アースクライシス2019⑭〜未来創世記
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「クライング・ジェネシスがロンドン塔に出現しました。」
ヘンリエッタ・モリアーティ(Uroboros・f07026)は手早く、最終局面に挑もうとする猟兵たちに告げる。
タブレットを起動すれば、広げられるのは再現された映像だ。そこには――厳かなそれのてっぺんで高笑いをする悪の存在があった。
クライング・ジェネシス。彼の目的は至って悪らしいのである。
このロンドン塔など――多くの人に注目される場所に出現し、迎撃に出てきた猟兵に戦いを挑む。猟兵たちが撃破される所を人々に見せつける事で、彼は満たされようというのだ。
「絶望を見せつけようというわけです。――一般人にも、ヒーローにもヴィランにも響くでしょうね。」
希望で、未来の象徴たる猟兵たちが敗れていく様は。
ヒーローを時に助け、ヴィランを捕まえ、ともに世界を守ってきた彼らが無惨にも「過去」に食いつぶされていく様は、悲劇で仕方あるまい。
「期限は――十二月の一日まで。どうか、一刻も早く討伐をしたいところだわ。だけれど、ちゃんと対策はしていきましょう。」
かの恩讐者は、ただのビッグ・マウスというわけでもない。
恵まれなかった彼の執念というのは、恐ろしいものだったのだ。生まれたときから誰よりも恵まれなかったからこそ、今彼が手にするのは世界を壊せる力である。
「嘘とハッタリだけでやってきた、――そして今彼は、地獄を手にする。」
数多の夢と未来を犠牲にして。
そんなことを許せるような仲間達でもなければ――此処にいる仲間たちは、きっと「負けるような」仲間たちでないと黒の女は信じている。
「準備ができた方々から、転送を始めます。」
赤い蜘蛛の巣が光って、猟兵たちを導こうと広がっていく。
未来のために仲間たちが武器を取り、救うために手を差し伸べるのなら――転送は始まっただろう!
「猟兵(Jaeger)!!」
彼らならば、負けたりしない。逃げたりしない、抗うと信じている!
かの巨悪がいかに凶悪で、最悪であったとしても、戦いつくすとわかっていたから。
銀の瞳が、仲間たちの雄姿をぐるり、見渡して――。
「――Assemble!!」
一発のフィンガースナップとともに、猟兵たちを導く。
さあ、未来の使徒たちよ!君たちの前に現れたるは恩讐の化身である!世界を壊し、この世を絶望で塗り替えてやろうと目論む悪しきを――打ち砕け!!
さもえど
最終局面!燃えてまいりました。
十八度目まして、さもえどと申します。
今回のシナリオは戦争シナリオになります。
プレイングボーナス……敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』。
クライング・ジェネシスは必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります。
今回は難易度が「難」ですので、判定はいつもよりも厳しめですがきっと皆さまなら激アツかっこいいプレイングで乗り越えてくださると信じています!ワクワクです。
戦争の状況を顧みて、全員採用はお約束できませんができる限りで素早く完結できればと存じます。
また戦争シナリオは余力あれば励みたいと存じますので何卒ご容赦をお願いいたします。
それでは、お目に留まりましたら、どうぞ皆様の思いがこもったアツアツなカッコイイプレイングをよろしくお願い致します!
第1章 ボス戦
『クライング・ジェネシス』
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POW : 俺が最強のオブリビオン・フォーミュラだ!
全身を【胸からオブリビオンを繰り出し続ける状態】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : 貴様らの過去は貴様らを許さねェ!
【骸の海発射装置を用いた『過去』の具現化】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【相手と同じ姿と能力の幻影】で攻撃する。
WIZ : チャージ中でも少しは使えるんだぜェ!
【骸の海発射装置から放つ『過去』】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を丸ごと『漆黒の虚無』に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:yuga
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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――ヒーローズアース。イギリス首都、ロンドンにて。
逃げ惑うこの国の代表と、その民たちを見ながら悪の存在が笑うのだ。
「ぎひ、ひひ、ひッ」
彼にとって――世界とは、まばゆいものでいっぱいだった。
ヒーローズアースにおいて、「能力」というのは誰もが持っている当たり前の機能である。
それを極め、巧みに使うものはヒーローとなって皆にまばゆく愛されてきた。それこそ、ジャスティス・ワンのように門の役割まで果たしてしまえるほどに、絶対的な力を得るものだっていた。
だけれど、彼は。
――生まれた時から、ものを持たなかったのである。
無能力だった。
この世界をそれだけで、充分に恨む。
誰もが恵まれて愛されるはずの世界で、彼は――なにも持てなかった。
生まれてきたことを馬鹿にされたようで、腹が立って、夢中で足掻いてきた。
差し伸べられた心を払いのけて、プライドを踏みにじられて、嘲笑われる恥辱にも耐えて、耐えて、耐えて。ようやく手にしたのが「命を落として過去になるほど」の力である。
「ギャーッハッハッハッハッハッハッ!! こいつァ、傑作だ! ハハッ、どいつもこいつも、クズがァ!!」
さあ逃げろ、逃げて見せろ。
「 俺 の 大 復 活 祭 だ ッ ッ ! ハハハハハッッ―――!!」
――世界の終わりはもはやわが地獄の中にあるのだ。そう、悦に満ちた笑みを浮かべて彼は悪の象徴として塔の頂上にて吠えていた。
力を持っていても、今の己には何もできないヒーローたちが住民を抱えて逃げていく。
その顔には焦りはあれど、息を切らして前だけを向いた瞳たちには光がある。
「こっちだ、ブラック。」
「ヴァンダー!――ええ、あっちのお婆さんをお願い! 」
なぜ、この状況で絶望しない?
満ちた優越感がさあっと引いて、寒空の下でぽつんと一人悪は物思うのだ。
援軍で寄せられたヒーローたちも、この状況になってまで己の前に跪かぬ。誰も彼もが負けてたまるかと勝つために動き出している。
「あァ――そうか。そうだよなァ、アイツらがいるから、悪ィンだ。ヒヒ、ハ――」
照らす光たちが、赤に導かれてやってくる!
どうどうと戦場に来る使徒たちは、未来への想いで瞳が煌々と燃えていたのだ。それを見て、ようやく――クライング・ジェネシスは動き出す。
「ブチ殺してやるよ、猟兵ィイイイッッッ!!!! 」
ああ、大英国にて咆哮が満ちる! さあ、猟兵たちよ。
――悪しき下劣なかの狡猾を、その地獄ごと撃ち砕けッッ!!
***
プレイングの募集は公開直後から11/27(水)18時まで行っております。
リンセ・ノーチェ
自分の弱さを認めず人にばかり理由を探して―君は
僕の弱さは知ってる
フェイントと見切りに頼る癖から心まで
銃撃後に杖で魔法を叩き込むのが『僕』の常套
僕の銃弾一撃なら耐えられるし
見越して僕の急所は金属で密かに覆ってある
敵の『僕』のリズムを狂わせる為
銃撃は回避せず防御し二撃目を許さぬ【早業】で『僕』をウィップの【ロープワーク】【罠使い】で捕縛し
UCでフォルテ召喚、『僕』をつん裂け!
僕のUCより速く放ったから―『僕』にフォルテは居ない
今の僕にはフォルテがいるし
確かに歩いてきた今の僕は『過去』に負けない
敵本体を【空中戦】の身軽さで翻弄し【全力魔法】で光の【属性攻撃】だ
僕達は弱さを見つめている―だから、勝つよ
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己の弱さを、知っている。
ネコ科に近い彼の身は、どこまでも感覚に頼るのだ。あてずっぽうというわけでない、彼の中にある野生がそうさせている。
この目の前にそびえたち、吠える悪しきの強大さもよくよくわかっているつもりだ。びりびりとひげがふるえて、そちらを向いてしまう。
――恐れているのか。僕。
しかし、リンセ・ノーチェ(野原と詩と虹のかげ・f01331)はどこまでも優しい人間の隣人であるから――この局面であっても、己のことは客観的に見れていた。
「なんだァ――お前、ただのネコじゃないかァ、えェ!? 俺を止めれるのかよッ! なァ!!」
下劣に笑う、かの悪を止めねばならぬ。
その己の前に現れたのが、「おのれ」であった。
色違いの瞳をしながら、それは銃口をリンセに向けている。リンセがかの悪に敵意をむき出した時にたちまち現れた姿は、鏡写しのようだった。
どちらのものとも思えぬ、空気を飲む音が静寂を示す。
小さな体に小さな体が立ち向かうさまを見て、げひひと笑うクライング・ジェネシスはちっともリンセのことを脅威と思っていないのだ。
「君は。」
空を埋め尽くすばかりの笑い声に響くように、凛とした音が空気を裂いたのは間もなくのことであった。
「――自分の弱さを認めず、人にばかり理由を探してる。」
こんな生を与えられたのは。
神のせいだ、世界のせいだ。親のせいで、恵まれた奴らがいるから悪いのだ。
――そう、この悪はけして、己の非というものを認めない。
「だから、僕らが勝つよ。」
リンセの瞳が、ちっともクライング・ジェネシスのほうを視なかった。
歯噛みするような音がして、悔しさにあふれた音を拾ったふさふさとした体毛にまぎれた耳がレーダーように動く。
「じゃア――勝ってみせろやッッッ!!!! 」
粗暴な声色で!!
生み出された「過去」からの術式で現れたリンセが――「現在」に銃弾を放つ!!
鉛玉が火種とともに、ばぁんと勢いよく鉄に弾かれて出た音は壮大だ。それを、いつも使ってきた。
――銃撃後に杖で魔法を叩き込むのが『僕』の常套。
家族を、早くに亡くしている。
リンセは孤独に、時に流れるようにして生きていた。種族持ち前の「性質」もある。人間たちに友好的で、孤独な彼を哀れんで親しんでくれたり、恵まれたり――時には自然との、縁に恵まれたりだってしてきた。
だからこそ、リンセは「生き延びる」癖を知っている。好奇心が強い気質であるからこそ、慎重なのだ。
――己の「癖」などは、戦いながら生きるために知っておくまず、初手中の初手である。
「それが、君はわからなかったんだろう! 」
ふしゃあと息を吐きだして、リンセの威嚇のち、――偽物の弾が、額を撃つ!!
がくんと揺れた首がふらり、体ごと揺れて。地面にあわや倒れそうになったところで踏ん張った!!
「ああ――?」
顔をしかめたらしい、巨悪の動揺がわずかに声に滲んでいる。
それよりも動揺したのは、「にせもの」のリンセだ。あえて、この銃弾と殺意を真っ直ぐ受けた己のことは、リンセも正気ではないと思う。
だけれど、あらかじめ「撃たれそう」なところには金属器をしこんでおいた。額の前髪から、ぽろぽろと金が落ちる。
優しい色をした草と菫は、強い意志に満ちている。
追撃を赦すかと――遠心力とともに放ったのはウィップだ! ばしりと偽物を掴んだリンセがその体を一時縛る!!
「いけッ――フォルテ、『 僕 』 を つ ん 裂 け ッ ッ ! ! 」
生きる。
どこか哀しくも、優しさばかりを歌う彼の喉も。
今日ばかりは、命に吠えていた。――【奇跡の友】で呼び出されたヒポグリフが、純白の体を弾丸のように飛び出させて躊躇いなく「にせもの」を貫く!!
そのまま勢いよく駆けあがってくる白銀に、たまらず「うぉ」とクライング・ジェネシスも塔の上でおののいた。
「ハ、――ゴミがァァァアアッッッ!!! 」
「そうやって、君は過去に縛られる。」
ヒポグリフたるフォルテに夢中になっていた。
飛び出してきたかの勇ましい幻獣が、己の体を貫かんとしたのを間一髪、足をかけていた一本の先端から回転し、ジェネシスが躱したあとのことである。
宙に、舞っていたのは――!!
「ッ、てめ――ッッ!!」
フォルテの足に、すかさずウィップを巻いたリンセだったのだ!!
勢いよくフォルテが突撃するのをフェイントに、小さな体はあっというまに巨悪の前を通過し――上空を奪った!!
額から割れた金属器の衝撃で、裂けた額からは血が流れている。それが目に入っても、けして閉じられることのなかった双眸が正義に満ちていた。
「僕達は弱さを見つめている。いつも、毎日、この瞬間も――。」
だから、勝つのだ。
見上げる黒には、それが果たして理解できただろうか。そう、リンセが願いを込めると同時、光の球体が宙に舞った体から放たれる!!
「うおお、おおおおッッ!!!?」
どうどうどうと容赦なく壁を割りながらの連撃!!
たまらずクライング・ジェネシスが雄たけびをあげて――ロンドン塔は、希望の光に照らされた!!
激しい開幕の一手とともに、猟兵たちの戦闘は大きく動きを見せることとなる!!
成功
🔵🔵🔴
風見・ケイ
◎
――その顔、泣いているんですか?
『自分のために』弱者を憐れんで、理解し、共感しようとする。
そういうことでしたらわかります。
あいつらに私の心などわかるはずもないのに。反吐が出る。
はは、怒りました?
そうです。私も今、貴方を理解し、共感しようとしている。
独りよがりの愛だ。
怒れ
恨め
虚無の上に立つことも忘れるほどに
『私』に他の二人ほどの戦闘力はないが、故に見切りだけは上達してきました
障害物を利用しつつ避ける
声を録音し再生した指輪を投げ捨て気を引く
右腕――願い星を盾にする
燕さん、あとはよろしく
これで何も視えない、聴こえない
貴方が視ているのはどんな世界かな
拳銃に威力は期待できないから、装置の穴を狙って撃つ
●
「ウソだろ。」
――クライング・ジェネシスに至ったのだ。
数多の屈辱と、時間と、嘘とはったりだけで彼は此処までのし上がった。
命を捨てて、もはや復讐だけを目的としていつまでも泥水をすすり、ここに至るだけのコストをかけてきたというのに――。
「この俺が、ッ――退いた……?」
先ほどの光球が織りなす連撃で。
クライング・ジェネシスは確かに「逃げた」のである。
絶対的な力をもち、それを震えるというのに、「逃げた」のは彼の習性ゆえだ。彼は、生まれついて弱者で在ることからは変わらない。
「――その顔、泣いているんですか?」
ロンドン塔、あらたなる足場に成り得る四つあるうちの一本の頂上にて。
風見・ケイ(The Happy Prince・f14457)は、弱者の王と対峙することになったのだ。
ひらり、どこからともなく現れた身のこなしは軽やかで、余裕に満ちている。対してクライング・ジェネシスにはただただ焦りと動揺が広がっていた。
「泣いてる、だァ――!? 」
自分の顔など、もう見えていない。
膨大な力を手に入れて、過去をその身に宿しながら暴れくるう過去たる己である。そんなものは見えなくても気にならなかったというのに。
ケイが、こてりと愛らしく首をかしげて笑った。
「『自分のために』弱者を憐れんで、理解し、共感しようとする。そういうことでしたらわかります。」
「来んな。」
一歩、近づく。
――ケイは、探偵だ。
もとは警察官である。利便性から構えた探偵事務所で荒事の仕事はないにしても、人の心を手繰るのはいつものことだ。
どんな小さな事件にも、人の心は渦巻いている。逃げた猫一匹、それが高級すぎる猫で、依頼主の怨嗟が逃がしてしまったり、近所の誰かが殺したり、気まぐれに遊びに行っただけだったり。
毎日、どんな些細なことにも「こころ」というのが起因するのを知っている。
「あいつらに私の心などわかるはずもないのに。反吐が出る。」
「来 ん な っ て 言 っ た だ ろ ォ が ッ ッ ! ! ! ! ! ! 」
だから、この――『共感』と『理解』は、『知ったかぶり』だ。
誰にもクライング・ジェネシスの苦悩などはすべてを知れない。それを『わかった』なんて言ってやるのは無責任な行いである。
「はは、怒りました?」
発動される【過去】を前にしても、柔らかく笑う。
それでも、ケイは――『慧』なのだ。
自己評価が低く、自己犠牲もいとわない。別人格を生み出してしまうほど、己の心が弱いながらに、脳が「よい」のを知っている。
宿った存在を食うUDCと、荒事担当の「もうひとり」には、到底戦闘力では及ぶまい。それでも、できることがあった。ただの「にんげん」が唯一できることを、行うばかりで――体に魔術を回す。
「――【独りよがりの愛】だ。」
ただ、「愛すること」。
吐き出された叫びとともに、漆黒の存在が発射される。
初手は――躱した。塔から滑り落ちてやれば、なんてことはない。かわりに、足場であった場所は「なくなって」しまった。
どろりと黒がそれを溶かしたように見えて、慧も思わず笑んでしまう。全く以て、規格外だ。すこしはねた「黒」が彼女の衣服を「なくした」あたり――過去になるというのは、急速な劣化だろうかと思う。
「貴方が視ているのはどんな世界かな。」
隠れた慧を探すクライング・ジェネシスの視線が惑って、慧の声が録音された指輪を虚無が飲む。
――なるほど、ガワが常人である慧があれを食らってはひとたまりもないなと思わされて。
それでも、やるしかない手段を思い描いて「笑って」いた。拒絶の雄たけびとともに、あたりが虚無に飲まれていくのを地響きとともに感じている。
「殺す、殺す、殺す殺す殺す ぶ ち 殺 す ! ! ! ! 俺をッッ俺を、哀れみ、やがって――ッッッ!!!」
「哀れんでませんよ。」
ふらりと――長躯の女が姿を現して、ほぼ反射で巨体が虚無を放つ。
真っ黒な泥にたちまち飲まれた慧の体は、「願い星」に守られていた。差し出した右手が「星」に守られてがたがたとゆれ、傘の様に慧を黒の濁流から守る。
「愛しているだけ。」
切なく笑ったのは、なぜだろうか。
――そうすれば、この悪が「傷つく」と知っていたからだろうか?
「お、ぉおおおお゛ぉお゛おお、おおぉおッッ飲まれてッッ消えろォオオオオ!!!!!!」
たった、ひとりに。
まるで何もかもを知られたようで、「わかられてしまう」小さなものが彼の正体だとしても、それを嘘で塗り固めて隠してきた。
だから、悪は苦悶する。苦悶の数だけ放たれる力は、みるみるうちに慧の腕を溶かして――体を吹っ飛ばしていった。
刺し違えるようにして、左手で鉛玉を撃つ。
ぎゃいんと響いた装置の音に、虚無の王がハッとして――意識を逸らした時には、もう慧の姿は消えた。代わりに燕が彼の周囲を舞って、体を捕縛させてしまう。
愛している、と心を掴まれたように。ぎりりと締め上げられた魔術式は起動しない!
「ちくしょ――ッッくそ、殺す、殺してやるからな、クソッ!!どこだ、どこに行ったァ――」
姿は、もう見せてやらない。
慧が後続の猟兵たちと入れ違うには十分な時間が稼げたのだ。
肺がきしんで心臓が苦しくなるどころか――もっともっと奥底を削られたような感覚をさせて、燕の怪異が引きちぎられる痛みに微笑む。
その体は、もう、とうの昔に夜の敷地に消えている。
「クソォオオオオオオッッッ!!!!」
虚無の上に立つことすらできないままに、『最強』はひとひとり、殺せなかったのである。
――空に瞬く星々が、彼を嘲笑っているような気すらした。
苦戦
🔵🔴🔴
氏家・禄郎
△
これは……うん、分かっている
「男にはやるべきことを為さなければ生きている資格はない」ってことだね
じゃあ、私の前に現れるのは仕事に逃げた僕だね
やあ、君。
仕事に逃げた気分はどうだね?
妻子から見限られて、仕事に自分を捧げた気分はどうかね?
気持ちいいだろう?
で、何が戻ってきた?
妻も子供も戻ってきて来ないだろう
当たり前だ
逃げた男に何が得られる?
自分の安全と引き換えにお前は全てを投げ出したんだ
あ、そうそう、子供には時々会ってる、よく育ってるよ
(●クイックドロウで射殺)
……で、クライング・ジェネシス君、君のパワー見せてもらおうか?
うん、分かってるよ「君も何もないんだね」
●咄嗟の一撃から『嗜み』でぶん投げる
ゼイル・パックルード
正直あんたみたいに足掻いて生きてきたヤツは嫌いじゃないね……なんて、生きたまま猟兵になんてものになった俺が言っても嫌みにしかならないか
……結局持つ者の力に頼らざるおえない能力なのは、哀れだな
先手で遠距離攻撃されるのは厄介だし、炎は互いに有効打にならないと考え、作り出された幻影になるべく素早く近づくことで近距離戦を、そして自分が使おうとするのと同じUCを使わせるよう狙う。
初撃はUCを発動せず防御し、その後発動
連撃を二、三は喰らうかもしれないが仕方ない
悲しいかな自分の動きの限界はわかる、その隙をつくためにこちらの攻撃は残した
能力はお前の方が強いさ。生憎……経験はこっちのほうが上だったな。
●
――虚無が生まれて、足場が消されていくのを耳で拾っていた。
真っ先に止めにはいってやるべきだとは氏家・禄郎(探偵屋・f22632)も理解しているのである。
見るからにあの虚悪とやらは、器が小さい。悪党というにはあまりにも頭がいいわりにやかましい。ようやく手に入れた力を存分に震えているはずが、それを砕かれて今にも頭が狂いそうなのだろう。
――頭が狂いそうなのは、僕も同じさ。
禄郎の前には、軍服を着た禄郎がいる。
「やあ、君。仕事に逃げた気分はどうだね?」
禄郎は、探偵である。
そのまえは、軍人であった。日英の血を引く彼が、運命の君と出会い恋に落ち、愛を得て戦う男となったのである。
それが、よいことだと思っていた。男は稼いで女が家を守るのが当たり前の世の中であったのは、そうなのだ。
しかし――彼は子供に恵まれて、幸せでありながらも仕事へと「逃げて」しまった。やりたいことだけをしていて、やるべきことを放棄してしまったのだ。
もっと家庭に触れて、話を聞いてやれば。彼の愛しの運命も今日「いってらっしゃい」と笑ってくれたのだろうか。子供も、たまに会うだけではなくて寝顔まで見てやれただろうか。
子供の「おかえり」も、いとしい人の「ご苦労様です」なんかも聞こえないまま、ただただ闇雲におのれのやりたいことをやってきた禄郎が、いま目の前にいる。
「妻子から見限られて、仕事に自分を捧げた気分はどうかね?」
「――。国のために尽くしているとも。」
「そうだろうね、気持ちがいいだろう。」
尽くすことが、美徳だと思っていた。
使命感に燃えて、ただただ家庭にも見限られながらも「バツ」がついたとしても国への態度は変えないことが善いとして、己が認められることだけを考えては心地よかった。
どこまでも、軍人の禄郎は傲慢な「父親未満」なのである。
子供と遊ぶ暇があるのならば己を鍛え、腕を磨き、頭を使って書類を作るほうがずっと良いと思っていた。
いつしか積み上げられた功績の前に、あの人の子供でよかったと、妻でよかったと家族が返ってくると都合よく考えてただただ毎日働くことになる。
「――で、何が戻ってきた?妻も子供も戻って来ないだろう。」
「うるさいッ!!!!! 」
毎日を、生きた。
激昂する己が若くて、禄郎は思わず目を細める。
これは、保身だったのである。自分の安全のためだった。プライドを守り、そうあるべきという観念をいまさら曲げられなくて、「逃げられた」という事実から目をそむけた結果がこのときの禄郎なのである。
掴みかかった軍人の手が力強い。若さというのは、浅いなりに強さを手にさせるものだ。
強かにほほを殴られて、口のはしが切れる。バッと舞った赤を浴びても、まだこぶしは止まらない。粛清を誓うその腕が震えていたのをみて、「探偵」は笑ってしまうのだ。
「当たり前だ。」
――逃げた男に、何が得られる?
