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エンパイアウォー⑨～熱

作者：小強欲

●グリモアベース
「はい、どうもですよー。今日も元気に……元気に予知ですよー」
　そう言っているウィルバー・グリーズマン（入れ替わった者・f18719）だが、そこまで元気がない様に見えるのは気のせいだろうか？　気のせいだろう。
　次はお馴染みの依頼説明だ。

「幕府に叛意を持つ長州藩の毛利一族。これをコルテスが手駒にして、藩士を材料にオブリビオンを生み出しました。今まさに幕府軍の迎撃準備中です」
　そのオブリビオンとは、鬼。
　高い戦闘能力を誇る種族で、霊を操る力もあるが、問題はそこではない。
「まぁ、オブリビオンの種族だとかは別にいいんですよ。問題はその迎撃方法でしてね。山陽道周辺の気温を極限まで上昇させて、その熱波で幕府軍を殺す……電子レンジを思い浮かべて下さい。それです」
　とてもエグい。
　今もその状況が続いており、儀式が進めば平均気温が５０度を超えるらしい。

　ウィルバーは魔本を開いて確認すると、目を伏せて。
「そのついでとばかりに、南米原産の風土病を蔓延させまして……確実に殺しに来てますね。極度の高温でしか活動できないウィルスなので、熱波を生み出している鬼……と言うか霊玉を破壊すれば、それも解消されると言う訳です」
　オブリビオンは『富士に眠る太陽の力が込められた霊玉』を用いて儀式を行っている。　霊玉を砕けば終わりだが、当然それを阻止するだろう。
「まぁ、全員を倒し終えたら適当にぶっ壊して下さい。では、転送を始めますよー」
　緊張感のない声でウィルバーは猟兵達を、熱い戦場へと転送して行く。

第1章 集団戦 『棍棒鬼』

POW   :    鬼の金棒 単純で重い【金棒】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。 SPD   :    怨念疾駆 自身の肉体を【怨念の塊】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。 WIZ   :    死武者の助太刀 【落ち武者】の霊を召喚する。これは【刀】や【弓矢】で攻撃する能力を持つ。 イラスト：桜木バンビ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　熱波によって辺りが凄まじい温度となっている戦場に、御園・ゆず（群像劇・f19168）が転送されて来て。
　もはや諦めの境地と言うか、特に疑問を抱かずにここまで飛ばされて来た様子。
　そう言えば転送間際に鼈甲飴を放ったが、あれはちゃんと渡せたのだろうか……？
「……暑い」
　ただでさえ暑いこの場所にて、紺色のセーラー服。普通の日光すらも吸収し、とにかく暑い。しかも現在来ているのは冬服……何故この時期に着ているのだろう。
　ゆずはさっさと終わらせて、涼みたいなー、と考えていた。

　そんな彼女の前に現れる棍棒鬼。
　巨大な金棒を持って、見るからにパワータイプ。
「赤鬼ならそれらしく人とよろしくして欲しいですね！」
　すぐに距離を取ると、走って追い掛けて来る。
　鬼が地面を踏めば、その度にズシンッ、とその重さで地面が響くが、ゆずはバランスを取りながら回避をし続けて行く。
「グオアッッ！！」
　ズガッ！　凄まじい一撃が地面を抉ってしまい、吹き飛ばされた土が辺りに飛び散って。
　それが当たったゆずが動きを止めれば、仕留めようと鬼が一気に近付いて……。
　突然、鬼が動きを止めた。

「グガ、ガガァァッ！！」
　鋼糸。
　木と木の間に張り巡らされたそれは、鬼の動きを封じてしまったのだ。
　暴れる鬼を容赦なく縛ると、ゆずは木を利用して吊り下げてしまう。
「……こんな怪力も、なかったのに」
　常人の数倍の力は、自分よりも大きい鬼を軽々と持ち上げてしまった。
　その恐るべき力に恐怖しながらも、目の前の鬼の肩に飛び乗って。
「傲慢なゆずを許してください」
　せめて一思いに。
　シュッ、と銀のナイフを右袖から取り出せば、それを鬼の心臓に突き付けて。ドゴォッ、と音がすれば、その周辺が一瞬にして消し飛んでしまう。

