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我が渇望は過去に在りて

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 ――とある城、謁見の間。

 その玉座に座る男と、それに媚びへつらう奇妙な風体の(コウモリのような姿をした)従者がひとり。

「ささ、どうぞお召し上がり下さいませ! 此度は吾輩が吟味に吟味を重ねました最上級の一品、二十年に一度の会心の出来と自負しております!」

「――、ふん」

 男の手には金の杯。
 中には並々と、真っ赤な液体が注がれていた。

 男はその杯を煽り、口を付け。
 そして――、

「……不味い」

 そう一言だけ告げ、男は手にした杯を地面に向かって投げ捨てた。

「あああっ! なんと勿体ない……」

 従者は転がる杯を慌てて拾い上げる。

 杯へと注がれていたのは大量の“血”だ。
 べっとりと汚れてしまった床にどう対処したものかと従者が頭を悩ませていると、男はそんな事など眼中に無いといった冷ややかな瞳で従者を睥睨し、再び命令を下した。

「……次だ。次こそ我が渇きを潤すに足る血(モノ)を用意せよ」

「そうは仰いましても、もう領民が……」

「出来ぬと申すか? ならば――」

 男が言葉を紡ぎきる前に、大慌てで従者が口を挟み込む。

「いいえ、滅相もございません! 必ずやあるじ様のお目に叶うものを用意してご覧に入れます!!」

「――、行け」

「ははーーーっ、御心のままに!!」

 そう告げて従者は逃げ去るように、謁見の間を後にした。


「さて、お集まり頂けたようだな。猟兵諸君」
 今回の事件を担当するグリモア猟兵、ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)が招集に応じた猟兵に対し、簡単な挨拶を述べた。

「今回、卿らに赴いて貰うのは『ダークセイヴァー』のとある小国。その国も例に漏れず、吸血鬼による支配を受けている訳だが――」

 曰く、その国では住民が奴隷のように扱われているだとか、不当な暴力を受けているだとかそういった事態には陥っていない。

 だが純粋に、領主へと『召される』住民の数が多いらしい。

 ある時は年若い娘であり、またある時は働き盛りの男。
 老若男女関わりなく、担当者の気紛れによって『質の高い血』が選別されるという。

「ひとり、またひとりと住民は減っていく。住まう者からすれば恐怖だろう。次は我が身かも知れない。或いは自分の子供が、恋人が選ばれてしまうかも知れない……とな」

 猟兵に課せられた任務は領主である吸血鬼の討滅と、囚われた住民の救助。

 グリモアの予知によって、次の『選別』が行われる街は判明している。
 まずは街へと潜入し、吸血鬼の暗躍を阻止する足掛かりとして欲しい。

「現地での具体的な行動に関しては卿らの判断に委ねる。状況をうまく共有できるよう、私も最善を尽くそう」

 よろしく頼む。
 そう告げて、ギドは猟兵の背中を見送った。


まさひこ
 まさひこです。
 冒険の舞台は『ダークセイヴァー』のとある小国。
 寂れた村よりは少し栄えてる、くらいに捉えて下さい。

●1章
 まずは先行部隊(先着3~5名)のリプレイを描写します。
 後続の皆さんは、その状況を踏まえた上でプレイングをお願いします。
 先行部隊の描写を終えた後で、状況まとめのリプレイを挟みます。

●2章以降
 特殊ルールなどある場合は各章の冒頭描写にて詳細をお伝えします。

●その他
『プレイング受付』
 MSページにてご連絡いたします。
 プレイングが送れるタイミングなら随時送っていただいて構いません。

『特殊ルールとか良くわからん!』
 フラグメント通りに冒険したり敵を殴ったりしていただければ進行可能ですので、真っ直ぐお進み下さい。
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第1章 冒険 『残されるもの』

POW   :    畑や村の周囲に防衛のための柵などを設置する。

SPD   :    畑や村の周辺に迎撃のための罠などを仕掛ける。

WIZ   :    畑や村を防衛するための作戦を考える。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

グウェンドリン・グレンジャー
むー、私……も、他者の、血肉、で、生きてる。けど、これは、あんまり、よくない

この世界用に、誂えた青い服、と、黒い外套、着て、浮き過ぎ……ない、ように……

影の追跡者ー、よろしくー
村の周辺、怪しい、やつ。来てないか、調べて

怪しい、やつ……領主の配下、らしき、やつ、見つけたら、それとなく、影の追跡者……近づける

会話内容と、【第六感】で、クロだと、思ったら。それとなく、不自然に、ならないように、歩いて、接近
踵の音、少し立てる

もしも、私、が、『選別』に……引っかかる、なら、抵抗せず、そのまま、ついていく
引っかからない、なら、こっち、向いたりした際、慇懃、丁寧な、礼を取っりつつ、追跡者と共に、監視、続ける




 街はこの世界に在る街にしては割と小綺麗で、住みやすいように見て取れた。
 最低限の衣食住は整っている。
 住民が真っ当な服を着て、真っ当に食事をし、真っ当な家で暮らす。
 この世界には、そんな当たり前の幸福を得られない人々が多すぎる。

 だが、驚くほどに街に活気は無かった。
 住民の表情は一様に沈み、笑顔など殆ど見る事がない。

 そして何より、街の規模に比較して住まう人間の数があまりに少ないのだ。
 それはゴーストタウンと見紛う程に。

「むー、私……も、他者の、血肉、で、生きてる。けど、これは、」

 あまりよろしくない、とグウェンドリン・グレンジャー(NEVERMORE・f00712)は唸った。

 食べたいから食べる、では世の中が成り立たない。
 見よ、この街の有様を。
 これが欲望の限りを尽くした結果だ。

「オブリビオン、相手に。言っても、仕方が……ない、か」

「じゃ、よろしくー」とグウェンドリンがゆるく声を掛けると彼女の影がモニョモニョと蠢いて、小さな影が分離した。

 それは小さなカラス――『影の追跡者』。

「れっつ、ごー」 

 グウェンドリンは『影の追跡者』をお供に付けて、街の散策を開始した。
 


『影の追跡者』は、程なくして住民同士の話し声を拾い上げた。

『聞いたか? また『選別』があるんだろ……?』
『あぁ、ほんの数日前に何人も連れてかれたばかりだってのに……畜生ッ!』

 拾い上げる会話の内容に差異はあれど、概ね共通しているのは『選別』に対する恐怖だ。
 
 ――今日の夕刻と告知された『選別』。
 普段であれば数週間、運が良ければ一ヶ月以上の間が空くことさえあるというのに、それがこうも立て続けに行われるだなんて。 

『バチが当たったんだな。だってよ、この間フランクんトコの娘が選ばれた時、俺ァ正直ホッとしちまったんだ。『俺じゃなくて良かった』、ってよ……!』
『そうだな、こんな世の中間違ってる。けど、逆らったところでどうにもならねぇ。俺たちゃ吸血鬼様の気紛れで生かされてる、家畜以下……ッ!』

「…………」

 路地裏で体育座りをしていたグウェンドリンは、そのまま壁沿いにズルズルと崩れてそのまま寝そっていく。

「夕方、かぁ……」

 聞くところによれば、『選別』の判別基準はまちまち。
 果たして自分が引っかかるのだろうか。
 引っかかるのであれば良し。引っかからないのであれば……どうしよう。

『選別』の担当者に『追跡者』を付けてみるのも良いかも知れないが、まだ相手のことも分からない。
 一般人相手ならいざ知らず、もし相手がオブリビオンだとしたら……?

 それでもバレなきゃ良いけれど、ユーベルコードによる追跡が難しい可能性もある。

「むー、……」

 考えていたら眠くなってきた。

「少し、……寝よ」

 くー、と小さく寝息を立てて、グウェンドリンは気持ち良さそうに昼寝を始めた。

 果報は寝て待て。
 起きる頃には事件も進展しているだろうと、期待を込めて。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジュジュ・ブランロジエ
%
メボンゴ=絡繰り人形名

まずは住民と仲良くなりたいな
広場で人形劇や手品をして集まってきた人達にお菓子を振る舞う

賑わってきたらメボンゴを操り
用意しておいた的へ向けて炎属性付与した衝撃波を放つ
『メボンゴファイアー!』(メボンゴの台詞を裏声で)

これだけだと大道芸だと思われるかな?
白薔薇舞刃でメボンゴを花弁に変えてもうひとつの的を切り刻む

私は旅芸人
でも本当は正義の味方なの
信じてくれる?
悪い吸血鬼からみんなを助けにきたんだよ
みんなが住む大事な場所を守ろう!
と住民を鼓舞し防衛のための柵を一緒に作る
すぐに倒せるよう頑張るけど時間稼ぎが必要になるかもしれないから

断られたら一人でやるか仲間の猟兵に声をかける




「さぁさ、みなさんお立ち会い。ブランロジエ一座の人形劇! 笑いあり、涙ありのスペクタクルロマンス! 見ていかないと末代までの恥! 人生の8割は損してるよ~!」

 街の中央広場にて。
 大人たちの胡散臭そうな視線を浴びながらも、全く意に介す事なくジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)は興行の客引きをしていた。

 大勢の観衆に見守られながら――とはいかないが、それでも明るい客引きや鮮やかな手品、そして何より圧倒的なお菓子の誘惑によって幾人かの子供たちの気を引く事には成功していた。

 子供の数は6~7人。
 後に知ることになるのだが、これでも赤子を除けばこの街に住む子供の殆どが集まっているというのだから、異様な話だ。

「今日の演目は『メボンゴ VS 怪人ンギャボン』、はじまりはじまり~」

 そう告げて、ジュジュは紙芝居の舞台を背景にウサギのからくり人形を繰る。
 白いドレスのアンティークドール、名を『メボンゴ』。
 ジュジュの親友にして、麗しの姫君。

「へんな名前~!」
「ヘン~~!」
『マァ、ワタクシノ高貴ナ名前ヲ、変ダナンテッ!!』

 失礼しちゃうわ! とプンプン怒るメボンゴに、甲高い裏声で声をあてるジュジュ。
 人形の動きだけ見れば優美に見えなくもないというのに、手先以外の技術やセンスは今ひとつのようだった。

「いまぜったいお姉ちゃんが喋ってた~!」
「お声もへーん!」
「喋ってませ~ん! ほらほら、静かにして! 続き続き!」

 そうして物語は進んでいく。

 それは人形劇……と言うよりは、ある種のヒーローショーのような内容で。
 悪の怪人に攫われた子供たちを正義の味方『メボンゴ』が助けるといったお話。

「「たすけて~! メボンゴ~!」」

『ミンナ、今タスケルカラネッ!! ――メボンゴォォオオ……ファイアアアーーーッ!!』

 その(甲高い)掛け声と共に、用意していた怪人ンギャボン(的)に向かって、ジュジュは炎の魔力を宿した衝撃波を放つ。

 ドゴォォオォン! と派手な爆発と共に、怪人ンギャボンは消し炭と化した!

 拍手喝采、子供たちは大喜び!
 アホらしい、といった目で眺めていた大人たちも、突然起こった大爆発に目を丸くしている。

「……これじゃ大道芸みたい? だったら、こんなのはどう?」

 ――ご覧あれ、白薔薇の華麗なるイリュージョン!

 掛け声と共に『メボンゴ』の姿が一瞬にして薔薇の花弁へと変わり、
 次の瞬間、放り投げた林檎をその花弁が幾重にも切り刻む!

