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エンパイアウォー㊳~いざや来い来い大一番

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #オブリビオン・フォーミュラ #織田信長 #魔軍転生

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●過去の夢、時の幻
 魔空安土城の中枢。天守閣の最上階に、その影はある。
 天高くにあるその禍々しい城の真っただ中で、どこまでも意のままに、どこまでもあるがままに立つその影は、『オブリビオン・フォーミュラ』と呼称されるそれだった。
 『織田信長』。エンパイアウォーを仕掛けた張本人。君たちが倒した強敵、魔軍将のさらに上に立つオブリビオン。それが、この影の名であった。全身に武者鎧、右手に名刀、背には全てを侵略せしめんとして燃え盛る焔を背負って、強靭なる影はそこにいた。
「分かる。よく分かるぞ。『甲斐の虎』、そして『軍神』を撃ち滅ぼしたのは、確かにお主らの手によるものらしいな? ……それに、隕石を墜とすなどと馬鹿を言うようなあ奴も。常に何かに腹を立てておった守銭奴のあ奴も。……馬鹿な奴らよな」
 敵の目は天守閣を登る猟兵たちを見やりながらも、時折別のものを見ているようで。しかし、その立ち姿には一部の隙すらありはしなかった。ここまで来た猟兵たちはいずれも精鋭揃い。だからこそ、すぐに分かる。目の前の敵はただものではない。
 勘の良い猟兵であれば、僅かにでも隙を見せればやられるのはこちらの方だと察することが出来ただろう。全身全霊を賭して、それでようやく賽を投げられるようになるかどうかという強敵。『オブリビオン・フォーミュラ』の名は伊達ではない、ということだ。
「――詫びねばならぬ。儂は――、お主らのことを、木っ端が寄せ集まった程度にしか考えておらなんだ。だが、お主らは儂の忠臣を悉く撃破し、見事に儂の元までたどり着きおった。見事な腕、見事な進軍、見事な反撃であった。我が敵、『猟兵』よ。褒めて遣わす」
 欲望、そして侵略。彼の行動規範は概ねそこに集約される。全ては我が手の中に収まり、何事も自らの放つ焔の前に晒されるべきだ。影の下でも、陽の元でも、生きとし生けるものたちは我が手の中にあるべきだ、と。もしかしたら、今もそんなことを思っているのだろうか。
 しかし、例えそうだったとしても。
「だが、分かる。ああ、分かるとも。お主らがそうしたように、儂らもそうするしかなかったのよ。お主らが『何かを救う』存在ならば、儂らは『全てを破壊する』存在。そこが食い違っておる以上、お互いもう後には引けぬ。で、あれば――。もはや言葉は不要。意地を張り合うとしようではないか」
 彼は――織田信長は、まごうことなき強敵だ。勝ちの目は少なく、負けの目は多い。厳しい戦いになることは間違いない。
 だが、それでも。そうだったとしても。
「来るが良い、『猟兵』。儂の行いが気に入らないというのなら、止めて見せよ。お主らの全てを駆使して、お主らの思いを刃に変えて――古き『過去』に、挑んで見せるが良い」
 力の多寡など、諦める理由になるものか。そんなもので絶望する筋合いなどない。そもそも、今までだってそんなことばかりであったはずだ。絶体絶命な状況、絶望的な強さの敵。そんなものが君たちの歩みを止めたことは無い。そうだろう?
 行け、猟兵。君たちの欲望を、意志を、思いを、意地を、――力に変えて。

●現の兵、未来の道
「強敵だぜ、コイツは。大物食いだ」
 正純は僅かに笑いながら猟兵たちに状況説明を行っていく。既に配布してある資料は君たちの手の中だ。
「コイツ……織田信長をブチのめせば、それで俺らの勝ちだ。だが、そう簡単に行く話でもないな。敵は皆が戦ってきた強敵、『弥助アレキサンダー』の力を使用してくるらしい。しかも、当然のようにコイツの単純な力量は弥助よりも上だ。倒すには、魔軍将の時と同じ方法だけじゃ足りないだろう。『新しい工夫』くらいは欲しいとこだな。やりにくければ、誰かと組んで出撃するのも良いと思うぜ。効果的な役割分担は、下手な工夫よりも強いことがあるからよ」
 そう、今回の敵は『弥助アレキサンダー』の能力を使用できるうえに、さらに強靭な力を持っているというのだ。倒すのは生半なことではないし、工夫のない作戦ではそもそも敵の先制攻撃を防げずに戦闘不能に陥ってしまうだろう。
「……お前らならやれない敵じゃないさ、そうだろ? 見せてくれよ、お前らの何かに囚われる事のない『自由な発想』を。お前らの『敵に負けない意志の強さ』を。何だか面白いことを言ってるが、それで怯むようなお前らじゃないよな。健闘を祈るぜ。大殊勲を期待してる」
 だが、もはや君たちにこれ以上の説明は必要ないだろう。『強敵である』。『臣下の能力を使う』。『今までの奴らよりも強い』。
 ――それがどうした。
 ならば、猟兵たちが『織田信長よりも強い』ということを、今回の作戦で証明してしまえば良いだけの話。
 そろそろ、エンパイアウォーを締めよう。敵の首魁との戦闘開始だ。賽は振られ、ツボ皿の中に入り込んだ。開けて出てきた目が丁か半かは、君たちの力にかかっている。さあ、――張った張った!


ボンジュール太郎
 お疲れ様です、ぼんのものです。
 いよいよ大詰め、現れたるは織田信長。類まれなる強敵ではございますが、どうか皆様の刃が届きますよう。如何なる手を用いても、彼の敵を打ち滅ぼして頂きたく存じます。何卒宜しくお願い申し上げます。

====================
 第六天魔王『織田信長』は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
 対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
 対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
====================


 ●今回の採用について
 いつもより採用数を絞るかもしれません。具体的には18名様+αくらいの人数だと思います。
 採用については常連様、一見様、団体様、プレイングを投げた速度などなどに関わらず、プレイングの内容のみで判断してやらせて頂きます。

 ●技能について
 『効果的な使用』を書いてくれれば、判定の際に僅かに加点致します。
 それ以外では加点は無しとさせて頂きます。基本的に技能頼りだけでは厳しい、とお考えください。

 ●アドリブについて
 アドリブや絡みを多く書くタイプであることを強く自覚しています。
 アドリブ増し増しを希望の方はプレイングの文頭に「●」を、アドリブ無しを希望の方は「×」を書いていただければその通りに致します。
 無記名の場合はアドリブ普通盛りくらいでお届けします。

 ●判定について
 その時々に応じて工夫が見えたり、そう来たか! と感じた人のプレイングはサイコロを良きように回します。

 ●プレイング再提出について
 私の執筆速度の問題で、皆様に再提出をお願いすることがままあるかと思います。
 時間の関係で流れてしまっても、そのままの内容で頂ければ幸いでございます。

 ※プレイング募集は08/26(月) 08:30~からとさせて頂きます。
 その前に頂いたものは流してしまうと思いますので、その旨よろしくお願いいたします。
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第1章 ボス戦 『第六天魔王『織田信長』弥助装』

POW   :    闘神の独鈷杵による決闘状態
【炎の闘気】が命中した対象を爆破し、更に互いを【炎の鎖】で繋ぐ。
SPD   :    逆賊の十字架による肉体変異
自身の身体部位ひとつを【おぞましく肥大化した不気味な鳥】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    大帝の剣の粉砕によるメガリス破壊効果
自身の装備武器を無数の【大帝の剣型】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:UMEn人

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 魔空安土城に、靄がかかっていた。
 まだ日も出ておらぬ八ツ半の頃である。朝方と呼ぶにもまだ早いこの時間。
 夜の帳が上がり、宵が明ける頃であった。
 祈り、希うにはすこし遅い、曖昧で朧気な時間であった。
 信長に相対して刀と薙刀を構える二人の姿を、沈みゆく月に照らされた夜闇の中で、魔空安土城に飾られた篝火の僅かな明かりだけが見つめていた。
「……ッ」
「…………」
 炎で浮かび上がり風にあおられる三つの影が、天守閣の最上階で揺らめいていた。だが、当の三人はその場からまんじりともせず、ただ武器を構え合うのみである。
 猟兵の二人は、そして信長はよく分かっているのだ。この立ち合い、勝負は均衡が揺らいでから一瞬の間に付くであろうということを。
月舘・夜彦
【華禱】

先制攻撃は視力による武器の種類の確認
見切りにて攻撃方向を予測、残像も併せて躱す
躱し切れないものは武器受けにて受け流す
強敵相手、全てを防げなくとも刀を振るう腕さえ動いてくれれば良い

私は簪、故に炎を耐える術は無い
「それ」が来れば彼は身を挺して庇うだろう
その時、彼を助けてはならない
それは合図なのだ

先制を凌いだ後、または一瞬の隙に繰り出すは抜刀術『神風』
カウンター併せ早業の2回攻撃
その間に何が来ようとも激痛耐性にて痛みを振り切り
一にその黒き鎧を砕き、二にその身を裂く
如何なる武将であろうとも、見えぬ刃までは見切れまい

彼は私の盾
そして、私は彼の刃

彼が命を賭けて守ったからこその好機、逃すつもりは無い


篝・倫太郎
【華禱】
夜彦の盾――
要するにいつも通り、だ

先制攻撃は見切りと残像で回避
回避する事で闘気が夜彦に向かうようなら
敢えて回避せずに受け激痛耐性と火炎耐性で凌ぐ
また、夜彦への先制攻撃も
突き飛ばしてでもかばう事で俺が受け持つ
でなけりゃ盾の意味がねぇ

互いを鎖で繋ぐ、その術があんのは何もてめぇだけじゃねぇんだぜ?

先制攻撃を凌ぐと同時にカウンターで拘束術使用
どうやったって向こうのが強いのは判ってる
こっちが振り回される確率がたけぇのも重々承知

それでも……俺を煩わしいと、一瞬でも感じさせれりゃ上等
その一瞬、ほんの僅かなそれを見逃すような奴じゃねぇ

今日、今ここでの夜彦の一撃
そいつを夜彦一人の一撃だと、ゆめゆめ思うな



●朧月夜のマガツ狩り
「――分かるぞ。お主ら――。『盾と刃』、であるな? 戦乱の世でも、お主らのような手合いはよく見てきたわ。そのいずれも、お主ら程に練られてはおらなんだが」
「――倫太郎殿。やはり」
「ああ。俺もそう思う。迷うはずもねえ。俺がやるのは夜彦の盾――要するに、いつも通り、だ」
 先に動いたのは信長である。四間ほどある間合いを一つの踏み込みのみで縮めてみせた敵は、大きく踏み込んだままの勢いが乗った右手からの薙ぎを二人に放つ。狙っているのだ。こうして剣技の応酬を繰り返しつつ、大技を出す機を。
 だが、一方的にやられる猟兵たちではない。苛烈なまでに激しく操られて襲い来る敵の刃を受けるのは、無明の中でさえ輝く曇り無き刃と、闇の中にあってより朱く舞い踊る焔華を柄拵えに宿した刃の二つの光。
「倫太郎殿、左から右下へ」
「合点承知……っと!」
 信長の薙ぎへ向け、薙刀である華焔刀 [ 凪 ]の斜め上方向への突きにて敵の刃の中程を弾き、刃筋を僅かにずらすのは篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)。僅かに狙いをずらされた敵の薙ぎを、正眼に構えた愛刀の打ち払いにて見事にいなすのは月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)。
 彼らから見て左方向から襲い掛かる薙ぎを、彼ら二人は同時に対処することで流していく。しかし、信長は右下に流された刀を剛力のみで無理やり構えなおし、今度は夜彦と倫太郎のそれぞれへ亜光速の突きを複数放ってみせる。
 間髪入れぬ敵の攻め手を、猟兵の二人は同時に残像を残すような速さで何とか回避していく。突きは速度こそ早いが『点』の攻撃だ。適切に見切れば、半身を動かすのみでも回避は可能である。勿論、それを可能にしているのは彼ら二人に相応の実力があるからこそ。
 だが、信長の侵略の一手は休まることなく彼らを襲う。連続で放たれる振り下ろしを見事に避け続ける夜彦の足が回避行動のために床を離れたところを見れば、信長はその僅かな隙を付いて振り下ろしの形に構えた腕を一瞬のうちに袈裟斬りの形に変じ、右足で大きく踏み込みながら夜彦の命を絶つべく力の籠った一刀を放つ。
 窮地に陥った夜彦を救うのは倫太郎だ。攻撃の手が夜彦に向くことを良しとしない彼は、信長の注意を惹くために敵の胴へと研ぎ澄まされた突きを放つ。並のオブリビオンであれば反応すらできずに貫かれるであろうそれを、しかして信長は危機を察知するや否や夜彦に向けた袈裟斬りの向きを変更することで真っ向から弾いてみせる。仕切り直しの形だ。
「倫太郎殿、助かりました。ありがとうございます」
「だああ、良い良い夜彦、お礼は後で! 息付くヒマもなさそうだぜちくしょうめ! ――来るぞ!」
「やるではないか。……だが、この間合いならば――さァ、死んでもらおうか」
 そう、信長はこの形になることを待っていた。即ち、猟兵たち二人がこちらの攻撃を対処するために固まり、近距離の間合いである、今この瞬間を――。
 顕現、侵略、支配。瞬時に現れ、この空間を一気に制圧して見せるのは二つの空想。ひとつ、信長が全身から放つ炎の闘気。ひとつ、信長の右腕に代わって現れた異形の鳥の頭部。
 二つの異形は、現れるや否や猟兵に向かってその威を示すべく迫っていく。敵の狙いは――範囲攻撃と思わせて倫太郎を構えさせて足を止めつつ、夜彦一人に狙いを集中して一気に撃破することだったらしい。
「懐かしいわ。『盾と刃』を侵略するならば……まずは、そうそう――刃を先に潰すのが良いのだったな」
 信長の狙いは概ね正しい。防御と攻撃にそれぞれ役割を分担したものたちを相手にする場合、攻めるべきはまず『刃』であるのは道理だ。だが、『信長は一つ間違えた』。
 それは、倫太郎という男を侮ったこと。構えを瞬時に解いて夜彦を突き飛ばす彼の反応速度を、彼の痛みと焔に対する耐性を、彼の努力によって持ち得た技能を、彼の『盾としての覚悟』の丈を――見誤ったことだ。
「――『そう来る』と思ってたぜ! 夜彦を先に潰しに来るかもってよ! だが悪いな、そうはいかねえ……!」
「……ほォ? 『盾』から先に死にたいと見える。では――お主から、黄泉比良坂へ送ってやろう」
 『この形』になるのを待っていたのは信長だけではない。『彼ら』もだ。夜彦も、倫太郎も、今この形こそを待っていた。夜彦に向けて放たれる二つの力に対して、倫太郎が一人でそれを受ける、この形こそを。
「っ、……ぐ、あああああああッ!! ……! ……そう簡単に……死ねるかよッ! てめぇの攻撃は、俺が受け持つ! でなけりゃ『盾』の意味がねぇッ!! ――『今だ』! 夜彦ッ!!」
 信長の用いる炎の闘気は、触れた物を全てその熱で焼き焦がし、さらに対象の自由を奪う鎖を結ぶという恐るべき力だ。倫太郎が近距離で信長の攻撃を避けられなかったのも無理のない――いや、否だ。倫太郎は、わざと敵の攻撃を受けている。
 彼は自由を鎖で封じられたまま、更に信長の右腕に現れた鳥の嘴で体を啄まれるという責め苦を、自らの意思で選んだのである。激痛も、火炎も、彼の身体を完膚なきまでに破壊しようとして暴れまわっている。だが、彼は耐えるのだ。何故ならば、それが『盾』の役目だから。だから――倫太郎は、まだ死なない。
「小癪な……。思ったよりも頑丈であるのは認めよう。だが、それまでよ! 今ここで瞬時にお主を殺し、『刃』との一騎打ちにもちこめば――!」
「――彼は私の盾。そして、私は彼の刃。彼が命を賭けて守ったからこその、この一瞬、この好機。逃すつもりは無い」
「ッ、逡巡が全く……! そうか、お主ら――最初から――!」
 信長は左手に持つ炎の鎖で倫太郎の身体を振り回しながら縛り、変形させた右腕部の嘴で未だ死なぬ彼へ攻撃を重ねていく。だが、そのほんの一瞬。針を通すような僅かな隙。砂漠に落ちた金貨が月あかりを受けて輝いたのを、夜彦という『刃』は見逃さなかった。
 夜彦に炎を耐える術は無い。彼は簪の身であるが故だ。だからというべきか、ともかく――。『それ』が来れば、倫太郎は身を挺して自分を庇うだろう。夜彦は、最初からそう考えていた。今この瞬間、彼が両腕を攻撃に使っている信長へ向けて走り寄っていられるのはそのためである。
 そして、彼はこうも思っていた。自分が攻め入るまさにその時、攻撃を受けている『彼』を助けてはならないとも。何故ならば、それは『合図』なのだから。だから、夜彦は倫太郎を見ずに走る。心配はない。ここには信頼がある。だから往く。それだけだ。何のことは無い、シンプルな話だ。
 夜彦が千載一遇の好機に繰り出すは、ユーベルコード【抜刀術『神風』】。先ほどまで鞘に収まっていたはずの夜禱が高速で抜刀へ至り、しかして刃は篝火に照らされてもなお見えない。『見えない斬撃』を飛ばす彼の力が、不可視の一撃を生み出したのである。
「如何なる武将であろうとも、見えぬ刃までは見切れまい――お覚悟」
「ッ、なんのォ!」
 信長の腕の合間に入り込み、カウンター気味に夜彦はまず胴へ順薙ぎを一つ。信長の黒き鎧に傷を入れてみせるではないか。そしてそのまま手首を反転、返す刀でもう一撃の早業たる逆薙ぎを見せる。
 だが、それを易々と受ける敵ではない。信長は一刀を鎧に受けながらも即座に鳥頭の変形を解くことで右腕をいち早く使えるようにし、そのままその手に握った刀で夜彦の逆薙ぎを受けようとした。――だが。だが、だが、だが。それを邪魔する男がいる。
「…………が……ぐ、げほっ……。お、……おい、忘れて……ねえか? ……互いを鎖で繋ぐ、その術があんのは――何も、てめぇだけじゃねぇんだぜ?」
「貴様……!」
 そう、カウンター気味に反撃を試みていたのは夜彦だけの話ではない。倫太郎もだ。彼は正に満身創痍、身体の至る所に火傷を負い、しかも鋭利な嘴で受けた裂傷からなる出血量はただ事ではない。
 だが、それでも。いくら鎖で振り回されかけても、いくら痛みがこの身を支配しようとも、いくら焔がこの身を焼き焦がそうとも――自分が『盾』であるならば、『刃』の攻めこそは何としてでも守らなくてはならぬのだ。
 ユーベルコード、【拘束術】。災いを縛る見えない鎖を放つことで、周囲全ての厄災を縛に収めるその力。それはすでに――信長が自ら結んだ炎の鎖へと、しっかり絡みついていたではないか。そして倫太郎は、全ての厄災を縛り付けるその鎖を決して手放すことは無く。
 ただ、『刃』のためにと――その鎖を、残る力の全てで思い切り引いてみせるのであった。その背中に、『禍狩』の紋章を浮かび上がらせながら、全力で。
 どうやっても、実力的には信長の方が強いのは倫太郎とて最初から判っていた。こちらが振り回される確率が高いことも重々承知であった。それでもその手を離さなかったのは、自分の身を使って敵に『煩わしい』と一瞬でも感じさせれれば良いと、そう思っていたからこそだ。
「――今日、今ここでの夜彦の一撃……。そいつを夜彦一人の一撃だと、ゆめゆめ思うな。あいつは、この一瞬、ほんの僅かなそれを……見逃すような奴じゃねぇ」
「無論。倫太郎殿、礼は後で。織田信長――初太刀、貰い受ける」
「ぐっ……!」
 極まった。倫太郎が引いた鎖は左手を介して信長の体幹を僅かに揺らがせ、その隙を夜彦が見事に突いたのである。敵の鎧を破り、胴へ一文字に描かれた傷口は、信長が無敵の存在ではないことを如実に表していた。
 ――まずは、一本。強敵から、猟兵たちが奪ってみせたのである。
 お手前お見事であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ランゼ・アルヴィン
※アドリブ、連携可

くくっ、織田信長と殺り合えるとは、猟兵やってる甲斐があったってもんだぜ……!

●戦闘
俺様の辞書に「逃げ」の文字は無え!
ま、実のところ事前の情報もらって頭捻ってみたが、どうにもやり過ごす手段が思い浮かばんのでな
最初の一撃は【オーラ防御】と【炎耐性】で受けるぜ

「おっしゃ!まずは俺様から相手してもらうぜ!」
【存在感】【恫喝】で気合入れながらこっちに注意を向ける

ダメージ覚悟で闘気を受けた後、チェーンデスマッチだ
初撃でボロボロになるのを覚悟しつつ、鎖でつながった後はこっちから仕掛ける

俺様の炎とアンタの炎、どっちが熱いか勝負だ

ついでに俺に意識を向けさせりゃ、他の奴らの手助けにもなるだろ


ヴァーリャ・スネシュコヴァ


敵は炎を使う…
俺、確かに炎は苦手だ…真正面でやり合えば、きっと勝ち目はない
なら、騙し討ちで防いでやる!

地面を凍らせ滑りつつ
周囲に冷気を撒き散らす
敵は炎を使う、部屋はかなり暑くなっている
急激に空気が冷やされたことにより、周囲には濃い霧が出る筈!

霧が出て視界が悪くなったなら
【属性攻撃】の応用で人型に見える氷のデコイを作り
俺自身は二段【ジャンプ】で高く飛び、天井へ張り付く

敵がデコイを俺と間違えて攻撃したのなら
その隙は絶対に逃さない
天井から飛び降り
すぐさま『亡き花嫁の嘆き』を敵に叩き込む!

通用するかどうかはわからないけれど…
一か八か、俺の力に賭ける!

骸の海へ帰れ、信長!



