5
その、桜の闇の中で

#サクラミラージュ #桜シリーズ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ
#桜シリーズ


0





 ――ヒョォォォォォ……。
「冷たい風だな」
 唐傘を被り、その身を和服に身を包んだ青年が、吹いてきた風に乗って舞い散る桜の花弁達を見て独りごちる。
 片頬に切傷のあるその彼が現れたのは、帝都の片隅にある宵闇の広場。
 静謐ながらも、何処か重苦しい空気に乗って桜吹雪が舞う中でも、夜の帝都の中で咲く幻朧桜の群れに、ほぅ、と誰に共無く溜息を一つついた。
 懐にしまった電報を御守りの様に軽く握りしめ、その胸に羽根を飾った彼は、腰の刀に軽く触れる。
 ――あの日から、まだそれ程の時間も経っていないのに。
 どうして僕は、戦う道を選ぶ様になったのだろう。
「――」
 口の中で小さく花の名前を呟いた青年は、宵闇に包まれた帝都の端で密かに行なわれる、影送りの儀式に足を踏み入れた。
「後少し……後少しで、僕は……」

 ――あの時、君をあんな姿にした『影朧』の尻尾を掴むことが出来る。
 そう思い、その件について調査を行ない始めた、丁度その時。

(「ヤツをミノガスナ」)
 奴は、『我等』の存在に気がついている。
 あの男に『我等』の事を知られれば、あの組織は、本格的な調査に乗り出しかねない。
(「……ミノガスナ、か。……キヒヒッ、良いだろう」)
 出来れば女の方が良いが……泣き喚き命乞いをする声は、愉快なものだ。
 だから、『我』がその役割を果たそう。

 ――ギロリ。

 宵闇の中、駆け抜けていく桜吹雪のその中を。
 触れれば幻朧桜が枯れてしまいそうな、そんな黒い『闇』が、彼へと近付いていく。

 ――為すべき事を、為すために。


「それで雅人さんはあの現場に現れなかった、か」
 自らの眼前に不意に浮かんだ光景を前に。
 北条・優希斗が軽く頭を振りながら、グリモアベースの片隅で呟いている。
 その呟きを聞き取った猟兵達の何人かが姿を現したのに一つ頷き、優希斗が皆、と小さく呼びかけた。
「帝都の端で行なわれている影送りという儀式がある。その現場の一つで、一人の帝都桜學府學徒兵……とは言っても新人なんだけれど、その彼が惨殺されるという事件が起きようとしている」
 尚、惨殺されようとしている新人の帝都桜學府學徒兵の名前は、『雅人』という。
「知っている人は知っているかも知れない。以前、猟兵から『紫苑』と言う名の影朧を庇っていた一般人なんだけれど……その事件が切っ掛けでどうやら彼はユーベルコヲド使いに覚醒、それから帝都桜學府に所属する道を選んだらしい」
 彼の主な役割は『諜報員』
 ……様々な形でサクラミラージュに関わっている『影朧』を追う役割を果たす者達だ。
「雅人さんは自分の大切な人を奪った影朧を探るべく行動しているのだけれど……その彼が影朧によって殺される事件が予知できた。皆には現場に行って彼を殺すべく姿を現す影朧達を彼と協力して撃破して欲しい。ただ、その前に彼を狙っている影朧について調査する必要があるだろうね」
 尚雅人が足を踏み入れている影送りの儀式は、元々は討たれたり消滅したりした影朧達を偲んで行なわれる一種の送別の儀式の場、でもある様だ。
「多分、そう言う場所だからこそ影朧に関する情報を手に入れることが出来る、と雅人さんは踏んだのだろうね。その判断は正しいけれど、故に、雅人さんは影朧に狙われる。だから……雅人さんを狙う影朧から、雅人さんのことを守ってあげて欲しい。彼には、まだ果たさなければならない使命が在る筈だから。……どうか皆、宜しく頼む」
 優希斗の言葉に背を押され。
 光に包まれた猟兵達が、グリモアベースから姿を消した。


長野聖夜
 ――宵闇の向こうに待つその影は。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 さて、ヒーローズアースの戦争が一段落した所で。
 今回はサクラミラージュで起きた事件に、皆さんに対処して頂きたく存じ上げます。
 どうか皆様、悔いの無い結末を選んで下さる様、宜しくお願い致します。
 尚、此方のシナリオですが、下記2シナリオとの関連が若干在ります。
 ①シナリオ名:あの桜の木の下で誓約を
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=14914

 ②シナリオ名:この、幻朧桜咲く『都忘れ』のその場所で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=15730
 ご参加頂く分にはどちらのシナリオもお読み頂く必要はございません。
 今回の護衛対象の雅人君は、ユーベルコヲド使いとして覚醒して間もない状況です。
 皆さんには実力が遠く及びませんが、彼にどう言う対応をするかで、第二章以降の雅人君の能力に若干変動が起きる可能性がございます。
 また、雅人君を狙う影朧についてはどんな存在か不明です。
 この辺りは、情報収集して頂ければ判明する事でしょう。
 プレイング受付期間、及びリプレイ執筆期間は下記となります(少しゆっくり目です)。
 プレイング受付期間:12月6日(金)8時31分以降~12月7日(土)13:00頃
 リプレイ執筆期間:12月7日(土)14時頃~12月9日(月)夜迄。
 尚、プレイング受付期間につきましては変更の可能性がございますので、その際はMS頁でご案内致しますので、其方をご参照頂けますと幸甚です。

 ――それでは、良き影送りの儀式を。
118




第1章 日常 『夜半の夜話、影送り』

POW   :    望んだ儘にあれも此れも、存分に祭りを遊び尽くそう

SPD   :    足の向く儘、賑わいを遠目に眺む夜半の逍遥

WIZ   :    影絵を辿り、揺らぐ影達に想いを馳せる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

白夜・紅閻
◆心情
(まさか、雅人が…)

そんな呟きをこぼしながら
呼び出したルカとガイを連れ立って
影送りという儀式の行っている場所へ足を運ぶ。

◆行動
(北条の話からすると影送りの儀式ってのは一つではなさそうか?)
なら現地の動物達に聞いてみるか…
獣奏器を使い『闇に蠢く動物』たちを呼び寄せて話を聞く
場合によっては、他にそう言った場所が無いか調べてみるさ

雅人が居ると思われる影送りの儀式と
僕が調べた影送りの儀式での違いを等を見極めてみる

・意図的なモノなのか
・風習的なモノなのか

もし意図的なモノなら、その背後に黒幕が居るだろうから
その辺を身辺調査でもしておく(動物たちを使って)

(雅人のもとへ向かうのはその後になるかな…)




「まさか、雅人が……な」
 ――宵闇の中で、ひっそりと行なわれる影送りの儀式の中で。
 月の聖霊・瑠華(ルカ)と、銀の双翼・凱(ガイ)を連れてその場を訪れた白夜・紅閻が、ポツリと独白する。
 彼の背後に付き従うルカとガイは、ただ静かに紅閻の後ろをひっそりと付いてきていた。
(「北条の話からすると、影送りの儀式は一つ、では無さそうか……?」)
 ふと、そんな事を思いながら、小さな外灯と月と星々の光に照らし出されたその場所を、ゆったりとした足取りで歩く紅閻。
 その歩みの中で紅閻は、何匹かの野生の動物達もまた、この地を行き来している事に気がつき目を留める。
(「彼等なら、もしかしたら何か知っているかも知れないな」)
 ふとそう思い立ち、懐から銀の鍵型の獣奏器を取り出す紅閻。
 ルカとガイと意志を繋いで、彼女達に周囲の警戒と護衛を頼み、鍵型の獣奏器を奏で始める紅閻。
 宵闇の中を動き回る獣達。
 その獣達の意識が引きつけられる、美しく、何処か寂しさを感じさせる音色に引かれたか、紅閻の肩に一羽のフクロウが留まった。
「ホゥ、ホゥ」
 興味深げに鳴くフクロウに頷き、紅閻は音色を少し問いかける音調へと変えた。
(「教えて欲しい。君は……君達は、他の影送りの儀式を見たことがあるか?」)
 紅閻の問いかけに、ホゥ、ホゥと鳴き声を上げて返してくるフクロウ。
 空を自由に飛ぶ獣だからであろう。
 フクロウは、他にもこう言った儀式を幾つも見たことがあると教えてくれた。
 いずれの儀式にせよ人間達が歩き、そして影朧と呼ばれる存在……その単語こそ知らないが、その纏った空気が『生者』と異なるのが違う『存在』である事は動物故に感じ取っていた様だ……を悼んでいる姿が見受けられる、と言う。
 大まかに得られた情報から察するに、人が普通の影送りの儀よりも少なく見受けられる事を除けば、今回の儀も他の影送りの儀式とよく似ている様だ。
(「つまり、風習的なもの、と言う事か」)
 となると雅人がこの影送りの儀式の場に辿り着いたのは、帝都の端で行なわれているが故に、情報を掴みやすい、と判断したからなのだろう。
 但し、何者かによって仕掛けられた罠である可能性も0では無さそうではあるが。
「君達、もう一仕事頼まれてくれないか?」
 銀の鍵型の獣奏器の音色を変えてそう問いかける紅閻に理解を示したか、パタパタ、とその場で軽く翼を羽ばたかせるフクロウ。
 気がつけば、それ以外にも多様な夜型動物達が、紅閻の周りに集まっていた。
 そんな動物達を守るようルカとガイに指示を出しながら、紅閻が呟く。
「このフクロウが言っていた怪しい気配を感じたら、僕達に必ず知らせて欲しい。但し、君達は絶対に手を出したら行けない。……危険だから、な」
 紅閻の呼びかけに、フクロウを初めとした夜の動物達が鳴き声を上げて。
 ルカとガイの護衛を受けながら、影送りの儀の場の彼方此方へと散っていく。
(「さて、雅人の所に向かおうかな……」)
 その手が、無意識に自らの薬指に嵌め込まれた白銀の双翼と金剛石の月華……そう、それはまるで、ガイとルカを思わせる様な……を彩った色褪せてしまった指輪に触れる。
(「何時か、『彼女』に、『雅人』が会える、その時迄は……」)
 自分の中の霞がかった、掴みたくても掴み取れない記憶と重なる『彼女』と『雅人』の関係性に想いを馳せながら。
 紅閻はその場を後にし、他の猟兵達といるであろう雅人の所へと足を運んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

館野・敬輔
【WIZ】
アドリブ可
他者連携極力NG(指定UCの都合)

この祭りも興味はあるが、今は凶行を阻止しないと

雅人さんに接触する前に
彼を狙う影朧の断片だけでも掴んでおくか

事前に桜學府に寄って「コミュ力、情報収集、礼儀作法」で雅人さんが調べていた影朧の情報を聞き出しておこう
もっとも、今までのことを考えると教えてくれない可能性も高いから、ダメもとだけど

その後影送りの会場の隅、目立たないところに腰かけて【魂魄剣舞・環境捜索】発動
黒剣の中の魂と意識・五感を共有し、悪意、殺意、狡猾、嘲笑…そんな感情を雅人さんに向けている存在を探す

…雅人さん、この闇は君が思うより深い
彼は今後、この闇に向き合っていけるのだろうか?




 ――影送りの儀の会場の隅、人目の付かぬその場所で。
(「獣型の影朧が、この会場に集まって来ているらしい、ね」)
 それが帝都桜學府に寄った館野・敬輔が、雅人が今関わっている危険について伝え、現状、彼が追っている影朧について調査した結果、伝えられた情報だった。
 彼が追っている『影朧』については、どうもはっきりとしない。
 或いは他の猟兵達がその情報を得てくれる可能性もあるが、少なくとも敬輔が聞き及んだ情報としては、これが一杯一杯だった。
 尚、影送りの儀そのものは行なわれているが、本来の参加見込み人数よりも人が少ない、と言う状況。
 きな臭さは、否応にも増している。
(「まあ雅人さんや、『彼女』達を殺した影朧についてははっきりしないけれども、今、この場を襲おうとしている影朧の情報について多少掴めたのは僥倖か」)
 そう思いながら、目を瞑り黒剣を胸の上に抱く様に置いて、祈る様に呟く敬輔。
『僕の代わりに探し出してほしいものがある。……頼んだ』
 ――分かったよ、お兄ちゃん。
 ――ちょっと、調べてみるね。
 現実世界の敬輔の意識が闇へと落ち、自らの精神世界とでも言うべきその場所で。
『少女』達に敬輔が呼びかけ、彼女達がそれに微笑む様に頷き、そのまま宵闇の中で目立たぬ黒子の様な姿と為り、影送りの儀の場を駆け抜けていく。
 敬輔が彼女達と五感を共有し、雅人の周りにある『それ』について調査を行ない始めたその時。
 不意に自らの脳を揺さぶる様な、ガクン、とした衝撃を感じ取った。
 それは、敬輔にとっては、あまりにも馴染み深い感情。
 ……即ち。
(「憎悪、か」)
 それは、誰に対するものであろうか。
 恐らく、『人々』に対してのものだ。
 そしてその憎悪を煽動している嫌な殺意を感じ取らせる微弱な気配がある事にも気がつき、敬輔は小さく息を吐いた。
(「これはもしかしたら、誰かにとって、辛い結末になるかも知れないな」)
 そう思いながら、敬輔が軽く頭を振るう。
 いずれにせよ、今、この地を包み込もうとしている『闇』が深い事は確かな様だ。
『彼女』達が感じ取った感覚を確認しながら、敬輔は集中を終え、ゆっくりと其方に向かって歩き出した。
「……雅人さん、この闇は、君が思うより深い」
 恐らく、帝都桜學府は『何か』を隠しているのだろう。
 そしてこの地を包み込む燃え滾る様な憎悪と、雅人に向けられている純粋な殺意。
 ――或いはそれは、雅人があの戦いの後に抱え込んでしまった『闇』に惹かれてやってきた者達、なのだろうか?
(「いずれにせよ、雅人さんと会わなければ真実は掴めない、か」)
 そう胸中で結論づけながら、敬輔が雅人達がいるであろう場所へと足を向けた。
「君は、これからも、この闇に向き合っていけるのかい、雅人さん?」
 天を仰いで独白の様に、今は傍にいない雅人へと、問いかけながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

彩瑠・姫桜
【WIZ】

雅人さんが追いかけている影朧こそが
紫苑さんを手にかけた者…なのね

ユーベルコヲド使いになったのは心強いけれど
大事なのはこれからだし、何より紫蘭さんにも会わせたい
だからこそ、雅人さんにここで倒れられたら困るのよ
絶対に護り切ってみせるわよ

影朧が、紫蘭さんが転生する前の「紫苑さん」に縁のあるものだとするなら、
紫苑さんが討伐に関わっていた時のことを知っている人達なら、何か知っているかしら
帝都桜學府や関連する場所を中心に立ち寄り
【情報収集】【礼儀作法】【コミュ力】【第六感】駆使して有用な情報があるか調べてみるわね

雅人さんに接触するのは情報収集後を予定
できれば彼と一緒に影送りの儀式に同行したいわね


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

影送りの会場に足を踏み入れる前に
桜學府に寄って雅人さんが調査している影朧の情報を得るぞ
「コミュ力、情報収集、礼儀作法」で礼を尽くして聞き出す

ただ、紫蘭さんの一件を考えると何か得られる可能性は低いか
桜學府は紫苑さん&紫蘭さんの件を闇へと葬りたい、そんな意思すら感じる

影送りの会場で雅人さんに接したら
指定UCで此方に悪意を向ける存在の居所を調べながら
使えるユーベルコードや所持武器を聞き取り

その上であえて問おう
あなたは、その力で影朧をどうしたいのだ?
救いたいのか? それとも殺したいのか?

私はその想いの根っこにある感情は問わんよ
ただ、自分の選択は「覚悟と責任」を持って貫き通せ


パラス・アテナ
この世界に大して詳しくはないがね
オブリビオンが転生して人間になったり
おおっぴらにオブリビオンを悼む行事があったり
よその世界じゃあり得ないことばかりだよ
この世界の連中は、ある意味骸の海と近い場所で生きているのかも知れないね

護衛対象には詳しくないんでね
アタシは情報収集に回らせてもらうよ
帝都桜學府に行って、諜報部に情報を開示するよう迫る
【情報収集】と【第六感】【世界知識】で目星をつけるよ

雅人が何を調べていたのか
どんな影朧に目星をつけていたのか
雅人が掴んだ尻尾とは何なのか
狙われる原因になりそうな事件はないか
雅人の同僚や上司にも話を聞きながら、情報を整理しようか

猟兵達と情報を共有しながら現場へ向かおうか




 ――帝都桜學府に向かう途中。
「オブリビオンが転生して人間になったり、おおっぴらにオブリビオンを悼む行事があったり……か。他の世界じゃ有り得ないことばかりだね、全く」
「そうだな、パラスさん。確かに他の世界では起きることが無い事ばかりだ」
 帝都桜學府への道を歩くその間のパラス・アテナの呟きに、藤崎・美雪が首肯を一つ。
「雅人さんが追いかけている影朧こそが、紫苑さんを手にかけた者……なのよね」
 彩瑠・姫桜の呟きに、そう言うことだな、と美雪が頷く。
「しかも、雅人さんはユーベルコヲド使いに覚醒しているんだ」
「ええ、そうね。それは確かに心強い話なのだけれど、大事なのはこれからなのよね。何より私は、雅人さんを、紫蘭さんに……」
 ――会わせたい。
 姫桜の呟きに、微かに思考する様な表情を見せながら、小さく頷く美雪。
「アタシは、雅人だっけか。護衛対象については詳しくない。が、まあ……きな臭い感じはするね」
「パラスさんもそう思うのか?」
 パラスの呟きに美雪が軽く首を傾げる。
 まあね、と頷き返しながらパラスがいずれにしてもね、と呟いた。
「帝都桜學府の奴等に事情を聞く必要があるのは間違いないだろうね。素直に説明しくれれば良いが」
 この事件に見え隠れする何らかの闇に気が付いているのかいないのか。
 それとも、直感的にそれを感じ取っているのだろうか。
 パラスの表情から具体的なそれを窺う事は、美雪には少々難しそうだ。
「……ああ、そうだな」
(「最も、そう簡単に口を割ってくれるとも思えないのだがな」)
 紫蘭の事件の時、帝都桜學府はその情報を誰かに齎す事はせず、箝口令とそのスケート場の封鎖という手段で紫蘭を見殺しにしようとした。
 この事件について帝都桜學府が闇に葬りたく思っていることは、何となく分かる。
 そこに覚醒してユーベルコヲド使いとなり、紫蘭……その前世であろう、紫苑を殺した影朧を帝都桜學府に所属して諜報員として追う雅人。
 ――この状況で、帝都桜學府を疑わない方が難しいだろう。
 どうしても悪い方向へと思考が向かってしまうことを自覚しながらも、美雪は姫桜達と共に、情報を収集するべく活動を始めたのだった。


 ――帝都桜學府に向かう途中。
 姫桜が近くのカフェの隅で、他愛ない話に花を咲かせる少女達を見つけた。
 その佇まいから、彼女達が帝都桜學府の人間である事に気がつくのは簡単だ。
「ねぇ、あなた達、私達も一緒にお茶をしても良いかしら?」
 姫桜の問いかけに少女達が姫桜を振り向き、同時に微かに息を呑む表情になる。
「あれ、あなた、確か……」
「この間私達に、紫苑ちゃんについて聞いてきた……」
「って、あなた達、あの時の……」
遠目で見ていた時には、気がついていなかったが。
 言われてみれば、あの時雅人と紫苑について話を聞いた少女達だ、と姫桜は思う。
「今日はどうしたの? また、何か事件か何かかしら?」
「あなた達『超弩級戦力』の人達が、何も無くこの辺りを歩いているとは思えないものね」
「ええ。まあ、その通りなんだけれど……」
 少女達の問いかけに、姫桜が微かに顔を俯けながら頷きを一つ。
 束の間の躊躇いの後、問いかけた。
「あなた達は、紫苑さん達が討伐に関わった影朧について、何か知っている……或いはその事件に関わったことがある人について、聞いたことが無いかしら?」
 姫桜の問いかけに、少女達はお互いにお互いの顔を見合わせ……程なくしてフルフルと首を横に振った。
「御免なさい。『紫苑』ちゃん達が戦った影朧については、何も知らないの」
 少女達の表情は、何処か青ざめていた。
 パラスが軽く目を細めてそれを見つめ、美雪も訝しげな表情を浮かべる。
「どう言うこと?」
「『紫苑』ちゃんが一緒に行った部隊は、その……」
 言い辛そうな表情の少女の言葉に、美雪が益々眉を顰めた。
(「成程。『紫苑』さん達は遠征した先で全滅した、と言う事か」)
「姫桜。その辺にしておやり」
 パラスの制止に、姫桜がちらりとパラスを見て、そうね、と静かに頷いた。
「御免なさい。あまりしたくない話を、させてしまったわね」
「ううん、大丈夫よ」
「それじゃあ、またね」
 そう言ってそそくさとその場を後にする少女達を見送る姫桜の背を見ながら、軽くパラスが息をつく。
「戦場ではよくある話だけれど。残された奴等がそれをどう思うかは、また別か」
「そういうもの、か」
 何処か遠くを見るような眼差しのパラスに、美雪が軽く頭を振る。
 多くの戦場を、死を見たであろうパラスの想いを、美雪が知るのは難しいから。
(「これが、帝都桜學府があの事件を闇に葬ろうとしている理由、か?」)
 そう思おうとする美雪だったが、その疑念は完全に晴れることは無かった。


