#ダークセイヴァー
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●鏡面の宴
単純なパーティーなど、とうに飽きた。
豪勢なだけの宴も。狂乱にばかり走る宴も。狂気に沈むのも一時のことだ。恐怖になれた人は、絶望に身を浸す。暗闇に目が慣れてしまえば、狂乱の賑わいは遠く、狂気さえ生まれはしない。高らかに告げられた革命の凡てに、反抗にすぎぬと、反乱でさえ無かったのだと囁いてやるのにも飽きた。
だからこそ、ほんの一つの気まぐれのように宴を思いついた。趣向を凝らしてこその宴。拘りはそのまま、主の品格を表す。
品位、品格。
「故に、優雅たる必要があるのです」
「故に、品位を損なうことは許されぬのです」
面を被った従僕たちは告げる。それを『守って』いれば、ほんの僅かな可能性がお前たちにもあるのだと。
「明日の生を望むのであれば」
「夜明けの光を望むのであれば、品位を示しなさい。それこそ、我らが主の望み」
その享楽に相応しき姿で示すのです。我らが主、偉大なるヴァンパイアの為に。
●リーディングストーン
「うん、要はそのヴァンパイアの好む姿で宴に訪れて、気に入られたら村は暫く無事だよ、って言う話みたいなんだ」
態々迎えを寄越すとか、宴の為に色々と動いているみたいなんだよね、と告げたのは漆黒の髪を揺らす少年だった。ユラ・フリードゥルフ(灰の柩・f04657)は集まった猟兵たちを見ると、手にした猫のぬいぐるみと一緒に情報を広げた。
「おにーさん、おねーさん達にはこの「宴」に潜入して欲しいんだ」
ダークセイヴァーの一角、山間のこの地にて潜んでいたオブリビオンの動きが確認できたのだ。
それが「宴」だ。
享楽的なヴァンパイアであるのか、そのオブリビオンは定期的に宴を開く。詳細は、宴に招かれた者しか知らずーー仔細を知る者は、今まで殆どいなかったのだという。
「宴で「主」って呼ばれるヴァンパイアに気に入られたりすれば、その村は暫くヴァンパイアの盤上として使われない、って約束があるから」
事実、約束は守られていたのだろう。だからこそ、今の今まで情報を得ることはできなかった。同じように宴に招かれた者は、他の街や村にもいただろうがーー。
「気に入られなかったらそのまま、街も村も一緒にさよならって感じみたいなんだ。だから知って生きている人は口を黙み、知っていて生きていない人はーー勿論、喋れない」
何より宴に招かれた者は誰一人、生きて帰っては来ていない。
「今回は、招待の規模が今までとは少し違うみたいで、それで話も掴めたんだ。今のところ、その趣向にハマっているみたいで」
眉を寄せた猟兵たちに、ユラは目をぱちくり、とさせると、小さく苦笑した。
「うん、なんだろって感じだよね。でも、おにーさん、おねーさん、心して聞いて欲しいんだけど、今、そのヴァンパイアがハマっているのはーー眼鏡みたいなんだ」
はい? と声が落ちたか。は? と眉を寄せたか。冗談だろう、という顔をした猟兵を前に、ユラは小さく笑った。
「うん、冗談みたいな話なんだけど、それが今の「主」の流行りみたいなんだよね。で、分かっているならそれを使うべきだと思って」
なんで好きなのかは知らないけれど、使えるなら使うべきだよね。と言った少年人形は、集まった猟兵たちに言った。
「おにーさん、おねーさん達には眼鏡をかけて……あと、うん。似合う感じにかけて、この宴に潜入してもらいたいんだ」
潜入自体はスムーズにできる筈だ。村々にいれば、馬車の方がやってきて誘って来るだろう。宴は一般的な立食パーティーが開かれていて、主の気分かケーキ類が多い。
「主はすぐには姿を見せないと思う。だから最初は普通に宴を楽しんでも大丈夫だと思うよ。おにーさん、おねーさんが油断しすぎるってことはないと思うし」
宴には猟兵たち以外にも、周辺の村や街の者たちが来ている筈だ。最初のうちに下手に動き回れば、彼らも危険に晒すことになるだろう。
「宴自体は、主が見ているのは確かみたいだし、警備もいるから気をつけてね」
厳重な警備だ。それが宴の為だけなのか、別の何かのーー未だ、帰らぬ宴の参加者たちの中、生き残りがいる可能性があるのか。
「勿論、おにーさんもおねーさんも、気をつけてね。今まで、潜伏し続けて……その上で、思うがままに生きていたオブリビオンは、容易い相手じゃきっとないから」
そう言って、ユラはグリモアの光を灯す。いってらっしゃい、と告げる少年と共に、紫色の転移の光が溢れた。
秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。
一度はやりたい眼鏡依頼。
だいたいそんな感じです。
▼各章について
各章、冒頭追加後、日付を指定してのプレイング募集となります。
第一章のみ、12月3日(火)8:31〜
プレイング募集期間はマスターページ、ツイッターでご案内いたします。
また、状況にもよりますが全員の採用はお約束できません。
第二章、第三章もマスターページ、告知ツイッターでご案内させていただきます。
また、募集前のプレイングにつきましては、全て流させていただきます。
第一章:ドレスアップ・ビフォー・アフター
第二章:調査(詳細は不明)
第三章:ボス戦。詳細は不明
▼第一章について
会場に入ったシーンからスタートします。会場には問題なく入れます。
*眼鏡をつけていないPLは参加できません。
眼鏡は「眼鏡着用」とプレイングに記載があれば、イラストなどで眼鏡をかけていなくても大丈夫です。
第一章はPOW、SPD、WIZは参考までに。
立食パーティを楽しんで頂ければ幸いです。
▼お二人以上の参加について
シナリオの仕様上、三人〜の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。
二章以降続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。
それではみなさま、ご武運を。
第1章 冒険
『ドレスアップ・ビフォー・アフター』
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POW : 肉体や強靭な精神を引き立てて美しくなってみる
SPD : 凝った装飾や軽やかな仕草で美しくなってみる
WIZ : ミステリアスさや神秘さを引き立てて美しくなってみる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●華麗なる宴
そこに一歩、足を踏み入れれば甘美なる宴に足音は消える。毛足の長い絨毯に、ベルベットのソファー。小さなテーブルは、品の良い木製のものだ。足音一つ響かずに、管楽の調べに彩られる空間は優美の一言に尽きた。
「……眩しい気がする」
そこに参加している人々が、兎にも角にも眼鏡をかけていなければ。
シャンデリアからの反射が妙に眩しい気がして、笑い出しそうになったのを必死に耐えたりする人の顔を見なければーーそう、優美で華麗な宴で間違いは無い。
「今宵、宴にお招きしたのは、我らが主の趣向に相応しき皆様」
「優雅をお示しください」
給仕たちは静かに告げる。
それさえ示していれば、願いは叶うのだ、と。
この地に揃いしは、願いを持つ人々。村の存続を、街の明日を願う者たち。中には、己一つの願いを抱いてきた者もいるだろう。あたりを見渡しているのは、誰かを探している者か。
だが、その誰もが眼鏡をかけている。主の趣向であるが故ーー切実な願いと、絶妙に乖離したテンションになりかけるがーー、それひとつで、願いは叶うのならば。
「品位を示しなさい」
曰く、主が好むのは優雅であるという。
パーティーグッズのような眼鏡や鼻眼鏡の類は好まれない。叩き出される可能性があるだろう。ならば優美とは、品位とは何を示すのか。普通に、ごく自然に眼鏡を着こなすことであるという。ーー着こなすのか、とか。ごく自然にとか何だよとか言ったところで始まりはしない。
全ては趣向。長きを生きた『主』の戯れに過ぎずーーそれこそが、潜伏し続けたオブリビオンを見つけるきっかけであったのだから。
インディゴ・クロワッサン
個人的にはモノクルが好きだけど、どんな眼鏡にするかはぶっちゃけお任せにした眼鏡を着用しつつ、相応しそうな格好に【変装】で着替えてごーごー!
「ふぅん…」
【世界知識】と【礼儀作法】でこの場に相応しい佇まいを崩さないようにしながら、ちょっとはミステリアスに見えるように心掛けようかな
壁に背を預けながら、飲み物を飲んだり、周囲を見たり…とかね
(…招待客全員が眼鏡かぁ…)
何となく眩しい気がしてつい半目になるけど、ふと思い立った様に(見えたらいいな!)食事を取りに行きながら【聞き耳】で【情報収集】しておこうっと。
「…これは中々」
ん~ やっぱりダークセイヴァーの料理は良いねぇ、僕の味覚にあってるみた~い♪
●
「ふぅん……」
眼鏡越しに見るその空間は、ある一点を除けば所謂上流階級のパーティーそのものだった。「宴」という言葉が似合うのはあの『ドレスコード』が理由だろう。コード、と言っても、村一つ、街一つを背負ってきている者にとっては必死につけたものに違いない。
(「……招待客全員が眼鏡かぁ……」)
ほう、とインディゴ・クロワッサン(f07157)は息をついた。そう、眼鏡だ。どこもかしこも眼鏡をつけた客だらけ。眼鏡をつけていないのはーー宴の主宰側だろう。給仕たちは顔を面で隠してはいるが、眼鏡はしてはいない。黒の礼服を身に纏った彼らと同じように、招待客の多くはスーツに身を包んでいた。
「……」
その上で、また色んな眼鏡なんだよなぁ、とインディゴはひっそりと息をついた。自分とて、眼鏡はしている。どんな眼鏡にするかはお任せでーーと思っていたのだが、それを宴の主はーーその従僕たちは許しはしなかった。選ばなければ、品位を示すことにはならない、という彼らに、それならばと個人的に好きだったモノクルを選んだのだ。
(「あそこで選んでなければ、入ることもできなかっただろうな」)
追い出されるのではなく、最初からこの宴には侵入できなかっただろう。この空間に「眼鏡が似合う存在」が集めることが、宴の主にとっての楽しみであるのだろう。
「……さて、と」
ひとつ、インディゴは言葉を作る。
柔く落とした息と声は、常の青年よりは芝居がかる。金の瞳を細めたのはーー何となく眩しかったからだ。やれ、と息をつくようにして、食事の並ぶ一角を目指す。
ストロベリーショートケーキに、チェリーの飾られたチョコレートケーキ。焼き苺を使ったパイに、洋梨が並べられたムースケーキ。
「……」
そういえば、主気分か、ケーキ類が多いという話もあった。食事は、簡単なものが多いのか。ミートパイを選びながら、インディゴは皿に視線を移す。
「……こんな、見たこともないお菓子や食事が食べれるなんて……。服も、用意してくれて……」
これが吸血鬼のすることなのか。
ーーそんな声が、耳に届いた。戸惑い程、心は揺れていない。困惑よりも恐怖の方が近いようにインディゴには感じられた。
(「遅れる理由が何か、他にちゃんとあるから、かな」)
年の頃は二十を超えているだろうか。
スーツは着なれているようだが、あの言い分からするに、着ているのが高いスーツだということは分かるが、普段の自分では着たことが無いようだった。
それほどのものを、宴の主は振舞うということか。
「……これは中々」
さくり、とパイを楽しみながら、インディゴは瞳を細める。
(「ん~ やっぱりダークセイヴァーの料理は良いねぇ、僕の味覚にあってるみた~い♪」)
食事は今のうちに。
さらに情報を調べるために、耳をすました。
成功
🔵🔵🔴
花型・朔
【SPD】
うへぁ、眼鏡、眼鏡かぁ。視力いいから掛ける機会なかったんだよね――こういう時ぐらいしか!
【ピンクゴールド縁眼鏡着用】
簪とか小物で色を合わせて振袖と袴の和装に編み上げブーツ。
緊張する場所に、自然と身振りも指先まで集中、品性を意識して。
小さく微笑んで色んな人に会釈するけれど、実際は異様な光景に吹き出しそうになるのを堪えてる。
立食は服装に気を使いながら。
ご飯は…美味しい。えぇ……? こんな感じでいいんだろうか
(「ねえねえ、私、変じゃない? 浮いてない?」)
表情も態度も崩さず、小さな声は管楽に消され、近くの人にしか聞こえないように。
●
和やかな会話など、そこには無かった。多くの客が緊張しているのもあるのだろう。村ひとつ、街ひとつの明日がかかっている。だからこそ、動きのひとつ、ひとつに誰もが気をつけていた。その上でーーこう、なんというか一面、眼鏡、なのだ。
(「うへぁ、眼鏡、眼鏡かぁ。視力いいから掛ける機会なかったんだよね――こういう時ぐらいしか!」)
普通、眼鏡と言えば視力の補正に使われるのだから問題は無いのだがーー今回はことがことだ。
吸血鬼は、眼鏡をつけた者を宴に招く、という。
セミロングの赤茶の髪を結い上げ、簪をさした少女ーー花型・朔(f23223)もまた、慣れぬ眼鏡姿で屋敷の大広間へと入っていた。毛足の長い絨毯は、編み上げブーツの足音も隠す。ピンクゴールド縁のメガネに振袖に袴、という朔の姿は宴では目立っているようだ。
「あの衣装は……」
「何処から来られたのかしら」
「……の街では? あぁ、でも、彼処にあのような衣装は……」
和服、という文化への珍しさだろうかと、小さく微笑んで会釈をする。その仕草に、ほう、とお喋りな客たちが息を飲んだ。
(「ひとまず、どうにかなっている……よね?」)
正直を言えば緊張しているのだ。身振りひとつ、指先まで集中するのは品位を示せよ、あれ程に言われたからだ。ーーだが、少女はそれ故に品位を示している。品性を意識し、吸う息は静かに。静々と歩いてゆけば、振袖が小さく揺れた。
(「……笑わない吹き出さない」)
どう見たってどう考えたって、異様な光景なのだ。何処見ても眼鏡だし。眼鏡に片眼鏡に色眼鏡。笑うなと言う方に無理があるがーーその無理、通すしかない。
(「深呼吸深呼吸」)
呪文のようにそう唱えて、朔はブッフェテーブルに向かう。色とりどりのケーキは、眼鏡だらけのこの空間に浮くほどーーいやもう一周回って似合い出すのかもしれないけれど、豪華だ。
「ご飯は……美味しい」
小さく、呟く。
誰に聞こえぬ程の小さな声は、戸惑いに揺れていた。そう、こんな感じで良いのかと。悩みながら、そっと近くにいた人に声をかける。
「ねえねえ、私、変じゃない? 浮いてない?」
表情も崩さぬまま、小さくかけた声は皿を持ったまま固まっていた娘の耳に届いていた。
「え……あ、多分。浮いてはいるかもしれないけれど……どちらかと言えば」
その服だと思うから。
小さく、そう告げたのは赤髪を結ぶ娘だった。白い肌に、ドレスを身に纏った彼女はアンダーリムの眼鏡をつけたまま、ちらり、と朔に目をやる。
「その服が、御婦人の用意したものじゃないみたいだから……だと思う」
「服だけなら……良かった。そのご婦人の好みとは違ったらどうしようかと思って」
小さく息を落とすようにして話を合わせる。私には、とややあって口を開いたようにして言葉を作る。
「この服だから」
「……そう。でも、……えぇ大丈夫だと思う。ご婦人は……、主様は好まなければ最初から此処には入れないだろうから」
まるで、入れなかった「誰か」を知っているかのように娘はそう言って、顔を上げた。
マリーだと、小さく名を告げて。
大成功
🔵🔵🔵
エンティ・シェア
スーツに合う銀縁のスマートな眼鏡を掛けていこう
勿論伊達だよ。普段は必要ないわけだし
よく見えるように、髪は避けておこうね
領主殿にご挨拶した方が良いかな
その際は、こちらの素性を知られないよう、少し緊張気味の演技でもしておこうか
後は、折角のパーティだ、楽しくお喋りでもしようよ
私は喋るのが大好きでね
人が集まる所に入るならお喋りせずには居られないのさ
食事の邪魔はしないよう、飲み物片手に暇を持て余してそうな人や、
緊張でもして壁際に居るような人に声を掛けていこうかな
他愛もない話でいいよ。出身地の話がしやすいかな
適当に話を合わせて、勧められる物があれば素直に応じよう
悪目立ちはいけないからね、休み休み楽しむさ
●
ひとつ、ふたつと誰かが口を開けば辿々しくも話に花が咲く。テーブルに用意された食事は、どれも豪勢なものばかりだ。焼き苺を使ったパイは香ばしく、洋梨をふんだんに使ったムースケーキは紅茶にもよく合う。思えばテーブルにワインやシャンパンといった酒は用意されてはいなかった。
(「アルコールは禁止、という感じかな」)
グラスを片手に、エンティ・シェア(f00526)は小さく口元に笑みを敷いた。話題の中心にいるわけではないが、話の輪の近くにはいる。柱に沿うようにして立つ青年のすらりとした体にはスーツが良く似合う。柔らかな赤髪を耳にかけ、銀縁のスマートな眼鏡を身に纏えば離さずにいた職業は街の商人あたりが人気となっていた。
「その眼鏡もすごくお似合いで……。やっぱり、普段からかけられている方は違うな」
「ありがとう」
にこりと笑って応える。
喋るのが大好きだと、前もって告げていたからか宴の客たちは皆、エンティをそう言う人間、と見る。あんたは話しやすいな、と青年は笑い、見た目で判断せずに声をかければ良かったとある娘は顔を綻ばせた。ーーこれは、スーツに眼鏡というエンティの姿が彼女の中で「街の人」に見えたからだという。
(「眼鏡は伊達なんだけどね。よく見えるように髪を避けておいて良かった見たいだ」)
声をかけてみれば、応じるタイプと、向こうから声をかけてくるーー話の輪に加わってくるタイプに分かれる。会話に加わってくるのは宴に来た理由だ。村が庇護を受けるとか、街での地位を約束してくれるといった、恩恵を受ける側だ。領主と話すことは出来なかったが、誰もが『主様であれば、それができる』と思っているようだった。
(「実際、吸血鬼であればできるだろうけれどね」)
話に出る村や街も、実際この屋敷の主が手を出せる範囲であるのだろう。そう信じ込ませるには十分な程に名が知れ渡っていれば、この宴に「招待された」という時点で地位は約束されたようなものだろう。たとえ、本人が戻れなくとも。
(「領主の姿は見えてないようだけれど、折角用意した宴を放置して何処かに行くってことも無いだろうから……」)
さて、何処かで見ているのか。
無理に探すよりは、宴の客と話している方が良さそうだ。ゆるり、とエンティは視線を巡らす。赤髪の下、見つけた一人に緑の瞳が細められた。
「君の出身は?」
「……あんたに関係ないだろう」
壁際にいたのは、こざっぱりとした青年だった。話しかけるには不躾なのは理解した上だ。エンティの着ているものとは少しばかり違うスーツに身を包んだ青年は、一度こちらに向けた視線をふい、と逸らす。
「話したいんなら、他の奴のところに行けば良いだろう」
「それも良いんだけれどね。私も君とお喋りがしたかったんだよ」
なにせ喋るのが大好きでね。
悪戯っぽく一つ笑うように告げれば、青年は諦めたように息をつく。
「……、北の村だ。別に、寒い小さな村だよ」
スーツ自体は着慣れているが、こういう場所には慣れていないのか。眩しそうにシャンデリアを一度見た青年は、あんたは、と薄く口を開いた。
「街での地位でも求めたのか? 宴の主は、なんでも願いを叶えるみたいだが……、それとも」
ふつり、と止まった言葉の先は、無事を願ったのか、だろうか。話しかけてきた客人たちと、関わって来なかった客人との違いは、多分これだとエンティは思った。
吸血鬼の恩恵を受ける側と、慈悲を願うもの。
吸血鬼の盤上に使われること無く、戯れに滅ぼされることも無いという約束。その慈悲を願う者にとってみれば、宴で仲良く会話とも行かないのは不思議もない。
「どちらだと思う?」
緩く、エンティは首を傾げて見せる。隠すのか、と眉を寄せた青年に、願い事だからだよ、とひっそりと笑った。
「君にとっても秘密だろう?」
「……、そうだな」
踏み込みすぎる気は無い。悪目立ちはしないようにそう告げれば、青年の方が息をつく。
「あんたと話していると、変に気が抜ける」
褒め言葉なのかどうなのか。
目を一度ぱちくり、とさせたエンティに、青年は小さく、告げた。
「ミルヴァだ。画家をしていた」
短めの黒髪に、赤茶の瞳をした青年はそう言った。
大成功
🔵🔵🔵
双代・雅一
弟人格で。
眼鏡ならお前だとか酷い理由で雅一に任されたが、激しく理解した。
その、何だ。学会より眼鏡率高いのは初めて見るぞ?
白衣の代わりに黒い礼服に身を包み。
雪結晶のタイピンやカフスは派手ではないが黒を引き立てる事だろう。
グラスの酒は一口程度。
集いし人々の表情を気にしつつ、独りの者でも居れば声をかけ、話を。
聞き手として相手に共感しつつ、彼らが宴に望み願う事でも聞けたら良いか。
後程の調査行動の指針を考える参考にはなる。
生業を問われたら…錬金術の学者とでも答えておこう。化学だと思えば間違いではないしな。
知的探求心の象徴なんだ、眼鏡というのは。
ただのお洒落でかけてる連中との差を見せてやろうじゃないか。
●
眼鏡の齎す印象についてーーという論文が確か、存在した。印象の変化と操作についてのものではあったのだがーー否、今はそういう問題じゃない。
「その、何だ。学会より眼鏡率高いのは初めて見るぞ?」
眼鏡ならお前だとか酷い理由で雅一に任されたが、激しく理解した。
会場に入ってすぐ、ふつり、と浮き上がった意識と共に双代・雅一(氷鏡・f19412)に託されたーー基、押し付けられたのがこの空間だった。主人格たる兄の雅一はすっかり隠居を決めている。
「……」
医者である雅一に対し、惟人は工学エンジニアだ。こんなキラキラとした空間に、と最初こそ思ったが、実際放り込まれたのはキラキラしたというか強制的に煌めいている空間と言うかーー趣味趣向だからとこんなものを許して良いのか。
「……は」
ため息をつこうが、悪態をつこうが押し付けていった雅一が顔を出す訳でも無い。三度目のため息を舌の上に溶かして、惟人は会場を見渡した。空間に対して客がひどく多い、と言う訳では無い。宴への招待客だという事実を思えば、数は主催側が指定しているのかもしれない。
(「空間に収まる程度……、狭いとは感じないが同時に此処を広いとも感じにくい」)
毛足の長い絨毯は足音を消す。
ヒールのある靴が不慣れた娘もいるようだが、引っかかるような足音も消してしまう。あちらとすれば、下手な騒ぎならなかったと言うことではあるがーー聞く側となれば話は別だ。
足音が聞こえにくい。
近づいてくる者はそうだが、他に変わった動きをした者がいたとしても足音では気がつけないだろう。聞かれる側としてみればありがたいかもしれないが、聞く側には不利だ。
(「ーー不利、と。感じる者がどれだけいるかだろうがな」)
任せた、の一言も無く任せて行った雅一に悪態をつけながら、つい、と惟人は眼鏡の蔓をあげる。
知的探求心の象徴なんだ、眼鏡というのは。
(「ただのお洒落でかけてる連中との差を見せてやろうじゃないか」)
吐息ひとつ、溢すようにして呼吸を作る。黒の礼服に身を包み、タイピンはシンプルに雪結晶のものを。派手では無いが美しいカフスは、青年の美しさを際立たせる。
遠巻きに感じる視線は、何も怖がられてのものでは無い。話しかけにくい雰囲気は怜悧な美しさがあってのことだろう。
「……」
微笑を浮かべて応対するのは雅一の役目だ。そいつが眼鏡ならお前だと押し付けていった以上、和かな応対など惟人には向かない。だからこそ、静かに声をかけることとなったのだがーー……。
「錬金術……! それはすごいねぇ。いやぁ似合ってると思ったんだよ。その眼鏡も」
「錬金術の学者、だがな」
化学だと思えば間違いではないしな、と選んだものだったが、随分と好評のようだ。惟人が声をかけた先、物珍しそうに宴を見ていたのは年の頃も然程変わらない饒舌な男だった。
「私は音楽家でね。……と言っても、上等な場所で演奏できるような音楽家って訳でも無くてね」
酒場辺りが職場だったんだけどねぇ、と男はグラスを揺らす。小さく笑う声は、苦笑とも自嘲とも似ていた。
「でも、その街が滅ぶかもしれないという。館の御婦人は、品位を示せば街を盤上には載せないと言ったが……結局、それは街を守るようで脅されているにすぎないしねぇ」
「……そうだな」
「無理に頷かなくても良いんだぜ?」
小さく笑った音楽家に息をつく。今更だな、と声を落とせば音楽家が金の瞳を細めた。
「身なりもそうだが、あんたは俺みたいな音楽家とはとんと違う場所の人間にも見えるな。此処最近じゃ少ないがそう言う客も昔はこの宴にもいたらしい」
曰く、館の『御婦人』の噂は長くあったのだという。実際に目にしたのはこれが初めてだと音楽家は言ったがーー他に話を聞いてきた客たちも、何人かがそんな話をしていた。決まって街の人間だ。村は、街から来た彼らより悲壮な雰囲気が漂う。
『村の明日がかかっているからな』
慈悲を乞う姿と、街の平穏を願う姿には少しばかりの温度差がある。数人、声をかけて聞いて見ただけではあるが同じ反応であるのは、そう仕組んでいると見て間違いは無いだろう。
(「首の絞め方が違う、か」)
それを見て楽しんでいるのであれば、何にしろ悪趣味なのは変わらないだろうな、と惟人は息を落とした。
大成功
🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
【狼鬼】
黒スーツに黒縁スクエアを合わせ
自慢のピアスも化粧も剥ぎ取られ
ついでに残る孔までドーランで隠されちまった
自分を曲げて型に嵌めるなんざ
それこそ優雅さや品位に欠けると思うんだけど?
ケーキを口に運びながら思案
毒は入っていねえか
ここで仕留めるつもりは無えらしい
或いは――
文字通り「御眼鏡に敵った」奴らは
殺さねえでどっかでコレクションしているかも知れねえよな
それが人道的なやり方かはさておき
俺のマナーが何だって?
こう見えて俺はウサギ紳士の愛弟子だぜ
テーブルマナーと殺戮技能は叩き込まれた
何の心配も要らねえよ
今日は公共の場での「あーん」は無しだぜ、ザザ
「品位」を疑われちまうからな
からかいつつ会場を目で探る
ザザ・クライスト
【狼鬼】f20695
スーツ姿で髪はオールバック
英国紳士然としたスタイル
銀縁眼鏡はシャープなシルエット
帽子、手袋、ステッキなどは入場時使用人に預ける形
ジャスパーの"拘り"は力尽くで体裁を整えさせる
「……会場に入る前から疲れさせやがって」
悪態は吐くが、あくまで自然な笑み姿勢を正し、堂々と淀みなく振る舞う
「──人は紳士に生まれるのではない。紳士になるのだ、という言葉もある」
テーブルマナーも素養はあるが注意する
特にジャスパー
「イヤ、料理は大したモンだ。"拘り"を感じるね」
ジャスパーを囮に会場
の目を【おびき寄せ】る
【迷彩】として利用しつつ【情報収集】
「"ソイツ"は仕事が片付いた後だ」
気兼ねしねェ場所でな
●
管楽の音が、柔く響いていた。宴の主たる存在からのもてなしだという音楽は二人を連れてきた屋敷の従僕たちと同じ姿をしている。タキシードに、仮面。顔を隠し、個を隠し切った彼らは誰もが同じように見えた。
「……」
歩き方まで、徹底したものだな。
視線ひとつ従僕を見送ると、ザザ・クライスト(人狼騎士第六席・f07677)は息をついた。
「……会場に入る前から疲れさせやがって」
目をやった先、ザザの瞳に映るのは黒のスーツに身を包んだ青年だった。黒縁スクエア眼鏡に、ボサボサの長髪は後ろで結ばれてしまえば、随分と雰囲気も変わる。
「ジャスパー」
「自分を曲げて型に嵌めるなんざ、それこそ優雅さや品位に欠けると思うんだけど?」
不服そうにジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)は唇を尖らせた。常の彼とはずいぶんと違うーー別人、と言っても不思議の無い姿は自慢のピアスも化粧も剥ぎ取られたからだ。ついでに残る孔までドーランで隠されたとなれば、テンションが高くある訳もない。
「紳士には、在り方って言うものがある」
ーー人は、と一節を引用してジャスパーに聞かせながら、ザザの表情は微笑を浮かべたままでいた。悪態を吐いたとも思えぬまま、自然な微笑を浮かべて話を続ける。場に合わせた立ち居振る舞いーーというものだ。オールバックにスーツ姿のザザも、普段の彼を知るものが見れば果たして何というのか。シャープなスタイルの銀縁眼鏡は、理知的な姿に見せる。
食事ーーと言っても、立食形式だ。然程堅苦しい物ではなく、だが、だからこそマナーは目立つ。ジャスパー、と互いにだけ届くような低さで響かせた声は、眉を寄せた男に拾われる。
「俺のマナーが何だって? こう見えて俺はウサギ紳士の愛弟子だぜ」
テーブルマナーと殺戮技能は叩き込まれた。何の心配も要らねえよ。
「……そうかい」
ナイフ捌きは結構なようで。
落とした息は毛足の長い絨毯に吸い込まれて、歩き回る足音は何も聞こえない。宴のざわめきばかりだ。演奏される音楽が理由かと最初は思ったがーー違う。慣れぬ靴で躓きそうになった少女にとってみれば、目立たなかったことは幸いだろうがーーこれだけいて、足音が聞こえない、というのも違和感がある。
「聞かせない理由があるのか、単純に邪魔だと思っているのか……ってトコか」
小さく口の中、言葉を作る。ふと、視線をあげれば白磁の皿を手に少しばかり考えるようにジャスパーが瞳を細めていた。
「……」
口の中に広がるのは濃厚なチョコレートにラズベリーの酸っぱさ。苺のジュレは濃い味で作られているケーキのバランスを取ってくれる。口当たりも良いケーキは、甘く美味しい。
(「毒は入っていねえか」)
舌の上、残った味と感覚にジャスパーは眉を寄せていた。ひとつ、ふたつとケーキは選んではいたがーーこの分だと、どの食べ物にも毒は入っていないのだろう。致死性でなくとも、麻痺や睡眠系という可能性も考えられたがーー少なくともジャスパーはそれは「無い」と言える。
眼鏡をつけた連中を一纏めにした、っていう形は広間で出来上がってはいる。
(「ここで仕留めるつもりは無えらしい。或いは――」)
崩すことなくパイにナイフを入れながら、ジャスパーは視線を上げた。
「文字通り「御眼鏡に敵った」奴らは、殺さねえでどっかでコレクションしているかも知れねえよな」
それが人道的なやり方かはさておき。
実際、豪勢な宴と厳重な警備とは結びつかない。警護であるならばまだしも、だ。
「今日は公共の場での「あーん」は無しだぜ、ザザ。「品位」を疑われちまうからな」
揶揄いながら会場へと目をやる。こちらの会話を気にしているのは同じような眼鏡の客人たちの他にはーー従僕たちだ。品位、という言葉に素直に釣られたか。
「"ソイツ"は仕事が片付いた後だ」
気兼ねしねェ場所でな。
吐息一つ零すように告げたザザは、ジャスパーへと集まる視線を使って、周囲を探る。
「イヤ、料理は大したモンだ。"拘り"を感じるね」
唇に賛辞を乗せていれば、かかったのは同じような客の一人であった。
「あぁ、君もそう思うかい? 本当に、この料理には拘りを感じるよね! 相応しきものを揃えたようだ」
陽気なーー言ってしまえばテンションも高い男は、にこりと笑う。
「眼鏡に似合いの料理って感じさ。あぁ、もしくは最後の晩餐に、ね?」
「ーー」
宴に招かれた者は誰一人、生きて帰っては来ないーーというのは案内人の話だ。この客もそれを知っているのか。
「お名前は?」
「あんたにとってはどっちだって、聞いたっていいんじゃねぇの?」
「……ジャスパー」
低く、窘めるように響いたザザの声に、客の男ーー人懐っこい丸い眼鏡をつけた男は笑った。
「僕はエリック。そう、最後の晩餐側かな」
村の無事を願うのだから、と彼は告げた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…ん。眼鏡を、着こなす…?
吸血鬼が諧謔に走るのは良くある事だけど…。
…まぁ、どんな趣向であれ私のすべき事は変わらない。
吸血鬼を狩る。ただ、それだけ…。
……って、少し前の私なら言っていたでしょうけど。
変われば変わるものね、ほんとうに…。
第六感が危険を感じたら離脱するよう心掛け、
“想い出の品”を身に付け礼儀作法を意識してドレス姿で行動
…拘りが品格になると言うならば、
この色眼鏡こそが私なりの拘りよ。
今までの戦闘知識と経験から宴に吸血鬼が混ざっていないか警戒し、
UCを頼りに吸血鬼の気配を目立たないように探ってみる
…姿は見えないけど、今もどこかで見ているはず。
…随分と物々しい警備だけど、何か関係がある?
