叛逆のサアカス・チヱイス
#サクラミラージュ
タグの編集
現在は作者のみ編集可能です。
🔒公式タグは編集できません。
|
「あら? まあ、まるで本当に飛んでいるみたい!」
誰かが天井すれすれを跳躍する人影を指さして、歓声をあげた。遠くてよくは見えないが、黒いマントのような衣装の者が華やかな洋装の娘を横抱きにして空を舞っている。
ところは埠頭近くのサアカステント。
今宵も団員たちは磨き上げた芸で客を笑わせ、一夜のカアニバルを演出する。だからまさか、観客たちはいま自分たちの目にしている光景が出し物などではなくて本当の『事件』であるとは思わなかったのだ。
「わしの娘が攫われた! 早う、あれを捕まえろ!!」
だから、2階にある特等の桟敷での騒ぎは他の一般客の知るところにはなかった。胸や肩に浴びるほどの勲章をつけた立派な髭面の将校らしき男が部下と思しき青年たちに体を抑え込まれながらわめいているが、大音量の楽曲にかき消されて他まで届かない。
「誰か、早う――!!」
「サーカスを観ている客たちが影朧事件だと気づいていないのは幸いだな。もし気づかれれば、パニックで一斉に人が動き、少なくないけが人が出るだろう」
サク・スミノエ(花屑・f02236)が用意した立体映像には、巨大なスタジアムほどもある超大サーカス用のテントが映し出されている。
「地上には同時に数十人が演技できる舞台や、猛獣用のセット。空中には曲芸用のブランコや綱が渡され、そこかしこで華々しいショーが繰り広げられていた最中のことだ。この正面2階にある桟敷で観覧していた将校の娘が、突如として出現した影朧によって攫われた」
ぴこん、と事件の起きた桟敷のある2階に小さな光点がともる。
「そして、影朧はそのまま天井付近を浮遊するように跳躍。空中ブランコの間をすり抜け、中央舞台の上空を横切ってどこかへ向かおうとしている。皆には、これを追いかけて攫われた娘を取り戻してもらいたい」
ただし、これが猟兵による影朧狩りであると観客たちには気づかれないように。
サクは皮肉げに微笑み、意趣返しだと言った。
「サーカスの開演中に堂々と娘を攫い、出し物だと勘違いされている状況に乗ってやればいいのさ。いいか、絶対にこれが事件だと観客に悟られるな。皆の即興で客を盛り上げ、耳目を惹き、何事もなかったかのように見せかけながら影朧を追いかけるんだ」
ツヅキ
舞台は営業中の大サーカス。
観客たちに気づかれることなくオブリビオンを追い、攫われた娘を救出してください。リプレイは影朧が彼女を攫った直後から始まります。
●第1章
観客に事件が発生していると気づかせないため、派手な芸を披露して見世物を装いつつオブリビオンを追いかけましょう。
(サーカスの運営側は猟兵に協力的なため、影朧退治に関するパフォーマンスであると理解して邪魔をしたりはしません)
プレイングは12/02 23:59までに届いたものをまとめて執筆・判定します。
共同プレイングをかけられる場合は相手のお名前とID、もしくは団体名を冒頭にご記載ください。
第2章では追跡を続けながらオブリビオンの配下と戦い、第3章で追い詰めた敵を倒して攫われた少女を取り戻すことができれば成功となります。
第1章 冒険
『イザ参ル奇天烈サアカス』
|
POW : 派手な技で観客を盛り上げる
SPD : 器用な技で観客を盛り上げる
WIZ : 不思議な技で観客を盛り上げる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
茜崎・トヲル
んー。んー?
はは。見世物かぁ。なつかしい響きだなぁ。
追っかけないといけないんだな。じゃあそういう趣向でいくよ。
攫われるのはよくないよな。攫われた先でどうなるかはしらねえけど、望んでないなら助けないと。
なあ?
まあ最初は普通に出し物でも。
箱に入って外から剣さして、抜いて出たら無傷ってやつ。
種も仕掛けもないぜ。おれの体、物ささっても死なないし。
血も戻るし、怪我も治るからさ。痛くもないしなぁ。
そんで注目を集めたところで布かぶって、中からツバメになって飛んでいくよ。影朧追っかける。
はは、ツバメってすげぇ速いんだぜ、飛ぶの。逃がさねぇよ。
ウルダ・ドーリス
💠なんでも歓迎
サクちゃんがわざわざ
追っかけろなんてゆうからには
すばしっこくてー、速いんでしょ?
ハナから準備しとこっか
いたぁ あそこ
影朧みっけたら【UC】発動
喰らいついてベイビィ
あは 光の帯ひいてホタルみたいねぇ
いつもはhide-and-seekが得意なコだけど
ピンクの電灯巻いといたの きれぇでしょ
みんなへの目印にもなるしさ
じっとしてないであたしもなんか芸しなきゃ
うーん掃除…は、芸じゃないかぁ…
あっサイコキネシスで空飛べるわ
すげぇ変だわ
これ芸でいんじゃない?
よっしゃ花でも抱えてびゅんびゅん飛んじゃう
おチビちゃんたちとハイタッチとかしちゃう
客席になにかあっても対応しやすいし
イッセキニチョーよ
神羅・アマミ
この場に立ち会わねばならぬ運命の糸のようなものをビンビンと感じるぞ!
ならば敵を追い詰め、その正体を暴く他あるまい!
曲芸の真似事とあらばとっておきのコード『特機』を発動じゃ!
無数のソードビットをまずはジャグリングのように扱い、時には大魔術のように宙に浮かばせ、投げナイフのように自在に飛ばせば、華麗なる演舞に観客もウットリ見惚れること請け合い!
人質の存在を考慮すると、誘拐犯への直接攻撃はまだ行うべきでないのー。
浮かせる・射出するビットは相手に余計な動きをさせないための牽制として”置く”に留め、皆で一様に追いやすい逃走ルートへ誘導したいところ。
上半身は操作、下半身は【ダッシュ】に全力で追跡じゃーい!
天花院・祝
……要は舞台を邪魔せず
演目の1つのように優雅に追え、と
成程
ならば蝶々の得意分野か
貴様もこういう華やかな舞台は好きだろう?
羅宇煙管を燻らせ
蝶々夫人と共に舞台へ
中央舞台で二人優雅に踊って見せてやろう
くるりと夫人をターンさせたタイミングで『花導』
お行き 蝶々
夫人の体を蝶の群れへ変え
客席を一回りさせながら鳥を形作らせ
軽やかに飛び乗ってみせよう
こんなものでどうかね
あとは奴を追おうじゃないか
スピードを一気に上げ
奴の後方まで追い縋ろう
優雅に舞って見せたが
蝶々は意外とお転婆娘でな
競争の類は負けず嫌いなのだよ
さぁ 追え
絶対に逃がすな
ヨツユ・キリングミー
■動機
「影朧……。影。シャドウ。アマミ嬢。なるほどのぅ。この世界ではそういうことか」意味のある発言かは本人にも不明。
■行動
客席周辺の通路を移動。
客が猟兵の追撃に気づいたりしそうな時に行動。
「がーはははは! ヨツユ様のお通りじゃー!」と、アサルトウェポンを派手に発砲。注意を引きつけた後、壊しても人的被害が出なさそうで狙撃したっぽい感じが出るもの(舞台の飾りや、照明)を銃撃で破壊。「百発百中のヨツユ・キリングミー!」と、そういう出し物感をアピール。そのまま他の猟兵にタッチする。
■他の行動
行動前、他の猟兵に「ミスディレクション……わかるかのぅ?」とか、いかにも知ってるように語りかけたりする。
エダ・サルファー
んー、目的はまだわかんないけど、誘拐は放っておけないよね。
よし!ちゃちゃっと追いかけて捕まえようか!
