エンパイアウォー㉕~陽啄緋天
●霊玉奪還戦
第六天魔王『織田信長』。
ついにサムライエンパイアに姿を現したオブリビオン・フォーミュラーには、付き従う何人かの『魔軍将』がいることが判っている。
魔軍将は、各々が幕府軍を壊滅させる企みを持ち、エンパイアの各地に潜んで独自に動いている。
故に猟兵達も、その企みを阻止しようと東奔西走していたわけだ。
「うん。おかげで虐殺渡来人『コルテス』の霊峰富士を噴火させる企みは、早々に潰れたみたいだよ。さらに、その陰で動いていたもう一つのコルテスの計画も暴露された」
コルテス配下のオブリビオン達が、富士の火口近くに儀式場を設けていたことが判明したのだ。
儀式の目的は、霊峰富士に眠る太陽の力を霊玉という形に変えること」
「霊玉に変えてしまえば、太陽の力を霊峰から盗み出す事が可能になる。それが儀式の目的という事らしい」
既に儀式は成立し、富士に眠る太陽の力の一部は『霊玉』となって、オブリビオン達に運び出されようとしている。
「霊玉を使ってコルテスが何を企んでいるのかは、不明だけどね? 敵のやることだ。届けさせる手はないだろう?」
とは言え、儀式が既に成っているのは、ルシル自身が先に言ったことだ。
未然に防ぐ事は出来ない。
「だけどね。霊玉の力、霊峰に戻す事は可能なんだ」
霊玉を奪い返し、富士にその力を戻す事が出来れば、コルテスは大規模な作戦を行う事が出来なくなる筈である。
そして、今ならまだ。
まだ、間に合うのだ。
下山するオブリビオンから霊玉を奪い返す事が、可能なのだ。
「緋天。ケガレを引き受けたかつての瑞鳥と言われる、火の鳥。それが、私が見つけた霊玉を運ぶオブリビオンだよ」
自身も炎の力を持つからなのだろうか。
霊峰から陽の力を奪う計画に、加担しているのは。
「あ、そうそう。霊玉だけどね。取り戻したら、火口まで運んで来て欲しい」
――ん?
今、なんと?
「放っておくとマグマに戻っちゃうからさ。火口からリリースすればいいから」
つまり、富士を登れと。
まるで釣った魚を釣り堀に戻すみたいな感じでルシルは言っているけれど、今回は戦った後にもう一労働が待っているようである。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
富士の霊玉奪還戦です。
霊峰富士鳴動を短期間で制圧した事で発生した、期間限定ボーナスシナリオです。
霊玉を奪い返すとどんなボーナスになるか、ですが、コルテスの次の作戦を阻止するのに必要なシナリオ数が、減少するそうです。
戦場は、富士の山中。
相手はオブリビオン、緋天のみ。
戦闘メインとなります。
頑張って霊玉を取り戻して、富士にリリースして下さい。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 ボス戦
『緋天』
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POW : 穢焔
【嘴から焔】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 斬翼
単純で重い【翼】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
WIZ : 絶啼
【咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:龍烏こう
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠鈴・月華」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
メルノ・ネッケル
悪いが、アンタらの思い通りにはさせへんで?
富士から盗った力……今すぐ返してもらおか!
狐火と熱線は効果が薄そうや、ここは熱線銃をしまいリボルバーの出番!
向こうの手は単純、だからこそ強力な近接攻撃。
距離を取りたい所やけど、離れすぎれば弾は届かん。
……なら、射程を伸ばしゃええ。
9秒、カウントスタート!
牽制射撃と共に翼を躱しながら距離を取り続け、9秒を稼ぐ!
……仕込みはOK、反撃や!『九秒の狐』!
射程は1.8km、お釣りが多すぎる位や……撃ち抜くっ!
で、後は登山か。空飛べれば楽なんやけどな……。
ま、考えてみれば富士登山なんてそう機会あらへんし。
玉を火口に戻すまでがお仕事、景色でも楽しみながら頑張ろか!