●
狂乱の宴、狂気の果て。
目の前に広がる「宴」はそう言ったものからは、かけ離れていた。
「……ん。眼鏡を、着こなす……? 吸血鬼が諧謔に走るのは良くある事だけど……」
眼鏡、なのか。眼鏡で良いのか。
長くを生きたという吸血鬼の嗜好など知ったことではなく、それが「きっかけ」として利用できるのであれば使うだけのこと。
「……まぁ、どんな趣向であれ私のすべき事は変わらない。吸血鬼を狩る。ただ、それだけ……」
それは、リーヴァルディ・カーライル(f01841)が思っていたことなのだがーー……。
「……って、少し前の私なら言っていたでしょうけど」
ほう、とリーヴァルディは息をついた。
「変われば変わるものね、ほんとうに……」
宴の会場、賑やかでは無いが美しく作られた空間でそう言葉を作る。ひっそりと落とした息は、過去の自分を思い出してのことだ。過去、といっても少し前。そんなに昔と言う程のことではないからこそ、変わった、と強く思う。
「……」
感慨を今は置いて、息を吸う。宴の客は、賑やかにこそ成れてはいないがこの空間でそれぞれ主の言う品格を見せようとしていた。立ち姿が美しい者もいれば、所作が美しい者もいる。かと思えば、然程気にする様子も無くケーキを皿に取っている人の姿もある。
(「そのどれも、従僕たちは否定はしない……か」)
サングラス越しに見る視界は、色彩を寄せて世界を少しだけ違う形で見せてくれる。お揃いの品だ。小さく、笑みを零してリーヴァルディは会場となった空間を見る。長方形の一般的な広間。シャンデリアや、楽隊のいる床の作りを見るにダンスも行われていたと見て良いだろう。ふかふかのソファーに、小さなテーブル。部屋のあちこちに置かれたそれは何処からでも見れるようになっていた。
「食い合ってはいない……」
間に人が立てば話は違うが、ソファーの向きを見る限り何処からでも眼鏡をかけた客の姿は見える。それを『見たい者』がこの宴の会場の中にいなくても。
「……姿は見えないけど、今もどこかで見ているはず」
今までの経験から、宴の中に主らしき吸血鬼が混じっていないのは分かっている。従僕たちは主の血を受けた下位の吸血鬼ではあるが、それだけだ。彼らの戦闘能力はそう高いようには思えない。給仕も行っているようだが、壁に立つ姿は警備も兼ねていると見て良いだろう。
「……随分と物々しい警備だけど、何か関係がある?」
単純に考えれば逃さぬ為。リーヴァルディが見ていただけでも、外の空気を吸いに行きたいという青年に否を突きつけていた。
『此処からどうぞ、外の空気をお楽しみください』
ベランダへと続く窓が開けられ、椅子を差し出された。従僕の瞳が青年の顔に注がれていたのは眼鏡を外そうとしてーーやめていたからだ。(「もしも外したら、追い出すつもりだったか……?」)
宴からか、それとも人生そのものから彼という存在をはじき出すつもりであったか。
何の為かと言えば、宴の主の為しかないだろう。そこまで徹底するのであれば「見ている」のは確かだ。表立って姿を見せている訳では無い。変装の類も無い。
(「そうなれば……」)
あとは、と視線を巡らせたリーヴァルディの瞳がひたり、と一角を捉えた。宴の会場、様々なデザートの置かれたテーブルの向こう、広く白い壁の向こうに「いる」と。
「ーー」
視線を逸らす。偶然を装うように、息を吸う。立ち上がってドレスの裾を揺らすようにデザートへと向かった。固めのプディングに木苺が飾られた品だ。
(「あれは……、長く目を合わせて良いものじゃない」)
それに気がつけることこそが吸血鬼狩りの業。これは、正しく「会場」だ。宴の主は、自分の趣向に沿った宴を眺めている。今の気分、眼鏡をつけ、己に品格を示そうとしている人々をひとつの空間に集めて眺めているのだ。あの壁の向こうから。
値踏みよりは鑑賞だろう。
仕掛けがあるようだが、あの感覚こちらから壁を破壊したところで単純には辿り着けまい。見られているのであれば慎重に動く必要がある、とリーヴァルディは思った。
●
「ーーあら」
「……様、如何なされましたか」
「今宵は随分と早く気がつくものがいたこと。ふふ、扉は閉じているかしら? 道具箱の中身は、空にして、みんな集めてしまいましょうか」
グラスを片手に『彼女』は足を組み直す。ひどく愉しげに溢れた微笑は艶やかな笑みに変わる。
「私のコレクションに」
大成功
🔵🔵🔵
黒蛇・宵蔭
吸血鬼風情が、味な趣向を凝らすものですね。
最後の余興に花を添えに。
では眼鏡を用意して参加しましょうか。
意外と拘って選んできました。
目立つのは嫌ですが、印象に残らないのでは喜んで貰えないでしょうし。
……遮光眼鏡ですけど。
いや、意外と役に立ちましたか。
皆が眼鏡というのも壮観です。
しかし華やかな会場で。暇と財を持て余しているのか。
きちんと正装して参加します。
ゆっくりと会場を見渡しながらお酒をいただきつつ。
口当たりの品の良さに、少々苛立ちも覚えますね。
料理の味にも不満はないのが不満でしょうか。
壁の傍で眺めている方が気が楽ですが、優雅に楽しませていただきます。
ええ、其れで希望が叶うのですから。
●
喧騒には程遠く、賑わいというには引きつった顔が多いのか。高い天井から吊るされた豪奢なシャンデリアが、無駄に煌びやかな宴を照らしていた。妙に光が多いと思うのは件のドレスコードの所為だろう。
眼鏡をつけること。
つけてくれば誰で良い訳でも無くーーある程度は宴の主たる存在か、従僕が選びあげる。最も、招待状を『こちら』で用意できる程度のものだ。きっちりとした物でも無いのだろう。
その程度の趣味か、余白も含めた趣味であるのか。
(「吸血鬼風情が、味な趣向を凝らすものですね」)
グラスに唇を寄せ、小さく黒蛇・宵蔭(f02394)は息を溢す。細められた瞳に乗った情は如何程であったか。白皙に淡く影を落とし、正装に身を包んだ男はゆっくりと会場を見渡した。
「……なるほど」
馬車の手配をした従僕たちは、吸血鬼か。すれ違い様に受け取ったグラスに、何か含みがある訳でも無い。菓子類が多い、というくらいだろうか。沈んだ色に見えたケーキに、つい、と宵蔭は眼鏡をずらす。
「苺でしたか」
真っ赤な苺のソースで飾られたケーキは遮光眼鏡越しには沈んで見えた。ふ、と小さく息を溢す。思えば随分と赤いものが多い。単純な好みか、意味があってか。
(「まぁ、そのどちらでも構いませんが」)
宴を用意した主は、何処かでこれを見ているのだろう。見る限り、遮光眼鏡を選んできた客はあまり多くはいないようだ。拘って選んだ甲斐があったと思えば良いのか。悪目立ちしてはいないようだが、物珍しさで視線は集めているようだった。この分だと主催の印象にも残るだろうか。
「いや、意外と役に立ちましたか」
皆が眼鏡というのも壮観です。
これを主催したのが吸血鬼というのはーー長きを生きれば今回のようなことも思いつくのか。
(「華やかな会場で。暇と財を持て余しているのか」)
さて、それとも。とワインに唇をつける。フルボディの赤ワインにレアチーズケーキはよく似合う。ーーどうやら、食事の趣味は良いのだろう。
「……まったく」
口当たりの品の良さに、少々苛立ちも覚えますね、と宵蔭は息をつく。舌の上に溶かした刺ごと飲み干せば、グラスに赤の名残が揺れた。
「料理の味にも不満はないのが不満でしょうか」
豪勢な食事、というタイプでは無いが、一つ一つがよく出来ている。甘味が多いのは主たる存在の趣味だろうがーー軽食も悪くは無い。キッシュにサンドイッチ。色とりどりの野菜に、濃厚なチーズはワインと一緒に先ほどから振舞われるようになったという。
「……」
アルコールを出すまでに、少し時間を置いたのには理由があるのか。
「さて、どちらであっても、喜んでもらえたら何よりですね」
最後の余興に花を添えるには十分。
吐息を溢すようにしてひとつ笑い、するりと宴に加わる。壁の傍で眺めている方が気が楽ではあるがーー話の輪に加わる訳でも無い。影を踏むように進み、足音を沈ませる絨毯に小さく笑いながら宵蔭は優雅にグラスを傾けた。
「ええ、其れで希望が叶うのですから」
示す品位は立ち居振る舞いか。
烏羽の艶やかな髪で表情を隠し男は唇に微笑を乗せる。華やかな会場へと踏み入れた人々を眺めながら。
大成功
🔵🔵🔵
八上・玖寂
また物好きな吸血鬼ですね……。長生きすると大半の事に飽きそうで大変ですね。
そういえば眼鏡が好きな人は見かけますが、嫌いな人っていませんよね。少し不思議ですね。
いつもの伊達眼鏡をかけて、
灰色のタキシードを着たりして、
そっと宴の場へ参りましょうか。
【礼儀作法】は多少心得があります。
あまり【目立たない】ように会場を歩きつつ、参加者の話に【聞き耳】を立てるなどしましょうか。
吸血鬼様へのお願い事とか、脅かされている事とか、お屋敷の構造とか、
変わったお話が聞けそうなら近づいて話しかけます。まずはご挨拶から。
※絡み・アドリブ歓迎です
●
幾ら華やかな宴といえど、今宵招待を受けた客にとっては素直に楽しめるような場所では無いらしい。別に、それ自体に不思議は無い。人生がかかっている者もいるのだ。村ひとつ、若しくは街か。彼らは皆、理由があって此の宴に客として呼ばれている。
「……」
眼鏡を、つけて。
「また物好きな吸血鬼ですね……。長生きすると大半の事に飽きそうで大変ですね」
ほう、と八上・玖寂(遮光・f00033)は息をついた。迎えの従僕たち曰く『偉大なるヴァンパイア』たる主は、今はそういう気分であるのか長くそういう気分であったのか。
いつもの伊達眼鏡をつい、と上げて軽く視線だけを周囲に向ける。口元には微笑を浮かべたままだ。灰色のタキシードを身に纏った男の姿は、目立つようで目立ちはしない。周囲に溶け込んでいるーーというよりは、宴の空間に溶け込んでいるのだろう。従僕たちが玖寂の動きに目くじらを立てることもなく、宴の他の客たちの視線を攫うこともない。
「……まぁ」
最も、ほんの時折気がつくような者もいる。目立たぬように移動していた玖寂に、その時初めて気がついたように目を見張るのだ。
「街のお方ですか? ……から来られたのかしら」
ほう、と息をつき、娘が頬を染めたのはすらりとした長身にスーツも良く似合っていたからだろう。微笑みを崩さぬ男には見惚れる程の美しさがあった。
「うちの街よりもずっと、洗練された所から来られたのでしょうね。……えぇ、此処ではあまり出身地を言う方はいなかったかしら」
私は、初めてだからごめんなさい。
饒舌になったかと思えばふつり、と口を噤む。宴の主を気にしてーーというよりは、緊張から一気に喋り出したのが落ち着いただけだろう。にこりと微笑んで、玖寂は会場をゆっくりと歩き出す。毛足の長い絨毯は、足音を消していく。管楽の音を楽しむには良いのかもしれないがーーさっきの娘のような人間は、足を取られても不思議は無い。
(「そういえば眼鏡が好きな人は見かけますが、嫌いな人っていませんよね。少し不思議ですね」)
人懐っこい、丸い眼鏡をつけた娘も吸血鬼の趣味で集められたのだろう。
「しかし、初めてだから、ですか……」
それは、初めてではない者がいる、ということを示すようだ。案内人の話では宴に行って戻った者はいないという。抜け出した者がいるのかそれともーー従僕と成り果てた者がいるのか。
(「忙しそうにはしていますが、誰かが知り合いだと騒ぎ出す様子もない、か」)
単純に考えれば従僕に変わった、という説は無し、だ。ならば、当たり前のように彼女が言った言葉の意味は「2回目」の者がいるということか。
「誰も戻らないというのに、二度目があるとすれば……戻らずに二度目を迎えた者がいる、ということになりますが……」
素直にそう考えて良いものか。
口の中、転がした言葉をワイングラスに落とす。ノンアルコールだと渡された葡萄ジュースは艶やかな赤をしていた。テーブルのケーキも、飲み物も「赤」が多い。主の好みか、それともこれもまた趣向か。足音を消す長い毛足の絨毯は、実際、足元を覚束なくさせる。
『ふわふわとしてしまって……』
本当に此処は、すごいところですね。
娘の零した言葉は、畏怖よりは僅かに尊敬に傾いていた。単純な印象の操作ではあるが、吸血鬼がそれをする理由とすれば「此処」から逃さない為だろう。
この館は、吸血鬼が己が欲を満たす場だ。
「……ってのに呑気に、お喋りなもんだな」
不意に、そんな声を耳が捉えた。低く、唸るような声に視線をやれば、がっしりとした体型の青年が見つかる。黒のスーツは、自分で用意したのだろうか。喪服と言われても不思議は無かった。
「こんにちは。楽しまれていますか?」
「ーー……」
「おや、貴方も楽しくはありませんでしたか」
挨拶代わりに投げた声は、ふい、と視線を逸らされ打ち捨てられる。構わずに小さく笑った玖寂に青年はややあって、舌を打った。
「どうだろうが関係ないだろ。あんたも、此処に来ているなら」
願いがあるのだろう、と青年は言う。願いがあるから「来た」のであれば馴れ合う必要はない、と。
ーー別段、この反応そのものは不思議ではなかった。他に聞いた話でも村から来た、という客人たちは皆、願いに切実だ。街から来た者も大なり小なり願いがあって此処に訪れてはいるのだがーー街の今後、という程、大きくは出ていない。どちらかといえば「恩恵」だ。吸血鬼により恩恵を受けることができる、と街から来た彼らは言う。対して「村」から来た者たちは明らかに生存を脅かされているようだった。
「君とは少々、事情が違うかもしれませんので」
「……どこかの街の人間だろ、どうせ。そんな格好のやつ、ここいらの村じゃみないからな。俺たち見たいに失敗したら終わりって訳じゃない」
吐き捨てるように言われた言葉に、玖寂は小さく瞬いて見せる。分かりやすく残した表情の変化は、微笑みをあまり崩すことの無い男にしてみれば逆に珍しいものであった。
「ふん、そんなに珍しいのかよ」
それを、青年は見つける。あからさま過ぎたかとは思ったがーーどうやら、彼には丁度良かったらしい。
「えぇ。君が失敗、と言いましたから。近くの村が失敗でもしましたか」
「……、別に近くじゃないさ。こんなものに距離なんて関係ない。俺の村が失敗したからな」
「君は生きているというのに?」
微笑を浮かべたまま緩やかに問う。青年は玖寂を街の人間と誤解したまま、低く告げた。
「今回また声をかけられたのが証拠だろ。あの馬鹿が戻って来るって言いながら出て、そんなに経っちゃいねぇのに」
ご婦人の怒りを買ったんだろ、と青年は呟いた。
「屋敷から抜け出して見せるなんて言っていたから」
だから、と痛々しい程に強く拳を握りながら。
大成功
🔵🔵🔵
サフィー・アンタレス
月居(f16730)と
特別気合を入れず、いつも通りの装いで
特に肩肘張らず、月居はいつも通りで良いだろう
下手に警戒すると怪しまれるぞ
飲み物の入った適当なグラスを手渡しつつ
とりあえず、何か食べるか?
甘味が多いが…俺は前菜から
まずは場に溶け込むことが一番だろう
あまり食には関心が無いんだが
…まあ、普通に美味いな
この世界じゃなければ、この贅沢な宴も違和感が無いんだろうが
月居に美味い物があったか聞いたり、苺のケーキを薦めて緊張を解いたり
薦められたやつには興味を持って、手に取ってみる
食事しつつ、一応は耳を澄ませ様子を窺う
主だかなんだか知らないが
随分と意味不明なヤツだな
眼鏡に品位も何も無いだろう
月居・蒼汰
サフィーくん(f05362)と
青いフレームのハーフリム眼鏡着用
眼鏡が好き…
ヴァンパイアにも色んな趣味嗜好があるんだなあ
品位とか品格とか、俺には…どうだろ?
でもサフィーくんは場慣れしてるように見える…流石だ…
腹が減っては何とやらだし
貰った飲み物と、スープやパンを適当に
周りがきらきらしすぎてて落ち着かないけど
付け焼き刃の礼儀作法で表面上は取り繕いつつ過ごせたら
サフィーくんはちゃんと食べてる?
あっちに生ハムとチーズがあったよなんて情報を共有しつつ
苺のケーキは好きだしいそいそと取りに
…しばらくしたら緊張も解れたかな
時折聞き耳を立ててきな臭い話が入ってこないか確かめたりも
…あ、ケーキ美味しい(もぐもぐ)
●
トン、と踏み入れた一歩が、毛足の長い絨毯に吸い込まれた。足元が妙にふわふわとする。歩きにくいんじゃ無いかと思いながら月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)は視線を上げた。
「……」
眼鏡だ。一面、眼鏡をかけた人だらけ。
くすんだターコイズブルーの髪を揺らし、ほんの僅か蒼汰は金の瞳を瞬かせる。
「眼鏡が好き……。ヴァンパイアにも色んな趣味嗜好があるんだなあ」
なんで眼鏡が良いのか、という話は多分意味も無いのだろう。眼鏡が好きで、眼鏡をつけた人を集めて宴まで開いている、という現実が其処にあるだけだ。少しばかり眩しい感じの。
「品位とか品格とか、俺には……どうだろ?」
顔を写す鏡も無ければ、窓ガラスも遠い。足を止めた蒼汰は、青いフレームのハーフリム眼鏡を軽く持ち上げた。
「特に肩肘張らず、月居はいつも通りで良いだろう。下手に警戒すると怪しまれるぞ」
そこにひとつ、声を投げたのはサフィー・アンタレス(ミレナリィドールの電脳魔術士・f05362)であった。サファイアンブルーの瞳を眼鏡の奥に隠し、眼前のやたら眼鏡だらけの光景に息をつく。踏み込んだ一歩は、はたと羽織る白衣を揺らした。
「……流石だ……」
特別気合を入れることもなく、いつも通りの服装で、いつも通りの眼鏡で場の空気に溶け込んでいく。揺れる黒髪もす、と伸びた背に何事か感じて客たちが道を開けていく。そんなサフィーの後ろ姿に思わず蒼汰は呟いていた。
「とりあえず、何か食べるか?」
「はい。腹が減っては何とやらだし」
立食パーティーとはいえ、宴の主の趣味で甘味が多い。木苺のタルトや洋梨をふんだんに使ったケーキはーーひとまず後で良い。立食パーティーである以上、何か取っていなければ逆に目立つことだろう。
「……主の姿は見えていないからな」
「そうだね。でも、こんな状況にしているのに見ないってことは無いだろうから……」
サフィーの呟きにそう言いながら、蒼汰は顔を上げた。眼鏡越しに見える世界はーー周りが眼鏡だらけなこともあってきらきらしていて落ち着かないけれど。
「見えなくても、見てそうかな」
「ーーあぁ」
吐息を溢すようにしてサフィーは頷いた。足先に触れたため息を置き去りに、一先ず前菜からさらに乗せていく。
「あまり食には関心が無いんだが、……まあ、普通に美味いな」
アボカドフリットにカリカリに焼いたバゲット。ミートブリュレパテも悪く無い。彩りも美しいマリネは心地よい酸味だ。
「この世界じゃなければ、この贅沢な宴も違和感が無いんだろうが」
極端に豪華、という訳では無い。だが、だからこそ客人たちの戸惑いは理解できる。想定される反応。眼鏡をつけ、吸血鬼の宴にやってきた彼らは抱いてきただろう相応の覚悟というもので出来た鎧をじわじわと剥がされようとしている。
そこに、何か憂う訳では無い。ただ、上手い手ではあるとサフィーは思う。毛足の長い絨毯もーー似たようなものか。足を取られるような絨毯は、結局歩きにくいが沈み込むような感覚はこの場を別世界に作り上げる。
「……」
此処は吸血鬼の為に集められたものの詰め込まれた場所だ。
「サフィーくんはちゃんと食べてる? あっちに生ハムとチーズがあったよ」
つらつらと考えていれば、そんな声が耳に届いた。ふと、顔を上げて美味い物があったか? と声を投げる。生ハムの盛り合わせとかかな、と少しばかり考えて口にした蒼汰は「あと」と考えるようにして告げた。
「きのこのマリネもあったかな。サラダも色々と綺麗な感じだったけれど……」
慣れない豪華さ、だろうか。
食べずには動けないが、綺麗に並べられた料理に臆するような気持ちとーー物珍しさがある。緊張してるな、という事実を自分の中でも納得しているからこそ違和感なく、蒼汰はその事実を受け止めていた。
「サンドイッチもあったみたいだよ」
「そうか。向こうには苺のケーキもあったみたいだ」
ぱち、と思わず瞬けば、取ってきたらどうだと静かな声が届く。付け焼き刃の礼儀作法とはいえ、表面上は取り繕っている姿も馴染みのある相手では隠し切れないか。
(「周りから見ると、落ち着いている二人って見えているみたいだけど……」)
聞き耳を立てながら、蒼汰はひっそりと息をついた。
「……ぱり、街のやつは余裕だな」
「おい、聞こえるぞ」
「だって事実だろう」
ーー街と、村。
単純に場所の違いでないことは、食事をしながら拾い上げた話で分かってきていた。
街が、吸血鬼から受けるのは恩恵だ。街での地位や小悪党たちの排除。実際、吸血鬼が動かなくともこの宴に「招待された」という事実あがれば目的は達せられる。
対する村は、生存がかかっている。小悪党たちの排除も話としては聞いてはいるが、元より吸血鬼が「暫くは盤上にしない」と言っただけの話だ。最初から盤上にすると数えられているという事実は変わらず、村が受けるのは恩恵ではなく慈悲となる。
吸血鬼の手が及ぶ範囲、という意味合いでの距離感かーーそれとも、他の意味があるのか。
「……あ、ケーキ美味しい」
甘酸っぱい苺のケーキは、木苺のソースが染み込んだスポンジも丁度良い。思わず顔を綻ばせれば、ふいに低く呻くような声が耳に届いた。
「ーー……は、逃げ出す奴がいないと良いがな」
「ーー」
逃げ出す、という言葉に蒼汰はサフィーと目を見合わせた。
「……の途中、もう嫌だって逃げ出したって話だからな」
「あれだろ、皆殺しにされたっていう」
「……」
皆殺しなのに、どうしてその話が残っているのか。
(「生き残りがいたか、それともありがちなデマか」)
そもそも、存在しない話か。
サフィーはちらり、と宴を進行する主の従僕たちを見た。会場の警備に当たっているのも彼らだ。不要に他の部屋に入らないように立っている彼らは、時折足元をふらつかせた客たちのエスコートには出てくるがあまり、急なことはしない。
村人たちの話は、噂めいた誇張を含めながら進んでいく。
「血に染まった……ってな。俺たちも馬鹿みたいなことにならないようにしないとな」
「あぁ。中庭には使い捨てた眼鏡の墓があるみたいだし」
「……」
「……」
眼鏡の、墓。
供養塚か。
血生臭い言葉からいきなり放り込まれたパワーワードについていけない気分のままでいた二人は、はた、と気がつく。
「中庭に続くような道は、あの人たちに閉鎖されているね」
「あぁ。中庭があるということは向こうにも空間が広がっているんだろう」
蒼汰の言葉に頷いて、サフィーは息をついた。
「主だかなんだか知らないが、随分と意味不明なヤツだな。眼鏡に品位も何も無いだろう」
つい、と眼鏡を上げた姿に、小さく瞬いて蒼汰は笑った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
有栖川・夏介
※アドリブ歓迎
◆眼鏡着用
主張しない細身のハーフリム。
ベーシックなスクエア型。
…結局こういったものは、シンプルなものが一番良いかと思います。
ひとまずは自然に振舞うことにしましょう。
変に動き回ると怪しまれてしまうでしょうし…。
多少の【礼儀作法】は幼少時に教養として叩き込まれたので、それなりにはごまかせるかと。
警戒はしつつも、怪しまれないようにパーティーを楽しみます。
眼鏡をクイッとあげながら料理を物色。
ケーキを数個皿にのせ、もぐもぐ
皿の上のケーキがなくなれば新たな料理を補充して、また、もぐもぐ―
……む、いけないな。
食べられるときに食べておかないと、という思いからついつい【大食い】してしまった。
●
眼鏡をつけてくること。
それ自体がドレスコードとなっていれば、会場には様々な眼鏡をつけた客の姿があった。変わり種は色眼鏡や片眼鏡。主張する太めのフレームを選んだ者もいれば、丸めの眼鏡を選んだ者もいる。シンプルな品の多くは、普段から眼鏡を身につけている者だった。使い易ければそれで良い、と少しばかり大きめなレンズを使う客もいる中、妙に眩しい空間に紅い瞳をやった有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)は、つい、と眼鏡を上げた。
「……」
主張しない細身のハーフリム。
瞳にかかる薄緑の髪にもよく似合う眼鏡はシンプルな一品だった。結局こういうものは、シンプルなものが一番良い、というのが夏介の感想だ。こういう変わった宴に踏み込んでいるのならば尚更、シンプルなものが落ち着く。
「賑わっている……というのとは、違うんですね」
やっぱり、と思う。
吸血鬼の宴だーーというのもあるが、此処に来ているのは理由がある者たちばかりだ。街の為か村の為か、何かがあって己という存在で掛け合っている。結果として、どれだけ華やかな宴も緊張感は拭えない。
(「主催の姿は……見える場所には無いようですね」)
ですが、見ていない訳もないでしょうね。
吸血鬼が望み、集めた宴だ。客人と吸血鬼の従僕たちだけが集められた宴は、どこかぎこちない。毛足の長い絨毯が理由か、足を取られるようなふわふわとした感じはあるが、礼儀作法は幼少時に多少叩き込まれている。それなりにごまかしがきく筈だ。
「失礼」
客人たちの間をするり、と縫うように歩く。触れ合う程の距離には遠く、だが距離を開け過ぎぬように。皿を片手に器用に移動する夏介に、ほう、と村人たちが息をつく。
「……の街の方かしら」
「どうだろうな。……の街は、文学が盛んだというが……」
「……」
村人たちからすると、街の情報は曖昧なのだろうか。街への憧れめいた言葉を聞きながら、ふと、その違和感に気がつく。
(「話題に乗る村が多い……。此処はそんなに密集した地域だった気はしなかったんですが……」)
近くに街や村も多く、その上でこの手の宴を開く吸血鬼がいる、というのはあまり現実的では無い。となれば、吸血鬼の手が及ぶ範囲が広いのか。街の話は知っているが、仔細は知らない様子を見る限り交流は無いように見える。
(「噂程度か。そうだとしても、此処に集められる者の中にその「街」まである、という可能性に至るのか」)
吸血鬼が領地と見ている土地が広いか、若しくは人々はそう思い込んでいるのか。今の段階では答えも出ず、ただ、そっと夏介は息をついた。
「……」
目の前にケーキがやってきたからだ。苺のケーキに、木苺のタルト。洋梨をふんだんに使ったケーキもあれば、ルビーチョコレートのケーキは柔らかなピンク色を見せる。
「……」
ケーキを数個皿に乗せる。もぐもぐと食べれば甘酸っぱい香りが口の中に広がる。物珍しさにほんの小さく瞳は動きーーだが、空になった皿にケーキを乗せる。もぐもぐ、もぐもぐと食べてーー……。
「……む、いけないな」
食べられるときに食べておかないと、という思いからついつい大食いをしてしまった。気をつけないとな、と息をつく姿は透き通るような白い肌も相まって薄幸の美少年めいているというのに、もぐもぐと食べる姿は妙に微笑ましい。
「ーーお客様、こちらをどうぞ」
「……あ、はい」
笑うように従僕が差し出した皿を受け取る。ひんやりとしたそれに、ふと、夏介は感じ取る。
(「吸血鬼の従僕……」)
人では無い。若しくはもう、人ではなくなってしまっている。生者の気配からは遠い彼らに礼を言って、視線だけを夏介は一度残した。もしも今後、何かしようと思うのならば彼らはきっと音にも普通の人間より敏感だろう。
「気をつけないといけませんね」
呟いてーー、瞳は新しいタルトへと向いていた。
大成功
🔵🔵🔵
株式会社・ニヴルヘイム
くすくす、殊勝な催しでございます
皆が一張羅の眼鏡を選んでいるのです、弊社の主力商品である眼鏡の市場調査にはお誂え向きでしょう
全ては我が社の為、社長の為。
ドレスコードは『私』だけでも事足りますが
社長に支給頂いたスーツとこの人間の身体で、より自然にこの場に馴染める筈
行く眼鏡来る眼鏡をゆっくり観察・調査致しましょう
この宴の主を囲い込めれば、弊社の大口顧客になる可能性もございます
美しい人間を見かけたら軽く乾杯をさせて頂き
モデルとしてより似合う弊社製の眼鏡をお掛けして差し上げましょう
ほら…細身の金フレームが貴方の知性をより引き立てます
弊社は生物の究極なる美しさを引き出すことを理念としておりますので
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管楽の音と共に、囁くような声が落ちた。互いに話すことも吸血鬼の宴では容易いものでは無いのだろう。場が許さないという訳では無い。この場所に集まった者は誰もが吸血鬼に何かを願ったものだ。庇護であれ慈悲であれ、それを万民に施す気があればこんな宴は開かれてはいない。
「くすくす、殊勝な催しでございます」
その宴の意味を、理解して尚「彼」は笑みを刻む。唇からこぼれ落ちた笑みは、美しい青年の姿であっても何処か近寄りがたい。レンズ越しに見えた金の瞳かそれともーー彼自身にか。
(「皆が一張羅の眼鏡を選んでいるのです、弊社の主力商品である眼鏡の市場調査にはお誂え向きでしょう」)
株式会社・ニヴルヘイム(Niflheimr Co., Ltd.・f20369)は吐息を溢すようにして、笑う。うっそりとした笑みは、客人たちの意識を一時、奪う。綺麗なひと、と聞こえたそれに微笑だけを口元に浮かべたままニヴルヘイムは会場となった空間へ「支給品」の目を向けた。
スクエア型から、丸眼鏡。変わり種で行けば色眼鏡に片眼鏡と選ばれているのは様々だがーーある程度、傾向は見える。度が入っているものは、普段から眼鏡を使用している者だろう。
(「あちらは伊達……、あぁ、あの右の方は借り物ですか」)
くい、とニヴルヘイムは眼鏡の蔓を上げる。とろりとした蜂蜜色の瞳を緩く細める。
誰がどんな眼鏡を身につけているか。
その程度であればニヴルヘイムにとって、見るだけで分かる。社の主力商品だ。株式会社ニヴルヘイム社長専属秘書である彼に判らぬ筈も無くーーそしてその「彼」だからこそ分かるものもある。
社の名を持つ「ニヴルヘイム」は眼鏡だ。眼鏡型。自社を支える彼にとって此処は最高の現場となる。
「全ては我が社の為、社長の為」
身を包むスーツは社長から支給されたもの。この人間の身体も、此処では随分と役立っているようだ。足を止める者もいれば、息を飲む者もいる。人間観察ーー基、眼鏡面接には丁度良い。
(「借り物の眼鏡は、やはり顔には似合わぬもの。私物であっても長く使用している侭であれば、そろそろ新しい出会いがあるべきございましょう」)
宴に揃った眼鏡を見る限り、比較的シンプルな眼鏡が多い。主の趣向が「眼鏡をかけている」というだけで終わっているのもあるだろうが、どのような眼鏡であるかは自由だとしても突飛なものは選びにくいのか。
(「ですがその分」)
在り来たりになる。
形はスクエアとオーバルが殆どだ。リムレスの眼鏡が少ないのは所謂眼鏡感が薄くなるからか。フォックスタイプが数人、ハーフリムは手慣れた者ではあるだろうがーー……。
「成る程」
この地ーー少なくも宴の主の手が及ぶ範囲では眼鏡を専門に取り扱う店は少ないようだ。
まず、眼鏡が顔にあっていない者が少なくは無い。この場に呼ばれたから慌てて誂えた、というのもあるだろうが、それにしても視力の補正という意味合いでしか使っていない。
(「この宴の主を囲い込めれば、弊社の大口顧客になる可能性もございます」)
行く眼鏡来る眼鏡をゆっくりと観察、調査しながらニヴルヘイムは、一人の青年を見つけた。沈んだ赤の髪を後ろに結っただけの細身の男だ。眼鏡はウェリントン。焦げ茶色のフレームは、彼という人間を仕事場で見れば違うだろうがーー……。
「……」
ふ、と吐息を溢す。ゆるりと笑みを敷いたニヴルヘイムは、グラスを片手に彼の傍に向かった。
「ーー乾杯を」
「え? あぁ、はい」
気がつくより先に、声をかける。傍につくのはそれからだ。微笑を浮かべ、声をかけたニヴルヘイムに赤髪の男は少しばかり驚いた顔をした後に、にこり、と頷いた。白皙に淡く影を落とすレンズは分厚い。
「街の方ですか? あ、いえ。この辺りでは無くもう少し街道沿いの……」
あちらは賑わいもありますから、という赤髪の男は故郷の村に頼まれる形でこの宴に来たのだという。
「眼鏡、だなんて。確かに偶然帰省していた私がつけていたくらいのものなんですが……、仕事用のものですし」
「では、もし宜しければ、弊社製の眼鏡をお掛けになってはみませんか?」
「貴方の会社の……ですか?」
目をパチクリとさせた男ーーエリオットに、ニヴルヘイムは微笑む。勤め先だと告げ、ニヴルヘイムが選び差し出したのは美しい眼鏡だった。
「ほら……細身の金フレームが貴方の知性をより引き立てます」
「こんな綺麗なもの……、あぁ、でも確かに普段とだいぶ違って見えますね」
小さく、笑うエリオットは気がついてはいまい。客の視線が自分へと集まっている事実に。それは眼鏡を勧められていた男という近寄りがたい雰囲気から、見惚れるものへと変わっていた。
「……の方」
「えぇ、美しい方ね。どこから来て……なにを、望まれているのかしら」
ぽつり、ぽつりと波紋を描くように聞こえてくる話にニヴルヘイムはひっそりと笑う。エリオットの方は気がついてもいないようだ。
「本当に、素敵な眼鏡ですね」
「弊社は生物の究極なる美しさを引き出すことを理念としておりますので」
●
「ーーあら、面白いこと」
「……様、如何なさいますか?」
「好きにさせていて頂戴。嫌いではないわ、ああいう仕事をする者は」
一方、その姿を、見ている者がいた。従僕の囁きに「彼女」は緩く首を振る。ひどくたのしげに落ちた吐息は、ワイングラスへと落ちた。
「面白いこと。ふふ。私の道具箱を、輝かせてくれそうね」
あれと、あれのついている身体を。
「とっておきの場所へ招待しましょう」
大成功
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泉宮・瑠碧
眼鏡か…
度が無い物しか掛けられないが銀縁の眼鏡着用
学者や司書などのアカデミックガウンを羽織ろう
中はいつもの服でも礼装の様に見えるだろうか
…大人数だと、どうにも反射光が直に届くな…
心でこっそり光の精霊に
自身の眼鏡に当たる光を弱める様に頼もう
異変と思われない程度に
…人にもこの反射光が届くのは申し訳ない気がするからな
基本的に僕は物静かで居よう
時折飲み物を貰う位で、自身が静かに居る事で聞き耳を
周りが楽しそうな空気なら良いが
招かれれば成否に関わらず帰る事は出来ないパーティーの筈
人々が零す言葉や会話があれば聞いておきたい
特に人を探している風の者には気を付けておく
彼らが人や物にぶつかる前にフォロー出来ればと
●
賑わいには程遠く、人々の声は囁くように揺れていた。これだけの人がいるというのに、届くのは声ばかりだ。毛足の長い絨毯が足音を隠しているのだろう。ふわふわとした感触は、心地良いようで、どこか違和感もある。
(「足元が覚束ないからか……」)
歩き慣れていたら、そうでも無いのだろうか。泉宮・瑠碧(月白・f04280)としては歩き慣れない空間も、従僕たちは迷い無く歩いていく。
「……」
宴へ瑠碧たちを案内した吸血鬼の従僕たちは、揃いの面をつけていた。服はスーツやタキシード。正装の種類は、立ち位置によって多少変えられているようだ。
(「彼らは眼鏡ではないんだな」)
客だけが眼鏡だ。
それ自体に不思議は無いのだがーーどうしたって、違和感は拭えない。どこを見ても眼鏡、だ。瑠碧も銀縁の眼鏡を使っている。度が無いものに合わせて、いつもの服にアカデミックガウンだ。入り口で咎められることも無かっ多事を思えばーー礼装で問題はないのだろう。
(「他の客も、服装に関しては随分と自由だからな」)
男性陣はスーツが多いだろうか。女性陣は、瑠碧のような礼装の他にドレス姿の者が数人いる。折角だから、という話は恐らく、ダンスが始まるということだろう。巻き込まれるよりは、と瑠碧はそっと賑わいから距離を取る。受け取ったグラスには、クランベリーが浮かんでいた。
「……大人数だと、どうにも反射光が直に届くな……」
ほう、と息をついて瑠碧は囁く。心の中、そっと光の精霊に呼びかけると、かれらは笑うように頷いてくれた。お陰で、眩しくは無い。
(「……人にもこの反射光が届くのは申し訳ない気がするからな」)
異変と思われぬ程度、調整してもらえば周りを見るのも随分と楽になる。柱に背を預けるようにして宴を眺めていればあれこれと話は耳に入ってきた。
(「楽しそうな空気では無いから、予想はしていたが……」)
村を半分失っているのだという者がいた。饒舌であったのは、村人の多くはあの地を捨てるつもりでいるからだという話だった。ならばなぜ、この地に来たかと言われればーー村に残ると言って聞かない両親に巻き込まれるのが嫌だったからだと、青年は言った。
「若いのに、あんたも大変だな。まぁ、村以外の場所にはあんたの言う通りこれはしたが……」
「今まで、宴の案内を本気にしていなかったっていうのもあるんだよ。適当なやつに行かせてたのに、村が今まで無事に残っている方が悪運が強いだけだよ」
話し相手は街の人間らしい。
街の一部ーー不正を働く商人を吸血鬼がどうにかしてくれるという話で彼は此処に来たのだと言う。
(「村には慈悲を、街には恩恵を……か」)
村人の言う「村を半分」という話は気になったがーーどうやら、彼の村そのものが昔は大きかったというものだというだけらしい。この辺りには村や街が多く、古くは大きな街が一つあった地域だったらしい。
「誰もが知らない頃、か……」
宴の主であれば、知っている頃ーーというものかもしれないな。
吸血鬼が今の今まで潜伏してきたのは事実だ。長きに渡り、この地で自由に暮らしていたとなれば、招待客の出身地の周りは「大きな街」に関係があるのかもしれない。
(「そこが手が届く範囲か、若しくは自分のものだとでも思っているのか」)
今の状況では詳細は分からない。だが、静かにしていた分、色々と話を聞くことができた。
街の者と村の者に吸血鬼がかけている「モノ」はあまりに違う。恐らくはこれが理由で、街の人間と村の人間の会話が少ないのだろう。さっきの二人は、珍しい方だ。
「……ん?」
なら他に、と耳を欹てた所で、衣擦れの音を聞く。はねるようなその音が気になったのは、目の端に写った少女が勢いよく振り返っていたからだ。
「何かございましたか?」
「何かって、何も無いならそんな風に立っていなくたって良いじゃない。宴だっていうのに、こんな警備みたいに立って」
「……」
揉めている、のは確かだろう。少女の方が一方的に言い募っているようにも見えるがーー……。
(「何か……」)
違う気がする。ざわつきに似た違和感は、少女が一度きつく拳を握ったのを見て、解を得た。
あれは、わざとだ。
何が理由かは分からないが、わざと吸血鬼の従僕に喧嘩をしかけようとしている。
「何をするにしろ、あまり良い方法には思えないが……」
聞こえるか、と瑠碧は心の中で囁く。風の精霊へと、希う。
(「小さくて良い。向こうで、少しだけ音を鳴らしてくれるか」)
「……じゃ、まるで誰かが逃げるかと思っているみたいじゃ……!」
「ーー失礼」
カタン、コン。と会場の奥で、何かが転がった音へと従僕は向かっていった。宴に不備は許されない、と言うことだろう。数人が動いた事実に、ほ、と息をつく。少女を見ていたのは対応していた従僕一人だけでは、やはりなかったのだ。
「……れじゃ、見つけられないじゃない。いいえ、見つけるのよメリッサ」
「……」
声を、かけるべきかどうか悩んだまま目をやった少女はそう呟いて拳をキツく握りしめていた。
ーーお兄ちゃんを、探すのだと。そう言いながら。
大成功
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ノワール・コルネイユ
眼鏡着用
酔狂や偏屈の吸血鬼なんぞ飽きる程に見て来たが…
今度の奴は妙にもほどがあるだろう…
ドレスなんて何か月ぶりだか
まあ、眼鏡も合わせて品のあるやつが好みなのだろう
だったら演じて見せるさ
…あ、あー(声色調節)
こちとらロクな育ちじゃぁないんだ
下手をすればあっさりボロが出る
必要以上に口は開かずにいよう
優雅だなんだ、縁が無いが…黙っていりゃミステリアスだのと勘違いしてくれるだろう。多分
壁の華にでもなって、書でも手にしていれば一先ずはやり過ごせるだろう
周囲の声にも耳を傾けておこう
踊りは余り得意では…ありません、ので…
どうか、私には構うな…お構いなく
…ダンスになんぞ誘われるのが続いたら自分を隠し切れんぞ
●
ーー眩しい。
それが、会場に入って最初にノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)が思ったことだった。それがシャンデリアや悪趣味な置物の所為であればどれだけ良かったか。毛足の長い絨毯に、二人座りのソファー。華やかではあったか、豪奢では無い宴において明確なまでの眩しさは全てーー顔にあった。
(「……眼鏡」)
そう、眼鏡だ。
右を見ても左を見ても眼鏡。数人、色眼鏡や片眼鏡というタイプもいるが基本的には誰もが眼鏡だ。当たり前だ。それをこの宴の主たる吸血鬼が望んだのだから。
「酔狂や偏屈の吸血鬼なんぞ飽きる程に見て来たが……今度の奴は妙にもほどがあるだろう……」
眼鏡をかけてこい、と告げたのが吸血鬼で。その結果、願いを叶えるという。村の無事ーーという言葉は吸血鬼のやり方に似合いではあったが、何せ趣味趣向の方向が斜め上すぎる。
小さく、落とした言葉と共に口元が引きつる。はぁ、と落とした息は結い上げた艶やかな黒髪と共に揺れた。
「……あ、あー」
何はともあれどうあろうが眼鏡が使えるのであれば使うしかない。声色を調整しながら、いつもとは違う足元を見る。
「……」
足首を晒し、靴はドレスに合わせた。丈の長いドレスは赤い花を首元に飾ったものだ。刺繍の施されたレースに、艶やかな黒のドレスはノワールの髪に映える。歩き回ることはできる。いざとなればーーまぁ、このままでも戦えはするだろう。問題は「今」だ。
(「こちとらロクな育ちじゃぁないんだ。下手をすればあっさりボロが出る」)
必要以上に口は開かずにいよう、とグラスを受け取ったまま壁の傍に居場所をつくる。押し黙ったまま、一応の微笑を浮かべて応対していれば、饒舌な客人たちは途中で話の輪に混ぜるのを諦めたらしい。
「……から、やはり……の街では、彼らのようなのには困っていて」
「成る程、それはそうでしょうね。南の街でも被害を聞きます」
「……」
話の輪に引き摺り込まれそうになったのは面倒だったがーーお陰で、彼ら『街の人間』の話題が見えてきた。あれは、情報交換だ。街の人間が吸血鬼から得るのは、村のように明日が関わる程、切迫はしていない。だが、生きていくには障害となっている存在の排除だ。だから、同じ街から数人、呼ばれている場合もある。それぞれ違う願いがあるからだろう。
(「違う街であれば、互いの状況を知り得ない……ものか? 街同士の交流が少なくても不思議は無いが、今此処で情報収集をしたところで帰っては来れない宴のはずだ」)
だからこそ、話せるのか。
話の内容そのものは、それとなく呼ばれた理由を話す程度で、何かを企んでいるようなものでは無い。命がかかった状態であるからこそ、饒舌なのか。考えるように眉を寄せ、ほう、と息をつけばーーあぁ、と声が耳に届いた。
「やはり、あの方は不思議な方ですね」
「ミステリアスな方。やっぱり西の街の方かしら」
「もっと遠くの街かもしれませんよ。深い理由があって来られたのかもしれません」
「……」
深い理由は確かにはあるが。推測は勝手にさせるとして、もう一度引っ張り込まれる前にと場所を移動する。ビュッフェテーブルから近い場所であれば、態々絡んでくる相手もいないだろう。そう、ノワールが結論付けたところで管楽の音色が変わった。
「まぁ、ワルツだわ」
「ダンスが始まるようだね。さすがは宴、か」
わぁ、と初めての賑わいを溢したのは街から来た客人たちだ。眼鏡の奥の瞳は、宴で過ごした時間への慣れからか楽しげな状況に慣れていく。ーーだが。
「は、街から来た連中は賑やかだな。流石、昔は頭だけで来たやつが居るわけだ」
村から来た者は違う。
吐き捨てた嫌味は、唇を引き結ばれてそこから先には続かなかったが。
(「頭だけ……、頭部だけにされて連れて来られた者もいるってことか。断ることは出来ないのは、吸血鬼らしいか」)
選択肢を与えておいて、実際は何一つ存在はしない。漸く、馴染みのある空気になってきたと思いながら考えていれば、ふと、足先に影が落ちた。
「もし、よろしければ。私と一緒に踊っていただけませんか?」
街の青年だ。話の輪への誘いは諦めたと思っていたのだがーー、ダンスであれば違うと思ったのか。
「踊りは余り得意では……ありません、ので……
どうか、私には構うな……お構いなく」
崩れかけた言葉を必死に引き戻す。表情は作らぬまま、すい、と視線を外せば一人はすごすごと帰っていったのだがーー……。
「失礼、レディ」
「お一人ですか? お嬢さん」
「……」
これはあれか。断ると増える形式なのか。
自分を隠しきれなくなりそうな事実に、ノワールは息を吸う。次はもう無理だぞ、と引きつる頬を必死に隠していれば、ふわりと花の香りがした。
「どうか、私には……」
「彼女の利き手も知らないのに、誘うのは無粋ではなくて?」
何人めだかの男の前、そんな声が耳に届く。は? と思わず出かかった声を必死に隠せば、灰色の髪を揺らす女がにっこりと微笑んでいた。
「ごめんなさいね。あんまりにも、貴方が困っているように見えたから。勝手に声をかけてしまったの。マリアベルよ」
香油だろうか。花の香りを纏った女ーーマリアベルは下がっていった男たちを見ながら小さく笑う。
「彼らも命がけで来ているのでしょうけれど……、この宴の雰囲気がああさせるのかもしれないわね」
眼鏡で、華やかな宴で。
「それなのに、この宴から帰った人はいない。それを誰もが知っている」
せめて、願いが叶ったのかだけでも知りたいのにね。とマリアベルは呟いて、小さく笑った。
「話し込んでごめんなさいね。残りの時間を楽しく過ごして」
「……残り、か」
お淑やかを装うのは、さっきダンスへの誘いを断り続けたので使い切った。滑り落ちた言葉を訂正する気にも慣れないまま、ノワールはマリアベルを見た。
「えぇ。宴が終われば、誰が残るが仕分けされてしまうもの」
だから、残り時間しか私たちには無いのよ。
大成功
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ヴィクトル・サリヴァン
眼鏡かあ。海中だとすっ飛ぶから基本はかけないんだけどもたまにはいいよね。
領主の趣味…深くは考えない事にして、今はこの宴を楽しむとしよう。
後のメインディッシュを楽しみにね。
眼鏡のデザインは縁の細くてメタリックで上品な感じのを。
やっぱり眼鏡と言えば上品に見せる、ってのがしっくりくるし。
…まあ、俺でもかけられるのを優先で。あるかなあ、シャチでもかけられるの。
礼儀作法を意識しつつ穏やかに上品に、あまりに振る舞いがかけ離れてては眼鏡に失礼。
皆が皆眼鏡かけてる姿もなんとなーく仮面舞踏会的な感じだと思えばいい感じ。
ご飯もゆっくり頂きつつ、何か変わった様子がないかに気を配っていよう。
※アドリブ絡み等お任せ
●
歌うような管楽の音色と、囁くような声が会場にはあった。華やかな宴は賑わいには程遠い。それでも、いくつか話す声が聞こえ出していた。肩の力が抜けたーーというよりは、少しばかり余裕が出てきたのか。宴に呼ばれた以上は、と口にする青年たちの姿もヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)の目に見えた。
「……見事なまでに、眼鏡だね」
領主の趣味……深くは考えない事にして。
仮面舞踏会のようだと思えば、不思議も無いか。それぞれ、様々な眼鏡をつけた宴の客たちは「主」の望む品位を演じている。
(「話が進めば、大分、素も出てくる……って感じかな」)
それにしても眼鏡かあ、とヴィクトルは思う。
(「海中だとすっ飛ぶから基本はかけないんだけどもたまにはいいよね」)
縁の細い、メタリックデザインの上品な眼鏡はヴィクトルによく似合う。眼鏡といえば上品に見せるというのがしっくりと来る。少しばかり他の客人たちから視線を集めている気がするのはシャチでもかけられる眼鏡があったことへの驚きか。
「うん。あるもんだなあ、とは思ったしね……俺も」
小さく苦笑して、つい、と眼鏡をあげる。あるところにはあるものだ、ということだろうか。細身の美しいデザインの眼鏡は、礼服姿のヴィクトルを学者めいて見せる。皿を片手に、にこり、と横を抜けた人々に微笑んでおく。
「ーー失礼」
「あぁ、いえ。こちらこそ」
微笑んで応じた壮年の男は、並べられたケーキに物珍しげな顔をしている。色とりどり、鮮やかなケーキばかりだ。苺のケーキは、シンプルなショートケーキから、木苺のジュレを使ったものまで。サクサクの苺のパイは、香ばしいパイの香りとバターが香る。
「……」
穏やかに上品に。あまりに振る舞いがかけ離れては眼鏡に失礼だ。
少しばかり悩んで、木苺のケーキの方を取れば銀食器が目につく。食事もそうだが、食器類も華やかな宴に相応しいものばかりだ。毛足の長い絨毯はふかふかで、ソファーに腰掛けてしまえば慣れていなければこの場に飲み込まれてしまいそうになるだろう。
(「……特に、変わった様子もなさそうかな」)
さっき少しばかり、宴の主の従僕たちと揉めそうになっていた人は、猟兵がさりげなくフォローしたようだ。後はーー緊張した様子の客たちも、少しずつ落ち着いてきているくらいだろうか。
「……の街では、やはり彼らに困っていて」
「盗賊まがいでしょう。困ったことですね」
街から来た人々は、世間話もしているようだがーー村から来た人々は違う。緊張にも似たような気配を感じてヴィクトルは考えるようにグラスに口をつけた。
大成功
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英比良・與儀
ヒメ(f17071)と
眼鏡着用か…なにつけてこ
ま、お前からもらった細身の銀縁にしてくわ
……そこでどやるからなんか残念なんだよなァ
俺はどんなの身に着けても、似合うんだよ
こういう、でかい宴は嫌いではない――が、ホストは吸血鬼なんだよなァ…
右見ても左みても、どいつもこいつも眼鏡
こんだけいたら飽きるんじゃねェのか
おい、ヒメ――と視線回せばヒメも眼鏡だ
眼鏡かけると理知的に見える――と思ったが
やっぱヒメはヒメだな…
ん、任せる。けど、あんま食べねェぞ。なんかすげェ甘そうなもの多いな…
甘いのはいらねェよ
つか、ここのよりやっぱ、お前の作る飯のほうが美味いし…
全部終わったら、なんか作ってくれよ
ああ、晩飯?考えとく
姫城・京杜
與儀(f16671)と!
