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幻想人形館

#UDCアース

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#UDCアース


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●幻想人形館
 ――ようこそ。よくお越しくださいました、……様。
 ええ、紹介は受けております。VIP用の展示場へ、ご案内致します。
 こちらのことは何処で、などと野暮な話はいたしませんとも。
 蛇の道は蛇。求めれば、運命は必ず導くものでございます。
 さあ、まずはあちらの水槽をご覧くださいませ。
 ――驚かれましたか。ええ、あれは、『人魚』でございます。ふふ、怪物などでは御座いませんよ。歴とした我々の商品でございます。
 ではあちらの木立をご覧くださいませ。
 ――はい、はい。『ハーピー』でございます。上半身以外は鳥の形をしておりましょう。
 いえいえ、着ぐるみではございませんよ。触れてご覧になればわかりますが、本物と熱を持ち、呼吸をしている躰だと解るはずです。
 このあたりは、造形美を求めたものたちです。もっと異なる……怪物と呼ぶべき存在などは別の場所に。
 ――お客様はもしや影の世界に精通しておられますか?
 いえいえ、これらは真に『人間から作り出した無害なる異形』でございます。愛玩用、観賞用の、無垢なるものたちでございます。
 どれも人に害をなせるようなものではございませんから、ご安心を。
 ささ、奥に参りましょう。もっと素晴らしいものをご用意しております――我々は『ハライソ』と呼んでおります、天使の間です。

●異時代の園
「異界において、人体改造もキマイラも、決して珍しいものでもないけれども――」
 ジュマ・シュライク(傍観者・f13211)は猟兵達にそう切り出した。
「UDCアースのただの一般人が……金のために人身売買され、心を奪われ、改造されているという事件ですの。勿論、裏には邪神の存在がありましてよ」
 太古より語られる、幻想生物。
 人魚、翼持つ人、人馬、ドラゴン――その他諸々。
 異世界へ渡れる猟兵達にすれば、ちっとも珍しくも何ともない存在達だけれども。
 ただUDCアースにおいて、一般人は基本的に、怪異から一枚膜を隔てた先で守られている。
 きっと物珍しいに違いない――彼はゆっくりとオーブを撫でて、笑みを湛える。無論、皮肉だ。
「彼らの商売は高値が付きますわ。それこそ、UDC組織でも容易な接触は出来ないほどに。そしてとても慎重に取引している……表の倫理に照らし合わせても、当然、アウトですもの」
 だから、彼らの流儀に合わせた接触が必要になる。
「彼らの『店』は常に移動していますわ。そして何とか掴んだのが――こちら」
 ジュマはひと綴りのパンフレットを投げて寄越す。そこには『浪漫園』なる場所の案内……大正時代の建物を復刻、ひとつの街を『大正』をコンセプトに纏め上げた、そんなような場所の案内だった。
「まあ、所詮見世物、サクラミラージュの後だと多少見劣りするかもしれませんけれど。そこそこきちんと作られた建物が連なっていましてよ」
 それはそれとして――ジュマは話を本筋へ戻す。
「この建物のひとつが、かの『幻想人形館』なるショールームになっていますの。アナタ方はそれを見つけ出して頂戴な」
 ただひとつ注意が必要だ。彼らはとても慎重である、ということ――猟兵ということを悟られれば、恐らくこの場から、さっさと撤収してしまう。
 何せ、邪神が背後に居る。それくらいのことはしてみせるだろう。
「条件は言うまでもございませんでしょう? ――金を余らせた、悪趣味な趣味をもつ、人形蒐集家」
 アナタ方なら巧くやれると期待していましてよ――ジュマはそう告げて、転送へと掛かるのだった。


黒塚婁
どうも、黒塚です。
次こそ夢と希望のファンタジーを書こうと思っていたのに……。

●1章:冒険『大正猟兵浪漫譚』
大正時代をテーマにした空間で『幻想人形館』を見つけ出すこと。
接触のためには『彼らが客と認める』ための行動が必要になります。
同時に、彼らが此処で店を広げているということは……?
これらは正攻法です。強行突破も可能です。
行き当たりばったりな探索ですと(遊びに来たのは別として)確信に触れるのは難しいです。
なお、深い大正要素は期待しないください。

●2章:集団戦
●3章:ボス戦

●プレイング受付に関して
各章導入を公開し、同時に受付日程も告知致します。
マスターページやTwitterでも告知しますが、基本は導入部で解るようにしておきます。
受付日程より先にいただいたプレイングに関しては内容を問わず採用しません。
また全てのプレイングを採用するとは限りません。
ご了承の上、ご参加お願い申し上げます。

それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。
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第1章 冒険 『大正猟兵浪漫譚』

POW   :    大正時代なんて知るか! いつもどおりの自分の姿で調査をする。

SPD   :    大正時代の雰囲気に合わせた格好で、観光客として街のなかを調査する。

WIZ   :    大正時代の雰囲気に合わせた格好で、商店や旅館などの奉公人に紛れて調査する。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 白と黒の木造建築の街並みが区画を挟んで並んでいる。
 凝ったアーチや、風変わりな軒下を構えた仰々しい建物は、現代のUDCアースの中にあると奇妙な感覚を覚える。
 マロニエの木が並ぶ大通りには人力車が客を待ち、いわゆるハイカラさん――猟兵ではなく――ファッションに身を包んだ観光客が写真を撮っていた。
 レトロな自動車も展示されている。レールは再現されているが、路面電車はないらしい。
 よくよく周囲を見てみると、古風なドレス姿を身に纏った人々もいる。ダンスホールに似たコンセプトの記念館があるらしい。
 この辺り、若干明治時代との境目が難しいが、仮装に関しては大分おおらかなようだ。
 とはいえ――現代の洋服を着ているものも多いし、どちらかといえばそちらの方が目に付く。
 さて、基本は街並みを眺めて散策するのが主な楽しみ方だと案内にはある。
 大通りで入れる店は、大体パーラーや洋食レストランのようだ。
 それらを通り過ぎ、真っ直ぐに伸びる坂道を登れば、バラ園が美しい洋風建築がぽつりぽつりと立っている。
 いずれも内部は資料館であったり、土産物屋であったり、再び食事処だ。
 オルゴール店に人形展、風土館――一周ぐるりと見て回っても、いずれも一見怪しいところはない。
 しかし何処かに必ず『幻想人形館』なるものは存在している。
 そして、それは何かしらの手がかりを元にしなければ、曝かれることもないだろう。

――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――
【プレイング受付期間】
12月2日(月)8:31~5日(木)中
能力値による探索方法は特に気になさらず、ご自由にどうぞ。
――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――
七篠・コガネ
物珍しいものとは退屈凌ぎになるでしょうが
もっと健全なやり方というのを学んで欲しいものです
人権は何者も踏みにじって駄目なんですよ…

大正…というのは僕にはさっぱりなので
工夫した装いもせずこのまま行きます
きな臭くなければ素敵な場所なのにな、此処
内蔵センサーで生体反応キャッチ
狙うは人が少なく動きの無い、観光客とは思えない反応

でも僕の姿形って一般的な人の観点だと『異形』に見えるんでしょか…?
『捕まえやすい獲物』として振る舞ってみましょうか
敢えて隙を見せます(でも普段からボーっとしてる事が多い)
上手くいけば敵を誘導出来るかもしれません
でも僕、演技出来るでしょうか…外見上嫌な事言われたらどうしよう


レン・デイドリーム
人間で作った人形、か
それを人形の僕が調査するっていうのは不思議な感覚だね

服装は浪漫園に合わせたものにしておこう
異世界の文化も参考にして、きちんとした格好をしておくね

『幻想人形館』の利用者は金持ちの好事家達だろう
最初は浪漫園を散策しつつ、それっぽい人に目星をつけていこうか
服装がとてもしっかりしていたり、従業員以外に誰かを従えていたりするような
【第六感】も働かせつつ探していくよ

それらしき人を見かけたら【情報収集】で彼らの動向を追ってみる
そういう人が集まる建物があれば入ってもみようかな
そこで「人形」って言葉を出してみたらどういう反応が来るかもみたい
怪しまれたら人形展を探しているって事にしておくね



●入口
「人間で作った人形、か。それを人形の僕が調査するっていうのは不思議な感覚だね」
 書生姿などに着替えて見つつ、レン・デイドリーム(白昼夢の影法師・f13030)が不自然ではないように周辺を一瞥した。
 これがちゃんとした姿なのか、少々不安もあるが――周囲を見ればそんなに問題はなさそうだ。
 似たような姿をした人々が楽しそうにしている。
 その中で一際目立つ巨体が、大通りを征く。
「物珍しいものとは退屈凌ぎになるでしょうが、もっと健全なやり方というのを学んで欲しいものです――人権は何者も踏みにじって駄目なんですよ……」
 赤いマフラーに触れながら、ぽつりと七篠・コガネ(f01385)が呟いた。彼はいつもの服装だ。
 大正というものがさっぱり解らない――知識としてインプットできても、文化の反映は難しい。
 何より、出来合いのもので彼に足りる衣裳はなさそうだったから、仕方ない。
 ウォーマシンである彼の体躯は、ともすれば行き交う人々を遮ってしまいそうになるのだが、それをするりするりと彼の方が抜けていくのは、実に不思議な光景であった。
 ひとえに『人形』と言えど、様々なものがあるのだなあとレンは彼を見て思う。
 だがいつまでも大通りを右往左往していても仕方ない。
「利用者は金持ちの好事家達だろう」
 コガネに向け、己に向け、囁く。
「そう、服装がとてもしっかりしていたり、従業員以外に誰かを従えていたりするような……――」
 己の見立てに従って、不自然すぎぬ程度に周囲に目を配り、コガネもまたその言葉に応じるように内蔵センサーで生体反応を探る。
 彼にもまた定めるべき基準があった。
 狙いは、人が少なく動きの無い、観光客らしからぬ動きをするもの――。
 情報が多ければ、精度が上がる。そういう意味では、レンの直感も頼りになった。
 探りながら――茫洋と街並みを眺めたコガネはふと呟く。
「きな臭くなければ素敵な場所なのにな、此処」
 大正、というものがどういうものなのか実感には乏しいが、人々が違う時代に思いを馳せて、同じ国の異なる文化へ思いを巡らせていることは解る。
 そして、ふと気がつく。レンよりも自分に向けられる視線が強い事に。
「でも僕の姿形って一般的な人の観点だと『異形』に見えるんでしょか……?」
 なれば、そちら側のスカウトが釣れるのではないか――いるか、いないかは兎も角。
「でも僕、演技出来るでしょうか……」
 外見上嫌な事言われたらどうしよう――意外と、繊細な問題である。
「どうかな……成り行きでそうなれば乗ってみるのもいいかもしれないけど」
 君が無理をしなくても、そういう風に動いてる猟兵たちを沢山見かけたからね――とレンは笑みを深めた。
 坂を上がりつつ、路地を抜けて辿り着いた先。先を目指すはレンで、道行きは勘だ。奥まっているからか、人通りが少ない。それでも明確にそこを目指す人がいると、コガネのセンサーは掴んでいた。
 レンは何かに気付いたかのように貌を静かに揚げると、しぃ、と口元に指を立て、コガネをその場に留めた。
 ある洋館にシンプルだが高そうなスーツに身を包んだ男が入っていく。
 共にいた屈強な男が門のあたりに残ると、注意深く周囲に警戒を巡らせた。周囲に人が居ない事をじっくり確認してから、彼も洋館の内部へと入っていった。
「噂をすれば、だ。あの建物の中、探れるかな」
「はい」
 コガネは極力身を縮めながら、暫くうーんと唸って、眉間に皺を寄せた。
「なんか遮断されます。でも不自然な地下の存在を感じますね……」
 それを聴くなり、レンはさっと洋館へと近づいていく。
 門まで近づいたところで、ガードマンに制止される。じっと気配を殺していたのか、と少しだけ驚いた。
「こちらは私有地になります。申し訳御座いませんが、観光客の方はお引き取りください」
 慇懃に穏やかに、立ち入りを断られた。
 軽く首を傾ぎ、ふむ、とレンは試しにある言葉を向けてみる。
「人形――展を探しているんだけど、何処かな?」
「――ああ、それでしたら……」
 それを何となく見守っていたコガネは、戻って来たレンの様子は、思ったよりも飄然としていた。
「当たりだと思う。人形、に少し反応した――けど、きっと簡単には入れてくれないね」
 どうしましょうね、コガネが僅かに貌を伏せて考え始める。
 さて、手段そのものは色々あるだろうが――他の猟兵達はどうしているのだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジャスパー・ドゥルジー
リア(f00380)と

俺だったらいくらでも見世物になってやるのにさ
ショーケースに捕らわれた麗しき異形を演じきってやるとも
怪物の方でも構わねえけどな

嘯きながら散策を
今日の俺は「異形に憧れて身体改造を繰り返す倒錯者」さ
あながち間違っちゃいねえが

看板を出していなかったり店のスペースが建物に対してやたら狭かったり
不自然な店を見つけては店の者に声を掛ける

俺はにせものの悪魔だが
ほんものに出会える場所があると聞いた
こつん、と己の悪魔角を指で叩きながら

そういう世界があるのは聞いている
後ろの「貴婦人」を見てくれよ
生きる人形がいるならば
生きる悪魔がいてもおかしくないだろ?


無供華・リア
ジャスパーさま(f20695)と

ふふ、ご冗談を
籠の中の生活なんて、きっとすぐに飽きてしまわれますわ
それともそれも『嗜好』に御座いましょうか

基本はジャスパーさまの後ろを一歩下がって歩みます
彼に話を振られたらジェイドを操ってみせましょう
不可視の糸で
極少ない動作で
まるで生きているように

――いいえ、真実彼は生きております
彼の「おともだち」が欲しいんですの
大切な蒐集品と伺いました、お譲りいただくのは難しいでしょうか
ならばせめて、硝子越しでも対面させてくださいませ
この子もヒトの枠を外れた者
ひとりぼっちは可哀想ですから

人形の為に財産を投げ打つおかしな女貴族
人形館の客としては相応しいのではないでしょうか?


マリス・ステラ
男装の麗人の装い
金髪は後ろに纏め何処か浮世離れした雰囲気
その『存在感』で『おびき寄せ』るように
更に異様は手に引かれた黒のスーツケース
子供なら"畳んで"仕舞えるだろう

人形展、映画館、高級料亭などどのような金額でもまるで気にもせず淡々とけ会計を済ませます

逆にペットショップは完全にスルー

「私は獣を求めているわけではない」

ケースに"収まる"に相応しい子はいるでしょうか?
歩みながら、巡りながら、私は心の内で『祈り』を捧げる

裏路地は表通りの喧騒が遠く

「私の空虚を『慰め』てくれる"命"が欲しいのです」

【黄金律】を使用

できるなら子供を、大人は嫌いです
幻想を奏で愛するには丁度良い
そう、サテュロスと言いましたか



●窓口
 異国情緒――もとい、時代情緒に溢れた街並みでも彼らの姿はとても目を引いた。
「俺だったらいくらでも見世物になってやるのにさ」
 不意に、ジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)が言う。
 その額から突き出た角も、尖り、穿たれた耳も。人目を集め、人目を憚る――そんな視線にも慣れたものである。
「ショーケースに捕らわれた麗しき異形を演じきってやるとも。怪物の方でも構わねえけどな」
 嘯く彼に、押さえた笑みを零すは、後ろを楚々とゆく人形を抱いた女。
「ふふ、ご冗談を。籠の中の生活なんて、きっとすぐに飽きてしまわれますわ――それともそれも『嗜好』に御座いましょうか」
 ねぇ、ジェイド、と。無供華・リア(f00380)が軽く腕の中に声をかければ、それは滑らかに肯いた。まるで自分の意志をもっているかのように。
 勿論、彼女が操っている――簡単な動作ならば、端からは悟られぬ。
 着かず離れず、ジャスパーが前を行き、リアがついていく。それは端から、如何なる連れ合いに見えただろうか。
 今日は何かの催しかしら、と囁きあう一般人がいる――まあ、二人以外にも『演じて』いる猟兵がいるため、目立つのだろう。
 当て所なく歩いているように見えて――ジャスパーの瞳は周囲を確り観察している。不自然な店や、看板を掲げず、気付かれにくい店。
 ふと、リアが貌をあげた。その視線が向かう先を、ジャスパーもなぞる。
 アールデコを意識した店構え。極々自然と扉を構えるが、何となく人を拒む空気を放っている――何かがあるような予感がした。
 入店してみると、極々普通の喫茶店のようだ。だが、客が変わっていた。
 妙に身なりのよい人々が行儀良く座っている――。
 入ってきたジャスパーの姿に、隠せぬ動揺を浮かべ、瞬時に視線を逸らすが、もう遅い。
 よォ、と店の主に一声かけて、カウンターに座る。
 リアもしずしずと近づくが腰掛けることはない。ジャスパーの後ろで静かに佇んで、感情の掴みにくい微笑を向けるだけだ。
 店主は彼らに、ただご注文は、とだけ問うた。
 表情をまったく出さないのはプロらしい――ジャスパーはにやっと笑って、
「俺はにせものの悪魔だが、ほんものに出会える場所があると聞いた」
 こつん、と己の悪魔角を指で叩く。
 ――まあ、此処に至ってはホンモノがニセモノを装っているのだが、そんなことはおくびにも出さぬ。
 店主も顔色一つ変えず、聴いていた。
「そういう世界があるのは聞いている――後ろの『貴婦人』を見てくれよ。生きる人形がいるならば、生きる悪魔がいてもおかしくないだろ?」
「――いいえ、真実彼は生きております」
 きっぱりとリアは彼の言葉を否定した。
 愛おしげにジェイドの頬を撫でると、離れていく彼女の手にジェイドは腕を伸ばした。遊ぶように。そして彼女の腕の中で立ち上がると、滑らかに、店主や周囲の客にお辞儀をしてみせた。生きているかのように。
「彼の『おともだち』が欲しいんですの……大切な蒐集品と伺いました、お譲りいただくのは難しいでしょうか」
 彼女の瞳はきちんと現を見ている。にも関わらず、何処か狂気を孕んで、店主を見据えた。
「……何処の誰ともつかぬ方を、無条件に紹介するわけには参りません」
 彼は『窓口』のひとつであることを、認めた。リアがゆっくりと目を伏せて、小さく頭を振った。
「――ならばせめて、硝子越しでも対面させてくださいませ。この子もヒトの枠を外れた者、ひとりぼっちは可哀想ですから」
 好奇の視線が二人に刺さる。店の者達が皆固唾を呑んで、その結論を待っている。
「ご紹介するに当たって……経済的な事情も評価させていただかねば――」
「――それならば、私が対価を払いましょう」
 喫茶店に突如と現れたのは、金の髪をひとくくりに纏めた男装の女であった。

●求めるものは
 時は少し遡る。
 ありがとうございました、恭しく頭を下げる店員に見送られ、彼女は歩き始めた。
 ひとまとめにされた金の髪が踊る。からからと音を立てる不気味な黒いスーツケース――大きさは丁度『子供なら"畳んで"仕舞える』ほどだ。
 男装に身を包んだマリス・ステラ(星を宿す者・f03202)は浮き世離れした空気を纏い、颯爽と街をゆく。
 真っ直ぐに行く先を見つめる瞳は、何かを見定めるかのように――彼女は、不意に脚を止めた。
 硝子細工の店だった。店先に並んでいるのは『ちょっと値の張る土産』だが、大体買う者もいない展示用の『芸術品』がある。
 彼女は迷いなくそこを訪れる。輝きは美しい――職人が技倆を競ったのだと解る繊細な作品もある。
 ひときわ目を引くのが、躍動する動物を模した巨大な作品だ。天使めいた翼を背負う娘の像もある。
 だがいずれも、マリスの瞳を希望に輝かせることはなかった。
「私は獣を求めているわけではない」
 彼女は誰にでもなくそう告げて、店を後にする。
 その後も目に付いた店に入っては、金に糸目もつけず淡淡と会計を済ませていく。その姿は、『金に価値など見出していない』ようでもある。
 からからと、小さな車輪が立てる音を道連れに、彼女は歩く。
 やがて人気の無い路地裏で、ひとたび脚を止めた。喧噪の届かぬ静寂の空間で、彼女はそっと瞳を閉ざし、祈りを捧ぐ。
 ――我が心、主を崇め。
「ケースに"収まる"に相応しい子はいるでしょうか?」
 呟きが反響する――そこから、空間に違和感を覚える。魔術的、とかそういう類のものではない。ただ視覚的な問題だ。壁の幅がおかしいと直感的に気付いた。
 そこから、件の喫茶店に辿り着いたわけだ。
 彼女は黒いカードをちらりと覗かせつつ、これで不満ならば、と宝石の一欠片をカウンターに載せた。
「私の空虚を『慰め』てくれる"命"が欲しいのです」
 店主を見つめる瞳に、星辰が輝く。
「――できるなら子供を、大人は嫌いです。幻想を奏で愛するには丁度良い……――そう、サテュロスと言いましたか」
 それが得られるならば金など幾らでも。彼女は囁きかけ、店主の決断を求めたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

学生服にマント姿で行動
人の未知なる物への興味や探求心は否定はせぬ
だが…同じ人を怪異にし満たす等それこそ異形、怪物ではないか
そう眉を寄せつつも、宵に手を握られれば息を吐き気持ちを切り替えよう

目星をつけるは人形館
だが同好の士と思われなければならんのだったか
ならば人魚の人形の前にてお前の足も魚であれば、何処にもいかず共に在れるだろうに…と
相手を異形に変えて欲しいとそう願う人のふりをしてみよう
…そう、飽く迄も演技だ…が。…本当に欲という物は限り無い物だな
ついぞ漏らした呟きが聞こえたのだろうか
宵の言の葉を聞けば繋いだ手に力を込めよう
…俺の導となる星は此処にいるのでな
翼など必要ないだろう?


逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と
僕は書生姿に身を包み

ヒトはかくも欲望にまみれた生き物なのか
数ある動物の中で、これほどまでに利己的な生き物もおりますまい
――そして僕たちもまた、今はヒトと同義となっているのです、とザッフィーロ君の手を握りましょう

人形展に向かいましょう
翼ある人形を見上げつつ、かれに翼があればそれこそ天の御使いのようにも映るでしょうと呟いて
ああ、天人もかくやというほど美しい羽根が映えたきみの姿を、僕も見てみたいですねとうっとりと
そうして彼に言葉を向けられたならば、しみじみと感じ入るそぶりをしつつ小さく耳打ちを

……僕の脚を魚になど変えなくとも、僕はきみの傍でしか生きられませんよ



●欲
 薄暗く照明が落とされた中に、人形たちが物言わず来訪者を待ち受けている。
 人形展――はてさてこれが大正に何の関係があるのかという節はあるが、人が集まるところにこういった無関係の催しが企画されるのはよくあることだ。
 表はありふれた人形展で、少し奥へ行くと異形なる人形が待ち受けている――などということはなく、ただ大型の作品が飾られていた。
 そこには幻想の世界が広がっていた。天使や、エルフ、獣人が何かしらの物語のワンシーンを描いてそこに居る。
 名だたる作家のものなのだろう――顔立ちひとつとっても繊細な作りで、物憂げな表情で人々を見つめている。ただ、何処をどう見ても作り物で、邪悪な気配しなかった
「ヒトはかくも欲望にまみれた生き物なのか――数ある動物の中で、これほどまでに利己的な生き物もおりますまい」
 書生姿の逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)が口元に笑みを湛えた。
 彼はそれに皮肉な色を隠さなかった。
「人の未知なる物への興味や探求心は否定はせぬ。だが……同じ人を怪異にし満たす等それこそ異形、怪物ではないか」
 学生服にマントを纏い、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)が厳かに零す。
 ともすれば眉間に皺でも寄せて、嫌悪の感情にとらわれてしまいそうになる。
 ――その手を掬うように握り、宵は柔らかな微笑を向けた。
「――そして僕たちもまた、今はヒトと同義となっているのです」
 声音は悪戯を隠すもののように潜められていた。
 そうだな――ザッフィーロは力を抜くように嘆息する。穏やかな視線を返し、その手のぬくもりを確かめた。ヒトの姿だから、できる事だ。
 彼らは二人で人形展を眺めつつ、素直にその造形に目を細めた。
 難破した王子を救う、人魚の王女――その構図を前に、脚を止める。
 脚を持たぬがゆえに陸にいけぬ娘の人形をひたと見つめ、ザッフィーロはつと零す。
「お前の足も魚であれば、何処にもいかず共に在れるだろうに……」
 その言葉は確かに宵に囁いたようにみせ――実際は標的に聴かせようとしたものだ。
(「……そう、飽く迄も演技だ……が」)
 ただ、そう考える心こそが、何処か言い訳じみて裡に響き、自嘲が滲んだ。
「……本当に欲という物は限り無い物だな」
 思わず口にしてしまい――聞き咎められたかと恐る恐る覗き込めば、傍らにある男は穏やかに人形を見つめていた。指先の力も熱も、特に変わることもない。
 ただし、彼が見つめるのは翼ある人形だった。
「かれに翼があればそれこそ天の御使いのようにも映るでしょう」
 見上げた儘、何処か恍惚とした響きを声音に含み、宵が呟く。
「ああ、天人もかくやというほど美しい羽根が映えたきみの姿を、僕も見てみたいですね」
 そして、美しい微笑をザッフィーロに向けた。
 いつもとは異なる装いに身を包んだ宵の言葉は『含み』があると知っていても、真摯に答えたいと、彼は指に力を籠めた。
「俺の導となる星は此処にいるのでな――翼など必要ないだろう?」
 銀の瞳を細め囁きかければ、返す深宵の瞳は穏やかに。
「……僕の脚を魚になど変えなくとも、僕はきみの傍でしか生きられませんよ」

 彼らが人形展を出ようとしたとき――もし、と一声かけられた。
「興味があるならば、こちらも見物なさりませんか」
 黒服の老紳士だった。顔立ちは不思議と印象に残らぬ。
「ただ――入場料が些か問題です。それさえ問題無ければ、きっと……求めるものが得られるでしょう」
 ザッフィーロがそれを受け取ると、老紳士は瞬く間に姿を消した。恐らく歩いて去っていたのだが、人混みに呑まれた途端、捕捉できなくなった。
 一枚の黒いチケットには、何処で、何を、いくらで、そういった情報は一切書かれていない。悪質な悪戯のようにも思えるが。
「この程度、自分で探り出してみろ……、ということでしょうね」
 宵が老紳士の去って行った方向をじっと見据えた儘、確認するように呟く。
 勿論、そんなに難しいことではないはずだ。彼らはたった二人というわけではないのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

誘名・櫻宵
🌸泡沫櫻
アドリブ歓迎

よい趣味をしているわね
切り貼り混ぜて異形を造るなんてまるで藝術家のようだわ

煌びやかに着飾って
真珠の首輪で繋いだ人魚を抱き撫で
呪華の蝶を飛ばし周囲を探りつつリルを連れて歩く

路地裏や隠れた場所
されど高級なものを取り揃えた店で湯水の如く金を使うわ
この子はあたしの可愛い人魚
月光の鰭も蒼氷の瞳も秘色に紛れる白孔雀の羽髪も美しいでしょう?
この世のものと思えぬ至高の歌を歌うの
もっと美しく着飾らせたいのよ
ありったけの宝石にドレスをおもち!