 ――帝都桜學府の裏通りにある古ぼけた建物。
 見た限りではただのオンボロ小屋にしか見えないそこを見た美雪が溜息をつく。
「まさか、こんな所にまで帝都桜學府の手が広がっているとはな」
「まあ、雅人が関わろうとしている『影朧』の件については、表沙汰にしたくない空気を感じるから、余計にそうなるんだろうね」
 帝都桜學府で、美雪が丁寧に、パラスが『諜報部』の直接の面会を迫った時。
 帝都桜學府の人間は最初渋る様な表情を見せていたが、暫くして諦めがついたのか、この場所を紹介してきた。
 がしゃり、と音を立てて中に入っていくパラス達。
 そのまま地下に伸びる階段を下りていくと……そこには小さな部屋が一つ。
「邪魔するよ」
 パラスが無造作に告げて手をかけて扉を開けると、そこには30代位であろう男が一人、ソファーに腰を掛けて、鷹揚な表情を浮かべて姫桜達を待っていた。
「ようこそ、皆様。一先ずそちらの席にお座り下さいませ」
 ソファーを立ち、向かいの席に座る事を丁寧な仕草で進めてくる彼に頷き、ドッカと座り込むパラス。
 その左右に美雪と姫桜が座り込むのに頷き、立ったまま、美しい一礼を男が一つ。
「初めまして。私、竜胆(リンドウ)と申します。貴方方が、私の部下である雅人が追っている影朧について聞きたいとの話を伺いました」
「そうさね。先ず、雅人は何を調べていたんだい?」
 パラスの問いにソファーに座り込みながら竜胆が頷く。
「先ず雅人が調査しているのは、紫苑を殺害した影朧についてです。これは本人の希望故です」
 竜胆の言葉に、やはりそうか、と美雪が一つ頷いた。
「で……実際の所、雅人はどんな影朧に目星をつけていたんだい?」
 パラスの問いかけにそうですね、と微かに竜胆が思案げな表情を浮かべた。
 さりげなく入ってきた秘書であろうか、一人の女性が置いていった珈琲を一口啜ってから呟く。
「彼は、他者を救いたいという優しさと、自身の欲を満たしたいという相反する想いに悩み苦しむ、そんな影朧達の中でも特に『不安定』な存在が紫苑達を殺したのではないか、そう疑っていた様ですね」
「優しさと、自らの欲……相反するその狭間で苦しむ影朧、ね……」
 竜胆の答えに、ポツリ、と姫桜が呟く。
 ――もし、そういう相手が自分達の目前に現れたら。
 自分は、どういう反応をするのだろう、と思う。
 姫桜が思い悩む様な表情を見せているのを一瞥し、パラスが続けた。
「じゃあ、雅人が掴んだ尻尾は何なんだい?」
「それは、その影朧が住まう場所の手がかり、です」
 竜胆の言葉に、怪訝そうな表情を見せる美雪。
「……待て。元々、紫苑さんのいる部隊をその影朧にぶつけたのはあなた達ではなかったか? それなのに、何故本拠地を探る必要がある?」
 美雪の問いかけに、軽く頭を振る竜胆。
「私達は、その影朧の本拠地を突き止めた訳ではございません。その影朧が恐らく本能を満たすためでしょう、ある場所に現れたからそれを迎撃し、転生させる為に部隊を派遣したのです」
「けれども、紫苑さんのいた部隊は全滅した、だからその影朧を追う余裕も……」
「はい。残念ながら、ございませんでした」
 美雪の問いかけに、竜胆が慨嘆する様に息をつく。
 それに耳を止めながら、因みに、とパラスが問いかけた。
「雅人が狙われる原因になりそうな事件は、あるのかい?」
「それはこの影朧の事件、それから雅人の性質にあるのでしょう。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、彼は最近までは一般人にしか過ぎませんでした」
 だが雅人は、影朧と化した紫苑を迎え入れ、彼女との決別を経てユーベルコヲド使いに覚醒した。
 つまり……。
「雅人には、ユーベルコヲド使い、或いは影朧になる素養が元々あったって訳か。ただ、今まではそれが眠っていただけで」
「ええ、そうなります。その素質に目を付けた影朧達が、彼を仲間に引き入れるべく行動を起こしたのでしょう」
「と言う事は、雅人さんが影朧に殺されれば、雅人さんが影朧になる可能性もやっぱり……」
 姫桜の呟きに、はい、と頷く竜胆。
「あります。ですがこれは、どんなユーベルコヲド使いにも言える事です」
「そこまでの事に気が付いていながら、何故あなた達は雅人さんを単独行動させている? それならば同僚の1人や2人、付けても不思議ではないだろう」
 美雪の問いかけに、竜胆が図星を突かれた、という表情になった。
「本来であれば、あなたの仰る通りなのですが……我々諜報部も、其方に人員を割く余裕が無いのです。ただの懸念であれば、良いのですが……」
 そこまで告げた所で、顔を俯かせる竜胆。
 それは、現時点では『超弩級戦力』である自分達にも明かすことの出来ない『何か』を追跡している事の暗示。
(「今の時点では、これ以上を聞き出すのは難しい、か」)
 美雪がやむを得ぬ、という様に息を吐き、パラスと姫桜にちらりと視線を送る。
 その視線に頷いたパラスと姫桜が出されていたお茶を飲み干し、席を立った。
「情報、助かったよ」
 パラスの言葉に、ありがとうございます、と頷く竜胆。
「どうか、お気をつけて。それと……申し訳ございませんが、雅人の事をよろしくお願い致します。『超弩級戦力』の皆様」
 その場を後にするパラス達の背を見送る様に席を立ち、竜胆は、45度に体を傾けて一礼するのだった。


「改めて思うが……この世界の連中は、ある意味骸の海と近い場所で生きているみたいだね」
 竜胆のいた場所を後にして。
 何気なく呟いたパラスの言葉に、そうね、と姫桜が頷きを一つ。
 姫桜達は、雅人のいるであろう影送りの儀の場にやってきていた。
 程なくして唐傘を被り、和装束に身を包み、腰に鞘を帯びた青年を見つける。
「雅人さん、久しぶりね」
 姫桜が呼び掛けると、名を呼ばれた青年は微かに驚いた表情になり、姫桜と美雪、そしてパラスを見つめた。
「姫桜さんに、美雪さん。それから、あなたは……?」
「アタシかい? パラスだ。まあ、アンタの護衛の為に此処に来た猟兵兼、バーのマスターさ」
 パラスの解に一つ頷き、それから雅人が改めて姫桜達を見る。
「どうして君達が此処に?」
「ええ。貴方を守るため、よ」
 告げる姫桜の傍らで、美雪が静かに詠唱を一つ。
『もふもふさん達、探しものをお願いしたい。頼んだよ』
 美雪の言の葉に応じる様に。
 もっふもふな49匹の動物達の影が姿を現し、辺りへと散っていく。
 ――雅人を狙う、悪意の根源を探し出す為に。
 そうしながら、美雪が問いかけた。
「雅人さん、あなたが覚醒したという話は聞いた。そこであなたがどんな武器やユーベルコヲドを使えるのかを、私達に教えて欲しい」
 問いかける美雪の言葉に、微かに驚いた表情を見せる雅人だったが、程なくして唐傘を上げると同時に、その腰にある刀を抜刀。
 一瞬で放たれた刃の一閃は、雅人の目前を風に乗って走っていた桜吹雪の花弁達を真っ二つに切断していた。
(「『剣刃一閃』、か?」)
「これが僕の主な技、になるかな。御覧の通り、この刀が僕の武器だよ」
 きん、と刃を納刀しながら呟く雅人に、分かったと頷き、その上で雅人さん、と美雪が呼び掛けた。
 ――憎悪と殺意が、雅人を殺すべく牙を向けているのを感じながら。
「あなたの力は分かった。けれども、その上で問いかけよう。雅人さん。あなたは、その力で影朧をどうしたいのだ? 救いたいのか? それとも殺したいのか?」
 ただ、真直ぐに問いかける美雪に、静かに息を吐く雅人。
「そうだね。僕は、殺さなければいけないのならば殺すし、そうでなければ転生させたい。僕達の様な犠牲者が、少しでも少なくなる事を望んでいるから」
「それは、君の本心か? 私はその想いの根っこにある感情は問わんぞ?」
 美雪の問いかけに、雅人が微苦笑を一つ。
「それじゃあ、逆に聞くけれど。帝都桜學府は、何の組織だと美雪さんは聞いている?」
 雅人の問いかけに答えたのは、姫桜。
「確か……影朧の救済、だったわね」
 姫桜の呟きに、雅人が一つ頷く。
 その手の中にあるのは、一枚の電報。
「これを貰った時、僕の想いは自然と定まった。とは言え、少なくとも『紫苑』を殺した影朧を倒さなければ、恐らく僕はケジメを付けられない。それが、僕の答えだよ」
 その様子に、迷いの様なものは見受けられない。
 雅人の言葉に美雪は目を瞑って一つ息を吐き、程なくして分かったと頷きかけた。
「そういう事ならば、それで良い。但し自分の選択は、『覚悟と責任』を持って貫き通せ」
「ああ、そうだね。ありがとう、美雪さん」
 美雪の言葉に、雅人が静かに微笑んだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ウィリアム・バークリー
こんばんは、雅人さん。お久しぶりと言うほどには間が空いてないでしょうか。
ユーベルコヲド使いとして帝都桜學府に所属したと聞きまして。あ、これ、お祝いのチョコレートです。帰ってから召し上がってください。

影朧送りのお祭、静かですけど人出は多いですね。オブリビオンとこれほど親しい世界は初めて見ます。
紫苑さんを送るために、雅人さんはここへ? それなら、もう必要ないかもしれませんよ。まあ、ぼくの口からはこれ以上は言いません。

それじゃ雅人さんはよい夜を。

影朧はいつ襲ってくるか分かりません。行事の運営者に面会して、影朧襲撃が起こった際の避難誘導を協力していただけるよう根回しをしておきます。
来るなら来いですよ。


朱雀門・瑠香
雅人さんが私達の後輩にですか・・・
どちらにしても彼を死なせるわけにはいかないので
調査を手伝いましょう。
彼と一緒に行動を共にして彼を護衛しましょう。
調査は彼が受けた任務ですから、主な部分は彼に任せて私は手伝えるところを手伝うとしましょう。
彼には自身が狙われる可能性があることを予め伝えて置いて離れないように
常に周辺の状況を観察しておきます。
彼女の事は・・・今はまだいいでしょう。
いずれ二人は出会うでしょうから、そのためにも彼を死なせるわけにはいかない!


天星・暁音
はあ…気持ちは分からなくもないんだけど…君が倒れちゃったらダメなのにこんな危険な事…色々と言いたい事はあるんだけど…
まあ、人の生き方に口出す権利は俺にはないし…復讐を望むのならそれもまた道ではある…あるけど…ね
せめて生き残る術くらいは雅人さんに教え込みたいとこだよね
特訓じゃ特訓ーと言いたいとこだけど…この偲ぶ夜に余り激しい事は出来ないかなあ…
うーん…まあ、武器は刀でいいのかな?
ならせめて少し戦い方くらいは教えてあげられるといいんだけど…
本当ならハリセンの一つも叩き込んで危ないことすんなって止めたいとこなのだけどね

指定コード特訓用に一応です
スキルucアイテムご自由に
共闘アドリブ可


文月・統哉
雅人、調子はどうだい?
雅人と一緒に調査しながら護衛する
狙われるのは雅人の捜査が核心に近づいている証拠
彼の話を聞いて情報を整理しよう
紫苑はどんな事件を追い何を見たのだろうか

雅人の覚悟を感じる
故にUCの覚醒も學徒兵になった事にも驚かない
それもまた必然だと思うから

紫苑の足跡を、遺した想いを辿り
彼女の代わりに…いやそれだけじゃないな
きっと雅人自身も護りたいと願ったから
彼女の護った世界を
生まれ変わった彼女の生きる世界を

だからこそ
彼女が見た物を感じた物を
その目でその身で知る必要があるのだろうと思う
彼女の生きた証と共に
雅人自身の意志を胸に灯して
改めて彼女の隣に立つ為に

その背中を応援したい
仲間として友達として


カタリナ・エスペランサ
……ふぅん、成程ね
こうやって介入できるだけでも上々、しっかり守らないとね

使うUCは【天下無敵の八方美人】。
《コミュ力+礼儀作法》をフル活用して雅人を探したり影朧について調べたりする《追跡+情報収集》に励むよ
手掛かりを逃さないように《視力・暗視・聞き耳》辺りも意識しようか

首尾よく雅人に接触できれば紫蘭、それと彼を狙ってる影朧の存在について教えるとしようか
こんなところで死ぬ訳にはいかない事、このままだと影朧の襲撃で危険に晒される事……それと、アタシが守るって事を伝えたいな
この時点から一応周囲の警戒は絶やさないようにしつつ、可能なら今のうちに《祈り+全力魔法》で心身を守る簡単な加護も授けておこう


荒谷・ひかる
紫苑さんの無念を晴らすことも大事な事だと思うけれど……いずれ来る再会のためにも、自分自身のことも大切にしてもらわないとねっ。

わたしは雅人さんに接触して、調査の協力をするという名目で傍にいるね
この世界なら、幻朧桜とそれに宿る精霊さんがいっぱい居るから、彼らからお話を聞けば情報収集もお手の物、なんだよっ
それとは別に怪しい奴……雅人さんを狙ってる影朧らしきものの情報も聞いてみるね

それはそれとして、影送りの儀式の雰囲気も楽しまないとね
【甘き悦楽への誘惑】発動
持って来た小さな保冷鞄から、あの日の喫茶店で食べたのと同じ水羊羹を沢山出して、皆で食べるんだよ

『紫蘭さん』のことは……まだ、黙ってた方がいいかな?




 ――影送りの儀式の為の、その場所で。
「……ふぅん、成程ね」
 やや人影が疎らなのを認めながら、カタリナ・エスペランサが鼻を鳴らしている。
(「まあ、こうやって介入できるだけでも上々、しっかり守らないとね」)
「影送りの儀、と呼ばれる程の行事ですから、もっと人が多いものだと思っていましたが……思ったよりも人通りが少ない、ですね」
 カタリナの呟きに応じる様に周囲の人々を見たのは、ウィリアム・バークリー。
 既にこの行事の主催者とは面会を済ませ、もし、影朧がこの地を襲ってきた際の、参加者達の避難の根回しは済んでいる。
 主催者が事情を説明して随分あっさりと了承してくれたことが、意外と言えば意外であったが、これも自分達が『超弩級戦力』として、帝都桜學府からも一目置かれている事の証左であろうか。
 それとも……。
(「いえ、今考えるべき事ではありませんね」)
「それにしても、雅人さんが私の後輩に、ですか……」
「……はぁ」
 朱雀門・瑠香の何処か感慨を呼び起こさせる呟きに、何か肩に圧し掛かってくる様な重さを感じ、海よりも深い溜息をつくのは、天星・暁音。
「どうかしたのか、暁音?」
「いや、雅人さんの気持ちは分からないでも無いんだけれどね……」
 文月・統哉の問いかけへの暁音の解に、同感とばかりに全身を使って首肯するのは、荒谷・ひかる。
「紫苑さんの無念を晴らすことも大事な事だと思うけれど……」
「そうなんだよ。それで雅人さん自身が倒れちゃったらダメなのに、ね……」
 暁音のそんな想いを代弁するかの様に。
 刻み込まれた共苦の痛みが、まるで何かを訴えかけるかの様に絶えぬ痛みを送り続けてくる。
(「多分この痛みは、世界の、じゃない。恐らく……」)
 今は何処にいるのか分からない、『彼女』が無意識に感じている痛みなのではないだろうか、と暁音は思う。
「それで、この辺りを覆っている影朧の気配なんだけれど……多分、恨み、辛み、憎しみに塗れた影朧なんじゃ無いかな、とアタシは思うよ」
「あっ……うん、精霊さん達もざわめいているんだよね。まるで憎しみと殺意の塊がこの義式場全体を包み込んでいるみたいって、怯えている」
 周囲の精霊さん達にお願いして、影朧について探っていたひかるが、カタリナの集めてきた情報に同意を示す。
 その憎悪や殺意が直接自分に叩き付けられていないとは言え、それをビリビリと感じ取る精霊さん達の様子が伝播したか、少しだけ背筋に悪寒を感じながら。
 ひかるの震えに気付きながらも、それを見ない振りをして、いずれにせよ、と瑠香が続けた。
「雅人さんを死なせるわけには行きませんから、私達は雅人さんを守るだけ、ですね。……カタリナさん、居場所は分かりますか?」
 瑠香の呼びかけに、うん! とカタリナが元気よく首肯する。
「こっちだね! 他にも猟兵らしき気配が幾つかあるから、既に雅人さんは他の猟兵達と会っているかも知れないね」
「そうですか。それでは皆さん、ぼく達も雅人さんの所に行きましょう」
「ああ、そうだな」
 ウィリアムの促しに統哉が頷き、カタリナの案内を受け、雅人のもとへと急いだ。


「こんばんは、雅人さん」
「調子はどうだい、雅人?」
 宵闇の中、影送りの儀に展示されている、影絵達を注意深く辿り、桜吹雪に撫でられて揺らぐ影絵達に想いを馳せる表情を見せている青年に、ウィリアムと統哉が呼びかける。
 青年……雅人が声の主達に気がついたか其方を振り向き、驚いた様な、けれども何処か納得した様な表情を浮かべた。
「ウィリアムさんに、統哉さん。それに暁音さんに、ひかるさんにカタリナさん……そして瑠香先輩、か」
「私は先輩呼びなのですね、雅人さん」
『さん』付けでは無く、『先輩』呼びされた事に、驚きを隠せなかったのだろう。
 思わずと言った様子で問い返す瑠香にああ、と雅人が微笑を零して頷いた。
「同じ帝都桜學府の學徒兵だし、朱雀門家については、ユーベルコヲド使いとして、名門の一つである事は僕も知っているから。その中から先祖返りとして生まれ落ちてくる者達の事もね」
「……諜報部に所属したと言うだけあって、そう言った情報の扱いはお手の物、と言う訳ですね」
 感心した様な、なんとも言えない様な表情でそう返す瑠香に、まあねと頷く雅人。
「それよりも、雅人さんは今、紫苑さんの仇を追っているって聞いたよ? ……大丈夫なの?」
「そうだね。調子は上々かな。特に健康も問題ないしね」
 首を横に傾げ、何処か気遣う表情を向けるひかるに微笑しながら頷く雅人。
(「……」)
 けれども、その微笑に微かに影が差している様に、暁音には思える。
 それは、共苦の苦しみから伝わる痛み故か、それとも、その片頬の切傷が雅人に一抹の影を与えているからか。
 どちらなのかは、はっきりとは分からないけれども。
(「まあ、人の生き方に口出す権利は俺にはないし……復讐を望むのならそれもまた道ではある……あるけれど……ね」)
「……俺達が来た理由、雅人さんは既に知っているかも知れないけれど」
 ハリセン一発ぶちかまして危険から遠ざけたいという衝動を抑えながらの暁音の問いかけに、こくり、と頷く雅人。
「今度は僕の身が危険に晒されようとしている、だろ?」
「はい、その通りです。私達は、その雅人さんを護衛しつつ、雅人さんが探している情報を探すためのお手伝いに来ました」
 雅人の問いに瑠香が頷き、それと、とウィリアムが呟き、懐からチョコレートの詰め込まれた箱を取り出す。
「あなたがユーベルコヲド使いとして覚醒した上で帝都桜學府に所属した、との事でしたので、ぼくはそのお祝いをお持ちしました。帰ってから召し上がって下さいね」
 そう言いながらチョコレートを手渡すウィリアムにありがとう、と頷き、チョコレートを受け取り懐にしまう雅人。
 その懐からは一枚の電報が見え隠れしていて、その電報を見て、統哉が思わずあっ、と声を上げる。
「雅人、それって……」
 統哉の問いに、少しだけ気恥ずかしそうに笑う雅人。
 その胸の羽根が今、此処にいるよと主張するかの様に、風に靡いて雅人の胸で揺れていた。
「うん。『あの時』、統哉さんから貰った電報だよ」
「そうか。それじゃあ雅人も、命を大事にしないとな」
 胸に感慨の様なものを感じながら微笑を浮かべて頷く統哉に、軽く首肯する雅人。
 そんな統哉と雅人の様子を見ながら、ひかるが傍で話を聞いていた瑠香とカタリナに囁きかける。
「ねぇ、瑠香さん、カタリナさん。雅人さんって、『紫蘭』さんの事……」
「全部、では無いでしょうが、多少は知っているのでしょう。少なくとも、自分と同じ羽根を持った桜の精が、サクラミラージュに新たな生を受けたと言う事は」
 瑠香の答えに、う~ん、と両腕を組んで考え込む表情になるひかる。
「じゃあ、『紫蘭』さんの事、全部教えてあげた方が良いのかな?」
「アタシは、そのつもりだったんだけれどね」
「ぼくは、まだ教えない方が良いと思っています。きっと、何時か……」
 カタリナの呟きから会話の内容を読み取ったウィリアムが小声で囁き返すのに同感ですね、と瑠香が頷く。
「紫蘭さんと雅人さんは、いずれ出会う時が来るでしょう。ですので、その時迄は雅人さんにも生きていて貰わねばなりません」
「まあ此処で紫蘭の事を教えたら、それで気が散って戦えなくなる可能性もある、か。皆が言わないなら、アタシも言わないようにするよ」
 瑠香達の方針に一定の理解を示したカタリナが首肯した。
「雅人さん。君は、今は生きなきゃいけない。……それは、分かっているんだね」
 カタリナ達の話に耳を欹てながら問いかける暁音に、頷く雅人。
(「まあ、それだけじゃないんだけれど」)
 その内心の雅人の声が聞こえていたのだろうか。
 うんうん、と頷きながら統哉が意気込んだ。
「雅人が狙われるって事は、それだけ紫苑の事件の核心に近付いているって証拠だ。なら探偵として、俺達が協力するのは当然だ。雅人、色々と話を聞かせて貰えないか?」
 統哉の問いかけに、こくりと頷く雅人。
 その様子に軽く目を細め、何処か諦めた表情になりながら、暁音が溜息を吐いた。
「本当なら特訓じゃ~、特訓~、と言いたい所なんだけれどね……まあ、こういう儀式の場でそれもまずいから、情報集めをしながら生き残る術を叩き込むから、そのつもりでね」
 妙な迫力を籠めて告げる暁音に、口元の微笑を微かに引き攣らせながら頷く雅人。
「暁音がそういうつもりなら、アタシも手を貸そうか。大丈夫。どの位の効果があるかは分からないけれど、多少は力を貸してあげるよ」
 カタリナがちょっとだけ悪戯めいた笑みを浮かべてそう告げた。
「あっ、ハハハッ……戦いはまだあるんだから、皆程々にしなくちゃダメだよ? でも、皆頑張ってね!」
 やる気満々な暁音やカタリナの様子を見て、ひかるが苦笑を零しながら、精霊さん達を応援する様な鼓舞の言葉を、雅人達に向けたのであった。