父親だったのだ。
守るべきものをたくさん持った、父親なのである。
禄郎がとるべきことはいっぱいあった。国なんかよりも、名誉なんかよりも、守るべきものがすぐそこにあるから、「そこにあるのだ」と信じて疑わなかった己を呪った。
――運命が変わる「あの日」まで。
殴られて飛んで行った丸メガネが、かつんと地面を弾んで転がっていく。
ひび割れたそれを「高かったのに」なんて思ってから――服の袖から銃を引き抜いて慣れた手つきで「軍人」を打ち抜くのだ。まるで、最初から「そうしよう」と思っていたかのように。
「あ、そうそう、子供には時々会ってる、よく育ってるよ。」
聞こえていないだろうけれど。
足で頭の割れた「軍人」を蹴ってから、こと切れたことを知る。
――こうして、頭を撃ちぬいて死んでみればよかったのにとも、思わないでないが。
これは、禄郎なりの自罰なのである。今を生きていることこそ、今を戦うことこそ、彼なりの「反省」だ。ベッ、と一度血混じりのつばを吐いて次は――巨悪へと向かう!
「さて、――君のパワー見せてもらおうか?」
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「おっと、よく燃えてるな。」
まとう炎は、「死」そのものだ。
ゼイル・パックルード(火裂・f02162)の目の前にいるのは、煌々とした炎を引き連れた彼自身である。
「――燃えちゃいけねェのかい。」
ぎろり、にらみつけてくるその瞳に肩をすくめた。なるほど、この彼は「少し前」の彼らしい。過去は今を許さないというが、それは確かにそうだろうとも思わされた。
今の己を、かつてのゼイルが見ればどう思うのかなんて言うのは想像にたやすい。
「日和りやがって。」
「大人になっただけだろ。」
切りかかってくる炎があった。お互いにこの手は有効打になるはずがないと理解している。
己の手の内は、己だけがよく知っているのだ。お互いに遠距離で挑みあってはらちが明かないから、二人して【Not narrative nightmares】とともにぶつかり合った!
重なり合うナイフも、ずうっと共にしてきた黒剣も、火花を散らしてお互いの寿命を削りあう。
胸元の傷からあふれ出る炎は、「昔」のゼイルのほうが苛烈だった。――死んだってかまわないのだと、金色の瞳が訴えている。
「生きてェとか、思ってんじゃねーの。」
死んだほうがいい命だって、わかっているだろうと。
強さの証明のために、少年はあまたの戦場で殺しを繰り返すこととなる。
命を奪った時の満ち足りた心は、確かに少年を肯定してしまったのだ。その命が弱くないと、その命が――強大なものだと、認めさせるために。
愛やぬくもりなどを知らぬ彼は、炎の熱さに己を承認させられることとなる。それを、不幸だなんて思ってもいないし、当然だと思えていた。だからこそ、こうして切りあう己のいいたいこともわかる。
黒剣を盾代わりにしてガードを果たし、間の隙間から高速でダガーを差し入れる。
思い切りのいい「昔」のゼイルは命を使うことにためらいがない。使えば使うだけ、彼の体は窮地に陥るのだけれど、それを待っていたといわんばかりに破滅的な戦い方をする。
「どうした、どうした――ッッッ!!! 逃げるなよ、殺しあえって!! 」
「逃げてねえよ。ちゃんと相手してるだろ。」
――ガキだな、と。
少し前までの己を見ながら、炎を胸からさらしながら地獄の彼は思うのである。
生き生きとして、このためだけに生きているのだと叫ぶ心と、今はさほど変わらない。だけれど、唯一この「昔」と「現在」では決定的な差があった。
熱した刃で、二の腕を刻まれる。深々と刺さったナイフをえぐるようにして手首をひねる「昔」の顔が生意気で舌打ちをしてやった。
そのまま叩き込まれる拳にろっ骨を砕かれ、腰まで響かなかったことを安堵する。肘で額を切られ、これにはたまらず怒りがあふれて傷口が燃えた。
――調子、のりすぎなんだよ。
確かな手ごたえを感じた「過去」の彼にゼイルも容赦なく踏み込んで血まみれの頭を振って額同士をぶつける!!
「死ね。」
ぺっ、と血混じりの血痰を顔に吹いてやったのなら、反射的に目を閉じた「昔」の腹をけり上げる!
確かに、――ゼイルの「昔」は今のゼイルよりも苛烈だった。震える能力は「昔のほうが寿命が長い」限り、凶悪である。終わりを知らぬ勢いで燃え盛り、連撃の数は増えていくばかりだった。
しかし。
「経験はこっちのほうが上だったな。」
なぜなら、「未来」である!!
ゼイルが蹴り上げられて空中に浮いた己の体を、ばさりと刀で一閃してやった。燃え盛る炎を傷口から漏らしながら、「あ」とそれが金の瞳から光を失って、みるみる炎に飲まれていく。
悲しいかな、――限界というものを、わきまえているのだ。どこからどこまでが動けて、どういうときに隙が多くなるかもわかっている。
「正直あんたみたいに足掻いて生きてきたヤツは嫌いじゃないぜ。」
火だるまになった自分のことは早々に見限って、ゼイルは塔の上にたつ「悪」を見上げることとなった。
――塔の庭園で、ゼイルと禄郎がいる。ワタリガラスがわななき、早く去れとクライング・ジェネシスに訴えかけるようであった。
「おかしいだろ、おかしい――クソックソックソッ!!! 俺がッ、俺の計画じゃァ――こうは、ならなかったッッ!! 」
「そりゃあ残念。時代遅れな計画だったのだろうね。」
「ああ、残念。――結局持つ者の力に頼らざるを得ない能力なのは、哀れだな。」
なるほど、泣きわめいているようにも見える。
先ほどの――多重人格の探偵が言うように、頭を両手で抱えて見せるかの傲慢はずいぶんと精神的にもろいらしい。小悪党のような駄々からして、海ごと世界を支配するためには――やはり、「才能」がないといえる。
ゼイルが憐れんでいるのを許せなくて、雄たけびを上げてクライング・ジェネシスが首を横に振った。
「黙れ、黙れ黙れ、黙れェ――――ッッッ!!!! 俺が、俺が最強なんだ!! 俺がッッ!! 俺 を 、 憐 れ む な ァ ッ ッ ! ! ! 」
「わかってるよ。」
ぐるんと、クライング・ジェネシスの視界が回る。
いつの間にか、逆さになっているらしい。やたらと周囲の光景が美しく見えた。
――テムズ川の向こうにある街の明かりは、いまだに消えていない。未来を歓迎する光は、大きく振るわれて、わああっと歓声が響く。
「君も、――何もないのだよね。」
【嗜み】。
ゼイルの黒剣を足場として、打ち上げられた禄郎がその足首をつかんでいたのだ!!
どす黒い怨念で満ちたそれに触れただけで、肌が焼けただれるような痛みを覚える。時間があるまい――と、思い切り勢いよく地面にたたきつけてやった!!
「いよいよ降ろされた、か。そっちのほうがお似合いだぜ、あんた。」
歓声を背から受けて、ゼイルが笑う。
この場にて立っているものだけが勝者で、地に伏したものは遅かれ早かれ敗者なのだ。血にまみれたふたりの男たちが、ひとつの「解」を確信する。
――明日も此処に立つのは、「猟兵」であると!!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アルジャンテ・レラ
オルハさん/f00497
……そうでしたか。
私はこの世界を訪れるのは今日が初めてです。
住民についても当然よく存じていません。
ですが、オブリビオンに苦しめられる人の姿はもう見たくないと、或る場所で思ったのです。
貴女のお力も、お借りできますか。
また無謀な真似を……。
生み出されたオブリビオンを滅する一助となるよう、援護射撃で支援しましょう。
過去、即ちこれまでの私の戦い方など自分が一番深く理解しています。
私の矢は愚直に真っ直ぐに放つもの。
ならば真っ直ぐ矢を放せば相殺の可能性も高いはず。
上手く出来るかはわかりませんが、軌道の読まれぬ乱れ射ちで応戦もします。
このような我武者羅な戦法。らしくありませんね……。
オルハ・オランシュ
◎△
アルジャンテ(f00799)と
ねぇアルジャンテ
私ね、これまで色んなヒーローやヴィランと出会ってきたの
正義を貫くヒーローも、ヴィランの道を選んできた女の子も
みんなみんな真っ直ぐだった
……あのひとたちに絶望を見せつけるなんて嫌なんだよ
君の力を貸してくれる?
この状態だとあいつは動けないみたい
翼飛行で胸の前に位置取って、オブリビオンが出てきた瞬間に槍で貫くよ
出たと同時に仕留められたらベストかな
とはいえ数が多いね……
でもいつか必ずこの状態が解除される時が来る
彼の援護に頼りながら、防御は捨てて攻め続けよう
ジェネシス自身への攻めに転じる時は彼とタイミングを合わせる
同じ部位を狙って着実に傷を深めていこう
●
「ねぇアルジャンテ、私ね、これまで色んなヒーローやヴィランと出会ってきたの。」
ロンドン塔、そこで悪を歌うかのペテン師がたいそうに笑うのが引きずりおろされたのを、オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)も観ていた。
その悪は、呻いてうなって、地面をたたきつけて顔を持ち上げる。その顔の――おそろしいこと。赤い涙を流しながら、未来を恨むさまがオルハには十分おぞましいものに見えている。
名を呼ばれたアルジャンテ・レラ(風耀・f00799)は、たいして静かでった。何せヒーローズアースに訪れるのは今日、この決戦の時が初めてである。
だから、オルハの言葉を聞いていたのだ。人間よりも人間らしく在らねばならないと知識を得ているアルジャンテよりも、きっと彼女のほうが「にんげん」に詳しいだろうと踏んでいた。
事実、オルハの冒険記録によれば――。
「正義を貫くヒーローも、ヴィランの道を選んできた女の子も、みんなみんな真っ直ぐだった。」
曲がってしまったのはやり方だけで。抗うためには、力が足らないだけで。
誰もかれもがまっすぐ己を貫こうとして生きているのを、オルハは見てきたのだという。天真爛漫でまっすぐな性根をしているだろう、純粋な眼がそういうのだから、アルジャンテは黙って聞き届けていた。
「――そう、でしたか。」
それ以上は、言えない。
ロンドン塔にて戦う猟兵たちを応援しようと、ヒーローたちが住民と一緒にまだこのイギリス――それも首都、ロンドンにて国民たちと光をかざしている。
「もっとだ、もっとライトもってこい! 」
「見てる!!みてるよ、猟兵――ッッ!! 」
「負けないで、おねがいッ!! 勝ってぇえ―――ッッ!!! 」
「あのひとたちに絶望を見せつけるなんて嫌なんだよ」
オルハが、そうつぶやくものだから。
誰もかれもが、明日へ叫んでいるのを――まばゆいものを見た顔で、アルジャンテが凍った表情にわずかながらの変化を出していた。
「オブリビオンに苦しめられる人の姿はもう見たくないと、或る場所で思ったのです。」
この世界の「ひと」というのはよくわからない。
それでも、「わからない」からこそ、知る必要があるものだとアルジャンテは思わされる。彼の理解に及ばないものというのは、往々にして「こころ」というものがあるのだ。
きしんだ心が「見たくない」と思えたというのなら、この誰もを守るべきが己の使命だと理解できる。いびつな人形が動くには、十分すぎる動機だった。
「貴女のお力も、お借りできますか。」
「そう言おうと思ってた。」
どこに逃げても、同じだというのなら。
民衆たちが一生懸命に光を振りかざして、猟兵たちに希望を向けている。
この世界は、オルハが知る限りで――一番、希望に満ちていたのだ。誰もかれもがヒーローにあこがれ、己の才能を磨くこの世界の美しさと本質を知っている。
それぞれの正義のために生きているこの美しくも純粋な世界を壊させるわけにはいかないから。こうして、誰よりも「ひと」を知る必要のある人形の彼とやってきた。
光をめいいっぱい背に受けて、塔の中へと立ち入っていく。今、二人の猟兵の姿が見えなくなるまで人々の応援は続いていた。
「俺が、地に下ろされてる――?」
理解できないと、その過去は言うのである。
「どうなっていやがる、クソ! クソがッ、こンなの、許せねェッ!!! 俺が最強の、オブリビオン・フォーミュラだぞッッ!!!???? 」
その渦が、胸から湧き出ていた。
オブリビオン軍団を胸の虚空から生み出していくのを――放たせるわけにはいかぬとオルハが駆ける!!
「は、ァアア、ああああああ――――ッッッ!!! 」
「うぉ、おッ!!!??? はは、 は――頭、おかしいんじゃねェのかッッ!!?? 」
おかしくて結構、無茶で結構!!
オルハはその体に【スカー・クレヴォ】で三叉槍に魔術を宿し、その「過去」を吸う!
「ぐ、ゥウ、う―――ッッ!!」
奥歯をかみながら、それでもしかりと握りしめる槍だ!!過去を練り上げる大魔術を前に、それを吸い上げて己の糧にしてやろうというのである。
このオルハのやることは、どうみても正気とはいいがたいものであった。だが、「無茶」をしなくては、戦えない相手だともわかっている!!
吸い上げたそれが「未来」をむしばむものでもあるから、使徒たる猟兵であるオルハが無事では済まないことなんてわかっていた。だけれど、この無尽蔵に過去を呼び出す魔術だけはどうしても起動させるわけにいかなかったのだ!!
「ぎひ、ぎ、ひ、ヒャハハハッッ!! いつまでもつんだァ、そのやせ我慢!! 女ァ、無理すんなよッッ!!! 」
「うるッさい、なッ――!!!」
世界を救うのに、女も男もないでしょ。
力強く握りしめた手には、確かに未来を確信した痛みがあったのだ。
助けなくてはならぬと、信じている。己の攻撃力を底上げして、生まれる前の過去を貫いて相殺し続けている。地面が割れるほどの波動を感じながら、それでもオルハの体は撤退を知らない!!
「――また無謀な真似を……。」
それを、アルジャンテは――己に課された「過去」と応対しながら半ば感心したような、あきれたような声で言うのだ。
アルジャンテの前には、「同じ」己がいる。無機質な顔で、いびつなこころをどうすればいいのかわからないから、ただただ本をがむしゃらに読んでいた己がそこにいた。
きりり、と――弓が張られて、だろうなと同じように構える。
「いざ。」
これまでの己の戦い方なんて言うのは、アルジャンテ自身が一番理解をしていた。
愚直にまっすぐ放たれる矢は、正確な狙いすぎるのだ。仕留めたいものだけを確実に撃とうと放たれる矢を――その軌道も意図も、アルジャンテは理解している。
【 影 迅 双 矢 】 に は 、 【 影 迅 双 矢 】 で ! !
放たれた無数の矢がお互いを穿つ!!ばきばきと互いが割れて、早業の読みあいとなっていた!!
隠れる矢を逃さぬと追撃の矢がまた穿ち、その上を重ねがけるようにしてまた矢が飛び出して穿つ。穿って穿って穿って穿っていく!!
その様を見て、最初に動揺したのは「過去」のほうのアルジャンテだ。
「らしくないでしょう。」
人形の体で、アルジャンテがまた放つ。
疲れ知らずの体であっても、物質なのだ。弾かれた破片に互いの体が削られ、時に砕かれていくのを感じながら――動揺しないほうが「いま」の彼だった。
「このような、我武者羅戦法――非効率で。」
しかし、それを、あえて!!
高度な集中を必要とする技である、この最中に疑問や懸念を抱くなどというのがどれほど痛手かなんて「どちらも」わかっていたのだ。一度走った動揺は確かな虚になり、そこを起点として――「いま」のアルジャンテの手数が圧倒的に上回っていく!!
「アルジャンテ、まだ――ッッ!!!? 」
「もう、行きますッ!!」
ばしゅんと放った矢で、「過去」の己の額を穿ったのなら――可動域最大で腰を声のほうに回して、彼が構える!!
どこを狙えばいいのか。
――無敵となったあのクライング・ジェネシスのどこが欠落なのかを見ていなかった。しかし、だからと言って集中は切らさない。アルジャンテの意識は、オルハの槍が示していたのだ。
過去の濁流を食い止め、防御を捨てたせいで皮膚が避けて、魔術の流れに苦しみながらも「待ってた」と緑の瞳が笑う。
ああ――そこだ。
「あ――?」
全身から血を流すオルハが、けして逃げなかったのは。
オルハが相殺することで、魔術はオルハのほうに流れていく。もちろん、余剰分はさらにあふれて周囲に散っては具現化できないまま消えていった。
しかし、その「槍と接している」部分はどうだろうか――常に、魔術式が働いていることとなる!!
「ってめ、まさか最初からこれを―――ッッッ!!! 」
オルハは、答えなかった。
もう言葉を放てるほどの余裕もない。口を開いて息を吐けば、己の体が壊れて散りそうだった。
それくらい――この「過去」をせきとめていることは、彼女の負担で小さな体に追いつかない。だけれど、アルジャンテは聞いたことがあるのだ。
彼女には、愛する人がいる。
「 そ の 身 に 受 け て い た だ き ま し ょ う 。 」
放つ矢には、確信だけがあったのだ。
この悪を退けて、彼女を真っ先に抱えて逃げようと、――思えていた。立ち向かう彼女のことを、覚えておく。
きっと、民衆みんなが「負けないで!!」と叫んでくれていたのだ。声が一丸となって、オルハの意識を支えて限界を超えさせていた。
「絶対に、負けない――――ッッッ!!」
常に魔術式を無限に働かせていた、その胸に亀裂が走って――!!
「ぐぅ、おおおおおおッッッ!!!!!???? 」
思わず飛びのいて逃げ去るクライング・ジェネシスが三本目の塔の上で、己の胸を両手で触りながら呻きだしていた。
「オイオイオイ、まじかッ、あのガキと女ッ――俺の胸を割りやがった!!! 」
無 敵 、 破 れ た り !
この事実だけで充分だとして、だだっと走ったアルジャンテがオルハの体を抱えて撤退する。
「無敵は破れる、倒せる――証明できましたよ、オルハさん。」
ぼろぼろの血まみれの体が、ゆるく笑んでいるのを見て「まったく」とアルジャンテもため息をひとつつく。
それでも、二人とも折れなかったのだ。傷を負っても、あの悪のように逃げていったりはしなかった。――オルハは、宣言通り「負けなかった」のである。
人々は、これをきっと、涙を流しながら見たのだろう。
守ってくれた英雄ふたりに、ワアッと沸き立った声がきっと、届いていた――。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
イリーツァ・ウーツェ
【POW】
貴様が、此度の首魁か
よし。殺す。
全力魔法で己を強化し、湧き出る敵の海を突っ切る
怪力には自信がある
尾で払い、殴って壊しながら急いで本体へ向かう
後は本体をUCを使い、壊れるまで殴る
ほぼ無敵なのだろう?なら幾らかは通る筈だ
壊れるまで殴り続けよう
自分の傷は如何でも良い 私は貴様を壊す
此はそう云う依頼だ 受けたからには完遂する
(以降、無言で殴り続ける)
リーオ・ヘクスマキナ
◎
えーっと、つまり。世界を巻き込んだ盛大な八つ当たりって事でOK?
なんて傍迷惑な……!
兎に角、これ以上の被害が出る前に此処から、この世界から。退場して貰う!
胸から出現し続けるオブリビオンを、短機関銃で蜂の巣にし続けることで対処。膠着状態を作り続ける
(●武器改造、●早業でリロード速度上昇
赤頭巾さんには体への負担は度外視し、表に出てくる分の魔力も全てUC威力上昇に回して貰う
敵が痺れを切らしてUCを解除するか、魔弾が防護を突破出来る見込みがある程威力を上げたら発射
……この一発は、お前がバラ撒いた理不尽への反逆と、『過去のお前』のように、踏みにじられた誰かが鳴らす逆襲の零時の鐘だと思え!
●
――おかしい。
恵まれないから、ひたすらに苦渋をすすってきたではないか。
己は世界に愛されなかった、認められなかった、生まれてきて「何も能力がなかった」。あるはずのものがないということの悲しさは、「どんな才能」でも補えなかった虚無があった。
だからその分だけ、恵まれた誰かを恨んで恨んで恨んで、ようやく――ここまで来たというのに。
「なんで、俺は――ヒビ割れてんだッ!!!? い、意味わかんねェよ、クソがッ!!」
「貴様が、此度の首魁か。」
惑うなら、死ね。
――己の存在が揺らぎ始めて、足場のないようか心地で塔に立つ巨悪を襲うのはイリーツァ・ウーツェ(黒鋼竜・f14324)だ!!
どうっと飛び出してきた瞳には、一つとして恐れはない。恨みもなければ、そこに宿るのはただの使命感のみであった。
人々を守るための竜となったのだ。
頑丈な鎧に身を守られながら、彼が「約定」に則り世界へ従い、振るわれる暴力は歓迎される。
「やっちまえ、ドラゴン!!ぶったおしてくれェッ!!」
「アナタすごく強いんでしょ、知ってるんだから!ニューヨークの力、また見せて――ッッ!!」
竜にとって守るべきは、約定に従ったものである。
その声援にイリーツァの心は揺らがない。ただ、「守るべきものの数が多い」ことはわかった。
一丸となった「鳴き声」には数がある。竜よりも弱い生き物の「巣」を襲ったこの外敵は、竜が相手取るにふさわしかった。
「そうだとも、俺が最強のオブリビオン・フォーミュラ、クライング・ジェネ――」
「殺す。」
有無を言わさない。
燃える赤の瞳はけして地獄の色をしていない、その目に宿るのは「そうするべき」という使命だ。
「無敵を誇る」術式をまた働こうというのなら、それを穿って守り切るのがイリーツァの目的である。湧き出る過去の猛追に竜がうなり、為すべきことを為そうとうなる。
「――私 は 貴 様 を 壊 す 。」
目の前でなされる光景は、まさに地獄といっていい。
【鎧袖一触・人纏竜】と共に放たれるのは、まぎれもなく凶悪な連撃であり。それを受け止めるオブリビオンの大群たちは当たったところから砕け散って、また新しく体を作り出す。
――終わらぬ地獄が始まったのを。
「えーっと、つまり。世界を巻き込んだ盛大な八つ当たりって事でOK?」
どっちが味方でどっちが悪やら、リーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)にはいまいちピンとこない光景であったに違いないのだ。
果敢に挑むイリーツァのおかげで、塔の向こうの町ではどうせ世界が終わっても死んでしまうのだからと誰もが猟兵の活躍を応援している。
リーオが挑みに行こうとした時も、それはそれは沸き立ったものであった。彼らは、過去にあらがう猟兵というものに期待と希望をのせている。目深にかぶった帽子は、気恥ずかしさもあるけれど――微笑む顔を隠したいのもあったのだろう。
「傍迷惑だよ。ねえ、赤ずきんさん。」
世界の応援が、響いている。
リーオはけして、自分が褒められるべき生き物でもなければ、認められるような生き物ではないと「わきまえている」。
――人殺しなのだ。
それは、きっとこの「赤ずきん」の彼女が知っている。隣を舞う赤色の影は、いつもより機嫌がよさそうに笑っていた。
オオカミを殺す、猟師なのであって――世界を救う英雄にはなれないだろうと、わかっている。だけれど、いま目の前で竜が相手する悪はまぎれもなく「倒すべき」存在だ。
「これ以上の、被害が出る前に。」
がちゃりと、短機関銃を構えたのは。
英雄だからと思われたからではない。誰もがそうあってくれと望むからではない。
「猟師」にしかなれぬリーオが、守られるべき弱き人々を守る「銃弾」になるための意志がそうさせたに違いないのだ。
「ッッこの、馬鹿力がよォ―――ッッッ!!!」
防戦一方、と言っていい。
イリーツァの攻撃に、生み出したオブリビオンの大群は生まれた端から殺されていくのだ。
無残に散って、真っ黒な灰となって――とっぷりと陽が落ちた暗闇へと消えていく。とはいえ、イリーツァも優勢ではあれど体は無数の傷まみれであった。
だからこそ、この「敗者」はこの竜が恐ろしく見えているのである。歯噛みして、険しい声を震わせながら塔に片腕でつかまり立つ姿など、赤子のそれと大差ない。そう、イリーツァには見えていた。
殺さねばならぬ。
そげ落ちていった右ほほの肉も、むき出しになった左のほほ骨も、だからなんだというのか。
痛みを感じていないわけではない、彼にとって――痛みよりも彼の使命のほうが上にあるだけである。
「ッフ――ざけやがッッて!!!! とまれッッッ!!! 」
止まらない。
イリーツァは生まれながらにして「ばけもの」だ。後付けのそれとは大きく異なる感性で生きている。
踏み出した足を、突き出した手を、薙ぐ尻尾を、肘を、膝を、かかとを、どれもこれもかしこも全身を凶器として突き動かす生き物だ!!