良い客に見えるよう
あたし新しいお人形も欲しいのよねなんて呟いて
彼等の目にとまり
幻想人形館へご招待頂けるといいんだけど


(ちょっリル!芝居よっ拗ねないでっ)


リル・ルリ
🐟泡沫櫻
アドリブ歓迎

今の台詞思い切り悪の組織っぽいぞ櫻宵
真珠の首輪で結ばれて、グランギニョルにいた時のように着飾られて人形の様に櫻に抱えられて――今の僕は生きたインテリア
観賞用の半月闘魚の人魚
君じゃなきゃ尾鰭ビンタしてたところだ

高値な人形らしく神秘的に振る舞う
演技は得意
美しければそれだけで目を引くもの

類は友を呼ぶ、になればいい
どこからお金が出てくるのやら
櫻は本気で僕を着飾るのを楽しんでいる
君自身も美しい幻想の桜龍だというのに
人形らしく大人しくしといてやるよ

誘き出すよう手助けを
口ずさむ様に歌唱するのは「蜜の歌」
僕らを、人形館に連れてって

(他の人形、の言葉には少しムッとする
僕がいればいいだろ!)



●人魚の歌
「よい趣味をしているわね。切り貼り混ぜて異形を造るなんてまるで藝術家のようだわ」
 くつり、誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は笑う。
 常に咲かせた桜をはらはらと舞わせながら、いつもより煌びやかな着物。彼自身もそれだけで艶美を誇るのだが――それ以上に、美しく彼を彩るのは、胸に抱く人魚。
「今の台詞思い切り悪の組織っぽいぞ櫻宵」
 細い頸に真珠の首輪を輝かせ、リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)はじっと櫻宵にその身を任せている。
 彼もまた美しく着飾っている。貌の美しさ、髪の美しさ、それ以上に、下肢が魚であるということを見せびらかし、それが最上の美であると誇るように。
 同時に、それは何処か見世物のように。全く実用性のない、権威のための美であった。
「――今の僕は生きたインテリア」
 囁きかける声音は、皮肉まじり。
 観賞用の半月闘魚の人魚――というのは、彼にとってあまり良い記憶に繋がらない。
「君じゃなきゃ尾鰭ビンタしてたところだ」
 つんと澄ましつつ告げれば、まぁ怖いと櫻宵が笑った。それでも確り抱きかかえてくれる腕は思いの他、力強い――否、リルはよく知っているのだけれども。
 このまま甘えてしまいたい感情がないこともないのだが、お互いの間の親しい空気を、さっと消して――美しいオーナーと高値な人形を演ずる。
 呪詛塗れの黒蝶が街中を飛び回り、櫻宵に情報を教えてくれる――そして、何かを察した櫻宵が片目を瞑って合図を送ってくる。
 まあ、いずれにせよ、リルは彼に連れて行かれるだけである。

 ある料亭。座敷で、あらん限りの料理を運ばせ、給仕に往復する店員を捕まえ、櫻宵はリルを見せびらかし、自慢する。
「この子はあたしの可愛い人魚。月光の鰭も蒼氷の瞳も秘色に紛れる白孔雀の羽髪も美しいでしょう?」
 髪をさらりとすいて、その輝きを見せつける。
「この世のものと思えぬ至高の歌を歌うの。もっと美しく着飾らせたいのよ」
 そういう伝手はないかしら、と問えば、妙に愛想の良い表情で、出入りするその道の者をお呼びしましょうかと店員は問うてくる。
 その言葉に彼は微笑で応え――そして小一時間後、座敷は美しい髪飾りや着物に宝石、ドレスから薄布まで様々なものが広がっていた。
 それをリルに宛がいながら、櫻宵はご機嫌である。
「ありったけの宝石にドレスをおもち!」
(「どこからお金が出てくるのやら」)
 少なくとも、彼は仕事とは別にこの状況を楽しみ、今この瞬間、真剣にリルを着飾っている。
 宝石商に美しいでしょう、と問い掛ける彼に、若干、惘れも覚えるが。
(「君自身も美しい幻想の桜龍だというのに」)
 だが今の自分は美しい人形だ。楚々とそこにありつつ、凛と美を魅せる。
 商人達も皆、彼に賛美を送ってくる。実際、種も仕掛けもない人魚が目の前にいるのだ――その言葉に偽りはないようだった。
「さあ、歌っておやり」
 櫻宵の言葉に従い、リルは唇を開く。紡がれる歌声は涼しく、蜜のように甘かった。
「本当にお美しい……こんなに美しいのは、――様のお宅でも見たことが無い」
 誰かが、そう呟く。
「あたし新しいお人形も欲しいのよね」
 演技ついでに、そっと櫻宵が口を挟めば――瞬間、リルはむっと僅かに眉を顰めた。
「(僕がいればいいだろ!)」
「(ちょっリル! 芝居よっ拗ねないでっ)」
 まさしく尾鰭ビンタの危機――を何とか押し殺しながら、魔性の歌声で人魚は謳う。
 幸いにも歌声の力で、彼らは二人の不穏に気付かなかった。
 相手を蕩けさせ、彼の希望を叶えてやりたいと――それを代償に、もっと歌声を聞かせて欲しいと乞わせる力で。
「僕らを、人形館に連れてって」
 輝く鱗をゆらりと動かし、繊細なる硝子細工がごとき歌声で囁く人魚に。
 その美を良しと思う者が――逆らえるだろうか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

冴木・蜜
人形展を回りつつ
観光客に紛れながら
指先を液状化し『剥離』

毒液を人形展や周辺の土産店などに解き放ち
「客」として声を掛けられそうな人間
或いは勧誘を受けている・している者を探させます

客として接触を狙う猟兵が居れば
それはそれでマークさせて頂きましょう

直接的な言葉は避けているかもしれません
幻想生物などのUDCアースでは珍しい話題には
耳をすませておきます

彼らが接触したいのは客
つまり「悪趣味な人形収集家」

金の羽振りや趣味嗜好を判断するのなら
やはり何かを売買する場が
手っ取り早い気がします

見つけたら
そっと後を追わせます
…さて
客ではありませんが
案内して頂きましょう


黒川・文子
常日頃と変わらないメイドの姿で向かいます。
そう。お金持ちの主に下見を頼まれたメイドさんです。
明日あたりにでも早速足を運びたいと仰っておりました。
そういう設定で散策します。
人がいれば話しかけます

主は気に入る物があれば何でも購入すると仰っておりました。
普段から世話になっているわたくしめの気に入る物でも良いとも。
わたくしめはこのような物では満足いたしません。
主も同じで人形も、オルゴールもどこにでもある物ですから……。

主はその場所にしかない物を望んでおられます。
この展示品を見ても主が満足するかどうか……。
他に何か珍しいものがあれば主も大金……もしくは命を差し出すかもしれません。
何かご存知ありませんか?


ユルグ・オルド
常の野蛮は丁寧に臙脂のシャツに押し包み
黒のタイに三つ揃え
杖に…仕込みは余計だったかな

見繕った美術展のうちから
雰囲気の合いそうなとこ向かおうか

人の並ぶ程メジャーでなくって
観覧料もお高くとるようなトコ
芸術もお人形もさっぱりなんだケド
綺麗なモンは嫌いでないかな

落とす視線は丁寧に
けれどもそうお眼鏡には敵わないとばかりに
呼び込みに掛けるのは
美しくて珍しいものを探していると
とっておきを飾りたいんだ
金では買えないようなもの
退屈には飽いたからと探す先
うっそり浮かべるのは怜悧な刃の色だけれど
趣味に合うかは別として
大差ないよなもんでないかしら
硝子で遮り窮屈そうで
ねえ出してやりたくはなんないかい



●条件
 洋風建築の建物で常設の催しとして『人形展』は行われていた。
 ショーケースの中で澄ます人形たちに、取り立てて変わった様子は無い。
 ただ、貴重なコレクションらしい――価値、というよりは年代物という意味で。大正時代に拘らず、ずっと古いものまで展示されている。
 職人技を魅せるものから、庶民的なものまで。きっと大事にされていたのだろう、落とせない汚れの残った物も、等しく硝子ケースの中に飾られていた。
「お行きなさい」
 そっと冴木・蜜(天賦の薬・f15222)が囁き、とろりと形の崩れた指先が、ブラックタールに戻りながら滴り、分離する――。
 彼の一部は周囲の情報を探るべく、何処かへと身を隠す。此処に至るまでの道のりでも、度々こうして分離を繰り返し、耳を増やしてきた。
 人形展でも、それらしき気配を探ってみるが、流石に如何にもな会話は易々拾えぬ。
 そして、外から得る会話の中には、猟兵が多々混じっていた。

「これは買い取れるのかな――正確には、此処に展示されてるものは、って意味だけど」
 若い男の声が聞こえた。
 臙脂のシャツに黒いタイ。三揃えですらりと決めて、杖を持ち。
 背筋を伸ばしてそれを着こなすユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)は、若くして財を成した自信に溢れた男に見えた。
 更には、珍しいものを求め、異国よりわざわざやってきた、という前置きがつきそうだ。
「……仕込みは余計だったかな」
 こつりと杖をついて、ぽつり零せば、いやいやこちらの話だと、視線を寄越した案内人に瞑目して肩を竦めて笑う。
 目の前に並ぶ美術品は控えめながら的確な証明に照らされ輝いている。何せ観覧料が桁違いだ。最終的に買い取って貰うことを前提にしているため、客のひとりひとりにガイドがつく。
「芸術もお人形もさっぱりなんだケド、綺麗なモンは嫌いでないかな」
 囁いた言葉は嘘では無い。
 展示品を赤い瞳がひとつひとつじっくり、品定めをするようにゆっくり歩く。
「美しくて珍しいものを探している――とっておきを飾りたいんだ」
 でも、ただ美しいだけではダメだと聞こえるかどうかの声音でユルグは嘯く。
「金では買えないようなもの。退屈には飽いたから――」
 ふと脚を止める。
 心を奪われるとすれば、怜悧な刃の色――思い浮かべた途端、実際、目の前に鋭い真剣に目が行った。芸術品らしく拵えられた、飾るための一刀。
 硝子ケースに行儀良く収まるそれを見つめる。あれにもいつか魂が宿るのだろうか。
 ――同時に、最初から魂のあるものが、モノのように加工されたらどうなるのだろう。
「人形とかね」
 相手の反応を探るようにユルグは言葉を紡ぐ。
 とびきり珍しくて、美しいもの。動いて表情を変えるもの。
 もしそんな存在があるならば――折角の作品を、硝子で遮り窮屈な思いをさせては、可哀想だろう。
 問い掛けるように謳い、
「ねえ出してやりたくはなんないかい」
 ユルグは軽く振り返る、金の髪が照明に輝く。人ならぬものの圧を加えた彼の瞳に、案内人は何を見たか。

 蜜は軽く目を瞑る。また別の場所で、声が聞こえる。何処にもないものを、という注文を囁く女の声だ。
「主から下見を頼まれておりまして――主は明日あたりにでも早速足を運びたいと仰っておりました」
 良いものがあればですが、と黒川・文子(メイドの土産・f24138)が淡淡と告げる。
 艶やかな黒髪をさらりと流し、一分の隙も無い歩調。一流――というか、些か変わった趣味の主に仕えるメイドとして、彼女は振る舞う。
 この辺りはメイドとは何たるかの概念にもよるが、俗に言うメイド服のまま主人のお遣いに来ているところで察しろ、という暗黙の了解のようなものである。
「主は気に入る物があれば何でも購入すると仰っておりました。普段から世話になっているわたくしめの気に入る物でも良いとも」
 そこは所謂、骨董屋だった。アンティークの小物から、家具まで揃えている。
 土産には高いが、気分が乗じた観光客が思わず購入することもままあるらしい。
 そして、つまり厳密には土産物屋ではないため、とても貴重な――と店主が判断しているような――商品も色々とある。
 宝飾品や、陶器とか、貴重な絵画――そういうものだ。
 だが文子は店主自慢の品を並べられても首を縦には振らなかった。
「できれば、人形などが良いのですが……」
「はあ、それでしたらこちらの――」
 ありきたりなビスクドールを持ち出そうとした店主へ、文子はいいえ、と強い声音で制止した。
「わたくしめはこのような物では満足いたしません。主も同じで人形も、オルゴールもどこにでもある物ですから……」
 すっと細めた赤い隻眼が、店主を見据える。
 そこには特別な感情は籠もっていないが、反論を許さぬ圧があった。
「主はその場所にしかない物を望んでおられます。この展示品を見ても主が満足するかどうか……」
 真剣に探しているのだと、その眼差しだけで伝えるように。
「他に何か珍しいものがあれば主も大金……もしくは命を差し出すかもしれません。何かご存知ありませんか?」
「……いいえ……」
 がくりと店主は肩を落とし、彼女やその主の期待に応えられないことに落ち込んだ。
 お邪魔しましたと挨拶ひとつ――店の外に出た彼女がふと見やる先。
 自分をじっと見つめる視線の気配に気付く。はて、猟兵か、また別の存在か。少なくとも今すぐ接触を図るつもりはないらしい。
「次の店に参りましょう」
 ならば、その気になるまでとことん回るまでだと、彼女は颯爽と踵を返した。

「なかなか難しいようですね……」
 蜜はそっとひとりごつ。
「彼らは『悪趣味な人形収集家』という存在との接触を望むだろうと思ったのですが」
 ――予想以上に、彼らは慎重に動いている。
 安易に新しい客を掴もうとは思わない。ただの金持ちや、金をもっていても口の軽い相手ではならぬ。
 秘密の保持には、信頼が大事なのだ――しかし、それでも手がかりを掴んだものたちもいる。
 やはり長期の運営は難しいからか、まったくエージェントめいた存在が不在とは言えぬようだ。
 ――そして、彼らが捕まえた相手は、殆ど猟兵であるような気もする。
 むしろ心強いというべきだろうか。紫瞳を細め、蜜は人形展を出ることにした。
「……さて、客ではありませんが案内して頂きましょう」
 目星をつけた男がいる。そいつはいつか本拠地に戻るだろう――そこに、便乗させていただきましょうと、軽く眼鏡の位置を直しつつ、彼は囁く。
 動かぬ人形達は表情ひとつ変えず、そんな彼を、ただ見送った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

鶴澤・白雪
叶(f07442)と

人を珍獣みたいに言わないでくれるかしら
悪趣味道楽者の可愛い人形気取るにはピッタリでしょ

着物に袖を通してお綺麗で淑やかな娘を演じるわ
はいはい、メンチ切ったり脚出さないよう気をつけるわよ
管狐ちゃんもいるし抱きしめながら耐えるわ
首輪なんて可哀想だけどちょっとだけ我慢しててね

……本当に?叶、約束よ
埋もれていいって言ったの絶対忘れないでよ
そういう事なら真剣にやるわ
名に恥じない旧家のお姫様になりきってやろうじゃない

言っちゃ悪いけど叶は胡散臭いから悪ぶると様になると思うわよ
あら、お気遣いどうも
人を侍らせようとしてる割にお優しいのね、勿論冗談よ?
エスコートよろしく頼むわ、頼りにしてるから


雲烟・叶
f09233と

客候補として目に留まるよう、悪趣味な道楽者を気取りましょう
丁度ほら、宝石のお嬢さんなんてこの世界じゃ珍しい方も居ますしね

管狐の一匹に首輪をして細い鎖を繋ぎ、着飾らせたお嬢さんに抱えさせておきますよ
如何にも愛玩の娘と愛玩動物のように
何時もみてぇに睨み付けちゃいけませんよ、白雪のお嬢さん
今日はお淑やかに、大人しく、です
上手く行ったらご褒美に、管狐たちに埋もれる許可でも出しましょうかね

自分はこのままで問題ねぇと思いますよ、元から着物は金の掛かる代物ですしね
さて、侍らせて歩く訳なんですが、……呪物が素手でお嬢さんに触れるのはちょっと
手袋しときますかね
それじゃ、お手をどうぞお嬢さん



●道楽者と愛玩娘
 客候補として目に留まるよう、悪趣味な道楽者を気取りましょう――床几に腰掛け、雲烟・叶(呪物・f07442)が薄く笑う。
「丁度ほら、宝石のお嬢さんなんてこの世界じゃ珍しい方も居ますしね」
「人を珍獣みたいに言わないでくれるかしら」
 和傘傾け、鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)が眉間に少しだけ皺を寄せた。
 通常とは異なる輝きをもつ髪に肌――華やかな着物に身を包み、つんと澄ませば、近寄り難き神秘的な美がそこにある。
「悪趣味道楽者の可愛い人形気取るにはピッタリでしょ」
 下から上まで、じっと叶は眺めると、納得したようにひとつ肯く。
「何時もみてぇに睨み付けちゃいけませんよ、白雪のお嬢さん。今日はお淑やかに、大人しく、です」
「はいはい、メンチ切ったり脚出さないよう気をつけるわよ」
 注文が多い。というよりも、それくらいのことは白雪とて心得ているので心外である――守りきれるどうかを問われると、即答できないかもしれない。
 叶自身は、ほぼそのまま、特別着飾りはしていなかった。元々、金の掛かる着物を扱っているのだから構うまいと。事実、重ねた着物は豪奢で、何処に出しても恥ずかしいものではなかった。
 彼自身の纏う不思議な空気。外見こそ年若いのに、すっかり老成したような気配が、何より『変わったものの主』らしさを醸していた。
「おいで、お前たち」
 酸漿色の瞳が少しそよいだことに気付かぬふりをして、叶は煙管をひと吹かし、管狐を呼び出した。
 その一匹に首輪をすると、叶も立ち上がり、白雪に預ける。鎖は彼が手にすれば、愛玩の娘と愛玩動物――、そして悪趣味な主のできあがりだ。
 管狐ちゃんも窮屈そうね、と囁き、白雪は抱いたその背を優しく撫でた。
「首輪なんて可哀想だけどちょっとだけ我慢しててね」
 銀瞳を細め彼女を眺めた叶が、面白そうに口の端をもちあげた。
「上手く行ったらご褒美に、管狐たちに埋もれる許可でも出しましょうかね」
「……本当に? 叶、約束よ。埋もれていいって言ったの絶対忘れないでよ」
 食い気味の彼女に、いよいよ笑みを隠さず、叶は深く首肯した。
 すると、白雪の瞳に闘志のような光が宿った。これ以上無く真剣な眼差しで、何処かに存在する標的を射貫くように。
 だが、決して睨みを利かせた表情ではない。
「そういう事なら真剣にやるわ――名に恥じない旧家のお姫様になりきってやろうじゃない」
 凛乎と、周囲に流し目を送れば、見惚れたような視線が集まる。
 柔らかな管狐のぬくもりに心を和ませながら、視線で促してくる彼女の前に、その意気です、と褒めつつ、叶は一歩前に進んで振り返る。
「さて、侍らせて歩く訳なんですが……」
 彼は用意していた手袋を装着する。
「……呪物が素手でお嬢さんに触れるのはちょっと」
 そんなことでは曇らないけれど――白雪は挑戦を受けるように、微かな笑みを見せた。
「あら、お気遣いどうも。人を侍らせようとしてる割にお優しいのね、勿論冗談よ?」
 それじゃ、お手をどうぞお嬢さん――くつ、と笑う叶が手を差し出し、彼女は躊躇いなく、それを取る。
「エスコートよろしく頼むわ、頼りにしてるから」
「さて、呪いを呼び寄せろって話なら、自信がありますけどね」
 相手が引っ掛かるかどうかは白雪次第と軽口をひとつ。
 結局、辿り着く先はロクでもないところだが――両者はそれぞれに裡で囁き合うと、意を得たように視線で言葉を交わし、街の散策を始めた。
 わざと目に付きやすいように脚を止め、白雪と管狐の姿を見せびらかしながら。
 後は特に目的も無くそぞろ歩く――いずれ、彼女の宝石の輝きに興味をもった者が、「その娘を一体どこで手に入れたのかね」と潜め声で尋ねてくる、その時まで。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

夏目・晴夜
人形なら兎も角、人身売買ですか
このハレルヤにも理解できない感性です

とりあえず戦闘特化からくり人形を連れ歩きます
私は可愛いと思うのですが、悪趣味だの怖いだの
シリアルキラーだのデカいだのと散々言われるんですよね
そんなニッキーくんを見て、客と認めた向こうから来てくれるかも知れません
いや私は普通に超可愛いと思うんですがね
相槌打ってくれますし、害なす輩をグチャグチャに殺してくれます

そして観光客にも定住者にも見えない人がいたら
件の店の関係者かも知れないので話しかけたく

この街に見世物小屋は無いのでしょうか
このハレルヤに相応しい、可愛い子が新しく欲しくて
いい子がいれば金でも何でも幾らでもお渡しするんですがねえ


華折・黒羽
舞い落ちていく桜の花弁に
どう足掻いたって紛れない黒がひとり

──おいで

呼び掛けに応え生まれ出でたのは二羽の烏
影である屠から生じた番が
静かに主の言葉を待っている

探してほしいものがあるんだ

人形館の噂話か或いは
羽振りの良さそうな…
そうだな、高価な「光り物」や礼装を纏った人間
この辺りを探ってみてほしい

どんな些細な情報でもいい
この浪漫園で幻想人形館に繋がる糸口を

頼んだ。

飛び立つ烏達を見送れば自身もフードを深く被り街中へ
聞き耳と追跡でもって探りを入れる


『人間でなくなってしまった人間』
じくり、心に墨色の染みが広がる
人体改造、観賞用、造形美 ──『検体×××』
浮かび上がる記憶に知らず強く噛んだ歯が、悲鳴をあげた



●表に見えるもの、深く沈めたもの
 彼は路地の闇に身を潜める――さもなくば、明るい世界にその姿をさらけ出すことになる。それは普段ならば、一切気にしないが。
 黒髪から覗く黒い耳、背負う黒翼、そして猫の双腕。それらを隠すことなく、華折・黒羽(掬折・f10471)は何処へでもなく腕を伸ばした。
「──おいで」
 呼ばう声に応え、二羽の烏が彼の影より現れ、その腕に止まる。
 つがいは静かに――じっと主の指示を待つ。黒羽も青い瞳でじっと烏を見つめ、告げる。
「探してほしいものがあるんだ」
 ひとつ置いて、彼は思案する。
「人形館の噂話か或いは、羽振りの良さそうな……そうだな、高価な『光り物』や礼装を纏った人間。この辺りを探ってみてほしい」
 ひとたび黒羽は瞑目する――他に自分ができることは、したいけれど。
 そのためには彼らに頑張って貰わねばならない。
「どんな些細な情報でもいい。この浪漫園で幻想人形館に繋がる糸口を――頼んだ」
 腕を払うようにして、空へと放つ。
 二羽が羽ばたいていく姿を見送って、黒羽はフードを深く被った。
 やはり自分の脚で歩き、探っておきたい。暗闇に身を潜め、じっとしていることは出来なかった。
 空を舞い、浪漫園を俯瞰する光景が、頭の片隅に浮かぶ。小さな街だ。平和なコンセプトの元に作られたニセモノだ。
 ――不意に、頭上からの光景と黒羽自身が見ている情景が重なった。

 巨大な人形を引き連れて、我が道のように歩く――夏目・晴夜(不夜狼・f00145)だった。
 衆目を集めようが、それは彼は気にしない。それが目的であるし、元々他人の視線はそれほど――悪意があるなら別だが――気にならない。
「人形なら兎も角、人身売買ですか。このハレルヤにも理解できない感性です」
 晴夜は首を傾ぐ。
 役立たずに改造された人間を売り買いして何が楽しいんだろう。
 ねえ、と背後のニッキーくんなる人形に語り掛ければ、一回、深く頷いてくれた。
 無論――彼は絡繰人形なので、つまり、晴夜がそうしたわけであるが。
「私は可愛いと思うのですが、悪趣味だの怖いだの、シリアルキラーだのデカいだのと散々言われるんですよね」
 こんなに愛くるしい目をしているのに。
 とても優しいのに。
「いや私は普通に超可愛いと思うんですがね。相槌打ってくれますし、」
(「……害なす輩をグチャグチャに殺してくれます」)
 流石に後者の理由は裡で呟きつつ、ニッキーくんと気儘に散策している。自慢の耳は自前だが、帽子を被っていれば真偽は不明。尾も同じ事。
 ――ただ、晴夜の場合は純粋に自身を『誰かのために』わざわざ偽る必要などないと考えている節がある。
 やはり彼の姿などを見ると周囲は「何かイベントがあるのかしら」とざわめくが、それだけだ。特に行く手を遮られることもない。
「やあ、いい人形だね」
 そんな晴夜が声を掛けられたのは、人通りも疎らに分かれ始めた坂の途中。様々な店へと入っていく人々の流れと、先の洋館通りに向かう流れができている。
「当然です」
 話しかける手間が省けた晴夜の声音は、割と明るかった。
 妙に身なりの良いが『賢そうには見えない種類』の人間だった。あくまでこれは彼の評だ。
「これは君が操っているのかい?」
 なんと答えるべきか悩んだが、ええ、そうですと肯く。
「ハレルヤに従順なのも、ニッキーくんの可愛いところなんですが」
 少々もの足りぬという表情をちらりと見せてみる。紫瞳で上目遣いに相手を見れば、そこいらの一般人なら割と効く。
「この街に見世物小屋は無いのでしょうか。このハレルヤに相応しい、可愛い子が新しく欲しくて」
 同時、彼の狼耳が僅かに動くのを、彼は見ただろうか。
 仮にも――このハレルヤを商品のように見るとすれば、甘いですけどねえ、と思いつつ、気づかないふりを続ける。
「いい子がいれば金でも何でも幾らでもお渡しするんですがねえ」
 ニッキーくんも、彼の言葉にゆっくりと深く肯いた。
「それなら、良い場所を知っているのだが――」

 ――彼らの行く先を追いかければ。異形にされた人間達が人形として飾られている場所に辿り着けるだろうか。
 黒羽はますます注意深く身を潜めた。晴夜に声をかけた男は、明らかに彼の人狼である部分に視線を向けていた。何か勘違いして、同好の徒だと見定めただけならば、良いが。
 そういう視線で見られることは、黒羽にとっては――。
 ふと胸がざわめく――『人間でなくなってしまった人間』――ただそのフレーズだけで、彼の心に墨色の染みが広がる。
 ――人体改造、観賞用、造形美 ──『検体×××』……。
 封じ込めているはずの記憶が連鎖的に浮かび上がって、苦しい。ぎり、と無意識に噛みしめたらしい奥歯が軋んだ。悲鳴のように。
 だが、黒羽自身も完全に掴みきれぬ感情ではないのだ――彼を含めて地上を見守る烏の番は、無言で天を舞った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