●『氷炭相愛』
 音がする。斬り合いの音。踏み込みの音。手の内を握りなおす音。骨がきしんで筋肉が蠢く音。力と力がぶつかり合う音。技と技が鎬を削る音。過去と未来が覇を競う音。
 ここはそういう音に支配されていた。そして、その音が一度止むと、また新たな奏者がやってくる。朝ぼらけ前の清涼たる大気が猟兵たちを包む。爽やかな香りがする。そろそろ朝焼けの匂いがしてくるころだ。この世界の闇が晴れ、今太陽が昇ろうとしているのを――邪魔させてなるものか。
「くくっ、織田信長と殺り合えるとは、猟兵やってる甲斐があったってもんだぜ……! おっしゃ! まずは俺様から相手してもらうぜ!」
「待った、俺も乗らせてもらうぞ! 敵は炎を使う……。俺、確かに炎は苦手だ……。真正面でやり合えば、きっと勝ち目はない! なら――!」
「今度の相手はお主ららしいな? ふむ。……炎に氷、か。面白い。生前はあまり見なかった力であるな。その挑戦、受けようぞ。如何な考えでも良い、全力にてお相手しよう」
 信長はサムライエンパイアに存在するオブリビオンの長である。オブリビオンフォーミュラとはそのような存在だ。そのため、サムライエンパイア世界に存在する力のことなどはよくよく知っていた。
 しかし、目の前に新しく現れた二人の力。それらは、決してサムライエンパイアの力ではない。ここにいる二人の猟兵が持ち得る力は、反対に近い属性を持っている。だが、その二つともは生来の世界とは別のところで練り上げた力である。
 師から受け継いだ黒剣、黒剣ラススヴィエートに『炎』を封じているのはランゼ・アルヴィン(乱世に轟く・f06228)。そして、その身に『氷』の魔力を宿して自在に操ることを得意とするのはヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)。
 別世界にて練り上げられた力の二振りが、信長の目の前に立ちふさがってみせる。全ては、この世界を守るため。互いに面識のない二人であるが、挑む理由だけは同じである。ならば、協力し合うのになんら不都合はありはしなかった。名前を知り合った二人は、真逆にも見える戦法で信長に挑んでいく。炎と氷が手を組んだ。
「俺様の辞書に「逃げ」の文字は無えンでな! 真っ向からお相手頼むぜェ!」
「ランゼが相手をしてくれているうちに――ッ!」
「ほォ。……即興の連携による工夫の積み重ねと見た。どうやら互いに良き作戦を積んできたと見える。――だが!」
 戦場に鳴り響くバトルオーケストラに、新しくランゼが奏でる音が混ざる。彼の気合いの入った咆哮は、恫喝めいた響きを内包しながら信長の意識を惹かんとして戦場に轟いていく。信長の狙いを自分自身に惹きつけ、先制攻撃を真っ向から受けるためである。
 だが、戦場を走る信長が向かったのはランゼの方向ではない。――戦場を縦横無尽に駆け回るヴァーリャの方こそを先に潰すべしとして、信長は研ぎ澄まされた身体能力を利用して超高速の踏み込みを行う。
 その速度は音速もかくやというもの。ユーベルコードは使用していない。これはただの信長の身体能力のみで成し得ている速度だ。トゥーフリ・スネグラチカのスケートブレードと、目の前の足元を即座に凍らせる技術によって高速で戦場を滑るヴァーリャであっても、音速を誇る信長が相手では些か分が悪いというものだ。
「協力して何やら狙っておるのだろう? であれば、まずは後方に控えるお主から黄泉に送ってやろうではないか。――喰らうが良い、これこそは弥助が儂に授けた怨嗟の鎖! いやさこれこそ万物の動きを止めて燃え盛る『炎鎖』よォ!」
「速い……ッ! ……くっ!」
 ランゼを無視して奔る信長は、高速の戦闘移動を行いながらその左手に焔の鎖を顕現させていく。ヴァーリャとの距離を縮めながら放たれるその力は、一度縛り上げる相手を見つけたのならば決して離すことのない縛の焔だ。
 既に信長はヴァーリャを射程圏内に収めている。そしてその力が彼女を捕まえるべく伸びて――、彼女を捉える寸前で、その動きを止めた。
「――オイオイ、無視とは傷付くじゃねェか? こんなにアツいラブコールを送ってるのによ? ヴァーリャ、今の内だぜ! コイツの動きは俺が止めてやらァ!」
「――フ。単純故、か。儂の力は知っておるだろうに……。見事、欲を張らず割り切ってみせたものよな。良いだろう――早々に燃え尽きてくれるなよ?」
 ヴァーリャの危機を寸前で救ったのはランゼであった。実のところ、彼は転送前に事前の情報を貰って頭を捻ってみたのだが、どうにもやり過ごす手段が思い浮かばなかったのだ。信長の手の内を知っても、何一つとして気の利いたような妙案は思い当たらなかった。
 だからこそ――ランゼの出した答えは単純明快。『最初の一撃は何としても受ける』。彼が先制攻撃に対して決めていたのはただそれだけだ。敵の力は強大である。ならば、下手に避けるのも無理に相殺を狙うのも分が悪い事実がある。結果として――ランゼが選んだこの対処方法は、彼にとっての最適解だったといえるだろう。
「助かった……! ありがとう、ランゼ!」
「オウよ、気にすんな! 正面から食らいつくのは、もともと俺様が考えてたことだからよォ! ……っ!! ぐ、う、うおお……! うおおおおおおおあああああああああああ!!」
 信長が左手から放つ鎖を、ランゼは自分の胴体に受けることで止めてみせる。『ダメージ覚悟』。そもそもの話だ。『避けるつもりで当たってしまう』くらいなら、『最初から織り込み済みで受ける方が良い』。これはそういう単純な話だ。
 単純ゆえに強く、単純ゆえに意地が乗り、単純ゆえに泥臭くもあるが――攻撃を喰らっても尚耐え、敵と真っ向から打ち合うならば、ただ一つの最適解であることに違いはない。『耐えることが出来るなら』、という話でもあるのだが。
「……他愛もない。最早立つことも出来まいて。さて、次は――っ?!」
 ランゼの身体は既にボロボロだ。胴体に受けた炎の鎖は、彼の身体を余すところなく燃やし尽くしてみせたのである。すでに皮膚が薄く、火傷の酷い所は炭化しかけている部分すらあるほど。ランゼが受けている激痛は底知れない。
 ――だが、それでも立つ。互いが鎖に繋がれたこの状態は、ランゼにとって好都合。もはやこちらから走り寄る力はない。チェーンデスマッチの形であれば、逃げられることはもはやない。だから剣を振るう。死んでおらず、手は動く。ならば、それで十分だ。
「――………………まてよ……。ッ、……! 俺はまだ死んじゃいねェ……! まだだぜッ!」
「チィ! 僅かだが――、火炎への耐性か――ッ!」
 最早目の前の男は立ち上がれぬと判断し、次はヴァーリャを狙おうとして背を向けた信長をランゼは止める。彼はまだ敵に立ち向かって見せる。どんな強敵であろうとも、意地を張れるなら張ってやるべきだ。『乱世の怪物』が相手だろうと、ランゼの自信は揺るがない。
 小細工なしで腕を振り、真っ正面から振り下ろす形で黒剣を振るう。当然防がれるが、まだだ。意図せず敵の意表を突いた形である。もはや足は動かぬが、焔の鎖はまだ繋がっている。ならばとランゼはそのまま連撃の如くに信長へ斬り込んでいくではないか。
「俺様の炎とアンタの炎、どっちが熱いか勝負だ……! この剣の切り札を見せてやるよ。……闇を照らす暁の光、我はそれを受け継ぐ者! 悪逆一切を焼き祓い、光を衆生に示す者なり!」
「――っ、小癪……ッ! 『付け焼刃』かァ!」
 ランゼが用いる黒剣に封じられていた力が、今信長との鍔迫り合いの最中で目を覚ました。【天照剣舞・我流】。『太陽の炎』を黒剣に灯し、敵の一切を焼き尽くすための力。一子相伝の秘技を、彼が自己流に崩した技。
 突き、払い斬り、引き斬り、返す刀で信長の振るう刀を受け、再度鍔迫る。そしてそうなればこちらの狙い通りだ。信長の掌が熱されて燃えていく。ランゼの放つ太陽の炎が、刃を介して信長へ届いたのだ。
「待たせたな、ランゼ! 準備完了だぞ!」
 その瞬間、後ろから聞こえてきた声で信長が気付く。天守閣に――靄が――否、これは――霧だ。誰が生み出したものであるかなど決まっている。ヴァーリャだ。彼女は戦闘区域の至る所を氷漬けにしながら高速で滑り、周囲に冷気を撒き散らしている。もちろん、わざとだ。この空間で炎を用いる能力者は二人いる。故に、この場に滞留する大気は二つの焔でかなり熱くなっている。
 その『熱された空気』こそを、ヴァーリャは急激に冷やしているのだ。そしてそうなれば、この場にはヴァーリャの思い通り――一寸先が見えないほどの、大量の霧が出現した。
 『ヴァーリャの姿を覆い隠せる』ほどの、大量の霧が。ここまで濃い霧を生み出すには、信長の炎だけではな不可能だったろう。ランゼの炎がここにあったからこそ、ヴァーリャはここまでの斬りを作り出すことができたのだ。
「作戦や良し、息や良し! だが、甘い――! 霧は慣れておるでな――姿形は見えずとも、影が見えておるわッ!」
 しかし、なんということか。信長は霧の中にありつつも、僅かにチラついた背後の影に即座に反応し、ランゼとの斬り合いの中で隙を見つけてはその影に一閃を放ってみせるではないか。
 無惨、信長の背後まで迫った影は研ぎ澄まされた振り下ろしの元に絶たれ――。
「――ッ!! この手応えッ……! よもや!」
 いや、違う。ここまでがヴァーリャの作戦だ。彼女は霧が出て視界が悪くなったその瞬間に、属性攻撃の応用で人型に見える氷のデコイを信長の背後に作成し、自身は二段ジャンプによって高く飛び、天井へ張り付いていたのである。
 ヴァーリャの類稀なる冷気を用いるセンス、そして彼女自身の身体センス。その二つがあってこそ、ようやく完了したこの作戦であるといえるだろう。
「デコイを俺と間違えたな! その隙は絶対に逃さない――ッ! 骸の海へ帰れ、信長!」
「ハハ――ッ! 成る程、面白れぇじゃねえかヴァーリャ! 乗ったァ!」
「――ガハッ!」
 そして信長が策に引っ掛かったのを確認すると、ヴァーリャは即座に天井から飛び降りて――『振り下ろされた信長の刃』を踏みつけ、その上を滑って見せる。そのまま彼女は駆け上がるように刃上を上がり、右足で大きく身体を蹴り上げながら、信長の首元へ左足による回し蹴りを決めてみせた。
 蹴りと冷気の二重奏、【亡き花嫁の嘆き】。通用するかどうかはわからない。それでもと、彼女は一か八か、自分自身の力に賭け――そして、賭けに勝ったのだ。そしてそのままよろけた信長へ、背後からランゼがもう一度炎を纏った一撃を敵の頭部へお見舞いし、信長から『ダウン』を奪う。
 熱と氷のダブルジョパディが、見事に信長の頭部へと複数の手傷を負わせてみせたのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

龍之・彌冶久
呵呵、こうして強者と切り結べるとは
年甲斐もなく心躍る事だな

さて、では真剣勝負だ
何、特段種も仕掛けもありゃあしない
少なくとも真剣に斬り合いをしてくれる限りな

先手は好きにするといい
元より俺は斬るしか能がないからな
お前さんの馬鹿でかい鳥頭を刃で撃ち合って相殺するしかできん
それも先の先を取られるならば喰らうしかあるまいよ

だが生憎
一撃で落ちる程耄碌はしちゃあいない
血飛沫こそ死合の華よ

それより言ったよな
真剣に斬り合いをしてくれと
死に損いの爺と侮って目を逸らしてくれるなよ

さもなくば
刻が五倍遅くなるぞ

そう、そうだ
俺から目を逸らすな
死合え
傾け
刃鳴散らせ
先にどちらかが果てるまで
真剣に斬り合い死合おうじゃあないか!


マルガリタ・トンプソン

やあ、初めまして。今更自己紹介は要らないかな?
君を殺しに来たよ

先制攻撃に対しては距離を取り回避。俺は慎重だからね
勿論、普通に躱させてくれる相手じゃないのは分かってる
回避するのは“振り”だ
相手を引き付けた所で右腕をナイフごと鳥頭に捩じ込んで受ける
【だまし討ち】か【フェイント】ってとこだね
左腕一本動くなら上出来だ

すかさず【怯懦なる一手】による【カウンター】だ
ただ“速く”撃つことだけに特化した力
心臓か、頭か、右腕。当てれるならどこでもいいや
小型拳銃の弾は二発。射程も威力も心許ない。でもこの距離なら十分だろ
たとえ殺せなくとも

やだなぁ、“俺が”殺すとは言ってないだろ
ご覧よ、君を殺したい連中は山ほどいる


花剣・耀子

過去の癖に過去を踏まえて、先を見ようとしてくるのね。
確かにおまえは、大したうつわだわ。

1+1は2なんて、単純なものでもないでしょう。
速度も威力もあたしを凌駕していることは判っているの。
だけれども。
それは口であるが故に、必ずあたしを噛みに来る。

初動から咄嗟に機械剣を振り全加速、
その口に追いついて左腕ごと喉奥まで喰わせましょう。
首だの半身だのよりは安い。
喰い千切られる前に刃を立て鋼糸を張って空間を確保。
逃がさない。
ねえ、2-1は、1残るのよ。

右腕、布を振り解いた残骸剣で一閃。
それを起点として1に9を掛けて9を掛けて9を掛けて、
――計算は苦手なのよ。幾つでも良いわ。
斬り果たせば関係のないことよ。


シャオロン・リー
ハ、剣の百花繚乱ちゅーわけか
ええでええで、喧嘩も戦争も殺し合いでも!華ちゅーもんはあるに越したことあらへんわなぁ!

全部一気に食ろうたら流石にもたへんな、見切ってギリギリまで数調整して槍でいなして
あとは激痛耐性で意識持ってかれへんようにして受けて見せたる
竜が暴れるんは逆鱗撫でられてからて相場が決まっとんねん、一撃食らって、傷も痛みも喰らって俺のモンにしたるわ、宝蓮灯
俺、欲張りやし?そう見えるやろ

信長、お前は魔王かもしれへんけどなぁ…魔王相手に竜が負ける道理はないねんぞ
暴れ竜シャオロン…ここはエンパイアらしく李小龍とでも名乗ったろか、勝負しようや
この槍が牙や、あとはぶっ倒れるまで暴れ倒したろうやん



●百花繚乱ロストタイム
 刃が踊る。複数の光を放つ刃の群れが、天守閣の最上階にてきらりきらりと瞬いていた。
 それはまるで、夜闇に差す僅かな月光を、集めて華へと変じて見せたかのよう。この戦争の大一番、この城の天守閣に誂えたかのようないくつかの『火花』が、各人の技量と手の握りから織りなされて導火線の如く、花束の如くに空間に奔っていく。
「やあ、初めまして。今更自己紹介は要らないかな? 君を殺しに来たよ」
「お気持ちだけ受け取っておくことにしよう。殺し合いの前に名乗りを上げるのも悪くないが、些か時代遅れというものだ」
 この場に『火花』を生み出して彩っている役者の一人がマルガリタ・トンプソン(イン・ユア・ハンド・f06257)である。彼女は自らの獲物であるCharlotteを自在に操ると、敵が放つ『害』を悉く打ち払っていくではないか。
 逆手に構えて切り上げで二つを斬り、順手に持ち替えつつの振り下ろし、横薙ぎで四つを斬る。マルガリタがナイフを振るうたびに、辺りには敵の力が切り裂かれて八つに散り、僅かな月光を受けて瞬いていた。
「ハ、剣の百花繚乱ちゅーわけか! ええでええで、喧嘩も戦争も殺し合いでも! 華ちゅーもんはあるに越したことあらへんわなぁ!」
「栄耀栄華を極めた儂に、華のなんたるかを語るものがおるとは思わなんだ。舞の饗応に礼儀を示そうぞ。髻華の代わりに、お主らの頭に血の徒花を咲かせてみせるとしよう。……お主は、一撃で仕留めるぞ」
 自らの構えていた名刀を『無数の大帝の剣型の花びら』へと変えることで、この戦場にいる猟兵たちを一息に侵略せしめんとするは信長である。敵の放つ花びらは、いずれも小ぶりでありながら切れ味は洗練の一言。
 戦域を舞う剣型の離弁花冠は、一枚でも深くその身に受けてしまえば当たった箇所に多大な手傷を負うことは免れないだろう、と猟兵たちに感じさせるほどの力を宿していた。その花嵐の中にあって、シャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)は喰らえば再起不能になってしまうであろう花びらのみを選定し、その手に握る槍でいなしていくではないか。
 目玉、首筋、心の臓。上腕内側、手首足首、四肢の腱に下肢の動脈。そういった場所を害しようとして空間を迫る無数の花びらを、シャオロンは右掌のみで回した槍を回転させてまとめて薙ぎ、薙ぎの勢いを載せたまま両手で構え直した突きで穿ち、背後に迫る花びらはノールックで手首を返して打ち落とす。花びらの中で戦う彼の姿は、まるで舞っているかのようであった。
「呵呵、こうして強者と切り結べるとは――年甲斐もなく心躍る事だな。――さて、では真剣勝負だ」
「心行くまで楽しむが好い。これは供華。これは散華。儂からお主らへの花生けよ。専好程の腕前とはいかんが、許せ。なにせ花を生けるようになったのは、この身になってからである故な」
 マルガリタが月光の中でステップを踏み、シャオロンが花びらの中で踊り、花吹雪が舞い散るステージで天守閣を往く者共が二人。名を、花剣・耀子(Tempest・f12822)と龍之・彌冶久(斬刃・f17363)と言う。二人が獲物をその手に携えながら道を駆け、信長と刃を合わせているのは、シャオロンが多くの花びらを受けてくれているが故。
 シャオロンが周りの花びらを多く打ち落としているが故に、彼らは自分の身に降りかかる花びらの身を切り落とすのみで信長の前に立てるのだ。チェーンソーが唸りを上げて花を散らし、光刃が刃片に触れて刃鳴を散らす。暴れ龍が道を引き受け、二振りのツルギがひた走る。近距離にさえ寄ってしまえば、武器を失った信長は花びらではなく『あの力』を使うだろうからと読んでのことだ。
「過去の癖に過去を踏まえて、先を見ようとしてくるのね。確かにおまえは、大したうつわだわ」
「お褒めに預かり恐悦至極。尾張のおおうつけと呼ばれた我が身も、ようやく花実を付けたということよ。――真っ向から啄んでくれる。渾身で来たれ。工夫を惜しむな。全てを賭けて挑むことを許す」
 刃を振りかざして進む二人へ信長はそのように言い、『全力で来い』と言いたげな視線を寄越す。『お主らの策に乗ってやる』と顔に書いてある。『儂を舐めるな。弥助を舐めるなよ』と、変形していく二つの腕が呟いた。
 信長の両肩が変化していく。耀子へ向けるは右肩を変化させた『鵜』の嘴。鉤型のそれは、一度彼女の身体を喰らいついたなら決して逃がすことはないだろう。彌冶久へ向けるは左肩を変形させた『鷹』の嘴。鋭く尖った猛禽の武器は、生き物を捕食するために洗練された形をしていた。信長は、まず眼前の二人から始末する腹積もりらしい。
「ハ。先手は好きにするといい。元より俺は斬るしか能がないからな。――どちらを喰わせる?」
「――『あたしの左腕』を。噛みに来るが良いわ、信長。あたしたちを、存分に」
「……考えがあるようだな。分かった。合わせる」
 今にも信長を刃に捉えようとする二人の目は、覚悟の光を湛えていた。自分の身が傷付こうとも良い、という目。耀子も彌冶久も、信長が繰り出す手の内はよく知っている。
 特に今、信長は自分の武装を花びらに変形させている。繰り出してくるのは鳥頭の攻撃である目算が高いことまで、既に彼らは読んでいた。そして、強靭な敵である信長に一太刀入れるためには――我が身可愛さだけでは成り立たぬだろうということも。
「なるほど、良い覚悟をしておるようじゃ。――いや、だが、これは異なことを。勘違いしておるようじゃな。啄む場所を選ぶのは儂よ。お主らではない。即ち――まずは、距離を取っているあ奴からといこう」
 だが、両腕を変化させた信長が次に取った行動は、耀子への攻撃でも、彌冶久への迎撃でもなかった。天守閣の床が抜けるほどの力で一気に踏み込んだ信長は、相当な速さでマルガリタへの強襲を行うべく戦闘移動を開始したのである。
 敵の先制攻撃に対し、マルガリタは距離を十分に取って回避を行おうとしていたらしい。だが、それを見逃す信長ではなかった。『受ける』と決めたつわものは、殺しきるのに時間がかかる。既に別組との猟兵たちの打ち合いにて、信長はよくよくそれを分かっていた。
 だからこそ、優先して殺すべきのは――『受ける』と決めているらしい目の前の二人より、後ろに控え、何かを狙っている猟兵だと、信長はそのように考えたのであろう。
「……そうきたか。ダンス相手を選ぶ目は確からしいね? でも、残念。その両腕じゃ、粋なリードは期待できないな」
「抜かせ。踊ってもらうぞ、猟兵」
 信長の奇策に瞬時に反応できたのは一人だけ。実際に狙われているマルガリタただ一人である。シャオロンも花びらの対処に追われ、信長に今踏み込もうとした二人は再度向きを変えて信長の元に走り寄ろうとするが、間に合わない。
 マルガリタの身体に、二本の嘴が伸びる。回避行動は間に合わない。他の猟兵たちの助けもない。無惨に、慈悲はなく、鋭利な二つの生体武器は――彼女の身体をどこまでも食い荒らしていく。各個撃破こそが猟兵を相手取るのに重要なことであると、信長は気付いたらしかった。
「まずは、一人。……む」
「…………回避しようとしたさ。俺は慎重だからね。現に、アンタも俺は回避行動を取るって思ってくれたろ? ……勿論、アンタが普通に躱させてくれる相手じゃないのは分かってた。だから――狙い通りだよ」
 猟兵たちの狙いと動きを読み、二つの嘴を利用して後方に控えるマルガリタの身体に無数の裂傷を負わせた信長であるが、一つだけ『読み違い』があった。マルガリタの、『作戦』の話だ。
 彼女は確かに信長から距離を取っていた。先制攻撃を回避するためである。だが、実際に信長に襲われてから彼女が行った行動は回避ではない。『受け』だ。
 他の猟兵たちより距離を取っていたのも、花びらの対処で俊敏な動作を見せていたのも、全ては信長に『コイツは攻撃を回避する』と思わせるためのフェイントである。全てはそうするというだけの振りであった。
 鵜の嘴に身体の至る所を噛み付かれながらも、マルガリタは鷹の嘴を自分の右腕と引き換えにして確りと止めていた。『自分の右腕を、鷹の嘴にわざと捻じ込んだ』のだ。
「貴様、……っ!! 受けておったのか! 右腕を犠牲にッ! ふははッ、やるではないか!」
 全ての行動をエサにして、マルガリタは信長を釣ることに成功した。止めることが出来たのは左腕一本だけ。だが、彼女が鷹の嘴を止めることで――必然的に、信長は次の作戦行動を取ることは出来なくなった。というよりも、次の行動を縛られたというべきか。
 この戦場を大きく移動しながら一人ずつを相手取るのは、マルガリタが食らいついているせいで不可能になってしまった。であれば、信長が次にとる行動は『マルガリタを確実に殺す』こと以外にない。何をするにも彼女が邪魔だ。故に殺す。信長が鵜の嘴で次に狙うのは、動きの止まった彼女の首筋だ。
「悪いね。アンタと違って……俺の方は、左腕一本動くなら上出来なのさ。たとえ殺せなくとも……効くよ、こいつは」
「っ!」
 しかし、そこに割り込む『手』があった。彼女の――マルガリタの左手である。無手――否、否である。彼女衣服の袖の中に隠し持っていたのは、掌に収まるほどの小型拳銃であるMariaだ。
 マルガリタが掌にそのまま武器を滑らせて銃口を敵に向けたのと、それに信長が気付いて嘴の動きを速めたのは全く同時。だが――、マルガリタがカウンター気味に繰り出した【怯懦なる一手】は、ただ“速く”撃つことだけに特化した力。『動き出し』ならば、信長の力さえ越える力。
 彼女はトリッガーに指を掛ける。グリップの握りに無駄な力など入っていない。バレルは信長の額へ向き、バレットは今放たれようとしている。小型拳銃の弾は二発。射程も威力も心許ない。だが、この距離なら十分だ。外すことは無い。
 明日の敵へ弾丸を当てることなど――、マルガリタにとってはいつも通りの朝飯前、額面そのままの『Peace of cake』である。どれだけ傷を負っていようと、右腕の傷がどれほど深かろうと、マルガリタが彼女である限り、それは変わらぬ不文律だ。
「……ッ! 見事! だが、笑止である! この信長を、銃の一発で殺せるなど思うな――!」
「やだなぁ、“俺が”殺すとは言ってないだろ? ――後ろをご覧よ、君を殺したい連中は山ほどいる」
 重傷を負いながらも、マルガリタは信長に一撃を喰らわせて見せた。彼女が放った銃弾は敵の額に命中し、その傷からは血が流れだしている。紛れもないダメージだ。そして、マルガリタの攻勢は――おっと、――猟兵たちの攻勢は、まだ続く。
 彼女が工夫によって作り出した隙。そこに走り寄るのは、他の三人の猟兵たち。即ち、シャオロン、耀子、彌冶久の三人だ。一つの工夫は次の工夫を発動させる兆しとなる。そして工夫が複数重なれば、それは戦術となって敵に喰いつく牙となる。今度こそと走り寄る彼らの前に、――もはや花びらはどこにもありはしなかった。
「――――――ッ! ふはははァ! 成る程ッ、これも繋ぎかァ!」
 少しだけ時間の軸を戻そう。信長がマルガリタを襲っていた時の話である。異常なまでの身体能力による光速の踏み込みを見た三人は、即座に踵を返してマルガリタに迫る信長を止めんとして動いていた。
 だが、それを邪魔するのは予め空中に撒かれていた花びらの群れ。勢いの乗った斬り込みの速度を捨て、進路を変えて走る耀子と彌冶久よりも、先に動くことが出来たのはシャオロンである。彼は身体のバネを大きく柔軟に使いながら、ダンスのターンのようにつま先のみで全身の姿勢制御を行いながら奔る。
 ――そして、シャオロンは気付いた。花びらへ込められた殺意が、明らかに自分に降りかかるものだけ異様に重い、ということに。他の二人へ襲い掛かっている花弁は、どちらかと言えば『進路を邪魔』するために大量に置かれたもの、としての意味合いが強い。
 対して、自分への花びらは違う。受ければ致命――。いずれも、受ければ軽くても四肢を切り取られるかいずれ来る失血死、重くて即死という舞い散り方をしている。故に、その全てをいなす以外に対処がない。――読まれているのだ。シャオロンは、傷を負うことで強さを増す、ということを。
「――っ、そういうことかァ! 通りでさっきから俺への花びらだけやたらにキツいなァと思っとんたんや! ……お嬢ちゃん! ちょっと一太刀貸してくれ! 『アンタも丁度良い』やろ!?」
「……成る程。そちらの狙いは何となく分かったわ。……加減は?」
「いらん! ドギツいので頼む! 竜が暴れるんは逆鱗撫でられてからて相場が決まっとんねん、一撃食らって、傷も痛みも喰らって俺のモンにしたるわァ! 俺、欲張りやし? ――いくで嬢ちゃん! 【宝蓮灯】ッ!」
「それじゃ、遠慮なく――いくわよ」
 耀子が構える、UDC『オロチ』を核とするチェーンソー、機械剣《クサナギ》が、彼女の見事な技術によって空間を走る。切り裂くのはシャオロンの顎の下だ。
 ――即ち、彼女は『逆鱗』に触れたのである。そして、いままで無傷のままであったシャオロンのユーベルコード、【宝蓮灯】が発動する。全身を闘志で覆い、受けた心身のダメージに比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得るその力。信長に看破されたその力を、シャオロンがいよいよ発動したのである。
 そして、『逆鱗に触れられた』という事実が――シャオロンの身体能力を、どこまでも向上してみせるではないか。彼は水を得た魚の如く、先ほどの何倍もの力を発揮しながら目の前にある花びらを全て打ち払っていく。槍の長所は攻撃の合間を繋ぎやすいということだ。穂先で突き、柄で叩き、掌の中で持ち直して薙ぎ、縦に回転させながら上空の花びらを墜とし、また構えなおして柄と穂先で道を拓く。
 シャオロンは、目の前に存在する花びらを全て叩き落しながら高速で駆け、猟兵たちの道を作ったのである。だからこそ、三人はマルガリタの作った隙に間に合ったのだ。時間軸は『今』に戻る。
「信長、お前は魔王かもしれへんけどなぁ……魔王相手に竜が負ける道理はないねんぞ。暴れ竜シャオロン……ここはエンパイアらしく李小龍とでも名乗ったろか、勝負しようや。この槍が牙や、あとは――ぶっ倒れるまで暴れ倒したろうやん」
「……くく、上手く載せる! 良いだろう――来い!」
 走り寄る三人の猟兵に対し、信長はマルガリタを喰らっていた嘴と花びらを全て解除し、左腕に刀、右腕に鵜の嘴を有した状態で向き直る。
 ようやく――ここから、真っ向勝負の形になる。
「待たせてくれたな。……さて、では真剣勝負だ。何、特段種も仕掛けもありゃあしない。少なくとも真剣に斬り合いをしてくれる限りな」
 信長が左腕に構えた刀を真っ向から受けて立つのは彌冶久である。彼の振るうひと紡ぎの刃、十束の煌めきは、信長が手に持つ名刀の輝きにも劣らない代物であった。
 敵の放つ袈裟斬りを、彌冶久は真っ向から受けて鍔迫り合いに持ち込み、一つ大きく押し込んだと同時に距離を取って再度踏み込み直しつつの斬り落としを放つ。その攻撃を信長は下段の構えからの斬り上げで防ぎ、そのまま剛力にて彌冶久の剣閃を弾きながら彼の身体へ逆袈裟を振るう。
 剣技は互角。しかし、力で信長が勝るというところか。彌冶久の身体から血が噴き出し、赤い飛沫が天守閣を染めた。
「どうした猟兵! まだまだ終わりではあるまいな!」
「……お見事。だが、生憎と……一撃で落ちる程耄碌はしちゃあいない。血飛沫こそ死合の華よ。――さァ、次が来るぞ」
「ッ、……ハハァ! そうでなければ! 我が鵜の嘴、受けてもらうぞ、猟兵!」
 彌冶久の剣技を全て捌いた信長の至近に迫るのは耀子。しかし、信長とて一人二人で対処法がなくなるような敵ではない。信長は耀子の接近に合わせ、高速で右肩を変化させた鵜の嘴を振りかぶった。
 ――『狙い通り』!
「1+1は2なんて、単純なものでもないでしょう。そちらの実力が、速度も威力もあたしを凌駕していることは判っているの。だけれども。それは口であるが故に、必ずあたしを噛みに来る――そう、思っていたわ」
 そう、『全て』彼らの読み通りである。耀子は最初からそれに狙いを絞っていたのだ。信長が振るう、嘴の一撃こそを。
 そしてそれは彌冶久も同じ。彼は耀子と狙いを同じくしていたからこそ、受け手に考えがあるらしい彼女へ嘴を向けてもらうべく、信長の剣を受けたのだ。
 敵の右腕に憑いた鳥の頭部が動き始めるや否や、耀子はその初動に合わせ、機械剣の補助機構、ヤクモに灯を入れて全加速を行ってみせる。その速度は亜光速で振りかぶられる敵の嘴と同じか、それ以上。そして今――耀子が、敵の嘴を抑えて見せた。彼女の刃が、敵の嘴に追い付いたのである。
「右腕の次は左腕……! 小癪なッ! こちらの動きを止められる前に、食い千切ってくれようぞォ!」
「いいえ。残さず喉奥まで、しっかり喰らってもらいましょう。首だの半身だのよりは安いもの」
 彼女の狙いに気付くや否や、即座に彼女の腕を鵜の嘴で食い破ってしまおうとする信長。鉤状の鋭利な生体武器が耀子の左腕をぎりぎりと噛み砕こうとしていく。
 ――だが、それに目もくれず。耀子は自らの腕が食いちぎられる前に、刃を立てて鋼糸であるヤエガキを張り巡らせ、空間を確保していく。何のための? 決まっている。
 信長を、切り裂くための、だ。
「斬り果たしましょう」
「――ぐッ!」
 耀子が一度刀を振れば、剣閃は信長の纏う鎧を瞬く間に切り裂いていく。ユーベルコード、【《布都御魂》】。現在、彼女の攻撃は九倍の速度で敵を切り刻んでいるのだ。
 本来であればデメリットの存在するこの技も、先程『味方の協力』もあってもはや何不自由することなく使えている。突き、斬り上げ、手首を返しての袈裟斬り。一度刃を戻して、もう一度斬り上げてからの振り下ろし。チェーンソーは重量がある故、縦の動きの方が良く斬れる。
「……! 見事な剣技……! だが、それ以上は――!」
「――なあ、少し。盛り上がっているところ悪いがね……。言ったよな? 真剣に斬り合いをしてくれと。死に損いの爺と侮って、目を逸らしてくれるなよ。さもなくば――刻が五倍遅くなるぞ」
「なッ……!?」
 【双境】。彌冶久の用いるユーベルコードである。その効力は、真剣勝負を楽しんでいないものの行動速度を1/5に変じる、というものだ。自らの対戦相手である彌冶久から目を離した信長に、もはや時間の加護はなくなった。
 いまや――時は、猟兵の味方である。あるいは、最初からそうであったか。
「……これなら、まだ――!」
「乗ったで俺もォ! さァ、さァさァさァさァ!」
「ぐ――ァ――ッ!」
 彌冶久は援護を行いながら信長の刀を横から弾き、更に自身も斬りかかっていく。そこに続くのは、残った右腕に布を振り解いた残骸剣《フツノミタマ》を握りしめ、一閃を放とうとする耀子。
 そして更にその後ろから走り寄るのは、槍を構えて爛々とした赤い目を光らせるシャオロンである。ここに龍脈は通った。彌冶久が斬り拓いた、一筋の光明がここにある。
「――だが――まだ――! 貴様を見、そして貴様を斬れば――時間は、元に戻る――!」
「……悪いね。言ってなかったか――弾はさ、二つあるんだ。そして、動きが鈍い刀を弾くなんてのは――俺にとって、『簡単なことさ』」
 それでもと、五分の一の速度になった世界の中で信長は未だに動きを止めず、彌冶久を斬り捨てて仕切り直そうとして体をよじって刃を振るおうとする。
 だが――それは、倒れたマルガリタが放つ、Mariaの二発目の弾丸が弾いて見せた。がら空きだ。連撃を入れるならば、今しかない――ッ!
「この一閃を起点として、1に9を掛けて9を掛けて9を掛けて、――計算は苦手なのよ。幾つでも良いわ。斬り果たせば関係のないことよ」
「良いこと言うやんお嬢ちゃん! そォら、火花徒花手向けの花、今こそここに乱れ裂きッてなもんや! ――喰らえッ!」
 耀子が放つは九の九乗の斬撃の花嵐〈テンペスト〉。八十飛んで一の八重咲き、いやさこれこそ『八十重裂き』。
 八十一の連撃の後に続くはシャオロンの十八番である、火を噴くような槍の連撃だ。霊剣と火尖鎗とが極まってみれば――、今信長の身に咲きけるは、正に九十九(つくも)の花吹雪。
 そして、信長は――緩やかな時の中で、見た。九十九の斬撃の嵐を越えて、もう一刀を突きたてんとする男の姿を。1+1は常に1よりも大きい。敵がいくら強大な1であろうとも、猟兵たちは自らの持ち得る強みを足すことで――その1を超える数と成る。単純かつ、シンプルな数式だ。
「そう、そうだ。俺から目を逸らすな。死合え。傾け。刃鳴散らせ。先にどちらかが果てるまで――真剣に斬り合い死合おうじゃあないか!」
「――――フハ、フハハハ! やるではないか猟兵! ――やれッ! この信長に、見事に一撃入れてみよッ!」
 九十九に彌冶久の一が加わって、これぞはまさに刃華爛漫。

