のような大針を刺して壁に貼り付ける所行である。
縄と砂糖菓子の腕に締め上げられて痙攣する姿は毒ガスがまわった昆虫に酷似している。
「真犯人が誰だってこの事件の被害者は唯ひとり」
鴉は屍を喰い漁る、それこそ骨すら残らぬほどに――。
黑い羽根散らし窓より満月に向けて鴉たちが去った後には、紅の衣装も見窄らしく引き裂かれ御髪も乱れた茫子がひとり伏せるのみ。
「よ、よくも……よくも…………」
息も絶え絶えな様子を見下ろし、クロードはふむと顎をさすった。
「これは慈悲だよ。今の気持ちを応える気にはなったかい?」
茫子の肩から頭部を覆う影が徐々に色濃くなっていく。ぜえぜえと息をつく中、茫子は苦渋の容で確かにこう漏らした。
「……悔しい、ですわ」
刹那、影は消失する。答えを得て砂糖菓子の彼は帰還したのだ。
クロードが耳元にことりと置いたキャンディボックスを茫子は指が血だらけになるのも厭わず怒りの侭に握り潰した。
砕け散った硝子と飴玉をジャリと踏みしめ近づいたファンは、腕組み左目を見透かすように細く尖らせた。
「ふーん、随分といい顔をしている。まるであなたの方が妄執に囚われて罪を重ねる娘のようだ。さしずめ恩讐殺人鬼といったところかな」
どうだい? とでも言いたげに持ち上げた顎で問われたならば、茫子は応える代わりに軋む躰に鞭打ち立ち上がった。
そうでなくてはと、ファンは腕から力を抜いておろす。いつでも二つの太刀を、否、出来うるならば三つ目の太刀へ、指が届くようにだ。
「――さて、あなたを詐欺罪と名誉棄損罪で訴えるよ。理由はもちろん、お分かりだね?」
ある意味彼女は既に“相応の目”には十二分に遭っているのだが、それはファンが直接手を下したものではないので数の内には入らない。
「まぁ、ちっともわかりませんわ」
ギチリと噛みしめた下唇が血液で色づいた。絨毯に染みた紅と涎と涙は床を這いずる程にしか気力の戻らぬ主の背をすべり、燭台を手にした生き霊を形成する。
両手で掲げ持った燭台はファンの走る二歩先に打ち下ろされた。
「読みが甘いよ」
ファンが足を緩め躱したならば、霊は燭台を棄てて得た猫じゃらしの紐を滑らせてファンの足首を狙う。
断ち切らんと星影を突き刺すが紐は焔へと変化ししぶとくも刀身を灼き融かさんと燃えさかる。
「へぇ、少しは味な真似ができるようだね」
星を引き寄せ庇う、代わりに手首から先を焔にしばし貸してやった。雪白の肌が焦げる音と臭いが届き茫子は容を陰気な笑みで埋め、ファンを見上げた。
――掛かった。
視線と意識が自分へ剥いた刹那、火傷を負った腕が振り抜かれた。
かつん。
天井をかすかに叩く音。
続けて、天の華の名にふさわしき煌びやかなシャンデリアを家来に、一振りの刀が茫子目がけて落下する。
「………………へ?」
ガシャーーーン!!
ホール全体を揺るがす破壊音と衝撃が茫子の細身の背にのしかかった。嗚呼此は、西洋のミステリイの舞台か、はたまた和洋折衷の筆致織りなす小説か。
涙型の硝子の群れの中央から突き立つ白の刃は茫子の亡霊を地獄の底へ封じ込めること叶った。その姿は役割に相応しく、墓標のように白く厳かなのである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
森宮・陽太
(白日の下に晒された真実を聞いて)
な、なんだってー(棒)
真犯人はそこのねーちゃんだってー(棒)
ん?
俺みたいな正体バレした三流暗殺者は舞台から降りろと?
生憎だがな、舞台から永遠に降りるのは貴様のほうだぜ
…とナイフ(模造品)を出した瞬間、あっさり叩き落とされちまう
ひ、ひぃぃ…っ!(後ずさり)
…ま、ここまでは全て演技だが
(不敵な笑みを浮かべて)
さーて、わざわざ近づいてくれてありがとよ
お話の破綻に気づかない真犯人には刺殺がお似合いだな
柄を極限まで縮めた濃紺のアリスランスで至近距離から滅多刺しだ!(ランスチャージ)
あ、影朧の攻撃は服の下に着こんだ【アリスナイト・イマジネイション】製白銀鎧で防御するぞ
アウグスト・アルトナー
▼服装
ロイド眼鏡+袴に戻します
▼行動
「どうも、御機嫌よう」と姿を現します
「袖が煤けているようですね? それはぼくが燃やしたものでは?」
「つまり、貴女が犯人だということですよ」(眼鏡クイッ)
「動機はおそらく……ご自身の物語で民衆を楽しませたかった、というところでしょうね。実に――」
「――素晴らしいことですよ。ぼくにはできなかったことですからね」
(『葉月』は自分の物語で人を楽しませることを諦め、盗作に走ろうとしたので)
「その情熱がこの世から失われるのは、大いなる損失ですよ。生まれ変わって、世界を彩るべきです」
あえて説得を試みます
▼戦闘
【リザレクト・オブリビオン】
騎士に防御させ、蛇竜に噛みつかせます
浮島・いねす
死ぬかと思った……
そして酷い目にもたくさん遭った
でもそれも想定済み
姫ちゃんが最初からずっと
動画配信をし続けていたことに気付いていたかな?