真宮・響
コルテスがかつて征服したアステカは太陽に縁の深い国だったようで。
太陽の力を利用としているコルテス、嫌な予感しかしない。富士山の噴火を企んだ奴だ、脅威は少しでも削いでおきたい。
でかい鳥だから真紅の竜で対抗する。【騎乗】した上で上空に向かってジャンプ、焔と咆哮の攻撃範囲から逃れる。敵の頭上から【先制攻撃】【二回攻撃】【串刺し】を併せた【槍投げ】で攻撃するよ。
もし、必要なら、取り返した霊玉は真紅の竜で火口に飛んだうえで、霊玉を火口にリリースしようかね。
真宮・奏
彼の偉大なアステカ文明を滅ぼすことも辞さなかった人物です。霊峰富士の陽の力を奪うなど大それたことを・・・これ以上思うようにはさせません。その偉大なる力、返して頂きます!!
トリニティ・エンハンスで防御力を高めた上で、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【火炎耐性】【激痛耐性】で攻撃を正面から受け止め、敵の注意をこちらに引き付けます。攻撃は【属性攻撃】【二回攻撃】【衝撃波】で。かつて瑞鳥と呼ばれた聖なる鳥。これ以上罪に穢れることは防ぎます。速やかに骸の海に還ってください!!
神城・瞬
富士山噴火も辞さない人物です。神聖な霊峰富士の陽の力も狙いますか・・・精霊術士の僕にとって、霊峰富士は憧れの場所で大事にするべき場所です。数多の精霊が住んでいる場所ですから。
敵は火の鳥ですが。なら僕の氷の精霊術で対応しましょう。最初から全力で行きます。【高速詠唱】【全力魔法】【二回攻撃】で氷晶の槍を使います。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】も使って、敵の動きを縛ります。邪魔はさせません!!
ガーネット・グレイローズ
やれやれ、敵の儀式の後始末を押し付けられるとはな。
コルテスとやらに言いたいことは山ほどあるが、まずは目の前の
難題を片付けないと。
こいつが緋天か。鳥……といってもかなり大きい。獣のようだな。
【念動武闘法】を使用。クロスグレイブを複製し、<念動力>で操って全方位から射撃を浴びせる。
たとえ高く飛び立とうと、追い詰めて仕留めてやる! 断続的にビームを連射し、音と光の<フェイント>も交えて味方がいる方向へと誘導してやるぞ。
仕上げにスラッシュストリングで翼を削ぎ切る<鎧無視攻撃>だ。
手に入れた霊玉は手にもって運ぶのは無理だろうから、
<念動力>で宙に浮かせて運んでみるか?
鈴・月華
緋天か。なら呼び方はひーちゃんでいいや
コソコソ持ち出しとか、宜しくないよ?
極力目立たないように隠れつつ。敵を視認したら、忍び足で近づいて不意打ちを狙いたいところ
鋼糸で、首をきゅっとね。こっちがコソコソしたっていいだろう?
翼とか嘴の動作には注意しておく
鳥の攻撃手段って言ったらそれらだから
躱し切れない時は痛みに耐えるだけ
他の猟兵と攻撃タイミングを合わせるようにして【昼は夢、夜ぞ現】を使う
自然は綺麗に。そして騒音はいらない。可能な範囲で嘴の中を狙いつつ、花弁を放とうか
花の香りに溺れればいいさ
霊玉を取り戻せたなら、富士山の火口に投げ入れるんだっけ?
登山は…仕方ないけれど
何だか、不死の薬の話を思い出すね
リュカ・エンキアンサス
富士山…一度登ってみたいとおもってたから、丁度いい、のかな
なにせ山の中にいる炎の鳥なら、きっと目立つことだろう
木の影等隠れやすいポイントをいくつか探しておいて、敵の姿を見つけたら狙撃する
斬翼はなるだけ食らいたくないから、同じ場所にとどまらず移動しながら、相手に場所を特定されないように撃っていくよ
近くに来たらダガーを抜いて応戦
あの鳥の、見た目自体は嫌いじゃない
翼は色がいっぱいあって綺麗だと思う
銃撃でも、ダガーでも、まずはその翼を落とすつもりで付け根あたりから狙おうか
無理せずあわてず順番にバラしていけばいい
終わったら山登りか
修行みたいで、嫌いじゃないよ
頑張ろう
きっと見晴らしはいいと思う
アヤネ・ラグランジェ
富士山を登るというのは並大抵のことではないのだけどネ?