スティレット・クロワール
人の身で何処まで至れるのか…
うんうん、折角だしお散歩してみようか

私の役回りは狂信者
求めるのは…一先ずハーピーかな
真なる者を探してるって言いながら近くの店でお金を派手に使ってみよう
そういう人間だって見えるようにね

蛇くんには私を見ている人がいないか確認しておくれ

その後は人形展を見てみようか
人形師か管理人か…
礼拝用の人形を探していると言って、相談に乗ってもらおう

私が探しているのは真なるものなのです
人の身より出る異なるもの
我らが神は、始まりにそれを遣わして下さったのですから

それに出会う為であれば金など幾らでも
我が献身はその為にあるのですから

って言ってね
相手の反応はよく見て、引き際を見極めるよ



●信奉
「人の身で何処まで至れるのか……うんうん、折角だしお散歩してみようか」
 のんびりと言い、スティレット・クロワール(ディミオス・f19491)は軽く手を叩いた。
「さぁさぁ蛇くん。着替えも終わったし、お散歩の時間だよ」
 いつもは袖に隠れている、彼の使役するUDC――白蛇に似たそれは、冥界の衣を纏って、自慢げにするりと彼の肩を登った。
「蛇くんは私を見ている人がいないか確認しておくれ」
 そっと指示を与えれば、任せてくれろと胸を張った。何処が胸かはわからないが。
 ――言うまでもないが、蛇をつれて散策する司祭服の人間が、真っ当に見えるはずもない――だが彼は、そんなことを一切気に留めず、真白な髪をさらさらと靡かせ、悠然と歩く。
 当然、周囲の目を引くが、皆、スティレットと目が合わさる前に顔を背けてしまう。
 うんうん、正しい反応だ。
 満足げにスティレットは緑の双眸を細め乍ら――ふと見かけた高そうな雰囲気の料亭へと脚を運ぶ。
 店員は彼の肩の蛇に、一瞬難色を示したが、美しい笑みを湛えたスティレットは何処からともなく取り出した現金を積んだ。
 恭しく頭を下げたのは、やはりその手の客が多いのだろうかと一瞬、心配にもなる。
「真なる者を探しているのです」
 まあ、そんな一言を告げた途端、相手はしんと黙ったので、きっと此処は真っ当な店だったのだろう。
 目的のために「ここのお客さん皆の代金はこれで足りるでしょうか?」とまた金を積んだら、彼らはとてもよい笑顔を返してくれた。

 そして人形展に出向いたスティレットは、そこの受付で――見物ついでに、用件を切り出した。
「私は礼拝用の人形を探しているのです」
 お詳しい人を知りませんか――と尋ねてみれば、
「人形師の伝手はありますが……今日は生憎と、会える人間が不在でして」
 実に申し訳なさそうに担当者は詫びた。
「ですが、連絡はとれるかもしれません。どのようなものをご希望で?」
 受付の女性は、彼の求むる場所とは何ら関係のない人間かもしれぬ。
 だが――狂気を見せるならば、誰でもいい。先程から首元で蛇が軽く合図を送ってきているのだから。
「翼持つ乙女」
 スティレットはすかさずそう応えた。
 ただ、血の通わぬ偽物では駄目なのです、と。
「――私が探しているのは真なるものなのです。人の身より出る異なるもの――我らが神は、始まりにそれを遣わして下さったのですから」
 滔々と、彼は信ずる言葉を連ね、彼女に微笑を向けた。
「それに出会う為であれば金など幾らでも――我が献身はその為にあるのですから」
 細めた瞳は何処までも澄んで――、彼女はただ息を呑む。
 もし――、背後から声が掛かる。スティレットは疑いもなく振り返る。その情報は蛇が伝えていたからだ。そこには、老紳士が佇んでいた。
「お探しのものでしたら……」
 話を聴きつつ、彼は頭の片隅でふと思う。この老紳士は厄介な相手に関わってしまった彼女にとって、救世主となったのだろうか――それならば、とても皮肉なことだ、と。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジェイ・バグショット
真(f13102)と

相手から俺らに近づかせた方が早いな。
裏仕事の延長で物見遊山
黒スーツに髪を後ろへ流した、いかにもそれらしい姿

人魚に翼人か…
人はいつでも好きだよなァ、そういうの。
錬成の仕方がまたイイねぇ、最高に悪趣味で。
皮肉たっぷりいつもの調子

せっかく凝った場所で商売してんだ。世界観壊すこともしないだろうと目星をつけ
大正時代風の装いをした人物を中心に【第六感】で行き交う人をチェック

買い物ついでにこの辺りに珍しい品を売っている店はないかと尋ねて回る。
【情報収集】と同時に、金に糸目を付けない悪趣味な収集家を装い、特別な『人形館』を知らないか?と至る所で自分達の情報を伝布。
隠れている相手の興味を誘う


久澄・真
ジェイ(f01070)と

常日頃より裏社会メインに生きる身
金のにおいがする所に俺が行かねぇわけがねーよな
異形は正直珍しくもなんともねぇが
人間のエゴっつーのは際限無くていつも舌巻くわ

黒スーツ装い蒐集家めかせ街中歩く
きっちり纏め後ろに流した白磁の髪靡かせ
探すは曰く付きの“呪いの品”
店先々で物色しながら情報収集に勤しむジェイを横目に

いいねぇなかなか物騒なの取り扱ってんじゃねぇの
よう店主、これ貰うわ
そこに好きな金額書けよ
と小切手渡し代わりに手にした身の丈程の女人形

しっかし
チープなもんばっかだな
もっと禍々しくて混沌としたものねぇのかよ

連れへ掛ける声は店の者にも聞こえる様なボリューム
人形館へ繋がる情報への餌



●交渉
「宛てはないか――ちょっとした噂でもいいんだが……そうか」
 ある店で話を聴いていた男が、話を終えて、店を離れた――艶やかな黒髪を後ろへ流し、均整のとれた体躯を包むは黒いスーツ。
 歩く姿すら絵になるような――白皙の肌に冷笑を湛え、ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)は待たせていた相手と合流する。
「やっぱり簡単には掴ませねぇな」
「それだけ金になるのかね」
 黒髪のジェイとは対照的に、混じりけのない白い髪を後ろで纏めた久澄・真(○●○・f13102)が皮肉を隠さぬ笑みを浮かべる。
 隠すことも、隠す気もない貌を通った疵と、口元は常に三日月を作っている。
「金のにおいがする所に俺が行かねぇわけがねーよな」
 黒いスーツの肩を竦め乍ら、眼鏡の奥、唐紅の双眼を鋭く細めた。
「異形は正直珍しくもなんともねぇが、人間のエゴっつーのは際限無くていつも舌巻くわ」
 わざわざ作って売るかねえ、ご苦労なこったと嘯けば、ジェイも同意と浅く肯く。
「人魚に翼人か……人はいつでも好きだよなァ、そういうの」
 何処の世界の、どの時代でも。
 何故か同じようなモノを作ろうとする。
「錬成の仕方がまたイイねぇ、最高に悪趣味で」
 口の端を僅かに歪め、皮肉を零す。
 実際の出来映えは兎も角、――つまりは出来の悪い整形手術のようなものだろうが、邪神の力で、それなりに本物に迫るものであろうが。
 どちらでも同じだ。それを人が考えたならば。
 ああ、金になるなら取り付くのが人間だ――自嘲か侮蔑か、掴めぬ表情の儘、真は視線を人形へ向けた。
「珍しい品を売っている店はないか――特別な『人形館』を探しているんだが」
 ジェイがドレス姿の女性に話を聴いているのを尻目に、訪れた店の商品を物色していた。
 古ぼけた骨董屋だった。売る気があるのかという陳列だが、意外と趣深い品揃えだった。趣味の悪いツボだとか、幽霊の掛かれた掛け軸だとか、不気味さだけは満点をつけてもいい。
 彼らはジェイが道行く『らしそうな』人間から聞き出した事で、いくつか目星をつけた店を順番に当たっていた。既に他の猟兵が当たったものもありそうだが。
 羽振りの良い客なら、何人訪れても困るまい。
「いいねぇなかなか物騒なの取り扱ってんじゃねぇの」
 真は楽しげに告げ、眠そうにカウンターに収まっている店主へと声を掛けた。
「よう店主、これ貰うわ。そこに好きな金額書けよ」
「……――ウチは、仕入れは別だから。返品お断りだよ」
 一応、念を押してきた。
 何せ真が買うといったのは、身の丈程の女人形だった。そんなものを買うヤツがいるとは、という表情を隠さない正直な男だった。
「ぐだぐだ煩せぇ」
 対する真のいらえは、介入を拒むに充分な凄みがあった。
「毎度あり」
 それすら眠そうにさらりと返す店主は、案外大物なのかもしれない。適当に堂々とした金額を書き込んでいるのを、忌々しげに見下ろしているところで、ジェイが戻って来た。
「しっかし、チープなもんばっかだな。もっと禍々しくて混沌としたものねぇのかよ」
 彼に向け、真がわざと声を張る。
 道行く人々にも聞こえるように――だが、意外なところから返事はあった。
「……人を素体とした人形を扱う集いがあるらしいな。仕入れ先がそんなことをいっていた」
 眠そうな店主はそのままうたた寝しそうな姿勢で告げる。
 へえ、とジェイが金瞳を細めて、店主を眺めた。
 何処か厭世的な空気を纏う端麗な貌と、レンズ越しでも隠せぬ棘の視線を送る疵持つ貌。
 ただならぬ気配纏う二人の若者から、圧力に似た視線を受けても――この店主は、何なら口を利いてやるから、もう一枚小切手を寄越せと、しれっと言ってのけたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ユエ・イブリス
ルイス(05041 )と一芝居
売り物になってやろう

幾つもの世界を渡ったが
変わらぬものが一つだけ有る
即ち『欲』
怪異を隠されているからこそ
欲望は留まるところを知らぬ
可笑しくて堪らない

売上は折半で即金だ
せいぜい高く売り飛ばせ
当然の権利だろう、サーシャ君
身を張るのは私だよ
こんな安物の籠では買い叩かれる

【薄氷の蝶】
辺りをみて『らしい』方へルイスを誘導

薄絹のヴェールを纏い鳥籠の中
儚げで華奢でか弱い
伝説そのままの『本物の妖精』だ
喉から手が出るほど欲しかろう?
足首は銀の鎖で繋がれて
憐れみを誘ってみよう

籠に入れて飼うもよし
温室で飛ばすもよし
だが、人間よ
妖精の気紛れを本気にしてはいけない
物語にもそうあっただろう?


アレクサンドラ・ルイス
『人形館』に潜り込むためにユエ(f02441)と一芝居打つ
ハンチング帽とインバネスを着て小綺麗に
“特殊な趣味の成金”を演じる

俺を女名の、しかも北国の愛称で呼びやがるユエ入り鳥籠を持ち歩き
先行の猟兵が目星をつけた建物に接近
やけに機嫌が悪いらしいが、俺のせいじゃない
放っておくに限る

「面白い見世物があると噂に聞いてやってきたんだがね」
鳥籠にかけた布をわざと落とし、「おっと。失礼」
成金の自慢らしく話を続ける

――そう、こいつは“妖精”さ。ここだけの話
憧れて憧れて夢に見るまで憧れて
一山当てた金を叩いて手に入れたが
そろそろ飽きた
欲しい人間がいるならこいつを売りに出して、
代わりにもっと珍しいやつを飼いたいんだ



●妖精の取引
「幾つもの世界を渡ったが、変わらぬものが一つだけ有る――即ち『欲』……怪異を隠されているからこそ、欲望は留まるところを知らぬ」
 可笑しくて堪らない、嘯くユエ・イブリス(氷晶・f02441)に胡乱そうな視線を送るは、アレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)――ハンチング帽とインバネスを着て小綺麗に務め、いかにも『特殊な趣味の成金』という風体だ。
 とはいえ、ユエは今、アレクサンドラの持つ籠の中にいる。無骨な鳥籠――否、ユエの感覚からすると、虫籠に近い気もする。それも粗末な。
 籠にかかった布を一部めくり、アレクサンドラがそろそろ出番だと声をかけると、腕を組んだユエが、そっぽを向いた儘、頷く。
「売上は折半で即金だ。せいぜい高く売り飛ばせ、当然の権利だろう、サーシャ君」
 ち、アレクサンドラは小さく舌打ちした。
 彼は名前には神経質だ。ましてや女名の愛称で呼ぶのは――嫌がらせ以外の何者でも無い。
 つまるところ、籠の中の妖精はいたく機嫌が悪いようだ。
「……身を張るのは私だよ。こんな安物の籠では買い叩かれる」
 ついでに籠にかかっている布も気に入らない。もっと気を遣え。
 放っておけば、文句ばかりが飛んで来るのは明らかだ――アレクサンドラはさっさと布でその石榴石の視線を遮った。
 彼と口喧嘩しても疲弊するだけだ。放っておくに限る。
 布を茫洋と眺めて、ユエは些細な嘆息ひとつ零す。
 気を取り直すと、天へと掌を向けて、囁いた。
「私の目となり耳となり、行っておいで」
 氷の翅をもつ小さな蝶の群れが一斉に羽ばたいていった。
 片やアレクサンドラは淡淡と歩く。目的ははっきりしている――とはいえ、何処に向かうべきか。
 彼はユエを売りつけねばならない。
 となれば、向かうは『買う気』の者がいる場所なのだが――思わず目を細めて、周囲を見渡す。戦場とは異なる平和な街並みだが、不穏な空気が漂うところを目指せばいいだろうか。
 ひとまず脚を動かして、場所を移動しつつ観察を続けているところへ、ひらひらと蝶が戻って来た。

 ――薄暗いサロンだった。BGMはクラシックのみ。ありふれた喫茶店の地下に、アレクサンドラは若干身を屈めつつ降りる。
 蝶が捜しだし導いた人の縁は、この場所の合い言葉を教えてくれた。
 悪趣味な商人が、合法、非合法の取引をするサロンがある。君が商人であり顧客であるならば、良い出会いがあるかもしれないと。
 実際、新顔が現れても、既にそこで何やら話し込んでいるものたちは顔色一つ変えず、興味深そうな視線を送ってきた。
 だが、極々平凡な闇取引の空間にしか見えない。籠の中に獣人もどきが入っているということもなければ、宝石の涙を流す娘もいない。
 先客達の元へと臆さず混ざり、値踏みするようにサロンを一瞥し――、
「面白い見世物があると噂に聞いてやってきたんだがね」
 アレクサンドラが大仰に肩を竦めた時だ。
 ぱさり、と籠にかけた布が落ちた。
「おっと。失礼」
 わざとらしい振る舞いだが、これくらいの駆け引きは当然だろう。
 客達から思わず零れたどよめきに、彼は人知れず口の端をあげた。
 籠の中には――薄絹のヴェールを纏い、儚げで華奢でか弱い――外見はな、とアレクサンドラは思う――足首は銀の鎖で繋がれたユエがいる。
「よ、妖精……?」
「――そう、こいつは“妖精”さ」
 自慢げに、アレクサンドラは肯定した。そこに、ユエが密かに注釈をつける。
(「伝説そのままの『本物の妖精』だ」)
 喉から手が出るほど欲しかろう?
 そんな自信に満ちた言葉は引っ込めて、憂いを湛えた視線で見上げる。何処か不安そうで、憐憫を誘うように躰を縮める。
 遠慮の欠片もない好奇の視線を怖れるように。
 そんな妖精のオーナーは話を続ける。遠くから食い入るように見ている者達へも、よく聞こえるように。
「憧れて憧れて夢に見るまで憧れて、一山当てた金を叩いて手に入れたが……そろそろ飽きた。欲しい人間がいるならこいつを売りに出して、代わりにもっと珍しいやつを飼いたいんだ」
 固唾を呑む音がする。
 妖精を『飼う』ことに興味がなくとも『売買』することに関して、彼らは貪欲だ。
「籠に入れて飼うもよし、温室で飛ばすもよし――」
 ユエの戯れ言をなぞるように、アレクサンドラは謳ってみせる。
「ただ――金を積まれただけじゃ売れねえな。ちゃんと俺の求める逸品の情報、聴かせてくれよ」
 不敵な笑みを見せた男に、ひとり、ふたりと取引を申し出るものが並ぶ。
 ――人とは、欲深いものだ。
 その様を眺め、籠の中、妖精はひとり微笑する。誰にも聞こえぬような声で、そっと警告を口にした。
「だが、人間よ。妖精の気紛れを本気にしてはいけない。物語にもそうあっただろう?」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クリストフ・ポー
名入りの招待状を出してるみたいだから
侵入するなら客か
素材として、かな?

服装は仕立ての良いスーツにマント
浪漫園に馴染む事を心掛け
客らしき者を探そう
世界知識と第六感を使い
これと思った金持ちを追跡
単独になる隙があれば物陰で気絶させて招待状を確認
アタリならUC
暫く僕の人形になって貰うよ

操り寄添って人形館へ足を運び
従者でも愛人でも
口を挟めない役柄を決め
礼儀作法も活かして不和を感じさせない演技をする

…様は人形を尊び愛されるお方です。
僕以外との会話は好まれません。
お話は、僕を通して頂けますか?

内覧が叶えば間取りを頭に入れ
頃合いを見て
…様が素晴らしい作品に感動した
是非作者に会いたいと仰っていると伝えてみるよ



●潜みし先に、潜むもの
 大正の街角。人並みは多からず少なからず。
 その片隅で仕立ての良いスーツとマントを纏ったクリストフ・ポー(美食家・f02167)は微笑する。
 彼女は影の如く、はっきりとした存在感を放って存在するのに、空間に埋没しているかのように其処にいた。
 そこに通りがかるは鍔のある帽子に襟を立てて顔を隠した紳士――先程まではお付きの者と一緒に行動していたが、ここに来て一度別れ、路地へと向かっていった。
 目に付きたくないなら最初から単独をすればいいのに――と思わなくもないが、クリストフにとっては都合の良い状況であった。
「ご機嫌よう」
 男へ背後から声を掛ける。
 振り返った彼へとクリストフは微笑をむけるや否や、男の背後から花嫁姿の人形が音も無く立ち上がり、一気に締め上げた。
 それを為した張本人は、ごめんね、と軽く謝るだけ謝って、崩れ落ちた男の懐を探り出す。
「チケット発見――アタリだね」
 ひらりと赤い招待状を取り出した。
 名前が刻まれているのではと予想していたが、無記名だった。もしかすると招待者はあちらで管理されているだけなのだろうか――慎重なことだ。
 いずれにせよ、代理ですといって入れてくれるセキュリティではあるまい。
「もしもーし!君、力を貸してくれるかい?…有難う、君はとてもいい子だ。」
 クリストフの指先から、糸が伸び、紳士の四肢を搦め捕る。
 するとすっくと紳士は起き上がる。帽子を被っていてくれて良かったよ、と囁き、その目許を隠しながら。

 澄まし顔で、クリストフは老紳士の横に立ち、かの館、その門扉でチケットを見せる。
 お待ちしておりました――恭しい礼に迎えられながら、彼女はひとつ口を挟む。
「旦那様は人形を尊び愛されるお方です。僕以外との会話は好まれません。お話は、僕を通して頂けますか?」
「畏まりました」
 多かれ少なかれ、そういう人間がいるのかもしれぬ。疑いもなく彼女の突きつけた条件を受け入れてくれた。
 さて、人形にも劣らぬ整った造作をした男装の麗人。二人の間柄がどう見えたかは解らぬが、特に追求はされなかった。深掘りするなと指示されているのだろうか。
 そのまま案内に連れられ、洋館へと入る。極々普通の洋館の内部を通り抜け、階段を下りて地下へと向かう。
 其処に飾られるは悲しげな瞳を虚空に向ける『人形』達だ。
 慇懃な説明に相鎚打ちつつ、時折紳士から話を聴くような演技を挟んで、クリストフはその内部の間取りを頭へ叩き込む。そこにある商品には、然程の感情も動かぬ。
 頃合いを見て――彼女は案内役を振り返った。
「旦那様が素晴らしい作品に感動したようです、是非作者に会いたいと仰っています」
「それは結構なことでございます。ですが、生憎と人形師は人と会うことを好みません。其れと会うならば――人ならざるものによる審判をうけねばなりません」
 俄然、焦臭い話になった。だがクリストフは慎重に、相手の話を聴く。
「其れで宜しければ、お招きいたしましょう。ええ、そうです。それを望んだ方々はお客様が初めてではありません。安全の程は保証できませんが……」
 案内役はそう告げると、奥へと繋がる扉を示した。
 翼乙女のレリーフが施された白い扉の向こうには、オブリビオンがいる――彼女の直感は、それを明確に悟ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『強欲の傀儡『烏人形』』

POW   :    欲しがることの、何が悪いの?
対象への質問と共に、【自身の黒い翼】から【強欲なカラス】を召喚する。満足な答えを得るまで、強欲なカラスは対象を【貪欲な嘴】で攻撃する。
SPD   :    足りないわ。
戦闘中に食べた【自分が奪ったもの】の量と質に応じて【足りない、もっと欲しいという狂気が増し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    あなたも我慢しなくていいのに。
【欲望を肯定し、暴走させる呪詛】を籠めた【鋭い鉤爪】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【欲望を抑え込む理性】のみを攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●欲望を問うもの
 幻想人形館は見事な洋館であった。庭も広いが、取り立てて飾られた様子はないが、浪漫園の彩りとなる程度の管理はされている――導かれる儘、厳かな玄関ホールを抜けると、待ち合いがある。
 招かれし者達が其処でのんびりと接待されている。誰しもが容貌を明らかにしないように気にしているようで、あからさまな仮面を身につけているものもいる。
 彼らは会話を交わすことはない。情報交換も、干渉も、御法度なのだろう。或いは暗黙の了解か――展示場に向かう者へと視線を向けるものもいない。
 展示場には、檻も、硝子ケースもない。じいっと意志のない瞳を客に向ける、四肢が獅子の娘。鱗に角を生やした男。山羊の角を備えた少年。
 彼らは自分に似合うインテリアの中で大人しくしており、繋がれてすらいない。だが、思考は破壊されているため、逃げるという発想はないようだ。
 次の部屋には水槽があった。とはいえ、中を泳ぐは熱帯魚で、下半身が魚の娘は、その近くに腰掛け、貝殻を数えていた。左に積んだ貝殻を、右に積み終われば、また左に。それを永遠と繰り返している。

 そんな風に何部屋かを潜り抜け、辿り着く先に――件の翼乙女のレリーフが施された扉がある。
 案内人が言う。そこは客に案内する展示場ではない、と。
 この人形館の根幹に。真意に。自身のより理想を求める者に。試練を施す部屋だという。

 案内人は自ら扉に触れぬ。自身で開けろ、という慇懃な科白に従い、戸を押せば――扉の向こうは、森だった。
 人工的な自然の再現は、今までの部屋でもあった。だが、此処は、突然異界に繋がったかの如く、唐突な『森』だった。
 誰もが驚き、息を呑む光景だが――やはり、此処も地下でありながら植物や木々を持ち込んで作り込んだ人工の森らしい。
 邪神の作った空間に繋がっているということではない。それは、安堵すべきか要素だろう。
 入ってみると、木々のざわめきがある。何処からかの送風によるものだ。
 繁る緑は迷宮の如く広がり、先を見渡せぬ。部屋の広ささえ曖昧だ――なるほど、こんなところに突然放り込まれれば、常人なら戸惑うだろう。
 そこへ、ばさりと大きな羽ばたきの音がした。
 それは人形だった。
 それは所謂、ハーピーのような形をしていた。
「頂戴。あなたの大切なモノを、頂戴」
 彼女達は欲の儘に客人をもてなす。
「価値が高ければ高いほどいいわ」
「素敵なお宝を頂戴」
 ――いや、たかりに来ているというのではなかろうか。
 さて、案内人はこの間を『審問』と言った。これがただの『客』であったなら、財産や大切なものを差し出せば、無事に潜り抜けられたのかもしれない。
 だが、既に――猟兵たちはそれなりの布石をばらまいた。彼らが事の次第に勘付くのも時間の問題だ。
 なれば、不穏の種子を摘みながら、一気に駆け抜けてしまった方が良いだろう。

――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――
【プレイング受付期間】
12月12日(木)8:31~15日(日)中

※捕捉
皆様、ほぼ同時刻に『幻想人形館』に駆けつけた状況になります。
1章の行動による不利・有利な状況は発生しておりません。
人形館の1階に存在する展示場における何かしらのアクションも可能です。
が、大半がそちらに向かう場合、戦況としては不利となるかもしれません。
――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――
レン・デイドリーム
……ここまでするんだ。凄いなぁ
展示場の様子も見事だったけど、森まで作っちゃうんだね
いや、人間を人形にするよりは森を作る方が自然かな
とりあえず目の前の人形達を退治しようか

【オーラ防御】で身を固めつつ進んで行こう
飛び交う人形達の動向には【第六感】も混じえて注意して

接近してきた人形達はUCで拘束していこう
鉤爪を封じれば攻撃を封じられるし、翼を封じれば地に落とせる
動きを封じた人形は、【破壊工作】の技術を使いつつ【衝撃波】で壊していくね

鉤爪に切られた時は【狂気耐性】でも耐えるよ
ごめんね、僕は組織に従う人間側の人形だ
理性を手放したら怒られちゃうからね
同じ人形の君達が自由にしてるのは、少し羨ましいと思うけど


冴木・蜜
やれやれ
悪趣味なおもてなしですね
…潰しましょう

体内毒を限界まで濃縮
身体を液状化し
草の影や木等を這い
目立たなさを活かして一気に奥を目指します

彼女達が近付いてきたら『微睡』
揮発した毒を操り
その命を融かし落としましょう

人工物とはいえ
森を再現しているのであれば
私を見つけるのも難しい筈

気付いたとして
果たして生い茂る木々の中で
液体の私を捉えられるでしょうか

攻撃されたら
身体を液状化して衝撃を殺しつつ
武器や腕を這い上がり
飛沫さえも利用して毒液で
包み込んで差し上げましょう

私は死に到る毒
故にただ触れるだけで良い

……私の大切なものは
貴女達には奪えませんよ
絶対に


七篠・コガネ
弄られた命を楽しむ気が知れません
事を解決すれば展示物の役割は終えられるのです?

