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夜櫻人魚

#サクラミラージュ #宿敵撃破 #転生

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●桜の夜に
 血を啜り、肉を削ぎ、喰らう。
 骨だけになった骸を抱いた人魚は池に半身を浸し、桜が散る夜空を振り仰いだ。
「……」
 無言のまま見下ろすのは骨になった人の子。
 人魚の肉を喰らえば不老不死になれるなどと信じて訪れた、哀れな子。
 本当は彼を喰べたくなどなかった。されどあのままでは喰われるだけだった。ただ何もせずに死にたくなかった。そう、死にたくないだけだったのに。
「喰らわれる前に喰らい返さなければ。……愛しき、人の子を――」
 人は好き。だが、己を喰らおうとする人間は憎い。
 矛盾した心を抱く宵色の人魚。
 其の名は桜夜。
 はらはらと舞う幻朧桜の花弁を見つめる人魚はもう一度、骨を強く抱いた。

●廃神社と夜汽車の旅
 石造りの鳥居の奥。古びた神社。
 飾り気のない境内と拝殿を抜けた奥の庭に広い池がある。
 その場所には人魚が棲むと言われていた。今は名前さえ忘れられた神社だが、極々稀に近くの駅から降りてきた者が人魚の伝説を確かめにひっそりと訪れる。
 そんな土地に影朧が現れた。
「朽ちた神社を守る白い鴉に人を喰らう人魚。それらが今回の影朧ってわけだ」
 ディイ・ディー(Six Sides・f21861)はその影朧人魚が社に訪れた人を喰らう未来が視えたのだと話し、仲間達に解決を願う。
 影朧は傷つき、虐げられた者達の過去から生まれた不安定な存在。
 それゆえか人魚は池に訪れる人間を敵と見做す。
 近付く者すべてが自分を喰らおうとしていると思い込んで恨み、理不尽に喰らい返そうとしてくるようだ。どうかその荒ぶる魂と肉体を鎮めてやって欲しい。そのように告げたディイは詳しいことを説明していく。

「件の神社なんだがな、夜汽車に乗って丸一日のところにある」
 だからついでに汽車の旅を楽しんでくるのが良い。
 そう話したディイは今回乗ることになる蒸気機関車について語っていく。
「旅客列車牽引用テンダー式蒸気機関車、通称ハチロク。言うなりゃスタンダードな形の黒い機関車だ。食堂車に展望車、普通の座席車に寝台車。到着までは何処でも好きなところに居ていいぜ」
 食堂車では洋食が楽しめ、展望車は窓が大きく作られているので軌道上の風景がよく楽しめる。勿論、座席車でも車窓から眺める光景は美しい。
 今の季節は終わりかけの紅葉や、山の上に雪が積もり始めた景色が見えるだろう。
 座席は自由なので移動も可能だ。
 汽車に揺られながら心地よく眠ってもよし。食事やおやつを楽しむもよし。偶然に出会った人々との会話に興じるのも悪くないだろう。もしかすれば乗客や乗務員などから、件の人魚の池に伝わる話について聞けるかもしれない。
「それじゃ宜しく頼んだ。俺様は一緒には行けねぇが、見送りと応援はさせてもらうぜ」
 そうしてディイは乗車チケットを手渡す。
 夜汽車に揺られて向かう先。其処に僅かでも救いがあるよう願って――。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『サクラミラージュ』
 夜汽車で人魚の池があるという廃神社に向かい、影朧と戦うことが目的となります。

●第一章
 日常『夜汽車に揺られて』
 夜行列車に乗ってひとときの旅をどうぞ。
 秋から冬に移り変わる車窓の風景を楽しむことが出来ます。鉄道旅行は浪漫!

 汽車は深夜に出発し、次の日の夕方頃に目的地付近の駅に到着します。
 車内で行えるのは【情報収集】か【汽車の旅を楽しむ】か、どちらか一方です。両方を行うのは描写的にどちらも薄くなってしまうので、どうか片方だけをお選び頂けると幸いです。
 描写する時間帯は皆様のプレイングから判断しますので自由にお過ごしください。

 食堂車には洋食メニューが用意されており、乗車席にも移動販売が訪れます。
 展望車や座席から山々や街、影朧桜の景色が見えます。どの座席もゆったり寛げる空間です。声をかければ一般の人や乗務員も快く応えてくれます。

●第ニ章
 集団戦『しろがらすさま』
 到着時刻は夕方頃。
 神の使いとして崇められていた白カラス。崇める者が居なくなり神性を失いながらも神社を守るカラスの成れの果て。何故かちゅんちゅんと鳴きます。
 転生は出来ないのでふわふわっとやっつけましょう。
 プレイング冒頭か末尾に『⛩』を記して頂くか、SPDのユーベルコードを使った場合、しろがらすさまからおみくじが貰えます。結果はおまかせください。

●第三章
 ボス戦『桜夜』
 戦うことになる時刻は暗くなり始めた宵~夜の間。
 神社の奥にある池に現れた影朧。
 喰らうと不老不死になれるという謂れのせいで虐げられた人魚。人が好きであるのに神社に訪れる者が憎いという矛盾した思いの元、人を喰らおうと狙います。
 倒すのも転生させるのも皆様のご自由に。特に判定上では差異はありません。
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第1章 日常 『夜汽車に揺られて』

POW   :    食堂車で過ごす

SPD   :    座席車で過ごす

WIZ   :    展望車で過ごす

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夜行列車は夜を往く
 静まり返った駅に響く汽笛の音。
 黒の車体が美しい蒸気機関車の煙突から吹き出す煙。
 空に昇っていく灰色の煙と、夜空の深い紺藍の色が入り混じってゆく。
 
 ホームから列車に乗り込めば落ち着いた木製の内装が乗客を迎えてくれた。
 構内や車内に流れるアナウンスが発車を伝える中、乗り込んだ人々は思い思いの席につく。やがて乗降口の扉が閉められていく。
 そして――ゆっくりと動き出した蒸気機関車は、穏やかな夜の中を走りはじめた。
 
鶴澤・白雪
夜汽車って初めて乗るわ
何処かに行く事はよくあるけど一人旅もそういえば初めてだったかしら

折角だから今日は汽車の旅を楽しもうかしら
景色を見たいから展望車に行ってみようと思うわ

夜汽車なら星を見ながら影朧桜の景色が見えるかもしれないし
長旅になるみたいだからちょっと不健康だけど今日は夜更かししていたいわ

目は良い方だけど必要なら暗視を用いて
中々見られる景色じゃないから目に焼き付けるように楽しむわ

夜行列車なら一人の方がいいかと思ったけど
この光景はあたし一人で見るのは勿体ないわね

でも知らない景色って新鮮で何時まででも見ていられる気がするわ
ちゃんと思い出話ができるようにして今度来るときは誰か誘ってみようかしら



●旅のはじまり
 閉まる扉。心地好く揺れる車内。
 窓辺を見やれば薄まった煙が流れていく様が見えた。煙が晴れた先にあったのは、これから夜が更けていくのを示すような深い空模様だ。
 鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)は窓に手を伸ばす。
 ひやりとした硝子の感触。窓を一枚隔てた向こう側の景色は次々と流れていく。
 思えば夜汽車に乗るのはこれが最初。
 何処かに行くことはよくあれど、一人で旅をすることも初めてで新鮮に思える。
 これから向かう先のことが気にならないわけではないが、列車に揺られる時間は大いにある。移り変わる景色を見るには展望車が一番良いだろうと思い立ち、白雪は車両の先に進んでいく。
 幾つか扉を潜って辿り着いたのは広々とした客車。
 先程の車両よりも窓が広く作られており、先程よりも車外の光景がよく見えた。白雪は空いていた席に腰を下ろし、夜の櫻景色を眺める。
 離れていく帝都の街景色。
 遠くの空には星。
 風に乗って散る幻朧桜の花弁。
「長旅になるみたいだから、ね……」
 少し不健康ではあるが、今宵は景色を楽しみながら夜更かしをしてみたい。
 其処に映った星のひかりをなぞるように、白雪は指先を硝子に添わせる。ふかふかとした座席に背を預ければ、更に空の色が深くなっていく様相が見えた。
 あそこに見えるのはちいさな町だろうか。
 ぽつぽつと点いた明かりと家々。何かの建物や閉店したらしき店。
 視界に入ったと思えばすぐに過ぎ去っていく景色はまるで、時間を早回しにしたような不思議な心地を与えてくれる。
 様々な街や山、平野。その何処にも桜が咲いている。ひとつひとつを目に焼き付けるようにして、白雪は時が過ぎてゆくのを楽しむ。
 星と桜と街の灯。
 同じようで違う、それぞれの風景。夜行列車ならば一人の方がいいかと思っていたが、これらを見ていると違う思いも湧いてきた。
「この光景はあたし一人で見るのは勿体ないわね」
 紅の双眸を穏やかに細めた白雪は、知らない景色を瞳に映し続ける。
 何処までも続いていくかのような線路。
 其処から見えるものを何時まででも見ていられる気がした。
 そして、白雪は此処から続く旅路を思う。
 これからどんな景色が見え、どのような思いを抱くのだろう。まだそれは分からないけれど、ちゃんと思い出話ができるようにして――それから。
「今度来るときは誰か誘ってみようかしら」
 誰かと、何処かへ。
 いつか巡るかもしれない列車旅への思いを馳せ、白雪は車窓の風景を眺め続けた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鬼灯原・孤檻
神社の池に住まう人魚、か。
ヒトと人魚の間にはよく悲しい話が付きまとうが、此度もそのような話なのだろうか。
影朧ならば、その心を癒すことが出来れば…悲しいだけの終わりにしないで済むかもしれない。
…いや、どうかそうであってほしい。

話が出来そうな乗客に、今回の人魚の噂について聞いてみよう。
神社の曰くが分かれば、出来る対策もあるかもしれない。
食堂車で良い葡萄酒を買い、話の肴に噂話でもと持ち掛ける。
俺の話が下手でも、酒と車窓の景色は上手く間を取り持ってくれるだろう。
到着するまで、出来る限り情報収集しよう。


<アドリブ改変連携歓迎>



●人喰いの話
 線路上を走る蒸気機関車。
 時折、がたごとと揺れる車内は落ち着いた雰囲気に包まれていた。
「神社の池に住まう人魚、か」
 鬼灯原・孤檻(刀振るう神・f18243)は此度の影朧について考えを巡らせていく。
 帝都から遥か遠い場所。寂れて忘れ去られかけた誰も訪れぬような神社に現れた人魚。其処には何か、言い表せぬ物悲しさを感じた。
 ヒトと人魚には悲しい話が付き纏う。
 たとえば悲恋。
 届かぬ感情や実らぬ想いが連想されることも多い。また、美しさや謂れ故に付け狙われる存在でもある。
 件の人魚にも何らかの哀しき出来事があったのだろうか。
 孤檻はかの影朧を思い、流れゆく車窓の景色をぼんやりと眺めた。
「影朧ならば――その心を癒すことが出来れば……悲しいだけの終わりにしないで済むかもしれない。……いや、」
 どうかそうであってほしい、と感じた孤檻は静かに決意する。
 救済の可能性があるのならば救いたい。
 そのためにも何か少しでも情報が欲しい所だ。そのように考えながら孤檻は座席車へと歩を進める。
 彼の手には今、食堂車で手に入れた葡萄酒がある。
 酒が飲めそうな乗客を探して、ふと目に留まったのは上品なスーツを身に纏った男性だった。向かいの席に腰を下ろした孤檻は一緒に飲まないかと勧めた。
「酒か。良いのかい?」
「ああ。話の肴に噂話でもどうだろうか」
 男は孤檻から葡萄酒を受け取り、それなら、と頷く。
 彼から聞けたのは人食いの美しい化け物の話。それが何であり、どういったものなのかは分からないが、桜の下で骨を抱く影の噂を聞いたことがあるというのだ。
 影はヒトを食らったいうのにその骨を愛しげに抱く。
 それがまた妙に美麗なものだから、更に恐怖や想像力を掻き立てるという。
「僕は怖い話が好きでねえ。こんなもので良かったかな?」
「……なるほど」
「はは、君は饒舌ではないようだね。しかしなかなかに聞き上手だよ」
 頷いた孤檻に男は笑みを向けた。
 例の人魚に関係のある噂かどうかは分からないが、神社の曰くに似ているように感じられた。孤檻は酌み交わす酒と車窓の景色が上手く間を取り持ってくれたと感じ、聞き出せた話を思い返す。
 それから暫し、男は孤檻に他愛もない話を続けた。
「知っているかい。数駅先にもふもふ天国という場所があってね――」
 その後に聞いた話は目的の情報ではなかったが、見知らぬ人とこうして過ごす時間も列車旅の醍醐味なのかもしれない。
 そんな風に思いながら、孤檻は暫し語られていく話に耳を傾けていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

李・蘭玲
人魚、祖国では絶世の美女で池沼で寡夫を養うのですが…
魚を食す文化ゆえの発想ですね

武器は旅行鞄【物を隠す】に詰めて【情報収集】を
メイド服は職業証明に充分ですから
聞き込み前にUCの蜂達を列車内全域に飛ばして盗聴させ、戻った子は一旦スカート内に待機させます

聞き込むなら乗務員が狙い目、特に女性の食堂乗務員さんなら気になる噂に聞き耳を立てていた可能性も高いですから

前置きに「お屋敷に戻った際、お嬢様に土産話を聴かせたいのですが」と【礼儀作法】【演技】で女中らしく振る舞います
嘘か真かは天眼で発汗、目の動き、呼吸の乱れ等を【情報収集】し分析すれば解ります
その後は座席車で蜂達を鞄の影に隠しつつ盗聴内容を伺います



●穏やかな旅を
 人魚。即ち、海人魚とも呼ばれる存在。
 李・蘭玲(老巧なる狂拳・f07136)の祖国では、それは絶世の美女であり池沼で寡夫を養うと云われているもの。
 それゆえに蘭玲にとって此度の人魚の存在は少し不思議に思えた。
 魚を食す文化ゆえの発想だろうかと考え、彼女は車内を歩いてゆく。
 旅行鞄には武器を詰め、メイド服姿で進む蘭玲の姿は凛としていた。まるで主の使いで此処に訪れているような雰囲気だ。
 これで職業や目的の証明は語らずとも分かる。
 席を探しているような素振りを見せながら蘭玲は車内を移動する。同時に妖蜂達を列車内全域に飛ばして様子を探っていた。
 それだけではなく、蘭玲は自らも聞き込みに向かっていく。
「情報が集まる場所や人というと、そうですね」
 狙い目だと考えたのは乗務員。特に女性の食堂車担当員ならば、その性質から気になる噂を聞いたり覚えたりしている可能性も高い。そのように分析して食堂車に向かうことにした蘭玲は、なかでも愛想の良さそうな乗務員に近付く。
「いらっしゃいませ! 何かご注文ですか?」
 キレイなメイドさんだ、と少しはしゃいだ様子でにこやかに微笑んだ女性乗務員。彼女に対し、いいえ、と首を振った蘭玲は話が聞きたいのだと伝えた。
「お屋敷に戻った際、お嬢様に土産話を聴かせたいのですが」
 礼儀作法で女中らしく振る舞った蘭玲はじっと乗務員を見つめる。
「ええと、お食事ではなくてお土産話ですか? うーん、何かあったでしょうか。そうです、美味しいおまんじゅうが売っている温泉郷のお話はどうでしょうか!」
「温泉、ですか」
「お気に召しませんか? じゃあ車内販売の絶品アイスクリンのお話は?」
 乗務員は土産話と聞いて楽しい話を求められていると感じたらしく、自分が考え得る限りの甘味や食事処の話を次々と語っていく。
 嘘か真かを見るまでもない。乗務員は蘭玲の語ったお嬢様のために全力で蘭玲に美味しいもの情報を語っていく。目的の情報ではないのだが、こちらを思って一生懸命に話してくれる彼女の言葉を無下には出来なかった。
「お話、とても楽しかったですよ。ありがとうございました」
「はーい、次はお食事もどうぞー!」
 蘭玲は暫し話を聞いた後、礼を告げて客席に引き上げていった。
 そうして蘭玲は戻ってきた蜂達をスカートの中や鞄の影に隠しつつ、盗聴内容を聞いていく。だが、集まったのは他愛ない日常会話ばかり。
 旅の行先の話。次の停車が楽しみだという会話。
 どれもが家族や友人などと過ごす際の穏やかな言葉だった。
(……気を張りすぎたのかもしれませんね)
 此処は平穏な列車内。
 嘘を見抜く力も演技も、盗聴も必要はない。素直に人魚や件の駅付近の話を問うていたら、誰かから何かを聞き出せたかもしれない。
 蘭玲はそっと肩を竦める仕草をした後、外の景色を眺めた。
 幻朧桜と街の灯。
 移り変わる光景を眺めながら和やかに話し、乗客や乗務員と会話を楽しむ心算で情報を集める。此処ではきっとそんな行動が相応しかった。少し時間が経ったら他の猟兵が聞いた情報を妖蜂達が集めてくれるだろう。
 未だ情報は得られずとも穏やかな時間が此処にある。
 そうして蘭玲は暫し、車窓から見える風景を眼鏡の奥の瞳に映していた。
 

苦戦 🔵​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
【情報収集】
哀しい事です
悪しき欲望に誰かが涙するのも
その涙が新たな血を呼ぶのも
せめて出来うる限りの穏やかな終わりを齎せれば良いのですが

それは兎も角、客車に入れませんね…(2.8m)

貨物扱いで乗せてもらい、UCの妖精ロボを客車で動かせないか●礼儀作法で乗務員に交渉

妖精ロボ達を遠隔●操縦し●ハッキングでロボのスピーカーを操作

人魚池について尋ねられる機会は乗務員もあるでしょうが、それよりも猟兵以外でそれを調べている人間…民俗学か探偵業か…が珍しい情報を掴んでいるやも

車内の会話を●情報収集
「身体が不自由なのでハイカラさんの機械を使って観光している」等と説明しつつ会話に混ざり転生に役立てそうな情報を調査



●人魚と神主の話
 哀しいことだ。
 悪しき欲望に誰かが涙するのも、その涙が新たな血を呼ぶのも――。
「せめて出来うる限りの穏やかな終わりを齎せれば良いのですが」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は影朧が齎す未来を思い、己が抱く思いを言葉にした。
 現在、彼がいるのは貨物を乗せる車両。
 トリテレイアのサイズでは客車に乗れたとしても横向き。つまり人間用に作られている座席車には入れないという状態になっている。
「狭い場所で申し訳ないね」
「いいえ。この体で乗り込めただけで十分です」
 彼の傍には貨物管理の乗務員が立っていた。猟兵という大切な客だというのに貨物扱いであることに謝罪をしてくれたのだが、トリテレイアがそのことを気にする様子はない。寧ろ乗務員がこうして話し相手になってくれるのも助かる。
 それに今、トリテレイアは妖精型偵察ロボを各車両に配置している。
 貨物車では窓が見えないので自分の代わりに客車においておきたいと願った交渉はあっさりと受け入れられた。猟兵である以上、存在自体が不利になることは決してないのが有り難い。特にこういった平穏な場ではそれらしい嘘をつく必要も、建前を並べることもしなくて良い。
 妖精ロボ達を遠隔操縦している彼はスピーカーを操作して喋ることが出来る。
(猟兵以外で神社や池を調べている人間……民俗学か探偵業か……珍しい情報を掴んでいる人はいないでしょうか)
 そう考えて車内を見回っていくトリテレイアだが、都合よくは見つからない。
 向かう先はただの廃神社。
 其処を調べる人間も皆無ではないだろうが、偶然に此処に乗車している可能性は限りなく低い。そうなればやはり付近の駅をよく知る乗務員に聞くしかないだろうか。
 妖精ロボのスピーカーを通して通りかかった車掌や客に神社について聞いてみたが、なかなかこれといった収穫はない。
 ただ、声をかける誰もが快く質問に答えてくれた。
「知らないことを申し訳なく思うことはないのに……優しい人達ですね」
 トリテレイアがそう呟くと、貨物乗務員が声を掛けてくる。
「なんだ、あの人魚の神社の話について調べてるのかい? 俺に聞いてくれればよかったのに。こう見えて俺は神社仏閣巡りが好きでね」
「なんと。では聞かせて頂いても?」
 灯台もと暗しとはこういうことか。トリテレイアは自分の傍についてくれていた彼が一番の情報源だと気付いた。
 そして、伝えられたのは神社の池には人魚が棲んでいた逸話があること。
 どうやら神主が傷ついた人魚を救い、仲睦まじく暮らしたという話があるらしい。
「成程、そういうことですか」
 トリテレイアは情報をくれた乗務員に礼を告げ、暫し考える。
 この話が今回の影朧に関係があるのかはまだ分からない。それでも一歩だけ踏み込めた気がして、トリテレイアは戦いへの決意を抱いた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

雨野・雲珠
初めての汽車にそわそわして
意味もなく車内を一周しますが、
自戒して自席に戻ります。
わあ速い。窓の外の景色が飛ぶように、

…ンン。

影朧人魚ってふしぎな響きですね。
人魚の影朧?
影朧が人魚になった?

本当に人魚という種族がいる…いたのか、
非業の死を遂げた魂が変容したのか、
伝説が凝って影朧化したのか…
ちゃんとお名前があることも気になります。
綺麗なお名前は自称なのか他称なのか…

そのあたりを把握するためにも
廃神社の背景が知りたいです。
縁起や本来の御祭神、廃れた理由や土地の歴史。

俺自身が神社生まれの桜なので、
廃れてしまった理由が気になって…と
近くの方に世間話を交えてそれとなく話を振ります。
あ、よかったら飴どうぞ。



●人魚のお守りの話
 初めての汽車。
 揺れる車内と車窓から見える景色。
 雨野・雲珠(慚愧・f22865)はそわそわした気持ちを抑えられずに汽車内をゆっくり歩き回ってみた。特に意味があった行動ではないが、車内を一周している間はとてもわくわくしていた。
 座席車は向かい合った席が楽しげで、展望車は広い窓が印象的だった。食堂車からはとても良い香りが――と考えた所ではっとした雲珠。席に戻った彼は大人しくしていようと己を律した。
「わあ速い。窓の外の景色が飛ぶように……ンン」
 また思考が列車の旅に向きそうになり、雲珠は首を横に振る。
 そして此度の影朧について考えてゆく。
 影朧人魚。
「ふしぎな響きですね。人魚の影朧? 影朧が人魚になった?」
 首を傾げた雲珠は遠くの景色の中に見える幻朧桜を瞳に映しながら思う。
 本当に人魚がいたのか。
 非業の死を遂げた魂が変容したのか。それとも、伝説が凝って影朧化したのか。それを少しでも紐解ければと思い、雲珠は廃神社の背景が知りたいと願った。
 もし影朧と神社の間に直接の関係がなく、ただ似たよすがを辿って顕現しただけの存在だとしても――。
 縁起や本来の御祭神、廃れた理由や土地の歴史。
 そういったことの知識を得ることは無駄ではないはず。
 雲珠は人の良さそうな老婆が近くに座っていることに気が付いて其方に向かった。向かい側の席に座っても良いかと問うと、彼女は優しく微笑んだ。
「おやまあ、この婆の話し相手になってくれるのかい?」
「宜しければぜひ。あ、よかったら飴どうぞ」
「ふふ、じゃあ私からは蜜柑をあげようかねえ」
 おいで、と前の席を示された雲珠はお近付きの印に飴を渡す。すると彼女は甘いよと告げて蜜柑を渡し返した。
 それから暫し二人はゆるゆると会話をしていく。
 その中で雲珠は自身が神社生まれの桜なのだと告げて、この線路の先にある廃神社が廃れた理由が気になるのだと話した。
「そうだねえ、あそこは確か後継者がいなくなったのだったかね……。今でも続いていたなら孫にお守りを買ってあげたかったんだけどねえ」
「お守り、ですか?」
「人魚の鱗を模した模様の布で作られた美しいものだったよ」
 ほら、と老婆は懐から古びたお守りを取り出した。それは宵の彩のように美しい藍色をしている。其処に桜の刺繍が施してあり、とても儚げに思えた。
 彼女からはそれ以上の情報は得られなかったが、例の神社に関わっているものの片鱗が見えた気がする。鱗模様のお守りが作られるということは、何らかの形で人魚の存在が大切にされていたということだ。
(人魚に纏わる何か……言い伝えか伝説があった?)
 雲珠は考え込み、もう少し調べてみようと考える。そうしている間に老婆がもうひとつ蜜柑を取り出し、お食べ、と渡してくれた。
「ありがとうございます」
 礼を告げた雲珠はそれを受け取り、空に舞う桜を思わせる双眸をそっと細める。
 気になることはあれど今このひとときだけは汽車の旅を楽しもう。そう感じた雲珠は丁寧に剥いた蜜柑を一房、口に放り込んだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

依神・零奈
人魚の不死伝説……人間はどの世界でも変わらないね。愚かで弱い癖にそれでもどこか……ま、今は関係ない事か。人魚にとっては災難な話だけれど私は自分の役目を果たすだけ

せっかくの夜汽車、ゆっくりしたい所だけれどここは【情報収集】に集中して動いていこう。目的地は展望車、好奇心旺盛な人が集まりやすそうだしね
まずは乗務員に人魚伝説の大まかなあらすじについて聞いてみようか。他はこういった伝説にありがちな同じ話でありながら結末が違うそういった類の話についても訪ねてみよう。もしこの話に興味を示す乗客がいたならそっちに詳しい話を聞いてみる事にする。



●廃神社と神主の話
 人魚の不死伝説。
 何処ででも聞くような話を思い、車窓から見える景色を眺める。
「……人間はどの世界でも変わらないね」
 依神・零奈(忘れ去られた信仰・f16925)は瞳に夜の景色を映しながら、軽く肩を竦めた。人は愚かで弱い。その癖にそれでもどこか――。
「ま、今は関係ない事か」
 考えが別の方向に巡りそうになったことに気付き、零奈は歩き出す。
 座席車から先の車両の方に進む中、窓の向こう側には過ぎゆく景色が流れていた。この線路の遥か先に影朧が現れた神社がある。
 件の人魚にとっては災難な話だが、零奈はただ自分の役目を果たすだけ。
 夜汽車に乗る機会はなかなかない。
 せっかくだからゆっくりしたい所でもあるが、ここは情報収集を行いたい。そう考えた零奈は人が集まりやすいであろう展望車を目指す。
 適当な席についた零奈は辺りを見渡した。すると乗務員が立っている姿が見え、零奈は彼を呼んでみる。
「はい、どうかしましたか」
「人魚伝説って知ってる?」
「ああ、停車駅近くの神社のお話ですね。おおまかですが聞いたことがありますよ」
 そう答えた乗務員に、聞かせて、と話した零奈。
 あまり詳しくありませんが、と前置きをした乗務員は語り始める。
 件の神社の池には人魚が棲んでいた。
 美しい人魚は神主を慕い、彼も人魚を可愛がった。だが、いつしか人魚も神主も姿を消してしまった。
「――それがもう随分前のことらしいですね」
「……そう」
 零奈は乗務員に礼を告げ、今回の人魚と関係ある話なのかどうか考える。
 こういった伝説にありがちな、同じ話でありながら結末が違うそういった類の話についても訪ねてみる。しかし、乗務員はそれ以上は知らないらしい。
 すると二人の話を聞いていた別の乗客が話しかけてきた。
「その神社の話なら知ってるよ」
 展望車には好奇心旺盛な人が集まりやすそうだと考えた予想は当たっており、零奈はそちらの乗客に話を聞いてみることにした。
「人魚と一緒に神主がいなくなったって話だが、十数年前まで神社は続いてたからなあ。ま、伝説はただの伝説さ。寂れたのも普通に後継者がいなかっただけらしいぜ」
「なるほどね」
 零奈は頷き、彼にも礼を告げる。
 夜も更けてきた。ひとまずは車内で聞ける情報はこれくらいだろうか。そう感じた零奈はふと車窓から見える夜の景色を見つめる。
 先程の話を聞いたからだろうか。
 夜空の下で幻朧桜が舞い散る光景は何だか不思議と物悲しく思えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬断・彩萌
●WIZ
へぇ~展望車。折角だから影朧桜の景色を眺めようかしら。
淡いピンクがとっても綺麗……ふふ、友達の髪を思い出しちゃった。綺麗なピンク色で、どっちも負けてない色鮮やかさね。

それにしても――サクラミラージュって不思議なところね。あまり来たことないけど、今度普通に観光にでも来ようかしら。
その時は誰か一緒に連れてきたいものだけど。ふふっ、困ったことに連れてきたい子がいっぱいいて選べないわ。これは何回かにわけないとダメかもね。
そうしたら、サクラの思い出を沢山作りたいな。桜並木を歩いたり、夜桜を楽しんだり、桜餅を食べたり。
現実世界の桜じゃ全然足りない時間を、此処は提供してくれるんだわ。

アドリブ歓迎



●桜の記憶
「へぇ~、ここが展望車」
 斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)は今、広く作られた窓の前に立っていた。発車した列車は時折ガタゴトと揺れている。
 その揺れもまた何処か心地好く思えて、彩萌は暫しその身を委ねていた。
「折角だから影朧桜の景色を眺めようかしら」
 そしてゆっくりと席に腰を下ろす。
 窓辺からは流れていく景色がよく見え、まるで特等席にいるかのよう。
「淡いピンクがとっても綺麗……ふふ」
 思わず口元が緩んだのは幻朧桜の淡い色から友達の髪を思い出したから。綺麗なピンク色でどちらも負けていない色鮮やかさが綺麗だ。
 線路脇に咲く樹の隣を列車が通った時、その花弁がふわりと舞った。その光景もまた幻想的な一幕のように感じられて彩萌は緩やかに双眸を細める。
「それにしても――サクラミラージュって不思議なところね」
 帝都から出発して暫く。
 どの平野や山にも美しい幻朧桜が咲いていた。過ぎゆく景色の中にはたくさんの建物や景色があり、彩萌は興味を示す。
 今度は普通に観光に来ようと決めながら彩萌は景色を眺め続けた。
 移り変わる景色。文字通りに目移りするくらいに気になるところがたくさんだ。
 誰と来ようか。何処に行こうか。
 それを考えるだけでもとても楽しくなってきた。
「ふふっ、困ったことに連れてきたい子がいっぱいいて選べないわ。これは何回かにわけないとダメかもね」
 くすりと笑った彩萌は親しい人々の顔を思い浮かべる。
 皆を誘って出かけたら、サクラの思い出を沢山作っていきたい。車窓から見えた桜並木を歩いたり、夜桜を楽しんだり、桜餅を食べたりとやりたいことは多い。
 元の世界ではたったひとときの桜の時期。
 けれどこの世界ではずっと桜が咲き続けている。
「そうね、きっと……全然足りない時間を、此処は提供してくれるんだわ」
 車窓から景色を瞳に焼き付けるように彩萌は外を見つめ続ける。はらはらと舞う桜の花はまるで自分を歓迎してくれているかのようで、穏やかな心地が満ちていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

祝・誘
【汽車の旅を楽しむ】
廃神社の白鴉に人を喰む人魚
彼女等の事も気にはなるが……
一先ず、初めての機関車を楽しみたい

食堂車に展望車に座席車…色んな場所が在るのだな
見た事も乗った事もないから、全てに心躍る

先ずは食堂車で洋食を
……洋食を食した事があまりなく
メニューを見ても、よく分からない
オススメをお願いして、舌鼓を打つ

食事に満足したら次は展望車に
赤と白が混じる山と影朧桜が咲く景色は中々に幻想的で
四季が入り交じった世界に不思議な感覚に陥る

初めて此の世界を訪れたが
幻想的で、良い処だな
転生が出来るという、概念も含めて



●桜幻想の景色
 廃神社の白鴉に人を喰む人魚。
 影朧であるそれらのことも気にはなるが――。
「成程、これは凄いな」
 祝・誘(福音・f23614)の気持ちは今、初めての蒸気機関車に向いていた。
 影朧に対峙しにいく目的があるとはいえど到着までは随分と時間がある。考えすぎても良くないのだということは分かっているし、何よりもこの乗り物への興味が勝っていた。
 食堂車に展望車、座席車。
「……色んな場所が在るのだな」
 発車した列車内をひとつずつ、ゆっくりと見て回った誘は大いに感心していた。
 機関車などこれまで見たことも乗ったこともなかったものだから、見るものすべてに心が躍るというもの。
 大きな窓の展望車を抜けた先からは良い香りが漂っていた。
 先ずは食堂車で洋食を味わうべきだろうか。そう考えた誘は好奇心の赴くままに食事にすることにした。
 案内された席は白のテーブルクロスが敷かれていて上品な雰囲気だ。
 渡されたメニューをひらいた誘はじっと内容を見つめる。
 ビーフシチュウにライスコロッケ。
 デミグラスオムライスにハヤシライス。
「よく分からないな……」
 洋食を口にしたことがあまりない誘は文字を読んでもどれがどんな食べ物であるのか理解できないでいた。
「ご注文にお悩みですか? でしたら、オムライスがおすすめですよ!」
 すると食堂車の乗務員がにこやかに話しかけてくる。顔を上げた誘が、ではそれで、と注文して暫く。
「これは美味いな。卵がふわりとしていて……うん」
 スプーンを少しぎこちなく使いながら誘は舌鼓を打つ。
 そうして一先ずの食事を楽しんだ誘は先程の卵のようにふわふわとした気持ちを覚えながら、展望車に向かった。
 最初に通ってきた時も思ったが、この車両からの眺めは素晴らしい。
 紅葉の赤と山頂の白雪の彩が混じる山。
 その最中に幻朧桜が咲く景色。それらはとても美しく思えた。四季が入り交じった世界に不思議な感覚をおぼえ、誘は双眸を細める。初めて訪れたこの世界はなかなか悪くないものだと感じられた。
「幻想的で、良い処だな」
 そう、転生が出来るという概念も含めて――。
 かの人魚はただ倒すべき相手ではない。そのように感じながら、誘は移りゆく車窓の景色を眺めていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧城・ちさ
【汽車の旅を楽しむ】でいきますわっ
神社に行く前にせっかくですし汽車の旅を楽しみますの
見晴らしのいい場所を探して風景を楽しみますわね
来たことがない場所を眺めるのも楽しいですわっ
写真も撮っておきたいですわね
でも汽車に乗ったままだと難しそうですの

一通り眺めましたら移動販売の方が何を売ってるか見せてもらいますわね
こういうのやってみたかったので楽しみですわっ

名物とかも気になりますし甘いものもあったら欲しいですわね
でも全部は食べられませんし何にしようか悩みますの

アドリブや他の方との連携なども大丈夫ですわっ



●甘やかなるアイスクリン
 人魚が現れた廃神社。
 この列車が通る線路の先にある神社も気になるが例の駅に着くまではまだまだたっぷり時間がある。辿り着いていない場所を気にするよりも、今は存分に汽車の旅を楽しむ方が良い。
「せっかくですもの、景色を眺めながら参りましょう」
 夜も明けて暖かな陽射しが降り注ぎ始めた頃、霧城・ちさ(夢見るお嬢様・f05540)は展望車へと向かう。
 先程まで通ってきた客車よりも展望車の窓は広く、外の景色が大きく見えた。
「ここが見晴らしがよさそうですわっ」
 ちさは桜の彩のような淡い色の瞳を楽しげに瞬きながらちょこんと席に座る。展望を楽しめる場所だけあって座席はふかふかして心地好い。
 通り過ぎていく景色。
 街や川辺、遠くの山々。其処には数多の幻朧桜が咲いている。
 紅葉と桜。そして緑。
 通りかかった街の様子も車窓から見ると何だか新鮮に思えた。
「来たことがない場所を眺めるのも楽しいですの」
 ふふ、と穏やかに微笑んだちさは窓の向こう側の風景を写真に収めてみようと試みる。幻朧桜と紅葉を両方同時に撮ってみようとするが、蒸気機関車が動いているのでどうしてもぶれてしまう。
「ううん、なかなか難しいですわっ」
 苦戦しているところで車内にアナウンスが流れる。どうやら次の停車駅が近く、暫し其処に停まっていることを報せる放送のようだ。
 これは景色を撮るチャンスだと感じたちさは停車するときを楽しみに待つ。
 しかし、もう暫し時間がある。
 そのとき通路の向こう側から移動販売の台車を引く乗務員がやってきた。何を売っているのか気になったちさは、はい、と片手を上げて販売員を呼んだ。
「おすすめのものはありますか?」
「そうですね、お嬢さんのような上品そうな方でしたらカステイラやアイスクリンなどは如何でしょうか。このあたりの駅の名物饅頭も取り揃えておりますよ」
「アイスクリン! ではそちらに致しますわっ」
 ぱっと目を輝かせたちさはアイスを頼むことにした。小さな紙の器に盛られたバニラが香るアイスクリンは昔懐かしい雰囲気がする。
 いただきます、とスプーンを手にして一口分のアイスを頬張るちさ。
「んん……美味しいですの」
 こういった車内で食べるからだろうか。特別なものではないというのにとても美味に感じられた。ちさはゆっくりと味わうようにアイスを食べ――そして、気付く。
「大変ですわ。写真を取り忘れておりましたのっ」
 アイスに夢中になっている間に駅から列車が発進してしまった。
 けれどもまだまだ停車駅は多いらしい。景色を収めるのは次の駅からにしようと決め、ちさは目の前のアイスクリンへと意識を向けた。
 桜に紅葉に車窓の風景。そして甘いもの。
 ちいさな幸せが此処に揃っているような、そんな甘やかな気分が満ちていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
この国ァこの箱であちこち行くんだなぁ
さぁさこいつも二度目だ、慣れたもんよ

旅の楽しみといやぁ景色と食事
てなもんで、以前に卵とぱんとやらは食ったが、今回は何が食えるかね
とっときのを出しつくんねェ
食べ方ァ…そこいらで聞いてどうとでもならぁ

食ったら出て来た食事を手控えしよう
最近の楽しみサ
何れ纏めて指南書にするのも良さそうだ
…手順なんぞは、誰ぞが何とかしやるだろ

後ァ風景を肴に一服
年中桜が咲きやがるなァ、紅葉も雪もお構いなしか
今時分江戸ァ雪ん中だ
一足早ェ春の欠片、楽しんだって罰ァあたらねェはずだゼ

…八百比丘尼てェ噺もあるが
そいつの元は何だったのか
輪廻の先に何があるのか…
煙と花弁の幕に、ふと想っただけサ



●旅を彩るもの
 黒い車体に煙突から登る灰色の煙。
 独特の雰囲気を持つ蒸気機関車も、菱川・彌三八(彌栄・f12195)から見れば不可思議な鉄の箱のように思える。
「この国ァこの箱であちこち行くんだなぁ」
 桜と幻想の国の移動手段に感心しながら彌三八は列車に乗り込んだ。
 木造りの落ち着いた車内は穏やかだ。
「さぁさこいつも二度目だ、慣れたもんよ」
 車窓から見る景色は次々と流れていき、出発した帝都の街が遥か遠くになっていた。
 速いもんだと感じつつ彌三八は車内に目を向ける。旅の楽しみといえば景色と食事。車両を確かめた彼は食堂車の方へと歩いていった。
「以前に卵とぱんとやらは食ったが、今回は何が食えるかね」
 期待を抱いた彌三八は案内された席につく。
 動く景色が見える座席は何だか新鮮だ。机には品書きが置いてあったが、見ても何がどんな料理であるかは判断がつかなかった。
 和食であれば分かるが、此処の品は殆どが洋食。
 彌三八はひょいと手をあげて食堂の乗務員を呼ぶ。どれにしますか、と問いかけられたが彼は品書きを置き、お勧めの物が欲しいと願った。
「とっときのを出しつくんねェ」
「でしたらシチュードビーフなど如何でしょうか」
「びーふ……牛かね。じゃあそれで」
 恙無く注文を済ませた彌三八は食事が運ばれてくるまで外の景色を眺める。幻朧桜が咲き誇る街景色。散り始めた紅葉に、山頂に雪化粧をしはじめた山々。
 それらを見ている間に席に熱々のシチューが運ばれてきた。
 添えられていたのはスプーン。
 成程、と頷いてそれを手に取った彌三八はゆっくりと一口目を味わってみる。
「こいつァなかなか」
 美味い、と口にした彼はシチューの皿の横に添えられていたパンに目を向けた。これを浸して食べればいいと運んできた乗務員は言っていたか。教えられた通りに食べてみると新たな味わいが感じられた。
 手控えしておこうと感じた彌三八は薄く笑む。
 これは最近の楽しみ。何れ纏めて指南書にするのも良さそうだと感じながら、彌三八は食事と景色を同時に満喫していく。
「年中桜が咲きやがるなァ、紅葉も雪もお構いなしか」
 風景を肴に一服。
 紅葉と雪と桜が並ぶのは何だか不思議だ。
「今時分江戸ァ雪ん中だ。一足早ェ春の欠片、楽しんだって罰ァあたらねェはずだゼ」
 そんな中で彼は人魚についてふと考える。
 不老不死となれば八百比丘尼という噺もあるが其の元は何だったのか。
 そして輪廻の先に何があるのか――。煙と花弁の幕の最中、ふと浮かんだ想いは遠く、遥かな線路の先に向けられていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

樹神・桜雪
【汽車の旅を楽しむ】
※絡み・アドリブ歓迎

せっかくの機会だもの。楽しまなくちゃ。

温かい飲み物を持ち込めるなら、先に食堂車で温かいスープを買ってから展望車へ。


影朧桜がすごく綺麗。綺麗すぎて少し怖い。
記憶は戻らないけど『今のボク』が持つ思い出は少しずつ増えてきていて不思議な感じがする。
思い出が沢山増えたらボクは少しは変わるの…かな。
そんな事を考えながらぼんやりと景色を楽しんでるよ。
でもいろいろ考えてたらお腹すいちゃった。食堂車いこう。

食堂車に移動する前にUCで相棒も呼んでおくね。べ、別に一人旅が寂しくなったわけじゃないんだから
ちょっと独り言を聞いてくれる相手が欲しかっただけなんだよ。



●思い出と記憶
 穏やかな夜の色の中に蒸気が流れていく様が窓辺から見えた。
 硝子の窓に手を当てて夜空を振り仰ぐ。出発した蒸気機関車は徐々に速さを増していき、最初に見えた星の光が次第に遠くなっていった。
 樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)はその景色を見た後に食堂車に向かう。
 其処で購入した温かいスープをカップに入れて貰い、次は展望車へ。
「……綺麗」
 座席車と比べて窓が広く作られている車内からは空も景色もよく見える。
 特に様々な場所に咲いている幻朧桜はすごく美しいと感じられた。
「でも、綺麗すぎて少し怖いな」
 ちいさく呟いた桜雪は寒さを感じてスープを飲む。こくりと喉を通っていく温かさが怖さを少しだけ和らげてくれた気がした。
 そうして桜雪は車窓からの景色を眺めていく。
 思うのは自分の記憶のこと。
 過去の思い出は戻らない。けれど『今の自分』が持つ思い出は少しずつ増えている。過去がないことで自分には何もないと感じていたのに、何だか不思議な感じがした。
(――思い出が沢山増えたら、ボクは少しは変わるの……かな)
 記憶を増やしていくこと。
 それはまるで真っ白な雪の上に足跡を刻んでいくかのよう。それもただの足跡ではなく、彩りを飾るような印象的なものだ。
 今、此処で見ている景色もきっと記憶のひとつになっていく。
 そんなことを考えながら桜雪はスープを口にした。そうしている内にいつしかカップが空っぽになってしまった。
「いろいろ考えてたらお腹すいちゃったな」
 食堂車にいこう、と立ち上がった桜雪はふと思い立つ。
 おいで、と声を掛けて呼んだのは相棒と呼ぶシマエナガ。ちゅちゅんと鳴いて肩に止まった相棒は桜雪を覗き込む。
「べ、別に一人旅が寂しくなったわけじゃないんだから」
 相棒が心配してくれているのだと感じた桜雪は首を横に振って見せた。ただ、ちょっと独り言を聞いてくれる相手が欲しかっただけ。
 すると相棒はぴょこんと桜雪の頭に乗った。
 大丈夫。傍にいるよ。
 相棒がそんな風に告げてくれている気がして、桜雪は薄く双眸を細める。
 列車旅まだまだ始まったばかり。桜雪は相棒と巡る旅の思い出がどんなものになるのかと考え、静かな思いを馳せてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
汽車の旅。
たまにはこうして揺られるのも良いだろう。
何か新しい案が思い浮かぶかもしれない。

昼下がりの汽車、流れる景色、食堂のライスカレー。
いかにも何か始まりそうな組み合わせだ。
辺りの一般人、たぶんあの女性が一番初めの被害者。
それを見つけるのは隣の男で、あの二人は不倫関係にある。
第二被害者はあの少女で、犯人は窓辺でこうして殺し方を考える普通の人だ。
彼はもしかすると文豪と呼ばれているかもしれない。

次から次に思い浮かぶ情景をメモしていたらライスカレーが冷めてしまったよ。
冷めても美味しいのだけれどね。
これから起こる事も知らず、ありふれた日常を過ごす。

嗚呼。……平和だね。



●汽笛が報せる密室殺人
 濛々と舞い上がる煙。
 流れて移りゆく車窓の景色。幕あけた汽車の旅は穏やかだ。
 時折鳴る汽笛の音に耳を澄ませた榎本・英(人である・f22898)は窓辺に軽く肘をかけ、ぼんやりと外の風景を眺めていた。
 列車が揺れるのは不思議と悪くない心地だ。
 たまにはこうして過ごすのも良いだろうと考えた英は次に書く推理小説のことを考えていた。今日、列車に乗り込んだのは何か新しい案が思い浮かぶかもしれないと思い至ったゆえ。
 既に時刻は昼間。
 英が座っているのは食堂車の一角。
 ざわめく客の声に、乗務員が注文を取る声。其処に次の停車駅まではまだ暫く掛かることを告げる車内アナウンスが鳴り響く。
 昼下がりの汽車、流れる景色、食堂のライスカレー。
 いかにも何か――事件が始まりそうな組み合わせだと感じた。
(そう、譬えば……)
 たぶん、あの文句ばかり言っている女性が一番初めの被害者。
 それを見つけるのは隣の男。
 あの二人は不倫関係にあり、複雑な背景があるに違いない。
 そして第二被害者はあの少女。
 その犯人は、窓辺でこうして殺し方を考える普通の人。その彼はもしかすると文豪と呼ばれているかもしれない。
 蒸気機関車内はいわば走る密室。そんな中で巡る不可解な連続殺人事件。
 トリックはこうで、アリバイの証明方法は。
 次から次に思い浮かぶ情景を手にした帳面に記していく英の手は暫く止まることがなかった。書く手が思考に追いつかないほどに、この空間は新しい案をくれる。
 客は次々入れ替わり、その度に登場人物が増えていく。
 気付けば目の前にあったライスカレーが冷めてしまっていた。はたとした英だが、表情を変えぬままスプーンを手に取る。
「まあ、冷めても美味しいのだけれどね」
 そういって一口。
 やはり予想していた通り味は良い。ただこれから起こる事も知らず、今はありふれた日常を過ごすだけ。小説の導入としては十分だ。
「嗚呼。……平和だね」
 英はぽつりと呟き、車窓からの風景を眺める。
 咲き誇る幻朧桜。
 遠くからでもよく分かる桜の彩を眺め、英は眼鏡の奥の瞳を静かに細めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

薬袋・布静
今回の原因に心当たりがある
思い過ごしであれと列車に揺られ
座席車で地元民らしき者達から情報収集

自分、薬剤を扱う商売してまして
その最中に妙な噂を耳にしたんですわ
なんや、この先にある神社で様々な噂あるらしいですやん
おもろって気になってしゃーないんっすわ

不老不死になれる〜とか、しろがらすさまやったかな…
そういった話を風景を楽しむ合間にお聞き出来たらええなっと
あんさん、なんか知りません?

漢方や万能薬などの交渉材料(誘惑&言いくるめ)を使い
他に何か役に立ちそうな情報がないか聞き出す

情報により確信へと変わった現状に自然と眉間に皺が寄る

あの人が心残りとして心配していた
人魚の成れの果てが件の人喰い人魚なのだと



●人喰い人魚の話
 此度の原因には心当たりがあった。
 思い過ごしであれと願いながら、薬袋・布静(毒喰み・f04350)は列車に揺られる。
 心に燻る思いの所為か、素直に景色を楽しむ気分にはなれなかった。
 それゆえに布静は裡に潜む感情を少しでも晴らそうとして、汽車内で情報を集めてみることにした。
 列車に乗り込んできた客は様々だ。
 人魚に鴉、神社。
 その言葉を出せば幾人かは件の場所を知っているだろう。そう読んだ布静は薬師としての仕事で培った愛想の良い笑みを浮かべ、車内の人々に聞き込みを行ってゆく。
 最初は天気や桜の話。
 他愛ない日常会話からはじめて乗客と仲良くなり、その最中に問う。
「自分、薬剤を扱う商売してまして、その最中に妙な噂を耳にしたんですわ」
「噂、というと?」
「なんや、この先にある神社で様々な噂あるらしいですやん。おもろって気になってしゃーないんっすわ」
「ああ、あの言い伝えのある場所だったか」
 今話している相手は書生風の細身の男だった。布静がそう話しただけで察したらしい彼はきっと何かを知っている。
 そのように判断した布静は話を進めていく。
「不老不死になれるとかやったかな……」
「そうだな、肉を喰らえば不老不死になれる――彼処にはそう謂われる人魚が居た……と聞いているな」
「それそれ。あんさん、なんか知りません?」
 そうして其処から男の知っている神社と人魚に纏わる話が語られていく。
 
 嘗て神社の裏の池には人魚が棲んでいた。
 当時の神主が海辺で傷ついた人魚を見つけて救けた後、其処に住み着いたらしい。神主は人魚を可愛がり、人魚も神主を好いていた。
 人魚は人の子が好きだった。だが、人間の恐ろしさも知っていた。
 あの肉は美味だ。
 喰らえば不老不死になれる。
 いつからかそんな噂が聞こえてきたからだ。
 噂は次第に広まり、人魚を手に入れたいという人間が多く訪れた。神主はそういった人々を退けて人魚を守った。人魚も神主を信じて敬愛を抱いていた。
 だが、或日。
 件の噂を思い出した神主が人魚の前でふとした疑問を零す。
『お前の肉は本当に美味いのだろうか』
 それは神主にとって何気ない一言だったのかもしれない。
 だが、人魚は猜疑心を抱いた。
 ああ、彼もまた自分を喰べようとしているのか。今までの優しさは騙すための嘘だったのだろうか。海に居た時と同じだ。自分を偽りの優しさで騙し、喰らおうとして傷つけた人間と同じなのだ。
 好きだったのに。否、今も好きだ。人の子は愛おしい。
 けれども喰らわれたくない。死にたくない。
 人魚がそう感じたときにはもう、これまでの穏やかな日々のすべてが壊れていた。
 
「――そして人魚は自分を守るために人を喰べた、とさ」
 男の話が終わった時、布静は眉を顰めた。
 そんな人魚の言い伝えがある神社に顕現した影朧。
 神社に纏わる物語が事実であるのか、ただの作り話であるかは分からないが、確かに其処に人魚はいるのだ。
 おおきに、と男に告げた布静は其処から離れ、静かな席にひとり腰を下ろした。
 心残りとしてあの人が心配していた人魚の成れの果て。
 あの人から聞いていた話と違って、もし存在が変容していたとしても――。
 彼処にいるのは件の人喰い人魚だ。
 憂いが確信へと変わった現状。布静の眉間に寄った皺は更に深まる。
 布静は未だ遠く先にある神社に思いを馳せ、暫しじっと車窓の景色を眺めていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

朽守・カスカ
朽ちた神社を守るカラスに、人ならぬ身で人を好む人魚、か
…全く、勝手にシンパシーを感じてしまう、な

夜汽車に牽かれて、移ろう景色、色付く山々も気にはなれど
これより先に、待ち構えているもののために気も漫ろになる

叶うならば、車掌にでも人魚の話を尋ねてみよう
裏切られたのか、哀しみに満ちた出来事があったのか
それとも、人が好きだという人魚がいたのか
何処かに、優しい思い出があれば、よいのだけど

ああ、でも仕事の邪魔にはならないように
気を付けねば、ね



●ひとを愛するもの
 朽ちた神社を守るカラス。
 そして、人ならぬ身で人を好む人魚。
 向かう先に待つもの達について考えながら、汽車からの風景を眺める。
 朽守・カスカ(灯台守・f00170)は車窓越しに見える景色をぼんやりと見つめ、ひやりと冷たい硝子に掌を添えた。
「……全く、勝手にシンパシーを感じてしまう、な」
 遠くの桜を眺める最中、硝子に映った透き通った自分の姿も薄っすらと見える。
 神社と灯台。
 場所や境遇は違っても、朽ちたものを守ることの意味は分かっているつもりだ。更にその奥に待つものが人に愛しさを抱いているというのならば殊更に。
 夜汽車に牽かれて、移ろう景色。
 山裾に咲く幻朧桜。紅葉に色付く山々。その頂に薄らと積もる白い雪。
 季節の流れや花の色は気にはなれど、やはり心を占めるのは神社のこと。これより先に、待ち構えているものが気も漫ろにさせているのだと自分でも分かっている。
 裏切られたのか、哀しみに満ちた出来事があったのか。
 人が好きだという人魚がいたのか。
 人魚は、どのような思いを抱いていたのだろう。
(何処かに、優しい思い出があれば、よいのだけど――)
 思いを巡らせたカスカは暫し車窓の景色を見つめた後、そっと立ち上がった。
 向かう先は切符の点検を終えた車掌のもと。
 この線路を幾度も行き来している彼ならば、何か停車駅近くのことも知っているかもしれない。そう考えて話を聞きにいくことにしたのだ。
「ああ、あの神社だね」
 今日はよく聞かれるなあ、とカスカから問いかけに答えた車掌は向こうの人がよく知っているらしいと言って客席に座る書生風の男を指差した。
 何でも、先程に誰かと彼が話しているのが聞こえてきたらしい。
 カスカは車掌に礼を告げ、男のもとへ向かう。
 其処で聞くことが出来たのは喰らえば不老不死になれると噂された人魚のこと。
 池に棲んでいた人魚は大切にされていた。神社が続いていた頃は人魚の鱗を模した布地のお守りが作られていたらしい。
「そう、か……」
 その話を聞いたカスカは、少しだけほっとする。
 肉を喰らえば、という噂があった所為で酷いことがあったのは予想できる。だが、ひとときでも大切にされていたのならば――。
 そのことが直接の救いに繋がるわけではないが、きっと何かの切欠になる。
 そう感じたカスカは男に話への礼を告げて自席へと戻っていく。
 窓の向こう側には幻朧桜が美しく様が見えた。
 風を受けてはらりと散った桜は不思議と、やさしいもののように思えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
使徒として責を果たすため…とは言っても。
物理的に遠いのはどうしようもありませんね。
汽車に揺られ、しばしの休息といたしましょう。

仕事は仕事ですから、一応今回導くべき哀れな魂のお話を伺いましょう。
それとは別に、ぼんやり物思いに耽るのもいいでしょう。
こう夜空を見ていると、つい先日導いた方を思い出してしまいます。
彼女もまた我らと志を近くしたもの。
操られることがなければ、もう少しお話してみたかったものですが…
彼女は既に楽園へと導かれた身、その幸福を願うのが使徒の務めでしょう。

夜闇に映える影朧桜に癒されるもいいでしょう。
この世界は哀れな魂を癒し救う方々が多いのです…
我々と、志も近いのでしょう。



●櫻に抱く志
 己は導き手。
 使徒として責を果たすために一路、哀しき白烏と人魚の元へ。
「……とは言っても、物理的に遠いのはどうしようもありませんね」
 発車のベルに見送られて出発した汽車の中、ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)は窓辺を見遣る。
 流れていく景色。
 蒸気機関車が徐々に速度を増していく度に風景は速く移り変わっていく。
 今は汽車に揺られてしばしの休息の時。
 そのように感じて客席でゆっくりしていたナターシャだが、やはり仕事は仕事。ついつい別の席から聞こえてきた人魚の話に耳を傾けてしまう。
 別の猟兵が誰かに聞き込みをしているのだろう。
 海で怪我をしていたところを神主に救われたという人魚が、かつて神社の池で暮らしていたという話が聞こえてきた。
 だが、人魚の肉が不老不死を齎すという噂が広がった後に二人とも何処かに消えてしまったという。
 その物語がただの伝説なのか、本当にあったことかは分からない。
 だが、それもまた導くべき哀れな魂の話。
 そうして大まかな情報を手に入れたナターシャはぼんやりと物思いに耽っていく。座席の背もたれに身体を預け、振り仰ぐのは夜空。
 深い夜空を見ていると、つい先日に導いた者を思い出してしまう。
 彼女もまた我らと志を近くしたもの。
「操られることがなければ、もう少しお話してみたかったものですが……」
 感じるのは僅かな名残惜しさ。
 似た意志を持っていた相手と、もう少しだけ言葉を交わしたかった。そう思うのはきっと悪いことではない。
 しかし彼女は既に楽園へと導かれた身。
 使徒として考えるならば、惜しむよりもその幸福を願うのが務めのはず。
 それからナターシャはこれまでに導いてきた者達について考えていく。流れていく夜の景色の中、夜闇に映える影朧桜。
 この世界に咲き誇るあの花は、何だか自分まで癒してくれているかのよう。
「哀れな魂を癒し、救う……」
 静かに呟いたナターシャは此処に生きる人々の意志を思う。
 きっと――我々と、志も近い。
 世界に息衝く優しさ。そして、導くべき魂へとナターシャは思いを馳せていく。
 夜風を受けてはらはらと散る桜はとても美しく思えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

せっかくですから夜汽車を楽しみましょう
揺れが気になるかと思いましたが、むしろその揺れが心地よかったですね
朝の光がすがすがしいです
僕、汽車で旅というものはしたことがなかったので、嬉しいです

せっかくですから写真を撮りましょう
ほら、きれいな街並みを見下ろす高さになってきました
見晴るかす整列された街の眺めに驚嘆の声をあげて
ふふ、でも次はきみと一緒に映りたいので自撮りというものをしましょう

幻朧桜の景色が見えたなら頬も緩んで
すごいですね……!
ほら、あの枝垂れかかっているのが美しいです
って、何こっそり撮ってるんですかと笑って
きみと一緒に見る景色は、やはりいっとうすばらしい


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
ああ、お前との旅だからな
情報収集は他の者に任せてしまうとするかとそう笑みを
汽車…蒸気機関の物ならば遠い昔人の指の上からだが乗った事はあるが…人々はこの揺れを楽しんで居たのだな
だが、俺も肉を得てからは初めての経験ゆえ、宵との初めてが積み重なって行く幸せを噛みしめつつも
嬉しそうな宵の声を聞けば撮ってやる故貸せと、すまぁとふぉんに手を伸ばし撮影を
ああ、満開の櫻も街並みも…本当に美しい景色だ
だが…その景色に宵が映り込むとさらに美しい物に感じるのは何故だろうかと、己のすまぁとふぉんにて隠し撮りつつ小さな笑みを
気付かれたならば誤魔化す様な笑みを一つ
ん?何でもないが…。…本当に美しい景色だな



●二人の景色
 線路の上を走る蒸気機関車。
 濛々と空に広がる煙の筋が窓辺から見え、速度が徐々に増していく。
 がたごとと揺れる車内は心地好く、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)とザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は向かい合った形で配置された客席に腰を下ろしていた。
 時刻は既に朝。
「揺れが気になるかと思いましたが、むしろその揺れが心地よかったですね」
 目映い光が清々しいと感じ、宵は大きく伸びをする。その仕草に目を細めたザッフィーロは穏やかに頷いた。
「ああ、お前との旅だからな。何もかもが新鮮だ」
「僕、汽車で旅というものはしたことがなかったので、嬉しいです」
「汽車……人々はこの揺れを楽しんで居たのだな」
 宵は窓辺からの景色を眺め、ザッフィーロは微笑みながら昔を思い返す。こういった蒸気機関には遠い昔、人の指の上からではあれど乗ったことはあった。
 しかし今、人の身で乗るとなると感じる思いも変わってくる。
 宵との初めてが積み重なっていく幸せ。
 ザッフィーロがそんな物思いに耽っていると、そうです、と宵が片手をあげた。其処にはスマートフォンが握られていた。
「せっかくですから写真を撮りましょう」
「撮ってやる故貸せ」
「ほら、きれいな街並みを見下ろす高さになってきました」
「ではそれを背景に撮るか」
 カシャ、とシャッターを切る電子音が車内に響く。画面に映ったのは街と桜、そして遠くに見える紅葉の景色。
 カメラと自分の瞳。どちらにも映る街の眺めに驚嘆の声をあげた宵。
 その様子を眺めるザッフィーロも穏やかな気持ちを覚えていた。これでいいか、とスマートフォンを返した彼に笑みを返し、宵は手招く。
「ふふ、でも次はきみと一緒に映りたいので自撮りというものをしましょう」
「ああ。こうして窓を背にすればいいか?」
「ええ、はい……ちーず」
「ちーず」
 宵が写真を取る時はこうするのだと告げれば、ザッフィーロも不思議そうに呟く。
 そうして並んで撮った写真は良いものになった。何故なら、偶然にも写り込んだ幻朧桜が二人の背景を鮮やかに彩ってくれたからだ。
「すごいですね……!」
「満開の櫻も街並みも……本当に美しい景色だ」
「ほら、あの枝垂れかかっているのが美しいです」
「ならば、こうか」
 喜ぶ宵に同意しつつ、ザッフィーロは桜を指さす彼をもう一度写真に収めた。次は宵のものではなく、自分のスマートフォンでの撮影だ。
「って、何こっそり撮ってるんですか」
「ん? 何でもないが……」
 笑う宵に対してザッフィーロは誤魔化すような笑みを浮かべる。
 景色に宵が映り込むとさらに美しい物に感じられた。それは何故だろうかと感じたが、答えはきっとこの胸の中にある。
 宵も心地良さを覚え、隣のザッフィーロへと優しい眼差しを向けた。
「きみと一緒に見る景色は、やはりいっとうすばらしい」
「……本当に美しい景色だな」
 ザッフィーロはもう一度、噛み締めるように同じ言葉を告げる。
 四角い窓。切り取られた光景。
 それがまるで二人だけの世界のようで、彼らは幸せなひとときを過ごしてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
食堂車で洋食を頂きます

汽車はサクラミラージュで初めて乗りましたが
鉄の塊が走る姿には感動致しました
二人はどのような反応をするやら

倫太郎殿、そこにすぐ気付くとは流石ですね
夜に乗るとまた景色も異なるのだろうと思うと楽しみでして
景色を眺めながら食べる食事はさぞ美味でしょうな

皆席に着きましたら食事
エンパイアには珍しい洋食ですから有り難く頂戴しなくては
陸彦も灯里もどれが良いか一緒に選びましょうね

私はビーフシチューを頂きます
皆と分けられるように別の物にしてみました
色んな味を知って、彼等の好きなものを見つけられたと

……そうですね
今までは倫太郎殿との二人の食事でしたから
私も、とても嬉しく思います


篝・陸彦
【華禱】
列車の食堂車って所でご飯を食べるぞ!
そもそも列車って何だろ?見れば分かるのかな
楽しみだな

列車、倫太郎は結構乗った事があって
夜彦はちょっとあるみたいだけどおれ達くらい楽しみにしてるみたいだ
楽しみだな!灯里!

