エンパイアウォー⑨~炎獄
●この世の地獄
夏が暑いのは当然といえど、さてはて、今年は異常であった。
ゆらゆらと耐えず街道に陽炎が揺らめき、田畑は枯れ果て、濡れた手ぬぐいも瞬く間に湯気を放って乾き、たった数歩進んだだけで耐えきれぬ。
まるで灼熱地獄じゃないか。
いやいや、この熱波でゆだって仕方ない。こいつは釜茹でだ。
人々が軽口を言い合えたのも、僅かな間。
まことの地獄は無駄口ひとつ利けぬものだと――寝ても覚めても上がり続ける異常気温に、彼らは身に染みて知る事になる。
●計略阻止
「さって、皆さん! 戦争っすよ!」
須辿・臨(風見鶏・f12047)は気合いを籠めて猟兵達を見た。
皆さんに向かってもらうのは『山陽道周辺』――現在この地は、連日連夜三十五度を越える熱波に襲われている。
軽く背後関係を説明すると、これは侵略渡来人・コルテスの計略で、幕府に叛意を持つ長州藩の毛利一族を手駒に彼は山陽道に陣を敷いた。
すべては進軍してくる幕府軍を、熱波によって茹で殺す、というものだ。
何せ、夜になろうと三十数度の気温は下がらず、日に日に上がっていく。いずれは五十度を超える気温が通常となるという。
この熱波の怖ろしさは、熱のみにあらず。『南米原産の風土病』も蔓延させ、幕府軍に死をまき散らす、という二段構えの罠なのだ。
「皆さんはこれを阻止すべく、山陽道に進軍したオブリビオンの軍勢を駆除、『富士の噴火のエネルギーを蓄えた霊玉』ってのを砕いてもらいたいっす」
シンプルに言うと、行って、暴れて、霊玉をとにかく砕いてこい、ということだ。そんなあっけらかんとした口調ではあるが、臨は不意に、明るい翠の瞳に、僅かな影を落とした。
「このオブリビオンは、長州藩士を生贄に骸の海から召喚された奴っす……まあ、志に準じるのもサムライっすけどねえ。なーんか悔しいっすよね」
そこまで言って、はたと猟兵たちの視線に気づき、彼はからりと笑った。
「兎に角、皆さんの活躍、期待してるっすよ!」
黒塚婁
どうも、黒塚です。
当シナリオは早めの完結を目指しておりますので、リプレイは個別描写になると思います。
プレイングは受付中な限り、いつでも受付中です。
ただし、マスタリングによって描写できないと判断した場合は、採用しない場合がございます。
=============================
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
=============================
それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。
第1章 集団戦
『彼岸の兜風鈴』
|
POW : 風鈴の音が響き渡る
予め【風鈴の音を響かせ続ける 】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : 風鈴の音が共鳴する
【共鳴振動となる甲高い風鈴の音 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 風鈴の音が死者を呼ぶ
【黄泉の国 】の霊を召喚する。これは【悲鳴】や【武器】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:marou
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
黒鵺・瑞樹
アレンジ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
脅威はさっさと排除してしまおう。
幕府軍が進まなければ大元の信長の元にもたどり着けないのだから。
【存在感】を消し【目立たない】ように移動、そのまま【先制攻撃】で【奇襲】【暗殺】のUC剣刃一閃で攻撃。強化させる暇もなく切り捨ててやる。
確殺できなくとも動きの制限狙いで【マヒ攻撃】、かつ【傷口をえぐる】でよりダメージ増を狙う。
一撃離脱の動きで確実に倒し、数を減らしていく。
相手の物理攻撃は【第六感】で感知、【見切り】で回避。
回避しきれなものは黒鵺で【武器受け】からの【カウンター】を叩き込む。
それでも喰らってしまうものは【激痛耐性】でこらえる。
●黒鋼に焔映して
りぃん、リィィン、と風鈴が鳴る。
じっと立ち尽くすだけで汗が滲む、この場所で、それが何の慰めになるだろう。
ましてやそれそのものが、熱波を発生させている根源なのだ。むしろ音が煩わしいほどに鳴り響き、頭痛を覚えるほどだ。
それでも――片手に打刀、片手に黒刃のダガーを構え、黒鵺・瑞樹(辰星月影写す・f17491)は不敵に笑う。
「脅威はさっさと排除してしまおう」
――幕府軍が進まなければ大元の信長の元にもたどり着けないのだから。
微笑を消すと、銀糸を揺らした――と思う間に、彼は一息で距離を詰めた。
彼岸の兜風鈴は、気付けばばっさりと両断されて、はらりと左右に分かれて消え失せる。それを合図に、彼の存在に気付いた兜風鈴たちが、仄かな火を薫らせながら一気に詰め寄ってきた。
熱波が壁となって、彼の前に凝縮するようだ。
「はっ、」
一声と共に、瑞樹は短刀を軽く払うと、道を作って退く。涼しげな表情なのは、彼がヤドリガミであるからだろう。
交差するように二対の刃を構え、彼は再び舞う。
ひとつ踏み込み、跳び込んできた兜風鈴をダガーで払い、そのまま横から飛来した兜風鈴に一閃を浴びせる。
鮮やかな斬撃は掠めるだけでも意味がある。創を作り、怯ませ、次の一刀で仕留めるための布石。
リリリリリ……――耳障りな音が周囲で続く。この音を、どの兜風鈴が放っているのか。或いは、目に映るすべてか。
次の瞬間、弾丸が如く飛んできた兜風鈴の速さは、彼の目をもっても捕らえ難い速度となっていた。
「……はは、甘いぜ」
けれど彼は青い瞳を細めて笑う。直感的な判断で姿勢を沈めると、両の腕を開く形で、前へと跳んだ。
無防備とも言える彼へ、兜風鈴たちは唸りを上げて次々と飛来する。
ゆらゆらと視界が揺らめくのは、場を支配する熱気と、それらのもたらす炎によるものだろう。いっそ目を閉じて、彼はゆっくりと両の刃を斜めに振るう。
肌に感じる揺らぎを元に、悉くを打ち返す。軽く地を蹴って、身体を翻すと、その遠心力をも載せた斬撃で、再度斬り伏せた。
ぼう、と燃えた肩が、その衝撃で火を消すほどの凄まじい剣風。
けたたましい金属の音が悲鳴のように音を立てて、地に落ちた――かつて群の中心だった場所で、彼は身を起こした。
「さて、ひとつ一丁上がりだ」
成功
🔵🔵🔴
龍泉寺・雷華
※アドリブ連携歓迎
くっくっく……我が究極魔術の力が必要と聞いて!
熱を操り病を齎す悪辣なる敵、必ずや討って見せましょう
普通にしててもマジで暑いから……速攻で決着をつけますよ!
しかし、我が究極魔術はその圧倒的な力故、発動に少々時間が掛かります
接敵次第先制気味に詠唱を始めますが、その間に妨害が入る様であれば詠唱を続けつつ雷鳴剣で近接戦闘を行い、詠唱時間を稼ぎましょう!
詠唱さえ終わってしまえば今度は我の手番です!
此度の連魔唱、連ねるは三節の魔術
水、氷、風の三属性魔術を続けざまに発動、創造した冷厳なる嵐にて敵が呼び出した霊ごと薙ぎ払って見せましょう!
