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エンパイアウォー⑱~風征きて

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #魔軍将 #上杉謙信

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●関ヶ原に吹く風は
「――陣を抜けてきたか。やはりお前達は、私が食い止めるのが最良だろう」
 僧を思わせる白頭巾の男は、冷徹な視線で戦場を見下ろす。
 舞う十二の毘沙門刀を背に至る猟兵達を、覚悟を持って迎え撃つ。
 立ち塞がる武人に隙は無い。黒と白の太刀を軽々と操り、なおもその構えは重々しい。
 力では他の魔軍将に劣ると、誰かがいった。
 さりとて並ならぬ武人に代わりは無い――到底、対一で敵う相手ではなかろう。
「私の名は上杉謙信。私の得手は『人軍一体』。車懸かりの陣にて、お相手致そう」

●打ち破る者
「さて、セキガハラ――アタシにはあんまり、これという感慨はありませんけれど」
 ジュマ・シュライク(傍観者・f13211)は金眼で猟兵達を見つめてそう告げた。
「アナタ方が対峙するは上杉謙信。十二の毘沙門刀を操る武人。そして、一流の指揮官というやつですわね」
 ゆえに、彼の軍勢を完全に討ち取るには、その『車懸かりの陣』を破らねばならぬ。
 車懸かりの陣そのものは別の部隊を任せるとして、この場に集う猟兵たちはそれを切り抜け、謙信に迫ることが役割だ。
「上杉謙信は力では他の魔軍将に劣り――先制攻撃できませんの。けれど、それを除いても強い相手。敗北もありえましてよ」
 何より、陣を抜けるという段階は避けられぬ。
 体力を消耗した状態で相対するのは、まさに相手の狙い通り。
「さて、肝心の上杉謙信の戦法は比較的臨機応変なもののようですわね。あらゆる想定を考えるか、すべて力でねじ曲げるか……アナタ方の判断次第ではあるけれど、無策はよろしくなくってよ」
 彼のもつ剣の属性は『水・光・土・火・樹・薬・風・毒・氷・闇』――そして両腕に握るは『アンヘルブラック・ディアブロホワイト』の二対。
 これを念頭に置きつつ、ジュマは重ねて忠告する。
「ええ、先制がないけれど。相手は恐ろしい武人だということは念頭にいれておくべきですわ。そんな相手の喉元に、直接送り込んであげられないのも、申し訳ないけれど」
 薄く笑って、彼は祈る――ご武運を。


黒塚婁
 どうも、黒塚です。
 残りは傍観するつもりでしたが、取り敢えず謙信さんに絡んでおきます。

●プレイング諸々
 公開後から受け付けております。
 プレイング受付中は人数に構わずお送りください。
 ただし描写に関しては、成功達成する人数の描写のみと考えております。

 ※なお、車懸かりの陣の突破に関しては具体的な描写はしませんが、消耗を抑える工夫があるとボーナスがつきます。

●軍神『上杉謙信』諸注意
 軍神『上杉謙信』は、他の魔軍将のような先制攻撃能力の代わりに、自分の周囲に上杉軍を配置し、巧みな采配と隊列変更で蘇生時間を稼ぐ、『車懸かりの陣』と呼ばれる陣形を組んでいます。
 つまり上杉謙信は、『⑦軍神車懸かりの陣』『⑱決戦上杉謙信』の両方を制圧しない限り、倒すことはできません。

=============================
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
=============================

 それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。
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第1章 ボス戦 『軍神『上杉謙信』』

POW   :    毘沙門刀連斬
【12本の『毘沙門刀』】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    毘沙門刀車懸かり
自身に【回転する12本の『毘沙門刀』】をまとい、高速移動と【敵の弱点に応じた属性の『毘沙門刀』】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    毘沙門刀天変地異
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。

イラスト:色

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

茅原・紫九
策士相手に無策は下策。奇策妙策が通るか否かだ。生憎と上策には縁がねえ

天変地異、周囲の剣10属性を使うんだろうが予測は不可能だ。だからどれが来てもいい突破法を考える必要がある。

戦場全体に幻覚の壁を作り出し、奴が迷宮ごと吹き飛ばす前に詰め寄る。
俺自身は幻覚だと分かってるから手間取るだろうが正面突破は可能だ。

天変地異の弱点、制御。咄嗟の属性切り替えや同時発動もねえだろうから考えず走る。
迷宮作成は副産物で真の狙いは精神干渉だ。幻覚を見る事に脳内リソースを裂かせ手の届く範囲に引きずり下ろす。

近寄ったら後はただ切る。天変地異の暴走に巻き込まれようが、咄嗟に切り替えた剣技と相討ちだろうが、届けば俺の勝ちだ。


秋穂・紗織
軍神と未だ天にまだ届くその名、その武
全身と全霊、全力を以て、この刃で挑ませて頂きましょう
笑いあう日々が好きで
その為ならばと、駆け抜けるこの心にて

車懸かりの陣へは迅速なる一点突破
動き続ける為、逆に堅守は難しい筈
敵を倒すことより、周囲の仲間と守りあい、そのまま一気に駆け抜けて

謙信へも疾風の如く、迅く、鋭くと
属性がない私だからこその刀同士の神速勝負
ダッシュで一気に間合いを詰め、相手の毘沙門刀が繰り出されるより多くの斬撃を
先制攻撃で先を捉え、早業と二回攻撃で都合十八の斬閃

謙信の手繰る毘沙門刀が都合十二であるなら、悉くを見切りで捉え、斬り払い、捌いて流し

残る剣閃を軍神たる謙信への身体と届けてみせましょう


華折・黒羽
上空より車懸かりの全貌見渡し
篠笛・揺を奏でる
円なる陣をさらに囲む様生み出される烏影の群れ
限界まで出でた数を暇なく矢の様に降り注がせ

陣営に隙生まれれば見逃さぬ様
急降下し敵の元へ
目前に立つ軍神
逸らさぬ視線

名を華折黒羽
─手合せ、願います

纏う火炎と激痛の耐性
野生の勘と聞き耳を駆使し
武器受けにて数多の刀を受けては薙ぎ
己の翼と獣の四肢で機動を上げ相対す

刀身を受ける度集中力は研ぎ澄まされ
強者を前に内なる本能が脈打つ感覚
不意に力緩めれば違う事なく飛ばされる身体と屠
隙と見て敵が一気に攻撃を向けたなら
影と成った屠を地に這い敵の足元へ

