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桜嵐シヤージュ

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●伝説の幻朧桜の下で
 ――ざあ。
 薄紅が、舞い上がる。
 年中薄紅に染める幻朧桜は、この世界では珍しい物ではない。
 けれど、『伝説の幻朧桜』と噂になる桜があると言う。
 その噂は、恋や縁に繋がるもの。
 そうして今、その噂を頼ってか、一組の男女の姿が重なって――。


 ――ざあああぁぁ――……、
               鳴
      桜が、       な いた――……
                 泣

●尾鰭のいざない
「伝説の幻朧桜の話は知っている?」
 話が在る。そう告げて集まった猟兵たちを待たせているにも関わらず桜餅をのんびりもちもち食べ、お茶で一服までした雅楽代・真珠(水中花・f12752)が、湯呑を机に置いてから矢張り気儘にそう口にした。
 正直、『その手』の話は色々と在る。どの伝説の話かと首を傾げる猟兵たちの顔を見て察したのだろう。真珠は小さく頷いてから口を開く。
「恋や縁に繋がる類のものだよ」
 何でもその幻朧桜の下で、『あること』をすると、恋が叶ったり、永遠に共に居られるようになったり、仲が深まったり……そういった恋や縁に繋がるものなのだという。
 そのあること、と言うのは――。
「お前が桜に攫われてしまうかと思って……」
 口元で袖を隠して瞳も伏せてそう口にした真珠が、睫毛を揺らして君たちを見る。
「と、言うのだって。桜に攫われないようにしっかり繋ぎ止める事から縁が深まる、と言う謂れが来ているそうだよ。言葉は一字一句同じである必要はない。お前らしく口にすれば良いよ」
 抱きしめるとより効果的だとか。
 ひらり。袖を振ってから、真珠は真っ直ぐに視線を向けてくる。
「ここからが本題。実は、お前たちに対処に当たって欲しい影朧が居る。その影朧は匿われているのだけれど……匿っているのは、幻朧桜なんだ」
 そして、その影朧も桜なのだ。
 その桜は、元はただの桜だった。春に花咲かせ、人々に愛され、笑顔を向けられてきていた、どこにでもある桜の大木だった。
 しかしその桜は失われ、幻朧桜の特性を得て影朧として復活してしまう。
 他の幻朧桜は哀れに思ったのだろう。救いたいと思ったのだろう。けれど影朧を匿うということは、幻朧桜にとっても良くないことだ。
 現に神隠しも起きていると真珠が口にして。
「そういった理由で、伝説の幻朧桜の下で『お前が桜に攫われてしまうかと思って……』と言ってきて欲しい。簡単だよね? 言う相手が居なければ、刀とかにでも言えばいいんじゃない?」
 猟兵たちが伝説の幻朧桜の下でそうすれば、幻朧桜に動きがあることだろう。影朧に逢わせようとするかもしれないし、近寄らせないようにするかもしれない。それはお前たち次第だよと、人魚がいとけない笑みを浮かべる。
 幻朧桜自身も、このままではいけない事を理解している。幻朧桜を傷付けたり、桜たちへ酷い言動を重ねたりしなければ大丈夫だろう。
「――影朧の桜は、倒してもいいし救ってもいい。判断はお前たちに任せるよ。……ヒトではないから、心に寄り添うのは難しいかもしれないけれど、或れはヒトを愛していたものだよ」
 人魚の掌の上に蓮がふわりと浮かび上がり、蓮の上に金魚が泳げば、大正浪漫の世界への”門”が開かれる。
 じゃぁね。サクラミラージュ風の着物の袖が、ひらり、振られた。


壱花
 初サクラミラージュから御機嫌よう、壱花です。
 皆さんには桜まみれになっていただきます。
 伝説の桜の木の下で桜に攫われて、桜迷宮で迷って、桜と戦います。
 マスターページとTwitterに受付や締切が書かれます。章が変わるごとに参照頂けますと幸いです。


●第一章:日常
 伝説の幻朧桜の下で「お前が桜に攫われてしまうかと思って……」と言うと恋が叶ったりずっと一緒に居られる……と言う伝説があります。
 ご参加は1~4名様推奨。

 お一人での参加の場合、相棒等へ言葉を囁いてぎゅっとします。相棒が刀等の武器でも大丈夫。きっと皆自分の事で忙しいので見ていません。
 二人以上での参加の場合、言葉を囁いてハグするペア……の出歯亀をする事が出来ます。ハグした一名が桜に攫われるので、攫われる予定の人は冒頭に「🌸」を。次章で別行動となります。また、出歯亀をする人は冒頭に「👀」を。出歯亀は、参加グループに対してのみに可能。

 攫われるまで皆さんは桜に攫われる事を知りません。OPの情報のみです。
 【第一章のプレイング受付は、12/2(月)朝8:31~でお願いします】

●第二章:冒険『桜彷徨う迷宮』
 相棒や大切な人が攫われた後、残された人も気付けば迷宮の中に居ます。
 桜迷宮でウロウロ探索をします。
 なんだかふんわりとその人の香りがするような気がしたりします。が、その人が桜の香りだった場合は周りの桜の香りが強すぎて解りません。

 ※【ご注意!】※
 この章では何らかの形で『攻撃』ユーベルコードを使用してください。

●第三章:ボス戦『彼岸桜』
 猟兵の姿を模した敵が現れます。ボスの桜が見せる幻のようなものです。
 お一人での参加の場合は自分と戦う事になります。使用してくるユーベルコードは二章で使用したものです。
 複数人での参加の場合は、誰の姿をしているか選べます。「🌸名前(ID不要)」と冒頭に書いてください。自分でもいいし、一緒に居る人の名前でもいいです。全員で同じ名前を書けば同じ人が沢山居ます。何も書いて無ければ自分の姿になります。
 三章のみのご参加の場合、使用ユーベルコードは自身と同じものとします。(必ず攻撃系の選択を)

 幻を倒した後、桜をどうするかは皆さんの自由です。
 倒すも転生させるも、ご自由に。

 どの章からでも、気軽にご参加いただけるとうれしいです。
 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 日常 『お前が桜に攫われてしまうかと思って……。』

POW   :    (力強く引き寄せて)お前が桜に攫われてしまうかと思って……。

SPD   :    (咄嗟に手を掴んで)お前が桜に攫われてしまうかと思って……。

WIZ   :    (物憂げな表情で)お前が桜に攫われてしまうかと思って……。

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


(プレイング送信前に、マスターページかTwitterを参照ください。)
花邨・八千代
【徒然】
おぉ、キレーなもんだな。
幻朧桜っつーんだっけ、この時期に桜ってのも悪かねぇ。
いつまでも咲きっぱなしは大変だろ。
桜ってのは散ってこそだ、なァぬーさん。

◆行動
桜の下、ざあざあ落ちてくる花弁を眺めながらぬーさんを引き寄せる。
ぎゅっと抱きしめるつもりで、無意識に縋りついた。
……こいつが本当にいなくなったら、なんて少し考えたせいだ。
誤魔化すように笑って布静の顔を見る。
「お前が桜に攫われちまうかと思って、なーんてな!」

不意に目を覆うように花弁が舞い散り、腕の中の存在が消えた。
いない、どこにも。
「……ぬの、せ?」
腕には、確かに大事なひとの温もりがあった筈なのに。
「ッ……布静!」

あぁ、なんて寒い。


薬袋・布静
【徒然】🌸
ホォー…ホンマに綺麗なもんで
らしいな、季節外れの桜が見れんのもこの世界ならではやんな
八千代の言う通り、桜は散り際まで楽しんでこその桜や

◆行動
はら、はらり――
落ちてくる花弁を掌に乗せ遊ばせ
視線を隣へ向ければ引き寄せられた強さに驚き見下ろす
本来なら己の方から言うはずが、先に言われてしまった台詞に苦笑い

「俺にそうやって言うてくんのお前ぐらいやわ」

誤魔化すように言った八千代の頭を撫ぜようと手を伸ばす、と

目が眩むほどの花弁に覆われ咄嗟に瞼を閉じ
次に瞼を上げたそこに――先程まで居た温もりは何処にも居ない

「……ち、よ?」

心構えなく離され揺らぐ身と心

「…冗談キツいで…一つも笑えんわ、こんなん…っ」



●熱
 はらりひらりと舞う桜。
 おぉコイツか。なんて口にしながら、伝説の幻朧桜の下に歩み寄る一組の男女の姿。
「おぉ、キレーなもんだな」
「ホォー……ホンマに綺麗なもんで」
 駆け寄るように桜に近付く花邨・八千代(可惜夜エレクトロ・f00102)の後ろを、薬袋・布静(毒喰み・f04350)はゆるりと歩みながら桜の大木を見上げた。
 この大正浪漫の世界では、年中桜が咲いているのが普通なのだと言う。サクラミラージュ育ちではない二人には、この寒さが肌を刺す季節の桜というものはとても珍かに目に映る。はらりはらりとたくさんの花弁を舞わせても、全てが散ることはないのだろう。悪くねぇなと傍らから響く声に同意を返し、溢れんばかりの薄紅が眩しすぎると布静は目を細めた。
「桜ってのは散ってこそだ、なァぬーさん」
「八千代の言う通り、桜は散り際まで楽しんでこその桜や」
 散ってこその桜と口にする男の傍らの女は『八千代』の名を持っている。散らぬ華はひとつで良いと、男の喉がくつりと鳴った。
 ひらりと舞う花弁を手に受け、花遊ぶ。悪戯に舞う花弁が上手に載ったならば、傍らの彼女へ見せてやろうと。
「――っ」
 ふいに、抱き寄せられ――息を飲んだのは、布静。
 着物に皺を作り、爪紅の赤が沈みいく。
(……こいつが本当にいなくなったら、なんて)
 花を受ける男が、桜の中に溶けてしまいそうで。消えてしまいそうで。……なんて。そんなこと、あるはずがないのに。居なくなる筈がないのに。何故だかそう、胸が細く鳴いたのだ。
 眠たげな目が瞠目し、驚きを露わにした顔が見下ろしている。
「お前が桜に攫われちまうかと思って、」
 なーんてな!
 鮫歯を覗かせ見上げた顔が、ニカッと笑うから――お前が言うのかとか、俺の台詞やとか。瞬時に浮かんだ想いを隠し、布静は薄布の下で笑みを浮かべる。例えそれが苦笑い類であろうとも、女は気にはしない。
「俺にそうやって言うてくんのお前ぐらいやわ」
 誤魔化すように口にした言葉とともに、手を伸ばす。角を避け、形の良いまろい頭へと。
 八千代の上に桜とは違う影が落ちて。
 八千代の頭に大きな手が近付いてくる。八千代は、この手がくれる熱を知っている。
 触れるまで、後少し。髪の上にぽすんと落ちて、ぽんぽんと弾んで、それからさらりと髪を遊ぶのだ。
 そう。そのはず、だった。
「……ぬの、せ?」
 見上げていた。見つめていた。
 彼の手を。その向こうの彼の顔を。
 腕には、確かに大事なひとの温もりがあった。触れていた、感触があった。
 けれど、それなのに。
 ざあっ――……。
 桜の花びらが視界を覆った。そう思った時には、腕の中の温かな存在は消えていた。
「ッ……布静!」
 花びらとともに、温もりが消えていく。
 熱が、奪われていく。
 ――あぁ、なんて寒い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
♢ ♡

眼前を染めるような一面の薄紅彩
影朧へと姿を変じたサクラ
幻朧桜の加護を受けしもの
心惹かれるのは、その魔性ゆえかしら
それとも――、

桜樹をじいと眺め、嘗ての光景を視る
此処ではない和の世界
花時雨をその身に受ける、あなたの姿
その純白はうつくしくて
今にも、消え逝きそうで
“『あなた』が攫われてしまうのは、イヤよ”
告げられたおまじないを、そうと唱えて
割れた柘榴石を閉じ込めた小瓶をぎゅうと握る
『あなた』が居るはずの宙を掻き抱いて

ねえ、――さま
ナユの聲は、あなたに届くかしら

指輪の彩が爆ぜたあの日から
あなたの姿が見えなくても
あなたの聲が聴こえなくても
ふたつを繋ぐものを失っても
ナユは『あなた』との絆を信じている



●在りし日の
 大きく枝を広げる幻朧桜の大木は、眼前を薄紅一色に染め上げて。
 蘭・七結(戀紅・f00421)が想うは、影朧へと変じた桜の木のこと。影朧と言う魔性。けれど魔性でありながら、幻朧桜の加護を受けしもの。
(心惹かれるのは、その魔性ゆえかしら。それとも――、)
 そっと目を伏せて、想いを閉ざす。ただ、この桜よりも”あか”ければ良いなと、心の奥底の泉が漣いだ。
 再び睫毛を持ち上げ赤に薄紅を映す。桜樹をじいと眺め、七結はそこに嘗ての光景を視る。
 幻朧桜の咲かない、和の世界。春にだけ桜で魅せる世界。
 春の雨――花時雨をその身に受ける、あなたの姿。
 烟るような雨、濡れた桜花。凍えるように冷たい雨が、体温を奪って。
 美しい眼前の純白が、今にも消え逝きそうで――。
 あの時と、いっしょ。
 七結は震える指先を、『あなた』が居るはずの宙へと伸ばし。
「『あなた』が攫われてしまうのは、イヤよ」
 割れた柘榴石を閉じ込めた小瓶をぎゅうと握ったまま、宙を掻き抱いた。
「ねえ、――さま」
 ナユの聲は、あなたに届くかしら。
 あなたに届くといい。希い、そうっと口にするのは、桜だけに届く小さな声。その声を、ざあっと吹いた桜吹雪が消していく。
 指輪の彩が爆ぜたあの日から、あなたの姿が見えなくても。あなたの聲が聴こえなくても。『あなた』と七結を繋ぐものを失っても。
 それでも、七結は――。
(ナユは『あなた』との絆を信じている)
 繋がっていると、そう想わせて。
 祈りを込め、小瓶を握る。
「そん、な――」
 確かに握っていた筈の、爆ぜた指輪の彩。
 落とすことも、無くすことだって有り得ない、大切なもの。
 それが、最初から無かったかのように、消えていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
【迎櫻館】


ここの桜も綺麗だね
嗚呼
けれど一番は僕の櫻だ
どれも違うの?
僕には同じに見えた
さすがは桜守の龍だね
桜吹雪と戯れるよう微笑み語る君は美しくて
笑みが咲くのも愛おしい
櫻宵は、桜の龍だ
似てるに決まってる
…散られては困るけど

戀を叶えて縁を結んでくれるんだって
胸の内に咲くのは、桜への嫉妬
けして解けぬ縁の絲がほしい
尾鰭を広げて抱きしめるよう包み寄り添う
桜が美しくて
櫻宵がとけこむように見えて
ピィ?!尾鰭はダメだってば!

ぷんすこしつつも櫻宵の白い頬にふれ見つめ
首に腕まわし抱きしめる
尖り耳に唇よせて歌うように囁く
桜が導き結んだ縁はもう僕のものだ

――嗚呼、僕の櫻が……桜に攫われて
奪われてしまうのかと、思って


フレズローゼ・クォレクロニカ
👀【迎櫻館】


見える見えるよ白雪ちゃん!
櫻宵とリルくんをオペラグラスを駆使して観察する!
あああ!ひゃーー!
いい感じさ!
春と冬の出会いのようで最高に絵になるね!!
これは作品制作のための資料集めだから!
誤解しないでおくれよ!
リルくんのが意外と積極的なの?意外!
白雪ちゃんもそう思うよね!?

はー……それにしても
櫻宵、幸せそうだなぁ
あんな顔で笑うんだ
櫻宵ねぇ、昔こっ酷い失恋してから誰も愛せなくなってたんだよ
よかったねぇ…リルくんが綺麗に咲かせてくれて
愛してもらえてよかったねぇ

そこだ!押し倒し――なんでもないです

初めての戀は少しだけ苦くて
舞い散る桜と一緒に終わりにしよう
桜はまた咲くのさ

2人ともお幸せにね


誘名・櫻宵
🌸【迎櫻館】


綺麗な桜ね、リィ!
どの桜もね
同じにみえてちゃんと違うのよ?ひとと同じ
あたしは桜龍だもの、わかるわよ
ちゃんと愛を注げば美しい花を咲かせてくれるし哀しい時は寄り添ってくれる
咲いては散ってまた咲いて
そうして巡る時を共に咲いて生きるの
あたしはそんな桜が愛おしく思えるわ
強かで脆いところもあたしに似てるでしょ

戀は叶ったのではなくて?
それとも…桜にヤキモチ妬いちゃった?
身を包んでくる尾鰭をちょんとつつき
咲いた可愛い声にくすくす笑う
あたし達の縁だって桜が結んでくれたのだもの
真っ直ぐ見詰められれば青の瞳に囚われて
身を寄せれば優しく強く抱きしめる

そう、なら
桜嵐も跳ね除けるくらい
しっかり捕まえていて


鶴澤・白雪
👀【迎櫻館】

リルの相棒を抱えて皆を見守るわ
ヨル、悪いけど暫らくはあたしと一緒にいてちょうだい
何か起こるまでは2人きりにしておいてあげましょ

フレズローゼは相変わらず元気がいいわね
春と冬が出会ったら物理的にどっちが勝つのかしら
あぁ、うん……フレズローゼはそれが趣味だと思ってるから大丈夫よ
あら、意外かしら?
櫻宵は戦うと強いけど精神的にはリルの方が男気あると思うけど

フレズローゼはずっと櫻宵を見守ってきたのね
本当、もう一度誰かを愛せる様になって良かったわね

簡単な感情じゃないだろうけど
昔なんて引きずっててもどうしようもないわ
リルが凄いのは勿論だけど
もう一度誰かを愛した櫻宵の事も後で褒めてあげましょ



●さくら、さくら
 辺りを薄紅に染める幻朧桜。見上げれば、綺麗だと思い思いに人々は口にする。
 けれど、どの桜よりも。リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)が一番だと思う桜は、己の隣で咲く”櫻”――桜咲く角に枝垂れ桜の翼を持つ愛しい桜龍、誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)だ。愛おしげに桜を見上げる姿も、その瞳が自分に向けられる姿も、好きだ。瞳が合う度に胸がひとつ大きく跳ね、その度に彼への気持ちを自覚してしまう。
「どの桜もね、同じにみえてちゃんと違うのよ?」
 人と同じよと口にした彼に、リルはそうなの? と首を傾げた。リルがどれも同じに見えると告げれば、「あたしは桜龍だもの」との断言が返ってくる。桜守の龍がそう言うのだ。疑う事もなく、リルは「さすがだね」と笑みを返した。
 ああ、またひとつ。好きだな、と。気持ちに花が咲く。桜吹雪の中の君は、なんて美しいのだろう。
 愛を受けただけ愛に応える桜は、愛によって美しく花咲かせ、そして悲しい時は寄り添ってくれる。咲いて散って、また咲いて。そうして巡る時を共に咲いて生きる。
「強かで脆いところもあたしに似てるでしょ」
 櫻宵は、桜の龍だ。似ているに決まっている。けれど。
「似ていても……僕は、散らせはしないからな」
 勝手に散れると思うなよ。ここに咲く幻朧桜が散ることを知らないように、君も知らないでいいのだと人魚が少しだけ眉を上げれば。
「ああああああ! ひゃーーーーー!」
 少し離れた所で、フレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)が被弾した。損害は語彙力。大丈夫だ、そんなものは常によく死んでいる。まだ傷は浅いしいくらでも被弾可能だ。推しと推しからの貴重な供給は無駄にしない、それがフレズローゼ・クォレクロニカという少女だった。
 突然響いた声だったが、いつものことなのだろう。そんなフレズローゼの傍らの鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)も彼女の腕に抱えられたリルの相棒ペンギンのヨルも、彼女の奇声にびくりと肩を跳ねさせることすらしない。相変わらず元気で楽しそうだと、微笑ましげでさえあった。
「どう? フレズローゼ、見えている?」
「見える見えるよ白雪ちゃん! いい感じさ! 春と冬の出会いのようで最高に絵になるね!!」
 オペラグラス片手に大興奮。そんなフレズローゼを見て、白雪は春と冬が出会うと物理的にどちらが勝つのか、なんて。のんびりと考えていた。冬が終わると春になるのだから、冬は春に溶かされてしまいそうな気がする――櫻宵が桜ならば、リルは冬の終わりを告げて桜へと春の訪れを繋げる白木蓮の方が近いような気がする。尾鰭にも似ているし――。
「これは作品制作のための資料集めだから! 誤解しないでおくれよ!」
「あぁ、うん……」
 一人で勝手に弁論を始めるフレズローゼの傍で一人考えに沈みそうになった白雪は、思考を切り替え曖昧な返事を返す。
「フレズローゼはそれが趣味だと思ってるから大丈夫よ」
 リルたちの近くにいきたいとぺちぺちと腕を叩いてくるヨルに、「暫らくはあたしと一緒にいてちょうだい」と顔を寄せた。
「戀を叶えて縁を結んでくれるんだって」
 聞いた噂を口にして、リルがそっと胸を抑える。胸の内に鮮やかに咲くのは、桜への嫉妬。リルの戀は叶っている。叶っているけれど、決して解けぬ縁の絲を望んでしまう。運命に、縁に、確りと結ばれているのだと、離れられないのだと、肯定してくれるものが沢山欲しくなってしまう。
 だから、物理的に。尾をはたりと揺らして尾鰭を広げ、抱きしめる様に包み寄り添えば、「戀は叶ったのではなくて? それとも……」と櫻宵が小さく笑みを浮かばせて。
 ――ヒッ。フレズローゼが短く息を飲んだ。推しの過剰摂取で息が止まりそうになる。しかし、この思いの丈を吐き出さねばならない。そのため、彼女は呼吸することを思い出した。
「DA・I・TA・N!!!! リルくんのが意外と積極的なの? 意外!」
 ギリィ。オペラグラスが締め上げられる。
「白雪ちゃんもそう思うよね!?」
 ねっと同意を求めるも、白雪は意外かしらとゆうるり首を傾げてみせる。
 確かに、櫻宵は戦うと強い。積極的に敵の首を刎ねに行く首狩族だ。けれど精神的にはリルの方が男気があるし、いざと言う時に彼を護るのも彼ではないだろうかと白雪は思っているのだ。二人の深いところをよくは知らないが、白雪の目に映って来た二人はそうだったから。
「ピィ?!」
 尾鰭を突かれた人魚が悲鳴を上げれば、可愛い声と彼の櫻がくすくすと笑う。
「桜にヤキモチ妬く事なんてないわ。あたし達の縁だって桜が結んでくれたのだもの」
 だから大丈夫よ。尾鰭をぱたぱたさせて怒る人魚へとそう告げれば、視線が絡んで。
 浮いている分少し高い位置にあるリルの腕が、櫻宵の首へと回されて。
 宝物を大切に包んで、腕の中で護るように柔く抱きしめる。人魚が護る桜龍。
「――桜が導き結んだ縁はもう僕のものだ」
 お揃いの飾りが揺れる耳へと。謳うようにそっと囁やけば、人魚の心を奪った桜龍は「もっと愛を頂戴」と強く抱きしめる。
「そこだ! 押し倒し――なんでもないです」
 兎耳の少女が、思わず拳を握る。静かに向けられた白雪の視線に、スッと居住まいを正す。美少女なので過激な事は口にしていませんよ、なんて顔をして。
 それにしても、と。気を取り直して改めて二人を見つめるフレズローゼの瞳の色はとても柔らかい。
「……あんな顔で笑うんだ」
 二人っきりの時は、あんなにも幸せそうな顔で。自分には、向けられなかった顔で。あげられなかった、幸せ。初めて抱いた淡い想いは桜色。少しだけ苦い、桜味。君も、ボクも。舞い散る桜と一緒に、風に乗って消えてゆけ。新たに違う花が咲くから、その時まで――。
「櫻宵ねぇ、昔こっ酷い失恋してから誰も愛せなくなってたんだよ」
 小さく、ぽつん。落とされた言葉に、想いを見て。
(――ああ、この子は)
「フレズローゼはずっと櫻宵を見守ってきたのね」
「……うん。よかったねぇ……リルくんに愛してもらえてよかったねぇ」
「本当、もう一度誰かを愛せる様になって良かったわね」
 想いは複雑で、感情は簡単ではない。目の前の少女も、桜の木の下の彼らも。けれど、
(昔なんて引きずっててもどうしようもないわ)
「リルが凄いのは勿論だけど、もう一度誰かを愛した櫻宵の事も後で褒めてあげましょ」
 それから、フレズローゼ。あなたのことも。
 白雪の手が桜色の頭を柔らかく撫ぜれば、桜色の髪が僅かに揺れて。
「二人ともお幸せにね」
 心から、そう口にした。
 離れている二人には聞こえはしない。だから、また後でそう言おう。フレズローゼは愛おしげに微笑んで、二人を見つめていた。
 リルは強く抱き締められた分だけ抱き締め返し、意を決して言葉を紡ぐ。縁を強くするために、口にしないといけない言葉。たとえそれが噂でも、試せるものはひとつでも多くと心が求めて。
「――嗚呼、僕の櫻が……桜に攫われて奪われてしまうのかと、思って」
「桜嵐も跳ね除けるくらいしっかり捕まえていて」
 奪わせはしないよ、逃しはしない。君は僕の櫻なのだから。
 ――そう、抱き締めた。抱きしめていた。
 それなのに――。
 桜が、ざあっと吹いて。
 愛しい櫻は腕の中で消えてしまった。
 慌てた様子で駆けてくる足音が聞こえる。
 けれどリルは、空虚となった手を見つめたまま動けない。
「さ……よ……?」
 不安に揺れるその声が、櫻宵に届くことはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助
🌸
クロトf00472と

永遠を共に
斯様な伝説、何とも
我らにそぐわぬこと

私には往くべき道がある
悲しませると解っているから、其処へは誰も連れて行けぬ

先の孤独を慰める思い出欲しさに
少しだけと願い、謙虚を心掛けた筈が歯止め儘ならず
放っておけず詰め寄って押し付け
そう、お節介

…わからない?こんな単純なことが?
人のことばかり見ているから自分が蔑ろ
そして、随分遠慮深いと
思い遣るように微笑もうとした、が

…悪人、

いつか振りほどかねばならぬのに
滂沱の桜、落ちる花弁の如く止まらぬ運命を
どうしてその手は破り、捕える

抗い難さを知っての所業か
迷惑と言えば満足か
波打つ思いのまま檻に立てた爪が
ふと、弛む

…『奪う』?

(名演だとも


クロト・ラトキエ
千之助(f00454)と
人無き、未だ試されて無い桜の下

永遠の…
確かに想像に難い事!
それでも
失うまいと?
手離すなと?
えぇ。仕事なら、熟しましょう


――欲したなら、それが最期

破滅を撒く外道の性
欲したが挙句自ら壊し
…それを何とも思わぬ心
故に
何処までも、独り往く

ずっとそうで、これからもそうだと
…思っていたのに

お節介
希うのは他人の事ばかり
だのに自らは消えようとしている様
全く意味が分からないひと

暴きたくて、触れられず
壊したくて、虐げられず
傷付けたくて、拒めない

全く…

花の帳を破り、掴む手首を強く引く
閉じ込める腕の檻

君が桜に奪われてしまう気がして

落とす囁きは幽か
…君には迷惑に過ぎぬと、理解っていても


(なぁんて!



●花の帳が再び降りるまで
 ざああぁぁ――……。
 花が鳴く。桜が泣く。花の嵐が、歩む二人の間を駆け抜けて。
 永遠を共にすべく、願うべく。人は僅かな希望を希き、そこへ訪れる。
「斯様な伝説、何とも我らにそぐわぬこと」
「確かに想像に難い事!」
 失うなと、手放すなと。それは己たちには想像するのも難しい。夜闇の髪を揺らし、ハハッと小さな笑みを上げそうになったクロト・ラトキエ(TTX・f00472)に、傍らの陽光を持つ男――佐那・千之助(火輪・f00454)がひとつ指を立ててみせる。
 ――桜に聞かれぬようにな。
 ――えぇ。仕事ですものね。
 仕事ならば熟しましょう。例えそれが、男にとって理解に苦しむ事であったとしても。
 辿り着いた伝説の幻朧桜の下、千之助は大木を見上げると僅かに間を挟んでからぽつりと小さく零す。
「私には往くべき道がある」
 ともすれば、桜の音に消えてしまいそうな。
「悲しませると解っているから、其処へは誰も連れて行けぬ」
 けれど、悩むような。そんな声。
 切っ掛けは、ほんの些細なこと。気まぐれ同然の、ことだった。
 男は孤独を慰める想い出を欲し、『少しだけ』を願った。深く踏み込まぬと、謙虚さを装って己を律したはずだった。けれど眼前の黒は、破滅を撒く外道の性。欲したならばそれが最期と自ら壊し、それを何とも思わぬ男。故にクロトは何処までも独りで、これからもそうなのだと疑いもしなかった。――それが、千之助には放っておくことが出来なかった。ただ、それだけの話だ。
「お節介」
「そう、お節介」
 このお節介男が希うのは他人の事ばかり。だのに自らは消えようとしている様。理解が出来ぬと振り払うのは簡単。そう、簡単だったはずなのに。この男は簡単には振り払われてくれないのだ。こんな単純な事が解らないのかと手を捉え、人のことばかり見ているから己が蔑ろになるのだと瞳に映る自分を見ろと目を捉え、そして――。
 本当に、意味が解らない。
 暴きたくて、触れられず。
 壊したくて、虐げられず。
 傷付けたくて、拒めない。
 心の裡を吐き出せば、「……悪人」と言葉が返る。それを悪い男は、お互い様だと笑みを刷く。
 クロトが花の帳を破り、千之助の手首を掴んで強く引く。振り払うことも、出来ただろう。拒むことも、出来ただろう。いつか振りほどかねばならないことも、陽を抱く男は知っている。溢れて零れることしか知らぬ花弁のように止まらぬ運命を、破って掴む男の手の熱が熱くて。
 半ば倒れるように飛び込んできた身体を、クロトは腕の檻に閉じ込めた。檻に爪を立てられるも、知らぬ振りで。
「――君が桜に奪われてしまう気がして」
 幽き声が、千之助の耳朶を擽る。
 迷惑と言えば、黒い男は満足するのだろうか。けれど答えはきっと否。迷惑に過ぎぬと理解っていて、止められぬのは二人とも同じなのだから。
 波打つ思いのまま立てた爪が、微かに弛んだ――。

 ――なぁんて!
 ――名演だとも。
 そう、これは演技に過ぎない。
 けれど。
 ざあ――……。
 花の帳が二人を別ち、陽光を戴く男は姿を消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アヤネ・ラグランジェ
【ソヨゴf00669と】
🌸
その台詞は僕が言うつもりだったのに
ソヨゴがジャンケンで決めましょうと提案してくるとは思ってもいなかったネ
しかも僕が負けるなんて
まったく想定外

プリンセスアヤネってなんだよ?
くっソヨゴが調子に乗ってるネ

でもソヨゴが積極的ということは
僕と縁が深まることを望んでいるのでは?
うんそれは良い傾向だネ

ソヨゴからハグされるなんて初めてのことだ
僕からするのはいつもの事で当たり前なのに
いざされる側になると妙に緊張するネ

していいよ?
と平静を装いながらぎこちなく言ってみる

思ったよりきゅっと抱きしめられる
とても幸せな気持ちに包まれる

しばらくしても黙っているソヨゴに
セリフセリフと耳打ちするよ


城島・冬青
アヤネさん(f00432)と

ふっふっふっ勝利のV!(というかチョキ)
攫われる役はアヤネさんなのです
今回はプリンセスアヤネになってもらいますよ
大丈夫!
私が超格好良く助けますからね

えーと、なんて言うんでしたっけ…?(台詞のメモを確認)じょ・情熱的だぁ…
もちろんやりますとも!
ぇ?ハグもするんだ…いえ、できますよ
ていうかいつもしてるじゃないですか
ここまで言って
ふと自分から抱きしめるのは初めてだったと思い出す

…(照れ)い、いきます
(妙に緊張しつつ優しく抱きしめる)
アヤネさん…いつもより身体が硬い気がする…
いけない
台詞を言わないと

あ、あなたが桜に攫われてしまうかと思って……。

これでいいのかな?

アドリブ歓迎



●いつもと逆
「ふっふっふっ勝利のV!」
 指を二本立てた城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)は、満面の笑みとともに喜びを露わにする。対してアヤネ・ラグランジェ(颱風・f00432)は、負けてしまったパーに開いた掌のまま「その台詞は僕が言うつもりだったのに」と悔しそうな顔を見せていた。『あること』をすると恋や縁が深くなるという伝説の幻朧桜の木。そのあることをする役を、たった今じゃんけんで決めたのだ。
 冬青とアヤネ、ふたりの関係はどちらかと言うと普段はアヤネがリードしている。だからそのあることだってアヤネがするつもりで居た。けれど冬青がじゃんけんを提案し、アヤネは受けて立ったけれど負けてしまった。
 残念だ。けれどそれは、冬青が積極的にアヤネと縁が深まることを望んでいると言えなくもない。
(うん、それは良い傾向だネ)
「今回はプリンセスアヤネになってもらいますよ」
「プリンセスアヤネってなんだよ? くっ、ソヨゴが調子に乗ってるネ」
 悔しい。けど、それ以上に嬉しい。出会いは偶然じゃなかったからこそ、冬青の心が自分に傾いていってくれることが、アヤネにはとても嬉しく思えた。
「えーと、なんて言うんでしたっけ……?」
 冬青が台詞のメモを確認する。と、ポンッと彼女の頬に朱がさした。出来るのかとアヤネが視線を向ければ、「もちろんやりますとも!」と眉を上げて拳を握って見せる姿が可愛らしい。
 ちょっと可愛い言葉も聞けて、しかも冬青からハグまでしてもらえる。いつもはアヤネからしているハグを、彼女から。それも初めて。するのには慣れていても、されるのには慣れていない。
 自分から抱き締めるのが初めてなことに、冬青も気付いたのだろう。再度頬が薄紅に染まって、視線がウロウロと彷徨った。
 緊張する。とアヤネが言ったら、冬青に意外がられるだろうか。ドキドキと胸が高鳴って、手に汗をかいているのがバレないといいなぁなんて、心が少し見栄を張りたがる。
「して、いいよ?」
「……い、いきます」
 平静を装って。けれど、アヤネから出たのはぎこちない声。
 しかし、えいっと抱き締めてきた冬青はいっぱいいっぱいで、アヤネの声には気が付かない。緊張した手を少し震わせながらアヤネの背中に回し、優しく、気持ちを篭めて抱き締めた。
(アヤネさん……いつもより身体が硬い気がする……)
 アヤネさんも気持ちが同じだったのかな。そう思うと、ふわり、自然な笑みが冬青の顔に咲く。
 緊張、していた。けれども、思ったよりもきゅっと抱き締められる感覚にアヤネは幸せな気持ちになり、そっと目を閉じてその幸せに身を委ねる。
 桜の木の下でふたり、ひとつになって。
 お互いの体温を感じながら、花の歌を聞く。
 なんて幸せなひとときなのだろう。
「ソヨゴ、セリフセリフ」
 いつまでもこうしていたいなと思っていたところ、声を抑えてひそひそと耳打ちされたアヤネの言葉に、ハッとなって。
「あ、あなたが桜に攫われてしまうかと思って……」
 緊張して、恥ずかしくて。照れがピークになって、言い終えたらぎゅっと目を閉じてしまったけれど、ちゃんと言えた。
 達成感に、胸にふわりと桜が咲いた。
 しかし、小さな幸せは唐突に終わりを迎える。
「……え?」
 腕の中から、アヤネの気配が消えた。
 攫われるかも、なんて。冗談だったのに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杣友・椋
ミンリーシャン(f06716/リィ)と

桜が桜を匿う――
そんな不思議な話があるとはな

足を運んだ先は伝説の幻朧桜
風に舞う薄紅
傍らには永く一緒に居たいと思う奴
あの時の約束がもう叶うなんて

……綺麗だな
咲き誇る花を見上げ素直にそう零した後
幾秒かの、沈黙

リィ、
彼女の耳許に顔を寄せ
唇が描くあの台詞
「おまえが、桜に攫われちまうかと思って」

彼女が逃げてしまわぬよう
永い時を経ても傍らに在れるよう
強くきつく抱き締めた
とくとくと伝わる彼女の鼓動
きっと俺も同じように脈打っているのだろう

俺も、愛してる
おまえの言葉に応えるように俺もそう紡ぎ
……ああ、離したくねえな、
そんな我儘を、願いを
心の内で言ちる

失いたくねえよ、こいつを


ミンリーシャン・ズォートン
🌸♢
椋(f19197)と

――伝説の幻朧桜
嬉しいな、前は全然ゆっくり桜を見れなかったから……
彼と次はこの世界の桜をゆっくり見ようと話してたのがもう叶っちゃった

綺麗だと溢す彼の言葉に頷いてそうだね、と優しく微笑み

花弁が舞う姿を見つめ続けるけれど胸中ではもうずっと鼓動が高鳴ってるの……
彼が私の名前を呼べば緊張しつつもぴくりと反応して
いつもより強く抱き締めてくれる彼に凄くドキドキしてしまい

椋――愛してる

緊張しながらも
懸命に紡いだ言葉

椋と縁が深まりますように
もっと強く、惹かれ合えますように

そう願いながら彼の名を呼び向かい合って彼の頬に手を添える
彼の瞳を見つめながら瞳を閉じて――

そこで私の意識は途切れる



●約束
 今度はゆっくりとこの世界の桜を見よう。そう話したのは、つい先日の事。まだそれほど経っていないのに、その約束がもう叶っちゃったねと傍らに佇む竜の青年――杣友・椋(涕々柩・f19197)を見上げ、ミンリーシャン・ズォートン(綻ぶ花人・f06716)は柔く微笑んだ。以前この世界に訪れた時は、ゆっくりと見ることが出来なかった。けれど今日はこうして彼と二人きり。何処で二人きりで過ごしても嬉しいけれど、綺麗な物を見て、ともに分かち合えるというのはこの上なく嬉しくて。
 傍らに永く居たい。その想いはお互いの胸に。
 瞳いっぱいに薄紅を映し、互いに同じ事を想う、愛しいひととき。
「……綺麗だな」
 桜が桜を匿う等と不思議な話もあるものだと、来る前に考えていた椋だったが、雄大な桜の大木を見上げれば素直に感嘆が溢れた。素直な彼の言葉を耳にしたミンリーシャンもそうだねと頷いて、優しく微笑みを深くする。
 はらりひらりと舞う桜。その桜を二人で見上げ、暫くゆっくりとした時が流れていく。世界から切り離されたように、時間が解らなくなりそうなひととき。
 一緒に桜を見る。ただそれだけなのに、ミンリーシャンの胸は高鳴ってしまう。今まで、二人っきりの時はどうしていたのだっけ? 彼は今、何を思っているのだろう。
 横目でチラリ、伺おうとしたその時。
「リィ、」
 椋が身を寄せて耳元で名を呼んだものだから、ミンリーシャンはびくりと反応して「ひゃいっ」と声が上擦ってしまった。意識しているのがバレバレなようで、とても恥ずかしい。
「おまえが、桜に攫われちまうかと思って」
 小さな笑みと共に唇が描くのはあの台詞。
 同時に抱き寄せられて、ミンリーシャンは椋の腕の中。
 彼女が逃げてしまわぬよう。永い時を経ても傍らに在れるよう。沢山の思いを篭めて強くきつく抱きしめれば、腕の中から伝わる鼓動。高鳴る鼓動は、お互い様。椋にミンリーシャンのドキドキと跳ねる鼓動が伝わっているように、ミンリーシャンにも椋の鼓動は伝わっている。けれどそれも、嫌じゃない。どうしようもなく、心地よいと思えてしまう。
「椋」
 語尾が震えた、緊張の伝わる声。
「――愛してる」
 大好きを沢山、精一杯。彼と縁が深まりますように。もっと強く惹かれ合えますようにと想いを篭めた。もっと沢山、彼にこの想いが伝わって欲しくて。
 好き、と告げたあの日。あの時は黒猫が居て、二人っきりではなかった。けれど今日は二人っきり。愛しくて大好きなあなたと二人、桜の木の下。
「俺も、愛してる」
 静かに、けれど熱の籠もった声。
(……ああ、離したくねえな)
 我儘を、願いを、椋は心の中だけで零した。桜花と同じ色に染める彼女の姿愛おしくて、このままずっとこうしていたいと願ってしまう。彼女が嫌がった時、離してあげられる自信などない。
 椋の頬にミンリーシャンの手が添えられ、互いの瞳に互いを映す。
 そしてそっと、ミンリーシャンは瞳を閉ざせば二人の影が更に近寄って――。
 ――失いたくねえよ、こいつを。
 そう、思ったばかりだったのに。
 桜花と頬への僅かな熱だけを残し、ミンリーシャンは忽然と姿を消したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユキ・パンザマスト
🌸♢【WIZ/セラ(f02012)と】