質問には…何も答えません!
どうせ何を答えても無駄でしょうし
しばらく【激痛耐性】で耐えながらタイミングを待ちます
そう、僕とカラスと敵が一直線上に並ぶ瞬間をね!
大切なもの、あげる気なんてないですから
代わりにこのカラスをお返しします!
【ダッシュ】してカラスにUCで突撃!
敵に向かって蹴り飛ばしましょう

カラスの天敵をご存知で?
猛禽類の名を持つ僕がカラスに負ける訳ないでしょうが!
上空飛んで【一斉発射】です
可哀想だけど木々を焼き払って視界を確保
空から【踏みつけ】て急襲
この脚で掴んで離しませんよー

鷹狩は…始まったばかりなんですから



●人形
「……ここまでするんだ。凄いなぁ」
 周囲をしげしげと見やり、レン・デイドリーム(f13030)が呟いた。
「展示場の様子も見事だったけど、森まで作っちゃうんだね――いや、人間を人形にするよりは森を作る方が自然かな」
 竦めた肩先で、白い触手がしゅるりと身を起こした。
 室内に森を作る。それはやろうと思えば難しくはない――金と人手に糸目をつけなければ。少々、部屋の広さや環境の問題は気になるが、逆に期間限定の空間なら、長々と生存させる必要は無いとも言える。
 猟兵たちの気配を悟ったか、くすくすと、嘲弄するような笑みが木々の奥からこぼれてくる。
「弄られた命を楽しむ気が知れません――事を解決すれば展示物の役割は終えられるのです?」
 通り過ぎてきた光景を思い出し、唇をひとたび結ぶと、七篠・コガネ(f01385)がじっと気配の方角を見据える。
 囁く言葉は――頂戴、であった。
 鳥人形は目を隠し、微笑を口元に浮かべて、それしか言わぬ。外の作品に対する問いも感想も彼女達の興味の外、認識すらしていないかもしれぬ。
「やれやれ、悪趣味なおもてなしですね……潰しましょう」
 あれも、それも、これも――眼鏡の向こう、紫の瞳をやや伏せながら、冴木・蜜(f15222)が嘆息するように告げる。
 否や、彼は忽然と姿を消した。
 それは木々が落とす陰に混ざれば、見分けも付かぬ。たとい、その様子を観察していたレンであっても瞬きの後では、蜜が今どこにいるのか、わからなかった。
 まぁ、彼が敵でなければ、或いは窮地でなければ、必死に探す必要もないからであるが。
 窮屈そうに目の前に落ちている枝を払って、コガネが進む。
 道は狭くなったり広くなったり――いずれにせよ、彼には少々狭い。だが、それゆえに、惑いながらも誘導されるようにルートが設定されているのも解る。
 そのやや後ろで、レンは奇襲に合わぬように感覚を研ぎ澄ませていた。
 森では、鳥の鳴き声ではなく、娘がくすくすと笑う声が大小響いている――声のする方に人形がいるのは明らかだ。当然と言えば当然だが、このルートを守る限り、接触を避けるには、蜜のように自在に躰を変化して抜ける以外、方法はあるまい。
 彼らも無条件で鳥人形を見逃すつもりもなかったゆえ、構わないのだが。
 とうとう煩わしくなって、コガネが手先を鉤爪に変化させ、ざっくりと大振りな枝木を落とす。
 すっきりと大きく道が開いた――その先に、幹に身を預ける鳥人形が三体、客人を待っていた。
 それらは猟兵たちを認めるなり、口々に囀り始める。
「頂戴な、あなたたちの大切なもの――」
「ねえ、」
「欲しがることの、何が悪いの?」
 それは明確な殺気を伴った問い掛けだった。双腕代わりの黒い羽から、強欲なカラスが飛び出して、解を寄越せとコガネへ飛来する。
「……何も答えません!」
 どうせ何を答えても無駄でしょうし――身を守るように両腕の装備を備え、盾のように立ち塞がる。
 烏は大柄だったが、この空間をもっとも自由に飛翔できるサイズだった。
 貪欲な嘴は、コガネを容赦なく啄むが、大した痛みではない――それを受け止め、機を待つ間に――一体の鳥人形が樹の幹を蹴って、羽ばたいた。
「あなたも我慢しなくていいのに」
 囁く言葉と共に、ぐっと曲げた下肢。飛行の速度を乗せた蹴撃を、半透明な触手がふわりと受け止める。
「シュエ、あいつが鬼だ。捕まえてしまおう」
 のんびりとレンが己に宿るUDCに語りかける。ぐるりと四肢を捉えるように伸び上がった触手が、鳥人形に巻き付く。
 それでも足掻くように振り上げられた逆の猛禽の爪が、緩く癖のある青い髪を揺らす。胸に届けば、何か揺さぶられただろうか。
 しかし此度は、虚しく空を掻いた。
「ごめんね、僕は組織に従う人間側の人形だ。理性を手放したら怒られちゃうからね」
 穏やかな微笑みの片隅に、曖昧な感情が宿る。ただ、形作るには足りない程度の戸惑いだ。
 拘束しているのとは別の触手が放った衝撃波が、人形の関節、軸を次々と破壊する。同じ――ではないが、人形であれば、その急所も解るというもの。
 そんな彼の元へ、地を歩く一体が、近づいてくる。
「足りないわ」
 彼女はそういう。まだ何も食べていない――欲望を、価値を、私に頂戴。
「困ったな……シュエ、未だ時間がかかるかな?」
 着実に解体を進めているが、人形もなかなか抵抗している。もう一体に割く触手は足りない――という状況で、困った風もなく小首を傾いだレンの直ぐ傍に、ひとの気配が一瞬浮かんだ。
「その命を融かし落としましょう」
 おやすみなさい、さようなら――森の中で、静かにささめく。
 揮発した死毒が鳥人形たちを苦痛に喘がせる。
「ああ、あああ――」
 躰が灼けるような感覚に、彼女達は悲鳴をあげるが、それもまた人形。完全に息絶えるには、少しだけ頑丈だった。
 蜜からすれば、憐れなことに。
 ばたばたと闇雲に羽ばたいて、鳥人形が毒の根源を探そうと鉤爪で踏みつける。広がった黒い影の何処かに、蜜が潜んでいることには気付いたらしい――。
 必死の抵抗は、何分の一かの奇蹟を捉える。だが、それは致命的な過ちでもある。
 蜜はその鉤爪を捉えると、飛沫を立てて毒を更に散布しながら、液状の儘、それを這い上がった。
「私は死に到る毒――故にただ触れるだけで良い」
 いつしか影に覆われた鳥人形に、彼は静かに告げる。
「……私の大切なものは貴女達には奪えませんよ、絶対に」
 全身に力を籠めて、毒を注入すれば――鳥人形は内側と外側から同時に崩れ、蜜もまた地に戻る。
 その半ば、ギャアギャアと耳障りな声をあげて、カラスが突っ込んできた。
 仲間が殺されたことに、怒ったのだろうか。
 毒で包もうかと手をもちあげようとして――蜜は止めた。とぷん、と飛沫だけを残し、急速に液状へ戻る事で、その嘴を回避する。
 その瞬間、人形と、旋回したカラスとコガネとが一直線に並んだ。ぐっと膝を折ったコガネが、爆ぜるように前へと跳んだ。
「昔の人はこう言いました。”精神一到何事か成らざらん”!」
 加速を載せて、カラスを蹴り上げる――背中のプラズマジェットが噴出して、弾丸よりも速く距離をつめたコガネの姿は、おそらく猟兵たちにも正確には捉えられなかっただろう。
「大切なもの、あげる気なんてないですから。代わりにこのカラスをお返しします!」
 宇宙船の装甲すら破壊する一蹴りだ。
 鳥人形は少し口を開いた状態で、カラスを腹に叩きつけられながら、吹き飛んでいった。
「カラスの天敵をご存知で? 猛禽類の名を持つ僕がカラスに負ける訳ないでしょうが!」
 更に彼は跳躍すると、翼の如く広げたアームドフォートを一斉に解放する。
 天井の存在に気をつけつつ、広範囲を焼却すると、見つけた獲物の元へ急下降して、その脚で掴みかかる。
「鷹狩は……始まったばかりなんですから」
 少しだけ楽しげに、コガネが言い放つ。
 そのまま体重をかければ、みしり、と人形が音を立てて、粉微塵と割れた――あれ、と彼は零すが、カラスを叩きつけられた時に、躰の半分を損傷していたらしい。
 いずれも無惨に砕かれてしまった鳥人形たちを一瞥し、片付いたね、とレンは軽く肯いた。
 そう、倫理の側に立つために、理性を、欲望を抑制するのは当然のこと。シュエを軽く撫で、彼は小さく呟く。
「――同じ人形の君達が自由にしてるのは、少し羨ましいと思うけど」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鶴澤・白雪
叶(f07442)と

無事辿り着けたって安堵する暇もなさそうね
完全にタカられてるわね
お小遣いでもあげてきたら?

ご愁傷様、それじゃおびき寄せるのは叶に任せるわ
近くにいて標的が分散したら効率悪いわね
怖がって逃げたフリして『地形の利用』で狙撃できる場所探して移動するわ

精霊銃を構えてまずは叶のお手並み拝見かしら
囮役押し付けた手前、援護射撃くらいはするわよ
敵の状態はどうであれ危害を加えようとするなら撃ち抜くわ
だから安心して惹き寄せて引き摺り下ろすのに専念してちょうだい

ありがと、頼まれたわ
『高速詠唱・全力魔法』を合わせたボルテックス・ノイズを発動する
ほらほら、価値の高い宝石の槍よ
その身でしっかり味わいなさい


雲烟・叶
f09233と

頂戴、と来ましたか
試練も何も、これ完全に揺すり集りの類じゃねぇです?
嗚呼、お小遣いという名の呪詛でしたら幾らでも

白雪のお嬢さんはまだ愛玩と見られてらっしゃるでしょうからね、来るなら自分の方ですかね
……嗚呼、やっぱり
なら、己の足元を呪詛の地に置き換え、【恐怖を与える、誘惑】でより強く惹き付けましょう
恐ろしいものほど見たくなる、近付きたくなる、そういうものでしょう?

近付けば、刻印から伸ばした女の黒髪にも似た無数の糸で捕らえ、【カウンター、呪詛、生命力吸収、ロープワーク】で地に引き摺り落としましょうか
さて、あとは頼みましたよお嬢さん

おや、派手ですねぇ
特性上、派手な術はねぇんで新鮮ですよ



●呪詛と尖晶石
「無事辿り着けたって安堵する暇もなさそうね」
 鶴澤・白雪(f09233)が嘆息した。ひとまず、未だ淑やかな令嬢を演じた儘である。その白い貌は不機嫌そうな表情を隠し、紅の双眸は相手をただ見つめるのみ。
「頂戴、と来ましたか。試練も何も、これ完全に揺すり集りの類じゃねぇです?」
 人形たちの囀りに肩を竦めたのは雲烟・叶(f07442)――彼の口調はのんびりとしていて、あまり危機感はない。
 ふふ、と悪戯めいた微笑を浮かべた白雪が尋ねる。
「――完全にタカられてるわね。お小遣いでもあげてきたら?」
「嗚呼、お小遣いという名の呪詛でしたら幾らでも」
 肩越しの会話が合図。
「ねえ、頂戴――」
 ずっと大人しくしていた二羽が、業を煮やしたように飛びかかってきた。
「白雪のお嬢さんはまだ愛玩と見られてらっしゃるでしょうからね、来るなら――」
 黒い羽もつ人形は樹と樹を渡るようにして近づいてくる。
 それは彼の予想通り――後ろで澄ます白雪ではなく、前で構える叶へと、爪を走らせようと樹を揺らした。その音を聞きながら、叶が僅かに目を細めた。
「……嗚呼、やっぱり」
「ご愁傷様、それじゃおびき寄せるのは叶に任せるわ」
 軽やかに、白雪は更に後ろへと距離をとりながら、お手並み拝見ね、と嘯けば。叶も実際、顔色ひとつ変えずに、指を走らせる。
「呪われろ」
 指し示した先から彼の足元まで、呪詛に塗れる。
 それは恐ろしき影の道。しかし言葉にしがたい魅惑をもって、叶へと鳥人形を導く道しるべだった。
「恐ろしいものほど見たくなる、近付きたくなる、そういうものでしょう?」
 彼に誘われる儘、それらは滑空してきた――というよりは頭上に飛びかかってきた鳥人形は、その鉤爪で彼の肩を掴みかかった。
 滑るように鋭く、全体重を預けるような衝撃が、躰に走る。
 だが、禍々しき爪の鋭利さを裏切るように、叶の肌に、衣服に、疵はできなかった。
 それは肉体ではなく理性を傷つけ、欲望を暴走させる呪詛を与える一蹴。
 然し、残念ながら、叶は呪詛の器。
 毀れて、零れるとすれば、なんでしょうかねえ、と密かに嘯く耳元に、宝石の弾丸が走り抜けていく。
 後ろで素早く連射した白雪が、鳥人形が左右へ逃れていくのを阻止したようだ。
 援護はするっていったでしょうと、酸漿色の瞳が告げるを穏やかな笑みで受け止めて、叶は黒翼を逃すまじと刻印から糸を放つ。
 女の黒髪にも似た無数の糸は、彼を蹴って羽ばたこうとする二羽をくるりと容易く絡めた。
「さて、あとは頼みましたよお嬢さん」
「ありがと、頼まれたわ」
 黒いライフルを下ろし、左肩の聖痕を意識する。魔力が胸郭から左腕に巡る感覚――。
「聖痕に眠る影の白雪姫、目覚めてちょうだい。異音を飲み込んで雑音を掻き鳴らせ」
 唇がするりと詞を紡げば、視界を埋めつくす尖晶石の棘槍が鳥人形の輪郭をなぞるように揃っていた。
 血のように深い赤色の、宝石の槍が放射状に並んで輝いている様は、叶からみると、万華鏡のようだった――糸を手繰り、縛り上げる力を緩めることなく、叶が眩しそうにそれを見つめる。
「おや、派手ですねぇ――特性上、派手な術はねぇんで新鮮ですよ」
 鳥人形は、ああ、ああ、と歓声をあげた。事実、とても高価なものを突きつけられているように思えるのだろう。
「ほらほら、価値の高い宝石の槍よ――その身でしっかり味わいなさい」
 そんな無数の、美しい価値を喰らって死ねるのだ。本望だろう。
 告げる言葉は常の強さを戻していたが、まだ愛玩娘の設定が意識の端に残っていたか、白雪の浮かべた微笑みは、いつもよりも穏やかだった。
 指先を鳴らせば、決着は一瞬だ。棘槍が頭から足の先まで貫き、羽を散らす――。
 衝撃に砕けていく尖晶石たちが、叶が敷いた呪詛の上、眩く煌めいていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
至上の価値を持つハレルヤにたかりにくるとは
身の程知らずは怖い怖い

空を飛ぶ者は翼を、地に立つ者は足を
妖刀の斬撃や、斬撃から放つ【衝撃波】で切り裂き地面に転がして
その頭を自ら【串刺し】にしたり、ニッキーくんに【踏みつけ】潰させます
私の邪魔をしない奴は見逃してあげてもいいですよ
此処を早く抜ける事のが重要ですから

このハレルヤが我慢なんてする筈ないでしょう
私は何時だってこの名に相応しい振舞いだけしていたい
そして万物に褒め称えられていたい
その為に猟兵という立場は最適なんですよねえ
貴女みたいな敵を殺す程に世界に褒められますから

ああ、やっぱり見逃しは無しですね
褒められる為に欲望のままに殺し尽くしながら進みます


クリストフ・ポー
御役御免の御主人様には帰っていいよと命じる
果実を愛でるのは自由だ
君には居場所もあるだろう
でも努々忘れるな
捥ぎ取った瞬間から追われる身になる事をさ

背で見送って彼女達の歓待を受けよう
悪くは無いけど既製品だね
僕のアンジャリカの方が美しい
戦闘知識、見切り、学習力で
異形の挙動パターンを把握しながら応戦
奪われるのは気分じゃないから
アンジェリカで盾受け
翼の部位破壊が効率的かな
悪い?違うね
手に余るものを得れば破滅
死ぬだけさ

呪詛耐性はあるけど
敢て一瞬手放なそう

僕は追跡者だ
何度だってオブリビオンを屠る

僕からあの人を奪い
家族を傷付けた
理解はしても
決死て
逃しはしない

鏡の迷宮は森ごと飲込む鳥籠
猟兵を除く空間を圧縮し潰す



●欲
「じゃ、これで御役御免だ。帰っていいよ、御主人様」
 クリストフ・ポー(f02167)がユーベルコードを解除すれば、男はその場で崩れ落ちた。頃合いからして、そろそろ意識を取り戻すくらいだった。
 意識があるか否か、朦朧としている男の耳元へ、彼女は囁きかける。
「……果実を愛でるのは自由だ。君には居場所もあるだろう」
 甘く柔らかな声音が、急に凍える。
 喋り方も口調も、殆ど変わらぬと言うのに。
「――でも努々忘れるな。もぎ取った瞬間から追われる身になる事をさ」
 厳かなる警告に、この男が何か省みるか、変わらず悪徳の世界に身を置くか――それは最早、クリストフの興味の外だ。
 突き放し、振り返れば、その顔も覚えていない。
 大きな音がする。銃撃のような、剣戟のような。案外、部屋はそんなに――という表現が正しいかは解らぬが――広くないのかもしれない。
 夏目・晴夜(f00145)は軽く耳を動かしてはみたものの、捉える音に然程の意味は無い――何事も彼の歩調を変えることはないのだから。
 街を散策している時と変わらず、のんびりとしたものだ。かさり、と頭上で音がする。
「……頂戴。あなたの大切なモノを、頂戴」
 太い枝木に遊ぶように絡みついた鳥人形が彼らを見下ろし、くすくすと笑った。
「至上の価値を持つハレルヤにたかりにくるとは、身の程知らずは怖い怖い」
 抜き身の刀を手に、彼はやれやれと頭を振った。
 背後では彼よりも背の高いニッキーくんが、かくんと肯く。
 頂戴、と言いながら、横から、背後から、ずらりと姿を現して、ふたりを取り囲む。
 ふうんと値踏みするような視線を向けて、クリストフが泰然と腕を組む。
 白皙の頬に浮かべた微笑は、無邪気にも映る。
「悪くは無いけど既製品だね。僕のアンジャリカの方が美しい」
 しかしその判定は厳しい――指先を伸ばせば、縁を結ぶ赤き糸が、花嫁を起こす。
 すかさず斬り込んできた鉤爪を、アンジェリカがかちりと大鎌で受け止めた。
「奪われるのは気分じゃないから」
 唄うように踊るように、指先を横へと滑らせれば、鳥人形の黒翼へとアンジェリカが深く刃を埋め込んだ。
「そこを壊すのが手っ取り早いかと思ったけど」
 片羽をもいで見せたが、無機質な断面と舞い上がる黒い羽毛の合間で、片足を蹴り上げて、再び掛かってくるのが見えた。
 再度、アンジェリカがクリストフを庇って受け流す――。
「悪い? 違うね。手に余るものを得れば破滅――死ぬだけさ」
 そう――、晴夜もその囁きを耳に、頷き、躍る。
「頭が高い人は好きですよ」
 嘯くが否や、晴夜自身が低い体勢から真っ直ぐに駆けて、先に踏み込む。呪詛を籠めた蹴撃、凶悪なる鉤爪を、身を庇うように地と並行に傾けた妖刀でやすやすと受け止め、くるりと返し巻き込み、ねじ伏せる。
 生じた衝撃波で、鳥人形を地へ叩きつけると、すかさずその頭部をニッキーくんがぐしゃりと踏みつぶす。
「私の邪魔をしない奴は見逃してあげてもいいですよ。此処を早く抜ける事のが重要ですから」
 振り返った彼の紫瞳は、刀身よりも鋭利な輝きを宿す――そして、情け容赦無い蹂躙を目にしたところで、鳥人形は怯まない。
 すかさず二体が晴夜と、クリストフの横から飛び出してきた。羽ばたきが交差し、樹と樹を渡る。だが、二人の身体に疵はない。
「あなたも我慢しなくていいのに」
 頭上で全く同じ声が響く。共鳴するように。
 くすり、と艶美に微笑み、クリストフがそれを見据えた。
「僕は追跡者だ――何度だってオブリビオンを屠る」
 我慢するなといったな。
 後悔するなよ――くるりと振り返り、癖のある黒髪を揺らし、茶の瞳は強い眼差しで人形たちを射貫く。
「鏡地獄は知ってるかい?あれ程じゃない、安心し給え。」
 森全体を包むように鏡で出来た迷宮が広がり――鳥人形たちをすべて捕らえる。
 鏡の迷宮に、人形たちが如何なる畏れを抱いただろうか。
「僕からあの人を奪い、家族を傷付けた。理解はしても……決死て――逃しはしない」
 冷えた声音で告げ、ぐっと手を握りしめる。呼応するように迷宮は瞬く間に圧縮し、裡で爆ぜた。
 彼らの頭上から、はらはらと無数の黒い羽が落ちていく――。
 その中から、新たな人形が忽然と姿を現した。おや、クリストフは目を眇める。
「素敵な欲望――もっと、もっと」
 腕を伸ばすように翼を広げる人形へ、はは、と乾いた笑いを零したのは、晴夜だった。
「このハレルヤが我慢なんてする筈ないでしょう」
 愚問だと答える代わり、剣を振るい。裂けた腕から、ニッキーくんが翼を引きちぎる。
「私は何時だってこの名に相応しい振舞いだけしていたい。そして万物に褒め称えられていたい――」
 破片を踏み抜き、腕を薙ぐ。
 胸を貫くように突き出された脚を、縦に割る。失敗したところで、疵はつかぬ。
「その為に猟兵という立場は最適なんですよねえ――貴女みたいな敵を殺す程に世界に褒められますから」
 人形は血を流さぬ代わりに、羽を舞わせる。汚れなくて良いですね、と彼は灰色の前髪の下、瞳を細めた。
 そして、やはり同意するように、ニッキーくんが頷きながら、真っ二つになった人形を踏みしめる。
「ああ、やっぱり見逃しは無しですね」
 褒められる為に欲望のままに――殺し尽くす。
 文句はないでしょう、彼は刀身を返しながら、問いかける。
 欲望を肯定したのは、そちらなのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マリス・ステラ
「主よ、憐れみたまえ」

『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯り全身に輝きを纏う

味方を『かばう』
ダメージに輝きが星屑のように散る

【光をもたらす者】を使用

スーツケースを開くと蝶の姿をした星霊達が解き放たれる

「灰は灰に、塵は塵に」

星霊達が光線を『一斉発射』
掌が瞬くと弓を喚び『援護射撃』放つ矢は流星の如く

「あなた達の望むものは"ここ"にあります」

胸元に手を添えると仄かに光が溢れる
その『存在感』で彼女達を『おびき寄せ』る

「魂の救済を」

その御名は尊く
憐れみに限りなく
世の罪を赦す愛に満ちている

聚楽第の白い翼がぎこちなく広がり輝きを束ねる
星の『属性攻撃』は巨大な光弾
翳した手を振り下ろす

「光あれ」

世界が白になる


華折・黒羽
同じ黒翼。
しかし歪でありながら
紛い物の己の翼よりもそれは大きく美しく見える
純然な存在でないその姿は
否が応にも過去の記憶を引き摺りだそうと

…俺は、欲のみの化物になどならない

食い縛り、構える屠なぎ払い間合いを
己の翼広げ空中戦をと上空にて対峙
武器でもって敵の攻撃受けカウンターへ繋ぐ
己の何を喰われようと切っ先は前へ
激痛耐性で痛みの感覚は一時捨て置く

ありました、…大切なもの

家族と呼べる人達、想い人
時を重ねようと消えぬもの

…そして、大切だと…思い始めているものも

増えてゆく絆、笑顔
時を重ねる程生まれるもの

──もう、奪わせないと決めたんだ

だからこの手は武器を取る
己の影にだって屈するものか、と

喰らえ、──屠



●光と影
 大きな翼が、視界を埋めつくすように広がる――両腕を開いて、客人を歓迎するような姿勢で、鳥人形が広げた翼へ、華折・黒羽(f10471)は思わず目を奪われる。
(「同じ黒翼――歪だ……だが」)
 自分の持つ、紛い物の翼よりもずっと大きく、美しく見える――。
 ひとの顔を、胴に備えられたつくりもの。足の先は猛禽の爪。
(「純然な存在でない……」)
 次々と浮かんでくる感想は、同時に彼の記憶を苛み、掻き回す。深く沈めたものを引き上げようとするトリガーとなりかける。
 打ち消すように、黒羽は緩く頭を振って、脳内を覆い尽くさんとする翼の幻影を追い払う。
「あら……欲しがることの、何が悪いの?」
 それは問い掛けてくる。
 欲望を押し殺すことに意味はあるの。だって、貴方たちは求めて此処へ来たのでしょう。
 妙に流暢な言葉を放つ。それはシンプルな問いの中に見出した幻聴か、その個が妙に話が好きなのか。
 放たれたカラスが、黒羽へと迫る。嘴は彼の視界を一度横切ると、錐揉みに急降下してきた。
「……俺は、欲のみの化物になどならない」
 奥歯を食い縛りながら、影よりひとふり剣を取り出し、応じる。
 だが、そんな答えでは満足できぬと、カラスは速さを増した――どころか、木々がさわさわと葉を鳴らす。
 枝葉を抜けて現れたのは、次なる人形。猟兵たちの戦闘に応じて、どんどんと数を増やしているらしい。防犯システムはきちんと作動しているようだ。
 それを、光の輝きが受け止めた。
「主よ、憐れみたまえ」
 祈りを捧ぐ――マリス・ステラ(f03202)の星辰の片目に光が灯り、呼応するように躰が輝く。
 鳥人形の行く手を阻んだ煌めきも、まさしく彼女が向けたもの。指を解き、徐に携えていたスーツケースに手をかける。
「夜が明け、明けの明星が昇るまで、暗闇に輝く灯火として」
 祝詞と共に開け放てば、中から蝶の姿をした星霊が次々と飛び出して来る。
 一気に周囲が光で埋めつくされる。黒い翼も、作られた森も、星霊たちの煌めきの下だ。
「灰は灰に、塵は塵に」
 マリスの合図と共に、蝶から光線が放たれる――彼女自身も、いつの間にか手の内に喚んだ弓を引いていた。
 光を伴う一射が、黒羽が前へと立ち向かう頭上を襲おうとする鳥人形たちを、次々と呑んでいく。
「あなた達の望むものは"ここ"にあります」
 マリスが自らの胸に手を添える。祈りに応じて光を強め、注目を引く。
 自分が少し移動しようとも、視線が追尾してくる感覚に、彼女は静かに肯いた。
「魂の救済を」
 もし解き放たれる欲望が、彼女の理性を砕くならば。
 きっとそれは救済という形で現れる――結果は何一つ変わらない。
「その御名は尊く、憐れみに限りなく、世の罪を赦す愛に満ちている」
 聚楽第の白い翼がその背でぎこちなく広がれば、胸元に集める星の力はますます膨れあがってゆく。あとは、迫る鳥人形たちへ、その掌を翳せば終わり。
「光あれ」
 光が爆ぜた――消し飛んでいった人形たちを背に、残った鳥人形は黒羽へと飛びかかる。
 増えたカラスの不快な鳴き声に、黒耳がぴんと立つ。くるりと転進し、剣を振り下ろす。
 ――心の中をぐるぐると巡る過去と、問い掛けへの答え。
 考えながら戦っていた黒羽の頬に、ひとすじの血が流れていた。一匹の光る蝶が、鳥人形の片羽をもぐように弾けた時に。
 彼の頭を縛る枷が、ひとつ消えた。
「ありました、……大切なもの」
 ――家族と呼べる人達、想い人。時を重ねようと消えぬもの。
 ぽつり、ぎこちなく呟く。カラスが背後から、彼の腕を掠めて舞い上がった。
「そして、大切だと……思い始めているものも」
 青い瞳が澄んだ光を湛え、カラスと、その主を見据えた。
「増えてゆく絆、笑顔……時を重ねる程生まれるもの。……──もう、奪わせないと決めたんだ」
 己の影にだって屈するものか。
 欲望を囁く、片端の黒き翼へ、尾を逆立て、鋭く牙を剥く。
 これが、自分の解であると。今までの疵から流れる血液を、剣へ与え、完全な捕食体へと変える。この剣は黒羽の一部のようなもの――依存し、共存するひとふり。
「喰らえ、──屠」
 まさしく黒羽の牙代わりに、立ち塞がる鳥人形を次々と屠り、平らげる。
 ――獣は、鳥を狩るものだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒川・文子
引き続き、金持ちのメイドと言う体で挑みます。
主が気に入りそうな物が沢山ありますね。
ハーピー……?ですが、主に危害を加えないとも限りません。
気をつけましょう。

わたくしめの大切な物ですか?
今、この場におりませんのよ。価値の高いお宝もありませんの。
わたくしめを襲うのも構いません。
主を守れる忠実な犬になっていただかないといけませんから。

貴女方がわたくしめを審問するならわたくしめは貴女方を選別いたします。
ただのメイドではございませんのよ。
主を守れる力はございます。
襲われたらハーピーの足を掴んで地面に叩きつけましょう。

忠実な犬はどこにいるのでしょうか。


スティレット・クロワール
漸く出会えました、かな?
お散歩の甲斐があったね、蛇くん

知らない者は探さない。探されれば気がつきもする
遊び終わったし私は斬り開く方になろうか

さぁ、私と語り合おうか。翼つ持つお嬢さん達
君が神の使徒であるのならばーーなぁんてね

おやおや、素直な子たちだね
君たちと戯れるのも悪くはないけれど、趣味があってしまっては困るからね

私は物持ちが良いんだ。私のものは、あげないよ?