見える景色を指差しながら何かを尋ねる
山が白くなってるぞ!何でだ?雪?
倫太郎や夜彦に聞けば何でも帰って来る
だから、次はこれって聞きたくなる
灯里も何か見つけたか?

ご飯は「お子様ランチ」ってやつ
お子様しか食べられないのか?特別ってやつか!
色々なのが乗ってて、どれも美味い!
倫太郎と灯里の分ける様子を見て
なぁ、夜彦
俺のハンバーグ、分けてやるから交換しようぜ
貰ったご飯も美味しかった!


篝・倫太郎
【華禱】
食堂車で洋食を堪能

汽車が出た頃には夢の国の住人だったモンなぁ……
はしゃぐ子供達に関してそう夜彦に声を掛けようとすれば

あんたもそわそわしてんの?
ま、以前乗った時は夜汽車じゃなかったしな……

判った判った
陸彦、凄いのは判ったから
ここ、ご飯食べる所だから静かにな?

興奮する陸彦を窘めて
静かにわくわくしてる様子が
夜彦に良く似てる灯里の様子にも安堵して
料理が届けられたら手を合わせていただきます

俺はデミグラスソースのオムライス
興味津々な子供達にも夜彦にも一口ずつお裾分け
差し出されるお裾分けもありがたく頂戴して

ありがとな?

んー?こんな風に過ごせる日が来るって思わなかったから
ちょっと感動してんの、これでも


月舘・灯里
【華禱】
食堂車でお食事

よる、あかりやにいさまがねていたあいだに
とてもとおくまできたのですね、とうさま
とうさまはきしゃははじめてではないのでしょう?

にいさまやあかりとおなじくらいにたのしそうなので
あかりはすこしたのしいです

かあさ……(ふるふる)りんたろはいつもとかわらないけれど
うれしそうなのでやっぱりすこしうれしいです

にいさまがゆびさすおやまがあかかったり
てっぺんがしろかったりするのもすてきなのです

ごはんは「おこさまらんち」
ころっけやおれんじのごはん、おはなのかたちのおやさい
おいしいおいしいごはん
みんなでたべるからおいしいのですね

りんたろがあーんしてくれたので
あかりもあーんしてあげます
おいしい?



●四人の食事
 夜は明け、眩い光が車内に射し込む頃。
 列車は真夜中に出発したときから休むことなく走り続けていた。
 月舘・灯里(つきあかり・f24054)は月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)に手を引かれ、車内を進んでいく。
「よる、あかりやにいさまがねていたあいだにとてもとおくまできたのですね」
「ええ、知らない景色がたくさんですね」
「とうさまはきしゃははじめてではないのでしょう?」
 灯里が問うと夜彦は、そうですね、と穏やかに頷いた。その先には、元気いっぱいな様子で駆けていく篝・陸彦(百夜ノ鯉・f24055)とそれを追う篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)の姿がある。
「食堂車、こっちだって!」
「あーあー、走るな走るな。汽車が出た頃には夢の国の住人だったモンなぁ……」
 子供達は初めてちゃんと見る車内に興味津々のようだ。
 ゆっくり歩け、と陸彦に告げた倫太郎。はしゃぐ子供達に関して夜彦に声を掛けようとして倫太郎は振り向く。
 すると其処には灯里と一緒になって車窓を眺めている夜彦がいた。
「あんたもそわそわしてんの?」
「倫太郎殿、そこにすぐ気付くとは流石ですね」
「ま、以前乗った時は夜汽車じゃなかったしな……」
「ふふ。夜に乗るとまた景色も異なるのだろうと思うと楽しみでして。景色を眺めながら食べる食事はさぞ美味でしょうな」
 そういって話す二人。
 その服の袖を灯里がくいくいと引いた。
「どうしたんだ?」
「とうさま、かあさ……じゃなくて、りんたろ。にいさまが……」
 倫太郎が灯里を見下ろすと、彼女の指先が進行方向に向けられていた。夜彦ははたとして陸彦の姿がないことに気付く。
「すでに次の車両に移っているようですね」
 どうやら陸彦は我慢ができなくて先に行ってしまったようだ。
「ああ、走るなって言ったのにな」
「にいさま、あかりとおなじくらいにたのしそうでした。だから、あかりはすこしたのしいです。りんたろはいつもとかわらないけれど、やっぱりうれしそう」
「そっか? じゃ、追いかけていくか」
 灯里の頭をわしゃりと撫でた倫太郎は夜彦と共に陸彦を追っていく。

 そして、一行は目的の食堂車に着いた。
 案内されたのは四人席。夜彦の隣には灯里が、倫太郎の隣には陸彦が座る形だ。子供達が景色を見やすいように窓辺に座らせている。
「山が白くなってるぞ! 何でだ? 雪?」
「山頂は気温が低いですからね。今の時期でも雪が解けずに積もるのです」
「なるほどです」
「成程な! じゃああの田んぼは?」
 陸彦は景色を見ながらたくさんの質問をして、夜彦達がそれに答えていく。灯里は兄と父達のやり取りを聞いてこくこくと頷く。
 聞けば何でも帰って来るものだから、次はこれ、と聞きたくなる。
「あっ、すげーきれいな桜!」
「判った判った。陸彦、凄いのは判ったから。ここ、ご飯食べる所だから静かにな?」
 倫太郎は無邪気な陸彦を宥めつつメニューを皆の前に出した。
 何を食べるか決めようぜ、と彼が示したことで景色への興味はそちらに向いたようだ。そして――。
 夜彦はビーフシチュー。
 倫太郎はデミグラスソースのオムライス。
 陸彦と灯里はお子様ランチを注文した。
 揃って出てきた食事に、それぞれに瞳を輝かせる子供達。そんな二人を見守る倫太郎と夜彦は優しい眼差しをしていた。
 いただきます、と手を合わせて並んで食事を始める様は親子そのものだ。
「お、夜彦はビーフシチューか」
「はい、皆と分けられるように別の物にしてみました」
 色んな味を知って、彼等の好きなものを見つけられたらいい。そういって子供達を見つめる夜彦はスプーンを手に取る。
 すると陸彦も倣ってお子様用のフォークを握った。
「お子様ランチ! お子様しか食べられないのか? これが特別ってやつか!」
「ころっけ、おれんじのごはん、おはなのかたちのおやさい。かわいいですね」
 興奮しながらもちゃんとしている陸彦と、静かにわくわくしてる様子が夜彦に良く似ている灯里。その様子に安堵した倫太郎もオムライスを食べ始める。
「なぁ、夜彦。俺のハンバーグ、分けてやるから交換しようぜ!」
「はい、どうぞ」
 シチューをねだる陸彦に快く分けてやる夜彦。その様子をじっと見た灯里に気付いた倫太郎は彼女にオムライスを食べさせてやった。
「美味いか?」
「はい。りんたろがあーんしてくれたので、あかりもあーんしてあげます」
「ありがとな」
 こくんと頷いた灯里はフォークでお花型の人参を刺し、倫太郎に差し出した。あーん、と口を開ければ甘い人参の味が広がる。今しがた彼に聞かれたように、おいしい? と問いかけてくる様がまた可愛い。
 そして更に夜彦は灯里へ、倫太郎は陸彦へと食事を分けてやった。
 其処からゆったりと時は過ぎていく。
「ごちそうさま!」
 お子様ランチも貰ったご飯も美味しかったと笑う陸彦。どの皿も綺麗に平らげられており皆がとても満足していた。
 食後にはアイスクリンがお勧めだと言われて、今はデザートを待っている状態だ。
 その中でふと夜彦は倫太郎がぼんやりと外を眺めていることに気付く。
「倫太郎殿?」
「んー?」
「何か思うことでもあるのかと思いまして」
「こんな風に過ごせる日が来るって思わなかったからちょっと感動してんの、これでも」
「……そうですね。今までは倫太郎殿との二人の食事でしたから。私も、とても嬉しく思います」
 二人がしみじみと、けれども嬉しげに話す様子を見た灯里はそっと思いを言葉にする。
「おいしいおいしいごはん。みんなでたべるからおいしいのですね」
「ん、そうだな」
「その通り、ですね」
 灯里が告げてくれた思いはとても心地よかった。
 そうして、テーブルにはデザートが運ばれてきて――。アイスだ、というはしゃいだ陸彦の声が明るく響く。
 それからまた暫し、四人での賑やかな食事風景が続いていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と
汽車の旅というのは初めてだな…。
しかも夜汽車か…まぁ、電車も見たことがある程度で乗ったことはないのだが。

マクベスは窓際に座るか?その方が景色がよく見えるだろう?
私はマクベスがそばにいればいいからな。
紅葉…いや、赤は好きだろう?
凭れてくる温もりを感じながら【手をつなぎ】
UDCでも紅葉はみたがこうして汽車から見るのも良いものだな…。

ん、寒いのか?私の外套で良ければ羽織るといい。ちゃんと起してやるから眠くなったら寝るんだぞ。


マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
グラナトさんと列車の旅とかワクワクするなっ
ま、依頼なんだけどさ
それでも少しの間は楽しんでもいいよな

座席でグラナトさんと並んで
グラナトさんの肩に寄りかかりながら窓の外の景色を楽しむぜ
サクミラの夜行列車ってレトロな雰囲気がいいな
外の風景も余計に味がある感じに見えるしさ
紅葉がほんと綺麗…(隣の赤には敵わないけれど)
そっと【手をつなぎ】に手を重ねる

少し冷えてきたね
ひざ掛けとか乗務員さんに…
…うん、これなら暖かいや
(外套に包まって再びグラナトに寄りかかって)



●隣の特等席
 線路を辿って走る蒸気機関車。
 ときおり鳴り響く汽笛の音と濛々とあがっていく煙。車窓から見えるのは流れゆく様々な景色。
「汽車の旅というのは初めてだな……」
 グラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)は遠い風景を眺め、しみじみとした思いを言葉にした。
 しかもこれは夜汽車。
 電車すら未だ乗ったことのないグラナトにしてみれば貴重な初乗車だ。
 マクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)は興味深そうに車内を見渡し始めた彼を軽く見上げ、嬉しげに笑む。
「グラナトさんの初めて貰った! こういう列車の旅とかワクワクするなっ」
 でも、とマクベスは彼が座っている席と自分の席を見比べた。
 二人用の席に隣同士。
 窓際がマクベスで通路側がグラナトという座り方だ。
「席、こっちじゃなく良かったのか?」
「ああ、そちらの方が景色がよく見えるだろう? 私はマクベスがそばにいればいいからな。この並びなら、それに……」
 マクベスが問うとグラナトは少年と車窓を見遣る。
「それに?」
 不思議そうに首を傾げるマクベスの背には美しい桜が咲く風景が見えた。
「景色とマクベス、両方を楽しめるからな」
「グラナトさん……」
 その言葉と気持ちが嬉しくなり、マクベスは彼の肩に寄りかかった。こうして一緒に窓の外の景色を楽しめると思うと更に心が浮き立つ。
「夜行列車ってレトロな雰囲気がいいな。外の風景も余計に味がある感じに見えるしさ」
「そうだな、普通に見る景色よりも情緒が深く見えるようだ」
 隣でグラナトが頷く気配が感じられ、マクベスは行く先に目を向けた。
 先程から山間に入ったのか、先程から紅い葉が多く見える。
 もうすぐ散ってしまう時期だが、だからこそ印象的に色付いているのかもしれない。
「紅葉がほんと綺麗……」
 ――隣の赤には敵わないけれど。
 浮かんだ思いは言葉にせず、マクベスはグラナトの手に自分の手を重ねる。
「ほら、よく見える。紅葉……いや、赤は好きだろう?」
 グラナトは少年が凭れてくる温もりを感じながら、繋いだ手を握り返す。以前にも紅葉は見たがこうして汽車の中から眺めてみるのも良いものだ。
 そう感じたとき、隣のマクベスがぽつりと呟く。
「少し冷えてきたね」
「ん、寒いのか?」
 問いかけに頷いた彼はひざ掛けを貰ってこようかと考えて立ち上がりかける。しかしそれをグラナトが止め、繋いだままだった手を引いた。
「私の外套で良ければ羽織るといい」
「……これなら暖かいや」
 嬉しそうに微笑んだマクベスは外套に包まり、再びグラナトに寄り添う。そっと触れあう感覚があまりにも心地好くて、ついつい目を閉じてしまった。
「あれ、少し眠い……な……」
 うとうとしはじめた少年の頭をあやすように軽く撫でるグラナト。それで更に気持ちよくなったマクベスは眠ってしまう寸前だ。
「ちゃんと起こしてやるから眠くなったら寝るんだぞ」
「うん……。でもグラナトさんともっと一緒に……」
 話したいのに、と告げる前にマクベスから穏やかでちいさな寝息が聞こえてきた。
 きっと安心しきっているからだろう。
 眠る彼が目覚めた時、一番に声を掛けられること。ただ一緒に居られるだけで満ちていく幸せな気分。
 今という、ささやかなひととき。
 其処に尊さのような感情を覚え、グラナトは暫し少年の寝顔を見守っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
WIZアドリブOK
夏帆さん(f15753)と

蒸気機関!現役で動いてるのはこの世界ならではだろうなぁ。
UDCでもヒーローズの方でも動態保存はほとんど観光用だもんな。車もだけど、ハチロクと言う愛称は愛されてるが故だろう。
なので情報収集は他の猟兵に任せて先頭車両から順番に車両見学だな。最後には展望車に行くが。

最初にこの世界に来た時は気が付かなかったが、幻朧桜が一年通して咲いてる以外は他の世界と四季の変化は変わらないんだな。
それでもエンパイア育ちには紅葉と桜の組み合わせは違和感が結構あるけど。

自然に人が挑み寄り添ったみたいだと思うと愛おしいと思う。
趣味かと問われるとどうだろ?ギミックは好きだけど。


臥待・夏報
アドリブOK
黒鵺くん(f17491)と。

いやー、この世界は初めてだし、現地で知った顔と会えてよかったよー。
解説を聞かせてもらいながら、付いて回ろうか。

蒸気機関車、確か、遊園地くらいにしか残ってないんだっけ。夏報さんも聞いたことある。
……列車が好きなの?
そういえば、君と前に会ったのも黒部のトロッコの時だったな。
あの路線は冬季休業だけど、別ルートなら雪も見られるよ。空の向こうに、長屏風みたいに真っ白な山岳があってさ――。
写真、『視』せたげよっか。

夏報さん自身には、すごく好きなものとか、打ち込める趣味とかあるわけじゃないからさ。
こういう話を聞くのは楽しいんだよね。
一緒に何かを好きでいられる気がして。



●一緒に過ごすひととき
「――黒鵺くん?」
「……夏帆さん?」
 出発前の駅のホームにて乗り込む前に鉢合わせた二人。
 偶然にも同じ車両に乗り込もうとしていたことで行動を共にしようと決めた彼女たち――臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)と黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は今、先頭車両からの連結部に立っていた。
「いやー、この世界は初めてだし、現地で知った顔と会えてよかったよー」
「俺もだ。一人もいいけれど、誰かといるのは楽しいからな」
 出発して暫く。
 内部を見て回る心算だったという瑞樹に夏報はついていくことにしていた。まずは全部の車両を眺めてみたいと話す彼が歩き出せば、夏報もその後に続く。
「蒸気機関! 現役で動いてるのはこの世界ならではだろうなぁ」
 8620形。通称ハチロク。
 駅で見た立派な外観の機関車を思いながら、瑞樹は感心する。
「確か遊園地くらいにしか残ってないんだっけ。夏報さんも聞いたことある」
「そう、動態保存はほとんど観光用なんだ。車もだけど、ハチロクと言う愛称は愛されてるが故だろうな」
 瑞樹は揚々とした様子で語っていった。
 その解説を聞かせてもらいつつ、夏報はふと思い出す。
「そういえば、君と前に会ったのも黒部のトロッコの時だったな」
「そうだった。何だか懐かしいな」
 普通の座席車から食堂車を通り、順番に車両見学をしていく中で以前の記憶が思い起こされたのだ。
「あの路線は冬季休業だけど、別ルートなら雪も見られるよ。空の向こうに、長屏風みたいに真っ白な山岳があってさ――」
 写真、『視』せたげよっか。
 そんなことを語りながら、二人はゆっくりと車内を回っていく。
 座席車からの車窓の風景も良かったが、食堂車で食事を楽しみながら景色を見るのも格別だろう。そして何より、今辿り着いたばかりの展望車からの光景は凄い。
 広く作られた窓。
 それはまるでパノラマ写真のように移り変わる景色を見せてくれる。
 其処に見えたのは紅葉。そして、幻朧桜。
 この世界に咲いている桜が春のような感覚を齎しているが、ここにもちゃんと秋らしい彩が見える。
「幻朧桜が一年通して咲いてる以外は他の世界と四季の変化は変わらないんだな。紅葉と桜の組み合わせは違和感が結構あるけど……綺麗だ」
 瑞樹が車窓から見える景色を眺める中、夏報も倣って外を見つめた。
 この光景を現役の蒸気機関車で見れるなんて、と口にした彼に夏報が不意に問う。
「……列車が好きなの?」
 すると瑞樹は少し考えて、黒部も含めてこれまで見てきたものは自然に人が挑み寄り添ったみたいだと思うと愛おしいのだと答えた。
「趣味かと問われるとどうだろ? ギミックは好きだけど」
「そっか。でも、好きなものがあるのはいいね。夏報さん自身には、すごく好きなものとか、打ち込める趣味とかあるわけじゃないからさ」
「夏帆さん……」
 景色を眺めながら夏帆が言った言葉はほんの少しだけ物憂げだった。しかし瑞樹が何かを言う前に彼女は振り返りながら、静かに笑う。
「こういう話を聞くのは楽しいんだよね」
 一緒に何かを好きでいられる気がして――。
 彼女の背景は流れて移りゆく景色。瑞樹はそっと頷くだけに留め、それなら、と更に機関車や景色の話をしようと決めた。
 汽笛が鳴り、蒸気が燻る。
 少しだけ特別な夜汽車の時間を好きで埋める。そんなひとときが流れてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

楠樹・誠司
刃は布に包み窓際へ
向かいに座る老婦人は目を伏せること無く、茫と月を眺めて居た
其の横顔が、何処か寂しげに見えたものだから

……眠れませぬか

問えば驚かせてしまうだらうか
彼女から言ノ葉が返って来たならば
御身体に障らぬやう、ほんのひとときの間
我が旅路の先に待つ
『あい』を識る影朧の話を致しませう

確かに愛している筈なのに
触れること、触れられること叶わぬと
其の憂ひ、嘆きを
流し方を忘れた涙を、

窓に触れては落ち行く幻朧桜の花弁と月を見上げ
あゝ、と小さな声溢し

――ひとは其れを、孤悲と呼ぶのでせう

私は、みなが胸の奥底に抱く其の想ひに手を差し伸べたいと
烏滸がましいとわかつてゐても
……そう、願わずには居られなかつたのです



●孤独な月
 汽笛と共に汽車が帝都を出発して間もなく。
 巡りゆくのは静かな夜。照明が仄かに落とされた客車内、聞こえるのは線路の上を機関車が走っていく低く鈍い音だけ。
 揺れる車内。移り変わる車窓の景色。
 楠樹・誠司(静寂・f22634)は心地好くもある振動に身を任せ、様々に流れていく光景を見つめていた。
 向かいの席にはひとりの老婦人が座っている。
 皆、寝台車に向かっていったというのに誠司と彼女だけがこの客車に残っていた。
 彼女は目を伏せること無く、茫と月を眺めている。
 誠司はそれまで同乗者に話しかけることはしなかった。だが、どうしてか其の横顔が何処か寂しげに見えたものだから思わず声を掛ける。
「……眠れませぬか」
「いいえ。そういうわけではないのだけれど……今日の月は何だかとても綺麗だから見ていたくて――」
 答えた老婦人は視線を誠司に向け、双眸を細めた。人良さを感じさせる、皺の寄った目尻が更に緩む。
 もう少しこの車両にいる心算なのだと話した彼女に誠司は頷く。
 そしてその身体に障らぬようにと考えながら、ほんのひとときの間だけ話し相手になって欲しいと願った。それはこの旅路の先に待つものへの思いを整理する為であったが、彼女の気を紛らせる為でもある。
 何故なら、老婦人には言葉にしない何かを抱えているように視えたからだ。
「さあて、軍人さん。貴方は何を聞かせてくれるのかしら」
「そう、ですね。『あい』を識る影朧の話を致しませう」
 穏やかに微笑んだ老婦人が問うと、誠司は其の影朧について語る。
 確かに愛している筈なのに触れること、触れられることも叶わぬ。
 其の憂ひ、嘆きを、流し方を忘れた涙を――。
 語る間にも景色は流れていく。
 誠司は窓に触れ、夜風を受けて落ちゆく幻朧桜の花弁を見つめた。舞い上がったひとひらを目で追えば、月が視界に入る。
 あゝ、と小さな声を溢した誠司はちいさく呟いた。
「――ひとは其れを、孤悲と呼ぶのでせう」
「……そう……そうねえ。実はわたしもね、ひとりになったのよ……」
 老婦人はそっと語る。
 嘗て「月が綺麗ですね」と伝えてくれ、長年寄り添った夫が亡くなったのだと。そうでしたか、と瞳を伏せた誠司は彼女の心中を慮る。
 それから老婦人は礼を告げた。このまま彼を追って死んでしまおうかと思った。けれども誠司が声を掛けてくれたお陰で莫迦な思いを振り払えたのだ、と。
 すると誠司は己の思いを言葉にした。
「私は、みなが胸の奥底に抱く其の想ひに手を差し伸べたいと、烏滸がましいとわかつてゐても……そう、願わずには居られなかつたのです」
「ええ、ええ。貴方は優しそうなお人だものねえ」
 老婦人は誠司の声を聞き、穏やかな眼差しを向ける。それから幾許かの沈黙がその場に満ちたが不思議と悪いひとときではなかった。
 そうしてふたりは暫し静かに、車窓から見える月を振り仰いでいた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラナ・スピラエア
蒼汰さん(f16730)と
食堂車で会えたら挨拶を

実は、ワクワクしてなかなか寝付けなくて
あ、でも気持ちよく眠れました
蒼汰さんはどうでした?
ふふ、確かにこの揺れは心地良いですね

わあ!本当、綺麗ですね
季節が混じったみたいで不思議です
あ、あっちの山に掛かってるのは雪ですか?
すごい、一夜明けたら全然違う景色になってますね
知らない間に遠くまで来てるんですね…

温かいパンとオムレツは慣れた食事で少し落ち着く心地
美しい景色と美味しいご飯が幸せで
なんだか普通に遊びに来たみたいですね
ふふ、一緒に朝食を食べているの
不思議な心地です
でも、私は嬉しいです

そうですね、滅多に出来ない経験です
お互い初めての汽車を楽しみましょう


月居・蒼汰
ラナさん(f06644)と
食堂車で待ち合わせて朝食を

昨夜はよく眠れましたか?
俺、こういう夜行列車に乗るの初めてなのでわくわくしてしまって
ん、眠れたなら良かったです
俺も汽車に揺られてたらいつの間にかぐっすりって感じだったから
睡眠はばっちりですよ

あっ、見て下さい、向こうの山が綺麗ですよ
紅葉と桜が一緒に見られるのは、やっぱりこの世界ならではですよね
あっちの山は雪がかかって…春と秋と冬と盛り沢山ですし
フレンチトーストも目玉焼きも、ベーコンも美味しいし
そう言えばこういう風に朝ごはんって初めてですね
何だか新鮮ですし、俺も嬉しいです

目的地まではまだ時間がありますし
折角だからのんびりと旅と景色を楽しみましょう



●旅と朝食
 遠く遠く、響く汽笛の音。
 線路を辿って走る夜汽車は真夜中を抜けた。そうして目映い朝の光が窓に引かれた紗幕の隙間から射し込み始めた時刻。
 ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は髪を整え、寝台車から食堂車へ続く通路を歩いてゆく。ゆっくりとひらいた扉の向こう。其処には月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)の姿があった。
 振り向いた彼は、おはようございます、と告げて柔らかに微笑む。
「昨夜はよく眠れましたか?」
「実は、ワクワクしてなかなか寝付けなくて」
「俺もこういう夜行列車に乗るの初めてなのでわくわくしてしまって」
 一緒ですね、と返した蒼汰。
 しかし寝付けないという言葉に心配を覚えたらしく、大丈夫でしたか、と更なる問いが重ねられた。こくりと首を縦に振ったラナは平気だったと答える。
「でもその後は気持ちよく眠れました。蒼汰さんはどうでした?」
「ん、眠れたなら良かったです。俺も汽車に揺られてたらいつの間にかぐっすりって感じだったから睡眠はばっちりですよ」
「ふふ、確かにこの揺れは心地良いですね」
 良かったと安堵した彼の優しさは快く、ラナは淡く笑んだ。
 そうして二人は朝食をとる為に二人掛けの席に腰を下ろした。夜には紗幕が張られていた寝台車とは違って、食堂車の窓は広い作りになっている。
 朝食のメニューを頼んだラナと蒼汰の視線は自然と車窓に向けられていた。
「あっ、見て下さい、向こうの山が紅くて綺麗ですよ」
「わあ! 本当、綺麗ですね。あっちの山に掛かってるのは雪ですか?」
「そうですね、あっちの山は雪がかかって……春と秋と冬と盛り沢山です」
 硝子越しにも分かる朝の冴え冴えとした空気。その向こう側には頂に白い雪化粧をした山が見えた。
 頂上は白。中腹は色付いた紅葉。山裾は常緑樹と幻朧桜。
 冬と秋、そして夏と春を混ぜたような彩だ。
「紅葉と桜が一緒に見られるのは、やっぱりこの世界ならではですよね」
「季節が混じったみたいで不思議です。一夜明けたら全然違う景色になってますね」
 蒼汰が感心する中でラナも胸を躍らせる。
 見えているのは出発した時に見えた帝都近辺の賑やかな景色とは違う風景。知らない間に遠くまで来たのだと思うと何だか感慨深くもあった。
 それから景色を楽しむこと暫く。
 二人のテーブルに運ばれてきたのは温かな朝食。
 ラナの前には温かいパンとオムレツ。蒼汰にはフレンチトーストに目玉焼きとベーコンが添えられたものが置かれる。
 ふんわりとしたパン。仄かに甘い卵。
 とろける半熟の黄身にカリカリのベーコンの食感。
 それは慣れた食事であるからか、知らない列車内に居ても少し落ち着く。
「そう言えばこういう風に朝ごはんって初めてですね」
「ふふ、一緒に朝食を食べているのも不思議です」
 一口ずつ、ゆっくりと味わう二人はゆるりと言葉を交わす。
 美しい景色と美味しいご飯の幸せ。なんだか普通に遊びに来たような心地が巡り、笑みも深まってゆく。
「本当はお仕事ですけれど、でも、私は嬉しいです」
「何だか新鮮ですし、俺も嬉しいです。景色も綺麗でラナさんも楽しそうだから」
 蒼汰がそう告げた瞬間、窓から見える風景いっぱいに幻朧桜が広がった。きっと線路沿いに桜が咲く区域に差し掛かったのだろう。
 まるでラナも桜の一部のようで綺麗だと思ったことはそっと秘め、蒼汰は笑みを浮かべた。その微笑みがとても穏やかで快いものであるから、ラナの抱く気持ちも更に和やかになっていく
「きっと、滅多に出来ない経験です。初めての汽車を楽しみましょう」
「はい。目的地まではまだ時間がありますし」
 朝食を終えたら車内を回ってみるのも良いかもしれない。何をしようかと相談しながら、二人は景色を眺めていく。
 座席でゆったりと過ごすのも、展望車で更に広い車窓からの光景を見るのも良い。
 折角のこの機会をのんびりと。
 旅と景色と、交わす言葉でひとときを彩ろう。素敵な朝から続いていく時間はきっと、更に楽しくなっていくはずだから――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
夜汽車の胎に収まり櫻満ちる世を泳ぐ。
煙を靡かせ走る機関車は、
海をゆく長い魚に似てる…なんて。

夜の窓の向こうには、野山の闇。
時折光の尾となり流れる、誰かの営みの灯。
星々を渡る鉄道の話など聞いたのはいつの事か…
追憶に蓋する様に、時折微睡みが訪れて。

曙の窓の向こうには、濃藍の空。
遠き地平を縁取った煌きは、刹那、無数の金色の矢を放つ。
細波めいて広がってゆく光。
まるで世界に満ちる、色と彩。

目的地間際の窓の向こうには、蕩けた夕陽。
薔薇の色に忍び寄る菫の色が、やがてまた夜を連れて来るのだろう。

座席車で過ごし続けた体を解す。
眺める世界は美しい。

では、不老不死ならば――?

それは御免ですね。
きっと飽きてしまうから



●一日を辿る線路
 夜汽車の胎に収まり、櫻満ちる世を泳ぐ。
 煙を靡かせ走る機関車。それは夜という海をゆく長い魚に似ている。
 ――なんて、とちいさく呟いてみたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)はひとり、車窓から景色を眺めていた。
 窓の向こう側にあるのは野山の闇。
 其処にぽつりぽつりと明かりが見えた。時折、光の尾となって流れていくそれは誰かが其処に暮らしているという証。営みの灯だ。
 クロトは夜汽車から見えるものをぼんやりと瞳に映していく。
 その最中に浮かんだのは或る物語の話。
 星々を渡る鉄道の話など聞いたのはいつのことか。ふと過ぎった追憶に蓋をするように時折、微睡みが訪れる。
 肘掛けに腕をつけば落ちそうになる瞼。
 遠くで点いていた灯が消えた時。それが夜の光景を見た最後のひとときだった。
 時は巡る。
 クロトは幽かな光を感じてゆっくりと瞼をひらいた。
 夜の様相はすっかり消えている。曙の窓の向こうには濃藍の空が見えた。そして、遠き地平を縁取った煌き。
 刹那、其処から無数の金色の矢が放たれた。
 細波めいたかたちに広がってゆく光。それはまるで世界に満ちる、色と彩。
 朝が来たのだと感じたクロトは軽く伸びをして、昨晩とは違う光に満ちた景色を暫し眺めていた。
 そして、更に時は過ぎゆく。
 時刻は既に夕時。
 あれから幾つの駅を過ぎただろうか。もう目的地間際だ。その窓の向こうには、蕩けた夕陽があり、薔薇の彩に菫の色が忍び寄っていた。やがてまた夜を連れて来るのだろう。
 クロトは座席車で過ごし続けた体を解す。
 眺めてきた世界は実に美しい。でも、と頭を振った彼は思う。
 では、不老不死ならば――?
 あの景色を美しいと感じられただろうか。
「……それは御免ですね」
 きっと、何もかも飽きてしまうから。
 静かに口にしたクロトはゆっくりと立ち上がる。車内には次の駅――目的地への停車を告げるアナウンスが流れていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

五条・巴
(アドリブ歓迎)
初めてのサクラミラージュは、夜汽車に乗って人魚の池まで
ふふ、真面目に頑張らないといけないけれど、
折角だから道中楽しみたいな。

汽車でゆっくりさせてもらうね。
ホテルに泊まるのとも違う、特別な、非日常的な、不思議な感覚。

展望車で夜桜と明かりのついている建物の映りゆく景色を眺める。
この季節には珍しい桜舞う、暖かな街灯が点在する幻想的な世界に暫く身を委ねて。月は見えるかな。
きっとこの景色に相まって美しいのだろうね。

寒いし体を温めるために美味しいご飯でも頂こうか。

んー、美味しい。
寒い日のスープって格別。
この汽車のおすすめは何かな、折角だから食べてみたいなあ。



●四季の巡りと汽車の旅
 初めてのサクラミラージュは、夜汽車に乗って人魚の池まで。
 五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)は今しがた通ってきた駅のホームを振り返り、線路沿いに咲いている幻朧桜を見遣った。
 はらりと散った花弁が自分を見送ってくれているようで、何だか快い。
「ふふ、いってきます」
 巴は閉まった扉越しに手を振り、客車内へと踏み入った。
 目的地に着いた後は真面目に頑張らないといけないが、これから始まる汽車の旅は随分と長い。折角だから道中を楽しみたいと思い、巴は客席へと向かった。
 腰を下ろし、一息ついたのは展望車の一角。
 今夜はこの汽車で過ごすことになる。
 ホテルに泊まるのとも違う、特別な、非日常的な、不思議な感覚がした。
 背もたれに身体を預ければ広く作られた窓から見える景色がよく見えた。車窓が切り取る光景、それはまるで一瞬一瞬をパノラマ写真として見せられているようだ。
 秋色の紅葉があったと思えば、夜桜が一緒に見える。
 遠い町々。ぽつぽつと明かりのついている建物。それらが織り成す、映りゆく景色を眺めていると時間があっという間に過ぎていく。
 桜舞う街に暖かな街灯。
 櫻が満ちる幻想的な世界に暫く身を委ね、巴は夜空に目を向けた。
 白く冴え冴えとした冬の月が瞳に映る。
 月は風景とは違ってずっとついてきているように思えた。何処に居ても見える月と、様々なところに咲く桜はとても美しかった。
 けれども、そんな中でふと巴は少しの寒さを感じる。
 紅葉が見えたとはいえど季節としてはもう冬の始まりだ。寒いはずだと感じた巴は四季の移り変わりを思いながら席を立つ。
「寒いし、体を温めるために美味しいご飯でも……うん、食堂車はこっちだったかな」
 旅の楽しみのひとつは食事。
 何が食べられるかと考えつつ巴は車両を移動していった。
 そして、案内された席。
 其処もまたすぐ横に展望用の窓がある良い場所だった。一先ず頼んでおいたスープがテーブルに運ばれ、巴は静かに食事を始める。
「んー、美味しい」
 やはり寒い日のスープは格別。
 冷えていた身体も温まっていくようで、心がふわりとした。そうして巴は改めてメニュー表をひらいた。シチュードビーフにオムライス。なかなかに美味しそうな品々が其処には並んでいた。
「時間はあるから、ゆっくり楽しもうかな」
 巴は選ぶ時間もまた良いものだと感じつつ、お勧めを聞くために食堂車の乗務員を呼んだ。交わす言葉は快く、湯気を立てるスープのようにあたたかい。
 そうして――其処から巡るひとときもまたきっと、穏やかに過ぎてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻と人魚
アドリブ歓迎

カタコト揺れる汽車に櫻と一緒
汽車は初めてだ

展望車
風景が次々に移り変わる景色をヨルと窓に張り付に眺めて尾鰭をはたはた
満天の星に幻朧桜が舞って
桜の夜空を走ってるようで綺麗
一番は僕の横の櫻龍だけれど

人を食らう人魚か…
僕?たまにそういう人はいた
座長が殺してたけど
不老不死は魅力的なんだろう
何でそう思うのか不思議だった
可哀想にな…

僕を食べていいのが君だけなら
君を食べてもいいのは僕だけだよね?
ふふ冗談
櫻は僕を食べたから
手遅れかもしれないね
ばかさよっ
ヨルが起きてるだろ

ふぁあ……眠くないっ
朝日に照らされた桜を観るんだ
うとうと櫻に身を預け夢の中
夜明けが来たら起こして
黎明の穹と桜をみたいんだ


誘名・櫻宵
🌸櫻と人魚
アドリブ歓迎

窓に張り付き星空と桜を見るリルとヨル
微笑ましいわ
桜銀河を走ってるようで綺麗よね

人魚が人を食べる
はためく尾鰭をつつき愛しの人魚を見やる
人魚を食べれば不老不死なんてよく聞くわ
リルを食べようとした人もいたの?
考えるだけで腹立たしい
…座長ね…素直に感謝できないわ

だってリルを食べていいのはあたしだけだもの
うふふ
あたしの事も食べる?
桜龍の血で酔うわよ
手遅れでもいいわ
リルと一緒なら
夜空にとける桜のように儚くて魅惑的な愛(美味)を思えば
噫、欲しいわ
……
ヨル早く寝ないかし…いた!

寝てていいわ
黎明の時に起こしてあげるわ
眠ったヨルと眠たげ人魚を優しく撫で
白い頬に口付けひとつ

おやすみ、私の人魚



●夜から黎明へ
 鳴り響く汽笛。揺れる汽車。
 線路を辿って走る機関車が振動する度に、尾鰭がはたはたと動く。
「ヨル、見て」
 リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)は風景が次々に移り変わる景色を仔ペンギンと共に眺めていた。窓に張り付くように両手を硝子に添えて、流れていく風景を見つめるふたり。その姿を見守るのは誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)だ。
 星空と桜を見るリルとヨルは微笑ましくて、思わず口許が緩む。
「桜銀河を走ってるようで綺麗よね」
「うん、桜の夜空みたいだ」
 満天の星に幻朧桜が舞っている様はとても美しい。櫻宵の声に頷いたリルは視線を横に向け、それでも、と独り言ちる。
 一番は僕の横の櫻龍だけれど、なんて言葉が展望車内に静かに落とされた。
 桜が夜の色に映える最中。
 ふと思うのはこの線路の遙か先にいるという影朧となった人魚の話。
「人を食らう人魚か……」
 リルがぽつりと零せば、櫻宵も其処に思いを巡らせる。はためく尾鰭をつつき愛しの人魚を見遣る瞳には疑問が宿っていた。
「人魚を食べれば不老不死なんてよく聞くわ。リルを食べようとした人もいたの?」
「僕? たまにそういう人はいたよ」
 座長が殺してたけど、と付け加えたリルは過去を思い出す。座長、という言葉を聞いた櫻宵は素直に感謝できないと呟いた。
 ふるりと首を振ったリルは、始末された人間を思う。
「不老不死は魅力的なんだろう。何でそう思うのか不思議だった。可哀想にな……」
「考えるだけで腹立たしいわね。だって――」
 リルを食べていいのはあたしだけ。
 指先をリルの首筋から頬へと滑らせた櫻宵は微笑んだ。ネイルで淡く彩られた櫻宵の爪先に目を向けたリルは双眸を細める。
「僕を食べていいのが君だけなら、君を食べてもいいのは僕だけだよね?」
「あたしの事も食べる? 桜龍の血で酔うわよ」
「ふふ、冗談。でも、櫻は僕を食べたから手遅れかもしれないね」
「手遅れでもいいわ。リルと一緒なら」
 視線が重なり、冗談だと言いながらも半ば本気めいた言葉が交わされる。櫻宵の掌がリルの頬を包み込むように触れた。
 夜空にとける桜のように儚くて魅惑的な、美味なる愛を思えば感嘆が溢れる。
「噫、欲しいわ」
「ばかさよっ、ヨルが起きてるだろ」
「ヨル早く寝ないかし……いた!」
 まだ駄目、とリルが告げた次の瞬間、それまで景色に夢中だったヨルがちゅちゅんと櫻宵を突っついた。
 ヨルはリルの腕の中に収まり、櫻宵に向けて両羽をぺしぺしと振る。
 言ったでしょ、と櫻宵を見遣るリル。
 そんなこんなで景色と時間は流れ、次第に夜も更けていった。
「ふぁあ……」
「寝てていいわよ、リル」
 ふと欠伸をした人魚に気付いた櫻宵は眠たげな子をあやすように優しい言葉をかける。既にヨルはリルの傍でぷーぷーと寝息を立てていた。
「眠くないっ、ねむく、ない……っ」
 ふるふると首を横に振るリルは、朝陽に照らされた桜を観るのだと言って聞かない。
「黎明の時に起こしてあげるわ」
「でも……」
 大丈夫だと告げた櫻宵の声が微睡みを運んでくる。
 うとうとしたリルは彼に身を預け、緩やかに夢の中へ落ちていった。
「夜明けが来たら、絶対にぜったいに、起こして……黎明の穹と桜を、櫻と……」
「ええ、心配しないで」
 眠ったヨルと眼を閉じたリルを優しく撫で、櫻宵はその白い頬に口付けを落とす。
 約束ね。
 耳元で囁いた櫻宵はもうひとつ、甘やかな声でそっと告げる。
「――おやすみ、私の人魚」
 澄んだ空気の中、昇る陽。その光を見た彼の瞳もきっときらきらと輝く。
 そのときを楽しみに待ちながら、櫻宵は夜の彩と桜が織り成す景色を見つめた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

可惜夜・藤次郎
【藤溟海】
折角だ、旅を楽しむとしよう

汽車で食事も特別感があるが、ここは未だ馴染み無い世界を展望車で眺めてみるか
秋の紅葉に常世の桜
季節混じる風景が見られるのはこの世界ならではだろう
大きな窓を流れる景色というのも良いねェ

いやしかし、夜汽車に乗って妖退治
探偵モノなら汽車内でも事件のひとつ起きそうなもんだが、作家先生の食指は動くかい?
はは、ライラなら平和な旅の物語を書き起こすかな
そら、イア、影朧桜が見えてきた
本当にどこにでもあるンだなァ
そして、どこにあっても美しい
美しさで影朧が慰められるなら、イアの煌めきでも効果があるかもしれんが…なんてな

いつまで走っても、月は追いかけてくる
異なる世界でも、変わらんな


ライラック・エアルオウルズ
【藤溟海】
揺れに揺らりと揺れながら、
窓枠に覘く世界を嬉々と眺める
恒の揺れる藤も良いけれど、
今の流れる景も実に良い物だ
終着があるのは、何とも儚くともね

おや、藤次郎さんは探偵物も御好き?
食指は動き胸は躍り筆も進む、乍ら
先を思えば、今は平和な旅物語が好ましいな
でも、そう、仕立てる事件を綴るのならば
水底の宝石泥棒、――としてみるかい?
宝石の煌めきで落とした影晴らすのも、
素敵な終幕となりそうで魅力的
然してイアさんがこう云うのだから、
盗られない様にと張り切ろうか探偵さん
影より、物語に添って頂く為に

冗談粧して笑う月下
変わらずとも惜しくある夜は、
頁にのせて夢の侭に綴じようか


イア・エエングラ
【藤溟海】
夜汽車の旅に浮足立つ心地
流れる世界を眺める旅景色
紅葉に桜が入り混じるのも眠る夜に共にゆくのも
瞬く合間に流れてゆくから夢のようねと窓に手掛けて

そしたらとーじろさんが探偵役
せんせが記録役兼助手かしらな
僕の番になる前に解決なさって
文字に綴った旅景色もきっとたいそう美しかろな
推理物に仕立てて、お二人の解決するのも格好良いよう
物語に夢馳せてお声にまた窓を見遣れば感嘆の息ひとつ
僕で慰められるなら、この夜の畔ではあんまり贅沢ねえ
でもね、せんせの物語に添えるよに、とーじろさんの夜のうち
おふたりのためのが僕は良いかしら

お月様と更ける夜、ああ、ほんに
明けるに惜しい、夜だこと



●物語を綴る夜
 見晴らしの良い景色と揺れる汽車。
 広く大きな窓辺の展望車から眺められるのは桜と夜の光景。
「折角だ、旅を楽しむとしよう」
 可惜夜・藤次郎(千夜百花の愛・f16494)は向かい合った席に座るライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)とイア・エエングラ(フラクチュア・f01543)に呼びかけ、流れていく車窓の風景に目を向けた。
 秋の紅葉に常世の桜。
 季節が混じる風景が見られるのはこの世界ならでは。
 揺れに揺らりと揺れながら、ライラックは窓枠に覘く世界を嬉々と眺めてゆく。
「恒の揺れる藤も良いけれど、今の流れる景も実に良い物だ」
 何処までも続くような線路。其処に終着があるのが何とも儚くとも、終わりがあるからこそ佳いものだとも知っている。
 窓に手掛け、桜が舞う様を目で追ったイアは藍晶の眸を幾度か瞬かせる。
「瞬く合間に流れてゆくから夢のようね」
 夜汽車の旅に浮足立つ心地。流れる世界を眺める旅景色。
 紅葉に桜が入り混じるのも、眠る夜に共にゆくのも、何とも善いものだ。
「大きな窓を流れる景色というのも良いねェ」
 藤次郎は車窓に切り取られた一瞬ずつが素晴らしいと評した。過ぎれば二度と同じ光景を映すことはないが、其処がまた良い。
「いやしかし、夜汽車に乗って妖退治か。探偵モノなら汽車内でも事件のひとつ起きそうなもんだが、作家先生の食指は動くかい?」
「おや、藤次郎さんは探偵物も御好き?」
 食指は動き、胸は躍り、筆も進むだろう。藤次郎の問いにライラックはそう答えた。だが、先を思えば今は平和な旅物語が好ましいのだと語る。
「はは、ライラならこの旅の物語を書き起こすかな」
「けれど探偵の話も悪くはないね」
「そしたらとーじろさんが探偵役、せんせが記録役兼助手かしらな」
 ライラック達の遣り取りを聞いていたイアは綴られる物語を想像してゆく。
 僕の番になる前に解決なさって、と冗談めかして告げた彼は思う。文字に綴った旅景色もきっとたいそう美しかろな、と。
 するとライラックが暫し考え、浮かんだ案を言葉にする。
「でも、そう、仕立てる事件を綴るのならば水底の宝石泥棒、――としてみるかい?」
 宝石の煌めきで落とした影を晴らすのも素敵な終幕となりそうで魅力的だ。
 そうして暫し、一行の話と思いは想像の物語へと馳せられる。
「推理物に仕立てて、お二人の解決するのも格好良いよう」
 イアが物語に夢を馳せる最中、藤次郎はふと車窓の外を示した。
「そら、イア、幻朧桜が見えてきた。本当にどこにでもあるンだなァ」
 線路沿いに咲く桜。
 其れらは何処にあっても美しい。あの花の美しさで影朧が慰められるなら、イアの煌めきでも効果があるかもしれない。
 藤次郎がそのように話すと、イアは感嘆の息を零した。
「僕で慰められるなら、この夜の畔ではあんまり贅沢ねえ。でもね、せんせの物語に添えるよに、とーじろさんの夜のうち、おふたりのためのが僕は良いかしら」
「然してイアさんがこう云うのだから、盗られない様にと張り切ろうか探偵さん」
 ライラックは紡がれた思いを聞き、静かに頷く。
 影より、物語に添って頂く為に。
 そうしているうちに夜は更け、車内の明かりが仄かに落とされてゆく。落ち着いた暗さの中、三人は何気なしに夜空を振り仰ぐ。
 車内が暗くなったからか、月の光がとても明るく見えた。
「いつまで走っても、月は追いかけてくるな」
 異なる世界でも変わらない。
 藤次郎の声にライラックが頷きを返し、これが可惜夜だろうかと零す。するとイアも藤次郎が抱く名を思い淡く笑んだ。
「変わらずとも惜しくある夜。それを頁にのせて夢の侭に綴じようか」
「ああ、ほんに明けるに惜しい、夜だこと」
 月と更ける夜。
 穏やかで心地の好いひとときが、此処に巡っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミルラ・フラン
【WIZ】
(よろけ縞のお召に、紅を花咲かせたイバラをあしらった羽織姿でやってきて。手を包むのは黒別珍の手袋)

展望車の……お、いいとこあるじゃないか
あたしはここでゆっくりさせてもらおうかね
(硝子で区切られた喫煙席に腰掛け)

(手袋を外し、煙管を取り出してたばこを飲む)
そういえば、この世界をゆっくり旅するなんて初めてだよ
……あたしの故郷よりも、ずっと美しい世界じゃないかい

(ぼーっと無心で、煙を飲みながら真夜中から朝焼けまで。空をずっと見ている。時折、懐に入れたロザリオを取り出し、十字架をいじる)

(※アドリブ歓迎)



●十字架と空の彩
 耳に残るのは汽笛の残響。
 車内に歩を進めれば、硝子の車窓にミルラ・フラン(薔薇と刃・f01082)の姿が映る。波を思わせるよろけ縞の御召に紅を花咲かせたイバラをあしらった羽織。
 身体の前で重ねた両手を包むのは黒別珍の手袋。
 気品溢るる淑やかな様相で汽車に乗り込んだミルラ。彼女が目指すのは先頭車両近くの展望車。
「……お、いいとこあるじゃないか」
 広々とした車両に入った矢先、ちょうど空いている席を見つけたミルラは硝子で区切られた喫煙席に歩み寄り、其処に腰掛ける。
 線路を辿り、走り続ける蒸気機関車。
 時折、車内が揺れるがその心地は穏やかで悪くないものだ。
「あたしはここでゆっくりさせてもらおうかね」
 手袋を外したミルラは煙管を取り出す。
 何気なしに外の景色を見遣り、移りゆく景色を眺めるミルラは煙を吹かし始めた。
 汽車から上がる煙と自ら吐き出す紫煙。それらはまるで内と外で不思議に重なっているかのようだ。
「そういえば、この世界をゆっくり旅するなんて初めてだよ」
 走り続ける汽車の中、ふと呟く。
 ミルラの視線は幻朧桜が咲く風景に向けられて続けていた。桜だけではなく、終わりかけの紅葉や冬支度をはじめた樹々がよく見える。
 その光景と無意識に比べてしまったのはミルラが産み落とされた世界。
「……あたしの故郷よりも、ずっと美しい世界じゃないかい」
 此処の夜の色には穏やかさがある。
 それを羨ましいと感じたのか、そういった感想を覚えただけなのか。思わず零れた言葉に宿っていた感情は敢えて深追いしない。
 ミルラはただ無心で煙を飲む。
 夜が更けて車内の明かりが仄かに落とされても、そのまま紫煙を燻らせ続けた。
 そしてミルラは時折、懐に入れたていたロザリオを取り出して月と星が重なる十字架を掌で玩ぶ。指先に馴染むその感触はひやりとしていて、宛ら深い夜の冷たさを宿しているかのようだった。
 真夜中から朝焼けまで。
 移り変わっていく空の彩を見つめるひとときはゆっくりと過ぎていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

白寂・魅蓮
人魚の現れる古い神社、ね。
聞いてる話だとなかなか危なっかしい話ではあるけど…人魚というのは哀しくも綺麗な存在だというからね。
是非この眼で確かめてみようじゃないか。

目的地まで着くまで夜行列車内では情報収集に向かってみようかな
話を伺えそうな乗客に笑顔で話しかけつつ、神社周りの噂話と称して人魚の事を聞いてみよう
なに、怖い話でも大丈夫ですよ

美しいも儚い存在、か
桜の木の下には死体が埋まっている、なんて話を誰かさんがしていたっけ
ここの桜は相変わらず綺麗だけど…どうにもどこか妖しくも見えちゃうな
話を聞かせてくれたお礼に、僕も旅の間に体験したり聞いた話をしてみましょう。



●桜人魚と池の話
「人魚の現れる古い神社、ね」
 線路上を走ってゆく蒸気機関車内、白寂・魅蓮(蓮華・f00605)は此度に伝え聞いた影朧の話を思い返していた。
 人を喰う人魚。
 人魚が喰らわれるという話は聞くが、逆となると恐ろしさも感じられる。
「なかなか危なっかしい話ではあるけど……古来から人魚というのは哀しくも綺麗な存在だといわれているからね」
 魅蓮は流れゆく車窓の景色を見つめ、硝子に掌を当てる。
 硝子の冷たさも、あたたかな車内では何だか心地好い。汽車がガタゴトと揺れる感覚も悪くないと感じながら魅蓮は静かな思いを抱いた。
「是非この眼で確かめてみようじゃないか」
 魅蓮は人魚を知りたいと考え、目的地に着くまで列車内で情報収集を行うことにした。そうして座席車に向かった魅蓮は辺りを見渡す。
 探すのはそういった話を伺えそうな乗客。
 すると、本を読んでいる書生風の男が目に入った。
 こんばんは、と笑顔で彼に話しかけた魅蓮はその向かい側に座る。顔をあげた男は軽く会釈を返した。
「何の本を読んでいるんですか?」
「……ああ、古今の悲恋物語を」
「なるほど。読書のお邪魔でしたか?」
 魅蓮の問いかけに男は静かに答える。そして、暇を潰していただけなので邪魔ではないと告げて本を閉じた。
 そうして暫し、二人の間で他愛ない世間話が交わされる。その中で魅蓮は男の目的地を聞き、男も魅蓮の下りる駅を聞く。
「へえ、あの駅といえば人魚の神社があるよね」
「そうらしいですね。けれど噂しか知らなくて……」
 それを切欠にして其処から巡っていったのは目的の情報となる話だ。
「とはいってもあれは少々刺激の強い話だからなあ」
「なに、怖い話でも大丈夫ですよ」
 そして、男は語る。
 件の神社の池には人を愛する人魚がいた。
 しかしその肉が美味で不老不死を得られると噂が立ってから、人は人魚を求めた。
 喰われることを厭った人魚は自分が死にたくがないゆえに人を喰らい続けている。池の傍にある幻朧桜の下で、人魚は今日もその骨を抱くという。
 話を聞き、魅蓮は考え込む。
「美しいも儚い存在、か」
 桜の木の下には死体が埋まっている、なんて話を誰かがしていた。
 今回は池に骨が沈んでいるということだろうか。車窓から見えた幻朧桜を見遣り、魅蓮は肘掛けに頬杖をつく。
(ここの桜は相変わらず綺麗だけど……どうにもどこか妖しくも見えちゃうな)
「……どうかしたかい?」
「いいえ、桜が綺麗だと思って」
 男から問われた魅蓮は首を横に振り、話を聞かせてくれたお礼に自分も旅の間に体験したり聞いた話をすると申し出る。
 そして、客席で過ごすひとときは車窓の景色と共に穏やかに流れ過ぎてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
夜行列車というものに乗るのは初めてだな。列車自体は乗った事はあるが、それも久しいので新鮮な気持ちだ。

景色を楽しむのを程々に、列車内を興味深そうに観察しながら情報を集めにいく。
乗務員を中心に話を聞き、乗客がそれらしい話をしているなら、その話を詳しく尋ねる。
その肩の上では、景色を満喫し、沢山の人が様子を見て、槍竜のミヌレは楽しんでいる。

乗務員であれば、詳しく知るものがいるだろう。
このような列車であれば、会話が弾むだろうから何か聞ければ良いと思う。人魚の池の事だけではなく、他にも何か楽しそうな話でも何でも聞けると良いな。

ある程度話が聞けたら、景色を眺め、ミヌレと共に休息を。



●神社と噂の話
 夜行列車というものに乗るのは初めてだ。
 ユヴェン・ポシェット(Boulder・f01669)は車窓の外に見える暗い夜の風景をぼんやりと眺めていた。
 いつだったか、列車自体には乗ったことがある。
 しかし、それも久しいのでこうして揺れる車内にいるのが新鮮な気持ちになった。
 窓の向こう側には数多の桜の樹が見える。
 夜桜は美しい。それが紅葉と一緒に並んでいるのだから不思議さも感じられた。
 そうして暫し景色を楽しんだ後、ユヴェンは情報を集めに向かう。
「行こうか、ミヌレ」
 肩に乗った槍竜の名前を呼んだ彼は列車内を歩く。
 先ず話を聞きに向かったのは乗務員達。
 何度もこの線路上を行き来する彼らならば何か通過駅近くの噂や話を知っているかもしれない。そして、ユヴェンは車掌に声を掛けた。
「こんばんは。実は――」
「ああ、今日はやけに話を聞きに来る人が多いですね」
 ユヴェンが件の神社の話を聞くと、こうして訪ねに来るのはもう何人か目だという話が聞けた。そして、車掌は貨物車にいる乗務員が神社などに詳しいと話してくれた。
 ユヴェンは礼を告げ、教えてもらった車両に向かっていく。
 その間に通った展望席や食堂席には様々な人がいる。
 それに加えて広い窓から見える景色を通りすがりに眺められた。ミヌレはその賑やかで綺麗な様子をとても楽しんでいるようだ。
 そうしてユヴェンは件の乗務員から話を聞くことができた。
 神社の池には人魚が棲んでいた逸話があること。
 どうやら嘗ての神主が海で傷ついた人魚を見つけて救い、それが縁になって池に住み着くようになったらしい。
 だが、いつしか人魚の肉を食べると不老不死になるという噂が広まり――。
「肉を……その後は想像に難くないな」
「ただの伝説だろうが、その人魚の話大切にされていてな。もう流石に残ってはいないが、美しい鱗を模した布地で作られた守りも一時期売られていたようだよ」
「成程、ありがとう」
 ユヴェンは廃神社の過去を聞かせて貰えたことに礼を告げ、ミヌレと共に客席に戻ることにした。
 ひとまずはこれくらいだろうか。
 適当な席に腰を下ろしたユヴェンは外を見遣った。時刻は夜。まだまだ目的の駅につくまではたっぷり時間がある。このような列車であればきっと会話も弾むだろう。人魚や神社だけではなく、他にも楽しそうな話を聞いてみたいと思えた。
「少し休んだら展望車に行ってみるか。なあ、ミヌレ」
 ユヴェンが相棒竜に呼びかけると、嬉しげな快い返事が戻ってくる。
 そして――ひとりと一匹で過ごす列車旅の時間が巡ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と

客席にカガリと隣り合って座り夜汽車を楽しむ(通路側)
車窓の景色とはしゃぐ彼とを眺め相づちを打つが、心に過ぎるのは死への旅路だ

カガリの故郷にも夜汽車があったのだな
俺は乗ったことがあるような気もするし、ないような気もする
かつてのことは何も思い出せないのだ

灯りというものは人の心まで明るくするが、一方でそれを眺める者の心に孤独の影を落とすもの
遠くに見える灯りが俺には届かないけれど、今はカガリがくれたこれ(【泉照焔】)がある
この炎が照らす限り、友を残していつか黄泉路を辿る日も、淋しくはないのだ

すれ違うヘッドライトに眼差しを眇めて答える
あれはきっと家路へ向かう自転車だと


出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と

汽車
ふふ、実はカガリの都にもあったぞ
乗るのは初めて、だが……

同じ座席の、窓側に座るぞ
まる、まる、景色が速い!
しろも宇宙一速いが、これも速い!
空の星は、ゆっくりなのに…

……ひとの、灯り
ひとがいて、生きている証
きらきらとして、綺麗なのだな
以前UDCアースで、ホテルから夜景を見下ろしたことはあるが…
同じ目線で見渡す夜景も、いいなと思って
定まった場所から見下ろすことには、慣れているが
こんな視点は、初めてだ

まる、まるは列車からの景色を、見たことはあるか?
場所が違えば、空も灯りも、また違うのだろうか
ああ、あそこを過ったのは自転車かな
まる、まる、あれは何だろう



●夜を走る汽車
 とある座席車の一角。
 同じボックス席に腰を下ろし、車窓の風景を見つめているのは出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)とマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)の二人。
 並んだ座席の窓側はカガリ。その通路側はマレーク。
 窓の外を覗き込むように両手を硝子に添えたカガリははしゃいでいる。
「まる、まる、景色が速い!」
「ああ、先程見た光景がもうあんなに遠いな」
「しろも宇宙一速いが、これも速い! 空の星は、ゆっくりなのに……」
 カガリが興味深そうに流れる景色を見つめている横で、マレークは相槌を打った。彼と共に車窓の外を眺めながらも彼の心に過るのは死への旅路。しかしそのことは表に出さず、マレークは景色に目を向けた。
「ふふ、実はカガリの都にもあったぞ」
「カガリの故郷にも夜汽車があったのだな」
「乗るのは初めて、だが……まる、まるは列車からの景色を、見たことはあるか?」
「俺は乗ったことがあるような気もするし、ないような気もする」
 かつてのことは何も思い出せないのだとマレークが語ると、カガリは初めて乗った気持ちでいればいいと笑ってみせる。
 そうして暫し、二人は車窓を見つめ続けていた。
 灯りというものは人の心まで明るくするが、一方でそれを眺める者の心に孤独の影を落とすものだ。
 マレークが見つめる先に街があることに気付き、カガリは口をひらく。
「……ひとの、灯り」
 それはひとがいて、生きている証。
 以前にホテルから夜景を見下ろしたことはあるが、同じ目線で見渡す夜景も良い。城門たるカガリは定まった場所から見下ろすことには慣れていた。しかし、次々と移り変わる景色と視点は初めてだ。
「どうした?」
「きらきらとして、綺麗なのだな」
 マレークが問うとカガリは双眸を細めた。
 そうか、と頷いた彼は掌の上に乗せた小さな水晶を見下ろす。遠くに見える灯りは、自分には届かない。けれど今はカガリがくれたこの泉照焔がある。
 ――この炎が照らす限り、友を残していつか黄泉路を辿る日も、淋しくはない。
 ふと物思いに耽るマレーク。
 車窓からの光景を眺めていくカガリ。
 並びながらも違う方向に思いを向けている彼らだが、二人の間に流れる時間は不思議と穏やかだった。
 汽車は夜の最中を走り続ける。
 カガリはひとつとして同じ景色はないのだと感じ、場所が違えば空も灯りもまた違うのだと感心していた。
 するとそのとき、ちいさな光が線路沿いの路を通り過ぎたのが見えた。
「ああ、あそこを過ったのは……まる、まる、あれは何だろう」
 マレークを呼んで振り返ったカガリは興味深く問う。
 彼も同じ光を見ていたらしく、すれ違ったヘッドライトに眇めた眼差しを軽く擦り、問いかけに答えた。
「あれはきっと家路へ向かう自転車だ」
「そうか、家路に……」
 一瞬で通り過ぎた場所にも誰かが居て、其処に帰る場所が存在している。
 そう思うと其々に住まう世界があるのだと感じられた。知らない誰かが、知っている人が、そして自分達が――皆、手の届く範囲で懸命に生きているのだ。
 やがて、汽車は幻朧桜が美しく並び咲く区域に入った。
 二人は思わずそれぞれに感嘆の声を落とす。
 汽車の旅路はまだまだ長く続く。
 きっと、この先にもこういった景色が幾つも待っているのだろうと思えた。
 夜風を受けてはらりと散る桜の花弁はとても美しく、旅にちいさな彩りを与えてくれたかのようだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
【桜鏡】
私が見つける約束でしたのに
礼は言うも先を越されたことは悔しく
態度は刺々しく

真白が花明りのようで綺麗ですこと
そちらの約束は果たしますわ
時間が許す限りね

…あら
面白いことを仰るのね
贄なんていませんわ
私は彼を好きになったふりをしただけよ
他国に嫁ぐ私を攫って座敷牢に幽閉してまで
無理やり手に入れた人ですもの
乱暴されるくらいなら従順に
賢い選択でしょう?