俺はなんてったってイケメンだからな
眼鏡も勿論似合うぞ!(着用
與儀は何でも様になるよなー
でも特にその銀縁眼鏡、やっぱ超似合ってるぞ!
主の為に俺が選んだ眼鏡だからな!(どや
眼鏡だらけの宴ってのも、何か異様な感じするけど…
とりあえず、腹拵えしとかねェとだな
周囲の状況さり気無く窺いつつ、まずは與儀の分の食べ物取りに
ん、ちゃんと分かってるぞ!
與儀が好きな物を、量より質で選んで器用に盛り付け
これ與儀好きだろ?って、食べてるのにこにこ見守りつつ
まぁ俺の料理の方が美味いけどな!
ん、今日の夕食何食いたいか、考えといてくれ!
俺の分は…折角だから、普段自分ではあまり作らないもん食べとこうかな
●
毛足の長い絨毯に、コン、と踏み入れた足音が飲み込まれる。管楽の音色に、囁くように宴の客たちの声が混ざる。ソファー席から中央のフロアを眺める客たちがいるのは、いっとき、ダンスがあったからだろう。客人たちの心を和ませる為に、と従僕は口にしてーーだが、此処が吸血鬼によってひらかれた宴である事実は変わらない。
「與儀は何でも様になるよなー。でも特にその銀縁眼鏡、やっぱ超似合ってるぞ!」
艶やかな赤い髪が揺れていた。嬉しそうな顔を隠さずにいれば長身の青年は、とたん、見目より幼い雰囲気を見せる。子供っぽいというよりは、人懐っこいという言葉が似合うか。上機嫌な姫城・京杜(紅い焔神・f17071)は、自分の私が眼鏡を身に付けた主人の姿に目を輝かせていた。
「俺はどんなの身に着けても、似合うんだよ」
揺れる金髪がかかったか、つい、と軽く眼鏡を持ち上げた英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)は己の守護者を見て息をついた。
似合う。似合いはするのだがーー……。
『俺はなんてったってイケメンだからな』
眼鏡も勿論似合う、と豪語した長身をなんとなく蹴ってやりたくなるのはどうしてか。
(「いや、どうもこうもねぇか」)
シンプルな眼鏡は、京杜によく似合う。だが、似合うのと目があったそこで自信満々のどやぁ、という顔をして見せるのは話が違う。
「主の為に俺が選んだ眼鏡だからな!」
「……そこでどやるからなんか残念なんだよなァ」
黙っていれば美形。
そんな言葉がふと、與儀の頭を過った。
華やかな宴に、管楽の音色はよく似合う。客人たちの緊張した姿がなければ、もう少し雰囲気も違って見えただろうか。ビュッフェテーブルには苺を中心に、様々なケーキがおかれ、白磁の美しい皿には銀食器が添えれていた。
「こういう、でかい宴は嫌いではない――が、ホストは吸血鬼なんだよなァ……」
カップひとつとっても、随分と良い品だ。先ほどからワインも振る舞われているのが従僕たちが、グラスを運ぶ姿も見える。
「……」
彼らがつけているのは面だ。皆、一様に同じものをつけている。流石に給仕側まで眼鏡となると眩しさが過ぎるからかーーそれとも、吸血鬼としても手元の者で満足できないからこその「宴」なのか。
(「右見ても左みても、どいつもこいつも眼鏡
こんだけいたら飽きるんじゃねェのか」)
いくら吸血鬼の趣向とはいえ、こんなに沢山いてまだ楽しめるのか。
「おい、ヒメ」
「眼鏡だらけの宴ってのも、何か異様な感じするけど……、ん? 與儀も腹拵えしとかねェとだよな」
「……いや、まぁそうだな」
視線を回した先、ヒメも当たり前に眼鏡で。今更ながらにマジマジとその顔を見て、與儀は小さく笑った。
(「眼鏡かけると理知的に見える――と思ったが
やっぱヒメはヒメだな……」)
與儀? と目をパチクリとさせた守護者に、視線をあげる。キラ、と見慣れぬ眼鏡が京杜をすらりとした大人に見せるようで、変わらない。
「ん、任せる。けど、あんま食べねェぞ。なんかすげェ甘そうなもの多いな……」
「ん、ちゃんと分かってるぞ!」
白磁の皿を受け取って、すい、と京杜はテーブルへと向かう。立食パーティーとはいえ、主の趣向だという理由でケーキが多い姿はデザートばかりが振る舞われるパーティのようだ。サンドイッチや、サラダ、ちょっとしたキッシュあたりが食事だろうか。それでも、見て回っていれば甘い香りが目につく。
(「色々とすごいの並んでるけど、驚いているやつはいないんだな」)
宴に呼ばれたのは吸血鬼にかける「願い」がある者たちだ。願う以前に、村の安全をかけられた者もいるがーーどこも、然程裕福な街や村ではないだろう。だが、彼らはこの食事を前に驚く様子も無い。宴の主が振る舞うものであれば当たり前という感覚が彼らの中に既にあるのか。
「……、ひとまず、だな。これと、あとは……こっちと……」
與儀が好きな物を、量より質で選んで器用に盛り付けていく。自分の分は普段ではあまり作らないものをとっていく。
「これ與儀好きだろ?」
差し出した皿の中身が、少しずつ減っていく。にこにこと見守りながら、デザートは、と声をかければ「甘いのはいらねェよ」と声が落ちた。
「つか、ここのよりやっぱ、お前の作る飯のほうが美味いし……。全部終わったら、なんか作ってくれよ」
「まぁ俺の料理の方が美味いけどな! ん、今日の夕食何食いたいか、考えといてくれ!」
「ああ、晩飯? 考えとく」
頷いた主に、京杜は笑みを溢す。なら後は、楽しい夕食の為にも無事に吸血鬼を倒さなければ。
大成功
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出水宮・カガリ
【星門】ステラ(f04503)と
眼鏡着用
魔法の眼鏡で、かけると目の色が変わるものだ
カガリのはステラとお揃いの青になるぞ
レンズは縁なしで、ワインレッドのフレーム
つるの付け根に小さなダイヤがあるものだ
衣装は…紳士…紳士とは…ふろっく、こーと、とか
黒か、それに近い色がいいかな
ステラと共に、立食パーティを
めがね。初めてだが、合っているかな。
ステラも何だか、いつもと違うような(チェーンに触れようとしながら)
しかし、ゆうが、とは。ひんいとは…(周囲を何となく観察しながら)
多分、あーん、とかは。駄目だと思う?
沢山食べるのも、駄目なのだろうか
他のひとに優しいステラに、ケーキを取ってこよう
どれがいいかな
ステラ・アルゲン
【星門】カガリ(f04556)と
眼鏡着用
青のオーバル型。星飾りの眼鏡チェーン付き
瞳の色が変化する魔法がかかっている。変わる色は紫
今日はカガリと色を交換だ
パーティに相応しいような礼服
フロックコート、それを私も着よう
彼と共に会場へ
カガリ、似合ってるな。とても格好いいよ
これか?これは首に眼鏡を下げたい時に使うんだ
こうして見た目としてのアクセサリーにもいいだろう?
ケーキがあるなら食べたいが…あーんは無理そうだな
食べるなら…苺のケーキがいいな
お嬢さん、このケーキはおいしいですよ
ケーキを頂きつつ参加者に声を掛けてみようか
隣の彼ばかり見ないで私を見てくださいよ【誘惑】
下手に彼を見て惚れられても困りますからね
●
華やかな宴へと入れば、毛足の長い絨毯が二人を迎えた。ふわふわとした感触は少しばかり、足元を覚束なくさせる。最も、戦場を知る二人にとってみればふかふかするな、という程度だ。どちらかといえば、人の気配に対して足音が無い方が気になるだろうか。ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)はゆるり、と周囲に視線をやってーー傍の彼を見た。
「どこもキラキラしているな」
小さく笑うようにして告げたステラの礼服が揺れる。追うように、はた、と靡いたフロックコートは出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)とお揃いの品だ。一度瞳を伏せ、あぁ、と穏やかな調子で応じたカガリが、ぱち、と瞬き笑う。
「カガリの目の色も違うな」
「あぁ。今日はカガリと色を交換だ」
秘密を告げるように囁いて笑う。浅く、眼鏡を浮かせればステラの瞳の色は常の青に戻る。ステラとカガリがつけた眼鏡は、魔法がかけられている。瞳の色を変化させるそれで、二人は互いの色を交換していたのだ。
「カガリのはステラとお揃いの青になるぞ」
笑うカガリの眼鏡は、縁のないワインレッドのフレーム。眼鏡の蔓の付け根には小さなダイヤモンドが飾られている。キラ、と光るそれは、彼の微笑む姿によく似合っていた。
「めがね。初めてだが、合っているかな」
「カガリ、似合ってるな。とても格好いいよ」
心配そうに落ちた声にそう言って笑えば、ひたり、と今は己の瞳の色をした彼の目と出会う。
「ステラも何だか、いつもと違うような」
するり、と手が伸びた。指先が、ちゃり、と眼鏡のチェーンに触れた。星がある、と星飾りにやわく告げたカガリにステラは視線をあげる。
「これか? これは首に眼鏡を下げたい時に使うんだ。こうして見た目としてのアクセサリーにもいいだろう?」
オパール型の眼鏡は、印象も和らげる。怜悧な印象のステラも、今日は幾分か纏う空気は柔らかい。それは瞳の色も違うからか。ちゃり、と揺れるチェーンと共に、緩く首を傾げれば視界の端で、息を飲む少女たちの姿が見えた。
「……」
男装姿は変わらず。多少、印象が眼鏡で柔らかになっている分ーーどうにも、頬を染められるのが増えている気はする。男性に間違われたままだろうか。
(「それとも、私ではなく……」)
彼だろうか、とも思う。
眼鏡で理知的な印象を纏ったカガリは、だが、喋ればステラの知っているカガリだ。
「しかし、ゆうが、とは。ひんいとは……」
周囲を何となく観察しながら、カガリは眉を寄せた。示せ、と言うからには何とかしたいとは思うがーー果たしてどうしているのが良いのか。叩き出されるようなことは無いだろうが、この場を見出したい訳でも無い。
悩むように息をつけば、ふいに、さくさくとしたパイの香りが届く。視線をあげれば丁度、焼き上がったパイがテーブルにやってきたところだった。あれは洋梨だろうか。それとも木苺か。ショートケーキの姿も見える。
「ケーキがあるなら食べたいが……あーんは無理そうだな」
「多分、あーん、とかは。駄目だと思う?」
沢山食べるのも、駄目なのだろうか。
む、とカガリは悩む。ゆうがとか、ひんいと言われたところで自分は門だ。中のことに関しては今ひとつ、どうだろう? というところがあるのだ。
「ステラは何が良い?」
「食べるなら……苺のケーキがいいな」
「なら、取ってこよう」
白磁の皿を手にするり、とテーブルに向かう。程なくして帰ってくれば、客の視線が少しばかりこちらに向けられていた。殆どは女性だろうか。
「まぁ、あのお二人……」
「どこから来られたのかしら? 御婦人に、どのような望みがあって……」
「きっと北の街の方だろう。あちらは、音楽や芸術にも覚えがあったはず……。あの美しさ、ご婦人も望まれるだろうさ」
街、と聞こえてきた言葉にステラは少しばかり考える。会場に来た時からあった客人たちの「違い」は恐らくそれだ。街の者と、村の者。決して大声では無いが、話に花が咲いているのは街から来た、という人々だった。
「目立っている……、ゆうがとひんいが駄目だったのだろうか……?」
「いや、多分大丈夫だと思う。カガリ」
小さく笑って、ステラは注がれていた視線のひとつへと足を向ける。
「お嬢さん、このケーキはおいしいですよ」
「えーーあ、そう、なんですか?」
声をかけられるとは思ってもいなかったのだろう。目をパチクリとさせた後に、僅かに頬を染めた娘がステラとーーカガリへと視線を向けかけたそこに、囁くような声を落とす。
「隣の彼ばかり見ないで私を見てくださいよ」
誘惑するように、蠱惑的に響いたステラの言葉に娘は息を飲む。あ、と声は小さく落ちて、白皙を染めた娘は頷いた。
「……は、い」
「えぇ」
下手に彼を見て惚れられても困りますからね。
ひっそりと、そんなことをステラが思っているとも知らぬまま、他のひとに優しいステラに、ケーキを取ってこよう、とカガリはその場を離れていく。
「……」
さくり、と踏み込んだ足は毛足の長い絨毯に吸い込まれて。ふわふわは良いのだが、これだとまるで包み込むよりは飲み込むようだ、とカガリは思った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルバ・アルフライラ
はっ、品格を斯様な硝子一つで判断しようとは
随分とこの「主」は浅識非才らしい
…まあ良かろう
ならば品格を重んずる者らしく
恥じぬ相応しい振舞いをしてみせよう
身に付けるならば理知的なオーバルな型を
装いも派手過ぎず、然し上品に
ふふん、これならば立派な紳士であろう?
演技ならばお手の物
何時もの猫被りを存分に発揮して
他の宴の参加者と時折会話を交えつつ
常に聞き耳を立て、情報収集も欠かさぬ
変に悪目立ちしては困るでな
時には提供された料理に舌鼓を打って
視線は不自然にならぬ程度に――厳重な警備を掻い潜るよう
帰らぬ参加者なる存在を
…そして「主」と呼ばれる存在を探してみよう
さてさて、多少なりとも接触が叶えば良いのだがな
●
果たして、それは趣向という言葉で片付けて良いものであるのか。毛足の長い絨毯に、煌びやかなシャンデリア。管楽の音は華やかな宴に相応しくーーだが、どこを見ても、どう考えても眩しい。
「……」
眼鏡だ。眼鏡。
ある程度、眼鏡をつけている者がいる空間は普通に存在はするが、見渡す限り眼鏡と言うどう言う話か。
(「はっ、品格を斯様な硝子一つで判断しようとは。随分とこの「主」は浅識非才らしい」)
……まあ良かろう、とアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は舌の上、言の葉をとかす。品位を示せとあちらが言うのであれば、品格を重んずる者らしく、恥じぬ相応しい振舞いをしてみせれば良いだけのこと。
「ーー……では、街の方に」
「えぇ」
悠然と、アルバは微笑んだ。
理知的な理知的なオーバル眼鏡に、身に付けた衣装は派手すぎず、だが上品な礼装だ。ゆっくりと歩けば追うように揺れる髪は後ろで緩く結ってある。相手の話にあわせるように、アルバは微笑んだ。
「あちらも、最近は何かと忙しいですから」
詳しくは話さない。他の客人たちから声をかけられるまま、話を作っていく。あちらは勝手にアルバが来た場所を作り上げるだけだ。否定も肯定もせずーーだが、何時もの猫被りを十分に発揮すれば今宵、出会ったばかりの彼らが見破れるようなものでもない。ーーもっとも、簡単にはがれる猫でもないのだが。
「北の方は、芸術や音楽にも手を入れるだけの余裕があるのは羨ましい限りだね。うちの方では、どうしても役人たちが己のことばかり考える」
「だが、そちらは峠の盗賊たちの被害にはあっていないでしょう?」
「ーーえぇ。だから、それ以外の方法で解決しなくては」
盗賊の排除を願うのではなく、地位を。
彼らを脅かして余りあるものを。
それを願うのだと静かに告げる男に、なる程、と丸い眼鏡をつけた男が頷く。互いの間では納得がいっている話のようだがーー外から来た、という事実から見ればひとつ、違和感があった。
(「どちらの街も、吸血鬼の影響が及ぶ範囲ではあるだろうに、どうしてその程度のものが蔓延る?」)
吸血鬼の宴の存在自体が、所謂都市伝説めいたものであるというのであれば、ある程度、理解もできる。だが、彼らの様子からすれば招待状を受け取れば「宴だ」と分かるようだ。
(「盗賊はまだしも、街の役人が汚職に手を出すほどの精神的な余裕が生まれるか……?」)
宴の存在が、彼らの中に多かれ少なかれ存在していれば、その手の行動は悪手だ。吸血鬼の齎す「庇護」によってひっくり返される可能性がある。
話に聞く限り、街の人間が吸血鬼から受けるのは恩恵に近い。庇護と言うほど強くは無いがーーこれは、願うもの中身によるだろう。街を蝕むものの排除を願う者が多いことを考えれば、それらからの庇護とも言える。残りは、それこそさっきの役人とやりあう為の地位を求めたようなものだが。
(「求めるのと、求めるだけの場が必要となるのは話が違うが……いや、若しくは」)
かの役人の「立場」もそもそも吸血鬼から手にれたものであるとすれば。その地位を安寧に過ごすのも不思議はないか。
「ーー失礼」
余り同じ場所に止まっていても悪目立ちする。微笑みと共にその場を離れれば、ほう、と吐息まじりの声が背に届く。
「本当に美しい方……」
「楽士とお伺いしたけれど」
「いや、学者殿では無かったか?」
「あぁ、でも貴族の方と聞いても不思議とは思わないわ……」
褒めそやす声に、ふふん、と笑う。口元浮かべた微笑は崩さぬまま宴の輪を抜けてゆく。賑わいの中、話をするのは街から来たという人々だった。対して、村人たちは寡黙なものだ。何か言いたげな顔も時折しているがーー多くは「どうしてきたのか」というものだろう。囁くように聞こえた「街のやつは余裕だよな」という言葉は、村と街では置かれている状況があまりに違うからだろう。
未来がかかっている方が町とすれば、明日の命がかかっている方が村だ。彼らは明確に、吸血鬼の盤上に利用されない、と言われている。
「だから、か」
時折、周囲を伺う視線の他に一人一人顔を確認するように視線を向けている者もいる。探し人がいるのか、分かりやすい視線は他の客たちから少しばかりの注意を受けていた。
「……、だよ。君。それでは、逃げ出したく見える」
「別に。俺は逃げたい訳じゃなくて、探して……」
「いいや。君が実際、逃げたいかどうかは関係がないんだ。君だって聞いたことがあるだろう。昔、逃げ出そうとした奴らがどうなったか。中庭の塚のことを」
眼鏡だけが残っているという。
ひどく真面目な調子で響いたその声に、ひくり、とアルバの頬が小さく引きつる。吹き出しそうになった事実をなんとか抑え込み、苺のケーキにフォークを通す。アーモンドのきいたタルト生地は苺の酸っぱさによく合う。
(「それにしても……」)
甘いものばかりを集めたテーブルも、眼鏡をつけた客ばかりを集めた会場も「主」の望んだ結果だと言うのに、姿が見えない。簡単に接触できるとは思ってはいなかったがーー少なくとも、何処かからは見ているはずだ。
警備配置は、みる限り宴の会場から出さぬ為。となればーーやはり、この空間を見る場所がどこかにあるのか。
「見えない場所か。それとも、あちらからは見えるだけで」
こちらからは、そうは見えない場所が何処かにあるのだろう。とアルバは思った。
大成功
🔵🔵🔵
クリストフ・ポー
WIZ
紳士淑女たる者、眼鏡も嗜なみさ
着飾るならショールカラーのタキシードにセーブルのマント
眼鏡は華やかさと重厚感を兼備えた
ダークブラウンの鼈甲、ウェリントンフレームが気分かな
演技と礼儀作法を駆使して宴に潜りこむよ
やぁ、素敵な宴があると耳にして参りました
僕は旅の人形師
パーティでダンスタイムがあるなら
鞄から深紅のイブニングドレスに
プラチナのオーバル形眼鏡をかけさせたアンジェリカを起して
華麗にダンスしてみせよう
踊り終えたら一礼を
御婦人や、皆さんに
楽しんで頂けたのであれば幸いです
後は皆の輪に加わって
お喋りや眼鏡を褒めつつコミュ力で情報収集
村や街の明日を一縷の望みにかける者と
そうでない者が居るかを探ろう
●
華やかな宴に管楽の音がよく似合う。宴も進めば、客人たちの様子も随分と変わってきた。余裕が出てきたのだろう。微笑み、世間話と洒落込む人々の姿も見えた。
「紳士淑女たる者、眼鏡も嗜なみさ」
その中を、悠然とクリストフ・ポー(美食家・f02167)は歩いていく。ショールカラーのタキシードに、セーブルのマント。柔らかな黒檀の髪から覗く瞳は、眼鏡のレンズに隠されている。ダークブラウンの鼈甲、ウェリントンフレームを完全に着こなしたクリストフは、にこりと微笑んだ。
「やぁ、素敵な宴があると耳にして参りました。僕は旅の人形師」
「まぁ、街のお方かと思ったら」
「いやいや、北の街から巡られてきたのかもしれないよ」
あちらは芸術を嗜んでいると聞くから。と眼鏡をつけた客人たちが声をあげる。楽しげな声に対し、旅人? と眉を寄せているのは宴の輪から少し遠ざかった人々だ。村や街からやってきて吸血鬼に何かを願う者にとっては、外部の人間は物珍しく映るのだろう。
(「それにしても、ここまで明確に違うというのは……」)
何かあるのかな、とクリストフは思う。一定の人々に余裕がある、と見るよりは彼らの方が切羽詰まった様子にも見える。破綻はしていないが、だが、あとひとつ、何かがあれば壊れてしまうようなーーぴん、と張り詰めた空気がそこにはあった。
「ーー人形師の方ならば、今日もご一緒なのかしら? 私、幼い頃に一度見ただけで……」
「あぁ、折角なのだから何か見てみたいな」
賑わいの声に、思考の海から顔をあげる。浮かべる微笑は変えぬまま、クリストフはにこり、と微笑んだ。
管楽が音色を変える。給仕役の者たちと同じ、宴の主たる吸血鬼の従僕たちは揃いの面をつけたまま、ワルツの調べを刻む。さっきから時々行われるのだと言うダンスタイムに、客人たちはまぁ、と息をついた。
「折角、人形を見れるかと思ったのに」
「いやいや、このワルツだって素敵さ」
残念そうにしながらも、ワルツの音色を褒める。滲むのは恐怖に似た感情だった。流石に吸血鬼の宴に来ている、という感覚は彼らにも残っているのか。残念だわ、と息をつく娘にクリストフは「えぇ」と悠然と笑って見せた。
「ーーでは」
するり、と手を伸ばす。白い指先が鞄に触れる。起き上がったのは、プラチナのオーバル形眼鏡をかけさせた人形ーーアンジェリカであった。
「まぁ……」
「これは美しい……」
恭しくクリストフはその手を取る。ダンスへと誘うように麗しのアンジェリカに触れる。とん、と踏み出す足音は毛足の長い絨毯に吸い込まれーーだが、ふわふわとした感触など気にせずに一曲を華麗に踊りきった。
「御婦人や、皆さんに楽しんで頂けたのであれば幸いです」
わぁ、と上がる喝采に、壁の花と洒落込んでいた人々も顔をあげる。すごい、と純粋に落ちたその声は街の人々よりもキラキラと輝く瞳と共に「人形師」たる自分に注がれていた。
「ーー楽しんでいただけましたか?」
「……、えぇ」
宴の輪の中、一頻り話を聴き終えたクリストフは少し離れた場所からダンスを見ていた青年へと声をかけていた。最初に声をかけてきた人々ーー街の人々の話からすれば、彼は村の人間だと言う。
『残った村も、多くは無いでしょうに』
賑やかだった街の人々は、街中や近くにある脅威の排除を吸血鬼に願っていた。今すぐの危機ではなくーーだが、確かに被害の出ているものへの対処は、慈悲を願うよりは恩恵に近い。事実、こうして自分が「宴に出た」という事実が、盗賊たちを遠ざけるだろう、と人形を見て喜んでいた娘は言った。
『それだけで、十分意味があるもの』
真新しい眼鏡は、この為に誂えたのだと微笑んで。
「……、あなた、何でこんなところに来たんですか。帰れないかもしれないのに」
「帰れない、ですか?」
小さく首を傾げてみる。吐息を溢すような微笑は、知らない訳でも無いんでしょう、という言葉を誘った。
「宴のご婦人は、気まぐれな方だ。けれど、決して侮ってはいけない。……バカなことを考えれば、自分だけではなくてみんな傷つく」
「傷つく、ですか」
「そう。吸血鬼なのに……いえ、だから、でしょう」
一息に滅ぼされるのであれば、どれだけ楽だったか。
呟き落とした青年は、黒の瞳を揺らす。
「帰ってこなかった者がどれだけいるか。帰って来なくて、村が滅ぼされなかったからと言って空の棺に納得ができるわけもない」
帰ってくるつもりでいた奴がいるんですよ、と青年は言った。自分が村を出ている間に来た招待状に「彼」は生きて帰ってくるつもりだと言う手紙を寄越した。青年が知ったのは、もう随分と経った後の話でーーだからこそ「彼」が成功したのだと村人たちに聞かされた。
「そんなもの、どうして信用ができるのか。大体、どいつにとっての成功が、村の延命に繋がるのか」
見つけてやる気で、俺は来たんですよ。
そう言って彼は微笑んだ。
「招待状を偽装して、潜り込んだんです」
だから俺には近づかない方が良いですよ、と静かな笑みで告げた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『部屋の仕掛けを解け』
|
POW : 物を退かせたりスイッチのような物理的な仕掛けと予想
SPD : 巧妙な騙し絵や隠し扉のように隠された仕掛けと予想
WIZ : 燭台に火をつけたり規則性にそって物を並べるような仕掛けと予想
イラスト:ロワぬ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●とある貴婦人の語るところには
「今宵は、随分と良い集まりだこと」
魔法で細工された壁から、会場を眺めていた吸血鬼は微笑む。ひどく楽しげに、けれど満足には程遠い主の顔に従僕たちは一礼を以って告げる。
「では、我らが主」
「用意いたしましょう。お望みのものが輝く時間を」
「輝く瞬間を」
客人たちが品位を、品格を示したのであればこちらもそれに応じるだけのこと。そう、これは持てなしの一つなのだと彼らは笑った。
●優雅たる眼鏡(をつけた人々による)推理
ーー気がつけば、君たちはその部屋にいた。
『これにて、パーティーは終わりとなります。皆々様、どうぞご準備ください』
次なるもてなしの為に。
重なり響いた従僕たちの声を合図とするようにフロアの照明が消え、悲鳴が響く中、猟兵たちはその部屋に連れ去られていたのだ。
「……」
部屋は、個室というよりはラウンジに似ているだろうか。暖炉の上には時計が置かれ、絵画が飾られている。本棚もあるようだ。ラウンジに似ていると感じたのはソファーの数だろう。部屋のサイズには合わずーーだが、この場にいる者の数には合う。会場にいた全員ではない。猟兵たちであれば、情報を仕入れたーー話を聞いた相手や、直接会話をした相手だと分かる筈だ。
「……これは、いったい」
「宴に出れば良いだけでじゃなかったの……?」
戸惑い、困惑する人々は何かきっかけがあれば騒ぎ出してしまうだろう。それは「危険だ」と猟兵たちは思う。何処からかは分からないが「見られている」気配はある。この場所そのものが、オブリビオンによって何らかの処置が施されているのだろう。
「こんな、村を救わないといけないのに。これ以上どうやって……」
「ーー推理です」
どう、の答えは不意に入る。部屋に響いた声は、蓄音器から響いていた。
「宴における眼鏡の品位、品格を示した皆々様には、次なる趣向をお楽しみ頂ければと思います」
「華麗なる推理を示しなさい」
「優美かつ華麗なる推理で、この部屋を脱するのです。眼鏡をつけた者たち」
ーーん? とそこで疑問に思ったらきっと終わりなのだ。要はとにかく、眼鏡をつけた状態でカッコよく推理しろ、ということなのだろう。
「この密室を、推理により脱して者は我らが主の部屋に辿り着けるでしょう」
「華麗にて優雅たる推理こそ我らが主の望み。示しなさい。明日の生を望む者たち」
「示しなさい。そして我らが主に辿り着くのであれば、その時こそ、望むが良い」
従僕たちの声は重なり合うように響き、消えた。
扉はひとつ。扉を破壊できるだけのユーベルコードを使えば、脱出はできるようだがーーそれは「主」たるオブリビオンの望みとはかけ離れる。オブリビオンの元に辿り着くのに時間がかかってしまうことだろう。
華麗なのか優美なのか優雅なのか分からないがーーようはそれっぽい推理をすれば良いのだろう。仕掛けそのものは確かにされているようだが、複雑な物ではなさそうだ。問題なく解くことができるだろう。
問題は、同じ部屋にいる一般人(の眼鏡な人々)をどうするか、だ。
この部屋においていくか。事情を話して納得してもらうかーーそれとも、君たちだけが先に脱出して彼らには待っていて貰う手もあるだろう。全員が一度に脱出できる、とは従僕たちは言ってはいなかったのだから。
オブリビオンの望みは、眼鏡をつけた今宵の贄がまず自分のところに辿り着くことだ。取り残した彼らが殺されることはないだろう。
もしも、館の中を散策したいのであれば素早く解くことが必要だろう。何を探すか、一点に絞れば難しくとも光は見えるだろう。
さぁ、どう動こうか。
●閉じ込められた部屋の中で
猟兵たちが閉じ込められたのは、それぞれ違う部屋だった。一緒に閉じ込められているのは、会話をした一般人やーーその話を、猟兵たちが「聞いた」相手だ。
彼らは、この部屋が何処に位置しているのかは分からないようだが、猟兵であればこの部屋の配置が魔術的に弄られているのに気がつくだろう。
推理をして解けば正しい場所に。
無理に開けば、オブリビオンの入る場所からは遠い。ーーだが、推理で開かなかった場合は、それも手だ。全力疾走するかっこいい眼鏡を見せつけるしかない。
会場にて「ご婦人」と呼ばれる主の居場所を、壁の向こうに見つけてしまった者は、部屋の中にいるのは自分一人だと気がつくだろう。代わりに、部屋の外ーー遠いが、確かに届く場所に物音を聞くだろう。
宴にて眼鏡を勧めていた者は、自らが眼鏡を勧めた相手と、部屋のソファーに壊れた眼鏡をつけた人を見つけるだろう。会場では見なかった者だ。
どう動くかは君たち次第。
キラン、と眼鏡を輝かせての推理ショーの始まりだ。
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マスターより
秋月諒です。
ご参加いただきありがとうございます。
第二章について、補足です。
プレイング受付期間:12月19日〜
館内部散策希望の場合は、お手数ですが初日ではなく、2日、3日目にお送り頂けると幸いです。該当日時にお送り頂いた場合でも、判定によっては散策ができない場合ございます。
・部屋について
ホテルのラウンジ風。
猟兵たちはそれぞれの部屋にいます。ペアでご参加の方は一緒です。
色々な仕掛けがされていますが、仕掛け自体の難易度は高くはありません。どれだけ華麗だったり優雅にそれを推理するかが求められています。
〜な状況に違いない! みたいに推理していただければと。
・眼鏡な一般人について
一章で、接触した一般人、もしくは情報を仕入れた相手が一緒にいます。
置いていくも、説得するもよし。置いて行っても死亡することはありません。彼らへの対処で、シナリオの成功失敗は発生しません。
村や街の今後がかかっているので精一杯の推理を見せようとします。
・館の内部について
たくさんの部屋があります。
領主の部屋へは、望めば不思議と辿り着けるようです。多少の寄り道は可能ですが、優美で華麗な眼鏡的に美味しくないとオブリビオンが判断すると成功値がちょっと下がります。
だいたい眼鏡でカッコよく推理してみよう! なターンです。どうぞよろしくお願いいたします。
ステラ・アルゲン
【星門】カガリと
まさかこのような場所に閉じ込められるとは
いえ、任せてください。私はなんたって鍵の剣
この部屋の謎の鍵も開けてみせましょう!