 百花繚乱、罷り成る。

 四人の猟兵は、それぞれの力を最大限に駆使しながら信長に傷を負わせてみせた。勿論、損害も大きい。だが、それと同様に――信長が受けた手傷も、決して少なくはない。実に――お見事であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と

部下を霊装に変え炎を纏うか信長よ
ならば主従諸共に俺の槍が穿つまで

敵の先制攻撃、炎の闘気は我が友・カガリの盾が防いでくれよう
俺は光弾が止まぬうちに【汗血千里】を発動して【黒華軍靴】でダッシュ
【金月藤門】と【黒華軍装】の迷彩を発揮して光に紛れて特攻を仕掛ける

光弾が尽きる直前に風竜の槍と化した【碧血竜槍】を信長めがけ目にも止まらぬ速さで槍投げ
体勢を立て直す間を与えず高速接近
【魔槍雷帝】で串刺し

敵の攻撃は【泉照焔】で見切り【黒華軍靴】のダッシュとジャンプで回避

カガリの放つ光があまねく照らす黄金の輝きならば、俺の槍が放つ光は闇を切り裂く雷光
友の光を受け継ぎ仕留めてみせるぞ


出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と

弥助本人の方とはやり合ったが…あちらの力に加えて、信長か
うん、うん、それは恐るべき力だろうが…
全く、恐ろしくは無いぞ

【籠絡の鉄柵】を大型化、まるとカガリを囲わせる
闘気と爆破はこれで受け止める(オーラ防御・全力魔法)
鉄柵の【不落の傷跡】が炎も爆発も阻もう
鎖で繋いで何とする、この鉄柵を取り払うくらいはできようが
鉄柵が巻き取られるなら、まると共に鉄柵に捕まり(怪力)信長に迫る
再び炎の闘気(まるへの先制攻撃)をぶつけてくるならば、今度は【駕砲城壁】で返させてもらうぞ
反撃の砲の間に、まるが出てくれよう

城攻めの砲が、遍く照らす光、か
とても、とても、照れてしまうぞ



●ライト・アンド・ライトニング
 信長と猟兵二人は構えたまま全く動かない。――いや、動いた。最初に動いたのは信長である。後方へ一足飛びに退いた敵に数瞬遅れ、猟兵たちも後方へ弾かれたように跳躍して再度間合いを図る。
 仕切り直しの形。『見』の形だ。互いに攻め手受け手を熟慮しつつ、気の応酬によって機を窺っているのである。
「……良いぞ、お主ら。並の使い手であれば、こうまで兆しの手を講じずとも良いのだがな」
「……どうやら、随分と腕に自信があるようで」
「おまけに、随分な負けず嫌いと見たぞ」
 『二人で同時に攻め入る』――いや、敵の実力は本物だ。二人同時にかかったとて、純粋な力だけでは勝ちにまで持っていけぬだろう。
 『隙を見て』――いや、それも不可能だ。相手はどのような場面であっても、自分から勝手に崩れることは無いだろう。敵はそれほどの強敵だ。
 だが、機を窺うだけでは相手を崩せぬのは信長とて同じこと。先ほどから互いが攻めあぐねているのはそれが故である。『個体としての純粋な力と技』では信長に軍配が上がり、『息の合った連携』で猟兵たちは一方的に崩されることを防ぐだろう。
 それをここにいる三人ともが分かっている故、幾百、幾千もの攻め受けの『兆し』のみが虚空を走って消え、先ほど彼らを同時に仕切り直させた。
「くく、それは違う。儂は『極度の』負けず嫌いでな。勝つためならば手段を択ばぬのも、そのためよ。――いくつか攻め受け熟考してみたが――。やはり、これが良いか。出し惜しみはせぬぞ。弥助の焔の前に骸を晒せ、つわものども」
 信長の頭蓋へ槍を構えるはマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)。弥助の剣をすら防いだ盾を構えるは水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)。
 静寂の淵にあった戦場が動く。熱く、激しく、うねりを伴って。二人の猟兵に向け、信長が床板を割るほどの踏み込みで駆け寄りながら、焔の闘気を放つ故だ。
「部下を霊装に変え、炎を纏うか信長よ。ならば主従諸共に俺の槍が穿つまで。――来るぞ、カガリ」
「弥助本人の方とはやり合ったが……あちらの力に加えて、信長か。うん、うん、それは恐るべき力だろうが……しかし、全く、恐ろしくは無いぞ。――分かった、まる」
 信長の速度は異常である。ともすれば音速をすら超える程の駆け寄りは、信長自身の身体能力のみによって成り立っているというのだから恐ろしい。しかし、敵の動きがどれだけ速かろうとも――真っ向から立ち向かうことが出来る男が、ここに一人いた。城門は、敵の速度に関わらずそこにある。
 敵の行動に対していち早くの迎撃態勢を取るのはカガリでった。彼は自らの装備の一つである、『籠絡の鉄柵』を大型化させて、自身とマレークの二人を囲わせていく。堅牢かつ強固な鉄柵が現れれば、いくら信長とて真っ直ぐ駆け寄るだけでは攻撃を与えることは叶うまいとしてのものだ。
「闘気と爆破はこれで受け止める。まる、準備は」
「ああ、既に。ここまでは予想通り……。あとはあちらが乗ってくるかどうかだな」
 鎖を呼び出すために信長が左手から放つ炎の闘気も、巨大な鉄柵が現れれば無視するという訳にもいかない。結果として、信長はまずカガリが設置した鉄柵を引きはがすところから始めていくようであった。
 あちらの放つ炎の闘気を、鉄柵の砦は真っ向から受け止めていく。既に正面から受けている柵の部分は触れぬ程に熱され、敵の力の何たるかを物語っているようであった。しかし鉄柵は溶けず、そして折れず。悪しき災厄、恐るべき脅威を内に入れぬとしているかの如くの遮断の意思は、カガリの『不落の傷跡』による力であろうか。
「くく。……ああ、ここまでは予想通りだとも。お主らの防御は堅牢である。ならば――まずは、この鉄柵を無視するところから始めるべきであろうな」
「まる」
「応とも」
 炎の闘気が鉄柵に阻まれるのを確認した信長が次にとった行動は、巨大化された鉄柵の上を飛び越えるというもの。柵を破るのに時間がかかるなら、その上を飛び越えてしまえば良いという理屈だ。
 だが、それを見て手をこまねくだけの猟兵ではない。マレークは信長の戦闘起動の前兆を掴むや否や、自身の左手に構える『碧血竜槍』を柵を乗り越えようとして跳躍を行う信長に対して放ち、迎撃の態勢を取る形。
 ――しかし。信長は鉄柵を乗り越える寸前、空中でわざと鉄柵を蹴って身を翻す。そしてそのままマレークの槍捌きから身を逃しつつ、その左手の中にある鎖を思い切り引きこんで見せる。敵は『鉄柵を越える』のではなく、『邪魔な鉄柵を空中に取り払った』のである。どうやらそのまま落下しつつ二人を襲う腹積もりだ。
「さあ、これでお主らを守るものは――ッ!? 成る程ッ、ここまで織り込み済みという訳か! 面白い!」
 だが、次の瞬間信長の目に飛び込んできたのは――、二人が慌てる顔ではない。むしろ逆だ。マレークとカガリの二人は、信長が空中で身を翻した時点で予想の的中を確信した。
 即ち、『敵は鉄柵をどこかのタイミングで引っ張るだろう』という予想を、だ。故に二人は信長が鉄柵を引き込んだ瞬間に各々鉄柵に掴まって、信長への距離を縮めてみせたのだ。推進力を得て、空中にいる信長に二人で飛び込んでいく形である。
「うむ。思った通りだ。炎の鎖であれば、鉄柵を取り払うくらいはできようと思ったぞ」
「『乗ってきた』な。頼むぞ、カガリ」
「だがッ! 空中に自ら進むとは愚かなり! お主らにとって、逃げ道はすでに無いと知れ!」
 空中に舞い上がった三者三様の戦陣において、僅かに有利に見えるのは信長である。彼は空中へ鉄柵を引き上げた関係上、上空から二人の猟兵へ攻撃を加える形になるからだ。
 落下エネルギーと引き上げた鉄柵に掴まったことでの推進力は同等程度と見積もっても、やはり武器を振り下ろす方向は肝要である。同等の力を持っていれば、打ち合いに勝つのは十中八九重力を味方につけた側であるのは自明の理であろう。
 それに、既に三人は空中で刃を交える段に入っている。であれば、『回避』は誰の択にも入らない。詰まり、猟兵たちは不利であっても上空から襲い掛かる信長へ真っ向から打ち合うしかない。それは、尋常の使い手ならば死以外に答えのない方程式だ。だが、二人は違う。彼らには――頼るべき、尋常ならざる城壁がある。
「――逃げるだと? 馬鹿を言うな。そんな択は最初からありはしない」
「――これなるは我が砲門。我が外に敵がある限り、砲弾が尽きる事はなし。反撃せよ。砲を撃て。我が外の脅威を駆逐せよ――。【駕砲城壁】」
 再び炎の闘気を左手から放つ信長に対し、空中で迎撃のために動くのは、やはりカガリである。城門は、襲い掛かる災厄を必ず止める。【駕砲城壁】は、自身の行動と引き換えに、敵の攻撃を光弾とし反射する性質へと自分を変じさせるカガリの能力だ。
 彼はマレークの前へと躍り出ながらその身を変え、真っ向から炎の闘気を敢えて全て受けることで反撃とする。彼は敵が放つ全方位への炎の闘気を、折り重なるような光弾の群れへと変えて反撃してみせるではないか。
「ッ、面倒な――! 確かに優れた防御であることは認めよう! だが……些か、攻め手が甘いッ!」
「カガリの守りを褒めてくれるのか? 嬉しいぞ、それは。カガリは攻撃よりも守る方が得意だからな。それに――反撃の砲の間に、まるが出てくれようと信じているから」
 炎の闘気を放ち続けようとした信長であるが、カガリの反撃には攻め手を緩めつつ迎撃の態勢を取るほかに無かった。しかし、やはり敵もさるもの引っ搔くもの。信長は右手に構える愛刀を幾たびも空中で振るうと、カガリの放った光弾を全てその身に受ける前に断ち切っていくではないか。カガリの反撃は敵に届かず――しかして、見事に『敵の視界を奪って』みせた。
 ――そう、最初からカガリはこの反撃を本命としていたわけではない。本命は、今カガリの放った目映い光弾の群れの影に潜み、空中に躍り上がった鉄柵の上を高速で駆ける男である。彼は稲光の如くに速く空中を渡り、そして――自分の手に持った『それ』を、光弾の群れに紛れ込ませながら信長に向けて投擲してみせた。
「ほォ……! 良く練られた連携よ、褒めて遣わす! よもや空中での攻め受けに応じて来るとはなァ!」
「敵の先制攻撃は、我が友、カガリの盾が防いでくれよう――そう信じていたのでな。俺はただ、闇を切り裂くことだけを考えていれば良い」
 【汗血千里】。マレークの用いるその幻想は、自らの揮う槍を緑色の疾風を纏う風竜の槍へと変じ、自身の血と寿命を代償に、自身の射程距離と高速攻撃力、風圧による防御力を強化するという代物だ。
 そこに彼が身に纏う二つの迷彩、そしてカガリの放った光弾の群れによる目くらましが合わされば、マレークが空中にあっても鉄柵を走るようにして宙を駆け、信長の死角より攻撃を加えてみせるのも不可能なことではない。
 彼は左手で『碧血竜槍』を信長の左肩口に向かって投げつけると、そのまま信長に体勢を立て直す間を与えぬよう高速で接近。『黒華軍靴』からなる足さばきを巧みに行い、至近より放たれる信長の刀による薙ぎをすら空中で跳ねることで回避していく。それを許さぬとして振り直された袈裟斬りを止めるのはカガリの光弾だ。
「カガリの放つ光があまねく照らす黄金の輝きならば、俺の槍が放つ光は闇を切り裂く雷光。友の光を受け継ぎ――仕留めてみせるぞ」
「城攻めの砲が、遍く照らす光、か――。とても、とても、照れてしまうぞ」
 二人の連携は信長の攻め手を殺し、そして至近へと至ったマレークが信長の左肩に刺さった碧血竜槍を手掛かりに敵への最後の距離を詰める。
 放つは雷光。稲光。轟く稲妻。カガリの援護を受けながら、空いた懐に入った彼は――その手に構えたもう一本の槍、『魔槍雷帝』で信長の身体を串刺しにしてみせた。
「――ガッ……! ク……くは、くはははは!! 見事じゃ猟兵ッ! もしかすれば――お主らは、本当に、この儂をすら――! だが、まだまだこれからよォ!」
 敵を串刺したマレークは、そのまま空中でカガリへ手を伸ばしながら信長を蹴ることで推進力を得、退却を始めていく。引き際を見誤らぬことが、信長の撃破にも繋がるのだ。
 彼はまだ余裕がある様子。対して、こちらは手の内の多くを見せた形である。だが、それでも――彼ら二人が、信長にまた傷を負わせた。その事実は、紛れもなく彼らの作戦が成功に終わったことを示していた。見事な手際である。二人の息の合った連携が、ここまでの肉薄をみせたのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鸙野・灰二
【絶刀】夕立/f14904
美事な桜が咲く村だッたな。
お前との初陣、果し合い、良い戦の記憶
滅ぼされて堪るか。

先制攻撃二人分、俺が盾になる。
攻撃の軌道を《見切り》、損傷が少なく済む箇所に当て、敢えて鎖で繋がれる。
鳥の方も同じく。援護を受け被害を抑えられれば重畳。痛みは《激痛耐性》で耐える。
夕立の気配が消えたらそれが機だ
俺と信長を繋ぐ鎖、《怪力》で掴んで引き寄せる。
【剣涯撒手】。

後は頼んだと云う心算だッたが 真実、鸙野(しんぞう)を掴まれた。
――貸して呉れるのか。人の生身と、王道の剣。
俺を揮ッて呉れるのか。

――『矢来夕立』、俺の相棒。
我が身宿る刃の切れ味、御覧じろ。
勝つぞ。二人に絶てぬものなど無い。


矢来・夕立
【絶刀】ヒバリさん/f15821
梶本村の果たし合い。アレ、まだ根に持ってますから。
滅ばせたりしない。
…こういうのを『思い出深い』と言うんでしょうね。ガラじゃない、全く。