敵を滅するのは勿論の事、この暑さをも払ってあげますよ!
●覇天超級の究極魔術師
街道を前に、少女がひとり、腰に手をあて仁王立ちしている。
遠くで鳴っていた音が徐々に近づいてくるのを確認すると、くっく、と彼女は肩を揺らす。
「くっくっく……我が究極魔術の力が必要と聞いて! 熱を操り病を齎す悪辣なる敵、必ずや討って見せましょう」
ばっ、と天に掲げた左手を、目の前に翳し――龍泉寺・雷華(覇天超級の究極魔術師・f21050)は黒いマントをはためかせた。
決めポーズの一瞬こそ、完璧にきまっていたが。
――そのまま三秒もすれば、その顔は汗まみれとなる。だってこの覇天の衣、ただ格好良いだけだから、普通に暑いし。
「普通にしててもマジで暑いから……速攻で決着をつけますよ!」
そんな風にひとりで盛り上がっている間に、黒集りの兜風鈴の形が、きっちり視認出来る距離まで近づいてきていた。
「しかし、我が究極魔術はその圧倒的な力故、発動に少々時間が掛かります――ん? 意外と早い? お約束を説明してる場合じゃないですね!」
明後日に自分の究極魔術を解説していた雷華は、慌てて左目を閉ざすと、詠唱を開始する。相手は当然待っていてはくれないので、彼女は片目を瞑って詠唱を続けたまま、雷冥を宿す魔剣――『雷冥剣クルシェラ』を構えた。
リィン、リィン――何処か不気味な音を響かせながら、兜風鈴はゆらゆらと不規則に揺れて、火の粉を散らす。
気付けばその軍勢は兜風鈴だけではなく、黄泉の国から召喚された霊を伴っていた。彼らがこぞって武士の姿をしているのは、偶然ではあるまい。
長州藩士たちの亡霊は悲鳴をあげながら、斬りかかってくる。あるいは、気合いのようなものなのかもしれなかったが、雷華には判断が付かない。
ただ、魔剣を合わせて、攻撃を凌ぐのみ。身のこなしには割合自信があるが、修練を重ねた剣士と単純に剣を合わせ続ける技倆はない――突然、覚醒する可能性が微弱でもあったら、ちょっといいなーとは思っているかもしれないが。
亡霊の攻撃をひとしきり凌ぎ、彼女は最後のフレーズを唱え上げる。
「詠唱さえ終わってしまえば今度は我の手番です!」
雷華は魔剣を格好良く斜めに構えて、勝利の高笑いを放つ。
かなり汗だくで、ぜーぜーと肩で息をしていたりするが、広げたマントはばしっと決まる。
「魔の理は我が手の内に! 連なる魔術が奏でるは破滅の協奏曲! 汝の敗北を告げる我が瞳を、見よ!」
半身で振り向きながら、閉ざした瞳の前に掌を翳し、ばっと指を開けば、その隙間から魔力で輝いた瞳が覗く。
「此度の連魔唱、連ねるは三節の魔術――……」
凛々しい声音が斯く告げる彼女の眼前では、水、氷、風の三属性魔術が次々と重なりながら発動する。
「敵を滅するのは勿論の事、この暑さをも払ってあげますよ!」
名付けて『冷厳なる嵐』――言葉に違わず、水が街道を呑み込まん勢いで流れ、兜風鈴や亡霊を押し流すと、氷の礫が吹き荒れ、それらを白く染め上げる。仕上げと烈風がそれらを巻き上げると、冷気が天に向かって旋回して広がった。
すべての魔術が終わると、彼女の前に敵の姿は無く。また彼女を苛んだ熱も一時的にすっと消えて、清涼な微風が雷華の髪をさらりと踊らせた。
「くっくっく、またひとつ伝説を作ってしまったようですね」
まあ――証人がいないんですけどね。
大成功
🔵🔵🔵
冴島・類
戦となれば手段を選ばず
というのは、人同士ですら
見たものですが
生贄捧げ怨念を呼ぶ術…
長州の人らとて、叛意はあれど
餌になるとは思うまい
炎の地獄に慣れているから
多少は…動けるが長引けば明らかに不利
到着次第対峙する兜風鈴と戦い
霊玉の在り処探る為
辺りの魔力と熱波集中する中心辿りたい
兜風鈴の呼ぶ霊の
悲鳴と恨みを海に還す為
敵の攻撃を操る瓜江のフェイント交えた体捌きで武器の攻撃受け注意引き
その隙に踏み込み
焚上の火纏わせた刀で斬り込む
悲鳴は、受ける分喰えたら
侍の矜持も人の望みも失い
病蔓延らせ、地や人を焼いて
君らも、その為に準じた訳じゃないだろう
悔やみは置いて、お逝き
切り次第、熱の力を追い
霊玉見つけたら砕きたい
●斎戒
「戦となれば手段を選ばず……というのは、人同士ですら見たものですが」
押し寄せる熱波の中で、冴島・類(公孫樹・f13398)の足取りは変わらない。
――炎の地獄に慣れている。
けれど、長くは保たない。目の前で甲高い音を立てている群へと、彼は焦らず、距離を詰めていく。戦場に立つことに迷いは無い。
ただ、彼が心を揺らすのは――、
「長州の人らとて、叛意はあれど、餌になるとは思うまい」
オブリビオンに利用された、この時代に『生きた』人々。既に喪われた、命。
因果なるは、この季節に、まるで行って直ぐの亡者を呼び寄せる業だ。兜風鈴たちは躊躇いもせず、リィン、と啼き続ける。
それを前に、類は足を止めた。その緑の双眸はひたと陽炎でゆれる戦場を見つめる。
「――行こう、瓜江」
十指を前へと向ければ、鴉仮面の人形が奔った。
兜風鈴たちの間を瓜江と類は駆けつつ、宝玉の在処を探る。辿るべきは熱波の中心。熱が強ければ強いほど、可能性は高まろう。
「聞かせて。君の業、その全てを」
そっと唱えれば、彼の身体はたちまち炎に包まれた――それは、向けられた負の感情を喰い浄化する炎だ。
兜風鈴を守るように迎え撃つ長州藩士たちの亡霊が、刀を垂直に構えると、怪鳥が如き声をあげて、斬りかかってくる。
類と瓜江が竦むことは無い――前に衣を翻した瓜江が、くるりと翻弄するように舞えば。銀杏色の組紐を踊らせ、類がその隙間へと刃を滑らせる。腕を伝い、刀身に縋る炎と共に断つ。
(「この悲鳴と恨みを海に還す」)
ウァアアア、呻くだけの悲鳴が、彼の頸をぎゅっと縊るような苦痛をもたらす。喘ぐように口を開きながら、かまわない、と彼は思う。
「侍の矜持も人の望みも失い、病蔓延らせ、地や人を焼いて――君らも、その為に殉じた訳じゃないだろう」
自分にできるのは、それを受け止めることだけ――仮に全てのオブリビオンを骸の海に還しても、死者が甦ることはない。
怨嗟の声に反応し、炎は盛んに燃えて行く。
瓜江の導きに、その背を借りて。炎に包まれた類は、亡霊たちを炎に巻き込みながら、背後で彼らを呼び続ける風鈴へと踏み込んだ。