…でも私だけを見て欲しくて
彼の女房達の首を貰いましたの
愛の証
愚かで愛しくて
私も彼に溺れてしまったの

それは秘密
到着の時刻ですもの
(だってそれは私と夫の愛しい思い出)
花の下に涯がないように
欲に涯はないの

微笑みを返す
(そう
私は人の世では生きられない
憐れな鬼)


杜鬼・クロウ
【桜鏡】
アドリブ◎
名呼ばず

夜汽車の旅
水族館の任務後、文送る
紫苑を二人で見る約束果たす
窓から紫苑見る

俺が見つけておいた
感謝しろや(偉そう
約束違えンのは流儀に反するンでな

花のもとで嘘偽りなく話すと告げた桜鬼の姫君
(信頼の表れ、か

解き明かしてみせろと言ったな
総ての花弁(まこと)を摘むには時間が足りねェが
着飾る秘密(はな)が多いほど魅力的だ

羅刹女に亡き夫の心と体を掌握するのに贄となった者はいたか聞く
どう自分に仕向けたのか、過去の闇暴く
強者の頸だけでなく過程とはいえ…
己が渇きを満たす為に?
まさに悪鬼

頸を狩る快感に目覚めたのは…
尚彷徨う…お前は、想像以上に恐ろしい(…乱される
そして、憐れな女(髪に触れ嗤う



●花鬼
 夜汽車の旅。
 それは紫苑を二人で見ると交わした約束を果たす為のもの。
 揺れる車内。其処から見える山裾の風景。
 幻朧桜の花弁が散る中、花が咲き誇る様が車窓からよく見えた。
「俺が見つけておいた」
 感謝しろや、と杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は偉そうに告げる。彼が腰を下ろしている座席の向かい側には千桜・エリシャ(春宵・f02565)が座っていた。
「私が見つける約束でしたのに」
「約束違えンのは流儀に反するンでな」
 どうも、と礼を口にしたエリシャだが、彼に先を越されたことが悔しいようでその態度は刺々しかった。しかしクロウは気にする様子はなく薄く笑う。
 窓から花を見遣った彼に倣って眼差しを向けたエリシャはゆっくりと息を吐く。
「真白が花明りのようで綺麗ですこと。……そちらの約束は果たしますわ」
 時間が許す限りね。
 そう答えたエリシャは暫し車窓から見える景色を瞳に映し続けていた。
 花のもとで嘘偽りなく話すと告げた、桜鬼の姫君。
 それは信頼の表れか。
 クロウは遠ざかっていく景色から視線を外し、エリシャに目を向けた。
 汽車は線路を辿って進む。移り変わる景色は印象的だったが、今のクロウは風景よりも彼女の言葉を求めている。
「解き明かしてみせろと言ったな」
 総ての花弁を摘むには時間が足りないが、着飾る秘密が多いほど魅力的だ。花弁を誠に、秘密を花に譬えた彼は双眸を細める。
 そして、クロウは問いかけた。
「亡き夫の心と体を掌握するのに贄となった者はいたか」
「……あら、面白いことを仰るのね。贄なんていませんわ。私は彼を好きになったふりをしただけよ」
 対するエリシャは静かに答えてゆく。
 あの人は他国に嫁ぐ自分を攫い、座敷牢に幽閉してまで手に入れたような者だ。
「乱暴されるくらいなら従順に。賢い選択でしょう?」
「へぇ……」
 それは愛をどう自分に仕向けたのか、過去の闇を暴く為の駆け引き。
 彼女の語る言葉を聞き、クロウは軽く考え込む。その間もエリシャは語っていく。
「でも、私だけを見て欲しくて。彼の女房達の首を貰いましたの」
 それが愛の証。
 愚かで、愛しくて、自分も彼に溺れてしまったのだ、と。
「己が渇きを満たす為に? 頸を狩る快感に目覚めたのは……」
 強者の頸だけでなく過程とはいえ、まさに悪鬼だ。
 エリシャをそう評したクロウは疑問を投げつける。すると彼女は桜色の眸を薄らと細め、口許に指先を添えた。
「それは秘密。だって――到着の時刻ですもの」
 それに、それは自分と夫の愛しい思い出。
 言葉にしない思いを胸に秘め、エリシャは駅名を告げるアナウンスを示す。
 行きますわよ、とクロウを呼んだ彼女に上手く流された気がした。だが、クロウは首を振り、くつくつと喉を鳴らして笑う。
 エリシャに随分と自分のペースを乱されていると感じたが、それでも構わない。
「尚彷徨う……お前は、想像以上に恐ろしい」
 ――憐れな女。
 髪に触れ嗤ったクロウに片目を閉じて見せ、エリシャはそっと告げた。
「花の下に涯がないように、欲に涯はないの」
 彼の声には微笑みを返す。
(そう。私は人の世では生きられない、憐れな鬼)
 その表情とは裏腹に、エリシャの心の裡にはそんな思いが巡っていた。

 そして――列車は鋭く高い音を響かせながら、目的地の駅に停車する。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セト・ボールドウィン
綾華(f01194)と

機関車だって、綾華は乗ったことある?
俺はじめて。すげー楽しみ
ね。窓のほう座っていい?

でも、夜はあまり起きてられなくて
ごめんね。朝になって、もし先に起きてたら俺も起こしてよ

見てみたかったのは、朝焼けの空
夜明けの景色を見るのは初めてじゃないけれど
何でこんなにわくわくするんだろう
影絵みたいだった世界に、だんだん色がついてく

綾華、綾華
みてみて。山の上、白い
話してる間にも景色が流れちゃう
もっと見たいな。これ窓開けちゃだめ?

うーわー!さむ!
小声ではしゃいでいたら、不意に腹が鳴るから
ちょっとだけ恥ずかしい

綾華ー、食堂車でも景色見えるかな
ほんと?じゃあ、はやく行こ
何が食えるかな。楽しみ!


浮世・綾華
セト(f16751)と

ん、あるよー
でも慣れてるわけじゃないし
俺も楽しみ
元々彼を其方に、と思っていたので
愛らしい申し出に頷く

そーなの?
いいねえ、寝る子は育つって言うしな
ちゃんと起こすから、眠くなったら安心して寝な

セトが眠ってしまったら借りたブランケットを掛け
夜明けに備え自分も少しだけおやすみ

セト、起きて
ほら。今ちょーど
朝日が昇る
山の雪を、鮮やかな紅葉を照らしていく
紡がれた言葉に笑って
…どーかな、ちょっとだけならいーんじゃない?

朝の空気の冷たさに身震い
あ、息。白くなった
――もうそんな季節なんだな

ふ、あはは
元気のいい虫飼ってんねえ
見えるでしょ、多分
朝飯朝飯。食いにいこーぜ



●夜更けから黎明へ
 鉄の車輪と線路が擦れる音。
 緩やかなカーブで傾き、揺れる車両。汽笛の音と煙が景色と共に流れていく様は不思議で面白いものだと思えた。
「これが機関車か。綾華は今までに乗ったことある?」
 列車が出発してすぐ、乗り心地を確かめていたセト・ボールドウィン(木洩れ陽の下で・f16751)は浮世・綾華(千日紅・f01194)に問いかけ、乗車するのがとても楽しみだったのだと語った。
「ん、あるよー。でも慣れてるわけじゃないし、俺も楽しみだった」
「そっか、俺はじめて! ね。窓のほう座っていい?」
「勿論。そっち座りなよ」
 綾華はセトからの申し出に快く頷く。好奇心でいっぱいの彼に其方に、と思っていたので丁度良かった。
 徐々に速度を増していく汽車。
 車窓から見る景色は次々と移り変わり、様々な光景を見せてくれる。
 桜が散る街の並木道。
 山裾に見える、冬支度をしはじめた樹々。
 どれもがよく映えて見え、セトと綾華は暫し窓の外を眺めていた。しかしそんな中、セトがうつらうつらと船を漕ぎはじめる。
「セト?」
「ごめんね、夜はあまり起きてられなくて……」
「そーなの? いいねえ、寝る子は育つって言うしな」
 名を呼べば、セトから返ってくる言葉からも眠気が感じ取れた。気にしなくていいと言う綾華の優しさに安堵したセトはゆっくりと眼を閉じる。
「朝になって、もし先に起きてたら俺も起こして、よ……」
「ちゃんと起こすから、安心して寝な」
「うん……」
 そうして眠ってしまったセト。綾華は借りたブランケットを彼に掛けてやり、おやすみ、と静かに告げた。
 流れゆく景色を軽く見遣った綾華も、そっと瞼を閉じる。
 夜明けに備えて今は暫しの休息を、と――。

 そして夜が更けて時間が巡り、黎明の刻が訪れる。
「セト、起きて」
「……ん、んん?」
 優しく身体を揺さぶられたセトは目を擦りながら顔をあげた。彼が起きたことを確かめた綾華は窓を指差す。
「ほら。今ちょーど、朝日が昇る」
「ほんとだ!」
 見えたのは朝焼けの空。
 夜明けの景色を見るのは初めてではないが、今は汽車の中。わくわくした気持ちがセトの裡に湧いてくる。それまでは影絵みたいだった世界にだんだんと色がつき、山の雪を鮮やかな紅葉を照らしていくような光景が広がった。
「綾華、綾華。みてみて。山の上、白い」
「わ、光が反射してて眩しーな」
 そう話す間にも景色は流れていってしまう。硝子越しの世界は少しだけ遠いもののように思え、セトは窓に手を掛ける。
「もっと見たいな。これ窓開けちゃだめ?」
「どーかな、ちょっとだけならいーんじゃない?」
 綾華はセトが紡いだ言葉に笑い、開けちゃえ、と窓の鍵を目で示した。その視線に明るい笑みを浮かべたセトは、えいっと窓をひらいた。
「うーわー! さむ!」
「あ、息。白くなった」
 風が吹き込むのを自分達の席だけに留める為にほんの少しだけひらいた窓。
 綾華は朝の空気の冷たさに身震いをして、セトは小声ではしゃぐ。
「――もうそんな季節なんだな」
「朝の空気はすっかり冬だな。……あ」
 きゅるる。ぐー。
 二人が話す最中に不意にセトのお腹が鳴った。思わず俯いたセトの頬が仄かに赤く染まっている。
「ふ、あはは。元気のいい虫飼ってんねえ」
「綾華ー、食堂車でも景色見えるかな」
 恥ずかしさを誤魔化すように首を横に振ったセトは先の車両に目を向けた。景色を楽しみたい気分と空腹が戦っている状態だ。
「見えるでしょ、多分。朝飯朝飯。食いにいこーぜ」
「ほんと? じゃあ、はやく行こ。何が食えるかな!」
 ぱっと表情を輝かせたセトは元気よく立ち上がる。駆け出してでも行きそうな勢いの彼に続いて綾華も席から腰をあげた。
 窓辺を照らす朝の陽射しは清々しい心地を宿してくれる。
 目的地に着くまでの間もきっと、更に美しい景色が見られるはずだ。汽車で過ごす少し特別な時間を思いながら、二人は歩き出した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水標・悠里
見たことも無い速度で景色が流れていく……。これが列車の旅なのですね
こんな景色滅多に見られませんし、今は咎める人も居ませんからね
一晩だけ夜更かしをしてしまいましょう

展望席も素敵ですが、座席から離れている間の時間も惜しいのでこのまま目的地まで過ごしましょう
手慰みの本が不要になってしまいましたね

こういうときはあんぱんが良いと聞きましたが、移動販売で購入できるでしょうか。それ以外にも美味しいものがあれば……

いえ、別に食い気があるわけでは……

美味しいものを食べながら窓の外を見る
お行儀が悪いかも知れませんが、お許しください

朝日を見たら美しさにため息を吐いて
ああ、眠くなってきました……
まだ、起きていたいのに



●夜更しの朝に
 走る汽車。揺れる車両。
 今まで見たことも無い速度で車窓の景色が流れていく。
「これが列車の旅なのですね」
 水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)は驚きが入り交じる声を紡ぎ、出発から暫しじっと窓の外を眺めていた。
 悠里の青い瞳に映っているのは幻朧桜が並び咲く光景。
 こんな景色は滅多に見られない。それにこうしてひとりで静かな客席に座る今、咎める人も特にいない。
「そうです、一晩だけ夜更かしをしてしまいましょう」
 夜を駆ける汽車の中で過ごす夜。
 それは少しだけ特別な気分がして、悠里は双眸を緩やかに細めた。
 乗り込んだ客席から数両先に進めば展望席があると聞いていた。けれども、最初に座った座席から離れている間の時間も惜しい。車窓が広く作られているという展望席も素敵だと分かっているが、初めて見たこの車窓の光景も十分に良い。
 このまま目的地まで過ごそうと決めた悠里は、長い移動時間の暇潰しにと考えて持ってきた本を仕舞い込む。
「手慰みの本が不要になってしまいましたね」
 もし時間を持て余すようならばまた取り出せばいい。何せ時間はたくさんあるのだから、焦る必要はない。
 悠里はふと車内に訪れた移動販売に目を向ける。
 何が売っているのかも気になり、悠里は手を上げて乗務員を呼んだ。
 こういうときはあんぱんが良いと聞いていた故に、それがあるかどうかを問う。すると乗務員はにこやかに、ありますよ、と告げてパンを悠里に手渡した。
 一緒に紅茶がお勧めだと伝えられ、悠里はワゴンを覗き込む。
「ええと、それ以外にも美味しいものがあれば……」
「でしたら絶品アイスクリンは如何でしょうか?」
「アイス……寒い時に食べるのもいいのでしょうか」
 別に食い気があるわけでは、と恥ずかしげに告げつつ悠里は乗務員の勧めに従った。その場でポットから淹れてくれた温かい紅茶はほんのりと湯気を立てている。
 アイスは少し溶かしておくのが良いと聞き、悠里はまずあんぱんを口にした。
 甘くてふわりとした食感。
 おいしい、と思わず声が零れ落ちた。
 美味しいものを食べながら窓の外を見る。それはとても贅沢で――。
「お行儀が悪いかも知れませんが、お許しください」
 誰も見ていないというのにそう断って、悠里は夜の時間をゆるりと過ごした。
 そうして時は過ぎ、空が移ろい始める。
 昏い夜の色が朝の光に照らされてゆく。朝陽が車内に射し込む様を見た悠里は美しさに感嘆の溜息を零した。
 その光が眩しくて、悠里は双眸を眇める。
「ああ、眠くなってきました……」
 まだ、起きていたいのに――。
 このまま眠ってしまうのが惜しく感じながらも、眠気に抗えなくなった悠里の瞼はゆっくりと閉じていく。
 やがて、穏やかな揺れに身を委ねた少年は心地好さそうな寝息を立て始めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
ヨーコ君(f12822)と汽車の旅へ!
キミが来てくれて助かったよ。機関車、乗り方を知らないんだ
真っ黒な車体がカッコいい。ワクワクするよ!

せっかくだし、汽車の旅を楽しみたいな
長く旅をしているけど、こういうものに乗ったのは初めて
そう、きっと長く続く旅の途中さ
ヨーコ君、旅をしたことはある?
そうなんだ、そうだ、今度キミの旅の話を教えてよ

ねえ、食堂車に行ってみよう
空腹だったのを不意に思い出したんだ
最後にごはんを食べたの、いつだったか覚えてないし

オムライスっていうのを食べてみたいんだ
黄色でなんか…おいしいって聞いたことがあるよ
やっぱりおいしいんだ!楽しみだなあ

あっ旗が立ってる!なんかうれしい
いただきます!


花剣・耀子
エドガーくん(f21503)と、汽車の旅。
あたしも乗ってみたかったから丁度良かったの。
……はしゃぐ気持ちもわかるわ。格好良い。

至れり尽くせりの旅路も偶には良いわね。
のんびりとぜいたくをしましょう。
エドガーくんは、いまも未だ旅の途中なのかしら。
あたしは、……そうね。昔は旅暮らしだったけれど、いまは帰る場所があるわ。

ちゃんと食べないとだめよ。おなかが空いたら力が出ないわ。
ご相伴に預かりましょう。
ごはんは誰かと食べた方が美味しいもの。

情報がオムライスよりもフワフワしてる……。
それじゃあ、オムライスをふたつ。
黄色くて赤くてとっても美味しいから、お楽しみに。

旗にすこし笑って。
手を合わせて、いただきます。



●ふわふわの彩り
 汽笛の音と濛々とあがる煙突の煙。
 発車のベルに見送られ、夜汽車の旅は穏やかに幕あける。
「キミが来てくれて助かったよ。機関車、乗り方を知らなくってね」
 走り出した列車の中、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は花剣・耀子(Tempest・f12822)に笑みを向けた。
「あたしも乗ってみたかったから丁度良かったの」
 乗り方といっても改札で切符を見せてホームに向かい、列車の到着と出発を待つだけ。教えたという程ではないと首を振る耀子。それでもありがとう、と告げたエドガーの眸は輝いていた。
「機関車は真っ黒な車体がカッコよかったね。ワクワクするよ!」
「……はしゃぐ気持ちもわかるわ。格好良い」
 乗車前にじっくり見てきた蒸気機関車の姿を思い返し、耀子も口許を軽く押さえた。汽車が走っている現在、あの車体がこの車両を引っ張っているのだと思うと不思議にも思えたが、窓の外に流れる煙がそのことを教えてくれている。
 ひとまず乗り込んだ車両の席に座った二人は、ゆっくりと旅を楽しむことにした。
 眺めるのは車窓の景色。
 街や湖、山々。そんな光景が流れていく速度は疾い。
 サアビスチケットを使えば何だって思いの儘。
「至れり尽くせりの旅路も偶には良いわね。のんびりとぜいたくをしましょう」
「長く旅をしているけど、こういうものに乗ったのは初めてだ」
 耀子が景色を見つめる中、すごいね、とエドガーが感嘆の声を落とす。その言葉に気になった部分があり、耀子はふと問いかけた。
 旅、というのはきっとこういった旅行のことではない。
「エドガーくんは、いまも未だ旅の途中なのかしら」
「そう、きっと長く続く旅の途中さ。ヨーコ君、旅をしたことはある?」
 答えたエドガーは耀子に問いを返す。
「あたしは、……そうね。昔は旅暮らしだったけれど、いまは帰る場所があるわ」
「そうなんだ。そうだ、今度キミの旅の話を教えてよ」
 耀子は少し考えてから昔と今を胸の裡で対比してみた。その様子を見ていたエドガーはそっと笑み、帰る場所があるのは悪くないことだと感じる。
 それから二人は移り変わる景色を見ていた。
 幻朧桜の並木道。
 散りかけた紅葉の山道入口。
 ぽつぽつと灯る街の明かり。
 どれもが遠い景色に思えるのは、車窓で切り取られているからだろうか。
 そんな中で不意にエドガーが思い立つ。
「ねえ、食堂車に行ってみよう」
 街の片隅に出ていた何かの屋台が見え、空腹だったのを思い出したのだという。
「食堂車? ええ、前の方の車両だったかしら」
「実は最後にごはんを食べたの、いつだったか覚えてないんだ」
 ご相伴に預かりましょう、と耀子が承諾するとエドガーがちいさく零す。瞼を幾度か瞬かせた耀子はちょっとした注意を告げた。
「ちゃんと食べないとだめよ。おなかが空いたら力が出ないわ」
 それに、ごはんは誰かと食べた方が美味しい。
 行きましょう、とやさしく誘う彼女の言葉に納得したエドガーは頷きを返し、席から立ち上がった。
 そして、二人は車内を歩いてゆく。
 幾つかの車両を通り抜け、辿り着いた食堂車は良い匂いが満ちていた。
 案内された席に腰を下ろしたエドガー達はメニュー表をひらいてみる。
「ええと、あった。一度これを食べてみたかったんだ。黄色でなんか……おいしいって聞いたことがあるよ」
 これにしたい、とエドガーはオムライスの文字を指差した。
「情報がオムライスよりもフワフワしてる……」
 彼の言葉がおかしくて思わず呟いてしまった耀子。そのまま食堂乗務員を呼んだ彼女は、オムライスをふたつ、と注文する。
「黄色くて赤くてとっても美味しいから、お楽しみに」
「赤も? やっぱりおいしいんだ! 楽しみだなあ」
 双眸を緩く細めた耀子の声にエドガーは更なる期待を抱く。そうして景色を見ながら待つこと暫く。テーブルに二人分のオムライスが運ばれてきた。
「あっ旗が立ってる!」
「サービスかしら。可愛いわね」
 ふんわりした卵の上に刺さった爪楊枝で作られた帝国旗に喜ぶエドガー。その嬉しげな声に少し笑い、耀子は両手を合わせる。
 エドガーも倣って手を合わせた。そして、二つ分の声が重なる。
「いただきます!」
「いただきます」
 卵の黄色とケチャップの赤。チキンライスの橙。
 ほんのり甘くてふわふわで――旅を彩る味が、二人の間に巡っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴原・季四乃
食堂車で飯を貪るのも悪かないが
折角の旅だ、飯はいつでも食えるが
景色はこの場限りだ
それも夜汽車、滅多に乗る機会も無い

それに、寝ている間に目的地、ってのも勿体無い
秋から冬に移ろう時期、長旅なら
その過ごした時間だけ色々な景色が見れるワケだ
目に焼き付けなきゃ勿体無い
数個ばかり立ち食い出来そうなモンを一掴みしたら
のんびり展望車で過ごすさ

しかし、奇妙なモンだな
この時期に見る桜ってのも
この世界じゃ普通なんだろうが
どうも慣れねえ景色だ
それも含めてこの世界ならではの景色ってとこか

景色に飽いたら乗客や猟兵にどんな奴がいるのか
見るのも暇潰しにゃ良さそうだ


勾坂・薺
うーん。たまには外に出てみるのもいいなぁ。
猟兵のお仕事の一環だから美味しいご飯もタダだし。
……タダだよね。
タダじゃなかったらこの依頼の報酬で払えばいっか。

食堂車で料理を眺めて
これとこれとこれとあれとあれも……
パスタ系はちょっと避けて欲張りながら取り
洋食を堪能。仕事はかるーく聞き耳立てるくらい。
後は一緒に食事してる人たちに調子どう?くらいかな。

普段自炊とかしないから
こういう時のご馳走は美味しくていいなぁ。
食後のデザートとかも食べたらお腹一杯。

……皆仕事熱心だなぁ。うーん。
まぁ、これだけ人がいれば大丈夫かな。
お腹もふくれたし、どこか静かな車両で
のんびり寝よっかな
じゃ、おやすみ。着いたら起こしてね。



●櫻景色と暇潰し
 走り続ける夜汽車の中、通ってきた車両はどれも興味深い様相だった。
 穏やかな空気が満ちる客席。
 賑わい、良い香りが漂う食堂車。
 冴原・季四乃(テンポラリ・f24040)は今しがた通り抜けてきた車両を軽く振り返る。食事を囲む乗客達にはあたたかな笑みが宿っていた。
 彼らのように食事をするのも悪くはないが、折角の夜汽車の旅だ。
「飯はいつでも食えるが、景色はこの場限りだよな」
 ならば展望車に向かうしかないと考え、季四乃は歩を進めていく。
 夜は徐々に更けているが季四乃はまだまだ眠る気はない。ゆっくりと寝ている間に目的地に着いているというのも夜汽車の利点ではあるが、そうしてしまうのも今は何だか惜しい気がした。
 秋から冬に移ろう時期。
 長旅となれば、瞳をひらいて過ごした時間だけ色々な景色が見られる。
「そりゃ目に焼き付けなきゃ勿体無いよな」
 既にその手には移動販売のワゴンで購入したサンドイッチ入りの袋が提げられている。これを供にして展望車でのんびり過ごす時間は格別に違いない。
 そして、季四乃は展望席の一角に腰を下ろす。
「これは……なかなかなモンだな」
 客席と比べて窓が広く、大きく作られている車両から見る景色はとても印象的だった。汽車が過ぎゆく一瞬、そのひとつひとつが絵画や写真に切り取られているかのように見えたからだ。
 花弁が舞う幻朧桜と散りかけた紅葉。
 それらが流れていく様を見つめていた季四乃は軽く息をつく。
「しかし、奇妙なモンだな」
 この時期に見る桜に対して覚えたのは不可思議な感覚。
 この世界では幻朧桜が咲いていることが普通なのだろうが、季四乃にとってはどうにも慣れない景色に思えた。
「それも含めてこの世界ならではの景色ってとこか」
 これもまた旅の醍醐味か。
 そのように感じた季四乃はサンドイッチを取り出し、一緒に買った紅茶に口をつけた。見つめる景色は飽くことがないように思える。
 何故ならトンネルを抜ける度に違う街や山々の光景が広がっていたからだ。
 されど此処から先、目的地まで時間はたっぷりある。
「後で他の車両も見回ってみるか」
 乗客や猟兵にどんな奴がいるのか、それを見るのも暇潰しには良さそうだ。
 そうして季四乃は席の背凭れに身体を預け、暫し穏やかな時を過ごしていく。

●洋食と微睡みと
 風を切り、煙を燻らせながら汽車は進む。
 揺れる車内の心地に身を委ね、勾坂・薺(Unbreakable・f00735)は外の景色をぼんやりと眺めていた。
「うーん。たまには外に出てみるのもいいなぁ」
 軽く伸びをしてからそう口にして、薺は車窓の光景から少し視線を外す。
 穏やかな汽車の旅。
 これも猟兵の仕事の一環だから乗車代も美味しいご飯もタダ。至れり尽くせりな状況を楽しもうと決めた薺だったが、不意にはたとする。
「……タダだよね」
 少しだけ不安になった薺は乗車チケットと一緒に貰っていたサアビスチケットをこわごわと見下ろした。
 大丈夫。ちゃんと何でも使えると書いてある。
 安堵を覚えた薺はそれまで座っていた座席からゆっくりと立ち上がり、さっそく食事を頂く為に食堂車に向かっていった。
 何両かを通って辿り着いた食堂車。其処で皆が食べている料理を眺めることでチェックを終えた薺は案内された席に腰を下ろす。
「これとこれとこれとあれとあれも……うん、色々欲しいけどどうしようかな」
 エッグスオムレツにシチュードビーフ。
 ライスカレーにカツレツ。魅惑的な洋食の数々から食べたいものを選び、薺はそれぞれの味を堪能していく。
 その際に少しだけ乗客の会話に耳を傾けるのも忘れない。
 何せこれはちゃんとしたお仕事。向かう先について聞いておくのも大切なこと。
 食事を続ける中、薺の耳に別の猟兵が情報を聞いている声が届いてきた。人魚が神社の池に棲んでいた言い伝えがあるだとか、その肉を喰らえば不老不死になれるだとか、そういった話だ。
(……皆仕事熱心だなぁ)
 薺は感心しながら、これだけ情報があれば皆に任せておけばいいと思い至った。
 そして、デザートにお勧めだというアイスクリンを頼む。
 普段から自炊をしない分、こういった時のご馳走は美味しくて良いものだ。
「んー、お腹一杯」
 存分に食事を楽しんだ薺はサアビスチケットで支払いを終え、静かな席を探して他の車両への扉を潜る。
「お腹もふくれたし、どこか静かな……ここが良いかな。のんびり寝よっと」
 薺は適度に人がいない座席車の一角に陣取り、ふあ、と欠伸をした。
 車内の揺れは心地好く、次第に微睡みが訪れる。
 
 そんな中、反対側の車両から季四乃が歩いてきた。
 誰かしらの猟兵が来たのだと感じた薺はひらひらと片手を振る。そして、今にも閉じてしまいそうな瞼で彼を見てから、ちょっとした願いを告げた。
「じゃ、おやすみ。着いたら起こしてね」
「ん? ああ、おやすみ」
 突然の事に思わず返事をしてしまった季四乃に対し、薺は何も気にすることなくそのまま眠りに落ちていく。
「まぁいいか。後で起こしてやるよ」
 頼まれたからには仕方ないとして、季四乃は軽く肩を竦めた。
 そうして――其々に過ごす時間が過ぎていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハニー・ジンジャー
きしゃ!
笑む瞳はきらきらと
声は子どものように高揚して

我ら、サクラミラージュは初めてですが
汽車にもはじめて乗ったのです
これが汽車というものなのですね
じいと座るも嫌いでないけど
我らお散歩したい気持ちです
がたごと、ゆらゆら、
なんだかゆりかごのようですね、なんて、ふふ

おや何をやってるの?
移動販売をひょこりと覗いて
こっちは何があるのでしょ
あれはいったいなんですか?
周りの人の袖をくいくい引いて

おそとに見える、あれ、お星さまですか
池にもお星さまは映っていますか人魚さま?
ああ、はやくお逢いしたいものですね



●列車巡りと人魚の池
「きしゃ!」
 汽笛の音に続き、無邪気な声が響く。
 流れていく車窓の景色が映る硝子の窓に両手で触れ、ハニー・ジンジャー(どろり・f14738)は子供のように瞳をきらきらと輝かせた。
 移りゆく光景のひとつひとつが新鮮なのはサクラミラージュの世界に訪れたこと、汽車に乗ることのどちらも初めてだからだ。
「なるほど、これが汽車というものなのですね」
 はしゃぐ気持ちも落ち着いてきた頃、ハニーは双眸を緩く細める。
 こうして景色を眺めてじいと座っているのも嫌いではないし悪くはない。けれども今は変わった車内を見て回ってみたい気持ちもあった。
「我らお散歩したい気持ちです」
 いきましょう、と立ち上がったハニーは先頭車両に向けて歩くことにした。
 がたごと、ゆらゆら。
 線路の緩やかなカーブに差し掛かれば軽く車体が傾く。鉄の車輪が擦れて立てる音も不思議で面白い。
「なんだかゆりかごのようですね、なんて、ふふ」
 揺れる心地と音まるで子守唄。
 通りかかった席で乗客がうつらうつらと船を漕いでいるのも、此処が揺り籠だと思わせる要因のひとつ。そんな中でハニーはふと、前の車両から移動販売のワゴンが近付いてきていることに気が付いた。
「おや何をやってるの?」
 乗客が蜜柑を買っている様を見つめたハニーは、ひょこりと覗き込む。
 ポットに入った紅茶や珈琲。手軽に食べられるサンドイッチなどの軽食。それらを勧める乗務員はにこやかに笑いかけ、紅茶をどうぞ、とハニーに差し出してくれる。
「定期的に巡回していますので、なにかご入用でしたらお申し付けくださいね!」
 そういってワゴンを引いていく販売乗務員を見送り、ハニーは軽く手を振った。
 そのまま次は食堂車へ。
「こっちは何があるのでしょ」
 皆が食事をする様をきょろきょろと見渡して、進む車内散歩はとても興味深い。
 そうして其処を抜ければ景色が美しい展望車に辿り着く。
「あれはいったいなんですか?」
 景色を見ていた周りの人の袖をくいくいと引き、ハニーは思うままに質問を投げかけていった。街の明かりに幻朧桜が並び咲く光景。それらは見ていて飽きず、周囲の人も快く問いに答えてくれる。
「おそとに見える、あれ、お星さまですか」
 ハニーは展望車の空いていた席に腰掛け、背凭れに体を預けた。
 ぽつりと呟いたハニーはこの列車の行く先について考える。寂しい神社に待つ人魚の池――其処にも、お星さまは映っているだろうか。
「ねえ、人魚さま? ああ、はやくお逢いしたいものですね」
 星が瞬く空を見上げ、馳せた思いはそっと夜の空気の中にとけていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧
…汽車とは、こういう乗り物なのか…
初の文明と未知の不思議な乗り物に縮こまり
…展望車という所へ行こう
外がよく見える方が少しは落ち着くかもしれない

外の景色にほっと一息
馬車とは違って揺れないし一定の速度で、速い
牽く動物は見えなかったが、疲れる子は居ない様で…それは嬉しい
僕の理解出来る文化で近いのは…サムライエンパイアかアルダワあたりか
アルダワなら蒸気だろうが、汽車はどうやって動いているのだろう
首を傾げつつ夜景を眺め

紅葉や、山の雪…あの桜が、確か影朧桜か
…心細いが、遠目でも自然を見ると落ち着く…
葉が落ちた木の姿も、眠る前の幼子みたいだ

この先は、人魚の居る神社か…
影朧となり傷付いたままなのは、悲しいな



●線路の先の景色
 汽車とは、こういう乗り物なのか。
 がたごとと揺れる車内、泉宮・瑠碧(月白・f04280)は不思議そうに辺りを確かめていた。一先ず背を預けた連結部の一角。出発した列車はもうかなりのスピードで走り出しており、鉄の車輪と線路が擦れ合う音が聞こえていた。
 初めての文明。
 未知の不思議な乗り物。
 それらに縮こまってしまった瑠碧はふるふると首を振る。
「……展望車という所へ行こう」
 ついこんな場所で立ち止まっていたが、車内では席に座って待つべきらしい。
 それに外がよく見える方が少しは落ち着くかもしれないと考え、瑠碧は歩を進めていく。そうして辿り着いた車両は穏やかな様相だった。
 瑠碧は広く作られた窓の傍に腰掛ける。席が木造りであるからか、外の景色が見えたからか、瑠碧はほっと一息をつく。
 そして瑠碧は自分の知る乗り物と蒸気機関車を比べてみた。
 馬車とは違って大きくは揺れず、一定の速度を保つうえに速い。牽く動物は見えなかったが、それならば疲れる子は居ない。
「そうか……動物を使っていないなら、それは嬉しいな」
 これほどに速く動かされればどんな生き物だって疲弊してしまうだろう。そんなことを考えつつ、瑠碧はぼんやりと考える。
 他の世界の文化。例えばアルダワの蒸気。汽車はそれに近いようだが、これほどまでのものはどうやって動いているのだろう。
 首を傾げつつも夜景を眺めれば思考は視界に入った自然へと傾いていく。
 色付き終えた紅葉。
 山の頂に積もる雪。そして、淡い彩の櫻。
「あの桜が、確か幻朧桜か」
 知らぬ文明の利器ばかりで心細いが、遠目でも自然を見ると心が落ち着いていく。
 秋から冬に移り変わる景色は儚い。
 葉が落ちた木の姿はまるで眠る前の幼子みたいだ。そう感じた瑠碧は暫し移り変わる車窓の景色を眺め続けた。
 星は瞬き、月は何処までもついてくる。
 それは何処の世界でも変わらぬものだ。そうして列車は或る池の傍を通り過ぎた。少しだけ振り返り、幻朧桜を映していた池を眺める瑠碧。
 その景色はこの遥かな線路の向こう側にあるという神社の奥を連想させた。
「この先は、人魚の居る神社か……」
 影朧。それは傷つき虐げられた者。きっとその心はまだ傷付いたままなのだろう。そう思うと悲しく感じられ、瑠碧は僅かに俯く。
 それでも自分達はそれすら救うために此処にいる。
 夜が明けて再び宵が巡りくる頃――。その時を想像し、瑠碧は静かな思いを馳せた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

永倉・祝
鈴白くん(f24103)と。
実は僕、帝都から出たことがないので旅と言うのはとても新鮮です。しかも、相手が君だなんて…嬉しいです。君は興味深い人ですからね。

展望車だと景色がよく見えますね…サクラミラージュは桜がメインのようになってしまっていますが紅葉も美しい…。
鈴白くんは綺麗ですから桜のような頬も紅葉のような紅も似合いそうです。

(特別サービスだといって渡された飲み物を鈴白からもらい口をつけようとして)
…鈴白くん。何か入れましたね?
君の扱っているものなら合法阿片でしょうか?
残念ですが僕はお薬には興味はないんですよ。
君は僕に薬を与えてどうしたいんです?
君は君というだけで十分魅力的なのに…。


鈴白・秋人
永倉さん(f22940)と展望車へ


永倉さんは汽車は初めて…?
初体験がわたくしとなんて…ふふ…よろしくて?

汽車でも何でも旅は良くてよ。
景色も良くて、退屈な日々から抜け出せますもの。


…わたくしも貴方に興味がありますわ。
貴方自身とその行く末に。

そうね…その瞳…
睫毛も長くて、美しいわ。
(永倉さんの顬から頬を撫で)

あら、永倉さんはお上手なのね。

そろそろ喉が渇いたでしょう?

特別でしてよ?
(飲み物を渡し自身のグラスにも一口、口を付けて流し見て)

もう…
永倉さんは勘がよろしいのね。

貴方に窘められるのも良いけれど…

そのままがお嫌いなら…口移しでもよろしくてよ…?
(ゆっくりと馬乗りになり唇に指を這わせて口付けし)



●お薬と影
 とある客席の片隅。
 周囲には二人以外は誰もいない、静かな一角。
「永倉さんは汽車は初めて……?」
 かたことと揺れる車内の心地を確かめながら、鈴白・秋人(とうの経ったオトコの娘・f24103)は向かい合った座席の反対側に座る永倉・祝(多重人格者の文豪・f22940)に問いかけた。
「実は僕、帝都から出たことがないので旅というのはとても新鮮です。しかも、相手が君だなんて……」
 それまで窓の外を見ていた祝が漆黒の双眸を僅かに細める。
 秋人はその言葉に穏やかさが入り混じっていると感じながら、自らも金色の瞳を幾度か瞬かせて問うた。
「初体験がわたくしとなんて……ふふ……よろしくて?」
「嬉しいです。君は興味深い人ですからね」
 祝が素直に告げてくれたことが嬉しくて、秋人は口許を緩める。
 そして、ふと外の風景を眺めた。ぽつぽつと灯が宿っている夜の街の景色や、幻朧桜が並ぶ山間の路。それらが車窓で切り取られているからか、此処はいつもの現実から遠い場所のように思えた。
「汽車でも何でも旅は良くてよ。景色も良くて、退屈な日々から抜け出せますもの」
 そう語りながら思うのはつまらない日常。
 しかしそれについては深く語らず、秋人は祝と共に夜汽車のひとときを楽しむ。
「展望車だと景色がよく見えますね……」
 特に今は散りかけの紅葉が美しい。
 祝は通り過ぎていった景色の中にあった樹々を思い、秋人に目を向けた。どうかしましたか、と秋人が問えば祝は続けて口をひらく。
「鈴白くんは綺麗ですから、桜のような頬も紅葉のような紅も似合いそうです」
 まあ、と薄く微笑む秋人。
 そして秋人もまた祝をじっと見つめた。
「あら、永倉さんはお上手なのね。……わたくしも貴方に興味がありますわ。貴方自身とその行く末に――」
「僕自身?」
「そうね……その瞳……睫毛も長くて、美しいわ」
 祝がぱちぱちと瞼を瞬けば、その眸が特に良いのだと秋人は笑う。そして緩やかに手を伸ばし、祝の顳顬から頬を撫でた。
 くすぐったいような感覚をおぼえつつ祝は秋人を見つめ返す。
 それから秋人は手を離し、用意していた飲み物を祝に差し出した。
「そろそろ喉が渇いたでしょう?」
「ええ、助かります」
 グラスを受け取った祝が礼を告げる。秋人は先に自分のものに口をつけながら、祝の様子をさらりと流し見る。
「特別でしてよ?」
 付け加えられた言葉でぴんときた祝は飲む前にグラスを傾けることを止めた。
「……鈴白くん。何か入れましたね? 君の扱っているものなら合法阿片でしょうか?」
「もう……永倉さんは勘がよろしいのね」
 ばれてしまっては仕方ありません、と軽く肩を竦める秋人。祝はそっとグラスを返して首を振った。
「残念ですが僕はお薬には興味はないんですよ」
「貴方に窘められるのも良いけれど……」
「君は僕に薬を与えてどうしたいんです?」
「それは――そのままがお嫌いなら…口移しでもよろしくてよ……?」
 敢えて問いかけに答えなかった秋人はゆっくりと立ち上がり、祝の唇に指先を這わせようと腕を差し伸べる。祝はその手を緩やかに制止しながら、もう一度だけ頭を横に振ってみせる。
「君は君というだけで十分魅力的なのに……」
 そのとき、列車が長いトンネル内に差し掛かった。
 暗くなる車内。重なる視線。
 それから秋人と祝がどういった言の葉を交わし、どのような遣り取りを紡いだのか。それは二人だけが知る、秘密のひととき。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
瑠璃緒(f22979)と
夜汽車の旅を楽しもう

瑠璃緒、眠気が平気なら展望車に行かないか
俺は影朧桜をゆっくり眺めた事がないので
この機会に夜桜でも楽しみたい

車窓から見える景色は絵画のようだ
宵闇に芒と浮かぶ桜は幻想的で目を奪われる
……瑠璃緒も、桜に負けず劣らず宵闇によく映えるな
スタァとは文字通り、夜を照らす星のような存在なのか

俺がいた宇宙か、どの星だろう
あの目立たない星の近くじゃないか
花など無い寂しい場所だったので
自然を楽しむひと時はとても新鮮だ
ああ……俺も、あんたと見れてウレシイ

しかし紅葉や雪は、明るい方がよく見えそうだ
明日も此処で景色を眺めないか
モーニング珈琲を頼んでおこう、目覚めの紅茶も一緒にな


六条寺・瑠璃緒
ジャック(f16475)と
夜汽車なんて良いね
旅情を楽しもう

夜更かしは好きだよ
夢に揺蕩うよりも良い
楽しみがあるなら尚更
そうだね、夜桜と云うのは、好いね

嗚呼、本当に、此処の景色は絵になる
宵闇に映える?有難う
そう、僕はスタァだから
君も宵闇が似合うと云うか、馴染むと云うか…
嗚呼、いや、何でもないよ
(…君の本質は闇とは違うのだろうから)
そう、星と云うなら、あの空は…君が居たと云う宇宙の世界は、どんなものだろう
どの星座の近くだろうか
確かにこんなに遠くては此の桜は見えないのだろうね
…君と此の景色を見ることが出来て、嬉しいよ

雪も紅葉も楽しみだね
目覚めの紅茶を此処に運ばせることは出来るかな
僕は早起きも好きなんだ



●櫻と星と黎明と
 夜の狭間を駆ける汽車。
 流れゆく景色の色に機関車の煙突から吹き出す煙が入り混じっていく。汽車が速度を増すと共に灰煙も薄れ、次第に帝都の街明かりが遠くなっていった。
「夜汽車なんて良いね。この旅情を楽しもうか」
 暫し出発の余韻に浸っていた六条寺・瑠璃緒(常夜に沈む・f22979)は窓の外から視線を戻し、ジャック・スペード(J♠️・f16475)に目を向ける。
 ああ、と頷いたジャックはそれまで座っていた客席から立ち上がった。座席車の数両向こうにあるという場所を示し、彼は瑠璃緒の名を呼ぶ。
「瑠璃緒、眠気が平気なら展望車に行かないか」
 ジャック曰く、未だ幻朧桜をゆっくり眺めたことがないのだという。
 この機会に夜桜を楽しみたいと告げた彼の願いはぜひとも叶えてやりたいものだった。好いね、と答えた瑠璃緒も倣って立ち上がる。
「大丈夫、夜更かしは好きだよ。このまま夢に揺蕩うよりも良い。それじゃあ夜桜を一番良い席で見に行こう」
 連れ立った二人は展望車へと歩を進めていった。
 
 車両を繋ぐ扉がひらき、先ず視界に入ったのは大きな車窓。
 これまで居た客席よりも広く作られた展望用の硝子窓は、車内の入り口に立っているだけで良い景色を見せてくれた。
 彼処に、と空いている席を示したジャックは瑠璃緒を誘う。
 其処に向かい合う形で腰を下ろした二人は車窓から見える光景を眺めた。
「嗚呼、本当に、此処の景色は絵になる」
「絵画のようだとはこのことなんだな」
 瑠璃緒が感嘆の言葉を落として灰彩の瞳を僅かに緩めると、ジャックも眼光を細めるようにひからせる。
 宵闇に芒と浮かぶ幻朧桜の数々。
 それらはとても幻想的で目を奪われてしまう。暫し無言の時が二人の間に流れたが、それは心地の好い沈黙だった。
 その最中、ジャックはふと浮かんだ思いを声にする。
「……瑠璃緒も、桜に負けず劣らず宵闇によく映えるな」
 宿す色は黒と灰であっても、その白い肌は闇に沈むことを是としない。窓に映る瑠璃緒と夜の色を見比べたジャックに対し、彼はそっと頷く。
「有難う。そう、僕はスタァだから」
「スタァとは文字通り、夜を照らす星のような存在なのか」
 瑠璃緒の答えにジャックは納得した様子だ。其処からもう一度、外の景色を眺めたジャックを見た瑠璃緒はぽつりと呟いた。
「君も宵闇が似合うと云うか、馴染むと云うか……。嗚呼、いや、何でもないよ」
 ――君の本質は闇とは違うのだろうから。
 自分とは違う黒の色を宿しているジャックに首を振り、瑠璃緒は話題を違う方向へと持ってゆく。誤魔化したかったわけではなく純粋に気になっていることがあった。
「そう、星と云うなら、」
 あの空は――君が居たと云う宇宙の世界は、どんなものだろう。どの星座の近くだろうかと問う言葉を聞いたジャックは空を見上げた。
「俺がいた、宇宙。どの星だろう……あの目立たない星の近くじゃないか」
 きっと、多分。
 そう告げたジャックが指差した暗い星を振り仰いだ瑠璃緒。彼に向けてジャックは自分が居た場所について語る。
「花など無い寂しい場所だったな。だから、自然を楽しむひと時はとても新鮮だ」
「確かにこんなに遠くては此の桜は見えないのだろうね。それなら良かった。君と此の景色を見ることが出来て、嬉しいよ」
「ああ……俺も、あんたと見れてウレシイ」
 瑠璃緒が伝えてくれた思いに同意を示し、ジャックも気持ちを素直な言葉にした。
 そして、時間は過ぎていき――。
 数々の街や山間、川沿いなどを抜けて汽車は走り続ける。
 途中に紅葉が見えたが、きっとそれらをじっくり眺めるのならば明るい方が良い。
「明日も此処で景色を眺めないか、瑠璃緒」
「そうだね、朝が来たらまた此処で……」
 モーニング珈琲を頼んでおこうとジャックが話すと、瑠璃緒は目覚めの紅茶も一緒がいいと注文する。視線を交わしあった二人は更けていく夜の色を暫し見つめた。
 そうして彼らはそっと席を立つ。
 巡り来る黎明を思い、其処から続く汽車の旅へと思いを馳せて――。


●線路を辿って
 夜を走り抜け、巡る朝を迎え、澄んだ空気の中に汽笛が鳴り響く。
 或る者は穏やかなひとときを楽しみ、或る者は行く先についての情報を集めて――その過ごし方はそれぞれに違っていた。
 やがて時は過ぎていく。
 昼間から夕刻へと時間が移り変わる頃、車内のアナウンスが目的地の駅名を告げた。
 汽車の旅はこれでおしまい。
 ひらいた扉の向こうは静まり返った無人駅だった。
 煤をとかしたような煙をあげ、走り去っていく汽車。その轟々たる音が遠ざかっていく中、猟兵達は目的地に向けて歩き出す。
 
 きっと、間もなくすれば見えてくるだろう。
 人魚の言い伝えが残るという、寂れて廃れた神社の入り口が――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『しろがらすさま』

POW   :    雑霊召喚・陽
レベル×5体の、小型の戦闘用【雑霊】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
SPD   :    おみくじをひきなさい
レベル分の1秒で【おみくじ棒】を発射できる。
WIZ   :    ゆめをみましょう
【ふわふわの羽毛】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●白鴉と御神籤
 沈みかけた夕日。斜陽の空。
 薄い橙色と宵彩の帳が混じりあう時刻。夕闇が広がる中、うら寂れた雰囲気が満ちる鳥居の前に猟兵達は立っていた。
 妙な気配がすると感じるのはやはり、この奥に影朧が潜んでいるからだろう。
 警戒を強めた猟兵達は鳥居を潜り、参道を進む。
 境内の奥にある飾り気のない拝殿前に差し掛かった時、それらは現れた。
 
「ちゅちゅん!」
 そんな愛らしい声と共にまんまるくて白い鴉が更に奥に続く道を通せんぼする。
 その数はひとめでは数えきれないほどだ。
「ちゅん!」
 鳴き声は妙だが、それらがこの先に通してくれないことだけは分かる。
 情報を集めた猟兵曰く、神社に鴉が祀られていたという話はないらしい。ならばこのしろがらす達は影朧の下僕として集ったものだ。
 拝殿裏の庭の池にいるという人魚に人間を近付かせぬようにしているのだろう。
「ちゅんちゅーん!」
 鳴いたしろがらすは、何だかこのように告げているように思えた。
 この先にはなにもない。本当に何にもないったら。
 だからおみくじでも引いて帰ってよ、と。
 
 意志も行動も可愛らしいが素直に従うわけには行かない。
 彼らがこの場に影朧として存在している以上、このままにしてはおけないのだ。
 猟兵達は其々に身構える。そして――人魚を守ろうとするしろがらすさま達から、数多の御神籤大乱舞が投げつけられた。
 
祝・誘

……想像していたより、随分可愛らしい鴉だな
鴉というより、雀のようだが
まあ、そんなことはどうでもいいか
影朧である以上、此処に居てもらうわけにはいかない
さあ、骸の海へ、おかえり

景雲飛で【なぎ払い】【範囲攻撃】を行い、一掃しよう
〈天香国色の舞〉で、綺麗な牡丹に包みながら、誘うのもいいな
さあ、安らかに眠れ

……おや。白鴉から土産を貰えるとは
ほう、是は御神籤か
人の子には、是を頼りに行動を決める者もいると聞くが
……どんな運勢が記されているのだろう
試しに見てみるか
良い運勢だと、いいのだが



●白鴉の護り
「……想像していたより、随分可愛らしい鴉だな」
 まんまる、ふんわりとした体。
 愛らしい嘴に白い翼。鴉というより雀のようだと感じた誘は頭を振った。
「まあ、そんなことはどうでもいいか」
 どのような見た目をしていても影朧であることは変わらない。ちゅちゅんと鳴く声の裏に敵意が滲んでいるのもよく分かる。
 神性を失ったものが行き着く果ては世界の破壊。
 今はただ、この奥にいる人魚を守ろうとしているだけだとしても、その守護が過剰になれば人を傷つけてしまう未来が待っている。
「影朧である以上、此処に居てもらうわけにはいかない。さあ――」
 骸の海へ、おかえり。
 静かに告げた誘が景雲飛の名を抱く九尾扇をひらりと舞わせれば、玲瓏な鈴の音が響き渡る。その音色と共に広がった衝撃が周囲の白鴉を巻き込んでいく。
 ちゅん、と響く悲鳴めいた鳴き声。
 それにぐっと心が締め付けられるような気もしたが、誘は己を律する。
 倒さずにいることが慈悲ではない。
 此処は彼らがいるべき場所ではないのだ。この地に留まらせるよりも還した方が良いのだということは十分に理解している。
 対する白鴉達は眠気をいざなうふわふわの羽毛を放ってきた。だが、それを避けた誘は景雲飛を再び掲げる。
「眠るのはお前達だ。さあ、安らかに眠れ」
 放たれたのは天香国色の舞。
 扇は美しい牡丹の花に代わり、ふわり、ふわりと白鴉を包み込んでいく。
 そして、誘を狙っていた鴉はぽとりと地に落ちた。
 それと同時にぺいっと御神籤が投げつけられる。最後の抵抗だったのか、それともある種の冥土の土産なのか。
 どちらでも構わぬと感じた誘は御神籤を拾いあげた。それは青海波の割付文様の紙であり、紙に包まれた内部に文字が記されているようだ。
「……おや。白鴉から土産を貰えるとは」
 人の子には、是を頼りに行動を決める者もいると聞く。示されているのはどんな運勢であるのか。誘は興味深そうに折り畳まれた紙をひらいていった。
「試しに見てみるか。良い運勢だと、いいのだが――」
 そして、誘はそれを読みあげる。
 
『吉凶相半』
 きちきょうあいまじわり。良し悪しの交わりの時。いずれは吉に変移する。
 悪縁は切り、綴やかに祓うべし。良き彩は薄桃色。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

永倉・祝

鈴白くん(f24103)と。
ここが件の神社だね。
もともと神聖な場所ではあるけれど夕闇と相まってより神秘的に見えるよ。
立ちはだかるのは…ふふ、可愛らしい鴉だね。
鴉なのにちゅんちゅん鳴くところも愛らしい。
「御神籤を引いて帰ってほしい?」とでも言っているようだけど。
そうだね。御神籤には興味があるかな?
けれど…この先に用事があるんだ。通してもらうよ。
【指定UC】
僕の質問はね『この先に僕達を通してくれないかい』だよ。
動物の言葉は今の僕には分からないし分かったところで『否』と答えるだろうから。
それは僕の満足する答えではないからね。
情念の獣は牙を向け続けるだろう。

鈴白くん、怪我は(叩かれて???)


鈴白・秋人

長倉さん(f22940)と行動致します。

(汽車から降り、小冊子を手に)

ここから向かう先は…確か神社ですわね。

(道すがら周りの景色を楽しみ、境内に着く頃には嬉しくて小走りで鳥居を潜る)

あら…!まぁ…!

わたくし達をお出迎えして下さるの?

(まんまるの白いふわふわ達に瞳を輝かせ、その集団に突撃。愛で出す)

…この白く美しいフォルム…愛らしい瞳…。

…あら。
ふふふ。
勾玉のネックレスを付けているなんて…お洒落さんですのね。

本当に可愛らしいですわ。

(うっとりと頬擦りしている間に祝さんのUC発動)

あぁ!なんて事…!

(その惨劇に愕然とし。近付いて来た祝さんの頬を涙目でパシン!と平手打ち)

もう…!
酷い…酷いですわ!



●愛でること、屠ること
 汽車から降り立ち、駅を出て小冊子を頼りに辿り着いた先。
「ここが件の神社だね」
「確かに神社ですわね」
 夕陽に照らされた鳥居とその向こう側に見える寂れた境内を眺め、祝と秋人は進んでいく。次第に拝殿が見えてくる中、祝は参道に射す斜陽に目を細めた。
 その瞳は夕陽までも吸い込むような黒。
 双眸を緩やかに眇めた祝はこの場に感じた思いを落とす。
「もともと神聖な場所ではあるけれど、夕闇と相まってより神秘的に見えるよ」
「ええ。……あら? まぁ!」
 秋人もそっと頷き、秋と冬の狭間にある景色を見渡した。しかし、そのとき――何かを見つけた秋人が嬉しげに小走りになって駆け出す。
 何事かと祝が其方を見やれば、白くて丸い鴉達が此方に向かってきていた。
「あれが……」
「わたくし達をお出迎えして下さるの?」
 白い鴉達が影朧なのだと祝が察する中、秋人はまんまるの白いふわふわ達に瞳を輝かせ、その集団に突撃していく。
 ハイカラさんは止まらない。あの状態ならば大丈夫だろうと感じた祝いはその勢いに微かな笑みを浮かべつつ、影朧達を瞳に映す。
「ふふ、可愛らしい鴉だね」
「ちゅちゅん!」
 鴉だというのにちゅんちゅんと鳴くところも愛らしい。どうやら御神籤を引いて帰ってほしいとでも言っているようだが、祝達の用事はその奥にある。
「そうだね。御神籤には興味があるかな? けれど……通してもらうよ」
 祝が敵であるそれらに宣言する中、秋人は白鴉達を愛ではじめていた。ちゅちゅちゅんと突っつこうとする白鴉だが、愛でることに熱中している秋人の後光が激しく光っている間は手を出すことが出来ない。
「……この白く美しいフォルム……愛らしい瞳……」
 ふわふわと笑む秋人は指先を伸ばし、白い羽毛を優しく撫でた。戦闘行為を行わない代わりに相手も手出しができない。
 それを自覚せずに行う秋人の周囲は和やかな空気に満ちている。
 白鴉も最初は困っていたが、敵意のない秋人の纏う雰囲気に絆されているようだ。
「ちゅん!」
「……あら。ふふふ。勾玉のネックレスを付けているなんてお洒落さんですのね」
 本当に可愛らしいですわ、と告げてくれる秋人の言葉に得意げになった白鴉は胸を張るような仕草をみせた。
 えへん、とした様子が更に愛らしく、秋人の口許も花が咲いたように綻ぶ。
 秋人がうっとりとしている中、祝は己が力を紡いだ。
 あの周辺だけは平和だが、ただ愛でているだけでは奥に進むことは出来ない。きっと秋人が影朧の気を引いてくれているのだと感じ、祝は白鴉に問いを投げかける。
「ねえ、君達。この先に僕達を通してくれないかい?」
 するとはっとした白鴉がけたたましく鳴き始めた。
「ちゅちゅちゅちゅん!!」
 今の祝には動物の言葉はわからない。だが、否だと言われていることは理解できた。それは即ち、祝が満足する答えではない。
 見る間に現れた情念の獣は白鴉達に襲いかかり、その牙を突き立てた。
 白鴉が次々と倒れていく様を秋人は口許に手を当てて見ていることしか出来ない。
「あぁ! なんて事……!」
 驚愕が消え去らぬ内に彼らの周りにいた影朧は地に落ち、戦う力を失っていった。これでひとまずは蹴散らせただろうかと祝が周囲を見渡せば、此方に駆け寄ってくる秋人の姿が見えた。
 祝も其方に歩み寄り、大丈夫だったかと問いかける。
「鈴白くん、怪我は――」
 パシン。
 言い終わる前に乾いた音が響く。自分が頬を平手打ちをされたのだと気付いた瞬間にちいさな痛みが走った。
「もう……! 酷い……酷いですわ!」
「???」
 涙目でそう訴える秋人はふるふると震えている。事態が理解できない祝は暫しきょとんとしたまま、秋人を見つめていた。
 そうして――。
 影朧である白鴉達はああして骸の海に還すことが救いなのだ。そう語る祝と、涙目の秋人が和解したのはそれから暫し後のこと。
 そんな彼らの足元には白鴉の置き土産である御神籤が落ちていた。
 
 祝の足元には『吉凶相央』と書かれた紙。
 きちきょうあいなかばず。良くもなく、悪くもない。どちらに転ぶかは己次第。
 周囲の機微に心を向けよ。さすれば道開けし。良き彩は漆黒。

 秋人には『末大吉』と記された紙。
 大吉には未だ遠し。されどいずれ幸と成す。
 よくよく相手の心を知り、掴むべし。幸運を授ける物は桜の花簪。
 
 その間も何やら話し合う二人。
 彼らがその御神籤に気が付くのは、更にもう少しばかり後の話になる。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
あー…、コイツらが人魚の番人…?(まだ眠気が抜けずボーっとしながら)
からす?鳴き声はスズメだし見た目文鳥にしか見えねーな…

んー、ちょっと目覚めて来た
別にオレらは神社参りに来たわけじゃねーよっ
さっさと通らせて貰うぜ
おみくじ…一応運試しで引いてみる?
ま、どんな結果でもグラナトさんと一緒なら
いつでも最高にラッキーだけどな

おみくじ引いたらさっさと倒して進もうぜっ
魔装銃の【範囲攻撃】で炎【属性攻撃】をグラナトさんに合わせるぜ
ははっ、唐揚げどころか消し炭になりそう

※アドリブOK


グラナト・ラガルティハ

マクベス(f15930)と
(【動物と話す】で言いたいことはだいたい分かる)
ほぅ、白いカラスとは珍しい。
…しかしこう言う敵はやはり戸惑ってしまうな。
カラスだと言うのならせめてその鳴き声はどうかと思うのだが…。
神籤を引いて帰れと言われてもこの先に用事があるからな。
マクベスが引くなら私も引くが。

まぁ、神籤を引いたところで帰ってやるわけにはいかんのでな。
炎の神鞭で軽く払うか。
【属性攻撃】炎をのせて攻撃。



●御神籤の示す先
 眠い目を擦り、夕闇の参道を往く。
 列車を降りる前も未だ少し寝ていたらしく、夢うつつでぼーっとしている様子のマクベス。その手を静かに引いてやっていたグラナトはその顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
「んー、ちょっと目覚めて来た」
 ありがとグラナトさん、と笑みを見せるマクベスは顔を上げた。
 彼と過ごす微睡みのひとときは楽しかったが此処からは戦いの場。マクベスが向けた視線の先には参道に立ち塞がる、白くてまんまるな鴉の姿があった。
「あー……、コイツらが人魚の番人……?」
「ほぅ、白いカラスとは珍しい」
「からす? 鳴き声はスズメだし見た目は文鳥にしか見えねーな」
 ちゅん、と鳴いた鳥を見て感心するグラナト。対するマクベスは相手が本当に鴉なのか疑わしい様子。
 首を傾げるマクベスに合わせて白鴉もこてりと首を傾げる。
「……しかしこういう敵はやはり戸惑ってしまうな。カラスだと言うのならせめてその鳴き声はどうかと思うのだが」
 グラナトは少年の真似をしているらしい鴉から目を逸らし、肩を落とした。敵だというのに可愛い。だが、すぐに気を取り直した彼は身構えた。
 それに合わせてマクベスも魔装銃を影朧達に向ける。
「別にオレらは神社参りに来たわけじゃねーよっ」
 さっさと通らせて貰うぜ、と宣言したマクベスは銃爪に指先をかけた。
 ちゅん、と鳴いた白鴉はどうやら御神籤を引いて帰れと言っているらしい。グラナトは相手の言葉を察し、呆れた様子を見せた。この先に何もないはずはないと知っているからだ。
「神籤を引いて帰れと言われてもこの先に用事があるからな」
「そ、おみくじは貰うけどなっ」
 マクベスが隣にしかと立ってくれていることを確かめたグラナトは炎の神鞭を手に取り、ぴしゃりと地面に叩きつけるように撓らせた。
 それと同時に炎が迸る。
 振るわれた鞭が白鴉を穿つ中、マクベスも銃爪を引いた。
 リンドブルムの名を抱く中から解き放たれた魔弾は一気に広がり、グラナトの炎と重なって敵を貫いていく。
「焼き尽くされると良い」
「ははっ、唐揚げどころか消し炭になりそう」
 グラナトの炎が白鴉を掠める中、マクベスの放った銃弾が追い打ちとなって巡った。それによって影朧鴉が倒れていく。
 こうして容赦しなければ屠るのは容易。敵は為す術もなく、二人の炎を受けて次々と地に落ちていった。
 残った相手からも御神籤乱舞が投げられたがそれらはグラナトの鞭で振り落とされ、威力を失った紙はマクベスがしっかりキャッチする。
 そうして彼らの周囲に集った白鴉はすべて落ち、ちゅちゅん、という断末魔と共に骸の海に還されていった。
 マクベスは手の中に残った御神籤を見下ろし、傍らのグラナトに問う。
「おみくじ……一応、運試しで見てみる?」
「ああ、折角だからな」
 そして二人は其々に手に持った紙をゆっくりとひらいていった。
 
 マクベスは『末吉』
 後に成れば運気は開ける。暫しの辛抱を。
 探しものはまだ遠い。耐え忍ぶ先に光明有り。
 
 グラナトは『大吉』
 とても良い運気。このままの調子で過ごすべし。
 されど慢心した途端にすべてを失う。吉と凶は表裏一体也。
 
「ふむ……」
「末吉かぁ。探しものってあれか? ま、どんな結果でもグラナトさんと一緒ならいつでも最高にラッキーだけどな」
 各自の結果を確かめた二人は視線を交わし、穏やかな笑みを交わしあった。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