流石は伝説の桜! 綺麗すねえ!
花より団子? まあユキもですが! 
歩みと視線から心遣いを感じる。
大丈夫、遅れませんとも。

人攫いは戴けませんが、爛漫の桜は好きですよ。
(潔く散る、春に取り遺されぬ花)
(願うとするなら)
……あはは。
攫われる程、儚くないですってば。
手の温みと、いつもと違う目線の高さ、
戯れた微笑が、面映ゆい。
(春と共にある桜のように、大切な縁と同じ時を歩みたい)
(例えば、春陽のような少年と)
セラも、はぐれないよう─

桜風に、意識が眩む。
星宴の迷宮で、操られた己を連れ戻した、花に似て、
(否、あれはもっと優しかった)
……セラ?
触れていた手が、空を切る。


セラ・ネヴィーリオ
♢【WIZ/ユキさん(f02035)を誘って】

お花見!きれーい!
…お団子の屋台とかあるかなあ
賑わいと桜も楽しみつつ…一番の目的は縁が長く続くまじないの噂
時折彼女を振り返り歩調を合わせて進む

件の桜に着いたらお願いを
…この前の星祭では『彼』を喪う夢を見た
僕に残るのは何?と思ったけど、ユキさんが最後まで一緒に戦ってくれたから
いつかの別れ――その時が来たら、彼女や、団地の人たちとの縁が残るといいなあって思うんだ
これからも一緒に過ごせます様にと願いを込め、片膝を着いたら彼女の手をちょっと拝借
「ユキさんが、桜に攫われちゃいませんようにっ」
祈りを悪戯めかした笑みで隠したら、桜風

…消えた姿に、喪失の幻寒



●花と団子より、
 ユキ・パンザマスト(鵺鳴・f02035)とセラ・ネヴィーリオ(トーチ・f02012)は、伝説の幻朧桜へ向かって歩いていた。ここまでの道のりも幻朧桜で溢れてはいるが、一際大きな桜が見えてくれば、二人はワッと歓声を上げる。
「きれーい!」
「流石は伝説の桜! 綺麗すねえ!」
 大きな大きな桜の木。その下で団子を食べたなら、とっても美味しそうな気もして。団子の屋台はないかなとセラがキョロリと探してみれば、花より団子? と楽しげにユキが笑う。「まあ、ユキもですが!」と明るく声を上げれば、二人の笑い声が重なって。
 その行く道で、時折セラが振り返り歩調を合わせてくれている事に、ユキは気付いていた。身長と性別が違えば、足の長さも動かす速度も違う。小さな心遣いに、桜花が胸に落ちてくるような、ふわりとした温かな心地を覚えた。
 二人で楽しく歩けば、伝説の幻朧桜の下に着くのもあっという間。
 大木の前にどちらからともなく足を止め、そして仰ぎ見る。
 なんと願いを籠めようか。二人がずっと一緒に居られますように? それも、何か違う気がして、二人は少しの間桜を眺めて過ごした。
 セラの胸に浮かぶのは、つい先日の事。星祭で、『彼』を失う夢を見た。彼が居なくなったら、自分には何も残らない。そう思っていたのに、傍らの彼女が――ユキが最期まで一緒に戦ってくれたから、残るものが他にもあるんじゃないかって。そう、気付かされた気がした。別離の日は、きっと来る。けれどその時に、彼女や、セラとユキが世話になっている団地の人たちとの縁が残るといい。だから、今は。
 ――これからも一緒に過ごせますように。
 別れを考えるのではなく、今側に感じている人たちとのこれからのこと。一緒に過ごせますようにと願い込め、セラは地面に片膝を着く。
「セラ……?」
 どうしたんです? 不思議そうな視線には笑顔を返して、掬い上げるようにして彼女の手を取った。
「ユキさんが、桜に攫われちゃいませんようにっ」
 祈りと、願いを篭めて。
 悪戯めかした笑みで隠して。
 重たすぎない春風のように囁やけば、ぱちりと瞬いた猫目石が笑みを刻む。
「……あはは。攫われる程、儚くないですってば」
 言葉が遅れたのは、手の温みと、いつもと違う目線の高さのせい。
 ユキは、爛漫の桜は好きだ。潔く散る、春に遺されぬ花。けれど、この大正浪漫の世界に咲く幻朧桜は、ひととせを通して咲き乱れている。だからこの冬の季節であっても、他の世界から来た者には春を感じる事が出来る。傍らの、春陽のような少年に似た香りがした。
(願うとするなら――、大切な縁と同じ時を歩みたい)
 ひととせ咲く桜は、冬でも春の陽を感じさせてくれる少年のようで。だから素直に、そう想う。置いていかれず、置いていかない。そうあれたら良いなと少女は願う。
 ぶわりと舞う、桜花弁。
 優しく頬に触れたそれは、星宴の迷宮でユキを連れ戻してくれたセラの白花のよう。
(否、あれはもっと優しかった)
 ――ざああぁぁぁぁ……――。
 桜が嵐のように二人を包んで――。
「わ……!」
 思わず、セラは目を瞑る。
「ビックリしたー! ユキさん、大丈夫だった?」
 触れていたはずの手が、宙を掴んで。
 先程まで、確かに触れて居た姿はどこにも無くて。
 指先に感じていた熱が、一気に冷えていく。
「ユキ、さん……?」
 喪失の幻寒が、胸を中心に広がっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霧島・ニュイ
ずっと一緒に居られる幻朧桜かあ…。もっと、前に行きたかったよ
ねえ、リサちゃん

元は羅刹の少女
自ら命を絶った少女を、愛しさと寂しさと憎さで人形に変えた
何かに絶望していた彼女は、僕と一緒に生きてくれなかった

いつも一緒の人形を抱きしめる
……とても綺麗だね、リサちゃん
櫻も、君も
こうなる前に一緒に来たかった
僕と一緒、って誓ってほしかった
生きた君にずっと一緒にいてほしかった

ねえ、ずっとずっと一緒だよ…?
君が物言わない人形でも…ずっと動かしてあげる
僕の気が済むまで、眠らせてあげないからね

腕に力を込める
彼女の短い髪の毛先を掬って
リサちゃん…
櫻に攫われないでね?気が気じゃないよ

風が吹いて
彼女は消えていたけれど



●ずっとずっと一緒だよ
 伝説の幻朧桜の下から見上げれば、それは空を覆う桜色の天蓋のよう。
 その桜の下には、一人の姿。
「ずっと一緒に居られる幻朧桜かあ……。もっと、前に来たかったね」
 霧島・ニュイ(霧雲・f12029)は、誰かに話しかけるように言葉を零した。否、話しかけているのだ。「ねえ、リサちゃん」と腕に抱いた少女人形へと。
 ニュイの腕に抱かれた『リサちゃん』は、椿の君。頭に椿の花を戴いた少女人形だ。身丈は低く、可憐で、愛らしい。けれどその人形は、元は羅刹の少女だった。
 何かに絶望していた彼女は、自らの命を絶ってしまった。ニュイを残して、一人で。ニュイと一緒に生きてはくれなかった。世界が暗闇に閉ざされたような絶望と、それから愛しさと寂しさと憎さとで、ニュイは彼女を人形へと変えてしまった。
 ぎゅうっと人形を抱き締める。こうなってからの彼女は、ニュイといつも一緒に居てくれる。物静かで何も言わない、けれど可愛さは変わらない。
「……とても綺麗だね、リサちゃん」
 この景色も、君も。可愛い君は、椿だけでなく桜だって似合う。
 ひらりと舞った桜の花弁が、人形にくっついて。それを丁寧に指先で摘んだ。
 本当は、こうなる前に一緒に来たかった。生きている君に、ずっと一緒に居るって誓ってほしかった。生きた君に、ずっと一緒に居てほしかった。
 けれどもう、君は居ない。
(……ううん、違う)
 君は、居る。
 物言わない人形になってしまったけれど、こうして側に。
「ねえ、ずっとずっと一緒だよ……?」
 君をずっと動かしてあげる。気が済むまで、眠らせてあげない。だって、君が勝手に死んでしまったのがいけないのだから。
 ずっと一緒に居てね。ずっと一緒に居ようね。
 愛を囁くように口にして、人形を抱く腕に力を籠める。頭を優しく撫で、短い髪先へと流し、毛先を掬って手遊んで。
「リサちゃん……」
 その耳元に、言葉を落とす。
「櫻に攫われないでね? 気が気じゃないよ」
 攫わせる気もないけれど。
 そう、思ったのに。
 ――ざああぁぁぁぁ……――。
 桜が、鳴いて。
 彼女の姿も、腕の中から消えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
【エレル】

いいのかい?
賢い君にそんな、…勿体ないことさせちゃって
僕は光栄さ
雰囲気たっぷりにいこうじゃない
良いコイバナには良い雰囲気が必要だからねぇ

桜の方を向いて腕を広げりゃ、まるで桜を浴びてる様だ
燃える様な花の色ってのは
目を閉じたって色が見えるものなんだよ

さぁ、どっからでも来たまえ、エンジくんたち

きっと僕は君に背を向けていて
僕を縛る赤い糸は、指から始まって、腕、胸へと広がって
息が苦しくなる
僕はこの感覚に似た感情を知ってる

流石、上手いね賢い君

そんで
おや?と思うのさ
背中があったかくなったからね
その先はあんまり覚えてないな

エンジくんは、僕と賢い君のどっちを抱きしめたんだろうね
ヨシュカにはどう見えた?


エンジ・カラカ
【エレル】

🌸

ヘェー、ホォー、フーン
賢い君が一肌脱いでくれるって
アァ……妬けるなァ
ヨシュカは賢い君の勇姿を見ててくれ

コレが伝説のサクラ
懐から賢い君、相棒の拷問器具を取り出す
賢い君の一部。真っ赤な赤い糸サ

映画やドラマで良くある花弁がぶわーって
で、なんだっけ?
「ロカジンが桜に攫われるかと思って。賢い君もそう言ってる言ってる。」
アァ……サクラが多いなァ……。
視界がサクラ一色。
危うくロカジンをキュッてしてしまいそうになった。
キュッ

ロカジンに絡まる賢い君
妬けるネェ。妬けちゃうネェ。
「ロカジンが桜に以下略」
って今度はコレがキュッとしよう。
キュッ

たぶん生きてる。
誰がとは言わない。
アァ……サクラが邪魔ダ。


ヨシュカ・グナイゼナウ
【エレル】
👀
お二人が伝説の桜の樹の下で『あること』を実行するという事ですので、観察の役目を仰せつかりました。伝説のってなんだか格好良いですよね。つよそう。
ところでデバガメってなんでしょう?

桜の花弁舞い散る中、見目麗しい殿方が二人。意味ありげな雰囲気を醸し出して
む、これが噂のぼーいずらぶ…(学習)ボーイズではない?おっさ…失礼!

くるくるくるくる赤い糸がロカジさまを…抱きしめるというか縛ってませんか?
え、首のあたりは流石にまずいのでは
わ、花弁が沢山でよく見えない…!

花吹雪が収まると??ロカジさまだけ…?エンジさまは…まさか桜に、攫われた…?
ううん、わたしには良く理解りません



●雁字搦めの愛
「今日は勉強させていただきますね……!」
 瞳をキラキラと輝かせたヨシュカ・グナイゼナウ(一つ星・f10678)は、オトナの二人を見上げた。今日は、エンジ・カラカ(六月・f06959)とロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)が伝説の幻朧桜の下で『あること』を実行するのだと聞いている。伝説の、とついているのだ。凄いことに違いない。その観察の任務を任されたのならば、確りと務めなくてはと人形の少年は気合十分な様子で。
 恋とは何か。愛とは何か。人形にはよく解らない。ついでに、出歯亀という物もよく解らなかったけれど、見ていれば解るのだろうと白い尾のような髪を揺らした。
「ふふ、任せてよ。いいとこ見せちゃうからさ」
「ヘェー、ホォー、フーン」
 片頬を上げた笑みを見せるロカジ。しかし、傍らのエンジの様子が少しおかしい。どうしたんだい? と問うてみれば。
「賢い君が一肌脱いでくれるって」
「えっ、いいのかい? 賢い君にそんな、……勿体ないことさせちゃって」
 僕は光栄さ。賢い君に大胆な事をされたら、恋に落ちてしまうかもしれないね。
 見上げてくるヨシュカの視線が、右に左に移動する。なるほど、オトナな会話だ。勉強になります。
「アァ……妬けるなァ」
「賢い君に? それとも僕に?」
 雰囲気たっぷりに、妖艶に。笑みを向ければ、三日月が笑う。
 それじゃあ行ってくるよ。賢い君の勇姿も見ててくれとヨシュカを残し、二人は桜の木の下へと歩いていく。ヨシュカは調べておいた出歯亀の作法に則って、すぐ側の木に隠れて半身を出し、二人の背中を見守った。
「コレが伝説のサクラ」
 桜を見上げ、そして目を閉じて。両腕を大きく広げて桜を感じるロカジ。その後ろで、何故かエンジが懐から真っ赤な糸を取り出している。
「燃える様な花の色ってのは、目を閉じたって色が見えるものなんだよ」
「ヘェー」
 気のない返事をし、くるくると赤い糸を手繰って。
 桜の花弁が風に舞う。ぶわっと舞った花弁を、ロカジの足元で踊るようにくるりと回ってみせる旋風。近くの木からこっそりと伺うヨシュカの目にも、それは美しいものに映る。
 見目麗しい殿方が二人。そして意味ありげな雰囲気。
(む、これが噂のぼーいずらぶ……)
 ティン! 学習した。やはり人の行動を見ると色々と勉強になる。書物や噂等で聞いたものと、実際に自身の目で見たものとでは感じ方が違う。
(けれどボーイズではない? お二人はおっさ……)
 二人には聞こえていないのだが、失礼なことを考えてしまったと何となく両手で口を抑え、ヨシュカは出歯亀を続けた。
「ロカジンが桜に攫われるかと思って。賢い君もそう言ってる言ってる」
 ロカジの背後から、音もなく絡む、赤い糸。それこそが、先程から二人の会話に上る『賢い君』。エンジの相棒の拷問器具。その一部だ。
 賢い君は薬指から、二人の運命を繋ぐように絡まって。腕へ、胸へと広がっていく。
(指からだなんて、賢い君は情熱的だね)
 くるくるくるくる、赤い糸がロカジを抱き締め……と言うより、緊縛していく。くるくるくる、巧みに手繰られる糸は美しくて、桜の色の中でも赤がとても映えていた。
(え、首のあたりは流石にまずいのでは……!)
 しゅるっと絡んだ赤い糸。
 ふわりひらりと舞う桜の薄紅。
 視界いっぱいに広がるそれが、多いなァなんてぼんやりとエンジが思ったその時――ロカジの息が苦しくなった。ロカジはこの感覚に似た感情を知っている。苦しくて切なくて、苦くて甘くて、息が出来なくなるやつさ。
 ――キュッ。
 ロカジをキュッとしてしまったけれど、キュッとしきってはいない。セーフ。だが、傍から見ているだけのヨシュカは少しハラハラした。
「流石、上手いね賢い君」
 ロカジに絡まる賢い君。首に絡まる赤は情熱的で、それを見つめる狼の瞳は弧を描く。
 妬けるネェ。妬けちゃうネェ。
 だからロカジにぴたっとくっついて。
 重なるように触れた熱に、男が不思議に思って振り向く前に。
「ロカジンが桜に以下略」
 ――キュッ。
 エンジは賢い君に倣って、情熱的にキュッとした。大丈夫、殺しはしない。拷問器具を上手に使うには、殺す寸前の見極めも得意でないと。そうじゃないと、賢い君とは上手く付き合えない。
 そうして、そこで。ロカジ・ミナイの意識は暗転した。
 ざああぁぁぁぁ……――。
 桜が、鳴く。吹き荒れる。ロカジとエンジを包んで、視界を薄紅で埋め尽くす。
 ――アァ……サクラが邪魔ダ。

 ロカジの身体は大きな音を立てて地面に倒れ、その衝撃で意識が浮上する。
 地面に肘を付いて頭を振れば、その視界に駆けてくる少年の姿が映り込んだ。しかし、傍らに居たはずのエンジの姿も、ロカジを縛っていた賢い君も消えてしまっている。どれだけ視線を巡らせても見当たらない。彼らはどこにもいなかった。
 けほっと咳き込む喉に手を当てて。あーあーと少しだけ発声練習をし、少年が近付くのを座したまま待つ。
「エンジくんは、僕と賢い君のどっちを抱きしめたんだろうね」
 ヨシュカにはどう見えた?
 駆け寄ってきた少年に尋ねれば、少年は生真面目に応える。
「ううん、わたしには良く理解りません」
 まだまだ勉強が足りないみたいですね。
 などと言っている場合ではない。目の前で一人消えているのだ。
「それよりもロカジさま! エンジさまは……!?」
「恥ずかしくなったのか。それとも賢い君とランデブーか……どちらかじゃないかい?」
「ええ!?」
 攫われたのでは!?
 桜の鳴く音の中、少年の声が高く響いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・ゆず
恋、とかはわかりませんが、どこかへ行ってしまいそうな方を、知っています。
その方をこの世に引き止めることが出来るのなら、わたしはおまじないは、やっておきたいな。そう、思いました。

あの方から頂いた、小さな薔薇のお守りをぎゅうと握りしめて
「貴方が、桜に攫われて。わたしの知らない何処かへ消えてしまうのではないかと思って……」
目を瞑り、握った手を胸に当てて

……これで、いいのかな?
これで、おまじないはおしまい?
これで、縁が強いものになる?
……実感、わかないな。でもおまじないってそんなものだよね

――ざぁ、と。
視界が桜色に染まった。そんな気がした。
嗚呼、眩しくて、綺麗で、かぐわしくて。
自分が、みじめだ。



●おまじない
 ひとは、願いと言うかも知れない。
 ひとは、呪いと言うかも知れない。
 ぎゅっと凝縮した気持ちを篭めたら、何になるのだろう。
 ひとの不幸を願ったのならば、呪い。自分や誰かの幸せを願ったのならば、呪い(まじない)。
 小さな薔薇のお守りを、ぎゅうと御園・ゆず(群像劇・f19168)は握りしめる。薔薇のお守りをくれた『あの方』の事を想うこれは、おまじない。恋とかは解らないから、恋のおまじないではなくて、ただあの方をこの世に引き止められるようにと願う、おまじない。どこにも行ってしまわないように。
 お守りを包むように握りしめた両手を胸に当て、目を瞑る。
「貴方が、桜に攫われて。わたしの知らない何処かへ消えてしまうのではないかと思って……」
 どこにも行かないで。消えてしまわないで。
 わたしの気持ちが、全てお守りに籠もりますように。
 ……これで、いいのかな?
 どれだけそうすればいいのか、解らない。これで、おしまい? これで、縁が強いものになる? 実感は沸かない。けれど。
(でもおまじないってそんなものだよね)
 叶った時やそう思えた時に、あの時のおまじないの結果だと思ったりするものなのだから。叶うといい、そう思う。そうあればいいと思う。ほんの少しの効果でもあるのならば、縋りたい。都合のいい神様が居ない事は知っている。ゆずの世界に居るのは、かみさまだけ。けれど違うものなら、ゆずの願いを叶えてくれるかもしれない。酷い日常の外には沢山の世界があって、沢山の伝説や物語で溢れている。酷い人だけじゃなくて、優しい人も沢山居ることを知ってしまったからこそ、日常が苦しくて。けれどだからこそ、かみさまじゃなくて、ゆずに優しい何かが居るかもしれない。物語に出てくるような妖精たちが、力を貸してくれるかもしれないのだ。
(――桜の精が出てくる本、読んだことあったかな)
 帰ったら、図書館にでも探しにいってみようかな、なんて。そう思った時。
 ――ざああぁぁぁぁ……――。
 桜の花弁が強風で舞って。視界が一面、桜色に染まる。
 嗚呼、眩しくて、綺麗で、かぐわしくて――自分が、みじめだ。
 嗚呼、なんて正反対。
 そばかすだらけの顔をぎゅっと顰める。
 そうしてから、やっと気付くのだ。
「……え?」
 握りしめていたはずの、大事なお守りが消えていることに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

東雲・咲夜
【藤桜】

年中桜が見られるだけで不思議やなぁ思うとるのに
伝説の幻朧桜…特別の中の特別、みたい
こんにちは…どっしり構える幹を優しく撫で

桜を愛でる彼は昔からずぅと違えへん
整った顔立ちは美しく何処か儚げ
幾度も見惚れてまう
よぅく見れば其の眸には内に秘めたるもんが滲んどる

いつか彼が消えてしもたら?
猟兵である限り、明日、今日、此の瞬間も可能性は拭えへん
いつも傍にいる――
其の言葉に縋る己が心を震わせる

居失く、ならないで――
自然と額が寛い背へ凭れていた
あっ…堪忍え、あんまりそうくんが綺麗やから
桜さんに攫われてしもたら…なんて思て

櫻霞が謡い、貴方が消え、た
そうくん?どこ…いや、そうくん…!
桜色の視界は暗澹へ堕ちた


朧・蒼夜
【藤桜】

「🌸」

これが幻朧桜?とても綺麗だな
幼馴染の彼女と綺麗に咲く桜があると聴き観に来ていた
嬉しそうに桜を見る彼女を微笑み見守る
桜…彼女にとっても俺にとっても意味のあるモノ
桜の馨、優しく美しく咲く桜の様な咲夜
俺の妹も桜の様な子だった、初めて会ったあの日にまるで桜に攫われた様に居なくなった
ふっと彼女を見る
桜を愛し愛される彼女もいつか妹の様に攫われ俺の前から居なくなるのではと
不安…哀しみ…

ふと包まれる暖かいさ
あぁ、俺は彼女を失いたく無い
例え一番では無くとも桜に奪われたくはない

俺も君が桜に攫われると思って

そっと優しく強く抱き締める

『愛してる』ふと、妹の声が聴こえた
それに気づくと視界が桜へと塞がれる



●桜の呼び馨
 満開に桜花を咲かす大木。年中桜が見られるだけでも不思議なものなのに、更に『伝説』が付いた幻朧桜。
(特別の中の特別、みたい)
 好きの中の大好き、みたいな。
「これが幻朧桜? とても綺麗だな」
 この寒い季節でも大正浪漫の世界には綺麗に咲く桜があると聞き、一緒に見に来た幼馴染の朧・蒼夜(藤鬼の騎士・f01798)の声を聞きながら東雲・咲夜(詠沫の桜巫女・f00865)はそっと幻朧桜へと手を伸ばした。
「こんにちは……」
 どっしりと構える逞しい幹を優しく撫で、柔らかく声を掛けながら見上げれば、風で枝が揺れる。小波のような音を鳴らす姿が挨拶を返してくれているように思え、咲夜の笑みがいっそう深くなって。
 その咲夜の嬉しそうな横顔を、蒼夜は今日も穏やかな気分で見守る。桜は、咲夜にとっても蒼夜にとっても意味のあるもの。縁深きもの。
 優しく美しく咲く桜のようだと、桜に寄り添う咲夜を見つめる。その姿に、蒼夜の妹もまた、桜のような子だったと思い起こす。初めて会ったあの日に、まるで桜に攫われたように居なくなってしまった。そのせいだろうか。彼女もいつか、妹のように蒼夜の前から居なくなるのではと、心が不安で揺れてしまう。桜とともにある彼女はとても美しいのに、哀しみと不安が胸に押し寄せてくるのだ。
 表情には努めて出さぬようにしていた蒼夜だったが――。
(そうくん……?)
 桜を愛でる彼は、昔から変わらない。整った美しい顔立ちで、それでいて何処か儚げに桜の前に立つ。幾度だって見惚れてしまう姿だけれど、どうしてかいつもその儚さが気になってしまう。其の眸に、内に秘めているものが滲んでいるからだろう。
『いつも傍にいる――』
 いつも、そう言ってくれる彼。その言葉が嬉しくて、甘えてしまう。
 けれど。
 ――いつか彼が消えてしもたら?
 猟兵である限り、明日、今日、此の瞬間も可能性は拭えない。況してや他に、何か、彼を動かすものがあったとしたら?
 心の泉に、波が立つ。不安はひとつ浮かべば、泉に湧く気泡のようにポコリポコリと浮かび上がって。
「居なく、ならないで――」
 蒼夜の背へと縋るように身を寄せ、額を預ければ。
「咲夜……?」
「あっ……堪忍え、あんまりそうくんが綺麗やから……桜さんに攫われてしもたら……なんて思て」
 彼女が与えてくれる熱。背へと感じた熱に、哀しみが、不安が、ふわりと溶けて消えていく心地がした。
(あぁ、俺は彼女を失いたく無い)
 改めて、そう思う。例え一番では無くとも、桜に奪われたくはない。
「俺も、君が桜に攫われると思って」
 彼女へと向き直り、そっとその身体を抱き締める。すっぽりと腕に収まってしまう愛しい身体を、桜にも厄災にも奪わせはしないと強く抱き締めた。
 その時――『愛してる』。そんな声が、蒼夜の耳に届いた。
 妹の声だ。一度しか会った事がない筈なのに、何故だかそう思え――。
 ――ざああぁぁぁぁ……――。
 桜吹雪が駆け抜けていく。
「……そうくん?」
 肌に当たる桜のヴェールが、さらりと通り抜けると――触れていた熱が消えている。
 力強く抱いていた腕も、嬉しい言葉をくれる声も、何もかもを桜が浚っていった。
「どこ……いや、いやや。そうくん……!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディイ・ディー
友人の志桜(f01141)と

やっぱり桜は良いものだな
綺麗だ。綺麗なんだが、妙な予感がする
けれど振り返る志桜の姿と彩が櫻と重なって
その光景に口許が綻ぶ

そうだ志桜、手を出してくれるか
妖刀に巻いている、蒼い封呪組紐の戰紗を解き
お前は桜と同じ彩だから見失いそうになるんだ、と告げて
彼女の手首へ戰紗を蝶々結びにする

ほら、これで桜の中でも見つけられる
何があるか分からないからお守り代わりだ

不意に花弁が舞う
……本当に、お前が桜に攫われるかと思った
思わず腕を伸ばして手を握るも違和を覚え

――志桜?
当たった予感に舌打ちして
攫われたくないなら抱き締めてれば良かったのか?
手袋越しでも確かに一度は触れた掌を思い、頭を振った


荻原・志桜
🌸
ディイくん(f21861)と一緒に

思えば幻朧桜の傍に行ったことってなかったかも
舞う花弁を眺めながら大木の傍まで寄り
できればお花見とかしたかったね、くるり振り返って

うん?なぁに、どうしたの?
問えば結ばれる、自分にはない青に瞬いて
お守り…?
むぅ、心配性だなー…なんて、ウソだよ
ありがとう!お言葉に甘えて少しだけ借りておくね
例え何かあっても、これがあったら安心だ!

ふと、視界が薄紅で染まる桜吹雪
とられた手に驚きつつ
攫われるなんてまさかと彼に笑う
手袋越しに伝わる暖かさに、安心させようと握り返すはずだった

え――…
あれ、ディイくん…?

先ほどまで目の前にいたはずの彼はいない
手首で揺れる青だけが寄り添っていた



●蒼と桜
 空を見上げれば、ディイ・ディー(Six Sides・f21861)の瞳と同じ色に薄紅が舞って。ディイくんの色だなんて思いながら、荻原・志桜(桜の魔女見習い・f01141)は赤鉄色を宿した青年の何歩か前を歩いていた。
 空と、舞う桜。天色と、桜色。彼の目に映った自分を見ているようだな、なんて。考えてはくすくすと笑みを零す。その志桜の後ろを、ディイはのんびりと歩く。矢張り桜は良いものだ。満開の花は美しく、ひらりと花弁が風に乗る姿も可憐。そして、綺麗だ。
(――綺麗なんだが、妙な予感がする)
 心の奥底でぞわりと何かが蠢くような、言葉に表せない予感めいたもの。その警告するような気持ち悪さに思考を沈ませかけたところで、志桜がリボンとレースたっぷりの魔女帽を抑えながらくるりと振り返る。動きに合わせてさらりと揺れる、彼女の桜色の髪。彼女の持つ彩が幻朧桜と重なって、ディイは僅かに柔らかく目を細めた。
「できればお花見とかしたかったね」
 こんなに綺麗なんだもの。
 初めて近寄った幻朧桜は、大きくて綺麗で。お仕事じゃなければ花見が出来たのにと零されるのは少し残念そうな響き。仕事の後にすればいいと笑みを返したディイは志桜の隣へと並んで。
「そうだ志桜、手を出してくれるか」
「うん? なぁに、どうしたの?」
 不思議そうにしながらも怪しむことはなく、素直に手を差し出す志桜。
 その腕に海の彩に似た組紐を巻いていくディイ。
「ほら、これで桜の中でも見つけられる。何があるか分からないからお守り代わりだ」
「お守り……?」
「お前は桜と同じ彩だから見失いそうになるんだ」
 妖刀に巻いてあった『戰紗』を解いて、志桜の手首へとしっかり蝶々結びにする。その姿を見て、志桜は笑みを深くした。
「むぅ、心配性だなー……なんて、ウソだよ。ありがとう! お言葉に甘えて少しだけ借りておくね」
 軽く頬を膨らませて見せるが、すぐに空気を吐き出して。パッ笑顔を咲かせた。
 これできっと、例え何かあっても大丈夫。これがあれば安心。ディイくんのお守りだなんて、心強いな。
 戰紗の蒼が揺れる手首を「どう、似合う?」と見せて笑えば。
 ――ざあ。
 不意に花弁が舞い、警戒するようにディイは咄嗟にその手を取った。
「……本当に、お前が桜に攫われるかと思った」
「攫われるなんてまさか。ただの噂だよ」
 桜の下には死体が埋まっている。桜に攫われる。そんなの、どこにだってある噂だ。本当にそんな事が起きたなんて話は滅多と聞かないことだろう。
 けれどお守りをと戰紗を寄越すくらいには警戒をしているディイを安心させよう。そう思って、手袋越しに伝わる熱を握り返そうとした――その時。
 ――ざああぁぁぁぁ……――。
 目を開けていられないくらい、桜吹雪が二人を包んで。
「――志桜?」
 天色が見開かれる。
 触れていた形と熱だけを残す掌。その先に、笑っていたはずの彼女が居ない。
 予感はしていたはずだ。それなのに、彼女を攫わせてしまった。
(攫われたくないなら抱き締めてれば良かったのか?)
 自然と零れた舌打ちを気にすること無く、手袋越しでも確かに一度は触れた掌を思い、頭を振る。勝負師ならば、一手も二手も先を考えておくべきだったと後悔の念が混ざる。例えそれが、どうしようもないことだったとしても。
 瞼の裏にはまだ、彼女の手首で揺れる蒼が残っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
🌸
【狼兎】

人を愛した、桜の樹…
どんなものにも終わりはあるけど

植物使いとしても
花を身に宿すオラトリオとしても…
少しでも理解してあげたい
寄り添ってあげたい

桜にそっと手を伸ばそうとして…
背後からの衝撃に一瞬きょとんと

いや確かにそういう前提だけど
合図無しはやっぱびっくりするというか…!(心の声)

ふぇっ?
えっ、あの…紫崎君…?

一人でわたわたしてたけど
聞こえた言葉といつもと少しだけ違う紫崎君の様子に
少し戸惑ってから向かい合い

大丈夫だよ?
僕は、紫崎君に救われた時からずっと決めてるから
何があっても紫崎君の傍は離れない
たとえ邪魔って言われてもずっと傍にいるよ
僕だって…もっと紫崎君の役に立ちたい
護りたいもん


紫崎・宗田
【狼兎】

桜に攫われそう、ねぇ…
自分でも言ってるとこが想像つかねぇ
※口悪い元ヤン

チビが思うところあるっつーことで付き添いに
タイミングは事前に打ち合わせた
その前に少し桜と触れ合いてぇっつーから後ろで待ってたところで
舞った花弁にその姿が一瞬包まれたのを見て
思わず小さな体を引き寄せるように抱きしめ

チッ…洒落になんねぇぞ、お前…

思わず漏れた呟き
行動しちまったもんはしょうがねぇ

お前が…桜に攫われるかと思って…

俺とはあまりに違う頼りなさと儚さに
意外にもすんなりと出た言葉
こいつに心配かけるなんざ情けねぇ

チビの慰めにふっと自嘲も込めた笑みを漏らし
何年後の話だよ
んならもっと鍛えねぇとな

※攫われタイミング一任



●僕だって
(人を愛した桜の木……)
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、そっと眼前の伝説の幻朧桜を見上げた。
 その幻朧桜を通して思うのは、匿っているという影朧の桜の木。どんなものにも終わりはあるけれど、転生した筈が影朧になって……どんな未練があったと言うのだろう。少しでも理解してあげたい、寄り添ってあげたい。植物使いであり、花は違えど花を宿す身の澪は、静かに木を見上げる。
 何かを考えこむような表情で桜を見上げる澪のすぐ後ろに立つ紫崎・宗田(孤高の獣・f03527)は、タイミングを見計らうべく待機していた。『あること』をするタイミングは事前に打ち合わせ済みだが、その前に桜と触れ合いたいと澪が望んだためだ。
(桜に攫われそう、ねぇ……)
 その、『あること』の台詞を思い起こしてみるものの、正直ピンと来ない。柄にもねぇやとすら思う程、自分でも口にしている姿が想像できなかったのだ。本当に言えるのだろうか、言わねばならないのだろうか。そんな事を思いながらも、澪の気が済むのを宗田は待つ。
 澪が、桜へとそっと手を伸ばす――と、ふわり。桜花弁が舞った。
「チッ……洒落になんねぇぞ、お前……」
「ふぇっ?」
 突然背後から引き寄せるように抱き締められ、澪は固まる。確かにそういう前提での話は事前にしている。けれど、けれど!
(合図無しはやっぱびっくりするというか……!)
「えっ、あの…紫崎君…?」
 抱き寄せられた、それだけで。心臓がすごい勢いでバクバクして、えっとか、あのっとか、そんな言葉しか出てこない。だって、気が済むのを待ってくれるはずだったし、早すぎるし、ほんと急すぎるし……!
 そして、何より。彼自身の呟きが、咄嗟に行動してしまった事を表していて。
 慌てたり照れたり驚いたり戸惑ったりと心が目まぐるしいけれど、澪は身体を反転させて宗田を見上げてみれば、そこにあったのは――眉間に皺を寄せた微妙な表情だった。
「お前が……桜に攫われるかと思って……」
 自分で言っている想像がつかない。そう思っていたのに、意外にもすんなりと言葉は出た。あまりにも自分とは違う腕の中の存在。小さくて頼りなくて儚すぎる、澪。……本当にそうなってしまうんじゃないかと、思ってしまったから。
「紫崎君、大丈夫だよ?」
 澪が、宗田の顔を覗き込むように見上げて。
 宗田の顔に見つけた色に、笑みを浮かべる。
 先程までの戸惑いはどこに行ったのだろう。慈しむような表情がそこにあった。
「僕は、何があっても紫崎君の傍は離れない。たとえ邪魔って言われてもずっと傍にいるよ」
 君に救われた時からずっと決めていること。何があろうと、それは変わらない。
 ――だからね、大丈夫。大丈夫だよ。
 瞳と瞳が、穏やかに合わされる。
(こいつに心配かけるなんざ情けねぇ)
 澪の慰めに、宗田はふっと自嘲の笑みを漏らした。
「僕だって……もっと紫崎君の役に立ちたい」
 紫崎君を護りたいもん。
 君がそうしてくれるように、僕も。
 ぐっと拳を握って訴えてくる姿に「何年後の話だよ」と鼻で笑おうとしたその時――。
 ――ざああぁぁぁぁ……。
 先程の比ではない程の桜吹雪が二人を襲い――。
「チビ……?」
 腕の中の存在は忽然と消えてしまっていた。
 ――本当に洒落になんねぇって。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

綿津見・ろか
【涙雨】👀

満開の桜を見上げてさゆりを振り返る
レインコートにも花弁、いっぱいね
桜に攫われるなんて聞いたことなかった

幻朧桜の下、あたしたちは観客
フォーリーが用意してきたお料理がおいしくて
金魚さんが言ってた『あること』も
ごっこ遊びみたいで楽しそうで
お仕事で来てること、忘れてしまいそう
「叶は素敵な台詞をいっぱい知っていそうだから」
「きっとドラマのね、主役みたいな事言って巻き返すと思うの」
「ほらね」

きゃあ なんて
下手くそな黄色い悲鳴をあげてみたり
ひらひら降る花弁のピンク さゆりの黄色 叶の白
ぱしゃりと一枚撮ろうか悩んで やめる
攫われてるところが写ったら嫌じゃない


フォーリー・セビキウス
👀
【涙雨】
花見と聞いて簡単に摘める物を作ってきたんだが…ピーピングか?行けないんだぞそういう事は私も混ぜろ。
因みにスモークサーモンの洋風押し寿司だ。酢とオリーブオイルやコンソメで味付けしてある。
チーズとバジル混ぜたのもあるから好きに食え。
勿論ワインとジュースもな。

おおっと急に独占欲を示す事を!?これに落ちない男がいるだろうかいやいまい!さて叶がどう巻き返すか!解説のろかさん如何でしょう。
成る程、確かにあの甘いマスクでサラリと言いそうでああーっとカウンター!?これは相手の言葉を利用し放つ口説き文句の回し受けだぁーっ!
これは決まったー!さゆりが抱きつき勝負あり!

叶…矢張りあいつ女慣れしてるな…。


四・さゆり
【涙雨】🌸

ろかの髪にふわりと乗った花弁を摘んで
桜、ね
こんな花弁で、攫われると思う?