事前情報を収集して準備は完璧
足元も固めてばっちりだ
武装が重いけど
ゴウリキと呼ばれる人達に比べれば軽いもの
作戦は敵の範囲攻撃外から
Silver Bulletによる遠距離射撃
敵を捕捉したら距離を保ちながらUCで敵を追跡しつつ
見つからないように移動
情報では複数の猟兵が作戦に参加しているはず
猟兵が敵の動きを止めてくれたら
伏せ撃ちで狙撃する
相棒がいてくれれば楽なのだけど
彼女は帰省で来られないそうだ
戦士にも休息が必要だネ
銃の性質上
当たり所がよければ一発で終わるだろう
ミスしてももう一発は撃てる
霊玉は僕が運ぼう
高山病っていうのはオブリビオンより手強いからネ
●陽を啄むモノ
バサッ、バサッ。
孔雀の尾を靡かせ、大きな緋翼を広げて羽ばたく緋色の鳳――緋天。
「山の中にいる炎の鳥なら、きっと目立つと思ったけど」
全然隠れるつもりがなさそうな緋天の姿に、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)が思わず目を瞬かせる。
「この距離で、このサイズ感。こいつが緋天か……」
一方、ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)は緋天の大きさに、思わず息を呑んでいた。
まだ距離があるのにはっきりとその姿が見える一因は、巨大さに他ならない。
「呼び方はひーちゃんでいいや」
山道の横に広がる林から顔だけ覗かせた鈴・月華(月来香・f01199)は、そんな小鳥につけるかの様な呼び方を勝手に決めていたけれど。
バサッ、バサッ。
ひーちゃんと言うには力強い羽ばたきの音が、近づいてくる。
猟兵たちに気づいていないわけではないだろう。
だが、緋天は迂回するでも上昇するでもなく、そのまま真っ直ぐ飛んでくる。
その理由は、すぐに判った。
左右二対、四枚の翼の内、二枚だけを使って飛んでいるのだ。
「あれがコルテスが利用しようとしている、太陽の力の霊玉か」
緋天の足と、羽ばたいていない方の翼にある鉤爪にしっかりと握られた、赤々と輝くつるりとした球体を見やり、真宮・響(赫灼の炎・f00434)が呟く。
「征服したアステカは太陽に縁の深い国だったんだっけ?」
「ええ、彼の偉大なアステカ文明を滅ぼすことも辞さなかった人物です」
問いかける様な母の声に、真宮・奏(絢爛の星・f03210)が頷き口を開いた。
「私達の知る歴史のコルテスなら、ですが」
奏の知識にあるコルテスの名前を持つ歴史上の人物と、この世界にオブリビオンとして現れたコルテスが同じ歴史を辿っているとは限らない。
ただひとつ――明らかな事があるとすれば。
「富士山噴火も辞さない、危険人物なのは間違いないですね」
神城・瞬(清光の月・f06558)が口にした、この一言。
「違いない。富士山の噴火を企んだ奴だ、脅威は少しでも削いでおかないとね」
瞬の言葉に一つ頷き、響は緋天に向き直る。
バササッ!