憂国の調べで対抗しようか

さぁ、お仕事の時間だよ
翼の乙女たちと遊んでおいで?
君が狂気に満ちるなら、私は刃で終わりにしようか

狂気が増せば踏み込んでくるかな。サーベルでお相手しよう

憂う心を頂くよ。
それに思い出したけれど、私は敬われる方が得意なんだ



●主のため、主がゆえ
 主が気に入りそうな物が沢山ありますね、嘯き、黒川・文子(f24138)は静かに天を仰ぐ。
 作られた森は、猟兵たちや鳥人形たちによって、幾分か姿を変えて、無機質なコンクリートの天井を顕わにしていた。
 疎らになりつつある樹木は無数のルートを指し示し、逆にいえば駆逐が済んだ証でもある。
 文子は気にせず最短を進んだところで、再び分岐点に差し掛かる――それは戦闘の結果できたものではなく、元々そういう形に整えられているらしい。
 それぞれの道に鳥人形が待ち構えて、黒翼の腕をゆるりと羽ばたかせていた。
「ハーピー……? ですが、主に危害を加えないとも限りません。気をつけましょう」
 すっと赤い双眸を細め、それでも優雅な姿勢を崩さず、人形に向き合った瞬間。
 あ、見つけた――と。別の小径から、のんびりとした声音が届いた。
「漸く出会えました、かな? お散歩の甲斐があったね、蛇くん」
 微笑を向け、スティレット・クロワール(f19491)は腕に巻き付くUDCへと語りかける。
 無論、文子に向けた言葉ではない。鳥人形に向けて、彼は軽く首を傾げて見せた。ちょっと求めていたのとは違うかな、とでも思っているような様子だ。
「知らない者は探さない。探されれば気がつきもする――遊び終わったし、私は斬り開く方になろうか」
 空に指さし唱えると、
「さぁ、私と語り合おうか。翼つ持つお嬢さん達。君が神の使徒であるのならば――なぁんてね」
 藍色の瞳を細めて、逆に問い掛ける。
 ばさりと黒い翼を広げ、鳥人形はそれに応じた。真っ直ぐ前へと進みながら、猟兵たちと間合いを詰める。
「頂戴。あなたの大切なものを」
 二羽の人形が左右で唄う。
「欲しがることの、何が悪いの?」
 文子に向け、問い掛けが向けられると同時、カラスが解き放たれた――。
 もう一羽はスティレットに向けて、直接飛びかかってきた。
「おやおや、素直な子たちだね。君たちと戯れるのも悪くはないけれど、趣味があってしまっては困るからね」
 サーベルを抜き、鋒で距離を測るように相手へ突きつける。
「私は物持ちが良いんだ。私のものは、あげないよ?」
 剣を盾にくるりと鳥人形を躱すと、軽く地を蹴る。
「さぁ、踵を鳴らして呼び出そう。時間だよ、宵闇の僕たち――さぁ、お仕事の時間だよ。翼の乙女たちと遊んでおいで?」
 彼の瞳が輝きを帯びて、招かれた青白い死霊の獣たちが人形の背へ襲い掛かる。
 九の爪と牙が瞬く間に羽を散らし、黒く視界を埋める。
 女の肢体が転回する。無機質な腿が加速して回し蹴りを繰るを、スティレットは後ろへ退く。
 すれ違いに、黒いスカートを揺らし、文子がかっちりとしたフォームで軽やかに駆けた。カラスの嘴が彼女の頬を掠めた。だが、表情ひとつ変えず、カラスではなく、その操り手へと距離を詰める。
「わたくしめの大切な物ですか? 今、この場におりませんのよ。価値の高いお宝もありませんの」
 だから、そちらに譲るものはございません――。
 きっぱりと答えるも、それで満足する人形では無い。更に加速したカラスが彼女の背後に迫る。
「わたくしめを襲うのも構いません――主を守れる忠実な犬になっていただかないといけませんから」
 それを裏拳でいなすと、彼女は深く沈み込む。長く艶やかな黒髪が、さらりと帯のように残像を残す。
「貴女方がわたくしめを審問するならわたくしめは貴女方を選別いたします」
 文子はそのまま突進する。
 彼女が何を目的とするのか――瞬間、判断することもできず。回避することもできず、鳥人形はその脚を掴まれた。
「ただのメイドではございませんのよ――主を守れる力はございます」
 その身を以て堪能くださいませ、と。
 彼女は掴んだ脚を軽々持ち上げ、大きく弧を描き、地へと叩きつける。一度ならず、二度、三度と、彼女は片手で鳥人形を振りまわし、最後に投げ飛ばした。
 一際太い幹に強か身体を打ち付けて、鳥人形は砕け――使役していたカラスも霞と消えた。
 ああ、彼女は小さく嘆息する――壊れてしまった。
「忠実な犬はどこにいるのでしょうか」
 頭を振って立ち上がると、スカートの汚れを払う。
 この先にならいるのでしょうか――誰にでもなく問うた声に、答えるでもなく。
「お嬢さんに仕えて貰える主は心強そうですね」
 その顛末を楽しそうに見送ったスティレットは、さてそろそろ終演だと、己が向き合う人形へ視線を戻す。
 羽を殆ど食いちぎられた姿で、頂戴、と壊れたように繰り返す人形へ、ただ穏やかな微笑を向ける。狂気に満ちれど、腹は満たされず、力は空転している。
 鉤爪を振り上げる脚も遅い。
 あげないよ、再度彼は囁くと、サーベルを地と水平に構えた。
「憂う心を頂くよ」
 軽く距離を詰めて、その中心を貫く。素早く薙いで、横に跳べば、鳥人形はひび割れながら転がり、二度と動かなかった。
「――それに思い出したけれど、私は敬われる方が得意なんだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

久澄・真
ジェイ(f01070)

審問だとさ
随分と大層なネーミングで
生憎と大切なモンとかねーんだわ
期待に添えず悪ぃな

悪いと微塵も思ってない表情で笑い
道すがら買った女人形へと操り糸を繋ぐ
美女を模したその人形を盾とし自分はその場に佇んだまま
攻撃はジェイに任せるといういつものスタイル

大切なものは無い
己の命すらチェスの駒同然
…ま、無欲ってわけじゃねぇけどな
連れの男だって欲に関しては偽る類いでは無いだろう

破壊されてゆく人形にすら無頓着
敵の渾身の一撃と踏めばこつり革靴鳴らし
前へとのんびり進み出て

UCでもって返り討ち狙い
成否関わらず自分の仕事終了とばかりに煙草に火をつけ
あとヨロシクー
とジェイへ押し付ける心算


ジェイ・バグショット
真(f13102)と

審問、な。
大切なものか…生憎俺も出せるものがねぇ。

同じ答えをあっけらかんと
大切なものは既に失った

共闘で真のスタイルは把握
ハッ、本当に使い捨てじゃねーか。
人形に愛着のない扱いは聞いた通り
遠慮なくそれを盾にする

「お前に俺の欲が満たせるか?」
質問と共に放つUCは凶悪
今更リミッターを外されたところで、ダンピの求める欲など明白だろう

欲しいものを欲しいままに。そいつは結構だが、相応の対価は必要だろ?
それが相手への質問の答え。
お前は俺から奪う代わりに何を差し出す?

宙に出現させた複数の荊棘王ワポゼ
自動で敵を追尾し引き裂く
ったく、お前はホントに自由だな…。
押し付けられた形でも仕事は最後まで。



●欲の対価
「アナタの持っている大切なものを――」
 頂戴。鳥人形がゆっくりと羽ばたき降りてくるなり、彼らに告げた。
 今更ながら、とても不躾な言葉だ。いっそ清々しいほど。
「審問だとさ――随分と大層なネーミングで」
 鼻で笑い、久澄・真(f13102)が黒髪の人形を無造作に繰る。先程買った、それはそれは風情のある美しい女の人形だ。
「生憎と大切なモンとかねーんだわ。期待に添えず悪ぃな」
 口の端を上げ、微塵も悪いと思っていない笑みを浮かべた真が、なあ、と連れに声をかければ、
「審問、な。大切なものか……生憎俺も出せるものがねぇ」
 ジェイ・バグショット(f01070)も肩を竦めるだけだ。
「大切なものは既に失った」
 あっけらかんと。
 端麗な貌に諦念に似た笑みを浮かべて告げる――金眼に宿るは剣呑な光。それを問うて、存在したところで。それを求める代償を、それは如何に考えるか。
 瞳を覆われた鳥人形はくすくすと笑うだけで、二人の鋭い視線も何処吹く風だ。
「くれないの?」
「何も無いの……? 本当に……?」
 だが不意に彼女たちは不穏な空気を向けてくる――殺意というよりは、食欲に似た、渇望。
 鉤爪で地を抉るように、鳥人形がふたりへと躍りかかる。
 跳躍から羽ばたいて、視線の位置へと鋭く薙ぎ払う蹴撃。
 対し、真は静かに左手を引いた。女の人形が鳥人形たちの前へと身を投げ出す。
「ハッ、本当に使い捨てじゃねーか」
 それを、ジェイが盾にしながら笑った。木で出来ていたらしい人形は、鋭い鉤爪にぐしゃりと砕かれた。
 財布が泣くんじゃねーの、ありゃ組織が立て替えるだろ。
 真のいらえに、それもそうだと肯いて、ジェイは鳥人形に問い掛けた。
「お前に俺の欲が満たせるか?」
 厄災が封じ込められている呪われし匣から、夥しい数の黒燐虫が解き放たれる――。
 黒い霧の如く、飛び立った虫たちが、人形たちを包む。
 同時に匣を手にした儘、ジェイも相手の間合いから横に退いて、次の手に掛かろうとしている。
 それを真は後ろに陣取って眺めている――とはいえ、それが彼の戦い方なだけだ。
「大切なものは無い。己の命すらチェスの駒同然……ま、無欲ってわけじゃねぇけどな」
 ジェイに任せていたにもかかわらず、彼はゆっくりと前と出た。
 こつりこつりと、革靴はマイペースに音を刻む。
 足元には買った人形の残骸が散らばっている。だが気にせず踏みしめる――壊れてしまったものは、どうしようもない。
 鳥らしく両腕の翼を羽ばたかせることで黒燐虫を押しのけながら、鳥人形は全力で脚を振り上げた。
 その前に、無防備に立ち塞がった真は、ただゆるりと脱力する――呪詛を受けるからくり人形がもう一体。その脚を受け止めて、衝撃を受け流し、相手へ返す。
 同じ動きを人形が見せて、鳥人形が弾け飛ぶ。
 それを見届ける前に、既に真は煙草を咥えていた。
「あとヨロシクー」
 火をつける音を背で聞いて、ジェイは溜息をつく。ひらり手をふる気配を感じる。彼の仕事はお終い、ということらしい。
「ったく、お前はホントに自由だな……」
 不満を零しつつ、彼は淡淡と鉄輪に棘が刺さっている拷問器具を宙に並べる――。
 視線だけを飛びかかってきた鳥人形に向けた。黒燐虫が翼と身体の半ばまで食いついている。
「今更リミッターを外されたところで、ダンピの求める欲など明白だろう」
 唇に妖美な笑みを湛え、ジェイは腕を降ろした。
 合わせ、拷問器具が向かってくる人形を次々と貫く。
「欲しいものを欲しいままに。そいつは結構だが、相応の対価は必要だろ? ――お前は俺から奪う代わりに何を差し出す?」
 ――こんな程度ならば、狩る喜びさえ。
 耐えきれず粉々に砕けた人形が散る黒い羽の下で、不満そうに彼は目を閉じた。
「……仕事は最後までやるけどな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユエ・イブリス
(良心の呵責や葛藤等ありません)

【人形館の探索】
……これはこれは、他の世界ではどこにでもいる
しかしこの世界では珍しい『人形』たち
つくりものの幻想を有難がるとは、人の欲とは業の深い

かどわかされたか、そのためにだけ生み育てられたか
意志も、思考も、自我もなにもない人形たち
だが、そう易々と、ひとが人である証すべて手放すとは思えない
僅かでも、言葉の届くものが在るならば告げようか
「『終わりにしたい』と思う者はいるか?」

このままでいたいならば、それで構わない
この世界の不可思議を担う組織とやらでも
まっとうな『人』に戻してしてやることは難しかろう
命尽きるまでそのままだ

望むなら、雪原に眠る如き終わりを与えよう



●ある人形の選択
 照明の輝きを薄羽に映して、仄かに何かが瞬くように部屋の片隅を照らしていた。
「……これはこれは、他の世界ではどこにでもいる――しかしこの世界では珍しい『人形』たち」
 ――つくりものの幻想を有難がるとは、人の欲とは業の深い。
 玲瓏と謳い、皮肉な笑みを浮かべて、ユエ・イブリス(f02441)は作り物の生きた人形を見つめる。
「かどわかされたか、そのためにだけ生み育てられたか、意志も、思考も、自我もなにもない人形たち」
 どちらでも同じこと。今、こうして異形の、生きているとはいえぬ生を歩んでいる。
(「だが、そう易々と、ひとが人である証すべて手放すとは思えない」)
 そう思って、彼は探している。人の業を眺めながら、人の成れ果てを眺めながら、妖精は館を彷徨う。
 絶望すら無い、茫洋とした視線。夢を見るようなそれは、確かに、その生物らしさを与えられている風でもある。
 異界で本物を見たことがあるユエには、虚しいものにしか見えなかったが――。
 ある部屋に入った。花畑に、妖精めいた姿の少女が幾人か居た。尖った耳に、虫に似た玉虫色に輝く薄い羽。
 美しい笑顔を浮かべるもの、優しく猫の人形を撫でるもの。だが杳々たる視線を投げるだけの瞳の奥に、意志はあるだろうか――人気がない事を確認し、ユエはそっと人形たちの視線の高さまで高度を落とす。
「『終わりにしたい』と思う者はいるか?」
 耳元で、幾度となく囁いてきた。思わしい反応を示すものは、此処までに碌にいなかった。
「このままでいたいならば、それで構わない」
 それでもユエは語りかける。
「この世界の不可思議を担う組織とやらでも、まっとうな『人』に戻してしてやることは難しかろう。命尽きるまでそのままだ」
 彼の言葉に反応し。自ら、道を選び取るものがいるとすれば、それは――。
 じっくりと声が、言葉が染み渡るのを待ち、ユエは部屋を一瞥する。いらえはない。反応も無い――本当に微かな嘆息をひとつ、諦め浮遊しかけた時だ。
 きらりと輝く光が目に止まる。
 ひとりの娘が、微笑んだまま、ひとすじの涙をみせた。
 静かな、とても静かな意志の吐露。
 ――ああ、この娘は……――紛う事なき、『人間』だ。
 繊麗な貌に儚い笑みを浮かべ、ユエは細い指を彼女へ向けた。
「――望むなら、雪原に眠る如き終わりを与えよう」
 伝承の氷姫の口づけを――眠りを覚ますそれではなく。人として、穏やかなる美しき眠りのために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユルグ・オルド
導きの天使、ッていうにはちょいと物騒すぎやしない
それとも身一つ差し出したんなら
……却下されたらちょっと泣くな
冗談はさておき仕込みを抜いたら応戦しよう
駆け抜け紛れるのは木立の合間
立派な翼で追っておいでと一対多数は避けたいトコ

翼は在れど言葉は話せど
あちらのお人形サン方も
出ても生きていけるもんかな
何がさいわいかは、知らないけども

烏に応じる奪われようと折れようと邪魔になったらお仕舞
振り抜くのはいつもの一刀で
梏で繋いで寄せたら引き摺り落としに
ご自慢の枝葉と翼を切って落とそう
駆け抜ける出口も多少は見やすくなんでしょう
人の趣味にケチつける気もないが
まァどうにもぞっとしねェな



●拓く
 もはや、室内は森だった――という形に荒れつつある。皆サン派手にやってくれるねェ、とは男の嘯き。感嘆混じり、面白がるような口調だった。
「あなたの大切なものを頂戴な?」
 降り立った黒翼の人形は、彼にもやはり同じ問い掛けを向ける。
「導きの天使、ッていうにはちょいと物騒すぎやしない」
 詰まった襟に指を掛けながら、粧し込んだユルグ・オルド(f09129)は手にした杖を水平に持ち上げ、軽く首を傾いでみせる。
「生憎と、俺は身一つなンだけど。くれてやるわけにはいかねェし――」
 鳥人形は知る由もないが、『シャシュカ』のヤドリガミとしては、軽い冗談でもある――まあ、ただ。
「差し出して……却下されたらちょっと泣くな」
 さて、相手の反応を探りつつ、仕込んだ刃をするりと抜き払い、ユルグは先に地を蹴った。
「立派な翼で追っておいで」
 誘いながら木立の中に紛れる。
 猟兵たちの戦禍にて、作り込まれた森は随分な姿になっていたが、それでもまだ生い茂る木々はいくつも健在だ。彼は滑らかに木々を縫うように走る。
 ユルグの挑発通り、鳥人形の身体ではその後ろを追いかけることは難しいようだ――。
 拒絶を察した人形は、彼に問い掛ける。
「欲しがることの、何が悪いの?」
 それに対する解を待たず、カラスが解き放たれる。
 やや大柄な黒鳥ではあるが、木立を縫って飛ぶには問題ない――人形の代わりにユルグに迫る。
 その羽音を耳にした彼は、幹に片手をあてて、くるりと身を返す。
 背後を取るようにして、カラスへと真っ直ぐに一刀を落とすが、掠めて上昇する。刃が届かぬ位置に逃げられては、追いかけようも無い。
 そして追いかけるのも意味が無い。
 その場で立ち尽くし、無防備を装って、カラスを再度招く。貪欲なカラスは思惑通り、天井で転回すると、急下降してユルグへ襲い掛かる。
 はァ、軽く息を吐いて身構えると、つと零す。
「翼は在れど言葉は話せど、あちらのお人形サン方も――出ても生きていけるもんかな……何がさいわいかは、知らないけども」
 命があればいいのか。
 身勝手な人々に飼われる運命を避けられればいいのか。
 思いを巡らせるが同時、その瞬間への集中は確かだった。カラスの身体が確りと自身の間合い。嘴が肩先に触れようかという刹那、ユルグの手元が閃いた。
 一刀で斬り伏せると同時、頭上から襲い掛かってきた鳥人形へ、素早く身を返して、剣を振り上げる。
「捉まえた」
 斬撃が、人形の腿を裂く――代償に、猛禽の爪がスーツの袖を裂いていったが、それ以外は無傷。それを互いに確認するや否や、双方の間に、爆発が起きた。
 周辺の木々も吹き飛んで視界が広がり、同じ分だけ距離が空く――だが、ユルグは見得ぬ枷で人形をしかと捉えている。
「駆け抜ける出口も多少は見やすくなんでしょう」
 口の端に笑みを湛え、力一杯引き回し。黒く染まった肢体を諸ともせず、残る翼を広げながら抵抗した人形へと、ユルグから距離を詰め、仕掛けた。
 鮮やかに、一閃。斬り上げる形で翼を落とすと、振り下ろす一刀で、次は首を落とした。
 枷に掛かる抵抗が絶えたことで、小さく息を吐くと、ユルグは瞑目した。
 剥げた森の床は何処までも無機質だ。視界はいいが、道筋が狂ったような気もする。
 進路はあっちかね、と。先行している猟兵の気配に首を回して、赤い双眸をゆっくり開く。
 人形の口元は、やはり笑みを浮かべた儘。これはオブリビオンで、そういうものだろうが――通り過ぎてきた『人形』たちの姿が脳裡にちらつく。
「人の趣味にケチつける気もないが、まァどうにもぞっとしねェな」

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫
アドリブ歓迎

皆、生きているのに死んでいるよう
見てくれだけの空っぽだ
生きたインテリア――かつての僕と重なって胸が痛む
けれど―先へ

ダメだよ
僕の櫻は絶対にあげないんだから
櫻宵を守るように抱きしめて
…だって彼の慾はきっと、美味しいから
慾にだってわたさない
この櫻は、僕だけのもの

愛、だなんて
僕がいればいいだろう?
水泡のオーラは君を守る為に
歌唱に込めるのは鼓舞だけど、混じる嫉妬くらいは許してよ
歌う歌う君のため
美しい桜が咲き誇っていられるように
駆け抜ける櫻宵を守るため
慾の烏をとろかし堕とす「星縛の歌」を響かせる
ただでさえ、欲深いひとなんだ
これ以上煽らないでよね
……暴走しないよう、しっかり僕がみてるから


誘名・櫻宵
🌸櫻沫
アドリブ歓迎

あらまぁ、いいご趣味だわ!
美しくそして醜い
その醜悪さは嫌いではないわよ
じっくり鑑賞したいところだけど…先を急いだ方がよさそうねぇ
あたしの大切な大切な人魚に
リルに何かされては堪らないもの

人形にくれてやるものなど何も無いわ
それより頂戴
あなた達の愛(慾)は美味しいかしら?

あたしを守ろうとするリルに、オーラ防御の桜花を纏わせて
放つ衝撃波には生命力吸収の呪詛をのせ
なぎ払い
駆け抜けるわよ
「鶱華」
リルの歌に躍るよう、攻撃見切り躱したら
斬撃放ち2回攻撃

慾など満開の桜のように咲き誇ってる
血肉や生命よりも何より甘く蕩ける美味しい愛がほしいわ!
薄紅に染めてくれる愛こそが尊いの

存分に
愛(殺)させて



●其は慾という名の、
「あらまぁ、いいご趣味だわ!」
 誘名・櫻宵(f02768)はリル・ルリ(f10762)を腕に抱き、そう囃した。
「皆、生きているのに死んでいるよう……見てくれだけの空っぽだ」
 リルはその瞼を半ば伏せた。淡い睫が白い頬に影を落とす。
(「まるで生きたインテリア――」)
 それはかつての自分を思い出し、胸がじくりと痛む。そんな彼を強く抱え、
「――美しくそして醜い。その醜悪さは嫌いではないわよ。じっくり鑑賞したいところだけど……先を急いだ方がよさそうねぇ」
 口元に笑みを浮かべ、櫻宵は桜色の瞳を眇めた。誰にも見られぬよう。
「あたしの大切な大切な人魚に……――リルに何かされては堪らないもの」

 頂戴、と無遠慮に翼を向ける鳥人形が、跳躍した。作り物の関節は軋むことなく彼女たちを低い空へと舞わせた。
「少し邪魔ね」
 リルを背負い、櫻宵が血桜の太刀を艶やかに抜き打ち――視界を遮る草木を一刀で刈りとると、襲撃に備える。
「ああ、あなたたちの大切なモノは――!」
 鳥人形たちは歓喜に震える。あなたたちの大切なものは、もっとも価値を覚えるものは、それぞれなのかと。
「ダメだよ。僕の櫻は絶対にあげないんだから」
 櫻宵を守るように抱きしめ――或いは所有権を訴えるように、その瞳は頭上を睨む。
(「……だって彼の慾はきっと、美味しいから。慾にだってわたさない――」)
 水泡のオーラで互いを包み、ゆるりと尾鰭を揺らす。
「この櫻は、僕だけのもの」
 その上にひらひらと桜花が降る。柔らかな束縛に櫻宵は微笑を湛えるが、彼を守るなら、それに応答している時間は惜しむしかない。
「人形にくれてやるものなど何も無いわ。それより頂戴――あなた達の愛(慾)は美味しいかしら?」
 挑発をひとつ投げるとリルへと告げる。
「駆け抜けるわよ」
 言うなり、彼は地を蹴った。軽々と地を刻んで、呪詛の鉤爪を躱していく。それでも、重ねた守りを削ぐように貫いてくる一蹴に、櫻宵は鋭い視線を送る。
 物理的な攻撃ではないのだ。だからといって、リルに危機が及ぶなど度し難い。
「愛、だなんて……僕がいればいいだろう?」
 そんな気を知ってか知らずか、拗ねたような囁きをひとつ。
 耳朶を、美しい旋律が打つ。
「綺羅星の瞬き 泡沫の如く揺蕩いて 耀弔う星歌に溺れ 熒惑を蕩かし躯へ還す――」
 ――黙って僕の歌を聴いてろよ、と天を羽ばたく人形たちに謳って聴かせる。
 自分が如何に彼を想っているのかを。
 ――すべては、美しい桜が咲き誇っていられるように。
 くすり、笑みを零し、櫻宵は深く太刀を巻いた。
「踊りましょう?舞いましょう?斬って、裂いて、穿いて!美しい血桜を咲かせましょう!」
 血色の桜吹雪が吹き荒れる――風が、鳥人形の自由を奪い、羽を散らす。
 放たれた剣戟は、天まで及ぶ衝撃波。斬撃も、その長さを伸ばした剣風も、距離も高さも問題としない。
 花嵐から逃れようと、人形たちは滑空する――ひとたび地に降りて、跳躍すると、二者が交錯する形で、ふたりの背後から躍りかかる。
 振り向き様に斬り下ろそうとする櫻宵は、楽しそうに口元を歪める人形をみた。
 ――それがあなたの慾。
 欲を奪おうという慾なのね。
「慾など満開の桜のように咲き誇ってる――血肉や生命よりも何より甘く蕩ける美味しい愛がほしいわ! 薄紅に染めてくれる愛こそが尊いの」
 桜花を散らしながら、彼は凄絶に笑う。
 もう、と。リルがきゅっと腕に力を籠める。殺し合いたいという欲を、彼は満たしてやれない。
「これ以上煽らないでよね……暴走しないよう、しっかり僕がみてるから」
 薙いだ太刀が、人形の翼を叩き斬る。
 腹を強靱な脚が捉えようとする動きが、半端な位置で止まる。リルの歌声で力が縛られるとオーラの守りを突破できなくなったのだ。
 無防備な身体を鮮やかに両断すると、櫻宵は下段より回転しながら、斜め上に振り上げる。着物の裾を揺らしながら、結い上げた銀糸の向こう、愛しげに目を細めた。
「――存分に……愛(殺)させて」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
【春禍】
取り仕切ってるクソ野郎をぶちのめしたとして
あいつらはどうやって生きていけばいいんだ?
元の意思もない、猟兵みたいに周囲に溶け込む能力もない
UDC組織が保護してくれりゃいいんだが