「悔やみは置いて、お逝き」
高く掲げた短刀が、陽炎を受けてぼんやりと歪んだ。振り下ろされる三日月の如き輝きは、白昼夢の如く。
炎と共に街道をひとすじ灼いた。浄化のために、全てをくべて。風鈴の音は悲鳴のように細かく鳴り響くと、最後に身を震わせるように残った兜風鈴へ、無表情の儘、彼は刃を突き立てた。
これで無念が晴れるわけではないけれど。
ゆらゆらと――陽炎は暫く消えず。まるで現世と幽世を揺蕩うかのようだった。
大成功
🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
倒し、探して、打ち砕く。
成る程、シンプルでいい事です。
…やられているのは、欠片も碌な真似では無いですけどねぇ。
一本、二本と…
敵、特に集団あれば、その周辺の木々や岩や人工物も利用し鋼糸を張る。
音、殊共鳴とは…即ち振動。
糸を踏み台に、時に鳴弦の要領で用い、攻撃の相殺や“見切り”を試みます
…が。多少の傷は、必要経費。
『誰かの犠牲の上に成り立つ生』
そんなのごまんと有る話。厭いもしませんけど。
生者の命を踏み台に、過去がのさばるなんてのは…
ナシですね、僕的に。
鋼糸の檻に幾体と囲えたなら、
視得る全ての敵対者…尽く、断截する。
巡らした鋼糸一気に引き抜き操っての、UC
――拾式。
此方は請け負います。玉は頼みますね
●断截領域
「倒し、探して、打ち砕く。成る程、シンプルでいい事です」
口元に笑みを湛え、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は林の中にいた。現代とは異なり、整いきっていない道だ。周囲を見通しの悪い林が広がることも儘、ある。
この道にも間違いなく奴らがいるのは、身を苛む熱波が教えてくれる。
「……やられているのは、欠片も碌な真似では無いですけどねぇ」
為すべき事を淡淡とこなしながら、彼は小さく息を吐いた。
ビイィィン……、と。目の前で幽かに何かが揺れた。それを合図に、彼はふわりと地を蹴って、虚空に着地する。
否、そこには彼が張り巡らせた鋼糸があり、それを一時の足場として利用する事は、彼には慣れたものであった。
何処から現れたか、わっと押し寄せる兜風鈴の群――それらは強く甲高い音を響かせて、林の中に潜むクロトへと、音で襲い掛かる。
「音、殊共鳴とは……即ち振動」
そこへ向けた彼の仕掛けは、防禦のためのもの。ぐっと足に力をいれて、弾きながら跳ぶ。
音と振動が打ち消し合って不思議な衝撃波がそこに生じる。
ぴっ、とクロトの頬に浅く朱が走った。切れてしまった鋼糸が、掠め、弾けていった。
――元々、完全に無効化できるなど考えていないさ。彼は柔和な表情をそのままに、青い瞳には冷徹な光が刺す。
蔭る林に、鬼火のように兜風鈴たちが揺れている。甲高い音を立てて、視界が歪むほどの熱を放ち、数多の災厄を降り注ぐ。
「『誰かの犠牲の上に成り立つ生』……そんなのごまんと有る話。厭いもしませんけど。
生者の命を踏み台に、過去がのさばるなんてのは……」
ナシですね、僕的に。
淡淡とささめいて、彼は奥へ、奥へとそれらを招くように、後ろへと跳んだ。時に鋼糸を爪弾き、共鳴を打ち消しながら、ゆっくりと歩みを止める。
はあ、と小さく息を吐く。燃えるような熱を肺から押し出す。
如何に激しい戦場でも、強敵が相手でも、そうそうへばりはしないが――吐く息すら厭わしい熱波は、やはり害悪だ。息を整えながら、ふわふわと追いかけてくる兜風鈴たちへ、彼はひときわ柔らかな笑みを送った。
「ようこそ、断截の場へ――拾式」
張り巡らせた糸の陣を、一気に引き絞った。
艶やかな、一瞬の花火が、そこにあった。火の粉を撒き散らしながら、兜風鈴たちはバラバラに引きちぎられて、落ちていく。
けれど、別に美しくはないですね――何処までも辛辣に評して、彼は穏やかに微笑した。
大成功
🔵🔵🔵
大豪傑・麗刃
…このわたしは…いわゆる変態のレッテルをはられている
確かに思い当たるフシもないでもない。普段は。だがこれでも一応サムライエンパイアの出身。
今回ばかりはネタ抜きのシリアスで行くのだ。
とりま暑さでやられる前に敵を倒せばいいのだ。だからばーッッッと突っ込んでだーッッッと斬ってやっつける!!
敵は風鈴を鳴らす事で強化するらしいと。
ならば鳴らす時間を短くすればいい。ダッシュで突っ込んで先制攻撃!右手に刀!左手に脇差(と呼ぶには大きすぎるバスタードソード)!これでぶらさがってるやつ斬ってしまうのだ!たぶんそれで音は止まる気がする!
あとは斬るのみ!剣刃一閃!二刀流で二閃!2回攻撃で四閃!あとはたくさん!!
●天賦の才
「……このわたしは……いわゆる変態のレッテルをはられている」
大豪傑・麗刃(変態武人・f01156)は唐突に、重々しい告白をした。
いや、別に、恐らく、重くもなんともないのだが、ひとまずそういう顔をしていた。
「確かに思い当たるフシもないでもない。普段は。だがこれでも一応サムライエンパイアの出身――今回ばかりはネタ抜きのシリアスで行くのだ」
告げる声音はきりりと引き締まり、深刻そうな佇まいで刀の柄を握る姿は堂に入った剣豪っぷりである。
「とりま暑さでやられる前に敵を倒せばいいのだ。だからばーッッッと突っ込んでだーッッッと斬ってやっつける!!」
ああ、これ、熱さでちょっと可笑しくなっている奴だ。
あるいは平常運転といっても差し支えない。だが良くも悪くも、ツッコミ役は不在であった。
「敵は風鈴を鳴らす事で強化するらしいと。……ならば鳴らす時間を短くすればいい」
きりりと何処かを真顔で見つめて言うと、兜風鈴の群に、単身で跳び込んだ。
右手に刀、左手に脇差――というかバスタードソード。むしろ右のそれの方が脇差に近い。だが、麗刃は立派な剣豪である。
冗談のように軽やかに使いこなせてしまうのであった――端から見ると、冗談みたいかもしれないが。
彼は全力で兜風鈴へと距離を詰めると、凄まじい剣風を叩きつけて、風鈴の下にぶら下がる紙を切り落とした。更に自称脇差を返して剛風を巻き上げ、二閃する。
たぶんそれで音は止まる気がする!