で、お客さんたちに気付かれないようになにか芸をしろと。
格闘家のパフォーマンスといったらやっぱりあれかな?
つまり、試割り!
でも普通に瓦や板を割るんじゃ盛り上がりは弱いと思うんで、ドワーフ式遠当てで遠くから割ろう!
お客さんに持ってもらった板を割ったらもっと受けるかな?
もちろんお客さんに怪我をさせないように注意してやるよ!
んで、お客さんの注意を引いてる間に、隙を見てオブリビオンにも牽制の遠当てを撃っとくよ!
これはあくまで逃走妨害用なんで、全力では撃たないよ!
うっかり人質が怪我したら元も子もないもんね!
アレクシア・アークライト
目標
将校を落ち着かせる。
将校の娘と彼女を攫った者に関する情報を得る。
動機
将校の言動により場内が混乱に陥ることのないようにしたい。
犯人の具体的な行動、狙い等を知ることで次の行動を予測したい。
手段
マジシャンのような衣装で桟敷に出現。
自分を含め複数の猟兵がこの場に来ていること将校に伝えるとともに、娘を助けることを約束する。
UCを用いて、娘と犯人に関する情報を得ることを試みる。
その後、念動力や幻影(光属性操作)を用いてマジックを使っているかのように飛行し、娘と犯人を追う。
台詞
「娘さんは私達が助けるわ。だから、貴方にはこの場をお願いするわね」
●第1章 『曲芸チヱイサー!』
「影朧……。影。シャドウ。アマミ嬢。なるほどのぅ。この世界ではそういうことか」
「ん? 何をぶつくさと言うておるのじゃ! さっさと参るぞ、感じるのじゃ――運命の糸の導きをのう!」
ヨツユ・キリングミー(死なずのキリングミー・f06016)と神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)は互いに並び走り、件のテントへと飛び込んだ。
――燦々と降り注ぐライトの眩しさのなか、逆光に翻る黒いマントとドレスのレース。それまでは出し物のひとつとばかりに盛り上がっていた観客も、そのうちにこの不審な状況に疑念を抱き始める頃合いだった。
「あれって……なんかおかしくないか? よく見たら命綱も見えないし、もしかしたら事件なんじゃ――?」
「なに言ってんだよ。普通の人間があんな風に飛べるわけないさ、手品の一種に決まってる」
「そうかなあ」
「そうさ。人間でなきゃお前、まさかあれだっていうのか? かげ――」
「――お客さん!」
皆まで言わせず、エダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)は客席の前に仁王立ちになってにっこりしながら声をかけた。
「うわあッ!?」
「ふふ、びっくりさせちゃってごめんなさいね! ささ、よかったらこれ持ってくれる? そう! 両手でしっかりね。それではいきます! はぁ――ッ!!」
板を持たせた観客から距離を取ったエダは、なんと触れてもいないのにそれを割ってみせたのだ。
男はびっくりして、「もう1回やって!」と叫んだ。
「いーわよ! じゃあ、大サービスで2つ同時にいくわね。隣のおにーさんもこの板を持ってちょうだい!」
エダが茶目っ気たっぷりにウインクすると、周囲の観客から華々しい喝采が湧き起こる。
「はァッ!!」
今度も見事に成功。
「おー!!」
同時に、反対側の客席からも甲高い歓声が上がった。
「がーはははは! ヨツユ様のお通りじゃー!」
高々と掲げた指先で銃火器をくるりと回したヨツユは、狙いをつける暇さえなかったとしか思えない早撃ちで次々と舞台の縁に下がった房飾りを見事に射抜いていったのである。
「すごい、全部当たった!」
拍手の渦。ヨツユは得意げに微笑むと回転させながら放り投げた銃を後ろ手に受け止め、ポーズを決めなら名乗りを上げた。
「百発百中のヨツユ・キリングミー!」
「うおー! ブラボー!!」
なるほど、とアレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)は微笑んだ。
「ミスディレクション――マジックの基本よね」
ふわりと跳び、唯一この騒動が事件であると知る男の前に姿を晒す。この場に相応しき魔術師に扮したアレクシアは帽子をとってパニック状態の将校に向かい、深々とお辞儀した。
「な、なんだ貴様は……その格好、このサーカスの道化か!?」
「いいえ、私たちは影朧事件を解決するために来た猟兵よ。娘さんは私達が助けるわ。だから、貴方にはこの場をお願いするわね」
「な――」
アレクシアは伸ばした指先で将校の額に触れると、優しげに微笑んだ。
「大丈夫。情報はもらったわ」
「ふ、触れただけで?」
「見ての通り、今夜の私は魔術師だから」
マントを指先で広げ、ふわりと裾を泳がせながら、アレクシアは2階の桟敷より飛び降りる。将校を抑えていた青年らが上げた悲鳴はすぐに感嘆の吐息へと変わった。
「早く、他の皆に伝えなくちゃ……!」
光を翼のように纏い、念動力で影朧を追うアレクシアの瞳に攫われた娘を案じる色が浮かんでいる。
「――――」
先を往く影――影朧が、ちらりと後ろを気にする素振りを見せた。猟兵たちの介入に気づき、逃亡の足を早めようとした足元が揺らぐ。
客席で試割りのパフォーマンスをしていたエダが気づかれないように牽制を放ったのだ。
「ふふん、隙ありよぉ」
煙の匂いが纏わりついた唇を気だるげに動かして、ウルダ・ドーリス(後始末屋・f24090)が呼ぶのは影の追跡者。
「だってぇ、サクちゃんがわざわざ追っかけろってゆうんだもの……さぁ、遠慮はいらないわ。喰らいついてベイビィ? いい子ねぇ」
信じられない強運で戦果をものにしたウルダは上空の闇に尾をひく薄桃色の細長い明かりをうっとりと目で追った。
「今夜は敢えて派手にいきましょ。あたしが巻いといたピンクの電灯がホタルみたいできれぇ……」
そんな風に色っぽくつぶやく姿を横目に、周囲の観客がひそひそと噂している。
――誰だあれ、客引きの女か?