窮地は姫ちゃんを強くする
今も姫ちゃんを応援する声が……
『ガソリン撒くとか子供が真似したらどうするんですか』
『建物爆破するとかないわー』
『これから毎日家を焼こうぜ』
『クソザコ過ぎwww』
うわっ……私のコメ欄、荒れすぎ……?
キマフュー民って猟兵のこと
すこなんじゃないの……?
はー、めっちゃやむ!
今リアルタイムで炎上してる姫ちゃんに
このていどの炎ぬるすぎる
こうなりゃ自棄だ!
敵に強化ガソリンをぶっかけて
燃えるバーニングファイアを押しつけて
諸共リアルに爆発大炎上してやる!
●
シャンデリアに組み敷かれた茫子の顔面は蒼白であり、プライドは自失の海を漂っているのが明白であった。
「なんてことですの……」
「な、なんだってー! そこのねーちゃんが真犯人だと思っていたら、それもまたひっかけだとー」
棒読みの森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)に被せられるわ、その台詞内容は更に自尊心を傷つけるわと散々である。
「いや、やはり黒幕なのか? 舞台骨がグダグダだな……って、あちっ!」
ぺろりと出した舌でナイフを舐める素振りで嘲笑する陽太だが、万年筆より吹き出す焔で溶かされた日にゃギョッとするしかないわけで。慌ててナイフから投げ棄てて後ずさる。
「大根役者の三流暗殺者こそ舞台には不要ですわ」
陽太の怯えに気持ちを持ち直したか、シャンデリアの下を這い出て立ち上がる。もはや武器は万年筆の焔のみ。なにを憂うことがあろうか、皆、この焔で灼き尽してしまえばよい!
「ひ、ひぃぃ……っ!」
怯える陽太を壁際に追い詰めて茫子は袖をまくりドンッと壁に手をつく。世が世なら壁ドン女子と一部にもてはやされるかもしれぬが、しかしここは大正更に言うと陰惨な殺害現場。
「あなたから始末して差し上げます」
そうして振り上げた反対の手には万年筆、蛇のようにちろりした焔の舌で陽太の眼前の空気を炙り脅しつけた。
「被害者としてわかるよう、骨は遺して差し上げますわね」
――どすり。
嗚呼然し、その擬音は非常に不似合いだ。気が変わり万年筆で突いたとしても断ち切れた肉が多すぎる。
「か、は……」
それもそのはず、土手っ腹を突かれて血反吐を吐いたのは茫子の方だ。
「わざわざ近づいてくれてありがとよ」
さてと哄笑する陽太の手には濃紺の槍があり、息の掛かる距離からの滅多刺し。これはたまらない。
……しゅーっと流れるコメント『え、マジで刺してない?』
口からぼたりぼたりと血を零す令嬢の横顔が小さな画面に大写し。
うなぎ登りの閲覧者数に、にたりと浮島・いねす(自称ゆめかわ系バーチャルアイドル・f19414)は唇を吊り上げる。
「死ぬかと思った……」
机の下敷きとか、色々。
「そして酷い目にもたくさん遭った」
たまたま席を外していたらドンドン人が死ぬのをいいことに、影朧に罪を着せられた。
「でもそれも想定済み!」
『マジでかwwww』
マジだよーと、喋ればうじゃうじゃと流れる文字列。喫驚の茫子に『動画配信』なるものを得意げに説明する。
「つまりは活劇がその小さな板に入っているで、よろしい?」
「いえーす、ざっつらいと! 姫ちゃんは最初からずっと動画配信をし続けていたのだよ!」
うわずった声で「あの時も!」と、撮影ドローンを操作してラストの爆発シーンをリプレイ……これが、良くなかった。
『ガソリン撒くとか子供が真似したらどうするんですか』
『建物爆破するとかないわー』
『これから毎日家を焼こうぜ』
ざーーーーーーーーwwwwwwwwwwwwwwwっと流れるコメントは、どれもこれも応援とは逆のベクトルだぁ!