「 死 ね 。 」
ざらりとした声色が、きっとすべてを伝えたのだ。
この怪物は――こと切れるまでは止まらないと!!ぞわりと走った悪寒に、「根」が小悪党である彼は勝ち筋を見出す前に恐れがあふれていた。
「とまれ、止まれッ――止まりやがれェエエエエエッッッ!!!! 」
「――うぉおおおおおおおおッッッ!!!!!! 」
そして、その刹那。
とどろくような悲鳴を割いて、リーオの手にした機関銃が火を噴いた!!
ぱぱぱぱぱぱ、と軽い音を立てながらも、突き出されるのは鉛玉である!オブリビオンたちの姿を壊し、こぶしの壊れ始めていたイリーツァを奇しくも助ける形となった。
赤色が動き、「感謝を」と短く礼を告げる。
「いいからッ――やろう!!! 」
吠えた少年には、うなずきを返さない。
かわりに、相応の働きを見せようと――竜がまた、前へ急ぐ!!
「ああ、クソ、クソッ――!!また、俺はァ、退くのかよッッ――!!」
しびれを切らしたのは、「代償に動けなくなっていた」ほうのクライング・ジェネシスだったのだ。
魔術を解除して、次の足場に移ろうとするのをリーオはずっと待っていた。ただでさえあれほどイリーツァに叩き込まれた連撃を見て、精神的な苦痛を味わうはずである。
何せ、元から――強い生き物ではないというのだから。
「そうだよね、弱かったから。逃げる、よね?」
――起動、【赤■の魔■の加護・「化身のサン:魔法の終わる時」】。
深紅の呪いがリーオの拳銃に宿る。魔術式が彼の体をむしばんで、胃の中がひっくり返りそうになる感覚を味わった。
口の端から抑えきれなかった、生臭い鉄の味が零れ落ちている。もしや、臓器か食道か、起動かを呪いで食われたかもしれない。
だけれど、けして、彼の赤い瞳はブレなかったのだ。
「――この一発は、お前がバラ撒いた理不尽への反逆と、」
逃げ出そうとした体を、イリーツァも逃がさぬと足を一歩前に踏み出す。
リーオが仕掛けるというのなら、「猟兵を助けろ」と命ぜられてあるイリーツァがするのはより確実な一手を助けるための動きだ。
飛び上がろうとするのならば、踏み込んでイリーツァも跳ぼう。
「『過去のお前』のように、踏みにじられた誰かが鳴らす」
その過去にまみれた左手を握ろう。
心臓に近いほうが、亡くしては困るだろうという『感想』だ。
「――逆 襲 の 零 時 の 鐘 だ と 思 え ッ ッ ッ ! 」
「――ぎ、」
イリーツァが、腕を引っこ抜いた。
リーオが穿った魔弾が、かの悪党の肩を穿つ。血しぶきとも泥ともとれぬ海の残骸が、ぶしゅうと噴き出して――。
「俺は、最強なんだ。」
揺れた声が、――情けないもので。
イリーツァがあきれて笑ってやることもなく、その巨体を地面に屈強な尾ではたき落とす!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
白波・柾
俺たちの過去は俺たちを許さない、か
そうだ、昔の「俺」はヤドリガミというにはあまりにも弱く儚く、村人たちの手によって守られてきた存在だ
なればこそ平等に人々を救いたいという、今の「俺」を許さないだろう
だが―――俺はその上をゆこう
「俺」は馬鹿正直で、猪突猛進だ
だからこそ俺は「俺」の対処法がわかる
刀の軌跡の『見切り』に努め、それを『咄嗟の一撃』で刃を逸らせられるならよし
難しいならば『オーラ防御』『激痛耐性』で耐え抜きたい
攻撃を受ければ『カウンター』で『吹き飛ばし』て
『ダッシュ』で距離を詰め『怪力』を添えた
【正剣一閃】で『傷口をえぐ』りながら攻撃しよう
……反撃技を使うなど、以前の俺ならしなかったろうな
アルトリウス・セレスタイト
過去は終わったものだ
大人しく終わったままでいるが良い
先制へは顕理輝光で対処
常時身に纏う故、準備不要
『絶理』『無現』で自身への影響を否定
『天冥』『明鏡』で目標自身を害するものへと転化・命中
反撃しつつ強化も避ける
後の攻撃分含め必要な魔力は『超克』にて“外”より供給
反攻は天位
逃すこと無く『天光』で見切り、『解放』『刻真』で最大加速し即座に近接
『討滅』の死の原理を『励起』で高めた個体能力で嵐と撃ち込む
仮に砲撃を至近で受けても最初と同じ結果
そも、反撃の暇を与える気もない
もう一度繰り返すが、過去は既に終わったもの
死という名の終わりに触れればそれを思い出すだろう
トリテレイア・ゼロナイン
どんな理由があろうと、世界を滅ぼす免罪符とはなり得ません
いえ、貴方の場合は許しなど無用と仰るでしょうね
討つべき巨悪として相対し……その企み、阻ませて頂きます
今を生きる人々と、これから生まれる可能性の為に
事前に自身の電子頭脳に●破壊工作を施し●ハッキングによるコマンド入力で停止するよう細工
同じ能力ならばこの細工も模倣される筈
そして思考・戦術までは同一に至らない以上、ハッキングには先手を打てます!
●防具改造で装備した無線ハッキング装置で幻影出現と同時にコマンド入力し停止
UCを足元に撃ち込み転倒させたジェネシスにワイヤーアンカーを射出し引き寄せ
木偶となった私の幻影を●怪力で鈍器として叩きつけます
ジャハル・アルムリフ
…失くした者の、何も持たぬ者の心地は知っている
それ故に
ただ欲のまま奪い在るなど、二度と己には許さぬ
放たれる「過去」は
かの砂嵐か、それとも知らぬ記憶か
喪ったものは取り戻せぬ
過ぎたものに呉れてやれるのは、終わりだけだ
黒剣で斬り裂き
<第六感>で致命傷だけを避けながら
全開の<生命力吸収>と<オーラ防御>
耐える術にて喰らい合う様に永らえ、凌ぎ
喚び出すは【暴蝕】の群魔ども
黒剣を支えに意思だけは伝えて手繰る
自らの血に浸した剣を薙ぎ払って
ジェネシスの足元を汚してやれば
そこはもはや純粋たる虚無ではあるまい
多少は力を削いでやれるだろう
現在ある限り
過去は無限に尽きぬもの
ならば
…幾らでも喰らってやれ、あいつごとな
ユエイン・リュンコイス
過去の具現、か。鳴り物入りで登場した手前、大変恐縮だけど。
…見飽きているんだ、その手の虚仮脅しは。
相手は過去のボクか。当然、同じ様に機人は居るはず。でも、それ以外は?
『穿月』は観月を元に射撃性能を特化させた。機人の構える『月墜』も改になって連射速度が改善されている。『焔刃煉獄』だって、かつてはこの手に握られてなかった。
どれだけ似せようと、過去は過去。変わらぬモノなど何もなく、故に未来が先を往く。いつまでも塔に籠る人形では居られないんだ。
それにーー過去に囚われているのは寧ろキミだろう。その証拠を見せようか(UC起動)。
何も無かったのはお互い様、世界を是としたか否としたか。それがボクらの違いだよ。
コノハ・ライゼ
どいつもこいつも執念だけは見上げたモンねぇ
でも魅せるなら絶望より希望デショ
過去がどう襲ってくるか知ンないケド
失くした身としちゃくれるってンならありがたい位ネ、ナンて
何が視えても気にせず只攻撃の動きと予測ダメージ読み『見切り』致命傷だけは避け
『オーラ防御』展開の上敢えて攻撃を受け『激痛耐性』で凌ぐわ
物理攻撃なら「石榴」で捌こうか
だからってパワーアップ許しちゃ癪じゃナイ?
大体めんどくせぇのよ、ちょっと黙ってて
『カウンター』で【黒喰】放ち過去ごと本体にも喰らいつかせ
『2回攻撃』で『傷口をえぐる』よう石榴で狙い『生命力吸収』しにいくわネ
オレもこのコも腹空かせて来たンだ
もっとご馳走してヨ
ジュジュ・ブランロジエ
◎△
人を笑顔にする私が絶望の種になるわけにはいかないからね
絶対に負けられない
どんな窮地でも笑ってやる
わあ、私達そっくり
でも過去の幻影なんだね
戦うのほんの少し怖いでしょ?
今はもう怖くないけど
炎属性衝撃波を水属性付与したオーラ防御+二回攻撃で防ぐ
最初はメボンゴに頼るし
とりあえず燃やそうとするよね
攻撃を見切ろうとすると思うので
土属性の衝撃波(メボンゴから出る)で視界を遮った後、ダッシュで近付き炎属性付与したナイフで攻撃
貴女は私だから接近戦苦手だよね
うん、これは私の課題
ボスにはワンダートリート二回攻撃
這い上がろうとする根性は嫌いじゃないけど手段が嫌い
卑怯な悪役は正義のヒーローに倒されるのが定めだよね!
ティオレンシア・シーディア
◎△
…実のところ。あたし別にあなたに悪感情あるわけじゃないのよねぇ。
むしろゼロから嘘とハッタリとクソ度胸でそこまで積み上げたこと、素直に尊敬に値すると思ってるくらいよぉ?敵だし迷惑だから殺すけど。
あたしがあたしを相手にするなら、まずまともには戦わないわねぇ。
グレネードとルーンで攪乱して泥沼の削り合い、ってとこかしらぁ?
…だからこその逆張り一点読み、早撃ち一閃による正面突破。○クイックドロウからの●封殺で動き出される前に潰すわぁ。
状況に応じて色々小技使えるようにはなったけど、これがあたしの最初にして最後の切り札。…知ってるでしょ?
何時のあたしかは知らないけど、まだ迅くなり続けてるんだから。
●
失くしたものの、何も持たぬ者の、心地は知っている。
――故に、欲のまま奪いある様を二度も己に赦してやるわけにはいかなかった。
ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)のもとにやってくるのは、同じ背丈をした――少し若い、彼である。
幼いよりも、もう少し年をつけたころであろうか。少なくとも、師に「大馬鹿者」と白いじゅうたんに埋まったころよりはずっと今に近い。
――どんな姿で現れるかと思えば、飛び出してきたそれはまだ「かわいらしい」。ほとんどなくした記憶の向こうで、「知らぬ」側面が現れたのは、興味すらわかない彼だった。
過ぎたものは、過ぎたものである。
「過ぎたものに呉れてやるのは、終わりだけだ。」
己が――そのような己になったことを、この「過去」は許すだろうか。
いいや、そんなことも考えていないような構えである。お互い歴史は違えど構える動きはほぼ同じだった。
ジャハルは、名を授かった竜である。
その運命は生まれた時から呪いと言って差支えのないものであった。記憶を失い、抜け落ちたものを集めながらなおのこと、己の歩く世界を師とともに守ってきたのが彼である。
だからこそ、なればこそ。今、その存在を疑うようなものが見えたところで、揺らぎはしない。
そんな脆弱な幼さはとっくの昔に過ぎ去った体である。竜たるかれは、今はもはや「守るべき」使命を手にした凶星だった。
偽物の竜はぐるると唸るばかりである。砂嵐めいたものがそれを包んで、明確な殺意を以てジャハルの体を貫かんとにらんでいた。
どちらかともなく、足を一歩踏み出していたのだろう。
なるほど、たいして「前」の己ではないらしい。ほとんど動く瞬間は同時で、まず一本繰り出す剣さばきも同じ軌道であった。
しかし、あっけなく「今」のジャハルの迷いのない力強さが押し勝つ。「過去」のそれを弾き飛ばして、一層して――薙ぎ払う!!
「――なんでだァ……?」
目の前に広がるのは、『過去』を乗り越えようとする希望の象徴たちである。
クライング・ジェネシスにはその行動原理がわからない。彼は落ちるところまで落ちて、ようやくここに来たのだ。
ジャハルが過去の己を切り捨てて、それでも止まらない『過去』の濁流と殺しあうさまに驚きも動揺もない。
――所詮「現在」のジャハルにはどれも勝てやしないのである。
飛び出した剣を手のひらで握り、握りつぶして手のひらを赤くする。浅黒い肌に赤がよく飛び散っても、まったく気にしていない。
突き出された剣をひざでけり上げて、肘で別の「顔」を打ち砕く。くらりとしたのなら止めといわんばかりに腰から剣で薙いでやった。
血に交じって飛び散る脂肪も、こぼれ出る内臓にも恐怖はない。「今」の体を襲う痛みなど、大したこともない。
「なんで、折れねェッ――!!!???」
凛とした瞳には、ただただ「前へ進む」という単純ながら強固な意志があった。
はたき落とされて地面に沈んでいたクライング・ジェネシスはぎりぎりと膝で立ち上がって、未来の行進にわめくばかりなのだ。
それが聞こえて――鉄より冷たく炎より熱い人形が、笑う。
「――見飽きているんだ、この手の虚仮脅し。」
作られた瞳にうつるのは、まったく同じ姿だ。
ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)は、塔にて読書に耽っていた時があった。
理由はシンプルで、「人間の気持ちが文字となって読み取れる」からである。彼女は、ずうっと知識と心を朽ちぬ体で仕入れ続けているのだ。
知識があれば、経験はなくてもイメージングはできる。こうして、「過去」が彼女の前に現れるのも何度目であろうか。
悪意のある過去である。この――目の前にいる「過去」のユエインは今のユエインよりもある意味「容赦がなさそう」だった。
だから、なんだというのか?
「所詮、どれだけ似せようと――過去は過去だよ。」
機人と一体になる「過去」を見る。
みるみるうちに巨大化した機人は【黒鐡の機械神】を起動させられていたのだ。
それを、ゆっくりと――見届けてから、ユエインは己の焔刃『煉獄』を構える。ここが、まず決定的に違うのだ。
あの手には握られていなかったものが、ユエインにはある。機人の構える『穿月』は観月を元に射撃性能を特化させたものだ。機人の構える『月墜』も改になって連射速度が改善されている。
負ける理由を計算しても、考えても、想像しても――。
「万が一にも、在り得ないね。」
飛び出した体は、鉄球のごとく!
炎を纏った刀を突きの姿勢にさせて、大型の鉄に立ち向かう!!
真っ先に起動されるのはダメージソースだろう。行動パターンを把握してユエインを叩き壊そうとするに違いない。しかし――。
「エラー数値でいっぱいだろう。」
冷静な声が、「中」に響いただろうか。
「今」のユエインは、「未来」である。どの時代を見ても最先端で、絶えず進化し続ける存在だ。
毎日学ぶものがあって、仲間と出会って、孤独な塔で本ばかりから学んでいた時とは大違いである。つまり、いくら「過去」からさかのぼっても――!!
その強さ、【規格外】!!
黒鉄を切り裂いた一撃は、あまりにも痛烈であった。
飛び出した体が宙をまって、落ちるスピードに合わせて突き立てる焼けた刃を捕えられなかったのである。銃口が向く前に懐に入り込んでしまえば、超接近の豪速に銃弾が追いつかなかった。
この時の己の「よわさ」をユエインは恥じない。――むしろ、誇りに思えるのである。
「なんッッッで、嗤ってンだ――ああ、どいつも、こいつもォオ!!!!」
頭を抱えて、「過去」は叫ぶ。
こんなものを見せられて、戦わされて恥ずかしいと思わないのか。無数の「劣化品」を倒しながら、「ああ所詮、自分はこうだった」と思わないというのか。
――なんで、なんで、なんで?
理解が及ばない。所詮「過去」に囚われてその身に骸の海を宿した哀れな悪に、未来のことなど理解ができない!
「簡単だよ。――人を笑顔にする私が絶望の種になるわけにはいかないからね。」
絶対に負けられない、理由があるのだ。
ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)の前にいるのは、かつての自分だ。
過去の幻影は、綺麗に「その時」をくりぬいている。奇跡といっていい力に目覚めて、「未来のために戦いましょう」なんて決められたって、人ひとり殴ったこともないうら若きけなげな頃の顔だった。
「わあ、私達そっくり。」
『ぞうだね!ジュジュ!』
白いウサギで紡ぐ腹話術は、この時よりは――うまくなっただろうか。
ぐ、と息を詰まらせた過去のジュジュの反応からしてそうであるらしい。この時は、きっとまだ「それ」を続けていることにも驚いていただろうか。
「戦うのほんの少し怖いでしょ?」
――今はもう、怖くないけど。
ぶつかり合うのは、魔法だった。最初のジュジュというのは、メボンゴに頼りきりだったのである。
炎属性を纏い、同じ打ち合いになるだろうと想定した水属性のバリアが張られて――ただただ、やみくもにこちらへ撃ってくる!
稚拙なショウというわけでもない。このころから、すでにジュジュは誰かを笑顔にしたい気持ちでいっぱいだった。でも、どこかでそれは「自分だけができる」という確信があったのかもしれない。
がむしゃらな軌道は、それを押し通そうとするものだった。水と炎が渦巻くのを、同じ方法でメボンゴを使い対処をする。
――このころのジュジュは、まだ「ともだち」を知らない。
「ねえ、素敵なお友達ができるんだよ。」
いっぱい、いっぱい。
――みんなでお出かけをしたり、事件に巻き込まれたり。
時に叱ってくれて、勇気づけてくれて、知識をくれて、考えてくれて。
自分も誰かに「笑顔」を与えてもらえるのだと知って、ジュジュはもっともっと、そんな友達の舞台を演出できるアーティストになっていく。
魔術の押し合いでは負けてしまうからと、見切って避けようとするのを――追いかける!!
「メボンゴ!! 」
気合の声と共に、白うさぎが呼応して――土砂が地面から隆起した!!
大きな土壁にとっさの判断ができない「過去」がずいぶんと、ジュジュらしい。懐かしい気持ちでいっぱいになる。
少しだけ幼かった自分は、突然のアドリブが得意とはいえ「計画外」の魔術には驚いてしまうのだ。
戦い慣れていない。そんなところとはほとんど無縁な状況で生きていた。だから、余計に――足を止めるだろうと知っている!!
「貴女は私だから接近戦苦手だよね。」
土壁を、乗り越えて!!
ざりりと着地するジュジュの動きはあまりにも機敏であった。
構えたナイフは炎を纏い、迷うことなく「過去」のジュジュを貫く!!
「ぁ、――か、」
「うん。だから、これは――私の課題。」
消えていく過去に、笑う。
今も苦手だ。だけれど、「この時」よりはマシだ。
「もっともっと、強くなるから。」
笑った顔がどこまでも明るいのは、「未来」を知っているからだ。頽れる体が炎に飲まれて灰になったのを見送り、ジュジュは驚きを隠せないというかの巨悪を見る。
「どんな窮地でも笑ってやる。」
ナイフを向けて、宣言した。炎をちらちらとまとう白いそれが、黒であるクライング・ジェネシスを視ていた。
それがまた、この黒の心を折る。どれほど彼が抗っても、「未来」はそれを打ち砕いてくる。前へ前へと進もうと、輝きをいくらでも取り戻して増やしてくる。
――絶望で、この街を埋め尽くすはずだったというのに!!
猟兵たちは、前へと常に動く存在だ。過去に囚われて、観念に縛られた敗者とわざわざ並んでやる道理もない。
だから――余計に、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)はこの悪に少し感心もあった。
並大抵なことではないとわかっている。
ゼロから再起した男だ。クライング・ジェネシスは「持てなかった」存在である。それには、――這い上がったという点においてはその行動力を評価してやろうと認める。
しかし、今もティオレンシアの「よく聞こえる」耳には届く声が無数にあったのだ。
「助けて、猟兵――かぁ。」
そんなことを、言われるような存在になった。
ティオレンシアは、己でも認める悪人である。汚い仕事をしてきて、穏健な顔で悪の頭を撃ち抜いてやることもあった。
大切な人を失ったこともある、己のせいではてた彼女の姿を自分でなぞらえているほどには、ふっきれない心の傷がある。
だからといって――この悪が、いかに「正当な」努力を積んできたとしても、認めるわけにはいかない。
わあああ、と猟兵たちが切り抜ければ抜けるほど希望に満ちる声がある。
頑張れ、負けないでくれ、明日を掴んでくれ――。
どうせ果てるのなら、その時は一緒なのだと。ここ、ロンドン市内で光をかざしながら泣きそうな悲鳴で猟兵を応援する無数がいる。
ならば、「やらなくては」ならない。
「――あたしがあたしを相手にするなら、まずまともには戦わないわねぇ。」
己と、殺しあうのだ。
ティオレンシアはまぎれもなく百発百中の「人間」である。目の前の彼女は「ややにこやかすぎる」作り笑いが上手だった。
まだ――仲間もぬくもりも、知らない頃であろうか。
この勝負は、まぎれもなく泥沼になるだろうと分かっている。己の手札は己が一番知っていて、現にどちらも声を発さないまま戦いの火ぶたはきって落とされたのだ!!
「ッ――そうよねぇ。」
最初の一発は、グレネード!
閃光で視界を奪わんとした瞬間に、石ころがころりころりと足元へやってくる。
「火」のルーンが煌めいて、足元の草木を燃やしていった!! いわば、これは「檻」のつもりなのだろうとティオレンシアは思う。
――落ち着け。
息を、ふうと長く吐いて。
己の動きを「読む」ことに集中する。歓声も今は遠く、まるで幻影の中にいるようだった。霧の中の殺人鬼はこんな気持ちで「殺しあった」のだろうか。
どんどん時間がすぎていくようで、まとう夜空の空気は白く満ちていく。
――それでも、赤い瞳はけして揺らがなかった!!
人間が、一番隙ができる瞬間。
それは、足を踏み込んで、攻撃をしようと確信をしたとき。ティオレンシアが「未来」に銃口を向けた時。
時間にして、ほんの0.001秒の動きに――追 い つ く の は 、 「 未 来 」 の 銃 口 ! !