…そうね、
楽しそうなことは確か。

けれど、わたしの下僕だもの、
お前たちが攫われるのは、嫌。



木の影のふたりは
可愛らしいお花見の様子
‥‥目立つわね、フォーリー
わたしの分も残してあるかしら

さて、観客を楽しませなくちゃ
付き合いなさい、叶

ーー
叶を探すのは、容易
わたしの好きな煙を辿れば、いいの

けれど、この花弁が邪魔をする

漸く見つけた後姿
あなたに纏わり付く、花びらの、雨

桜の雨を裂いて
手を伸ばして
その背に縋った

「だって、」
「あなたが、桜に…とられちゃいそう、だったの。」

「そんなこと、」
「このわたしが、許すわけないでしょう?」


雲烟・叶
【涙雨】

桜に攫われる、桜の下には死体が埋まっている、そんな話は良くありますが、さて
それを言って、何があるんでしょうねぇ

……目立ちますねぇ、確かに
それに、あのふたりの組み合わせを見るのはなかなか新鮮です
ふふ、仰せのままに、さゆりのお嬢さん

桜の下、紫煙を纏ってぼんやりと見上げる
花吹雪、空も良く見えやしない
降り注ぐ花弁に埋もれた地面を踏む爪先に、肩に、髪に、花弁が纏わりついた

不意に、背に軽い衝撃
緩慢に振り返った視界に映る、黄色と、黒髪
愛すべき少女の、それ

「何処にも行きませんよ」
「あんたが繋ぎ止めてくださるんでしょう?」
「自分は、あんたのもんなんですから」

ねぇ、さゆりのお嬢さん
そう、薄く笑った



●お花見桜雨
「お前、化粧をしているわ」
 黄色のレインコートの袖が伸びて、綿津見・ろか(カフネ・f14338)の髪にふわりと乗った花弁を摘んだ。桜を見上げていたろかが振り返れば、「ほら、桜化粧」と摘んだ花弁を見せて四・さゆり(夜探し・f00775)は笑みを刷いた。
「さゆりのレインコートも、花弁でいっぱい。お洒落をしているね」
 それとも、桜に目印でも付けられたの?
 雨でなくとも、いつも黄色のレインコートがトレードマークな少女へと笑みを向ければ、「あら」と少女が笑んで。
「桜に攫われる、桜の下には死体が埋まっている、そんな話は良くあります」
 少女たちのやり取りの合間に紫煙を燻らせ、煙とともに雲烟・叶(呪物・f07442)が言葉を吐いた。
「こんな花弁で、攫われると思う?」
 花弁如きに攫われるはずが無いと笑む少女だが、けれどそれも楽しそうだと笑みを深くする。
「準備、出来たぞー」
 桜を見上げる三人の足元。そこでせっせとフォーリー・セビキウス(愚か者の鎮魂歌・f02471)は花見の準備をしていた。敷物を広げ、中央には重箱。重箱の中には、酢とオリーブオイルやコンソメで味付けをしたスモークサーモンの洋風押し寿司。それからころころ可愛い手まり寿司に、赤い傘型のピックを挿した簡単に摘めるおかずまで。
「ワインとジュースもあるからな」
「おいしそう」
 早速敷物に上がり込んで、いただきますとろかが手を合わせて口に運び出す。
 その姿を見て、さゆりは「わたしの分も残しておきなさい」と告げてから背を向け、叶を伴い少し離れた場所に見える伝説の幻朧桜へと歩き出す。
「付き合いなさい、叶」
「ふふ、仰せのままに、さゆりのお嬢さん」
 雨の香りと薬草の香りが離れていく。その場に残るろかとフォーリーの二人は、今日は観客だ。グリモア猟兵が言っていた『あること』をさゆりと叶がするとのことで、おいしいご飯を片手にごっこ遊びを楽しもうと集まった。伝説の桜の木へと向かう二人の背中へ「いってらっしゃい」と声を掛け、視線だけで追いかける。
「あ、これおいしい」
「だろう? こっちはチーズで、こっちにはバジルが混ぜてある」
「フォーリーのおすすめは?」
「私か? 私はな……」
 さゆりが僅かに首を動かして先程まで居た桜の木を振り返れば、木の陰の二人が楽しそうなやり取りをしている。随分と可愛らしいとさえ思う姿だ。
「……目立つわね、フォーリー」
「……目立ちますねぇ、確かに」
 出歯亀ってもう少しこう……情緒の溢れるような、秘密めいたものでは無かったろうか。いや、覗きなのだが。でももっとこう……。ただ単に花見をしているように見える姿に、黄色と白の二人はゆるく首を傾げる。しかし、あの二人の組み合わせを見るのはなかなか新鮮だと紫煙とともに笑えば、そうねと頷きが返って。
「さて、観客を楽しませなくちゃ」
 先に行きなさいと指示を出して、さゆりは叶が伝説の幻朧桜の下へと行くのを見送った。
 幻朧桜の下へと辿り着いた叶は、そのまま幹の反対側へと向かう。僅かに木に隠れるように幹へと背を向け、そうして紫煙を纏いながら広く伸ばされた枝に咲く薄紅へとぼんやりと視線を遣った。
 桜の天蓋に、花吹雪。ゆうらり昇る紫煙を追っても、空はよく見えやしない。花の合間に、舞う花弁の隙間に、ほんの少しの天色を覗かせるのみだ。
 はらりひらりと舞う桜花。地面に、踏み締める爪先に、肩に、髪に、紫煙を緩やかに避けた花弁たちが、ふわりと纏わり付いて。
 そんな叶を追いかけて、さゆりも伝説の幻朧桜へと近付いていく。叶を探すのも追いかけるのも、簡単だ。
 ――わたしの好きな煙を辿れば、いいの。
 ゆうらり揺れる煙を。葉の焼ける苦い匂いを。目で、鼻で、五感を使ってあなたを辿る。
 けれど、花の馨と花の聲が邪魔をする。紫煙の尾を隠し、桜の帳で叶を隠してしまう。
 太い木の幹越しに見つけた後ろ姿。
 纏わり付く花弁に、遮断しようとする桜雨の帳。許せないわ。わたしとあなたを隔てるだなんて。だってあなたは――。
 真っ直ぐに伸ばした手は桜の雨を裂いて。
 とん、と。その背に縋るように抱きついて。
 驚いた表情で男が振り返れば、薄紅の中に鮮やかな黄色と黒。危険ないろは、愛すべき少女の、それ。
 どうしましたと短く問えば、震え開く、花唇。
「だって、」
 何処か拗ねた響きを帯びた声は、年頃の少女のよう。
「何処にも行きませんよ」
 それはあんたが一等理解っているでしょう。
 喉奥が、くつりと鳴る。悪くない感情だ。
「あなたが、桜に……とられちゃいそう、だったの」
 伏せがちな目は、地面の桜を映して。
 開かれた口から、胸いっぱいに紫煙と薬草の香りを吸い込んで。
 男が口を開く――その前に、口を開いたのは少し離れた桜の下で絶賛花見兼出歯亀中の二人。
「おおっと急に独占欲を示す事を!? これに落ちない男がいるだろうかいやいまい! さて叶がどう巻き返すか! 解説のろかさん如何でしょう」
「解説のろかよ。――そうね、叶は素敵な台詞をいっぱい知っていそうだから……きっとドラマのね、主役みたいな事言って巻き返すと思うの」
 この二人、非常にノリノリである。手にしていた寿司を急いで咀嚼して、ジュースで流し込んで。スッと横からフォーリーが差し出したお手拭きで手を拭ったならば、ぱしゃりと一枚写真を撮ろうかな――なんて悩んだけれど、やめる。先程話したばかりの、もしもの話が頭を過ぎったせいだ。
(攫われてるところが写ったら嫌じゃない)
 心の中に、強く焼き付ければいい。舞う薄紅に、黄色と白。絵になるひとときを。
「あんたが繋ぎ止めてくださるんでしょう?」
 自分は、あんたのもんなんですから。ねぇ、さゆりのお嬢さん。
 男が薄く笑えば、矢張り外野が賑やかになる。
「成る程、確かにあの甘いマスクでサラリと言いそうでああーっとカウンター!? これは相手の言葉を利用し放つ口説き文句の回し受けだぁーっ!」
「ほらね」
 実況に熱いフォーリーと、解りきったことだと訳知り顔でジュースを飲むろか。
 その声はきっと、伝説の幻朧桜の下までは届いていないのだろう。さゆりと叶のやり取りはまだ続いている。
 落とされる、余裕のある男の笑み。
 けれどこの少女は、一筋縄ではいかないことも、男は識っていた。
「そんなこと、」
 背に触れていた手が、動いて。
「このわたしが、許すわけないでしょう?」
 叶の腹へと少女の細い腕が回される。その背に埋もれるようにぎゅうっと抱きつけば、桜花の降る中、黄と白がひとつに重なった。
「これは決まったー! さゆりが抱きつき勝負あり!」
 カンカンカンカンカーン! ゴングが鳴った。フォーリーの心の中で。
 思わずガッツポーズを決めるその傍らで、ろかが声を上げる。
「待って」
 何かがおかしい。
 重なったふたつの影。それを覆い尽くすように桜雨は驟雨となって――。
 ――ざああぁぁぁぁ。
 姿が見えるようになった時、白に抱きついた筈の黄色い少女の姿は何処にも見当たらなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
この桜で絆が深まるそうじゃないか
楽しそうだからぜひやってみようじゃないか
敵を誘うのに必要だとも聞くしね
黒熊と白兎のぬいぐるみをぎゅっとしよう
可愛いものは抱きしめてこそだ
それに、ねぇほら、こんなに美しい桜の木の袂にいるんだ
君達が桜に攫われてしまうかと思って…
なんて
…おや、ぬいぐるみが攫われてしまったね?
悪戯な桜殿の仕業かい
仕方がないね、返してもらいに行こうか

さぁ仕事だよ、君達
…はは、また無視かい
少しは返事をしてくれるようになったと思ったのに
良いじゃないか、君達自身を抱きしめたわけではないだろう
……ねぇ、返事を、おしよ
居るんだろう、そこに
ねぇ、君達
ねぇってば

――やめてくれ
私を…置いていかないでくれ



●ひとりぼっち
 ひらりと舞う花弁へと手を伸ばす。掴んだ、そう思って開いた手には何も無く、掴みそこねた花弁が風に乗りながらゆっくりと落ちていった。
「おや」
 取りそこねてしまったねとエンティ・シェア(欠片・f00526)は、残念そうな顔をする訳でもなくそう口にして、はらはらと花弁を零す桜の大木を見上げる。
 絆が深まると言う謂われのある伝説の幻朧桜。ただ楽しそうだからという理由で、エンティはその桜の木の下まで来ていた。
(敵を誘うのに必要だとも聞くしね)
 けれど、『楽しい』の方が重要だけれど。
 いつも連れている3体のぬいぐるみたち。そのうちの黒熊と白兎のぬいぐるみを取り出して、ぎゅっと抱きしめてみる。抱きしめて見たほうが効果的だと言われたし、それに可愛いものはだきしめてこそ。
 ――それに、ねぇほら、こんなに美しい桜の木の袂にいるんだ。
「君達が桜に攫われてしまうかと思って……」
 なんて。こうしてぎゅっと抱きしめているんだ、攫われるはずないだろう。
 そう、思っていた。
 ざあっと桜花が舞ったと思ったら、手の内に居たぬいぐるみたちが消えている。
「……おや。悪戯な桜殿の仕業かい」
 本当に攫われてしまったね? あまり困ったようには見えない調子で口にして。けれど攫われてしまったのなら返してもらいに行かないとねと、一人で頷いた。
「さぁ仕事だよ、君達」
 手始めに、ぬいぐるみを取り返すことから。そう『自分たち』に声を掛けるけれど返事は返ってこない。
「……はは、また無視かい」
 返事が返ってこないのはいつものこと。けれど最近は、少しは返事をしてくれるようになった。気の所為かもしれないが、そう思っていた。
 黒熊と白兎のぬいぐるみは、『俺』と『僕』を象徴し入れ替わるためのぬいぐるみだ。ただぬいぐるみが居なくなっただけで、中に居るものは変わりはしない。
 そう、理解っているのに。
「……ねぇ、返事を、おしよ」
 居るんだろう、そこに。
 何故だかとても不安で、声を掛けてしまう。
「ねぇ、君達。ねぇってば」
 いくら声を掛けても、返事はない。
 「うるさい」って言ってくれてもいいのに。ねぇ、意地悪はよしておくれよ。
 ――やめてくれ。
 花吹雪の中、声を零す。俺も僕も、答えてはくれない。
 零した声を、ざああっと桜が拾って、消していく。
 ――私を……置いていかないでくれ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
🌸
ヴォルフ(f05120)と共に

まあ、なんて美しい光景……!
恋に繋がる幻朧桜……幻想的でロマンティックですけど、どこか怖い気もしますね。
この世界の影朧は、恐ろしいけれどどこか悲しげで……それを匿う人々の孤独や寂しさもまた。
猟兵として戦うことは勿論ですけれども、そんな人々の心を癒すことが出来たなら……。

ヴォルフ、あなたのおかげで、わたくしは死と絶望の淵から救われました。
これからの道行きをあなたと共に歩んでいけたら。
わたくしは信じています。何があってもあなたはわたくしを守ってくれると。
強く、強く、お互いの縁(えにし)を繋ぎとめてくれると。
愛しています、ヴォルフ……。


ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と同行
・POW

この鮮やかで見事な桜……。
お前に出会うまで、俺はずっと血煙舞う戦場にいた。
生きてゆくため、本能の赴くまま戦う、死と隣り合わせの日々。
お前に出会えて初めて知った。花の美しさも、何気ない日常の輝きも……そして人を愛する心も。
今こうして俺が俺でいられるのは、ヘルガ、お前がいてくれたおかげだ。ありがとう。
これからもずっと離さない。何があってもお前を守り続けよう。

それにしても、この薄紅色の世界は、お前の白によく映える。
お前自身が花のように繊細で、またオラトリオという花を抱く種族だからか。
まるで『お前が桜に攫われてしまうかと思って』俺は……

ヘルガ……ヘルガ?



●君の居る世界
「まあ、なんて美しい光景……!」
 はらりひらりと花弁の雨を降らす桜の大木の下、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は慈しむように瞳を和らげた。澄み渡った青空は美しく、そして風が吹く度にざあぁと鳴きながら舞う薄紅色がとても幻想的だ。
 恋や縁に繋がる伝説のある幻朧桜。それはとても幻想的でロマンティックだと、一人の乙女としてヘルガも思う。けれど。
(――どこか怖い気もしますね)
 少しだけその眼差しに暗い色が混ざった。
 この大正浪漫の世界のオブリビオン――影朧は、恐ろしいだけではない。それぞれが何かを抱えていて悲しげで、憎みきれない。ただ倒せば終わりな存在ではなく、また哀しみを抱いて海から還ってきてしまう存在(もの)。そしてそれを匿う人々も居て……。人々の孤独や寂しさを思えば、哀しみに心を曇らせてしまう。もう誰も泣く事のない世界をと願っているのに、世界に悲しみが絶えなくて。
 けれど、そういった人々の心も癒やしたい。そう願って、ヘルガは胸の前で手を組んだ。
 ヘルガの傍らに立つ、彼女の騎士たるヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)もまた、彼女同様桜を見上げていた。そっと横目でヘルガを覗えば、胸元で手を組み祈っている様子。もう暫くは大丈夫かと、再度視線を桜へと向けた。
 彼女と出会うまで、ヴォルフガングは血煙舞う戦場に身を置いていた。生きてゆくため、本能の赴くまま戦う、死と隣り合わせの日々。桜のような花などない荒れた戦場を駆ける戦士には、こうして穏やかに過ごす時が来ることも考えられなかった。けれどヘルガの命を救い、彼女と過ごすようになり、孤独な狼は花の美しさも、何気ない日常の輝きも……そして、人を愛する心も知ったのだ。
 ふわりと風が吹き、ヘルガの白と桜花が混ざったその時。ヘルガが静かに唇を開いた。
「ヴォルフ、あなたのおかげで、わたくしは死と絶望の淵から救われました」
 桜から目を離し傍らを見れば、向き直ったヘルガがヴォルフガングを真っ直ぐに見上げている。慈愛の籠もった柔らかな笑み。けれど違うのだと、ヴォルフガングは僅かに首を振る。
 ――本当に救われたのは、俺だ。
「今こうして俺が俺でいられるのは、ヘルガ、お前がいてくれたおかげだ。ありがとう」
 こうして今ここで桜をただ美しいと思うことも、彼女と出会っていなかったらありえなかっただろう。花はただの花でしかなく、見上げることもなく通り過ぎていたかもしれない。ヘルガがヴォルフガングの全てを明るく照らしてくれる。
 これからも共に歩んでいけたら。お互いに同じ気持ちを抱いて見つめ合い。
「わたくしは信じています。何があってもあなたはわたくしを守ってくれると。強く、強く、お互いの縁(えにし)を繋ぎとめてくれると」
「これからもずっと離さない。何があってもお前を守り続けよう」
「愛しています、ヴォルフ……」
 そっと、凭れ掛かるように。
 羽根のような軽さでヘルガがヴォルフガングへと身を寄せて。
 騎士は姫の肩を、優しく、そっと抱いた。
 いつもは蒼いミスミソウだけが彩るヘルガの雪のような白い髪に、今日はいくつもの桜花が彩を齎している。蒼以外の色も、この世界の薄紅も、お前には映えると自然に思ってしまう。
「『お前が桜に攫われてしまうかと思って』俺は……」
 彼女が繊細だからだろうか。それとも花抱く種族だからだろうか。薄紅に白が隠されてしまいそうだと過ぎった想いに、ぐっと彼女を腕の中に抱きしめようとして――。
 ――ざあぁぁぁぁ……――。
 目も開けられぬ程の桜吹雪が二人を襲って。
「ヘルガ、大丈夫か?」
 声を掛ける。けれど大切なお前の声は返らない。
 触れていた筈の熱。それが無い事に気付いて――。
「……ヘルガ?」
 男は、空っぽになってしまった腕を見つめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

出水宮・カガリ
【星門】ステラと

桜に攫われる…か…ステラが攫われるのは嫌だなぁ
…既に攫われた事があるのか、びっくりだ
器物時代は仕方がないが…まあ、今は花弁には攫われないだろう
ずっと一緒に…という願いも、ステラが叶えてくれるからな

…願い星のステラは、こういうまじないは、あまりあてにしない方か?
ああ、自分の願いは叶えられない、と…ふむ、ふむ
ならば今日は、この桜に願ってみようか
(抱き締めて、耳元に唇を寄せ――棒読み)
「お前が、桜に攫われてしまうかと、思って」
…だったかな?

ん?
ステラ、待ってくれステラ、この桜は斬れないのか、ステラ
手を伸ばせ、引っ張ってやる、行くなステラ
早く――

――ステラ!!


ステラ・アルゲン
【星門】カガリと🌸
私もカガリが攫われるのは嫌だよ
それにしても攫われるか。まだ剣だった頃に盗まれた事がある
今は身体があるから大丈夫だろう

もちろんだ、私は願い星だからな
でも自分の願いを自分では叶えられない
(抱きしめられ、聞こえる棒読みな声。そんな所が可愛いと思いながら微笑んで)
…私が願いを叶えるのと同じように。私の願いをいつも叶えてくれるのはカガリだよ

――言葉に被さるように桜嵐が吹き荒れる
手を伸ばすも彼の姿はかき消えていく
掴んだのは桜の花弁だけ

残った温もりを確かめる
大丈夫。彼なら見つけてくれる

舞い散る桜を見上げる。攫ったのはお前達か?
同じ願いを聞き届けるものよ
どうかお前達の願いを聞かせてくれ



●桜に願う星
「桜に攫われる……か。……ステラが攫われるのは嫌だなぁ」
「私もカガリが攫われるのは嫌だよ」
 桜の木というものには、都市伝説のようなものがよくあった。例えばそれは、桜の木の下には死体が埋まっているだとか。例えば桜に攫われるだとか。そういった話を思い出した出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)がポツリと口にすれば、傍らで桜を見上げていたステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)も頷きを返して。
 けれど、「まだ剣だった頃に盗まれた事がある」と口にするステラは誘拐……否、盗難経験者であった。既に攫われた事があるのかと僅かに息を飲んでカガリは驚くが、ヤドリガミとして身を得る前――器物時代ならば仕方がないことだろうと浅く頷く。何せ自分では動けぬものだから、自分を護る術はない。管理する側の問題だろう。だが、もしも。攫われたその時に、ステラの器物が失われてしまっていたら? ――想像するだけでもゾッとする。今こうして傍らに彼女が居てくれる事が、一層奇跡のように思えた。
「……まあ、今は花弁には攫われないだろう」
「そうだな、今は身体があるから大丈夫だろう」
 自分の意思で、傍に在れる。それがどんなに幸福なことか。
 ずっと一緒にというカガリの願いは、願い星のステラがこれからもきっと叶えてくれる。けれどより縁を深くしたくて、今日はこうして二人、伝説の幻朧桜の下に来てみたのだ。他のまじないに頼ってでも彼女と共にありたくて。
「……願い星のステラは、こういうまじないは、あまりあてにしない方か?」
「もちろんだ、私は願い星だからな」
 しかし、願い星はひとの願いを叶えるもの。自分の願いを優先しないように、自分の願いを自分で叶えることは出来ない。
 そう告げれば、カガリはふむふむと頷いて。
「ならば今日は、この桜に願ってみようか」
 笑みとともにそう口にして。手を伸ばし、抱き寄せる。柔らかく抱き留め、その耳へと唇を寄せ――。
「お前が、桜に攫われてしまうかと、思って」
 これで合っていただろうかと思いながら口にした台詞は、棒読み。覚えた台詞を、素直にそのまま口にしたのだろう。けれどステラは、カガリのそんな所も好きだ。それさえも可愛いと思えて、幸せな笑みを咲かせた。
「……私が願いを叶えるのと同じように。私の願いをいつも叶えてくれるのはカガリだよ」
 覚えていてと彼に告げるが――。
 ざあぁぁぁ……。
 桜嵐が吹き荒れ、言葉を浚う。言葉を浚い、同時にステラ自身も桜花で消えていく。
「――っ、カガリ!」
 声を上げるが、桜の声のせいで彼には届かない。
 伸ばそうとした腕は、既に先が見えなくなっていた。
「ステラ、待ってくれステラ」
 桜に溶けるように消えていくステラに気付いたカガリが、この桜は斬れないのかとステラに問う。カガリは盾で、剣はステラだから。
 けれどそう声を上げた頃には、最後に瞳の色彩を放って、ステラの姿は消えていた。
 腕に残るのは、吹き荒れた名残の桜花弁。確かに触れていた身体に残る、僅かな温もり。その温もりでさえ、すぐに消えてしまうことだろう。
「――ステラ!!」
 裂けるような悲痛な声が響く。
 伝説の幻朧桜の下、一人城門の騎士は残されて。
 強く握りしめた手だけが、やけに熱かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
🌸♢
【双星】
花見でもしたくなる桜だが
まあまずは依頼だ
えーっと何つーんだっけ
『お前が攫われるかと思った』?
真正面から首を傾げ
物は試しでアレスに言ってみる
1、2、3…ん~何かかわったか?
アレスをじっと見てみるが
わかんねぇな
言えばいいってもんじゃねえのか?
しょーがねぇ他の奴らを観察して何か起こるか確かめるか

…っ!舞い上がる桜と髪に思わず目を閉じる
追って感じるのは馴れた体温
…アレス?
んだよ、覗きがダメとか今さら言うな…って
顔を見ればそこには情けないような…愛しいようなアレスの顔があって
…心配性
さっき言ってみた時も何もなかっただろ
大丈夫だって言ってゆっくり指先をほどいたら
アレスの姿が見えなくなっていた


アレクシス・ミラ

【双星】
桜に攫われる…というのはどういう事なんだろうね
桜が動くのか?
なんて考えを巡らせていると
・・・。
…何も、起こらないな…

こら、他を覗き見するんじゃ……っ!?
桜吹雪に思わず目を閉じそうになる…が、
…一瞬でも、目を閉じてしまったら
次に開けた時には、また彼がいなくなってしまいそうで…
――っ
気づいたら、手を掴み
引き寄せて、抱きしめるような形に
…自分でも、驚いている
でも、君が…
…『君が、桜にまで攫われてしまいそうだったから』

そう、だね。僕の心配しすぎだったみたいだ…
…セリオス…?
セリオス!?
確かにその手を掴んだ
引き寄せた、なのに…!!
――っどうして…!!!

君はまた、僕の目の前でいなくなってしまった



●再びの、
 桜には色んな謂れがある。けれど、桜に攫われるというのはどういう事なのだろうかとアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)は桜を見上げるセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)の傍らで首を傾げた。
(桜が動くのか?)
 地中の根がメキメキと地を割り、その根でもって移動して追いかけてきたりするのだろうか。それとも突然幹や根の間にポッカリと穴が空き、兎穴よろしく覗き込んだら落ちていくとかそういうものなのだろうか。まったくもって謎である。
 王子様然とした端正な顔立ちで静かに悩むその傍らで桜を見上げていたセリオスは、チラリと横目でアレクシスを見て、真面目な顔で変なことを考えていそうだななんて思ったりした。
(そういうところあるからな、アレスは)
 まあ花見でもしたくなるような見事な桜だから、色々考えてしまうのは解る。けれどまずは受けた依頼をこなすかとアレクシスに向き直って。
「えーっと何つーんだっけ……あ。『お前が攫われるかと思った』?」
 そう、確かこんな台詞だったはずだと、首を傾げながら言ってみた。コレで良いのだろうか、何か起きるのだろうか。とりあえず、待ってみる。
 1、2、3……。
 しかし、特に何か変わったとか、何か起きたとかは感じられない。
「言えばいいってもんじゃねえのか?」
「桜が審議中なのかもしれないな」
「もっと真面目に言えってことか?」
 どうだろうと二人で首を傾げてみるものの、何も起きないのならば待つしか無い。
「しょーがねぇ、他の奴らを観察して何か起こるか確かめるか」
「こら、他を覗き見するんじゃ……っ!?」
「……っ!」
 ぶわり。舞い上がる桜と黒髪。
 突然吹き荒れた桜吹雪にセリオスは目を閉じるが、アレクシスは瞳を護るために閉じようとする目にぐっと力を入れて堪える。一瞬でも目を閉じたら最期、次の瞬間にはまたセリオスがいなくなってしまうのではないか。あの日のように――。
「――っ」
「……アレス?」
 不安に揺れた心が、手を伸ばさせて。
 セリオスの手を掴み、引き寄せ、抱き締めるような形に腕に閉じ込めてしまう。
 驚いたセリオスの息遣いを腕の中に感じるが、アレクシス自身も咄嗟に取ってしまった行動に自分でも驚いていた。しかし、このまま離したくもなかった。
「んだよ、覗きがダメとか今さら言うな……って」
 他を見ないようにしたのかと口を尖らせながら見上げれば、そこには情けないような……愛しいようなアレクシスの顔があった。
 アレクシスは切なげに眉尻を下げ、青空色の瞳を僅かに細めてセリオスを見下ろして。
「でも、君が……」
 今にも君が、居なくなってしまうような気がした。
 けれど素直にそのまま口にしたら、本当に居なくなってしまうような気がしたから。
「……『君が、桜にまで攫われてしまいそうだったから』」
「……心配性。さっき言ってみた時も何もなかっただろ」
 アレクシスの不安を、セリオスは知っている。だから笑って離れることはせず、安心させるように柔らかな笑みを浮かべて「大丈夫だって」とゆっくりと指先を解いていく。
「そう、だね。僕の心配しすぎだったみたいだ……」
 アレクシスも、つられるように笑みを浮かべ――。
「……セリオス……? セリオス!?」
 彼が、居ない。
 たった今、柔らかく微笑んでいた。
 確かにその手を掴んでいた。引き寄せていた。それなのに、それなのに!
 ――っどうして……!!!
 大丈夫だと言ったばかりなのに。セリオスはまた、アレクシスの目の前でいなくなってしまった。
 齎された二度目の喪失。世界が一気に色彩を欠いて、先程まで美しいと感じていた薄紅の色さえ解らなくなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『桜彷徨う迷宮』

POW   :    舞い散る花びらに惑わされることなく走り抜ける。

SPD   :    桜が作り出す見せかけの幻を見破ることで切り抜ける。

WIZ   :    幻の仕組みを調べ、迷宮の罠を解除して進む。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●桜嵐
 はらりと舞う桜の下、菊一郎と櫻子の影がひとつに重なった。
「櫻子さんが桜に攫われてしまうかと思って……」
「まあ、菊一郎さんったら。あなたがこうしてくれているのですもの、大丈夫ですわ」
 これからずっと一緒に居ると約束をした。互いに想い合う二人の絆は確かなもので、お互いの気持ちが他所を向くことなどあり得はしない。そう、信じている。
 それなのに、こうして縁を深めるために伝説の幻朧桜の元へと来たのには訳があった。
 菊一郎と櫻子の家は、所謂政敵であった。そして互いに長男長女。親の許しが降りる訳もなく、また親の決めた婚約者も他に居る身。けれどいけないことだと気持ちに蓋をしようとすればするほど二人の想いは惹かれあって……。
 親族にも、桜にも、この想いは隔たれはしない。
 嗚呼、けれど。もしも二人で居なくなれたなら、すべてのしがらみを捨てて二人ともにあれたなら。
 ――ざあああぁぁ――……。
 桜嵐が駆け抜けて。
 袴姿の女性が、消えた。

●桜迷宮
 櫻子が桜嵐から目を庇い、そして収まった頃に目を開ければ、そこは淡い桜の薄紅一色。
 天を見上げれば桜が広げた枝に満開の花。桜の天涯に空は隠され何色なのかもわからない。
 足元へと視線を向ければ、桜の絨毯。ふかりと袴から覗くブーツを優しく受け止められて。
 正面、左、右。そして、後ろ。ぐるりと四方を眺めてみても、やはり桜、桜、桜。どこまでも幻朧桜が咲き乱れ、目印になりそうなものなんてひとつもない。
 そして、絶えずひらひらと舞い続ける桜花弁。遠くまで視界を広げられない。
 ――嗚呼、菊一郎さん……何処へいってしまったの?

 ここは、『桜彷徨う迷宮』。
 影朧の桜を匿うべく、幻朧桜たちが作り出した迷宮である。
 悪意が無い者はその内無事に外へ出され、悪意ある者はそのまま彷徨い続けることだろう。
 猟兵は、猟兵の力を見せればいい。周りの幻朧桜を傷付けることなく猟兵である証を見せれば、影朧の桜の元への道が拓けることだろう。

●シヤージュ
 菊一郎もまた、気付けば桜の迷宮の中に居た。
 櫻子が消えてしまった事は覚えている。そしてその後にまた桜が吹雪いて。
「櫻子さん! 居るかい!?」
 ――かい――……かい――……かい――……かい…………。
 桜の木々の間を、声が木霊する。求める声は、いくら待っても返ってはこない。
 今頃、彼女はどうしているのだろうか。きっと心細い想いをしているに違いない。早く彼女を探し出さなくては。
 そうして菊一郎は、櫻子を探して歩き出す。どうすればここから抜けられるのかは解らない。けれどこの場に立ち止まって居ても何も変わりはしないから。

 そこに、ふわり。何かが香った。
 桜まみれのこの場所に、桜以外の香りが。
 これは、彼女の――。
「櫻子さん!!」
 地を蹴り駆け出せば、足元でもぶわりと桜が舞い上がった。

🌸   🌸       🌸
 🌸       🌸    🌸

⚠ MSより ⚠
 攫われてしまった人や物と分断された状態で始まります。
 複数人でのご参加の場合、🌸マークが付いていた人だけ別行動となります。
 攫われてしまった人や物を探し、迷宮を抜けてください。

 先のマスコメにも記載があった通り、この章では何らかの形で『攻撃』ユーベルコードを使用してください。使うタイミング等は上記断章を参照ください。(シナリオ完結まで非公開にはしないでください。)
(※「🌸マークが付いていた人」は前章のプレイングで、です。)
蘭・七結


――ない、ない
何処にも、ないの
色褪せたとしても
姿かたちが爆ぜたとしても
あの日からずうと、共にいたのに
ナユの生命よりも尊いもの
無くすはずが、ないのに
何処へいって、しまったの

『――さま』
ナユの、『かみさま』
手は何度だって、宙をすり抜けるだけ

瞳を開けば一面の薄紅世界
遠き日のその光景と、よおく似ている
嗚呼、なんて
残酷なほどに美しいのでしょう
あのおまじないに誘われたのかしら
本当に、攫われてしまうだなんて

淡い色彩の先に褪せた柘榴の幻を視る
視界の先で眞白の彩が、揺らいだ気がした
其方に、いるのね
夢中になって駆けて、駆けて
淡い花嵐を掻き分けて先へ、先へ
眼前を埋める薄紅に呑み込まれそう

待っていて
すぐに見つけるわ



●かくれんぼ
 ――ない、ない。何処にも、ないの。
 色褪せたとしても、姿かたちが爆ぜたとしても、あの日からずっと共にあった。何よりも大事で尊くて、自身の生命よりも尊いもの。
 それは確かに掌の内にあった。ぎゅっと握りしめて、落とすはずも、無くすはずもなかった。大切なものが入った小瓶、それが何処にもなかった。落とすはずが無いけれど、フッと消えてしまったから、ちゃんと足元だって確認した。ない、ない。何処にも、ない。
「――――さま」
 七結は『かみさま』の名を口にして瞼を降ろせば、瞳の中に爆ぜた石の”あか”があった。何度も見つめた色は、いつでも思い出せるもの。
 次に瞳を開けた時、そこは一面薄紅の世界。遠き日の光景によく似たそれに、瞼をぱちぱちと瞬かせ、手を伸ばす。今尚あの白が、目の間にあるように。手がただ宙をすり抜けることを知りながら、七結は何度だってそうしてしまうのだ。
 薄紅の空間は残酷なほどに美しく、嗚呼、なんて恋煩いの乙女のため息。甘く、愛おしく、狂おしく。
(ナユの大切な『あなた』は、あのおまじないに誘われたのかしら)
 本当に、攫われてしまうだなんて。
 七結以外の何かに、攫われてしまうだなんて。
 そんなの。
「ナユ、いやだわ」
 淡い色彩の先に、褪せた柘榴の幻を視た。視界の先で眞白の彩が揺らいだような気がすると、七結の目もまた、緋く、染まって。
「其方に、いるのね」
 待っていて、すぐに見つけるわと愛しげに微笑んで、緋を瞳に顕した鬼が駆ける。
 美しい薄紅なんて、今はいらない。
 あなたが欲しい。
 桜の絨毯を乱して、駆けて。
 あなたしかいらない。
 花嵐を掻き分けて、先へ、先へ。
 眼前を、薄紅が埋め尽くしても、その先へ。

「みぃつけた」
 桜の褥に横たわる、あなた。
 そっと小瓶を拾い上げ、もう攫わせはしないわと大事に大事に抱き締める。
 隠れんぼは得意よ。
 だってナユ、”鬼”だもの。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【狼兎】🌸

ここは……

見渡す限りの桜に少しだけ目を細め
手近な一本に優しく触れて

…君達が、僕を連れて来たの?

そっと呟いてから先程の紫崎君の様子を思い出し苦笑い

あはは…また怒られちゃうなぁ
離れないって言ったばかりなのに

心細くないと言えば嘘になる
けど大丈夫。僕はまだ笑える
だって、信じてるから
あの日…奴隷として生きて来た僕を彼が見つけてくれたように
きっとまた見つけてくれる
恋人じゃないけれど…なんとなく、確信があった

だから、今の僕に出来る事は
慌てて彼を探す事でも
心細さに涙を流す事でもない
信じて進むだけ

お願い桜さん
僕を…僕達を導いて

【優しい祈り】を宿した【破魔】の【指定UC】で
桜の清き心に訴えかけてみるよ


紫崎・宗田
【狼兎】

どこを見ても桜ばかり、か…
あいつは桜でこそないが、俺にとっちゃ花そのものだ
だから…こんな場所では不安になる
そのうち花と共に消えちまうんじゃないかと

ここまで考えてから軽く息を吐き…自分の顔を両の平手で強めに叩く
くそっ、やっぱり柄でもねぇ
あいつにゃ悪いが…まだ護られてなんてやんねぇ
弱さなんざ見せてたまるかよ

護る役目は…俺のもんだ

今はここを抜け出すため、前へと進む
あいつだって弱いだけのガキじゃねぇ
選択は同じの筈だから

あいつの纏う金蓮花の香りと
声を聞き取る【聞き耳】
そして…存在を察知する【第六感】で気配を辿る

万一邪魔するならわざと自らの腕を斬り
幹本体は傷つけないよう【指定UC】の【属性攻撃】



●はな
「ここは……」
 『もっと紫崎君の役に立ちたい』と拳を握って伝えたはずだったのに、瞬けば彼は居なくて。どこを向いても、視界に入るのは桜の木だけ。この季節でも咲き乱れる桜たちは全て幻朧桜なのだろうと理解して、少しだけ目を細めながら澪は直ぐ側の桜へと手を伸ばした。
「……君達が、僕を連れて来たの?」
 優しく、そっと触れて。小さく呟けば、寸前の彼の様子を思い出す。大丈夫だって、傍を離れないって言ったばかりだ。それを思えば、困ったような笑みも浮かぶ。
(あはは……また怒られちゃうなぁ)
 彼は、怒っているだろうか。それとも必死になって探してくれているのだろうか。きっと両方だ。護れなかったと自分自身に怒って、探してくれている。
 そうは思っても、心細くないと言えば嘘になる。
(けれど大丈夫。僕はまだ笑える)
 だって、信じてるから。
 澪が宗田に救われたあの日――奴隷として生きて来た澪を彼が見つけてくれたように、きっとまた見つけてくれる。視界がどれだけ桜に覆われようと、彼なら桜の帳を消して見つけてくれる。恋人のような繋がりはないけれど、何となくだがその確信があった。
(だから、今の僕に出来る事は――)
 慌てて彼を探す事でも、心細さに涙を流す事でもない。
 信じて、進むだけ。
「お願い桜さん。僕を……僕達を導いて」
 桜から手を離し胸の前で手を組んで祈れば、優しい光が辺りに満ちる。魔性のものにはダメージを与える光は桜を傷付けず、ただ優しく辺りに光が満ちた。
 澪の祈りに応えるように、桜吹雪が舞って――。

 どこを見ても、はらりと舞う薄紅ばかり。
 宗田にとって澪は花だ。周囲に咲き乱れている桜でこそないが、儚くて小さくて笑顔を咲かせる澪は、花そのものだった。花は可憐に咲くけれど、強風が吹けば儚く散ってしまう。散り花は簡単に風に吹かれ、花弁さえも残らない。澪もまた、花のように、花とともに。そのうち消えてしまうんじゃないかと、宗田の胸の内を焦りのようなものが焦がすのだ。
 ――パン!!
 宗田の両頬が赤く腫れる。息を吐きながら強く叩いた両頬からじわりと痛みがこみ上げるが、胸に渦巻くものほどではない。
(くそっ、やっぱり柄でもねぇ。あいつにゃ悪いが……まだ護られてなんてやんねぇ)
 弱さなんざ見せてたまるかよ。あいつを護るのは、俺の役目だから。
(きっとあいつは、待ってる。俺が探しに来ることを)
 澪が弱いだけの子供ではないことは、宗田が一番よく知っている。花のように思えても、芯のある、地面に根を張った花だ。散っても萎れても、元気を取り戻して前を向いて花を咲かせる。そんな花だから、宗田もまた前へと進むのだ。
 耳を澄ませる。声は、聞こえない。
 気配は……桜の気配が邪魔だ。
 ならば。
「――あいつを返してもらうぜ」
 自身の腕を斬り裂いて、地獄の炎を噴き出させ、そのまま大きく腕を振るった。
 ひらひらと舞い落ちてくる桜花弁を燃やせば、鼻にふわりと届く金蓮花の香り。
「あっちか!」
 降る桜の帳を燃やしながら香りを頼りに駆ければ、光を見つけ――。
「チビ……!」
「紫崎君……!」
 宗田に気付いた澪が駆けてくる。
 満開の、笑顔を咲かせて。
 ――見つけてくれるって信じてた!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セラ・ネヴィーリオ
♢【WIZ/ユキさん(f02035)と】

(一緒に来れたのに、どうして)
後悔、喪失の怖れが胸に広がり
「ねえ、桜さん!ユキさんは何処?」
返答がないなら探しに行かなきゃ
けれどがむしゃらに走り回れば息も切れ、桜の海に倒れこむ

動いたからか『あすか』が僕に纏わせた白檀の香が舞い上がり

…そうだ、あの香炉は彼女がくれたんだ
思い出せば喪った訳ではないと気づき
彼女なら大丈夫。きっと僕を探しに来るから、僕も笑って迎えよう!

天蓋の先へ【La ae ruiyllé】!
桜に触れぬよう空に大きな光の手
見えずとも歌と併せて僕はここだよと奏で
おいでと《おびき寄せ》
僕も椿の香や賑やかさを探し歩き

出逢ったらただいまと、おかえりを!


ユキ・パンザマスト
♢【POW/セラと(f02012)】
空を切った手。
息を飲むけど怖れはない。
彼がいつも引き戻し、迎えにきてくれたからですかね。
行こう。きっと沢山探してくれている。

ねえ桜。困らされてますけど
影朧になり果てた仲間に寄り添おうとした
その気持ちは、きらいじゃあないんですよ。
(己も怪物になり果てた。傍にいてくれるひとは得難い)

(捜索の中、過ぎる香り)
これだけは、確りと覚えている。
彼に贈った香のかおり。
彼方が眩しい。手招く掌。馴染んだ歌。
そこだ!

ここです、セラもそこにいるんでしょう、
さんざ喰らって生きてきた命の香りを漂わせながら
ホロ椿を携えて、疾駆!
樹を傷つけぬよう衝撃波は抑え、
目印に【逢魔ヶ報】を吼えろ!