強きあなたに、学びます

敵すらも己が強くなる為の師として
屠の切っ先は天高くへと伸びる



●刀光りて
 黒い翼を広げ、天より俯瞰するは華折・黒羽(掬折・f10471)は高度を上げる。
 射掛けられた矢は彼に届かず落ちていく。ただ、彼の攻撃も此処では及ばぬ――否、これは眼下の陣を突破するための策。
 そっと唇に寄せるは篠笛。
「舞えや踊れや、獣達。有明の下に身を照らせ。――吹かば其の音は、友への語らい」
 音色に導かれ現れた烏影の群れが、車懸かりの陣へと滑空していく。混乱が生じた隙に、彼もまた高度を下げて、一気に陣を駆け抜ける。
 黒羽の生み出した隙を利用するのは、彼のみにあらず。
 迅速に一点突破する――ふわりと髪を踊らせて、秋穂・紗織(木花吐息・f18825)が一気に陣を突き破り、上杉謙信の前へと迫る。
 悠然と構える軍神は、二振りの剣を開いて、彼らを一瞥した。
 油断しているわけではない。出方を見ている、という雰囲気だろうか――いずれにせよ、この好機を逃す必要はあるまい。
「軍神と未だ天にまだ届くその名、その武――全身と全霊、全力を以て、この刃で挑ませて頂きましょう」
 紗織が抜き払う妖刀は、白き刀身をきらりと耀かせ。片や逆の手で握る鍔の無い小太刀は鋭利な閃きを持って奔る。
「詠うならば、奏でる刃を響かせて」
 空に謳えば、その輝きはますます増して、彼女の四肢に力を与える。軽やかに地を蹴った後は、息も吐かせぬ剣舞を見舞う。
(「疾風の如く、迅く、鋭く――」)
 柔和な雰囲気を湛える少女の身は、謙信の反撃さえ許さぬ飆であった。
「私の剣は属性を持ちません。いざ、鋼の勝負と行きましょう」
 宣言通り。謙信の強みが十二の毘沙門刀にあるならば、特別な弱点のない紗織に特攻は効くまい。
 されど――ふ、と息が溢れるのを頭上に聴く。
 妖剣士としての直感が、反撃の刃が来る、と彼女に囁いた。瞬間、目の前に七彩の旋風が弾けた。
 謙信の周りを回転した毘沙門刀――それは、見切り、応じられるという彼女の認識を越えて、刀ごと弾き飛ばした。両の刃を構えた儘、後ろへと吹き飛ばされた紗織を追って、追撃と放たれた氷の刃――その前へ、滑り込んだ黒い翼が翻り、それを阻んだ。
 薙いだ黒剣で跳ね返すように応酬すると、追いかけ、斬りかかる。
「名を華折黒羽――手合せ、願います」
 彼の名乗りに軽く眉を動かし、謙信も握る二刀をゆっくりと持ち上げた。
「――いざ」
 鋼同士が噛み合い、光を散らした。
 すかさず黒羽は離れる。舞うような跳躍から、地を蹴り返して、まっすぐに距離を詰める。
 未だ謙信の周囲、十二の刃は回転を続け、攻撃と同時に防禦ともなる。正しく車懸かり――何より当人の振るう二刀の反応たるや、黒羽が『判断を下すまえに仕掛けた悉く』を凌ぐほど。
 幾つもの剣閃が戦場に煌めき、音を立て、そして散る。
 両者、息継ぎの一瞬――、黒羽は毛が逆立つ感覚に襲われる。
 軍神なる男は表情ひとつ変えずに、先んじて、十の刃をおき、二刀で斬り込んできた。
 低い場所を狙う強烈な黒い斬撃を、黒羽が凌ぐと、逆より斬りかかった紗織の眼前を薙ぐ白い斬撃が奔る。
 なれば、今の謙信の身体はがら空きのように見えて、此処に十の毘沙門刀が戻ってくる――。
 肩口を強烈な斬り上げが襲う――彼は朱の珠が宙を舞うのを、何処か他人事のように見た。
 謙信の間合いふたつ分ほど離れたところまで、彼は吹き飛ばされながら逃れる。身を起こせば、夥しい血が大地を染める。
 それでも黒羽の青き瞳は強い光を宿す。爛々と、獣の如く。
 軍神の躍進は止まらぬ。背に下ろされた妖刀へ、腕を捻って白い刀を合わせると、回転の力を加えて紗織を凌ぐ。
 両腕が痺れるような反撃に、先の先を取らねば、彼に一撃くれるのも難しいのかと唇を結ぶ。腕に赤い雫を伝わせながら、彼女はそれでも刀を上げた。
 ただ、こうしてひとたび膠着すれば、攻撃の機が見出せぬ。
 ――謙信自身があまりに早い。あと少しで届くというところを、巧く捌かれる。
「……終いか?」
 二人を軍神は静かに手招いた。余裕さえ滲む所作を、二人はじっと見据える。
 ――その時だった。
「策士相手に無策は下策。奇策妙策が通るか否かだ。生憎と上策には縁がねえ」
 茅原・紫九(風に流され来たる紫煙・f04064)の声が響く。
 軍神は僅かに目を瞠る。
 一体、何処から。
 否――此処は何処なのか。
 視界が滲む。ぐにゃりと歪んで、真っ当な風景を映さない。突如として、全く違う場所に移されたような感覚。
 一瞬で見慣れた戦場の風景ではなく、精神を乱すような不安を喚起する空間に隔離されていたのだ。
「なるほど――」
 オブリビオンである謙信は直ぐに察する。これは猟兵が作り出した迷宮である、と。実際に手を伸ばせば、触れられる壁がある。とても堅く、破壊の力は容易に及ばぬ壁だ。
「予測が不可能なら、だからどれが来てもいい突破法をとればいい」
 声が響く――とても彼方から。
 しかし、謙信には実際の距離は如何ほどか、判断がつかなかった。
 数多の壁を跳ね返る紫九の声。息の弾み方から、駆けていることは確かだ。
 逃げているのか――これも否。
 彼女は謙信へと向かって、ひた走る。彼女が紡いだ迷宮ならば、彼女が幻覚に翻弄される道理はない――瞑目した謙信は集中力を高めて、両の剣を構えた。
 同時に、何かを念ずる。
 背後の毘沙門刀が不穏に光り、彼の周辺に靄のようなものを発生させた。
 紫九が見たのは、謙信の背だ。周囲に霧がかっているのは、天変地異の前触れか。しかし、その内容を読むよりも突破しかないという考えは宣言通り。
 魔法剣を掲げて彼女は奔った。
 一瞬で距離を結べば、全身に苦痛が奔る。身を溶かすような毒の霧。
「そう来たかよ」
 思わず笑みを浮かべる。息を吸うも吸わぬも、喉が灼けるようだ。
「存外、面白い策だった。あと少し――正面から斬りかかってくる正直さを棄てれば、だが」
 揺るぎもせず、謙信は振り返る。その両眼は未だに伏せられ、幻覚における策が通じなかったことを悟る。
 いや、そんなことはない。紫九は不敵に笑った。皮膚が爛れようが、肺が痛もうが、構うことは無い。振り上げた剣を振り下ろす。
 剣戟が合わさった。二刀が振るう、だが、詰めが甘く、彼女には及ばない。視界を閉ざしているのだから当然だ。
 ぼさぼさの白髪を乱しながら、彼女は大きく跳躍して、壁を蹴り、急激に方向転換すると、再度謙信へと斬りかかった。
「――届けば俺の勝ちだ」
 斬撃は、その頸を捉え――応酬と触れた炎の剣が、紫九の身を焦がす。
 煙管に火かよ、と嘲笑しつつ――はらり、と落ちた白い布。謙信が纏う装束の一部。そこに朱を確認して、彼女は意識を失った。
 ――同時に、後悔迷宮は解除され、戦場は再び元の景色を取り戻す。
「これが、最後の……!」
 謙信がその変化に馴染むよりも先、小さな気合いと共に、紗織は再び舞う。
(「笑いあう日々が好き――その為ならば……」)
 傷付いた手足が熱を帯びて、自分の速度に耐えきれずに壊れそうな感覚。
 それをねじ伏せ、彼女は畳みかけた。腕を上げた謙信の刃を、強かに打ち開き、更に踏み込む。両の刀が刻む、十八の剣戟。
 やはり、凡ては通らぬ。だが、凡ては止まらぬ。
「この剣戟、届けてみせましょう」
 前へ、前へと、踏み込んで、縦、横、斜めと刃の嵐を叩き込む。
 謙信の守りを捌いた証左、彼の両腕を守る籠手にいくつもの創が出来ている。最後の一太刀は、息を止めたまま下から上へと斬り上げる。
「……ッ」
 彼の胸元の布が、斜めに裂けた。彼女の白刃の先には、確かに朱が乗っている。
 漸く反撃の体勢が整った謙信の十二の刃に、蹴散らされようとも。未だです、と側面より囁き、黒羽が斬りかかる。
「シッ!」
 短い気合いの声と共に、身体を半回転させる鋭い剣戟に、黒羽の手から、黒剣が飛び――衝撃に、彼の身体も飛ぶ。謙信はそのまま地を蹴って、距離を詰めて来る。
 しなやかに着地した黒羽は無防備にそれを見つめながら、薄く微笑んだ。
 ――彼の操る黒剣の名は『屠』。生命を求めて、切っ先を伸ばす魔剣。
「……ッ!」
 足元から軍神を追いかけ、影が刃と伸びた。突如と穿たれた彼の脚が鮮血を流す。
 それでも、彼は止まらなかった。いっそ愉しそうに目を細めて、黒羽は獣のような姿勢で待ち構える。
「強きあなたに、学びます」
 迫り来る刃の前で、黒羽は貪欲に――ねじ伏せられるまで、その武を得んと抗った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