 スパパパパッ、と正確に切り分けられた林檎はご丁寧にもウサギの飾り切りまで済ませて子供たちの手元へ。

「私は旅芸人。でも本当は正義の味方なの。悪い吸血鬼からみんなを助けにきたんだよ」

 なんて、信じてくれる? と尋ねれば。

「お姉ちゃん、せーぎの味方……なの?」
「ほんとー? もう誰も連れてかれない?」

「ええ、勿論! 連れてかれた人だって、きっと助けるわ!」

 瞳を凛と輝かせて、ジュジュは答えた。
 その真っ直ぐな言葉に子供たちは無邪気に喜び、大人たちは恐る恐る近付いていく。

「お嬢ちゃん、あんたは一体……」

「ふふふ、言ったでしょ。正義の味方! だからもし良かったら、この街を救うお手伝いが出来たらいいな~って思って来たんだけど……話だけでも聞いてみない?」

 ジュジュはにこっ、と人懐っこい笑顔を浮かべた。

 大人たちはお互い顔を合わせ、未だ困惑の表情を浮かべながらも。
 彼女に持ち前の明るさに少しずつ絆されていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

寧宮・澪
😘

さてー……何か考えませんと、ねー……。
うーん……選択基準が、わからない……なら、それはそれでー……。
夕刻まで、ちょっと、歌っていましょかー……。
【謳函】、使用ー……。
お召への不安とか、領主への憤り、恐怖、自分がそうじゃない、って思ってしまう悔恨ー……そういう気持ち、癒やされるようにー……。
流しの、歌い手っぽい感じでー……函と合わせて、歌いましょー。
少しでも、元気づけれればー……いいかなー、と。
まだまだ、この先、ここで生きていく……それを、応援できたら、いいなぁとー……。

一応私も、健康そうな見た目ですし、餌としては使える、でしょかね……。
そのために、多少目立ってみたんですが……さてはて。




「さてー……何か考えませんと、ねー……」
 ぺた、ぺたと街を歩きながら、寧宮・澪(澪標・f04690)は今後の方針について思案する。

『選別』とやらの基準が分からないなら、それはそれで構わない。
 差し当たって自分が何をすべきか、心当たりはあったから。

「――『謳函』、起動」
 それは彼女の持つシンフォニックデバイスの名前であると同時に、ユーベルコードを指す言葉。

 彼女の手のひら、ちいさな匣(オルゴール)が淡く輝き空へと浮かぶ。

 その匣から奏でられるのは優しげなメロディー。
 旋律はゆっくりと染み渡るように伝播し、街の人々の耳へと届く。

「夕刻まで、まだ時間があるようですからー……ちょっと、歌っていましょかー……」

 澪はこの街を包み込む重苦しい空気が気に入らなかった。

 楽しく、のんびり、マイペースに生きることが澪の信条。
 だけどそれは周囲がどうでも良いという意味ではない。
 誰もが何にも縛られず、自由にのびのびと暮らせるように――。
 そうでなくては、大好きな昼寝だってできやしない。

「――、――――」

 謳函の奏でる旋律に併せて、澪は歌い始めた。

 硝子のように透き通った声。
 それはただの言葉よりも直に人々の心を揺さぶる。

 お召への不安。
 領主への憤りや恐怖。
 誰かを助けられなかった悔恨。
 自分だけが助かった事への罪悪感。

 そういった気持ちが、少しでも癒やされるように。

 まだまだ、この先、この街で生きていく……
 それを応援できたらいいな、という願いを込めて。

「――……、」

 一曲歌い終えた頃には、澪の前に何人かの見物客が足を止めていた。

 ぱちぱち、とまばらな拍手。
 少し明るくなったように感じられる人々の表情を見て、澪もまた微笑みを浮かべた。

「えへー、ありがとですよー……。それでは、次の曲……行きますねー……」

 今度は最初の曲よりも、少しアップテッポなナンバー。
 こうして目立つ事でいずれ『選別』の目に留まれば上々。

 そうでなくとも、この歌で誰かひとりでも元気付ける事ができたなら。

 ――それはきっと素敵なことだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

蓮花寺・ねも
😘
住民が何を以て『選別』に適っているのか判れば良いのだけれど。
……否。今なら、どんな細かな情報も無駄にはなるまいよ。
旅の巡礼者を装って住民の話を拾っていこう。

『選別』で連れ行かれたひとのこと。
告知があるならその詳細。
連れて行った人物を住民が知っているなら、
どんな様子か・どこへ行ったかも聞いておこう。

あとは、そうだな。
徳の高い行いを心がけようか。
怪我を治したり、困っているひとへ親切にしたり。
……いやまあ、演技という訳でもないのだが。
兎も角、多少噂に囁かれる程度には目立つように。

敵の目が変わり種に引っかかるならそれが早い。
外れても、住民からの信を得られれば、協力は取り付け易くなるのではないかな。




「さて、何処からはじめたものだろうか……」

 蓮花寺・ねも(廃棄軌道・f01773)が装うのは、旅の巡礼者。
 徳の高い行いを心掛け、多少噂に囁かれる程度には目立つように。

「徳を、高く……」

 功徳。
 徳を積む行いとは何だったろう。
 不受理が積もれば受理が来る――否、そんな話ではなかった筈。

 怪我を治したり、困っているひとへ親切にしたり。
 ……いやまあ、それは演技でなくともすべき事だが。
 そこからもう一歩、何か踏み込むべきではないだろうか。

「――嗚呼、そうか」

 そこでようやく、ねもは思い至った。

 徳とは何か。
 それは誰しも、生まれながらにして宿すもの。

 それは――、
 

 ピカーーー
 

 蓮花寺・ねもは、光った! 

「うっ、眩しい!」
「なんだあの女の子……、光ってるぞ……!」

 何も悩む必要は無かった。

 光っていれば眩しい。
 眩しければ徳が高い。
 自明の理だ。

「あとは、そうだな。住民が何を以て『選別』に適っているのか判れば良いのだけれど」

 今ならどんな細かな情報も無駄にはならないだろう。
 人助けのついでに住民の話を拾っていこう。

「ご老人、何か困った事はないか?」
「……アンタ旅人だろう? 悪い事は言わないからこの街に――うっ、長年悩まされていた腰痛が治った……!?」

「もしやきみ、怪我をしているのではないか?」
「何だ、ヨソ者が――ああっ、傷が癒えていく……!」

 ねもは丁寧に、住民の困り事を(光りながら)ひとつひとつ解決していった。

「この街で何が起こっているのか、大凡ではあるけれど聞き及んでいる。だからこそ、ぼくは……きみたちの力になりたい。どんな些細な事でもいい、聞かせてはもらえないだろうか」

『選別』で連れ行かれたひとのこと。
 告知があるならその詳細。
 住民はどのようにして、何処へ連れて行かれたのか。

 ねもの問いかけに対し、人々は藁にもすがる思いで事のあらましを話し始めた。
 


 その見覚えのない光景に、何処となく見覚えがあった。

 希望(ひかり)へと縋る、沢山のひと。
 託されて、刻まれて、
 見送るしか赦されなかった、あの日。

「なんだろうな、これは……」

 記憶にない記憶。既視感。

 だけど、ぼくは、憶えている。

 託された想いを――ここで棄てさせてはしない。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ
%

何を以って『質が高い』とするのか。
夕刻に選別なら向かうも一手ですが。
その前に。

影の追跡者の召喚。
選別の場より使者を追えるよう備えてはおき。

怪我、或いは病…
苛政を強いられて無くとも、誰もが頑健という事も無いでしょう。
善良な旅人でも装って。
秀でてはない技量ですが…“医術”にて癒し、最中に話を聞きたく。
連れ去られた人の事、領主の事、日々の暮らしぶり等…何でも。

この様な世だからこそ、助け合い生きていかねば。
運命のご加護があったのでしょう。
こうして日々、無事に生きられておりますから。
…なんて自分の身の上は誤魔化しつつ。

銀十字など身に着けてみたって、性根なんて変わらない。
けれど…故に、暴いてみますとも。




「……『選別』が始まるという夕刻までには、まだ少し時間がありますね」

 夕刻になってから出直すというのも一手ですが。
 その前に。

 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)のマントの裾から、影の獣が飛び出した。

 ――『影の追跡者』。
 それは瞬く間に気配を消して景色へと溶け込んだ。

『選別』の使者をいつでも追えるようにという、備えの一手。
 成功してもしなくても、策を幾重にも巡らせる事に意味がある。

「さて、と。それでは調査ですね」

 そう告げると、クロトは街の散策を始めた。


 時間は有限だ、無駄にする手はない。
 クロトは善良な旅人を装い、街の人々を診察をしながら情報を集める事にした。

 苛政を強いられて無くとも、誰もが頑健という事も無いだろう。
 この世界の文明レベルであれば、医者の手などいくらあっても困る事はない筈だ。

「いやぁ、旅の方……済まないねぇ……」
「いえ。この様な世だからこそ、助け合い生きていかねば。運命のご加護があったのでしょう。こうして日々、無事に生きられておりますから」

 クロトは温和に微笑む。
 その笑みには、よく回る自分の口に対する自嘲の意味も込められていた。

「この街、綺麗ですけど随分と人が少ないですよね。何かあったんですか?」
「それは……」

 世間話を装って、クロトは少しずつ住民へと探りを入れていく。

 どの程度なら踏み込んでも許されるのか。
 どこから警戒されるのか。
 何か隠している事はないか。

 優れた観察眼と距離感。駆け引き。

 呼吸をするように他者へと踏み入る――
 それはクロトの『悪癖』とも言えたが、培われてきた経験はこういったケースで十全に効果を発揮する。

「外部の人間にあれこれ漏らすというのは不安かも知れませんが、こう見えてあちこち渡り歩いていますから。何か力になれる事が、あるかも知れません」
「…………」

 例えば連れ去れれた人々について。
 何を以って『質が高い』とするのか。
 この街を治める領主に関する情報。
 日々の暮らしぶり。

 取捨選択など後ですれば良い話。
 手に入る情報が多いに越したことはない。

 無理に聞き出しはしない。
 あくまでも自然に、『向こうから喋り出す』よう仕向ける。

「旅人さん、信じても……良いんだよな?」
「ええ勿論。誓って、街の皆さんの不利益になるような事は致しません」

 クロトは飄々とした笑みを浮かべた。
 銀十字など身に着けてみたって、性根なんて変わらない。

 けれど……故に、暴いてみせますとも。

「何でも仰って下さい。微力ながら、力になりましょう」

 ――吸血鬼、その寝所へと至る道を。

成功 🔵​🔵​🔴​



 街に夕刻を告げる鐘の音が響く。
 門が開き、蹄の音を立てながら連なってやってくる黒馬の馬車。
 それらは街の広場まで進み、嘶きと共にその足を止めた。

 先頭の一際豪奢な馬車。
 そこから姿を現したのは、シルクハットを被ったコウモリの姿をしたオブリビオン。

『コホン、静粛に! これより『選別』の儀を開始する!
 さぁ領民共――、吾輩に鮮血を! 愉悦を! 絶望を捧げよ!!』
 

=====

 先行部隊の調査により、以下の情報が判明しました。

 ・選別は担当官『ワイリー男爵』の手によって行なわれる。
 ・選別される人間に共通点などは無く、
  全て【ワイリー男爵の気まぐれ】によって選ばれる。
 ・選ばれた人間は領主の城へと連れて行かれる。
  その後、どういった扱いを受けているかは不明。
 (※予知により、生存者が存在し救出可能である事は示唆されている)


『ワイリー男爵』
 ・選別の担当官にしてコウモリ姿のオブリビオン
 ・性格は狡猾で残忍。
  人々の絶望に染まり切った瞳と苦痛に歪んだ表情が大好物。

『領主』
 ・詳細は不明
 ・『渇きの王』と呼ばれており、その姿を直接見た住民は居ない。
 


 猟兵は以下の行動が可能です。
 選択式ではなく、あくまで行動の一例としてお考え下さい。
 先行部隊の活躍により、住民とは既に協力関係にあるものとします。

 ・『選別』によって城内へと潜入する(選ばれる)。
 ・男爵の気を引いて住民から目を逸らさせる。
 ・他の手段で城内へと潜入する。
 (潜入後の行動は1章では描写しません)
 ・住民と共に今後に向けた工作
 (救出した住民の受け入れ体制を整える、潜入後の自衛を促すなど)
 ・その他
 (やってみたい事があればご自由にどうぞ)

●『選別』について
 【男爵の性格を上手く利用する】
 【自分の血が高品質である事を上手くアピールする】
 など、工夫のあるプレイングには判定にボーナスを与えます。
 
クロト・ラトキエ
%

折角です、この役の儘。
街に不利益など招かない…
先刻の誓いを証立てるなら、今。

狙いはワイリーの選別。

街は整い、民は衣食住足る。
高潔なご主人とお見受けします。
等、主を敬い、さりげなく男爵を立て。
話をさせてください。きっと解って頂ける…と。
人を信じ、助け、人の為に生き。
希望を謳い、祝福と幸運を信じ、誰もに善性を疑わない。
“心身共に清らな者”

そういう類を、
じわりじわり心打ち砕き、救いなど無いと絶望に堕とし、最期には命すら呪わせ全てを奪うのは
――さぞ愉しいのでは?