「悪いわね。――でも、知ってたでしょ?」
これが、切り札なのだと。
放たれる弾幕は【封殺】!!0.2秒で放たれる弾丸よりもずっと早い「経験」の弾が颯となって――「過去」の体を撃ち抜いたのだ!!
常に、進化する。常に、イエロー・パレットは迅くなり続ける。宇宙最速を下し、鏡の中のトラウマと戦い、それでもなお前へ前へと走る姿に「過去」はどうやったって追いつけない!
その光景を「知らない」のがいっそ哀れで――見せつけてやって、嗤うのだ。
クライング・ジェネシスの茫然とするさまに、次は銃口を向ける。躊躇いなく、バランスを崩すことなく、「人間」は立ち向かう。
「在り得ねェエエエエンだよ、こんなの――認めねェッ!!!」
戦慄く「過去」の王と化した存在を、嗤ってやることはしなかった。
白波・柾(スターブレイカー・f05809)の前には、同じく柾が立っている。
その姿は、まさに抜身の刀と言っていいような「もろい」姿だった。己の守るべきものだけを守り、それ以上には手を出さぬと閉鎖的な空間で育てられた「神」はヤドリガミというにはいささか存在がもろい。
それでも、柾を目にしたときに、それは明確な「戦意」を見せたのだ。だから、柾も同じように己を構えて対峙する。
きりりり、と大太刀どうしの先端が重なり合って、夜空を割くような高い音が鳴り響いた。
――今の俺を、赦さないだろう。
神ゆえに。「ヤドリガミ」とは遠い世界で生まれてしまったのだ。
この柾は、「守られる」時の存在のままで止まっている。神とは、そういうものであるべきだと信じている真っ直ぐな瞳がどこか懐かしい。
今の柾には、護るべきものがたくさんあった。すべて救いたいと「戦う」柾のことを見る目はまるで、異端を恥じる威厳に満ちた夕焼けの色だ。
――変わらず、馬鹿正直で猪突猛進が二本にらみ合っている。
銀が、かさなりあって、夜空に月を二つ作り出すようにして光りあった。
まず互いの右太ももが切れて、血がぱぁっと吹き出す。しかし、「どこを狙うか」はあらかた「今」の柾が理解できているのだ。
腿を狙い、それが当たれば「たいてい」は痛みに苦しむ。
――しかし、きゅうっと口をかみしめた柾は、揺らがない!!!
「ぉおおお、おおおおおおおおおおおッッッ!!!!」
気迫が、威厳を吹き飛ばすのである!!
守られるべき身だ、人々が支えるべき飾りだと――その大太刀は在り方を通していた。
だが、それを「今」の柾はもう許さない!!吠えられて怯んだ体は固まった、それに向かって強く足を突き出し蹴り飛ばす!!
まさか、蹴られたこともあるまい。
受け身も取れないからだが、地面に跳ねて転がっていくのを追撃する柾がいたのだ!起き上がる隙もあたえてやるかと狙いを定めて、大太刀を突き出す!
「――未来で、貴様もきっと知るッッッ!!」
その在り方を、変える時が来るのだと。
世界に出てみた時に、美しい世界が見えて、「すべてを救いたい」と思える時が来るのだと。
――平等に、腕が届く範囲で。この剣先が届く範囲のすべての人を身勝手に助ける「神らしくない」利己的な行いを、誇りに思う日が来るのだと。
【正剣一閃】は、彼の防具を「神」たる過去に貫かせながら。
体を赤で染め上げられながらも放つ赤の光で「猛反撃」なんて神様らしくない方法で乗り越える柾は、――見事、「神」を引き裂いたのである。
いよいよもって、クライング・ジェネシスには。
動揺ばかりか、言葉もどんどんでなくなってきたのだ。猟兵たちは、いくら「過去」を押し付けたってすがることなく乗り越えてくる。
「う、ぉ―――ーッッ!!!? 」
その足首をとらえる、ワイヤーアンカーの存在を知ったのがやや遅れたのは、未来の光に圧倒されたからに違いなかった。
「過去は終わったものだ。大人しく終わったままでいるが良い。」
「討つべき巨悪として相対し――その企み、阻ませて頂きます。」
「どいつもこいつも執念だけは見上げたモンねぇ。でも魅せるなら絶望より希望デショ?センスないワ、アンタ。」
彼らは、過去すらもたず過去を「克服してきた」存在である。
――トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、かつての平気だった己を別のワイヤーで引きずりながら、巨悪の足を縛り上げている。
【対襲撃者行動抑制用薬剤】にて逃げ出さないようにと転ばせ、捕まえたその糸をにらむジェネシスも、猟兵たちの勢いに「逃げられない」。敗者なのだ、蛇とカエルでいうのならば、彼はカエルである。
平気だった己の頭はとっくの昔に「壊して」やったのだ。お互いに電子の脳を持つ身である故、「打ち消しあい」のコマンド合戦となった。
しかし、それを凌駕したのは――絶えず、この騎士こそ決して折れず、曲がらず、前へと進んだからである。
「わああああっっっ――!! トリテレイアッ!! 」
「カッコイイぞォーーーッッ!! 」
人々に称えられる力が、彼を人類の味方にし続ける。
勝たねばならぬ、負けてはならぬと――鉄の塊になった己の幻影を引きずりながら、巨悪を緑のレーザーがにらんでいた。
コノハ・ライゼ(空々・f03130)はとっくに、「自分自身を殺す」ことなんて「予習済み」である。
むしろ、一番殺したくてしょうがないときの――銀色の髪で現れたものだから、たやすいものだった。
理性を保てたのは、鏡の女が使ったかつての経験のおかげである。食らいあう「己」はどうやら理性がたもてなかったらしく、あっけなく獣に成り下がった。
そして――その間をさっぱりと切り抜けてきたのである。血まみれになった腕は「あえて」受けた傷で、力量を見ていた。
もう、ライゼは「あのころ」のままではない。「あの人」の色を着て立つ姿は、「あの人」からは近いのに――遠くなっているかもしれない心を見せびらかして、嗤う。
「オレもこのコも腹空かせて来たンだ。もっとご馳走してヨ。」
たった「自分」ごときでは収まらないのだ。
――石榴を構えた挑戦的な笑みが、どこまでも真っ直ぐながらにしたたかな青を爛々とさせていて。
さあ、もっとだと笑う顔はクライング・ジェネシスの恨みよりも苛烈な「欲望」に渦巻いている。狂っている、狂っているから、なんだというのか――。
「――もう一度繰り返すが、過去は既に終わったものだ。」
わきまえろ、と。
アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は超常の「原理」を体に宿しながら言う。
発動には少し――時間がかかりそうだ。フル稼働させる「原理」の数は多い。『絶理』『無現』で自身への影響を否定し、『天冥』『明鏡』で目標自身を害するものへと転化・命中の式を組み立てながら静かに彼はいう。
稼ぎがほしいのは、きっと仲間たちにもおのずと伝わっていた。アルトリウスに満ちる力は膨大で、己の強化に専念しているのがライゼは肌で感じてとれるし、トリテレイアなどはモニターのわきで常にアルトリウスからのエラー値を観測していた。
黙する白黒が、張りつめた空気を纏いながら心拍数を少なくしていくのを――皮切りにして。
「まだ、終わっていない。」
ジャハルだ!
数多の己を薙ぎ払った竜が、――同族食らいの竜が、己の口元を真っ赤にしながらゆらりと歩いてくる。
黒剣を杖の様にして、ぼろぼろになった体をけして地面に伏せたりはしなかったのだ。
過去の生命を文字通り食らって、致命傷だけはどうしても避けて、ようやく竜は怨讐を向ける対象を見定める。
「が、ぁああああッッッ!!!! 」
「――てめ、」
踏み込んだ足とともに、空気を薙いだ素振りがあった。
切りかかるわけではない「脅し」のような所作に、これには虚を突かれてしまうジェネシスである。
「ハ、ハハ!――なぁんもおこらねェ!!」
「そうかな?」
次に投げかけられるのは、明るい少女の声である。それがどこから聞こえた声だともわからないうちに、眼前に迫るのは仔竜の群れだった!!
ジャハルの【暴蝕】が発動したのだ。主の代わりに無限に尽きない「過去」を食らわんと容赦なく顎を大きく開き、食らいつく無数の牙が命中する!!
「こ、こいつら、俺の――中に!!」
かみついたのは縛られた足だった。
仔竜が「過去」に飲まれてなおそれを飲もうと踊れば、泥水をあふれさせたかのようにクライング・ジェネシスの足元は夥しい黒の液体でまみれる。
どうなっている、どうなっている、何が――何処で読み間違えている!!?
みるみるうちに「過去」に気を取られたその体を、次は固定するためにジュジュが【ワンダートリート】を繰り出していたのだ!!
「這い上がろうとする根性は嫌いじゃないけど手段が嫌い。」
紙吹雪と、足止めのナイフと、甘いお菓子が織りなす口封じの愛の鞭。
――声の正体がジュジュだったのだと、気づけなかった。「過去」ばかりに囚われている巨悪は、奇術師のマジックにまんまと引っかかってしまうのである!
紙吹雪の向こうで、笑う少女が。己の唇に人差し指を与えて、とどめの――一撃をつたえる。
「卑怯な悪役は正義のヒーローに倒されるのが定めだよね!」
・・・・
【叛逆せよ、報復の祈りは此処に在りて】で重ね掛け!!
――その胸元を封じようと、ユエインが放った「術」は見事、悪を封じてみせたのである!過去は生まれず、こぼれることもなくなった!
「ただの鎧にも、なりはしないだろう。」
機人を連れながら、あまたの過去を駆け抜けて――少女人形は煤だらけの体で悪を説く。
「何も無かったのはお互い様、世界を是としたか否としたか。それがボクらの違いだよ。」
「過去」であることを、許容してしまったから。
もし、この「彼」が折れることをよいとしなければ、もっともっと可能性はあったかもしれない。
人々のために動く存在にもなれたかもしれないし、同じ「無能」の心に寄り添えたかもしれなかったのに――その手段を「とらなかった」のだ。
「ち、くしょうッッ、チクショウ!! チクシショォ、オオオオオ―――ッッッ!!!! 」
「大体めんどくせぇのよ、ちょっと黙ってて。」
【黒喰】。
放たれようとしたさらなる幻影を、泥水の状態で打ち砕いたのは黒狐たちである。
お腹いっぱい食べておいで、と笑ったライゼの命にしたがってむさぼるそれらに、「過去」が食われていく。いつかの己が、「偽善者」なんかに「同情された」ように――。
「貴方の場合は許しなど無用と仰るでしょうね。」
ひゅおん、と空気を割いた。
己の分身を振り回しながら、トリテレイアがその体に「過去」を叩きつける!!はがれたパーツ、ひしゃげた鉄が宙を舞って、受け止めたクライング・ジェネシスの鎧が砕けた!!
「ぎぃ、が、がああああ――――ッッッ!!!」
「――今を生きる人々と、これから生まれる可能性の為に。さあ、お願いします。」
審判を。
青白い光を纏ったアルトリウスが、準備はいいかと視線で訴えていたのを皆がわかっていた。
渦巻く超常の力が「外」からくみ上げられて、「超能力者」を文字通りの存在に仕立て上げていく。
人間の体が悲鳴をあげて、ところどころ血管から血が噴き出して彼の皮を裂く。それでも、アルトリウスは依然止まらなかった。
痛みを感じないわけではない。だけれど、彼はもう「こころ」を何度も学んできているのである。
――人々が、愛するものを知っている。
――守るときの、仲間たちを知っている。
――明日のために、必要な「解」をもう、理解した。
「 【 天 位 】 。」
――淡青色の光の粒子が、はじけ飛んだ。
仲間たちを祝福するように。この未来を呼び起こすための一撃が、炸裂する。
もうひとつ、綺麗な月が現れたようで――。
「ダメ押し一手、ってね。」
ジェネシスの関節を、「動かないように」固定するティオレンシアの銃弾がさく裂したところで。
――「過去」は蒼の閃光に、押し潰されたのだった!!!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
納・正純
◎△【Grow】
コイツは確かに厄介だ、今までで一番の強敵かもな
だが生憎、手がないわけじゃない
力を貸してもらうぜ、『ネームレス』?
①敵がUCを発動したらヴィクティムのUCを発動
②強化を施された魔弾で幻影諸共敵を射抜く
敵の戦法は大したもんだ。だが、奴は目測を一つ見誤ってる
俺の弾道予測は、その時の手持ちの知識の全てを用いることで、その時々の最適解を一つだけ見付けるって代物でな
つまり、――――切り捨てた過去で立ち止まったまんまの俺たちをいくら呼びだそうが、今も尚未来に進み続けてる俺たちには勝てねえんだよ
俺にも分かるコードで教えてくれよ、ヴィクティム
猟兵は――――『俺達』は、先に進んでいく生き物だってな
ヴィクティム・ウィンターミュート
◎△【Grow】
厄介な能力だな…だが
"たかが過去に負けるほど、俺達はヤワじゃない"
だろ?さぁ、始めるか──自分との戦いをな
あーあー、清々しいほど俺だな…だが俺だったら…
どう攻撃して、どう正純に指示を出すかが分かる
攻撃を【見切り】、予想して…正純にアイコンタクトで伝える
さて、一つ問う
『お前はどこまで納・正純を理解している?』
俺はしっかり理解してるぜ
リズムも、呼吸も、術理も、スピードもな
故に俺は正純に最適な加護を与えられる──『Dedicate』
お前はどうだ?
そこにいる正純の過去を、理解しているか?
正純の潜在能力を、成長性を!理解できるのか!
──証明しな、正純
過去とフォーミュラに、お前の力を!
●
過去から、這い上がる。
何度も、何度も不屈は立ち上がる――己の弱さを恥じ、強く在ろうとした反骨がよみがえる。
「――ぎ、ひ、ははははッ、クソ、ああクソ、最悪の目覚めだぜ、こりゃあッッ!! 」
立ち上がるさまは、ぼろぼろの体が修復されていって恐ろしいものに違いなかった。
「最悪だぜ、この――クソゴミカス共がよォオオオオオオッッッッ!!!!!! 」
叫ぶ過去は、不屈の象徴である。
何度も「まばゆいもの」で照らされた彼の体は、より濃くて暗い。
光があるかぎり影があるように、「未来」がある限り、「過去」は存在してしまう。
「コイツは確かに厄介だ、今までで一番の強敵かもな。」
己の顎を右手で撫でながら、納・正純(Insight・f01867)は生きるために頭を回す。
正純の目には、――巨悪に生み出された己がうつっている。「過去」の己だ。同じように正純を見る目は、「品定め」の顔つきである。
なるほど、強敵だと思わされるのだ。
「なにもない」状態から「過去」を味方につけて、何度でも這い上がろうとするその根性も。こうして、正純の前に現れる正純がまぎれもなく、「過去」の情報からできているのも。
いたって相手のことを馬鹿にできない正純は、冷静に観察をしていた。
「――だが生憎、手がないわけじゃない。」
「"たかが過去に負けるほど、俺達はヤワじゃない"――だろ?」
その隣にて、同じように「過去」のおのれと対峙を果たしたのはヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)だ。
――ガキみてェなツラしやがって。
吐き捨てたくなる気持ちをこらえて、冷静に蒼で目の前の「魔術師」を見ていた。
厄介な能力である。間違いなく「過去」からくみ上げたのならば、このヴィクティム・ウィンターミュートは「本物」の強さを持っているのだ。
清々しいほどの己が目の前にいる。まだ、――英雄でありたいと願い続ける甘ったれがそこにいるのだ。
アイコンタクトが、一度。
青色の瞳が金色を見た。
――それだけで、正純の口の端はつりあがる。勝利はすでに「隣」が握っているとみていい。
余計なことを言わないまま、悪が二人沈黙を守りながら「過去」からの殺意を読み取っていた。これは、早撃ちのようなものだと正純は思う。
どちらかが、銃を抜いた時が――勝負なのだ。
「さて、一つ問う。」
じゃあ、それは「早いほう」が勝つだろう。
――ヴィクティムが容赦なく、「場を」握ったのだ。
過去である彼は、まだ正純と接点がないようである。使命感と脅迫に突き動かされる幼い顔が、「過去」の正純を見る。
正純にも面識はなかったようで、その視線を見下ろして「大丈夫か?」と言いたげだった。――何も知りあっていない。
「『お前はどこまで納・正純を理解している?』」
――すでに、「理解している」。いいや、し尽くした。
リズムも、呼吸も、術理も、スピードも。
正純という男がどういう男かを知っている。どれほど生きることに汚くて、それでも真っ直ぐ戦ってきた男かを知っている!
仲間のサポートを万全に仕上げるために、ヴィクティムは常に戦場での「端役」という最弱のポジションにいたのだ。
誰一人と死なせてやるものか、誰もを英雄にしたら自分が英雄でなくても世界は救われるからと――他人に責任をすべて押し付ける戦い方で切り抜いてきたのである。
しかし、もう。
――屈辱的な負けを得て、少年はずっと「未来」にいた。
正純も、それを聞いて隣で肩をすくめる。
「俺にも分かるコードで教えてくれよ、『ネームレス』。」
軽口は「どの」正純でも応えられようが、この今だけは――「未来」の正純にしか意味が理解できまい。
正純は、「知識欲」の権化と言ってもいい。
生きるために、物事を知る必要があった。物事を理解していれば、何もかもを掌握できた。
シンプルなことだ。生きることに「解」があるのならば、邪魔なものは「引いて」必要なものは「足して」、多すぎるなら「割って」、少ないのならば「掛ければ」いい。
――世の中は、式で構築されている。
だから、正純はその方程式を知る必要があったのだ。照準に定めて常に「解」を導き出すために、この男は生きるということに固執している。
悪いことをするのはもう「見飽きた」から、今は――知らなかった「善いこと」を徹底している。
世界を守るのも、知らぬものを「白紙」にされてはたどれないからだ。利己的で、己の好奇心のままにこの正純は動いている。
知識が、ものをいうのだと「あちら」の正純もわかっているはずだ。
「オー、オー。生意気な顔しちゃってェ。」
まだ、悪しか知らぬ「バカ」がいる。
ヴィクティムの加護が起動する。【Forbidden Code『Dedicate』】に蝕まれる体は「動けない」。
――此度の「呪縛」程度、まだこの端役の危機でも何でもないのだ。
すでに正純のすべてを「見出している」。手札のカードが何色で、どの数字かまで全部わかっている。だから、正純も安心して「まかせて」いた。
「お前はどうだ?そこにいる正純の過去を、理解しているか?――正純の潜在能力を、成長性を! 理解できるのか! 」
まだ、理解できないだろう。
――仲間を「使う」なんてことも知らない青い己だ。
仲間を殺してしまったばかりで、がむしゃらに戦ってきた己の表情のひどいこと。できの悪いマネキンのようで、思わず鼻で笑ってやった。
「──証明しな、正純。過去とフォーミュラに、お前の力を! 」
最初に思った通りの結末だった。
抜いた銃は、いつも通りの「式」を描く。
「敵」の戦法は確かによいものだったのだ。だけれど、見誤ったところがひとつある。
――正純の弾道予測というのは、「どの彼」も常に持っているものだ。だけれど、それはその時の手持ちの知識の全てを用いることで、その時々の最適解を一つだけ見付ける代物である。
つまり。
「切り捨てた過去で立ち止まったまんまの俺たちをいくら呼びだそうが、さァ」
バレットアーツ
【魔弾論理】。
文字通りの一発勝負だったのだ。
真なる式へ至るまで、敵を解に置き、幾度も計算を強化された「早さ」で導き出す。持ち出した知識を駆使して、禁忌の芸工は――完成へと至った!
「今も尚未来に進み続けてる俺たちには勝てねえんだよ。」
「あ、ッ―――がぁあ、あッ……?」
過去の正純も、ヴィクティムも。
たった一発の銃弾が撃ち抜いている。
「今」の二人に傷なんて一つもありはしない。これこそ、完全勝利だとヴィクティムはうすら笑む。
ほしいだけの「結果」を手に入れて、クレバーに去るというのが「悪党」の醍醐味なのだ。正純も、同じように笑って「解を突き付けてやった。
「――証明終了だ。」
ザヒョウ
『俺達』は、常に先に進んでいく生き物だ。
それが、この過去の体を穿つにふさわしい一撃だった。命までは壊しつくしてやらない。この解を――考えて、苦しむ余裕を与えてやろうではないか。
「バカだと生きるのに苦労するぜ。ああ、もう、死んでたな。」
正純が高速のまま、ヴィクティムを担ぐ。
「計画」の成功した魔術師は「呪縛」で動けないが――その顔にはずっと、「勝利」をみた表情がやどっていたのだ。
「てめェら、ぁあ゛あああ゛あ――――ッッ!!!」
けたたましく笑うのは、未来を生きる「お利口」たちのほうであった――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
穂結・神楽耶
こんにちは。
灰と燃え尽きることを唯一の幸福と断じていた、あの頃のわたくし。
乗り越えに来ましたよ。
【深緋華裂】――
こうやって焼かれて、燃えて、灰になるのは。
すごく「楽」なことでしたよね。
自分で自分を傷付けたって、守れなかった過去は変わらないのに。
…もう分かってるでしょう、「わたくし」。
希望は過去にしかないものじゃない。
未来に、「わたくし」を望むこれだけのものがあったんですよ。
許せなくても、痛くても、
ここに居たいと願うから。
一緒に生きましょう。
――故に。
道を開けなさい、クライング・ジェネシス。
地獄の創世なぞ不要なれば。
いつか我が世界を滅ぼした炎と、
悪縁断つ刀にて斬り捨てて差し上げます――!
ジャック・スペード
◎△
持たざる者か、――俺も同じだ
当機は量産型の旧式、しかも不良品ときた
お前の相手をするに相応しいヒーローだろう?
先ずは過去の自分を倒さねば
意志もこころも無い機械……それが過去の俺だ
刀による鎧無視攻撃で壊してやる
反撃は学習力活かし見切り、怪力とグラップルで防御
其のまま口部をライフルに変え、零距離射撃でカウンターを
昔の俺には、喰らいつく意地もないだろう
――今の俺には、激痛に耐える覚悟がある
過去になど負けて堪るか
蘇る大破の記憶も、不用品とされた過去の痛みも
総て置き去りにして、敵本体へと捨て身の一撃
何も無かった俺に、この世界のヒト達は優しさとこころを呉れた
今こそ恩に報いる時だ、この身総てを使い潰そう
毒島・林檎
『過去』、ああそうかい。
未来を羨み、今を恨み、過去に生きる。
テメェは……大嫌いな昔のアタシにそっくりだ。
虫唾が走る。
アタシ自身に運動能力を高める『毒』を打ち込み、【空中浮遊】で飛び回り先制攻撃は躱す。
躱しきれない分は【覚悟】を固めて受ける。
『昔のアタシ』は今以上に酷く幼く、覚悟が足りてねぇ野郎だ。
隙を突くことは容易。
魔杖を『めった刺しフォーク』に変更。
その土手っ腹をフォークで【串刺し】にしてやる。
『昔のアタシ』を克服したのなら……次はテメェだ。
【Hornet】。もうアタシを止められはしねェ。
味方である『人形』が巻き込まれちまうだろうが、その程度じゃアタシの怒りは収まらねぇよ。
夕凪・悠那
◎
―出たな
過去のボクだ
弱かった、ボクだ
生かしてもらった、私だ
貴様らの過去は貴様らを許さねェ…?