という衝動の儘、兜風鈴の下にぶら下がっている紙を鮮やかに一閃していく。二刀流なんで、二閃。四、八、あとはたくさん。
端から見ると間違いなく腕をぐるぐると振り回す怪人に違いない。だが、彼の剣筋は間違いなく兜風鈴を刻んでいく。風鈴が戦闘能力を高めようが関係ない、刃の嵐だ。
小さな音が次々と悲鳴をあげて、落ちていく。
そして、無意識のうちに、彼はひとつの宝玉を砕いていた。
炎に煽られながら、必死に戦い、顔を真っ赤にしている麗刃がそれに気付くのは、それから暫く後のことであった――。
――単純な考え方は、案外、きちんと真理を得るんすねーとは。彼をこの地に送り込んだ青年の簡単の言葉であった。
大成功
🔵🔵🔵
雨煤・レイリ
暑すぎるのはつらいし、熱いのは…嫌だよね、苦しいよね
病気も暑さも、苦しいのは、つらい
その一端を与えたことが此処ではなくとも自分にあるというのは
…ううん、今は戦いに集中しなきゃ
同じ思いをさせないためにも。
敵の排除をメインに動くよ
霊玉破壊は他の人に任せたい気持ち…手が足りなければ俺も行く
風鈴の音、夏の縁側で涼みながらゆっくりとした時間で聞けたなら
きっと心穏やかに聞けたんだけど。
敵の攻撃はあまり長い時間相対しない方が良さそう
音をしっかり聞き位置を把握、ダッシュで距離を詰め、朱喰で攻撃
敵に先手を取られた場合は、巨腕の右手で防御
攻撃の隙を狙って掴みかかることで反撃する
痛みなんてこれくらいなんてことないよ
●朱に屠る
揺らめく世界に、薄黒の双眸を細め――雨煤・レイリ(花綻・f14253)は彼方に囁いた。
「暑すぎるのはつらいし、熱いのは……嫌だよね、苦しいよね。病気も暑さも、苦しいのは、つらい」
憂いに蔭る表情は、身を包む熱波にむけたものか、或いは。
「その一端を与えたことが此処ではなくとも自分にあるというのは……ううん、今は戦いに集中しなきゃ」
頭を振る。
右の爪が彼の戦意に呼応して、かちりと音を立てた。
ゆっくりと左右に歪む街道の中央、黒い影が無数に浮かび上がり、レイリを待ち構えている。そして近づく度に、その熱気は息苦しいほどに高まる。
リリリリ……――まるで警報のように、細かな音が戦場に響く。
「風鈴の音、夏の縁側で涼みながらゆっくりとした時間で聞けたなら、きっと心穏やかに聞けたんだけど」
これは狂瀾の音色だ。まともな旋律でもなく、清涼感の欠片も無い。
半ばまで目を伏せ、彼は血液をその右の腕の戒めを解き放つ。
「ひとたびの戒めを解く。貪れ――≪朱喰≫」
刺々しく巨大に変じた腕に、花弁の幻影が吹雪せ。軽やかに、地を蹴った。
自らの身を守るように腕を翳しながら、レイリは群へと仕掛ける。尾を逆立て、無造作に薙げば、巨大な爪は兜風鈴を軽く破壊していく。
起きた風に舞う、花弁の吹雪。優美で有りながら、彼が刻みつける赤い軌跡は、容赦なく兜風鈴を蹂躙した。
全力の加速と共に腕を振り下ろした姿勢は、背が無防備――リリリ、音を鳴らしながら突進してきた兜風鈴を、身体を無理矢理捩って掴み取る。
攻撃の予兆を、聴覚が捉えていた。ゆえに急な転身も可能であった。そしてそれは相手の無防備を突く反撃でもある。
兜風鈴がもたらす炎が、生身の肌を焼く。仲間意識でもあるのだろうか、別の個体の突進が、レイリの頬を掠めて浅く創を残す。
然し、構わずぱきりと握りつぶす。易いことではない――血液と、理性と、彼は代償を払い、その力を得ている。
ゆえに、笑った。
「痛みなんてこれくらいなんてことないよ」
あくまで平静の柔和な顔で、さらりと言い、より群れているところへと朱に染まった腕を振るう。
小さな火傷が増えていこうが構わず、獣のように低く駆けて、彼は次々と兜風鈴をもぎ取っていった。
大成功
🔵🔵🔵
ロカジ・ミナイ
あっづい!
今日日のUDCアースだって此処までじゃないよ
何の恨みがあるってんだい?僕らが何したってんだい!?
あ、恨みだらけだったんだっけね
そりゃ申し訳…
ないわけねーだろふざけるなよこの太陽
南米産の風土病なんて響きだけで尻が縮む
そうね…暑いのが好きそうだものね
しかし此処は南米に非ず
貴様らの蔓延れる場所でなし
振るう技は名椎の約束
アツい苛立ちを剣とか拳とかそういうのに籠めて
バッタバッタバリンバリンと兜風鈴を叩き落として
霊玉とかいうのを目隠しなしスイカ割りみたいにカチ割ってやろうじゃないか
僕は別に侍じゃないけども
サムライエンパイアに生を受けた時からサムライの端くれと自負する者
戦に踊るのが粋ってもんでしょ
●炎熱の舞台
「あっづい!」
ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)は襟をひっぱり手で風を送り――いや、それすら熱風だから、より暑い。
「今日日のUDCアースだって此処までじゃないよ――何の恨みがあるってんだい? 僕らが何したってんだい!?」
明後日に吼える。
力を籠めると、くらくらするような熱気と消えぬ陽炎で眩暈がする。
「あ、恨みだらけだったんだっけね。そりゃ申し訳……ないわけねーだろふざけるなよこの太陽」
お天道様を恨んでみても仕方が無い。信長憎しか、コルテス憎しか、はたまた眼前に迫るオブリビオンか。どれも憎い。
茹だるようなこの暑さだけでもげんなりするのに、オマケに南米産の風土病ときた。
響きだけで尻が縮むや、ロカジは眉間に皺をよせ、街道の真ん中、遮るもののない場所で容赦の無い日差しと、四方八方から押し寄せる熱波へ――見得を切る。
「そうね……暑いのが好きそうだものね――しかし此処は南米に非ず。貴様らの蔓延れる場所でなし」
抜き払うは窈窕たる長妖刀、美しい刀身がきらりと耀いた。
息を短く吐くと、細かな風鈴の音を鳴らした兜風鈴の群と衝突する。
羽織を掠める火の粉を追って、くるりくるりと刃が踊る。のみならず、時に拳が、脚が、熱に怯まず叩き落とした。
甲高い金属音を立てて落ちる兜風鈴にも、真っ二つに断たれて落ちたそれにも、彼は自らの舞踏に集中し、気にも留めぬ。
こうして順々叩き落としていけば、いずれ宝玉も叩き割れるのではなかろうか。
独特の色彩をもつ髪の一房が、ちり、と火を灯したか、焦げ臭くなる。
おおっと瞠目しつつ、転がるような低い姿勢で頭上に一挙押し寄せた兜風鈴たちを躱すと、それらの背後を突く。
ふは、と熱を逃すように息を吐き、ロカジは下から上へと、斜めに仰ぐ。
薙いで目の前でひらひら落ちるそれを見やり、にっかりと笑った。
「僕は別に侍じゃないけども、サムライエンパイアに生を受けた時からサムライの端くれと自負する者――戦に踊るのが粋ってもんでしょ」
街道の中心で、大立ち回り。
この中に宝玉があればそれでよし、スイカ割りみたいにカチ割ってやろうじゃないかと嘯いて、彼は再び地を蹴った。
大成功
🔵🔵🔵
華折・黒羽
…もし志半ばで倒れた者がいたとて
戦場から解放された者を再び叩き起こすものじゃない
鳴り響く音が鼓膜震わせる
雄叫びか怒号か
それとも嘆きか
胸中渦巻くやるせなさは相棒呼ぶ声で紛らわせ
─黒帝
生まれ出でたその身は
己の倍ある黒獅子、黒帝
その背をひと撫で
視線は交わさずとも伝わる意志
いくぞ
ひとつたりとも、討ち漏らすな
咆哮と共に駆ける四肢がふたつ