ヒバリさんの前進を援護。投擲物で攻撃の手を緩めさせる。
鳥の口に爆弾でも放り込めたらイイですね。
打ち合える距離まで行ったら《忍び足》で気配を絶つ。
あとはお一人で頑張ってください。

ウソなんですけどね。

影から駆け抜けざま、『鸙野』を盗る。
だまし討ちも小手先も無し。ただ“斬る”だけ。
捨てた王道の剣だって、揮うのが相棒の心臓なら――
――…アンタにだって負ける気がしないな、信長公。


【神業・絶刀】。
『鸙野』。勝ちましょう。
 二人で、この剣で。



●一切合祭太刀合せ
「ヒバリさん。梶本村の果たし合い。アレ、まだ根に持ってますから」
「美事な桜が咲く村だッたな。お前との初陣、果し合い、良い戦の記憶。覚えているとも」
「……こういうのを『思い出深い』と言うんでしょうね。ガラじゃない、全く」
「意外に思うような気もするが、良いンじゃないか。変じるのだろう、人という生き物は」
「……。――滅ぼさせたり、しない」
「……ああ。――滅ぼされて堪るか」
 それきり、無音である。先ほどまで鳴いていた虫たちの声も今は聞こえず、一転代わってこの空間を静寂が支配していた。金属音はおろか、この場にいる三人の呼吸音すら聞こえてこない。
 それもそのはずだ。一流の使い手は、呼吸をこそ大事にする。息を吸い、吐く。その行いは身体を動かすために必要なものだ。だからこそ、隙が生まれやすい行動でもある。思えば、彼と前に立ったあの場所でもこうしたっけ。
 血腥い戦場の中で一度だけ目を合わせたあの時も、風誘う花吹雪の中で手を合わせたあの時も。いずれも重要であったのは息の使い方だったように思う。相対する相手に自分の動きを悟られないようにするのは、忍びとしては当然のこと。呼気は誰にも気取られてはいけない。自らの動きが、思いが、狙いが、相手に伝わってしまうから。
 矢来・夕立(影・f14904)はゆっくり静かに、大凡三分ほどの時間を使いながら一つの息を吐いている。そして、息を吸う時は素早く、かつ静かに。それが彼の呼吸のやり方であった。
 風。少し弱めに吹いたそれが三人の頬を撫でる。『達人の間合い』。既に猟兵とオブリビオンは一歩踏み込めば互いの獲物の間合いに入る場面にある。懐かしいなと鸙野・灰二(宿り我身・f15821)は思った。このシチュエーションは、過去にもあったことだ。積み重ねてきた過去の砂の一滴、風に吹かれて落ちていく桜のひとひらだ。
「――――――もはや無用であるな。往くぞ」
「ああ、来い。お前のツルギ、『鸙野』が受けて御覧に入れる」
 静寂を破ったのは信長であった。彼の問いかけは灰二に向けられている。既に互いで分かっているのだろう。何と刃を合わせる事になるのかを。
 また沈黙。二拍ほど置き、胎動。試合開始を告げる音は、灰二が天守閣の床板を割るかのごとくに踏み込みを行う音であった。ばきばきと音を立てながら進む彼へ、信長はその動きを読んでいたかのごとくに焔の鎖を舞い散らせる。
 信長へ向けて真正面から迫る灰二へ、燃え盛る鎖が鞭の如くにしなりながら放たれる。そして灰二は――それを、『避ける気は無いようだ』。彼は最初から、信長の先制攻撃を受けて立つつもりでいたのである。自分の攻撃だけではない。夕立の分まで、二人への攻撃を一手に引き受けるつもりだ。
「夕立」
「勿論」
 信長の放つ鎖の速度は尋常ではない。回避は相当に難しい。だからこそ、灰二は攻撃の軌道を見切りながらも欲張らず、自らの左手首の先に当て、敢えて鎖で繋がれることを選択した。
 自信の身体の末端にわざと受けるのは、その方が引き回された時に体全体のブレが少なくて済むからだ。胴に受ければ足腰や体幹で耐えねば全身がブレてしまうが、左手首だけならば引っ張られた際に体全体のブレは少なくなる。――たとえその結果、自らの手首が熱と衝撃でちぎれかけようとも。
「分かっておろうな? 一つではないぞ。超えて見せよ」
「勿論だ。来い」
 信長は見事につないだ鎖を用いて灰二の身体を左腕からおもむろに引っ張り上げ、彼の左手首に尋常ならざる熱と暴力による激痛を与えながら彼を引き寄せる。
 だが、ここまでは灰二も狙い通りだ。左手首の損傷は激しい。絡みついた鎖の剛力にて、自らの尺骨に橈骨は折れてしまったのが分かる。それにこの熱は参った。玉鋼が弱いのは、極まった打撃や斬撃よりもむしろ熱である。それは良くない。早めに極めねば勝機が失せる。
 一度頭の中から左手首のことを置き、信長が左肩を変じさせて生み出した『鴨』のことを考える。敵の肩口に現れた異様は、無機質な目玉でこちらをねめつけ、そして今にも巨大な嘴で自らの右手を狙おうとしている。両手を害することで、こちらの攻撃を邪魔するつもりか。このままでは敵の狙い通り、こちらは両手を失い武器を墜としてしまうだろう。
 ――『しかし、相手の攻撃の妨害を考えていたのはお前だけではないぞ、信長』。
「それではこれにて。ヒバリさん、後はお一人で頑張ってください」
「ほォ、そう来るか――援護と踏み込みによる、戦力の一極集中! しかし、それだけでこの信長の攻め手を破れると思うな――ッ!」
 信長が伸ばした鴨の嘴が狙うは、鎖で引き寄せられていく灰二の右手だ。しかし、実際に鴨が飲み込んで漉すことになったのは――夕立が音もなく忍び寄って、大きく開かれた嘴に投げ入れた式紙・封泉であった。
 夕立という男は影である。忍ぶものである。灰二のように敵の意識を惹くことができる男と組めば、彼はその『足』で残影にも孤影にもなり得る。信長が彼の接近と暗躍、そして再度の隠形に気付いたのは、鴨の嘴が『紙爆弾』をまんまと漉した後であった。
 鳥の頭は口の中に広がる『紙』の味に痛みに苦しむことを余儀なくされ、そこに続こうとするは灰二の放つ否無しの一刀。嘴に一刀を放ち、それを折るつもりだ。
 しかし、それを易々と飲む信長ではない。彼は二名の猟兵の迎撃を受けながらも両腕を動かし、右腕の変化を解除しながら握りなおした刀で灰二の身体に容赦のない痛撃を加えていくではないか。
 それでも倒れようとしない灰二の身体を、焦れたか信長は左手の鎖で更に引き寄せようと試みる。彼にさらなる刀の追撃を喰らわせ、再起不能にするためだ。
「それを待ったぞ。夕立。後は――」
「――皆まで言わないでくださいよ」
「むゥ――ッ!」
 そう、灰二は待っていた。夕立の気配が消えるのを。信長が再度鎖で至近へとこの身を引き寄せるに合わせ、こちらからも右手の力を用いて俺と信長を繋ぐ鎖を引き寄せるのを。
 発動、【剣涯撒手】。灰二の装備であるツルギ、『鸙野』の使用不可を代償に、敵の動きを3秒止め、超強化した味方を戦わせる力だ。ここまでの攻撃は全て灰二が引き受けていた。夕立は未だ無傷――総力を以て挑むことが出来る状態だ。
 『そういえば、泥臭い戦いをするのもあの時と同じか。泥払いまでもう一度とは、まッたく、なんとも。後は頼んだと云う心算だッたが 真実、鸙野(しんぞう)を掴まれた。――貸して呉れるのか。人の生身と、王道の剣。俺を揮ッて呉れるのか』。
「――『鸙野』。勝ちましょう。二人で、この剣で。――行ッてきます」
「――『矢来夕立』、俺の相棒。我が身宿る刃の切れ味、御覧じろ。勝つぞ。二人に絶てぬものなど無い。――行ッてこい」
 信長の剣を受けるのは、鎖で引き寄せられていく灰二ではない。その脇、その陰、その幕間よりぬるりと現れ出でた夕立だ。『ウソである』。灰二が信長の攻撃を受ける前に、彼の右手から『鸙野』を盗むようにして自らの手に握りしめた。信長に斬りかかるは灰二ではない。夕立である。
 最早今、それ以外の装備はない。頼るべくもない。相棒の心臓をこの手に握っている。往くぞ。熱は感じぬ鋼であれど、握りしめれば伝わってくる。相棒の魂が。心の宿る器物の声が。往くぞ。ここには抜き身の刀が二つだけある。
 過去の事件で目を合わせ、過去の仕合で手を合わせ、そして今――二人分の『息が合い』、敵との『太刀合わせ』が成る。相棒になら、自分の呼吸を読まれても良い。虚言嘘吐き暗殺奇襲、ダメ押し一手のだまし討ち。――今回は無しだ。息を合わせて進むなら、たまには王道も悪くない。小手先も無し。ただ“斬る”だけ。さてはて、往くしかあるまいな。
「捨てた王道の剣だって、揮うのが相棒の心臓なら――――……アンタにだって負ける気がしないな、信長公」
「フハ――! これは一本盗られたわ! よもやそう来るとはのう、忍びは全く――! 面白いッ! 真っ向から受けて立つッ!」
 しかし、そのままただ斬られる敵ではない。信長は猟兵たちの作戦に気が付くと、その身に宿る身体能力に任せて無理やりに一度後退のためのバックステップを取り、尋常ならざる脚力によって超高速での戦闘移動を開始した。信長が進むたびにバチバチバチと床板が嘶き、そして信長はさらに加速していく。狙いは超高速機動による、夕立への突きだ。既にその速度は目では追えなくなっている。
 灰二の代わりに『鸙野』を手にし、夕立は信長の姿を眼で捉えることを止めた。敵の動きはもはや見えない。足音だけだ。周りの全ての方向から聞こえる甲高いまでの撃音しか、敵の姿を捉えるしるしはない。
 相棒をその手に、夕立はいずれ来るその時のために呼気を練る。丹田に息を落とし込み、脚力と握りの種にする。構えは柔らかく、真っ直ぐ――。真っ直ぐに構えるなど、いつ振りのことか。
「死ねェッ!」
「こちらの台詞だ」
 神域の刃に絶てぬ物なし。発動するは忍法――いや――人法、【神業・絶刀】。信長の放った光速の突きに対し、夕立はただ構えながら機を合わせて接近を図った。敵が寄り来るのに合わせ、彼は素早く刀を振る。恐れず、弱らず、『まっすぐ目を背けず』。
 接敵は一瞬だ。夕立の踏み込みは異常なまでの力を以て彼を信長の至近にまで至らしめ、相棒を敵の心臓に向けて伸ばすことに成功した。それを成功させるに至ったのは、夕立と灰二の技能によるもの。何と言う早業による串刺しか。そして、なんと――ささいな勇気であろうことか。
「――勝ったな。見事だった」
「――ええ。退却しますよ、ヒバリさん」
 二人が放ったツルギは弱っていた鎧の一部分を見事に突き刺し、そのまま敵の胴へと食いこんでいった。心の臓にまでは達しておらぬが、それでも悪くない戦果と言えるだろう。
 実に見事な立ち合いである。後は次のものに任せるとして彼らは引いていく。語るべきは既に語られた。無駄口は叩かずともいいだろう。後は、一切刃にて。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シリン・カービン

【SPD】

遮蔽物の影を銃を構えながら疾走。
狙撃の様に見せて、実は全力回避。
隠れ場所を破壊されても残骸を盾に
フェイント、残像を駆使して駆けます。

【ピクシー・シューター】を発動。
緩急自在に虚をつく様に猟銃を操りながら、
信長に集中砲火を浴びせます。
全て囮ですが。

見えている攻撃は信長は殆ど弾く筈。
猟銃も次々落とされるでしょう。
では、見えていなければ?

猟銃を全て落とされ万策尽きたが、
それでも諦めず必死の一撃、と言った呈で
銃を構えて信長の攻撃を誘います。
…本気で当てるつもりですけどね。

噛まれている間に室外に猟銃を再召喚。
私の攻撃に集中している信長の背に、
壁越しに一斉射撃を浴びせます。

死中に活あり、です。


クロゥ・クガタチ

信長公と言えば、異国生まれのワシでも知っているビッグネームだ
もっとも、ワシが知っている信長公とは違う世界の別人なのだろうがね
それでも、相見えることができて光栄に思うよ

さて、相手の攻撃を上手く避けることは困難だろう
ならば、あえて攻撃は受けさせてもらおう
ただし、受けるのは実を持った身体では無い
『狂乱の疾風(ネヴァン)』で体を風に変えた上で、その攻撃を受ける

手ごたえの薄さで気づかれてしまうかもしれないが、
一瞬の虚を突くことができれば十分
なにせ「だまし討ち」は得意なものでね
カウンターで一撃入れさせてもらう

卑怯とは言ってくれるなよ
今も昔も命のやり取りに卑怯という言葉はあるまい?



●英雄欺人ハンティング
 時間は進み、暁七ツの頃である。信長は一人で猟兵を相手取り、そして猟兵たちは息を付かせぬ猛攻にて信長に次々と攻め入っていた。
 僅かな手傷でも、として向かっていった猟兵たちの殆どが、信長との戦闘において手傷を負っていく。しかし、猟兵たちばかりが重い傷を負うという状況もそろそろ変わってくる頃だ。
 猟兵たちの活躍の積み重ねにより、信長もようやく戦闘に支障をきたすほどの傷をその身に負うようになってきた。ひっくり返すなら、今こそまさに頃合いというものだろう。
「……さて。信長公と言えば、異国生まれのワシでも知っているビッグネームだ。もっとも、ワシが知っている信長公とは違う世界の別人なのだろうがね。それでも、相見えることができて光栄に思うよ」
 信長とやや離れた場所。昏く染まった影の中から姿を見せるのは、クロゥ・クガタチ(オールドクロウ・f16561)である。信長に向かいあいながら、彼は全く臆することはない。
 クロゥはこうして敵についての所見を述べて見せながら、別世界まで名を轟かせた程の敵の力を見計らっているのだろう。しかし敵の力を読んだとて、感情はおくびにも出さず至ってポーカーフェイスだ。このやり取りだけでも、彼がよくよく経験を積んでいることは察するに余りある。
「別世界のつわものからお褒めの言葉を頂戴するとは思わなんだな。長く世にあり続けたかいがあるというものよ。――では、儂の名前が世に広く知れ渡ったのは何故か……その由でも見せてやるとしよう。そちらのお嬢さんからな」
「ッ」
 そう言いながら信長が駆ける先には、天守閣を支えるいくつかの柱があった。そして信長が見据えるのは、更にその先――柱を遮蔽物として利用しながら、その影の中に潜んでいたシリン・カービン(緑の狩り人・f04146)である。
 彼女はその腕の中に獲物である精霊猟銃を構え、信長を狙撃するべく影の中に佇んでいた。しかし信長に気配を悟られたことに気付くや否や、彼女は一気に柱から柱、影から影へと高速で走りながらも狙撃を敢行しようとして、その銃口を信長へと向けてみせるではないか。
「儂に向かって『狙撃』とはのう。いやはや、善住坊を思い出すわい。しかし――こうして気付いた以上、その狙撃は儂には通じぬぞ」
 言うが早いか、信長はシリンが駆ける速度よりも素早くその足を動かし、同時に左肩を異形へと変じさせていく。巨大な『嘴曲千鳥』のように曲がった嘴と生気を感じさせない瞳を持つその異形は、柱の隙間に器用に嘴を突っ込みながら彼女への攻撃を行っていく。
 それと同時に信長は右腕で刀を振るうと、シリンの進行方向にある柱を切り崩すことで彼女の進路に障害物を撒いてもみせた。だが、ここにいる猟兵はいずれ劣らぬ強者揃い。いくら敵の力が図抜けていようとも、そう簡単に追い詰められるシリンではない。
「……ここまでは、狙い通り……」
 そう、そもそもの話として――シリンが行っていた行動は狙撃ではない。彼女が行っていたのは、最初から『狙撃の振り』である。全ては遮蔽物の影に潜む自分を信長に気付かせて接近させ、遮蔽物をわざと破壊させることで残骸を盾にしながら攻撃を回避する――、という狙いによるものだ。
 詰まり、彼女は最初から全力で回避行動を取るために、今の状況を組み立てていたということだ。進行方向に障害物が大量にふりまかれるなら、むしろそれも好都合。シリンは残像を残す速度でフェイントをかけつつ、襲い掛かる敵の嘴と崩れる柱の中を優れた視力で進路を見切りながら駆けていく。木々の梢のように入り組んだ道を走ることなど、彼女にとってはお手の物。ひとまずこれで敵の攻撃の一手目は潰した形。
 ――だが、まだだ。敵の一手目を避けた以上は、こちらからお返しをするべきである。それが盤上の礼儀というものだ。回避に成功したシリンが、その身に宿した幻想を解き放つ。【ピクシー・シューター】、発動。
「――羽根妖精よ、私に続け」
 シリンの用いたユーベルコードは、自身が装備する精霊猟銃、ないしは精霊猟刀を多数複製し、念力で全てばらばらに操るというもの。彼女は自分の周りの空間へ多数の猟銃を瞬時に発現させると、それらを少しずつタイミングをずらしながら信長の虚を付くような配置で集中砲火を浴びせていく。
 まず放たれるのは左翼からの複数射、そして間を置かずに再度左翼よりもう一射、右翼より複数斉射。それと同時に信長の頭上へ生み出した一本の猟銃から零距離射を一つ、信長の右手首と左肩の嘴を一射ずつ狙うための猟銃を地面すれすれの左右に配置し、順次発射。多くの『線』で信長を囲いつつの一斉射だ。
「狙いや良し。だが、些か甘い――!」
 しかし、シリンが放った射撃へも怯まず信長はまっすぐ進んでいく。まずは自身の右方向よりくる複数射の銃弾を、腰の入った愛刀の右薙ぎで一気に裂いていく。そのまま薙いだ刀を手中に戻しつつ突くことで、最後の一射を真っ向から貫きつつ空間に浮かぶ猟銃の群れさえ散らしていくではないか。
 左方からの複数斉射は左肩に載せた鋭い嘴捌きで銃弾を打ち落としつつ銃の根幹をその嘴で砕き、頭上に現れた猟銃は弾を放たれる前に右手の刀を振り上げることで一刀両断。そのまま振り上げた刀を袈裟に振り下ろして左肩への一撃を止め、自らの右手首を狙った弾は寸前で刀の鍔で受けて見せ、そのまま猟銃を踏みつぶす――敵は、なおもシリンへの距離を詰めていく。次の踏み込みで、信長はシリンの懐へ至り――その嘴で彼女を啄むだろう。
「貴様のような幾つも奥の手を持っている相手は煩わしいものよ。儂はもとより猟師が苦手でな――さァ、死ねィ!」
「――待った。成る程、観察させてもらったが……。そちらの技術からして、攻撃を上手く避けることは困難だろうな。ならば、あえて避けはせずに受けさせてもらおう。女性へ向けられた攻撃を肩代わりして真っ向から受ける――憧れのシチュエーションというものだろう?」
「ふは――、面白いぞ老骨め! 儂の攻撃を真っ向から受けようとはなァ! 良いだろう、猟師の前に老いた烏から葬ってくれる! 鬼柴田のようなとまでは言わぬが――初撃で死なぬよう、心するが良いッ!」
 信長の前に『見える』攻撃は通じない。そして、信長の放つ攻撃はその全てが正確無比だ。シリンが初撃を何とか回避することが出来たのは、彼女なりの工夫があったからというもの。シリン空間に投影した多数の猟銃の全てが粉々になったのを見て、それを感じぬものはこの空間に一人もいなかったことだろう。
 敵は強大だ。だからこそ、下策は捨てるべし。沈黙を保っていたクロゥが下した判断は、複製した全ての猟銃を墜とされたシリンへ襲い掛かる信長の前に立ちふさがること。シリンは万策尽きたという体ではあるが、その手に残った最後の猟銃で必死の一撃を放とうともしている。それが故、信長も彼女を優先して狙いにきたのであろうが――。
 クロゥの行動で、全てが変じようとしていた。風が吹く。シリンとクロゥのそれぞれの狙いが、天守閣に吹き荒れた一陣の風の中で交じり合っていく。突然の強風に目を屡叩かせたのは信長のみ。――さぁ、反撃だ。
「……ッ?! この手応えの薄さ――貴様……ッ! 儂を謀ったなッ!」
 シリンへ向けられた嘴の刺突を、肩代わりする形で受けたクロゥ。その姿かたちが、嘴をその身に受けた途端に消えてしまった。――否。消えたのではない。彼は自分の身を風に変じることで、信長の攻撃を『柳に風』の如くに流したのである。それを可能にしたのが、クロゥの幻想の力、【狂乱の疾風】である。
 そしてクロゥの後ろでは、シリンが彼の背中越しに信長に照準を付けていた。――それだけではない。彼女は、自分でも信長を狙うと同時に、天守閣の城外、信長の死角になる場所へ猟銃を再召喚していくではないか。狩の気配を押し殺した壁越しの一斉射撃――これこそが、シリンの本当の狙いであったのだ。隙を作り出さない限り、見えている攻撃は受けられてしまう。『ならば、見えない攻撃』ではどうか?
「心を揺らすことも出来ないような強者の相手など、真っ向からするわけがないだろう? ――さて。どうやら私たちの考えは似通っていたらしいな。そして私は僅かに攻め手に欠け、そちらは防御に難があった。――互いの『囮』の作戦が、噛み合いそうで良かったよ」
「信長の注意を惹きつつ攻撃を肩代わりしてもらったことへ、心からの感謝を。ありがとうございます。……私が構えるこの一射だけは、囮ではなく――本気で当てるつもりですけどね」
 嘴が『空を切った』ことを手ごたえで察する信長は、即座に嘴を引き直して態勢を整えようとする。しかし、そこを撃ち抜くのはシリンの放つ渾身の一射。スナイパーの如くに狙い済ました一撃が、信長の肩口にある異形の鳥の目玉を貫いた。
 思わず痛みに呻く鳥頭を見て、クロゥの勘が囁く。騙し討ちのごとくの迎撃で一瞬の虚は付いた。そして仲間の一撃がそこに決まり、さらなる隙が今生まれた。で、あれば――。ここはもう一撃、出張った敵の頭を穿つカウンターを放つべきだろう。
「卑怯とは言ってくれるなよ。今も昔も命のやり取りに卑怯という言葉はあるまい? それに――相手の嫌がることをするのが、ヴィランの本懐さ」
「そして、策を幾つも持って獲物を仕留めるのは猟師の本懐なので。『囲み猟』に『罠猟』は私のお手の物ですから。――死中に活あり、です」
 クロゥの放つ悪意を運ぶ不吉の風が、信長の周りを覆って彼を翻弄していく。全ては風。彼が刀と嘴で何を突こうとも、その攻撃がクロゥに届くことは無い。彼は信長の攻撃を風で受けつつ、敵の背後ににじり寄って、足首近くの鎧の隙間へGienahによる鋭い鉤爪を差し込むことで信長の足元を掬う。
 そして、風が吹けば猟師の本領発揮である。シリンが配置した天守閣の周りの猟銃たちが一斉に嘶く。狙いは信長ただ一人。彼女がクロゥに弾丸を当てることは無い。風を読むのは猟師にとって基礎技能である故だ。全ての銃弾は、吸い寄せられるように信長に命中していく――!
「……ぐ……ッ! ――チィ!」
 二人の猟兵が、敵の攻撃を掻い潜って見事に攻撃を加えて見せた。彼らの持ち得た針のような工夫が、互いの協力によって更に大きな武器に変じ、信長を刺すことの叶うナイフに成り得たのである。
 実に見事な風の読みであった。敵を欺くこの展開は、オールドと猟師だからこそ成し得たもの。確かな二人の活躍である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

舞塚・バサラ
●【SPD】
織田前右府信長…
この戦を終わらせる為にも、その御首頂戴しに推参仕った
いざ、罰裁羅の業を執行するで御座る

予め服の袖に両腕は通さず偽物の腕を仕込み、本物の腕と誤認させるように振る舞うで御座る(演技、変装)

後は「相手のUCによる一撃を咄嗟に腕で受けた」と認識させるように偽腕で受けた上で、相手の攻撃範囲と速度と呼吸をしっかりと確認(見切り、第六感、殺意)
間合いを詰めての渾身のUCを以って、その首を頂戴するで御座る(ダッシュ、だまし討ち、部位破壊、早業、クイックドロウ、暗殺)

うまく行かなければ腕を失っての一撃になるで御座ろうが…
些事に御座る(覚悟、激痛耐性)

さらば信長公
最早乱世は無用に御座る


喜羽・紗羅


行くぞ、紗羅
(こっちは毛玉じゃないのね)
――随分と慣れたもんだな
(慣れなきゃとうの昔に、死んでたもの)

初手はどう足掻いても先にやられる
俺が身体を動かす、お前は後の事を考えろ
この戦場の把握、それに全てを注げ
(うん、分かった!)
異形の鳥頭、生命力を喰らうってならこいつを喰らえ!
(それは、私のおやつ!)
これで時間を稼ぐ!