なんて思い立つのは、
加虐性、支配欲…
己の裡にも潜むが故。
アレと似てるなど思われるは業腹ですが。

選別されてもされずとも、
影の追跡者は馬車の陰に




「では、参りましょう」

 街に不利益など招かない。

 ――先刻の誓いを証立てるなら、今。
 静かな決意を胸に、クロトはオブリビオン『ワイリー男爵』の前に姿を現した。

「あなたが選別官、噂に名高きワイリー様にあらせられましょうか?」

 クロトはその場に恭しく膝をついて、頭を垂れる。

「うむ、如何にも。吾輩こそ『渇きの王』第一の臣下、ワイリー男爵である!」
「やはり……! 気品溢れる佇まい、ひと目見てそうだと理解できました。お目に掛かれて光栄にございます」

 心にもないセリフを、ひとつの淀みもなくスラスラと。
 クロトは人の良さそうな笑みを浮かべながら、目を輝かせて男爵へと擦り寄っていった。

「街は整い、民は衣食住足る――『渇きの王』とは、さぞ高潔なご主人とお見受けします。無論、その臣下たるワイリー様も!」
「うむ、うむ! 貴様、人間にしてはなかなか分かっておるではないか!」

 男爵は上機嫌そうに頷いた。

 しかし男爵とて馬鹿ではない。
 これまで何百・何千という人間を相手に『選別』をおこなってきたのだ。
 人間というものが、我が身可愛さに平気で嘘を吐くものだと知っている。

 クロトを簡単に信じた訳ではない。
 これからの問答で、この男を見定める必要がある。

「して、わざわざ名乗り出たからには貴様は『選別』を志願すると申すか?」
「はい。一度、領主様にお目通りを願いたく。彼の王はこの世界を支配する他の吸血鬼とは違う。……人と吸血鬼の真なる共存を実現させ得る、真なる王であると確信しております」
「共ぞ――ぶはっ、くく……共存、ぎゃははは!」

 クロトの言葉に大笑いする男爵。
 対するクロトの方は、真摯な表情を一切崩す事はない。

「私は人の善性を、心という存在を信じております。我々は今こそ手を取り合い、共にこの世界に生きる者として信頼関係を築きたいと、そう願っております」
「うむ、うむ……そうか」

 男爵はじぃ、とクロトの瞳を覗き込んだ。

 希望に満ち溢れた瞳。
 人を信じ、裏切られるなど思っていない――
 むしろ裏切られても構わないといった風の、聖人君子たる者。

「なるほど、合格だ。貴様は馬車に乗るが良い」
「はっ、ありがたき幸せ!」

 不安げな街の人々に見守られながら、クロトは馬車へと乗り込んでいく。
 その背中を見据えて、男爵はひとりほくそ笑んだ。

 ――聖人か、はたまた稀代の詐欺師か。

 どちらにせよ、吾輩の大好物だ。
 ああいった類の心を折ることは心底楽しい。

 希望を絶望へと塗り替える事の、なんたる愉悦か!
 勝利を信じて疑わぬ者が、手のひらで踊らせているだけだと気付いた時の表情ときたら!
 その快楽は吸血にすら勝る。

 男爵は機嫌の良い笑顔を浮かべたまま、次の『選別』へと移るのだった。

 
 ――その『選別』が、獅子身中の虫を招き入れる事になるとも知らずに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユーゴ・アッシュフィールド
%
【リリヤ(f10892)】と

その発想は正しいと思うが、その、なんだ。他に、何か
…………わかった、それでいこう
お父さんだ、パパは絶対にやめてくれ

街の者に近い恰好に着替えるとしよう
剣はここに隠しておく、俺が選ばれたら持ってきてくれ

男爵に食って掛かるリリヤを引き留めよう
そうだな……「妻に先立たれて私にはこの子しかいません」辺りを言いながら、騒ぐリリヤを庇うように前に出よう
そして土下座をして「私は精霊と契約しています。良質な血が欲しければ、娘ではなくどうか私を」

さて、男爵の目にはどう映るか
どちらかが……いや、潜り込むなら俺の方がいい
演技とはいえ今は父親だから、な


リリヤ・ベル
%
【ユーゴさま(f10891)】と

ひそひそと作戦会議。
住民より、猟兵へと目を向けさせなくては。
ユーゴさまをお父さまと呼びます。呼ぶのです。
ぱぱの方がよいでしょうか。

街の子の格好をして紛れましょう。
男爵が住民へと目を向けたら、庇うように食って掛かります。
今日のわたくしは、わるいこなのです。

泥団子だって投げつけますとも。
あなたにあげる血なんてありません。泥水がお似合いなのです。それを啜って帰ってください。
酷いことばかりして、いつまでも黙ってなどいません。
お父さんに抑えられても、ぷんすかします。

絶望が、お好きなのでしたら。
分かたれる親子は、きっと余興に良いでしょう。
どちらかが潜り込めればよいのです。




「ユーゴさま、今回の作戦ですが……」
「ああ」
「まずは住民の安全を確保するために、住民より猟兵へと目を向けさせなくてはなりません」
「そうだな」

 …………(作戦会議中)

「――以上のメリットから、わたくしたちは『親子』を装うのが適切かと思います」
「異論ない」
「ですので……わたくしは、ユーゴさまを『お父さま』と呼びます」
「…………、は?」

「ユーゴさまを『お父さま』と呼びます」
「いや、その事自体は正しいと思うが、その、なんだ。他に、何か……」
「呼ぶのです」
「いや、あまり変に強調しても、ボロが」

「ぱぱの方がよいでしょうか?」
「…………いや、わかった。それでいこう」
「ぱぱですか?」
「お父さんだ、パパは絶対にやめてくれ」

「かしこまりました。よろしくお願いします、お父さま」
「…………」

 男は盛大に溜息を吐いた。

 まったく、誰に似たのやら。
 年を追う毎に『娘』が強かになってゆく――
 素直に成長と喜べない、そんな複雑な心境を抱えていた。
 


 街の広場では、変わらず男爵の手による『選別』をおこなわれていた。

 選ばれた人数は現在6名。
 通例であればそろそろ定員といったところだ。

「さぁて誰の血を捧げようか。王はお怒りだ、いい加減に良き血が採れぬようであればこの街ごと処分されてしまうかも知れんぞォ~、ンン?」

 男爵は舐るように住民を見定めていくと、広場の隅で震えるひとりの子供に目を付けた。

「よォし、最後のひとりはお前に決めた! さぁ一緒に来――ぶっ!?」

 男爵が子供の手を強引に引こうとしたその瞬間。
 男爵の顔面に『泥団子』がぶつけられたのだった。

「ぶはっ! べっ、べっ……誰だ無礼者! 今すぐ名乗り出ろ!!」
「わたくしです!」

 怒る男爵の前に颯爽に躍り出たのは、町娘に扮した猟兵の少女、リリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)。
 眉を吊り上げ、翠の眸で男爵を睨む。

「あなたにあげる血なんてありません。泥水がお似合いなのです。それを啜って帰ってください」
「貴っ、様ァ……何という生意気なお子様だ! 見せしめにこの場で血祭りにあげてやる!!」

「お、お待ち下さい!!」

 詰め寄る男爵。
 それに負けじと殴り合いの喧嘩にでもなろうかという勢いで飛び出そうとするリリヤの身体を、慌ててユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)が引き留めた。

「その子は私の娘です。此度の失態はひとえに私の管理不行き届きによるもの。子供の罪は親の罪、どうか御慈悲を……!」
「お父さま、離して! 離してください!!(じたじた)」
「ちょっ、おま……暴れ、痛ッ――!」

 わんぱくな娘を懸命に抑える父。
 娘の肘が、良い感じに父親の鳩尾を抉る。

 だがその様子を見て、男爵の怒りは一向に収まる気配がなかった。

「まるで反省していないではないか! この尊顔に泥を塗るなどなんたる重罪、到底許されることではないぞ!!」
「…………」

 一瞬、ユーゴの心に「面倒くさいなコイツ」という気持ちが過ぎる。
 しかしそこはユーゴも歴戦の勇士。
 即座に頭を切り替えて、父親としての演技を続ける。

「……妻に先立たれて私にはこの子しかいません。どうか『選別』には私をお連れください。この血を以って、娘の罪を贖いましょう」
「そんな、お父さま……! お父さまがわたくしの代わりに犠牲になる必要は――」
「良いんだ。黙っていなさい」

 生意気な娘と、それを庇い自身の選別を乞う父。

 どちらが選ばれても構わない。
 分かたれる親子、というシチュエーション。
 それこそが、絶望を好むという男爵に対する布石なのだから。

(さて、男爵の目にはどう映るか……)

 ちら、とユーゴは男爵の様子を伺う。
 すっかり怒りは収まり、どちらを連れて行くかはまだ決めあぐねている様子。

 ならばもうひと押し。
『自分が選ばれる』為に、ユーゴは打って出る。

「私は精霊と契約しています。良質な血が欲しければ、娘ではなくどうか私を!」
「なるほど、精霊の好む血脈――面白いアプローチだ。良かろう、馬車に乗るがいい!」
「そんな、お父さま! お父さま……!」

 なおも食い下がる娘を、街の大人たちが引き留める。
 こうして親子は引き裂かれ、贄を乗せた馬車は広場を後にした。
 


 馬車に揺られながら、ユーゴは振り返る。

 最後のひと押し。
 あの直前まで、ふたりの内どちらかが潜り込めれば良いと――そう思っていた。

 だが違う。
 潜り込むなら俺の方がいい。

「演技とはいえ今は父親だから、な」

 ならばせめて、今くらいは。娘の身を案じてやるべきだろう。



 一方で。
 街に残されたリリヤは、住民や他の猟兵と共に今後の方針について打ち合わせる。

 手筈通り、作戦は成功。
 それなのにリリヤの胸は、きゅうと締め付けられるようだった。

 不安なのだろうか。

 ユーゴさまを信じている。
 あのような輩に遅れを取るようなひとではない。

 だがその信頼とは裏腹に、こころは叫ぶ。

 街に隠していた装備。
 灰殻の剣をその両手に抱えて、リリヤは遠く空を見据えた。

「……ユーゴさま。かならずたすけにまいります」

 わたくしがユーゴさまの娘であろうと、そうでなかろうと。
 わたくしの辿るべき路は、もう決まっているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ワイリー男爵』

POW   :    我輩に鮮血を捧げよ
【手下である蝙蝠の大群】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    我輩に愉悦を捧げよ
【手を叩く】事で【全身を緋色に染めた姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    我輩に絶望を捧げよ
【両掌】から【悪夢を見せる黒い霧】を放ち、【感情を強く揺さぶること】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 街の住民を乗せた馬車は、やがて人里から少し離れた場所に建つ古城へと到着した。

 とても豪奢とは言えぬ、あちこち崩れかけたまるで生気を感じぬ佇まい。
 それは生ける者からしてみれば、悍ましくも感じられた。

 馬車の訪れと共に、ひとりでに開く城門。
 住民はそのまま中庭にて降ろされ、そのまま地下牢へと誘導された。

 男爵は住民を牢へとぶち込むと、声を高らかに宣言する。

「良いか、貴様たち。そこで大人しく待つが良い。
 これよりひとりずつ採血をおこない、その血を我らが主へと献上する。
 その血が見事、王に認められればその身は王へと捧げられる。
 逆に不要と判断されれば……
 その時は、我輩たちの食糧および従僕となるのだ!」

 ここからは見えぬ別の牢獄。
 そこには『不要』と判断された人間たちが囚われている。

 人々は一様に鎖によって繋がれており、血を抜かれすぎて動けぬ者、拷問を受けたらしく身体中傷だらけの者、恐怖に震える者など様々だ。

「我輩とてこれ以上、王の不興は買いたくない。
 貴様たちのうちの誰かが、我が王の目に叶う事を心の底から祈っておるよ」

=====

 第2章は『ワイリー男爵』(+配下)との集団戦になります。
 猟兵は以下の行動が可能です。

  ・ワイリー男爵(1体/分身可能)との戦闘
   (交戦場所は城内、エントランスを想定)
  ・ワイリー男爵配下との戦闘
   (コウモリを中心に、首なし騎士や影の魔物など)
  ・配下によって見張られた地下牢からの脱出
   (猟兵も住民も、いくつかの牢に分けて幽閉されています)
  ・城外からの潜入、救出
  ・囚われた人々の避難誘導、護衛
   (人々はワイリー男爵の影響下にあり、絶望に囚われています)

 第1章にて明確な描写があった方以外は、
 城内(牢屋内)・城外のどちらの状況からスタートして大丈夫です。
 プレイングにて、どの行動に比重を置くかは各自に委ねます。
 戦闘のみに絞ったプレイングや、一切戦闘を行なわないプレイングも構いません。
 街の住民など、各自の裁量で好きに手伝わせて構いません。
 
自動・販売機(サポート)
*基本キャラクターとしてではなく舞台装置として扱って下さい。

自動販売機です。
自発的には動きません。
『お金を入れて下さい』の言葉に答えると必要な物をユーベルコードで作ります。
また戦闘代行も自販機に財産を支払う契約をすると行ってくれます。その場合アームドフォートによる戦闘となります。
基本ですます口調の丁寧語で、操作方法やおすすめ商品などを教えてくれます。

但し自身に関わる正当な取引の阻害をされると、相手を捕まえます。オブリビオンなら倒しに行きます。

胸部分に商品やメッセージなどが映し出され、世界に応じてそれっぽい形を取ります。

なお精神が無いので精神攻撃は無効です。
猟兵は生命の埒外、を地で行く存在です。


蓮花寺・ねも
😘
選別に紛れて入り込む。
移動中には適宜光ろう。
いやなにこういう体質でね。気にしないでくれ給えよ。

囚われている人々の救出を優先。
【星の海】で格子や枷を光に変換して外してしまおう。
ぼくの前に障害物などないようなものだが、まあ目立つのだよな。
このために光っていたんだ。多少誤魔化す時間が取れたら良い。