――すげぇ脚してんな……声かけてみよっかな……。
――ばーか、お前なんか相手にされっかよ。
「あ、そっかぁ……じっとしてないでなんか芸しなきゃ」
違った意味で人目を引いていることに気づき、よいしょと手すりを乗り越えてそのまま――飛んだ。
なんのことはない、ただサイコキネシスで空中に浮いただけだ。それがここでは至上の芸となる。
「わあ、お花!」
ウルダは抱えていた花を1本抜き、目を輝かせている女の子に差し出した。隣の母親に抱き抱えられている幼子には優しく手と手を合わせた。
「あ、ちょうちょ!」
舞台の中央では、蝶々夫人に手を貸す天花院・祝(病ミ櫻・f22882)が羅宇煙管を燻らせながら上を仰いでいる。
(「やつか」)
ウルダの絡めた電線の光に照らされ、纏う衣服が軍属のものであることがわかる。客席から手を振る幼子は蝶々夫人の美しさに夢中で背後を跳ぶ存在に気づく様子はない。
祝は己の役割を十分に果たせている手ごたえを感じて頷き、楽隊の奏でる調べに合わせて優雅なワルツを披露した。
「お行き、蝶々」
水を得た魚のように舞う蝶々夫人の指先を掴んだまま、祝はそっと腰を放して彼女の見せ場をつくる。
「なんて綺麗なターンなの……!? あッ――」
見入っていた観客たちの間から驚きの声が上がった。
典雅に回る夫人の身体がいつしか無数の蝶となり、客席を一回りしたところで今度は鳥の形に変わる。祝がその背にひらりと飛び乗って舞台を後にすると、残念そうなため息がこぼれた。
「ああ、まだ見たかったのに……」
「でも、すぐに次の出し物が始まるわよ。見て、あの人もかっこよくない?」
見れば、舞台に上がった茜崎・トヲル(白雉・f18631)がすっぽりと体をおさめた箱の上から次々と剣を突き刺していくではないか。
「きゃあッ!」
「だ、大丈夫なのか?」
客席の不安をよそに、無名の段平で脇腹を貫いたトヲルは隣でソードビットを操るアマミに向かって指を招いた。
「せっかくだからさ、それひとつくれる?」
意味を理解したアマミはにやっと人の悪い笑みを浮かべ、ジャグリングのように回していたそれをひと際大きな円へと変え、周囲の注目を集めた。
「よいのか? わしの特機は特別製じゃぞ」
まるで投げナイフのように、空中で向きを変えた特機のひとつがトヲルの胸元を同時に観客席がどよめき、押し殺された悲鳴とそれ以上の注目が2人に集まった。
「へーきへーき。よいしょ、っと……」
トヲルは飄々と笑い、全ての剣を抜いてから箱の外に歩み出た。あれほど流れ出ていた血が、いまはない。傷も消えている。
「な、なんで無傷なんだ?」
「うそだろ、最後のやつなんか絶対に心臓をやってたぜ」
笑って手を振る不死身の男と着物の裾を摘まんでお辞儀する剣舞師の女の技に、楽しませてもらった観客たちからの惜しみない拍手と歓声が贈られる。
「どーもどーも」
ひらひらと適当に手を振ってから、トヲルは手近にあった鮮やかな色彩の布を引き寄せて頭から被った。
「わっ、消えた!?」
「いや、鳥になったんだ。小さなツバメだ!」
「すごい見世物だ」
見世物――その響きに懐かしさを覚えつつ、トヲルは小さな羽で空を切る。速い。あまりにも早く飛ぶその隣に、蝶の鳥に乗った祝が並んだ。こちらも速い。影朧までの距離を一気に詰め、ほぼ真後ろに迫る勢いだ。
「さすが蝶々、お転婆娘の負けず嫌いは健在のようだな。さぁ、追え。絶対に逃がすな」
蝶の翼がしなやかに羽ばたき、更に加速。
そこへ、アレクシアが追い付いた。
「あの影朧は軍人の姿をしていたわ。将校の娘さんを攫ったのは偶然じゃない。おそらくは、確信犯的な思想があるんじゃないかしら」
「確信犯だと?」
「ええ。詳しいことはまだわからないけれど――」
聞き返す祝にアレクシアが神妙な顔つきで頷いた時のことだ。前を行く影朧が不意に体勢を崩し、不自然な方向転換を行った。
「そちらにはいかせんわーい!」
いつの間にか追跡に加わっていたアマミが全力で駆けながら特機を操作し、そのままテントを突き破って逃走しようとしていた影朧の進路を塞いでしまったのである。
「ちいッ」
舌打ちし、影朧は空いている方向――大きく開いたテントの出口から見晴らしの良い埠頭広場へと飛び出す他なかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『サクラモフウサギ』
|
POW : うさぎ(かわいい)
非戦闘行為に没頭している間、自身の【ことをかわいいと思った人は、良心 】が【咎めてしまうため戦いたくなくなる。よって】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
SPD : ムシャムシャ……
レベル×5本の【その辺の草を食べることで、うさぎ 】属性の【モフりたくなるオーラ】を放つ。
WIZ : もふもふ
【自身の姿 】を披露した指定の全対象に【このうさぎをモフりたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
イラスト:塒ひぷの
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●第2章 『月兎哭く』
「誤算だ。裏手から逃げられれば、身を隠しながら埠頭を目指せたものを――」
テントから飛び出した影朧は肩越しに振り返り、猟兵たちがすぐに自分の後を追ってくるのを確かめた。
だが、目的の埠頭までは広々とした港が続いており、とっさに身を隠せそうな場所は見当たらない。
「仕方ない、こいつらを使って足止めるか」
纏っていたマントが翻ると、異次元へと繋がるその裏から桜印をつけた小さな生き物たちが現れた。兎。いずれもふわふわとやわらかくて、まっしろで、思わず触ってみたくなるような愛らしさである。
その数、裕に80匹。
「ふん、お優しい猟兵殿にはお前たちの愛嬌がさぞかし効くだろうさ。この娘には私の悲願を叶えるための礎となってもらうのだからな。猟兵になど絶対に渡さぬわ!」
神羅・アマミ
うさぎ美味しー♪という歌もあるじゃろ?
元々兎は繁殖力も高くそれ故に貴重な食料とされてきた!
物心ついた時から数多の戦場を生き抜いてきた妾なれば、可哀想だから殺生できぬは通用せぬ!
コード『結髪』を発動し、ブラストの一薙ぎからなる【範囲攻撃】と【吹き飛ばし】にて、まずは周囲の目ぼしい草むらを焼き払わせてもらう。
妖気によって人心を魅了するというなら、その源を断つまでよ!
お膳立てが整えば情け容赦は無用、最大出力にて片っ端からこんがりとウェルダンに調理してくれるわ~!
こんな小動物にすら頼らねばならぬとは、奴さんの野望とやらもたかが知れたものよのう。
ブラストを照明弾のように低出力で放ちつつ、追跡を再開じゃ!
荒・烏鵠
なーンか犯人の影朧が世話ンなってるおヒトに似てンなーッてンで来たケド、コノ世界ケッコー独特なカンジよな。キマフュとはマタ違った緩さッつーか。
マ、オレからすりゃァ、そーゆーノの方が気楽でいーンだケドさ。
ンーで敵サンはうさチャンと。アラカワイー。
だがモフはアマいな。コノ程度ならウチのシナトの方がずーーッとモフだわ!
見ろこのフカフカ毛皮を!オレサマが毎日手入れしてッし風精だからこそのふんわり具合!干したてのオフトンもハダシで逃げ出すモフ具合よ!
というワケでサクッと討伐トーバツー。ウサにはウサぶつけンだよ!
カモン、うさチャン!ホンモノのウサキックを見せてやれ!
ウルダ・ドーリス
💠なんでも歓迎
ワァオ怪奇黒マント
って思ったら軍服かぁ
何にせよ人質の安全が最優せ―――
あぁ…
やだ どうしよう なんてかわいいの
こんなsweetでcuteなイキモノ傷つけるなんて
絶対ムリサイキックブラストーーー!