稼ぐ! じゃない!

二人に分かれられれば収集した情報を基に
紗羅が偽装バッグで散弾をぶっ放しながら鳥頭を牽制!
鬼婆娑羅が変形させた薙刀を手に信長へ間を詰める!

戦場がべっこべこになってりゃ儲けモノ
残骸に隠れつつ全速力、フェイントで起こした一太刀目を落として
そのまま鎧ごとぶち抜いてやらぁ!



●婆娑羅懸かり
 先ほどまで魔空安土城にかかっていた霞は、もはやいずこかへと消えてしまった。猟兵と信長の激しい戦いはこの戦域に風を引き起こし、風は嵐となって水滴を吹き飛ばしてしまったのである。
 靄が消えた空が映すのは、薄明かりの中の曙色。仄暗い、暁の刻限である。サムライエンパイアを覆っていた闇が、晴れようとしているのだ。
「織田前右府信長……。この戦を終わらせる為にも、その御首頂戴しに推参仕った。いざ、罰裁羅の業を執行するで御座る」
 ここに立つのはサムライエンパイアにて悪党を仕置する事を生業とする一党、『罰裁羅』の元一員。組織の抜け忍。成敗屋。暗闇の中に潜むもの。『罰裁黒影』。舞塚・バサラ(罰裁黒影・f00034)がその人である。
 バサラは静かに敵の前に立つ。その表情からは、何の感情すらも窺い知ることはできない。辛うじて分かるのは、彼は自らの刃を信長に届かせるためなら手段を択ばぬであろう、ということだけ。
「行くぞ、紗羅――随分と慣れたもんだな」
 彼の隣に立ち、同様に信長へと挑むのは、平凡な街を故郷に持つ元一般人。㐂風剣譚。伐折羅の鬼。一心同体、千緒万端。複数の人格を揮うもの。『鬼婆娑羅』。喜羽・紗羅(伐折羅の鬼・f17665)であった。
 彼女は心の中で自身の別人格である『鬼婆娑羅』へと返事を行っていく。一般人であった彼女は、このように戦闘時に人格をスイッチすることで戦う力を得ているのだ。『今回は毛玉じゃない』『慣れなきゃとうの昔に、死んでいた』。彼女は気付いているのだろうか。戦闘に対して、既に彼女自身の思考も慣れ始めているということに。
「次の相手はお主らか? ……良いぞ、同時に来るが好い。儂は逃げも隠れもせぬ。――往くぞ」
 信長が駆ける。その手には愛刀が握られている。速い。既に間合いは近距離、否、至近へと変じていくではないか。敵が斬りかかるは紗羅である。踏み込みからの正道、振り下ろし一閃。
 瞬時に『鬼婆娑羅』は察する。回避は不可能だ。受けるしかない。しかし、この一撃――受けるのにもつれたならば――。『鬼婆娑羅』は、紗羅の身体を巧み操りながら奇一文字改を信長と鏡合わせに正道に構え、そして襲い掛かる刃の切っ先からそり、刃渡りへと柔らかく流しながら刃をいなしつつ受けていく。今の一太刀で分かる。一つでも間違えば武器を喪っていただろう。敵はそれほどの強敵だ。
「――紗羅! 初手はどう足掻いても先にやられる! 俺が身体を動かす、お前は後の事を考えろ!この戦場の把握、それに全てを注げ――っ」
「押し込むぞ。心せよ――!」
「~~っ!」
 信長は紗羅の受けを見てから鍔迫り合いに持ちんで力で押し、かと思えば一つだけ大きく刃を押し込んで彼女の体勢を崩し、自らは引き胴を放ってみせる。体勢を崩されながらも寸前で立ち戻った紗羅は、その胴に対して手の内に握る刃を上側に構え、やはり受けるのではなく胴を流していく。『鬼婆娑羅』と紗羅の意思疎通すら、この応酬の中では難しい。
 だが、さらに次。敵の構えなおしが早い――。引き胴の次に放たれるのは、瞬時に手首を返しての振り上げだ。紗羅が受けのために横に構えたその獲物へ、峰側から大きく痛打を与えることで割ってやろうという腹積もりらしい。
 そうはいくか。振り上げであれば力勝負もわずかに有利。紗羅は刃を引き戻しながら自らの身体に吸い寄せる形で振り上げへの守りへと刃を変じさせ、今度はこちらから深く鍔迫り合いに持ち込んでは、信長の構える手指に関節を極めようとしてその指を伸ばす。
 しかし、信長もやはりさるもの。彼は紗羅の動きを察するや否や、指を伸ばされた機に乗じて後方へと素早く一つ跳びに距離を開け、仕切り直してから再度踏み込んでくる。いつの間にやら、敵の左肩はすでに異形に変わっている――巨大な顔、生気を感じさせない目、黒く長く尖った嘴――『鴉』の頭部だ。先ほどまでの斬り合いは、全てこのユーベルコードを出す隙を紗羅から引き出すためのものであったのだろう。
「――異形の鳥頭、生命力を喰らうってならこいつを喰らえ! これで時間を稼ぐ!」
「窮したか。本当に防げると思うたか? 鳥頭とは言え――儂の攻撃を、そのようなもので」
 先ほどの応酬で、紗羅は呼吸を既に吐ききってしまっている。これ以上はまずい。かといって距離を取っても追われるだけだ。『鬼婆娑羅』は紗羅に断りなく、懐のグミ型携帯経口補助食品を投げつけることでわずかにでも鳥頭の意識を逸らそうとする。彼女から文句が聞こえてくるが知ったことか。
 ――だが。いくら鳥頭とはいえ、僅かな食物を投げつけられただけでは意識が揺れるはずもなく。信長の左肩に乗り移ったその瞳が見るのは、小さくまばらなグミのかけらではなく、目の前の生命に満ち溢れた対象であることに変わりはなく。信長が放つ鳥の嘴は、無慈悲にも紗羅の身体へと伸び、――そして、寸前で止まる。
「ぐっ……!」
「仲間を庇ったか? しかし、それではお主の腕が振れぬであろうッ!」
 紗羅へと伸びる嘴を寸前で止めたのはバサラである。彼は信長と紗羅の立ち合いに割り込むと、彼女の身体を退かしながら自らの両腕を十字に構えて敵の嘴を受けてみせたのだ。
 鴉の鋭い嘴は、今高速かつ連続で彼の両腕の至る所に裂傷を加えるべく迫り、そして実際にバサラの腕へと嘴を幾たびもぶつけていく。――しかし、この形はバサラの思うつぼ。今彼が攻撃を受けているのは『仕方なし』にではない。『わざと』である。
「ご心配痛み入る。しかし、それは……――どうで御座るかな。受けを間違えていれば、それがしの『本当の腕』は落とされている所であった。しかし、それも済んだこと。些事に御座る」
「――成る程、偽の腕を仕込んでおったか。変装の類――婆娑羅者めが、知恵を回すではないか」
「お褒め頂き恐悦至極。しかし、それがしが欲しいのは言葉ではない故。――その首、頂戴するで御座る」
 そう、バサラは予め服の袖に両腕は通さず偽物の腕を仕込み、本物の腕と誤認させるように振る舞っていたのである。斬り合いに参加せず、ひたすらに『受ける』ことだけを見つめて。
 だからこそ、紗羅が序盤の斬り合いを請け負ってくれたのはバサラにとっては幸運なことであった。適材適所であるというものである。彼女があそこまで耐え忍び、信長のユーベルコードを引き出したからこそ、バサラが今こうしてその攻撃を受けているのだ。
 放置すれば味方が危ういあの形だからこそ、『信長のUCによる一撃を咄嗟に腕で受けた』というバサラの嘘の行動にも説得力が生じたのだ。全ての行動は無駄ではなく、ただひたすら『信長の攻撃を至近でやり過ごした』という状況に繋がっている。故に――反撃は、今。
「――っ、助かった! 感謝する!」
「いやなに、こちらこそに御座る。これよりは二人で攻め入るとしよう」
 バサラが攻撃を受けてくれた隙に、紗羅はユーベルコード【オルタナティブ・ダブル】を用いて、刀を朱塗の鞘と共に薙刀に変じさせた『鬼婆娑羅』と、短機関銃と擲弾銃を仕込んだ偽装スクールバッグを構える『紗羅』の二人に分かれていく。
 理由は単純明快である。『信長の攻撃を工夫無しに一人で受ける』のは不可能だ。ならば、二人分の戦力をぶつければどうか。彼女らは戦闘の最中に収集した情報を基に、紗羅が偽装バッグで的確な位置へ散弾を放ちつつ鳥頭を牽制。『鬼婆娑羅』が変形させた薙刀を手に信長へ間を詰めていく。
「――フ。フハハ、――フハハハハハハハ!! 面白い! 婆娑羅者とはそうでなければのう! 仕込み腕に分身とな! これで――ようやく死合になりそうじゃァ!」
 しかして信長は紗羅とバサラの奇手に驚くこともなく、寧ろ楽しげにしながら真っ向より挑んでくるではないか。それもそのはずだ。
 奇妙奇天烈な手段を好んで用い、戦う敵の意表を突く――それは、第六天の魔王が最も得意とするところである故に。
 奇手は既に出揃った。ならば、後は単純に素力の差である。
「さらば信長公。最早乱世は無用に御座る」
「――来いッッ!」
 鳥頭を押さえるのは、既に分かたれた紗羅。彼女は至近より鴉の目玉へ向けて散弾を放つことで注意を惹きつつ敵の目を潰し、『鬼婆娑羅』とバサラが信長へと踏み込む時間を作って見せた。
 だが、それは信長とて予想済み。彼は右手に構えた愛刀を構えると、紗羅が戦場の残骸を利用してなぎなたを放つ。信長はその一太刀目を打ち落とすべく刃を揮う。だが、それは『鬼婆娑羅』の放ったフェイントだ。――そして、そのフェイントは信長も読んでいた。刃がぶつかり合う寸前で、二人は示し合わせたかのように刃を起こしていく。衝撃。
 真正面からの打ち合いにて、彼ら二人の刃はビタリと止まる。刃を戻そうとする信長であるが、左肩への射撃に『鬼婆娑羅』の踏み込みがそれを許さない。――好機。これ以上ない程の。猟兵の二人が取った方策の数々が功を奏し、信長に手数で上回るに至ったのだ。
「我が一閃は燕の如く――。奔り抜けよ」
「ク――! フハ、お見事よ! 宜しい、お主らの活躍に敬意を表そう! 一撃受けて御覧に入れるッ!」
 【陽術:不知火燕】。バサラの用いるその幻想は、レベル分の1秒で斬撃による焔を纏った衝撃波を発射するというものだ。紗羅の活躍があったればこそ、バサラはこの技を至近より放つことに成功した。
 『Vajra』。金剛石のように硬く、そして鋭いその斬撃が――焔を纏って信長の首を襲う。それに合わせて紗羅と『鬼婆娑羅』も引き、信長から瞬時に距離を取ることでそれ以降の戦闘行動を避けていく。
 引き際を見誤ることなく、そして欲張らず一太刀のみを狙ったバサラ。そして、複数の策と手数を用意した紗羅。この二人がいたからこその、この戦果だ。胸を張るべきである。君たちは、サムライエンパイア最強の敵に一太刀を入れたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
如何な強敵であろうが構わん。
――いざ勝負と参ろうか。

初手は致命傷さえ喰らわねば構わん。
元よりこの数、全て避けることなど不可能であろう。
挑発しながら花弁の中を掻い潜って肉薄する。
最終的に動けさえすれば何でも良い。
心臓部や足、右腕に深く刺さりそうなものは『第六感』で『見切り』、攻撃や意識に支障が出ない傷はどれだけ深かろうが無視してくれよう。
死んでも倒れん『覚悟』だ。この一撃、喰らわせるまで意地でも屈しはせんぞ。

【暗渠の荒野】は負の感情と傷の深さに呼応する。
呪詛より喚んだ剣が敵を穿つまでに、どれくらいの重みになっているのか、見ものだな。

――さァお返しだ。遠慮せずに持っていけ。


鷲生・嵯泉
己が内からの衝動に抗えない
今此の時だけは
護る為の刃でなく、復讐果たす牙と化そう
貴様に、その手下に滅ぼされた祖国の為に

戦闘知識と第六感での判断を以って致命傷だけは避ける様に努める
脚と剣振るう腕さえ残れば、後はどうなろうと構いはせん
激痛耐性と覚悟で痛みは捻じ伏せる
此の身が砕けようとも貴様なんぞの前で膝は屈さんぞ

……此の鎖が貴様の敗因だ
私は逃げられぬのではない、貴様を逃がさんが為の選択をしたのだ
怪力にて鎖を抑え、一気呵成に距離を詰め
鎧無視した捨て身の一撃、全力を乗せて其の素っ首へと叩き込む

此の牙で貴様の存在を咬み砕く為ならば
血肉の総て、命迄も、使えるものは総て使ってくれよう
相討ちと為ろうが構うものか



●踏み込みは払暁へ向かって
 いよいよ先ほどまで僅かに顔を覗かせていた月さえもが沈み、魔空安土城を暁闇の刻が支配していた。七ツ半。宙にはもはや月光すらなく、明かりは魔空安土城に飾られた篝火の僅かな炎だけ。
 二人の男が別の方向より来て影から出でる。夜闇の中から姿を現す故、きっと互いの表情さえ見えていなかったろう。彼らが互いを認識したのは、昏い場所から聞こえてきた声が、良く聞いたことのある声であった故。……といっても、彼らの声色は――ともすれば、それぞれに聞きなれないほど冷たいものであったかもしれないが。
「今此の時だけは――護る為の刃でなく、復讐果たす牙と化そう。貴様に、その手下に滅ぼされた祖国の為に」
「……ふむ。『そうか』。なるほど。――何も言わぬ。過ぎた過去が今更何を言おうとも、貴様の胸には響くまい」
 信長の向かって右手から走り寄り、その手に握りしめる秋水を振るうは鷲生・嵯泉(烈志・f05845)である。彼の表情は、恐らく今まででも類を見ないほどの怒りに満ち溢れていて。――『己が内からの衝動に抗えない』――。その様が、手に取るように分かってしまう。内包されている感情は、怒り、哀愁、諦め、復讐心、郷愁、――渦巻く感情がにじむ彼の顔からは、敵討ちの気配が漂っていた。
 嵯泉が戦う理由を作ったのは、もしかすれば信長ではないのかもしれない。だが、現に――。嘗て、嵯泉には護るべきものがあった。しかし、それらは全て戦火へと喪われ、残されたのは唯、戦う力のみとなった。即ち、己のみが生きて『しまった』のだ。それはサムライエンパイアのオブリビオンの手が綴った、一つの話である。だがそれ故に――、嵯泉が今剣を握るには、十分すぎる理由であった。
「別に、貴様が如何な強敵であろうが構わん。――いざ勝負と参ろうか」
「応とも。いざや来たりて剣を振るえ。そのためにここに来たのであろう。……儂は強いぞ。全霊でかかって来るが良い」
 嵯泉とは鏡合わせに、信長に向かって左側から走るのはニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)。示し合わせたわけではない。二人は互いに面識がある者同士であるが、それでもここに来たのは個々人それぞれの意識によるものだ。
 無意識というプレパラートの中に、彼らにとっての仲間意識というものが挟み込まれていたかどうかは定かではないし、現状況においてはさして重要でもない事柄だ。大事なファクタは、信長を前にして彼らが共闘の形を取っているという、ただその一点のみである。
「デカい理由があるんだろ? 今回はそっちに合わせてやる。死ぬんじゃねえぞ」
「……ああ。お前も死ぬな」
 敵までの距離は、大凡にしてあと五間というところか。異なる立ち位置からなる二人の覚悟は同じものである。即ち、『初手は致命傷さえ避ければどうなろうとも良い』『前へと進む脚に、信長へ斬りかかる腕さえあれば良い』というものだ。
 花びらを全て回避することも、目に見えぬ焔の闘気を避けることも不可能だとして、彼ら二人はただ足を進める。早く、大きく、深く、一歩ずつ床を踏みしめて。最終的に動けばいいという覚悟と、隣を走る男の躍動だけを感じて。
「――意外であるな。真正面からとは、……では、二人纏めて始末してくれる。出し惜しみは無しで行くぞ」
「御託は良い。さっさとやれ」
「同感だ」
 敵まであと四間というところ。地を駆ける二人の一歩が信長の距離を縮めていく頃、信長はその力を解放して二人を迎撃する体制に入った。先制攻撃――幾多の花びらに炎の鎖。一つでも受ければ重傷は避けられぬであろう、信長の用いる幻想の力である。
 しかし、信長の放つ死出の花びらの中を、ニルズヘッグはあろうことか敵への挑発すらもを行いながら奔り、花弁の中を掻い潜って肉薄していくではないか。尋常ではない。何かを支払わなければ出来うべからざる『不可能』だ。
 彼が高速での進軍を行うために支払った代償は、『全身への重傷』であった。既に彼の身体には傷ばかりがついている。そのいずれもが体の深くまで突き刺さり、皮の奥の肉を裂き、筋を割り、骨へと至るような深い傷ばかり。
 心臓部目がけて飛んでくる花びらは僅かに身をよじることで肋骨にて受け、両足へと迫る攻撃のみは赤い剣を振るって弾き落とし、右腕に深く刺さりそうなものは軌道を見切りつつ左腕を盾にすることで無理に受けながらも尚進む。『攻撃や意識に支障が出ない傷はどれだけ深かろうが無視』する、という覚悟と、それを可能にする目の良さに勘の良さがあったればこそ叶う芸当である。
「死んでも倒れん『覚悟』だ。この一撃、喰らわせるまで意地でも屈しはせんぞ」
「……ほォ。意地でもと来たか。生憎と、儂は意地の張り合いで負ける気はせぬでな。――それ、そちらも……趣味の悪いことはせぬ。あの時と同じく、苦しまぬようすぐに殺してやろう。故郷の同胞の後を追うが良い」
「……っ…………貴様……ァ…………!」
 敵までの距離はあと三間。過去を思い出すような物言いをする信長に、嵯泉は自らの歯が割れそうな程の激情を覚えかける。……いや、これはそもそもこの戦場に訪れる前からの――最初から持っていた感情が、発露しただけのことかも知れぬ。
 そうとも。全てはあの時から始まったのだ。時計の針が止まってしまったあの時から。『贈り物』が『預かり物』に代わってしまったあの時から。あの日から、嵯泉の感情は凍り付いてしまったのやも知れぬ。
 ニルズヘッグと同様に、嵯泉が取った戦法は『致命傷だけは避ける様に努める』こと。不思議なまでに似通っていた彼らの戦法であるが、違いは二つ。一つ、ニルズヘッグが見切りで致命を避けていたのに対し、嵯泉は過去の全てから培った戦闘知識を用いて鎖を受けているということ。
 彼の首元を焼き尽くさんとして迫る鎖に対し、嵯泉は右手に構える秋水にて鎖を打ち落とすことで胴へと軌道をずらしてみせた。横に弾くことで躱すのではなく、わざと胴へ受けて見せたのである。肋骨が軋み――折れていくのが分かる。横隔膜と肺の腑も傷付いたのだろう、喉の奥から鉄臭い匂いが漂ってきた。だが――構うものかよ。
「――たとえ此の身が砕けようとも――貴様なんぞの前で膝は屈さんぞ」
「思いだす。あの日、お主の部下たちもそう言っておったわ。これで貴様は逃げられぬ――さァ、疾く死ねィ!」
 あと二間。耐性と覚悟で痛みを捻じ伏せ、鎖をわざと受けたのは、無論嵯泉の作戦の内である。あの日に死んでしまったものたちは、もう先へと進めない。だからこそ、自分だけは先へと進まねばならないのだ。例えこの身が幾ら痛もうと。手段は問うていられない。
「もう黙れ。――此の鎖が貴様の敗因だ。私は逃げられぬのではない、貴様を逃がさんが為の選択をしたのだ」
 一間。最後の距離を詰めたのは、信長と嵯泉の両方であった。信長は瞬時に花びらを右掌の愛刀へと変じさせながら、鎖に繋がれた嵯泉に向けて思い切り踏み込んでいく。
 だが、踏み込むのは彼とて同じこと。左手の怪力にて燃え盛る鎖を無理やりに抑えながら引き合い、自分自身も一気呵成に距離を詰めていく。しかし、不利は否めない。鎖で胴を縛られ、肋と肺を握られている以上、信長よりも嵯泉の方が辛い状況にある。それにも関わらず嵯泉は往くのだ。
 ニルズヘッグと嵯泉で違うところの二つ目は、ここだ。ニルズヘッグはこの戦いで命を落とすことを良しとしていない。だが、嵯泉は命を落としても構わないと思っている。
 『此の牙で貴様の存在を咬み砕く為ならば、血肉の総て、命迄も、使えるものは総て使ってくれよう。相討ちと為ろうが構うものか』。そのように彼は考えている――。

「――死ぬなァ嵯泉ッ!! それは相打ちなんかじゃねェ!! 『過去』に膝を屈しても良いのかよ!! 負けても良いのかよッ!! この――馬鹿野郎ォッ!!」

「ッ!」
 二人の刃がぶつかり合う寸前で、嵯泉の身体が後ろに引かれる。花びらの猛攻に耐えて尚も駆け続けたニルズヘッグが、信長が花びらを刀に戻したことで加速に間に合い、嵯泉の首根っこを思い切り引っ掴んで無理やりその動きを止めたのだ。恐らく――このまま斬り合っていれば、嵯泉は信長に一刀を入れ――そしてそのまま一刀を受け、死んでいたことだろう。
 それが、彼には我慢ならなかったのだ。
「言ったろうが……! お前が未来見られなくなったら、引き摺ってでも前に進んでやるッて! ……『生きろよ、嵯泉』ッ! まだ死ぬなッ! ――【暗渠の荒野】ッ!」
 ――ニルズヘッグの【暗渠の荒野】は、負の感情と傷の深さに呼応する。呪詛より喚んだ剣は、もはや異常なまでに脈打って――嵯泉の胸を縛っていた、『過去より放たれた鎖』をすら、断ってみせる程の力を持っていた。
「――フ。ああ、そうだったな。お前が生きる世界と時間に付き合うのだった。それに――」
「ああ、そうだ! ――まだ、お前と呑みにも行ッてねェ!」
 嵯泉が、過去に何もかもを失ったのは事実である。だが――だからといって、『今』の彼に戦う力だけしか無いということはない。『新しく得た』ものは確かにあるのだ。嵯泉の感情は凍り付いてなどいはしない。そうでなければ、今仲間と踏み込む、前へと進むこの一歩が――何の力によるものか分からないではないか。
 空振りあった先程の打ち合いを経て、嵯泉はもう一度足腰に力を込めて踏み込みをかける。もはや彼らを縛る鎖などはどこにもなく、そして隣には背中を預けるに足る盟友が、心の中には思い出がある。ニルズヘッグには共に在る事を知らしむ焔が、嵯泉には繋ぐ願いがある。過不足ない。万事よし。この一刀を揮うことで、二人揃って前に進むことにしよう。
「礼を言うぞ――ニルズヘッグ! これより、二人で過去を断つ!」
「合わせるぜ、嵯泉! ――さァ、お返しだ。遠慮せずに持っていけッ!」
「……フハ。良いではないか。因縁を断って見せるか――! 面白い! もはや心の揺らぐようなことはあるまいなァ! ……来い!」
 そして、一合。信長の放った袈裟斬りを、嵯泉とニルズヘッグは二人で受け止めて見せる。嵯泉は火傷の跡が痛々しい左手に握る春暁にて敵の刀の切っ先を捉えて防ぎ、ニルズヘッグはpreparaçãoを柔軟に用いて鎬を受ける。見様見真似などではもはやない、二人の太刀筋が合った見事な防御である。
 そして、二合。嵯泉が動きを止めた敵の刀の切っ先を弾いてずらし、ニルズヘッグは空いた敵の懐へ入って強化された一刀を腹に見舞う。信長がよろける――隙が見えた。そこに重ねて踏み込み、右手の秋水にて捨て身の一撃を放つのは嵯泉だ。全力を乗せ、『踏み込みが利いた』彼の攻撃は――信長の首筋を、確かに捉えて深い傷を負わせてみせた。
「チ――だが――見事!」
 犠牲は大きい。だが――成功だ。きっと一人ではできなかったこと。二人だから成し得たこの戦果である。災禍が断たれようとしている。暁の刻が――もうそろそろ、明ける。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

穂結・神楽耶
【啓明】
式島様/f18713、水衛様/f01428

*共通方針
穂結:盾
式島様:妨害
水衛様:攻撃

過去より出でて未来を壊すモノ。
その首魁たるオブリビオン・フォーミュラ。
さあ、骸の海に還る準備はよろしいですか?