「それにしても影朧送りの儀式とは。オブリビオンとこれ程親しい世界は初めてですね」
 雅人が求めている、『紫苑』を殺した影朧についての情報を、カタリナや瑠香が集め、統哉が黒猫の影を呼び出して周囲に放ち、ひかるが周囲の幻朧桜と、自然に宿る精霊さん達に呼びかけて今、雅人を狙っている影朧への警戒を強めている様子を確認しながら。
 何気なく呟いたウィリアムの一言に、一瞬、雅人が怪訝そうな表情になった。
「おぶりびおん? ……ああ、そうか。そう言えば『超弩級戦力』の皆は、影朧の事をそう呼ぶんだっけ。それから瑠香先輩以外が居た、他の世界でも」
「私達の世界ではあまり聞き馴染みの無い言葉、ですからね。雅人さんでも一瞬判断に迷うのは、仕方ないかと思います」
 呟く雅人に瑠香が共感を示すが、暁音の表情は微かに厳しくなる。
「……その一瞬の判断遅れが、命取りになる事がある。生き残りたいなら、そう言った躊躇いは無くした方が良い」
 暁音の言葉にそうだね、と頷く雅人。
 カタリナは、暁音と雅人を愉快そうに眺めながら、両手を祈りの形に組んでいた。
 これは、雅人を守るための結界を作るためでもあるのだが、一方で死者達への手向けの祈りにも見て取れる。
 それを、影朧達に向けられていると、好意的に捉える参加者達もいる。
 お祈りですか、熱心なことですね、等と軽く世間話を振ってくる者達もいて、そんな人々にカタリナは、愛想良く笑顔を振りまいて話を聞いて、様々な情報を入手し、そして一つの結論に辿り着いた。
「うん、間違いないね。雅人を今回狙ってくる最初の敵は、憎悪に塗れた狼の姿をした影朧達みたいだ」
(「人間に絶滅させられた事を根に持ち、憎悪を抱いた獣達が影朧と化した……か。そんな影朧なら、より強い実力を持ち、強力な殺気で煽れば、雅人を殺すべく操るのも容易いだろうね」)
「そうなんだ。そうなると、やっぱり『斬り捨てる』のが一番安全なのかな」
「一つの考えに固執してしまうと、それに囚われて正常な判断が出来なくなる事がある。どんな状況でも、柔軟に対応できる思考力は持っておいた方が良い」
 少し生き急いでいる様にも見える雅人に釘を刺す様に、暁音がそう告げた。
(「厳しいかも知れないけれど……これで、少しでも生き残れる可能性が上がるなら……」)
 そう、思いながら。
「雅人さんが情報収集のために此処に来たのは分かっているのですが。それ以外に何か目的はありますか? 例えば……紫苑さんを見送るため、とか」
 ふと、思いついた表情でウィリアムがそう問いかけると、なんとも言えない表情を雅人が浮かべる。
「見送る……その発想は無かったな」
 そう呟いて、そっと頬の切傷をなぞる雅人。
(「あの戦いが、雅人さんに、紫苑さんとの決別を少なからず後押しした、と言う事なのでしょうか」)
 けれども、その切傷をなぞる時に微かに見せる寂しげな表情から察するに、完全に紫苑の死を割り切っているわけでは無いのだな、とウィリアムは考えた。
 そもそもその位の想いが無ければ、紫苑を殺害した影朧を、幾らユーベルコヲド使いとして覚醒したとは言え、追跡しようとは思うまい。
「雅人。帝都桜學府に所属して紫苑を殺した影朧を追っている、と言う事は雅人は紫苑がどんな事件を追って、何を思ったのかとか、そう言うことを考えているのか?」
 統哉の問いに、雅人が気難しげな表情を見せる。
 まるで、何かを掴みつつあるけれど、それだけではどうにも釈然としない、と言った、そんな表情を。
「……紫苑がどんな事件に巻き込まれたのか、と言う考えは少なくとも僕には無い、かな。僕にあるのは紫苑が戦って殺された『影朧』がどんな『影朧』だったのか、それを推測して、じゃあ、どう言う結末をその『影朧』に与えたら良いのか。……今の所は、それだけだから」
「……今の所?」
 思わぬ単語が返ってきて、驚いた表情で問いかける統哉にそうだよ、と頷く雅人。
「勿論、僕は紫苑が愛していたに違いないこの世界を護りたいと思っている。……いや、実はあの戦いの後、この力に目覚めた理由を考えていた時……『そうだったんだ』と腑に落ちた、と言うのが正直な感想なんだけれど」
「……ユーベルコヲド使いとしての力の事ですね」
 瑠香の呟きに、静かに頷く雅人。
「その通りだよ、瑠香先輩。あの後少しして、不意にこの力に目覚めた時は、どうしたらいいのか分からなかった。けれども……あの電報を貰った時に、頭の中の霧が晴れた様な、そんな感覚を覚えたのは確かなんだ」
 それは、自分の嘘偽りの無い気持ちを確認するかの様な、そんな雰囲気。
 そこには、決してこの道を誰かに譲ることは出来ないという強い覚悟があった。
(「だから、俺は驚かないんだな」)
 雅人が、ユーベルコヲド使いとして覚醒した事も。
 そして、學徒兵になった事にも。
 何故ならそれは偶然では無く、必然だから。
「だったら、尚更自分のことも大事にしなきゃダメだよ?」
 それまで精霊さん達から伝わってくる情報に耳を傾けていたひかるが雅人に告げると、雅人はそうだね、と穏やかに微笑んだ。
「……まあ、それだけ覚悟が決まっているならまだマシか。ならば刀技ももっとしっかりと身に付けておかないとね。……瑠香さん、刀貸して貰える?」
「えっ? ……まあ、少しの間でしたら構いませんが」
 暁音の言葉に目を丸くしながらも、周囲の警戒を維持したまま、自らの腰の物干竿・村正を抜き、暁音に手渡す瑠香。
 ありがとう、と小さく頷き、暁音がその刀を素早く振るう。
『天星流、刀術!』
 速度を重視したその刃の斬撃は、一発の威力こそ低いものの、風に吹き乱れる無数の幻朧桜の花弁を数枚細切れにしていた。
「その斬撃……」
「一撃、一撃は軽いけれど。その分手数を重視した戦い方だよ。見た感じ、雅人さんは一撃必殺の技は得意そうだけれど、影朧と戦うための『手段』は、幾つか知っておいて損は無いから、一応教えておく。実戦で雅人さんが使いこなせるかどうかは分からないけれどね」
 礼を述べて、物干竿・村正を瑠香に返しながら説明する暁音に、ありがとう、と頷く雅人。
 厳しいながらもしっかりとその技を磨く術を教え、それに頷く雅人の様子に、統哉が思わず口元を緩めていた。
「なあ、雅人」
「統哉さん?」
 ふと、何かを思い出したかの様に問いかけた統哉に、雅人が軽く首を傾げた。
「お前は今、紫苑の足跡を、遺した想いを辿っているんじゃないか、と俺は思う。そうすることで、彼女の代わり……いや、それだけじゃ無いな。彼女が護り、生まれ変わるかも知れない彼女が生きる事が出来るこの世界を、自分の意志で護りたい、と願っているからじゃ無いかってね」
 だからこそ、紫苑が見た物、そして感じた物を。
 その目とその身で知る事を願い、それを一種の儀式としているのでは無いだろうか、と統哉は思う。
 ――ただ、彼女の生きた証だけでは無く。
 ――自らの意志を胸に灯し、生まれ変わったであろう『彼女』の隣に立つ為に。
 最後の所は、口にこそ出さなかったけれども。
 恐らく想いは伝わっているのだろう。
 雅人は、そんな統哉に向けて、微笑みそれに統哉が頷き返した。
「俺は、俺達はお前の仲間であり、友人だ。だから、お前達の事は……」
「アタシ達が、必ず守るよ」
 統哉の言葉を引き取り、そう断言したのはカタリナ。
 祈りが完成し、夜空の光を反射した遊生夢死 ― Flirty-Feather ―が星色の煌めきを灯す。
 カタリナの中に宿るとされる魔神の力がプリズム色の光を発しながら雅人の体に染み込んでいく。
 それは、カタリナが生み出した『護り』の結界。
 これで少しは、雅人の耐久力も上がる筈だ。
「ねぇねぇ、皆!」
 準備もある程度揃い、今、雅人を襲おうとしている影朧達の存在についての情報もある程度得たところで。
 ひかるが皆に伝わる様に、と言う様子で両手をパタパタと空中で仰ぎ、自分へと注目を集めた。
「どうかしましたか、ひかるさん」
 ひかるに瑠香が問いかけると、ひかるがあのね、と頷いた。
「影朧の事とか、紫蘭さんについてとか、雅人さんの特訓とかも大事だけれど、それだけじゃなくて、この雰囲気もしっかりと楽しんでおかなくちゃいけないとわたしは思うの」
 ――これは、影朧達の鎮魂を願って行なわれる大切な儀式。
 故に、ただ戦いのことばかり考えていても、いざ、と言う時に緊張し、思わぬアクシデントを起こしてしまう可能性があるのでは無いか、とひかるは思う。
「そうですね。場の雰囲気に馴染んでおくことは重要です」
 もしこの場に馴染まぬ儘に戦いを行なえば、それだけ重圧が体に掛かり、それが原因で最大の力を発揮できなくなる可能性もある。
 その事実に至ったウィリアムが同意とばかりに頷いた。
(「そもそも、運営者にぼくが渡りを付けておいたのも、場に馴染んだ人間の協力があった方が被害が少なくなるから、と言うのもありますしね」)
 賛同者が得られたことに内心でほっ、と胸を撫で下ろしながら、ひかるが手持ちの小さな保冷バッグから、ごそごそと水羊羹を沢山取り出す。
「あっ、それは……」
「そうっ! わたし達が初めて出会った時に、皆で食べたあの喫茶店の水羊羹だよっ!」
「あっ、そうなんだ。雅人に会った時、ひかる達は雅人とそれを食べたんだね」
 雅人の息を呑む姿にニコニコしながら、保冷バッグの中の悪魔(?)【スイーツ】に用意して貰った沢山の水羊羹をその場に並べる様を見つめて、カタリナがフムフム、と首を縦に振った。
「戦の前の腹拵え、ですか。良いですね。頂きましょう」
 瑠香がそう頷いて水羊羹を掴み取って食し、カタリナも続いて水羊羹をパクリ。
 暁音も共苦が伝えてくる痛みの意味を考えながらそれを手に取って食べ始め、雅人とウィリアムもそれに続く。
 ――宵闇の中を静かに駆け抜けていく、何処か冷たい風と共に流れてきた桜吹雪を感じながら。
(「そう言えば……この世界にも四季はあるんだろうか?」)
 ふと、統哉がそんな事を思った、その時。
 ――ピクリ。
 自らが呼び出していた黒猫の影の追跡者が、その気配を感じ取った。
 ――ざわ、ざわ、ざわ。
 ひかるにも周囲の桜を初めとした精霊達が、危険だよ、と呼びかけてくる。
「……来ましたか」
 幾つ目かの水羊羹を放り込みながら。
 瑠香が立ち上がり、改めて物干竿・村正に手を掛けて。
「来るぞ、皆」
「うん、そうだね」
 統哉が注意を呼びかけるのに、カタリナが頷き。
 羊羹を食べ終えたひかるやウィリアム、そして雅人も立ち上がり、其々に戦闘態勢を取る。

 ――そんな、雅人とひかる達に向けて。

 憎悪の塊と化した狼型の影朧が、ジリジリと滲み寄ってきた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『影狼』

POW   :    シャドーウルフ
【影から影に移動して、奇襲攻撃する事】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    復讐の狼影
自身の身体部位ひとつを【代償に、対象の影が自身の影】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    ラビッドファング
【噛み付き攻撃(病)】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:鴇田ケイ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回リプレイ執筆予定は、12月14日(土)~12月16日(月)深夜の予定です。その為、プレイング受付期間は、12月13日(金)8時31分以降~12月14日(土)16:00頃迄となります。変更があった場合、マスターページにてお知らせ致しますので、其方もご参照頂けます様、お願い申し上げます。*

 ――それは、憎悪の塊だった。
「グルルルルルルルッ……」
 低い呻き声と共に、その姿を現した影狼と呼ばれる者達が、周囲の建物に隠れ、宵闇の中に溶け込む様にして、議式場の中央広場辺りの、視界を確保し易い場所に居る雅人と猟兵達に近付いてきている。
 けれども、その時だった。
「か、影狼だぁっ! 影狼が現れたぞ!」
「皆さん、どうか落ち着いてっ! 落ち着いて避難を行なって下さい!」
 予め影朧達の襲来の可能性を知らされていた主催者達が、速やかに住民達の避難を開始。
 雅人が、避難する人々に注意が向かない様、自らの腰に納めていた刀を抜刀しながら威風堂々とした様子で叫んだ。
「やぁやぁ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! 我が名は雅人! お前達が求めし首は、此処に在り! さぁ、我と戦い我が首を取り、その名を上げし獣は誰か!? 掛かってこい獣共!」
 それは、挑発。
 影狼達を覆う憎悪を後押しする様な殺気に満ち満ちた空気を敏感に感じ取り、それを自分へと向ける為の、意図的な名乗り。
 影狼達は、その名乗りの中の『雅人』と言う単語に反応し、大きく吠えた。
「ウォォォォォォォォォ~ン!!!!!!」
 咆哮と共に、雅人を食らわんと一斉に襲いかかる影狼達。
 『彼』は、猟兵達からは見る事の出来ない死角から、覗き込む様にそれを見て、愉快そうに笑った。
(「キヒヒッ……これは良い! 元々『我』の役割はそれだ。貴様の首だ! さぁ、影狼達よ。その憎悪と、生きとし生けるものを喰らい尽くしたい欲望を、あの名乗りを上げた愚か者に向けて存分に叩き付けろ!」)
 その感情を、殺気に乗せて、影狼達に伝播する『男』

 ――キヒヒッ、キヒヒッ……。
 愉快だ、本当に愉快な話だ。さてさて、奴等は耐え凌げるかな?
『標的』を『雅人』に定めた影狼達による、連携攻撃に。

 一方守るべき対象である雅人の挑発に、其々の表情を浮かべる猟兵達。
 けれども雅人は、そんな猟兵達へと微笑んだ。
「僕も、自分の身は出来る限り自分で守るけれど。それでも皆の事を信じているよ」
 ――と。
 そんな雅人の言葉と共に。
 雅人と猟兵……そして影狼の戦いの火蓋が、今、切って落とされようとしていた。

*第1章の判定結果、下記ルールが適用されます*
1.雅人は自衛手段を保持し、また結界に守られているため、ある程度まででしたら自力で影狼達の攻撃に耐え抜くことが出来ます(具体的には、守るプレイングが2人以上いれば、それ以外が影狼撃破に集中しても雅人が死なないと言う感じです)
2.雅人が使えるユーベルコヲドは【剣刃一閃】及び【強制改心刀】ですが、雅人は基本的に【剣刃一閃】を使用します(現状では【強制改心刀】による影狼の撃破のメリットが少ないため)
3.雅人に指示を出すことは可能です(但し雅人は撤退しません)。
4.戦場は中央広場です。広いところで、視界も開けていますが、少し周囲を見回せば建造物もありますので、地形の利用などは使用可能です。
5.夜空に星々が輝き、灯も付いているので、暗闇への対策はしなくても構いません(但し影狼のユーベルコヲドは説明通りの効果を発揮します)
6.雅人以外の一般人の避難は考慮しなくてOKです。

 ――それでは、良き戦いを。


 
ウィリアム・バークリー
現れましたか、影朧。大人しく骸の海に送られるとは限らないわけですね。
いいでしょう。ぼくらで死出の旅へ送って差し上げます。

基本的に、ぼくは守りの戦いが主ですからね。それに恥じない戦いを。
Active Ice Wallを「全力魔法」で展開。氷塊群を雅人さんを中心に分厚く配置します。いつも通り、皆さんの好きに使っていただいて構いません。

もっとも、今回の敵は影渡り。足下からの奇襲には浮遊する氷塊群では対応が難しいところもあると思います。
ぼくの方で出来る限り敵に対応しますが、全部が把握出来るわけではありませんから、各自足下に気をつけてください。

自分や雅人さんを襲ってきたら、ルーンスラッシュで迎撃します。


真宮・響
【真宮家】で参加するが、他猟兵との連携可。

お世話になっているカフェのマスターが身を案じてるのはアンタだね?雅人と言うんだね。詳しい話は後だ。アンタの本懐を遂げさせる前に死なせる訳にはいかない。アタシも夫を殺されてるからね。影朧と良く似た、オビリビオンに。大切な人を殺した奴を追いたい気持ちは良く分る。

まずは【目立たない】【忍び足】で敵の背後を取り、【先制攻撃】【二回攻撃】【串刺し】【範囲攻撃】で飛竜閃を使う。敵の攻撃は【オーラ防御】【見切り】【残像】で対応するよ。


朱雀門・瑠香
・・・・では、参りましょう!
影から影へ移動するようだから、どうしても他の影へ移動するときの挙動は
目立つはず。暗視も駆使して動きを見切り、躱しきれないものは武器で受け止めます。
雅人さんに攻撃する間も与えずに破魔の力を載せて敵は全て切り払います!
とはいえ、誰なんでしょうね?裏にいるのは?


真宮・奏
【真宮家】で参加。他猟兵との連携可

雅人さんですね。初めまして。お話は美雪さんから聞いています。まずはこの場を切り抜けましょう。まだ、やる事ありますよね?

ある程度自衛出来るとはいえ、敵は雅人さん狙いなので、護る必要がありますね。トリニティエンハンスで防御力を高め、【オーラ防御】【武器受け】【盾受け】【拠点防御】で雅人さんを【かばう】事に専念。【毒耐性】【呪詛耐性】も併用して鉄壁の防御態勢を。もし接近してきた敵がいたら【二回攻撃】【シールドバッシュ】【衝撃波】【範囲攻撃】を駆使して追い払います。


神城・瞬
【真宮家】で参加。他猟兵との連携可。

僕も両親を何者かに殺されていますからね。愛する人を殺した存在を追いたい雅人さんの気持ちは良く分ります。何より、馴染みのカフェのマスターの美雪さんが身を案じるかたですから、手助けする理由は充分です。

敵は狼の群れですか・・なら、月光の狩人を発動。狩猟鷲の攻撃に併せて、【高速詠唱】【全力魔法】【二回攻撃】【範囲攻撃】を併せた【誘導弾】【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】で攻撃。雅人さんに接近するようなら【吹き飛ばし】。僕の方に攻撃がくる場合は【オーラ防御】でダメージを軽減します。


天星・暁音
さて、じゃあ…雅人さん、援護するから実戦と行こうか、こんな安全な状況で戦える事なんて先ずないからね。
フォローはするし皆が助けてくれるから相手の攻撃はからは目を逸らさない事…これは他の子にも言ったことあるけど、戦うなら相手の全てを奪う覚悟を…そして相手の意志に想いに呑まれないように自身しっかり保つ事、何より自分が倒れればその後には大切な誰かが傷つくのだと理解しておきなさい
君が傷ついたのと同じようにだ…
生き残る。その意志は強く強く固めておいて本当に危なくなる前には逃げる事を覚えておくこと



味方の援護に聖域を展開した後に雅人にも戦わせて教えつつ横で刀で戦います
もしもの時は庇うつもりで。
アドリブ共闘可


白夜・紅閻
◆銀紗
人手は多いほうが…と思い
神様に助っ人を頼んだ

◆心情
状況が分からない状態での
白き獣の空中浮遊で雅人の前に降ろして貰い

再会を果たすも
冷静な神様に諭される
当然、雅人を庇うように程々に動く
雅人も一応、男の意地とやらもあるだろうから

◆戦闘
オーラ防御やイザークで敵をグラップルし敵を盾にする
また篁臥と白梟の封印を解き
・篁臥である漆黒の獣を自分と雅人の周囲を拠点防御としてカウンターなどを噛ます
・白梟である白き怪鳥はだまし討ちや援護射撃等
・ユーベルによって複製させたフォースセイバーでは一斉発射
・また、獣奏器をでたらめに吹き呪詛による衝撃波で攻撃
※その際には動物達には悪いけど殺気で戦闘区域には近寄らせない


吉柳・祥華
■銀紗
なんしかね、助っ人頼まれたのじゃ
※銀紗はアドリブや他者との連携は可

■動機
紫蘭の関係者だと奴に言われてのぉ
どんな関係かは知らんがの

■戦闘
「白夜よ、再会を喜ぶ前に周りを見るのじゃ。ギャラリーがシビレを切らしておるでの」

妾は上空からの援護になるのぉ
地上に降りるつもりはないのじゃ

空中浮遊・空中戦・戦闘知識で
弓やコズミックリング・叡智の杖による

破壊工作・範囲攻撃・衝撃波・吹き飛ばし・全力魔法・二回攻撃etc
※技能による攻撃・状態異常などの使えるモノは使う感じじゃな


ユーベルによる攻撃は…大体3・4ターン毎になるかの?