ハッ―これはこっちの台詞だ
【英雄転身】
その役は空を駆る魔法少女
英雄転身は選択肢が多い
だから絞る
[空中戦]で攻めることで近接キャラを封鎖
更にロンドン塔という[地形を利用]
建物を遮蔽物として使えば地上からの遠距離攻撃の順位が落ちる
塔ごと消し飛ばしていいなら別だけど、この状況で"ボク"はそんな選択はしない
残る選択肢の中でボクが優先して切る札はこれと同じ魔法少女
スペックが同じなら―戦闘経験はボクが上だ!
培った[見切り]で回避し、[カウンター]を叩き込む
[全力魔法][属性攻撃]、[誘導弾]Ver
ボクの、勝ちだ
●
炎が、空気を焼いている。
生み出された「過去」はまぎれもなく自分だとわかってしまうような、――苛烈さがそこにあった。
もとより、灰と燃え尽きることを唯一の幸福と断じていた、あの頃の存在はただ静かにそこにいる。その体を燃やすように、「滅ぶこと」がただしい終わりだと決めつけた姿で其処にいた。
――穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)は、護るべきものを守れなかった「女神のなりそこない」である。
「こんにちは。」
声をかけてやれば、それが少し動揺した顔で――しかし、同じように笑うのだ。
「こんにちは。」
そうあるべきだ、と判断している。
それが、もう今はどうしようもなく許せなかった。
けして自分のこれまでを恨んだわけでない。だけれど、その「態度」がもどかしくて、腹ただしい。そんな感情を抱いたことなんて、もう久しいのに。
霧が立ち込めてきた夜遅くでも、煌々と燃える足場にただ赤い着物をひらひらとさせるそれの「もろい」こと。
――なまくらも体外じゃないですか。
こんな姿を、よくもまぁ。誰にも彼にも「そうあるべきだ」と見せたものである。
「――神楽耶だ。」
「ヴァンダー、あっちのブロックは避難おわッ……?なんだって?」
「神楽耶が、いる。」
あたりを中継するドローンは、けして冷やかしのものではない。
「猟兵たちが戦っている」という記録を映像で残そうと、民たちが撒いた「目」だ。それをゆっくりと赤い瞳が四つで追って、燃やさなかった。
――己がただの出来損ないである姿を、見せようとしている。
――己が未来を切り開く「希望」である姿を、見せようとしている。
「乗り越えに来ましたよ。」
そう、言葉を紡いだ神楽耶の姿は「過去」に比べて、人間らしい笑みをしただろうか。
先手は「過去」だった。 ・・・・・
己を燃やす悔悟、【朱殷再燃】を宿して、無名になり下がる。
刀身を焼きながらも切り開こうとする破滅の一手が、飛び散って――それを駆けて躱し続けていた。
右側を常にとるように、反時計回りで着物を振り乱して「らしくなく」駆け巡る。必死に足掻いている「未来」の自分に、「過去」の神楽耶が動揺する!
「わたくし、ですよね――?」
「ええッ、正真正銘の、上位互換ですよッ!!」
人の身は、走ると息が弾む。
疲労はしない。だけれど、機能は正しいのだ。飛び散る赤をおめおめと食らってやるつもりはない。
舞い上がる火の粉を切り抜けながら、神楽耶は土を蹴り上げてただただ走りゆく。次第にその体が紫の強い暗い赤に包まれていった。まるで、――彗星がごとく!
「――こうやって焼かれて、燃えて、灰になるのは。すごく「楽」なことでしたよねッ!!」
【深緋華裂】。
燃やすは渇望!炎に焼かれず「従える」存在になった赤がただただ走る!!
「自分で自分を傷付けたって、守れなかった過去は変わらないのに!!」
切りかかった反撃は、あまりにも早い!!
踏み込んだ足で飛びかかれば、「過去」の神楽耶は悲鳴をあげた。
「きゃ、――!」
「 や ぁ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! 」
互いが、燃える。
煌々とした赤と、滾る紫赤が混ざり合って戦場はいよいよ炎が渦を巻いた!
刃を幾度となく重なり合わせる。「神楽耶」を何度も重ね、弾き、また重ねて――にらみ合った。
「ねえ、――もう分かってるでしょう、「わたくし」。希望は過去にしかないものじゃない。」
あたりを舞うドローンの存在に、気づいているだろうか。
この「過去」がつい、ほんの少し前の――自罰的な己であったとしたら何を意味しているかわかるだろうか!
お互いに地面を掘りながら、踏みしめる足は揺らがない。だけれど、「過去」は何かを知ってしまったような顔で眉を少し困らせる。
「未来に、「わたくし」を望むこれだけのものがあったんですよ。」
それは、望まないことだった。
許せなくても、痛くても、誰かに望まれて――それが「望まれた」から「そうあるべきだ」と思ってきた。
助けてくれと言われれば助けて、痛めつけてくれと言われればそうして、人間らしくあってくれと願われるからそうしてきた。
「ひと」を助けられなかった。「ひと」を愛していた。だから、いくらでも己のことを燃やして、燃やして、燃やして――!!
だけれど、それを「否定的」に行うのは、もうやめた。
――ここに居たいと、願っている。
「生きましょう。」
どうか、一緒に。考えることを、止めないで。
刃が切り開くは、過去ではなくて未来である。
己の一手で世界が大きく変わるのだ。まだ「過去」の神楽耶には信じがたいことかもしれない。
だけれど、その「本体」を切り払った「温度」を理解しただろうか。熱された鋼どうし、高温であればあるほど「強くなる」のは確かなのだから。
炎が、混ざり合う。朱と紫赤がとぐろを巻いて――その中には、神楽耶が独りで立っていた。
●
持たざる者は、己も同じである。
ジャック・スペード(J♠️・f16475)はいわゆる、「ジャンク」だ。
量産型の旧式、しかも不良品。
遠い昔、銀河帝国の衛兵として製造されるも戦闘中に大破したのがきっかけで。欠陥品の烙印を押され海のような宇宙を漂っている間に、たどり着いたのが奇しくもこのヒーローズアースである。
「お前の相手をするに相応しいヒーローだろう?」
――目の前にいるのは、「その前」の己であった。
人の心に触れず、やさしさを知らず、代わりにただただ破壊するためだけに動いたガラクタの鉄くずが黙している。
与えられたのは恩義とぬくもりだった。持っていたのは冷たさと残酷だった。ちょうど正反対の面どうしで対峙して、互いをスキャンしている。
「調べたところで、もうわかっているだろう。」
信念もない、悪であった。
意地もなければ忠義もあるまい。与えられた「命令」だけをこなす鉄くず同然の己など、確かに求められないだろうなと今思うのだ。
向けた刀は、己も持たざる白縹に煌めく刀身へ彫り刻む絢爛たる天竺葵を向けた。
機能も危うい量産型は、ばちばちと灯りの悪いビームサーベルを持っている。刀身が点いて消えてを繰り返すそれを、よくもまぁ一心不乱に振り乱していたものである。
「俺は、お前を下すぞ。」
――宣戦布告と、「機械」が判断した。
「過去」の動きは成程緻密で冷徹である!ジャックの踏み込みよりも早く動き、その体を射抜かんと銃器を躊躇いなく腕のパーツから呼び出し激しく発火した!
ぱぱぱぱぱぱ、と激しくぶつかる鉛玉を、まず刀で切り抜ける。損傷率は――10%。
痛みがないわけではないのだ。
それでも、今「痛い」と声に出すと意識が其方へ持っていかれてしまう。刀を盾にするよう、剣先を地面に向けながら振り回してまず「致命傷」に至りそうな攻撃はすべて「弾いた」。
再計算を図る。
「機械」は予想外に弱い。今の一撃で同じ「量産型」ならばもろい体をぶちまけて完全停止にまで至っていたはずである。
肩の関節や肘の可動部を狙ったのは「沈黙」が狙いだ。そうするだろうな、とジャックがあらかじめ理解をしていたからこそ――躱せた一手である。
「喰らいつく意地もないだろう。」
――今の俺には、激痛に耐える覚悟がある。
反撃は、「計算」などでは追いつかない勢いで行った!!
背面をブーストさせ、軍服を模したマントが焼けて、問答無用で黒の剣士は切りかかるのだ!ならばと突きの体勢から放たれるビームサーベルを完全に見切ったステップでかわす。
腰をねらったらしいそれが寸ででわき腹を焼いて、また「再計算」を行うというのならば手首を握っていとも簡単に握りつぶしてやった。
ぐしゃりと跳ねたパーツとともに、サーベルはいよいよ光をなくして落ちる。
「過去になど」
中継される姿は、人々に希望をもたらすだろうか。
誰もが息をのんだであろう、ダークヒーロー・『スペードのジャック』といえば彼であるのだ。
大きな中継モニタに写る黒を、きっとロンドン市民をはじめイギリス全土の誰もが見た。彼にぬくもりを与えてくれた「にんげん」がその一言に、息をのむ。
「――負けてたまるか。」
唸る言葉は、ただ前へ!!
よみがえる記憶も、過去の痛みもすべて握りつぶさんと全速力でブースターをきらめかせ、金色の眼光が光り――「ジャンク」を地面に叩きつけて「スクラップ」とした!!
●
「テメェは……大嫌いな昔のアタシにそっくりだ。」
毒島・林檎(蠱毒の魔女・f22258)は、魔女である。
求めていたのは王女様。王子の口づけを待つ、眠りの姫の役である。――しかし、この林檎に与えられたのは権能は『蠱毒の魔女』であった。
誰もが夢見るには自由な理想があったのに、叩きつけられる現実はどこまでも彼女を「不幸」の産物にしてしまう。
まるで埋め込まれた毒があざ笑うかのように彼女の体を蝕んで、その魂までも毒色に染め上げようとするように。
昔の林檎は、それを「苦しんだ」存在なのだ。
今だって、自己肯定感は低い。何せ、人から「しあわせ」を奪う損な役回りとして在ったのだから。
――しかし。
「未来を羨み、今を恨み、過去に生きる。――アイツもお前も、虫唾が走る。」
クライング・ジェネシスの打倒が最優先である。
しかし、この「過去」の攻略も同列だ。
目の前に現れた林檎は、猟兵として生きる前の存在だった。見ていてイライラするほどに、「おさない」存在である。
己が「そう」であることを受け入れ切れていない思春期の夢見がちな顔をしているのだ。
似合わない化粧をして、悩んで眠れないクマすら隠せていないというのに、毒を扱う日々で指先もあれて、さっきからびくびくと戦いの場におびえている。
――これが、「過去」だ。
「クソ野郎。」
自分を傷つけるのは、得意だった。
打ち込んだ毒素は運動能力を高める「興奮剤」である。対峙した恐怖のあまりでたらめに振り回された杖をひらりとかわしてみせた。
――こんな発想にしか至らなかったのだ。むかしは。
飛び出した体に迷いはない。人を殴ったこともないから、暴力には「ひいい」と情けない悲鳴を上げる姿に今の林檎は勝機しか感じない。
この場にいる仲間の足を引っ張ってやるわけにはいかないのだ。「過去」よりもずいぶん早い動作で振るう杖でその頭をしたたかに殴って横倒しにしたのならば、姿を「めった刺しフォーク」に切り替える。
「やめ、やめて、やめてくださ――」
「黙れ。黙れ黙れ黙れ黙れッッッ!!!!!! 」
怒りが、文字通りの「めった刺し」になる。
命乞いを始めようとする「魔女」の体を突き刺して、その腹からあふれるおびただしい血色をおそろしいともしない。
地面を腐らせる「毒」があふれていても、まったく林檎は気にしないのだ。毒を以て毒を制すとは「彼女」のことをいう。
弱かった。
――運命に抗えないほど、弱かった。
紫の瞳が光をなくすまで、その残虐なる「毒」は続く。覚悟のない「弱虫」の魂に教え込んでやるように、念入りに殺しつくしてやった。
息をやがて――長く吐いて、林檎は悔しさで叫んだ「悪」のほうを見る。
「次は、テメェだ。」
――もう誰も、止めてくれるなよ。
●
「――出たな。」
ロードされたセーブデータは。
まぎれもなく、夕凪・悠那(電脳魔・f08384)の姿である。
電子の海であったことは「ゲーム」だったとした存在だ。どこかより聞こえた声に誘われ、UDCの「ゲーム」に引き込まれた哀れな女児である。
「弱かった、ボク。」
「ボク――?弱いのは、そっちでしょ。」
生意気なことをいう。
ずっと電子の世界を意識だけでさまよっていた「天才」の脳を持つのが悠那である。
正確に言えば、電脳術式を脳内で実体化させ、内部の処理能力を底上げした「力技パソコン」といって差支えがない。その咄嗟の判断で、世界に掬われるまでは――電子の世界で生きながらえていた。
逆に言うのなら、それがない限りはきっと「ずっと負けていた」。
――ゲームの敗者だったのだ。ほんの戯れで巻き込まれたとはいえ、悠那は「ゲーマー」である。
負けっぱなしであることを赦しはしないし、攻略法を考えるべきだった。なのに、この「わたし」はまだその前で止まっている。
「未来のボクは、過去の私を許さない。」
宣言は、まぎれもなくゲームの開始であった。
展開されるのは【英雄転身】!!ゲームキャラクターの衣装を身にまとい、己の可能性を「充電を削る」ことで広げる術式である。
ただ、その分与えられるものは膨大で、非常に選択肢が多い。敢えて――一番「勝てそう」なキャラクターを頭の中で繰り広げた。
イ ン ス ト ー ル
「――転 身 開 始 ! ! 」
魔法少女。
光に包まれて具現化された「衣装」は空を駆るにふさわしい姿である!
取り入れた情報と記録、対象の力を能力行使するため、――まぎれもなく、今の悠那は空を飛べた。これで、まず「近接」は封じ込められる。
「手札」を絞っているのだ。
空を舞う悠那が塔のどこかに隠れようと動くのを、見上げる「過去」も考えているようである。
――そりゃあ、考えるよな。
近接キャラクターの姿は使えない。刀や拳の届かない範囲では、まず役に立たないのだ。遠距離武器もこれほど遮蔽物が多い中ではうまく刺さらないと見える。
建物ごと消し飛ばそうとする可能性を考えたりもしたが――この切迫した状況で、その力を「チャージ」するのは自殺行為だ。
だからこそ、悠那は最初に「魔法少女」のカードを切ったのである。
自由に飛び回れて、魔法を扱い、フットワークの軽い姿で翻弄する。これこそ、建物や障害物がある中では「一番」勝ちやすいとみた。
「そう、来るよねッッ―――!!! 」
だから、「過去」の悠那だってそうする!!
同じ魔法少女の姿を模した幼い悠那が飛びかかってくる。ジグザグとした上下への素早い飛行で悠那が魔弾を躱し、塔にはぼこぼこと穴が開いた。
振り返ることはない、これはSTGだ。
相手の弾が一度でも当たればゲームオーバーの、鬼仕様といっていい。しかし、――厳しい条件であればあるほど、ゲームは燃える。
なぜ、悠那が。
「今の」存在がお互いの手札を握ったかというと――理由があるのだ。
ゲームのキャラクターとは、常に「成長」していく。
レベルが上がれば、衣装も変わるし、持たされていく技だっていくらでも幅が広がるのである。
ぱっ、と曲がり角に曲がった悠那の姿が消えて、「過去」はあたりを見回した。一本道だけがあって、「そこ」は壁しかない。
――この「魔法少女」にはテレポート機能なんていうのがないはずである。
どういうことかなど、分かるまい。データが「過去」のままで止まっている「悠那」になど、この状況が理解できない!!
「やァアアアッ!!!!!!!」
貫いたのは、光線!!
扱う魔術は光である。光は屈折すれば「視えなく」することができるものだ。
己の体を疑似ステルスに持ち込んだ発想は、ひとえに「経験」を持った悠那の力が上回ったといっていい。
「 ボ ク の 、 勝 ち だ ―――ッ ッ ッ ! ! ! ! 」
吠えた、光線弾が!!
爆発とともに「過去」を打ち消す。
勝者のみが立つことを許された盤上を崩しながら、まばゆい光が戦場を照らしていた。
●
「なんで、だァ?」
どうしても、猟兵たちは乗り越えてくる。
それが、理解できない。打ちひしがれない彼らの強さが、「弱かった」存在にはわからぬ。
死ぬまで悶えて、絶望して、ただただ復讐の時を昏い海のそこで耐えてきた彼には、まばゆい光の強さが測れないのだ。
「道を開けなさい、クライング・ジェネシス。」
そこのけ、そこのけ――未来が通る。
炎を連れた神楽耶がしたたかな声色で告げる。地獄の創世なぞ不要なものであると。灼熱地獄を味わった女神が告げる。
「何も無かった俺に、この世界のヒト達は優しさとこころを呉れた。」
負けるはずがないのだ。
――この身すべてを使い潰しても、報いたいものがある。
黒の剣がずしんときしんだ体を前へ持ってきて、巨悪と対峙する。その金の光は、いまだに――輝きを失わない。
「もうアタシを止められはしねェ。」
【嗔恚天衝【Hornet】】。
切れた理性の代わりに、得たのは凶悪過ぎる毒素であった。
光るそれがめった刺しフォークを彩って、まだ貫かんと悪に向けられている。
「てめェ程度の毒で、――未来が止まるかよ。」
構える。
刃が、拳が、金属器が――「過去を否定」する!!
「ううううううッッッ――――るせェエエエエエエエ―――――ッッッ!!!!!! 」
叫ぶ悪はいよいよもって、己の万策が通じないことを知り始めてしまったのだ。
咆哮することで呼び出されたのは、躰からあふれる「過去」からの産物たる再びの――「過去」の猟兵たち!!
しかし、何度呼び出したところで結果は同じであると、この場にいる誰もが理解している。
「いつか我が世界を滅ぼした炎と、悪縁断つ刀にて斬り捨てて差し上げます――!」
吠える女神の嘶きとともに、後方から放たれる光の術式が「過去」を焼き消したのなら。
「任せるよ、みんな。」
魔法少女の奇跡が切れた、悠那の前に。
果たされたのは――すべての「突き」が、クライング・ジェネシスの体をいよいよ損壊させて「破壊した」光景だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジェイ・バグショット
【POW】
グウェン(f00712)と
力を与えられず世界を憎む、ねぇ…。
与えられたもの全てがイイものとも限らねぇんだがな…
【恐怖を与える】首刎ねマリーと、【傷口を抉る】荊棘王ワポゼを複数出現させ湧いてくる敵を自動モードで迎撃
手動で操る際は【早業】による速度アップ
自身の防御とグウェンの援護は影のUDCテフルネプによる【カウンター】と【範囲攻撃】
へぇ、グウェンやるなァ。
グウェンの突破に合わせた連携で押し切る
絶叫のザラドをUCで殺戮捕食形態へ
殺傷力の上がった剣は煩いが威力はケタ違い
…確かに、お前の言う通り傑作な話だよ。
どこぞの映画の結末にも似ている。
結局お前みたいなのは倒されるって、そう決まってんのさ
グウェンドリン・グレンジャー
【POW】
ジェイ(f01070)と
異質なモノ、移植…か。なんか、私を、見てる、みたい
【生命力吸収】と【属性攻撃】で、死属性、乗せた、Imaginary Shadow…念動力で、オブリビオン、薙ぎ払いつつ、進む
ダメージ【激痛耐性】で、無視
HEAVEN'S DRIVE / awaken…吸収した生命力、使って、自己強化
今、無敵と、言えど、ここまでで、付けられた傷、あるはず
それを狙って【空中戦】…全速力で、デカブツに、突っ込む
加速と【傷口をえぐる】で無敵を、突き破って、【生命力吸収】【属性攻撃】を載せたMórríganを、突き刺す
ジェイ、行ける?
私が刺したとこ、今なら…!
アドリブ歓迎
鷲生・嵯泉
【人間同盟】
ああ、今か今かと待った
全く此れまでの行状、余りに不快に過ぎる
……鎧坂にとっては一際赦しがたかろう
無能で在る事は罪では無い
だが盗人がのうのうと長らえ、其の上無辜の者を害するなぞ見逃せるものか
きっちりと存在を消してくれる
――往くぞ
鎧坂の進むに合わせ、なぎ払いで道を更に開く
戦闘知識で見切り躱し、武器受けで弾き落として脚は止めない
さて笑えと云われても慣れん真似は難しい
(口の片端吊り上げて、浮かぶのは笑みと云うより心底見下げた様な)
無敵、か。では試してやろう
――刀鬼立断
オブリビオンを吐き出す穴へと怪力も加えて刺突を叩き込んでくれる
そら、手応えが有ったぞ……此処から斬り広げ、細切れにしてくれる
鎧坂・灯理
【人間同盟】
ふふっ…この時を待ちわびていましたよ
ねえ鷲生殿。ムカつきませんか?
あの空っぽ野郎
己を鍛えもせず、他人の成果を奪って、デカい面をしていやがる
殺さねばならん
あれは殺さねばならん
そうでしょう、鷲生殿よ
――参りましょう
覚醒――【正気の化物】
湧き出る雑魚共を念動力で潰しながら歩いて行く
目的は一つ――奴を殺すこと
それまでは足を止めない 膝を突かない
ただ殺し、潰し、前へ 進む
ねえ鷲生殿 笑ってみてくださいよ 苦しい時ほど笑うんです
いいですね お上手です 奴に向けるにはぴったりだ
さあ、着いた
無敵?ははっ だからどうした
通用するまで強化して殴るだけさ
覚悟決めた人間舐めんなよ
――沈め
バレッタ・カノン
ベアータと
【pow】で詰める
連続して飛び出す敵の群れへ砲弾を【投擲】
「榴弾」の爆発と「徹甲弾」の貫通で【範囲攻撃】を狙う
接近してくる敵には「マンホール」を【怪力】で【投擲】
手元に戻ったらすぐに【二回攻撃】
とにかく攻撃をやめず本体を叩ける距離まで倒れても足を止めるな
「まだやれるぞ」
十分に接近できたら一番近くにある車を引き裂き装着
叩いて潰す、潰して砕け
視界が疲労で曇ってもチャンスを伺え
当てられさえすればいい
「一人でも私は戦う、でも一人ではないと信じている」
敵にぶつけた鉄拳は鬣狗の足場だ
ベアータの追撃を信じて耐える
少し鉄拳に隙間を作っておく
私を喰え、そして敵を喰らい尽くせ
あとは任せた
アドリブ大歓迎
ベアータ・ベルトット
バレッタと
暗視デバイスを起動。バレッタと共に、榴弾爆煙の闇に紛れてひた駆ける
産み落とされるオブリビオンは機腕銃の乱れ撃ちで迎撃
接近した敵には赤霧を噴射し惑わせ、獣爪の早業で細断
その血肉を喰らい機関の動力に変換&弾丸を補充
…まだ、足りないのよッ!!
HAを展開。昂る喰殺衝動が理性を消し去ろうと…
「止まらないわ」
バレッタの鉄拳を踏みつけ、ブーストを活かし敵の眼前に跳躍…瞬間、体に力が漲る
…ああ、餓獣が歓喜に吼える。甘美なコレは「何の肉」?
―考えるな。この身に託された、闘志の赴くまま突き進め
目の前の獲物を―喰らい尽くせ!
振るう四肢の先から生命力吸収
弱者は過去に浸っていろ。未来は―「私達」のものだッッ!