剣を飛ばすのでしたら、こちらにも覚えがありますよ。
おいで──【神遊銀朱】。
いつもどうして敵を攻撃しているか、どう工夫すれば剣で敵に攻撃できるか。
その『戦闘知識』を逆利用して『武器受け』、味方を『かばい』ましょう。
とはいえ敵はかの第六天魔王・織田信長。
複製太刀で受けきれないところは自分の体も使うべきですね。

ええ。何せ今回あなたを倒すのは。
呪殺の魔弾と朱雀の炎。
──とくと味わってくださいませ。


水衛・巽
【啓明】
穂結さん(f01612)
式島さん(f18713)

信長公の先手は穂結さんに受けてもらい
式島さんの銃撃後に朱雀凶焔にて全方位から攻撃
視界ゼロの優位を保つため
攻撃時の気配はできるだけ殺しましょう

合意の上とは言え
味方の影になるのはあまり楽しいものではありませんね
穂結さんを信用していないわけではありませんが
第六感・戦闘知識にて方向と大まかな数を予測し
自前で避けられるものは自前で避けましょう

信長公には鎧砕きと鎧無効で装甲の薄い箇所を狙う
本来なら破壊と再生を司る炎のはずだけど
今日はどこまでも破壊と破滅と終局だけでいい

舞台は整いましたよ、信長公
今一度敦盛を舞っていただきます


式島・コガラス
【啓明】
穂結さん・f15297/巽さん・f01428と同行
世界を救う、などという青いことを言うつもりは無いのですが。
同義の言葉ならば今ここで宣言しましょう。
あなたを倒します。

と言っておいてなんですが、私は穂結さんの後ろに隠れます。すみませんが、少しだけ盾をお願いします。
その影から剣の軌道を観察し、その隙間から【奪光魔弾】を放ちます。
この【呪殺弾】は命中した者から視力を奪う。その大帝の剣を飛ばすには「対象の指定」が必須となる……つまり、光を奪われた今の瞬間だけ、その剣はまともに飛ばすことができない!
さて……それでは、最後は巽さんにお願いします。



●分け隔てない、啓明の灯を
 昏い夜。時は既に夜更けを過ぎて朝方に近い。明けの刻である。既に戦闘の余波で天守閣の篝火は消えてしまっている。外を見渡せば、灰色の雲が空にたなびいていた。その雲のさらに上に、何やら光るものがある。
 それは全き暗闇の中にあって猟兵たちを照らしていた。戦火の中で残る希望のように、明日への灯火のように、僅かに存在する勝利への可能性の如く。啓明。遠く離れた空の果てよりの光。金星――『明けの明星』が、彼ら三人の姿をこの戦場に映し出した。
「世界を救う、などという青いことを言うつもりは無いのですが。同義の言葉ならば今ここで宣言しましょう。あなたを倒します」
「このメンバーで信長と見ると、何だか梅雨頃に見た映画を思い出しますね? ……さて。始めましょうか。ふざけた侵略を終わらせましょう」
「過去より出でて未来を壊すモノ。その首魁たるオブリビオン・フォーミュラ。さあ、骸の海に還る準備はよろしいですか?」
「…………さて。どうであろうな。思えば、以前もこうであった気さえするわ。あの時は寺であったが、今回は城。……儂を殺したくば――そうしてみるが好い。『貴様らの方が強ければ』、それが叶うぞ」
 シンプルな話である。既に信長は多くの猟兵たちが与えた傷によって満身創痍。だが、加えられた手傷を踏まえて尚、目の前の敵は強大である。
 そして、互いにもはや引くことは出来ぬ。この戦いの終焉は、どちらかの陣営撃破によってのみ叶うのだから。
「――と言っておいてなんですが、私は穂結さんの後ろに隠れます。すみませんが、少しだけ盾をお願いします」
「敵が動きますね。これから先は打ち合わせ通りに」
「はいはい、了解です。式島様とわたくしが繋いで、水衛様が仕留める形ですね」
 三人は既にこの場に作戦を練ってから現れている。『盾』、『妨害』、『攻撃』の三種揃えの布陣。彼らが属している探偵社の中の人員と比肩しても、彼らの相性は相当に良いといえる。
 その理由はいくつかあるが、最も大きい理由は彼らの戦闘距離にあるだろう。戦闘において、もっとも息を合わせやすいのは近距離でも遠距離でもなく、中距離のバトルレンジである故だ。
 その点で行くと、巽と神楽耶は実に場を整えやすい人員である。彼らの持ち得る札は『種類』が多く、融通が利く故だ。コガラスを軸に回るこの作戦は、彼ら二人の協力があってこそ成り立つ巴懸かりである。
「様々思案を巡らせたと見える――が、さてさて。貴様らの位置には、儂のツルギが良く刺さりそうであるぞ?」
 信長が高速でバトルフィールドを旋回しつつ、自らの武器を変じて放つのは、幾億にも及ぶであろう大帝の剣型の花びらによる攻勢である。敵は生み出した花びらを大気に流して右辺と左辺より来る奔流を作り出すと同時に、自らの旋回によって戦域に生じる花びらの位置をバラけさせながら猟兵たちを襲う。
 三人の作戦は、それぞれが信長に対する行動を決め打ちした上で自信のある力をぶつけるもの。だが、その作戦には『密集陣形』を取らざるを得ないという弱みがあった。神楽耶一人に防御を任せるということはそういうことである。
 信長は戦域を広く使いながら風と大気に花びらを流して猟兵たちを包囲すると同時に、一部の花びらは自分の意のままに操ることで神楽耶にプレッシャーを与えていく。右上、左、左下、真っ向、後方やや右、頭上やや後方、後方斜め左下――。どの方向にも信長の花びらが生じ、彼らを殺そうとして迫りくる。
 だが、――そうされるくらい、神楽耶も織り込み済みだ。そうでなければ、第六天の魔王に対して一人で守勢を行うはずがない。彼女はそれが出来ると踏んだからこそ、この立ち位置に就き、矢面に立っているのだ。
「剣を飛ばすのでしたら、こちらにも覚えがあるということですよ。おいで──【神遊銀朱】」
 穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)がこの時考えていたことはただ一つ。自らの幻想である【神遊銀朱】で、どうやって『味方を守れるか』ということだけである。それ以外はない。自らの身が傷付くのも厭わない。ただ行うべきは、自らの周りにいる二人を守ることだけだ。
 そのために、彼女は『いつもどうして敵を攻撃しているか、どう工夫すれば剣で敵に攻撃できるか』という自分の知識を信長の思考を読むために逆利用し、対策を練るために熟考に至る。
 『花びらを一個一個斬る――』。不可能だ。自らの剣閃はそこまでの速さを有していない。『幾つかが囮である可能性――』。無くはないが、不明瞭だ。それに、信長が囮を用いたとして、敵の狙いの本命がどれか見当が付かない以上、この考えはこれ以上の発展性を持たない。……敵の狙い?
 そこで神楽耶は気付く。恐らく敵の狙いは至極単純だ。こちらを一太刀でどう斬るかではない。恐らく敵は既に戦法を割り切っているのだろう。信長は大雑把なばら撒きでこちらの注意を惹きつつ退路を塞ぎ、そして強力な奔流を幾つも作成することで確かな打撃を与え、こちらを『削り切ろう』としているに過ぎない。彼我の力の差がもたらす、戦術論の違いである。敵はあくまで一太刀で済ませずとも好いからだ。
 敵の狙いに気付いたのであれば、後は簡単だ。『複数方向からの単純かつ大量な斬撃を全て防ぐ』手を考えればいい。最も話はシンプルである。『──ひとが、幸福でありますように』。それ以外に、自らが考えるべきことなどない。
「――――成る程ッ! クカカッ、面白いではないか!」
「ええ、そちらの花びらの全ては防げないことを悟りましたからね。何せ今回あなたを倒すのは。呪殺の魔弾と朱雀の炎。──とくと味わってくださいませ」
 神楽耶が取った方策は、花びら一つ一つに対するものではない。逆だ。彼女は天守閣の最上階、その天井へと幻想の力の源を向ける。そもそもの話として、結ノ太刀を向けることが出来るのは一方向のみである。ならば、やはりこれしかない。
 『天守閣の屋根を破り、瓦礫を生み出して花びらを全て墜とす』。彼女が取った作戦はこれである。神楽耶が放つ複製の刃たちは、いとも容易く城の南側、屋根の半分を破り――そして、生み出された瓦礫の群れが、戦域全体に降りしきっては花びらを墜としていく。
 彼女はそうして屋根を落とした後、コガラスと巽に降りかかる瓦礫のみを自らの手に握る刀を振るって排除していく。『自分の身に降りかかる瓦礫』にはお構いなしに、である。三人分へ降りかかる瓦礫の排除を行わぬのは、一人では三人分の瓦礫に手が回らぬ故。それから、必然的に――神楽耶にとって優先順位が最も下であるのは、自らの身を守ることである故だ。だが――。
「――水臭いですよ、穂結さん。もっとこちらも頼ってくださいな。守りをあなただけに任せるのは、些か心苦しいと思っていたところです」
「――フハハッ! 儂への目くらましも兼ねているのだろうが――まだ甘い! そォら、まだ手があるのだろうに!」
 人を守るのは神楽耶の役目。そして、仲間を守るのは他の二人の役目であることなど、もはや言うまでもないことだ。彼女が二人へ降りかかる瓦礫を排除するのと同時に、巽もその手に握りしめる脇差、鵺喚で神楽耶の頭上にある瓦礫を悉く打ち払っていく。
 個で戦うオブリビオンと猟兵たちとで決定的に異なるのはここだ。『協力』。全てを独りで行わねばならぬ信長に対し、猟兵たちは全ての行動を分担することも出来れば、同時に取り掛かることだってできるのだ。信長はどうやっても味方に頼れぬ。味方に頼ることが出来るのは――隣に立つ者がいる、『猟兵の専売特許』である故に。
 屋根が空いて、三人の猟兵の頭上に啓明が煌めいているのが見える。――反撃の時だ。
「巽さんの言う通りです。協力していかねば、目の前の敵に勝つのは難しい。穂結さんの力も必要なんです。勝ちましょう。三人で、力を合わせて」
「……ふふ。敵はかの第六天魔王・織田信長。複製太刀で受けきれない攻撃を防ぐためならば、自分の体も使うべき――と考えていましたが、そうですね。三人分の力を出し切らねば、そもそも勝てぬ相手でありました。――ええ、勝ちましょう。三人で」
 濛々と立ち上る瓦礫が巻き上げた土埃の中から、三人の猟兵が姿を現す。神楽耶一人を矢面に立たせていた先ほどとは布陣が違い、彼らは横並びに立って信長へと相対している。それぞれの手に握られた獲物が、暁闇の中で信長を鈍く睨んでいた。
 神楽耶の防御策は敵の放った花びらを落とし、その上で目くらましの役割も果たしていた。故にこそ、巽とコガラスもこのタイミングで信長に武器を向けることが出来たのである。
「この隙を逃す手はありません。失礼」
「させるかァッ!」
 土埃と瓦礫の影から現状この空間に残っている花びらの軌道を観察し、その隙間から魔銃アプスーによる射撃を行うのは式島・コガラス(呪いの魔銃・f18713)。彼女の用いる銃は、一日に六発しか弾を撃つことの出来ない代物である。さらに言えば、六発目は必ず自らの元に跳ね返るため、実質的に撃てるのはたったの五発。
 だが、五発で十分な状況は既に神楽耶が作り出してくれた。多くを打ち落とされたことで数を減らした花びらに、大きく破壊されて脆くなっている屋根。十分すぎるシチュエーションだ。コガラスはまずその手に構えた銃から二発の魔弾を連続で放っていく。
 一発目は、信長が再度巻き上げようとした花びらを全て撃ち落とす『跳弾』する魔弾。一の魔弾は剣の花びらに幾度も跳ね返りながら、信長の手元にあるそれら殆どを打ち落としていく。これで花びらによる攻めは一手潰した形。
 二発目は、信長への射線上にいまだ漂う花びらの群れを一気に排除するため、柱の根元を『破壊』する魔弾。壁撃ちに柱落としは既に学んだシチュエーションだ。故に、魔弾は正確な弾道を描いて柱を害し、根元から倒れさせることで一気に射線を通してみせた。――今だ。
「チィッ!」
「――魔弾は光を喰らう。呪いの弾よ、闇を率いよ――。早撃ちは得意なんです。外しません」
 三発目の魔弾が放たれた。気付いた信長が舌打ちをするが、もはや遅い。【奪光魔弾】。コガラスが今放った呪殺弾は、命中した者から視力を奪う力を有している。『大帝の剣を飛ばすには「対象の指定」が必須となる』……つまり、光を奪われた今の瞬間だけ、その剣はまともに飛ばすことができない。
 それが分かっていたからこそ、コガラスは信長から視界を――否、光を奪う魔弾を決め弾として持っていたのである。彼女の構える魔銃アプスーは正確に信長の方を向き、――BLAM! 『放たれた魔弾は、狙い通りの場所を射抜く』もの。コガラスの呪殺の弾丸は、確かに信長を害し――そして、敵から視力を奪ってみせたのだ。
「――グッ――! 面妖な術を――ッ!」
「これで、こちらの役割は完了ですね。さて……それでは、最後は巽さんにお願いします」
「ええ、お任せください。――『焼き尽くせ、朱雀』」
 そして、二人の協力を得て最後に構えるのは水衛・巽(鬼祓・f01428)である。彼はコガラスの銃撃が確かに敵から視界を奪ったことを確認すると、その手に力を集めていく。最後の締めは、朱雀の凶焔こそが相応しい。
 【朱雀凶焔】。巽の実力分だけの朱雀の焔を一気に生み出し、そのそれぞれを自在に操ることのできる幻想の力。巽は敵が視界を封じられている優位を保つため、攻撃時の気配はできるだけ殺しながら、かつ迅速に盤上へ焔を配置していく。狙いは、一気呵成の全包囲攻撃だ。――だが。
「甘いッ! 先の見えない無明の闇など――儂にとっては慣れたもの! 弥助の力が使えぬであれば、暗闇の中で自らの力を行使するまでよッ!」
 しかし、信長は止まらない。確かにコガラスの狙い通り、視界を潰されたことで信長はツルギの花びらを操る権能を喪った。しかし、それでも敵は止まらぬのだ。
 無明の闇の中にあっても、敵は僅かに聞こえる音を頼りに、花びらから戻った愛刀を握りしめて猟兵へと駆けていく。――それも、凄まじい速度で、だ。まさに、恐るべき敵であるといえるだろう。
「そこかァッ!」
「水衛様、わたくしたちが止めるうちに――!」
「大丈夫です。――巽さんの術式が完了するまでの時間くらいは稼げます」
 そして高速で放たれるのは、剛力を伴った信長の薙ぎである。確かな軌道を描くその攻撃は、よもや信長が視界を失っているとは思えないほどの切れ味を誇って猟兵たちを襲う。
 しかし、それを受け止めるのは神楽耶の結ノ太刀。彼女が真っ向から信長の放つ薙ぎを下段の構えで止めてみせれば、その陰から信長に向かって反撃の魔弾を放つのはコガラスである。
 だが、信長は自らの薙ぎを受け止められたことによる手首への振動と、発砲音が轟いたことから現状を正しく認識すると、刃を合わせた神楽耶を力任せに降り払いながら、コガラスの放つ魔弾をその刀で一刀両断せしめる実力を見せつけた。戦況は猟兵たちにとって優勢とは言えない――が、それで良い。二つの手が敵を止められれば、空いた手が生まれる。そうなれば、空いた手は必ず状況を打開する一手を放てるからだ。
「お待たせしました、お二人とも。ありがとうございます。――舞台は整いましたよ、信長公。今一度、敦盛を舞っていただきます」
 全ての準備は整った。コガラスと神楽耶が信長の攻撃を凌ぐうちに、巽はこの戦域の全方位へと朱雀の炎を配置し終わったのである。それぞれの炎の狙いは、耳、目玉、口、喉、脇下、腕の内側、手首足首、内もも、ひざ裏、足先などの装甲の薄い箇所である。
 二人が時間を稼いでくれたからこそ整ったこの術式。巽の持つ精緻な陰陽の腕があればこそできる芸当だ。
「本来なら破壊と再生を司る炎のはずだけど、今日はどこまでも破壊と破滅と終局だけでいい――燃えろ、信長。過去をなぞれ」
「……フ、面白い! だが、儂は諦めぬのが信条でなァ!」
 そして、巽はその手を振り下ろす。彼のコントロール下に置かれた炎の群れは、時にまっすぐ飛び、時にジグザグと飛び、時に緩やかなカーブを描いて飛び、時にフェイントの如くな弾道を描いて飛び――信長の意識をかく乱しつつ、飛来する音でその弾道を読まれないように放たれる。
 それを喰らうまいとして信長は最後のあがきの如くに刀を振り回そうとするが、それを止めるのは――当然、巽以外の二人の役目だ。
「させません」
「無粋ですよ」
 コガラスが五発目の魔弾で信長の刀を弾き、神楽耶が踏み込みつつ信長の左腕へ一太刀入れることで痛撃を与えつつ、さらなる隙を作って見せる。
 この勝負――猟兵の、勝ちだ。
「――ぐ……!! ガ、ァ、ァァァ、アアアアアアア!!」
 信長は全身に朱雀の焔を受け、身体中に火傷を――いや、火傷と呼ぶには生ぬるいほどの痛手を被っていく。
 既に敵の左目は呪殺と焔で焼け落ちた。その身体はもはや傷付いていない箇所の方が少ないだろう。今までの猟兵たちが与えてきた打撃を、確かな結果にて彼らが顕在化させるに至ったのだ。止めの時は――近い。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
●【アサルト】

先制攻撃は2人に任せる
──UC起動

2人が先制攻撃を凌いだら、前に出る
【ダッシュ】【見切り】【早業】【第六感】で攻撃を回避、あるいは【武器受け】で逸らす
俺の攻撃は【フェイント】を混ぜ、プログラムの光で【目潰し】
【迷彩】で時折消えることで攻撃を読ませない

戦いは全身を使って行え
目線、音、動き──すべてが読み合いだとアイツは言った
手段を選ぶな、お利口さんになるな
札は全て使え──アイツが気づかせてくれた

大振りの攻撃に合わせて【カウンター】を狙う
【捨て身の一撃】──だが生存を放棄しない
【武器落とし】を噛ませてから、首を貫く

これが、アイツがくれた破魔の力だ
俺は──全てを背負って、この戦争に勝つ


ネグル・ギュネス
【アサルト】
強襲部隊、始動
この戦にピリオドを打つぞ!

【勝利導く黄金の眼】を事前に起動
敵の僅か1秒先でも、覚悟をすれば受け、耐えられる!

敵の先制攻撃は、【迷彩】クロークを纏い、目を欺く
【残像】を使用し、多重影分身じみた策略と、【武器受け】で攻撃を凌ぐ
刀と脇差の【二回攻撃】や、刀を振るって【衝撃波】を放って、徹底的に邪魔をし続ける

私独りじゃ防ぎ切れはしない
だが、匡もいれば、不可能は可能に、ゼロはイチにもニにもなる
先読み箇所は、私の動きで読んでくれる、アイツなら───

アイツらなら、可能だ
それが私、いや俺達アサルトの力だ!

生きるんだ、勝つんだ、帰るんだ!
俺たちゃ、絶対に!過去には負けたりしねぇんだ!


鳴宮・匡

◆アサルト

お前が「勝たせたい」って言ったんだ
自分の手でケリをつけな、ヴィクティム
その為の道は作ってやる

戦場に入る前から【六識の針】で眼球・視神経変異
動体視力を極限まで特化しておく

相手の動きを変異強化した「眼」で【見切り】
ネグルの未来予測から導き出される敵の攻撃軌道を
「今」の情報で補正し回避の精確性を高める
ネグルとは別方向から相手へ狙撃を重ねて勢いを削ぎ
誰が狙われるにしろ十分に回避の隙が生まれるように