■呟き
暗視や視力により
上空から戦場はよう見える
もしかしたら潜んでいる奴に気づくかも


カタリナ・エスペランサ
やれやれ、思い切った事をするね
まぁこの場にはアタシたちが居る以上、当然守り抜いてみせるけどさ!

いつも通り《第六感+戦闘知識+見切り》で戦場の動きを把握、常に先読みを絶やさず行動するよ
使うUCは【神狩りし簒奪者】。
まずは《念動力》で精密に制御した黒炎の《属性攻撃+範囲攻撃+薙ぎ払い》で敵だけ纏めて焼き払い、更に白雷槍の《属性攻撃+誘導弾+スナイパー+乱れ撃ち》で追撃して仕留めていこう

影の支配ならアタシだってお手の物さ
雅人や味方の影は常に視界に収めるようにして敵UCの発動に対し《早業+先制攻撃+カウンター+ハッキング》。
攻撃を仕掛けようとする影、影狼たち自身の影を異能封じの縛鎖に変えて封殺するよ


荒谷・ひかる
雅人さん……うん、わかった。
あなたの覚悟と信頼に、応えて見せるんだよっ!

雅人さんとはなるべく近くで背中合わせになるように位置取りしつつ
【本気の光の精霊さん】発動
杖の精霊石を光の花弁に変化させ、わたしと雅人さんを中心とした光の花嵐を形成
攻撃対象は影狼のみとし、攻防一体の陣を張る
光の花弁による迎撃を潜り抜けてきた影狼は、雅人さん側は雅人さんに対処を任せ、わたしは雅人さんの背中を護る
精霊銃を二丁持ちし、光の散弾(レーザーショットガン風)を装填して近接防御に特化する
数が減って来たら収束モードの弾に変えて、遠距離から丁寧に掃討する

飛んで火に入る夏の虫……どう来るかわかるなら対処もしやすいんだよっ!


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

全く、この先にどんな闇が隠れているか見当もつかんな
帝都桜學府もそうだが、この場も…

今は姿が見えぬ真の敵の狙いは、雅人さんだけだろう
だが、今は雅人さんを殺させるわけにはいかぬよ

できるだけ雅人さんの側を離れないようにしながら、
「歌唱、鼓舞、パフォーマンス」+【サウンド・オブ・パワー】で猟兵全員と雅人さんの戦闘力を底上げだ
皆、心おきなく戦ってくれ

もし雅人さんの負傷が嵩むようなら【シンフォニック・キュア】に変更
万が一の時は「拠点防御」で雅人さんを身を挺して守るよ
まあ、優れた防御役が複数いるから、私の出番はないだろうが

戦闘後も気は抜かない
…真の敵は、すぐ傍にいるだろう


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

雅人さん…更なる闇に近づこうというのか
なら、憎悪の種を一掃するのが先だな

真の姿解放(※雅人さんの知る姿で出るため)
赤黒く禍々しい全身鎧と黒剣、口元を隠すマスク、瞳は両目とも赤
ただし会話は普通にするし、名乗りもする

【魂魄解放】発動
基本は雅人さんの護衛
彼には思う侭に戦ってもらう

「第六感、視力、暗視」で影狼の攻撃先を察知し雅人さんを「かばう」
噛みつき攻撃は「武器受け、オーラ防御、激痛耐性」で受け流しか軽減
反撃可能なら「2回攻撃、生命力吸収、なぎ払い」+衝撃波でまとめて一掃

戦闘後も気は抜かず、いつでも雅人さんをかばえるように
僕が真の敵なら…影狼を全て撃破した隙を狙うから


森宮・陽太
【POW】
アドリブ連携大歓迎
この章からの参加
※自分から「敵」という言葉は口にしない

おいおい、影送りの儀式があると聞いて来てみたら
何の騒ぎだよこれ…

事情は知らんが、これやべえだろ
そこの兄ちゃん姉ちゃんたち、俺も手を貸すぜ

俺?
…森宮・陽太。フリーのしがないユーベルコヲド使いさ

【アリスナイト・イマジネイション】で無敵の全身鎧を纏うぜ
この色(白銀)ならいい囮になれるだろ?
鎧に絶大な信頼を置いている以上、奇襲攻撃も怖くねえ

その上で右手のアリスグレイヴで接近する影狼たちを「なぎ払い」だ
遠くにぽつんと残る影狼がいたら、左手のアリスランスの柄を一気に伸ばして貫く!(ランスチャージ)

ひとまず片付いた、か…?


彩瑠・姫桜
名乗りはいいけど、ほんっと、無茶するわよね
でも、ある意味雅人さんらしいのかしらね
いいわ、その気合と覚悟は望むところ
全部ひっくるめてとことん付き合ってあげるわね

基本は雅人さんを護りながら戦うわ
敵の攻撃は【かばう】【武器受け】で対応
雅人さんへの攻撃は絶対に通さないって【覚悟】で挑むわね

できるなら、雅人さんの剣刃一閃がうまく働くように援護したいところ
雅人さんに向かってくる影狼に向けて【サイキックブラスト】使用

実体を掴みにくい影ではあるけれど
感電させれば動きを一瞬でも止めることができるはず

複数向かってくるようなら【範囲攻撃】織り交ぜる

私の攻撃はドラゴンランスで
影狼達が抱く殺意ごと【串刺し】にしてやるわ


文月・統哉
「はは、いい顔してるじゃないか」
雅人を中心にオーラ防御展開

一つ一つの経験を糧にして
學徒兵として成長を始めた雅人
実践はまだまだ不慣れかもしれないけど
重要なのはきっと、雅人が雅人らしく立ち向かっていける事
「思う存分やればいい、背中は任せとけ!」
雅人を庇い武器受けし
動きに合わせ声かけながら援護する

襲撃見切り武器受けからのカウンターで斬りつつ情報収集

影狼が影を利用するなら影を消してやるまでだ
ガジェットショータイムで無影灯を召喚
無数の球体小型照明で構成されていて
空中へバラバラに展開させて影を消す
影狼の動きを制限しつつ
罠として特定の影へ誘導
噛みつく前に仕留めるぜ

光と影は表裏一体
お前達もいつかは桜の先に、な


パラス・アテナ
雅人の護衛は他の連中に任せて、アタシはシャドーウルフの排除に専念するよ。
こいつらを排除できりゃ、何か黒幕が出てくるだろうしね。

影狼の奇襲は第六感で警戒
攻撃が来たら見切りと武器受けで対応
雅人を狙ってくるのなら、そこを迎撃するのが手っ取り早い
迫る連中に向けて【弾幕】を張るよ
2回攻撃とマヒ攻撃、鎧無視攻撃も併用
味方と連携して、一匹でも多く数を減らそうか

気を付けるべきは、影を伝って雅人に迫る影狼の存在だね
そういうのは最優先で排除
撃ち漏らしは雅人に斬らせる

アンタも學徒兵なら、自分の身は自分で守りな!

これからも學徒兵として戦うなら、この修羅場は必ず良い経験になる
超弩級戦力の戦いをしっかり見ておくんだね




「ふむ、あ奴が紫蘭との知り合いなのかぇ?」
「ああ、そうだ」
 吉柳・祥華の問いかけに、白夜・紅閻が静かに首肯を一つ。
 名乗りを上げ、彼……雅人の左右と背後に展開する様に円陣を組んでいる猟兵達を見つめる祥華。
 その周囲からは、影狼達から迫る止め止めない憎悪と殺意が押し寄せてくる。
「雅人……」
 状況を把握するべく星空瞬く宵闇の中を巨大な白梟に駆けさせ、無感情の中に微かに焦りの様なものを感じさせる紅閻。
「どんな関係かまでは知らぬが、紫蘭の関係者と言われてはのぉ……『神』として助けぬ理由も無いぞぇ」
 四聖獣が一匹、朱雀の力を借りてふわふわと紅閻の隣を浮遊する祥華に頷き、そのまま『白梟』に指示を出して、混沌とした戦場に紅閻は舞い降りる。
「紅閻さん……来ていたんですか」
 雅人の前に現れた紅閻を最初に受け入れる様に、そう問いかけたのは、ウィリアム・バークリー。
 既にルーンソード『スプラッシュ』を抜剣し、その剣先で周囲に複数の青と桜色の混ざった魔法陣を5つ作り出している。
 上下左右、そして中央。
 呼び出されたウィリアムの魔法陣を一瞥し、紅閻は、背後の雅人を見つめあう。
「あなたも確か、紫苑との戦いの時……」
「ああ……久しぶり……だな」
 胸中に漣の様に押し寄せてくるそれに、何とも言えぬものを感じている紅閻に、上空から祥華が呼びかけた。
「白夜よ、再会を喜ぶ前に周りを見るのじゃ。ギャラリーがシビレを切らしておるでの」
「ふむ。祥華さん達も来ていましたか」
 朱雀門・瑠香の呟きに、鈴の鳴る様な声で祥華が笑う。
「うむ。白夜に助っ人を頼まれたのでのぅ」
「ははっ、それは良いな。雅人も良い顔しているし、これは心強い」
 文月・統哉が口元に笑みを閃かせて呟きながら、深紅の黒猫の刺繍入りの結界を構築していく。
 雅人もまた、微笑を閃かせて抜刀した刀を中段に構えた。
「皆、僕は……」
「うん、分かっているよ! あなたの覚悟と信頼に、応えてみせるんだよっ!」
 雅人と背中合わせになる様に、華奢な体で背後から迫ってくる憎悪の塊と化した影狼達を見つめて明るく頷くは荒谷・ひかる。
 精霊杖【絆】に嵌め込まれた光の精霊石を、光の花弁へと変化させるべく周囲の光の精霊さん達に協力を呼びかけながら。
「やれやれ、それにしても雅人さんも思い切ったことをするね」
 ひかると同じく背面を守る様に展開していた、口元に、何処か愉快そうな悪戯めいた笑みを浮かべたカタリナ・エスペランサが嫌味の無い様子で肩を竦めた。
 その背の遊生夢死 ― Flirty-Feather ―が、そんなカタリナの想いを映し出すかの様に、外灯に照らし出された羽を美しいプリズム色に輝かせている。
(「今の所は俺達8人、か。まあ、俺達だけが来ているとは思えないけれど」)
 天星・暁音が周囲の仲間達の状況を見やりながら、地面を星杖シュテルシアで軽くトン、とつく。
 それと同時に。
 暁音の足下に、魔法陣が形成されていった。
 ――そは、無垢なる聖域。
「さて、じゃあ……雅人さん、俺達が援護するから実戦と行こうか。こんな安全な状況で戦える事なんて、先ずないからね」
 雅人の隣に立つ暁音の呼びかけに、雅人が首肯を一つ。
 その頷きに合わせる様に5つの魔法陣を空中に描き出していたウィリアムが叫ぶ。
「Active Ice Wall!」
 叫びと共に魔法陣から無数の氷塊が盾として呼び出され、雅人の周囲を分厚く保護しつつ、氷塊達が浮遊していた。
「さて、影朧の皆さん。あなた方が大人しく骸の海へと還れない、と言うのであれば……『ぼくら』が、死出の旅へ送って差し上げましょう」
 ウィリアムの呼びかけに、一斉に影狼達が群がってきた。


 ――とその頃、少し離れたところで。
「全く……! 名乗るのはいいけれど、ほんっと、無茶するわよね!」
 名乗りを聞き、影狼達が影を伝って雅人達の居る中央広場に一斉に群がっていく様子を見て、悪態とも、感嘆とも言えぬ口調で叫びながら戦場に向かって駆けるは彩瑠・姫桜。
「……まあ、ある意味雅人さんらしいと言えばらしいのだけれど」
「そうかい。まあ、姫桜がそう言うって事は、そう言う奴、なんだろうね」
 そのまま雅人達に向かおうとする無数の影朧達の背を追いながら、EK-I357N6『ニケ』と、拳銃の二丁拳銃を構えて引金を引き、瞬く間に影狼達の一部を吹き飛ばすのは、パラス・アテナ。
(「奇襲の、奇襲か……」)
 藤崎・美雪がその光景を見て軽く微苦笑を零しながらしかし、と胸中で呟く。
(「この先に、どんな闇が隠れているのかが見当がつかんな。帝都桜學府もそうだが、この場も……」)
 それは、繋がりそうで繋がらないパズルのピース。
 それは美雪にとって気掛かりなものではあるが、かと言ってその答えは容易に出そうなものでもない。
(「何にせよ今は雅人さんへの再合流が先か。目的は達したわけだしな」)
 その目的、とは……。
「美雪さん、急ぎましょう」
 その周囲に、64体の戦闘用の狩猟鷹を呼び出した神城・瞬に美雪が有難う、と小さく頷く。
「響さん、奏さん、瞬さんにはいつも助けられているな」
「何言ってるんだい。アタシ達はアンタのカフェに世話になっているんだ。この位、当然さ」
「そうですよ、美雪さん。しかもそれが私達のお友達の紫蘭さんとも関わりのあった雅人さんだということでしたら尚更です」
 どん、と胸を叩いて豪快に笑う真宮・響に同意する様に頷き微笑する真宮・奏に美雪がそうだな、と頷いた。
「暁音さんからは、雅人さん達は既に交戦を始めている、と言う連絡を貰っている。直ぐに合流できるだろう」
「まあ、そうだね。こいつらを排除できりゃ、何か黒幕も出てくるだろうしね」
 美雪の推測にパラスが頷き、戦場へと向かう。
 ――上空から雨の様に降り注ぐ矢や、轟、という音と共に黒い炎が戦場を嵐の如く駆け抜けて影狼達を焼き払い、すかさず光り輝く花弁がその周囲を覆って、次々に影狼達を飲み込んでいく……そんな戦場を。


「ってぇ?! 影送りの儀式があると聞いて来てみたら何の騒ぎだよ、こりゃ……?!」
 人々が整然と避難し、やたら物騒な音が響く惨憺たる状況になりつつある儀式の場に目を見開きながら。
 森宮・陽太が思わず、と言った様子で素っ頓狂な声を上げている。
(「影朧か? 事情は知らんが、これやべぇだろ、おい……」)
 放置しておく訳にもいかぬだろう、と判断し、其方に向かおうとした矢先。
 ――トントン。
 軽く肩を叩かれ、其方を振り向けばそこには、赤黒く禍々しい全身鎧を身に纏い、刀身が赤黒く光る黒剣を持ち、その口元を覆い隠す様なマスクを被った青年が一人。
 尚、フルフェイスの面頬の奥から光る両目は赤。
 その瞳の色は見覚えがある筈なのだが、思わず陽太は叫んでいた。
「こっ、こっちにも影朧か!?」
「違う。僕だ、敬輔だよ」
 陽太の面食らった表情に少しだけ心外そうな表情になりながら呟き返すのは館野・敬輔。
 敬輔のそれに少し驚いた呼吸を整えつつも陽太が思い出した様に叫んだ。
「って、青髪の兄ちゃんか?! 凄い格好だな、おいっ!?」
「まあ、陽太さんはそれで良いよ。……行くんだろ?」
 敬輔の問いかけに、陽太はそりゃな、と軽く肩を竦めた。
「どう考えても今はそう言う状況なんだろ? 手伝うに決まっているさ」
「……よし、行こう」
 陽太の問いかけに敬輔が頷き、そのまま地面に黒剣を擦過させながら戦場に向かって駆けていく。
(「雅人さん……君は、更なる闇に近付こう、と言う訳か」)

 ――ならば、その憎悪の種を一掃するのが先だ、とも。

 だからこそ敬輔は陽太と共に、戦場に向かって駆けていく。

 ――仲間達が戦い始めている戦場へと。


(「……来たみたいだね」)
『無垢なる聖域、我らを護り仇なすものへの裁きを! 暗闇のような現在(いま)を切り拓き導く聖なる寿ぎ! イノセント・サンクチュアリ!』
 大地に召喚した魔法陣に自らの魔力を注ぎ込みながら、高らかに詠唱する暁音。
 共苦の痛みが絶えず痛みを訴えかけてくる。
 ――それは、かれら、影狼達が人間達に対して抱く、悲しくて重い憎しみ。
 注ぎ込まれた魔力を反映し、戦場全体を包み込む様な光の波が解き放たれ、それが光鎖と化して先手を切って、雅人を噛み砕かんと襲いかかってきた影狼を締め上げ、同時に……。
「……では、参りますよ!」
 光鎖によって縛り上げられた影狼達へと、瑠香が物干竿・村正を抜刀すると同時に振り抜いた。
(「敵は影から影へ移動するのです。ならば、他の影へ移動する時の挙動は目立つ筈……!」)
 内心でそう呟きながら、振り抜かれる瑠香の刃。。
 影から影へ飛び出そうとしたその瞬間を狙って光鎖によって縛り上げられた半径42m以内の全ての敵を斬り裂く斬撃の衝撃波が、影狼達を斬り刻んでいく。
 ――我流・五月雨。
 破魔の力の籠められたその刃による一撃に力尽きる影狼達を見ながら、瑠香がふぅ、と息を一つ吐いた。
「雅人さん……いえ、後輩をやらせるわけには行きませんからね」
「グルルルルルル……!」
 小さく呻き声を上げながらその瑠香の影に潜り、雅人の死角となる場所に落ちた影から飛び出し、雅人に奇襲を掛けようとする影狼を、横合いから姿を現したカタリナが、光速に等しい速度で突き出した白雷槍で貫き倒して微笑む。
「おっと! あなた達の好きにはさせないよ!」
「流石だね、カタリナさん! うん、わたしだって負けないんだから!」
 影狼の動きの先を読み、白雷槍で敵を貫き軽快なステップを刻むカタリナに力強く返して、光の花弁で敵を牽制していたひかるが、二丁拳銃を構えた。
 Nine Numberに、THE EARTH。
 それは、ひかると共に在る精霊さん達の弱点を補うべく作り上げられた精霊銃と、星獣の外殻をふんだんに使用した精霊銃。
 カタリナの呼び出した黒炎と、ひかるの解き放った光の精霊さん達による攻撃の間隙を掻い潜り、精霊さん達そのものの力を封じようとした影狼達の前に、素早く拳銃に光の散弾を装填しながら、ウィリアムの呼び出した氷塊の盾から転がり出る様にひかるが姿を現した。
「グルァァァァァァ!」
「ええいっ!」
 突進してくる影狼達に向けて、光の散弾を装填した二丁の精霊銃の引金を引くひかる。
 射撃音と共に射出されたのは、星の息吹の如く煌めく輝きを伴った光線。
 光線の先端が無数の光の弾丸と為って撃ち出され、それらが次々に雅人の背後から迫り掛かろうとしていた影狼達を撃ち抜いた。
「飛んで火に入る夏の虫……どう来るか分かるなら対処もしやすいんだよっ!」
「雅人、背はアタシ達に任せておきなよ!」
『見た目の可愛さに騙されるなよ? けっこうクルぞ……』
 ひかる達が後方の敵に対応してくれているその間に紅閻が小さく呟きながら、天空の『白梟』と意志を通わせ、更に懐から一枚の別のカードを取り出しそれを投擲し、鍵型の獣奏器をハーモニカへと変化させて唇を当てる。
 投擲されたカードの命に応じて現れたのは、普段は外套である漆黒の獣、【篁臥】
「白夜、下じゃ」
 上空から夜目を凝らして戦況を見守っていた祥華からの呼びかけに頷いた紅閻が頷くと同時に、先程の呼びかけに応じて自らの周囲に現れた43体の愛らしいマスコットの様なそれに命じるべく手を挙げる。
 シルクハットにピースを嵌め込まれたそれらの者達が、ひかるや雅人達から死角となる影から姿を現して彼女達を食らわんとしていた影狼達に一斉に飛びかかった。
 ケタケタと笑い声を上げている様にも見える、かのマスコットキャラ型のフォースセイバーの複製が問答無用で影狼達を食いちぎり、更に白梟が上空でバサバサと羽を羽ばたかせる。
 羽ばたきと共に白き怪鳥の羽根が礫の様に上空から襲いかかり、その様子を見ながら、ほっほっほ、と祥華が優美な微笑を浮かべ、叡智の杖を振りかざした。
 その、まるで、時空を現わすかの如き奇妙な形をした杖から、光がシャワーの如く降り注いでいく。
 ウィリアムの呼び出した氷塊の氷面で乱反射された光線は、上空にある思わぬ死角から影狼達を次々に射貫いていった。
「グルァァァァァァァ!」
 祥華の光線に撃ち抜かれるのを避け、影に逃げ込もうとした影狼達の隙をつく様に。
 白梟の羽根が影狼達を貫き、次々にその命を絶っていった。
(「……転生する、と言う事は無い、か」)
 そのまま消えてゆく影狼達の姿を見つめながら、内心で紅閻が呟きを一つ。
 それが諦めなのか、それともある意味での悟りなのか。
 自らの心の思いが何処に揺蕩っているのかは、よく分からないけれども。
「ぐ……グルル?!」
 影狼達の群れの第一波が次々に消滅させられていく様を見て、微かに警戒の呻き声をあげる影狼達。
 ――何かが、おかしい。
 影狼から見れば、いずれの影狼達も、標的や、標的を背後の肉壁とでも言うべき者達から死角となっている場所から攻撃を仕掛けている筈だった。
 けれどもその悉くを上空からの光線や光の花弁、その向こうから放たれる光線、そして黒炎や白雷槍によって撃ち抜かれ、或いは射貫かれている。
 ――何故……何故、こうも動きを読まれている?!
 背後からの奇襲を狙っていた影狼達の混乱と焦りを思わせる懸念。
 ――その原因となる者は……!?
 ……と、影狼達が思った、その時。
「……っ?!」
 第二陣として、背後から強襲を掛けようとしていた影狼達は驚愕していた。
 自らの体の一部を代償に操ろうとしていた影が不意に目前から消えたからだ。
 そこに……。
「にゃふふっ! 成功、成功!」
 パチン、と軽く指を鳴らしながら笑う統哉の姿。
 彼は、上を見上げている。
 祥華や白梟の影のいる、その場所を。
「文月と申したかのう? 妾達の影にそれを隠すとは、中々に考えたのぅ?」
「ははっ、これだって連携って奴だろ?」
 アイコンタクトのみで上空の祥華とそう会話を交わす統哉に、愉快そうに鈴の鳴る様な声音で、祥華が笑って応じた。
(「連携には流石に慣れているな……文月」)
 紅閻が、内心でそう思いながら自分の目前に現れた影狼に篁臥をけしかけてその体を引き裂かせる。
 続けて獣奏器を出鱈目に奏で始めた。
 出鱈目な音によって生み出された奇妙な音符達が呪詛と為って影狼達を締め上げ、そこにすかさずカタリナが遊生夢死 ― Flirty-Feather ―を羽ばたかせながら大地と空中のスレスレを滑空、光速に等しい白雷槍で影狼を貫き、同時にキラリ、と瞳を輝かせる。
「行くよ!」
 その視界に収められた影が、影狼達の異能を封じる縛鎖となって瞬く間に影狼達を締め上げて封殺。
 ――そう、これらは。
 この戦いは。
「雅人! 思う存分やればいい! 背中は、俺達に任せておけ!」
 統哉の呼び出した無数の球体小型照明である無影灯によって影を消され、統哉達の狙い通りの位置に影を誘導され、その策にまんまと嵌まってしまった、影狼達の失態だった。