同時に大きな羽音を立てて、緋天が舞い降りた。
持っていた霊玉を地面に置いて、鉤爪を離す。
「気づいとるよな。アンタらの思い通りにはさせへんで? 富士から盗った力……今すぐ返してもら……んなっ!?」
言い放つ途中で、メルノ・ネッケル(火器狐・f09332)が驚き、目を丸くする。
緋天は霊玉を嘴で咥えて――ごくんっ! と飲み込んでいた。
「やれやれ。余程大事なものと見える」
次々と霊玉を飲み込む緋天に、ガーネットが目を細める。
緋天が霊玉を飲み込んだのは、恐らく守る為。
猟兵とて何か大事なものを手放せないまま戦う事になれば、鞄か何かにしまえるものならしまう事は考えるだろう。
緋天にとってそれは、己の体内という事だ。
「儀式の後始末を押し付けられたのだ。コルテスとやらに言いたい事は山ほどあるが、まずは目の前の難題を片付けないとならないな」
『クュェェッ!』
ガーネットの言う所の難題は、威嚇するように四枚の翼を広げ高い鳴き声を響かせた。
一方、その頃。
「始まったか」
遠くから聞こえた甲高い鳴き声に、アヤネ・ラグランジェ(颱風・f00432)が地面に置いたケースが、ドサッと重そうな音を立てる。
「これだけの武装を持って山登りは、楽じゃなかったネ」
実際、重いのだ。
アヤネのケースの中身は、対物ライフル。それだけで10kgを超える大型である。ケース自体も合わせれば、中々にヘビーである。
「ゴウリキと呼ばれる人達に比べれば軽いものネ」
などと言いながら、アヤネが開くケースの影で、何かがもぞりと動き出す。
ケースの影から剥がれる様に分離したのは、影の追跡者――シャドウチェイサー。
影が離れていくのを見送って、アヤネはライフルの組み立てに入った。
●緋翼、羽ばたく
「一緒に行くよ!! 気張りな!!」
響の背後に大きな真紅の竜が現れる。
「それにしても、でかい鳥だね……」
全長3mを超える竜の背中に飛び乗ってなお、響は緋天を見上げる形になっていた。
「かつて瑞鳥と呼ばれた鳥というのも頷ける威容ですね」
その大きさに感心したように言いながら、奏は三種三色の魔力を己に纏わせる。
「だからこそ、これ以上罪に穢れることは防ぎましょう」
特に強く輝きを放つのは水と風の力。
纏わせた魔力で奏が高めるのは、自身の護りの力。
「でかいと言っても、上を取れない程じゃない。行くよ!」
竜の背中で一声かけると、響を乗せた竜が跳び上がった。
「此処までは、炎もブレスも届かないだろう?」
翼を広げぐんぐん昇る真紅の竜の背中で、響が緋天を見下ろし告げる。
『――!』
飛ぶならば追おうと言うのか、緋天が四枚の翼を広げる。
だが浮き上がったその瞬間、青い斬撃が緋翼を浅く斬り裂いた。
「貴方の相手は私です!」
緋天の前に飛び出し、奏が声を張り上げ振るうは、水の精霊の力を込めた剣。水の魔力を纏った青い衝撃が緋天を叩く。
それは自分に注意を引くための一撃。
『――クュ!』
緋天が上に向けていた嘴を、下に向ける。
放たれた焔は赤と黒の混ざった様な――穢レタ焔。
「くぅぅっ!」
汗すら流れる前に消える熱量の穢焔を、奏は高めた水の魔力を纏わせたオーラで受け止め、己を盾とし拡散を防ぐ。
その後ろで――冷気が漂っていた。
「神聖な霊峰富士の陽の力、これ以上は持ち出させませんよ」
瞬が掲げる氷の様に透き通った杖からにじみ出る魔力は、氷の力。
「そちらが炎なら、僕の氷の精霊術で対応しましょう」
普段は、突っ込みがちな響と奏の母娘のフォローに回る事が多い瞬には珍しく、この場で緋天に向ける視線と声には怒りの色が籠もっていた。
精霊術士である瞬にとって、霊峰富士は数多の精霊が住む憧れの場所。
その力を奪うものを、どうして許せよう。
「貫いてみせます!!」
瞬が向けた六花の杖より、溢れる氷の魔力が放たれる。
同刻、上空。
「これでも――くらいな!」
響が全力で投げ下ろした槍は、響の意志を反映して赤熱していた。
上空から竜の膂力も加えて投げられた槍は、一筋の赤い流星の如く。
瞬の氷の魔力は空気中の水分を凍らせながら、焔を貫く双つの冷たく鋭い氷晶の槍と変わる。
焔と氷の三槍が、上下から緋天の身体に突き刺さった。
『クァッ!?』
穢焔が途切れ、緋天の口から苦悶の声が漏れる。
「効いてますね――!」
瞬が畳み掛けようと、再び氷の魔力を練り上げる。
だが。
『―――――ッッッッ!!!』
緋天が喉を震わせ、嘴から迸る咆哮が放たれる。
空気を震わせる、人が出し得る音域を越えた音――即ち、絶啼。
「あっ」
「奏!」
周りの木々を震わせ、枝を折る程の衝撃が、奏の身体を浮き上がらせ、受け止めた瞬も諸共に大きく吹っ飛ばした。
タタタッ!