周囲の流儀に倣って目元を派手なマスクで隠しながら毒づく
死んだ方がマシだ、なんて死んでも言わせねえからな

俺の大切なモノ?
参ったな、そりゃ俺自身だ
しょうがねえ、ちょっとだけだぜ
「召し上がれ」

奴らの狂気を増長させるように囁き【ユーフォリアの毒】発動
思う存分喰らえばいいさ
満たされて逝け

全部を斃す必要はねえだろ
リアの罠が発動した隙を狙って突破するぜ
それにしてもあいつらの方が余程美しいなんざ
リアの奴案外パンクな趣味してやがる


無供華・リア
【春禍】
黒いヴェールで貌を隠して参りましょう
お優しいですね、と彼に微笑みかけながら
それにしても…
逃げもしない、何かを訴えることもない
本能を捥がれた生物のどこが美しいのでしょうか

声音は憐憫というよりも退屈を帯びている事でしょう
折角彼らは美しい『人間』でしたのに
異形にも人形にも満たぬ何かに変容させられてしまった
生物への、美への、双方への冒涜で御座いましょう

あの黒羽のお人形のほうが余程美しい
少なくとも彼女達には他者から何かを奪う意志があるようです

でも奪うことを選ぶ者は、同時に奪われることになるでしょう
ジャスパーさまの毒の隙に乗じて、紅き罠で彼女たちを阻害致します
道を開けてくださいませ



●飢え、満たす、その性質こそ
 崩壊しそうな森の中――偽りの幻想世界を、派手なマスクの男が睨む。
「取り仕切ってるクソ野郎をぶちのめしたとして、あいつらはどうやって生きていけばいいんだ?」
 ジャスパー・ドゥルジー(f20695)が誰にでも無く問うた。
 否、疑問と言うよりは、その罪を確認するかのように。
「元の意思もない、猟兵みたいに周囲に溶け込む能力もない――UDC組織が保護してくれりゃいいんだが」
 死んだ方がマシだ、なんて死んでも言わせねえからな――。
「お優しいですね」
 彼へ、ヴェールの下、無供華・リア(f00380)が微かな笑みを湛える。
 けれど瞬く間にそれは消え失せ、虚ろな視線を前へと向けた。行く手を遮る、鬱蒼と茂る木々。だが彼女がそれを見つめているわけではないのは明らかだろう。
「それにしても……逃げもしない、何かを訴えることもない。本能を捥がれた生物のどこが美しいのでしょうか」
 彼女は元々は生き物ではない――ゆえに、だからこそ。
「折角彼らは美しい『人間』でしたのに。異形にも人形にも満たぬ何かに変容させられてしまった……」
 声音は乾いていた。他ならぬ人が求める美に、失望している。
 退屈そうに彼女は続ける。
「生物への、美への、双方への冒涜で御座いましょう」
 実は怒っているのだろうか――彼女の貌を見たところで、どうせ解らぬが、ジャスパーが振り返ろうかと脚を止めたときだ。
 頂戴、頂戴と、要求する鳥人形たちが樹から逆さに顔を出した。
 丁度良いと言わんばかりに、リアが肯いた。
「あの黒羽のお人形のほうが余程美しい――少なくとも彼女達には他者から何かを奪う意志があるようです」
 欲がなくては、生き物とは呼べぬ。
 その言葉に意外そうにジャスパーは眉をあげる仕草をみせた。
「大切なモノを頂戴」
 気付けば、鳥人形たちは逆さ吊りではなく、きちんと地に足をつけ、二人のすぐ近くまで進んでいた。
 リアを庇うように――というよりは、ただの得意不得意の分散として、或いは本能的に、ジャスパーが人形の前に立って、にやりと笑った。
「俺の大切なモノ? 参ったな、そりゃ俺自身だ――しょうがねえ、ちょっとだけだぜ」
 無防備に両腕を開いて、招く。
「召し上がれ」
 鳥人形たちは仮面に隠された彼の貌をまじまじと眺め――その言葉に嘘偽りがないことを悟ると、容赦なくその左腕に喰らいついた。
 余所では結局見せることはなかったが、彼女たちは『欲望の限り喰らうこと』を求めている――ジャスパーの腕を、肉を、人間の口と変わらぬそれが噛みつく。
 それはとても浅ましい食事の風景であったが――不思議と、当事者ふたりは穏やかなものだった。
 そう、隠せぬほどの欲望があって宜しいこと。リアはそれを認めた上で、かく告げる。
「でも奪うことを選ぶ者は、同時に奪われることになるでしょう」
 ――お覚悟を、告げるなり、口紅で描いた魔法陣から紅き無数の腕が鳥人形たちを取り押さえていく。
 そんな自体に陥っても、鳥人形たちはリアも腕もどうでもいいとジャスパーに噛みついている。
 足りないわ、と呻くのは、求めるモノを得るたび狂気に陥るそれらの性質と――。
 彼自身がその力で、多幸感を齎す猛毒の塊に変じていることからだ。
「思う存分喰らえばいいさ――満たされて逝け」
 いっそ慈悲深い微笑を向け、彼はそう囁くと――でも、そろそろ時間切れだ、冷めた声で、右手を閃かせる。
 握られたナイフが鳥人形たちの額を、あっけなく刺し貫いていく。左腕を引き剥がすも、追いすがることは叶わぬ。リアが拘束しているからだ。
「道を開けてくださいませ」
 穏やかにいさめて、しずしずと黒き花嫁は赤く濡れた人形たちの脇を歩いて通り過ぎていく。
 赤い雫が次々と湧く左腕を軽く抑えながら、その様を見送るように立ち尽くすジャスパーは、思わず笑みを浮かべた。
「それにしてもあいつらの方が余程美しいなんざ」
 リアの奴案外パンクな趣味してやがる。笑いながら、彼はゆっくりとリアを追う。
 残された鳥人形たちは、奇妙なほど幸福そうな表情で、時を止めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

大切なもの、ですか
僕にとってのそれはまさしくザッフィーロ君という存在そのものでしょう
彼の存在は僕にとって女神よりも尊く安らかで、なおかつ同時に欲求を掻き立てるものでもあります
貴女がたも彼がほしいですか―――
しかし彼はやれません
彼は未来永劫、僕のものですから

ザッフィーロ君の背を守りつつ
ザッフィーロ君の動きに合わせて合いの手を入れるように
「属性攻撃」「一斉攻撃」「マヒ攻撃」を使用した
【天響アストロノミカル】で攻撃しましょう
さぁ、ここを駆け抜けましょう
僕を焼き焦がすシリウスには遠く及ばないでしょうが、かれらの崇め奉るものとはいったいなんなのでしょうね


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

仮面をつけ展示場の間を宵と共に進んで行こう
意思を奪われたこの者達が正気に戻る時は来るのだろうかと、そう沈みかける思考を宵の手を握る事で散らしながらも
扉の向こうに敵の姿を見れば宵を背に隠す様前に出つつ【狼達の饗宴】を敵へと放とう
大事な物は宵以外にないがお前達には爪の一欠けもやる気はないのでな
敵の攻撃は『盾受け』にて避けんと試みるも、欲を煽る爪を受けてしまったならば宵を誰にも渡したくないという欲に駆られ敵を殲滅させんと集中しかけてしまう…も
宵の声音を聞けば正気を取り戻しつつ宵へ手を差し【狼達の饗宴】にて牽制しながら宵の星々の間を縫う様に駆け抜けよう
ああ、逸れぬよう手を離すなよ、宵?



●譲れぬもの
 仮面を付けたザッフィーロ・アドラツィオーネ(f06826)が、逢坂・宵(f02925)の手を引く。
 形ばかりは幻想を真似た人形たちの生気の伴わぬ視線を受け止めながら、ザッフィーロは俯き加減で歩む。
(「意思を奪われたこの者達が正気に戻る時は来るのだろうか……」)
 思考に落ちていきそうな彼を、留めるのは繋いで手だ。
 宵の存在が、彼をこちら側へと食い止める。護るべきものが此処にいる。気を散らしてはならぬ、と。
 はてさて、導かれる儘に任せる宵は、彼の背を見つめて微笑むばかりだ。子供でもないゆえ、たとい物憂いの結果ザッフィーロが足早になろうとも、合わせて歩むのは苦では無い。
 問題の扉をくぐる時でさえ、ザッフィーロは宵の盾として庇うように先ヘゆく。
 森の様子は無惨のひとことだ。多少、猟兵たちが突入した時間は前後しているとはいえ、あちらこちらに人形が転がり、灼けたり斬られたり、抉られた木々の見せる光景は、迷宮らしさを失っていた。
 そしてそれは敵の発見と、彼らが捕捉される可能性を同等に引き上げる。
 姿を現した鳥人形たちは、何処かぎこちない動きで、二人を迎えた。恐らくこれが残存する最後の人形たちだ。同時に、次の間は近そうだ――顕わになっている天井の果てを信じるならば。
 し、と指先を立てて、ザッフィーロが下がるように宵に合図を送る。
「あなたの大切なものを……頂戴な」
 翼を広げて、問い掛ける。あるものは木の上から、あるものは頭上から羽ばたいて、同じ問い掛けを繰り返す。
 幾重の質問を受けようとも、ザッフィーロの解はひとつ。
「大事な物は宵以外にないがお前達には爪の一欠けもやる気はないのでな」
 告げるなり、背に宵を庇いながら、ローブの裾を翻す。
「俺は物故肉はやれぬが…子羊ならばあそこに居る。…精々暴れて来い」
 謳えば放たれる、狼状の炎。
 身の穢れが滲む獣たちは眩い軌跡を空に描きながら、鳥人形たちへと喰らい付いて行く。
 急に羽ばたいたことで舞い落ちる黒い羽を見つめながら、
「……大切なもの、ですか」
 宵は繰り返し言葉にのせ、自分を護る背中を見る。
 彼の解もただひとつ。ザッフィーロほど大切なものは、ない。
(「彼の存在は僕にとって女神よりも尊く安らかで、なおかつ同時に欲求を掻き立てるものでもあります」)
 静かに瞑目し、息を吐く。
「貴女がたも彼がほしいですか―――しかし彼はやれません。彼は未来永劫、僕のものですから」
 表情は常と同じく、穏やかな笑みを浮かべているが――その声音は、低く、敵意が籠もっている。
 正面から脚技を繰る鳥人形へ、ザッフィーロの手袋より紡がれる淡く光るエネルギーが受け流す。それは肉体を狙うものではなく、理性を捉えるもの。
 擦り抜けんとする爪への勝手に、意識を高めることで強度を高める。
 別の個が、肩先に迫る。不意に腕を上げるが、するりと肉体を抜ける鉤爪のひと掻きが、彼の理性を傷つけ、煽る。
(「宵を、誰にも渡したくない――」)
 だがそれは、駆ける炎の狼を更に猛け狂わせるだけだ。燃ゆる炎が鳥人形の翼を喰らい、地へと落とせば、その喉を食いちぎるように噛みついて焼き尽くす。
 銀の瞳がその様をじっと見据えて追う。ひとつも逃さぬと、炎を差し向ける男へ、
「ザッフィーロ君」
 宵がその名を囁く。はたと気付いたザッフィーロが、その意を理解して、半身を返す。宵色と星の意匠が凝らされた杖を手に、宵が星を喚ぶ。
「流星群を、この空に」
 空は遥か天井の向こうにも関わらず、隕石が次々と降り注ぎ――彼らの進路を遮る人形達を押しつぶしていく。
 巨大な礫が煙をあげている空間に、構わず一歩踏み出した宵が、今度は手を差し出した。
「さぁ、ここを駆け抜けましょう」
 典雅な微笑に促され、ザッフィーロがその手を取ると、再び先導するべく彼の前に立つ。
「ああ、逸れぬよう手を離すなよ、宵?」
「勿論です」
 きみから離れるなんて、あり得ない――むしろ他ならぬ彼の思案に、宵は可笑しそうに首を傾いだ。
 暫く歩けば、繁る木々の影に、黒い扉が現れた。施されているのは、蛇の尾を呑む蛇の図と、頭部と両腕を失った天使のレリーフ。
 この先に、何かが居る――。
 そっと宵が呟く。
「僕を焼き焦がすシリウスには遠く及ばないでしょうが、かれらの崇め奉るものとはいったいなんなのでしょうね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『黒の王』

POW   :    生成
【対象の複製、または対象の理想の姿】の霊を召喚する。これは【対象の持つ武器と技能】や【対象の持つユーベルコード】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    母性
【羽ばたきから生み出された、幸福な幻覚】が命中した対象を爆破し、更に互いを【敵意を鎮める親愛の絆】で繋ぐ。
WIZ   :    圧政
【羽ばたきから、心を挫く病と傷の苦痛の幻覚】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ヴィル・ロヒカルメです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ゆめ
 思い描くのは、名だたる画家が描いた美しい幻想種。
 宗教画のように尊く、その背景にいっさいの匂いのしない、清らかな美。
 だが、現実に人形を作っていくにつれ、気付けばそれでは「不完全だ」と気付いてしまった。
 これは人形だ。生きてはいない。ただの張りぼてに過ぎぬ。
 欲するのは剥製ではない。そこに息づく本物だ。
 獣の匂いがして、潮の匂いがして、鱗粉を零し、芳香がする。
 雄々しく吼え、うつくしい歌を歌う。翼を翻し、微笑むこと。涙を流し、憂う。
 それをしそう、でなく。それをするものが作りたい。それこそが技術の粋であると。
 ――そして、それを再現するためには、現実の素体が必要だった。
 皮を剥ぎ、肉を裂けば、げんなりする臓物と、汚物がある。
 しかしそれは必要なものだ。生きているのだから。だが奇麗にすべて張り替えて、人間には見えなくなった瞬間、ひとつ理想に近づく。
 体温の通う血肉もつ幻想種が生きる理想郷――。
 最初の出発点にあった清らかさは、最早欠片も無かったが。
 そういうゆめが、そこにあった。

●工房と、神の間
 審問の先には工房があった。中は美しく清潔で、強い消毒の匂いがした。
 そこにはいくつもの素材が並んでいた――色とりどりの翼や、角、鱗など幻想のサンプルが並んだ棚が続いている。幸い、この中に、ひとは含まれていない。
 ――つまり、カウンセリングを終え、素材を選ぶという段取りに入ったということか。普通のオーダーメイドの概念で語るならば。
 然し棚の数は然程多くない。数ヶ月で畳む拠点だからだろうか。
 数メートルも進めば、部屋は広がり、いくつか金属で出来た机が並んでいた。冷たいステンレスの輝きは、実験台を連想する。
 どれも埃一つ積もっておらず、何も乗っていなかった。
 この工房は役目を忘れたかのように、停滞していた。人の気配もなく、はて行く先を間違えたかと思うほどだ。
 よくよく目を凝らせば、部屋の角に老人が居た。枯木のように痩せた男だった。
 彼は猟兵たちに目もくれず、自分の作業に集中している。
 どうやら、設計図を引いているようだ。暗がりの机で、がりがりと何かを書き連ねているようだった。
「……邪魔をするな」
 老人は振り返ることも無く、猟兵に告げた。
「私はもう年老いた。あとは好きなものだけ作ると決めた。注文は請けん」
 ――もしや、猟兵をスタッフか何かと誤解しているのか、と誰かが思った。
 だが口を挟むより先に、老人が続けた。
「余所者の指図も請けん。邪魔をするならば……素材となってもらう」
 状況が噛み合わっておわぬ、というわけでもないらしい。
 しかし彼は人形作りを除く一切の興味を失っている。拒絶している。
 机に齧り付く老人を眺めていても――仮に拘束しても、進展は無さそうだ。辺りを見渡せば、猟兵たちは奥にもうひとつ部屋があることに気付く。
「……その奥に踏み込めば」
 老人が低い声で警告を送る。
「夢を見るだろう。辿り着けぬ夢想を見るだろう。自らが如何にくだらぬ、とるに足らぬ存在かを思い知り――そして決して手に入らぬ理想を目の当たりにするだろう」

 老人の言葉をどう受け止めるにせよ、猟兵はそこにいるモノを討たねばならぬ。
 黒い天使と王冠のレリーフ。
 その扉を押し開いたならば、眩い光が満ちる。工房が薄暗かったのだと、今更気付くほど、強い光だった。
 四方の壁には茨が描かれ、その中央には美しくも不完全なものがいた。
 夢と知性を司る神性。その成れの果て。
 四肢と頭を喰われ零落した神……『黒の王』 ――彼女は何も語らぬ。ただ其処にある。
 この工房の中心にして根幹。
 夢を喰らい、欲を肯定し、力を蓄えつつある存在だった。

――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――
【プレイング受付期間】
12月26日(木)8:31~29日(日)まで
――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――
冴木・蜜
ああ
困りましたね

嘗て理想を追った彼と
共に薬を完成させられたら、と
そんなしあわせな悪夢を今も見るのに

私はこういう手合いは正直苦手です
弱点が多すぎるんです
だから…彼女にお任せしましょう

自らへ栄養剤を投与
体内UDCを活性化し『萌芽』させます
思うがままに芽吹き喰らいなさい

貴方が知性を司るというのなら
彼女は貪欲に貴女の知性を求めるでしょう
私が身動き出来なくとも
彼女は貴方を逃がさない

夢を抱き
それを追い求めること自体は構わない
私だって理想を追い求めたことがあります
いえ、今だって
私はただそれだけを寄る辺としている

ですが
己の夢の為に 理想の為に
他人の命を犠牲にしていい筈がない

さあ
夢は夢に還りなさい



●甘んじて、枯れる
 黒の王――貌もない、腕も無い。
 何もできず何も掴めぬ。だが、それは羽ばたくだけで夢を見せる。
 緩やかに羽のひとつひとつが蠢くように、美しく動く。もはや彼女にとっては闇色の翼だけが、意志を持って動くものの全て。
「ああ、困りましたね」
 冴木・蜜(f15222)が静かに目を伏せた。
 咄嗟に躱そうとしたが、限られた空間の中、それから逃れ切れなかったようだ。
 ――その羽ばたきがもたらす幻覚から、目を逸らすように。視界を閉ざしても、脳裡に焼き付く幻――。
「嘗て理想を追った彼と……共に薬を完成させられたら、と……――そんなしあわせな悪夢を今も見るのに」
 常に浮かんで消えるものだ。今更、改めて確認するまでもない。
 なぜなら、もうそれはけっして叶う事がない。
 幻惑をも吹き飛ばすような爆破が眼前で起こる。ただ、それは蜜には大した負傷を与えぬ――無意識に選ぶ常の防御、液化して衝撃を和らげれば、しかし身体に深々と刺さる鎖に気付く。
 それは、彼の敵意や害意のようなものを奪い取る。黒の王へ、幸福な幻覚へ、抗う心を奪い取る束縛。
「私はこういう手合いは正直苦手です――」
 誰にでも無く、吐露する。
 弱みが多すぎると、自覚している。この親愛の鎖から抗おうとする心さえ、容易に持ち直せぬ程度に。
「だから……彼女にお任せしましょう」
 告げるなり、無造作に自らへ栄養剤を投与した。それは彼の内側で眠るUDCを呼び醒ます。
 見る間に、禁断の果実を結ぶ枝葉が、蜜の全身から生長し始める――。
「思うがままに芽吹き喰らいなさい」
 親愛の絆が彼の戦意を奪おうとも。その内側の「彼女」は知識を求めて腕を伸ばす。
「貴方が知性を司るというのなら。彼女は貪欲に貴女の知性を求めるでしょう――私が身動き出来なくとも……彼女は貴方を逃がさない」
 蜜の言葉通り、急激に伸びた黒き枝葉は黒の王を目指して歪な軌跡を描く。
 ――まるで抱きしめようとするかのように。
 ゆらゆらと揺らぐ振り子のような王は蜜と繋がれて、それを遡るように伸びるそれから、距離をとることはできぬ。
「夢を抱き、それを追い求めること自体は構わない。私だって理想を追い求めたことがあります――いえ、今だって」
 私はただそれだけを寄る辺としている――。
 戦場にいるにも関わらず、凪いだ心で蜜は王と対峙していた。無論、親愛の鎖の呪い所為だと知りながらも、穏やかな声音が出た。
 死毒の身体を抱え、不格好にヒトの姿を作り。誰かのために――或いは自分のようなものを繰り返さぬように、戦う。
「ですが……己の夢の為に 理想の為に、他人の命を犠牲にしていい筈がない」
 その囁きは、深く響く。
 枝が石膏のような身体を刺し貫く。そこから枝葉を伸ばしたそれは、どんな果実を結ぶのであろうか。それを紫の双眸で見守りながら、蜜は告げる。
「さあ――夢は夢に還りなさい」
 貴方の王国は其処にあるのでしょうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スティレット・クロワール
黒の王か。君に興味はあるけれど
今は討つべきものだ

だって
みんながみんな君の夢に沈んでしまってはつまらない

さぁ、君は冥府の底を覗いたことがあるかな?

左目が蒼き炎に焼け落ちれば
冥界の凍気をサーベルに乗せて斬り込もうか

隻眼で見る世界は微かに歪んで、現世との境界線が曖昧になる
理想の姿
王位を有したままの己に、騎士に似た影を見つけて小さく苦笑する

巻き込む、か

意外だと思う自分と妙に納得する自分もいる
だとしても、勝手に見せられるのは好きじゃない

零落した神に模倣されるほど、俺は安くはない

凍つく風に全てを沈めよう
霊の取り扱いには慣れていてね、諸共斬り捨てる

今の私は機嫌が良いからねぇ
冥府の底まで引きずり込んであげよう



●かつての幻影
「黒の王か。君に興味はあるけれど――今は討つべきものだ」
 藍の双眸を細めてスティレット・クロワール(f19491)が言う。
 王『だった』もの――。
 その容貌も、如何なる叡智を司る存在だったのかも、最早解らぬ。スティレットは思考を其処で終わらせるように、ゆっくりと頭を振る。
「だって、みんながみんな君の夢に沈んでしまってはつまらない」
 だから――軽く触れるように、左の瞳を隠すように手を翳すと、王へと微笑を向けた。
「さぁ、君は冥府の底を覗いたことがあるかな?」
 君に五感が無くとも、知覚できる意識はあるだろう――と問い掛け乍ら、瞳に添えた手をゆっくりと下ろす。
「生と死は地続きであればこそ。ーーさぁ、冥界へと君を届けよう」
 陽炎の揺らめきが、其処に見出したかと思えば――突如と、蒼き炎が彼の左目を焼き尽くす。
 同時、彼の身が冥界の凍気を帯びた。美しきサーベルを抜きながら、王へと距離を詰めようとすれば。
 急に隻眼になったことで、世界が滲んだ。均衡が巧く取れず、失った視界を補う記憶が、敵との距離を曖昧にする。
 そして、更なる接近を許さぬかのように――白い陽炎が立ち上る。
「理想の姿……か」
 目の前に立ち塞がるは、王位を有したままの己に、騎士に似た影――。
 威風堂々たる自身よりもその影に沈む気配に隻眼を細めた。
「巻き込む、か」
 小さな、苦笑。
 或いは思い込みかもしれぬ。自分の中にある死者の国。過去の延長にはあったかもしれぬ世界の投影が此処に在るのか。
 刹那、笑みは消え――その瞳に宿した光が、剣呑さを帯びた。
「零落した神に模倣されるほど、俺は安くはない」
 軽やかに、地を蹴った。
 霊の取り扱いには慣れていてね、諸共斬り捨てる――存外強く言い捨てて、サーベルを斬り下ろす。
 冥府の凍てつく風が、双方の狭間で荒れ狂う。相手の剣が白い頬を滑っていけば、鮮やかな朱色が零れる。
 片や、重い礼装を纏った霊は、深く斬りつけられた腕に虚空の疵を晒していた。
 鋒が胸に届こうかという間合いで、スティレットは僅かに身体を反らしただけで、前へと跳んだ。
 正中から斜めに払うように刀身を巻き込んで、相手の懐へと斬り込む。
 割り込んでくる別の剣。見覚えがある――ああ、見覚えがある形だとも。だがスティレットは感情一つ見せぬ儘、大きく剣を薙いだ。
 副産物ゆえだろう――それは首にひとすじの赤い糸を結んだ瞬間に、解けて消えた。
 凍気を叩き込んで、更に霧散させれば、後ろへ退いた自らの影を追って、サーベルを捩るように突き出し走る。
 胸を貫き、抉る。蹈鞴を踏んだ相手を、肩から艶やかに叩き斬る。
 休む間もなく、残った黒の王へと、スティレットは駆る。
 彼の躰から放たれる凍気が黒の王を其処へ留めおくように。何時でも冥府は彼に行くべき道を示す。皮肉な事だ。
「今の私は機嫌が良いからねぇ――冥府の底まで引きずり込んであげよう」
 再度、取り戻した微笑と共に。スティレットの剣戟が斜めに走る。
 黒い翼をひとつ斬り落として、彼は白い衣を翻した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
消毒液のにおい
部位の素材
一心不乱な、創造者

工房での光景に記憶の枷が外れかける
幸福な記憶の更に深く
込み上げる吐き気を必死に押し留めながらも
蒼白な顔色隠せぬまま逃げる様に扉の先へ

その在り様が惹き付けてしまったのかもしれない
羽搏きの音を聞いた瞬間には
腕を広げて此方へ語り掛ける“狂った男の高い声”

『嘆く事はない、君は僕の最高傑作!
ああ、ああ─きっと君の“お父様”もお喜びになるさ!』

煩い
煩い

堪え切れぬ痛みと吐き気が強い拒絶となって獸を起こす

黙れ
黙れ
──消えろ!!