玖・珂
軍勢を率いた手腕は偽らざる実力
だが……今の身は偽り、過去の化身だ

車懸かりの陣は
消耗が激しい或いは隊同士の間が広い場所を狙い
陣形移動の隙をついて一息に駆け抜けよう

大将が見えたなら翠色の花を右目に咲かせ
礼儀だ、名乗りを上げようか

羅刹が一人、玖珂
徒に泰平を乱す毘沙門天殿を討つために参った

覚悟もって白の長杖を構え機を窺う

起こる天変地異には
火なら水、光なら闇と相対する属性を全力魔法で放ち
此の身が通る隙間で良い、敵までの路を拓くぞ
痛みはUCや耐性で凌ぐ

制御が難しいなら発動に神経を注いでおろう
その隙を狙いダッシュで接敵し
魔法で風の穂先纏わせた杖にて鎧砕きの2回攻撃を繰り出そう

上洛……遠征は此処で仕舞いだ


尭海・有珠
軍神だろうとなんだろうとオブリビオンで倒さなきゃならんのなら
倒して見せるさ

陣は≪憂戚の楔≫にて突破
巨大な氷の楔を足下に落とし、壁とならずとも足止めにする
突破後も謙信からは常に距離を取りつつ相対
軍神で武人に早々接近戦など挑んでたまるか
それを受けられる程私も剣は得手じゃない
「まあでもお前、接近戦も遠距離戦もいけるってのはずるいぞ」

敵の攻撃は敵の視線や、動作等を観察し
軌道をある程度予測し、剣と杖で防ぐ
致命傷と背後からの攻撃には重々注意
多少の傷は各種耐性で持ち堪えてみせよう

此方からは属性攻撃・全力魔法で強化した攻撃重視の高密度の氷の楔を叩きつける
高速詠唱、2回攻撃で手数を増やすことにより命中率を上げる



●剣落とす影
 喧噪の中に起こる風に黒髪靡かせ、尭海・有珠(殲蒼・f06286)は海を映した青き眼差しで戦場を捉えた。
「軍神だろうとなんだろうとオブリビオンで倒さなきゃならんのなら倒して見せるさ」
 外套を翻せば、宝珠を抱く真鍮色の蔓茨。柄をしかと握り、水平に構え、目を伏せ謳う。
「来たれ、世界の滴――凝れよ、奔れ、『憂戚の楔』」
 解き放たれた魔力は巨大な氷の楔を降らせ――彼女は其れを足場に、跳んだ。
 突如目の前に突き刺さった氷塊、否、氷の壁を前に兵達は戸惑い――生み出された好機に、陣の移動の隙を窺っていた玖・珂(モノトーン・f07438)も一気に駆け抜ける。
「軍勢を率いた手腕は偽らざる実力――だが……今の身は偽り、過去の化身だ」
 右目に翠色の花が咲かせた彼女が呼べば、空を共に駆けていた白き猛禽が翼を広げ、滑空してくる。
 長杖となったそれを手にしながら、謙信を捉えた珂は、互いの間合いの外、朗と名告りを上げた。
 両者の白い衣がはためいて、一瞬の沈黙に大きく響いた。
「羅刹が一人、玖珂――徒に泰平を乱す毘沙門天殿を討つために参った」
「……来るがよい」
 無に等しい表情に、僅かな戦意を湛えて謙信は一刀を前方へと差し向ける。もう一刀は背後に向け、十の毘沙門刀は静かに耀いた。
 魔力の膨らみを感じ取り、珂は長杖に力を回す。何が来る、身構えた身体が、突風に揺らいだ。
(「炎の嵐――」)
 唇が動くより先に、全力の水魔法を繰る。突如と空中に浮かび上がった水の塊が、懸河の勢いで炎を押し流そうとする。
「――此の身が通る隙間で良い」
 良いのだが、それを作るのが難しい。構えた長杖をぐいと突き出すようにして、力の向きを更に前方に向ける。
 視界を埋める炎の揺らぎに、清流の道が僅かに空いた。
 道が拓いた――察すると同時、彼女は地を蹴っていた。一瞬だけの路ゆえ、熱は疾風と吹きつけて肌を焼く。
 右目に咲く翠色の花が彼女の身を守ってくれる――もっとも、その元は彼女自身なのだが。
 炎の嵐を潜り抜け、珂はいよいよ謙信の元へと迫る。
「その力、制御が難しかろう。一点突破が正解――だな。すぐに此処へと力を集約させられまい」
 長杖を一度薙ぐことで、炎の残滓を振りほどき乍ら、珂は黒瞳を耀かせる。
 全力の風魔法を載せた棒術は、大振りに見せ、瞬く間に鋒を喉元へと叩き込む。謙信は咄嗟に腕を上げ、深追いを凌いだが、貫く手応えはあった。
 羅刹の力と魔力を以て、加速を載せた打撃は謙信の肩を突いたのだ。
「なんの――」
 謙信の右腕が上がった。白い閃光が膨らんで弾ける。
 途端、彼女の身体は数メートルの距離を後ろへと飛んでいた。
「がら空きだぞ」
 指摘する声と共に、冷気が吹きつける。詠唱無しで向けられた氷の楔が、謙信を襲う――彼は身を返すなり、両の毘沙門刀で連続と振るい、氷を砕く。
 一度は接近した有珠はすかさず距離を取る。
 剣を握るものではあるが、相手が悪い。
「軍神で武人に早々接近戦など挑んでたまるか」
 直接斬り結ぶなど――敢えて相手の得意に持ち込む必要はあるまい。
 その言葉は賞賛にも似ている。喜んだわけでもないだろうが、謙信の視線が彼女をひたと見据えた。
「弱点を吐露するのは青いな」
 言うなり、彼は地を蹴る。先に距離をとってあるが、一足の速さは相手に分がある――有珠が咄嗟に差し出した仕込み杖が、刃を逸らし、火花を散らすのを見つめる。
「まあでもお前、接近戦も遠距離戦もいけるってのはずるいぞ」
「賞賛ととっておこう」
 剣戟の合間、言葉短かに彼は静かに受けると、深く沈んだ刀が斜めに黒い軌跡を描き、彼女の手元を弾いた。
 猟兵の矜持、彼女は杖を手放さなかった。ただ、腕に覚えたしびれと、本能が――窮地を叫ぶ。
 ――それがどうした。
 彼女は触媒である剣を強く握りこんで、振り下ろされる白き刀を受け入れる。さすれば、あの男は両腕が開いた状態の隙が出来る。
「……ふふ」
 彼女は思わず、笑みを零した。
 謙信は瞠目する――忽然と目の前で収束した氷が、腹を穿ったのだ。
 一言も発さずとも氷の楔は放てるのだ。全力の魔力を籠めた高密度の氷――この距離ならば、外すまい。
 まだだ、重ね、彼女は砕けた氷の向こう、もうひとつの楔を放つ。
 後ろに退いた謙信は唇を結び、痛みを堪えるような表情を見せた。
「――油断するなよ」
 警告をひとつ放ち、身を折るのは有珠だ。魔力で出血を押さえ込んだが、至近距離から斬り下ろされた一撃は深手。
「心得ている」
 ゆえに、風の魔力を纏った珂は肯く。軍神の背後から杖を繰り出し、微笑んだ。
「上洛……遠征は此処で仕舞いだ」
 その一言に、謙信の瞳はますます凍えた光を宿し、鋭くなる。
 終わらぬ、終わらせぬ――小さな返答を、彼女は聴いたか。杖を受け止めた刃の冴えは、僅かに揺らいだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リオ・フェンブロー
…陣形というよりは戦術に近いのでしょうか
アカシック・レムナントを使用
足を撃ち態勢を崩させ空中より突破します