ご婦人方々はご安心ください【誘惑・存在感・勇気】
眼鏡をクイッとして知的さをアピールしておきましょうか【演技】
部屋を出るには……
ふと目に止まった絵画
絵の具を零したようなそれは芸術とも呼べるけど、絵の色の数と形がもしかしたら部屋を出る鍵か?
絵画自体も本棚のように見える。一色だけ塗られた黄色と同じ位置にある本……これか?(それはカガリの本と同じもの)
密室を脱出する前に一般人達はここにいるように説得【誘惑】
必ず迎えに来ますから待っていてくださいね?
出水宮・カガリ
【星門】ステラと
すい、り、とは
考えて、謎を解くこと、か
うーん…こういうのは苦手だが…(親指と中指広げて眼鏡くいくい)
一緒にいるのはステラと、娘かな
ステラもいるから、いい感じに話してくれるだろう
それで…仕掛け、とは
家具の配置、窓からの明かり、外の景色の角度…(外を見ながらレンズがきらり)
この台に置かれた鏡を、少し傾けて
そうしたら、外からの光が反射するから…次はこの、グラスを…
(光を次々反射させて、最後に意味ありげな本棚の染みに当ててみると【鍵は3冊目】の文字が浮かぶ)
どこから数えて3冊だ…ここか?(眼鏡のダイヤがきらり)
(本を取ると本棚が回転、それまで見えていた部屋の扉とは別の真の扉が開く)
●
普通に見れば、そこは普通の部屋であった。広い空間。豪奢な部屋。それが「普通」では無い、と吸血鬼に告げられれば当たり前に部屋には動揺が走った。ひゅ、と息を飲む娘が、どうして、と震える声を落とす。
「そんな、推理なんて私……。もし、これが上手く行かなかったら……まさか」
願いは、と紡ぐ声が揺れていた。戸惑いに揺れた瞳が、やがて狂乱へと辿り着くそれより先に「まさか」と声がひとつ、落ちた。
「このような場所に閉じ込められるとは。いえ、任せてください。私はなんたって鍵の剣。この部屋の謎の鍵も開けてみせましょう!」
柔らかな髪が揺れていた。瞳の色は未だ変えたまま、ステラ・アルゲンは口元に笑みを浮かべた。
「ご婦人方々はご安心ください」
男装の麗人が、くい、と眼鏡を上げて見せればーー……。
「は、はい……」
効果は、抜群だった。
「さすがはステラだな」
混乱と困惑から叫び出しそうだった娘が、一気に落ち着いた。……ん、ちょっと落ち着いていない気もしなくもないが。
(「あそこに……狂う気配はない」)
一安心だな、と思いながら、出水宮・カガリは部屋を見渡した。一安心となれば、後はこの部屋を出るだけなのだが。
「すい、り、とは。考えて、謎を解くこと、か。うーん……こういうのは苦手だが……」
親指と中指を広げ、眼鏡をくいくい、と上げて息をついた。
部屋にあるのは暖炉に時計。飾られた絵画は、風景画のようでもあった。背の高い本棚に、大きなソファー。宴の会場にあったものと、同じだろうか。ふかふかのソファーは、座ればゆっくりと休めそうだがーー今はそうも行かない。
「それで……仕掛け、とは」
家具の配置、窓からの明かり、外の景色の角度。外を見ながら、考えるように眉を寄せたカガリの瞳にレンズの光がきらり、と届く。
「鏡か。それならば、少し傾けて。次はこのグラスを……」
次は花瓶を。もう一度グラスを。
一筋、差し込んでいた窓の明かりが思えば違和感ではあったのだ。部屋は十分に明るいというのに、日の光が随分と映えた。ならば、と並べたもので光を次々と反射させていく。帯のように走る光はーーやがて、本棚へと辿り着いた。
「これは……」
本棚の染みに当てれば見えたのは「鍵は3冊目」の文字。
「3冊……。どこから数えて3冊だ」
呟くカガリが、本棚へと色彩を変えた瞳を向けている中、ステラは絵画へと目をやっていた。何処のものかは分からないがーー風景画だ。
「絵の具を零したようなそれは芸術とも呼べるけど、絵の色の数と形がもしかしたら部屋を出る鍵か?」
吸血鬼の望みは推理、だ。華麗と優美はこの際置いておくとしても、推理しろというのだから、ヒントはこの空間にあると考えて良い。
「絵画自体も本棚のように見える。一色だけ塗られた黄色と同じ位置にある本……」
絵画を横目に、カガリもまた本棚に辿り着く。とんとん、と指先で本棚の背を辿りながら導き出されたのはーー……。
「これか?」
「ここか?」
ふいに重なった言葉。視線を交わし合い、そっと導き出した一冊を引きぬけば、ガコンという音と共に空間が震えた。
「当たりみたいだな、カガリ」
「うん。そのようだな。この先に見えるのが、本当の道のようだな」
動き出したのは部屋の扉ではなく、目の前にあった「本棚」だ。回転した本棚の奥、空間が広がる。これが本物の通路だ。すい、と軽く手を伸ばして見れば、風を感じる。だいぶ埃っぽくはあるが、使えそうだ。
「今まで誰にも使われなかった……という訳ではなさそうだな」
呟いてカガリは眉を寄せる。ヤドリガミの二人からして見れば、この扉は若い。それでも人の一般的な寿命を考えれば、長く使われているのも事実だ。
「同じように推理をさせられた人が、使ったのかもしれないね」
部屋には謎解き用のもの以外、危害を与えそうなものは無かった。だが、ここから先は確実に戦いになる。
「あ……あの」
ポッカリと開いた空間に、娘は困惑を示す。私は、と揺れる声は推理に参加しなかった自分と、二人がただの客では無いと感じてのことか。
「必ず迎えに来ますから待っていてくださいね?」
だからこそ、安心をさせるようにステラは娘の前、そっと身をかがめて言った。迎えに、と落ちた声に微笑んで頷けば、あぁ、と娘は声を震わせた。
「あなたは……、お二人は……、全てを終わらせに来たんですね。ーーはい、お待ちしております」
どうぞお気をつけて、と祈るように告げる娘に見送られ、ステラとカガリは部屋を脱出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
【狼鬼】
自前の角と尻尾を兎の耳と尻尾風に変形させれば
先程までが嘘のように興に乗る
まあ見ていたまえよ、なんて口調も芝居がかって
単に俺が状況に乗じて時計ウサギの「師」の物真似をして楽しんでるだけだが
大仰に振る舞う変人がいりゃ一般人連中の狂騒も少しは収まるかって思惑も少々
いや、一人黙ってねえ奴がいるな?
笑い転げてねえで仕事しろ、ザザ
コホン、とにかく
扉が開かぬのならば仕掛けを探し出すまで
壁を叩き兎耳をそばだて隠し扉やスイッチの類を探る
古今東西、現場に居合わせた名探偵は身体を張るものさ
駄目押しとばかり眼鏡をくいっと
――フン、いいだろう
「私」の分の葡萄ジュースも頼むよ、「ザザ君」
演るならとことんさ
ザザ・クライスト
【狼鬼】
ジャスパーが突然怪演を始めた
ヘンなクスリでもキメちまったか?
黙って聞いていたが、耐え切れなかった、笑い転げる
「……ヒッ、フヒッ、いい加減笑い死ンじまう、やめてくれ」
喘ぎ口元を拭いながらジャスパーを制止
「ムッシュー。エリックはどう思う?」
部屋にいる三人目を見る
煙草に火を点けてエリックにも勧めよう
意見に頷きつつ、
「ジャスパー、オマエさん小芝居が好きだよなァ」
ソレは探偵じゃなくて道化師だ
眼鏡を拭き掛け直すと笑む
仕掛けを探すのが優雅か?
力業が華麗か?
朗々と語るのは優美か?
棚からボトルとグラスを三人分
ワインを注ぐと、
「プロージット」
監視されてンだ
紳士を保てば迎えが来るさ
開かぬなら開けさせろってな
●
コン、床で踵を鳴らす。しゅるり、と自前の角と尻尾を兎の耳と尻尾風へと変形させたジャスパー・ドゥルジーが口元に笑みを浮かべていた。
「まあ見ていたまえよ」
さっきまでが嘘のように興に乗る。すらりとした長身に、黒のスーツともなれば芝居がかった口調もよく似合う。推理を求められたのであれば、披露するだけの話だ。カツコツ、と床を歩きーー記憶の中にある姿を辿る。それは、時計ウサギの「師」の物真似だ。ジャスパーとしては状況に応じて楽しんでいるだけだがーー……。
(「あぁ、こっち見てるな。あの当たり、明らかにテンパってたからな」)
大仰に振る舞う者がいれば、自然と視線はそちらに向く。
吸血鬼によってよく分からない状況に放り込まれた事実より、目の前でいきなり始まった謎の推理ショーの方がよっぽど彼らの目を引いたのだろう。
『どうするんだ』
『これ以上、待てるようなものじゃないんだぞ。うちは……』
『これを突破できないと駄目だっていうのか? 眼鏡が、まさか駄目で……!?』
眼鏡をつけて、優美だか品格だがを示しつつ推理しろといきなり言われれば、そりゃぁ狂想にも陥る。最後の晩餐だ、とジャスパーたちに告げた青年も顔を青くしていた。
(「倒れる様子もないから良いか」)
なら、と思ったところで、は、と落ちる息と吹き出すような笑い声が響きわたった。
「一人黙ってねえ奴がいるな? 笑い転げてねえで仕事しろ、ザザ」
「……ヒッ、フヒッ、いい加減笑い死ンじまう、やめてくれ」
口元を拭いながらジャスパーを静止するようにザザ・クライストの手が伸びた。
「さて」
演じるために作った言葉と共に、足を止める。ひとつ、どこのツボに入ったのか。笑い転げる男は、二度目の深呼吸でようやく落ち着いて。ポケットの煙草に手を出していた。
「ムッシュー。エリックはどう思う?」
煙草に火をつけ、紫煙を燻らせながらザザは視線を向ける。一本、差し出せば小さく瞬いた後にエリックは頷いた。
「ありがとう、いただくよ。ーーそうだな、頭が一回吹っ飛ぶくらいの衝撃が、一周回って落ち着くくらいのパワーがあったよ」
お陰で、とエリックは息をつく。
「落ち着いた」
その声が、小さく響いたのは吸血鬼に聞かれぬ為か。それともーー二人のやりとりに呆気にとられていたからか。
「コホン、とにかく」
扉が開かぬのならば仕掛けを探し出すまで。
時計ウサギの師宜しく、ジェスパーは部屋の中を探していく。壁に指を滑らせ、コンコンと叩いていけば、確かに一角、音が変わる。変わった場所は数カ所。単純に見た限りではスイッチが出てきそうな感じは無いが、変化があるということは、中身が違うとも言える。
「古今東西、現場に居合わせた名探偵は身体を張るものさ」
壁に手を当てたまま、眼鏡をくいっと上げて見せる。
「ジャスパー、オマエさん小芝居が好きだよなァ」
ソレは探偵じゃなくて道化師だ。
忍び笑った男が、眼鏡を拭きながら笑う。ちゃき、かけなおせば悠然とした笑みでザザは告げた。
仕掛けを探すのが優雅か?
力業が華麗か?
朗々と語るのは優美か?
棚からボトルをグラスを三人分貰い、ワインを注ぐ。
「プロージット」
掲げた乾杯の言葉と共に、赤々とした美しいワインに口の端をあげる。
推理をしてみせろ、と彼らは言った。優美と品位を口にして。してみせろと言う以上、彼らはーー見ているはずだ。
「監視されてンだ。紳士を保てば迎えが来るさ」
開かぬなら開けさせろってな。
囁くような言葉が、グラスに触れる。緩く、傾けたグラスに、ジャスパーは息をつくようにして告げた。
「――フン、いいだろう。「私」の分の葡萄ジュースも頼むよ、「ザザ君」」
演じるならとことん。
その形を完璧に作り上げたジャスパーへと、ザザがグラスを差し出す。短かな乾杯の言葉と共に時を過ごす中、暫くして扉は一人でに開く。ジャスパーがグラスを置いたその場所から、カコンと音もした。あのまま推理を続けていれば後少し早く開いたかもしれないがーー二人のやりとりに宴の主は満足をしたのだろう。
紳士らしく。そして推理らしく。
開かれた扉から、二人は颯爽と脱出した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
八上・玖寂
これはこれは。大変ですね。
(ソファーに優雅に座りながら)
一緒の部屋にいるのは、丸眼鏡の可愛らしい女性と喪服の男性ですかね。
街から来た女性と村から来た男性、認識の差を確認したい気もしますが、まあ部屋の中が険悪にならない程度に。
部屋の中に置かれた赤い葡萄ジュースのボトルと白葡萄のジュースのボトルを手に取って、どっち飲みます?と二人に聞いてみたり。
どちらを選ばれても赤い方のボトルを叩き割るのですが。
そうしたら扉の鍵が出てくるような気がします。
宴の料理も赤が多かったですしね。これは少し粗末に扱ってしまいましたが。
服を赤く染めてでも、といったところですかね。
部屋に残られるか、着いてくるかは、お好きに。
●
密室というものは、人を焦らせる。
当たり前の話だ。どれだけ優美な空間であったとしても、そこから出ることができない、と宣言されているのだから。
「この部屋から、出る……? 推理……?」
「これがやり方なのか」
それはたとえ、戻った者はいない、と言われている吸血鬼の宴に参加したものにであったとしても同じようだった。
「これはこれは。大変ですね」
そんな二人ーー丸い眼鏡をつけた女性と、喪服のような黒いスーツを着た村人を眺めながら八上・玖寂は優雅にソファーに腰掛けて、足を組む。
「お二人でも驚かれますか?」
何に、とは問わない。
曖昧に紡いだ言葉は、勝手に補完されるものだ。それを分かっていて玖寂は問う。眺めるように向けた視線に、最初に口を開いたのは村の男の方だった。
「……、別に。吸血鬼のやり口なんてこんなもんだろ。行けば終わるんなら、さっさと終わっている。中途半端に考えさせられる分、遊ばれてんだよ」
「遊んでって……なに、来ただけじゃだめなの? 宴に出ればそれだけで良いって聞いていたのに」
その男の言葉に、あからさまに戸惑いを見せたのは丸眼鏡の女の方だった。
「聞いていた、ですか」
「えぇ、えぇそうよ。街の人から、ご婦人が満足されたらそれでもう大丈夫なんだって」
小さく玖寂は首を傾ぐ。組んでいた足をとき、緩く浮かべた笑みを寄り添うそれと誤解した女が、そう、そうなの。と言葉を重ねる。
「そうしたら、ちゃんと願いを使えば、大丈夫だって。恩恵を与えてくださるんだもの。私はまだ、一回目だから帰れなくても生きてはいられるかもって」
「一回目だ? は、街の連中は平和なもんだな。吸血鬼の館に来て、生きていられるかもも無いだろ」
そう告げたのは喪服姿の男だった。
「恩恵も何も無い。俺たちはどうせ盤上に並べられているだけだ。西の村は壊されたんだ。自分たちだけが大丈夫なんて話通じやしないんだよ」
「それは……、村の方々に比べれば、私たちは……」
曖昧に揺れる言葉は、街の女も「村に起きている状況」は概要であっても理解はしている、と言うのを示していた。
「でも、ご婦人は恩恵を与えて……」
「街に起きてることだって、どうせ誰かが吸血鬼に願ったことの成れの果てなんじゃないのか」
戸惑う女に対し、村の男は吐き捨てるようにそう言った。ひゅ、と息を飲んだ女の姿に僅か、バツの悪そうな顔をする辺りはーーただの八つ当たりであったか。
(「この辺りが潮時ですね」)
部屋の中が険悪になっても困る。最も、面倒ではあると言う程度であるが、何も要素を不安必要もない。
「まぁ、真実はそれを知る者しか知り得ないのでしょう」
僅かに身を起こし、つい、と眼鏡を上げて玖寂は微笑んだ。
「主人たるご婦人しか」
小さく、頷く二人は互いに密室に放り込まれたというショックから戻れていないようだがーーこちらとしては多少、収穫もあった。
街の女の言う「一度」は、館の中で生き延びる可能性だ。街の人間は、吸血鬼から恩恵を得る形で今日に臨んだ者が多い。街にとって、招待状は命をかけて恩恵を得る物であり、うまく行けば生きて帰れるーー他の街の人間が来たときにでも、出られるという認識があるらしい。
吸血鬼のことは、恐れてはいるが村人ほど実質的な恐怖対象ではない。だが村人にとっては違う。吸血鬼の盤上に乗るかどうか、だ。
『俺たちはどうせ盤上に並べられているだけだ』
盤上があれば、演じられるゲームも存在する。盤上となった村は滅ぼされようではあったがーーさて「何」によって滅ぼされたかは知れていない。
(「吸血鬼によって戯れで滅ぼされたとは思いますが、何を使ったかまでは分かっていませんでしたし」)
街と村の者は、それぞれが吸血鬼に対して置かれた状況は理解していても、互いの街や村がどうなっているかは分かっていない。距離感もあるかもしれないが、ほぼ、互いの交流はないのだろう。
『街に起きてることだって、どうせ誰かが吸血鬼に願ったことの成れの果てなんじゃないのか』
だからこそ、さっきの村人の言葉は八つ当たり、だ、もしくは村の中ではよく言われているだけの言葉かもしれないがーーなる程、と玖寂は思った。
(「誰かが吸血鬼への願いの果てに起こした利権が、他のものにとって邪魔になる。願いを叶えてくれる対象が存在すれば……それを使うでしょうね」)
村は恐怖によって支配され、街は享楽によって支配されたか。
「随分とらしい話になってきましたか」
ふ、と玖寂は笑う。吐息を溢すようにして落とした笑みは、この部屋で唯一優雅に座る男に似合いであった。街の者も、それこそ村の男であれば冷静な状態で居れば玖寂を警戒したことだろう。だがこの空間を制したのは玖寂だ。目をパチクリ、とさせた丸眼鏡の娘に微笑み、ゆるりと立ち上がる。
「どっち飲みます?」
赤い葡萄ジュースと、白葡萄ジュースのボトルを手にとって振り返る。
「飲むのか? ……、俺は、なら白を」
「あ、わ、私は赤を……。水分補給、必要ですよね」
はい、と辛うじて頷いた二人の前、そうですか、と微笑んだ男は片手に持った赤葡萄ジュースのボトルを壁にーー叩きつけた。
「な……!?」
「え……」
ガシャン、と派手に響いた音と共に壁紙が赤く染まる。鮮やかな赤と果実の匂いが広がる中、カコン、と銀の鍵が出てきた。
「宴の料理も赤が多かったですしね。これは少し粗末に扱ってしまいましたが」
グローブについた赤に、小さく瞳だけを細めて見せた男が鍵を拾う。
「服を赤く染めてでも、といったところですかね」
くすり、と小さく落とした笑みは、驚愕から立ち直れずにいる二人へと届いたか。破片を手放した玖寂は、赤を踏み締め部屋を抜け扉へと鍵を差し込んだ。
ーーガチャリ、と鍵が開く。
「部屋に残られるか、着いてくるかは、お好きに」
微笑とと共に告げた玖寂に、覚悟するように村人が立ち上がる。状況について行けないまま、街の娘は首を振ればーー二人の脱出者は、屋敷の奥、宴の主がいる場所を目指す。
大成功
🔵🔵🔵
双代・雅一
眼鏡を押し上げ、思考を巡らせる。
脱しろ、と言う事は。出れん事は無いのだな。
先程言葉交わした音楽家を促し、探索に協力して貰おう。
音に違和を感じたら教えろ。職業柄、耳は良いだろう?
昔やったRPGゲームにあったな、この手合い。
壁の色を見、色が微妙に違う箇所があれば小突いて音の違いをみる。
本棚に不自然な並びの書物があれば手に取り、生じた隙間の奥を調べよう。
理知的に冷静に観察を…いつもと変わらん事だ。
脱出路が開いても足手纏いはいらないし。
――そう言うなら、代われ。
しれっと音楽家さんの頸動脈に手刀一つ。
悪いな 、少し寝てて欲しい。
眼鏡はそのまま。酔狂な主催の元に向かおう。
少し休んでろ惟人。戦る時は呼ぶ。
●
何処からともなくご丁寧に届いた言葉は、この空間を部屋へと変えた。美しい調度品に、暖かな暖炉。同じ判型の本ばかりが並ぶ本棚へと視線をやったところで双代・雅一は息をついた。
「脱しろ、と言う事は。出れん事は無いのだな」
眼鏡をつい、と上げる。呟きは惟人のものだった。眼鏡だらけの謎の宴を押し付けられた挙句、今度は部屋に放り込まれて推理しろ、とは。
(「出口があるのは宣言されている分、マシな話か?」)
最初っから破壊する選択肢を後ろに回されたとも言うのだが。
は、と息を吐き、惟人は部屋をぐるりと見渡している男へと目をやった。
「音楽家だったな。音に違和を感じたら教えろ。職業柄、耳は良いだろう?」
「まぁ、悪くは無いが……、まさか、推理して脱出するのかい?」
音楽家の金の瞳が瞬く。推理そのものに驚いた、と言うよりはーー脱出の方にだろう。
「ここが、ご婦人の館だと分かった上でかい?」
「脱しろ、と言ってきたのは向こうだからな。……それとも、座して終わるか?」
それは、口こそ悪くはあったが、結局のところ善人の言葉であったか。音楽家が座ったままで終わるのか、と。
「……、いや。そうだね。耳は良いんだ。ここに放り込まれた以上、まだ何も始まっちゃいないってことだろうしね」
音楽家だと男はあの時告げた。酒場辺りを演奏している音楽家、だと。街を背負う程の音楽家者ではなくーーだが、街を天秤にかけたという話を聞く羽目になったのはこの男であった。
「しかし、職業柄ねぇ」
「……なんだ」
眉を寄せた惟人に、いやなに、と音楽家は笑った。
「いや、こんなところまで来て、そう言う意味で私を必要としてくれる人がいるとは思いもしなくてね」
此処に来た以上、私に音楽家である価値は無くなったと思っていたから。
そう言って、音楽家は笑った。
「ありがとう。楽しくなってきたよ」
「……そうか」
他者の覚悟に口を挟む気も無く、ただ惟人は静かにそう言った。
さて、そうなれば後は謎を解くだけではあるのだが……。
「昔やったRPGゲームにあったな、この手合い」
何処からどう、解くべきか。考えるように眉を寄せて、惟人は壁を見据える。本棚はーー……、可能性が考えられすぎるから却下だ。後に回せば良い。ある程度絞ることを考えれば先に見るべきは壁か。
(「表面の感触は変わらない」)
あとは、と薄く口を開き、ふと気がつく。指を滑らせた瞬間、影となった場所で色が変わる。暗くなったから、では無い。そもそもの色が微妙に違うのだ。
「此処か。……どうだ?」
小突いて見る。中央を一度、左を二度。色の変化している壁を辿ってゆけば、音楽家が眉を寄せた。
「然程変わらないな……、いや、少し硬かった気がするだけどなぁ」
音が硬い、と告げた音楽家はゆっくりと視線をあげた。
「打楽器みたいだね。場所や叩き方で変化するのかもしれない」
「なら、叩き方を変えるか」
軽く小突く形から少しだけ力を加えれば、ドンドン、と響いていた音が不意に、カコン、と軽いものに変わった。
「これか」
奥に空間でもあるのか。それにしては妙に、音が響く。二度、三度と響かせれば本棚の方で音がした。
「仕掛けが動いたか。……壁の方は材質が違うものを仕込んだのか? カラクリが内側にあれば壁は分厚くなるが、魔術で全て片付けていれば所詮は吸血鬼の仕事だな」
不機嫌そうに連ねられた言葉は、それでいて工学者らしい言葉であった。さすがは錬金術の学者さんだ、と笑った音楽家は、からからと笑った。
「さすがは錬金術の学者さんだねぇ」
「理知的に冷静に観察を……いつもと変わらん事だ」
別に珍しいことでも何でも無い。
言い切って、惟人は一冊に手をかける。奥にあった本棚の背をコンコン、と叩けばさっきと同じように音が、変わった。
「ーー見つかったな」
カコン、という音は、扉からか。これは、と小さく瞬く音楽家を視界に、ならどうするか、と惟人は思う。
(「脱出路が開いても足手纏いはいらないし」)
口の中、作った言葉は反響する言の葉に拾われた。
「――そう言うなら、代われ」
「ーー……え?」
ぱち、と瞬いたのは音楽家であった。何の話だと言いたげなそこに、すいと手を伸ばしーー素早く、手刀を落とす。
「悪いな 、少し寝てて欲しい」
頸動脈への一撃だ。一瞬で意識を落とした彼をソファーに寝かせたのは雅一だ。
「少し休んでろ惟人。戦る時は呼ぶ」
弟の眼鏡はそのままに、ふ、と慣れぬ視界に小さく笑った。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…ん。なるほど、これが次の余興というわけ。
良いわ、それが本命に辿り着く近道なら付き合ってあげる。
…だけど、狩人から逃れられると思わない事ね。
たとえ魔術的な仕掛けだとしても、
それが吸血鬼の力であるのなら、私が見抜けないはずがない。
目立たない魔術的な仕掛けをUCで見切り、
人差し指でずれた色眼鏡の位置を直して存在感を放ち、
探偵の礼儀作法に則りソファーに座り推理を始める
…絵画も本棚も大した意味はない。
大事なことは華麗にして優美な眼鏡の推理を示すこと。
…つまり、眼鏡を掛けてソファーに座りながら、
己の推理を披露すれば扉は開くに違いない。
…扉が開いたら周囲を警戒しつつ、
遠い場所にある物音を確認しに向かうわ
●
暖炉の火が、ゆら、ゆらと揺れていた。ご丁寧に追加の木まで用意された部屋は随分と暖かい。密室、とそう聞いていなければ寛ぐこともできただろう。ーー最も、ここが吸血鬼の館である以上リーヴァルディ・カーライルにとって穏やかに過ごす場所では無いのだが。
「……ん。なるほど、これが次の余興というわけ」
華麗なる推理。あれは「推理をすること」そのものを求めている戯れだ。その姿を見ることを吸血鬼は望みーーならば、この部屋も最初の会場と同じように何らかの手段で「見られて」いるのだろう。
「良いわ、それが本命に辿り着く近道なら付き合ってあげる」
壁に指を滑らせる。暖炉の暖かな火に、 紫の瞳を細めると小さく、息を落とす。ため息では無い。集中する為だけのそれ。
「……だけど、狩人から逃れられると思わない事ね」
たとえ魔術的な仕掛けだとしても、それが吸血鬼の力であるのなら、私が見抜けないはずがない。
この部屋に他の猟兵の姿は無い。他の客たちの姿もだ。先の放送を聞く限り、複数で部屋にいる者もいるはず。ならば「これ」は確実にわざと、だ。用意された舞台。その程度の状況に、臆する者でも無い。
「ーー」
一度、伏せた瞳に光が宿る。吸血鬼狩りの業。人差し指でつい、とずれた色眼鏡の位置を直してリーヴァルディはソファーに腰掛けた。ーー探偵の礼儀作法に則って。
「……絵画も本棚も大した意味はない。大事なことは」
華麗にして優美な眼鏡の推理を示すこと。
つまり、とリーヴァルディはゆるりと視線を上げる。眼鏡を掛けてソファーに座りながら、
己の推理を披露すれば扉は開くに違いない、と。
「ーー見えた」
言葉をひとつ、作る。魔術の痕跡が見えたのは本棚と、壁。宴の空間のようにその「奥」に何かがいるーーというよりは、単純な仕掛けだ。連動して動くようになっている一角を見据え、リーヴァルディは息を落とす。本棚のひとつ、中に本が詰まっているようでいて、実際何も無い場所がある。
「木を隠すなら、かしら」
ソファーに身を沈めて、幻想の本の向こう、隠されていた表紙にあった文字を紡ぐ。
「道具箱へ」
なぞりおとした言葉を合図とするように、扉が開く。つい、と色眼鏡の蔓に触れたリーヴァルディは警戒しながら扉の外へと出た。そこにあったのは長く続く廊下だった。他に部屋らしいものは近くには無いか。真っ赤な絨毯は、毛足が長くーー宴の会場に見たのと似ている。歩き出せば足音が消える。
「……こちらからしても、聞こえないってこと」
オブリビオンであれば、通常を超える聴覚を有している場合もあるだろう。そも、此処は吸血鬼の館だ。従僕も、その血を受けているのも確実だ。
(「逃げ出そうとしたところで、どこかで捕まる可能性が高い……いや、捕まえるまで泳がせているだけ、でしょうね」)
足音が消えた分、警戒を強めて歩く。聞こえ無いならそれだけ、遠くから聞こえていた物音を捉えることができた。身動ぎにも似た小さな音は、廊下を奥へ奥へと進んでいく程に大きくなりーーどさり、と何かが倒れるような音に変わった。
「……扉ね」
見つけたのは美しい扉であった。装飾の施された扉は、だがどこか部屋の扉というには違和感がある。
(「何が……」)
この感覚を、と辿りかけたそこでリーヴァルディは思い出す。道具箱、という文字。扉の中で聞こえた音は、あれは人が、倒れる音だ。
「生存者が捕らえられている場所のようね」
扉に感じた吸血鬼の気配は、ここが奴の所有物が収まった場所だからだ。同時に感じた魔術は、扉にかけられた結界、だ。所々綻んでいる結界は一般人でも無理やり開けようと思えば、開けられそうなものだ。
「……」
それでも、中にいる人たちは開けられない。
これは吸血鬼が仕掛けた遊びだ。宴の折に使う者もいるのかもしれないが、この中に入れられたままになっている人々は、遊ばれているのだ。
「……外に出るのは怖がるかもしれないけれど」
救出もできる。全てが終わった後でも良いかもしれないがーー、此処に来れるような場所に自分を置いた方が気になる。警戒するように瞳を向けた瞬間、あの本棚と同じように扉に文字が浮かんだ。
ーーあげるわ。色眼鏡のお嬢さん。
代わりに、あなた達で道具箱を満たしましょう。
待っているわ、と。
大成功
🔵🔵🔵
英比良・與儀
ヒメ(f16671)と
確かに扉を破壊してってのは最終手段だ、スマートじゃない
俺はそういうのは好きじゃねェから、ノってやるか
推理はお前向きじゃあねェなァ
ちょっと考えるから、じっとしてろ
うろうろされると気が散る……
部屋を見渡せる場所にある一人掛けソファに優雅に座りくるりと見渡す
あの扉を開けるための細工があるのか、はたまた他に道が開かれるのか
推理として面白いのは、他に道ができる、だよな
……ヒメ、うるせェ、何やって…
ちょっと待て、それよこせ
…お前、ほんとこういうの見つけるとこは…
まぁいい、これで解けた
鍵と、あのでかい絵の額縁の装丁が同じ
鍵穴でが額縁のどこかに隠れてそうだな
きっとそれが出口に繋がるはずだ
姫城・京杜
與儀(f16671)と!
俺達は優雅なる眼鏡探偵と眼鏡助手だしな!
よし、推理は與儀に任せた!(丸投げ
じっと…わかったぞ(大人しく座る
でも何もしないのも落ち着かねェな(言いつけ守り座っているがきょろきょろ
助手として與儀に珈琲でも…って、珈琲サーバーねェし…
…ん?書斎机の上、やたら本が積み上がってるな
本棚に片付けておくか(几帳面
絵画の本か、部屋にも何か飾ってあるけど
俺には分かんね…わっ!(どさ
やべ、雪崩が…ん?この本、中がくり抜かれて…
なんだこれ?鍵?(きょと
でも部屋の鍵にしては大きさが…(ぽいっとしようとして
え!?(慌てて鍵渡し
解けたって…その鍵が!?
だ、だよな、俺もそうじゃねェかなって!(どやぁ
●
ご丁寧に暖炉で暖められた室内には、宴の空間とは違う絨毯が敷かれていた。カツ、コツと歩き回れば足音も響く。素直に応じて、放り込まれてやった空間には自分の他には、姫城・京杜だけが存在していた。
(「ま、やりやすいと言えばやりやすいか」)
他の連中が、あのまますぱんと首を落とされたって訳でも無いだろう。推理しろと言ってきている以上、他の連中らも何処かの部屋に放り込まれているのだろう、と英比良・與儀は思った。
「確かに扉を破壊してってのは最終手段だ、スマートじゃない」
壊せる、のは分かる。感覚的なものではあるが、可能だろう。ついでに「ん? 壊すか?」と拳を握って見せているヒメであれば見事破砕するだろう。却下だが。
「俺はそういうのは好きじゃねェから、ノってやるか」
「俺達は優雅なる眼鏡探偵と眼鏡助手だしな!
よし、推理は與儀に任せた!」
見事なまでに丸投げしてきた京杜に、まぁ、と與儀はくしゃりと髪をかき上げた。
「推理はお前向きじゃあねェなァ。ちょっと考えるから、じっとしてろ」
部屋を見渡せる場所にある一人がけのソファーに腰を下ろし、足を組む。
「うろうろされると気が散る……」
優雅に座った少年の瞳が一瞬、鋭さを見せるように細められれば、じっと……、と長身の男は繰り返すようにして頷いた。
「わかったぞ」
大人しく座る先は、近くのソファーだ。無駄に座る場所の多い部屋だ。それだけがひどくバランスが悪い。他は悪くは無い配置だ。判型ごとに揃えられた本棚。絵画と暖炉の置き場所も部屋にあっているというのに。
「座る連中が、馬鹿みたいに来ることがあるっていうのはありそうだけどな」
呟いて與儀は部屋を見渡す。
「あの扉を開けるための細工があるのか、はたまた他に道が開かれるのか。推理として面白いのは、他に道ができる、だよな」
扉は破壊できる。それは間違いない。ならば、破壊できるそいつがそのまま「唯一の出口」で良いのか。
「……」
考えるように顎に指をかけた與儀の横顔を、京杜は見ていた。推理は任せた、と助手としては探偵に丸投げをしたのは良いのだがーー何もしないのも落ち着かない。
「助手として與儀に珈琲でも……って、珈琲サーバーねェし……」
言いつけは守ったまま、きょろきょろと部屋を見渡し、息をつく。ワインや葡萄ジュースはありそうだが、今のタイミングで聞くのはーー……。
(「ヤバそうな気がする」)
ちょっと聞き方変えて見れば、とかそう言う問題じゃなさそうなんだよな……、と少しばかりしょんもりとしながら京杜は部屋を眺めた。
「……ん? 書斎机の上、やたら本が積み上がってるな」
座る場所がやたらある以外は、基本、小綺麗な部屋だ。
「本棚に片付けておくか」
あのまま下手に雪崩でも起こした時の方が、大変そうだ。本であれば片付ける場所も本棚で間違いない。書斎机の高さもあるが、随分と積み上げたものだ。少し大判が多いだろうか。表紙に描かれた鮮やかな風景に京杜は瞳を細めた。
「絵画の本か、部屋にも何か飾ってあるけど。俺には分かんね……わっ!」
持ち上げた一瞬が悪かったのか。それともどこかぶつかったのか。ひとつが傾けば、重ねあげられたものが崩れるまではーー一瞬だ。
「やべ、雪崩が……ん? この本、中がくり抜かれて……」
どさり、という音と共に、ガシャンと派手に音が響く中、本棚に埋もれた靴先を軽く上げて京杜は首を傾げた。
「なんだこれ? 鍵? でも部屋の鍵にしては大きさが……」
一方その頃、ソファーに腰掛け思考を巡らせていた與儀の美しい顔が、ひくり、と引きつっていた。部屋の一角で本の雪崩を起こされれば、当たり前に思考は乱れる。
「……ヒメ、うるせェ。何やって……」
タン、と床を蹴るように立ち上がった與儀は、己の守護者ーー基、本日の探偵助手を睨みつけたところで気がついた。京杜の手の中、収まっているのは『鍵』だ。
「ちょっと待て、それよこせ」
「え!?」
慌てて渡された鍵を受け取って、與儀は息をついた。
「……お前、ほんとこういうの見つけるとこは……まぁいい、これで解けた」
「解けたって……その鍵が!?」
目をぱちくりとさせた京杜に與儀は頷いた。
「鍵と、あのでかい絵の額縁の装丁が同じ。鍵穴が額縁のどこかに隠れてそうだな」
きっとそれが出口に繋がるはずだ。
とんとん、と壁を触り、額縁に触れていく。
「だ、だよな、俺もそうじゃねェかなって!」
どやぁ、と後ろでしているヒメを一先ず放置して、與儀は鍵穴を見つけ出す。ガチャリ、と妙に重く回った鍵は、やがてゴォオオ、という音と共に壁を動かしーー道を、見せた。
「出口だ」
與儀の言葉に、白のグローブを深くつけるように弾きながら京杜は頷いた。
「この先が、吸血鬼の居場所だな」
これだけのことを仕掛け、思うがままに楽しんでいた吸血鬼のお出ましだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
有栖川・夏介
※アドリブ歓迎
どうにも「主」とやらの掌の上で、いいように踊らされている気がするのですが、まあいいでしょう
一般人には推理に協力してもらいつつ、部屋には残るようにと伝えたいと思います。連れて行ったとして、戦闘になったら護りきれる自信がないですし
◆推理
指で眼鏡のブリッジを押し上げ、位置を直しつつ推理
ふむ……。今この目に見えている扉はフェイクで、本当の扉は別に隠されている、と推測します。
この仮定が正しければ、怪しいのは本棚でしょうか。
無造作に収納されている本を、著者別や年代別に並び替えて―
これで、本棚というなの「扉」が開く、と予想します。
……外れたら扉破壊してしまいましょうか。
●
此処が、これが、と囁き合うような声が部屋に残っていた。天井まで届きそうな本棚に、どこかの風景を描いた絵画。油絵だろうか。どこまでも美しい光景が、今という異常事態に逆に似合う気までしてくる。
(「どうにも「主」とやらの掌の上で、いいように踊らされている気がするのですが」)
美しい紅の瞳を細め、有栖川・夏介は息をついた。
「まあいいでしょう」
唇から呟き落とした言葉は部屋の囁きに飲まれて行く。先の宴で見た、村から来た客達だ。今の状況に戸惑いながらも、それでも騒ぎ出すことが無いのはそれぞれに村の明日がかかっているからか。部屋をぐるり、と見渡した先で悪態めいた声が落ちた。
「くそ、何がどうやったら推理になるんだ? 謎解きでもしろっていうのか……?」
「そうでしょうね」
この部屋に来ている以上、と夏介は紡ぐ。青年の静かな声に、村人の一人が振り向いた。
「あぁ、あの時見た……。北の街の人かね。あちらは文学も盛んだと聞くが、この手のものにも詳しいのか?」
「詳しいかどうかは分かりませんが……」
推理、と言われるのであればと夏介は思う。推理をしろ、というのが宴の主の望みだ。脱出しろでもなく、謎を解けでもなく推理をしろ。そして部屋を出て自分のところに来れば良い、と。告げられる言葉が匂わせているのは、それを吸血鬼が見たいから、だ。その為に整えられた場であるとすればーー……。
「ふむ……。今この目に見えている扉はフェイクで、本当の扉は別に隠されている、と推測します」
ハーフリムの眼鏡をつい、と押し上げると血のように紅い瞳で部屋を見渡す。
「この仮定が正しければ、怪しいのは本棚でしょうか」
口にして言葉を整理して行く。壁を指で辿り、本棚に並べられた本を見る。版型は同じ、背の色も同じだ。だがーーその並びはあまりに無造作だ。
「これをこうして、こちらを……」
年代別に本を並びかけて行けば、最後の一つを収めたところでキン、と高い音がした。瞬間、夏介の瞳に写ったのはーー魔法陣だ。
「今のは……?」
「なんか光ったぞ……!?」
「……」
村人たちには見えていないのか。ならばこれは、猟兵である夏介が見えてしまっただけ、のものだ。本棚に仕掛けられていた鍵が、開いたのだ。
「これで、本棚という名の「扉」が開く」
ガコン、と動き出した本棚が壁の奥へと吸い込まれて行く。そうして、姿を見せたのは奥へと続く洞窟のような空間だった。
「これで部屋を出ることができますね。……皆さんは此処に残ってください」
「残れって……この部屋に? そうしたら、宴の主にお会いすることができないじゃないか」
「あぁ、お会いすることができなければ……」
そう言ったのは最初にこの部屋で声をかけてきた村人だった。村が潰れるんだ、と言い切った彼に夏介は薄く口を開く。
「なら、会えてしまってそれでいいですか?」
会えて、村の無事を手に入れてそれでーーまた。
「今日のようなことが起きても。……いや、今日で終わりにするつもりですが」
「終わり……?」
目をぱちくり、とさせた村人たちに構わず、連れてはいけないのだと重ねるように夏介は言った。
「連れて行ったとして、戦闘になったら護りきれる自信がないですし」
「君は……もしかして街の人間ではないのか?」
「……」
その問いには、瞳だけを細めてーー白いウサギは最奥へと続く穴に飛び込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
花型・朔
マリー!色々聞きたい事あったんだ。マリーの事とか、村の事とか、入れなかった人の事!