「……うん、後ろに関しては統哉さん達に任せても大丈夫そうだね。雅人さん。君はとにかく、敵の攻撃から目を逸らさないことに集中して」
 統哉からの呼びかけに頷いた雅人を、教え諭す様に。
 自らがが生み出した無垢なる聖域の中心でそう告げる暁音。
 ――その光鎖は、味方に安らぎを。
 ――そして敵には、弱体化させる力を。
 暁音によって生み出された特殊な結界、カタリナから貰った御守り、統哉が片手で支えてくれている結界を受け入れている雅人が、瑠香と共に、中段に構えていた刀を大上段から振り下ろして、影狼を断ち切った。
「後ろは統哉さん達が何とかしてくれているとは言え……三方向からの波状攻撃は流石に凄まじいですね……!」
 ウィリアムが念動力でActive Ice Wallで生み出した氷塊の盾を操作しながら、影狼達からの影から影を移動して死角を狙って攻撃してくる不意打ちに対処しつつ息を一つ。
 瑠香が物干竿・村正を下段から振り上げて衝撃波を生み出して影狼達を斬り捨てるが、影から現れた瞬間を狙って放った衝撃波の間隙を縫って飛び出してくる影狼達にまでは、完全には対応しきれない。
(「この数では、押し切られる……!」)
 思わず内心で瑠香が舌打ちをした、丁度その時。
「……来た」
「えっ?」
 暁音のポツリとした呟きと、雅人の怪訝そうな呟きは、ほぼ同時だった。
「お世話になっているカフェのマスターが身を案じている、雅人、というのは、アンタだね?」
 そう問いかけながら、瑠香の側面を突っ切り、雅人に向かっていた影狼の背面を取って青白く燃える炎の名を冠した愛槍、ブレイズブルーを横薙ぎに一閃する、響。
 その一閃によって胴と首を切断された影狼達の動揺を見過ごさず、間髪入れずにブレイズブルーを撥ね上げ、纏めて響が串刺しにしてその連携を崩していれば。
「初めまして、雅人さん。お話は美雪さんから聞いています。先ずはこの場を切り抜けましょう。まだ、やる事ありますね?」
 響の一閃によって空いた間隙を逃さず、シルフィード・シューズで、タン、と大地を蹴って一気に雅人の傍に肉薄し、雅人の死角と化していた影から飛び出し彼を食らわんとしていた影狼の一撃をエレメンタル・シールドで受け止め、そのまま盾を押し込む様に叩き付けて、影狼を潰した奏がそう雅人に問いかけ。
 そして……。
「僕も、両親を何者かに殺されていますからね。愛する人を殺した存在を追いたい雅人さんの気持ちは、よく分かりますから」
(「何よりも……馴染みのカフェのマスターである美雪さんの案じる方、でもありますからね」)
 内心で呟きながら、64体の戦闘用の狩猟鷹を嗾けて影狼達を啄ませ、その間に素早く詠唱を行ない、氷の結晶の様に透き通った六花の杖を構えて術を放つ瞬が、瑠香の護りを抜けてきた影狼達を一掃した。
「響さん達を呼びに行っていたんだね、美雪さん」
「まあ、そんな所だ。手は多い方が良いだろうと思ったからな」
 暁音の問いかけに頷いてそう答えた美雪が、メソソプラノで歌い始める。
 暁音の結界、ひかるの放った光の精霊さん達と共鳴したその歌は、雅人達の身体強化を行なって。
『弾幕ってのは、こう張るのさ』
 ふわり、とコートを風に靡かせて、雅人から影狼達の方へと向き直ったパラスが、両手のEK-I357N6『ニケ』と拳銃の引金を引き、マシンガンの如く無数の弾丸を連射した。
 撃ち出された弾丸が次々に影狼達を撃ち抜き、影狼達を制圧していくその間に、パラスは、雅人へと一瞥を一つ。
「アンタも學徒兵なら、自分の身は自分で守りな! これからも學徒兵として戦うなら、この修羅場は必ず良い経験になるよ」
「! はい!」
 パラスの呼びかけの意図を諒解した雅人が頷き、彼の影から飛び出す様に現れた影狼へと刀を下段に構えながら向き直る。
「援護するわ!」
 そこに飛び込んだのは、金髪の少女。
 二槍を構え、美しく透き通った玻璃色の輝き……それは彼女の不退転の覚悟を意味しているのだろう……を鏡面で発している桜鏡の波紋に一つ頷きながら、敢えてパラスが撃ち漏らし雅人と対峙した影狼の側面から、両掌で掌底を姫桜が叩き付ける。
 両掌から発した高圧電流が、影狼を感電させたその瞬間、姫桜が叫んだ。
「今よ!」
「――っ!」
 ひゅっ、と軽く息を呑みながら頷いた雅人が刀を一閃。
 高圧電流で身動きの取れなくなっていた影狼を両断した。
「姫桜さん……」
「全く雅人さん無茶しすぎよ! 態々挑発して、影狼の目を自分に引きつけるなんて!」
 怒濤の様に押し寄せてくる影狼達の攻撃を、二槍を風車の如く回転させて受け流しながら怒鳴る姫桜に、雅人が一瞬肩をびくり、と振るわせるが……けれどもその瞳の決意は消えていない。
「僕の私情に、一般人を付き合わせるつもりは無かったから。美雪さん達から話を聞かされた時から、もうそれは決めていたことだし……」
「! べ、別にそれが悪い、なんて言ってないんだからね! そっ、その気合いと覚悟は望む所って事で、全部ひっくるめてトコトン付き合ってあげるなんて、思ってないんだからね!」
「何故そこでツンデレになるっ?!」
 何となく照れくさくなったか、思わずプイ、と微かに目を背ける姫桜に思わず突っ込みを入れる美雪。
 そんな様子を上空から見て、カラコロとからかう様な笑い声を上げた祥華が、上空で美しく透き通る様な呪詛を練り上げ、鈴の鳴る様な声で歌った。
『これは呪詛により、対象の生命力を吸収し、祈りによってぬしらに癒しを与える。神たる妾の慈悲じゃよ』
 静かに祈る様に紡がれた言の葉と共に、上空から粉の様に白銀色としか形容の出来ぬ呪詛が、影狼達に降り注ぐ。
 降り注いだそれが、傷だらけと化し既に倒されていた影狼達の魂を吸収し、そのまま浄化させていった。
(「恐らく転生は出来ぬじゃろうが……その憎悪を鎮め、安らかに眠ることくらいは許されるじゃろう」)
 内心で、祥華がそう呟くと同時に。
「おらあっ! 行くぜっ!」
 白銀の戦闘鎧を纏い、濃紺のアリスランスで影狼を貫き、淡紅のアリスグレイヴで敵を薙ぎ払う陽太と。
「搔き乱してやるっ……皆!」
 真の姿の敬輔が、大地を擦過させていた紅黒く刀身が光る黒剣を振りぬいた。
 ――分かっているよ。
 ――大丈夫、私達に任せてね、お兄ちゃん。
 白い靄と共に発射された衝撃波が、影から飛び出した影狼を切り捨てる。
「そこの兄ちゃん姉ちゃんたち、俺も手を貸すぜ」
「貴方達は……?」
 陽太がそう言って軽く目配せを行ってくるのに、微かに首を傾げる雅人。
 真の姿の敬輔の事は知ってこそいるが、名前を聞いた覚えが雅人には無い。
 その雅人の問いかけに、陽太と敬輔が同時に頷いた。
「俺? ……森宮・陽太。フリーのしがないユーベルコヲド使いさ」
「……館野・敬輔だ。雅人さんは存分に戦って欲しい。僕達は、君を守るために此処に来たから」
「ありがとう。陽太さん、敬輔さん」
 告げながら刀を構えなおす雅人に頷いて笑いかけた陽太が二槍を構え、敬輔も黒剣を下段に構えて同時に頷く。
「……これだけの戦力が集まれば、環境を整えるのも難しくなさそうだね」
 ――共苦は、影狼達の憎悪を痛みにして伝えてくるけれども。
 それでもこれだけの戦力が整えば、この影狼達を相手としても、尚、雅人にとって最適な状況を整えてやることはできるだろう。
 その上で、これだけは告げなければならない。
 だから……暁音は、それを淡々と告げた。
「雅人さん。生き残る。その意志は、強く、強く固めておく事」
「生き残る事……?」
 暁音の忠告に、微かに目を細めて問い返す雅人にそう、と一つ頷く暁音。
「……自分が倒れればその後には、大切な誰かが傷つくのだと、理解しておく事と言い換えても良い。今回はこれだけの仲間達が集まっているから、先ず無いけれども。でも、本当に危なくなる前には、必ず逃げる事だけは、覚えておいて」

 ――と。


「……はっ!」
 暁音の言葉に応じた雅人が気合一声、再び斬撃を放つ。
 放たれた一閃で影狼を斬り捨てた。
「一気に終わらせますよ!」
 その右隣の瑠香が物干竿・村正を振るって衝撃波を生み出して影狼達を一掃し。
「えいっ!」
 神祭具の一つである刀剣を抜いた暁音が、雅人の左隣で影狼を袈裟に斬る。
「どんなにお前等が影から奇襲攻撃をしてこようとも。この無敵の鎧を打ち破ることは出来ねぇよ!」
 陽太がウィリアムの用意した氷塊を足場にして、空中を舞う様に飛び、自らの影から飛び出してきた影狼を斬り捨てれば。
「……遅いっ!」
 敬輔が雅人に時折出来る隙を埋める様に影狼を切り裂いていく。
「あなた達に、雅人さんをやらせなんてしない! 『慄け、影狼。今宵はお前達が串刺しよ!』」
 姫桜が二槍で影狼達をその憎悪事貫けば。
「遅い」
 後ろを、白梟の飛ばす羽根による援護を受けたひかるやカタリナ、そして統哉に任せて雅人達の前に姿を現わした紅閻が雅人を適度に篁臥に庇わせながら、愛くるしい容貌をした複製フォースセイバーを引き戻し、次の影狼の群れに向けて纏めて一斉射出する。
 片前足や、後ろ足、尻尾などを代償に、雅人達を噛み砕いて任務を果たし、ついでに自分達の傷を癒そうとしていた影狼達をガツガツと食らい、平らげていく。
「イザーク」
 その様子を見ながら、フォースイーターであるイザークに影狼の一匹を捉えさせる紅閻。
「グルァ?!」
 驚いた悲鳴を上げる影狼をイザークに命じて後方へと放り投げ、統哉がギリギリ消しきることが出来なかった影へと移動し、懐に飛び込んで背後から雅人を食らおうとしていた影狼に食らわせる。
「アタシ達を、甘く見るんじゃ無いよ!」
 カタリナが叫びながら、同士討ちをする影狼達の群れへとウィリアムの氷塊を渡り歩きながら接近、ヒュッ、と手刀を振るう。
 そうして振るわれた手刀から黒炎を生じさせ、既にほぼ壊滅状態となっているにも関わらず尚、逃げずに攻撃を仕掛けてくる影狼達を焼き払った。
「あなた達の憎悪はよく分かったよ。でも……その憎悪を手放してくれれば、精霊さん達にお願いしてあなた達を転生させて上げる事も出来るのに……!」
 少しだけ悔しげに呻きながら、光の精霊さん達の光の花弁の向こうから仲間達の死体を踏み越え、尚迫ってくる影狼達に、二丁の精霊拳銃の引金を引くひかる。
 散弾から収束された光条と化したレーザーが撃ち出され、逃げようと思えば逃げられるのに逃げない影狼達を撃ち抜き、確実に止めを刺していく。
(「ただ生きとし生けるものを、憎む心で持ってのみ、俺達への進軍を止めない影朧、か」)
 彼等の魂は、どれ程の憎悪に蝕まれているのだろう。
 どれ程の悲しみに、満ち満ちているのだろう。
 ふとそんな事を脳裏に過ぎらせながら、統哉が宵闇を切り裂く星々の煌めきを刃に灯らせた『宵』で雅人達の背後から迫っていた影狼達を一閃し、彼等を殲滅する。
「……光と影は表裏一体。お前達もいつかは桜の先に、な」
 ポツリと誰に共無く呟いてから、統哉がクルリと視線を後ろに向けた。
 後背から襲われる危機を脱した、雅人の方を。
 雅人は、暁音からはその心構えを、瑠香からはその太刀筋を教わり、姫桜や奏に守られながらも、必死に刀を振るい、影狼達を一閃している。
(「雅人は実戦は、まだまだ不慣れかも知れないけれど。本当に重要なのはきっと……」)
 ――雅人が、雅人らしく立ち向かっていける事だから。
「負けるなよ、雅人!」
 叫び叱咤する統哉に、雅人は軽く後ろに手を振った。


「この位の攻撃で、私達を止められると思ったら大間違いですよ!」
 自らに風の魔力を付与してその機動力と防御力を高めた奏が、雅人に向かおうべく慌てて影から影へと移動しようとした残り少ない影狼達に向けて、シルフィード・セイバーを振るいながら叫ぶ。
 振るわれたシルフィード・セイバーに宿っていた風の力が大地を擦過して鎌鼬と化し、残っていた影狼達を纏めてズタズタに切り裂いていく。
 奏達のその様子を見ながら、微かに怪訝そうに、どうして、と雅人が呟いた。
「君達は、僕を助けてくれるんだ?」
「まあ、アンタの本懐を遂げさせる前にアンタを死なせるわけには行かないんだよ。さっきはアタシがお世話になっている人の為って言ったけれど、それだけじゃ無い。アタシもアンタと同じで、夫をね、影朧とよく似た、オブリビオンに殺されているからね」
 告げながら、圧倒的な槍捌きでブレイズブルーによる無数の突きを放つ響。
 何気なく告げられた響のそれに、面頬の下で敬輔と、雅人が其々の表情を浮かべていた。
(「……真宮さん達が望む所は、僕達……私達と同じ、なのかな?」)
 少女達と感情を同調させた敬輔が、雅人を守る様に瑠香と入れ替わり立ち替わりウィリアムの呼び出した氷塊を足場にして影狼達の動きを見切り、その刃を防いでは、白い靄を纏った刺突で影朧を貫き止めを刺す。
 ドクン、と赤黒い光を放つ黒剣が一際強い輝きを放った。
 一方で雅人は、何も言わずに刀を一閃。
 魔を打ち払う銀の輝きを放つ刀が、影狼の一頭を確実に屠るが、覚悟こそ定まっているものの、何処か僅かな苦悩を忍ばせる表情が浮かんでいる。
(「この兄ちゃん達……影朧、或いはオブリビオンに、あの姉ちゃんと同じで、大切な者を奪われているのか?」)
 陽太が濃紺のアリスランスを伸張し目前の影朧を貫きながら、その様子をちらりと横目で観察していると、そんな考えが脳裏を過ぎった。
「そうですね。僕の両親も、何者かに殺されています。その理由を……愛する人を殺した存在を追いたい雅人さんの気持ちは、僕にもよく分かりますから」
「そう言う人は、やっぱり沢山いるんだな。ただ……僕が知らなかった……知ろうともしなかっただけで」
 瞬のそれに小さく息を吐きながらポツリと呟く雅人に、グリモア・ムジカにパートの続きを代替して奏でさせながらそうだな、と美雪が静かに首肯を一つ。
「だが、実際はそういうものだ。影朧にせよオブリビオンにせよ、『危険』だ、或いはそれが傍に居続けるだけで、その者を『不幸』にする、と言われている。けれども実際に私達は関わることが出来なければ、それを知ることは出来ない」
「そうだね」
 美雪の言葉に、小さく頷く雅人。
 その雅人の様子を見て、暁音が光鎖で残された僅かな影狼達を締め上げてその動きを制限しながら、軽く頭を振って静かに息を吐いた。
「でもね、雅人さん。これは、他の子にも言った事があるのだけれど。戦うなら相手の全てを奪う覚悟を……そして、相手の意志に、想いに飲み込まれない様に自身の自我をしっかりと保血続ける覚悟も、大事なんだよ」
「他の子……それって……?」
 そこに紛れているのは、怪訝か、はたまた期待なのか。
 それは分からないけれども暁音はそれには直接答えず、自らの作り出した聖域の中で吹雪く様に動く光の花弁達を見つめながら、小さく呻いた。
「それについては、今雅人さんに伝えたとしても、混乱するだけだろう。ただ、君ももう分かっている筈だ。君は、紫苑さんが亡くなった時、確かにその心が傷ついたその事を」
「……」
「遅いよっ!」
 暁音の言葉にそっと無意識に胸に差した羽根に雅人が触れるその間に、EK-I357N6『ニケ』と拳銃を横っ飛びしながら撃ち出すパラス。
 撃ち出された弾丸が、次々に辛うじて生き残っている影狼達を撃ち抜き、確実に仕留めていく。
 淡々と、まるで作業の様にそれをこなしながらも、パラスは内心で舌打ちを一つ。
(「沢山の死者、か……。嫌な記憶だね」)
 嘗ての自らの記憶の一部が、その言葉に刺激されるが、それに対してパラスは軽く頭を振る。
 ――此処は、『戦場』だ。それ以上でも、それ以下でも無い。
 そのままウィリアムの呼び出した氷塊を渡り歩いて、影から影を渡り歩こうとする影狼達の追撃を避け、入れ替わる様に姿を現した姫桜が、二槍を旋回させて軽々と影狼達を薙ぎ払い、或いは串刺しにしていった。
「そろそろ終わりの様ですね」
 戦力が整っていれば、こうもあっさり決着がつくものなのか。
 ふと、そんな考えが、ウィリアムの脳裏を過ぎる。
(「もっと早く決着を付けるためにも、Icicle Edgeを使用しても良かったかも知れませんね」)
 内心で呟きながら、接近してきた影狼を『スプラッシュ』を袈裟に振う。
『断ち切れ! スプラッシュ!』
 刀身を凍てつかせて放たれた斬撃に、斬り捨てられた影狼。
「さぁ、終わらせますよ!」
 瑠香がそれに続く様に、物干竿・村正を振るって衝撃波を作りだし、ひかるの花弁や、祥華が天空より降り注がせた呪詛による祈りで、影狼達の命を吸収する。
「後は……お前だけだ!」
 それらの様子を見て取った雅人が、最後まで尚、抵抗しようとした影狼を袈裟に斬り裂き、戦いに終止符を打つのであった。


「ふむ……終わった様じゃの」
「そうだな……」
「ひとまず、片付いた、か……?」
 空中から目を凝らして、油断なく周囲を探りつつ祥華が小さな呟きに、繋がっている『白梟』を通して聞いた紅閻が静かに頷き、それに同意する様に陽太が頷く。
 そんな陽太を横に置き、紅閻が刀を鞘に納めた雅人を改めて見直した。
「雅人……」
「久しぶりだね、紅閻さん」
 それとなく呼びかける紅閻に、振り返った雅人が微笑む。
 ――その強く、けれども少しだけ大人びた様にも見える笑みに、思わず紅閻は何も言えなくなった。
 ただ、思う。
 ――雅人は……強いな。
 ――自分がどれだけ大切な者を失ったとしても。
 ――それでも尚、前を向いて歩いて行けるのだから。
 ふと、脳裏を靄が掛かった様な記憶が掠めていく。
 それを手に取って掴み取ろうとするが……やはり掴めない。
(「少しは……前に進んだ、と思っていたが……」)
 実際の所、自分はどうなのだろうと、紅閻の脳裏を微かな不安が掠めた。
「終わりましたか。ですが、彼等の裏にいるのは、誰なのでしょうね?」
 物干し竿・村正を鞘に納めながらポツリと呟く瑠香に、さてな、と陽太が軽く頭を振る。
 弛緩した空気が微かに流れた。
 けれども、その空気の中でも尚、決して油断せずに目を凝らす者達が、3人。
(「真の敵は、直ぐ傍に居るだろう」)
 1人……美雪はそう内心で呟き、グリモア・ムジカで音色を奏でて、注意深く周囲を索敵させ。
(「僕が真の敵なら……影狼を全て撃破した隙……この一瞬ではあるけれど弛緩した空気を狙う」)
 次なる1人……敬輔はその両の赤目でその地平線を睥睨しながら、いつでも雅人を庇える態勢を取り。
「ふむ……皆の者。見えたぞ! 貴奴は直ぐ近くに居る! 気をつけよ!」
 最後の1人……上空から常に戦場を監視していた祥華は、そう叫んである一点を指し示した。
 ……そして、それは嗤う。
「キキキッ……所詮は獣の妄念の塊。あやつら程度では、貴様達を……超弩級戦力を殺すことは、出来なかったか」

 ――嫌な死臭を、周囲に漂わせながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『切り裂きジャック』

POW   :    ジャック・ザ・リッパー
自身の【瞳】が輝く間、【刃物を使った攻撃】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD   :    フロム・ヘル
【秘めたる狂気を解放する】事で【伝説の連続殺人鬼】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    霧の都の殺人鬼
自身に【辺りを覆い尽くす黒い霧】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。

イラスト:ヤマモハンペン

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠守田・緋姫子です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回更新予定は、12月21日(土)15:00頃~12月23日(月)深夜の予定です。その為、プレイング受付期間は12月20日(金)8時31分~12月21日(土)14:00頃迄の予定となります。何卒、宜しくお願い申し上げます*

 ――その全身に絡みついている禍々しい気配。
 そして、それを操るのは先程から愉快そうな全ての生きとし生けるものを嘲笑う様な笑みを浮かべる、全身黒ずくめの男。
「キキキッ……少しばかりあの獣共には力を与えてやった筈だが……全く役に立たないとはな。困ったものだ」
 困った、と言う割にはその口元には決して消えることの無い死への果てしなき欲求を感じさせる邪笑。
「キキキッ……我の事を知らぬか? 知らぬだろうなぁぁぁぁぁぁ! この希代の暗殺鬼の事など、知る由など在る筈も無いよなぁぁぁぁぁぁ!」
 甲高い、耳に障る笑い声を上げるその男は、ただ、圧倒的なまでの殺意と悪意を叩き付け、猟兵達と、雅人の身を竦ませる。
 ――それは、周囲の幻朧桜達も同様だった。
 そのあまりにも深き業。
 ただ、『殺したくて殺したくて仕方ない』という理不尽な欲望。
 その欲求を追求した成れの果てが、此処にいる。

 ――それは、決して輪廻の輪とは相容れぬ、ただ、破壊する者。
「さぁ、汝等、それでも我を救えるか? 救いたいか? あの女の様な不安定な悪意などでは無い。ただ、誰もが持っている当然の欲望を、『殺したい』という願望として抱き、全てを唯、殺したくて壊したくて仕方ない我を、汝等如き軟弱者に、救えるのか?! 帝都桜學府学生の小僧、そして……その超弩級戦力と呼ばれる汝達が!」
 ――さぁ? さぁ? さぁ?
「我が望みはただ一つ! 全ての生きとし生けるものを殺し、惨たらしく嬲り、断末魔を上げるその姿! さぁ、小僧……帝都桜學府學徒兵を名乗る小僧! 『影朧』たる我の救済を与えることを望む者達よ! その答えを我に刻まれることで我に示せ!」

 ――キキ、キキキ、キキキキキッ……!
 