ステラ・アルゲン
カガリ(f04556)と
最強を名乗るか、それも嘘とハッタリか?
だが所詮は奪った力なのだろう?
先制攻撃はカガリに防いでもらう
行けるに決まっている。攻撃は剣の私の役目だ
【全力魔法・高速詠唱】で魔力を剣に【力貯め】しつつ【オーラ防御】で強度を上げる
時を見て敵の胸の穴に向けて【怪力】で鞘に入ったままの剣を投擲
【泉門坂鞘】カガリから貰ったこの力で穴と外に境を作り隔て穴を封じる
過去を繰り出し続けるようだな
行き場の無くなった力を嘘だらけの貴様は制御できるのか?
嘘でないならしてみせろ
どちらにせよ私の狙いは【凶つ星】の一撃
捨て身の攻撃になりそうだ……何かあったらカガリに任せる
最悪剣だけは折らないようにするさ
出水宮・カガリ
ステラ(f04503)と
鍵も持たぬ、ひとの脅威の具現。必ずや退けてくれよう
押し寄せるオブリビオンの群れを留めるぞ
【籠絡の鉄柵】を大型化、我らの周囲を囲って城壁としよう
【内なる大神<オオカミ>】の神力で【不落の傷跡】の効果を強化
【隔絶の錠前】で施錠して、一時世界を隔絶しよう
こちらのユーベルコードが間に合わない初撃を、持てる全力で耐え凌ぐ
(オーラ防御、拠点防御、全力魔法)
無敵の壁を持つのは、そちらだけでは無い
そちらの攻撃を、全て城壁の砲門としてくれよう――!(【駕砲城壁】)
これだけでは打ち倒せはしまい
…ステラ、行けるな?
ステラの本体に何かあれば、回収に向かうぞ
大事ないか、ステラ、ステラ
三咲・織愛
◎△
ヨハンくん(f05367)と
少し……可哀想ですね。恨む事しか出来なかったのでしょうか
人を殺めていい理由にも世界を滅ぼす理由にも、なっていい筈ありませんけれど……
うん
行きましょう
誰も殺させたりなんてしないから
後ろは任せて前に出ます
胸から繰り出されるオブリビオン、悉く屠ってやりましょう
愛槍を手に正面から対峙
攻撃は見切り、武器受けで凌ぎながら最小限の動きで急所を串刺し
繰り出される速度に勝れるよう打倒を狙います
数が多くても負けない
覚悟が胸にある――!
援護には頼りすぎないようにしたいけど
手が間に合わず彼の方へ向かう敵がいれば優先して倒します
攻めのタイミングは合わせ
【打ち砕く拳】で怪力籠めて殴ります!
ヨハン・グレイン
◎△
織愛さん/f01585 と
……同情する必要はありませんよ
ただの陰気で捻じ曲がったクソ野郎です
恨むなら無能な自身を恨めってところだ
彼女のように正しい心は持ち合わせていないが
助けたいと願うのなら手伝う事は吝かではない
見えるところで怪我されたくもないですしね
まったく自身を顧みない女性が周りに多いな……
『蠢闇黒』から闇を喚び<呪詛>と<全力魔法>で強化
死角を作らぬよう援護しながら闇を振るう
術士としては前に出たくない
非効率だし、やれる事がないからだ
それでも危険を感じた時は前に出て防壁を作り守る
おい、木偶の坊
ゴミをまき散らしてないで【かかってこいよ】
無敵が解除出来れば彼女と合わせ攻めに転じましょうか
●
過去であれば、最強のはずだったのだ。
ひび割れた体は「過去」である限り無限にそれを吸い上げて、形を取り戻していく。
痛みが残らないわけではないのに、傷ばかりはきれいにふさがっていくのに――なぜ、心は空いたままなのだろうか。
「異質なモノ、移植――か。なんか、私を、見てる、みたい。」
途切れがちな声すら、「植え付けられた」ものかもしれぬ。
グウェンドリン・グレンジャー(鳥籠・f00712)は戦場にて起き上がるその姿を見ながら、己を重ねていた。
病院を経営する父と、人類学者の母の間に生まれた一人娘でありながら、生物としては欠陥のからだを以て生きている存在であったのを――全く以て善意で「かいぶつ」にしてしまった父親がいる。
哀れだと思ったのだと、彼はいうのだ。
施すだけ施して、グウェンドリンの存在すら塗り替えてしまって彼らは姿をくらましてしまう。
与えられた力は、「ばけもの」のそれであった。凶暴で、凶悪で、ただただ健康な体にはなれども、偏食の肉食獣となる。
それが――どれほど、他人から異質に視られるかなんて、まだ少女は知らなかったというのに。
「与えられたもの全てがイイものとも限らねぇんだがな。」
その隣で、ため息をひとつ吐くのがジェイ・バグショット(幕引き・f01070)だ。
彼もまた、グウェンドリンと同じく「虚弱」の存在である。線の細く、色の薄い男だ。
彼のことを「簡単に殺せる」と思った端から殺していくジェイは、己の「与えられたもの」がどれほど面倒で――時に便利かを知っている。
しかし、これを「いいもの」とも思えないのは確かだ。
体はずっと弱くて、常に金と医者を求めて咎人を殺して歩く。
「欠けてたほうが、いっそマシだと思うが――。」
まあ、そんなことを教えてやる道理もあるまい。
「めぐまれすぎた」グウェンドリンの前を歩いてやるつぶやきを、耳で拾えた。
瞬きする少女が「満たされ過ぎ」て「そう」なってしまったことを、少女だって理解している。だから――はやく、殺してやるべきだとも思った。
「生きてて、苦しく、ない?」
――「満たされても苦しむのは、どうして?」
●
「ふふ、――ッああ、この時を待ちわびていましたよ。ねえ、鷲生殿。ムカつきませんか?」
ようやく、終わりがやってくる。
戦争の状況はよろしくない。グリモアベースを情報端末でわざわざ「ハッキング」して「盗聴」するのはその性根が臆病なせいだ。
しかし、びっくり人間の博覧会といってよろしいところにわざわざ乗り込んでやろうとも思わないのが鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)である。
必要なのは、会話で手に入れるものではなくて「事務的な」情報だけなのだ。そこで、仕入れるすべてが――正しいのだから。
戦争の状況は、よろしくなかった。
圧倒的に敵の数が多く、グリモア猟兵たちが作戦を舵取りながらも、それに付き合う猟兵たちにだって疲労の色が見え始めている。
しかし、希望で――未来であるからと、けしてめげない意志の存在たちの中には。
今、目の前にいる男も含まれて、その男を尊敬するのが彼女の「つがい」なのだ。
「ああ。今か今かと待った。」
あまりにも、これまでの状況が不快である。
――目の前の女がもつ「つがい」はやみくもに世界を救おうと駆けまわっていたし、己よりは腸も「煮えくり返るどころ」ではなかっただろうが。
鷲生・嵯泉(烈志・f05845)にも、並び立つ巨悪どもを打倒してきたあしあとがある。
しかし、その状況はいつも苦しく、日々毎日が「滅び」と切迫していた。それを――楽しむことなどできるような性根でない。
「あの空っぽ野郎――。 己を鍛えもせず、他人の成果を奪って、デカい面をしていやがる。」
夜空を仰ぐようにして、おおげさに。
怒りを忘れるなと己を燃やすようなしぐさで、灯理は嵯泉に討つべき相手を示すのだ。
灯理は、生まれは「恵まれ」た。しかし、生きることには「恵まれなかった」。
嵯泉もおなじく、生まれは「恵まれ」、生きることには「恵まれない」。
――無能であることが、悪いわけではないのだ。この二人だって、今までの人生に抗えていなかった「過去」は無能であると認める。
しかし。
「殺さねばならん。」
怒りに燃えた声は、知っている。
何百何千何万と、己を殺して「強さ」を手に入れてきた女は、知っていたのだ。
殺したいほど嫌いな人間はいつだって己だけで、無力に狂わされて胸元に大きな「罰印」を刻んでしまうほどに、己が「欠けた」存在などというのはわかっている。
「 あ れ は 殺 さ ね ば な ら ん 。」
然りと。
嵯泉も頷いて灯理の闘志を肯定する。――救えないものを知った修羅の瞳は、いつもよりあかあかと燃えていた。
「そうでしょう、鷲生殿よ。」
「――盗人がのうのうと長らえ、其の上無辜の者を害するなぞ見逃せるものか。」
建前だ。
そんなことは、きっと灯理もわかっている。だけれど、彼女ほど衝動的ではない嵯泉は「発言」に気を遣う。
あたりを飛んでいる中継ドローンは、人々の「目」だ。希望にふさわしい姿を見せてやるべきであるから、口は理想を語り――瞳は、冷たい「こころ」を語る。
「――往くぞ。」
「――参りましょう。」
修羅も怪物も、「人間」だった。
どこまでも無力で、どこまでも現実を知っている「あたまがいい」生き物だからこそ、苦しんで掴んだ「想い」がある!
●
「少し――可哀想ですね。恨む事しか出来なかったのでしょうか。」
「……同情する必要はありませんよ。ただの陰気で捻じ曲がったクソ野郎です。」
慈悲があったのは、「未来」であるからだろうか。
それとも――三咲・織愛(綾綴・f01585)はどこかで似たような物語を読んだことがあったのかもしれぬ。
純粋に、哀れな存在であると思う。誰もこの「弱い」彼に教えてやらなかったのだ。まるで聖書にでも書いてありそうな「ありきたり」で「あたりまえ」を――ささやいてやれなかった。
それは、どんな孤独だったろうか。
人を殺めていい理由にも、世界を滅ぼす理由にもならない。しかし同時に――苦しみ続ける理由にもなるまい。
悔しがってのたうち、でたらめに体をふりまわして煉瓦の壁を壊すさまは子供の癇癪のようだった。
織愛と同じような目線で――ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)はそれを見てやることなど、できはしない。
むしろ、織愛が「そう」見てくれるからヨハンはとことん「批判的」にそれを研究することが出来ていた。
一切の同情の余地もない反逆者である。――どの国でもどの世界でも「反逆」は死罪以外ありえない。ヨハンが冷たい青色の瞳をしていたのは、きっと「それ」が理由だけではないのだけど。
「ヨハン、く――。」
「集中を。」
愛する人が、血まみれで運ばれていった。
ひねくれもののヨハンが想いを結んだ愛しの「ただしい」存在が、確かに希望を魅せて帰還したのとはちょうど、入れ違いになっている。
さえぎった言葉は、織愛へのものではない。己への叱咤でもあった。ぎりりと手袋が締まって握りしめた拳の圧を感じさせる。
「――恨むなら無能な自身を恨めってところだ。」
ヨハンは、乗り越えた。歴史ある古い家系に生まれ、眩しい父兄を常に見続け、見続け、その内に自身を、自信を見失い――知識を磨き続けた結果の「忌むべき力」に今だってすがっている。
だけれど、それを「うまく使ってやる」のがヨハンなのだ。けして悲観的で批判的であれど、停滞はしない。常に考え続けて前を歩く。一歩足を踏み出す時の姿勢だって考えるような気持ちでゆがんだ正義を執行する。
それが、どれだけ過酷かは――見ていれば織愛にだってわかるのだ。
「うん。行きましょう。」
――そして、きっとその過去は「もっと前の」段階で苦しんでいる。
まるで卵が割れなくて死んでしまう雛の足掻きを見ているようで、もう見ていられないものがあった。
「誰も殺させたりなんてしないから」
卵が割れなくて、その死体が腐ってあふれ出てしまわないように。
卵の中でせめてお眠りと――神様でもない織愛は、「そうしてやる」ように動くほかない。
ぎゅうと握りしめた愛槍を前へ、仲間たちの動きを待つ。ヨハンも同じく、相手をじいっと――静かに燃える瞳で見つめていた。
●
「では、始めましょうか。」
「ああ――ベアータ。」
続いて、「最強」の前に立ちふさがったのは女が二人。
取り戻した肉体にあったはずの「何か」を失ったその虚影は、己のくすぶる心に火をまたともして、唸る――!!
「ぎ、ぎゃはッ―――はははははははははははッッ!!なめやがって、ほら、見てみろ!! 俺は、まだ、倒されないッッッ!!!」
英国全土に響き渡る悪意は、まぎれもなく人々にも聞こえただろう。
猟兵たちを応援する声がとまって、――絶望をまき散らしたことを確信する。
「ぶち殺して、やるよォ――まずはお前らからだ、チビどもがァアアッ!!!」
爆発するように!!
どどう、とあふれた「過去」はまずバレッタ・カノン(バレットガール・f11818)を襲った。
バレッタは、常軌を逸した怪力の持ち主である。その超人的な強さというのは、戦場で戦うべき命として前線付近の研究施設で遺伝子を魔術的に人為改変された結果の産物である。
戦闘教育を身に着け、血の味も硝煙のかおりも、忠誠も裏切りも得て彼女は今、ここに立っていた。
――常に怒っているのは、バレッタだって一緒なのだ。
「腹が立つよな。」
ようやく居場所を得た今だって、その怒りが落ち着いたことはない。
濁流の様にあふれたオブリビオンと呼んでいいのかわからぬ液体のような脅威を砲弾でまず一発消し飛ばした。
続いて、薬きょうが落ちるよりも早くに貫通・徹甲榴弾を装填した己のバレットで戦車を撃ち抜くためのそれを打ち出す!!
肩が外れない。――バレッタの怒りはこの程度の衝撃では壊れないのだ。
手にしたマンホールはいつのまにかどこかから拝借したといえる。ブーメランのように旋回させて投げてやれば、鈍い音をたてて首をへし折り、戻ってくる時には盾代わりに扱う!
「おいおい、おい、強ェなァ!!ヒャハハッ、だが、だがよぉ!!? 」
そう、防戦一方だ。
圧倒的な質量での「無敵」状態なのである。バレッタに前方から以前襲い掛かる大群は殺しても殺してもまたすぐ巨悪の胸から湧き出てくるのだ。
「――まだやれるぞ。」
しかし、バレッタだってそれは「負けている」ことにはならない。
「一人でも私は戦う、でも一人ではないと信じている。」
「――当たり前でしょうが。」
足を止めずに、前へ進むために褐色色の肌に大粒の汗を作っていた。その後ろに隠すのは――戦友、ベアータ・ベルトット(餓獣機関BB10・f05212)!!
暗視デバイスを起動させている。
バレッタが切り開いて駆けるというのなら、それにぴったりと追従する動きを見せていた。
彼女の手が及ばないところがあるというのなら、素早く機腕銃の乱れ撃ちで迎撃させ、赤い霧を発生させる。ただでさえ濃霧の兆候が深夜である今すら始まっていた。
――あまりに、多すぎる。
「バレッタ!!右、九十度、東!!!」
ヤー
「了解。」
合図を素早く出してやれば、バレッタが盾となっていた体を横跳びさせるようにして命令した方向へ駆けていく。
だから必然的に――どうしても。ベアータがこの大群を一時的に相手することになるのだが、彼女も自覚しているように――。
「ッッ、数、多ッッッ!!!」
そう、膨大だ。
何せ集まった猟兵の数が多い。その分に呼応して発動しているのだろう。
デバイスの画面には視界が悪くなったにかかわらず「けもの」じみた動きで切りかかってくるオブリビオンたちがいる。すばやく銃弾で撃ち殺してやって獣爪で肉を食らってやる。
サイボーグである彼女の体は、――常に、均衡が崩れかかっていた。
これ以上相手取れば、「傾いてしまう」のは明らかである。喰殺衝動に蝕まれながら、ヒトとして在るかケモノに堕するかをぐるぐると少女の頭で考えだしていたために、視界のモニタは真っ赤だった。
「――まだ、まだッッま だ 、 足 り な い の よ ッ ! ! 」
叫んだ「けもの」は吠える。
ここにある命が抗う存在だと轟き「仲間を呼ぶ」ための一声だったのだ!!!
「最強を名乗るか、それも嘘とハッタリか?だが所詮は奪った力なのだろう?――よくわからんな。」
「鍵も持たぬ、ひとの脅威の具現だ。わからないのが、カガリたちの常だろう。」
ベアータにこれ以上体力を削らせるものかと、現れたのは――蒼星のごとく白銀に彩られる女と、黄金色の門である。
「己」を肩にのせ、ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)は凛とした声でベアータの後ろから歩み寄ってきた。
黄金色の門を呼び出した出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)はそのいとおしき存在である。完全な城門と、破壊の剣がふたつそろって――戦局は大きく動くこととなった!
「無敵の壁を持つのは、そちらだけではないぞ。」
ロアードウォール
【 駕 砲 城 壁 】。
展開されたのは盛大な黄金の門。一時世界を「隔離」してしまうほどの術式を一度挟んでから、バレッタの位置を理解したうえで「補う」ように生えたのは金色の壁!!
「ッ、すご――。」
絶対的な障壁といえる。過去たちはそこで推し止められて、だばあと横にあふれ――彼らの裏をとるようにして流れ落ちていくばかりだ。
後ろに回るというのならば好都合である。ステラは、気にすることなく己の意識を集中させていた。
なるほど、口でいうだけのことはあるのだ。
金色の壁の前で、にいいと赤をたぎらせる「過去」の魔力はおぞましい。流れていく力も、こちらからの気迫にも負けない――ただならぬ狂気があった。
「後ろ、とられるッ――!!いや、――。」
獣の本能で、危機を察知した。
ばっと振り向いたベアータの前に、そして手にした車両を分解して腕に装着を始めたバレッタの前に顕れるのは二つの「存在」だった。
コ ー ド オ ー プ ン : イ ノ セ ン ス
覚 醒 ――、【 正 気 の 化 物 】。
尽きず潰えぬこころに宿るのは、絶対の意志と覚悟だ。どんな甚大なダメージも耐え忍び癒やし、目的を達するまでは決して倒れずに思念の力で己の心と体を突き動かす。
勝機の獣。それと化した灯理の紫はぎらぎらと輝いて、前に進む足は止まろうともしない。
飛び出してくる脅威たちは、動かぬステラではなくて歩み続ける灯理を狙う。
その頭を、すぐさまつかんで――走りながら、地面に叩きつけてすりおろし、真っ赤なじゅうたんを作ってやった。
破片を飛び散らせて絶命したそれを、両腕でぐちゃぐちゃのミートボールにしてやれば、殴るように投げて砲丸がわりに薙ぎ払う。
人間戦車、人間大砲、人間――殺戮兵器もひしゃげてみせるその力で、灯理は笑う!!!
「ははッ――はは、ははは、 は は は は は は は ッ ッ ッ ! ! ! ! ! 」
ああ、どれほど待ちわびたか!
蹂躙にふさわしい。この大群を押し付けるというのならば、己がすべて「殺して」みせよう。
この場には「ふさわしい」猟兵たちがたくさんいる。英雄になれるような器ではもとからないのだ。駆ける体は軽やかに「飛べる」と思えば――カガリの作り出した壁を越えた。
その向こうで、あふれ出ようとする過去がいればかかとで打ち破り――砕き続ける!!!
ただ殺し、ただ蹂躙し、潰し、見せつけ、前へ進む。
その女の羅刹すら超える姿に――修羅もまた、追いついた。
「ねえ鷲生殿、笑ってみてくださいよ!! 苦しい時ほど笑うんです!!」
――彼女を救った「ヒーロー」はそうしてきた。
己の跡を追って剣を振るう修羅にそう言ってやれば、「そうか」と短い獣の笑みが帰ってくる。
「慣れん真似は難しいが――そうだな、的は射て居る。」
片端が吊り上がり、過去をすべて「だからどうした」と見下げてやるような凶悪がいた。
血まみれの二振りを手にして、にやりとそれが笑う。頭の先からつま先までを真っ赤に染めて、ずんずんと走り、また斬り――斬って斬って斬って断って断って断って戦場を赤で塗り替える!!
二人の体とて、人のものだ。だから、追いつかなくてもかまわない。傷ができて、体から赤が噴き出したところでだから「なんだというのか。」
「――おかしい、おかしいだろッ? おまえら、たかが数も多くて、全員平和ボケした、どこにでもいる、ゴミクズみたいな人間だろォッ―――!!!???? 」
なにも、わからぬ。
クライング・ジェネシスには「何もわからない」。こんな存在たちを見たことはなかった。
ただただ斬り、断ち、「目的のために」しか正義を為さない存在たちを、知らないのだ――。
「そういうものだ。――まったく自身を顧みない女性が周りに多い。」
己の愛した人も、そうだったけれど。
この場にいる誰も彼も「命知らず」の存在ばかりだ。だからこそ、英雄というのは成り立つのだろう。
ヨハンには正しい心など存在しない。だけれど、この場にいる正義が――未来を助けたいと願うのならば、せめて「完全勝利」を約束しようではないか。
「見えるところで怪我されたくもないですしね。」
誰に向けるわけでもない言い訳を、聴いてくれた誰かがいただろうか。
――また、そんなこと言って。と笑ってくれる彼女は、今は隣にいないけれど。
己が「その」彼女を見た時に、どう思ったのかを知っているからこそますます黒はうごめくそれから「闇」を喚ぶ。
戦闘スタイルとしては、カガリが作り出した壁の後ろで術を働かせることだ。
後ろに回った脅威はとうの昔に修羅と化け物が蹂躙していった。こちらにスタンバイしてあるのは――手札としてヨハンが数える戦力は「多すぎてちょうどいい」。
「おい。木偶の坊――。」
闇が、漂う。
それは空間を支配するように、視界を奪うようにあたりに立ち込めた。霧に交じって、もはや夜空すら覆ってしまうほどの黒で「過去」の視界を隠してしまう。
「ゴミをまき散らしてないで【かかってこいよ】。」
――【侵蝕する昏冥】。
影から生み出したる黒闇たちが漂うことで、クライング・ジェネシスに「命令」を与える。
動けない。動けば、「無敵」は解除されてしまうからだ。しかし「かかって」いかなければ、「ルール違反」になる。
「――――ぎっっっ!!!!??? 」
アタック・ダメージ
違 反 し た !
ぐらりと揺らいだそれに確かな感触を鼓膜で拾う。
「追撃は。もう、準備できていますか。」
ヨハンが眼鏡を整えて、後続の「手札」たちに問いかけてやった。――手品のようなもので、どうってことないトリックである。
ヨハンが「ミス・ディレクション」で、これからの「攻撃」たちが「本当の狙い」なのだ。
「う、ぉおお、お――なんで、だ、俺が、俺がどうして、ッ、膝をついてンだよぉおおお―――!!!」
クライング・ジェネシスが頭を振ってわめくのを、がうんと大きな銃声がまず、貫いた。
「うるせェ。」
ジェイだ。
金の壁から出てきた存在が、唸る。――死ぬだけの存在が未来を叫ぶことなど許しはしない。
注意が向けられて。過去たちは彼をめがけて飛び出してった!!すれば、そこにまた「けもの」と「聖者」が立ちふさがるのである。
「させません。」
「――【HEAVEN'S DRIVE / awaken】。あまり、みないで、ね。」
突き出されたのは槍。
――放たれたのは大鴉!!
ぎゃああと悲鳴が上がったのはどちらのものやらわからぬ。黒い翼を展開したグウェンドリンが、大きな体を使って「死」の風となって突撃を繰り出していた!!