霧城・ちさ
影朧探すためにもこの先へ進みますわっ
しろがらすさまは可愛いですがここは通るためにも戦いますの
眠らされるわけにはいきませんので遠距離から魔法攻撃をまず仕掛けていきますわね
高速詠唱と2回攻撃で数多くのしろがらすさまを相手に確実に一体ずつ倒していきますわっ
囲まれないようにうまくこの場所にある岩なども利用して他の猟兵さん達とも動きを合わせていきますわね
攻撃を受けるときにはオーラで防御をしてダメージ軽減を試みますわっ
眠ってしまった方がいましたら守ったり攻撃されないように運びますの

アドリブや連携はおまかせしますわね



●譲れないものの為に
「まあ、通せんぼですのね」
 目の前に現れた白い塊。神の使いめいた姿をしたまんまるな鴉を見つめ、ちさはそっと身構えた。相手は可愛らしいが此方に敵意を向けてきている。
 帰って、と言っている様子の白鴉。
 しかしちさが此処に訪れた理由はこの更に奥に存在する池にある。
 其処にいるという影朧に辿り着くためにも、この先へ進まなければならない。
「皆様は可愛いですが、ここを通るためにも戦いますのっ」
 お覚悟を、と告げたちさはうさぎさんの杖を掲げた。
 対する白鴉はちゅんちゅんと鳴き、ちさを眠らせるためにふわふわの羽毛を散らしてくる。近付いてきた羽は微睡みを運んでくるかのようだ。
 はっとしたちさは即座に数歩後ろに下がり、羽毛が当たらぬよう避けた。
「これは……眠らされてしまうのですね」
 当たるわけにはいかないと察したちさは出来る限り相手から距離を取ることを決め、魔力を紡いでいく。
 白鴉の数はとても多い。
 猟兵達が手分けをして相手をしているといえ、早めに倒さなければこの場の全員が眠らされてしまうだろう。
 ちさは次の一手が振るわれる前に、と素早い詠唱を始める。
「いきますわっ」
 声と共に杖を差し向けた先に眩い光が満ちた。
 天から降りそそいだ光の軌跡は白鴉を貫きながら戦う力を奪ってゆく。範囲攻撃で光を散らすことも出来るが、此処は一体ずつ確実に倒すべきだ。
「急がば回れと昔からよくいいますものね」
 嫋やかに微笑んだちさは次々と魔力を紡いで各個撃破を狙った。
 その狙いはうまく巡っているらしく、光は見事に敵を地に落としていく。だが、影朧もただやられてばかりではない。
 ちさの四方から一気に放たれた羽毛が眠りを誘いながら揺らめく。
「いけませんの!」
 はっとしたちさは星屑のカーテンに魔力を込めた。きらきらと煌めく光度を増したそれは一気に広がり、ちさに迫ってきていた眠りの羽を弾く。
「まだ夕方ですもの、誰も眠らせはしませんわ」
 自分は勿論、仲間にだってその力を巡らせたりなどしない。そう告げるように再び紡いだ裁きの光は戦場を翔け、眩く迸っていった。
 そして、ちさは倒れ伏した白鴉を見つめる。
「ごめんなさい。でも……わたくしたちは進まないといけないのですわっ」
 決意を胸に、淡い瞳に誓いを抱いたちさ。
 掲げられたうさぎさんの杖は確かな光を宿し、更なる魔力が巡らされていった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

鬼灯原・孤檻
【WIZ】

うっ。これは…可愛い…
汽車で同席した紳士が言っていたもふもふ天国もとても気になっていたが、この何とも言えない丸みとふわふわ感がたくさん……此処はもふもふ楽園か…
一発くらい体当たり喰らってもいいかなと思わなくも…
いやでも御神籤ばらまいてるし、その攻撃の望みは薄いか。って、そうじゃなくて。
心は痛むが、敵ならば容赦はしない。ヒトの世を乱す罪の元、この身は一陣の刃となろう。
羽毛と御神籤は見切り、愛刀でなぎ払いつつ、高速移動と飛翔で空中の敵を斬る。

…誰かを守ろうとする気持ちは、分かる。
お前たちが守ろうとした影朧は…悪いようにはしないから、おやすみ。


<アドリブ改変連携歓迎>



●優しき刃
 境内の奥の泉。
 其処に現れた人魚を守るために立ち塞がった影朧。
 どんなものが出てくるのかと身構えていた孤檻も、そのふんわりとした丸っこさにはたじろぐほかなかった。
「うっ。これは……可愛い……」
 汽車で同席した紳士が言っていた、もふもふ天国なる存在と場所もとても気になっていた。あれは動物園の中にあるウサギやひよこが触れるという催しの話だったが、今目の前に広がっている光景もまた、もふもふの楽園ではないだろうか。
「この何とも言えない丸みとふわふわ感がたくさん……」
 一発くらい体当たりを喰らっても、と考えてしまった孤檻だが、はたとして周囲を見遣る。既に影朧達は御神籤をばらまくことで攻撃に入っている。
 此処は心を鬼にして戦うべきだ。
 己を律した孤檻は霊刀に手を掛けた。凍檻の名を抱く刃を敵である影朧に差し向ければ、ちゅちゅん、という威嚇の声が耳に届く。
 その鳴き声を聞けば更に心が痛んだが、敵ならば容赦はしない。
 ――ヒトの世を乱す罪の元、この身は一陣の刃となろう。
 そう心に誓った孤檻は地を蹴った。
 ふわふわとした羽毛が此方に迫ってきたが、即座に見切って避ける。御神籤も当たらねばただの紙だ。
 孤檻は凍檻の刃を切り上げ、御神籤と羽毛を斬り伏せた。
 ひらひらと舞う羽が地面に落ちる前に更に動いた孤檻は高く跳躍する。上空にまで飛び上がった彼は標的をしかと捉え、ひといきに刀を振り下ろした。
 冴える剣閃。
 蒼の煌めきを宿した軌跡が空中の敵を斬り裂く。
 紫の勾玉が散り、ぴ、という悲鳴めいた声と共に白鴉が地に伏した。羽をぱたぱたと動かした白鴉は嘴を震わせる。
 守らなきゃ、という意思が其処から伝わってきた。孤檻は首を横に振り、そんなに頑張らなくてもいいのだと告げる。
「……誰かを守ろうとする気持ちは、分かる」
 ちゅん。
 哀しげな声が更に響いたが、影朧はもう動くことも出来ない。
「お前たちが守ろうとした影朧は……悪いようにはしないから、安らかに――」
 おやすみ。
 孤檻の言の葉が落とされた次の瞬間、白鴉はふわりと消えていった。
 約束だ。
 骸の海に還っていく白き優しい鴉にそっと告げ、孤檻は凍檻を鞘に仕舞った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット


可愛いな…

しろがらす様をみて思わずそう呟くとユーベルコード「piilo」によって庭園水晶のなかにいた大鷲タイヴァスが勢いよく飛び出す。

タイヴァスは大変怒った様子。
ユヴェンの「可愛い」がしろがらすさま達に向けられたのが気に食わず、やきもちを焼いている。
そして、
ユヴェンとミヌレが呆気にとられるくらいの勢いで、しろがらすさま達を蹴散らしに掛かる。

タイヴァス、落ち着け。
お前の方が愛しいに決まっているだろう。
…とユヴェンが言うか、もしくは敵の攻撃により眠るまで、大鷲の勢いは止まらない。
ただし、ふわふわの羽毛が来ようとも、怒りで眠っていられるか!な、様子でなかなかゆめをみてくれそうではない…。



●絆と縁
 ちゅんと鳴く声。
 丸くてふんわりした姿と愛らしい瞳。そしてバレバレだというのに、この奥には何にもないのだと言い張る姿勢。
「可愛いな……」
 立ち塞がる白鴉を見たユヴェンが思わず浮かんだ思いを呟く。
 するとガーデンクォーツの中にある庭園水晶から大鷲のタイヴァスが勢いよく飛び出した。翼を広げて白鴉達を威嚇するような態勢を取るタイヴァスは、先程のユヴェンの言葉を聞き捨てならないと感じたのだろう。
 タイヴァスが怒っていると察したユヴェンは白鴉から目を逸らす。
 しかし既に遅い。
「おい、タイヴァス……!」
 飛び立ったタイヴァスはユヴェンの『可愛い』が白鴉達に向けられたのが気に食わず、やきもちを焼いてしまっている。
 ユヴェンとミヌレが呆気に取られる中、大鷲は影朧達を蹴散らしに向かった。
 ぴゅい、と甲高い鳴き声が響く。
 鷲に対して鴉は殆ど無力。鋭い爪で掴まれ、翼で打たれ、ちゅちゅんちゅんと逃げ惑っていた。其処ではっとしたユヴェンはタイヴァスが無軌道にぶつかっているだけである状況を察する。このままではいつか手痛い反撃を受けてしまうだろう。
「タイヴァス、落ち着け」
 来い、と腕を掲げたユヴェンは大鷲を呼ぶ。
 なあに、と問うように鋭い視線を向けたタイヴァスがくるりと飛翔して一先ず彼の腕に戻ってきた。不機嫌そうな様子の大鷲にユヴェンは首を振る。
 確かに白鴉は可愛い。だが――。
「お前の方が愛しいに決まっているだろう」
「……」
 するとタイヴァスがやっと肩の力を抜いたように見えた。
 落ち着いたと感じたユヴェンはミヌレを呼び、皆で白鴉を蹴散らそうと呼び掛ける。されど大鷲の猛攻が止んだと気付いた白鴉が反撃に移った。
 ふわりとした羽毛。
 それらはユヴェン達を眠りに誘うように舞った。しかし気を張れば耐えられる程度の眠気だ。それにタイヴァスは白鴉に対する怒りで眠るどころではない。
「タイヴァス、ミヌレ、片を付けるぞ!」
 ユヴェンは二匹に強く呼びかけ、血を蹴った。
 そして――解き放たれた御神籤をその手で受け取り、威力をいなしたユヴェンは竜槍に変わったミヌレで一気に影朧を穿った。
 その止めを担うようにタイヴァスが滑空し、標的を地に落とす。
 敵が倒れるのを確認したユヴェンはふと先程受けた御神籤の紙を見下ろした。麻の葉の割付文で彩られた紙をひらくと、其処にはこう記されていた。
 
『小凶後吉』
 しょうきょう、のちきち。多少の困難あり。いずれは吉となる運気。
 大切なものをずっと大切に。それは貴方の助けになる。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

鶴澤・白雪

え……ちょ。可愛いんだけど
何もないって主張してるなら信じてあげたいんだけど……ぐぬ
ごめんなさい、あたしも仕事なのよ

なんて強敵なの…それにおみくじくれるの?
絶対に可愛い気配を察知したから貰うわ

貰うけど…この子たち、撃たなきゃいけないのよね…
なんだかおみくじ引いたんだから帰ってよって訴えられてる気がするんだけど

うぐぐ…ごめんね、辛いけど心を鬼にしてボルテックス・ノイズで叩くわ
いつもみたいに貫いちゃだめよ叩く程度で
串刺しなんて可哀想すぎるから範囲攻撃で吹き飛ばしたいわ

それで何とかなってくれないかしら
ダメだったら全力魔法でもう一度撃つけど……
この戦い、心が痛すぎてあたしの方がダメージ負いそうだわ



●ちいさな願い
 ちゅんちゅん。
 鳴き声が聞こえた瞬間、白雪の視線は白い鴉に釘付けになっていた。
「え……ちょ。可愛いんだけど」
 何もない、というように立ち塞がる丸い鳥。
 ぎゅうぎゅうと押し合いながら参道の奥を通せんぼする白鴉はとても愛らしい。
「主張してるなら信じてあげたいんだけど……ぐぬ」
「ちゅちゅん、ちゅん!」
 軽く唇を噛み締めた白雪は戸惑っている。その様子を見た白鴉が騒ぎ出した。どうやら、信じて、と主張しているようだ。
 しかし此処で退くわけにはいかない。白雪は純粋な力だけではない、相手の手強さを感じ取りながら身構えた。
「ごめんなさい、あたしも仕事なのよ」
 己を律した白雪は銃を構える。
 先んじて動いた白鴉がふんわりとした羽毛を飛ばしてくる。
 眠気を誘う心地が周囲に広がったが、白雪はぐっと耐えた。気を抜けばすぐにでも眠ってしまいそうではあるが抗うことは出来る程度の眠気だ。
 そんな攻撃方法もまた、白鴉達のやさしさを示しているかのように思えた。
 されどそれだけではない。別の白鴉がぺいっと御神籤の紙を投げてくる。折り畳まれて手裏剣のように鋭く放たれたそれは市松模様の文様に彩られていた。
「なんて強敵なの……それにおみくじくれるの?」
 少しの痛みを感じながら御神籤を受け止めた白雪。今すぐには読めはしないが絶対に中身も可愛い。そんな気配を察知した白雪はぎゅっと紙を握り締めた。
「……この子たち、撃たなきゃいけないのよね……」
「ちゅん!」
「おみくじ引いたんだから帰ってよ、って?」
 鳴いた白鴉にそう訴えられてる気がしてならないが、白雪は首を横に振る。ごめんね、と彼らに告げた白雪は心を鬼にする。
 白鴉の懸命な思いは尊いものだが、このまま此処に居続けさせるという未来はあってはいけない。猟兵相手だからこそ今の状況で済んでいるが、この子達が誰かの命を奪う未来とて有り得る。
 白雪は力を紡ぎ、詠唱を声に乗せていく。
「聖痕に眠る影の白雪姫、目覚めてちょうだい。でも、いつもみたいに貫いちゃだめよ」
 途端に左肩の聖痕から生じる影。
 けれどこの尖晶石で串刺しなんて可哀想すぎる。だからぽこっと叩く程度で、と付け加えた白雪は影雪を解き放った。範囲を拡大することで鋭利さを消し、勢いだけを強めた一閃が広がる。
 すると、白鴉達がちゅぴゃーと鳴きながら飛んでいった。
 上空に舞い上がった鴉はそのままふわりと消えるように骸の海に還っていく。その様子を見ていた白雪は少しの安堵を覚えた。
「この戦い、心が痛すぎてあたしの方がダメージ負いそうだわ……」
 それでも、と痛む胸を押さえた白雪は思う。
 未だ転生は叶わなくとも。どうか、あの子達が穏やかな所にいられますように。
 願う白雪は手の中の御神籤を見下ろし、そっと紙をひらく。

『小吉』
 ちょっとだけ運が良いみたい。ちょこっとだけね。
 カフヱに足を運んでみると佳いよ。幸運を呼ぶものはゆきだるま!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
…鴉?
鴉??

ともあれ。
仕事なら。
見た目など関係無く、思いなど慮らず、ただ敵を排し進むだけ。
骸の海からの闖入者に、かける情も手心も無い。

UCは風の魔力を攻撃力に。
鋼糸に纏わせ、舞わせ、雑霊ごと巻き込む範囲攻撃。
数には、手数。一糸につき二つ三つ、鴉を絡められれば上々。
絞め断ち、或いは引き斬る2回攻撃。

…なのです、が。
この白鴉達は何を見、何を理由に影朧を守ろうというのか…
気にならないかってのは、別なんですけどね。
答えは聞けますまい。
言葉も通じるかは…。
だからこれは、ただの気紛れ。

喰われたは踏み入った者の自業自得。
義憤などでは無く、僕らは来たのです。
貴方がたが守りたいその子が、もう泣かずに済む様に。






●独歩の絲
 現れた影朧を見つめるほどに浮かぶ疑問。
「……鴉?」
「ちゅん!」
「……鴉??」
 響く鳴き声。更に深まる謎。思わずクロトは首を傾げてしまったが、はたとして気を取り直す。それらが道を塞ぎ、邪魔をしようとしているならば見過ごせない。
「ともあれ、此れが仕事なら――」
 愛らしい見た目など関係は無く、思いなど慮らず、ただ敵を排し進むだけ。
 クロトは巻き起こした風をその身に纏い、鋼糸に魔力を宿していく。骸の海からの闖入者に、かける情も手心も無い。
 鋭く冷たい眼差しを標的たるものに向けた彼は、ひといきに腕を振るいあげた。
 夕闇に疾走る一閃。
 糸が鈍い光を反射したのだと気付いた時にはもう、白鴉達は貫かれていた。
 対する影朧も人魂めいた雑霊を嗾けてくる。
 されど――纏わせ、舞わせ、雑霊ごと巻き込む閃きは次々と迸る。
 敵の数が多いのならば此方は手数で勝負すればいい。一糸が宙に舞う毎に二体、そして三体もの鴉が絡め取られていく。
 身動きが出来ぬ白鴉を絞めて断ち、引き斬る。
 容赦なく敵を穿っていく最中、クロトはふと新たに浮かんだ疑問に意識を傾けた。
(この白鴉達は何を見、何を理由に影朧を守ろうというのか……)
 参道の奥。
 其処にあるという池。その場所に現れた人魚を守ろうとしているのは分かる。神社にすら祀られていなかった白鴉が固執する理由。それが不意に気になったのだ。
 だが、クロトは知っている。その答えが聞けることは決してない。
 言葉すら通じぬ相手に問うほどクロトは愚かではない。しかし、それでも唯一分かることもあった。
「ただ、懸命に守ろうとしているのですね」
 人魚への憐憫か、同情か、それとも別の縁があったのか。
 白鴉を見据えたクロトは首を横に振る。そして、鋼糸を更に振り翳した。迸っていく一閃で白鴉を屠りながら彼は告げてゆく。
「喰われたは踏み入った者の自業自得。義憤などでは無く、僕らは来たのです」
 だから、どうか道をあけて。
 そう語るが如き最後の一撃が目の前の鴉に見舞われる。
「貴方がたが守りたいと願うその子が、もう泣かずに済む様に――」
 そうして白鴉が骸の海に還った後、其処には折り畳まれた一枚の紙が落ちていた。鹿の子絞り柄の折り紙めいたそれをひらけば、御神籤の文言が記されていた。
 
『吉凶不分末吉』
 きちきょうわかたず。吉か凶かは己で決めるべし。
 過去を慈しめばいずれは吉と成す。親しむに良き彩は海の色。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

樹神・桜雪
【WIZ】『⛩』
※絡み・アドリブ歓迎

…可愛い。
ここのカラス…カラス?鳴き声がスズメだけどカラスなの?
いろいろ気になるけど、つっこまないよ?
おみくじは気になるけどさ。

ふわふわの羽毛がすごく気持ちいい…って、寝たらダメ。見た目によらず恐ろしい攻撃してくるね。
ふかふか羽毛なんて抵抗しにくいじゃないか。
寝そうになったら薙刀で自分の足を切って意識を保とうとしてみる。
UC使えば少しは寒さで目が覚めるかな…。
眠気覚ましの反撃にUCに『2回攻撃』もつけてみるよ。
もふもふは正義と言いたいけど、今はまだ寝れない。

おみくじ…結果はどうだろう。
少しは良い結果、出るといいな。



●衝突する正義
「……可愛い」
 ちゅちゅんと鳴いた白鴉。
 本当に鴉なのかと疑ってしまうほどのフォルムに、桜雪は思わず双眸を緩める。
「ここのカラス……カラス? 鳴き声がスズメだけどカラスなの?」
 そんな疑問の言葉が零れ落ちてしまうし、色々と気になることも多いがそれ以上は突っ込んだりはしない。
 いくら愛らしくとも目の前に立ち塞がっている存在は影朧。彼らが目的の人魚を隠そうとしているのならば乗り越えてゆくしかない。
 桜雪は薙刀を掲げ、ちゅんと鳴いて羽を羽ばたかせる白鴉を見つめる。
 次の瞬間、ふわりとした羽毛が周囲に舞った。
 それには此方を眠らせる魔力が籠っているらしく、羽が近付いてきただけでも眠気を誘われる攻撃だった。
「ふわふわの羽毛がすごく気持ちいい……って、寝たらダメ」
 痛みを与えるものではないとはいえ、見た目によらず恐ろしい攻撃してくるのだと桜雪は感じた。微睡みにとらわれそうになり慌てて首を横に振った桜雪。瞼が落ちそうになるのを何とか堪えた彼は冷たきものを呼ぶ。
「おいで、その身を覆い凍てつかせて」
 言葉と共に華桜が淡い光を宿し、氷の花となって広がってゆく。
 飛ばされた羽毛を相殺するように迸る氷。それは幻想的な彩となって周囲を美しい光景に変えてゆく。
「ふかふか羽毛なんて抵抗しにくいじゃないか。でも、寝たりなんてしないよ」
 たとえ眠ってしまっても白鴉が此方を傷つけることはないのだろう。
 それでも、だからといって抵抗しないわけにはいかない。御神籤も投げつけられるだけで大きな脅威にはなっていない。
 桜雪は白鴉のやさしさを感じ取りながら、更に氷花を舞わせてゆく、
「もふもふは正義と言いたいけどね」
 ――けれど、これは正義のぶつかりあい。
 人魚を守りたい白鴉。人魚に会いたい猟兵。どちらの思いもきっと間違ってはいない。だからこれはどちらが正義を勝ち取るかの勝負だ。
「ごめんね」
 桜雪はそっと言葉を落としてから地を蹴った。そして、白鴉に向けて花から薙刀に戻った刃を振り下ろす。それによって白鴉が地に伏し、御神籤を残して消えていく。
「おみくじ……結果はどうだろう」
 折り畳まれた紙を拾いあげた桜雪は静かな期待を寄せた。
 少しは良い結果が出るといい。そう思いながらひらいた紙には――。

『小凶後吉』
 しょうきょう、のちきち。多少の困難あり。いずれは吉となる運気。
 迷い路に注意。行き止まりに惑わされる事なかれ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬断・彩萌
あーら可愛い!ちゅんちゅん!
てゆかそこまで何もないって言われたら逆にアヤシーでしょ。というわけで押し通らせて貰いますぅ~。

えっ御神籤がひけるの?
ふぅーん、楽しそうじゃない。ものは試し、やってみようかしら
(恋愛の欄を食い入るように見る)

ってちょっと、御神籤投げつけてこないで!!結構痛いじゃない!
こうなったら翠炎でまとめて集めて、燃やし尽くすわよ!焼鳥ね。
でも待って、鴉の焼鳥って美味しいのかしら…あんまり食べたくはないわね…。

1回見たなら躱すのは簡単よ。学習力と見切りで動きを予測して回避する!
向かってくるしろがらすさまは一羽も逃がさないように、一網打尽にするんだから!

●アドリブ歓迎



●翠の炎と恋御籤
「ちゅん!」
「あーら可愛い! ちゅんちゅん!」
 白鴉達の鳴き声を聞き、彩萌は思わずその声を真似てみる。
 すると更にちゅちゅんちゅんという声が返ってきた。どうやらその鳴き声は、この奥は何もなくてつまらないよ、と告げているようだ。
「何もない? 本当に?」
「ちゅんちゅーん!」
 念の為に彩萌がもう一度問うと白鴉は翼をばたばたさせて主張する。
 懸命な姿が愛らしくもあるが、彩萌は首を横に振った。
「てゆかそこまで何もないって言われたら逆にアヤシーでしょ。というわけで押し通らせて貰いますぅ~」
「ちゅちゅーん!」
 彩萌が神託の剣を構えると白鴉達も敵意を見せてくる。
 そして彼らは絶対に通さないぞと語るように人魂のような雑霊を解き放ってきた。彩萌はそれらを刃で受け止めて斬り裂く。
 しかし別の白鴉が隙を突き、御神籤を投げてきた。
「えっ御神籤がひけるの? ってちょっと、そんなに強く投げつけてこないで!! 結構痛いじゃない!」
 興味津々の彩萌だったが、戦いの最中に御神籤をひらくことは出来ない。
 いたた、と痛む身体をさすった彩萌は身構え直し、白鴉達を見据えた。其処から超能力を発動させた彼女は蜘蛛の巣状の網を生成する。
「こうなったらまとめて集めて、燃やし尽くすわよ!」
 巻き起こすのは透き通る翠緑の炎。
 焼鳥ね、と冗談めかして呟く彩萌。焔が敵を焼き焦がしていく中、彩萌はふと裡に浮かんだ疑問を零す。
「でも待って、鴉の焼鳥って美味しいのかしら。あんまり食べたくはないわね……」
「ちゅちゅん、ちゅ……」
 そうこうしている内に白鴉は焼き尽くされ、骸の海に還っていく。
 彩萌は更に敵を屠ろうと狙い、再び放たれた雑霊をひらりと避けて躱した。
「もうそれは通用しないわ。一羽も逃さないように、一網打尽にするんだから!」
 そして、暫し後。
 彩萌を狙う白鴉は全滅していた。終わったと感じて息を吐き、足元に落ちていた御神籤を拾った彩萌はその紙に書いてある文字を目で追った。
「ものは試し、何が書いてあるのかしら――」

『吉』
 何事も普通に良い。努めて過ごすべし。
 善き恋を望むならば適度に貞淑に。良き彩は桜色。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ミルラ・フラン

【WIZ】
え、めっちゃかわいいじゃないか……三羽揃ったら牙向いたりしない?

はいはい、君達には悪いけどね、おねーさんたちこの先の人魚に用事があるのさ
(手袋を外して、ロザリオを翳し)
【存在感】でしろがらすさまの意識をこっちに向けて、おみくじを打ち消すようにLa Tempesta di Rosaを放つ
【2回攻撃】で冬薔薇のおかわりどーぞ

ただね、この花はただの攻撃じゃないよ
あたしなりの【祈り】の花……真っ赤な薔薇は、祈りと命の象徴さ
白と赤は、めでたきを表すとりあわせだろう?
うまく、転生するんだよ

(※アドリブ歓迎)



●白と紅
 人魚を守る番人たる影朧。
 どれほどの凛々しい鴉が出てくるのかと思えば、現れたのは丸い鳥。
「え、めっちゃかわいいじゃないか……」
 ミルラは思わずそんな感想を零してしまう。ちゅんと鳴く声に愛らしい瞳。一生懸命、この先には何もないと主張する嘘。どれもが憎めない要素ばかりだ。
「三羽揃ったら牙向いたり――するんだね、分かったよ」
 ミルラは愛らしいと感じた思いを裡に押し込めながら、敵意を向けてくる白鴉達を見つめ返した。
 どうあっても通してくれないのならば無理にでも押し通るだけ。
「はいはい、君達には悪いけどね、おねーさんたちこの先の人魚に用事があるのさ」
 交差する視線。
 手袋を外したミルラはロザリオを翳して身構えた。
 其処から満ちていくのは確かな存在感。白鴉の意識を引き付けるように鋭い眼差しを向けたミルラは敵の出方を窺う。
 刹那、此方を眠らせようと狙った白鴉がふわふわの羽毛を飛ばしてきた。
 ふわりと舞う羽。それらは近付くだけで微睡みを誘うものらしい。しかし、即座に深緋の薔薇を解き放ったミルラは羽を打ち消すように舞わせてゆく。
 緋色と純白。
 それらが重なって消えていく光景はとても美しく幻想的だった。
「桜じゃなくて悪いけど、冬薔薇のおかわりどーぞ」
 別の白鴉が投げ付けてきた御神籤を打ち落とすべく、ミルラはより多くの薔薇の花弁を散らしていった。ちゅん、と驚くような声が影朧鴉からあがる。されどミルラは容赦することなく力を揮い続けてゆく。
「ただね、この花はただの攻撃じゃないよ」
 敵を穿つ花を見遣ったミルラは薄く笑む。白鴉が此方をただ眠らせようとしたように、ミルラにも彼女なりの慈悲があった。
「この真っ赤な薔薇は、祈りと命の象徴さ。白と赤は――紅白はめでたきを表すとりあわせだろう?」
 彼らは転生すらできぬちいさな存在かもしれない。
 それでも、祈ることすら赦されぬわけではない。願いと共に舞い散る花は更に激しく、鮮烈に宙に躍り――暫し後、白鴉達が静かに地に伏した。
「……おやすみ」
 残された御神籤を拾い、ミルラは矢絣の割付文様で彩られた紙をひらいてみる。

『向大吉』
 大吉に向かう良い運気の流れ。精進すべし。
 悪しき金銭の流れは運も悪くする。見極めて律すれば福来たれり。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハニー・ジンジャー

おや、向こうはなんにもないですか?
真白い烏にこてりと傾いで

真逆
くすくす、蜂蜜色の目を細め
それじゃあ仕方がないですね
ならば烏、代わりに我らと遊んでください
我ら、お前のことをもふもふしたい
ふわふわ、愛いなあ、愛いな

さて、もふもふ遊んで満足したら、我らはそろそろ行きましょう
だって人魚さまはあちらでしょ?
いないはずはありません、我らがこんなに望むのだから
だから、ね?
お前たちとはさよならしましょ
シーブズ・ギャンビット
ダガー片手にさくさくと

可愛い烏
ひとつくらい、持ち帰ってもよかったかも
なあんて



●純粋たる微笑み
 何もない。何もないったら。
 必死に、そして懸命に、つぶらな瞳で訴えてくる白鴉達。
「おや、向こうはなんにもないですか?」
 ハニーはそんな真白い烏にこてりと首を傾げてみせ、おかしげに笑った。
 ――真逆。
 そう言葉にして、蜂蜜色の目を細めたハニーは白鴉達の愛らしい嘘を指摘する。慌てた様子の白鴉は、それなら、と示すように身構えた。どうあっても通さぬ気概らしい。
「それじゃあ仕方がないですね」
 ハニーは手を伸ばし、ふわふわとした微笑みを宿す。びくっとした白鴉が身動ぐ中、ハニーは彼らに近付いていく。
「ならば烏、代わりに我らと遊んでください」
「……ちゅん!」
 しかしその呼びかけに白鴉は否の意思を示した。どうして、と不思議がる形でもう一度首を傾いだハニーは更に鴉達に歩み寄っていく。
 だが、白鴉は遠ざかるように羽をぴよぴよさせて御神籤を投げ付けてくる。それをぱしりと受け取りながらハニーは双眸を緩めた。
「我ら、お前のことをもふもふしたいのに。ふわふわ、愛いなあ、愛いな」
「ちゅん!」
 御神籤を引いたから帰って、というような鳴き声が響く。
 両者の距離は縮まらぬまま。ハニーは軽く息を吐き、嫌ならば仕方がないと判断する。そして、彼は境内の奥に目を向けた。
「さて、もふもふは惜しいですが、我らはそろそろ行きましょう。だって――」
 人魚さまはあちらでしょ? という言葉と共に笑みが深められる。
 白鴉は何もいないと主張しているが、いないはずはない。何故なら、我らがこんなに望むのだから。そんな自分の中の理論を言葉に変え、ハニーはダガーを構える。
「だから、ね?」
 地を蹴るちいさな足音。
 続けて響くのは刃が風を切る鋭い音。それはたった一瞬のことだった。
「お前たちとはさよならしましょ」
 これまでと変わらぬ、ゆるりとした声色で告げられる別れの言の葉。それが紡がれ終わった後にはもう、白鴉は地に伏していた。
 ちゅちゅん、という断末魔と共に影朧が消えていく。
「可愛い烏。ひとつくらい、持ち帰ってもよかったかも」
 なあんて、とくすくすと笑ったハニーは手にしていた御神籤をゆっくりとひらいた。

『末大吉』
 大吉には未だ遠し。されどいずれは総てが幸と成す。
 過ちを認め、正しき事に邁進すべし。幸運を呼ぶのは印矩壜と万年筆。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン

一体一体は可愛らしいのですが……センサーでの●情報収集ですと夥しい数の影朧がいますね。流石に囲まれると不味いので突破を図りましょう

UCで脚部スラスターでの●スライディングで滑るように突撃しつつ、●怪力での剣の●なぎ払いや●シールドバッシュで雑霊ごと追い散らします

攻撃やおみくじ棒はセンサーで接近を●見切り、格納銃器での●武器落としや●武器受け●盾受けで防御していきます
ターゲットが此方に集まる以上、範囲攻撃を持った猟兵の元に誘導していくのも良いかもしれませんね

なんにせよ、この神社の景観を損ねずに彼らにお引き取り願う…ある意味難しい戦いになりそうです

おっと、迎撃し損ねたおみくじが装甲の間に…



●偶然のよすが
「一体一体は可愛らしいのですが……」
 トリテレイアは周囲の様子を確かめ、白鴉の影朧達を見渡す。
 センサーでの情報収集によると夥しい数の影朧がいることが分かった。此方の戦力も多いとは言え、流石に囲まれると拙いだろう。
「一気呵成に、突破を図りましょうか」
 トリテレイアはちゅちゅんと鳴く白鴉をセンサーで認識しながら力を放つ。
 機械騎士の突撃――マシンナイツ・チャージ。
 脚部スラスターを用いてスライディングで滑るように突撃した、トリテレイアは持ち前の怪力を発動させる。
 儀礼用長剣を構えた彼はそのまま白鴉に接敵し、刃でひといきに薙ぎ払った。
 だが、対する白鴉も戦闘用雑霊を召喚してきた。
 人魂のように揺らぐ霊を捉えたトリテレイアは重質量大型盾を構え、シールドバッシュで以て雑霊ごと追い散らすように白鴉を穿つ。
 ちゅうん、という痛みに耐えるような哀しげな鳴き声が響いた。
 しかし、トリテレイアは容赦しない。
 相手が影朧だと分かっているのだから、余計な思いは抱くべきではない。きっと無為に此処で生かしておく方が不幸だ。
 巡る攻防。
 相手から攻撃や御神籤はセンサーで接近を見切り、格納銃器を展開して次々と落としていく。見切れずに対応しきれなかった分は武器や盾で受けて防御していった。
 ターゲットが此方に集まる以上、範囲攻撃を持った他の猟兵の元に誘導していくのも良いかもしれない。
 そう思い立ったトリテレイアは仲間達の援護を行う形で戦法を切り替えていく。
「なんにせよ、この神社の景観を損ねずに彼らにお引き取り願わねば……ですね」
 ある意味で難しい戦いになりそうだ。そのように感じていたトリテレイアだが、自分の持てる限りの力を発揮していった。
 そして、戦いは更に巡り――。
 目の前の白鴉が倒れたことを確認したトリテレイアはふと気付く。
「おっと、迎撃し損ねたおみくじが装甲の間に……」
 これが自分の運勢を示すものだろうか。偶然ではあるが、これも縁なのかもしれないと思ったトリテレイアは御神籤をひらいてみる。

『中吉』
 まあまあ。全部まあまあです。平々凡々が良いものです。
 福を得たければ己を見つめ直すべし。纏うに良き色は純白。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

朽守・カスカ
カラス、とは…?
ちゅんちゅんと囀る愛らしい守りの姿に
和みそうになりながら、ぐっと堪えて立ち入らせて貰うよ

騒ぐ小雀、もといしろがらすさま達の様子に
……ああ、そうか
君達は、此処の主を案じるばかりではなく
私達に対しても帰ってよ、と案じてくれるのかい
優しい子達だね
だけど、私は行かねばならない

【ガジェットショータイム】
呼び出したのは捕獲網を打ち出すもの
しろがらすさまたち目掛けて打ってしまおう
必要以上に手荒な真似をしたいわけではないからね
これで充分、さ

人魚とは、戦うことにはなるだろう
だけど、それでも
これ以上、誰も悲しまなくて済むよう
だから、君達も大人しくしていておくれ

そう付け加え、御神籤一つ手に取って



●静かなる送還
 ――カラス、とは?
 これまでの常識を容易に壊されてしまいそうな姿の鳥が、立ち塞がっている。
 ちゅんちゅんと囀る愛らしい声。
 人魚は確かにいるというのに、懸命に隠そうとする守護の姿。
 白鴉のあまりの愛らしさに和みそうになりながらもカスカはぐっと感情を堪えた。気を引き締めなければ、そのまま御神籤を貰って帰ってしまいたくもなる。
 しかし、カスカ達が本当に用事があるのは参道奥の池。
「立ち入らせて貰うよ」
 神性を失っているらしいとはいえ、白鴉もきっと神の眷属。失礼にならぬよう断りを入れたカスカは騒ぐ小雀――もとい小鴉達の様子を見つめた。
 両羽を広げて通せんぼする彼らは、ていっと御神籤を投げてくるだけ。
「……ああ、そうか」
 カスカはふと気付き、納得した。
 彼らの行動は或る意味で攻撃ではあれど、人を傷つけるようなものではない。
「君達は、此処の主を案じるばかりではなく、私達に対しても帰ってよ、と案じてくれるのかい。優しい子達だね」
 白鴉達の真意を理解したカスカは、ありがとう、と告げた。
 それでも、このまま帰路につくという選択は取れない。カスカは片手を胸の前に掲げ、思いを言葉に変えた。
「だけど、私は行かねばならない。行く手を阻むなら……こうするしかないんだ」
 其処に呼び出したガジェットは捕獲網を打ち出す銃。
 銃爪に指先をかけたカスカは銃口を白鴉に差し向ける。向こうが痛みを与える選択をしないのならば、此方とて似た手を取るだけ。
 狙いが定められると同時に放出された網が広がり、白鴉達を捕らえてゆく。
 ちゅぴぴぴという慌てる声が聞こえ、じたばたする丸い鳥達の姿が目に入った。心が痛んだが、カスカは彼らが身動きが取れぬよう絡め取ってしまう。
「すまないね。でも、必要以上に手荒な真似をしたいわけではないからね」
 きっと、これで充分。
 真っ直ぐな瞳が白鴉に向けられた刹那、抵抗する力を失った白鴉がふんわりと消えていった。ちゅん、という哀しげな声は暫し耳に残るだろう。
 それでもカスカは視線を逸らすことはしない。
 この奥に潜む人魚とは必ず戦うことにはなる。だけど、自分達はただそれを惡だと断じて斃しに向かうわけではない。
 消えてゆく白鴉に慈しみを抱き、カスカはそっと告げる。
「これ以上、誰も悲しまなくて済むよう――だから、君達もお還り」
 そう付け加えたカスカは、白鴉の置き土産でもある御神籤ひとつ手に取った。

『吉凶相半』
 きちきょうあいまじわり。良し悪しの交わりの時。いずれは吉に変移する。
 ただひとつ、大切なものを壊さぬよう。幸運を呼ぶものは夜の火。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰

ラナさん(f06644)と

この先には何もないって言ってるような気がするけど
そうやってひた隠しにしようとしたって騙されません

ラナさんを庇うように立ち回りながら煌天の標で範囲攻撃を
ふわふわの羽毛はオーラ防御でなるべく影響が出ないように試みつつ
もしまみれても、ちゃんと汽車の中でお昼寝もしてきたから大丈夫…なはず

おみくじは、そうですね、占いの結果が書いてあるんですけど
…影朧のおみくじって果たしてご利益があるんだろうか…いや
吉って書いてあるやつが大体良いやつで、一番良いのが大吉ですね
なんて説明しながら自分も飛んできたおみくじの結果を確認
(特に恋愛欄とか気になるけど、ラナさんに悟られないようにちらっと


ラナ・スピラエア

蒼汰さん(f16730)と

わあ、可愛い!
真っ白で、まん丸で
なんだか敵だと思えないですね
でも、この先に行きたいので
道を開けて貰いますね

攻撃は春咲ノ花片で
なるべく多くの敵を狙っていきます
蒼汰さんが怪我をしないように、しっかり援護が出来れば
眠りに誘われても、ぐっと我慢
お昼寝もしたので、ばっちりです
ふわふわで気持ち良いですけど…
こんな寒いところで寝たら、風邪を引いちゃいますから

おみくじってなんでしょう?
占いなんですね、なら良いことが書いてあれば嬉しいです
沢山の中からひとつを手にとって
健康、仕事、恋愛…
色々書いてありますね
思わずじっくり見ちゃいます
蒼汰さんはどうでした?良いことが書いてありました?



●機運と御籤
 純白の羽根を揺らし、通せんぼをする鴉。
 夕陽の色に照らされた翼。真っ赤でつぶらな瞳。そんな愛らしい姿を目にしたラナから零れ落ちたのは感嘆の言葉。
「わあ、可愛い!」
 真っ白でまん丸で敵とは思えない。相手にも敵意はあるのだが、すぐに攻撃をせずにいる辺り、きっと優しい存在なのだろう。
 ちゅちゅん、と鳴く声を耳にした蒼汰はラナの前に踏み出し、身構える。
 確かに可愛い。しかし彼らが何もないのだと主張している先にこそ猟兵として向かうべき場所がある。
「そうやってひた隠しにしようとしたって騙されません」
「この先に行きたいので、道を開けて貰いますね」
 蒼汰の声にはっとしたラナは彼らが紛れもない敵であると考え直す。
 それが譬え優しいものであっても、影朧として顕現しているのならば還すしかない。此方が敵対する意思を見せたことで白鴉達も行動に出た。
 御神籤を投げてくる個体と同時に、ラナ達に向けて白い羽が飛ばされる。
 ふんわりと戦場を舞う羽毛。
 それは穏やかな心地を宿しながら微睡みに誘ってくる。その眠りに身を委ねたくなるような感覚をおぼえたが、蒼汰は地を踏みしめて耐えた。
 そして、近付いてくる羽毛は周囲に張り巡らせた防御陣で以て弾く。防ぎきれぬものは白銀の短杖を振ることでいなした。
 自分の分だけではなく、ラナに向かう羽も散らした蒼汰は杖を更に振るいあげる。
 反撃として解き放つは煌天の標。
 月光を思わせる光が夕闇の最中を翔け、白鴉を真っ直ぐに貫いた。
 ラナは自分を庇ってくれている彼に合わせて花杖をくるりと回す。たおやかに、そして優美な奇跡を描いた杖は見る間に甘く香る春の花となって舞いあがった。
 そのとき、彼に向かって白鴉が投げ放つ御神籤が飛来してきた。
「蒼汰さん、おみくじが……!」
「大丈夫です、これくらい」
 呼びかけたラナの声でその存在に気付いた蒼汰は杖で紙を薙ぎ払った。
 千代紙のような様々な色合いと柄の御神籤が周囲に散らばる。
 しかし彼が弾ききれなかったものもあった。ラナはとっさに春花を操り、飛翔する御神籤を花弁で包み込む。
 そのまま地面に落ちる御神籤。
 中身がとても気になったがじっくり見るのは戦いの後。そして、更に白鴉がふわふわの羽毛を飛ばしてきた。
 ふたたび眠気が巡ってくるが、二人はなんとか堪える。
「ちゃんと汽車の中でお昼寝もしてきたから大丈夫、なはず」
「はい、きっとばっちりです。それに……こんな寒いところで寝たら、風邪を引いちゃいますから」
「確かに、そうですね」
 蒼汰とラナは昼間の車内で過ごした時間を思い、ちいさく微笑みあった。
 花片の舞と星月の矢。
 重なったふたつの力は白鴉に向けて更に解き放たれ、そして――ちゅん、という寂しげな声と共に影朧が地に伏した。
 消えゆく羽。薄れていく白鴉を見送り、二人はそっと瞼を閉じた。
 影朧達が消え去った後、彼らは足元に落ちていた御神籤を拾いあげる。蒼汰は紗綾形の吉祥文様の紙を。ラナは雪輪の柄が美しい紙をそれぞれに手に取っていた。

 蒼汰の目に映ったのは『吉凶未分末大吉』という文字。
 よしあしいまだわからず。今は判断できぬ運気。
 いずれは大吉と成る可能性有り。すぐ傍にある大切なものを見失わぬように。
 
 ラナの紙には『大吉』と書かれていた。
 良い運気。このまま穏やかに過ごしていくべし。
 微笑みには福が宿る。幸運を呼び込むものは桜の紅茶と鯛焼き。
 
「……影朧のおみくじって果たしてご利益があるんだろうか……いや、色々書いてあるけれどこれはなかなか――」
 蒼汰が紙に書かれた内容を読んでいく中、ラナも興味深そうに文字を目で追う。
「おみくじって占いなんですね。大、吉?」
「吉って書いてあるやつが大体良いやつで、一番良いのが大吉ですね。つまりラナさんのはとても良いってことです」
 そう説明しながらも蒼汰は恋愛運の項目に注目していた。
 すぐ傍に、という言葉が気になった彼は、成程、と少し納得する。そんな中でラナが自分を見上げていることに気付いた。
「蒼汰さんはどうでした? 良いことが書いてありました?」
「ええと……普通だと書いてありました」
「普通?」
 吉凶未分。即ち、良し悪しは未だ解らず。
「ええ、つまり――」
 きょとんとするラナに紙を見せて説明を始める蒼汰。さりげなく紙を握るその指は、なかなかに上手いこと恋愛運の部分を隠していた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
夏帆さん(f15753)と

あれ、カラス?カラスなのか??

【存在感】を消し【目立たない】ようにして、奇襲をかけ【マヒ攻撃】を乗せたUC五月雨でどんどん飛んでるカラスを落としていく。仮にも鳥の姿ならマヒったら飛べないはず。落ちてこなくても動きが鈍くなればよし。
落ちたもの、動きが鈍くなったもの優先で通常攻撃でとどめを刺していく。
夏報さんはたぶん大丈夫だと思うけど危ないようだったら【かばう】。
基本相手の攻撃は【第六感】で感知【見切り】で回避。回避しきれない物は黒鵺で【武器受け】からの【カウンター】。それも出来ない物は【オーラ防御】と【激痛耐性】でしのぐ。

さておみくじの結果はいかがなものか。


臥待・夏報

アドリブOK
黒鵺くん(f17491)と。

最近カラス飼い始めたばっかりなんだけど……。
あ、白いのもいるらしいよ。聞いたことある。夏報さんの話はいつも伝聞形だ。

雑霊は一撃で消えるらしいから、薄く広い攻撃がいいね。
銃による援護射撃、釣星によるロープワーク、名刺の投擲を織り交ぜた範囲攻撃で対処していく。

本体は可愛いからやりづらいなあ、と思っている自分も、そう思いながら敵を観察している自分も、等しく『夏報さん』だ。
『瞼の裏で君とふたり』。
黒鵺くんがトドメを指す前に訊いてみよう。
――人魚姫について教えてくれよ。
君たちがどうして彼女を護るのか、とかさ。

動物と話す力は本来持ってないけど、最近練習してるから。



●夕闇に白が散る
 敵として立ちはだかる白くて丸いもの。
 元よりそれが鴉だと聞いていたものだから、思わず疑問も浮かぶというもの。
「あれ、カラス? カラスなのか??」
「あ、白いのもいるらしいよ。聞いたことある」
 瑞樹が不思議がる中、夏報は伝聞情報を示した。そんな彼女も最近カラスを飼い始めたばかり。しかし見れば見るほど、ちゅんちゅんと鳴く声を聞くほどに普通のカラスからは程遠いものに思えてしまう。
「ひとまずは倒すしかないか」
「そうだね。頼んだよ、黒鵺くん」
 瑞樹は相手に姿を見咎められる前に数歩後ろに下がる。
 宵の帳を連れてくる夕闇に紛れるようにして存在感を消し、目立たぬよう立ち回ろうとしている彼の動きを察し、夏報は前に一歩踏み出した。
 釣星を目立つように戦場に飛ばしてみせた夏報。切っ先が白鴉に迫る中、その死角を突いた瑞樹が奇襲を行う。
 複製された黒鵺のナイフが舞い飛び、白鴉の翼を貫いた。
 敵は即座に人魂めいた形をした雑霊を呼ぶことで対抗する。されどそれらに夏報が飛ばした名刺が命中した。
「一撃で消えてくれるのか。これは助かるね」
 霊の数は多いがこれなら何とかなると感じた夏報は、此方は任せて欲しいと瑞樹に伝える。頷いた瑞樹は白鴉そのものに狙いを定め、敵を麻痺させていく。
 次々と生み出される霊は夏報が打ち落とし、それを呼び起こす白鴉は瑞樹のナイフが屠っていった。
 二人の連携は見事なもので、そうしているうちに周囲の敵の数も減ってくる。
「夏報さん、大丈夫だったか?」
「問題はないよ。と、黒鵺くん」
 瑞樹の問いに夏報が頷く。そして、前を、と示した。其処には飛んでいた白鴉が投げ付けた御神籤が迫っていた。
 即座に身構えた瑞樹は操るナイフを飛来させることで御神籤を弾く。
 同時に夏報に向かっていた攻撃も打ち落とした。瑞樹に礼を告げた夏報は地面に落ちた御神籤を軽く見下ろす。
 きっと中には何らかの文字が書いてあるのだろう。
 それを見るのは後にしようと決め、夏報は改めて影朧を見つめる。
(可愛いからやりづらいなあ)
 そう思っている自分。そして、そう感じながらもしかと敵を観察して良い出方を窺っている自分も、等しく『夏報さん』である。
 そのように自覚しつつ彼女は瑞樹の援護を行っていった。
 釣星の切っ先をひゅんひゅんと回して敵の気を引けば、瑞樹が其処に容赦のない刃の雨を降らせてゆく。
 第六感で敵の動きを感知した彼は、見切ることで回避する。避けきれない物は黒鵺で受け止めて弾き飛ばす。そして其処から反撃に移った。
 瑞樹が最後の一匹にトドメをさす直前、夏報は少し待って、と彼を制する。そして、彼女は白鴉に問いかけた。
「――人魚について教えてくれよ、君たちがどうして彼女を護るのかを、ね」
 瞼の裏で君とふたり。
 問う言葉は確かに白鴉に伝わっている。すると鴉は拙い言葉で告げてきた。
 あの子はかわいそう。
 何も信じられなくて、何にも思い出せない。
 だから、ぼくたちが守ってあげるんだ。
 そのような意味合いを持つ鳴き声をあげた白鴉に対し、夏報は少し考え込む。其処へ瑞樹が黒鵺を差し向けながら尋ねた。
「もういいか?」
「そうだね、哀しいけれど……」
 どうぞ、と射線をあけた夏報。その軌跡をなぞるように刃が投擲され――そして、彼らを狙っていた最後の一体が地に落ち、戦う力を失った。
 其処に残っていたのは二つの御神籤。
 倒すほかないものの置き土産であるそれを拾った二人は其々に紙を広げてみる。
「さておみくじの結果はいかがなものか」
「へえ、なるほどね」
 そうして、其処に記されていたのは――。

 瑞樹の紙には『凶後吉』と書かれている。
 きょうご、きち。困難に見舞われた後、少しの幸い有り。
 油断が危機を呼ぶ故気を付けるべし。身につけると善きものは菫青石。
 
 夏報には『吉凶相央』の相。
 きちきょうあいなかばず。良くもなく、悪くもない。どちらに転ぶかは未知。
 己を見つめ直すよりも先に進む勇気を。幸運を呼ぶものは鏡。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
【華禱】
白い鴉って割と珍しいけど神社に居たりするよな
こいつらみたいに……
寧ろ、こいつら花餅付けた大福みたいだけど
つーか、鴉?え?鴉?
鳴き声がアレで?

何にせよ、本命がこいつらの後ろに居るなら倒さねぇとな
子供達だけで駅のホームに遺して来てるから心配だ
ならなんで置いてきたってのは言いっこなしだぜ?夜彦
はは、確かに恨まれそうだ

拘束術使用
射程内の全ての敵に鎖で先制攻撃
同時に俺も華焔刀でなぎ払い
刃先返して2回攻撃の範囲攻撃
攻撃は全て衝撃波と鎧砕きを乗せてく
以降の攻撃は見切られないよう
フェイントも織り交ぜてく

夜彦の死角も拘束術でフォローしつつ立ち回り

敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御で防ぐ




月舘・夜彦
【華禱】
白い鴉は別の世界の昔話に登場すると聞いた事があります
それも神聖な生き物のようでしたが……神々しいと言うよりも愛らしいような

子供達の事は心配しておりませんが
彼等がオブリビオンでなければと改めて思います
……子供達が喜びそうな見た目をしておりますので
それを斬る我々を見たら、恨まれそうです
ですが、戦うしかありませんね

倫太郎殿の拘束術の後に抜刀術『神風』
拘束されて身動きが取れない所に攻撃を与えます
拘束に失敗した場合は2回攻撃で1回をフェイントで敵を避け
2回目の斬撃を敵に当てます

敵からの攻撃は残像にて躱し、ダッシュにて接近
早業の居合にて一閃

戦いを終えましたら、おみくじを一つ
良いか如何かは別として



●御神籤と懸念
 白い鴉は別の世界の昔話に登場すると聞いた事がある。
 いつか耳にした話を思い返し、夜彦は参道に立ち塞がる者達を見つめた。
「白い鴉って割と珍しいけど神社に居たりするよな」
 こいつらみたいに、と倫太郎も夜彦の視線の先を見遣る。ふわふわとした丸いフォルムに愛らしい鳴き声はどうみてもマスコットだ。
「それも神聖な生き物のようでしたが、神々しいと言うよりも愛らしいような」
「寧ろ、こいつら花餅付けた大福みたいだけど……つーか、鴉? え? 鴉? 鳴き声がアレで?」
 夜彦も倫太郎も怪訝な顔をしてしまうが、あれも影朧ならば戸惑ってもいられない。子供達だけで駅のホームに残してきている以上、あまり時間は取れない。そんな意思を感じ取ったのか、白鴉は早く帰ってよという雰囲気を滲ませている。
 されど、たとえ御神籤を受け取ったとしてもこのまま戻るわけには行かない。
「何にせよ、本命がこいつらの後ろに居るなら倒さねぇとな。時間もないしな。おっと、夜彦。ならなんで子供達を置いてきたってのは言いっこなしだぜ?」
「子供達の事は心配しておりませんが、彼等がオブリビオンでなければ――と改めて思います。……子供達が喜びそうな見た目をしておりますので、それを斬る我々を見たら、恨まれそうです」
 倫太郎と夜彦は視線を交わしあい、互いに寄り添う形で身構えた。
「はは、確かに恨まれそうだ」
「ですが、戦うしかありませんね」
 そうして二人が白鴉を見据えた瞬間、戦いは本格的に幕をあける。
 倫太郎が拘束術を使用すれば、同時に夜彦が抜刀する。広がる不可視の鎖と神風の一閃が瞬く間に敵を貫き斬り伏せる。
 更に華焔刀を振り上げた倫太郎が敵を薙ぎ払い、刃先を返して二回目の範囲攻撃を放った。その攻撃にはすべて衝撃波と鎧砕きの力が乗せられている。
 夜彦は倫太郎の力によって拘束されて身動きが取れぬ敵を斬り、屠ってゆく。
 敵は数が多い。
 拘束に失敗した敵にも焦点を当て、フェイントを入れつつ敵を避けた夜彦は二回目の斬撃を当てていった。
 倫太郎は自分のフォローをしてくれる夜彦の死角を補うように更なる拘束術を解き放っていく。互いに支えあう形で立ち回る二人は敵からの攻撃を弾いていった。
 回避が不可能なものはオーラ防御で防ぐ。
 対する夜彦は残像を纏って躱し、駆けることで一気に接近する。
 其処から早業による居合の一閃を放ち、二人は近くの敵を一層した。連携して白鴉達を屠った彼らは無事に戦いを終えたことに笑みを浮かべる。
 だが、こうも上手く行ったのは相手がとても力の弱い敵だからだ。
「良い感じに終わったな、夜彦」
「ええ、ですが倫太郎殿……この先から妙な気配がします」
「分かってるって、強敵の予感だろ?」
 頷きあう二人は同じことを思っていた。今の敵相手でも命中率は半々だった。きっとこの奥に潜む人魚の影朧に今の戦法のままでは通じない。そんな予感がする。
 そして彼らは息を整え、白鴉が落としていった御神籤を拾った。
「とりあえず、このおみくじくらいは見とくか」
「そうですね。良いか如何かは別として……さて、中身はどうでしょう」
 倫太郎は菱柄の紙を、夜彦は亀甲柄の文様に包まれた紙をひらいていく。そして、其処に記されていた内容とは――。
 
 亀甲柄の方には『大吉』
 とても良い運気。このまま過ごすべし。
 共に過ごす者に最大の親愛を。それを忘れたとき、総てが崩れ落ちる。
 
 菱柄に書かれているのは『吉』
 何事も普通に良いが日々努めて過ごすべし。
 変化を恐れることなかれ。善き縁は雪の原にて紡がれる。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

まんまる、ころころとしていてとても愛らしいですが……
可愛らしい存在を誅するのは心が痛みますが、僕たちもやらねばならぬ理由があるのです

可愛いものが好きな伴侶には心配げな視線を投げかけるも
大丈夫と応えが返ってきたならば頷いて
信じましょう、きみの言葉なら

ザッフィーロ君の攻撃とけん制の合間を見計らって
『属性攻撃』『高速詠唱』『範囲攻撃』をのせた
【天響アストロノミカル】を放ちましょう

庇われたならありがとうございますと感謝を述べつつしろがらす様たちに向き直り
僕たちは人魚を転生させたい
そして再び人として倖せを感じてほしいのです
……分かってはいただけませんか?


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

目の前の白烏達についぞ愛らしい…と動きを止めかけるも
直ぐに頭を振り気を引き締めよう
訴える様な鳴き声についぞ人魚を護ろうとしているのだろうかと胸が痛むも
ここで退く訳には行かんのでな
宵の視線に気づけば大きく頷きつつ声音を
…ああ。俺は大丈夫だ
お前が隣にいてくれるからな。…では、行くか

数が多い故唇から【罪告げの黒霧】を吐き敵へ『マヒ攻撃』
動きを鈍らせ宵が動きやすい様援護を試みる
己や宵の至近迄迫った敵はメイスにて『なぎ払い』『怪力』を乗せたメイスで倒して行こう
勿論宵は常に『かば』いながら行動を
宵の言う様此処に引き止める方が人魚の為にもならんのだ
…人魚の事を思うのならば通してはくれんか?



●呼び掛ける声
 まんまる、ころころ。
 ちゅんちゅん。ぱたぱた。
 参道に立ち塞がった影朧の姿に目を奪われ、宵とザッフィーロは立ち止まる。
「愛らしいな……」
「とても可愛らしいですね……」
 重なる声。抱く思いはよく似ていた。
 目の前の敵は何だか敵とは思えない。思わず気が緩みそうになるが、ザッフィーロはすぐに頭を振ることで思いを振り払い、気を引き締めた。
「ここで退く訳には行かんのでな」
「可愛らしい存在を誅するのは心が痛みますね。ですが、僕たちもやらねばならぬ理由があるのです」
「ちゅん……」
 宵が白鴉を見据えると、哀しげな声が返ってくる。
 その鳴き声にザッフィーロの動きが止まった。訴えるような声は懸命に人魚を護ろうとしている証だ。胸が痛んだが、ザッフィーロはぐっと堪えた。
 そんな彼の様子が気になった宵は心配そうな視線と言葉を投げかける。
「ザッフィーロ君?」
「……ああ。俺は大丈夫だ」
「信じましょう、きみの言葉なら」
 視線に気付いたザッフィーロは大きく頷きつつ穏やかな声で答えた。
「お前が隣にいてくれるからな。……では、行くか」
 その言葉の後、戦いは巡り始める。
 敵の数は多い。
 ならば此方もこうするだけだとして、ザッフィーロは唇から黒い霧の吐息を解き放った。それは敵への牽制でもあり麻痺を引き起こす穢れの毒でもある。
 彼が動いた後、宵帝の杖を掲げた宵は詠唱を紡いでいく。
「流星群を、この空に」
 夕闇が揺らぐ天蓋を仰いだ宵が力を揮えば、其処から隕石が降り注いだ。落ちる星の軌跡は鮮やかに白鴉だけを狙って落ちてゆく。
 宵がしかと自分に続いてくれたと感じたザッフィーロは薄く笑む。
 そして、ザッフィーロは宵に何者も近付けさせぬようメイスを構えた。その間にも彼は霧を色濃く満ちさせ敵を翻弄していく。
 迫りくる雑霊を薙ぎ払いで消滅させたザッフィーロ。
 伴侶の背を見つめる宵の瞳は穏やかだ。自分を庇ってくれる彼にありがとうございますと礼を告げた宵は、改めて白鴉達に向き直った。
「僕たちは人魚を転生させたいんです。そして再び人として倖せを感じてほしいのです」
「宵の言うよう此処に引き止める方が人魚の為にもならんのだ」
 影朧達に宵が呼びかける。
 それに合わせてザッフィーロも自分達の思いを伝えていった。だが、ちゅちゅんと鳴いた白鴉はふるふると体を震わせる。
 どうやら否という意思を示しているようだ。
 無理もない。猟兵は彼らにとって、御神籤を引いて帰って欲しいという願いを無視して攻撃をしてくる相手だ。その言葉を信じられるはずがない。
 例えば、攻撃を敢えて行わずにその言葉を投げかけたのならばまた違ったかもしれないが――今は後の祭だ。
「……分かってはいただけませんか?」
「人魚の事を思うのならば通してはくれんか?」
 宵とザッフィーロはもう一度、問いかける。しかし白鴉は聞く耳を持たなかった。
 肩を竦めた二人は覚悟を決めた。
 そして、白鴉達を骸の海に還すために其々の力を振るい――。
「ごめんなさい」
「すまないな」
 謝罪の言葉が響いた後、白鴉は地に伏して消え去った。後に残ったのは白鴉が残していった御神籤がふたつ。
 宵は紅い紙を、ザッフィーロは蒼い紙を拾ってそれぞれにひらいてみた。

 紅の紙は『大吉』
 最高の運気に恵まれる。だが、油断は禁物。
 手放すも繋ぎ止めるも己の行動次第。星の導きに従えば幸を成す。
 
 蒼の紙は『末吉』
 後に成れば運気は開ける。暫しの辛抱を。
 言葉の選び方が行く先を左右する。幸を運ぶものはあたたかい紅茶。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

楠樹・誠司
ひとを愛してゐるからこそ
此の先に佇む影朧を愛してゐるからこその
彼等の姿を見ただけで彼女は今も猶愛されているのだと判る
其れを識れたならば、……私は此れ以上、迷ひますまい

――八咫!