ヴィクティムが前へ出たら【援護射撃】主体に
攻撃動作の際に起点となる場所を削るなど
とにかく相手を自由に動かさない
今の「眼」なら捉え切れるはずだ

お前の初めての我侭だ、通させてやるよ
――全力でやってこい



● CODE:ASSAULT
 東雲の頃である。朝月夜を経て、どこかの林で鳴く虫の音色がここまでも聞こえてくる。今時分の季節柄のことを思えば、まつむしの鳴き声で相違ないだろう。彼らが焦りだした様に明け方ごろに大合唱を行うのも、夏が終わりを迎えようとしていることの証である。
 夏が過ぎ、そして秋が訪れようとしているのだ。だが、目の前の男を放置すれば――この世界に、秋は二度と訪れることなく滅ぶ。そうはさせぬ。終わりと始まりがあってこそ、生命というものに価値が生まれるのだから。生命の全ては変じ、惹かれ合うもの。敵がその営みを断ち、不変を望むというのなら――よもや『手加減』はいらないな。
「お前が『勝たせたい』って言ったんだ。自分の手でケリをつけな、ヴィクティム。その為の道は『俺たち』が作ってやる」
「オーライ。あァ、オーライだ。神に誓ってオーライだとも。やるぜ、ベイビー。フラットライン狙いの、月までブッ飛ぶ『Rock 'n' Roll』だ。始めようぜ、ダンサーズ」
「無論だ。サルサを申し込むための招待状は用意してある。丁度今から、そいつをあちら様に投げつけるとこだよ。――『強襲部隊、始動』! この戦にピリオドを打つぞ!」
 この戦場に集まった三人の猟兵たちは、誰が呼んだか【アサルト】と呼称されるチームである。様々な戦場に現れ、鮮やかに敵へ強襲――そして一撃を決めることから、彼らの名は徐々に各世界で広く知れ渡るようになっていった。
 ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)。鳴宮・匡(凪の海・f01612)。ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)。先ほどの攻防で屋根が落ち、東の空の切れ間に顔をのぞかせる朝日だけが、彼らの姿を照らしている。彼らの共通点は少なく、得意とする戦法も殆ど異なるものだ。だが、それが良い。それぞれ異なる長所を持つ彼らだからこそ、一丸となって動くときは――きっと、何物にも負けぬ力を発揮するのだ。
「……――クハ、ハハ、ハハハ。滾るわい。小洒落た招待状ではないか。儂は『片目』故――そちらの足を踏むかもしれぬが――許せよッ!」
 信長が自らの左肩を異形へと変じさせていく。現れるのは双頭の『狗鷲』。一つの頭に四つの目、二つの鋭利な嘴をもつその異形へと、ネグルは自らの幻想である【勝利導く黄金の眼】を、そして匡は自らの武器である【六識の針】をそれぞれ発動させ、敵の攻撃を迎え撃つべく前に出る。
 三つの獲物を自らの武器に、信長はネグルと匡に踊るように襲いかかっていく。敵の攻撃はひどく苛烈であった。二つの嘴が独立して猟兵を襲い、信長も自ら右手の愛刀を振るっていくのだから、ともすれば負傷しているにも拘らず今までの戦闘行動と比肩しても劣らぬ猛攻といえるだろう。――だが。
「お前は強いよ。ああ、それは私にも良く分かる。現に私の近未来予測も、お前の行動の一秒先しか予測できていない。――だが! 読めるのが僅か1秒先でも、覚悟をすれば受け、耐えられる!」
 超高速演算により近未来予測することで、対象の攻撃を予想し、回避する。それがネグルの用いる幻想の正体である。だからこそ、この戦況において敵の実力を最も正しく認識していたのはネグルであったのやもしれない。
 信長の力は今までの敵と比べても圧倒的。具体的に言えば、『繰り出す攻撃に隙がなく、かつ予備動作が非常に短い』のだ。今もこうして未来を読んでいるからこそ分かる――。一秒後の信長が繰り出す攻撃の鋭さを。『狗鷲』の嘴が放つ四度の突きに、右手の刀による右薙ぎと左斬り上げの異常なまでの素早さを。恐るべしは、この攻撃のフルセットは全て一秒間の合間に行われているということだ。
 そして、一秒が経過する。ネグルは自らの体へ襲いかかる嘴の突きを、多重影分身じみた分身を残すほどの地走りで三度避け、一発は迷彩のクロークで鳥目を欺いてみせることで回避していく。ドープなタンゴもかくやというステップだ。そしてそのまま自らも太刀を振るい、信長の右薙ぎへ全く同じ剣閃を描くことで真っ向から大きく弾き合い、鏡合わせに左斬り上げを放つことでまたもや攻撃を凌いでいく。ぎぃん、ぎぃんという金属音が、剛力のぶつかり合いを伝えていた。
 アサルトの三人の中でも、信長の剣と真っ向からぶつかり合えるのはエースであるところの彼しかいない。真っ向勝負を挑むことが出来るネグルの力があるからこそ、それを恃みに他の二人が策を作り出せるのだ。
「……ふうッ!」
「やるではないか、上手く踊るものだ! それでは拍子を上げていくとしよう!」
 信長のリードに、ネグルは自らの未来予知でステップを合わせて踊っていく。袈裟切り、逆風、身を反転させての左薙ぎ、手首を反転させての右薙ぎ、退き斬りからの突き。信長の放つ全ての攻撃に、彼は鏡合わせに全く同じ行動をとることで力を上手く弾きながら受けるのだ。
 だが、刀を打ち合わせていくネグルの右半身へ延びる影。二本の『狗鷲』の嘴である。当然ではあるが、未来を読んでいるからと言ってネグルが反応できる攻撃は決して多くない。回避困難な信長の攻撃を打ち合って止めているだけでも殊勲ものの活躍である。だから、――その嘴を止めるのは、彼の役目。そんなことは、きっとこの場の誰もが分かっていたことだ。
「ネグル、これだけ教えろ。どっちの形だ?」
「最終的に『右と左』。……ッ、私が左を」
「了解。サンキュな」
 匡の用いる武器の一つ、【六識の針】。それは自らの有する感覚機能の一つを、限界(リミット)以上に特化(オーバー)させるもの。『見る間に』匡の戦場からは匂いが消え、その口から味気は失せていく。
 眼球・視神経を変異させ、動体視力を極限まで特化したが故の『意識的な』代償だ。全ての感覚を強化すれば、自らの脳はその過負荷に耐えられない。後の反動もきつくなる。だからこそ、匡は自分の感覚から切れる物だけを選んで切っていく。触覚と聴覚は必要だ。戦働きを立てるなら目敏く耳敏く、そして手足を動かさねばならぬ。
 彼の眼は、先ほどの信長が振るい、ネグルが受けた一合をハッキリと鮮明に捉えていた。凝縮された時間をその瞳で味わって、匡は敵の動きとネグルの動きからそれぞれの思惑を『垣間見る』。ネグルの未来予測から導き出される敵の攻撃軌道を、その眼だけで読み解くためである。
 匡はネグルの行動が示した一つの方向に思い至ると、思考の舵を切り替える。ネグルが自らに望む行動は即ち、『嘴への迎撃』であることに気付いた故だ。
「……」
 そうと分かれば、匡が取る方策はいたってシンプルなものになる。相手の動き――即ち今回は双頭の『狗鷲』の行動を変異強化した『眼』で見切り、そしてネグルへ放たれる攻撃を自らの行動で止めること。
 匡には未来など読めない。だが、信頼出来る友の思いならば読める。それくらいの事が可能になるほど、アサルトの『付き合いは長い』のだ。
 彼はネグルの後方から大きく右に回って角度を付け、そこから信長の左肩、双頭の『狗鷲』の目玉へ向けて四つ狙撃を重ねて勢いを削いでみせるではないか。目玉を潰された鳥の頭は痛みに呻き、そしてネグルへの突きはバラバラな方向へと流れていく。対して強化された視覚を有する匡は、自らの視界から何も取りこぼすことはない。
「ふむ……練られておるな。良く良く練られておる。面白いやり方よ。儂だけではなく、味方を見ることで反撃を可能にするとはのう……。存分に死合えそうであるなァ!」
「お前に褒められても嬉しくないぜ。……踊りに集中しろよ。お前にはお相手がいるだろう」
 信長の動き、それに対抗するネグルの動き、鳥頭の動き――その全てを複動的に観察し、相棒の動きから未来予想の思考を読むことが叶うなら、あとこちらが行うのは適切な場所に弾丸を置くだけの作業だ。魔法ではない。幻想ではない。『何も特別ではないこと』の積み重ねで、匡はネグルへの攻撃の一つ一つを的確に潰していく。
 味方と敵の動きを俯瞰的に見て、自らの動きをパーツのように組み込んで仲間の狙いを確たる形にする。アサルトの中でも最も他の二人の動きを熟知し、バランサーズ・ジョーカー足り得る彼だからこそ取ることの叶う、攻防一体の妨害の一手と言えるだろう。
「匡ッ!」
「大丈夫だ、もうそのつもりでいる」
 信長が次に行う行動は、大きく跳躍しながら仕切り直すと同時に崩れた屋根を宙返りながらの蹴りでさらに崩し、落ちる瓦礫を生み出してその中に紛れつつの降下強襲である。重力と位置エネルギー、そして瓦礫の目晦ましを利用して放たれる敵の鋭い振りおろし一閃は、恐らくネグルだけの力でも受けられぬほどの研ぎ澄まされていた。
 だからこそ、『アサルトは即座に意図を伝達して事に当たる』。ネグルが匡を呼んだのも、匡がネグルに応えたのも、全ては『二人で受ける』という目標に向けての一応の確認でしかない。なぜならば、彼らが口を開いたその時には――二人ともが、互いのベストな行動を信じた作戦行動に入っていたからである。
 未来を読むことが叶うネグルは、先ほどの打ち合いから空中からの一合に向け、即座に脳を切り替えて足腰を柔軟に保って跳躍する。複数の応酬を受けるならば腰は入っていた方がいいが、一撃を受けるだけならば、むしろ流す、いなすといった対処行動がとれるように体幹を柔らかく保つべきなのだ。そして匡はその眼で空中に舞いあがった信長の行動を全て見ていた。落ちる瓦礫、土ほこり、信長のツルギ、彼の欠けた左目。その全てを、彼は見た。
「だろうと思っていた! ありがとう! ――アイツに繋ぐぞ!」
 匡はすぐさま向かって信長の右側に移動しつつ、自らの武装より鉛の弾丸を放つ。タタン、タタン、タタン。三つの規則正しい音が鳴れば、時間を置かずに金属音が、同じ間隔で聞こえてくる。匡の放った弾丸の全てが、信長の刃を捉えてみせた音だ。折るまではいかぬ。だが、その攻撃を鈍らせることはできた。
 そして信長の一撃を受けるために空へと駆けたネグルが、周りに落ちてくる瓦礫をすら足場にしてピンボールの玉の如くに空中を跳ね、信長の一撃を払い、更に反撃とばかりに返す刀で斬りかかって敵を地へと落してみせる。匡の助けが、ネグルの行動の価値を十全に、いやそれ以上に引き出している形である。
 ネグル独りじゃ防ぎ切れはしなかったろう。匡だけでは対処できないはずだった。だが、『アサルト』ならば――不可能は可能に、振られた賽の目は零から一にも二にもなる。それがアサルトの力なのだから。掛け合う力は足し算よりも大きく、強大になってしかるべきだ。上がりは賽の目の倍々だぜ、タリホー。
「……ッ! ……、クク、やるものよ! だが、これで――!」
「シット。ファッキン・ホーリー・シットだぜ。ジーザス・クライストもおまけで付けてやる。悪いな、お前にもう次はないんだ。祈れよ、マンデイン。出来るだけシリアスなツラで、可能な限り女々しくな。そうすりゃきっと――。骸の海で、誰かが浮き輪を投げてくれる事だろうよ」
「遅いっつーの」
「全くだ」
 彼が動く。『アサルト』のトリックスターが前に出る。ヴィクティムという男は、アサルトの中では基本的に後方に立つことが多い男である。練り上げた技術と使い慣れたサイバネによるハッキングを得意とする彼は、基本的に二人の支援を行うことがほとんどであった。
 だが、今回は違う。彼はネグルと匡が瓦礫の渦の中に信長を叩き落としたのを見ると、前に走り――至近距離にて信長を捉えるではないか。そんな彼に向けて土埃の中から放たれるのは、受け身を取りながら着地したのであろう信長の鋭い突きである。しかして彼はそれを『あらかじめ見ていた』かのような勘の冴えで見切って避け、更に繰り出される双つの嘴の乱撃へは、『未来を読んだ』かのように正確なナイフ裁きでその全てを真っ向から受けていく。
 嘴の突きにはナイフの突きを、殴打には柄での殴打を、信長の放つ刃の袈裟切りへは寸前で敵の右目へプログラムの光を放つことで剣閃を鈍らせて躱し、そのまま至近距離にて逆手に構えたナイフの連続攻撃を信長へと叩き込んでいく。一つ一つは痛手でもないが、それらの斬撃は重なることで更に冴えを増し、より鋭く、より早く、より正確でより力強いものへと変じていく。ヴィクティムは時折フェイントを混ぜつつ攻め、信長の放つ迎撃の前兆を予知するや否や、剣の軌道を敵の肉体の動きを視ることで読み、迷彩を利用しながら敵の死角である右側に廻りこんではまた連撃を重ねていく。
 ヴィクティムはまるで『彼ら』の如くに戦う。彼の脳裏に浮かぶのは二つの事。『戦いは全身を使って行え』。目線、音、動き──すべてが読み合いだと、アイツが言ったことだ。『手段を選ぶな、お利口さんになるな。札は全て使え』──アイツが俺に気づかせてくれたことだ。
 【I'm not alone】。重い代償を受けながらも、結界霊符を武器に巻き付け破魔の力を与え、近接戦闘能力を極限まで研ぎ澄ますトランス状態に移行、勝利に喰らいつく獣の如く意志を宿し超強化する力である。この力は、きっと彼一人のコードではない。アイツがくれたもの、アイツらが教えてくれたもの。その全部使って、敵を出し抜くためのもの。故に、このチカラは――きっと、『コード・アサルト』と呼ぶべき代物なのだろう。
「――良い動きだ。それに……儂を焦らせようとしているのであろう? ……ふ。面白い! チマチマ有利を取る戦いはもう止めじゃァ! 乗ったぞ、小童! 儂のツルギ、『全員』で受けて見せよォ!」
「受けてやるさ。こちとら手札のフルオープン。元より受けるしかねえってなァ!」
「ああ、やれ。今のお前なら、可能だ。お前が放つその一撃が――、俺達アサルトの力だ! 生きるんだ、勝つんだ、帰るんだ! 俺たちゃ、絶対に! 過去には負けたりしねぇんだ!」
「お前の初めての我侭だ、通させてやるよ――全力でやってこい」
 最後の幕は、匡のBR-646C"Resonance"が口火を切ることで始まった。いよいよ焦れて大上段に刃を構える信長へ、右側に回り込んだ彼は援護射撃の如くに鉛玉を撃ち込んでいく。最後の最後、この攻撃こそ信長の真骨頂であると考えての初動の早さである。
 右ひじ、右手首、右手の小指と親指、残った右目。その全てに匡は鉛玉のフルセットを放っていく。バースト射撃で放たれる彼のチカラは――しかし、寸前で信長の視線と剣気の前に防がれる。敵なりの『オーラ防御』だ。だが、それでも彼は攻撃をやめない。自らの役目は、とにかく相手を自由に動かさない事だと知っているからこそ。今の『眼』なら捉え切れるとして、彼は僅かにでも仲間の有利を作るために力を注ぐ。
 だが、信長もやはり著しい強敵である。敵は匡の射撃を受けながらもその腕と左肩の嘴を振るい、目の前にいるヴィクティムに向けて高速の刃を放ってみせた。それを止めるべく黒刀『咲雷』を揮うのがネグルである。彼は信長の左肩にある嘴を出来るだけいなしながら刃を滑らせて刃の深くで受け、そして嘴の動きを止めて見せる。
 『右と左』からの仲間の助力を受け、そして、ヴィクテイムの振るう高度学習機能搭載型生体ナイフ『エクス・マキナ・カリバーンVer.2』と、信長の振るう一刀が煌めいた。勝負は一瞬。彼は真っ向から受けるのではなく、信長の大振りの攻撃に合わせて更に至近へ飛び込み、カウンターを狙う。捨て身ではない。生存を放棄しない。捨て鉢では足りぬのだ。勝負に勝ち、生を望みながらも死地に自らの身を浸す。その心構えこそ、災厄を祓う破魔の力と知るが良い。
「これが、アイツがくれた破魔の力だ。俺は──全てを背負って、この戦争に勝つ。お前に勝つ、俺たちの名前は――」
「……見事――! チーム『アサルト』よ……、良き一太刀、良くぞ見せた! 見事……だ……!!」
 結界霊符を巻き付けたヴィクティムのナイフは、戦闘ごとに学習を重ねる生体ナイフだ。だからこそ――今放った彼の一撃には、ヴィクティムを思う人々の力の全てが込められていたのだろう。教えを活かせ。想いを刻め。これはプログラムなんかじゃない。俺と、アイツらの力だから。
 彼の一撃は信長の刃を見事に弾き――そして、逆手の突きが信長の首に深々と刺さった。お見事である。これでもう――信長は、長く生きられぬであろう。三人の猟兵は、敵に致命を与えるに至ったのである。あとは――トドメを刺すだけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月凪・ハルマ
ここまで来たら、問答は無用だな
じゃ、始めよう

◆SPD
敵の先制に対し、【武器改造】で手裏剣に爆破機能を付与
それを【投擲】して敵の勢いを削ぐ

それで足りなければ、更に破砕錨・天墜を変異箇所に叩き込み
勢いを殺した上で【見切り】【残像】、周囲の遮蔽物を利用して
回避を試みる

攻撃を凌いだら上記の改造手裏剣を周囲にばら撒き、
爆発に紛れ【目立たない】様に敵の死角へ移動
【迷彩】で姿を消し、【忍び足】で周囲を駆け回って
手裏剣と旋棍で攻め立てる

敵が隙を見せたなら、リスク【覚悟】で【降魔化身法】
破砕錨・天墜のエンジンを起動して【捨て身の一撃】


自分一人でどうにかなるとは思ってない

―俺は前座さ。次に繋げられれば、それでいい


パウル・ブラフマン
●【SPD】
▼先制攻撃対策
噛まれたら回復されんの?
躱しながら行くしかないね♪
磨き上げた【運転】テクを駆使して―突撃☆安土城!

天守閣内の【地形の利用】を念頭に
倒した襖など備品を発射台代わりにして【ジャンプ】したり
猛【ダッシュ】で壁面走行したり
【野生の勘】もといタコの勘全開で駆け回るね。
ピンチな猟兵仲間が居たら速攻で助けたいな。


▼反撃
UC発動―こっから本気(ガチ)だぜ、Glanz!
鳥頭に接触しないギリギリを保ちつつ
Krakeを展開して狙撃、アウトレンジ戦法で攻めまくるね。
照準は信長の頭部に合わせて…その目、潰させて貰うぞ!

同乗者が接近希望であれば
ヒット&アウェイの為の脚になるよ!

※絡み&同乗歓迎!


リア・ファル

共闘歓迎

『化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり
一度生を享け、滅せぬもののあるべきか』
敦盛を舞い

そうだね。儚き一瞬かも知れない
滅びぬものは無いだろう。
だけど、何も残らない、紡がれないワケじゃない

『今を生きる誰かの明日の為に』―ボクはキミに挑む

自身を「ハッキング」し休眠領域を無理矢理に起動
演算と反応速度を一時的に強化する

先制には、「逃げ足」と「操縦」テクで距離を取りつつリアルタイム「情報収集」
噛みつきに合わせて、むしろ武器を突っ込ませるように
「カウンター」で「武器受け」を試みる
更にアンカーを使って軌道を変えて避けたり、嘴を縛ったりしよう

「時間稼ぎ」できたら
数秒だけ次元を繋ぎ、戦艦の一撃を放つ


荒谷・つかさ

連携希望

先制攻撃に対しては、両腕に装着した籠手「鬼瓦」に溢れ出る闘気と高圧縮した空気の壁を障壁として纏わせ防御(武器受け、オーラ防御、属性攻撃)
その上で気合及び激痛耐性で、何としても意識だけは繋いで凌ぎ【超硬再生・仁王降臨】発動
コードの効果でダメージを自己回復しつつ、派手に吹き飛ばされ戦闘不能のフリをして様子見

その後隙を突いてコード解除しつつ組み付き、関節技を仕掛けて捕縛(怪力、だまし討ち、グラップル)した上で再度コード発動
硬化した私自身の肉体を枷として、身動きを封じ、チャンスを作るわ

死なば諸共……なんてね!
私のことは気にせず……魔王を、信長を!
討ちなさいッ!!!



……死ぬほど痛かったわ。


神羅・アマミ

ついに年貢の納め時という奴じゃな、魔王信長!
この大一番をもってエンパイアに我と有りの名を響かせてくれるわーッ!

狙うは奴が变化させた身体部位!
コード『結髪』の予備動作も踏まえつつ、食べてくださいと言わんばかりにおもむろにダッシュ!
拳一本を突き出し、実際に食わせてやるのよ!

しかし、『結髪』はそもそも反重力装置の過負荷を利用した代物。
なればもし、敢えてリミッターを更に一段回上げ暴走状態に持っていったならばどうなる?
そう…鳥の口中にて装置の一つをおもむろに暴発させるッ!

もとよりオブリビオンフォーミュラが相手、五体満足で帰れるとは思っておらぬ!
奴の手足と妾の腕、それぞれ一本ずつなら公平な取引じゃよ!


セリオス・アリス

正面から堂々と向かっていけば
来る方向は多少絞られるはず
なら『第六感』でもなんでも利用して『見切って』避けてやる
つってまぁ…全部避けきれるとは思っちゃいねぇよ
だからこそ、致命傷を回避して『咄嗟の一撃』
噛ませてやるかわりに『カウンター』で敵の口内へ拳を突き入れる

何度味わっても痛みには慣れない
強大な敵を前にする度思い知る
俺は強いが、弱い
だからこれは、弱者の意地だ
苦痛を叫ぶ声を無理やり抑え込んで
代わりに紡ぐのは【呪いを叶える呪い歌】
握った剣がお好みか?
それとも…中に直接くれてやろうか
さぁ、生命力をお望みなら
たんまりと食らいやがれ!
自身を燃やして、炎をのせた風の『衝撃波』を『全力』で敵の口内へ叩き込む