咆哮が止んだ直後、短い銃声が山林の中から響いた。
(「凄い声だった。びっくり」)
胸中で呟きながら、リュカは木々の間を駆け回っていた。
足音を殺し、葉擦れの音も立てないよう、しかし足は止めずに山林を駆ける。
(「次はここ」)
足を止めるのは、木々の僅かな切れ目を見つけた時。僅かに通る射線を見つけると、リュカは愛用のアサルトライフル『灯り木』を構え、銃口を向ける。
タタタッ!
短い連射を終えると、またすぐに駆け出す。
リュカは射撃位置を絶えず変える事で、森の中の自分の位置を変えさせない。
タタタッ!
リュカが何度目かの短連射をやめた直後。
ヒュンッと風を切る音が鳴った。
反対の山林の中から飛び出し、陽の光を受けて僅かに煌めく極細の赤い鋼糸が、緋天の首にシュルリと巻き付く。
「コソコソ盗むのは良くないよ?」
自身はコソコソと山林から忍び寄っておきながらしゃあしゃあと言って、月華が腕を引けば、赤い糸が緋天の首をきゅっと締め上げた。
タタタッ!
また逆の山林から響く銃声。
『クュゥゥゥッ!!』
ぶんっ!
甲高い声を響かせ、緋天が両翼を大きく振り回す。
次の瞬間、緋色の翼が緋天の左右の木々をなぎ倒した。
「!? っとと」
緋翼の衝撃で、鋼の糸がブツッと斬り裂かれた。ピンと張り詰めていた糸が緩んだ反動で、月華の体勢を崩れかける。
(「鋼の糸を斬るかい。嘴と嘴の、ふたつに注意すれば充分そうだね」)
胸中で呟きながら体勢を整えると、月華はすぐに糸を捨てて走り出した。
「っ!」
反対側の山林でも、咄嗟に飛び退いたリュカの目の前を緋翼が通り過ぎていた。
(「こっちの位置を読んできてる、か。そろそろ手を変えるかな」)
木々の破片や地面の残骸から身を守りながら、リュカが山林の奥へ下がっていく。
メルノも緋天の攻撃の様子を、離れて観察していた。
「ちぃっ。思ったより、範囲広いやん!」
咆哮に巻き込まれ吹っ飛ばされていたメルノが、土埃を払って立ち上がる。
緋天の炎も咆哮も、ゆうに100m以上の射程があったとみて良いだろう。
「……狐火と熱線は効果が薄そうやな」
手を伸ばしたのは、腰のホルスターにあるリボルバーの銀の銃把。
挑むなら射撃戦。
「距離を取りたい所やけど、離れすぎれば弾は届かん」
メルノが愛用している銃は、拳銃タイプ。長距離狙撃用の銃とは、構造が異なる。メートル法で3桁以上の距離は、流石に狙っても当たらない。
普通の方法ならば。
「……なら、射程を伸ばしゃええ」
メルノには、そのための業がある。
バササッ!