謙信の姿が見えた時点で狙撃を
…強者なのでしょうね
喉元に迫る位置に最初からあればいっそ惑ったことでしょう

ですが、間合いとは己の絶対の領域
私とて軍人。戦乱の中にあった者として負けはしない

お相手いただきましょう。軍神殿

アンサラーでの砲撃をメインに。防御には魔剣を
最も、これでばかり防いでいては悟られるでしょう

砲身が焼き付いても構わない
氷の津波に併せ、魔力を回し魔剣と共に一撃を届けます
行く仲間がいれば援護に。
派手に行きましょう。これが私の間合い

穿て、アンサラー。終焉を告げよ

ーー突破させて貰います


双代・雅一
双蒼槍の片方を手に、味方が陣を崩す合間を縫い最短距離を見極め突破。

貴方の事は智将とも聞き及んでいる。その戦いぶりを見せてくれ。
双槍のもう片方を手にし、謙信に向かって投擲。
当たるとは思ってない。避けられたその先に渡しただけさ。

惟人、行くぞ――/そちらこそ…油断するな、雅一

オルタナティブWにて出現した惟人は眼鏡無。区別が付かぬ様に。
謙信を挟んで向こう側の弟と同時に仕掛ける。
息を合わせ、対称位置より攻撃。
十二の剣は一人で捌くには至難だが、二人であれば半分で済む。
出来る限り受け止め薙ぎ払いながら氷槍にて凍り付かせ封じよう。