名を、呼ぶ
残月を奏で招くは彼らと同じく導く者
手数で押される事勿れと、……否、本心は
同じ烏の化身ならば、彼らと和解することも叶うのではないかと
ほんの少しの願いを込めて、雨霰が如く降り注ぐ御神籤を刃にて攘う

導き手よ、どうか我等を彼女の元へ
私は彼女の嘆きを晴らし、在るべき処へ還したいのです

出来る限り痛めつけず、苦しめぬよう
しろがらす達を廻りへ導いたなら
てのひらの中に落ちた御神籤ひとつ
其れは彼等が自分へ託した、言ノ葉のやうだつた



●八咫と白烏
 両翼を懸命に広げ、何かを護ろうとする白鴉。
 それらを瞳に映した誠司は懷う。
 ひとを愛してゐるからこそ、此の先に佇む影朧を愛してゐるからこそ。
 その姿を見ただけで彼の人魚は今も猶、愛されているのだと判った。愛らしき姿をしているが故か、其の心もきっと優しいのだろう。
「其れを識れたならば、……私は此れ以上、迷ひますまい」
 誠司は銀笛に触れ乍ら真っ直ぐに白鴉達を見据えた。そして、残月を奏でる。
 音色は夕闇の彩に混ざりあっていくかのように響く。
「――八咫!」
 奏で終わると同時に誠司は其の名を呼ぶ。
 誠司が自らの傍に招いたのは、彼らと同じく導く者。招来した八咫烏の羽撃きが白鴉の鳴き声と重なった。
 これで手数で押されることはない。然し彼の本心は別の処にある。
 白き鴉と黒き鴉。
 同じ烏の化身ならば彼らと和解することも叶うのではないか、と――僅かに願う気持ちがあってのこと。
 されど、白鴉は此方に来るなと言わんばかりに御神籤を投擲してきた。
 雨霰のやうだ、と感じて降り注ぐ神籤を見つめた誠司は構えた澄清の刃で弾き返す。宙に舞う、千代紙めいた彩を宿す紙。其れ等は宵色を孕み始めた夕陽を受け、不可思議な彩を広げていった。
「導き手よ、どうか我等を人魚の元へ」
 八咫達を遣わせ乍ら誠司は白鴉達に願う。
 ――己は彼女の嘆きを晴らし、在るべき処へ還したい。
 真摯に向けた眼差しと言葉で以て思いを伝える誠司だが、白鴉は是とは云わない。ただ御神籤を投げ付け、かえってよ、という意思を示すだけ。
 きっと彼らにも譲れぬものがあるのだろう。
 互いの主張も意志も決して間違ってはいない。護り、救う為。何方も同じ方に向いているというのに交わることのない思いだ。
「そう、ですか……」
 為らば、と誠司は覚悟を決めた。
 出来る限り痛めつけず、苦しめぬよう、白鴉達を廻りへ導こう。八咫達に視線を送れば彼らも主の志を理解したかのように翼を広げた。
 鋭く、痛みは一瞬で。
 もしかすれば痛みすら感じない刹那の一閃だったやもしれない。影朧は疾く屠られ、骸の海へと還されてゆく。
 刃を下ろした誠司の手には白鴉が残していった御神籤がひとつ。
 七宝繋ぎ文様の千代紙に包まれたそれをゆっくりとひらいた誠司は綴られていた文字に視線を落とす。
「これは――」
 目で追った文字。其れは彼等が自分へ託した、言ノ葉のようだと思えた。

『吉凶不分末吉』
 きちきょうわかたず。吉か凶かは己で決めるべし。さすればいずれ吉と成す。
 友と呼べる者に隔てなく手を伸ばせ。佳き廻り逢いは異国に有り。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

榎本・英
私だって御籤を引いて帰るだけならその方が良いのだがね。
今日はそう言うわけにはいかないのだよ。
だからそこから退いてくれないかい?

君たちはどうにもやる気のない見た目をしている……。
見た目に騙されるなと云う事かもしれないが
指先で弾いてしまえばすぐにでも消えそうだ。

所で、私は今とても焼き鳥が食べたいのだよ。
タレ味が良い。
しかし此処にはタレが無い。
それならやはり塩味……あっさりとした檸檬も良いね。

戦うつもりはないのだが……。
御籤の棒は邪魔だ。
私の筆ですべて切り刻んでしまおう。
はぁ……本当にやる気が出ないよ。
さすがに小説の題材にも出来ない。

早く何処かに行ってくれないかな?



●吉凶のゆくえ
 ――御神籤を引いて帰って!
 そんな雰囲気で此方を睨み付けてくる白い鴉達。その眼差しもまんまるな瞳なものだからまったくもって怖くはない。
「私だってそれだけで済むなら、その方が良いのだがね」
 英は差し向けられる視線を受け止め、やれやれ、といった様子で溜息をついた。そして、駄目元で問いかけてみる。
「今日はそう言うわけにはいかないのだよ。だからそこから退いてくれないかい?」
 ちゅちゅん、と威嚇するように鳴く白鴉。
 どうやら彼らは全く退く気はないらしいが、それは英とて同じだ。英は糸切り鋏を手にしながら白鴉達に語りかけていく。
「君たちはどうにもやる気のない見た目をしている……」
 一歩、踏み出す。
 その見た目に騙されるなと云う事かもしれないが、指先で弾いてしまえばすぐにでも消えそうな外見をしている。
 もう一歩、英は歩み寄った。糸切り鋏がしゃきんと鳴る。
 その声と音に何故か白鴉達が怯えていた。
 彼らの様子を知ってか知らずか、英は唐突に話を変えていく。
「所で、私は今とても焼き鳥が食べたいのだよ」
 びくっと白鴉が震えた。
 対抗するように相手が御神籤を投げてきたが、英はそれを鋏で弾き返す。その間も彼は言葉を続けていった。
「タレ味が良い」
「!?」
「しかし此処にはタレが無い」
「!!??」
 続けられていく焼鳥の話に、白鴉達は何でか涙目になっているような様子だ。
「それならやはり塩味……あっさりとした檸檬も良いね」
「ちゅちゅん!!」
 耐えかねた白鴉が更なる御神籤を投げてくる。次はひとつではなく幾つもの御神籤大乱舞だ。しかし、腕を振り上げた英は御神籤を総て地に落とす。それは一度しか動いていないかのような動きでありながら、九度も斬り裂いたような一閃だった。
「はぁ……本当にやる気が出ないよ」
 流石に白い鴉の焼き鳥の話なんて小説の題材にも出来やしない。
 仕方ないな、と呟いた英はひといきに地を蹴った。そして――。
「早く何処かに行ってくれないかな?」
 淡々とした問いかけが落とされた、刹那。筆という不釣り合いな名を抱く糸切り鋏が白鴉達を容赦なく穿った。
 やがて辺りは静かになり、戦いは一先ずの終幕を迎える。
 英は自分が打ち落とした御神籤が残っていることに気付き、そのひとつを拾う。興味があるのかないのかは自分でも分からなかったが、彼はそれを徐にひらいた。

『吉凶未分末大吉』
 よしあしいまだわからず。今は判断できぬ運気。いずれは吉と成り得る。
 追い求めるものは未だ遠いが回り道こそ好機。幸運を呼ぶ行為は人間観察。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

依神・零奈
【⛩】

白鴉ね……影朧の下僕として此処に集っているらしいけれど。そうか、キミ達も忘れられたんだ。ともかく私達はこの先に用がある、だからおみくじでも引いてあげるから還ってよ。

あの眠気を誘う羽はめんどくさいな……数が多いのも厄介だ
少し大人しくしていて貰うよ、UCを発動して舌禍による【呪詛】で集団の動きを遠くからまとめて縛る事にする。

「キミ達の運命は今此処に確定した」
「この場への固執は自らの動きすら縛る」

偶然にも厄災に見舞われ動きを彼らが鈍らせたら【破魔】を込めた霊符を投げ近くにいる敵から攻撃を仕掛けていくよ。

……廻れ運命の風車、再び巡り逢う事を



●舌禍の呪
「白鴉ね……」
 ちゅちゅんと響く鳴き声を耳にしながら、零奈は目の前の烏を見遣る。
 聞けばそれらは影朧の下僕として此処に集っているらしい。しかし、配下だと云われる割にはどうにも弱々しい。
 それは数が多い故か、さほど強敵ではないようにも思えた。
 零奈は身構え、ぱたぱたと翼を羽ばたかせる白鴉達を見渡してゆく。
「けれど。そうか、キミ達も忘れられたんだ」
「ちゅちゅん!」
 零奈の言葉に鳴き声を反した白鴉はたしかな敵意を持っている。何としても此処は通さないといった様子だ。
 その間に投擲される御神籤。
 勢いよく迫ってくる四角く折り畳まれた紙。その軌道を読んだ零奈は片手を掲げ、ぱしりと紙を受け取った。
「ともかく私達はこの先に用がある、だからおみくじでも引いてあげるから還ってよ」
 こんなもの何ともない、と示すような視線が白鴉に向けられる。
 しかし、帰るのはそっちだとばかりに白鴉達が騒ぎはじめた。相手は聞く耳を持たないのだと感じた零奈は肩を落とし、霊符を取り出す。
 同時に呪詛を巡らせた零奈は敵の動きを縛ろうと試みていった。
「キミ達の運命は今此処に確定した」
 舌禍から紡がれる言の葉は禍々しい空気を纏い、戦場に広がっていく。災いを齎すその言葉は更なる呪を宿しながら巡った。
「この場への固執は自らの動きすら縛る」
 言霊は敵の動きを封じ、投げられようとしていた御神籤が地面に落ちる。
 しかし、別の個体がふわふわとした羽毛を舞わせていた。其方に気が付いた零奈は即座に数歩後ろに下がり、迫ってきていた羽を避ける。
 だが、触れそうになっただけでもそれらは眠気をいざなってくる。
「あの羽はめんどくさいな……数が多いのも厄介だ」
 ふ、と軽く息を吐いた零奈は符を掲げ、ひといきに投擲しかえした。破魔の力を宿した霊符は羽毛を穿ち、その奥にいる白鴉諸共穿っていく。
 それによって一体、また一体と影朧達が地に落ちていき――。
「……廻れ運命の風車、再び巡り逢う事を」
 別れの言の葉を送った零奈は一度だけ瞼を閉じ、その廻りへと思いを馳せた。
 そうして周囲の白鴉は骸の海に還される。零奈は先程、受け取っていた御神籤が気になりそっとひらいて眺めてみる。
 其処には――。

『大大吉』
 最高の運気に恵まれる。しかし佳いときほど油断は禁物。
 努めて過ごすことで更なる機運が拓ける。夕刻、七つの鐘にご用心。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

水標・悠里
む、通せんぼしても奥に影朧が居ることはお見通しです
力業になりますが、ここを通して頂きます

か、可愛い……。いえ、惑わされてはいけません
「御神籤一つ下さいな」
つぶらな瞳に愛らしい仕草
うーん……いえ、悩んでいる場合ではありません
『降魔化身法』で伝承に聞く鬼共を纏って【朔】で斬りかかる
【第六感】で攻撃、もとい御神籤の飛んでくる方向を察知
飛んできた御神籤は【朔】や【黒翅蝶】で喚んだ死霊で防ぎます

多少の痛みなら構いやしません
愛らしさの方がよほど心が痛みます。ですが彼らもオブリビオン、出合ったのなら倒すより他にありません

お休みなさい、良い夢を
御神籤の結果がどうあれ、未来がどうなるのか
私の目で確かめて参ります



●籤の標
 愛らしい鳴き声に懸命な守護の姿勢。
 何にもないのだと主張する白鴉を前にして、悠里は短刀の柄に手をかけた。
「む、通せんぼしても奥に影朧が居ることはお見通しです」
 この奥に人魚の影朧がいる。
 それはこの目で確かめずとも気配と雰囲気でわかる。悠里に嘘が見破られていると気付いた白鴉達は慌てて白い翼をぱたぱたと動かし、まんまるな瞳を潤ませた。
 その姿は本当に可愛い。
 だが、悠里は此処で惑わされてはいけないと己を律した。
「か、可愛い……。いえ。力業になりますが、ここを通して頂きます」
 思わず言葉に動揺が見え隠れしたが、首を横に振って思いを振り払う。そして、悠里は己の身に魔を降ろす。
 伝承の鬼を纏い、力を解放した悠里は一気に地を蹴った。
 鬼の力。そして、鬼の血を含ませて打ったと云われる朔を抜き放てば、鋭い気が辺りに満ちる。一瞬はびくっとした白鴉だが、負けはしないと対抗してきた。
 跳躍した悠里は刃を振りあげる。
 其処から放たれる一閃が白鴉の翼を斬り穿ち、羽を散らせた。されど耐えた白鴉は悠里を睨みつけるように姿勢を正して御神籤乱舞を放ってくる。
 悠里は慌てることなくその軌道を見極め、朔で以てそれを弾いた。
「御神籤一つ下さいな」
 なんて、と戯れに告げた悠里は、宙でくるくると舞った御神籤の紙に手を伸ばす。千代紙めいた柄で彩られた紙をひらけば何らかの言葉が書いてあるのだろう。
 これを見るのは後。
 今は立ち塞がる白鴉を倒すことが先決だ。
「うーん……いえ、悩んでいる場合ではありません」
 やはり斬り裂くのには抵抗があるが、このまま此処に留まらせておくことも不幸を招く要因になる。再び飛んできた御神籤は黒翅蝶で喚んだ死霊で防ぎ、弾ききれなかったものは敢えて受け止め、悠里は戦ってゆく。
 多少の痛みなら構わない。今は心の方が痛む。
 そんな中でふと、悠里は白鴉が弱り始めたことを悟った。一気に距離を詰めた少年は朔を強く握る。刃が夕陽を反射して煌めいた、次の瞬間。
「お休みなさい、良い夢を」
 言葉と共に刀が振り下ろされ、白鴉は骸の海に還されていった。
 そうして悠里は手の中に残った御神籤に視線を落とす。
 結果がどうあれ、自分やこの先に顕現した人魚の未来がどうなるのか――。それを己の目で確かめようと心に決め、悠里は御神籤をそっとひらいた。

『凶後大吉』
 現在は凶の運気。苦しみを乗り越えられれば運が開き、大吉と成る。
 己を愛し、他者を慈しむべし。偽り続けることは不幸を呼び込む。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

勾坂・薺

うーん、よく寝たなぁ。
目覚めた後に聞いて心地いいのは
やっぱり鳥の鳴き声だよね。
……なんか変な鳴き声だけど。

でも、頂けないなぁ。わたしの通り道塞ぐのは。
邪魔をするならどんなに可愛くても
わたしは容赦しないんだけど。
退く気ない?

あんまり痛くするのも気が引けるなぁ。
手は抜かないけど――これでどうかな。
【Hello, world!】
はい、動かずに良い子にしていようね。
他の人がさくっとやってくれるから。多分。

あ、おみくじは引かせてもらうね。
出来ればそうだなぁ、うーん。
人間関係運とかそんなのない?あと金運。ない?
あとは――うーん、まぁいいや。

結果は……何々。

※神のみぞ知る



●泡沫に揺らぐ未来
 ふぁ、と軽い欠伸をして伸びをひとつ。
「うーん、よく寝たなぁ」
 夜のひととき、心地よい朝の一刻、穏やかな白昼の時間。
 殆どを心地良い微睡みの中で過ごした列車の旅を思い、薺は参道を歩く。夕闇に染まっている道の先からはちゅんちゅん、という鳥の声が聞こえた。
 目覚めた後に聞いて心地いいのはやっぱり鳥の鳴き声、だが――。
「……なんか変な鳴き声だけど」
 ぽつりと呟きを零した薺は鳴き声の主を見遣る。
 両翼をぱたぱたと広げて道を塞ぐ彼らは真っ白でまんまるだ。愛らしくもあるが、確かな敵意も感じられる。
 薺はちいさく肩を竦め、どうあっても通さぬ気概の白鴉達を見つめた。
「でも、頂けないなぁ。わたしの通り道塞ぐのは」
 夕陽を反射する琥珀の瞳に影朧達を映し込んだ薺は片目を眇める。
 確かに彼らは愛らしくて、普通の人ならその可愛さに戸惑ってしまうかもしれない。しかし薺はそうではない。
「邪魔をするならどんなに可愛くてもわたしは容赦しないんだけど。退く気ない?」
「ちゅん!」
 最終確認と通告だというように薺が問いかけると白鴉は強い鳴き声を返した。言葉が分からずとも理解できる。退くのはそっちだ、と彼らは言っていた。
「そ、じゃあ……」
 薺は仕方ないと感じて一度だけ瞼を閉じる。
 そして瞳をひらいた次の瞬間、彼女の持つ力が紡がれてゆく。
 電脳魔術入門、第二十三頁――Hello, world!
 ふわりと吹いたシャボン玉。それは唯の泡ではなく、電脳魔術の力が形作るプログラムの玉だ。その中に揺らめくのは様々なバグ。
「あんまり痛くするのも気が引けるなぁ。手は抜かないけど――これでどうかな」
 ノイズが疾走るように七色の彩を揺らすシャボン玉はふわふわと舞い、白鴉の近くで弾けた。バグを撒き散らしながら迸る力。それを受けた白鴉は目をぎゅっと瞑ってバグの嵐に耐えている。
「はい、動かずに良い子にしていようね」
 薺は子供をあやすような言葉をかけ、共に戦う猟兵達に目を向けた。
 動きを止められた白鴉に気付いた仲間は隙を突き、白鴉を地に伏せさせてゆく。それを確かめた薺はそっと頷き、更なるシャボン玉を舞わせることで援護に回った。
 そして、戦いは巡り――。
「終わったかな」
 薺は周囲を見渡し、消えていった白鴉が居た場所に屈み込む。其処に落ちていた置き土産でもある御神籤を拾い、よし、と頷いた薺は立ち上がった。
 朱と白の市松模様の千代紙に包まれた紙。其処には何が記されているのか。
「結果は……何々」
 そうして、薺がひらいた御神籤にはこんなことが書かれていた。

『小吉』
 なんだかちょっとだけ運が良いみたい。ちょっぴりだけね。
 宝籤も小当たりするかも。しないかも。人との縁を繋ぐ物はチョコレヱト!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と

しろい…からす、と聞いていたのだが。ちゅん…?
おみくじでも引いて帰れ、と言い張る割には
引かせ方がとても強引だなぁ
穏やかに、引かせてくれれば。カガリはちゃんと引くぞ?

【錬成カミヤドリ】で【鉄門扉の盾】を複製、おみくじ棒を防ぐぞ
複製が間に合わなければ、最初の1枚は念動力で操る
いつもなら、鉄柵を出すところだが…先頃の戦争で、大分損傷したから
だが、扉の隙から通すこともしないぞ(【不落の傷跡】【拒絶の隔壁】)
攻撃の方はまるに任せる
扉越しに、その活躍を見守るぞ

終わったら、おみくじ棒を拾ってみたいな
おみくじ、どんな結果だろう
(結果がよければ嬉しいし、悪ければちょっとしょんぼり)


マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と

見た目は愛らしいのだがこれはオブリビオン
俺の前に立ち塞がるのなら容赦はせん
シロガラスだかシマエナガだか知らないが、ちゅんちゅん言ってる鳥供を串刺しにして殲滅してやる

飛んでくる箸みたいなもの(おみくじ棒)はカガリの盾が防いでくれる
おみくじの結果は気にしない
俺達が引いた訳じゃないからな
俺自身も敏捷性(ダッシュ、ジャンプ、見切り)で棒を回避して攻撃に転じる

鳥の群れに【竜骨鉄扇】で衝撃波+範囲攻撃を蹴散らす
すかさず槍に持ち変えて【神速雷鳴】を発動
槍投げと串刺しとで次々と討ち取っていく
体勢を立て直される前に攻撃すれば回避も出来まい

さあ、人魚の元まで通らせて貰うぞ



●城盾と飢竜
「しろい……からす、と聞いていたのだが。ちゅん……?」
 カガリから零れ落ちたのは大いなる疑問。
 神を祀る御前に現れる影朧と聞けばもう少し凛々しかったり、厳つい見た目をしているものばかりと思っていたが、これは予想外だ。
 カガリの横に立つマレークも軽く驚きはしていたが、既に戦闘態勢を取っている。
「確かに見た目は愛らしいのだが、これもオブリビオンか。俺達の前に立ち塞がるのなら容赦はせんぞ」
 すると対する白鴉は御神籤をぺいっと投げ付けてきた。
 思わずそれを受け取ったカガリは不思議そうに首を傾げる。
「おみくじでも引いて帰れ、と言い張る割には引かせ方がとても強引だなぁ」
 穏やかに、引かせてくれれば良いというのに。
 カガリはちゃんと引くぞ、と告げても敵意を持つ白鴉達は聞く耳を持たない。マレークは話しても無駄だと断じ、竜骨鉄扇を構えた。
「シロガラスだかシマエナガだか知らないが、ちゅんちゅん言ってる間に串刺しにして殲滅してやる」
 マレークが宣言した刹那、漆黒の鉄扇が振るわれる。
 衝撃波が周囲に広がりながら敵を穿ち、白鴉の身を大きく揺るがせた。彼に頼もしさを感じながら、カガリは己の本体たる鉄門扉の盾を複製していく。
 投擲される御神籤を盾で受け止め、防ぐカガリ。
(いつもなら、鉄柵を出すところだが……先頃の戦争で、大分損傷したからな。だが、扉の隙から通すこともしないぞ)
 身体に刻まれた傷が、そしていかなる脅威も遮断するという強い意志がカガリに宿っている限り、防護の力は揺らがない。
 カガリの盾が全てを防いでくれると信じ、マレークは更なる攻撃に転じる。
「どのような結果でも気にするものか。俺達が引いた訳じゃないからな」
 素早さを活かして立ち回るマレークは紙の御神籤を避け、扇で弾き飛ばしていく。様々な千代紙で包まれたそれは色とりどりだ。
 カガリは攻撃をマレークに任せ、扉越しに彼の活躍を見守り続ける。
 マレークは白鴉に接敵すると同時にすかさず槍に持ち変え、て神速雷鳴の力を発動させた。稲妻を纏わせた槍の動きはまさに電光石火。
 そして、彼は槍投げによる串刺し攻撃で敵を次々と討ち取っていく。
 其処に容赦はない。
「まる、まる、流石だな」
「ああ、体勢を立て直される前に攻撃すれば回避も出来まい」
 マレークに称賛を送ったカガリは、戦局が上手く巡っていると感じた。そうして暫し戦いは巡り――マレークは最後の一体に狙いをつける。
「さあ、人魚の元まで通らせて貰うぞ」
 鋭い雷鳴が響き渡るかのように、疾き一閃が迸った。
 やがて、他の猟兵の働きもあって周囲の白鴉がすべて地に落ちた。マレークだけではなく他の仲間に放たれた攻撃までもをカバーしていたカガリは安堵を抱く。
 そうして、彼らは地面に落ちていた御神籤を拾いあげた。
「まる、まる。一緒に見てみないか?」
「何が書いてあるのか確かめてみるとするか」
「おみくじ、どんな結果だろう」
 わくわくとした様子のカガリに頷き、マレークも御神籤をひらいてみる。そうして、二人の手の中にある紙に記されていたのは――。

 カガリが手にしたのは『向大吉』
 大吉に向かう良い運気の流れ。精進すべし。
 守りよりも攻めに転じると好機が生まれるかも。幸運を呼ぶ物は装飾小匣。
 
 マレークのひらいた紙には『小凶後吉』と書かれていた。
 多少の困難あり。いずれは吉となる運気。
 突き進むよりも後ろを振り返ることも時には必要。佳き色は蒼銀。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エドガー・ブライトマン
⛩ ヨーコ君(f12822)、行こう!
黒くてかっこいい蒸気機関車が名残惜しいけど
きっとまた乗れるよね

オーマガトキ?そんな名前がついているんだね
きっとヒトでないものも、今の空の色がキレイだと感じるから
この時間に現れるんだろう

ジンジャ?……たぶん、知らないよ
変わった建物だねえ、一体何が住んでいるんだろう
おっとそうだね。しっかり働こう

白くて丸いのがいるね。えっカラスなの……?
オスカーとは随分見た目が違うね
かわいらしいキミらを傷つけるのは心苦しいけれど
どうしても通せんぼをするなら仕方な

よ、ヨーコ君…(なんて逞しさだ……)

や、だめじゃない。この場はキミの方が正しい
ただあまりに潔くて……

はい。やろう、仕事


花剣・耀子

エドガーくん(f21503)と、ゆきましょう。
そうね、きっと。帰り道もあるかしら。

嗚呼、ちょうど逢魔が時なのね。
ヒトではないものに逢う時間なのよ。
これから訪ねる場所も、きっとそういうものだもの。

エドガーくんは、神社には馴染みないかしら。
……流石に観光とはいかないのが残念ね。
由縁を探すよりも、直接聞いた方が早そうだわ。

御遣いの姿をしていたってオブリビオンでしょう。
見目に騙されはしないわよ。
散りなさい。

えっ。
だ、だめ? だめかしら……?
あたしだってカワイイものは人並みにすきだけれど、
でも、その、あれはオブリビオンだし御神籤をくれたって引き下がるわけにはいかないのだし、

……うん。はい。
斬るわね。



●ゆるっとおみくじ
 汽車の旅も一先ず終わり。
 煙をあげて走り去る蒸気機関車の後ろ姿を見送った後、エドガーと耀子は歩き出す。
「行こう、ヨーコ君!」
 あの格好良い車体と別れを告げたことは名残惜しいけれど、きっとまた乗れるはず。エドガーが誘う声に頷き、耀子は夕暮れ色に染まる空を振り仰いだ。
「そうね、きっと帰り道もあの汽車のはずよ。……嗚呼、ちょうど逢魔が時なのね」
 山間は橙色。高い空は宵色。
 ふたつの違った彩が混じりあう時間。
「オーマガトキ? そんな名前がついているんだね」
「ヒトではないものに逢う時間なのよ」
 エドガーが不思議そうに空を眺めると、耀子がこのひとときの名の由来を話した。これから訪ねる場所もきっとそういうものなのだと彼女が語ると、エドガーは納得する。
 きっとそうだ。ヒトでないものも、今の空の色がキレイだと感じるからこの時間に現れるのだろう、と――。
 そうして二人は件の神社へと急ぐ。
「エドガーくんは、神社には馴染みないかしら。あれがそう、みたいね」
「ジンジャ? 変わった建物だねえ、一体何が住んでいるんだろう。ああ、もう何もいなくなった後だったっけ」
 耀子が示す先には鳥居と拝殿が見えた。
 エドガーは興味を抱くが、其処が廃墟になっているのだと聞いていたことを思い出す。今其処にいるのは影朧。過去より滲み出た存在だ。
「……流石に観光とはいかないのが残念ね。オブリビオン……影朧の由縁を探すよりも、直接聞いた方が早そうだわ」
「おっとそうだね。しっかり働こう……と、白くて丸いのがいるね」
 耀子は先を見据え、周囲に満ち始めた何かの気配を示す。
 エドガーも其方に目を向け、道を阻むものを確かめた。ちゅん、と鳴くそれらはしろがらすさまと呼ばれるものだ。
「えっカラスなの……? オスカーとは随分見た目が違うね」
 驚くエドガーは自分が連れているツバメと白鴉達を見比べてみる。可愛らしい鳥達を傷つけるのは心苦しい。けれど、と顔を上げたエドガーは刺突剣を構えた。
「どうしても通せんぼをするなら仕方な――」
 だが、その言葉が途中で止まる。
 彼がレイピアを抜いた時には既に耀子が地を蹴り、機械剣を振り下ろしていたからだ。
 散る羽。ちゅーん、と響く悲鳴。
「御遣いの姿をしていたってオブリビオンでしょう。見目に騙されはしないわよ」
 ――散りなさい。
 そう告げると同時に二撃目を叩き込んだ耀子は容赦ない。
 たった一瞬で一体が落とされたことに目を見開いたエドガーは圧倒されていた。
「よ、ヨーコ君……」
(なんて逞しさだ……)
 彼女の名前を呼ぶと同時に浮かんだ思い。言葉にせずともエドガーの意思が伝わってきたらしく、耀子は剣を構え直しながら振り返る。
「えっ。だ、だめ? だめかしら……?」
 可愛いマスコットめいた鳥を真二つに叩き切って更に斬り刻んだ現状。別に非難されているわけではないと分かっていたが、エドガーの視線は少し痛かった。
「や、だめじゃない。この場はキミの方が正しい」
「あたしだってカワイイものは人並みにすきだけれど、でも、その、あれはオブリビオンだし御神籤をくれたって引き下がるわけにはいかないのだし……」
「いや、いやいや。ただあまりに潔くて……」
 互いにほんの少しだけ気まずい空気が流れているのが分かっていた。しかし誰も間違ってはいない。問題はあるようで、ない。
 視線が交差する中、気を取り直した二人は頷きあった。
「……うん。はい。斬るわね」
「はい。やろう、仕事」
 そして、戦いは真剣に巡ってゆく。
 耀子が白刃を放ち、エドガーがレイピアによる華麗な剣戟を見舞う。白鴉達は次々と伏し、あるべきところ――骸の海へと還っていった。
 やがて辺りの騒がしさが静まった頃、二人は足元に御神籤が落ちていることに気が付く。エドガーは市松模様、耀子は麻の葉模様。それぞれに違う千代紙に包まれた紙には別々の運勢が記してあった。

 市松模様の紙に記されていたのは『中吉』
 大体においてまあまあ。全部がまあまあな時期です。
 求めれば手に入るものは多いが嫉妬に注意。身につけると佳き色は純白。
 
 麻の葉模様の御神籤には『小吉』
 ちょっとだけ運が良いみたいだからちょこっとだけ調子に乗ろう。
 賑やかな場所に足を運んでみると新たな発見が。幸運を運ぶ食べ物は鯛焼き。
 
「これは……」
「……可愛い」
 エドガーと耀子はゆるゆるな文章で綴られた御神籤の内容を読み、何故だか不思議な感覚をおぼえていた。
 きっとそれは優しい烏神が遺した、ささやかな置き土産だったのだろう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
⛩ 瑠璃緒(f22979)と

これはまたカワイイ鳥だな
倒さなければダメか、そうか

ヒトを眠らせる羽毛、厄介だな
……俺も強制スリープさせられるのか?
少し気になるが、相殺させて貰うぞ
瑠璃緒が寝落ちて風邪引いたら大変だからな

ブレイドを花弁に変え範囲攻撃
舞い散る羽毛落とし、しろがらす達に永劫の眠りを与えよう

仲間や瑠璃緒への攻撃は、この身を盾とし庇う
撃ち漏らしは手近な者からリボルバーで撃っていく
カワイイ生き物に手を上げるのは心苦しいが……
損傷は激痛耐性で堪えるとしよう

ああ、コレが御籤か
交換して結果を確認するの楽しそうだ
瑠璃緒の分、良い結果が出るといいな
俺の結果の方が良ければ
いっそ神籤自体を交換してしまおうか


六条寺・瑠璃緒
⛩ジャック(f16475)と

おや可愛らしい
とは云え人に仇なすオブリビオンを匿うのなら、致し方ないね

こういうものも防げるんだね、さすがジャック
ジャックにもその催眠が効くのか気になるのは確かだけど…駄目だね
こんな場所で眠るのは危ないから

神性をなくしたとは云え他の神の御遣いに手をあげるのはやはり心苦しい
流し目を呉れてやり、UCを発動
精神攻撃と催眠術を重ね狂わせる
僕は哀れな神の御遣い達をRequiemで介錯するだけ
手は下して居ないとも
攻撃はSerenadeのオーラ防御で防いでジャックも守るよ

あ、ジャック、おみくじがあるよ
取り替えっこして結果を見ない?
良い結果なら教えてよ
ふふ、交換か、両方大吉なら良いね



●穏やかなる眠りを
 ちゅちゅんと響く声。ぱたぱたと羽ばたかせる小さな翼。
 猟兵達を出迎えた白鴉達は確かな敵意を持ちながら行く手を遮っている。
「おや可愛らしい」
「これはまたカワイイ鳥だな」
 瑠璃緒とジャックは同時に似た思いを言葉にした。敵意とはいっても、その根源は奥の池に控える人魚を守りたいがゆえの感情だと分かる。
 それでも、彼らの抱くものは今の自分達の目的とは異なる意思でもある。
「人に仇なすオブリビオンを匿うのなら、致し方ないね」
「倒さなければダメか、そうか」
 どうあっても戦わなければならないのだと感じた瑠璃緒は肩を竦め、ジャックは身構える。すると先手を取った白鴉がふわふわとした羽毛を舞い散らせてきた。
 淡く戦場に舞う羽。
 それは近付いてくるだけで眠りをいざなう力を持っていた。瑠璃緒の瞼が落ちそうになる中、ジャックの機能も強制的にスリープされそうになっている。
 だが、堪えれば耐えられる程度だ。それでも羽毛をそのままにしてはおけない。
「ヒトを眠らせる羽毛、厄介だな」
 相殺させて貰うぞ、と宣言したジャックは掲げたブレイドを待宵草の花弁に変えてゆく。その花の色は白い羽に重なることで彩りを与えていった。
「こういうものも防げるんだね、さすがジャック」
 瑠璃緒はジャックが広げていく花に感心し、自らも身構える。迎え撃つ幽玄の白い羽で敵の羽毛を弾き、眠りに囚われぬよう立ち回った。
 ジャックも見事だと告げ、更なる花の舞を披露してゆく。
「瑠璃緒が寝落ちて風邪引いたら大変だからな」
「そうだね、ジャックは風邪とは無縁だろうけど……何にせよ駄目だね、こんな場所で眠るのは危ないから」
 舞い散る羽毛は次々と落とされ、同時に白鴉が穿たれる。
 彼らが少しでも苦しまぬよう、永劫の眠りを与えるべく広げる力はやさしい。しかし羽だけではなく鋭く投擲される御神籤が彼らに迫る。
 それを感知したジャックは瑠璃緒の前へと駆け、その身を挺して攻撃を受け止めた。
 自らを盾にする彼に信頼を抱き、瑠璃緒も己の力を開放する。
 神性をなくしたとは云え、元は他の神の御遣い。それらに手をあげるのはやはり心苦しいかったが瑠璃緒はその瞳で敵を捉えた。
 流し目から巡るのは理性を失わせる不思議な力。
 白鴉達は混乱し、惑いながらちゅんちゅんと鳴いた。御神籤が無軌道に散らばっていく中、ジャックが銃口を向ける。
「カワイイ生き物を撃つのは憚られる、だが――」
 彼らがこのまま此処に居続ければいつかは不幸を引き起こす。人魚を護るという大義はいずれ歪み、人を傷つけることになるだろう。ジャックも瑠璃緒も、そのことを確りと理解して戦っている。
「哀れな神の御遣い達、此処で眠ると良い」
 瑠璃緒の宣言と同時に穢れの力が発現していく。血の刃となった一閃が白鴉達を介錯していき、一体、二体と丸い身体が地に落ちた。
 されど残った白鴉がジャック目掛けて御神籤を発射する。それを察した瑠璃緒は朧な白い翼で以て彼を守り、今だよ、と合図を送った。
 瑠璃緒の声を聞いて頷きを返したジャックは銃口を差し向け、銃爪を引く。
「――これで最期だ」
 響く銃声。舞い散る羽。
 ちいさな千代紙に包まれた御神籤をふたつだけ残して、白鴉は消えていった。骸の海に還った彼らを見送り、二人はふと足元を見遣る。
「あ、ジャック、おみくじがあるよ」
「ああ、コレが御籤か」
「取り替えっこして結果を見ない?」
「それが良いな。では、これを」
「はい、これ。良い結果なら教えてよ。両方大吉なら良いね」
 提案に同意したジャックは自分が手にとった緑の七宝繋ぎ柄の紙を瑠璃緒に渡す。瑠璃緒からは紅い矢絣柄の紙が手渡され、二人は同時にその中身をひらいた。
 
 ジャックの双眼に映ったのは『凶後大吉』の文字。
 現在は凶の運気。苦しみを乗り越えられれば運が開き、大吉と成る。
 踏み出すことを恐れるなかれ。戸惑った時、災いが訪れる。纏うに佳き色は真紅。
 
 瑠璃緒の目に入ったのは『向大吉』
 大吉に向かう良い運気の流れ。善きに浸るばかりではなく日々精進すべし。
 何処かに旅行するなら少しの用心を。身につけると福を呼ぶ物は瑠璃の宝石。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫
アドリブ歓迎


黎明のお空も桜も綺麗で――眠い
うにゃうにゃしながら泳ぎ降り
起こされた先にはふかふか小鳥!
わあ櫻!可愛いな
ぎゅうとしたくなる
鴉だよ
ちゅんと鳴くのも可愛い
合わせてヨルがきゅきゅ!と歌い出し
同じ鳥だから、仲間と思っているのかな?

そうだね
龍は人魚を食べるけど
人魚は――まだ
桜龍の花弁をこそりと食むだけ
君に愛(血)をあげられなかった分、歌ってあげる
歌唱にこめるは愛しの櫻への鼓舞と
微睡み誘う、鴉達への誘惑
奥底の人魚に届くよう、歌う泡沫「魅惑の歌」を
白鴉堕とし搦めてあげる
少しだけもふもふしたい

君の桜花が彩り増して
嗚呼綺麗だな
僕の御籤!ドキドキだけど
ふふ
君と一緒なら、いつでも大吉なんだから


誘名・櫻宵
🌸櫻沫
アドリブ歓迎


あら
リルの好きそうなもふもふだわ
ほらリル
うとうとしてないで起きて!
もふもふがいるわよ!
白い雀ね
え?鴉?
ヨル、張り合って鳴かなくてもいいのよ!

ふうん
人魚を庇っているの?守っているのかしら
けどダメよ
人魚が人を食べるなんて…そんな風評があたしの可愛い人魚に被せられたら大変だもの

リルの歌に微笑み駆ける
飛び交う小鳥を撃ち落とすように桜花の呪殺弾を振りまいて
なぎ払いと共に放つ衝撃波で2回攻撃
堕ちた神鳥に破魔の斬撃を
弱ったところで「喰華」小鳥なら美味しく頂いてもいいわよね?

いた……!あら御籤だわ
今日の運勢はどうかしら?
うふふ
可愛いリルの寝顔がばっちりみられたから、どんな運勢でも大吉よ!



●夕色の桜
 時刻は既に夕暮れ。
 汽車で見た黎明の光も、穏やかな冬の陽差しが射す日中も、再び巡る宵の気配も、何もかもが心地好かった。そのひとときを二人で過ごせたのだから尚更だ。
「……ねむい」
 夢見心地のリルがうにゃうにゃと目を擦りながら列車を泳ぎ降りてから暫く。
 あらぬところに泳いでいってしまわぬよう手を引いていた櫻宵は前方に現れた影を見遣り、あら、と嫋やかな声を落とす。
「リルの好きそうなもふもふだわ。ほらリル、うとうとしてないで起きて!」
「うん……もふ……? わあ、櫻! 可愛いな、ふかふかだ!」
 その声にはたとしたリルの眠気は一瞬で何処かに消え去ってしまった。
 ぎゅうとしたくなるまんまるフォルム。しかもそれらはちゅんと鳴いており、仔ペンギンのヨルとはまた違う可愛さがある。
「白い雀ね」
「鴉だよ」
「え? 鴉?」
「きゅきゅ!」
 櫻宵の言葉にリルが首を振り、思わず疑問が巡る。そんな中でヨルが歌い出したものだから、ちゅんちゅんきゅっきゅと辺りが可愛い鳴き声で満たされた。
「どうしたの、ヨル。同じ鳥だから、仲間と思っているのかな?」
「ヨル、張り合って鳴かなくてもいいのよ!」
 微笑ましさが巡り、リルと櫻宵は両者の様子を見守る。しかし、相対しているものは行く手を阻む影朧だ。
 櫻宵はヨルをそっと後ろに下げ、リルも隠れていてねと告げる。
 対する白鴉達も此方をじっと睨みつけるように丸い瞳を向けてきていた。
「ふうん、人魚を庇っているの?」
 守っているのかしら、と彼らの様子を確かめた櫻宵は屠桜の柄に手を掛ける。伝え聞いた件の人魚の話を思えば、否定の意が裡に浮かんだ。
「けどダメよ。人魚が人を食べるなんて……そんな風評があたしの可愛い人魚に被せられたら大変だもの」
 ちらと視線を向けた先には愛しい人魚、リルの姿がある。
 リルも櫻宵に眼差しを返し、そうだね、とそっと頷きを返した。
「龍は人魚を食べるけど、人魚は――まだ」
 桜龍の花弁をこそりと食むだけだから、とちいさく付け加えたリルは胸に掌を当てる。
 そして、リルは花唇をひらいた。
 ――君に愛をあげられなかった分、歌ってあげる。
 そんな思いを込めたリルが紡ぎ始めたのは、戦いの始まりを告げる詩。
 愛しの櫻への鼓舞。
 その聲を聴き、微笑んだ櫻宵は駆ける。白鴉達が邪魔をするのならば幾ら見た目が愛らしくとも容赦はしない。
 飛び交う小鳥を撃ち落とすように振り撒くのは桜花の呪殺弾。想愛絢爛の戀思を込めた蠱惑の龍眼が瞬けば、桜獄の花が咲く。
 微睡みを誘う白鴉達への誘惑は舞い散る桜花によって打ち消されてゆく。
 リルはその背を見つめ、瞼を緩める。
 嗚呼、綺麗だな。
 彩りを増す櫻の彩に、奥底の人魚に届くようにと泡沫の歌を乗せて謳う。
 音色の虜になった白鴉達はぴたりと動きを止めた。
 其処へ櫻宵が血桜の太刀を振るう。夕闇の紅と血の色を重ねたような光が刃に反射し、鋭い一閃は衝撃となって迸る。
 堕ちた白鴉に破魔の斬撃を見舞った櫻宵は口端を薄く緩めた。
「小鳥なら美味しく頂いてもいいわよね?」
「……待って、櫻」
 櫻宵が神烏に歩み寄ろうとする中、リルはふわりと泳ぐ。震える白鴉に両手を差し伸べたリルはその子を抱きあげた。
「大丈夫だよ。きみたちが護る子に悪いことはしないから。同じ、人魚だもん」
 だから、おやすみ。
 リルがそっと告げた言葉を聞き、白鴉は眼を閉じた。それと同時にその身体が薄れて消える。食べ損ねたわ、と思わず零した櫻宵だったが、リルがしたことも確かに必要だったと感じて刀を下ろした。
 そして、辺りの白鴉の声が鎮まった頃――。
「きゅ!」
 可愛い鳴き声が聞こえたかと思うと櫻宵にぺいっと紙が投げ付けられた。
「いた……! あら御籤だわ」
「ヨル? わ、これが僕の神籤?」
 物陰から出てきたヨルがこっそり回収していた御神籤がそれぞれに渡される。櫻宵には投げられたが、リルにはちゃんと手渡しだ。
 リルには淡雪色と桜色で彩られた鱗柄の割付文様。櫻宵には白菫と紅紫の矢絣文様の千代紙で包まれた御神籤が渡っている。
「今日の運勢はどうかしら?」
「ドキドキだね。せーの、であける?」
「うふふ。可愛いリルの寝顔がばっちりみられたから、どんな運勢でも大吉よ!」
「ふふっ。僕だって君と一緒なら、いつでも大吉なんだから」
 白鴉の置き土産に期待を寄せた二人は、せーの、で御神籤をひらいていく。

 櫻宵は『吉凶相半』
 きちきょうあいまじわり。良し悪しの交わりの時。いずれは吉に変移する。
 愛を求め過ぎれば更に深みへと落ちていく。時には節制を。佳き彩は月白色。

 リルは『吉凶相央』
 きちきょうあいなかばず。良くもなく、悪くもない。どちらに進むかは己次第。
 寂しさもまた善きに転じる。愛しき者から目を離さずに。幸運を呼ぶ物は飾り紐。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬袋・布静

そないに騒ぐと、その背に隠したいモンがある
――って言うてるのと同じやぞ

なあ、“しろがらすさま”よ
別に恐れんでええ、悲しまんでもええ
俺は隠したいモンを喰らう気はない

知り合いに会いにきた
それだけなんやわ

でもな、ちとばっかし不安要素がある
あんさんの御神籤で景気付けしてから、そこ通らせてもらおうか

そう言いくるめて結果がどうであれ
先に進まなければ始まらない

【潮煙】の青煙の海を泳ぐ白鯨
苦しみを与えぬように一瞬で終わりにしよう
大きな口を開け全てを飲み干そう

朽ちた神社に匿われたままの人魚
疑心暗鬼に囚われた彼女に与えた神の慈悲
その優しさを無碍には出来ない

優しい“かみさま”に揺られるような眠りを
……おやすみ――



●桜の夜に
 夕暮れと宵の狭間。
 相対する白鴉の羽が橙と藍が入り混じった不可思議な色に染められていた。
 布静は口布の下で口許を緩める。
 弧を描く花唇がひらき、不敵な声色が紡がれてゆく。
「そないに騒ぐと、その背に隠したいモンがある――って言うてるのと同じやぞ」
 なあ、“しろがらすさま”よ。
 嘗てはきっと神の使いだったモノ。神性を失ったらしき白鴉に呼び掛けた布静は双眸を鋭く細めて見せた。
 対する白鴉は鳴き声を返し、懸命に威嚇している。
「別に恐れんでええ、悲しまんでもええ。俺は隠したいモンを喰らう気はない」
 知り合いに、会いにきた。
 それだけなのだと告げても白鴉の姿勢は変わらない。御神籤を投げつけようとして翼をはためかせ、ちゅちゅんと鳴いている。
 布静は煙管を手に取り、横薙ぎに払った。投げられた御神籤の威力は弱く、振り払った一閃だけで弾かれて地面に落ちる。
 潮煙を吹かした布静は裡から零れ落ちる言の葉を紡いでゆく。
「でもな、ちとばっかし不安要素がある」
 敵対する影朧相手にこんなことを告げるのはほんの少しだけ、自分らしくない。いつもならば軽口に乗せてしまえるというのに。
 それでも胸に宿る思いを言葉にしたいと思った。相対する白鴉達が知り合い――かの人魚を護ろうとしているのが分かるゆえ、尚更だ。
「あんさんの御神籤で景気付けしてから、そこ通らせてもらおうか」
 すると白鴉達は思いきり千代紙に包まれた紙を投擲してくる。
 威力が脅威ではないとはいえ、当たれば痛みを被ることは確かだ。布静は青海波の割付文様で彩られた御神籤を片手で受け取り、その他は煙管で弾いていなした。
 手にした紙の中身を読むのは後。
 その結果がどうであれ、先に進まなければ何も始まらない。
 布静がふたたび煙管を振るえば、ゆらり、ゆらり、と煙が漂いはじめる。
 青煙の海を泳ぐ白鯨は大きな口をひらき、白鴉達を飲み込むかのように迫った。
 苦しみを与えぬように一瞬で。
「終わりにしようか」
 全てを飲み干すが如き煙が白鴉達を覆い、そして――地に落ちた小さなやさしいもの達は静かに骸の海に還っていった。
 煙管を下ろした布静が見据えるのは、参道の奥。
 朽ちた神社に匿われたままの人魚。疑心暗鬼に囚われた彼女に与えられた、神の慈悲。
 その優しさを無下には出来ないから。
 どうか、どうか。優しい“かみさま”に揺られるような眠りを。
「……おやすみ――」
 願うように落とした言の葉が宵の空気に混じってゆく中、布静は手にしていた青海波柄の千代紙をひらいた。そうして、其処に綴られていた御神籤の内容は――。

『凶後大吉』
 現在は凶の運気。苦しみを乗り越えられれば運が開き、いずれ大吉と成る。
 善しとして行う偽りも過ぎれば身を滅ぼす。己らしさを忘れることなかれ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
セト(f16751)と

確かに可愛いと頷く

そそ、セトの言うとーりだよ
っつーわけで、悪いケド通してネ

あ、でもちょい待って
こいつら絶対もふもふしてるよ
ほらほら、とセトを手招き

しろがらすさましろがらすさま
ねえ、ちょっとだけ触っていい?
いいだろ、いいよな(圧)
よし、これをやるから

そう言って取り出した
先程の列車で購入しておやつにとって置いたおまんじゅう

セト、ほら触ってみろよ
もふもふしてるぞ
(楽しげな彼に満足そうに笑い)

堪能しつつも絡繰ル指で複製した夏ハ夜で
仰いでしろがらすさまを誘導し一か所に集める

さぁて、ちゃんと戦いますか
残ったまんじゅうをしろがらすさまの群れに投げ込んで
セト、ほら今のうち!

俺?んーとねえ


セト・ボールドウィン
綾華(f01194)と

うっわ、可愛いー…!

隣の綾華に、こそり耳打ち
ね。ちょっと戦いづらくない?

でも、さ
はいそうですかーって帰るわけにはいかないんだ

え。なになに?
手招きする綾華に近寄ると、目の前には確保されたしろがらすさま
いいの?触って。怒らない?
わ、ふわふわだ。うわぁ、かーわいー!

…はっ。つい楽しくなっちゃった
気を引き締めるように両の頬を叩くと、弓に手を掛ける
よっし、いくよ!

千里眼射ち
とにかくたくさん居るから、数には数で対抗だ

綾華がしろがらすさまの気を引いてくれてるうちに
ぐっと集中。――うん、だいじょーぶ
そーら、とんでけ!

飛んできたおみくじ棒は額でキャッチ
えっと、どれどれ…
綾華のはどうだった?



●相半ばせず
 ――ちゅんちゅん。
 鳴き声を聞いただけならば雀か何かと聞き違えるほどの声はとてもとても愛らしい。なればこそ、つい感嘆の声をあげてしまうのも致し方なかった。
「うっわ、可愛いー……!」
「うわ、確かに可愛い」
 心からの思いを言葉にするセトに綾華も頷く。
 自分達の前に立ち塞がっているのものは影朧。通常であれば敵である存在だ。そんな彼らを見つめるセトは隣の綾華にこそりと耳打ちをする。
「ね。ちょっと戦いづらくない?」
「まーね。ちょっとじゃなくて、かなりかな」
 綾華も軽く眉を下げて肩を竦める。すると白鴉がその言葉を聞いていたらしく、ちゅちゅんと激しく鳴いた。どうやら帰って欲しいと言っているようだ。
 しかし、セトは首を横に振る。
「でも、さ。はいそうですかーって帰るわけにはいかないんだ」
「セトの言うとーりだ。そこ、悪いケド通してネ……っと、待って」
 違いないと答えた綾華はほんの少し考え込み、視線を巡らせた。そして敵意はないと示すように両手を上げて白鴉に近付いていく。
 きょとんとした白鴉。其処に手を伸ばす綾華。不思議と抵抗はなく、ふわりとした感触が綾華の手に伝わってきた。
「やっぱり、こいつら絶対もふもふしてると思った。ねえ、もうちょっとだけ触っていい? いいだろ、いいよな」
「ちゅ、ちゅん……」
 その声に白鴉は思わず首を縦に振る。綾華からの凄まじい圧に負けたからだ。
「よしよし、これをやるから」
 そう言って綾華が取り出したのは先程まで乗っていた汽車の車内販売で購入したおやつ。途中で停車した温泉郷の名物だという、うさぎまんじゅうだ。
 白鴉がぴゃっとそれを受け取る中、綾華はセトを手招く。
「ほらほら、セト」
「え。なになに?」
 綾華にセトがそっと近付く。その時にはもう、まんじゅうを頬張った一羽の白鴉が彼の腕の中に確保されていた。
「ちょっとなら触っていいってさ。もふもふしてるぞ」
「いいの? 怒らない?」
「……ちゅん」
 綾華が持ち上げた白鴉におずおずと手を伸ばすセト。白鴉は少し不服そうではあったが、まんじゅうを食べ終わるまでだぞ、と言いたげな視線を向けた。
「わ、ふわふわだ。うわぁ、かーわいー!」
 喜ぶ少年を見つめる綾華は満足そうに笑い、抱いていた白鴉を彼に渡す。
 嬉しそうにはしゃぐセトに白鴉を任せた彼は密かに夜色と金を宿す扇を複製し、ふわふわと周囲を仰いだ。なになに、と先程のセトのように興味津々で集まってくる白鴉。其処ではたとしたセトは周囲を見渡す。
「……はっ。つい楽しくなっちゃった」
「これくらい許されるって。さぁて、ちゃんと戦いますか」
 セトは気を引き締めるように両の頬を叩いて弓に手を掛ける。綾華も残ったうさぎまんじゅうを白鴉の群れに投げ込み、扇で風を巻き起こした。
「セト、ほら今のうち!」
「よっし、いくよ!」
 綾華の呼びかけに答えたセトはぐっと集中する。
 そして弦を引き絞り、天に向けて矢を解き放つ。白鴉の数は多い。ならば数には数で対抗すべきだと感じた彼は、空から雨を降り注がせるが如く数多の矢を放っていった。
 しかし、白鴉達も異変を察して動き出す。
 避けようと動いたもの。御神籤を投げつけてくるもの。様々な動きをする影朧達。その中には矢を避けてしまう白鴉もいた。
 だが、その矢を当てるのは綾華の役目。扇で霊力を込めた風で矢を更に舞い飛ばし、白鴉へと飛来させていく。
「悪いネ。ここはお前らがいる場所じゃないんだって」
「そーら、とんでけ!」
 それぞれの力を揮う彼らは影朧たる白鴉を真の意味で救う為に戦っている。たとえ転生が叶わずとも、この場に留まり続けるよりは骸の海に還った方が良い。
 本当は心優しいはずのもの達が人を傷つける未来だけは訪れさせてはいけない。
 そうして、二人の思いは確かな力となって巡る。

 暫し後――綾華とセトに倒された白鴉達は皆地に落ち、静かに消えていった。
 あとに残されていたのは千代紙に包まれている御神籤。
 セトは麻葉文様の緑の紙を、綾華は黒金で彩られた紗綾形柄の紙をそれぞれに拾いあげる。きっとこれは白鴉達のささやかな置き土産だ。
 早速あけてみよう、と告げたセトに同意を示し、綾華も御神籤をひらいていく。
「えっと、どれどれ……綾華のはどうだった?」
「俺? んーとねえ」
 そして、二人は互いの結果を見せあった。
 
 綾華の方は『大吉』
 とても良い運気。このまま日々を過ごすべし。
 人を識りたければ先ず己を識れば善い。氷の結晶が幸福を呼び込む。
 
 セトが示されたのは『吉凶相央』の相。
 きちきょうあいなかばず。良くもなく、悪くもない。どちらに転ぶかは己次第。
 自分らしさを忘れずにいれば吉と成る。福を招くのは白猫。煮干しを与えると佳い。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

千桜・エリシャ
【桜鏡】

列車でのことなど忘れたようにはしゃいで
まあ!可愛らしい!
でも邪魔をするなら容赦はしませんわ
私達はこの先に用があるのですから

あら、御神籤ですの?
鴉は御神籤を飛ばせるものですのね
ということはクロウさんもできますの?
なんて冗談
確かにあの景色は大吉並でしたわ
(あなたの気遣いも)
御神籤を掬い取って
どんな結果かしら
クロウさんのも気になりますわ

でも御神籤は一つで充分ですの
不要な物は見切りで斬って捨て
数が多いなら花時雨を開いてオーラ防御
でも切りがない
首もないですし…蕩かして一掃しましょう
見つめて恋に落としたなら桜花弁に変え
恋色の桜吹雪の中で舞うようにくるり
振り返って

ふふ、クロウさん
置いて行きますわよ?