　辺りに飛び散る血液は、ゆずにも降り注いで、その身体とセーラー服を赤く染めて。
「……嗚呼、早く洗い流したい」
　静かにそう呟けば、また別の戦場へと歩いて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「あぁァ゛ッちぃいン゛だよなァ！！？」
　戦場に響き渡る声の持ち主は、ヘンリエッタ・モリアーティ（犯罪王・f07026）……ではなく、その人格の一つ、ヘイゼル。
　普段の人格とは違う、実に荒々しく自信に満ち溢れている声だが、この殺人的な暑さには参っている様子で。
「流石のヘイゼル様だっつッても暑さだけはどうにもなンねー、灯理は大丈夫なンか」
　隣にいる鎧坂・灯理（不退転・f14037）に目を移せば、何かを少し考えている様子で。
　スッと念動力を発すれば、空間の分子運動を抑えて、熱エネルギーを減少。殺人的な暑さは消え去り、涼しくなって。
「どうですか、ヘイゼル君。幾分かマシになりました？」
「……よくわかンねーけど確かにマシになったな！　やるじゃねーの、助かるぜ」
　はっはっは！　と大笑いするヘイゼル。あくまで二人の周囲のみだが、これでも十分に効果はある。
「後でアイス食べような……っと、お出ましかよ」
　すぐに数体の鬼が現れて、足踏みで地響きを起こしながら向かって来た。

　手をパキパキとさせて、獰猛な視線を鬼に向けるヘイゼル。
「おいおい、ボンクラどもがよォ。俺様の前にたつんじゃねェ……こちとら腸どころか頭まで煮えそーなンだよボケッ！！」
　どかねぇならぶち殺してやる、とでも言いたげな雰囲気だ。
　苛立ちは彼のタガを今にも外してしまいそうで、何とかそれを押さえている状況だ。
「灯理はあんまり動くなよ」
　ヘイゼルの射程に入ってしまえば、彼女も巻き込んでしまう。
　一応、攻撃しないように意識はするが、近寄らないのが最も有効な手段だ。
「ええ、わかりました。思う存分に暴れて来て下さい」
　灯理はそう言って、念動力を自分に向けると、空中に浮き上がる。
　ただ飛ぶだけならば、これで十分。浮いていればヘイゼルのターゲットにもならないので、存分に戦わせられる。
「へっ、そう来るなら……皆殺しだ」
　タガを外して、暴力の化身となったヘイゼル。
　異様なレベルの怪力を振りかざす怪物となって、鬼へ向かって行った。

　鬼の暴力とヘイゼルの暴力。
　質はヘイゼルの方が上だが、鬼は質が低いという訳ではなく、数も多い。
　まともにぶつかってはかなり厳しい相手だが……此方にも灯理がいる。
「思考、開始……」
　並行思考、高速思考。灯理が得意とする技。
　それはヘイゼルの周囲を涼しくした上で、すぐ近くの鬼の分子を高熱化して、その身体を焦がしてしまい……。
　その瞬間、熱さに悶える鬼にヘイゼルが駆け寄って、その首を斬り落としてしまう。
　突然のタイミングでも灯理の処理能力は完璧な様で、鬼に近寄ったヘイゼルの周囲は涼しいままだった。

「グルルル……」
　鬼が静かになると、その姿は徐々に薄まっていって、怨念の塊となってしまう。
　ヘイゼルの攻撃はすり抜けてしまい、僅かな念が吹き飛ぶのみ。
「ちぃっ！　大人しく殺されてろっつーのッッ！！」
　超高速連続攻撃も、少しずつ念を飛ばすのみで効果が薄い。
　金棒を振りかぶって、ヘイゼルに振り落ろそうとするが……その直前に、ドンッ、と銃声が鳴り響く。
　ヘイゼルが視線を移すと、その先には銃を構えた灯理。破魔の弾丸は怨念の鬼の脳天を撃ち抜いて、消滅させてしまった。
「銃も得意なのさ、この私は」
　ここまで来れば負ける要素は皆無。
　ヘイゼルの暴力、灯理の援護と破魔の弾丸。
　残る鬼も一気に駆逐してしまった。