はぁ…はぁ…
あたしにハニトラなんてイイ度胸してんじゃなぁい…
駆け出しのころは害獣駆除もやったもんよ
あ、うっかりメロメロな子見つけたら
いっしょにビリっとやっとくから
やさしくよぉ やさしく
まーかせて やさしく包み込むような電撃
ところでベイビィ(追跡者)まだ元気かしら
視覚の共有で目標位置確認
バイク持ってきたけど
生身でかっトぶほうが速いかも
向こうに逃げてもドン詰まり
船でもつけてるのかしらぁ…
ヨツユ・キリングミー
■動機
「良心に訴える悪辣な計略。彼奴らしい……。彼奴とは?」
今日も曖昧。
■行動
「惑わされるなーーー! 惑わされるなと言っておる!」と突然興奮する。
うさぎのかわいさに惑わされてはいけないので、目の前のうさぎが敵であることを再認識すべく言葉を重ねる。
「かわいらしく見えるが、所詮獣。わしがまだ若かった頃、森で狩って夕飯にしたのじゃ。肉は淡白で、その味は鶏に似ておる。ローストにも煮込みにも向いておるよ。ジビエゆえに少しクセはあるかもしれんが。そう、テレビで言っておった」
過去とテレビが曖昧。
「狩りじゃー! 獲物じゃー!」
よだれを垂らしながら、「なぎ払い」「二回攻撃」で銃やなぎなたで襲いかかります。
茜崎・トヲル
あはは、かぁわいー。
かわいーから、ちょっと触るかなあ。
うわーやわらけぇ。ふにゃふにゃしてるなあ。
かわいいかわいい。ずっとかわいいままにしてやろうな。
【等価交換】で石像にしていく。ぜんぶ。
ははーはー。こういう置物あるよなあ、ほら、イギリスとかの庭にさぁ。
アリスモチーフっていえば高く売れるかもなぁ。あはは。
かわいいかわいい。切ったり撃ったりはかわいそうだもんなぁ。
手がとどく範囲のうさぎは首の骨を折ってくよ。苦しまないように。
じゃあなあ。ああ、かわいかった。
九龍・輝羅
ああん?
アマミに呼ばれて来て見りゃなんだァどうしたァこの騒ぎはァ?
誘拐?よくわかんねぇけど敵をブッ倒せばいいんだろ?
あ?なンだあの白いの。
可愛いウサギさんだァ……?
ファイトの場に愛嬌とかナメてんのかテメェ!
ドラゴンはウサギを狩るのにも全力を尽くすんだよ!!
群れで固まってる事を後悔するんだな!!
纏めて薙ぎ払ってやっから覚悟しろオラァ!!!
道はアタシが作ってやる!
テメェらは誘拐犯とやらを追いかけやがれ!
輝け!リンドヴルム!アタシの魂と共に!『輝・龍・覚・醒』!!
ウサギ鍋にしてやるぜェーーーーーーーーーーッ!!!
エダ・サルファー
突然の兎!?
え、これ足止めなの?
いやしかし、無視し難いこの雰囲気、ただの兎じゃ無い感じだね。
なんとか突破して誘拐犯を追わないと!
ぐぅ、しかし可愛い……
いやいや、落ち着け私。これも一応オブリビオンだぞ。
だが……、むー、攻撃しづらい!
別に積極的には攻撃してこないんだし、無視して行けば良い気もするんだけど、なんかそれは駄目な気がする。
んー、よし!
聖職者式精神攻撃で殴ろう!
これなら傷付けずに気絶させるだけで済むから、あんまり良心が咎めない!と思う!
それでこいつらが戦闘態勢に入れば、多分普通に殴れるようになると思うし!
そうならなかったら、とにかく頑張って気絶させて回るよ!
しかし恐ろしいオブリビオンだ……
天花院・祝
…………、困った
その、なんだ
動物は嫌いじゃない
……嫌いじゃない、んだが
こういう類の生き物には
どう接していいか分からん
ちょこまかと動かれるのも困る
だからといって攻撃するのも
こう……何だか心にクるものがあるのは確かだ
やれ々々……
仕方ないな
あまり使いたくないがそうも言っていられないな
『桜の癒やし』で血櫻を舞わせ
視界内のウサギどもを全て眠らせよう
邪魔せず大人しく眠っていろ
ウサギを眠らせたら
なるべくそちらを見ずに
逃げる影朧の後を追おう
…おい、蝶々
面白がってないで
少しは手伝えば良かっただろうに
「待て待て待て~い!」
いますぐこの手でお縄にしてやると言わんばかりのハイテンションで影朧を追いかけていた神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)は突如として進路妨害の暴挙に出たしろくてやわらかくてふわふわなやつを前にすると、ごくりと喉を鳴らして足を止めた。
「こ、これは……あの『うさぎ美味しー♪』とかいうやつじゃな? 古今東西、敵のモンスターを喰らうというのは冒険者のお約束であってしかり――」
興奮してまくし立てるアマミの肩を、ヨツユ・キリングミー(死なずのキリングミー・f06016)が眼鏡を指で押し上げながら軽く叩いた。
「落ち着け、嬢よ。それにしても良心に訴える悪辣な計略。彼奴らしい……。彼奴とは?」
「お主こそ落ち着かんかい!」
「いや! 惑わされてはいかんぞ嬢よーーーーーー! 惑わされるなーーー!!」
「きえーい! だまらっしゃーい!」
真面目に敵のかわいさから目を逸らそうとしているのか単にじゃれ合っているのか判別つかない2人の背後で、天花院・祝(病ミ櫻・f22882)は固まったまま動けないでいた。
(「………、困った」)
彼の足元に纏わりついたうさぎたちが、小首を傾げてじっとこちらを見上げる。殺人的なかわいらしさを武器にして、祝を困惑の崖っぷちに追いやること数秒。
決して、動物は嫌いではない。
否、嫌いではないからこそ――こういう類の生き物を前にして、どう接していいか分からない。
ちら、と遠慮がちに見下ろすと、純粋無垢な赤い瞳とばっちりのタイミングで目が合ってしまった。
「うッ……」
途端に良心が痛み、祝は思わずそこに手を当てる。
「なんというか、こう……心にクるものがあるな。勿論、放っておいてちょこまかと動かれたり攻撃されたるするのは困るわけだが――」
「ほ、ほんとにな……!」
エダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)の周りにも、あれよという間に集まってきたうさぎたちによってゆく手をさえぎるための壁――というにも心もとない、しろくてふわふわの絨毯ができあがってしまっていた。
予想外の足止めに動揺しながらも、エダはなんとか自分を落ちつけようと奮闘する。それにしても無視し難い! しかも可愛い! あ、いま耳がぴこぴこ動いた!