苦手な炎攻撃は…惟人、頼む。
身を挺し受け止めて…今のうちに奴を潰せ、雅一。



●天を曇らせるもの
「……陣形というよりは戦術に近いのでしょうか」
 かつて宙の戦場を駆けた魔女は――地上の戦場を見下ろし、素直な感心をもって目を伏せた。だが今はそれらを見物している余裕は無い。
 戦国の世であれば、なかなか難しい陣であっただろうが――現代においてその知は明らか。
 最短突破の方角を見極めた双代・雅一(氷鏡・f19412)が、戦場を割って駆ける。双蒼槍の一方だけを手に、氷の力を織り交ぜながら、奔っていた。
「さあ、行きますよ、アンサラー」
 リオ・フェンブロー(鈍色の鷹・f14030)が一声かけて、漆黒のアームドフォートを展開する。
「ではひとつ、この地の憂いを絶ちましょう」
 解き放たれるは、灰の魔女の末裔としての彼。無謀にも立ち塞がる兵たちの足元へ、牽制するような砲撃を浴びせると、編んだ銀色の髪を靡かせ、戦場の上を飛行し突破した。
 それは結果として、雅一の突破も手助けすることになった。宙からの砲撃に怯んだ戦場を、強く地を踏んで抜ける。
 しかし空を征く青年の方が僅かに利がある。
 謙信の姿を認めるなり、リオは主砲を向け、放った。加速は維持し、狙いを定める一瞬の制動までに躊躇いはなかった。
 突如と撃たれた軍神は、それでも反応した。
 不意に陽が蔭ると、雨が降る――それは、毒の雨だった。極所的な攻撃であったため、安全圏に逃れると、リオは目を細めた。
 遠くの空にも視線を送る余裕があったということだろうか。リオのことも一瞬だけ、捉えていたように見える。
「……強者なのでしょうね」
 喉元に迫る位置に最初からあればいっそ惑ったことでしょう、地の利を与えてもらったようなものだと、彼は囁く。
 リオを一度間合いの外に追い出すと、謙信は剣を握り直した。その貌のすぐ際を、槍が掠めていく。
「貴方の事は智将とも聞き及んでいる。その戦いぶりを見せてくれ」
 投擲の姿勢はそのままに、辿り着いた雅一が不敵に笑んだ。
 涼しい表情で彼を見つめた謙信は問う。
「武器のひとつは明後日に飛んでいったようだが」
「心遣いどうも。その先に渡しただけさ」
 謙信を見据える青が戦意に細くなる。構えは悠然と、隙は無く。
「惟人、行くぞ――」
「そちらこそ……油断するな、雅一」
 鏡写しのようなもうひとりの男が、謙信の背後に居た。同じように槍を構え、惟人は静かに息を吐き出した。
 いつもならば見分けるために、否、その弟たる個を示す眼鏡も掛けぬ――相手を翻弄するためだ。
 互いの呼吸は、確かめるまでもなく知っている。
 二人が地を蹴ると同時、謙信の毘沙門刀も回転を始めた。
「はっ、」
 弾けた火花は前方と後方。十二の刀も、同時に捌けば六となる。後はそれに対応できるかどうか、だ。
 氷を宿す双槍は、白と黒の刃を弾いて、踏み込む。更に返して、回転する十の刃を貫く――しかし素直に向かえば、力負けする。風が、土が、闇が、光が――目の前で目まぐるしく力を解き放つ刃は、容赦なく二人を苛む。
「属性盛りすぎだろっ」
 惟人の罵声が、いっそ心強い。雅一は辛く笑って、ひとたび跳び退く。油断は出来ぬ――追撃の刀が飛んで来るのを予測し、彼は応じようと構えた。
 砲撃が雨と降り注ぐ――天を舞う黒き男が、仕掛けたのだ。
 一足で退いた謙信へ、冷静な声音が落ちてくる。
「お相手いただきましょう。軍神殿」
 戦場とは思えぬ穏やかな微笑みを湛え、彼は身の丈ほどある杖を空中で構える。ふわりと浮かぶ魔剣の群れが彼を守るように展開していた。
 黒き砲台は、謙信を捉えたまま。
「間合いとは己の絶対の領域――私とて軍人。戦乱の中にあった者として負けはしない」
 さりとて、空中に気を取られていれば、地上を双子が詰めてくる。
 そしてその身も万全とは言えぬ。肩と腹に、それ以外にも少々、猟兵たちに与えられた疵は癒えてはおらぬ。
 ――ゆえに、軍神は微笑んだ。
「久々に、考えさせてくれる」
 ゆっくりと握る二刀を上から下へと斬るように、構え直すと、全方位に向けて集中を高めた。
「考える時間なんかくれてやるか――いくぞ、惟人」
「そっちこそ、遅れるなよ」
 軽口を叩き合い、ふたりは槍を繰る。突き出した双槍は氷の力を解放し、凍結した空気が白く耀いた。
 地を穿つ砲撃を踊るように駆け抜け、謙信は刀を振り上げる。衝撃をも斬って見せるか、至近からそれを見た雅一は、困ったように眉を上げた。
「やはり焼くのが正解か」
 謙信の命を代償とする加速は、判断のあとの行動すら可能とするらしい。槍からの致命傷を避けるべく横に跳び退くと、燃えさかる毘沙門刀を差し向けた。
 放出された炎の刀の前に、彼を挟んで応対していた双子は同時に舌打ちする。
「惟人、頼む」
「仕方が無い――仕留めろよ」
 善処する、という返答に舌打ちし、惟人は雅一の盾と身を投じた。
 その様を空中から認めたリオは銀の髪を踊らせ、肯く。これを機と見ず、なんと見る。
「派手に行きましょう。これが私の間合い」
 失われた片割れの代わり、謙信を挟んだ向こうから、主砲は熱を溜める。
 再度降り注ぐ毒の雨を、魔剣が遮るのを、彼は解除する。途端に、身を焼くような熱が全身を襲うが、リオの集中は削げなかった。
「穿て、アンサラー。終焉を告げよ」
 謳えば、凡ての魔剣が氷の津波と共に謙信へと襲い掛かる。
 頭上から回避できぬ氷が寄せる。氷を溶かすための炎は、片割れを焼いていて不在――。
「今のうちに奴を潰せ、雅一」
 それが、声をあげた。
 気合いの叫びを放ちながら、雅一は全力で距離を詰めると、渾身の一槍を振り抜いた。
 肩へと振り下ろされた刀が、身を割れど、低く前に差し出された刀が腹を穿てど、彼は止まらない。
 氷の津波に背から飲まれ、懐には氷の一撃。堅く噛みしめた謙信の唇から、血が零れた。
「――突破させて貰います」
 毒に冒され背から煙を放ちつつ――リオはそれでも優雅に空を舞い。雅一は血塗れになりながら、車懸かり破れたり、と不敵に笑ってみせた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴラディラウス・アルデバラン
軍が相手ならば此方も軍を出そう
謙信の喉元までは届かぬやもしれぬが、体力の消耗は抑えられよう

相見えたなら剣を得物に、過去の知識や経験に基づく対応を
オブリビオンとはいえ人型
構造も同じであればだが、私の技も幾らかは通じるはずだ
例えば死角を突いた攻撃、フェイント
火属性、氷属性の刀剣をも操る様だが、身体は一切凍らないというわけでもあるまい

痛みも恐怖も感じぬ
寧ろ強敵との戦闘は滾る質だが、冷静さを失う程愚かでもなく
頭も刃も冴えたまま、口数少なに得物を振るう

必要とあらば囮にもなってみせよう
無視できないと思わせる程に恐怖――或は注目を集められればの話だが
それとも我が軍を囮にしようか
猟兵の動き等状況を見て判断する


アルバ・アルフライラ
軍神と戦を交えるなぞ光栄の至り
――と、戯言は此処迄にしておこう

将と対峙する前に砕ける無様は晒せぬ
故に【夢より這い出し混沌】で空中戦を仕掛ける
地上からの攻撃に注意しつつ
広範囲に呪詛を齎し、混乱を引き起す
神速へと到る身の熟し
纏う十二もの剣
その上弱点までお見通しなぞ厭らしいにも程がある
ならばせめてもの抵抗に彼奴の、剣の挙動を注視
時に第六感で刃の軌道を予測
見切りで回避や杖での受流しに繋げる
致命傷、機動力低下だけは避ける
翼竜の機動力ならば多少は凌げよう
ジリ貧にならぬ内に一撃でも良い
腕の一本位くれてやる
攻撃を食止めた隙に魔術で精神攻撃
恐怖を与え彼奴を一瞬でも怯ませる事が叶えば
全身全霊を込め、捨て身の一撃を