「鳥やもんな! そら飛ぶか!」
緋色の翼を羽ばたかせた緋天に銃口を向けると、メルノは立て続けに引き金を引き、弾丸が当たったかも確かめずに距離を離すべく駆け出した。
一、二――。
『クュェェェェッ!』
牽制射撃をものともせず、緋天が翼を広げる。
「飛ぶつもりのようだな。誰の前で飛ぼうとしているか、教えてやろう」
翼を広げ、今にも飛び立ちそうな緋天の前に出ながら。
ガーネットは毅然と告げて、巨大な十字架を軽々持ち上げ――ぶん投げた。
「神殺しの力の一端をお見せしよう」
投げた勢いと念動力で、巨大な十字架――クロスグレイブが緋天の頭上まで飛んでいった次の瞬間。
増えた。
四十七にも及ぶ十字架が、蓋をするように緋天の上空に並ぶ。
「飛べるものなら――飛んでみろ」
緋天が飛び上がる方向を変えようとしても、ガーネットは念動力でクロスグレイブを自在に操り、緋天が飛び上がる先に回ってその道に蓋をする。
カラカラ、カラン。
弾倉から落とした空の薬莢が立てた小さな音を置き去りに、メルノはさらに駆ける。
三、四、五――。
『クェェェェッ!』
カウントするメルノの後ろで、緋天の大きな鳴き声とゴォンと鈍い音が響く。
緋天が翼を振り上げ、ガーネットのクロスグレイブを押しやったのだ。迂回を諦め、強引にこじ開けて飛び立とうと言うのか。
「私のクロスグレイブ、ただの障害物だと思ったか?」
ガーネットが片手を掲げる。クロスグレイブは、単に巨大なだけの十字架ではない。
ビーム砲塔デバイス。その本分は、射撃武器。
「墜ちろ」
ガーネットは全てのクロスグレイブから、光を放つ。全て一斉ではなく、一つ一つ、僅かに時間をずらして。
雨と降り注ぐ光が、緋天に飛ぶことを許さない。
六、七、八――。
弾丸を込め直した弾倉が、手元でカチリと音を立てて銃に戻る。
「九秒きっかり。仕込みはOK、反撃や!」
止めた足の踵を地に擦らせ、メルノが再び踵を返した時には、ガーネットに光を浴びせられ動けずにいる緋天は、並の拳銃の射程の遥か外にいた。
「撃ち抜くで――九秒の狐!」
照準器の先に緋天の姿を捉え、メルノは込めた弾丸を一気に撃ち尽くした。
(「他の猟兵も頑張ってるネ」)
影の追跡者ごしの視界で仲間の戦いを確認しながら、その戦場の外でアヤネは巨大な対物ライフル『Silver Bullet』を構えていた。
二脚スタンドに立てたライフルには、狙撃スコープがついていない。
不要なのだ。その為の影の追跡者。
(「相棒がいてくれれば楽なのだけどネ」)
地に伏せた体勢でライフルを構えながら、アヤネがぼやく様に胸中で呟く。
相棒がいない理由は、帰省である。仕方がない。
(「戦士にも休息が必要だネ」)
何度目かの胸中で呟きを零したアヤネの目に、光が溢れる。追跡者の視点だ。降り注ぐ光が、緋天を釘付けにしている。
「チャンス!」
思わず声に出して、アヤネは引き金を引いた。
ズドンッと重たい銃声を響かせ、弾丸が放たれる。この銃声は、緋天にも聞こえているかもしれない。居場所も気づかれたかも知れない。
それでも構わない。
アヤネが『Silver Bullet』に装填するのは、普通の弾丸ではないのだから。
緋天の翼に当たったUDC細胞炸裂弾が、その内部から骨を喰らい、肉を喰らい、羽毛を喰らい、翼を破壊した。
反対の翼の根本を、綺麗に揃った軌道を描いた数発の弾丸が撃ち抜く。
皮を裂き、肉を穿ち、骨が砕けた翼がだらりと垂れ下がる。
『グキュァァァッ!?』
二枚の緋翼を失い、緋天の口から悶える様な鳴き声が飛び出す。
ザァァッ!