「ぐぅ、なんて反則技……って、ん? なにしてるんだ?」
すると、なにやらしゃがみ込んだ膝にうさぎを抱き上げ、その額を指先で優しく撫でていた茜崎・トヲル(白雉・f18631)がにっこりと微笑んで言ったのだった。
「え? ああ、こいつらすげぇかぁいいじゃん? やわらかくて、ふにゃふにゃしててさー。あんまりにもかわいいから、いっそのことこのままずっとかわいいままにしてやろうかなあって」
言い終えた途端、石像になったうさぎが音を立てて彼の膝から転がり落ちた。
「ひぇッ……」
肩をそびやかして後ずさるエダの前で、トヲルはそれを愛おしそうに抱え直して気の抜けた笑い声を立てる。まるで本気かどうかも分からない、どこか虚ろな響きの滲む声色で。
ほら、と他の仲間にも見えるようにそれを掲げて見せた。
「こういう置物あるよなあ、イギリスとかの庭にさぁ。アリスモチーフっていえば高く売れるかもなぁ」
「ワァ、確かにほしぃ人はいそうだけど若干狂気入ってる気がするわぁ……どうやったの? あ、なーる。対象を石像に変えるんじゃなくて、代償の効果なのかー。で、こっちがその等価交換で作った偽物なのねぇ。ぬいぐるみみたぁい」
動かない偽物をウルダ・ドーリス(後始末屋・f24090)は拾い上げ、ちょんとその鼻先に自分のそれを触れさせる。
「偽物でさえこんなかわいいのに、もーーーっとsweetでcuteなホンモノと戦えだなんてもぉ……絶対ムリムリムリィィィーーー!!」
ウルダが両手の拳を握り締め、駄々をこねる子どものように首を振り分けた瞬間――その掌から放たれた高圧電流に驚いたうさぎたちが慌てて周囲から逃げ出した。
「あ、そぉじゃなくてぇ……やさしくよぉやさしく」
出来る限り電圧を絞り、電撃の網でうさぎを捕えるかのようにゆっくりと、やさしく攻撃するのは思いのほか疲れることだった。
「はぁ、はぁ……んもぉ、このあたしがハニトラに翻弄されるなんてありえなぁい。うっかり何でもやった駆け出しのころを思い出しちゃったわよ。もぉらちが開かないから、メロメロにされてる子がいたらいっしょにビリビリやっちゃうからねぇ?」
「わー! わかった、よし!」
敵と一緒くたに高圧電流をお見舞いされては敵わないと、エダは覚悟を決めたように叫んだ。
「もういい、精神攻撃で殴る! これなら傷つけずに気絶させられるから、あんまり良心が咎めない! と思う!」
「ああ……私もこれを使って眠らせるとしよう」
エダの拳が聖なる光を秘めて輝き、祝の背後に現れた桜の枝から血のように濃色の花弁がしろいもふもふで埋め尽くされた戦場に眠りへと誘う紅色の差し色を加えた。
「! よし、やる気になってくれたみたい!」
エダが最初の数匹を気絶させたところで、他のうさぎも次々と非戦闘態勢を解き始めたようだ。
「これでちょっとはマシになったかも! あー、でもやっぱり戦いづらいぃいい!」
「あー……話に聞いちゃいたが、予想以上になーんかスゲーことになってんなー……」
荒・烏鵠(古い狐・f14500)はやれやれと頭をかき、「おーい」と知り合いに声をかけることにした。
「烏鵠サマが来てやったゼー? つーか、コノ世界ケッコー独特なカンジよな。キマフュとはマタ違った緩さッつーか」
「ああん? んなのどうでもいいだろ」
ドレスの裾をからげ、見得を切りながら登場した九龍・輝羅(喰い殺し怒羅魂・f10346)は、ヨツユと一緒に暴走しているアマミを見つけて「なんだありゃ」と肩を竦めた。
「どーやら、敵のカワイーうさチャンにヤられちまわないよう、頑張ってるトコらしーな」
烏鵠の説明に輝羅が眉を顰める。
「カワイー? あ? なンだあの白いののことか?」
「そ。ちーさくてまっしろなウサちゃん。だがモフはアマいな」
ふん、と烏鵠は鼻を鳴らした。
「は! まずい、やつの悪い癖が出るぞ!」
普段の彼を知る者たちの間から漏れ聞こえる悲鳴をよそに、指先で印を切った烏鵠はすかさず敷いた結界を通じてとっておきの妖怪を呼び出した。
「さーこいシナト! お前のフカフカラブリーっぷりをおもいっきり見せつけてやれ!」
顕現した妖怪兎は体の大きさからは想像もつかないほどの早業で敵の群れに突っ込み、蹴り上げ、自らは風に乗って戦場を自由自在に動き回った。
その体毛はまさにふかふか。
「そりゃそうだ、オレサマが毎日手入れしてッし!」
ふわりと風にそよぐ毛並みは、干したての布団も裸足で逃げ出すほどの手触りで他のうさぎを圧倒。
「ははは! 風精だからこそのふんわり具合を思い知ったかよ! カモン、うさチャン! 愛嬌勝負だってンならうちのシナトは最強だぜ!」
そりゃもう思うさま使役自慢に勤しむ烏鵠の後ろで、輝羅の眦が見る間に吊り上がっていく。
「あ、頭いてぇ……ファイトの場でカワイーとか愛嬌がどうのとか、ッとによォ……! このアタシが纏めて薙ぎ払ってやっから覚悟しろオラァ!」
腕をまくりながら前に出る輝羅の剣幕に、祝は「どうぞ」と殊勝にも自分から道を開けた。
「とりあえず、眠らせてはおいた。後は任せよう」
「上等だ。テメェらは誘拐犯とやらをさっさと追いかけやがれ!」
にやりと輝羅は笑むと、巨大な独楽型武器――封印を解き放ったストライクリンドヴルムを暴れさせながら豪快に言い放った。
「ウサギ鍋にしてやるぜェーーーーーーーーーーッ!!!」
とてもお子さまには見せられない戦闘風景をなるべく見ないようにしつつ、祝は逃げる影朧の後を追い始める。
「加勢するのじゃ!」
すかさず結髪を発動したアマミの周囲に反重力の力場が生成。にやりと得意げに笑んだ刹那、迸るフォトンブラストの波動が辺り一面の草花を問答無用で焼き払った。
「ふッ、小動物が餌を食らう様子は人の心をとことんまでかき乱すからのう。じゃが、これでお主らのもふもふアピール力は大幅ダウンじゃ!」
そもそも、とアマミは人差し指を顔の前で左右に振り、豆知識を披露。
「兎は貴重なたんぱく源として戦場でも敬われておった。可哀想だから殺生できぬなど、妾には通用せぬわ!」
「そのとーーーーーり!」
アマミと背中合わせになったヨツユはびしッと人差し指を突き付け、目の前のうさぎが敵であると自分に言い聞かせるべく、早口でまくし立てる。
「かわいらしく見えるが、所詮獣。わしがまだ若かった頃、森で狩って夕飯にしたのじゃ。肉は淡白で、その味は鶏に似ておる。ローストにも煮込みにも向いておるよ。ジビエゆえに少しクセはあるかもしれんが。そう、テレビで言っておった」
「うむ! こんがりとウェルダンにしたらさぞかし美味かろうのう~」
アマミの操るフォトンブラストが輝羅の独楽によって弱っていた群れを一気に調理完了してゆくのを見せつけられたうさぎは、もはや己の武器が通用しないことを悟る。
「逃がすか―! 狩りじゃー! 全部わしの獲物じゃー!」
だが、ヨツユのなぎなたが退路を断ちにかかった。
「敵であることを言い聞かせるというよりか、食材であることを再認識しているような……」
あまりにも容赦のない光景に、エダは思わずつぶやかずにはいられない。戦わずして敵の戦意喪失を促すオブリビオンの恐ろしさもさることながら、彼女たちの食欲こそ反則なのではないかと思わされるほどの戦いぶりであった。
「……おい、蝶々。面白がってないで少しは手伝えば良かっただろうに」
傍らで笑い零れる気配に、影朧を追っていた祝の頬がほんの微かに赤みを帯びた。
「ところでぇ、このまま向こうに逃げてもドン詰まりじゃなぁい?」
持ってきたバイクに乗ろうか乗るまいか悩みつつ、ウルダはまだ生きていたベイビィと視覚を共有して目標位置を確認する。
「海に向かっているのか?」
「船でもつけてるのかしらぁ……」
ウルダは頷き、揃って港を駆け抜ける。灯台の照明が眩しく頭上を通り過ぎていった。
「はい、これでおしまい」
最後のうさぎの首を掴み寄せ、苦しませることなく首の骨を折り砕いて絶命させたトヲルは死骸を手にぶらさげたまま立ち上がると、満足げな吐息をついた。
「ああ、かわいかった。じゃあなあ」
港に細く甲高い女の泣き声のような汽笛の音が鳴り響いたのは、まさにその時である。
「埠頭からじゃな!?」
アマミのブラストが照明弾のように夜空を照らし、埠頭に横付けされた船の姿を夜闇に浮き上がらせた。
――巨大な貨物船。
出向時刻は、もう間近に迫っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『永すぎた春に咲きし叛逆の徒花・ユキミ』
|
POW : 我が身を刀刃として、逆賊に斬り込まんとする!
自身が戦闘で瀕死になると【魔法陣からレベル×1体の自身のクローン体】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD : 神州奪還その日まで、我が復讐の炎は消えず!