●君に届けたい言葉
 ――どうして!
 薄紅の世界を、セラはがむしゃらに走り回る。口からぜえぜえと息が零れても、足がもつれても、見えない姿を探して桜花弁の絨毯を散らした。
「ねえ、桜さん! ユキさんは何処?」
 ユキの名を呼んでも返事が無かった。ならばと走り回っては桜へと声を掛けてみるが、幻朧桜と言えど植物。口がなければ返ってくる言葉もなく、セラは胸に広がる後悔と喪失の恐れに顔をくしゃりと歪めた。
 せっかく一緒に来れたのに。一緒に花を見上げ、お団子も食べれたらいいなって思っていたのに。どうして、こんな。
 丸めた紙のように、心からもくしゃりと音がしたような気がした。足を止めたら不安で動けなくなりそうで、セラはただ足を動かす。息せき切って走って、走って、走って――。
「あっ」
 ずしゃっ。
 ずるりと花弁で足が滑り、上半身から桜の海へと倒れ込んだ。
「ユキさん……」
 早く立ち上がらなきゃ。そう思うのに。
 身体が重くて、心が重くて、立ち上がれない。
 転んだ姿のまま、ぎゅっと地面の桜花弁を握りしめて。顔を歪めれば、やはり香るのは桜の香り。……だけのはずなのに、そこに違う香りが混ざっている事に気が付いた。
(ああ、この香りは……)
 甘いけれど静けさのある、落ち着いた香り。ユキがセラに贈ってくれた乳白の香炉『あすか』で焚いた白檀の香り。大切に、宝物として持っていたそれが、走る最中にセラへと香りを纏わせた。
 彼女の欠片は残っている。喪った訳ではない。白檀の香りが、そう教えてくれている。
(――彼女なら大丈夫。きっと僕を探しに来るから、僕も笑って迎えよう!)
 上げた顔には先程までの焦りや恐れはなくなって、真っ直ぐに立ち上がり正面を向いた。深く呼吸をし、胸に手を当て、ルララ、口遊む。
(ユキさん、僕はここだよ!)
 歌を届けよう、彼女に、桜に。
 大きな光の手で舞い散る桜花弁を受け止めて、フラワーシャワーのように撒き散らし、天蓋を開けさせよう。
 ユキに見つけてもらえるように歌って、自らも見つけるために椿の香りを探しに行く。いつだって彼女と会う時は笑顔で居たいから、セラは伸びやかに歌いながら桜迷宮を進んだ。

 彼は、物語やゲームに出てくる王子様のようだった。
 片膝を付いて、見上げて、ユキの手を掬って。白い髪に薄紅の花が映えて、綺麗で。……実際の王子様というものはよく解らないけれど、RPGゲームでは稀に出てくるから、こういう感じなのかなって、そう思っていた。
 掬われていた手は、支えを無くして空を切って。だらりと降りていく手が、妙にゆっくりに思えて息を飲んだ。
 けれど、大丈夫だ。恐れはない。
「……はぐれて、しまったんですかねぇ」
 彼はいつもユキを気にしてくれている。何度も後ろを振り返ったり、歩調を調整したり、それをユキが気にしないよにと明るい笑顔で話題を振って。ユキが立ち止まって離れてしまったとしても、彼は気付いてくれる。どうしたのって声を掛けて、引き戻して迎えに来てくれる。
 今日だって、きっとそうだ。沢山探して、迎えに来てくれようとしているに違いない。
 だから。
「――行こう。きっとセラが待ってます」
 頭の狼尾を揺らし、ユキは薄紅に染まる世界を歩き出す。
 見上げても、左右を見ても、桜、桜、桜。
 影朧になり果てた仲間に寄り添おうとした幻朧桜の気持ちは、きらいじゃあない。怪物に成り果てた自身に重ねるならば、ユキは影朧側だろう。寄り添おうとしてくれるのは嬉しい、ありがたい。得難い存在だからこそ、そのありがたみも大切さも知っている。そして、そうしてくれようとする温かさを。
 影朧となった桜の気持ち、匿う幻朧桜の気持ち。そして、自分の気持ち。似ているようで似ていなくて、同じようで同じではない。
 小さな嘆息を零せば、鼻をふわりと擽る香りに気付く。
 桜、ではない。これは、ユキがセラへと贈った香りだ。
 姿は、見えない。けれど香りがする。僅かだが、彼方が明るい気がする。
 桜花弁を掬った手のようなものが、遠く、天蓋の向こうに見えた。ゆうらり揺れる掌が、こっちだよとユキを呼んでいる。
「セラ! ユキはここです!」
 ホロ椿を一斉に咲かせ、ここにいるよと香りを示す。
 さあ、怪物が来たよとサイレンを鳴らそう。桜には傷付けぬよう注意の払った警告を、白花には報せを。
 吼えろ《逢魔ヶ報》! お前の声を響かせろ!
 桜花弁を衝撃波で飛ばし、駆ける駆ける。
 飛ばした衝撃波を白い光の手が受け止めれば、白い髪がふわりと揺れて振り返る。
「セラ!」
 響いた声に、セラの笑顔は更に明るいものとなる。
「ユキさん!」
 名を呼んで、駆け寄って。
 二人で同時にに掛ける言葉は、示し合わさなくとも決まっている。
 ――ただいま! おかえり!
 お互いに掛け合う明るい姿を、さやさやと桜たちが見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

アドリブ◎
あわわ!本当にアヤネさんが消えちゃった!
探さないと…
アヤネさーん!
アヤネさーん!!
…はい、反応なし!
見渡す限り薄桃色の桜の世界で独りきり
怖くはないけれど…早く合流したい
アヤネさんの香りを探ってみる
こう、なんか髪が良い香りで…ですね…高そうなシャンプーな感じで…
(数分経過)
…犬じゃないからわからないや!

目を閉じゆっくり腹式呼吸をして気持ちを落ち着かせ精神統一
そのまま感覚を研ぎ澄ましアヤネさんの気配を探る(第六感)

…こっちかな
まぁ勘なんですけどね

UCクラーニオ・コルヴォ発動
桜は傷つけない
さぁ見えないカラスくん!
私をアヤネさんのところへ導いて!!

アヤネさんが見えたら全力で駆け寄る


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】🌸
アドリブ◎

ソヨゴいるの?
返事がないネ
落ち着いて周囲を確認
どうやら夢でも幻覚でもない
結界の類か

影朧の仕業とするとソヨゴが危険な目に遭っているかも
桜舞う光景が却って不安を煽る
彼女の幸せのために急がなくては

あれ?
電子ゴーグルで周囲の様子を探りながら疑問を抱く
今の感情はなんだろう?
最初にソヨゴに対して感じたのは所有欲
次いで側にいて欲しいと思った
ずっと離れたくないと思った
死なないで欲しいと願った
彼女を不幸にするものは全て消してやろうと

ソヨゴの幸せって
僕がいない方がいいのだろうか?

UCの触手を全方位に伸ばす
出口は探す
なければこじ開ける

ソヨゴに会えたら
ぎゅっと抱きしめて
愛してるよ
と耳許で囁くよ



●高級シャンプー
「ソヨゴ、いるの?」
 遠くへ聞こえるようにと腹から声を出して呼びかけた。返ってくる声は無かったが、そうだろうねとある程度の予想は付いていた。
 温かくて柔らかな腕がなくなったと思ったら、視界一面薄紅の世界。落ち着いて周囲を確認すれば夢でも幻覚でも無いことが解る空間に居た。
(――結界の類か)
 対処に当たって欲しいと言われた影朧は桜だと聞いている。ならばこれも影朧の仕業かもしれない。そうだった場合、冬青の身に危険が迫っているかも知れない――そう思えば、落ち着いて居た胸に不安が押し寄せてきた。
(あれ?)
 冬青の幸せの為に急がなくてはと電子ゴーグルを装着して周囲の様子を探った所で、ふとした疑問を抱いた。小さな違和感。小さな疑問。
(今の感情はなんだろう?)
 最初に抱いたのは所有欲。次いで抱いたのは、側にいて欲しいという気持ち。それが、ずっと離れたくないになって。死なないで欲しいと彼女の安否を願った。幸せになってほしい。いつも笑顔で、幸せで居て欲しい。だから、彼女を不幸にするものは全て消してやろう。そう、思った。
 けれど。
(ソヨゴの幸せって……僕がいない方がいいのだろうか?)
 彼女の幸せのためだと、彼女に近付くものを排除して。それで彼女が喜ぶのだろうか。自分が居ないほうが彼女は自由で、生き生きとした笑みを浮かべ、幸せなのではないだろうか。
 小さな疑問は広がって、もしかして、もしかしてと胸に広がっていく。
(それでも、僕は――)
 アヤネの影から蛇に似た異界の触手が現れ、地を這った。

「アヤネさーん! アヤネさん、どこですかー! アヤネさーん!!」
 腕の中から消えてしまったアヤネを、冬青も探していた。名前を呼びながら歩いてみるものの、返事は一度も返ってきていない。けれどいつかは声が届くかもしれないから、冬青は定期的にアヤネの名を口にして彼女を探す。
 見渡す限り薄紅色の世界に独りきり。先程までの温もりも見当たらない。けれど怖くはない。彼女もきっとここに居るから。
(早く合流したいな……)
 不安よりも、側に居たい気持ちの方が勝っていた。
(なんかこう……アヤネさんの香りとかしないかな)
 くんくん、匂いをかいでみる。
「うーん、桜の匂いがいっぱいですね……」
 いい匂いだなぁなんて、少し思ってしまった。
 そうじゃなくてとハッとして、アヤネの香りを探してみる。
(さっき抱きしめていた時の香り……髪からとっても良い香り……高そうなシャンプーな感じの……)
 ボタニカルでフレグランスな感じがこう、ふわっと……。
 くんくん、くんくん。
「……犬じゃないからわからないや!」
 嗅いでみたけれどさっぱりわからなかった。今度使っているシャンプーを聞いてみようと心に決め、匂いを嗅ぐのはやめて目を閉じる。心を落ち着かせ、ゆっくりと腹式呼吸。十分に精神を統一出来たと感じたらそのまま研ぎ澄ました感覚を広げていき、アヤネの気配を探ってみる。
「……こっちかな」
 ぱちりと目を開けて、歩き出す。勿論、何となくな勘だ。けれどこういった時の勘は、なかなか捨てたものではない。
「カラスくん、おいで。私をアヤネさんのところへ導いて!」
 先達は見えないカラス、『コルヴォ』。
 嘴や爪で桜を傷付けないように注意して、前方を飛んでアヤネを探してもらう。
 姿は見えないが、コルヴォが高く鳴いて飛んでいく。冬青はその後を追いかける。
 暫くしたらコルヴォが地を這う蛇のようなものを見つけて啄もうとし、「ダメだよ、きっとアヤネさんのですよ!」なんて止めたりなんかもして。そうして触手を追いかけた先――。
「アヤネさん!」
「ソヨゴ!」
「超格好良く助けにきましたよ!」
 姿が見えた途端全速力で駆けてきた冬青の身体を、アヤネは両手を広げて受け止めて。もう離さないと言わんばかりに抱き締める。
「ソヨゴ、愛してるよ」
 耳許へ言葉を落とせば、腕の中の身体がぴょんっと跳ねて「ああああああの、アヤネさんっ」と挙動不審となる。まだまだだなぁソヨゴは、なんてくすりと笑ってから横顔を見れば桜に負けないくらい薄紅に染まる頬。それを「ソヨゴは言ってくれないの?」と指先で突けば、そろりと琥珀色の瞳が向けられる。
 ごくりと緊張した喉が鳴って、花唇が開かれれば。聞こえてくるのは同じ言葉。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花邨・八千代
【徒然】
気付けば視界が薄紅に染まる。
花、花、花ばかり。求める青はどこにもない。

ッ…ぬーさん!……布静!!

呼んだって叫んだって返事はなく、寒さばかりが身に染みる。
震える拳を抑え込んで、深呼吸を二度三度。
取り乱したってどうしようもねーんだ。

顔を上げる、前を見る。
腹の底から思いっきり「大声」を!

布静!!!

花弁を蹴って駆けだせば桜の香りが舞う。
その最中に混じる、あの男がよく煎じる薬草の匂い。
複雑な、それでいて爽やかに鼻を通るような匂いを追って更に駆ける。

早く、早くあいつを見つけなきゃ。
だって、あいつをひとりにしちゃダメなんだ。
泣くことも寂しいって口に出すこともできない、仕方のない男なんだから。


薬袋・布静
【徒然】🌸
桜の花弁で覆われた視界が晴れた先に
慣れ親しんだ白檀の香りも目を引く赤もない
するのは噎せ返るような桜の匂いだけだ

あの時と同じ喪失感が胸を支配する
大切な者が腕の中で温もりを失う恐怖が
先程まであった温もりが消えゆく感覚と似ていた
また失うのか、とらしくなく乾いた笑みと共に溢れ落ちた

――落ち着け

深呼吸を繰り返す
冷えた心と同様に冷静になる頭
死んだわけじゃない

ただ、そうだ…ただの鬼ごっこにすぎない

鬼さんこちら、手の鳴る方へ

口遊懐から出した【潮煙】をふかし
出た青煙を泳ぐように枝分かれた迷宮の道を
視界にチラつく花弁を喰い進み運ばせた
全ては愛しい鬼を導く為に…

さあさあ、こっちや
おいでませ、鬼さん



●鬼寄せ
 視界を覆った桜花弁。花の嵐が過ぎた後、そこには慣れ親しんだ白檀の香りも、目を引く赤もなく。爪紅の赤が衣に皺を作っていた事も確かに覚えているのに、温もりが腕から消えていた。
「……ち、よ?」
 在るのはむせ返るような桜の匂いと、視界を染める桜色。いくつもの幻朧桜が咲く空間に、攫われたのは己の方かと薄布の下で口端を歪めた。
 胸に満ちるのは、あの時と同じ喪失感。大切な者が腕の中で温もりを失ってしまう恐怖が、先程まであった温もりが消えゆく感覚と似ていた。
「また失うのか……」
 腕の中に、胸に、空虚が広がって、乾いた笑みと言葉が落ちる。
 らしくない。そう、思っているのに。胸に空いた穴が、紙に墨が滲むようににじわりと広がっていく。
(――落ち着け)
 焦る気持ちが呼吸を浅くし、思考も狭まらせていく。落ち着けと念じ、深く呼吸を繰り返せば、次第に冷静を取り戻す。
 八千代は、死んだわけじゃない。ただ、離されてしまっただけだ。
 彼女が居ないだけで熱を失った心と同じくらいに冷めた脳が、そう分析する。
(そうだ……ただの鬼ごっこに過ぎない)
 懐から、金の煙管を取り出して。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
 口遊み『潮煙』をふかせば、ゆうらり泳ぐように昇るは青煙。煙管型のエレメンタルロッドから現れた鮫型の精霊が、舞う花弁を喰いながら迷宮を泳ぎゆく。
 煙の香りを遠くへと届けるために。全ては愛しい鬼を導くために。

 消えた愛しい男の姿。切なく鳴いた女の喉。
 吸い込んだ空気が、一層桜の香に満ちている事に気付いて見渡せば、視界を染めるは薄紅一色。花、花、花ばかり。
 赤い女が愛する青は、求める青は、どこにも見当たらない。
「ッ……ぬーさん!……布静!!」
 声が跡を残して木霊する。名を呼んでも叫んでも、八千代の名を呼ぶ愛しい声は返ってこない。その現実が冷えた心へ更に寒さを呼んだ。春を思わせる景色だと言うのに、寒さばかりが身に染みる。足裏からも冷気が這い上がり、凍えてしまいそうだった。
 一瞬、目の前が暗くなる。いや、染まったのは赤かも知れない。
 けれど震える拳を抑え込み、八千代は深く呼吸を繰り返した。取り乱しても現状が変わりはしないのだから。寧ろ悪くなることの方が考えられる。あいつに再び会うためにも、このままでは居られない。
 大きく息を吐いて、また吸って。
 それから、顔を上げる。真っ直ぐに前だけを見て。
「布静!!!」
 腹いっぱいに吸い込んだ空気を一気に吐き出して、腹の底から轟く稲妻が如く《雷声》を。恫喝にも似た大声に、薄紅に染まる木々が空気の振動でビリビリと震えていた。
 愛しい名を思いっきり叫んで花弁を蹴って駆け出せば、桜の香りが舞って一層濃くなる。けれどその中に、鼻に馴染んだあの香り。あの男がよく煎じる薬草の匂い。複雑な、それでいて爽やかに鼻を通るような匂いを落ち着く香りだと思うようになったのはいつからだっただろう。
(早く、早くあいつを見つけなきゃ)
 駆ける足が、疾くなる。
(だって、あいつをひとりにしちゃダメなんだ)
 泣くことも寂しいって口に出すこともできない、仕方のない男なんだから。俺が傍に居ないと本当に駄目な男なんだから。
 ――さあさあ、こっちや。
 煙の香りが、愛しい鬼を喚ぶ。
 ――おいでませ、鬼さん。
 ああ、香る、香る。愛しい香りが。
「布静……!」
 見つけた! 求めていた青だ。
 薄紅の中で静かに煙を燻らす男へと駆け寄り、飛びつくように八千代は抱きつけば。
「よお見つけたな。えらいで」
 細めた瞳の奥に安堵の色を滲ませた男の手が、今度は確りと、八千代のまろい頭に乗っかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ステラ・アルゲン
【星門】カガリと
満開の桜は綺麗だけれど。今は隣に彼はいない
また攫われたのか
あの時、盗まれた時も怖かった
でも……主はきちんと剣の私を見つけてくれた
カガリだって見つけてくれる
それに私だって今はただの剣じゃない

カガリに渡したペンデュラム。元は私の一部の星の欠片
その反応を辿れば、きっと出会えるはず
彼は桜の似合う門だから。この桜の香りの中では探しづらいけど、これなら……
もう一度出会えたらさっきみたいに抱きしめて欲しいところだな

だから、ここで迷うわけには行かなんだよ
それに幻朧桜達よ、私はお前たちの同胞を助けたい
我が剣に誓うとも
力を見せるように桜を傷つけないように【流星一閃】を披露しよう


出水宮・カガリ
【星門】ステラと

ここ、は
桜の香りが、……濃い、……
…ステラは、どこへ消えたのか
ここに建っても、ステラはきっと、来ない
【導きのペンデュラム】、願いを叶えてはくれないか
カガリの願い星へ、導いてくれ(失せ物探し)

幻朧桜を害することなく、猟兵の力を見せろというなら
【錬成カミヤドリ】で【鉄門扉の盾】を複製
盾を集めて回転させ風を起こし、視界を覆いそうな花弁を弾いていくぞ
桜の枝を折らないようにはするとも
カガリは壁だからな、あまり攻撃の術(すべ)を持たんのだ

ステラは、確か、少し甘い匂いがする
彼女が好きな、砂糖菓子の、甘い匂いだ
見つけたらきっと、カガリの内に閉じ込めて
あの匂いを、感じたい



●ほしあかり
 伸ばした手の内に残ったのは、桜花弁だけ。カガリを掴めなかった手を握りしめ、ステラは幻朧桜たちを見上げた。
「攫ったのはお前達か?」
 お前達の願いは何だと尋ねてみるが、桜たちはさやさやと枝花を揺らすのみで答えは返らない。否、答えているのかもしれないが、口を持たない桜には伝える方法が行動しかないのだろう。その行動と言っても自身が動けるわけでもないため、こうして力を行使するしかない。
 優しく見守るようにただそこにある桜たちを見つめ、ステラはフッと眉尻を下げる。胸に浮かぶのはいつだって彼の姿。美しい金糸にアメジストの瞳。この綺麗な光景も彼と一緒に見たかったとカガリを思う。
 しかし彼は、今は隣にいなくて。心に隙間風が吹いたように、そっと吐息を零した。
(また、攫われたのか)
 今は身体があるから大丈夫と言ったばかりではあったが、攫われてしまった。盗まれた話をしたばかりだ。カガリはさぞ心配していることだろう。
 恐ろしくないかと問われれば、恐ろしい。彼が離れてしまうことが、離れている間にどちらかが失われてしまう可能性を思えば、いつだって胸の隅にその思いは現れる。以前、器物として盗まれた時も怖かった。けれど、当時のステラの主はきちんとステラを見つけてくれた。
(カガリだって見つけてくれる)
 今はステラもただの剣ではない。探しに行ける足があるし、何かを為す腕だってある。それに、カガリはステラの一部だった星の欠片で作ったペンデュラムを所持している。その反応を辿れば、きっと出会えるはずだ。
(もう一度出会えたらさっきみたいに抱きしめて欲しいところだな)
 カガリの顔と、その反応を。思い浮かべれば、くすりと笑みが浮かんだ。
 ――帰ろう、彼の元へ。
 腰に下げた、剣に手を掛ける。
「ここで迷うわけには行かなんだ」
 スラリ、鞘から抜けば、『流星剣』が星の煌めきを宿して。
「幻朧桜達よ、私はお前たちの同胞を助けたい」
 我が剣に誓うとも。
 歌うように宣言し、舞い散る桜花へと剣を振るう。
 放たれた斬撃は、道を切り拓いて――。

 彼の名前を口にした。ひとり取り残されたあの場所で。
 愛しい星の名を、強く、強く。
 返事はなくて、戻ってこなくて、絶望しかけた時――気付けばカガリも薄紅一色の世界に立っていた。
「ここ、は」
 見渡す限り、桜、桜、桜。鼻腔に届くのは、甘い桜の香りばかり。
 どこへ消えたのかとぐるりと見渡して見るが、愛しい青は、ステラの姿は見えない。
 ここに立っていても彼女はこないだろうと、カガリはチャリ……と幽かな音を立て、白き星欠片を取り出す。『導きのペンデュラム』、それは願い星たるステラの欠片。いつだってカガリを導いてくれるもの。
「カガリの願い星へ、導いてくれ」
 両手で包み込むように握り、額に押し当てる。祈るように願ってから、カガリは行動を開始する。
「カガリは壁だからな、あまり攻撃の術(すべ)を持たんのだが――」
 ガシャン。硬質な音とともに現れたのは、カガリの本体『鉄門扉の盾』――の複製たち。いくつも現れたそれを集めて回転させれば風が起き、舞い散る桜花弁を退けていく。
「こういうことならカガリも出来る」
 桜の枝や幹を傷付けないように注意して桜花を退ければ――。
 ふわり、香る。甘い、砂糖菓子のような匂い。
(ああ、彼女が好きな、砂糖菓子の、甘い匂いだ)
 自然と、笑みが浮かぶ。香りだけで思い浮かぶのは、美味しそうに菓子を食べる姿、カガリもどうだと差し出してくる姿。いつだって愛おしい姿。
 見つけたら、きっと。
 城門は彼女を護るように腕の中に閉じ込めるだろう。
(あの匂いを、感じたい)
 強く、そう願った時。
 桜花の薄紅色の中、ペンデュラムが白く輝いた。
「カガリ!」
「――っ、ステラ!」
 桜花弁を切り裂くようにして、流星が如くステラが現れる。
 姿を認めると、駆ける最中に剣を鞘へと戻し、伸ばされる手。
 その手を掴み、城門は門の中へ願い星を閉じ込めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
【エレル】

アァ……賢い君、賢い君、二人っきりだなァ。
ロカジンもヨシュカも桜が綺麗すぎて迷子になったのかもしれない。
どーする?どーしよ。
探す?探す?
うんうん、そうしようそうしよう。

迷路ってお互いがうろうろするとダメらしい。
それならコレは闇雲に動かない方がいいンだ。
アァ……そうだ。イイコトを思いついた。
狼の姿になってココで待ってよう。
そんな光景をこの世界で見た事あるある。
銅像みたいに待つ犬。
空に向かって人狼咆哮。
狼の遠吠え。
これでだいたいの場所は分かるだろう。

狼は耳も鼻もとーってもイイ。
二人が近付いてきたらすぐに分かるサ。


ロカジ・ミナイ
【エレル】

おやおや、おやおや?エンジくーん!迷子!?
ああ……どうしようね、ヨシュカ

と、見たらまぁ素敵な猟兵芸だこと!
わぁと見惚れながら
こんな芸当、猟兵にしか出来ないよ!と
アピールも忘れない

周囲を見渡し、色々と察し
……アレしかないな、と渋い顔で
大蛇を出す
便利なんだよコレ
桜よりデカい蛇に
まだ体に残るエンジくんと賢い君の気配を教えて
さながら警察犬と警察のえらい人みたいに大蛇を放つ

あんまりにもスルスルと桜を縫って進む僕を見たら
あんまりにもかっこいい猟兵に見えちゃうかもねぇ

あー、ちょっと待ってよオロチ!早いって!
僕らまで迷子になっちまう!
いざとなったら耳と鼻と第六感で見つける
ホラ、今なんか聞こえたよ


ヨシュカ・グナイゼナウ
【エレル】
エンジさまぁーどこですかー
うう、いませんね
探しに、探しに参りましょう!

猟兵の証と言われましても…
おもむろに積もる花びらを、ふわりと宙空に放ち
取り出すは暗器がひとつ千本を【早業】で、狙うは舞い散る桜色
一、二、三、四、五、六、七
七つの花びらの中心を寸分違わず貫いて。こんな感じで良いのかな

アレ…?わ、大きい蛇!!
(どう見ても警察の偉い人の様には見えないのは心の中にしまう)
桜舞う中大蛇を繰る様は確かに只者ではない雰囲気が有りま…え、速っ
蛇さん速くないですか!?おいて行かれちゃいますよ!ロカジさまはーやーくー!
かっこいいのでしょうか?これ!大丈夫?!
(ダッシュ)

何か?これは遠吠え、でしょうか?



●迷子の迷子の
「アァ……賢い君、賢い君、二人っきりだなァ」
 気付けば此処に居て。それがどうしてだったかなんて、一応は考えてみるけれど、正直どうでもいい。ロカジを賢い君といっしょにキュッとして、それから気付けばこの――視界一面が薄紅に染まる場所にいた。けれど賢い君が一緒だし、別にいい。もし賢い君がロカジたちに付いていたら妬いてしまっていたかも知れないけれど。
 一緒に居て、自分だけここに居るという事はないだろう。同行していた二人も一緒にいたけれど桜が綺麗すぎて迷子になったのかもしれない。
「ロカジンもヨシュカもそういうところあるからなァ」
 右を見る。桜。
 左を見る。桜。
 後ろを見る。桜。
 桜を見て歩いていたら、簡単に迷ってしまいそうだ。だからそうなのだろうと得心した様子で頷いて。
「どーする? どーしよ」
 迷子の二人をどうすべき? と賢い君へと尋ねてみる。何せ賢い君は賢いのだから。
「探す? 探す?」
 迷子なら、探すべきだろうか。それともそれとも、どうしようか。
「うんうん、そうしようそうしよう」
 賢い君とは話がついた。
 まずは匂いで探してみようと、鼻をすんすん。桜の匂いが強すぎて、二人の匂いは解りそうにない。鼻がいい狼だからこそ、強すぎる匂いはウエッてなる。ウエッ。
 それなら足で探すべきだろうか。いいや違う。それはダメ。迷路はお互いがウロウロするとダメらしいってことは、賢い君もエンジもちゃーんと知っている。きっと二人は動き回って探すから、エンジは闇雲に動かないほうがいいだろう。
「アァ……そうだ。イイコトを思いついた」
 頭に過ぎったのは、この世界のどこかで見た犬の姿。主を待つ犬は、銅像みたいに動かないのだ。
 もふんっと瞬く間にその身を四足の獣に変えたエンジは、空に向かって吠える。
 あおぉぉぉぉぉん――……。
 細く長く、尾を引いて。高らかに咆哮を響かせた。
 狼は、鳴いて仲間に報せるものだ。きっと仲間に届くだろう。

 一方その頃、迷子の二人(ロカジ視点)はと言うと。
「おやおや、おやおや? エンジくーん! 迷子!?」
「エンジさまぁーどこですかー」
 此方は此方で、迷子のエンジ(二人視点)を捜索中。
 突然桜だらけのところに来たのは驚いたけれど、先程消えたエンジが先に迷っているのだろうとあたりをつけて、二人はエンジの名を呼び探した。
 けれど返事は全く返ってこないし、視界に入るのは薄紅色ばかり。不健康そうな顔も、黒い毛皮も、三日月の瞳だって見当たらない。
「うう、いませんね」
「ああ……どうしようね、ヨシュカ」
「探しに、探しに参りましょう! エンジさま捜索隊です!」
「捜索隊! いいね、好きだよ」
 実に男の子の浪漫ポイントを押さえた響きだ。悪くない。寧ろかっこいい。
 まずは桜の帳をどうにかしましょうとミレナリィドールの少年が意気込んで。
 ひらひらと舞う桜を見上げたら――。
 一、二、三、四、五、六、七。
 七つの花弁の中心を寸分違わず鍼が貫き、地へとさくりと串刺しに。
「まぁ素敵な猟兵芸だこと! 動きが全く見えなかったよ!」
 素早くも鮮やかな動きに見惚れたロカジがわぁっと歓声を上げて。パチパチと手を叩けば、こんな感じで良いのかなと首を傾げていたヨシュカも満更でも無さ気な笑みを浮かべる。
「いやぁ見事見事。こんな芸当、猟兵にしか出来ないよ!」
 桜さん、見てました? すごかったでしょ? なんて、アピールアピール。
「ロカジさまも何かしてください!」
 かっこいいのが見たいです!
 以前見た、ビームもかっこよかった。きっとなんかすごいかっこいいものを出せるに違いない。少年ドールが無邪気にキラキラと輝く瞳を向ければ、「ちょっと待ってね今考える」とロカジは周りをキョロキョロ。
 何か、色々と察した。妖狐は、妖術奇術はお手の物。化かし合いや神隠しだって、何となーくアッ察し、となったりするのかもしれない。
「……アレしかないな」
「アレ…?」
 何だかとても渋い顔で口にしたロカジに、ヨシュカが首を傾げてみせれば。
「わ、大きい蛇!!」
 ドロンと現れた桜よりも大きな七つ首の蛇に、少年が素直な声を上げた。
 便利なんだよと言う割に渋い顔なのは、ロカジの若さが代償になるせいだろう。減った分を補う術(すべ)もある為、何かと便利に使ってしまう訳だが。
「桜には気をつけてくれよ」
 なんて声を掛けながら、まだ体に残るエンジくんと賢い君の気配を教えて。
「よし、行け!」
 警察の偉い人がかっこいい警察犬を放つように大蛇を放てば、大蛇はするりするりと桜の間を縫うように這って。
 あんまりにもかっこいい猟兵に見えちゃうかもねぇ。なんて、かっこいい大蛇にロカジはニンマリ笑うけれど。
「蛇さん速くないですか!?」
「あー」
 本当だ、速い。あっという間に、ぐんぐんと二人から遠ざかっていく。
「ちょっと待ってよオロチ! 早いって!」
「おいて行かれちゃいますよ! ロカジさまはーやーくー!」
 ロカジを置いて、少年ドールが駆けていく。最早かっこよいと言えるのかは解らない。大蛇を見失ったら二人まで迷子になってしまうと、ドタバタわあわあ賑やかに。二人は騒ぎながら大蛇を追いかけた。

 ――あおぉぉぉぉぉん。

「あ。ホラ、今なんか聞こえたよ」
「何か? これは遠吠え、でしょうか?」
 二人は、桜の中を駆ける。
 賢い君との熱い抱擁まで、あとちょっと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荻原・志桜
【🎲🌸】
うぅ…痛い…
彼の予想が当たってるとも露知らず
転んだ身体を起こして軽く払う

何処だろ、桜がすごいけど
ディイくんは――…やっぱりいない、か
不安を紛わそうと手を組むと手首で揺れる蒼が目に入る
…お守り。イクサ…だっけ
ごめんね、ちゃんと持ち主に返すから

何もない宙に手を伸ばし掴む仕草
わたしの桜が杖を形造る
杖に魔力を集め
いつでも『氷散弾』を撃てるように準備

耳に届く
わたしを呼ぶ一番聞きたかった声
ディイくん! 良かった、こっちに――…
抱き寄せられ、近い距離に固まる
ど、…どう、どうしたの?!思わず裏返る声は仕方ない
離れるな、という彼に頷き
少しだけ…手を握らせてと、
さっきはできなかった
今度こそ彼の手を握る


ディイ・ディー
【🎲🌸】

参ったな、桜だらけだ
戰紗は志桜が持ってるし気配を辿れば何とかいけるか?

己の呪力を解放する序に『妖剣解放』
未だ暴れるなよクガネ
勝手に動きそうな妖刀の名を呼び、鞘を押さえて先へ
影朧めいた気配はするが志桜を探す方が先だ

しかし心配だ
志桜は結構ふわふわしてるからな
転んだりしてないだろうか、それに……
昔から嫌な予感だけは当たるから今回だって
と、この気配……!

志桜、見つけたぜ!
姿を見てふと過るのは先程に出来なくて後悔した事
思わず左腕で軽く抱き寄せて、良かったと安堵
すまん、つい
……でも、暫く俺の傍を離れるなよ
もう手くらい幾らでも握るから、な
桜の前までは一緒に来たんだ、帰るのも揃って一緒が良いだろ



●今度こそ
 気付けば幻朧桜に埋め尽くされた空間に居たディイは、参ったなと思わず独り言ちた。
 伝説の幻朧桜の下で最後に見た景色。消える友人とその手に揺れる蒼。志桜が『戰紗』を持っていてくれている限り、気配を辿ることは叶うだろう。
 それよりも問題は、
「この桜たちか」
 しんしんと降り積もる雪のように、さやさやと幽き音鳴らす桜花の帳。雨の如くひらひらと視界に入るそれがあっては見通すこともできぬかと、ディイは腰に佩いた刀へと手を伸ばした。
 ――《妖剣解放》。刀を一閃すれば、衝撃波で桜の帳がすぱりと斬れる。すぐにまた舞う桜で覆われてしまうが、遠くまで斬撃を飛ばせばその分の視界が一瞬でも確保される。
 開放した呪力に反応してか、チャキチャキと妖刀が嗤う。
「未だ暴れるなよ『クガネ』」
 黒鉄色の妖刀が鍔を鳴らすのを、鞘を握り親指で鍔を押さえつければ、詰まらないと言いたげに妖刀が静まって。
 影朧めいた気配も近くから感じられる。けれど、友人を探す方が先だ。視界を覆う桜に惑わされぬようにと気を配りながらディイは先へと進んでいく。
 歩む度、蹴られた桜の絨毯が足元で舞う。艷やかな花弁はつるりとしており、重なれば実に滑りやすい。探し人が転んでいる姿を容易に想像が出来、ディイは小さく笑みを零した。
(志桜は結構ふわふわしてるからな)
 盛大に転んで怪我をしていなければいいと心配して。
(それに……昔から嫌な予感だけは当たる)
 だから今回だって――そう考えた所で、短く息を飲む。
 この気配は……!

「ひゃっ」
 ずるっと滑ってずてんと転べば、天からだけではなく足元からも盛大に桜が舞った。
「うぅ……痛い……」
 転んだ拍子に盛大に桜まみれになった志桜は、纏った桜花を払いながら立ち上がる。幸い、桜が降り積もった絨毯のお陰で怪我はない。が、誰かにもし見られていたら恥ずかしいし、ディイが見ていたらやっぱし……なんて顔をしてから手を貸してくれたことだろう。
 『ここは何処だろ、桜がすごいけど』と、桜の天蓋を見上げながら歩いていた事がいけなかったのだ。誰も居ないけれど「ちゃんと前を見て歩かないとだね」とため息を零して反省する。
「ディイくんは――……やっぱりいない、か」
 きょろり、視線を動かして。見えてくるのは、桜、桜、桜。濃い赤鉄色は何処にもなく、薄紅色ばかりが視界に満ちていた。
 桜ばかりの世界も、そういった知らない場所に居るのも、彼が居ないのも、不安で。自然と不安を紛らわすべく組んだ手。そこに、普段は無い色が視界に入り、揺れる蒼を思い出す。お守りにと、ディイが結んでくれた蒼。可愛く蝶々結び、だなんて。不安に眉尻を下げていた志桜の表情に、小さな笑みが戻った。
「……お守り。イクサ……だっけ。ごめんね、ちゃんと持ち主に返すから」
 何もない宙に手を伸ばせば、桜がふわりと集まって。
 杖の形となった桜を掴み、構え、杖の先に魔力を集める。迷宮から脱出するために、出来ることをしよう、と。
 杖の先に集まった魔力は、ぴきぴきと凍える歌を歌って。
 春めいた世界に《氷散弾》を生成した志桜は、いつでも撃てるようにとその状態を保ったままディイを探しに歩き出す。敵がいるかどうかも解らないから、せめて彼と再会出来るまでは自分の身を護れるように、と。
 幾らも歩かぬ内に、何かが桜の帳を吹き飛ばした。
「――っ!」
 矢張り、罠が!
 そう思い、杖を構えてそちらを向けば。
「志桜、見つけたぜ!」
 志桜が一番聞きたかった声が耳に届いて。
「ディイくん! 良かった、こっちに――……」
 声に、姿に、安堵して。
 ホッと吐息とともに零れた声が、途中で途切れる。
 それもそのはず、左腕をディイが伸ばしたと思ったら、志桜の身体は抱き寄せられていたのだから。ディイの胸に満ちる後悔など知るよしも無い志桜は、身体を強張らせ。ちらりとも彼の横顔を見る余裕もないままに口を開く。
「ど、……どう、どうしたの?!」
「すまん、つい。……でも、暫く俺の傍を離れるなよ」
 思わず裏返る声。けれどディイは気にした様子もなくそう言うだけで、腕の檻を解く様子はない。
 そんなディイに、志桜はわかったと頷き返して。
「それじゃあ少しだけ……手を握らせて」
 さっきは出来なかったから、今度こそ。
 腕の檻が解いた彼へ手を差し出せば、確りとその手を握られる。繋がれた手に、蒼が揺らされて。
「桜の前までは一緒に来たんだ、帰るのも揃って一緒が良いだろ」
 もう離れるなよと念を押して、青年が笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・エアレーザー
ヘルガ(f03378)を求め、人狼は咆哮する……

俺としたことが、なんという失態だ!
これからもずっと離さない。何があっても守り続けると誓ったのに……!

お前を失うことが、こんなにもつらいと初めて知った。
かつては当たり前だった『孤独』が、今はこんなにも恐ろしくてたまらない。
お前は俺の光、ただ一輪の花。
凍てついた心を溶かす、早春の日差しの温もり。
お前のくれた優しさが、今はこんなにも胸を刺す。
お前を失ったら、俺はどう生きればいい……?

一面の桜の中を、孤独な狼は彷徨い吼える。
彼女の光、彼女の匂いを求め。
ただ野生の勘の赴くまま、彼女の無事を祈りながら。

俺を一人にしないでくれ、ヘルガ……!


ヘルガ・リープフラウ
🌸
ヴォルフ(f05120)を探して

気がつけば、辺りは一面の桜。
さっきまで傍にいたヴォルフはいない。
もしかして、これが件の『神隠し』……

大丈夫。ヴォルフはきっと、わたくしを見つけ出してくれる。
そう自分に言い聞かせて。
彼が迷わないように【生まれながらの光】を灯に。
桜吹雪く中に、鈴蘭の花の香りを忍ばせて。
彼がどこにいても、たとえ桜花の壁に阻まれても、
わたくしの存在を感じられるように。

そしてわたくしも一歩を踏み出す。
きっと哀しい狼の鳴き声が聞こえるわ。
もう大丈夫、寂しくないと抱きしめてあげなくちゃ。
わたくしはもう、ただ助けを待つだけのお姫様じゃない。
これからの道行きを彼と共に歩むと誓ったのだから。



●孤独を知るからこそ
「ヘルガ、どこだ!」
 人狼が切羽詰まった声で咆哮する。
 素早く顔を振り辺りを睥睨するも、視界に入る全てが薄紅色に染まっている。稀に眩く思える程の清廉な白はどこにも見当たらない。
(俺としたことが、なんという失態だ!)
 これからもずっと離さない。何があっても護り続ける。そう、誓ったのに。
 拳を強く握りしめ、ヴォルフガングは駆ける。美しい桜花の絨毯を撒き散らして。
 どんなに桜花が美しくとも、ヘルガが側に居なくては美しいと感じはしない。二人で見つめる美しい景色はあんなにも心を温かくしてくれたのに、今はとても冷たかった。
(お前は、俺の陽だまりだったのだな)
 曇天から射す、温かな光。それは凍てついた心を温め溶かして、花を、世界を、美しいと思わせてくれる。春のように、彩りをくれる。
 独りなんて、当たり前だと思っていた。昨日の戦友が今日の敵になる世界を駆け、それが当たり前だと思っていた。孤独に慣れ、大丈夫だった。それなのに……誰かを失う事が、こんなにもつらくて。そして凍えそうになるだなんて、初めて知った。
 ――恐ろしい。お前を失うことが何よりも恐ろしい。
 温かさを知ってしまった。優しさを知ってしまった。それを与えてくれるお前を喪ったら、俺はどう生きればいい……?
 孤独な狼は、桜花を撒き散らせながら駆けて、ただ野生の勘の赴くまま駆けて――愛する匂いを求め、彷徨う。
「俺を一人にしないでくれ、ヘルガ……!」
 彼女の無事を祈りながら、切なる願いを篭めて孤独な狼が吼えた。

 桜花を連れて柔らかに吹く風が、さらりと髪をさらって。はらはらと舞う薄紅が髪を飾り立てるのをそのままに、ヘルガはゆっくりと景色を視界に収めた。目に映るのは柔らかな薄紅色だけで、先程まで傍らに居たはずのヴォルフガングの姿は何処にもない。
 愛していますと告げて寄り添った、彼の腕のたくましさ。この腕が必ず自分を護ってくれるのだと疑う余地もない頼もしさ。確かにその感触と温もりを、心と身体が覚えているというのに――。
(もしかして、これが件の『神隠し』……)
 攫われてしまったのでしょうかと気が付いて、そっと口元に手を添える。
(大丈夫。ヴォルフはきっと、わたくしを見つけ出してくれる)
 少しだけ揺れた心に、そう言い聞かせる。
 それよりも。自分のことよりも心配なのは、彼のこと。
 きっと寂しくて悲しくて、狼が鳴いている。護れなかったと自身を攻めて苦しんでもいるだろう。彼が道と、それから自身の心に迷わぬよう、ヘルガは標を示す。
 ふわりとヘルガの身から白花が舞えば、さんさんと降っては吹雪く桜花の中に、鈴蘭の花の香りを忍ばせる。鼻の良い狼は、桜花の香りが強すぎて鼻が効かなくなるかもしれない。けれど違う香りには、気付けるだろう。鈴蘭の花を飛ばせる範囲に彼が居なくとも、桜花を舞わせる風に乗せて運んでもらおう。
 ――彼がどこにいても、たとえ桜花の壁に阻まれても、わたくしの存在を感じられるように。
 飛んでいく白花を、胸の前で手を組んで見送って。ゆっくりとヘルガも歩みだす。
(わたくしはもう、ただ助けを待つだけのお姫様じゃない)
 自分の足で歩いて、囚われの塔からも抜け出せる。
 自らを鑑みず護って傷つく騎士を、護ることだって出来る。
 これからの道行きを彼と共に歩むと誓ったのだ。彼がそうしてくれるように、自分だって彼を護ってみせる。
 彼の心が孤独に震えて凍えてしまわないように抱きしめて、大丈夫だと、寂しくないと、伝えに行こう。
 ああ、ほら。哀しい狼の鳴き声が聞こえるわ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
【迎櫻館】


……櫻宵?さよは?僕の櫻はどこ?!
しっかり捕まえてたのに!なのに、攫われてしまった……
どうして、かえして、かえして!
(櫻宵は僕の、櫻なのに。奪うなんて)
無事ならいいのだけど……いいや、無事だよ
そうたよね?