助けだと信じるのも難しいだろうか。
信じられなくても、事実はここにある。
きみたちは生きていて、ぼくは枷を外す力を持ち、街には待っている皆が居る。
声を出せる。立ち上がれる。歩ける。
出来るなら、やって損はないだろう。
後のことは任せておくと良い。ぼくも、出来ることをしに来たんだ。

皆とも協力を。
最短距離で帰ろう。




「さて、ここからどうしたものかな」

 薄暗い地下牢が並ぶ中。
 その一角に、妙に光が溢れ出す牢獄があった。

 ちかちかと壊れたハザードランプのように明暗を繰り返す、蓮花寺・ねも。

「…………」
「いやなにこういう体質でね。気にしないでくれ給えよ」

 見回りの骸骨兵に言い訳をしながら定期的に光ったり光らなかったり。
 ねもは骸骨兵が去るのを見送ってから、自分の周囲――牢に囚われた人々へと向き直った。

 一様に沈む人々の姿。
 ここから彼らを救い出すには、まず彼らを元気付けるところから始めなくてはならない。

「きみたちを助けに来たのだと言って、そのまま信じるのも難しいだろうか」

 同じ虜囚のままでは、どれだけ言葉を尽くしたところで彼らを動かす事は出来ぬだろう。

 ――なればこそ。

 ユーベルコード『星の海』。
 ねもを繋ぐ鉄の鎖は光の粒子へと変換され、そのまま消えていった。

「信じられなくても、事実はここにある」

 ねもはただ無為にピカピカと光っていた訳ではない。
 あらゆる拘束や障害を無効化できるユーベルコードでも、その度に光を放つのではどうにも目立つ。
 故にそれをカモフラージュする為、光っても怪しまれない状況を整える必要があった。

 ねもは囚われた人々の枷を外し、自動・販売機(何の変哲もないただの自動販売機・f14256)に硬貨を入れると取り出した清涼飲料水をひとりひとりに手渡した。

「きみたちは生きていて、ぼくは枷を外す力を持ち、街には待っている皆が居る」

 声を出せる。
 立ち上がれる。
 歩ける。

「出来るなら、やって損はないだろう。諦めるのは、その後でも遅くないのではないだろうか」

 幸い、自販機からはホットスナック――たこ焼きや焼きおにぎりも購入できた。
 空腹は人の心を絶望へと追い立てる。
 腹を満たす事で、少なからず人々の心も希望によって満たされていった。

 息を吹き返した彼らの目を見て、ねもは静かに頷く。

「もう少し機を見よう。遅からず仲間が陽動に動いてくれる手筈となっている」

 それは牢へと入れられる直前に受けた言伝。

 ――『俺がひと暴れしてくるから、その隙に対応しろ』

 村人にしては目付きの鋭い彼が、そう言っていたのだ。
 
    ・

    ・

    ・

 それから数刻。
 遠くから鳴り響く衝撃音。

「では、行こう」

 ねもが手をかざすと、鉄格子が眩い光と化し消えていく。

 まずは彼らを最短距離で送り届ける。
 道を塞ぐものが在れば、ひかりへと還そう。 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

寧宮・澪
😘
よし、頑張りましょー……自由を、奪われて、犠牲になれと強要されるのは……嫌い。

城外から飛んで、上空から強襲ー……コウモリや配下の目を惹き付けますよー……【Call:ElectroLegion】で数でも押しましょー……。
歌って、火を操ってー……コウモリや、配下にぶつけつつー……レギオン達に、がちゃがっちゃしながら、避難する人、猟兵の盾になってもらいましょー……。
できるなら、ワイリー男爵も、主とやらも、一発蹴りたいですがー……まあまずは、皆さんが自由になりましょねー……。
がんがんいきますよー……がんがんー。コウモリも配下も、こっちにかもーん……。
一掃されて、くださいねー……。


ユーゴ・アッシュフィールド
%
【リリヤ(f10892)】と

ダメージを負う前に動くか。
とりあえず城内で派手に暴れれば城外から来る猟兵も行動しやすいだろう。
それと、陽動しながら囚われた人々は連れては歩けない。
囚われた人々を優先する猟兵がいるなら、俺がひと暴れしてくるから、その隙に対応しろと伝えよう。

よし、こちらも動くか。
出てこいシルフ、まずはこのエリアから出るぞ。
次は城内で暴れながら外からくる猟兵との合流を目指そう。
基本的に行動不能を狙いながら逃げ撃ちを繰り返し、引っ掻き回す。

思ったよりも早い到着だな。
大丈夫、この通り無事だ。リリヤ、剣を頼む。

さて、今まで逃げ回ってしまって悪かったな。
ここからは正々堂々と相手をしてやろう。


リリヤ・ベル
%
【ユーゴさま(f10891)】と

剣をしっかりと抱えてお城を目指します。
囚われているみなさまも、ユーゴさまも、ちゃんとお助けするのです。
轍や足跡を辿ってそうっと、……、

いえ。いいえ。
わたくしが、機会をつくらなくては。

お城へは、正面から入ります。
ごめんくださいまし。
攫ったみなさまを、返して頂きにまいりました。

鐘を鳴らして、起こすのは金属の大津波。
なるべく大きな音を立て、囚われているみなさまへ伝わるよう。
敵の動きをよく見て、ユーゴさまとの合流を目指しましょう。

……ユーゴさま!
ご無事でしたら、なによりなのです。

剣をお返しして、すこし息を吐きましょう。
わたくしが騎士をするのは、たまにだけでよいのです。


パーム・アンテルシオ
少し、来るのが遅れたけど…本格的に始まる前には、着けたのかな。
きっと、先に入った皆が戦ってると思うし…
私は、連れていかれた人たちの救出に回ろうかな。
人を助ける事こそ、私の役目…だからね。

ユーベルコード…月歌美人。
幸せはきっと、どこかにある。
希望はきっと、いつか来る。
今の世界が、暗闇にしか見えなくても。
小さな光が、大きな希望になるから。

…もとが断たれないと、皆が心から安堵する事は、ないと思うけど…
それでも。少しでも、心を温められるのなら。

…そういえば、助けた後の事、あんまり考えてなかったんだけど…
ここまで運ばれてきたのなら、運んできたものがあるはずだよね。
それを借りちゃうのも、ありかな?ふふふ。




(……採血、ね)

 ユーゴ・アッシュフィールドは牢に入れられた先客たちの様子を静かに観察する。
 彼らは酷く恐怖に怯え、衰弱している。
 その様子から察するに、言葉通りに『採血』だけがおこなわれたとは到底思えない。

 ならば、ダメージを負う前に動く。

 ユーゴが狙うのは陽動。
 武器を奪われた状態では、正面から敵に立ち向かうのも心許ない。
 なるべく直接戦闘は避けつつも派手に暴れ回って敵の気を引く――そうする事で、この後突入してくるはずの味方と合流する際の目印にもなるだろう。

 予め他の猟兵にも言伝は済ませておいた。
 自分が敵の目を引きつけている間に、仲間が彼らを誘導し避難してくれる事だろう。

「出てこいシルフ、まずはこのエリアから出るぞ」

 ユーゴの呼び掛けに応じて、懐に現れる風の精。
 それは放たれた矢の如く牢の扉を貫くと、その鍵を切り裂き扉を開いた。
 


 ユーゴが行動を開始したのとほぼ同時刻。
 城の外部からは寧宮・澪、リリヤ・ベルの両名が襲撃を仕掛けようとしていた。

「よし、頑張りましょー……自由を、奪われて、犠牲になれと強要されるのは……嫌い」
「はい。囚われているみなさまも、ユーゴさまも、ちゃんとお助けするのです」

 轍や足跡を辿ってそうっと、城内へ…… 
 リリヤは直前までそう考えていたが、考えを変えた。

「いえ。いいえ。わたくしが、機会をつくらなくては」

 今は消極的になるべきではない。
 敵がこちらに向かってくるのなら、むしろ好都合。
 その時は内側から食い破れる隙が生じるはず。

 リリヤと澪は目を合わせ、互いに頷く。
 どうやら考えは同じのようだ。

「それではー……参ります、ねー……お仕事ですよー……かもーん、れぎおーん……」

 ばっさばっさと黒い翼を羽ばたかせながら、澪はゆっくりと空を飛ぶ。
 そして城の上空にて静止すると、虚空より無数の小型機械兵士を喚び出した。

 ――『Call:ElectroLegion』、琥珀金の機械兵団。

 それは玩具の兵隊の行進曲(マーチ)の如く、澪の歌声に応えながら進軍を開始する。
 機械兵(レギオン)の攻撃に加える事の、澪が生み出した炎の渦が城の兵力――骸骨兵やコウモリたちを蹴散らしていく。

「がんがんいきますよー……がんがんー。コウモリも配下も、こっちにかもーん……。一掃されて、くださいねー……」

 澪はおっとりとした口調を崩す事なく。されど苛烈に敵を攻め立てていった。



 対する敵も、ただ一方的にやられるばかりではない。
 澪の操るレギオン、攻勢には強いものの反撃には脆いという欠点を持つ。
 突破された一点、そこからじわりじわりとレギオンの戦列が崩され始めたのだ。

「あらら……意外とー……やりますねー……だったらー……、あらー……?」

 澪が崩された戦列を立て直そうと目を向けると、そこにはリリヤの姿があった。
 両手に剣と、そして大きな鐘の付いた杖を抱えて。

「ごめんくださいまし。攫ったみなさまを、返して頂きにまいりました」

 ごーん、ごーんと鐘の音が響く。
 澪と同様に、リリヤもまた音を媒介として力を行使した。

 ――『真鍮の鐘』。
 鐘の音が周囲からレギオンの残骸、骸骨兵の纏う鎧や剣――棄てられた金属たちを掻き集める。
 それらはうねり、大きな渦を作り出すと……そのまま城門を飲み込む【金属】の【大津波】と化した。

 津波は敵も瓦礫も何もかもを飲み込んだ破壊の本流となって、そのまま城の扉を打ち貫く。

「わー……すごかったー……」

 ぱちぱち、と緊張感のない拍手をしながら澪がリリヤの傍へと降り立つ。

「ふふふー、それじゃこのままー……お城の中までれっつごー、しましょかねー……」
「……はい、まいりましょうっ!」

 少しだけ息を切らせながらリリヤが頷く。
 ふたりはそのまま門を潜り、城内へと潜入した。
 


「少し、来るのが遅れたけど……本格的に始まる前には、着けたのかな」

 城内で暴れまわる仲間たちをよそに、パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)は静かに地下牢を目指す。
 適材適所。
 仲間が敵の目を惹き付けてくれると言うのなら、自分は連れて行かれた人たちの救助に回ろう。

「人を助ける事こそ、私の役目……だからね」

 見張りの目を掻い潜りながら、パームはくまなく牢を巡る。
 幸い、陽動に動く仲間たちのお陰か地下に残る見張りの数は少ない。
 大体は隠れてやり過ごせたし、隙を突けばこっそりと闇討ちする事だって可能だ。

 周囲の安全を確認し、パームは手近な牢の扉を開ける。

「さぁみんな、助けに来たよ。一緒にお家に帰ろうか」

 声を掛けるも、囚われた人々の表情は一様に沈んでいる。
 ようやく助けが来たというこの状況でも、未だ「本当に帰れるのか」「帰ったところで希望はあるのか」と、心は絶望に囚われたままだった。

「そうだよね。ここを抜け出したところでもとが断たれないと、皆が心から安堵する事は、ないと思うけど……」

 例えば此処の領主を倒すというのは大前提として。
 それでもこの世界が吸血鬼によって支配され続ける限り。
 すべてのオブリビオンを殲滅し尽くさない限り。
 彼らにとって本当の意味での平穏は、訪れない。

 それでも。
 少しでも、心を温められるのなら。

 ユーベルコード『月歌美人』。
 パームは懐から小さな笛を取り出すと、その場で奏で始めた。

 幸せはきっと、どこかにある。
 希望はきっと、いつか来る。
 今の世界が、暗闇にしか見えなくても。
 小さな光が、大きな希望になるから。

 狭間から溢れ出し、心へと染み渡る優しい旋律。
 パームの想いは、少なからず人々の絶望する心を解き解していった。
 

 その笛の音に惹かれるように。
 敵――ではなく、他の虜囚を引き連れた猟兵がその場へと合流を果たす。

「きみは……よかった、パーム君か。他の囚われた人たちも無事のようだね」
「うん、そっちも無事みたいで良かった」

 ふたりは互いの無事を確認し、安堵する。

「ひととおりこのフロアは回ってきた。あとは脱出するだけなのだが……」
「……そういえば、助けた後の事、あんまり考えてなかったな」

 うーん、とふたりは暫し頭を悩ませる。
 するとパームに何か名案が浮かんだようで、

「そうだ。ここまで皆が運ばれてきたのなら、運んできたものがあるはずだよね? それを借りちゃうのも、ありかな?」
「なるほど。それは妙案かも知れない」
「でしょ? それじゃ、いこうか。ふふふ」