 嘲笑と共に、男は雅人を斬り刻むべくその短剣を構え、口元に歪んだ笑みを浮かべるのだった。

 ――今まで、数え切れない程の人々を殺し……身についた死臭を、周囲を覆い尽くす黒い霧へと変えながら。

 *第3章における雅人の扱いは下記となります。
 1.雅人の使用ユーベルコヲドは、第2章と同じく【剣刃一閃】及び【強制改心刀】です。また、雅人は基本的に【剣刃一閃】を使用します。
 2.雅人は戦闘は可能ですが、撤退はしません(と言うか、出来ません)
 3.雅人の生死は、『切り裂きジャック』 を倒すことさえ出来れば問いません。尚、雅人を囮に使うと、難易度は大幅に下がります。
 4.戦場の状況は今までと変わりません。また、雅人は切り裂きジャック相手では、完全な自衛は難しいです。
 5.尚、特に指示が無ければ雅人は、自ら囮となるべく切り裂きジャックと戦います。この隙を突くも突かないも、皆様次第です。
 6.『切り裂きジャック』の転生は先ず無理です。但し、その辺りの問答や問いかけを行ない、その姿勢に興味を持った場合、雅人では無く、その自分に『転生』についての興味を持たせた方に、気が向き易くなります。

 ――それでは、良き決断を。
真宮・響
【真宮家】で参加。他猟兵との連携可。

純粋な殺意の塊、殺人鬼か。こういう動く禍は即排除するのが一番だ。こういう全身兵器のような輩の相手は戦いに慣れてない雅人には無理だね。勿論、囮になるのは怒号を上げてでも止めるさ。命を無駄にするもんじゃない。

炎の戦乙女に前方の抑えを頼んで、【目立たない】【忍び足】で背後を取る。敵の攻撃を【オーラ防御】【見切り】【残像】で凌いで、背後から容赦なく【先制攻撃】【二回攻撃】【串刺し】でぶっ刺す。命を無差別に奪うような輩はこの世にいらない。その妄執ごと跡形もなく吹き飛びな!!


ウィリアム・バークリー
戦士でも殺し屋でもなく、ただの人殺し。答えは既にあなたの中にあるのでしょう? それをどうして人に問い、答え合わせをしたがるんです? 本当はそんな自分が嫌になっていて、輪廻の輪に還りたいと願っているんじゃありませんか?

なんて、戯言ですが――注意は惹けたでしょうか?

く、速い! けど捉えられないほどじゃない!
Icicle Edgeで弾幕を張り、移動出来る範囲を限定して追い込めれば。

幾度か切り結び、敵が他の方と斬り合っている僅かな隙を突いて、地面に魔法陣を浸透させます。
これを仕込みに、敵が足を止めた瞬間を見計らってStone Hand!
捕まえましたよ、人殺し!

せめて、幻朧桜に抱かれて逝ってください!


真宮・奏
【真宮家】で参加。他猟兵との連携可。

っ!!・・・雅人さん、私達の傍から離れないで。間違っても囮になるなんて考えないでください。命はそう簡単に捨てるものではありませんので。正直、私達も気を抜くと殺される相手です。

トリニティエンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御)【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【激痛耐性】で雅人さんを最優先に、味方を【かばう】ことに専念します。盾になる事に専念し、攻撃は敵が最接近してきた時のみ、【二回攻撃】【シールドバッシュ】で吹き飛ばすことで行います。必要な時は【属性攻撃】【衝撃波】で敵を牽制し、接近を阻止する事も視野に。


神城・瞬
【真宮家】で参加。他猟兵との連携可。

こいつが出す禍々しさ、覚えがある。確か11年前に故郷を滅ぼした奴らが放っていた・・・ロクなもんじゃない。トラウマが刺激されるようで、手が震えますが、この暴虐は、許してはおけません。こんな奴に雅人さんの未来は奪わせません。

まずは【オーラ防御】を展開、危険な動きを少しでも縛る為に、【高速詠唱】【全力魔法】【二回攻撃】で裂帛の束縛を使います。追撃として【誘導弾】【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】で動きをとことん邪魔するのに専念。危険な殺人鬼に手は抜けません。気を抜くとこちらがやられますので。


朱雀門・瑠香
・・・転生するか否かはその者自身の意思に委ねられます。
その気がないものはできませんよ?ま、私は貴方を転生させる気を起させるの面倒だから倒しますが。
救い難い者を救おうとするほど桜學府は人は良くありませんよ?
ダッシュで敵に接近して一気に間合いを詰め、相手の攻撃は戦闘知識を生かして敵の武器の挙動を見切って躱し、間合いに入ったら破魔の力を持って切り捨てましょう!


カタリナ・エスペランサ
酌量の余地も無い悪まで救おうとするほど酔狂なつもりは無いんだけどね
とはいえキミの口上、少しは興が乗った
その鼻を明かす為ならこの姿を晒すのも仕方ないと思うくらいには、さ

雅人への指示が錯綜するのもよくない、アタシは敵の動きを封じる方向で《庇う》とするよ
【堕聖の偶像】で加速、《空中戦》で上方から奇襲
敵の動きを《第六感+戦闘知識+見切り》で先読み&《先制攻撃+早業+怪力》等の《武器落とし》で対処しつつ、本命は《精神攻撃+誘惑+催眠術+ハッキング+盗み攻撃》。
アタシの付けた傷、視線、声、挙動の全てが精神を侵す幻術として作用する
殺意、悪意、狂気。転生に邪魔な悉くを削ぎ落とそう
此処で消えてもらうよ、殺人鬼


天星・暁音
さて…流石にここからは雅人さんは手出し禁止ね。
攻撃するのをは邪魔はしないけど出来るだけ庇える様に皆の傍にいること、いいね


まあ彼らの思惑はどうあれ、俺は別に転生を救いとは思ってないのだけど…
君は転生を救いだと思うの?
仮に救いだとして君自身は無理だって分かってるでしょう?
まして救われることなんか望んでないんじゃないの?
まあ自分で希代の暗殺者とか名乗れちゃうあたり本当に人殺しが好きなんだろうね
そんな君に、その気持ちを消してしまう転生は寧ろ苦痛なんじゃないかな。
なら救いじゃなく嫌がらせに転生を進めてみてもいいかもね



気が引けたら囮します
引けないなら雅人さん庇い回復支援

共闘アドリブ可
UCアイテムご自由に


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

切り裂きジャック
UDCアースでは霧の都を震撼させ、警察すら翻弄した連続殺人鬼だったはず
だが、こちらでは理不尽な欲望に身を焦がす殺戮者か

…転生は望めぬな
万が一、挑む者がいれば邪魔はしないが

基本は「歌唱、パフォーマンス、鼓舞」+【鼓舞と癒しのアリア】
基本単体回復だが、全体で負傷が嵩んだ場合、疲労覚悟で対象を増やす
雅人さんの攻撃力不足の場合は【サウンド・オブ・パワー】に変更

転生に関する問答をしない代わりに、質問を1つ
なぜ貴方は、帝都桜學府が我々猟兵のことを呼ぶときに使う「超弩級戦力」という言葉を知っている?

…殺しに愉悦を覚えてしまった元・帝都桜學府の関係者…は考えすぎか?


森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

殺しに愉悦を覚えた殺人鬼かよ
確かにてめえのような輩は知らねえな

霧を纏って強化されるなら
霧ごと燃やし尽くしてやる
アスモデウスの業火に焼かれて消えちまえ!

「高速詠唱、言いくるめ」からの【悪魔召喚「アスモデウス」】でアスモデウス召喚
「アスモデウス、稀代の暗殺鬼とやらを、周囲の霧ごと徹底的に燃やし尽くせ!」
切り裂きジャックに徹底的に業火を浴びせてやる
俺自身は力を溜めつつアリスランスやアリスグレイヴで目を狙って「ランスチャージ」、目を潰すぜ

雅人を囮に使うような真似はしねえ
この一件、まだ深い闇がありそうだからな

俺がてめえの敵だ?
(突然無感情に切り替わり)…ああ、その通りだ


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
真の姿継続

不意を討たなかったということは
己の手で殺しの愉悦を存分に味わいたいということか
いいだろう、受けて立ってやる

雅人さんの護衛継続
ただし積極的に前に出るなら邪魔はせず
常に庇えるような距離を保つ
彼への攻撃は「かばう」後「見切り、武器受け、オーラ防御」で軽減

本当なら憎悪のままに斬り刻みたいところだが
秘めたる狂気を解放された後のスピードについていける自信がない
【魂魄剣舞・極限速度】発動後の「早業、2回攻撃、怪力、マヒ攻撃」なら…なんとかついていけるか?

止めは可能なら雅人さんに譲ろう

戦闘後真の姿解除
これが影朧の恐ろしさだ、雅人さん
…隠れている闇は、思うより深いぞ


文月・統哉
オーラ防御展開
雅人庇い前に
攻撃見切り武器受け
祈りの刃で邪心を斬る

成程、君は転生を望まないのかもしれないね
倒れても再び影朧となってもっと人を殺したい?

なら俺達もまた君を倒しに来るだけさ
そして繰り返し繰り返し君の『邪心』を削っていくよ
少しずつでもいいから
諦ずに何度でも

無駄な事だと思うかい?
でもどうだろうね
君の望みはこんなにも『人』への興味に満ちているから

いつの日か邪心が薄れ悪意を手放す事が出来た時
君はどんな未来を望むのだろう

そんな日が来るとは思えない?
でも可能性は0じゃない、俺はそう思うよ

だってここは幻朧桜の花咲く世界であり
君は影朧なのだから

俺は今を生きる者の一人として
君の転生を、君の未来を願うよ


彩瑠・姫桜
雅人さんを護り
その攻撃を支援するわ

真の姿解放
雅人さんへ攻撃は通さない[覚悟]
可能な限り前へ出て
[かばう、武器受け]で敵の攻撃凌ぐ

雅人さんが敵へ攻撃するなら
私は【咎力封じ】と[串刺し、傷口をえぐる]併用で
できる限り敵の動きを止めることに専念するわ

雅人さん
貴方は後で護られるだけじゃ
嫌なんじゃない?

…まぁ、「貴方は」って言ったけど
私が同じ立場だったら嫌よ
戦うのが怖くても前に出るの
だから私は、できる限り貴方の希望に添って、一緒に戦うわ

影朧を転生させることだけが救いじゃないんだって
今の貴方を見てて思ったわ
自身の欲望にどこまでも純粋に突き進むのが貴方の業なら
私は骸の海へ還すことでその業から解き放ってあげる


荒谷・ひかる
……あなたは、もしかして。
『殺したい』という『異常な欲望や願望』から、救われたいのかな?
影朧は、傷つき虐げられた者達の「過去」から生まれた不安定なオブリビオン。
であるなら、恐らくあなたは生前、そのどうしようもなく異常な願望を抱えて生き、それ故に虐げられたんじゃないかな?
勿論、これは全部推測でしかないから、間違ってるかもしれない。
でも、何にせよ……わたしはその異常を抱え、影朧にまでなってしまったあなたを……憐れに思うし、できれば救いたいんだよ。

【転身・精霊銃士】発動
雅人さんの援護重視で行動
風圧弾を地面に向け射ち、小規模の竜巻を起こし霧を払い、衝撃波を歪め霧散させる
攻撃は電撃弾で麻痺狙い


パラス・アテナ
生きるためでも
生業のためでも
守るためでもない
ただ愉しみのためだけに人を殺す
こういう手合が一番嫌いでね

アンタの救済なんて一欠片だって考えちゃいないよ
それ以外のアンタの望みは何一つ叶いやしない
さっさと骸の海へお還り

雅人が囮になりたいって言うなら勝手におし
できた隙は有難く突かせてもらおうじゃないか
リッパーの目が光っている間が危険なら光らせなければいいんだよ
命中重視【一斉射撃】でジャックの目を狙うよ
「クイックドロウ」「2回攻撃」「一斉発射」を併用して
奴の目をまず潰す
その後は間を置かずに銃を連射
近接攻撃ができないように牽制して他猟兵の攻撃に繋げるよ

雅人
自己犠牲と捨て身の一撃は違うものだよ
よく覚えておきな


白夜・紅閻
◆銀紗
◆真の姿解放
※その際に、心臓を抑え暗転を繰り返す意識の中で血だまりの中に自分によく似た誰かと、恐らく『大切な彼女』の姿をほんの一瞬だけ垣間見、その姿を変える

髪は銀、瞳は漆黒
その背に1対の銀翼。上半身が人で下半身が鳥

◆戦闘
言いたいことは、それだけか?
救済?知らねーよ
そんなもんは他の奴らに任せるさ

◆戦闘
白梟はそのまま上空からの援護射撃
篁臥も引き続き雅人を守らせる

オーラ防御、武器落とし、武器受け等で敵の攻撃を凌いだり捌きながら
ユーベルコードとフォースセイバー、イザーク等で2回攻撃などをしながら応戦

アドリブ等はお任せ


吉柳・祥華
◆銀紗
※アドリブ連携可


なんとも、濃い死臭じゃの(袖で払う仕草をしながら)

其処なヌシよ(雅人のこと)阿保な真似するでないぞ?
青二才の分際で、囮になろうなんて考えるなよ?
多少面倒じゃが、此処に居る者達ならやり遂げてくれるじゃろ、のぉ?
皆の者!(鼓舞)


先ずは『白虎』の封印を解きけしかける
その間に、マヒ攻撃を施した霊符を矢に貼り付け、早業・クイックドロー・スナイパー…等で少しでも敵の動きを封じられればと思うのじゃ