甘くて酔うような桜龍の香りも
桜に紛れて、わからない
苛立ち混じりにパシンと地面を尾鰭で叩き

絶対みつける
桜吹雪に惑うよう櫻宵の名を呼びながら探し游ぐ
白雪、フレズ……大丈夫
僕は落ち着いてるよ

名を呼んで呼んで
届かない
ならばと歌う
歌えば君に届くはずだ
桜花のように燃える、「恋の歌」を歌い桜迷宮に響かせる
どこかの君に届くように
……燃やしはしないよ
僕の櫻をかえしてくれるならね

僕の唯一をかえしてよ!


鶴澤・白雪
【迎櫻館】

神隠し……というより物理的に分断された感じかしら?
櫻宵の安否は不明だけど桜になったわけではないだろうからとりあえず探しましょ
早々死ぬタイプじゃないし櫻宵だってリルと引き離しやがってって探してるはずだから大丈夫よ、多分

あまり落ち着いてるように見えないけど
リルが判断誤らないうちは見守っておくわ

あたしも目印くらいは立てておこうかしら
エラースラッジの剣林を高く形成するわ
これなら少し離れてても見えるでしょ

呼ぶのはリルとフレズローゼに任せて
空中浮遊を使って空から櫻宵が近くにいないか探してみるわ

こんな可愛い子が2人がかりで探してくれてるんだから
さっさとあたしたちを見つけなさいよ
何処よあの桜龍


フレズローゼ・クォレクロニカ
【迎櫻館】


櫻宵が……桜になってしまった……!
早く見つけないとリルくんの、怒りが爆発しちゃうんだ!
……てっきり、泣いちゃうと思ったんだけれど怒るなんて…
意外と熱いというか、男気があるというか
あんなに可愛いのに、ギャップがいいね
(僕の櫻。その単語を聞く度に胸きゅんがとまらない)
落ち着いて、リルくん!櫻宵は桜の龍…きっと酷い目にはあってないよ!

不安そうな顔を見れば、きっと怒りと不安とでごちゃごちゃなんだろうと察しがつく
え?櫻宵の匂い?エッ

(キュン

響く歌が切なくて
燃えるようで萌える
うん、呼ぼう!
ボクもとっておきをみせてやるのさ!
「女王陛下の気まぐれ裁判」!
噛まれたくなければ、はやく出ておいでよ櫻宵!


誘名・櫻宵
🌸【迎櫻館】


あら?
リルはどこ?
桜龍が桜に攫われる、なんて笑われてしまいそうだわ
リルったら今頃慌ててるかしら?うふふ
心配してくれてるかしら?悪くないわ

辺りを見渡しながら桜迷宮を歩む
けれど桜は悪いものではないものね
あたしをここに連れてきた事にも理由があるはず
何を伝えたいのかしら?
教えて下さる?
あたしは桜よ
傷つける意思はないわ
桜に話しかけながらゆるりリルを探す

不思議と焦りはないのよ
だって、あたしとリルだもの
桜のささめき
歌声がきこえてくるよう
哭華の桜花であたしの証を示す

可愛い人魚が泣いてしまう前に
もしくは縄張りをおかされた闘魚の如く怒ってしまう前に
はやく合流しなきゃ

さくら、さくら
桜の縁、導いて頂戴



●桜の縁
「……櫻宵? さよは? 僕の櫻はどこ?!」
 花弁を残して消えた、愛しいひと。その姿を探し、人魚が辺りを見渡せば。ぶわり、桜花が勢いよく舞って――。
 強く吹き荒れるそれから目を庇い、収まったころに周囲を見渡せば、リルとフレズローゼと白雪の三人は薄紅に染まる空間に居た。何処を見ても桜ばかりの空間に、三人は僅かに瞠目するも、
「櫻宵が……桜になってしまった……!」
「櫻宵……しっかり捕まえてたのに!」
 すぐに思い描くのは消えてしまった桜龍の姿。
「君たちが攫ったの!? どうして、かえして、かえして! 僕の櫻をかえして!」
 幻朧桜を見上げ、詰る人魚が尾鰭を地面に打ち付ける。ひらひらのそれが打ち付けられる度、桜の絨毯が桜花をぶわりと巻き上がらせるも目の前が真っ赤に染まりそうなリルは全く気にしはしない。
 その姿に、フレズローゼは胸を押さえる。「リルくん……」なんて労しげに眉を寄せるが、その胸中は表情通りのものではない。彼女の胸中を今満たしているもの――それは、『萌え』だ。胸がきゅんきゅんしたり、世界が華やいで見えたり、興奮を齎すもの。心がぎゅうううっとなるような、とても強いMOEで胸を満たしていた。
 白雪とフレズローゼが駆け寄るまで、リルは突然の喪失に呆然としていた。儚げなその顔に次に浮かぶのは涙かと、そう思っていたのに。まさか、怒るだなんて。意外と熱いというか、男気があると言うか……いつもは儚げな顔に可愛らしいのに、そのギャップがとても熱い。それは彼がベタと言う闘魚のキマイラなため、本質の気性の荒さのせいなのだが、とにかくギャップだ。ギャップ萌えというやつだ。本人が目の前に居なくて白雪と二人きりだったなら、熱く語ってしまっていただろう。
 それに。
(聞いたかい? 『僕の櫻』! 僕の櫻だって!!)
 その単語を聞く度に、胸きゅんが止まらない。今ならご飯三杯いけそうな気分だ。机があったらバンバン叩いていた。
「櫻宵の安否は不明だけど、桜になったわけではないだろうからきっと大丈夫よ」
 パシンパシンと苛立たしげに尾で地面を打つリルに近寄って、そっと白雪が声を掛ける。見た感じ、神隠しと言うよりは物理的に分断されたような感じがする。ならばきっと、此処の何処かで会えることだろう。それに櫻宵は早々死ぬようなタイプではない。何せ首狩族な訳だから、何かしらの敵が居たとしても儚く倒されてしまうよりも「首を頂戴!」と言っている姿の方が想像に易い。
「無事ならいいのだけど……いいや、無事だよ。そうだよね?」
 彼の匂いを辿ろうと探っても、ここは桜に満ち満ちてて桜龍の香りも解らない。それが一層リルを不安にさせ、パシンとまた地面を叩いて桜花を巻き上がらせてしまう。
「落ち着いて、リルくん! 櫻宵は桜の龍……きっと酷い目にはあってないよ!」
「でもフレズ、櫻宵の匂いも桜に紛れて解らないんだ」
「え? 櫻宵の匂い? エッ」
 キュンッ。
 いけない、表情にまで出てしまうところだった。
「と、とにかく、落ち着いて、リルくん!」
「『リルと引き離しやがって』って探してるはずだから大丈夫よ、多分」
「白雪、フレズ……大丈夫。僕は落ち着いてるよ」
 受け答えは、はっきりとしている。けれどあまり落ち着けていない事は、その尾が雄弁に語っていた。白雪はリルが判断誤らないうちは見守っていようと心に決めて、その場に尖晶石の剣林を形成する。高く聳えさせれば少し離れていても剣林は見えるし、迷ってしまった際の標ともなるだろう。それにもし、櫻宵がここを通った時、白雪たちが此処に居たことに気付けることだろう。
「櫻宵、どこ……!」
「櫻宵ー、出ておいでー!」
 名前を呼んで泳ぎだしたリルに倣い、フレズローゼも名を呼んで。
 けれど返事が返ってくる事はなく、ならばと人魚は喉に手を当てて――。
「……嗚呼、このアイで すべてを妬いて、焼いてしまえたら――」
 ――僕の唯一をかえしてよ!
 心に渦巻く思いを篭めて歌うは、人魚姫の《恋の歌》。人魚が歌うラブレターが届いた桜花弁が、チリ、と燃えていく。音や姿を遮る桜花弁の帳を、僕と櫻を隔てるものと妬いて、焼いて。歌声を遠くへと響かせようとする。何処かに居る櫻宵に届くように。
 ――僕の櫻をかえしてくれるなら、燃やしはしないよ。
 そう、思うけれど。歌声は命中した対象を燃やしていく。範囲を広げれば、すぐに幹へと焼け付く炎の歌は届いて――。
「歌が切なくて燃えるようで萌える……じゃなくて、リルくん! 桜を燃やしたらダメだよ。ボクも呼ぶからさ。ね!」
 君はひとりじゃない。だからボクらを頼りなよ。
 フレズローゼの声に、リルはしばたいてフレズローゼへと視線を向ける。桜龍は、伝説の幻朧桜の下で何と言っていただろう。桜が愛おしいと、自分に似ていると言っていたはずだ。そんな桜を、燃やしてはいけない。
 幹に着火した炎が消えると、フレズローゼは袖をまくって。ボクもとっておきをみせてやるのさ! と明るく笑う。
 ――ハート・ジャッチメント!
「噛まれたくなければ、はやく出ておいでよ櫻宵!」
 腕をジャバウォックの頭部に変形させた兎が、鋭い牙を覗かせて噛んじゃうぞと声を上げた。
 二人の姿に赤い瞳を和らげた白雪は、声で呼ぶのは二人に任せて空へと舞い上がる。二人が喉を使うのならば、自分は目で。
 しかし、浮かび上がって櫻宵を探そうとしてみるが、桜の木が絨毯になるだけだった。櫻宵が桜の大木も超す大男ならぽこっと頭が突き出ていたかもしれないが、自称か弱い乙女はそこまで高くはない。ぽっくり下駄で更に高くなるものの、一般的な成人男性の身長だ。
(何処よあの桜龍)
 こんな可愛い子がふたりがかりで探してくれてるんだから、さっさとあたしたちを見つけなさいよ。

 一方、当の桜龍はと言うと。
「あら? リルはどこ?」
 可愛い腕で抱きしめてくれていた筈なのに、愛しい人魚が居ないと辺りを見渡し、何となく状況を察した。
「桜龍が桜に攫われる、なんて」
 笑われてしまいそうだと、鈴を転がすして。
「リルったら今頃慌ててるかしら? 心配してくれてるかしら? 悪くないわ」
 一人気楽に、楽しげにうふふと笑う。けれどこのままで居る訳にもいかないから、櫻宵は櫻宵でリルたちを探すために歩き出す。
 桜に攫われてしまった。けれどこの桜が悪いものではないと、桜龍は知っていた。もしリルが側にいて何故と聞いたなら「見れば解るわ」と微笑んでいたことだろう。
 きっと何か理由があって連れてきたのだと幻朧桜たちを見上げ、その幹へそっと手を伸ばす。
「何を伝えたいのかしら? 教えて下さる?」
 あたしは桜よ。
 あなたたちを傷付ける意思は無いのだと、あなたたちの望みも叶えてあげたい、と。桜の精にも似た容貌で穏やかに微笑んで、伝える。
 桜たちが穏やかにさやさやと枝を揺らせば、やっぱりねと桜龍は愛おしげに桜を見る。桜たちにも櫻宵たちを傷付ける意思はない、そして必ず愛しい人魚にも会わせてくれるという確信も持てた。
「ありがとう、優しいのね」
 謝るように、気遣うように、幻朧桜が揺れるから。微笑んで、リルを探すためにゆるりと歩き出す。
 焦りは少しもない。桜のささめきが歌声のように聞こえてくる。柔らかな春の景色の中、その心中も穏やかだ。
「あたしは桜よ」
 再度口にして。
「愛しい子も、あなたたちも守れる、桜」
 刃となれる桜なのだと《哭華》の桜花で証を示せば、斬った桜吹雪の向こうで微かに歌声が聞こえて――。
(ああ、あの子が呼んでいる)
「さあ、さくら、さくら。桜の縁、導いて頂戴」
 可愛い人魚が泣いてしまう前に、闘魚の如く怒ってしまう前に。
 あたしとリルだもの。あたしとあの子の縁は繋がっているわ。

 桜の木が絨毯にならない高さに浮かんだ白雪が、小さく声を上げる。
「あら、櫻宵だわ」
 桜の帳は、降りる度に歌と哭華で拓かれて。その向こうに歩いてくる櫻宵が見えた。
「櫻宵だー!」
「やっと会えたわ、みん――……」
 手を上げて微笑む櫻宵だったが、その言葉は最後まで紡がれる事はなかった。
 游ぎがゆっくりな筈の人魚が弾丸のように飛びついて、その腕で子供のようにわんわんと泣いてしまったから。
「大丈夫よ、ずっと側にいるわ」
 櫻宵は人魚の白皙を濡らす雫を受け止める。
 堪えていたものが決壊してしまったのだろう。震える背中を、優しく優しく抱き締めた。

 ――余談だが、二人の再会を白雪と見守るフレズローゼが親指を立てて良い笑顔をし、脳内でスケッチブックを開いていた事に、白雪と櫻宵の二人は気付いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
【涙雨】
(確かに触れ合っていたのに)
(消えた)
(僅かな苛立ち混じりに舌打ちする)

やってくれますね、人の主を盗むとは
自分のものを奪われるの、嫌いなんですよ

ろかとフォーリーは残ってますね
つまり、相手が桜に攫われるかもしれない、という危惧を抱いた者が攫われている……?
まあ良いでしょう、さっさと迎えに行きますよ

にしても、桜以外見事に何も見えませんね、此処
燃やせば見晴らし良くなりそうですけど、……分かってますよやりませんよ流石に
何が起きるか分かりませんしねぇ

おいで、お前たち
管狐たちを広範囲に散らして探索範囲を広げましょうか
さゆりのお嬢さん、桜の薫りよりもあんたが好きだと言った此方の薫りを辿ってくださいな


綿津見・ろか
【涙雨】
花弁の雨に隠されてさゆりが消えた
戸惑っている間に 気が付いたら花の海
フォーリーは、叶は?……居た。よかった

ほんとに攫うなんて悪い桜 はやく迎えに行かないと
燃やすのは得意よと絆創膏を外しかけて
……何が起きるか分からない そうね
……情報が少なすぎる そうよね
手からもれる炎に新しい絆創膏で蓋をする

あたしにできることは少ないから
いつもより小さく息を吸って
呪詛も衝撃波も声に乗せないようにして 叫ぶ
「さゆり」
ただの金切り声 どうか届いて


四・さゆり
【涙雨】

あら、花弁に、本当に攫われるだなんて
わたしが迷子かしら、
それともあの子たちが迷子かしら、

どちらにせよ、レディを攫うだなんて、
潰されても文句はないはず、よね。

まあ、そうね。…わたしの下僕がとられるよりは、マシ、ね。

全て壊していれば、あの子たち、気付くかしら。
けれど、

そうね、迎えを待つのも、悪くないでしょう。
並びなさい、わたしの傘たち
ふうわり、ふわり、
鮮明な赤が宙に咲けば、良い目印でしょう?

かわいいあの子がこちらに駆けてくる
かわいいあの子の香りがする
かわいいあの子の泣き声が聞こえた

大丈夫、こっちよ、こっち。

わたし、探し続けるのは、もう嫌なの。
さあさ、迎えにいらっしゃい。


フォーリー・セビキウス
【涙雨】
ろか、心配するな。此処にいる。だがどうやら、消えたのはさゆりだけではないらしいな。あの一瞬で私達もまた、別の場所へと転移させられたようだ。全く、やってくれる。

迎えに行くというが、さゆりがどこにいるのか分かるのか?
私は分かるが…待て、流石に全てを燃やすのは早計すぎる。やるにしても、花弁を数枚燃やす位にしておけ。まだこの術のデータが少なすぎる。
取り敢えずは調べてみてからだ。

視力、情報収集。各種知識を照らし合わせ知見を得る。有る程度わかればいよいよUCの出番だ。

面倒だが、仕方ないな。
匂いは覚えているな?勿論、痺れさせるなよ?
そして矢も破魔矢に変更だ。
魔を切り裂いて追え、火の猟犬。



●あまやどり
 ――チッ。
 桃源郷のようなその場所に、最初に響いたのは男の舌打ち。苛立ち混じりのその音に、薄紅の桜雨に気を取られていた少女が金糸を揺らして振り向いた。
 薄紅色に染まる世界の中に立つ、白が目立つ男が二人。
「……居た。よかった」
「ろか、心配するな。此処にいる」
 さゆりだけじゃなくて二人も居なくなっていたらどうしようかと思ったと少女は胸を撫で下ろす。もしかしたらさゆりも側にいるのではと淡い期待を胸に見渡してみるが、目立つ筈の黄色のレインコートが視界に入ることはなかった。落胆、そして苛立ちと焦り。少女の胸に幾つもの感情の炎が灯る。
「あの一瞬で私達もまた、別の場所へと転移させられたようだ。全く、やってくれる」
 現状を見れば、そういうことなのだろう。涼しい顔で、フォーリーがかぶりを振って。それよりも大丈夫なのかと薬草の香りを放つ男へと視線を向ける。
「やってくれますね、人の主を盗むとは」
 確かに触れ合っていた。その温もりが、僅かに残っている。それなのに、不敵に微笑う彼女だけが居ない。
 誰だって、自分のものを奪われるのは嫌いだ。煙で己と世界を隔てている叶とて、それは同じ。過敏になる神経を落ち着かせるように煙を喫って、浅く吐けば、苛立ちも僅かに煙に溶けた。
「ろかとフォーリーは残ってますね」
 二人の姿は視界に入るけれど、幻影ではないかとの確認を篭めて言葉を掛ければ、「ああ」「ええ」と頷きが返る。
(つまり、相手が桜に攫われるかもしれない、という危惧を抱いた者が攫われている……?)
 そういうことなのだろうかと推測してみるが、確証は何一つ無い。
「まあ良いでしょう、さっさと迎えに行きますよ」
「そうね、はやく迎えに行かないと」
「迎えに行くというが、さゆりがどこにいるのか分かるのか?」
 フォーリーの言葉に、叶とろかは顔を見合わせて。そして、しんしんと降る雪のように舞い降りる桜を見る。桜花弁の帳があっては先を見通せず、捜している少女の黄色も見えない。
「燃やせば見晴らし良くなりそうですけど」
「……待て、流石に全てを燃やすのは早計すぎる」
「……分かってますよ。やりませんよ流石に」
「やるにしても、花弁を数枚燃やす位にしておけ」
 何が起きるか分かりませんしねぇ。
 叶たちの言葉に、燃やすのは得意よと絆創膏を外しかけていたろかが、ぴたりと動きを止める。桜は木属性。全て燃やしてしまえば手っ取り早い、そう思っていたけれど。
「……何が起きるか分からない。そうね」
 こくり。
「まだこの術のデータが少なすぎる」
「……情報が少なすぎる。そうよね」
 こくり、もうひとつ頷いた。フォーリーの言にも一理ある。悪い桜と感情のままに燃やしてしまえば、此処に居ないさゆりがどうなるかは解らない。この迷宮ごと自分たちも燃えてしまうように仕向けられるかもしれないし、一生出れなくなる可能性だってある。とにかく情報が少ないため、早計すぎるとフォーリーが釘を刺した。
「取り敢えずは調べてみてからだ」
「そうね」
 ろかは手に咲いた炎の華に、新たな絆創膏で蓋をした。
「どうするの?」
「そうだな、まずは情報収集だ」
 視力を用いた情報収集。それは先程から行っている。桜しか見えない、という結果に終わってはいるが。その他各種知識を照らし合わせて知見を得ようとするフォーリーだったが、桜がたくさんあるということしか解らない。
 そのため、ユーベルコードに頼ることにした。
「面倒だが、仕方ないな」
 『Cipher』に破魔矢を番え、引き絞る。”視認している対象”を追える《黒血妖狗》。今視認できているのは、桜のみだ。けれど矢は放てば真っ直ぐに飛ぶから、彼女の側へと届けば良いと矢を放つ。
「魔を切り裂いて追え、火の猟犬」
 此処にあるのは幻朧桜。魔なる者も物もありはしないため、ただ真っ直ぐに矢が放たれるのを見て、叶もゆうらり煙を操り煙の管狐を喚ぶ。
「おいで、お前たち」
 ふわりゆらりと現れた50匹もの管狐たちへさゆりを見つけてこいと命じれば、一斉に四方へと管狐たちが飛んでいく。例え狐たちがさゆりを見つけられなくとも、撒かれた香りには気付くことだろう。
「さゆりのお嬢さん、桜の薫りよりもあんたが好きだと言った此方の薫りを辿ってくださいな」
 長煙管に口を寄せまた喫えば、程なく会える気がしてきた男は薄く笑む。
 そんな二人を見て、ろかも自分が出来ることをしようと考える。ろかにできることは少ない。けれど、ろかにしかできないこともある。
 小さく息を吸えば、彼女が何をしようとしているのか気付いたのであろう二人が、サッと両耳を塞ぐ。
 呪詛も衝撃波も、声に乗せないようにと気をつけて。
 ろかは、願いを込めて金切り声を放つ。
「――さゆり」
 どうか、届いてと。

 薄紅色の中に、鮮烈な赤い花が咲いている。
 宙に、地に。ふうわり、ふわりと咲く、傘の花。
 その中央に、黄色のレインコートの少女が立っている。赤い花の、花芯のように。
 叶たち三人が桜迷宮へ来るほんの少し前。そこに降り立った少女の第一声は、「あら」だった。ひとりになってしまったことに怯える訳でもなく、本当に花弁に攫われるだなんてと笑って。
「わたしが迷子かしら、それともあの子たちが迷子かしら」
 見える範囲に三人の姿がないのだから、どちらかなのだろう。
 どちらが先に攫われたのかなんて、解らない。けれど。
(レディを攫うだなんて、潰されても文句はないはず、よね)
 迷子の時は、どうすればいい? 少女が歌うように口遊む。
 迷子センターに届けるべき? ――桜だらけで見当たらないけれど。
 傘で木を打ち壊して、進めばいいの? ――そうすればあの子たち、気付くかしら。
 楽しいことが雨のように心に落ちて、どうしようかしらと少女が微笑う。
「けれど、そうね」
 桜雨の降る中、くるりと回ってレインコートを翻し。
 迎えを待つのも悪くないと、少女の瞳が悪戯猫の弧を描く。
「並びなさい、わたしの傘たち」
 そうして、赤い傘たちは花芯たる少女に喚ばれた。
 ふうわり、ふわり。傘が飛ぶ。
 ひらり、留め具をはずしたなら。綻ぶように開けば、花のよう。
「大丈夫、こっちよ、こっち」
 赤い赤い、目印はここ。
 わたしはここよ。迎えにいらっしゃい、かわいいわたしの下僕たち。
 捜し続けるのはもう嫌なのだと微笑んで。
 音に、香りに。かわいいあの子たちの姿を感じれば、ほら、あとちょっと。
 慌てて駆けてくる姿が見えたなら、少女はまた微笑う。
「遅いわ、三人とも。三人で何を遊んでいたのかしら」
 桜雨の雨宿りは、もう、おしまい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
どこを見ても桜ばかり
私の「彼ら」は何処に居る?
ぬいぐるみを取り戻さないと
捜し物の手を増やすために召喚しようかと思ったけれど
喚んで、来てくれなかったら?
おいでと呼んで、応えてもらえなかったら?
考えるだに恐ろしい

あぁ、そうだ。花には花だ
華断で、桜ばかりの景色に私の花を舞わせてやろう
追憶宿す橘で、世界を、満たして――

無様ですね 僕が言う
情けねー顔 俺が言う
呼びかけずとも、声が、する

…なんだ
君達、居るなら居ると、言いたまえよ
消えたのかと、思ったろう
胸に触れて、ようやく笑えた
――まったく、君の血の匂いに気付かないとは、本当に無様なことだ
さぁ、悪戯な桜殿。花という花を散らされたくなければ、道を開けておくれ



●空断ち花
 ぬいぐるみが、居なくなって。
 君たちの声が、聞こえなくて。
 まるでぬいぐるみと一緒に『彼ら』まで居なくなったようで、一面桜色の春の景色の中に居ると言うのに心が凍てつくようだった。
「此処は……」
 桜ばかりの景色を見渡して、近くの桜の木へ駆け寄り膝をつく。桜花弁が降り積もったふかふかの絨毯を掻き分けて、埋もれてやしないかとぬいぐるみを探すも、白い手足も黒い顔も出てきはしない。
 此処に居ないのなら、別の木の……。右を見て、左を見る。何処を見ても桜ばかりで、捜そうにも一人では手が足りない。ならば捜し物の手を増やすべく召喚しようかと思い、虚空へ手を伸ばしてみるものの、その手は何も掴むこと無く降ろされた。
 ――もし。喚んで、来てくれなかったら?
 おいでと呼んで、応えてもらえなかったら?
 あぁ、考えるだに恐ろしい。
 ため息とともに立ち上がり、衣服に付いた花弁を払う。らしくない、そう思うのに。何かが胸を焦がし、広がっていく。
 けれど。
「あぁ、そうだ。花には花だ」
 楽しい遊びを思いつくように、思いついて。
 橘混じりの桜花も、きっと美しかろうなと花を舞わす。甘い桜花の中に、柑橘の爽やかな香りがふわりと花開く。左近桜と右近橘は対成すもの。相性がいい。
 香りに気分が軽くなったように目を細め見上げれば、ふいに届く、聞き慣れた声。
『無様ですね』
『情けねー顔』
 僕と俺が、呼びかけもてもいないのに、そう言った。
「……なんだ」
 僅かに声が上擦って。
「君達、居るなら居ると、言いたまえよ」
 覚えたのは、安堵。消えていなかったと胸に触れ、ようやくいつもの笑みが戻る。
(――まったく、君の血の匂いに気付かないとは、本当に無様なことだ)
「さぁ、悪戯な桜殿。花という花を散らされたくなければ、道を開けておくれ」
 ついでにぬいぐるみも返しておくれ。
 捜さないといけない? ならば捜しにいくよ。『私たち』で。

大成功 🔵​🔵​🔵​

東雲・咲夜
【藤桜】

何処、何処へ行かはったの、そうくん…!
彼方まで眩い程の薄紅色やのに
まるで暗闇に堕ちたような喪失感

駆けても、翔けても、貴方は居ぃひん
焦りと不安からの小刻みな肺活に
奔り続けたが故の息切れ
ふらつく足元、酷い耳鳴り
…嗚呼、もう、動けへん
藍眼から熱と共に溢るる泪

落ち着いて――
そう、己に云い聴かせ
彼も猟兵なんやから
それに、うちの前からそう簡単に消える筈あらへん

掌ほどの星彩散りばむ薬箱
一粒摘まみ、神霊から生ずる水泡と嚥下する
父さま…勇気を、頂戴

此れはきっと幻
彼の桜樹が抱く夢
ねぇお願い…此処から出しておくれやす
縁深き桜の友を傷つけたくあらへん
嘆願を籠め、桜世界を見つめて

藤の香りよ、彼の人へ導いて――


朧・蒼夜
【藤桜】

まさか自分が攫われる側になろうとは
不甲斐無さに溜息をつく

咲夜は大丈夫だろうか?
騎士として傍に居ると約束したのに
彼女を一人にしてしまった
何処かで泣いているのではと
彼女へと行く道を見つけなくては

また声が聞こえる
『行かないで』『愛しているの』
きっと桜の幻影なのだろう
妹の幻がそっと自分の頬に触れそっと顔を近く瞬間
『そうくん』と声と共に【藤乱舞】と攻撃する
どうしてと哀しげに消えていく
すまない、俺は…
振り返らず進む
本当に護りたいと思う桜の姫に

どんな桜の匂いの中でも彼女の馨は迷わない
彼女も気づいてくれるだろうか
この藤の馨を

迷路を抜け、彼女の顔を見て安堵し微笑み
…ただいま、咲夜



●桜雨に藤傘
「何処、何処へ行かはったの、そうくん……!」
 薄紅色に染まる世界を、咲夜は駆ける。駆けては翔けて、けれど幼馴染の姿が見えなくて、また駆けて。
 つい先程まで、薄紅色を薄紅色と感じていた。けれどそれは、蒼夜が側に居てくれたからだ。今はただ、暗く。色彩を感じられない。明るく美しい景色だと、心の何処かで認識する。けれど咲夜の心の殆どが感じているのは、まるで暗闇に堕ちたような喪失感。足元のふかふかの桜の絨毯も、崩れかけのグラグラな地面のように感じてしまう。
 はあはあと吐息が弾む。走らずとも焦りと不安から呼吸は小刻みだったが、咲夜は蒼夜を探して走った。十分に酸素が巡らず、酷い頭痛に目眩。限界を訴える足は、とうに覚束ず。酷い耳鳴りもして、身体が警告してくる。――それでも、咲夜は走り続けた。足を止めたら最後、動けなくなりそうで。
(……嗚呼、もう、動けへん)
 躓くものは何もないけれど、足がもう限界で。笑った膝が桜花の絨毯を踏み締めることが叶わず、がくりと桜花の中に倒れ伏した。
 ――落ち着いて。そう自分に言い聞かせるも、瞳からは熱を伴った雫がポロポロと零れてします。彼も咲夜も猟兵で、問題を切り拓く術は持っている。
(うちの前からそう簡単に消える筈あらへん)
 大丈夫、大丈夫。何度も自分に言い聞かせるも、やはり涙は止まらなくて。懐から掌ほどの星彩が散る薬箱を取り出し、「父さま……勇気を、頂戴」と一粒摘んで嚥下した。
 父の愛が届いたのか、僅かに落ち着いて、呼吸が楽になる。そっと半身を起こし、涙に濡れる瞳で桜を見上げて口にするのは、嘆願。
「ねぇお願い……此処から出しておくれやす」
 縁深き桜の友を傷つけたくないのだと、心から伝えた。

 ――はあ。嘆息が零れる。
(まさか自分が攫われる側になろうとは)
 不甲斐なさに、視線が落ちてしまう。視界に入るのは桜花の絨毯に、自身の手足。手も足も、こんなにも彼女よりも大きいのに、騎士として傍に居ると約束したのに、側に居てほしいという彼女の願いを叶えられないなんて。
 自分が攫われてしまったのは不甲斐ない。けれど心の奥底で、彼女が攫われなくて良かったとも安堵する心もあった。彼女が、もし目の前で攫われていたらどうしていただろうか。きっと目の前が真っ赤に染まって、冷静になることも叶わず闇雲に走り回ってしまっていただろう。
 けれど彼女を一人にしてしまった。彼女が何処かで泣いているかもしれない。
(咲夜……)
 愛しい姿を思い浮かべ、藤騎士は咲夜を探して歩き始めた。
『行かないで』
 しかし、暫くも歩かない内に、また声が聞こえてくる。
『愛しているの』
 妹の幻が、ふわりと現れる。桜の幻影だろうかと見つめるも、違うという事が解る。桜にそんな事をする必要はない。
(これは、俺が――)
 自身の心が生んだ、桜への幻だ。
 『妹』が頬に触れようと手を伸ばす。
『そうくん』
「藤よ……舞い散れ」
 顔を寄せてくるその姿に、武器を藤花に変えて――《藤乱舞》。幻を断ち切るように紫藤がごうっと吹けば、妹の幻は「どうして」と言葉を残して哀しげに消えて。
「すまない、俺は……」
 武器を、収め。振り返らずに進む。
 ――俺が本当に護りたいと願うのは、ただひとり。
 愛しい桜の姫の元へ、藤の馨を届けんと騎士は歩む。
 彼女が涙雨を降らせたなら、藤傘をさすのも己の役目だから。

 桜花の帳が開いて、愛しい姫が見えてくる。
「そう、くん……?」
 藍色の瞳が見開かれて。
「……ただいま、咲夜」
 彼女の顔に安堵した藤騎士が愛しげに微笑めば、美しいと彼が称す顔が幼子のようにくしゃりと涙で崩れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助
【華座敷】

恋人が攫われたなら、この桜が咲けば咲くほど、辛かろうか
桜揺蕩う光景、少し堪能したいが…

帯から取り出す、紫の守り石
第六感の魔力を借り友を探すと
血の気配に身体が凍る
自分に探させるための自傷だと直感し

なんで、いつも、自分を道具みたいに…

桜が襞をかさね、濃さを増すように感じられ
…ああ、なんて邪魔…、咲くな、
樹は避け、幻の花弁を炎で荒く薙いでも
滲む視界が苛立たしい
勿忘草、声…弟の存在に驚くより先に、降り積む桜を駆ける

出会い頭に叱るつもりが
取られた手に言葉を失う…手練れめ

だから赤子に触れるよう、彼の手を両手で優しく包む
これは大切なもの。傷付くのはひどく辛い。全部掌から伝わるよう

…ああ。役が抜けぬ


霧島・ニュイ
【華座敷】
あっ、クロトさん!探し物?人?
兄さんと仕事に来てたの?
つまり抱きしめて演技をしたと。見たかったなー
僕はリサちゃんと……
……リサちゃん攫うとか……ねえ?

失せ物探しを使いながら
椿の君たる彼女が纏うのは椿の香り
櫻に対抗するように香りを漂わせる君が愛おしい
やがて壁に凭れる君を見つけて
お待たせ、お姫様(抱っこ

兄さんも探してくれていそうだよね…
パーカーから常に携帯している弾丸を取り出して勿忘草に変えて飛ばす
にいさーん(勿忘草ふわー
何かを始めたクロトさんを眺めていると
∑って、何美味しそうなじゃなくて危ない事してるの!?
誘い出す為とはいえ兄さん怒っちゃうよ!?
手段選ばないのはクロトさんらしいけどさー


クロト・ラトキエ
【華座敷】

己は演者
生は舞台
演ずるとは、己を創る事

意外な姿を認め
ニュイ、と呼び止め
旅は道連れ、同道願い
揶揄いの気配は流しつつ
彼の彼女への想いはよく知る故に…
見付けましょうね

早く、
抱いた残香が
腕より消えるより先に

陽光は桜の天蓋の向う
なら鼻を擽るひだまりに似た香は――

桜へ、
影朧を鎮める者と
猟兵と証立てるなら
…遠からぬ彼に、此処に居ると届けるなら

UCにて鋼糸閃かすは虚空
樹は害さず
己の塒は戦場
殺め方同様、演出の為の傷も自在
最後の一糸が己を斬り血が舞えば
…一石二鳥と
あの心配性なら、きっと気付く
信じてる

再会に手を取って
自然、笑む
役が抜けて無い?
ニュイに感化されましたかねー

演技…とはいえ
嘘は無かったものでして



●人形劇
「……リサちゃん攫うとか……ねえ?」
 薄紅色の花が舞う中、ニュイは薄く笑んだ。
 気付けば四方八方桜に囲まれた場所に居た。けれど、伝説の幻朧桜の下で愛しい彼女が消えてしまったことを覚えている。よりによって、ニュイの腕の中で……。ねえ、そんなの許されると思っているの?
 パーカーから弾丸を取り出して勿忘草の花弁に変え、ふわりと飛ばす。それは、桜の帳を斬り裂いて飛んでいく。
 迷子の君に、僕がすぐに迎えにいくことを知らせよう。待っていてね、僕のお姫様。僕を忘れないでね、リサちゃん。ふわり、ふうわり、勿忘草の花が飛ぶ。
 彼女を見つけるのは、椿の香りを追えばいい。咽るほどに漂う甘い桜の香りの中であっても、嗅ぎ慣れた香りにニュイは気がつく。
 香りが強くなれば、もうすぐ再会出来ると運ぶ足は自然と早くなって。
 桜の根本、その幹に凭れて座る人形を見つければパッと笑顔を咲かせて駆け寄って、恭しく膝を付き抱き上げる。
「お待たせ、お姫様」
 僕から逃げられると思った? ずっとずっと一緒だよ。
 さあ行こうかと声を掛け、ニュイは人形とともに桜迷宮を進んでいく。

 己は演者。生は舞台。演ずるとは、己を創る事。
 そして今日の舞台は、桜の舞台。天も地も、四方八方が桜色。
 陽を戴く男が消えたと思ったら、自身も見知らぬ場所に居た。さてはてどうしたものかと首を傾げるクロトに焦りはない。何故なら未だ舞台の延長線、幕が降りきってしまうまでは演じねばならない。それが今日限りの舞台なのか、それとも終の舞台なのかは黒衣の男にも解らぬものだけれど。
「――早く、彼を探さねば」
 早く、抱いた残香が腕より消えるより先に。
 独りきりであろうとも、きっと桜が見ている。演者は観客が居るのを知りながら、そうと観客に悟られぬように演じる者。役になりきり口開き、千之助を探すべく行動を開始する。
 甘い桜の香りの中、陽だまりに似た香りが鼻を擽る。桜の天蓋で覆われたこの場所に陽の光が届かないことを見上げて確認して――。
 ひらりと舞わせた何かがきらりと花弁の帳の中で煌めけば、舞い散る花弁が鮮やかに斬られてはらりと落ちていく。
「――っ」
 放つ鋼糸の一糸が自身を斬り、血の花がパッと鮮やかに咲く。息を飲み、最愛が居なくて焦ってしまったと言わんばかりの表情をして。
「……一石二鳥。あの心配性ならきっと気付く。信じてる」
 勿論、演技であり、そういう演出だ。
(さて、のんびり待つとしますか)

 もし恋人が攫われたとしたら、桜が咲けば咲くほど、美しければ美しいほど、胸が痛み辛いのだろうか。薄紅色の桜揺蕩う光景の中に独りで居るのが耐えきれず、思いのままに愛しい影を捜して走り回ってしまうのだろうか。
 美しい光景をもう暫く堪能したいと思いながらも、恋人という役ならばそうするのだろうと陽を戴く男も動き出す。帯から紫の守り石を取り出して、魔力を篭めて友を捜そうとする。桜に惑わされずに作用するかは解らないが、試せる手は試すべく。
 しかし、ふわりと鼻腔を擽る甘い香り。桜よりも、何よりも、甘い。それは、血液の気配。
 知った香りは、彼のものと即座に解る。そして血を纏う理由も――。
(なんで、いつも、自分を道具みたいに……)
 自分に探させるために自傷したのだと解り、拳を握りしめる。見つけ出さぬ限り、男は手当をしないことだろう。そして、時が経てば経つほど血が足りぬかと自傷を更に重ねることが容易に想像できた。
 なんとしても、疾く駆けつけねばならない。
 美しい光景を堪能したいと思っていた気持ちも霧散し、桜雨の中を千之助は駆けた。
「……ああ、なんて邪魔……、咲くな」
 幾重にも重なる桜の帳が、邪魔で。彼と己を遮る桜が、邪魔で。
 ――ごう。意識を向けたそれが、炎に包まれ散っていく。樹は避け、舞い散る桜花弁だけを炎で払い、苛立たしくも滲む視界を感じながら千之助は駆けに駆けた。
「クロト」
 桜花の中にその黒を見つければ、駆け寄って。
 叱りつけようと口を開いた。
 なのに、次の言葉が直ぐに出なかったのは、その手を取られた所為。
(……手練れめ)
 見つめる先には、自然な笑顔。真っ直ぐに見つめ、クロトの両手を真綿で包むように優しく包んだ。これは大切なもの。傷付くのはひどく辛い。全部掌から伝わるよう、心を篭めて。
「……ああ。役が抜けぬ」
 傍らの男にだけ聞こえる声で呟けば、一層男は笑みを深くする。演技とは言え嘘はなかったとでも言うように。
 そうして二人が再会を果たし、さあ先へ進むかとした時――。
「あっ、クロトさん!」
「ニュイ」
「それから、兄さんも」
 二人も仕事で来ていたの? と首を傾げながら椿の香りが近寄ってきた。
 ニュイがすんと鼻を鳴らし、何か美味しそうな匂いがする……と顔を巡らせれば、その先にはクロトの姿。兄同様、ニュイが気付いた事を知りながら、なんでもありませんよと笑顔の仮面を張り付けて、クロトは片手を上げてみせた。
「何やって……って、兄さんを誘い出す為か! とはいえ兄さん怒っちゃうよ!?」
 手段選ばないのはクロトさんらしいけどさー。でもダメだよ!
 明るく、けれど釘を刺すようにニュイが口にすれば、もっと言ってやってくれと千之助からも視線を感じたクロトは、逃げるように二人の先へ行く。
「まあ、いいじゃないですか。それより先に進みましょうよ」
 よくない! と背後で声が重なるも、のらりくらりと躱す演者は軽い足取りにて。
「おいてっちゃいますよー」
 ほらほらお早く! 桜色の幕が降りてしまいますよ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
♢🌸
【双星】
…まずったな
何ともないって言った途端にこれか
頭をかき怒るアレスを想像する
小言コースか…いや、違うな
消える直前のアレスの
怒るよりも先に不安が来そうな
迷子みたいな顔
――最終的にどうにかなるなら
俺は怪我も何も気にしねぇけど
あんな顔させっぱなしは…なぁ

とりあえず【星球撃】で桜を殴って道を大胆に作ろうと
それで難しくても歌を歌いいつでも有事に対応できるように
あとは…勘だ!
一番惹かれる方へまっすぐ進もう

再び巡り会えた温度にほっとして
握られたのと反対の手でアレスの髪をかきあげる
…しょーがねぇなぁと手を握り
何となく顔がみれなくて横を向いたまま

見つけてくれてありがとな

言葉の代わりに握る手に力を込めた


アレクシス・ミラ

【双星】
周囲の景色が変わっても立ちすくんだままでいると
風の中に微かな香りと歌に気づき…確信を持つ
この先にセリオスがいる
…立ち止まってなんかいられない
今までだってそうだっただろ
何度だって取り戻してみせる
…見つけてみせるから
歌と香りを導きに、走る
桜が迷わせようとするなら【天星の剣】を周囲に出現させよう
…どうか、通して欲しい
僕はただ、友の元へ行きたいだけなんだ