そして、その「撃ち漏らし」を確実に貫くのは織愛の槍である。
圧倒的な数の多さを、蹂躙してやっていた。槍と、鴉と、化け物と、修羅がいる最前線はみるみるううちに「波」を殺していくのだ。
「おかしい、おかしい、おかしいンだよ、くそくそくそくそくそくそクソッッッ!!!!」
出しても、出しても。
あふれ出るはずの過去は「強い」はずなのに。ことごとく「未来」に打ち砕かれてしまう。
「ステラ――行けるな?」
城門が護り、それを反射する。
どうどうと砲撃が繰り返され、地形を破壊させるほどの衝撃と振動を与え、「己」越しにカガリは問うた。
「ああ。――問題なく。」
捨て身の一撃になる。
どうやっても、「倒す」のならば全身全霊で挑むべき相手であった。だからこそ、ステラは油断したそぶりも見せない。
「過去を繰り出し続け――行き場の無くなった力を嘘だらけの貴様は制御できるのか?」
明らかに、「出し過ぎ」なのだ。
津波のような黒を消し飛ばされていて、「からだ」はもっても「こころ」までは無事でおれまい。
性根からして、叩きなおして「出直し」をさせねばならんなと青い刀身を構えた。門の前に現れて、ステラは深く息を吐く。
「――固定を。」
その、凛とした合図とともに。
グゥエンドリンが吸い上げた「いのち」と傷の分だけ――くちばしから突っ込む!!
「ジェイ――今、なら!! 」
「へェ。やるなァ。」
――発動、【ブラッド・ガイスト】。
絶叫のザラドと名を冠す長剣を構えたジェイだ。なるほど、「固定」するには銃では追いつくまいとそれをしまって、代わりに握ったそれが「捕食」に哭く。
「確かに、お前の言う通り傑作な話だよ。こんな話は、『よく売れる』。」
――飛びかかる黒の動きは、もはや迷いすらなく。
戦場に一筋の筆が走ったかと思うと、その「からだ」に容赦なく深々と剣を刺してやったのだ。まず、――右足から。
「ぎ―――!!!? 」
「結局お前みたいなのは倒されるって、そう決まってんのさ。」
解除できている。
「ほぼ」無敵は打ち砕かれたのだ!!あふれ出る過去たちが勢いを衰えさせて、猟兵たちに「勝利」を約束させる!!
「ッッッ今ぁああああア――――ッッッ!!!!」
【打ち砕く拳】でわき腹を貫く!!
――かよわいエルフの腕からとても放たれたとは思えない速度で、巨悪の中身を「突き刺した」織愛だ!!
ヨハンがその姿に、あきれたような――けれど、どこか安心したような瞳の色を「門」の後ろで見せていただろうか。
「止まらないわ――私は、止まらないッッッ!!!! 」
確実にするために。
――【HyenAssimilation】。
飢餓に飢えた衝動の激化により、獣の擬人化となったベアータがその猛威を振るう!
せき止めようとする過去たちに邪魔をさせてなるものかと、【鉄拳制裁】で足場をつくり、ちょうどその足の裏を「殴った」。
「――あとは任せた、ベアータ!」
張り上げた声は、戦友を信じているのだ。
数多の猟兵たちが未来のために一手を望む。その邪魔をさせてなるものかと、せめて「けもの」である己らがどうにか立ち回ってやらねばなるまい。
戦友の――叫びを聞き届けて、狼は駆ける!!
駆けだした体が過去を屠るたびに熱に滾り、湧き上がる歓喜の正体がわからない。何の肉を食らっているのかもわからないのに、踊り喰う赤がもっともっと欲しくてたまらない!
ステップの様に軽やかに走り、いきいきとした表情と瞳の色が「おかしい」のも自分だってわかる。だけれど―――考えるな。この身に託された、闘志の赴くまま突き進めと願っていた。
「弱者は過去に浸っていろ。未来は―「私達」のものだッッ!」
――目の前の獲物を―喰らい尽くせ!
食い荒らす狼に、過去は屠らて消えていく。
黒い砂となって己の体もまた「過去」が消されていく。
「どうして、なんで――どうなって」
「 覚 悟 決 め た 人 間 舐 め ん な よ 。」
――もう沈め。
その頭を――容赦なく、両手を握りあわせた灯理がハンマーよりもしたたかに殴りつける!!
ばきゃりと後頭部が割れた黒に、凶悪な笑みを見せてやったのだ。恐ろしい生き物を、よくよく覚えておけと口が動いて――空気が裂かれる。
【刀鬼立断】。
追いつく嵯泉の顔は、もはや血で真っ赤だ。ただしく、鬼の様相で切りかかった一撃がざっくりとジェネシスの両腕を叩き斬る。
「――無敵、だったか?」
露を払うようにして、笑った顔を戻さないままに。
見下した赤が「終わり」を悟れば――蒼光に世界が満ちた。
のちに、その光景を人々は――流れ星だと呼んだのだろう。
【凶つ星】となったステラが、己の「本体」を構えて突撃していた。
猟兵たちに固定され、抵抗を赦すことのない状態になった「過去」にぶつかって―――押し潰す!!!!
「う、ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」
「―――果てろぉおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!! 」
己の体を焦がしながら、なんどだって流星群は降り注ぐのだ。
カガリがその光景を見て、祈る。
「ステラ、―――ステラァッ!!! 」
いとおしき人だけは、燃え尽きるな。
愛する咆哮を耳にして――彗星はきっと笑ったのだ。世闇に立ち上り、雲を裂いてしまうほどの「蒼」はきっと「最強」の妥当を示していた。
ふわり、と白い残光がきっと、城門の彼のもとに戻ってくるときには。
「ああ、よかった。心配したぞ――!! 」
愛が、「未来」にまた帰ってきていたのだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
自己顕示欲の塊ってのはどうも相性が悪い
腹が立つんだよなァ
貴様の鬱憤晴らしに付き合ってやる気はないが
私の鬱憤晴らしには付き合ってもらおう
攻撃は第六感で致命傷のみ見切り、敢えて受ける
その漆黒の虚無だとか何だとかいうのは厄介だし――、
起動術式、【暗渠の荒野】
そうやって調子に乗って力を使えば使うほど
こちらの力に転化されるという按配だ
反撃に蛇竜の黒槍で串刺しにしてくれよう
やァ、何もかも恨んでいるのであろう?
ふはは、好きなだけ恨むが良いさ。私の武器は恨みだからな
そういえば貴様、最強だとか言ったな
では幻想種が教えてやろう
最強とは、名乗った時点で負けなんだよ!
霧島・クロト
◎
【三下殺し】
タイミングを【見切り】、【高速詠唱】。
【全力魔法】【オーラ防御】【属性攻撃】の氷壁を作成。
謡の強化時間を稼ぎながら俺が『どちら』も受ける。
俺らを『借り物』で、どうにか出来るとか思うな。
謡が出撃した直後に【高速詠唱】で【指定UC】を掛けて追い掛け。
なるべく『地形に被弾』させないように
【オーラ防御】【属性攻撃】の簡易氷壁で弾きながら
【属性攻撃】【生命力吸収】【マヒ攻撃】【呪殺弾】による
氷の魔弾を敵の体躯にねじ込むように刺して機動を削ぐ。
被弾する度に俺も強化されるが――刈り取るのは俺じゃねぇよ。
「なぁに、俺は『詰める』だけだ。刈り取るのはいつだって――
女王の駒の役割なんだからなァ?」
死之宮・謡
【三下狩り】
アドリブ歓迎
力を持って増長したか!負け犬風情が…
身の程を弁えさせてやろう…征こうか、クロト!
・WIZ
防衛は任せるぞ?
UC迎撃をクロトに任せてその分まで念入りに強化を掛ける
「呪詛」で自己防衛本能を破壊してリミット解除、対邪強化に「破魔」
「全力魔法」で身体強化を掛け
レ・フィドラとストライフに其々「呪詛/破魔」「属性攻撃:氷・焔」、猛毒(毒使い)を掛けて待機
クロトが迎撃したら【黒金の雷】を発動。吶喊して「怪力」で「2回攻撃」
UC効果と「生命力吸収」、略奪の「呪詛」により削り合いを敢行
……斬り刻む!
ジェラルディーノ・マゼラーティ
◎
恵まれない者が、その身ひとつで上り詰める
何だ、ステキな物語じゃないか
嗚呼でも、少しばかり殺しすぎたか
それに既に死したもの
未来を歩むにはノロマすぎる身体なら
僕と似てるね、なんて戯言もやっぱりなしだ
残念だがお帰りいただこう
そも、僕の魔力は生まれつきだろうしね
無敵な身体に、骸の海発射装置とは
正直ワクワクしてしまうが
感心したのはその発想と
実現した奇跡にだ
湧き出る過去と本体へは
遠距離からの拳銃で
弾が効かなくとも構わない
これは不可能を削ぎ取る力
可能性を押し広げる力
王だと言うなら、其所はお似合いだろうさ
嗚呼、こんな皮肉もある
The Tower――
還ったらタロットでも調べてご覧?
図書館があるかは知らないがね
パウル・ブラフマン
◎△
▼先制攻撃対策
砲がデカいから射程範囲も広いっぽい?
けどお陰で狙いが読みやすいね。
行くよGlanz―フルスロットルだ!!
【地形の利用】を念頭に
街灯を発射台にして【ジャンプ】する等
【運転】テクを駆使して命中回避を試みるね。
▼反撃
蹂躙するどころか翻弄されてウケる~☆
虚無の上に立とうとしたらHerz越しに大音量で煽る。
敵が破壊しないのを逆手にとって
ロンドン塔を壁面走行で駆け上がり
Krakeの射程内に納めたい。
UCで借用した
骸の海発射装置の威力をドタマにブチ込んでやる。
過去にしがみつくテメェは
過去に始末されるのがお似合いだぜ、ファニーボーイ。
オレは処刑人でもヒーローでもないよ。
ただのタコの運転手さ。
花剣・耀子
◎△
おまえの在りように、出す口などないわ。
其処に在る敵。
それだけで充分よ。
随分と大盤振る舞いをしてくれること。
……良いわ。かかってきなさい、有象無象。
過去は覆らない。
溢れ出す残滓を留めることは叶わない。
でもそれは、歩みを止める理由にはならないのよ。
遭う端から、触れたものから斬って次へ。
あたしへの攻撃は、致命傷だけ防げれば其れで良い。
一歩でも、半歩でも、過去の源へ。
あたしは、おまえと相対する未来を望む。
あたしがすべてを斬り果たす。
其れが叶わないとしても、歩んだ先に、きっと誰かが。
――ばかね。
過去に留まることを良しとした時点で、おまえは追い付ける存在に成り果てたのよ。
そこに在るなら、斬るれるもの。
●
どくどくと流れた過去が「過去」を呼び戻すかのように。
ひび割れた体を元に戻す悪のさまがいっそ哀れで、――ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)はその姿を見て己色と姉色の瞳を細める。
「腹が、立つんだよなァ。」
「恵まれない者が、その身ひとつで上り詰める。ステキな物語だと思うのだけどね。」
その隣で、銀の青年もまた一人。
灰色の髪と銀色の髪が揺れあって、――邪竜と聖職者は笑う。
「嗚呼でも、少しばかり殺しすぎたか。これは、戯言もやっぱりナシの方向でいいだろうね。」
聖典において。
死者がよみがえり、この世を生きることなどはあってはならぬことである。
弔いが意味をなさなかったことも、――その魂をあるべき場所に導かないのも、「可能性」である因子たちを害することだって許してはならなかった。
「未来を歩むにはノロマすぎるらしい。」
「そりゃあそうであろうよ! デカすぎちゃ足元も見えないからなァ。」
かははと大きく邪竜が笑う。
――聖職者はその隣でゆるりと微笑むばかりだ。
どんな可能性だって信じているからこそ、目の前の「過去」は必要ない。ゼロになにをかけてもゼロしか生まれないのだ。
しかしまだ、この状況になっても「悪」はよみがえる。
ひとえにその「悪」を動かすのは執念なのだろう。彼を嫌った世界への理不尽な怒りでこの悪は何度でもよみがえろうとする。
「バカにしやがって、バカにしやがって、バカにしやがってェエエエエエッッッッ!!!!! 」
「馬鹿だろうが。」
私に言われるようなら、終わりだぞ。と頭を掻いてニルズヘッグがその様を見る。
「そういえば貴様、最強だとか言ったな? では幻想種が教えてやろう。」
ぎろりと血の涙を流すような模様が頭らしい。さすがに損壊に追いつかなくなった「過去」の力が薄れているのか、完全復元とはいかないようだ。
「最強とは、名乗った時点で負けなんだよ。」
「過去」が存在する限り「未来」があるように――この恨みはきっと「殺しきらなくては」死ねないのだ。
「ヤツの鬱憤晴らしに付き合ってやる気はないが――。」
ぼう、と瞳が燃える。
怒れる悪だというのなら、この男も怒らねばなるまい。
未来を穢す悪意が「怒り」だというのなら、それを燃やす炎だって「怒り」である必要がある。
「私の鬱憤晴らしには付き合ってもらおう。」
ニィイ、と口の端を釣り上げた竜の瞳は、昏い昏い炎で照らされていた――。
正直、ジェラルディーノのほうはニルズヘッグほど過激な想いは持ち合わせていない。むしろ、この悪には感心すらしていた。
可能性を信じるジェラルディーノからすれば、停滞しなかった「根性」というのは目を見張るものがある。
「俺が、黙ってりゃァ――ぺらぺらとォッ」
「へえ。それが骸の海発射装置か!」
正直なところ、わくわくとしてしょうがないのだ。
未知のものである。骸の海というのが存在するのは知っているけれど、それを「呼び起こす」技術を実現させたのは奇跡と呼んで差支えがない。
鷹の瞳が好奇心で刺激されて、「やさしい」生き物というのはどんなときだって未知なものが好きなのだろうかと――ニルズヘッグは思う。
ちらりと金色が彼を見たのなら、ジェラルディーノはロマンス・グレーをかきあげて、反対側の手に銃を握っていた。
「それでは、――“お約束”と行こうか。」
●
「砲がデカいから射程範囲も広いっぽい?かな。ンー!でもまぁ読みやすいね。」
「そうね。でも、あたしが挑むにはどっちでもいいわ。」
Glanz――パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)の愛機に相乗りをするようにして、花剣・耀子(Tempest・f12822)とともに現れる二人の姿があった。
「そりゃあ、耀子ちゃんはこう。ドカーンッと派手に行く気でしょ?」
「ええ。無敵であっても、関係ない。」
斬れば、斬れる。
そう言い切れるのは耀子に「そうしてきた」今までがあるからだ。頼もしく頷く少女に、パウルもまた誇らしく笑う。おてんばな女の人は、強くて頼りになるのだ。
パウルはパウルで、挑む前に作戦を立ててある。できれば仲間の誰もの邪魔をせず動けないかどうか考えて――ロンドン塔内の地形も頭に叩き込んだ。
耀子に余計な労力をかけるよりは、まずパウルがその足になってやろうとバイクをふかせる。
「じゃあ――往くよ。」
「ええ。」
――いつでも。
その言葉を聞くや否や、フルスロットルで駆けだしていく閃光があって!!
それを見送ったのが霧島・クロト(機巧魔術の凍滅機人・f02330)と死之宮・謡(宵闇彼岸染・f13193)だ。
「出遅れちまったかァ?」
「いいや。――手筈通りに動けば、奴らの動きを潰さんだろう。」
正直なところ、謡にとっては不快でしょうがなかった。
身の程を弁えさせてやろうではないかという思いでここに立っている。クロトも、彼女の傲慢さは知っているつもりだ。
悪意の権化と言っていい。謡という存在は「敵に回しちゃめんどくさい」とクロトだってわかっている。
「負け犬風情が――。」
「まァまァ、そんな怒んなって。」
今、ぶちのめさせてやるから。
ニィイと餓狼が笑えば、女王も己の怒りを「今は」抑える。
生まれついて強者である謡にとっては、正直なところこの「弱者」の気持ちなどはひとつも理解できない。
ただでさえ弱いというだけで、その心なんて言うのはもっと弱いのだ。「どの世界」の「悪」がみても、この悲劇と騒動はその命と釣り合わない。
まして、それが謡の楽しみを奪うというのだから――内心、地獄が燃え盛っていたことであろう。
しかし、クロトのほうは義理がたい性根もあって冷静だ。
冷え切った心の向こうでは、常に計算が行われている。所詮誰かから「借りた」程度の力で、それがうまく扱い切れているようで――どこかほころびもあるだろう。
「まずは、よォく観察しねェと。」
確実に、倒すために。
狼が賢く笑うのならば、謡もそれに従う。女王は急がない。――殺すことはもう、決まったのだから。
●
「蹂躙するどころか翻弄されてウケる~☆借り物の力って、やっぱそんな程度なんだね!! 」
がううんと吠えるGlanzに跨ったパウルが容赦なく地面を疾走していけば――ニルズヘッグとジェラルディーノに向けられていた殺意はそちらを「意識」した。
ハンドマイクを片手に握って、大げさな動きでハウリングさせつつも叫ぶ音は嘲笑だ。
きゃらきゃらと笑いながら、派手なドリフトで土煙と火花を起こして余計にくすぶらせてやる。
「うお――ッと、湧いたな。」
あふれ出るオブリビオンは、パウルの後ろに乗せられた「耀子」へあてたものだ。
「なんだとォ―――。」
「あれー?怒っちゃう!? 同情してほしくないっていったり、むっずかしいなァ。そんなンだからモテねェんだよ! 」
返事の代わりに。
吐き出されたのは「虚無」と象徴するにふさわしい骸の海だ!!
真っ黒のそれがパウルの視界を覆うように、夜空に広がったのなら――見上げた隻眼のかわりに、耀子が飛び出す。
「過去は覆らない。」
――溢れ出す残滓を留めることは叶わない。
それでも、耀子の青い瞳はけして絶望色にも、自棄にも染まっていなかったのだ。
テンペスト
【《花剣》】!
発動した無数の白刃が彼女の握る大蛇のチェンソーの嘶きに従いあふれだす!!ぎゅおおおんと哭いた勢いに合わせて空気を裂いて、まず上空の闇を「切り裂いた」!!
「歩みを止める理由にはならないのよ。」
宙に浮いたままの体で、「過去」を見下ろす。
もうわかっているのだろう、と蒼が見た。過去はしょせん過去でしかなく、それ以上にはなれない。
それを超えるのが未来で、耀子の宿命なのだ。だから、くるりと体を落下させながら翻して足元の「海」へと想いで切り裂く!!
地面が割れた、過去が割れた。――「 海 」 が 割 れ た ! !
「あたしは、そこに在るなら、斬るれるもの。」
斬ることしかできないというのならば。
――そうすることしか、この羅刹には「己」での勝ち筋がないのだ。
躯の海ごと無数のオブリビオンを割って、はたたと地面に散っていく燃えカスのような黒い墨が散る。それがたとえ、耀子のほほを焦がしても――何とも思わない。
「 あ た し が す べ て を 斬 り 果 た す 。 」
「オイオイオイオイオイ!!!! 笑 わ す な ッ ッ ッ ! ! ! ! 」
――あと少しだ。
それは、きっと猟兵も思ったことだろうし、この悪も感じているのである。
夜明けが近い。ほんの四時間程度でもうじき、戦争が終わり「勝利」を手にすることができるのだ。
この世を絶望でぬりたくるか――。
はたまた、希望で照らすのか。
ぐっと前へ走り出した耀子が弾丸のようで、ジェラルディーノはどちらの可能性にも笑う。
「不可能を削ぎ取る力、可能性を押し広げる力――どちらも、同じか。」
頭の中に浮かんだタロットは「掲示」だろうか。
――【塔】を選ばせたのは、神がいるのならきっと悪への皮肉だった。
あふれ出る海に、燃える炎が浮かび上がっている。
しろがね色の焔が――ニルズヘッグを守るようにしてそこにあったのだ。
めらめらと燃えるそれは、かつての「神」であった姉のもので、未来を拓くにしては苛烈すぎるものである。だから、【暗渠の荒野】は過去にこそふさわしい手といえた。
無数の海が襲い掛かるというのならば、それを白金が護り切ってしまう。
殺すに殺されず、死ぬに死ねぬ。
拷問にふさわしいものには違いあるまい。ニルズヘッグの痛覚は遠いとはいえ存在するのだ。しかし、耀子にむかって飛び出した過去が彼を狙っても、たちまち焼かれて消えていく。
漆黒の虚無だとかなんだとか――そういう海も、たいらげてしまう。
「やァ、何もかも恨んでいるのであろう?」
誰も、彼を傷つけることを許されない。
焔を纏った腕で、黒槍が「過去」を貫いては殺していく。
口の端からも傷口からも「かみさま」のような炎を垂らしながら、邪竜は前へと進むのだ。
恨むがいい、恐れるがいい! 呪いこそ、この邪竜のみなもとである。クライング・ジェネシスが耀子に「縛られる」間に溜まる怒りが、竜の餌となっていくのだ。
「――ふは。」
笑ってしまったのはきっと、いっそ、――殺してやったほうがいいと思ったからだろうか。
「『北天に座す、七天よ――龍を捕らえ我が身に降ろせ!』」
そして、龍はもう一体顕現する。
白銀の色を纏った「氷龍」が――【氷戒龍装『飢えし氷龍狼』】にて変形したクロトの姿であった。
ニルズヘッグの単騎特攻をカバーしようと、見事氷壁を作り上げる!!
「これで、余計なとこにゃ行けねェかな。俺らのところに来るぜ。どっとな。」
「はは、そりゃあいい!――ならば、斃しきらんとな!」
単純に、相手の「標的」を絞ったのだ。
己とニルズヘッグに向かってだけ海が流れ込むように、地形をなるべく変えないまま――道を作った。
一本道があれば突っ込んでくるのは液体だって個体だってそうだ。どどっとやってきたのを踏み越えていく二輪がある!
「ブラフはここ!!? ここで、あってる―――!!?」
ぎゃううんと唸った相棒に跨ったパウルが誰よりも早くその「道」に来たのは、彼が「吸収」の段取りを終えているからである。
体には魔術式を纏って、存分に怒りを買った彼にも「漆黒の虚無」は迫り寄っていた。追いかけるような激しい動きをする流動体を引き連れて、連れまわしてから――射程内へ誘うにちょうどいい場所を見つけたのである。
「おうよ、あってる!!さア、構えな。」
「――応。任せろ。」
槍と、炎と、氷が備わって。
パウルの『ゴール』とともに、反撃が始まったのだ。
「過去に始末されるのがお似合いだぜ、ファニーボーイ。」
振り返ったパウルの腰から、触手共がわあっと湧きだす!!
【Sympathy for the Devil】。射程圏かつ安全地から放たれるのは固定砲台からの――「躯の海」だ。
タイミングを知るためにも、仲間のそばにいる。装填された過去の数は今、隣でニルズヘッグとクロトが掃除している数に比例する。
くずおれた過去を触手が「吸い上げて」弾に変えて――びきりとパウルのこめかみに血管が浮き出た。
「オレは処刑人でもヒーローでもない、ただのタコの運転手さ。――だから。」
任せたよ、と。
フィンガースナップ一撃を受けて飛び出したのは、クロトと計画を練った謡の姿だ!!