また、コズミックリングと叡智の杖からの
属性攻撃・破魔・2回攻撃・全力魔法・乱れ打ち・だまし討ち・援護射撃等

回避や防御は
オーラ防御、見切り、残像、衝撃波&恩返し
ダッシュ&逃げ足で吹き飛ばし等




 目前に現れた切り裂きジャックから発される、身を竦まされる程の濃密な殺気。
 ある種純真とも言えるその殺気を間近に受け止めた雅人が、気合いを入れ直す様にパンッ、と自らの頬を叩いてから腰に納めた刀を抜き取り、大上段に構えてジリジリと前へと進んでいく。
(「殺されては元も子も無いけれども、これを放置したら、例え超弩級戦力の皆でも……」)
「これ、其処なヌシよ。阿呆な真似をするでないぞ? 例えば……青二才の分際で、囮になろう、とかのぅ?」
 切り裂きジャックに染みついている濃い死臭をしっしと袖で払う仕草をしながら。
 空中より、吉柳・祥華が彩天綾を風に靡かせながらゆっくりと舞い降りて、カラコロと鈴の鳴る様な声音で笑いながら雅人に忠告する。
 まるで、彼の心を読み当てているかの様に。
「あっ!! ……雅人さん、私達の傍から離れないで!」
 祥華の呼びかけで雅人が前に出ようとしていた事に気がついた真宮・奏が、今までに無い程鋭い叫び声を上げて彼を制した。
「駄目だよ、雅人さん。流石にこの敵は、君にはまだ荷が重い」
「! 暁音さん、けれどもこいつは……!」
 そのまま隣までやってきた天星・暁音の穏やかな、ただ何処か有無を言わせぬその口調に、微かに苦渋の呻きを返す雅人。
(「確かに、僕にはこいつを倒すことは出来ないだろう。でも、一太刀でも浴びせられれば、それで十分隙が出来る。そもそも、こいつの狙いは……」)
『僕』、なのだから。
 それを知っているが故に雅人が選ぼうとする道に軽く肩を竦めたのは、パラス・アテナ。
「まあ、アンタが囮になりたいって言うなら勝手におし。出来た隙は、有難く突かせて貰うからね」
「他にそこのヌシを守ろうとする者達がいるからかのぅ?」
 微かなからかいの混じった声音の祥華の呼びかけに、軽く目を逸らすパラス。
「キキキッ……! これなら我も殺し甲斐があるというもの!」
「あ、あなたの好きになんてさせるわけないじゃない!」
 鼻につく死臭。
 それは戦場に出なければ、決して知ることの無かった嫌な匂い。
 充満する『死の気配』に内心が震え、桜鏡に嵌め込まれた玻璃鏡を、千々に乱れる様に泡立たせながら、彩瑠・姫桜が雅人の左隣に立つ。
 先祖返りにより、自らに脈々と受け継がれてきた血を滾らせ、その瞳を真紅とし、口元の犬歯を伸張させた吸血鬼と呼ばれる姿へと化し、深紅のオーラに覆われた黒き光を纏うschwarzと、同じく深紅のオーラに覆われながらも、白き光を発するWeißの二槍を構えながら。
「純粋な殺意の塊、殺人鬼、か」
 姫桜の真の姿を見ても尚、余裕の笑みを崩さぬ切り裂きジャックの姿を睨みながら、真宮・響が舌打ちを一つし、懐にしまった魔力が込められた魔法石を取り出して空中へ放る。
「こういう全身兵器の様な輩の相手は、今のアンタじゃ無理だ! 囮になんぞ為って、命を無駄にするもんじゃないよ!」
 語調を強めて雅人に言い含めながら、ブレイズブルーを構え直す響。
 先程放った魔法石から現れたのは、赤熱した槍を構える白き光鎧を纏い、その背に翼を背負った戦乙女。
 家族が其々に戦いの準備を整えるその様子に気がついていながらも、神城・瞬の手の震えは止まらない。
(「こいつが出す禍々しさ……覚えがある」)
 それは今から、11年程前。
 瞬の故郷を滅ぼした存在が発していた、暴虐の気配。
 過去の記憶を揺り起こされて心が震え、怖気を感じ。
「お前を……許せない。お前の様な奴に、雅人さんの未来を奪わせはしない」
 震える手で六花の杖を握りしめながら低く唸る瞬の様子に、キキキッ、と嫌な嘲笑をあげる切り裂きジャック。
「どうした、どうした、どうした? 来ないのか、来ないのか、来ないのか!? それとも何も言えないか?! 我の問いに答えることが出来ぬ程、帝都桜學府も、超弩級戦力も無力なのか?!」
 無意識に心臓を抑え、自らの意識が暗転していく。
 誰の者とも知れぬ暗闇の中で見えるのは、血溜まりの中に立ち尽くす……それとも眠る様に倒れ伏している? 白夜・紅閻によく似た『誰か』と、恐らくその『誰か』にとって大切であろう、『彼女』の姿。
 常に霞がかかった自分の頭の中。
 その靄の向こうに時折ちらついている様にも見える『彼女』らしき姿を瞼の裏に焼き付けながら、紅閻は姿を変えていく。
 髪は銀に。
 瞳は漆黒に。
 更に背に一対の銀翼を生やして。
 ただ……。
 上半身は人の儘に……下半身を鳥と化した紅閻は、異彩を放ってはいたけれど。
「言いたいことは、それだけか?」
 くぐもる様な、低い声。
 端的な紅閻の問いかけに、キキキッ? と切り裂きジャックが口の端を釣り上げながら首を傾げる。
「……救済? 知らねーよ。そんなもんは、他の奴らに任せる」
「キキッ、そうか、そうか! それが汝の答えか! 我等影朧の救済を掲げる帝都桜學府に協力している超弩級戦力が、その思想を否定するとはなぁ! キキ、キキキキキッ……!」 
 愉悦を込めて笑い、秘めたる狂気を解放しようとする切り裂きジャックに、やれやれ、と軽く頭を横に振る、カタリナ・エスペランサ。
 遊生夢死 ― Flirty-Feather ―に月光を受け、月の様に美しき輝きをその背に背負いながら、ちらりと朱雀門・瑠香と雅人に目をやりアハハッ、と道化の様に笑う。
 ――目前の影朧に、僅かな興味を抱きながら。
「帝都桜學府の救済についてはさ、そっちの雅人達、帝都桜學府學徒兵のキミ達に任せるとして。アタシは別に、酌量の余地も無い相手までも救おうとする程、酔狂なつもりは無いんだけれどね」
「そうですね。少なくとも救済を転生と置き換えた場合、それを望まぬ者に対してまで手を差し伸べる程、桜學府の人は良くありませんよ? そもそも、転生するか否かは、その者自身の意思に委ねられますから」
 カタリナの言葉を受けた瑠香が、冷静にそう返すその様に、キキッ……と、切り裂きジャックが嘲笑の声を上げる。
「本当にそうか? そこの小僧は、あの小娘が死んだ事を認められず、我等が同胞を匿った。キキキッ……あの小娘は、救済を望んでいなかったぞ? なんせ、あの小娘はその為に我に力を貸せと言ってきたのだからなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「!」
 切り裂きジャックの断言に、雅人が思わずと言った様子で目を見開き、同時にウィリアム・バークリーも軽く目を瞬かせる。
(「あの数々の罠、当時の雅人さんだけに作れる物とは思えませんでしたが……この影朧が手を貸していた、と言う訳ですか!」)
「切り裂きジャック。UDCアースでは霧の都を震撼させ、警察すら翻弄した連続殺人鬼。だが、此方では理不尽な欲望に身を焦がす殺戮者……」
 藤崎・美雪が手繰り寄せる様にしながら、UDCアースでの記憶に想いを馳せる。
 と、自分の呟きに引っ掛かりを覚えた。
(「警察を、翻弄? あの罠を作るのに手を貸した元凶? この影朧……」)
 美雪が思考を進める、その間に。
「……戦士でも、殺し屋でもなく、ただの人殺し、ですか? 人を殺す為であれば、どんな手段でも問わない。そんなあなたが、どうして人に問い、答え合わせをしたがるんです?」
 ウィリアムが自らの言葉を嚙み締める様に口に出しながら、ルーンソード『スプラッシュ』の剣先で魔法陣を描き出している。
 青と桜色の混ざりこんだ魔法陣がウィリアムを中心に幾重にも広がり、其々に輝きを伴い始めた。
「キキキッ……戯れだ。我が望みが如何に貴様らの愚昧で崇高な思想を……救済などというお題目が無意味であるか……それを教えてやる事で、汝等の心と体の傷を切り刻みたくて、切り刻みたくて仕方ないのでなぁぁぁぁぁぁ!」
 高笑いと共に、周囲を覆いつくす黒い霧をより一層強める切り裂きジャック。
「……本当に?」
 そんな彼を、憐れむ様に。
 静かにそう問いかけたのは、荒谷・ひかる。
 ――震えが、止まらない。
 目前の敵が叩きつけてくる異常なまでの殺意。
 それに鋭く射抜かれる事に、ひかるは恐怖を隠せない。
「……キキッ?」
 嘲笑の中に微かな興味を載せて、ひかるに笑いかける切り裂きジャック。
 順手に握られた短剣を強く握りしめる切り裂きジャックに、ひかるが何処か悲しそうに問いかけた。
「……あなたは、もしかして。『殺したい』という『異常な欲望や願望』そのものから……救われたいんじゃないかな?」
「……キキッ、随分と愉快な事を言うなぁ、小娘。まさか我がその様な感情を抱いているなどと思うとはなぁぁぁぁぁぁ!」
 馬鹿にした様に大声を張り上げる切り裂きジャックに、だって、とひかるが呟く。
「あなたは知っている筈だよ? あなた達影朧は、傷つき虐げられた者達の『過去』から生まれた不安定なオブリビオンだって。ならば、あなたは生前、そのどうしようもない異常な願望を抱えて生き、それ故に虐げられたんじゃないかな?」
 ひかるの思わぬ反論に、キキキッと笑いながら、切り裂きジャックは死の気配を濃密にしていく。
 瑠香や、雅人が彼の様な存在の転生や救済を望まない事が、帝都桜學府の一般的な姿勢なのだろうと感じつつ、切り裂くジャックのその気配を感じ取った文月・統哉が静かに頷く。
「確かに君は、転生を望まないのかも知れないね。じゃあ、もし今此処で君が倒れたとしても、再び影朧となって、もっと人を殺したいのか?」
「キキキッ……そもそも汝らに我を倒せる筈がない! だが、敢えて答えてやれば当然だ! それこそが我が望みなのだからなぁぁぁぁぁぁぁ!」
 そう言って笑い続ける切り裂きジャックの姿を見て。
 そうか、と軽く統哉が頷いた。
「ならば、俺達もまた、君を倒しに来るだけだ」
 ――何度も、何度でも。彼の『邪心』を、削るために。
(「……不意を打たなかったどころか、わざわざ統哉さん達の話を聞いていたのは、それだけ、自分の手で殺しの愉悦を存分に味わいたいってことなんだろうな」)
 それも、体だけの事ではない。
 先程のやり取りの中にあった人の心さえも、切り刻む。
 それこそが、今の彼の心からの望み。
 ひかるの説得に心揺るがす様子も見せたが、だからと言ってその殺気を緩める気配は一切ない。
 黒い霧が、晴れることも。
「……良いだろう。受けて立ってやる」
 全身を赤黒く禍々しい鎧で覆い。
 刀身が赤黒く光る黒剣を持ち、その口元を覆い隠す様なマスクを被ったフルフェイスの面頬の奥から両目を赤く光らせる館野・敬輔が小さく呟く。
 森宮・陽太は、胸糞悪そうな表情になって、けっ、と唾を一つ吐いた。
「殺しに愉悦を覚えた殺人鬼かよ。確かにてめぇの様な輩は知らねぇな……知りたくもねぇ」
「あなたは、本当はひかるさんの言う通り自分が嫌になっていて、輪廻の輪に還りたい、と願っているのかも知れませんね。ならば……ぼく達は……」
 ウィリアムが呟きと共に左手を上げた。
 そんな最中。
「ふむ……そこのおぬし、確か荒谷といったな?」
「ふぇっ?」
 祥華に不意に呼びかけられ、驚いた表情のひかるが一瞬、肩を震わせる。
 ひかるのその様子を見ながら、祥華が衣の裾で鼻の辺りを覆う様にしながら、その耳元で囁きかけた。
「気を付けるのじゃぞ。今、あやつがもっとも狙うであろう相手は、おぬしじゃ」
 そう優雅に呟く祥華のそれに、ひかるが表情を強張らせる。
 けれども、程なくして何かを決意したかの様に一つ頷き、精霊杖【絆】の先端に嵌め込まれた緑色の精霊石に接吻を一つ落とした。
「うん……! 『精霊さん達、お願い。わたしに、戦うための力を貸して……』!」
 同時に一糸纏わぬ姿と化したひかるの体がプリズム色に包み込まれ、見る見る内にその背が伸ばし。
 更に精霊杖【絆】から発した緑色の輝きが、ひかるの腰に帯びている強化精霊銃、Nine NumberとTHE EARTHに纏われて。
 それと同時に、その全身を淡いエメラルド色のカウボーイ衣装を纏った長身でスタイル抜群の女性体に転身。
 そして、精霊杖【絆】の代わりに、Nine NumberとTHE EARTHを引き抜き、虚空で見切ってキラン、とポーズ。
 背景でキラキラ光る緑と青の輝きは、精霊さん達の演出か。
『……エレメンタル・アップ! 精霊銃士!』
 天真爛漫、溌溂としたひかるの姿に、カラコロ、と祥華が鈴の鳴る様な声音で愉快そうに笑い、それから、雅人の方へと穏やかな視線を向ける。
「と、言う訳じゃ。多少面倒じゃが、此処に居る者達ならやり遂げてくれるじゃろうからのぅ。決して命を無駄になんぞしてはいかんぞぇ、ヌシ。……のぅ、皆の者?」
 祥華の呼びかけに、応じる様に。
 其々に返事を返したウィリアム達が一斉に『敵』に向かって襲い掛かった。


 ――ヒュン、ヒュン、ヒュン。
(「く、速い……!」)
 黒い霧を纏い、戦場を縦横無尽に駆け回る切り裂きジャック。
 それを目で捕らえるのは難しいと判断したウィリアムが、ひゅっ、と素早く上げていた左手を振り下ろして空を切る。
「Icicle Edge!」
 ウィリアムの叫びと共に、解き放たれた260本の氷柱の槍。
『スプラッシュ』の先端で描き出した幾重もの魔法陣を自らの周囲全体に展開、叫びと共に、全方位に向けて弾幕の様に解き放った。
「キキキッ……! キキキキキッ!」
 嘲笑を浮かべながら、瞬間的な反応でその弾幕を掻い潜り、雅人を援護する様に、Nine NumberとTHE EARTHを構えたひかるに向けて斬撃を振るう。
 地面を抉り取る様に放たれた衝撃波が雅人とひかるを纏めて斬り裂こうとするのに息を呑んだひかるが、反射的に二丁拳銃の引金を引いた。
 そこから撃ち出されたのは、変身に力を貸してくれている風の精霊さんの力が封じ込められた風圧弾。
 撃ち出された弾丸が大地を抉り、作られるのは小規模の竜巻。
 斬撃による衝撃波は、ひかるの竜巻によって封鎖されたかに見えたが。
「キキキキキッ……囮だよ!」
 ――ギラリ。
 今度はそれをフェイントに、雅人へと真紅の瞳を輝かせる切り裂きジャック。
 と、その時。
「生きるためでも、生業のためでも、守るためでも無い。ただ、愉しみのためだけに人を殺す。こういう手合いが、アタシは一番嫌いでね」
 ――ガシャン。
 パラスがEK-I357N6『ニケ』と、拳銃の引金を淡々と引く。
 ――バララララララララララ……!
 同時に撃ち出されたのは、無数の銃弾。
 それらの銃弾が吸い込まれる様にその瞳を撃ち抜こうとするが……。
「キキキキキッ!」
 切り裂きジャックが嘲笑しながら短剣を軽々と振るう。
「ちっ! 何て速さだい!」
 目を狙っていた事に気がつかれていたのであろう。
 短剣による一閃がそれらの銃弾を叩き通し、残された八連撃の内、五連撃をひかるへ、残りの三連撃を雅人に向かって振るっている。
 いずれもが、首、鳩尾、心臓と……致命傷に為りかねない箇所を狙っていた。
「雅人さん、危ない!」
「駄目よ、絶対にやらせないわ!」
「篁臥!」
 奏がエレメンタル・シールドに風の精霊の力を上乗せしてその攻撃を銅鑼の様な音と共に受け止め、姫桜が風車していた二槍でそれらの刃を弾き飛ばし、紅閻の黒き獣……篁臥がその刃の軌道を変えるべく強引に割り込んで雅人への攻撃を防ぐ。
 ただ、その間にひかるが足や腕を斬り刻まれ、苦悶の表情を浮かべていた。
「あうっ……!」
 すぅ、と体に刻み込まれた傷に涙目になるひかるの傷を癒すべく、美雪が咄嗟に歌を口ずさんでいる。
 ――それは、人々の心を奮い立たせ、鼓舞する詠嘆曲。
 斬り刻まれた痛みに震えるひかるの傷をそれが見る見るうちに癒していくその間に。
「白梟!」
「霧を纏って強化されるって言うんなら、その霧事燃やし尽くしてやるぜ! 来いよ! アスモデウス!」
 素早くバックステップして次の攻撃に備えた切り裂きジャックに、紅閻が上空に待機させたままであった白梟への突撃を命じ、更に陽太が、ダイモンデバイスからアスモデウスを召喚。
 白き怪鳥である白梟が上空から飛びかかる様に、鉤爪による攻撃を行なう一方、呼び出された牛と、人と、牡羊の頭を持った三叉槍を構えた『色欲』を司る悪魔……アスモデウスはその霧を燃やし尽くす獄炎の炎を吐き出している。
 白梟による鉤爪攻撃を、煩わしげにジグザグに戦場を高速で駆け回りながら躱す切り裂きジャックの体に纏われた霧を、地獄の炎が焼き払った。
「キキッ! やってくれるじゃないか!」
 愉悦に満ちた耳障りな笑い声を上げながら、ギラリ、と瞳を輝かせる切り裂きジャック。
 敬輔がそれを見ながら、赤黒く輝く刀身を持った黒剣を水平に構え目を細める。
 ――お兄ちゃん。
 ――こいつは……。
(「うん……分かっている」)
 出来ることであれば、自らの心の裡、そしていつも同調している少女達からの囁きに応じて滅多斬りにしたいところではあるが……。
「キキキキキキキキッ!」
 それは、ジャックの心の裡に存在する狂気。
 それを解放し、希代の……【連続殺人鬼】たる存在にまで己がスピードと反応速度を高めた切り裂きジャックは陽太により焼き尽くされ、ウィリアムによって牽制されている筈の速度を更に加速させ、縦横無尽に戦場を駆け回り、短剣でひかるを斬り刻まんと迫ってきている。
(「……やってみるか」)
 最近になって少女達の囁きを聞いて学んだ新たな力……反射神経を極限まで研ぎ澄まして放つ術を用いて、切り裂きジャックの動きを見極めようとする敬輔。
 だが、辺りを覆い尽くした黒い霧に視界を妨げられ、思う様に狙い澄ました一撃を当てることは難しそうだ。
 為す術が無い、とまでは行かないが、容易に隙を掴むことが出来そうに無い。
(「先ずは、あの足を止めなければどうしようも無い、か」)
 そう思い瞳の輝きと共に放たれる九連撃から雅人やひかるを敬輔が庇うその間に。
 カタリナが猛禽の様に目を鋭く細めながら、ニコリと笑った。
「さっきのキミの口上、少し興が乗ったよ」
「キキキ……興が乗ったというか」
 圧倒的な自らの速度と手数に自信を持ち、哄笑するジャックにそうだね、とカタリナが静かに首肯している。
「少なくともアタシがキミの鼻を明かす為なら……この姿を晒すのも仕方ない、と思うくらいにはね!」
 告げながら、三つ編みにしていた髪を解く。
 ――バサァ。
 同時にそこに現れたのは、妖艶なる美姫。
 その艶めかしき肢体は、必要最低限の衣装に覆われて。
 風に浚われた、三つ編みを解いた長髪は、優美、と言うよりは艶美。
 ……それは、神をも欺いたとされる、催眠と幻術を操る妖艶なる夢魔。
 その夢魔が艶のある輝きを伴った、一枚、一枚の羽根の動きさえも何処か妖美さを感じさせる遊生夢死 ― Flirty-Feather ―で空中を舞い上がり、上空からその手のダガーを弄ぶ様にしながらジャックに強襲を掛ける。
 ――その頬を、羞恥から少し赤らめながら。
「キキキキキキッ! まさか我が速度に追いつく者がいるとはな!」
 人を……否、神をも陥れる悪魔と、伝説の殺人鬼。
 語り継がれるのみの存在であろう者達が互いの動きを読み合い、絶技を繰り出す様は、まるで伝説の再現であり、同時に互いの実力の拮抗を感じさせる。
 ――故に。
「アンタ達、畳みかけるよ!」
 響が叫びながら先程召喚した戦乙女に命じて、拮抗するカタリナと切り裂きジャックの真正面に割り込んで、赤熱した槍で切り裂きジャックのみを貫くその間に、側面から切り裂きジャックを捲り、晒されたその背に向けてブレイズブルーを突き出す。
「キキッ! 我は汝等の思い通りにはならぬ!」
 均衡を崩されたことに気がついたジャックの瞳が輝き、その背を貫こうとする攻撃を側転して躱そうとするが。
「行くのじゃ、『白虎』」
 祥華が、ふわりと、まるで巫女が神楽舞を舞う様な巧みな足捌きと共に、その指に嵌め込まれた『白虎』の封印を解放した。
「グルァァァァァァ!」
 鋭い雄叫びと共に戦場に躍り出た白虎が戦乙女を切り裂き、その道を切り開こうとしていた切り裂きジャックへとその鋭い牙で襲いかかって手痛い一撃を浴びせるその間に、祥華がスピリット・レイン・ボウから麻痺の術を付与した矢をひょうと放つ。
 それは……祥華の両掌から生み出された、手作りの鳥黐を含ませた液状を練り込んだ特製の矢。
 氷柱の槍による弾幕を張ったウィリアムが、祥華の意図を正確に理解し、すっ、と素早く大地に手を重ね合わせる様に置いた。
(「読み取れ……地脈の流れを……!」)
 内心で呟きながら、空中に展開していた魔法陣を大地へと収束させてじっくりと辺り一帯に浸透させていく。
 深い集中状態に陥り、ウィリアムが詠唱を行なうその間に、祥華の放った矢がカタリナと拮抗した速度で戦っていたジャックを捕らえ、その動きを粘着性のそれによって鈍らせていた。
「キキッ?!」
「とっとと消し飛んじまいなよ!」
「……そこかっ!」
 僅かに動きを鈍らせたジャックが一瞬動揺で目を見開くその間に、響がブレイズフレイム……自らの心に応じて光る赤剣を引き抜いて大上段より唐竹割りに振るってその背を斬り裂き、更に敬輔が自らの怪力を上乗せした黒剣を横薙ぎに振るう。
 背後と前面を十文字に斬り裂かれたジャックが微かな苦渋の声を上げるその隙を見逃さず、瑠香が物干竿・村正を抜刀しながら踏み込んだ。
『参ります!』
 叫びと共に物干竿・村正を神速で突き出す瑠香。
 突き出されたその一撃に動きを鈍らせながらも尚、ジャックが瞳を光らせて迎撃にしようとするが……それは、突然地面から生えてきたアイヴィーの蔓に絡め取られて阻害される。
『動きを縛らせて貰います!! 覚悟!!』
 続けざまに六花の杖から放たれた矢の様な光弾が、ヤドリギの枝と化して切り裂きジャックを貫こうとするが、それは彼が左手を振るって叩き落としていた。
 しかしその時には、瑠香の物干し竿・村正が、彼の胸に突き立っている。
「捕らえた……覚悟!」
 そのまま村正を振り下ろして弧を描かせて切り返し、絶え間なき連続攻撃を叩き込む瑠香。
 無論、その目を光らせていた切り裂きジャックは、それらの攻撃に対応する。
 一、二、三、四、五、六、七……。
 だが……そこまで。
 全部で44回の斬撃を繰り出す瑠香のそれは、瞳を輝かせているジャックの手数を持ってしても捌ききれず、瑠香の斬撃は、切り裂きジャックの右肩を、左肩を、右足を、左足を斬り刻んだ。
「キキキ……やってくれる!」
 そう言って体の動きを束縛されながらも尚、高速を維持しながら黒い霧を纏った衝撃波を解き放とうとするジャックに向かって、姫桜が拘束ロープを解き放った。
「キキッ……!」
「雅人さん、今よ!」
 相変わらずの笑い声を聞きながら、姫桜が自らの膝が笑っているのを自覚しながら、叫ぶ。
(「伝説の連続殺人鬼の殺気が、これ程迄なんて……!」)
 これは、戦いの恐怖なんて生易しいものなんかじゃない。
 理不尽で、威圧的で、絶望的な……恐怖。
「……はぁっ!」
 姫桜の呼びかけに応じて、雅人が刀を一閃させる。
 その一閃による攻撃を、瞳を輝かせて再び刃物による九連撃で斬り刻もうとする切り裂きジャック。
 ――けれども。
「わたしは、それでもあなたを出来れば救いたいんだよ……! お願い、精霊さん……!」
 ひかるが叫びながら雷の精霊さんの力を込めた魔法弾をNine NumberとTHE EARTHから撃ちだし。
「雅人、捨て身の一撃と自己犠牲は違うものだ。忘れるんじゃ無いよ」
 パラスがEK-I357N6『ニケ』をフルオートで連射して牽制しながら、拳銃から持ち替えたIGSーP221A5『アイギス』から電磁波を帯びた実弾を発射。
 電撃弾と、電磁波を帯びた弾丸が絡み合う様に撃ち込まれ、ジャックの体を撃ち抜き痺れさせるその間に、雅人の刀閃が閃いた。
「キキッ?!」
 重ねられた電撃による痺れにより動きを封じられていた彼の片足を、雅人の一閃が断ち切っている。
 しかし、切り裂きジャックの瞳の輝きは、健在。
 その身に強かに斬り裂かれながらも尚、ジャックの短剣は止まること無く雅人とひかるを斬り裂かんとする。
「それは……させません!」
「篁臥!」
 先程よりも勢いの減じた斬撃だったが、それでも尚、ひかるを殺せるほどの一撃を、奏がエレメンタル・シールドで受け止め、そのまま力押しで膝をついているジャックを押し潰す様に強引に押し切り、また、雅人に向けられた数閃は、紅閻の黒き獣、篁臥がその身を使って受け止める。
「ガルァァァァァ?!」
 黒き獣の姿と化している篁臥と斬撃を受け止めながらも、体に切創を数カ所作っている奏を見て、素早く暁音が祈りを捧げて、星杖シュテルシアを掲げた。
『祈りを此処に、妙なる光よ。命の新星を持ちて、立ち向かう者達に闇祓う祝福の抱擁を……傷ついた翼に再び力を!』
 暁音の祈りの言葉が届いたか。
 天空に煌々と輝く月から妙なる光が降り注ぎ、篁臥と奏の傷を見る見るうちに癒していった。
「キキキキキキッ……! これ程までに殺し甲斐のある奴等は久しぶりだな……! 斬っても斬っても、その四肢が繋がれ、そしてその傷は癒えていく。だが、その痛みと癒しの連鎖は確実に汝等の精神を蝕んでいく……! キキキキキキキキ、愉快だ、実に愉快だ……!」
 左足の力でぐるり、と空中へと飛んでバク転しながら、短剣を振るうジャック。
 あまりの早さで振るわれた短剣が大気を斬り裂き鎌鼬を生み出して、回復の祈りを捧げていた暁音を襲う。
「……っ!」
 ――その斬撃を受けた痛みが、刻み込まれた共苦の痛みと共鳴した。
(「成程……これは……」)
 これは、世界の嘆きだ。
 人の負の想念の塊。
 人は、些細な事で殺したいと言った感情を口に出す。
 それが本気なのかどうかは定かでは無いが……そこに『悪意』と呼ばれる負の思いは存在している。
(「だとしたら、君にとっては……」)
(「暁音さん……?」)
 無意識の内に、であろう。
 暁音がギュッ、と首から提げた星屑の光明を握りしめるその様子に、美雪が歌い続けながら、微かに怪訝な表情を浮かべた。
(「……まあ、彼等の思惑はどうあれ、俺は別に転生を救いとは思っていないのだけれど、ね……」)
 そう、思いながら。
 しっかとした表情を浮かべた暁音が、切り裂きジャックに問いかける。
「君は、転生を救いだと思うの?」