…で、一通り話したら推理しよっか。
でも推理かぁ…頭使うの苦手なんだよね、マリーの知恵も分けてほしいなぁ
…う~んそうだなぁ眼鏡に拘ってるんだから、そりゃあ姿、顔付近もよく見たいはずだよね。
だったら床方向に仕掛けはないかも。
下を向くよりも…壁側?…おっと!変な時間で止まった時計に怪しい本。ふっふっふ、こりゃあ間違いないね!ここは怪しい!(マ、マリ~助けて~!)
扉が開けばマリーは残すよ。身体使うのは得意だし、ここから先はあたしの出番。
簪はマリーにあげる。推理のお礼だよ。
私はリボンを結んでいつものスタイルだ!(+眼鏡)
●
暖かな部屋だった。暖炉もある。ふかふかのソファーもある。本の中身はーー何かは分からないけれど、書物がある。村では見たことの無いようなものばかりで、それでも、喜ぶことはできなかった。
「……これがご婦人の、主様のお望みなの……?」
「マリー!」
混乱と困惑の中、それでも声を上げて叫び出さずにいられたのは、多分彼女がいたからだ、とマリー・アルネッサは思った。
「色々聞きたい事あったんだ。マリーの事とか、村の事とか、入れなかった人の事!」
「聞きたい、こと? 私の村のこと……?」
目をぱちくり、とさせたマリーに花型・朔は頷いた。
「そう。話をしてみたくて」
いきなりどうして、と瞬くマリーに朔はにこり、と笑う。明るい朔におされるように、別に、とややあってマリーは口を開いた。
「……大したことはない村よ。此処からあまり離れてないかなってくらいで。昔は、……鉱石が採れたみたいだけど今はそんなことも、ないし」
小さな村だもの、とマリーは呟いた。
「ただでさえ小さかったのに、おじさんがご婦人に変なことを言ったから……」
「変なことって、もしかしてそれが入れなかったっていう?」
服について聞いた時、マリーは入れる条件を知っているようだった。
『ご婦人は……、主様は好まなければ最初から此処には入れないだろうから』
入れなかった「誰か」を知っているかのような言葉だったのだ。
(「それが「おじさん」か。無理を言って入ることはできないし、無茶を言うのが許される相手でもない、って感じなのかな?」)
相手は吸血鬼だ。オブリビオン。
眼鏡をかけた人々を集めて謎の宴を開いていようが、それなりの範囲に影響力を有しているのだろう。
「……たしか、村がこれじゃダメだって言って。ご婦人にお招きを受けた訳でもないのに行って……。無理に入ろうとしたからそんなことになるんだわ」
当たり前のことよ、とマリーは言った。それでいて、別に珍しくもないことだと。
「珍しくもない、か」
「……えぇ。あなたの街もそうでしょう? それとも街の人は……違うのかしら」
でもうちの村は、と小さな声が落ちた。
「無茶を言って、ご婦人のお怒りを買ったからただでさえ小さな村がもっと小さくなったの。……だから、私に声がご招待をいただけて、多分、良かったの」
「そっか……」
よかったね、と単純に言うことも、大変だったねと簡単に言うこともできはしなかった。しない、と朔は思う。マリーが此処からーー吸血鬼に生活を支配される日々から脱する為にも、まずは此処から出ること、だ。
「でも推理かぁ……頭使うの苦手なんだよね、マリーの知恵も分けてほしいなぁ」
「私も、……別にそんなに知恵があるってわけじゃ……ないけれど。うん、座ったままは困るから。でも、どこから探すの?」
色々あるけれど、というマリーの言葉に朔は考えるように眉を寄せた。
「……う~んそうだなぁ眼鏡に拘ってるんだから、そりゃあ姿、顔付近もよく見たいはずだよね。だったら床方向に仕掛けはないかも」
下を向くよりも壁側だろうか。
コツコツ、と足音の響く床を歩きながら朔は、壁を眺めながら歩く。角度での見え方の変化は無い。ならーー……。
「おっと! 変な時間で止まった時計に怪しい本。ふっふっふ、こりゃあ間違いないね! ここは怪しい!」
時計の針が、妙な位置で止まっていたのだ。その影が伸びた先にあった本。つい、と足を伸ばせば、朔が慌てたように声を上げた。
「あ……あんまり、覗き込みすぎたら危ないんじゃないの? あ、でも、これって……本ってこんな感じなのかしら?」
「確かに、なんか変な感じって……軽い!」
ひょい、と出して見たら、空箱のように重みを感じない。どうなっているのか、と横にすれば、ドォンという音と共に扉が震えーー動き出した。
「スライドした!?」
「横に……動くんだね」
ぱち、ぱちと瞬くマリーの横、思わず声を上げた朔は、しっかりと開いた扉を見ながら、うん、と頷いた。
(「身体使うのは得意だし、ここから先はあたしの出番」)
マリー、と声をかける。真っ直ぐにその瞳を見れば、ふ、と彼女は寂しそうに笑った。
「やっぱり、……あなたは、街の人でも無いのね」
「うん。簪はマリーにあげる。推理のお礼だよ」
行くの? と問う声に頷く。髪をリボンで結んで、眼鏡はかけたまま朔は言った。
「行くよ。行ってきます」
「……うん。いってらっしゃい」
大成功
🔵🔵🔵
黒蛇・宵蔭
……遮光眼鏡の探偵って死亡フラグめいてて嫌ですね。
気を取り直し、本棚を調べましょうか。
小鬼を喚び、手分けして部屋中を捜索。
絵画の裏とか暖炉の奥とか見て貰います。
推理せよということは、室内にヒントは必ず置いてあるのでしょう。
私は怪しげな書籍を調査。
抜け落ちたページがあるとか、刳り抜かれているとか。
――ふむ、この書物。
そして小鬼が見つけた紙の切れ端。
継ぎ合わせれば、鍵の暗号が完成するというわけです。
そしてこの暗号に従って、本の背表紙を揃えれば。
ほら、本棚が動いて、道が拓く。
最初から何か怪しい空気は感じましたが……いえ、私の知識の所以です。
……このなんだか侘びしい気持ちは、後で諸悪にぶつけましょう。
●
暖炉用の薪はたっぷりと用意されていた。どれだけ長く部屋にいても構わないとでも言うように、誂えられた品々に対してソファーだけがやたらと多い。どこに座っても良い、という状況はありがたいと思うべきなのか、吸血鬼風情の戯れに付き合う理由も無いと断ずるべきか。
そも、美しく整えられた部屋を鳥籠としたあたりが性格の悪さであったか。
「……」
眉を寄せ、白皙にのせた表情は結局のところ憂いでも無く僅かばかりのため息であった。
「……遮光眼鏡の探偵って死亡フラグめいてて嫌ですね」
美しい青年のため息に、合いの手はいない。そうですね、と言われても、そうじゃないと言われても結局の所どうでも良いのではあったが。
「本棚を調べましょうか」
気を取り直して、と黒蛇・宵蔭は部屋を見渡す。背の高い本棚。背表紙と暖炉の上にあった絵画は揃えられているのか。美しい朝の湖が描かれた絵画は、その反射に空を写していた。この世界にしては随分と珍しい光景だ。物珍しさで手に入れたのかそれともーーこの館の為だけに用意したのか。
「考えたところで吸血鬼の趣味を語る必要もありませんね」
さて、と宵蔭はひらり、と手を翳す。ふぅ、と小さく吹きかけた息に空間が揺らぎ、ぽて、とそれは姿を見せた。
「ーー」
ふわふわで可愛い丸っこい小鬼たちだ。ぽてぽてぽて、と姿を見せた小鬼たちがすちゃっと立ち上がる。表情の無い彼らが仰ぎ見た先、微笑を浮かべた美しい男は「では」と静かに告げた。
「探し物と行きましょうか」
とてててて、とたたたた、と小鬼たちが部屋の中を探し出す。てやっ、と暖炉の上に肩車をしながら登頂した小鬼たちが絵画の裏や暖炉の奥を探している中、宵蔭は本棚へと足を向けていた。
「推理せよということは、室内にヒントは必ず置いてあるのでしょう」
吸血鬼は謎を解け、とは言わなかった。
推理を望むと言うことは、解くところまで求めることはするだろうがーー解けぬものを用意したと言う訳では無い。
(「用意した舞台に、小道具を忘れると言うほど愚かでも無いでしょう」)
さて、と息を落とし本棚を辿る。版型は揃いのもの。背表紙は全て同じ字体で刻まれている。
「……」
中を開けば、みっちりと文字が書き込まれていた。文学や学術書の類か。ぺらぺらとめくって行けば、多少、ページの破れはあるがこれは同じようにめくった者がいたからだろう。破れたものもあるが、これも同じか。
「なら……」
数冊、続けて確認をしていく。これも中身は同じように文字が書かれていたが、読みにくい。文字が詰まっているからか、一度、眉を寄せて宵蔭はつい、と遮光眼鏡を上げてーーふ、と笑った。
「なるほど」
見え方が変わったのだ。
遮光眼鏡がある時は、読みにくいと思っていたが無しで見れば普通の本に見える。眼鏡をかけなおして見てゆけば、ページの一部が抜け落ちているのが分かる。
とん、とん、と指先で辿ってゆけば、すちゃり、と小鬼たちが姿を見せた。持ってきたのは紙の切れ端。文字のみっちりと書かれたそれは、単語が虫食いのようになっている。
「――ふむ、この書物」
文字の穴埋めが必要な訳では無い。これは、暗号を知るための表だ。そしてこの文字の通りにページをめくり、文字を辿ってゆけば読みにくくあった文字たちが、他の姿を見せて行く。
「分からない文字は、形に見えますからね。やはり、これが鍵ですか」
完成した鍵の暗号に従って、本の背表紙を揃えてゆけばーーガコン、という音と共に、本棚が後ろに沈み、奥へと続く道が生まれた。
「ほら、道が拓く」
パタン、と本を閉じて暖炉の上に置く。本棚に、本の山。これ見よがしに揃えられた版型。
「最初から何か怪しい空気は感じましたが……いえ、私の知識の所以です」
……このなんだか侘びしい気持ちは、後で諸悪にぶつけましょう。
ぱふん、と還った小鬼たちを背に、迷うことなく宵蔭は暗闇の道を進んでいく。
大成功
🔵🔵🔵
クリストフ・ポー
同室は娘さんと青年かな?
好奇心が猫を殺す
その点、青年は危険だ
まぁ落着いて
優美で華麗なる推理を御所望みたいだから
椅子に座ろう
優雅に足を組んで
眼鏡のズレを
指先でフレームに触れ整えたりしてさ
招待状に
数字や変わった表現は無かった?
他に鍵となり得るのは眼鏡や鏡、硝子…
室内も見回してあれば
時計や本棚を探る手掛かりに
失せ物探し、学習力、世界知識、第六感、アート
能力で柔軟に探るよ
手不足なら二人にも手伝って貰う
道が開けたら
青年は一緒に来たいだろうけど
僕の相棒はアンジェリカだしお断りさ
悔しいだろうが
娘さんを君の友と同じにしていいの?と
付き添う様言いくるめ
別れ際『終わらせるよ』と耳元で告げ
微笑みを残して駆け抜ける
●
美しい部屋ではあった。そう、美しくはあったのだ。湖畔を描いた風景画。暖かな暖炉。たっぷりと用意された薪は、いつまでも此処にいられると思えそうな程に。背の高い本棚には、版型の揃った本が綺麗に並べられていた。
「……」
だというのに、妙にソファーが多い。
美しく揃えられているが故に、座る場所ばかりが増やされた部屋はバランスを崩しーーそれが、妙に心を波立たせた。
(「ーーいや、これはわざとかな?」)
瞳を細めクリストフ・ポーは息をついた。
この部屋、この空間は実際既に異常だ。扉が開かない事は宴で人形を見たがった娘が確認していた。
「本当に出れないなんて……、宴に出ただけではダメだったの……?」
「ーー……試しているんじゃないのか」
戸惑い、瞳に涙を浮かべた娘にそう告げたのは青年の方だった。淡々と告げた彼には、娘ほどの驚きは無い。
(「ま、そうだろうね。好奇心が猫を殺す。その点、青年は危険だ」)
密室と告げられ、推理しろと言われた状況で青年が部屋に向ける視線は強い警戒だった。部屋そのものに対してというよりは、この仕掛けを作った相手に対してーーだ。
『招待状を偽装して、潜り込んだんです』
彼には訪れるだけの動機があり理由があった。
「これが、仕掛けか」
低く、落ちた声を聞こえなかったフリをしてクリストフはにこりと微笑んだ。
「まぁ落着いて。優美で華麗なる推理を御所望みたいだから」
椅子に座ろう、とにこやかに告げる。いきなり何を、と眉を寄せた青年に「言っていただろう?」と口元に笑みを敷く。
「優美かつ華麗なる推理って」
「……確かに、そうですが。……、いや、えぇ、そうですね。ここから出ないと行けないんですし」
一人先に頷いてしまった青年に、取り残される形になった娘は一頻り困惑した後に、推理するというのでしたら、と言って頷いた。
(「まぁ、彼女にとっては「宴に来た」という時点で目的は達成されたみたいなところあるからね」)
あの反応は想定内だ。
だから今は、まず目の前の推理だ。
ソファーに腰掛けたまま、優雅に足を組んで眼鏡をつい、とあげる。
「招待状に数字や変わった表現は無かった?」
「数字……?」
眉を寄せたのは青年だった。答えに窮するのは当たり前だ。彼は招待状を偽装した、と言っていた。あの雰囲気を見る限り、誰かのを奪ったという訳ではないのか。考えられるとしたら『残されていた』のか。
「娘さんは?」
深く聞くことも無いままに、同じようにソファーに腰掛けた娘を見る。
「私の、ですか? えっと……確か、時間についてはありました。あと席が……」
「席、か。立食パーティーで席っていうのも不思議だね」
「あ、そういえば……」
目をぱちくり、とさせた少女が招待状に入っていた、というカードを取り出す。娘の名前ーーシャルロットという名と、テーブルと席の番号が短く書かれただけのカードだ。
「3と1……。他に鍵となり得るのは眼鏡や鏡、硝子……、それなら」
時計に、本棚にガラスが使われている。本棚の飾り戸だ。純度が高いのか、透明な美しいガラスに他の棚と同じように本が収められている。
「学術書かな? 随分とあるようだけれど」
「……辞典、とかでしょうか。希少なものもあると聞きますし」
青年の言葉に、確かに、とひとつ頷いたそこでクリストフは思った。
「同じである理由はない」
「……はい?」
「うん、これはガラス戸の中にあるのに同じように見えるのは不思議なものだと思ってね」
分厚いガラスだ。いくら純度が高いと言っても中にあるものが他のものと全く同じに見えることはあるだろうか。
「あぁ、やっぱり……」
カラカラ、と扉を開く。手にした本は、持ち出して仕舞えばサイズが随分と変わる。それに、冊数も、だ。
「ガラスに加工があったみたいだね。……そうなれば、3と1という数字は……」
6と11だ。
鏡を間において見せるちょっとした遊び。クイズめいたそれを手に、時計で長針と短針を合わせればーーカチリ、という音と共に扉が開いていく。
「開いた……の?」
「あぁ、開きましたね。やっと」
やっと、と続けて落ちた声にクリストフは小さく眉を寄せる。彼は一緒に来たいだろうがーー僕の相棒はアンジェリカだしお断りさ。
そのまま、扉の向こうへと歩き出そうとした彼の横にとん、と踏み込んでクリストフは囁いた。
「娘さんを君の友と同じにしていいの?」
「ーー……! それ、は」
足を、止める。は、と振り返った青年に、娘ーーシャルロットはきょとん、とする。その一瞬があれば、十分だ。
「終わらせるよ」
耳元でそう告げて人形師は部屋を出る。ひゅ、と息を飲んだ青年が、まさか、と紡いだ声に応える事はないまま。ただ、微笑みだけを残して。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィクトル・サリヴァン
謎解きかー。まあ眼鏡と言ったらそのシチュ求めるよね。
あくまで優雅にスマートに、そう言うのを求めるならやってやろうじゃないか。
一緒に来たのはケーキを見ていた男性かな。
こういう余興もあるって聞いてたから慌てる事はないよとしれっと言って落ち着かせる。
いきなり取って食おうとかそういうのはないだろうし、まずは推理しようと。
周囲を観察し怪しいのは本棚?
本の数と種類、並びを確認し法則性を探る。
…本の背表紙の最初の文字を並べるとソファーに座れって文が。
それに従って座ってみたら扉が開く仕掛け…かな。
男性にはとりあえず様子見て来るから待っててねと。
なんとなーくただ来てみた、って感じがするし。
※アドリブ絡み等お任せ
●
推理、と先に言われることが無ければ、この部屋は不可解な密室と化しただろう。豪華な部屋だと思いーーその後、開かない扉に気がついた時、宴の客たちがそれでも「そういうものだ」と簡単に納得するかと言えばーー……。
(「しないだろうなー」)
つい、と眼鏡を上げて、ヴィクトル・サリヴァンは思った。色々な眼鏡を用意していた宴の主たる存在が、次に望んだのが推理ショーとは。
(「謎解きかー。まあ眼鏡と言ったらそのシチュ求めるよね」)
鉄板ネタ、とはある意味言えた。
うんうん、と一人頷きながらヴィクトルは視線を上げた。目の端に映るのは、推理? と眉を寄せていたのは壮年の男性だ。
「どうして、また……。いえ、これこそが見せるべき覚悟なのかな」
戸惑いが勝っているのか。きょとん、としている男が、恐怖へと行き着くより先に息を吸う。
(「あくまで優雅にスマートに、そう言うのを求めるならやってやろうじゃないか」)
その為にはまず、どうなるか分からない「彼」を先に落ち着かせることだ。なにせ今の状況は「訳がわからない」のだから。不可解な状況で、予測ばかり重ねる予測が良い方向に向くとは限らない。そもそも、ここは吸血鬼の館なのだ。悪い方へ考えるのは容易く、そこに落ちて行けばーーきっと、声をかけるだけでは足りなくなる。
(「何も言わずに、この場所だけで簡単に恐怖に落とし込むこともできるからなね。ひとまず、楽しんでいるだけっぽいけど」)
そっと、落とした息は情を帯びていたか。
礼服の裾を正すようにして、ヴィクトルは腰を上げた。
「こういう余興もあるって聞いてたから慌てる事はないよ」
「そうなのか……。いやぁ、さすがは学者さん。なる程、余興と言われれば不思議も無い」
「うん」
まぁ、とりあえず言ってみただけなんだけど。という言葉は飲み込んで、にこりとヴィクトルは笑って見せた。
「いきなり取って食おうとかそういうのはないだろうし、まずは推理しよう」
「あぁ。そうだね」
来ただけで全て上手く行く、なんてことは無いだろうから、と壮年の男は微笑んだ。
あんまり切羽詰まった感じは無いのかな。
それが彼に対する感想だった。なんとなーくただ来てみた、って感じはする。勿論、望みがーー街に住うのであれば、恩恵を望んでのことだろうが、それにしても必死さは感じない。
(「この感じだと、素直に推理してくれそうで良かった」)
それは、ヴィクトルが学者だと先に告げていたのとーー聞いていた、と言ったのもあるだろう。
「さて、と。やっぱり怪しいのは本棚かな?」
版型ごとに揃えられた本は、どれも分厚い。背表紙に書かれたタイトルは全て違う。一応、と中身を調べて見れば難解な文字の綴られた本には一定の法則があった。
「中身じゃない、か」
読む、よりは見る、ものだ。
文字を単語として見てゆけば、本の背表紙にあった文字に法則性が見えた。
「……本の背表紙の最初の文字を並べるとソファーに座れって文が」
文字が浮かび上がるように本を並べ、ソファーに腰掛ければ、ガコン、という音と共に本棚に並べられていた本が奥に引っ込みーーガチャリ、と音がした。
「おぉ、流石。開いたようだね」
「うん」
後半から若干、謎解きを楽しむ雰囲気のあった男性にヴィクトルはひとつ頷いた。
「とりあえず様子見て来るから待っててね」
「あぁ。分かったよ」
頷いた彼がソファーに腰掛ける。もう一度、仕掛けが発動する様子も無くーー男性が、何か変な動きをする雰囲気も無い。
(「やっぱりなんとなーくただ来てみた、って感じかな」)
それなら今のうちに、たどり着かなければ。
すぅ、と息を吸って、ヴィクトルは廊下の奥を目指した。
大成功
🔵🔵🔵
ノワール・コルネイユ
さて…此処からが本番。此の宴の本性が曝されるってとこか
流れに乗せられて続けるのは少々癪だが…
此方の存在を悟られるのも好ましくはない。付き合ってやるさ
部屋の中に仕掛けがあるのだろう
恐らく、魔術の素養なんぞ必要としない類だ
唯の人間を無作為に集めているのであれば
そんな高尚な仕掛けを態々用意するとは思えん
酔狂な奴が好む仕掛けなんていつも同じ
不自然な背表紙の本を押し込むか
手の空いたオブジェに何かを持たすか
そんなところだろう
さて、悪いが此処を出るのは私一人だ
あんたは残りの時間、此処で気楽に待っているといい
願いなんぞどうでもいい
吸血鬼も、此の偏屈な宴も今日限りで終いだからな
私は、私達は館の主を殺しに来たんだ
●
贅を凝らした部屋、と言っても良いのだろう。美しい絵画に、立派な暖炉。存分に用意された薪は火を絶やすことなく過ごすことができる事実を告げていた。
最も、過ごせるだけだ。
その時まで、部屋に置かれるだけ。村々を盤上と告げ、街の事情にひどく詳しい吸血鬼にとって見れば、これも新しい遊びの一つなのだろう。今までやっては来なかった戯れか、それともーー多くのことに飽きた結果か。
「さて……此処からが本番。此の宴の本性が曝されるってとこか」
ドレスの裾を軽く払い、ノワール・コルネイユは視線を上げた。吸血鬼の用意した箱庭に付き合ってやる理由も無い。壁に背を預けるように立っていた女ーーマリアベルが、あら、と声を上げた。
「動くのかしら?」
「流れに乗せられて続けるのは少々癪だが……。此方の存在を悟られるのも好ましくはない。付き合ってやるさ」
「ーー態々?」
問いかけるマリアベルの言葉はノワールの行動を不思議がっているというよりは、純粋に何故と問うているようだった。宴での話を聞く限り、街が村の出身者である彼女にとって館の吸血鬼は身近な存在であるというのに、紡いだ言葉は「態々」であるのはーー、吸血鬼に逆らうという意味を知っっているのか。
「……」
言葉で返してやる理由も無い。ソファーから立ち上がってしまえば、そう、と軽く肩を竦めた姿だけが見えた。
さて、問題は部屋の仕掛けだ。推理しろ、と言っている以上これは「解ける」問題である筈だ。
「部屋の中に仕掛けがあるのだろう。恐らく、魔術の素養なんぞ必要としない類だ」
唯の人間を無作為に集めているのであれば、そんな高尚な仕掛けを態々用意するとは思えない。ならーー、とノワールは本棚へと視線をやる。
(「酔狂な奴が好む仕掛けなんていつも同じ」)
判型揃った本が並んだ本棚は、鉄板だ。見つけて見ろと言わんばかりの配置。指先でなぞって行けば一つだけ感触の違う本に出会う。
「これか」
緑の背表紙には、辞典らしい文字が並ぶ。それを引き出すのではなく、ぐ、とノワールは中に押し込んだ。最初は硬くーーだが、一点を越えれば滑り込んだ本が、カシャン、と音を立てた。カラカラカラ、と歯車の回るような音はやがて扉へと辿り着く。
「開いたか」
「すごいのね、貴方。こんなに早く……」
目をぱちくり、とさせたマリアベルは時計を見ていた手を離した。
「どこかの街で研究者だったのかしら?」
「さあな。さて、悪いが此処を出るのは私一人だ」
あんたは残りの時間、此処で気楽に待っているといい。
短くそう言い切ってしまえば、マリアベルは小さく瞬き、ふ、と笑った。
「辛辣ね。いえ、優しい、と言えば良いかしら。あなたにも願いがあるのではないの?」
緩く首を傾げて問うた女を置いて、ノワールは歩き出す。
「願いなんぞどうでもいい。吸血鬼も、此の偏屈な宴も今日限りで終いだからな」
「終わりって……?」
今度こそ、きょとん、としたマリアベルにノワールは言った。
「私は、私達は館の主を殺しに来たんだ」
「ーー……まさか、貴方は……、いいえ、貴方達が居たというの?」
ひゅ、と小さく息を飲む音を響かせ、やがて胸に手を当てるようにしてマリアベルは息をする。そう、それなら、と女は告げた。
「私は此処で待つべきでしょうね。でも、どうか気をつけて。あの方は長くこの地にあったわ」
まだこの地域が、細分化される前から。
「この辺りは一度、反乱を起こして反抗に過ぎぬと潰された場所なのだから」
大成功
🔵🔵🔵
エンティ・シェア
一先ずは動揺している者が居れば宥めよう
これは領主殿からの試練のようなものだろう。解いて見せてこそ、真の品位を証明できると言うもの
さぁ、手が沢山あるなら使わねば損だ。手分けして手掛かりを集めようじゃないか
私は扉の仕掛けを確認しようか
まぁこう言うのはあれだろう、パスワード的なのを入れるとかそう言うの
集められた手掛かりを眺めて、答えを導き出してみせよう
隠された物や刻まれた印などを大仰に説明しながらつまりはこういう事だろう!と
眼鏡アピールも忘れずに
扉が開いた後は、一般人には待機していて貰いたい
危険がないとは限らない。私が先行して様子を見てこよう
私が戻らなければ…後は頼むよ、ミルヴァ。と名指しておこうか
●
結局は密室じゃないのか、という客の言葉を合図とするようにざわめきが生まれた。此処を部屋と見るか、密室と見るかで確かに心の起きようは変化するだろう。ーー箱、と見なかっただけまだ幾分かマシか。
「これは領主殿からの試練のようなものだろう」
動揺している客人が、その先へと狂乱へと辿り着く事は無いようにエンティ・シェアは告げる。口元浮かべられた笑みと共に、そっと唇に指先をあてる。
「解いて見せてこそ、真の品位を証明できると言うもの」
さぁ、と誘うようにエンティは告げた。
「手が沢山あるなら使わねば損だ。手分けして手掛かりを集めようじゃないか」
「……まぁ、そいつの言う通りなんじゃないのか」
言葉を添えたのは宴で出会った村の青年ミルヴァだった。
「意味の無いことを、わざわざ言っちゃ来ないだろう」
それはひどく実感の篭った言葉だった。短い沈黙の後に、確かに、と言葉が漣のように広がる。みんなで探せばそれ良いしな、と明るく響いた声を見送って、ちらり、とエンティが彼を見れば、照れたようにふい、と視線を逸らされた。
(「おやおや」)
小さく、笑みを敷く。宴で見た硬い雰囲気は一先ず無くなっただろうか。それなら、と推理へと意識を向ける。
「私は扉の仕掛けを確認しようか。まぁこう言うのはあれだろう、パスワード的なのを入れるとかそう言うの」
手のひらで触れて、軽く叩く。指先で辿っていけば妙な場所に出会った。
「眼鏡をつけてみれば、凹んで見える空間、か。眼鏡が無ければ普通に見えると」
銀縁のスマートな眼鏡をつい、と上げてエンティは部屋の中を見渡した。間違いなく、この空間にパスワードを入れるというタイプだ。
ならば、そのパスワードは何処にあるのか。
絵画は風景画。凍りついた湖を描いている。本棚にはきれいに版型の揃った本が並べられているが、背表紙のタイトルは全て難解な文字で描かれていた。文章、というよりはそれそのものが芸術めいて見える。
「……の、自然?」
「学術書か何かなのか?」
眉を寄せる人々共に、本棚を辿っていけばふと妙なことに気が付く。
「並びがきれいすぎる。こうしてずらして見れば、さぁ、見えた。読める文字が浮かび上がるのです」
本のタイトルの一つ一つ、並び替え、置いて見ればそれが一つの文字となるのだ。刻まれた文字は文様めいて読みにくいがくるり、と円を描くようにあった単語を、エンティは拾い上げる。指でなぞり、導き出した答えと共につい、と眼鏡をあげればーースーツ姿の青年に、おおお、と喝采が起きた。
斯くして、導き出したパスワードにより扉は無事に開いた。
「危険がないとは限らない。私が先行して様子を見てこよう」
一般人には待機していて貰いたい。
真正面からそう告げるには危ういからこそ、エンティはそう告げた。謎を解いた彼の言うことに否を紡ぐものは流石にいない。
だがーー……。
「大丈夫なのか」
「私が戻らなければ……後は頼むよ、ミルヴァ」
問いかけた青年に、エンティは小さく微笑んでそう告げて行った。
大成功
🔵🔵🔵
株式会社・ニヴルヘイム
眼鏡の価値を本質に求められるとは…
仰る通り、彼の知性が真に輝かせてこそ「完品」です
見覚えの無い眼鏡が恐らく“鍵”
では何故彼は今も壊れた眼鏡を掛けているのでしょう、エリオット様?
ええ、手放せぬ理由がある…
近視が進んでいるというだけでなく…ねえ、エリオット様?
ええ、大切な物なのでしょう
彼の推理を誘導、とことん【奉仕】致します
私が新品を渡すだけでは品も芸も無い
知性で修繕に辿り着けるか主は見ておられるのではないかと
厚い眼鏡をされていましたが
もしやエリオット様はお仕事で細かな作業を普段から?