●天と地と
「軍が相手ならば此方も軍を出そう」
 紫の瞳は冷静に戦場を見つめ、淡淡と判断を下す。
 細身の片手剣を前へと差し向ければ、ヴラディラウス・アルデバラン(冬来たる・f13849)の白い髪がさらりと音を立てる。
「集え」
 彼女の旗の下、大量の嘗ての部下――在りし日の兵達が謙信の軍勢へと押し寄せる。
 指揮官である彼女も、同じく駆ける。ただ、目的は同一ではない。部下達は彼女の路を作るために車懸かりの陣へぶつかり、ヴラディラウスは戦闘を避けて、一直線へ相対する指揮官の下へと向かう。
 白き外套をはためかせ、甲冑の騎士は半身を赤く染めつつある軍神へ、そのまま突撃した。
 驚くべきは、他ならぬ謙信が出遅れたことだ。猟兵たちがひとつひとつ削って来た結果と――恐らく、彼女が部下を彼の元まで強く押し込まなかったことが意外だったのだろう。
 氷雪舞うように、彼女は優美なる剣を振るう。
 外套を大きく翻し、目隠しとして鋭く踏み込む。鋼の隙間を潜り、柔らかな肉を削ぐような感触があった。
 すぐに、跳び退く――本来なら、そのまま畳み掛けたいところだが、不意に足元が揺れる。
 大地が割れて、マグマが顔を覗かせ、意志持つように彼女へ弾けた。
 雪よりも白い肌を、途方も無い熱が撫でる。
(「痛みも恐怖も感じぬ――が。これは流石にただではすむまい」)
 冷気を宿す剣で身を守るように構えながら、ヴラディラウスは冷静に判断する。真っ直ぐに突っ込んでいくのは愚行ならば、如何に立ち回るか。
 謙信は毘沙門刀のひとつを大地に突き刺し、それを制御しているらしい――あれをどうにか乱せば隙もつけよう。
 判断は下した。後はマグマに飲まれぬよう、駆け回るしかない。軍勢を呼びつける手はあるが――。
 その時、空が大きく戦慄いた。
「助太刀します」
 天より声がある。それより先に、上から押しつけられるような風圧が波のように地を叩きつけた。
 羽ばたきで空気を振るわせながら、名状し難き黒の翼竜が眼下の謙信を睨めつける――それでも、軍神は身じろぎしなかった。
「軍神と戦を交えるなぞ光栄の至り」
 その背で戯れに微笑を浮かべるは、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)――仕込み杖を手に、上空に吹く風が、美しきスターサファイアの髪を耀かせた。
「『厄災』よ、疾く駆けよ」
 命じれば、翼竜は大きく身体を躍動させ、滑空した。
 突風が地上に吹きつけながら、アルバは呪詛の術を紡ぐ。猛る災禍はおおよそ人の手に及ばぬもの――だが、相手が相手だ。
 回転を始めた九の毘沙門刀――地に刺した地の刃をそのままに、大地を斬りながら、謙信は跳躍すると、黒き一刀を振り上げた。
 もっとも翼竜が低い軌道を征くとき、軍神はその背のアルバに届く。力強く振り下ろされた一撃を、彼は杖で受け止めた。
 目の前で火花が散る。膂力で押され、落ちそうになるところを、翼竜が力任せに振りほどき、天へと浮上する。
 地へと押し戻された謙信の背で、大きく天を指し示す剣は、眩く光るもの。
「神速へと到る身の熟し。纏う十二もの剣――その上弱点までお見通しなぞ厭らしいにも程がある」
 零し、直感的に指示を出す。
 放出された刃は光の帯を空へと刻む。その速度は凄まじく、翼竜の尾を貫いた。
 反動で、大きく傾ぐ――だが翼が奪われたわけではない。
 何より、ひとつ機は作った。
 マグマの谷を臆さず跳ぶ女がいる。何処までも美しい白が焦げて黒くなろうと、ヴラディラウスは謙信に肉薄する隙を逃さぬ。
 加速をそのままに片手を伸ばすと、無防備な背へと斬り下ろす。
「身体は一切凍らないというわけでもあるまい?」
 初めて、彼女は問い掛けた。
 色の薄い唇には淡い笑みを湛え、獰猛に踏み込み、次なる剣戟を与える。苛烈な切り返しは、謙信の反撃を容易に許さぬ。
 何故ならば、彼の身は先の戦闘で――人ならば既に動けぬだろうほどに、凍えていた。そこにヴラディラウスの刃が更なる凍気を重ねているのだ。徐々に、その呼気は白く、唇は青ざめていく。
 それでも――苦境に遭っても、表情にはなんら滲ませぬ軍神に、彼女は愉悦を覚える。
 打ち合いがあと何合続くか、思うものの、長くはあるまいと――頭はどこまでも冴えていた。
 ゆえに、その反撃も意識のうちにあった。彼が握る黒と白の剣が交差して、彼女の剣を受け止める。儘、力任せに押し返される。
 雄叫びと共に、軍神が前進した。両の刃が同時に開き、彼女の腕に朱を走らせた。
 ヴラディラウスの腕から、剣が跳ぶ。謙信が肩越しに次の毘沙門刀を掴む前に、上空から翼竜が滑空してくる。
 揺れる髪が、青い輝きを空に描き――天と、謙信とを結ぶ。
 仕込み杖から解き放たれた刃が流星の如き煌めきを残し、その殺意に、謙信の身体は翻った。軽い跳躍からの転身でありながら、自分に喰らい付こうという竜の顎を巧く飛び越えた。
 まったく惘れるほどの身の熟しよ、アルバは笑って迎え撃つ。
 薔薇色輝石の指先を徒に彼へと向けると、
「腕の一本位くれてやる」
 言葉通り、剣を掴もうかというように差し出された腕が、鋼に触れるなり砕け、多面と煌めく青い断面を見せた。
 同時、集中を高めたアルバの魔力が解き放たれた。
 身が竦むような、魔力の奔流が防禦を知らぬ軍神の身を包む。ほんの一瞬の、完全なる虚。それはこの領域においては致命的であった。
「ただし――代償は高くつくぞ」
 吐息が掛かるほどに肉薄した翼竜の加速を載せた報復の一刀は――謙信の腕を深く深く、抉った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

重松・八雲
【花守】
音に聞く陣も、今や国と民を苦しめるのみ
なれば何が立塞がろうと、打崩さねばな!

意気込み、UCとオーラ防御や各耐性も重ね強化
後は怪力で龍殿の腕掴み
空より一気に将目掛け最速飛翔

その勢いと力乗せ
名乗りながら挨拶に一太刀
刃が阻めば地に叩き伏せるよう武器落とし
※返す刀で吹き飛ばし
少しでも威力相殺や直撃阻止図る
火・毒・闇は耐性や破魔で
風は※の風圧で
樹・氷は刀で
破る・断つ・押返す等し対抗
他は動作や効果観察
見切りと速度活かし
龍殿と死角補強し
致命だけは防ぐ

将に届く一瞬あらば
肉を斬らせて骨を断つ覚悟で
鎧ごと砕く渾身の一撃を

最早腰痛どころでは済みそうにないが、構わぬ!
此程の陣と刀、其ぐらいで応えねば到底――!


柳楽・龍之丞
【花守】
嘗ての名将が魔軍将として立つか
全く――彼の陣を、そして貴殿の気概を前にしては、儂まで武者震いを覚えそうだ

予めオーラ防御と各耐性重ね耐久力向上
突破は怪力で手を借り一息に
流弾等あらば刀で叩き落とす

要捉えば礼儀として名乗りつつ
降下の勢いに怪力加え同時に一太刀
刀対策は同様に連携し、武器落としや吹き飛ばしで地や遠方へ弾き返す
また死角助け合うよう動き、見切りで属性毎の癖を分担観察
耐性ある火・氷・闇以外を優先警戒
残像伴う所作で動き掴まれぬよう図りつつ、急所は武器受けで防御