黒帝が鋭い牙で、屈強な四肢で討てば
己は広げた両翼により機動を上げ
手にする屠で薙ぎ払う一閃
敵の攻撃は武器受けで防ぎカウンターへと繋げ
生命力吸収でひとつでも多くの魂を解放し
霊玉を砕く事も忘れずに
もういいんだ
…もう、眠れ
ひとつでも多くの魂が
還れる事を祈って剣はまた振り下ろされる
●黒き獣の疾駆
風が吹いて、黒髪がそよぐ。かさかさと翼が音をたてた。
それはひどい熱を孕んで、肌にねっとりと忌々しく絡みつくようだった――こんなものを生み出すのが、彼らの望みだったのだろうか。
「もし志半ばで倒れた者がいたとて――戦場から解放された者を再び叩き起こすものじゃない」
目を眇め、華折・黒羽(掬折・f10471)は真っ直ぐに前を見据えた。
如何に幕府憎しといえ、こんな地獄をもたらすためではなかろう。何より、斯様に命を捧ぐ事になるという現実を、彼らは知っていただろうか――。
途方も無い風鈴の音。響き渡り空気と共に震えて、黒羽の髪を、耳を不快な風が撫でていく。
繊細に音を聞き分けるならば、耐えがたい不調和であり、悪意そのものだ。
(「雄叫びか怒号か――それとも嘆きか」)
「――黒帝」
振り切るように、相棒の名を呼ぶ。
彼の傍らに忽然と姿を現したのは、黒羽の二倍の長躯の黒獅子。豊かな毛並みをひと撫ですれば――言葉も視線も不要。
「いくぞ。ひとつたりとも、討ち漏らすな」
二人の間に流れた穏やかな沈黙は、刹那。
――どう、と。空気が爆ぜた。
黒き獅子は一足で兜風鈴たちを、屈強な四肢で蹴散らせば、翼を広げて滑り込んだ黒羽が黒剣を鋭く振るった。
金属音が、刃を跳ねた。小さな音の波がずれていく。けれどこの空間に立っているだけで、熱波による苦痛と、共鳴振動による衝撃波がふたりを苛む。
だが奥歯を噛みしめ、黒羽は耐えた。
それら一体一体が、長州藩士の命を捧げて呼ばれたオブリビオン。これらを残らず還すことこそ、命を賭した彼らに報いる手段。
戦場で敵対する者として、それは欺瞞かも知れぬ。
「もういいんだ……もう、眠れ」
全力で薙いだ風圧が、兜風鈴の隊列を崩す。彼の刃が触れた部分から、生命を啜り、僅かな創であっても、それらはころりと地に落ちた。
それを黒帝が踏みつけに、猛々しく吼えて、牙を立てた。
猫の脚で強かに一度地面を蹴り、尾を揺らし、翼で力強く羽ばたくと、くるりと旋回しながら彼は黒剣を振るう。
「ひとつでも多くの魂が還れる事を」
祈りをこめて。獰猛に、彼らは喰らう。
大成功
🔵🔵🔵
青霧・ノゾミ
■ニノマエ(f17341)と
てか、暑いのが許せない。暑いのキライだーッ!
(と、灼熱地獄に憤慨し、民皆に共感しこれを終わらす心意気)
飛んでる風鈴に氷の矢を放つ。
音がする方向にいるってことだから、わかりやすいね。
チリと鳴ったら…って、早押しクイズでイントロドン!
こっちも高速詠唱で対応。
亡霊達が現れたら氷矢で抑えて、兜をおびき寄せる。
後ろに隠れてたら歩兵が倒れちゃうよ。
大将なら前へ出てくるよね。
…長州の人なら、たぶん。
そうしてニノマエの射線を確保し一撃で仕留めてもらう。
うん、あいつの狙撃が通るように敵を誘導することは
頭に入れて動いてる。
さよなら、彼岸の向こうへ御還り下さい。
僕らはその無念を忘れない。
ニノマエ・アラタ
■ノゾミ(f19439)と
心頭滅却ってか。
暑すぎると鋼も曲がるからなァ。
刃のそりや銃身の具合もちっとばかり考えて戦わねえと、だ。
樹木や草葉の陰に身をひそめながら、風鈴兜を千里眼撃ちで狙撃する。
10秒の集中時間はノゾミが作ってくれる。
風鈴は音で居場所が知れるが、俺の射線も発砲音とマズルフラッシュで察知される。なるべく捕まらない場所を選ぶが移動は臨機応変に。
ノゾミの支援に回らなきゃならん時は、躊躇なく白兵戦も選択。
武器にこだわらないが、侍亡霊相手なら妖刀を抜くぜ。
一度は現世から解放されたのに、引きずりだされちゃかなわんよな。
すべて彼岸の向こうへ連れてゆけ。
連れ行けないものは俺とこの刀が引き受ける。
●鉛の弾丸、氷の矢
じっとしているだけで汗が滲む。街道の真ん中であれば、日差しを遮る遮蔽物も無く、押し寄せる熱波は止め処なく身を苛む。
「てか、暑いのが許せない。暑いのキライだーッ!」
青霧・ノゾミ(氷嵐の王子・f19439)は耐えきれずに叫んだ。
そんな彼と少々距離をとりつつ、ニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)は敵影へと鋭い視線を向けていた。
「心頭滅却ってか。暑すぎると鋼も曲がるからなァ」
刃のそりや銃身の具合もちっとばかり考えて戦わねえと、だ。
確かめるように呟く彼の心は、既に戦いに向けられている。
至って冷静なニノマエに、ノゾミは鋭い視線を送ったが――はあ、と息を吐いて同じ方角を見た。敵影は捉えている。彼らの間合いに入るまで、あと僅か。
「音がする方向にいるってことだから、わかりやすいね」
ノゾミはじわじわと迫りくる兜風鈴へと淡い微笑を浮かべた。
「ほら、さっさと位置についたら? 時間を稼いであげるんだから」
「言われなくとも」
ぶっきらぼうにニノマエは身を隠せる茂みへと向かい、待機する。残されたノゾミは脳裡で数を数えながら、耳を澄ませる。
「チリと鳴ったら……って、早押しクイズでイントロドン! ――凍れ!」
リ、という音を捉えた瞬間、氷の矢を解き放つ。
数十の矢が無防備に街道を進んできた兜風鈴たちを射貫き、その隊列を大いに狂わせた。
「後ろに隠れてたら歩兵が倒れちゃうよ。大将なら前へ出てくるよね」
――長州の人なら、たぶん。
彼はそう考えた。
されど、元が人ならざるものなら、生き延びた個体は次々と全身を震わせ、共振による衝撃波をノゾミへと向けてくる。彼らはもうどれが統率者で、元の気質をもっているものではない。
しかし、空を斬り裂く発砲音と共に、繰り出された弾丸が先頭に立った兜風鈴を容赦なく穿った。
さっと茂みから駆って、次の茂みへと身を隠し、ニノマエは拳銃を構える。音で対象の位置を定めるならば、陽炎の揺らめきも影響はない。
熱によって生じる感覚の差異は意識して制御しつつ、静かに、深く息を吐く。
(「俺も発砲音とマズルフラッシュで察知されるからな……」)
場所を入れ換え、衝撃波の及ばぬところで、一体一体を確実に落とすのだ。
彼が集中するための時間はノゾミが引き受け、宙に浮かせた次の氷の矢を放つ。
派手な氷の紗も彼の立ち位置も、ニノマエの射線を遮らぬ、絶妙な位置だ――ひらりと身を躍らせ、躱した傍から、弾丸が無慈悲に兜風鈴を砕く。
「一度は現世から解放されたのに、引きずりだされちゃかなわんよな」
狙いを定め、目を細めたニノマエはそっと囁く。
「――すべて彼岸の向こうへ連れてゆけ」
鮮やかに赤い鬼火が浮かぶような景色を前に、ノゾミも儚げな声音で祈る。
氷の矢を背に抱え、別れの言葉を送る。折しも、あちらとこちらが繋がる時期だから。
「さよなら、彼岸の向こうへ御還り下さい。――僕らはその無念を忘れない」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ユラ・フリードゥルフ
あっつい!