いずれにせよ工具ならこちらにございます
UCで自社製品をご提供
聡明で勇敢なエリオット様
この先も共に進んで頂けませんか
●
品の良い調度品が並べられた部屋であった。暖かな暖炉のお陰で、寒さを感じることも無い。見れば、天井にまで届く本棚が二つほど並べられていた。判型がきれいに揃えられた本は、どれもが分厚い。学術書か、その類いであるのか。背表紙に書かれた美しい文字には、植物の飾りが施されていた。
「……あ、あの」
その美しいものに囲まれた状況にあって、圧倒的に「彼」の存在は異常だった。壊れた眼鏡をつけたままの男は、たくさんあるソファーのどれにも腰掛けないまま床に座り込んでいた。
「大丈夫、ですか……?」
戸惑いながらも声をかけていたのはエリオットであった。細身の金フレームがきらり、と光る。シャンデリアの明かりも考慮して選んだ品は間違いでは無かったようですね、と思いながら株式会社・ニヴルヘイムは宴の主からの話を思い出していた。
(「眼鏡の価値を本質に求められるとは……、仰る通り、彼の知性が真に輝かせてこそ「完品」です」)
宴の主が望んだのは推理、だ。部屋から出る為に求められたのは優雅な推理でありーーその謎については指定されていない。
開かない扉だけが、解くべき謎とは限らない。
「見覚えの無い眼鏡が恐らく“鍵”」
ならば、とニヴルヘイムは、戸惑いを残すエリオットへと声をかけた。
「では何故彼は今も壊れた眼鏡を掛けているのでしょう、エリオット様?」
「え……、そうですね。見えなくても、つけていないといけない……手放せない理由があるのでは?」
ニヴルヘイムの問いかけに戸惑いながらも、何故と言われれば考えてしまうのは人の性か。解けそうな「何故」があれば、その理由を人は考えてしまう。
「ええ、手放せぬ理由がある……。近視が進んでいるというだけでなく……ねえ、エリオット様?」
何よりこうして、言葉を添える存在があれば尚更、だ。美しい微笑を浮かべ、エリオットの推理を誘導するようにニヴルヘイムは言葉を添えていく。エリオットは自分で考えているようでいて、向かう道筋は用意されている。つい、と眼鏡を指で持ち上げ、そうですね、と落ちた声に吐息を溢すようにしてニヴルヘイムは微笑んだ。
「ええ、大切な物なのでしょう」
見覚えの無い眼鏡が壊れていれば、新しいものを手渡すことはできる。だがそれは、交換、だ。
(「私が新品を渡すだけでは品も芸も無い。知性で修繕に辿り着けるか主は見ておられるのでしょう」)
ニヴルヘイムから眼鏡を受け取ったエリオットからはもう、最初に出会った時の雰囲気は感じられない。ゆっくりと言葉を紡ぎ、推理を整理していく。
「個人的に大切なものであったとすれば、ポケットにでも入れれば良い。それをしなかったってことは……その形で、眼鏡であったことに意味がある……?」
「えぇ、エリオット様。その形にこそ意味があるのでしょう。よく見てみたほうが宜しいですね」
どんな形で何が足らないのか。
あぁ、足らないものをどのようにして補えば良いのか。
気力を失ったように座り込んでいた男は、展開されていく推理にややあって視線を上げた。気力を失い、だが、眼鏡を見せて欲しいと言われれば頷いた彼は、また蹲るようにして眠ってしまう。
「ありがとうございます。……この、眼鏡は……変わっていますね」
眉を寄せたエリオットが、レンズを確認するように光を当てる角度を変えていく。
「厚い眼鏡をされていましたが、もしやエリオット様はお仕事で細かな作業を普段から?」
「ーーえ? あぁ、はい。私は時計職人ですから」
だから少し、とエリオットが告げたのは眼鏡のレンズに関する違和感であった。これは眼鏡のレンズというよりは仕事で取り扱ったことのある素材に似ている、と。
「見るだけでは確認は難しいんですが……」
「工具ならこちらにございます」
弊社の新商品でございます。
微笑んで告げたニヴルヘイムに、エリオットは瞬いた。すごいな、と告げる彼が慎重にレンズを確認すればーーそこに、暗号が刻まれていた。本来であれば眼鏡をかけた時点で、見えたもの。壊れてしまった今、確認するには分解の必要があったーーということだろう。
「これで……よし、開くのではないかと」
立ち上がったエリオットを前に、扉は開く。カチリ、と動いた鍵は、暗号の解除と微かな魔術で動いていた。
「……」
介入先は外ーー宴の主からか。
ーー楽しかったわ。
その魔術を、瞳に修めれば囁くような声が耳に届く。当然のことです、とニヴルヘイムは唇に笑みを刻む。自社製品を手にしている以上、失態もなく失敗もしない。
「聡明で勇敢なエリオット様。この先も共に進んで頂けませんか」
「私が聡明で勇敢かは分かりませんがーーえぇ、そうありたいと思っています。こちらこそ、一緒に行きましょう」
開いた扉の向こう、二人は奥へと歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵
アルバ・アルフライラ
ふん、茶番も良い所だ
然し頭を動かすのは嫌いではない
この程度の推理、容易く突破してみせよう
流石に民を捨て置く訳にもいくまい
民を導くも、優雅たる者の務め
此処はコミュ力で協力を要請
眼鏡の位置を直して
――さあ、謎を解きに参りましょう
先ずは周囲を観察
まあ如何にも妖しい箇所なぞ
魔術の痕跡を辿れば幾つも見つかろうが
それではちと華麗さに欠けよう
ふふん、ならば然り気なく謎に近付くのみ
決して取り乱す事なく
不安を与えぬよう悠然と振る舞い
仕掛けを吟味し…ほう、そう来ましたか
不敵に笑い華麗に解いてみせよう
直ぐ領主の部屋へ向かっても良いが
この程度の謎では我が欲は満たせぬ
この地について――領主について
何か探せはしないものか
●
それは、全てがきれいに誂えられた部屋だった。立派な暖炉。美しい装飾の施された時計。絵画は油絵か。雪の降る光景が美しくーーそれを眺める為だと言うようにソファーが置かれていた。宴の場にあったのと同じものだろう。ふかふかとしたソファーにクッションが置かれ、そのまま寝ても構わないとでも言うように誂えられている。
(「最も、ソファーの数はやたらと多いがな」)
あれで台無しだ、とアルバ・アルフライラは内心息をつく。この部屋で、推理をしろというのが宴の主の元目立った。
ーーそう、推理、だ。
推理しろという以上、謎が此処にあり解けるものだということだ。
(「ふん、茶番も良い所だ。然し頭を動かすのは嫌いではない。この程度の推理、容易く突破してみせよう」)
衣を払い、ざわつきを残す一角を見る。宴で見た街の人々だ。深め合った交流が今でたのか、どうすべきか、と話し合う声が耳に届く。
「推理など……やったことはありませんよ」
「ですが、ここでご不興をかうのは……」
「そうだね。来て無かったと言われれば、ご婦人にお会い出来なくてもとは言えなくなる」
吸血鬼の宴に「行った」という事実は、それだけで効力を持つのか。領地である地域が広いのか。頭の片隅に置きながら、トン、と敢えてそっと足音を立てるようにして彼らへと向き直る。
「――さあ、謎を解きに参りましょう」
流石に民を捨て置く訳にもいくまい。民を導くも、優雅たる者の務め。
オーバル眼鏡をつい、と上げてアルバは微笑んだ。
あぁ、それなら。えぇそれならば。
呼水となったように推理に動き出す人々は、良くも悪くもその一言を待っていたのだろう。吸血鬼に支配された地域にしては、自分で考えると言うのが残っていると言えるのかーーそれとも、飼い慣らされているだけの話か。
(「今、考えても足らぬか」)
ただ、思うのだ。彼らは皆、この状況に慣れ過ぎてはいないか、と。
違和感を手放さぬまま、部屋を見渡す。本棚、絵画。目で見ただけでは、なんの変哲も無い空間ではあるがーーいくつか魔術の痕跡が見える。
(「それではちと華麗さに欠けよう。ふふん、ならば然り気なく謎に近付くのみ」)
知っている答えへの道を辿るようなものだ。
吸血鬼と従僕が絡んだのであれば、どうしたって痕跡は残る。魔術的にそれを解体するのは容易いがーー結局の所、容易いだけだ。ならば、と本棚に手を伸ばす。触れた感覚での変化は無く。版型が綺麗に揃えられた本は、学術書程の分厚さがあった。
「……」
手にすればずっしり、と重い。何処かに置いて見たくなるようなそれに、アルバはふと、足を止めた。置くのは容易い。ならば、容易く無い方をするとすればーー……。
「持つ、か」
小さく、己ばかりに届くように息を溢す。両手で支えるようにして広げたページは細かな文字で風景や木々について綴られていた。
「……ほう、そう来ましたか」
ぺらぺら、とページをめくり、もう一度戻す。二度、三度と繰り返しながらアルバは悠然と微笑んで見せた。
「木を隠すのならばということなのでしょう」
一方にページをめくった時と、戻した時で表と裏に出る文章が変わってくるのだ。どれも随分と文字が書き込まれているがーーこの程度、読むのが億劫になる程のものでも無い。筆圧は一定。だがページをめくることで文字が見えてくるのはインクの種類か。
「永遠の影」
それは古くに綴られた言葉。時を意味したというそれにアルバは不適に笑った。時計の長針と短針を本の巻数に合わせれば、カチリ、という音と共に扉が動いた。
「謎は無事に解けたようです」
一礼と共に告げたアルバに、居合わせた人々がわぁ、と声をあげる。驚きが殆どのその言葉は、感嘆の吐息に変わった。
「ーーまぁ、すごい」
「私たちにはさっぱりで……。本を読まれるのも早いですし、もしかして、どこか学術院で教鞭でも振るわれておいでだったのかしら?」
あぁ、それよりも、と微笑んでまま受け止めていた言葉が変わった。
「貴族の方のようね。昔、ご婦人に望まれてチェスをされたという」
「ーーあぁ、昔話でしょう? ご婦人を相手に長く勝負ができただなんてすごい話。あぁ、ですが。貴方様であればその昔話に出てくる、方にも迫るでしょうな」
微笑みながら昔話に花を咲かせる彼らは、開いた扉から結局、出る事は無かった。
「ーー貴族、か。チェス勝負でも仕掛ける宴でもあったのか?」
部屋から出れば、長い廊下が続いていた。足音がまた、消える。仕掛けのあった部屋では無かった毛足の長い絨毯が戻ってきていた。こちらの足音を殺すとなれば、吸血鬼の従僕たちの足音も消える。ーーだが。
(「魔術の痕跡は見える、か」)
軽く探知をかけながら、アルバは通りの向こうを見た。また、左右に分かれている。どれだけの広さがあるというのか。迷路のような屋敷のあちこちにあるのは、改装したという証だ。
「迷わせる類いの呪い、か。この程度、足を止める私ではないがな」
だが、とアルバは思う。連れて来られていた人々であれば近づく事はできないだろう。逆に、此処にまでこんなものが仕掛けてあるという事は逃げ出す者がいると思っているのか。
「ーーいや、彷徨わせるているだけ、と見るべきか。実際、生きて帰った者がいないのであれば……」
一抹の希望を胸に、飛び出したところで道は無く。その為の作りであればーー、と視線を上げたところで一際強い魔術の痕跡が見えた。
「これは……」
滑り込んだその部屋は、古びた、だが品の良い調度品の並んだ部屋であった。そこにあったのは執務机のようなものと、肖像画。微笑んで座る「彼」の手元にあるのはチェス版だ。
「……貴族というのは、この屋敷の本来の持ち主か」
ご婦人に望まれてチェスを打った、と彼らは言っていた。それは、この地にやってきた吸血鬼に戯れを持ちかけられたのでは無いだろうか。
ーーこの勝負に勝てば、生き残りは助けてあげるとでも。
最初は反抗したかもしれない。反撃を仕掛けたかもしれない。だが、人の身でどこまで耐えられるのか。仔細は知れずーーだが、肖像画には大きな街の地図があった。区画分けされた地域にはそれぞれ、旗がある。地域ごとに特色を持っていたのだろう。
「この街を、奪われたか」
壁を見れば武器を立てかけてあっただろう空間が、ぽっかりと空いていた。
大成功
🔵🔵🔵
サフィー・アンタレス
月居(f16730)と
推理?
何か訳の分からない事言っているが…
脱出出来なければどうしようも無いか
とりあえず鍵の形状を調べる
鍵開けを試みても良いが…それは華麗なのか?
最後の手段にしておくか
月居の言うのはまあ鉄板か
華麗かどうかは、そこまでの行い次第じゃないのか
堂々としていれば十分な気が
自信がありそうだし、月居の怪しいと言う辺りを共に調査
本棚の並び…内容や色合いを見て
違和感を感じる場所を重点的に
華麗、を意識するのなら
闇雲に探すのは違うだろう
墓?
そういえばそんな事も言っていたな
眼鏡の墓と云うものが何なのか見当も付かないが
まあ、月居が気になるのなら足を運んでみるか
もしかしたら、道が開けているかもな
月居・蒼汰
サフィーくん(f05362)と
……華麗なる…推理?
こういう時オーソドックスなのは…本棚の裏に隠し通路とか
絵画の裏にスイッチとかありそうな気がするけど…
それだとありきたりっていうか、向こうが満足するとはとても思えなくて…
サフィーくんはどう思う?
俺はやっぱり絵画とか時計とかが怪しいと思う(きりっ)
とりあえず絵画を動かして、ダメなら時計の針を…
後は、あからさまに怪しい本がないか本棚を探したり動かしたり
脱出できたら、眼鏡の墓に立ち寄ってみたい気は…するかな
そこに何かがあるとは思えないけど、やっぱりこう…
尊い犠牲になった眼鏡の冥福…?は、祈っておきたいかなって
中庭に続く道は、未だ閉鎖されているだろうか?
●
推理、と先に言われなければ、妙にソファーの多いおかしな部屋で終わるところだった。暖炉にたっぷりと用意された薪。絵画はひとつ、本棚には判型が揃ったものがきれいに並んでいる。きっちりとした空間に、ソファーだけが浮いていた。言って仕舞えばーーそこだけ雑、だろうか。
「掃除の後に困って入れたみたいな……」
「中途半端にやることが雑だな」
おかしな部屋、というのが結局二人の感想だった。その挙句に推理、だ。作られた密室であることを宣誓した上での密室。
「……華麗なる……推理?」
思わず月居・蒼汰はそうなぞり落としていた。眼鏡で華麗とか優美を示せと言った後に推理まで求められるのはーー眼鏡的にセオリーなのか。横を見れば「推理?」とサフィー・アンタレスが眉を寄せていた。
「何か訳の分からない事言っているが……脱出出来なければどうしようも無いか」
「そうだね。推理しろって言うからには、謎はこの部屋の中にあるんだと思うんだけど」
この部屋の外や、見えない場所にあるーーという話にだけはならない筈だ。
「こういう時オーソドックスなのは……本棚の裏に隠し通路とか、絵画の裏にスイッチとかありそうな気がするけど……」
唸るように蒼汰は部屋を見渡した。どれが怪しいかと考えれば、何処までもどれも怪しく見える。見えてしまう。吸血鬼の屋敷で、推理の為の仕掛けが仕込まれているという現状疑わずにいる方が難しい。ーーでも、だからこそ蒼汰は思うのだ。
「それだとありきたりっていうか、向こうが満足するとはとても思えなくて……」
「ありきたり、か」
鍵へと指先を滑らせていたサフィーは、レンズの奥の瞳を細めた。物理的な鍵では無い。鍵穴自体は存在しているが、滑らせた指先が感じたのは魔術的な痕跡だ。
「少なくとも物理的な鍵を探す必要は無さそうだな……」
指先で魔法陣だけを展開させる。起動自体はさせないまま見た限りーー鍵開け自体は行えそうだ。だが、やってみたところで華麗では無いと言われたら正直、後が面倒だ。文句を言うのはこの場合吸血鬼になるのだろうが。
「サフィーくんはどう思う? 俺はやっぱり絵画とか時計とかが怪しいと思う」
くるっと振り向いた蒼汰がきりっと顔を作る。眼鏡をついっと上げることを忘れずにいた姿を見てーー……。
「月居の言うのはまあ鉄板か。華麗かどうかは、そこまでの行い次第じゃないのか」
割と普通に答えたサフィーに対して、ツッコム相手は何処にもいなかった。
「堂々としていれば十分な気が」
「堂々と……」
これは、推理ショーだ。その事実を先に口にしたのは蒼汰であり、一足飛びで答えへと辿り着いた青年はひとまず、絵画との戦いから始めていた。
「うん。結構重いね、これ」
「本物みたいだな。油絵のようだが……、そんなに重いのか?」
「うん、なんかまるで絵じゃないみたいで……」
あれ、でもそれって、と蒼汰が小さく息を飲む。そっと絵画を床に置いて調べれば、背面に妙な突起があった。コンコン、と叩けば、中が空洞となっているのが分かる。
「ここを引っ張って……、よし。サフィーくん、数字が見えたよ。それとガラスの鍵、かな?」
3と5。
手に入れたガラスの鍵からは、魔術の痕跡を感じる。
「……華麗さより、とりあえずひっくり返して見たって感じになった気がするんだけど……大丈夫かな」
少しばかり考えて、マイナスに触れかけた思考を引き上げる。まずは脱出、だ。堂々としていること、だ。
(「サフィーくんもああ言っていたし」)
ガラスの鍵は、そのものが鍵として使う、と言うよりは次の謎が解けた段階で発動するタイプだろう、というのが二人の見解だ。なら、残りは「3と5」だ。
「時計……は、よくあるかな。他だとどこが良いかな? サフィーくん」
「本棚で見ても良いんじゃないか。色の違いは同じだがーー内容が違う」
種類、と言って仕舞えばそれだけではあるが、妙な違和感がサフィーにはあった。学術書であれば種類があっても不思議は無い。だが、分野の並びがおかしかったのだ。
「華麗、を意識するのなら闇雲に探すのは違うだろう」
呟いて、違和感を感じた場所をなぞる。とん、とん、と指で触れて数えて行った先で、気がついた。
「3段目の5冊目、か」
月居、と声をかければ、手の中にガラスの鍵が渡される。鍵を手にしたまま本を引きぬけば、緑色の背表紙は赤々とした本へと変わった。
「うわぁ……怪しい本になったね」
思わず眉を寄せた蒼汰にサフィーは、ため息を吐くようにして頷いた。
「分かりやすくゴールにでもしたつもりらしいが」
趣味は悪い、と言い切ったサフィーの声を合図とするようにカチャリ、と扉が開いた。
「このまま、向かえば辿り着く、か……。どうする、月居」
「眼鏡の墓に立ち寄ってみたい気は……するかな。そこに何かがあるとは思えないけど、やっぱりこう……尊い犠牲になった眼鏡の冥福……? は、祈っておきたいかなって」
そう、それは二人が宴で聞いた話だった。
『あぁ。中庭には使い捨てた眼鏡の墓があるみたいだし』
前後は血生臭い話であったというのに、突然持ち込まれたのがパワーワードだったのは覚えている。
「墓? そういえばそんな事も言っていたな。眼鏡の墓と云うものが何なのか見当も付かないが」
墓石があるのかーーレンズで作られているのか。そもそも、なんでそんなものが此処にあるのか。考えたところで吸血鬼の趣味と言われればそれで終わりなのだが。
「まあ、月居が気になるのなら足を運んでみるか」
斯くして、二人は廊下を抜け中庭へと続く道にたどり着くことになる。それほど時間が経っていないというのに、宴が開かれていた広間は全てが片付けられ、がらんとしていた。毛足の長い絨毯だけが残り、警戒するように中庭へと滑り込んだ二人の目の前にあったのは、きらりとひかる眼鏡と、こんもりとした砂の山。
「……想像以上の眼鏡の墓だった」
思わずそんな声を上げた蒼汰に、サフィーは瞳を細めて眼鏡の墓なる物体を見た。
「埋めているのは確かなんだな」
供養なのか。やっぱり振り回された眼鏡たちの供養なのか。
恐らく掘り返せば個人を特定できる眼鏡に出会えるかもしれない。……多分、だが。
眉を寄せた先、はぁ、と落としたため息は蒼汰の笑みを誘いーー、ふと、二人は顔を上げる。息を飲む気配。音は出さない。身を隠すように物陰に飛ぶ。
「……あれは」
「女のひと……?」
中庭の向こう、別棟となっている空間へと消えていく女の姿が見えた。間違える筈も無い。あれはーー吸血鬼の気配だ。ならばどうして、あの場所から出てきたのか。
「突然現れたって雰囲気があったけど……抜け道があるのかな」
「どうせ全部見て回っていたんだろうから、それくらいありそうだな」
サフィーは頷いて、吸血鬼の消えていった別棟を見た。生存者探しであれば、他の猟兵が動いているような気配もある。
「行くか」
「うん。行こう」
宴の主。吸血鬼の姿を見た二人は、警戒するように奥へと歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
同室の子は…メリッサだったか
名は知らない事にして
自身も名乗り改めて尋ねよう
見られているなら室内にいる間は余計な事は言わない
近付いて小声で
まずは部屋から出よう
と先に伝えておく
推理…
魔術的なものならば
不揃いな物を正す事
在るべき物を在るべき場所へ戻す事が多いか
見渡して
並ぶ燭台の火や本棚の本の抜けや並び等
迅速に違和感を覚える物を正す
部屋を出れば詳しく尋ねて手伝おう
君の兄さんは宴から逃げるつもりだったか
そうなら中庭が嫌な予感はするが
違うなら別の部屋に居るだろうか…
第六感や扉の先に居る人の気配
あとは風の精霊にも人の居る場所を訊きつつ
目星を付けて短時間で探そう
主の部屋へ向かう際は
彼女は他の場で待っていて貰う
●
推理してみせろ、という言葉は、この部屋が単純に開くものでは無いことを告げていた。その推理を見たがっているのが吸血鬼である以上、これは謎解きでは無く推理ショーなのだ。満足が行くように振る舞うことに意味がある。
「どうしてこんなーー……!」
震えるように落ちた声は、メリッサのものだった。ここまで来たのに、と呟く少女の拳は強く握られていた。真っ白になるまで強く。
「……それでは、怪我をするんじゃないか」
少しばかり考えるようにして泉宮・瑠碧は言葉を選んだ。ゆるり、と視線を上げた彼女に名前を名乗る。
「……そう、あの時宴にいた人ね。メリッサよ。どうせ見ていたでしょう、私は急いでいて……」
「急いでいるなら、やっぱりまずは部屋から出よう」
自分で言っている以上にメリッサは急いていた。困惑も少し、後はーー隠しきれない恐怖が彼女にはあった。滲むようなそれは、あの時聞こえた話が理由に違いない。
『ーーお兄ちゃんを、探すのよ』
探している、と彼女は言った。恐らく生存を信じて、ここまでやってきたのだ。ならば、推理を理由に密室に閉じ込められれば困惑もする。もう間に合わないじゃないか、という恐怖も理解できた。
「……」
繋いだ手の先、大切な体温が失われる悲しみはどうしたって辛いものから。
「推理をしよう」
「……、えぇ」
瑠碧の言葉に、ややあってぽつり、とメリッサは告げた。当たり前よ、と跳ねた言葉はそれでも泣きだしてしまうかのように揺れていた。
さて、そうなれば後は華麗なる推理というものを見せる必要があるのだがーー……。
「推理……、魔術的なものならば不揃いな物を正す事。在るべき物を在るべき場所へ戻す事が多いか」
くるりと瑠碧は部屋を見渡した。暖炉に絵画。同じ判型で揃えられた本がきれいに並べられた本棚。背表紙の色は緑か。指先で触れば、ざらりとした感触が指に変える。
「ここまでは普通、か」
だが、と瑠碧は思う。燭台の火を確認している時、ふいに目の端が光って見えたのだ。眼鏡の光が反射したのかと思ったが、違う。本棚の何処かが光っていたのだ。
「本棚そのものが光るという可能性よりは、何かがあると思ったんだが……、そうか。燭台の火にだけ反応するんだな」
背表紙のうち、幾つかがキラ、キラと光る。まばらに納められていたそれを、並ぶように片付け直せばガコン、という音と共に何かが、動く。
「何も起こらないの……?」
「いや、多分これだ」
動かした本の数に合わせるように、燭台の炎をひとつ、消す。ふぅ、と届けた吐息と共に部屋を照らす明かりが一つ落ちてーーキン、と甲高い音と共に扉が、開いた。
●メリッサ
「ごめんなさい。私あなたに嫌な態度を取ったわ。……いくら、兄さんを助ける為だとしても」
何もできなかったし、と少女はそう言った。謎解きの話だ。やる気が空回りしていたーーといえば良いだろうか。向き不向きの話で言えば、きっと彼女にこの手のものは向いてはいないのだろう。
「私は、西の村から来たから。南の街の司書とか? あそこは大きな図書館がまだ残っているって聞くから」
まだ、ということは、他にもあったが無くなったということか。詳しい話を今聞く二は、さすがに時間が無い。
「それで、君はどうやって兄さんを助けようと思っていたんだ?」
「聞いていたの。抜け道がある、って。昔、それを使って街の人がうまく外と話をしていたって聞いて……」
「君の兄さんは宴から逃げるつもりだったか」
呟いた瑠碧に、メリッサは頷いた。
連絡通路。吸血鬼の館にいる状況で、外との連絡が取れていたのだとしたらーー確かに、逃げることもできる、と思えただろう。
(「それが、吸血鬼にバレていないとは言えないが……」)
もしも彼女の兄が本当に失われていたとしたら、中庭へのあの警備は逆におかしい。館の主の部屋があるとしても、あそこまで警備を敷く理由は無いだろう。領民相手に遅れをとる筈も無い。
ーーならば、可能性はあるか。
「中庭が嫌な予感はするが、この周辺に直接部屋がある様子はないか……」
気配を隠すようにして、メリッサと進む。部屋の中と違い、廊下はあの会場と同じように毛足の長い絨毯が敷かれていた。足音は聞こえずーーだが、相手の足音とて掴めないだろう。吸血鬼であれば、こちらより耳は良さそうだ。
(「メリッサも一緒だ。長居はできないな……」)
今度は、彼女を危険に晒してしまう。
すぅ、と息を吸って瑠碧は風の精霊へと呼びかける。りん、と鈴の音に似た声が耳に届く。
「人の居る場所を感じ取れるか?」
「……」
鳥の囀りとも、鈴の転がるような音とも似た声が耳に届く。メリッサには分からないのか。ただ不思議そうな顔をした彼女に、ほんの少しだけ首を振って瑠碧は息をついた。
人はたくさん居る。
風の精霊の言う人は、宴の参加者と猟兵たちだろう。確かに数は多い。なら、此処からであれば? と問いかけた時ーー肌に生暖かい風が触れ、ふつり、と消えた。
「これは……風の流れ?」
「え? 何か、感じたの……?」
目をパチクリ、とさせたメリッサに瑠碧は頷く。中庭から不意に感じた風の流れは、ふつり、と途切れた。メリッサの聞いていた「道」の話を思い出せばここが抜け道か。だが、感じた風は木々の匂いではなかった。
(「道を変えられた? 出入り口を魔術的に制御されている可能性もあるけれど……」)
ただ、道があってそこに繋がるのが「抜け道」と認識されていたのであれば、他にも道がある筈だ。風の通った時間、距離を感じ取って来た道を戻る。中庭を見据え、曲がり角を進んで行った先でーーその部屋にたどり着いた。
「ーーこれは……」
「兄さん……!」
瞳を細めた瑠碧を置いて、メリッサが駆け出す。薄暗い部屋の中には、数人の眼鏡が壊れた人々が座り込んでいた。ぼんやりとした様子は、疲れ切っているからと言うものではない。
「鍵は、さっき開けたものだけれど」
そう、瑠碧に告げたのは先に辿り着いていた猟兵だった。扉には簡易の結界が張られていた。一般人でも無理やりに開けようと思えばできるものではあったがーー彼らには『開ける気力が無かった』と。
これは吸血鬼が仕掛けた遊びだ。
たった数人にまで減った彼らが、未だに逃げるかどうか。宴の余興に使われることもあるのだろう。事実、部屋の調度品に対して一人足らない。だが、吸血鬼さえ倒すことができればーー可能性はある。
「メリッサよ。ねぇ、兄さん……! 助けに来たから……!」
「メリ、サ……」
ぼんやりとした瞳が、虚空ばかりを眺めていた青年がゆるり、と駆け込んだ少女を見た。その瞳に少しずつ光が戻っていくのを確認して、瑠碧は他の場所で待っていて欲しい、とメリッサに告げた。
「貴方は……?」
「行くべき場所があるから」
道具場所と言っていたわ、と先にこの部屋を見つけた猟兵は言っていた。捕らえられている人々のいる場所を「道具箱」だと吸血鬼は告げたのだという。
(「玩具ではない。誰も」)
すぅ、と息を吸って歩き出す。宴の主、吸血鬼の婦人へと出会うために。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『老獪なヴァンパイア』
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POW : 変わりなさい、我が短剣よ
【自身の血液】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【真紅の長剣】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD : 護りなさい、我が命の源よ
全身を【自身の血液】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ : 立ち上がりなさい、我が僕よ
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【レッサーヴァンパイア】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
イラスト:イツクシ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠館野・敬輔」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●麗しのご婦人
その部屋へと続く道は、巨大な扉で守られていた。ーー否、そもそも守るつもりなどあったのか。両開きの扉には豪奢な装飾が施され、鍵などかかってはいない。この空間で見た、どんなものよりも美しい装飾が、そこには施されていた。
「ーーあぁ、お入りなさいな」
見上げるほどの巨大な扉は、触れることも無いままに開かれた。辿り着いたその空間には、真っ赤なカーペットが敷かれ踏み込めば、足音を殺す。見上げるほどの高い天井からは、シャンデリアが下がっていた。キラキラと美しい空間は、先に宴の場に似て少し違う。
椅子が、ひとつなのだ。
豪奢な椅子がひとつ。段上にある。其処にはこの部屋のーー否、この辺り一帯の「主」たるヴァンパイアの姿があった。
「随分と楽しませてくれたわ。あなたたちのお陰で、何十年ぶりに楽しませてもらったかしら」
ご婦人、と村人や街の人々に言われるただ一人。古く、この地に訪れーーこの地に本来あった人々の営みを奪い取った存在こそ、老獪なヴァンパイアであった。
「あの日のチェスと同じくらいかしら。えぇ、気がついた子もいるのでしょう。此処に昔、住んでいた人間のこと」
あの日は楽しんだけれど、とほっそりとした指先が椅子を撫でる。老獪なヴァンパイアの宴でも見た従僕たちとーー眼鏡が、積まれていた。美しい皿の上、綺麗に並べられた眼鏡は形を残したまま。中庭にあった塚とは違う。
「ーーえぇ、あれは願いを叶えた子たち。村の存続も、街での権勢も叶えてあげてよ。楽しめたのですから」
あの日の勝負と同じ、と老獪なヴァンパイアは微笑んだ。
「殺し尽くしてはいない。勝負は存分に楽しめたのですから」
領地の人々の平穏を背負い、ヴァンパイアのゲームに引きずり込まれた嘗ての領主は何を思ったのか。この世界ではどうしようもない、と思ったのか、それともいつか、と思ったのか。
「えぇ、面白いこと。いつか見た眼鏡の子が面白かったから楽しんでいたのだけれど。私の趣向にあなた達が頷いてくれるなんて」
望むように振る舞ってくれるなんて。
艶やかな笑みを描き、赤い瞳を鈍く光らせながら主たる女は立ち上がった。
「次の道具箱にはあなた達を詰めましょう。戯れ程度にはきっと楽しめるでしょうから」
従僕達が共に立ち上がる。お使いください、と首を晒した彼らが鮮血を散らしながら崩れ落ちる。その従僕たちに眼鏡を置くと、老獪なヴァンパイアは微笑んだ。
「さぁ、ゲームを始めましょう」
宴に参加していた一般人たちは、猟兵の話を聞いて部屋に残っているだろう。囚われの眼鏡たちの中ーー生存者たちは、ひどく衰弱しているが、他の一般人たちの手によって介抱されている。まず、戦闘に巻き込まれることはないだろう。
ーーさぁ、キラン、と眼鏡を輝かせて。最後の戦いの時だ。
ステラ・アルゲン
【星門】カガリと
生かさず殺さず……己の娯楽のために人を弄ぶ
ヴァンパイアというのはやはり好かない
今まで倒してきた者と同じく貴様も骸の海に返してやろう
まずはカガリに任せよう
カガリなら血を含めて全てを封じてくれると信じているからな
血を止めさえすれば、その短剣が長剣になることはない
我が剣、流星剣とのリーチの差を考えればこちらが有利だろう
それでも油断せずに
敵の攻撃を剣で【武器受け】しながら近づき【流星一閃】で斬りつける
……いつか見たという眼鏡の子はどうした?
弄ばれた者たちの為に、この一撃を届かせよう!
出水宮・カガリ
【星門】ステラと
眼鏡にどのような意味があるのかと思えば、そのような
個人的には、新たな発見も、ありはしたが…やはり、吸血鬼は吸血鬼、か
カガリは門にして境界、だからな
『流れるもの』があれば、『堰き止め』よう
【泉門変生】で敵をステラごと囲う
封じる対象は吸血鬼のみだがな
強く呪詛して(全力魔法、呪詛)、『血の流れ』を止めよう
血が液体として流れなければ、武器の形にもできない
更に己の血を出す為に傷つけた傷口からも、呪詛を浸食させる
『血の流れ』を止めるのだから…体内を流れる血も、だ
吸血鬼は、その程度では死なんだろうが
その辺りは、ステラが何とかしてくれるだろう
とどめは任せたぞ、ステラ
●
ぴしゃり、ぴしゃり、と老獪なヴァンパイアの歩みに水音が混じる。従僕たちが溢した血が毛足の長い絨毯に染み込まれていく。ぷつり、と血濡れの足音が止めば、ひどく濃い血の匂いだけが広間を包み込んでいた。
「眼鏡にどのような意味があるのかと思えば、そのような」
金糸から覗く美しい瞳が、ふいに細められる。は、と落とされた息が血濡れの空気を揺らした。
「個人的には、新たな発見も、ありはしたが……やはり、吸血鬼は吸血鬼、か」
出水宮・カガリの言葉に、腰の剣へと手を添えたステラ・アルゲンが傍に立った。
「生かさず殺さず……己の娯楽のために人を弄ぶ
ヴァンパイアというのはやはり好かない」
真っ直ぐにヴァンパイアを見据え、告げたステラの姿に、ご婦人と呼ばれたヴァンパイアは微笑んで見せた。
「ーーあら、そう? 戯れを探すのも、随分と手間のかかるものなのよ」
くすり、と美しいヴァンパイアは笑った。歩みに混じっていた水音が、ふいに、消えた。
(「ーー来る」)
す、とステラは顎をひく。僅か、身を低めたのは腰の剣に手をかけるためだ。行こう、と傍らの彼に声をかける必要はない。ただ交わした視線ひとつ、取り替えたままの瞳の色が交わる。
「今まで倒してきた者と同じく貴様も骸の海に返してやろう」
「カガリは門にして境界、だからな」
交わすのは一瞬。
それから先は二人、戦場にて真っ直ぐに敵を見据えた。
「『流れるもの』があれば、『堰き止め』よう」
静かに微笑んだカガリの前、とん、と軽やかにヴァンパイアが床を蹴る。跳躍は軽くーーだが、接近は早いか。
「さぁ、ゲームを始めましょう」
向かう先は、カガリか。剣を構えるステラよりこちらを選んだか。ひゅ、と空を切り裂くような音と共にヴァンパイアの姿が近づく。眼前、するり、と白い腕を伸ばし刃を向けた『ご婦人』を前にカガリは告げる。
「いずみやいづる黄泉戸の塞」
さぁああ、と長い髪が靡く。金糸の狭間から覗く瞳が石榴へと変じていく。
「我は世を隔つ磐戸なり」
斯くして、顕現するは鉄門扉が出口を塞ぐ黄金の城壁。その身に現世と黄泉を隔てる大岩の神性を宿したのだ。
カガリはヤドリガミである。
その本質は「閉じ、隔て、守る」ものであるが故に『血の流れ』に呪詛を注いだのだ。
ギン、とヴァンパイアの一撃が城壁に阻まれる。火花が散り、あら、と息を落とした『ご婦人』の前、黄金城壁へと変じたカガリの力が空間に満ちていく。
「そう、私の血を止めるというのね」
変わりなさい、と指先にヴァンパイアが滑らせた短剣は血を滴らせることは無かった。まったく、と息をつく姿に、その瞳が正しく己を見据えてくるのを感じながら、カガリは内心、息をついた。
(「傷口からも呪詛を侵食させたが……、体内の血の流れ止めただけでは普通に動くか」)
吸血鬼は、その程度では死なんだろうが。
ほう、と落とした息。黄金の輝きから紡ぎ出す魔力の全てをカガリは注いでいく。
「パーティーに招かれるのは久しぶりだけれど、やっぱり私の宴の方が楽しみが多いわね」
掌に剣を突き立てて、それでも血の流れの鈍い体に息をついたヴァンパイアがふわり、とドレスを揺らす。
「止めたとしても、永遠にそれはかなわない。ほら、私の血がいずれ零れ落ちるわ」
「永遠でないのであればーー」
笑うように告げたヴァンパイアへと、その視線を遮るようにステラは床を蹴った。ご婦人の視線へと入るように、たん、と身を飛ばせば衣がばさり、と靡く。
「お相手しよう」
「ーーあら」
低く、届いた声に剣を引き抜く。流星より生まれし剣はすらりとした長剣であった。薄くヴァンパイアが笑う。
「向かってくる子は好きよ。面白いもの」
「そうか」
ひゅ、と突き出された短剣に、流星剣を振り上げる。
(「我が剣、流星剣とのリーチの差を考えればこちらが有利だろう」)
だが、とステラは口の中、言葉をつける。ギン、とヴァンパイアの一撃を剣で受け止めーーその勢いを刀身に滑らせて殺していく。キィイイイン、と甲高い音と共に火花が散った。
「……いつか見たという眼鏡の子はどうした?」
「遊び飽きてしまったから、壊してしまったの。ーーとでも言えば、その綺麗な顔を歪めてくれるかしら?」
片手に刃を持ったまま、その重さは変わらぬままにするり、と伸ばされた手にステラは瞳を細める。
「答える気はないと」
「貴方たちが私の道具箱に収まって、新しいおもちゃになってくれれば考えましょう」
ふふ、と唇に艶やかな笑みを乗せたヴァンパイアが短剣に力を乗せてくる。ぐ、と押し込まれる感覚にーーふいに、声が届いた。
「とどめは任せたぞ、ステラ」
「ーーあぁ」
カガリの声。
城壁となり、守る彼のその声に。確かに届いたその言葉に、ステラは床を掴む足に力を入れる。流星剣を強くーー握った。
「弄ばれた者たちの為に、この一撃を届かせよう!」
ガン、とヴァンパイアの短剣を跳ね上げる。一瞬、体を浮かせた『ご婦人』が目を瞠る。
「願いさえ斬り捨てる、我が剣を受けてみよ!」
その胴へとステラは迷わず斬り込んだ。斬撃がドレスの奥へと沈み、衝撃に老獪なヴァンパイアが踏鞴を踏む。
「ーーふ、ふふふふ。あぁ、痛み。痛みなんて本当に久しぶり!」
楽しいこと、とヴァンパイアは笑った。呪詛が行き渡るようにして、血の流れは鈍い。腹の傷だけが晒される。
「だって、私のどこまでも留められるか。貴方は耐えてくれるのでしょう? 貴方は矜持を示すのでしょう?」
その状況にあって、ヴァンパイアは笑っていた。長く、長く、痛みさえ己に与える者はいなかったと。二人を見据えて言う。
「あぁ、久しぶりに、本当に楽しい宴になったこと!」
称賛と、喜悦と、だが、確かに殺意を乗せてこの宴の主は正しく、今宵の客を敵と認めていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…ん。自らの力とする為に従僕に血を流させたんだろうけど…。
それは悪手よ。特に私のような相手には…ね。
自身の殺気と吸血鬼化した瞳を色眼鏡で目立たないように隠し、
敵が血のオーラで防御する瞬間を戦闘知識と第六感から暗視して見切り、
血の魔力を溜め限界突破したUCにより敵の防具を改造
…血を操るのは何もお前の専売特許じゃないもの。
敵が纏う血から無数の血杭で傷口を抉る先制攻撃を行った後、
怪力の踏み込みから残像が生じる速度で接近して、
掌から生命力を吸収する呪詛を纏う血杭を放つ闇属性の2回攻撃を行う
…ああ、そういえば宴に招待されたのに主催者に挨拶がまだだったわ。
…私の名前はリーヴァルディ。吸血鬼を狩る吸血鬼よ。
花型・朔
え? 何かごちゃごちゃ言ってるぞ!? よくわかんないけど、倒しちゃえばいいって事だよね!
待っててマリー! すーぐにぼこってあげちゃうよ!
眼鏡がシャンデリアでキラーンと光る! ふふ、今の私、ちょっと知的に見えたかも!?
【行動】
短剣片手に舞うように屋敷内を飛び回る。わぁなんと!あたしと戦闘スタイル似てるじゃないか!
いいよいいよ、それならたっぷりあたしもこの子、花型に血液あげちゃうね。終わった後はたっぷりお肉を食らえば良!
短剣なら懐に入ればこちらが有利。惑わせながら飛び込んで、咲かすは赤に映える白き百合の花!
ふふふ、知的な戦略に映えるは眼鏡! 意外と眼鏡いいよ? かけてみる?