一瞬でも間合い掴めば
相討ち覚悟で鎧ごと砕く剣刃一閃

万年雑兵の身なれど、この剣は、この様な時の為――障壁を切り崩し、道を切り開く為に



●烈風の運び手
 軍神の手繰る術の影響か、はたまた自然な成り行きか、風が出てきた――。
「嘗ての名将が魔軍将として立つか」
 微風に着物の袖がそよぐも、柳楽・龍之丞(臥龍・f08299)の立ち姿は動と崩れず。
 直立不動を絵に描いたような男の横で、飄飄とした男が歯を見せて笑う。
「音に聞く陣も、今や国と民を苦しめるのみ――なれば何が立塞がろうと、打崩さねばな!」
 呵々と言い、重松・八雲(児爺・f14006)が確りと大地を踏みしめ、全身の力を充実させる。
「刮目せよ!」
 なれば、彼の肉体は守護のオーラで覆われ――それは目に見える変化ではないが、身体能力は紛れもなく変化している。
「全く――彼の陣を、そして貴殿の気概を前にしては、儂まで武者震いを覚えそうだ」
 僅かに眉を動かし、龍之丞が言う。淡く笑いを含んだ言葉に、応よと八雲は答えると、龍之丞の腕をむんずと掴み、飛翔した。
 怪力で男一人を持ち上げて戦場を悠々と横切る。やはり、彼らを撃ち落とせるほどの矢の遣い手もおらずば、兵器も無い。
 もし空まで強烈な一撃を飛ばせるものがいるとすれば、それこそ彼ひとり――十二の毘沙門刀を掲げて待つ上杉謙信、そのひとだけであろう。
 空中より確認する限り、彼は瞑想するように瞳を閉ざしている。そんな様子でありながら、ひりつくような殺気は届く。
 ふ、と龍之丞が息を零すのを合図に、彼らは滑空する。最高速度を維持したまま、軍神へと臆さず突撃していく。
 びゅうびゅうと激しく風切る音で何も聞こえぬ中、二人は声を張り上げた。
「重松八雲、いざ!」
「――柳楽龍之丞、参る」
 その瞬間は、最早、衝突といって差し支えなかった。風圧で周囲の砂埃は巻き上がり、遅れて吹き飛んだ。超高速で斬りかかった男二人はその制動を失わず、芯を捉える。
 高く吹き飛んだ血潮を、二人は見た。彼は両腕を掲げて合わせたが、その勢いに剣は吹き飛んでいた。黒白の二刀を犠牲に、腕を守ったか。
 それでも衝撃を逃しきれず、二の腕から肩まで、弾けるように血が舞っていた。
「こちらも手負いゆえ、手加減は不可能――元より殺し合いであるが――許せよ」
 白装束を赤く染めながら、謙信は次の二刀を構えた。時が止まったかのようにゆるりと八雲はそれを見届けたが、次の瞬間には突風が懐を薙いだ。
 刀身はやや遠く、身体に斜めに走った灼熱は確かに刃のように鋭い。
 余裕を失った軍神は様子見は棄て、刀に全力を載せ、一気に仕留める事を選んだようだ。
 八雲から見て左からの一閃が奔った後、右からの斬り下ろしが怒濤と落ちる。
 彼は気合いを入れ直し、翻した濤乱刃が甲高い音を立てて噛み合った。それでも力負けするのは、謙信も凡ての力をそこに向けているのだろう。
 静かに、龍之丞がその背に奔る。伸ばした一刀を、謙信は鮮やかに捌いて見せた。負傷した腕で振るう水の刃は、その輪郭を曖昧にして、軸を見せぬ。
 咄嗟に切り抜けて退いたところを、残像など知らぬという大きな斬撃が追ってきた。風の一刀、これぞ先に八雲を怯ませた、間合いを越える斬撃を放つ剣。
 あの男が躱せなかったのも道理、龍之丞はひとり肯くと刀を水平に構えて身を守る。
 すべての斬撃を無効とできずとも、一撃で沈められることは避ける。オーラで身を守っているとはいえ、本気を出した謙信の刃を受ければ、耐え切れまい。
「龍殿っ!」
 八雲の一声は、警告ではない。何処までも前向きに、敵へと向かう合図。
 握った大連珠を無造作に叩きつけ、その攻撃の機を逸すると、強く地を踏みしめ龍之丞は踏みとどまる。
 漆黒の眼光は軍神をしかと見据え、反動をつけながら前へと、龍之丞は踏み込む――。
 同時に攻め込まれた謙信は、二人を両の刃の範囲に合わせるが、その両翼が開いている今こそ、好機。
 裂帛の気合いは三者の誰が放ったものか、謙信の刃が先に孤を描いた。
 右に毒、左に樹の二刀――閃くなり、視界を遮る葉が行く手を阻み、斬撃の残り香だけで肺が灼けそうな毒の刃が喉元に迫る。
 そこへ、臆さず龍之丞が踏み込む。裡へと刀身を押さえ込むような姿勢から、軌跡の下を潜りて抜き放つ。
 毒の刃は、まさしく空を斬る。
 併し樹の剣は前へと伸ばされたまま、跳び込んでくる獲物を待ち構えていた。
 朴訥を絵に描いたように表情に乏しい男は、その瞬間、口の端を少し上げたか。
「万年雑兵の身なれど、この剣は、この様な時の為――障壁を切り崩し、道を切り開く為に」
 腹を掠める刃を辿り、血風を撒き散らしながら、彼も一刀を滑らせる。
 斬り上げた一刀は謙信の横腹に一筋、疵を刻みつけた。
「ぐ……! なんの……!」
 軍神は、いよいよ呻いた。
 ――それでも身を捻り、樹の刃を龍之丞へと深く斬りつけると、片や迫る八雲へと向き合う。
「最早腰痛どころでは済みそうにないが、構わぬ! 此程の陣と刀、其ぐらいで応えねば到底――!」
 無防備に身を晒すようでいて、その両眼は潜り抜けるべき場所を見出していた。
 腹の底から気合いを奮わせ、活性化した身体は軍神の矜持を紙一重で躱す。頬の横へと逸れた刃が、次に首元に噛もうが構わず、八雲は息を吐きながら垂直に斬り下ろす。
 謙信の足元には――猟兵たちの、そして龍之丞からの疵が響いて、足元に血溜まりが出来ていた。両腕を攻撃に差し出してしまえば、もう躱すことは出来ぬ。
 八雲が撃ち込んだのは全力を載せた剛刀でありながら、鋭く急所を突く正確無比な一撃であり――それは軍神の肩を割り、鎧を砕く一刀となった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

吉城・道明
【烏珠】
聞きしに勝る迫力だな
然りとて魔の将に天下は譲れぬ
其の武勇で以て国を破滅に導く等、あってはならぬ

オーラ防御は急所に絞り手厚く
後は各耐性も備えつつ――何より戦友を信ずる

陣は伊織に乗じ突破
叶わぬ時は兵が薄いか弱った所見極め一気に駆ける

眼前に迫れば名乗の義は通す
が、速度は緩めずUCで同時攻撃
刀が阻むも想定内
足りぬ手数は早業で補い、返す刀で武器受け処理
加えて互いに死角補い、分担し刀捌いて武器落とし、残像加え被害分散等の連携も
各刀特徴観察して癖や隙見切り、一撃通す機を探る

掴めば再び同時に
覚悟と共に鎧無視のUCを
相討とうとも、意地を、刀を、貫き通す

月の心に、懸かる雲なし――
貴殿は今尚、そう言えるか


呉羽・伊織
【烏珠】
ホント壮観で参るな
でも完璧を崩す瞬間は嫌いじゃない
それに――その覚悟が届く瞬間は、一層痛快だろう

謙信交戦中の猟兵を拠に
UCの群に仲間入れ陣突破

身に各耐性
得物に毒(対薬)や呪詛(対光)
巡らせ攻守対策

着けば勢いその侭に挨拶がてら同時攻撃
※早業で目潰しに風切放ち
烏羽で武器落とし狙う2回攻撃

更に分担や連携し
死角補う
毘沙門刀捌く
被害分散に残像重ね交える
等で手数補う

後は見切られねーよう※にフェイントやUC移動を不規則に混ぜ撹乱
常に動作観察し、各刀特徴(特に弱点狙うモノ)の見切り、癖や隙の情報収集
機がありゃ再び同時に
道明と逆から援護の一手