理性を一時的に破壊した体の一歩は、文字通り「飛び出す」ものであった。
受け止めた仲間たちのおかげで眼前には耀子の健闘しか見えていない。いいや、きっとそれすらも視えていないやもしれぬ。
まとう魔術の勢いが桁違いだ。空気すら、空間すら壊しかねない勢いで飛び出した漆黒を見上げるニルズヘッグがいる。
「あれは、大丈夫か?」
「なぁに、心配ねェよ。あれでも猟兵だしな。それに俺たちゃ『詰める』だけだ。刈り取るのはいつだって――」
【黒金の雷】。
空間を裂く漆黒が増える。
いいやきっと、どの黒よりも「黒い」ものだった。光で切り裂き、未来を得ようと疾る姿はどこまでも「鮮烈」だ。赤いバイザーにその姿を映して、「駒」はにやりと笑う。
「 女王の駒の役割なんだからなァ?」
「――――切り刻むッッッッ!!!!!!! 」
あえて、無数の中に突撃したのだ!!
無数を殺せばその分だけ謡の強さは保証される。ばちばちと閃光が瞬いて、「無敵」のクライング・ジェネシスを焦がさんとした!
「ぎゃはははッ!!強ェだけじゃねぇか、なんだ、なんだ――そんなの、俺様に」
効かないはずである。
ほぼ無敵なのだ。過去を作り続ける己の体にはありとあらゆるものを寄せ付けない術式があり、並大抵には崩せやしない。
――これも借り物の力であるけれど、最強の盾だと思っていた。確信があって、嗤っている。
なのに。
「―――ッッッぎぃいいいいいいいあああああァアアアッ!!!!??? 」
爆 ぜ た 体 に は 、 確 か に 黒 雷 が 刺 さ っ た ! !
「すまないね。もう、別の『可能性』が見たくなったな。」
飽きてしまったのだと、それは笑う。
「タロットでも調べてご覧?図書館があるかは知らないがね。」
銃器でこの悪を殺せるなどとは思っていない。しかし、「手札」は「それ」だと思わせるには十分だったらしい。
確かに放った鉛玉は、屈強な鎧も肉体にも刺さらなかった。しかし、「当たった」事実がある。
ぱちんと弾かれた欲深いそれが、発動させるには十分な虚がこの悪にはあったのである。どの瞬間も、どのときも「強すぎる存在」達ばかりを見ていた。
何をされたかが理解できないクライング・ジェネシスのマークから完全に離れていたジェラルディーノが恭しく礼をする。
――【親愛なる脚本家】。
「さて、では。よい――終末を。」
振り上げられたのは、耀子の「オロチ」だ。
ぎゃいいいいいいと悲鳴をあげたそれが、執行を確信して震えている。
凶悪を食えるのを喜ぶような呪いめいたそれを耀子がしかりと腕で握って、血まみれの体でまた前へでた。
もう、――動けないくらいには、戦った。
しかし、仲間たちが作った隙がある。過去に悩まされながらも未来へ歩む仲間たちがみんなで作ったものがあったのだ。
「クソ、クソ、クソジジィイイイイ―――――ッッッ!!!!!」
「――ばかね。」
こんなときでも、「弱き」存在に気づかない。
一閃が下ろされると同時に――蛸の彼から放たれた砲撃が全命中!!!
地面を揺るがすほどの大きな衝撃と、世界中の沈黙が息を呑んでいることを表していて――発光から少し遅れて、雷鳴がとどろいたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鳴宮・匡
◆ネグル(f00099)と
なあ、ネグル
前に、“独り”にはしないって言ってくれたろ
あの時は何言ってんだって思ったけど
今は、わかる気がするんだ
お前らがどんな道を選んでも、独りにはさせない
……行こうぜ
オブリビオンの大群は射撃で叩き落す
特にネグルの死角を衝く敵を最優先
自身への攻撃は全知覚と戦闘経験にあかせて見切り、回避
意味のないことなんてないと教えられた
培ってきた全ては無駄にならない
凌ぎ切ったら
ネグルが抉じ開けた射線を通すように
【虚の黒星】をぶち当てる
俺は絶対に外さないし、あいつは絶対に仕損じない
過去の虚に叩き返してやるさ
未来なんて思い描けないけど
俺はまだ“今”を生きていたい
負けるわけにはいかないんだ
ネグル・ギュネス
■匡(f01612)と
匡、…ああ、一緒に行こう
オレも同じ気持ちだ
何処までも、お前と一緒なら負けやしない
行くぞジェネシス、覚悟は良いか
アイツの射撃に無駄なんて無い
ならオレは最短距離をダッシュし、強襲するだけだ
今更連携なんて当たり前、飛んで来る弾や敵の射撃すら見切って、武器受けで弾き飛ばしてやる
そして敵の前に立てば、無心に振るった回数だけの重さを持った刃を叩き込む
ただ奪って我が物顔をする貴様には、防げるものではないだろう
信じてくれた分だけ
誓いの重さだけ
破魔の光は、力を増す!
受けよ邪悪!【破魔の断・雷光一閃】!
匡も、皆も今を生きたいと願った
ならばオレはその道を切り拓いてやる
邪魔をするな、三下風情が!
●
雷も、蒼も、何もかもが止んで――空はまだ夜が明けない。
今が何時なのかも、空を見上げただけでは霧が邪魔して星の位置を読ませてくれなかった。
「なあ、ネグル」
「なんだ。」
鳴宮・匡(凪の海・f01612)は。
ずっと、この戦況で――「殺す」ことだけをしてきた。
その力の使い方と、意志さえあれば「助ける」ための力になって「正当化」されるということをよしとされたからだ。
誰かに教えてもらわないと、そう思えなかった自分のことを恥ずかしいとも思う。だけれど、まだ「生きて」間もないから――自分で自分のことを赦し始めてきた。
彼がそれを意識しているのかどうかといえば、そうでない。だけれど、ようやく「言う資格」がある気がしたのだ。
「前に、“独り”にはしないって言ってくれたろ。」
ネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)は、チームメイトだ。
そして、匡の知っている限りで熱く義理堅い男である。
「あの時は何言ってんだって思ったけど。……今は、わかる気がするんだ。」
熱血が少々いきすぎて、己を失ってしまうこともあるくらいの彼は確かに流星のような存在にも視えていた。
いつの間にか己の上にいて、燃えては消えていきそうな友に――こんなことを言える日が来るとは、思ってもいなくて。
「お前らがどんな道を選んでも、独りにはさせない。」
これは、宣言でもある。
どんな窮地に彼らが陥っても、そこを終わりだと匡はあきらめない。
きっと彼らが「無理」をして、そうなってしまったとしても自業自得だなんて切り捨てない――あきらめなくてもいいと、もう、わかった。
「……行こうぜ。」
「ああ――一緒に行こう。」
今の匡を見ても、ネグルは確信をするばかりだったのだ。
何処までも、お前と一緒なら、負けやしない――。
かの「凪の海」と呼ばれる男は、仕事の最中はずっと凪いでいる。
だからこそ、この冷徹男が「冷静」を手に入れたのは鬼に金棒どころではなかったのだ。
人の心を知りながら、人を殺す覚悟というのがどれほど強いか――ネグルはずっと、それを胸に斬ってきた存在であるからこそ知っている。
「行くぞジェネシス、覚悟は良いか。」
巨悪に振り向いたとき、きっと。
鋼鉄の男の銀は、燃え盛っていたのだ!!
「おかしいんだよ、なァ――なんで俺は、今、負けそうなんだ?」
過去がわめく。
わなわなと震えた腕は今にも崩れ去りそうなほどもろく見えて、ネグルが鼻で笑ってやった。
「ハ、――そりゃあ、お前は過去だからな。」
誰にも信じられなかったのだろうと、男は語る。
ネグルには記憶がない。過去のこともないから、未来しかない男だ。
いつか知る日が来たって、今日この日――仲間との日々をなかったことにはできないほど背中に積み上げた男だ。覚悟が、違う。
「生きることに、覚悟はあったか?」
――生きて当然な命ばかりではない。
ぼろぼろに砕けた胸からあふれる過去なんて言うのは、匡が出たはしから撃ち殺していく。
その所業はまさに嵐のごとく。しかし、――静かなものだった。友を守るための凶弾を放つ足は一歩も動かないままにたやすくその頭を撃ち抜いていく。
【虚の黒星】。
二度と、再生できないように。
二度と――過去にすがれないように、撃ち殺していく。丁寧に、くまなく、すべてを殺す力を振るう。
培ってきた経験は、痛みは、けして彼の体ばかりを大きくしたわけでもないのだ。
止まっていた心が動き出して、精一杯に力を震わせる。友のために「こじあける」一撃をずうっと狙いながら――機関銃から持ち帰る。
星の瞬きほど輝けないハンドガンを、握ったのだ。
この一撃は、駆けだった。
――未来なんて思い描けない。
たった一度でも食らえば匡の体は「にんげん」である限り友のようにはいかない。
砕け散ってただの肉塊になるのが「おそろしい」に決まっている。それは、生きているものとして当然だ。
それを、――当然でいい、と。
そう、思って。
「俺はまだ“今”を生きていたい。」
願うように、星の背中を押した。
かの友が「流れ星」だというのならば、その背中は夢をかなえてくれるだろうか。
願いを、届けてくれるだろうか――?いいや、届けてもらうために黒星となって輝く鉛玉があったのだ!!
「ぉ、お――ッッ?」
信頼という言葉は、この悪より程遠い。
なにせそれを裏切ってここまで上り詰めた執念である。ぬくもりというぬくもりを断ち切って、冷たい存在になったのだ。
ありとあらゆるものを奪い、蹂躙し、辱めて壊すのが当然であると信じて、悪は――!!
「匡も、皆も今を生きたいと願った。」
鞘を、投げ捨てる。
無数のオブリビオンたちが倒れていくのを見送りもしなかった。
信頼している。――この流れ星の友は、必ず自分を守り切ってくれるという信頼があった。
「来るな。」
いよいよ、もう余裕がない。
――巨悪の前に輝きを増すのは。【破魔の断・雷光一閃】を起動させる正義である。
「『天に雷鳴、地に黒刀。闇を断つは破魔雷光』」
「やめろ!!!!!!!!!!!!!」
悲鳴のようなそれに、もう遅いと静かな紫が見る。
まとう雷は今までのどれよりも鮮烈で、ネグルを信じる友の想いを握った刀身が光り輝きだした!!
負けられない、生きたいのだと友が言う。そこに至るまで、いったいどれほどの業を振り切ってきたのだろう。
猪突猛進で熱血といえど、ネグルにも匡の罪というのはよくわかっている。殺人兵器となった友の受難など、己では寄り添うには難しいかもしれないと考えてきた。
だけれど、その友が。
――みんなと、己と、「未来」を歩みたいというのならば!!
「――『集いて祓え、祓いて滅せ、疾れ閃光!』
――な ら ば オ レ は そ の 道 を 切 り 拓 い て や る ! ! !
鮮烈な光が世界を包んだ。
とどろく雷鳴はうるさくもあるけれど、それがどこか爽快で、――お前みたいだ、と黒星がうっすら笑う。
きっと無意識だ。でも、きっと。
この一瞬だけは。
「邪魔をするな、三下風情がぁあああああああああああッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
匡の敷いた「道」を強い踏み込みとともに飛んだ「星」が、願いをかなえてくれたのを見届けて――。
――その悪の胸の亀裂が、盛大なバツ印を友に与えられてもう「使えなくなった」のを、「うれしい」と思ったのだろうか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
狭筵・桜人
◎
矢来さん/f14904
赤ずきんさん/f17810
①を担当。
ヘイヘイそこの三流以下の無能男!
そのデカイだけの図体、雑魚らしく地を這わせてやりますよ!
……って赤ずきんさんが言ってました。
あとお願いします!
『呪詛型』UDC。
同じ手を使うなら【呪詛耐性】で堪えられます。
他人任せなのは変わらずですけど
昔はいなかったでしょう。お友達。
私はUDCを操り【呪詛】による後方応援もとい足止めに回ります。
暴力、ひとりはタダで貸してくれるそうなので。
誰かさんも見習ってください。
ほら、観衆だって応援してくれてますよ。
人々の畏怖が生み出した都市伝説?
それともただの切り裂き魔?
今くらいはヒーローでもいいじゃないですか。
レイニィ・レッド
◎
坊ちゃん/f14904
狭筵サン/f15055
まァ そういうことです
タダ働きの暴力担当なんで
アンタを殺しに来ました
雑魚掃討までの①、仕上げの③担当
目立たなさを活かし物陰を渡り
鋏の一撃を急所や傷に叩き込む
それが自分のやり方だ
なら今日は趣向を変えましょ
遮蔽物のない屋根の上に所に陣取り
過去の鋏を咄嗟の一撃で受け止める
過去のテメェは"未だ"知らねぇだろ
――影が付いてるぞ
そのまま『赤ずきんの断ち鋏』を鳴らす
最速で本体に鋏を突き込み
喉を掻き切って殺してやる
自分は正義でも快楽殺人鬼でもねぇ
人が自分を何と言おうがどうでもいいんです
自分は雨の赤ずきん
気に入らねぇものを刻むだけだ
くたばれ
テメェは正しくねェ
矢来・夕立
赤ずきんさん/f17820
狭筵さん/f15055
◆先制対策
《闇に紛れて》視認性を下げる
◆流れ
①タゲ取り
②ザコ掃除
③本体に攻撃
②を担当
全世界の注目を引くとかイヤです。隠れてます。
《だまし討ち》【紙技・冬幸守】。
全員分の幻影を喰い殺させる。
過去だなんだを知ったかぶられるのはキライでしょ。オレは不愉快です。
嘘と掠奪でここまでのし上がった点はリスペクトできますけどね。
どうせ人殺しの都市伝説なら箔の一つもつけません?
折角の霧の都ですし。
こいつら気が荒いので自分から守ってはくれませんけど、
踏み台にくらいはしてイイですよ。
じゃ、シゴトの依頼です。あれブッ潰してきてください。
できますよね――レイニィ・レッド。
●
もう使えまい。
大群を呼び出す耐久もその体には残っていなさそうであった。
――対し、こちらは「健常な」人間がなんと三人もそろっている。タコ殴りってやつですか?といってみたけれど、わりと誰も彼もが油断はしていなかった。
「ヘイヘイそこの三流以下の無能男!――そのデカイだけの図体、雑魚らしく地を這わせてやりますよ!」
「罵倒するの下手ですね。」
狭筵・桜人(不実の標・f15055)の言葉がなんだかちょっと、言葉を選んでいるらしいのを理解したのがレイニィ・レッド(Rainy red・f17810)だ。
「いやいやだって、赤ずきんさん。これ世界中継ですよ?今はイギリス内だけだと思いますけど明日にはそりゃもう、再生回数万越えですよ。」
「――、まァ、そういうことです。」
自分は「そういう」方面で知られているからともかくとして。
桜人は一応「ふつうの」猟兵なのだ。だから、彼の言うとり「放送コード」内での言葉遣いが正しいらしい。
「タダ働きの暴力担当なんで、アンタを殺しに来ました。」
「私の話聞いてました? ヒーローがブラック歓迎してどうするんですかちょっと。」
余裕がある、二人のやり取りだ。
世界は真っ赤なライトを振られた街がある。ダークヒーロー・レイニィ・レッドがここに来たとあらば、彼を詳しくは知らないけれど「噂」を知っている民たちが赤を用意したのだ。
「怪物だって、聴いてたけど。」
「まだ、若い――男の子じゃない。」
怪物は、全世界に正体を明かすことになる。
隠していたのはそのほうが「殺しやすい」からだ。彼を都市伝説だなんて思っている存在たちは「怪物」をそれぞれ思い描いたことだろう。彼に殺さる生き物は、必ず「殺されている」。
これからの仕事がしにくくなることよりも、赤ずきんは仲間と共に「なわばり」を荒らされたのを良しとしない。
「なめやがって、なめやがって、なめやがってェエエエッッ!!!!俺は、俺は俺は俺は俺は俺はぁああああ!!!!」
「さっきから、そればっかり。」
め、と叱るように指を一本右から向けてやる。
「だから、あなたは負けるんですよ?」
赤い光を背に受けながら、桜人が笑った。
そう、桜人だけが――赤の怪物はどこだ?構うものか!!
桜人「たち」に向かって「過去」の存在が呼び起こされていく。これもまた、これで殺せると思われているのが桜人には不愉快だった。
――作戦通りなのは、それで打ち消すとしようか。
「昔はいなかったでしょう。お友達。」
目の前にいる桜人がうすら笑って、「今は、いるんですか?」と問いかける。
それと同時に『呪詛』を吐いたのならば、払いのけるようにして耐性のついた腕で払ってやった。
「ナメないでください。真面目なので、もうずーっと強くなってますよ。」
――他人任せなのは変わらないけれど。
それでも、桜人は無意味に毎日を過ごしたわけでない。友達と時にはしゃいで、笑って、何かを考えさせられてここに居る。
自分の存在を考えて、人の闇にふれて、その狂気を耐え忍び打ち砕く場を転々として、ようやく彼はここにきた。
そして、レイニィ・レッドたる「怪物」もそうだ。
ただ、「話」だけがあった。己をなぞらえた話で世界が動き出したころだった。都市伝説とされたどこにもいない存在が、こうして世界に姿を魅せれるまでになった。
呼び出されたはずの「レイニィ・レッド」はどこにもいない。
――いいや、どこかに隠れているのを、「未来」である今はわかる。ずっとそうしてきた。
「今日は趣向を変えましょ。」
ふう、とため息をついて、とび上がる。
一瞬での動作は隙にもならないらしい。完全な上位互換の速さでたった一本残った塔。その屋根の上に陣取ったのならば、襲い掛かってくる鋏を受け止めるには十分だった。
「遅ェな。」
――それに、自分は強くなったな、と思う。
否定したいものを見てきた。仲間と仕事することを憶えた。この後の未来なんてものを描いている「猟奇殺人鬼」が「正義の味方」なんてことをしている。
褒められるようなことでないとわかっていても、自分でも笑っていいのかあきれていいのかわからないものがあるのだ。
「自分は正義でも快楽殺人鬼でもねぇ。」
「――あ?」
何を偉そうに、と過去の己がいう。
そうだ、その張りつめた赤が語る通りに、己は「人の言葉などを気にしたことはない」。定めた規則通りに、自分の世界の法律ですべてを図って、気に入らないものを殺してきた。
だから、目の前の存在が今日たまたま、「世界と気に入らないものが合致しただけ」なのである。
「ブレねェってことですよ。――過去のテメェは"未だ"知らねぇだろ。」
戦慄く赤の前には、平たく落ち着いた赤がいる。
宝石のような互いの虹彩を見て――真なる「怪物」が口を開いたのだ。
「影が付いてるぞ。」
●
矢来・夕立(影・f14904)は、全世界に己の姿が生中継で放映されるなんていうのはさっぱりごめんである。
だって彼は「忍」なのだ。――好きな忍術が「暴力」であるだけの忍者である。
「いや顔バレはまずいですよ。」
独り言ちた彼の存在は、めっきり隠れていた。
悟られさえしなければ、己の存在は複製されまい。それに――知ったかぶりをきめられるのもごめんだ。かといって、真正面から気に入らないと殴ったって細い彼の体ではなぎ倒されてしまう。
だからこそ、今日もまた清く正しい隠密で戦況を見ている。
レイニィ・レッドが飛んできた塔の底で、三角座りをしながらそれを聞いていた。見ていたってどうせ「真っ赤」な世界が見えるだけだ。暗闇になれた体は、暗闇の中で発揮できる能力がある。
――実際、この嘘と掠奪でここまでのし上がった悪は尊敬できるものがあった。
夕立は世界の味方ではなくて、夕立の味方である。
人の枠から外れないままに、人として悪の道をつきつめるこの男はどこまでも悪であった。義理人情なんてさておいて、地獄の沙汰も金次第でどうとでも塗り替えるような生き物である。
いつかそうして「でかした」ことをしようなんて野心はまだないが、いつかそう在る日が来るなら見習ってみてもいいかもしれぬ。
――どうせ人殺しの都市伝説なら箔の一つもつけません?
赤の怪物にそういってやったのは、この街が「霧の都」だからだ。
霧の都であればドローンもさほど「赤」をとらえられてはいまい。背格好から少年であることはわかられたとしても、その濃度ではたちまち視えなくなったことだろう。
しいて言えば――赤い瞳が霧の中で揺らめいているのだけはこれからもこの世に「流れ」続けるのかもしれないが。
「じゃ、シゴトの依頼です。あれブッ潰してきてください。」
誰もいないから、上を見上げる。
ごつんと足場にされた天井がなって、「そうだろうな」と思った。
「できますよね――レイニィ・レッド。」
赤ずきんさん、と呼ばなかった。
そこにあったのは、悪の美学だったのだろうか。
●
――蝙蝠が舞う。
夕立の召喚した【紙技・冬幸守】は的確に「喰い殺して」いく。
折り紙に包まれたことは「過去」の二人にもないらしい。動揺を一瞬でも作れば、たちまちその体を黒が包んで蛹の様にしてしまったのだ。
「いや、自分が食われてるところって結構ムリですよ。」
こりゃあもう、クレームです。だなんて肩をすくめてから。
桜人もコードを紡ぐ。これは、「ヒーロー」へのプレゼントだ。
実質無料で、この準備をした「仕立て人」だって暴力を「タダ」で貸してしまったのだから、大盤振る舞いである。
「人々の畏怖が生み出した都市伝説?それともただの切り裂き魔?ああ、もうありきたりだなぁ。」
【怪異具現】。
びゅっと飛び出した鞭型のUDCが召喚されて、たちまちクライング・ジェネシスの体を縛り付ける。
もう動けないのだ。逃れようとすれば亀裂に鞭が食い込んで、命だけが削られていく。
「嘘だろ、嘘だ、俺が―――ッッッ!!!! 」
しゃきん。
その言葉を「切った」のは、【赤ずきんの裁ち鋏】である。
怪物となった。霧は大粒の雨となって、どんどん戦場に降り注ぐ。
どろりとした「躯の海」があふれて――クライング・ジェネシスは夜空を見上げた。
「俺が、また、死ぬ?」
わからない。
もう、なにもわからない。どうして、こうなってしまうのかも、――なぜ報われないのかも。
何が足らなかった?この悪たちと比べて己は何が違う?人を殺した数か?それとも、生まれ持った才能が?
「――くたばれ。」
赤い眼光が、穿ったのだ。
切り開いたのはたった一つの鋏である。蝙蝠が足場となって、彼の駆ける道を作っていた。
ためらうことなく信じてそれを踏み、奔った体は何よりも早かったことだろう。空気すら彼に追いつけないで余韻を残し、光すら置き去りに怪物がやってくる――。
「 テ メ ェ は 正 し く ね ェ 。」
それが、答えだ。
振り下ろされた白銀が、赤の声援を受けて真っ赤に染まる。
突き刺す感覚に絶命があって、赤ずきんは緩やかに瞳を閉じる。殺した感覚を味わって――正義の執行を認めた。
「今くらいはヒーローでもいいじゃないですか。」
だから、腕をあげた。
「友達」がそうあれというのならば、彼がドローンたちに背を向けてうつむいたままに「倒した」鋏を握る腕を掲げる。
「わ、すごい声援。やっぱ消費税くらいとっといたほうがよかったですね。」
わあっと湧いた希望の声を聴いて――夕立がひょっこり塔から出てきたのは。
「雨男」の「天気雨」が世界を轟かせた時と、ちょうど一緒だったのだ。
巨悪は滅ぼされた。多くの未来と希望を背負った猟兵らの手によって。明日もまた、英雄を求める世界に「朝日」は登る。
「らしくねェ――。」
は、と息を吐いた怪物の口元は。
今だけは、――誇らしげだっただろうか。
大成功
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