――セリオス!!
再び巡り合えた彼の手を咄嗟に掴む
っよかった…無事で…
手は離さないままに
走って乱れた呼吸を整え、真っ直ぐ彼を見て告げる
君にまた心配性と言われるかもしれないが…このままでいさせてくれ
礼に応えるように笑う
君を見つけるのは、得意なんだ



●桜猛吹雪
 さやさやと降り積もる桜花弁の下、一人で桜の木々を見つめてセリオスは「……まずったな」と声を零した。
「小言コースか」
 アレクシスが怒る姿が容易に想像でき、頭をわしわしと掻く。心配し過ぎだと、大丈夫だと伝えたばかりなのに、これだ。怒ると結構怖いんだよな。なんて思ったけれど。
(……いや、違うな)
 アレクシスの側から離される直前、見た顔を思い出す。
 迷い子のような、不安そうな顔。心を痛めている、顔。何度もその表情を彼にさせてしまっている。終わりよければ全てよしなセリオスは怪我を負うのも厭わない為、心配しすぎてしまうのも仕方がない事なのだろう。
(あんな顔、させっぱなしは……なぁ)
 出来るだけ安全なルート選択をするか。と、心に決めた。
 けれど。
 ――ドォォォオオン!
 幻朧桜が、倒れる。地響きとともに、ごうっと桜の絨毯を吹き飛ばした。
 煙と桜が晴れた時、そこに見えてくるのは黒を纏う青年。幻朧桜を殴って破壊した事を悪びれる様子もなく、カラッと笑って。
「よし、道が出来たぞ。この調子で殴って――」
 言葉は、最後まで続かない。
 身動きすらもままならない程の桜が吹雪いて、目も口も、開ける事が難しい。況してやアレクシスを捜しに行くことなど、到底出来なくなってしまった。

 セリオスに続き、少し遅れて薄紅の世界へとアレクシスも招かれた。
 周囲の景色が変わっても立ち竦んだままでいる彼に届くのは、香りでも歌でもない。地響きと何かが倒れたようなざわつく気配。
(こんな無茶をするのは……)
 間違いない、彼だ。この先に、セリオスが居る。
 幻朧桜たちに対する行動に関して、『影朧に逢わせようとするか、近寄らせないようにするか。それは猟兵たち次第』だとグリモア猟兵にも言われている事を思い出し、アレクシスは軽く米神を押さえた。
 彼は、桜に何かをしたのだろう。ならば、彼は桜たちに拒まれ阻まれているはずだ。
(……立ち止まってなんかいられない)
 音と地響きの元へとアレクシスは駆ける。そこに必ずセリオスが居るから。
 近付くのを拒むように、桜花が舞う。
「……どうか、通して欲しい」
 君達へは何もしない。ただ友の元へ行きたいだけなんだ。
 訴え浮かばせるは《天星の剣》。桜花弁の帳を斬り裂いて、真っ直ぐに駆けていく。
「――セリオス!!」
 吹き荒れる桜吹雪のその中央。繭玉のようになった桜花を見つけ、彼に当てぬようにと充分に気をつけながら光の剣を放ち、斬り裂いて。
 僅かに見えた黒衣を引っ張れば、見えてきた手を掴むと庇うように抱き寄せた。
「本当に君は――」
 無茶をする。
「……見つけてくれてありがとな」
 腕の中から聞こえた小さな声に、アレクシスは安堵して。小さな笑みを零す。
「君を見つけるのは、得意なんだ」
 腕の中の温もりが身動ぐのを感じれば体を離し、けれど手だけは離さぬと握りしめる。離したらまたどこかに行ってしまうかもしれない。阻もうと動いている桜たちなら、そうするだろう。
 心配性と言われるかも知れないが、これでは心配もするだろう。このままでいさせてくれと願えば、しょーがねぇなぁと握り返されて。
 そうしてからアレクシスは幻朧桜たちを見上げる。まずは桜を宥めなくてはいけないことだろう。
 セリオスとアレクシスの二人は、暫く時間を費やすこととなった。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ミンリーシャン・ズォートン
花弁の中で目覚めれば其処には私と桜だけ

立ち上がり何度も共に来た彼の名を呼び捜すけれど彼は居なくて

幻朧桜の神隠し
ふとその言葉を思い出し
もしかして、あなたが此処へ呼んだの?
そっと語りかけ
桜に触れるけれど返事は無く
迷宮を歩き続ける――

どれ位時間がたったのか
どれだけ歩いても出口は無くて
椋――
彼に逢いたい……
彼を想うと溢れた滴が花弁を濡らして

ポトリと落ちたのは彼から貰った香水瓶
蓋を開けばふわり漂う香
彼を近くに感じるの
魔力の羽衣なら彼に届くかなと羽衣を天へ飛ばします

私は此処にいるよ

幻朧桜さん、お願いします
彼に逢わせて……

私を、あなたの大切な友人の元へ連れていってくれませんか?
大丈夫
きっと救うと約束します。



●こいねがう
 抱き締め合って、見つめ合っていた。あなたの腕の中は温かくて、幸せな気持ち。――だったはずなのに、触れていた温もりが消えてしまったことに気付き、ミンリーシャンは瞳を開いた。
「……椋?」
 見つめ合っていた、彼が居ない。それどころか、桜が増えている。ううん、桜に囲まれている。どうしたのだろうとミンリーシャンは見渡してから、ここに居ても仕方がないと彼を捜して歩き始めた。
 薄紅色の世界を、彼の名を呼びながら彷徨う。一緒に歩めたなら、綺麗だねと微笑みあえたことだろう。けれど今、彼は居なくて。心は簡単に沈みそうになってしまう。
(弱気になったら駄目。椋を探すんだから)
 両頬を掌でピシャンと叩いて前を向き、眼前の幻朧桜へと視線を向けた時。ふと『幻朧桜の神隠し』という言葉を思い出し、桜へと近寄り手を伸ばす。
「もしかして、あなたが此処へ呼んだの?」
 見上げてそっと語りかけてはみるが、口を持たない桜は何も返せない。ただ柔らかくさやさやと揺れるだけだ。けれど悪い気配ではない。大切なものは自分で探せと言うことなのだろうかとミンリーシャンは再度歩き出した。
 どれくらい時間が経ったのか解らない。時間にしたらほんの少しなのか、それとも何時間も、なのか……。何処を向いても桜しか見えないため、時間の経過も歩いた距離も解らず、体内時計もはっきりとしなかった。
「椋――」
 彼に逢いたくて、彼が恋しくて。
 溢れる想いが頬を濡らし、ぽたりと零れた滴が足元の桜花の絨毯をも濡らす。泣き虫だと笑われてもいい。今はただ、あなたに逢いたかった。
 足を止めては彼に会えないと手で涙を拭う。その時、ぽとりと何かが落ちた。
「あ、」
 それは、彼がくれた香水瓶。急いで指を伸ばし、大事に摘み上げて蓋をあければ、ふわりと香りが漂う。香りを纏えば彼を近くに感じて、折れそうだった心の蓮華がしゃっきりと天を向くのを感じた。
 まだやれることがあることを思い出し、羽衣をふうわりと天へと飛ばしてみる。
『私は此処にいるよ』
 彼へ向けたメッセージが、届きますようにと願って。
 ふわりと飛んでいく羽衣が桜の天蓋に消えていくのを見届けてから、ミンリーシャンは眼前の幻朧桜へと向き直る。
 真っ直ぐな瞳で桜を見つめ、
「私を、あなたの大切な友人の元へ連れていってくれませんか?」
 桜へ、願う。
 きっと救うと約束します。
 だから、彼に逢わせて……。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『彼岸桜』

POW   :    【フレーム間干渉型UC】サクラメント・モリ
【各章に参加した猟兵達の分身を再現する。こ】【の分身は各章で猟兵達が使用した装備・技能】【・UC・戦法を使用し、複数人で連係する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    【フレーム間干渉型UC】サクラメント・モリ
【各章に参加した猟兵達の分身を再現する。こ】【の分身は各章で猟兵達が使用した装備・技能】【・UC・戦法を使用し、複数人で連係する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    【フレーム間干渉型UC】サクラメント・モリ
【各章に参加した猟兵達の分身を再現する。こ】【の分身は各章で猟兵達が使用した装備・技能】【・UC・戦法を使用し、複数人で連係する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。

イラスト:礎たちつ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●彼岸の桜
 薄紅に染まる迷宮を、各々猟兵である証を見せて駆け抜けた。
 大切なものに再会が叶った、その時。花を抱いて幾重にも折り重なるように見えていた花枝が、さわりと幽かな音を立てて道を明けていく。
 何処かへ、いざなうように――。

 視界が開けると、庭園のような場所が広がっていた。
 緑の芝生に大きな大きな桜の樹。
 離れた場所にも桜は見えるが、この桜の樹だけは特別なのだろう。ぽつりと立ち、けれどそれが寂しそうには見えない、実に堂々とした逞しい樹だった。
 ――春。人々が桜を見に訪れる。やれ綺麗だ美しいだの口にして、来年も楽しみにしていると笑って帰っていく。
 ――夏。鮮やかな緑で身を飾る木の下で、男女が会話を交わしている。強い日差しから守ってくれて涼しいね、なんて楽しげに。
 ――秋。木の葉が化粧を施され、風に揺れている。人々が思い思いに訪れ、読書をしたり落ち葉を集めたり、楽しげな笑顔を見せている。
 ――冬。葉は全て落ち、枝だけとなった腕を広げて待っている。何もなかったそこに小さな膨らみを見つけると、人々はもうすぐ春がくるねと笑顔を咲かせた。
 ぐるり、ぐるり。早送りに、巡る季節の幻影。
 幾度も春夏秋冬(ひととせ)を巡り、ただの桜は花を咲かす。
 咲かす度に、人々にも笑顔の花が咲く。
 それが、いつまでも続くものだと思っていた。

 ごう。
 肌を焼くような熱風が、突然吹き付ける。早送り再生がひと段階ゆっくりとなったように、猟兵たちの目の前で桜が燃えていた。
『――熱い』
 声が聞こえる。
『わたしが、燃えている』
 そう、わたしが燃えている。掌を見れば、炎が噴き出していた。
『熱い、熱い』
 春に花を咲かせる枝も、人々が凭れて憩う幹も、燃えている。
『誰か、』
 燃やさないで。
 燃えないで。
『誰か、助けて――』
 燃えた手を、桜へと伸ばす。
 けれど桜には届かず、桜も手も、燃え尽きて崩れていった。
 ――ああ、何故こんなことに。誰が火を放ったのだろう。
 ――憎い。燃やした人の子が、憎い。

 泣かないで、泣かないで。
 大丈夫です、助けましょう。
 わたしたちが居ます。新たな同朋を歓迎します。
 あなたが人を見たいと望むのなら、わたしたちが連れてきましょう。
 大丈夫ですよ、泣かないで。
 人を傷付けぬよう、この閉じた空間で心を癒やしましょう。

 桜が、吹雪く。
 ああ、これは、泣き声なのだ。人を愛していたいと泣く、声。
 けれどこれは、鳴き声なのだ。到底許せはしないと鳴く、声。

🌸   🌸       🌸
 🌸       🌸    🌸

 目を開けると炎は消え、桜の絨毯の中に、ひとつの大きな桜の樹。
 大きな幹に、あかい花。今まで通ってきた迷宮で見た幻朧桜たちよりも色の濃い花を咲かせた木が、はらりと花弁も落とさずに静かに立っていた。遠くには、この場を囲むように幻朧桜の姿が見える。きっとあの向こう側には行けないのだろうと、何となくだが猟兵たちは察する事が出来た。
 幻朧桜は、人を隠し、迷宮を歩かせた。それは全て、この『彼岸桜』の為だ。大切なものを失った時、その人の本性が見えてくる。穏やかな性質ならば、彼岸桜を慰めてくれることだろう。けれどそうでなければ排除をするために、幻朧桜は人々を試していたのだ。
 彼岸桜は、迷宮に入ったところからずっと君たちを見ていた。見た過去を再現する力がある桜は、そうして迷宮内を彷徨った者たちの姿を幻影に映して暫く側に置き、自身を慰める。
 けれど、それだけでは駄目だった。
 最初は、年に一回そうすればよかった。けれど段々と彼岸桜の要求は膨らんでいく。
 あの時のように、沢山の人に愛されたい。あの時のように、沢山の人を愛したい。
 ――ああ、憎い。愛おしくて、憎い。
 既にその身は、幻朧桜として転生を果たしたにも関わらず魔に落ちて。あかくあかく染まってしまっていた。
 そうして幻朧桜は、猟兵たちを招き入れることにした。
 しかし彼岸桜は、まだ終わりにしたくないと抗うだろう。
 はらり、彼岸桜が花弁を零せば。ふわり、幻影が浮かぶ。ひとの姿を紡いで、猟兵たちへと武器を、指先を、向けてくる。
 それは、桜迷宮を彷徨っていた猟兵たちの姿をしていた――。

 ――ざあああぁぁ――……。
 周囲を囲む幻朧桜が、鳴く。届かぬ声を、発して。花枝を、震わせて。

 ――どうか。終わらせてあげてください。

 桜が、泣いていた。
薬袋・布静
【徒然】🌸八千代
こんな胸糞が悪い花見はじめてやわ
暫く桜見たない、そんまま枯れてまえばええ

◆戦闘
目の前の敵の姿は
胸に巣食う心地の悪さを悪化させるには十分だ
この手で、また…大切なモンを死なせるのか
そう思うと冷えていく身を温めたのは愛しい声

ああ、頼むわ――
俺のちよのが強いってとこ見してや

己の偽と向き合い【蛟竜毒蛇】で同胞を呼び
憂さを晴らすように作られた小さな傷口をえぐり侵入させ捕食
同じく向けられたUCを毒耐性と医術で腰の薬品入りポーチで対応

こんな所で長年の願いが叶うとは思わなんだ

【潮煙】の青煙の海を泳ぐホホジロザメ
八千代と背を預け、舞う花弁と共に
毒が仕込まれた牙で偽を散らす

これで花見は仕舞いや


花邨・八千代
【徒然】🌸布静
やれやれ、一息つく暇もねーなァ。
さて、花散らしの風でも吹かせてやるか。

花弁落として身軽になって、出直してこいよ。

◆戦闘
出てくる敵の姿に思わず苦笑い
趣味わっりぃのなァ、……だいじょぶかぬーさん?
そーだな、そっちの相手俺にくれよ。
本物の方が強ぇーんだってわからせてやらァ。

偽の「俺」を前に掌掻っ捌いて『ブラッド・ガイスト』だ。
得物は大太刀、景気よく「怪力」のせてぶん回すぜ。

そっくり同じってこたァ俺と同じだけ馬鹿力ってことか?
いいねェ、そうじゃなきゃ楽しくねェ!
どっちが強ぇか勝負と行こうぜ!

布静に背を預け、暴れに暴れるぞ。
鮮やかに散れば良い、また次に花咲けるように。
またいつか会おうぜ。



●鬼と毒
「さて、花散らしの風でも吹かせてやるか」
「暫く桜見たない、そんまま枯れてまえばええ」
 一息つく暇もないと笑う八千代の隣で胸糞が悪いと布静は吐き捨てる。見たくないものを見てしまった。二度とごめんだと思っていた喪失を、感じてしまった。再び頭を過ぎった其れに、薄布の下で唇を歪めては舌打ちを漏らして。
 ひらりと二枚の桜花が舞えば、現れたのは男女の姿。
 各々の愛しい姿が眼前に現れれば、布静と八千代の二人は揃って違う形に顔を歪めた。
「趣味わっりぃのなァ」
 八千代は苦笑を浮かべ、眼前の偽物の布静を見る。本物の方がイケてるぞ、なんて笑う余裕だってあった。
 しかし、傍らの布静は違う。鼻の上に幾つも皺を刻むくらいに嫌悪を露わにし、眼前の偽物の羅刹を睨むように見ていた。
(この手で、また……大切なモンを死なせるのか)
 偽物だ。そう、偽物なのだ。しかし例えそうであっても、己の心と体が拒んでしまう。偽物であっても大事なものを手に掛けたくない、と。
 ああ、冷えていく。心を中心にして、温かな血を送り出すのも厭だと心臓が言うように。ちゃんと地面に立てているのかさえ、冷えた身体では感覚が無く解らない。春の景色の中に居ても、ああ、なんて寒い。
「……だいじょぶかぬーさん?」
 愛しい声が、布静を呼ぶ。意識を傍らに向ければ、好戦的な鬼が布静を心配して見上げている。声とその姿が、ふわりと心に春風を呼ぶ。
「そーだな、そっちの相手俺にくれよ」
 彼を見て、彼の前方にいる偽物の自分を見て。八千代がそう提案すれば、まだ微かに頼りのない声が頼むわと返す。
「本物の方が強ぇーんだってわからせてやらァ」
 立ち位置交代な。高い位置にある肩を叩いて移動すれば、叩かれた拍子に憑き物が落ちたように布静が笑んだ。
「俺のちよのが強いってとこ見してや」
「任せとけ」
 言うが早いか、掌を鋭い爪で掻っ捌いて。流れる血で大太刀を殺戮捕食態にすると、八千代は真っ直ぐに自身の偽物へと踏み込んで、大太刀を振るう。
 ――ガンッ!
 力も素早さも全く一緒の写し身が、同じように強化して八千代の攻撃を大太刀で受けていた。同じ力が、ガンッカンッガンッキンッと幾度も重なり合えば、いいねェと楽しげに鬼が笑う。
「どっちが強ぇか勝負と行こうぜ!」
 いつだって楽しげな八千代の声を耳に、布静も偽物の自身を見遣る。
(ああ、いややな――)
 その目、その顔、その姿。己が偽物の鬼へ手を掛けるのも厭だが、偽物の己が最愛の鬼へと手を伸ばすのも厭だった。ああ、胸糞悪い。吐き気がする。こんな桜はそのまま枯れてしまえばいい。
 青い天使とも称されるアオミノウミウシの霊を喚び出して、偽物の己へと向かわせる。偽物に張り付いたアオミノウミウシは、猛毒の棘を刺し、小さな口で食んで捕食した。毒への耐性は本人と同じ程度あるのだろう。痛みに眉を顰めるようにするも常の男同様に深い感情は見せず、軽くアオミノウミウシを払った。そして、同じように布静へとアオミノウミウシを向かわせる。
 身体を履い棘を刺すも、布静は静かな顔で。腰のポーチから、薬品を取り出して毒消しを口にした。
 耐性は、ある。けれど毒を食らっても平気な訳ではない。
 ぐらり、偽物の布静の身体が揺れる。
「こんな所で長年の願いが叶うとは思わなんだ」
 取り出した煙管を吸って、吐き。昇る青煙はホホジロザメ。
 とんと背中に熱を感じれば、すぐ後ろに愛しい鬼の姿。
「なァんだ、ぬーさんまだ倒せてねーの?」
「ちよこそ、強いとこはよ見してや」
 言ってくれると笑みを刻み、其々の眼前の自身を睨んで。
 花を散らしに鬼が駆けるのと同時に、ホホジロザメが花弁とともに泳いだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

城島・冬青
【橙翠】

偽のアヤネさんが現れる
姿形が似通ってても偽者と分かってるなら斬るのみ
ありゃ?偽の私も現れた
アヤネさんが案の定テンパっちゃったな
気にせず倒していいんですよ?

偽アヤネさんの触手に捕まらないよう残像とダッシュで時間稼ぎ

偽アヤネさん顔面ショットされちゃった…容赦ない

次は偽の私
アヤネさんが躊躇するのはわかってる
UCでの援護を貰ったら
後は私の仕事
刀を抜き間合いを詰める

この世界を生み出した桜が人へ深い愛憎の念を抱いてるのを感じる
桜なのに人間みたい
このまま消えてしまうのは悲しいな
転生して
また人と触れ合って欲しいです

偽の私に刀を振り下ろす

目をそらし震えるアヤネさんに駆け寄る
大丈夫「私は」死んでませんよ


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
ソヨゴの姿をした敵を倒せる訳ない
その姿が見えた瞬間に同情の念が吹き飛ぶ
叫び声を歯を食いしばり堪える

冷静さを装い
ソヨゴ
ニセ僕から殺ろう
面倒だから遠くから

作戦として正しい順序
あの触手は厄介だ

重いケースをごとりと降ろし
SilverBulletを素早く組み立てる
接近戦は危険だ
先手を打って一発で決めよう

自分を撃つのに躊躇いは無い
スコープに顔面が映った瞬間にトリガーを引く

次はニセソヨゴ
撃てずに数秒が経つ
やっぱり無理
その時にはもう目の前に
ソヨゴに攻撃が

やめて!

UC発動
ニセソヨゴを拘束する
それが僕の限界だ
次に何が起きるかは予想がついていて
僕は思わず目を逸らす

涙は隠して
うん頭では理解してる
ごめんネ



●例え偽物でも
「あ、アヤネさんです!」
 正面に現れた姿に、冬青はアッと高く声を上げて。
 その傍らに、自分の姿もある事を見つければ、ありゃ? と思わず気の抜けた声を上げた。冬青は、偽物だと解っているのだから愛しい姿をしていてもただ斬ればいいと思う。けれどきっと、アヤネはそうは思わないだろう。チラリと横を見れば、矢張り酷い顔をしたアヤネの姿があった。
 アヤネは、桜の過去を見て同情していた。けれど、ひらりと舞った花弁が冬青の姿を取った途端、その念は吹き飛ぶように消え失せた。歯を食いしばらなければ、叫び声すら上げていただろう。
(僕にソヨゴを殺せと言うのか……!)
 倒せるわけがない。敵と解っていても、彼女の姿をした者を殺せはしない。
「気にせず倒していいんですよ?」
 心配する声。その声に、彼女に案じさせてしまったとハッとして。
「ソヨゴ、ニセ僕から殺ろう」
 冷静を装い、そう口にしたが――普段からアヤネを見ている冬青には見抜かれていたのだろう。気遣わしげな視線を感じたが、気付かない振りをした。
「ソヨゴ」
 親指で指し示して動かし、合図を送れば、冬青は浅く頷き駆け出す。偽物のアヤネの触手を引きつけ、残像を交えたダッシュで撹乱する。本気で逃げ切る必要も、近接して攻撃する必要もない。注意を全て引き受ける、それだけが重要だった。
 ――タァン。
 触手を冬青へと向ける偽アヤネの額に、唐突に風穴が開いた――いや、顔が、爆ぜた。頭部を失った身体がぐらりと後ろに倒れるが、地に触れる前にふわりと溶けるように消えていく。
 冬青の動きは、ただの時間稼ぎ。本命はアヤネの大型ライフルによる重い一撃。冬青が引きつけている間に素早く『SilverBullet』を組み立てたアヤネが自分の偽物の顔面をスナイプしたのだ。冬青にのみ意識を向けていた偽アヤネは、呆気なく倒された。
 アヤネは、引き続きスコープを覗く。
 そのスコープに、何かが映る。冬青ではない。鳥――烏だ。
「っ!」
「アヤネさん!」
 何の対処もされていなかった偽者の冬青が、ただ突っ立っている訳がない。コルヴォを喚び出し、銃を奪うべくアヤネを襲わせる。
(止めさせるには、ニセソヨゴを撃つべきだ)
 どこか冷静な部分が、そう告げる。
 コルヴォを払い除けようとしながらスコープに映す顔は、いつも見ている顔。
 トリガーに、指を掛ける。
(――出来ない)
 何時も通りに指に力を籠めるだけなのに、アヤネには出来なかった。指が自分のものじゃなくなったように、動かない。動いてくれない。僅かに脱力した隙に、ライフルをコルヴォが奪っていった。
 刀を抜く偽冬青に、冬青も刀を抜きながら地を蹴り間合いを詰める。アヤネだけに任せはしない。彼女にはきっと出来ないことだから、必ず自分で仕留めなくてはと冬青は同じ姿を真っ直ぐに見つめて。
 刀を振り下ろしたのは、僅かに偽物の方が早く――。
「――やめて!」
 身を切るような、細い声。
 同時に伸びる、蛇にも似た異界の触手。
 早く、早く。
 ふたりの刀が触れ合うよりも早く。彼女に届いて拘束せよと。アヤネはただそれだけを祈った。祈ることしか出来なかった。間に合わなければ愛しい姿が喪われ、間に合っても偽物とは言え愛しい姿が喪われる。最後まで目にすることが耐えきれず、目を瞑って顔を背けた。
 ――斬。刀が振り下ろされる。振り下ろしたのは、本物の冬青。アヤネの拘束が間に合い相手の刀が動きを止め、その隙に斬り伏せた。
 悲鳴を上げることもなく姿を無くし、桜花弁が真っ二つ斬られてはらりと落ちていく。
(桜なのに人間みたい。このまま消えてしまうのは悲しいな)
 叶うなら、転生してまた人と触れ合って欲しい。
 そう願いながら刀を納めて振り返れば、顔を背けたアヤネが震えている。顔の下に、透明な滴がぽたりぽたりと落ちていくのも見つけて、冬青は慌ててアヤネへと駆け寄った。
「大丈夫『私は』死んでませんよ」
「うん、頭では理解してる」
 そう返すけれど、顔も見せようとしない彼女を冬青はそっと抱き締める。二度目の冬青からのハグは、ただ優しくアヤネを包み込んで。「ごめんネ」と小さく聞こえた呟きも、全部全部抱きしめて。全てを許すようにアヤネを温めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鶴澤・白雪
【迎櫻館】

ハイ、サヨウナラって見送ってくれる相手なら
最初から攫って分断したりしないんじゃない?

可哀想な彼岸桜
あたしの業火と同じ赤い色
せめてまた愛されるように終わらせてあげる

ふふ、4人とも櫻宵なのね
桜同士何が通じるものがあったのかしら?
一番容赦なく撃ち抜ける相手で良かったわ

ならフレズローゼを見習ってあたしも言わせてもらうわ
こんな年下の子達に世話かけるんじゃないわよ愚か者(ガンブレードで串刺し
4人で連携しようとワラワラしないで
和服の野郎がこれだけ集まると何か腹立つわ(全力魔法のマリスビート
※和服の年上男子嫌い

あとリルにもフレズローゼにも寄るな(制圧射撃
あら、別に八つ当たりしてるわけじゃないのよ


リル・ルリ
【迎櫻館】

🌸櫻宵

……もう離さないからな!
櫻は桜だもの、優しいし面白いし欲しくなるのはわかる
でもだめ!あげないぞ!

……
なんで4人もいるの?
まぁ、うん
櫻がたくさんで僕はいいけど
フレズと白雪の殺意が半端ない気がして
尾鰭がふるりと震える
ねぇ何か恨み買うようなことした?

僕に愛する人を傷つけるなんて無理だよ
そりゃあたまには尾鰭ビンタをしたりもするけど、そんな…できないよ
櫻は僕に手を上げたことなんてないんだから!
舞い散る桜吹雪とぶつけるように「春の歌」を歌う
僕の桜よりずっと、君の桜の方が綺麗だけれど

櫻宵(真)、そんな顔しないでよ
わかってる
彼岸桜、君を切り倒したりなんてしない
綺麗に咲く薄紅を
また見せて


フレズローゼ・クォレクロニカ
【迎櫻館】

🌸櫻宵

感動の再会を果たせたというのに!
逃がしてくれないんだ
ふふん
いいさ!かかっておいで
満足いくまで付き合ったげる

桜吹雪の向こう側
現れた姿ににんまり

ね!偽物ならいいよね
ボクはキミに言いたかったことがある

よくもフリやがったなぁぁぁあ!
(全力魔法で爆弾を描いて投げつけ
こんなにも健気なレディなのに
13歳でフラレ人生なんて!
ヤローー!!(爆破の魔法で破壊工作

あ、でもリルくんとイチャはエモ萌なので辞めなくていーです
お幸せに!
斬撃の花弁を女王陛下は赤が好き、の花弁とぶつけて相殺して爆破するよ!

満足出来たかい?桜ちゃん!
キミには赤より柔い薄紅が似合うさ!
その花を咲かせたキミの下でお花見したいね!


誘名・櫻宵
【迎櫻館】
◇🌸櫻宵

リル、首しまってる
可愛いんだから
大丈夫どこにも行かないわ

…え?桜待って
あたし4人はちょっと
まずいんじゃないかしら
美しすぎて
自分で自分の首を斬首するなんて新鮮ね

(フレちゃん…こわ…
え?あたしそんなことしたっけ?初耳…

(白雪…こわっ!
ちょ、殺意!男嫌いなのかなって思っていたけれどそんなっ

(リル…
躊躇ってる…可愛い
待っ
これでリルを攻撃したらDVになるんじゃ…させないわ!

あたしの名誉を穢さないで!
女性陣はともかくリルを庇い
オーラ防御の桜花で花弁を防く
現実逃避みたいに衝撃波放ち薙ぎ払い
破魔のせた「祓華」を放つ

それじゃ綺麗な花は咲かないわ
救われて欲しいの
桜は散ってまた咲くのよ
あなたもよ



●また逢えたなら
 ――もう離さないからな!
 ぎゅうぎゅうと人魚が首に抱きついて、桜龍の首はぎゅうぎゅうと締められた。ギブギブと手を振ったけれど、やんわりとリルを嗜める者はここには居ない。心配させたのだ、締められておけと見守るフレズローゼと白雪の目が言っている。
 二人が満足するまで感動の再会を見守り、それじゃあ行こうかと桜が道を開けた先へと進んだ四人は一本の桜の木と出会う。
「それじゃ綺麗な花は咲かないわ」
「櫻宵、そんな顔しないでよ」
 見えた過去の幻影に櫻宵が困り眉を更に落とせば、傍らの人魚が心配げに見つめてそっと寄り添う。桜龍の櫻宵には解るのだ。今なお、桜の木の中ではあの炎が燃え続けていることを。愛を、憎悪を、燃料に。
 桜を慰めに、離れてしまいそうで。櫻宵の袖をぎゅっと握れば。
「大丈夫、どこにも行かないわ」
「櫻……」
 愛おしげに見つめる櫻宵の瞳を見て、リルの頬が桜色に染まった。
 ――因みに、フレズローゼの心の中のシャッターは切られまくりである。いいよいいよその雰囲気! ああ! その表情もすごくいい!
「あら」
 いつまでも心のシャッターを切りまくっていたかったフレズローゼだったが、白雪が漏らした声に彼岸桜へと視線を向ければ――。
「ハイ、サヨウナラって見送ってくれないみたいね」
「わ。櫻宵がいっぱいだ! 逃がしてくれない気のようだね」
「えっ、櫻宵がいっぱい? どういう……」
 こと? 問を口にしながら櫻宵から視線を外し、彼岸桜をチラッと見る。桜の木の前には櫻宵と同じ姿がよっつ。隣を見る。本物が居る。
「櫻は桜だもの、優しいし面白いし側に置きたくなるのはわかるけど、だめ! あげないぞ!」
 そんなに櫻宵が欲しいのか! 櫻宵の隣は僕のものだからな!
 ここは僕の縄張り! と櫻宵の腕にしがみつき、鰭をビタビタさせてガウガウ威嚇するリル。あら可愛い、なんて笑み崩れそうになった櫻宵だったが、はたと何かに気付いた様子で片頬に手を添えた。
「……桜、待って。あたし4人はちょっとまずいんじゃないかしら。――美しすぎて」
「よぉし、倒そう! さあ、かかっておいで!」
「そうね、一番容赦なく撃ち抜ける相手で良かったわ」
「えっ、なんでよ!?」
 斬首にしよう。串刺しにしよう。爆破しよう。やんややんやと盛り上がりだすのは白雪とフレズローゼ。二人のむくむくと膨らむ殺意に、リルの尾鰭がふるりと震えた。
「……ねぇ、何か恨み買うようなことした?」
「わからないわ……」
「解らないってところがダメなんだよ、ダメ櫻宵。――ね! 偽物ならいいよね?」
 すらりと一斉に刀を抜き放った偽物の櫻宵たちを見つめて、可愛い兎がにんまりと笑う。ボクが満足するまで付き合ってくれるよね? キミが満足いくまで付き合ってあげるからさ!
 フレズローゼには、ずっとずっと言いたかったことがあった。けれど言わずに心に秘めて、彼の近くでただずっと見守っていたのだ。
「――よくも」
 大きく息を吸い込んで、取り出した絵筆に全力で力を篭めて。
「フリやがったなぁぁぁあ!」
 描いた爆弾を手にして、大きく振りかぶった!
「こんなにも健気なレディなのに! 13歳でフラレ人生なんて! ヤローー!!」
 ちゅどぉぉぉぉん!!!!
 駆け寄ろうとしていた偽櫻宵へと向けて放った爆弾が炸裂した。轟音にも負けぬ声で、フレズローゼが叫ぶ。
(フレちゃん……こわ……え? あたしそんなことしたっけ? 初耳……)
 思わず、はわわと口元に手を添えてしまう。声に出さなかったのは、良い選択だったことだろう。口にしていたら、ギンッとその目が向けられていたかもしれない。
「え、どういうこと……?」
「ほんと、最低野郎よね。和服だし、可愛い子を誑かすし」
 リルは狼狽え、白雪は大きく頷く。爆発の煙幕の中、吹き飛ばされなかった櫻宵(偽)が桜吹雪を舞わせてくる。
「あ、でもリルくんとイチャはエモ萌なので辞めなくていーです」
 その花の中へ、赤薔薇と白薔薇を紛れ込ませて。
「お幸せに!」
 ちゅどぉぉぉぉん!!!!
 二度目の爆破は、二人への祝砲だ。
 近距離からの爆発に巻き込まれた櫻宵(偽)の一体が桜花弁に戻り、はらりと舞って消えた。しかし、まだ櫻宵(偽)は三体。櫻宵(本物)も含めて四人も居る。
「可哀想な彼岸桜」
 白雪の業火と同じ赤が、眼裏で揺れる。せめてまた愛されるように終わらせてあげようと、桜の前に立ったはずだったのだが――目の前には態勢を整えてタイミングを合わせて桜吹雪を回せようとする櫻宵(偽)たちの姿。
「桜同士何か通じるものがあったのかしら? ――それとも、駄目な男を好いてしまったのかしら?」
 本当に、可哀想だわ。
 可哀想だから、終わらせてあげる。ついでにフレズローゼを見習って、言いたいことを言わせてもらおう。本人に直接言っている訳ではないから、きっと本人へのダメージも低いはずだ。……すぐ側に居るけど。
「こんな年下の子達に世話かけるんじゃないわよ愚か者」
 刀を撃ち込んできた櫻宵(偽)の攻撃をガンブレードで防いで。
「連携しようとワラワラしないで」
 お互いに距離を取り。
「和服の野郎がこれだけ集まると何か腹立つわ」
 影雪の尖晶石で捕縛し桜吹雪を止めさせれば、即座に懐へ飛び込みガンブレードを突き刺して。それでも弾いては刀を振るう櫻宵(偽)に、しぶといわねとイライラが増した表情をして。
「あとリルにもフレズローゼにも寄るな」
 吐き捨てるように言う、その姿。
(白雪……こわっ! ちょ、殺意! 男嫌いなのかなって思っていたけれどそんなっ)
 あたしこんなに可愛い乙女なのに! なんて、言えそうな雰囲気ではない。そのガンブレードが向けられないように、櫻宵(本物)は大人しくはわわと震えるだけにした。
「いいぞー、やったれー!」
 フレズローゼの声援を背に、ガンブレードで突き刺せば、ブレード先端に残るのは一枚の桜花弁。
「あら、別に八つ当たりしてるわけじゃないのよ?」
 ふうと息を吐き、艷やかな黒髪をふわりと払って、振り返り櫻宵(本物)へと軽く笑んでみたが、「ええ……」と力ない頷きが返ってきた。この場で否定する勇気を誰が出せようか。
「みんな、すごい……僕に愛する人を傷つけるなんて無理だよ」
 リルには、皆の勇姿を称えるべきなのかも、櫻宵が減ったことを悲しむべきなのかも、解らない。いや、偽物だから倒さなくてはいけないのだが、ここはある意味リルにとってはハーレムだ。大好きな櫻宵がたくさん居る。
 けれど、倒さなくてはいけない。たまに尾鰭ビンタをする事はあるけれど、櫻宵を倒すなんてできないと人魚は小さく震える。そんなリルを見つめる櫻宵は――。
(リル……躊躇ってる……可愛い)
 邪念が漏れ出ているのだろうか。やけに冷ややかな視線を白雪が放っているのだが、櫻宵は気が付かない。
 殺意が怖い猟兵よりも戸惑いの表情を見せる人魚から先に倒そうと、櫻宵(偽)たちは思ったのだろう。リルへも桜吹雪を向けてくる。
「あたしの名誉を穢さないで!」
 これじゃあDVになってしまうわ!
 リルよりも先に櫻宵(本物)が動き、オーラ防御の桜花でリルを庇い、同時に衝撃波を放ち薙ぎ払えばリルがハッとした表情をして。
「櫻は僕に手を上げたことなんてないんだから!」
 やっぱし偽物は偽物だ。櫻宵はリルが尾鰭ビンタをしようとも、怒ってポコポコ胸を叩こうとも手を上げてはこないのだ。
「彼岸桜、君を切り倒したりなんてしない」
 傍らを離れ、前へと出た櫻宵(本物)の動きに合わせ歌うは《春の歌》。
 偽物の櫻宵の桜吹雪と、本物の櫻宵の桜吹雪と、それからリルの桜吹雪。
(やっぱし櫻宵の桜の方が綺麗だ)
 重なる桜吹雪の中、人魚は想い、微笑んだ。
 そこに、白薔薇と赤薔薇が混ざり――多分、飛び込んだ本物のことは気にせず――、爆ぜて。
 尖晶石が捕縛し、桜吹雪がひとつ止んで。
「自分で自分の首を斬首するなんて、新鮮ね」
 花弁ごと断ち切るように振り抜けば、ころりと首が転がる代わりに真っ二つに斬られた花弁がふわりと風に溶けて消えていく。
「満足出来たかい? 桜ちゃん!」
 フレズローゼが気持ちの良い笑みを浮かべれば、リルもまた一緒に微笑んで桜へと語り掛ける。
「綺麗に咲く薄紅をまた見せて」
「そうそう、キミには赤より柔い薄紅が似合うさ!」
 お花見がしたいねと咲えば、いいわねと白雪も同意を示す。
(桜は散って、また咲くの。あなたもよ)
 仲間たちが起こした花の舞いの中、そっと静かに。
 一人だけとなった櫻宵は、彼岸桜を見上げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・エアレーザー
🌸俺自身

・ヘルガ(f03378)と共に

今目の前にいる狼……あれは俺だ
ヘルガと出会う前の、或いは彼女を喪った後の
愛を知らず、温もりを知らず、世界の全てが敵になり得る孤独の中で、ただ生きるため無差別に暴れ回る獣
だがそれは「最も守りたかったもの」をも傷つける

敵の【人狼咆哮】にヘルガが巻き込まれないよう【守護騎士の誓い】と共に彼女をかばう
彼女が自分の翼で飛び立てるように、盾受け・気合い・覚悟を駆使し、どんな激痛も耐えて見せよう

【疾風の青狼】と野生の勘で敵の動きを読み、破魔の力を込めて全力攻撃
俺はもう「独り」ではない……!