自身に【憎悪と怒りのオーラ】をまとい、高速移動と【負傷や出血量に応じ勢いを増す翠の炎】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 憂国の士よ、大義を成すべく今一度集え!
【演説】を披露した指定の全対象に【思考停止へ陥るような熱狂又は恐慌の】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
イラスト:石川優雅
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「神羅・アマミ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●第3章 『忘ラルル永春ノ夢』
「う……」
小脇に抱えた娘が僅かに喘ぐのを、影朧は塵芥を見るのと同じ眼差しで蔑んだ。海風に煽られて乱れた外套から長い黒髪がばさりと広がる。
意外なことに、こちらも女だった。
それも、まだあどけなさすら残している年若き娘である。
「――待て!!」
背後からかけられた声に振り返れば、足止めを乗り越えた猟兵たちが埠頭の欄干にたたずむ影朧を一斉に見上げている。
くっ、と彼女は喉で笑った。
「はッ……はーはッ! ハハッ!!」
背後では貨物用の蒸気船が出航の時間をいまかと待ちわびている。おそらく、あれに乗ってこの地から離れるつもりなのだろう。
影朧は海を背にして追手に向き直ると、傲慢にもこう告げた。
「猟兵殿よ。ここは私を見逃せ。その方がきっと、世の中面白くなる」
「何を根拠に――」
「この世は倦んでおろう?」
反駁をねじ伏せるが如く、彼女は高々と告げた。
「私はユキミ。帝国に叛逆せし、孤高の仇花よ! かつて私を追い詰め、自害へと追いやった政府へのこれが復讐の狼煙だ!!」
ユキミは胸に抱きかかえた娘に顔を近づけ、その滑らかな頬を手袋の指先でなぞった。このまま戦いを挑むには、あまりにも2人の距離が近い。
猟兵たちの躊躇をあざ笑うかの如く、ユキミは残酷なまでの事実を突き付け、挑発的な台詞を繰り返した。
「無論、この娘にはなんの罪もない……が、軍上層部の将校を父にもったことを不運と思い、叛逆の生贄となってもらわねばな。それとも、猟兵殿に対する盾のほうがふさわしいか? さあ、どうする――!?」
神羅・アマミ
き、貴様~!
そんな逃避行を許せば女同士、密室、七日間。何も起きないはずがなく…
百合展開からまさかの改心を期待したいが回りくどすぎる!
ならばコード『吊込』を発動よ!
和傘を高速回転させ縁から展開する無数の刃を、火花散らすように地面に擦ることで出鱈目に騒音を掻き立て、奴の演説を遮るぞ。
「ハァ~!?うるさくて何言ってるか聞こえね~!」
そして敵の身振りや口元さえも見えぬよう傘で身を隠しつつ【ダッシュ】!
懐にて彼奴の軍刀を刃にて絡め取り、八つ裂きにしてくれる!
人質問題は…きっと既に誰かが解決してるはず!
そう言えばまたも我が写身のようなオブリビオンが!
一体何が起こっている!?(それはまだ、誰にもわからない!
荒・烏鵠
ヘー人質取ッちゃうンだァ。フーン。ホー。
あーアーそンならコーゲキ出来ねーなァ、やー厄介ヤッカイ。
なンて言いながら『神符』をポイッと後ろに投げて、【猿回シ】発動!
後ろに投げた『神符』と人質ッ娘の位置を交換すらァ。
ケッケッケ。コレでミーンナ遠慮無く戦えンだろ?
ぶっちゃけ姉御らで戦力足りてる気がすンのよなァ。だからオレは人質チャン守りましょーかね。
『神符』を円形に配置して、〝高速詠唱〟〝範囲攻撃〟〝オーラ防御〟〝破魔〟の合わせで防御結界をドーンと張る。
アトは敵サンの攻撃を阻害するカンジで〝早業〟〝呪詛〟を使って陰陽師らしく『神符』投げて攻撃。結界維持に問題出ない程度にネ。
みんなガンバーレ!
茜崎・トヲル
面白くしてくれんの。そりゃいいなあ。わくわくしちゃうぜ。
あー、あー、でもだめだ、やっぱだめだよ。だってその子、さらった子は人間だもんな。
人間はたすけなきゃ。
【不浄なる犠牲】を使ってから、自分の腕を自分で切りおとすよ。片手切ったあとは使った殺戮刃物を落として、足で踏んで刃を上にして、そこにもうかたっぽも叩きつける。
これで両手落ちるじゃん。ここでユキミって子に傷を移せばさ、人質の子は手放しちゃうだろ。
そのままおれを攻撃してくれてもいいぜ、ぜんぶあんたに跳ね返るし。
おれは痛いとかないし、聖痕のせいで死なないし。
あはははぁ、どんどん捨て身でいくよ。積極的に肉盾になってやる。
そんでケガ、ぜんぶあげるよ。
ウルダ・ドーリス
ナンパチャレンジ(f22882)
💠なんでも歓迎
ねーぇ 何とかできない?
って言っただけよあたし
ワァオ…そんなことできちゃうワケ? 最高
腕が緩んだ瞬間狙って
Invisible Hugで奪取
以降人質の保護と全体支援を優先
こわかったわね
大丈夫よ すぐ帰れるわ
今からこわぁい人たちがあいつボッコボコに…
…見せないほうがいいわね
地上がヤバそうならお姫様だっこで空中に退避
安心して 落とさないから
そうだ 船も止めとかなきゃ
甲板に出てきた奴らを念動力でキュっ
他人の血で成すユメなんて始まる前にオシマイ
もう後始末のターンでしたぁ
ざーんねん…
全部終わったらハンサムさんに声かけよっと
ここの住人なんでしょ
いい店知らない?
ヨツユ・キリングミー
■動機
「アマミ嬢よ。この戦い、心に刻むがよい。桜は散るもの。ゆえに花。しかし、それを忘れたユキミは……なんじゃろうなぁ?」
それはそれとして、人質と、ユキミのユーベルコードに同時に対応したい。
■行動
ユキミの【演説】自体を妨害するために、老人特有の話を聞かないムーブで先手を打って喋り出す。
「わかるぞ、ユキミ。過去の影であるおぬしの願い。わしも村が焼かれたあの日をやり直すことができれば……。しかし、それはかなってはならぬ夢。そう……深追いし過ぎたガチャの結果も……クソがぁっ!」(スマホを叩きつけて破壊)
演説を妨害できればよし。そうでなくとも、人質から気を逸らすことに繋がれば、誰か何かするじゃろ。
天花院・祝
事業提携(f24090)
全く、無茶を言う女だ
……隙を作る
その間に娘を掠め取れ
頼んだぞ
奪還のサポートをしよう
惡魔召喚「蝶々夫人」
ユキミの認識を捻じ曲げ
手元の人質が忽然と消えた幻覚を見せる
化かせ 蝶々
傍らの蝶々夫人を人質に見えるように化かせば
人質からは注意を逸れるだろう
“後始末”は任せたぞ
人質を引き剥がしたら
櫻狩を抜き
後方へ向かわせないよう一気に接敵
ふ、鮮やかな腕前だ
生命力吸収の呪詛を載せた刃で急所を斬り殺す
演説の効果は
蝶々に敵意で上書きして貰おう
叛逆か 下らん
私は裏切りや反逆の類が大嫌いなんだ
故に死ね
片付けたらさっさとその場を去るとしよう
…変わり者の女だな
口説くならもっと若い衆にしておきたまえ
エダ・サルファー
結局事情と理由は判然としないけど、そちらのお嬢さんを解放するつもりはないってことだな。
なら見逃す理由は無いよ。
お前はここで、骸の海に帰ってもらう!