●いざや来い来い大一番
 昇っていく朝日を背に受けて、最後の勝負へと猟兵たちは轡を並べていざ進む。長かった夜が明けるのだ。空高い場所から明るくなってきた空下を見れば、ぬかるんでいる地面が朝日を浴びて乾いていくのが目に映る。
 どうやら、この戦争が始まる前に降っていた雨も止んだらしい。一番勝負が終わり、そして今、大一番も終わりを迎えようとしている。
「……ぐ…………。……――化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり――」
「『一度生を享け、滅せぬもののあるべきか』――って? 敦盛を舞ってあげようか」
「……くく。……いやァ……結構。儂に残された時間も少ないでな。我が身の滅びは避けられぬならば――せめて、意地は見せるとしよう。我は侵略するもの。織田信長である故に、――貴様らの儚き時を、悉く斬り捨てて御覧に入れる」
「……そうだね。僕たちが生きるこの時は、確かに儚き一瞬かも知れない。滅びぬものも無いだろう。キミのように。だけど、何も残らない、紡がれないワケじゃない。『今を生きる誰かの明日の為に』――ボクは――いや、ボクたちは、キミに挑む」
「――よう吼えた。それでこそよ。今を生きるお主らにしか言えぬことであろうな」
「ついに年貢の納め時という奴じゃな、魔王信長! この大一番をもってエンパイアに我と有りの名を響かせてくれるわーッ!」
「……ここまで来たら、問答は無用だな。じゃ、始めよう。誰か作戦ある?」
「噛まれたら回復されんでしょ? それじゃ基本的に、なるたけ躱しながら行くしかないね♪ 磨き上げた運転テクを駆使して――突撃☆安土城ってね!」
「ま、そういうことになりそうね。積極的に前に出るのは何人だったかしら?」
「正面から堂々と向かっていけば、来る方向は多少絞られるはずだろ? 迎え撃つよりも、俺は初っ端から前に出るぜ。考えもあるしな」
「妾も出るぜー! アイツの攻撃の対処も思い付いてるんでな! 自他ともに認めざるを得ない盾キャラじゃしな、妾。後ろにいたら多分役割が腐る」
「ボクも攻撃は受けようかと思ってたけど、この数なら援護寄りに回ろうかな。その代わり、一撃は任せて。良いのがある」
「じゃーリアちゃんとオレは中衛で援護だね♪ 機動力組、元気出していこー!」
「状況に応じて、俺も出ようかな。隙が出来たら畳みかける感じで」
「それじゃ、前衛は基本3か。前が臨機応変に掻き回しつつ、隙を作っていく方針でいいかしらね。形が出来たら互いにフォローしつつ決めにかかる形で」
「異議なしだ」
「了解じゃ」
「それでいーよ!」
「ボクもOK」
「同じく」
「――――くく。決まったか? ……。……猟兵よ。過去の怪物、斃せるのなら――斃してみるが好い。手加減はせぬぞ。……さァ、いざ。いざや来たれよ時のつわもの。この戦争の大一番――オブリビオンフォーミュラ、織田信長がお相手いたす」
 荒谷・つかさ(風剣と炎拳の羅刹巫女・f02032)。
 セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)。
 神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889。
 パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)。
 リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)。
 月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)。
 対、オブリビオンフォーミュラ、『織田信長』。
 いざ。いざ、いざ、いざ。大一番はここに成る。
 いざ――――――――――尋常に。――勝負!
「……ふゥッ……はァァッ!」
 首を貫かれようと、胴を切り裂かれようと、信長の戦闘能力は落ちるどころか増してさえいるように感じる。『最早後はない』と敵に思わせるほどの手傷が、むしろ全力を出すためのファクタに変じたのやも知れぬ。
 そう、もはや信長には『後がない』。彼の失血は著しく、身体に空いた穴からは彼が今まで積み重ねてきたのであろう時が今も流れ出て止まらない。このまま放置すれば、信長は恐らくそのまま斃れるだろう。だが、確証はない。だからこそ止めが必要だ。
 そして信長もそれを分かっているからこそ、『逃げ』を打てない。最早全力で逃げても追われるのは必定。であれば、お互い目の前の敵を斬り果たすほかに無いのである。
 信長の踏み込みは今までよりもなお速く、そして鋭く猟兵たちを翻弄しながら迫ってくるではないか。左肩口に『超巨大な梟』を載せ、右手に愛刀を構えながら、信長がまず狙うのは――ハルマだ。
「まずは貴様じゃ、旋棍の!」
「そう簡単に喰らえないんで、悪いね」
 ハルマは高速で旋回しつつ迫る信長の先制に対し、走行ラインを読むことで敵の進撃のライン上へといくつもの手裏剣を大量にばら撒いていく。当然のように、投げるのは信長が右目を失っている故に出来た右側の死角からだ。
 右手の四つ指で四方が三つ、左手の四つ指で八方が三つ。回転技法で投げた勢いそのままに腿に仕込んでいた棒手裏剣を斜めに構えて棒が六つ、袖口に仕込んでいた十字が二つ。
 流れるような早業で打たれていくその全てには、ハルマが事前に仕込んでおいた爆破機能が備わっている。刃が敵の身体に刺されば良し、刺さらずとも進路を破壊出来れば良し。全ては敵の勢いを削ぐための妙技である。
「……ッ、チィ! 邪魔な……小賢しいッ!」
「足りない、か。まあ想定内……! リアさん、少し寄って欲しい」
「OK、もうその形で動いてた! お任せだよ!」
 複数の刺突音と金属音。ハルマが打った手裏剣たちが、信長の剣に弾かれて床板に刺さる音だ。そして、間を置かず耳をつんざくような爆音。信長の周囲で、仕込み爆弾の全てが爆発した音である。しかし、信長の進撃は止まらない。敵はハルマの迎撃が数が多いことを悟ると、即座に空中へ跳ねることで進路にばら撒かれた手裏剣の群れを纏めて避けてみせたのだ。
 だが、それならそれでやりようはある。ハルマは信長が飛びあがったのを確認すると、自らも踏み込みで加速を入れつつ跳躍。空中で信長と打ち合うつもりだ。狙いは彼の装備であるチェーンアンカー、破砕錨・天墜を『鳥頭』に叩き込むことで、信長を地へと叩き落すことである。
「ハァァァッ!」
「、っ……!」
「そこッ!」
 瞬間、衝撃音。ハルマが空中で放つチェーンアンカーが、梟の右目を抉る形で叩きつけられた音。そして、援護に回ったリアの重力錨『グラヴィティ・アンカー』が、痛みに怒りながらハルマの身体を啄もうとする梟の嘴を縛り付けた音である。
「甘いッ!」
「ギャハハハハ! そりゃおめーもじゃろ! 甘いっつのォ!」
 しかし、空中での立ち合いで梟の嘴を止められたとはいえ、信長本人の揮う愛刀の一手がまだある。そしてハルマも信長も空中にいる以上、互いに避けの一手はない。
 そこに参入するのがアマミである。彼女はハルマの手裏剣を嫌がった信長が空へ逃げたのと同時に自分も信長の死角である右側から跳躍しており、その手に構えた和傘を信長の愛刀を弾くために振るってみせる。
「二人とも、ありがとう」
「なんのォ! 気にするでないわ、忍び殿!」
「そういうこと! 持ちつ持たれつだよ、ハルマくん!」
 ハルマの一撃が敵の勢いを削ぎ、リアが嘴を封じて見せた。二重の鎖を左肩に受けた信長の刀をアマミが弾いて時間を作り、そしてハルマは右方にある柱と自分の目の前にある『巨大な鳥頭』を利用しながらの三角飛びにて、見事に信長から距離を取りつつリアの駆る宇宙バイク、『イルダーナ』の後部座席へ着地を決めた。
 見事に敵の一撃を凌いだ形である。着地後に空中に浮かぶ信長へ手裏剣を追加で打つのも忘れない。リアの放つ鎖で空中に浮いたアマミも回収済みだ。
「――ク。フハ、……やるではないか! では、これならどうかッ!」
「疾い――! でも! パウルさん! セリオスさん!」
「オッケー任せて♪ ブッ飛ばすからね、つかさちゃん!」
「了解だ! 待ってろ、必ず助ける!」
 信長はハルマの放つ手裏剣をその身に受けて空中での体勢を崩しながらも、再度猟兵たちへの攻撃を行っていく。次に狙うのはつかさだ。信長は巨大な梟の嘴を地面に突き立てることで崩れた体勢を無理やり立て直し、そして嘴と両足による加速で高速の踏み込みを見せながら彼女へと襲い掛かっていく。
 つかさは信長の先制に対し、両腕に装着した籠手『鬼瓦』へ自らの闘気と、高圧縮した空気の壁を障壁として纏わせ防御の構えを見せる。闘気は彼女なりのオーラ防御の証、そして空気の壁は属性攻撃に長けている証である。
「フハ、そう来ると思ったわァ! 既にその手は、――見切っておるッ!」
 しかし――信長は、つかさの放つ防御に対して強気で挑む。『既に信長は、猟兵たちの用いる技を幾つも見ている』故に。つかさの放つオーラ防御や属性攻撃を利用した受けは一流のもの。しかし――信長は彼女を、いや、どんな猟兵をすらを上回る超一流。単純な技能の用い方だけでは――受けに足りぬのだ。
「猟兵に出来ることが、この――織田信長に出来ぬと思うでないわァァッ!」
「ッ!?」
 そして放たれるのは、信長の『気合』と『怪力』による『鎧を砕く』程の力を持った『薙ぎ払い』という名の『範囲攻撃』だ。更にその後ろには、つかさの体を『串刺し』にしようとして『鎧を無視』する軌道の嘴が控えている。『生命力吸収』の権能を持つ『二回攻撃』。
 信長は、今までの猟兵との打ち合いの中で使われてきた汎用的な技能をを学習し、一定のラインまで使えるようになってみせたのである。恐るべしはオブリビオンフォーミュラである、ということか。
 つかさの構える鬼瓦の防御策が、信長の揮う一刀の前に悉く打ち砕かれていく。技能は同様、純粋な力は信長の方が上。気合――激痛耐性――何としても意識だけは繋いで凌ぎ――『ダメ』だ。どれだけの耐性などで耐えようと、敵の攻撃をこのまま当たれば『即死』する。腕だけではない。その奥、胴、そして心の臓まで――この攻撃は届くだろう。
「――させるかッ!」
「お待たせ、つかさちゃん! 掴まって!」
 ――――時を少し戻そう。つかさが信長の刃を受けるその少しだけ前のことだ。仲間の危機を察知して動いたのは、セリオスとパウルの二人組。パウルは自らの愛機であるGlanzにセリオスを乗せ、信長の攻撃に対処しやすいように遠距離を高速で旋回していたのだが、つかさの危機と見るや否や、彼らは即座に向きを変えた。
 この戦域を走り回っていたのは、信長の攻撃に対処しやすいようにする意外にもう一つ。天守閣内の地形を頭に叩き込んで、出来得るならば利用しようというパウルの狙いがある。そして――彼のその狙いが、つかさの危機を救うことに繋がった。
 パウルは信長の踏み込みを見、つかさの立ち位置からインパクトポイントをタコの勘から計算、算出。壁面を猛ダッシュして無理やり走路に変え、迂回せずに彼女の救援に向かってみせたのだ。
 そして、後部座席に乗ったセリオスのツルギ、青星がつかさへと伸びた凶刃を僅かに弾き、その結果生まれた僅かな時間を利用して、パウルはつかさの手を掴んで敵から距離を取って見せる。
「――助かった――! 二人とも、ありが――ッ?!」
「ッ、つかさちゃん!?」
「チッ……! 空中を斬りやがった……!」
「わたしは……ッ、大丈夫……! ……あとは、打ち合わせ通り、に……!」」
「……『衝撃波』、というのだったか。成る程――ふむ。覚えたわ。後五人……むんッ!」
 しかし、信長は彼らを逃がさない。『衝撃波』。剣先から生じる飛ぶ斬撃をすら信長は使いこなし、距離を取ろうとした猟兵たちへと攻撃の手を重ねていく。それを喰らったのが、つかさだ。彼女の背中に真っ直ぐ一文字の斬り傷が生じ、著しい衝撃を背に受けたつかさはそのまま天守閣の隅にまで吹き飛ばされてしまう。
 そしてそのまま信長は他の猟兵たちを仕留めるべく、いくつかの衝撃波を連続で放っていくではないか。パウルとリアの宇宙バイクの戦闘機動でなければ、避けるという考えすら浮かばぬほどの剣速と衝撃である。
「二人とも、しっかり掴まってて! すこし、荒っぽくなる……!」
「手裏剣だけじゃ止めきれない――か。結構厄介かな」
「言うてる場合か! 近付かんとこのまま削られるぞ?! 急に技能使い始めるとかチートじゃろチート!!」
 リアの操るバイクへ飛ぶ斬撃は、縦横ワンセットで空を穿つ十字型の衝撃波である。ハルマが飛んでくる剣閃の軌道を即座に読んで手裏剣で妨害し、アマミが和傘を横殴りに振り被らねば崩せぬそれを、先程から彼女たちは連続でなんとか受けている。
 恐るべしはリアの操縦技術と連携能力、そして対処に回る二人の純粋な戦闘力と反応速度というべきか。人間は自らの脳を全て使えていないという。だがこの時のリアは、既に自らが普段使っていない休眠領域を無理矢理に起動させ、その全てを事態の打破へ向けてオーバークロック、演算と反応速度を一時的に強化させていた。彼女の出自あっての芸当である。
 また、アマミとハルマの二人もリアが駆るイルダーナが柱の上を駆けて跳び、壁を走って敵の衝撃波から僅かでも避けようとするのによく合わせてくれている。リアは逃げに重きを置く操縦テクで距離を取りつつ、リアルタイムで情報収集。後部座席の二人が敵の攻撃へ対処を行い、隙を見出すために目を光らせる。パウルとセリオスも同様だ。
 猟兵たちは、個人の『技能』よりも重要なものを知っている。それは『作戦』と『協力』だ。
 だからこそ、彼らはこの土壇場で手を繋ぎ、――そして、敵の攻略のために足を進められるのだろう。
「これは……! 中々ファンキーじゃん?! セリオスくん、オッケー!?」
「ああ、上等だ! 俺のことは構わず、パウル! 思い切り走れ!」
 そして、猟兵たちの武器はもう一つある。それは『数』だ。敵が一人である以上、攻撃は研ぎ澄まされようとも、その数は限られている。リアとパウルのように機動力で勝負できる猟兵はそこが強みだ。『角度を付けて』盤上を見、そして思わぬ隙を見つけて突破口に変えられる。
 彼女たちは決してサポーターではない、アタッカーだ。その違いは敵へナイフを振るか、敵にナイフを届かせるかの違いでしかない。彼らもまたこの場にいる一つの力、何にも勝る価値を持つ『重力』と『光』だ。
 パウルは信長の攻撃がリアへと向かっている間に、遮蔽物で敵の射線を斬りながら疾走。倒れた襖や崩れた柱などの備品を発射台代わりにして、彼は信長の死角からバイクでのジャンプによる急接近を決めて見せた。衝撃波の最大のメリットは、遠距離にも斬撃が届くということだ。近付きさえすれば、そのメリットは半減する。
「――足の速い――! くかかっ、多様性の力か……! 愉快よのう! だがッ! 空を駆けるならば――もはやこの嘴は避けられまいッ!」
「――あァ。……全部避けきれるとは思っちゃいねぇよ。最初からそう思ってたさ。だからこそ――その攻撃を待ってたぜ!」
 そして繰り出される、信長の死角からのセリオスの一撃を――信長は既に読んでいた。『第六感』により、敵はその攻撃を読んで『見切って』いたのである。
 しかし、信長が読めたのはここまでだったのだろう。セリオスは自らの揮う刃の代わりに、信長が振り向きざまに放つ嘴の一撃へ――右手を伸ばしてみせたのだ。何かに手を伸ばすように、何かを希うように、彼は――セリオスは、『信長の放つ嘴へ、わざと右手を差し込んで見せた』のである。
「~~~~~~ッッッ!!」
「捨て身――!? 莫迦め、ならばそのまま噛み砕いて――!」
 思うことがあるのだ。『何度味わっても痛みには慣れない』『強大な敵を前にする度思い知る』『俺は強いが、弱い』――。
 思わない時などない。『それでも、痛みに立ち向かわねば』『強大な敵だからと言って、諦める理由がどこにある』『俺はまだ弱い。だが、意地がある』。
 セリオスが自らカウンター気味に嘴に右拳を突き入れ、肉を千切り、骨をきしませる激痛を覚えている最中、思っていたのは――『決して苦痛の声なんてあげてやるか』というものだった。だからこれは、強者へと揮う、弱者の意地だ。
「……ハッ……! 握った剣がお好みか? それとも…中に直接くれてやろうか! さぁ、生命力をお望みなら――たんまりと食らいやがれッ! 歌声に応えろ、力を貸せ! ――万象に根ざすもの、根源の魔力よ、俺の望みのままこの地に躍れ! 【望みを叶える呪い歌—星花—】ッ!」」
「捨て身ではない……ッ! これは!」
 【望みを叶える呪い歌—星花—】。セリオスが用いるその幻想は、歌声により呼び起こされた根源の魔力を纏うことで、高速移動と敵を狙い咲く属性魔法を纏った斬撃の放射を可能とする力。
 彼が敵の攻撃をその身に受けて、それでも苦痛を叫ぶ声を無理やり抑え込んでいくのは、呪いを叶える呪い歌を紡ぐため。セリオスは『過去』に蹂躙されて放つ声など上げぬ。彼が歌い上げるのは、『未来』のための『まじない歌』。
 セリオスは信長が放った嘴に右腕を食われた状態で自身を燃やし――、炎をのせた風の衝撃波を、全力で敵の口内へ叩き込んでみせた!
「貴様ッ……! 最初から、そのつもりで……ッ!? 何故――何故、貴様ら猟兵は――! 何故だ! 何故、そのような真似が出来る! 自己犠牲に近い――、そのような!」
「簡単だ……! お前らオブリビオンとは違って、俺たちは知ってるんだよ! 俺たちは一人じゃねえ! こうして誰かが『未来』への道を斬り拓けば――、その後に続く誰かが、その道を歩いてくれるってことを!」
「――そういうこと。続かせてもらうよ」
「――むゥッ!」
 セリオスの全身全霊、全てを賭けた刃が信長の攻撃を『内側から斬り拓いていく』。その斬り傷からあふれ出すのは『未来への道』。彼が放った迎撃は、信長の左肩に乗った『梟』を激痛の渦の中に突き落とし――結果として、信長の隙を作ってみせたのだ!
 そこに追撃を駆けるのはハルマである。彼はリアのバイクから降りて即座に改造手裏剣を周囲の瓦礫へばら撒くと、その爆風で煙幕じみた土煙を作って見せる。そしてそのまま音と煙で爆発に紛れ、目立たない様に信長の右側――死角へ移動を完了させる。
 迷彩で姿を消し、忍び足で音もなく周囲を駆け回って。――放たれるのは、手裏剣と旋棍の痛烈な攻め。四方八方から襲い掛かる煙の中からの凶器が信長の首目がけて幾度も飛来し、手裏剣で敵の気を散らしながらも、ハルマは【降魔化身法】による本命――破砕錨・天墜のエンジンを起動しての、捨て身の一撃を信長の背後から放ってみせた。敵の無防備な背中に、遠心力を付け、ユーベルコードにて強化した痛烈な一撃が見事に刺さる。
 パウルが繋ぎ、セリオスが生み出した隙を、ハルマが上手く突いた形である。
「ッ、がッ……! 貴様……!! 逃がす、か……ァッ!」
「いいや、逃がしてもらう。自分一人でどうにかなるとは思ってないし、今追撃する気もないよ。――俺は前座さ。次に繋げられれば、それでいい」
「ギャハハハハハハハーッ! そういうことじゃ、信長ァ! 妾が水先案内人となりて、直々に躯の海へと引導を渡してやろうぞ! 死ねーッッ!!」
 信長の背中へ強烈な打撃を与えたハルマは、そのまま欲張らずまたしても煙幕の中に姿を消していく。信長が振り返った時、既に彼の所在はどこに見当たらず――。
 そして、反転した信長の背後方面からまたしても近付く影。アマミだ。彼女が放とうとするのは、オーバークロックさせた反重力装置を纏うことで高速移動と余剰エネルギーから生じるフォトンブラストを放つことを可能にするユーベルコード、【結髪】による一撃。
 攻撃の予備動作も踏まえつつ、食べてくださいと言わんばかりにおもむろに敵の背面方向からダッシュする彼女の攻撃へ、信長は自身の背中を新しく『燕』の嘴に変じることで対処を狙っていく。その嘴は鋭く尖り、――そして、固く結ばれていた。セリオスのような反撃を恐れてのことだろう。『啄む』のではなく、『つつく』ことで攻撃を加えようという腹だろう。
「――この手は――些か不格好に過ぎる故、切りたくなかったのだがなァ! 儂の背後に立ったことを後悔するが良い!」
「そう来ると思った――! アマミさん!」
「応ッ! 信長よ、さっき言ったなァ!? 妾達の行動が理解できぬとかなんとかと! そもそもなァ、もとよりオブリビオンフォーミュラが相手、妾たちは五体満足で帰れるとは思っておらぬのよ! お前の攻め手と妾の腕、それぞれ一本ずつなら公平な取引じゃッてなァ! ――おらよォッ!」
 信長の反撃にいち早く反応したのはリアである。彼女は自ら操るアンカーを利用すると、信長が新しく生み出した嘴の迎撃に対し、『むしろ武器を突っ込ませる』ようにしてその錨を放ち、嘴を縛って、そして――その口を、無理やり開かせた。
 リアが無理やり開いた敵の嘴へ、アマミはとにかくひた走る。さらなる反撃もあるかもしれぬが、知ったことか。そもそもの話として、彼女をはじめとした猟兵たちは傷付くことなどもはや『最初から織り込み済み』なのだ。
 向こう見ずと言えるほどに前のめりに、和傘へ装着した円筒状の装置を五分割、両手足首と髪にはめて、籠手と鉄靴を展開した状態のアマミは、とにかくも走る。先に進む。前に出る。そして――自分の拳一本を突き出し、実際に敵の背中に映えた嘴へ、その拳を食わせていくではないか!
「――――ッ! ……ハッ! 妾のこの【結髪】は、そもそも反重力装置の過負荷を利用した代物。なればもし、敢えてリミッターを更に一段回上げ暴走状態に持っていったならば――どうなるかのう?」
「貴様――も――ッ!! ぐ、ゥァァァッ!」
 そう、アマミの狙いは『これ』だ。技と敵の嘴の中に自らの技をブチ込み、鳥の口中にて装置の一つをおもむろに暴発させることで――。自爆覚悟の敵への迎撃と判で気のフルコースを喰らわせてやったのである!
 セリオスとアマミは、二人で二か所ずつ信長が自らの身体を鳥頭に変じさせた箇所を破壊しつくして見せる。もはや信長の左肩から先は動かず、そして胴を強かに痛めたことで――敵の呼吸は、もはや千々に乱れ切っている。『その時』は近い。畳み込むべきだ。
「……ッ、ぐ……! じゃが、これで、五人分の攻めは受けた――! 今度は、こちらの――!」
「――あら、残念。忘れられてたなんて――、傷付くわねッ!」
「――なッ!?」
 五人の猟兵がそれぞれの力を出し切って信長のユーベルコードへ対処し、そして迎撃さえも重ねて見せたその直後である。肩と背中の変化を解除することで一度仕切り直しを図った信長に対し、土煙の中から新たな影が迫る。
 ――彼女だ。先ほど吹き飛ばされたつかさである。そう、彼女はただやられた訳ではない。そもそも、彼女は『わざとやられて吹っ飛ばされる』ことを作戦に組み込んでいた。『喰らったふり』ができれば最上であったが、やはりそうもいかず、パウルたちの協力のお陰で致命傷を避けられた。当然、彼女がここに立てる訳は、ユーベルコード【超硬再生・仁王降臨】によるものである。
 全身を気功術による硬化&超回復状態に変えることで、自らの動きの殆どを封じながらも敵の攻撃に対して無敵に等しい耐性を得るその力により、つかさは吹き飛ばされた後密かに自らの傷を癒し、こうしてハルマが張った煙幕に紛れながらアマミやセリオスたちの作った隙に乗じ、信長の至近に至ってみせたのである。
「死なば諸共……なんてね!」
「ク……ッ!! こうまで他者を――ッ!」
 つかさは一度コードを解除しながら信長に全身の筋肉を用いて組み付き、関節を仕掛けて敵を捕縛していく。だが、それに大人しくかかる信長ではない。既に鳥頭の変形は解けているが、ただの素力でさえ――敵は猟兵を圧倒できるのだ。
 信長はその身に宿る怪力でつかさと互角に渡り合って行く。満身創痍でありながら、なお互角だ。更に、信長はもう一度自らの一部を変じさせることで、つかさへ無慈悲な嘴の一撃を決めようと試みている様子。
「腕がやられても、手はまだあるんだよ……ッ!」
「そういうことよなーッ! こちとらまだまだ手も足もあるっつーの!」
 だが、信長の抵抗をそのまま見守る猟兵たちではない。煙の中から現れたセリオスは、エールスーリエによる光速のサマーソルトキックを信長の顎へ向かって放ち、敵の頭から一瞬思考を奪い去っていく。
 そこに続くのはアマミの放つ鉄下駄の延髄蹴りだ。信長の後頭部を狙ったその蹴りは、セリオスの蹴りに続いて敵の頭を再度揺らしてみせる。
「UC発動――こっから本気(ガチ)だぜ、Glanz! おらおらおらおらァ! その眼――潰させて貰うぞ!」
 そして、まだ続く。二人の蹴りが奇麗に極まった後発動するのは、パウルの力である【ゴッドスピードライド】。信長の間合いに接触しないギリギリを保ちつつ、彼は超高速で固定砲台であるKrakeを展開して狙撃、アウトレンジ戦法を取りながらの時間差包囲射撃を、たった一人で完成させていくではないか。
 強化された弾丸は全て信長へと向かい、動きを阻害すると共に頭部へ的確に着弾していく。パウルの本命は『まだ残っている左目』だ。セリオスとアマミの二人の蹴りは、それを分かっているからこそのそれ。敵の意識を揺らし、隙を作るには――頭を揺らすのが手っ取り早い!
「ぐ、ゥゥ、……グウウウアアアァァァッ!! まだ――ッ!!」
「そこまでにしておきなよ、信長。……終わりだ、これで」
「三人とも、ありがとう! 今よリア! 私のことは気にせず……魔王を、信長を! 討ちなさいッ!!!」
 そしてパウルが、『敵の光』を打ち消した。左目を射抜かれ、痛みに呻く信長に出来た隙は僅かであったが、それでもつかさはそれを逃さない。彼女は背中から羽交い絞めを信長に欠けると、再度ユーベルコードを用いることで全身の自由を利かなくさせる。
 ――つまり――『硬化した自身の肉体を枷として、信長の身動きを封じた』のである。つかさが狙っていたのは止めではない。――チャンスメイクだ!
 それでもまだ諦めぬとして両足に無理やり力を込め、床板を破壊することで階下へと逃れようとする信長の動きを、横から飛び出すハルマの旋棍の一撃が止めていく。全ては整った。
「言っただろ? 『今を生きる誰かの明日の為に』ボクたちは戦っているんだよ、織田信長。協力して道を拓く――それがきっと、未来を作るってことだから。――さァ、いくよ! アカシックドライブ解放、光子波動エンジンフルドライブ! この一撃よ――明日に届け! 過去を穿て、【今を生きる誰かの明日のために】(クラウ・ソラス)ッ!!」
 最後を決めるべく動いたのは、リア。彼女の幻想は、【今を生きる誰かの明日のために】。最大多元干渉の超破壊力で攻撃する力。数秒だけ次元を繋ぎ、戦艦の一撃を放つ力。
 紛れもなくリアのとっておき。だが、故にこそ発動には隙が必要だった。信長という強敵を相手取る場合、果てしなく長い『数秒』の隙が。だが、それはここにいる猟兵たちが作ってくれた。
 もはや、何の憂いもない。
 照準、セット。
 この戦争を、終わらせる時だ。

 ――Fire!

「――――行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「――フ。フハハ……。……そうであったか。通りで、猟兵の動きが読めなんだはずよな。……他人のために動くなど、そもそも魔王には些か難しいことであったわ。……ッ! 見事であった、猟兵よ! 儂の負けよ!! サムライエンパイア――お主らにくれて遣るッ!! 誰にも――誰にも、渡すでないぞッ!! いざ! いざ、いざ、いざ――さらばじゃァ!!」
 リアの放った渾身の一撃は、信長の胴を射抜き――敵の心臓を、破壊してみせた。
 ここにいる六人の猟兵だからこそ成し得た作戦が、見事に信長を打ち破って見せたのである。
 サムライエンパイア、エンパイアウォー。一カ月にわたる長い戦は、これにて――全て、終わったのだ。
 魔空安土城の中枢。天守閣の最上階にあった影が、朝日の中で消えていく。
 『日が昇る』。『夜が明ける』。『雨が上がって』、『空が晴れた』。
 何と言っていいのか分からぬが、これだけはハッキリと言えるだろう。
 キミたちは――世界を、救ったのだ。お見事である。本当に、良くやってくれた。
 いざや来い来い大一番――これにて、最後の幕である。
 めでたし、めでたし。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月03日


挿絵イラスト