「うわっ……私のコメ欄、荒れすぎ……? キマフュー民って猟兵のことすこなんじゃないの……?」
『クソザコ過ぎwww』←トドメ。
ごおごおと燃えさかる(物理)の中で肩をふるわせるいねすを横目に進み出たのはアウグスト・アルトナー(永久凍土・f23918)である。
「どうも、御機嫌よう」
丁重に頭を下げるは、眉目秀麗にして白磁の肌の繊細なる袴姿の新鋭作家“葉月”だ。その堂々たる様が眩しくて茫子は唇の下を噛みしめ顔を背ける。
「その煤けた袖は明らかにあなたの焔の仕業ではない。何故なら、思うが侭に操る万年筆よりの焔は、決してあなたを害さないのですから」
くいと眼鏡を持ち上げての遠回しの自作自演への指摘には、茫子の容はますます渋さを増した。だがアウグストの硝子を隔てた瞳はまろやかなる綾を宿す。
「動機はおそらく……ご自身の物語で民衆を楽しませたかった、というところでしょうね」
「わたくしの作品なぞ――」
万年筆をへし折らんばかりに握りしめ拳震わせ自身への憤懣やるせない茫子は、
「実に――素晴らしいことですよ」
……続く賞賛が信じられぬと紅の瞳を見開いた。しかしアウグストの眼差しには軽蔑の欠片は見られない。
彼が召喚した騎士と陽太が未だ燃え続けるいねすを慮るのを背景に、アウグストは未だ葉月を演じきる。
「ぼくにはできなかったことですからね。そう、自身の才能の底の浅さに絶望し人から盗むことで成り代わろうとした……上辺だけの栄誉を求めた時点で、作家として息の根は止まってるんです」
止めたのは自身だと胸元に掌を宛がう。息を詰める影朧はアウグストの編む虚構の葉月へ、今や完全に囚われている。
「わたくしだって……才能なぞありませんでしたわ。それこそ不・可思議なぞ足元にも及ばぬお父様の娘なのに…………わたくしの書く物は、価値なぞなくて、暖炉にくべられる薪に等しい」
駄作しか生まぬ自分を含め燃え尽きよと、執拗に焼き込んでいたいねすを中心にして膨れあがる焔。
だが、白く輝きすらしている素の腕が、あたかも糸巻きの芯のように現れて暴れる焔全てを巻き取り消した。
「今リアルタイムで炎上してる姫ちゃんにこのていどの炎ぬるすぎる、そう“今”だよ」
動画をあげれば炎上し“いいね”鬼盛りは遠い夢。それでも、いねすは動画うぷを止めない。
過去たる“影朧”は、歩み続ける“今”を塗りつぶし消してしまうことは叶わない。
敵わないのだ。
「こうなりゃ自棄だ!」
ガソリンタンクを抱えあげ茫子へぶっかける。
「おいおい」
「バーニングファイアああああ! 諸共リアルに爆発大炎上してやる!」
後者は動画視聴者へ向けてのメッセージ。つまりは茫子すら動画の素材だ、初めから。
カッ……!
どかーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!
もうもうとした土煙の中、ゴーレムに守られたアウグストは身を起こしずれた眼鏡をなおす。続けて「やれやれ」と肩を竦めて立ち上がったのは銀鎧の騎士。
「まさか仲間の行動に対してこれを使う羽目になるとは思わなかったぜ」
想像により生まれた鎧は変幻自在の防護力を有している。マスクの目元を持ち上げた陽太の瞳は弓の形に歪み笑っていた。
だが、焼け焦げた着物を纏い膝を突く茫子へ向けての攻撃は容赦の欠片もない。槍の百烈にも千烈にも重なる槍の乱舞が襲いかかる。
「……ぅくっ、痛っ……」
慌てて焼け焦げた棒状の物を盾代わりにするが猛攻には焦げた物品なんぞ紙切れ同然だ。
「随遊院茫子さん、その情熱がこの世から失われるのは、大いなる損失ですよ」
影朧の“お仕舞い”を見越して、アウグストは胸に抱いた思いを伝えきるべく言葉を挟んだ。
「生まれ変わって、世界を彩るべきです」
どうか届いて欲しい。
『おい、いいね押すからイキロ』
「マジでー!」
『猟兵しぶといwwwwwww』
『いいね取り消し』
「待って、死ぬからそれ」
がばりと身を起こすいねすを横目に刻んだ随遊院茫子の口元は、血の紅を引きながらも確かに笑っていた。
炎上職人(アイドル)浮島・いねすはどうしようもない程に不死身である。そう、炎上すればする程、彼女は強くなる――でも炎上よりはいいねが欲しい(本音)
「あばよ、三文作家さんよ」
一際大きな突撃に胴体中央にて物別れ。千切れ飛ぶ胴体は更に中空で陽太の手により首と上半身に二分される。
「……ああ、葉月せんせ」
床に落ちる放物線を描く生首、その一部たる茫子の唇は、傍らのアウグストだけの鼓膜を確かに震わせる。
「――また、お逢いしましょ……ね、葉月せんせ」
と、確かに。
「そうですね、あなたの内面的彩りが世界を飾る日がくることを、心からお待ちしていますよ」
だから今はしばしのさようなら。
斯くして、謎の覆面作家不・可思議を巡る現実の殺人事件“未遂”の物語はこれにて幕を閉じる。
一連の事件は以後“帝都桜學府”の預かりとなり、不・可思議先生は一躍時の人と化する。皮肉にもそれで神秘のヴェールは剥がれ落ちてしまった。その後、作家としての彼がどのような道筋を辿ったかは、また別のお噺である。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年01月31日
宿敵
『七光ラズ・随遊院茫子』
を撃破!
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