眼鏡が落ちそうだし、茹でられるつもりはないんだけど。
原因が分かっているならさっさと片付けよう。
俺、暑いよりは涼しくて心地よい方が好きだし。
これ以上此処を荒らさせはしないよ
ふよふよしてるんだよね、あれ
リンドブルムで斬りかかるよ。届かないなら暗器を投げる
放つナイフと共に繭の辿りを発動
ナイフは敵の密度が濃い場所に
捕まえてあげるよ? これで終わりにする為に
結界を抜けてきた相手にはリンドブルムで攻撃を
一体でも多く倒すよ
ふぅん、死者ね。
言えるのはたった一つだよ。
起き上がるより寝ていた方が良いんだ。
竜槍で吹き飛ばし、穿つ一撃で終わりにしよう
おやすみ、何処かで誰かを守っていたひと。
●炎熱の槍葬
汗で、眼鏡が滑ったのを、ぐいと戻し、少年は僅かに柳眉をあげた。
「あっつい!」
ユラ・フリードゥルフ(灰の柩・f04657)の第一声は、身も蓋も無かった。
叫んだところで冷静になる。言っておきたいだけだ――。
「眼鏡が落ちそうだし、茹でられるつもりはないんだけど。原因が分かっているならさっさと片付けよう。俺、暑いよりは涼しくて心地よい方が好きだし」
一声放てば、多少気が紛れたか。否、少し気が立ってちょっと熱が増したかも知れない。自分は人形なのに、とぶつくさ零し。
振り返りながら、いつしか行く手を囲むように広がっていた兜風鈴たちへ――唇を三日月に上げて見せた。
「これ以上此処を荒らさせはしないよ」
宣言するなり、脚からするりとナイフを抜いて、腕を撓らせた。しなやかに孤を描いた先で、真っ直ぐに飛来する小さな刃は、そのものが攻撃であるが。
「じゃぁ、描こうか。これは俺の檻。俺の操り絲」
悪戯っぽく囁く詞――。
空間を斬り裂く暗器と共に、不可視の糸が結界を張り巡らせていたことに、それらは気付いただろうか。
仕掛けられた事に釣られ――意気揚々と反撃に出ようとしたいくつかの兜風鈴は空中に次々と縫い止められて、不思議なオブジェを彼の眼前に生み出した。
「捕まえてあげるよ? これで終わりにする為に」
不敵な光をタンザナイトの瞳に湛え、ユラは次のナイフを構えて告げる。
その時――、リィィン……と涼しくも闇の底に響くような、おどろおどろしい音色がかしこで響いた。
呼応し揺らめく視界に、ぼんやりと滲む影が身を起こしていく。いずれも侍めいた外見をしている。身動きのとれなくなった兜風鈴に変わり、ユラを迎え撃つつもりだろう。
「ふぅん、死者ね」
確かめるように、囁きて。
リンドブルムと銀の竜の名を呼ばうと、彼の細い腕に馴染む槍が収まった。
元より、この結界を潜り抜けてきたものたちはすべて斃すつもりである。そこに亡霊が加わろうとも、同じ事。
裂帛の気合いと迫り来る刀に、鋒を合わせて弾き、ユラは鮮やかに回転しながら亡霊の中心を鋭く貫く。
「……言えるのはたった一つだよ。起き上がるより寝ていた方が良いんだ」
いくら此処が地獄でも。こんな戦いのために、戻ってくる必要は無い。
嘯き、微笑し。彼は更に畳みかけるように踏み込んだ。槍の半ばまでを押し込めば、ふっと幻が如く消え、その先に居た兜風鈴を穿っていた。
「おやすみ、何処かで誰かを守っていたひと」
その心がこんな形で利用されるのは――。
この世界と特別な縁の無い者とて、不本意なのだ。
大成功
🔵🔵🔵
火狸・さつま
常盤f04783と
あ…暑、い……夏毛が全て抜け落ちそ…
わわ、常盤、大丈夫…?
持ってた手ぬぐいでぱたぱたぱた
ん、ん、さっさと倒して、どっか、涼しい、しに行こ!
『早業・先制攻撃』【燐火】の『範囲攻撃』
真っ黒焦げの煤けて鳴らなくしてやる…!
『2回攻撃・範囲攻撃』<雷火>の雷撃で『気絶攻撃』
敵の動き『見切り』躱し
『オーラ防御』で防げば即座に『早業・カウンター』雷撃をお見舞い!
負傷は『激痛耐性』で凌ぐ
わぁあい!常盤の攻撃、涼し…!
?!
常盤、あれ、なんか湧いて来た!オバケ…?
ひぇ…幽霊嫌い
そろり、邪魔にならない範囲で常盤に近寄る
攻撃、効く?大丈夫?本当?う、うん、じゃ、頑張る…!
『破魔』の【燐火】で対応!
神埜・常盤
さつま君(f03797)と
――なんだ此の暑さは
さつま君は平気かね、僕は正直バテそうなンだが……おや、扇いでくれて有難う
あァ、死を呼ぶ風鈴は早く退治して
冷たい甘味でも食べに行こうじゃないか
風鈴の音色はマヒの護符を投擲して封じ
黄泉の霊には破魔の護符を貼り付け無効化を
武器が飛んできたら見切るか、怪力で受け止めるとしよう
傷は激痛耐性で乗り切るよ
さつま君の雷は景気良くて頼もしいなァ
さて、僕の方は少し涼しくしてあげよう!