●
「え? 何かごちゃごちゃ言ってるぞ!? よくわかんないけど、倒しちゃえばいいって事だよね!」
髪を結ぶリボンが揺れた。
青の髪を瞬かせ、花型・朔はひとつ結論をつけた。倒してしまえば良いのだ、と。
「待っててマリー! すーぐにぼこってあげちゃうよ!」
シャンデリアの光を受けて、眼鏡がキラーンと光る。つい、と眼鏡を上げて見れば、なんだかいつもとは気分も違ってくる。
「ふふ、今の私、ちょっと知的に見えたかも!?」
「ーーあら、可愛らしい子。今宵の残り香を連れて帰るつもりなのかしら」
艶やかな笑みを浮かべ、老獪なヴァンパイアは血濡れの体にドレスを纏う。その赤は、己が流した血だ。傷口を晒しながら、ヴェールのように血を纏った女主人は変わらずに微笑んだ。
「道具箱に一緒に入れてあげても良いのよ」
「マリーを、そんな目には合わせないよ!」
それはきっと、覚悟してきたマリーを、人としてある彼女の生き方を極限まで歪めるものだ。
「だから、勝負だよ」
た、と朔は駆け出した。一歩、二歩。三歩目で一気に踏み込みを大きくして。飛ぶように前に出る。瞬間、抜き払ったのは短剣だ。鞘を帯に挟み、真正面。射線を通したところで、身を横に飛ばす。舞うように、くる、と体を回し、逆手に構えた短剣をヴァンパイアへと向けた。
「ーーそう」
一撃は、浅いか。
肩口を裂いた一撃に、女主人の腕が伸びる。とん、と触れるようにして、そのまま軽やかに背後を取ったヴァンパイアが笑った。
「でも、それだけではつまらないわ」
「ーーうん」
嘲笑うようなそれに、朔は頷く。ひどく純粋に。そうだよね、と。背後から迫る刃に、迷わず大切な花型を手にした。
「純粋であれ、純潔であれ!」
花型で、己を刺し抜く。零れ落ちた血は、床へと落ちはしない。
「我らの誇り、威厳を見せつけろ! ほうら陽気に華麗に咲いて行け!」
「ーーな……!」
ふわり、と咲き誇る白き百合が、一撃、穿つ筈のヴァンパイアを捕らえていたのだ。
「ふふふ、知的な戦略に映えるは眼鏡! 意外と眼鏡いいよ? かけてみる?」
咲き誇りし花は、ヴァンパイアの生気を吸い取る。赤に映える美しい花は、それ故に在るだけで女主人を封じたのだ。
「えぇ、ふふ。ふふふふ。面白いこと」
朔の誘いに、ヴァンパイアは笑う。流れるように刃が百合を刻む。引き裂かれれば、また咲かせるだけ。ただ1輪で、終わるとは思っていないから、だからこそ朔は笑うように明るく告げたのだ。
かけてみる? と。
「私は、見る方が好きよ。眼鏡ひとつで、こんなにも変わって見えるのだから」
だから、とヴァンパイアは己の短剣を手に滑らせる。
「変わりなさい、我が短剣よ」
真紅の長剣へと変じた武器が、一瞬にして放たれる。切り上げる一撃が届き、チリ、という痛みの後、熱に似た激痛が体に走る。
「ーーっ、たたた」
とん、と朔は間合いを取り直す。後ろに飛んだ娘を、追うようにヴァンパイアが一気に踏み込む。そこに、飛び込んできたのはリーヴァルディ・カーライルだ。大鎌を手に、斜線を遮るように踏み込めば、あら、と老獪なヴァンパイアは笑みを浮かべた。
「お嬢さんも来ていたのね」
「……」
「つれないこと」
艶やかな笑みを浮かべ、振るわれたのは既に変じた長剣であった。振り下ろす一撃を大鎌で受け止めれば、すぐに弾きあげた女主人が薙ぎ払う。浅く、受けた一撃で血が零れれば、ふ、とヴァンパイアは笑っていた。
「美しい血ね。色眼鏡にもよく似合うこと」
「……そう」
ただひとつだけ、声を返す。僅か、空いた間合いを大鎌を振るう分にだけリーヴァルディは使う。斬りあげる一撃、合わせるよ、と響く声は朔のそれだ。
「我らの誇り、威厳を見せつけろ! 白き百合の花!」
高らかに告げる声と共に、花が舞った。白き花弁の中、斬り込んで行ったリーヴァルディの前で、女主人は衣を揺らす。
「護りなさい、我が命の源よ」
ヴァンパイアの流した血が揺れる。従僕たちの血が波打つ。波紋のように女主人の溢した血が揺れ、豪奢な衣へと変わっていく。
「……限定解放」
その瞬間、声が落ちた。
「極刑に処せ、血の魔棘」
「な……!? く、ぁあああああ……!?」
女主人の纏う血の衣から無数の杭が穿たれたのだ。全身を貫かれ、血を吐き出したヴァンパイアが、その瞳に殺意をのせる。
「あなた、あなたは何を……!」
「……血を操るのは何もお前の専売特許じゃないもの」
自らの力とする為に従僕に血を流させたんだろうけど……、とリーヴァルディは告げた。瞬間的に、吸血鬼へと変じ構えるは黒の大鎌。
「それは悪手よ。特に私のような相手には……ね」
だん、とその身を前に飛ばした。瞬発の加速。身を回すようにして、放つ大鎌の一撃はーーだが、狙いではない。
「く……っ」
身を回す勢いに使っただけ。た、と床に足をつき、その懐で掌を向けた。瞬間、血杭が女主人へと放たれる。
「っ、ぁあ、ぁあああ……っは、この、痛みは。あなたは、おまえは、いったい……!」
「……ああ、そういえば宴に招待されたのに主催者に挨拶がまだだったわ」
色眼鏡をつい、とリーヴァルディはあげた。
「……私の名前はリーヴァルディ。吸血鬼を狩る吸血鬼よ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
【狼鬼】
【九死殺戮刃】発動
寿命の代わりに自分を切り、強化したナイフで敵の懐に潜り込むいつものスタイル
――なンだけど
眼鏡邪魔!!
視界がレンズ越しという違和感
隙を負傷で強化した女に突かれ手痛い反撃を喰らう
悔しさに眼鏡を放り投げれば女を逆上させちまって逆効果な有様
――ザザ?
「そいつ」は片目を喪くした時に出来なくなったって……
ハ!そうかい
やっぱな!あんたに不可能なんざ似合わねえ!
両手を広げて挑発するような仕草
女に向けてじゃねえ、ザザにだ
「快気祝い」といこうじゃないの
その代償、俺に向けてくれ
あの女よりも痛めつけてくれよ
充分に堪能したら後は怖いもんなしさ
「派手に踊るぜ、ロックンロール」
奴のキメ台詞を拝借
ザザ・クライスト
【狼鬼】
「勿体ぶった割に、パッとしねェマダムだな」
煙草に火を点けて【ドーピング】
女の口上に眼鏡をかけ直しながら辛辣に告げる
飢えや渇きを満たすために刹那の享楽に耽る
──つまりは心が貧しィンだな
だが、イイぜ
乗りかかった船だ、最後まで付き合ってやるよ
オレ様は優しィンだよ
紅い瞳が輝いて"狼の目"が顕れる
【魔弾の射手】を発動
手にした"牙"──ソードブレイカーで女を斬り裂く
代償はジャスパーにも一撃を喰らわせる
「──ずいぶん待たせた。借りは返さねェとな」
踊るようにステップを刻み、ジャスパーを刻み、女を斬り刻む
「派手に踊るぜ、ロックンロール!」
生死を賭けてこその勝負さ
勝つと決まってるのは勝負とは言わねェぜ
●
「ーーあぁ、ほんとうに」
艶やかな笑みを浮かべ、老獪なヴァンパイアは唇に笑みを浮かべていた。その身に傷を受けながらも変わらず。ただ、コン、と高いヒールで床を叩けば、白く美しい肌にぱた、ぱたと血が滲み出す。堰き止めるようにかけられていた呪詛を払ったか。従僕たちの流した血で、己を調整し直したヴァンパイアは、ふふ、と笑う。
「今宵は面白いこと。にくらしいこと。ねぇ、あなたもそうでしょう?」
「は、そうなんじゃねぇの?」
ようやく、切り合えるってんだからな。
口の端に笑みを浮かべた、ジャスパー・ドゥルジーの瞳が瞬く。紫とピンクが混じり合った瞳が光を滲ませ、迷いなくナイフで掌を切り裂く。一筋、指の付け根まで刃が沈めば指輪よろしく赤が散る。鈍く、光を帯びたナイフを手にジャスパーは床を蹴った。たん、と身を低く、獣のように一気に間合いを詰めていくーー筈だったのだが。
「眼鏡邪魔!!」
視界がレンズ越しという違和感だ。
ついでに枠が見えるし、絶妙に見え方が違う。もっとに言えば走った時に変な風が来る上にーー。
「ーー!」
ひゅ、と突き出したナイフが、ヴァンパイアに避けられる。顔ひとつ、軽く交わした『ご婦人』が逆に間合い深く踏み込んできた。
「あら、似合っているのに」
「ーー!」
薙ぎ払うヴァンパイアの短剣が、胸元から肩口に届く。肩まで狙ったのは、こちらがナイフを持つからか。
「あぁ、くそ! 邪魔!」
とん、と間合いひとつ。取り直すようにジャスパーは後ろに飛んだ。得手とした間合いだというのに、どうにも動きにくい。やりにくい。悔しさ紛れに血濡れの手で眼鏡を放り投げた。
「ーーあら」
「……」
明らかに、あからさまに。
いっそ分かりやすい程に、ヴァンパイアは不機嫌な声を溢した。
「勿体ないこと。あぁ、折角だから、私が整えてあげましょう」
私が、手ずから。
「私の道具箱に似合うように」
艶やかな笑みと共に、一歩、足を進めた女主人へと向けられる声があった。
「勿体ぶった割に、パッとしねェマダムだな」
火をつけた煙草を手に、紫煙を燻らせる。
紅い瞳を細め、ザザ・クライストは辛辣に告げた。
「飢えや渇きを満たすために刹那の享楽に耽る。──つまりは心が貧しィンだな」
だが、イイぜ。
口元に、ザザは笑みを浮かべる。煙草を指に挟んだまま、ふ、と男は笑った。
「乗りかかった船だ、最後まで付き合ってやるよ。オレ様は優しィンだよ」
ゆるり、とひとつ瞳は弧を描きーー輝いた。紅き瞳の奥、狼の目が顕れる。
「有象無象の区別なく、静かに、清らかに」
「――ザザ?」
その変化に、驚きを見せたのはジャスパーだった。
「「そいつ」は片目を喪くした時に出来なくなったって……」
小さな瞬き。緩く、首を傾げたジャスパーを視界にザザはソードブレイカーを手にした。
「──ずいぶん待たせた。借りは返さねェとな」
たん、と踏み込めば、それがーー応えだ。
「ハ! そうかい。やっぱな! あんたに不可能なんざ似合わねえ!」
血濡れの体でジャスパーは笑う。ひどく愉しげに、ひどく満足げに。
慣れぬスーツは引っかかったまま、タイを引き抜いて両の手を広げた。
「「快気祝い」といこうじゃないの。その代償、俺に向けてくれ」
挑発は、ザザに向けて。
その瞳の示す力を、知るが故に。
「何を言って……」
「ーーアァ」
眉を寄せたヴァンパイアを正面に、ザザは駆ける。一気に踏み込んだ間合いに、流石に警戒したヴァンパイアが剣を構えた。
「護りなさい、我が命の源よ」
血が溢れる。流した己の血を、ドレスのように纏い直したヴァンパイアへとソードブレイカーを振り下ろす。
ーーギン、と音がした。火花が散り、一撃、受け止められた刃に、は、とザザが笑う。一度、掴む手から力を抜けば、受け止めた側もブレる。その一瞬、迷うことなく使い、短剣を滑るように一撃を叩き込む。
「ーーふふ、ふふふふ。あぁ、久しぶりの痛みね。けれど、この程度では……」
「足りないってか?」
なぎ払った刃に、笑うヴァンパイアの短剣が届く。あちらの強化は、血による己自身の強化だ。一瞬で、間合いへと飛び込んできた吸血鬼の刃がザザの腹を切り裂く。ばたばたとこぼれた血に、だらり、と腕をたらした男はーーだが、笑った。
「なら」
腕を振るう。薙ぎ払う先は、女主人ではなくーージャスパーだ。
「あの女よりも痛めつけてくれよ」
笑うように、告げたジャスパーの胸元から刃が沈んでいく。切り上げれば赤く、赤く流れ出した血がその身を染め上げていく。は、と息を溢し、整えられた髪をジャスパーはかきあげた。
溢す笑みは喜悦のそれか。
じくじくと痛む体に、熱に、こぼれ落ちていく感覚に。吐息を溢すようにしてジャスパーは笑う。
「何を、して……。まさか、そう。贄として使ったということ?」
「さてナ」
趣味と実益だったか。
返すべき言葉はどうせあちらから行く。
だからこそ、今は構わず、ザザは己の牙を振るった。
「派手に踊るぜ、ロックンロール!」
生死を賭けてこその勝負さ。
勝つと決まってるのは勝負とは言わねェぜ。
切り上げる一撃と共に、体を回す。ステップを踏むようにして、弧を描く一撃も叩き込む。一瞬、背を向けるその瞬間は駆ける鬼の時間だ。
「派手に踊るぜ、ロックンロール」
充分に堪能したら後は怖いもんなしさ。
笑みを溢したジャスパーが、ヴァンパイアの間合い深くに踏み込む。身を沈め、食らいつくようにナイフは深くーー沈んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エンティ・シェア
知っているかい。悪い子には仕置が必要なんだ
戯れで命を弄ぶという行為は、悪と定義される事が多いんだよ
君は、悪い子だ
きっと長く生きすぎたんだろうね
そろそろ骸の海にお帰りよ
さぁ、スーツに眼鏡といつもと違う要素が満載だが、手袋くらいはいつもどおりにしておこうか
武器を握る感覚が違っては、気持ちが萎えてしまうだろう
さぁ、お行きよ
殺すのは、君の仕事だ
鋒で血を流して拷問具を召喚
色隠しで処刑形態へ
暇が過ぎて愉快な催しを思いつく貴方への哀れみで、綺麗に首を落とせる刃を
真っ向からぶつかってやりましょう
刃を合わせてあげますから、貴方の大好きな眼鏡でもよくご覧なさい
あぁ、でも、すみませんね
この処刑具、炎も毒も出るんです
●
広間は、血の匂いに満ちていた。ぴしゃり、ぴしゃりと血を飲み込んだ絨毯が女主人の歩みに血の香りを纏わせる。猟兵たちが流した血は、床に落ちれば毛足の長い絨毯に飲み干され、ヴァンパイアの流した血は衣のように変じて纏われる。
「ーーえぇ、久方ぶりに本当に面白いこと」
肩に、腹にと受けた傷を晒しながら老獪なヴァンパイアは微笑んでいた。虚勢ではなく、ひどく愉しそうに、だ。滲む喜悦は、優勢であれ劣勢であれこの状況をひどく楽しんでいるようにエンティ・シェアには見えた。
流れ落ちる血の全てを。
猟兵たちが見聞きして来たであろう、宴の背景にある「こと」を。
その上で、自分に挑んでいるのでいるという事実を。
「あぁ、この広間をこんなに満たすのは久しぶり」
艶やかな笑みを浮かべ、朗々と告げたヴァンパイアへと、エンティは足を進める。爪先が血に濡れるのに僅かに瞳さえ細めぬまま、スーツ姿で足を進めていく。
「知っているかい。悪い子には仕置が必要なんだ
戯れで命を弄ぶという行為は、悪と定義される事が多いんだよ」
つい、と眼鏡を上げる。少しばかり見慣れぬ視界に、けれどしっかりとこの宴の主人を見据えてエンティは言った。
「君は、悪い子だ。きっと長く生きすぎたんだろうね」
「ふふ。ふふふふ」
女主人は笑う。艶やかな笑みを浮かべ、弧を描く瞳がようやくエンティを捉えていた。ひたり、と視線が合えば、ほんとうに、と笑みが落ちた。
「今日という日は楽しいこと。けれど、そう。あなたはそれを『多い』というのね」
まるで、と蕩けるような笑みを浮かべヴァンパイアは告げた。
「悪では無かったことを知っているよう」
「……」
嘲笑うよりは、浮かべられたのは誘いであったか。とん、と短く、地を蹴ったヴァンパイアを前に、エンティは息を落とす。
「そろそろ骸の海にお帰りよ」
いつも通り、手袋をはめて。武器を握る感覚が鈍っては、気持ちが萎えてしまうだろうから。きゅ、と黒の手袋をはめて、白い指先を隠したまま己の手首に添えて後を「僕」に託す。
「さぁ、お行きよ。殺すのは、君の仕事だ」
差し出した手は「僕」へと繋がる。瞬きも無い間に、カタン、と性格が入れ替わる。ダイスが転がったかのように。空の箱から何かひとつ、顔を出しただけのように。踏鞴を踏むように身を揺らして、とん、と引いた足で身を低め、エンティはナイフで己の腕を切り裂いた。
「……」
ぱた、ぱたぱたと落ちる血が床に波紋を描く。とぷり、と最後の一滴が深く沈めば、姿を見せたのは拷問具だ。
「もう、終わらせましょう」
エンティが手を伸ばせば、拷問具は刃へと変わる。それは、他者への感情を代償に処刑形態へと変化された拷問具だ。
「暇が過ぎて愉快な催しを思いつく貴方への哀れ」
呟くように「僕」は告げる。「僕」だけが使える術。ありとあらゆる手段を選べるのだ。心を殺して、確実に処刑するために。
「綺麗に首を落とせる刃を」
故に、感情を代償とする。
削ぎ落とすように捧げるように、食い尽くすように渡しーーほっそりとした手が、刃を握った。たん、と踏み込みは一瞬であった。一歩、二歩、駆ける足で身を低め、至近にてエンティは跳躍する。
「あら、上から?」
「……」
答えるつもりはない。だから、真上から体重をかけるように一撃を叩き込む。ギン、と一撃、受け止めたヴァンパイアが笑う。
「歌いなさい、我が長剣よ」
合わせた刃に己の手を添える。片手で受け止めながら、真紅の長剣へと更に力を注ぐ。押し上げるように、ぐん、とヴァンパイアが腕を振るった。払われた一撃に、浅く、頬に傷を残しながら、着地のその場所から身を飛ばす。次の一撃はエンティの方がーー早い。
「……っ」
「刃を合わせてあげますから、貴方の大好きな眼鏡でもよくご覧なさい」
あぁ、でも、すみませんね。
低く、身を沈めてから切り上げる。居合にも似た抜き払いの一撃。即座に来た返しの一撃に、刀身を無理に振り上げるようにして受け止めながらエンティは笑った。
「この処刑具、炎も毒も出るんです」
「ーー!」
その言葉こそが、合図だ。
ゴォオオオ、と舞い上がった円柱がヴァンパイアの腕を焼く。息を飲み、ぁあ、と短く声を上げた女主人が払うように腕を振るった。
「炎は、趣味ではないのよ。興醒めだわ、貴方」
「あなたの言葉を借りれば、興醒め程度で止める理由もないので」
静かに言葉を返す。ひゅん、と振るった刃が炎を帯びていた。
大成功
🔵🔵🔵
サフィー・アンタレス
月居(f16730)と
ここまで大分時間をとられたが
随分と趣向を凝らす辺り、暇なのか?
お前がこの地を支配してどれ程かは知らないが
そうだな、戯れはここまでだ
攻撃は前に出て
蒼炎で、敵の急所や行動阻害を優先的に狙う
月居の作った隙を有効活用して、効果的にダメージを
月居は…必要なら動くが
俺が守る必要はないだろう
あくまでいつも通りの、立ち居振る舞いで
後は月居がどうにかするだろう
眼鏡なんて、特別意識するものでは無いだろう
生活に必要だから
ただそれだけの物に、随分と執着する意味が俺には分からない
眼鏡の墓の意味や
いつか見たのがどういう奴だったのかは知らないが
お前の道楽に付き合っているほど、俺等は暇では無いんだ
月居・蒼汰
サフィーくん(f05362)と
望むように振る舞ったつもりはないけど
俺達のことだって、元から生かして帰すつもりなんてなかっただろう
願いを叶えたという眼鏡の持ち主達が、今も五体満足でいるとは思えないし
いずれにしても、よくわからないゲームはここで終わらせる
攻撃は煌天の標で
従僕を巻き込みつつ死角からフェイントっぽく撃ったり
サフィーくんみたくクールに、眼鏡映えを意識しての立ち居振る舞いを
何となく、領主の気を引いたり油断を誘ったり出来ないかなって
引っ掛かったら隙をついて更に仕掛けていく
俺達を玩具みたいに箱にしまえると本気で思ったなら大間違いだ
下らない遊びに付き合わされた眼鏡も全部、一緒に骸の海に送ってやる
●
毛足の長い絨毯に、血の匂いが染み込んでいた。
「ここまで大分時間をとられたが、随分と趣向を凝らす辺り、暇なのか?」
眼鏡の奥、サファイアンブルーの瞳を細めてサフィー・アンタレスは息をついた。滲むのは呆れであったか。血と剣戟の満ちる戦場でも、青年の気怠げな様子は変わらなかった。
「ーーふふ、そうね。暇では無いのよ。ただ、随分と飽きていただけのこと」
だからこそ、と老獪なヴァンパイアは笑う。
「愉しみは必要でしょう? 愉悦も喜悦も必要でしょう。ーー楽しみの無い時は、随分と飽くものよ」
歌うように告げる老獪なヴァンパイアは、サフィーを眺めるとゆるり、とそのまま視線を月居・蒼汰へと向けた。
「えぇ、今日は本当に楽しい日よ。私の好む顔で、私に挑もうという子たちが集まって来たのだから」
ぴしゃり、ぴちゃり。
悠然と歩くヴァンパイアの手に、短剣が握られる。
「望むように振る舞ったつもりはないけど、俺達のことだって、元から生かして帰すつもりなんてなかっただろう」
真っ赤な絨毯。
今までの犠牲者たちで染め上げて来た訳ではなくてもーーこうして、抗うことさえ出来ずに殺されてしまった人々も沢山いるのだろう。
(「願いを叶えたという眼鏡の持ち主達が、今も五体満足でいるとは思えないし」)
眼鏡の塚。
パワーワードに推されて見に行った先だったけれど、弔われていたのが「眼鏡」の方であれば、体は弔われもしなかったのか。
「いずれにしても、よくわからないゲームはここで終わらせる」
息を吸う。まっすぐに女主人を見据え、蒼汰は告げた。いつもとは違う視界。ハーフリムの眼鏡の端で、サフィーの衣が靡いた。
「お前がこの地を支配してどれ程かは知らないがーーそうだな、戯れはここまでだ」
告げる、言葉と共に前に出たからだ。たん、と踏み込みと共に腰の剣に手をかける。二歩目で一気に距離を詰める。先に動いたサフィーを追うように、女主人の視線が向いた。
「終わりにできるかしら? ふふ、大丈夫よ。私が道具箱に詰めてあげるから」
瞳が向かう先が、剣先よりは顔であるのはーーいっそ趣味か。それとも侮られたか。
「別に、どっちだろうが」
呟き落として、最後の踏み込みをサフィーはかける。真っ直ぐに距離は詰めない。弧を描くようにして、間合いを得る。
「さぁ、ゲームをしましょう」
斬り合うには未だ届かぬ場所。だがそれがーー。
「……――!」
サフィーの、領域だ。
抜き払う魔法剣が青を帯びる。刀身に指を滑らせれば、ルーン文字が展開される。ふわり、と黒髪が揺れーー次の瞬間、青年の抜刀と共に蒼白い炎が舞い上がった。
「な……!」
斬撃より先に、蒼炎が行った。帯のように揺れる熱の中に、サフィーは迷わず踏み込む。魔術士たる青年が、己が炎に焼かれるなどあり得ぬが故に。
ーーギン、と振り下ろす一撃が女主人の短剣とぶつかった。火花が散り、剣を合わせたそこから蒼炎が零れる。
「そう、炎を扱うというのね。あなたは」
「……、わざわざ説明する理由があるとも思えないが」
ふ、と息を落とす。一瞬、力を抜く。当たり前のように押し込んできた相手に、僅か、身を逸らし身を、一度低めた。
「そこまでだ」
ひゅ、と素早く突き出した一撃がヴァンパイアの肩に沈んだ。血がし吹き、ぐら、と女主人が身を揺らす。
「ぐ、ぁ……ふふ、ふふふふ。そう、痛み。この痛みを齎すあなたたちであれば。えぇ、楽しみにも戯れにもなりましょう!」
歌うように告げたヴァンパイアが手を伸ばす。指先から血が溢れ、床に倒れたままでいた従僕たちがゆらりと立ち上がる。
「変わりなさい、我が短剣よ。ーーそして、立ち上がりなさい、我が僕よ」
流れ落ちた血で、己の剣を真紅の長剣へと解放させたヴァンパイアは艶やかな笑みを浮かべて言った。
「さぁ、私の役に立ちなさい」
「サフィーくん!」
起き上がったレッサーヴァンパイアたちが一斉にサフィーへと飛びかかった。警戒を告げる蒼汰の声と共に、身を横に振る。
「左で……!」
「わかった」
短く答えた先、半ば反射的に剣を振る。右から迫っていた波はーーだが、眼前で光に撃ち抜かれていた。
「来たれ、宙の導きよ」
煌天の標。
戦場へと向けた指先が敵を示す。蒼汰の足元、多重展開された魔法陣が光を帯びる。撃ち出されるは月と星の加護を宿した魔法の矢だ。
「ァアアアアア」
「ルグ、ァアアアアア!」
撃ち抜かれればその分、レッサーヴァンパイアたちの視線はこちらに向く。一瞬だけ、感じたサフィーの視線は、だが前に帰った。どうにかなるだろうとそう思ってくれたんだろうな、と蒼汰は思った。
「とにかく、まずはこの数を、だけど」
強さで言えばそんなに強くは無い。ただ、完全に倒しきらなければーー多分、また起き上がって来る。
(「そうだとしても、慌てるよりは……」)
すぅ、と息を吸う。きつく拳を握るよりは、緩く構えて。
(「サフィーくんみたくクールに、眼鏡映えを意識しての立ち居振る舞いを」)
息を落とすようにして、つい、と眼鏡を上げーー飛び込んでくる従僕へと光の矢を放った。
「ルグァア、ァアア……!」
まずは正面。分かりやすく、こっちに来た従僕たちにこちらも動く。駆けた程度で、目測を誤るような力じゃない。正面、向けた掌と共にふわりと羽が舞いーー力は、放たれた。
「あら、随分と遊んでくれているのね。私の可愛い子たちだというのに」
困ったこと、と息をつく女主人は、従僕を盾とする。だというのに、ひどく楽しげに見えるのは蒼汰の見せた姿を気に入ったのか。
「でも、えぇ、いいわ。勿体ない子たち。あまり傷をつけないで、道具箱もしまいたいというのに」
行きなさい、と従僕たちに囁く。
飛びかかる敵を魔法の矢で撃ち抜き、静かに蒼汰は告げた。
「ーー別に、遊んでいたわけじゃない」
キュイィイイン、と光が駆けていた。従僕たちを撃ち抜き切っても尚、ただ一筋残った星が向かうはこの地の闇。ヴァンパイアの心臓。
「な……!?」
一撃は標であるが故に。
「く、ァアアア……ッそう、私に届けるつもりで……っ」
「……」
その声に、蒼汰は答えはしない。ただ敵だけを見据える。
「ふふ、ふふふふふ。あぁ、本当に楽しいこと! ここのところ、私を私と知って来る子ばかりで飽きていたところなのよ」
あぁ、だから! とヴァンパイアは叫んだ。薙ぎ払う長剣がサフィーの腕を裂く。構わず切り込む彼を狙う追撃を蒼汰は弾く。
「俺達を玩具みたいに箱にしまえると本気で思ったなら大間違いだ」
「眼鏡なんて、特別意識するものでは無いだろう。生活に必要だから。ただそれだけの物に、随分と執着する意味が俺には分からない」
は、と息だけをサフィーが落とす。分かりやすく、女主人が眉を吊り上げる。
「あなた……」
低く唸るような声にサフィーは視線を上げた。
「眼鏡の墓の意味やいつか見たのがどういう奴だったのかは知らないが、お前の道楽に付き合っているほど、俺等は暇では無いんだ」
「下らない遊びに付き合わされた眼鏡も全部、一緒に骸の海に送ってやる」
金の瞳で、真っ直ぐにヴァンパイアを見据えて蒼汰は告げた。
深き闇の中にあってなお、蒼白い炎と光は届くのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
老獪という吸血鬼…
赦す事は出来なくても、少し可哀想な気はする
…同じ目線や気持ちで
共に分かち合う相手は居なかったのだろうか…
僕は弓を手に森域水陣
射る矢には破魔も乗せ
自身の足元へも森域水陣を放ち強化と結界を
攻守で第六感にも従い
見切りで回避やオーラ防御
可能範囲で援護射撃も行おう
従僕達は…使われる事を選んだのか
彼らへ安寧を祈りながら
レッサーヴァンパイアへ浄化の矢を射っていく
纏まっていれば範囲攻撃で
主の方の血による変化は浄めるように
短剣や全身の血液を洗い流す様にスナイパーで狙う
此の地の過ぎたる恐怖や欲に終焉を
願わくば真っ直ぐな者が正しく在れますように
…ヴァンパイア達も、散った命も、安らかに眠れますように
ノワール・コルネイユ
全く。酔狂な遊びに付き合わせてくれたものだな
だが、貴様が楽しんでくれたなら何よりさ
良い冥土の土産、それとも地獄の渡し船の船賃か…
そのどちらかにはなるだろう?
ドレスの中に仕込んだ、二本一対の短剣
貴様を討つにはこいつで充分
寧ろ頼もしいにも程があるぐらいだ
周囲の攻撃の合間を縫って懐まで踏込み
兎に角、手数で押し殺しに掛かる
距離を空けさせない様に張り付き
仲間の追撃の機会を作れれば重畳
隙あらば首を掻き切ってやる
調子に乗り過ぎたな、吸血鬼
貴様が羽目を外してくれたお陰で私達が尻尾を掴めた
戯れって奴は過ぎればその身を滅ぼす
其れはいつだって、何でだって同じだ
其れすら見落としていた貴様は、到底領主の器ではあるまいよ
●
剣戟と共に、火花が散っていた。短刀と長剣を使い分け、斬り結ぶ女主人のドレスが揺れる。真紅の衣は、流した己の血さえ利用したものだ。享楽を口にし、微笑を浮かべどもヴァンパイアとしての力は強いのか。
「あぁ、本当に。本当に、久しぶりね。ここまで愉しいことは」
ぴしゃり、と女主人の足音は血に濡れる。従僕たちが溢した血か。毛足の長い絨毯は、宴で見たものと然程変わらないというのに、ヴァンパイアの足音ばかりを響かせていた。
「本当に。私を私と知って、会いに来る子ばかりで飽きていたところだったのよ」
ヴァンパイアをヴァンパイアと知ってーー尚、街の人々は、村の人々はやってきていた。招待状を受けた、という事実もあるだろう。だが、実際そこにあったのは脅迫めいた事実だ。
それでも、命をかければ助かる何かがあると信じて此処まで来ていた。
「楽しませてくれた分は、ちゃんと叶えて上げたけれど」
ほう、と息を落とす老獪なヴァンパイアに、ノワール・コルネイユは息をついた。
「全く。酔狂な遊びに付き合わせてくれたものだな」
黒髪を揺らし、ドレス姿の娘は黙っていればまずこんな場所は似合いはしない。足先が沈む床からは血が滲み、傷口を晒しながら微笑み女主人からは花のように甘い血の匂いがしていた。
「老獪という吸血鬼……」
それは、アカデミックガウンを羽織る泉宮・瑠碧も同じであった。薄く唇を開いた少女の瞳は、僅か憂いを滲ませる。
あの女主人が「何を」したかは、瑠碧も知っていた。宴で漏れ聞いた話、大切な人を探して来た人の姿を知っている。
(「赦す事は出来なくても、少し可哀想な気はする」)
長きを生きている、とヴァンパイアは言う。飽きるほどに、と。
「……同じ目線や気持ちで、共に分かち合う相手は居なかったのだろうか……」
誰に告げる気もない、少女の言葉は唇から落ちて。ふふ、と甘い笑みを浮かべた女主人は、ならば私の道具箱にいらっしゃい、と笑う。
「戯れ程度にはなるでしょうから。えぇ、きっと楽しめるわ」
「楽しみ、な。貴様が楽しんでくれたなら何よりさ」
言の葉の意味兄も気がつかぬまま、女主人が浮かべた笑みにノワールは息をつく。ため息めいた吐息は、やがてゆるりと静かな笑みに変わる。
「良い冥土の土産、それとも地獄の渡し船の船賃か……そのどちらかにはなるだろう?」
口の端ひとつ、笑みを浮かべればヴァンパイアの瞳が細められた。
「思い上がったこと」
瞬間、膨れ上がった殺気と共に女主人は床を蹴った。たん、と踏み込む足音から水音が消える。瞬発の加速。頬に風を感じると同時に、刃がノワールの首をーー捕らえる
「これで終わりよ……っな!?」
ーーだが、血は飛ばない。代わりに火花が散る。ギン、と重く響いた音は刃を受け止めた音だ。
「あなた……」
ばさり、とノワールのドレスが靡いていた。一瞬、晒した足はベルトと共に隠れ、仕込んでいた短剣を引き抜いた娘はヴァンパイアの一撃を受け止めながら悠然と笑う。
「貴様を討つにはこいつで充分。寧ろ頼もしいにも程があるぐらいだ」
「……ッ、準備が良いこと」
ガン、と鋼の音が重く響いた。打ち付けるようにして一度、ノワールの刃を弾くようにしてヴァンパイアが距離を取る。
「変わりなさい、我が短剣よ。そして、役立ちなさい」
短剣に手を滑らせ、引きぬけば女主人の手にある刃は真紅の長剣に変じる。ひゅん、と振り抜けば飛び散った赤を合図とするように、従僕たちが起き上がってきていた。
「ァア、ァアアアアア」
「ァア、ル、ァ、グァアアアア……!」
「ーー」
そこに、宴に見た姿はない。意思も、言葉も無くーーただ、呻き声と共に飢えを告げるレッサーヴァンパイアたちが、獣のように飛んだ。
「ルァアアアアアア!」
向かう先は、ノワールだ。
「ーー」
真正面、飛びかかってきた相手を薙ぎ払う。胴を切り裂き、傾ぐその身を蹴り飛ばす。瞬間、声が届いた。
「行ってくれ」
告げるそれは、瑠碧のものだ。
短く告げられた言葉に、頷く代わりにノワールは身を前に飛ばす。身を低め、転がるように前に出る。たん、と手をついて、軽やかに身を宙へと飛ばせば見えたのは弓を引き絞る少女の姿だ。
「全てを浄めし木々の息吹よ……」
引き絞る弓に、宿るは森の気を織り込んだ水の矢。瑠碧の足元、多重展開された陣から青い光が溢れる。
「我が存在を導に、緑の加護を此処へ」
一矢、放たれた矢が天井にて無数の青き力へと変じた。雨のように一気に降り注ぐ矢は、ノワールを追うレッサーヴァンパイアたちを射抜いていた。
「ァアアアア」
「ルグァアアアア!?」
ぐらり、と倒れ、崩れ落ちていけば一撃の主を探す。ぐん、と向けられた瞳に、瑠碧は床を蹴った。走りながら次の矢を番える。
(「従僕達は……使われる事を選んだのか」)
そこに言葉はなく、ただ呻くような声と血走った瞳だけがある。美しい顔に眼鏡を乗せて。
「ルァアアアアア!」
「ーー安寧を」
祈るように告げて、弓を引く。ひゅん、と一撃。正面の相手を射抜き、そのまま駆け込んだ足を、きゅ、と止めた。
「此の地の過ぎたる恐怖や欲に終焉を」
足を引く。強く、弓を引く。構える水の矢が狙うのはーーヴァンパイアだ。
「願わくば真っ直ぐな者が正しく在れますように」
……ヴァンパイア達も、散った命も、安らかに眠れますように。
願うように、祈るように瑠碧は一矢をーー放った。
ひゅ、と水の矢が向かった。剣戟の狭間、斬り結ぶノワールが、踊るように一度足を引く。派手な剣戟。薙ぎ払いと共に身を回す。あら、と笑うヴァンパイアが踏み込めばそこに一撃がーー届いた。
「……っく、ぁああ!」
浄化の矢が深く、ヴァンパイアに沈む。蹈鞴を踏んだそこに、迷わずノワールは斬り上げた。
「調子に乗り過ぎたな、吸血鬼」
切っ先が、狙うは首元。
舞うように、一刀で斬り上げ逆手に持った剣は突き立てる。庇うように構えられた長剣の上を滑らせて。
「ぁあ……ッあなた、たちは。狙って……!?」
「貴様が羽目を外してくれたお陰で私達が尻尾を掴めた」
戯れって奴は過ぎればその身を滅ぼす。其れはいつだって、何でだって同じだ。
飽きていたと、趣向を凝らしたと言っていたが。その遊びが、弄んでいた者たちが「今」を引き寄せたのだ。
「其れすら見落としていた貴様は、到底領主の器ではあるまいよ」
ザン、と刃が沈む。飛び散った赤の向こう、ギリ、と女主人が唇を噛む。叩きつけられる殺意に、二人は武器を構え直した。溢れた血で己を強化しようとも、永遠にその血を流し続けることはできないのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒蛇・宵蔭
漸くお会いできました。
貴方がこの愉快な宴の主ですね。
ほどほど楽しませていただいたので、是非、御礼を。
さあ、鉄錆、お楽しみの時間ですよ。
今回は極上の獲物ですから、やる気が出るでしょう?
短剣の軌道を見定め、弾くように鞭を撓らせ、攻防同時に展開。
着かず離れず相対します。
相手は本気を出した吸血鬼、無傷では済まないのは承知。
苦痛は耐え、失われた生命力は啜って喰らえば良い。
こちらが力不足となるにせよ、優勢にせよ、彼女を充分に近づかせ、血界裂鎖で無数と貫くのが本命。
護りの力を砕き、傷口を抉る――血の返礼、如何でしょう?
盤上で遊ぶだけの貴方が、ここに引き摺り出されてしまった時点で敗北……という事です。
八上・玖寂
着いて来られた男性は一般人の介抱の方へ行きましたかね?