杜鬼・クロウ
【桜鏡】⛩

紫苑よりも焼き付いて離れず
桜鬼の艶笑拭う
白鴉見つめ

通せんぼしてるみてェだなァ
つまり目的地は其処に在る
罷り通るぜ(玄夜叉を背から抜く

ハ、俺?
出すとしたらお前の今日の運勢は当然大吉だ
この俺が約束果たしてヤったンだからよ!
最高の景色見せてやったろ(代わりに俺はお前から片鱗を摘んだが

白に黒外套が映え
銀ピアス代償に【無彩録の奔流】使用
玄夜叉に魔風宿し敵薙ぎ倒す

御御籤はこれか?何々(羅刹女の結果も気になる
確かに結果は一つで十分
大人しくおねんねしてな

雑霊と共に一回転して敵屠る
幻櫻と彼女の桜が神聖な神社で蕩け合い絶景
思わず羅刹女に見惚れるも一閃
花弁ごと敵斬る

(…っ俺に”仕向けて”ンじゃねェよ
後を追う



●桜の微笑、鴉の独白
 過去を晒して語り、暴き識る。
 そんな列車での一幕のことなど忘れたようにエリシャははしゃいでいた。
「まあ! 可愛らしい!」
 その視線の先にあるのは真っ白で丸い鴉達。
 エリシャの傍らにはクロウが立っている。紫苑の花よりも焼き付いて離れぬ桜鬼の艶めいた笑を拭う、愛らしいもの。そんな白鴉を見据えたクロウは薄く笑む。
「通せんぼしてるみてェだなァ」
 何もないと主張するように両翼を広げる白鴉。その仕草は逆に奥に人魚がいるのだと示すことにしかならない。
「邪魔をするなら容赦はしませんわ。私達はこの先に用があるのですから」
「そういうこった。罷り通るぜ」
 気を引き締めたエリシャが凛と告げれば、クロウが玄夜叉を背から抜き放つ。黒魔剣から発せられる魔力が周囲の空気を揺らがせる中で、エリシャの纏う常夜桜がはらりと蠱惑的に舞った。
 対する白鴉は御神籤を発射することで、かえってよ、と主張してくる。
「あら、御神籤ですの?」
 エリシャは身を逸らすことで一撃目を避け、二撃目以降は墨染の刃で以て弾き返した。そして、ふと感じた思いを言葉にする。
「鴉は御神籤を飛ばせるものですのね。ということはクロウさんもできますの?」
「ハ、俺?」
 急に話を振られたクロウは思わず眼を見開く。
 すぐに冗談だと分かり、口許を薄く緩めたクロウは同じく戯れ交りの言葉を返した。
「出すとしたらお前の今日の運勢は当然、大吉に決まってる。この俺が約束果たしてヤったンだからよ! 最高の景色見せてやったろ」
 その代わりに片鱗を摘んだが、という思いは言葉にせず、クロウは不敵な表情を浮かべる。エリシャは双眸を緩め、ふふ、と静かに微笑む。
「確かにあの景色は大吉並でしたわ」
 ――あなたの気遣いも。
 互いに思いを秘めたまま、二人は飛び交う御神籤に対抗していく。
 クロウは黒外套を靡かせて立ち回り、エリシャは桜を舞わせながら刃を振るう。銀のピアスを代償にして魔風を宿したクロウの玄夜叉が敵を薙ぎ倒し、花を咲かせるように薙ぎ払われるエリシャの大太刀がその止めを刺す。
 絶えず投擲される御神籤のひとつをその手で受け止めるエリシャ。同様にクロウも威力を失った御神籤を手に取る。
 エリシャは七宝繋ぎ。クロウは毘沙門亀甲。
 それぞれ違う割付文様柄の千代紙に包まれた籤の中身は興味深い。
「御御籤はこれか?」
「どんな結果かしら。後で確かめてみましょうか」
「だな、今は取り敢えず――コイツ等を還さねェと」
 幾重にも放たれる籤を払い、薙ぎ、二人は白鴉を屠ってゆく。御神籤はエリシャが、白鴉が呼び出す雑霊はクロウが受け持ち、戦いは上手く巡っていった。
「御神籤は一つで充分ですの」
 花時雨をひらいたエリシャが防御と同時に籤を散らす。幻櫻と彼女の桜が神聖な神社で蕩けあう様は絶景だ。その光景を瞳に映すクロウは暫し見惚れていた。されど戦いの隙は見せず、振るった一閃によって花ごと敵を散らす。
「確かに結果は一つで十分。大人しくおねんねしてな」
「でも切り甲斐がないですわ。首もないですし……蕩かして一掃しましょう」
 そして、エリシャが放つのは魅了の呪詛。
 標的を虜にするように恋に落とした彼女は相手を桜花弁へと変え、周囲の白鴉を消し去っていく。
 攻防が巡り、やがて戦いは終わりを迎えた。
 得物を仕舞ったエリシャは、戦いの名残として散りゆく恋色の桜吹雪の中で舞うようにくるりと振り返る。
「ふふ、クロウさん。置いて行きますわよ?」
「……っ」
(――俺に“仕向けて”ンじゃねェよ)
 薄く微笑む彼女の艶笑があまりにも美しく、思わず言葉に詰まったクロウ。その後を追った彼は手にした御神籤を徐にひらいてみる。
 そうして、二人が得た結果は――。

 エリシャの籤には『吉凶相央』と記されていた。
 きちきょうあいなかばず。良くもなければ、悪くもない運気。
 進む方向が今後の行く末を決める。纏うに佳き色は漆黒。幸運を運ぶのは組紐。

 対するクロウは『吉凶未分末大吉』
 よしあしいまだわからず。今は判断できぬ状況。いずれは大吉と成る可能性有り。
 花に見惚れれば後は堕ちていくのみ。己を過信しすぎず進め。福を呼ぶ物は紅茶。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

可惜夜・藤次郎

【藤溟海】

おやおや、これは愛らしい
果たして神使ではない烏からの神籤の告げるは何の言葉か
気にはなるが、すまないなァ
こちらはこちらで、人の道歩くに邪魔ならば、
ちょいと退いてもらわねェといかん

鳥相手ならば鳥でも呼ぶかな
おいで、お小夜
小夜梟は我が友のひとつ
白烏に対する夜の梟かな
夕空を遊ぶ泡沫も、逢う魔が時の幻想奇譚かのようだ
さて、綴るならば作家先生の取材は如何か
囀る声を俺は解すが、ひとり胸の内にしまって
好奇の獣と銀の泡、夜の帳を下ろしに共作といこうか
大丈夫、きっと悪いことにはならんさ

うん?おお、籤が引っ付いてたか?
どれどれと覗けば笑み浮かべ
ふたりと一緒に見ようかね
良きも悪きも、自分の糧になるもんさ


イア・エエングラ
⛩【藤溟海】
おや、ま、ほんと、可愛らし
ひょいと後ろから顔出して
覗けば賑やかに囀る白い烏

当たるかしら当たらぬかしら
僕の行く先も、示せるかしら

翼の過るを見送って僕の呼ぶのは銀の泡
瀲靜でもって舞う羽毛を鎮めましょうな
水面に黄昏映したならば
天地も知れぬ淡いを鳥たちがゆくでしょう
あら、あら、せんせい、あの子らとお話できて?
とーじろさんは内緒だなんてずるいよう、けれど
ともに紡ぐお話ならばきっと夢中で飽きないねえ
白黒ゆくのに獣が駆ける、やあ、絵本の挿絵の様
頁を繰ったら先へと、行きましょう

下りる帳に括る言葉は
吉と出るか凶と出るか
ね、なんと書いてあるかしら
どちらとて心躍るなら楽しいのだと
覗くのは掌の内


ライラック・エアルオウルズ

【藤溟海】
次いで、前覘けば綻び頷き
飾りも付けて洒落た子だ
その上、何やら、饒舌だ
神籤とやらも興味はあれど、
僕の先より目の先の好奇としよう

往く梟に上る泡、
追って開くは白紙の頁で
喚び出すのは、好奇の化身
『貴方は何処から来たんだい?』
『どうして人魚を庇うんだい?』
好奇の侭に、問い問い、問え、ど
囀る答えは解せず満ちず、
いや全く――と眉を下げ
訳を請うかと梟見遣る間に
駆ける好奇の獣は爪を立て、
揺らぐ黄昏に色をひとつ足す

共作とはまた、心が踊るねえ
ハッピーエンドに至れるならば、
心置きなく先往こう

ン、ふふ。本当だ
偶然に頂けるとは正に僥倖、
であれど結果までは解らないか
さて下がるは、眉か眦か
何方であっても、楽しみに



●暮宵の共作活劇
 参道の奥、拝殿横から続く細い道。
 この向こうには何もないのだと主張する白鴉達は可愛らしい声で鳴いていた。
「おやおや、これは愛らしい」
「おや、ま、ほんと、可愛らし」
 藤次郎が彼らへの感想を口にすると、その後ろからひょいと顔を出したイアが瞳を瞬かせる。賑やかに囀る白い鴉達は見た目がまんまるだ。ライラックが次いで前を覘けば、その口許に笑みが綻び咲く。
「飾りも付けて洒落た子だ。その上、何やら妙に饒舌だね」
 囀る言葉は分からずとも、白鴉達の意志はたしかに伝わってきた。
 彼らは人魚を守りたいと願っている。それが今、こうした行動として起こされていることは聞かずとも分かった。
 白鴉達は藤次郎やイアをキッと睨み付け、ライラックに向けて両翼をばたばたと振る。
 そして問答無用で御神籤を発射してきた。
 その動きは容易に読め、藤次郎は身を軽く逸すことで一閃を避ける。千代紙に包まれた御神籤。果たして、もう神の御使いではない烏からの神籤が告げるは何の言葉か。
「気にはなるが、すまないなァ」
 自分達は此処を通らねばならぬのだと告げた藤次郎。彼の言葉に頷き、ライラックも静かに身構えた。
「神籤とやらも興味はあれど、僕の先より目の先の好奇としようか」
「当たるかしら当たらぬかしら。僕の行く先も、示せるかしら」
 ねえ、と地に落ちた御神籤を見遣ったイアは淡く笑む。その中身も気にはなれど、今は目の前の白鴉のおいたを止めるべきとき。
 対する藤次郎は、鳥相手ならば鳥でも呼ぼうか、と片手を軽く掲げる。
「おいで、お小夜」
 その名を喚べば夜の彩を宿す小夜梟が彼の傍に現れた。白き鴉に相対する夜の梟は翼をひろげ、夕闇を覆うように飛ぶ。
 その翼が過ぎゆく姿を見送ったイアは続けて銀の泡を呼んだ。その目的は白鴉から解き放たれた微睡みの羽毛を包み込む為。
「さあ、その力を鎮めましょうな」
 泡沫の瀲靜は舞う羽のいざないを閉じ込め、眠りの力を弾いていく。
 往く梟に上る泡。
 ライラックは巡りゆく二人の力に双眸を細めてから、メモ帳を片手で掲げる。ひらくのは白紙の頁。其処から喚び出す好奇の化身は次々と質問を投げかけていった。
『貴方は何処から来たんだい?』
『どうして人魚を庇うんだい?』
 好奇の侭に問いを重ね、白鴉に問答を求める。されど囀る答えは解せず、好奇の心が満ちるはずもない。宛ら物語に登場する理不尽な女王のように――。
 怪物は九生をも喰らい尽くす牙で以て白鴉を穿つ。
 其処へ、藤次郎の小夜梟が鋭く飛翔した。
 ――神社のお社から。
 ――あのこが、かわいそうだから。
 藤次郎はそのように白鴉達が囀る声を解していた。しかしその意志は伝えぬまま胸の内にしまい込む。
 イアは水の波紋を広げ、水面に黄昏の彩が映る様を見下ろした。
 水鏡には雄々しく翼を広げる梟と、牙を振るう獣の姿が映っている。あらあら、と口許に手を当てたイアはまるでこれが冒険活劇のようだと感じた。
 夕空を遊ぶ泡沫。
 好奇の獣と銀の煌めき、そして夜の梟。夕闇に宵の帳を下ろすそれらはまるで、三人で紡ぐ共作であるかのよう。
 そう――逢う魔が時の幻想奇譚だ。
 梟は舞い、獣は爪を立て、揺らぐ黄昏に更なる色をひとつ足していった。
「共作とはまた、心が踊るね」
「ともに紡ぐお話ならばきっと夢中で飽きないねえ」
 白黒ゆくのに獣が駆ける様は絵本の挿絵のよう。それならばこの戦いという頁を繰ったら、先へと行けるのだろう。
 ライラックは白鴉を見据え、イアも彼らに終わりを齎すために力を紡ぎ続ける。
「大丈夫、きっと悪いことにはならんさ」
 藤次郎は白鴉達にそのように告げ、身を委ねれば良いと伝えていく。
 この場にいる誰も、彼らを不当に虐げようとはしていない。此処に白鴉が宿り続ければ不幸を呼んでしまうことを知っているからだ。
 人魚が独り、孤高の池に沈む。その先に続くのは唯のバッドエンドだ。ならば――。
「ハッピーエンドに至れるなら、心置きなく先に往こう」
 ライラックは二人に呼びかけ、指先を白鴉に向けた。悲しき事を生み出さぬ為、イアと藤次郎も夜色の一閃と銀泡で終幕を飾るべく、神の御使いだったものを見つめた。
 そして、戦いは巡り――。
 騒がしかった鳴き声は収まり、白鴉達は地に伏す。それらが骸の海に還っていく様を見守った三人はちいさな物語の終わりを感じていた。
 静けさが満ちる中、イアはふと藤次郎の背にくっついた紙を指差す。どうやらそれは投擲されていた御神籤のようだ。
「とーじろさん、とーじろさん。可愛らしい彩が、そこにあるよう」
「うん? おお、籤が引っ付いてたか?」
「ン、ふふ。本当だ。偶然に頂けるとは正に僥倖」
 振り向いた藤次郎が手にとった籤は丁度三つ。偶然にも自分達の分が残っていたのだと思うと不思議だったが、ライラックは嬉しくも感じていた。
 下りる帳に括る言葉は吉と出るか凶と出るか。
 御神籤を受け取ったイアは、手の中にある鹿の子絞り柄の紙を見下ろす。
「ね、開けてみましょ」
「さてさて下がるは、眉か眦か」
「どれどれ」
 ライラックには紗綾形、藤次郎は菊菱柄の割付文様の紙が渡っていた。
 覗き込む掌の内。良きも悪きもきっと己の糧になる。そのように感じた彼らは共に、其々の御神籤をひらいていった。

 菊菱の御神籤は『吉凶不分末吉』
 きちきょうわかたず。吉か凶かは己で決めるべし。いずれは吉と成す。
 努めて過ごせば幸来たる。幸運を呼ぶものは機械仕掛けの自鳴琴。
 
 鹿の子絞り柄の内に記されているのは『吉凶相半』
 きちきょうあいまじわり。良し悪しの交わりの時。いずれは吉に変移する。
 識るべきは己と他の境界線。福を成す品は自分で見つけた小石。

 紗綾形の紙には『吉凶相央』
 きちきょうあいなかばず。良くもなく、悪くもない。どちらに転ぶかは己次第
 綴る言葉に嘘を交えるのは注意されたし。転機を齎すのはひとりの少女。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
噂の桜の精(f22865)てェのに声掛けられて
墨絵か月代か、何を珍しがるか定かでねェが、俺もこの国を知るにゃエエ機会
この国ァお前ェさんらがいねぇと成り立たねぇと聞く
よっく噺をきかしちもらおう

道中ちいと楽観すぎた気があるが、まァ相手もこれだ
鴉に非ずは見た目もだろうよ
数は纏めて片ぁつける
ひと振りで描く大波に、雑霊ごと流れちっめェ

騒々しさが消えりゃ、深閑として
愈々怪談じみてきた、が
端から役目を背負う雲の字の姿に、当然だと思ってたモンがひっくり返ぇる思いがした
そうか
人魚は、救えるんだったな

ア、御籤?そういやぶつかって…
あゝホレ、これだ
善けりゃ機嫌よく見せて
悪けりゃくれちやる
マ、精々やるとするヨ




雨野・雲珠
菱川さん/f12195
汽車の中でお声かけしました、あんまり絵がお上手で。
俺からすると、影朧や桜の精のいない世界のほうが不思議ですが…
などと説明しながら、境内まで。

去ってしまわれた神様の御使いではなく
人魚を守ろうとしていると知って、
【大多恵主】を召喚します。
問いは…「…俺たちを通してくれませんか?」
否定を前提に、無理を通すことを許してください。
――主様、清めてさしあげてください。

静かになった境内に深々と一礼します。
守護者としてのお役目のまっとう、御見事でした。
人魚さんもお慰めするとお約束します。

菱川さん菱川さん、
おみくじですよ。どうでした?

願い事の項目はどうでしょうか。結果がどうあれ精進します。



●花浪の彩
 汽車で出会った縁。
 その偶然のよすがは今、廃神社の中で重なり紡がれてゆく。
 彌三八は隣を歩く雲珠を見遣り、成程な、と頷く。墨絵か月代か、彼が何を珍しがるか定かではないが自分もこの国を知る良い機会だ。
「この国ァお前ェさんらがいねぇと成り立たねぇと聞く。よっく噺をきかしち貰おうかね」
「俺からすると、影朧や桜の精のいない世界のほうが不思議ですが……」
 互いに知らぬ文化と境遇を持つ者。
 彌三八は雲珠の持つ桜の精の力について聞きたがり、雲珠も転生の輪廻を知らぬ彌三八の感覚を知りたいと願っていた。
 そして、二人は境内の奥――白鴉達が立ち塞がる場まで辿り着いた。
「へぇ、こいつァ面白い」
「何だか可愛らしいですね」
 彌三八は先に行かせまいとする丸い鳥を見遣り、雲珠も感心しながら相手を見つめる。
 この向こうには何もない。
 鳥達はそう言っているようだが、奥に何かが隠されていることは明白だ。
 道中は楽観すぎた気もしていたが相手がこれならば押し通ることも出来よう。鴉に非ずはきっと見た目もそうだ。
「さァて、やっちまおうか」
「……はい。心苦しくはありますが、邪魔をするのなら仕方ありません」
 彌三八の呼びかけに雲珠が頷き、二人は其々に身構えた。
 敵たる白鴉が動く前に筆を掲げた彌三八が宙に線を描く。波濤の力となった一閃は大浪へと変わり、標的を押し流すように広がっていった。
「数は纏めて片ぁつけるぜ。大波で、雑霊ごと流れちっめェ」
 白鴉が人魂めいた形をした霊を呼ぶが、彌三八は其方にも波の一線を描いてゆく。
 対する白鴉達も御神籤を発射することで、帰って、としきりに主張していた。それを見切って避けた雲珠は態勢を立て直しつつ、白鴉達に問う。
「……俺たちを通してくれませんか?」
 彼らは去ってしまった神の御使いではなく、ただ人魚を守ろうとしている。それを知ったとき、こう問いかければ良いと感じたのだ。
「ちゅん!」
 白鴉から可愛らしい声が返ってきた。
 無論、答えは否だ。
 否定が返ってくることを前提に無理を通す。そのことに心の裡で許しを乞いながら、雲珠は背負った箱宮から角に花咲く神鹿、大多恵主を召喚した。
「――主様、清めてさしあげてください」
 雲珠が願うと同時に神鹿が駆ける。
 其処に併せて彌三八が波濤を描けば、波が大多恵主の後押しとなるように弾けた。
 絢爛たる蹄が標的を穿ち、落ちた白鴉は大浪が浚っていく。そうして、花と浪は溶けあうようにして広がり、いつしか周囲に響いていた鳴き声が止む。
 騒々しさは消え、深閑が辺りに満ちる。
 戦いが終わった場は寒々しい冬色の空気に包まれていった。
「愈々怪談じみてきた、が」
 彌三八がどうしたものかと煙管を取り出す中、雲珠は静かになった境内に深々と一礼をした。彼は恭しく敬意を示すように静かに口をひらいた。
「守護者としてのお役目のまっとう、御見事でした。人魚さんもお慰めするとお約束します。ですから――」
 ごゆっくり、御休みください。
 少年の姿をした彼から紡がれた言葉に軽く目を見開き、彌三八は改めて気が付く。端から役目を背負う彼の姿に、当然だと思っていたことがひっくり返る思いがした。
「そうか。人魚は、救えるんだったな」
「はい。約束は果たします」
 この手で、と掌を広げて見下ろした雲珠。すると其処へ彌三八が腕を伸ばし、鮮やかな色をした紙を乗せた。
「ホレ、御籤だ。戦いの最中にぶつかってきたのサ」
 雲の字にもやるよ、と告げた彼はちゃっかりと自分用に取っておいた御神籤を見せる。彌三八の持つ紙は紫の菱柄。雲珠が渡されたものは白と朱の市松模様の千代紙に包まれていた。
「ありがとうございます、菱川さん」
 さっそく開けてみましょう、と微笑んだ雲珠。そんな彼に頷いた彌三八も記されていることへ期待を寄せながら、ゆっくりと紙をひらいていった。
 
 雲珠が持つ市松柄の御籤は『大吉』
 とても良い運気。願いを求むるならばこのまま過ごすべし。
 懐かしきものを慈しめば更なる運気がひらける。二藍の色が佳きものを呼び込む。
 
 彌三八が開いた菱柄の内には『大大吉』と記されていた。
 最高の運気に恵まれる。然しなればこそ油断は禁物。
 新たに繋がる縁を離さぬよう努めれば善い。樅の樹と金魚が幸運を招く。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

五条・巴

列車の次は神社へお出かけ。
目的地に向かってるのは分かるけれど、まだ観光気分が抜けないね。
いい景色だ。

わ、すごい数の、鴉?
かわいいね、白くてふわふわ…。
倒さなきゃ行けないのかあ、厳しい戦いだなあ。

知ってた?おみくじって大吉が出るまで引き続けていいんだって。
今年最後のおみくじになるかもしれないから大吉沢山貰って帰ろうかな。
人魚を見たあとに、ね。

雑霊もおみくじ棒も、僕も数では負けないよ
"薄雪の星"

風を纏わせ飛んでくる攻撃の軌道を逸らす、撃ち落とす。

ふふ、いい結果のおみくじだけ通してきてね?



●大吉印
 汽車の旅に別れを告げれば、次は夕闇の廃神社へ。
 ふあ、と軽く欠伸をした巴は心地好く揺られていた列車を思い出す。楽しかったな、と考えながら夕暮れの参道を歩いているうちに眠気は覚め、巴は幾度か瞼を瞬く。
 目的地に向かっているのは分かるけれど、まだ少しばかり観光気分が抜けない。
 何故なら、寂れた神社の雰囲気もまた風情のある景色だからだ。
「いい景色だ。……わ、何?」
 緩やかに歩を進める中、ちゅんちゅんという鳥の声が耳に届いた。
 声がする方向に目を向けてみるとたくさんの白くて丸い鳥が通せんぼをしている。
「すごい数の、鴉?」
 別の小鳥にも見えるが何とかそれを鴉だと断定した巴は、口許が自然に緩んでいくことを感じていた。
「ちゅちゅん!」
「かわいいね、白くてふわふわ……」
 両翼をぱたぱたと動かす白鴉達はどうやら、ここから帰って、と言っているようだ。しかしその願いを聞き届けるわけにはいかない。
 巴の目的はこの奥にある。
「つまり、通るには倒さなきゃ行けないのかあ、厳しい戦いだなあ」
 もしかすれば圧倒的な力を持つ相手よりも手強いかもしれない。困ったな、と眉を下げた巴だったが、此処まで来て引く気はない。
 対する白鴉はこれを引いて帰れと主張する形で御神籤を投げ付けてくる。地を蹴り、身を翻し、投擲される籤を避けた巴は軽く片目を閉じてみせた。
「知ってた? おみくじって大吉が出るまで引き続けていいんだって。今年最後のおみくじになるかもしれないから大吉沢山貰って帰ろうかな」
 即ち、この御神籤は全部自分の物にして良い。
 なんてねと冗談めかしてくすりと笑んだ巴は、人魚を見たあとに、と続けた。
 敵の動きを見切った巴は銃口を白鴉達に向ける。
 其処から解き放たれていったのは風の一閃。白鴉達から投げられる数々の御神籤を風弾で撃ち落とし、時にはその軌道を逸らして対抗する。
 合間に白鴉そのものにも風を撃ち込み、巴は華麗に立ち回った。
「ふふ、いい結果のおみくじだけ通してきてね?」
 その中で威力を失い、くるくると宙を舞った御神籤を片手で受け止める。巴はこれが自分の運勢になるのかと感じながら銃弾を放っていった。
 それから戦いは巡り、猟兵達の働きによって白鴉は次々と地に伏していく。
 静かに骸の海に還っていく彼らを見送った後、巴は御神籤をひらいた。先程の言葉通り、大吉が出るまで引き続けるつもりではあるけれど、先ずは最初の内容を確かめるところから。
 そして、巴は記されている運勢に目を通してゆく。

『小凶後吉』
 多少の困難あり。いずれは吉となる運気。
 乗り越えた先で出会うものが一生の物と成る。運を呼び込むものは宝石箱。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
WIZ⛩
彼らもまた導くべき哀れな魂…と言いましても。
使徒として導かねばならない、と言いましても。
とてもとても可愛らしいのです、愛でてからでも…
…いえ、私は楽園の使徒。責は果たさねばなりません。

貴方がたと幸せな夢を見れるのはとても魅力的ですが。
それは我らの役目を果たすには少々。
ですので、まずはその力を封じましょう。
天使を呼び、皆様へ加護を与えてから封じるのです。
案ずることはないのです。
貴方がたも、人魚の方も、皆楽園にて幸福を約束されるのですから。
ですから、まず夢を見るべきは貴方がたなのでしょう。

…あぁ、ですが。
一羽くらいなら、愛でてもいいのかもしれません。
やることは変わらないのですけれど、ね。



●救いの路は
 行く手を阻む影朧。
 彼らもまた導くべき哀れな魂。ならば使徒として導かねばならない。
 けれど――。
「そう言いましても、とてもとても可愛らしいのです。少し愛でてからでも……」
 ナターシャは無意識に一歩を踏み出す。
 ちゅん。
 そんな声で鳴く白鴉は可愛いとしか言いようがない。揺らぎそうになっていた自分の心に気付いたナターシャは己を律する。
「……いえ、私は楽園の使徒。責は果たさねばなりません」
 彼らの主張は出来るならば聞き届けてやりたい。
 白鴉が神社の奥に潜む人魚を守りたいと願っていることもよくわかる。その心根が悪ではないことだって十分に理解している。
 それでも、道を阻む白鴉達の言う通りに帰るわけにはいかない。
 白鴉は御神籤を発射したり、ふわふわとした心地をいざなう羽毛を舞わせてきた。
 気を許せば微睡みに落ちてしまうような強い魔力が羽の周囲に満ちている。ナターシャは聖祓鎌の柄を強く握り、眠気に耐えた。
「貴方がたと幸せな夢を見れるのはとても魅力的ですが。それでは我らの役目を果たすには少々、問題があります」
 ですので、と鎌を静かに掲げたナターシャは詠唱を紡ぎ始める。
 楽園の祝福――サモン・グレイス。
 まずはその力を封じることが進むための一歩になる。守護結界を巡らせ、天使を呼んだナターシャは周囲に加護を与えてゆく。
 微睡みの羽は力を削がれ、ふわりと地面に落ちていった。
 別の白鴉から御神籤が投擲されてきたが、ナターシャは慌てることなく聖祓鎌の刃でそれを受け止める。
 威力を失った御神籤を手に取ったナターシャは穏やかな笑みを白鴉達に向ける。
「案ずることはないのです。貴方がたも、人魚の方も、皆楽園にて幸福を約束されます。ですから、まず夢を見るべきは貴方がたなのでしょう」
 その言葉と共に、闇を祓う光が夕闇に広がった。
 ナターシャの、そして他の猟兵達の力によって白鴉は動きを封じられ、次々と地に落ちていく。骸の海に還っていく彼らを見送りながら、ナターシャはそれらに救済が巡ることを願った。
 しかし、ふとナターシャは顔をあげる。
「……あぁ、ですが。一羽くらいなら、愛でても良かったのかもしれません」
 ふんわりとしたあの羽毛を撫でても罰は当たらなかっただろう。それでも最終的にはやることは変わらなかったけれど――。
 消え去った白鴉を思いながら、ナターシャは受け取った御神籤をそっとひらいた。

『吉』
 何事も普通に良い。努めて過ごすべし。
 目的の為の手段を見失うべからず。身につけると佳き彩は桜色。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧


白鴉達は優しいな…
人魚を守るのもそうだが
人間も守る事になる
…崇める者が居なくなった成れの果て、と
転生が叶わない事も…寂しいが

少しでも話せれば
人魚を不幸にしたい訳じゃないと
君達が此処を通す訳にはいかなくても
人魚を守ってくれていて、ありがとう

お疲れ様とか、ありがとうとか、凄いな、偉いなとか…
そんな色々を込めて撫でたら駄目だろうか
訊いてから撫でよう

僕は子守唄と共に永遠揺篭
デバイスを解放して歌唱
…優しい子達だし、あまり傷付けたくはない

ふわふわの羽毛には精霊の風を纏い
僕を中心にして外へと流れる風を

彼らへ祈る
長い間お疲れ様…ゆっくり休んで、心身が癒えますように
神性など関係無く、自由に生きられますように…



●いつか輪廻の果てへ
 懸命な鳴き声が廃神社の境内に響く。
 その声に耳を傾ける瑠碧には、彼らが言わんとすることが解る。
「白鴉達は優しいな……」
 純白の翼を広げて通せんぼをする鴉達。
 人魚を守ることが第一ではあるが、彼らは此処に近付く者を追い返そうとしているだけだ。その証拠に、当たっても痛くはない御神籤を投げ付けてきている。
 つまり、彼らは何も知らずに此処に踏み入る人間も守っていることになる。
「……君達は、崇める者が居なくなった成れの果て、か」
 人に崇められずとも、白鴉達はやさしい心を持ち続けているように思えた。瑠碧はそんな彼らと戦うことに心苦しさを感じる。
 ちいさな影朧である白鴉達の転生が叶わないこと。
 そして、帰って欲しいと願われる思いを聞いてやれないこと。
 どちらも寂しい。それでも、と瑠碧は身構えた。影朧である以上、このままこんな寂しい場所に留まらせてはいけない。
 万が一、間違いが起こって白鴉達が人を殺めることがあれば――。
「そんな未来は、誰も望んでいないから」
 瑠碧はそっと両手を重ね、祈るように歌いはじめる。
 同時に解放される風精霊の力。輪舞の名を抱くブローチは彼女の声を遠く、この境内にいるすべての白鴉に届けるべく広げていく。
 ――我は願う、痛みも苦しみも無く、ただ深い眠りへ到れる事を。
 人魚を不幸にしたいわけではない。白鴉達が此処を通さないと一生懸命になる思いと、猟兵達が抱く思いは同じ方を向いている。
 だから傷つけたくはないのだと伝えるように、子守唄に乗せた思いが巡った。
 瑠碧の声に導かれた姿無き眠りの精霊は、白鴉が回せる羽の力をも上回る魔力で以て眠りの粉を戦場に広げてゆく。
「人魚を守ってくれていて、ありがとう」
 白鴉が次々と地に落ちてゆく中、瑠碧が告げるのは感謝の言葉。
 ふわり、と白鴉が瑠碧の足元に倒れた。
 瑠碧はその子をやさしく抱き上げ、お疲れ様、とやさしく伝えた。
「凄いな、偉いな。だからもう、おやすみ――」
 たくさんの思いを込めて白鴉を撫でれば、あのこをたすけてあげて、という幽かな声が聞こえた気がした。あの子とは即ち、人魚のことだろう。
 消えてゆくふわふわの羽毛。其処に精霊の力を纏わせた瑠碧は外へと流れる風をそっと起こしていった。そして、瑠碧は祈る。
「長い間お疲れ様……ゆっくり休んで、心身が癒えますように」
 どうか、神性など関係無く自由に生きられますように。
 願う瑠碧の掌の中には、白鴉が遺していった御神籤の紙が握られていた。

『末大吉』
 大吉には未だ遠し。されどいずれ幸と成す。
 慈しむ心を持ち続けよ。君はそのままで在れば良い。幸運を呼ぶ物は水晶の飾り。
 
 
●神社の奥へ
 白鴉はすべて地に伏し、静かに消えていく。
 影朧達は人魚を護ろうとしていた。その意志は猟兵達が抱く感情とよく似ていた。そう解ったからこそ、人魚が待つ池へと参じなければならない。
 猟兵達は白鴉が阻んでいた参道の先に目を向けた。
 寂れた拝殿の更に奥。
 其処から続く細い道を抜けた先に大きな幻朧桜の樹が見えた。その奥こそ人魚が棲まうとされた池なのだろう。
 そして、其々に覚悟を抱いた仲間達は歩を進めていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『桜夜』

POW   :    こぼれ桜
【桜の花吹雪 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
SPD   :    濡れ桜
全身を【水塊 】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ   :    花筏
【両掌 】から【桜混じりの水塊】を放ち、【頭部を覆った窒息】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は薬袋・布静です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●哀しみの人魚
 夕暮れの彩は滲んで消え、夜の帳が下りた。
 冬の冷たさを孕んだ風が静かに吹き抜け、廃神社の裏庭に咲いた幻朧桜の花弁がはらはらと散る。
 風に揺らめく桜に導かれるように先に進めば、夜空を映した水面が見えた。
 苔むした岩に囲まれた池。
 浮かんでいるのは蓮の葉。
 不意に水の音が響く。それと同時に池に波紋が広がり、其処に人影が現れた。

「……誰だ?」
 その声の主である影――夜空を思わせる深い藍色の鱗を持つ人魚が問いかけてくる。尾鰭を緩やかに翻した人魚は宙を游ぎ、琥珀色の瞳に猟兵達を映す。
 人の子か、と口にした彼女は好意的な微笑みを浮かべた。
 だが、すぐに何かを思い直した様子で首を振る。その動きによって桜と夜の彩を折り重ねたような色を宿す耳鰭が印象的に揺れた。
「我に近付くな、人の子よ」
 次いで紡がれたのは明らかな拒絶の意志。
 彼女の周囲に漂っている泡沫は浮かんでは消え、散る桜花を映し込んでいた。
「もう人の子は信じない。どうせ、我を喰らいにきたのだろう」
 帰ってくれ、そうすれば何もしない。
 そう告げるように人魚は猟兵達を見つめる。しかし、此方が動かぬことを察した彼女は哀しげに両の瞼を閉じた。
 そして、ゆっくりと双眸をひらいた人魚はぼんやりと語る。
 
 ――もう、忘れてしまった。
 最初にやさしい言葉を掛けてくれたのは誰だったか。
 我に『桜夜』という美しい名を与えてくれたのは、誰であったのか。
 人の子は皆、我を大切にしてくれた。皆、とても愛おしく思えた。
 しかしいつからだろう。その優しさが偽りだと気付いたのは。
 
 皆、不老不死とやらを求めて我の肉を喰らいたがった。
 我とて、愛した人の子に喰われるのならば、と一度は思った。
 だが、死にたくなかったんだ。ただ、死にたくはなかっただけだ。
 気付けば我は人を喰っていた。そして、逃げた。
 ああ、でも。忘れてしまった。これ迄に喰べた子の名も、顔も、声も――。
 
 独白めいた言葉を聞いた猟兵達は、人魚が矛盾した心を抱いていると悟った。
 人が好きだという思いは間違いない。
 だが、人魚を取り巻く境遇が彼女を人喰いとさせてしまった。
 桜夜がどのような出来事を経て影朧と成ったかまで窺い知れないが、彼女はいつしか静かな狂気と哀しみに咽まれたのだ。
 それでも唯一、確かなのは彼女を此処に留まらせておいてはいけないということ。
「……もう、我を独りにしてくれ」
 見てご覧、と桜夜は自分が抱く骨と堆く積まれた頭蓋骨の山を示す。
 誰もが最初は優しい言葉を掛けてきた。しかし、その誰もが自分ではなく『人魚』や『肉』という存在としか見ていなかった。
 それゆえに、喰らい返した。
「此方に来ればお前達もこうなる。それでも――我に近付くと云うのかい?」
 桜夜は最終通告だと云うように猟兵達に問いかける。
 
 おそらく桜夜からこれ以上の過去の話は聞けない。語った以上のことは忘れ去ってしまっているようだ。
 彼女に一度でも攻撃を仕掛ければ、その者の言葉は全て拒絶されるだろう。
 だが、此方から攻撃さえしなければ向こうも襲ってくることはない。
 転生を望むならば彼女に危害を加えてはいけない。そして、人魚の心を救うために掛けるべき言葉にきっと正解はない。
 思う儘の言葉を向けながら、その心に寄り添えば何かしらの光明は射すはずだ。
 問答無用で影朧を滅ぼすのか。
 言葉を尽くして救うのか。
 どちらを選び、何を成すべきか。今、決断が迫られている。
 
鶴澤・白雪
悲しい人魚
死にたくないのはきっと当たり前よ
人を愛したなら身を引き裂かれるくらい辛かったでしょうに

あたしは問答無用であなたを倒しに来たのよ
影朧になって人に害を成したなら終わらせることがあたしの優しさだから

でも気が変わったわ
死にたくないと苦しんで人を食べたことを葛藤してきたなら転生できるよう尽くしてあげる

きっと貴方はこの光では眠らない
だから敢えて感じて欲しい
これは海ホタル達が夜を照らす光
誰かを守る優しい光

独りでいたら余計に心が凍り付いてしまうわ
貴方が元いた場所に帰れるように願うから独りにして、なんて言わないで

苦しみも犯してしまったことも影朧の貴方と一緒に置いていきなさい
桜夜、もういいから帰りましょ


祝・誘
【オーラ防御】【第六感】で攻撃は防ぐ
此方から傷つける事はしない

……人の子が身勝手で、無い物強請りだと、よく知っている

私に冀った者達もそうだった
自分の願いが成就すること即ち
傷つく者がいる事だと気づけない

だが、きっとお前も知っている
人の子全員がそうではない事を

現在のお前には、其れを思い出す事は難しいのだと思う
幾多の出来事がお前をそうさせてしまったのだから

死にたくないから、身を守る為に喰った
其れは仕方ないと私は思う
ただ、そうする事はお前を苦しめるようだ

……お前がこれ以上此処に残るのは
お前にとっても良くはない
次の生を、選んでは如何だろうか

今度は、人の子と平穏に暮らせるよう
私は、お前を想って、祈ろう


鬼灯原・孤檻
不死を求めた人々、壊れて狂い人々を喰った人魚。
そこには確かに罪はあり、俺は今一人の影朧を斬るために此処に来た。…だが。それでいいのだろうか。
愛刀を鞘にしまい、前に出る。

「……桜夜、か。その名を付けた者は、君の美しさを良く例えたな」

望もうと望むまいと、この身は不老不死。
不死を求めて近づく考えは毛頭ない。

「率直に言おう。…君は転生したほうがいい。人に焦がれ苦しみ、その身故の争いに疲弊し、繰り返し…、…このままではいつか、本当に失ってはならない物まで失うことになる」

心があり、斬る以外でその罪が雪がれるなら。
どうか、と。夜に咲く桜に、祈る気持ちで声をかける。

<アドリブ改変連携歓迎>



●ひとつの選択肢
 悲しい、とても悲しい人魚。
 人を愛しながらも人を信じきれなかった哀れな影朧。
 白雪は夜空を背にして游ぐ桜夜を振り仰ぎ、紅の眸を眇める。
「死にたくないのはきっと当たり前よ」
 白雪は人魚へと語りかけた。
 愛しいと思った対象とはいえど、身を喰らわれるとなれば誰だって抵抗するはずだ。死を受け入れることは容易ではない。それこそ、この世に絶望するほどの諦観がなければ――。
 白雪の傍ら、同じように人魚を見つめているのは誘と孤檻だ。
 誘もまた人の子が身勝手であると知っている。
「……そうだな、人はよく無い物強請りをする。不老不死もそうだったのだろう」
 誘が呟いた言葉に対し、人魚は僅かに身構えた。
 その声と様子を見遣る孤檻は桜夜の言葉から垣間見えた背景に思いを巡らせる。
 不死を求めた人々。
 壊れて狂い、人の子を喰った人魚。
(そこには確かに罪はあり、俺は今、一人の影朧を斬るために此処に来た。……だが)
 それでいいのだろうか。
 疑問を抱いた孤檻は愛刀を鞘に仕舞い込み、静かに前へと踏み出した。
「……桜夜、か。その名を付けた者は、君の美しさを良く例えたな」
 人魚は孤檻が動いたことでふわりと宙に浮かんで逃げようとする。しかし、彼から掛けられた言葉でぴたりと動きを止めた。
「ああ、好い名だと思っている」
 返された言の葉には慈しみのような感情が見える。されど、人魚から滲む警戒と敵意が削がれたわけではない。
 白雪は人魚の声色の違いを聞き取り、確かに彼女の裡には愛しさがあったのだろうと実感する。愛を知らず、ただ殺戮に生きる影朧よりも心の移ろいが解りやすい。
「人を愛したなら身を引き裂かれるくらい辛かったでしょうに」
「…………」
 白雪に対して桜夜は何も答えなかった。
 思い出させないで欲しいというように頭を振る。忘れてしまった、と彼女が語ったのは忘れてしまいたいこともあったからなのだろう。
 誘はその気持ちがとてもよく理解できた。
「私に冀った者達もそうだった。自分の願いが成就すれば、傷つく者がいる事だと気づけない。人の子とは、そういうものだ」
 幸福を呼ぶ。
 そのように称された誘とて様々な人を見てきた。だが、だからといって絶望を抱いているわけではない。
「きっとお前も知っている。人の子全員がそうではない事を」
「確かに善い者もいる。しかし、その判断をすることも我は疲れてしまったんだ」
 誘が語りかけた言葉に人魚は首を振る。
 識っている。けれど、自分に近付こうとする者の多くは善人ではなかった、と彼女の眸は語っていた。すると白雪が顔をあげる。
「あたしは問答無用であなたを倒しに来たのよ。でも、気が変わったわ」
 白雪はもう倒す気はないのだと告げてゆく。
 影朧になり、人に害を成したならばその生を終わらせる。そうすることが白雪なりの優しさだ。しかし、死にたくないと苦しみ、人を食べたことを葛藤してきたならば転生できるよう尽くしたい。
 白雪と同じく、孤檻も最初は影朧を斬る心算でいた。
 されどそれではいけないのだと人魚を前にして気が付いた。
 望もうと望むまいと、孤檻の身は不老不死。ゆえに不死を求めて人魚に近付く考えなど持っているはずがない。
 孤檻がそのように告げると、桜夜は憂いの表情を浮かべて目を閉じる。
「それを信じろ、と? たとえ不死であったとしても他のそうではないものを共に……いや、道連れにしたいとは思わないのかい?」
 つまり、孤檻自身が求めておらずとも他の者に自分を喰わせる気ではないのか。
 人魚はそんな疑いを持った。
「率直に言おう。……君は転生したほうがいい」
 人に焦がれ苦しみ、その身故の争いに疲弊し、繰り返す。このままではいつか、本当に失ってはならない物まで失うことになるだろう。
 心があり、斬る以外でその罪が雪がれるなら。どうか――。
 夜に咲く桜に祈る気持ちで声をかける孤檻。
 其処に続き、誘が言葉を続ける。
「死にたくないから、身を守る為に喰った。其れは仕方ないと私は思う。ただ、そうする事はお前を苦しめるようだ」
 今の人魚には過去をはっきりと思い出すことは難しい。
 おそらく幾多の出来事が彼女をそうさせてしまったのだとも分かった。それゆえに誘は桜夜を責めるような言葉は紡がない。
「……お前がこれ以上此処に残るのはお前にとっても良くはない」
 次の生を、選んでは如何だろうか。
 孤檻と誘の言葉は転生を勧めるものだ。しかしそれは功を奏さない。
 何故なら、しろ、と言われて出来るものではないからだ。
「生まれ変わりの話は知っている。そう言われて出来るものならしているが……。でも、生まれ変わったとしてもまたきっと繰り返す。ならば我には不要だ」
 人魚は少し考えた後、哀しげに首を振る。
 静かに見えてその心は荒ぶっている。未だ誰も攻撃をしないがゆえに襲ってこないが、手を出せば反撃が行われるのだろう。
 白雪は敵意を滲ませぬまま、ゆっくりと一歩を踏み出す。
 其処に現れたのは海蛍の淡い光。
 眠りをいざなう力は人魚に向かい、ふわりと宙に漂う。
「何、を……」
 対する桜夜は微睡みに耐え、それを振り払うように首を横に激しく振った。
「きっと貴方はこの光では眠らない。だから敢えて感じて欲しい。これは――」
 海蛍達が夜を照らす光。
 誰かを守る優しい光だから。
「独りでいたら余計に心が凍り付いてしまうわ。貴方が元いた場所に帰れるように願うから、お願い。独りにして、なんて言わないで」
「我に近付くな。頼む。……そうでなければ、こうするしかない」
 すると桜夜が両掌を広げた。
 眠気をいざなう力は癒やしを齎す。しかしそれは自分の動きを止め、結果的に害するものだと感じたのだろう。解き放たれた桜混じりの水塊が海蛍を、そして白雪を包み込むように迸った。
 白雪自身はとっさに避けたが、海蛍の光は水塊に穿たれて落ちる。
 ざあ、と幻朧桜の花弁が散る。
 それは桜の名を抱く人魚の涙のように思えた。
 誘が白雪の無事を確かめ、孤檻も人魚を見つめて身構える。だが、相手はそれ以上の攻撃は行ってこないようだ。
 そして同時に、自分達の言葉が彼女に届いていないことも分かった。
 譬え転生をしたくとも心が鎮まっていない。
 出来ぬ者にそれを行えという、選べぬ選択を迫ることは酷だった。
 それでも決して諦めない。一度決めたことを貫き通すことが此処から先の自分達の思いの示し方だと感じ、猟兵達は人魚を見つめた。
 まだ、終わっていない。
 彼女の心を救う言葉も思いも、此処にはたくさんあるはずなのだから――。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
夏帆さん(f15753)と

「忘れてしまった」か…。なんでだろ、後悔のような物を感じるのは。
でもさ、忘れなければ生きれなかったんだろうな。影朧と言われる存在だからなおさら。
もういっそ全て忘れられたらよかったのにな。もしくは忘れずに想いで自壊した方が良かったか。

【存在感】を消し【目立たない】ようにして、奇襲をかけ【マヒ攻撃】を乗せた【暗殺】のUC菊花で攻撃する。
夏報さんはたぶん大丈夫だと思うけど危ないようだったら【かばう】。
基本相手の攻撃は【第六感】で感知【見切り】で回避。回避しきれない物は黒鵺で【武器受け】からの【カウンター】。それも出来ない物は【オーラ防御】と【激痛耐性】でしのぐ。


臥待・夏報
アドリブOK
黒鵺くん(f17491)と。

彼女みたいなのは、この【2012/8/19】の格好の標的だ。
過去と矛盾を解いて暴いて責め立てて動揺を誘えば、人魚の骨まで焼き尽くせるに違いないさ。
台詞回しならいくらでも思いつく。UDCではいつもそうしてきたんだから。

だけど。
斬るしかないと思うわりには不器用に言葉を探してる、君のその意志がきっと一番大事なんだよね。黒鵺くん。

だから悪趣味な真似はなし、彼女が生来持っている【後悔】の分だけ炎で灼く。
水塊で口を塞ごうとしてくるなら――構わない。炎の形をした呪詛は水では消えないし、一切言葉をかけるつもりもない。
優しさも恐怖も与えてやらない。
少なくとも、僕たちはね。



●優しさと後悔と
「――『忘れてしまった』か……」
 人魚の言葉を聞き、瑞樹は影朧として顕現したその存在を思う。
 宙にふわりと浮かぶ人魚の周囲には泡が浮かんでは消えている。その様にどうしてか、後悔のようなものを感じた。
 瑞樹の一歩前、夏報も似た思いを抱いている様子だ。
「彼女みたいなのは、この力の格好の標的だね」
 夏報が示したのは自らのユーベルコード。
 それは思い出に抱く後悔を力に変えるもの。過去と矛盾を解き、暴いて責め立てて動揺を誘えば、人魚の骨まで焼き尽くせるに違いない。
 そうすることは葛藤する人魚に対して苦しみしか与えないだろう。
 だが、台詞回しならいくらでも思いつく。いつもそうしてきたんだから、と夏報は影朧を見据えた。
 すると瑞樹が人魚への思いを言葉に変える。
「忘れなければ生きれなかったんだろうな。影朧と言われる存在だからなおさら。もういっそ全て忘れられたらよかったのにな」
 もしくは、忘れずに想いで自壊した方が良かったか。
 そう言うと同時に瑞樹は更に後方に下がった。
 彼が再び存在感を消し、目立たないように奇襲をかけるのだと察した夏報は先程と同じようにその補助に入るべく動く。
 その際に、だけど、と思い立ったのは彼に抱く感情。
「斬るしかないと思うわりには不器用に言葉を探してる、君のその意志がきっと一番大事なんだよね。黒鵺くん」
 だから、と夏報は自らも悪趣味な真似はしないと心に決めた。
 自分達は人魚を攻撃する。
 説得や語りかけではなく、この力で――静かに荒ぶる人魚の魂を削るのだ。
「……はっ!」
 瑞樹は掛け声と共に人魚へと黒鵺の刃を振るった。一瞬にして九閃の煌めきが人魚を切り裂き、麻痺の力を巡らせる。
 く、という声が人魚から零れ落ちたが動きを完全に止めるには至らない。
 だが、其処へ夏報が放つユーベルコードが発現した。
 『2012/8/19』――コール・イット・ア・デイ。
 其処に召喚されたのは色褪せたアルバム。彼女が生来持っている後悔。それが写し込まれた燃え盛る写真が人魚に向かって舞っていった。
 炎が人魚の身を灼く。
 しかし対抗しようと動いた人魚は自らを水塊で覆った。
 炎を防ぎ、次なる攻撃に移るための一手だ。そう感じた瑞樹は咄嗟に夏報の前へと立ち塞がる。人魚が広げた掌から放たれる桜混じりの水塊。それが彼女に向けられると察したからだ。
 刹那、水塊が瑞樹の頭部を覆う。
「――黒鵺くん」
 はっとした夏報が彼の名を呼ぶが、瑞樹は自らの刃で水塊を切り裂いた。一瞬の間があき、彼を窒息させようとしていた水が地面に落ちる。
「慌てなければ問題ない」
「ああ、良かった」
 短い言葉を交わした二人は人魚を見据える。攻撃を仕掛けてきた彼らに対し、桜夜は何も語ろうとしない。ただ敵として相対するだけだ。
 その間にも桜夜の周囲に炎の形をした呪詛が巡る。二人はこれ以上、一切の言葉をかけるつもりはなかった。
 優しさも恐怖も与えてやらない。――少なくとも、自分達は。
 夏報が己の中の思いを律する中、瑞樹はもう一度地を蹴った。青の瞳が瞬き、更なる刃の一閃が次々と重ねられていく。
 されど人魚はふわりと宙を舞い、夏報達から距離をとった。
 それは彼女なりの拒絶なのだろう。瑞樹と夏報は頷きを交わし、或ることを悟る。
 相手を倒すには圧倒的に力が足りない。
 敵と自分達に力量の差があるのではない。純粋に戦いに向けられる手が少ないのだ。二人だけではおそらく人魚を倒すことは出来ないだろう。
 だが、同時に解ることもある。
 他の猟兵達が言葉ですべてを解決しようとしていることだ。
「ああ、そうか。なんて――」
「優しい人々だね」
 瑞樹が呟いた言葉を次ぐように夏報が思いを声にした。
 人魚への言の葉を重ねることがどのような未来を繋ぐのか。それはまだ分からない。二人は一旦、攻撃の手を止める。
 いざとなったら自分達が彼女を斃そうと決めている。
 しかし、もし少しでも新たな生の兆しがあるのなら――その光が見えるまでは、ただ皆の言葉を聞き、見守ろう。
 そう感じた瑞樹と夏報は桜が舞う夜の光景を暫しじっと見つめていた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と

ひとに害を為しているのなら
城門のカガリにとっては、駆逐の対象ではある…が。

なぁ。本当のお前はどちらだ。
ひとを貪り喰らうだけの妖か。
ひとに触れたかっただけの人魚か。

お前とは本来、どういうものなのだ。
ひとに情を抱いていたが、ひとに裏切られ食らった、のではなく。
本来ひとを食らう人魚が、ひとに情を抱いてしまった、のではないか。

死にたくないから、抵抗するのは、当然だが。
そのために食らおう、と思った時点で。ひとから肉を、望まれずとも。お前が、お前である限り。ひとと近付いてはいけなかったのだ、お前は。

ひとと、今でも近付きたいなら
お前ではないものとして、やり直すのはどうかな。


マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と

竜である俺は愛しいと思うものを食らってしまいたい
食らって我が血肉とし、永遠にその者と供に在りたい

お前にとって人は愛しきものか
一つでありたいと願うものか

否、お前にとって食らうことは、脅威を脅威で取り除くだけ
愛しさから永遠を願われた訳でも、願った訳でもないのだな

お前が人を好きだと言うのなら
永遠の愛を得たいと願うなら
カガリが言うようにその人魚の肉を捨て、別の器に生まれ変わってみないか
桜夜と名付けてくれた遠き昔の人の魂に、もう一度出会いたいとは思わないか

生きるのは呪いのようなもの
だが死は必ずしも救いではない

だから討って終わりにするのではなく、転生してやり直す道を示そう



●真に愛しきものは
 抱かれた骨。堆く積まれた頭蓋。
 それはかの人魚がこれまで喰らってきた人々の数を示している。
「ひとに害を為しているのなら……カガリは――」
 城門のカガリにとっては駆逐の対象だ。だが、カガリは其処で言葉を止める。逡巡した様子の彼と共に立つマレークは真正面から人魚を見つめていた。
 胸の裡に巡るのは竜としての思い。
 ――俺は愛しいと思うものを食らってしまいたい。
 食らって我が血肉とし、永遠にその者と供に在りたい。心の奥底でそのように思っているからこそ人魚の行動はマレークにとっては不可解なものではない。因果は違えど喰らうという行為は同じ。
 それゆえに確かめたい。マレークは武器を取らぬまま、静かに問いかける。
「お前にとって人は愛しきものか。一つでありたいと願うものか」
「……」
 人魚は答えなかった。
 敢えて返答をしなかったのではなく、答えられないといった様子だ。此方が攻撃を行わないがゆえに向こうも手を出してくることはない。
 カガリも自分の裡にある迷いのような感情を振り払う為、問いを重ねた。
「なぁ。本当のお前はどちらだ」
 ――ひとを貪り喰らうだけの妖か。
 ――ひとに触れたかっただけの人魚か。
 お前とは本来どういうものなのだ、とカガリは真っ直ぐに尋ねる。
 人魚は元よりひとに情を抱いていた。そしてひとに裏切られ食らったのではなく、本来はひとを食らう人魚がひとに情を抱いてしまったのではないか。
 予想をぶつけると、人魚は首を振る。
「……わからない」
 桜夜が落とした言葉は哀しげだった。
 喰らうようになった切欠が何だったのか解き明かされることはきっとない。それでも彼女は人食いとして生まれ落ちたわけではないはずだ。
 するとその声色を聞いたマレークが彼女の心を代弁する形で語りかけていく。
「否、お前にとって食らうことは、脅威を脅威で取り除くだけ。愛しさから永遠を願われた訳でも、願った訳でもないのだな」
 人魚は俯く。
 その通りだろう、と。
 そして、カガリは其処から導き出した己の思いを告げていった。
「死にたくないから、抵抗するのは、当然だが……」
 そのために食らおうと思った時点で人と生きることには向いていなかった。
 それがカガリが桜夜から感じたことだ。
「ひとから肉を望まれずとも。お前が、お前である限り。ひとと近付いてはいけなかったのだ、お前は」
 彼の言葉に対して桜夜は頷く。
 同意したのではない。今更何を言っているのだ、という雰囲気だ。
「我の過去を勝手に想像し、抉るのが趣味なのかい?」
 カガリとマレーク、二人が人魚に向けたのは否定の言葉だ。
 変えられぬ過去を突き付け、そうであったのではないかと断定する。それは果たして彼女の心に寄り添うと言えるのだろうか。
 実際、人魚はひどく傷付いた表情をしていた。
 桜夜とて人を喰らったことの罪は意識している。それを責められるであろうことも理解しているのだろう。しかし、いざそれを突き付けられて平静でいられる強い心を持てる者など多くはない。
「ひとと、今でも近付きたいなら。お前ではないものとして、やり直すのはどうかな」
 カガリは押し黙る人魚に語りかける。
 そして、マレークも否定するだけではない言葉を向けた。
「お前が人を好きだと言うのなら、永遠の愛を得たいと願うなら、カガリが言うようにその人魚の肉を捨て、別の器に生まれ変わってみないか」
「……生まれ変わりか」
「桜夜と名付けてくれた遠き昔の人の魂に、もう一度出会いたいとは思わないか」
「それを覚えてもいないというのに?」
 対する人魚は思い悩むような声を落とし、ふ、と皮肉げに双眸だけを緩めた。それはとても寂しげなものでカガリは妙に胸が締め付けられる思いがした。
 覚えてもいない者に逢う。
 それが言葉で語るほど簡単ではないことは誰にでも分かる。マレークはカガリと共に人魚を見つめ続ける。
「生きるのは呪いのようなもの。だが死は必ずしも救いではない」
 だから――討って終わりにするのではなく、転生してやり直す道を示したい。
 それがマレーク達の思いだ。二人が全てを伝え終わった後、人魚は答えを紡いだ。
「……否、だ」
 彼らの思いは届くことはなかった。
 人魚の言葉は静かだが、その心は未だ水面下で荒ぶっている。過去を否定した上で転生しろ、という言葉では鎮めることが叶うはずもなく――。
 人魚から、帰ってくれ、という冷たい言葉がぽつりと落とされる。
 それでもマレークもカガリも決してその場を動こうとはしなかった。
 希望はまだ此処にある。周囲に集う仲間達の真剣な眸と紡がれてゆく言の葉が、そう教えてくれていたからだ。
 

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と
人の生は儚い。
それ故に人にとって不老不死というのは魅力的なものなのだろう。
時に倫理観を失ってでも手に入れようとする。
その度にお前は苦しんできたのだろう。
人魚の肉を食えば不老不死になれると言うまことしやかな噂のせいで。

けれどな…マクベスの様にお前を食らってまで不老不死になろうとしない者もいる。
そしてマクベスの言う様に少なくとも名前をくれた人間はお前を想って居ただろう。
これから食べる家畜に名前をつけるなど愚かでしかないだろう?
だから…そう言う事だ。


マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
へぇ…あれが人魚…
キマヒュにも魚のキマイラとかいるけど
サクラミラージュにもいるんだな
グラナトさんは見たことある?

不老不死…ねぇ
まぁ確かに、ほんとにアンタを食べて不老不死になれるなら
グラナトさんとずっと一緒にいられるんだろうけど
けどオレはそんなの望まねぇよ
だって約束したからなっ
生まれ変わっても絶対また傍にいるって!

てかさ、ほんとに皆がそうだったのか?
ほんとにただ優しい人もいたんじゃねぇの
じゃなきゃ『肉』だと思ってるやつに名前なんか付けねぇだろ
嫌な思い出が多いだろうけどさ
良い思い出だって絶対あると思うぜ?



●信じられる約束
「へぇ……あれが人魚……」
 幻朧桜の花がひらひらと舞う宵の空。
 深く巡りゆく夜の色を背にした人魚は淡い桜彩を宿しているようだった。
 グラナトさんは人魚を見たことがあるか、と問いかけようとしたマクベス。だが、彼が真剣な瞳を人魚に向けていることでマクベスも気を引き締めた。
 人魚もまた、此方を見据えている。
 その眼差しはグラナト達を見定めているかのような、暗い疑念に満ちているようだ。
「人の子よ、お前達も我が目的で訪れたのかい?」
 不意に人魚は問いかけてきた。
 人の子というのはヒトの姿をした者すべてへの呼び名のようであり、マクベスがキマイラであったりグラナトが神であることは関係がないらしい。
 人魚が問う目的。
 それは不老不死の肉として自分を求めてきたのか、という意味合いだろう。
 対するグラナトは首を横に振る。しかし人魚がそれだけで納得するはずがない。
 これまで桜夜に対して誰も彼も嘘を並べて近付いてきた。それゆえに人魚が他人の言葉が信じられないでいるのだということはマクベスにも分かる。
 グラナトも彼女が相当な疑心暗鬼に陥っていると感じた。
「人の生は儚い。それ故に人にとって不老不死というのは魅力的なものなのだろう」
 人間は時に倫理観を失ってでも欲しい物を手に入れようとする。
 きっと彼女はその度に苦しんできたのだろう。
 人魚の肉を食えば不老不死になれるなどという、まことしやかな噂のせいで。
「不老不死……ねぇ。まぁ確かに、ほんとにアンタを食べて不老不死になれるならグラナトさんとずっと一緒にいられるんだろうけど」
 グラナトの声を聞き、両腕を頭の上で組んだマクベスは何気なしに呟く。すると人魚が身動ぎした。
「やはり、お前達も……」
 はっとしたマクベスは違うのだと言い返す。
「待てって! けどオレはそんなの望んでねぇよ。だって約束したからなっ」
「約束……?」
 怪訝そうな顔をして問い返す人魚に対してマクベスは隣に立つグラナトの腕を引く。そして、彼と交わした約束であることを主張した。
「生まれ変わっても絶対また傍にいるって!」
「ああ、そうだな」
 グラナトは腕にぎゅっとしがみついて寄り添う少年の肩を軽く抱き寄せる。
 こんな純粋な思いが他にあるだろうか。
 少年の眼差しも言葉も嘘だと断じるのか。そのように問う視線がグラナトから人魚へと差し向けられた。
「マクベスの様にお前を食らってまで不老不死になろうとしない者もいる」
「だが、我は……」
 人魚はマクベスの言葉は嘘ではないと感じたようだ。しかし、これまでの過去に負ってきた傷からそのことを認められないでいる。
 マクベスは人魚の戸惑いを感じ取り、自分の思いを伝えていった。
「てかさ、ほんとに皆がそうだったのか? ほんとにただ優しい人もいたんじゃねぇの。じゃなきゃ『肉』だと思ってるやつに名前なんか付けねぇだろ」
「マクベスの言う様に、少なくとも名前をくれた人間はお前を想って居ただろう。これから食べる家畜に名前をつけるなど愚かでしかないだろう?」
 少年に続き、グラナトも人魚を諭す。
 彼女が感じてきた思いの中には確かに辛いこともあっただろう。それでも、人を愛したのならばそれだけではないはず。
「嫌な思い出が多いだろうけどさ。良い思い出だって絶対あると思うぜ?」
「……そう言う事だ」
 マクベスが問いかけるとグラナトも静かに頷いた。人魚は微かに震え、腕に抱いた骨を掻き抱く。
「ああ、確かに。確かに我は人が好きだ。好きだった」
 だが、辛いことは容易に幸せを掻き消す。感情の重さは同じではない。だからこそ彼女は狂い、人を喰らったのだ。
 葛藤と苦しみは宿ったまま。
 自分達の言葉だけではあの静かな狂気は消せない。
 そう感じた二人は人魚の姿を見つめ続けた。語る言葉はなくとも、譬え僅かでも、人魚は少年が話した約束について信じてくれた。それは人魚自身の心を解きほぐすものではなかったが――。
 けれども何かの切欠になれば、と願う彼らは桜夜の周囲に舞う花を瞳に映す。
 まるであれは人魚の涙のようだ。そんな風に、思えた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

月舘・夜彦
【華禱】
刀は納刀、敵意が無い事を見せて説得

貴女も分かっているのでしょう
全ての人が悪では無いのだと
向かって来た者は敵意を持っていたから返り討ちにしたまで
それは人を嫌いになれないからこそ

記憶を失っても心の奥底で貴女を灯しているのは
嘗て愛した人に与えられた物があるからでしょう

私は物、壊れぬ限り命は永遠に等しい
これまで見てきた人々は全てが善では無く、悪でも無かった
今も想えるのは人に向けられた情と温かさを知ったからこそ
……貴女は何処か私に似ている

記憶を取り戻す術は無く、更に失ってしまうかもしれない
貴女が貴女で在る内に終わりを求めるのならば、それに応えます
そう感じるのは……今の貴女が、とても寂しそうだから


篝・倫太郎
【華禱】
武器は置いて夜桜を説得

長命な男を普通に老いて死ぬ俺は選んだけれど
互いに承知の上で、互いに答えは出しての選択だから
だから、不老不死はどうだっていい

ただ、聞きたいことがある
夜桜、あんたは……どう、したいんだ?
このまま、人を好きで……けど人を喰らう

そんな自分で居たいのかどうか、それを教えてくれ

俺にはその力はないけど
あんたがそんな自分を変えたいと思うなら
手助けしてくれる奴はいる

でも、手助け出来るのは
あんたが今の自分を変えたいと思ったら、だから……
だから、教えてくれ
今のままの自分で良いと思うかどうかを

夜彦……
彼女はあんたに似てる気がするから
人を好きで、でも何処か孤独なあんたに、似てる気がするから



●選び取ったもの
 刀を納め、薙刀を置く。
 それは夜彦と倫太郎が何よりも最初に行った、敵意がないことを示す行為だ。
 桜夜。
 今、目にしている景色に相応しい名前を持つ人魚に向け、夜彦は呼びかける。
「貴女も分かっているのでしょう、全ての人が悪では無いのだと」
 これまで向かって来た者は害意を宿していた。だからこそ人魚は返り討ちにしただけなのだと夜彦は察している。
 その理由は人を嫌いになれないからだ。
 そうでなければ、こうして武器を置いた途端に自分達を攻撃してくるだろう。彼女はそれをよしとしない。されど、人魚は疑心暗鬼に陥っている。
 彼女は此処に訪れた皆が自分を肉だとしか思っていないのだと信じ込んでいた。どれほど優しい言葉を掛けられても、それが欺瞞や嘘だとしか思えないでいる。
「聞いてくれ、桜夜。俺は普通に老いて死ぬことを選んだ」
 倫太郎は隣に立つ夜彦の横顔を見遣り、自分達について語る。彼は長命であり、自分は比べて短命だ。しかしそれは承知の上で、互いに答えを出した選択だ。だから不老不死はどうだっていいのだと伝えた倫太郎は、人魚の疑念を拭い去ろうと試みた。
「信じるに値しない。たとえ今はそうでも、いつかは老いることを悔やむだろう」
 桜夜は夜彦と倫太郎を見比べる。
 今は二人共が若く在るからこそ思えることでしかないのだと彼女は断じる。譬え二人の思いがどれほど強くとも、彼らの関係を何も知らぬ人魚にはその絆と思いを信じる理由がない。
 人の子、即ちヒトの姿をしたものは老いを恐れるのだと人魚は信じきっている。
「そうか。それならただ、聞きたいことがある」
「答えるかどうかは知らない」
 倫太郎がひとつ問いかけたいのだと告げると桜夜は視線を逸した。それでも良いとした倫太郎は口をひらいた。
「夜桜、あんたは……どう、したいんだ? このまま、人を好きで……けど人を喰らう。そんな自分で居たいのかどうか、それを教えてくれ」
「…………」
 人魚は答えない。
 その答えを持っていないのかもしれない。何故なら、そんなことを問いかけられたのは初めてだったからだ。
 夜彦は倫太郎に続き、人魚の戸惑いを解すように語りかけていく。
「記憶を失っても心の奥底で貴女を灯しているのは、嘗て愛した人に与えられた物があるからでしょう」
 夜彦もまた、倫太郎と同じように己のことを語る。
 自分は物だ。
 壊れぬ限り命は永遠に等しい。人と比べれば永く生きた時の中、これまで見てきた人々は全てが善では無く、悪でも無かった。
 そう今も想えるのは人に向けられた情と温かさを知ったからこそ。
「……貴女は何処か私に似ている」
「我はそうは思わない。甘言になど騙されるものか……」
 人魚は冷たく言い返し、夜彦を睨みつける。敵意はあるが彼女は決して攻撃をしてこない。それは二人が手を出さぬ意志を見せているからか。言葉には反しても、攻撃を行わぬという点だけは認めてくれているようだ。
「俺にはその力はないけど、あんたがそんな自分を変えたいと思うなら手助けしてくれる奴はいる」
 此処に、と倫太郎は自分達を含めた猟兵を示す。
 その仕草に桜夜が周囲を見渡した。
「でも、手助け出来るのはあんたが今の自分を変えたいと思ったら、だから……。教えてくれ。今のままの自分で良いと思うかどうかを」
 倫太郎は更に問う。
 答えられなかったのならば、今此処で答えを見つけて欲しい、と。
 そんな中で倫太郎は夜彦の手を握った。
 彼女は彼に似ている気がする。だから夜彦が裡に抱く思いごと包んでやろうと考えた時、身体が勝手に動いていた。
(人を好きで、でも何処か孤独なあんたに、似てる気がするから)
 胸中で独り言ちた倫太郎。
 その手を握り返し、夜彦は真っ直ぐに桜夜を見つめる。
 譬え転生が叶ったとしても無くした記憶を取り戻す術は無く、更に失ってしまうかもしれない。それでも――。
「貴女が貴女で在る内に終わりを求めるのならば、それに応えます」
 そう感じるのは今の彼女がとても寂しそうだから。
 人魚は押し黙り、何かを考え込んでいるようだった。しかし倫太郎達は決してその答えを急かしたりはしない。
 何かを変える為に決断するには時間が必要なものだ。
 自分達とて、何も悩まずに決めたわけではない。互いによく己を識り、相手を知り、選んだ路こそが今に続いている。
 どうか、彼女も納得した上で自分の路が選び取れるように。
 そう願う二人は重ねた手を強く、強く、握り締めあった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎本・英
人に裏切られ、孤独を選んだ人魚。
君にかける言葉は無い。

君がここで孤独に死ぬのも
転生するのもどちらでも良いのだよ。
欲深い者は当たり前のようにいる
そして欲深い者に傷つけられる者もいる。

君を哀れに思わない事も無いよ。
けれども君があまりにも純粋に人を信じすぎてしまったせいだね。
君が死のうが生きようが私には関係のない事だ。

君が今まで受けていた仕打ちはそれはもうこの世界ではとてもうけるだろう。
けれども私が求めているのはそんなやり取りではない。

さて。問おう。
「君は生きたいかい?」
生きたいと答えたなら私は君をそのまま見逃そう。
転生は他の者に任せるよ。
そうでないなら獣が。

私はただの人だから君の力にはなれないよ。


ハニー・ジンジャー
嬉しや
澄んだ眼でどろりと笑う
お逢いしたかったですよ、人魚さま

喰らいにきたと言われると
成程確かにそうかもしれない
人魚さまとはきっと意味が違うだろうけど
不老不死で満たされるわけもなかろうに
人間とは不思議なものです

もすこし近くでお顔、見せてくださいね
我ら痛み苦しみ興味がないので
ただただ一歩、ただ手を伸ばし
独りにしてくれと
なるほど、なるほど
嘘はお言いでないですよ
寂しいと、言って御覧
死にたくないと望めるのなら、他の欲も口にしないと
ねえ、――あいしてる?