風鈴どもの身を貫く氷の雨を広範囲に降らせて攻撃
仲間に当たらないよう集中して操作するとも
討ち漏らしは影縫による氷属性攻撃で
一体ずつ仕留めていこうかなァ
ふふ、アレは倒せるお化けだから大丈夫さ
●幽と涼の狭間
「――なんだ此の暑さは」
じとりと周囲を睥睨し、神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)が言う。
自慢の一張羅も、インバネスも、はっきり言って重荷でしか無い。
「あ……暑、い……夏毛が全て抜け落ちそ……」
何とか振り返って見れば、火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)もへたれている。耳は垂れて、尻尾も下がっている。
耳はともかく、自前の毛並みの尾は、どうにも暑そうである。
「さつま君は平気かね、僕は正直バテそうなンだが……」
「わわ、常盤、大丈夫……?」
心底疲れたような声音に慌て、さつまは手拭いを広げると、常磐をぱたぱたと扇ぐ。
「おや、扇いでくれて有難う」
しかし正直、熱風が寄せてくるばかりだ。一時でも清涼感を得るには、原因となる熱波を取り除かねばなるまい。
戦う前からぐったりとしている常磐を案じ、さつまが妙案を思いついたと目を輝かせ、手拭いをぐっと握る。
「ん、ん、さっさと倒して、どっか、涼しい、しに行こ!」
「あァ、死を呼ぶ風鈴は早く退治して、冷たい甘味でも食べに行こうじゃないか」
それは良い提案だと復活した常磐と共に、二人は敵を見据えた。
構えるや否や、リィーン、リィーンと高い音を立てた兜風鈴が果敢と突進してきた。大雑把な動きは、躱すことも容易そうだが。
「真っ黒焦げの煤けて鳴らなくしてやる……!」
さつまの周囲に、愛らしい仔狐の形を成した狐火が浮かび上がると、次々に空を蹴って迎え撃つ。
青い軌跡を描きながら奔る仔狐から溢れる焔は、徐々に広がっていき、兜風鈴たちと衝突する時には、視界いっぱいに青い焔で満ちた。
それを潜り抜けることに成功した兜風鈴も、待っていたと言わんばかりに、身を躍らせたさつまの尾から鋭く迸った雷電に撃ち抜かれる。やはり宣言通りの真っ黒焦げとなって、霞と消えた。
戦場に広がった青は、清涼感に満ちた色彩だが、焔。
あっつ……、と零す彼に、常磐はくすりと笑みを返す。
「さつま君の雷は景気良くて頼もしいなァ」
視線を逸らしても、隙をついて飛んで来る兜風鈴に、闇色の符をぺたりと貼り付けるのを忘れない。
破魔の力で不意に地に落ち、藻掻く兜風鈴を尻目に、常磐は優雅に腕を広げた。
「さて、僕の方は少し涼しくしてあげよう!」
忌まわしき我が権能の一端、とくとご覧あれ、と。
謳い降らすは氷の雨。
熱しか感じぬ空気を瞬時に凍らせ、幾重にも針と降り注ぐ。それらは兜風鈴を次々射貫き、地へと縫い止めていく。
降るにせよ、融けるにせよ、冷気が周囲にふわりと広がり、さつまは嬉しそうに目を細めた。
「わぁあい! 常盤の攻撃、涼し……!」
歓声をあげた直後だ。
何かに気付いて、彼の尻尾がぶわっと膨らんだ。
「!? 常盤、あれ、なんか湧いて来た! オバケ……? ひぇ……幽霊嫌い」
喜びから一転、一気に青ざめるのだから、その変化に常磐は愉快そうに頬をあげる。
彼の攻撃に呼応して黄泉の国より召喚された亡霊たちが、刀を手に、あああ、と呻くような声を出してゆらゆらと躙り寄ってきていた。
「ふふ、アレは倒せるお化けだから大丈夫さ」
常磐が落ち着いた声音で告げると、さつまは縋るような視線を向けてくる。
証拠を見せてあげよう、と。常磐はゆっくりと亡霊に近づく。当然、刃が振り下ろされるが、それを斜めに避けながら、彼は符を貼り付ける。
籠められた力で身動きがとれなくなった亡霊は、そのまま耐えきれず、消滅する――。
「攻撃、効く? 大丈夫? 本当? う、うん、じゃ、頑張る……!」
亡霊に青い瞳をじぃっと向けて、尾を奮わせ、狐火を操るさつまを横目で見やり。
さァ、さっさと終わらせようか――心からの詞を口に、常磐は符を翻した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
あつい……
こんな場所に長くおりたない、はよ片付けてしまお
どこに災魔はおるかの
にしても……人の命を糧に骸の海から喚んだものか
望んでさしだしたもの、と思っておろうが……掌の上で転がされてそうされたんじゃろな
しかしもう、失われたもんは戻らんしどうしようもない
わしのできること、してこよか
りんりんと鳴っておるがこうも熱いと涼やかさもなんもないの!
聞き耳で音を辿って兜風鈴のもとへ
逃げるなら走り込んで追いつつ、右目におる虚を腕に招く
獣の三爪借り、叩き潰す
力増しても動き大きくなるなら別に怖い事などないし、狙いやすかろ
この道は譲ってもらお
暑さで毛並みも乱れてしまう
はよ熱のもとを砕きにいかねばならんのでな
●狐の奉舞
ぐにゃりと視界が歪む。
「あつい……こんな場所に長くおりたない、はよ片付けてしまお」
琥珀の隻眼は虚ろに。灰青の尾はへたりと垂れて――終夜・嵐吾(灰青・f05366)は息を零す。熱を追い出す呼気すら熱いのだから、内にも外にも逃げ場は無い。
「にしても……人の命を糧に骸の海から喚んだものか。望んでさしだしたもの、と思っておろうが……掌の上で転がされてそうされたんじゃろな」
詐欺とは言わぬが――質の悪い話だろう。
武士は主命のために命を賭すとて、このような内容のために投げ出すことはなかっただろう。
しかしもう、失われたもんは戻らんしどうしようもない――紡ぐ詞は、諦念よりも、もっと強い何かを滲ませ乍ら。
「わしのできること、してこよか」
飄飄と、軽やかな足取りで、彼は一歩を踏み出した。
さすれば、リリリ……、とすべての音が重なりあって、耳に喧しい。高い金属音は本来ならば清涼感に繋がる音程だろうに。
「こうも熱いと涼やかさもなんもないの!」
惘れ混じりに声をあげ、右目に宿る虚を腕へと招く。
「戯れに、喰らえよ」
唱えば、黒き茨が右腕に這い、顕現するは獣の三爪――。
行く手を遮る兜風鈴たちも、踏み込んできた嵐吾を認め、ぎらりと彼を睨み付け、身体を震わせる。
狂ったような音色に、叩き潰す――という極めてシンプルな思考を軸に、彼は身を躍らせた。
脚が地を離れた。蹴りつける地面もまた熱く、からりと乾いて埃がたつ。
ひゅ、風が吹いた。
三筋の突風が熱を掻き交ぜるように斜めに奔る。
音を響かせながら、突進してきた兜風鈴が、すれ違い様にみっつに裂けた。
元より繊細な攻撃のできぬ存在だ。音色で力が増幅されても、その分大雑把な動きになる。身を囮に誘き寄せれば、易々見切り、腕を振るえば良い。