次の瞬間、一帯の空間が突然、白く舞い散るもので覆い尽くされた。
夜に咲く真白き花弁――月下美人の花。
それは月華が掲げた手から放たれていた。
花弁の元は、月華が持つ全ての武器。袖に隠した暗器から、愛用の白銀の刃を持つ大鎌まで、一切合切残らず変えた花弁の白嵐。
そんな中に、地を蹴ったリュカが林から飛び込んだ。
「ああ……近くで見るとより綺麗な翼だ。本当に鮮やかな赤だね」
緋天の紅翼を褒めながら、リュカの手が掴んだのは短くも鋭い無骨な刃――散梅。
「でも切る」
リュカが斬りつけたのは、何度も弾丸を浴びせた翼の付け根。闇雲に撃っていたわけではない。
「無理せずあわてず順番にバラしていけばいい」
まるで狩りでもするように淡々と告げて、リュカは腕に力を込めて散梅を振り抜く。半ばまで付け根が斬り裂かれた緋翼が、だらりと垂れ下がる。
三枚の翼を失い、緋天がドサリと土の上に墜ちた。
『ケ――』
「自然は綺麗に。そして騒音はいらない」
ザァァッ!
緋天が咆哮を上げようと開いた嘴、その中に月華が操る花弁が殺到した。
『ク――ゲ――』
「花の香りに溺れればいいさ――永遠に」
月華が手を掲げると、月下美人の白い花弁が中と外で荒れ狂う。
荒れ狂う月下美人の花弁が全て戻って、月華が掌を閉じた時には。散らばった緋色の羽毛と、その上に赤々と輝く幾つかの霊玉だけが残されていた。
●霊峰のものは霊峰へ
月華がこの戦いにいた事で、緋天がこれ以上新たに、骸の海から帰ってくることはなくなった筈である。
あの月下美人は、まさに葬送の白華となっただろうか。
風を切る羽ばたきの音が降ってきた。
上空から、真紅の竜が降りてくる。
「奏、瞬。無事ね?」
「ええ。思ったよりも飛ばされちゃいましたけど」
「2人とも、傷らしい傷は負っていません」
竜の背中から降りてきた響の元に、奏と瞬が駆け寄った。
「後は、これを運んで登山やな」
「富士山を登るというのは並大抵のことではないのだけどネ?」
三人の少し離れたところでは、メルノもアヤネが霊玉を見つめていた。
「アイツみたいに、空飛べれば楽なんやけどな……」
「アタシの竜に一つ運ばせるよ」
メルノの口から零れた言葉に、響が竜の背を叩きながら笑って告げる。
「良いじゃない、山登り。修行みたいで、嫌いじゃないよ」
そこに、リュカが山を苦と思ってなさそうに淡々と口を開く。
「富士山は、一度登ってみたいと思ってたから。頂上は、見晴らし良いだろうね」
普段のリュカを良く知る者なら、淡々と言いながら霊玉を拾うその声が、僅かに弾んでいた事に気づいただろうか。
「僕も運ぶよ。富士山の情報も調べてあるからね」
アヤネも続いて、霊玉を一つ拾い上げる。
足元を固めて来たのは、半分は登山のためだ。
「え? 直接触ってしまって、大丈夫なのか?」
持ち上げようと念動力を霊玉に向けていたガーネットは、2人が素手で拾って抱えるのを見て驚いた顔になる。
「てっきり、手で持てないものかと……まあ、この方が楽だしいいか」
浮かび上がった霊玉を、ガーネットはそのまま念動力でぷかぷかと漂わせた。
「運んで、火口に投げ入れるんだっけ? 何だか、不死の薬の話を思い出すね」
月華が霊玉を手にして思い出したのは、とあるおとぎ話のことだろう。
その話の中では、月に帰る姫が残した不死の薬が、富士の火口に投げ入れて焼かれたと言われている。
「……ま、富士登山なんて、そう機会あらへんし。景色でも楽しみながら頑張ろか!」
メルノも気持ちを切り替え、霊玉を拾い上げる。
しばらくして、猟兵達の手で無事に霊玉が富士の火口に戻されるのだが。
登ったという事は下りの道もあるのだと、どこかの誰かがすっかり失念していたことを猟兵達は頂上で悟るのだった。(ごめん)
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年08月11日
宿敵
『緋天』
を撃破!
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