一睡の夢も一期の栄華も疾うに終わったモノ
骸の海の泡沫に帰りな



●風の行方
 戦場の様子を余所に、叢雲が流れていく。
「聞きしに勝る迫力だな――然りとて魔の将に天下は譲れぬ」
 真摯な眼差しを切り拓くべき陣へと向け、吉城・道明(堅狼・f02883)が零せば、
「ホント壮観で参るな」
 微笑を湛えた呉羽・伊織(翳・f03578)が、赤い瞳を眇めた。
「でも完璧を崩す瞬間は嫌いじゃない。それに――その覚悟が届く瞬間は、一層痛快だろう」
 さあ、覚悟は良いか。
 伊織の問いに、解は不要とばかりに、道明は深く肯けば。嚮導を――伊織が大烏を呼びて、二人は忽然と、その場から消えた。
 ――軍神は先程立ち会った猟兵たちと入れ替わりに現れた二人に、瞠目こそすれど、転身は間に合わぬ。
 ただ、刀で咄嗟に身を庇うことだけ。
 遊ぶような妖刀が、率直な妖刀が、転移直後に次々と閃く。
 身は凍え、全身に数多の創をうけている上杉謙信の白装束は赤赤と染まり。新たな創が、そこに加わる。
 殊に、道明の渾身の一刀は――謙信の手にした刃を折った。
 折れた刀身がくるりと舞って、伊織が放った暗器を弾く。おや、と彼は思うが表情には出さぬ。計算して折ったならば、おそろしいことだが。
 十二の毘沙門刀は戦いの果てに、いずれも汚れ、痛み、元の輝きを何割か損じている。
 此処に至るまでの苛烈な戦いは謙信を確実に追い詰め、いよいよその終わりを迎えようとしていた。
「刀を失おうが我が名は変わらぬ――この命が尽きるまで、軍神は折れぬ」
 もっとも手に馴染む、黒と白の二刀。それは如何なる運命を引き寄せるか――されど、彼が構えた瞬間に、空気はひりりと緊張を孕んだ。
 二人は謙信を中心に、それぞれ間合いをとる。じっと機を窺う一瞬の沈黙を、回転を始めた九の剣が風と共に斬り捨てる。
 瞬きの間に肉薄する気配に、伊織は喉で笑う。
「挨拶はもう済んでるな。名告るほども無いものだ」
 暗器をもうひとつ掌に滑らせて、彼は片手で黒刀を操る。如何にその動作に目を凝らせど、謙信の身体能力を捉えきるには、反射のような動きでしか対応できまい。
 勘の働きに期待して、振り下ろす刀身の下を白刃が迫れば、すかさず暗器を走らせながら横へと跳んだ。
 火花が散る。目の前の鋼の輝きだけでなく、手の甲に走った浅い創。それで済んで上等、相手は死の物狂いで斬り込んできている――。
 だが、伊織はそれに付き合う酔狂はもたぬ。
「留め置く必要はないが――我が名は吉城道明」
 片や、名告り乍ら、道明は刀を抜き払う。性格を表すように何処までも真っ直ぐに――両者の交錯に割り込む刃は強靱と、噛んだ黒い刀身を跳ね上げた。
 返し、新たな刃が下から斬り上げてくる。今度は道明が刀で受ける。受け流すことも打ち返すことも儘ならぬ、力任せの剛刀で吹き飛ばされる。
 剣風が袖を裂いて朱を刻むを、冷静に見下ろして、問題無いと目配せを送る。伊織も視線を返して、低く構えた。
 咄嗟に身体を大きく捻った謙信の腹から、夥しい出血が続いている。先の戦闘で凍結気味だった身体がようやく温まったか。
 剣の冴えは向上したが、それだけだ。全てを力に。触れれば斬る。
 その覚悟の体現は近づきがたい剣気を放って見えるが――軍師が策を棄ててどうするんだか、と伊織などは思う。
 態とらしい溜息をひとつ、彼は零す。
 動きは読みやすくなったとはいえ、身体能力という埋めがたい差がある。策など不要な程の差。
「さあ、終幕と行こうか。こっちも先が閊えてるんでね」
 分かり易い挑発を投げて、こちらへ来いと伊織が誘う。両手で握って見せれば、暗器は空だと報せる如く。
 信じるかどうかは解らぬが、謙信は一度瞑目すると、両手の剣を払って、地を蹴った。
 蹴った、と見た瞬間には風が伊織の髪を後ろへと飛ばしている。その速さは体感済みゆえ、彼も合わせて刀を薙いでいた。
 正面から、至近で冷えた輝きを宿した眼光に貫かれる。
 既に、伊織は愛刀を垂直に振り下ろしていた。剣閃は黒い軌跡を刻みながら、身体は後ろへと跳んでいる。追って、刃のあげる唸りが耳に迫る。
 ぎりぎりまでを引きつけて、刀を返す。弾けて、ひとつ。だがそれでいい――身も守ろうと姿勢を変えるような動作で、隠した暗器を、音も無く放つ。
 血飛沫が視界を埋める。
 謙信の貌をとらえた鋭い刃は、片目のすぐ端を捉え、頬を裂き、血の霞を空へと作る。
 完全な目つぶしとはならなかったが、一時的に視界を奪い、謙信の判断を鈍らせた。
 片腕に刃を受けながら、片腕を強か打ち払い、力に任せて謙信の剣を落とす。伊織は地へと逃れ――だが、もう一刀による追撃は無い。
 ぎりりと噛み合う刃が鳴る。頸を守るように後ろへ回された刃と、頸を落とそうと振り下ろした刀を交わらせ、背中越しに静かな声音が問いを打つ。
「月の心に、懸かる雲なし――貴殿は今尚、そう言えるか」
「――変わらぬな。いつ、どの世であれ、私は私」
 この均衡が崩れた瞬間、どちらが制するか。白の一刀に両手を添えて後方の男の刃を外そうとする謙信と、軸をずらす優位を何処で仕掛けるか、剣を振り下ろした姿勢で冷静に見極める道明と。
 振るえる刀が立てる音が、大きくなる。どちらのものか、呼気が大きくなった瞬間、ふたつの輝きは別の軌道を描いて、すれ違った。
「相討とうとも、意地を、刀を、貫き通す」
 手首を返して、道明は変わらず頸を狙った。素早い反転で旋風を起こしながら、謙信はやや遅れて彼の頸を狙う。
 再度、その剣の道行きを奪ったのは、新たな暗器。声をあげ、道明は剣を叩き込む。軍神の肩から先が、天に舞う。
「ああ――見事だ……猟兵どもよ」
 告げた後、謙信の口から、血が噴き出す。
 その胸を、背後から一刀が貫いていた――。
「一睡の夢も一期の栄華も疾うに終わったモノ――骸の海の泡沫に帰りな」
 柔らかに告げ、伊織は妖刀を抜きながら、立ち上がった。

 斯くして――魔将軍がひとり、上杉謙信はこの地に斃れる。
 地に伏して仰いだ空で、斑となった雲が攫われていく。
「――ああ、風が征くな」
 また、辿り着けず。だが、全力は尽くした。
 猟兵たちとの戦の結末に――彼は淡い微笑を浮かべて、消えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月25日


挿絵イラスト