それならそちらはあまり気にしないようにしつつ。
【忍び足】で【目立たない】ように味方の剣戟にも紛れたりしながら
『凶星、黄昏に瞬くとも』でご婦人の腕でも狙ってみましょうか。
不意打ち程度にはなるでしょうし、多少なりとも攻勢も削げるでしょう。
欲を言えば狙うのは首でもいいのですが……派手なのは不得意なものですから。
ご機嫌麗しゅう、眼鏡のお好きなご婦人。
享楽の結果で家畜を生かすも殺すも結構ですが、残念ながらこちらも仕事なものでして。
この眼鏡の奥に何があるかは、はてさて。
※絡み・アドリブ歓迎です
●
ぴしゃり、と零れ落ちた血が跳ねた。毛足の長い絨毯ですら飲み干すには足りぬのかーーそれとも、女主人の纏う衣が靡いただけというのか。深い血の匂いと共に、火花が重なり、合わせた剣を手に老獪なヴァンパイアは笑っていた。
「あぁ、こんなにも血を流したのは久しぶりね。痛みも。そう、これが痛みだったわね」
血を、その身に纏う分、衣の隙間から見える傷はぱっくりとただ開いていた。骨を晒す傷口を撫で、口元浮かべる笑みはこの状況にあっても強者の余裕であったか。長くこの地に住まい、思うがままに過ごしてきたヴァンパイアにとって、己を追い込む者がいるという事実さえ喜悦となるのか。
「ふふ、ふふふふ。愉しいこと」
零れ落ちた笑みに、足先が血濡れの床に沈んだ。ぴしゃり、と届く水音に男は静かな微笑を浮かべていた。
「漸くお会いできました。貴方がこの愉快な宴の主ですね」
口上は恭しさを見せるようで、一欠片も乗らぬ。血のように赤い唇に笑みを浮かべ黒蛇・宵蔭はつい、と色眼鏡をあげる。
「ほどほど楽しませていただいたので、是非、御礼を」
白咳に笑みを浮かべ、だが僅かに覗いた真紅の瞳は何処までも感情の色を窺わせることも無いままに。
「ーーふふ。良いのよ。私の道具箱に収まっていっても。きっと戯れにはなるでしょう」
「ご冗談を」
さらりと告げる。男の手に武器が落ちる。ゆるり、と弧を描き、落ちた鞭は水音と共に床を叩きはしない。
「さあ、鉄錆、お楽しみの時間ですよ」
有刺鉄線に似た姿をした鞭は、戦場に鈍色を晒し零れ落ちた紅を喰らったか。喜悦を浮かべていたヴァンパイアが僅かに瞳を細める。
「あなた……」
「今回は極上の獲物ですから、やる気が出るでしょう?」
低く響くその声に応えることも無いままに、宵蔭は己の武器に告げーー美しい、笑みを浮かべた。
「ふふ、ふふふふ。良いこと、けれど私を獲物と告げるなんて」
ぴしゃり、ぴしゃりと聞こえていた足音がふいに、消えた。瞬発の加速。たん、と床を蹴ったヴァンパイアの体が風と共に迫る。
「思い上がったこと」
「ーー」
眼前、沈み込んだ女主人の刃が薙ぐように腹に届いた。捌くようにそのまま、斬り上げて来る刃に宵蔭は鉄錆を持つ腕を落とす。刃そのものを払うより先に、女主人の腕を打ち据えれば白刃が抜けていく気配と共に女主人の胴が開く。
「なーー……!」
「思い上がり、ですか」
ふ、と吐息を溢す。腹から溢れた血に、やれ、と息をつくだけにして。僅か身を倒すようにして腕を振り上げた。間合いを引き裂いたのは、鈍色の鞭だ。
「……っく、ぁ……っ」
ヴァンパイアの体に有刺鉄線が食い込む。打ち据える、というよりは引き裂くような力と共に、宵蔭は腕を引く。僅か、身を浮かせた女主人が、ぐん、とこちらを向く。無茶な体勢から突き出された剣に、顔だけを逸らす。はらり、と黒髪が舞う。
「おや」
「ふふ、ふふふふ良いわ。私の道具箱に収まるように、少し見繕って上げましょう」
護りなさい、とヴァンパイアが告げる。
「我が命の源よ!」
零れ落ちた血が、衣へと変じる。豪奢なドレスを靡かせ、タン、と床を蹴った女主人の刃に宵蔭は腕を振るう。後ろに一度飛ぶようにして、振るった鞭は真紅に変じていた。ヴァンパイアの血を啜ったのだ。弧を描く牙が変じたのに女主人は気が付いたか。
「そう。あなたは、この私を獲物にするというの。豪胆なこと!」
ひゅん、と放たれた薙ぎ払いに宵蔭は鞭を合わせる。剣戟は火花を散らし、強化した体で踏み込んできたヴァンパイアが鉄錆を押し込む。は、と笑い、踏み込んできたヴァンパイアが加速を叩き込んだ。
「その傲慢、私が砕いてあげましょう」
深く、間合いへと踏み込んできたヴァンパイアが笑う。ひどく愉しげに。
「獲物は、あなたよ」
「そうですか」
白い指先が誘うように伸ばされた瞬間ーー影が、落ちた。
「……!?」
レース用に繊細な影。それが「何」であるかと、疑問に思った時にはもう遅い。
「我が血よ――捉え、縛り、裂け」
それは血で描かれる卦。間合い深くに踏み込んだヴァンパイアを捕らえる蜘蛛の巣。護りの力を砕き、傷口を抉る。
「な……」
「――血の返礼、如何でしょう?」
静かに告げた瞬間、天網が老獪なヴァンパイアを貫いていた。
「ク、ァアアアアア……ッこの、ような。私が、こんな……!」
豪奢な衣が散る。舞い上がっては血に戻る。降り注ぐ血の雨の中、ひゅ、と一度鞭を振るって鮮血を弾く。
「盤上で遊ぶだけの貴方が、ここに引き摺り出されてしまった時点で敗北……という事です」
悠然と告げた宵蔭に、ヴァンパイアが唇を噛む。ぶわり、と膨れ上がった殺気と共に、構えた剣が鈍い色を放つ。
「随分と、随分と今宵の客は思いあがること……! 私が、手ずから似合うように変えてあげま……」
あげましょう、と振るう筈の腕が空で止まっていた。振り下ろす一撃が届かない。代わりに、キリリリリ、と引く「何か」がヴァンパイアの腕をーー落とす。
「ック、ァアアアアア……ッ誰が、こんな!」
「ーーあぁ、腕が落ちましたか」
つい、と男は眼鏡をあげる。白い手袋が引く鋼糸が、ぼとり、と落ちた女主人の腕から抜けて行く。
「首を狙っても良かったんですが……派手なのは不得意なものですから」
女主人の腕一つ、さらりと落としながら八上・玖寂は静かに告げていた。それは、己に気が付いていない相手を確実に狙うもの。鋼糸を引き寄せ、血濡れの戦場にあってその身を剣戟に紛れ込ませていた男は静かに微笑んだ。
「ご機嫌麗しゅう、眼鏡のお好きなご婦人」
今更、戦場に満ちた血も落ちた腕にも驚くような身では無い。怒りも殺意も隠すことなく、叩きつけてくる相手を前に玖寂は表情を変えずに言った。
「享楽の結果で家畜を生かすも殺すも結構ですが、残念ながらこちらも仕事なものでして」
「あなた、私にこのような……!」
我が命の源よ、とヴァンパイアは叫んだ。瞬間、落ちた腕と共に舞い上がった血が女主人の腕に変わる。た、と駆けたのは同時だ。
「思い上がるのも、ここまでにすることね!」
薙ぎ払う刃が、浅く胸に届く。暗器の間合いを近接ならば潰せると思ったか。ーーだが、踏み込んできた相手に玖寂は踏み出す。腕を伸ばす。女主人の肩を掴み、そのまま飛び越すようにして後ろに回る。キリリリリ、と暗糸が空を舞った。
「な……!?」
払うようにヴァンパイアは残る腕を振るう。キン、と刃が糸を掴み、見つけたと笑うそこを滑るように糸が走った。
「ッァア、ァアアア!」
暗器は、刃のようにヴァンパイアの肌を切り裂く。怒りと共に、己の背後へと突き立てる筈の一撃は宵蔭の振るう鞭に阻まれる。
「っく、ぁあ、本当に、本当に久しぶりだこと。これほどまでに私に立て付く者たちがいるなんて!」
流す血を衣として纏えずに、ばたばたと血を流す傷口を晒しながら老獪なヴァンパイアは笑った。
「私の趣向に沿ったものでなければ、今頃その首事落としていたものを」
その趣向で、この状況を招いたのですが。
ひっそりとひとつ息をついてーーさりとて、それを伝えるだけの義理など玖寂は持ちはしない。
「この眼鏡の奥に何があるかは、はてさて」
血濡れの戦場は、広間を染め上げるようにして加速していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
姫城・京杜
與儀(f16671)と
道具箱に…どうやって詰めるんだ?(きょと
できるならやってみろだぞ!(眼鏡くいっ
え?好きにって…俺の役目は與儀を守る事だろ
…守護者がかっこよく…
與儀がそう言うなら頑張る!(張り切り
地を蹴り敵前へ
真紅の長剣は、天来の焔で防ぎシールドバッシュ見舞い、焔紅葉で絡め取る
敵に隙生じたら、焔連ね握り命中率重視【紅の衝動】叩き込む!
どうだ、俺は器用なんだ(どや
與儀の守護者なんだから強くて当たり前だろ!
ああ、守るからな!
敵弱った気配あれば、UC攻撃力重視に切替え仕留めに
でも與儀守る事は絶対最優先
與儀に攻撃向けば躊躇なく身を挺し盾となる
怪我したって全く構わねェ
だって俺は與儀の守護者だからな!
英比良・與儀
ヒメ(f17071)と
ヒメ、聞いたか
道具箱に詰められるらしいぜ
そう簡単に、できると思われてるのは気に入らねェなァ
ヒメ、好きに戦って来いよ
俺がサポートしてやるから
俺はお前が、俺の守護者が格好良ォく戦ってるとこが見てェなァ
守らなくていい、とは言わない
それを言うと縛る
でも守れというのも縛る
俺はもうちょっと、自分の好きな儘にしてほしいができねェもんなァ
おだてて乗せるってことに思うところはあるんだが…ものはためし
すぐどやる…
…調子に、乗り過ぎんな
お前が格好良くやれるのは知ってた
はいはい俺の守護者つよいつよい
守られて、やるよ
だから、仕留めちまおうな
眼鏡好きなら眼鏡にやられるのもいいだろと嵐に変えて向ける
●
「ヒメ、聞いたか。道具箱に詰められるらしいぜ」
床に零れ落ちていた血が波打つ。波紋を描くようにしてむせ返る血の匂いに、英比良・與儀は瞳だけを細めた。
「道具箱に……どうやって詰めるんだ?」
そんな彼の言葉に、傍らの守護者はキョトン、とした。ふ、と吐息ひとつ溢すようにして與儀は笑った。
「そう簡単に、できると思われてるのは気に入らねェなァ」
「できるならやってみろだぞ!」
くい、と年嵩の青年ーー姫城・京杜は眼鏡を上げて見せた。口元、浮かべた笑みは不適に。その顔に、ゆるりと女主人は微笑んだ。
「ーーふふ、ふふふ。大丈夫よ。私がちゃんと、収まるように整えてあげるから」
さぁ、と歌うような声と共に、ゆらり、とヴァンパイアの体が揺れた。来る、と顎を引き、與儀は傍らに声を放つ。
「ヒメ、好きに戦って来いよ。俺がサポートしてやるから」
「え? 好きにって……俺の役目は與儀を守る事だろ」
首を傾げた京杜に與儀は小さく笑った。
「俺はお前が、俺の守護者が格好良ォく戦ってるとこが見てェなァ」
「……守護者がかっこよく……」
かっこよく、とは格好良い訳で。
そんなところを見たいと言われた訳で。
「與儀がそう言うなら頑張る!」
ぱ、と顔を上げた京杜が眼前の相手を見据え、床をーー蹴った。ばさばさ、と外套が靡く。勢いよく踏み込んでいけば、あら、と女主人の声が笑った。
「ゲームとしましょうか。負けても優しくしてあげるわ」
ひゅ、と突き出された刃が鮮血を纏うようにして、長剣に変わった。浅く、頬に傷が入る。ーーだが、それだけだ。突き出しから一気に、踏み込んできた女主人が身を回すように剣を振るう。なぎ払いに、ひゅん、と京杜は腕を振るった。
ーーギン、と刃が焔に受け止められた。白い手袋から零れ落ちた焔が、腕を切り落とすつもりであったヴァンパイアの一撃を受け止める。な、と僅か声が落ちた。
「あなた、その炎は……!」
息を飲むヴァンパイアに京杜は、ふ、と口元笑みを浮かべた。一撃、受け止めたからというよりはただーーそう。かっこよく、だ。
(「だから……」)
腕を、振るう。握る拳で、剣を弾く。音させるには足らない。それでも、手首の内側、そこに焔の盾ごと叩きつければ、ヴァンパイアの体が僅かに浮いた。
「っく……! あなた、随分と」
傾ぐ、体に女主人が床を蹴る。取り直すはずの間合いはーーだが、つ、と腕を取られるように止まった。
「これは……!?」
ピン、と張った糸に。瞬間、踊る焔にヴァンパイアは気がつく。動きを、取られたのだと。
「このような……!」
ひゅ、と真紅の長剣を振るう。強化された刃は鋼糸を切り裂きーーだが、踏み込みは京杜の方が、早い。
「宿れ焔、我が神の拳に」
瞬発の加速。飛ぶように、前に出た京杜の拳がヴァンパイアに届いた。
「っく、ぁあああ……!」
衝撃に女主人が身を浮かす。纏う衣が一瞬、血へと帰る。ばしゃん、と派手に見えたそれに、きゅ、と足を引き京杜は構えを取り直す。
「あなた、あなたはまた、炎など……!」
「……」
怒号と共に、女主人は跳ねるように身を起こす。そのまま、一気に床を蹴ろうとしたヴァンパイアの周囲の空間を與儀は歪ませた。一瞬、軋ませる。空間に走った罅は、少しばかりのサポートだ。
(「ま、もっとも」)
あの程度の迎撃では、ヒメには届いちゃいねェな。
ひっそりと、與儀は息をつく。
姫城・京杜は確かに己の守護者で。守らなくていい、とは言わない。
(「それを言うと縛る」)
でも守れというのも縛る。
この身は、少年の姿を得てはいるが神であり、守護者も神である。美しい炎。踊る赤。
「俺はもうちょっと、自分の好きな儘にしてほしいができねェもんなァ」
おだてて乗せるってことに思うところはあるんだが。ものはためし、とした結果ーー……。
「どうだ、俺は器用なんだ」
どや、とした京杜に與儀は息をついた。
「すぐどやる……。……調子に、乗り過ぎんな」
お前が格好良くやれるのは知ってた。
落とした声は届いていたか。戦場にあって、振り返ることだけは無いままに京杜の声が耳に届く。
「與儀の守護者なんだから強くて当たり前だろ!」
「はいはい俺の守護者つよいつよい」
ひらひら、と手を振っておく。
「ああ、守るからな!」
力強く響いたその声に。重ねて響く剣戟に、薄く開いた唇は小さく、言葉を紡いだ。
「守られて、やるよ」
「ーー守る、守られるだなんて」
言の葉は、先んじて女主人に拾われる。は、と笑うヴァンパイアが、床を軽やかに蹴った。京杜を抜いてくる気か。
「あぁ、もっと見せて頂戴。愉しい、嘆きを!」
さぁ、と踏み込みと同時に声を響かせる。
「立ち上がりなさい、我が僕よ」
起き上がった従僕の屍たちが、京杜に腕を伸ばす。女主人の方は、た、と一気に與儀へと来た。
「ーーその顔を、見せて頂戴」
「ーー」
笑う女主人と共に、長剣が滑り込む。ーーだが。
「與儀」
呼ぶ声と同時に、焔が舞った。鋼を打つ音は聞こえない。代わりに、飛び込んだ長身が、赤く染まる。
「ヒメ」
「だって俺は與儀の守護者だからな!」
腕を伸ばして止めるより、飛び込む方が早かったのか。従僕たちに喰らいつかれたか。腕を赤く染めたまま、刃を受け止めた京杜の衣が揺れる。滴り落ちる赤は、血で。
「あなた……」
は、と笑った京杜が一気に踏み込む。迷わず来た姿に、落としかけた息を與儀は吸う。強く握りかけた拳をといて。
「だから、仕留めちまおうな」
眼鏡を、手に掛ける。ゆるりと引き抜いて、軽く頭を振るう。
「眼鏡好きなら眼鏡にやられるのもいいだろ」
ぴん、と弾くようにして放り投げれば與儀を飾っていた眼鏡が嵐へと変わり、ヴァンパイアに襲い掛かった。
「っく、ぁあ……!」
暴風の中、巻き込まれるようにして従僕たちが崩れて行く。その風の中、迷わず行く守護者の姿を與儀は見ていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
双代・雅一
外した眼鏡片手に吸血鬼の女を見つめ。
随分と楽しそうな事だ。楽しみながら死ねるなら本望だろう。
この眼鏡、か?
ああ、折角だし最期までその大層な趣味に付き合ってやろうか。
――なぁ?(背中越しに眼鏡手渡し)
(奪う様に受け取りながら)
この下らん遊戯に付き合わされる身にもなってみろ……!
俺の事だけじゃ無い。貴様に弄ばれた民の事だ!
同じ顔ならより興味を強く抱く方に意識が傾く心理を狙う。
眼鏡をかけた惟人が囮として真正面より向かって捨て身のランスチャージ攻撃を。
その隙に雅一で氷蛇槍より全力の冷気を叩き付け、彼女を覆う血液凍らせ封じる。
「その歪んだ視野は眼鏡では矯正出来まい」
「輸血は無しだ。安楽死など許さないさ」
●
戦いの中、片腕を失った女主人は肩口から指先までを赤く染めていた。零れ落ちた鮮血で、己が腕を見繕ったか。艶やかな唇に笑みを浮かべ、残る血を衣のように纏い直すと、短剣を手に笑みをーー刻む。
「私の趣向に沿ったものたちが、私の喉元に届こうというだなんて」
ばさり、と衣が揺れた。白い肌から除く傷口を晒したまま、血が流れないのは老獪なヴァンパイアはそれを操る術を持つからか。
「随分と楽しそうな事だ。楽しみながら死ねるなら本望だろう」
つい、と指先が眼鏡にかかっていた。緩やかに眼鏡を外せば、あら、と女主人の声が跳ねた。
「勿体ないこと。そのままでいれば、私の道具箱に綺麗に入れてあげたのに」
「道具箱、か」
玩具ですらないのか、使う気があるから道具であるのか。軽く息をついた双代・雅一に、ふふ、とヴァンパイアは笑った。
「えぇ、そう。手にしているそれをもう一度つければ。ーーあぁ、けれど。私が似合うように誂えても……」
「この眼鏡、か?」
女主人の言葉を最後まで聞く事も無いまま、雅一は静かに笑う。吐息ひとつ、溢して浮かべた笑みは何処までも美しくーー。
「ああ、折角だし最期までその大層な趣味に付き合ってやろうか」
とん、と背を合わせるように足をひく。するり、と向けた手は指先から触れ合うようにひとつの影を生む。
「ーーなぁ?」
最初に見えたのは、青い髪であった。ふわりと髪が揺れ、ゆっくりと青の瞳が開かれる。血濡れの戦場が、その温度を下げて行く。
もう一人の双代。
双代惟人の姿がそこにはあった。
「あなた……まさか、ふたり?」
目を瞠るヴァンパイアの前、背中越しに渡された眼鏡を奪うように受け取りながら『惟人』は言った。
「この下らん遊戯に付き合わされる身にもなってみろ……!」
ざ、と眼鏡をつけると、軽く惟人は頭を振るった。ぱさり、と髪が揺れ、眼鏡越しの瞳が射るように女主人を捉えた。
「俺の事だけじゃ無い。貴様に弄ばれた民の事だ!」
「ふふ、ふふふふふ。そう、あなたたち、本当に二人なのね。あぁ、愉しいこと!」
たん、と女主人が床を蹴った。ばさばさ、とドレスが靡き、叩き込まれた加速と共にゆるりと笑う。
「護りなさい、我が命の源よ」
波紋を描くように揺れたのは床だ。女主人が流した血が、ヴェールへと変わる。た、と短く刻まれた跳躍に、食い殺されて行く間合いに先に動いたのは惟人だ。きつく、握った手の中、冷気と共に氷結の槍が生じる。床を滑らせるように、真正面から飛びかかる刃にーー打ち合う。
ガウン、と重い音が響き渡った。
「ーーふふ、いいのよ。ちゃんと私は、ふたつとも同じ箱にいれてあげるから」
舞うように、振り落とされたヴァンパイアの刃が重さをかける。突き出した槍は女主人の衣を貫き、浅く腹をえぐる。ーーだが、その状態にあってヴァンパイアは槍の上を己の刃を滑らせていた。ぐ、と押し込む力に、切っ先が肩口に沈んでいく。血が溢れる。ぱた、ぱたと衣を染める痛みに、熱にーーだが、惟人は息だけをつく。
「貴様の好きにされる理由が、何処にある」
口悪く、落とした声に女主人が笑う。いつまで、そう、と甘く溢された言葉に突き出していた槍をーー引いた。女主人の短剣が滑り、だが、は、とヴァンパイアは気がつく。
「もうひとりは……」
「ーー遅い」
その言葉は、果たしてどちらのものであったか。ひゅ、と抜ける風が冷気を帯びる。女主人の背後、滑り込んでいたのは雅一だ。同じように肩口を染めて、静かに笑う。
「その歪んだ視野は眼鏡では矯正出来まい」
「輸血は無しだ。安楽死など許さないさ」
薙ぎ払う氷蛇槍が冷気を生んだ。氷結の一撃が床を凍りつかせ、斬撃と共に零れ落ちたヴァンパイアの血液を凍りつかせていく。
「く、ぁあああ、……っあなた、たちは!」
ガシャン、と凍りついた血液が床に落ちて砕け散る。喜悦を滲ませていた女主人が暴れるように振るった腕に二人は、たん、と床を蹴った。
享楽を唇に乗せ、喜悦と共に戦いを楽しんでいたヴァンパイアはぎり、と唇を噛むようにして猟兵たちを見据えていた。
大成功
🔵🔵🔵
株式会社・ニヴルヘイム
ここまで来たのですから、最後まで誠心誠意エリオット様のご活躍を以てこの宴を締め括りましょう
恐れる事はありません、エリオット様
眼鏡は品格、誇り。貴方に価値を与えるものです
ヒーローマスクである私自身を彼へ差し出し、身に付けて頂きます
ほら…力が湧いてくるでしょう、自分が何をすれば良いのか分かるでしょう
非力な支給品は脇に避けているよう予め指示を
UCでエリオット様に似合う美しい剣を誂えます
光が赤みを帯びて反射する刃が自社製品
私を通す【視力】で敵の攻撃を【見切り】、【早業】にて確実な一撃を狙います
対応しきれぬほど敵の強化が進む前に蹴りを付けましょう
…私はほんの少し力を貸しただけ、誉は彼のものでございます
●
ーーそこは、血に濡れていた。
戦場というものが、この世に存在していることをエリオットは知っていた。この地に生きる以上、戦いも争いも諍いも理解している。だがそれは、大凡、酷く一方的なものであり「戦い」では無かったのだと、今、思い知っていた。
「……れは、いったい」
願いを、叶えてもらう為に来た。この身をかけて。願いそのものよりは、招待状が来た時点で否が無かっただけだ。だからこそ、エリオットは「戦い」という場に自分が出ることになるとは思いもしていなかった。巻き込まれるのが、ではない。単純に自分はそこに至る前に積み重なる屍の方だと思っていたからだ。ーーだから。
「恐れる事はありません、エリオット様」
美しい黒髪を揺らし、彼は言う。瞳があっている筈なのに、なぜか「彼」ではなく眼鏡の方を見てしまいそうになる。
「眼鏡は品格、誇り。貴方に価値を与えるものです」
「きみは、一体……!? なんで、この状況に驚きもせずに……」
目を瞠るエリオットに「彼」は静かに微笑んでいた。差し出されたのはシンプルな、だが美しい眼鏡で。
「あ……」
「ほら……力が湧いてくるでしょう、自分が何をすれば良いのか分かるでしょう」
気がついたら、それを手にしてしまっていた。
「ーーそう。それが、あなたが見せる仕事なのね」
ゆらり、と身を揺らして女主人は立っていた。僅か、荒く落ちた息は受けた傷が体力を奪っているからだろう。血の衣の一部が凍りつき、苛立つように身を振るった老獪なヴァンパイアは、それでもゆるり、と笑みを浮かべた。
「おもしろいこと。あぁ、眼鏡の魅せる意義を、よく分かっているのね」
ピシャリ、と足音が水に濡れた。溢す吐息と共に衣を纏い直した女主人は、足先から頭までエリオットの姿をじっくりと眺め見ると、艶やかな笑みを浮かべた。
「品格と品位。確かに見せてもらったわ。ほんとうに、私の道具箱を輝かせるには丁度良さそうね」
あなた、と女主人がエリオットをーーかけられた眼鏡を見る。静かに、脇に避けて行った青年には見向きもせずに。
「……」
気配だけが静かに笑う。凪のようなエリオットの瞳を飾る眼鏡こそ、株式会社・ニヴルヘイム。社長専属秘書、眼鏡型であった。
「たたかいましょう……戦い、ましょう」
言葉はゆるやかに芯を得ていく。凪いでいた瞳が色彩を戻し、するりと伸ばされた手に美しい剣が落ちる。
『こちら、弊社の新商品でございます』
「ありがとう」
頭の中で響いたニヴルヘイムの言葉に、エリオットは応える。何一つ疑問に思うことも無いままに。眼鏡をかけた瞬間から、そう思っていたのだ。戦う為に、自分は此処に来たのだ、と。
「このままでは、いずれ前に進めなくなるから」
だから、今、前にーー飛ぶ。
たん、とエリオットの体が前に出た。一般人にしては素早い踏み込みはニヴルヘイムが所以だ。赤みを帯びた剣に、女主人は笑みを溢した。
「あぁ、良き宴だこと!」
「ーー」
振るう刃に、女主人の短剣が合わせてくる。ギン、と鋼と鋼がぶつかり合えば火花が散った。単純な力勝負には向かない。弾き上げるよりは刀身に、短剣を滑らせる。きゅ、と足を引き、ニヴルヘイム越しの視界で、刃の動きを捉える。
「あなたを、倒さなければ」
「ふふ、ふふふふふ。そう、言葉もかわせるのね。あぁ、出来の良いこと!」
我が命の源よ、と女主人が告げる。波紋を描くように血が揺れる。ぶわり、とヴェールを纏いあげたヴァンパイアは笑うように告げた。
「あなた、私のところにおいでなさい。道具箱の中身の全て、此の地の全てを任せてみたいわ」
ひゅ、と一気に間合いに来る。振り下ろす刃が浅く、エリオットを切り裂く。踊るように伸ばされたヴァンパイアの腕が、すい、と顔に伸びた。
『ーー生憎』
微笑と共に声は届く。顔へとーーエリオットのかける眼鏡へと向けられていた指先は、体勢を崩しながらも放たれた斬撃に切り裂かれる。
「っくぁ……っあなた」
それは拒絶だ。
ニヴルヘイムにとってみれば何一つ不思議では無い。己は社長専属秘書であり、行動の基準は社長命令のみ。主人を変えるなど、あり得ない。
『……私はほんの少し力を貸しただけ、誉は彼のものでございます』
誠心誠意エリオットの活躍を、その背を押すようにニヴルヘイムは告げる。その身にあった眼鏡を。似合うそれを纏わせ、背を伸ばし、長年あった疑問の解を得た彼はこの地の人々の中で初めてヴァンパイアに傷をつけた存在としてーー生きて、帰るのだ。
大成功
🔵🔵🔵
クリストフ・ポー
ふぅん…それで眼鏡(キラン
婦人は眼鏡してないし変だと思った
ゲーム好きの性格もあるだろうけど
同じ仕立てで
再演を繰り返す程の執着
初恋の面影に絡めとられた
小娘みたい真似だよね
血の剣に鎧、下級種か
僕もアンジェリカとペアで踊る様に
華麗に格好良く暴れてやろう!
そうさ
僕は混血のダンピール
でも僕は僕だ、それこそが気高き誇り
乗せられたままたっぷり楽しむといい
お嬢さん?
従僕から血を得たとはいえ無尽蔵ではない
強化され手が伸びたと思うのはフェイント
近接で僕からの贈り物(棺)さ
僕達は猟兵
処刑人にして借金獲り
そして今日は
積み上げた眼鏡達に
君がデカい代償を払う番だ
叫べ
青年の友人の行方だけ後で調べたい
借りがある
アドリブ歓迎
アルバ・アルフライラ
ああ、そうか
それは良かったな
…ならば心置き無く死ぬが良い
ふふん、矢張り用意しておくものだ
放るは革製のトランク
開き、飛び出したるは【刻薄たる獣】
命ずるは唯一つ――彼の悪鬼を、肉片残らず喰らい尽くせ
勝負を娯楽と嘯く畜生には似合いの末路であろうよ
…然し追跡するのは憎悪を与えたもののみ
下僕共が眷属として起き上がろうと獣は動かぬだろうよ
ならば、懐より取り出した石の魔力で屠るまで
痛みも呪詛も、私に届かぬと知れ
…ご婦人
最期に、一つ宜しいでしょうか?
仰々しい、演技じみた声色で微笑みながら
貴女がチェスを講じたと云う嘗ての領主
――その方を、貴女は如何なさいましたか?
如何様な応えが返ろうと、無惨な死は変わらぬが、な
●
ぴしゃり、ぴしゃりと滴り落ちる血が波紋を描く。波打つように変ずる床は、ヴァンパイアの領域であるが故か。むせ返るほどの血の匂いに、剣戟の音が混じる。鋼と鋼がぶつかり合い、多重に散った火花は二度、三度と色を変える。
「ふふ、ふふふふ。あぁ、本当に。今宵の宴は楽しいこと」
愉しい、と唇に乗せながら。喜悦を告げながらも女主人は明確な殺意を纏っていた。そこに戯れるばかりの姿は既に無くーーだが、血のヴェールを纏い、傷口を晒すヴァンパイアは己の劣勢を認めた訳でも無かった。
「私の趣向にあわせたものが、私に痛みを与える。ふふ、ふふふふ。久方ぶりの痛みも愉しいこと」
「ふぅん……それで眼鏡」
キラン、と眼鏡を輝かせて、つい、とクリストフ・ポーは上げる。
「婦人は眼鏡してないし変だと思った」
ゲーム好きの性格もあるだろうけど、同じ仕立てで、再演を繰り返す程の執着。
「初恋の面影に絡めとられた、小娘みたい真似だよね」
「小娘……。ふふ、ふふふふふ。私を小娘だなんて」
あなた、と老獪なヴァンパイアは告げる。
「ダンピールが思い上がったこと!」
瞬間、ぶわりと跳ね上がった殺気と共に床の血が震えた。身を揺らした女主人が、た、と一気に踏み込んでくる。突き出された剣が、浅く肩に届く。鈍い痛みと共に感じた熱に、クリストフは勢いのまま身を後ろに倒す。ふ、と笑った女主人に、変わらず笑みを返しーーだが瞳だけは静かに敵を見据え、たん、と白い指先で床に手をつき、くる、と身を回す。足元には従僕の屍。揺れる衣の半分は、ヴァンパイアの血か。
(「血の剣に鎧、下級種か」)
突き出された刃は真紅の長剣へと変じていた。
「変わりなさい、我が短剣よ」
歌うように告げた女主人が、一瞬消える。瞬発の加速。それほど、先の一言が気にかかったか。
「アンジェリカ」
誘うようにクリストフは手を伸ばす。十指に備う銀の指輪と糸によって誓約された彼女が両の手を伸ばす。ギン、と女主人の追撃の刃が受け止められた。
「あら、邪魔だこと。素直に私の道具箱に収まっていれば、まだ可愛げがあったというのに」
ダンピール、と告げるヴァンパイアにクリストフは静かに笑う。そうさ、と囁くように告げる。
「僕は混血のダンピール。でも僕は僕だ、それこそが気高き誇り」
指先を引き寄せる。足を引き、ドレスを靡かせるように回転からの一撃を叩き込んでくるヴァンパイアの間合いへと踏み込む。
「乗せられたままたっぷり楽しむといい。お嬢さん?」
「ーーふふ、お嬢さんだなんて!」
キィイイイン、とヴァンパイアの長剣と、アンジェリカがぶつかった。刃を滑らせ、火花が散る。先に弾きあげたのは女主人の方だ。は、と息を落として笑うヴァンパイアの剣がクリストフにーー届く。受け止めるようにかクリストフが腕を伸ばし、白い肌に血が走る。
「さぁ、私にもっとその顔を見せ……」
その血を頬に受けながら笑った女主人の顔が、ひくり、と引きつった。クリストフの腕を落とす筈だった刃が、止まっていたのだ。
「れは……これは!?」
「僕からの贈り物さ」
それは捕獲棺。
四肢を捕らえるトラバサミの棺。食らい付く棺桶は、避けるように身を飛ばしたヴァンパイアをーー追った。姿泣き、暗闇と這い寄るモノの恐怖となって。
「っく、ぁあああ……っこんな、こんなもので。私に、痛みを……ッ」
「僕達は猟兵。処刑人にして借金獲り」
血濡れの腕に一度目をやってーーだが、それだけで終えると長きを生きたダンピールは告げた。
「そして今日は、積み上げた眼鏡達に君がデカい代償を払う番だ」
叫べ、とクリストフは言った。
四肢から血がし吹く。強化が間に合わず、女主人が身を揺らす。
「……っく、私が、そう。私にそこまであなたたちはさせるというのね」
猟兵、と呻くように女主人は告げた。頭を振るう。銀を思わせる髪が揺れ、既に失われていた片腕が形を保てずに赤い塊となって落ちる。びしゃり、と派手な水音が広間に響き渡った。
「そう、そう……私の宴も、このゲームも、随分と愉しいものになったこと。えぇ、これほどの痛み、これほどの屈辱。えぇ、今までの退屈が嘘のよう!」
高く、たかく老獪なヴァンパイアは笑った。痛みも屈辱も享楽だと告げーーだが、その瞳に殺意を滾らせ。
「全て納めてあげるわ。えぇ、私の道具箱に。あなたたちで、十分に愉しめることでしょう」
「ああ、そうか。それは良かったな」
喜悦に応じたのは、ひどく静かな声であった。ぴしゃり、と踏み込む。波立つ床を、己が魔術で押し留めるとアルバ・アルフライラはスターサファイアの髪を靡かせて告げた。
「……ならば心置き無く死ぬが良い」
「大丈夫よ。あなたたちは壊さないように、私が道具箱にいれてあげるから」
さぁ、とゆらりと身を揺らしたヴァンパイアの声に、館の床が揺れた。共鳴するように一度強く波紋が描かれれば、従僕たちが起き上がる。
「ルァアアアア」
「ァアアアアアアアアア!」
最早、言葉さえ失ったか。眼鏡をおかれた屍達の間、悠然と女主人は笑う。
「ふふ。まずはこの子達で遊んでちょうだい。私では壊してしまうかもしれないいもの」
「ーーふん」
強者の余裕など、扱う場でも最早なかろうに。それでもーー未だ勝つ気であるのか。確かに従僕たちは波のようにアルバへと向かってきていた。空間一体ーー広場の屍、全てを起き上がらせたか。
「壁にする気か。ふふん、矢張り用意しておくものだ」
息をつくようにして、アルバは革製のトランクを戦場に放る。血濡れの広間に、それはカタン、と落ちた。水音を響かせずに、それは一人でに開く。
「喰ろうて良いぞ、私が許す」
それは、筐であった。刻薄たる獣を収める筐。開いたトランクは鍵であり、災厄にとっての門であった。獣へと、命ずるのは唯一つ。
「彼の悪鬼を、肉片残らず喰らい尽くせ」
双星の魔術師の言葉に、獣は解き放たれた。
「ルァアアアアアアアアアア!」
四肢を伸ばし、刻薄たる獣が駆ける。咆哮は、高く、強く。空間そのものを震わせるほどの圧を持つ。
「勝負を娯楽と嘯く畜生には似合いの末路であろうよ」
この地を弄び続けたヴァンパイアにこそ、似合いか。駆ける獣に、女主人が従僕たちを動かす。アルバへと向かっていたレッサーヴァンパイア達は跳躍と共に刻薄たる獣へと向かった。
「我が僕よ。守りなさい。その獣にお前達を見せてあげなさい」
ルァアアアア、と呻き声を上げながら従僕達は向かう。だがその波を刻薄たる獣は飛び越えた。高らかな跳躍。獣は従僕たちに見向きもしないまま、ただ駆ける。真っ直ぐにーーヴァンパイアの元へと。
「……っあなた、この獣に何を!」
「言う必要など無かろうよ」
ただ憎悪を与えたものを追跡するだけのこと。
アルバが憎悪を抱いたのがこの女主人である以上、追いかけるのは唯それだけだ。
「痛みも呪詛も、私に届かぬと知れ」
「……こんな、もの。このようなもので、私を……! っく、ぁあああ!」
獣の牙が、ヴァンパイアに届く。払うように振るう短剣が獣に届くがーーだが、その程度でひるみはしない。
「そう、随分と頑丈な……。ならば、あなたの方を壊しましょう。我が僕たち……、あれを私の前に引きずりだしなさ……!」
「痛みも呪詛も、私に届かぬと知れ」
女主人の言葉は、無数の光の帯に消える。懐から取り出した石から、紡ぎあげた魔力が多重の魔法陣から光の矢を放っていたのだ。
「ルァアアアア」
「ァアアアアアアア!」
従僕達が崩れ落ちる。妖精の宿る石から放たれた力は、屍たちを沈めていく。
「こんな、こと。こんな、ゲームに、私は……!」
「グルァアアア!」
ギン、と獣の爪を弾く筈であった短剣が女主人の手から落ちた。ひゅ、と息を飲む音と同時に刻薄たる獣が老獪なヴァンパイアを引き裂いていた。
「ァアアアアアアア! こんな、痛み。これが、痛み。こんな、もの、私は……!」
ばたばたと血がこぼれ落ちる。最早衣にはできまい。我が命の源よ、と告げる声が擦れていた。苛立ちと怒りに満ちた瞳が、ぐん、とこちらを向く。
「……ご婦人。最期に、一つ宜しいでしょうか?」
仰々しい、演技じみた声色で微笑みながらアルバは問うた。
「貴女がチェスを講じたと云う嘗ての領主。――その方を、貴女は如何なさいましたか?」
「ーーふふ、ふふふふふふ。そう、あの人間ならバラバラにして飲み干してしまったわ」
ゆらり、と身を揺らす。女主人が残った腕を振るう。
「私の従僕にしてあげようと思ったのに、最後まで狂わずにいたのだもの」
最後の最後まで駒を手放さずにいたから。
「だから、ふふふふ。愉しませてもらった分、この地は生かしてあげていたのよ、私が。全部は殺さずにーー……」
「ーー」
ぐしゃり、と獣の牙が老獪なヴァンパイアの喉を引き裂いた。
●狂乱の終わり
数少ない生存者のうち、一人が語ったところによると「出口」を知っている者がいたという。この館は、元々は女主人の持ち物では無かった、とひどく古い文献ではあったが偶然それを知っていた彼は、それを以って脱出するつもりであったらしい。
ーーだが、それが見つかってしまった。見つかったのは道が理由ではなく、一人が怯え、従僕に悟られてしまったからだという。だからこそ、彼は。
「自らが囮となったのです。ご婦人の……あの、ヴァンパイアの気も引いて」
これがただの反抗に過ぎなくても。抗いでさえなくとも。
「忘れてはいけない、と言って。自分たちが、生きることをって」
「……そうか」
彼らの語る出口を知る者こそ、クリストフが出会った青年の友人だろう。そして彼は、恐らくこの地の本来の領主。長きに渡り、失われていた存在に気がついたのだろう。それが幸運であったかどうかは分からない。だが、彼の言葉が数少ない生き残りを生んだのも事実だった。その命によって。
老獪なヴァンパイアの支配を脱し、街も村も緩やかに変化していくだろう。支配されることに慣れ、失うことが当たり前になっていた世界から、少しずつ。
『生かしてあげていたのよ、私が』
「……」
残されていた肖像画をアルバは思い出す。どれ程の時間、どれだけの思いで戦っていたのか。
吸血鬼の戯れに付き合うことでーーそれが、全てを守ることに繋がるかは分からず、だが全てを失う訳では無いと知っていたのだろうか。
骸も残らず、名前さえ忘れ去られた領主は。
「ーー終わられましたよ」
眼鏡を外して、アルバは告げた。肖像画のあった部屋へと一度、視線を向けて。
斯くして吸血鬼の行う宴は終わりを迎えた。振り回されるだけであった人々は、この日、生きて帰った者たちから一つの話を聞くことになる。此の地の失われた歴史。奪われ続けた自分たちが、己の足で生きていくための一歩を。
大成功
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