と啖呵を切ったは良いものの、人質が囚われている以上迂闊には動けないなぁ。
そうだな……、よし!
ひとまず様子を見ながらある程度近付いて、ドワーフ式震脚をぶっ放そうか!
ユキミに人質を傷付けられちゃマズいから、不穏な動きがあったら多少遠くてもぶっ放すよ!
んで、動きを止められたらそのまま一気に距離を詰めて人質を奪還!
ここまでが上手く行ったら後は格闘戦を挑むだけだ!
戦闘中もちょいちょい震脚放って行動を邪魔しながら、殴ったり蹴ったり投げたり関節極めたりしていくよ!
アレクシア・アークライト
目標
攫われた娘を助ける。
動機
将校に娘を助けることを約束したため。
手段
敵の手により傷を負ったり、自分が助け出す際に身体に負担が掛かったりすることがないように、娘の表面を力場で覆う。
UCにより自己の時間を加速し、娘を奪い返す。
既に傷を負っていたりするような場合は、その部分の時間を逆転させて治癒する。
その他
この1年の間に2回した動くことがなかったヨツユが来ている。しかも、常に沈着冷静だった彼女が、あのアマミに似ている影朧の影響を受けているのか、今まで見たことがないようにはっちゃけている。いったい何が起きているのか、不安を拭い去ることができない。まさか、この敵は、この世界は――。
「き、貴様~!」
星天瞬く宵空の下、長い髪を海風になびかせながら神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)は歯ぎしりして唸った。
ユキミはといえば、人質を抱えたまま、欄干の上より満足げな笑みとともにアマミを見下ろしている。
「ふん。己の無力を思い知ったか、猟兵殿?」
「――さては、百合狙いじゃな!?」
「は?」
アマミの指摘にユキミが虚を突かれたような顔になった。
「……百合?」
「そうじゃ! このまま逃避行を許せば女同士、密室、七日間。何も起きないはずがなく……その先にあるのは改心か、はたまた手に手を取り、心中覚悟の玉砕か――!」
「いや、違……私はこれから帝都に向かい、将校の娘を人質にとって政府へのクーデターを目論もうとだな……! 断じて、そのように色狂いの理由からこの娘を攫ったのではないわ!」
あまりにも突拍子のないアマミの妄想に引きずられたのか、ユキミは聞かれてもいないのにこれからの予定を語り始めた。
「なるほど、そんな目的があったわけか」
やれやれと、エダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)は肩をすくめる。
「派手な誘拐事件を起こした事情と理由がいまいち判然としないなとは思ってたけど、クーデターとはね。それがあなたの言ってた『面白いこと』ってやつ?」
腕を組み、言質を取ったとばかりにユキミを睨みつけるエダ。ユキミの方は「しまった」とばかりに口を噤んだが、もう遅い。
「元軍人のわりには口が軽いのう!」
「貴様には言われたくないわ!」
言い争うアマミとユキミを見比べつつ、荒・烏鵠(古い狐・f14500)は考えに耽るように顎を手でさすった。
(「ヤッパ似てるよな……」)
なあ、と隣のアレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)に耳打ちする。
「あの影朧チャン、我らが団長サンに似てる気ィしない?」
「ええ。何となく、雰囲気が」
アレクシアは頷き、もうひとつ気になっていたことを告げた。
「それに、おかしいとは思わない? めったに動かないあのヨツユがここまで付き合うなんて。しかも、いつもの冷静さを忘れてあんなにもはっちゃけている」
見れば、いつの間にかアマミとユキミの言い争いに加わったヨツユ・キリングミー(死なずのキリングミー・f06016)がまた意味不明なことを口走っている。
ヨツユはアマミの肩に手をおき、こんな海辺にまで飛んでくる幻朧桜の花弁を見上げながら茫洋とつぶやいた。
「アマミ嬢よ。この戦い、心に刻むがよい。桜は散るもの。ゆえに花。しかし、それを忘れたユキミは……なんじゃろうなぁ?」
「なんじゃろうなぁ、ってなんじゃろうなぁ?」
人差し指を唇にあて、アマミは首をかしげる。
「そういえば、前にもこうして我が写し身のようなオブリビオンと邂逅したことがあったのう。はて、これはもしやなにかの符号か?」
再び、見上げた先にはユキミの狂信に彩られた赤き双眸が闇に映えている。確かにふたりは似ていた。髪の色こそ違えど、その姿かたち、髪型、そしてその赤い瞳――。
「血の色だあ」
茜崎・トヲル(白雉・f18631)のくすぐったそうな笑い声が海風に乗って戦場に微弱な緊張を漂わせた。
「なにを――」
不穏な気配に身構えるユキミにも隔たりの無い笑顔を向け、悪戯っぽく舌を覗かせる。
「ほんとはねぇ、面白くしてくれんの見たいんだけどさあ。でも、その子は人間だからだめなんだ。ほんとーに残念なんだけど、人間はねえ、たすけなきゃ」
言い終えるがはやいか、手に持った刃物を左腕にあて、迷うことなく力を込めた。それから地面に落とした刃を足で踏み、上向けた刃に向かってもう片方の腕も切り落とす。
「なッ……」
ユキミの驚愕は、トヲルが両の腕を切り落とした途端に自分の両腕に走った激痛と――突如として揺れた欄干から足を踏み外しかけた衝撃による行動不能が原因だった。
「よし! 動きが止まった!」
腰の位置に拳を握り、思いきり地面を脚で踏み抜いたエダが快哉を上げる。そして、そのまま一気に距離を詰めた。
「いったいなにが――!?」
あまりにも突然で予想外のことに、抱えていた娘が腕から落ちかける。
「いかん――」
だが、彼女を抱え直そうとしたユキミの瞳が驚愕に見開かれた。一瞬、その体を守るように光の膜を纏ったように見えた直後のことだった。
「ッ!?」
ばちッと、娘に向けて伸ばした手が何かに強く払われる。
――消えた?