屠の影に覆われ釣り合わぬ大きさとなった異形の左腕が敵へ
抉る感触にかたり、身震わせ
伝う冷たい汗も拭えぬままそれでも立って
怯えながらも、立ち向かおう



●まぼろし
 深く深く息を吐く。華折・黒羽(f10471)の顔は青ざめて、その表情も――元々豊かな方でもないが――精彩を欠く。
 吐き気が、止まぬ。
(「消毒液のにおい、部位の素材……一心不乱な、創造者――」)
 この部屋に入ってから、五感のすべてが拒否反応を起こしている。
 だから逃げるように、奥の部屋へと転がり込んだ。
 羽ばたきの音がする。黒い羽がひらひらと落ちてくる幻覚。この部屋も妙に羽毛が舞っているのは何故だろう。
 そんな事を思った瞬間、黒羽は目を瞠る。
 ぼんやりと浮かび上がった輪郭は――あれは完全な――。
 『狂った男の高い声』が、黒羽の耳を打つ。両手で思わず押さえようとも、その声は消せず、黒羽に届く。
 ああ、幻覚ではなく。自分の脳裡に響く声なのだろうか。
『嘆く事はない、君は僕の最高傑作! ああ、ああ――きっと君の“お父様”もお喜びになるさ!』
 それとも自分が無意識に――。
「煩い、煩い――!」
 毛を逆立て、唸る猫のように。尾も、耳も、肩羽も震えた。
 よく知ったものに似た影に、彼はかつてない程の怒りを見せて、黒剣を抜いた。
「……黙れ、黙れ――消えろ!!」
 彼が此処まで感情を顕わにすることも珍しい。
 だが、激しい咆哮よりも、印象深いのはその蒼白な表情。冷や汗が伝う儘、ひどく身体を震わせた。
 込み上げる吐き気が煩わしい。包み込まねば、護らねば。ぐるぐると頭の中をめぐり掻き乱すものに、黒羽は身を任せる。
「壊セ、喰ラエ、──、奪ワレル前、ニ、奪エ──」
 譫言のように彼は囁くが同時、濡羽色の屠の侵食影が黒羽を包み――片や、対峙する影も包んだ。歪な翼もつ獣は戦慄くと、地を蹴った。
 爆ぜた両者の剣戟が、空に黒い線を描いて交差する。結ぶ音は金属では無く鈍い音。
 衝撃に退いた相手へ、身体と釣り合わぬ大きさとなった異形の左腕を黒羽は振るう。影で首をもぎ取るように。
 それは想像よりも容易だった。ぐしゃり、肉塊を作るような感覚だった。ただ、その残骸は残らず、ふわりと黒霧となって消えていったのだが。
 だというのに、肉を抉る感覚も骨が爪を阻む感覚もリアルで――残された黒羽は青ざめた貌で、再度身を震わせる。
 歯が鳴って煩い。
 肺から吐き出される自分の吐息が弱々しい。嘔吐くような感覚はより強く。内側を支配する不快感が消えぬ。
 あれが理想だと――考える事を許さぬように、すかさず彼の記憶に靄が掛かる。
「……わかってる」
 すべきことは、わかっている。確認するように繰り返し、彼はだらりと項垂れた姿勢から、地を蹴った。
 無造作な跳躍で、素知らぬ顔で宙に漂う黒の王へと迫り、その美しく揃った――一部不揃いに断たれた翼を、見下ろす。
 憎しみよりも恐怖を。
 青い瞳が不安に揺れながら――それでも、元を断つために。
 拒否を。拒絶を。黒の腕で、その背を毟るように深く捉えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
醜いですね、笑えるくらいに

幸福な幻覚は、歳を食って、老いた自分
得られぬものを見せつけてくる無粋な輩と親愛で繋がられるのは不服ですが、
私は敵味方関係なく、歯向かってくる奴を甚振るのが大好きなのです

素敵な幻を見せて下さった礼はさせて頂きますよ
『愛の無知』で殴り、砕き、潰し、嬲り、ぐちゃぐちゃにします
ハレルヤなりの親愛の証です。褒めて下さってもいいですよ

此処には哀れな程に醜いものしかありませんでしたねえ
おかげで私が如何に偉大な存在かを改めて思い知れましたよ
この世の全てはハレルヤの人生をより鮮やかに彩る為に、
そして夢や理想といった綺麗に誂えられたものは
全てこのハレルヤに無残にぶち壊される為にあるのです



●彼の親愛
 突如と突きつけられるものが、自分の理想だとして。
 そしてそれが相手の慈愛のようなものだったとして――無遠慮に踏み込まれて喜ぶものが、どれほどいるだろうか。
「醜いですね、笑えるくらいに」
 夏目・晴夜(f00145)は、笑った。
 それは正真正銘の嘲笑であり、よくもこの自分にこんな事を仕掛けてみせたという感嘆でもある。
 だが当然、愉快という感情ではない。
 彼の視界には歳を食って、老いた自分の幻覚――寿命の長くない人狼が、様々なものを見聞きした上で蓄えてきた歴史を刻んだ表情でそこに居る。
 それが喜怒哀楽のいずれであるにせよ、今の彼に浮かべようもはずのない、複雑な表情。
 ――こんな姿になるまで生きられようか。
 否、それを幸福だと感じる自分と、強制的に向き合わされること。
 爆発が起こり、親愛の鎖が互いを繋ごうと――晴夜はにこやかな笑みを浮かべて、ニッキーくんを解き放つ。
「素敵な幻を見せて下さった礼はさせて頂きますよ――」
 遊んでくれてありがとう、と。
 ツギハギで作られた、歪な頭部。明らかに破壊のための屈強な肉体が、晴夜のみならず猟兵たちの力をも糧にして、彼の代わりに力強く踏み込んだ。
 黒の王の衣を掴み、床にたたきつけ、亀裂を深め。翼を掴み直すと、左右へと振りまわす。
「ハレルヤなりの親愛の証です。褒めて下さってもいいですよ」
 目の前で起きる暴虐に、むしろ相好を崩して彼は喜ぶ。指で弄ぶは、敵意がなくとも相手を害せる彼の前では、意味も無い鎖。
 ニッキーくんが飛んだ。肩から踏みつけて、地団駄を踏むように何度も何度も蹴りつける。
 美しさの欠片も無い光景だが、晴夜にとっては今までで一番心躍る図だ。
 それにしても――暇な彼は天井を眺める。王冠が描かれていた。
「此処には哀れな程に醜いものしかありませんでしたねえ――おかげで私が如何に偉大な存在かを改めて思い知れましたよ」
 つくりものも何一つ彼の心を動かさず。
 むしろ限りあるどうでもいいものの人生が、どうでもいいものの為に浪費される様を醜悪だと鼻白んだだけ。
 何処に彼が満足できる美しいものがあったというのだろう。
「この世の全てはハレルヤの人生をより鮮やかに彩る為に、そして夢や理想といった綺麗に誂えられたものは」
 幸福な夢が、真に幸福を招くわけではなく――勝手に曝かれ、内側を掻き毟られるような感覚が、幸福なはずがない。
 そこで立ち止まれるならば、幸福に浸って死ねるのだろうけれど。
 そんなのごめんですね、と晴夜は肩を竦めた。こちらは老い先短い身の上なのだ。
 これがただの八つ当たりだと、他者が言おうが――。
 至極当然の報いだろう。
「――全てこのハレルヤに無残にぶち壊される為にあるのです」
 晴夜において、この世で最もうつくしい嘲笑を向けると、巨躯を最大限使い、王を叩きのめすニッキーくんへ、無邪気な声援を送るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七篠・コガネ
確かに僕は下らない存在だけど…
理想と欲望は一緒じゃないです
希望なんですよ。理想は最も近い希望

――あれは?
『人間になった姿の僕』でしょうか!?
なるほど…手に入らない理想とはそういう事
まったく嫌味ったらしい!
なんとも戦い辛いですが…言い返せば戦いやすい相手とも言えます
何故って、僕の弱点は僕が一番よく知ってる
「あっ!あんな所に巨大コガネムシ!」
黒の王とは正反対の方向へ大袈裟に指差します
絶対騙される筈です!だって僕そういう性格だもの

そしたら隙を突いて黒の王へ一点集中し、UCを【一斉発射】です!
いつか本物の大地と空を目指す!
宇宙船の中じゃなくて本当の風が吹く世界
それが僕の夢です!蹂躙なんてさせないから



●理想と希望
「確かに僕は下らない存在だけど……理想と欲望は一緒じゃないです」
 どん、と強く床を踏みしめて、七篠・コガネ(ひとりぼっちのコガネムシ・f01385)は強く強く、黒の王を見つめる。
「――希望なんですよ。理想は最も近い希望」
 崇高なるもの。
 おいそれと触れられぬ領域の、何か。
 それを穢すような――他人を傷つけて得ようとするなんて――コガネには許しがたい。
 彼は体躯こそ並の人より大きく強いが、その精神は純粋だ。
 ゆえに素直なまでの義憤で、歪んだ神の残滓と向き合っていた。
 彼の下肢機構が深く沈む。翼のように備わったプラズマジェットが、その力を奮おうとした時――彼の前に、彼より小さい少年がいた。
 見覚えのあるマフラーで口元を覆い、息をして、ぬくもりを持つ肌をしている。
「――あれは? 『人間になった姿の僕』でしょうか!?」
 驚愕を隠さず、コガネはたじろぐ。
 武装も全く同じだ。ウォーマシンの武装を人間の細い足で支えているのだから、可哀想にも見える。
「なるほど……手に入らない理想とはそういう事――まったく嫌味ったらしい!」
 コガネの金の瞳に怒りが宿る――十五歳の少年らしい自分が、同じように睨み据えてくる。外見こそ比べれば貧弱だが、敵の召喚した霊なのだ。
 きっと見事に武装を使いこなし、戦うに違いない。
 コガネは躊躇わず、前へと走った。プラズマジェットの翼を広げれば、それだけで宇宙よりもずっと小さな部屋の空気が震えた。
 相手も倣い、両腕を鋭い鉤爪に変えて、立ち向かってくる。
 真正面からでも速度を活かして。重量で劣るならば、機動性。敵から目を逸らさず、向かってくる。
 成る程――コガネは相手の動きを見て、小さく肯いた。同じ金瞳の中に、間違いなく自身と同じ性質を見る。
 ――なんとも戦い辛い相手である。それは偽れざる本音だ。
 だが同時に、付け入りやすい相手でもある――。
 何故って、僕の弱点は僕が一番よく知ってる。
「あっ! あんな所に巨大コガネムシ!」
 大袈裟に適当な場所を指さし、叫ぶ。
 え、と彼は素直に振り返る。
 理想の自分であるが、絶対に騙されるという確信があった――何故ならば。
「――だって僕そういう性格だもの」
 それは変えようと思う程ではない、愛嬌のようなもの。
 さすれば無防備になった黒の王へ――コガネは内蔵コアマシンに溜めた力を解き放つ。
「昔の人はこう言いました。”鷹は飢えても穂を摘まず”!」
 一斉に放たれたエネルギー砲の光の帯が、部屋を更に眩く染める。
 すべては浮遊する歪な王へ吸い込まれていくように。
 何処かでコガネの幻をも貫いたのだろう――燻るような煙の中で、残されたのは本物のコガネのみだった。
「いつか本物の大地と空を目指す! 宇宙船の中じゃなくて本当の風が吹く世界――それが僕の夢です! 蹂躙なんてさせないから」
 翼のいくつかを灼き焦がされ――黒の王の高度が下がる。
 その身体に走る亀裂はまた深く、彼女を侵食していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レン・デイドリーム
彼女がここの中心か
……成程、美しいと思う
だからこそここで壊してしまわないと
誰かを巻き込むような美しさはただの毒だ

【呪詛】を籠めたUCで古代の戦士の霊を召喚
敵への攻撃は彼に任せるよ
僕は【衝撃波】でサポートに回ろう
【オーラ防御・狂気耐性・呪詛耐性】で防御しつつ、戦士の炎や槍の手助けをするね

……ああ、でもこれも悪くないかもしれない
僕に血肉はないし、心についてもどこかふわふわしている
けれど今は、心が砕かれそうになっている
傷の痛みを感じている
幻だとしても、普段はあまり体感しない物事だ
そういうのが好きな訳ではないけど、貴重な経験が出来たと思う

けれど彼女達のゆめは肯定出来ない
歪んだ人形の園は今日でお終いだね



●幻覚痛
「彼女がここの中心か」
 ただ事実を淡淡と捉え、レン・デイドリーム(白昼夢の影法師・f13030)が僅かに首を傾げた。
 この部屋に入ってから――隣り合う猟兵たちへの認識が一気に薄れたからだ。
 いるのは解る。皆が戦っているのも解る。黒の王は確実に、少しずつ削られている。
 そんなことを冷静に考えているにも関わらず、彼の意識もまた黒の王へと向かっていく。
 静謐な存在だ。言葉も視線ももたぬ。
 祈りだけの存在。
「……成程、美しい。だからこそここで壊してしまわないと――誰かを巻き込むような美しさはただの毒だ」
 それでも、穏やかな口調は変わらない。
 すかさずレンは古代の戦士の霊を喚び寄せる――ただの霊ではなく、呪詛をたっぷりと籠めたそれに前を任せ、彼自身は黒の王との間に戦士を挟むよう、距離をとる。
 黒い翼が、強く、大きく広がり、羽ばたいた――。
 その衝撃から主を庇うように戦士が槍を振るいて受け止め、レン自身も、身体に巻き付くシュエの助けも借りて、その幻覚を遠ざける。
 だが、指先から毀れていくような、幻が駆け抜けていく。
 痺れるような痛みと共に、心深くを貫くような痛みが、戦意を刺激する。此処から立ち去れと、痛みによる本能的な恐怖を撫でてくる。
 だが、レンが零した吐息は――痛みを逃すためのものではなく、安息に似ていた。
「……ああ、でもこれも悪くないかもしれない」
 聴く者があるなら、耳を疑うような言葉であろう。
 緑の瞳は柔らかに黒の王を見つめている。作り物のような彼女。作り物――ミレナリィドールの自分。
「僕に血肉はないし、心についてもどこかふわふわしている……」
 魔法仕掛けの人形は、穏やかな微笑を浮かべて、胸に手を当てた。
 しくしくと、そこが痛むのだ。彼女が羽ばたく度に、此処から意味も無く逃げ出したい衝動が小さく産まれる。
 羽ばたきによって起こった風が撫でていった頬が、じくりと溶ける。皮膚が爛れてピリピリと痛む――全ては幻覚だ。
 負傷と痛みは違うのだと認識していても、後者を体験することは、人形であるゆえに無に等しい。
 そぐわぬ微笑の意味は、そこにある。
「けれど今は、心が砕かれそうになっている――傷の痛みを感じている」
 だから、レンは今、それを素直に経験として受け止める。
「貴重な経験が出来たよ」
 ……勿論、苦痛は、好まないけれど。そっと付け足し。
 古代の戦士が、炎を放ち、その翼の動きを阻む。回避しがたい槍捌きに、黒の王は逆らわぬ。
 呪詛が刻みつけられようとも、悲鳴をあげる口をもたず、ゆらゆらと揺れるだけ。
 彼女もまた、見てきた『人形』たちと、似たような存在なのかも知れぬ――作り出したのが、ヒトか、ヒトでないものかの差だ。
 それでもこの王が君臨する限り、見果てぬ夢を棄てられぬものたちがいる。
「けれど彼女達のゆめは肯定出来ない。……歪んだ人形の園は今日でお終いだね」
 亡霊の炎によって生じた陽炎の向こう――僅かに輪郭を崩しつつある黒の王へと、穏やかに告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリストフ・ポー
理想を胸に夢追う者が
破れ、疵つき、絶望に毒される
夢と欲を喰う側に回るのは一種の復讐か
神の愛とやらはいつだって憎しみ塗れなのにね
まぁどうだっていい
僕の身体は頭から爪先まで僕が『手入れ済』さ
くれてやる分は無いよ

抱き寄せたアンジェリカの頬に息を吹きかければ
薔薇の花弁が舞い
赤い嵐がやってくる
バイバイ

僕も、愛しいあの人も
生死や病苦、神も成り損ないも阻めはしない
届くことはない
けど恐れはしないさ
渇望は人の特権だ
求め続ける限り、永遠に輝く

口を開く余力があれば老作家に声をかける
ねぇ、苦しいでしょう
解放してやろうか?
あんたにその積りは無くても
誰かがあの哀れな白痴たちの責任をとらなくちゃ
でも返答は解る気がするよ



●渇望
「理想を胸に夢追う者が、破れ、疵つき、絶望に毒される――夢と欲を喰う側に回るのは一種の復讐か」
 冷笑を湛えてクリストフ・ポー(美食家・f02167)は老人を一瞥した。
「神の愛とやらはいつだって憎しみ塗れなのにね――まぁどうだっていい。僕の身体は頭から爪先まで僕が『手入れ済』さ。くれてやる分は無いよ」
 にべもなく言い放ち――つと、老人へと囁いた。
「ねぇ、苦しいでしょう――解放してやろうか?」
 反応は無い。
 振り返ることも、肩を振るわせることもない。本当に、周囲に興味がないんだな――思いつつ、クリストフは構わず続ける。
「あんたにその積りは無くても、誰かがあの哀れな白痴たちの責任をとらなくちゃ」
 笑う気配があった。
「無用だ」
 邪魔をするな、最初に彼女たちに向けた言葉と同じものが再び返ってくる。
「だろうね」
 答えは知っていた。
 でも、黒の王が没すれば、彼は間違いなくこちらの理で罰せられるだろう――それが楽か、苦か、知ったことでは無い。
 この老作家は、それ以上の苦役の中に身を置いているつもりではあるのだろうが。
 思考を切り替えるように、ひとたび目を瞑り――クリストフは今度こそ、戦うべき相手の前へと踏み出す。
 花嫁の人形をエスコートするように導きながら、黒の王と対峙する。
 それは焦げ、不揃いとなった翼を広げ、幾重にも亀裂を走らせた身体のみをもつ。
 意志は顕現せず、ただ羽ばたくことで敵対者を拒む。それだけの存在。
「――おいで、アンジェリカ」
 愛おしげに囁いて、クリストフは花嫁の人形を抱き寄せる。
「麗しの薔薇は我儘なのさ。せいぜい御機嫌を損ねないように、用心をすることだね。」
 林檎色の瞳が笑う。人形のつるりとした頬に唇よせ、彼女が息を吹きかけると、人形は薔薇の花弁と解け、部屋中を繚乱する。
 赤き花の嵐が、二人の間を埋めつくす――。
 美しくも赤と乱れる世界の中で、王は羽ばたいた。招く風は、流れに逆らうような薔薇の舞いが報せてくれる。
 クリストフはそれを見極め、薔薇を繰る。
 苦痛を敢えて身に受ける必要もないだろう――だが。
「僕も、愛しいあの人も――生死や病苦、神も成り損ないも阻めはしない……届くことはない」
 ああ、それでも――喩え、その苦痛が身体を苛むとしても。
「けど恐れはしないさ。渇望は人の特権だ」
 ――求め続ける限り、永遠に輝く。
 生身で生き続けるということは、そういうことだ。百年を生きたダンピールにとって、ありとあらゆる苦悶、苦痛は既に経験済みだ。
 膝を折りたくなるような痛みであろうと、止めることはできぬ。
 子供のように、血潮のように赤い花弁をばら撒きながら、白い頬に艶麗な微笑を浮かべ。
「バイバイ」
 シンプルな別れの言葉と、花束を。憐れなる神の残滓に送るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

無供華・リア
【春禍】
ひとの数だけ美しいと感ずるものは御座いましょう
ひとつ確実なのは、わたくしは貴方さまの感性は理解出来ないということ
共感できぬ美を、だからといって否定するのは無粋ではありますが
今回ばかりは御許しを
あの方々が余程無粋なんですもの

妖剣を手に接近
一撃離脱を繰り返します
ジャスパーさまの陰に隠れるように【だまし討ち】【傷口をえぐる】

わたくしの信じる美を紹介致しましょう
物も言わず、口も利かず、体温も宿らぬ
けれど見る者の心をそっと受け止めてくれる
お人形とはそういうものです
ねえジェイド

【オペラツィオン・マカブル】
幸福も幻覚も、すべてお返し致します
押し付けられる幸せなど、わたくしには不要なものですから


ジャスパー・ドゥルジー
【春禍】
「只の人間」でもブン殴るくらいは許されるだろ?
神の庇護を失おうがあの手の輩は死ぬまで治らねえぜ
もうすぐ死ぬ?知ったことか
化け物を産む手だ
使い物に出来なくしてやろうぜ

リアに諫められて漸く今向き合うべき物へ向き合う
胸糞悪ィったらありゃしねえ
【ゲヘナの紅】で燃やし尽くしてやる
苦痛も何もかも【激痛耐性】と【生命力吸収】で炎の威力に変換

あんたがあの男を唆したのか?
あの男が元々捻じ曲がっていたのか?
どっちにせよ猟兵である俺が力を振るえるのはてめェだけだ
だから「二人分」苦しめよ

リアの反射した幸福さえも掻き消す苦痛をやるよ
制御範囲を超えた火が自分の皮膚をも焦がしたって構わねえ

――消えろ



●激昂と静穏
「『只の人間』でもブン殴るくらいは許されるだろ? 神の庇護を失おうがあの手の輩は死ぬまで治らねえぜ」
 装着していた仮面を握り潰し、燃やす。
 ジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)は憤りを隠さず、老人へ、鋭い視線を向ける。
「――もうすぐ死ぬ? 知ったことか。化け物を産む手だ。使い物に出来なくしてやろうぜ」
 それは彼の内で蜷局を巻く炎が溢れそうな声音だった。
 否を唱えなければ、彼は実行するだろう。
「ひとの数だけ美しいと感ずるものは御座いましょう」
 されど、無供華・リア(夢のヤドリギ・f00380)は彼の提案へ首を縦にはしなかった。明確な否定も、しなかったが――。
 黒いヴェールを軽く持ち上げると、リアは紫の眼差しを老人へ向け、淡淡とした言葉を投げた。
「……ひとつ確実なのは、わたくしは貴方さまの感性は理解出来ないということ」
 冷徹な一声である。声音には負の感情めいたものも無い。
 ――先刻と同じく、退屈さを滲ませる以外は、何も。
「共感できぬ美を、だからといって否定するのは無粋ではありますが。今回ばかりは御許しを……あの方々が余程無粋なんですもの」
 彼女は胸に抱く人形を愛おしげに撫でると、ジャスパーへと告げる。
 チッ、舌打ち――彼は部屋を見た。
「胸糞悪ィったらありゃしねえ」
 澄ましたように宙を漂う存在がいる。
 黒の王――茨の部屋に、天井に王冠をいただき、終わりも始まりも識らぬという様子で浮遊する。
 だが、其れは確実に害意を持っているのだ。
「あんたも、あんたもあんたも、全部燃やし尽くしてやる。動くんじゃねえ」
 ジャスパーは感情を焼べて、熱を纏う。
 近づけば何者も発火し、触れれば溶けそうな超高熱――その身体で、彼は反応しない黒の王へと迫る。
「あんたがあの男を唆したのか? あの男が元々捻じ曲がっていたのか?」
 それは問い掛けを聴く耳を持たず、答える口も無い。
 耳障りな説法を垂れることもないが、言い訳をすることもない。
 彼の溜飲を下げるような表情を浮かべることもなければ、逃げる事も無い。ただ羽ばたいて、相手の心を逸らすだけ。
 その腕が翼を掴めば、炎に包まれ、それは紅蓮に染まる。阻むような力は無理矢理引き裂いて、疵の残る身体へナイフを振るった。
 そんな彼の背後で、繊細な細工の美しい細剣を掲げたリアが軽やかに躍る。
 彼の動きをトレースするように鋒を滑らせたかと思うと、くるりと返して別の疵を抉る。幸い、散々と猟兵に痛めつけられた王には付け入る隙ばかりだ。
 はばたきに向け、彼女はそっと口元だけに笑みを浮かべた。
「わたくしの信じる美を紹介致しましょう。物も言わず、口も利かず、体温も宿らぬ――けれど見る者の心をそっと受け止めてくれる」
 大切に抱いたそれを差し出すように、黒の王へ向ける。剣を下げ、心からの笑みを、愛しい人形にだけ向ける。
「お人形とはそういうものです、ねえジェイド」
 恋人を呼ぶ声音で名を呼んで。幻覚を無防備なその様で受け入れ――ジェイドが、受け流す。
 リアに向けられた幻覚は、ジェイドより黒の王へと向かう。
「幸福も幻覚も、すべてお返し致します――押し付けられる幸せなど、わたくしには不要なものですから」
 王は、身体を僅かに震わせた。
 何せ感情を表す器官が無い――幻覚がそれに影響を与えるのか、否か。そんなことはどうでもいいと――熱波が、すかさず距離を詰めてきた。
「どっちにせよ猟兵である俺が力を振るえるのはてめェだけだ――だから『二人分』苦しめよ」
 リアの反射した幸福さえも掻き消す苦痛をやるよ――ジャスパーの低く抑えた声は、竜の唸りに似ていた。
 抵抗の羽ばたきは弱々しいが、僅かでも苦痛の幻を彼へともたらした。
 全身を棘が貫いて、全身を許さず。裡から放たれる炎が自らの肌を焦がし、黒く腐っていく――まぼろしだと知っていても、現実の苦痛のように知覚する。
 ならば、それも纏めて燃やす。
 怒りを増すに比例し、彼の熱も増す。幻覚では無く、実際に肌が粟立ち、焦げる匂いが漂う。
 気付けば、紅一色に染まったジャスパーが――灼熱の化身と化して幻覚を食い破り、黒の王へと掴みかかる。
 彼に触れる前に、ふわり舞い散る羽は燃え尽き、石作りの彫刻に似た身体もどろりと溶け、輪郭を崩す。
「――消えろ」
 爪を振るう。王の腹に抉り取られた四筋の傷痕が、深く、刻みつけられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
f09233と

全く、それで生み出される方の身になって頂きてぇですよ
ご自分が素材になれば分かるんですかね

はいはい、前衛はお任せします
じゃじゃ馬お嬢さんがそう簡単に折れるようなら、とっくに此処には居ねぇでしょうよ

理想、ねぇ……嗚呼、やっぱり面白味はありませんね
溜め込まれた膨大な呪詛のない、ただの宿神
綺麗な、ってなんですかその表現
全く、その程度で呪詛在り来の術を使おうだなんて無理があります
わざわざ弱体化してくださるなんて随分とお優しいんですねぇ

こんなもん、あんたの手を借りるまでもありません
負の感情で力を高め、【誘惑】で己に惹き付け【カウンター、呪詛、恐怖を与える】
ほらね、所詮は虚像ですから


鶴澤・白雪
叶と(f07442)

女神というにはあまりにも醜悪ね

一先ずオーラ防御で身体を覆って
両手に銃を構えるわ

わざとらしく頭に水晶があるなんて狙ってみる価値ありそうだわ
2丁の銃を向けて乱れ撃ち
そのまま近づいてガンブレードで刺しに行くわ

羽ばたく様を見れば薄く笑って
挫けることに何か意味があるのかしら?
そんな事しても状況は変わらないのに
そこに時間を費やすほど余裕持って生きてないし気に食わないならひっくり返すだけよ
折れると思った?甘く見ないで
全力魔法のタイトロープグロウで幻覚ごと貫く