 そう言って、虜囚を連れたパーム達は地上を目指す。
 


 ――中庭。
 そこでは澪とリリヤが城内のオブリビオンたちを相手に奮戦を続けていた。

「さすがにちょびっと、数が多くて大変……ですがー……」
「もうひと踏ん張り、がんばりましょう……!」

 ふたりが多くの敵を惹き付けている。
 という事はつまり、その分だけ仲間の負担が減っているという事でもある。

(それに、こうして大きな音を立てれば――囚われているみなさまのお耳にも、きっと届くはず)

 祈りを込めて、鐘の音を鳴らす。
 その響きに応えるように、一陣の風がふたりの前へと突き刺さる。

 ドゴォオオオ、という激しい衝撃音と共に舞い上がる土煙。

「思ったよりも早い到着だな」
「……ユーゴさま!」

 その中から姿を現したのは、風精の加護をその身へと纏うユーゴだった。
 足元には無残に砕けた骸骨兵の成れ果てが転がっている。

「ユーゴさま、どこかお怪我などはございませんか?」
「大丈夫、この通り無事だ」
「ご無事でしたら、なによりなのです」

 リリヤは、ほぅ、と息を吐く。
 無事に違いないとは信じていても、無茶をしているのではないかと少し心配だったから。

 そして今度は別方向から、ガラゴロガラゴロと騒がしい車輪の音。
 それは首無しの馬――ではなく、パームの操る百鬼夜行によって牽かれる虜囚を乗せた馬車だ。

「ちょっとこの人たちを安全な場所まで届けてくるから、後のことはよろしくね」

 後ろにちょっと、お客さんを引き連れてるけど。

 そう言い残してパームの繰る暴走馬車は中庭を通り過ぎて城門へと走り去っていった。
 言葉の通り、最後のおかわりと言わんばかりのオブリビオンの群れが中庭へと集結する。

「リリヤ、剣を頼む」
「はい。こちらに」

 リリヤは身の丈に合わぬ大きな剣を、ユーゴに手渡す。

 これでようやく肩の荷が下りた。
 わたくしが騎士をするのは、たまにだけでよいのです。

「さて、今まで逃げ回ってしまって悪かったな。ここからは正々堂々と相手をしてやろう」
「はい。わたくしもサポートいたします」
「まとめてお掃除、しちゃいましょー……」

 ユーゴの剣が、リリヤの鐘の音が、澪のレギオンが。
 残る敵陣を、まとめて薙ぎ払った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グウェンドリン・グレンジャー
【POW】
……おはよー
よく、寝た。すっきり

んーと、敵。よし、私は、戦う方、行く
(Mórríganの翼を広げ、【空中戦】で飛び上がり急行)

ワイリー男爵、あなたと、上司。ぶっ殺しに、来た
【生命力吸収】と【属性攻撃】……を、乗せたFeather Rainで、攻撃しつつ、蝙蝠、大群、や、分身へ、ぶつけて、相殺

【属性攻撃】、日光属性……カラスは、夜と月の鳥、同時に、太陽の鳥

男爵の、攻撃、【第六感】で、予測、回避
当たった場合、【激痛耐性】……で、処理

あなた、自分の、血、捧げようと、思わない、の?

【生命力吸収】、乗せて、Mórríganと、Black Tail、伸ばして、男爵に、突き刺す


クロト・ラトキエ
%

さぁ、踊りましょう。

男爵へ、どうか領主様にお目通りを、と。
この世に生ける者同士、心は通うと。
話をさせて頂きたいと。
領主、そして男爵にも善意を信じ。
採血が先ならそれも構わないと訴え。

待たせ過ぎも心を疲弊させますが、絶望には程遠いでしょう?
血を奪われても。苦痛や屈辱も。
不要とされても。
生ある限り希望は絶えない。

なら、何も為せず声も届かず苦しみ抜き無為に死ぬ…
見るならそんな顔が良いのでは?


時に…身体検査はされました?
暗器使いの戦道具は、即ち髪一本に至る迄。
UCで攻撃力上げるは仕込んだ鋼糸。
蝙蝠群の流れ見切り、調度等へ糸張り範囲攻撃も以て男爵を釘付ける。

貴方…
優位に笑うより、苦悶に歪む方が素敵ですよ




 ――時は襲撃開始前まで遡る。

 クロト・ラトキエは自ら積極的に志願し、男爵に連れられて地上階にある採血の為の特別な部屋……採血室、兼拷問室を訪れていた。
 クロトは言われるがままに、部屋に備え付けられた椅子へと腰を下ろす。

「嗚呼、ワイリー様。これでようやく領主様へのお目通りが叶うのですね……!」
「そうだな。もし貴様の血が領主様の気に入るようなものであれば、その時は頼まれずとも貴様を領主様の元へ案内してやろうとも」

 男爵の言葉を受けて、クロトの感情は喜びに満ちていた。

 おかしな男だ、と男爵は思う。
 あの牢の様子を見ても、この男の様子は何一つとして変わりがない。
 それ程までに人の善性とやらを盲信しているのか、或いはとっくに心が壊れているのか。

 どちらにせよ、まずは採血を。
 お愉しみはそれからだ。

 傍に控える助手役のコウモリたちによって、クロトの手首に刃物が添えられる。
 そしてその刃は深すぎない程度に手首を切り裂き、溢れた血は黄金の杯へと注がれていった。

「ぐうっ、あぁ……ッ!」

 本心では、この程度の痛みは大したものではない。
 しかしクロトは男爵へのサービスの意味も含めて、その痛みに苦悶の声を漏らした。
 まぁ実際、痛い事には変わりない。

「おやぁ? 吾輩好みの良い声で鳴くではないか。そう来なくては詰まらぬ」
「はは、お恥ずかしい。しかしこの程度の痛み、必要な事であれば致し方ありません!」
「うむ、結構結構」

 変わらず恐怖を見せる素振りのないクロトに、男爵は嗤う。
 杯を持った配下のコウモリはそそくさと部屋の隅へ。代わりに部屋には布の被さった台車が運び込まれた。

「ワイリー様、これは……?」
「うむ。これは吾輩のコレクションでな。我々との対話を望む貴様の為に、吾輩がわざわざ用意させたのだ」
「おお、なんと……やはりワイリー様は他の吸血鬼たちとは違う。我々のような人間の、民草の声にもきちんと耳を傾けて下さる、慈愛に溢れたお方だ……!」
「うむ、うむ」

 そして、台車に被せられた布が取り払われた。

 そこに並ぶのは血塗られた拷問道具の数々。
 鞭に棒、爪を剥がす為のペンチに傷口に塗り込む為の薬物。
 焼きごてや、或いは素人目には使用方法すら判別できぬ謎の物体まで。

 それらを見たクロトの表情が、一気に青褪める。

「ワイリー様、これは一体……」
「吾輩たちは歩み寄らねばならぬのでなぁ……これからたっぷりと、対話をしようではないか!」

 その言葉と同時にクロトの座ってた椅子の仕掛けが作動し、鋼鉄の拘束具によってクロトの身体が椅子へと縛り付けられる。

「王の裁定が終わるまでは殺す訳にもゆかぬ。あまりその血を流さぬよう、ゆっくりと痛ぶってやるとしよう」
「そ、そんな……!」

 くく、ははははは――!

 男爵の笑い声が部屋中に響き渡る、そんな時。
 ドゴォオオオン、と城を揺るがすような爆音が鳴り響いた。

「……っ、何事だ! あれは――、ッ!!」

 男爵が窓の外を見ると、そこには土煙と共に打ち破られた城門とそこに攻め入る猟兵の姿。
 そして爆発音はそれに留まらず、城のあちこちから断続的に響き渡る。

『男爵サマ! ニンゲン共ノ襲撃デス! ソレニ、地下二囚エタ者モ、同時二反乱ヲ……!』
「ぬうっ、小癪な真似を……!」

 忌々しい、といった表情で男爵が歯噛みする。
 それとほぼ同時に。

 がしゃああああん、と今度は部屋の窓を突き破っての侵入者。

「ええい、今度は何者だ!!」
「……おはよー」

 窓から転がり込んで来たのは、少し眠そうな目をした猟兵の少女がひとり。

「んーと、あなたがワイリー男爵……で良いんだよね?」
「いかにも! 吾輩こそワイリー男爵である! 貴様の方こそ何者だ!!」

 突然の乱入者に怒り狂う男爵。
 しかし少女の方は、相変わらずのマイペース。

「そう。さっきまで寝てたから、間違えたらどうしようかなって、思った」

 んんー、と大きく伸びをひとつ。

「私は、グウェンドリン。ワイリー男爵、あなたと、上司。ぶっ殺しに、来た」

 そう告げるとグウェンドリンは黒い翼を広げ、男爵に向かって飛翔した。
 


 グウェンドリンの操る翼、それは生来持ち得る類の翼ではない。
 生体融合装着型クランケヴァッフェ『Mórrígan』。
 それが翼に与えられた銘だ。

 その羽根ひとつひとつが鋭いブレードによって形成されており、それは当然ながら武器にもなる。

「そぉー……れ、」
「ぐうッ!」

 翼から放たれた無数の羽根の矢、『Feather Rain』。
 それは男爵はもちろん、周囲の配下をも巻き込んで纏めて射抜く。
 射程が伸びるほど威力と命中率が落ちていくのに難のある技だが、逃げ場のない室内であれば強力無比に効果を発揮する。

「それに、ね……知ってた? カラスは、夜と月の鳥、同時に、太陽の鳥」

 翼に込められたのは【日光】の属性。
 それは一部の吸血鬼にとっての特効を持つと言われている。

 上位の眷属であるワイリー男爵に一撃で致命傷を……とまでは言わないが、少なくとも配下のコウモリたちにとっては、ひとたまりもないようだ。

「この我輩に傷を付けるとは……許さん、許さんぞ小娘!!」

 男爵はパン、と両手を叩く。
 それを合図に男爵の姿はみるみる緋色へと染まっていき、その瞳は狂気によって満たされる。

「吾輩をこの姿にさせて、今まで生き延びた者は居ない……さぁ、吾輩に! 愉悦を捧げよ!!」
「ふーん……、そう」

 次の瞬間、男爵の姿がその場から掻き消えた。
 まるで空間を転移したかのようなスピードでグウェンドリンの眼前へと迫ると、鋭い爪と化したその手で彼女を引き裂かんとする。

 だが一方のグウェンドリンも、それに対して涼しい顔で対処していた。
 黒の翼を羽ばたかせ、その刃によって男爵の凶爪と見事に切り結んでいる。

「……てい」
「うぐぉァ……ッ!!」

 無造作に振り払ったグウェンドリンの翼によって、男爵の身体は大きく吹き飛ばされた。
 吹き飛ばされた衝撃でご自慢の拷問道具は無残にも散らばり、格下と侮っていた猟兵相手には手も足も出ない。

「おのれ……ッ、おのれ……ッ!!」
「く、ふふ……」

 歯噛みする男爵のすぐ傍から、不意に漏れ出す笑い声。
 それは椅子に縛られたままのクロトによるものだ。

「貴様……ッ、何がおかしい!!」
「いえ、いえ。その貴方の表情……優位に笑うより、苦悶に歪むお顔の方が素敵だな、と思いまして」
「……ッ!! 椅子に縛られたままの男が、偉そうにほざきおって!!」

 文字通り顔を真っ赤に染め上げた男爵の姿に、クロトは「はっはっは」と続けて笑う。

「身の程知らずの人間風情が! もう我慢ならぬ、貴様から先に血祭りに上げてくれるわ!」
「おや、それは困りましたね」

 椅子に縛られたまま、クロトはわざとらしく溜息を吐いた。
 それが更に男爵の癇へと障り、容赦なく振り下ろされる男爵の凶爪。

「時に……身体検査はされました?」
「な……、あ……?」

 だがその爪は、クロトに届くことなくピタリと止まった。
 クロトは何事もなかったかのように椅子から立ち上がると、『既に切り裂かれていた』クロトの拘束は、その場にパラパラと零れ落ちていった。

 目を凝らすと僅かに光を反射して見えるのは、クロトの魔力によって切れ味を強化された鋼糸。
 それらはクロトを守る結界のように周囲へと張り巡らされ、今は男爵の身体中に絡まっている。

「暗器使いの戦道具は、即ち髪一本に至る迄。次があったらどうぞお気をつけになってくださいね」

 にこりと笑って、手から鋼糸を切り離す。

「まぁ、次の機会なんて無いんですけどね」
「か……、は……」

 その頃には既に、拘束された男爵の腹部を黒い刃が貫いていた。
 それはグウェンドリンの放った、尾羽根による刺突。

「自分の、血、捧げればいいのに……って、思ってたけど」

 グウェンドリンは尾羽根を引き抜きながら、告げる。

「そっか。これじゃ捧げられない、ね」

 腹わたの代わりにどす黒く染まった綿を撒き散らした手縫いのコウモリは、そのまま塵と化して風の中へと消え去った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『渇きの王』