我ら欲しいものは絶対手に入れる主義ですが
お前のことは存外そうではないらしい
お前も、ヒトでない我らのことなど愛してないでしょ
呑んであげたかったけれど、残念



●求める意志は
 夜風が桜花を散らしていく。
 ハニーは人魚の周りに花が舞う様を澄んだ眼で見つめる。嬉しや、という言葉と同時に口許に宿ったのは、瞳とは相反するようなどろりとした不可思議な笑み。
「お逢いしたかったですよ、人魚さま」
 微笑みながら語りかけるハニーに対し、英はさほど関心のない表情を浮かべていた。
 人に裏切られ、孤独を選んだ人魚。
 その一文こそ英が桜夜という存在に感じた印象だ。
「君にかける言葉は無い」
 最初に一言、英は人魚へ声を掛けた。
 言葉はないというのに声音に思いを乗せている。それが何だか矛盾していると感じたハニーは楽しげにくすりと笑い、英を見遣った。
 英はハニーからの眼差しに気付かぬふりをしながら人魚へと言葉を向けていく。
「君がここで孤独に死ぬのも、転生するのもどちらでも良いのだよ」
 そう、欲深い者は当たり前のようにいる。
 いつの世でも、どんな国でも、それは変わらない事実だ。善人ばかりではない。好い人を装って過ごす人間だってごまんといる。
 そして、いつだって欲深い者に傷つけられる者がいるのだ。
 英はそういった者達を思って肩を落とす。
 善だけでは回らぬ世。悪と分類されるものがあるからこそ、物語は巡るものだ。尤も、今偶然にこうして隣に立つ彼――ハニーのように善と悪の何方とも取れぬ者もいるのだが、それは此処で追求すべきことではない。
 対する人魚は猟兵達に問いかけてくる。
「人の子よ、お前達も我が目的で訪れたのかい?」
「喰らいにきたと言われると……」
 成程、確かにそうかもしれないとハニーは頷いた。人魚さまとはきっと意味が違うだろうけど、と。されど言葉には出さず、ハニーは桜夜を瞳に映し続ける。
 その瞳に人魚が映る様はまるで夜桜が月に榮えるような彩だ。
 彼の横顔をちらと見た英はそんなことを感じていた。そうして、目的は君ではないのだと告げる。
「君を哀れに思わない事も無いよ。けれども、それは君があまりにも純粋に人を信じすぎてしまった因果だね」
 君が死のうが生きようが私には関係がない。
 英は淡々と己の思いを、まるで物語でも語るように口にしていった。ふふ、と笑うハニーも何処か空虚な言葉を並べる。
「不老不死で満たされるわけもなかろうに人間とは不思議なものです」
「……人の子よ、お前達は何なんだい?」
 桜夜は彼らに疑問をぶつけた。二人の姿勢は違っていたが、唯一似ているのは興味がないと示す態度。
 英はその疑問に「人でなしだろうか」とたった一言で答えた。
 ハニーは我らは我らだと話す。そうしてハニーは一歩、踏み出して手を伸ばす。
「もすこし近くでお顔、見せてくださいね」
「……近付くな」
 人魚が怯えたように後に下がる中、ハニーは再びどろりと笑う。彼女の痛みや苦しみには興味がない。だが、その言葉には寂しさを感じた。
「独りにしてくれと。なるほど、なるほど。嘘はお言いでないですよ」
「……来るな」
「寂しいと、言って御覧」
「……やめ、ろ」
 ハニーと桜夜。二人の歪な問答が暫し続いた。
 そして、不意に彼は尋ねる。
「死にたくないと望めるのなら、他の欲も口にしないと。ねえ、――あいしてる?」
「――!」
 その瞬間、桜夜が宙に泳ぎ逃げた。
 彼らの遣り取りを眺めていた英はそのまま視線を空中の人魚に向け続ける。
 彼女が今まで受けていた仕打ちを畫けば、この世界では人気を博するだろう。人はそういった悲しみの物語を好む。世がそんな仕組みであるのだと英は知っている。大抵の人魚は悲痛のままに死ぬ。それが在り来たりな話の流れだ。
 けれども英が求めているのはそんなやり取りではない。そうして彼は問う。
「君は生きたいかい?」
「…………」
 空中で游ぐ人魚は英の声を聞き、無言のまま視線を返した。ハニーは敢えて黙り、何かを言おうとしている彼女の言葉を待つ。
「――死にたくは、ない」
 すると桜夜はたった一言、そのように返した。人を信じられぬ彼女は素直ではない。だが、確かに生きたいと答えた。
「なら私は君をそのまま見逃そう。何も手を出しはしないよ」
 自分はただの人。だから君の力にはなれないが、他の者が居る。ただ英は人魚の意志を確かめたかっただけなのだ、と示す。
 ハニーも、それならば、と静かに頷いた。
「我ら欲しいものは絶対手に入れる主義ですが、お前のことは存外そうではないらしい」
 彼の人魚は要らない。
 ハニーなりの価値観に照らし合わせた結果、彼もまた手を出さぬと宣言した。
「お前も、ヒトでない我らのことなど愛してないでしょ」
 呑んであげたかったけれど、残念。
 静かな声色が落とされた刹那、桜の花が再び風に攫われて舞い散った。はらり、はらりと流れていく花。その様子を眼鏡の奥の瞳に映した英は肩を竦めた。
 此処には優しい空気が満ちている。
 自分達はただ人魚の心を慥かめただけだが、他の者ならばきっと――。
 この物語の結末を、悲歎や苦艱では終わらせないはずだ。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
説得

(●怪力で己の手を引き千切り差し出して見せ)
触ったり、歯を立てたりして確かめても結構です
ご覧の通り私は機械…鋼の絡繰り
擬似的な食事機能はあれど肉を取り込めぬ以上、不老不死は叶いません
私は貴女を食べませんし、食べるのもお勧めいたしません

傍に近づき、語らうことを許して頂けますか

「近づくな」と告げるのは貴女が人食いを厭う心があるから
身体が食人に動くと同時、心の奥底で人を愛し信じたいと願う貴女自身を食い殺していたのでしょう
この骨は罪の証であり、苦しんできた貴女の骸なのかもしれません

貴女は咎人
罪を重ねぬ為
己を他者を傷つけぬ為、罪を贖い雪ぐべきです

そしてその方法は、決して刃だけではないと…私は考えます


李・蘭玲
哀しい方ですねぇ…私欲に気づき、裏切られたと感じて
然もありなん、失望するのも頷けます

攻撃はしません、噛まれても機体が傷つくだけ
ただ私の思いを述べます

人は老いを、死を恐れます
ときに迷走の末、劇毒たる水銀を口にする者もいましたから
馬鹿げていると思いませんか?
当人らは本気で信じていたのですから
結果は惨憺たるもの…不死どころか早死にし、ようやく過ちに気づく
そうして人々は口伝を残します
『不老不死など夢幻、空想でしかない』と

もう、悲しまずともよいのです
多くの者は過ちを知り、教訓を得ました
憎悪に流される必要もありません
あなたの失意に多くの人が共感するでしょう

心の傷が癒えたとき、次の人生へ向かってみませんか?



●揺らぐ心
 桜の花が舞う宵の最中。
 トリテレイアは怪力で己の手を引き千切り、人魚に差し出して見せる。
「触ったり、歯を立てたりして確かめても結構です」
「何を……急に……」
 その行為に人魚が驚き、トリテレイアから距離を取った。しかし彼は触らぬのならば良いだと告げて自分の機体を見せてゆく。
「ご覧の通り私は機械……鋼の絡繰り」
 擬似的な食事機能はあれど肉は取り込めない。この身体ある以上、不老不死は叶わないのだと示すトリテレイア。
 その隣で佇む蘭玲もまた機械の身を持つ者だ。
 しかし彼女はトリテレイアのように身を晒すようなことはせずに人魚を見つめた。
「哀しい方ですねぇ……私欲に気づき、裏切られたと感じて――」
 然もありなん、失望するのも頷ける。
 理解を示すような眼差しを向けた蘭玲は桜夜に攻撃はしない。下手に打って出て噛まれでもすれば機体が傷つくだけだ。
 ただ己の思いを述べ、人魚に語りかける。此処はそれが許される戦場だ。
 そして、トリテレイアは率直に伝えていく。
「私は貴女を食べませんし、食べるのもお勧めいたしません」
「……確かに喰らいたくはないな。しかし人の形をした子達よ。お前達が我を喰わぬとしても、誰かに依頼された可能性もある」
 これまでにもそういった輩が居たことを本能で憶えているのだろう。人魚は此方の身の潔白を信じようとはしない。
「傍に近づき、語らうことを許して頂けますか」
「…………」
 人魚はトリテレイアの願いに答えなかった。だが、それは遠回しなだけで語らうことへの否定ではないのかもしれない。
 相手が口を開かぬこと。それもまた致し方ないとして蘭玲は自分の考えを口にした。
「人は老いを、死を恐れます」
「ああ、ゆえに世迷い言を……不老不死などを信じる」
 人の子は愚かだと人魚も頷く。
 蘭玲は桜夜を宥めるように、人の過ちについて自らが知る話を語った。
「ときに迷走の末、劇毒たる水銀を口にする者もいましたから馬鹿げていると思いませんか? 当人らは本気で信じていたのですから」
 されど、その結果は惨憺たるもの。
 不死どころか早死にし、ようやく過ちに気付く。そうして人々は口伝を残した。
『不老不死など夢幻、空想でしかない』と――。
 きっと人魚の肉とて同じ。今の世にそんなものを信じる輩はいない。
 それゆえに、と蘭玲は語り掛ける。
「もう、悲しまずともよいのです。多くの者は過ちを知り、教訓を得ました。憎悪に流される必要もありません」
「過ち……?」
「あなたの失意に多くの人が共感するでしょう」
 蘭玲の言葉に人魚は俯く。
 しかし納得した様子は見られない。そして人魚は顔を上げた。違う、と断じたのは蘭玲が語った言葉についてだ。
「我は憎悪など抱いていない。哀しいだけだ。ただ、生きたかっただけ……」
「貴女は……」
 罪を反芻しているらしき人魚へとトリテレイアが一歩を踏み出す。
「近付くな」
 すると彼女は強い口調で拒否した。
 しかしトリテレイアは厭わない。そう告げるのは彼女が人食いを厭う心があるから。決して憎悪から人を喰ったのではない後悔があるがゆえ。
 身体が食人に動くと同時に心の奥底で人を愛し、信じたいと願う心。それが人魚自身を食い殺していたのだろう。
 そのように仮説を立てたトリテレイアの思いは正解だった。
「その骨は罪の証であり、苦しんできた貴女の骸なのかもしれませんね」
 トリテレイアは堆く積み上がった骨に視線を向ける。あれらは影朧の幻が生み出した象徴であり、本物の骨ではない。
 そう読んだトリテレイアは的確に真実を見抜いていた。
 だが、彼女は咎人。
「それでも――罪を重ねぬ為、己や他者を傷つけぬ為、罪を贖い雪ぐべきです」
「そうしてお前達は我を殺すのかい?」
 人魚がトリテレイアに問うと、彼は首を横に振って否だと示す。蘭玲も違うのだと告げて双眸を穏やかに緩めてみせた。
「いいえ、その方法は決して刃だけではないと……私は考えます」
「心の傷が癒えたとき、次の人生へ向かってみませんか?」
「…………」
 二人の言葉に対して人魚は押し黙る。
 届きそうで届かぬ思い。まだ彼女の中にある荒ぶる心と疑心暗鬼は拭えていないのだろう。しかし、僅かでも逡巡するのならば其処から活路は拓けるはず。
 蘭玲とトリテレイアは真っ直ぐに人魚を見つめ、その心の揺らぎを窺ってゆく。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鈴白・秋人
永倉さん(f22940)と

人魚が未だ少しでも人間を信じていて、転生を望むのであれば…

わたくしも、そのお手伝いが出来れば良いと思いますわ。



わたくしは貴女と戦うつもりはありません。

喰らいたければ…好きなだけ喰らえば良いと思います。

それだけの仕打ち、心の傷を…人は貴女に与えたのですから。


ですが…
人を喰らうのは、わたくしで最後にして頂けません事?

(優しく抱きしめ)

喰らう事で、貴女が天に…
好きな方の元へとゆけるのなら…

それで貴女の心が晴れるなら…

この身、いくらでも差し上げます。

幸い、わたくしはいくら喰らっても無くなりはしませんもの。

(心から救える様にと願い、微笑み手首を切り血を見せ)

さあ、お食べなさい。


永倉・祝
鈴白くん(f24103)と。
僕は残念ながら優しい言葉を紡ぐのが苦手なのでこう言う言い方しか出来ませんが…。
不老不死は人間の欲しいものの中でも上位ですからね…あなたを食べようとしたのはご馳走を目の前にして我慢できなかったお馬鹿さんです。
そして悲しい事に多くの人間がそちら側なんでしょうね。
ええ、悲しいことです。だからあなたの苦悩もごもっともです。

ですが…あなた自身が苦しんでいるのならその苦しみから解放されてもいいのではないのでしょうか?お馬鹿さんのせいでいつまでも苦しむのはそれこそ馬鹿げてると僕は思うのですが。
いっそ転生に身を任せてみませんか?

…あなたが人を愛してくれるなら尚更です。



●身を捧げる思い
 ――転生。
 それは自らが願い、誰かに願われてこそ叶うこの世の摂理。転生を成すことは容易ではない。しかし、この世界の理の中に確かに存在する力だ。
 もし、人魚が未だ少しでも人間を信じていて転生を望むのであれば――。
「わたくしも、そのお手伝いが出来れば良いと思いますわ」
 秋人は己の中にある思いを言葉にする。
 祝はその声を聞き、僅かに双眸を細めた。秋人の言葉は優しい。けれども自分は残念ながらそういった思いを紡ぐのが苦手だ。
 こういった言い方しかできませんが、と前置きをした祝は人魚を振り仰ぐ。
 宙を泳ぐように浮いている人魚、桜夜。
 その名に相応しい桜の花が夜の狭間でひらひらと舞っている。
「不老不死は人間の欲しいものの中でも上位ですからね……あなたを食べようとしたのはご馳走を目の前にして我慢できなかったお馬鹿さんです」
 祝の告げたことは愚かな選択をした人間への誹り。
 そして、これまで人魚に近付いた多くの人間がそちら側であるのだろう。そのことは変えられず、人魚は数多の心の傷を負ってきた。
「お前も、人の子は愚かだと知っているのか」
「ええ、悲しいことです。だからあなたの苦悩もごもっともです」
「わたくし達は貴女と戦うつもりはありませんの。喰らいたければ……好きなだけ喰らえば良いと思います」
 祝に続き、秋人もそっと頷いてみせた。
 きっと人魚はそれだけの仕打ちを受け、人は彼女の心に消えない傷を与えた。それだから、と秋人は桜夜に近付いた。
「ですが……人を喰らうのは、わたくしで最後にして頂けません事?」
 秋人は手を伸ばす。
 しかし、人魚はふわりと空に泳いで逃げた。近付くな、とその瞳は告げている。本当は優しく彼女を抱きしめてやりたかったが秋人の腕は空を切った。
 それでも秋人は呼びかけることを止めない。
「喰らう事で、貴女が天に……好きな方の元へとゆけるのなら……」
 それで貴女の心が晴れるなら。
「この身、いくらでも差し上げます。幸い、わたくしはいくら喰らっても無くなりはしませんもの」
 秋人は彼女を心から救えるようにと願い、微笑む。
「何を……」
 戸惑う人魚を前にして秋人は己の手首を切り、血を見せた。
「さあ、お食べなさい」
「……っ、その血を拭え。今すぐにだ」
 しかし人魚はその行為に怯えた。
 相対する者が自らを傷付ける様子など望んでいなかったのだろう。それに彼女は人が喰らいたいから喰っているわけではない。自分を喰らおうとする者を喰らい返すという性質を持っているだけ。
 秋人が人魚を食べようとしないのだから、その血に食欲など湧くはずがない。
「……鈴白くん、これを」
 祝は懐からハンカチーフを取り出して秋人の手首に結んでやった。じわりと滲む血は次第に止まり、痛みも収まってゆく。
 秋人の願いは聞き届けられなかった。だが、人魚の心には動揺が生まれている。
 血を拭え、と言ったのも優しさなのだろう。
 強い口調で律したのもまた、人の子――即ち、人間の姿をした者を心配するがゆえ。
 祝は人魚が救えると信じた。
 何故ならその心には他人を思う慈愛が宿っているからだ。疑心暗鬼と恐怖に押し潰されそうになっているとはいえ、善い心が完全に消えたわけではないようだ。
「……あなた自身が苦しんでいるのならその苦しみから解放されてもいいのではないのでしょうか?」
 祝は語りかけていく。
 こうなればただ正面から自分の抱く思いをぶつけていくのみ。
「お馬鹿さんのせいでいつまでも苦しむのはそれこそ馬鹿げてると僕は思うのですが」
 だからいっそ転生に身を任せてみないかと祝は願う。
 秋人も手首を押さえ、祝の言葉に同意を示す形でこくりと首を縦に振った。そうして祝は祈るように静かに告げる。
「……あなたが人を愛してくれるなら尚更です」
 人魚がまた、真の意味で人を愛おしいと思えるようになって欲しい。きっと、転生こそがその道筋になるのだから。
 人魚がどのような路を選び、何を決断するのか。
 その結末を見届けると決めた二人は思い悩む桜夜の姿を暫し見つめていた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

楠樹・誠司
――ひとの子、ではありませぬ

武器を置き
一定の距離を保ち真の姿へ
全身に浮かぶ隈取り
芽吹く、息吹く――身体中から枝葉を茂らせ
己がひとならざるものであると示す為

刹那
『糸』に、僅かに触れた

……『静寂の樹』は
人々に自身の枝葉を分け与え続けて居りました
どうか、ひとよ、倖あれかしと
けれど……私が肉のからだを持ち得て居たなら、と
貴女の想ひを受け……ずっと、考えて居りました

恩愛故に嘆き
孤悲故に喰ろうた貴女を
……私は、赦しませう

桜夜、……儚きもの、うつくしいきみよ
其の名を贈った彼の人と貴女の輪廻の旅路が
『あい』に満ち溢れたものでありますやうにと
私は願い、祈りませう

手を差し伸べる
其の温度を、彼女は知って居る筈だから



●繋がる糸
「……人の子よ、」
「――ひとの子、ではありませぬ」
 猟兵達に呼び掛ける人魚。対する誠司は武器を置き、瞼を閉じた。
 不思議そうに瞳を瞬く桜夜。
 彼女に近付き過ぎぬよう距離を取り、彼は己の真なる姿を解放してゆく。
 途端に全身に浮かぶ隈取り。
 芽吹き、息吹く――身体中から枝葉を茂らせた誠司は其の身を以て、己がひとならざるものであるのだと示した。
「いいや、人の子よ。人の形を成していたもの、よ」
 人魚は頭を振る。
 彼女にとって真に人間であるか否かは重要ではない。自分に近付く者は全て喰らうもの。そして誰かに己を喰らわせる為に訪れたものだ。
 きっと嘗てそういった者がいたのだろう。優しく近付き、人魚を慈しみ――己ではなく病気の伴侶に、或いは子供に肉を喰らわせようと狙う哀しきものが。
 感覚的にそれを察した誠司の枝葉が揺れる。
 刹那、『糸』に僅かに触れた。
 誠司は言葉を紡ぐ。嘗ての自分と、今の人魚を僅かに重ね合わせて。
 静寂の樹。
 其れは人々に自身の枝葉を分け与え続けていた。
 どうか、ひとよ、倖あれかしと。
「けれど……私が肉のからだを持ち得て居たなら、と貴女の想ひを受け……ずっと、考えて居りました」
 人魚は身体を持っているがゆえに悩み、誠司は持っていなかったがゆえに心を痛めた。
 恩愛故に嘆き、孤悲故にひとを喰らった人魚。
 立場も姿も違う。然れど、抱く悲しみのかたちは何処か似ている気がした。
「貴女を……私は、赦しませう」
 罪は確かに其処にある。
 それでもただ喰らわれたくなかった、生きたかったのだという思いは否定などしたくはない。其れ故に誠司は人魚にそう告げた。
「桜夜、……儚きもの、うつくしいきみよ」
「断罪もしない、喰らいもしない。ならばお前は、何を我に求めるんだい?」
 誠司が桜夜の名を呼ぶと、静かな疑問の声が返ってくる。
 望むものは己の為になる物事ではなく人魚自身の未来だ。このまま此処に留まり続ける以外に選べる路もあるのだ、と誠司は示したかった。
「求むる事はありませぬ。ただ、其の名を贈った彼の人と貴女の輪廻の旅路が『あい』に満ち溢れたものでありますやうに――」
 ただ願い、祈る。
 たった其れだけの事なのだと語り、誠司は手を差し伸べた。
 其の温度を、彼女は知って居る筈だから。
「…………」
 人魚は伸ばされた腕を取ろうとはしない。それでも、誠司を見つめる瞳の奥には僅かな戸惑いと――そして、憧憬にも似た感情が宿っているのが視えた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

樹神・桜雪
※絡み、アドリブ歓迎

ボクはあなたを食べに来たんじゃないよ
だって永遠の命なんかいらないもの
人魚に会いに来た。それだけだけ

ゆっくり歩いて近づきながら話をするね。
脅し文句は聞かない

今でも人間が好きなんだね
さっき少し嬉しそうにしてたじゃない
人のする事は時に残酷で手酷い裏切りだったりするけどさ、あなたに心からの好意を向けてくれた人もいたよ
『桜夜』って素敵な名前じゃないか
名前を贈ってくれるって、とても大切で心からあなたを思わなければ出来ないよ
あなたを食べようと偽りの優しさを向けた人は確かにいたけどそれだけじゃないよね?

ね、お姉さん
あなたの記憶にある人の子たちは本当に偽りの優しさしか向けてきてなかったの?


クロト・ラトキエ
最初の微笑み。穏やかな声音。
すぐさま拒絶と変わるのに…
それでも、帰れば何もしないと云う。

優しさなぞ程遠い己には、彼女の心溶かす言葉が浮かぶとも思えず。
…けれど猟兵ってのは、つくづくお人好しが多いですから。
救おうとするのでしょう?
ならば僕の仕事…
荒ぶる身を鎮めるのは、彼らが言葉と心を尽くし終えた後。

鋼糸に纏わす魔力は攻撃力へ。
引いて断つを狙うは血管等急所。
彼女が癒しを望むなら、苦しみは一時でも短い方が良い。

死にたくない――
当たり前だ。
どんな想いも、恩義も、愛も、生きたいという願いの前では塵芥。
それでも貴女は…
喰らいたく無かったのでしょう?

ご安心を。
不老不死など興味無いです。
貴女の道行きに比べれば



●揺らぎの桜
 最初の微笑み。穏やかな声音。
 その姿勢は拒絶へと変わったというのに、人魚は何もしてこない。
 此方から攻撃が向かぬからであるのだろう。だが、クロトにはそれが桜夜が人を愛しいと思う気持ちから来ている行動だと思えた。
 己は優しさになどは程遠い。自分をそう評価しているクロトは、彼女の心を溶かす言葉を持ち得ていない。けれど――。
(猟兵ってのは、つくづくお人好しが多いですから。救おうとするのでしょう?)
 そんな風に考え、クロトは人魚と近くにいる猟兵を交互に見遣る。
 彼の視線の先にいたのは桜雪だ。
「……人の子よ、お前達も我が目的で訪れたのかい?」
「ボクはあなたを食べに来たんじゃないよ」
 人魚が猟兵達に問う言葉に対して桜雪は否定の意思を返す。そしてゆっくりと歩いて近付きながら、自分の思いを話していく。
「だって永遠の命なんかいらないもの。人魚に会いに来た。それだけだよ」
「それ以上、近付くな」
 人魚から零れ落ちた脅しめいた声は聞かず、桜雪は宙を泳ぐ人魚との距離を詰めていく。その背を見守るクロトは敢えて何も言わない。
「近付くなと言っているだろう」
「ねえ、今でも人間が好きなんだね。さっき少し嬉しそうにしてたじゃない」
 更に人魚が言い放つが、桜雪は語り掛け続けた。
 人のすることは時に残酷だ。手酷い裏切りを受けることもある。けれど、心からの好意を向けてくれた人もいたはず。
「宵色の君に名付けられた『桜夜』って素敵な名前じゃないか。名前を贈ってくれるって、とても大切で心からあなたを思わなければ出来ないよ」
「…………」
 桜雪に対して人魚は何も答えない。それでも彼は言葉を続ける。
「あなたを食べようと偽りの優しさを向けた人は確かにいたんだろうけど、それだけじゃないよね?」
「逆だ。優しさは、それくらいのものだった」
 すると人魚は苦しみの方が多かったのだと話す。紛れもなく名前は贈られたものだ。されど、そのひとつに縋れというのか。たったそれだけでこの痛みと苦しみを、なかったことに出来るものではない。
 桜雪の問いかけを否定する桜夜。だが、それは彼女が僅かに過去を思い出している兆しにも見えた。成程、と静かに頷いたクロトは桜夜の心の動きに注目する。
 桜雪も人魚の胸の内に揺らぎを感じた。
「ね、お姉さん。あなたの記憶にある人の子たちは、本当に偽りの優しさしか向けてきてなかったの?」
「……わからない。思い出せない――」
 人魚は腕の中にある骨を掻き抱く。静かに見えてもその裡は冬の波のように荒れ狂っているのだろう。
 クロトは自身の仕事は皆が言葉と心を尽くし終えた後だと思っていた。
 だが、敢えて其処で口をひらく。
「死にたくない――当たり前だ。どんな想いも、恩義も、愛も、生きたいという願いの前では塵芥。それでも貴女は……」
「そうだよ、生きたいって願ったことは悪くないんだ」
 クロトの声を聞き、桜雪は桜夜の心に寄り添おうとする。そうしてクロトは自分が彼女へと抱いた疑問を言葉に変えた。
「……喰らいたく無かったのでしょう?」
「我は、本当は我、は……」
「ご安心を。不老不死など興味無いです。貴女の道行きに比べれば」
 己の葛藤と戦うように呻く桜夜。
 その姿を見据えたクロトと桜雪は静かに『そのとき』を待つことを決めた。きっともうすぐ、突破口が見えるはずだ。
 彼女の心が僅かでも綻ぶ、その瞬間が――。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

朽守・カスカ
どれほど、狂気と悲しみの果てに
今の君となってしまったとしても
君の心根の在り方は、優しさなのだろう

今だって、来るなと警告するばかりではないか
だから、ランタンはただ灯すだけ

全てが幸せだけで満たされることはない
だが、全てが哀しみだけで満たされることもない
与えられた名を美しいと想い
心穏やかに幸せな日々はあったのだろう

その不幸と悲しみをわかるだなんて
烏滸がましいことを言うつもりはない
されど私とて
人に心を育まれて
人を愛する人ならざる身だ

桜夜君を責めるつもりはない
ただ、放ってはおけないんだ

骸達に安寧が訪れるよう、弔わせておくれ
(そして、それは君の心にも)
迷わず、彼岸へ行けるよう
ランタンを標と灯しておく、よ


勾坂・薺
不老不死かぁ。うーん。
記憶があるのはここ二十数年の話だけど。
正直興味ないかなぁ。百年以上も経つとね。

だらだら過ごすのは好きだけど
だらだら生きるのは好きじゃないから。
やっぱりどこかで終わりがある方が
メリハリあると思うなぁ。

人間が好きなのに今のままじゃそれが無理なら
転生してくるのも良いんじゃない?それが出来るんだし。
実際人間って面白いし――あ、何か悪役っぽいな。
人間といえるかはわからないけど、
ほら、お試しでちょうど暇なわたしが話相手になれるし。
愚痴聞いてもいいし、
ここに来るまでの旅の話も出来るし。ほぼ寝てたんだけど。

それに、好きなものを嫌うのって疲れるし、勿体ないし。
……どう?その気になった? 



●灯火と言の葉
 空は完全に暮れ、深い夜の色が天涯を染めてゆく。
 片腕を上げたカスカは灯を宿したランタンを掲げた。淡い光が周囲をふわりと照らす様は宛ら、夜空に星がひとつ浮かんだかのよう。
 こっちが明るいかも、と灯火に引き寄せられたのか、カスカの隣には薺が立っていた。灯を掲げるカスカ。宙に舞う人魚を振り仰ぐ薺。そんな二人を見下ろした桜夜は静かな声色で問いかけてきた。
「人の子よ、お前達も我が目的で訪れたのかい?」
「目的って不老不死かぁ。うーん、正直興味ないかなぁ」
 薺はほんの少しだけ考えてから首を横に振る。人としての記憶があるのはここ二十数年の話ではあるが、もう生まれ落ちてから百年以上も経つ。今更、永遠の時になど無邪気な憧れを抱けない。
 カスカも不老不死には関心がないと示す。
 そして、カスカは人を喰らうという人魚の在り方について思う。
「どれほど、狂気と悲しみの果てに今の君となってしまったとしても、君の心根の在り方は、優しさなのだろうね。だって――」
 カスカは一歩、歩み寄る。
 すると人魚は骨を抱き、体を強張らせて制止する。
「近付くな」
「ほら、今だって、来るなと警告するばかりではないか」
 カスカはただランタンを掲げているだけ。対する人魚は此方が攻撃を行わないがゆえに何もしようとしてこない。
「そうそう、優しいよね。全部信じてよ、なんて言えないけどね。わたし達がそんなものを求めてきたわけじゃないことだけは知ってて欲しいな」
 カスカが人魚を優しいと語ったことに頷き、薺はひらひらと片手を振った。
 だらだら過ごすのは好きだけど、だらだら生きるのは好きじゃない。だからやっぱり、どこかで終わりがある方がメリハリある。
 きっと不老不死を求める人々はそんな想像も出来なかったのだ。しかし此処にいない人間について考えても仕方ない。
 カスカは瞳を人魚に向け続け、穏やかに語る。
「そう、だな。全てが幸せだけで満たされることはない。だが、全てが哀しみだけで満たされることもない」
「……それは、わかる。しかし我には哀しみの方が多かったんだ」
 カスカに対して桜夜は俯く。
 幸せを知っている気がする。それでも心に残ったのは傷と痛みばかり。
「それでも、与えられた名を美しいと想い、心穏やかな幸せを感じていた日々はあったのだろう?」
 問いかけるカスカは、思い出せぬという人魚の記憶をささやかに探る。
 返答はない。
 押し黙る姿から感じたのは深い苦しみ。決してその不幸と悲しみを理解できるだなんて烏滸がましいことは言えない。
 されどカスカとて人に心を育まれ、人を愛する人ならざる身。
 ただ影朧を屠って終わりになどしたくなかった。
 薺はカスカの抱く思いを何となく感じ取っていた。あんなに真剣であるのに、人魚の方は彼女の思いを解ろうとしていない。残念だなあ、と感じたことは言葉にしないまま薺は肩を竦める。
 そして、薺は臆面なく問う。
「人間が好きなのに今のままじゃ無理なら、転生してくるのも良いんじゃない?」
 それが出来るんだし、と軽く告げる薺。
 すると人魚はふるふると首を振った。したいと素直に願って出来るものならば縋っていたかもしれない。だが、心の奥底に宿る疑心が其れを是としない。
「……無理だ」
「うーん、自分で決めつけるのも良くないって。実際人間って面白いし――あ、何か今のやりとりってわたしが悪役っぽかったかな」
 小首を傾げる薺は、どうしたものかと考える。
「人間といえるかはわからないけど、ほら、お試しでちょうど暇なわたしが話相手になれるし。愚痴聞いてもいいし、ここに来るまでの旅の話も出来るし」
 ほぼ寝てたんだけどね、とちいさく付け加えた彼女の態度は極々自然だった。影朧と猟兵という立場の差を感じさせぬ、対等である口調。意識せずに発する薺の言葉は桜夜の興味を引くには十分なものだった。
「お前は面白いな。不老不死を求めてきたのではないことだけは、認めよう」
 それに其方の娘も、と桜夜はカスカを見遣る。
 しかし人魚は話し相手は要らぬと断った。ただ独りになりたいのだと望んでいると告げた彼女は、二人から視線を逸らす。
 カスカは敢えてその先を照らすようにランタンを掲げ直した。
「桜夜君を責めるつもりはない。ただ、放ってはおけないんだ。骸達に安寧が訪れるよう、弔わせておくれ」
 ――そして、それは君の心にも。
 カスカは言葉にしない思いを優しく揺らぐ灯に込めた。薺も視線を合わせようとしない人魚に向け、素直になって良いのだと伝える。
「それに、好きなものを嫌うのって疲れるし、勿体ないし」
 その際にちらりと桜夜が二人の方を見た。すかさず薺が薄く笑み、手招きをするような仕草で人魚を呼ぶ。
「……どう? その気になった?」
「…………」
「じゃ、考えて。それまで待ってるから」
 再びそっぽを向いた人魚は何も語ることはなかった。されど薺もカスカも、その返答を急がせるようなことはしない。
 カスカは薺の傍らでランタンの灯を示す。
 この灯火は導き。迷わず彼岸へ行けるようにと願う標だ。この明かりは君が心を決めるまで、ずっと灯しておく。
 だから、どうか――。
 そうして暫し、夜風に舞う桜花を仄かな灯火が照らしていた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ラナ・スピラエア
蒼汰さん(f16730)と

不老不死って、そんなに魅力的なんでしょうか…
変わりなく、永久になんて怖いと思います
変化して、成長して、大切な人と最期まで…
そう思う私は、変なんでしょうか

桜夜さん、と云うお名前はとても美しくて
その美しさには、確かに愛を感じます
名前って、最初に授かる愛の形なんですって
だから私は、全てが嘘だったとは思いたくないです

私の言葉は、信じられないかもしれないですけど
でも私達は、貴女のことを傷付けません
人を好きだと語る優しい貴女は、救われて欲しいと思います
そうです、きっと幸せな未来が待ってますから
だって独りってとっても寂しいです
永遠の人の温もりを、桜夜さんには知って欲しいです


月居・蒼汰
ラナさん(f06644)と

俺は不老不死なんてどうでもいいし
そうなりたい人の気持ちはわからない
でも、昔話を真に受けて人魚の肉を食べようとした人間がいたのなら
それは喰らわれて然るべきなんだろうな
…ラナさんがそう思うのは、変じゃないって思いますよ、俺は

あなたを助けたいと言った所で、信じて貰えるとも思えないけど
それでも俺達は…桜夜さん、叶うならあなたを救いたい
あなたをこんな寂しい場所に独りにはしておけない

この世界は影朧を転生させることが出来ると聞いています
もしも生まれ変われたら、きっと今度は人魚じゃなくて人として
人の子を愛することが出来るあなたを、愛してくれる誰かに出逢えるはず
俺はそう、信じたいです



●愛しき名
 桜夜の名を抱く人魚は問う。
 皆、不老不死などという世迷い言を信じて訪れたのか。皆、それを我に求めて喰らおうとするのか、と――。
 過去に刻まれた心の傷。愛しいと想ったひとに裏切られた哀しみ。それらが今の人魚をあのような疑心暗鬼と苦しみに陥らせているのだろう。
 人魚の言葉と思いを聞き、ラナは思わず呟く。
「不老不死って、そんなに魅力的なんでしょうか……」
 変わることなく永久に生き続ける身体。
 そんなもの、想像を馳せただけで怖いと感じてしまう。ラナは瞳を伏せ、ヒトであるもの普通を思う。
「変化して、成長して、大切な人と最期まで……そう思う私は、変なんでしょうか」
 ラナの声は弱々しく、すぐ傍にいなければ拾い上げられないほどの小さなものだった。しかし今の彼女の側には蒼汰が立っている。
 しかとラナの声を聞いた彼は、大丈夫だと教えるように一歩だけ寄り添う。
「……ラナさんがそう思うのは、変じゃないって思いますよ、俺は」
 他の人がどう思うかは分からない。
 それでも自分とラナの気持ちは同じなのだと伝えたかった。蒼汰だって不老不死なんてどうでもいいと思える。そうなりたい人の気持ちは理解できない。
 もし、昔話を真に受けて人魚の肉を食べようとした人間がいたのなら――。他を喰らってまで願いを叶えようとした者がいるのであれば、彼らは喰らわれ返されて然るべきなのだろうとも思えた。
 確かに人魚が人を殺めたのならば罪だ。
 されど、理由があった。ただ殺戮を行ったのではないと知った蒼汰とラナは人魚の心に寄り添いたいと願う。
「……桜夜さん」
「近付くな、人の子よ」
 ラナが人魚の名を呼ぶと、彼女は淡々とした口調で制した。ラナはそんなことはしないと自ら動かぬことで示し、裡に浮かんだ思いを声に乗せていく。
「そのお名前、とても美しいです。確かな愛を感じます」
「――愛?」
 ラナの言葉に人魚は僅かに怪訝な表情を浮かべた。名付けてくれた人物のことを人魚は思い出せないでいる。其処には戸惑いが混じっているように思えた。
「名前って、最初に授かる愛の形なんですって。だから私は、全てが嘘だったとは思いたくないです」
 譬え人間が人魚を喰らおうとしたとしても、愛がなかったわけではないはず。
 想像でしかないが、其処に込められた親や慈しみだけは忘れないで欲しい。ラナがそう願う中、蒼汰も思いを伝えていった。
「あなたを助けたい……と言った所で、信じて貰えるとも思えないけど」
「ああ、人の子は何もかも偽る」
 蒼汰に対して人魚は人間は信じるに値しないという旨を告げ返す。強い拒絶の意思が見えたが、蒼汰は後込みすることなく話していった。
「それでも俺達は……桜夜さん、叶うならあなたを救いたい」
 蒼汰はしっかりと名を呼ぶ。
 それはラナがあの名前に愛を感じると言っていたから。そうでなくとも、蒼汰自身も人魚個人のことをただの肉だなどと見ていないと表したかったからだ。
 不意に夜風が吹き抜け、ラナと蒼汰、そして桜夜の髪をそっと撫でていった。
 間を横切っていくような風は見えぬ隔たりのように思える。しかし、ラナ達は諦めたりなどはしない。
「私の言葉は、信じられないかもしれないですけど……でも私達は、貴女のことを傷付けません」
「帰ってくれ、頼む」
 ラナの呼びかけに対する返答は短かった。
 頼む、というのは懇願なのだろう。己を傷付けぬ相手を人魚が喰らうことはない。だからこそ言葉だけで決裂を望んでいる。
 きっとそれも桜夜が心の奥底では人を好きなままでいるからだ。そんな優しい彼女であるからこそ救われて欲しい。ラナと蒼汰は人魚をそれぞれの瞳に映す。
「いいえ、あなたをこんな寂しい場所に独りにはしておけない」
 蒼汰は決して此処を動かないと宣言する。
 人魚を害したいのではない。この世界の理に則って転生の路を選んで欲しいからだ。
 桜夜は相手を『人の子』と呼ぶ。
 それは自らを人魚として区切っているからに違いない。だから、もしも生まれ変われたら、きっと今度は人魚ではなくてひとりの人として――そう祈らずにはいられない。
「そうです、きっと幸せな未来が待ってますから」
 独りはとても寂しい。
 たったひとりでこんなに暗い夜の狭間に立っていたとしたら、ラナとて心が折れていたかもしれない。けれど、今は蒼汰がいるから独りではない。
「永遠の命ではなくて、人の温もりを、桜夜さんには知って欲しいです」
「人の子を愛することが出来るあなたを、愛してくれる誰かに出逢えるはず。俺はそう、信じたいです。だから――」
 どうか、その心が鎮まりますように。
 ラナと蒼汰は持てる限りの思いを桜夜に向けた。人魚は俯き、何も答えないまま押し黙ってしまう。それはきっと迷っているからだ。
「我の名に、愛が……」
 人魚が呟くと再び風が巡り、幻朧桜の花弁がひらひらと舞い散る。
 まるでそれは美しい桜の名を抱く人魚が零した、惑いの涙のようだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミルラ・フラン
あたしは半分ヒトの子じゃないんでね。もうちょっと近づかせてもらうよ
(指先でロザリオを弄りながら【存在感】と【言いくるめ】で話しかけ)

桜夜――素敵で綺麗な名前じゃないか
オヤジに投げやりな名前を付けられた身からすれば羨ましい限りさ

彼女が攻撃してくるようなら、ユーベルコードで自分を殴って治す
ああ、他の猟兵が既に傷つけてたなら、彼女を……いや傷つけないって、疑いの目線はよしておくれ

あたしはね、アンタが転生……再び生まれて、今度こそ痛みに苛まれない人生を送れるように祈りに来たんだよ
こう見えても尼でね
突然現れた人間にこう言われて信じられんかもしれんが、あたしからアンタに【祈り】を捧げさせちゃくれないかい?


ユヴェン・ポシェット
攻撃は決してしない。
言葉を尽くすのは得意ではないが、悲しみから心を救う可能性があるのなら諦めたくはないからな

本当に、誰もがそうなのか?
桜夜…アンタの事を『人魚』や『肉』という存在としか見ていなかったのだろうか。
確かにそういう人間もいるだろう。ただそんな人間ばかりだけではないんだ。

少なくとも俺達はそうじゃない。
それに今ここに来た奴らは、そもそも不老不死に興味など無い奴が多いだろう。
アンタ自身に興味があって話したい、知りたいという気持ちはあるがな

言葉で伝えるのは、難しいな。

…良かったら、一曲。聴いてくれないか?
少しでもアンタの苦しみが軽くなる様に…。
小さなハーモニカを取り出し、優しい曲を即興で演奏


ナターシャ・フォーサイス
WIZ
貴女が桜夜様なのですね。
使徒として、貴女もまた導かねばなりませんが…その前に。

何故、貴女を食らう必要があるのでしょう。
私は使徒、来るべき時まで役目を果たすべき存在なのに。
刻限があるからこそ、不老不死など不要と言うのに。
むしろ、我らが果たすべきは救済。
生けるものも哀れな魂も、救済を齎し楽園へ誘わねばならぬのです。
さぁ、貴女もまた…悪夢から醒める時間です。
最早、傷付くことなどないのです。

もし、貴女が我々を襲うのならば。
私も天使を呼び応じましょう。
ですが、貴方の傷だけでも癒しましょう。
貴女が傷付くのは、もう十分なのですから。
貴女が望むなら、その骨の山も…正しく在るべき場所へと導きましょう。



●祈りの音
 ――人の子よ。
 人魚は猟兵達にそう呼びかけ、自分と此方に一線を引いている。
「あたしは半分ヒトの子じゃないんでね。もうちょっと近づかせてもらうよ」
 ミルラはその言葉を聞き、指先でロザリオを弄りながら人魚に歩み寄っていく。だが、桜夜はふわりと空を泳いでミルラから離れた。
「……人の姿をしている者をそう呼んでいるだけだ。たとえお前が何であっても馴れ合わない」
 人魚は冷たく言い放つ。
 ユヴェンはその姿を捉えながら武器を置いた。
 彼女に対して攻撃は決して行わないと決めていた。人魚からは不思議な哀しみと、静かな怒りのような感情が見て取れる。
 深い悲しみから心を救う可能性があるのならば諦めたくはない。それがユヴェンの確固たる思いだ。
 ナターシャも骨を掻き抱く人魚を見つめ、その名を呼ぶ。
「貴女が桜夜様なのですね」
 救済の使徒として、ナターシャは彼女もまた導かねばならない対象だと認識する。だが、その前に告げておきたいこともあった。
「お前達もどうせ我を屠るか、肉を狙ってきたのだろう」
 人魚からの諦観混じりの言葉にナターシャは首を傾げる。
 何故、貴女を食らう必要があるのでしょう、と。
「私は使徒、来るべき時まで役目を果たすべき存在なのです。刻限があるからこそ、不老不死など不要と言うのに」
「そうだね、あたしだって不老不死なんて望んじゃいないよ。桜夜――素敵で綺麗な名前じゃないか」
 オヤジに投げやりな名前を付けられた身からすれば羨ましい限りだと続け、ミルラも人魚の問に否だと返す。
 彼女が攻撃を行ってくるのならばミルラにも対抗策があったが、此方が動いていないので人魚はただふわふわと宙を泳いでいるだけだ。
 ユヴェンは人魚からの問いかけに少しばかり考え込み、逆に質問を投げかける。
「本当に、誰もがそうなのか?」
「ああ、そうだ」
「桜夜……皆がアンタの事を『人魚』や『肉』という存在としか見ていなかったのだろうか。確かにそういう人間もいるだろう。ただそんな人間ばかりだけではないんだ」
 ユヴェンは、少なくとも自分達はそうではないのだと伝えたかった。
 先程にナターシャやミルラが告げた通り、此処に来た猟兵はそもそも不老不死に興味などない者達ばかり。
「俺自身にはアンタに興味があって話したい、知りたいという気持ちはあるがな」
 それは純粋なる思いだ。
 人魚の肉や不死の話を聞いたからではないのだ、とユヴェンは懸命に告げてゆく。其処へナターシャも自分には役目があるのだと話した。
「むしろ、我らが果たすべきは救済。生けるものも哀れな魂も、救済を齎し楽園へ誘わねばならぬのです。さぁ、貴女もまた……悪夢から醒める時間です」
 最早、傷付くことなどない。
 手を差し伸べたナターシャは人魚を誘う。しかし桜夜は首を縦に振ろうとはしない。
「口ではなんとでも言えるだろう」
 彼女達の言葉を一蹴してしまうほどに人魚の心に巣食う疑心は深いようだ。
 それでもナターシャは諦めず、自らの力を示してみせると誓う。
「もし、貴女が我々を襲うのならば。私も天使を呼び応じましょう。ですが、貴方の傷だけでも癒しましょう」
 貴女が傷付くのはもう十分なのですから、とナターシャは真っ直ぐに人魚を見つめた。されど此方が攻撃をしない限り向こうが襲ってくることはない。
 人魚は骨を抱き、ただ「帰ってくれ」と告げ返すだけ。
「貴女が望むなら、その骨の山も……正しく在るべき場所へと導きましょう」
「我はそんなことを望んでいない」
 ナターシャの呼びかけは桜夜の心には届かないまま。
 ユヴェンは頭を振り、そのように伝えるだけでは足りないのだと察した。言葉で伝えるのは難しい。
 救いたい。救済する。
 人魚にとってはそれらはただの上っ面の言葉にしか思えていないのだろう。ユヴェンは人魚へ思いを伝える方法はないのかと思い悩む。
 そんな中でミルラが更に影朧に近付いていった。距離は縮まらないが、それでも近くにいることが心の距離を埋めるかもしれない。
「あたしはね、アンタが転生……再び生まれて、今度こそ痛みに苛まれない人生を送れるように祈りに来たんだよ」
 こう見えても尼なのだと話したミルラはロザリオを両手で包み込む。
 突然現れた人間が信じられないことはミルラにも分かる。そうであっても、自分達が出来ることを尽くしたい。
 ナターシャも頷き、ミルラ達と似た思いを抱いているのだと伝えていった。
「必ず、救済します」
「だからさ、あたしからアンタに祈りを捧げさせちゃくれないかい?」
 ミルラは両手を重ね、瞼を閉じる。
 人魚も猟兵も口をひらくことなく、辺りに静寂が満ちていった。その最中にハーモニカの音色が響いた。それはユヴェンが演奏する穏やかな即興曲だ。
(――少しでもアンタの苦しみが軽くなるように)
 言葉で足りぬのならば音楽で伝えよう。
 幻朧桜の花が散る中、ユヴェンが奏で続ける曲はやさしく響き渡っていった。
 人魚の心はきっと癒せる。
 誰もがそのように信じて祈り、願い、思いと音を重ねていた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

エドガー・ブライトマン
ねえ、ヨーコ君(f12822)
ひとは時に愚かだ。自分のために他人を傷つけてしまう
それでも私はあの人魚君に声をかけてやれない

私はひとを守る王子様だからさ
私たちの成すべきことを成す

“Hの叡智”――状態異常力を重視
眠くなる花吹雪への対策さ
戦いの最中に寝るワケにはいかないもの
ヨーコ君が寝てたら起こしてあげる

対策が足りず、私が寝始めたら
オスカーがいつもみたいに起こしてくれるハズ
頼むよ、オスカー

攻撃は剣で受け流し、ヨーコ君を《かばう》
ひとを守る王子様と言ったでしょう

人魚君と間合いを詰められたなら、ヨーコ君とタイミングを合わせ
《早業》《捨て身の一撃》
剣に《破魔》の力を乗せて、人魚君へ

ごめんねなんて言わないさ


花剣・耀子
エドガーくん(f21503)の云うことは、
心根は違っても、きっと、想いを同じくするもの。
そうね。
今更、掛ける言葉なんか持たないわ。

あたしは、理不尽にヒトを喰うものを赦さない。
お仕事よ。

花吹雪を斬り拓きましょう。
人魚までの道を開けるわ。

黒耀を握って、痛みを起点に意識を保つように。
……どうにもならなかったら、フォローはエドガーくんにお任せするわね。
逆にツバメさんだけでは大変そうだったら、起こしに行きましょう。

エドガーくんとタイミングを合わせ、
花吹雪を抑えた白刃を人魚へと。

何が間違っていたとか、何が正しかったとか。
そんなことはどうでもよいのよ。
……どうでもよいと、想わないひとに掬い上げて貰いなさい。



●刃に籠めた思い
 人魚はとても哀しげな瞳をしていた。
 エドガーは近付くなと牽制する人魚を見つめ、隣に立つ耀子に呼び掛ける。
「ねえ、ヨーコ君」
 彼は語る。
 ひとは時に愚かだ。自分のために他人を傷つけてしまう。彼女もまたその被害者であるのだろう。それでも――。
「私はあの人魚君に声をかけてやれないよ」
「エドガーくん……。そうね、今更、掛ける言葉なんか持たないわ」
 耀子も彼の思いがよくわかった。互いの心根は違っても、きっと想いを同じくしている。相手が人を殺めているのが事実であり、影朧――オブリビオンであるならば二人が取るべき行動はひとつしかない。
「私はひとを守る王子様だからさ。私達の成すべきことを成そう」
「ええ、あたしは、理不尽にヒトを喰うものを赦さない。お仕事よ」
 エドガーと耀子はそれぞれに剣を構え、宙を泳ぐ人魚に向けて駆け出した。其処に敵意を感じ取った人魚は片手を掲げ、桜の花吹雪を巻き起こす。
「人の子よ、やはりお前達も……」
 其処から続く言葉はなかった。舞う花は此方を眠らせて無力化させる為に巡っていくが、エドガーは深呼吸をして、その軌道を読む。
 幾度か瞬き、祖国の名を心の内で唱える。そうすれば彼の裡に決して揺らがぬという意思が巡った。
「これは厄介だね。けれど戦いの最中に寝るワケにはいかないもの。ヨーコ君、キミが寝てたら起こしてあげるよ」
「あら、それは助かるわ。その時はよろしくね」
 エドガーからの呼び掛けに答えた耀子は花吹雪を斬り裂く。そのまま拓いてゆくのは人を拒む人魚までの道。
 巡る桜の花は二人の剣戟によって散らされる。されど人魚とて近付かれまいと抵抗し、更に花を生み出していった。
「おっと……」
 不意にエドガーがよろめく。それは痛みを受けたわけではなく、新たな微睡みの力がその身を包んだからだ。すると、すかさずツバメのオスカーが彼の頭を突く。
 ちゅちゅん、と敢えて鋭く突かれた痛みで彼の瞼がぱちりとひらいた。
「頼もしいツバメさんね」
 耀子は少し微笑ましくなりながらも、平静を装ってその様子を見遣る。そして齎される微睡みに対して自ら黒耀を握り、痛みを起点に意識を保った。
 これで花の誘いを断ち切れたと思った、次の瞬間。
「――ヨーコ君!」
 不意にエドガーの声が響いたかと思うと、続けて耀子に水塊が解き放たれた。
 避けられない。故に一度は受けるしかないと察した耀子だったが、迫る水に対してエドガーが身を挺する。
 剣で水塊を斬り裂き、水滴が辺りに散った。
 その際の衝撃がエドガーをまともに穿った様子を耀子は間近で見ていた。
「エドガーくん、身体は――」
「ひとを守る王子様と言ったでしょう?」
 大丈夫かと続けようとしたところへ言葉が重ねられる。薄く微笑んだ彼は体勢を立て直して、平気だと頷いた。
 其処にはこれまで汽車や初めての神社にはしゃいでいた面影は見えない。
 彼もまた、自分と同じ戦う者なのだと改めて感じた耀子は機械剣を胸の前に掲げた。未だ散る桜は減らない。
 それでもエドガーとならばこの花の奥へと続く活路を見出せそうだった。
 そして、二人は視線を交わしあう。
「行きましょう」
「ああ、キミに合わせるよ」
 呼吸が重なる。そんな感覚と共に二人は再び駆けた。
 ――散りなさい。
 静かな宣言が成され、花吹雪が幾重もの斬撃で斬り落とさる。其処から白刃が人魚へと解き放たれる。それと同時に剣を振るったエドガーが破魔の力を宿した。
 微睡みを誘う花が貫かれ、目の前に散らした花弁の路が出来上がっていった。即座に人魚との距離を詰めたエドガーは人魚から放たれた水塊を弾き、捨て身の勢いで相手に肉薄した。
「ごめんね、なんて言わないさ」
「……っ、人の子め……」
 人魚の腹に剣の切っ先が触れて血が滴った。其処へ耀子による白刃が重ねられ、人魚の傷口を抉っていく。
 呻きながら逃げるように宙に舞い上がった人魚は腹部を押さえた。
 耀子は桜夜を見上げ、眸を鋭く細める。
「何が間違っていたとか、何が正しかったとか。そんなことはどうでもよいのよ」
「そうだね、私達は……」
 ただ、悪しき行いをしたものを斬り伏せることしか知らない。
 エドガーが続けた言葉の後、耀子は後方に引く。確かに自分達の刃は届いた。だが、他の仲間達は武力ではない方法で人魚を還そうとしている。
 どちらの方が正しいと言えるものではない。ゆえに耀子達は仲間の意志も尊重すべきだと感じて一度、攻撃の手を止めた。
「だからね……どうでもよいと、想わないひとに掬い上げて貰いなさい」
「キミが何を選ぶかは、キミ次第だよ人魚君」
 耀子とエドガーは真っ直ぐに人魚を見つめた。もし彼女が滅ぶ道を選ぶのならば、自分達がこの剣と業で斬り伏せる。
 そっと、そのように誓いながら――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

六条寺・瑠璃緒
ジャック(f16475)と

嗚呼、此れは不幸な御話だ
夜桜、だっけ
そう身構えなくて良い
…僕は神だから不老不死等奪わなくても持ってゐる

ジャックは折り合いをつけているようだけれども
ヒトへの愛は、どう捉えたものだろうね
僕もヒトが好きだよ
其れでも僕も…神も云うなれば都合よく使われてきた存在だろう
困ったときの神頼みだとかね

生きたい、否、生きたくなくとも苦痛は耐え難い
憂世に…苦海に溺れた者が息をする為に藁にも縋る
其れを咎めるつもりはないよ
ただ、もう休もうか
幸い君には其れが許されて居る
次は苦海を離れて生きることも出来るかも知れないし、少なくとも愛する者を喰らう今生よりはましだろう

僕にも…其の道があれば良かったよ


ジャック・スペード
瑠璃緒と(f22979)

夜桜と言ったか、すこし、話をしないか
傷付けるつもりはない、と武器を棄てて

……俺もヒトが好きだ
だから、アンタの気持ちは想像出来る
信じたモノに裏切られて、辛かっただろうな
でも、如何すべきだったのかは分からない

積み上げた骨の数だけ
きっと、アンタも傷付いたのだろう
叶うことなら、ひとりにして遣りたいが……
既にアンタの在り方は歪んでいる

自分でも気付いているのだろう
このままだと、ヒトが好きだと謳う口で
永遠にヒトを喰い続けるハメになると
夜桜、アンタはそれで良いのか?

瑠璃緒が云うように、そろそろ休んだ方が良い
今世で辛い思いをした分、次に転生した先では
きっと幸せになれると、そう願っている



●迷う心、揺らめく正否
 此れは不幸な御話だ。
 瑠璃緒とジャックが感じたのは人魚が辿ってきた生の苦しみと哀しみ。
「夜桜、だっけ」
「夜桜と言ったか、すこし、話をしないか」
 呼び掛けた二人に対して人魚は身体を強張らせ、拒絶の意思が混じった視線を向け返してきた。そして彼女は声を絞り出す。
「近付くな」
「そう身構えなくて良い。……僕は神だから不老不死等奪わなくても持ってゐる」
「ああ、俺達は肉を求めて来たのではない」
 瑠璃緒は首を横に振り、ジャックは傷付けるつもりはないのだと武器を棄てた。リボルバーが地面に落ちる硬質な音が人魚の耳にも届く。
 ジャックは、聞いてくれ、と宙を游ぐ桜夜に呼び掛ける。返ってきたのは言葉ではなく疑いの視線。その眼差しを受け止めたジャックは語りかけた。
「……俺もヒトが好きだ。だから、アンタの気持ちは想像出来る」
 信じたモノに裏切られて辛かっただろう。
 愛しいと思ったからこそ、悲しみが深く巡ったに違いない。あまつさえ愛しき対象に喰らわれそうだったのならば――。
「でも、如何すべきだったのかは分からない」
 ジャックは率直な思いを言葉にする。
 風が吹き抜け、幻朧桜の花弁がはらはらと舞っていった。
 夜の色は深くなるばかり。このまま時が巡れば更なる昏さが水面に宿るのだろう。
 死にたくないが故に人を喰らい返した人魚。
 果たしてその選択が正しかったのか、間違っていたのか。それは到底、答えを出せるような事柄ではない。
 瑠璃緒はジャックの言葉を聞き、折り合いをつけているような彼と、付けられないでいる人魚を対比する。
 ヒトへの愛はどう捉えたものだろうか。罪は罪だが、その正否など決められぬということは瑠璃緒にも分かっていた。
「僕もヒトが好きだよ。其れでも僕も……神も云うなれば都合よく使われてきた存在だろう。困ったときの神頼みだとかね」
 それだからきっと、ほんの少しだけ自分達は似ている。
 瑠璃緒は静かに眼を閉じた。
 ――生きたい、否、生きたくなくとも苦痛は耐え難い。
 其処から逃避するために取った行動を誰が責められようか。瑠璃緒もジャックも人魚に説教をしにきたわけではない。
 意志も考え方も、在り方も違う者の心にどう寄り添うか。
 明確な答えはないと識っていても己の言葉を向けている。
「憂世に……苦海に溺れた者が息をする為に藁にも縋る。其れを咎めるつもりはないよ」
「積み上げた骨の数だけきっと、アンタも傷付いたのだろう」
 瑠璃緒に続き、ジャックも人魚を慮った。
 対する桜夜は俯く。
「ああ、もう傷付きたくはない。傷付けたくもないんだ」
 独りにしてくれ、と人魚は再び告げた。
 しかしジャック達は其処を動こうとせず、それは出来ないと示す。
「叶うことなら、ひとりにして遣りたいが……既にアンタの在り方は歪んでいる」
 おそらく彼女はもう自分でも気付いているのだろう。
 このままだと『ヒトが好きだ』と謳う口で、永遠に愛しき存在を喰らい続けることになる。未来永劫変わらずに、歪な人魚のままで――。
「夜桜、アンタはそれで良いのか?」
「…………」
「答えが出せないのは、解る。ただ、もう休もうか」
 ジャックからの問いかけに人魚は無言のまま。瑠璃緒は穏やかな声色で桜夜の進むべき、望まれている路を示してやった。
 幸いにも、自ら望めばそうすることが赦される。
 次は苦海を離れて生きることも出来るかもしれない。少なくとも、愛する者を喰らう今生よりは良い未来が待っているはずだ。
 そのように語る瑠璃緒に同意する意思を見せ、ジャックも言葉を紡ぐ。
「瑠璃緒が云うように、そろそろ休んだ方が良い」
「それでも、我は――……」
 桜夜は俯いたまま顔をあげようとはしなかった。
 しかし瑠璃緒にはその心の奥に新たな葛藤が生まれていることを悟る。完全に心を動かせずとも、綻びが確かに見えた。
 ならば後は桜夜の言葉と思いが紡がれるのを待つだけだ。
 心を救うための光明は射している。
 たとえそれが僅かな兆しであったとしても――ただ昏い闇に閉ざされる未来はきっと、もう来ない。そう信じたジャック達は静かに桜夜の姿を見つめ続けた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫
アドリブ歓迎

さよ、
綺麗な名前
櫻宵と同じ名
僕と同じ人魚
櫻、刀を抜かないで

傷つけないと白烏とも約束した
僕は君を食べたりしないよ
もう君に人を食べさせない

君は人が好きなんだね
僕もすき
昔は
僕を食べようとする人もいた
僕は歌うための人魚で誰もが僕を見世物だとみてた
人が好きなのに自分ではなくてものと見られるのは辛いこと
好きな人を嫌いになるのも辛いこと
けど人はそればかりでは無いよ

何とか言葉を重ねて気持ちを伝えられたならと願い
子守唄のように蜜を歌う
好きな存在を食べ続けるなんて哀しいよ
僕は食べられても攻撃しない

独りでいなくていい
桜の美しい良い夜
桜海にのってまた
巡っておいで
今度は哀しみを背負わなくていいように


誘名・櫻宵
🌸 櫻沫
アドリブ歓迎

あたしと同じ名前なんて奇遇だわ
美しい人魚で嬉しいわね
わかってるわよ
愛しいリルと同じ人魚
食べたりしないわ

いざと言う時リルを守るため
桜吹雪にオーラ防御の桜を混ぜて散らしておく

死にたくないから、殺した
食われたくないから、食べた
そうしてしまったのだから
あなたはあなたを食べようとした人と同じ
それとも好きだからお腹におさめたのかしら?