今度は叶の複製?…ぷ、ごめん
綺麗な叶が出てきた事が素直に面白いわ

理想、幸福
でもそれって所詮は夢よね

手、貸す?ふふ、心配は無用みたいね



●反証
「全く、それで生み出される方の身になって頂きてぇですよ。ご自分が素材になれば分かるんですかね」
 憮然と深く息を吐いて、雲烟・叶(呪物・f07442)が黒の王へと向き合う。
 ――人の業を捌くのは、呪の領分では無い。
 何のために封を解かれたか。期待されるその役割を果たすとしましょうと、嘯きて。
 片や、いよいよ彼の前に立った娘は、整った貌に不機嫌な表情を刷いて、こういった。
「女神というにはあまりにも醜悪ね」
 鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)の言葉はいつでも真っ直ぐだ。
 その身は宝石だからか――輝く酸漿の眼差しは鋭く、品評は辛辣だった。
 片手にライフル、片手にガンブレード。両手に物騒な武器を持って、美しい着物に身を包んだ娘は不敵な笑みを浮かべて振り返る。
「はいはい、前衛はお任せします」
 その意図を受け取った叶は、柔らかな微笑を返す。
 了解を得た白雪はあっという間に、部屋の中心へと駆っていた。
「わざとらしく頭に水晶があるなんて狙ってみる価値ありそうだわ」
 言うや否や、試すべく、二丁の銃を掃射する――黒の王は、特別回避をする様子を見せぬ。庇う腕もない。それでもその銃弾が全て届かぬならば、見えぬ障壁でもあるのか。
 確かめるならば、直接穿つまで――白雪は硝煙に隠れながら、一気に距離を詰める。横薙ぎに斬りつけた黒いガンブレードは、ふわりと柔らかなものに阻まれた。
 黒の王が、羽ばたきを送る。
 四肢に、全身に。引きちぎられるかと思う苦痛が走った。
 指先から少しずつ、砕かれていくような――そして、意味も無く乱れる感情が、白雪の意識を戦いから逸らそうとする。
 実際、一瞬だけ彼女は脚を止めた。指先を強ばらせ、狙いが逸れた。
 されど――ふっ、と。彼女は敵へ、雪解けのような淡い笑みを向けた――否。
「挫けることに何か意味があるのかしら?」
 薄い笑み。何処までも冷淡に、娘は問い掛ける。
「そんな事しても状況は変わらないのに――そこに時間を費やすほど余裕持って生きてないし気に食わないならひっくり返すだけよ」
 ――散々に逆らい生きてきた白雪にとって、こんな幻覚は苛立つだけだ。
 そちらがこちらの身を砕く積もりなら、砕いてやる。
「折れると思った? ――甘く見ないで」
 両手の先、銃へと魔力の熱を回す。軋む幻覚に捕らわれた冷たい指先は、トリガーをしかと捉えて緩めない。
「もっと鋭く、熱く。後悔も願いもあたしの全てを糧として燃えろ。悪業の紅と壮麗な蒼、2つの光で穿て」
 解き放つ詞を唇に載せ、強い視線で見据えるものへ。猛る紅炎と、清冽な蒼焔の棘が、鮮やかに放たれ――幻覚を打ち砕く。
 更に背後に存在する黒の王の両肩を激しく穿ち、天井をも貫いた。
 その様を愉快そうに眺めた叶が、からからと笑う。
「じゃじゃ馬お嬢さんがそう簡単に折れるようなら、とっくに此処には居ねぇでしょうよ」
 ――出番全部持って行かれそうだと嘯いたが祟ったか。
 彼とよく似た姿形の存在が、笑み一つ無い表情で其処に立っていた。
 そこにあるだけで凛と、白く世界を隔絶するような容貌。だが――。
「理想、ねぇ……嗚呼、やっぱり面白味はありませんね」
 銀の瞳を眇め、それを見据える。
 そこにある叶は――溜め込まれた膨大な呪詛のない、ただの宿神。
「今度は叶の複製?」
 ぷ、と。
 可愛らしいような憎らしいような、噴き出す声が聞こえて、叶は静かに瞑目した。
「ごめん。綺麗な叶が出てきた事が素直に面白いわ」
「綺麗な、ってなんですかその表現」
 言わんとしていることは、解る。
 現実の叶が内側に納めておけぬ呪を紫煙で覆っているのと相反し、それは曇りも蔭りも無い存在だった。
 これが理想。そうでありたいと願うかたち。叶わないモノ。
「理想、幸福……でもそれって所詮は夢よね」
 白雪がぽつりと零す。
 ただのレディであれと願われてた彼女が、それを厭って飛びだしたように。
「手、貸す?」
 悪戯めいた問い掛けに、静かに叶は首を振った。
「こんなもん、あんたの手を借りるまでもありません」
「ふふ、心配は無用みたいね」
 ――精々が、内側に秘めた羨望を、改めて曝かれた気拙さ程度。
 敵としては何ら脅威では無い――何せ、これは彼の根源たる呪詛を持たぬ。
 だというのに、ここに喚ばれたからには、呪をもって戦わねばならぬ。
 美しいだけの器が、裡にあるはずの呪詛をこねて放とうとする様子に、叶は肩を竦める。
「全く、その程度で呪詛在り来の術を使おうだなんて無理があります――わざわざ弱体化してくださるなんて随分とお優しいんですねぇ」
 此処では、糧となる負の力は、食べきれぬほどに散らばっている。
 相手が自分に向ける呪詛も同じ事。対峙する自身の移しから放たれた、分かり易い黒い靄が叶の前に迫る。
 ――ごちそうさま、と唱えたら、後は強く強く呪うだけ。
 その呪すら呑み込んで、黒の王まで届く、強烈な呪い。
「ほらね」
 所詮は虚像ですから。示す通りに一瞬で掻き消えて、影も残さぬ。
 呪詛に半身を喰われ――王は、それでもゆっくり、羽ばたきを続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)

ええ、ええ
美しいもの、理想のものを追い求める心には何らひとかけらの疑念も忌避もないものでしょう
ですが、物質としてある形よりも美しいものがあります
それは心です
心があるからこそ、心に焦がれるからこそ、その容を愛おしく思うのです

病と傷の苦痛など これほど不愉快で忌々しいものもありません
幻影は「狂気耐性」と「呪詛耐性」で耐え凌ぎ
かれとともに「破魔」によって振りほどきましょう

このようなものは不要です
僕の身を侵すのはかれの愛のみなのですから
ええ、ザッフィーロ君
僕たちの強さをお見せしましょう

「高速詠唱」「属性攻撃」「全力攻撃」をのせた
【天航アストロゲーション】で狙い撃ちましょう


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

人の中身が肉と臓物な事など当たり前ではないか
むしろ肉皮の美しさに拘る事の方が俺にとっては不思議なのだが…
…輝く精神を殺し肉皮を求める等…本当に度し難い、な

踏み込むと共に手にしたメイスの鎖を伸ばし『なぎ払う』ように敵へと振るい敵の羽を『部位破壊』『マヒ攻撃』にて動きを鈍らせんと試みよう
射程範囲内から逃れられると厄介だからな
もし羽ばたきと共に幻影を向けられたならば『オーラ防御』と『破魔』にて幻影を振り払おうと試みよう
幸福ならばもう隣に…俺と共にある故に。幻影など、不要だ
その後は【影渡り】にて宵の影に渡り『かば』いながら幻影から護りながら攻撃して行こうか
宵、さあ反撃に行くぞ



●ただ君だけ
 自分たちは人間の形を模して顕現しているということは、識っているが――。
 こんなに理解しがたい隔たりが、未だあるというのか。
「人の中身が肉と臓物な事など当たり前ではないか。むしろ肉皮の美しさに拘る事の方が俺にとっては不思議なのだが……」
 疑問を素直に口にしたザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)へ、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)はゆっくりと頭を振る。
「美しいもの、理想のものを追い求める心には何らひとかけらの疑念も忌避もないものでしょう」
 ただ、その成り立ちが何となく理解出来たところで――納得とは、また違う。
「ですが、物質としてある形よりも美しいものがあります――それは心です」
 自分の胸に指を立て、彼は言う。
 心臓に宿るのか。脳髄に宿るのか――それすら正確には存在しないけれど。
「心があるからこそ、心に焦がれるからこそ、その容を愛おしく思うのです」
 宵の言葉に、深く頷きザッフィーロは苦々しく告げる。
「輝く精神を殺し肉皮を求める等……本当に度し難い、な」
 ゆえに、此処で止めねばならない。
 輪郭が僅かに崩れ、腹に爪痕を残した不格好な黒の王は、猟兵たちを淡淡と迎え入れる。戦意も感じぬが、生き延びようという意志は感じる。
 メイスに仕込まれている鎖の限界まで引き伸ばし、ザッフィーロは鉄の鞭を打つ。踏み込み様に大きく横へ薙げば、押し返されるような感覚があった。
 身を守る柔らかな魔力の盾のようなものの内側で、それは羽ばたいて、彼らを拒む。
 真っ先に部屋に広がったのは、心を挫く病と傷の苦痛の幻覚。
 息をするのも儘ならぬ息苦しさに、ヤドリガミである宵は深宵の瞳を堅く閉ざす。
「これほど不愉快で忌々しいものもありません」
 杖を振るいて、輝きを散らし。
 彼はその呪いのようなものを身から剥がす。
 煩わしいものを追い払ったことで、瞳を薄く開くと、黒の王へと冷たくも思える視線を向けた。
「このようなものは不要です。僕の身を侵すのはかれの愛のみなのですから」
 その言葉に応えるように、ザッフィーロも再度、拍子を変えて身を返す。
 メイスの先が、翼に触れる。黒の王の身体が大きく傾いだ事で、羽ばたきがひとたび止んだ。
 だが追撃を受けぬよう、すっと羽ばたきながら王は下がり、距離をとると、羽ばたきの形を変えた。
 それが結ぶ像は、幸福な画――。
 当然、愛しきものと過ごす光景なのだが――それは、現実に勝る幻であろうはずがない。
「幸福ならばもう隣に……俺と共にある故に。幻影など、不要だ」
 厳かに告げ、メイスで幻覚を打ち払うと、魔力を纏う。
 ザッフィーロの身を影が覆い、急激に彼の気配が消えていく――瞬時、宵との距離を零に。
 その背で宵を庇いながら、新たに生じたまぼろしを、彼の目に触れぬように薙ぎ払う。
「宵、さあ反撃に行くぞ」
「――ええ、ザッフィーロ君。僕たちの強さをお見せしましょう」
 無条件に見せてくれる、美しき微笑。
 これを護るためならば――ザッフィーロはその身を盾に、苦痛も幸福も砕いて、宵が集中するための時間を作ってみせる。
 彼のメイスは、黒の王の守りをとっくに貫いて、その身を打ち据えている。
 元々五感を持たぬ王が何をもって彼らの攻撃を認識しているかは解らぬが、気配を隠す魔力を纏ったザッフィーロを、殊更捉えにくくなったようだ。
 逆に、彼は易々回避をせぬ。宵を護るためには、真っ直ぐに幻覚に立ち向かうより他に無いからだ。
 その様に、彼の特別である誉れを覚えて、笑みがこぼれてしまいそうになる。
 宵はそれを隠さず、穏やかな微笑で、杖を天へと掲げた。
 王の攻撃は、ザッフィーロに直接傷をつけるものではない。それでも、心を蝕む力と、いつまでも戦わせ続けるわけにはいかぬ。
「彗星からの使者は空より墜つる時、時には地平に災いをもたらす。それでもその美しさは、人々を魅了するのです。星降る夜を、あなたに」
 朗と謳い、宵が徐に、王へと杖を差し向ければ。
 目掛け、隕石が降る――彼の力で招来されたそれは、天井の内側から、熱を伴い飛来する。
 王は為す術も無く、再び熱く重い大岩の下へと圧され――大きく撓みながら、片翼をもがれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫
アドリブ歓迎

哀しく虚しい夢の残穢だ
ありのままの姿が最も美しいのに
神にでも、なったつもりかい?
……それとも、なりたいのかな

黒の王を見遣れば眉根をよせて
理想など幸福など
僕は、今が一番だっていうのに
水槽にいた頃は、想像したこともなかった姿に、今僕はなっている

どうあれ、櫻宵を惑わせはしない
僕が君の夢ならば
幾らでも愛をあげるから――そんなものは求めないでよ

惑わすものなど《なにもなかった》
歌でかき消してあげる
歌唱に鼓舞をこめて紡ぐ「薇の歌」
美しく咲き誇る櫻をもっと咲かせられるように
歌い、守るよ
あぶくはそのまま彼を守る守護のベールに

僕だけでは足りないっていうの?
拗ねるマネ
知ってる
本当、悪食なんだから


誘名・櫻宵
🌸櫻沫
アドリブ歓迎

ゆめ、ね
ここで生まれる作品は全て幻想
イミテーションに過ぎないわ
けれど慾を孕む夢に果てなどないの
それは地獄のよう醜い(うつくしい)

リルはあたしの夢よ
こんなにも愛してくれる
愛を食べさせてくれて
私という桜を美しく咲かせてくれるのだもの
この慾は私だけのもの
誰にもあげない

首がないのが残念ね
破魔の桜吹雪にオーラ防御を展開
衝撃の斬撃を放ち傷を抉るように2回攻撃を繰り出して
私の理想なんて
反吐が出るほど美しいに決まってる
だから斬り捨てる
幻想ごと
夢ごとなぎ払って斬り裂き呪殺弾の連撃
ねぇ満たして殺させて
駆けて放つ「絶華」
私の慾を肯定してくれるんでしょう?

拗ねないでリル
あなたの愛でお腹いっぱいよ!



●うつくしき、みにくき、慾
 ここまでに、悲しい人形たちをたくさん見てきた。
 かつての自分のような――人為的に作られた見世物としては、あちらのほうが残酷なのかもしれない。
「哀しく虚しい夢の残穢だ。ありのままの姿が最も美しいのに」
 リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)は人形館に。そして老人に告げる。
「神にでも、なったつもりかい? ……それとも、なりたいのかな」
 目を伏せた表情は、哀しみに似ていた。
 自分をグランギニョルに閉じ込めていたのは、そういう感情の積み重ねなのかもしれぬ。
 だが、彼を抱く桜の龍は、美しい微笑みを浮かべた。
「ゆめ、ね。ここで生まれる作品は全て幻想――イミテーションに過ぎないわ」
 きっと皆解っているのでしょう。
 誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は皮肉を隠さずに言い、首を傾けた。
 さらりと桜鼠の髪が音を立てる。桜の花びらがひとつ落ちた。
「けれど慾を孕む夢に果てなどないの。それは地獄のよう醜い(うつくしい)」
 世界をひとつ隔てれば――否、繋がってしまった今となっては、彼らのような幻想の種が、平然と存在している。
「リルはあたしの夢よ。こんなにも愛してくれる。愛を食べさせてくれて、私という桜を美しく咲かせてくれるのだもの」
 誇らしげに、見せびらかすように。くるりと着物を翻す。リルの尾が灯りに煌めいた。
「この慾は私だけのもの――誰にもあげない」
 さあ、後は邪魔者を倒してしまおうと――そして、遊びに行くように部屋の中央へと踏み込む。
 二人の視線の先には黒の王がいる。
 ひどい姿だ。王は片翼をもがれて、その身も傷付き、痛々しい姿で――それでもまだ浮遊し、残された片翼で猟兵を待つ。
 不完全に陥ったものが、より失っていく。
「首がないのが残念ね」
 櫻宵は赤き太刀を抜き払うと、より一層、笑みを深めた。オーラで精製された桜の花びらを纏い、軽やかに地を蹴った。
 剣戟は、王を捉えようとするところで、彼の桜の護りに似た透明な壁を感じる。それは薄い硝子のように弱々しかったが、片翼の王がそれを喚ぶ時間は稼げた。
 まぁ、櫻宵が桜霞の目を瞠る。
「私の理想なんて、反吐が出るほど美しいに決まってると思っていたけど――」
 桜吹雪が吹き荒れて、目の前に凛々しい龍がいる。
 何処までも艶美で見惚れるような眼差し――自分によく似た、自分の理想の霊と対峙して、櫻宵はただ破顔する。
 斬るわ、唇がそう囁いた。
 その背に縋るリルは、黒の王へと視線を送り、眉宇を寄せた。
「理想など幸福など……僕は、今が一番だっていうのに――水槽にいた頃は、想像したこともなかった姿に、今僕はなっている」
 王の翼が招く幸福と苦痛の影――それに愛しい君が迷わぬよう。
 この声の限り、歌ってみせよう。
「――揺蕩う泡沫は夢 紡ぐ歌は泡沫 ゆらり、巻き戻す時の秒針 夢の泡沫、瞬く間に眠らせて。そう《何も無かった》」
 涼やかに伸びる歌声が、清涼と、呪いを払う。
 視界を埋めるような櫻霞が薄くなる――彼らの目の前に立ち塞がる霊の姿が、曖昧になる。
「僕が君の夢ならば。幾らでも愛をあげるから――そんなものは求めないでよ」
 縋る腕の強さに、やぁね、リル、と。本物の困惑を浮かべて、僅かに振り返る。
「私はただ――欲張りなのよ」
 知っている。リルは歌いながら、肯いた。
「僕だけでは足りないっていうの?」
 頬を膨らませ、態と拗ねてみせると、櫻宵は案外本気で、リルの機嫌を取ろうとする。
「拗ねないでリル。あなたの愛でお腹いっぱいよ!」
 その言葉は本物だ。どんな重い愛も、厭うでもなく、こうして共に駆けることさえ重たいなどと露と思わぬひとなのだ。
「知ってる……本当、悪食なんだから」
 時には本気で立腹しているのに――許してしまうのは、愛しいから。
「だから、しっかり斬って、証明して」
 至近からの応援に。聞き惚れてしまう歌声に、任せてと櫻宵は心底嬉しそうに声音を跳ねて、前へと蹴り出す。
 太刀を薙ぎ、まぼろしを斬りながら、櫻宵は駆る。同じく太刀を高く上げた美しい櫻龍が、それを迎え撃つ――それが消え去る前に、斬りたい。
 朱の唇に弧を浮かべ来るそれへ、先に仕掛ける。
 背では彼の人魚が鼓舞の歌を歌い。あぶくの護りが苦痛の幻影を打ち消す。
「さぁ、桜のように潔く……散りなさい!」
 力強い踏み込みと共に、大上段から斬り下ろす。
 空間ごと断つ一太刀が、櫻を斜めに吹き飛ばし、薄くなった霊体を真っ二つに斬り裂く。
「ねぇ満たして殺させて――」
 甘く囁く。
 その剣戟は、背後の王まで届く。腕のない肩から斜めに身体の芯を捉えた。
「私の慾を肯定してくれるんでしょう?」
 ひとすじの深い亀裂。みしりと歪んだ黒の王は、剣風に、大きく後ろへと吹き飛んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
真(f13102)
幸福と苦痛の幻覚は自分にとって不利と理解
幸福の記憶は僅かばかり。だが懐かしく安らぐ記憶
苦痛の幻覚には拷問の記憶を見る
相方の真に失望されるのは癪だと、それだけで耐える

嫌なもん見せやがって…。
自らの操る拷問具『荊棘王ワポゼ』は自動モードで敵を強襲

自分の意志とは関係なく動かされる身体に、自分が『人形』代わりになっているのだと気づいた
……ちゃんと壊さないよう扱えよ。
雑な扱いを知ってるから嫌そうに釘を指して、されるまま拷問具を振るう

操り人形になった方がマシな動きが出来そうだ。
真の一言には誰に言ってんだ?と口だけは達者

頭を撫でられたなら心底嫌そうな顔をしつつも力なくされるまま

ガキ扱いか?


久澄・真
ジェイ(f01070)

痛みなんぞ日常茶飯事
幸福なんて反吐が出る
ならば攻撃は大体絞れる…ほらな?

現れた鏡写しの自分
目細めにんまり浮かべる三日月

いいねぇ
最高に気持ちの悪いシチュエーションだ

動きも読みも技も同じ
躊躇い無くとも長引くのは明白、けれど

お前に無くて俺にあるもん、なーんだ?

福音で鏡との間合いをわざと開けば
いつの間につけたのか操り糸で手繰るは連れの男の身体
指先に伝わる感覚から本調子でない事は知れる
無理矢理に立ち位置変えてすれ違いざま一言

ちゃんと殺せよ、ジェイ

残った糸は敵の黒翼目掛け縛り上げようと試み
終わり振り返った先でジェイが不満気な顔してたなら
よく出来ましたと頭のひとつでも撫で煽ってやろうか



●人形と、その遣い手
 崩壊寸前の王が頼りない隻翼で羽ばたいている。
 全身に亀裂を走らせ、あと少しで砕け散りそうだ。
 そして、それゆえに、少々力を暴走させているようだった。
 眩暈がする――ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)は自分の目の前に展開する朧気な幻覚と、身を苛む痛みに目を細めた。
 苦痛の幻覚にはかつて受けた拷問の痛みが甦り、目の裏が眩しく明滅する。身を竦めれば、甘やかな記憶のまぼろしが、目の前に広がる。
(「幸福の記憶は僅かばかり。だが懐かしい――」)
 安らぐ感覚――ただ、それで毒気を抜かれてしまうわけにはいかぬ。
(「――真に失望されるのは癪だ」)
 苦痛に屈することも、親愛の情に武器を下ろすことも――所詮幻に過ぎぬと、精神力で耐えきる。
 自動モードに敵を襲うように仕掛けた拷問器具が黒の王を襲ったことで、ふたつの幻覚は弱くなった。
「嫌なもん見せやがって……」
 感情面において最悪のフルコースを喰らい、青ざめたジェイの傍ら。
 肝心の久澄・真(○●○・f13102)は相変わらずの嘲弄めいた笑みを見せている。
「痛みなんぞ日常茶飯事。幸福なんて反吐が出る――ならば攻撃は大体絞れる……ほらな?」
 白磁の髪をさらりと靡かせ、目の前に立つ男を見る。
 唐紅の瞳は眼鏡の向こうで皮肉を湛え、口元は三日月に。そっくり同じ自分がそこにいた。
「いいねぇ――最高に気持ちの悪いシチュエーションだ」
 それと対峙しながら、にやにやと笑える真の内心は、ジェイにはわからぬ。
 無造作に、真は自分の映しへと糸を向けると、前へと躍る。
 その動き自体は、そっくりそのままではない――そりゃそうだ、俺だからな、と思う反面。互いの変わった手管は掌握されている。
 振るった拳を囮に、後ろから動きをトレースしたからくり人形の拳が本命というのを、人形で受け止めると、あちらが糸を腕に絡めてくる。
 だがそれも身代わりの人形――などというやりとりを、相手の攻撃の先を読み合いながら繰り返す。
「動きも読みも技も同じ――躊躇い無くとも長引くのは明白、けれど」
 楽しそうに、真は軽薄な笑みを深めて、問うた。
「お前に無くて俺にあるもん、なーんだ?」
 彼の躰が撓む。膝を折り、遠くへと、弾けるように後ろへ跳んだ。
 その間に、黒尽くめの青年が引き摺り出されるように前へと駆け出す。だが、ジェイは何故自分がそんな動きをとったのかと、驚き目を瞠る。
 前と、後ろ。交錯する相手へ、真は囁く。
「ちゃんと殺せよ、ジェイ」
 指先に伝わる、ジェイの強張り。それが彼が不調を抱えていると報せてくる。
 複製された真の間合いに入る頃には、自分の意志では無く動く身体に、真の仕業だと勘付いて――儘、委ねる。
「誰に言ってんだ?」
 気怠げな表情はそのまま、愛用の棘の鉄輪を手に、ジェイは毒づく。
 人形遣いの荒さは先程――いつも見ている。使い捨ての、消耗品。
 真の反応は解らない。
「……ちゃんと壊さないよう扱えよ」
 囁きながら、身を返す。翻弄するような複製の糸捌きに、正面から棘で挑む。全てを斬り裂く動きは、人間であれば筋を痛めそうだが、ダンピールであるジェイには問題にならぬ。
 獣のように低い姿勢から、脚へと棘輪を放ち、上へと駆って飛びかかる。
(「操り人形になった方がマシな動きが出来そうだ」)
 ふと思う。
 宙で抜かされた、愛用の折りたたみナイフが煌めいて、複製の首筋を躊躇いなく掻き斬って、棘輪を拾い上げながら、ジェイは更に黒の王へと挑まされる。
 真はジェイを繰りながら、王の黒翼を搦めようと指を引く。
 ジェイに仕掛けた糸を括り付けて、ひとつの塊のように纏めて仕舞えば、もう幻覚に患わされることも無かろう。
 操られた相棒は、美しい貌に、虚ろな殺気を取り戻し――自らの意志で、相棒の意志で、地を蹴り舞い上がると、王の胸の中心へ、棘輪を突き刺した。
 目の前で、白い躰が砕けていく――玻璃が砕けるように亀裂が伸びると。砂で出来た彫刻が一挙に崩れるように弾けた。
 血の代わり、砂のような残骸がジェイの身を包む。
 砂塵の中では様々な夢幻が渦巻いて、ますます眩暈がした。
 黒の王がいた場所から数歩先、両の脚で着地したジェイは、糸を解きながら、振り返る。
 眠そうな金の双眸が何か言いたげな様子なことに、真はにやついた表情の儘近づくと、頭をぽんと撫でてやる。
「よく出来ました」
「……ガキ扱いか?」
 はは、と真は笑った。その深意は、やはりジェイでは掴めぬのだ。
 ただの傀儡ではないけれど、結局、彼は彼の頭脳だから。

 ――黒の王が灰になった同時刻。
 UDC組織の後方部隊が屋敷へ踏み込み、『幻想人形館』のスタッフ、および客の身柄は拘束された。
 当然、かの老人も拘束された。
 妄執に満ちたスケッチには、黒の王と戦った猟兵達の造作も描かれていた。
 こと詳細であった異形の図は、彼を取り逃がさなくてよかったと職員が語るほど異様であったらしい。
 或いは――黒の王の模倣。完成した王の姿であったとも。
 やはり殴り殺しておけばよかったと唸ったものもいるようだが、いずれにせよ、それらは全ては二度と人の目に触れぬよう、封印されることだろう。
 無論、彼を含めたスタッフも法の下、厳しい裁きを受ける。それらが喩え命を奪われたとて、被害者達の救いになるかは解らぬが――。
 そう、被害者――保護された人形達は、今後UDC組織の下、然るべき治療を受けることになる。
 然れど、精神的な問題の改善は可能だろうが、肉体に施された処置は、容易に元に戻せるものではないらしい。幾度となく身体に負荷を掛ければ、命に障る。
 生活に支障が出るものは兎角、その身体で一生を過ごさねばならぬものも出てくるだろう。
 猟兵たちが懸念した通り――彼らが人間らしい生を送れるかどうかは、わからぬ。
 ただ幸いにも、この世界にも本物の幻想がこんな風に紛れ込んでいるのだと――彼らは知った。ならばいずれ、売り物であったという悲しい過去も、忘れて笑える日がやってくるかもしれぬ。

 人は幻想のゆめを見る。
 ただただ奇麗なばかりではない、美醜を備えたゆめまぼろし。
 息づく偽物を憐れと――血肉をもって戦う本物が、世界に証を刻みつけたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年01月01日


挿絵イラスト