彼岸桜よ、俺が変われたように、お前もきっと変われる。
来世では良き道行きを……。


ヘルガ・リープフラウ
🌸自分

ヴォルフ(f05120)と共に

わたくしの姿をした幻が言う
「争わなければ、みんな幸せになれるのに」
それは、世界に満ちる悪意を知らぬまま育った「わたくしのもうひとつの可能性」
混じり気のない無垢な善意は、時に悪意以上に人を傷つける
故に、人の悲しみに寄り添うことが聖者としての使命なのだと信じていた

……でも、それだけじゃ駄目なんだ
癒すだけ、守られるだけでは未来は切り開けないと、わたくし…否、僕は知ってしまった
今こそ【白鳥の騎士】となり、ヴォルフと共に戦うよ
勇気を胸に眼前阻む【鈴蘭の嵐】を剣でなぎ払い【主よ、哀れみ給え】の祈りを込め破魔の一撃

転生間際の彼岸桜に祈りましょう
来世が幸多からんことを……



●ふたりの騎士
(……あれは俺だ)
 ヘルガとヴォルフガングもまた、自分たちの姿を模した幻影と対峙していた。その姿は彼岸桜が『見た』ものに過ぎず、つい先程の己たちの姿なのだがヘルガとヴォルフガングには違うもののように思えていた。
 ヴォルフガングは、かつての――ヘルガと出会う前、或いは彼女を喪った後の自分だと感じていた。彼女という愛を知らず、光を知らず、温もりも知らぬ、獣。自分以外の世界の全てが敵になり得る孤独の中で、ただ生きるためだけに我武者羅に、無差別に暴れまわるだけしかできない飢えた獣――それが、彼女が居ない世界のヴォルフガングだ。研ぎ澄まされた爪は、納める場所も知らず、ただ振り回され他者を傷付ける。彼女を喪ったと嘆く狼も、彼女を知らぬ狼も、それは変わらない。直ぐ側に『最も守りたかったもの』が居ても、気付かずに。
 グガアァアアアァァァアァァァ――!!!
 周りは全て敵だと、獣が鳴く。偽物のヴォルフガングを中心に衝撃波が生じ、それは彼の『最も守りたかったもの』をも無差別に巻き込むものだが――。
「ヘルガ!」
 前方を見据えて胸の前で手を組んでいたヘルガを、ヴォルフガングは盾を手に庇う。ビリビリと痺れるような衝撃波を楯越しに腕に感じるが、《守護騎士の誓い》を胸に抱いた騎士は耐え凌ぐ。彼女は決して傷付けさせはしない。況してや其れが己と全く同じ姿をしている者ならば尚更だ。
(”俺”がヘルガを傷付ける事は許されない。絶対にだ)
 その背を、ハッとしたような表情でヘルガは見守っていた。彼の行動に、姿に、心を強くして再度前方を見据える。自身の手で倒さねばならない相手を――。
 手を組んで前を見据えていたヘルガもまた、己の姿をした幻影と対峙していた。儚げで線の細い、その姿。他者から見た自分はこんな感じに見えているのかと、そう思った時。
『争わなければ、みんな幸せになれるのに』
 幻の自分がそう言った気がした。勿論、そんな事は口にはしない。彼岸桜は『見た』ものしか映せないのだから。
(解っています。これは、わたくしの心の声)
 世界に満ちる悪意を知らぬまま育ったならどうなっていたのだろうと、何度もヘルガが考えてきたもうひとつの可能性だ。
 この言葉を聞いて、同意する者も居るだろう。けれどきっと、大半はそうではない事を、今のヘルガは知っている。残念な話だが、綺麗事をと思う者の方が多いことだろう。混じり気のない無垢な善意は、時に悪意以上に人を傷つける。光が闇を照らすと、足元に出来る影はより暗いものとなるのだ。故に、人の悲しみに寄り添うことが聖者としての使命なのだと信じていた。
(……でも、それだけじゃ駄目なんだ)
 胸の前で手を組んで、祈り、癒やす。
 蒼き狼騎士に護られる、美しき聖女。
 けれど、それだけでは駄目だ。未来は切り開けはしない。
(わたくし……否、僕は知ってしまった)
 考えに沈んでしまったヘルガを、何時も通り護ってくれる背中。愛おしさを感じるけれど、それでは駄目だと胸から声がする。沸き立つ勇気とともに、彼とともに戦わねばと白雪の歌姫は《白鳥の騎士》へと変身した――!
「ヘルガ……」
「僕も、ヴォルフと共に戦うよ」
 光とともに騎士礼装に身を包んだヘルガを驚愕の眼差しで見つめるヴォルフガングへと、ヘルガは笑みを向ける。その目は護りたいと告げているようにも思えた。けれど、自身も共に戦うのだと彼から視線を外して眼前を見据え、吹き荒れる鈴蘭を『聖奏剣ローエングリン』で薙ぎ払いながら偽物の自身へと飛んでいく。
 その姿を目に焼き付けたヴォルフガングは、一度深く目を閉じて。そして再度開いた頃には、迷いも消え、覚悟も決まった勇士の目となっていた。
 彼女とともに歩むために、目の前の哀れな狼を葬ろう。
 同じ身体能力でぶつけてくる剣は、自分と同じ太刀筋。自分ならばどうするか、それだけを考えて太刀筋を読んで、ヴォルフガングもまた、自身と決着を付けるために駆けた。
「俺はもう『独り』ではない……!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ステラ・アルゲン
【星門】カガリと
人に寄り添っていた桜、あなたは私に似ているかもしれない
儀式の剣として人に寄り添い続けたものとして
私も人が好きだとも、不服な扱いを受けても彼らを嫌うことが出来ない

人に燃やされても人を想う
それ故に苦しむならば終わりにしよう

幻として現れる私達を相手しよう
いつもと同じようにカガリに防御を任せる
離れていても見つけてくれた、当たり前のようにこうして並び立てる事が嬉しい
自然と力も出てくるよ【勇気】
偽の私達が本物の私達を超えられるか?
【希望の星】で真の姿に近い女神の姿になる

もう一度、人に寄り添えるといいと願い、光に込める
【祈り】を込めて光【属性攻撃】を【全力魔法】で放つ
次はどうか幸せであれ


出水宮・カガリ
【星門】ステラと

カガリも、ひとを壁の内に守り、一度はひとに破られた門だからなぁ
半分は、わかる気もする
カガリは、ただ愛でられるためのものでなく、守るためものだったから
門を破ったひとを憎むのでなく、力及ばなかった己を悔やんだのだ
その後悔を、今は
ヤドリガミの猟兵として、力の根源にしている

だから、もう嘆くのは終わりだ
ここから、お前のあいするひとのために、何ができる
あくまで、ひとを恨むというならば――カガリの悔恨が、それを阻もう
幻の攻撃を、【錬成カミヤドリ】で複製した【鉄門扉の盾】で我らを囲い防御する
攻撃はステラに任せる
いつも、いつも
カガリ達は門と剣として、そのように戦ってきたからな



●まじわり
 気持ちは解る、自分に似ている。そう二人が口にすれば、さわさわと彼岸桜の花枝が揺れた。
 カガリとステラはヤドリガミなため、動けない身体も、逃げることも戦うこともできずにただ破壊されようとする恐怖も、その遣る瀬無さも理解が出来た。かつてのステラは盗まれて。かつてのカガリは破られて。かたちは違っても近いものが解るよと、カガリとステラは桜を見上げた。眼前には既に、二人を模した幻影が立っている。それでも言葉を伝えるのならば桜であろうと、見つめて。
「カガリは、一度はひとに破られた門なんだ」
 偽物のカガリが城門を展開するのを不思議なものだと思いながらも、カガリも器物を複製する。あちらのカガリも、ステラを護るのだろう。偽物だけれど、少しだけ誇らしく思えたし、矢張り自分が目の前に居るのは不思議だとも思う。
「けれどカガリは、ひとを憎むのではなく、力及ばなかった己を悔やんだ」
 もっと自分が硬ければ、破られなかった。護るために創られたのに、護ることが存在価値なのに、果たしきれなかったと己を悔やんだ。だから、強くあろうとカガリは思った。その気持を猟兵として力の根源とし、ひとつの門で駄目ならばいくつも重ねて。
 偽物のステラが、剣を携え駆けてくる。天駆ける一筋の流星の如き斬撃で一刀両断にするステラの剣技は、間近でいつも見てきている。
「もう嘆くのは終わりだ」
 そう振り被ったら――
「それでもひとを恨むというならば――カガリの悔恨が、それを阻もう」
 ここに剣戟が撃ち込まれる。
 予め予想していた場所に、鉄門扉の盾を重ねる。一枚では破れてしまったかつてのカガリ。けれど今はこうして幾重にも重ね、重たい攻撃にも耐えることが出来る。
「――終わりにしよう」
 人に燃やされても尚人を想い、それ故に苦しむのならば。
(私も人が好きだとも、不服な扱いを受けても彼らを嫌うことが出来ない)
 人に寄り添う桜と、儀式の剣として人に寄り添い続けた己が似ていると思ったからこそ、ステラは終わらせるべく剣を抜く。当たり前のようにこうしてカガリと並び立てる事を嬉しく想えば、次に桜が生まれ変わった時は桜の側にもそういう存在があればいいと願って。
 カガリの門を踏み台にして躍り出る。高く飛び、上段から偽物の自身を斬りつければ、斬られた偽物の幻は桜花弁へと戻り、真っ二つとなってひらりと落ちていく。
「偽の私達が本物の私達を超えられるか?」
 いつもいつも、カガリとステラは門と剣としてともに戦ってきた。偽物の連携にも負けはしないとステラが不敵な笑みを唇に乗せれば、その身は白銀纏いし女神の姿となる。
 銀の星片は、《希望の星》となって。星の光を纏い、偽物のカガリの元へと飛んでいく。
 飛んでくる門を追尾させたカガリの門が弾けば、白銀の剣身となった『流星剣』から光が放たれる。
 ほうき星のように、きらりきらりと星の光を零して。
 人に寄り添えるといいと願いを篭めて。
 眩い光は、盾ごと偽物のカガリを貫いた。
 ――次はどうか、幸せであれ。
 星の残滓が優しく降り注ぐ。
 桜の幸せを、行く末が安らかであることを願って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【狼兎】
🌸栗花落・澪

桜の境遇に思わず涙を零すも
紫崎君の言葉にぐっと拭い

わかってる…大丈夫
止めて、あげなきゃね…

【オーラ防御】で身を護り翼で【空中戦】

紫崎君…任せたよ

連携の合図は一言で充分
自分だからこそ分身の動きを予測し
氷魔法の【高速詠唱、属性攻撃】で翼を狙い氷柱を放出
体勢を崩した隙に急接近し杖で叩き落とす
僕の弱点は…接近戦

分身を紫崎君に任せ桜に近付き
大きな幹をそっと抱きしめ

桜は…好きだよ
その色も綺麗だね
大丈夫…もう、熱くないよ

【指定UC】発動
【催眠歌唱】で桜を尊ぶ歌を
転生したら、ちゃんとお花見したい
人を愛したあなたに会いたいから
【破魔】は魔にしか効果が無い
だから…【祈り】を込めた斬撃で浄化を


紫崎・宗田
【狼兎】
🌸栗花落・澪

……おいチビ
今は泣いてる場合じゃねぇぞ

意図的に素っ気なく声をかける
下手に優しくするより有効な事を理解してるから

澪の主な戦法は光と植物
魔法使えばそれ以外もあり得るが…詠唱ありきだからな

チビの姿を真似ればやられねぇと思ったか?
残念だったな
俺もチビも…他人に奪われるくらいなら自ら、ってタチだ
殺す側かどうかは別としてな

墜落した分身に★破殲による炎の【属性攻撃】と
物理的な【怪力+薙ぎ払い】での接近戦
詠唱する機会なんざ与えねぇ
飛ぼうとしても【指定UC】で妨害、叩き付け

チビの範囲UCは破魔だからな
悪になら効果抜群だろうが…仮にダメージあっても気にしねぇ
【捨て身の一撃】、食らわせてやるよ



●願いの詩
 静かに零れたのは桜花弁ではなく、澪の涙だった。
「……おいチビ。今は泣いてる場合じゃねぇぞ」
 彼岸桜の過去を見て思わず涙を零してしまった澪へ、宗田が静かに告げる。意図的に、素っ気ない声を意識したのは、それが現状では有効的だと理解しているから。何もない状況だったら、彼の気の済むまで泣かせてあげたことだろう。しかし、今は――。
「わかってる……大丈夫。止めて、あげなきゃね……」
 ぐっと握りしめた拳で涙を拭えば、そこに見えるのは決意。今は、止めてあげることが救済だろうと信じて、心優しき少年は前を向く。
 眼前には、二人の澪が居た。翼を大きく動かして澪が飛び上がれば、偽物の内の一体も飛び上がる。
「紫崎君……任せたよ」
 自分自身だからこそ、偽物の動きはある程度予測が出来る。普段一緒に居る宗田とて、そうだ。一緒に居て、共に戦ってきたからこそ、澪の主な戦法はお互いに理解していた。
 澪の主な戦法は光と植物。魔法を使えばそれ以外もあり得るが、魔法を使うには詠唱が必要となる。そして弱点は、接近戦。詠唱中を攻撃し、接近戦に持ち込めば勝てる。
 そう確信して、同じように浮かんだ偽物へと杖を向ける。詠唱は素早く、氷魔法で編み上げた氷柱が杖先に宿れば、翼を狙って射出する。
 光を放とうとしていた偽物の澪は翼を打たれてぐらりと態勢を崩し、そこをすかさず澪が接近して杖で叩き落とそうとするが――。
「っ!」
「チビ!」
 澪を真似た偽物の一体が、浮かぶ澪を狙って氷柱を飛ばす。連携をするのは、澪たちだけではない。使用するユーベルコードも戦法も真似て、更に澪に足りないのは防御力だと判断した偽物たちは防御力も上げている様子。
 飛んできた宗田の声。澪は彼を見ずに、氷柱を避けようとしながら杖を振るう。傷は、致命傷で無ければ負ってもいい。まずは目の前の敵を墜落させて、彼へと繋げること。
「紫崎君……!」
 僕は大丈夫だから任せたよと、再度思う気持ちは言葉にせずともきっと彼に伝わることだろう。
 短く響く、宗田の舌打ち。
 何とか杖を打ち据えたが、すぐにでも空中で身を立て直そうとする偽物の澪。そして、氷柱を再度見舞おうとする地上の偽澪。宗田がどちらの優先順位を上げるかなど、明白だ。
「チビの姿を真似ればやられねぇと思ったか?」
 地上に居る偽澪へと駆けた宗田は、その細腕を掴み振り回す。
「残念だったな。俺もチビも……他人に奪われるくらいなら自ら、ってタチだ」
 殺す側かどうかは別としてな。
 小さく声を落とし。そして、振り回したその体を地面へと思いっきり叩きつけた。
 宗田の手の中で、掴んだ腕の感触が消える。ひらりと桜花弁が溢れるのも見届けずに、宗田の意識はすぐに空中の澪へと向けられる。
 体勢を立て直した偽澪と本物の澪が、空中で杖を打ち合わせている。同じ体、力は拮抗。けれど偽物は幻なため、体力という概念はない。元より長く戦えない澪が直に劣勢になるのは目に見えている。
「チビ!」
 宗田が呼ぶ。そのまま、こっちに来いと。
 いつだって、合図は一言で充分。
 宗田の意図を察した澪が宗田へと向かって飛んでいけば、偽物の澪も追いかけてくる。
 澪が宗田の横――掠りそうなくらいスレスレを通り過ぎ、更にそこを通り過ぎようとする偽物の澪。
「お前はそこまでだ」
 むんず伸びた逞しい腕が、飛来した偽物の澪の顔面を鷲掴み――そして、そのまま地面へと叩きつけた。
 地面が揺れるような音を聞きながら、澪は飛ぶ。けれどその飛び様は、地に落ちそうな紙飛行機のそれで。へろへろと飛んで、彼岸桜まで後少しの所で地面へと倒れ込んでしまう。
 その体を、当たり前のように担ぎ上げる腕を感じて、澪は力無くも幸せそうに笑う。沢山動いて、体も心臓も疲れてしまったけれど、絶対に彼が側に居てくれるのを澪は知っているから。
 宗田に連れられ辿り着いた彼岸桜のすぐ近く。降ろされた澪は、幹へと手を伸ばしそっと抱き締めるように手を回す。大きくてぎゅっと抱きしめられはしないけれど、優しく幹に頬も寄せ、大丈夫だよと口にして。
「その色も綺麗だね。もう、熱くないよ」
 自身の傷は後回しにして、疲労困憊の体でも、澪は桜を癒やすための歌を歌う。桜を尊んで、転生したあなたの下でお花見をしたいと気持ちを篭めて。無数の花弁の刃を散らし、花弁で彼岸桜を抱き締めた。
 澪は、歌う。人を愛したあなたに、会いたいから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フォーリー・セビキウス
【涙雨】
桜は散るからこそ風流なのだと聞く。それが日本人で言う所のワビサビだそうだ。
然し、どうやらお前は違うらしい。燃え尽き、朽ちた筈の外道の桜よ。

拐かし、迷わせた次は偽物との対峙か。…芸がないな、つまらん。
生憎、私は一芸に秀でた訳じゃない。そんな存在が一つの事しか出来なれば、負けるのは道理というものだ。
私の姿をしてるなら、もっと利口に動け馬鹿が。

矢はUCで異空間に飛ばして斬りつける

追い続けるなら、別の空間で彷徨い続けていろ。

そろそろ、散り時だろう。その無念も、憎悪も、風と共に消えて行け。
舞い散る花弁と共に眠れ。
ーー安心しろ。次の春が来れば、お前の事を思い出そう。記憶力には、自信があるからな。


雲烟・叶
【涙雨】

全く、贅沢な我儘ですこと
欲望には果てがねぇとも言いますがね、まるで人の子みたいじゃねぇですか
転生して尚も妄執を抱えるのなら、さっさと消えた方が良いと思いますよ
醜くなり果てるよりは、桜らしく美しいまま散ってくださいな

おや、自分を殺せば良いんで?
自分自身なら躊躇する理由もありませんね
生憎と待ちの姿勢が得意なもんで、あんまり見てときめくような戦い方じゃあねぇんですがねぇ

【恐怖を与える、誘惑】で敵を己に惹き付け、【カウンター、生命力吸収】
幾ら姿形を真似ようとも、同じ【呪詛】なら、より深く悍ましい方が勝つんですよ

全く。……自分で自分を殺すなんて、清々しますよ
さ、普通の花見でもして帰りましょうか


綿津見・ろか
【涙雨】
人間のことばかり考えているのもつらいでしょ
終わらせてあげてなんて言わせて、悪い桜
ほかの桜も泣いてるのに 聴こえてないみたい

……あたしの戦い方 乱暴だから
ときめきとは多分正反対だと思うの
目の前に立ってる金髪の女の子 
あの子も乱暴な戦い方するから あんまり見ないで

目の前のあたしが大きく息を吸って 叫ぶ
やられるのは絶対いや
癇癪をのせたシャベルで一撃 聴覚を奪う
聴こえないと いま叫んでるかどうかもわからなくなるでしょ
そのまま続けて叩く 叩く

ほんとに ほんとに悪い桜
痛いのはわかるけど あたしの顔で泣かないでよ


四・さゆり
【涙雨】
随分と振り回されてあげたから
今度はお前が嬲られる番ね

文句は聞こえないわ
泣く、鳴く声だけ、聞いてあげる

許せないものは、許さなくて良いの

ーーー

あら、まねっこ上手ね

けれど、わたしこんなに小さかったかしら
ねえ、
…あら、皆、映る姿が違うの?

それなら、そうね。各々好きなように殴りなさい
あんたたちが戦うところ、見てみたいもの

さ、わたしをときめかせてきなさい



わたしの目に映ったのは、見窄らしい女の子
見たくもないから、さっさと潰しましょう

幾数本、浮かぶ傘たちがわたしに向いている
少しばかり新鮮ね

殺したい程に欲しいものを狙ってくるでしょう
首無し、お前は赤い雨を相手なさいね

わたしの相手は、わたし
ばいばい泣き虫



●さよならの雨宿り
 炎の幻影。桜の涙雨。桜が泣いて、視界が開けた。
「終わらせてあげてなんて言わせて、悪い桜」
 金の髪を揺らしたろかの唇から、ぽつりと言葉が転げた。愛でも憎しみでも、人間のことばかり考えて。護ろうとしてくれている仲間たちの声も聞こえていない桜。そこに可哀想だと哀れみを見出すか、我儘だと突き放すか。それもまた、受け取る人によって様々だろう。
 桜は散るからこそ風流なのだと、フォーリーは聞いたことがある。それが侘び寂びなのだと。
「然し、どうやらお前は違うらしい」
「全く、贅沢な我儘ですこと」
「そうね。許せないものは、許さなくて良いの」
 其々が思うままに口にして、真っ直ぐに眼前の桜を見据える。
 わたしも、あなたのことは許さないから。文句はどうでもいい。振り回されたのなら嬲り返さなくてはと、四人の中心に立った少女が笑った。
「あら、まねっこ上手ね」
 はらり。涙を零すように四枚の桜花弁が舞えば、四人の姿がもう一組。
「ねえ、わたしこんなに小さかったかしら」
「そうですよ」
「そうだな」
「そうね」
 問えば、三人分の頷きが返ってくる。偽物の叶とフォーリーの間に居るさゆりは、ぽこんと谷が出来たみたいに小さい。自分の視点で感じているものと、客観的に見るのとでは若干感じ方が違うのだ。
 各々、自分は客観的に見るとあのように見えているのかと自身を眺めたところで、ボスからの号令が掛かる。
「各々好きなように殴りなさい」
「おや、自分を殺せば良いんで?」
 四人で協力しどの順番で倒さなくて良いのかと問えば、少女は「あんたたちが戦うところ、見てみたいもの」と浅く頷いて。
「さ、わたしをときめかせてきなさい」
 さあ、誰がわたしを一番ときめかせられるのかしら。
 黄色のレインコートの少女は楽しげに笑う。けれど、ろかはそっと顔を隠すように襟元に顔を埋めて。
「……あたしの戦い方、ときめきとは多分正反対だと思うの」
 ろかの目の前に立っている、金髪の女の子。ろかと全く見た目の同じ女の子がとても乱暴なのは、ろか自身が一番よく知っていることだ。自分同士の乱暴な戦い合い、なんて。出来れば見て欲しくなんてなかった。
「あんまり見ないで」
 小さく言葉を残し、三人から距離をおく。
「ねえあたし。ついてきて」
 偽物のろかは『声』を使ってくる確率が高い。そちらの仲間にもダメージを与えてしまうわよと、少しでも皆から離すようにと誘導をする。
(……それだけじゃ、ない。離れれば、乱暴なあたしが少しは見られないから)
 ろかは、偽物を伴い離れていく。
「拐かし、迷わせた次は偽物との対峙か。……芸がないな、つまらん」
 前者は彼岸桜の行いではないのだが、フォーリーはそう吐き捨てるように呟いて、真っ直ぐに偽物の自分を見据える。何を考えているのか解らない同じ顔が、同じ金の瞳で見つめてきている。
 フォーリーは一芸に秀でている訳ではない。記憶を失い、何に秀でているかすら解りはしないが、特別に弓の腕が優れている訳ではない事は体を動かす内に解っている。それだけしか出来ない存在に負ける訳がない。そう、フォーリーは考えた。
 偽物のフォーリーが『Cipher』に矢を番え、放つ。同時にフォーリーは《夢幻に堕ちろ、子供達(ディルソムニア)》を発動させる。それはフォーリーの目か身体に触れた抵抗しないものを吸い込むユーベルコードだ。放たれた矢は異空間へと吸い込まれる。
「――っ」
 別の空間で彷徨い続けていろ。そう、口にするはずだった――が、その異空間はいつでも外に出る事が可能なため、フォーリーを追いかける矢はすぐに出てきてしまう。また、対象が”抵抗しないもの”でなければ吸い込めないため、二度は通用しない。
 偽物の自身を斬りつけるフォーリー。しかしその背には偽物が放った矢が深々と刺さり、フォーリーを痺れさせた。
 読みが、甘すぎた。ただ一つのことしか出来ない馬鹿がと、そう一笑に付すつもりだった。偽物のフォーリーが行ったことは、そのただ一つのことだ。戦法も技能も、桜が見たものは全て再現可能だが、まだそれらを出してもいない。本当にただ一つのこと。矢を番えて、《黒血妖狗》を使用した。
 考えを改めるべきか、と唇の端が上がる。けれど。
(そろそろ、散り時だろう。その無念も、憎悪も、風と共に消えて行け)
 身体は、痺れる。背からは体温が奪われていく。けれど斬りつけた黒剣は、まだ動かせる。そのまま二度三度と斬りつけて、最後に勢いをつけて蹴り飛ばせば、偽物の身体は桜花弁となって消えていった。
『――――――――――――ッ!!』
 偽物のろかが大きく息を吸って、叫ぶ。
(もう少し、離れたかったけど)
 仕方ない。あたしが叫ぶなら、仕留めなきゃ。だって、やられるのは絶対いやだもの。乱暴な姿を見られても、無様な姿なんて見せられない。
「うるさい」
 金のシャベルを握りしめて駆ければ、呪詛と衝撃波がその身を刻む。けれど苛立ちを膨らませれば、耳の痛みも気にならない。怒りで視界を赤くしながら、叫ぶその顔目掛けてシャベルを叩き込んで聴覚を奪った。聴覚を失えば、叫んでいるかどうかも解らなくなる。けれど、解らないからこそ偽物のろかは叫び続け、ろかの耳も潰される。
「ぐちゃぐちゃにしてあげる」
 耳から血が出ても、沢山怪我を作っても、ろかはシャベルでろかを叩く。叩く、叩く。
「ほんとに。――ほんとに悪い桜」
 ろかの泣き顔を知らない桜には苦しむ顔も泣き顔も再現は出来ないけれど、ろかにだけは違うものが見えていた。
 ――あたしの顔で泣かないでよ。
 その顔面に、最後の一撃を落とすのだった。
「醜くなり果てるよりは、桜らしく美しいまま散ってくださいな」
 叶も眼前の己へと視線を向ける。けれど、桜と言えど自分自身だ。美しいまま散ってはくれなさそうだと喉奥で笑った。
 主は、ときめきをご所望だ。しかし。
「生憎と待ちの姿勢が得意なもんで、あんまり見てときめくような戦い方じゃあねぇんですがねぇ」
 それはきっと、お互い様。何せ相手は自分自身。持てるものも、戦法も、見せたものは全て真似ることができる。
「それでもいいわ。だってあなたたち、得意じゃない」
 いつだってときめかせてくれるわと小さな主が微笑った時、ふわりと煙が漂った。
 香る煙は、偽物の叶の手元から。偽物の叶は、呼び寄せた五十もの管狐たちを叶へと向かわせる。沢山の獣たち。全てを防ぐことなど出来はしないことは承知で、叶はその小さな獣たちの呪詛を、反転させる。相手は自分自身だ。躊躇する必要も理由もない。いくつかの管狐が叶を焼き呪詛を負わせたが、いくつかの管狐を叶は喰らい生命力を奪い、その煙を辿って呪詛は偽物の叶へと届けさせた。
 受けた呪詛は、どちらが多いか。より深く悍ましい呪詛は、どちらか。
 叶は、ただ待つ。偽物の己が倒れるのを。
 そうして待てば、かき消えるように眼前の姿が桜花弁となって消えて。
「全く。……自分で自分を殺すなんて、清々しますよ」
 自身の姿をしていたが、散る姿は桜のようであったなと呪詛と炎に蝕まれる身を押さえながら薄く笑むと、さて主はと黄色のレインコートの少女へと視線を向けた。
「そうね。わたしも相手をしましょう」
 かわいいしもべたちが働いたのだもの。さっさとあの見窄らしい女の子を潰しましょう。
 開く前の朝顔の蕾。しゅるっと捻って尖って、少し膨らんだ蕾。それを見ているようだと、少しだけ思った。けれど浮かぶあれらをさゆりはよぉく知っている。傘だ。沢山の、赤い傘。さゆりの手にもある、血色の傘。
(向けられると、こういう風に見えるのね)
 いつも向けるばかりだから、少しばかり新鮮。
 なんて、のんびりと見つめてばかりもいられない。傘の切っ先が狙う先。柔らかくて、ぷちゅっと潰れるものがある場所だ。当然、簡単にあげてやる気などさらさら無い。
「首無し、お前は赤い雨を相手なさいね」
 手にした傘を、浮かぶ傘たちへと向けて『一等最初のしもべ』へと命じれば、顔も首もない人形が動き出す。飛来する傘を弾き、へし折り、悉くを破壊しに駆けていく。
 ――わたしの相手は、わたし。
 さゆりも、傘の雨の中を真っ直ぐに駆ける。さゆりを倒すのは、さゆり自身。
 飛んでくる傘を、傘で叩き落とし。そうして自身に肉薄したなら、赤い傘を逆手に握って――お揃いの眼帯へと振り下ろす。
 ――ばいばい、泣き虫。
 赤い涙が溢れる前に、見窄らしい女の子は桜花弁となって消えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アレクシス・ミラ

【双星】
🌸セリオス

セリオス
幻とはいえ、お互い手加減は無用だ
幻を倒し…桜の元へ行こう
…このままただ終わるのは悲しすぎるから
次の生で、また青空の下で誰かを愛し、愛されるものとなる事を…祈らせてほしい

彼の戦い方は攻撃重視で基本防御はしない
耐えて、隙を見極めて…
…っ!?
幻の拳を見切って避ける
…なるほど?
これで桜を殴ったのか
じとりとセリオスを見る
それで先程動けなかったのは何処の黒歌鳥かな
…だからこそ僕は、
攫われたら何度だって君を見つけてみせるし
囚われていたら救い出してみせる
迷わず…真っ直ぐと
願うは【君との約束】攻撃重視
幻の攻撃をオーラ防御纏わせた盾で受け流し
力を利用するように剣でカウンター
光の一閃を


セリオス・アリス

【双星】
🌸アレス

…余裕無さそうな顔してんな
もうちょっとちゃんとしてたろと溢し対峙する
そもそも手加減して勝てる気がしねぇしな
歌で身体強化して
ダッシュで先制攻撃

だって真っ直ぐが一番はやいだろ
アレスに言い訳しつつ
うぐ…まあ…それは悪かったよ

【君との約束】で光の剣を受け
まっすぐ踏み込み距離を詰める
剣が敵に届く直前で跳び上がり後ろへ周り剣を振るう
盾で受けられちゃ困るんでな


何度でもというアレスの真っ直ぐな目
それが嬉しいのに
アレスを縛っているようで
時々、叫びたくなる

自分の中の矛盾した感情

想いの種類は違うが…桜の気持ちもわからなくねぇ
どっちにも嘘がない想いを抱えたままじゃ辛いだろ
次は忘れてただ幸せになれよ



●君との約束
 ひらりと桜花弁がふたつ舞ったなら、黒歌鳥と明け星の騎士の眼前にもう一組の自分たちが現れた。
 セリオスは僅かに目を見開く。
(……余裕無さそうな顔してんな)
 眼前のアレクシスは、平時よりも余裕を欠いた顔。セリオスと再会した時はもう少しちゃんとした顔をしていたはずだ。
(……こんな顔で俺を探していたのか)
 見られなかったものを、見ることが叶った。それだけでこの対峙に意味が芽生えたようにも思えた。
「セリオス幻とはいえ、お互い手加減は無用だ」
「手加減して勝てる気がしねぇしな」
 お前も気をつけろよと告げれば、爽やかな声が短く「ああ」と返して。
「幻を倒し……桜の元へ行こう」
 その言葉と同時に、二人は地を蹴った。
 セリオスは幻影のアレクシスへと真っ直ぐに駆け、剣を振るう。カンッと甲高い音を立てて弾かれたが、盾で押し止められて斬られるよりかは全然いい。何時も通り、攻撃重視で攻めていく。
 アレクシスは桜がまた青空の下で誰かに愛し愛されるものとなれる事を祈りながら、幻影のセリオスの元へ駆けていく。斜め前方の背中が語る通り、セリオスは攻撃重視な戦法で、基本的に防御はしない。それがたまに危なっかしくも思えるが、彼らしいとも思っていた。
 彼の戦法は自分が一番良く知っている自負がある。
(ならば――)
 盾で攻撃を耐え抜き、隙を見極め攻勢に移るべきだろう。
 しかし。
「……っ!?」
 拳が魔力を帯びたのを見つけ、慌てて後退と身体を捻って回避する。30cmと言う近距離から放たれるそれを回避するのは難しいことだが、回避出来たのはこれまで戦場をともにしてきた経験と、彼が桜を殴った事を知っていたお陰だろう。
「これで桜を殴ったのか……」
 盾で受けていたらきっと、盾を破壊されていた。
 思わずじとりとセリオスを見る。偽物のアレクシスと交戦中なためセリオスから視線は返らぬが、口調から滲む非難を感じ取ったのだろう。すかさずセリオスは口を開いた。
「だって真っ直ぐが一番はやいだろ」
「それで先程動けなかったのは何処の黒歌鳥かな」
「うぐ……まあ……それは悪かったよ」
 バツが悪そうにしながらも剣を振るうセリオスだったが、続くアレクシスの言葉に息を飲むこととなる。
「……だからこそ僕は、攫われたら何度だって君を見つけてみせるし、囚われていたら救い出してみせる」
 それは、決意。揺るぎない信念
 何度でもというアレクシスの真っ直ぐな気持ち。セリオスはそれが嬉しいのに、時折無性に叫びたくなる。アレクシスを縛っているのではないかと、矛盾した感情が胸の奥で暴れてしまう。
(想いの種類は違うが……桜の気持ちもわからなくねぇ)
 セリオスの眼前の、幻影のアレクシスの周りに幾つもの光の剣が浮かび、放たれる。いつだってセリオスは真っ直ぐで、それがアレクシスはたまに心配になるけれど……真っ直ぐに前を見て剣を振るう彼は美しい。
 アレクシスの木鈴がコロリと鳴った。
 二人の胸に灯るのは、《君との約束》。
 ――オース・オブ・イーリス。
 灯る約束と加護で攻撃力を増し、淡く光る盾で攻撃を受け流し――その力を利用して剣を振り抜いて。
 放たれる光の剣と同じ光の剣を以って相殺し、姿勢を低くして駆けて距離を詰め――間合いに入る寸前で飛び上がり後ろを取り、剣を振り抜いて。
 光の一閃、白の一閃。
 二人が相対したふたつの写し身は、同時に花弁へと戻った。
 セリオスが腕を持ち上げる。言葉はいらない。そうすることが当たり前のように、アレクシスはこつりと手の甲を打ち付けたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
やぁ、桜殿
それが君の守り手かい?
なかなか、愉快な趣向だね

橘の花に、空室の住人は相性は良くないのだけどね
そう、なにせ私が被弾しては消えてしまう
だけど彼らを喚びたい気分だったんだ
消してくれて構わないよ。私は、攻撃を避けない

血が流れるなら「僕」に変わろう。彼の拷問具は殺すのに長けている
「俺」にも働いてもらおう。折角の花見だ。その鈴を鳴らしておいで
君は一人のようだけど、私は三人なんだ
協力するのは当然だろう?

桜殿は、転生する気はないのかい
だってこんな所に居られては、気軽に君を愛でることも出来ない
桜の姿でなくてもいいんだ
新たな生を選んでくれれば、きっとまた巡り会えるだろう
いつまでも待つさ。だから、おいきよ



●さんにん
 いつも通り、それこそ鼻歌でも歌ってしまいそうなご機嫌な笑みを浮かべ、エンティは彼岸桜を見上げていた。話しかけてもいないのに『彼ら』が応えてくれた気分は持続している。炎の幻影を見た今も、それは変わらなかった。
「やぁ、桜殿。それが君の守り手かい?」
 なかなか愉快な趣向だねと紡ぐ口調も明るい。
 ひらりと舞った桜花弁がエンティの姿を取るのを「おや、やっぱり一人なのだね」なんて、頷きながら口にして。
「橘の花に、コレとの相性は良くないのだけどね」
 それでもおいでと呼び出すのは、黒熊と白兎のぬいぐるみ。居なくなってしまった時は、呼び出せなかったらと呼び出すのを恐れたが、もう大丈夫だ。『彼ら』は見えなくとも常に傍らに居てくれている。
 正直なところ、エンティが口にした通り、花弁ひとつひとつが攻撃の手となる《華断》と《空室の住人》の相性は良くない。何故ならエンティが被弾すればぬいぐるみたちは消えてしまうのだ。それでも、喚びたい気分だったのだ。
「消してくれて構わないよ。私は、攻撃を避けない」
 遊ぶのに、意味なんてない。喚びたいと思うのに、意味なんてない。そうしたかったからそうしただけさと、童子じみた男は笑った。
 吹き荒れるような橘の花弁は、簡単にエンティを傷つけて、ぬいぐるみたちを消してしまう。
 けれど、それでいい。
「殺せばいいのでしょう?」
 流れる血とともに雰囲気が変わったエンティが、拷問具を手に駆ける。いつだって殺すのは、『僕』の役目。例えそれが自分自身であろうとも。
 身を刻む橘の花の中、傷を負うことも構わずに駆けて。
 首を落とせば、ちりんと杖が振られて鈴が鳴る。
 何故呼ばれたのか解らないと言うように、『俺』が舌打ちを残して引っ込めば、エンティはいつもの『私』に戻っている。
「桜殿は、転生する気はないのかい」
 返事が無いことは、知っている。
 こんな所に居られては、愛でたくても愛でられない。
 桜の姿でなくともいい。新たな生を選んでくれれば、きっといつかまた巡り会えるだろう。それがいつになるか、解らない。会えるのかも、気付けるのかも解らない。けれどきっと、気付けるのではないかとエンティは思っていた。
「いつまでも待つさ。だから、おいきよ」
 それとももっと、未練を断つ花を添えてほしいのかな。

大成功 🔵​🔵​🔵​

東雲・咲夜
【藤桜】
🌸蒼夜くん

聴こえる、桜の啼声が
優しい哀しみに染まった聲が
そして、愛憎に狂いはった彼岸桜の想いも…

ようやっとそうくんに逢えたんに今度は増えてしもた
幻やと解っとっても傷つけるんは忍びあらへん
せやけど本物のそうくんが傷つくんはもっと嫌や

吹き荒ぶ藤嵐には桜色のオーラ防御
藤乱舞が発動してる間なら幻影に武器はあらしまへん
激痛耐性をつこても悟られへんよう《花漣》で地に水を撒き
機会を伺い足場から鋭利な氷晶柱を発生させ貫きます

寂しかったね
苦しかったね
こないになるまで人間を愛してくれはっておおきにありがとう
うちじゃ足りひんかもしれへんけど
ずっとずうっと忘れへんよ
慈愛の眼差しに抱かれて、さあ、おやすみ――


朧・蒼夜
【藤桜】
🌸咲夜

漸く見つけた俺の桜姫
だが桜の前に俺の姿をした幻が牙を剥く
慌てて彼女の元へ
ダメだ、俺と同じ能力では勝てない
【紅蓮鬼】炎の鬼と化し能力を上げ
懐に入れていた鞭【呪藤】を取り出し日本刀へと変化させ自分を傷つけた後
彼女と共に自分の幻に攻撃する

俺がいるという事は咲夜の幻もいるのだろう
騎士が居なくなり
泣きながら俺の名を呼び攻撃してくる幻の彼女
俺は武器しまい彼女の攻撃を受けながら近づき
そっと抱き締める

やはり幻だろうと君を傷つける事は出来ない
泣かないで欲しい

幻の彼女が泣きやみ安心して消えるまで離さない

ずっと傍にいるから君を守るから
咲夜そして彼岸桜
だから安心しておやすみ

消えさった後本当の姫の元へ



●桜の藤
 幻影の炎が去って、熱も去る。さらりとも揺れずにただ佇む彼岸桜であったが――。
(聴こえる、桜の啼声が)
 幻朧桜の、優しい声。そして、愛憎に狂った彼岸桜の想い。風鳴りの音に過ぎないと思うものもいるだろう。けれど咲夜には確かにその想いが聞こえ、嗚呼と小さく哀しげに声を零した。
 ひらりと彼岸桜から桜花弁が二枚舞えば、咲夜と蒼夜の姿を形取る。驚いた咲夜は丸く瞳を見開いて、つい眼前と傍らへと交互に視線を向けてしまう。
「ようやっとそうくんに逢えたんに今度は増えてしもた」
「咲夜、俺の後ろに」
 偽物の蒼夜が動くのを見て、蒼夜は素早く咲夜の前へ立つ。
 美しい紫藤の花弁がふわりと舞ったのを見て、咄嗟に咲夜は蒼夜へと桜色の加護を与える。本当はどう戦うべきか考えるべきだと、心では分かっている。けれど、例え幻であっても咲夜には攻撃出来ないと、彼を傷つけられないと心が叫ぶ。
(せやけど本物のそうくんが傷つくんはもっと嫌や)
 蒼夜が傷付かぬようにと、もっと加護をと強く願い、オーラ防御を厚くする。
 咲夜のオーラ防御で護られている蒼夜は、護られている限り怪我は大したことはないが、それだけでは倒せない……そして、能力値が同じでは勝てないと奥歯を噛み締めた。
 それに、彼女を護るためにも傍らに居たい。しかしそれでは刀は届かない。倒しに離れれば、彼女は藤花に襲われる。咲夜を守りたいが故に、蒼夜の心の天秤はいつも揺れている。
 けれど。
 蒼夜の脇から、白い手が伸びる。怪我をすることを厭わずに差し出されたその指先に、水神霊たちが集まり出す。
(嗚呼、君は……)
 そういう子だったな。
 傷を負うことなんて、厭わない。一緒に倒そうと言うように水神霊たちに地に水を撒かせていく。
 咲夜の傍らを一時離れる事を決意した蒼夜は、その身を炎宿す紅蓮の鬼と化して地を蹴った。その最中、懐に入れていた鞭『呪藤』を取り出し日本刀へと変化させ、黒剣で自身を傷つけ血を啜らせる。暗い藤色の光を放つ刀を手に蒼夜は駆ければ、偽物の蒼夜は広範囲に回せていた藤嵐を蒼夜へと一点集中しようとして――蒼夜の刀が届く、その一瞬前。足元から生じた鋭利な氷晶柱が幻影の蒼夜を貫いた。
 足を地に縫い付けられ身動きが取れなくなった偽物へと、刀が届く。咲夜が悲しまないように、身体をずらして彼女から隠し――美しい一閃で首を跳ねれば、桜花弁のひとつとなって消えていく。
 けれど、それで終わりではない。まだ幻影の咲夜が居る。
 咲夜がしたことを真似、幻影の咲夜は氷晶柱で蒼夜を貫く。――が、蒼夜は痛みに耐えながらも武器をしまい、鬼の姿も解除して、彼女へと近付いていく。
 覗き込むその顔は、涙に濡れた顔。けれど、蒼夜の名を呼ぶこともなく、ただ蒼夜を攻撃してくる。咲夜自身なわけではなく、幻影は彼岸桜が動かしているだけなのだから。
 幻影が沢山の涙を零すのは、それだけ一人きりになった咲夜が涙を零していたという事だ。こんな顔で蒼夜を探し回って居たのかと思えば、心が痛む。
(やはり幻だろうと君を傷つける事は出来ない)
 どうか泣かないで欲しいと、攻撃されながらも抱き締める。
「ずっと傍にいるから君を守るから」
「そうくん……」
 そうして、蒼夜は幻影の咲夜に眠らされる。魂を眠らせる、深い眠りに落ちていった。
 それでも幻の己を抱き締めたままの彼を見て、咲夜は胸を押さえる。愛情深い彼が、愛おしい。傷つけられても、咲夜の事を想ってくれる蒼夜。大切で大好きな幼馴染。
「――寂しかったね、苦しかったね」
 咲夜は桜に話掛けながらも、偽物の己を見つめる。
「こないになるまで人間を愛してくれはっておおきにありがとう」
 ずっとずうっと忘れないから、さあ、おやすみ――。
 幻の咲夜の瞳が最後の涙をこぼし、閉ざされる。
(けれど……そうくんは返してな)
 桜花弁となって幻影が消え、地面に倒れた蒼夜の身体を、咲夜は愛おしげに抱き締めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