どこにも人質の娘がいない。
さっきまで抱えていたのに、落としかけたのはついさっきだというのに、一瞬にして消え去ってしまったかのようにユキミの前から消え失せている。
「ワァオ……そんなことできちゃうワケ?」
手品の種を知っているウルダ・ドーリス(後始末屋・f24090)は“ナンパチャレンジ”中である天花院・祝(病ミ櫻・f22882)に流し目を送り、「最高」とささやいた。
「無茶を言われたので、どうにかしたまでだ」
「ねーぇ、何とかできない? って言っただけよあたし」
「自覚はなしか。……とにかく、隙は作った。いまのうちに娘を掠め取れ」
一方、祝は“業務提携”相手であるウルダに対して事務的に取り繕った口調で答える。ウルダはウインクひとつで了解し、烏鵠とタイミングを合わせ、一瞬でその腕に気を失った娘を抱き寄せていた。
鮮やかな腕前に微かな賞賛の吐息をつく祝。
烏鵠はヒュゥ、と口笛を吹いて成功を喜び、人質と位置を入れ替えられたコビトガラゴを猿回しのように舞い踊らせる。
「これは、猿!?」
見事に役目を果たしたコビトガラゴを引っ掴み、ユキミは慌てて辺りを見回した。まさか、時間制御によって加速したアレクシアがユキミの伸ばした手を払いのけ、その間に烏鵠の神符による入れ替えと不可視のサイキックエナジーを使用したウルダの遠隔操作によって人質が一瞬にして奪われたのだとは思いもよらないのだろう。
「ケッケッケ。うまーくいったなァ。『ヘー人質取ッちゃうンだァ。フーン。ホー。あーアーそンならコーゲキ出来ねーなァ、やー厄介ヤッカイ』――なーんて、本心から言うわけネーっしょ? あんたさー見かけによらずウブすぎンよ」
烏鵠はすぐさま、自分の後ろに庇った娘とウルダの周囲に神符を丸く巡らせ、不可侵なる防御結界を始動。
「ん……ここは……?」
目を覚ましかけた娘に、ウルダは優しく言い聞かせる。
「こわかったわね。大丈夫よ、すぐ帰れるわ」
「ほんと……?」
「もちよぉ。今からこわぁい人たちがあいつボッコボコにしてくれるから……じゃなかった、なんでもない。もう少し眠っていて?」
烏鵠の結界とアレクシアの加護があれば、空中へ逃げずとも問題はなさそうだ。戦いの様子を娘が直視することのないように、ウルダは自分の体で視界を遮った。
「怪我がなくてよかった」
アレクシアは目を閉じると自分の胸に手を触れる。彼女が無事ならば、すり減った鼓動の数など惜しくはない。
「……ありがとう……」
薄っすらと目を開け、たどたどしくつぶやく娘を勇気づけるように微笑む。
「必ず助けるって、あなたのお父さんと約束したから」
「父様は……?」
「無事よ。だから安心して休みなさい」
「……うん」
娘はようやく眠りにつき、規則正しい寝息を繰り返した。
「そうだ、船も止めとかなきゃ」
ウルダは騒ぎを聞きつけた船員たちが甲板に出てくる先から、やはり念動力でひとりずつ締め落としていく。人質の時よりも少々手荒なのはご愛敬であった。
「さあ、お前の出番だ。化かせ、蝶々」
祝の指先が揺らめき、煙る羅宇烟管より召喚されし蝶々夫人。ユキミの目には奪われた娘に見えているはずの、美しき悪魔。
「そこか!」
「いかせないよ!」
奪い返そうと地上に向かうユキミを、人質奪還の隙をついて一気に肉薄していたエダの蹴りが豪快に阻む。
「お前はここで、骸の海に帰ってもらう!」
「ちッ……!! いきがるなよ娘! 私の悲願こそこの帝国の再生! 腑抜けどもに支配された仮初の世に天誅を下すため――」
ウィィィイイイイイイイイインガリガリガリガガガガガズシャァアアアアズバァァアアアアアアアアア――――――ギュリリルルァアアア!!!!!!!!!!
どうやら、人の耳というのはあまりにも大きな騒音を聞かされると逆に何も聞こえなくなってしまうらしい。
突如として戦場に鳴り響いた騒音は、ユキミの演説どころか音という音の全てをかき消してしまった。
「 ッ? !?」
「 ~!? !」
思わず両耳を手で抑えるユキミに、アマミは耳を小指でかっぽじりながら何事かを言い返すと、騒音の元凶である仕込み刃の和傘で地面を擦り付ける動作はそのままに、自らの身を傘の内に隠して突撃を決行――!!
これなら独りよがりな演説など見えないし聞こえないし怖くもない。
「みんなガンバーレ!」
烏鵠が景気よく早業でばらまく神符がユキミの身体に纏わりつき、黒い染みのような呪詛で侵していった。
「ぐ……!」
途端に足が重くなる。
目の前には、両腕の無いトヲルが相変わらずへらへらとした笑みを浮かべたまま行く手を遮っているではないか。
「どけ――!!」
地面に次々と描かれた魔法陣から生み出されたユキミの分身が自分に向かって突き立ててくる刃のきらめきを、トヲルは狂おしいほどに享楽的な瞳で見つめた。斬られる――痛くない――突かれる――何も感じない――抉られる――それでも死ねない――。
「ぐはッ……」
損傷を丸ごと移されたユキミが遂に血を吐いた。
「ばかな、この私が――猟兵ごときに――?」
「わかるぞ、ユキミ」
いつの間にか近くまで歩み寄っていたヨツユが、全然全く何もわかっていない顔で語りかける。
「過去の影であるおぬしの願い。わしも村が焼かれたあの日をやり直すことができれば……。しかし、それはかなってはならぬ夢。そう……深追いし過ぎたガチャの結果も……クソがぁっ!」
過去の過ちに囚われるままスマホを地面に叩き付けて破壊したヨツユは、「ふぅ」と額をぬぐって独りごちる。
「こうしてスマホの尊い犠牲によってユキミの注意は人質から逸れ、その間に皆がなんとかしてくれると信じ――って、もうとっくに人質救出できとるやんけーーー!!」
ノリツッコミによる巫覡載霊の舞!!
「ぐはぁッ」
あまりにもあまりな暴走に巻き込まれたユキミの方も、奇々怪々なヨツユのテンションとともに繰り出された攻撃など躱しようがない。
「ま、まずい……さすがにこれ以上は……まだ、私は倒れるわけにはいかんのだ……叛逆の旗を帝都の央に打ち立てるまでは――!!」
「……下らんな。私は私は裏切りや反逆の類が大嫌いなんだ。故に死ね」
さく、と胸元に櫻狩の切っ先を喰い込ませつつ、祝は言葉そのものが持つ意味とは裏腹に酷く端然とした響きで告げた。
「がッ……」
影朧の醜い呻き声に被さるのは、蝶の羽ばたきに似た嗤い声。
ユキミは愕然と目を見開き、その正体を見た。
「娘、ではない……だと……!?」
「是だ。それは私の蝶々夫人。少し気分屋で負けず嫌いだが、特に有能でな。お前の演説による不快な熱狂も、こうして静謐な敵意でもって塗り替えてくれる――」
「あああッ……!?」
急所を抉る刃先から、ユキミの生命力が祝の内へと注ぎ込まれてくる。
「せやッ!」
よろめいた体に組み付き、エダは相手の側頭部に後ろ蹴りを入れつつ、掴んだままの肘を決めて関節技に持ち込んだ。
「よーし、そのまま抑えつけておれ!!」
動けないでいるユキミの懐へと迫ったアマミの和傘が勢いをつけて旋回し、腰に下がっていた軍刀を空高く絡め飛ばす。
「あ――」
「チェックメイトじゃな♪」
ザン、と特殊合金でできた刃が肉を抉り、思うさま遠慮の欠片もなく粉々に見るも無残な八つ裂きにしていった。
「ざーんねん……船員さんを眠らせてる間に後始末も終わりのターンでしたぁ。ねぇねぇ、ハンサムさん。ここの住人なんでしょ、いい店知らない?」
さっさとその場を去ろうとしていた祝は懐いてくるウルダを振り返って少し戸惑い気味につぶやいた。
「……変わり者の女だな。口説くならもっと若い衆にしておきたまえ」
「え?」
ウルダは自分と相手を順に指差し、きょとんと首を傾げる。それから年齢を聞いて、おもいっきり驚いた。
「え? えええ……!? この世界ってほんとwonderねぇ」
無事に出航してゆく貨物船を見送りながら、アマミは腕を組み、どこか遠くを見つめている風でもあった。
「妾に似たオブリビオンの引き起こす事件……これは何かの予兆なのか……!?」
「なんだか不安ね」
アレクシアは海風に晒されていた自分の肩をさすり、夜空を見上げた。次第に汽笛の音が遠ざかっていく。
(「まさか、この敵は、この世界は――」)
夜の海は黙して語らず、有明にはまだ遠い。幻朧櫻の色褪せた薄紅が昏き水面に吸い込まれ、ゆっくりと波間に沈んでいった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2019年12月05日
宿敵
『永すぎた春に咲きし叛逆の徒花・ユキミ』
を撃破!
|