(愛は蕩けるように美味しいの
死ぬ程甘い蜜漬け月下美人のように)

ひとは人を食らうものを放っておいてなんてくれない
あなたにかけられた言葉の数々は
あなたをただの肉や人魚だと見てのものでないことは理解して

リルは優しい
けど愛する人魚を食らうなら
私はあなたを許さない



●夜と宵と櫻の人魚
 桜夜――さよ。
 桜花が舞う夜の彩を宿す人魚に与えられた名前。それはとても綺麗だと思った。
「櫻宵と同じ名前、僕と同じ、人魚……」
「あたしと同じ名前なんて奇遇だわ。美しい人魚で嬉しいわね」
 リルがちいさな声を落とすと、櫻宵は口許に手を当てて笑む。続けてリルは宵色の鱗を持つ彼女を見つめ、櫻宵へとそっと願う。
「櫻、刀を抜かないで」
「わかってるわよ」
 大丈夫よ、と櫻宵は答える。
 愛しいリルと同じ人魚を食べたりしない。櫻宵が告げ返してくれた言葉に安堵を覚えたリルはふわりと宙を泳ぎ、桜夜と同じ高さまで昇っていく。
「近付くな人の子……いや、我と同じ人魚か」
「そうだよ、同じ。僕は君を食べたりしないよ」
「ならば我を独りにしてくれ」
 桜夜はリルを見つめた後、ふいと視線を逸した。同族のよしみであるのか彼女がリルの言葉を疑うことはなかった。
 だが、その心は閉ざされているようだ。
 櫻宵は二人の人魚を振り仰ぎ、己の周囲に桜吹雪を纏う。櫻宵が散らせる淡い彩の花と、その場に咲く幻朧桜の色濃い桜花。それらが風を受けて舞い上がり、人魚達の周囲に舞っていった。
「駄目だよ、もう君に人を食べさせたくないんだ」
 語りかけるリルは先程に還した白鴉との約束を思う。彼らに傷つけないと誓ったから、リルは決して人魚に攻撃しようとはしない。
「…………」
「君は人が好きなんだね。僕もすき」
 押し黙る桜夜にリルは語りかけていく。返事がなくても構わない。きっと彼女は独りになりたいと言いながらも孤独を恐れているから。
「昔は僕を食べようとする人もいたよ。僕は歌うための人魚で、誰もが僕を見世物だとみてた。人が好きなのに自分ではなくて……ものだって、見られるのは辛いことだよね」
 リルは自分の過去を語る。
 その声に耳を傾ける櫻宵は自分と出会う前のリルの暮らしを思った。境遇も生まれた場所も違えど、人魚という存在がどのように見られるかは何故か似通っている。
 美しい鱗も不死を得られると囁かれる肉体も、すべて彼や彼女にとっての不幸しか呼ばない。そして、目の前の桜夜は悪意を受けて狂気に陥った。
 櫻宵も桜夜を見つめ、己の言葉を向けていく。
「死にたくないから、殺した。食われたくないから、食べた。あなたはそうしてしまったのだから、あなたはあなたを食べようとした人と同じよ」
「……違う」
「違う? それなら好きだからお腹におさめたのかしら?」
 弱々しく返ってきた言葉に対して櫻宵は問いを投げかけた。責め立てるような口調ではないのはただ聞いてみたかったゆえ。
「わからない、思い出せないんだ……。それでも我は、人が……」
 人魚は首を振る。
 本当に分からないのだと察した櫻宵は、そう、とだけ頷いた。
 嗚呼、愛は蕩けるように美味しいのに。
 死ぬ程に甘い、蜜漬け月下美人のように――。
 櫻宵がちらりと視線を向けた先には自らが密かに花と称するリルの姿がある。櫻宵から眼差しが向けられていると気付きながら、リルは人魚を見つめ続けた。
「好きな人を嫌いになるのも辛いことだよね。けど、人はそればかりでは無いよ」
 優しさ。残酷さ。
 愛しいのは人が正と負、何方も持っているから。
 リルは言葉を重ね、自分の気持ちを伝えたいと願った。けれどきっと言葉だけでは伝えきれない。それなら――。
 花唇をひらいたリルは、子守唄のように蜜の歌を紡ぎ始めた。
 好きな存在を食べ続けるのは哀しい。
 そんな哀しみが続くなんて、きっと辛くて苦しいだけだから。
 リルの歌声は夜の狭間に響き渡り、冷たい空気に仄かな温かさを宿した。だが、それを聞いた桜夜は哀しげに双眸を歪める。
「独りにさせて、欲しい……頼む」
 途切れ途切れの声を零した彼女は掌から桜混じりの水塊を解き放った。
 狙われているのはリルの頭部。其処を覆えば、心を揺さぶるような歌声を止められると考えたからだろう。
 だが、その動きを読んだ櫻宵が即座に桜を散らせる。
 舞い飛ぶ桜吹雪は水を包み込み、リルにぶつかる前に威力を削いだ。リルは彼がそうしてくれることを知っていたゆえに歌声を緩めることはなかった。
 リルは歌いながら游ぎ、そっと櫻宵に寄り添う。
 響く聲が人魚の心に染み込んでゆく中で櫻宵は思いを声に乗せた。
「ひとは人を食らうものを放っておいてなんてくれないわ。でも、ねえ……あなたにかけられた言葉の数々は、あなたをただの肉や人魚だと見てのものでないことは理解して」
 自分から言えることはそれだけ。
 後は人魚自身が思いと戦うのみ。そう告げるように櫻宵は身構え、リルを護るようにその前に凛と立ち塞がった。
「リルは優しいわ。この歌だって今はあなたの為に歌われているの。けれど……」
 愛する人魚を食らうなら、私はあなたを許さない。
 強い眼差しが桜夜に向けられた。
 その声と視線、そして歌を感じた桜夜は幽かに、本当に僅かにだけ微笑んだ。
「お前は良いな。信に値する、愛しき者を見つけたのか――」
 人魚の言葉はリルに差し遣わされていた。そして、愛しき者という部分は櫻宵のことを指しているようだ。
 我もそうなりたかった、と。
 桜夜が落とした言の葉には羨望めいた、憧れにも似た感情が宿っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
【藤溟海】
そうなお二人の紡ぐなら
そんで聞かせてくださるなら
ハッピーエンドが良いかしら

ね、警告をくださるやさしいお前
僕はね、イアという名があるけれど
名前はなんと、いうだろな
お前を呼んだ子がいたろうか
お前を呼んで愛した人がいたかしら
でなくばそんなに遠ざけたりはしないでしょう
であればずうっとそのままひとりでは
きっとずうっとさみしかろ

やあ、そう、僕に良い案はなくたって
とーじろさんはお優しいからきっと廻る先へ送ってくださる
せんせのおてての優しさも、僕が屹度保証する
それとも僕を、召し上がる?
ねえ、きっと食えなかろうけれども
牙を剥くならそれできっと、だあれもお前へ寄らなくなるもの
それは随分、さみしいものね


可惜夜・藤次郎
【藤溟海】
物語の〆は、お姫様を救ってのハッピーエンドのほうが浪漫だと思わんかね
何よりその美しい御魂、骸の海に溶かすには勿体無い

人を怖れるならば、優しさに触れなさい
君を憐れに思う烏たち、美しい桜、孤独の海から掬う手に
人からの迫害を怖れるなら、世界の広さを知りなさい
どれだけ数多の人が、世界があるのか
食が不要な生き物もいれば、不死とされる生き物もいる
人を愛するならば、人を知りなさい
その為の機会を君は与えられている
魂を洗うことができる、桜の世界の影朧ならば
それを幸運とし生まれ直すも、このまま悲嘆に沈むのも君の選択だ

が、優しい物語綴る手も、泡沫の宝石の手も
藤を惜しむ神の手も、巡る君の魂を拒みはしないさ


ライラック・エアルオウルズ
【藤溟海】
骸の海で泡となるより、その方が良い
王子とは成れずとも、幸いにも僕は作家だ
ハッピーエンドの文字で締めとしよう

夜櫻のような貴方へ、
はじめて桜夜と呼んだ誰か
人魚で無く、夜櫻だと見た誰か
そのひとの御陰で、貴方は矛盾する侭で
そのひとの記憶で、貴方は留まる侭に居る

――何て云うのは想像だけれど
そうであるなら、そうでなくとも
いま一度、僕らの事を信じて欲しい
独りは、貴方の望みでなく優しさだろう
貴方が愛する人に、貴方を愛する人に
もう一度、巡り逢う為にも
貴方は、――桜夜さん、は
海の底でなく桜の許へと往くべきだ

手招くのが僕では恐ろしいかも、しれないが
御覧。神様の導きに宝石の煌めき、もある

どうか。良い、選択を



●結末はすぐ近くに
 夜汽車で巡る探偵物語。
 逢う魔が時、廃神社で紡いだ幻想奇譚。
 そして最後は、哀しき泡と成るはずの人魚を救い出す幸せな結末を。
 
「――物語の終わり、お姫様を救ってのハッピーエンドのほうが浪漫だと思わんかね」
「骸の海で泡となるより、その方が良いね」
 生憎と王子とは成れずとも、幸いにも僕は作家だ。藤次郎の声にそう答えたライラックは静かに頷いた。イアも彼らの言葉に同意を示し、ふわりと浮かんで游ぐ人魚の姿を見上げる。
「そうな、お二人の紡ぐなら、そんで聞かせてくださるなら幸せな終わりが良いかしら」
「何よりその美しい御魂、骸の海に溶かすには勿体無い」
「ハッピーエンドの文字で締めとしよう」
 イアに続いて藤次郎とライラックも己の心を語る。対する人魚は何の話をしているのか、と怪訝な表情を浮かべた。
「どうも、人の子は絵空事や空想物語を好むようだ」
 人魚は唇を噛みしめる。
 ああ、だから人は不老不死になれる人魚の肉という話を信じ込む。幸せな終幕など自分にはないのだと云うように桜夜は俯く。
 そして彼女は「近付くな」とだけ告げて押し黙ってしまった。
「ね、警告をくださるやさしいお前」
 イアはその瞳に人魚の姿を映し、ゆうるりと語っていく。
「僕はね、イアという名があるけれど、名前はなんと、いうだろな。お前を呼んだ子がいたろうか。お前を呼んで愛した人がいたかしら」
 でなくばそんなに遠ざけたりはしない。
 そうであれば――ずうっとそのままひとりでは、きっとずうっとさみしかろう。
 人が好きであるからこそ自らを孤独に追い込む。
 それはただ不幸の沼に沈むだけ。
 イアの問いかけに人魚は答えなかったが、藤次郎は構わずに語りかけていった。
「人を怖れるならば、優しさに触れなさい」
「……?」
 すると人魚が僅かに顔をあげる。
 藤次郎は彼女にはまだ知らぬものが多いのだろうと感じていた。
「君を憐れに思う烏たち、美しい桜。孤独の海から掬う手に人からの迫害を怖れるなら、世界の広さを知りなさい」
 諭すような言葉に対して人魚はそれ以上の反応は見せなかった。それでもまだ言葉が届かぬと決まったわけではない。
 ライラックは彼女の名がこの物語の鍵だと推理していた。
「夜櫻のような貴方にも、はじめて桜夜と呼んだ誰か――人魚で無く、夜櫻だと見た誰かがいたんだろう」
 そのひとの御陰で、貴方は矛盾する侭。
 しかしそのひとの記憶で、貴方は留まる侭に居る。
「――何て云うのは想像だけれど。そうであるなら、いいや、そうでなくとも……いま一度、僕らの事を信じて欲しい」
 独りを選び取るのは望みでなくただの優しさだ。
 ライラックが予想を語ると人魚は動揺した様子を見せた。返すべき言葉がないのか、明確な声は紡がれぬまま。
 そんな中で藤次郎は更に呼びかけていった。
「どれだけ数多の人が、世界があるのか。食が不要な生き物もいれば、不死とされる生き物もいる。人を愛するならば、人を知りなさい」
 その為の機会を君は与えられている。
 魂を浄化し、新たな命として巡ることができる。そう、桜の世界の者ならば――。
「それを幸運とし生まれ直すも、このまま悲嘆に沈むのも君の選択だ」
 故に選択するのは人魚自身。
 ライラックと藤次郎が告げることに幾度か頷くイアには、彼らへの信頼があった。
「とーじろさんはお優しいからきっと廻る先へ送ってくださる。せんせのおてての優しさも、僕が屹度保証する。それとも僕を、召し上がる?」
 ねえ、きっと食えなかろうけれども。
 それでもそうしても良い心持ちできたのだとイアは人魚に伝えた。
 牙を剥くなら、と見つめるイアの視線と桜夜の眼差しが一瞬だけ重なる。
「きっと、だあれもお前へ寄らなくなるもの。けれどそれは随分、さみしいものね」
「…………」
 桜夜は寂しいという単語にひどく反応した。何かを胸の裡で反芻しているのだろうか。言葉を紡がないのではなく、紡げないのだと感じられた。
 藤次郎はゆっくりと、戸惑う様子の彼女に言葉を送る。
「ああ、優しい物語綴る手も、泡沫の宝石の手も、藤を惜しむ神の手も、巡る君の魂を拒みはしないさ」
 だから、どうか。
 願いは言葉に乗せず、ただ信じて欲しいと彼らは意思を向ける。
 貴方が愛する人に。
 貴方を愛する人に。もう一度、巡り逢う為にも。
「――桜夜さん、は海の底でなく桜の許へと往くべきだ」
 ライラックの言葉は何処までも優しい。手招くのが自分では恐ろしいかもしれないが、と付け加えた彼は、御覧、と二人に視線を向ける。
 神様の導きに宝石の煌めき。
 彼が示したのは藤次郎とイアのことだ。即ち三人が皆、互いを信じている。
「どうか。良い、選択を」
 ライラックがそう告げると、桜夜は深い深い溜息を吐く。
「そう……お前達は、信に値する絆を持っているんだな。嗚呼、我も――」
 彼女が自分達の言葉をどう感じたのかは語られることはなかった。それでもやっと紡がれた声には三人の繋がりに焦がれるような、羨慕が入り混じっていた。
 おそらく後は彼女が決断するだけ。
 きっと、間もなく――人魚の物語は終幕を迎える。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬袋・布静
これ以上近づかん
やから、ちと俺の話付き合うてや
それにな最初から喰らう気あったらな
こんな風に断り入れずに喰らっとるよ

覚えとるかわからんが…
アンタに桜夜って名付けて、調合の為に人魚の涙欲しさで
アンタを腹捩れる程に笑かしてお涙頂戴する愉快な薬師や
死際まで、お桜夜、お桜夜って唯一の心残りなんだと
心配しながら逝きよったぞ、あの爺さん

もう人を喰らいたくないやろ
喰われるって怯えるのも疲れたんやろ
矛盾しながら喰い続けて増えていく骸の山眺めるより
アンタを心配して待ってる爺さんに会いに転生したらどうや
んで、あん時みたいにまた阿呆程笑わしてもらい

全部諦めたように笑うお桜夜より
涙浮かべ笑うお桜夜がええって言うはずやぞ



●其の名を呼ぶひと
 幻朧桜が風に揺れ、池の水面に散りゆく桜花が映り込む。
 桜を背にして游ぐ人魚は拒絶の意志と言葉を紡ぐばかり。その声音には深い哀しみと嘆き、そして疑心が宿っている。
「――近付くな、人の子よ。我を独りにしてくれないか」
「これ以上近づかん」
 布静は桜夜の言葉を聞き、緩く頭を振ってみせた。矢張り覚えのある、彼の人魚は似た伝説があるこの廃神社に顕現したのだろう。
 僅かなよすがを辿って現れたのがこんな寂しい場所だと思うと、言葉には出来ぬ思いが布静の裡に巡った。
 しかしそんな素振りは見せることなく、布静は語りかける。
「やから、ちと俺の話付き合うてや」
「…………」
 桜夜は否定も肯定もしない。ただ無言で、怪訝そうに布静を見遣るだけだ。
 近寄らば喰らう。
 そのような雰囲気を満ちさせている桜夜。しかし此方が動かぬからか、向こうも身動ぎもせずに骨を掻き抱くだけ。
「最初から喰らう気あったらな、こんな風に断り入れずに喰らっとるよ」
 なあ、と布静が呼び掛けると桜夜はびくりと身体を震わせる。図星だったのだろう。彼女が思わず見せたその仕草が愛らしく感じられた。
 伝え聞いていた通りだ。
 凛としているようで何処かぼんやりしている部分もある。冷たいようであたたかい。人魚が押し隠す本性は、とても『ひと』らしい。
 布静は殆どを忘れたという彼女にゆっくりと、静かに語ってゆく。
「覚えとるかわからんが……」
 布静は彼女に名を与えた者を知っている。
 櫻の彩と夜の静けさを宿す人魚に『桜夜』と名付けた人物。
 あの人は薬の調合の為に人魚の涙欲しさで過去の彼女に会った。しかし、その欲は他の人間とは違う方向にあった。
「忘れたか、アンタを腹捩れる程に笑かしてお涙頂戴する愉快な薬師や」
「……薬、師?」
 桜夜は不思議そうな表情を浮かべた。これまでの硬い態度とは違う反応に気が付いた布静は薄く笑ってみせる。
「お桜夜。アンタはそう呼ばれとった」
「何だ……? 懐かしい、呼び名だ……」
 人魚は戸惑っていた。疾うに忘れてしまった記憶の手掛かりを掴んだような、そんな雰囲気が感じられる。
「死際まで、お桜夜、お桜夜と――長く生きた自分の唯一の心残りなんだと心配しながら逝きよったぞ、あの爺さん」
「嗚呼、あの人は逝ったのか……」
 すると桜夜はぽつりとそんな言葉を落とした。はっとしたのは桜夜自身だった。何故そのようなことを口にしたのか自分でも分からないようだ。
 これはきっと兆しだ。
 布静は片手を宙に掲げ、桜夜を呼ぶ。
 たくさん喰べたな、と。
「お桜夜、もう人を喰らいたくないやろ。喰われるって怯えるのも疲れたんやろ」
 それ以上に恐ろしい思いをしてきたのだろうと察した布静はそんな風に語りかけた。其処に否定の意志はない。ただ、慈しむ心だけがある。
 呼び掛け続ける布静は思いを告げていく。
「矛盾しながら喰い続けて増えていく骸の山眺めるより、アンタを心配して待ってる爺さんに会いに転生したらどうや。そんでな……」
 彼が願うのは、新たな生命として彼女が巡り逝くこと。
 もうその姿のままでこの世界に留まっている理由はないはずだから。きっと、あの人が付けてくれた名前だけに縋っていたのだろうから――。
「あん時みたいにまた阿呆程笑わしてもらい」
 今はそれが赦される。
 此処に集った誰もが、そして自分もそう望んでいる。桜夜にすべての思いを伝えた布静は真っ直ぐに穏やかな眼差しを向けていた。
 そして、夜風が吹き抜ける。
 散りゆく桜。蓮の葉が揺れる水面に落ちていく淡い彩の花弁。
 それは何故だか、桜の名を抱く人魚が零す涙のように思えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

喰われたとて愛しく、そして憎く思う、か
人を妬ましく思いながらも、人を赦し続けていた俺には解らぬ感情だが…
俺が宵の言葉で救われた様に多少の救いになれば良いのだが、な

警戒させぬ様武器は手にせず近づこう
人を好いているならばその心を抑える事はないのではないかと
人には善き者も悪しき者も居る
ならば、肉を見ずお前自身を好いてくれる者を慈しめばよいのではないかとそう伝えようと思う
…かくあるべしと己自身を縛っていた俺に好きに様に生きれば良いのだと
そう宵が教えてくれた言葉を思い出せばついぞ宵の手を握ってしまうやもしれんが
全ての人間を慈しむ必要等ないだろう?
次の生では心の望む侭生きてみてはどうだ?


逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

僕は器物を、見目を美しいと称賛されながらも本来の用途には長く使われず 美術品のように過ごしてきました
ヒトの汚さ、浅ましさ、強欲さを見てきたという意味では少し己と重ねるところがあります

僕もヒトという生き物を全肯定はできません
ですが、悪しきヒトだけがヒトではないのです
貴女の傍らに、ただ慈しみ傍に居てくれるだけだった方もいたのではないですか
心からこの方ならば安心して傍にいたいと思える方もいたのではありませんか

慈しみたいのに愛せないことを恐れる必要はありません
気遣える貴女の心は美しい
ヒトを許さなくともよいのです
己の唯一を見つけたならば、その存在を慈しめばよいのですから



●絆は深く
「喰われたとて愛しく、そして――」
 彼の人魚は人を憎く思っているのだろうか。
 ザッフィーロは人魚と自分の境遇を重ね合わせ、その気持ちが解らぬと首を振る。
 人を妬ましく思いながらも人を赦し続けていた自分。対して、人を喰らうことで自分を守った人魚。
「俺が宵の言葉で救われた様に多少の救いになれば良いのだが、な」
 ザッフィーロは宵の横顔を見つめる。
 そして宵もまた、自分の過去を思っていた。人魚の力になれるかはわからない。されど、自分を語ることで何かを伝えられないかと考えた。
「僕は器物を、見目を美しいと称賛されながらも本来の用途には長く使われず美術品のように過ごしてきました」
「……だから、なんだ?」
 人魚は此方を見つめたまま怪訝そうに問う。
 警戒が滲んでいることを感じていたが、宵はそのまま話し続けた。
「ヒトの汚さ、浅ましさ、強欲さを見てきたという意味では少し己と重ねるところがあります。ですから、僕もヒトという生き物を全肯定はできません」
「されどお前達は既に人の子ではないのかい?」
 人の子、というのは何も人間種族を指しているのではない。人魚はヒトの姿をしたものと自分を画するためにそう呼んでいるに過ぎない。彼らは自分を人ではないというように語るが、人魚から見れば完全に人でしかない。
 ザッフィーロは人魚から感じる疑心を和らげるためにメイスを置く。武器を手にしないまま近付いていくザッフィーロだが、来るな、という拒絶の声が向けられた。
 人を好いているならば、その心を抑える事はないのではないか。
 そう考えたザッフィーロは語りかけてゆく。
「人には善き者も悪しき者も居る。ならば、肉を見ずお前自身を好いてくれる者を慈しめばよいのではないか」
「言葉では簡単に言えるだろう。どうやって見分けろ、と?」
 自分自身を好いてくれると信じてきた結果、裏切られ続けた人魚にその言葉を告げるのは残酷だった。相手からは鋭い視線が向けられ続けている。
 しかし宵は怯まず、更に続ける。
「悪しきヒトだけがヒトではないのです」
 貴女の傍らに、ただ慈しみ傍に居てくれるだけだった方もいたのではないか。
 心からこの方ならば安心して傍にいたいと思える方もいたのではないだろうか。
 そう語りかけていく宵は手を伸ばす。
 どうか、自分達の言葉を聞いて欲しい。そう願う心はまっすぐだ。
 宵の隣にしかと立つザッフィーロは己の思いを告げていく。ザッフィーロは宵が教えてくれた言葉を思い出しながら、彼の手を握った。
「……かくあるべしと己自身を縛っていた俺に、好きに生きれば良いのだと、宵は教えてくれた。お前にもそういった者が――」
「黙れ」
 しかし、人魚はザッフィーロの声を遮った。
 思い出せぬのだ、と震える声で返した人魚は戸惑っていた。失われた記憶がどうしても蘇らないのだろう。苦しむ人魚は手を繋いでいる彼ら――満たされている様子の二人を見て更なる孤独を感じてしまったようだ。
 されどザッフィーロ達は決しては言葉を止めたりはしない。
「全ての人間を慈しむ必要等ないだろう?」
「慈しみたいのに愛せないことを恐れる必要はありません」
 気遣える貴女の心は美しいのだと宵は告げ、ザッフィーロも頷く。
「次の生では心の望む侭生きてみてはどうだ?」
「ヒトを許さなくともよいのです」
 己の唯一を見つけたならば、その存在を慈しめばいい。そう、自分達のように――と宵はザッフィーロの手を握り返した。
 すると人魚は俯いてしまった。ただ無言のままで何かを考え込み、それ以上の返答を行わなくなった。
 二人は固唾を飲んで人魚を見守る。
 きっと、その葛藤は心が揺らいでいる証拠だ。そのように信じた彼らは互いの手を握り合い、人魚をしかと見守ってゆく。
 

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

泉宮・瑠碧
水を放つなら水の精霊に散らして貰い
桜夜が怖がらない程度に近付く
人の子とは違う僕に不老不死は必要ない
…永くを生きる事も辛いと思うから…

僕は誰も一概に悪いとは思わないが
…白鴉達は自分の死よりも君の事を案じていたよ

…人が、君を傷付け続けて…すまない
…でも
桜夜の名をくれた人の事は思い出して欲しいとは思う
人を心から嫌悪しないのは
何を忘れても
優しい思い出が心に在るからではないのか
信じたい気持ちがあるのでは

よすがを無くす恐怖や
守られて負担を掛ける心苦しさも疑いに通じたのかな

…死にたくなかっただけ、でも
悲しく辛い中…優しいままで居てくれて、ありがとう

…転生して
今度こそ信じて報われて、幸せに過ごして欲しいと願う


依神・零奈
……大体の事情は察したけれど改めて人間ってのはどうしょうもないね、脆く儚いくせに身の程知らずなまでに強欲で愚か極まりない……でもそうか、彼女は理由がどうであれ、私と違って今も人に必要とされてるんだ……ま、そんな事はどうでもいいか

人間に振り回された彼女を討ち祓うのも癪だし、私は私なりに務めを果たさせて貰うよ。彼女は忘れてしまっているだけで彼女を本当に大切に思っていた人間がいないと断じるのも早計だと思うしね。そもそも不老不死の話が伝わる前に彼女と交流した者だっていたかもしれない、それを彼女に訪ねてみよう。もしかしたら……そんな疑問をまだ持つなら確かめてみればいい、その術がキミにはあるのだから


水標・悠里
桜夜さんに、次の生を。それが一番の救いになると信じています
【朔】を足下に置いて害意がない事を示し、桜夜さんの説得を試みます

桜夜さんは生きたかった。だから自分を守るために人を喰った。
自分を守ることは間違っていません
それに、桜夜さんは優しい方です。ここに来た私達をすぐに喰おうとはしませんでした
それどころか、私達を傷つけないためにわざわざ声をかけてくださりました。
あなたには、寄り添ってくれる人が必要だと思うんです。
桜夜さんが始め大切にしてくれた人々を愛おしんだように
桜夜さんを愛おしみ大切にしてくれる人が必要なんです

その為に、次の一生を生きて欲しい
桜夜さん、もう一度生きましょう



●命を望むなら
 人魚の悲痛な思い、これまでに人から受けた仕打ち。
 そして、静かな狂気。
「……大体の事情は察したけれど、そうだね」
 零奈は人魚を前にして肩を竦めてみせた。
 改めて感じたのは人間とはのはどうしようもないということ。
 脆く儚いくせに身の程知らず。強欲で愚か極まりないのが人間であるのだ、と神である零奈は思う。
「……でもそうか。彼女は理由がどうであれ、私と違って今も人に必要とされてるんだ……ま、そんな事はどうでもいいか」
 独り言ちた零奈の傍ら、瑠碧は人魚を真っ直ぐに見つめていた。
 相手が攻撃をしてくるのならば此方も水の精霊を呼ぼうと考えていたが、攻撃を行わない猟兵に人魚が手を出してくることはない。
 瑠碧は桜夜に怖がられぬよう、静かに一歩だけ歩み寄る。
 悠里も短刀、朔を足下に置いて害意がない事を示した。人魚は彼らを見遣り、近寄るな、という視線を向けている。
 皆に共通しているのは決して人魚を傷付けないという意思。
 桜夜に、次の生を。
 それが一番の救いになると悠里達は信じている。
 静かに頷いた瑠碧は人魚が自分達が肉を求めているのではないと告げていく。
「人の子とは違う僕に不老不死は必要ない。……永くを生きる事も辛いと思うから」
 瑠碧に続き、悠里も思いを語りはじめる。
 桜夜さん、と彼女の名を呼ぶ。
 その理由は人魚としてではなく個として認めると伝えるためだ。
「桜夜さんは生きたかった。だから自分を守るために人を喰った。自分を守ることは間違っていません」
 だから責めに来たのでもない、と悠里は伝えた。
 それに悠里は知っている。桜夜は優しい。ここに来た自分達をすぐに喰おうとはせず、こうしてただじっと見つめているだけだ。
 拒絶の意志は見えるが、何処かに去ってしまわぬのも話に耳を傾ける気があるという証。きっと人を嫌いにはなりきれていないのだろう。
 そうであるからこそ葛藤が彼女の裡にあるのだろうが、転生を望む悠里達からすれば声を届かせる絶好の機だ。
 零奈は人魚を見つめ返し、胸に手をあてる。
 人間に振り回された彼女を討ち祓うのも癪だ。それゆえに零奈は自分なりの務めを果たそうと決めていた。
 彼女は忘れてしまっているだけ。ならば彼女を本当に大切に思っていた人間がいないと断じるのも早計だ。
「そもそも不老不死の話が伝わる前にキミと交流した者だっているんじゃないか?」
 そう彼女に訪ねた零奈。
 だが、人魚は「わからない」とだけ答えた。それはおそらく本心からの言葉だ。
 影朧と成り果てた彼女にこれ以上の過去の話を聞くことは出来ない。或る猟兵の話を聞いて僅かに記憶が戻りかけているようだが、完全には思い出せていないようだ。
 零奈は双眸に人魚を映す。
 思い出したいのに思い出せぬ、ということは想像以上に苦しい。
 彼女はその苦痛と戦っているのだろう。
 瑠碧も彼女の心中を慮り、神社にいた白い鴉達のことを桜夜に伝えた。
「誰も一概に悪いとは思わないが……白鴉達は自分の死よりも君の事を案じていたよ」
「ああ、鴉の子達か」
「あの子達と君は似ているね。……人が、君を傷付け続けて……すまない」
 人魚は哀しげに、ちいさく「ありがとう」という言葉を呟いた。それは猟兵ではなく白鴉達に向けられたものだろう。
 鴉も人魚もただ人間を追い払おうとしていただけだった。だから似ていると告げた瑠碧の想いは心からのものだ。
「……でも、桜夜の名をくれた人の事は思い出して欲しいとは思う」
 瑠碧はそっと願った。
 彼女が人を心から嫌悪しないのは、何を忘れても優しい思い出が心に在るから。押し隠してはいるが、人を信じたい気持ちがまだ残っているからに違いない。
 よすがを無くす恐怖。
 守られて負担を掛ける心苦しさ。
 それらの思いも疑いに通じたのだと想像した瑠碧の思いはきっと当たっている。
 悠里も桜夜の優しさを信じていた。
「桜夜さんは、私達を傷つけないためにわざわざ声をかけてくださりました。あなたには、寄り添ってくれる人が必要だと思うんです」
 桜夜、という名を付けてくれた人。大切にしてくれた人を愛おしんだように、今の桜夜を愛おしみ大切にしてくれる人が必要なはずだ。
 悠里がそのように告げると、桜夜は俯いた。
「我にそんな人など……」
 戸惑いながら逡巡する人魚は、もしかしたら、と呟いた。
 其処へ零奈が呼び掛ける。
「もしかしたら……そんな疑問をまだ持つなら確かめてみればいい、その術がキミにはあるのだから」
「貴方は死にたくなかっただけ、でも。悲しく辛い中……優しいままで居てくれて、ありがとう」
 だからこそ転生して欲しい。
 瑠碧も言葉を続け、悠里も懸命な思いを投げ掛けていった。
「そう……その為に、次の一生を生きて欲しい」
 今度こそ信じて報われて、幸せに過ごして欲しいと願う気持ちは皆同じであり、誰も彼女がこれ以上不幸になることを望んでいない。
 優しい思いが伝え続けられていることを桜夜も気付いている。
 風で揺れる桜。其処から花が散り、水面に落ちる。
 猟兵達はただ静かに待つ。
 心を決めた人魚が次の生に向かうことを口にする、そのときを――。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

セト・ボールドウィン
綾華(f01194)と

んー?
俺もね、そう思ってた
誰だって痛いのは嫌だもんね

生きるための狩りは俺は否定しない
俺もするし

でも、不老不死ってのは…欲張りだろ。それ
そんな理由で他の生き物を狩ろうとすんな
ああ、何だか腹が立ってきた

俺が人魚さんに伝えられること…
「あんたは悪くなかったんだよ」って
それだけだけど


こんにちは、人魚さん
えーと…そーいうの、もうやめない?
俺もみんなも
あんたを狩るつもりなんてないし

怖かったよね
食べてみたいから死んでくれって言われたら
抵抗して当然だよ

だって死にたくないもん、普通に。怖いでしょ
…だから、人魚さんが自分を喰おうとした人間を喰ったのは
仕方なかったんじゃないかな

俺は、そう思うよ


浮世・綾華
セト(f16751)と

俺はあの人魚を傷つけたくねーと思う
お前は?
――セトは優しい子だなと目を細め

どーも、美しいひと
あんたを傷つけようとした人は確かにいたんだろうな

まずは理由をつけて
落ち着いて話を聞いて貰うか

俺は興味ねーよ?
人間じゃないし不老も不死もいらない
むしろ、年老いていきたいと思う
大切な人といつかは死にたいと

俺はセトみたく優しくないケド
あんたの立場だったら
きっと悲しかったと思う

でもさ、このままこうしていても
悲しみも苦しみも終わらない
疲れちゃったなら、一回眠ってみねえ?
だいじょうぶ
この世界の桜はきっと、あんたの味方だ

転生した桜夜さんの居場所が
優しいものであるように
気休めでも願うのは自由でしょ



●その先に手を伸ばす為に
 桜が舞い、落ちた水面に波紋を作る。
 池に映る人魚。彼女が宿す心はきっと優しい。だから傷付けたくはない。そう思うのだと静かに告げた綾華はセトに問う。
「お前は?」
「んー? 俺もね、そう思ってた。誰だって痛いのは嫌だもんね」
 セトは頷き、人に喰らわれそうになったがゆえに喰らい返したと云う人魚を見つめた。
 生きるための狩りを否定はしない。
 狩猟という意味ではあるがセトだって命を奪う行いをしている。人魚は狩られたくがないからこそ、殺めた。
 でも、とセトは人魚を求めた人間を思う。
「不老不死ってのは……欲張りだろ。それ。そんな理由で他の生き物を狩ろうとすんなよ……ああ、何だか腹が立ってきた」
 唇を噛み締めたセトの怒りは人魚ではなく、人の方に向いていた。
 そんな自分が桜夜に伝えられることはきっと「あんたは悪くなかったんだよ」という言葉。きっとそれだけだけど、と口にしたセトは拳を握る。
「――セトは優しい子だな」
 他者のために怒り、その気持ちを慮る。そんな彼の姿勢と心に目を細めた綾華は一歩踏み出す。行こう、と視線で告げた綾華に続き、セトもまた人魚の方へ歩を進めた。
 
「どーも、美しいひと」
「こんばんは、人魚さん」
 綾華とセトは宙を泳ぐ桜夜を見上げ、普通の人にするように挨拶を告げた。
 人魚は黙って彼らを見ている。そうして静かに問いかけた。
「人の子達よ、我を喰らいにきたのかい? それともただの好奇心だろうか」
 その言葉には警戒が見て取れた。
 喰らう、ということは不老不死を求めているかと聞かれているのだろう。夜風が人魚と二人の間に吹き抜けて行く中で両者の眼差しが交わる。
「えーと……そーいうの、もうやめない?」
 セトは疑心暗鬼に陥っているであろう人魚に語りかけていった。
 自分も皆も人魚を狩るつもりはない。セトが告げる言葉に合わせて綾華も不老など望んでいないと話した。
「俺は興味ねーよ? 人間じゃないし。むしろ、年老いていきたいと思う」
 ――大切な人といつかは死にたい。
 ぽつりと、けれども確かに紡がれた言の葉には真剣さが宿っていた。人魚とて二人の言葉が偽りのものではないと薄々気付いているだろう。
 だが、これまでに受けた仕打ちが桜夜の心を昏い闇に染めている。
「あんたを傷つけようとした人は確かにいたんだろうな」
「怖かったよね。食べてみたいから死んでくれって言われたら、抵抗して当然だよ」
 綾華もセトも決して桜夜を責めなかった。
 確かに人を殺めた罪はある。
 だが、過去となったことを責め立てて何になるだろうか。二人が、そして猟兵達が望んでいるのは未来だ。
 骸の海から滲む過去や絶望ではなく、この先に続いていく希望。
 この世界はそれを望むことが許される。
 セトは翠の瞳に真っ直ぐな思いを、綾華はその裡に穏やかな冀望を宿している。
 はらはらと散っていく桜の花。
 風を受けて二人の足元から舞い上がった花弁は、その思いの証であるかのように桜夜の方に舞い上がっていった。
「人の子達よ、我は……」
 桜夜は抱いた骨に縋るように身体を震わせる。
 人の子、というのはどうやら人間の姿をしている者と人魚である自分に一線を引くための呼び方らしい。彼女が此方をそう呼ぶ限り、距離は縮まっていないと見做す方が良いのかもしれない。
 それでも綾華は人魚にもう一歩だけ歩み寄った。
「俺はセトみたく優しくないケド、あんたの立場だったらきっと悲しかったと思う」
「だって死にたくないもんな、普通に。怖いでしょ。……だから、人魚さんが自分を喰おうとした人間を喰ったのは仕方なかったんじゃないかな」
 セトも彼に倣って、人魚への思いを懸命に伝えていく。
 俺はそう思う、と嘘偽りなく告げたセトは手を伸ばす。怖がられようとも拒絶されようとも良い。ただ、桜夜の心に寄り添いたかったからだ。
「……お前達は優しいな」
 そのとき、桜夜がちいさく呟いた。
 綾華はセトの真摯な眼差しと横顔を見遣ってから、ああ、と頷く。
「でもさ、このままこうしていても悲しみも苦しみも終わらない。疲れちゃったなら、一回眠ってみねえ?」
 だいじょうぶ。この世界の桜はきっと、あんたの味方だから。
 誰もその罪を咎めたりなどしない。綾華もセトも人魚の心が大きく揺らいでいることに気が付いていた。
 もう少し、きっとあと少しであの桜は淡く綻ぶ。
 そんな予感を覚えながら、二人は幻朧桜がひらひらと舞う様を眸に映した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
【桜鏡】

美しい夜桜の人魚
他人とは思えないその姿
(御首をいただけないのは残念
…なんて私はこの期に及んで)

私達はあなたを救いにきましたの
あなたの行いは生きるためには仕方なかったこと
けれど人の世では
化け物は退治されてしまう宿命
…人魚と同じく人を喰らい首を求める悪鬼の私も
いつか――
…クロウさん?
本当に…優しいのね…
(その優しさをきっと裏切ってしまう自分が嫌
私が人魚の立場だったら
大義名分があるだけ躊躇なく人を喰っていただろうから…)
…そう
あなたが私を人だと言うなら
(人でいられるうちに)

桜夜さんの笑顔
素敵でしたわ
その花笑みを永久に咲かせられる方が
いつか現れる可能性に私は賭けたい
ここは冷たく寂しいのですもの


杜鬼・クロウ
【桜鏡】
転生望む
剣は収め隣の桜鬼を一瞥
桜舞う

喰らうは同じく
だが由縁は非なる人魚へ女は何を想う

…同情はする
お前が人に抱いた無償の愛
けれど其れを平気で踏み躙る残酷で醜悪な人の部分を多く見ただろうから
もしもお前をきちんと見てくれる人がいたならば(目伏せ再び人魚見て

苦しかったな
寂しかったな
お前はあまりに、優しすぎた

人魚に近付き背中撫で
温もり分ける
故郷で主にして貰った様に

羅刹女
確かにお前は鬼だ
過ちも犯してきた、と思う
けど今は゛人゛としてココにいる

いずれ見境無く本能の儘に従おうと
片鱗を掴んでも尚
嫌いになれねェ
人の心も見たのだから


輪廻転生の世界で
陽だまりのようにあたたかい倖せな一時を
俺も賭けたい

またな、桜夜



●櫻に狂うもの
 宵の景色と散りゆく桜。
 深く巡っていく夜の彩をそのまま映したかのような、美しい夜桜の人魚。
 エリシャは他人とは思えぬその姿を見つめる。
(――御首をいただけないのは残念)
 この期に及んでそんな思いを抱いた己を自嘲するように双眸を細めるエリシャ。その傍でクロウは剣を収め、桜鬼を一瞥した。
(喰らうは同じく、だが由縁は非なる人魚か)
 傍らの女は何を想うのだろうか。
 クロウが言葉にしない思いを裡に秘める中、エリシャは人魚へと呼び掛けてゆく。
 幻朧桜と千桜。
 その花は絶えず舞い続けている。
「私達はあなたを救いにきましたの」
「……戯言を。どうせそれも偽りだろう」
 桜夜はエリシャの言葉を一蹴する。相手からすれば突然現れた相手だ。そんなことを告げられて手放しで喜べるような状況ではない。
 クロウはそりゃそうだよな、と独り言ちてから己の思いを言葉にしていく。
「同情はする。お前が人に抱いた無償の愛は報われなかったンだな。それに、お前の心を平気で踏み躙る残酷で醜悪な人の部分を多く見ただろう」
 もしも、彼女をきちんと見てくれる人が一人でもいたならば――そして、彼女がそれを思い出せたならば。
 そう考えて目伏せたクロウは再び人魚を見つめる。エリシャも彼と同様に桜夜の姿をその眸に映し込んだ。
「あなたの行いは生きるためには仕方なかったこと」
 エリシャ個人は人魚の罪を咎める心算はなかった。けれど、と続けた彼女はこの世の仕組みはそう見做さないのだと語る。
「人の世では化け物は退治されてしまう宿命。……人を喰らう人魚は滅ぼされる」
 そして、同じく人を喰らい首を求める悪鬼の私も、いつか――。
 傍らの男にだけかろうじて聞こえる声で囁いたエリシャは己と人魚の在り方を重ね合わせていた。
「……そう」
 桜夜はエリシャの告げた言葉に頷くだけだった。
 此方が攻撃をしないがゆえに、人魚も此方に手を出しては来ない。ただ静かに此方を拒絶するだけの桜夜を見つめたエリシャはちいさく肩を竦めた。
 そして、クロウもまた言葉を続けてゆく。
「苦しかったな。寂しかったな。お前はあまりに、優しすぎた」
「…………」
 人魚は無言で何も答えようとしない。否、何も答えられないと表した方が正しいのだろう。クロウは人魚に近付いてその背を撫でてやりたいと思った。
 故郷で主にして貰ったように、温もりを分けてやるために。
 しかし宙に浮かぶ人魚には手が届かない。それ以上に、信頼を得られていない今は近付けば逃げられてしまうだろう。
 それでも、と手を伸ばすクロウの眼差しは真摯だった。
 エリシャは人魚の佇まいと、彼が紡いだ声に対してそっと目を瞑る。先程の言葉、そしてその様子に気付いたクロウはエリシャにも声を掛けた。
「確かにお前は鬼だ。過ちも犯してきた、と思う」
 だが、とクロウは頭を振る。
「けど今は“人”としてココにいる」
 いずれ見境無く本能の儘に従おうと、片鱗を掴んでも尚、嫌いにはなれない。
 人の心も見たのだから、と伝えたその声色は静かだが不思議と力強い。
「クロウさん? 本当に……優しいのね……」
 けれど、その優しさをきっと裏切ってしまう自分が嫌だ。
 自分が人魚の立場であるならば大義名分があるだけ躊躇なく人を喰っていただろう。しかしエリシャは俯き掛けた顔をあげる。
「……そう、あなたが私を人だと言うなら」
 人でいられるうちに。
 続く言葉は秘めたまま、エリシャは人魚を見つめた。
 桜夜はただ琥珀色の瞳で猟兵達を見つめ返している。彼女の心は惑い、迷い、その意志は揺れ動いている。
 ならば今は彼女が答えを出すまで待つだけ。
 そう決めた二人は桜が散っていく夜の最中で暫し人魚を見守っていた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

菱川・彌三八
随意に/f22865

真に好いた者同士、でありゃあ吝かでもねェだろうが
…何時だって、真に恐ろしいのは人サ
私欲で死ぬなァ唯の因果
だが、押し付けられた方はたまったもんじゃねェ
隠れて暮らすは、所詮その場凌ぎ
もう幕にしちまおう

輪廻に還ェすと知ったんだ、従う以外あるめェよ
そいつにゃ雲の字、お前ェの力が要るんだろ
好きにしな、旅は道連れだゼ

他が何かするか気にかかるが、火の粉が飛ぶ時ァ払う次第
半歩、前へ
筆は矢立てン中だ
存外丈夫サ、この身ひとつでなんとでもならぁ



桜の御勤めは初めて目にする
此れで真の夜桜に成るのか
…好きにたァ云ったが冬の水
無茶すんなよ

人の手だからこそ、取るも握るも叶う
屹度そいつを覚えていったろうよ


雨野・雲珠
お隣失礼/f12195

…「お前を食べたい。当然痛いし、死ぬかもしれないが」
って言われたらどうなさいます?
しろがらすさんたちも庇うわけですね…

同族が自分のみであれば、魂鎮めを申し出て水に入ります
彼女にご縁のある方がおられたら、その方にもご確認を。
…溺れたら引き上げてください、菱川さん

悲憤はご尤もです…けれども、お苦しいでしょう。
恐れや悲しみはこの沼に――今生に置いていきませんか

桜を喚びながら、手をとってくださるのを待って、
そっと…抱いたままの骨ごと、抱擁を。
俺の腕と体が枝や幹だったら、
怖がらせることなくお慰めできたでしょうか…

…おやすみください。
情深いあなたが、来世は望む形で愛を得られますように



●転生への道筋
「――お前を食べたい。当然痛いし、死ぬかもしれないが」
 そう言われたらどうするか。
 雲珠は人魚が置かれた状況を想像して、傍に立つ彌三八に問う。
「真に好いた者同士、でありゃあ吝かでもねェだろうが。……何時だって、真に恐ろしいのは人サ」
 彌三八は人の業に巻き込まれた人魚を振り仰ぐ。
 桜夜は哀しげな瞳で二人を見遣り、ふいと視線を逸した。その眼差しだけで人魚が抱く苦しみの片鱗が分かった気がする。
「しろがらすさんたちも庇うわけですね……」
 雲珠は納得していた。
 あの白鴉達はそんな人魚を哀れに思い、あれほどに護ろうとしたのだろう。
 彌三八も頷き、そうしたくなる理由は確かにあると察した。人魚は此方が攻撃をしないからか、決して手を出してこようとはしない。
 他の猟兵の中には剣を振るった者もいるが、彼らに対しても反撃を行う程度だ。
「私欲で死ぬなァ唯の因果。だが、押し付けられた方はたまったもんじゃねェ」
 人が好きだった、と語る人魚。
 彼女はきっととても優しい。その心が慈しみに満ちているからこそ人魚は人間の業をまともに受けてしまった。
 それゆえにこんな寂しい所に辿り着き、身を隠そうとしているのだろう。
 帰れ、と拒絶する言葉が胡乱なのもその所為だ。
「隠れて暮らすは、所詮その場凌ぎサ」
 彌三八は今の人魚の在り方ではいけないのだと諭す。
 もう幕にしちまおう、と呼び掛ける彼の言葉は真剣だ。普段の軽快な口調はそのままではあるが裡に宿した意志がそのように感じさせているのだと雲珠は感じた。
 そして雲珠もまた、人魚に声を掛けていく。
「悲憤はご尤もです……けれども、お苦しいでしょう」
 一歩、歩み寄る。
 人魚は身体を強張らせ、雲珠から離れようと宙を泳いだ。下がった桜夜は池の真上に浮かんでいる。しかし雲珠は構わずに近付いていく。
「溺れたら引き上げてください、菱川さん」
「任せとけ。輪廻に還ェすと知ったんだ、従う以外あるめェよ。そいつにゃ雲の字、お前ェの力が要るんだろ。好きにしな」
 旅は道連れだゼ、と敢えて明るく告げた彌三八は雲珠がゆっくりと水に入っていく姿を見守っていた。空気は冷たく、寒さに凍えてしまいそうにもなるだろう。
 それでも雲珠はその魂を鎮める為に人魚に近付く。
「……何を――」
「恐れや悲しみはこの沼に、いえ……今生に置いていきませんか」
 次の生を望めば桜の精である自分が魂を癒すことが出来る。そのために自分は此処に来たのだと告げる眼差しが、桜夜に向けられた。
「我が、桜の癒やしを……?」
 彌三八は戸惑う人魚へと雲珠が手を伸ばす姿を見つめている。
 少年はもう既に体の半分が池に沈むほどに近付いていた。万が一に彼に火の粉が飛ぶ時は払うだけだとして、彌三八も半歩だけ前へ出る。
 戦うための筆は矢立ての中。
(存外丈夫サ、この身ひとつでなんとでもならぁ)
 いざとなれば身を挺して雲珠を守ろう。それが同道した自分の役目だとして彌三八は動向を見極めようとした。
 夜風が辺りに吹き抜けていく。
 身を震わせた人魚は雲珠が差し伸べた手をじっと見つめていた。そして、桜夜はぽつりぽつりと語り出す。
「そうだ、我は……本当はこのようなところには居たくない……」
 寂しかった。
 愛したものに裏切られたことが。
 悲しかった。
 今度こそ信じられると思ったのに、また――喰らってしまった。
 桜夜は嘆きを言葉にした。
 これまではただ猟兵を拒絶するだけだった彼女が、心情を吐露してゆく。それも猟兵から掛けられた言葉や優しさに触れたからだろう。
「それでは――」
 雲珠は桜の花吹雪を喚び、その心を癒やそうと試みる。宙に揺れる花は次の巡りに繋がる微睡みへと桜雪をいざなっていく。だが、不意に桜夜が大きく首を振った。
 待ってくれ。
 そう告げるように顔を上げた桜夜。
「いや、だ……もう少しで思い出せそうなんだ……あの人を……」
「あの人?」
 雲珠が問い返した、そのとき。
 桜夜の周囲に激しい渦が現れたかと思うと、桜混じりの水塊が雲珠の身を穿った。
「――!」
「雲の字!」
 咄嗟に彌三八が駆け、池の淵から彼の腕を引いた。水塊に包まれた彼の身体が彌三八によって助け出された次の瞬間、桜夜は嘆きの声をあげる。
 
「嫌だ、嫌なんだ。転生をしたら、また総てを忘れるだろう……! 消える前にあの人の事を思い出したい……。我に『桜夜』と名付けてくれた、誰かを……」
 震えながら腕の中の骨を抱き締めてから、人魚はその腕を広げる。
 ぱしゃり、という音と共にそれまで彼女の腕にあった骨が落ちて池の中に沈んでいった。そして、桜夜は叫ぶ。
「嗚呼、忘れたくはなかった。あの人の声を、姿を、あの言葉を――!」
 叫びは荒ぶる力となり、解き放たれた水塊が周囲に巡った。
 
●心を鎮めに
 言葉を受け入れ、思いを伝えられ、人魚も一度は転生を望んだ。
 だが、最後に引っ掛かったのは忘れていた記憶のこと。桜夜と名付けてくれた人のことを僅かに思い出した彼女は、もう二度とそれを忘却したくはないと願ってしまった。
 次の生を望みながら、望めない。
 矛盾した思いは本人が望まぬ力の暴走を引き起こしてしまったようだ。
 桜混じりの水塊。
 激しい夜風を受けてはらはらと散る桜の花。
 無差別に飛ばされた水は地面や樹、時には猟兵達にぶつかっていく。
「お桜夜!」
 布静がその名を呼んだが、彼女自身も荒ぶる心と力を制御できないようだ。しかし布静には分かった。
 彼女は――『どうか自分を止めてくれ』と願っている。
 そう感じたのは他の猟兵達も同じ。
 転生を望む桜夜の戦う力を削げば真の願いを叶えることが出来る。そう察した猟兵達はそれぞれの言葉や力で最後の思いを伝えることを決めた。
「なるほど、こうなってしまったか」
「それなら夏報さん達の出番だね」
 瑞樹と夏報は飛ばされる水を其々の得物でいなしていく。力技で来るのならば此方もそう出るだけ。言葉をかける皆の一助になろうと決めた瑞樹は黒鵺を振るい、夏報は釣星の糸で水を切り裂いてゆく。
 そう、今こそこの光の出番だ。
 そのように察した白雪は地を踏みしめ、海蛍の淡い光を周囲に灯らせた。
「苦しみも犯してしまったことも影朧の貴方と一緒に置いていきなさい。ねえ、桜夜――もういいから帰りましょ」
 どうか、優しいこの蒼が、あなたを癒しますように。
 優しい華になりますように、と願う白雪。
 其処に放たれた水をカガリが盾として受け止め、マレークも槍で以て援護していった。掛けるべき言葉はもう持ち得ないが、止めることならば出来る。
「まる、まる。やろうか」
「ああ、無論だ」
 声を掛け合う二人が身構え直す中、夜彦と倫太郎も共に打って出る。
「倫太郎殿、参りましょう」
「力で押し切れってんならしょうがないよな」
 抜刀術、断ち風。そして華焔刀の一線が桜の水塊を散らしていく。
 グラナトはマクベスを護るように立ち塞がり、ザッフィーロも宵の前に陣取る。彼らは記憶を取り戻したいと苦しむ人魚を強く見据えた。
「苦しんでいるなら止めるだけだ」
「ええ、ザッフィーロ君」
「グラナトさん、あの人魚……」
「今は見守るしかないな」
 少年が不安げに見上げる視線に頷きを返したグラナトは凛と立ち続ける。
 その中で孤檻は決意していた。
 最後まで刀は抜かず、人魚を害することはないという意志を自分なりに示そう、と。
 誘も水を避けるだけに止め、真っ直ぐに彼女を見つめた。
「今度は、人の子と平穏に暮らせるよう。私は、お前を想って、祈ろう」
 ただ、祈りを捧げる。
 皆の言葉が届いた故に苦しんでいるのならば、誘にできることはこれだけ。
 攻撃を受け止める者。
 祈りや言葉を尽くす者。
 其々に動く猟兵の姿を見渡し、桜雪も人魚が抱く葛藤を案ずる。転生をしたいのに最後の心残りがそれを阻んでいる。
 ただ、思い出したいだけだという気持ちはそれほどに強いのだろう。
 英は人魚が実に人らしいと感じた。
 固執すること。それもまた人間として、意思を持つものとしての感情だ。
 ハニーは笑みを湛え、人を愛する人魚を思いながら迫ってきた水塊を散らす。トリテレイアもその身を以て、皆に向けられた無差別攻撃を受けていった。
 皆の盾になるトリテレイアは解決方法は刃だけではないと自ら告げた言葉を思う。
 ならば自分は壁として守り続けるのみ。
 その思いを感じ取ったクロトは、自分は刃になるべきだと察した。防戦一方では人魚の荒ぶる力は抑えられない。
 鋼糸に纏わせたのは魔力。引いて断つを狙うは人魚の腕。
 彼女が本当に癒しを望むなら、それを鎮める為の苦しみは一時でも短い方が良い。
 く、と人魚から声が零れ落ちる。
 蘭玲はその様子をしかと双眼に映し、暴走した力が削がれていくことを確かめた。
 秋人も祝と共に人魚を見つめ続ける。
 この結末がどうなるのか。二人は共にそれを慥かめようと決めていた。
 誠司も決して視線をそらさず、澄清の刃で迫り来る水塊を斬り伏せる。
「其の儚き記憶を、どうか――」
「ああ、取り戻せるようにこの標を翳そう」
 彼の言葉を次ぐようにしてカスカが口をひらき、ランタンを掲げた。この光はまだ此処にある。導きは失われていないのだと示す意志の現れだ。
 そして、桜夜へとラナと蒼汰が呼び掛ける。
「大丈夫です、桜夜さん」
「それほどに望んでいるなら、きっと……」
 大切な人の記憶の欠片はもう、そこにあるはずだから。荒ぶっている力さえ鎮めれば望む生が得られるのだと告げ、ラナ達は穏やかな未来を願う。
「転生、か。僕にも……其の道があれば良かったよ。だから君は僕の分まで……」
 瑠璃緒が小さく呟いて慈悲の眼差しを向けた。そして、自らがジャックも人魚に抱く思いを伝えていく。
「今世で辛い思いをした分、次に転生した先ではきっと幸せになれる」
 そう、願っている。
 だからこそ記憶を手繰り寄せろ、とジャックと瑠璃緒は人魚の心に添う。
「きっともすこし、ねえ」
「彼女も落ち着き始めているかな」
「それじゃあとっておきの彩りを彼女に贈ろうか」
 イアと藤次郎も頷き、ライラックが羽ペンを掲げる。それは瞬く間に彼の名と眸を添えるような淡いリラの花へと変わり、周囲に彩を宿していった。
 其処へエドガーと耀子が踏み込み、人魚の周囲に浮かぶ泡を切り裂いてゆく。
「荒ぶっているなら散らせてあげるわ」
「ああ、それも大切なことだからね」
 耀子の白刃にエドガーの剣戟が重なり、人魚にも制御できなくなった水を無力化させていった。エドガーは耀子を守り、彼女は先陣をひらく刃となる。それが此度の戦いで培った二人の在り方だ。
 その中でミルラとナターシャは祈りを捧げていく。
 この願いと思いが、桜夜に穏やかさを取り戻させる力となることを信じて――。ユヴェンも幸せを願う曲を紡ぎ続けた。
 そして薺は水塊に対抗するようにシャボン玉を吹いてゆく。
「わたしにできるのはこれくらい。だけどね、みんな言ってるよ。大丈夫だって」
 薺のシャボン弾が泡に重なり、ぱちんと弾けた。
 その光景が綺麗だと感じたリルはそと笑む。
「独りでいなくていいよ。だって、次に巡るのも桜の美しい良い夜だから」
 桜海にのってまた巡っておいで。
 今度は哀しみを背負わなくていいように、大切な人の声を思い出してから。
 歌に乗せて思いを伝えるリルの傍には彼が一番大事だと思う櫻宵がいる。桜夜にも大切に思う人がいたのなら、そしてその人を求めているのなら、もう平気。
 そんな風に思えた。
 櫻宵も同じように微笑み、人魚に向けて桜吹雪を舞わせる。
 ――弔い桜を散りゆく華へ。
 リルの歌声と一緒に浮かんでいく花は、櫻宵達が贈ることの出来る最後の思いだ。
 そして、瑠碧は願う。
「痛みも苦しみも無く、ただ深い眠りへ到れる事を……」
 穏やかな眠りを齎す為、姿無き精霊が周囲に眠りの粉を広げていく。すると桜夜の動きが鈍くなっていった。
 零奈はその様子を見守り、悠里も呼び掛ける。
「桜夜さん、もう一度生きましょう。その記憶と一緒に――」
「そうだよ、人魚さん……ううん、桜夜」
「桜夜さんの居場所が優しいものであるように、俺らも願うよ」
 セトが呼び掛ける声に合わせて綾華も言葉を掛けていった。桜夜は名を呼ばれることで徐々に落ち着きを取り戻し、周囲の水泡も収まっていく。
「……あの人の話は、とても面白かったんだ」
 桜夜は琥珀色の瞳を幾度も瞬き、ゆっくりと口をひらいた。
 それは記憶を取り戻しかけている証。
「おかしくておかしくて、何度も笑いで泣かされたよ。その度にあの人は、大丈夫かお桜夜、と呼んでくれて……ふふ、嬉しくて楽しかったなあ」
 そのとき、桜夜が微笑んだ。
 其処には先程までの悲しみや荒ぶりは見えない。エリシャは静かに笑みを返し、そうっと語りかけた。
「桜夜さんの笑顔、素敵ですのね」
 その花笑みを永久に咲かせられる方がいたならば何も心配はいらない。だからこんな冷たく寂しい場所よりも暖かい場所へ。
 エリシャと同じ気持ちを抱き、クロウも願う。
 輪廻転生の世界で、陽だまりのようにあたたかい倖せなひとときを。
「桜夜、良い名前を貰ったな」
「……ああ」
 猟兵から数多の言葉を受け、その心を鎮められた桜夜は穏やかに頷いてみせた。
 其処に雲珠が再び呼んだ桜が舞う。
「思い出せたのですね。……さあ、おやすみください」
 情深いあなたが、来世は望む形で愛を得られますように。そう願った雲珠が花を吹雪かせていく様を彌三八は感心するような瞳で眺める。
 介抱する際に雲珠は言っていた。自分の腕と体が枝や幹だったら、桜夜にあれほど怖がられなかっただろうか、と。だが、彌三八はその言葉に違うと首を振っていた。
「人の手だからこそ、取るも握るも叶う。そうだろ?」
 彌三八は桜が舞う光景を示す。
 猟兵達は皆、人魚を見守っていた。
 そして、繋がる生命の巡りを受け入れた人魚が泳ぎ、手を伸ばした先は――。
 
●夜櫻人魚
 深まる夜の最中に、はらはらと桜が舞い続ける。
 桜夜はもういつでも次の生への道を歩むことができるというのに、敢えて布静の傍へと泳いでいった。
 穏やかに揺らめく糸髪やその尾鰭もまた桜の花を思わせるものだ。
 布静は其の名を呼び、何か用が有るのかと問いかけた。
「どうしたんや、お桜夜」
「……お前に、あの人を思い出させて貰えた礼をしたかった」
 桜夜は語る。
 あの人――布静の義祖父にあたる彼の話を聞かなければ、きっと何も思い出さぬままだっただろう。
 たとえ転生を受け入れたとしても、最後まで彼のことは忘れたままだったはず。
 転生すれば『これまでの桜夜』としての記憶は失われる。
 けれども最期に大切なことを識れた。
 だから、と微笑んだ桜夜はそっと布静に手を伸ばした。それはこの人魚が今此処で初めて行う、自ら他者へと寄り添う動きだった。
 その指先が布静の頬に触れる。
「ありがとう。お前はあの人と同じ……心地好い薬の香りがする」
 桜夜は花が綻ぶような笑みを浮かべて、布静の眸を真っ直ぐに覗き込んだ。
 そりゃ義祖父やからな、と小さく笑みを返した彼は頬に触れられた手に自分の掌を重ねた。冷たい手と手。それでも、交わるのはあたたかな心地。
「そうや、それや」
「……?」
 頷く布静に桜夜は不思議そうな顔をする。
 布静は嘗て義祖父がよくそうしていたように、双眸を細めて笑った。
「爺さんもな、全部を諦めたように笑うお桜夜より、涙を浮かべて笑うお桜夜がええって言うはずやぞ」
「ふふ、違いない。他でもないあの人だからな」
 同じ故人を知る二人。
 くすりと笑った桜夜の眸には僅かな涙が浮かんでいた。それは悲しみや嘆きではない、慈しみと愛おしさから零れた雫だ。
 そして、布静の頬から手を離した桜夜は尾鰭を揺らし、ふわりと游いでいく。
 
 冴える月と瞬く星の下で桜が舞う。
 最後に一度だけ振り返った人魚は猟兵達に微笑みを向けた。
 桜の精と幻朧桜によって重ねられていく桜花はやがて、眩い光に包まれていく。
 やさしい花と光に覆われていく人魚の身体。櫻の花に葬送されていくような光景の中で桜夜はゆっくりと瞼を閉じる。
 そうして光が消えていく最中、幽かな聲が聴こえた気がした。
 
 
 桜を愛してくれたひとよ、夜を慈しんでくれたひとよ。
 どうか貴方達にも、祝福と倖せが巡るように。
 
 ――さよなら、さよなら。いつか、また逢う日まで。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年12月19日
宿敵 『桜夜』 を撃破!


挿絵イラスト