荻原・志桜
【🎲🌸】
あんなにもキレイだと思ってた桜が
泣いてるように見えた

ディイくんがもうひとり?
ん? あっちにいるのわたしじゃん
戰紗を返して、負けないでねと、視線だけを彼に送る
けれどそれも一瞬で
すぐ対峙してる自身に似た敵へ意識を切り替えた

わたしね、自分が弱いことも知ってる
負けることもあるって解ってる
…だけど自分にだけは絶対負けられないんだ

ふふ、未来の大魔女を目指してるからね
くるりと杖を回せば桜を模した陣が目の前に
とっておき、見せてあげる…!
陣に光が帯びれば無数の弾丸『流星雨』を偽物に撃つ

大切、その言葉に笑顔を返した
うん、帰ろう。一緒に…!
助けたかったんだよね、彼岸桜を
泣かなくていいよ、もう大丈夫だから


ディイ・ディー
【🎲🌸】
へえ、俺達を模すとは面白い

志桜、戰紗を返してくれるか?
問うと同時に『賽の式』解放
解けた蒼の組紐が右腕に宿り、蒼蛇の霊体に成る

その刀まで模るなら呪いも痛みも覚悟しとけよ
偽物のお前と俺様、何方が呪いに押し負けるのが早いか
勝負しようぜ

蛇の霊撃を放ち、刃を振るい、呪の痛みを堪え
偽物と鍔迫り合い乍ら元凶たる桜を見る
炎か
焼かれるのは苦しいよな、よく解るぜ
然しその憎しみも嘆きも俺様には尊く思える

幻朧桜、お陰で確かに志桜との縁は深まった気がする
ありがとな
けど攫うのは今日までにしようぜ

大切な子は傍にいて欲しいから
な、志桜
偽物なんぞやっつけて一緒に帰ろうぜ!
それから櫻にも手を伸ばそう
もう良いんだぜ、と



●行きも帰りも
 はらり。ディイと志桜の眼前で、二枚の桜花弁が舞う。その二枚が、両の眼から涙が零れるように思えた志桜は、胸の前で杖をきゅっと握りしめた。綺麗だと、そう思ったのに。その桜がどこか哀しげで。ああ、泣いているようだな、なんて。
「へえ、俺達を模すとは面白い」
「ディイくんがもうひとり?」
 はらりと零れるように舞った桜花弁は、二人と同じ姿をとっていた。ディイの言葉に目を瞬いた志桜は、遅れて自分の姿も在ることに気付く。あちらの志桜の手首にも、蒼が揺れている。
「志桜、戰紗を返してくれるか?」
 掛けられた声に頷いて戰紗を解けば、偽物の手首にだけ残る蒼。負けないでねと視線で告げながら手渡せば、声を掛けると同時に《賽の式》開放により戰紗は解かれて。蒼蛇の霊体と成り、解けた蒼の組紐はディイの右腕に宿った。
 志桜は一瞥するに留め、眼前の偽物の自分へと視線を向ける。
「わたしね、自分が弱いことも知ってる」
 ぽつりと零す。それは事実。弱さを知っているから、強くなるために、夢のために前が向ける。負けることだってある。そうして、悔しさに膝をつくことだってある。けれどねと、未来の大魔女が微笑う。
「……だけど自分にだけは絶対負けられないんだ」
 くるり、手によく馴染んでいる杖を慣れた調子で回せば、桜の陣がふわと目の前に浮かぶ。散る桜が地面を満たしていくようにじわりと、仄かに陣が輝いていく。偽物の志桜の杖先でも、呼びかけに応じて集まった冷気たちが氷の歌を歌い出す。
「とっとおき、見せてあげる……!」
 召喚陣は、桜色の燐光を放ち、志桜の命令を待っている。
 放つのは、同時。お互いに、杖を突き出して。魔力に行けと命じた。
 いくつもの氷の礫が如く魔弾が飛ぶ。頬を掠り、腕を掠り、髪を凍らせ、足元を凍てつかせる。けれど、志桜も流星の雨を降らせる。ディイの邪魔をしないように偽物の自分だけを狙い、炸裂弾の雨を降り注がせた。
 傍らの気配にディイは薄く笑って、眼前の自身の写しを見据える。
 偽物のディイの手には、同じ妖刀。呪いもあれば痛みもある、曰く付きの刀。どこまで模れているのかは解らないが、覚悟しとけよと口にする。
「偽物のお前と俺様、何方が呪いに押し負けるのが早いか勝負しようぜ」
 言うが早いか、蒼蛇に霊撃を放たせる。偽物のディイも全く同じタイミングで動き、妖刀の怨念を纏いながら斬撃を放ち、斬撃を追うように同時に斬り込んでくる。
 小さな花が、爆ぜた。打ち付けあった刀、そして鍔が鉄の音を立てて。
 呪いの痛みに僅かに眉を寄せながらも、偽物越しに桜を見る。かつては薄紅だったであろう花弁を紅く染める様は、今なお炎に焼かれ続けているようにも見えた。
(焼かれるのは苦しいよな、よく解るぜ)
 きっと炎は消えては居ない。桜の中で燻って、愛憎を燃やし続けている。けれどディイには、その憎しみも嘆きも尊く思えていた。
 ――キンッ!
 甲高い音と火花が散って、鍔競り合いからの弾き返し。
「ありがとな」
 確かに彼女との縁は深まった気がするのは、幻朧桜のお陰だ。伝説のおまじないの効果ではないけれど、その切っ掛けをくれたのは幻朧桜だからだと。
 けれど攫うのは今日までにしようと提案する。いや、これは決意に近い。彼岸桜の事は終わりにさせるから、幻朧桜が何かをする必要もなくなる。お前たちも自由に咲け、俺様に賭けろよと勝負師が笑う。
「それに、大切な子は傍にいて欲しいから――な、志桜」
 炸裂弾の雨を降らす最中でも耳が拾う、『大切』の響き。身体は凍えて冷たいのに、胸内に桜が舞ったように暖かくなって、志桜は「うん!」と明るい声を返す。笑顔を向けるのは、まだ、後。眼前の自分を倒してから、一緒に帰るその時に。
(泣かなくていいよ、もう大丈夫だから)
 見守っている幻朧桜へ想いが届くように祈りを篭めれば、勇気をくれる声が響く。
「偽物なんぞやっつけて一緒に帰ろうぜ!」
「うん、帰ろう。一緒に……!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
♢

花褥に抱かれた小瓶
うつくしいサクラ
あなたの悪戯かしら

ぎゅうと握りココロに誓う
もう二度と手放さない

眼前に佇むものを識っている
嗚呼、これは
ココロの奥深くに潜む鬼の本質

鬼と鬼
互いに追うもの同士
追いかけ合いっこ、ね
勝ち獲ったものが屠り喰らう
“ナユたち”らしいステキな遊戯をしましょう
放たれる花嵐を薙ぎ払って
蕩かし屠るあかが舞う
“紅恋華”

桜片が吹雪く
花枝が震える
これは――あなたの聲かしら

サクラ、サクラ
どうかなかないで
うつくしく、やさしいひと

愛の与え方を、ナユはしらない
だから、せめて
あなたの抱く憎しみも恨みも
全てを攫って、奪ってゆくわ

もう一度
あなたを攫うあかが舞う
奪い、屠るもの
誰よりも、鬼らしいでしょう



●おにごっこ
(あなたの悪戯かしら)
 二度と手放さないと心に誓った小瓶を握り締め、髪を揺らしながら前方を見る。
 そこに佇むものを七結は識っている。
(嗚呼、これは)
 確かなことなど無いという事も知っているのに、心の奥底が、七結の芯が告げるのだ。
 ――ココロの奥深くに潜む鬼の本質だ、と。
 緋色を宿した鬼が微笑う。ナユったらいつもそんな顔で微笑うのね、なんて笑みが浮かんだ。
 どうしましょう、なんて思わない。鬼と鬼が出会ったなら、やることなんて決まっている。
 追い合いましょう。
 奪い合いましょう。
 屠り合いましょう。
 殺し合いましょう。
「“ナユたち”らしいステキな遊戯をしましょう」
 そうして最後は喰らってしまうの。
 きっと楽しく遊べる。手加減をすることなく、気を抜くこと無く、同じ力量をぶつけ合って。
 嗚呼、胸が歓喜で震える。このひとときが途轍もなく愛しく楽しい。
 けれど何にだって、終わりが訪れる。
 花嵐を薙ぎ払って蕩かし屠るあかを舞わせれば、眼前の鬼があかに埋もれて――楽しい時間は、もうお仕舞い。
 鬼は桜花弁となって消え、その花弁を風が攫っていく。
 花枝の震える音、風の聲。つられるように見上げれば、哀しげな桜。
「サクラ、サクラ」
 謳うように口にして、どうかなかないでと声を掛ける。
 なかないで。うつくしく、やさしいひと。
 七結は合いの与え方を知らない。知っていたらきっと、今ここに居なかったかもしれない。違う生き方をしていたかもしれない。けれどそれを、七結は嘆かない。知らないなら知らないでいい。他にもやれることはあるのだから。
「だから、せめて。あなたの抱く憎しみも恨みも――全てを攫って、奪ってゆくわ」
 もう一度、あかを舞わせる。
 ほら。あなたと似た、あかよ。
「つかまえた」
 ナユは、鬼。
 捕まえて、奪って、あなたを屠るもの。
 ――ねえ、誰よりも、鬼らしいでしょう?

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミンリーシャン・ズォートン
桜が泣いてる

お願い、止めて…っ
矢継ぎ早に格闘戦で迫る自身の幻影を躱し受け止めて
戦いたくないと説得を試みるけれど
彼女が投げる羽衣は今私の元には無くて
彼へと飛ばした羽衣は天へと消えたまま

迫る危機に瞳を閉じて
彼を心に思い浮かべる

そう、彼に逢わなくちゃ
此処で諦める訳にはいかない
何度だって立ち上がるよ
貴女は私
私は自分に負けない
幻影を組み敷いて
腰から細剣を抜き
魔力を注ぎ氷の力で拘束
桜の元へ

大丈夫
大丈夫だよ
あなたの友人に此処まで案内して貰ったの
苦しかったんだね
解るよ
痛みを知らないと人は愛せないもの
それだけ人を愛してくれていたんだね
ありがとう
涙浮かべ掌から魂の花

少し眠ろう
次目覚めた時
きっとまた人を愛せるから



●空の向こう
「お願い、止めて……っ」
 響いたのは、切なる願い。
 泣く桜の気配に、愛憎を漂わせる眼前の彼岸桜。すぐさま駆け寄って思いを伝えたいとミンリーシャンは思う。けれど――。
 小さく息を飲んで僅かに顔を横にずらせば、耳の横すれすれを拳が通り過ぎた。
「あなたと戦いたいわけじゃないの……っ」
 ただ、話を聞いて欲しい。あなたを癒やしたい。あなたに寄り添いたい。あなたが一人で泣かないように、寄り添って泣けないあなたの代わりに涙を零させて欲しい。
 届けたい言葉は、気持ちは、たくさん。けれど、幻影のミンリーシャンがそれを阻む。
 突き出された手を掴み、投げ飛ばす。しかしひらりと身軽に舞うように幻影は宙を蹴り、光の羽衣を投げつけてくる。その羽衣を見て、小さく息を呑んだ。今その羽衣は、ミンリーシャンにはない。彼を捜し飛ばした羽衣は、天へと消えたまま戻ってきてはいなかった。
 ほんの少しの戸惑いでミンリーシャンは避け損ね、胴にぐるりと纏わり付いた羽衣がその身を締め上げてくる。
「ああっ」
 悲鳴を上げ、足をもつれさせて地面へと転がる。
 この後、どうなるのだろう。彼に逢えぬまま、終わりを迎えるのだろうか。
(椋……)
 ぎゅうと瞳を閉じれば、愛しい姿が心に浮かぶ。
 ――そんなのは、いやだ。彼にこのまま逢えないのは、いや。
 胴とともに拘束された腕は、動かない。けれど――。
(大丈夫。何度だって立ち上がるよ)
 何とか手首を動かせる事を確認し、腰の最剣へと必死に手を伸ばす。此処で諦める訳にはいかない。やりたいことも話したいことも、たくさんある。今すぐに飛んでいって逢いたい人だって居る。だから――!
 鞘から滑らせた細剣で拘束していた羽衣を斬り裂いて。
 その勢いで幻影へと飛びかかり、組み敷いて。
 驚き目を見開く姿に、細剣を突き立てる――!
 ――パキンッ。
 氷の蓮華が咲いて幻影をしっかり拘束すれば、ミンリーシャンは立ち上がり彼岸桜の元へと駆けていく。
 あと一歩のところまで近寄って、大丈夫だよ怖くないよと、思いを篭めながら見上げて。
「苦しかったんだね。それだけ人を愛してくれていたんだね」
 桜の気持ちを思えば、胸が切なくなる。
「ありがとう」
 愛してくれて。
 熱い滴が頬を伝うのを感じながら、掌に光る小さな芽を芽吹かせる。
 ――必ずまたあなたに逢いに来ます。
 だから少しだけ、ほんの少しだけ、眠りましょうね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
🌸クロト
【華座敷】

他者を利用し潰す俺か
愛執に捕らわれた僕か
桜が見たは、さて?

幻撃破順は
千之助>己>ニュイ
但し己は主に幻の己の抑え

視線、手、足運び…
見切る全てと知識を基に敵の行動予測
回避し損耗防ぎ

触れる物裂く鋼糸
盾かつ毒牙の短剣
最も手馴れた黒剣
選び用い2回攻撃交えてUC…

それが己
遣り口は同じ
故に今は後の先
同手にて相殺を

――千之助。黒の錘の糸
事前の手筈通り
信故、一撃は彼の守りの上へ

寿命惜しまぬ敵なら一打負けるが…
受ける
致命傷で無けりゃいい
幻影風情が彼らに届くと思うなよ

手口はいずれ見抜かれよう
…そこが、機

差を突きに来るその一瞬
一撃を自身に
血煙で視野潰し
後は任す

終われませんよ
終幕は、桜へ倖いを贈る時


佐那・千之助
🌸佐那
【華座敷】

彼岸桜へUC
他人を護る私の幻なら桜を見捨てられぬ筈
身で庇うか炎で打つか
隙生めば
龍の軌道曲げ幻の己へ

黒剣でクロトの一撃弾き
応戦中、血煙の飛沫に
先の様に凍り付かねど胸底に逆巻く思い
…後で、話
幻クロトの背後空間からUC
物静かに最大火力

リサの幻を焼く
骸は火葬と
現実で言うべきか
人形が齎す蜜と疵に泣き腫らした弟の眼を
いつか見た時から思う事
未だ答えは出ぬけれど
勿忘草、炎で切返し
姫と逝くなら淋しくないか

桜よ
貪婪な炎、悍ましかろう
見た通り私は総てを焼きつくす
そなたが憎む存在そのもの
来い
優しい心を蝕む恨み
私に晴らして来世へおいき

桜の思考の添え木となれるか
憎しみの刃は貰い受ける
この桜が愛おしいから


霧島・ニュイ
🌸ニュイ
【華座敷】

愛してくれてありがとう
愛が憎しみに変わるの辛いよね…わかるよ
僕達が戦うのを見て、君の心は晴れるかい?

沢山愛するよ
願わくば、また君が人に愛される存在に転生できるように


まず幻影全員に目潰し
次に兄の幻影へ
攻撃は見切り
リサを先に死角から向かわせ、フェイント仕掛け
騙し討ちでUC、スナイパーで命中率上げて不意打ちの一発の後、弾丸乱れ撃ち
燃やされないよう留意

リサの幻影いれば火葬されるだろう
いずれは受け入れないといけない事は、分かっているよ

幻影兄を倒したら、クロトさんに加勢
自分の幻影は騙し討ちに気を付けて
裏の裏読み合い、足払いやフェイントなど織り交ぜて2回攻撃で討ち取る

説得叶ったら櫻に銃を



●終幕へと至るまで
 肌に感じた燃えるような熱も、心にこんこんと泉のように湧いた悲しみも、消え失せれば。そこにあるのはただひとつ。雄大で美しい桜の木だけだった。
「愛が憎しみに変わるの辛いよね……わかるよ」
 ニュイは、心を込めて言葉を紡ぐ。ニュイも、そうだった。今もずっと、想いに囚われている。そしてその想いが中々晴れてはくれない事を身をもって知っていた。
「僕達が戦うのを見て、君の心は晴れるかい?」
 それなら、そうするよ。
 だからそこで見ていてと告げて、ニュイは眼前に現れた自分たちの写し身へと視線を向けた。
「あ、リサちゃんも居る」
 僕たちはいつも一緒だねとパッと笑顔を浮かべる。けれど、居ると言うことは彼女も倒さねばいけないということでもある。いずれは受け入れないといけない事が、眼前に突きつけられたように思え、少しだけ眉を落とした。
(……いつかは。大丈夫、分かっているよ)
 ――轟。突如現れた、炎の龍が嗤った。
「桜よ。貪婪な炎、悍ましかろう。見た通り私は総てを焼きつくす、そなたが憎む存在そのもの」
 千之助が腕を振れば、大気を歪め渦巻く炎の龍は轟々と酸素を喰らい燃え上がり、彼岸桜へと向かっていく――が、届く前に轟々と燃え上がる地獄の炎に飲まれて相殺された。他人を護ろうとする自分ならば桜を見捨てられぬ筈、との千之助の考えであったが、実状は違う。結果的には目論見通りではあるが、彼岸桜がただ自分自身を守ったに過ぎない。
 偽物のクロトもまた、動き出す。赤々と燃える炎に視線が奪われている内に、ひそりと。しかし、自分ならばそうするだろうと予測を立てていたクロトがすぐさま立ち塞がるように付かず離れず着いていた。
「残念だとは思いますが、君の相手は僕です」
 自分の得意とする事は、自身が一番よく知っている。喧騒に紛れ鋼糸を撒いて、静かに隠れて、騙して。そうして敵の喉元へと忍び寄る手練手管。触れる物裂く鋼糸、盾かつ毒牙の短剣、最も手馴れた黒剣……互いに操る武器も、技量も同じ。――否、偽物のクロトは攻撃力が上がっているようだ。一撃一撃が、確実に重い。
 長期戦となった場合、確実にクロトが押されるは必至。しかし、クロトには信を置く仲間がいる。それが利用か演技かも確かではなく、何でもないような顔をして仮面を削ぎ落とし掌を簡単に返す事があろうとも、”今”は確実に信を。
 打ち合う最中に交じる、黒の錘の糸。事前に交わした手筈通りに一撃は千之助へと向けた。
 ――カン!
 向けられた黒の錘の糸を、千之助は黒剣で弾く。そこに生じた隙きに、幻影の千之助が迫り黒剣を叩き込む。――が、死角に生じた気配に気付き、身を翻して鞭に変じさせた黒剣で人形を打ち据えれば、リサ、そう呼ばれるニュイの人形が呆気なく吹き飛ばされた。
「――っ」
 名を、叫びそうになった。しかし、寸でで奥歯を噛み締め、耐える。不意を狙うための揺動に人形を使ったのだ、人形が危険な目に合うのは当然のことだろう。そして、叫んでしまっては彼女を向かわせた意味も無くなってしまう。
 静かに、息を飲み込んで。『Nuage』を構えて狙いを定める。
 引き金を引けば、幻影の千之助の上腕を撃ち抜いた。『Nuage』を手放し、『Mirage』に持ち替えたら、後はもう、感情のままに――。
 鉛玉の雨が降る音が響き渡る。明らかに私怨も含む、それ。例え兄の幻影であろうとも、許しはしない。だって、彼女を愛していいのも傷付けていいのも、ニュイだけなのだから。
 そこへ、ふわりと青紫の花弁が舞った。それぞれが戦闘中であろうと気にせず、割り込むように全体へと広く勿忘草の花が広がって、全員を攻撃する。火力が上がっている為、放置しておける攻撃ではない。
「ニュイ」
 偽物はもう消えたと千之助がニュイを呼べば、ニュイは肩で荒い息をしながらも《弾丸乱舞》を止め、自分の幻影を兄へと任せてクロトの加勢へと向かう。きっと、幻影と一緒に居るリサの幻影も火葬されるだろう。いずれは受け入れなければいけない現実。けれど、それは今ではない。兄に託して目を逸らす。
「クロトさん!」
 加勢に来たよと銃を携えて。
 手数は、幻影のクロトの方が多い。致命傷で無ければいいとクロトは受けるが、その傷は決して浅くはない。致命傷よりも僅かに軽い、その程度だ。
 ニュイが機を伺う。打ち合う二人に割り入るには、下手をすれば足を引っ張るだけになる。そのため、出来る限り呼吸を整え、機会を待った。
 機会はすぐにやってくる。何故ならクロトが自ら作るから。
 赤い、花が咲く。血煙の、花。血煙を上げられるだけの傷を、クロトはクロト自身の手で作り、後はニュイへと任せ後方へ倒れる。――そして、引鉄は引かれた。
 漂う香りに、千之助が眉を顰める。元より香ってはいた。けれどそれ以上に濃くなる香りに胸底に思いが逆巻が、勿忘草を舞わせる偽の弟のみを瞳に映す。
 桜の憎しみの刃はこの身に貰い受けると決めている。舞う花弁に憎しみが混ざっているならば、好きにさせてやりたくもある。けれど、一人ではない。仲間たちがいるからこそ、看過することは出来ない。
 ――轟。再び、炎の龍が嗤う。見据えるは、弟。そして、彼が愛した娘。人形が齎す蜜と疵に泣き腫らした弟の眼をいつか見た時のことを思い出す。未だに答えを出せては居ない。けれど。
「姫と逝くなら淋しくないか」
 幾度勿忘草で斬られようと気にせずに佇んで、勿忘草ごと龍が喰らった。
「クロトさん、大丈夫!?」
「……ええ、まあ。まだ、終われませんよ」
 終幕は、桜へ倖いを贈る時。そう、決めているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・ゆず
あなたは愛されました
あなたも愛しました
その心はとても尊く、美しいものです

わたしは、持ち合わせていない。とてと素敵な
見つけたお守りを無くさぬようにぎゅうと握って

…いいな。

現れるわたしには、躊躇う事なくダガーを叩き込みます
その姿はとても嫌いなものなので
倒す事に抵抗は無い

『生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ』

桜さん、この言葉を差し上げます
一度死んで、転生して生きてください
あなたのその慈しみのこころはとても素敵なものです
慈しみのこころがあるからこそ、憎んでしまうのですが
その心こそ、ヒトを形作る重要なものです

さようなら、さようなら
次のせいも、素敵なものになりますように
出来損ないより、愛を込めて



●こころ
 たくさんの人々に愛されて、たくさんの人々を愛した桜。
 ヒトを、他者を、誰かを愛せる桜。
「その心はとても尊く、美しいものです」
 見つけたお守りを無くさないようにぎゅうと握り、ゆずは桜を見上げる。
 ゆずが持ち合わせてはいない、とても素敵な心を持っている桜。尊く美しく暖かで、そして眩しい心。
「……いいな」
 眩しいものを見つめたように目を細めて、ぽつりと小さく零れたのは心からの言葉。ああ、これは無いものねだり。そう分かっているのに、憧れて。羨むというものは、甘い毒だ。欲してしまえば際限がなくなってしまう。手を伸ばして奪ってしまわないように、ゆずはそっと心に蓋をした。
 桜の木の下に視線を移せば、少女が一人立っている。
 そばかすまみれの顔の、何処にでもいる女子中学生。陰気な顔は情けがなくて、他の人にはこう見えているのだなと思わせてくる。
 ――ああ、いやだな。
 気付いた時には、駆け出していた。腰を少し落として、袖からプッシュダガーを指の間に挟んで。躊躇いもせず、ダガーを叩き込めば、乾いた金属音とともに跳ね返される。
 技量も、動きも、何もかもがゆずといっしょ。見つめてくるその瞳が自分を責めているようで、本当に――。
 感情のままに斬りつけようとして、ぐっと衝動を飲み込み堪える。だってこれは、この綺麗な桜の為に振るう力なんだ。汚いわたしを斬るためじゃない。
「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」
 これは、桜にあげるもの。
「桜さん、この言葉を差し上げます」
 一度死んで、転生して生きてくださいと、制服のスカートを揺らしてダガーを幻影へと叩き込む。間近で僅かに見開かれた目を見つめて払うように斬り捨てれば、もうひとつのゆずの姿は消え、真っ二つに斬られた桜花弁が風に舞った。
「あなたのその慈しみのこころはとても素敵なものです」
 そのこころがあるからこそ、憎んでしまう。けれどその心こそ、ヒトを形作る重要なものだとゆずは考え、少しだけ哀しげに笑みを乗せる。ゆずにはない、ものだから。
 さようなら、さようなら。
 次のせいも、素敵なものになりますように。
 人よりもヒトらしいあなたならきっとだいじょうぶでしょう。
 出来損ないより、愛を込めて――。
 桜に近寄ったゆずは、もう一度ダガーを滑らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
【エレル】

「🌸ヨシュカ」

アァ……ヨシュカがいち、にー、さん。
デバガメの妖精。いち、にー、さん。
さん!いや、よん……?
えー、ダメ?仕方ないなー。

ヨシュカ、悪いコトした?した?
ヨシュカがこーんなにも増えてしまった!
ロカジンどうする?
賢い君は?
うんうん、そうだそうしよう。

ヨシュカは一人でイイって。
他のヨシュカは元の姿に戻してあげよう。そうしよう。
薬指の傷を噛み切り、君に食事を与えたら真っ赤な糸を生み出す。

偽物ヨシュカあーそーぼー
なにして遊ぶー?デバガメする?
アァ、また怒られる。
ロカジンのお薬はたぶんニガイ。

コレは支援に徹しよう。
毒で足止めをしておくカラお二人さんどーぞ。
二人共かーっこイイ。


ロカジ・ミナイ
【エレル】

🌸ヨシュカ

あらぁ…ヨシュカがいっぱいだねぇ
四?三以上はいっぱいよ

ヨシュカが悪いことなんてするわけ……したのかい?
正直に言っていいんだよ、誰にも言わないから
それはさておき、僕も同感だよエンジくん
ヨシュカは一人でいい

怒られてるエンジくんを横目に
えーっと、ちょいと待ってね、今お薬作るから
取り出した処方箋には「ヨシュカの偽物様」とある
パパッと手際よく、処方箋通りの煙玉を用意して
セイヤッと敵さんに投げつけて、
ああ、そうさ、この煙を浴びたヨシュカの偽物は防御力が著しく下がる
よく効く薬は変な薬よ

さあ、背中は僕とエンジくんに任せて
思いっきりやっちゃいなよ、ヨシュカ
キャー!カッコイー!


ヨシュカ・グナイゼナウ
【エレル】「ヨシュカ🌸」

1、2、3、沢山。成る程、これが量産型わたし

デバガメの妖精って…なんだかよくわからないけど訂正を求めたいです。なんかやです
む、悪いこと?そんなことしていません。ちょっと夜中にお菓子を食べたり…出歩いたり(指折り数える)
はい、清く正しく過ごしています。本当です。神に誓って

こうも同じ顔が揃ってますと…ええ、気持ち悪い
わたしは一点物ですので、多分?他は贋作認定です。わたしが決めた

エンジさまの賢い君とロカジさまの変な薬で随分と弱っていますね
お二人に遊んで貰えて楽しかったでしょう?
【開闢】構えて狙うは首級【部位破壊】
今から全員、【早業】にてその首斬り落としてやります。介錯だ



●オンリーワン
「アァ……ヨシュカがいち、にー、さん」
「あらぁ……ヨシュカがいっぱいだねぇ。……四いる? 三以上はいっぱいよ」
「1、2、3、沢山。成る程、これが量産型わたし」
 彼岸桜を目の前にして現れたミレナリィドールたちを見て、エンジはいちにーさんと指を動かし数えた。三の次はいっぱいか沢山になるロカジの定義を右から左へと聞き流す。顔を見合わせたヨシュカたちが少し動けば、何人だ? と首を傾げてもう一度。
「デバガメの妖精。いち、にー、さん」
「デバガメの妖精って……なんだかよくわからないけど訂正を求めたいです。なんかやです」
「えー、ダメ? 仕方ないなー」
 他人を何かよく解らない妖精にしてはいけません。ダメ、絶対。二つ名がつくならばもっと格好いいものがいい。こればかりは譲れないとヨシュカが主張すれば、何故か我儘でも言ったような扱いをされた。腑に落ちません!
「ヨシュカ、悪いコトした? した?」
「ヨシュカが悪いことなんてするわけ……したのかい?」
 誰にも言わないから言ってご覧。ほら、ちょっとここだけの話しーって感じでさ。
「む、悪いこと? そんなことしていません」
 けれど少し考えてみる。悪いことと言えばと指折り数えてみるのは、夜中のお菓子や夜歩きのこと。目の前の大人二人の方がもっともっと悪いことをしてきているはずだ。
「はい、清く正しく過ごしています。本当です。神に誓って」
 真剣な顔でこっくり頷いて、はっきり告げた。
 けどどうすればいいのかなと見つめる先で、偽物のヨシュカたち――ヨシュカーズは何やら物騒なものを身体のあちこちから取り出し始めている。悪いことをして増えたにしても、叩いて増えたにしても、早めに何とかした方が良さそうだ。
「賢い君が、ヨシュカは一人でイイって」
「さんせーい、僕も同感だよエンジくん。ヨシュカは一人でいい」
「そうですね、わたしは一点物ですので!」
 量産型が居るとかは知らないけれど、自分以外は皆贋作。今決めたけれど大丈夫。二人と賢い君も、ヨシュカは一人でいいと言ってくれているのだから。
 ガブッと鋭い犬歯で薬指の傷を噛み切ったエンジが、ご飯だよーっと賢い君に血を与えれば、美女が唇に佩く赤よりも赫い糸が引いて。
「偽物ヨシュカあーそーぼー」
 赤い糸でおめかしした賢い君を手にヨシュカーズの中へ飛び込めば、鍼や鎖分銅でご挨拶してくれる。流石ヨシュカ、分身も礼儀正しいね。
「なにして遊ぶー? デバガメする?」
 繰り出される暗器を避け、赤い糸をくるくる絡めながら遊びの相談をすれば、真後ろから手甲鉤が斬りつけてくる。
 怒った? 怒っちゃった?
「ロカジーン、ヨシュカ怒ってる怒ってる」
「わたしだけどわたしじゃないです!」
「えーっと、ちょいと待ってね、今お薬作るから」
 もう少し一人で遊んでてと返すロカジの手元をヨシュカが覗き込めば、『ヨシュカ偽物様』なんて書かれた怪しい処方箋。
「それ、なんですか?」
「ヨシュカ用のよく効くお薬よ」
「苦いのですか?」
「どうだろうね?」
 話しながらも手際よくパパッと処方箋通りの薬玉を用意して、薬袋を取り出しかけてこれはいらないかと仕舞った。
「苦いかどうかは敵さんに聞いてみようか」
 セイヤッと掛け声と共にヨシュカーズへと投げつければ、「あ、ニガイやつ」とエンジが退避した。充分に赤い糸を撒いて毒で動きを鈍くさせられたヨシュカーズは避けきる事が叶わず、どかんっと炸裂した煙玉の煙を浴びてしまう。
「効能はなんですか?」
「ヤワラカクナーレ」
 よく効く薬は変な薬。明らかに動きがヘロヘロして見えるヨシュカーズを見て、ヨシュカは確かにと頷いた。
「さあ、思いっきりやっちゃいなよ、ヨシュカ」
「はい、いってきますね」
 短刀『開闢』をスラリと抜けば、刀身が桜を映し桜色に淡く光を返す。姿勢を落として地を蹴って、首級を狙いに刀を煌めかせ、温度を感じさせぬ声が静かに問う。
「お二人に遊んで貰えて楽しかったでしょう?」
 答えが返る前に斬り伏せて。
 流水紋のように流れる髪とともに、人形たちの間を縫うように刀を滑らせる。
 エンジが毒で侵し、ロカジが特性薬で防御を崩した贋作たちでは、真作たるヨシュカの足元にも及ばない。
「キャー! カッコイー!」
「かーっこイイ」
 忍者のような素早さで駆け抜ければ、首がころりと落ちて――倒れる前に胴が消え、ひらりと桜花弁だけが風に吹かれて消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユキ・パンザマスト
♢「🌸セラ」
人を愛して、人を憎む桜
人の信仰で怪物にされ、孤独を厭う我が身
難儀な想いは分からなくもないから──
ええ、二人で、還しましょう!

水先案内は任せました!
セラの幻に対峙、
愛憎から成る幻ならユキが食べてしまいましょう。
光掌で傷を負おうとも、魂は抜かれぬようダッシュで振り切る
ああ、駄目っすよ?
還れるのは魅力的だが
導かれたいのはお前(幻)じゃねえ!
【情動咀嚼】で生命力吸収、マヒ攻撃!

忘却は怖れず、大切な記憶だけ零さぬよう
左掌で核に触れましょう
愛も憎も預かります
還って、安らかに眠りましょう
セラの案内なら迷いませんよ

もし望むなら、また違う形で桜達の元へ
……潔い花は好きだけど
再会は、好いものですから


セラ・ネヴィーリオ
🌸ユキ
♢WIZ/ユキさんと

昔、埋葬に来る人が悲しみに暮れているのを見て、僕も誰かを笑顔にしたいと思ったっけ
願う先は同じだからこそ
その怨嗟――僕が、僕らが引き受けよう!

そっちの僕はよろしくねと声をかけ、幻に対峙
【帰天抱擁】の《祈り》歌は幻二人に
核は彼岸桜の想いの筈
引き出せばユキさんも触れるかな
光掌は幻の彼女のみへと
警報に負けぬよう声に魔力を乗せ《歌唱/全力魔法》
衝撃は寧ろ来いと《おびき寄せ》
指で挑発しちゃったり
腕一本くらいならあげると《覚悟》してすり抜け、《カウンター》で核を攫う

いつかの先も一緒に居てほしいのは、こっちのユキさんだからさ
きみはこの空に。いつか雨となり、他の桜さんを潤してあげてね



●雨
(あの日は、雨が降っていたっけ)
 しとしとしとしと降る雨は、埋葬に訪う人々の瞳からも絶えず零れていた。悲しみ嘆く人々の心は空と同じように重く暗くて、雲間から陽が覗けるように強く風が吹けばいいのにと思った。弔いの白花を運び、涙と厚い雲を払う風。そんな風に誰かを笑顔に出来たら素敵だと、墓守のセラは思ったものだった。
 何処か遠くを見つめるような目をしたセラとは違い、ユキは真っ直ぐに桜を見る。ヒトを愛して、ヒトを憎む桜。ヒトの信仰で怪物にされ、孤独を厭う我が身。似ているようで違うけれど、想いは解らなくもない。そう感じてしまうから――決意を篭めてただ眼前を見る。
「その怨嗟――僕が、僕らが引き受けよう!」
「ええ、二人で、還しましょう!」
 セラの声にユキが力強く頷き返せば、桜花弁が二片舞った。
「そっちの僕はよろしくね」
「水先案内は任せました!」
 声を掛け合い、二人はお互いに自身とは違う幻影と対峙する。セラはユキの幻影、ユキはセラの幻影を前にし、傍らへの信頼から笑みを浮かべる。負ける気はしないし、負ける気もない。
「――行こう、一緒に」
 爽やかな風に揺れる鐘のように、澄んだ声で紡がれる祈り歌。前方の二人の幻影へと向けて歌えば、二人の幻影が何か膜を纏ったように淡く光る。幻影の核は彼岸桜の想いの筈だと踏んだセラは引き出せるようにと歌ったが、実は既に引き出されている状態なのだ。桜花弁に纏わせた想いが幻影として姿を成して動いている。
 光掌を偽物のユキへと向かわせれば、威嚇するように警報音と衝撃波を放ってくる。全員へ無差別攻撃するそれは、傍らのセラをも傷付ける。
「自分の事は愛せないクチですか? ヒトへ愛憎を向けるなら、自分の事も見てあげましょうよ」
 傍らの相棒は、別の姿をしていても自分自身だろうに。衝撃波で傍らのセラを傷付ける幻影の自分を見て、ユキは地を蹴った。無差別に飛ぶ警報に衝撃波、そしてそこへ幻影のセラの光掌も伸ばされる。
「おいで、『ユキさん』。僕だけを見て!」
 こっちのユキさんを見てはダメだよ。衝撃波の殆どが自分に向くようにと笑みと仕草で誘き寄せ、彼女の邪魔はしないでと声を張り上げる。警報にも向こうの祈り歌にも負けぬ、強い歌を。
 ユキは、駆け抜ける。傷を負うのは構わない。けれど魂はくれてやらない。還れるのは魅力的だが、導かれたいと思うのは今目の前にいるセラじゃない。いつも傍らに居て微笑ってくれる、振り返って気にしてくれる、今も歌声で背中を押してくれる、セラだけだ。
 駆けるユキの背中を見て、セラも続く。彼女の背中は、いつだって勇気をくれる。ついていきたいと思わせてくれる。ともに歩みたいと思わせてくれる。
(――腕一本くらいならあげる)
 だから、絶対に負けない。
 身を切りながら警報鳴らすユキの脇をすり抜けて、光の掌で優しく包んだ。
 ――アイレン・オフ!
 忘却は恐れない。大切な記憶だけあればいい。記憶を代償に、左掌の刻印を感情や狂気を捕食する紅牙へと変え、ユキは左の掌を伸ばした。
「愛も憎も預かります。還って、安らかに眠りましょう」
 案内はセラがしてくれる。セラの案内なら迷いませんよと微笑って。
 光の掌と紅牙の掌、ふたつの掌が桜花弁を抜き取って握り締めれば、幻影はさらりと消えていく。
「いつかまで一緒に居てほしいのは、こっちのユキさんだからさ」
 ユキもですよと聞こえた声に振り返れば、猫目石は彼岸桜を見上げていた。
(もし望むなら、また違う形で桜達の元へ)
 散り消える潔い花は好きだけれど、再会も好いものだと思うから。
 カロン。セラが杖を鳴らす。
 空に昇れるように。
 そしていつか雨となり、他の桜を潤し、また会えるように。
 涙の雨は悲しむ時だけに降るものではない。
 再会の桜雨が降らせられるようにと、鐘が鳴った。


●さくら、ちる
 たくさんの猟兵たちが語りかけ、涙を零すように桜の花弁を零し、また戦っては言葉を貰い、真っ直ぐな姿を見て花枝を揺らした。
 あいしている、と。
 あいしていたかった、と。
 抗いたいのか、このまま一度終えたいのかも解らずに。ただ脅威を排除しなくてはとその一心で動かされていたカラダ。
 そうしてやっと、終わりを告げる銃口が向けられた。
「沢山愛するよ。愛してくれてありがとう」
 銃声が響き、彼岸桜に『終わり』が来る。
 沢山の声をかけてもらった。こんなにも醜くなっても、愛していると言ってもらえた。また美しく咲けると信じてもらえた。花見をしたいと望んでもらえた。
 けれど、彼岸桜は散り、骸の海へと還っていく。――ここに、桜の精が居ないから。
 はらはらと、たくさんの桜雨を降らせ、彼岸桜は消えていく。

 桜が、鳴く。
 桜が、謳う。
 ありがとう、と。
 猟兵たちのこれからを言祝いで。

 強く桜吹雪が吹いたなら、猟兵たちは元の伝説の幻朧桜の下へと戻っている。今までの全てが夢を見ていたのではないかと思えるくらい世界は穏やかで、幻朧桜も静かに佇んでいる。
 けれど、手が握られていることに気付いて開けば。
 そこには、あかい桜花弁がひとつ残されていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年12月30日


挿絵イラスト