 ――と。


「キキッ……、今更それを、汝は我に問おうというのか?」
「うん、そうだよ。だって、仮に君にとって転生が救いなのだとしても、君自身は無理だって分かっているんでしょう? ましてや君は、救われることさえ望んでいないんじゃない?」
 暁音の問いかけに、キキキッ……とジャックが嗤う。
「その通り。我からすれば、汝等、帝都桜學府と超弩級戦力の掲げる救済とは転生以外に非ず! 我に斬り刻まれる時に無様に泣き叫び、助けてくれと懇願し、救われたいが為に他者を踏み躙る、あまりにも浅はかで愚かな人の世に戻る事こそが、救済と信じて止まないのだからな!」
 叫びながら、大地スレスレを滑る様に滑空し、短剣を大地に突き立てて擦過させる切り裂きジャック。
 黒い霧を帯びた斬撃の衝撃波が刃と為って暁音とひかるを襲うが、ひかるを敬輔が、暁音を奏が庇うことで事なきを得る。
「君は、どうしてそれ程までに俺達……いや、『人』への興味に満ちているんだ?」
 幾度目か分からない斬撃による一撃を黒猫の刺繍入りの赤い結界と、漆黒の刃を持つ大鎌……『宵』で受け止めながらそう問うは統哉。
 統哉の問いかけにキキキキキッ! とジャックが嗤。
「何度でも言おう! 我が望む真の愉悦は、人の体の肉を切り刻み、嬲り、嘆くその姿のみに非ず。汝等が望む理想を、その心を我が刃によって蹂躙され、何もかもを捨て這いつくばり、絶望し、悲しむその姿だと!」
「人の体だけでは無く、心を切り刻む、か……。まあ、自分で希代の暗殺者とか名乗れちゃう辺り、本当に人殺しが好きなんだろうけれどね」
 ――それは肉体、精神『両方』の意味での人殺し。
 恐らくそれは、決して消えることの無い彼の飽くなき欲求。
 その想いを消される転生は、恐らく彼にとっては苦痛でしか無いのだろう。
(「いや……苦痛にさえ感じないのかも知れないな……」)
 ひかるが、先程言ったでは無いか。
『影朧』は、傷つき虐げられた者達の『過去』から生まれた不安定なオブリビオンだ……と。
(「つまり、この希代の暗殺者は、恐らく……」)
 世界を生きていく中で人々が抱いた不安定な『過去』の想いを凝縮し、それを『殺人』と言う生きとし生ける者の存在の否定によって具現化した『影朧』
 それは人の輪廻の輪に取り込まれれば、決して逃れることの出来ない想いの結実。
 ……ならば。
 ならば、いっその事。
「……またやり直す、という意味も含めて、君は転生してみたらどうかな?」
「キキキキキッ! 我が、我が転生? 愚かにも程があるぞ! 我の望みは、生きとし生けるものの命! 汝等如きに……!」
 暁音にそう返し、戦いの中で焼き切られつつある黒い濃霧を発生させ、祥華やパラス、ひかるによって鈍った体を再び動かそうとした、その時。
「今ですね……! Stone Hand!」
 地脈の流れを読み取り、大地全体を魔法陣で覆っていたウィリアムが叫ぶ。
 叫びと同時にジャックの足下からぬっ、と突き出たのは、岩石で出来た大地の精霊の腕。
 会話に気を取られ、先程までの戦いでかなりの傷を負っていたジャックが一瞬表情を変えてそれを飛び越えようとするが、右足を斬り刻まれていたが為に、間に合わずガッシリと両足を掴み取られて、身動きが取れなくなる。
「今です、姫桜さん! 瞬さん!」
 ウィリアムの呼びかけに応じる様に。
 瞬が六花の杖で大地をトン、と突き、姫桜が美雪が変えた旋律に背を押される様にしてそのままヴァンパイアとしての自らの姿のままに、切り裂きジャックの懐に飛び込んだ。
 ウィリアムのStone Handに足を掴まれ、身動きの取れなくなった切り裂きジャックに藤の蔓が絡みつき、それを削ぎ落そうとする彼に姫桜が素早く手枷を嵌め込み、猿轡を噛ませ、そのままグルグルと彼の周囲を走り回って拘束ロープで締め上げていく。
「むぐぁっ?!」
 くぐもった驚きの声を上げる切り裂きジャックに、カタリナが何処かトロリ、と蕩けてしまいそうな程に艶麗な笑みを浮かべて第二神権 ― omen ―を起動。
「本命はこれだよ! アタシのこの姿を見たキミは滅殺、良くて記憶消去って決めているんだから! 此処で消えて貰うよ、殺人鬼!」
 今の、自らの見ようによっては淫靡とも取れるその姿を想起して、羞恥を覚えながらも。
 その声音は甘い睦言の様に切り裂きジャックの体に吸い込まれる様に入り込み、その内側から、穢れたそれらの心の全てを破壊していく。
「ゲッ……ゲボガハァァァァァァァァァッ?!」
 まるで、大切な何かを貪り喰らい尽くされる様な感覚に囚われ、切り裂きジャックが噛まされていた猿轡を力任せに弾き飛ばし、ゲェッ、ゲェッ、と嘔吐き、黒い血の様なものを吐き出している。
「アスモデウス、希代の暗殺鬼とやらを、周囲の霧ごと徹底的に燃やし尽くしてやれ!」
 苦しげな表情を浮かべる切り裂きジャックの様子を見た陽太が好機と判断、呼び出したアスモデウスに獄炎を放射させて、彼を周囲の水滴を集めて作り出そうとしていた霧事焼き尽くしながら、大きく息を吸い込み、力を溜め込んだ。
「雅人さん……今よ!」
 二槍が纏う深紅と白、深紅と黒の波動を帯びたオーラを力に変えて、切り裂きジャックの体を縫い止めるべく串刺しにした姫桜の叫びに応じ、雅人が駆けながら刃を一閃。
 袈裟に振るわれた斬撃が、切り裂きジャックの体を見事に断ち切った。
「キキ、キキキキキッ……! この我を、ここまで追い込むとはなぁ!」
 叫びながら、その瞳を赤く光り輝かせようとした矢先。
「傭兵の姉さんにアンタの防御の仕方を見せて貰ったからな! もう、アンタにその攻撃は使えねぇよ!」
 怒号と共に接近して、淡紅のアリスグレイヴを横薙ぎに振るって片目を断ち切り、続けざまに濃紺のアリスランスを伸張させて、返り血を浴びながら、切り裂きジャックの片目を貫く陽太。
「……まあ、アタシのことは好きに呼びな」
 パラスが呟きながら、素早く弾倉をリロードしたEK-I357N6『ニケ』の引金を引く。
 リロードされた弾丸が全弾吸い込まれる様に切り裂きジャックの左目に撃ち込まれていき、その目を潰しきるが、それでも光り輝く一瞬を止めることは叶わない。
「がっ……ガァァァァ!」
 その瞳の深紅の光を浴びた短剣が、まるで自らの意思を持っているかの様に動き、雅人とひかる、そして暁音の命を刈り取らんと迫るが……。
「……いつの日か、君の邪心が薄れ、悪意を手放す事が出来るのであれば」
 そう、『祈り』の籠められた漆黒の刃を持つ大鎌、『宵』に星々の様な淡き輝きと煌めきを伴わせ、九連撃の内三連撃を叩き落とし。
「篁臥、雅人を守れ! イザーク、奴を破壊しろ!」
 紅閻が黒き獣篁臥に一撃を受け止めさせながら、何処か愛らしいマスコットを思わせるフォースイーター=イザークに重力を纏わせて切り裂きジャックに喰らい尽くさせた。
 白梟がフォースイーター=イザークに合わせる様に急降下してその嘴で切り裂きジャックをつつくその間に、まるで、水を得た魚の様に生き生きとイザークは口をパックリと開いて切り裂きジャックに齧り付き、そのままガツガツとその瞳から漏れ出るサイキックエナジーを喰らって強大化し、遂にはその周辺の地形事、切り裂きジャックの体を喰らう。
 周辺の地形が変貌し、漆黒に染め上がったその体の左半分を喰らわれ、特に左腕を完全に消滅させつつも、尚、五連目の攻撃に移る切り裂きジャックだったが……。
「最後まで、守り抜いて見せますから!」
 奏がその斬撃の前に立ってその攻撃を受け止めながら、大地にシルフィードセイバーを突き立てて擦過させて振り上げた。
 振り上げられた刃の先から放たれた風の刃が切り裂きジャックを切り裂いて六連撃目を封殺し。
「もう、追いつけないと思うなよ……!」
 その次の動きを完全に見切っていた敬輔が雅人の前に立ち、ギリギリの所で黒剣を振り上げて七撃目を打ち払い、踏み込んでの逆袈裟の一撃で、八撃目事、切り裂きジャックを切り裂き、その右腕を斬り捨てている。
「キキキッ、キキキキキッ……!」
 世にも奇妙な笑い声を上げながら、まるで念動力で操っているかの様に切り離された片腕で最後の九撃目を打ち下ろすが、それは、祥華が元素を統べる杖とも言われる叡智の杖を突き出して、短い詠唱と共に光を放って吹き飛ばした。
「白虎、今じゃ!」
 祥華の鋭い命を受けた白虎が咆哮と共に切り裂きジャックに体当たりを叩き付け、その腹部を強打する。
 ウィリアム達によって拘束されていた切り裂きジャックが、その強烈な体当たりに毬の様に吹き飛ばされて大地に叩き付けられ、そのままバン、バンと数度体をバウンドさせて、大地を転がった。
「ガッ、ガハァッ! ゲホ、ゲホ……! ば、バカな、我が汝等如き軟弱者に、この我が敗れるだと……! あり得ぬ! そんな事、ある筈が無い!」
「……本当に憐れなんだよ、あなたは。わたしの推測が当たっている、とは思わないけれど。でも……それだけの異常を、闇を抱えたままに影朧にまでなってしまったあなたを……救いたかったのだけれども」
 ひかるが悔しげに俯きながらNine NumberとTHE EARTHを構えてその引金を引き、雷の精霊さんの力を借りて、切り裂きジャックの全身を痺れさせた。
「アンタの言うとおり、救うことが出来るならそれに越したことは無いんだ。でも……忘れちゃ駄目だよ、アンタも、雅人も。命を無差別に奪うこと、それこそが自らの存在意義なんだなんて言っている奴と何て……アタシ達は、決して分かり合うことが出来ないんだから……」
 ――それ程までに切り裂きジャックの『妄執』は根深い。
 それが分かっているからこそ、励ます様に、同時に理解して貰える様に、軽くぽん、とひかるの頭に手を置いてから響が戦乙女と共に戦場を駆け抜けていく。
 ブレイズランスを投げ渡された戦乙女は、響の自らの内に潜む想いと共に猛る炎を抱く赤熱した槍で切り裂きジャックの体を撥ね上げさせる。
 響がすかさずたん、と大地を蹴り上げて、彼と同じ高さまで上り詰め、ブレイズブルーで切り裂きジャックの身を貫いた。
 既に両目が潰されているにも関わらず、決して消えぬ紅の瞳の光。
 それは、どうしようもない妄執に囚われた者が辿り着いた、果ての果て。
 この場で倒さなければ、決して消えることの無い欲望の塊。
「終わらせますよ……!」
 瑠香が叫びながらそのまま地面に落下してくる切り裂きジャックに物干竿・村正を突き立て、そのままヒュン、と刃に軌跡を描かせて44の目にも留らぬ斬撃で切り裂きジャックを細切れにしていくが……それでも尚、この存在は未だに死なぬ。
「キキキッ、キキキキキッ……!」
 形だけの笑みを浮かべて既にボロボロになっている体を加速させようとした切り裂きジャックに、姫桜が見てられないとばかりに二槍を繰り出して地面に縫い止めた。
 ギュッ、とその唇を噛み締めながら。
(「甘かったのね……私は」)
 ――全ての影朧が転生できれば、それで幸福になれる。
 そう、思っていた。
 けれども今、目前にいる切り裂きジャックを見たら、嫌が応にも実感してしまう。
 ――転生させる事。
 それだけが、決して救いじゃ無いんだって事を。
「雅人は……どう思う? こうすることが……骸の海に還らせる事でその業から解き放てるというのが最善だと言う時、それが正しいって、割り切ることが出来るの?」
 まだ、辛うじてヒュー、ヒュー、と息を吐き、尚、切り離された腕を動かして雅人を狙おうとする切り裂きジャックの動きに気がつきながらも。
 姫桜はそう、雅人に問わずにはいられない。
 そうしなければ、自分さえも壊れてしまいそうな……そんな気がしたから。
「そうだね。多分、何が正しくて何が間違っているのか……それは、その時にならないと分からない。少なくとも……そう簡単に僕には割り切ることが出来ない、そう思う」
 雅人の率直な想いの籠められたその言葉に。
 統哉が、ぽん、と軽く雅人の肩を叩き、それならば、と静かに告げた。
「ならば俺と一緒に、彼の邪心を断ち切る手伝いをして貰えないか?」
「……えっ?」
 統哉の提案に思わず、と言った表情になる雅人。
 それに統哉がそっと微笑み、それから切り裂きジャックへと視線を向ける。
「切り裂きジャック。もし君がその邪心が薄れて、その悪意を手放すことが出来たならば。君は、どんな未来を望むんだ?」
「ば、バカな……! 我がその様な事を望むことは有り得ない……! 我は人々の悪意そのものの具現……人を殺すことこそが真なる愉悦なのだから!」
 苦しげに息を吐きながら、尚否定の言の葉を紡ぐ切り裂きジャックに微苦笑を零し、でも、と統哉が静かに呟く。
「確かに人々の心から負の感情が0になることは有り得ないだろう。でも、その全てが君に集い、そして君がそうで在り続けるとは限らない……少なくとも俺はそう思っている。だって、此処は……」
 ――幻朧桜の花咲く世界であり。
 ――人々の不安定な心が、殺意と化して生まれ落ちた『影朧』なのだから。
(「だから、俺は願うんだ」)
 今は決して叶うことの無い願いだとしても。
 今を生きる者の一人として。
 彼が転生し……その未来を紡ぐことが出来ることを。
 その為には……。
「雅人」
「ああ……分かったよ、統哉さん」
 統哉の呟きに、雅人が刀を八相に構える。
 同時にその刃に籠められるは……桜色の、淡い輝き。
(「それは……退魔の力、ですか」)
 瑠香が直感的にそれに気がつき、周囲の幻朧桜に集う桜の精霊達の声が、ひかるに届く。
(「今は無理でも……」)
 ――何時かは。
 ――何時かは、きっと。
 ――だから。
「行くよ、統哉さん」
「ああ。行くぜ!」
 雅人の桜色の輝きを灯した刀身と。
 統哉の『宵』が宵闇を切り裂く一条の光。
 一振りの刀と、一振りの鎌が斬り裂くを望むは、邪心。
 切り裂きジャックに集中していた……人々の負の想念の一部。
 戦いに決着がつく可能性を予期した美雪が、一つだけ、と問いかける。
「切り裂きジャック。なぜ貴方は、帝都桜學府が我々猟兵の事を呼ぶ時に使う『超弩級戦力』と言う言葉を知っている?」
 美雪のその問いかけに。
 既に自らの死期を悟っていた切り裂きジャックが、まるでそれまでの全てをかなぐり捨てるかの様に。
「キキキキキキキキキキキキキキキキキッ!」
 ――笑った。
 その笑い声に不気味な、決して踏み入れてはいけない何かを感じて、美雪が息を呑むその間に。
 雅人の刀と、統哉の鎌が切り裂きジャックの体をX字型に切り裂いていく。
 その骨の髄まで染み渡ってくる様なずしりとした重みを覚えながら、雅人と統哉が刃を振りきった、その時。
「骸の海で、我等が怨敵たる汝等が選ぶ道を……とくと見届けさせて貰おう! キキッ……キキキキキキッ……!」
 それだけを告げて。
 切り裂きジャックが、まるで大地に沈み込んでいくかの様に。
 ズブズブとその体を液体へと化させ……大地へと溶けて消えていった。


「これで、この戦いは終わりでしょうか……?」
 Stone Handの術を切り、小さく息をつきながら。
 ウィリアムが誰に共無くそう呟く。
「まあ、取り敢えずは、と言った所だね」
 パラスが呟きながら構えていた銃をダラリと下ろした。
(「骸の海に還っていったか。それにしても何だろうね、この感覚は」)
 美雪が誰に共無く疲れた様に息を一つ吐く。
「実を言えば、殺しに愉悦を覚えてしまった元・帝都桜學府の関係者の可能性を考えていたのだが……どうやら、そういう訳では無さそうだな」
(「だが、だとしたら、何故奴は……?」)
 美雪達の事を、『猟兵』ではなく、『超弩級戦力』と呼んだ?
 理由は分からない。
 けれども、モヤモヤとした違和感は、どうしても拭いきれない。
「我等の怨『敵』、か。ああ……その通りだ。俺は、てめぇらの『敵』だ。それ以上でも、それ以下でもねぇ」
 冷たい無感情の表情で。
 呟く陽太の姿をちらりと気遣う様に見やりながら、真の姿を解いて人の姿へと戻る敬輔。
 それから彼は統哉と共に、切り裂きジャックに止めを刺した雅人を見る。
 硬い表情を、崩さぬままに。
「雅人さん。これが影朧の恐ろしさだ。……隠れている闇は、思うより深いぞ」
(「それを踏み越える覚悟がなければ、これ以上の深入りはよした方が良い」)
 暗にそんな想いを込めて敬輔が尋ねると、そうだね、と雅人が頷いた。
 ――何か引っ掛かる様な、そんな表情をちらりと浮かべながら。
「それでも僕はこの闇を、どうしても、もう見過ごすことは出来ない。……紫苑の事だけじゃ無い。どうにも嫌な予感がして仕方ないから」
「雅人さん……」
 姫桜が気遣う様にちらりと雅人の表情を見やり……そして、微かに息を呑んだ。
 雅人の表情に、あの竜胆がちらつかせていた何かが重なっている様に見えたから。
「救えなかった、んだよね……」
 何処か肩を落としながら。
 ポツリと呟くひかるを宥める様に、ぽん、とその肩を叩くカタリナ。
「キミはそう言うけれども……あの殺人鬼は、救済されるつもりが無かった」
(「だから、その存在そのものをアタシ達が否定したんだけれどね」)
「そうじゃのう。流石にあやつを救う事は、妾達には無理じゃっただろうのぅ。……ただ、荒谷。ぬしの優しさや想いは文月とそこの小僧……雅人だったか? が、代弁してくれたのじゃ。今回はそれで良しとすべきじゃろう」
「そうだね。少なくとも彼にとっては転生する事こそが救済であり、同時に彼自身が人の負の感情を『殺意』として具現化した存在、と言っていた。となると余程それを否定できる何かが無い限りは……転生させることは無理だっただろうね」
 祥華の言葉に暁音が同意の頷きを一つ。
(「まあ、積極的に救済しようとしなかったのは、確かに俺達の姿勢の結果でもあったのだけれども」)
 共苦の痛みが、そんな暁音の想いを代弁する様に、彼の体に痛みを与える。
 その痛みの根源は、果たして誰のものであったのか。
「……雅人。この場での戦いはこれで終わった。それで良いのか?」
 紅閻の問いかけに、ええ、と雅人が静かに頷いた。
「そうだね、紅閻さん。僕が求めていた情報も、漸く掴むことが出来た。もしかしたら、何時か皆にその情報が流れるかも知れない、とも思う」
「……分かった」
 紅閻が一つ頷きそっと自らの薬指に嵌めた、白銀の双翼と金剛石の月華で装飾された色褪せてしまった指輪を撫でる。
(「あの娘は……」)
『真の姿』になる直前に見えた自分によく似た『誰か』と、いつも霞がかっていて掴みたくとも掴めない記憶の向こうに面影だけを残している恐らく大切なのであろう『彼女』
(「また、『彼女』達と邂逅できる時は、来るのだろうか……?」)
 何となく、そんな疑問が脳裏を掠めた。
「今回の任務は完了したんだ。アンタだって、一度報告に戻らなきゃ行けないんじゃ無いか?」
 響の問いかけに、はっ、とした表情になり一つ頷く雅人に、美雪もまた、そうだな、と同意して息を吐いた。

 ――かくて一つの戦いを終え、猟兵達は其々の日常への帰還を果たすのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年12月22日


挿絵イラスト