「お疲れ様です。すっきりしましたか？」
　鬼の死体の中央に立つヘイゼルに向けて、灯理は話し掛けると……。
「きひ、ひひっはははは！　ひゃははははッ！！」
　ひとしきりハイテンションに笑って、実に楽しそうな表情で、灯理を見て。
「スッキリしたァ。存分に暴れてやったぜ！　ありがとな灯理、最高のコンディションだァ！！」
「ふふ、どういたしまして」
　ヘイゼルに釣られて笑う灯理。
　そうして二人は、ひとまずはこの場所を完全制圧したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　猟兵達が戦い、辺りに響き渡る戦闘音。
「どこでもそこでも、ドンパチドンパチ……ったくもう、休ませろってんだ……」
　勿論、この戦場だけの話ではない。戦争だからこそのドンパチなのだ。
　巫代居・門（ふとっちょ根暗マンサー・f20963）は溜息をつきながら、指を立てて。
「どうせ、俺が振ってもまともに当たんねえ。そんなら……」
　周囲に漂うは強い呪詛。薙刀『忌縫牙』を取り出せば、それは狗怪の霊を呼び出して、門へと憑依。
　その怪異は門を操り、ぎこちないながらも流麗な動きで、演舞をしてみせた。

　すぐに鬼が門を見付けて、金棒を振り回して襲って来る。
　そして、それと共に向かって来るのは、落ち武者達の霊。刀や弓を構えており、中々厄介そうだ。
「兵どもが、夢のあとか。またぞろ戦場に投げ出されて不満は分かるけどさ……」
　八つ当たりは勘弁して欲しい物だ。
　まずは鬼が飛び掛かり、門に向けた金棒の攻撃。
　隙だらけのその攻撃を、走って潜り抜ける事で回避して、破魔の力を込めた忌縫牙で落ち武者達に突っ込んで行く。

　自分の力ではここまでの動きは出来ない。途中でバテてタコ殴りにされるのがオチだ。
　だからこそ、その身体のほぼ全てを怪異に任せている訳であり、ぎこちない動きは徐々にと達人の如きものへと変わって。
「しかし、鬼退治か……」
　門自身は桃太郎という柄ではないと感じてはいる。
　だが、犬役くらいにはなりたい……丁度、自分を操っているのも狗怪だ。
　犬のように素早い動きで、落ち武者達を斬り払って浄化し、矢が肩に刺さろうとも凄まじい薙刀術であっと言う間に全滅させてしまう。
「グガアアアッ！」
　少し出遅れて鬼が向かって来るが、門の動きは既に達人以上のもの。
「ようやく慣れてきたか。あんた、終わりだな」
　怪異の強さは自分でも良く知っている。
　だからこそ、言い切れる。鬼を相手にしても、勝てると確信がある。
　振りかぶられた金棒は狗の爪で横に弾かれてしまい、下段から切り上げられる刃は、見事に鬼の肉体を斬り裂いた。

「はぁ、はぁ……め、滅茶苦茶疲れた……！」
　幾ら怪異に操られようとも、その肉体は門の物だ。
　暑いこの場所で大の字になって寝転がると、暫しの間、休憩を取って行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　幾つかの鬼を前にして、愛久山・清綱（飛真蛇・f16956）は静かに思考を巡らせる。
「毛利氏。かつては安芸の大大名。今は長州藩37万石……」
　元就、隆元、そして両川が消えてから、堕ちてしまった。
　盛者必衰。どれ程に勢いがあろうとも、果てには滅びる……この世は無常である。
　ズシンッ、と音が響いて、ハッとした表情になって前を見れば、此方に向かって来る鬼が数匹。
「って、今は関係ないか。今は鬼どもを退治せねばな」
　凄まじいまでの熱も、清綱にはサウナ程度のものでしかない。
　普段から鍛えている肉体は、決して裏切らないのだから。

　鬼は近くまで寄っており、清綱とは中距離と呼べる位置にいる。
　『今刀』に触れて、まずは高速の抜刀。そこから空薙……空間を斬り裂く清綱の奥義が放たれて。迫る鬼達を後退させる。
「……割と固いな。遠距離からは少し効き難いか？」
　ダメージは有るが、思ったほどの効果はない。今度は走るスピードを上げて、一気に清綱へと寄って来る。
　同じ様に抜刀し、鬼に空間斬撃による攻撃を行うが、今度は後退せずに、清綱の元へと向かって来て。
「おお、やるではないか」
　清綱は感心しながらも、鬼の金棒による一撃を見切っており、力任せに横薙ぎされたそれを、僅かに下がる事で避けてしまう。