POW   :    『高貴なる赤』
単純で重い【先制 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    『夜を歩くもの』
無敵の【影の従魔 】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
WIZ   :    『渇きの王』
対象のユーベルコードを防御すると、それを【略奪】する。【自身の力を上乗せして 】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ギド・スプートニクです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ワイリー男爵を打倒してから、猟兵や囚われた街の人々に対する追撃は一切無かった。

 まるで兵士は打ち止めとでも言うかのように、静まり返った古城。
 だが、城の奥から感じられる存在感には何一つとして変化は感じられない。

 彼の王はただ静かに玉座へと座し、猟兵たちを待ち構えている。
 

 猟兵たちは準備を整え、城の奥――謁見の間を目指した。
 

=====

 第3章はオブリビオン『渇きの王』との決戦になります。
 この戦闘では各ユーベルコードに関して特殊なルールが付け加えられます。
 判定難易度そのものに影響はありませんが、対策を怠ると描写的に苦戦を強いられます。

『高貴なる赤』(POW)
 猟兵に先駆け、先制攻撃を行なってきます。
 基本的に猟兵側がユーベルコードを発動させるのは相手の攻撃を受けた後となります。

『夜を歩くもの』(SPD)
 猟兵側が強い信念で挑むほど、対抗しやすくなります。

『渇きの王』(WIZ)
 自分の受けた猟兵側のユーベルコードを使用します。
 奪われたユーベルコードに関して自分で対策するか、他人に対策を任せるかなどはお任せします。

 プレイング内で特筆が無い限り、猟兵側の攻撃に応じた能力で反撃を行なうか、判定結果に影響を与えない範囲で演出的に不自然のない能力で反撃を行ないます。
 プレイング内で指定があれば、別能力値のユーベルコードで対策をしたり、複数のユーベルコードを組み合わせたりしても構いません。可能な範囲で対応します。
 また、複数回のユーベルコードを使用した場合、相手側も複数回ユーベルコードを使用してくる可能性があります。
 
クロト・ラトキエ
%

折角の役。今一度演じて終いと致しましょう。

領主様、人との共存にご興味は?
無い。ですよねー。

まぁ、有ってもオブリビオンなら放っておけないのが、猟兵の悲しい宿命。
…えぇ、冗句ですが。

とは言え、強者であるのは間違い無い、と。
地形を破壊する一撃…
であらば、玉座の彼より此方へ“下りる”ものと読み。
腕、視線、或いは魔術的兆候…
意識は逸らさず、挙動より見切りを図り。
UC起動、炎の魔力を攻撃力へと替えて。
直截的に首を狙う――と見せ掛けての、同時に鋼糸を腕へと向ける、
狙うはカウンターからのフェイント。
強き技を揮える方在らば、動きは封じて居られる様に。

貴方を満たすものは、無かったでしょう?
今は一度、お休みなさい


奇鳥・カイト
%
よーやく主人とご対面ってか、長かったなホント
拝謁賜ります──ってか、そのまま首も貰うつもりだがな

悪ィな
アイツ等助けるつもりじゃねーが、どうやら見捨てるほど腐ってもいねぇらしい

・戦闘
先手を取られんなら、取られた後どうすっか考える体で
周囲に糸の結界、それか防御として糸を体に張り【柳風】の準備
『高貴なる赤』から──耐えれんのかわかんねぇが──反撃を行う
何でもいいからやっておく

それがダメそうならある程度戦った後に黒の偽証を叩き込むしかあるめぇ
俺ァどうにも決め手に欠けるからな、他に手段があるンなら考えるけどよ

吸血鬼、それを屠れば俺も…
ただ、そういう感情でもないらしい
灰の中で燻ってる炭、俺は、そういう…




 ――謁見の間。

 半分以上が朽ち果てているその扉に、猟兵が手を掛ける。
 扉の向こう、遠くの玉座には黒い外套に身を包む領主の姿があった。

「よーやく主人とご対面ってか? 長かったなホント」

 領主――『渇きの王』の姿を前に奇鳥・カイト(自分殺しの半血鬼・f03912)が愚痴を漏らす。
 一般人の護衛に、数だけ多い配下どもの掃討。さんざん手を焼かされた。
 だが、コイツを倒せばそれも終わり。

 そしてもうひとり、靴音を鳴らしながら前に出て恭しく頭を下げる猟兵が居た。

 クロト・ラトキエ。
 彼は今まで演じてきたのと同様に、善良な、平和を盲信する一般人を装い続ける。

「これはお初にお目に掛かります、領主様。この度は貴方様にどうしても具申したい旨がございまして……」
「…………」

 渇きの王は何も応えない。
 此処まで攻めてきた猟兵たちの姿を見ても、何一つ興味の無さそうな冷めた瞳で見下ろすのみ。

 だがそんな反応などお構いなしに、クロトはニコニコと笑みを絶やさずに言葉を続けた。

「この荒廃した世界において、衣食住の整った街の様子……領主様はさぞ高潔な方であるとお見受けします。――領主様、人との共存にご興味は?」
「…………」

 クロトの言葉に、渇きの王は瞑目する。
 そのままスルーされるかと思ったその時、渇きの王は口を開いた。

「……くだらぬ話だ」
「ですよねー」

 提案を一蹴されながらも、変わらず微笑み続けるクロト。
 クロトとしては分かりきっていた返答。
 逆に向こうに共存の意志があったとしても、オブリビオンを放逐することはできない。

 ああ、猟兵のなんと悲しき宿命だろうか!
 ……というのは、無論冗句だが。

「望まぬ未来など語らぬ事だ。我らとの共存など、貴様の方こそ耐えられまい」
「おや、バレてましたか?」

 心の内を見透かされ、クロトは悪びれずに舌を出す。

 そして次の瞬間には。
 渇きの王の姿は、既にクロトの眼前にあった。
 

 ドゴォォ――ッ!!
 

 大きな音を立てて、大地が抉れる。
 渇きの王が振り下ろしたその拳が、それまでクロトの立っていたその地形をまるごと破壊した。

「思っていたよりも、よっぽど疾いですね。進路を限定しても、これだけ気を張っていても、避けるのが精一杯だなんて」

 渇きの王が捉えたのは、クロトの上着のみだった。
 当のクロトは渇きの王の攻撃を先読みした上で死角へと周り、既に反撃の準備を整えている。

「その首、戴きますよ」

 魔力を宿した鋼糸が、その首を括らんと渇きの王の喉元へと迫る。

「――と言っても、頂くのは手首(こちら)の方ですが」

 だが、喉元へと放たれた糸はブラフ。
 本命の糸が、渇きの王の右の手首へと幾重にも巻き付いた。

「強者を相手に見縊るつもりはありません。我々はチームですので」

 渇きの王は右手の拘束を解こうと力を入れる。
 だがクロトの魔力によって補強された鋼糸の拘束は、そう簡単に破れそうには無かった。
 その隙を突いて飛び出したのは、カイトだ。

「拝謁賜ります──ってか、そのまま首も貰い受けるぜ!!」

 カイトの放つ強烈な蹴りが、渇きの王の側頭部へと突き刺さった。
 


 みしり、と鈍い音が響く。

 カイトの放った蹴りは、その見た目に反して重い。
 カイトに流れる吸血鬼の血。それによって強化されるカイトの膂力は、常人のそれを凌駕していた。

 だが、逆に言えば「それだけ」の話。

「…………」

 渇きの王は静かに左手を伸ばしカイトの足首を掴むと、軽くスナップを効かせてカイトの身体を放り投げた。

「――ッ!!」

 派手な音を響かせて壁へと突き刺さるカイト。
 続いて渇きの王は、自らを拘束する右腕を何事も無かったかのように『引きちぎる』と、自由になった身体でクロトに対して反撃を放った。

「おっ、と……」

 しかしクロトはすぐさま渇きの王と距離を取り、反撃から逃れる。

「王様と言う割に、随分と思い切りが良いんですね。片腕をあっさりと捨てるだなんて」
「……抜かせ」

 クロトの軽口に取り合わず、追撃を仕掛けてくる渇きの王。
 だが一撃、二撃と。その攻撃は空を切る。

「こンの、野郎……ッ!」

 その背後。
 瓦礫から身を起こしたカイトが再び渇きの王へと肉薄し、拳を放った。
 しかし今度の一撃は掌によって受け止められ、振り向き様、カイトの鳩尾に鋭い蹴りが突き刺さる。

「――――」

 その意識が逸れた一瞬を狙い、渇きの王へと放たれるクロトの鋼糸。
 だが糸は渇きの王を捉える前に掴み取られ、強引に引きちぎられた。
 束ねれば動きを封じる事さえ可能でも、その1本1本の強度は渇きの王の腕力に耐え切れる程では無いようだ。

「が……ッ、は、ゲホッ、ゴホッ!」
「…………」

 その場に膝をつきそうになりながらも何とか耐えるカイトと、黙って渇きの王を見据えるクロト。

 カイトもただ闇雲に攻めている訳ではなく、周囲に糸の結界を張り巡らせてダメージの軽減及び仕込み糸による反撃を狙っている。

 ――だが、できなかった。
 幾重にも張り巡らせた糸の結界によって衝撃の緩和……ダメージの軽減はできても、反撃まで行なう隙が無い。

 クロトについても似たような状況だ。
 何とか『見切り』に徹する事で渇きの王の動きには付いていける。
 だが反撃できるかと聞かれれば、答えはノーだ。

 初撃。相手の動きを何度もシミュレートした上での初見の一撃でこそ相手に届いた。
 だが、それを一度見られた上で再び相手の動きを封じるのは至難の業。
 仮に捨て身の攻撃を放ったところで決定打を与えるのも、また難しい。
 器用貧乏。元より決定打に欠けるのだ。

「私からも尋ねようか、猟兵」
「…………?」

 渇きの王は、ふたりの猟兵に対して問い掛ける。

「貴様たちの望みは何だ。現在に、未来に――この世界に、貴様たちは何を求める」
「…………」

 しぃん、と場が静まり返る。
 先に口を開いたのは、クロトの方だった。

「なるほど、『渇きの王』とはよく言ったものですね。支配者として君臨しながら、今尚そんな命題を抱え、求め続けているとは」
「…………」

 おや、不遜でしたか? と悪びれもせずにクロトは渇きの王を見る。

「僕は一介の傭兵ですからね。ただその倫理に従い、この場に居る。オブリビオン相手に自分語りをする趣味なんてありませんよ」
「…………」

 飄々と述べるクロトに対し、渇きの王は特に何の反応も見せなかった。
 遅れて口を開いたのは、カイトだ。

「俺の望みは、吸血鬼(おまえら)をぶち殺す事――ってのはあるけど、今ここにいる理由は、それじゃねえ」

 カイトは悩みながら、自分の考えを纏めながら、言葉を紡ぐ。

「俺は別に、英雄(ヒーロー)を気取りたい訳じゃねえ。誰かを助けたいなんて、思ってねえ。けど……」

 カイトはギリ、と拳を握り締めて、渇きの王に向かって突き出す。

「けどな。どうやら見捨てるほど、腐ってもいねぇらしい」

「…………」
「…………」

 渇きの王とクロトが、双方共に黙り込んだ。

「……それって、助けたいという話じゃないんですか?」
「うるせー! ニュアンスが微妙に違えんだよ!」

 味方(クロト)からの突っ込みに噛み付くカイト。

「それに、アンタを見てると……無性に腹が立つ」

 それは『吸血鬼』という存在に対する敵愾心とは別に、渇きの王へと向けられる感情。

 まるで灰の中で燻る炭のような。
 とうに朽ち果て、されど燻り続けている哀れな残骸。
 生きることも、死ぬこともできない半端者。

「なぁオッサン。アイツの動き、一瞬でいいから止める事ってできるか?」
「オッサンって僕ですか?? 出来ない事はないと、思いますが――、……いいでしょう。引き受けました」

 小さく溜息を吐いてから、クロトは糸を手繰り寄せる。

 ――本来ならばこの場で振るう予定の無かった、棄てきれぬ業。
 だが此度は善良なる一般人として、青少年の願いに応えよう。

「さて、領主様。話の続きですが――貴方を満たすものは、この世界には無かったのでしょう?」
「…………」

 渇きの王の心の内を見透かすように、クロトは告げた。
 先程まで見切りに徹し、距離を置いていたのとは打って変わって、クロト自ら肉薄。
 渇きの王の放った拳がクロトの頬を掠め、その拍子に眼鏡が弾き飛ばされる。

 だがクロトは一切怯むことなく、ただ静かに糸を繰る。

「――歪め」

 その瞬間、因果は捻じ曲げられた。
 時間も物理演算も、この世のあらゆる法則を歪め、捻じ曲げる。
 在り得ざる筈の同時多重襲撃、『肆式(フィーア)』。

 刃が貫き、糸が絡め取り。渇きの王の動きを封じ込める。

「この世に未練なんて無いでしょう? 今は一度、お休みなさい」
「ぬう……ッ!」

 そしてカイトの右手には、赤黒い血の塊が浮かんでいた。
 それは周囲から集められた、渇きの王の流した血液と、カイト自身の血液が入り混じったもの。
 カイトがその血塊を握り潰すと、それは一瞬にして凝固。
 血の刃と化してカイトの右手へと纏われる。

「おおおおおお――ッ!!」

 あんたは、鏡写しの俺だ。

 死に損ない。
 その引導は、俺が渡してやる!