灰青がふわりと揺れて、対岸にやわらかに渡るよう、兜風鈴たちの合間を縫って嵐吾は金眼細めて、笑う。
「この道は譲ってもらお。はよ熱のもとを砕きにいかねばならんのでな」
暑さで毛並みも乱れてしまう。
そういって火の粉舞う中心で柔和な表情を浮かべる男は、次なる陣へ、獣の爪を鋭く振り下ろした。
熱の根源を、砕くために。
大成功
🔵🔵🔵
明日知・理
任せろ、大暴れしてきてやる。
▼戦闘
己の目立たない特性を活かして、奴さんの死角から牙を剥き、蹂躙していく。
然し、もし周りに体力の低い者がいるなら最優先に庇う。
風鈴の音?風流じゃねえか。
夏だしなァ、霊らも交えて祭りに洒落込むのも悪くはねえが、生憎と場が良くねえ。
…悪いな。眠れ。
UDC ──シスが俺の体を覆って一つになり、巨躯の黒き怪犬の姿と成る。
暗殺の技術を以ってして、捨て身の一撃にて。
風鈴も、霊玉も、此の牙で、彼岸に葬る。
_
アドリブ大歓迎
●怪犬とともに
すう、と深い呼吸をひとつ。
戦場の真ん中で、明日知・理(月影・f13813)は精悍な貌にうっすらと好戦的な笑みを刷いた。
その殆どはフードに覆われて見えぬ。どころか、気配丸ごと包み込む。
「任せろ、大暴れしてきてやる」
誰にでも無く宣言すると、彼はしなやかに地を蹴った。
無造作な跳躍だ。速さは言うまでもないが、迷いが無い。そして、いつしか抜き払った妖刀が触れるまで、兜風鈴は彼の接近に気付かなかった。
一刀で伏された仲間の姿に驚き、兜風鈴たちは火の粉を散らしながら、身を震わせ、リィンリィンと音を重ね始める。
「風鈴の音? 風流じゃねえか」
それに唇の端を持ち上げて、理は茶化すと、膝を折って後ろへ跳ぶ。重力を感じぬほどに柔らかに距離をとり、顔をふせれば、そこに居るのに印象は薄くなる。
「夏だしなァ、霊らも交えて祭りに洒落込むのも悪くはねえが、生憎と場が良くねえ」
軽妙な声音で挑発する。
ぴりりと敵どもが緊張したようにも――同時に、何処吹く風という体にも見える。彼らに複雑な思考があるのか、どうか。
熱波で高まった気温の中、空気が揺蕩う。
兜風鈴も理もその揺らめきに姿を歪めている。一瞬の溜めの後、群れの一方が、孤独な一方へと波濤と押し寄せた。
彼は平然と、妖刀を構えて、待ち受け乍ら。
「……悪いな。眠れ」
―――"Thys"。
相棒の名を呼ぶ――理の身体をたちまち覆うは、新月の闇。燃えるような緋色の双眸をぎらりと光らせ、身を躍らせるは巨躯の怪犬。
押し寄せるものどもと接触の瞬間、獰猛に牙剥いた獣は爪を振るった。
群れの中を駆け抜けた理の姿は元に戻り。
ふっとひとつ吐息を零す。彼の後ろで、多くの兜風鈴たちは一掃され、散った。
頬に、肩に。
浴びた火の粉がちりちりと小さな痛みを残している。だがそれを苦痛を思うほどではない。第二陣が来る――息が詰まるほどの熱波の中、冷ややと冷めた紫眼がそれを認めると、彼はとんとその場で地を蹴った。
低く構えれば、端麗な顔はフードの影に。彼は何処までも相棒と駆ける。
「風鈴も、霊玉も、此の牙で、彼岸に葬る」
大成功
🔵🔵🔵
吉城・道明
志に準じた結果がこの有様とは――幾度見ても遣る瀬無い
山陽と共に長州すらも地獄に変えては、元も子もなかろう
初手は手近な敵へ一気に距離詰め先制攻撃
確実に一撃通すべく、残像見せ動きを読み切られぬよう試みる
以降は見切りで敵動作や音の発生源を探り、攻守の機を見極めつつ行動
基本は守り薄い箇所狙い気絶攻撃
音の元を掴めばそこを重点的に攻撃
鎧砕きと武器落としの威力乗せた刀で断つ
オーラ防御は耳と急所に集中させ、音の被害と致命阻止
消耗は激痛耐性と、任を成し遂げる覚悟で堪え、弱った者から確実に数減らしを
道も命も絶やしはせぬ――必ず先へと繋ぐ
そして民草も風土までも変わり果てる前に、火種は此処に絶やすのみ
●剣豪、ひとり
黒い影が脚をとめた。斜めと構えた姿勢は、鯉口を切る。
流れるような、自然な仕草は敵たちにその戦意を気取らせぬ。
「志に準じた結果がこの有様とは――幾度見ても遣る瀬無い」
影が口を利いたとき、周囲の空気は漸く震えた。
「山陽と共に長州すらも地獄に変えては、元も子もなかろう」
吉城・道明(堅狼・f02883)のことばは、熱波に消えていく。
彼らも彼らなりの正義があったはずだ。結果として、すべてを魔に明け渡すこととなった。
だが今更言っても仕方の無いこと。彼が猟兵としてできることは。
――凡て、斬り捨てる。
影が疾駆した。鞘より解き放たれた白刃が孤を描き閃き、兜風鈴を両断した。
リ、リリリ……――その瞬間、止まっていた時が動き出したように、道明にむけて黒集りが押し寄せる。
それを刃で受けながら相手の動きを見、素早く跳び退く。音を頼りに、追撃してくる兜風鈴を躱す。やかましく鳴り響く音が、それらの力や速度を増すものの、同時にそれは現在地を報せてくれる警報に等しい。
火の粉が、衣に朱を載せていく。だが振り向き様に道明は刀を返し、斬り伏せる。
小さな火花が双方の間で爆ぜる。
高らかな金属音を立てて弾き飛ばされた兜風鈴は、くらくらと不安定な動きを見せて、群れの中に押し戻された。
次から次へと、飛来してくる相手を、道明は順番に対処していく。
対一の剣であれば、道明の身には補いきれなかった疵が刻まれていく。されど、彼が意識する守りは最低限。急所となる部位と、耳のみだ。
ただひとつ応酬に集中し、彼は剣と舞う。
陽炎で揺らめく世界で、呼吸を乱さず、剣を掲げれば。
「道も命も絶やしはせぬ――必ず先へと繋ぐ」
一歩、深く踏み込み、剣風を叩き込む。
兜風鈴は悲鳴のような音色を鳴らして消えていく。
返しながら薙ぎ払えば、傍らに迫っていたもう一体も斬り落とす。強かな斬撃に眩めいた儘の別の一体を、縦に割った。
その顎に、静かに汗が滴って、珠と結んで落ちる。
逃しようのない熱が彼の身を蝕もうとも――。
「そして民草も風土までも変わり果てる前に、火種は此処に絶やすのみ」
厭わず、彼は身を翻し、耀く一閃を放つ。
そのとき――ころりと転がり落ちた石がある。
それはいずこの戦場か。よくよく密集した群れの中から、ころりと出でたようだ。
猟兵に躊躇いがあろうはずはない。各各が、思いを籠めた一撃を、宝玉へと叩き込み――炎熱に揺らめくような、釜茹で地獄をもたらす熱波は消え去った。
息が詰まるようなそれは消えたが――しかし、真夏の炎天下、当然だが急激に気温が下がるわけではない――その事実に気付いた猟兵たちは、直ぐ帰還することになるが。
見事、幕府軍を、人々を、救うための一手は成し遂げられたのだった。
大成功
🔵🔵🔵