　鬼が力ならば、今の清綱は技。
　避けるべき攻撃は避けて、流す攻撃は流す。
　実に達した動きで鬼を翻弄して行って、鬼が隙を見せた瞬間に首を突く。
「どれ程に頑丈な肉体であろうと、ここを斬られたら終いよな」
　手を捻って刀を抜けば、鬼は激しく血を吹き出して倒れてしまう。
　実に素早く、華麗な動きでまずは一体。残る鬼達も、あまりにも呆気なく死んでしまった味方を見て、清綱に恐怖した。
　だが、鬼が退く訳には行かない。無様に逃げるなど、あってはならないのだ。
「ふっ、根性がある者は嫌いではないぞ。……何処からでも来るが良い」
　逃げても空薙がある。だが、逃げないならば……力と技の比べ合いだ。

　またも戦いが始まる。だが、清綱と鬼の力は大きく差が開いている。
　単純な力のみでは清綱の鉄壁を崩す事は出来ず、このまま全て倒されてしまう事だろう。そうなると分かっていても、鬼のプライドは清綱と戦う事を選んだ。
　ならばそれに応えねばなるまい。清綱は全身全霊の力で、鬼達と斬り合うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「あの野郎……富士山の霊力をこんな事に使うつもりだったのか！」
　熱い戦場にてブチ切れているアーサー・ツヴァイク（ドーンブレイカー・f03446）は、それを超える熱さで燃え盛っていた。
　すぐに『ライフォン』を取り出して、ベルトに晒すと、変身を行う。
【Select……SMASH ACTION!】
　凄まじい風がアーサーの周囲を覆って、それが晴れれば、ストライキングファンタジーフォームへと変化していた。
　ズドンッ、と重量感のある響きが当たりに響けば、それに気付いた鬼達も同じ様に、ズシンッ、とアーサーに向かって来て。
「コルテスぜってぇ許さねぇ！　そしてもテメェらも……許さねぇぞッッ！！」
　その怒りは、全て目の前の鬼に向かってしまった。

　見るからにパワータイプの鬼は、フェイント等もなく真っ直ぐにアーサーの元へ。
「敵はパワー型か……上等だ。パワーにはパワーで挑む……真っ向勝負と行こうじゃねぇか、鬼野郎！」
　清々しいほどの直球勝負。
　そこには何の技術もなく、ただ暴力を振るうだけの、純粋なパワー勝負。だが、ただブチかますだけではない……気合の入れた渾身の一発だ。
　コルテスへの怒り、そして鬼への怒り……その全てを今ここで解き放とうと、鬼が来るのを待ち続ける。

「グオオオオッッ！！」
　現れた鬼達の実力は高く、その攻撃力も凄まじいものだ。
　だが、今のアーサーは怒りで手が付けられない状況。そんな彼の前に来てしまえば……。

「銀河の果てまで……吹き飛びぃ、やがれええええええええぇぇぇぇッッッッ！！！！！」

　巨大ハンマーに変形したバスターホーンを振りかぶり、空高く飛んで、全体重と全身の力を解放したダイナミックな一撃。
　鬼が集まる中央にそれが放たれると、彼等は遥か遠く、空の向こう側へと吹き飛んでしまった。


●富士の霊玉
　儀式場の祭壇には、一つの霊玉。これが全ての元凶で、この戦場を熱くしていた力だ。アーサーはそれを手にすると、ある事を思い出して。
「富士山の霊玉か……確か、火口に投げ込めば霊力が回復するとか……」
　何処かでそんな話を聞いたかも知れない。
　元が霊峰富士から奪ったものなので、その効果も幾らかはある筈だ。
「そんじゃ……行くぜ、ライドランッ！」
　アーサーは大型バイクのライドランに跨って、富士山までひとっ走りする事にしたのだった。

　霊玉は解放されて、この戦場の熱気は治まった。
　しかし、まだまだ戦争は終わらず、時間もあまりない。
　一気に敵を駆逐して、幕府軍を守り切るのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月12日