 ――『黒の偽証』。
 それはカイトが何よりも忌むべき、吸血鬼の業。

「ご、かは……ッ」

 呪われし血の刃による一撃は、渇きの王の腹部を深く、深く貫いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ
まだ、戦ってる間には…戻ってこれたかな?
ふふ。なんだか今日は、こんな事ばっかりな気がするね。

…なんて、笑ってられないよね。
ユーベルコード…金盞火。
力には、数で対抗する。それが、一番だと思ったんだけど…
…力に、数まで揃えられるなんて。

…どうすればいい?
このままじゃ、私だけじゃない。周りの皆にも、迷惑をかけちゃう。
迷ってる時間はない。

奪われたのなら…奪い返せばいい。

…そうじゃない。それじゃダメなんだ。

私の力は、奪うものじゃない。
お願いする。それだけのもの。

奪われた皆に、お願いして。力を貸してもらう。
ありったけの誘惑の力を、気に乗せて。放って。

さぁ、これが成功するかが、正念場。
皆…私に、力を貸して?




「……いつまでも調子に乗るなよ、猟兵」

 渇きの王は無理やり、力任せにクロトの拘束を解き。
 カイトの首根っこを掴むと、そのまま地面へと叩きつけた。

「少し遊びが過ぎたか」

 足元に転がるカイトを見下ろしながら、渇きの王は呟く。
 そして躊躇なく、カイトを踏み抜こうと足を上げたその瞬間。

「――金盞火!」

 告げる声と共に、渇きの王の足元に炎を纏う狼が割って入る。
 それはパームの使役する狼の霊魂だった。
 その数は数十を超え、いつの間にか渇きの王を取り囲んでいた。

 その内の一匹はカイトを咥えると、そのまま戦線を離脱していく。

「さすがのあなたでも、これだけの数が相手なら少しは苦労するんじゃないかな?」
「……試してみるか?」

 渇きの王は余裕の表情を崩さない。
 パームはその異様さに気圧されながらも、狼の群れをけしかけた。

「お願い、皆!」

 狼はそれぞれ連携し、渇きの王へと襲い掛かった。

 尋常ではない速度であらゆる角度から繰り出される攻撃。
 引っ掻きや噛み付き、果ては火炎放射や自爆まで――
 さしもの渇きの王も圧倒的な数の暴力に対しては無力であるかのように思われた。

 しかし――、

「生意気な犬どもだ」

 その時、渇きの王の瞳が紅く輝いた。
 一斉にピタリと、狼たちの動きが止まる。

「平伏せよ」
「え――、」

 パームが使役していた筈の狼たち。
 それは渇きの王の号令に応えて、その場に平伏した。

「皆、一体どうして――」

 パームが戻って、と支持しても狼たちは何も応えない。
 それどころかこちらを睨み、敵意を剥き出しに唸り声を上げている。

「我が『略奪』の異能だ。私は私の望むがままに、あらゆるものを手中に収める」

 それは【魅了】に本質を置く能力。
 意識化にあるものを支配下に置き、自分の物にする。
 渇きの王を『王』たらしめた、権能のひとつ。

「くっ……」

 力には、数で対抗する。
 その発想までは良かったように思う。
 けれど今回は相性が悪かった。

 自分の能力を逆用された事で、力に数まで揃えられる事になってしまった。

(……どうすればいい?)

 パームは焦っていた。

 このままでは自分だけじゃない。
 周りの皆にも迷惑を掛けてしまう。

 迷っている時間は、ない。

 パームの心の奥底で、『なにか』がざわついた。

「ふふ」
「……?」

 パームの纏う空気に、僅かながら変化が起きる。

 何処と無く香る、桜の花弁の匂い。
 蜃気楼のような揺らめき。
 妖艶。
 どこか惹き込まれしまいそうな、底の知れない禍々しさ。 
 

 ――『奪われたのなら、奪い返せばいい』。
 

 ――『其れはもともと、わたしのモノなのだから』
 

 ――『誰にも、渡しはしない』
 

 魅了には魅了を。略奪には略奪を。
 パームの瞳が妖しく光り、金盞火の狼たちを見つめる。

「ほう……我が略奪に抗うか。面白い」

 それは渇きの王にとっても初めての経験だった。
 略奪に対する略奪での応酬。
 となれば必然、能力としての『強度』の高い方が勝利する。
 

(……そうじゃない。それじゃダメなんだ)
 

 能力に溺れてはならない。
 過ちを繰り返してはならない。

 私の力は、奪うものじゃない。
 お願いする。それだけのもの。

 奪われた皆に、お願いして。力を貸してもらう。
 ありったけの誘惑(おもい)の力を、気に乗せて。放って。

 ――妖艶な九尾の狐は、もう居ない。

 そこに在るのは、見た目年齢13歳の可愛らしい少女の姿。
 大人に憧れて背伸びして、でもやっぱり放っておけないような幼さの残る……そんな女の子。

 それこそが、今の彼女の『真の姿』。
 
「皆……私に、力を貸して?」

『アォオオオオオオオン――!』

 少女の誘惑(おもい)に狼(ゆうじん)たちは応える。
 狼たちは略奪の呪縛より逃れ、再び渇きの王を取り囲んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪
さてさて、喉が渇きっぱなしの領主様へとお会いしましょー……。
まー、こういう搾取してくる傲慢なタイプは嫌いなんでー…お話すること、ないかなとー……まず共存無理ですし。
私の血も、いらないでしょー……?

【Resonance】、歌いましょー。
先制攻撃で傷つけられたら、それも癒やしましょー……跳ね返されても癒やしましょー……。
渇きに永遠の安寧を、骸の海での安らぎをー……。
疲れた体に、傷ついた体に癒やしをー……。
相手に当てるものではないので、跳ね返って来ないとは思いますが……他の方にきたものや、範囲攻撃をオーラ防御で軽減したり、避けたりしましょね……。
影は消えるんですよー……そんなもので止まりませんよー。


グウェンドリン・グレンジャー
……あなたが、偉い人
好き嫌い、よくない、よ
だって、他者の、命、貰ってるんだも、の
無駄に、しちゃ、ダメ
……これは、血肉でしか、生きられないなりの、私の、矜持、だけど

(青い光を放つランプ、Glim of Animaを掲げて)

側面顕現……これが、私……の、心の仮面……飛んで、モリガン!

……女神、の姿、してるけど
私の、心の、一部分を、カタチにしたもの
あの人は、私じゃない、から、モリガンの力、十二分には、使えない、きがする

攻撃は【第六感】で予測、回避
被弾したら【激痛耐性】で、我慢……

Imaginary Shadow、【属性攻撃】で虚数属性、乗せた、念動力でも、攻撃

……偉い人、なのに、なんだか、かわいそう




 パームの金盞火――炎狼の群れが、渇きの王へと襲い掛かる。

「鬱陶しい」

 渇きの王はそう呟きながら、掛かる火の粉を振り払う。
 その狼の群れに紛れ、一筋の黒い影が渇きの王の眼前へと躍り出た。

「……あなたが、偉い人。好き嫌い、よくない、よ」

 その影の正体はグウェンドリンだ。
 彼女は子供に説教でもするかのように告げながら、生体ウィップ――『Black Tail』の切っ先を渇きの王へと放った。

 渇きの王は寸でのところでそれを避けると、逆にその手で掴み取る。

「わ……、と」

 そのまま『Black Tail』を引っ張られバランスを崩しそうになったところで、グウェンドリンは素早くそれを切り離して姿勢を制御した。
 トカゲの尻尾切りならぬ、鴉の尾羽根切り。
 無限に再生できるとまでは言わないが、元々生体パーツである『Black Tail』は切断したところで然程の痛手にはならない。

「私が何を喰らい、何を喰らわぬとて。貴様には関係あるまい」

 渇きの王が告げる。
 その言葉を聞いて少し考えてから、グウェンドリンは答えた。

「だって、他者の、命、貰ってるんだも、の。無駄に、しちゃ、ダメ」

 それは血肉でしか生きられないなりの、グウェンドリンの矜持だった。
 菜食主義者ならぬ、肉食主義。
 グールドライバーとなったが故の、体質に起因する偏食。

「詭弁だな」

 だがその矜持を、渇きの王は一蹴した。

「血の一滴まで吸われ尽くそうとも、無為に殺されようとも。その死に違いはあるまい。故に――、」

 渇きの王は見透かしたように笑う。

「貴様も所詮、我々と同類だ」
「……ちが、う」

 その言葉を否定するように、グウェンドリンは青のランプ――『Glim of Anima』を掲げた。

 ランプから浮かび上がる光が、運命の輪を紡ぐ。
 そこから顕現したのは、狂乱と戦勝を司る女神。

「側面顕現(アルターエゴ)……これが、私……の、心の仮面……飛んで、『モリガン』!」

 グウェンドリンの意志に従い、モリガンは渇きの王へと襲い掛かった。

(……女神、の姿、してるけど。私の、心の、一部分を、カタチにしたもの)

 渇きの王には略奪の力がある。
 しかし『モリガン』はグウェンドリンの心の一部であって、渇きの王の心ではない。
 であれば、渇きの王ではモリガンの力を十二分には扱えないだろう――
 それがグウェンドリンの考えだった。

 しかし。

「どうした。アテが外れたという顔をしているな」
「そんな……どう、して……」

 モリガンは、渇きの王によって略奪されていた。

 確かにモリガンの力を引き出すことは、渇きの王には不可能だ。
 或いは能力をもっと根本的から『略奪』し、渇きの王自身の心の側面を具現化するというならばそれも可能かも知れないが――彼はそうしなかった。
 そうまでせずとも、単純にそのコントロールさえ奪えればそれで良かったのだから。

 そういった意味では容易い事だった。
 何故ならモリガンは、『グウェンドリン自身にも十二分には扱えていない』。
 それはグウェンドリンが未熟という話ではなく、元より『心の側面を悪魔化して扱う』という、扱いの難しい技だったから。
 心の悪魔を自在に飼い慣らせる人間など、猟兵においてもそうは居ない。

「己の闇に飲まれるがいい、猟兵」
「ぐう……う……」

 そうしてモリガン――グウェンドリンの狂乱の具現は、彼女自身へと襲い掛かった。

 怒涛のように叩き込まれる連撃。
 それは理性を置き去りにしている分だけ、圧倒的に速く、そして鋭い。
 グウェンドリンは第六感を駆使して懸命に致命傷を避け続けるも、それ故にいつまでも終わらぬ攻勢によって責め苦を味わう事となる。

「はぁ……は、ぐ……」

 身体中のあちこちが切り裂け、血に染まる。
 常人であれば気を失う程の怪我だろう。

 それでもまだ、彼女は飛び続けて居た。
 その瞳は死んでおらず、勝機を伺っている。

 そんなグウェンドリンの耳元に、何処からか歌声が響き渡った。

「響いてー……共に、応えてー、鳴りたまふー……」

 りぃん、と。
 それは鈴の音のように。

「だいじょぶですかー……? 疲れた体に、傷ついた体に癒やしをー……」

 それは寧宮・澪の歌声だった。
 謳匣から響く柔らかなメロディーと共に、澄んだ歌声が響き渡る。

「まさか領主様、私の歌声まで搾取しますかー……? どうせ私の血だって、歌声だって、興味なんてないでしょー……?」

 不機嫌そうに、澪は告げた。

 澪は束縛や抑圧を特に嫌う。
 渇きの王のような傲慢なタイプはまさにそれで、一刻も早く骸の海へと帰って欲しいと思っていた。

「なのでー……喉が渇きっぱなしの領主様とはー……お話する事なんてありませーん。共存なんてー……まず無理ですしー……」

 つーんとした態度できっぱりと否定する。
 こんなにはっきり嫌われてしまったら、並の人間であれば相当に堪えるだろう。
(尤も、当人(渇きの王)はまったく気に留めていないようだが)

「渇きに永遠の安寧を、骸の海での安らぎをー……」

 グウェンドリンの身体を、澪の歌声が優しく包み込んだ。
 モリガンによって傷つけられた身体が、少しずつ癒えていった。

「……小癪な真似を」

 渇きの王は忌々しげに告げ、澪に対して影の魔物を放った。
 澪は無数の障壁を展開し、それに対抗する。

「グウェンドリンさんー……ふぁいとですよー……あんなおじさんに嫌なことされてもー……めげずに頑張ってくださいねー……」

 えいえいおー、とグウェンドリンを励ます澪。

「影は消えるんですよー……そんなもので止まりませんよー」

 ぼんやり、ぽやぽやとしているようで、その芯は決して揺らがない。
 傷付こうと、劣勢に立たされようと。渇きの王の攻勢を前に、澪は一歩も退くことはなかった。
 
 そんな澪の姿を見て、負けてはいられないとグウェンドリンも奮い立つ。

「モリガンは、私の心。心まで……奪わせたりは、しない……!」

 モリガンの猛攻、その一瞬の隙を突き。
 グウェンドリンから伸びた黒い影――虚数属性の腕が、モリガンへと抱きしめるように纏わり付いた。
 モリガンはみるみる影の内へと飲み込まれいくと、代わりにグウェンドリンの手元には小さな仮面が顕現する。

 その仮面は、心の仮面。
 アルターエゴ、モリガンそのもの。

「モリガン……もう一度、私と飛んで……!」

 グウェンドリンは迷うことなく、その仮面を被った。
 瞬間、グウェンドリンの頭の中へと流れ込んでくる衝動。狂乱。

「ううううああああああッ!!」

 本来ならば御し得ぬ筈の、狂乱の側面。
 だが今この一瞬だけでいい。あの吸血鬼を打倒する為の、力を。

「――、――♪」

 再び耳元に響き渡る澪の歌声。
 その歌声が狂気の淵で、辛うじてグウェンドリンの意識を繋ぎ留める。

「あああああああああッ!!」

 その時、グウェンドリンとモリガンは完全にひとつとなる。

 一瞬の交錯。

 音速をも超えたグウェンドリン=モリガンの虚数の爪が、渇きの王の胴を薙ぐ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユーゴ・アッシュフィールド
%
【リリヤ(f10892)】と

お前がこの場所の主か。
……あの伯爵もそうだが、何かに似ている気がするな。
いや、今は些末な事か。

さて、どうせ俺達とお前の道が交わる事も無い。
俺はお前の所業を許すつもりもない。
となると、やる事はひとつだな。

俺は小細工抜きに剣で戦うつもりだが、相手がとんでもなく早いな。
どう足掻いても先に技を叩き込むはできないな。
であれば、被害を可能な限り減らせるよう防御に徹した後に技を放つ。
だが、俺が技をぶつけるのはリリヤの奪われた技に対してだ。

リリヤ、お前の全力をぶつけてやれ。
防御は任せろ、何度でも俺が耐えて防いでやる。


リリヤ・ベル
%
【ユーゴさま(f10891)】と

領主と呼ばれるものに会うのは、はじめてではありません。
どれとも違う。静かで、重い気配。
……こわいわけではないのです、けれど。
すこしだけ、息が詰まるような気はするのです。

深呼吸をして、まっすぐに前を見ましょう。
はい。やることは、ひとつ。
わたくしも、ゆるすつもりなどないのです。

ユーゴさまが王と対峙するのをよく見て、機会をうかがいましょう。
いま、わたくしにできること。
頂いたことばのとおり、可能な限りに、全力で。

いのりはひかりに。
ひかりはちからに。
何度渇きに飲まれても、そのみなもとはわたくしのこころです。
ユーゴさまが守ってくださるのなら、枯れることなど、ないのです。




 片腕を失い、腹を貫かれ、あちこち大きく切り裂かれた上に身体中を焼かれ。
 猟兵たちの猛攻を前に、渇きの王はまさに満身創痍といった姿だった。

 そんな渇きの王を見据え、ユーゴ・アッシュフィールドは静かに剣を構える。

「…………」

 渇きの王。
 この国を支配する領主。
 あの男爵もそうだが、何かに似ている気がする。
 気の所為に過ぎぬのやも知れぬ、微かな既視感。

 偶然……、他人の空似か。
 それとも――

 考え始めたところで、ユーゴは頭を振った。

「……今は些末な事か」

 その程度の事で切っ先が揺らぐ事はない。
 目の前に居るのはオブリビオン、それ以上でも以下でもない。

「どうせ俺達とお前の道が交わる事も無い。俺はお前の所業を許すつもりもない。……となると、やる事はひとつだな」
「…………」

 ユーゴの言葉に対し、渇きの王は沈黙を貫き通す。
 それは無言の肯定だろうか。
 猟兵とオブリビオン。
 ごく一部の例外を除けば、ふたつは決して相容れぬ存在。

 出方を伺うふたり。
 その場を、重苦しいプレッシャーが支配する。


 そしてユーゴの傍ら。
 両手で杖を握り締めながら、リリヤは小さく息を呑んでいた。

「…………」

 領主と呼ばれるものに会うのは、初めてではない。
 一般的にはともかくとして、この世界においては支配の象徴。
 その多くは自身の享楽の為に、民を虐げる存在。

 だが、渇きの王の持つ空気はそれらと比べても異質だった。
 静かで、重い気配。

 ……恐怖を感じた訳ではない。
 だが少しだけ、息が詰まるような気がした。

「すぅー……、……」

 深呼吸をしてから、まっすぐに前を見る。

『――となると、やる事はひとつだな』

 ユーゴの言葉に、リリヤは力強く頷いた。

「はい。やることは、ひとつ。わたくしも、ゆるすつもりなどないのです」

 そう。こわくなどありません。
 わたくしの隣には、ユーゴさまが居るのですから。



「……ゆくぞ」

 そう告げた渇きの王の手には、影によって作り出された漆黒の剣が握られていた。

 地面を砕く程の踏み込み。
 そのたった一歩で、渇きの王はユーゴの『間合い』へと踏み込んでいる。

(分かってはいたが……とんでもなく速い)

 渇きの王の斬撃に、ユーゴは辛うじて受けの太刀を合わせる。
 相手は片手で剣を振るっている……にも関わらず、両手で構えたユーゴの剣が弾き飛ばされそうになる。

 その膂力こそが、渇きの王の武器だった。
 純粋なる力。吸血鬼としての卓越した身体能力。
 それこそが、渇きの王を『高貴なる赤』と呼ばれるにたらしめたもの。

 ――だが、戦える。
 仲間の与えたダメージは、確実に渇きの王へと蓄積している。

 一度のミスさえ許されない。
 しかし集中さえ切らさなければ、決して見切れぬ速度ではない。

「リリヤ、お前の全力をぶつけてやれ。防御は任せろ、何度でも俺が耐えて防いでやる」
「はい、ユーゴさま!」

 間隙を縫って放たれる、リリヤのジャッジメント・クルセイド。
 ユーゴが守り、リリヤが撃つ――息の合った連携が渇きの王を穿つ。

「ちい……っ!」

 渇きの王は忌々しげに呟くと、後退しユーゴとの距離を取る。
 そして防御姿勢を取るとリリヤから放たれたジャッジメント・クルセイドを丸ごと『略奪』。
 即座に反転させ、黒く染まった光をユーゴに向けて解き放った。

「ユーゴさま!」
「――――、」

 思わず声を上げるリリヤ。

 しかし、渇きの王の放った『光』がユーゴへと到達する事は無かった。
 ユーゴがそれを寸でのところで見切り、『絶ち斬った』為である。

「言っただろう、リリヤ。何度だって俺が防ぐ。だから――」
「……はい!」
 

 ――『お前の全力を、ぶつけてやれ』
 

 渇きの王の『略奪』の力とて、万能ではない。
 正確に言うならば、ユーベルコードそのものに絶対など在りはしない。
 ユーベルコードは、ユーベルコードによって破られる。

 猟兵とオブリビオン。
 諸説あるだろうが――最終的に勝敗を分けるのは、その『心の強さ』に他ならない。

「――いのりはひかりに。ひかりはちからに」

 瞳を閉じ、手を組んで。
 リリヤは祈りを捧げる。

 それは神に対する祈りだろうか。
 いや、おそらくは違う。
 強いて言うならばこの『世界』に対して。
 それは純然たる『願い』のちから。
 リリヤの内に秘められた、『こころ』そのもの。

「何度渇きに飲まれても、そのみなもとはわたくしのこころです。
 ユーゴさまが守ってくださるのなら、枯れることなど、ないのです」

 たとえ略奪されようとも、ユーゴが何度だって取り戻す。
 だったら、負ける筈はない。
 届くまで祈り続ければ良いだけなのだから。

「ぐ、おお――ッ!!」

 リリヤの放った光の奔流が、渇きの王を飲み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蓮花寺・ねも
😘
人々を外へと送った後、間に合えば。

ぼくは支援に徹しよう。
皆が傷を受けていたら、それを片っ端から治して回る。
今日のぼくには、背負っているものがある。
久々に“仕事”をしようじゃないか。
あれだけ希望を煽ったのだから、ちゃんと皆で帰らないと立つ瀬がないんだ。

疲弊して動けなくなるまで続ける。
動けなくなってもできることはある。
瓦礫や調度品を念動力で動かして、足りなければぼく自身も遮蔽に。
王の攻撃を叶う限り防いで見せるとも。


……――、何だな。
まあ、何も言われていない。聞いていない。
であれば、ぼくが気にすることではないのだろう。けれど。

渇きの王。
きみは、何を求めていたんだ。
遺す言葉があれば、聞き届けよう。




「ユーゴさま、わたくし……ちゃんとできたでしょうか?」
「ああ。よくやった」

 ユーゴの言葉に安心し、力を使い果たしたリリヤはその場で気を失う。
 そんなリリヤの身体を、ユーゴは優しく抱き止めた。

「……っ!」

 しかし戦闘で疲弊しているのはユーゴも同じ。
 ユーゴはリリヤを抱きかかえたまま、思わずその場に膝を付いた。

「お疲れ様。あまり無理はしない方がいい」

 ユーゴの元へと駆け寄り、声を掛けたのは蓮花寺・ねも。
 彼女は一般人の避難誘導を終え、怪我をした仲間の介護に回っていた。

 ねもはユーゴとリリヤに手を翳し、生まれながらの光によって治癒を施す。

「肩でも貸そうか?」
「……いや、大丈夫だ。ありがとう、随分と楽になった」

 ユーゴの答えに「そうか」と答え、ねもは他の仲間の治療へと向かった。


「きみは特に怪我がひどいな」
「痛っつつ……いや、こんだけ治して貰えりゃ大丈夫だって!」

 ねもは怪我をした仲間に甲斐甲斐しく世話を焼いた。
 曰く、

「今日のぼくには、背負っているものがある」
「あれだけ希望を煽ったのだから、ちゃんと皆で帰らないと立つ瀬がないんだ」

 とは本人の弁。

 約束は守るもの。
 ねもの律儀な性格が、彼女を突き動かしていた。

 とは言うものの一般人を含め治療して回っていた、ねもの披露はかなりのもの。
 動けなくなるまで続けると豪語していた彼女だが、流石にそれは困ると周囲から止められ渋々とそれに従っていた。

 戦いは終わり、人々は吸血鬼の支配から解放された。
 囚われていた人々はそれぞれの街へと戻り、家族や友人との再開を果たす。
 人々は口々に猟兵を讃え、感謝の意を表した。

 しかし彼らにとっての試練は、ある意味ここからだろう。

 吸血鬼は同族殺しを禁忌とし、争いを避ける傾向にある。
 つまり彼らは、ある意味で『渇きの王』の庇護下にあったとも言えるのだ。

 吸血鬼からの自立と言えば聞こえは良いが、いつ侵略を受けるかも分からないという恐怖は、吸血鬼に支配されていた時よりも人々の心を曇らせる可能性さえあった。

「だからと言って、今ぼくたちに出来ることは少ない……か」

 これを根本的に解決するには、オブリビオンフォーミュラを打倒するより他ない。
 となれば今の猟兵に出来ることは、こうして吸血鬼の脅威を地道にでも排除していく対処療法しか存在しないのだった。


「さて――、」

 城を後にしようとしたところで、ねもは後ろを振り返る。

 空となった玉座。
 この地を治めていた領主は、もう居ない。

「……――、何だな」

 何も言われていない。聞いていない。
 であれば、ぼくが気にすることではないのだろう。けれど。

 ねもにはひとつだけ、心当たりがあった。
 それはユーゴが抱いていた既視感にも近いもの……かも知れない。

 勘違いの可能性もある。
 ただのお節介かも知れない。

 だが、ねもは静かに玉座へと近付き。そっと触れた。

 温もりなど感じない。
 ただ冷たいだけの、残骸。

「渇きの王。きみは、何を求めていたんだ。遺す言葉があれば、聞き届けよう」

 うしなわれるものを見送る。
 それもまた、ぼくの“仕事”には違いない。

「――――」

 玉座からは何の返事もない。

 当たり前だ。
 そこには誰も居ないのだから。

 だが、ねもにはそれが答えのように感じられた。

 きっと彼には、遺したい言葉など無かっただろう。
 この世に未練などなく。
 ただ喚び出されてしまっただけの、過去の亡霊。

「――良い夢を」

 死者は夢など見ないだろう。
 知っている。
 だからこれは、ただ、ぼくの――、

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月24日


挿絵イラスト